この素晴らしいTS騎士に祝福を! (トプ)
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この素晴らしい特典と転生を

モーさんとサモさん当てた記念。後悔はない。


 「死後の世界へようこそ、████さん。あなたは残念ながら死んでしまい、地球での生を終えてしまったのです」

 

 一面真っ暗な空間に青い髪を持つ美しい女性がいた。

 確かにオレは死んだのだろう。理由は知らないが、街中で銃をぶっ放したチンピラが狙いを外したのか俺に当たってしまって死んだ筈だ。

 だがそうすると一つおかしいことがある。それは俺が今意識を保てているという事だ。俺は輪廻転生なんて信じていなかったし、神仏なんて眉唾物だと思っていた。しかしこの状況を説明できるのは目の前の女性だけだろう。

 

 「あー、後が詰まってるからまどろっこしいの無しで行くわね。あなた、異世界に興味はないかしら」

 「随分とぶっ飛んだ話だな。まさか異世界に飛んで魔王でも暴君でも倒してこいっていうのか?」

 「話が早いわね。でも、何も裸一貫で行けっていう訳じゃないわよ?異世界で生活するための特典だってあげるし、いいこと尽くめよ!」

 

 異世界か。正直なところ地球に未練があったかと言われればそこまであるわけでもないし、何より異世界でチートを使って楽な暮らしができるならそっちの方が何倍もいい。

 それ以外にも女神と名乗った女性、アクアの話では『生まれ変わりはこれまで積み上げてきたものが消えてしまう』やら『天国は変化に乏しすぎて爺婆にしか向いてない』とのことだった。他の選択肢を必死に貶して異世界行きを推してくるのは怪しいものがあったが、そこは彼女を信じよう。

 

 「よし、その話に乗ってやるよ。けどその特典についてはどうするんだ?」

 「この紙に纏めてあるからさっさと選んでちょうだい。さっきも言ったけど後がまだいっぱい待ってるのよ」

 「……ここに書いてある在庫切れってのはなんだ?」

 「あーそれってみんな同じの欲しがるから無くなっちゃうのよ。運が悪かったって思って諦めなさい」

 

 神の世界でも在庫切れって概念があるのが驚きだな。だとすると、少しマイナーなもので攻めていくとしよう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 異世界へ行く時に持っていく特典が決まり、ようやく異世界へ行こうとしたその時。何やら俺が乗っていた魔法陣が少しずつ割れてきた。それに連れてどんどんアクアの顔が『やっちまった』といった表情になってきた。

 全身が白い光に包まれて上昇していく中、アクアはこんな事を言っていた。

 

 「もしかしたら頭がボンッ!ってなるかもしれないけど…大丈夫大丈夫!滅多に起きるようなことじゃないから!」

 

 そんなことを言われても不安以外感じないぞ、駄女神。

 そして体が完全に白い光に覆われる寸前、アクアの「あっ」という間の抜けた声を聞いたすぐ後に俺の意識は薄れていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 正直言って、アクアの話した事はそこまで信じていなかった。異世界に特典を持って魔王を倒せ?王道すぎて日本じゃ使い古された設定だろ。もし本当だったらいいな

 とは言え赤子として生を受けたオレはあんな光景を見せられては信じざるを得なかった。

 

 当たり前のように天候を変える大人たち。

 村の周りにうじゃうじゃといる化け物達に、それを手助け有りとはいえ気軽に狩る子供達。

 

 まぁそんな訳でファンタジーな世界に転生したオレだったのだが、結構楽しんではいる。アクアの言っていた特典のおかげで天候はまだ変えられないものの、化け物程度だったら簡単に倒せたりはする。

 だがしかし、それでも許容できないことが一つだけあった。それは……

 

 オレが今世では女だということだ。

 

 少し話は戻るが、オレは異世界に飛ばされた後にすぐに死んでしまったそうだ。そもそも異世界の土を踏んだ覚えもなかったが。

 それはあのアクアの後輩である女神、エリスによって涙目で伝えられた。

 どうやら異世界についた瞬間に俺の脳は膨大な情報を詰め込まれて爆発、その爆発の原因はアクアが異世界の情報を詰め込みすぎた事にあるらしい。

 エリスがアクアにその理由を問い詰めると奴は、

 『私だって役に立とうとしてやった事なんだから怒んないでよ!私にも考えがあってやったんだからー!』

 と言って自分の部屋に閉じこもったそうだ。

 

