ラブライブ! ジードサンシャイン!! (ベンジャー)
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第1話 『決めるぜ、覚悟!』

かつて「ウルトラマンゼロ」とその仲間達によって倒された光の国で唯一悪の道へと墜ちた戦士、「ウルトラマンベリアル」がとある出来事から復活し、同じく復活した「ギガバトルナイザー」を手にした彼はとある宇宙で悪逆の限りを尽くしていた。

 

そんなベリアルを止めるため、光の国からウルトラ兄弟や宿敵であるゼロを始めとしたウルトラマン達がベリアルの悪行を止めようとその宇宙へと現れた。

 

そして光の国の戦士達とベリアルとの戦いに終止符を打つため、科学者でもある「ウルトラマンヒカリ」は「ウルトラカプセル」と呼ばれるアイテムを開発し、そのカプセルにはウルトラマン達の強大な力が宿っており、それらは手の平に収まるほどの大きさでしか無かったがたった1つで戦局を覆すほどの可能性を秘めていたのだ……。

 

しかし……ウルトラカプセルが完成したほぼ直後のことであった……。

 

『ウアアアアア!!!!』

 

同じ頃、地球では宇宙警備隊隊長「ゾフィー」とその「ウルトラマンベリアル」の力を合わせた「ウルトラマンオーブ サンダーブレスター」と「ウルトラマンノア」によって授けられた鎧「ウルティメイトイージス」を装着した「ウルティメイトゼロ」がベリアルと激戦を繰り広げていた。

 

『シュアアア!!!!』

 

オーブは強烈なパンチをベリアルへと繰り出すのだが、ベリアルはそれをギガバトルナイザーで受け流し、オーブの腹部に叩きつけて電撃を流して吹き飛ばし……そこへゼロが右腕に装着された剣「ウルティメイトゼロソード」を振るい、ベリアルも同じようにギガバトルナイザーを振るって激しくぶつかり合うが一度距離を取ったベリアルはギガバトルナイザーを振るって鎌状の光線を発射する「ベリアルデスサイズ」を繰り出し、ウルティメイトゼロを切り裂き、それによってイージスも粉々に破壊されてしまいゼロはその場へと倒れ込む。

 

『ぬああああ!!?』

『っ……! ゼロさん……!』

 

立ち上がったオーブはゼロを庇うように立ち、両腕に光と闇の力のエネルギーチャージさせた後、腕を十字に組んで放つ必殺光線「ゼットシウム光線」をオーブはベリアルへと発射。

 

『ゼットシウム光線!!』

『フッハハハハハ!!!!』

 

しかしベリアルはギガバトルナイザーを回転させて光線をかき消してしまい、ベリアルはギガバトルナイザーから強力な稲妻を放つ「ベリアルジェノサンダー」をオーブへと喰らわせ、大ダメージを受けたオーブは本来の姿である「オーブ オリジン」へと戻ってしまう。

 

『ぐあああああ!!!?』

『フン、俺様の力とあのゾフィーの力を使っておいてそのザマか!』

 

そこにウルトラ兄弟や他の光の国の戦士も駆けつけるが……。

 

『超時空消滅爆弾、起動……!』

 

静かにベリアルがそう呟くと頭上に巨大な爆弾のようなものが出現する。

 

『フッハハハハ!! 精々あがくが良いさ!』

 

ベリアルの用意した「超時空消滅爆弾」と呼ばれるものが地上へと落下して周りに強烈な炎が吹き出し、ベリアルはその炎の中へと消え……ゼロ達はすぐさま宇宙まで待避するのだが……その爆弾の威力は地球どころかこの世界の宇宙そのものを滅ぼすレベルであり、ゼロとオーブは何とかしなければとしたが……それをゼロの父親である「ウルトラセブン」に止めらる。

 

『行くな! この宇宙は、もうもたない!』

『だけど……!』

『クソ……この地球にも……!』

 

そして地球は爆発し、それによって地球を中心に生じた次元の断層は宇宙全体に広がり……星々は消滅した……かに思われたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後……静岡の「浦の星学院」というとある学校……そこでは校門前に「浦の星学院 入学式」と書かれた看板が置いてあり、学校の中には部活動をしている生徒達が新入生達を勧誘しており……そんな生徒達の中にメガホンを持って「スクールアイドル部でーす!!」と宣言し、チラシを配って他の生徒達と同じように新入生を必死に勧誘している生徒が3人。

 

「スクールアイドル部でーす! 春から始まるスクールアイドル部でーす!!」

 

メガホンを持ってそう叫ぶ少女の名は「高海 千歌」でチラシを配っている少女は彼女の幼馴染みでもある「渡辺 曜」……そしてどこかやる気が無さそうに「よろしくおねがいしまーす」と新入生を勧誘している少年の名は「栗本くりもと 無爪なつめ」という名前の生徒達であり、千歌は「なっちゃんもっとやる気出して!!」とやる気の無さそうな無爪を注意する。

 

「いや千歌ねえ! 僕も新入生なんだけど!? なんで新入生の僕まで勧誘の手伝いさせられてるの!?」

「まぁまぁ細かいことは良いじゃん! 部活とか特に興味ないんでしょ? だったらちょっとくらい手伝ってよ~」

 

そんな風に両手を合わせて「お願い」としてくる千歌だったが、無爪は「ふざけんな! 確かに部活に興味ないし入る気ないけど僕だって暇じゃないんだよ!」と怒鳴り、曜はそんな無爪を「まぁまぁ」と落ち着かせる。

 

「それに千歌ねえ! 周りよくみろ! 人いなくなってんじゃんか!」

「ふぇ……? あぁー!? ホントだぁー!? だ、誰かぁー! スクールアイドル部に入りませんかぁー!! スークアイドル部でぇ~す。 今、大人気のぉ~スクールアイドルでぇ~す!」

 

と慌てて千歌は大声を出して新入生を勧誘するのだが……効果は無し。

 

(最後の方ちょっと涙ぐんでたな千歌ねえ……)

 

数分前……彼女達が学校へと向かう少し前の出来事である。

 

『今日は、『クライシス・インパクト』の真実に迫ります』

『えー、かつてのクライシス・インパクトは隕石の落下が原因とされていますがそれは違います。 これをご覧ください。 クライシス・インパクトの影響で当時の記録は全て失われたとされていますが偶然にも発見された写真の1枚です。 名前は……『ウルトラマンベリアル』』

 

千歌の家の旅館の……彼女の部屋で曜と無爪はおり、横でそんなTVの放送がされている中、千歌が「スクールアイドルやる!」と言い出した今まで覚えたスクールアイドルのダンスを2人に見て欲しいということで呼び出されたのだが……その途中ついつい転んでしまい、尻餅をつく千歌に曜は「大丈夫?」と心配そうに声をかける。

 

ちなみに両親のいない無爪は幼い頃にこの家に引き取られ、彼もこの旅館に住んでいたりする。

 

「へーきへーき! もう1度! どう?」

 

千歌は立ち上がって決めポーズを取り、無爪と曜に感想を聞くと曜は「多分、出来てると思う!」と敬礼しながら答え、それに対し無爪は「まぁまぁじゃないかな……?」とどこか興味なさそうに答える。

 

「もうなっちゃん、ちゃんと見てた?」

「だって僕、スクールアイドルのことよく知らないし……。 『ペガ』は分かる?」

 

自分の影に向かって無爪はそう話しかけると無爪の影の中から1人の宇宙人……「放浪宇宙人 ペガッサ星人ペガ」がひょっこりと現れる。

 

『うん、僕は無爪と違ってスクールアイドルのことは大好きだからね! ダンスもそれなりにって感じだったと思うし……千歌ちゃんがスクールアイドルやるなら僕全力で応援するよ!』

 

とガッツポーズをしながら応援するそんなペガに千歌は「ありがと~! なっちゃんと違ってペガくんはちゃんと応援してくれて私嬉しい!」と抱きつき、それを見た無爪はムスッとした表情を浮かべているとそんな表情を浮かべていたことに気づいた曜がニヤニヤとした笑みで無爪を見つめてくる。

 

「な、なんだよ曜ねえ……!」

「昔っからなっちゃんは大好きな千歌お姉ちゃんが他の人に抱きついたりしてるといっつもそういう顔するよね~? 嫉妬かなぁ?」

「べ、別にそんなんじゃないし……! あと別に大好きでも……!」

 

「じゃあ千歌ちゃんのこと嫌い?」と曜が尋ねると無爪は何も言い返せなくなってしまい、曜はそんな無爪にクスクスと笑ってしまい、それに少し腹を立てた無爪はそっぽを向いてしまう。

 

「あ~もうごめんごめん? それよりも千歌ちゃん、本当にスクールアイドル始める気?」

 

未だにペガとじゃれ合ってる千歌に曜がそう問いかけると千歌は「うん! 新学期始まったらすぐに部活を立ち上げる!」と力強く答えて彼女は手書きの『スクールアイドル陪』と書かれた看板を持って来て無爪達に見せる。

 

ちなみにスクールアイドル「部」ではなく「陪」となっているがこの誤字には誰も気づいていなかった。

 

「あはは……他に部員は?」

「ううん、まだ。 曜ちゃんが水泳部でなければ誘ってたんだけど……。 もしくは……」

「なんで僕を見るんだ千歌ねえ? 入らないからね? そもそも僕男だし!」

 

そんな風に答える無爪に千歌は「えっー!?」と不満そうな声をあげるが、無爪は「入らないものは入らないから!」と答え、それに千歌はガッカリと肩を落としてしまう。

 

「でもどうしてスクールアイドルなの? 今までどんな部活にも千歌ちゃん興味ないって言ってたでしょ?」

 

曜は疑問に思ったことを千歌に聞いてみたのだが……千歌は「えへ」とにっこりと笑うだけで答えず、そんな彼女に無爪、曜が首を傾げていると……。

 

ペガが時計を見て「君たちそろそろ学校行った方が良いんじゃ無い?」という言葉を聞いて彼女達は学校に遅れそうなことに気づき、一同は慌ててジタバタとしつつも家を出てどうにかバスに乗ることができた。

 

バスに乗れた3人はホッと一安心し、千歌は「間に合った~、危うく無駄になるところだったよ」と言いながら手作りのチラシを鞄から取り出し、曜と無爪は「そんなのまで作ってたんだ……」と少しだけ驚いていた。

 

「そりゃやるならちゃんとやらなくちゃ! こういう時は『ジード』だよ! ジーッとしててもドーにもならないんだから!」

「はぁ、またそれか……」

 

千歌の言葉にどこか呆れた様子の無爪だったが、曜の場合は彼とは逆にそんな千歌の気持ちに自分も少しでも力になりたいと思い、彼女は「よっしゃ! 今日は千歌ちゃんのために一肌脱ぎますか!」と新入生勧誘を手伝うことになったのだ。

 

そして……現在に至るのだが……。

 

「スクールアイドル部で~す……。 大人気、スクールアイドル部でぇ~す……」

「こんだけやってるのに人っ子一人どころかチラシすら受け取って貰えないとは……」

 

3人の周りにももう殆ど他の生徒達はおらず、無爪はそうでもないのだが、千歌と曜が誰も来ないことで意気消沈していた時のことである。

 

3人の前を2人の少女……「国木田 花丸」と「黒澤 ルビィ」がどこか楽しげな様子で横切り、曜はそんな2人を見て小さく「美少女……?」と呟くと……先ほどまで後ろにいた千歌がいなくなっていた為か彼女はバランスを崩して倒れ込んでしまい、千歌に至ってはいつの間にか「あの!」と声をかけながら花丸とルビィの目の前にまで回り込んでいた。

 

「大丈夫か曜ねえ? っていうか千歌ねえいつの間に……」

「あなた達、スクールアイドルやりませんか!?」

 

そして突然声をかけられたことで花丸は「ずら!?」と驚きの声をあげ、千歌は「ずら?」と首を傾げるが花丸は「いえ!」と慌てて両手で口を塞ぎ……千歌はチラシを見せながら花丸とルビィを勧誘する。

 

「大丈夫! 悪いようにはしないから! あなた達きっと人気が出る! 間違いない!!」

「で、でもマルは……」

 

花丸は戸惑う様子を見せるものの彼女の後ろに立っているルビィはジィッと千歌の持つチラシを見つめており、それに気づいた千歌は「興味あるの!?」と尋ねるとルビィは「ライブとか、あるんですか!?」と興味深そうに質問をし、それに対し千歌は「ううん、これから始めるところだから……」と答える。

 

「だからね、あなたみたいな可愛い子に是非!」

 

そう言いながら千歌がルビィの手に触れるとルビィは突然青ざめた顔を浮かべ、それに花丸は慌てて耳を塞ぐと……。

 

「ピ……ピギャアアアアア!!!!!?」

 

とルビィは顔を真っ赤にして大声をあげて千歌は驚いて思わず尻餅をつき、花丸は「ルビィちゃんは……究極の人見知りずら……」と小さく呟く。

 

さらにその時のことである、今度は頭上から誰かの叫び声が聞こえ……千歌が頭上を見上げると木の上から1人の少女……「津島 善子」が地面へと降り立ち……転ぶことなく高い位置から着地したため凄く足を一瞬振るわせ……直後に彼女が持っていたと思しき鞄は頭部へと激突した。

 

「ちょっ、色々大丈夫……?」

 

善子は痛がるのを堪えて笑みを浮かべて不敵に笑い出すと辺りを見回す。

 

「ふっふっふ、ここはもしかして地上……?」

 

それを聞いた瞬間一同は「ひっ!?」と声をあげる。

 

「大丈夫じゃ……ない?」

「ということは……あなた達は下劣で下等な人間ということですか……?」

「ホントにいたんだな、中二病患者って……」

 

曜も「うわっ」とちょっと引き気味であり、千歌は「それよりも足大丈夫?」と善子の足をチョンっとすると善子は涙目になりつつも必死に堪え……「痛いわけないでしょ!? この身体はたんなる器なのですから!」と答え、これには千歌も思わず「えっ?」と戸惑ってしまう。

 

「ヨハネにとってはこの姿はたんなる器……あくまで仮の姿! おっと名前を言ってしまいましたね……堕天使ヨハネ……」

 

善子がそこまで言いかけると花丸が何かを思い出したような表情を浮かべて「善子ちゃん?」と彼女に尋ね、本名を言われた善子は戸惑いの様子を見せる。

 

「やっぱり善子ちゃんだぁー! 花丸だよ! 幼稚園以来だねぇ!」

「は・な・ま・るぅ……? に、人間風情が何を言って……」

 

すると花丸は不意に「じゃーんけーんポン!」と彼女にじゃんけんを仕掛け、それに善子は思わずチョキを出してしまうのだが……善子のチョキは明らかにチョキとは思えない変わった形をしていた。

 

「そのチョキ! やっぱり善子ちゃんだ!」

「善子言うな! いい!? 私はヨハネ! ヨハネなんだからねー!!?」

 

そう言い残して善子はどこかへと走り去っていき、花丸は突然善子が逃げ出したことが分からず「どうしたの善子ちゃーん!?」と彼女を追いかけ、ルビィは「待ってー!」とそんな花丸に慌ててついて行くのだった。

 

「ダメだ、あのチョキできない……!」

「いや出来なくていいでしょ……?」

 

と善子のチョキを真似しようとする無爪に苦笑しながら曜がツッコミを入れ、また去って行く彼女達を見て千歌は「後であの娘達をスカウトに行こう!」と拳を握りしめて気合いを入れるのだった。

 

すると後ろの方から「あなたですの? このチラシを配っていたのは?」という誰かの声が聞こえ、3人は声の聞こえた方へと顔を向けるとそこには1人の少女……「黒澤 ダイヤ」が千歌の作ったチラシを見つめており、ダイヤは千歌に「いつ何時、スクールアイドル部なるものがこの学校に出来たのです?」と千歌の方を見て尋ねてくる。

 

「あなたも1年生?」

「このバカ千歌ねえ!」

 

千歌がダイヤにそう問いかけると無爪は慌てて千歌の頭に軽くチョップを入れ、千歌は「いたっ!? なにするのなっちゃん!?」と涙目で訴えるが……。

 

「なにするじゃないよ! リボンの色見ろバカ千歌ねえ! 1年な訳ないだろ!」

「そうだよ千歌ちゃん! この人は……」

 

曜がこっそりと千歌に耳打ちし、それを聞いた千歌は「嘘!?」と驚きの声をあげる。

 

「生徒……会長……?」

 

その後、千歌はダイヤにあとで生徒会長室にまで来るように言われ……今現在彼女はなぜスクールアイドル部の勧誘をしていたのか説明していたのだが……。

 

「つまり、設立の許可どころか申請もしていない内に勝手に部員集めをしていたという訳?」

「悪気は無かったんです。 ただ、みんな勧誘してたんでついでというか~焦った~というか~」

 

千歌は笑いながらそう説明し、ダイヤは「部員は何人いるんですの? ここには1人しか書かれていませんが?」と部活の申請書の紙を見ながらそう問いかけると彼女は苦笑しつつも「今のところ1人です」と答えるのだが……ダイヤは「部活の申請は最低5人は必要なのは知ってますわよね?」と若干肩を震わせながらそう尋ねると千歌は……。

 

「だぁ~から勧誘してたんじゃないですかぁ~」

 

