百足と狐と喫茶店と (広秋)
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番外編
番外:設定集


 これは「百足と狐と喫茶店と」の設定集となります。
 これは私自身が設定を確認するのも兼ねているものです。
 新しい設定が明かされるor設定が変更されるたびに随時(可及的に速やかに)更新する予定です。

 ちなみにリンネの設定がメインですが原作キャラも原作と異なる点が出てきた場合それもここに書き加えていきます。

 私が知らないことは空白になっていたりするのでキャラクターの年齢や生年月日などもご存じの方が居たらこっそりメッセージなので知らせてくださると助かります。

 もし矛盾や疑問があれば、感想やメッセージを対応していきたいと思っていますのでよろしくお願いします。

17/10/21

 設定集ver.1.00を公開。
 設定集ver.1.01を公開。
 設定集ver.1.01を修正。

18/1/6

 設定集ver.1.02を公開


六道鈴音(リンネ)

 

性別:女

 

誕生日:5月29日生 ふたご座

 

初登場時:17歳

 

あんていく専属ウェイター、兼居候(17/10/21現在)

 

血液型:B型

 

身長:158㎝

 

体重:51㎏

 

赫子:甲赫:■■

   羽赫:■■

   鱗赫:■■(18/1/6現在)

 

 両親など過去については不明。(17/10/21現在)

 

 流れの喰種で特に定住地点を持っていなかったが13区を半ば追い出されるように出て、20区に流れ着く。そして芳村の提案によりあんていくに住み込みで働くことになる。

 しかし、それ以前の経歴は不明。(17/10/21現在)

 

 持っている赫子は鱗赫と甲赫のハイブリットであると思われるが定かでない。

 しかし、全身に赫子を纏い赫者(かくじゃ)と呼ばれる形態になれることが判明している。

 赫者の姿はCCGにより“狐”と呼称されているが尾が“九本”ある形態になれることも確認されている。

 18/1/6現在、羽赫を持つことが確認された。

 

 容姿はセミロングの黒髪。髪質は固い(髪の色と髪質は■■譲り)ため癖が強く、寝ぐせがひどいことになりがちなのがひそかな悩み。目の色や目元は■■によく似ている。

 

 体型はやや細身ではあるが戦うための筋肉はしっかりとついている。(この設定のせいで体重設定が少々重め)そのため分かる人には分かる。例としてはひそかに監視についていた四方は気が付いていた(本編1話参照)。しかし、真戸さんはあまり意識を受けていなかったため気づくことができなかった。(本編2話参照)

 

 喰種であるため身体能力はかなり高い。そのほかにも“喰種として生きる覚悟”を決めているため人間を殺めることに躊躇いはない。(罪悪感はないとは言っていない)

 

 特技は人間の振り。つまり人間に擬態することである。

 普通の喰種ならただ不味いとしか感じることのできない人間の食べ物もある程度味を識別することができる。

 そしておいしそうに食べるのが非常にうまい。

 このため芳村と真戸の目を一度騙すことに成功している。

 

 性格は非常にさばさばして性質をしており、女性としてのモラル、一般常識、恥じらいなどは壊滅している。

 そして常識知らず、というより極度の自由人のため自身の価値観に基づいて行動を起こすことが多く、周囲に被害をまき散らすことがしばしばある。(本編6話参照)

 

 物事を自分基準で考えてしまうため、周囲との衝突を起こすこともしばしば。

 本編ではカネキが訓練の際に被害を被っている(本編12話参照)

 

 普段着は、胸元を一周する白い布を、両肩にかけたサスペンダーで支えたもの(ゴッドイーター2のキャラクター、香月ナナの服装が近い?)にホットパンツ(魔法少女まどか☆マギカの佐倉杏子の普段着のホットパンツが近い?)となっている。そして、その上にに太もも近くまである少々サイズの大きいピンクのパーカーを羽織っている。

 戦闘時はパーカを脱ぎ、それを腰に巻き付けるスタイルとなる。

 本人曰く、「赫子を使うたびに服が破けるのは嫌だから最初から赫子と干渉しない服にしようと思ったらこうなった」とのこと。

 

 

 13区には彼女が長を務めていた群があり、群の名は「明けの銀狐」と呼ばれている。

 明けの銀狐の名の由来は以下の通り。

 

 ・リンネ自身の圧倒的な強さを誰かが「悪魔」と呼んだこと。

 ・リンネ本人の用紙が可憐であったため「天使」とをばれたこと。

 ・リンネの赫者としての姿が狐に酷似して居たこと。

 ・リンネが初めて赫者となったのが月の明るい日で、銀色の光が当時の構成員(明けの銀狐の前身となる組織。特に設定は考えていない)の印象に残っていたため。

 

 天使+悪魔=ルシファー=明けの明星

 狐+銀色(月)の光=銀狐

 明けの明星+銀狐=明けの銀狐

 

 となった。

 (正直群の名前の設定は後付け)(メタ)

 

 

 

金木研(カネキ)

 

性別:男

 

誕生日:12月20日生 いて座

 

初登場時:18歳

 

井上大学 文学部 国文科一年(17/10/21現在)

 

血液型:AB型

 

身長:169㎝

 

体重:55㎏

 

赫子:鱗赫:右側のみ(17/10/21現在)

 

 

 現状大きな原作乖離はない。

 しかし、原作とは違い“護る”決意を決めるのではなく“戦う”覚悟が完了してしまっているため原作よりも戦うこと対する忌避感は薄い。(17/10/21現在)

 戦う覚悟に加え、化け物としての力を受け入れる覚悟を決めた為原作に比べ、赫子を用いた戦いに対する忌避感が薄くなった。(17/10/21現在)

 本作の魔改造候補No.2

 

 リンネを含む周囲の状況の変化により自らも戦うことを決意。

 化け物として戦うことを受け入れてしまったため、原作に比べ赫子を使うことに忌避感はない。

 しかしいまだに食事に対する忌避感は残っており、これがネックになっている。

 自ら戦う力を得るため訓練に勤しむ(18/1/6現在)

 

 

霧島董花(トーカ)

 

性別:女

 

誕生日:7月1日生 いて座

 

初登場時:17歳

 

清巳高等学校 普通科 二年生(17/10/21現在)

 

血液型:O型

 

身長:156㎝

 

体重:45㎏

 

赫子:羽赫:左側のみ(17/10/21現在)

 

 

 現状大きな原作乖離はない。

 しかし、リンネが原作生存のキャラを殺害した上、CCGに存在が露見したことで真戸の手にナルカミが渡ってしまい、それが原因で重度の傷を負ってしまった。(17/10/21現在)

 

 カネキの訓練のためにあんていく地下の情報を教え、自らも訓練に同席するなど現在は裏方に回っている。

 訓練に関しては傷が癒え切っていないためか不参加。

 現状リンネの違和感に気が付いている唯一の人物(18/1/6現在)

 

 

 

笛口雛実(ヒナミ)

 

性別:女

 

誕生日:5月21日生 ふたご座

 

初登場時:14歳

 

血液型:AB型

 

身長:148㎝

 

体重:40㎏

 

赫子:甲赫:1対

   鱗赫:1対

 

 現状大きな原作乖離はない。

 母であるリョーコさんも亡くなってはいないものの左腕をCCGに持っていかれており、トーカが仇討ちに走り負傷するという流れも原作通りなため、原作乖離を起こすかはリンネの介入次第。

 本作の魔改造候補No.1(つまり原作乖離は確実)(メタ)

 

 リョーコを失い未だに立ち直れてはいない模様。

 さらに原作よりも早い段階でトーカが敵討ちを行っていることを知っているため、心の内で自らも仇を討つ方法を模索中。

 現在あんていくにて芳村の保護下にあり同時に監視下にある。

 描写はないものの耳が良いためあんていく地下で行われている訓練のことは気が付いている。(18/1/6現在)

 

 

 

笛口リョーコ

 

性別:女

 

誕生日:

 

初登場時:

 

血液型:

 

身長:

 

体重:

 

赫子:甲赫:1対

 

 本作で一番早く、また一番大きな原作乖離(原作死亡キャラの生存)を起こしたキャラクター。

 しかし、あまりにも戦闘面がお粗末なため魔改造決定。

 本作の魔改造キャラ(候補ですらない。魔改造確定ともいう)

 

 現在13区のリンネの古巣に身を寄せている。

 リンネの過去を一部とはいえ知る原作唯一のキャラクター。

 20区を離れてはいるもののストーリー的には重要な立場にいるキャラクター。

 近いうちにこちらも閑話を挟み、訓練を開始する予定(18/1/6現在)

 

 

真戸呉夫

 

性別:男

 

誕生日:1月21日生

 

初登場時:

 

血液型:A型

 

身長:177㎝

 

体重:47㎏

 

クインケ:フエグチ壱:鱗赫

    :ナルカミ:羽赫

    :その他二十数種類を保持

 

 序盤から割と大きな原作乖離を起こしたキャラクター。

 あんていくとの早期接触やリンネとの戦闘。さらにはナルカミが配備されるなど戦力強化が図られている。

 もしあんていく側の戦力が原作通りだった場合カネキ、トーカは早々に物語から退場させられかねない脅威と化した。

 本作の改造候補キャラNo.1(“魔”改造ほどではなくとも原作乖離を起こすため)

 

 現在ラビット(トーカ)を撃退した後、リョーコの左腕を囮とした作戦を提唱中。

 大まかな流れは原作とは変わらないものの、リンネの存在により作戦内容が原作より変化を起こす可能性が高い(18/1/6現在)



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序章
1話 狐は20区へと


 時系列は金木が喰種になった後、路地裏でニシキと接触し、トーカに助けられる場面から行きます。


「あー、暇だー…」

 

 はい、私は今13区を追い出され、流れに流れて今や宿無しの根無し草ライフ中です。

と言っても寝床は道端でいいし、食べ物もその辺を()()()()()()()から歩き回っているから別に問題ないけど

 

「何か面白いことはないかな~」

 

 などと彼女が呑気なことを言っていると彼女の優れた聴覚が少し離れたところから響いてきた物音をとらえた。

 

「ん?」

(すごい物音…何か面白そうな気がする!)

 

 

 

 

「…つーかお前の体スゲェ脆いのな…豆腐でも突いてんのかと思ったぜ?」

 

「うぐ…ゲホッ…」

 

(おっと~?路地の角の向こうではどうやら喰種同士が小競り合い中ですね~)

 

 彼女が物音の現場の路地が見える場所に来てみると、そこでは2体の喰種が争ってい

た。

 

(学生っぽい見た目の子の様子とあっちの眼鏡の台詞、さっきの音と合わせて考える限り学生君を眼鏡の奴が蹴っ飛ばしたって感じかな?…近くにご飯もある?…ってことは喰場争いか…にしても眼鏡の奴の口上、下品で嫌いだな…なんか“俺強いんだぜ?”みたいで気に食わないし…ん?もう1体近づいてくる?)

 

 すると、ビルの屋上を足場に喰種1体が接近してきた。彼女が「物騒だなぁ…」とつぶやいていると、その喰種は2体の喰種の争っている路地のほぼ真上に陣取った。

 しかしその気配は近くのビルの上から動く気配がない。

 

(漁夫の利狙いかと思ったら介入する気は無いみたいだね…気配からすると羽持ちで…あの眼鏡は尻尾持ちであっちの学生君が…多分鱗持ちだと思うんだけど…どうにも気配が薄くて分かりづらいんだよなあ…)

 

 彼女がそんなことを考えていると眼鏡をかけた方の喰種が口に指を突っ込み、

 

「…馬の糞でも喰ってる気分だぜ」

 

 吐き出した。

 

(って吐くんかい!なら喰うなや!)

(それに大事な喰い物汚すなや!)

 

 彼女が物陰でキレている事などつゆ知らず、眼鏡の喰種は悪びれる様子もなく気を失っている人間に吐しゃ物を浴びせる。

 

「おっと、ワリィカネキ、お前の喰いもん汚しちまったわ」

 

 すると眼鏡の喰種に吐瀉物をかけられた人間が少し反応する。

 

(あの人間…生きて…る?生きたまま食べるつもりだったのかな?にしても力の差がありすぎだねえ、あの学生君…カネキって呼ばれてたかな?…あれじゃあ勝てないね。赫子も使えず、お腹ペコペコ、勝ち目なんてほぼ無いし)

 

 彼女の言う通り学生のような喰種が眼鏡をかけた喰種に一方的にやられていく。

 

(あーあ、ご飯もとられ、ボコボコにされ…うん、死んだら私が美味しく頂いてあげるよご愁傷…!?何!?)

 

彼女がのんびり皮算用していると、突然学生の喰種の雰囲気が変わり、今まで使用していなかった赫子を発現させる。

 

(学生君の気配が変わった!?いったい何が…?)

 

 突然のことに驚く彼女の前で学生の喰種が赫子を使い眼鏡の喰種を圧倒し始める。   

 

「な…んだよそれはッ‼」

 

 突然の事態に対処できなくなりつつある眼鏡の喰種は声を上げるが、そんなことはお構いなしに学生の喰種はその赫子の持つ圧倒的なパワーで攻め立てていく。

 

「すげえ…」

(…あの赫子かなりイイものだ…なんで使わなかった?いや、使えなかったのかな?)

 

 学生の喰種の赫子は鱗赫と呼ばれるもので一撃の重みもあり、再生能力も比較的高いという代物だった。

 急に赫子を使われた眼鏡をかけた喰種は学生の喰種の攻撃を徐々に捌けなくなり、ついに致命的な隙をさらしてしまう。

もちろん学生の喰種がその隙を逃すはずもなく、眼鏡をかけた喰種が晒した一瞬の隙を突き、赫子の一撃を放つ。

 

(あ、眼鏡君危ないよー)

 

 学生の喰種が放った赫子の一撃が、眼鏡の喰種のどてっ腹をまともに捉え、貫いた。

 

「…っめろォ‼やめろォ馬鹿野郎ォォ‼死ぬッ‼死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ‼」

 

 眼鏡をかけた喰種はそのまま振り払われ、壁に激突すると動かなくなった。

 

(どてっ腹にでかい風穴開けられてやんのザマァw)

 

  これで邪魔者も居なくなり学生の喰種は食事を始めるかと思いきや、食べることそのものを拒絶するかのように悶え始めた。

(学生君はお食事タイム…じゃない?様子がヘンね…食べたくないの?…分かんないなあ…?ってさっきの羽持ちがきた?漁夫の利狙い?)

 

すると、場に残ったのがぼろぼろの学生の喰種だけになった途端にビルの上に陣取っていた喰種が降りてきたが、特に攻撃する素振りも見せずに学生の喰種に向けて話出した。

 

「ずいぶんらしくなってんじゃん、半端野郎」

 

 降りてきた喰種は、学生の喰種の視線を気にせずに言葉を続ける。

 

「激痛と空腹で理性吹っ飛んで…死にたいぐらい苦しいんじゃない?」

 

「その苦痛から解放されるためなら友達の命ですらどうなろうとかまわないでしょ?」

 

「そしてアンタは彼を喰い散らかした後に一人で後悔するの。血と臓物の海の上で」

 

(ふーん、ずいぶんとカワイイ娘だねえって、ん?何?戦わないの?)

 

「今回は救ってあげる」

 

 そう言うと、羽持ちの女の子の喰種は学生の喰種を気絶させると、気を失っている人間の学生とを一緒に抱えてどこかへと行ってしまう。

 

「ありゃ、行っちゃった…眼鏡の奴もどっか行っちゃったし…」

 

 彼女はそこで一度言葉を切り、笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「にしても、あの鱗持ちの学生君、面白いなあ…不釣り合いなまでに強力な赫子…あれは絶対に何かありそうだなぁ…しばらくあの子の事を追っていれば、もっと面白いことにありつけるかな?」

 

 そう言って“狐”は路地の向こうに消えてい「やっべ!この場どうにかしなきゃCCGに目付けられるじゃん‼」

 

…戻ってきた。

 

「えーっと、とにかくこの辺の廃材は適当に積みなおして、あー眼鏡の奴の血の跡は一体どうしよう…」

 

 こうして少々頭の足りない狐は20区へと足を踏み入れた。

 これが20区に、そして物語に一体どんな影響を与えるのか。

 

次回をお楽しみに

 

 

 

 

「トーカに呼ばれてきてみれば…一体なんだ?アイツは…」

 




はい、今回は初回ということでかなり短めです。申し訳ない…
 次回以降は5000文字…いけたらいいなあ…
 今回はカネキとニシキの戦闘のイベントがメインでした。
 …こうしてあとがきを書いている間も誤字脱字に怯えています。遠慮なく指摘してください。悦びます。
 感想もいただければ幸いです。
 因みに私は原作も最後まで読んだわけでもなく、アニメも見ていないので原作と設定が食い違っているところがある(もしくはこれから出てくる)と思います。そして設定の齟齬が大きくなり対処できなくなったその時はタグにオリジナル設定を加えたいと思います。

拙い文ではありますが、どうにか皆様の暇をつぶせる程度のものができるように頑張っていくので何卒よろしくお願いします。


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2話 狐は喫茶店へと・前編

 連休で時間が取れたので2話目も投稿です。
 このペースを維持できたらいいなぁ…

 今回は少し時間が飛んでカネキ君がトーカちゃんに連れられて一緒にウタさんの所に行くあたりです。
…主人公の名前…どうしようかな…

(注)今回は視点移動があります

~前回のあらすじ~

 20区へとたどりついた主人公は眼鏡の喰種とカネキと呼ばれた学生の喰種と争いを目撃し「面白そう」との理由で動き出した。
 “狐”の気まぐれは一体どこに向かうのか。


 彼女が路地裏で面白そうな喰種、カネキを見つけ「彼に会いに行こう!」とその場の後片付けをして歩き回ること数日。

分かったことといえば…

 

 

 ・今いるところが20区である。

 

 

                 以上。

 

 

「ふっざけるなぁあああぁぁ!!!」

「何日も歩き回って分かったことが『ここが20区です』だああぁぁ!?」

 

 そう、彼女は数日の間あちこち歩き回って件の喰種、カネキ君を探していたのだが、何の手がかりも見つからずもう夕方になろうとしていた。

 

「せっかく「鳩」にもばれないように行く先々で私のですらない食事の後始末までして来たってのに…誰だよ、「情けは人のためならず」とか抜かした奴は。ひとっつも恩恵が帰ってこないじゃん…あー…一回どっかで休むか」

 

 と言って路地裏から出るとよい香りが漂ってきて彼女の鼻をくすぐった。

 

「ん?久しぶりにいい匂い…コーヒーの匂いかな?」

 

 そして匂いにつられて少し歩いていくと。

 

「あん…あんていく?アンティークじゃないのか…」

 

 あんていくという名の喫茶店を見つけた。

 

「な-んか喰種の臭いがする気がするけど…ま、いいか」

 

   

――あんていく――

 

 

(お邪魔しまーすっと)カランカラン

(おお、中々いい感じの雰囲気じゃん…、全体的にオシャンティー(死語)な内装と…気に入ったわ、ここ。今は人もいないし。これなら気楽に居られるしね)

 

 などと彼女がくだらないことを考えているとカウンターに居る老いたマスターが目に入った。

 

(そうだ、席の事とか聞かなきゃ)

「すみません、席はどこに座ればいいですか?」

 

「ああすみません、はじめての方ですね。席は…今は他にお客様も居りませんのでお好きな席にどうぞお座りください」

 

(お、まじで?このおじいちゃんいい人だね)

「じゃ、マスターの前のカウンター席で」

 

そういいながらカウンター席に着いた彼女に老いたマスターは軽い笑みを浮かべた。

 

「ははは、では私で良ければ少し話し相手になりましょうか?」

 

「ほんと?ありがとうマスター。とりあえずコーヒーお願いしまーす」

 

 そういいながら彼女は老いたマスターの気遣いに頬を緩め、笑みを浮かべながらマスターの前のカウンター席に腰を下ろす。

 

「かしこまりました」

 

 老いたマスターは彼女の注文を受けるとカウンターの下からコーヒーの豆を取り出し、

マスターは慣れた手つきでコーヒーを入れていく

 

「あ、ちゃんと豆から淹れるんだ、本格的だね~」

 

「ええ、一応この店の売りですからね。ここは手間をかけますよ」

 

「ふーん」

 

「できましたよ。どうぞ」

 

 彼女の座る席の前にいい香りの漂うコーヒーが置かれた。

 

「うわぁ、いい匂い。ありがとマスター、いただきます」

 

 彼女が目の前に置かれたコーヒーを口にすると彼女の口の中に芳醇な香りと、深みのある味わいが広がった。

 

「うん、凄くおいしい」

 

「ふふふ、ありがとうございます」

 

 彼女達がコーヒーの話題で談笑していると、顔色の悪い男と生真面目そうな男の二人組がそれぞれアタッシュケースのようなものを手に店に入ってきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

マスターの声に反応した二人の男のうち顔色の悪い男のほうが口を開く。

 

「おや、これは二人の楽しい時間をお邪魔してしまいましたかねぇ…」

 

(あ?誰だこの おっさん)

「セクハラですよ、おじ様たち」

 

 おじ様たちと言われているがおじ様といえるような年なのは顔色の悪い男の方だけでもう片方の生真面目そうな男は若く、むしろお兄さんと呼ばれるべき年であるということはここでは置いておく。(亜門ファンの皆様、申し訳ありません)

 

「これは失礼」

 

顔色の悪い男は彼女の抗議をあっさり流すとマスターに向き直った。

 

「マスター、席はどこに座ればよろしいかな?」

 

「今は見ての通りお客様も少ないのでお好きな席にお座りください」

 

「そうですか。では亜門君、ちょうどよいからそこの日当たりのいい席にしようか。注文は…私はコーヒーを一つ。亜門君は何にするかね?」

 

「私もコーヒーで」

 

「コーヒー二つですね。では席に座ってお待ちください」

 

 すると、マスターはコーヒー二杯を手早く入れると先の二人組のところへ持って行き、二言三言言葉を交わすとすぐにカウンターに戻ってきた。

 

(そうだ、ここ最近人間の食べ物食べてなかったな…はっきり言って嫌だけどこれやっとかないと体が受け付けなくなって後々つらいしなぁ…人も少ないし、やるなら今か…)

「仕方ない…か…」

 

「何か?」

 

「いいや、なんでもないよ。ところでマスター、何かおすすめのサンドイッチとかある?小腹すいちゃった」

 

「…そろそろ夕食時ですよ?」

 

「いいのいいの。私よく食べる方だから」

(それに、本当のご飯は別に調達しなきゃいけないしね)

 

「そうですか、なら軽めのものを用意しましょう。」

 

「ありがとマスター」

 

するとマスターは棚からパン、冷蔵庫からはトマトとハム、レタスを取り出すとパンとトマトを程よい厚さに切る。そして先ほど出したレタスとハムを切ったパンの上に重ね、マスタードをベースにした黄色いソースを塗るともう一切れのパンで挟んで二つに切り、手早く皿に盛りつけた。

 

「はい、お待たせしました」

 

「全然待ってないって、むしろ早すぎるくらいだよ」

「パンは自家製?」

 

「ええ、この店の自慢の一つです」

 

「へぇ、いただきまーす」

(さてと、この微妙な不味さの中にあるのは…っと)

「うん、パンのいい香りもそうだけど野菜も新鮮だね。ハムもいいの使ってる?」

 

「そんな上等なものではありませんよ。市販のものですから」

 

(つかみは上々、あとはこのソースのことで上手くお茶を濁せればいいかな?…えっと…この舌を焼くような刺激は「辛さ」で、恐らくさっきの黄色いソースが原因だよね。なら間違いなくマスタード使ったものかな?)

「うーん、このソースはマスタードがベースかな?なかなか好みだよ」

「あたりです。マスタードをベースに私が作りました。気に入っていただけたようで何よりです」

 

(よかったぁ~、間違えてなくて。でもちょいちょい食べないと駄目だなぁ…体が受け付けなくなっちゃう)

「うん!すっごく気に入った!」

 

「ありがとうございます。ところで、コーヒーのお代わりはいかがですか?」

 

「あ、おねがいしまーす!」

 

 

――芳村視点――

 

 

(四方君が、トーカちゃんに呼ばれた先で偶然見たという新しく20区に来た喰種。闘争の後始末をするなど明らかに鳩を避ける方法を熟知している。つまりそれなりに頭が回るのは間違いない。その上、四方君からみても「かなりの手練れ」ということはカネキ君ではもちろん、トーカちゃんでも戦えばただでは済まない…どうしたものかな。四方君の言うことにはその喰種は女性。年はぱっと見トーカちゃんと同じくらいで、その時の服装は黒いパーカー、短いパンツスタイルだと言っていたな)

 

芳村がもの思いにふけっていると一人の女の子が店内に入ってきた。

 

(…トーカちゃんと同じくらいの年の女の子かな?…黒いパーカーに短いズボン…まさか?…いや、そんな偶然があるとは…)

 

「すみません、席はどこに座ればいいですか?」

 

(四方君がいれば確認が取れたのだが…まあ仕方がない)

「ああすみません、はじめての方ですね。席は…今は他にお客様も居りませんのでお好きな席にどうぞお座りください」

 

「じゃ、マスターの前のカウンター席で」

 

(会話の中で何か手がかりか…情報を引き出せないだろうか…)

「ははは、では私で良ければ少し話し相手になりましょうか?」

 

「ほんと?ありがとうマスター。とりあえずコーヒーお願いしまーす」

 

(とりあえず、今はお客様として対応だな)

「かしこまりました」

 

「あ、ちゃんと豆から淹れるんだ、本格的だね~」

 

「ええ、一応この店の売りですからね。ここは手間をかけますよ」

 

「ふーん」

 

(コーヒーを注文か…喰種かどうかの判断は普通の食べ物を頼んでこない限りは区別がつけられんな…)

「できましたよ。どうぞ」

 

「うわぁ、いい匂い。ありがとマスター、いただきます」

「うん、凄くおいしい」

 

(こんなにこやかに笑う娘が手練れの喰種とは考えたくはないな、まったく…)

「ふふふ、ありがとうございます。」

 

(ん?人の気配…だがこの感じは…)

「いらっしゃいませ」

 

「おや、これは二人の楽しい時間をお邪魔してしまいましたかねぇ…」

 

(この気配は間違いない…CCG…!ベテランに新人のツーマンセルか…だが、今店に居るのは私だけ。ならばどうとでもなるか…?)

 

「セクハラですよ、おじ様たち」

 

「これは失礼」

 

「マスター、席はどこに座ればよろしいかな?」

 

(特に問題が起きない限りは普通のお客様として対応するのが最善手か…)

「今は見ての通りお客様も少ないのでお好きな席にお座りください」

 

「そうですか。では亜門君、ちょうどよいからそこの日当たりのいい席にしようか」

「注文は…私はコーヒーを一つ。亜門君は何にするかね?」

 

「私もコーヒーで」

 

「コーヒー二つですね。では席に座ってお待ちください」

(さて、少し探りを入れてみるか…)

 

 

 

 

「おまたせしました」

 

「早いですねぇ。なかなかのベテランとお見受けしますがどうでしょう?」

 

(あのケース、クインケか?)

「いえいえ、ただのしがない喫茶店のマスターですよ」

(…探りを入れてみるならここか…)

「ところでそのケースから見るに、何かお仕事のものですか?」

 

「ええ、そろそろ大きな収穫…成果が上がると思っていたのですが…なかなかどうして、うまくいかないものでしてねぇ。」

 

(つまり、喰種狩りはあまり上手くいってないと…そういうことなのか?)

「そうですか、お気を落とさずに。それではごゆっくり」

 

(今現在、ここ20区は美食家や“アオギリ”などの問題ごとを抱えすぎている。いつまでこの平穏が長続きしてくれるのやら「…」ん?)

「何か?」

 

「いいや、なんでもないよ。ところでマスター、何かおすすめのサンドイッチとかある?小腹すいちゃった」

 

(…この娘もどうやらわたしの思い過ごしのようだな)

「…そろそろ夕食時ですよ?」

 

「いいのいいの。私よく食べる方だから」

 

(…私の娘も、こうなっていたかもしれない未来があったのだろうか。いや、今はよそう。とにかく今はこの娘に何か用意してあげなくては)

「そうですか、なら軽めのものを用意しましょう」

 

「ありがとマスター」

 

 

――真戸視点――

 

 

「…ここ最近虫どもの手がかりが少なくなっている。亜門君、これがどういうことか分かるかね?」

 

「そうですね、…喰種どもが自らの痕跡、つまり決定的な証拠になりうる捕食跡などを隠滅することで己の身を守ろうとしているから…だと思います」

 

「そうだろうな。私も同意見だ。しかし、これは我々CCGにとって小さくない痛手だ」

 

「どうすればよいのでしょうか…」

 

「ふむ、今は本部にもここの支部にもあまり有力といえるような情報は入ってきていない…となると取れる手は少なくなってしまうな」

 

「少なくなるということは取れる手はあるにはあるのですか?」

 

「そうだ、ある。「勘」というものがな」

 

「勘…ですか…」

 

「そうだぞ、ここまでくると勘というのも馬鹿にならんものだぞ?」

 

「…説得力がありますね」

 

「ははは、ならば勘に従って少し歩いてみるか」

 

しばらく歩いていくと二人はあんていくという喫茶店の前にたどり着いた。

 

(ふむ、勘に従うならばここがどうにも引っかかるが…入ってみるか)

「亜門君、息巻いているところ申し訳ないが私は少々疲れた。やはり、君は歩くのが速いようだ。少しここで休息をとってもいいかな?」

 

「…そうですね。朝からほぼ歩き通しでしたし少し休憩を入れましょうか」

 

「感謝するよ、亜門君。どれ、コーヒーの一杯でも飲みながら足を休めるとしよう」

(さて、もしここに虫どもがいるのならば容赦はしない一匹残らず駆逐してくれる…)

 

 

                                            

「いらっしゃいませ」

 

(ふむ、老齢のマスターと客と思われる少女一人か…今のところはどちらもおかしなところはないが…)

「おや、これは二人の楽しい時間をお邪魔してしまいましたかねぇ…」

 

「セクハラですよ、おじ様たち」

 

「これは失礼」

(今のところはそこまで警戒することもないか…)

「マスター、席はどこに座ればよろしいかな?」

 

「今はお客様も見ての通り少ないのでお好きな席にお座りください」

 

(親切なことだ。ならば好きにさせてもらうとしよう)

「そうですか。では亜門君、ちょうどよいからそこの日当たりのいい席にしようか」

「注文は…私はコーヒーを一つ。亜門君は何にするかね?」

 

「私もコーヒーで」

 

「コーヒー二つですね。では席に座ってお待ちください」

 

(ふむ、やはり怪しいところはない…か。にしても…)

「亜門君、どうしたのだね?」

 

「はっ、何でしょうか」

 

「いやなに、少し気落ちしているような気がしたのでね」

 

「いえ、何もありません」

(女の子におじさま呼ばわりされてへこんでました…なんて言えないしなぁ…)

 

「そうか…」

 

「おまたせしました」

 

(早いな)

「早いですねぇ。なかなかのベテランとお見受けしますがどうでしょう?」

 

「いえいえ、ただのしがない喫茶店のマスターですよ。」

「ところでそのケースから見るに、何かお仕事のものですか?」

 

(やはり怪しいところはないか、クインケのことも知らないのならば…私の思い過ごしか?)