 本来ならオレは転生直後に死んでしまったので生き返ることは出来ず、異世界で輪廻転生の輪に乗るはずだった。だがエリスさんが特例としてもう一度だけなら生き返らせる事が出来ると言ってくれたのだ。

 だがしかし、一つ問題が生じてしまった。それはオレの肉体は蘇生できない程にグチャグチャになっていて復活ができないということだった。悩んだオレ達は、オレが赤子からやり直す事でその問題をどうにか解決した。確かに結構な羞恥心は伴うだろうが、自分の存在が一切消えるよりはマシだと考えていた。

 そしてオレが異世界に転生して数年後、最悪な事が発覚した。さっきも言ったがオレが女になっていたということだ。

 オレだって流石に前世は男だ。体の方には慣れたものの、それでもやはり心は男のままだし、それに恋愛感情は女に対してしかまだ持っていない。とは言え、この世界は同性の恋愛に対してはあまり理解を示してくれているわけではない。

 まぁいくら考えても答えは出ないだろうし、今は少しでも第二の人生を楽しむとしよう。

 

 そうそう、今のオレって前世のキャラクターにとても似てるんだよ。叛逆の騎士、モードレッド(・・・・・・・・・・・・)に。

 エリスさんが言うには、人間の体は魂に書き込まれた情報によって大半が決まり、性別もその一部だそうだ。しかし俺の場合は特典という異物が付いているため、その特典によって魂に書き込まれている性別が変化してしまったのだとか。

 ちなみにオレが頼んだのはクラレント。きちんと使いこなせればエクスカリバーとも互角に持ち込める凄い剣なのだ。……そこまでメジャーでないのだが。

 全く、こんな高スペックな体を持っていてもハーレムを作れないなんて生殺しにも程がある。

 

 それでも毎日楽しく過ごしてはいて、この世界にきて良かったとは思えないわけじゃない。……あと、女の体も悪くないって思い始めたしな。




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旅立ち

世界を救うために初投稿です。


 オレがこの世界に転生して14年。

 男だった前世の倫理観と格闘をしながらもすくすくと育っていたオレは、かなり重大なことに気がついていた。

 

 『もしかしてこの世界はそこまで切羽詰まってないのではないか』

 

 確かにこの世界で数年しか生きていないオレが判断できるはずもないのだが、正直この村の大人達だけで魔王軍を倒せそうな勢いがあるのだ。

 この前だって、魔王軍の幹部と名乗る男が大勢の魔物を率いて村に攻め込んできたのだが、あいつらは年甲斐もなくはしゃいで壊滅させ、しかも撃退するだけでは飽き足らなかったのか鼻歌を歌いながら魔王城に攻め込んで行ったのだ。

 遠足気分で行った為に魔王の部屋までは潜れなかったらしいが、魔王の娘の部屋を覗き見できる魔道具を置いてきたらしい。むしろそっちの方が難易度的には高いと思うんだが、あいつらの感性はおそらく一生理解することはできないだろう。

 

 そんな化け物揃いのこの里、紅魔の里だが、住民の多くには共通点がある。

 一つは住民のほとんどが地球でいう中二病であること。とはいえ、実際に力はあるから中二病とは言えるのだろうか。しかし世界中探しても、自分の名前をかっこよく名乗るためだけに雨や雷を落とすような種族などいない筈だ。……いないよな?

