両投げ両打ち!! (kwhr2069)
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序章
Episode.0


野球モノは初投稿です!よろしくお願いします!


プロローグ

 

「あと一人!!あと一人!!あと一人!!」

 

 甲子園。

 全国高校野球選手権大会の決勝戦。

 甲子園の常連、パワフル学園高校VS一年前まで全くの無名だった、UT-Z高校の戦いは最終回を迎えていた。

 

 UT-Z高校一点リードの九回ウラ。

 ツーアウト二、三塁。

 一打出れば逆転サヨナラという場面。

 

 打席には、四番でキャプテンの東條小次郎。

 今日の成績。ライトフライ、四球、タイムリーツーベース、セカンドライナー。

 当たりは悪くないものの、結果として一安打一打点に抑えられていた。

 

 投手の吉良が、捕手の当奈とサインを交換し、投じた初球。インローへのカーブ。

 東條はそのボールを捉えるも、打球はファールとなる。

 

 二球目。インハイへのストレート。

 東條は悠々と見逃し、ボール。

 

 三球目。アウトローへのストレート。

 完璧に制球されたそのボールは、キャッチャーミットに吸い込まれ、ストライク。

 

 これで、ワンボールツーストライク。

 

 観客のボルテージが上がる。

 甲子園に響く、「あと一球!!」の声。

 

 観客の声援を味方につけ、投手吉良が腕を振る。

 四球目。

 この試合の、吉良の133球目。この大会での、777球目。

 真ん中、少し低めに来たそのボールを、東條は当てにいく。

 

 しかし。

 

 ボールは、バットから逃げるように縦に落ち、キャッチャー当奈のミットに収まった。

 

 その瞬間。

 パワフル学園高校の優勝の夢が消え、UT-Z高校の春夏連覇が決まった。

 

『三振!!最後は得意の縦スライダーで決めました、エースの吉良!!3-2の接戦を制し、UT-Z高校、春夏連覇達成!!』

 

 マウンドに駆け寄るUT-Z高校の選手たち、総勢十六名。

 

 真っ先に飛びついたのは、今日の三点、全ての打点をあげたファーストの安住。

 キャッチャーの当奈も続き、勝利の喜びを分かち合う。

 

 

 三番を打ち、絶対的なエースで、甲子園での全試合を一人で投げ抜いた吉良 翼(きら つばさ)

 

 高校通算39本塁打ながら、ここぞの場面に強い四番ファースト、安住 侑輝(あずみ ゆうき)

 

 豊富な知識、巧みなリード、チームを引っ張る五番キャッチャーの当奈 統英(とうな もとひで)

 

 この三人を中心として、UT-Z高校の創設七年目、野球部創部三年目にしての春夏連覇は成し遂げられた。

 

 

 そして、この旋風は日本各地に広がり――。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 S県、浦内ヶ浜。

 AM6:00。

 

 一人の少年が、浜辺を走っている。

 

 この少年の名は、双葉 諒(ふたば りょう)

 今日から、ほしうら学院高校に入学する、新高校一年生。

 日課である早朝ランニングを行っている。

 

 いかにもスポーツをしていると思われる、そのがっしりした身体。

 身長、176cm。体重、67kg。

 

 ランニングを終え、帰宅する彼。

 

 朝食は健康的だ。白米に梅干し、ワカメの味噌汁。

 右手でスマホを操作しながら席に着き、「いただきます。」そのまま左手でご飯を食べ始める。

 

 食べ始めてすぐ、彼はテレビをつけようとリモコンを探す。

 それが彼の左側にあると見つけたとき、彼は右手に持っていたスマホを机に置いた。

 

 そして、リモコンを()()でとった。

 さっきまで左手にあった箸は、右手に持ち替えられている。

 しかも、そのまま食事を続けている。

 

 

 彼は、両利きであった。

 どちらの手でも、ほとんど同じように動かして使える。

 

 

 登校の準備をすませた彼は、登校用のリュックをからい、家を出た。

 

 向かう先はもちろん、ほしうら学院高校。

 彼が今日から入学する、私立高校だ。




名前をうまい具合に変えることに力を注ぎました。笑

これから頑張っていくので、どうか、よろしくお願いします!!


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第一章
Episode.1


本章、開幕です。

プレイボール!!


ニュウガク

 

 俺は、双葉諒。今日から私立ほしうら学院高校に入学する高校一年生だ。

 

 

 去年の春、そして夏。

 俺は、奇跡に出会った。

 

 球場近くに住んでいた俺は、ほんの気まぐれでとある試合を見に行った。

 この試合が、俺の一年後を決めるものになるとは全く思いもせずに。

 

 二十一世紀枠で出場したUT-Z高校とセンバツ六年連続出場の近年評価をあげてきている高校の対戦。

 前評判では、UT-Z高校の負けが濃いと思われていた。

 

 そして、その試合。

 UT-Z高校は、3-0で完封勝ちを収めた。

 

 初回、投手の吉良は、一~三番を三者連続三振に切って取り、その後六回まで無安打に抑える。

 予想外の展開に心が乱れた相手投手。

 三番吉良、四番安住の連続ヒットで一点を失い、更に五番当奈にツーランを許す。

 

 吉良は、被安打を、七回の二番打者のポテンヒット、九回の代打の選手の内野安打による二本に抑えた。

 完璧なピッチングだった。

 

 見ていて、鳥肌が立った。

 皆が無理だろうと思っていた中で、それを覆しての勝利。

 すごく、格好良かった。

 

 俺は、野球をやっていて、名の知れたシニアチームでエースだったから、高校のスカウトも来ていた。

 しかし、どこか物足りなさを感じていた。

 

 UT-Z高校の試合を見て思った。

 俺が求めていたのはこういうことだったのかな、と。

 

 センバツは、勢いに乗ったUT-Z高校が制し、その後の夏。

 マークが厳しくなる中で、エース吉良を中心にまとまりを見せ、春夏連覇を達成。

 

 一方、俺は、家を出て一人暮らしをし、ほしうら学院高校に行くことにした。

 選んだ理由は、美しい海に憧れがあったから。

 

 その地で、俺は奇跡をもう一度日本に轟かせてやろうと思う。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 登校中。

 

 俺は、少し考え事をしながら歩いていた。

 だから、横の路地から走ってきた男子とぶつかってしまった。

 

「いってえ!!」「痛!!」

 

 登校中にぶつかるなんて少女マンガかよ、とか思いながら、男子の方を見る。

 その男子は、頭を下げて、謝ってきた。

 

「ごめん!走って、あまり周りが見えてなかったよ...」

 

「いや、俺も、考え事してたから...大丈夫。」

 

 そう言って別れ、学校に向かおうと歩き始めようとした。

 

「ねえ!その制服!もしかして、ほしうら?僕と一緒!」

 

 確かに、言われてみれば同じ制服だ。

 

「せっかくだし、一緒に行こう?てか、行こう!」

 

「え??」

 

 突然の誘いに何も反応できずに黙る俺。

 

 その沈黙を、肯定と受け取ったのか、その男子は、俺と一緒に歩き出した。

 

 

 おかしい。

 普通に考えて、こんなことがあるのか。いやないだろうな。

 

 俺の隣を歩いているのはさっき会った(正確にはぶつかった)ばかりの奴。

 

 名前は、歌間 道隆(うたま みちたか)というらしい、のだが、

 

 

『ミッチーでいいよ!』

 

『は?』

 

『呼び方。ミッチーって呼んでいいよ、って。』

 

『いや、呼ばんし。』

 

『君は?名前は何ていうの?』

 

『双葉諒。』

 

『ふたば、りょう、か...。よし、じゃあ、リョウ君ね!』

 

『あだ名じゃないんかい!』

 

『つけにくいんだから仕方ない。ってか、ツッコミ!もしかして、関西の人?』

 

『ツッコミと関西に関係があるかは知らんが、俺は、確かに、関西から来た。』

 

『ええーっ!!本当に!?』

 

『・・驚きすぎ。』

 

『何で?何でココに来たの?』

 

『教える必要を感じないのだが?』

 

『いいじゃん、友達だし。』

 

『会って数分しか経ってないのに友達とか...判定ガバガバだな。』

 

『なんて?』

 

『別に。とにかく、みっちーに教える気は今のところないから。』

 

『みっちーじゃなくて、"ミッチー"!』

 

『バーカ。ひらがなはわざとだよ。誰がまじめにあだ名で呼ぶか!』

 

『ひらがな?よく、わかんないんだけど。』

 

『わからないならそれでいいよ、道隆クン。』

 

『その"クン"は、馬鹿にされてる気がするんだけど。』

 

『(ひらがなとカタカナ、判別できてるやないかい!)』

 

 

 とまあ、こんな感じで歩き、学校に到着。

 ・・・。最後当たりの茶番は、忘れてください...。

 

「洋く~ん!」

 

 友達を見つけたのか、手を振っている。

 道隆は、その男子の方へ向かう。

 俺も、道隆に手招きされたので、ついていく。

 

「ミッチー!置いてっちゃって、ごめん!」

 

「寝坊した僕が悪いんだから、謝らんでいいよ。」

 

 ミッチーって呼ぶ奴、いるんだな。

 

「ああ、忘れてた。この人は、リョウ君、双葉諒くんだよ。ここまで、一緒に来たんだ。」

 

 あれ?何だか洋くんの視線が険しくなった?

 

「リョウ君、ね。俺は、渡 洋介(わたり ようすけ)。ミッチーの幼馴染なんだ。よろしく。」

 

「ああ、よろしく。」

 

 気のせいかな?やけに強く"幼馴染"って言った気が...。

 

「そうだ!クラス分け見に行かないと!行こう!」

 

 そう言って駆け出す道隆。

 その後ろをピッタリと追いかける洋介。

 

 俺、三年間大丈夫かな...。

 漠然とした不安を抱いた俺も、その二人を追いかける。

 

 結果からいうと、道隆と洋介は一組、俺は二組だった。

 

 洋介さん?自慢気な顔を俺に向けてますけどどうしたんですか?

 

 一年生は、140人。4クラス、35人で作ってある。

 知ってる名前はないだろうけど、一応クラスの名簿を見てみると、既視感を覚えた名前が一つ。

 

 梨田 朔良(なしだ さくら)

 中学時代、シニアの関係で見たことがあるような気がする...。

 

 教室に行けば、何か分かるだろうと思い、向かう。

 

 この高校の入学式は、新入生はまず教室で待機し、先生が呼びに来るとそれに付いて行き、入場を経て、開式だ。

 まあ、どこも似たような形式だと思うが。

 

 教室に入り、自分の席を探す。

 俺の席は...廊下側から三列目、前から五列目で、神席だと言える。

 別に、寝たいからとかではなく、素直に一番後ろの席は嬉しい。

 教室の席は横に七列、縦に五列だ。

 

 左隣は女子で、右隣が既視感を覚えた梨田朔良。

 

 その既視感は、直後に解決した。

 

「なあ!堺シニアの双葉か?」

 

「え?」

 

 声のした方を見ると、そこには、俺よりも背が高く、ヒョロッとしたのがいた。

 

「忘れたわけないよな!」

 

「俺は、確かに堺シニアだったけど...。ごめん、誰だっけ?」

 

 するとその男は、全身を使った大げさなリアクションの後。

 

「俺だよ、榊シニアの梨田朔良!」

 

「榊シニア!?ってあの?」

 

「良かった...。これすら忘れられてたらどうしようかと...」

 

「って、ごめん。榊シニアって、何?知らないんだけど。」

 

 こう言うと、朔良は固まってしまった。

 

 

 その後、朔良が溶けてから。

 

 まず、榊シニアのことは忘れていないと誤解を解いた。

 朔良は、俺がいじり過ぎたからか、なんか、泣き出しそうな顔をしていた。

 なんか、悪いことしちゃったのかもな、俺。

 

 その上で、ここに来た経緯を聞こうと思ったが、先生が来た。

 ここから先は、式が終わってからだな。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 中学時代。

 俺は、堺シニアというチームに所属していた。

 

 監督の音納 栄壱(おとの えいいち)さんは、甲子園出場経験もある凄腕の指導者。

 監督の指導で力をつけ、チームは強くなった。全国大会出場経験もある。

 俺は最終学年の時、そのチームでエースだった。

 

 音納監督には、三つ下の弟がいた。

 

 名前は、音納 栄喜(おとの さとのぶ)

 彼も、甲子園出場経験者で、プロに入るかもと言われていた。

 しかし、彼はプロには行かず、榊シニアをつくった。

 詳しいことは分からないが、兄への対抗心を燃やしたと言われている。

 

 榊シニアも、監督の下で成長。

 俺と同級生のエースが、そう、梨田朔良だった。

 

 監督が兄弟ということで、何度か練習試合もしていた。

 しかし、俺は名前をアバウトに覚えていただけで、正確に覚えられていなかったようだ。

 確か、あの頃の朔良は、背が低く、俺よりも低かったはずだが、一気に伸びていた。

 

 

 どう成長しているのか。これから楽しみだな。




読んでいただき、ありがとうございました!!

一応...
・歌間道隆:高海千歌
・渡 洋介:渡辺 曜
・梨田朔良:桜内梨子


では。
感想、コメント、お待ちしています!


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Episode.2

前回:道隆、洋介との出会い。朔良との再会。そして、入学式。


ヤキュウブ

 

 入学式も終わり。

 新入生のための宿泊研修を経て。

 

 普通に学校生活が始まった。

 

 そして、俺と朔良はもちろん野球部へ。

 

 一年生は俺たちのほかに二人。道隆と洋介だ。

 

「えっ!おまえらも野球部なん?」

 

「それはこっちのセリフ。何?野球経験者だったりするの?」

 

 俺が驚いて尋ねると、少し不機嫌そうに洋介が聞き返してきた。

 

「まあな。俺と、コイツ...梨田朔良は、シニアで野球やってた。」

 

「よろしくね、えっと...?」

 

「梨田朔良か...。さっくんって呼ぶね!僕は、歌間道隆。ミッチーって呼んでいいよ。」

 

「俺は、渡洋介。よろしく。」

 

「僕は、洋くんって呼んでるよ!」

 

「・・そっか。じゃあ、よろしくね、ミッチー!洋くん!」

 

 気さくなやつだな、朔良も。

 あだ名で呼ぶことに抵抗を感じないのだろうか。

 

 あと、『ミッチー』と朔良が言ったとき、洋介の眼が光ったのを俺は見逃さない。

 

 ・・やっぱ、あだ名呼びはできそうにないな。

 

 

 グラウンドに着いた。

 そこでは、九人の人が練習をしていた。

 

「おお!四人も来たな!よし、皆!一旦止めて、集合してくれ!」

 

 ノックをしていた、キャプテンと思しき人が声をかけ、練習は、一時止まった。

 

「うん、じゃあまずは、こっちから。俺は、キャプテンの鈴木だ。一年とはあまりできないと思うが、よろしく!」

 

 その後、杉山、佐藤、後藤、高橋、土屋と続いた。

 三年生は、六人。

 

 次は、二年生。

 元気な、サードをしていた人から挨拶を始める。

 

「俺は、松宮 琉果(まつみや るか)だ。道隆と洋介とは小さい頃からの知り合い、幼馴染だ。よろしく!」

 

「僕は、玄山 大也(くろやま だいや)。この学校の、現生徒会長でもある。よろしく。」

 

「オレは、小野原 理玖(おのはら りく)だ。父が、この学校の学園長をしてる。よろしく!」

 

 二年生の先輩たち、三人の自己紹介が終わった。

 

 その後、俺たち一年生四人も自己紹介をした。

俺と朔良が、名の知れたシニアのエースだったことを聞き、先輩たちは興味を持った様子だった。

 

 そして、一年生たちの実力を見ようということになった。

 ちなみに、道隆と洋介は、中学生のころから野球をしていたそうだ。

 

 軽くアップをすませる。

 

 その後、まずは、道隆、洋介がシートノックを受ける。

 道隆がショート、洋介はセカンドに入った。

 

「「お願いします!!」」

 

 二人の声で、ノックが始まる。

 ノッカーの鈴木キャプテンが的確にノックを打つ。

 

 

「上手い...!」

 

 誰かが漏らすようにつぶやく。

 

 確かにそうだった。

 道隆は、ショートの深いとこからでも正確にファーストに投げ返せるいい肩をしている。

 また洋介は、とにかく一歩目が早い。守備範囲は、一年生のそれとは思えないレベルだった。

 

 そして、洋介がセカンドベース付近までを確実に取ることで、道隆は通常のショートの定位置よりもサードベース寄りに守り、二人で内野の打球を全て捕れるのではという期待を持った。

 まあ、さすがにそれは無理な話なのだが。

 

 二人のノックは、ゲッツーでより阿吽の呼吸を見せられて終わった。

 

「ミッチー、洋くん!二人ともめっちゃうまいじゃん!」

 

 ノック終わりの二人に、朔良が声をかける。

 

「別に。お前らにとってはこれくらいは普通なんじゃないのか?」

 

 普通だろ、という顔をする洋介。

 

「いやいや!シニアレベルだと思うよ、なあ諒!」

 

「まあ、確かに。帝徳シニアの二遊間をほうふつとさせられた...気はする。」

 

 帝徳シニアは、全国でもかなり強いシニア。

 打撃力がえげつなく高く、守備もエラーが少ない。レベルの高い野球をするチームだ。

 

「おい!双葉と梨田!」

 

 そこで、鈴木キャプテンから声がかかる。

 

「外野、できるか?歌間と渡のバッティング見る間、頼む。守備も見たいからな。」

 

 俺は、気になったことを聞く。

 

「あの、バッピは誰が?」

 

「それなら、エースの後藤にさせようかと思っていたが...。投げたいのか?」

 

「いえ!エースの球が見られるんだったら、いいです。」

 

「俺たちも、打たせてもらえるんですよね?」

 

 今度は、朔良が質問する。

 

「もちろんだ。二人のバッティングの後、お前らにも打ってもらって、そのあと最後にピッチングを見せてもらう予定だ。期待してるぞ、二人とも!」

 

「「っはい!!」」

 

「じゃあ、よろしく頼む。」

 

 そうして、俺たちは外野守備についた。

 

 

 数十分後。

 

「・・よし、まあいだろう。次、双葉と梨田!」

 

 ようやく呼ばれた。

 

 二人のバッティングは、二人の守備特化を証明してくれた。

 道隆は、パワーはあるのだろうがバットに当たらない。当たれば飛ぶだけというだけのアンパイのバッター。

 一方の洋介は、ミート力はあるが、パワーがなく、ヒット性の当たりは道隆と同じくあまりなかった。

 

「二人の守備見てドキドキしてたけど、打力なくてほっとした~。」

 

 さらっと、トンデモ発言をする朔良。

 

「そうだな。清水シニアをほうふつとされられた。」

 

 それに乗っかる俺。

 ちなみに清水シニアは、打力がなく常に貧打に苦しむ弱小チーム。

 初戦で対戦することになれば、諸手をあげて喜べるようなチームだ。

 

「よし。まずは、双葉から!」

 

 俺は、右打席へ向かう。

 

 エースの後藤先輩は、部内で一番背が高い。186cmらしい。

 その長身を生かした、角度のある直球、そこから鋭く落ちるフォークが投球の軸。

 ほかには、カットボール、スライダーが持ち球。

 と、俺が知っている情報はこれくらい。他にも球種はあるかもしれないが、主はこの四つだろう。

 

 俺は、バッティングは好きな方だ。まあ、野球が好きなんだから当たり前なんだけど。

 

「お願いします!!」

 

 掛け声とともに打席に入る。

 

 後藤先輩がマウンドの上に立っているのを見ると、より高く感じる。

 

 初球はストレート。振ったが、少し高かった。

「(もっと水平に。きれいにボールに合わせる。)」

 

 次も、ストレート。今度は当たったが、キャッチャーファウルチップ。

「(違う。今度は下を振りすぎた。タイミングは合ってる。しっかりボールを見て...。)」

 

 次に来たのは、外に逃げるスライダー。見送った。ボール。

 

「おい、後藤!なに本気で抑えに行ってんだよ!」

 

 他の先輩からのヤジが飛ぶ。

 

 確かにまるで試合かのような雰囲気だ。

 でも、こっちの方がいい。エースと真剣勝負。

 楽しい。笑みがこぼれる。

 

 次は...おそらくフォークだろう。

 

「さ、こぉい!!」

 声をだし、気合を入れる。

 

 後藤先輩が振りかぶる。

 俺は、バットを合わせファールを打とうと試みる。

 

 しかし。

 

 フォークにしては早すぎる後藤先輩の投じたボールは。

 俺のバットの上を通っていった。

 

 ストレート。

 

 裏をかかれたようだ。

 

 やっぱり、エースは違う。

 

「ありがと...」

 

「コラコラ!なに勝負しちゃってんだ!実力を図る軽いテストだろうが。まったく...。」

 鈴木主将の声が飛ぶ。

「双葉!打席から出らんでいい!もう少し打てよ。後藤!バッティング練習だからな!」

 

 鈴木主将の注意に、思わず顔を見合わせる俺と後藤先輩。

 

「じゃあ、いくぞ!」

「お願いします!」

 

 

 それから、主将の声がかかるまで打った。

 

 俺の後に打つのは、もちろんこの男。

 

「おねがいしま~す!」

 

 梨田朔良だ。

 俺の記憶では、あまり打撃は上手ではなかったが...。

 

 左打席に入る朔良。

 

 あっそういえば、俺右でしか打ってねえや。

 まあ、いい。後で打たせてもらえるか聞いてみよう。

 

 でも確か、朔良は右打ちだったはず。

 

 その初球。

 

 朔良は、完璧にボールを捉え、学校グラウンドのライト側に設置された柵まで打球を飛ばした。

 推定飛距離、90m。

 

 は??という顔を皆がする中。

 

「後藤さん?次、お願いします。」

 

 少し放心していたエースは、気を取り直して次を放る。

 アウトコースに入ってくるカットボール。

 

 それを、またまた朔良のバットが捉える。

 今度は、左中間に。きれいに外野の間を抜ける、長打コースだ。

 

 この二球で心を軽く折られたエース。

 そのエースに、投球を要求する新入部員。

 

 エースは、心を復活させ、投げ続けた。

 

 その内、おかしいことが起こり始めた。

 回数を重ねるごとに朔良の打撃は悪くなっていったのだ。

 

 そして最終的には、空振りまで。

 

 たまらず、主将が声をかける。

「おい、梨田?どうした?最初は良かったのに、どんどん悪くなって...。」

 

 すると、朔良は驚くべきことを言い放った。

 

「俺は、どんどん打撃の質が下がっていっちゃうんです。」

 

 聞いたところによると、朔良は打席に入って数球は極限まで集中が高まるらしいが、それが、バッティングをし続けるにつれてどんどん欠けていくそうだ。

 つまり、打席に入って何球かは最強だけど、それが終わると弱体化するということだ。

 

 それは、野球の試合においては無敵ともいえるだろう。

 打席は、たいてい五球くらいで勝負がつくからだ。

 

 ちなみに、朔良が左打ちになったのは去年の夏の終わりのころで、右で打てなくなってきたから左で打ってみたら、今みたいな感じになって、これは使える、と思ったからだそうだ。

 

 何はともあれ、新入生の打撃チェックは終わった。

 次は、待ちに待った...

 

「双葉!梨田!マウンドへ!」

 

 来た!!ピッチングだ!

 

「二人とも、いいか。聞いてくれ。これから、三年生二人ずつと対戦してもらう。いいピッチング、期待してるぞ!」

「まずは、梨田から。相手は、杉山と土屋だ。」

「はい!」

「その後に、双葉だ。佐藤と高橋と対戦してくれ。」

「はいっ!!」

 

「キャッチャーを、正捕手である小野原にしてもらう。リードは、どっちがしてもいい。それと、今回は真剣勝負だからな。本気で、行けよ。」

「「はい!!」」

 

 主将が小野原さんを呼んだ。

 

 さあ、俺と朔良のピッチングは通用するだろうか?

 

 それと、左打席でのバッティングは見せられていない。

 

 俺がまた、聞くのを忘れてしまっていたからだ。




登場人物
・小野原理玖:小原鞠莉
・松宮琉果:松浦果南
・玄山大也:黒澤ダイヤ
モブの方のフルネーム
・鈴木四季(すずきしき)主将 右左、レフト
・後藤六(ごとうりく)エース 右右
・杉山一春(すぎやまいちはる)右左、ショート
・佐藤夏三(さとうなつみ)左左、ファースト
・高橋秋五(たかはししゅうご)右右、センター
・土屋冬二(つちやとうじ)右右、セカンド

選手能力は、番外編の方で紹介したいと思っております。

読んでいただき、ありがとうございました!
感想、誤字訂正等、お待ちしています。


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Episode.3

前回:さあ、新入部員の皆、実力を見せてもらおうか。


キュウシュ

 

 夕方の学校グラウンド。

 

 マウンドには、野球部新入部員の梨田朔良。

 バッターボックス(左)には、野球部三年生の杉山一春。

 

 ピッチャー梨田の見つめる先には、キャッチャー小野原理玖の構えるグラブ。

 サインを交換する。梨田は首を縦に振り、両手を胸の前に。

 

 振りかぶり、投げる。

 

 右手から放たれたボールは、一直線にキャッチャーのグラブへ――。

 

 バッターも動く。ボールを見つつ、バットを振る。

 

 ボールを捉える。鋭く飛んだ打球は、三塁線をきれて、ファール。

 

 主審の鈴木四季キャプテンのボールを受け取り、再度サイン交換。

 

 振りかぶって投げたボールは、ゆったりとした軌道を描いて、キャッチャーミットに収まる。

 カーブ。内角低め、ストライク。少し悔しそうな、打者の顔。

 

 小野原からのボールを受け取った梨田はサイン交換をし、振りかぶる。

 動き出す打者。しかし。

 

 梨田の指から放たれたそのボールは、通常の直球よりも遅かった。

 

 チェンジアップ。

 

 だが、打者も意地を見せ、なんとかバットに当てる。ファール。

 

 次のボールは、外角へのシンカー。

 バッターが見て、ボール。これでワンボール、ツーストライク。

 

 五球目。

 体のほうに曲がってくるスライダー。

 

 六球目。

 ストライクゾーンから外れていくシュート。

 

 いずれも打者がカット。

 

 球種の多様さに感心する観衆たち。(11人)

 

 七球目。

 インハイへの力強いストレート。

 バッターは誘いに乗らず見逃して、ボール。

 

 カウント、ツーボールツーストライクからの、八球目。

 外角へのボール。

 

 バットで捉えようと、スイング。

 

 が、

 梨田が投げたのはSFF、スプリット・フィンガード・ファストボール。

 

 ボールはストレートの軌道からホームベース付近で鋭く落ちる。

 バットが空を切る。

 空振り三振。

 

 梨田は、雄たけびをあげる!!

 

 その姿、まさに...シャイニー!!

 

 

 

 

 

「とまあ、こんなかんじでどうかな?」

 

「いや、意味わかんないです!」

 

 つい、ツッコんでしまった。

 

 三年生との勝負のため、小野原さんに自分の球種を伝えたら、こんなドラマを描いて下さった。

 

 正直に言おう。

 面白い。

 この通りにできるわけないけど、こういう抑え方は結構好きだ。

 

「よし、じゃあ、さっきの話通りにやるから。ミステイクるなよ!」

 

「えっ!?そんな...できるんですか?」

 

 それと、"ミステイクる"とは?

 

「まあ、サクラの出来次第だな。でもさ。」

「成功したら、すごく気持ちいいと思うだろ?」

 

「!!・・そうですね。気持ちいい、と思います。」

 

「期待してるぞ、新入り!」

 

 

 そして無事、ドラマを描ききることに成功。

 かなりの達成感を得たのだった。

 

 まあ、雄たけびはあげなかったけどね。

 

 次の打者は、土屋冬二さん。右打ちだ。

 ダイジェストでお送りします。

 

 一球目、カーブ。内角低め、惜しくも外れてボール。

 

 二球目、ストレート。外角いっぱいに入ってストライク。

 

 三球目、ストレート。高めのボール球も、バッターが振ってファール。

 

 四球目、SFF。バッターがぎりぎり当てて、ファール。

 

 五球目、スライダー。外にはずれてボール。

 

 六球目、カーブ。バッターが上手く打つも、三塁線きれて惜しくもファール。

 

 七球目、シュート。内角外れてボール。

 

 八球目、スライダー。バットに当てられ、ファール。

 

 九球目、ストレート。真後ろに飛ぶファール。

 

 十球目、超スローボール。主審の厳しい判定の結果、ボール。

 

 結果、四球。

 

 土屋先輩は粘るのがうまく、最終的に逃げてしまった自分の負けになった。

 

 ただ、俺は超スローボールには自信を持っているから、逃げたというわけでもないと言える。

 まあそれは、屁理屈みたいなものだけど。

 

 

 その後、もう一打席ずつ杉山先輩と土屋先輩と対戦した。

 

 杉山先輩には、2-2からの五球目、シンカーをうまく拾われてレフト前ヒット。

 

 土屋先輩は、初球のショートを詰まらせてピッチャーゴロに仕留めた。

 

 

 俺の球種は、自分の目から見ても豊富だと思う。

 カーブ、スライダー、SFF、チェンジアップ、シンカー、シュート。それと、超スローボール。

 

 どれも、一級品というわけではないので、これから磨いていかなければならないが、自信のある球種が二つ。

 チェンジアップと、カーブだ。

 これでストレートが強化されれば、更に良くなるだろう。

 そして、もっと他の球種のレベルも上げていきたいと思う。

 

 頑張って努力した先に、真のエースの称号がある。そう思っている。

 

 

 俺を見ている視線を感じる。

 

 その主は、双葉諒。

 

 まさか、同じ高校に進学するなんて思っていなかったけど、これはこれでいい。

 

 エースの座をかけて争う。真剣勝負だ。

 二人でともに切磋琢磨して、なんていうのは詭弁だ。

 

 諒は覚えているか知らないが、俺がエースだったとき、榊シニアは二度堺シニアと戦い、どちらも敗北した。

 

 マウンド上の気迫。

 そのエースに引っ張られ、いいプレーを連発するチームメイト達。

 

 間違いない。

 俺の知りうる最高のエースの姿がそこにあった。

 

 吉良翼さん。

 俺の一番の憧れ。真のエース。

 

 その雰囲気をどこか纏っている諒。

 

 負けたくない。負けられない。

 

 その思いとともに、諒に言う。

 

「負けねえぞ、諒。」

 

 不敵な笑みを浮かべる諒。

 

 無言で四本の指を俺に向けてくる。

 その後、踵を返してマウンドに上がっていった。

 

『四つ、取ってくる。三振。』

 

 四本指の意味をそう解釈した俺は、今後争う好敵手(ライバル)の背を見つめた。

 その背中がやけに格好良く見えた。

 

「はあ...。エースの座は遠いかな...。」

 

 目指すものが意外と遠くにあるのではと感じ、俺は少し不安になったのだった。

 




結構短めにしました。

双葉諒くんの投球は、次回に持ち越しということでお願いします。
梨田朔良の超えるべき投手の能力はどれほどなのか...!