「ええ、そろそろ大きな収穫…成果が上がると思っていたのですが…なかなかどうしてうまくいかないものでしてねぇ」

 

「そうですか、お気を落とさずに。それではごゆっくり」

 

「うむ、ありがとう。それでは亜門君、温かいうちに頂くとしようか」

 

「そうですね」

 

「ふむ、いい香りだ」

(それに味も悪くない、むしろ上等だな)

 

「このコーヒーおいしいですね、真戸さん」

 

「そうだな、支部の給湯室にあるインスタントとはまるで違う。たまにはこういうのもいいものだな」

(いつの間にかあっちの少女はマスターとサンドイッチの話で盛り上がっているようだな…やはり二人とも白か)

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもないよ」

(美味いな…さて、またしばらくは歩き回ることになりそうだな)

「亜門君、これを飲み終えたらまた捜査に付き合ってもらうぞ」

 

「もちろんです」

 

「うむ、全く君のようにエネルギーに満ち満ちているような若者は羨ましいものだよ」

(私の勘も鈍ったのか…まあいい。私は私の使命を果たすまでだ)




 はい、主人公あんていくに接触。ここから徐々に原作に介入していくことになります。
 それと、少々早いですが真戸さんと亜門さんに登場していただきました。
 タグのせいでとある知り合いの山猫さんから
「CCGの人間ばかり退場させていくようなことするつもりじゃないだろうな?ンなことしてみろ、月光で叩き切ってやる」(#^ω^)ピキピキ
とのお言葉をいただいたので(月光で叩き切られるの嫌なので)誤解されないうちに補足しておきますと、若干のオリ主TUEEEEEはあるかもしれませんが片方の陣営に肩入れするという予定はございませんのでご安心ください。
 喰種には好きなキャラが多いので私もそうPON☆PON☆退場させたくはありませんししません。(多分、きっと、めいびー)
 さて、次回ではそろそろ原作キャラのカネキ君たちと“彼女”を本格的に接触させていくつもりです。
 そして“彼女”の設定も次回から少しずつ明かしていきます。

 …名前、どうしようかなぁ(遠い目)


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3話 狐は喫茶店へと・中編

 今回は次回の直後となっており、時系列に開きはありません。
 しかし、話の展開上少々無理やり感があります。だって文才なんかないんだもん(泣)
 ちなみに今回で“彼女”と原作キャラであるカネキ君達と本格的に接触します。ここからは原作からの乖離が始まってきますが、基本的なイベントは原作に沿っていく予定です。

それではお楽しみくださいm(__)m

祝 初評価 & 初感想
 ありがとうごいますm(__)m

 そしてじわじわと増えつつあるお気にいり・・・ほんとにありがとうございますm(__)m

(注)今回も視点移動があります


~前回のあらすじ~

 さまよい歩き、コーヒーの香りにつられあんていくにたどり着いた彼女。
 不思議な喰種、「カネキ」と会うことができるのか。



「あの…なんで私は床に正座をして尋問紛いのことをされているんでしょうか…?」

 

「いいからキリキリ私の質問に答えなさい」

 

「そんな理不尽な…」

 

 あんていくの二階、従業員用の休憩室の床に正座させられ、尋問官(トーカ)の詰問を受けている彼女。

なぜこのような事態になっているのか。

 それは数時間ほど前にさかのぼる。

 

 

――ウタのマスク屋前――

 

 

 もうそろそろ暗くなる時間帯。子供達が帰路を急ぎ始めるころ、やっと採寸を終えたカネキと付き添いのトーカは、店の前でマスク屋の店主で今回のマスク制作を引き受けてくれたウタとの立ち話に興じていた。

 

「それじゃあカネキ君、君のマスクはでき次第あんていくに届けておくよ」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

「いいよそんなお礼なんて。仕事だし、好きでやってることだしね。もう暗くなってきてるし、二人とも気を付けてね」

 

「はい、わかりました。それでは失礼します」

 

「ありがとうございました」

 

 そういって二人が立ち去ろうとすると、ウタが思い出したようにトーカを呼び止めた。

 

「そうだ、トーカちゃん」

 

「はい?なんですか?」

 

「いや、最近物騒だから気を付けてってのが一つと、芳村さんに気を付けるように言っておいてくれないかな。新しいのが来てるってさ。もう知ってるかもしれないけど」

 

「?わかりました」

 

「物騒?何かあったの?」

 

「さあね、私は何のことだかは知らないわよ」

 

 何のことかいまいち呑み込めていないトーカだったが、自分があれこれ考えることでもないと判断し、カネキの質問を流すとカネキとともにその場を離れた。

 

 

・                                      ・        

 

 

 少し歩いて行きウタの店から離れると、カネキが安心したように口を開いた。

 

「ふう、怖かった」

 

「何が?」

 

「いや、ウタさんのことだよ」

 

「は?なんで 」

 

「いや、見た目もなんか怖いし、何考えてるかわからないし…」

 

「見た目が怖いかどうかは知らないけど、何を考えているかわからないってのは少しわかるかも…で、これからどうするの?」

 

「え、なんで?」

 

「ウタさんが物騒っていってきたくらいだからね、弱っちぃあんたじゃなんかあったらどうしようもないでしょ。それにあんたになんかあったら私も寝覚めが悪いし」

 

「…トーカちゃんが優しい?」

 

「うるっさい!そういうつもりじゃないから!で、どうするつもりなの?」

 

「そんな怒らなくても…一応あんていくに行こうかなって思ってる」

 

「あんていく?なんでまた」

 

「いや、シフトの確認とかしておきたくて」

 

「そう、ならさっさと行くよ」

 

「え?トーカちゃんも来るの?」

 

「なに?私が行ったらいけないの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…」

 

「ならニャーニャー言ってないできりきり歩く!あんまり遅くなると店長にも迷惑がかかるんだから」

 

「わ、わかったよ…」

(別にニャーニャーなんて言ってないのに…)

 

 

――あんていく前――

 

 

「お店は閉まってるけど明かりもついてるし、店長がいるのは間違いなさそうね」

 

「なら大丈夫かな。すみませーん」

 

 

――あんていく――

 

 

二人が店内に入るとカウンターで食器類を片付けている芳村の姿があった。

 すると、二人が来たことに気づいた芳村は少し驚くそぶりを見せながらも声をかけた。

 

「おや、カネキ君にトーカちゃん。もうマスクの件は済んだのかい?」

 

「はい。無事に済みました。それで来週からのシフトを確認したいんですけどいいですか?」

 

「うん、別に構わないよ。シフト表は二階の休憩室にあるからね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そう言って二階へ行こうとしたカネキだったが、思い出したように「あ、そういえば」と声を発した。

 芳村も「ん?どうかしたかい?」と返す。するとカネキに、

 

「そういえば…トーカちゃん、ウタさんから何か伝言受けてなかったっけ?」

 

と話を振られたトーカは思い出したようにウタからの伝言の内容を話し始めた。

 

「あ、そうだった。なんかウタさんが“新しいのが来てる”って言ってましたよ。多分知ってるだろうけど一応伝えてくれって」

 

「そうか…ウタ君の耳にも入っていたのか…」

 

 ウタの伝言を聞いた芳村は何か考え事を始めてしまったが詳細が気になっていたトーカは芳村に質問を投げかける。

 

「店長、“新しいのが来てる”って20区に新たに喰種が来たってことですよね」

 

「そうだね。そして多分遠くないうちに会えると思うよ。その喰種に」

 

「そうなんですか?店長の知り合いとか?」

 

「いや、うーん…なんといえばいいのか…そうだ、カネキ君に呼んできてもらおうかな」

 

 トーカからの質問にどう答えたものかと迷っていた芳村だったが、突然カネキに話を振る。が、事情を知らないカネキは混乱するばかりで、

 

「は?僕ですか?」

 

と、かろうじて問いを返すのが精一杯だった。

 すると、さすがに説明不足だと思ったのか芳村がカネキに詳細を説明しだした。

 

「うん、今は二階にいるからシフト表を見に行くついでに呼んできて…いや起こしてきてほしいんだ」

 

「起こす?呼ぶんじゃなくてですか?」

 

「そうだ。多分、今もぐっすりだろうからね」

 

 ここまで会話を聞いていたトーカだったが、ついにここで訳が分からなくなり、突っ込みを飛ばした。

 

「店長!どこの馬の骨ともわからないやつを上で寝かせてるんですか!?」

 

「馬の骨って…そんな言い方は…」

 

「ははは。いや、ずいぶん元気のいい子なんだけどかなり疲れてた様子でね。それで、二階に休める場所があると教えてあげたら寝ぼけたまま上に行こうとしてたものだから、そのまま休憩室に案内してあげたんだよ。そしたら、そのままソファーに横になって眠ってしまったんだ」

 

 店長の説明に半ば混乱し始めていたトーカは大声でまくし立てる。

 

「ははは、じゃないですよ店長!なんでそんなに無警戒なんですか!」

 

「と、トーカちゃん、もしかしたらその人はまだ上で寝てるかもしれないんだからそんなに騒ぐのは…」

 

 カネキが弱々しくも抗議するが、

 

「カネキは黙ってなさい!」

 

と、トーカは大声でカネキの抗議を切って捨てた。しかし、そんな大声が階下から響いてくれば流石に眠っている人でも起きるわけで。

 

「大体、あんたはいつ「寝過ごしたー!!」あん?」

 

 どうやら上で眠っていた喰種が目を覚ましたらしく、彼女の大声が上から聞こえてきた。

 

「本当に寝てたのかよ…」

 

 トーカはあきれたように言葉を発するが芳村は気にせず笑みを浮かべた。

 

「ははは、とても元気のいい子だからカネキ君もトーカちゃんもすぐに気に入ると思うよ」

 

「いや、そういう問題じゃないですよ…店長」

 

「ま、まあまあ、トーカちゃんも落ち着いて。店長がいい子だって太鼓判を押してくれるくらいなんだからきっといい人に違いないからさ」

 

「とは言っても…」

 

すると、今度はすごい勢いで階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。

 

「おや、降りてきたみたいだね」

 

 すると、一つ疑問を抱いたカネキが芳村に問いかける。

 

「そういえば店長」

 

「なんだい?カネキ君」

 

「まだ、上にいた人の名前を聞いていないんですけど…」

 

その当たり前ともいえる質問に芳村が、

 

「うん、そうだね。なにせ私も知らないわけだしね」

 

 と、あっけらかんと答えるとカネキとトーカは大きなため息をついた。

 

 その直後、店の奥とフロアを分ける「従業員以外立ち入り禁止」の札のついたドアが勢いよく開く。すると、

 

「おはようございます!」

 

と、明らかに場違いな挨拶とともに件の喰種であろう女の子が入ってきた。もともと、かなりの薄着だったせいで服装がかなり際どいことになっているが本人は気にしていないのか、特に整えようともしていなかった。

 

「ん?」

 

 彼女はついさっきまで寝ていた時にできたのであろう寝ぐせを揺らしながら周囲を見回す。そして、カネキの顔を見ると何かに気づいたのか大きく目を見開き、

 

「み…見つけたあああぁぁぁ!!」

 

 と叫びながら狂ったような笑みを浮かべて飛び掛かっていった。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!」

 

 本来ならばそのままカネキは彼女の餌食になっていたが、ここには端から警戒を解いていない。つまり、彼女がこの場に現れてから微塵も気を抜いていなかった者がいた。

 

「このォ…」

 

 トーカである。

 彼女はカネキに件の喰種が飛び掛かろうとしたときにはもう動きがしていた。そして、飛び掛かってきた喰種の鳩尾に、

 

「沈めぇ!!」

 

 全力の右ストレートを見舞った。

 

 

・    

 

 

「ふう…何だったのよ、こいつは…」

 

「と、トーカちゃん?いくら何でもやりすぎじゃないかな?」

 

「な…何が…」

 

 一仕事終えましたと言わんばかりのトーカとこの状況を招いてしまったことに焦りを感じている芳村、そしていまだに何が何だか分からずにいるカネキとの三人の前でカネキに飛び掛かろうとした喰種は倒れ伏しピクピクと痙攣していた。

 

 

・                                     

 

 

(うーん、あれ?知らない天井だな…ってなんでこんなところで寝てるんだ?)

 

 彼女は見覚えのない部屋で目を覚ました。この部屋は、ソファーや洒落たテーブルにキャビネットなどの家具が置かれており、落ち着いた雰囲気を出しつつも地味になりすぎないよう配慮がなされた部屋だった。

 彼女が寝ていたソファーから体を起こすと芳村が彼女が飽きたことに気づき声をかけた。

 

「おや、目を覚ましたみたいだね」

 

「ん?あれ?マスター?なんでここに?」

 

 寝ぼけた彼女の問いに芳村はクスリと笑うと、状況が理解できていない彼女に状況を説明し始めた。

 

「うん。その様子だと何も覚えてなさそうだから説明しようか。まずここはあんていくの二階にある従業員用の休憩室で、君はコーヒー飲んでいたらそのままカウンターに突っ伏して眠ってしまったんだよ。だからここに運んで休ませていたという訳だ」

 

 その話を聞いた彼女は徐々に思い出して来たのか、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 

「それは、ご迷惑をおかけしました」

 

 そう言って彼女が頭を下げるとほぼ同時にトーカとカネキの二人が彼女の背後にある部屋のドアから入ってきた。

 

「店長、お店の片付け終わりましたよ」

 

「お疲れ様、トーカちゃん、カネキ君」

 

 その時、ソファーから体を起こしていた彼女は芳村の発した言葉に含まれていた、カネキという単語に反応し振りむこうとした彼女だったが、尋問官(トーカ)に首根っこを掴み上げられ床に尻から落とされ降ろされた。

 

「いった~…何をするのさ!」

 

床に落とされた降ろされた彼女は打ち付けた尻をさすりながら先ほどまで自分が寝ていたソファーに腰を下ろした尋問官に抗議するが、

 

「正座」

 

「え、あの、ここ床…」

 

「正座」

 

「あの、だからここ床…」

 

「正座」

 

「あ、はい」

 

結局、尋問官(トーカ)の圧力に負けすごすごと床に正座することになった。

 そして、その様子に満足した尋問官が彼女に問いを発する。

 

「で、あんたは一体何者なの?」

 

 その様子に芳村が、

 

「と、トーカちゃん?いくら何でもやりすぎじゃないかな?」

 

と、先ほどと同じセリフを発するが、この状況を引き起こす原因となる説明を疎かにしたという前科がある手前強く出れず、

 

「…」

 

カネキは、状況に着いていけずに口をつぐむしかなく、結局彼女に味方はいないまま尋問官(トーカ)による尋問が開始され、冒頭へと至る。

 

 

 

 

 要領を得ないやり取りにイライラした様子のトーカが少々強い口調で質問を繰り返す。

 

「だから、あんたの素性を聞いてるの。とにかくあんたの名前は?どこから来たの?」

 

 すると、そのトーカの問いに我が意を得たりとばかりに立ち上がった彼女は、意気揚々と口上を述べ始めるが、

 

「私は、13区からきた「誰が立って良いつった」

 

尋問官の蹴りを脛に受けあっけなく床に沈んだ。

 

「立ったり大きな声を出す必要はないの。私のきいてることにキリキリ答えなさい」

 

 そのあんまりな扱いを見てカネキがトーカを抑えようと声をかけるが、

 

「と、トーカちゃん。もう少し優しく「あんたは黙ってなさい」はい」

 

あっけなく撃沈する。

 そしてその声に気づいた彼女がカネキの方を見て歓喜の声を上げながら立ち上がり、カネキに声をかけようとするが、

 

「ああ!あの時の喰種!やっと見つけ「だから、誰が立って良いつった?」

 

再び尋問官の蹴りを受け床に沈んだ。

 しかし、トーカは彼女の言葉に違和感を覚え質問を再度飛ばす。

 

「あの時?あの時っていつのこと?」

 

 その問いに対し彼女は瞳に涙を浮かべながら答える。

 

「数日前にカネキ君が眼鏡をかけた喰種と一戦交えた後、君がカネキ君をどこかに連れて行った時だよ」

 

 その答えを聞いたトーカは驚きながら言葉を返す。

 

「あの時…あんたあそこにいたの!?」

 

「うん、いたよ。あ、そうだ。感謝してよ?あの時の後始末をしてあげたのは私なんだから。…って」

 

 そこまで言って彼女は顔を青ざめさせ叫んだ。

 

「って何言わせてんの!?マスターに喰種だってばれちゃったじゃん!!」

 

すると、彼女のこの言葉に反応したのは芳村だった。

 

「ばれるも何も、私たちはもう知っているよ。そして何より、ここには喰種しかいない」

 

 芳村の言葉に彼女は「まじ?」とつぶやき周囲を見回すがそれが真実だと気付きほっとした様子を見せた。

 すると今度は芳村が彼女に問いを発した。

 

「先ほど後始末と言っていたね。ここ最近20区内での喰種同士の争いの後や捕食の後を片付けていたのは君かい?」

 

 彼女は芳村の問いに「多分そうだよ」と肯定すると「まあ、全部じゃないけど」補足する。すると芳村は納得したように頷くとトーカに声をかけた。

 

「トーカちゃん、彼女は危険な喰種ではないよ」

 

 しかし、トーカはまだ疑いが晴れないためその言葉を素直に信じきれない様子で言葉を発する。

 

「しかし店長、こいつが危険じゃないって証拠は…」

 

 トーカの抗議に芳村は「確証ならあるさ」というと説明を始めた。

 

「まず、彼女がウタ君が言っていた新しく20区に来た喰種で間違いないだろう。そしてこの子が喰種の痕跡を隠す術を心得ているのはヨモ君の報告からも明らかだ」

 

 そこで芳村は一旦言葉を切ると、カネキ君に一度視線を向け言葉を続ける。

 

「それに、さっきカネキ君に襲い掛かろうとしたのも寝ぼけていただけのようだしね」

 

 その言葉に彼女はカネキの方を見る。カネキが苦笑いを返して来たのに気づいた彼女は自分が寝ぼけている間にしでかしたことを察し、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 しかし、今度は彼女が顔をしかめ疑問を呈した。

 

「あれ?そういえばなんでみんな私が喰種だって知ってる?」

 

 彼女は自分がしれっと喰種扱いされていることに違和感を覚えていた。

 

「カネキ君とトーカちゃんは私が喰種だってなんでわかったの?」

 

 この問いにはトーカが答えた。

 

「わかったっていうより、私たちは店長に教えてもらった口だから」

 

「?つまり、マスターは私が喰種だって見破ってたの?食べ物もうまく食べて見せたはずだし喰種としての気配もうまく隠していたはずだけど?」

 

 その彼女の問いに対し芳村は衝撃の事実を告げる。

 

「見破るも何も寝ぼけている間、赫眼が発現しっぱなしだったからね」

 

 彼女はその事実を告げられるとしばらく固まった後に笑ってごまかそうとした。

 その様子を見て芳村は笑みをこぼし、トーカはこんな奴が危険なわけがないかと納得したような表情を浮かべたあと、あきれたよう溜息を吐き笑みを浮かべた。カネキは驚き半分呆れ半分で笑った。

 すると、彼女もつられて笑みをこぼした。

 

「ふふふ。」

 

「はぁ~。ふっ…」

 

「あはは…」

 

「えへへ…」

 

 三人の静かな笑い声と一人のため息のみが聞こえるあんていくの二階。

 和やかな雰囲気が流れていた部屋だが、何かに気づいたカネキが申し訳なさそうに発した、

 

「あの…そういえば、まだ僕たち、君の名前を聞いてないような気がするんだけど…」

 

 部屋の中に微妙な空気が流れ始める。

 

「「「あ…」」」

 

つい先ほどまでは穏やかな空気が流れていた部屋に、三人の声が響き、妙な空気が充満していた。




 はい、以上3話でした。
 少々無理やりなところもありましたがこれで彼女はきちんとカネキ君に接触することができました。ここからやっと原作に介入することができます。といっても基本は原作沿いなのでまだしばらくはおとなしいですが。
 次回、彼女の名前が明かされる予定です。
 …やっと名前出せる、これで書きやすくなるかな?
 でもその前に名前考えなきゃ…(汗)

 感想、誤字報告お待ちしています。
 それでは次回をお楽しみに。


「おい、主。次こそきちんと私の名前出せよ?」

「Yes、Sir!」

「いいか?出し損ねてみろ、いっぺん本気でどついたるからな。」

「りょ、了解っす!」


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4話 狐は喫茶店へと・後編

 前回はあんていくと接触できたのでその続きになります。
 今回で彼女の名前が明かされます。
 …今まで書きづらくしてきた原因がなくなるので筆がスラスラ進む…といいなあ…

 夏季休暇に入ったこともありもしかしたら更新速度が上がるかも?

 …評価10…だと…!?(驚愕)
 ありがとうございますm(__)m

~前回までのあらすじ~

 カネキ、トーカ、芳村の三人と無事接触し打ち解け始めた“彼女”。
 しかし、カネキの一言で室内は微妙な空気に…


「あの…まだ僕たち君の名前を聞いてないような気がするんだけど…」

 

「「「あ…」」」

 

 妙な空気が充満する部屋に三人の声が重なった。

 すると、この空気に耐えかねたのか芳村が口を開いた。

 

「そ、そういえばそうだったね。君の名前を聞いてもいいかな?」

 

 芳村の問いにフリーズしかけた彼女は再起動し自己紹介を始めた。

 

「私の名前は六道鈴音、六つの道に鈴の音って書くの」

 

「へぇ、六道さんっていうんだ。」

 

「あ、六道さんなんて呼ばれるのはなんか背中がムズムズするからリンネでいいよ。なんだかんだで私もカネキ君って呼んじゃってるし」

 

「わかったよ。改めてよろしくね、リンネちゃん。じゃあ僕も改めて、カネキ、金の木に研究の研で金木研。よろしく」

 

「うん、よろしく。カネキ君」

 

「霧嶋董香、よろしく」

 

「漢字は?」

 

「知らなくても問題ないでしょう?それに口で言うには少しめんどいのよ」

 

「ふーん、わかった。トーカちゃんもよろしくね」

 

「はいはい、よろしくリンネ」

 

「あ、トーカちゃんは呼捨てなんだね」

 

「何か問題が?」

 

「いや、無いよ?全然ない。そうだ、マスターの名前も聞いていい?」

 

「私の名前は芳村だ。草冠に方角の方、そして村と書いて芳村だ。まあ、好きに読んでくれて構わないよ」

 

「わかりました。じゃあ呼び慣れちゃったからマスターって呼びますね。あ、ちなみに私は一応カネキ君と同じ鱗赫持ちだよ」

 

 ここで、リンネの妙な言い回しに疑問を感じたトーカがリンネに質問を飛ばす。

 

「一応?なんでそんな奥歯にものが挟まったような言い方をする訳?」

 

「いや、あの…ほら。私にも色々あるんだよ」

 

 痛いところを突かれたといわんばかりのリンネの態度にトーカが疑いの視線を向けるが、カネキと芳村が助け舟を出す。

 

「と、トーカちゃん。人が言いたがらないことを無理に聞き出すのはよくないと思うよ?」

 

「そうだよ、トーカちゃん。リンネちゃんにも人に言いたくないことの一つや二つはあるだろうからね」

 

 そして、芳村が話題をそらすために話題を切り替えた。

 

「ところでリンネちゃん、その名前は親御さんが?」

 

「ええ、母がつけてくれた名前らしいです」

 

「らしい?…という事は…」

 

「はい、母は私が物心つく前に亡くなったので直接は聞いていないんですよ」

 

 すると、申し訳なさそうに口を開こうとした芳村をけん制するようにリンネが言葉を続けた。

 

「謝罪なんていりませんよ、マスター。私はこの親からもらった名前が気に入ってる。それだけです」

 

「…そうか、ありがとう。そう言って貰えているのなら、君のお母さんもきっと喜んでいると思うよ。うん、鈴の音か…親御さんがどう思ってその名前を付けたのかは私にはわからないが、とてもいい名前だと私は思うよ」

 

「そういっていただければ私もうれしいです」

 

 そういってリンネは無邪気に笑った。

 和やかな空気に満たされた部屋で外がすっかり暗くなっていることに気づいた芳村がリンネに問いかける。

 

「そういえば。リンネちゃん、今日の寝床はどうするんだい?20区に来たばかりだという事だが何か当てや、寝床になる場所の心当たりでもあるのかい?」

 

芳村が聞いたのはあくまでも、「君はどこで寝泊まりしているのか」という問いだった。

 

…だったのだが…

 

「いや、いつも通り適当な路地裏で野宿するつもりだよ」

 

 という回答で和やかな空気は消し飛ぶことになった。

 

「いつも通り?」

 

「路地裏で…」

 

「野宿?」

 

 もちろんその回答が原因でリンネを除く三人が思考停止を起こしたのは言うまでもない。

 ちなみに上からトーカ、カネキ、芳村の順である。

 

「あんた…マジ…?」

 

 トーカは、冗談でしょ?と言いたげな顔で。

 

「いつも通り…?」

 

 カネキは、意味が分からないという顔で。

 

「ん?なんか変なこと言った?」

 

 状況を理解できていないリンネも三人がひきつった表情をしているのに気づき、「あれ?何かやらかした?」とおろおろしていた。

 

 せっかくの和やかな空気が台無しになった室内で一番早く再起動を果たしたのは、年の功のおかげかか芳村だった。

 

「君はつい最近ここ、20区に来たという事で間違いないね」

 

 突然強めの口調で問いかける芳村。

 

「え?はい」

 

「で、寝床はないと」

 

「あ、はい。まあ、路地裏での野宿を除けばですけど…」

 

「ないんだね?」

 

「あ、はい」

 

 有無を言わせない芳村の問いに頷いたリンネ。

 

「よし、ならいいだろう。リンネちゃん。ここは20区でここにはここのルールがある。狩り場や食事の規則やCCGから身を守るための。わかるね?」

 

「はい、13区にもそのようなルールはありましたからね」

 

リンネがルールに対する理解を示すと芳村は頷き、爆弾を投下する。

 

「ならいいだろう。ならリンネちゃん。あんていくに住み込みで働く気はないかい?」

 

「「「え?」」」

 

「住み込み!?店長本気ですか!?」

 

 トーカがおどろいて声を上げるが芳村は意に介さず「そうだよ。」と短く告げるとリンネに説明を続ける。

 

「もしリンネちゃんがここで労働をしてくれるというなら私は君にそれ相応の対価を支払う準備がある」

 

「…その対価の内容について詳しく」

 

「なに、簡単なことだよ。君がここで働いてくれるのならその対価として多くはないが給金と寝床、そして食事を提供しようと思う」

 

 リンネは提示された条件に違和感を覚え芳村に問いかける。

 

「食事も提供してくれるの?でも私は自分で狩りもできるよ?」

 

 この問いに芳村は少々困った顔をしながら事情を話し出した。

 

「いやね、このあたりでかなり広い狩り場を持っていた喰種がいたんだけどね。その喰種が最近亡くなってしまったんだ。それでその狩り場をあんていくが主導で分配したんだけど、もう空きが無くてね。だからリンネちゃんの食事をここ、あんていくで提供することで、狩り場関係で起こるいざこざをなくそうと思っただけだよ」

 

 芳村はここまで話すと一度言葉を切り、部屋を見回しながらつづけた。

 

「幸い、この部屋のほかにも空いている部屋はあることだしね。どうかな、ここで私たちと一緒に働く気は無いかい?」

 

 ここまでくるとトーカもカネキもリンネを受け入れることに異議はなかった。

 しかし、異議というよりも疑いを持っている者がいた。

 

「なんで…」

 

 リンネ自身である。

 

「なんでこんなに良くしてくれるの?今日会ったばかりの得体の知れない奴に…」

 

 そう言ってリンネは顔を伏せる。

 しかし、信じきれない様子のリンネに芳村は、笑顔を浮かべて優しく声をかける。

 

「いいかいリンネちゃん、人は助け合わなくては生きていけない。それは喰種も同じなんだ。リンネちゃんが今までどういう環境で生きてきたのかは私には分からない。だけど私たちの善意に嘘はないという事は信じてくれないかな?」

 

 しばらく黙ったままのリンネだったが泣き笑いのような顔で芳村に問いかける。

 

「私、コーヒーを入れたりなんて出来ませんよ?」

 

 その問いに芳村は笑顔のままリンネの問いに答える。

 

「そんなことは些細な問題だよ。私もちゃんと教えてあげられるし、トーカちゃんもカネキ君も助けてくれるよ」

 

 すると、その言葉に続いてトーカ、カネキの二人も笑顔で言葉を続ける。

 

「あんたはよくわからない奴だけど、ま、悪い奴じゃなさそうだし。暇なときは他しけてあげるわよ」

 

「リンネちゃん。僕は新人だから頼りないかもしれないけど、教えられることはあると思うから遠慮なく頼ってよ」

 

 二人の言葉を聞いたリンネは目元を少々乱暴に拭うと、顔を上げる。

 

「…わかりました。六道リンネ、あんていくでお世話になります!」

 

 その言葉を聞いた芳村は満足そうに頷く。

 

「うむ、それじゃあ私とリンネちゃんはしなくてはいけないことができたね。明日にでもリンネちゃんに必要なものをそろえなくては」

 

 そして芳村は窓の外に目を向けるとまた口を開く。

 

「もうかなり遅い…というよりそろそろ電車も止まりかねない時間だね。トーカちゃんとカネキ君はもう帰りなさい」

 

 窓の外は完全に真っ暗で時間がほぼ深夜ともいえる時間に差し掛かっているのを示していた。

 

「あ、ほんとだ。じゃあトーカちゃん、もう帰ろうか」

 

「そうね、じゃあ失礼します」

 

トーカとカネキの二人が帰り支度を始めるとリンネが立ち上がった。

 

「じゃあ、見送りに行くよ」

 

 すると芳村はポケットから鍵を取り出すとリンネに渡しながら言った。

 

「じゃあ、お店の表の鍵をリンネちゃんに渡しておこう。二人を見送った後戸締りをしておいてくれないかな」

 

「了解です、()()。」

 

 リンネに店長と呼ばれた芳村は一瞬驚きの表情を浮かべた。

 

「じゃあ、お願いね。」

 

「よーし、じゃあ二人とも行こう!」

 

「ったく、そんなに焦んなよ」

 

「わ、わ、待ってよ!」

 

 にぎやかに下へ降りていく三人の背中を見ながら芳村は物思いにふけっていた。

 

 

――あんていく前――

 

 

「さてと、それじゃあね、リンネちゃん」

 

「店長に迷惑かけんなよ?」

 

「大丈夫だって、トーカちゃんは一言多いよ、まるでおばあ「なんだって?」ナンデモナイデス」

 

「あはは…じゃあ行こうかトーカちゃん」

 

「不安だなぁ…」

 

「明日はお店に来るの?」

 

「いや、僕もトーカちゃんも明日はシフトがないからお店には来ないよ。シフトは明後日だね。トーカちゃんは?」

 

「しばらく休みだよ。だからあんたと顔を合わせるのは4,5日後だよ」

 

「そうなんだ。じゃあ、それまでにちゃんとお仕事覚えなくちゃね」

 

「ああそうだな」

 

「じゃあ、もう行くねリンネちゃん」

 

「うん、また明後日ね~」

 

 

――芳村視点――

 

 

(六道輪廻、13区から来た“流れ”の喰種。鳩との戦闘を避けるすべを心得ており、また本人も非好戦的で危険度は高くはない、が戦闘能力はおそらく四方君と同等かそれ以上…)

 

 芳村は窓の外で話をしている三人を見下ろす。

 

(とっさにうちで引き取ると言ってしまったが、これは一体吉と出るか凶と出るか。…助け合い、それは素晴らしいことだ。だがそれに損得勘定を絡めて考えを回さなくてはならないというのは…いつまでたっても慣れはしないな…)

 

 ここで芳村の脳裏に先ほどのリンネのセリフが浮かんできた。

 

(「なんでこんなに良くしてくれるの?今日会ったばかりの得体の知れない奴に…」か…この言葉かから察するに、あの子は少なからず一度は他者からの悪意に晒された経験があるということは間違いない。まず、善意を向けられることに抵抗を見せたこと、これは恐らく過去に偽りの善意で何かしらの被害を受けたということだろう。そして自分を得体の知れない奴と卑下していた。つまり、あの子はやはり他者の悪意におびえている。もしくは、初対面の他者に対して常に警戒心を抱いているということだろう)

 

 あんていく前で話していた三人が解散しカネキとトーカが店を離れ、リンネが店内に戻ってくる。

 その様子を見ていた芳村は軽く頭を振って思考を切り替える。

 

(難しく考えていても仕方ない、今はあの子の信用を勝ち取るのが先だ)

 

「やれやれ、ままならないものだな…」

 

 芳村のつぶやきは誰に聞かれることもなく、部屋の壁に吸い込まれていった。

 

 

――20区・郊外――

 

 

 人が近寄らなそうな20区の外れにある雑木林。そこには一人の女性が立っていた。

 

「あなた、どうか見守っていて…あの子は、ヒナミは、私が立派に育てて見せるから…」

 

 女性のつぶやきに言葉が返ってくることはなく、静かな風が供えられた白い百合の花を揺らすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

――リンネの人間の食べ物食べ方講習――

 

 

「な、なに?これ?」

 

「おっと、今日の挑戦者はカネキ君か~よーし、じゃあ今日も元気に食べてみよう!」

 

「えっと…リンネちゃん?まず状況の説明が欲しいんだけど…」

 

「え~と、ここに“主”から預かったメモがあるよ?」

 

「主?メモ?一体何のこと?」

 

「それじゃあ読みまーす!」

 

「ああ、これ逆らえない奴だ…」

 

「えーと何々…『とりあえず4話までは来たものの今回は文字数が少々足りなくなってしまった。そこで文字数を稼ぐ必要が出てきてしまったためこのコーナーを設ける運びとなった。このコーナーでは喰種の方々に順繰りに登場してもらって人間の食べ物を食べてもらう。ちなみに拒否権などはないので悪しからず。それじゃあみんな愛してるよ~。』とのことです」

 

「えー…」

 

「という訳でこのコーナーの初の挑戦者はカネキ君!そしてお題は…この箱の中のボールを引いてね、されに書かれているものが今回のお題になるから」

 

「どこからその箱出したの…逆らっても無駄か…わかった、引くよ…」

 

「おお、もの分かりが良くて素晴らしいですね~では記念すべき一発目どうぞ!」

 

「…はい、っと。なにこれ…えーと“たまごサンド”?」

 

「はーい、一発目はたまごサンド!さあ、ここにあるから元気よく一口行ってみよう!」

 

「いやだから、一体どこから出したの…ってやめて口に詰め込まなモゴッ」

 

「まあまあよいではないか~」

 

「モゴッ!モゴゴッ!モガガッ!」(ちょ!待って!やめてぇ!)