と笑って説明するがそれに苛立ったダイヤは申請書の紙を机の上に「バンッ!」と叩きつけると力強く叩きつけ過ぎたせいでダイヤは「あいった~!?」と手を痛めてしまい、それに千歌は思わず笑ってしまうが……そんな彼女にダイヤは人差し指を突きつけ「笑える立場ですの!?」と怒鳴りあげる。

 

「す、すいません……」

「兎に角、こんな不備だらけの申請書受け取れませんわ」

「えっー!!?」

 

ダイヤの言葉に千歌はショックを受け、生徒会室の扉が開いて外から曜が「千歌ちゃーん、1回戻ろ?」と声を……千歌はだったら5人集めてまた持って来ると言い残して立ち去ろうとしたのだが……ダイヤは「別に構いませんけど、例えそれでも承認は致しかねますがね?」と答え、それに千歌は「どうしてですか!?」と驚きの声をあげる。

 

「わたくしが生徒会長でいる限り、スクールアイドル部は認めないからです!!」

 

とダイヤがそう宣言すると同時に強い風が窓から入り、千歌は涙目で「そ、そんなぁ~!!?」と悲痛な声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、千歌、曜、無爪の3人は船に乗ってある場所へと向かっており……船に乗ってる千歌はダイヤに言われたことにショックを受けて落ち込んでいた。

 

「はぁ~、失敗したな~。 でもどうしてスクールアイドル部はダメなんて言うんだろ?」

「嫌い……みたい。 クラスの娘が前に作りたいって言いに行った時も断られたって……」

 

曜が言いづらそうに千歌にそう説明すると千歌は「えぇ!? 曜ちゃんダイヤさんがスクールアイドル嫌いなの知ってたの!?」と驚きの声をあげ、無爪も「そう言えばそんな話聞いた気がするな……」と小さく呟く。

 

それに曜は両手を合わせて「ごめん!!」と千歌に謝り、千歌が夢中だったから言い出しづらかったらしい。

 

「兎に角、生徒会長の家、網元で結構古風な家らしくて。 だから、ああいうチャラチャラした感じの物は、嫌ってるんじゃないかって噂もあるし……」

「……チャラチャラじゃないのにな……」

「まぁ、よく知らない人が見ればそう見えるのかもな……」

 

曜、千歌、無爪の3人はそんな話をしている内に船は目的地へと到着し、すぐそこのダイビングショップへと向かうとそこにはダイビングスーツを着た1人の少女……「松浦 果南」がおり、果南は千歌達が来たことに気づいて彼女達の方へと振り返る。

 

「遅かったね、今日は入学式だけでしょ?」

「カナねえ……。 それが千歌ねえが色々やらかしまして……」

「ちょっ、なにその言い方!? 私がなんか悪いことしたみたいじゃん!?」

 

千歌が「ムスーッ」と睨み付けるが無爪は「全然怖くないわ」と笑い、それに千歌が「もー!」と怒るがそれを果南が「やめなよ2人とも」と2人の喧嘩を止める。

 

「それよりはいこれ! 回覧板とお母さんから!」

 

千歌がそう言って果南に渡したのは大量のみかんと一緒に袋に入った回覧板であり、果南は「またみかん?」と苦笑しながら尋ねると千歌は「文句ならお母さんに言ってよ」と言葉を返しそれに果南は思わず笑ってしまう。

 

それから3人は少しだけダイビングショップのベランダで果南と今日あったことを話すこととなり、曜は「それで果南ちゃんは新学期から来れそう?」と尋ねると果南は「それはまだかかりそうかな」と答える。

 

「まだ家の手伝いも結構あってね~。 父さんの骨折も治るのにもうちょっとかかりそうだし」

「そっかぁ~、果南ちゃんも誘いたかったな~」

「誘う? なにを?」

 

果南が尋ねると千歌は「うん、私ね、スクールアイドルやるんだ!」と元気よく答え、それを聞いた果南は少しだけ暗い表情を浮かべたが……3人はそれに気づくことはなく、彼女は「でも私は3年生だしね~」と答えながらすぐそこにあるある物を取りに行く。

 

「知ってる~? 凄いんだよぉ!」

 

と千歌がスクールアイドルのことを説明しようとすると果南に「お返し!」と千歌の顔に干物を押しつけたのだ。

 

「また干物~?」

「文句なら母さんに言ってよ」

 

先ほどの千歌と同じように言葉を返す果南に千歌はなにも言えなくなってしまい、果南は「まっ、そういうことでしばらくは休学が続くから学校でなにかあったら教えて?」と言い、千歌はそれに「う、うん」と頷くとその時……大きな音が聞こえて空を見上げると1台のヘリが空を飛んでおり、千歌は「なんだろ?」と首を傾げる。

 

「……小原家でしょ?」

 

果南がそう答えると無爪はどこか険しい表情の果南に気づき、彼は「カナねえ、表情険しいけどどうかした?」と少し心配するが彼女はすぐに笑みを浮かべて「なんでもないよ」と無爪の頭を撫でる。

 

「カナねえ、僕もう小さくないんだから頭撫でられるのちょっと嫌なんだけど……?」

「えー? 良いじゃ無い、弟みたいなもんなんだから♪」

「あっー! 私もなっちゃんの頭撫でる~♪」

「じゃあ私も! ヨーソロー!!」

 

という感じで千歌や曜に果南に一斉に頭を撫でられる無爪は「やめんかー!!」と怒るのだが結局最後まで3人の気が済むまで彼女達が撫でるのを止めることは無かった。

 

一方、同じ頃ヘリの中では1人の少女……「小原 鞠莉」が乗っており、彼女はヘリから街を見下ろし小さく呟いた。

 

「……2年ブゥ〜リですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無爪と千歌は帰りのバスを降りて曜と別れ2人は同じ道を歩いて帰るのだが……千歌はチラシを「どうにかしなちゃな~」と呟いており、無爪はそんな千歌を見て「まだ諦めてないんだ」と言うが千歌はそれにガッツポーズをして「当然だよ!」と答える。

 

そんな会話を2人がしていると千歌は1人の制服を着た少女が立っていることに気づいき、それに無爪も気づく。

 

「この辺だと見かけない娘だな……」

「うん」

 

するとなんとその少女はなんと服を当然脱ぎだし、千歌は思わず「へっ?」と声を出し無爪は顔を真っ赤に慌てて目を瞑った。

 

「ちょっとなんで急に服を脱ぎ始めるのあの娘!?」

「大丈夫だよなっちゃん! あの娘下に水着着てるみたいだから!」

「あっ、なら安心……じゃないだろ!? まさかあの娘海に飛び込む気か!? まだ4月だよ!?」

 

無爪の言う通り服を脱いで水着姿となった少女は海に飛び込もうとしており、それを千歌が慌てて少女の腰に後ろからしがみついて引き止めるが……。

 

「まだ4月だよ!? 死んじゃうから!?」

「離して行かなくちゃいけないの!!」

 

無爪も千歌と同じように少女を止めようと駈け出すが……次の瞬間、千歌と少女は足を滑らせて海の中へと「ドボーン!」と大きな音を立てながら落っこちてしまった。

 

「うわああああ!!!!? 千歌ねえ!?」

 

無爪は慌てて上の服を脱いで2人を助けるために自分も海に飛び込んで行き、その後……2人はどうにか無爪に助け出され、それから3人は焚き火をして身体を温めていた。

 

「大丈夫……? 沖縄じゃないんだから。 海に入りたければダイビングショップもあるのに……」

 

千歌は少女にタオルを渡しながらそう話すが少女が言うには「海の音が聞きたかったの……」と答え、千歌と無爪は「海の音?」と首を傾げ、千歌は「どうして?」と尋ねるが……少女は答えようとせず、千歌は諦めて「分かった、じゃあもう聞かない!」と言うのだが……。

 

「海中の音ってこと!?」

「おいもう聞かないんじゃなかったのか千歌ねえ?」

 

しかしそんな千歌の言葉に少女はクスリと笑い、少女は「私、ピアノで曲作ってるの。 でもどうしても海の曲のイメージが浮かばなくて……」と話し始めそれに千歌は興味深そうに感心した。

 

「ふーん。 曲を? 作曲なんて凄いね! ここら辺の高校?」

「……東京」

「東京!? わざわざ!?」

 

少女の答えに千歌は驚きの声をあげ、無爪もこれには少しばかり驚きの表情を浮かべていた。

 

すると千歌は少女の隣に座り込み「そうだ! じゃあ誰かスクールアイドル知ってる?」と尋ねると少女は「スクールアイドル?」と首を傾げ、千歌は東京ならば有名なグループが沢山いるのではないかと思い彼女に話を聞こうとしたのだが……。

 

「なんの話?」

 

どうやら彼女はスクールアイドルについてはあまり詳しくないらしい。

 

(そりゃ全員が知ってる訳ないよね……)

 

これには千歌は驚き「まさか知らないの!?」と声をあげ「スクールアイドルだよ!? 学校でアイドル活動して、大会も開かれたりする!」と少女に説明するが少女はやはりスクールアイドルのことはよく分からないらしい。

 

「有名なの?」

「有名なんてもんじゃないよ! ドーム大会も開かれたりするぐらいで超人気なんだよ! って私も詳しくなったのは最近なんだけどね」

 

それに少女は「そうなんだ、私ずっとピアノばかりやってきたからそういうの疎くて……」と話し、そんな彼女に千歌は「じゃあ見てみる? なんじゃこりゃ~ってなるから!」とスマホを取り出す。

 

少女はそんな千歌の言葉に「なんじゃこりゃ?」と首を傾げるが、千歌は「そうなんじゃこりゃ!」とだけ答えてスマホのある9人のグループのスクールアイドルの画像を見せて千歌は「どう?」と感想を尋ねる。

 

「うーん、どうって言われても……普通? いえ! 悪い意味じゃなくてアイドルって言うからてっきり芸能人みたいな感じかと思って……!」

「だよね! だから……衝撃だったんだよ」

 

そんな千歌の言葉に少女は「えっ?」と少しだけ戸惑う。

 

「あなたみたいにずっとピアノ頑張ってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んで来たとか、将来こんな風になりたいって……夢があるとか……。 そんなの1つも無くて……。 私ね、普通なの。 私は普通星に生まれた、普通星人なんだって……。 どんなに変身しても、普通なんだって。 そんな風に思ってて、それでも何かあるんじゃないかって……思ってたんだけど、気がついたら高2になってた……」

 

千歌は昔のことを思い出しながら少女にそう話し始めると突然両手で頭を抱えて「まっず! このままじゃ本当にこのままだぞ!? 普通星人を通り越して普通怪獣ちかちーになっちゃうーって!」と身体で慌てる様子を表現する。

 

「なんだよ普通怪獣ちかちーって。 弱そう……ふふ」

「もう、笑わないでよなっちゃん! それでまあガオーって! ビー! ドカーンっと!!」

 

そんな風に少しはしゃいだ後、千歌は少女の方へと振り返って笑みを浮かべると少女もそれに釣られるように「フフ」と笑みを浮かべた。

 

「そんなとき、出会ったの。 あの人達に……」

 

千歌はそう言いながら以前東京に行った時、「UTX」という学校の大きなモニターに先ほど見せた千歌がスクールアイドルを始める切っ掛けにもなったスクールアイドル……「μ's」のライブが映し出されていた時のことを思い出していた。

 

挿入歌「START:DASH」

 

「それで思ったの。 一生懸命練習してみんなで心を1つにしてステージに立つとこんなにもかっこ良くて感動できて……素敵になれるんだって! スクールアイドルってこんなにも! こんなにも! こぉーんなにも!! キラキラ輝けるんだって!!」

 

千歌はとても楽しげに少女にそう語り、「気づいてたら全部の曲を聴いてた! 毎日動画見て歌を覚えて! そして思ったの! 私も仲間と一緒に頑張ってみたい、この人達が目指したところを私も目指したい」と語る。

 

「私も……輝きたいって!!」

 

すると少女は千歌に「ありがとう」とお礼を言い、少女は「なんか頑張れって言われた気がする。 今の話」と先ほどと比べると少しだけ表情も柔らかくなり、それに千歌も「ホントに?」と嬉しそうだった。

 

「えぇ、スクールアイドル、なれると良いわね」

「うん! あっ、私、高海 千歌! あそこの丘にある、浦の星学院って高校の2年生!!」

「同じく栗本 無爪です。 1年生、よろしく……」

 

すると少女は立ち上がって「女の子の方とは同い年ね」と呟き、自分も名前を名乗る。

 

「私は桜内 梨子。 高校は……音ノ木坂学院高校……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから梨子と別れた無爪は千歌だけを先に家へと帰らせ、少し寄りたいところが出来たため、帰りが少し遅くなることだけを伝えて無爪はある場所へと向かうこととなった。

 

するとその時、ひょっこりとペガが顔を出し「またあの場所に行くのかい?」と尋ねると無爪は「そうだよ」と頷いた。

 

そこは古びたとある天文台であり、周りに人の目もなかったためペガは無爪の影から出てくる。

 

『確か無爪が赤ちゃんの時、ここで保護されたんだよね』

「あぁ。 それで千歌ねえ達の両親が引き取ってくれて……今はあの旅館で暮らしてる訳だ」

『君のお父さんとお母さん、どんな人だったのかな?』

 

ペガがそう疑問に思ったことを口にすると「さあな」としか答えず、天文台の近くへと寄る。

 

『さあなって……両親のこと、知りたくないのかい?』

「知りたくない訳じゃないんだ……。 だからこうしてたまにここに何か手がかりがあるんじゃないかって来てるんだ……」

 

天文台の壁に触ろうとしたその時、突然無爪の目の前に浮遊する球体が現れ……無爪は「うわ!?」と驚きの声をあげて尻餅をついてしまう。

 

「なんだよ……これ!?」

『大丈夫かい無爪!?』

「あ、あぁ……」

 

無爪はどうにか立ち上がって目の前を飛ぶ球体を恐る恐る人差し指で触って見ると突然「バチィ!」という音が鳴り、無爪は慌てて指を引っ込める。

 

「いった!? 刺しやがったこいつ……!」

『Bの因子、確認。 基地をスリープモードから通常モードへと以降します。 権限が上書きされました。 マスター、エレベーターへどうぞ』

 

球体が突然喋りだし、目の前にエレベーターのようなものが出現し無爪とペガは顔を見合わせて首を傾げる。

 

『お乗りください』

「あっ、はい……」

 

取りあえず、無爪とペガは言われた通りエレベーターへと乗り込み、エレベーターは地下を目指して進みドアが開くとそこにはそれなりに大きな部屋があり、無爪達を案内してきた球体はその中央に設置された黄色い球体のようなものの近くに「コトン」っと置かれ、そして黄色い球体が光り出すと突然無爪達を案内して来た球体と同じ声で喋り始める。

 

『お待ちしておりました、マスター』

「君は……?」

『報告管理システム、声だけの存在です。 そしてここは天文台の地下500メートルにある中央司令室です。 この基地はマスター、あなたに譲渡されました』

 

無爪はペガの顔を見てもしかしてこの球体は誰かと間違えているのではと思ったが……球体は「誤認ではありません」と答えた。

 

『既に血液の採取を行いDNA検査を終了させています』

「……あの時か!」

『っていうか、君の声なんかどこかで聞いたことある気がするんだよね~? 誰だったかなぁ?』

 

ペガは無爪の隣でそんなことを呟いていたが無爪は先ほど球体に触った時のことを思い出し、球体は「お渡しするものがあります」と中央のテーブルに幾つかのあるアイテムを出現させた。

 

『フュージョンライズ用のマシン、ライザーとウルトラカプセルです』

「これを……僕に?」

『はい』

 

しかし無爪にはどうしてこれを自分に球体がくれるのか分からず、そのことについて尋ねると球体が言うには「時が来ればあなたに渡すことになっていたからです」と答え、球体が言うにはそのライザーというものを使用することで無爪は本来の姿に戻り力を行使することができるのだという。

 

「本来の姿……?」

『あなたはこの星の住人ではありません。 あなたはウルトラマンの遺伝子を受け継いだ異星人です……』

「なっ……!」

 

その球体の言葉に無爪は衝撃を受けて驚愕したが、一方で無爪はそれについて少しだけ心当たりがあった。

 

それは以前、高い所にある物を取ろうとしてジャンプしたら天井にまで頭をぶつけてしまったことや……ペガが以前にも「君は地球人じゃない、そう思い込んでるんだ」と指摘を受けたことがあったため、その時はまさかと思っていたが……。

 

本当に宇宙人……しかも都市伝説だと思われていた光の巨人「ウルトラマン」であることを球体から教えられ、無爪は唖然としていた。

 

一方その頃……とある場所で黒い服を着込んだ1人の男性が無爪に渡された物と同じ「ライザー」を手に持っており、男性はウルトラカプセルと酷似した「怪獣カプセル」を取り出し、それの「古代怪獣 ゴモラ」と「どくろ怪獣 レッドキング」という2体の怪獣のカプセルを専用の装填ナックルへ装填し、それをライザーでスキャンする。

 

「時は来た。 ゴモラ、レッドキング……。 これでエンドマークだ!」

『フュージョンライズ!』

 

すると男性の姿が「ウルトラマンベリアル」の姿へと変わり、ベリアルの前にゴモラとレッドキングが現れると2体は粒子のようになってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルはゴモラとレッドキングの姿を組み合わせたような巨大な怪獣……「ベリアル融合獸 スカルゴモラ」へと変身する。