ここで、学校紹介を。
◎ほしうら学院高校
...今年、創立14年目の歴史はまだまだ浅い私立高校。
野球部は、部として認められたのは八年前。それまでは、同好会として活動が行われていた。
現理事長は小野原真嗣(おのはらまさし)。小野原理玖の父。

基本情報は、こんな感じでしょうか。


では。読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.4

前回:梨田朔良、豊富な球種持ってるってよ。


リョウキキ

 

 生まれたとき、俺は左利きだったそうだ。

 それを親に矯正させられて、右利きに。

 

 自分が左利きだったことも忘れてきていた小四の春。

 俺は右腕を骨折し、左腕での生活を余儀なくされた。

 

 そこで自分がかつて左利きだったことを思い出した。

 

 骨折が治っても、俺は左腕も使って生活していた。

 

 小五から始めた野球では、珍しくて格好よさそうという理由から、両投げに挑戦。

 

 右では力強いボールを投げ、左では巧みなコントロール。

 

 こうして、両利きの投手、双葉諒が生まれた。

 

 

 そして、今。

 俺はマウンドに立ち、左打席に立つ佐藤夏三さんを見ている。

 

 佐藤先輩は、バットをまっすぐに高々と掲げるようなフォーム。

 

 俺は、捕手の小野原先輩とサインを交換する。

 すでに、投げられる球種は伝えてある。

 リードは、先輩に任せることにした。

 

 一球目。振りかぶって、投げる。

 パアン、と、小気味いいミットの音がする。

 際どいゾーンに投げ込んだストレートは、ボールと判定される。

 

 二球目。腕を振る。

 その強い振りとは裏腹に遅いボール。

 バッターのタイミングを完全に外したスローカーブ。

 もちろん、ストライク。

 

 三球目。ストレート。

 バッターも振っていったが、振り遅れて三塁側ベンチに飛ぶファール。

 

 四球目。続けてストレート。

 だが、今までの二球のそれよりも数キロ速い。

 高めの釣り球を振らせて、三振にとった。

 

 普通のストレートと全力ストレート。

 そう区別するのが一番わかりやすいだろう。

 

 次のバッターは、高橋秋五さん。右打者。

 バットを肩に置き、寝かせるようなバッティングフォーム。

 

 初球。振りかぶって、力を込めて、投げる。

 真ん中低めのそのボールを先輩は振った。

 が、ボールはそこから下に落ちた。

 フォークで空振りを奪い、ワンストライク。

 

 二球目。ストレート。

 アウトローいっぱいを狙ったが、少し外れてボール。

 

 三球目。スローカーブ。

 バッターも読んでいたのか、タイミングを合わせて打ったが、それでも振り出しが早く、ファール。

 

 四球目。ストレート。

 良いコースに決まったが、さすがにカットされる。

 

 五球目。

 少し高い、とバッターは思っただろう。

 高めに抜けたように見えたそのボールは、ホームベース付近で滑らかに落ち、ストライク。

 縦スライダー。見逃し三振を奪った。

 

 これで、二人とも三振にとった。

 

 朔良のいる方を見ると、朔良もこっちを見ていた。

 

 どういう思いで、俺のピッチングを見ているのだろうか。

 後で聞いてみようか。

 

 とにかく、あと二つだ。

 

 相手打者は左打ちの佐藤先輩。

 もう、球種はすべて見せた。

 あとは、とにかく裏をかくピッチングをするのみだ。

 

 ふとそこで、思い当たる。

 

 左投げを見せよう、と。

 

「すみません、キャプテン!」

 

「お?どうした?」

 

 突然マウンド上の新入部員から声がかかり、少々驚く鈴木四季主将。

 

「あの、俺左投げもできるんですけど、次の二打席、そっちでいいですか?」

 

 は?となる野球部員一同。

 

「え?いや、左投げ、って...。何?両投げなのか、双葉?」

 

「一応、そうですけど。」

 そりゃまあ、困惑するよな...笑

 

「んじゃあ、せっかくだし、見せてもらうか。」

 

「少しだけでいいので、軽く投げさせてもらってもいいですか?」

 

「ああ、準備ができたら言ってくれ。」

 

 俺は、軽く左投げでキャッチボールを始めた。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 まさか、両利きだったとはな...。

 

 驚きの事実をついさっき知った俺、鈴木四季は双葉の様子を見ている。

 

 確かに、何ら違和感なくボールを投げている。

 

 その時、学校グラウンドに、一人の人物が。

 

「!佐藤監督!こんにちは!おい、皆、一回しゅ」

「大丈夫。集まらんでいい。」

 

「わかりました。続けてていいぞ。」

 

 佐藤 洋寿(さとう ひろとし)

 俺たち野球部の監督だ。

 

 佐藤監督は、甲子園出場経験もある元高校球児。捕手をしていたそうだ。

 

「今は?一年生の実力チェック中か?」

 

「そうです。」

 

「今年は、左投げがいるみたいじゃないか。しかもピッチャーで。」

 

「それが...あいつ、双葉諒と言うんですけど、両投げだそうなんです。」

 

「両投げ?器用な奴もいるんだな。」

 

 その時。

 

「キャプテン!準備できました!」

 

 双葉から声がかかる。

 

「オーケー、分かった。よし、じゃあ、再開してくれ。」

 

 さあ、左投げの実力を見せてもらおうか。

 

 

 その初球。

 振りかぶった双葉は、右足をあげた後。

 

 背中をホーム側に見せるほど身体をひねった。

 

「(!トルネード気味!森福みたいなフォームか!)」

 

 そこから通常よりも一塁側に足を踏み出し、腕を振った。

 

 思わず打者の佐藤は少し後ずさる。

 

 しかし、投げられたボールはただのインコースへのストレート。ストライクだ。

 

「(これは...思っていたよりも...すごい!?)」

 

 二球目。アウトコースに制球されたストレート。

 ぎりぎりいっぱいに入ってストライク。

 

 三球目。そこから外に曲がっていくスライダー。

 ボール球だが、バッターが手を出してしまう。

 それほどまでのキレ。

 かなり良い変化球だ。

 

 次の打者は、高橋秋五。右打者だが、双葉は左でいくようだ。

 

 初球。インコースいっぱいへのストレート。

 バッターは、向かってくるような軌道に思わず腰を引く。

 しかし、ストライクだ。

 

 二球目は、アウトコースへのボール。

 バッターは当てにいったが、ボールはシュートして先っぽに当たり、ファール。

 

 三球目。

 インコースへのボールをバッターは振りにいく。

 しかし、投げられたのはおそらくスライダー。

 バッターの目からは、消えるように見えるだろう。

 当てることができず、空振り三振。

 

 圧倒的なピッチング。

 そうとしか言えない。

 

 右投げでは、力強い直球で空振り三振。縦スラを落として、見逃し三振。

 左投げでは、スライダーで二つの空振り三振。

 

 右投げは、力強いピッチング。二つの縦変化球にスローカーブ、良いストレート。

 左投げは、かなり精密なコントロール。右にも左にも通用する二つの横変化球。

 

 かなり期待できるピッチャーが入ってきたな、と俺の心はおどっていた。

 

 

 その後、監督のところに集合。

 

「俺は、監督の佐藤洋寿だ。この学校の理事長とは昔、バッテリーを組んでいたことがある。」

 そこで、一度言葉をきる。

 

「俺の目標は、甲子園を制するチームを作り上げることだ。」

「そのためには、厳しいことも言うし、楽な練習なんてさせる気はない。」

「それでも、本気で俺の目標に付き合ってくれる奴はぜひ野球部に入ってくれ。」

 

 監督の熱い思いを聞いて、辞められる奴なんているわけがない。

 

 俺も、初めにこの監督と会った時、こういうことを言われたのを覚えている。

 

 気付けば、あと約三か月。

 この、生徒思いな素晴らしい監督と野球ができるのもそれくらいだ。

 

 これまでも、そうだったけれど。

 

 これからは、いままでよりもっと一日一日を大切にする必要があるんだな、とふと思った。

 

 

 こうして、新生ほしうら学院高校野球部の活動はスタートした。

 部員、三年生6人、二年生3人、一年生4人の計14人。

 佐藤監督の指導のもと。

 

 甲子園を目指して、暑い熱い夏に向けて。

 

 高校球児たちの船出の時が来た。




実力チェック編、終わりました。
・・双葉諒、有言実行。主人公感はでていたでしょうか?

練習編を何話かしてから、夏大編になります!
暑い熱い戦い、お見逃しなく!


読んでいただき、ありがとうございました!
感想や誤字訂正等、お待ちしています。


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Episode.5

前回:双葉諒、両投げ解禁!!
  監督の登場。佐藤洋寿。


レンシュウ

 

 4月27日、日曜日。

 

 俺は、学校グラウンドのマウンドに立ち、左打席の杉山一春先輩と対峙していた。

 

 今日はいつも通り練習の日。

 投手陣が、レギュラーを相手に投げる、シートバッティング練習。

 そして、今まさに、一番バッターの杉山先輩が打席に入っているところだ。

 ちなみに、一巡目は右、二巡目は左で投げることになっている。

 

 杉山先輩は、ショートを守り、足が速い。出塁率が高く、良い一番打者だ。

 

 能力:弾道・1、ミート・C、パワー・E、走力・A、肩力・C、守備力・C、捕球・D

 

 こういうバッターは、内の球で詰まらせてもダメ、外の球を流されても良くない。

 だから正直、対戦するのは個人的には避けたいタイプだ。

 

 一、二球目と、フォークを続けてツーストライク。

 

 三球目は縦スラで、低すぎて見逃されて、ボール。

 

 四球目、アウトコースのストレート。カットされる。

 

 五球目、インローへのストレートがズバッと決まり、見逃し三振にとった。

 

 とりあえず、ワンナウト。さっきのストレートはかなり良かった。

 

 二番バッターは、センターの高橋秋五先輩。右バッター。

 とにかくバントが上手い。どんな状況のバントでも、完璧にできる。

 ただ、どちらかと言えば守備の選手。打力はあまりない方だ。

 

 能力:弾道・1、ミート・E、パワー・E、走力・C、肩力・B、守備力・B、捕球・B

 

 アウトローのストレートとスローカーブで、ツーストライク。

 こんな風に、ストライク先行でいけるとピッチングの幅が広がるので良い。

 

 三球目のフォークはファールにされたが、四球目のフォークでサードゴロに打ち取る。

 

 ツーアウトだ。今日は、全体的に良いボールが投げられている。

 

 三番バッターは、二年生でサード、松宮琉果先輩。右打ち。

 打撃、守備ともに安定しているプレイヤー。

 気が早いかもしれないが、来年はおそらく松宮先輩がキャプテンをするだろう。

 

 能力:弾道・3、ミート・C、パワー・D、走力・C、肩力・D、守備力・D、捕球・C

 

 丁寧に投げていこうと心掛けたその初球。

 アウトコースの縦スラを捉えられた。

 自分の左側を抜け、センター前に――という打球を。

 

 パシッッ。

 

 セカンドに入っていた洋介が好捕。ファインプレーだ。

 

「ナイスキャッチ!洋介!」

 

「・・べつに。普通だろ。」

 

「いやいや、助かった。ありがとう!」

 

「・・おう。」

 

 おかげで、スリーアウト。

 また、ノーアウトから仕切り直しだ。

 

 打席に入るのは、四番の鈴木四季主将。左バッター。

 安定してヒットを打つ。長打も、しっかりと打てる。

 チャンスに強いのはさることながら、チャンスメークもできる。

 優れた四番と言っていいだろう。主将としての気概が打席に顕れている。

 

 能力:弾道・3、ミート・B、パワー・B、走力・C、肩力・C、守備力・C、捕球・C

 

 一球目。アウトコースへのスローカーブ。見送られ、ボール。

 

 二球目は、インローへのストレート。きれいに決まる。ストライク。

 

 三球目、真ん中低め、縦スラ。空振りを奪う。

 

 しかし、四、五球目のフォークはどちらも見切られ、ボールに。

 

 六球目。アウトローにストレート。三塁線きれてファール。

 

 七球目。同じコースに縦スラ。しかし、カットされる。

 

 八球目、アウトコースへのスローカーブをしぶとくライト前に運ばれ、ヒットを許す。

 

 ノーアウト、ランナー一塁だ。

 

 五番は、ファーストの佐藤夏三先輩。左打席に入る。

 チーム一のパワーで、最も一発のあるバッターだ。

 ただ、少し大振り気味なところが強く、打率は高くない。

 

 能力:弾道・4、ミート・D、パワー・A、走力・E、肩力・D、守備力・D、捕球・C

 

 セットポジションからの一球目。アウトロー、ストレート。見逃して、ストライク。

 

 二球目は、アウトローにスローカーブ。これも見逃す。ストライク。

 

 ここで一度、一塁けん制を挟む。

 そして、三球目。もう一球スローカーブを続ける、が、タイミングをきれいに合わせられる。

 だが、打球の先はライト。ライトフライに打ち取り、ワンナウトだ。

 

 六番バッター、キャッチャーの小野原理玖先輩。右バッター。

 打撃は、簡単に言うと、鈴木主将の下位互換。

 だけど、キャッチャーとしてのリードは、かなり良いと思う。

 キャッチングが上手く、肩も強いので、落ち着いてピッチングができる。

 

 能力:弾道・3、ミート・D、パワー・C、走力・E、肩力・B、守備力・C、捕球・B

 

 変わって入っているキャッチャーの土屋先輩とサイン交換をし、投げたその初球。

 インローへのストレート。きれいにはじき返される、が、三塁線きれてファール。

 

 二球目の前に一塁けん制を一度し、投じたフォーク。

 インローのそれをすくわれる。レフト前ヒット。

 ワンナウト、一塁二塁に。

 

 七番は、二年生の玄山大也先輩。左打ちだ。

 器用なバッター。長打も打てるし、小技も得意。右翼手だ。

 ただ一つ、たまに、すごくたまにだが、ものすごいポカミスをする。

 

 能力:弾道・2、ミート・C、パワー・C、走力・D、肩力・C、守備力・C、捕球・E

 

 まず、二塁にけん制を入れる。

 一、二球目は、ストレートで押して空振り、ファール。

 ツーストライクと追い込んだ。

 

 三球目。インローへの縦スラ。

 この時、二人のランナーがスタートを切った。

 玄山先輩も打ってきて、打球はファースト正面。

 そのままファーストを踏んで、ツーアウト、二塁三塁となる。

 

 ここで、バッターは八番、後藤六先輩。このチームのエース。右打席に入る。

 ピッチャーゆえ、打力はほぼない。

 

 ここは、絶対に抑える!!

 

 能力:弾道・1、ミート・F、パワー・E、走力・D、肩力・B、守備力・C、捕球・D

 

 ワインドアップに切り替えて投げる。

 一球目は、アウトコースへのスローカーブ。ストライクだ。

 

 二球目。ストレート。少し高めに抜ける。力が入っている。

 

 一度深呼吸してから、三球目。アウトローにストレートが決まる。

 

 四球目は、そこから落ちるフォーク。カットされる。

 

 五球目、ストレート。高めの釣り球だが、手は出してくれない。

 

 六球目。真ん中低めの縦スラ。今日一のボール。

 空振り三振を奪う。ランナーを二人背負ったが、なんとか切り抜けた。

 

 仕切りなおして、ラストバッターは土屋冬二先輩。右バッター。

 打席では、とにかく粘る。一番にしっかりつなぐ九番打者。

 また、定位置はセカンドだが、内野はどこでも守れるユーティリティープレーヤーだ。

 今日もすでに、セカンド、ファースト、サード、キャッチャーをこなしている。

 

 能力:弾道・1、ミート・C、パワー・F、走力・D、肩力・C、守備力・B、捕球・C

 

 今日の右でのピッチングは、おそらくこれで最後になる。

 だから、しっかりとした投球で締めたい。

 

 その初球。アウトローにストレート。きれいに決まってストライク。

 

 二球目はフォーク。見逃され、ボール。

 

 三球目。フォークを続ける。バッター打ってファール。

 

 四球目のアウトコース、スローカーブ。五球目のインコース、ストレート。

 どちらも、カットされ粘られる。

 

 六球目はインコースに縦スラ。見逃される。ボール。

 

 七球目のインコースへのスローカーブはファールを打たれる。

 

 八球目、スローカーブを続けてファール。

 

 九球目。今日最速の137キロ。全力ストレートで空振り三振。

 

 ワンナウト。ここで俺は、左投げにかわる。

 

 一番打者、2-1からの五球目。外いっぱいのシュートで見逃し三振。

 

 二番打者、1-1からの三球目。アウトローのストレートでセカンドゴロに打ち取る。

 

 仕切りなおしてから。

 三番打者、2-2からの七球目。アウトローへのスライダーでファーストフライ。

 

 四番打者、2-2からの五球目。外に逃げるスライダーで空振り三振。

 

 五番打者、1-2からの四球目。外のストレート。サードライナー。

 

 仕切りなおして。

 六番打者、2-1からの五球目。外のシュートを打たせてセカンドゴロ。

 

 七番打者、1-2からの四球目。内角シュートをうまく打たれ、ライト前ヒット。

 

 ワンナウト一塁の場面。ランナーは出してしまったが、落ち着いて投げれば問題ない。

 八番打者、2-0からの三球目。外いっぱいに入るスライダー。見逃し三振。

 

 九番打者、2-2からの八球目。内角ストレートで、ショートフライ。

 

 これで、二巡終わった。

 

 ちょうど、五イニング分。

 右では、50球投げて、投球回数は2と3分の1回。奪三振3、被安打2。

 左では、44球投げて、投球回数は2と3分の2回。奪三振3、被安打1。

 

 ランナーを背負うこともあったが、失点は0。

 落ち着いて投げることができた。

 まあ、満足のいく結果で終わってよかった。

 

 

 この後、朔良、玄山先輩、そして、エースの後藤先輩も投げた。

 

 俺は、玄山先輩の時に七番に入った。

 玄山先輩は、右サイドスロー。持ち球はスライダー、スラーブ、シンカー。

 

 ここでようやく、両打ちを披露できた。

 

 一打席目(右)は、1-1からの三球目。外のスライダーを打つも、ファーストゴロ。

 

 二打席目(左)は、2-3からの八球目。粘った末、シンカーをうまく打つも、レフトフライ。

 

 結果、ノーヒットだった。

 だが、悪くはなかった。当たりは悪くないので、このまま維持していければ良い。

 

 練習が終わって。

 

 来週のGWに、練習試合があるのだが、その一、二試合目のオーダーが発表された。

 

 一試合目は、同県の工業高校。実力は、同じくらいらしい。

 この試合は、エースの後藤先輩が先発で、打順もいつも通りの通常のレギュラー陣。

 

 二試合目は、東京にある学院高校。

 この試合、俺が先発することになった。また、一年生四人が揃って出場する。

 どうやら、朔良のいた榊シニア出身者が何人かいるらしい。

 

 もちろん、GWの練習試合はまだあるが、まずは最初の二試合で勝利を収めたいところだ。

 

 よし!練習試合、全勝目指して頑張るぞ!!




ということで今回は、能力公開回でした。

後で、能力のみを掲示した話を投稿しようと思っているので、見にくかった人はそちらでご確認いただければと思います。

次話は、練習試合編かな?おそらく、そうなると思います。

読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.6

前回:先輩たちの能力紹介。

ほしうら学院高校を、"ほし高"と略すことにしました。お見知りおきを!?


エーストハ

 

 エース。

 

 それは、野球のチームにおける絶対的な存在。

 そのチームで、最も優れた投手。

 

 では、具体的に、エースとはどうあるべきなのか。

 

 客観的に、素晴らしいピッチングをすればよいのか。

 チームを勝たせるピッチングをするのがよいのか。

 

 その答えは、自分には分からない。

 

 野球は、点を多くとられた方が負けるスポーツ。

 といっても、たいていの球技がそうなのだが。

 

 『失点=投手の責任』であることが多く、その責任は投手に重くのしかかる。

 

 そこから、勝敗の七、八割は投手の良し悪しで決まるとよく言われる。

 

 その上で、チームの投手陣の主、つまりエースは、すごく重要なポジションだ。

 

 高校野球では、背番号1。

 ピッチャーたるもの、その番号が欲しい。それは当たり前だ。

 

 では、その番号を背負うことで何か変わるのか。

 "エース"という称号を手にして、その人はどこか変わったりするのか。

 

 答えはもちろん、イエスだ。

 

 一つ、責任感が増す。

 ただ、エースは元々そういう人がなるものだとも思う。

 

 責任感。

 

 これは、大きな力だ。負の方向にも、良い方向にも働くものでもある。

 

 チームの援護がなければ、たった一失点でも敗戦投手になりうる。

 それが野球だ。

 

 その時に、援護を求めるのか。それとも、自分が与えた一点を悔やむのか。

 

 その差が、エースとして大成するかどうかの差であるように思う。

 

 俺は、現時点ではエースだ。

 

 だが、そうとも言ってられない状況になってきた。

 

 両投げの一年、双葉諒。

 右、左ともに完成度の高いボールを投げる。

 

 プレー一つ一つに気迫を感じる一年、梨田朔良。

 豊富な球種を操り、打者を翻弄する。

 

 負けられない。負けるわけにはいかない。

 

 今日は、GW初日。練習試合の日。

 

 俺は、チームのエースとしてマウンドに上がる。

 

 この座を守り、胸を張って自分がエースだと言い切るために。

 

 

「「お願いします!!!!!!」」

 

 練習試合が始まった。

 

 こっちが先攻だ。

 相手の先発は、二年生の二番手投手。

 右投げで、三種類のカーブを上手く投げ分ける。

 ただ、他の野手はレギュラー陣だ。

 

 一番の一春が打席に入る。

 

「しゃあ!打ってけよー!一春!」

 ベンチから声が飛ぶ。

 

 1-3となって5球目。

 普通のカーブを狙い打ち、レフト線ツーベースヒット。

 

 二番の秋五は、バントシフトの中、完璧に送りバントを決める。

 ワンナウト、三塁。

 

 三番の琉果が打席に入る。

 初回からチャンス。しっかりと点を取りたい。

 

 その期待に応え、初球のパワーカーブをすくい上げて、レフト前ヒット。

 

 ランナー一塁から、四番四季がツーベースヒットで続く。

 

 五番夏三、六番理玖は凡退したが、初回に二点を先制。

 この援護点は大きい。

 絶対に、守り切ってやる。

 

 一番打者、左打席。

 ストレートで押して、フォークで空振り三振。

 

 二番打者、左打席。

 カットボールで詰まらせ、ピッチャーゴロ。

 

 三番打者、右打席。

 外のスライダーから入り、最後は内角ストレートでショートゴロ。

 

 わずか13球で初回を抑える。

 かなりいい立ち上がりだ。

 

「おい!六!今日はすげえ気迫だな!」

 

 ショートの一春が声をかけてきた。

 

「そうか?」

 

「そうだよ。もう、あふれ出てるよね、やる気が。」

 

 そうなのか。

 あまり外には出さないように心がけようとはしてたんだけどな...。

 

「でもよ、」

「その気迫が伝わってるから、皆こうやって頑張ってるんだと思うぜ。」

 

 !!

 

「だから、この調子で、頼むぜ。エース!」

 

 こう言われて、燃えない人間はいない。

 

 二回表、ほし高は三者凡退。

 自分は、ピッチャーゴロだった。

 

 二回ウラ、俺のピッチング。

 

 四番打者、左打席。

 ストレートで押し、ショートフライ。

 

 五番打者、左打席。

 カットボールで空振り三振を奪う。

 

 六番打者、右打席。

 スライダーでセカンドゴロに打ち取る。

 

 全部で16球。このままランナーを出さずにいければ完璧だ。

 なんて、不可能だろうけど。

 

 三回表も、三者凡退に終わる。相手投手も、復調してきた。

 しかし、もう援護はもらっている。

 俺がこれを守り切れば、勝利だ。

 

 三回ウラ、三人とも右打者。

 

 スライダーで空振り三振。

 ストレートでサードファールフライ。

 フォークでサードゴロ。

 

 11球で、簡単にスリーアウト。

 

 試合も落ち着いてきたかと思われたが。

 

 四回表。

 四番四季が、ソロホームランを放ち、点差が三点に広がる。

 さらに、五番夏三のツーベースヒットと、七番玄山のセンター前ヒットが出て、一点追加。

 

 4-0となり、心にも余裕ができてきた。

 

 俺のピッチングはより良くなり、六回まで一人のランナーも出さないピッチング。

 

 さらに援護をもらって5-0となり、七回ウラ。

 

 

 

 流石にそろそろ相手も反撃が必要だ。

 切りよく、一番打者からの攻撃。

 

 しかし、付け入るスキを与えさせない完璧なピッチングを続ける、ほし高現エース、後藤六。

 

 先頭打者をファーストライナーで打ち取ると、次のバッターもセンターフライ。

 簡単にツーアウトを取る。

 

 そして、三番打者。

 カットボール、フォークで空振りを二つ奪い、ツーストライク。

 そこから粘りを見せ、十一球目。

 四球をなんとかもぎ取ることに成功。

 

 ようやく一人、ランナーが出た。

 

 そうなると、意外と簡単に先に進める。

 

 次の四番打者がライト戦にツーベースヒットを放ち、あっさりと一点を返す。

 

 さらに、五番打者がセンター前ヒットで続き、二塁ランナーは本塁へ。

 しかし、ここは高橋秋五の肩が勝り、ホームでタッチアウト。チェンジとなる。

 

 八回表、ほし高は三者凡退。

 

 八回ウラ、先頭の六番打者が甘く入ったフォークを捉え、ツーベースヒット。

 

 ここで守備のタイムを取り、いったん落ち着かせる。

 すると、息を吹き返したかのように七、八番を連続三振に抑え、ツーアウト二塁とする。

 

 九番打者に代打が出され、その代打にライト前タイムリーヒットを許すが、後続は断つ。

 

 結果として、後藤六、投球回数8回、被安打4、与四球1、奪三振8、失点2。

 エースとして、十分に力を示したピッチングと言っていいだろう。

 

 ちなみに、試合結果は5-2で、ほし高の勝利に終わった。

 

 ほし高、九回を投げたのは、玄山大也。

 ピッチャーゴロ、空振り三振、センターフライでスリーアウト。ゲームセットである。

 

 こうして、練習試合一戦目は勝利を収めることができたほし高野球部。

 次の試合は勝つことができるだろうか...?

 

 それではみなさん、またお会いしよう。

 

 ん?私は誰か?って?

 そうだな...。"仙人"とでも言っておこうか。

 

 

★得点表

 

 学校名 123456789 計H

 ほし高 200200100 59

 工業高 000000110 24




読んでいただき、ありがとうございました!

"仙人"は、第三者目線で野球の試合をお届けするキャラです。
あたたかく、見守ってやってください。笑

と、いうことで、このあたりで。
次話も、練習試合編です。
感想など、お待ちしています!


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Episode.7

え~、はい。かなり空きましたが...第八話です。

待って下さった方がいれば、土下座して謝りマス!!


では、練習試合、第二試合です。


カオミシリ

 

 五月。

 世間は、GWの真っ最中。

 

 とある高校の、野球グラウンドに散らばっていく、九人の野手。

 

 

 一人の男は、グラウンドの中の少し小高いところ、マウンドに上がる。

 

 

 ふう、と一息。

 

 

 数球の投球練習を終え、相手の一番打者も打席に入る。

 

 審判から、『プレイ!』という声がかかる。

 

 その声を聞いた投手は、振りかぶり、一球目を投じる――。

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 約一時間前。

 

 ほしうら学院高校の野球グラウンドに現れたのは、練習試合の対戦相手。

 

 遠沖野(とおきの)学院高校野球部。部員は、17人。

 

 

 待っていた、練習試合の相手。

 

 俺の、高校初先発試合の相手校。

 

 

「あれ?朔良じゃないか?」

 

「あ、律先輩!やっぱり!」

 

 唐突に、相手チームの人から名前を呼ばれる朔良。

 どうやら、知り合いのようだ。

 

「どうして、ココに?」

 

「それはまあ、いろいろありまして。」

「それよりも、先輩がいるということは...」

 

 

「おー!朔良!久しぶりだな!」

 

「え?さっちゃん?何でココにおるん?」

 

「やっぱり!笑先輩、望先輩も!お久しぶりです。」

「それと、望先輩。さっちゃんはやめてって何回言ったらいいんすか。」

 

 

 いやいや、ちょっと待て。

 

 なんかだんだん騒がしくなってきてないか。

 

「ちょっと、朔良。この人達、知り合い?」

 

 そう聞くと、朔良は我に返ったようになる。

 

 

 話によると、この三人の人達は二年生。

 

 朔良が、榊シニアにいたころの先輩たちだそうだ。

 

 

 一人目の人は、彩里 律(あやさと りつ)

 ピッチャー、だそうだ。

 強気の、闘志あふれるピッチングが持ち味。

 

 二人目は、小屋沢 笑(こやさわ しょう)

 キャッチャー、だそう。

 その圧倒的な野球知識で、守備の要を担う。

 

 三人目は、東 望(あずま のぞむ)

 ファースト、だそうだ。

 力強いバッティング、チャンスに強い、ザ・四番打者。

 

 

 言われてみれば、俺が五年の頃、そういう三人が榊シニアを引っ張っていたような...気もする。

 

 

「朔良以外のメンバーは、結構遠沖野に来たぞ。」

 

 律さんがそう言ったとき。

 

「さっくん?さっくんだよね!」

 

「朔良!こんなところで会うとはな。」

 

「さっくん!!久しぶり~!」

 

「おう!久しぶりだな、崇、正、命。」

 

 口々に声をかけてくる三人組。同級生みたいだ。

 

 

 後から聞いた情報だが。

 

 一人目は、帆阪 崇(ほさか たかし)

 

 二人目は、海園 正(うみその ただし)

 

 三人目は、皆狩 命(みながり みこと)

 

 三人とも、朔良の同級生で、榊シニアの出身らしい。

 

 

「さっくん!どうして遠沖野に来なかったんだよ~。」

 

「そりゃあまあ、いろいろあるんだよ、事情が。」

 

「事情ってなんだよ~。」

 

「まあまあ、別にそっちが気にすることじゃねえよ。」

 

 

 かなり話し込んでるけどいいのか、三人組よ。

 

 いろいろ荷物持ってるんだし、早めに移動した方がいいと思うけど...?

 

 

 俺がそんな風に考えていると、遠沖野高のキャプテンから声がかかる。

 

 ほら、言わんこっちゃない。

 

 

「またキャプテンに怒られたじゃん!崇のせいだよ!」

 

「そんなこと言って~、正が一番話したがってたじゃん。」

 

「そっ、そんなことないよ!」

 

「まあ、落ち着こう、二人とも。早くいかないともっと怒られちゃうよ。」

 

「そうだね。じゃ、またね、さっくん!」

 

「ああ。試合でな。」

 

 そう言って、急いで皆がいる方に向かう三人組。

 

 

 慌ただしいな。そして、

 

「仲いいな。」

 

「ホント、その通りだよ。」

 

 あれ?考えたこと声に出てた?

 

 

「でも、あんな感じだけどプレイは確かだよ。」

「それよりも、」

 

 そこで声をきり、律さん、望さん、笑さんの方に目を向ける。

 

「あの三人は、ホンモノだよ。今どうなのかはわからないけど、俺の知る限りでは、あの三人がいて負けたことは、無かったはずだから。」

 

「えっ!そんなに!?」

 いわゆる不敗神話というやつですか。

 

「ああ。でも、」

 

 そこでまた声をきり、今度は俺の方を向いてくる。

 

「諒が自分のピッチングをすれば、こっちだって負けないと思うよ。」

 

 !!!