 

「よいではないか、よいではないか~」

 

「モゴーーーッ‼」

 

 その後、カネキの姿を見たものはいなかった。

 

                     (このコーナーは)続かない




 今回は少しシリアス気味な要素がありましたがまだ本格的にシリアスモードににはなりません。もう少しだらだらとギャグ風味のパートやりたいので。(え?バレバレ?最後?何のことかちょっとわかりませんねぇ~すっとぼけ)
 今現在は、ハッピーエンドにするかバットエンドにするかは決めていません。むしろこの先の展開もあまりまとまってはいません。(オイ)ですが未完結にするつもりはないのでご安心ください。…投稿が遅れる可能性はありますが。

それではまた次回、感想や誤字報告、お待ちしています。


~次回予告~


 カネキはあんていくの表の仕事と裏の仕事の二つの存在を知る。
 その内容に悩む中、一人の喰種があんていくを訪れる。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第5話

 狐はウェイターへと

 君は生き残ることができるか


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5話 狐はウェイターへと


 今回は前回から一日日付が飛んでいます。その飛んだ分はのちに幕間として投稿予定です。
 今回からは、前回の最後にちらっと出てきた女性が物語の中心になります。いったい誰なんでしょうかね?(白目)

祝☆UA1400到達!ありがとうございますm(__)m

 それではどうぞ。


~前回までのあらすじ~

 あんていくへの居候プラスウェイターとなることが決まったリンネ。
 ついに物語にかかわり始めた彼女は物語にどんな影響を与えるのか。


――あんていく――

 

 

 リンネがあんていくに居候することが決まり二日目。

 夕方になり、大学の授業を終えたカネキがあんていくに来ると彼を迎えたのは、

 

「よっ、カネキ君」

 

 ウェイトレス服に身を包んだリンネだった。

 

「あれ?リンネちゃんもうお店に出てきても大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫、今はお客さんいないし。なんたって私、物覚えはいい方だから、もう基本的なことはある程度こなせるしね」

 

 そう言って笑うリンネの背後で芳村が微妙な表情をしていたが、その原因が昨日のリンネの訓練だということを、カネキは知る由もなかった。

 そして、リンネにコーヒーの淹れ方を教えるだけで疲労しきってしまい、芳村がリンネを店にウェイターとして出すのを一瞬躊躇ったのも知る由もなかった。

 

「それに、今日はトーカちゃんが休みでしょ?だからその代役と訓練も兼ねてるの」

 

「へぇ~」

 

 ここで、楽しげに会話してる二人に芳村から声がかかる。

 

「ということで、カネキ君もフォローしてあげてね」

 

「あ、店長。わかりました。…そういえばトーカちゃんの休みの理由って何だったんですか?昨日聞こうと思ったんですけど聞きそびれちゃって…」

 

「女の子が休む理由なんて女の子の「古典の試験が危ないらしくてね。その対策をしたいんだそうだ」

 

  芳村がリンネの発言をうまく遮って答える。

 

「そういうわけでリンネちゃんにもフロアに出てもらったという訳さ。だからカネキ君も何かあったらフォローしてあげてね」

 

リンネは事を遮られたことに一瞬頬を膨らませて芳村の方を見たがすぐに笑顔を浮かべた。

 

「ということでよろしくね、カネキ君」

 

「わかりました、店長。それじゃあ、これからよろしくねリンネちゃん」

 

「さてと、もう夕方だ。午前中と違って忙しくなる。看板娘二号であるリンネちゃんにも、本格的に動いてもらわなくてはね」

 

「はーい、ご期待に沿えるよう頑張りまーす。」

 

「うん、それじゃあおしゃべりもこの辺にしておこうか。そろそろお客さんが来てもおかしくない。カネキ君は早く裏で着替えておいで。そしたら、リンネちゃんには食材の準備を手伝ってもらおうかな。」

 

「わかりました。」

 

「よーし、頑張っちゃうぞ!」

 

 

 

 

「ごちそうさまでした~」

 

「…ふう、これで一息付けますね」

 

 最後の客が出ていくとカネキがそう言って額をぬぐった。

 

「そうだね。まだ閉店までは時間があるが、私たちも一息入れるとしよう。…彼女もその方がいいだろう」

 

「そうですね、ははは…」

 

 そう言って苦笑いする二人の目線の先には、

 

「ブクブクブク…」

 

机に突っ伏して力尽きているリンネがいた。

 

「初めての仕事で疲れちゃったのかな?」

 

「それもあるだろうけど、慣れないことをしていたんだ。疲れてしまうのは当たり前だよ」

 

 すると芳村は思い出したようにカネキに声をかける。

 

「そういえばカネキ君、今日の夜時間あるかい?」

 

「はい?店の片付けですか?」

 

「いや、うちのスタッフと“食糧調達”に行ってほしいんだ」

 

「食料調達…買い出しですか?」

 

「そうじゃないんだ。今日行ってもらうのはお店で使う食材じゃなくて、私たちの食糧だよ。いつもはトーカちゃんにお願いしていたんだけど、今日はカネキ君にお願いできないかと思ってね」

 

 ここで初めて食糧調達の意味を理解したカネキが焦ったように口を開く。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!僕は…人殺しは!」

 

 焦るカネキを落ちつけようとした芳村だったが、いつの間にか復活していたリンネに言葉を取られてしまう。

 

「カネキ君、君は何か勘違いをしていないかい?」

 

 リンネは当たり前のことを言うように淡々と言葉を紡ぐ。

 

「いいかい?まず私たちは喰種だ。つまり、人を喰わなくては飢えて死んでしまう。これは人間も同じ、牛や豚などの生き物を殺し、食べているだろう?それと何が違うんだい?」

 

 しかし、その言葉を受け入れられずにうつむくカネキに芳村が助け舟を出す。

 

「そうは言っても、彼は少々特殊な喰種でね。あまりそういうのに慣れていないんだ」

 

「特殊?どういうこと?」

 

「うーん、どうと言われるとこれまた答え辛いんだが…」

 

 芳村が言葉を濁すとリンネも何か悟ったのか、追及をやめた。

 

「ふーん、まあいいや。なら私が代わりに行こうか?私ならそういうのには慣れてるし」

 

 リンネがそう提案するも芳村には何か考えがあるのかその提案を断ってしまう。

 

「いや、今回は人を殺めるようなことではないから、やはりカネキ君に行ってもらいたいんだ」

 

 そう言われ、カネキはしぶしぶながらも「人を殺めることがないなら…」と了承し、食糧調達の準備ということで一足先に仕事を切り上げ、奥へと入っていた。

その後、カネキが奥へ入っていったのを確認すると芳村は店のドアにぶら下がっていた札を『CLOSE』の方へ裏返した。

 すると、その様子を見ていたリンネが芳村に声をかける。

 

「あれ?もう閉めちゃうんですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 すると芳村は、いつもとは違う厳しい雰囲気で言葉を発した。

 

「リンネちゃんは、人の秘密を守れるかい?」

 

 リンネはその雰囲気と言葉に違和感を感じながらも答えた。

 

「人の秘密を守るのは当たり前ですよ。私だって秘密の10や20はあるんだし、人の秘密の一つや二つ守れないわけはないですよ。」

 

 リンネがそう返すと芳村は頷き、「ならいいだろう」と言った。

 なぜ突然そんなことを言われたのか分からないリンネは首をかしげるだけだったが、芳村がすでに店の片づけを始めてしまったため質問の機会を逃してしまった。

 

「…なんだったんだろ」

 

 

――駅前――

 

 

 カネキが身支度を済ませ駅前で待っていると黒いセダンがカネキの目の前にとまった。

 車から降りてきたのは不愛想な長身の男だった。

 

「えっと…四方さんですか?僕は金「知ってる」

 

 言葉を遮られ、「さっさと乗れ」と冷たく言われたカネキは半ば怯えながら車に乗り込んだ。

 そして車で走ること数十分、やってきたのは人気のないどこか不気味な高台だった。そこには、既に車が止まっていたが持ち主の気配はなかった。

 いまだに自分が何をするために来たのかわからないカネキは四方に問いかける。

 

「あの、ここで何をするんですか?」

 

 しかしカネキの問いに四方は答えることはなく、ただ高台の下をのぞき込むだけだった。

 

「…」

 

 無視されたカネキは下に何があるのか気になり柵に手をかけ身を乗り出す。

 するとそれに気づいた四方が注意しようとカネキに声をかける、

 

「そこ、老朽化して…」

 

が、カネキが気づく前に柵が崩れ、

 

「ふぇ…?」

 

高台の下へ真っ逆さまに落ちていった。

 

「うああああああああぁぁぁぁ…」

 

 

 

 

「いっつつ…これは喰種の頑丈な体じゃなかったらやばかったな…」

 

 高台の下まで落ちてきたカネキは、そう言いながら立ち上がり、周囲を見回す。

 

「不気味なところだ…上に行きたいけど自力で上がるのは無理そうだしなぁ…ん?」

 

 カネキがそう呟きながら高台の崖に近づいていくとつま先に何か当たったような気がして、驚いて足元を確認する。

 

「えっ…」

 

 カネキの足元にあった()()、それは男性の死体だった。首の骨が折れているのか首があり得ない方向に曲がっていた。

 

「うああああ!」

 

 カネキが驚いて尻もちをつき震えていると、いつの間にか降りてきていた四方が怯えているカネキに声をかける。

 

「死体を見るのは初めてか?」

 

 すると四方はこの場所の説明をしだす。

 

「ここの上に車が停まっていただろう?おそらくあの車はこの男の物だ。…ここには自分の意志で死を選ぶ人が集まる。そして、この場所が人間に知れ渡っていないのは俺たちあんていくが処理しているからだ」

 

 その説明を聞いたカネキは震えながらも答える。

 

「あ…あんていくの人たちは、自殺者を選んで食べているんですね。…そうすれば人を殺めずに済むから…」

 

「…選んでいるつもりはない。人を殺して食う時もある。トーカや他の奴もそうだ。俺がこんなことをしてるのも、お前とこんなところに来てるのも芳村さんにたまれたから。ただそれだけだ」

 

 四方はそういうと大きな黒いボストンバッグに似たカバンをカネキに渡して言い放つ。

 

「これを詰めろ。俺は向こうのもう一体を詰めてくる」

 

「えっ…」

 

 しかし、人の死体に慣れていないカネキは戸惑い震えることしかできなかった。

 すると、その様子を見かねた四方はため息をつくとカネキのバックをひったくりながら冷たい口調で言う。

 

「もういい、俺がやる」

 

「あっ…」

 

 そう言って死体のそばによるとバッグを地面に置き、死体の目を閉ざした後にと両の手を合わせると祈るようなしぐさをすると、手早く死体をバックに詰め始めた。

 

 

 

 

 ()()を終えた帰りの車内、カネキは先ほどの四方の行動について考えていた。

 すると、何かに気づいた四方が車を止め降りる。そして横道の先にいた女性に声をかけて連れてきた。

 連れてこられた女性はカネキに気が付くと声をかけてくる。

 

「あら、カネキ君。」

 

 突然声をかけられたカネキは驚きながらも答える。

 

「あっ…笛口さん」

 

 声をかけてきたのは笛口リョーコ、喰種の女性でヒナミという名の娘がいる。

 

「こんばんは、お邪魔するわね」

 

 そういって車に乗り込むリョーコだったが、その表情は俯いているため分かりづらかった。

 

「…怒ってます、よね。」

 

 唐突に申し訳なさそうに口を開くリョーコ。

 

「私が、夫の墓に通うから…」

 

 その言葉に四方は、リョーコ容赦なくを攻め立てる。

 

「墓に行くことをとがめているんじゃない、一人で行動することが問題なんだ。20区(ここ)白鳩(ハト)をおびき寄せたのはリゼじゃない。奴らはあなたを追っているんだ」

 

 四方はそこで一度言葉を切り、声のトーンを少し下げて続ける。

 

「ヒナミを巻き込みたくないなら慎重に行動してください。芳村さんが言うことには、彼らはもうすぐそこまで迫っているんです」

 

 そう言われたリョーコはさっきと打って変わって、顔を上げ毅然とした顔で四方に言葉を返す。

 

「先ほど、夫のマスクをお墓に埋めてきました。…私がいつまでもあの人にすがっていては…私があの人に甘えていてはいけない」

 

 すると今度は優しい笑みを浮かべて言う。

 

「私はあの子(ヒナミ)が甘えられる場所でないといけない。だって、私は母親なんですもの」

 

 そう決意を固めるリョーコだったが、車に乗り込むところは愚か、マスクを埋めている時も見られていたことには気づいていなかった。

 そして、それが自分自身のみならず、愛する我が子も危険にさらしてしまう原因になってしまったということを、今はまだ知る由もなかった。

 

 

――20区・CCG20区支部会議室――

 

 

 20区にあるCCGの支部では亜門や真戸などの本局の捜査官も交え、ここ数週間の喰種の目撃情報や捜査状況などをもとに会議が行われていた。

 

「720番、及び722番は特に動きなし」

 

 亜門はそう言って捜査対象者の動向事細かに報告していく。

 

 しかし、ここ最近は喰種に関する有力な証言、情報が乏しく。CCGの捜査官たちは苛立ちを募らせていた。

 

「ふむ、亜門君。詳細な報告は良いがもう少々簡潔でも構わないぞ」

 

「はっ、了解です。」

 

「ふむ、やはり決め手に欠けるな。…20区支部担当の723番に動きは?」

 

 そう真戸に問いかけられた20区所属の丸いメガネをかけた捜査員は立ち上がり報告を始めた。

 

「はい、対象は電車で移動、5つ目の駅で下車。その後一度は見失いましたが資料にあるC地点にある石碑のようなものの近くで再補足。数十分の滞在後、知人のものと思われる車に乗り合わせ帰宅した模様です」

 

 その報告に不満を感じた亜門が質問を飛ばす。

 

「…その車のナンバーは?」

 

 しかし、その質問に対する答えを相手が持ち合わせていないのに気付くと、亜門は苛立ちを隠そうともせず苛烈に攻め立てる。

 

「それと、その石碑は()では?埋蔵品に696番との関連性が見出せれば723番は“喰種(クロ)”だと確定する。何故そこまでやらなかったのですか?」

 

 亜門の言外にある「墓を漁れ」という意志に20区の捜査員たちは反感を示す。

 

「私に墓を漁れと?そんな倫理に反したことをしろというのですか!?」

 

「本局と20区(我々)ではやり方が違うのですよ」 

 

 すると、その言葉の中にあった“倫理”という言葉に反応した亜門が20区の捜査官に言い放つ。

 

「“倫理”で“(喰種)”は潰せません。我々は“正義(捜査官)”、我々こそが“正義”です」

 

 その後、亜門達本局の捜査官と20区の捜査官との間にわだかまりを残したまま会議は終わり、捜査官たちは各々の捜査のために散っていった。

 

 

 

 

 会議を終えた亜門と真戸の二人は自分たちの資料の整理を終え、帰路に就くため支部内を歩いていた。

 

「全く、こんなにも支部の捜査官が危機感と使命感に欠けているとは思いませんでしたよ。そんなことだから奴ら(喰種)に好き勝手にやられるとなぜ分からないんだ」

 

 そう言って憤慨する亜門。その様子を見た真戸がそれを諫める。

 

「そう怒るな、亜門君。だから我々がここに居るのだろう?君の心は義憤に燃えている。その火は業火の如くだ」

 

 そう言って真戸は嬉しそうな顔をすると弾むような口調で続けた。

 

「その火は正しい世界を望む者たちの心には必ず燃え広がっていくだろう。胸の内に松明持っているかどうかにもよるがね。私も松明を持っているつもりだよ。そのおかげで君からいい影響を受けている」

 

「真戸さん…」

 

 そこで真戸は言葉を切ると肩の高さで手を振りながら亜門と別の方向へ歩きながら続けた。

 

「しかし今日はもう疲れた。君は歩くのが速い・・・私は先に休ませてもらおう。君も一度休むといい、きちんと休息をとるのもまた我々の仕事だよ」

 

 真戸はそう言うとそのまま亜門に背を向け歩いていった。

 残された亜門は複雑な表情でそれを見送るが、ちょうどその時通りかかったCCGの職員と、彼に手を引かれるCCGで保護されている孤児の二人を見てその瞳に憤怒の火を灯し、タオルとスコップを持ってCCGの市部を飛び出した。

 

 

――雑木林・石碑の前――

 

 

 そこにいたのはつい先程CCGの市部を飛び出して来た亜門だった。

 彼はその瞳に義憤の炎を燃やしながら首筋を撫でる生暖かい不快な風も、肌にまとわりつく羽虫も意に介さずひたすらに石碑()を掘り返していく。

 すると、スコップの先端が固い()()に当たる。

 亜門は嬉々とした表情で屈みこみ土を手で払い除けていく。

 そして、ついに目当てのものを手にいれた。

 目的を達成した達成感に頬を綻ばせる亜門の手にあったのは696番(喰種)のマスクだった。

 

「やった…見つけたぞ…これで723番は喰種(クロ)だ…!」

 

 翌日、この亜門の手柄により笛口リョーコは喰種と断定され討伐令が出ることになる。




 とうとうリョーコさんがCCGにロックオンされてしまいました。
 東京喰種で一番好きなカップリングはカネトーですが、私が一番好きなキャラはヒナミちゃんです。(そこ、ロリコンて言わない。)
 そろそろ本格的に原作に介入したい気持ち半分、ほのぼの日常ギャグパートをやりたい気持ち半分…予定は未定()

 感想、誤字報告お待ちしています。
 
 次回をお楽しみに


~次回予告~


 ついに喰種であることがCCGに露見してしまったリョーコ、その彼女にCCGの魔の手が忍び寄る。
 そんな中、リンネはヒナミと接触し、彼女の願いを、祈りを知る。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第6話

 少女の祈りは狐へと

 さーて次回も、サービスサービスぅ!


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6話 少女の祈りは狐へと

 unravelをドイツ語で歌ってる動画を見て鳥肌して、しばらくさまよってBlessingのWorld Editionを聞いてほろりと来て、「やっぱり平和が一番だな」と思う今日この頃。

 世間では楽しい夏休み真っ最中な中、私の作品の中ではハイパーハードモードに突入している模様。平和とは…うごごごご…(白目)


 …水着回とかやりたいけど東京喰種に海関係のシーン無いから書きづらいし…水着…ガチャ…FGO…うっ(心停止)


~前回までのあらすじ~

 とうとう喰種であることがCCGに露見してしまったリョーコ。
 忍び寄る魔の手に対しあんていくは、そしてリンネはどう動くのか。


――あんていく――

 

 

 日も高く昇り、休日ということもあって客の数も多くなりつつある店内。

 カウンターに入っていた温厚そうな顔をした店員、古間が何かに気づくとカネキに呼びかける。

 

「カネキ君、上からコーヒー豆の補充を持って来てもらえないかな?」

 

「分かりました、古間さん。どれを持ってきますか?」

 

「赤色のラベルのやつをお願いね」

 

「分かりました」

 

 そう言ってカネキは二階に上がっていった。

 

 

 

 

――あんていく・二階従業員用休憩室――

 

 

 カネキが小間にこと付けを受ける少し前、お店に出る準備をしていたリンネが丁度あんていくの二階で食事をしていたヒナミと初めて顔を合わせてた。

 

「ん?お姉ちゃん、だれ?」

 

「おや?君とは初めましてかな?」

 

「うん、私はお姉ちゃんのこと知らないよ」

 

「なら自己紹介しておこうかな。私は六道鈴音、気軽にリンネって呼んで。ちなみに今はあんていくの居候兼ウェイターだよ」

 

「…ちょっと何言ってるか分からない」

 

 そうして割とあっという間に打ち解けた二人はヒナミは食事をしながら、リンネは仕事の準備をしながらお互いの境遇について話していた。

 

「ふーん、ヒナミちゃんはお母さんと二人で暮らしてるんだ」

 

「そうだよ!」

 

「ヒナミちゃんはお母さんが大好きなんだね」

 

 

「うん!お母さんはいろんなことを教えてくれるし、とっても優しいんだよ!」

 

 すると、そこで一度言葉を切ると少し寂しそうに続けた。

 

「でも、友達が少ないのはさみしいかな…」

 

「そうか…」

 

 するとそこであることを思いついたリンネが言った。

 

「なら、私がヒナミちゃんの友達になってあげるよ!」

 

 ヒナミは驚いた顔をすると、嬉しそうに答えた。

 

「いいの?」

 

「もちろん!」

 

「じゃあ、リンネおねえちゃん。」

 

 ヒナミが食事に使っていたフォークを置いて、リンネにおずおずと話しかける。 

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 リンネが答えるとヒナミは意を決したように言葉を発した。

 

「わ、私と一緒に遊びに行こう!」

 

 それは今まで特殊な状況に置かれ続けていた少女のなんてことはないただ“友達と遊びたい”という平凡な願いだった。

 

「もちろんいいよ!」

 

 そしてリンネはそれを快諾する。

 

「ほんとにいいの?よ、よかったぁ…」

 

 リンネの了承を受け涙目になっているヒナミだったが、リンネ自身はそれに気づかず見当違いの方向へ気合を入れてしまった。

 

「よーし。ならさっさと仕事終わらせて遊びに行こう!」

 

「へ?」

 

 すると、戸惑うヒナミをよそにリンネはウェイトレス服に着替えだす。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?何してるの!?」

 

「なにって、着替えてるんだよ?さっさと仕事を終わらせて遊びに行くためにね!」

 

 そう元気よく答えたリンネは、ヒナミの「私、食事中なんだけど…」という抗議や「そもそも喫茶店のお仕事って時間制じゃ…」という指摘すらも聞こえていないのか、服を脱ぎ続けていつの間にか下着だけ(パンツ一丁)の姿になっていた。

 

 

 

 

「補充の豆…倉庫かな?…ん?」

 

 カネキが二階に倉庫の豆を探しに来ると従業員用の休憩室から話し声が聞こえてきた。

 

「誰かいるのかな…?」

 

 そう言って休憩室の扉を開けたカネキの目の前に居たのは、

 

「あ…」

 

「うん?」

 

食事中のヒナミと着替え途中のリンネだった。

 

「あ、あわわ…」

 

「ん?どしたの?カネキ君。」

 

 着替えている途中、つまり下は下着一枚、上半身に至っては何も身に着けていないリンネがそう言いながらカネキに近づいていく。

 

「どうしたのカネキ君。顔が真っ赤だよ?」

 

「あ、いや…あの、その…」

 

 ほぼ裸のリンネに迫られ、思考回路がショートしたカネキがとった行動は、

 

「しっ、失礼しました!!」

 

撤退(逃亡)だった。

 ドアを壊れそうな勢いで閉めたカネキはそのまま倉庫に向かうと()()ラベルのコーヒー豆を取ると下に降りて行った。

 

 

 

 

 カネキが撤退(逃亡)した直後、ヒナミが半目でリンネに言葉をかける。

 

「リンネおねえちゃん…いったい何やってるの…」

 

「え?何が?」

 

 しかし、状況が理解できていないリンネは頭に?マークを浮かべるだけだった。

 

「何が?じゃないよ!カネキお兄ちゃんは男の人だよ!?それなのに、あ、あんな破廉恥なことを!」

 

「ああ、それなら私は気にしないから無問題無問題。」

 

「問題しかないよ!って言うか早く服着てよ!」

 

「はいはい、あれ?スカートのベルトどこやったかな~?」

 

「…そもそも食事中の人の前で着替えるのもどうかと思うな~…」

 

 そう言ってハイライトの消えた目で食事を再開したヒナミがつぶやくが、リンネは全く気づいておらず、ヒナミは心の中で(この人(リンネ)馬鹿だ…)と悟っていた。

 

 

 

 

 上で起きた事件のせいですっかり疲れ切った様子のカネキが下に降りてくると気付いた古間が話しかけてきた。

 

「お、カネキ君。取って来てくれた?」

 

「はい、取って来ました…」

 

「うん、ありが…」

 

 すると、カネキの様子がおかしいことに気が付いた古間が問いかける。

 

「どうしたのカネキ君、顔真っ赤だよ?」

 

「放っておいてください…」

 

「そ、そうか…」

 

 古間があまりにもカネキの様子がおかしいために話題の変更を試みる。

 

「ところで、上でヒナミちゃんが食事中じゃなかった?」

 

「え?は、はい…食事中でしたが、それが何か?」

 

 ここで雰囲気を変えようとした古間が空気を変えようといじりに入るが、

 

「うわっ、デリカシー無いなー…意外に野蛮?」

 

そのいじりの結果、頭の中に先ほどの刺激の強い光景(リンネの下着姿(半裸))がフラッシュバックし落ち着いてに言葉を返すことすらもできなかった。

 

「そんなことないですよ!」

 

「お、おう…」

 

「…それに、もっとインパクトのあるものを見てしまったせいでそれどころじゃなかったんですよ…」

 

 そのカネキのつぶやきがうまく聞き取れなかった古間が問い返すが、

 

「ん?何か言ったかい?」

 

「いえほんとになんでもないんでもうほんとに勘弁してくださいぃぃ…」

 

という懇願に古間も返す言葉が見つからず、「コーヒーの豆が間違っていることとかは言わない方がいいかな?」と思い直し、そのまま通常業務に戻っていった。

 

 

 

 

 それからしばらくしてリンネがフロアに出てきてから明らかに集中を欠いているカネキの様子を見かねた古間がカネキを呼びつけた。

 

「カネキ君、少し息抜きも兼ねてヒナミちゃんのところにコーヒーを持って行ってくれないかな?」

 

「わ、わかりました」

 

 自分でも明らかに集中出来ていないことが分かっていたカネキはその指示を受けて小間からコーヒーを受け取ると二階に上がっていった。

 

 

 

 

「ヒナミちゃん、入るよ?」

 

 そう言って部屋に入ったカネキの前に居たのは本を読んでいたヒナミだった。

 

「さ…さっきはごめんね?これはサービスだから」

 

 そう言ってコーヒーを置くとカネキは退出しようとするが、ヒナミの問いを受けとどまった。

 

「お兄ちゃんは、“どっち”何ですか?」

 

「えっ…と…」

 

 すると答えづらそうなカネキの様子を見てヒナミは申し訳なさそうに首をすくめるが、カネキは「気にしないで」と言うとつづけた。

 

「僕は元々喰種じゃなかったんだ。でもいろいろあってね、喰種の体が混ざっちゃったんだ。だから体は喰種で心は人間って感じかな…」

 

 ここまで聞いていたヒナミが申し訳なさそうに言う。

 

「ご、ごめんなさい…変なこと聞いて。他のみんなと全然匂いが違ったから…」

 

 しかしカネキはヒナミを気遣ってか笑みを浮かべて返す。

 

「いや、いいんだよ。それにしてもヒナミちゃんはすごいね!匂いとかでそういうの分かっちゃうものなの?僕が普通と違う…と言うか特殊な喰種だって」

 

「ううん、なんとなく…なんだけど…」

 

 そう返したヒナミはさらに驚きの事実をカネキに告げる。

 

「確信があったわけじゃないの。だってリンネおねえちゃんも()()()()がしてたから…」

 

「えっ…それって、どういう…?」

 

 カネキは戸惑ってまともに言葉と発することができなかったがそれも当然で、もしヒナミの勘を信じるのならばリンネもまた()人間の喰種であるか、それに近い特殊な喰種であるからだ。

 しかしヒナミは、「私の気のせいだと思う」と言って言葉を濁してしまい、カネキもまたこれ以上の追及をしづらかったためヒナミの手元にあった本へと話題を移していった。

 

 

 

 すでにあんていくも終業時間となり店に残っているのは二階にいるカネキとヒナミ、そして一階で話している芳村とリョーコだけだった。

 ちなみに、リンネは仕事が終わる時間が遅くなり、ヒナミと遊びに行けないことが分かるや否やさっさと着替えてどこかへ言ってしまっている。

 

 

――あんていく・裏口付近――

 

 

 そこではリョーコと芳村が今後について話し合っていた。

 

「すみません、今日一日丸々ヒナミも私もお世話になってしまって」

 

 そう言うリョーコに芳村は柔らかな態度で返す。

 

「いえいえ、リョーコさんもヒナミちゃんもここを気に入っているようですし、構いませんよ」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 そう言いながら軽く頭を下げるリョーコに芳村は先ほどに比べいくらか真剣な口調で問いかけた。

 

「――では、これからはご自分で食事を確保する…ということですか」

 

「はい。いつまでもあんていくのお世話になっているわけにもいきませんし」

 

 リョーコはそこで一度言葉を切ると決意を込めた表情で続けた。

 

「何よりも、私がそうしたいんです。人を傷つけるのは私にはまだ無理ですが、四方さんがしているようなことを真似れば私にでも出来そうですし…」

 

 ここまで聞いた芳村は優しい声音で返した。

 

「そういうことなら協力しますよ。近いうちに四方君からいい場所がないか聞いておきましょう」

 

 芳村の申し出にリョーコは頭を下げるが、芳村は「助け合いですよ」と笑った。

 そして、芳村はブラインドの隙間から外の様子をうかがうと言った。

 

「一雨来そうですな…傘をお貸ししましょう」

 

「何から何までありがとうございます」

 

 話が一段落すると同時に、タイミングよくカネキがヒナミを釣れ、二階から降りてきた。

 

「リョーコさん、ヒナミちゃん連れてきましたよ」

 

「あら、カネキ君ありがとうね。じゃあヒナミ、帰りましょうか」

 

「うん!それじゃあまたね、カネキお兄ちゃん!」

 

 そう言って帰って行った二人を見送った後、カネキが芳村に声をかける。

 

「店長、このあと少しいいですか?」

 

 カネキの真剣な雰囲気に何かを察した芳村は「二階に行こう」と言うと店の鍵を閉めカネキとともに二階に上がった。

 そしてその直後、外では雨が降り出した。

 

 

――あんていく二階・従業員用の休憩室――

 

 

「で、なにかな?カネキ君」

 

 そう言って話を切り出した芳村にカネキは昼間、ヒナミが感じていたというリンネに対する違和感と自分と似た匂いがするらしいということを話した。

 それを聞いた芳村とカネキとの間で出た結論はまとめると次のようなものだった。

 

・元人間の喰種なのではないか

 

・人間の要素を強く持った喰種なのではないか

 

・ただのヒナミの勘違いか

 

 という三点だった。

 

 しかし、芳村はヒナミの勘違いというのはないと踏んでいるらしい。なぜなら、ヒナミの耳と鼻は芳村もだいぶ買っているらしく、もしヒナミが何かを感じているならば何かあると確信しているからだ。

 そして、リンネが元人間の喰種なのではないかという点についてはいまいち疑問は残るが非現実的ということで違うだろうと判断され、結局人間の要素を強く持った喰種ということに落ち着いた。

 

「にしても店長、なんでリンネちゃんが人間の要素を強く持った人間だって思ったんですか?」

 

 というカネキの質問に対し、

 

「それに関しては実に簡単だよ」

 

と言うと説明を始めた。

 

「まず、喰種が人間の要素を強く持つ状況というのは、稀な案件だが確実に存在する。それは人間と喰種のハーフだ」

 

 困惑するカネキに対して芳村は説明を続ける。

 

 曰く、人間も喰種も子孫を残す仕組みは同じのため子孫を残すことは可能であり、実際に幾つかの前例があるということ。

 そして、店長は人間との間に生まれたというハーフの喰種にあったことがあるということだ。

 

 そのため、“リンネが人間と喰種との間に生まれた喰種”ではないかとの結論に至った。

 しかし、このことがリンネの言っていた“言いたくない”ことにかかわっている可能性が高いだろうと判断した芳村は、しかるべき時まではリンネ本人にはもちろん、ここの二人だけの秘密とすることをカネキに求め、またカネキもそれを了承したことによって話がまとまった。

 そして二人が帰ろうとしたとき、

 

「だれか!誰かいませんか!」

 

下の階から声は聞こえてきた。

 

「声?」

 

「…下からだね。様子を見に行こうか」

 

「はい、店長」

 

 

 

 

 そしてカネキと芳村が下に降りていくと目に入ったのは雨に打たれ、あんていくのガラス戸を必死の形相で叩きながら声を張り上げるヒナミの姿だった。

 

「ヒナミちゃん!?」

 

「!カネキ君、とにかくヒナミちゃんを中に。私は拭くものを取って来よう」

 

「はい!」

 

 そして、カネキによって開けられたガラス戸からあんていくの中に飛び込んだヒナミはタオルを持ってきた芳村の姿を見ると叫んだ。

 

「芳村さん!お母さんが、怖い人たちに!」

 

 その言葉を聞いた芳村は苦い顔をしてヒナミに問いかける。

 

「ヒナミちゃん、リョーコさんはいったいどこに?」

 

「場所は帰り道の途中…赤い提灯と三角形の建物の近く…」

 

 それだけ聞くと芳村はコートを着込みカネキに言う。

 

「私が行こう、申し訳ないがカネキ君はヒナミちゃんを見ていてくれないか。お店にあるものは好きにしてくれて構わない」

 

 それだけ言うと芳村は雨の中に飛び出して行った。




 はい、以上6話でした。
 リンネの影響によりカネキ君があんていくからすぐに出なかったためヒナミちゃんには一度あんていくまで戻っていただきました。
 そして、その影響もあり原作よりもかなり早いですが芳村さん出撃です。
 前書きで平和がいいよねとかいいつつこの殺伐ハードモード…ヒナミちゃん、僕を殴ってくれ!(エミール並感)

 現在は週一での投稿ですがこれ以上のペースアップは恐らく無理なので投稿ペースの加速は期待しないでください。すまない…(´・ω・`)

 ついに次回、あの人が初戦闘です。しかし戦闘描写は(恐らく)拙いものになりそうなので過度な期待はご遠慮ください。(真顔)

 それでは次回をお楽しみに。


~次回予告~

 リョーコの危機を知ったカネキと芳村。
 芳村はカネキにヒナミを託し、リョーコの救援へと向かう。
 しかしそこにはすでに何者かの影が…

 次回、百足と狐と喫茶店と 第7話

 彼女の呪いは狐へと

 デュエル、スタンバイ!