 それともう一つは、黒髪に紅い目を持つという事だ。これは紅魔族なら全員が共通している事だが、オレは金髪に緑色の目を持ち、特徴にかすりもしていない。オレも生まれた頃は黒髪紅目だったそうだが、家の倉庫に入っていた剣に触った瞬間にこうなったそうだ。その数日後、オレは前世の記憶を思い出した。

 特典を貰っておきながらも魔王討伐を目指さないのも少し申し訳ないので、思い出したその日からオレは剣の修行を始めた。それでも里の中で勝てない相手はいくらでもいる。

 だからこそ、オレは里の外に出て行き、経験を積もうと思う。そんなオレを困らせている事が一つだけあった。それはーーーーー

 

 

 「お姉ちゃん行っちゃうの……?」

 

 ……目の前の小さな少女、オレの妹であるもるどれ。元々男だったオレの様にはならず、可愛らしい性格をしていて里中の大人達に『紅魔の里の二大魔性の妹の一人』として可愛がられている。

 6歳になった彼女はいつまで経っても姉離れをしてくれない事だ。確かに、ここまで引き止めてくれるほど大切に思ってくれるのは嬉しいのだが、その手段が6歳児とは思えないのだ。

 村の周りに生息するかなり強い魔物ですら眠ってしまう睡眠薬を食事に入れて監禁しようとしたり。

 既成事実を作って責任を取らせようとしてきたり。

 それ以外にもえげつないものは幾つかあるが、それでも可愛い妹。涙目で謝られると許すしかないが、それでも里を出て行く事は譲れない。

 

 「オレは魔王を倒しに行ってくる。まさかとは思うが、オレの妹が寂しいとか言う訳じゃないだろうな?」

 「……わかった。でも一つだけ約束して」

 「いいぜ。オレに出来ることならなんで「お姉ちゃんの処女が欲しい」も……え?」

 「お姉ちゃんの処女が欲しい。あ、どっちのでもいいよ!」

 「ま、まだ決められないと思うし、今度帰ってくるまでに決めておいてくれ!それじゃあもう行くから!」

 「お姉ちゃん!私もう欲しいもの決まってーーーーー」

 

 いくら可愛い妹でもあれは怖すぎる。普段から少しヤンデレ染みてると思ってはいたが、まさかあそこまでひどいとは。

 少しでもこの場から離れるために急いで走り去るが、それに妹は苦もなく追従してくる。

 

 「待ってよお姉ちゃーーーん!!!!!」

 

 妹の笑顔が怖い!

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 もるどれを何とか引き離してやって来たのは馬車乗り場。ここからオレの冒険の旅は始まる。のだが……

 そこに居たのはオレのライバルを自称するゆんゆん。そして同じ日に旅立つ事になっためぐみん。どちらも小さい頃からの友人で、大切な仲間だ。

 二人は一体何の用だろうか。別れの挨拶は前日に済ませたし、そもそもめぐみんはテレポート屋の時間に間に合うのだろうか。ここからだと少し時間はかかると思うのだが。

 

 「モードレッド、あなたに一つ言っておきたいことがあります」

 

 真剣な表情で何かを伝えようとするめぐみん。茶化そうとしていたが、この雰囲気の中で流石にそれが出来る程オレの神経は図太くはない。

 

 「私は爆裂魔法を習得しました。それでも、今はまだモードレッドには及ばないでしょう」

 「……というより、この里でモードレッドに一対一で勝てるような人なんて結構少ないと思うんだけど」

 

 ゆんゆんはオレを一体なんだと思ってるのか。オレの家の向かいの家に住んでいる爺さんには連敗してるし、その妻の婆さんにだって引き分けに持ち込むのが精一杯だ。爺さん婆さんに勝てもしないオレが、里でも上位レベル?面白い冗談だ。

 

 「ゆんゆんは黙っててください!どうせモードレッドは信じてませんから。………話を戻しますよ。それでも私は爆裂魔法を極め、あなたを超えてみせます!だから、私以外の人には負けないでください。………私にとって越えるべき壁として、居続けてください」

 「わ、私だってめぐみんやモードレッドに負けないわよ!旅を終えたら、もっと友達だってできるかもしれないし………それに、二人を超えるような魔術師になってみせる!」

 

 唐突な二人からの宣戦布告。

 やっぱりこいつらが友人で本当に良かった。心の底からそう思える。ここまでオレを楽しませてくれる友人は前世を合わせてもほとんどいないだろう。

 