 

「期待してるよ、スーパールーキー!」

 

「・・おう!まかせとけ!」

 

 

*  *  *  *  *  *  *

 

 そして、今。

 

 審判の合図とともに、試合が始まった。

 

 

 ほしうら学院高校は、後攻め。

 

 先に守備に入った。

 

 

 俺は、気合十分に投げ込む。

 

 一番は、右バッター。

 

 初球は、アウトローへのストレート。しかし、ボール。

 

 そこから、スローカーブを二球続ける。どちらも見逃される。ワンストライク、ツーボールに。

 

 四球目、インコースにストレート。詰まらせて、ショートゴロに打ち取る。

 

 

 二番バッターは、左打席に入る。

 

 初球、二球目と続けてストレート。どちらもファールとなる。

 

 ツーストライクから、外角のフォーク。見逃され、ボール。

 

 次も、同じ球。さっきよりかは少しストライク気味だ。これを打たせて、サードゴロ。

 

 

 三番は、右打席に入る。

 

 フォークから入り、空振りでワンストライク。

 

 ストレートは、外れてボール。スローカーブは決まってストライク。

 

 四球目は、ストレート。カットされる。

 

 次もストレート。高めの釣り球だが、手は出してくれない。

 

 ツーストライクツーボールとなり、六球目。

 

 低めへのボール。打者は振っていくが、ボールは縦に落ちる。

 

 今日初出しの縦スラで、空振り三振。

 

 

 順調な立ち上がり。三者凡退に抑えた。

 

 

 そして、一回ウラ。

 

 マウンドには、律さんが上がる。

 

 背番号1。二年生エース。

 右投げ。力強いフォームだ。ミットのいい音が鳴っている。

 

 

 この試合、一番打者は土屋冬二先輩。

 

 初球、二球目とアウトコースにストレート。どちらもいいボールだ。早くもツーストライク。

 

「さあ、先輩!ここから粘っていきましょう!」

 

 俺の声に応えるかのように。

 

 三球目の釣り球を見逃し、

 四球目、アウトコースのカットボールも見逃し、

 五球目、インコースへのストレートをカット。

 六球目は、アウトコースのカットボール。これもカット。

 

 ツーストライク、ツーボール。

 

 七球目、アウトローのストレート。八球目、インコースにストレート。

 どちらもカット。

 九球目は、インコースへのシュート。初めて見たこのボールも、カット。

 

 十球目。アウトコースにストレートが外れ、ツーストライク、スリーボールとなる。

 

 十一球目。カットボールをファールにする。

 

 そして、十二球目。インコースへのストレートが外れる。

 

「よし。」

 

「「「ナイッセン!!!」」」

 

 土屋先輩は、四球をつかみ取った。

 

 

 二番は、玄山大也先輩。

 

 初球で一塁線にバントを決め、ワンナウト二塁とする。

 

 

 三番、松宮琉果先輩。

 

 一球目、アウトローにストレートが決まり、ワンストライク。

 

 二球目。少し踏み込んだ松宮先輩の体近くにボールがいき、更にシュートして、体に当たる。

 

 デッドボールだ。これでワンナウト一、二塁。

 

 

 そして打席には、頼れる四番、鈴木四季キャプテンが入る。

 

 

「(キャプテン!先制点ほしいです!)」

 

 

 初球は、アウトコースにカットボール。いっぱいに入ってストライク。

 

 二球目、三球目は外角へのストレート。どちらも少し外れ、ボール。

 

 ワンストライク、ツーボールからの四球目。

 インコースへのボール。鈴木主将は、振っていく、が、ボールは体のほうに向かってくる。カットボール。

 

 しかし、先輩も読んでいた。

 体を少し開きつつ、芯で捉えようとする。

 

 

 だが、ピッチャーが一枚上手だった。

 それまでのカットボールよりも、大きく変化する。

 ボールは、主将のバットの根っこ近くに当たり、ピッチャー正面に転がる。

 

 1-6-3のダブルプレー。スリーアウト、チェンジ。

 

 チャンスに強い鈴木主将をゲッツーに。

 

 

 律さんを見ていると、目が合った。

 

 次は君の番だよ。

 

 そう言われた気がした。

 

 

 俺は、よし!と気合を入れなおし、マウンドに向かう。

 

 両投手ともに、立ち上がりは良い、と言っていいだろう。

 

 練習試合だが、負けるつもりはない!

 

 いいピッチングから、良い流れをつくる。

 それが、先発投手の俺に任された仕事だ。

 

 




お久しぶりでした。

練習試合、次話まで続く流れになってしまいました。
こんな作者ですが、楽しみに待って下されば、と思います。


人物モデル紹介(一応)
・彩里律:絢瀬絵里
・小屋沢笑:矢澤にこ
・東望:東條希
・帆阪崇:高坂穂乃果
・海園正:園田海未
・皆狩命:南ことり


では。読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.8

皆狩命っていう名前、今更だけどちょっとこわいですね笑

それはさておき練習試合の続きです。
よろしくお願いします。


ジツリョク

 

両チームのスターティングメンバー

 

★遠沖野学院 

 

 1番 セカンド   栄川(えいかわ) 3年 右投右打

 2番 レフト    尾井田(びいだ) 3年 左投左打

 3番 ショート   椎橋(しいはし) 3年 右投右打

 4番 ファースト  東(あずま)   2年 左投左打

 5番 ライト    出居(でい)   3年 右投右打

 6番 ピッチャー  彩里(あやさと) 2年 右投左打

 7番 キャッチャー 小屋沢(こやさわ)2年 右投右打

 8番 サード    帆阪(ほさか)  1年 右投右打

 9番 センター   飯原(いいはら) 3年 右投左打

 

★ほしうら学院

 

 1番 ファースト  土屋  3年 右投右打

 2番 ライト    玄山  2年 右投左打

 3番 サード    松宮  2年 右投右打

 4番 レフト    鈴木  3年 右投左打

 5番 センター   梨田  1年 右投左打

 6番 キャッチャー 小野原 2年 右投右打

 7番 ショート   歌間  1年 右投右打

 8番 セカンド   渡   1年 右投右打

 9番 ピッチャー  双葉  1年 両投両打

 

※尚、現在一回を終わって0-0。双葉クンは、右で投げております!

 二回表、遠沖野学院の攻撃からです。

 

 

*  *  *  *  *

 

「お願いします。」

 

 一言いって、バッターボックスに入るのは四番の東。左打席に入る。

 

「キャッチャー君も、よろしくな。」

 

 

「・・ヨロシク。」

 

 

 気を取り直して、サインを出す。

 

 

 一年生投手、双葉諒。

 『両投げなんです。』と聞いたときは、正直、ナニ言ってんだコイツは?と思った。

 

 ただ、受けてみて分かった。

 

 コイツはホンモノだ、と。

 

 

 リョウは、右投ならば縦スラ、左投ならばスライダーが決め球。

 

 それなら。

 それを最大限に生かせるリードを。オレなりに。

 

 初球は、フォークだ。できるだけストライクで。

 

 リョウがうなずき、投げる。

 要求通り、ストライク。東は見逃した。

 

「へえ~、そうくるか。」

 

 ・・これはもう、無視しよう。

 

 

 見逃した。何か狙っているのか。だとしたら、何を。

 

 

 次は、アウトロー、ストレート。外れてもいい。際どいトコロに。

 

 リョウは左投げの制球力はすさまじく良く、右投げだとまあ、並程度。

 

 投じたボールは、少し内に入ってくる。

 

 ヤバイ、と思ったが、東はバットを振らず、ボールはミットに収まる。

 これでツーストライク。

 

「(振ってこなかった...。何か別の球種を狙ってるのか?)」

 

「いや~、見逃しちゃったな、もったいない。」

 

「(やっぱり、別の球種を...!)」

「(だとしたら、何だ?投げていないのは、縦スラとスローカーブだけど...。)」

 

「ちょっと~、長くない?ピッチャーの子待ってるで~。」

 

 

 言われてはっと見ると、リョウが少し不安げに俺のサインを待っている。

 

 

「(とりあえず、一球外すか。)」

 

 

 出したサインは、外のボールゾーンに、スローカーブ。

 

 要求通りに投げられ、バッターも見逃す。ツーストライク、ワンボールだ。

 

 

「(全く、ピクリとも反応しなかった...。ということは、決め球の縦スラを...?)」

「(それなら、投げなければいいだけだ。縦スラは使わないようにしよう。)」

 

 

 そこで、フォークのサイン。

「(ストライクから、ボールになる球を。空振り三振、狙っていくぞ!)」

 

 リョウも、意図が分かったようで、力強くうなずく。

 

「(さあ、来い!)」

 

 リョウが振りかぶり、投げる。

 

 少し、低いか。これじゃ、見逃される。三振は無理...

 

 

 

 

 しかし、東は振ってきた。

 

 

 フォークが来るとわかっていたかのように、ジャストミート。

 

「(ウソだろ!?フツーにボール球だぞ!?)」

 

 カキィィンン!!

 

 

 きれいな打球音。ボールは、ライト前へ――。

 

 

 

 

 

 パシッッ!!

 

 抜けると思われた打球を捕球したのは、

 

「っ!!ナイスキャッチ!洋介!」

 

セカンドに入っていた、渡洋介。

 

 

「へ??」

 

 打った東は、キョトンとしている。

 

「ナイスキャッチ、ヨースケ!!」

 

 いや、ホントに助かった。できるだけ試合前半は、ランナーを背負いたくない。

 

 

「あのセカンド一年?」

 

「ああ。守備はもはや一流だぜ。」

 

「ハハッ。すごいのもいるんだな。」

 

 

 その後、このファインプレーに背中を押され、リョウは五番の出居を縦スラで空振り三振、六番の彩里をスローカーブで見逃し三振に抑えた。

 

 

 チェンジ後。

 

「洋介!マジでナイスキャッチだった。助かったよ。」

 

「・・そう。まあ、引っ張りに警戒してたからね。」

 

「すごかったよ、洋くん!プロかと思っちゃった。」

 

「そうか?いや~、プロは言い過ぎだって、ミッチー!」

 

 未だに、先ほどのファインプレーの余波が残っていた。

 

 

 ・・それにしても、ミチタカが褒めた瞬間、表情が変わったんだが?ナゼ?

 

 

 まあ、いい。ひとまずそれは置いとこう。 

 

 体につけている防具を外す。

 そうして、ネクストバッターズサークルに向かう。

 

 俺は、六番。五番、サクラのあとに、打席に入ることになる。

 

「サクラ~!ヒット、ヨロシク!」

 

 

 しかし、俺の頼みもむなしく、サクラはサードゴロに倒れる。

 

 

 やっぱり、いいピッチャーだ。

 

 流れは、ひとまずどちらにも傾くことはなさそうだな。

 

 

 

 

 そこから試合は、投手戦の様相を呈してくる。

 

 双葉諒は、気迫のこもった力強いピッチング。三振を次々奪う。

 

 対する彩里律も、ストレート系の変化球で、打たせて取るピッチング。ヒットを許さない。

 

 

 

 試合が動いたのは、5回の表。

 

 この回の攻撃、先頭打者は、

 

 

「お願いします。・・キャッチャー君も、ね。」

 

 四番の東望だ。

 

 

「(さあ、試合も中盤。そろそろ、配球も変えていくかな...。)」

「(さっきは、フォークを狙ってた。というか、ボール球を狙ってた?)」

 

 とりあえず初球は、アウトローにストレートを。

 

 今日は、けっこう球が走っている方だ。きちんと制球できれば、長打はない。

 

 

 果たして。

 リョウは、完璧なコースに投げ込んできた。

 

 東は、当然のように見逃す。ストライクだ。

 

 まあ今のは、フツーでも手が出ない、いいボールだった。

 

「(こうなって、次だ。)」

「(かなりいいストレートだった。この初球を、活かしたい。)」

 

 スローカーブを要求。

 インコースに。外れてもいい。とにかく体に迫る感じで。

 

 

 リョウが、投げる。

 

 

 

 

 バッターは...振ってくる。

 

「(いや、待て!ボール球!)」

 

 

 完璧に捉えられた打球は、ライトスタンドへ一直線――、から、きれて、ファール。

 

 

「(助かった...。)」

「(でも、これで分かった。このバッターは、悪球打ちだ。)」

「(あまりボール球が投げられないの、なら。)」

 

 アウトローに、ストレートだ。

 

 

 きれいに投げてくれたが、東は流し打ち、レフト前へ。

 

 両チーム通じての、初ヒットがうまれた。

 

 

「(ただの悪球打ちじゃない。・・いや、当たり前だろ!四番だぞ!相手は。)」

 

「(初球と同じようなのが来てたら危なかったけど...。まあ、そこは、一年生やね。)」

 

 

 ノーアウト、ランナー一塁。五番打者は、送りバント。

 これで、ワンナウト、ランナー二塁。

 

 打席には、六番の彩里。

 

 

「(さっきは、見逃し三振。でも、ピッチャーで六番なら、打力は当然あると考えて言いはず。)」

 

 初球は、慎重に。低めボール球のスローカーブだ。

 

 

 投じたボールは、少しゾーンに入ってきてしまった。

 

 バッターはそれを見逃さず、センター前に運ぶ。

 

「(やっぱり、甘くなれば打たれるか...。)」

 

「(さっき抑えられたスローカーブ、打ち返せた!これでリベンジはできた!)」

 

「(ふふっ。りっちゃん、狙ってたんやろうな、スローカーブ。)」

 

 

 ワンナウト、一塁、三塁となる。

 

「(・・ピンチだな。次のバッターは...。)」

 

「しゃあ!まかせとけ!ランナー、返してやるよ!」

 

 七番、小屋沢。キャッチャーとしてはレベルが高い。

 

 だが、一打席目を見る限り、打力は...ほぼない。

 

「(二球で追い込むぞ。スローカーブと、ストレートだ。)」

 

 初球は、インコースにスローカーブ、二球目は、アウトコースにストレート。

 タイミングを外して空振り、きれいに決まって見逃す。

 

「(よし、理想的だ。二球でツーストライクは、デカいぞ。)」

「(というか今更だけど、スクイズはしないのか...。まあ、助かったな。)」

 

 あとは、釣り球の後に縦スラで三振にとろう。

 

 高めの釣り球。手は出してこなかった。ボールだ。

 まあ、これは、想定内。

 

「(さあ、来い!無失点で切り抜けるぞ!)」

 

 縦スラを要求。

 

 良いコースに来た!三振に...

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 バッターの小屋沢のバットが、バントをする形になる。

 

 

 !!

 

 

 縦スラは良かった。

 

 しかし、小屋沢のバントが一、二枚上手だった。

 

 コツッンン

 

 変化するボールに難なく合わせて、完璧に、一塁側に転がしてきた。

 

 

 俺は、その行く先を見送ることしかできず。

 

 リョウが一塁にボールを送ってバッターはアウトにしたものの、

三塁ランナーの東が生還するのを背中で感じた。

 

 

 

 その後、八番打者の帆阪も良い当たりを放つ。しかし打球は、ショート正面。ショートゴロで、チェンジとなる。

 

 先制点を取られた後のほしうら学院の五回のウラ。

五番梨田、六番小野原、七番渡。セカンドゴロ、サードフライ、ショートゴロ。

未だ、ヒットが出ない。さらに言えば、外野にすら、飛んでいない。

 

 六回表。ほしうら学院の投手、双葉諒は少し持ち直す。

九番飯原を見逃し三振に抑える。また、一番栄川はショートライナー、二番尾井田はレフトライナー。

栄川と尾井田は、三巡目ということもあり、捉えるようになってきた。野手正面なので助かったが。

 

 六回のウラ。

八番歌間は空振り三振、九番双葉はピッチャーゴロ、一番土屋はファーストゴロ。

依然として、遠沖野学院のエース、彩里を捉えきれない。

 

 

 そして、ピッチャーのつくる良い流れは、打線にも活気をもたらす。

 

 

 

 カキィンン!!

 

 

「(クッ...。三巡目となるとさすがに...。)」

 

 三番椎橋にセンター前ヒットを浴びる。

 

 久しぶりのランナー。しかも、ノーアウトだ。

 

 

「(次は四番の東か。どうすっかな...。)」

 

 

 リョウの方を見る。

 

「(だんだん制球力も悪くなってきてる。)」

 

 そんなことを考えていた時、リョウが俺を手招きしている。

 

 

「すみません。ちょっと、タイムを。」

 

 そう言って、マウンドに向かう。

 

 

「どうした?リョウ」

 

「あの、左にスイッチしてもいいですかね?」

 

 

 !!

 

「(そうくるか...。)」

 

「もう、右で投げてもダメだと思うんですよ。」

 

「それはまあ...そうだな。」

「だから左で、って?」

 

「はい。降板したくはないので。」

 

 

「(ほう...。)」

「左でなら、抑えられるのか?」

 

「わかりません。・・このイニングだけでも、っていうのは、強欲でしょうか。」

 

 

 

 

 キャッチャーの小野原が、主審をしていたほしうら学院の後藤に、二言、三言話す。

 

 話しかけられた後藤は、少し驚いた様子を見せた後、遠沖野学院のベンチへ。

投手の左スイッチに関することを、伝えに。

遠沖野学院のメンバーは、かなり驚いた様子。まじまじと投手の双葉諒を見る者もいた。

 

 その間に、ほしうら学院のバッテリーは、監督の元へ、了承を受けにいく。

 

 

 

 しばしの時間の後。

 

 無死一塁、打者は四番の東、投手はグラブを右手に持ち替えた双葉、という場面から再開。

 

 打者の東は、投球練習をしているときから、注意深く観察をしていた。

その感想は、

 

 『おそろしい一年生が現れたもんやなあ。』

 

 

 初球。精密な制球力を誇る左投げから、きれいにアウトローにストレートが決まる。

 

 思わず双葉の方を見る打者東。

 

 二球目は、そこから外に逃げるスライダー。

東は手を出しかけたが、なんとかバットを止める。ボール。

 

 三球目。インハイへのストレート。

アウトローからのインロー。対角線投球。球速はあまりないが手が出ない。

 

 ツーストライク、ワンボール。

 

 四球目。

 

 東の目には、外にはずれたストレートと映ったのだろう、が、ボールはそこからシュートする。

手が出ない。見逃し三振。

 

 

 完璧としか言えない投球。ワンナウトだ。

 

 右投げは、本格派タイプ。そこからスイッチした左投げは、軟投派タイプ。

それも相まって、即座に対応するのは難しい。

 

 また、今は左投げ。ランナーは一塁にいるが、走るのは難しいか。

まあ、それは、ランナーの椎橋があまり盗塁が上手くないからでもあるが。

 《これが世にいう、ご都合展開である。》

 

 

 その後、五番出居を三球で空振り三振、六番彩里を六球目で空振り三振にとった。

 

 

 一年生投手は立ち直った、完璧に。

 

 

 流れに乗りたい七回ウラ。二番打者、玄山からの打者。

 

 

 だったが。

 

 玄山は空振り三振、三番松宮はショートゴロ。四番鈴木もセンターフライで、三者凡退。

 

 

 三者凡退だが、ようやく外野に打球が飛んだ。これは小さいが、進歩したと言える。

 

 

 八回表。双葉のピッチング。

七番小屋沢は外角のストレートを打つも、セカンドゴロ。

八番帆阪は、外角スライダーで見逃し三振。

九番のところで代打、海園正。ここで、初球にスライダーがすっぽ抜け。手を出すも、ショート正面。ショートライナーだ。

 

 スリーアウト、チェンジ。

 

 

 八回ウラ。ようやくここで、流れに乗ったか。

五番梨田が、ライト前ヒット。チーム初ヒットがようやく出てくれた。

六番小野原は、送りバント。

 

 と、ここで、サードの帆阪がファーストへの送球をミス。

一塁ランナーの梨田は、三塁まで進む。

 

 一気にノーアウト、ランナー一塁、三塁とチャンスをつくる。

 

 とにかく一点を取りたいほしうら学院。打席には、七番、渡洋介。

 

 その初球、アウトコースのカットボールに対してスクイズ。

しかし、ファーストが猛然と突っ込み、本塁アウト。

 

 点数は入らず、ワンナウト一、二塁となる。

 

 八番の歌間は、初球に送りバントを試みるも失敗。

二球目。彩里のボールは歌間の身体に当たる。デットボール。一死満塁とチャンス。

 

 

 ここで、九番は双葉。見逃し三振。

 

 二死満塁から、一番土屋。ショートゴロ。

 

 

 せっかく作ったチャンスを活かすことができない。

 

 

 九回表も、双葉は完璧なピッチング。

ファーストフライ、空振り三振、サードゴロに抑える。

 

 九回のウラ。

二番玄山はサードゴロ、三番松宮はレフトフライ。

 

 簡単にツーアウトとなって、打席には四番鈴木。

初球、インコースへのカットボール。少し甘かった。

振り抜くと、打球はライトのフェンスを越えた。

 

 同点ホームラン。

 

 五番の梨田は、ピッチャーライナー。

 

 これで、試合終了。1-1。引き分け。

 

 

★得点表

               計H

 遠沖野 000010000 13

 ほし高 000000001 12

 

 

 

 両チーム合わせて、ヒットが5本。

 

 打力がないからなのか、投手が良かったからなのか。

 

 

 ・・後者だと、思いたいものだ。

 




長い。何でこうなった...。
試合描写難しいよ...。

次回からはもっと軽めにかけるように善処していきたいですね、はい。

この後は、一話はさんでから、夏大編という予定です。
よろしくお願いします。


では。読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.9

また一週間ほど、空いてしまいました。
練習試合の後の話です。

こんなに薄っぺらな内容なら、さっさと書けよ!
 というツッコミをしようと思われるかもしれませんが、できるだけお控えください。


誰よりも一番、この話に意味を見いだせていないのは作者だと思いますので。

その上で、読んでくださると、ホントに、ありがたいです。


セバンゴウ

 

 試合後。

 

「なあなあ!」

 

 俺に声をかけてきたのは、遠沖野学院の四番打者、東さん。

 

「あっ、ありがとうございました!」

 

「いやいや、そんなんよりも。君、何で両投げしとるん?」

 

 何で?と来たか...。困ったな。

 

 両投げが格好いいから。たまたまできたから。

 人に話せるような話ではないように思う。

 また、なんだかんだで、特に理由があるわけではない。

 

「んじゃあ、なんであのタイミングで左に?」

 

 俺が少し黙っていると、質問を変えてきた。

 

「相手が左打ちの時に、毎回左投げをやろうとは思わんと?」

 

「それは、ほら、グローブの問題がありますから...。」

 

「まあ、言われてみたらそうやね。」

「じゃあ、なんであのタイミングで左投げにスイッチしようと思ったん?」

 

「それは...右では抑えられないと思ったからです。」

 

「ふ~ん。左には自信があるん?」

 

 う~ん。それはまたなんとも...。

 

 

 俺は、力強いボールで相手を抑えるピッチングの方が好きだ。

そういう点で、俺は右投げをしているときが楽しい。

 

 

 でも、今日のゲームで、左の成績が良かったのもまた事実。

これで、左投げに自信がないとはあまり言いにくい。

 

 

 左投げが今のフォームに落ち着いたのは、打者を抑えるため。

プレートの一塁側を踏んで、打者に背中を見せるようなフォームで投げる。

 

 ストレートに力が出ない分、仕方なく制球力を重視。

 

 俺にとっては、今日の結果は当然とみることもできるわけで。

 

 

 正直、どちらがいいのかはわからなくなってきている。

 

 

「・・公式戦では、どっちか片方だけで?それともどっちも使うん?」

 

 また黙ってしまった俺を見て、東さんは違う質問をする。

 

「そうですね。・・今は、各試合で、使う方を決めようかな、と。」

 

「なるほどな。」

 

 

「あの、」

「東さんは、どっちがいいと思いますか?」

 

「え?そりゃもちろん、左や。」

 

「・・どうしてですか。」

 

「完璧に抑えられた。久々にな。」

 

 !!

 

「あそこまでの制球力があれば、そうそう打たれんよ。」

 

「・・そうですか。」

 

「まあ、ウチと試合するときは、右にしてくれなコッチが打てないから困るけどな。」

「てことで、そろそろ帰らしてもらうかな。」

 

「あっ、今日は、ありがとうございました!」

 

「それは、こちらこそや。今度は、公式戦で、な。」

 

「はい!」

 

「じゃあな、フウちゃん!」

 

「気をつけて。さようなら。」

 

 

 ・・フウちゃん?

 

 

 

 

 GWも終わり、練習試合も全部で4試合を消化。

 

 結果は、2勝2分け。

負けなしで、まあ、理想的だといってよいだろう。

 

 

 練習試合3試合目は、支良州(しらす)水産高校。

 同じ県にある高校。打力が全体的に高いチームだ。

 

 先発投手は、朔良。7回を投げて、被安打9、奪三振3、失点3。

ランナーを背負うことが多く、失点もしたが、要所を併殺などに抑えて、最少失点でしのいだ。

 

 その後、玄山先輩が2イニング投げた。被安打2、奪三振2、失点0。

危なげないピッチングで、締めた。

 

 試合自体は、6-3で勝利。俺の出番は、無かった。

 

 

 練習試合最終試合は、県外から来た、三船北高校。

 監督同士が知り合いとかで、試合をすることになった。

 

 先発は、後藤六先輩。6回を投げて、被安打6、奪三振6、失点2。

味方のエラーも絡んでの失点で、投球内容自体は、別に悪くなかった、ように思った。

 

 その後は、俺。左で2イニング。被安打0、奪三振3、失点0。

良いピッチングができた。

 

 最後のイニングは、玄山先輩。被安打2、奪三振1、失点1。

制球があまり定まらず、少し打ち込まれる展開になった。

 

 試合自体は、3-3の引き分け。

 鈴木キャプテンが、全3打点を叩き出す大活躍だった。

 

 

全4投手の成績は、以下の通りです。

 

     投球回 被安打 奪三振 失点

・後藤六  14  10  14  4

・玄山大也  4   4   4  1

・梨田朔良  7   9   3  3

・双葉諒(右)6   2   6  1

    (左)5   0   8  0

 

 

 

 これで、とりあえず夏まで、練習試合はもうすることはないだろう。

 

 これからは、各チーム、夏の大会に向けて最後の頑張りの時期となる。

 

 

 その前に、ほしうら学院のメンバーは、監督から背番号を渡される。

 夏の大会を戦う、3年生にとっては最後となる背番号を。

 

背番号1、後藤六   3年

   2、小野原理玖 2年

   3、佐藤夏三  3年

   4、土屋冬二  3年

   5、松宮琉果  2年

   6、杉山一春  3年

   7、鈴木四季  3年

   8、高橋秋五  3年

   9、玄山大也  2年

  10、双葉諒   1年

  11、梨田朔良  1年

  12、歌間道隆  1年

  13、渡洋介   1年

 

 

「このメンバーでいくぞ。」

 

 

 梅雨の時期を経れば、すぐそこには、夏大だ。

 

 とにかく、練習、練習、練習。

 

 地道な積み重ねが、結果につながると信じて。

 

 これから、とにかく頑張っていくんだ!!

 




・・背番号って、こんなに早く貰うのかなあ?

ま、この学校は、こういう感じで背番号を渡すのが定番ということです。


次回は、ほしうら学院の選手の、能力紹介になります。
よろしくお願いします。


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Episode.EXTRA➀

予告通り、選手能力の紹介。
能力表記は、パワプロ2013,2014あたりと同じです。

それと、前回の能力公開から、所々変化しているところもあります。
選手たちも、成長していますからね。

至らないところもあるかとおもいますが、よろしくお願いします。


★能力紹介《野手》

 (左から、弾道、ミート、パワー、走力、肩力、守備力、捕球)

 ※ポジションが書いてあるが、これは登録されているポジションである。

 

◎三年生

・鈴木四季 左翼手 右左 背番7

 弾3、B、B、C、B、C、C

 チャンス4、アベレージヒッター、パワーヒッター、チャンスメーカー

 

・杉山一春 遊撃手 右左 背番6

 弾1、C、E、A、C、C、C

 盗塁4、走塁4、内野安打◯、選球眼

 

・高橋秋五 中堅手 右右 背番8

 弾1、D、E、C、B、B、B

 送球4、バント職人、守備職人

 

・佐藤夏三 一塁手 左左 背番3

 弾4、D、A、E、D、C、C

 プルヒッター、強振多用

 

・土屋冬二 二塁手 右右 背番4

 弾1、C、E、D、C、B、C

 粘り打ち、サブポジ・一塁◎、三塁◎、捕手◯、遊撃◯、外野◯

 ※◯は、守備力2ランクダウンとする。

 

・後藤六 投手 右右 背番1

 弾1、F、F、D、B、C、D

 

◎二年生

・松宮琉果 三塁手 右右 背番5

 弾3、C、D、C、D、D、C

 走塁4、アベレージヒッター、調子安定

 

・小野原理玖 捕手 右右 背番2

 弾3、D、C、E、C、C、B

 ブロック◯

 

・玄山大也 右翼手 右左 背番9

 弾2、C、C、D、C、C、E

 流し打ち、バント◯

 

◎一年生

・渡洋介 二塁手 右右 背番13

 弾1、E、G、D、D、B、C

 守備職人

 

・歌間道隆 遊撃手 右右 背番12

 弾2、G、F、D、C、C、D

 守備職人

 

・梨田朔良 投手 右左 背番11

 弾2、D、D、D、D、D、D

 初球◯、三振、サブポジ・外野◯

 

・双葉諒 投手 両両 背番10

 弾1、E、E、D、C、D、D

 

 

★能力紹介《投手》

 (左から、球速、コントロール、スタミナ、変化球持ち球)

 

・後藤六 三年生 右投 オーバースロー

 139キロ、D、B、フォーク4、カットボール2、スライダー2

 闘志、奪三振、角度のある球←特例です。

 

・玄山大也 二年生 右投 サイドスロー

 132キロ、C、B、スライダー2、スラーブ2、シンカー2

 打たれ強さ4、低め◯

 

・梨田朔良 一年生 右投 スリークオーター

 129キロ、D、C、カーブ2、スライダー1、SFF2、チェンジアップ2、シンカー1、シュート1、超スローボール

 緩急◯

 

・双葉諒 一年生

(右)オーバースロー

   137キロ、D、D、スローカーブ1、縦スライダー3、フォーク2

   ノビ4

(左)サイドスロー

   126キロ、B、C、スライダー4、シュート1

   キレ◯、低め◯

 ※闘志、対ピンチ4 この二つは、どちらで投げても発動(?)する。

 

 

 能力は、夏大に入る段階でのものです。

ご理解のほど、よろしくお願いします。

 

 また、あくまでここでの値は参考です。

深く考えずに、流して見てくださると、ありがたいです。

 




なんだか、二年生の方が三年生よりも強いような気がしますが...気のせいです。
三年生には、『意地』という力がありますので!
同じ"D"でも、50~59と幅広くありますしね。

てか、この作品って、けっこう主人公補正かかってますよね。
ま、別に今さらなんですが。


てことで、次回は、夏大に入ります。
甲子園には、果たして出場できるのでしょうか?


では。読んでいただき、ありがとうございました!!


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Episode.10

夏大、開幕ス。


ナツ、ヨセン

 

 五月。

 

 練習。合宿。練習。練習。

 

 

 六月。

 

 梅雨の時期。雨。練習。雨。雨。

 

 

 そして、六月下旬。

 

 

 夏の全国高校野球選手権大会の県予選、抽選が行われた。

 

 

 結果、一回戦は、清貧(せいひん)高校との対戦に決まった。

 

 ちなみに、三回戦で、第二シードの干支(えと)高校と対戦する可能性が高いトーナメントとなっている。

 

 

「俺たちは、とにかく人数が少ない。」

 

 試合前日。皆で気合を入れる。キャプテンが話しているところだ。

 

「試合は総力戦になってくるから、一年生にも、もちろん心の準備が必要だ。」

「皆で戦って、勝利を手にするぞ!」

 

 ここでいったん言葉をきった後、

 

「目標は、もちろん甲子園出場!さあ、いくぞ!」

 

 「「「オオーー!!!」」」

 

 さあ、甲子園への戦いが幕を開ける!