 

『ゴモラ! レッドキング! ウルトラマンベリアル! スカルゴモラ!』

 

場所を戻し、無爪達はというと……。

 

『マスター、怪獣が出現しました』

「怪獣……!?」

『えぇ!?』

 

突然球体にそんなことを言われて無爪とペガは驚きの声をあげ、1つのモニターを出現させるとそこには確かに怪獣……スカルゴモラが街を破壊しながら歩いている光景が映し出されており、無爪はまさに空いた口が塞がらないという状況だった。

 

『怪獣って、ホントにいたんだね……』

「ってこの場所……なんか見たこと……。 あっ! ここって近くに家の宿がある場所だ」

 

無爪は慌ててスマホを取り出し、千歌に連絡を取ろうとするのだが……彼女は電話に出ることはなく、無爪は「クソ!!」と床を蹴る。

 

『マスター、現場までエレベーターで向かいますか?』

「行けるのか!?」

『座標を設定できます。 通信には先ほどのマシンを使ってください。 触れていれば会話は可能です』

 

それを聞いたペガは「なにする気!? まさかあの怪獣と戦うつもり!?」と心配するが……。

 

「このままじゃ千歌ねえが危ないかもしれないんだ!! 千歌ねえだけじゃない、街を滅茶苦茶にされて多くの人が死ぬかもしれない。 僕なら……ウルトラマンなら、怪獣を倒すことってできるんだろ!?」

 

無爪のその質問に対し球体は「可能です」と答え、それを聞いて「なら僕が行くしか無い!」と無爪はスカルゴモラのいる場所に連れて行くように頼む。

 

『でも無爪……自衛隊とかが怪獣を倒すかもしれないし……』

「自衛隊を待ってる時間なんてない! ペガはここで待っててくれ」

 

無爪はそう言ってエレベーターへと乗り込むと「レム、頼む」と言うが「レム」と呼ばれた球体は「レムとは私のことですか?」と尋ねる。

 

「あぁ、名前がないと色々と不便だろ?」

『レポート、マネージメントのイニシャルですね?』

「まぁ、そんなところかな? という訳で頼むよレム。 それと、僕のことも『無爪』って呼んで?」

 

球体改め「レム」は「分かりました、無爪」と無爪に返事をするとエレベーターの扉を閉じて転送を開始し、スカルゴモラのいる場所にまで無爪を転送する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無爪はエレベーターに乗って転送された場所へと辿り着き、エレベーターから出てスカルゴモラの姿を確認する。

 

「……これどこで〇ドアだよなぁ……」

 

無爪はそんなことを呟いたが今はそんなことを言っている場合ではないと思い、腰につけている装填ナックルに触れてレムと通信を行う。

 

「レム、状況は?」

『怪獣の進行方向に大勢の人々が逃げ惑っています。 フュージョンライズしますか?』

 

レムの問いかけに無爪は「あぁ」と答え、レムから「フュージョンライズ後の名称を決めてください」と言われる。

 

「……」

 

そしてこの時、無爪は千歌の言っていたある言葉を思い出していた。

 

『こういう時は『ジード』だよ! ジーッとしててもドーにもならないんだから!』

 

その言葉を思い出していた無爪はフュージョンライズ後の名称を「ジード」にすることに決め、ライザーも「そしてこれはジードライザーだ!」と新たに名付け、ジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと腰のカプセルホルダーの始まりの巨人「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現する。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルをナックルに装填させた後、さらにそれとは別に最凶最悪のウルトラマンと呼ばれた「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの姿を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

「はああ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

そしてジードが大地へと降り立ち、スカルゴモラの前に立ち塞がる。

 

その様子を基地から見ていたレムは「フュージョンライズ、成功しました」と無爪に変身が成功したことを伝え……それを見たペガはその姿を見て「アレは……!」と驚いた様子を見せていた。

 

また怪獣が出現し、慌てて家から出て避難していた千歌やその姉2人である「高海 志満」「高海 美渡」はジードが出現したことで一度足を止め、彼女等は唖然とした様子でジードを見上げていた。

 

「あれ……なに?」

「さ、さあ……?」

 

美渡と志満が不安そうにジードを見つめる中、千歌はジードの目を見て「あの目、どこかで……」と今朝のニュースのことを思い出していた。

 

戦闘BGM「カイザーベリアルのテーマ」

 

『これが……今の僕……』

「グギャアアアアアア!!!!」

 

スカルゴモラの鳴き声を聞き、ジードは感心している場合じゃないと思いスカルゴモラの方へと高くジャンプして接近する。

 

『うわわ!? すっげージャンプ力!!?』

 

ジードはそのままスカルゴモラの頭部に蹴りを叩き込み、スカルゴモラは多少後退するが……すぐさまジードはスカルゴモラの角に掴みかかり、スカルゴモラのこれ以上の進行を阻止しようとするがスカルゴモラはジードの腕を振りほどいて右手でジードの顔を殴りつける。

 

『ウアア!!?』

 

殴りつけられたジードは倒れ込み、その際に建物の1つが破壊されてしまう。

 

『無爪!! 聞こえる!?』

 

ペガが基地を通してジードに話しかけ、ジードは「ペガ!」と声をあげながら壊れた瓦礫を拾いあげる。

 

『どうなったんだ!? 建物も道路も、柔らかい! まるで砂で作ったみたいだ!!』

『今の君……まるで……』

 

すると、スカルゴモラは再び進行を開始する。

 

『これ以上、進行させてたまるか!!』

 

今はそんなことを気にしている場合ではないとジードはそう言い放ちながらスカルゴモラに飛びかかるのだがスカルゴモラは尻尾を振るってジードを海の方へと叩き落とし、スカルゴモラはジードに追撃しようと接近し、ジードに噛みつこうとするがジードはスカルゴモラの顔を左手でどうにか押さえつけて右拳を何発もスカルゴモラの胸部に叩き込む。

 

「グルアアアアアア!!!!!」

 

だがスカルゴモラは右足を振り上げてジードを蹴り飛ばし、倒れ込んだジードを踏みつけようとするがジードはそれをどうにか避けて立ち上がり、スカルゴモラの顔面を狙って何発も拳を叩き込んでいく。

 

『シュアア!!』

「ギシャアアア!!!!」

 

しかしスカルゴモラはジードの両手を掴んで受け止め、頭突きを喰らわせるとそれにジードはフラつき、スカルゴモラは尻尾を振るってジードを叩きつけて吹き飛ばす。

 

『ウグアアア!!!?』

 

ジードはすぐに立ち上がって助走をつけてからのドロップキックをスカルゴモラの腹部に喰らわせ、スカルゴモラは多少後退するものの再びジードに向かって尻尾を振るって攻撃を仕掛け……ジードはそれをどうにか両手で受け止める。

 

『ヘアッ!!』

 

ジードは尻尾を掴みそのまま力いっぱいにフルスイングし、スカルゴモラを投げ飛ばす。

 

勿論、街に被害が及ばないように海の上に叩きつけ、倒れ込んだスカルゴモラに馬乗りとなってチョップを繰り出すがスカルゴモラはすぐに起き上がってジードを振り落とし、スカルゴモラはジードに向かって口から「スカル振動波」という光線を吐きだしてジードに直撃させ、それを喰らったジードは身体中から火花を散らして倒れ込んでしまう。

 

『ウグアアアアア!!!!?』

 

それによってジードの胸部のクリスタルであるカラータイマーは激しく点滅を始めてレムから「間も無く活動限界時間です」ということが伝えられ、レムが言うにはこの星でウルトラマンでいられるのは3分が限界らしく、次に変身できるのは約20時間後だというのだ。

 

『ぐっ……20時間も……待ってられるか……!』

 

そしてスカルゴモラはジードを放ったらかしにして再び千歌達のいる方へと進行を開始し……それをジードはどうにか立ち上がろうとする。

 

『まずい! 千歌ねえが……! みんなが危ない!!』

 

どうにか立ち上がったジードはスカルゴモラに向かって駈け出して行く。

 

挿入歌「GEEDの証」

 

ジードは背後からスカルゴモラに掴みかかり、どうにか持ち上げて千歌達とは真逆の方へと投げ飛ばす。

 

『マスター、光子エネルギーを放出することを提案します』

『レム……。 それのやり方は!?』

『もう知っている筈です』

 

レムの言葉に無爪は「はぁ!?」と驚くが……突然、その方法が頭に浮かび、ジードは「よし!!」と言いながら千歌達を守るように立つ。

 

『千歌ねえ達に……近づくなァ!!』

 

するとジードは全身を発光させながら赤黒い稲妻状の光子エネルギーを両手にチャージさせ、両腕を十字に組んで放つ必殺光線「レッキングバースト」をスカルゴモラに向かって発射する。

 

『レッキングバァーストォ!!!!』

 

ジードの放った光線……レッキングバーストがスカルゴモラに直撃し……身体中から火花を散らしながらスカルゴモラは倒れて爆発したのだった……。

 

「やったぁ!! 勝ったぁ!!」

 

ジードがスカルゴモラに勝利し、千歌や周りの子供達は喜びの声をあげ……ジードは肩で息をしながらも千歌達を守れたことに安心し、その姿を消し去るのだった。

 

そして基地にいるペガはレムに「無爪の中に眠る、強大な力って……?」と疑問に思ったことを質問するとレムはペガに答えたのだ。

 

『血液からBの因子が確認されました。 彼はこの基地の本来のマスターと99.9%の確立で親子関係です』

『親子ってことは……無爪の両親のことを知ってるの!?』

『はい、彼の父親は……ベリアル、ウルトラマンベリアルです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪獣の出現により、ほんの数日間だけ浦の星学院は休校となったのだがジードが即座に怪獣を退治したためにそこまで大きな被害が出ることはなく、そのために学校はすぐに授業が再開されることとなっていた。

 

ちなみに千歌の家は無事だった。

 

そして千歌、曜、無爪は何時も通り3人でバスで通学し、バス停を降りた際千歌がもう1度スクールアイドル部の申請に行くと言い出したのだ。

 

「うん! ダイヤさんのところに行ってもう1回お願いしてみる!」

「でも……」

「諦めたらダメなんだよ! あの人達も歌ってた! その日は絶対来るって!」

 

そんな千歌を見て曜は笑みを浮かべて「本気なんだね……」と呟く。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならないもんね、千歌ねえ」

「うん!」

 

また無爪も本気でスクールアイドルを目指す千歌を見て笑みを浮かべ、すると曜は千歌の隙を突いて彼女の持ってる申請書を奪い取りそれに千歌は「ちょっと!?」と怒るが曜は千歌の背中へと突然持たれる。

 

「私ね、子供の頃からずぅーっと思ってたんだ。 千歌ちゃんと一緒に夢中で、何かやりたいなぁって」

「曜ちゃん……?」

 

すると曜は鞄からペンを取り出し、なんと申請書に自分の名前を書き込んだのだ。

 

「だから水泳部と掛け持ちだけど! えへへ、はい!」

 

そして自分の名前を書き込んだ申請書を千歌に渡し、そんな彼女の行為に千歌は思わず涙になってしまい、思わず曜へと抱きついたのだ。

 

「う、うぅ……! 曜ちゃぁ~ん!!」

「うわあ!? く、苦しいよぉ……」

「よぉーし! ぜったい凄いスクールアイドルになろうねぇ!!」

 

千歌と曜はそう高らかに宣言したのだが……先ほど千歌が曜に抱きついた際、彼女は申請書を手放してしまい、その申請書は「ポチャリ……」と音を立てて水たまりの中に入ってしい「あぁー!!?」と2人揃って叫ぶのだった。

 

そしてそれを見た無爪は頭を抱え「バカ千歌ねえ……」と呆れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結局千歌と曜の2人はそのずぶ濡れの申請書をダイヤに提出しに行ったのだが彼女は「ふぅ。 よくこれでもう一度持ってこようという気になりましたわね? しかも1人が2人になっただけですわよ?」と彼女も呆れた様子を見せていた。

 

「やっぱり簡単に引き下がったらダメだって思って!! きっと生徒会長は私の根性を試しているんじゃないかって!!」

 

しかしそんな千歌の言葉に対しダイヤは「違いますわ!!」と大否定。

 

「何度来ても同じとあの時も言ったでしょ!?」

 

そんなダイヤの言葉に千歌は「どうしてです!?」と尋ねるがダイヤは「この学校にはスクールアイドルは必要ないからですわ!!」と答えるが当然それだけでは千歌は納得せず「なんでです!!?」と聞き、2人は睨み合う。

 

それを曜は「まぁまぁ」と止めるがダイヤは「あなたに言う必要はありません!!」と言い放ち、そもそもやるにしても曲は作れるのかと言われてしまい、それについて千歌達は全く考えていなかったらしい。

 

「ラブライブに出場するには、オリジナルの曲でなくてはいけない。 スクールアイドルを始める時に最初に難関になるポイントですわ」

(スクールアイドル嫌いって聞いてたけど詳しいなあの人)

 

部屋の外で話を聞いていた無爪はそんなことを思っていたが……だが彼女の言う通りだと思い、ダイヤの「東京の高校ならいざ知らず、うちのような高校だとそんな生徒は……」という言葉にも無爪は納得した。

 

(やっぱ難しいのか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人もいなぁ~い、生徒会長の言う通りだった」

 

それから千歌と曜は無爪を巻き込んで作詞作曲ができる生徒を学校中捜し回ったのだが誰1人として見つからず、千歌と曜の2人は机に突っ伏していた。

 

「はぁ……なんで僕まで……」

「っていうかなっちゃんもマネージャーとかで良いからアイドル部入ってよ~」

「それはヤダ。 部活入ったらリアルタイムでドンシャイン見れないだろ」

 

ちなみに無爪が言う「ドンシャイン」というのは「爆裂戦記ドンシャイン」という名前の特撮番組であり、彼はこの作品の大ファンなのだ。

 

それに曜は「好きだね~」と言いながら無爪の頭を撫で当然ながら無爪は恥ずかしそうにして「やめてよ!」と陽の手を振り払い、もう少しで授業が始まるので無爪は「じゃあまたね」とだけ言い残して2年の教室を出て行くのだった。

 

「じゃあねなっちゃ~ん。 よし、こうなったら!!」

 

すると千歌が音楽の教科書を取り出し「私が! なんとかして!!」と自分でなんとかしようとするが曜に「できる頃には、卒業してると思う」と的確なツッコミを受け千歌も「だよね~」とその辺は取りあえず諦めた模様。

 

とそこで授業のチャイムが鳴って担任の教師が入ってくると今日は転校生が来ていることを生徒達に説明し、教師がその転校生に入ってくるように言うとその転校生の少女が教室へと入ってくる。

 

「くしゅん! 失礼、東京の音ノ木坂という高校から転校してきました」

 

その少女を見ると千歌は「わあ……!」と嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「桜内……梨子です。 よろしくお願いします」

 

それはこの前出会った少女で千歌は「奇跡だよ!!」と勢いよく立ち上がり、梨子は千歌の姿を見るや彼女も「あ、あなたは……!」と驚きの表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

(それが……全ての始まりだった……!)