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7話 彼女の呪いは狐へと

 ああ・・・ついに夏休みが終わってしまった・・・(絶望)
 最近はノーダメージ縛りの動画を見てました。
 ねむりって、恐いですね・・・(´・ω・`)

 早くも次回予告のネタが枯渇し始めている模様。(ネタ募集中)

 やっと戦闘描写+大きな原作改変を行えます。長かった…ここまで長かった…
 これからはリンネちゃん本格行動開始です。まずは手始めに不幸な親子を救ってみましょうか(ニッコリ)

祝☆UA2000到達!ありがとうございますm(__)m

8/23:加筆・修正しました。


~前回までのあらすじ~

 リンネの秘密の一端とリョーコの危機を知ったカネキと芳村。
 芳村はヒナミをカネキに託しリョーコの救援に向かうが…


――20区・路地――

 

 芳村から傘を借り、あんていくを出たリョーコとヒナミ。

 二人は今日の出来事について話していた。

 

「今日はねカネキお兄ちゃんにいろんなことを教えてもらったの!」

 

「そうなの…よかったわね、ヒナミ」

 

「うん!それにリンネおねえちゃんがヒナミと友達になってくれるって!あと、一緒に遊びに行こうって!」

 

「リンネちゃん…ああ、芳村さんが言っていた新しくあんていくのウェイターになった子ね」

 

 そうして、親子は楽しそうに話しながら雨の中を歩いていく。

 すると、何の前触れもなくヒナミが怯えだす。

 怯え切った表情を浮かべたヒナミはリョーコの手を引きながら言う。

 

「お母さん…追われてる…逃げよ?」

 

 ヒナミの“逃げよ?”という言葉から自分たちが何者かに追われているのを察したリョーコはヒナミに問いかける。

 

「ど、どうしたの?ヒナミ、誰が追って来てるの!?」

 

「男の人…二人…走ろ…?」

 

 そうして、二人は雨の中を濡れるのも構わず走り出すが、

 

「…っ!」

 

いくらかも進まないうちにヒナミが唐突に立ち止まってしまう。

 

「ヒナミ、どうしたの!?」

 

「なに…この匂い…!?」

 

 立ち止まったヒナミにリョーコが必死に呼びかけるがヒナミは怯え切ってしまい会話どころではなくなってしまっていた。

 すると、すぐ目の前の路地から不機嫌そうな声で言葉を発しながら顔色の悪い男が若い男を引き連れて出てきた。

 

「――雨というのは実に不快なものですなぁ…視界を遮るために仕事にも悪影響が出る…」

 

 顔色の悪い男と若い男が目の前に立ち塞がったことにより道を塞がれ、そしていつの間にか追いついてきた男たちに逃げ道を潰され、リョーコとヒナミの二人は囲まれてしまった。

 

「笛口リョーコさんですね?少しお時間を戴けませんかねぇ…」

 

 周囲から向けられる殺気、そして何よりも自分の名前を呼ばれたことで、リョーコは周囲の男たちが自分たちを殺しに来たCCGの捜査官だと気づく。

 

「…CCG…!囲まれてる…ならヒナミだけでも…」

 

 完全に囲まれてたリョーコはヒナミだけでも逃がそうと覚悟を決める。

 

「お、お母さん…」

 

 ヒナミの不安そうな声にリョーコは答え、ヒナミを逃がすために行動を起こす。

 

「ヒナミ…逃げなさい」

 

 そう言って赫子を発現させると同時に、包囲を形成していた捜査員の内、後方に位置していた捜査官を吹き飛ばしヒナミの逃げ道を確保する。

 

「逃がす気だ…亜門君!」

 

 呼びかけられた若い男の捜査員が前に出ようとするもリョーコの赫子に遮られてしまう。

 

「で、でもお母さん…!」

 

 母の運命を察したのか泣き出すヒナミにリョーコに背を向け強い口調で言い放つ。

 

「行きなさいっ!!」

 

 その言葉を受けたヒナミは踵を返しリョーコが開けた包囲の穴を抜け駆けていった。

 

「ふん…貴様らクズが…我々人間の真似事をしているとは…全くもって吐き気がするよ」

 

 白髪の捜査官はそう吐き捨てるとそれに応えるかのように若い男の捜査官がねくたいを緩めながら手に持ったアタッシュケースの取手についているスイッチを押しながら冷たく言い放つ。

 

「…調子に乗るなよ、クズめ」

 

 その様子を見て捜査官たち()も臨戦態勢に入ったことをリョーコは理解し、言う。

 

「私では勝てない…でも…!」

 

「大人しく息絶えろ、喰種(虫けら)め」

 

 

――あの子だけは、やらせない―――

 

 

そして死の覚悟を決めた母は、我が子を守らんと雄叫びを上げながら十死零生の戦いへと挑んでいった。

 

 

 

 

――20区・路地裏――

 

 

 仕事が長引きヒナミと遊びに行きそびれたリンネは、雨の中傘も差さずに路地裏を歩き回っていた。

 

「あーあ…私、結局今日も役に立たなかったなぁ…」

 

 そう、彼女はヒナミとの約束のことが仕事中頭から離れず、集中力に欠いていたために失敗ばかりを起こしていたのだ。

 

「結局、ヒナミちゃんと遊びに行く約束したのに次回に持ち越しになっちゃったしなぁ…」

 

 そう言ってリンネが不貞腐れていると、突然背筋に冷たいものが走り、いやな予感が頭をよぎった。

 

「何…?この感覚…気味が悪い…でも…」

 

 リンネが自身を襲う妙な気配について考えを巡らせていると、唐突にヒナミの顔が脳裏に浮かんだ。

 

「この気配は…ヒナミちゃん?…いや違う…?」

 

 そして、彼女の優れた直感は()()とも言える結論を導き出した。

 それは、

 

「ヒナミと…今日一日あんていくに居た人…?」

 

ヒナミとヒナミによく似た気配を持つ女性。つまりそれは、

 

「ヒナミと…ヒナミのママ…?」

 

ヒナミが親子諸共危機に晒されているということに違いなかった。

 

「不味い…っ!」

 

 

 

 

 周囲の人払いがなされた戦場では、捜査官(狩人)傷だらけのリョーコ(手負いの獲物)との決着が着こうとしていた。

 

「ふん…何とも他愛のない。戦い慣れしておらず、赫子も使いこなせていない…」

 

「はぁ…はぁ…っ!」

 

 リョーコの赫子にはあちこちに大穴が開いており、リョーコ自身もまた捜査官らの攻撃を受け、体の至る所から血を流していた。

 

「あれだけ大騒ぎしておいてこのザマか…まあ、きさまら喰種(虫けら)には似合いの最後だ…」

 

「これで…」

 

「いや、いい。亜門君」

 

 止めを刺そうとする若い捜査官を白髪の捜査官が止める。

 

「私が()()でやる」

 

 そう言って白髪の捜査官が取り出したのは人間の脊椎にそのまま取手を取り付けた鞭のような形状をした武器だった。

 

「あ…ああ…そんな、あなた…何を…」

 

 それを見たリョーコが取り乱し始める。

 

「ああ…そんなの嫌よ…嫌…」

 

 そうして涙を流し、目の前の光景を否定するように首を振るリョーコを見て白髪の捜査官はゆがんだ笑みを浮かべ、楽しそうに言う。

 

「そうだ!その表情…悲嘆と絶望、そして憎悪に歪んだ顔…もっと見せろ…!」

 

 その後はただの蹂躙だった。

 

 戦意を喪失したリョーコに現状を打破することなど出来るはずもなく、ただ一方的に虐げられるだけでだった。

 

 

 

 

「ふん…この程度か…大人しくしていれば道の真ん中で解体してやったのに…」

 

「はっ……はっ……」

 

 あの後に、甚振るように、嬲るように痛めつけられたリョーコは全身ボロボロで既に満身創痍という状態だった。

 

「お願い…ヒ…ナミ……あなただけでも…」

 

 

 

 

「!こっちか!」

 

 その頃、リンネは先ほどの気配を辿っていた。

 

「くっ…!間に合え…!」

 

 その願いが通じたのか通りの向こうに全身ズタボロにされた、ヒナミによく似た雰囲気の女性の喰種が居た。

 

「見つけた!」

 

 そして、彼女が救援に入ろう駆けだす。

 それから数秒遅れて白髪の捜査官が手に持った武器を振るった。それは寸分のズレもなく女性の喰種の首を狙っていた。

 

「!」

 

 そしてそれとほぼ同時にリンネの耳に彼女の言葉(願い)が届いた。それは、

 

――娘だけでも…――

 

という母の、最期まで娘を案じる、娘に生きていて欲しいという母の願いだった。

 その願い(呪い)がリンネの耳に届いたその瞬間、リンネの脳裏にいくつもの言葉(記憶)が響いた。

 

 

――世界が、動きを、鈍らせる――

 

 

「あ、ああ…」

 

 泣き出しそうなリンネの――

 

「うん!お母さんのことは大好きだよ!」

 

 脳裏をかすめる――

 

「あの子は、私が守り…育てたいんです」

 

 思いが――

 

「ヒナミももっとたくさんお友達が欲しいなぁ…そうすればもう寂しくなくなるもん!」

 

 願いが――

 

「あの子は…あの子(リンネ)だけは…」

 

 記憶が――

 

「必ず守る!」

 

 記憶が――

 

 

    ――後悔が

 

 

―― ヤ ラ セ ナ イ ――

 

 

 

 

「甲羅…鱗ォ!!」

 

 リンネがそう叫ぶと赫眼が発現し、樹木のような一対の甲赫と、魚のような小さな鱗に包まれた二対の鱗赫が彼女の背から飛び出した。

 そして、甲赫は両腕と顔を覆い、二対ある鱗赫の内の一対が全身を包むように彼女の身体を覆っていく。

 

 

――死神の鎌はゆっくりと目標の首へ向かっていく――

 

――彼女は()()の足で駆けて行く――

 

 

 リンネは甲赫に覆われ肥大化した両腕を地面に着ける。そして、残った一対の鱗赫が彼女の腰のあたりで一つにまとまり、尻尾のようになる。

 

 

――死神の鎌は目標まで1mを切ろうとしていた――

 

――彼女は()()の肥大化した腕と()()の足で駆けて行く――

 

 

 両腕を覆った甲赫と体を覆った鱗赫、尻尾になった鱗赫が蠢動し一つの鎧になると彼女の頭頂部に狐の耳のように二つの突起が飛び出した。

 そして、両腕は()()となる。

 

 

――死神の鎌が目的の首を刈り取るまで数瞬までに迫っている――

 

――彼女は()()の足で駆けて行く――

 

 

 そして、死神の鎌が目標の首を刈り取ろうとする寸前、

 

「はあっ!」

 

リンネはリョーコの襟首を咥え、死神の鎌の軌道から彼女(リョーコ)の首をそらすことに成功した。

 しかし、逃げ遅れた左腕が死神の鎌につかまり、宙を舞った。

 

 

 

 

「ちっ…」

 

「新手か…にしても、これはまた醜い奴が来たものだ」

 

「新手の喰種!?増援か!?」

 

 リンネの乱入で獲物(リョーコ)を仕留め損ねた顔色の悪い捜査官は一瞬顔をしかめると忌々しそうに吐き捨て、若い男の捜査官は突然現れた喰種に驚きの声を上げた。

 

「お仲間を助けに来たのか?健気なことだな」

 

「…」

 

 そう言って挑発してくるのも気にせず、リンネは冷静に状況を見極め策を練っていた。

 そして、彼女が導き出した結論は荷物(リョーコ)を背負ったまま戦うのは不可能、目の前の顔色の悪い男とその隣に立つ若い男の二人を避けつつ一撃を加え、包囲網を離脱するというものだった。

 

「どうした?来ないのならばこちらから行くぞ!」

 

 挑発に乗らないリンネに痺れを切らしたのか、顔色の悪い男の方が手の脊髄のような武器を振りかぶり飛び掛かってきた。

 するとリンネは腰の後ろで一束にまとめていた鱗赫を再び二つに分けると片方で攻撃を受け、もう片方で包囲網を形成している捜査官たちを吹き飛ばし包囲網に大穴を開ける。

 すると、吹き飛ばされた捜査官は壁や電柱に叩きつけられ気を失ってしまう。

 

「ちっ…包囲を崩しにきたか…」

 

 包囲の一角が崩れたことを確認したリンネは離脱を試みるため、リョーコを背に背負い身体にまとっていた赫子の一部で固定する。

 

「っ!離脱する気だ!亜門君!」

 

 リンネの離脱しようとする意図に気づいた顔色の悪い男は自身の部下である若い男に指示を飛ばす。

 

「させるか!うおおお!」

 

 その声に応えた若い男が巨大な棍棒のような武器を持ちリンネに突撃する。

 

「そう簡単に逃げられると思うな!」

 

 しかし、リンネは赫子で先ほど気絶した捜査官の内から一人を赫子で拘束し、盾にするように若い男に向けて突き出した。

 

「…これで…?」

 

「ちぃっ!卑怯な!」

 

 味方へ傷を負わせることを恐れた若い男の捜査官は攻撃を断念し間合いを開けてしまう。

 

「亜門君!躊躇するな!」

 

「しかし!」

 

 檄を飛ばされた若い男の捜査官が手をこまねいていると再び顔色の悪い捜査官が前に出る。

 

「ここで逃がしてはすべてが無駄になるのだぞ!」

 

 そう言って顔色の悪い男が躊躇なく一撃を加えてくる。

 

「もう、遅い」

 

 だが、リンネはその一撃を強く弾き飛ばし隙を作ると包囲網の外側へと一瞬で抜け、近くの電柱の上に飛び乗った。

 すると、遠距離での攻撃手段がないのか追撃の手が止む。

 自身を害する手段が無いことを確認したリンネは電柱の上から捜査官たちを見下ろし、警告するように話し始めた。

 

「これで、あなたたちは追っては来れない。この雨の中では痕跡の追尾も不可能。無理矢理追って来てもいいけど、それはあなたたちが死ぬだけ。」

 

 その言葉に若い男の捜査官がが激高する。

 

「ふざけるな!情けをかけたつもりか!貴様ら、人を食らう化け物が!」

 

 その言葉に気分を害したリンネは冷たく言い放つ。

 

「そう、私たちは喰種(化け物)。だけどそれが何?あなたたちが正義で私たちが悪だなんて誰が保証してくれるの?」

 

「貴様らが正義を語るのか!」

 

 なおも大声で叫び続ける若い男の捜査官を顔色の悪い捜査官が制する。

 

「亜門君、もう止したまえ」

 

「ですが!」

 

 なおも食い下がろうとする若い男の捜査官を一睨みで抑えると今度はリンネに言葉を放った。

 

「ところで、私のお仲間は返していただけるのかな?」

 

 その質問にもまたリンネは冷たく返す。

 

「その質問に意味はあるの?」

 

「なに、私たちの大切な同僚だからね」

 

 しかし、リンネはその質問に答えることはなく、そのまま身を翻すと雨の降りしきる夜の向こうへ消えていった。

 

 

 

 

 リンネが去った後、CCGの捜査官たちは討伐対象を横から奪われ討伐に失敗したこと、そして捜査員が一人拉致されたことで大いに浮足立っていた。

 そんな中、攫われた捜査員の安否を案じた亜門が現場の指揮官である真戸に意見する。

 

「真戸さん、今すぐ追撃をしましょう!さもなくば彼の身が…」

 

「無駄だよ、亜門君」

 

「なぜですか!?」

 

 なおも激高し続ける亜門に真戸は静かに問いかける。

 

「亜門君、今回横槍を入れてきた喰種…君には何に見えたかね?」

 

「は?」

 

 唐突な問いに半ば混乱しながらも答える。

 

「狐…です。自分には狐に見えました」

 

「そうか、ならば“赫者”については?」

 

「“赫者”?」

 

 その答えに真戸は頷くと説明を始めた。

 

「そうだ、知らないなら説明しておこう。“赫者”とは強力な赫子を持つ喰種がなると思っていればいい。その特徴は全身を覆うように発現する赫子だ。。今回乱入してきた奴が狐に見えたのは、おそらく赫子を全身に纏っていたからだろう。そして、これには体格などを隠すことで身元が割れることを防ぐ狙いがあったのだろう」

 

「なるほど。」

 

「そして、赫者になるような喰種は基本的にAレートを超える。」

 

「Aを超える!?」

 

 亜門が驚きを隠せない様子で声を上げる。

 

「そうだ、その上Sを超えることも珍しくない」

 

 そこで真戸は一度言葉を切り、あごに手を当てて思い出すように続けた。 

 

「それに今回乱入してきた狐のような外見をした喰種…私には心当たりがある。しばらく前に13区に出現しその後消息不明になった狐の外見をした赫者がいると聞いた。おそらくそいつが今回乱入してきた喰種だろう。そして、今回我々が善戦できていたのは奴が荷物を抱えていたからだ。万全な状態だったら手も足も出なかっただろう」

 

 その説明を聞いた亜門はまたも取り乱す。

 

「ならば、なおさら追撃を行った方が!」

 

 しかし、真戸は言い聞かせるように言う。

 

「先ほども言った通り無駄だ。この雨では痕跡をたどるのも困難な上、奴を狩るには20区の特等らを召集せねばなるまい」

 

「そんな…」

 

 衝撃の真実を告げられ呆然とする亜門に、真戸は上機嫌で言葉をかける。

 

「むしろ、今回の遭遇戦はよい収穫でもある。赫者との戦闘経験だ。これは後々になるが、必ず亜門君の役に立つ」

 

 真戸は周囲を見回しながら続ける。

 

「とにかく今は支部へ帰還しよう。捜査官たちにも動揺が広がっている。これでは二次被害を招きかねない。それに、狐が20区に根城を移しているのなら早急に対策を立てねばならん」

 

 そしてCCGの捜査官たちは引き揚げ準備を進める。

 そんな中、真戸は狐が消えていった方向の空を見上げ疲れたようにつぶやいた。

 

「大食い、美食家、アオギリ、そして“隻眼の王”に“梟”…そして今度は“狐”か…全く、厄介ごとばかりが転がり込む…」

 

 そんな真戸のつぶやきは雨音に遮られ誰の耳にも届かないまま夜の闇へと消えていった。




 リョーコvsCCG戦終了。
 
 いまだに原作二巻とは…先は長いなあ…今年中に完結させたかったが難しいかもしれない…

 ちなみに、これでカネキとトーカとリンネと芳村に強化フラグが立ちました。
 え?一人多い?知らんな(白目)

 さて、これでCCGも狐が20区に移動したことに気が付きましたね。
 ここからはオリジナル展開が多くなっていきます。しかし基本原作沿いというスタンスは変わりません。(オリジナル展開なのに原作沿いとはこれ如何に)


~次回予告~

 CCGに追い詰められ、その窮地をリンネに救われたリョーコ。現実を知った彼女は大きな決断をする。
 一方そのころ、CCGは今回の少ない成果を用い、討伐作戦の継続を決定した。
 そしてリンネは、これからを見据えた行動を起こす…

 次回、百足と狐と喫茶店と 第8話

 母の思いは狐へと

君は小宇宙(コスモ)を感じたことがあるか?


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8話 母の思いは狐へと

 ついにストーリーがリンネの影響で歪み始めましたね。
 本来死の運命にあったキャラクターが生存し、逆に生存の運命を持っていたキャラクターが死んでいく。
 いやー、楽しいなあ()

 …だというのに、資格試験が近いせいで執筆時間がががが…
 次回の更新は一週間後…とはいかないかもしれませんが遅くなっても必ず、必ず続きは投稿しますので許してくださいm(__)m

 今回はうまく逃げおおせたリンネとリョーコ達がメイン、リンネたちにまんまと逃げられてしまったCCGが少し入っています。


~前回までのあらすじ~

 撤退し、CCGの追撃をうまく躱すことができたリンネとリョーコ。
 彼女らに逃げられたCCGの次なる策とは…


――20区の外れ・廃屋――

 

 

 20区外れ、傷んだ壁の隙間から風が吹きこんで来る廃屋。

 その廃屋の中には弱々しくも明かりが灯っていた。

 

「…」

 

 その明かりに照らされているのは無言で座り込み明かりを見つめているリンネと先の戦闘で疲弊しきり、未だに目を覚まさないリョーコ。そして、リンネの手により攫われ、意識を奪われて手足を縛られ逃げる手段を失い口に布を噛まされている捜査官の男であった。

 しばらくたち、いい加減に待ちくたびれ始めたリンネが後ろ頭を掻きながら、

 

「はぁ…」

 

ため息をついた。

 すると、リンネのため息に反応したのかリョーコがうめき声をあげ目を覚ます。

 

「うう…ここは…?」

 

 状況を理解できていないリョーコは起き上がろうとするがリンネはそれを止める。

 

「まだ横になっていた方がいいよ」

 

 リョーコは声をかけられて初めてリンネがいるのに気が付いたのか、少し驚いた様子で横になったまま振り向くと、小さいながらもはっきりとした声で言葉を発した。

 

「あなたが助けてくれたのね…ありがとう」

 

 リョーコのその発言に首をかしげた。

 

「あれ?意識あったの?それに私は顔も隠してたんだけど?」

 

 リンネの疑問にリョーコは答える。

 

「それは雰囲気よ。それに傷だらけの私に何もしてこないのが何よりの証拠でしょう?」

 

 その問いにリンネは少し顔をしかめるがリョーコは気づかなかった。

 

「ふーん…まぁいいや。で、体の調子はどう?」

 

「ええ、大丈夫よ。まだ体がうまく動かないけど」

 

「そうでしょうね。傷は決して浅くはないからね」

 

 リンネはそこで一度立ち上がりリョーコの前に屈みこむとリョーコに問いを投げかけた。

 

「で、あなたはどこまで覚えてる?」

 

「どこまでって…」

 

 リンネの質問に記憶をたどり始めたリョーコの顔が青ざめていく。

 その様子に気づいたリンネがリョーコに声をかける。

 

「落ち着いて、いい?」

 

「落ち着いてなんて…!ヒナミは!あの子は来た道を戻って行った後どうなったの!?」

 

 しかしリンネの行動も空しく、リョーコは取り乱し始めてしまう。

 するとリンネは横になったままのリョーコの体を跨ぎ、身を屈ませるとリョーコの胸倉をつかみ上げた。

 

「落ち着け」

 

 リンネは冷たく言い放つと、取り乱し始めたリョーコの胸倉を屈んだまま掴み上げ至近距離から睨みつける。

 

「いい?ヒナミちゃんが引き返していったのなら、恐らくあんていくに向かった。そしてマスターが居ればそこで保護されているはずだし、そうでなくともカネキ君は店を上がる時間が遅かったから十中八九接触出来ている。これでいい?」

 

 一気に捲し立てられ困惑するリョーコをよそにリンネは言葉を続ける。

 

「ヒナミちゃんは無事。分かった?」

 

「え、ええ…」

 

 リョーコの答えを聞いたリンネはリョーコから手を離すと元の位置に戻った。

 

 リンネの言葉に気圧されていたリョーコだったがその言葉にいくつかの疑問を抱きリンネに説明を求めた。

 

「まって、幾つか聞きたいのだけど」

 

「何?」

 

 その後のリョーコの問いは以下のようなものだった。

 

 ・なぜ(リョーコ)を助けたのか。

 ・なぜヒナミの名前とあんていくのことを知っているのか。

 ・そしてあなたは何者なのか。

 

という3つだった。

 

「うん、もっともな問いだね」

 

 そう言うとリンネは説明を始めた。

 

「まず、なんであなたを助けたのかについてね。あなたを助けたのは半分偶然。もう半分が、さっきのあなたの発言で確信したけどあなたがヒナミちゃんのママだからかな。で、私があんていくのことを知っているのは私があんていくの店員だから。これでいい?」

 

 リンネの質問に思い当たることのあったリョーコが口を開いた。

 

「…リンネちゃん…なの?」

 

 リョーコに名前を言い当てらたリンネは首を傾げた。

 

「あれ?名前教えてたっけ?」

 

 リンネの疑問に

 

「いいえ、聞いていないわ。でも話を聞く限り、ヒナミの言っていた“リンネおねえちゃん”ってあなたのことでしょう?」

 

「否定はしないわ」

 

と答えると今度はリンネがリョーコに問いかける。

 

「で、あなたはこれからどうするつもりなの?」

 

「もちろんヒナミのところに戻ります」

 

 その答えにリンネは目を細め低い声で返す。

 

「諸共死ぬ気?」

 

「え?ちょ、ちょっと待って?リンネちゃん…それは一体どういう…」

 

 急に態度を硬化させたリンネに驚くリョーコだったがリンネはお構いなく言葉を叩きつけていく。

 

「やっぱりあなたは戦いになれていない。戦いに関しては無知ともいえる」

 

 リンネはリョーコを睨みつけるとさらに口調をきつくし続けた。

 

「いい?あなたはCCGに面が割れているの。つまりあなたはCCGにとっていい餌なの。そんなあなた()が近くにいたとすればヒナミちゃんは愚かあんていくそのもの、ひいては私すら危険にさらされる。あなたはヒナミちゃんやあんていくの人たちと心中したいの?」

 

 リンネの言葉に状況を初めて理解したリョーコは青ざめる。

 

「そ…そんな…私は、ただ…」

 

「そもそも、私が本当にヒナミちゃんの言う“リンネ”である保証もなかった。なのにあなたはあっさり信用した。今回は私が本当に件の“リンネ”だったから良かったけど、違っていたらどうするつもりだったの?あなたが無能なせいであなたが死ぬのは構わない。けど、自分のミスであなたの大事な人(ヒナミ)が死んだとき、あなたは自分を許せるの?」

 

 リンネの言葉でその様を想像したのかリョーコは泣き出してしまい、顔を隠そうとするが片腕がないために顔を覆いきれず、また腕を失った現実を突きつけられ声をこらえきれなくなったのか小さいながらも声を上げて続けた。

 

 

 

 

「気は済んだ?」

 

「ええ…」

 

 あの後しばらく泣き続けていたリョーコだったがやっと落ち着き始めたのを見たリンネに声をかけられしゃくり上げながらも頷いた。

 

「で、結局どうするの?あなたの前に道はあまり道は残っていない」

 

「…」

 

 どうしたらいいのかわからない様子のリョーコに呆れながらもリンネはある提案をする。

 

「もし、あなたがどうすればいいのか分からないなら私に一つ案がある」

 

 その言葉に縋る様に顔を上げたリョーコにリンネは話始めた。

 

「私が所属していた“群”が13区にある。幸い、私はそこの群れにはそこそこ顔が利く。そこに行けばあなたはほぼ確実にCCGの目から逃げられる。そしてあなたにはそこで強くなってもらう。ヒナミちゃんを自分自身で守れるくらいには」

 

「待って…それは」

 

「そう、もしあなたがいつまでたっても弱いままだったらいつまでたってもヒナミちゃんには会えない。そして万が一その過程で死んでしまった場合も会うことはできない。でも、あなたが強くなれたなら、その時はヒナミちゃんと二人で生きていくことができる」

 

 その話を聞いたリョーコの目には先ほどの絶望に沈んだ色ではなく、子を守るためならば何でもする鬼子母神()のような色が浮かんでいた。

 そして、顔を伏せたまま言葉を発する。

 

「私が強くなる…誰にもヒナミを害することができないくらいに強くなれば、そうなればいいのね?」

 

 リョーコのその答えに満足したリンネはあえて冷たい口調でリョーコ言葉を浴びせた。

 

「そうなればいい。だけどあなたには覚悟を決めてもらわなきゃいけない。“他人の生き血を啜ってでも生き残る覚悟を”」

 

 リンネはそう言うと攫ってきた気を失ったままのCCG捜査官の腹を蹴り飛ばし、起こした。

 

「ぐぁっ…!?」

 

 喰種の力で腹に重い一撃を受けた捜査官の男は悶絶するがリンネは気にも留めずに続けた。

 

「もしあなたが13区に行くことを望むなら私にも準備が必要。もう日が昇る。だから次に日が昇ってからまた落ちるまで、つまり今日の日没ごろに準備を済ませてまたここに戻ってくる。だからあなたは人間(これ)私が戻るまでに食べきりなさい」

 

「ひっ…」

 

 自分の置かれた状況を理解した捜査官の男は短い悲鳴を上げるが赫眼を発現させたリンネに一睨みされると大人しくなってしまった。

 

「まだ生きてるものを自分の意志で殺し、食べなさい。それが今あなたのやらなければならないこと」

 

「私が自分の意志で…」

 

「そう。私が戻るまでにしっかり食べきっておくこと。そうすれば、私があなたを13区の、私が元々居た群れに連れて行く」

 

 するとリンネは立ち上がりリョーコに背を向け、小屋の出入りを開け放つとそのままどこかへと去って行った。

 丁度その時朝日が昇り始め、薄暗かった小屋の中に光が差した。

 

「た…助けて…」

 

 その後、リンネが居なくなったことで恐々ながらもリョーコに命乞いをする捜査官の男だったが返ってきたのはまるで世間話のような言葉だった。

 

「私はね、小食なの」

 

「はっ?」

 

 あまりにも状況にそぐわない言葉を返された捜査官の男が困惑した声を上げるがリョーコはそれを気にも留めず言葉を続けた。 

 

「私はあまり多く食べることができないの。だから沢山食べるのには時間がかかってしまうの」

 

「な、なら!」

 

 たくさん食べれないと聞いた捜査官の男はここぞとばかりに命乞いを始めた。

 

「う、腕!腕の1,2本くらいなら食べても構わない!だから、だから命だけは!」

 

 しかし、捜査官の男の必死の命乞いに対して帰ってきた言葉は“死刑宣告”だった。

 

「だから、食べ始めるのは…早い方がいいわよね?」

 

 直後、捜査官の男のは言いようもない激痛に襲われ、意識が一瞬で遠のいていくのを感じた。

 なぜなら、リョーコが赫子を発現させると同時に捜査官の男の首の骨を赫子の一撃を持って粉砕し、その勢いで首を刎ね飛ばしたからだった。

 そして、意識が途絶える瞬間に彼が聞いたのは慈母のような優しい声だった。

 

ヒナミ(あの子)のために、死んでくださらない?」

 

 それからしばらくの間、20区の外れにある小屋からは水っぽい何かをすする音と何か千切るような音、そして女性の静かな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 その後、丁度日が沈み始めるころリンネが小屋に戻ってきた。

 

「あら。お帰りなさい、リンネちゃん」

 

 リンネを迎えたのは口元を血でべったりと濡らしたリョーコだった。

 

「少し大変だったけど、きちんと食べ終えたわよ」

 

 そう言ってほほ笑むリョーコにリンネは短く「合格」と言うと続けた。

 

「分かった。明日にでもあなたを13区に連れて行く。でも表立っては動けないから地下から行く」

 

「地下…ね…」

 

 リョーコの言葉にリンネは地下の説明を始めた。

 

「そう地下。東京の地下を縦横無尽に通っている地下通路のことよ。この地下通路は東京のありとあらゆる場所につながっている。おまけに広大かつ複雑な構造をしているからCCGの監視も甘い」

 

「分かったわ」

 

 リンネの説明で理解を示し、頷いたリョーコだがリンネに少々強い口調で問いかけた。

 

「私はどうなっても構わない。だけどヒナミはどうなるの?あと、私がどう処理されているのかも知りたいのだけど」

 

「さっきあんていくにも言ってきた。マスター…芳村さんが言うことには、ヒナミちゃんはしばらくはあんていくで預かることにしたらしい。あと、あなたは行方不明ってことになってる」

 

「行方不明…ね」

 

「何か?」

 

「いえ、これで後顧の憂いはないわ。芳村さんならヒナミを悪くは扱うことはないでしょう。あとは私が強くなるだけ」

 

「あれ?思ったより物分かりがいいんだね?」

 

「そうね、だって私が近くに居ればヒナミに危険が及ぶ。ならば一時離れるくらいなんともないわ。私は、たとえあの子に恨まれたとしてもあの子を守る。そう決めたの」

 

 リョーコの言葉に満足そうな笑みを浮かべたリンネは先ほどよりも幾分柔らかい声音で言う。

 

「そう、分かった。なら行こうか、13区へ。」

 

 そして、小屋を出ていくリンネにリョーコは続いて小屋を出る。

 

「ヒナミ…待っていてね…」

 

 小屋を出ていくリョーコのつぶやきは誰の耳にも届くとはなく夕暮れの空に消えていった。

 そして、小屋には引き裂かれたCCG捜査官の服と大量の血痕が残されていた。

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部――

 

 

 少し時間は戻り、リンネが小屋を出た頃、捜査官にそれぞれ割り当てられた部屋の一室では、照明は落ちているのにも関わらず、薄暗い明かりが灯っていた。

 その部屋では机に備え付けられているライトのみを点け、一人の男が椅子に座り机に向かっていた。

 

「狐の介入によって対象を取り逃がし、さらには局員を一人拉致された…か」

 

 そう言いながら顔をしかめるのはコーヒーのカップを片手に今回の報告書を作っている真戸だった。

 

「子の喰種を守るために親がその身を盾にし守り抜き、母親も増援によって取り逃がす…」

 

 ここで真戸は一度コーヒーをすすると顔をしかめた。

 

「全く、情けない限りだ…だが…」

 

 憎々しげに言葉を吐いた真戸だったが今度は愉快そうな表情を浮かべると目線を手元の報告書から視線を移した。

 

「今回の戦利品…しっかり利用させてもらおう…」

 

 その視線の先には不気味は雰囲気を放つ黒いアタッシュケースが一つ置かれていた。




 はい、以上8話でした。
 今回はシリアスパートでリョーコさんを生き残らせる上で必要な「喰種としての心構え」を体得させつつ、リョーコさんに狂化フラグを立てました。
 …え?字が違う?狂化です。間違いありません(ニッコリ)
 ちなみにリョーコさんは一時的に表舞台からは退場です。あくまで一時的ですので復帰はします。ご安心ください。
 具体的にはアオギリが活発化するあたりまでですかね、予定では。

 平和な日常パートもやりたいけどそれを挟むとストーリーが滞るのがなぁ…
 いっそ幕間か番外編でやるか…

 次回はあんていくメイン、そしてカネキやトーカ、ヒナミがメインになります。
 あと余裕があればCCGサイドも少し入れる予定です。

 それでは次回をお楽しみに

~次回予告~

 リョーコを救援するべく動いたもののリョーコを見失ってしまった芳村。
 そのことを知らされたあんていくは動揺に包まれていた。
 そしてトーカは復讐へとひた走る。 

 次回、百足と狐と喫茶店と 第9話

 子の号哭は狐へと

 全ては大いなる存在の手のひらの上か


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9話 子の号哭は狐へと

 ソロモンよ、私は帰ってきたああああぁぁぁぁ!!
 