 

 

 

 翌日。

 ほしうら学院高校と清貧高校との試合。

 

 清貧高校は、エースの左近 陽大(さこん ようた)を中心とした、守りのチーム。

 

 左近投手は、三年生で、左のサイドハンド。

 持ち球は、スライダーとスクリュー。コントロール良く投げ込んでくるタイプだ。

 

 この試合、ほしうら学院の先発投手はこちらもエースの後藤六。

 

 ほしうら学院の後攻で始まったこの試合。

 四回表まで、テンポ良く、ランナーも出ずに進む。

 

 四回のウラ、先頭の杉山がショートへの内野安打で出塁する。

 二番の高橋がきっちりと送り、一死二塁。

 三番松宮はレフトフライに倒れ、二死二塁となる。

 が、四番鈴木の打席の初球、バッテリーエラーでランナーは三塁に進塁。ここで、鈴木がしっかりとセンター前にタイムリーを放ち、ほしうら学院は一点先制。

 

 その後、六回表。

 ワンアウトから、一番打者の仁科がツーベースヒットを放つ。

 二死三塁となって、三番でエースの左近がフォークを巧くすくって打ち、タイムリー。同点となる。

 

 しかし、六回ウラ。

 ツーアウトから三番松宮が四球を選ぶと、四番鈴木がレフトオーバーのツーベースヒットで一点。

 さらに、五番小野原がレフト前ヒット。鈴木が生還し、この回二点を挙げる。

 

 その後、ほしうら学院のエース後藤は、ランナーも時々背負うが、危なげないピッチングで8回を投げて1失点。

 

 ほしうら学院は、8回に代打出場した梨田が三塁打を放ち、犠牲フライでホームイン。

 ダメ押しの一点を加え、9回のマウンドに上がるのは、一年生の双葉諒。

 

 右投げでマウンドに上がり、最初の打者をサードゴロに打ち取りワンナウト。

 しかし、次の打者にはヒットを許し、更に盗塁も決められる。

 次の打者は、セカンドゴロ。進塁打となって、二死三塁となる。

 次の打者を、ツーストライクと追い込んでおきながら粘られ、ツースリーとなる。

 11球目。ストレート。きれいに打ち返される、が、打球は双葉のグラブに収まる。投直。

 

 ゲームセット。4-1で、ほしうら学院高校の勝利に終わった。

 

★得点表

            計H

 清貧高校 000001000 15

 ほしうら 00010201× 48

 

 

 

 一回戦から、約一週間後。

 

 ほしうら学院は、二回戦に挑む。

 

 相手校は、打多田(ダダダ)高校。

 5点取られたら6点取り、10点取られたら11点取る、打ち勝つ野球をする高校だ。

 

 相手投手は、二年生エースの丹川。持ち球は、スローカーブと、今時珍しい、パーム。

 緩急をつけたピッチングをする投手。右投。

 

 ただ、あくまで打撃のチームのため、投手陣は、良いとは言い難い。

 

 

 この試合、ほしうら学院の先発投手は、二年生の玄山大也。

 躱すピッチングに期待を込めて、送り出された。

 

 また、普段と違う選手起用として、セカンドに一年生の渡が入った。

 いつもセカンドの三年生、土屋は、ライトへ。

 

 この起用は、守備力を上げるためのものであるが、単にそれだけではない。

 

 真の目的は、きっと後に分かることになるだろう。

 

 

 そして、試合が始まった。

 先攻が、ほしうら学院。後攻は打多田高校。

 

 試合は、序盤から動く。

 一回表。

 一死から、二、三、四番打者が、三連打。

 更に、犠牲フライを挟んで、六番打者もタイムリー。

 幸先よく三点先制。

 

 対して、一回ウラ。

 こちらは、一、二番打者が、連打。

 三番打者が三振の後、四番が、サード強襲のヒットで一死満塁とし、五番打者が打席に入る。

 

 

 打多田高サイドは、相手のセカンドが一年生であることに目を付けていた。

 

 

 そして、この場面。

 左打の五番打者は、思いっきり引っ張り打って、ビビらせてやろうという心持ちだった。

 

 初球。アウトコースへのストレート。見逃してストライク。

 

「(いいピッチャーなのかもしれんが、俺らにとっちゃ、何でもない。)」

 

 二球目もアウトコースのストレート。見逃してボール。

 三球目はアウトコースのシンカー。平然と見逃してボール。

 

「(ほら、はやくインコースに来いよ。セカンドには打たせられないことが見え見えだぜ。)」

 

 

 四球目。インコースにストレートが来る。

 打者は、狙い通りセカンド方向に思いっきり打つ。

 

 セカンドベース付近。センター前に抜けるか、という当たり。なおかつ鋭い当たり。

 中間守備の内野を抜けるかという当たりだ。

 

 

 それを難なく捕ったセカンド渡。ショートの杉山にトス。

 杉山はファーストへ送球。4-6-3のダブルプレーで、スリーアウトチェンジ。

 

 渡は、実は少しセカンドベース側に寄っていた。

 

 相手はそれに気づくはずもなく。

 

 ただただ、上手だなと思った。

 そして、それと同時に、対抗心からか、『俺がセカンドをぶち抜いてやる。』とも。

 

 併殺打の彼も、次こそはセカンドをビビらせてやろうと奮起するのだった。

 

 

 これこそが狙い。

 

 打撃には自信を持っている彼らを、渡をセカンドに置くことで、言うなれば煽っているのだ。

 

 『セカンドは一年生だぞ、と。』

 

 

 回は変わって二回表。

 ほしうら学院の打線を止めることができないのは、打多田高のエース、丹川。

 

 彼は、パームの制球が定まっていなかった。

 そこで、他の二球種で上手くやりくりしようとしていたが、そうはいかない。

 

 八番打者四球の後、ヒットエンドラン成功で無死一、三塁となって上位打線へ。

 一番打者のセーフティスクイズで一点を失う。

 

 しかし、ここでエースの意地を見せたか。

 パームを、なんとかギリギリ使い物になる状態に戻す。

 二番打者を内野フライ、三番打者を投併殺打に切り、なんとか一失点に防ぐ。

 

 二回ウラ。

 打多田高校の攻撃は、六番から。

 セカンドライナー、空振り三振、セカンドゴロ。三者凡退。

 

 六番打者は、会心の当たりだったが、渡がファインプレー。

 

 段々と、消沈していく打多田高打線。

 

 

 三回表からは、試合も落ち着く。

 

 パームをなんとか使い物にした丹川。

 慣れない軌道に戸惑うほしうら学院の選手たち。

 

 五回表まで、3イニング続けて三者凡退に抑える。

 

 

 一方、打多田高打線は、未だ点を取れずにいた。

 

 三回ウラ、ピッチャーゴロ、セカンドゴロ、セカンドゴロ。

 

 四回ウラ、サードフライ、左越え二塁打、セカンドライナー(ランナーが飛び出して併殺)

 

 五回ウラ、ライト前ヒット、死球、セカンドフライ、ファースト併殺打。

 

 

 再び試合が動いたのは六回表。

 

 この回先頭の四番鈴木が、打ちあぐねていたパームをライトスタンドに運ぶ。

 勢いづき、その後、二塁打、二塁打、ファーストゴロ、サードエラー、センター前ヒット、セカンドゴロ(併殺崩れ)、センター前ヒット、二塁打と続く。

 

 再び四番鈴木というところで、投手交代をするも、二塁打。

 五番佐藤がファーストゴロに倒れてスリーアウトとなったが、この回一挙七点。

 

 11-0と試合を決定づけ、更にこの回、ウラを抑えればコールド勝ちとなるところまできた。

 

 

 一矢報いたい打多田高校。打順はきりよく一番から。

 今日、四番打者は二安打と当たっており、とにかくそこまで回したい。

 

 一番打者が、粘って四球をもぎ取ると、二番打者のところで代打。

 ライト前ヒット。一塁ランナーも懸命に走った。無死一、三塁とする。

 

 ここで打席に立つのは三番を打つ二年生。

 今日は、三振と三飛。全くいいところがない。

 

 初球を打ち上げる。

 

 打球は外野へ。ライトへの犠牲フライ。一点を返す。

 

 四番打者は、四球。

 五番打者が打席に入る。こちらも二年生。今日は不運もあり併殺打二つ。

 

 現在、一死一、二塁。

 

 あと一点取れば、この回でのコールドは免れる。

 

 打ちたい、打たなければならない。

 

 力みは、凡退につながる。

 

 初球、二球目ともに空振り。ストレートとシンカー。

 三球目のシンカーをギリギリバットに当ててファウル。

 

 ここで、あまりにも力みのある打者に声をかける。

 打撃のタイム。伝令は、同じポジションの先輩。

 

 四球目の釣り球、五球目のシンカーを見逃して、2-2。

 

 六球目、ストレートを打ってファール。力みはとれてきたか。

 

 七球目、スライダー。鋭い打球は、セカンド方向へ。

 

 

 しかし、セカンドは、渡。

 

 

 祈る打多田高校の面々をよそに。

 4-6-3のダブルプレー。ゲームセット。

 

 

 うなだれる打多田高校、喜びを見せるほしうら学院高校。

 

 

 こうして、ほしうら学院高校は、三回戦へと駒を進めた。

 

 

★得点表

             計 H

 ほし高 310007 1114

 打多田 000001  1 6

 




一、二回戦のほしうら学院のスタメンを、一応載せておこうと思います。
守備位置を、数字表記にしています。

◎一回戦      ◎二回戦
1番 6 杉山   1番 6 杉山
2番 8 高橋   2番 8 高橋
3番 5 松宮   3番 5 松宮
4番 7 鈴木   4番 7 鈴木
5番 2 小野原  5番 3 佐藤
6番 9 玄山   6番 2 小野原
7番 3 佐藤   7番 4 渡
8番 1 後藤   8番 9 土屋
9番 4 土屋   9番 1 玄山


次話は、県の第二シード、干支高校との試合です。

今話も、読んでいただき、ありがとうございました!!


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Episode.11

現実世界の、甲子園大会が終わりましたね...。
花咲徳栄高校、優勝おめでとうございます!


ということで、コッチの世界でも、どんどん進んでいければなとは思っていますが。
果たしてどうなるのやら...。



ヨソウガイ

 

 勝った!勝った!

 

 これで、俺たちほしうら学院高校は、三回戦へ進む。

 

 

 

 喜びもつかの間。

 

 俺たちは、次の対戦相手、干支高校の情報を確認する。

 

 試合は四日後だ。

 俺たちには、休む暇など、無い。

 

 

 干支高校。県の第二シード校。

 

 エースピッチャーは、子島。

 左投げ左打ち。オーバースロー。打線では五番も打つ。

 ストレートは、最速145キロで、制球力は並程度で、スタミナは、かなりある。

 変化球は、SFF、スライダー、チェンジアップ。

 投手として、かなりレベルが高い。プロのスカウトも、見に来ているらしい。

 

 二番手ピッチャーは、犬崎。

 右投げ右打ちの、アンダースローピッチャー。

 130キロほどのストレート。変化球は、スライダーとシンカー。

 とにかくコントロールが良い。スタミナも、まあある方。

 ただ、立ち上がりは良くないピッチャーらしく、そこが狙い目だろう。

 

 他に、基本はサードを守る、辰森という選手も、たまに投げることがある。

 本職は野手だから、ピッチャーとしては、並程度。

 持ち球は、カーブとチェンジアップ。

 根性で投げ込んでくるタイプだ。

 

干支高校の、基本的な打順は、

 1番 3 木寅 右右

 2番 7 有馬 左左

 3番 4 卯川 右左

 4番 2 丑光 右右

 5番 1 子島 左左

 6番 6 巳上 右左

 7番 9 猿渡 右左

 8番 5 辰森 右右

 9番 8 羊田 右右

 

 全体的に見て、左打者が多い印象。

 

「諒が投げるなら、左で、だな。」

 朔良が一言。

 

「そうだな。」

 

 主軸に左打者が集中している。確かに投げるとなれば左でだろう。

 

 木寅、有馬、羊田は、非常に足が速い選手。塁にはできるだけ出したくない。

 

 五番を打つエースの子島は、長打力が持ち味。一発には警戒だ。

 

 打率が特に高い三人は、卯川、丑光、巳上。上手く対処したい。

 

 丑光には、もちろんパワーもあり、注意したい四番打者だ。

 

 猿渡、辰森は、守備がうまい選手という印象。

 打撃力は、そこまでない。ただ、小技はうまいので、そこは注意だ。

 

 控えにいるのは、主将の羽鳥と、代打の切り札的存在、猪村。

 羽鳥は、チーム皆をまとめ、また辰森が投手をする時はサードを守ったりする。右投左打。

 猪村は、代打の打率が8割越え。チャンスにも強い。右投右打。

 

 

 今まで挙げた12人は、全て3年生。

 

 相手は第二シード。手ごわい敵だ。

 

 

 だけど、負ける気はない。負けたくない。

 ぜっったい、勝ってやる!!

 

 

 

 そして、試合の日。

 

「「「ええ!相手先発、まさかの辰森!?」」」

 

 ほしうら学院ベンチに響く絶叫があった。

 

 そう。

 干支高校の先発投手が、辰森だったのだ。五番でエースの子島はベンチスタート。

 

 両チームのスターティングメンバー。

 

 3 木寅  1番  6 杉山

 7 有馬  2番  8 高橋

 4 卯川  3番  5 松宮

 2 丑光  4番  7 鈴木

 6 巳上  5番  3 佐藤

 8 羊田  6番  2 小野原

 9 猿渡  7番  9 玄山

 1 辰森  8番  1 後藤

 5 羽鳥  9番  4 土屋

 

 先攻が干支高校、後攻がほしうら学院高校。

 

 干支高校の先発は、犬崎でくるだろうと予想していただけに、かなり驚かされた。

 予想外だ。予想外だ、けど...。

 

「辰森なら、絶対に大量得点できる!むしろチャンスだろ!」

 

 誰かが言う。

 

 その通りだ。

 向こうがその気なら、コッチは早めに点をかせがせてもらおう。

 

「よし!先行する展開で、勝つぞ!いくぞ!」

 

「「「オオーーー!!!」」」

 

 

 

『プレイボール!!』

 午後一時。曇り空のもと、試合が始まった。

 今日の天気予報は、午後四時頃から雨だ。

 

 

 一回表。ほしうら学院エース、後藤の立ち上がり。

 一番木寅、ファーストゴロ。

 二番有馬、空振り三振。

 三番卯川、セカンドフライ。

 

 強豪相手に、一歩も引かない強気のピッチングを見せる。

 

 

 一回ウラ。対する辰森の立ち上がり。

 一番杉山、セカンドゴロ。

 二番高橋、サードゴロ。

 三番松宮、センターフライ。

 

 こちらも安定した立ち上がりだ。

 

 

 二回表、後藤は、先頭の四番丑光にレフト前ヒットを許す。

 無死一塁で、五番巳上。

 その3球目、ヒットエンドラン。打球はファーストゴロで、一死二塁となる。

 六番羊田は、四球を選び、一死一、二塁。

 七番、猿渡。4球目のインコースのボールを打ち、強いライナーが飛ぶ。

 

 しかし、打球はファースト佐藤のグラブに収まる。

 一塁ランナーが飛び出し、ダブルプレー。チェンジ。

 

 

 二回ウラ、ほしうら学院の四番鈴木が右中間に二塁打。

 五番佐藤。送りバントを試みる、が、辰森のフィールディングが勝り、三塁アウト。

 一死一塁となる。ここで六番小野原がレフト線への二塁打。

 七番玄山は、死球。一死満塁というチャンスをつくる。

 打席には、八番後藤。

 

 彼は、燃えていた。

 先制点のチャンス。

 自分が決めるチャンス。

 自援護で、楽になれるチャンス。

 打撃に自信があるわけではないが、決めたい。せっかくなら、自分の力で。

 

 初球から、狙っていく。インコースのボール。

 

「(ストレート!打つ!)」

 

 

 

 ボールの軌道が変わる。シンカー気味に、沈むボール。

 

「(っ!!)」

 

 打球は、ピッチャー正面。

 辰森が捕って、ホームへ。丑光が受け取り、ファーストへ。

 ダブルプレー。点は入らず、スリーアウトチェンジ。

 

 

 ツーシーム。

 ストレートの軌道から、前述のようにシンカー方向に沈むボール。

 

 データにはなかったボール。

 ほしうら学院側の頭には、無かったボール。

 

 これまで辰森がツーシームを投げたという記録は、なかった。

 

 隠していた武器。してやられた。

 

 

 三回表。先頭の八番辰森が死球で出塁し、九番羽鳥がしっかりと送る。

 一死二塁で、一番木寅がセーフティ気味のバント。サード松宮がしっかりと反応して、ファーストアウト。

 二死ながら、ランナーは三塁に。

 打席は、二番有馬。だが、後藤が踏ん張って、レフトフライに抑える。

 この回も、無失点で切り抜けた。

 

 

 三回ウラ。先頭の九番土屋が、粘りに粘って15球目で四球を選ぶ。

 一番杉山は、セカンドゴロ。ゲッツー崩れで一塁に残る。一死一塁。

 さらに、杉山が盗塁を成功。二番高橋も、完璧に送りバントを決めて、二死三塁。

 打席には、三番松宮。その初球だった。高めに浮いてきたチェンジアップ。逃さなかった。

 捉えた打球は、飛んで、飛んで、飛んで――。

 

 外野の柵を越えた。

 ツーランホームラン。

 

 ほしうら学院は、二点を先制した。

 

 続く四番鈴木は、ショートフライ。スリーアウト、チェンジ。

 

 

 とうとう試合が動いた。

 

 ほしうら学院は、待望の先制点。しかも、二点。

 

 

 このリードを、守りたいところだ。

 




ほしうら学院、先制点を取り、いい流れ♪♪
はてさて、勝てるのかな...?


感想や誤字訂正等、気が向いたらでいいのでお願いします。

今話も読んでいただき、ありがとうござました!


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Episode.12

こんにちは。
二日空きましたが、平常運転です。

前回:干支高校を相手に、三回ウラ2点を先制。果たしてリードを守れるのか...!

今話はまず、後藤六目線から始まります。
ということで、どうぞ!


アメモヨウ

 

 四回表、ワンアウト一、三塁。

 マウンド上の俺は、ピンチを迎えていた。

 

 この回先頭の卯川にヒットを許し、次の四番丑光はレフトフライに抑えたが、五番巳上の打順で卯川に盗塁され、さらに、巳上にヒットを浴びた。

 そして今、打席には六番の羊田。

 

 援護点をもらっている。これを、守らなければいけない。このチームのエースとして。

 

 初球。低めにストレート。きれいにストライク。

 二球目。スライダー。

 

「っ!」指に引っかかる。

 

 ボールがワンバンして、キャッチャーの小野原がはじいた。

 幸い三塁ランナーは突っ込んでこなかったが、一塁ランナーは進塁。

 一死二、三塁と、更にピンチが広がった。

 

 流石に二塁ランナーは、返すわけにはいかない!

 

 三球目。アウトコース、ストレート。四球目。アウトコース、カットボール。

 どちらもファールとなる。ツーストライク、ワンボール。

 

 五球目。高めに釣り球の要求。

 思いっきり投げ込むと、打者が振ってくれた。空振り三振。これで、ツーアウトだ。

 

「ッシャァァ!!」

 

 抑える!!絶対に、抑える!!

 

 二死二、三塁から、バッターは、七番猿渡。

 

 初球、低めのストレート。

 

 

 痛打された。

 

 打球は、二遊間を抜けてセンター前へ。

 

 ホームベースカバーに入る。

 

 三塁ランナーは、悠々生還。これで一点。

 

 

 二塁ランナーも、三塁を蹴ってホームに向かってきた。

 

 センターの秋五がボールを捕球するのが見えた。

 

「(頼む、秋五!刺してくれ!)」

 

 秋五は、良い外野手。肩も強い。

 

 

 良い返球が来る。ワンバウンドの、ストライク送球。

 

 

 ランナーの滑り込み。小野原は、捕球し、懸命にタッチ。

 

 

 砂埃が上がる。ど、どうなった...。

 

 

 そして――。

 

 

 審判の手は...上に、突き上げられた!

 

「アウト、アウト!!」

 

「・・クッ...。」

 悔しがる本塁憤死のランナー、巳上。

 

「「「ヨッシャァア!!!」」」

 喜びを見せるほしうら学院ナイン。

 

 喜ぶのは、俺とて例外ではない。

 

「ナイス!秋五!マジで、助かった!!」

 

「ああ!刺せてよかった!」

 

 

 一点を返されはしたが、二点目は何とか防いだ。

 

 まだ一点リードしている。でも、たった一点だけ。

 余裕は、持てない。

 

 できることなら、追加点を。

 

 

 四回ウラのほしうら学院の攻撃。

 五番佐藤夏三からの打順。夏三は、死球で出塁。

 六番小野原が確実に送りバントを決め、一死二塁。

 七番玄山は、粘って四球を選ぶ。

 八番は、俺。チャンスだったが、二球目のストレートを打ち上げてファーストフライ。

 そして、九番の冬二も、ショートゴロに倒れる。

 

 追加点とはならなかったが、とりあえずランナーは出ている。

 きっと大丈夫だ。

 

 

 五回表。先頭は、八番辰森。三球目のフォークが抜けて、甘く入ってしまった。センターオーバーのツーベースヒット。

 九番羽鳥は手堅く送る。一死三塁。

 

 ピンチだ。だけど、ココで点をやるわけにはいかない。皆がくれた援護を、守り切る!

 

 打者は、一番木寅。

 初球、アウトロー、ストレート。少し外れてボール。

 二球目もストレート。外れる。ノーストライク、ツーボール。

 

 少し焦りつつ、ロジンを手に。味方皆を見て心を落ち着ける。

 

 三球目。ストライクゾーンいっぱいにスライダーが決まる。

 四球目もスライダー。ゾーンは外れたが、バッターが空振り、追い込んだ。

 

 よし!ここで抑える!

 

 五球目。フォーク。

 バッターが、打った。カキン、と、良い音がする。打球はレフト方向へ飛ぶ。

 

「(すくい上げられた!狙われてたか?)」

 

 打球の行方を見ながらベースカバーに回る。

 

 レフトの四季が、定位置より少し深い位置で捕球体勢に入る。

 

 前に出ながらキャッチ。ランナーが、スタート。

 

 

 四季の送球が少し右にそれる。

 ランナーは、左からまわりこんでスライディング。

 

 小野原が、捕球し、タッチをしにいく。

 

 しかし、ランナーの手は、すでにホームベースを触っていた。

 

 

 干支高校、二点目を取って、ようやく同点に追いつく。

 

 

「(くそっ...。援護点を守れなくて、何がエースだ...。)」

 

 ボールをもらい、マウンドに戻る。

 

 

「六!!絶対、また点取ってやるから、抑える方は頼むぞ!」

 

 ショートの一春から、声がかかる。

 

 

 顔を上げると、野手の皆が口々に声をかけているのが分かった。

 

 

「(そうだよな。まだ五回。俺の仕事は、失点をできる限り少なくすることだ。)」

「(こんだけで落ち込んでる方が、エース失格だな!)」

 

「ツーアウトな、ツーアウト!」

 

 

 二番有馬が打席に入る。

 初球から、フォーク。空振りを奪う。

 二球目は、ストレート。バッターは見逃し、ストライク。良いところに決まった。

 三球目、高めの釣り球はボール。

 四球目、低めのストレート。カットされる。

 五球目、インコースへのカットボールで詰まらせる。セカンドゴロ。

 

 スリーアウト、チェンジ。

 

「シャァア!!」

 

「オッケー、オッケー。まだ同点同点!」

「この回、点取るぞ!」

 

「一春~!出塁しろよ~!」

「ヨッシャア!任しとけ!」

 

 

 五回ウラ。この回の先頭は、一番の一春。

 四球目のツーシームを叩きつける。三遊間にゴロが転がる。懸命に走って、セーフ。

 二番の秋五は、きっちりと送りバント。

 一死一塁。打席には、前の打席でホームランの松宮が入る。

 初球。松宮は、三塁線にセーフティバントを試みる。

 完全に意表をついた。ボールは、転がって、きれた。ファール。

 その後、四球目。チェンジアップをひっかけて、サードゴロ。一春も動けず、二死二塁。

 四番、四季。チームのキャプテン。

 

「四季~!打ってくれ~!」

 

 

 カーブが二球続けてくる。どちらも見逃して、カウント1-1。

 三球目。アウトローにきれいなストレート。ストライクだ。

 

「(カーブ、カーブ、ストレート、か。)」

 

 今は、二死二塁。同点の状況。

 

 何よりも、良いピッチングをしている六に援護点をプレゼントしたい。

 

 後悔は、したくない。

 

 

 四球目。さっきとほぼ同じコースのボール。

 

「(ストレート...、いや、これは、ツーシームだ!)」

 

 逆らわずに打つ。

 バットにしっかりと当たった打球は、左中間に高々と上がった。

 

「(やば、ちょっと、下打ち過ぎたか...?)」

 

 ボールの行方を見る。

 

 打球は、思ったよりも伸びていた。

 

「(え?入る?)」

 

 さすがに、そこまではなく。

 

 高々と上がった打球。

 左中間のフェンスの、上のところに当たった。

 

 それを確認した一春は、すでにホームインしていた。

 俺も、二塁を蹴って三塁に向かう。

 

 タイムリースリーベースヒット。一点勝ち越しだ。

 

 そして、次の夏三も、右中間にヒットを打ち、俺がホームイン。

 またも、二点差になった。

 

 ただ、夏三は二塁でタッチアウトとなり、スリーアウトチェンジ。

 

「六!良いピッチング、期待してるぞ!」

 

「ああ!援護、ありがとう。今度こそ、きっちり守ってみせるぞ!」

 

 

 六回表。相手の打順は、三番卯川から。

 インコースのカットボールを詰まらせて、セカンドゴロに打ち取る。

 四番丑光を、ストレートで詰まらせてファーストフライ。

 五番巳上にはヒットを許したが、六番羊田を空振り三振。

 

「ナイス、六!この調子で、行こう!」

 

「もちろんだ!」

 

 

 六回ウラ。

 

 干支高校は、選手の交代があった。

 

 ピッチャーが、エースの子島になったのだ。

 

 そして彼は、凄まじいピッチングを見せる。

 六番小野原、七番玄山、八番後藤を三者連続三振に切って取る。

 

 圧巻だった。

 

 

 七回表。子島は、さらに魅せた。

 この回先頭の猿渡がセンターフライに倒れ、ワンアウト。

 八番に入った子島が、初球のカットボールを振り抜き。

 

 ライトスタンドに飛び込む、ソロホームラン。

 

 後藤は、その後ランナーも出しながらもなんとか無失点で切り抜ける。

 

 

 七回ウラ。

 九番土屋、サードゴロ。

 一番杉山、空振り三振。

 二番高橋、セカンドフライ。

 

 またも三者凡退。子島、素晴らしいピッチング。

 

 

 七回まで終わって、4-3と、ほしうら学院高校がリード。

 

 しかしながら、試合の流れは今、干支高校側に傾こうとしている。

 

 

 果たして、ほしうら学院高校は、四回戦に勝ち進むことはできるのか。

 

 試合前半のイケイケムードから一転。

 雲行きが怪しくなってきた。

 

 

 今日は、午後四時頃から雨が降る予報だったのに。

 

 空は、今にも雨が降り出しそうな様子だった。

 




さてさて、暗雲が立ちこもってまいりました~!
ほしうら学院、大丈夫なのか!?

★途中経過
    ➀②③④⑤⑥⑦ 計
 干支 0001101 3
 ほし 0020200 4

頑張れ、ほしうら学院高校!勝つんだ!

ということで、今話も読んでいただき、ありがとうございました!!


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Episode.13

こんばんは。

ここで、子島君の投手能力を載せようと思います。
◎子島澄典(ねじますみのり)左左 オーバースロー
 145キロ コントロール・C スタミナ・A
 スライダー3、SFF5、チェンジアップ2
 奪三振、対左4、対ピンチ4、ノビ4、キレ◯、対強打者◯


エンチョウ

 

 八回表。二死満塁。

 俺は、ベンチから同点のピンチを固唾をのんで見つめていた。

 

 この回、先頭は四番丑光。ツーベースヒットを許す。

 無死二塁から、五番巳上はレフトフライに抑えたが、六番羊田にレフト前ヒット。

 七番猿渡は空振り三振に抑え、八番子島は敬遠気味に歩かせた。

 

 そして、今。二死満塁で、打席には九番羽鳥。

 内野は定位置、外野は、前進守備。

 

 相手エース、子島が、出ばなに三者連続三振を取ってからだ。

 流れが向こうに傾き始めている。

 

 一点リードしているけど、もはや、無いように感じてしまう。

 

 

 初球。高めにストレートが外れる。

 

 力が入ってるな。いや、まあ、当たり前だけど。

 

 二球目。ストレートを続け、今度はストライク。

 三球目。インコースに入ってくるスライダー。惜しくも外れ、ボール。

 

 カウント、1-2。バッティングカウント。

 

 四球目。フォークが外れて、1-3となる。

 五球目。ストレートをインローにビシッと決め、2-3。

 六球目。高めのストレート。バッターはカット。

 

 次で...決まる。

 

 運命の七球目。バッテリーが選択したのは、インコース、カットボール。

 羽鳥が、上手く腕をたたんで打つ。

 

「(マズイ!!)」

 

 打球は、ライト前――。

 

 

 ライトの玄山先輩が、打球に向かって飛び込んだ。

 

 

 ズザーッッ! パシッッ!

 

 

 玄山先輩のグラブが高々とあげられる。

 

「ア...アウト!!」

 

 

 ファインプレーだ。

 

 猛ダッシュからのダイビングキャッチ。

 

 

 この回、失点を免れた。

 

 少し暗い雰囲気になりつつあったが、またそれを盛り返す良いプレーが出た。

 

 これで、乗っていきたい!

 

 

 しかし、八回ウラ。

 先頭の三番松宮先輩は、見逃し三振。

 四番鈴木主将も、空振り三振で、五番佐藤先輩はキャッチャーフライ。

 相手エースの子島相手に、未だ外野まで打球を飛ばせていない。

 

 

 九回表。一点リードしている。

 先頭の一番木寅は、ショートゴロ。ヘットスライディングも、ワンアウト。

 二番有馬。サードゴロで打ち取る。これで、ツーアウト。

 

 良い流れで、ここまで来た。頼む、このまま、何も、起きるな...!

 

 三番卯川への初球。スライダーが外れて、ボール。

 

 頼む...!なにも、起きないでくれ...!

 

 

 しかし、野球の神は、干支高校の方に味方した。

 

 ここまで熱投を続けていた後藤先輩。

 

 今日の、127球目だった。

 

 

 フォークボールが、抜けてしまった。

 

 卯川はそれを、見逃さなかった。

 振り抜き、打球が飛ぶ。

 

 うなだれる、マウンド上のエース、後藤先輩。

 

 

 同点ホームラン。

 土壇場で、追いつかれた。

 

 

 さらに。

 四番丑光にも、レフト線への二塁打を許し、逆転されるピンチ。

 五番巳上を迎える。

 その初球。ストレートをきれいにはじきかえされる。センター前――。

 

 

 パシッッ!!

 

「アウトォ!!」

 

 ショートの杉山先輩がファインプレー。逆転は、防いだ。

 

 

 何も、負けてしまったわけじゃない!

 追いつかれたなら、放せばいい!

 

 

 

 

 その始まりは、突然だった。

 

 ポツッ

 一滴。

 

 そして、それは瞬く間に強いかたまりとなって。

 

 ――ザザァァーーーッッ――

 

 

 

 試合は、雨によって一時中断となった。

 

 予報では、もっと遅くに降るとのことだったが、どうやら外れたらしい。

 予報よりも、一時間ほど早くから、降り始めた。

 

 

 ・・・・。

 

 いや、降るんだったら、あと五分早くから降って欲しかったよ、正直。

 何で律儀に、同点になってから降り出したんですかね?

 どうやら、天気も少し干支高校サイドらしい。

 

 って、天気に文句言っても仕方ないか。

 

 ひとまず休めるんだから、プラスに受け止めるべきだな。

 

 

 それよりも、だ。

 

 俺は、相手のベンチにいる男、エースの子島を見ていた。

 

 

 三者連続三振。それと、ソロホームラン。

 本当に、やられてしまったとしか言いようがない。

 

 彼が出てから、何か、雰囲気のようなものが変わった気がする。

 

 それが、エースたるゆえん、というものだろうか。

 

 

 そして俺は、降りしきる雨を眺める。

 

 止むだろうか。

 止んだとして、再開するだろうか。

 止まなければ、再試合ということになる。

 

 この強豪校と、もう一試合戦う。

 

 正直に言って、キツイ。やめたい。

 

 

 でも、戦わなければならない。

 少しでも長く、夏を先輩たちと過ごすために。

 

 負けられない戦いなんだ。

 

 

 

 ・・雨、止まないなあ...。

 

 かれこれ、中断してからもうすぐ30分が経つ。

 

 

 今日、この球場である試合は、俺たちの試合で終わりだから、運営側が粘っているということなのだろうか。

 

 

 さっきまで、相手エースの攻略の糸口を探る会議をしていたが、今はそれも終わって、各々何か違うことをしている。

 

 俺は、ただただ雨を眺めている。

 

 俺は、雨が降っているのを見たり、音を聞いたりすることが好きだ。

 だから今、俺の心は結構躍っている。

 

 

 それと、十回表からのマウンドには、俺が上がることになった。

 

 投球練習などの準備は、試合の途中からしていた。

 あとは、心の準備。

 

 一回戦で、一度マウンドには上がったが、その時とは緊張感がまるで違う。

 

 とにかく、負けたくない。

 価値を呼び込むような、良いピッチングをするんだ!