 

 

 

ED「決めたよhand in hand」

 

 

 

 

そして千歌は梨子の元までやってきて手を差し伸べる。

 

「一緒に、スクールアイドル始めませんか!?」

 

そんな千歌を見て梨子は一瞬笑みを浮かべると……彼女は頭を下げ……。

 

「ごめんなさい」

 

と断ったのだ。



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第2話 『リトルスター』

1話の変更点。
無爪が高海家に同居。
レムの名前をつける時のシーンをちょっと追加。
ちなみに起動可能な3つ目のカプセルがあります。

あと今回ジード本編のような戦闘シーンが良かったとか言われるような気もしますが、それはそれ、これはこれです。




「ハァ……ハァ……!」

 

彼女、「桜内 梨子」が千歌や無爪と出会った日の夜……。

 

彼女は突如として眩い光が胸から溢れ、それとほぼ同じタイミングであの怪獣……スカルゴモラが出現した。

 

光はすぐに収まったが、スカルゴモラがこちらに向かって歩いて来ていることに気づいた梨子は必死に怪獣から逃げる為に走っていた。

 

しかし、その後は「ウルトラマンジード」が駆けつけ、スカルゴモラを撃破したこととその日以来、身体に異常も無く、胸がまた光ることもなく事なきを得るのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数日後の夜……。

 

『音ノ木坂高校1年、桜内 梨子さん。 曲は『海にかえるもの』』

 

とあるピアノのコンクール会場にて、そうアナウンスが流れて紹介されると梨子が現れて彼女は観客たちに向かって一礼した後、椅子に座りピアノを弾こうとするのだが……。

 

「……っ」

 

梨子はどこか不安そうな表情を浮かべており、なぜか手が震えていた。

 

何時まで経っても演奏が始まらないため、観客達はざわつき始める。

 

それが……少し前の、彼女……桜内 梨子に起こった出来事。

 

現在、彼女は以前のピアノコンクールで演奏ができなかった時のことを思い出しながらもどうにかピアノを弾こうとするのだが、結局は弾くことが出来ず、気分転換にベランダに出て静かに空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌朝、無爪の部屋にて。

 

『先日、出現した巨大生物に対し『怪獣』という呼称を用いることが本日正式に決定いたしました』

 

彼の部屋でなぜか曜と千歌が一緒になってニュースを見ており、無爪自身も「なんで僕の部屋でテレビ見てるんだ」とでも言いたげな視線を2人に送っていたが、2人は全くそのことに気づいていない。

 

『一方、怪獣と対峙した巨人はクライシス・インパクト時に撮影された存在ではないかとの見方もあります』

 

ニュースに映る人物はクライシス・インパクト時に撮影されたウルトラマンベリアルと今回現れたウルトラマンジードの写真を比較し、目の形などが似ていることから同一人物、または何か関連があるのではないかという説が出ており、またその人物はジードのことも危険視していた。

 

「ねえ、千歌ちゃんはあの怪獣と巨人を近くで見たんだよね? やっぱり、怖かった? 私は、テレビでしか見てないんだけどちょっとどっちも怖いかなって思っちゃうんだよね……」

「まぁ、確かに怪獣は怖かったけど……」

 

と千歌がそこまで言いかけた時である。

 

「ぼ、僕ちょっとトイレ行ってくるね!!」

 

どこか慌てた様子で無爪は部屋を出ていき、そんな彼の慌てた様子に千歌と曜は互いに顔を見合わせて「んっ?」と首を傾げるのだった。

 

それから無爪は廊下をしばらく歩いた後、「はぁ」と大きなため息を吐いてその場に蹲ると、無爪の影の中からヒョコっとペガが顔を出す。

 

『無爪、大丈夫?』

「曜ねえに怖いって言われるのがこんなにショックだなんて思わなかったよ。 曜ねえでこんなにショックなんだ。 千歌ねえにも同じようなことを言われたら僕、二度と立ち上がれないかも……」

『それは、重症だね……』

 

ペガは苦笑しつつ蹲る無爪の背中をポンっとそっと手を置き、励ます。

 

「よし、決めた!! もうフュージョンライズしない!!」

 

それを聞いてペガは「えぇ!?」と驚きの声をあげる。

 

「僕が出ていくとみんなが怖がるし、曜ねえや千歌ねえをこれ以上怖がらせたくもない! そうだろ? レム?」

 

無爪は腰に装着した装填ナックルに触れながら秘密基地のレムに話しかけるとレムはネットに書いてある情報を彼に教える。

 

『ネットの記事によれば無爪とベリアルを同一視して脅威を感じている人の割合は全体の75%、世間はあなたに怯えている……。 と判断して良いでしょう』

 

それを聞き、無爪は「ほらね!」と笑い飛ばすが……その笑みはどことなく、無理して作っているようにペガには見えて仕方がなかった。

 

『無爪……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、学校にて……。

 

「ごめんなさい」

「だからね! スクールアイドルって言うのは!!」

 

今は曜と無爪を引き連れて千歌は梨子をスクールアイドルに勧誘していた。

 

だが梨子は謝罪だけをして千歌の誘いを断り、スタスタとどこかへと行ってしまう。

 

しかし千歌はそんなことではめげず今度は食堂にてスマホでμ'sの画像を見せてスクールアイドルの説明をしながら梨子を勧誘する。

 

「ごめんなさい」

「学校を救うことが出来たりして!! 凄く素敵で!!」

 

すると梨子は飲み干した缶を少し強めに「コトッ」とテーブルの上に置くと千歌、曜、無爪と周りの生徒たちは思わずそれに「ビクッ!」と肩を震わせる。

 

そのまま彼女は缶を持って立ち上がり、その場を立ち去っていく。

 

体育の授業のランニングでも相変わらず千歌は梨子と一緒に走りながら彼女の勧誘を続ける。

 

「どうしても作曲できる人が必要でぇ~!」

「ごめんなさぁ~い!!」

「待っ……うわっと!!?」

 

そして千歌はつまずいてその場に思いっきりこけてしまうのだった。

 

その後の昼休み、千歌と曜は中庭でダンスの練習を行っており、無爪は千歌に「練習で悪いところあったら教えて!!」と半ば強引に連れて来られ、2人の練習風景を見守っていた。

 

「またダメだったの?」

「うん! でも、あと一歩! あと一押しって感じかな!」

 

また梨子の勧誘を失敗したのかと曜が尋ねると千歌はそれに対して自信ありげに答えるのだが、正直そうとは思えない気がしてならない。

 

「ホントかなぁ……?」

「とてもそんな感じには見えない気が……」

 

しかも見事に無爪の意見とほぼ一致、それから一旦休憩を挟むことになり、曜はベンチに腰かける。

 

「だって最初は! 『ごめんなさい!』だったのが最近は! 『うぅ……ごめんなさい』になって来たし!」

「明らかに遠ざかってるだろそれ!! あと一歩、あと一押しどころか10歩くらい遠のいてる!!」

 

苦笑しながら無爪はそう話す千歌にツッコミを入れ、曜もどう聞いてもそれは嫌がっているようにはしか聞こえなかった。

 

「だいじょーぶ! いざとなったら!! ほい! なんとかするし!!」

 

千歌はそう言いながら音楽の教科書を取り出すが……。

 

「それは、あんまり考えない方が良いかもしれない……」

「不安要素が拭えないんだけど、大丈夫なの? そんなんで?」

 

すると、そんな無爪の言葉を聞いて千歌と曜はなぜかジーっと彼の顔を見つめて来る。

 

「な、なに?」

「いやぁ、なんやかんや言いつつ、なっちゃんは心配してくれてるんだなぁーって思って」

 

そんなことを言いながら「にしし……!」と笑う千歌に、無爪は顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

「べ、別に心配なんかしてないし! 千歌ねえが梨子さんに変なことしないか見張ってるだけなんだからな!!」

(おぅ……! なっちゃんの見事なツンデレ頂いたであります!)

 

まるで面白いものを見たかのような表情を浮かべる曜はなぜか心の中で無爪に対し敬礼するのだった。

 

「変なことなんかしないよぉー! もう! あっ、そうだ! そういえば曜ちゃんの方は?」

 

そこで千歌が曜に頼んでいたことを思い出し、それについて問いかけると曜は「あっ!」と彼女もそのことを思い出して声をあげて手を叩く。

 

「書いてきたよ!」

 

その後、千歌と曜は自分達の教室に戻り、無爪も千歌に首根っこ掴まれて強制的に自分達の教室へと連れて行かれる。

 

そして曜はスケッチブックに書いてきたアイドルの衣装の絵を千歌と無爪に見せて「どう?」と自信ありげな顔で感想を求めるのだが……。

 

その絵は女の子が駅員の格好をしているようにしか見えず、とてもアイドルの衣装には見えなかった。

 

「おぉう……。 凄いね? でも衣装と言うより制服に近いような……。 スカートとかないの?」

「あるよ~! はい!」

 

すると曜は次のページを捲ると今度は府警の格好をした女の子が描かれており、これもまたアイドルらしくは見えなかった。

 

(っていうか、このイラストの女の子って千歌ねえがモデルなのかな? これはこれでこの格好をする千歌ねえが見たいかも……)

 

無爪がそんなことを考えていると曜は彼の考えてることを見透かしたのか、ボソっとあることを呟いた。

 

「なっちゃんのムッツリめ」

「えっ? 曜ねえなんか言った?」

「ううん、何でも」

 

無爪の問いかけに曜は首を横に振って誤魔化す。

 

「もっと可愛いのは……?」

 

千歌が曜に尋ねると彼女は「あるよ!」と答え、さらに次のページを捲ると今度は花柄の軍服を着てライフルを持っている女の子の絵が描かれていたのだった。

 

「武器持っちゃった!」

「可愛いよね~」

「花柄は可愛いかもしれないけど……」

 

どこか感性がズレている曜に思わず苦笑する千歌と呆れる無爪。

 

「可愛くないよ! むしろ怖いよ!」

 

千歌からもそうツッコまれる曜だが、彼女はなにがいけないのか分かっていないらしく、「んっ~?」と首を傾げていた。

 

「もっとスクールアイドルっぽい服だよ~」

「っと思ってそれも書いてみたよ! ほい!」

 

そう言いながら曜は次のページを捲り、無爪はまたおかしなイラストが描かれているのでは無いかと思ったのだが……。

 

今度はフリフリっとした頭にリボンがついているしっかりとしたアイドルらしい衣装が描かれており、これには流石に無爪も千歌も文句は言えなかった。

 

「すごーい! キラキラしてる! こんな衣装作れるの?」

「うん! 勿論、何とかなる!」

 

それを聞いて千歌は嬉しそうに笑みを浮かべ、「よーっし!」と気合いを入れて放課後、彼女は再び生徒会長であるダイヤに部活申請をしに行くのだった。

 

ちなみに無爪もまた千歌に首根っこ掴まれて強制連行された。

 

「だからなんで僕まで!?」

「良いじゃ~ん! ダイヤさんの説得手伝ってよなっちゃ~ん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから結局は無爪も生徒会室までついて行くこととなり、千歌はもう1度部活申請の紙をダイヤに提出するのだが……。

 

「お断りしますわ!!」

 

当然、前回の話の流れ的にもダイヤが部活申請を認めるはずもなく。

 

「こっちも!?」

「やっぱり……」

「5人必要だと言った筈です。 それ以前に、作曲はどうなったのです?」

 

ダイヤがそう尋ねると千歌はどう答えようかと一瞬悩むが……。

 

「それは~! いずれ~、きっと!! 可能性は無限大!!」

「それで話が誤魔化せる訳ないだろ、バカ千歌ねえ」

「うぅ、だよね~?」

 

どうにか話を逸らそう(?)とする千歌だったが、無爪に即座にツッコまれてしまい、ガックリと顔を俯かせる。

 

「で、でも……最初は3人しかいなくて大変だったんですよね。 『ユーズ』も」

 

「ユーズ」……その名前を聞いてダイヤは眉をピクッと動かし、無爪の影の中で話を聞いていたペガも「はい?」と少し不機嫌そうにする。

 

「知りませんか? 第二回ラブライブ優勝! 音ノ木坂学院スクールアイドル、『ユーズ!』」

 

千歌はその「ユーズ」と呼ばれるスクールアイドルのことをダイヤに説明するのだが、その際ずっとダイヤが苛立つように指を申請書の上でトントンしていることに気づかず、千歌の説明が終わるとダイヤはゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「それはもしかして……『μ's(ミューズ)』のことを言っているのではありませんですわよね?」

 

それを聞き、「あっ……」と千歌と曜は顔を見合わせてゴクリと唾を飲み込む。

 

「あっ、もしかしてアレ、『ミューズ』って読む……」

「おだまらっしゃーい!!!!」

 

その瞬間、ダイヤは大声で千歌達に怒鳴り声をあげる。

 

「なんか分かんないけど地雷踏んだっぽいよ!? ちゃんと謝れバカ千歌ねえ!?」

「えぇ!? え、えっとごめんなs」

 

しかし、ダイヤはそんな千歌の言葉を遮ってズイッと詰め寄ってくる。

 

「言うに事欠いて、名前を間違えるですって!? あぁん!!? μ'sはスクールアイドル達にとっての伝説! 聖域! 聖典! 宇宙にも等しき生命の源ですわよ! その名前を間違えるとは!! 片腹痛いですわ……!」

 

ズイズイと千歌に詰め寄って怒鳴るダイヤ、それに千歌はどんどん後ろに追い込まれてしまい逃げ場を無くしてしまう。

 

「ち、近くないですか?」

 

ちなみにここで今のダイヤの心情を「ウルトラマンは知ってるけど、ラブライブ! サンシャイン!! のことはあんまり知らない」という方に分かりやすく説明すると「ウルトラセブン」を「ウルトラ『マン』セブン」と呼ぶようなものである。

 

「フン! その浅い知識だとたまたま見つけたから軽い気持ちで真似をしてみようと思ったのですね?」

「っ、そんなこと……!」

 

千歌から一度離れ、そう言い放つダイヤの言葉に反論しようとする千歌だが……。

 

「ならばμ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますか?」

「えっ……?」

 

するとダイヤはまたもや千歌にズイッと詰め寄ってくる。

 

「ブー!! ですわ!! 『僕らのLIVE 君とのLIFE』、通称『ぼららら』。 次、第二回ラブライブ予選でμ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は?」

(あれ? もしかしてこの人……)

 

そこで無爪は何かに感づいたようだったが、特に何も言おうとはせず、取りあえず今は成行きを見守ることにする。

 

「……ステージ?」

「ブッブー!! ですわ!! 秋葉原UTX屋上! あの伝説と言われるA-RISEとの予選ですわ! 次、ラブライブ第二回決勝! μ'sがアンコールで歌った曲は……」

 

そこで千歌は今度こそと言わんばかりに手をあげて答える。

 

「知ってる! 『僕らは今の中で』!」

「ですが……。 曲の冒頭をスキップしている4名は誰?」

 

という引っかけ問題に千歌は思わず「えーっ!!?」と驚きの声をあげると又もやダイヤはズイズイっと千歌に詰め寄ってくる。

 

「ブッブッブー!! ですわ!!」

 

その際、あまりにもダイヤが千歌に詰め寄ってくるため、千歌は思わず後ろにあった校内放送のためのマイクのスイッチを入れてしまい、全校内にダイヤの声が聞こえてしまうという事態になるのだが、ダイヤはそれに気づかず話を続ける。

 

「『絢瀬 絵里』『東条 希』『星空 凛』『西木野 真姫』!!  こんなの基本中の基本ですわよ!」

「す、凄い……!」

「生徒会長もしかしてμ'sのファン……?」

 

千歌がダイヤにそう尋ねると彼女は自信たっぷりな様子で答える。

 

「当たり前ですわ! わたくしを誰だと……んんっ! 一般教養ですわ!! 一般教養!!」

 

慌てて誤魔化すダイヤだが、曜と千歌、さらには珍しく無爪も一緒になって「へー?」とジト目でダイヤを見つめる。

 

「と、兎に角……! スクールアイドル部は認めません!!」

 

 

 

 

 

 

 

「だって! 前途多難過ぎるよ~」

 

放課後、海辺でそんな風に落ち込む千歌だったが……。

 

「「じゃあ、やめる?」」

「やめない!」

 

無爪と曜がそう尋ねると彼女は元気を取り戻したように強きな表情を浮かべる。

 

「だよね~」

 

するとそこで千歌が後ろを振り返ると彼女は花丸が歩いていることに気づき、千歌は彼女に向かって「おーい!!」と声をかけると彼女の方も千歌に気づいたらしく、挨拶する。

 

「こんにちわ」

「あー、やっぱり可愛い! んっ?」

 

すると千歌は何かあることに気づき、ジッとある方向を見て目を懲らす。

 

「どうかした千歌ねえって……あそこに隠れてるのは……、ルビィちゃん?」

 

無爪が千歌と同じ方向を見ると確かに彼の言ったとおり、木の後ろにルビィが隠れており、彼女の存在に気づくと千歌は大きくルビィに向けて手を振る。

 

「あっ! ルビィちゃんもいるー!!」

「ピギィ!?」

 

千歌はルビィの元へと駆け寄って行くのだが……前回のことを思い出してか怖がらせてはいけないと思い、彼女はポケットから飴を取り出してそれをルビィに差し出す。

 

「ほ~らほら、怖くなぁ~い。 食べる?」

 

するとルビィはその飴に釣られるように木の後ろ側から嬉しそうに出てきて飴を受け取ろうとするのだが、ルビィが飴を取ろうとした瞬間、寸でのところで飴を引っ込める。

 

千歌はそのまま「ル~ルル~」と歌いながら飴を餌にルビィを誘導。

 

「犬かな? っていうか餌付け……?」

 

無爪が呆れた視線を千歌に送っているが、彼女はそんなことには気づかず、「フッ」と不敵な笑みを浮かべると飴を大きく放り投げる。

 

それを見てルビィが驚いている間に千歌は彼女に抱きつく。

 

「捕まえた!」

「うわわ! うゆうゆ!?」

 

いきなり抱きつかれたことにビックリするルビィだったが、丁度先ほど投げて落ちて来た飴がルビィの口の中に見事収まり、それを見て無爪は「スゲぇ!」と感心するのだった。

 

「でも今のはルビィちゃんが凄いのか千歌ねえが凄いのか……」

 

その後、途中まで花丸とルビィは帰りのバスが一緒ということで一同は全員でバスに乗ることとなり、千歌は花丸とルビィにスクールアイドルのことを話していた。

 

「スクールアイドル?」

「すっごく楽しいよ! 興味ない?」

 

地味にここでも勧誘する千歌だったが、花丸は図書委員の仕事があるからと断り、千歌はルビィはどうかと尋ねるのだが……。

 

「ふぇ!? えっと、ルビィはその……お姉ちゃんが……」

「お姉ちゃん?」

「ダイヤさんはルビィちゃんのお姉ちゃんずら」

 

花丸からの説明を受けて千歌は「えっ!?」と驚きの声をあげ、そこで曜はルビィが戸惑う理由を理解した。

 

「なんでか嫌いみたいだもんね、スクールアイドル」

「……はい……」

 

下を俯きながらそう答えるルビィ。

 

(いや、絶対好きだと思うんですけど……。 少なくともあの人絶対μ'sの大ファンだよ……)

 

とは思った無爪だったが、それを口にすべきかどうか少し悩み、ダイヤがあそこまでスクールアイドル部を拒否するには何か理由があるのではと考え、下手に踏み込むべきでもないだろうと考え結局は黙っておくことにするのだった。

 