 「………いいぜ、その挑戦受けてやる。それじゃ、次会う時には大魔導士様か?いや、ゆんゆんはまだしもめぐみんは無理そうだな」

 「な、なんですとぉ!確かに今はあなたの方が上ですけど、今度会った時は絶対ぶっ飛ばしますからね!泣いて謝ったって許しませんよ!」

 「爆裂魔法しか能がない貧乳魔法使いがオレを泣かすぅ?面白ぇ冗談だな」

 「二人とも、最後の時間くらい仲良く過ごそうとしたりは………」

 「「ない!!!!!」」

 

 オレ達の返答に頭を抱えるゆんゆんだったが、生憎オレにも譲れないものはあるのだ。

 そんな馬鹿なやりとりをしていると、何か焦った様子のゆんゆんがめぐみんの腕を掴み、何処かへ連れて行こうとする。

 

 「痛い痛い痛い!なんですかいきなり人の腕を引っ張って!ゆんゆんは一般常識というものがないんですか!」

 「それをあなたに言われたくないわよ!そんなことよりもうほとんど時間がないのよ!」

 「………あっ」

 

 オレを倒そうとする爆裂使いは、どうやら時間を忘れるドジっ子だったらしい。いつものめぐみんらしくないと言えばらしくないが、旅に出る初日はほとんどが緊張するものだろう。

 テレポート屋の時間に間に合わせるためにゆんゆんがめぐみんを担いで走り去っていった。

 ………結局、宣戦布告以外には何がしたかったんだ?あいつら。まさか、励ましにきてくれたとか?………ないない。

 

 そんな事を考えている間に、馬車の出発の時間はやってきた。馬車のおっさんに早く乗るよう急かされる。

 14年間過ごした里をいざ離れるとなると、ちょっと寂しいものがあるな。だが、それを乗り越えてこそ魔王討伐は果たせるのだ。

 その第一歩として、馬車の護衛だ。目的地のアクセルまではテレポート屋を経由しての馬車か、馬車のみの二つしかない。肝心のテレポート屋は料金が高いので、そんな大金があるなら武器を強くするのに使ってしまうオレにとって、それは選択肢に入らない。

 そこで馬車のみで行くことになるのだが、紅魔の里の周りは魔物がうじゃうじゃいる。なので紅魔の里にくる行商人は大体現地で紅魔族の護衛を雇い、安全を確保するのだ。

 その護衛になれば、馬車代が浮くどころか逆に報酬まで貰うことができる。それに現れた魔物とも戦闘を行う事が出来るので一石二鳥、経験値も貰えるので一石三鳥とも言える。あぁ、なんて美味しいんだ、馬車護衛。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 馬車が出発してから一週間。紅魔の里の周りにある森は何事も無く抜けられた。このまま目的地であるアクセルの街に到着するかと思っていたが、現実はそんなに甘くはなかった。

 

 「ま、魔王軍だああああああああああ!!!!!」

 

 ……まさか馬車が魔王軍幹部(・・・・・)に襲われるなんて、誰が予想できるだろうか。少なくともオレは無理だった。

 




サモさんが可愛すぎて死にそう。


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魔王軍幹部

Q.(第3話)ちょっと遅かったんちゃう?
A.難産でした。


 魔王軍。

 奴らは常日頃から人間の住む村や街などを破壊し、殺戮の限りを尽くす。多くの冒険者が魔王軍へ挑み、最後にはその命を散らして終わる。

 魔王軍の中でもさらに脅威とされるのが魔王軍幹部で、そいつらが出てくると腕利きの冒険者でも対応する事が難しく、一度会ってしまったら死ぬと言われる。

 

 「我が名はベルディア!魔王様の命を受け、この馬車に積まれている秘密兵器とやらを破壊しにきた!」

 

 ……会ってしまった。魔王軍が襲ってきたとは言っていたが、そこまでやばい奴が出て来るとは思ってなかった。というかこの馬車の中にそんなものがあるなんて一切聞いてなかったんだが。おいおっさん、顔を背けてないでこっち見ろ。

 

 「無抵抗でそれを渡すならば俺達は貴様らに手出しはせん!それとも、この俺と戦う事を望むか?」

 

 護衛がオレともう一人の紅魔族、ぷんぷくだけである事に気を緩めたベルディアは、格差を見せつけるかの様に余裕ぶっている。ぶっ殺してやろうか。

 しかし相手はベルディアだけでなく、その配下であるアンデッドナイトまでいる。もし仮に戦ったとしても、正直自分たちの身だけならばどうにかなるだろう。しかし、馬車のおっさんたちまでは守る事は出来ない。