 

 

 ってそれは、雨が弱くならないといけないんだけど。

 

 

 

 

 そして、それから約15分後。

 動きがあった。

 

 雨が少し弱くなり、雨雲の予測も踏まえ、試合は再開されることになった。

 

 中断してから、約40分が経っていた。

 

 

 ということで九回ウラ、小雨の中、ほしうら学院の攻撃から再開。

 

 先頭は、六番小野原。ショートゴロに倒れる。

 続く七番玄山は、空振り三振。

 そして、八番後藤はセカンドゴロ。

 あえなく三者凡退である。

 

 

 これで、試合は延長戦に突入。

 そして、マウンドには一年生投手、双葉諒。

 

 十回表。干支高校の打順は、六番羊田から。

 その羊田を、見逃し三振。

 七番猿渡はピッチャーゴロで、八番子島をセンターフライ。

 この試合久々の、干支高校の三者凡退。実に、1回表以来である。

 

 

 十回ウラ。一度止みかけていた雨が、予報とは裏腹にまた少し強く降り出してきた。

 ほしうら学院の攻撃は、九番の土屋から。

 雨の中でも、子島のピッチングは変わらず良い。

 土屋、サードゴロ。一番杉山はサードフライ。二番高橋はファーストゴロ。

 子島が投げ始めて、もう5イニング目。しかし、ランナーが未だに一人も出ていない。

 

 

 十一回表。干支高校は、九番羽鳥から。

 双葉も、一年生とは思えない落ち着きで、雨の中でもしっかり投げ込む。

 羽鳥、空振り三振。一番木寅をセンターフライ。二番有馬をセカンドゴロ。

 2イニング続けての三者凡退。双葉、素晴らしいピッチングである。

 

 

 十一回ウラ。

 本当に、そろそろランナーを出したいほしうら学院。

 この回の先頭、三番松宮。空振り三振。

 四番鈴木はセンターフライ、五番佐藤は、セカンドゴロ。

 雨が強まっているにもかかわらず、子島の好投は続く。

 

 

 十二回表。さらに雨が強くなった。

 先頭は、三番卯川。制球が定まらず、双葉は四球を与える。

 干支高校にとって、久々のランナー。しかも、ノーアウト。

 続くバッターは、四番丑光。送りバント。

 だが、雨の影響か、ボールが転がらない。キャッチャー小野原の素早いプレーで、二塁アウト。

 そして、五番巳上は、スライダーを引っかけて併殺打。

 スリーアウトチェンジ。せっかくのランナーも、活かすことができず。

 

 

 十二回ウラ。先頭の六番小野原先輩が、死球を受けて出塁した。

 子島に対して、初めて出たランナー。

 続く玄山先輩は、送りバント。ここで、相手の野手が処理を誤る。

 無死一、二塁。どうやら、こっちに流れが来ている。

 

 ここで、八番の俺が打席へ。サインはもちろんバント。

 俺は、バントには一応自信がある。左打席で、なら。

 だから思い切って。子島は左投げだけど。

 

 俺は、左打席に入る。

 

 そして、無事にバントを成功。

 正直ヒヤリとしたけど、まあ、良かった。

 

 九番土屋先輩は、いつもの粘りを見せる。

 15球目で四球を勝ち取り、一死満塁になった。

 

 打順は杉山先輩というところで、監督が勝負に出た。

 

 

 代打、梨田朔良。

 

 その初球、インローへのストレートだった。

 

 

 カキィンン!

 

 捉えた打球は、ライト方向へ高々と、上がった。

 

 

 

 終わりは、突然訪れた。

 

 

 

 

 

「お~い、諒?早く帰るぞ~」

 

「ああ、うん。今行くよ。」

 

 試合後、俺は雨の降りしきるグラウンドをのんびりと眺めていた。

 

 

 今日は、良いピッチングができた。

 これからも、今日のように落ち着いて投げられれば...。

 

「おいって、諒。」

 

「・・分かってるって。」

 

 ふたたび、朔良に呼ばれる。

 このままだと怒りそうなので、俺は感慨にふけるのをやめ、朔良のいる方へ。

 

 

 

「最後の...、惜しかったな。」

 

「ん?ああ、あれか。まあ、シンプルに力不足だよ。」

 

「ま、明日だな。」

 

「おう。明日だ。」

 

 

 今日の試合、朔良のあの打球は、ライトポールをきれてファール。

 その後、ファーストライナーで一塁ランナーが飛び出して、ゲッツー。

 

 そして、そのタイミングで、降雨による引き分け再試合となった。

 

 ここまできたなら最後までやってもいいじゃんとは思ったが、休めるのは有難い。

 

 ということで、再試合は明日行われる。

 

 明日。とにかく、明日だ。

 力を出し切って、勝つ!!

 

 

★得点表

                  計 H

 干支 0001101010000 410

 ほし 0020200000000 4 6

 (延長十三回、降雨のため翌日再試合。)

 




ああ、再試合になってしまった...。

果たして、書ききれるのか...!
お楽しみに!?


ではまた、次話で。
今話も、読んでくださり、ありがとうございました!!


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Episode.14

さあ、現実世界の夏の終わりとともに、干支高校との再試合。
どんな結末を迎えるかな?

知識不足でダメダメなこんな作者ですが、応援おねがいします。

追伸:今更、Episode.0とEpisode.1の食い違いに気づきました。
   訂正はしませんが、許してください...。


サイシアイ

 

 終わった、のか。

 

 

 一塁側ベンチの片付けをしながら、スコアボードに目をやる。

 

 

『7-2』

 

 完敗、だった。

 

 

 ほしうら学院、玄山先輩、干支高校、犬崎の両先発で始まった試合。

 

 先攻のほしうら学院は、立ち上がり不安定な犬崎を攻めたてる。

 一死一、三塁から、鈴木先輩のタイムリーツーベースヒット。

 初回に幸先よく2点を先制した。

 

 一方の玄山先輩は、一、二回とランナーを背負いながらも粘りの投球で得点は許さない。

 しかし、三回ウラだった。

 四球や自身のエラーなどで一死二、三塁のピンチを作ると、犠牲フライと二連打で3点を失う。

 また、四回にも一点を与え、さらに、五回には三番卯川にソロホームランを浴びる。

 その後、四番丑光に二塁打を打たれたところで、後藤先輩がマウンドへ。

 先輩は、ピンチをしっかりと乗り切る。

 

 反撃が必要な打線だったが、初回以降は、なかなか得点圏にランナーが置けない厳しい状況。

 七回表。ライトで出場の朔良が、今日二本目のヒットでノーアウトのランナー。

 相手のエラーなども絡み、一死満塁のチャンス。

 ここで、干支高校のマウンドには、エースの子島が。

 一番杉山先輩、二番高橋先輩。

 二者連続三振。得点できず。

 

 八回ウラ。

 相手の代打二人に二連打を浴びて、二死二、三塁のピンチ。

 打席には、八番、子島。

 ライトフェンス直撃、二点タイムリーツーベースヒット。

 

 九回表。

 二死走者なしで、最後のバッターは、後藤先輩。

 空振り三振。ゲームセット。

 

              計 H

 ほし 200000000 2 5

 干支 00311002×  7 11

 

 

 

 

 試合翌日。

 ほしうら学院野球部は、ミーティングという形で集まり、三年生一人一人がこれまでのことを振り返った。

 

 先輩方の目に涙はなく、むしろ晴れ晴れとしているように思った。

 悔しさがないわけではないはずだ。

 

 終了後、俺は後藤先輩に呼ばれた。

 

 

「短い間でしたけど、先輩と野球ができて楽しかったです。」

 

 本当に、楽しかった。

 負けてしまったけれど。

 

 

「・・なあ、双葉。お前は、何を目標にしてる?」

 

 いろいろと話して、話題も尽きてきたかというタイミングで、この質問。

 

 目標?それはもちろん...

「全国制覇、です。」

 

「そうか。」

「俺は、とりあえず甲子園に行ってみたいなっていう感じだったんだ。」

 

 後藤先輩は、さらに続ける。

 

「でもさ、今になってわかったんだよ。」

「中途半端に目標持っても、それは達成できない、ってな。」

 

 俺は、黙って聞いていた。

 

「双葉。」

 

「はい。」

 

「お前なら、きっとできるよ。全国制覇。」

 

 

 

 

『俺の中のエースは、後藤先輩でしたから!』か...。

 

 

 双葉諒。

 一年生ながら、その雰囲気というか、オーラというか。

 

 とにかく、何かを感じた。

 

 コイツがいれば...と思わせてくれる、何かがあった。

 

 

 最後の夏。

 双葉は、結局失点しなかった。

 

 双葉が投げ続けていれば、と、たらればを言いたくなる。

 

 

 最後の試合。

 五失点で、敗戦投手になった玄山は、泣いていた。

 

『俺のせいで先輩の夏を終わらせてしまった』と。

 

 断じて、そんなことはない。

 一回目の干支高校の試合で、追いつかせてしまった俺が悪かったのだ。

 さらに言えば、最後の試合でも結局、二失点。

 いずれにせよ、俺では力不足だった。

 

 

 双葉が投げていれば、どうなっただろうか。

 抑えきっただろうか。勝ちに導いただろうか。

 それとも、何失点かしただろうか。

 

 

 たらればはさておき、これからは野球部も代替わり。

 新キャプテンは松宮琉果に決定した。

 あいつなら、きっとしっかりとまとめあげていってくれるだろう。

 来年の夏に向けて、問題はいくつかある中、これから歩き出していく後輩たち。

 

 当たり前だが応援していきたい。

 

 

 そして、俺は、大学進学。

 これからは、野球からは離れて、志望校入学目指して勉強だ。

 

 夏の戦いは終わったが、冬の戦いが残っている。

 

 次こそは、負けないように。

 これから、頑張っていくんだ。

 

 

『全国制覇です。』

 

 俺の問いかけに力強く答えた双葉。

 ふと、頭に浮かぶ。

 

 双葉なら、きっと。

 きっと、やれる気がすると。そんなふうに思う。

 




ハイ。負けました。
ダイジェストでお送りさせていただきました。

ってことで、これにて第一幕は終幕ということになります。
このタイミングで終わらせようと決めていたので、無事にすんで(?)ホッとしています。


ここまで粘り強く読んでくださった方、本当にありがとうございました!!
代替わりからも、もちろん書いていく気ですので、応援していただけると嬉しいです。

ではまた、次話で。
少し日が開いてしまうかもしれませんが、ご容赦ください。

今話も読んでいただき、ありがとうございました!!


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第二章
Episode.15


今話から、第二幕。
ということで、ダイかなまり世代です。



再始動と問題点

 

 時間は、止まってはくれない。

 

 そう。俺たちは、次の夏に向けて、動き出さなければならないのだ。

 

 

 そして俺たちは、ある課題に直面していた。

 

 シンプルに、部員が足りなさすぎるのだ。

 

 現在、三年生3人、二年生4人で、部員は7人。

 

 

 八月中旬からは、秋季大会も始まる。

 しかし、今のままでは間に合わないのだ。

 

 

 学校自体も小さい方なため、有力な候補も少ない。

 

 とにかく、人に当たっていくしかないというわけだ。

 

 

 その前に。俺は一つ気になっていることがある。

 

「なあ、道隆。」

 

「うん?どうかした、リョウ君?」

 

「一つ、聞きたいことがあるんだけど、この学校、俺たち以外に経験者っているのか?」

 

「・・いきなりなんで?」

 

「いや、別に。ただ、道隆と同じチームにいたやつとか、ここに来てないのかなーって。」

 

「・・・。」

 

 

 あの...黙り込まられても困るんですが...。

 

「いや、知らないなら別にいいんだぞ?」

 

「・・いるよ。僕と同じ中学校にいたんだ。」

 

「あっ、そうなの?え、誰よ?」

 

 

「これは...少し話しにくい内容なんだけど。」

 

 そう前置きして、道隆は話し始めた。

 

 沢良宜 友章(さわらぎ ともあき)という、元チームメイトの話を。

 

 

 トモは、僕がいた中学校の野球部の、エースだったんだ。

 すごいピッチャーで、県でNo.1の実力だった。

 トモのおかげで、僕たちは最後の夏、全国大会にも出たんだよ。

 

「えっ!?お前って、全国大会出たことあったのか?」

 

「まあ、そうだよ。」

 

「そんなこと、知らなかったんだけど?」

 

「いや~、聞かれなかったから。」

 

「そ、そう言われればそうだけど...。」

「悪い。続けてくれ。」

 

 

 その、中三の夏、全国大会で、事件は起きたんだ。

 

 初戦、トモは、完全試合ペースで投球を続けて、さらに四番だったトモは、自分のホームランとかで、三点リードする展開だったんだ。

 問題は最終回。先頭バッターへの初球だった。

 

 投げた瞬間に、トモがうずくまって倒れたんだ。

 

 バッターはデッドボール。

 ここで止めさせるべきだったのに、トモはそこから、三者連続三振を奪った。

 ノーヒットノーランを達成したんだ。

 

「・・・。」

 

 

 でも、トモの左肩は、壊れてた。

 これまでずっと、トモが一人で投げ続けてたんだ。

 だから、溜まってたものが最後、一気に出ちゃったんだと思う。

 

 トモの怪我は、選手生命を絶ってしまうようなもので、投球はもちろん禁止されたよ。

 

 そして、二回戦。

 トモを欠いた状態でも、なんとか勝とうと頑張ったけど、勝てるはずなんてなくて。

 圧倒的な大差で、負けちゃったんだ。

 

 五回コールド、31-0でね。

 すごく屈辱的な負け方で、僕たちの最後の大会は終わったんだ。

 

 トモは、泣いてた。

『俺が怪我なんてしたからだ。』って。

 

 トモ一人に頼りきりだったのは、僕たちの方だったのに。

 

 責任を感じたからなのか、単に肩を壊してしまったからなのか、トモはその日以来、全く野球には関わらなくなってるんだ。

 

 それで、高校生になって、トモと同じ学校だったから、せっかくならと思って、最初は誘ったりしてたんだけど、ずっと断られて...。

 

「それで、今に至る、と。」

 

「うん。トモが怪我したのは僕たちにも少なからず責任があるとも思うし、無理させたくはなくてさ。それで今は、話すこともほとんどなくなったんだ。」

 

 

 そうか...。沢良宜友章、か。

 せっかくだし、一回会ってみたいな。

 

「その...沢良宜って、何組なんだ?」

 

「えっと、確か四組だったかな。会いに行く?」

 

「そうだな。せっかくの経験者なんだし、話しておいて損はないかな、と。」

「しかも...。」

「(・・俺は、似たような境遇の奴を知ってるんだよな。同じタイプなら、脈はあるだろう。)」

 

「??」

 

 

 

 翌日。

 沢良宜は朝早くから学校にいるとのことなので、俺も早めに出て、学校に向かっている。

 

「・・それで、何で道隆も一緒に来てるんだ?」

 

 隣の男に目をやりながら聞く。

 

「え?僕も久しぶりにトモと話したいな~って思って。」

 

「別に、今日じゃなくてもいいだろうに...。」

 

「まあまあ。気にしなくていいじゃん。」

 それよりも。と、俺に向き合った。

 

「トモを、野球部に誘う?」

 

「ん?まあ...一応、な。」

 

「策は、あるのかな?」

 

「う~ん。どうだろうな。とりあえず、話してみないと分かんないかな。」

「でも、結構いける気はしてるぜ。まあ、楽しみにしてろよ。」

 

「ふ~ん。自信あるんだ。僕も、トモと野球、またできたら嬉しいな。」

 

 

 そんなこんなで学校に到着。

 当たり前のことながら、他の生徒はほぼ見当たらない。

 

 その時、俺は一つの問題を自分が犯してしまったことに気付いた。

 

「やべえ、忘れてた...。これは...困ったな。」

 

 いや、正確に言えば、俺は何もしてない。

 悪いのは、俺についてきた道隆と...その友達、W君だ。

 

 まあいいや。今は気にしないようにしよう。

 

 一回自分の教室へ行ってバッグ等を置いてから、四組の教室へ向かう。

 道隆は...もう先に行ったみたいだな。

 本当に、沢良宜とまた話したかったんだろう。

 

 教室に近づくにつれて、道隆の声が大きくなってきた。

 ホントに声デカいな、道隆は。

 

 さて...お探しの彼は...って、え?

 

 どうして、道隆は()と話しているんだ?

 

 しばしの間、思考停止。

 

 すると、彼も俺の視線に気づいたのか、こっちを見た。

 そして言った。

 

「あれ?君はいつもの...?」

 

 

 すると、道隆が俺たち二人の様子を見て、

 

「え、何?二人は、知り合いだったの?」

 

 

 いや、知り合いっていうか...。

 

 

 ()()()()、会ってるんだよ。

 

 

 

 というか、()()も、会ったよ。

 

 

 

 

 まさか、沢良宜が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だとは、思ってもいなかった。

 




急展開?ご都合展開?
んま、次話からも、どうかよろしくお願いします。

では。今話も、読んでいただき、ありがとうございました!!


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Episode.16

結構空いちゃったな...(遠い目)

さして気に留めない読者さんばかりだろうから、大丈夫かな!
全然知られてないし!

はい。今話は、沢良宜友章君の話です。


努力と類似境遇

 

 俺の日課は、早朝ランニング。

 走れる日は毎日、約3キロ、海沿いを走る。

 

 走り始めてすぐ、俺より少し背が高いくらいの奴とすれ違う。

 

 その人が、今朝初めて知った、沢良宜だったようだ。

 

 

 沢良宜は、中学生時代から早朝ランニングが日課だったらしい。

 道隆が言っていた。

 

 

 やはり、()()()に似ている、と思った。

 

 日々の努力の積み重ねで、成功を手にする。

 決して才能で、とかではなく。

 

 だから、絶対に引き入れたい。うちの野球部に。

 

 

「諒!ちょっと来い!」

 

 練習中、名前を呼ばれる。

 この声の主は...見なくてもわかる。アイツだ。

 声のするほうは向かず、無視する。

 

「おい!聞こえてるだろ!無視するな!」

 

 ・・・。

 

「諒!」

 

 ・・・。

 

「リョウ君?呼ばれてるけど、いいの?」

 

 ()()()()が、聞いてくる。

 いや、うん。君のせいでこんなことになってるんだけど?

 

 

「そっちがその気ならいいさ。いいか!お前には絶対渡さないからな!」

 

 最終的に、こんな捨て台詞を残していった、洋介だった。

 

 

 

 

 

「ねえ、渡すって、何のこと?」

 

 それはそちらで考えてください。道隆さん。

 

 

 

 翌朝。

 目が覚めて、外を見る。

 

 雨。

 

「今日は、ランニングなしか。」

 

 沢良宜と会って、話したかったんだが...。

 まあ、天気は仕方ない。

 

「ふう。ストレッチでもするか。」

 

 

 それから、いつものように学校へ。

 

 

 昼休み。

 俺は、沢良宜のいる教室へ。

 

 沢良宜は、弁当を食べていた。単語帳を片手に。

 

「よう、沢良宜。なんだ、メシ中も勉強か?」

 

「ん?ああ、双葉か。もう高校生だし、早めに勉強をしていて損はないだろう?」

 

 もう、受験のことを考えてるのか。

 

「それで、何だ?」

「言っておくが、野球部に入る気はないぞ。」

 

「そう。それなんだよ。」

 

「ん??」

 

「何も、部活はしてないんだよな?」

 

「・・それが、どうした?」

 

「何で、走ってるんだ?」

 

「別に、大した理由はないさ。中学の頃の流れで、日課になってるんだよ。」

 

「ふ~ん。」

 

「野球に未練がある、とか言って欲しいのか?」

「悪いが、俺はもう野球はしたくないんだ。」

 

 

 ま、ここまでか。正直、()()()だ。

 

「そっか。残念だな。んじゃ、また。」

 

「お?おう。」「・・また?」

 

 

 

 放課後。

 今日の部活は、休み。

 きっと各々が、部員の勧誘をしているだろう。

 

 それは俺も、例外ではない。

 

「よっ。沢良宜。」

 

「またか。今度は何だ?」

 

「ちょっと、付き合え。」

 

「は?」

 

 

 俺は、沢良宜とグラウンドへ。

 

「おいって!なんでココに...」

 

「キャッチボールするぞ。」

 

「は?いきなりなんだよ。」

 

「いいじゃん。久しぶりにボール、投げたくないか?」

 

 しばしの沈黙の後、俺の差し出したグラブをとる。

 

「ちょっとしたら帰るから。」

 

「おう。帰りたくなったら帰るといい。」

 

 

 ボールがグラブに入る音だけが響く。

 

 

「投げられるんだな。」

 

「ん?」

 

「いや、左。」

 

「まあな。今となっちゃ、古傷さ。」

 

 

 段々と、距離が離れる。

 ここにいる二人は今、キャッチボールをただ楽しんでいた。

 

 

 キャッチボール。

 それは、単純な行為。

 

 だがここに、野球の基礎の基礎がある。

 

 沢良宜は、ボールを久々に触ったその懐かしさから。

 双葉は、好きなことができているその嬉しさから。

 二人は心から、キャッチボールを楽しんでいた。

 

 

「・・俺にも、中学の時の試合で、投手生命を絶つことになった友達がいてさ。」

 

 話し始めたのは、双葉。沢良宜は、ただ聞いていた。

 

「そいつは、才能にあふれたやつで、敵チームだったけど、親友、だった。」

「でも、そいつは努力者で、まあ、だからこそ怪我しちゃったんだけど。」

 

「・・・。」

 

「沢良宜の話を道隆から聞いた時、すごく、似てるなって思ったんだ。」

 

「・・そいつとは、今も?」

 

「ん。仲良くしてるよ。」

 

「何、してるんだ?」

 

「野球、続けてるよ。」

「そいつは、投手がダメってなって、今は、ショートしてるよ。」

「元々、野球が大好きだから、離れるなんて無理なんだと。」

 

「・・・。」

 

「なあ、沢良宜。」

「お前は、ホントに野球を金輪際やらない、のか?」

 

「・・・。」

 

「野球は、嫌いじゃないよな?

 

「それは...。まあ、当たり前だ。」

 

「好きなら、やろうぜ。というか、一緒にやりたいんだ。」

 

「・・・。」

 

「どうだ?」

 

 

「・・俺は左だから、ショートはできないぞ。」

 

「ハハッ笑。残念だけどショートには、道隆がいるんだよ。」

 

「そうだったな笑。アイツには、かなり助けられた。」

 

「ファーストの席が空いてるんだ。・・どうだ?」

 

「・・ちょっとだけ、考えさせてくれ。」

 

「ああ。いい返事、期待してるぞ。」

 

 

 

 そして、数日後。

 ほしうら学院高校の野球部員が、一人増えた。

 

 

 夏休みに入った。

 ほしうら学院野球部では、二つの動きがあった。

 

 一つ目は、部員が三人増えた。

 三人とも、道隆、洋介たちと同じ中学校の出身で、頼みを聞いて、快く入ってくれた。

 

 二つ目は、秋季大会への出場辞退だ。

 人数的にはギリギリ条件は満たせているが、まだチームとして成り立っていない。

 八月中旬から秋季大会だが、それには出ないという方向で確定した。

 

 ただ、代わりに、練習試合を多めにするということになった。

 

 十月下旬に市長旗大会があり、ひとまずそこまでは、公式戦はなしだ。

 

 だからこれからは、ひたすらに前だけを見て頑張っていきたいと思う。

 来年の夏、先輩との野球を良い形で終われるように。

 

 しっかりと、努力を積み重ねていこう。

 




まあそりゃ、入部しますわな。
ありきたり展開は、許してください。

では。
今話も読んでいただき、ありがとうございました!!


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Episode.17

お久しぶりです。
一か月って、こんなに早く経つんですね。

正直、ここまで空いてしまうとは自分でも思っていませんでした。
すみません。

ストーリーとしては、夏休みが明けたという時系列でみていただければよいかと。
てことで、どーぞ。


転校生と野球部員

 

 今日は、9月1日。

 二学期が始まるこの日、俺のクラスは若干そわそわしていた。

 

 どうやら、転校生が来るらしい。

 教室内は、男か女かの話で盛り上がっていた。

 

 時間になり、先生と一人の男子が教室に入ってきた。

 

 ここで、転校生恒例の、名前披露。

 

『東條 伊月』

 黒板に書かれた名前には、どこか見覚えがあった。

 

 

「い、伊月?」

 

 朔良の声。

 

「ん...?朔良!なんでココに?」

 

 

 どうやら、朔良は知り合いのようだ。

 かくいう俺も、どこかで見たような...。

 

 朔良が知ってるってことは、野球関係かな?

 

 

 そうして考えて。

 俺が東條のことを思い出したのは、丁度朝のHRが終わったタイミングだった。

 

 自身の記憶を確かめに、俺は東條の席へ行く。

 

「なあ、もしかして東條って、パワフルシニアにいた?」

 

「ん?そうだけど、君は?」

 

「俺か?双葉諒っていうんだ。よろしく。ちなみに、堺シニアだったぜ。」

 

「堺シニア...。」

 

 

「関西のチームだろ。忘れたのか?」

 とここで、朔良の登場である。

 

「仕方ないだろ。僕、記憶力ないし。」

 

「いや、知らんわ。って、そうじゃなくて!」

「伊月、いきなり転校なんてしてきたのは、どうしてだ?」

 

「あれ?知らない?僕の祖父母が、ココに住んでるから、来たんだよ。」

 

「理由、それだけじゃないだろ?」

 

「悪い。話す気分じゃないから、後にしてくれ。」

 

 そう言って席を立つと、教室を出て行った。

 

「(何か、あったみたいだ。踏み込めない雰囲気だな...。)」

 

 

 沈黙が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・ごめん、トイレって、どこ?」

 

 それを破ったのは、恥ずかしさに顔を覆った東條であった。

 

 

 東條 伊月(とうじょう いづき)

 ある事情から、俺ら世代では結構有名な選手だ。

 

 パワフルシニア不動の一番、圧倒的出塁率を誇る選手だった。

 なんといっても、その俊足たるや。本当に驚異的だった。

 

 ただ、中三の夏初め頃、どういうわけか、試合に出ていないという噂があった。

 

 結局、その真相は明らかにはならなかったが。

 

 確かな実力はあるのだから。

 ぜひ、野球部に入ってほしい!

 

 

 

 昼休み。

 俺、朔良、東條の三人は、昼食を手に、なんとなく屋上へ。

 

 俺は早速、

「東條、野球部に入ってくれないか。」と聞く。

 

 東條がどんな理由でココに来たのかは分からない。

 向こうで何かあったのかもしれない。

 

 だが俺は、自分のことを一番に考えずにはいられなかった。

 とにかく今は、野球部員が必要で、誘える人は誘っておきたかった。

 

 

 しばしの沈黙から、東條は、

「僕はもう、野球が嫌いになったんだよ。」と言った。

 

 驚く俺と朔良をよそに、東條は自身の抱えるコンプレックスと、転校の理由について話し始めた。

 

 

 僕は、確かにシニアで活躍してた。

 でも、中三の春頃から成長していったチームメイトに抜かれて、レギュラー降ろされたんだ。

 

 それから高校に入って。

 その頃は、野球がまだ好きだったから、当然のように野球部に入ったよ。

 

 

 でも、そこから真の地獄を味わうようになったんだ。

 兄貴と比較されて、馬鹿にされる毎日だった。

 

 それまで憧れだった兄貴の存在が、急に鬱陶しくなった。

 

 そして、そんな想いを抱いている自分自身も嫌になったんだ。

 

 

 兄貴はホントにスゴイし、尊敬してる。

 

 そんな遠い存在の兄貴と比べられて、とうとう野球が嫌いになったんだよ。

 

 

 

 黙って聞いていた。

 

 兄の存在。

 俺は、長い間それに苦しめられている一人の後輩を知っている。

 

 彼も、あまりに大きい兄の存在に、自分を見失いそうになっていた。

 

 

 東條は、祖父母の実家がこの学校の近くにあるらしい。

 だからこの学校に転校してきたということだった。

 

 

「・・そうだったんだな。」

 

 聞き終えた朔良は、納得したように言った。

 事情も知らずに聞いて悪かった、と。

 

 しかし、俺は違った。

 

 彼の真の想いに期待していた。

 

「確かに、それは辛い経験だろうな。俺はそんなこと、経験したこともないから分かんないけどさ。」

 

 でも、

 

「東條。お前は本当に、野球が嫌いなのか?」

 

「・・ああ、嫌いだよ。悪いが、お前の期待には、沿えられないな。」

 

 

「・・野球そのものは。」

 

「ん?」

 

「野球自体は、どうなんだよ。」

「お前は、本当の野球の楽しさっていうのが、まだ分かってないんじゃねーのか。」

 

「そんな筈はねえ!僕は、痛いほど思い知ったんだ。」

「周りの奴にバカにされて、頑張っても思い通りにプレーできることもなくて。」

「そんな競技、やりたいと思うか?」

「だから、」

 

「じゃあ上手くなればいい!」

 

「っ!」

 

「本気でやるんだよ。周りなんて、ほんとに見えなくなっちまうぐらいに全力で。」

「いくら頑張っても上手くなれない?当たり前だ!それが野球だ!それが、スポーツってもんだろ!」

 

「・・・。」

 

「お前だって、本当はわかってるんだろ?自分の今の選択が、”逃げ”なんだってことくらい、さ。」

 

 

「改めて、聞くぞ。東條、お前は野球、好きか?」

 

「・・嫌いでは、ない。」

 

「ハハッ、素直じゃねーな。」

 

「・・悪かったな。」

 

「つーことで、だ。」

「一緒に野球、やろうぜ!下手とか言ってきたやつなんて、見返してやればいいんだよ!」

「一緒に、甲子園、行こう!」

 

 

 

 

 

 その日の放課後。

 

 僕は、久しぶりに野球のユニフォームに袖を通していた。

 

 

「やっぱ、似合ってんな。」

 

「そうか?」

「・・ありがとな、双葉。」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもない。」

 

「そっか。」

「ああ、俺のことは、諒でいいよ。俺も伊月って、呼ばせてもらっていい、だろ?」

 

「もちろん。」

「って、お前、聞こえてんじゃんかよ。」

 

 

 

 その日。

 久しぶりに心の底から、野球を楽しめた気がした。

 

 その楽しみは、これまでの何にも代えがたいものだった。

 

 

 僕は、野球が好きなんだと気付けてよかった。

 

 兄という憧れの存在を、また追いかけるきっかけが得られた。

 

 その道のりは大変長く、きっと辛いことがたくさん待ち受けているに違いない。

 

 

 でも、諒がいれば。

 

 諒と一緒なら、どんなことがあっても乗り越えられるんじゃないか。

 

 

 強く、そう思える。

 




読んでくださって、ありがとうございました。

いや~、ホントに久しぶりすぎて、いろいろ忘れちゃってますね。
こまめに書いていかないと...!

これから、ストーリースピードを上げていけたらいいのですが。
できる範囲内で頑張りますので、温かく見守っていただければ、と思います。


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Episode.18

テンポ良く、テンポ良く、進めていきます!

そういえば。
皆さん分かっているとは思いますが、東條伊月くんは東條小次郎の弟です。
ついでに言えば、兄と比べて下手なわけであって、一般的に見れば普通に上手い方って感じです(なんかセコイな)

てことで、どーぞ!


四五六と練習試合

 

 十月。二学期の始まりから一か月が過ぎ、今月下旬には公式戦が待つ。

 

 そして、俺たちほしうら学院高校野球部は、今日も練習に励んでいた。

 

「次、ストレートな。」

 

「よっし、来い!」

 

 俺は、バッティングピッチャーをしているところだ。

 打席に入っているのは、井槻 雷雅(いつき らいが)

 道隆フレンズトリオの一人だ。

 三人の中では一番パワーがあり、打撃力に期待できる。

 

 が、しかし、

「次、カットボール。」

 

「・・今日こそ...!」

 

 

 ブルン。

 見事なまでの空振り。

 

「だあ~、なんで打てないんだよ、チクショウ!」

 

 とまあこんな感じで、変化球にめっぽう弱い。

 

 

「ラスト、ストレートいくぞ。」

 

「よっし!」

 

 

 カキィィン!

 しっかりと捉え、外野までもっていく。

 そのパワーで、外野の頭を...