「今は、曲作りを先に考えた方が良いかも。 何か変わるかもしれないし!」

「そうだねー。 花丸ちゃんはどこで降りるの?」

 

千歌が花丸にそう尋ねるとなんでも彼女は今日は沼津まで学校を休んでる善子にノートを届けに行くらしい。

 

「そう言えばあの娘、入学式以来全く見てないな……」

 

ちなみに無爪も花丸達と同じクラスである。

 

「実は入学式の日……」

 

花丸の説明によるとクラスでの自己紹介の時に善子は色々とやらかしてしまったらしい。

 

『堕天使ヨハネと契約してあなたも私のリトルデーモンに、なってみない?』

 

なんていう強烈な自己紹介をかました後、「ウフ♪」と不敵な笑みを浮かべ、クラスメイトの殆どが唖然。

 

『ピーンチ!!』

 

その光景を見たからか、彼女はすぐさま教室から出て行き、それ以来全く学校に姿を現さないのだという……。

 

「それっきり、学校に来なくなったずら」

「そうなんだ……」

 

これを聞いて曜は苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千歌と無爪はバスを降りて曜達と別れるのだが……その時、バス停のすぐ側にある海辺に梨子がいることに気づく。

 

「桜内さーん!」

 

梨子の存在に気づいた千歌は彼女の名前を呼びながら手を振り、梨子はこんなところまで自分を勧誘しに追って来たのかと思い、「はぁ」と溜め息を吐く。

 

「まさか、また海に入ろうとしてる?」

 

すると千歌は梨子の元に駆け寄るといきなり彼女のスカートを捲り、梨子は「してないです!!」と慌ててスカートを押さえるのだが……。

 

「あっ……」

 

そこで梨子は両手で目を塞いでいる無爪の存在に気づき、彼女は顔を真っ赤にして彼に「見たの?」と問いかける。

 

「み、見てないです!! ちょっとしか……! あっ……」

「結局見てるんじゃ無い!!」

 

顔を真っ赤にして怒る梨子だが、無爪に非は無いので彼女はそこまで怒ることはなく、無爪も顔を赤くしつつ千歌の頭に軽くチョップを叩きこむ。

 

「いたっ!? なにすんの!?」

「千歌ねえのせいでしょ!」

 

「むぅ~」っと頬を膨らませる千歌。

 

「それよりも、こんなところまで追いかけて来ても答えは変わらないわよ?」

 

梨子のその言葉に千歌は一瞬「えっ?」となるが、すぐに梨子が何か勘違いしていることに気づく。

 

「違う違う! 通りかかっただけ! そう言えば、海の音、聞くことができた?」

 

千歌は梨子にそう尋ねるのだが、梨子は暗い表情を浮かべたまま黙り込んでしまい、千歌はそれを見て未だに彼女が悩みを解決できないのを察するとあることを1つ彼女に提案した。

 

「じゃあ今度の日曜日、開いてる?」

「……どうして?」

「お昼にここに来てよ! 海の音、聞けるかもしれないから!」

「聞けたらスクールアイドルになれって言うんでしょ?」

 

梨子が千歌にそう問いかけると彼女は「うーん、だったら嬉しいけど」と言いながら両腕を組む。

 

「その前に聞いて欲しいの! 歌を……」

「歌?」

 

梨子が首を傾げると千歌は梨子はスクールアイドルのことを全然知らないから、だから知って貰いたいのだと語り、千歌は梨子にそれではダメかと尋ねる。

 

「あのね、私ピアノやってるって話したでしょ? 小さい頃から、ずぅーっと続けてたんだけど、最近、幾らやっても上達しなくて……やる気も出なくて、それで環境を変えてみようって!」

「成程、つまり……梨子さんは今はスランプ中ってことですか?」

 

無爪の問いかけに梨子は静かに「そう」と頷く。

 

「だから、海の音を聞ければ何か変わるのかなって」

 

梨子はそう言いながら両腕を伸ばして手の平を海に向ける。

 

「変わるよ、きっと」

 

そんな梨子に千歌はそう言いながら彼女の両手を握りしめる。

 

「簡単に言わないでよ!」

「分かってるよ、でも、そんな気がする。 ジーッとしてても、ドーにもならないんだから!」

 

千歌のその言葉に梨子は思わず少しだけ笑い、「変な人ね」と呟いた後、千歌の手から離れようとする。

 

「兎に角、スクールアイドルなんてやってる暇なんて無いの。 ごめんね?」

 

しかし、千歌は離れようとする梨子の手をもう1度握りしめ、それに梨子は少し驚いた様子を見せる。

 

「分かった! じゃあ海の音だけでも聞きに行ってみようよ! スクールアイドル関係なしに!」

「えっ?」

「なら良いでしょ!?」

 

笑みを浮かべながら千歌がそう言うと梨子は少しだけ口元に笑みを浮かべる。

 

「ホント、変な人……」

 

その時のことである。

 

突如として梨子の手が熱くなり、手を握っていた千歌は「熱っ!?」と思わず手を離してしまう。

 

すると梨子の胸に眩い光が溢れ、そのことに千歌や無爪、梨子自身も驚きの表情を浮かべる。

 

「なっ、そんな……また!?」

「な、なに!? 梨子ちゃん大丈夫!?」

 

梨子は身体が熱くなるのを感じ、彼女は胸の光を両手で押さえ込む。

 

その光はすぐに消えたが、彼女の身体は熱いままであり、梨子の不安そうな表情は消えていない。

 

「何だったんだ? 今のは……? 梨子さん、身体なんともない?」

「え、えぇ、でも、この前もさっきみたいに胸に光が溢れたことがあったの……。 お医者さんに診て貰っても身体にはなんの異常も見当たらなかったらしくて……。 しばらく光が溢れることも無かったから、もう大丈夫だと思ったのに……!」

 

梨子は無爪と千歌にそう語り、彼女はどこか怯えた様子を見せており、千歌と無爪はどうにか梨子を取りあえず落ち着かせようとする。

 

「怪獣が現れたのも、この光が溢れた時だった……。 しかも、怪獣はあの時、心なしか私の方に向かって来てる気がして……。 だからまた……!」

 

どうやら、梨子が怯えているのはまたこの光が発祥したせいで再び怪獣が現れないか心配だったらしく、そんな風に不安そうな梨子を励ますように千歌は「大丈夫だよ!」と声をかける。

 

「あの怪獣は、あの巨人がやっつけてくれたじゃん!!」

「で、でも……!」

「見つけた……!」

「「「っ!!!?」」」

 

その時だ。

 

突如として一同の背後から全身黒ずくめの……黒い帽子と黒いマスクをしたいかにも怪しさ満載の男がこちらに向かって不気味な笑みを浮かべながら近づいて来ていた。

 

「な、なんですかあなた!?」

 

気配に気づいた無爪は後ろを振り返って男にそう言いながら梨子と千歌を後ろに下がらせる。

 

「ダダァ……!」

 

男は無爪の頭上を軽々とジャンプして飛び越えると一気に梨子の元まで辿り着き、千歌を押し退かして彼女の左腕を掴むのだが……。

 

「い、嫌!? 来ないで変態!!」

 

梨子は右腕を突き出すとそこから炎が溢れ出して男の身体を燃やし、男は悲鳴をあげながら吹き飛ぶとその正体を表した。

 

それはシマシマ模様の身体とオカッパのような頭が特徴の異星人「三面怪人 ダダ」であり、ダダは「ミクロ化器銃」という武器を梨子に向ける。

 

「うぇ!? 梨子ちゃんの手から炎が! っていうかな、なにあれ!?」

「も、もしかして……宇宙人……!?」

 

梨子が炎出すのを見て驚く2人。

 

だがそれ以上にダダの姿を千歌と無爪は見て驚く。

 

「何してんだこのオカッパ野郎!!」

 

だがそこですぐに無爪がダダに向かって掴みかかり、そのままウルトラマンとしての腕力を使ってダダを遠くへと投げ飛ばす。

 

『ぐわああ!!? チッ! 邪魔をするな!!』

 

地面を転がって倒れ込むダダ、無爪はそのまままダダに向かって駈け出して行き、再び掴みかかろうとするがダダはパッと姿を消してしまう。

 

「あれ!? どこに行った!?」

 

無爪が辺りを見渡すと瞬間移動したダダが梨子の目の前に現れており、梨子を助けようとダダに飛びかかる千歌だったが、又もや瞬間移動で躱されてしまう。

 

そしてダダは今度は梨子の背後に姿を現し、ミクロ化器銃を梨子に向けて引き金を弾くとそこから光の粒子のようなものが放たれ、それを梨子が浴びると彼女は身体が縮小され、ダダの持つ1つのカプセルの中に吸い込まれてしまった。

 

「きゃあああ!?」

『ダダァ……!』

 

そのままダダはカプセルに入った梨子を連れ去って走り去って行き、無爪と千歌は急いでダダのあとを追いかける。

 

「待てー!! 梨子ちゃん泥棒ー!!」

 

その後、ダダを追いかけて人気のない場所行くとダダは突然立ち止まり、小型の光線銃を取り出して無爪達に向ける。

 

「危ない!!」

 

咄嗟の判断で無爪は千歌の肩を掴んで一緒に頭を下げ、ダダの放った光弾をどうにか躱すことができた。

 

「ありがと、なっちゃん!」

「それより梨子さんを助けないと!!」

 

無爪は人間とは思えないほど大きくジャンプしてダダの背中に跳び蹴りを叩き込み、地面を転がるが……ダダはそれでも梨子の入ったカプセルを離さず。

 

「こんのぉー!! 梨子ちゃんを返せ~!! 今度梨子ちゃんと一緒に海の音を聞きに行くんだからぁ!!」

 

そう言いながら今度は千歌が立ち上がろうとしているダダに後ろから跳び蹴りを喰らわせ、それによってようやくダダは梨子の入っているカプセルを手放し、それを無爪が見事にキャッチ。

 

『な、なんて乱暴な奴等なんだぁ……!』

「お前にそんなこと言われたく無いんだけど!?」

 

そのままダダは逃げ出していき、カプセルに入れられていた梨子もダダがいなくなると彼女はカプセルから出てきて元の大きさに戻り、千歌は慌てて梨子の元へと駆け寄る。

 

「梨子ちゃん大丈夫だった!? 身体、なんともない!?」

「え、えぇ、一応平気よ……。 でも、まだあの力は消えてないみたい……」

 

梨子はそう言いながら右手から少しだけ小さな炎を出し、千歌も無爪も一体彼女の身に何が起っているのか分からず、首を傾げていた。

 

(レムなら何か知ってるかな……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、とある廃工場に逃げ込んだダダだったが……そこに、スカルゴモラに変身していたあの黒ずくめの男性がダダの前に現れた。

 

『誰だ? 貴様は……?』

「光に引き寄せられて来たか? 研究の邪魔は控えて貰おうか……」

『貴様、『ストルム星人』か! あれは俺が見つけた光だ! 渡さない!!』

 

しかし、「ストルム星人」と呼ばれた男はそんなダダの言葉を一蹴するように「無駄だ!!」と言い放った。

 

「あの光、『リトルスター』は宿主からの分離が難しい。 分離されるのは、宿主が祈った時だけだ。 ウルトラマンに……」

『っ、黙れぇ!!』

 

逆上したダダはミクロ化器銃を構えて男に光線を放つが、男は片手でバリアのようなものを張り巡らせて攻撃を防ぎ、一瞬で姿を消す。

 

『むっ……!?』

 

すると背後に男は現れ、右手から衝撃波をダダにち、ダダは身体が粉々に砕け散る。

 

『ぬぐあ!!?』

「フン……。 それよりも、奴はリトルスターの宿主を保護したか。 この状況、利用させて貰う!!」

 

男はそう呟くと「怪獣カプセル」を取り出してそれを起動させ、それを装填ナックルに装填。

 

「『ドレンゲラン』!! エンドマークを打ってこい!!」

 

そのまま「ライザー」を取り出して装填ナックルをスキャンし、ライザーを外に向かってかざすとそこから「宇宙鉱石怪獣 ドレンゲラン」を召喚した。

 

『ドレンゲラン!』

 

それからドレンゲランは無爪達の元へと一直線に進んでいき、それに気づいた梨子は再び怯えた表情を見せる。

 

「ま、また怪獣……!?」

 

そしてドレンゲランの姿を見て無爪は思わず装填ナックルに手を伸ばしたが……。

 

『フュージョンライズしますか?』

「……いや、しない」

 

レムのその問いかけに無爪はそう答え、無爪と千歌は兎に角今はドレンゲランから逃げようと3人は一斉に逃げ出す。

 

「兎に角逃げよう!」

 

千歌が無爪と梨子にそう言って2人は頷き、3人はその場から逃げるように走り出す。

 

その後、3人が逃げていると偶然買い物中だったという梨子の母親と出会い、一同は梨子の母親と一緒にドレンゲランから逃げようと走り出すのだが……。

 

「……アレ?」

 

なぜか、無爪だけはその場から動くことができなかった。

 

「……ペガ、僕の足、なんで掴んでるんだ?」

 

するとひょっこりと無爪の影からペガが顔を出す。

 

『何もしてないよ? ペガは』

「じゃあ、どうして足が動かないんだ?」

 

無爪のその疑問にペガは答える。

 

『それは、君の意思だ』

「僕の……?」

『君はベリアルの息子、でも……君は君だ! 梨子ちゃんを怪獣から救いたいと、本心では思ってる筈だよ?』

 

ペガにそう指摘され、少しだけ黙り込んだ無爪はそのまま千歌達とは反対の方向に走り去って行く。

 

「あれ!? なっちゃん!? そっちには怪獣がいるよ!! 危ないよぉー!!」

 

千歌は怪獣の方に向かって行く無爪に気づき、彼女は無爪を追いかけて来るとだけ梨子に言い残して彼を追いかける。

 

「千歌ちゃん!!」

「危ないわよ!!」

 

しかし、梨子と梨子の母親の制止を振り切って千歌は無爪を追いかける。

 

そして人気のない場所に行くと無爪は「ジードライザー」を取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

「なっちゃん……?」

 

そこに千歌も現れるのだが、無爪はそれに気づかず「ウルトラマン」のカプセルを起動させるとそこからウルトラマンが現れる。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルをナックルに装填し、続いて無爪は「ウルトラマンベリアル」のカプセルを起動させ、今度はそこからベリアルが姿を現す。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルを無爪はスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

「はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ジードへと変身した無爪は大地へと降り立ち、それを見た千歌は目を見開き、驚きの顔を浮かべていた。

 

「なっちゃんが、あの巨人……? 嘘……!?」

『行くぞ!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンジードプリミティブ」

 

ジードはファイティングポーズを取りながらドレンゲランへと駈け出して行き、助走をつけて勢いよく膝蹴りを叩きこむが……ドレンゲランは「だからどうした」と言わんばかりにその長い首を横に振るってジードの身体を叩きつけて吹き飛ばす。

 

『ウアッ!?』

 

フラつくジードに対してドレンゲランは口から吐く火炎弾を放って攻撃し、ジードは前面に円状のバリアを展開する「ジードバリア」でどうにか攻撃を防ぐ。

 

『シュア!!』

 

バリアを解除してジードは再びドレンゲランに駈け出して行くが、ドレンゲランは首をさらに長く伸ばしてジードに頭突きを喰らわせ、首を元に戻すとさらにまた火炎弾を撃ち込んでくる。

 

「ギシャアアア!!!!」

『ぐううう……!?』

 

するとドレンゲランは高くジャンプしてその巨体を生かしてジードを踏み潰そうとするが、ジードはどうにか飛行してそれを回避し、空中へと逃げる。

 

『レッキングリッパー!!』

 

前腕の鰭状の部位から放つ波状光線「レッキングリッパー」をジードはドレンゲランの背中に炸裂させ、ドレンゲランは少し悲鳴をあげなたことから多少のダメージを与えることに成功。

 

ジードはそのままドレンゲランの背中に乗り込むとそのままドレンゲランにチョップなどを叩きこんでいく。

 

『かったぁ……!?』

 

しかし、流石に直接攻撃するのはキツいらしく、逆にこちらの方がダメージを受けてしまう。

 

さらにそこでドレンゲランが尻尾でジードの首を後ろから締め上げ、そのまま後ろの方へと投げ飛ばすとジードは地面を転がる。

 

『グゥ……!?』

「グルルルル……!!」

 

ドレンゲランはジードの方に振り返ると口から火炎弾を発射。

 

しかしジードはそれをジャンプして躱し、一気に詰め寄るとドレンゲランの頭を左手で掴んで右拳で何度もパンチをドレンゲランの顔面に叩きこむ。

 

『顔の部分は背中ほど硬くないみたいだな!』

 

だがドレンゲランは首を激しく左右に振ってどうにかジードを突き飛ばし、再びジャンプしてその巨体を生かした重い体当たりを喰らわせ、ジードは吹き飛んで地面に倒れ込む。

 

『シェア!!?』

 

そこからドレンゲランは又もや首を伸ばして頭突きを喰らわせようとしてくるが、ジードはそれを避けて脇にドレンゲランの首を挟み込み、そのままフルスイングしようとするのだが……。

 

『お、重い……! こいつ、前に戦った怪獣より重いぞ……!?』

 

そのままドレンゲランはジードを掴んだまま首をさらに長く伸ばして首を上にあげるとそのまま首を上下に動かして自分の首を掴んでいるジードを地面に叩きつける。

 