 はい、お久しぶりです。
 更新が遅れてしまって本当に申し訳ないです。
 学校の試験は切り抜けた(単位は生き残れたとは言っていない)のですが資格の試験が控えているために更新はやはり不定期になってしまいます。
 本当に申し訳ないです(土下座)

 それにしてもなんで更新止まっている間にお気に入りが増えているんですか?(驚愕)
 50到達してるなんて流石に想定外でした。…この調子で感想なんかも欲しいかなぁって…
 …あ、調子に乗りすぎですか。すみません(´・ω・`)

 ちなみに今回の投稿にあたりタグにオリジナル設定を追加しました。
 …つけ忘れてた訳じゃないんだからね?(汗)

 今回はリョーコ&リンネvsCCGの翌日の朝、つまり前回の別視点です。
 別視点と言ってもあんていく視点なのですが。

 
~前回までのあらすじ~

 ヒナミを守るため強くなること決意したリョーコ。
 そして、CCGではある作戦が始動しようとしていた。


――20区・あんていく近くの道路――

 

 

 大学の試験が終わり午前中からシフトが入っていたトーカはあんていくへと向かっていた。

 

「ああ…古典やらかした…不味い…絶対に不味い…」

 

 表情はとても沈んでいたが。

 

 

――あんていく前――

 

 

「あれ?」

 

 あんていくの前に着いたトーカは店の表示が『CLOSE』になっているのに気が付く。

 

「お店開いてる…よね?」

 

 トーカは「今日お店休みだっけ?」と呟きながらあんていくに入って行った。

 

 

――あんていく――

 

 

「おはようございまーす」

 

 トーカがそう言って店に入るとカウンターには芳村がいた。

 トーカは早速店の表示のことを芳村に言おうとするが、

 

「あ、店長、表の表示「トーカちゃん…」

 

暗い表情をした芳村に遮られてしまった。

 

「…何か、あったんですか?」

 

 顔をしかめながら疑問を口にするトーカに芳村は静かに言った。

 

「2階に来てくれるかい?」

 

 

――あんていく・二階従業員用休憩室――

 

 

 状況が呑み込めないトーカが芳村に連れられあんていくの2階にある従業員用の休憩室に入ると、そこにはカネキ、古間、入見の三人、そして普段はあまり顔を見せることのない四方の姿があった。

 

「四方さんまで…」

 

 そしてこの場に漂う不穏な空気に気が付いたトーカが口を開く。

 

「…何かあったんですか?」

 

 トーカの問いに対し芳村がその重い口を開く。

 

「…笛口さんがCCG捜査官の手にかかり、行方不明になった」

 

「は?」

 

 呆けた様子のトーカに芳村は説明を続ける。

 

「ヒナミちゃんを庇ってのことらしい。襲撃直後、私もその現場に急行したのだが僅かな戦闘痕が残されているだけで特に手がかりはなかった」

 

「っ…!」

 

 唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべたトーカが壁を殴りつけると、静かな室内に鈍い音が響いた。

 

「ヒナミは…?」

 

「…奥で寝かせてある。それともう二つ悪いことがある」

 

「一体なんですか?」 

 

 芳村の答えに顔を俯かせたトーカは苦々しげな口調で芳村に続きを促した。

 

 続きを促された芳村の口から告げられたのは限りなく最悪に近いものがった。

 

「ヒナミちゃんはCCGに恐らく顔を見られている。そして残念ながらその対処も出来ていない。さらに、これは確証はないが、笛口さんが襲われたと思われる場所に笛口さんとは違う赫子の戦闘痕があった」

 

「!…それってつまり!」

 

「…トーカちゃんも同じ結論に達したようだね」

 

 何かに気が付いた様子のトーカに芳村は告げた。

 

「笛口さんはCCGの襲撃を受けた上、別の喰種による襲撃を受けた…共食いか何かは分からないが戦闘痕がある時点で確定だろう」

 

「そんな…」

 

 ショックを受けている様子のトーカに芳村は言葉を続けた。

 

「ヒナミちゃんはしばらくはあんていくで預かるが、時期が来たら“24区”に移す予定だ」

 

 その言葉を聞いたトーカは声を荒らげ芳村に食って掛かる。

 

「店長、何を言っているんですか!?あんな肥溜めみたいなところでヒナミが一人で生きていけると思っているんですか!?」

 

 トーカは目つきをますます厳しくさせ、言葉を続ける。

 

「“白鳩(ハト)”もその乱入してきた喰種も殺せばいい!四方さんもいるし皆で、奴らがヒナミのことを探り出す前に!」

 

「駄目だ」

 

 興奮するトーカに冷や水を浴びせたのは今まで微動だにしなかった四方だった。

 四方は壁によりかかったまま冷たく言葉を続ける。

 

「20区内でCCGの人間が死亡する事件が続けば好戦的な喰種がいると判断されるだろう。そうなれば“本部()”の奴らは次々に捜査官たちを送り込んでくるだろう…俺達を狩りつくすまで…」

 

 そこまで言うと四方は一度言葉を切り言い聞かせるように再度口を開いた。

 

「皆を危険に晒すわけにはいかない。それにその乱入してきた喰種の正体も我々は掴めていないんだ…解れ、トーカ」

 

「でもっ!「トーカちゃん」

 

 なおも食って掛かろうとするトーカの言葉を遮ったのは芳村だった。

 

「四方君の言うとおりだ。みんなの安全のためにも彼らに手を出すわけにはいかないし、下手に動くこともできないんだ」

 

 トーカはその言葉に俯く。

 

「分かってほしい、みんなの安全を守るためにはこれが“最善”なんだよ」

 

 黙って俯いていたトーカだったが芳村の言葉に含まれていた単語に反応した。

 

「…“最善”?」

 

 するとトーカは憤りを隠そうともせずに吐き捨てた。

 

「仲間がやられたのをただ黙って見ている。それが店長の“最善”だと?」

 

 そこでトーカは一度言葉を切ると今度は悲しそうな口調で話し始めた。

 

「ヒナミは…父親を白鳩(ハト)に殺されてる…そして今また母親であるリョーコさんまで…行方不明と言っても生きている確率は低いって店長も分かっているんでしょう?せめて、仇くらいは取れないと…ヒナミが可哀そうよ…」

 

 しかし、トーカのその訴えにも芳村は厳しい言葉で返す。

 

「本当に可愛そうなのは、復讐に囚われて自分の人生を見失ってしまうことだよ」

 

「…私に…わたしに言ってるんですか?」

 

 芳村の言葉になおも反発するトーカだったが芳村が悲しそうな“目”をしているのに気づくと勢いよく部屋を飛び出して行ってしまった。

 その後、芳村が定員たちに身の回りに気を付けること。そしてCCGの人間に手を出さないよう言い、お店のお客たちにもその旨を伝えてほしいという連絡で今日の集まりはお開きとなった。

 今日はあんていくも休みになるらしく古間と入見も引き上げていった。

 しかし、トーカが心配だったカネキは店を出てトーカを追いかけようとしたが芳村に呼び止められ、あんていく裏の職員用通路で向かい合っていた。

 

「カネキ君…君は自分を責めてはいけないよ。むしろ責められるべきなのは私の方だ」

 

 思いつめた様子のカネキに気を使ったのか芳村が先に口を開いた。

 

「私は…間に合わなかった…それだけだ。だからカネキ君、君が自分を責める必要はないんだよ」

 

 そう芳村はカネキを慰めるが、カネキは俯いたままだった。

 その後、芳村に真っすぐ家に帰るよう諭されたカネキはそのままあんていくを出て行った。

 

 

 

 

 その後しばらくしてあんていくに来客があった。

 

「マスタ~?居る~?」

 

 今回の事件の当事者…どころか中心に位置している人物、リンネだった。

 

「あれ?CLOSEになってるのに開いてる…まあいいや、お邪魔しま~す」

 

 人が見当たらなくても鍵が開いている+知っているところだからOKという思考をしている彼女はあっさり中に入って行く。

 そしていつも通り二階に上がると芳村が居た。

 何から話したものかとリンネが迷っていると芳村が口を開いた。

 

「おや、リンネちゃん。どうかしたのかい?」

 

 そう声をかけてくる芳村の声に“影”を感じたリンネは何かあったことに気付き、それが何なのか知るために探りを入れることにした。

 

「店長?何かあったんですか?」

 

「…何でも…いや、リンネちゃんにも話しておこうか」

 

 そうして探りを入れようとしたリンネだった芳村が自分から話し出したことに半ば喜び、そして半ば驚いた。

 そして、リンネに彼が語ったのは以下のようなことだった。

 

 ・昨日、リョーコさんがCCGと思われる人間に襲撃を受けたこと

 ・その後、さらに正体不明の喰種に襲われた可能性があること

 ・リョーコさんは行方不明だが幸い、ヒナミちゃんは無事であること

 

「…」

 

 そこまで聞いたリンネは腕を組んで考える。

 リンネも、まさか自分まで襲撃者側だと思われているとは思っていなかったのだ。

 しかし、ここでリョーコのことを明かしてしまうと自分自身は勿論、あんていくにも危険が及ぶと考えたリンネはリョーコのことを伏せておくことを決めた。

 

「リョーコさんのことについてリンネちゃんは何か知っているかい?」

 

「っ!いや、ごめんなさい…」

 

「そうか…何か分かったらどんな些細なことでもいい、私に教えて欲しい。頼めるかい?」

 

「分かりました」

 

 一瞬思考を読まれたのか!?と焦ったリンネだったが流石の芳村もさすがにそこまでは読めなかったのか特に追及することもなく、その後リンネに今日は店を閉めることを伝え、帰るように言うと奥に引っ込んでしまった。

 

 

 

 

――20区・カネキのアパート――

 

 

 あの後自分の部屋に帰ってきたカネキは特に何もせずにいたが日が落ちてきたのに気づき、とりあえずシャワー浴びなきゃ…と呟くとシャワー室に入り、熱めのお湯を頭から浴びた。

 しかし、頭の中に響くのはシャワーから流れてくるお湯の音ではなく、昨日のヒナミの泣き出しそうな声。 

 そして感じるのはお湯の温かさでなく昨日の雨に濡れたヒナミを受け止めた時の冷たさとヒナミの必死な声を聴いたときに感じた身を刺すような不確かな冷たさだった。

 

「うぅ…」

 

 カネキは考える。

 もっと自分に力があればリョーコさんを助けられたのかと。

 芳村はカネキに「自分を責めるなと」言ったがカネキはその考えを止められない。

 脳裏に浮かぶのはヒナミのノートと人を傷つけないように生きて行こうとしたリョーコの言葉。

 世間的には駆逐されるべきなのは喰種だと頭では理解している。彼らCCGの人間がヒトの世界と平和を守るために喰種を殺すのも理解できる。

 

「クソ…クソっ…!」

 

 しかし、頭で理解できても心で受け入れられない少年は思う。

 “もっと力があれば”と。

 

 少年は誓う、更なる力を得ると。

 その思いの先に何が待っているのかも知らずに。

 

 

 

 

――20区・外れ――

 

 あんていくを離れ、同僚である入見から今回の事件の下手人である捜査官の画像を受け取ったトーカはその捜査官を狂ったように探し回っていた。

 そうして20区中を駆け回ること数時間、画像に写っていた男達によく似た人影を見つけたトーカは彼らの死角となる位置移動する。

 

「見つけたァ…」

 

 ついに目標の捜査官らを見つけたトーカの声には押さえきれない喜悦が滲んでいた。

 可愛らしいウサギのキーホルダーを着けた携帯を片手に握りしめたトーカ優しく、そしてどこか冷たい声で言う。

 

「待ってなよ、ヒナミ・・・私が、怖いものを全部無くしてあげるから・・・」

 

 そう呟く少女の目には燃え上がるような憎悪と冷徹な殺意とが浮かんでいた。

 

 少女は誓う、己を慕う幼子のために仇を殺し尽くすと。

 復讐に曇った眼では何も見つからないのも知らずに。

 

 

 

 

ーー20区・あんていく二階、空き部屋ーー

 

 普段は使われていないあんていくの二階にある空き部屋。

 そこには一人の幼い少女が毛布に身を包み、震えていた。

 

「お母さん・・・」

 

 哀しみに満ちた呟きは誰の耳に届くこともなく部屋の壁に吸い込まれて消えた。

 

「寂しいよ・・・お母さん・・・」

 

 哀しみに暮れる幼子の心は確実に歪んでいく。

 そして、幼子は思う。なぜ、私の大切なものを取り上げていくの?と。

 

 幼子は誓う、自分の大切なものを取り上げていくものと戦うと。

 戦いの道がどれだけ険しいかも知らずに。

 

 

 

 

ーー20区・CCG支部、地下ーー

 

 

 20区にあるCCG支部の地下。

 そこには捜査官らが訓練などに使う施設があり、クインケの慣熟訓練や新人への指導、またクインケや喰種に関する実験を行うことが出来るスペースがあった。

 その地下区画の内、奥まったところにある広めの部屋には“黒いケース”を手に持った真戸が立っていた。

 

「さて、今回の一件…“狐”乱入の報の直後、本部から贈られたこのクインケ…」

 

 そう言って真戸は黒いケースを肩の高さまで持ち上げ、愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「恐らく、20区に“狐”が確認されたことにより戦力の増強を図ろうという魂胆だったのだろうな…」

 

 そう、先日“狐”が20区に出現したことを重く見たCCG本部は、早急な戦力の増強という名目で貴重なSレートのクインケの一つに配置変更を行い、それを真戸に貸し出すという名目で一時的に真戸の専用という形を取っていた。

 

「まあ、追加の人員もいいが貴重なSレート…これもいい機会だ」

 

 そう言うと真戸は、ケースの取手についているスイッチを押す。

 すると真戸の手にあった黒いケースが勢いよく開き白いレイピア(細い刃にナックルガードが着いた西洋の剣)のようなクインケが飛び出し真戸の手に収まる。

 

「Sレートのクインケ…ククク…これならば“狐”でも殺しきれるか…」

 

 まるで新しい玩具を与えられたような表情を浮かべる真戸。

 その眼には抑えきれない喜悦と喰種に対する怨念が浮かんでいた。

 

 それからしばらくの間、CCG20区支部の地下区画には電撃のような音と男の嗤い声が響いていた。

 

 そして甲高い電撃音と的の砕ける音の響く中真戸は誓う、必ず忌々しい喰種共を討つと。

 例え憎き仇を殺しつくしても何も戻らないということを知らずに。

 

 

 少年は力に、

 少女は復讐に、

 幼子は悲しみに、

 男は憎しみに、

 それぞれ囚われていく。

 その未来に何が待っているかも知らずに。

 

 

 

 

――13区・地下通路――

 

 

「ここ?」

 

「そうよ。ここで落ち合う予定になってる」

 

 場面は変わり、あんていくを出た後リョーコと合流したリンネ。

 二人はリンネが過去所属していた群にリョーコを預けるために13区を訪れていた。

 

「さてと、昔のままならここで良いはず…」

 

 リンネはそう言って赫子を発現させると周囲を見回し大声で叫ぶ。

 

「狐戻れり!狐戻れり!!」

 

 リンネの大声は地下通路に響き渡る。

 すると急な大声に驚いたリョーコがリンネに声をかける。

 

「り、リンネちゃん?一体何を?」

 

「いいの。まぁ見ててよ」

 

 リンネがそう言った直後、二人の前の暗がりから人影が出てくる。

 その男が口を開く。

 

「久しぶりですね…リン…」

 

 そういう男の顔には薄く笑みが浮かんでいた。




 …ふう、今回は真戸さんの秘密兵器とあんていく勢の心理描写がメインになりました。
 試験辛い…単位やばい…誰か助けてください…(´・ω・`)

 本編ではリョーコさんが一時的に表舞台から退場していただきます。
 アオギリ戦までには帰って来てね(´・ω・`)

 これからは原作に沿いますがちょこちょこ変わるところが出てきます。
 オリ主の本領発揮、行きますよ!
 …同じこと何回も言ってる気がする…まあいいか(阿保)

 感想で新クインケのことがばれてて草
 …なんでばれたんですかね?それとも分かり易過ぎたのか…
 あ、後者ですかそうですか(´・ω・`)

 次回はリンネたちのその後を少しとあんていく&CCGがどうなったがベースとなります。

 前書きにも書いてありますがこの先しばらくは更新が不定期です。
 申し訳ない…m(__)m

 感想、評価、誤字報告などお待ちしています!
 それでは次回をお楽しみに!


ヒナミ「お母さん返せよ」

(主)「いや…あの…すまない…本当にすまない…」


~次回予告~

 カネキは力に、
 トーカは復讐に、
 ヒナミは悲しみにそれぞれ囚われてゆく。
 そして真戸は新たな武器を手に新たな作戦を発動する。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第10話

 復讐者の思いは狐へと

 次回も絶対見るナリよ~


ヒナミ「…ふざけてるの?潰すよ?」

(主)「すまない…本当にすまない…」


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10話  復讐者の思いは狐へと

 うぐぐぐ…また遅くなってしまった…
 お待たせしてしまって本当に申し訳ない…(泣)

 今回からきな臭い雰囲気が漂ってきます。
 そして前回亡くなった捜査官の正体が明かされますw
 どうでもいい要素かもしれませんがストーリーを弄る都合上必要だったので捜査官を特定しましたw
 (でもこの人、原作でも退場が早すぎてキャラが掴み切れてない…お陰で前回の描写が上手く言ってないのでその部分に関しては書き直すかも)
 
 うぐぐ…迂闊にハードモードにしたせいで構成が辛い…
 ほのぼのした日常回やりたい…


~前回までのあらすじ~

 三者三様に囚われてゆく負の連鎖。
 そしてリンネとリョーコの前に現れた男の正体は。


――13区・地下通路――

 

 

 

「久しぶりですね…リン…」

 

 そう言って薄い笑みを浮かべる男。

 リョーコはその気配を全く感じなかったためぎょっとした表情を浮かべるが、リンネと目の前の男は気にもせずに話を続ける。

 

「私のことをそう呼ぶのはもう貴方だけになっちゃったね」

 

 リンネのその言葉に男は陰のある表情を浮かべた。

 

「…まだ、引きずってるんですか?」

 

「私が?まさか」

 

 しかし、リンネが否定してみせると首を少し振り言葉を返した。

 

「…ま、そういう事にしておきましょう。では本題に入りましょうか。まさか世間話をしに来ました、という訳ではないでしょう?」

 

「まあね。一つ頼みがあってきたの」

 

「頼みですか…そちらの女性に関係が?」

 

「お、相変わらず察しがいいね。そう、このひと(女性)を匿ってほしいの」

 

「なるほど…」

 

「ちょ、ちょっと待って頂戴。私にも状況を教えて貰えないかしら?」

 

 そう言って焦った様子で話を遮ったリョーコにリンネは「忘れてた…」と呟くと説明を始めた。

 ちなみに、その脇でリンネと話していた男が呆れた表情を浮かべて大きなため息をついていたのは余談である。

 

「えっと、この人が私の古巣を取り仕切ってる人。ほら、自己紹介して」

 

「“取り仕切ってる人”ね…初めまして、私がリン…リンネさんの古巣“明けの狐”を率いておりますクダリと言います」

 

「あ、笛口リョーコです」

 

 唐突に自己紹介が始まったことで戸惑っていたリョーコだったが何とか自己紹介を返す。

 するとリンネがリョーコに声をかけた。

 

「あなたはこの人について行って。それで“喰種として必要なこと”を学んできて」

 

 そう言われたリョーコは先ほどまでの慌てた雰囲気が消え、落ち着きを取り戻す。

 

「…そう、リンネちゃんの言っていた“強くなる場所”ってここのことね」

 

「そういう事。話が早くて助かる」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないかな?」

 

 今度は話に取り残されたクダリが声を上げる。

 

「えっと、“匿う”んじゃなくて“強くなる”?一体どういうことだい?」

 

「ああ…、つまりはね…」

 

 そして面倒くさそうに説明を始めたリンネ。

 

「えっと、この人はとある出来事のせいでCCGに面が割れちゃったの。で、匿ってほしいんだけどこの人には子供が居てね、近い将来子供のところに戻してあげたいんだ。でもそのためにはこの人はあまりにも弱すぎる。そこで、ほとぼりが冷めるまで貴方たちのところで匿ってもらって、その間にそっち鍛えて帰ってきてっていうことになってるの」

 

「うん…事前に説明してほしかったかな?」

 

「今説明できたから無問題」

 

「はぁ…」

 

 リンネの言い分にため息をついたクダリは「いつものことだったな…」と呟くと話し始めた。

 

「分かりました。では我々“明けの狐”はリョーコさんの身の安全を保障しつつ、彼女が必要最低限の自衛と自活が可能になるまで面倒を見ましょう。しかし、二つの条件を設けさせて欲しい」

 

 条件と言われたリョーコがリンネよりも早く反応した。

 

「二つの条件ですか?」

 

「そう条件だ」

 

 そう言ったクダリは“条件”の説明をし始めた。

 

「まず、基本的に外出は禁止させていただきます。これはあなたの身を守るとともにCCGの捜査を撹乱するためです。そしてもう一つは途中で投げ出さないことです」

 

「なるほど…まあ、打倒ですね」

 

 特に何事もなく条件を飲むことに同意したリョーコにクダリは頷く。

 

「理解が早くて助かります。ではこの条件は飲んでいただけるんですね?」

 

「ええ勿論よ」

 

 あっさりと話がまとまり満足そうなリンネはリョーコとクダリの二人に話始める。

 

「じゃあここから貴女はクダリについて行って。私はあんていくに戻るよ。あなたが居ない間どれだけやれるか分からないけど」

 

「分かったわ、ヒナミのことを私以外の人に頼むのは癪だけどお願いね」

 

「うん、わかったよ。それじゃあクダリ、リョーコさんのことをお願いね」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ長々と引きずってても仕方ないから私は行くね」

 

 状況の整理が着くや否や背を向けて去ろうとするリンネにクダリが声をかける。

 

「戻るつもりはないんですか?」

 

 その瞬間、リンネを包む雰囲気が変化する。

 

()()何処(・・)に?」

 

「…」

 

「っ…!」

 

 急なリンネの変化にクダリは顔をしかめ、リョーコは驚き息を詰まらせた。

 その二人の様子に気づいたリンネが苦笑いを浮かべると、リンネの周囲の重苦しい雰囲気が消失する。

 

「ゴメン…でもわたしはもう戻れない。それは…解ってほしいかな?」

 

 苦笑いを浮かべたリンネはそう言うとそのまま立ち去ってしまった。

 

「…貴女に幸せに生きてほしいと願うのは俺のエゴなんだろうか…」

 

 そして苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるクダリと、先ほどのリンネの豹変に怯え切ったリョーコがこの場に残された。

 

 そしてしばらく経ち、落ち着きを取り戻したリョーコがクダリに問いかける。

 

「クダリさん…でしたね。少しいいですか?」

 

 リョーコから声をかけてくることはないと思っていたクダリは少し驚きながらもそれを表に出さず、答える。

 

「ええ、いいですよ?と言っても、私に話せることに限りますけど」

 

 クダリの答えに軽くうなずいたリョーコは問いを放つ。

 

「もちろんです。では“リンネちゃんの過去”を教えていただけませんか?」

 

 リョーコは笑みすら浮かべていたが、対照的に、その問いを聞いたクダリは苦い顔をしていた。

 

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部会議室――

 

 

 20区にあるCCG支部。そこにある会議室には先日の喰種討伐作戦の失敗と、新たなる脅威“狐”の襲撃という事実のせいか重苦しい雰囲気が満ちていた。

 

「723番のあの後の行方は不明…さらにその娘の725番の消息も全く掴めていません」

 

「…」

 

「そして“狐”により拉致された、草場一平三等捜査官…彼の行方もまた掴めておりません…」

 

 状況を冷静に報告していく亜門だったが、前回“狐”の襲撃により723番にまんまと逃げられてしまった上、局員の一人が拉致されてしまったCCG側の士気は低かった。

 

「草場…」

 

 そう言って顔を伏せたのは中島康智。CCG20区支部に所属する三等捜査官であり、拉致され行方不明になっている草場一平とペアを組んでいる(死亡確認が取れていないため一応ペアのままとなっている)男だ。

 

「…ふむ。我々は今完全に後手に回っているということか」

 

「はい…」

 

 真戸の言葉に悔しそうに頷いた亜門だったがそのことを気にもせずに真戸が口を開く。

 

「こうなった以上奇策でも用いらなくてはならないだろう。亜門君、今日から数日の間警戒態勢を取っておいてくれ。私は私独自にやることがある」

 

 そう言って立ち上がる真戸に顔を伏せていた中島が顔を上げた。

 

「何か策が…草葉の仇を討つ作戦があるんですか!?」

 

 そういう中島に真戸は振り返りもせずに告げた。

 

「なに、私は初めからそのつもりだよ。喰種を討つ、それが我々の存在意義なのだから」

 

 そういう真戸の表情は軽い笑みすら浮かべていた。

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部前――

 

 

 自分の半身ともいえる相棒、草場を失った中島は、失意に暮れたまま帰路に就くこともなく一人で薄暗くなり始めた街を歩いていた。

 

「草場…」

 

 そう呟く彼の足は自然と馴染みの店へと向いていた。

 

 

 

 

――20区・蕎麦屋「あずみ」前――

 

 

 いつも、中島が草場と二人で訪れていた蕎麦屋“手打ち屋あずみ”

 

「…」

 

 いつもなら仕事上がりに相棒の草場と共にここで夕食を摂り、馬鹿話に興じていたが相棒を失った中島は肩を落としたままその前を通り過ぎていく。

 

「草場…無事なのか…」

 

 自然と口から漏れ出た言葉。それは自らの相棒の無事を祈る言葉だった。

 

 

 

 

――20区・路地――

 

 

 あずみの前から立ち去った中島はよく草場と通った道を歩いていた。

 

「馬鹿野郎…奢る相手が居なくなっちまったじゃねえか…」

 

 悲しみに押しつぶされそうになりながら歩を進めていた中島は目の前に何者かが立っているような気配を感じ顔を上げた。

 

 そして、顔を上げた中島の目の前には“ウサギ”が立っていた。

 

 「え?」

 

 中島にできたのは目の前の奇妙な光景に対し間が抜けた声を上げるだけだった。

 

 

 

 

――20区・路地、電柱の上――

 

 

「あいつだ…」

 

 そう言って携帯に表示された画像と目の前の道路を歩いていく男とを見比べながら歪んだ笑みを受けべているのは、

 

「リョーコさんの仇…ここで討つ…」

 

リョーコが襲撃されて以来、その下手人を討つべく動いていたトーカだった。

 彼女はマスクを着け目の前の男の前に飛び降りると、赫子を使うことなく一撃で男の首を刎ねた。

 

「良し…これで…」

 

 無事に仇を討ちこの場を離脱しようとしたトーカだったが横合いから吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 たった今、目の前で同胞を殺害した少女を“長年の感”から喰種と判断し、横から吹き飛ばしたのは顔色の悪い男。真戸呉夫だった。

 

「ククク…こうもタイミングが良いと何かしらの縁を感じるよ…まあ、貴様らとの縁など殺す機会でもない限りは願い下げだがな」

 

 彼は会議を終え、“秘密兵器”を持って市街地を巡回していたところ、喰種の気配を感じ、その気配の下に急行したのだ。

 すると、喰種と思われる人影がCCGの捜査官を殺害している場面に出くわし、横合いから右手に持ったクインケ「フエグチ壱」の一撃を叩き込んだ。

 不意を突いたのもあるが、ベテランの捜査官の手加減なしの一撃。それをもろに受けた少女の喰種は大きく吹き飛び地面に転がった。

 

「ぐっ…がぁ…!」

 

 吹き飛ばされ、ぼろ雑巾のように地面に転がった喰種が呻き声を上げながら立ち上がると、真戸は嬉しそうに声を上げる。

 

「ほう!割と思い切り叩きつけたつもりだったのだが、まだ動けるのか!」

 

「テ…メェ…!」

 

 喰種が忌々しそうな声を上げるがそれも気に留めず真戸は左手(・・)に持ったクインケ起動させた。

 すると白いレイピアのようなクインケ、『Sレートクインケ“ナルカミ(・・・・)”』が真戸の手に収まる。

 

「随分と可愛いウサギ(づら)だが、私は貴様らにかける情けなどは持ち合わせていなくてね…今度のコイツ(・・・)は先程のものとは格が違うぞ?…まあ、簡単にくたばってくれるなよ!」

 

 そう言って真戸の左手に握られたクインケから雷撃が放たれ、回避が遅れた喰種の左腕を貫いた。

 

 

 

 

 左腕を貫かれ、痛みで状況が分からなくなりかけていたトーカは回らない頭を無理矢理働かせ、離脱する術を探していた。

 

「ぐっ…!あぁ…!」

 

 先ほどの一撃で左腕が完全に使用不能になってしまったトーカは目くらましに赫子を放つ。

 

「その程度!わたしを舐めているのか!」

 

 しかし、目の前の男は右手に持ったクインケを用いて赫子の一撃をあっさり捌くと反撃とばかりに左手のクインケからまたも雷撃を放ってきた。

 その一撃を上手く動かない身体を引きずる様に紙一重で回避するも、余波のみで少なくないダメージを負ってしまう。

 

「ククク…良い様だな、喰種(虫けら)ァ…」

 

 その楽しそうな声も今のトーカには聞こえない。

 先ほどの一撃で耳にもダメージを負っていたためだ。

 

「そろそろ終いだ、覚悟するんだな」

 

 そう言ってクインケのチャージと思われる動作を取る男。

 

 その時、トーカは次に放たれるクインケの一撃を、自分の赫子で無理矢理相殺し、その隙に離脱図ることにした。

 そして、トーカは覚悟を決め、残った体力を全て背中の赫子に集中させる。

 

「くたばれ、ウジ虫!」

 

「ぐっ…ぁぁああああ!」

 

 直後、男の放ったクインケの一撃とトーカの放った赫子の一撃とが激突し、眩い閃光がその場を満たした。

 

 

 

 

 閃光が収まると、そこには真戸と殺害された中島の遺体のみが残されており、先ほどの喰種は影も形もなくなっていた。

 真戸は周囲を軽く見回すと呟いた。

 

「逃げたか…?まあ、その程度の頭は残っていたか…」

 

 先ほどの閃光の中逃走を計った喰種を見逃した真戸は近辺に敵意を持つ存在が居ないこと確認するとクインケをケースに収めながら殺害された中島の遺体の横に屈みこむ。

 

「相棒のところには行けたか?愚か者め…」

 

 真戸はそう言って立ち上がり薄暗い空を見上げ呟いた。

 

「いつも私は奪われるばかりだ…愚かさ加減で言えば私もいい勝負か…死んだ仲間の死体(抜け殻)のために喰種を見逃すとは…私も焼きが回ったのか…」

 

 その横顔には哀しみが浮かんでいた。

 

 

 

 そして、その一部始終を見ていた存在が居た。

 それは“九つの尾を持つ狐(キュウビ)”だった。

 キュウビは状況が収まるのを見届けると傷ついた喰種(トーカ)を追いその場を去った。

 しかし、キュウビの気配に気づいたものはいなかった。

 

 

 

 

 

――20区・亜門の部屋――

 

 

 あの会議の後沈んだ様子で支部を去った中島にかける言葉を持たなかった亜門は一人自分のアパートに戻って来ていた。

 

「…っ!…っ!」

 

 彼は家に着くや否や動きやすい服装に着替えると日課でもあるトレーニングを始めた。

 

 流れる汗を気にも止めず、彼は一心不乱に鍛錬に打ち込む。

 それが自らを強くし、引いてはそれが周囲の人々を守ることにつながると信じて。 

 

 

 

 

 そして、亜門の下に中島が謎の喰種、“ラビット”の襲撃を受け殉職したとの連絡が届いたのは、それからさらに数刻が過ぎてからのことだった。

 

 

 

 

――20区・??――

 

 

 20区の某所。

 そこにはボロボロになったトーカが地面に倒れ伏していた。

 そして、それを見下ろすように“九つの尾を持つ狐(キュウビ)”が瓦礫の上に座っていた。

 

『全く、13区から戻ってきた思ったらまた厄介ごと…いや、今回は私が馬鹿だったか…』

 

 そう呟くキュウビのどこかくぐもった声に反応したトーカが目を覚まし、身体を動かすこともままならないのか顔だけをキュウビに向け声をかける。

 

「へへ…こんな怪物とお目にかかれるとはね…ついに私も年貢の納め時かな?」

 

 しかしキュウビはトーカの言葉に反応を返さず、ただ冷静に問いかけた。

 

『何がしたいの?』

 

「え?」

 

『貴女が、今一番成したいことは何?』

 

 そんな唐突な問いに戸惑いながらもトーカははっきりと答えた。

 

「復讐、したい…ヒナ、ミを…私たちの同胞を傷つけた奴らに!」

 

 全身ボロボロで、身体もまともに動かないままに少女(トーカ)は吠える。

 

「同じ目に遭わせてやる…あいつ等も!」

 

 そう言い終えたトーカは自分の体から力が抜け、目の前が暗くなっていくのを感じた。

 無理に叫び続けたせいで身体がついに限界を超えてしまったのだ。

 そしてキュウビはその願い(呪い)を聞き届ける。

 

「分かったよ、それが君のためになるのなら」

 

 キュウビの答えを聞いたトーカはそのまま気を失った。

 

 

 

 

 トーカが気を失ったのを確認すると“キュウビ”は全身にまとっていた赫子(・・・・・・・・・・・・)を解いた。

 その赫子の中から出てきたのはつい先ほどまでリョーコと13区に居たリンネだった。

 

 リンネはリョーコと別れた後、すぐに移動し、20区に戻ってきていた。

 すると、近くから戦闘音と知っている気配を感じ、その場に急行したのだ。

 そしてその後、ボロボロのまま離脱したトーカを確保しこの人気のない場所まで移動してきていたのだ。

 

 リンネ《少女》は嘆く。

 なぜ、世界はこうも歪んでいるのか、と。

 なぜ、こうも“戻れない”道が多いのだろう、と。

 

 しかし、その嘆きは誰にも届かない。

 

 人の祈りが神へ届かないように。

 

 虐げられる弱者の嘆きが強者の耳に届かないように。




 はい、以上10話でした。
 これからリョーコさんはあんていく及び表舞台から退場します。
 あんていくへの合流時期はアオギリ戦頃になります。
 そしてトーカもがっつり負傷。
 戦闘不能どころかあんていくの業務に支障が出るレベルに。
 …ごめんねトーカちゃん(´・ω・`)
 
 これで序盤に立てておきたかったフラグが粗方立ちました。

・トーカなど主要メンバーの強化フラグ
・リンネの過去語りフラグ
・カネキ超強化フラグ

です。

 三つ目に関しては少々分かりづらいかも?
 でも意味がある事なので…(´・ω・`)表現力ホスィ…

 そしてサラッとオリジナルの新キャラ登場。
 少し言っておくとこの方(クダリさん)はかなり重要な位置に居ます。

 今回トーカの襲撃イベントが起きていますね。原作と違い死者が増えているあたり、リンネが関わった影響が出てきていますね。
 これからどんどん介入しますよ~(ニッコリ)

 次回は13区にトーカを中心としたあんていく視点と13区にたどり着いたリョーコ視点がメインになります。
 しかし、次回以降話数の構成が少々特殊になる(可能性がある)のでお気を付けください。

 感想、評価、誤字報告お待ちしています!
 それでは次回をお楽しみに!