 

 パシッ。

 

 越えなかった。

 

「おお、ナイスキャッチ、草平!」

 

「くっ、追いつかれたか。」

 

 

 芳美 草平(よしみ そうへい)

 道隆フレンズトリオの一人で、走力に長けている。

 

 一方の打撃力。

 バットに当てるのは上手い。

 だが、ヒット性の強い当たりはあまり打てない。

 

 自慢の足を活かした守りと走塁が武器で、今はそっちを磨いている。

 

 

「諒?はやく投げてくれ、待ってるぞ。」

 

 打席の方から声がかかる。

 

「悪い悪い。じゃ、いくぞ。」

 

 

 トリオの三人目、陸奥 風太郎(むつ ふうたろう)

 三人の中で、というかふつうに全体的に見てもセンスがあり、かなり上達速度がはやい。

 正直、初めて一か月半とは思えないくらいに、今は上手くなっている。

 

 ある程度のパワーと、良いバットコントロール。

 肩も強くて、しっかり守れる。

 唯一、足が遅めなのが欠点だが、十分上手だ。

 

 俺が試合に出ないときはおそらく、この陸奥が出ることになるんだろう。

 

 

 

 練習が終わって。

 着替えて帰ろうとしていたところ、佐藤先生が来た。

 

「ああ、良かった。皆、いるな。」

 

 こんにちは、とあいさつをし、松宮先輩が尋ねる。

「あの、どうかされたんですか?」

 

「いや、ちょっと、皆手止めて聞いてくれ。」

 とここで一旦、言葉を切る。

 

 そして、

「いきなりだが、今週の日曜日、帝徳実業(ていとくじつぎょう)高校と練習試合することになったんだ。」

 

 

 静寂。

 

 

「え?帝徳実業高校、ですか?」

 

 思わず聞き返す。

 

「ああ、そうだぞ。向こうさんの学校に行くことになるから。あ、詳細は後々連絡するから。」

「じゃあ、今日もお疲れさん。気をつけて、帰れよ。」

 

 そう言って、先生は部室を後にした。

 

 

 帝徳実業高校、か...。

 これも、何かの縁なのか。

 

 まさか、友章と()()()が似てるって思って、友章が野球部に入って間もなく試合をすることになるなんて、考えてもみなかったよ...。

 

 

 

 

 そうして、あっという間に日曜日。

 俺たちの目の前には、高校野球部の練習風景があった。

 

 今日は、一試合だけする。

 メンバーはこれだ。

1、遊・歌間

2、二・渡

3、三・松宮

4、一・沢良宜

5、右・梨田

6、捕・小野原

7、中・玄山

8、投・双葉

9、左・東條

 

 新チームになって、初試合となる。

 俺たちは、少しの緊張とともに、帝徳実業高校ナインと相見える。

 

 

「(亮...!俺たちが、勝つぜ!)」

 

 

「なあ、諒。」

 

「ん?」

 

「あれが...?」

 

「ああ。前言ってた、俺の親ゆ...いや今は、ライバル、か。」

 

「友沢...亮...。」

 

「なあ、友章。」

 

「どうした?」

 

「俺は、すごく嬉しいんだ。またこうやって、試合ができるっていうのが。」

「だから入ってくれて、ありがとな。」

 

「ふっ。・・全く、それはこっちのセリフだよ。」

「誘ってくれて、ありがとな。」

「勝とう、この試合。」

 

「ああ!もちろんだ!」

 

 

 

 一回表。

 一、二番があえなく倒れて簡単にツーアウト。

 しかし、三番松宮がインコースをうまく打ってレフト線ツーベースヒット。

 

 この先制機で打席には、四番沢良宜。

 ツーボールからの二球目。アウトローのボールを捉える。

 打球はショート頭上へ飛び、ショートの友沢はジャンプ。

 ボールはグラブに収まり、スリーアウト。

 

 友沢の好プレーにより、ほしうら学院の先制とはいかなかった。

 

 

 そのウラ。

 ワンナウトから、二番打者が出塁。

 打席に友沢が入り、その初球にランナーが盗塁を決めて一死二塁となる。

 

 そして友沢。

 追い込まれてからも粘り続け、8球目。

 少し浮いたフォークを捉える。

 先制タイムリーライト線ツーベースヒット。

 

 双葉は、後続を何とか断ち、一失点にとどめる。

 

 

 

 その後。

 ほしうら学院の攻撃。

 相手投手の投球に抑え込まれ、ランナーが出せない。

 

 一方の帝徳実業の攻撃。

 チャンスは幾度もつくるが、双葉の粘り強いピッチングに抑えられる。

 

 

 

 そうして回が進んで六回表。

 ワンナウトから、東條が足を活かした内野安打で出塁。

 さらに盗塁も決め、得点圏にランナーを置く。

 

 だが。

 歌間、渡、ともに内野ゴロで凡退。得点ならず。

 

 

 すると六回ウラ。

 友沢からの攻撃で、三、四、五番が三連打。

 さらに犠牲フライなども絡んで、この回三点を追加する。

 

 

 しかし、七回表。

 ワンナウトから沢良宜、梨田の連打でチャンスを作る。

 

 だが、しかし。

 六番小野原が併殺打。チェンジとなり、得点できず。

 

 

 ほしうら学院は、八回表に代打陸奥のヒットと東條の二本目の内野安打で作ったチャンスを内野ゴロの間に一点返すのが精いっぱい。

 

 八回ウラ、変わってマウンドに上がった玄山が二失点を喫し。

 九回表、三者凡退で、試合終了。

 

 結果、6-1で帝徳実業高校の勝ちとなった。

 

 

 

 

 

 負けた、か。完敗だな...。

 

「よう、久しぶりだな、諒。」

 

「おう、久しぶり、亮。負けたよ。」

 

「当たり前だ。勝ってこその強豪校、だからな。」

「とはいえ、少し不気味だったぞ。」

 

「不気味?どういうことだよ?」

 

「いや、不気味というか...。う~ん...。」

「言葉にし難い、何か、”雰囲気”みたいなのを感じたんだ。」

 

「は?いや、分からんわ。」

 

「とりあえずまあ、やってて楽しかった。今日はありがとう。」

 

「ああ、こっちこそ。次は、絶対勝つからな!」

 

「望むところだ。じゃあな、また。」

 

 

 

 ”雰囲気”ねえ...。

 

「どうしたんだ、諒?難しい顔して。」

 

 学校への帰路に就くバスで、隣に座る友章が尋ねてきた。

 

 だから俺は、亮の言ったことをそのまま伝えた。

 

「どうだ?って、訳わかんないだろ?」

 

「・・いや、何となく言わんとすることは、分かる気が、する。」

「東條にも、何となくわかるんじゃないのかな。」

 

「伊月も?う~ん...。分かんねえな。」

 

「ははっ、別に、今気にすることでもないだろ。」

「というかそんなことよりも。」

 

 おいおい。そんなこととは何だ。そんなこととは。

 

「今日の反省でも、しようぜ。」

「まず、何で今日は右で投げたのかを知りたいな。何か理由でもあるのか?」

 

「理由か。まあ、あるにはあるが...。話すようなことじゃないな。」

 

「ふ~ん、ま、いいや。」

 

「お前は?久々の野球の試合、どうだったよ?」

 

「もちろん、悔しいさ、負けたからな。」

「でも、それよりも今は、野球ができたことの喜びの方がデカいな。」

「いっぱい試合して、勝って負けて。」

「最後はやっぱり、野球を楽しみたいって、そう思ったよ。」

 

「そっか。」

 

「今日は負けたが、次はリベンジしに行きたいな。」

 

「それはもちろんだ。」

「・・その時は、俺も、変わってんのかね。」

 

「ん?なんか言ったか?諒。」

 

「ん、気にすんな。」

 

 

 バスに揺られて、揺られて。

 ほしうら学院高校野球部員十二人は、帰路に就く。

 

 

 各々が、それぞれの想いを、胸に抱えて。

 




読んでくださって、ありがとうございました!

3000字。久々に書きました。
あ、内容の濃さは不問てことで。

次回は、秋も終わりを迎えたほしうら学院高校野球部の能力の紹介と、最近出したオリキャラのちょっと詳しめな紹介をする予定です。
よろしくお願いします!


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Episode.EXTRA②

少し空きましたが。

今回は、選手能力の紹介になっています。
と同時に、各キャラの人物紹介もしています。
今更ながらの紹介ではありますが。

尚、能力表示に関してはパワプロ2013や2014と同じです。


★能力紹介【野手】

(左から、弾道、ミート、パワー、走力、肩力、守備力、捕球)

 ※記載のポジションは、登録ポジション。

 

◎二年生

・松宮琉果 三塁手 右右

 弾3、B、C、C、D、D、C

 走塁4、アベレージヒッター、チャンスメーカー、調子安定

 

・小野原理玖 捕手 右右

 弾3、D、B、E、C、C、B

 ブロック◯、プルヒッター、送球4

 

・玄山大也 外野手 右左

 弾2、C、C、C、C、B、E

 流し打ち、バント◯、いぶし銀

 

◎一年生

・沢良宜友章 一塁手 左左

 弾3、C、C、C、E、D、D

 チャンス4、アベレージヒッター

 

・東條伊月 外野手 右左

 弾1、E、E、B、B、D、E

 盗塁5、内野安打◯

 

・歌間道隆 遊撃手 右右

 弾2、E、E、C、C、C、D

 守備職人

 

・渡洋介 二塁手 右右

 弾1、E、F、D、D、B、C

 守備職人、バント◯

 

・梨田朔良 投手 右左

 弾2、D、D、D、C、D、D

 初球◯、三振、サブポジ・外野◯

 

・双葉諒 投手 両両

 弾1、E、E、D、C、D、C

 

・芳美草平 外野手 右右

 弾1、E、F、B、D、D、E

 走塁4

 

・井槻雷雅 捕手 右左

 弾3、F、C、E、C、E、D

 対左4

 

・陸奥風太郎 外野手 右右

 弾2、D、E、E、C、D、D

 流し打ち

 

 

★能力紹介【投手】

(左から、球速、コントロール、スタミナ、変化球持ち球)

 

・双葉諒

(右)オーバースロー

  138キロ、D、D、カットボール2、スローカーブ1、縦スライダー3、フォーク2

  ノビ4

(左)サイドスロー

  126キロ、B、C、スライダー4、シュート1、チェンジアップ1

  キレ◯、低め◯、対左4

 ※闘志、対ピンチ4 の二つは、右左関係なくもつ

 

・梨田朔良 右スリークオーター

 131キロ、C、C、カーブ2、スライダー2、SFF2、チェンジアップ2、シンカー2、シュート1、超スローボール

 緩急◯、クイック4

 

・玄山大也 右サイドスロー

 133キロ、C、B、スライダー2、スラーブ2、シンカー2

 打たれ強さ4、低め◯

 

 

★人物紹介

・双葉諒

  本作の主人公。物語は、コイツ目線で進むことが多い。

 家を出、一人で暮らしている。両投げ両打ちの投手。

 個人的には力で押したいのだが(右投げが良い)、成績は左の方が良いことに悩む。

 野球のことになると、少し無遠慮になる男。基本は、良い子なのに...。

 両利きであることに、少し誇りを持っている。

 スポーツが全般的に好き。するのも見るのも。

 

・沢良宜友章

  モデルは、パワプロキャラの友沢亮。左投げ左打ちで、ファースト。

 中学時代は、広く名を馳せるエースであったが、試合中の故障をきっかけに野球をやめる。

 双葉諒によって野球の世界に舞い戻る。彼には深い感謝と少しの尊敬を感じている。

 勉強が得意。好きな教科は数学。

 

・東條伊月

  パワプロキャラ、東條小次郎の弟。右投げ左打ちの外野手。

 足が速い。自分では野球が下手だと思っているが、一般的に見れば普通に上手い方。

 兄は一番の憧れであり、コンプレックスでもある。

 好きな食べ物は寿司。特にイクラ。

 

・歌間道隆

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の高海千歌。右投げ右打ち、ショート。

 守備は一流、打撃は三流。沢良宜と同じ中学野球部。

 元気いっぱいで、人懐っこい性格。

 好きな歌は、『キセキ(GReeeeN)』

 

・渡洋介

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の渡辺曜。右投げ右打ちでセカンド。

 守備は一流、打撃は三流(二回目)歌間、沢良宜と同じ中学校、野球部出身。

 歌間を"ミッチー"と呼ぶ。「ミッチーに近づくやつは、俺が許さない...!」

 好きな人は、言うまでもなく歌間道隆。

 

・梨田朔良

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の桜内梨子。右投げ左打ちの外野手。

 投手兼外野手。

 歌間道隆を"ミッチー"と呼んでいて、よく洋介に睨まれている。 

 好きなのは、きれいな自然風景を眺めること。

 

・松宮琉果

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の松浦果南。右投げ右打ち、サード。

 ほし高野球部、キャプテン。安定した活躍を見せる頼れる三番打者。

 歌間、渡と同じ中学で、一つ上の先輩。渡の言動に理解がある。

 きれいな海が好き。趣味はダイビング。

 

・小野原理玖

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の小原鞠莉。右投げ右打ちのキャッチャー。

 大胆なバッティングと繊細なリードを兼ね備えた、打てる捕手。

 父がほしうら学院高校の理事長で、多少のわがままは通るらしい。

 ロック系の音楽が好みで、自身もギターが弾ける。

 

・玄山大也

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の黒澤ダイヤ。右投げ左打ちで外野手。

 いぶし銀的な役割を果たす。ここぞでの活躍が光る仕事人。

 生徒会長をやりながらも、部活に励んでいる。まさに、文武両道の体現者と言える。

 年下の世話を焼いてあげるのが好き。弟がいる。

 

・芳美草平、井槻雷雅、陸奥風太郎

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!のよしみ、いつき、むつ。

 影での活躍が光る。が、イマイチ物足りない。

 現在本当に奮闘しているのは、陸奥風太郎くらい。あとの二人は()()、ベンチウォーマー。

 今後の活躍に、乞うご期待!笑

 




まあ、ある程度の性格はアニメのほうのモデルキャラたちと同じと考えていいかなと。
ちなみに、伊月くんは他になかったので"好きな食べ物"にしました。
特に深い意味はないです。

次回は、秋季大会になる予定だったのですが、諸事情により、そうならない恐れが高いです。

ということで、今回も目を通して下さってありがとうございました。


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Episode.19

少しテンポを上げようと思います。
今回は、かなりスキップしました。

では、どうぞ。


決心と目標

 

 朝。

 目覚ましとほぼ同時に目を覚ます。

 ベッドから出て、着替える。

 

 

 ガチャッ

 家のドアを開けて、外に出る。もちろん鍵も、かける。

 

「おおっ、ちょっと寒いな。」

 

 吐く息も白い。

 季節を感じる。もうすっかり、冬だ。

 

 海辺の町の冬は、寒い。

 だが、これも気持ちよく感じられるようになってきた。

 

 軽くストレッチ。

 「よし、行くか。」

 俺は、走り出した。

 

 

 走り出して、数分。

 目の前から走ってくる人の姿が。

 

「おはよう、友章。」

 

「おはよう、ちょっと寒いが、心地良いぞ。」

 

「おう。じゃ、また学校で。」

 

 

 いつもの所まで来てから、いつものように引き返す。

 

 そして、帰宅。

 

「ただいま~、おかえり~、ってね。」

 最近始めた、セルフあいさつをする。

 

 

 朝ご飯を食べて、支度をして。

 

 俺は再び外へ。学校へと向かった。

 

 

 

 

 今日の全ての授業が終わって、帰りのHR。

 

 12月に入ったし、そろそろ進路とかのことも真剣に考え始めろ、という話も終わり。

 俺は何人かと一緒に部室へ。今日ももちろん、部活だ。

 

 

 

 

 部活も終わって家に帰る。

 

 その路で。

 友章に話しかけられる。

 

「なあ、双葉。お前、本当にもういいのか?」

 

「ん、まあな。結構前から考えてたし、来年の夏も見据えての判断だよ。」

 

「いや、でもよ...。」

 

 

 

 この間まで行われていた市長旗大会。

 俺たちほしうら学院高校は、準決勝まで駒を進めていた。

 

 準決勝。3-1とリードして迎えた7回。

 

 俺が突如つかまり、一挙4失点。

 

 その日の俺は調子が良く、右投げで毎回の10奪三振を奪っていた。

 

 そして7回。

 体力的な限界が来たのか、ストレートが走らなくなった。

 

 左で投げる体力も気力もなく、俺は降板。

 

 試合は、6-4で負けた。

 

 この大会での優勝を目標に据えていたチームにとって、とてもつらい敗戦。

 そして俺は、一つのことを決めた。

 『これからは基本的に左投げだけでやっていく、と。』

 

 

 

「ホントに大丈夫だって。」

「元々右投げは成績が悪かったし、俺としてもどっちかに専念したいって気持ちはあったから。」

「両投げへの憧れよりも、現実を見るように決めたんだよ。」

 

「・・そうか。それなら、いいんだけどな。」

 

「(実際、右の練習量を減らしてから左は良くなってきたし。これで、いいんだ。)」

 

 

 

 そうして俺たちは、本格的な冬を迎える。

 

 冬。

 それは、野球部の人間にとってみれば、正直とてもつらい時期。

 ボールは触らず、体力的なトレーニングがメインになる。

 

 

 年末。そして新年。

 俺は親のいる街に戻ってのんびりと過ごす。

 

 初詣では、野球部の必勝祈願を。

 

 そして再び、部活の練習。

 

 

 気が付けば、あっという間に2月。

 

 2月といえば、男子のざわつくあの時期なわけで...。

 

 

「お疲れ!ミッチー!また明日ね!」

 

 最近の洋介の帰りが異様に早くなった。

 

 

「なんか、料理の勉強してるって言ってたよ。」

 

 

 ああ、なるほど。察しました。

 

 

 バレンタイン当日。

 洋介は、スポーツバッグ四つ分の大量の生チョコやらチョコ菓子を作ってきた。

 

 

 さすがに冬とはいえ、全部食べ切るころにはいくつか溶けているのではなかろうか...。

 

 

 ちなみに、真っ当な形で一番チョコをもらったのは、伊月だった。

 基本の運動能力が高く(球技は苦手だが)、イケメン。まあ、妥当だ。

 

 

 そして、3月。

 すっかり暖かくなってきて、いかにも野球日和な日が続く。

 

 時が流れるのは早いもので、来月には入学式とともに、新入部員が入ってくる。

 

 

 それよりも。すごく大事なことがあるわけで。

 

「皆、分かっているとは思うが今月下旬からは春季大会が始まる。」

 

 松宮先輩が皆が集まった教室の一番前に立って話す。

 

「冬の間、きつい中でしっかりと積み上げてきた体力。」

「各々が磨き上げてきた個人のスキル。」

「それらを皆がしっかりと出し切れれば、きっと結果は自ずとついてくるだろう。」

 

「今から大会までは、無理をしすぎず正しく練習することが大切だ。」

「焦らずいこう。自分たちの力を信じて、目の前を見て進んでいくぞ。」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 

 かくして。

 

 春季大会に向けて練習する日々となった。

 

 

 最終目標は夏の大会なわけだが、今からそこを見据えても無理がある。

 目の前のことから一つずつ、しっかりと目的意識を持って臨む。

 

 松宮主将の決めたことだ。

 

 

 確かにその通り。

 

 多くの学校は、とにかく夏を目安に頑張っているのだろう、と思う。

 

 でも。

 

 夏の大会を、一つの大きな目標として。

 それに向かって突き進もうとしてもなかなか上手くいかないのではと思う。

 

 先を見すぎると、かえって悪い結果につながることが多々ある。

 

 

 だから。

 しっかりと一歩ずつ、進んでいこう。

 

 きっとその先には、輝きが待っているだろうから。

 




すみません。
何故か主人公が両投げ両打ちではなくなるという展開になってしまいました。
全く、主人公のくせに無責任ですね...。
これでは、タイトル詐欺作品になってしまいます。

まあ、どうか見てやってください。
きっと何とかなりますから笑。

素早く話をすすめていけるように筆者も考えているので、多少の割愛はおおめに見てくださるとうれしいです。

では。
今話も読んでくださり、ありがとうございました!


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Episode.20

お久しぶりですね。

進行を早めているので、多少雑かもしれません。
ご容赦くださるとありがたいです。


春季大会と新入生達

 

 静岡県東部地区春季大会二回戦。

 

 ほしうら学院高校VS漢季都(かんきつ)商業高校の試合。

 ほしうら学院の先発オーダーは、

 一番 7 玄山

 二番 8 東條

 三番 5 松宮

 四番 3 沢良宜

 五番 9 梨田

 六番 2 小野原

 七番 1 双葉

 八番 6 歌間

 九番 4 渡

 

 

「・・諒、どうだ調子は?」

 

「エースってさ。」

 

「ん?」

 

「エースって、なんなんだろうな。」

 

「は?いきなりなんだよ。」

 

「・・・。」

 

「・・まあ言うならば、ケーキでいうスポンジ、とかかな。」

 

「ケーキの、スポンジ!?」

 

「ああ。ケーキの味の大方はクリームとかが占めてるだろう、でも、本当に一番大事なのは...」

 

「スポンジ...?」

 

「そういうことだ。」

「どんなものであろうと、土台が一番重要、ってことだ。」

 

「いや、ぜんぜん訳分かんねえよ。」

「ついでに、なんだよその例え。お前んちってケーキ屋とかじゃなかっただろ。」

 

「ああ。父は自動車工場勤め、母は専業主婦だ。」

 

「まるっきりケーキ関係ねえな、おい。」

 

「別に、緊張してんのかな、とか思っていっただけだからそんなに深く考えなくていいよ。」

「・・緊張、してんのか?」

 

「う~ん。まあ、若干。」

 

「あ、本当に!?お前も、緊張とかするんだな。」

 

「まあな。特に今は、俺以外にピッチャー本職の人がいないっていうのが正直キツイ。」

 

「ああ、それはな。」

「でもまあ、もうすぐ新入生も入ってくるし、それまでの辛抱じゃないか?」

 

「一年生にマウンド渡すのか?それもそれで、精神的にキツイよ...。」

 

「それもそうか。でも、大也先輩の弟は期待できるってお墨付きだったろ。」

 

「お兄さん直々の、な。」

 

 

 

 試合が、始まる。

 俺たちの先攻だ。

 

 初回、玄山先輩がヒットで出ると、伊月がバント。さらにこれが内野安打に。

 無死一、二塁から、松宮先輩が左中間を破るツーベースヒット。

 玄山先輩に加えて伊月も生還し、早速二点を先制。

 さらに、友章と朔良の二人連続のライトフライで、松宮先輩がホームイン。

 

 初回に三点を先制する幸先の良い展開から、試合は始まった。

 

 

 この日の俺は、立ち上がりこそ二人のランナーを許したものの、その後は落ち着いて投球することができた。初回は、二番打者に内野安打、四番打者に四球。だが、得点は許さなかった。

 二回からは得点圏のランナーを許さないピッチング。毎回奪三振で、七回十奪三振。

 

 打線の大きな援護もあり、この試合は、9-0のコールドゲームに終わった。

 

             計 H

 ほし高 3011022 9 15

 漢季都 0000000 0 3

 

 

* * * * * * *

 

 三日後。

 俺たちは、地区大会の三回戦を戦っていた。

 

 相手は、東海第八高校。エースが左のサイドハンドで、守備の堅いチーム。

 

 五回のウラまで終わって0-0と、接戦になってきていた。

 

 ちなみに先発オーダーは、

 一番 6 歌間

 二番 8 東條

 三番 5 松宮

 四番 3 沢良宜

 五番 7 玄山

 六番 9 梨田

 七番 2 井槻

 八番 1 双葉

 九番 4 渡

 

 小野原先輩がちょっと体調不良ということで、急遽雷雅が捕手をすることになった。

 その雷雅は、無失策&一安打、と良いはたらきをしていた。

 

 

 のだが。

 

 

 六回の表。

 先頭打者を空振り三振に取ったところで、雷雅がボールをはじき、振り逃げで出塁される。

 

 これには、俺にも非があった。が、しかし。

 

 

 問題はその後だ。

 

 次打者が、バントを試みて失敗し、後ろにショーフライをあげる。

 それを雷雅が取り損ない、結局その後バントを許して一死二塁。

 

 さらに浮足立った雷雅は、二塁走者をけん制して送球がそれる。ランナーは三塁へ。

 

 

 一旦マウンドに内野手で集まる。

 

「ごめん...。なんかオレ、ミスってばっかだ。」

 下を向いて言う雷雅。

 

「気にしすぎだって!誰でもエラーなんてするし!次から、気をつければいいんだよ。」

 

「次、ですか。」

「・・オレ、嬉しかったんです。初めて試合に出られて。」

「だから、めちゃくちゃ活躍してやろうって、いいトコ見せたいって、思ってたのに。」

 

「「・・・・。」」

 

 黙りこくる内野陣。

 

 

 

 その時、だった。

 

「ソーリー、伝令です。」

 

 

「・・小野原、先輩!」

 

「無理は...」

 

 

「ドント、ウォーリー、リョウ。少しなら、へーきだから。」

「ライガ。」

 

「・・はい。」

 

「ハハッ、キンチョーし過ぎだよ!?」

「キャッチャーっていうのはどういうポジション?」

 

「守備の、要、です。」

 

「そうそう。要がしっかりしてないと、ダメなわけ。」

 

「・・・。」

 

「・・とはいえね、オレたちはまだまだ高校生。トゥーヤング、なわけ。」

「だから、思い切っていけ、ライガ!フォローは皆がしてくれるよ!オーケー?」

 

「でも...」

 

「いろいろ考えはあると思う。でも今は、目の前のゲームに集中だよ?」

「って、オレが言っても説得力ないね。じゃ、ガンバレ!」

 

 

 

 そして。

 

 何とか落ち着きを取り戻した雷雅だった。

 

 

 のだが。

 

 

 

「ごめん、諒。オレのせいだよ。」

 

「いやいや!打たれたのは俺だから。本当に気にすんなって。」

 

 三振を取った後、二死三塁から、チェンジアップが浮いてしまってタイムリーヒットを浴びた。

 その後後続は断ったのだが、先制点を取られてしまった。

 

 そして、雷雅が責任を感じてしまっている。

 

 俺のせいなのに。

 

「絶対に、絶対に、点取り返すから。本当にごめん。」

 

 

 う~ん...。

 このネガティブ思考というかなんというか...どうしたらいいんだろう。

 

 

 六回ウラ。

 先頭は、きりよく一番の道隆から。だが、その道隆はセカンドフライに倒れる。

 二番の伊月も、サードゴロで、ツーアウトになる。

 そして、三番松宮先輩もライトフライで、スリーアウトチェンジ。

 

 それにしても、俺たちは何とも左投手が苦手だな...。

 去年の子島といい、すごく苦しめられている印象がある。

 

 ・・まあ俺も、打ててはいないし点も取られちゃってるんだけどな。

 

 

 七回表。

 何とか持ち直した俺は、サードフライ、ファーストゴロ、空振り三振の三者凡退に抑える。

 

「(点はもう絶対やれない。何とかリズムを作らないと。)」

 

 

 七回ウラ。

 四番の友章は、レフトフライに倒れ、ワンナウト。

 しかし、玄山先輩が粘って四球を選ぶと。

 朔良も右中間を破るツーベースヒットで続き、一死二、三塁とする。

 ここで打席に入るのは。

 

 

 七番の雷雅。

 

 

「(スクイズに、すんのかな...。)」

 

 その俺の考えとは裏腹に、初球、チェンジアップを空振り。

 

「(ヒッティングか...)」

 

 二球目、相手バッテリーは様子見でウエスト。

 三球目もウエストし、これでツーボールワンストライク。

 

 

 

 するとここで。スクイズのサイン。

 

 

 

 

 果たして。

 

 

 

 

 ピッチャーがボールを投じる。

 

 ランナーは走り出し、雷雅はバントの構え。

 

 

 相手投手は、少し外し気味に投げる。

 

 

 

 カァン

 

 

 

 雷雅の当てた打球は。

 

 

「ファール!」

 

 三塁線を切る、ファールとなる。

 

 スクイズ失敗だ。

 

 

「(雷雅...。)」

 

 今日のミス続きは、あいつをかなり苦しめているだろう。

 

 

 だからこそ。

 

 決めて欲しかったのだが。

 

 

 

 

 ホッとしたピッチャーが、次のボールを投じ、雷雅はフルスイング。

 

 

 

 カッキィィンン!

 

 

 会心の当たりが、伸びて、伸びて。

 

 

 ライトスタンドに入った。

 逆転の、スリーランホームランだ。

 

 

 

 

 

《結果》           計  H

 東海第八 0000010  1  3

 ほしうら 0000008× 8× 9

 

 

 雷雅のホームランで勢いづいた俺たちは、一気に8点を取った。

 

 結果的に、サヨナラコールド勝ちで、俺たちほしうら学院高校は次に駒を進めた。

 

 

 それにしても、相手投手が右に変わった途端に四連打したときは、正直ふざけてんのか、と思ったよ。

 

 対左の攻略か...。死活問題だな。

 これから、頑張ってしっかりと克服しないと。

 

 

* * * * * * *

 

「え~、外野手の善 琥羽夜(ぜん こうや)です。よろしくお願いします。」

 

「はい、捕手の國分 成樹(こくぶ なるき)ずr、じゃなかった、です。宜しくお願いするずr...です。」

 

「え、えっと、ピ、ピッチャーのっ、く、く、玄山 文也(くろやま ふみや)です。よ、よろしくお願い、します!」

 

矢部 秋牡(やべ あきお)っす!外野っす!よろしくです!」

 

少剛月 豪(しょうごうげつ たける)、です。よろしくお願い、致します。」

 

「・・中山田(なかやまだ)巧太郎(こうたろう)です。・・一応、どこでもできます。・・よろしくお願いします。」

 

 

 新入部員がやってきた。

 

 

 濃い。非常に濃いなと思う。

 

 ちなみに、矢部と少剛月は、堺シニア時代の俺の後輩。

 年末頃に会って、ココに来ると聞いたときは正直びっくりした。

 

 二人とも、確かな実力を持っていて、信頼できる後輩だ。

 

 

「悪い。中山田、巧太郎は...。」

 

「ちょっと、主将。ちゃんといるじゃないですか、ココに。」

 

「ああ、ごめん、ごめん。今、確認した。」

 

 

 中山田巧太郎。

 

 朔良の榊シニア時代の後輩、らしい。

 かなりの実力者ということだが、俺にはそんな奴がいた記憶はない。

 

 朔良いわく、『かなり影が薄い』らしい。

 

 実際さっきも、松宮先輩が見失ってしまったし...って、あれ?いないぞ?まあ、いっか。

 

 

 

 そして。

 善琥羽夜、國分成樹、玄山文也。

 

 この三人は、県内の硬式チームでスタメンを張り、全国大会の出場経験もある。

 

 いわゆる、"ゴールデンルーキー"と呼ばれる類いの者だ。

 まあ、本当にゴールデンかどうかは定かではないけれど。

 

 

 そして、分かっているかもしれないが。

 

「文也~!やっと来たね!兄は、この瞬間を待ち望んでいたよ!」

 

 玄山文也は、大也先輩の弟だ。

 

「お兄ちゃん!?学校ではそのノリはやめてって...」

 

「我慢できるわけないだろーっ!?文也~!!」

 

「いやちょっと、お兄ちゃん、ホントに、恥ずかしいから...」

 

 

 ・・・。

 兄弟愛、だな。

 

 

 

 場が落ち着きを取り戻したところで。

 

 二年生、三年生もそれぞれ自己紹介。

 

 

 これからは、一年生の実力チェックだ。

 皆上手そうなので、すごく期待できる。

 

「よし、じゃあまずは善と矢部の外野守備からだ。」

「文也と國分は、投球練習をしておいてくれ。」

「少剛月は、少ししたら打席に入ってもらうから、その準備を。」

「二、三年生は、昨日言ったようにしてくれ。」

 

 

「てことで、始」

 

「あの...。僕は...?」

 

「ん?」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・え?」

 

「ああ、えっと~、ごめん。忘れてた。」

「少剛月と同じで。よろしく。」

 

「・・はい。」

 

 

 そして、何とも言えない微妙な雰囲気の中、一年生の実力チェックが始まったのだった。

 




小野原先輩は、試合前日に風呂で寝落ちしてしまったそうです。
彼は、結構長風呂派で、最近の睡眠不足が祟ってしまったとのことです。

彼は!?最終学年として!?もっと!?自覚を持つべきではないだろうか!?

失礼しました。取り乱しました。


皆さんご周知のことだろうとは思いますが、各キャラのモデルを紹介しておきます。
・善 琥羽夜(ぜん こうや):津島 善子
・國分 成樹(こくぶ なるき):国木田 花丸
・玄山 文也(くろやま ふみや):黒澤 ルビイ
・矢部 秋牡(やべ あきお):矢部 秋雄
・少剛月 豪(しょうごうげつ たける):少豪月 剛
・中山田 巧太郎(なかやまだ こうたろう):田中山 太郎

まあ、基本的にはモデルとほぼ同じようなキャラだと思っていただいて問題ないかと。
詳しい能力については、おいおい紹介していきます。

では。今話も読んでくださって、ありがとうございました!