『ウゥ……』

 

腕を離してなんとかドレンゲランの攻撃から逃れるジードだが、ドレンゲランは今度はその長い首をジードの身体に巻き付けて拘束し、零距離からの火炎弾を撃ち込んでいく。

 

『ウグアアアア!!!!!?』

「なっちゃん!!」

 

それを見て悲痛な声をあげる千歌。

 

そしてドレンゲランは拘束を解くとジードはその場に倒れ込み、カラータイマーが点滅を始め、ドレンゲランは再び梨子の方へと向かって歩き出す。

 

しかも、梨子と梨子の母親はまだこの街に来たばかりなこともあり、道に迷ってしまい、行き止まりに追い込まれてしまった。

 

「な、なんでこっちに来るのよ!?」

 

梨子の母親は悲痛な声でそう叫び、梨子も怯えきった様子を見せている。

 

『無爪、怪獣には目的があるようです』

『目的……?』

『怪獣はあなたへの追撃より、移動を選択しました』

 

そこで無爪はレムの教えでやはりあの怪獣は梨子の光、「リトルスター」を狙って行っているのだと確信し、立ち上がろうとするが……先ほどの攻撃がかなり効いたのか、ジードは思うように立ち上がれなかった。

 

「なっちゃあああああああん!!!!!」

『っ!?』

 

その時、千歌が自分を呼ぶ声が聞こえ、ジードは千歌の方へと顔を向ける。

 

『えっ? 千歌ねえ? もしかして今、こっちに向かって言った……?』

『どうやら、無爪が変身したところを目撃されたようです』

『嘘だろ……』

 

レムに言われ、無爪は頭を抱えて「やってしまった……」と落ち込むが……。

 

「なっちゃーん!! 梨子ちゃんを、助けてあげて!! お願い!!」

『千歌ねえ……』

「私は、なっちゃんのことをずっと信じてる!! だから、立ち上がって!!」

『……』

 

そして、その言葉を受けたジードはコクリと頷いて拳を握りしめ……フラつきながらもどうにか立ち上がる。

 

『千歌ねえにそう言われちゃ、立つしかないよな!! それに、今思ったけどもしかしたらアイツ……!』

 

ジードは立ち上がるとさらに無爪は新たに別のカプセル、「ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー」のカプセルを起動させる。

 

『融合!!』

 

するとカプセルからオーブ エメリウムスラッガーが現れ、無爪はカプセルをナックルに装填。

 

続いて無爪はベリアルのカプセルを再び起動し、カプセルからベリアルが現れる。

 

『アイ、ゴー!!』

 

ベリアルのカプセルもナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルを無爪はスキャンする。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『飛ばすぜ、光刃!!』

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッを押す。

 

「はあああ、はあ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード! トライスラッガー!!』

 

最後にオーブ エメリウムスラッガーとベリアルの姿が重なり合い、2人の力を合わせた姿「ウルトラマンジード トライスラッガー」へとジードは姿を変える。

 

トライスラッガーへと姿を変えたジードは大きくジャンプしてドレンゲランの頭上を飛び越え、振り返るとそのままジードはドレンゲランに掴みかかって進行を阻止しようとする。

 

『これ以上、梨子さんの元には行かせない!!』

 

しかし、それでもドレンゲランの進行は止まらない。

 

ドレンゲランは近距離から火炎弾をジードに撃ち込もうとするがジードはドレンゲランの顎を掴みあげて顔を上に向け、火炎弾を何もない上空に撃たせる。

 

するとジードは顔だけを梨子の方へと向け、「任せろ」とでも言うように頷く。

 

「あの巨人は……」

 

それを見てか、梨子はジードが必死に怪獣をこちらに向かわせないようにしているのだと理解し、彼女は両手を祈るように握り合わせる。

 

(もし、本当にそうなら……お願い、助けて……!)

『こんのおおおおお!!!!』

 

挿入歌「GEEDの証」

 

するとジードは左手でドレンゲランの頭を掴みあげて右拳で何度も素早く顔面にパンチを叩き込み、最後にアッパーカットを叩きこむ。

 

ドレンゲランは火炎弾をジードに撃ち込むがジードは素早く後退して攻撃を躱し、頭部にある2本のブーメラン「アイスラッガー」を両手に持って構える。

 

『ハアアアア!!』

 

そのままジードはドレンゲランに向かって駈け出して行き、ドレンゲランは火炎弾を放つが、ジードはそれらを全て切り裂きながら突っ込んでいき、身体を勢いよくスライディングさせてすれ違いざまにアイスラッガーでドレンゲランの右の足の膝を斬りつける。

 

するとドレンゲランは膝から火花を散らし、背後に回り込んだジードはさらに中央のアイスラッガーと両手のアイスラッガー、合計3つを飛ばして1つはドレンゲランの尻尾を切り裂き、もう2つはドレンゲランの足の膝の裏を切り裂く。

 

「キシャアアアア!!!!?」

『狙い通り! 硬い奴は関節が大体弱いからな!!』

 

アイスラッガーを頭部に戻し、ドレンゲランはジードに振り返って首を伸ばして頭突きを喰らわせようとするが、ジードはジャンプしてそれを回避し、右足に炎を宿して急降下キックでドレンゲランの首を踏みつけるように蹴りつける。

 

「グア!?」

 

そのままジードはドレンゲランから離れると3本のアイスラッガーを放ち、そこに腕をL字に組んで光線を発射して反射させ、拡散させ四方八方から浴びせる必殺技「リフレクトスラッガー」をドレンゲランへと繰り出す。

 

『リフレクトスラッガー!!』

 

そしてドレンゲランは自慢の身体の硬さもこの技を完全に耐えれるほどの防御力は無かったらしく、1番脆い間接部に幾つも光線が直撃したこともあり、火花を散らして爆発したのだった。

 

「グルアアアアア!!!!?」

 

ドレンゲランが倒され、梨子や彼女の母、千歌は「やったああああ!!!!」と喜びの声をあげる。

 

すると、梨子に宿っていたリトルスターの光は彼女から分離し、光はジードのカラータイマーの中へと吸い込まれ、ジードの中にいる無爪の持つカプセルを入れる小型ケースの中に宿る。

 

それを見て無爪はケースを開けるとその中に新たなカプセルがあり、それを取り出すとカプセルに「ウルトラマンレオ」の姿が浮かび上がる。

 

『ウルトラマンレオカプセルの起動を確認しました』

『これは、新しいカプセル……?』

 

そしてジードは空へと飛び去るのだった。

 

また、ドレンゲランを召喚した男はジッと空に飛び立つジードを見つめていた。

 

「これで必要なカプセルは残り……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいたたた……」

『無爪、大丈夫?』

 

戦いを終えた無爪は腰を押さえてペガに支えて貰っており、無爪は「はぁ」と溜め息を吐くと彼はそのまま近くにあったベンチに座り込んだ。

 

「ふぅ、疲れた……」

 

するとその時、無爪の頬に「ピトッ」と冷たい感触が伝わり、慌てて振り返るとそこには缶ジュースを持った千歌が立っていた。

 

「お疲れ様、なっちゃん」

「あ、うん、ありがとう……。 千歌ねえ、さっきも……」

「それにしても驚いたよ! なっちゃんがあの巨人だったなんて!」

 

千歌はどこか興奮した様子でズイズイ顔を近づけ、無爪はそれに少し頬を赤くしつつ「取りあえず説明するから」と言って千歌を隣に座らせる。

 

それから無爪は千歌に自分がジードというウルトラマンにどういう経緯でなったのか、また父親がかつてクライシス・インパクトを引き起こした張本人「ウルトラマンベリアル」で、自分はその息子なのだということを彼女に一通り説明した。

 

「なっちゃんが、ベリアルの息子……」

 

ただでさえ無爪がジードであることに驚いたというのにさらにベリアルは実在し、無爪は彼の息子だという事実に、千歌も流石に驚きを隠せなかったようで、そんな様子の彼女を見て無爪は沈んだ表情を浮かべる。

 

「やっぱり千歌ねえも僕のこと……怖い?」

 

本当は千歌がジードを、自分のことをどう思っているのか聞くのが怖かったが……こうなってしまっては気になって仕方が無い。

 

一緒に暮らしている仲ならば尚更だ。

 

その為、無爪は勇気を振り絞って千歌が自分が怖いかどうかを問いかけた。

 

「ううん、私はなっちゃんのことをずっと信じてるってさっきも言ったじゃん。 最初にジードとして現れた時も、必死に怪獣を止めようとしてジードは私達を守ろうとしてくれてるってすぐ分かったもん」

「千歌ねえ……」

「よく頑張ったね。 ナデナデ♪」

 

すると千歌はそう言いながら無爪を抱きしめて彼の頭を撫で、無爪は照れ臭そうにしつつも抵抗せず受け入れるのだった。

 

(無爪、嬉しそう。 良かった……)

 

またそんな2人の様子をペガは微笑ましく見守るのだった。

 

「さっ! 梨子ちゃんも心配だし、そろそろ探しに行こう!」

「そうだね」

 

そして千歌は無爪の手を引いて2人は立ち上がり、梨子を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

日曜日、あれから梨子の身体に異常が起こることもなくなり、今日は約束通り海の音を聞く為、果南の家のダイビングショップに訪れていた。

 

ちなみに曜や無爪も千歌に誘われてダイビングショップには来ている。

 

「イメージ?」

「人間の耳には、音は届きにくいからね! ただ、景色はこことは大違い! 見えてるものからイメージすることは出来るとは思う」

 

そして今は果南からダイビングについてのことを説明しており、梨子の「海の音」を聞きたいという意見に対しても色々とアドバイスを受けていた。

 

「想像力を働かせるってことですか?」

「まっ、そういうことね。 用は勝利のイマジネーションってこと! できる?」

「やってみます」

 

それから梨子、千歌、無爪、曜、果南の5人はダイビングスーツに着替えて一緒に船に乗ってある程度進むとそこから海の中に4人で潜り、梨子は「海の音」を聞こうとするのだが……。

 

「ダメ?」

「残念だけど……」

 

一度船の上にあがり、曜は「海の音」を聞くことができたどうかを尋ねるが、やはりそう上手くはいかないらしい。

 

「イメージか、確かに難しいよね」

「海の音をイメージしろってことだし、千歌ねえの言う通り難しそう」

「そうね、簡単じゃないわ。 景色は真っ暗だし」

 

すると千歌は梨子の「真っ暗」という言葉を聞いてなにか思いついたのか、「もう1回良い?」と言って千歌と曜はもう1度海の中に飛び込み、それを追うように無爪も海の中へと飛び込んだ。

 

梨子もまた3人を追いかけるように再び海の中に潜り、しばらく4人で泳ぐのだが……。

 

そこで梨子は以前のコンクールでスランプからピアノを弾けなかったことをフッと思い出し、このままでは何時まで経ってもスランプから抜け出せないのではないかと不安になる。

 

その時、突然、海の中が明るくなり、梨子は曜と千歌が上を指差していることに気づいて見上げると蒼くて光輝く美しい光景が広がっていた。

 

それを見て梨子はなにかが聞こえたような気がした。

 

それはまるで、ピアノの音のようなもので……。

 

彼女はピアノを弾く時のように両手をあげるとさらにピアノの音色のようなものが聞こえ、それから4人は海面から顔を出す。

 

「ぷはぁー!」

「聞こえた!?」

「うん!」

 

どうやら梨子が聞いた音色は他のメンバーにも聞こえていたらしく、曜や無爪にも聞こえていた。

 

「私も聞こえた気がする!」

「ホント!? 私も!」

「僕も聞こえたよ!」

 

それに千歌、梨子、曜、無爪は思わず笑い合い、その光景はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日……。

 

「うぇ!? 嘘!?」

「ホントに!?」

 

なんと梨子は自分が曲作りを手伝うと申し出、それを聞いて千歌は涙目に「ありがと~!」とお礼を言いながら彼女に抱きつこうとするのだが……梨子はそれを華麗に躱す。

 

「待って、勘違いしてない?」

「ふぇ?」

「私は曲作りを手伝うって言ったのよ? スクールアイドルにはならない!」

 

それに対して千歌は「えぇ~!?」と不満そうな声をあげる。

 

「そんな時間はないの!」

「そっかぁ~」

「無理は言えないよ」

 

曜にもそう言われた為、千歌は「そうだねぇ」と残念そうにしつつも曲作りの手伝いをしてくれるだけ十分だと思い、梨子へのスクールアイドルへの勧誘は取りあえずは諦めることに。

 

「じゃあ詩を頂戴?」

「詩?」

 

すると千歌は「詩?」と言いつつ教室の扉を開けてみたり、ベランダを開けてみたり、なぜかみかんが2つ入ってある鞄の中を開けてみたりする。

 

「詩ってなに~♪」

「多分~、歌の歌詞のことだと思う~♪」

 

そこで千歌と曜は歌いながらそんな会話をし、最終的に2人は「歌詞?」と首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一同は歌詞についてのことを考えるために一度千歌の家の旅館に行くことに。

 

「あれ? ここ……旅館でしょ?」

 

尚、千歌の家が旅館であることに梨子は驚きの様子を見せていた。

 

「そうだよ!」

「ここなら時間気にせずに考えられるから! バス停近いし帰りも楽だしね~」

 

するとそこで志満が「お帰り~」と外に出てきて千歌達を出迎えてくれたのだが、その時、梨子はすぐそこに高海家の飼うペットの犬の「しいたけ」がいることに気づく。

 

そしてしいたけを見るや否や彼女は顔をなぜか引き攣らせる。

 

「そちらは千歌ちゃんが言ってた娘?」

「うん! 志満姉ちゃんだよ!」

 

千歌は長女である志満を梨子に紹介し、梨子も慌てて名前を名乗って自己紹介を行う。

 

それから梨子はまた視線をしいたけに戻し、彼女は冷や汗を流す。

 

「わん!!」

 

そしてしいたけが一吠えすると梨子は「ひぃ!?」と悲鳴をあげてそのまま旅館の中へと逃げ込むように入る。

 

ちなみにそれと同時に次女の美渡も志満に用があったのか彼女の名前を呼びながらやってきていたのだが……、その手には食べかけのプリンが握られていた。

 

「美渡ねえ……。 そのプリン、もしかして……!」

「やばっ!」

 

そのまま美渡は千歌から逃げるように走り去って行き、千歌はそれに怒ってすぐに彼女を追いかける。

 

「待てぇー!! 私のプリーーーーーン!!!!」

 

その後、千歌、曜、梨子はなぜか無爪の部屋に訪れて千歌は自分の部屋の海老のぬいぐるみを抱きしめながら椅子に座り、頬を膨らませてふて腐れていた。

 

「だからなんで何時も僕の部屋に来るんだ……。 梨子さんだって嫌でしょうし、異性の部屋とか……」

「嫌というか……何というか、凄いわね……」

 

尚、無爪は「ドンシャインの再放送があるから」ということで一足先に家に帰って来ており、また梨子は無爪の部屋がドンシャインのポスターや武器の玩具、アクションフィギュアやソフビ、DVDなどが大量に置かれている部屋を見て唖然としていた。

 

「しかも特にこれ凄いわね……」

 

その中でも特に目立っているのがアメコミヒーロー映画みたいに部屋に飾られているドンシャインのコスプレ衣装だった。

 

「っていうか無爪くんって千歌ちゃんと一緒に住んでるの!?」

「色々複雑な事情があるもんで……。 っていうか何時まで千歌ねえはふて腐れてるんだ?」

 

無爪が千歌に視線を移すと彼女は未だに頬を膨らませてプリンを勝手に食べられたことを怒っていた。

 

「酷すぎるよ! 志満ねえが東京で買ってきてくれた限定プリンなのに!! そう思わない!?」

「それより作詞を……」

 

梨子はそんな千歌に苦笑しつつ、作詞を考えようと言い出そうとしたのだが、その時彼女の後ろにあった部屋の扉が開いて美渡が現れる。

 

「何時までも取っておく方が悪いんです~!」

 

「べーっ」と美渡は舌を出し、そんな彼女に「うるさい!!」と海老のぬいぐるみを千歌は美渡に投げるのだが……それは見当違いな方に飛んでいき、梨子の顔面に激突。

 

(……フェイ〇ハガーかな?)