~次回予告~

 13区にたどり着き、リンネの過去に手をかけたリョーコ。
 そしてトーカは、“キュウビ”に仇討ちを願う。
 その願いの果てにないが待つのか。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第11話

 復讐者の叫びは九尾へと

 新たな世紀へ、飛べ!ガン〇ム!


ヒナミ「ガ〇ダムじゃねぇよ。私あんな状態で放置かよ」

(主)「あの…前回から言いたかったんだけどキャラが…」

ヒナミ「あ?なんか言ったか?」

(主)「申し訳ありません可及的速やかに対処させていただきます」

トーカ「私いきなり出てきた白鳩の最終兵器に近いものにボコられてるんだけど」

(主)「いや、この後に活躍の場を用意しますので堪忍してください、まじで」


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11話 復讐者の叫びは九尾へと

 はいお待たせしました11話

 …本当にお待たせしました<m(__)m><モウシワケナイ

 今回は冒頭にリョーコとクダリのやり取りを少しやった後、あんていく側、真戸にやられたトーカと色々思いつめたカネキ、リンネの三人がメインとなっております。

 リョーコさんとクダリの会話、トーカ敗北の翌日のあんていくがどうなったか、から始まります。

 それではどうぞ


~前回までのあらすじ~

 真戸に敗北し、傷を負ったトーカ。
 彼女と“九尾”の動きはあんていくに、カネキにどんな影響与えるのか。


――13区・地下通路――

 

 

リンネが去った後、平静を取り戻したリョーコはクダリに問いを投げかけるも問いで返されてしまう。

 

「貴女がリンのことをどう思っているか、と言い換えましょうか」

 

「どう、ですか…」

 

 そのクダリの問いにリョーコは数秒考えるそぶりを見せた後、納得いく言葉が見つかった様子で言葉を返す。

 

「そうですね、娘の大切な“友達”。私の娘も同然の娘…では不足ですか?」

 

 リョーコのその言葉に頷いたクダリは、リョーコを先導するように歩き始めると同時に話始めた。

 

「…いいでしょう。なら、移動がてら貴女にはお話ししましょう、リンの過去を…」

 

 

 

 

 六道輪廻、私は“リン”と呼んでいたのでここでも“リン”と呼ばせていただきますね。

 

 私がリンと知り合ったのは10年以上前のこと、彼女が6歳だった頃です。季節は…秋ごろだったかと記憶しています。その時にはすでに彼女は天涯孤独の身でした。

 

 13区の外れ…詳しい場所は忘れてしまいましたがその時リンは不幸にも、当時CCGによって展開されていた「ランタン討伐作戦」に巻き込まれてしまったようでして。その時に半死半生の重傷を負ってしまっていたんですよ。おまけに彼女はその時、人の肉を食べようとしなかったんです。なんでも「友達の仲間は食べたくない」とね。

 

 苦労しましたよ。私達喰種は人の肉を喰わねば飢えて死んでしまうというのに、彼女は飢えていた上に死にかけの身でそれを拒むのですから。

 しかし、体が限界に達したのでしょう。リンの奴、ついに身動き一つ取れなくなりましてね。その隙に無理矢理肉を喰わせたんですよ。

 すると、みるみる体の傷が癒えていったんです。私もそれなりに場数は踏んできていましたが、あれ程の再生速度を持つ喰種は見たことがありませんでしたよ。

 そしてそれから数日ほどでしたか…眠り続けていたのに突然目を覚まして私に襲い掛かってきたんです。

 と言っても、当時のリンはまだまだ弱く、相手にはなりませんでしたが。

 あ、もちろんまだリンは幼い少女でしたからね。手を抜いて気絶させて終わらせましたよ。

 

 そしたら、次に目を覚ましたら「わたしを強くしてほしい」なんて言ってくるもんですからまた驚きましたよ。

 それで話を聞いてみたら「守りたいものがあるから」なんて言ってきたんですよ。

 当時6歳の小さな子供がですよ?

 私も耳を疑いましたよ、あんな小さな子供がそんなことを言い出すなんて。

 それで私がリンの育て親代わりになって稽古をつけてやっていたんです。

 

 そしてそれから数年経つと、なんと私では手も足も出なくなってしまいましてね。

 それで止めるものが居なくなってしまい、大分やんちゃしていたんです。

 そのうち彼女の噂を聞きつけて腕に覚えのある喰種が彼女に挑んできたんです。それも13区のみならずほかの区からも。

 でも彼女はそれらを全て返り討ちにしてしまったんです。

 見ものでしたよ。リンの奴が自分よりも2周り以上も大きい体格をした男の喰種を一瞬で吹き飛ばしたり、10近い喰種の集団を一方的に熨したりと。

 

 そうしているうちに、彼女にひかれていく喰種も少なくなかったんです。

 そして、彼女を頭として慕う喰種の群れが出来上がった。これが今の“明けの銀狐”の母体なんですよ。

 あの時の彼女が、私が知っている限り一番幸せそうでした。

 

 しかし、リンが突然姿を消したんです。

 確か、彼女が14歳の時です。理由も分からずいきなり消えたので当時の“明けの狐”は大分混乱しましてね。その時に少なくない構成員が抜けてしまったんです。

 

 …あの時何があったのか私も大まかにしか知りませんが、聞いた話によるとリンの親御さんに関わる事らしいです。

 

 そしてつい2年前ですね。リンが突然私の前にやってきて“明けの狐”の仕切り役を押し付ける宣言をしてまたすぐに去ってしまったのは。

 彼女が16歳になった頃でしょうか。「やることも終わったからこれからは好きに生きる。あとを宜しく」とね。

 

 

 

 

「それで今日のあの子につながるんですよ。」

 

 説明を終えたクダリは苦笑を浮かべ頭を掻きながらそう言い、続けた。

 

「まあ、過去をお話ししましょうなんて大仰な前振りをした割に、私は知っていることなんてこの程度のことなんですが」

 

 すると、彼はそこで言葉を切ると打って変わって真剣な表情を浮かべ続けた。

 

「リンは…あの子は基本的に人に過去を明かさない。聞いていて分かったと思いますが、私自身もあの子から直接聞いたことはほとんどありません。今話したこともほぼ私が独自で調べたものです。私がこうして貴女に話したことも、リンが知ればいい顔はしないでしょう」

 

「そうですか…」

 

 言うことは言ったという様子のクダリにリョーコはもう一度問う。

 

「もし、詳しいことを知ろうと思ったらリンネちゃんに直接聞くしかないのですね?」

 

 その問いに、クダリは苦笑を浮かべたまま答える。

 

「そうですが、リンの奴がそう簡単に教えるとは思いませんよ?」

 

「そうでしょうね。それくらいは分かっています。でも、」

 

 リョーコは一度言葉を切り、笑みを浮かべて続ける。

 

「リンネちゃんは私を助けてくれた。なら、今度は私があの子を少しでも支えてあげなくてはならない。私はそう思うんです」

 

 そう言うリョーコの顔は母の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

――20区・あんていく――

 

 

 リョーコが20区を発ち、トーカが真戸に敗れた日の翌日の朝。

 いつも通りに店を開けるため前日の廃棄物を裏口から外に出すために裏口のドアの取っ手に手をかけた芳村だったが、押し開けようとした扉がいつもよりも重く、首をかしげる。

 

「ん?裏口にガタでも来たか…?」

 

 そう言うと芳村は少し力を入れて開けた。

 すると、扉の向こうで何かが倒れるような鈍い音がした。

 

「扉の向こうに何かあったのか?」

 

 そして、音の発生源を確かめようと首を伸ばし、ドアの向こうを覗き込んだ芳村の目の前には全身に傷を負い、ぐったりとしたトーカがいた。

 芳村はその光景を一瞬理解できず、動きを止めた。が、それも一瞬のことですぐに状況を呑み込み動いた。

 

「トーカちゃん!?」

 

 そう言って動揺しつつもトーカを介抱する芳村。

 そうしてあんていくに保護されたトーカだったが芳村が手当てをしている間も目を覚ますことは無かった。

 

 ちなみに、なぜトーカがあんていくの裏口に居たのかについては数時間ほど前に遡る。

 

 

 

 

――20区・??――

 

 

 リンネは目の前で気を失っているトーカをどうするかで迷っていた。

 

 なぜなら、彼女は他人を助けたことが少なく、こういう時のどのような行動をとれば良いのか分からないからだった。

 

「こういう時ってまずは手当だっけ?それとも“食事”が先なんだっけ?」

 

 怪我人(喰種)の介抱などしたことのないリンネは暫し悩んだ後に一つの結論を出した。

 

「うん、マスターに押し付けよう」

 

 他力本願(他人任せ)という。

 

 

 

 

 そしてそこからのリンネの行動は早かった。

 

 トーカの手当てなどをあんていく、ひいては芳村に丸投げすることを決めたリンネは素早く赫子でトーカのことを赫子を用いてす巻きにすると、あんていく目指して移動を始めた。

 その際、人目につかない場所を選んで通ってきたため少々時間がかかってしまい、あんていくに到着したのが開店時間直前になってしまった。

 そのため、あんていくにトーカを置いてくる際、裏口の前に雑に放り投げるというトーカが聞いたら顔を顰めそうなことになってしまったが、トーカ本人に意識がない。つまり、“バレなきゃ問題じゃない!”ということである。

 

 

 

 

 トーカがあんていくに運び込まれてから半日ほど経ち、昼過ぎになるとカネキがバイトのためあんていくにやってきた。

 カネキは店がずいぶん静かなのに気になり、店の正面に回ると“また”休業しているのに気づき、ため息をつく。

 

「…最近、臨時休業が多い気がするけど、バイト代…ってかあんていくの経営そのものも大丈夫なのかぁ…」

 

 ちなみに、カネキの心配は的を射たものであり、芳村の密かな悩みであることは芳村以外が知ることはない。

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

 そう言って従業員用の出入口から入ったカネキを迎えたのは、

 

「よう…」

 

傷だらけで左腕を包帯で吊ったトーカだった。

 

「トーカちゃん!?一体どうしたの!?」

 

 慌てた様子で金木がトーカに問いかけるも

 

「まあ、落ち着け。私だってよく分かってないんだから」

 

 と軽くあしらわれてしまう。

 

「え?それってどういうこと!?」

 

 なおも食い下がるカネキにトーカの背後からやってきた芳村が割って入る。

 

「カネキ君、一度落ち着きなさい。そんなに焦っても話は何も進まない」

 

「でも、店長!」

 

「いいから。一度気を落ちつけて。そうしたら上に行ってそこで話を聞けばいい」

 

「…はい」

 

 芳村にそう言われたカネキはしぶしぶと言った様子ながらも大人しくなり二階への階段を上っていく芳村とトーカの後に続いた。

 

 

――あんていく2階・従業員用休憩室――

 

 

「あ、カネキお兄ちゃん…」

 

「あ、ヒナミちゃん…」

 

 ヒナミが居ることに気が付いたカネキとヒナミの間に微妙な空気が漂うがヒナミは黙ったまま部屋の外に出て行ってしまった。

 芳村は「今はそっとしておいて」とカネキに言うとヒナミを追って部屋を出て行った。

 

「さてと、何があったかだったね」

 

 二階に着くなりソファーに座り込んだトーカが説明を始めた。

 

「まあ、端的に言えばリョーコさんの仇を討とうとして返討ちにあったの」

 

「ええ!?トーカちゃんが?」

 

 驚くカネキにトーカは「わたしだって負けることはある」と言うとカネキに昨日の顛末を話した。

 その話を聞いたカネキは徐々に表情をこわばらせる。

 そして、トーカが話を終えるころには怒りとも何とも形容しがたい表情を浮かべていた。

 カネキの様子を感じ取ったトーカはすかさずフォローを入れる。

 

「いい?私が“こう”なったのは私の自業自得。あんたは何も関係ない。」

 

 トーカはここで一度言葉を切り、厳しい表情を浮かべると残りの言葉を一息に口にする。

 

「私はあんたに同情されるいわれはない、これは私が私の意志で起こした行動がもたらした結果なの。それにあんたが責任とか感じているならそれは私に対する侮辱と同義」

 

 それでも納得できない様子のカネキにトーカは追い打ちをかける。

 

「私は自分の行動のツケは自分で払う。そこに何かしようってんなら、あんたでも容赦しないよ」

 

 

 その後、二階の部屋から追い出されるように出てきたカネキは何をするでもなく一回に降りて来る。すると、俯いてままカウンター席に座るヒナミと向かい合うようにカウンターの中に立つ芳村が目に入った。

 一階に降りてきたカネキに気付いた芳村はカネキに手招きするとコーヒーを手早く淹れる。

 

「カネキ君はどう思ったかな、トーカちゃんの話を」

 

 カネキがたった今淹れられたコーヒーの前のカウンター席に着くや否や芳村は問いを発する。

 

「…」

 

 カネキが黙り込んでいるとずっと顔を伏せていたヒナミが口を開いた。

 

「トーカお姉ちゃんがああなっちゃったのは私のせい…私が弱かったから…」

 

「…っ!それは違う!!」

 

 ヒナミの自虐ともとれる言葉にカネキは思わず大きな声を上げる。

 芳村が何か言いたげにカネキの方を見やるがカネキは気づかず言葉をつつける。

 

「…ヒナミちゃんは悪くないんだ…きっと誰も悪く無いんだ。誰も」

 

 そう言って俯いたカネキに芳村が声をかける。

 

「私たちは喰種だ。ヒト(人間)から見たら化け物に過ぎないのだろう。人を食らう化け物に。しかし、私たちは獣ではない、心を持っているんだ。それを忘れないで欲しい」

 

 その後、今日は店を閉めることを芳村に告げられたカネキは帰路に着き、ヒナミは二階の部屋に籠った。

 そして、一階に一人残された芳村は呟く。

 

「憂那…私の夢は、果てしなく遠いところにあるようだよ…」

 

 その呟きは誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

――20区・公園――

 

 

 あんていくを出たカネキは自分の部屋に戻ることもなく近くの公園のベンチに座り込んでいた。

 時間も夕方を過ぎ、すでに周囲は暗くなり始めていたため子供たちの姿は見られなかった。

 カネキはここで考え続けていた。

 “どう”すれば良いのか。

 “どう”するのがよいのか。

 しかし、そんな自問自答も結局は“自分が弱かったせい”という結論に落ち着いてしまう。

 

 「自分がもっと強ければ」

 

 その言葉がカネキの中で渦巻いていた。

 

 そんな時、カネキに声をかけてきた存在が居た。

 

「あれ?カネキ君じゃん。どうしたのこんなところで?」

 

 トーカをあんていくに押し付けた後街中をぶらついていたリンネだった。

 

「リンネ…ちゃん…」

 

「どうしたのカネキ君?元気ないよ?」

 

「少し、話を聞いてもらってもいいかな?」

 

 声をかけたリンネだったが予想以上にカネキが沈んでいるのに気づいたリンネはカネキの言葉に頷く。

 

「ん?いいけどどうしたの?」

 

「うん、実はね…」

 

 そうして事の顛末を話すカネキ。

 話の内容は

 

 トーカがリョーコさんの仇を討とうとしている事。

 その結果トーカが大けがを負ってしまった事。

 しかし自分には何も出来ない事。

 

 そして、何とかしてこの現状を変えたいと思っている事。

 

 その話を聞いたリンネはいつものふざけた雰囲気ではなく、いたって真面目な、硬い表情を浮かべた。

 

「話を聞く限りトーカちゃんがやられたのは自業自得」

 

「自業自得って…そんな言い方!」

 

 リンネの少々冷たい、突き放すような言い草にカネキは声を上げるがリンネはそれに耳を貸すことなく続ける。

 

「トーカちゃんは自分の意志で行動してその結果傷を負った。このことにあなたが責任を感じているならそれは彼女に対する侮辱以外の何物でもない。」

 

 奇しくもトーカと同じことを言うリンネにカネキは怯む。

 

「彼女はあなたよりも長い間喰種として生きている。つまり戦い方を心得ている。その彼女が負けたのならまだまだひよっこのあなたにできることなんてありはしないよ」

 

 言外に“君は弱いから何もできない”と言われたように感じたカネキは「ならっ!」と声を上げ、リンネの話を遮る。

 

「なに?何か言いたいことでもあるの?」

 

「リンネちゃんは、“強い”の?」

 

「私?そうね、私もそれなりに修羅場はくぐってきてるからね。自信はあるよ」

 

「なら、一つお願いがあるんだ」

 

 カネキはここで覚悟を決めた。

 

 一つ目は自らが荒事の矢面に立つ事。

 二つ目は自らもトーカと共に戦う事。

 

 そして三つめが

 

「リンネちゃん。僕に化け物(喰種)の戦い方を教えて欲しい」

 

忌避していた化け物(喰種)としての力。自分の中にあるリゼ(喰種)の力を受け入れるという事だった。

 

 その言葉を聞いたリンネは一瞬驚いた表情を浮かべると挑発的な笑みを浮かべ必死な顔でこちらを見るカネキに問いかける。

 

「喰種…化け物としての戦い方ね…耐えられるの?食事も満足にできないあなたが」

 

「…必要なら“食事”だってする…もう、何もできないのは嫌だから」

 

 そういうカネキにリンネは更に口元を吊り上げ、赫眼すら発現させ愉快そうに言う。

 

「なら、明日の朝10時にあんていくに来な。おしえてあげるよ、“化け物の戦い方”をね」

 

 そう言い残すとリンネは赤い軌跡を残し、カネキの目に留まらぬ速さで姿を消した。

 リンネの説得に成功し、戦う術を学ぶ道を見出したカネキはベンチから立ち上がると開いた自分の手のひらを見つめて呟いた。

 

「…もう、もう何も失ってたまるもんか…!」

 

 そう呟く彼の目は未だ“力”に囚われていた。

 

 

 

――20区・ビル街――

 

 

 20区にあるビル街。そのビルの上で(リンネ)が高笑いしていた。

 

『あははは!あーっははははははは!』

 

 その声は赫子に遮られているせいか、くぐもっていた。

 

『あんなよなよなした奴があそこまで言ってのけるとは!』

 

 リンネは楽しそうに言う。

 

『楽しみだなあ…一体どうなるかなぁ!あはははははは!』

 

 暗くなった町に(リンネ)の笑い声が響く。

 

 物語は確実に原作(本来のシナリオ)から離れていく。

 

 この物語は一体どこに向かっていくのか。




トーカ「で、なんでこんなに遅くなったの?」

(主)「いやー、携帯壊れてデータが飛んでしまって…」

トーカ「11月半ばには復旧できてたよね?」

(主)「いや、その」

ヒナミ「トーカお姉ちゃん、これ見て」

トーカ「ん?何それ?」

(主)「あ、それは」

トーカ「空っぽになったFGOのボックスガチャと東京モーターショーのパンフ?それに不可すらついたボロボロの単位表…」

(主)「あわわ…」

トーカ「覚悟はいいね?」

(主)「よくないです~!」







はい、ということです。
本当に申し訳ございませんm(__)m
今回はあまりストーリー的に進みがあまりなかったので次回以降はそこそこ巻いていきます。(今年中に完結させるつもりが…どうしてこうなった/(^o^)\)


~次回予告~

 リンネの過去の断片を手に入れたリョーコ
 そしてトーカの話を聞いたカネキは喰種として生きる覚悟を決める
 狐の影響で歪みつつある少年はどこへ向かうのか

 次回、百足と狐と喫茶店と 第12話

 少年の嘆きは九尾へと


トーカ「今回は次回予告の悪ふざけはないんだ」

(主)「うん、ネタ切れしちゃって…これからは何か思いついたときにでもやろうかなって」

ヒナミ「うん、そんなことよりもまず投稿ペースを安定させることに努めた方がいいんじゃないかな」

(主)「…ごもっともです…」


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12話 少年の嘆きは九尾へと

想像以上に筆が進んだので更新。
 …クリスマス一人きりだったせいで、そのせいで時間が多く取れた。
 とかなんかじゃないんだよ!(`・ω・´)

 …ほんとだよ(´・ω・`)

 さあ、カネキ君の強化を始めましょう。
 リンネちゃんが徐々にキチって来ていますが仕様です。
 ここでカネキ君をどこまで強化できるかでこの先の展開が変わります。
 …どこまで強化しようかな…()

 それではどうぞ

~前回までのあらすじ~

 先日の顛末をトーカから聞いたカネキ。
 カネキは自らも戦うことと、喰種の力を受け入れることを決めた。
 彼の決意は一体何をもたらすのか。


――20区・あんていく――

 

 

 トーカがあんていくに運び込まれた(投げ込まれた)翌日…

 いまだ朝日が昇り切らないうす暗い時間帯。

 あんていく二階のトーカが一時的に身を寄せている部屋にはトーカのほかにもう一つの人影があった。

 

「あのさ、今何時だと思ってるの?」

 

「いや、あのぉ…」

 

 もう一つの人影はトーカに問い詰められ弱ったように言葉を発する。

 ちなみにトーカはソファーに腰かけているがもう一つの人影は床に正座させられている。

 

「一応私は怪我人なわけで、そのことに関する気づかいとかもないわけ?」

 

「あの、ほんとに勘弁してください…」

 

 そう言って床に突っ伏すのは情けない顔をしたリンネだった。

 

 ちなみになぜリンネが正座させられているのかについては十数分前に遡る。

 

 

 

 

 まだ夜とも早朝ともいえる時間。トーカが眠っている部屋の窓がドンドンと音を立てた。

 トーカは音に気が付き目が覚める。

 

「なんだ…?」

 

 音に気が付いて目が覚めたトーカは違和感に気付く。

 

「あれ?ここって二階…」

 

 そう、一階ならまだしもここは二階であり、外から窓を叩かれるなどということは本来あり得ないのである。

 

「誰だ…?」

 

 あり得ない状況に警戒心をあらわにするトーカだったが聞こえてきたのは、

 

「お、丁度起きてた。開けて~」

 

と言うへらへらした顔のリンネだった。

 

「…」

 

 無言で窓を開けるトーカ。

 するとリンネはこれ幸いと部屋に飛び込んでくる。

 

「いやー、トーカちゃんが丁度起きてて良か「正座」え?」

 

 リンネの言葉を遮りただ一言短く告げたトーカ。

 リンネは状況が分からないという顔をのままトーカに対し問いを発する。

 

「あの、いきなり何を「正座」

 

「いや、なんかデジャヴが「正座」

 

「だからその「正座」

 

「…はい」

 

 というやりとりの後、すごすごと正座するリンネ。

 そして、ここから冒頭につながる。

 

 

 

 

「で、いったい何の用?」

 

 床に突っ伏したリンネを見下ろしたままトーカが冷たい態度で声をかける。

 するとリンネはここに来た理由を話しはじめた。

 

 言い訳が大半を占めていたので要約すると以下のとおりである。

 

・カネキに稽古をつけてあげると大見え切ったはいいものの、喰種が稽古をできる場所を知らなかったため知ってそうなトーカに聞きに来た。

 

「…」

 

 こめかみを抑え頭痛を堪えるような仕草をしたままトーカは口を開く。

 

「…そんなことのためにこんな時間から?」

 

「うん、そうだよ?」

 

 けろりとした態度で答えるリンネにトーカはため息を吐きながら話始める。

 

「あんていくの地下に24区への通路がある。その先は広い空間につながってるからそこなら稽古くらいなら出来んだろ」

 

「ほんとに!?」

 

 トーカの言葉に驚いた様子で声を上げるリンネに青筋を浮かべながらもリンネを諫めるべくトーカが口を開く。

 

「ほんとだよ。あとまだヒナミも恐らく寝ているんだ。あまり大きな声を出すな」

 

 トーカのその言葉に「やべっ」と言うとリンネも声のトーンを落とした。

 

「いやー、トーカちゃんがまさかそんな気遣いができる人だとは思わな」

 

 リンネのその言葉でついに堪忍袋の緒が切れたのかトーカは正座したままのリンネの頭をアイアンクローの要領で掴み、そのまま勢いよく床に叩きつけた。

 

「いい加減に…しろォ!!」

 

 その掛け声共に頭を固い床に叩きつけられたリンネは見事に意識を刈り取られ、沈んだ。

 ちなみにそのトーカの大声とリンネの頭を叩きつけた時の大きな物音でヒナミが目覚めることがなかったのは不幸中の幸いだった。

 

 

 

 

――20区・あんていく前――

 

 

 リンネがトーカに落とされてから数時間が過ぎた頃、9時少し前にカネキがあんていく前にやってきた。

 

「今日、リンネちゃんに色々教えて貰えるんだ…何でもいい、少しでも身につけなきゃ…」

 

 そう意気込んでいるカネキだったがリンネがトーカに落とされてしまったためリンネがカネキの前に現れたのは10時過ぎになってしまったが、遅刻されることに慣れてしまったカネキは苦笑いでスルーしていた。

 女性の遅刻を笑って許せる男はモテるぞ!多分。

 

 その後、リンネ、カネキ、トーカの三人であんていくの地下へと降りて行った。

 ちなみにトーカがついてきたのは稽古を付けるためではなく「リンネが何かやらかしそうだから」との理由だった。

 

 

 

 

――20区・あんていく地下――

 

 

「さて、ここがあんていくの真下。24区の一部」

 

 そう言いながらトーカの先導で地下に降りてきた三人。

 カネキは「こんなところが…」と驚いていたがリンネは「ほえ~広いねぇ」と呆けており明らかに一人だけ緊張感が違った。

 

「さてと、私はここで見てるから。で、あんたはこいつ(カネキ)にどうやって戦い方を教えるだい?」

 

 と、トーカが傍観者として座り込み、カネキを指さしながらリンネに問いかける。

 リンネは特に考えるそぶりを見せることもなくあっけらかんと言う。

 

 

「あれこれ教えるのは私には無理だからね。とにかく実戦形式かな?まあ、死なないように加減はするよ」

 

 リンネの「死なないように」という言葉を聞いて若干顔を青ざめさせたカネキ。

 

「ふーん。ま、いいじゃないの?」

 

 そう言って我関せずと言わんばかりのトーカを置いておいてリンネはカネキに問いかける。

 

「さてカネキ君。君は戦いにおいて一番大事なこととは何だと思う?」

 

 唐突に発せられたリンネにの問いにカネキは数秒考えこむと答えた。

 

「勝つこと…かな?」

 

「うん、勝つことも大事かな。けどもっと大事なことがある」

 

 リンネはそう言ってカネキに話始める。

 

「いい?まず、生き残る事。戦って、勝ったとしても自分が死んでたんじゃあ話にならない。だから確実に勝てる。と思わない限りは逃げること。臆病なって思うかもしれないけどそれが一番安心なの」

 

 そこで一度言葉を切るとさっきまでのへらへらした雰囲気が消え、昨日の夜の公園で見せた真剣な表情になり、言葉を続けた。

 

「もし、大事な人を残してあなたが死んだら、私があなたを殺してやる。いい?」

 

 そういう彼女の目には怒りの感情が浮かんでいるようにカネキは感じた。

 そうして知らないうちにカネキが少々怯えの感情を抱いている気づいたリンネはふっと笑い明るい調子で話し続ける。

 

「ま、とにかく死ぬなってこと。命あっての物種なんだから」

 

 そういって言葉を切ったリンネにカネキは頷き返す。

 カネキの頷いた仕草を了解の意と受け取ったリンネはカネキに指示を出す。

 

「じゃあ、まずは逃げることから始めようか。えっとその辺に立って」

 

 カネキはその指示に従いリンネから距離を取り、リンネから15mほど離れた位置に立つ。

 

「じゃあ、私がここからカネキ君に対して攻撃を仕掛けるから何をしてもいいからそれを避けるか防ぐかしてみて?」

 

 「攻撃を仕掛ける」という言葉とともに先ほど聞いた「死なないように」という言葉が頭をよぎり寒気を覚えたカネキは顔を引きつらせながらリンネに問いかける。

 

「あのさリンネちゃん。まさか本気で攻撃してきたりはしないよね?」

 

「ん?あはは!本気で攻撃したら多分カネキ君なら数秒で死んじゃうよ?そんなことしないよ」

 

 そう答えるリンネに安心したように息をつくカネキだったが、

 

「よーし、いっくよー!当たっても死なないとは思うけど(・・・・)当たったら痛いから気を付けてねー!」

 

という言葉に表情を凍らせたカネキだったが次の瞬間、リンネの背中から結晶のような赫子が反り返る様に正面に向くのを見た。

 そして、その赫子から多数の弾丸が放たれ、それが自分に向かっていることに気が付いたカネキは恥も外聞もなく悲鳴を上げながら迫りくる弾丸を避けるために動き出した。

 

 

 

 

 トーカは目の前の光景が理解できなかった。

 リンネが訓練の開始と思われる掛け声を発した直後に羽赫と思われる赫子を発現させたのだ。

 トーカは覚えていた。リンネの「鱗持ちだよ」という発言を。つまり、リンネは鱗赫を持つ喰種であるはずなのだ。

 しかし、目の前のリンネは明らかに鱗赫ではない赫子を発現させている。

 

「あんた…それ(・・)、鱗赫じゃ…」

 

 トーカが小さな声で問いかけるがリンネは振り返ることもなくあっさりと答えてのけた。

 

「え?ああそう言えば鱗持ちって言ってたかな?ま、鱗以外にも持ってたってこと」

 

「…」

 

 悪びれもせずにそう答えたリンネにトーカはこれ以上問い詰めても無駄だと思い口を閉ざすと、今も必死の形相でリンネの攻撃から逃げ続けるカネキに目を向けた。

 

「ひ、ひぃぃ!あ、ああ、うわあああ!」

 

 カネキが情けない悲鳴を上げながらも何とか避け続けているとテンションの上がってきたリンネが楽しそうに声を発した。

 

「いいね、いいね!中々やるじゃん!」

 

「もう、勘弁、してええぇぇええぇぇ!」

 

 カネキが悲鳴を上げるがリンネは手を緩める気配がない。

 流石に止めてやるか…と思ったトーカがリンネに声をかけようとするがそれよりも一拍早くリンネが行動を起こした。

 

「おかわりだ!いっくよ~!」

 

 リンネは既に発現させていた羽赫に加え、鱗赫を発現させる。

 

「頑張って避けてねぇ!当たったら死んじゃうかもしれないかもしれないからさぁ!」

 

 そう言って、リンネは横薙ぎの軌道でカネキの胴体を狙う。

 

「っ!馬鹿!」

 

 トーカがとっさに羽赫で庇おうとするも、負傷もあってかその動きにはいつもの切れはなく、間に合いそうもなかった。

 

 そして、リンネの赫子がカネキの胴体を捉える――

 

 

 

 

 いきなり無茶苦茶な訓練を課され、恐ろしい弾幕を避け続けていたカネキは心の中で毒づく。

 

(確かに戦い方を教えて欲しいとは言ったけど、これはいくら何でもひどいよ!)

 

 また一つ、迫ってきたリンネの放った弾丸を横っ飛びに回避する。

 

「はあ、はあっ!」

(流石にもうきつい…足も動かなくなってきた…このままじゃ…!)

 

 カネキがそう心の中で言った瞬間、リンネが何か言いながら鱗赫を発現させる。

 

「…っ!」

(そんな、これ以上増えたら…もう、避けられ…!)

 

 カネキの心の叫びはリンネに届くことはなく、リンネは容赦なく鱗赫でカネキの胴を狙う。

 

 カネキの世界が、主観がゆっくり流れていく。

 

――あんなの食らったら、死ぬ

 

――戦う術を得るのが簡単ではないと思っていたけどこれは

 

――ほんとに死ぬ?こんなところで?

 

――何もできないまま

 

――何も成せないまま?

 

――…嫌だ

 

――…嫌だ!

 

――嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

――まだこんなところで死にたくない!

 

――死んでたまるか!

 

――僕は、生きるんだ!!