 

 オレ達が普通の紅魔族だったらな。

 

 「我が名はぷんぷく!紅魔族随一のアークプリースト(・・・・・・・・)にして邪神を封印せしもの!魔王軍幹部よ、ここが貴様の墓となるのだ!!と言うわけで死ね」

 

 自信満々に名乗り出るぷんぷく。ベルディアにターンアンデッドが効くとは思えないし、最終的にオレが仕留めることになるんだろう。

 

 「全く、言われた通りに「『ターンアンデッド』!」差し出しておけば痛い目に合わずに「『ターンアンデッド』!」済んだものを。それでは貴様の願い通り、俺自身が貴様を倒して「『ターンアンデッド』!」ええい喧しい!少しは俺の話を聞け!魔王様の加護を受けた俺でも何回もやられると頭にくる!というかお前どんなレベルしてるんだ?この俺でも少し、ほんの少しだけ痛く感じるんがが」

 「だって魔王軍幹部に躊躇してたらこっちがやられるしー。それとも待って欲しいの?魔王軍の幹部ともあろう者が?」

 

 煽る煽る。紅魔の里でもかなり口の回る方であるぷんぷくだが、それでもいつも以上に口が回っている。いや、そうじゃない。少しでも奴の冷静さを欠かせようとしてるのか。

 とはいえそんな事がうまく進むわけでもなく。

 

 「まぁ良い!紅魔の娘一人ごときでこの俺をどうにか出来ると思うな。もう一人の娘は……剣士だろうが、この俺に及ぶ訳でもあるまい。さっさと逃げ出していたなら命は助かっていただろうに」

 

 ベルディアの言った言葉にカチンときたので、周りのアンデッドナイトを無視して斬りかかる。

 護衛?ぷんぷくにでも任せておけばいい。普通のアンデッドナイトだったらぷんぷくのターンアンデッドでも足止めくらいなら出来るはずだ。

 

 「っつーわけでこいつ殺すから雑魚はお前に任せた!」

 「どういうわけか全くわからないし、私の獲物を奪うとはいい度胸じゃないか。ま、ここで仕留められるに越したことはない。雑魚は私に任せてさっさと殺してきな」

 

 いきなり斬りかかったので少しだけ対応が遅れるベルディアだが、それでも魔王軍幹部。焦ることなく対処してきた。でもその少しの隙さえあれば十分だ。

 自分の魔力をクラレントに流し込み、一気に増幅させる。そして行き場を失った魔力を溜め込んだコイツでもう一度斬りかかると、わかっていたかのように対応された。

 

 「ひよっこのやろうとしている事などこの俺に通用する筈が……ってなんだこの魔力の量!?」

 「逃がさねえよ。ここで死ね」

 

 行き場のない魔力が、剣がぶつかった事で反応して爆発が起きる。これがオレの今できる高威力の攻撃だ。

 「増幅」の機能を持つクラレントに、紅魔族であるオレの魔力をぶち込めば大量の魔力が剣の中に発生する。

 しかしオレは本物のモードレッドのように、剣の中の魔力を一方向に打ち放つ事ができない。だから一度衝撃をぶつけて起爆しなきゃいけない。

 要するに爆弾抱えて特攻ってことだが、何の対策をしなくても不思議な事にこの体はいつも無傷だった。だからこんな無茶苦茶な事が出来る。

 

 「な、何なんだ貴様!さっきのアホみたいな魔力量に馬鹿でかい爆発は!頭おかしいんじゃないのか!?」

 「はっ、頭がおかしい?上等じゃねえか。勝てばいいんだよ勝てば」

 「……まぁいい。確かにかなりの威力だったが、それでも俺を倒すには足りん。もう少し成長していたならば俺に傷を負わせられただろうがな」

 「それじゃ、もう一発いくか」

 「えぅ?」

 

 その後、ベルディアは数十回にわたって大規模な爆発に襲われ、捨て台詞を吐いて逃げ出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「なんか大したやつじゃなかったね」