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Episode.21

こんばんは。一か月ぶりですね。


新入生たちの実力を見る回となっております。


実力者達と主戦事情

 

「よし。まあひとまず、これぐらいでいいか。」

 

「オーケー!じゃあ、タケル!打席入って~。」

 

 

 松宮先輩と小野原先輩が練習を取りしきる。

 

 マウンドに立つのは、玄山先輩。

 三遊間に道隆、二塁ベースよりのセカンドの位置に洋介、ファーストに友章。

 レフトに伊月、ライトに朔良。

 センターには、さっきまでノックを受けていた善と矢部がいる。

 キャッチャーはもちろん小野原先輩。

 松宮先輩は、ノックを打ち終えた後、今は一塁側ベンチ付近にいる。

 そして、そのベンチ近くのブルペンには玄山弟、キャッチャーは國分。

 それを見ているのが俺、双葉諒という構図だ。

 

 ちなみに、芳美、井槻、陸奥の三人は今日は揃いも揃って休んでいる。

 新入部員が入ってくる、大事な日なのに。

 

 

 外野ノックをさっきまでしていたわけだが。

 どちらの一年生も上手く、さらにこれからにも期待できる出来だった。

 

 矢部は、足が速く、守備範囲が広かった。

 前からそうだったが、現在はさらに打球勘もついているようだった。

 多少、荒いようなプレーも見受けられたが、それは伸びしろと考えておこう。

 

 そして、善琥羽夜。

 正直、自分の予想を遥かに超えてうまかった。

 外野手として、一つ一つの動作が洗練されていた。

 唯一、肩はあまり強くないようだったが、それを踏まえてみても、一年生とは思えないようなレベルに見えた。

 

 

 今、俺は玄山弟と國分の様子を見ているわけだが。

 こっちもこっちで、すごい。

 

 特に、玄山弟。

 兄のベタ褒めも納得の実力である。

 また、フォームも良い。なにせ――、

 

 カッキィィンン!!

 

 

 突然の打球音に振り返ってみると、少剛月が外野の間をきれいに割る打球を飛ばしていた。

 前からの、突出した長打力は健在のようだ。

 

 ブルン!

 

 ブルン!

 

 コツッ

 

 ブルン!

 

 

 ・・・。

 一発屋で空振が多いところも、変わってなかったか...。

 

 

 

「あの~。」

 

 いきなり話しかけられたのでそっちを向くと、玄山弟と國分が並んで立っていた。

 

 

「先輩って、エースなんですよね?」

 

「ああ、まあね。」

 

 

 

「あの!ちょっとだけでいいので、ピッチング見せてくれませんか?」

 

「はい?」

 

 

 

 

 まさか、自分が投げることになるとは。

 まあ、見てるだけっていうのも物足りなかったし、ちょうど良かったけど。

 

 キャッチャーに座る國分、そして玄山弟がその後ろにスタンバイ。

 

「じゃあ、いくよ。」

 

 振りかぶって、身体をひねり、、投げる!

 

 パァンン!

 ミットの、乾いた良い音がした。

 

「おお...!」

 

「構えたところにきたずら...。」

 

 

 『おお...!』って、なんか照れるな。

 

 ていうか、ちょっと気になってたけど國分の言ってる"ずら"ってなんなんだろう?

 後で聞いてみるか。

 

 返球されたので、もう一球。

 

 パァァン!

 またまた良い音だ。

 

 

 ずっと思ってはいたが、國分のキャッチングはすごくキレイというか、なめらかというか。

 

 投げていて、すごく気持ち良くなるタイプのキャッチャー。

 良いね。なんか、どんどん投げたくなってきた。

 

 

 そのままの調子で、十数球投げる。

 変化球も、國分は難なくきっちりと捕球したので、素直にすごいと思った。

 

 そして、アウトローいっぱいに決まるストレートを投げたところでお終いに。

 もう少し投げたかったな。

 ちょっと残念だ。

 

 

「先輩!ありがとうございました!」

 

「いやいや、こっちこそ、投げさせてもらえてよかったよ。」

「國分も。すごく、投げやすかったよ。」

 

「こちらこそ!すごく、捕りやすかったず...です。」

 

「そうそう。國分がたまに語尾につけるのは、何なの?」

 

 そう聞くと、突然慌てはじめる國分。

 

「ごっ、ご、ご、語尾!?な、何のことずら?」

 

「その語尾だよ。"ずら"って何?」

 

「いや~、これは~...。うう...助けて!文也くん!」

 

「ええっ!?ぼ、僕!?ちょ、ちょっと、、どっ、どうしよう。。」

 

 

 なんか、玄山弟まで巻き込んでバタバタし始めたな。

 

 

 そこに。

 

「おーい!そろそろいいか~?」

 

 主将から声がかかる。

 どうやら、一通り終わったようだ。

 

 

 少剛月と中山田の、打撃と内野守備。善と矢部の打撃。

 それらを終えて、残るはバッテリーだけとのことだ。

 

 中山田の実力をしっかり見てみたかったのだが、それは出来ず。

 

 まあ、一緒に練習すれば嫌でも見ることになるし、特に気にすることはないのだが。

 

 

 玄山弟と國分の二人は、洋介と道隆と、対戦するようだ。

 

 洋介と道隆は、打撃面で絶賛成長中だし、先輩らしいところを是非とも見せて欲しい。

 

 

 だが。

 果たして、どうなることやら。

 

 

 ふと、気付くと。

 

 俺の目の前に、玄山先輩が満面のドヤ顔をして立っていた。

 

「僕の弟、すごかっただろ?な?」

 

 

 ・・すごい圧だ。

 しかし、事実なので肯く。

 

「そうだよな~。エースは、文也に確定したってことでいいよな?」

 

 

 ・・何言ってるんだ。この人は。

 

「俺が、譲るとでも?」

 

「いやいや。冷静に考えて、だよ。なあ!?琉果!?」

 

 

「・・何言ってんだ、お前。」

 

 

 

 

「・・ごめんなさい。」

 

 

 

 

 まあ、弟への愛が甚だしいということは理解しましたよ、先輩。

 

 

 

 

 

 

 練習が終わった。

 今日は、一年生もきたし、いつもよりも盛り上がって練習ができた。

 

 明日は陸奥たちも来るだろうし、そうなれば18人か。

 

 多いな。

 

「いやいや、少ないだろ。」

 

「なんだよ友章。人の心を読んだみたいなこと言って。」

「というか、18人だぞ?多いだろ。」

 

「・・感覚が狂ってるんだろうけど、それはかなり少ない方だぞ。全国的に見て。」

 

「・・だよね。ハハ...。」

 

 

 

「それはそうと、一年生、皆けっこう期待できそうだな。」

 

「ああ。」

 

「諒が望んでたピッチャーが入ってくれたわけだけど、率直にどうよ?」

 

「まあ、嬉しいよ。一人でマウンドに上がり続けるっていうのも、正直キツイし。」

 

「ふ~ん。エースの座は、大丈夫そうか?」

 

「うーん、まあ、別にいいんじゃないか?俺、特にエースにこだわりあるわけじゃないし。」

 

「そうなのか?ふーん。」

 

「一応言っとくが、俺は一年に負けるつもりなんて全くない。」

 

「!・・そ。まあ、そう言うと思ったよ。」

 

「友章も、四番の座、奪われたりすんなよ。」

 

「当たり前だろ。」

 

「それならいいけど。」

 

「まあ、何はともあれ、これで、甲子園に一歩近づけたかな?」

 

「そうだな。最後は、俺たち自身の努力次第だけどな。」

 

「勝ちたいな、全試合。」

 

「もちろんだ。まずは、この春。」

 

「おう。俺たちは、経験も少ないし、とにかく試合をたくさんしたいな。」

 

「そのためにも、勝たないとな。」

 

「再来週頃から、大会も再開するし、頼むぞ、エース!」

 

「四番の働きにも、期待してるぞ。」

 

「じゃあ、」

 

 

 

「「また明日。」」

 




結果的に、こういう形になってしまいました...。
新入生たちの能力、全然明かしてないですね。ごめんなさい。
前書きにて大嘘をついてしまい、申し訳ない限りです。


こんなはずじゃなかったんですけどね。。
まあ、気にせずいきましょう。


よろしければ、玄山弟の能力とか、予想してみてください。


では。今話も読んでくださって、ありがとうございました!


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Episode.22

約一か月ぶりのこんにちは。
もう、月一投稿固定でいいですかね?

まあひとまずそれは置いといて。
春季地区大会決勝の模様をお送りします。


地区大決勝と主将

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

 

 そう言いながら、深々と礼をする。

 

 

 聞こえてくるのは、試合が進むにつれてだんだんと増えてきていた歓声と、拍手。

 

 

 

 

 

 春季大会の地区予選、決勝戦。

 

 勝利を重ねて勝ち進んだ俺たちは、七回を終えて3-1と二点ビハインドの状態。

 さらに――。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ...。」

 

 毎試合マウンドに立ち、投手陣の核となっていた俺は、疲労のピークを迎えていた。

 

 残念ながら、この地区大会までは一年生はベンチ入りできないため、俺が基本的にマウンドに立ち続けていた。

 

 

「おい、諒、大丈夫か?」

 

「ああ、なんとか、な...。」

 

「待ってろよ。逆転して、楽にしてやるからな。」

 

「期待してるぞ、友章...。」

 

 

 疲労困憊。

 

 この時の双葉は、まさにその語通りの状態だった。

 

 

 

「さあ、渡!先頭出ていこう!」

 

 主将の松宮の呼びかけに、頷いて応える渡。

 

 

 

 が、カウント1-1から、外のスライダーを引っ掛けてサードゴロに倒れる。

 

 

「くそっ、やっぱりスライダーか。」

「ああ。二回以降、キレをずっと維持してやがる。スタミナあるな。」

 

 

 マウンドに立つのは、自由ヶ丘高校エースの、氷川(ひかわ)

 右サイドハンドから、140キロを超えるストレート、それに迫るスピードの出ている高速スライダーが武器。

 タイミングの取りづらい、クセのあるフォームも相まって、ほしうら学院打線は沈黙させられていた。

 

 

 続く打者は、一番に入った歌間。

 初回にツーベースヒットを打って以降、完全に抑え込まれていた。

 

「(なんとかして僕が出ないと...!

 このままじゃ、頑張ってるリョウ君を見殺しにするようなもんだよ...!)」

 

 

 際どいボールにも何とか食らいつき、粘り続ける。

 

 そして――。

 

「ボール、フォア!」

 四球を勝ち取った。

 

 

「ナイス!ナイス!」

「いいぞ、道隆!」

 

 

 ベンチの声にガッツポーズで応え、次打者の東條に目をやる。

 

「(イッちゃん、あとは任せたよ!)」

 

「(おう、何とかしてやるよ!)」

 

 

 打席に入るや否や、バントの構えを見せる東條。

 バント、そして東條の足の両方を警戒してか、内野が全体的に前に出てくる。

 

 

 投手は、インローにスライダーを投じる。

 

 

 ここで東條がバットを引き、打ちにいく。

 意表を突いたバスターだ。

 

 

 だが。

 

 相手内野陣も読んでいたのか、いつの間にか後進している。

 

 

 東條が思いっきり叩きつけて打った打球は、センター方向へ。

 打球が高くはねる。

 セカンドが取りにいき、ショートはベースカバーに。

 

 ゲッツーか。

 

 誰もがそう思ったであろうその時。

 

 

 

 突如。

 打球がそれまでと全く違う方向に跳ねる。

 反応できないセカンド。

 ボールは勢いよく、外野へと転がっていく。

 

 

 歌間、激走。

 三塁に滑り込む。

 ワンアウト一、三塁である。

 

 

 

 

「悪い。俺のせいで。」

 

 

 タイムを取り、自由ヶ丘高校の内野陣がマウンドに集まる。

 ベンチからは伝令も出てきた。

 

「いやいや、キャプテン、あれは仕方ないよ。」

 

「そうそう。あんなの、相手がラッキーだっただけだって。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

「それよりも、二点リードでこのピンチってことの方が重要だから。」

 

「ああ。ベンチから、詳しい指示は出たか?」

 

「そうですね。三番の松宮が今日は一番当たってますからね。

 ゲッツー狙いに絞って、中間守備でいいのでは、と。」

 

「まあ、そうだろうな。お前の意見は?」

 

「俺はもちろん、打たせる気なんてないよ。」

 

「そうだな。三振が一番良いわけだし、頼むぞ、エース!」

 

 

 そして、輪が解ける。

 

 

 

 一方。久々にチャンスをつくったほしうら学院。

 

 

「外してきますかね。」

 

「どうだろうな...。」

 

「こっちのサインは?」

 

「ん?ああ。

 

 

 

 とりあえず、一点を取りにいくよ。」

 

 

 

 ワンアウト一、三塁。

 打席には、キャプテンの松宮。

 

 

 その初球。

 

 スクイズに成功する。

 一点を返した。

 

 

 ツーアウト二塁となって、四番沢良宜。

 初球のストレートをレフトにはじき返し、ランナー一、三塁に。

 

 

 さらに沢良宜、二盗を決め、二、三塁とする。

 

 

 ここで、バッテリーは満塁策を選択。

 

 五番梨田を歩かせる。これで、ツーアウトフルベース。

 

 

 打席に入るのは、六番小野原。

 

 この大会、三回戦以外の試合では、常に双葉とバッテリーを組んできた。

 辛抱強く投げ続けてきた、その努力にしっかりと報いたい。

 

 他ならぬ、自分が。双葉の、女房役として。

 

 

 強い想いをバットに込め。

 

 アウトコースの直球。思いっきり打ち返す。

 

 

 逆らわずきれいに捉えられた打球は、ライト前――。

 

 

 

 

 パシッ!ザザーァッ!

 

 

 抜けなかった。

 

 

 セカンドを守る、自由ヶ丘高校キャプテンの意地か。

 

 先程のエラーを帳消しにする、ファインプレー。

 

 

 

 結局、ほしうら学院高校は、この回一点止まり。

 

 未だ、負けている展開。攻撃は、残り一回。

 

 

 

「おいおい!何辛気臭い顔してんの?この回も抑えて、逆転するんだろ?」

 

 

 皆、ハッとして声の主を見る。

 

「双葉。。」

 

「・・俺、お前らの熱意受け取ったよ。だからもう、絶対に失点しねえ!」

 

「リョウ君。。」

 

「この試合、ぜっったい、勝つぞ!!!」

 

「「「応!!!」」」

 

 

 

 八回ウラ。

 

 先頭は、二番源。四球で空振り三振。

 続く三番波多野も、四球で空振り三振。

 そして四番江上を、五球目で見逃し三振に切って取る。

 

 ここにきて、双葉の圧巻のピッチング。

 

 

 そして。

 運命の、最終回。ほしうら学院、最後の攻撃。

 

 先頭は、七番の玄山。

 

 彼は、この大会中に一度、マウンドに上がっていた。

 だが結果は、五回四失点。

 

 不本意な投球だった。

 久しぶりの公式戦のマウンドだったとはいえ。

 

 迷惑をかけたと思った。チームの、エースに。

 

 

 だから。

 その分、打撃で貢献しないといけないんだ、と、そう思った。

 

 

 

 

「よっしゃあ!ナイスバッティン!」

 

 玄山先輩がセンター前ヒットで出塁し、続いて打席に入るのは俺。

 

 

 今日はあまり、チームに良いリズムを持ってこれなかった。

 疲労はもちろんある。

 

 だが、その前に、自分はこのチームのエースであり。

 

 俺が簡単に弱音を吐くなんて、そんなことは許されないと思っていた。

 

 

 だけど、無理だった。

 正直、負けてもいいかな、なんてふと思ってしまった。

 

 

 でも。

 皆から、勇気と闘志をもらった。

 

 自分は一人ではないと、強く感じた。

 

 

 このチームで。

 

 このチームで、勝ち続けたい。

 

 

 そう、改めて思った。

 

 

 

 しっかりと送りバントを決めて、ワンアウト二塁として、次の打者たちに託す。

 

 

 打席に入るは、九番の渡。

 

 守備で、勝利に貢献してきた自負はある。

 だが、打撃において、自分が貢献できたと思える試合はここまで一度もない。

 

 だからこそ。

 この試合、この場面。

 

 打って貢献したい。

 

 

 そう思っていたが、二球で追い込まれてしまう。

 

 

 三、四球目は食らいついて粘り、五球目はボール球を見逃す。

 

 

 そして、六球目。

 

 投手氷川の投じたスライダーが。

 

 

 すっぽ抜け、渡の腰に当たる。

 

 

 デッドボール。

 ワンアウト一、二塁と、チャンスが拡大。

 

 

 思わぬ形ではあるが、とにかく逆転のチャンス。

 

 

 対する自由ヶ丘。このピンチに、今日三回目のタイムを取る。

 

 次打者は、一番歌間。

 初回にツーベースヒットを打って、先制のホームを踏んでいる。

 だがそれ以降は、ヒットを許してはいない。

 ただ、前の回に粘られて四球を選ばれている。

 注意は、しっかりとしておかなければならない打者である。

 

 

 とはいえ、もう最終回。

 

 ここまできたら、あとはもうエースを信じるしかない。

 

 

 再開後の初球。

 先ほど抜けてしまったスライダーを完璧なコースに決め、空振りを奪う。

 

 二球目。

 ストレートが高めに外れる。カウント1ー1となる。

 

 三球目。

 スライダー。歌間の打球はファールとなって、追い込んだ。

 

 四球目。

 ストレート。またも歌間はファール。

 

 五球目。

 ストレート。釣り玉気味にインハイに外し、カウントは2-2。

 

 

 次で決まる。誰もがそう思った。

 

 

 六球目。

 選択したのは、ストレート。

 インコース、低め。完璧なボール。

 

 

 カキッッ

 

 

 歌間は手を出したが、打球は詰まって、弱弱しく飛ぶ。

 

 

 セカンド、ライト、センター。三人が、打球を追う。

 

 

 落ちるのか、捕るのか。

 

 際どいラインで、ランナー二人も戸惑っている。

 

 

 

 そして、

 

 

 パシッ

 と、グラブが、ボールを捕った音がする。

 

 

 

 と、同時に。

 

 

 

 ドゴォッ

 と、人同士が、交錯した音もした。

 

 

「っっ!!」

 

 グラウンド内、両ベンチ、そして観客席に、動揺が走る。

 

 

 慌てて駆け寄る自由ヶ丘の選手たち、そして監督。

 

 

 どうやら、セカンドとライトが接触してしまったようだった。

 

 当たり前ながら、試合は一時中断である。

 

 

 

 

「本当に、大丈夫なんだね?」

 

「ええ、この通りですよ。ちゃんと診てもらって、処置もしてもらいましたし、いいでしょう?」

 

「・・無理をしているようだったら、即刻交代してもらうからね。」

 

「はい!」

 

 

 そのように言葉を交わし、ベンチから自由ヶ丘高校キャプテンが飛び出していく。

 

 

 その元気な姿に、観客席からは拍手がおこる。

 

 

 

 ただの軽い接触プレーだったようで、ライトの選手はほぼ無傷。

 

 セカンドの彼も、少し怪しげではあるが、元気なようだ。

 

 

 歌間の打球。

 

 セカンドのグラブにしっかりと収まっていたため、アウトと判定。

 

 

 ツーアウト一、二塁。打者は二番東條という場面からの再開となる。

 

 

 

 再開後の初球だった。

 

 東條の叩きつけた打球が、一二塁間に転がる。

 

 ファーストが追いかけて、捕球。即、一塁を見る。

 

 

 が、その時、彼の動きが止まった。

 

 

 彼の目に映っていたのは、一塁ベース後方で倒れ込む、主将の姿だった。

 

 

 

 ハッと気付き、慌てて一塁に目をやると、投手の氷川が待つ横を、東條が既に駆け抜けていた。

 

 

 

「だから、つまずいてしまっただけですって。全然大丈夫ですから。」

 

「・・悪いけど、信じられないね。どうしても、接触プレーの影響だと思われてしまうんだけど。」

 

「ですから、大丈夫って本人が言っているんですから、別に問題はないでしょう?」

 

「それでもね...」

 

「いいじゃないですか!あとワンアウトで終わるんですよ?」

 

「だから、その一つのアウトを取る過程でだね...」

 

「とにかく、自分は本当に大丈夫ですから!早く再開しないと...!」

 

「うーん。。」

 

 

 審判に対し、強く言いきる。

 おそらく、怪我の箇所は痛んでいるはずだ。

 

 それでも、グラウンドに立ち続け、プレーを続けようという姿勢を見せている。

 

 それほどまでに、彼のこの試合に懸ける想いが強いということであろう。

 

 

 

 最終的に審判側が折れて、試合は再度再開されることに。

 

 

 

 

 ツーアウトフルベース。

 打席には、キャプテンの松宮先輩。

 

 さっきからずっとハプニング続きで、試合が止められている。

 

 そんな中でも、自分のチームメイトは皆、全く集中を切らしていない。

 

 

 頼もしい。

 

 

「キャプテン!一本、お願いします!」

 

 俺のこの想いは、果たして届いているだろうか。

 

 

 

 打席に入る。

 

 どうしてだろうか。

 ベンチの皆の声が、やけに強く脳に響く。

 

 力が、わいてくる。

 

 

 なんだか、打てる気しかしない。

 

 

 初球。インコースにストレート。

 完璧なボールで、手が出せない。ストライク。

 

 だが、不思議と心は落ち着いている。

 

 

 二球目。タイミングを外すための、スローカーブ。

 この試合、ほとんど投げていないボール。自信が無いのだろうか。

 外れて、ボールになる。

 

 

 三球目。インハイへのストレートを見逃す。ボールだ。

 手を出してほしかったのかな、俺は、そんなことまで考えている。

 

 1-2になって、バッティングカウントだ。

 

 

 四球目。アウトロー、スライダー。

 丁寧に投げられていて、ファールにするのが精いっぱい。

 

 

 次で、絶対に勝負に来る。

 そう確信した。

 

 五球目。

 来たのはアウトローのボール。ストレートか。

 

 ジャストミートして、逆らわずに打ち返す。

 

 

 打球は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・最後、残念だったな。」

 

 帰りのバス。隣に座った大也が、そう言った。

 

 

「いや。完全に実力不足だよ。

 惜しいように見えたのは、あっちのセカンドがケガしてたからだし。

 普通の状態だったら、ただの平凡なセカンドゴロだったと思う。すまんな。打てなくて。」

 

「謝る必要は、どこにもないぞ。」

 

「必要なくても、謝りたい気分なんだからそうさせてくれ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

 

 

 最後の打球。

 

 抜けたと思ったそれは。

 

 

 懸命に走って追いついたセカンドに捕球され。

 

 ファーストランナーが二塁でフォースアウト。

 

 

 こうして、試合は終わった。

 

 

 

「リベンジ、したいな。」

 

「したい、じゃないだろ?()()んだよ。」

 

「そうだな。」

 

「春季大会、本番はこれからだな。」

 

「ああ。初戦の先発はもちろん、我らが誇る天才一年生投手、玄山文也だよな?」

 

「・・どう返したら正解なのかがわからん。。」

 

 

 

 そう。春季大会は、この試合で終わりではない。

 

 これまでは、あくまで地区予選。

 いうなれば、前哨戦。

 

 ここからが、本当の戦いであり。

 最終目標である夏の甲子園大会への弾みをつけるため、勝たなければならないのだ。

 

 

 そのためには。

 

 落ち込んでいる暇など、ない。

 

 

 ただひたすらに、前を向いて。

 

 進んでいくしか、道はないのだから。

 




なんかダラダラと長くてすみません。
もっとコンパクトにキレイに書けるように腕を上げたいですね。

では、読んで下さって、ありがとうございました!


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Episode.23

約半月くらい空いたでしょうか。こんばんは。
と、いうことで、今話は県春季大会初戦の模様をお送りします。
どうぞ。


因縁と対左対策

 

「さて、初戦の相手についてだが――、」

 

 来たるべき春季大会の初戦に向けてのミーティング。

 松宮先輩が、いつものように皆の前に立って話す。

 

 

「俺たちは、一回戦はなく二回戦から戦うことになっている。」

「そして、相手になると予想されるのが、二、三年はもちろん知っている、干支高校だ。」

 

 

 その瞬間、俺たちの間に緊張が走った。

 

 

 干支高校。

 去年の夏、再試合の末に敗北を喫した因縁の相手。

 

 このタイミングで再戦することになるとは。

 

 絶対に、リベンジしたい。

 

 

 そう思っているのは俺だけじゃないらしく、皆もやる気に満ち溢れているように思える。

 

 

 

 続けて松宮先輩が話す。

 

「去年、俺たちと戦ったメンバーは全員三年生だったからいなくなってる。

 だが、強豪であるのに変わりはない。」

「二年生エースながら打順では三番も務める、このチームの柱が、犬崎だ。」

 

「犬崎?それって去年もいたような。。」

 

「ああ。去年、二番手投手でアンダースローの犬崎がいたな。

 こいつは、その従兄弟にあたるそうだ。といっても、この犬崎は、左の本格派だ。」

「球種は、SFF、スライダー、チェンジアップ。」

 

「それって...!」

 

「そうだ。去年のエース、子島と同じようなタイプのピッチャーってわけだ。」

 

 

 子島に、極似した投手。

 

 

「どうだ?リベンジし甲斐が、あると思わないか?」

 

 

 そう言いながら、不敵な笑みを浮かべる松宮先輩。

 

 

「・・干支高校。俺たちが、苦杯をなめさせられた相手。

 確かに怖い存在だ。もしかして、返り討ちにされるかもしれない。」

「でも、俺たちはこれまで、努力を重ねてきた。地区大会でも、準優勝できた。」

 

 

 

「勝てる!俺らのいつもの野球をやれば、絶対にな。」

 

 

「・・そうだよな。」

 

「そうだ!いつまでも、弱い俺たちってわけじゃない!」

 

「リベンジ、絶対やってやろうぜ!」

 

 

「「オオーー!!!」」

 

 

 

 

 

「それで?」

 

「うん?」

 

「お前は、何を危惧してそんな顔してるんだ?」

 

「あ?分かった?」

 

「まあ、これだけ一緒にいればな。」

 

 

 そう、友章に切り出され、俺は、自分の胸の中の恐れを打ち明けた。

 

 

「左に弱い?」

 

「そう。なんとなく、不安なんだよ。」

 

「・・まあ、思い当たる節がないと言えば嘘になるが。」

 

「だろ?あ~、大丈夫かな?」

 

「なんだ、お前。他人事みたいに。」

 

「だって俺、ピッチャーだし?打つのは領域外っていうか?」

 

「無責任な奴だな。文也の奴、打撃力もあるみたいだぞ。」

 

「あっ、そうなの?それなら、先発は文也で決まりだな。」

 

「いやいや。初戦だぞ?普通ならエースが登板だろ。」

 

「初戦だからこそ、確実に勝てる布陣じゃないと。

 って、それはまあ別にいいんだよ。それよりも、左投手の対策をやらないと。」

 

「明日、キャプテンに聞いてみるか。」

 

「そうするか。」

 

 

 かくして。

 ほしうら学院の、左投手対策の特練が始まることになった。

 

 

 といっても、どうしたらいいか分からない。

 

 左投手がいるなら話は別なのだが、なにせ自分はサイドスロー。

 これではあまり意味がない。

 

 

 

 そこで。

 

 

「なんで俺が...。」

 

「そりゃ、チームの勝利のために決まってんだろ。」

 

 

 投手役として、友章がバッティングピッチャーをすることになった。

 

 

 

 さすが、元投手。

 文句を言う必要なんて、全くないんじゃないだろうかと思える。

 

 肩も、だいぶ治っているようだ。

 

 

 ただ、変化球対策は流石に無理だし、犬崎くらいの球速もでているわけではない。

 

 

 まあ、それは仕方ない。

 

 試合本番で、しっかり合わせていくしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「・・なんですか?玄山先輩?」

 

「いや~、なにも~。」

 

「そうですか。それならいいんですけど。」

 

 

 

 

「双葉。」

 

「何ですか。」

 

「エース陥落、ドンマイ!まあ、これからは二番手投手として頑張ってね!」

 

 

 

 ・・そんなことだろうと思ったよ。

 

 それにしても、本当に玄山先輩は弟が絡むと面倒くさい人間になるな。

 いつも通りの先輩なら、わざわざこんなことは言わないと思うんだが。

 

 いや、むしろこっちが平常で、今までを取り繕っていたのか?

 

 

 なんて。

 こんなことを考える試合前。

 

 

 昨日から春季大会本選が始まった。

 

 そして、俺たちの相手は予想通り干支高校に決まり。

 俺たちほしうら学院の初戦も、間近に迫っているところだ。

 

 

 両チームのスターティングオーダーがコチラ。

 

  6 蛇川  1番  玄山大 7

  5 龍嶋  2番  渡   4

  1 犬崎  3番  松宮  5

  7 馬野  4番  沢良宜 3

  2 牛津  5番  小野原 2

  3 虎宮  6番  梨田  9

  9 猿井  7番  歌間  6

  8 鵜飼  8番  東條  8

  4 兎美  9番  玄山文 1

 

 

 予想通り、相手の先発は犬崎だった。

 

 

 逆にこちらの先発は、一年生で、初先発となる玄山文也。

 

 相手の虚をつけただろうか。

 

 

 日程や予想対戦相手等、色々な点を加味した結果、今日の先発は文也に決まった。

 

 是非とも、自身の特徴をフルに生かして、チームを勝利に導いてほしい。

 

 

 

 

 干支高校監督、嘉猫(かねこ)

 

 

 昨年夏の三回戦。ほしうら学院との試合。

 

 それは、彼の記憶にも強く刻まれていた。

 

 

 特に、一年生ながら四イニングを完璧に抑えた、双葉諒。

 雨の中でも、丁寧にコーナーをつき、必死に投げていた。

 

 その姿は、まさにエース。その心意気は、まさに最終学年のように見受けられた。

 

 

 対戦が決まった時、正直やらかした、と思った。

 

 

 

 だが、先発投手は、その少年ではない。

 

 嫌な予感が自身の背中を駆けるのを、嘉猫は感じていた。

 

 

 

 そして、試合が始まる。

 先攻がほしうら学院。

 

 早速、一番にヒットを打たれ、二番が送りバントを決めて一死二塁。

 そして、三、四番に連打を浴び、味方失策も絡んだ結果、早くも二失点。

 

 

 犬崎、踏ん張ってくれ!

 

 二年生で、エース。三番も打つ。

 最近の試合は、ずっとあいつに頼りすぎている気がしてならない。

 

 だが、あいつは、どんなに苦しくてもそういう表情を見せない。

 

 

 このチームは、確実に強くなる。

 彼は、そう感じていた。

 

 

 その後のピンチはなんとか乗り切って、一回のウラ。

 

 かわってマウンドにあがるのは、背番号18をつけた、一年生投手。

 

 それは、最近高校生になったばかりの選手なわけであり。

 もちろん、彼の情報など持っているはずがない。

 

 とにかく、投球練習を見なければ。

 

 

 

 瞬間。

 

 嘉猫は、自分の予感があながち間違っていなかったことを悟った。

 

 

 なぜなら、そのマウンドには。

 

 

 

 

 左の、下手投げの投手がいたからである。

 

 

 俺、確実にやらかしたな。

 

 そう思った。

 




相手チームの監督の思考を入れたのは、なんとなくこれが一番個人的にしっくり来たからです。
こんなことを試合中に考える監督はどうなのかとも思いましたが、まあその辺りはご容赦を。

えー、ここまで引き延ばしてきた玄山文也くんの投球フォームは左下手投げでしたね。
予想は、当たっていたでしょうか?
意外性をもたらせていれば筆者的には満足なのですが。

では、今回はこのあたりで。
今話も読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.24

…一ヶ月経つのって、早いですね。
気付いたら四月が終わってました。
せめて月一投稿くらいは守りたかったんですけど、無理でした...。

待っていた方、誠に申し訳ありません。
そして、話の内容を忘れてしまった方、どうぞ前の話へと飛んでいただければ、と思います。

では、Epi.24、どうぞ。

P.S.パワプロ2018がやりたくてたまらない今日この頃。(どーでもいい話すみません)



兄弟愛と深層心理

 

 

 カキィィンン!!