 

 カネキが心の中でそう叫んだ直後、カネキは、自分の中で何かがかみ合うような音を聞いた気がした。

 

 

 

 

「あらあら、思ったより早かったわね」

 

 真っ白な空間で眼鏡をかけた長髪の女性が妖艶に笑う。

 

「あの子が一体どこまで墜ちることができるのか、楽しみね…」

 

「“大切なもの”を護るために“それ以外”を捨てられるか」

 

 その女性は一度ここで言葉を切ると笑みを深め、言う。

 

――楽しみだわ

 

 

 

 

 リンネが放ったカネキの胴体を狙う鱗赫の一撃。

 それが直撃する瞬間、カネキの目が紅く変色し「赫眼」が発現する。

 そして、カネキの腰のあたりから赤黒い何かが飛び出した。

 

「う、うわあああああ!!」

 

 カネキが叫ぶとその叫び声に応えるようにカネキの腰から飛び出した赤黒い何かがリンネの鱗赫の一撃を防いだ。

 

「はあ…はあ…こ、これは…?」

 

 自分の腰から生えている何かに気が付いたカネキが困惑したように言葉を発する。

 すると、いつの間にかカネキの近くに来ていたリンネがカネキに対して話し始める。

 

「うん、カネキ君はやっぱりいい赫子持っているね。これからは赫子(これ)も使った訓練もするつもりだからそう思っておいてね」

 

「ちょ、ちょっと待って。説明してもらってもいいかな?」

 

 いきなり話を進められ、ついていけなくなったいけなくなったカネキがリンネに問いかける。

 

「さっきまでの訓練?の目的は逃げる練習とかじゃなかったの?」

 

 リンネは「ああ、そんなこと」と言うと説明を始めた。

 

「カネキ君は中々良い赫子を持っているよね?でもそれを自由に扱うことができていない。だからまずは赫子の出し入れを自由に出来るようになってもらおうと思ったの。でも、赫子の出し方なんて感覚でしかないから教えようがないの」

 

 リンネはそこで一度言葉を切りイイ(・・)笑みを浮かべた。

 

「そこで、赫子を出す感覚を覚えてもらおうと思ったわけ。だからキツイ状況、『死』を意識する状況に追い込めば赫子が発現するかも、と思ってちょっとキツめに攻めたの」

 

 リンネが悪びれる様子もなくそう言うとカネキが声を上げる。

 

「ちょっと待って!?そんな軽いノリで僕あんな目に遭ったの!?」

 

 カネキがそう抗議するもリンネは軽く笑って受け流す。

 

「まあまあ、そのおかげで赫子を出せたんだから良いじゃん。さっきも言ったけど次回からは赫子(ソレ)も使うから出す時の感覚を忘れないようにしておいてね~」

 

 リンネはそう言い残すとカネキの抗議に耳を貸すことなく、さっさと地下から出て行ってしまった。

 

「頼む相手…間違えたかなぁ…」

 

 カネキの呟きには疲労が滲んでいた。

 

 

 

 

 カネキとリンネの訓練を見ていたトーカは騒いでいるカネキにも、あっけらかんと去っていくリンネにも意識を向けることもなく、さきほどの光景を思い出していた。

 

(あいつは…リンネは確かに“ギリギリ避けられるところ”にのみ攻撃を放っていた。のみ(・・)ということは全て狙って撃っていたということ…)

 

 そこでトーカが思い出したのはリンネの放った羽赫の弾幕。

 決して少なくない、むしろかなりの数を放っていた。それこそ、トーカ自身もあれだけの数を、しかも狙って撃てるかどうかという数を。

 

(あいつは“鱗持ち”と言っていた。それは嘘ではなかった。しかし…)

 

 そこでトーカはさっさと地上()に登っていくリンネに一瞬視線を移す。

 

(さっき見た限りでは間違いなく鱗赫が一番使い慣れている感じがした。なら、あの羽赫は?)

(私でもあの数を狙って撃つことが出来るか…?いや、狙って撃つという条件下だとあれだけの数を撃つのは厳しい…)

 

 そこまで考えたトーカは腕を組んでため息を吐く。

 

「はぁ…あいつは一体何者なんだ…」

 

 

 

 

――20区・駅周辺――

 

 

 カネキの訓練を終えたリンネはあんていくを出るとそのまま周囲の雑居ビルの屋上に飛びあがり、そのままビルの屋上を飛び石のように飛び移り駅の近くまでやってくると駅の建物の屋上の縁に腰かけた。

 

「ふんふん。カネキ君はやっぱりいい赫子持ってたねぇ~…あの時に見たのは見間違いじゃなかったってわけだ」

 

 リンネはそこで一度言葉を切ると目を細めて声のトーンを一つ落とす。

 

「それにしても、カネキ君はともかくトーカちゃんの方は何か気が付いてる様子だったなぁ…」

 

 リンネは「ま、いいか」と言うと声のトーンを戻し、至極楽しそうに笑う。

 

「でも、不思議だなぁ…なんでカネキ君からカネキ君以外(他の喰種)の気配がしたんだろう…でもまあ」

 

 リンネは暗くなり始めている空を見上げ、言う。

 

「楽しそうだから良いかな」

 

 そういうリンネの顔は楽しそうに笑う子供の笑顔そのものだった。




トーカ「中々時間かかってるわね」

カネキ「だよね。まだ原作二巻だよね?僕もマスクそろそろ欲しいんだけど」

(主)「あ、次回はカネキ君はマスクを貰えるよ。あとはCCGに潜入してもらうから」

カネキ「うわー…あそこは色々おっかないところが多いから嫌なんだよなぁ…」

トーカ「ごねても仕方ないでしょう?覚悟決めな」

カネキ「はぁ…」

ヒナミ「いい加減、私関連のことも進めて欲しいなって」

(主)「次回はヒナミちゃんにも触れる予定だから」

ヒナミ「じゃあ、待ってる」

(主)「予定は未定(ボソッ)」


~次回予告~

 リンネとの訓練を始めたカネキ。彼はこの訓練で何を得るのか
 そしてリンネの違和感に気が付いたトーカ
 狐の行動は二人に、あんていくにどんな未来をもたらすのか

 次回、百足と狐と喫茶店と 第13話

 少年の叫びは九尾へと



カネキ「そういえば」

(主)「ん?どしたの?」

カネキ「主はクリスマスどう過ごしてたの?」

(主)「そういうカネキ君はどう過ごしてたんだよ…」

カネキ「いや…僕は…トーカちゃんと…」

(主)「次回覚悟してろよ…」

カネキ「なんでよ!」


 次回をお楽しみに!


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13話 少年の叫びは九尾へと

 …言い訳と謝罪が活動報告にあるので先にそちらを御覧ください(´・ω・`)

 …本当に申し訳ありませんでした<m(__)m>

~前回までのあらすじ~

 化け物としての訓練を始めたカネキ。そしてリンネの違和感に気が付いたトーカ。
 そんな中、気ままな狐は更に行動を起こす。
 狐の気まぐれは徐々に大きな歪みを齎す。

※サブタイトルが間違っていたので修正しました


――20区・あんていく――

 

 

 

「あんたは身体が細すぎる。もっと筋肉つけて、そんで赫子を出せないときの戦い方も習得しないといけないね。…あとは身体づくりか…」

 

「身体づくり?」

 

「そ、基本的な筋トレくらいはした方がいいでしょ」

 

 リンネとの訓練を終えたカネキがあんていくのフロアでトーカと今回の訓練の反省を行っていると珍しい客があんていくを訪れた。

 

「…」

 

 無言であんていくのドアを開けて中に入ってきたのは、

 

「あれ?ウタさん?」

 

「ウタ…さん?どうしたんですか?」

 

黒いニット帽をかぶり、サングラスをかけたウタだった。

 

「ごめんね、こんな時間に。マスクが出来てね、届けに来たんだ」

 

 ウタはサングラスを外すと、手に持っていた小荷物から黒いマスクを取り出す。

 

「ほんとは置いていくつもりだったんだけど、できれば着けているところを見てみたいんだけどいいかな?」

 

 ウタの問いにカネキは「もちろんいいですよ」と答えるとウタの指示に従いマスクを着けていく。

 

「そう、そこは耳の下に通して…うん、その部分は口元を覆うように…うんこれでいいかな」

 

 そうしてカネキの顔を覆ったマスクは右目を隠す眼帯状のパーツ、そして口内をイメージさせる歯と歯茎を模した部分と、両頬にガスマスクのような丸いパーツの着いた顔の下半分を隠すパーツからなる黒い革製のものだった。

 

「眼帯…僕がしている側と反対なんですね…」

 

「そうだよ…君の隠している方の目が見たかったから…」

 

 その後ウタがマスクの説明を続けたがカネキには聞こえていなかった。

 

 カネキが感じていたのは冷たい革の感触と普段は塞がれている右目の世界が齎す異様な高揚感。そして、ついに自らも“化け物”の一体となったのだという冷たい事実を突きつけられた背徳感にも似た妙な興奮だった。

 

 

 

 

――20区・あんていく地下――

 

 

「うーん…一撃がやっぱり軽すぎるね…」

 

「ご、ごめん…」

 

 カネキがマスクを手に入れた翌日。

 カネキは引き続きリンネとの訓練に明け暮れていた。 

 

「純粋に体格の問題もありそうだけど、やっぱ精神的な問題かなぁ…?」

 

「うーん…よく分からないなぁ…」

 

 そのような会話をしつつしばらく組手や赫子の扱いなどを主に訓練しているとトーカの声が地上につながる

ハッチから聞こえてくる。

 

「おーい、まだやんの?」

 

「え?もうそんな時間?」

 

 そう言ってカネキは近くに置いておいた上着を手に取り、ポケットから携帯を取り出し時刻を確認する。

 携帯の液晶には13:12と表示されており、カネキは携帯の画面をリンネにかかげて時間を知らせる。

 時間を知らされたリンネは数瞬間を置いた後に口を開く。

 

「あー…そろそろ切り上げるか」

 

 そしてあんていくに戻ってきたリンネとカネキに対してトーカは紙袋を差し出しながら声をかける。

 

「あんたたち暇なら少し手伝ってくれない?」

 

 トーカの唐突な問いに対しカネキとリンネは首をかしげる。

 

「手伝う?トーカちゃん、何をしろって言うの?」

 

 カネキの問いに対しトーカは簡単な説明を始めた。

 

「ここに服がある。今からこれに着替えて変装して。そんでCCGの支部に行ってリョーコさんの捜査をかく乱するための偽の情報を掴ませに行くの」

 

「ちょっと待っ「いいじゃん!面白そう!」リンネちゃん!?」

 

 トーカの無謀ともいえる提案にカネキが悲鳴じみた抗議をしようとするがリンネの言葉に遮られてしまう。

 

「お、リンネは乗り気だね。で、カネキは?まさかか弱い女の子二人に任せて自分は何もしない…なんてことはないよね?」

 

 結局、リンネの割り込みによって反論する機会を失ったカネキはもう後に引けなくなってしまった事を悟り小さくため息を吐くとあきらめたように言った。

 

「分かったよ…行くよ…」

 

「よっし、ならさっさと着替えて!行くよ!」

 

「今からなのぉ!?」

 

 カネキの抗議は相変わらず聞き入れられることなく流されていった。

 

 

 

 

 それからしばらく経ち三人が着替え終わってあんていくの裏手に集合していた。

 トーカは後ろ髪を二つに結わえ眼鏡をかけた委員長のような姿に。

 カネキはぼさぼさの髪申し訳程度にまとめたさえない感じの男子学生に。

 リンネは髪型こそ大きな変化はないが制服を着込んでいるため、見た目は完全に女子高生となっている。

 

「よし、カネキもリンネもこれなら大丈夫かな」

 

「…すごく不安なんだけど」

 

「ダイジョブダイジョブ。心配し過ぎだよ、カ~ネキ君」

 

「…不安しかない」

 

 そう言いながら集まった三人はCCG20区の支部へと向かっていった。

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部前――

 

 

「さて、着いたわね」

 

 そういうトーカに率いられた一行はCCG支部前にたどり着いた。

 

「ああ…不安だ…」

 

「さてと、行くよ」

 

「あいあい」

 

「…」

 

 そうして三人はCCG支部内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

――20区・CCG20区支部・ロビー――

 

 

 三人が足を踏み入れたCCG支部のロビーは多くの職員や捜査官が行き来していた。

 

「ここに居る人が…全部僕たちの敵…」

 

 そう言っておどおどしているカネキに女子二人からのフォローが入る。

 

「カネ…モト、いい私たちはただの情報提供者。怯える必要はないの」

 

「そうそう。キンちゃんは何も気にしなくていいよ。いざとなったら私が何とかしてあげるからね」

 

 そう言う二人に自分だけが気を使っているのに馬鹿々々しくなったカネキは開き直り、いつもの振る舞いに戻った。

 ちなみにトーカは「カトウ」、カネキは「カネモト」、リンネは「スズキ」という偽名を名乗ることになっている。

 

 

 

 

「あらー、可愛い情報提供者さんたちね。今日はよろしくね」

 

 そう言ってロビーの一角にある仕切りられたスペースに通された三人の前に現れたのは累沢(るいさわ)と名乗った温厚そうな女性だった。

 

「あらあら、両手に花でいいわね」

 

「い、いえ…そんなことは」

 

「あはは…」

 

 そうして軽く会話を交わすと累沢と名乗る女性が話を切り出してくる。

 

「さてと、お喋りもこれくらいにしてと。そろそろ本題に入ってもいいかしら?」

 

 その言葉にトーカが頷くと聞き込みが始まった。

 それからしばらくトーカの発言にカネキとリンネが相槌を打っていた。

 そしてしばらくして話がひと段落したタイミングでトーカが言葉を発する。

 

「でも、あんなに小さな子を、親諸共殺してしまうのは少し心が痛みそうですね」

 

 しかし、その言葉に対する累沢の答えがその場の空気を凍り付かせる。

 

「大丈夫よ、喰種は人間じゃないし、あんな危険な化け物(・・・)駆逐されて当然(・・・・・・・)なのよ」

 

 カネキとトーカは表情をこわばらせるが累沢はその様子を見て「そんなに緊張しないで」とにこやかに言う。

 そう言われて二人は苦し紛れの笑みを浮かべた。

 しかし、その会話を聞いていたリンネは苦虫をかみつぶしたような表情浮かべていたが、それに気づいたものはその場にはいなかった。

 その後、しばらく当たり障りのない会話をしたのちに事情聴取お開きとなった。

 

 

 

 

「…」

 

「カネ…モト、顔が怖いよ」

 

「そうそう、リラックスリラックス」

 

 事情聴取を終え帰路に着こうとする三人だったがカネキは先ほどのやり取りのせいか暗い表情を浮かべていた。

 トーカとリンネの二人が声をかけるが効果はなく、カネキは俯き、何かを考えこんだ様子のまま歩いていく。

 そして、前を見ていなかったせいで前から歩いてきた男とぶつかってしまう。

 

「イッテ…!」

 

「む?」

 

 カネキは後ろに尻もちをついてしまうが目の前の男はよろめく様な様子もなく「大丈夫かね?」と言いながらカネキの顔を覗き込んでくる。

 

「…っ!」

 

 その男の顔色の悪い、不気味な容貌に「死」の気配を感じたカネキは身体をこわばらせてしまう。

 そしてトーカはカネキにぶつかった男が先日自分を痛めつけた相手と同一人物ということに気が付き、焦りをあらわにしてしまう。

 

「…ふむ」

 

 目の前の二人の様子がおかしいことに気が付いた男は近くにいた職員、先ほどまで三人の事情聴取をしていた累沢に声をかける。

 

「そこの君、彼らは?」

 

「先程、親子の喰種の情報提供をしてくれた子たちですよ」

 

「ほう…!」

 

 その答えを聞いた男は目を見開き尻もちをついたままのカネキを半ば力任せに立たせ、カネキの手を握ったままゲートの方へ大股で歩いていく。

 そのゲートは「Rc検査ゲート」。

 喰種を見分けるための装置で、カネキはそれを目にした途端目に見えて落ち着きを失ってしまう。

 

「私はその喰種の事件を担当している者でね。奥で話を聞かせて貰えないかい?」

 

「あ、あの!これから塾があるので!」

 

「なに、時間は取らせない」

 

 カネキの抗議を受け流した男はそう言ってカネキをそのまま力尽くで引きずっていく。

 

「ま、まって…!」

 

 そして、焦った様子のカネキ引きずって男がゲートを通り抜ける。

 つまり、カネキ諸共ゲートを潜り抜けたはずだがゲートは反応しなかった(・・・・・・・)

 

「な…なんで…?」

 

 ゲートが反応しなかったことに驚いているカネキに向かってリンネがスタスタと歩いていく。

 明らかにゲートをくぐろうとしているリンネにトーカが焦って声をかけようとするがリンネはあっさりとゲートをくぐってしまった。

 

「…!」

 

「馬鹿っ…!」

 

 カネキは息をのみ、トーカは思わず声を漏らす。

 二人は次の瞬間の事態を想像し身構えるが、ゲートは沈黙を保っていた。

 

「…え?」

 

 訳が分からないといった様子のトーカとカネキをよそにリンネはけらけらと笑いながらカネキに声をかける。

 

「キンちゃ~ん、たいじょうぶ?」

 

 訳が分からないといった様子のカネキをよそにリンネは話を進めていく。

 

「まあ、奥で話を聞くってことなら塾が控えてるキンちゃんとカトちゃんはここで引き揚げて貰って、私が話をするけど…」

 

 リンネはそこで一度言葉を切るとカネキの手を掴んだままの男に向かって声のトーンを少し下げ言う。

 

「無理矢理って言うのは、天下のCCG捜査官としてはどうなのかな?」

 

「…」

 

 リンネの言葉にカネキの手を握っていた男は動きを止め、値踏みをするようにジロリと彼女の方を見る。

 

「…」

 

「…」

 

 そうして無言で睨みつけ合っていた二人だったが、しばらくすると男の方がため息を吐きカネキから手を離した。

 

「…そうだな、私たちは一応“正義の味方”だ」

 

「そう…よかった、貴方が“正義の味方”で」

 

 しかし、男はリンネの皮肉に動じることなく言葉を続けた。

 

「そうだ。私は“人間(正義の味方)”だ。“喰種(ゴミ虫)”を駆逐する…な」

 

 男はそう言い残すと奥へと引っ込んでしまった。

 

 その後、トーカ、カネキ、リンネの三人は近くの職員に見送られる形でCCGの支部を後にした。

 

 

 

 

「…」

 

 学生の三人組が支部を出て行ったあと真戸は自らに割り振られた事務室に戻って来ていた。

 

「…」

 

 真戸は無言のまま椅子に腰かけるとデスクの横に置かれた“ナルカミを収めた黒いケース”と大人一人が小脇に抱えられるくらいのサイズの保冷バッグをデスクの上に乗せた。

 

「今回は“手札”を1枚切るとするか…」

 

 そう言って真戸は保冷バックの中身を取り出すとそれを新聞紙で包んだ後、適当な布で覆う。

 

「今度こそ…今度こそ…あの時の娘を…」

 

 そう言って不気味な笑みを浮かべた真戸は新聞紙と布で包んだ何かをコートのうちにしまい込むとナルカミのケースを手に持ち部屋を出て行った。

 

 

 

 

――20区・あんていく1階――

 

 

「全く、なんであんたたちはこうも警戒心がないの?」

 

「あはは…ゴメンゴメ「ごめんで済むと思ってるの?」おぉう…」

 

 無事にCCG支部を脱出し、あんていくに戻った三人だったが額に青筋を立てたトーカに説教されていた。

 ちなみにカネキに至ってはあんていくに表から入ろうとしてトーカに拳骨を貰っている。

 

「カネキはあっさり白鳩(ハト)につかまるし、リンネは真正面から喧嘩吹っ掛けるし…」

 

「とー、トーカちゃん…もう勘弁して…」

 

「あ!?」

 

 あんていく1回の裏でトーカはカネキとリンネに説教をし続けた。

 

 …2階からヒナミの気配が消えている事に気づかず…

 

 




お待たせいたしました13話
今回でやっとカネキ君にマスクを持たせることに成功しました。
次回は真戸VSトーカ、亜門VSカネキ戦を予定しています。

次回をお楽しみに


~次回予告~


 マスクを手に入れたカネキ。
 CCGのかく乱を狙うトーカ。
 ヒナミを討たんとする真戸。
 三者三様の思惑が交差する中一人の少女が立ち上がる。

 次回、百足と狐と喫茶店と 第14話
 
 復讐者の怨嗟は九尾へと


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14話 復讐者の怨嗟は九尾へと

さてさて今回はお話は原作だと真戸さんが退場するあたりですね。

ちなみに今回は大きな原作乖離が発生します。
…タグでバレてる気がしなくもないが気にしない気にしなーい…(´・ω・`)

私生活が安定しなくて時間がない…
執筆時間ほしい…誰か下さい(懇願)


~前回までのあらすじ~


 マスクを手に入れ、トーカらと共にCCGのかく乱を図ったカネキ。
 そして、ヒナミを討たんとする真戸が動き出すと同時に、一人の少女が立ち上がる。


――20区・あんていく――

 

 

「とー、トーカちゃん…もう勘弁して…」

 

「あ!?」

 

「ナンデモナイデス…」

 

「トーカちゃんもあんまりカリカリしてると皴増えるよ?」

 

「あんたみたいにヒトの神経逆撫でしてくる奴が居なきゃもっと楽なんだけどね…」

 

「いやーそれほどでも…」

 

「誉めてねぇよ!」

 

 そうして三人が騒いでいると表のガラス戸が勢いよく開き、一人の人影が飛び込んできた。

 

「え!」

 

「あれ?」

 

「店長!?」

 

 息を切らし、焦りを顔に浮かべた芳村だった。

 

「一体どうしたんですか!?そんなに慌てて…何かあったんですか?」

 

 芳村に駆け寄るトーカだったが芳村の問いに動きを止め顔を強張らせた。

 

「ヒナミちゃんを…見ていないかい?」

 

「え?」

 

 状況を呑み込めていないトーカ以下三人に芳村が説明を始めた。

 

「ヒナミちゃんが居ないんだ。恐らく君たち三人が店を出た後だと思う。私も買い出しで店に居なかったので細かい時間は分からないが、そのタイミングで店を出て行ったみたいなんだ」

 

 その説明を聞いたトーカは言葉を失い、カネキは驚きを隠せなかった。

 

「迂闊だった…誰もお店に居ないタイミングを狙って出て行ったんだ…もう日も暮れる…心配だ…」

 

「そんな…ヒナミ一体何を…」

 

 そうしていくらもしないうちに芳村が踵を返す。

 

「私はもう一度外を見てくる。お店は開けておく、ヒナミちゃんが戻ってきた時のためにね」

 

「私も行きます」

 

「うん、助かるよトーカちゃん」

 

「僕も行きます!」

 

 そうして手分けしてヒナミを捜索する手筈が整っていくが、そんな中一言も言葉を発することなければ微動だにしなかった者が一人いた。

 

「…」

 

「そうだ!リンネちゃんも一緒に…!」

 

 表情を消し、まるで能面のような無表情を顔に貼り付けたリンネだった。

 

「…!」

 

「…」

 

 リンネの状態に気が付いた三人は言葉を失い、周囲に沈黙が満ちるが不意にリンネが口を開いた。

 

「店長…ヒナミちゃんが行きそうな場所に心当たりは?」

 

「…申し訳ないが心当たりはない…」

 

「そう…」

 

 芳村の答えにそっけなく返すとリンネは店から出て行った。

 残された三人は普段の様子から大きくかけ離れたリンネの様子を目にし、動揺を隠せずその場から動けなかった。

 

 三人がショックから立ち直り行動を再開したのはリンネがあんていくを経ってから数十秒後のことだった。

 

 

 

 

――20区・市街地――

 

 

 あんていくを飛び出したヒナミは目的地があるわけもなく薄暗くなりつつある街を彷徨っていた。

 

「…」

 

 俯いたまま歓楽街を抜け、人通りのない物静かな方へ足を向けたヒナミは嗅ぎ慣れた“匂い”を感じ立ち止まる。

 

「…?この匂い…」

 

 それは少女が失ったはずのもので、今一番少女が求めるもの。

 

「おかあ…さん…?」

 

 まるで花の蜜に引き寄せられる虫のように、ヒナミは覚束無い足取りでその匂いを辿って行った。

 

 

 

 

「ちぃっ!…ヒナミ…どこに…!」

 

 あんていくを出たトーカは市街地の外れまで来ていた。

 ちなみに芳村は駅前周辺、カネキは市街地を中心に捜索を行っている。

 

「そろそろ天候も崩れかねない…一体どこまで…」

 

 トーカは持ち前の足の速さを生かしてヒナミを探し回るも今のところは何の成果もなかった。

 その時トーカの携帯が着信を告げた。

 

「…!」

 

 トーカは急ぎ手に持っていたバッグから携帯を取り出し着信相手を確認する。

 その画面に映っていた名前はイラつく奴(“リンネ”)だった。

 

「なろー…」

 

 その名前を見たトーカは通話ボタンを押し、息を吸って怒鳴りつけようとしたが、

 

「『成果は?』っ…!」

 

普段と似ても似つかない冷たい声音で話しかけられた瞬間、息を詰まらせてしまった。

 

『…?聞こえないの?』

 

「あ…いや…」

 

 酷く無感情な、冷たい声をかけられたトーカが言葉を返すことが出来ずにいると電話口の向こうのリンネがそっけなく告げた。

 

『あの子を助けたいなら急いで“匂い”を追いな』

 

「は!?アンタ…一体何を知って」

 

 トーカはという詰めようとするがリンネはそのまま通話を切ってしまった。

 

「くそっ…あいつ…!」

 

 トーカは悪態をつきながら再度通話を試みるもつながることはなく、苛立たし気に携帯をしまい込んだ。

 

「くっそ…“匂い”ったって…」

 

 そう文句をたれながらも周囲の匂いに注意を向けてみると妙に気になる“匂い”を感じた。

 

「なに…この匂い…」

 

 寒気を覚える、何とも言えない違和感を伴う匂い。

 

リンネ(あいつ)の言ってた“匂い”ってこれか?」

 

 一瞬迷ったものの“匂い”に引っかかるものを覚えたトーカは“匂い”の下へと向かった。

 

 

 

 

――20区・郊外、橋の下――

 

 

 トーカが“匂い”の元にたどり着いたのは雨が降り出した直後だった。

 そこは郊外を流れる川に架かる橋の下、普通の人なら近寄ることのない場所だった。

 そしてそこにはトーカの死角となる右手に何かを持ち、俯いて立ちつくすヒナミが居た。

 

「ヒナミ…こんなところに…?」

 

 しかし、ヒナミの不自然な様子に気が付いたトーカが言葉を切るとヒナミが小さな声でボソボソと話し始めた。

 トーカは周囲の雨の音に掻き消されそうな声に耳を傾けた。

 

「私達は…私達(喰種)はどうしていつも取り上げられちゃうのかな…?いつも…いつも…」

 

 トーカは俯いたまま、肩を震わせながら言葉を続ける。

 

「私達が何か悪いことをしたのかな…?私たちは生まれてきちゃいけなかったのかな…?」

 

「ヒナミ…」

 

 トーカが苦々しげな顔をしてヒナミに近づくと唐突にヒナミが身体ごと向き直り右手に持っていた何かを掲げた。

 

「ん?ヒナミ、何を持って…!?」

 

 ヒナミが掲げて見せたもの。

 それは“人の腕”だった。

 

「あんた…それ…」

 

 その“腕”は色白の左腕だった。そして、それは薬指にあたる部分には指輪を付けており、その腕の持ち主が既婚者であることを示していた。

 それらの情報と、先ほどから周囲に漂っていた“匂い”からその腕の“持ち主”を悟ったトーカにヒナミが告げた。

 

「この腕…お母さんの…」

 

「!」

 

 ショックを受け絶句するトーカの前でヒナミは先程よりも高いトーンで謡うように言葉を続ける。

 

「この指輪はお母さんとお父さんの結婚指輪だし、黒子の位置も爪の形もお母さんと一緒だし」

 

 そしてその腕を胸に抱きかかえ嬉しそうな口調で言い切る。

 

「少し冷たいけどこの優しい感じは間違いなくお母さんだもん」

 

 そう言いながら光のない瞳でほほ笑むヒナミは“壊れかけていた”。

 

「…」

 

 目の前の光景に理解が追い付かないトーカだったが不意に感じた殺気に身体をこわばらせヒナミの左手を掴み物陰にもぐりこんだ。

 

「トーカお姉ちゃん…どうしたの?」

 

「しっ!静かに…」

 

 トーカの感覚は正しくそっと暗がりから周囲をうかがうとどこかに電話をかける男が居た。

 

「ああ、亜門君。喰種()()にかかった。そうだ、こちらに来てくれ」

 

 そう電話している男は先日、トーカに重傷を与えた男だった。

 

「…!」

 

 そのことに気付いたトーカは戦闘が避けられないと悟ると手に持っていたバッグから2枚(・・)の仮面を取り出し、そのうちの片方をヒナミに渡す。

 

「あいつは捜査官(白鳩)、多分戦闘になる。コレつけて」

 

 そうしてヒナミに渡されたのは真新しい兎のお面だった。

 

「ソレ、私の予備。少し大きいかもだけど無いよりかはましだから」

 

 そう言ってトーカも左半分が焦げ、欠けた兎のお面を身に着けた。

 するとそこで先ほどまで電話をかけていた男が声をかけてきた。

 

「さて喰種(ゴミ虫)共、そこに居るのだろう?いくら身を隠そうと気配で分かる大人しく出てきたまえ」

 

「ちっ!バレてる…」

 

「お姉ちゃん…大丈夫なの?」

 

 不安そうに声をかけてくるヒナミにトーカは苦笑いしながら返す。

 

「正直1対1はきつい…ヒナミはここに居て隙を見て逃げて」

 

 トーカはそう言い残すと先手必勝と言わんばかりに物陰から飛び出し赫子を用いた一撃を放った。

 

「クタバレェ!」

 

「ふん!」

 

 しかし、トーカの一撃は男の左手のクインケによって防がれてしまった。

 そのクインケは「フエグチ壱」。

 それは大きくうねりながら一撃を加えんとトーカに迫ってきた。

 

「フッ!」

 

 トーカはその一撃を素早く間合いを開けることで回避する。

 

「ったく…一筋縄じゃいかねぇか…」

 

 するとトーカのマスクを見た男が嬉しそうに笑う。

 

「ほう!その仮面…あの時の喰種か!…それともこう呼んだ方がいいか?」

 

 男はそこで言葉を切り右手にクインケ「ナルカミ」展開する。

 

「“ラビット”。今度こそ、貴様も終いだ」

 

 そう言ってあの時と同じ雷撃を仕掛けようと溜めの動作に入る。

 

「ここが貴様の墓場だ」

 

 

 

 

――20区・市街地の外れ――

 

 

 分担の結果市街地の割り当てになったカネキは姉が降り出したのも意に介さずヒナミを探して走り回っていた。

 

「くっ…ヒナミちゃん…一体どこへ…」

 

 すると近くで電話をかけている若い男の声が耳に入ってきた。

 

「ラビットに複数の喰種ですか!?わかりました!すぐに応援に向かいます!」

 

 男はそう言って電話を切ると駆けだした。

 その一部始終を目にしていたカネキは強張らせた。

 

「リョーコさんの時と同じようなことは、もう御免だ…!」

 

 恐らく目の前の男は喰種捜査官で、近くで見つかった喰種を退治()しに行くのだと悟ったカネキは素早くマスクを身に着けると捜査官の男の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

「なんだ貴様…?」

 

 突然目の前を遮った仮面をつけた少年に怪訝な声を上げる男。

 

「…ここから先は行かせない…」

 

 そう言う少年に対し捜査官の男は忌々しげに息を吐くと吐き捨てる。

 

「消えろ、邪魔だ」

 

 しかしその言葉を気にも留めずカネキは魔の前の男に殴りかかっていく。

 カネキの脳裏に声が響く。

 

“いい?喰種は基本的に常人以上の膂力、馬力があるからね。きちんとした形で殴りつければ吹き飛ばすことだって可能だよ”

 

・・・目の前の相手は人間

 

“よっぽど相手がでかいとかそんな状況でもない限り人間相手なら、喰種(私達)は有利に立ち回れる”

 

・・・身長は僕より高い…けどそこまで差はない

 

“もし人間相手だったら、間合いの内側に入り込んでキツイのぶち込んでやりな。それで粗方ケリが付くから”

 

・・・なら、懐に飛び込んで一撃を叩きこむ!!