 「お前アンデッドナイトに苦戦してたじゃねえか。随一とか言ってたのによーくそんなこと言えるなー?」

 「あいつらに撃っても中途半端な所で阻害されてあんまりダメージが入らなかったの。だから私は悪くない」

 「ま、足止め出来ただけでも上出来だ。この先は流石に襲ってこないだろうし、あとは紅魔族随一のアークプリースト様に任せても大丈夫だよな?」

 

 それにしてもベルディアが言っていた秘密兵器とやら。オレ達に一切知らされずにいたが、正直魔王軍の幹部が襲ってくるレベルになるともっと護衛が必要な筈だ。

 

 「馬車の宛先は……アルダープって書いてあるな。まーたあいつかよ」

 

 アルダープは紅魔の里にも噂がやって来るレベルで悪名高い領主で、不正をしていない時は無いと言われる程に嫌われている。それでも領主の座に居座っている事が不思議なのだが。

 今回の事について予想すると、紅魔の里から高性能な魔道具を購入して魔王軍との戦闘で手柄を立て、領主の地位から更に出世しようとしたのだろう。

 馬車を使ってる時点で金を少しでも使いたくないっていう魂胆が見え透いてるんだけどな。もし本当に魔王軍に対抗する気力があるなら割高でもテレポート屋を使えばいい。

 

 「金ケチって強奪されたらそれこそ金の無駄だってわからねえのか」

 「輸送に馬車を使ってる時点で大して期待してないっていうのもあるよ。とりあえず現物を確認し……て……」

 

 馬車の中に積まれていた物を見たぷんぷくが真っ青な顔になる。そして馬車のおっさんの所に走って行くとこう言った。

 

 「なんでこんなもの持ってきてるの!?これが奪われたら人間が終わりだったかもしれないのわかってんの!?」

 「おい、どうしたんだよいきなり怒鳴って–––––––」

 

 怒鳴りだしたぷんぷくが見た物を確かめようと、オレも馬車の中を覗くと驚くべきものがあった。

 そこには、紅魔族が馬鹿みたいな技術力を使いまくった末に完成した物があった。

 本来それはここにあってはいけない、というか世に出てはいけないのだ。いつも自重をしない紅魔族でさえ

 

 『あっこれ本当に駄目なやつだ』

 

 と作った当時の紅魔族が考えたレベルの代物。

 何がヤバイのかと言うと、一度使うと世界が滅ぶとされている紅魔族に伝承として伝えられて封印されている代物、それを本当に世界が滅ぶ代物(・・・・・・・・・・)として作り上げた、らしい。こっちもこっちで伝承でしか伝わってないレベルで昔の物なんだが。

 何故そんな物が此処にあるかは後で考えればいいとして。

 

 「とりあえずこれをどうするかだよなぁ……」

 「一回里に帰ってきちんとした管理をしてもらわなくちゃダメだねー。大人の紅魔族が大勢で取り扱うのが普通だし、私達だけでどうこう出来る事じゃない」

 「だとしたらこれまでの一週間は無駄になるってことじゃねえか!ったく、最初から知ってりゃテレポートで行ってたのによぉ」

 

 不満を垂れててもしょうがない。依頼は失敗だが依頼主の責任って事である程度の額は貰えるし、それを使って勿体無いがテレポートを使うしかないか。

 ベルディアには逃げられるし、こんなヤバい物は見つかる。加えて此処まできた時間は無駄になっちまった。

 

 「そういえばこれって族長の家で厳重に保管されてた筈だけど、なんでここにあるの?」

 「あのおっさんこういうの管理すんの向いてねえんだよ。使命だーとか切り札ーって感じで何か言われたらコロッと態度変えるからよ」

 「 今頃紅魔族の里は大騒ぎだろうねー。ゆんゆんに見つかって族長さんぶっ飛ばされたりしてないかなぁ?」

 

 紅魔族は大半が高い知能を持っているって言うが、正直こんなことやらかしてるようじゃそんな情報信用できねぇよ。

 ったく、なんでこんな事になるかなぁ。




ガチャ大爆死したので更新ペース早めます。
これを書いたら星5が出ると信じて。


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