「甘いわ!!」

 

さらに今度は美渡が浮き輪を千歌に投げるのだが……それは千歌ではなく梨子の頭の上から首まですっぽりと入り、それに美渡は「やばっ」と呟く。

 

すると梨子その状態のまま立ち上がって美渡に振り返る。

 

「失礼します」

 

梨子はそれだけ言うと扉をピシャっと閉めるのだった。

 

「新手のホラーだこの光景……」

 

そしてその光景を見て苦笑する無爪だった。

 

「さあ、始めるわよ?」

 

そこで梨子は作詞作曲についてのことを始めようとするのだが……。

 

「曜ちゃんもしかしてスマホ変えた!?」

「うん! 進級祝い!」

「良いな~」

 

とこんな風に千歌と曜は作詞作曲に全く関係のないことで話し込んでおり、それに梨子は力強く「ドスン!」っと床を踏み、千歌、曜、無爪は肩を「ビクッ」と震わせる。

 

「は・じ・め・る・わ・よ?」

 

海老のぬいぐるみが顔から外れると物凄く怖い形相で睨むように梨子は千歌達にそう言い放ち、それに千歌、曜、無爪は顔を引き攣らせつつ「は、はい……」と返事をするのだった。

 

そこから作詞は千歌が考えることになり、「どうせなら恋の歌が作りたい!」ということでそれをテーマに作詞を考えようとしたのだが、中々良いのが思い浮かばず、彼女は「う~ん」と悩みながらテーブルの上で突っ伏していた。

 

「やっぱり、恋の歌は無理なんじゃない?」

「嫌だ! μ'sのスノハレみたいなの作るの!」

(スノハレってμ'sの中でもかなりの神曲だし、スノハレみたいなのはハードル高いと思うなぁ)

 

無爪の影の中で話を聞いていたペガはそんなことを思い、梨子がいるので変わりに無爪にそのことを言って貰おうかと思ったが、言ったところで千歌が素直に聞くとは思えないのでペガは取りあえず黙っていることにした。

 

「そうは言っても恋愛経験ないんでしょ?」

「なんで決めつけるの!?」

 

梨子と千歌のその会話に漫画を読んでいた無爪はほんの少しだがピクっと反応し、視線を漫画に向けたまま聞き耳を立てる。

 

またそれに気づいた曜は無爪を見てニヤっとした笑みを浮かべた。

 

「じゃああるの?」

「っ……、それは……」

 

千歌は一瞬、無爪の方を見たあと、梨子の質問に答える。

 

「な、無いけど……」

 

漫画を読んでるフリをして聞き耳を立てていた無爪はその千歌の返答にがっかりとする。

 

(あれ? もしかして千歌ちゃんも割と……)

(なんで高海さんは今無爪くんの方を見たのかしら? ハッ、まさか……!)

 

しかし、そのことに無爪だけは気づかなかったが、曜とペガ、梨子だけはしっかりとそのことに気づいていた。

 

「でも、っていうことはμ'sの誰かがこの曲を作った時、恋愛してたってこと? ちょっと調べてみる!」

 

話を逸らしたい為か、千歌はそう言ってノートパソコンを開くのだが、梨子と無爪はなんでそうなるんだとツッコむ。

 

「でも気になるし!」

「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからね」

「本当に……」

 

そこで、今ほど呟いた曜の言葉に梨子は「あっ!」とあることに気がつき、それに続くように曜も今の自分の発言の中に作詞のヒントになるようなものがあることに気づく。

 

「なに?」

「今の話聞いてなかった?」

「スクールアイドルにどきどきする気持ちとか! 大好きって感覚とか!」

「それなら書ける気しない?」

 

曜と梨子の言葉を受けて千歌はハッとなり、彼女は顔をあげる。

 

「成程、スクールアイドルに対しての憧れっていうか愛を書こうってことか」

「そうだねなっちゃん!! 確かにそれなら書ける! 幾らでも書けるよ!! えっと、先ず輝いているところでしょ! それから!」

 

曜と梨子の言葉からヒントを貰った千歌は早速色々と紙に文字を書き込んでいく。

 

そんな楽しそうな千歌の様子を見ながら、梨子は幼い頃の昔のことを思い出していた。

 

『梨子ちゃん、とっても上手ね!』

『だって、ピアノ弾いてると空飛んでるみたいなの! 自分がキラキラしてるの! お星様みたいに!』

 

するとそこで千歌が「はい!」と1枚の紙を梨子に手渡し、彼女はもうできたのかと驚く。

 

「それは参考だよ、私その曲みたいなの作りたいんだ!」

「……『ユメノトビラ』?」

「私ね! それを聴いてね! スクールアイドルやりたいって、μ'sみたいになりたいって本気で思ったの!」

 

そう楽しげに語る梨子は「μ'sみたいに?」と首を傾げて尋ねる。

 

「うん! 頑張って努力して力を合わせて奇跡を起こしていく! 私でも、できるんじゃないかって。 今の私から、変われるんじゃないかって! そう思ったの!」

「本当に好きなのね?」

「うん!! 大好きだよ!!」

 

そして梨子の問いかけに千歌は満面の笑顔でそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから夜、家に帰った梨子は薄暗い部屋の中でベッドにボーっとしながら座っていた。

 

梨子はなんとなくスマホを取り出して動画画面を出し、そこには「ユメノトビラ」と書かれた動画があり、彼女はそれを再生させる。

 

『みんな私と同じようなどこにでもいる普通の高校生なのに、キラキラしてた。 スクールアイドルって 、こんなにも、キラキラ輝けるんだって!!』

 

梨子は千歌と初めて会い、話した時のことを思い出しながらμ'sの「ユメノトビラ」のライブ動画を視聴する。

 

すると彼女はベッドから降りて立ち上がり、自分の部屋に置かれたピアノの元へと向かい、椅子に座り込む。

 

「……」

 

そして彼女はピアノを開いて「ユメノトビラ」の曲をピアノで弾きながら歌い始めたのだ。

 

その時だ、彼女が窓の外を見ると……そこには風呂上がりなのか、頭にタオルを巻いた千歌がこちらを嬉しそうに見つめながら立っていた。

 

それは梨子の部屋と千歌の部屋は丁度向かい合う形となっていたからである。

 

「高海さん!?」

「梨子ちゃん! そこ梨子ちゃんの部屋だったんだ!」

 

梨子はそのことに驚き、梨子は引っ越したばかりで隣が千歌の家の旅館だということに全く気づかなかったらしく、梨子は窓を開けてベランダに出る。

 

「今の『ユメノトビラ』だよね! 梨子ちゃん歌ってたよね!?」

「いや、それは……」

 

梨子はなんとか誤魔化そうとするが……。

 

「ユメノトビラ……ずっと探し続けていた……」

「……そうね」

 

千歌にそう言われ、特に誤魔化す必要もないだろうと思った彼女は観念し、その曲を歌っていたことを認める。

 

「その歌、私大好きなんだ! 第2回ラブライブの……!」

「高海さん!」

 

とそこで梨子が千歌の名前を遮るように彼女の名を呼び、それに千歌は「へっ?」と首を傾げる。

 

「私、どうしたら良いんだろう? 何やっても楽しくなくて、変われなくて……」

「梨子ちゃん……」

 

どこか落ち込んだ様子を見せる梨子、そんな彼女を見て千歌は……。

 

「やってみない? スクールアイドル?」

 

梨子に右手を伸ばし、再び彼女をスクールアイドルへと誘ってみる。

 

「ダメよ! このまま、ピアノを諦める訳には……!」

「やってみて、笑顔になれたら、変われたらまた弾けば良い……! 諦めることないよ! 言ったでしょ? ジーッとしててもドーにもならないって!!」

 

しかし梨子は千歌は本気でスクールアイドルをやろうとしているのに、そんな気持ちで自分が一緒にやるのは失礼だと言って彼女はその場に蹲ってしまう。

 

しかし千歌は……。

 

「梨子ちゃんの力になれるなら、私は嬉しい。 みんなを、笑顔にするのがスクールアイドルだもん」

 

彼女はそう言い放って身を乗り出し、さらに右手を梨子に伸ばすのだが、その際風によって頭に巻かれていたタオルが取れる。

 

「あっ、千歌ちゃん!!」

 

それに気づいた梨子は慌てて立ち上がるが、千歌は変わらず笑みを梨子に向けながら手を伸ばし続けていた。

 

「それって、とっても素敵なことだよ?」

「あっ……」

 

千歌にそう言われて梨子も薄らと笑みを浮かべながら彼女も自分の右手を千歌に伸ばす。

 

しかし、その手は僅かに届かない。

 

「流石に、届かないね……」

 

梨子が手を引っ込めようとした時だ。

 

「待って!! ダメぇ!!」

 

それでも千歌は諦めずに必死に梨子に手を伸ばし、それを見て梨子もさらに手を伸ばす。

 

そして、互いの一差し指が触れ合い、梨子と千歌の2人は嬉しそうな笑顔を浮かべるのだった。

 

「わああ……!」

「はぁあ……! ふふっ♪」

 

 




尚、このドレンゲランはそこまで動きが遅くなく、並みの怪獣くらいにはそれなりに動けます。


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第3話 『ファーストステップ&ゼロ参上』

千歌ちゃん、誕生日おめでとう!!


千歌、曜、そしてスクールアイドルに入ることになった梨子の3人は曲も完成した為、朝から海辺でダンスの振り付けの練習を行っていた。

 

またダンスの練習はどこかズレたところや間違ったところがないかなどの確認の為、スマホで動画も撮影していた。

 

ちなみに無爪はというと、千歌が「なんやかんやで手伝ってくれるなっちゃんだけど、部員でもないなっちゃんをこんな朝早くから起こすのも可愛そうかな」ということで彼は来ていない。

 

そして一通り練習が終わると3人でその動画を見てどこかおかしなところが無いかを確認し、梨子自身はダンスなどは大分上手くなってきた気がしていたのだが……。

 

「でもここの切り上げがみんな弱いのと、ここの動きも!」

 

曜はダンスでの不自然な点を即座に発見し、そんな風に素早く間違いなどを指摘する彼女に梨子は「流石ね」と感心の声をあげた。

 

「高飛び込みやってたからフォームの確認は得意なんだ!」

「リズムは?」

「大体良いけど、千歌ちゃんが少し遅れてるわ」

 

千歌の問いかけに梨子がそう答え、自分がズレていることを指摘されて彼女は頭を抱えて「私かー!!」と嘆く。

 

その時、空を一機のヘリコプターが飛行しているのを千歌が頭を抱えた際に発見し、同じくそれに気づいた梨子は「なにあれ?」と首を傾げる。

 

「小原家のヘリだね?」

「小原家?」

「淡島にあるホテル経営してて、新しい理事長もそこの人らしいよ?」

 

梨子の疑問に曜がそう答えるのだが、直後……ヘリは心なしかなぜかこちらの方に向かって来ているが気がしたが、千歌達はまさかと思ったのだが……。

 

気のせいなどではなかった。

 

ヘリはやはりどう見てもこちらに近づいて来ており、彼女達は「うわああ!!?」と悲鳴をあげて慌ててその場に伏せる。

 

「なになに~!?」

 

するとヘリは千歌達の前に降り立つとヘリの扉が開いてその中から金髪の少女の「小原 鞠莉」が決めポーズをしながらウインクをして現れたのだ。

 

「チャオ~♪」

 

 

 

 

その後、学校の理事長室にて……。

 

そこでは千歌、梨子、曜、無爪の4人が集められており、4人の目の前には自身を「理事長」と名乗る鞠莉の姿があった。

 

「えっ? 新理事長?」

「えっ? でも3年生……ですよね? 制服着てるし」

 

無爪の言うように鞠莉はどう見ても千歌達ともそんなに歳が離れているようにも見えないし、3年生の制服も着ており、一同は自らを理事長と名乗る鞠莉に困惑した様子を見せていた。

 

「イエース!! 気軽にマリーって呼んで欲しいの! 紅茶、飲みたい?」

「あの、新理事長……!」

 

千歌が鞠莉のことを「新理事長」と呼ぶと彼女はムスっとしたふくれっ面となり、鞠莉は千歌に向かってズイっと詰め寄る。

 

「『マリー』だよ!!」

「ま、マリー……」

 

千歌は苦笑しつつ鞠莉が希望する名前で名を呼び、ちゃんと千歌に「マリー」と呼ばれた為か、どこか彼女は満足げな表情を見せる。

 

「その制服は……?」

「どこか変かなぁ? 3年生のリボンもちゃんと用意したつもりだけど~?」

「理事長ですよね!?」

 

やはり千歌も理事長なのになんで制服を着ているのか、本当に彼女が新しい理事長なのか疑問だったらしく、そのことについて戸惑いながらも尋ねる。

 

「しかーっし!! この学校の3年生!! 生徒兼理事長!! カレー牛丼みたいなものね~!」

「成程! 分かりやすい例えですね!!」

「無爪くんそれで理解出来ちゃうの!? 私は例えがよく分からないかな……」

 

自分の隣で鞠莉の言葉を理解する無爪の言葉に梨子は驚きの声をあげるが、梨子の言葉を聞いた鞠莉が困り顔で「えぇ~!? 分からないの~!?」と詰め寄る。

 

「分からないに決まってます!!」

 

その時、いつの間にか理事長室にダイヤが入って来ており、突然現れた彼女に驚いたのか鞠莉は尻餅をつくが……その顔は笑顔のままだった。

 

「生徒会長いつの間に……?」

 

無爪は何時、ダイヤが理事長室に入って来たのか不思議に思いながら頭に疑問符を浮かべる。

 

「オゥ! ダイヤ!! 久しぶり~! 随分大きくなって♪」

 

すると鞠莉はダイヤの姿を見るや否や彼女に抱きついて嬉しそうに頭を撫で回し、ダイヤはそんな鞠莉に呆れた視線を送る。

 

「触らないでいただけますか?」

「胸は相変わらずね?」

 

そう言いながらニヤニヤした笑みで鞠莉はダイヤの胸をワシッと掴み、それにダイヤは慌てて鞠莉を振り払う。

 

「やかましい……!! ですわ……」

「イッツ、ジョーク♪」

「全く、1年の時にいなくなったと思ったらこんな時に戻って来るなんて……。 一体どういうつもりですの?」

 

どこか不機嫌そうにダイヤは鞠莉にそう尋ねるのだが、鞠莉はそんなダイヤの言葉をスルーしてなぜかカーテンを勢いよくバサッと開く。

 

「シャイニー!!」

 

それに怒ったダイヤは鞠莉のリボンを掴みあげてグイっと自分の方へと引き寄せる。

 

「人の話を聞かない癖は相変わらずのようですわね!?」

「イッツ、ジョーク♪」

 

鞠莉は再び笑顔でそう言い放ち、ダイヤは呆れつつもその手を離して鞠莉を解放する。

 

尚、そんな鞠莉とダイヤのやり取りを見て無爪は「鞠莉さんってフリーダムな人だなぁ……」と心の中で苦笑いするのだった。

 

「兎に角、高校3年生が理事長なんて冗談にも程がありますわ!!」

「そっちはジョークじゃないけどね!」

 

その鞠莉の言葉にダイヤは「はっ?」と間の抜けた声が出てしまい、鞠莉はどこからか1枚の紙をダイヤに向かって突き出すように見せるとそこには「任命状」という文字が書かれていた。

 

さらにそれには「浦の星学院三年 小原 鞠莉 殿。 貴殿を浦の星学院の理事長に任命します」とも書き込まれ、判子まで押されている。

 

つまり、これは鞠莉が本当にこの学校の理事長になったことを意味していたのだ。

 

「私のホーム!! 小原家の学校への寄付は、相当な額なの」

「そんな! なんで……!」

 

確かな証拠を見せられたが、ダイヤは未だに信じられないといった顔を浮かべる。

 

「実は、この浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね?」

「まさか……それで?」

 

ダイヤの疑問に鞠莉は「そう!」っと胸を張って答える。

 

「ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので……応援に来たのです!」

「あの、それなら千歌ねえ達がここにいる理由は分かるんですが、なんで僕まで……?」

 

その無爪の問いかけに鞠莉は「ホワッツ?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「なんでって、てっきりあなたは彼女達のマネージャー的なやつかと思ったからよ? 色々手伝ってるって聞いたし」

「いや、全然マネージャーとかじゃないんですけどね……。 手伝いとかたまにしますけど……」

「そうなの? なんか残念……」

 

なぜか少し残念そうにする鞠莉に無爪は「一体僕になにを期待してたんだ」と思ったが、あんまり深く考えない方が良いかと思い、取りあえずは気にしないことにした。

 

「それよりも! 応援に来てくれたって本当ですか!?」

「イエース! このマリーが来たからには心配ありません! デビューライブは秋葉ドゥームを用意して見たわ!」

 

そう言いながら鞠莉は手持ちの小型のノートパソコンを開いて秋葉ドームの画像を千歌達に見せる。

 

「ちょっと、それハードル高すぎない!?」

「そ、そうよ! いきなり……!」

 

無爪と梨子はいきなりそんな場所でライブなんてハードルが高すぎると思ったのだが、千歌はその辺は全く気にしておらず、「き、奇跡だよ~!」と感激していた。

 

「イッツ、ジョーク!」

「ジョークの為にワザワザそんなもの用意しないでください」

 

しかし、これも鞠莉のジョークであり、それを聞いて千歌はツッコミを入れ、千歌、梨子、曜、無爪の4人からジトっとした視線を送られる。

 

「実際には……」

 

 

 

 

そうして一同は鞠莉に案内されて連れて来られたのは学校の体育館であり、彼女が言うにはデビューライブの会場はここを使って欲しいとのことだった。

 

「ここを満員に出来たら人数に関わらず部として承認してあげますよ?」

「えっ? ホント!?」

「部費も使えるしね♪」

 

それにに千歌は「やったー!!」と嬉しそうに笑みを浮かべるのだが、そこで梨子が「満員に出来なければ?」と疑問に思ったことを彼女に尋ねる。

 

「その時は解散して貰うほかありません」

「えっ、そんなぁ……」

 

鞠莉のその言葉を聞いて千歌は今度は少し不安な表情になる。

 

「嫌なら断ってくれても結構ですけど……? どうします?」

 

ニヤリとした笑みで鞠莉は千歌達に視線を送り、曜も体育館は結構な広さであるため、ここを満員に出来るかどうかは微妙であると感じ、「やめる?」と千歌に問いかけるが……。