 

「ガアアアアァァ!」

 

 そうして、一瞬で懐に飛び込んだカネキは喰種としての膂力を十分に生かした一撃を放った。

 その一撃に油断しきっていた捜査官は反応しきれず、カネキのこぶしが鳩尾に直撃し、吹き飛ばした。

 

「ぐっ、がぁ!?」

 

 吹き飛ばされた捜査官は地面を数回バウンドしながら受け身を取ったものの、電柱に背中から叩きつけられ威力を受け流しきることが出来なかった。

 

「ぐ、ううぅ…」

 

「はあ、はあ…」

 

 捜査官の男は口元の血をぬぐいながら立ち上がり、カネキはこぶしを放った格好のまま静止していた。

 

「が、ふうっ…チッ!油断した…20区にこんな喰種が居たとは…」

 

 自分の攻撃に効果があったことを確認したカネキは男に話しかける。

 

「ここから踵を返して、どっかに行って下さい。僕はあなたを殺す気はありません」

 

 しかし、その言葉に捜査官の男は激昂する。

 

「殺す気は無いだと!?舐めているのか!喰種如きがァ!」

 

 捜査官の男は手に持ったケースから巨大な棍棒のようなクインケ、ドウジマを展開し一気に間合いを詰める。

 確かに素早い踏み込みだったが、カネキはそれをはっきりと捉えていた。

 

“人間の中にもたまに化け物みたいなのが居るけどそうでもない限り、私の赫子よりは遅い。しっかり見て、受けるか避けるかしな”

 

・・・動きは速い。けどリンネちゃんほどじゃない

 

“ただし、捜査官の持つ特殊な武器、クインケの攻撃は注意しな。あれは喰らうと不味い”

 

・・・目の前の男は捜査官。そして手に持った不気味な武器。クインケか

 

“基本的にクインケの攻撃は避けるのがいいけど、カネキ君の赫子なら受けてもいいね。そうそうやられないと思うよ”

 

・・・なら、覚悟を決めろ、ここで実戦だ

 

 カネキは自らの中の“(化け物)”を呼び起こす。

 体の中にある歯車をかみ合わせ、体の中の力を外側に向ける。

 

「はああぁぁぁ!」

 

 そして気合と共にカネキの背中から発現した赫子は、捜査官の棍棒のようなクインケをまるでチーズのように切断し男の肩も深く切り裂いた。

 赫子の一撃を受けた男は切り裂かれたクインケが吹き飛んでいくのを見て一瞬呆然とするが、すぐに肩の傷の痛みに顔をしかめた。

 

「ガ、アァ!?」

 

 一撃でクインケを破壊され、自らも深手を負った男はその場に膝をつく。

 

「そんな、20区にこんな…すまない…張間」

 

「去れ」

 

 目の前で膝をついた男にカネキは冷たく言い放つ。

 しかし、男は驚きを隠そうともせずに問いかける。

 

「こ、殺さないのか…?」

 

 カネキは態度を変えることなく男の問いに答える。

 

「死にたいんですか?今のあなたを殺す必要はないし、僕は人殺しになるつもりはありませんから」

 

「な!?情けをかけているつもりか!?」

 

「情け?何を言ってるんですか?」

 

 男の怒りをあっさり受け流すとカネキは赫子を戻し話始めた。

 

「今回あなたを倒したのは僕たちの邪魔をしたから。僕たちだって黙って“奪われ続ける”気は無い。いいですか、僕たちはただ人を食らう化け物ではありません。それなりに色々考えてますし、都合もあるんです。だからあなた達の都合で殺される訳にはいかないんです」

 

 カネキの説明に捜査官の男はさらに声を荒らげる

 

「化け物の分際で…何を偉そうに!」

 

 ついに言葉が過ぎたのか先ほど戻した赫子を再び発現させ男のすぐ横に叩きこんだ。

 

「…っ!?」

 

 当然、ただのアスファルトが赫子の一撃に耐えられるはずもなく粉々に砕けた。

 

「僕は人を殺したくない。臆病だ、偽善だと言われても」

 

「何を…っ!?」

 

「早くいってくれ…殺したく、無いんだ…」

 

 そういうカネキの目からは涙が零れていた。




本当は原作三巻終わりまで行くつもりだったけど文字数もきつくなってきたし霧もいいので次回。
基本的に1話につき5000字前後で書いています。
もし「もっと長く書けや」とか「長すぎるんだよ」などの意見があれば頂ければ調整したいと思います。
なにぶん、ssを書くなんて初めてのことなのでそのあたりの加減が分からないので…


さあ、ようやくストーリーが進んできましたね(原作三巻くらい)

いきなり亜門さんをワンパン出来る強さのカネキ君。
カネキ君強くしすぎたかなぁ…(´・ω・`)
まあ、いいか…
でも、原作でもなんだかんだぶっ壊れになってたし、問題ない…よね?

…時間がない…大体の流れは出来上がってるのにそれをきちんとした文章に推敲するする時間がない…
くそぉ…就活を舐めていた…

とにかく次回について。
次回は真戸VSトーカ決着ですね。
さて一番悩んだ部分…早めに纏まるといいが…


~次回予告~

 “化け物”の力を行使し亜門を下したカネキ
 しかし少年はまだ人を殺めること良しとしなかった
 その頃、復讐者(トーカ)復讐者(真戸)の戦いにも決着が着こうとしていた

 次回、百足と狐と喫茶店と 第15話

 復讐者の悲嘆は九尾へと



(主)「さて、次回で原作三巻終了か…」

トーカ「こんなスローペースでちゃんと完結できるの?」

(主)「出来るかできないかじゃない、するんだよ!」

ヒナミ「今までの更新履歴の日付見直して来たら?」

(主)「…」

カネキ「なにもフォローできないや…」

(主)「…」


誤字報告、感想お待ちしています<m(__)m>
次回もお楽しみに!


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15話 復讐者の悲嘆は九尾へと

さて」今回で原作三巻終了。
やっとあの方を出すことが出来ます。
皆さん大好き、ギャグにネタにと大活躍のあのお方ですw
一応今回は大きな原作乖離があります。
これに関しては賛否両論あると思いますが…
まあ、こんなマイナー作品でどうこうなったりはしないだろう(慢心)

一応物語としてはひと段落着く15話、お楽しみください<m(__)m>


と、なる予定でしたが文字数が増えに増え、あまりにも長くなってしまったので分割することにしました(´・ω・`)
後半(16話)は再推敲してからの投稿になります。
本当に申し訳ない<m(__)m>


~前回までのあらすじ~

 
 少年が初めての戦いで勝利を収めた。
 一方、復讐者同士は戦いの幕を上げた。
 この戦いの結末は彼らに何をもたらすのか。


――20区・郊外、橋の下――

 

 

「どうした?ラビット。その程度か?」

 

「チィ!」

 

 目の前の男が嘲る様な言葉とともに攻撃を放つ。

 トーカは、風切り音を立てながら迫ってくる一撃が致命に近い威力を持っていることを悟る。

 

「くっそ…」

 

 普段の悪態は鳴りを潜め、目の前の攻撃を凌ぐことに手一杯のトーカ。

 その様子を楽しむように男の放つ攻撃のスピードが上がっていく。

 

「さあ、もっとだ!凌いで見せろ喰種(化け物)!」

 

 通常、トーカは敵の攻撃を正面から受け止めることはせず、羽赫の機動力で敵の攻撃を躱し反撃の一撃を叩きこむ一撃離脱を主とする戦いをする。

 しかし、今回は後ろにヒナミが居る以上、迂闊に後ろに受け流すことも出来ず、じりじりと消耗していた。

 

「そらそらそらぁ!喰種(虫けら)」ぁ!その程度か!?」

 

「こん、のぉ…調子づくなァ!人間がァ!」

 

 このまま消耗を重ねるのは得策ではないと判断したトーカは一気にギアを上げ、短期決戦を図る。

 

「こ…っ、のォ!」

 

 だが、手数で負け、技量で負け、また一撃の重さでも負けていたトーカは一時的に間合いを詰めることには成功したものの、あっさりと対応され攻めあぐねてしまった。

 

「くっ…うぅ…」

 

 そして、恐れていた事態が起きた。

 もともと、かなりの消耗を強いられていたトーカのスタミナがほぼ尽きてしまったのだ。

 

「はぁ、ぐっ…」

 

 もともとトーカの赫子は持久戦、長時間の戦闘に不向きな羽赫。

 加えて、無理な攻勢に出たために消耗はさらに加速していた。

 

「はぁ…はぁ…、くっ…」

 

「どうした?もう終いか?」

 

 喰種のスタミナは一般の人間より圧倒的に多いとはいえ、決して無限ではない。

 そして、体力が尽きれば赫子の展開も出来なくなる。

 

 こうなってしまえば、トーカにはもう打つ手がなかった。

 

赫子(玩具)はもうおしまいかァ!?」

 

「くっ…」

 

 自身のの最大の武器を失い、疲労困憊の状態に陥ったトーカは理解していた。

 目の前の男相手には勝ちを拾える可能性など、万に一つもないということに。

 

「こ、これ以上は…」

 

 トーカに限界が近いことを悟った捜査官の男は嬲る様に連撃を加えていく。

 

 

 

 

 トーカは現在の状況を分析しながら自問自答する。

 

・・・状況は、最悪。

 

・・・私は、もうまともに動けやしないし、赫子も、もう打ち止め。

 

・・・逃げる?

 

・・・まさか。あの状態のヒナミを置いていく訳にはいかない。

 

・・・といっても、こちらに勝ち目はほぼ無い…

 

・・・…詰み、か?

 

 “詰み”

 その単語が脳裏をよぎった瞬間、トーカは強い寒気に襲われた。

 そうして、脳裏に浮かんできたのは自分とヒナミの無残な亡骸。

 その吐き気すら覚える光景に、トーカは思わず足を止めてしまった。

 無論、目の前の敵がそんな隙を見逃すはずもなく、ここぞとばかりに一撃を放ってきた。

 

 

 

 

 幼子は薄暗い物陰からその光景を眺めていた。

 自分を護るために矢面に立った少女が戦っているのを。

 

 そして、その少女の命の灯が消えようとしている光景もまた、見ていた。

 

「…!」

 

 その光景が、母親の最期(あの日の記憶)重なる。

 幼子の心が、本能が理解する。

 目の前の少女は、自分を守るため(自分のせいで)死ぬ、と。

 

「いやだ…」

 

 火の消えた暖炉のように冷え切った幼子の心にかすかな灯が灯る。

 

「嫌だ…!」

 

 血を吐くような声と共に幼子の心の仄暗い灯が燃え上がる。

 

「いやだ…嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!」

 

 幼子は拒絶する。

 

「トーカお姉ちゃんが、死んじゃうのは、嫌だ…!」

 

 そして幼子は覚悟を決める(立ち上がる)

 

「お姉ちゃんは…」

 

 自らの力を、明確な意図をもって外に向ける。

 

「やらせない…!」

 

 その意思を込められたヒナミの一撃は、今まさにトーカに止めを刺そうとした男に吸い込まれていった。

 

 

 

 

――ふん、この程度か――

 

 真戸は心の中で一人呟く。

 

――大体、この程度の奴に手間取りおって…支部の奴らも情けない――

 

 しばらく交戦していると不利を悟った喰種が一気に攻勢に出てきた。

 

―小賢しい…その程度でどうにかなるとでも思ったか――

 

 そうしてしばらくの間攻撃を捌いていると目の前の喰種の少女が力尽きた。

 攻撃にキレがなくなり、動きも精彩を欠いた。

 

――限界か…ならば…!――

 

 そうして、真戸は敢えて攻撃の手を強める。

 目の前の敵(化物)を屠るために。

 

 

 しかし、

 

 

――これで…!――

 

 

 勝利を確信した真戸の一撃は、

 

 

――クタバレェ!――

 

 

 届かなかった。

 

 

 

 

 トーカは目の前に迫っていた一撃に備え、とっさに腕で頭を庇ったがいつまでも衝撃が襲ってこないことに気が付き、そっと腕の間から目の前を伺う。

 そして、トーカの目に映ったのは不思議そうな顔をさらしている男と、男の右腕に握られたまま(・・・・・・・)あらぬ方向に吹き飛んでいく、先ほどまで自分に迫って来ていたフエグチ(クインケ)だった。

 

「…あ?」

 

「な、なにが…」

 

 状況を呑み込めていないトーカだったが、突如、真後ろから発せられた強烈な殺意(・・)に身をすくませる。

 それと同時に目の前の男も大きく横に飛び退る。

 男が飛びのいたのとほぼ同時に、先ほどまで男が居た位置に赫子(・・)の一撃が叩きつけられた。

 

「な、何が…」

 

 そう言って、恐る恐る背後を振り返ったトーカの前にいたのは、

 

 丸太のように太い、獰猛な大蛇のようにのたうち回る一対の鱗赫

 

 外敵を威嚇する蛾の羽ように大きく広げられた、目玉のような模様の浮かんだ一対の甲赫

 

 それらを発現させ、光のない瞳で薄く笑うヒナミの姿だった。

 

 

 

 

「さーてと。二人で対処できる状況じゃなくなっちゃったか」

 

 リンネは捜査官相手に奮戦するトーカとヒナミを近くの建物の屋根の上から眺めていた。

 

「さて、そろそろ私が出た方がいいのかねぇ…」

 

 彼女は、トーカにヒナミの位置を教えた後、ここでずっと二人の様子を観察していた。

 もちろん、トーカが苦戦している様子も見ていたが、ヒナミの予想外の援護もあり、出ていくタイミングを完全に失ってしまっていた。

 

「まいったなぁ…すこーしばかり実戦を経験させるつもりが…ほんとにまいったなぁ。リョーコさんに約束したのにこれじゃあ、なぁ…」

 

 そうぼやいていたリンネだったが、ヒナミが本格的に攻勢に出るとその攻撃が“殺す気”で放たれていることに気が付き、顔を青くした。

 

「まって、まってまって、まだ人殺し(ソレ)は早いっ!」

 

 リンネは素早く最低限の赫子を展開するとヒナミの攻撃の射線上に割り込んだ。

 

 

 

 

 ヒナミは自らの赫子を使い、先ほど片腕を切り飛ばした男に追撃を加えて行った。

 男はその攻撃を避け、時に左手に構えたナルカミ(クインケ)で受け流す。

 そんな状況下でもあるにも関わらず、男は新しい玩具を見つけた子供のように言う。

 

「なんと!その距離から私の右腕を肘から先を持っていったのか!?素晴らしい、実にいい赫子だ!欲しい!」

 

 完全に場の流れから取り残されていたトーカは男の言葉に首をかしげる。

 

「赫子が欲しい(・・・)?アンタ、いったい何言ってるの?」

 

 その質問を聞いた男は大きく間合いを取り、ヒナミの赫子の射程範囲から逃れた。

 そして、肘から先がなくなった右腕とクインケを持った左腕を左右に広げ、役者のように芝居がかった調子で話し出した。

 

「不思議に思わなかったのか?なぜ、私たち人間が貴様らの赫子を武器として使えるのか。赫子(コレ)は人間には作れない。だからある所から持ってくる必要がある。」

 

 その言葉を聞いたトーカは何かに気が付いたように息を詰まらせると問いかけた。

 

「まさか、お前らのクインケ(ソレ)は…」

 

 トーカの問いかけに男は気がふれたような笑みを浮かべ答える。

 

「正解だよ小娘(化物)。クインケは貴様らの赫胞、赫子から作るのだからなァ!」

 

 その瞬間、男は半歩後ろに下がるとバランスを崩し、そのまま地面に倒れこんだ。

 

「ぐ、うぅ…」

 

 倒れこんだ男が呻き声を上げると、唐突にヒナミが口を開いた。

 

「そんなことのために私のお母さんを殺して、お姉ちゃんまで殺そうとしたの?」

 

 その冷え切った問いかけには、嘲る様な答えが返ってきた。

 

「なぜ、貴様らのようなゴミ(・・)の都合に私達が気を配る必要がある?」

 

 瞬間、男の姿が掻き消え河原の土手に叩きつけられた。

 

「もう、いいや。あなたは、もういい。」

 

 その言葉と共にヒナミが一歩前に踏み込んだ。

 

「さよなら。」 

 

 そして、止めを刺そうとしたヒナミは、その瞬間背後に突然現れた(リンネ)によって意識を刈られ、その場に崩れ落ちた。

 捜査官の男は突然の事について行くことが出来ずにいたが、トーカは驚きながらも抗議しようとする。

 だが、リンネに言葉を遮られてしまった。

 

『その子を連れてここから離れな。コレの相手は私がする。』

 

 しかし、リンネの行動を理解できないトーカは声を上げる。

 

「なんでこんなことするの!?」

 

 今にも掴みかかってきそうなトーカにリンネは淡々と告げた。

 

『その子に、人を殺させたくない。』

 

「なっ…!?」

 

『これじゃあ、駄目?』

 

 リンネはそう言って羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫の全てを展開し、こちらに背を向ける狐の姿から九尾の姿へと変貌した。

 トーカはその様子を見て何かを悟ると静かに言う。

 

「戻ったら、あんたには聞きたいことが山ほどある。逃げんじゃないわよ。…ちゃんと帰って来なさい。」

 

 しかし、リンネはその言葉に反応を返すことなく、静かに、トーカ達と捜査官の男との間に立ち塞がっていた。

 その様子にトーカは首を静かに横に振ると、気を失い、赫子も消えたヒナミを横抱きに抱えて踵を返した。

 

「おいつの持ってる剣みたいなクインケ、遠距離でもキツイの飛んで来るよ、気を点けな」

 

 トーカのその警告にリンネは一度トーカに視線を向けると、赫子越し籠った声だったが気遣うような声音で言った。

 

『市街地外れの公園に向かいな…そこにカネキ(あいつ)もいる。一応、マシにはなった。いないよりはいい。』

 

「…!」

 

 リンネの言葉に一瞬驚いた表情を浮かべて振り返ったトーカは「ありがと…」と小声で言い残して今度こそ踵を返しその場を立ち去った。

 

 そして、その場に残されたのは、

 

「またしても…またしても…貴様か…!」

 

 憤怒の形相を浮かべる

 

「貴様らは…何度…何度私の邪魔をすれば…気が済むのだっ!?」

 

 (復讐者)だった。




~次回予告~

 九尾の介入により窮地を脱したトーカ。
 トーカはヒナミと共にカネキとの合流を図る。
 その場に残った九尾と復讐者の結末は何をもたらすのか。
 次回、百足と狐と喫茶店と 第16話

 復讐者の後悔は九尾へと


※今回はネタは何もないよ!
 なんせ就活のせいで考える暇がなかったからね!
 本当にごめんなさい<m(__)m>

誤字報告、感想お待ちしています<m(__)m>
次回もお楽しみに!


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16話 復讐者の後悔は九尾へと

お久しぶりです。本当に(´・ω・`)
お待たせしました、本当にお待たせしました今回で本当に原作三巻終了時と時間軸が並びます。
そして予告通りの大規模な原作乖離。
…基本は原作に沿うので…問題ないよね?(´・ω・`)
この乖離は賛否両論あるとは思いますがご了承ください。
最も、予想できていた人も多そうな気もしますが…

やっと、あのお方を出すことができそうです。
個人的に好きなキャラなの真戸さん達の様にフライング出演も考えていたのですが、プロットの段階で難しいことが分かっていたので没になってしまっていました。

しかし、それもこれまで!表舞台に出て頂きましょう!

ちなみに彼がどのような役に落ち着くかは後でダイスでも振って決めます()

それでは、第16話の始まり始まり~


~前回までのあらすじ~

 ヒナミと共にカネキとの合流を図るトーカ。
 獲物に逃げられた復讐者は怨嗟の声を上げる。
 そして、九尾と復讐者の戦いはどのような結末を迎えるのか。


――20区・郊外、河原――

 

 

「またしても…またしても…貴様か…!」

 

 憤怒の形相でこちらを睨み付ける男に対して、リンネは無言のまま対峙する。

 無論気を抜くことは無く、発現させた赫子を時折前に繰り出すことで牽制していた。

 

「貴様らは…何度…何度私の邪魔をすれば…気が済むのだっ!?」

 

 しかし、(復讐者)はそれらの牽制に気付いた上で前に踏み込んだ。

 

「貴様らは…貴様らだけはぁ!!」

 

 そうして、片腕を失った男はリンネ(キュウビ)に躍りかかっていった。

 

 

 

 

――20区・市街地――

 

 

 リンネの支援の下、離脱することに成功したトーカは、カネキと合流するべく、ヒナミを抱えたまま雨の降りしきる夜の街を駆けていた。

 先程の戦闘で消耗した体力が完全に回復した訳ではないが、あの場から距離を取ることを優先し、移動を続けていた。

 

「かぁ…なんでこんな日に限って雨が降るかなぁ…」

 

 降り続ける雨に悪態をつきながらも、その雨のお陰で自分たちの痕跡が薄れることが分かっているトーカはそのまま走り続け、市街地を抜けたあたりで一度ペースを落とした。

 

「とりあえずここまで来ればもう大丈夫だろう。」

 

 そして市街地の外周部に近い、住宅街の外れにある公園、リンネに告げられたカネキとの合流地点にたどり着いた。

 

「ここが、リンネ(あいつ)の言ってた公園…」

 

 トーカはヒナミを抱いたまま,周囲を警戒しつつ公園に足を踏み入れた。

 するとそこには、雨に打たれながらもじっと立ち尽くすカネキの姿がそこにあった。

 

「カネキ!」

 

「!…トーカ、ちゃん?」

 

 突然声を掛けられ驚いたのか、カネキは一度肩を跳ねさせるも、声の主がトーカであることに気が付くと安心したような笑みを浮かべた。

 しかし、ぐったりとしたヒナミがトーカの肩に担がれているのに気が付いたカネキは顔を青ざめ、大慌てでトーカに駆け寄った。

 

「ひ、ヒナミちゃん!?一体何があったの!?」

 

「うるさい!さっさと手を貸す!」

 

 トーカは狼狽するカネキを一蹴すると二人掛かりでヒナミをこれ以上雨に濡れないように木陰のそっとベンチに横たえた。

 その際にカネキの上着がトーカによってはぎ取られ、ヒナミの下に敷かれたのは余談であり、想像以上に器用な行動にカネキが半ば感心していたのはさらに余談である。

 

 

 

 

「それで?」

 

「なによ?」

 

「色々聞いてもいいかな?」

 

 ヒナミをベンチに横たえたカネキとトーカはそれぞれベンチの両端にある手すりに互いに背中を向けて腰かけ、目線を合わせぬまま話始めた。

 

「まあ、聞きたいことは大体察しが付くけど…一応何が知りたいの?って聞いておこうか?」

 

「…とにかく僕が聞きたいのは2つだけ。まず、ヒナミちゃんはどこにいたのか。そして、」

 

「なんでヒナミが気絶してるのか、だろ?」

 

 トーカは軽く息を吐くと「まあ、そうだろうな…」と呟くと首だけカネキの方に向け事の顛末を伝えた。

 顛末を聞いたカネキは立ち上がると念を押すように、トーカにもう一度訪ねた。

 

「…つまり、リンネちゃんは一人でその場に残ったんだね?」

 

「そうだよ。そう言ってるだろ」 

 

「そうか、ありがとう。」

 

 そう言ってカネキが公園の出口へ向かって歩き出すとトーカが鋭い口調で止めた。

 

「やめときな。」

 

「っ!」

 

 カネキが動きを止めトーカの方に向き直るとトーカは顔をカネキの方に向けずヒナミの頭をそっと撫でながら言葉を続ける。

 

「アンタが何を考えているかは分かる、けどやめておきな。リンネ(あいつ)はそう簡単にやられるタマでもない。それに、」

 

 一度そこで言葉を切ったトーカはカネキに薄い笑みを向ける。

 

リンネ(あいつ)はあたしより強い。」

 

 

 

 

――20区・郊外、河原――

 

 

 真戸は目の前の()に手に持ったクインケ(ナルカミ)の雷撃を放つ。

 

「クタバレェェェエエエ!」

 

 しかし、リンネの繰り出す赫子の防御を抜くことは出来ず、その場から動かずに赫子で身を護る()に対して必死に攻撃を繰り返す真戸。という図が出来上がっていた。

 

「貴様!なぜそちらからは手を出してこない!」

 

 片腕を失って尚、果敢に攻めかかる真戸は怨嗟の声を上げる。

 

「舐めているのか?それとも私を愚弄するかァ!?」

 

 そう言いながらも真戸は攻撃の手を緩めない。

 だが、怒り狂いながらも冷静な思考を保っていた真戸は理解していた。自分では目の前の()には勝てないと。

 

『なぜ向かってくる?』

 

 真戸の攻撃を軽く受け流しながら放たれた問いに真戸は一瞬固まり、その顔にさらなる憤怒を浮かべ吐き捨てた。

 

「なぜ!?何故だと!?貴様らが!貴様らがそれを言うのか!?私から全てを奪った(・・・・・・)貴様等がァ!!」

 

 真戸がその言葉を放った瞬間、今度はキュウビの動きが止まった。

 

「!」

 

 無論、歴戦の捜査官である真戸がその隙を逃すはずもなく、その一撃を逃さずクインケ(ナルカミ)をキュウビの身体に突き立てた。

 

 

 

 

“全てを奪われた”

 

目の前の男はそう言った。

 

“奪われた”?

 

貴様らがソレを言うのか?

 

リンネ()から全てを“奪い尽くした”連中が?

 

…笑わせる

 

なら返せ

 

返せ

 

ママを

 

パパを

 

“みんな”を

 

 

 カ エ セ

 

 

 

 

 真戸を襲った、押し潰す様な殺気は一瞬だった。

 

「!?、チッ!」

 

 真戸は自分に向けられた殺気に気が付くと同時に、間合いを取るべく、後ろに飛び退ろうとした。

 しかし、キュウビに突き刺したナルカミが抜けないことに気が付いた瞬間、躊躇いなくナルカミを手放し間合いを取った。

 自身の切り札ともいえるクインケを失うのは惜しかったが、真戸が長年、捜査官として磨いてきた“直感”に従い間合いを開けることを最優先したのだ。

 

 そして、その直感は正しかった。

 

 つい一瞬前まで真戸がいた空間にキュウビの鱗赫が、甲赫が、羽赫が、尾赫が、叩きこまれていた。

 無論、人間がそのうちの一撃でも喰らえば、いや、掠めただけでも死に至るような、文字通り「必殺」の攻撃。

 その余波も生半可なものではなく、避け切っていたはずの真戸を余波のみで数メートル吹き飛ばしていた。

 

「がっ!?ぐ、うぅ!」

 

 だが、真戸もそこらの一般人とは一線を画す身体能力の持ち主。衝撃を利用し、ダメージを追いながらも距離を取り、自らの右腕と共に吹き飛んでいたクインケ(フエグチ)を手にした。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 間一髪、窮地から逃れた真戸にキュウビが問いかける。

 

『あなたは、あなた達はなんで私から奪ったの?』

 

「あ?」

 

『なんで私から奪ったの?』

 

 問いの意味を計りかねている真戸をよそにキュウビは問いを発し続ける。

 

『なんでママを奪ったの?』

 

 抑揚もない、

 

『なんでパパを奪ったの?』

 

 感情すら感じられない、

 

『なんで奪ったの?』

 

 冷たい声で、問いかけた。

 

 その問いに何かを察した真戸からプレッシャーが消え失せた。そして真戸は問いに答えず、逆に問いを返した。

 

喰種(化物)、名は?」

 

『まだ答えを聞いてない。』

 

「年長者は敬いたまえ。」

 

 問いの答えを得られていないキュウビが反論するも、真戸は取り付く島もなく切って捨てる。

 

『…』

 

「…ふむ。」

 

 答える気のないキュウビ(リンネ)の様子を見た真戸は、静かに話し始めた。

 

「いいか?私達(人間)は貴様らのような赫子()を持たない。そして貴様らはそれをいいことに奪って、奪って、奪い続けてきた。」

 

『…』

 

「それは違う、とは言えまい。現に、今この瞬間にも貴様のように親を失った(・・・・・・・・・・・)子供が増え続けている。そしてそのような子供はCCGの本部や支部にごまんといる。」

 

 真戸はそこまで話すと口を噤み、空を見上げた。

 

喰種(化物)に説教をかますとは…私も焼きが回ったのか…やれやれ…最近はこのようなことばかりだ」

 

私達(喰種)が正義だなんて思ってはいない。けど貴方達(人間)が絶対の正義だなんて、私は認めない』

 

 リンネの呟きを聞いた真戸はフエグチを構え、告げる。

 

「さて、キュウビ(化け物)よ。私はもう満身創痍。…次が最後だ。貴様の正義(エゴ)を貫く覚悟があるなら私を斃してみろ。」

 

「私を、殺してみせろ。」

 

 その言葉と同時に、真戸から先ほどよりも強いプレッシャーが放たれた。

 

「しかし私の首、簡単に取れると思うなよ…!」

 

 リンネもそれに応えるように、自らを串刺しにしているナルカミを掴み、引き抜くと足元に無造作に投げ捨て、前傾態勢を取った。

 

「…」

 

『…』

 

 いつの間にか雨は上がり、湿気を含んだ重苦しい空気が周囲を包んでいた。

 そして次の瞬間、雲の切れ間から月が顔を覗かせ、その光が二人に降り注いだ。

 

 瞬間、両者は同時に動いた。

 

 数メートルの距離など一瞬で踏みつぶし、互いをキルゾーンに捉えた瞬間、真戸は最も使い慣れたクインケ(フエグチ)を振りかぶり、キュウビ(リンネ)は自身の持つ赫子の中でも最も得意とする鱗赫を横薙ぎに払った。

 

 ほんの一瞬。

 普通の人間では見ることすら叶わない交錯は、

 

「ぐ、が…」

 

『っ…』

 

キュウビ(リンネ)の勝利に終わった。

 

 赤い飛沫を残しながら真戸の左足が腿の半ばから断ち切られ、その滑らかな断面から噴き出した血が空に浮かぶ月を二つに裂くように宙を舞った。

 片足を失った真戸はバランスを崩し仰向けに倒れる。

 

 しかし、真戸の放った渾身の一撃はキュウビ(リンネ)の防御を貫き、その一撃を届かせていた。

 真戸の一撃はキュウビ(リンネ)の横腹を抉った。

 

 

 

 

「か、ふっ…どうした…?止めを、刺さないのか?」

 

 右腕と左足を失い、気力も体力も底をついた真戸は仰向けに横たわり、自嘲気味に問いかける。

 

「どうした?…目の前の仇は、もう…満足に身動きも取れない…これ以上ない機会だぞ?」

 

『…』

 

 目の前のキュウビ(リンネ)は何も答えず、ただ黙って真戸を見下ろしていた。

 

「ふん…」

 

 リンネが何の言葉も発さずにいると、真戸がぽつぽつと話始めた。

 

「私は、何も守れなかった…失ってばかりだった…」

 

「愛する女一人も守れず…そしてその仇すら討てなかった…逃げ回るばかりで何も出来なかった…何も…」

 

「だから、私は力を求めた。そのために随分無茶をしたよ…」

 

「私達人間が貴様等化け物(喰種)に勝つためには、並大抵の手段では不可能だった。」

 

「だから、私は文字通り命を懸けた。」

 

 真戸はため息を吐くと目を閉じた。

 

「いや、もう関係のないことか…さっさと止めを刺したまえ。これでもう終わりだ。」

 

 そう言って目を閉じた真戸の横腹にリンネの蹴りが炸裂した。

 

「ガッ、ハァ!?」

 

 呻き声をあげて転がっていく真戸をキュウビ(リンネ)が冷たい目で見降ろしていた。

 

『諦めるの?』

 

 河原の土手によりかかる様にして止まった真戸に、キュウビ(リンネ)は一歩一歩距離を詰めていく。

 

「ぐっ、痛めつけるのがお好みか?」

 

 キュウビ(リンネ)は真戸の言葉に何も答えない。

 

「ふふふ…まあ、私には似合いの最後か…」

 

 自らを嘲笑うように呟く真戸の胸倉をキュウビ(リンネ)が掴み上げる。 

 

『諦めるの?』

 

「くっ、ふん…今更、出来ることなど…」

 

 血を流し過ぎたのか、朦朧とした意識の中弱々しく言葉を紡ぐ真戸。

 しかしキュウビ(リンネ)は耳を傾けることなく問い詰める。

 

『諦めるの?』

 

 繰り返されるその問いに真戸は声を荒らげる。

 

「今更…今更私に何ができると言うんだ!?」

 

 真戸は途切れつつある意識を必死に繋ぎ、血を吐くように叫ぶ。

 

「こんな様の私に、手足を捥がれ虫のようになった私に!」

 

 そう叫んだ真戸にリンネは身に纏っていた赫子を解き、素顔を晒し問いかける。

 

「何もないの?本当に、何一つ、残っていないの?」

 

「…」

 

 そう問い詰められた真戸は焦点も会わない目でリンネを睨みつける。

 例え、睨むことしかできなくなろうとも。

 

「…」

 

「…」

 

「そう、なら…いい」

 

 リンネは真戸に対してそう呟くと踵を返しその場を立ち去った。

 真戸は目の前の脅威が去ったことを認識すると緊張の糸が切れたのかその場で崩れ落ちた。

 

 その瞬間、意識が途切れる直前、自らを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、それ以上意識を保つことは出来無かった。

 

 

 

 

――20区・市街地――

 

 

「はあ…」

 

 真戸との戦いを終えたリンネは市街地に戻って来ていた。

 

 正確にはあんていく近くの路地を歩いていた。

 

「はあ…なーんであんなことしちゃったかなぁ…顔まで晒して…まーた新しい寝床探さなきゃいけなくなるかもしれないのに…」

 

 リンネのそんな呟きは誰の耳にも届くことはなかった。

 

 しかし、彼女にしては珍しく、今回は大きな見落としをしていた。

 

 強者(真戸)との戦いで疲労していたのか自らを見つめる相貌に気が付くことはなかった。

 

「ふむ…あの喫茶店には面白い“素材”が多いが…リンネ(彼女)はその中でも飛び切りの逸品だ…」

 

 その相貌の持ち主は満足そうに幾度か頷くと夜の闇へと消えて行った。

 

 薄気味悪い笑みを浮かべ、まるで獲物を前にした狼のように。




 改めましてお久しぶりですm(__)m
 今回、百足と狐と喫茶店と 16話をお送りいたしました。
 
 本当に遅くなってしまって申し訳ない気持ちで一杯です…(´・ω・`)

 今回はネタ等は無しで次回予告に参ります…

 ネタ等は来週以降投稿予定の閑話で…

 ~次回予告~

 九尾は辛くも復讐者を退けた。
 しかし、彼女を見つめる影、生き残った復讐者。
 彼女の前にはいまだ多くの障害が待ち受ける。
 次回、百足と狐と喫茶店と 第17話

 美食家の笑みは九尾へと

誤字報告、感想お待ちしています<m(__)m>
次回もお楽しみに!


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