 

 球場内に、快音が響いた。

 

 

 

「おい、大也!今日は、やけに調子良いな!」

 

「まあな。なんといっても、弟の初登板戦だから。負けるわけにはいかないんでね。」

 

「それにしても、四打数四安打、三得点六打点は、調子良すぎだろ!」

「ホームランも、初めて打ったんじゃないか?」

 

 

 コールド勝ちを決定づける、ダメ押しのツーランホームランを打った玄山先輩が、ベンチ内で祝福を受ける。

 

 

 玄山先輩は、今日は絶好調で、一打席目は先頭打者としてヒットを放ち、その後生還。

 二打席目は、二死三塁という場面で、センター前にタイムリーヒット。

 三打席目では、一死満塁から走者一掃のツーベースヒット。

 そして、四打席目。一死一塁から、ツーランホームラン。

 

 これは本当に、覚醒したと言っても過言ではない。

 

「まあ、僕が本気を出せば、このくらいは造作もないことだ、ということだよ。」

 

 

 おい。今この人、本気を出せば、とか言わなかったか?

 最終学年なんだし、毎試合このくらいの力、出してくれませんかね?

 

 

「と、いうことで、文也。この回もピシッと抑えて、コールド勝ちだ!」

 

「うん、分かったよ!お兄ちゃん!」

 

 

 …本当に、兄弟仲が良いんだな。

 

 玄山先輩の大活躍により、9-0とリードして七回ウラを迎える。

 この回を二点以内に抑えれば、ほしうら学院の勝利となる。

 

 

 油断してはいけないとは思うが、正直、勝つ確信がある。

 

 

 なぜなら、

 

『七回ウラ。干支高校の攻撃は、一番、ショート、蛇川君。』

 

「蛇川ー!まずは一本!頼む!!」

 

 

 今日の文也は、未だ干支高校にヒットを許していないから。

 

 

 

 

 彼は、我々の想像を遥かに超えていた。

 

 左の、アンダースロー。

 その珍しさに、一巡目はどうしても苦戦を強いられるだろう、とは思っていた。

 

 

 そして、それは的中する。

 

 全く慣れていないところからボールが放られてくる。

 これは、とてつもない脅威であった。

 

 ストレートですら、掠らせるので精一杯。

 内外に上手く投げ分けられ、ランナーを出すことができない。

 

 

 だが、しかし。

 マウンド上の彼は、それだけではとどまらなかった。

 

 二巡目。だんだんと慣れ始めてきたタイミングで。

 これまでは見せていなかった、チェンジアップを織り交ぜた投球。

 

 その前に、わが干支高校は、凡退の山を築く。

 

 

 そして、今。

 コールド負けの危機に瀕している。

 

 打席に立つのは、三巡目の上位打線。

 俺には、選手たちを信じることしかできない。

 

 

 

 だったのだが。

 

 

 ガギッ

 

『最後はインコースのストレートを詰まらせました!

 セカンドの渡、落ち着いて捕って、一塁転送!アウト!ゲームセットです!

 一年生投手玄山文也、初先発ながら、七回を完璧に抑えて完封勝利を収めました!』

 

 

 

「文也!ナイスピッチング!」

 

「あっ、双葉先輩!ありがとうございます!」

 

「いや~、すごかったな。九回までいってたら完全試合あったかもな。」

 

「いえいえ!そんなことは...!」

 

「謙遜するなって。次も、頑張ってな。」

 

「はい!」

 

 

 

 

「双葉~。」

 

「何ですか、大也先輩。」

 

「次の試合結果によっては、…だな?」

 

「…。まあ、頑張りますよ。」

 

「…、そ。ま、僕も好調維持できるようにするわ。」

 

「はい。お互い頑張らないと、ですね。」

 

 

 

「(あいつ、ポーカーフェイスヘタクソかよ...笑。)」

 

 

 

 

「…おい、諒。」

 

「なんだよ、友章。」

 

「…。やっぱり何でもない。次の試合、期待してるから。」

 

「…おう。」

 

 

 

「(気にしてない風にしてた割には、大分今回の文也の投球に感化されたのか...?)」

「(次の試合、果たしてどうなるんだろうな...笑。)」

 

 

 

 

 俺はアイツのことを、甘く見ていたのかもしれない。

 初登板で、七回を投げて無安打無失点。

 

 左のアンダースローで、珍しいタイプに相手は戸惑うだろうとは思っていたが。

 まさか、ここまでとは。

 

 

 そして、分からないことが一つある。

 チームが勝ったのに、俺の心はなんだか晴れない。

 

 

 いや、違う。理由は分かってる。

 

 

 俺は、エースの座に拘る気はない、と友章に言った。

 

 でもそれは、真っ赤なウソだった。

 

 

 俺は、エースとして、このチームを勝利に導きたいんだ。

 

 自分の本当の気持ち。

 気付かせてくれた。いや、気付かされた。

 

 

 このままじゃ駄目だ。

 こんな中途半端な気持ちでは、自分の望みをかなえることなど、できやしない。

 

 

 だから、俺は――。

 

 

* * * * * * *

 

 今日は、春季大会三回戦。相手は、方角宮高校。

 

 三番でエースの南里、一番ファーストの吾妻、四番サードの木栖川、五番センターの喜多。

 この四人を中心とした、走攻守のバランスがかなり取れたチーム。

 

 特にエースの南里は、身長190cmオーバーながら、その投球フォームは右のアンダースロー。

 力強いストレートに、緩急差のあるスローカーブにチェンジアップ。

 そして最大の武器が、打者には少し浮き上がってくるようにも見えるという高速スライダー。

 

 相手エースは、文也と同じ、アンダースローの投手。

 下手投げには耐性がある分、今日は俺が先発することになっている。

 元々その予定で、前回の試合は文也が先発したというわけだ。

 

 またこの大会は、もう休養日がないため、残りの三試合は連戦になる。

 それを考え、今日のオーダーはいつもと違っている。

 

 一番 9 梨田

 二番 8 東條

 三番 5 松宮

 四番 3 沢良宜

 五番 2 小野原

 六番 6 歌間

 七番 4 渡

 八番 1 双葉

 九番 7 陸奥

 

 リリーフの準備のため、大也先輩がベンチスタート。

 代わりのスタメンは、練習の時から安定したプレイをみせている陸奥だ。

 

 

 

 と、試合が始まろうとしているのだが。

 

「「ええっ!?怪我...!?」」

 

「はい。そうみたいです。それも今日の朝だそうで...。」

 

「「……。」」

 

 どうやら、相手エースの南里が今朝怪我をしたそう。

 結果、今日の相手先発はいつもはファーストの吾妻になっている。

 

 

 …なんだか最近、相手チームの怪我、多くないか?

 この前の地区大会の決勝もそうだし...。

 

 皆もそれを気にしているのか、少し居心地の悪さを感じているように見える。

 

 

 そうこうしているうちに、試合が始まった。

 俺たちほしうら学院高校は、後攻なので先に守備に就く。

 

 打席に入るは、いつもは五番を打つ、センターの喜多。右打ちだ。

 俺は、アウトローギリギリに入ってくるスライダー、インハイにズバッと決まるストレート、タイミングを完全に外すチェンジアップで空振り三振に取る。

 

 さらに、二番打者(右)には全力ストレートを二球続けて詰まらせて、ピッチャーフライ。

 三番打者(左)には、インローのストレートでワンストライク、そこから少し曲がるシュートでファールを打たせ、最後はアウトローへのストレートをビシッと決めて見逃し三振。

 

 まったく隙を見せず、八球で一回の表を0点に抑える。

 

 俺がベンチに座って休んでいると、皆が円陣を組んで話し始めた。

 所々聞こえる声は、「むしろ失礼」とか「いつも通り全力」とかだった。

 

 

* * * * * * *

 

「諒、今日はありがとな。」

 

「なんのことだよ友章。大量得点はお前らの力だろう?」

 

「いや...まあ、いいや。とにかく、助かったよ。」

 

「なんじゃそら。」

 

 そう言いながら笑う諒は、どこか安心したような表情をしている。

 

 

 七回コールド、9-2。

 最終的に、圧勝という形になった。

 

 相手チームの主力の、相次ぐ怪我。

 気にしないことなど、できるはずもなかった。

 

 

 でも、こいつだけは違った。

 

 一回の表、こいつのピッチングを見て、俺たちは何を考えていたんだと思った。

 遠慮することは、相手に対してはむしろ、失礼なことだと気付いた。

 

 諒のピッチングに背中を押された一回の裏。

 俺たちは、相手投手を打ちに打ち、打者12人の猛攻。一挙に七点を奪う。

 

 そこから試合は、終始俺たちのペースで進んだ。

 

 打線は、二、五回に一点ずつを追加。

 

 諒は五回を投げて、許したヒットはポテンヒット一本のみ。

 毎回の八奪三振。素晴らしいピッチングだったと思う。

 

 前の文也の完璧なピッチングを見て以降、どこかが変わった気がする。

 

 ちなみに、六、七回は予定通り大也先輩が投げた。

 六回はうまく三者凡退に抑えたものの、七回は追いすがる相手打線から二点を奪われた。

 しかし、最後の一死一、三塁のピンチをセカンドゴロゲッツーでシャットアウト。

 

 こうして、俺たちほしうら学院高校は、春季大会の準決勝へと駒を進めたのだった。

 




あまりにも久々で、どういう感じで文を書いていたのか、作者自身も忘れていたのは内緒です。
過去話を自分で読み返しつつ、ちゃんと書いていきたいと思います。

多分、今月中にもう一話投稿しますので、よろしくお願いします。

では、ここまで読んでくださって、ありがとうございました!


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Episode.25

結局、五月中の投稿はできなかったという...。
待っていた方には、申し訳ない気持ちでいっぱいです。すみません。

それと後書きの方に、結構重要なことを記載しています。
悩みましたが、そういうことに決めましたので、どうかご容赦を。

では、春季大会の準決勝の方、どうぞ。


最強打線と躍進

 

 春季大会準決勝の相手が、打多田(ダダダ)高校に決まった。

 

 去年の夏、二回戦で対戦し、六回コールドで勝ったチーム。

 去年の打ちまくる打線は変わっていないが、以前と比べて大きく伸びた部分がある。

 

 それは、投手力。

 主な要因は、エースの成長である。

 

 去年二年生エースだった丹川も、今年から三年生。

 以前はスローカーブとパームの二つの変化球でやりくりしていたが、新たに覚えたシュートで、相手打者の腰を引かせる投球ができるように。

 

 また、去年から残ったレギュラーメンバーが四人いる打線の強さは、もちろん健在だ。

 エース丹川は、打順の方も六番から三番に上がり、去年三番だった光石は一番に、八番を打っていた盛矢は二番、そして五番を打っていた権田は四番に座る。

 彼らは、去年一年生ながらセカンドに入った渡に、散散にしてやられた。

 去年の悔しさを胸に刻み、ここまで成長してきている。

 

 

 一番リベンジに燃えているであろう相手が、パワーアップして帰ってきた。

 苦戦が予想される。

 

 でも、負けるわけにはいかない。

 今日も勝つんだ。絶対に。

 

 両チームのスターティングオーダー

 先攻:ほしうら   後攻:ダダダ

 7 左 玄山大 1番 8 左 光石

 4 右 渡   2番 4 右 盛矢

 5 右 松宮  3番 1 左 丹川

 3 左 沢良宜 4番 9 左 権田

 9 左 梨田  5番 7 右 樋田

 2 右 小野原 6番 3 右 大河内

 6 右 歌間  7番 2 右 山口

 1 両 双葉  8番 5 右 松尾

 8 左 東條  9番 6 右 城

 

 

 一回の表、大也先輩からの打順。

 前の試合での好調を維持し、外角のボールをうまく流し打ってレフト前ヒット。

 二番の渡が送りバントを決めて、ワンナウト二塁となる。

 ここで打席には、チャンスに強い松宮先輩。

 

 しかし、ギアをあげた相手エース丹川のパームで空振り三振。

 そして、続く友章も緩急差の前にストレートを詰まらされてサードゴロ。

 

 一方変わって一回の裏。

 俺は、先頭打者は抑えたものの、二番の盛矢に粘られて死球をあたえてしまう。

 更に、牽制を入れたものの俊足を生かされて盗塁される。

 

 ワンナウト二塁となり、打席にはエースで三番も打つ丹川。

 ストレートで詰まらせてセカンドゴロで打ち取ったが、ランナーは進塁。

 ツーアウト三塁で、相手打者は四番の権田。

 初球はスライダーで外れてボール。

 二球目と三球目はストレートでファール。カウント1-2と追い込む。

 四球目、決めにいったチェンジアップはカットされる。

 五球目は高めにストレートを外し、カウントは2-2。

 六球目、アウトローへのストレート。しかし、これはカット。

 七球目は同じようなコースへのチェンジアップ。これもカット。

 八球目、インコースぎりぎり、胸元へのシュート。だが、外れてボール。

 九球目。打者の胸元――から、ストライクゾーンに入ってくるスライダー。

バッターに手を出させない、完璧なボールで、見逃し三振。俺は、小さくガッツポーズ。

 

 

 その後。

 ランナーは何度か出るものの、どちらも得点が奪えず。

 

 両チームともに、打者三巡目できりよく一番から始まるという勝負の六回。

 先攻のほしうら学院は、一番の大也先輩がライトフライに倒れると、二番の渡は見逃し三振、三番の松宮先輩はサードゴロで、三者凡退。

 

 後攻のダダダ高校、先頭の光石にヒットを打たれ、盛矢は送りバントでワンナウト二塁。

 打席には、今日はセカンドゴロとショートライナーに抑えている三番の丹川。

 初球、インコースへのシュートでファール。

 二球目は、インハイへのストレート。外れてボール。

 三球目、アウトローのストレート。

 しかしこれを、うまく流し打たれてしまい、レフト前ヒットでランナーは一、三塁に。

 

 そして、四番の権田に低めのスライダーをうまくすくい上げられ、センターへの犠牲フライで一点を失う。

 続く五番の樋田は、なんとかチェンジアップでセカンドゴロに打ち取る。

 

 が、この六回に、重い先制点を与える結果となってしまった。

 

 反撃したい七回表。

 ツーアウトから小野原先輩がヒット、道隆が四球を選んで一、二塁とする。

 しかし、俺がショートゴロに倒れてあえなく二者残塁。

 

 七回裏、先頭打者にセンター前ヒットを浴びて、次打者の送りバントでまたもワンナウト二塁とされる。

 ここで代打が告げられ、それにもライト前ヒットを浴びる。

 前の回に続いてのワンナウト一、三塁。

 

 そして、打席の九番打者への初球だった。

 チェンジアップが抜け、絶好球になってしまう。

 

 やばい、と思って三塁線方向への打球を見送ると、松宮先輩がダイビングキャッチし、サードベースをそのままタッチ。

 間一髪、ファインプレーに救われ、追加点は阻止する。

 

 

「すみません、先輩。ありがとうございました。」

 

「おう。…なあ、双葉。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺たちはそんなに頼りないか?」

 

「え?」

 

「今日のお前は、何かどこか気負いがあるように見えるんだよ。」

 

「そう、でしょうか。」

 

「いや、俺の気のせいならいいんだよ。

 …ただな、双葉。気負って投げても、良い結果はついてこないんじゃないか?」

 

「…。」

 

「って、援護点もあげられてないから、偉いこと言えないんだけどな笑。」

 

 最後のプレーに助けられ、松宮先輩に感謝を伝えに行くと、先輩はこんなことを言ってくれた。

 

 そして、八回表。

 先頭の伊月が内野安打で出塁し、盗塁。

 大也先輩がセカンドゴロで進塁させて、洋介が四球を選ぶ。

 ワンナウト一、三塁で、打席に入るのは松宮先輩。

 

 初球の、パームボール。

 

 一閃。

 

 完璧に捉えた当たりは、ライトフェンス直撃の二点タイムリーツーベースヒット。

 

 更に、友章もレフト前ヒットで続き、ワンナウト一、三塁のチャンスが継続。

 

 しかし、五番の朔良、初球のスローカーブを打つもピッチャーライナー。

 飛び出してしまったランナーが刺されて、ダブルプレーとなり、チェンジ。

 

 

 勝ち越したが、その後のチャンスが潰れた。

 普通ならキツイが、俺の心情は違っていた。

 

 先程の松宮先輩との会話。

 

 そのおかげで俺は、気持ちをリセットできた。

 

 ただ、自分のベストを尽くす。

 俺が考えるのは、これだけでいい。そう感じた。

 

 

 

 

 

 カキン、と快音が響くも、打球はセンター正面。

 東條伊月がしっかりとつかみ、ゲームセット。

 

 逆転してもらった後。

 八、九回を三者凡退に抑えたエース双葉は、その打球の行方を見て胸をなでおろす。

 

 試合は、2-1でほしうら学院高校の勝ちとなった。

 

 これで、大会の決勝戦へと駒を進めたことになる。

 




決勝に進出することになったわけですが。
ここで、前書きでも言っていた「結構重要なこと」について。

次の春季大会決勝戦を終えた後、この小説を一旦休載することにしました。

思っていたよりも筆が進まず、ここまでだらだらと続けてきましたが、この度休載させていただき、再開後は今よりもっとスピーディに、しっかりと進めていけるようにしたいと思っています。

また、個人的な話にはなりますが、他の連載作品の執筆に追われているのも一つあります。
そちらが一段落ついて、こちらのストックが多く出来た時、再開することになります。

次話の決勝戦については、出来るだけ早く投稿しようと思っております。

では、今話も読んでいただき、ありがとうございました!


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Episode.26

なんとか六月中に投稿できました...。

予告通り、今話で一段落つけて、一時休載させてもらうことになります。

では、春季大会決勝戦、どうぞよろしくです。


最終戦と今後

 

 春季大会決勝戦。

 

 相手は、強豪の香山農林高校(こうやまのうりんこうこう)

 大会が始まった段階から、優勝候補として名前が挙げられていた学校だ。

 

 何よりも特徴的なのは、各選手の体型。

 とにかく、ゴツイ。まさに筋骨隆々、である。

 

 その体格から、強いスイングで、非常に鋭い打球が飛ぶ。

 その打撃力は、言うまでもなく脅威的である。

 

 しかしもちろん、それだけではない。

 

 がっちりとした体格は、エースとて例外ではないのだ。

 

 エース薫元(しげもと)は、右投げで、持ち球はパワーカーブとシンカー。

 ストレートは、特に速いというわけではないが、とにかく重いらしい。

 また、身体が重そうにも見えるのだが、全くそういうことはなく、フィールディングも並以上。

 

 いつも言っていることだが、やはり今回も、簡単には勝てそうにない相手だ。

 

 しかし。

 目標としていた春季大会優勝まで残り一勝。

 

 ここまで来たら、後悔はしたくない。

 絶対に、勝つ!

 

 

 両チームスターティングオーダー

  ほしうら       香山農林

 7 左 玄山大 一番 8 左 梅原

 8 左 東條  二番 4 左 松井

 5 右 松宮  三番 5 右 峯

 3 左 沢良宜 四番 3 左 一条

 9 左 梨田  五番 2 右 倉松

 2 右 小野原 六番 7 右 錦野

 6 右 歌間  七番 9 左 神宮寺

 4 右 渡   八番 1 右 薫元

 1 左 玄山文 九番 6 左 遊佐

 

 

 後攻である、俺たちほしうら学院高校の先発投手、玄山文也がマウンドに上がる。

 

 この大舞台での先発登板だが、文也にはさほど緊張している様子は見られない。

 その通り、相手の初回の攻撃を、空振り三振、ファーストゴロ、センターフライで片付ける。

 

 一方の相手エース薫元も、レフトライナー、見逃し三振、ショートゴロと抑え込む。

 

 二回表、相手四番の一条がセンター前ヒットで出塁するが、次打者倉松のファーストライナーで併殺となり、チャンスは作られず。また、六番錦野はセカンドゴロに倒れる。

 

 

 そしてここから、試合は均衡状態へと突入する。

 文也は自身の特徴を最大限生かし、ヒットは打たれるものの三塁は踏ませず、粘り強く無失点を続ける。

 

 対して打線の方は、薫元の重い球に苦しめられ、更に変化球も効果的に織り交ぜられ。

 四、五回の単打一本ずつと一つの四球のみに抑えられる。

 

 

 そして、思いもよらない事態が発生したのは七回表のことだった。

 ここまで何とか無失点で来ていたほしうら学院高校を、ハプニングが襲った。

 

 この回はテンポよくツーアウトを取った文也。

 打席には、七番の神宮寺。

 

 その、初球。

 少し甘く入ったボールを打たれる。打球は右中間へ。

 

 一塁を回り、二塁へ向かう。

 

 一方、センター伊月の対応も早く、取ってすぐに二塁へと送球。

 タイミングはアウトに近かったが、少し送球がそれる。

 

 ベースから離れてボールを取るショートの道隆。

 ぎりぎりと判断したのか、捕球後、二塁ベースへ飛び込む。

 

 そして、二塁へ猛然と突っ込む神宮寺。

 

 

 砂煙が上がり、両チームが固唾を飲んで判定を待つ。

 

 

 

 

「……セ、セーフ!!」

 

 判定は、セーフ。

 見ると、ボールがランナーの近くに転がっていた。

 

 どうやら、グラブから零れてしまったようだ。

 

 

 

 

 …ん?

 

 違和感に気付いたのは、その後だった。

 

 

 二塁ベースに覆いかぶさるようにしている道隆が、動かないのだ。

 

 洋介が近づき、何やら話している。

 

 

 すると、ベンチに向かって手招きをした。

 監督が出ていく。

 

 俺たちは、心がざわざわし始めた。

 

 

 

 道隆と一緒に戻ってきた監督は、中山田に直ちにキャッチボールをしておくように指示すると、道隆の手の様子を見始めた。

 

 どうやらさっきのプレーで、道隆は左手、グラブに、思いっきりスライディングを食らったようだ。

 

 

 治療をするにも、道隆の痛がりっぷりからして、それは無理そうだ。

 むしろ今すぐ、病院に行った方が良いのでは、というくらい腫れているようにも思える。

 

 

 そして。

 監督は、ショートの選手交代を主審に告げた。

 

 道隆が下がり、代わりには一年の中山田。

 この場面で代わりに入って、果たして問題ないだろうか、見ているこっちが緊張してしまう。

 

 

「…大丈夫だよ、リョウ君。」

 

「道隆!お前...。」

 

「僕の方も、大丈夫だよ。ここで一人だけ立ち去るなんて、できないから...。」

 

 怪我した左手に冷却水を当てながら、苦笑いを見せる道隆。

 

「…おう、最後まで応援しよう。」

 

 俺は、こんな感じの事しか言えなかった。

 

 そんな俺に、監督から、再度肩を作っておくように声がかかる。

 一、二回くらいに、一度ウォーミングアップをしておいたが、文也の好投で、一旦やめておいたのだ。

 

 ここで再度やれ、ということは、クライマックスのピンチでの登板があるかもしれない、ということだろう。

 

 了解です、と言い、ベンチを出ようとしたとき。

 

 グラウンドで打球音がした。

 はっとそちらを向くと。

 

 

 中山田が跳んだ。

 

 

「…アウトォ!!」

 

 ショートライナー、ファインプレー、だ。

 

 

「ね、言ったでしょ?」

 

 驚く俺に、道隆から声がかかる。

 

「巧太郎君、メンタル強いし、すごく上手いし。」

 

「…よく見えてるんだな、周りが。」

 

 中山田は、存在感の無さが特徴。

 悪いけれど、俺は中山田の存在が認知できない瞬間が今でもある。

 

 だが、道隆の目には、しっかりと中山田の姿が捉えられているのだろう。

 

「…リョウ君、試合、頼んだよ。僕はもう、応援しかできないから。」

 

「…出ることになったら、な。」

 

「…うん、頑張って。」

 

「おう、任せとけ。」

 

 そうして俺は、簡易ブルペンへと向かう。

 

 

 

 七回裏、ほしうら学院の攻撃は四番の沢良宜から。

 何とか出たい先頭打者だったが、ストレートに詰まらされてレフトフライ。

 

 ワンナウトとなり、五番梨田が打席へ。

 初球の低めのシンカーを上手く掬って打つと、打球は左中間へ。

 初の長打、ツーベースヒットで、チャンス到来。

 

 六番小野原は、ファーストゴロで進塁打。

 これで、ツーアウト三塁となった。

 

 そして打席には、先程から守備に就いている中山田が。

 

 

 

「(…巧太郎君...お願い、打って!)」

 

 怪我で未だ少し痛む左手。

 でも今は、そんなことはどうでもいい。

 

 彼は、皆から存在感が薄い、とよく言われている。

 

 確かに、そうなのかもしれない。

 でも僕は、知っている。

 

 彼が日々、地道な努力を積み重ねていることを。

 

 彼は、内、外野ともにこなせるユーティリティプレーヤー。

 それでいて、打撃力もある。肩だけは、少し弱いけど。

 

 影が薄いからか、天性の技術か何かと思われているのかもしれないけど、彼の努力を見て、僕は確信した。

 

『僕は、巧太郎君の上には立てない』と。

 

 ただ、諦めたわけではない。

 僕も負けないように努力して、彼に食らいついていくんだ。

 

 

 でも、今は。

 とにかく彼が、打ってくれることを願う。

 

 

 初球。インローを突くストレート。見事なストライク。

 二球目はパワーカーブが外に外れる。

 三球目、ストレートを打つがファール。

 四球目はシンカー。これをカット。

 さらに五球目もシンカー。これは見逃してボール。

 六球目、さらに続けてきたシンカーは、カット。

 七球目。ストレートをはじき返すが、一塁線を切れてファール。

 八球目もストレート。高めに外れてボール。

 九、十球目はパワーカーブで、どちらもカット。

 十一球目、ストレート。これもカットする。

 

 すごい粘り。甘い球をひたすら待っているのか。

 でも、相手エースもやっぱりすごい。

 集中力を切らさず、厳しいボールを投げ続けている。

 

 そして、十二球目。

 バッテリーの選択は、シンカー。

 インコース低め、決して甘いボールではない。

 

 

 まるでそれを、読んでいたかのように。

 足を少し広げ、ジャストミートする。

 

 打球は。

 

 

 レフトの前へ。

 サードランナーのさっくんが、ホームイン!!

 

 遂に、遂に!

 試合の均衡が破れた。

 

 

 

 

 そして。

 八回表、先頭打者に四球を与えたところで、投手交代。

 

 マウンドに向かうは、背番号1。

 

 文也君と左手で握手を交わし。

 僕の方へ、視線を向けてくる。

 

 任せとけ、と、そう言っているのが分かった。

 

 打席には、一番打者。

 一点差。勿論相手の策は送りバント。

 

 きっちりと転がされ、ワンナウト二塁に。

 

 そして、二番松井への、初球。

 アウトコースへのスライダーで、サードファールフライ。

 さらに、三番峯。

 1-1からの三球目、高めのストレートを打たせ、センターフライ。

 

 

 追加点は取れず、迎えた最終回。

 一条が、四番の意地か、2-2からの八球目、見逃せばボールのスライダーを外野へ運び、出塁。

 五番倉松は強硬策で打ってくる。

 が、チェンジアップにタイミングを外され、空振り三振。

 続く六番錦野。

 初球のインコース低め、スライダー。

 打って、打球は三遊間へ。

 

 その刹那。

 僕は、価値を確信する。

 

 

 なぜならそこには...巧太郎君がいるから。

 

 打球を捕り、素早く二塁へ。

 洋くんが捕り、正確に一塁へ。

 

 

 ゲッツー成立。

 一塁審判のアウト!という声がグラウンドに響く。

 

 

 僕たちほしうら学院高校の、春季大会優勝が決定した瞬間だった。

 




優勝しました。これで一段落です。

最後道隆視点にしたのは、何となく別視点で書きたかったのと、ラ!ssで主人公している彼女がモデルなんだから、もうちょっと出番増やしてやらないといけないかな、と思ったからです。
基本的に双葉視点or第三者視点で書いているもので、別視点で書くのは結構新鮮でした。

では、最後に。
これにて一旦休載させていただくことになりますが、再開後皆さんに、これからも応援したい!と思っていただけるよう、色々頑張ろうと思います。

ここまで読んできてくださった皆様方。
本当に、ありがとうございました!!
いつかまた、本作品でお会いできれば大変嬉しいです。


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Episode.EXTRA③

あれで休載と言いましたが。
ふと思いついたので、もう一話分投稿します。

とはいっても、一年生たちの選手能力&人物紹介のみですけど。

では、よろしくどうぞ。

尚、能力表示に関してはパワプロ2013や2014と同じです。


★能力紹介【野手】

(左から、弾道、ミート、パワー、走力、肩力、守備力、捕球)

 ※記載のポジションは、登録ポジション

 

◇一年生

・善琥羽夜 外野手 右左

 弾2、D、F、D、E、C、D

 満塁男

 

・國分成樹 捕手 右右

 弾2、E、D、F、C、D、C

 キャッチャー4

 

・玄山文也 投手 左左

 弾1、E、D、E、C、E、D

 

・中山田巧太郎 遊撃手 右右

 弾2、D、E、D、E、C、D

 粘り打ち、サブポジ・一塁◎、二塁◎、三塁〇、外野〇

 

・少剛月豪 三塁手 右右

 弾3、F、C、F、D、E、F

 プルヒッター、扇風機、強振多用

 

・矢部昭雄 外野手 右右

 弾2、F、E、C、E、D、E

 盗塁4、チャンス2

 

 

★能力紹介【投手】

(左から、球速、コントロール、スタミナ、変化球持ち球)

 

・玄山文也 左アンダースロー

 114キロ、C、D、チェンジアップ3

 打たれ強さ4、対左4、緩急〇

 

 

★人物紹介

・善琥羽夜

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の津島善子(別名ヨハネ)右投げ左打ちの外野手。

 中学時代は、玄山、國分と同じチームで活躍。

 ちょっと無遠慮な性格をしているが、殊勝な態度をとることもたまにある。

 俗に言う”輝く名前”を持っていて、少し厨二っぽい部分がある。

 

・國分成樹

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の国木田花丸。右投げ右打ち、キャッチャー。

 中学時代は玄山、善と同じチームで活躍。

 語尾に方言が出ることを気にしている。

 読書が好きで、野村氏の著作をよく読んでいる。

 

・玄山文也

  モデルはラブライブ!サンシャイン!!の黒澤ルビィ。左投げ左打ちの投手。

 中学時代は國分、善と同じチームで活躍。

 基本話すときは敬語で気が弱く見られがちだが、マウンド捌きは非常に強気。

 兄に溺愛されていることを恥ずかしく思ってたり、思ってなかったり...。

 

・中山田巧太郎

  モデルはパワプロキャラの田中山太郎。右投げ右打ちで、メインポジはショート。

 中学時代は、梨田朔良がいた榊シニアで活躍していた。

 なぜほしうら学院に来たのかは公表されていないが、よく梨田の方に視線を送っているのが目撃されている。それがどういうことなのかは分かっていない。あと、影がものすごく薄い。

 

・少剛月豪

  モデルはパワプロキャラの少豪月剛。右投げ右打ち、三塁手。

 中学時代は、双葉諒がいた堺シニアで、矢部とともに活躍していた。

 強力なパワーによる豪快で思いっきりの良い、博打スイングが武器。

 少し怖い外見から発せられる丁寧な言葉遣いは、寧ろよく人を怖がらせるらしい。

 

・矢部秋牡

  モデルはパワプロキャラの矢部明雄。右投げ右打ちの外野手。

 中学時代は、双葉諒がいた堺シニアで、少剛月とともに活躍していた。

 幼き頃に重ねた変態的な行為により逃げ足が育成され、その俊足が武器。

 丸縁メガネがチャームポイント。視力は両目とも0.1以下(本人談)

 

 




一つ困ったことがありまして。
最近のパワプロの特能、NPBのルール改正に伴って一部表現が変わったじゃないですか。
ブロックとか、体当たりとか、そういうのはなくなりましたし。
そのあたりを、果たしてどうしたものか、と。
まあ、その辺の際どい能力を持たせなければいいだけの話ではあるんですが。

と、ちょっと愚痴みたいな感じのことを言ってしまいましたけれど。

これで本当に、一旦この作品は休載することになります。
いつかきっと戻ってくると思うので、その時まで待っていてくれたら、私としても凄く嬉しいです。

では。これまで、誠にありがとうございました!



最後に一つ。
自分の他の作品の方も目を通してくださると、私自身、嬉しさの極みです。
ユーザー名をポチっと押してくれれば、投稿作品一覧が確認できると思いますので、是非、ご参考までに。


…最後の最後にこんなこと言ってすみませんでした。

では、今度こそさよならです。
ここまで目を通してきて下さり、本当に、ありがとうございました!!


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