 

「やめない!! 他に手がある訳じゃないんだし!!」

「まぁ、数少ないチャンスだし、ジーッとしててもドーにもならないもんね、千歌ねえ?」

 

無爪の言葉を受けて千歌は「うん!!」と力強く頷き、それに同意するように曜と梨子も頷くのだった。

 

「OK、行うということで良いのね……?」

 

鞠莉はそれだけを言い残して体育館から立ち去って行くのだが、その時、梨子があることに気づいた。

 

「待って! この学校の生徒って、全部で何人?」

「えっと~……あっ!」

 

梨子の問いかけに対して曜は少し考え込んだ後、すぐにあることに気づくのだが、千歌と無爪はイマイチ分かっていないらしく、首を傾げる。

 

「分からない? 全校生徒全員来ても……ここは、満員にはならない……」

「そういうことか……。 あの理事長、多分分かっててあんなこと言ったな……」

 

 

 

 

その後、4人は学校の授業も終わって帰りのバスに乗っていたのだが、千歌は窓の外を見ながら「どうしよう……」と今後のライブのことで頭を悩ませていた。

 

「でも、鞠莉さんの言うことも分かる。 それくらい出来なきゃ、この先もダメということでしょ?」

「ラブライブみたいな大きな大会を目指すなら尚更だよね? これが成功してもまだ小さな一歩ってことだし」

 

実際にこれくらいやってのけなければこの先到底スクールアイドルなんてやっていけないだろうし、梨子も無爪も鞠莉の出した課題はそういうことなのだと理解していた。

 

「やっと曲が出来たばかりだよ? ダンスもまだまだだし!」

 

すると曜と無爪は苦笑しながら顔を見合わせると千歌にある言葉を投げかける。

 

「「じゃあ諦める?」」

「諦めない!!」

 

曜と無爪のその言葉を聞いて千歌は拳を握りしめて逆にやる気を出す。

 

「なんでそんな言い方するの?」

 

そこで梨子はその言葉を聞いて少しキツい言い方をした2人にどことなく不満そうな顔をするが、曜と無爪曰く「こう言った方が彼女は燃えるから」とのことで実際に千歌はいかにもやる気満々といった表情を浮かべていた。

 

すると彼女は何かを思いついたのか突然「そうだ!!」と言って立ち上がり、そんな千歌を見て曜は「ねっ?」と視線を梨子に送る。

 

 

 

 

 

 

「お願い!! いるでしょ、従業員?」

 

家の旅館に帰った千歌は居間でテレビを見ながらくつろぐ美渡にプリンを差し出して彼女が勤務している会社の従業員を今度のデビューライブに誘って欲しいと頼み込んでいた。

 

ちなみに曜、梨子、無爪は今は千歌の部屋で待機している。

 

「そりゃいることはいるよ?」

「何人くらい?」

「本社も入れると……200人くらい?」

 

それを聞いて千歌はぱあっと明るい表情を浮かべて自分達が制作したポスターを美渡に見せる。

 

「あのね! 私達来月の初めにスクールアイドルとしてライブを行うことにしたの!」

「スクールアイドル? アンタが?」

 

美渡は千歌の言葉を聞いて思わず笑ってしまうが千歌はそれにムスっとしつつもそれでも会社の人200人ほど誘って彼女にも来て欲しいとお願いするのだが……美渡は呆れたような表情を浮かべる。

 

「むっ、満員にしないと学校の公認が貰えないの!! だからお願い!!」

 

千歌は両手を合わせて改めて美渡にそうお願いするのだが、美渡はテーブルの上にあったマジックペンを手に取り……千歌の額に「バカチカ」と書き込むのだった。

 

 

 

 

「むぅ~、おかしい……! 完璧な作戦の筈だったのに!」

 

それから美渡に追い返された千歌は自分の部屋に戻り、濡れティッシュで額の文字を消そうと拭きながらそんなことをボヤく。

 

「普通そうなる」

「うん、私もお姉さんの気持ちも分かるけどね~」

 

無爪と曜も美渡の気持ちは分かるし、むしろ断られる可能性の方が高いのでこうなる結果は何となく分かっていた。

 

そんな2人に対して千歌は「えぇ!? 2人ともお姉ちゃん派!?」と驚きの声をあげるが……そこで彼女は一緒に来ていた筈の梨子がいないことに気づき、曜に尋ねるとお手洗いに行ったそうだ。

 

尚、その梨子はというと現在……千歌の部屋のすぐそこの廊下でしいたけが眠って道を塞いでいた為、彼女はしいたけを避けようとして襖と手すりに手と足をかけて移動しようとしていた。

 

「ぐぐぐ……!」

 

するとそこで襖が開いて千歌と無爪が顔を出し、そこでそんな梨子の今の状況に2人は気づく。

 

「あれ? そんなとこで何やってんの?」

「ストレッチ……?」

「違うわよ!」

 

それよりも今は先ず人をどうやって集めるかを考えなければならないのが先決だと曜は言い、千歌も腕を組んで考え込む。

 

「なっちゃんは何か良い案ない?」

「うーん、町内放送とかは? 頼めばできるんじゃない?」

 

それを聞いて千歌も「成程!」と無爪の意見に納得し、曜も「確かにそれならいけるかもね」と呟く。

 

あとは高校がいっぱいあるのでスクールアイドルに興味ある高校生もいっぱいいるだろうと考えて沼津にでも行って宣伝するのもありかもしれないと千歌は意見を出し、取りあえず人を集めるためにやることは大体決まった。

 

その際、丁度力の限界が来た梨子は手と足を手すりと襖から滑らせて「ひいいい~!!」と悲鳴をあげてしいたけの上に落っこちてしまうのだった。

 

 

 

 

翌日、学校の終わりに千歌、梨子、曜、無爪の4人は沼津駅にチラシを持ってライブの宣伝をするために訪れていた。

 

「東京に比べると人は少ないけど、やっぱり都会ね~」

「そろそろ部活終わった人達が来る頃だよね?」

「よーっし、気合い入れて配ろう!!」

「っていうか、やっぱり僕も付き合わされるのね……」

 

上から梨子、曜、千歌、無爪の順で喋り、千歌は右腕を上げ気合いを入れてチラシ配りを開始。

 

「あの! お願いします!!」

 

したのは良いのだが……千歌はチラシを帰宅中の2人の女子生徒に配ろうとしたが、見事にスルーされてしまう。

 

「意外と、難しいわね……」

「こういうのは気持ちとタイミングだよ! 見てて!」

 

曜は梨子にそう言った後、すぐに先ほどとはまた別の女子生徒2人を発見して下から顔を出すようにしてその2人の目の前に現れ、チラシを配る。

 

「ライブのお知らせでーす!! よろしくお願いしまーす!!」

「ライブ?」

 

すると女子生徒の1人はチラシを受け取り、もう1人の女子生徒は「あなたが歌うの?」と尋ねると曜は「はい!」と元気よく挨拶しながら「来てください♪」と敬礼する。

 

「日曜か~、行ってみる?」

「よろしくお願いしまーす!!」

 

そしてその光景を見て梨子は思わず「す、すごい……」と呟くのだった。

 

「コミュ力お化けだね、曜ねえ……」

「よーし私も!!」

 

もう1度気合いを入れ直した千歌は眼鏡をかけた、気弱そうな女子生徒に右手で「壁ドン」をして左手でライブのチラシをその女子生徒に見せる。

 

「ライブやります、是非……」

「えっ、でも……」

「是非……!」

 

すると千歌はキリッとした表情と声を出してその女子生徒に顔を近づけ、女子生徒は戸惑いつつもチラシを受け取ってその場から逃げるように去って行くのだった。

 

ちなみにそれを見ていた無爪はなぜか羨ましそうな視線を千歌に送っており、梨子はそんな無爪を見て「なんで羨ましそうに見てるの?」と疑問に思うのだった。

 

「勝った!」

 

そう言いながらガッツポーズを決める千歌、またその一部始終を見ていた曜は無爪と千歌を交互に支線を送り、何かを思いついたのかニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「千歌ちゃん千歌ちゃん! ちょっと!」

 

曜は手招きしながら千歌の名を呼び、彼女「なぁに~?」と素直に曜の元に行くと彼女はゴニョゴニョと千歌にあることを耳打ちし、それを聞いた千歌は「よし!」と笑みを浮かべると彼女はジッと無爪の方へと顔を向ける。

 

「えっ、な……なに? なんか怖いんだけど……」

「あの2人何を企んでるのかしら……?」

 

すると千歌はドシドシと大きな足音を立てながら無爪の方へと歩いて行き、それに驚いた無爪は後ろ歩きで後方へと下がっていくのだが……すぐそこには壁があった為それ以上下がることはできず、千歌は「フフッ」と不敵な笑みを浮かべると……。

 

そのまま「ドン!!」っと無爪に壁ドンしたのだった。

 

「ふぁっ!?」

 

それに驚きつつも無爪は顔を赤くして少し嬉しそうだった。

 

「えへへ、驚いた~? 曜ちゃんがなっちゃんにもこれやればなっちゃんが喜ぶって言われたからやってみたんだけど……」

(ま、まさかの逆壁ドン……!?)

 

しかし、それだけには留まらず、千歌は再び不敵な笑みを浮かべてキリっとした表情を見せながら無爪の顎をクイっとあげる。

 

「ちょ、ちょっ……ちちちちちち、千歌ねねねねね……!!」

 

顔を真っ赤にして頭から湯気を出す無爪に曜はお腹を押さえて笑っており、また梨子はそんな2人を見て彼女も顔を赤くしつつも「千歌ちゃんの顎クイ……」と小さく呟いていた。

 

「よし、また勝った!!」

 

そして無爪を解放し、又もやガッツポーズを決めて誇らしげにする千歌。

 

「って勝負してどうするの!?」

 

と梨子がそこでツッコミを入れる。

 

最もなツッコミである。

 

「次、梨子ちゃんだよ!」

「えっ、私!?」

 

しかし千歌に突然そんなことを言われて梨子は戸惑ってしまう。

 

「当たり前だよ! 3人しかいないんだよ!」

「それは、分かってるけど……ってん? 3人?」

 

そこで梨子はここには自分、千歌、曜、無爪の4人で来た筈なのだが……なぜかチラシ配りをする人数が1人減っており、彼女は辺りを一旦見回すとそこには先ほどの千歌の「壁ドン&顎クイコンボ」が余程効いたのか、未だに頭から湯気を出して目を回してダウンしている無爪の姿があるのだった。

 

「ちょっ、無爪くん思いっきりダウンしてるじゃない!! 千歌ちゃんのせいで!!?」

「えぇ!? 私のせい!? それを言うなら元々曜ちゃんが……」

 

千歌と梨子は曜の姿を探すと彼女は既にチラシ配りの作業に戻っており、一生懸命頑張っている姿を見たら怒るに怒れなかった。

 

「はぁ、こういうの苦手なのに……」

 

そして意を決した梨子はチラシを手に取って堂々と宣伝を行う。

 

「あの! ライブやります!! 来てね……!」

 

映画のポスターに対して。

 

「……何やってるの?」

 

ごもっとも。

 

「練習よ、練習!」

「練習してる暇なんてないの! さあ!!」

 

千歌は素早く梨子の背後に回り込んで慌てる彼女の背中を押す。

 

「えっ? あっ、えっ? 千歌ちゃん!?」

 

その際、まだ春だというのにコートを着て、サングラスとマスクをつけたいかにも不審者なスタイルをした少女とぶつかりそうになってしまう。

 

「あっ、すいません!」

 

すぐさま謝る梨子だが、すぐにハッとしてこの際チラシを渡そうと思ったのか彼女は「あ、あの、よろしくお願いします!!」と戸惑いながらもチラシを不審者少女に渡す。

 

「うぅ……」

「……あの……」

 

しばらく受け取るかどうか悩んだような素振りを見せた不審者少女は最終的に梨子の持っていたチラシを受け取り、そのまま彼女は逃げるように走って行くのだった。

 

「受け取ってくれた……!」

 

それに梨子は嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「あの人……どっかで見たような……」

 

またその光景を少し離れた位置で見ていた曜は先ほどの不審者少女に見覚えがあったのだが、思い出せず、取りあえず今はチラシ配りに専念しようと通りかかった人にそれを渡そうとするのだが……。

 

「アレ? 曜ちゃん?」

「へっ?」

 

そこにいたのは、ガタイがよく、物凄く厳つい顔をしたヤクザみたいな怖い顔つきの男性が立っていた。

 

「……んっ? はっ、ち、千歌ちゃん!! 大変!! 曜ちゃんがなんだか怖い人に絡まれてるわ!!」

 

また、それを見た梨子は曜がそのヤクザみたいな顔の男性に絡まれているところを目撃して慌てて千歌を呼ぶ。

 

「えぇ!?」

「ってアレ、レイジさんじゃないの?」

 

のだが、どうやら千歌や無爪の知人らしく、梨子は彼女のその言葉を聞いて「えっ?」と首を傾げた。

 

「ホントだ! あの人は『渡辺 レイジ』お兄ちゃん、曜ちゃんの従兄だよ!!」

「えっ、そうなの!?」

 

千歌のその言葉に梨子は驚きの声をあげる。

 

「もう、静岡まで帰って来てるんなら連絡くらいしてくれれば良かったのに……」

「ごめんね? 曜ちゃんを驚かせようと思って……」

 

再び場面は「渡辺 レイジ」と呼ばれた男性と曜が会話しているところに戻り、レイジは静岡県出身なのだが現在は東京の学校で教師として働いており、今回は少し長めの休暇が取れたのでこちらに戻って来たのだという。

 

「へぇ~、スクールアイドルやるんだね、曜ちゃん。 うん、曜ちゃんは可愛いし、人気者だからきっと人気出るよ、そのスクールアイドル!」

「うん!! それに千歌ちゃんや、東京からやってきた梨子ちゃんって娘と一緒に今度ライブやるんだ!! レイジ兄ちゃんも見に来れたら来てみてよ!」

 

曜はそう言いながらレイジにチラシを受け渡し、それを手に取った彼は「うん」と頷き、彼女の頭を撫でる。

 

「頑張ってね? 僕も応援してるから」

「えへへ♪ 頑張るであります!」

 

曜は頭を撫でられて嬉しそうにしながら敬礼し、レイジは「それじゃ、僕はこれから行くところがあるから」とだけ伝えて彼は千歌や無爪にも軽く挨拶した後、その場を去って行き、曜はそんなレイジに「バイバーイ!」と手を振って別れるのだった。

 

それから一同はチラシ配りを再開するのだが、しばらくすると千歌が花丸とルビィが一緒に歩いているのを発見。

 

「あっ、花丸ちゃーん!!」

 

千歌は手を振りながら花丸達の元へと駆け寄り、それを見てルビィは慌てて花丸の後ろに隠れる。

 

そして千歌は彼女にも「ライブ来てね?」と花丸にチラシを渡し、その言葉を聞いて反応したのか、花丸の後ろに隠れていたルビィが食いつくように飛び出して来た。

 

「やるんですか!?」

「えっ……?」

 

しかし、すぐに気恥ずかしくなったのか、ルビィはまた花丸の後ろに隠れてその場に膝を抱えてしゃがみ込んでしまう。

 

「絶対満員にしたいんだ? だから来てね? ルビィちゃん?」

 

千歌は優しい口調でルビィにチラシを渡し、その様子を見ていた無爪はというと……。

 

「……姉の嫌いなものを自分も嫌わないといけない……かっ」

 

今の光景に何か思うことがあったのか、彼はそんなことを呟いていた。

 

それから千歌はまだチラシを配らないといけないからと別れを告げて立ち去ろうとするのだが、そこでルビィに「あ、あのぉ!!」と呼び止められる。

 

「えっ?」

「ぐ、グループ名は……なんて言うんですか!?」

「グループ……名?」

 

千歌はルビィに言われてそこで未だにまだ自分達のスクールアイドルのグループ名を考えていないことに気づき、彼女は「あっ……」と小さく呟いた。

 

「やれやれ、千歌ねえらしいと言えばらしいけど……」

 

そして近くで話を聞いていた無爪も千歌に呆れて溜め息を吐くのだった。

 

すると……その時のことである。

 

突如、上空に赤黒い光が現れ、その光はやがてウルトラマンにも酷似した姿……「ダークロプスゼロ」となって地上に降り立ったのだ。

 

「うわあ!? なにあれ!? ウルトラマン……?」

 

突然現れた千歌達ははダークロプスゼロに驚くが……、無爪は直感からか、ダークロプスゼロがすぐにウルトラマンではないことを感じ取った。

 

「違う、アレはウルトラマンじゃない!! 千歌ねえ達は早く逃げて!!」

「あっ! なっちゃん!!」

 

無爪は千歌達にそれだけを言うと彼はすぐさまどこかへと走り出し、またダークロプスゼロは腕をL字に組んで放つ必殺光線「ダークロプスゼロショット」を放って1つのビルを粉々に破壊した。

 

「ピギャアアアア!!?」

 

突然の出来事にルビィは驚きの声をあげ、千歌は「みんな兎に角逃げよう!!」と言って彼女は曜、梨子、ルビィ、花丸を連れてすぐにその場から走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

数十分前の宇宙……。

 

そこでは突如、丸い穴のようなものが開き、その中から銀色の鎧「ウルティメイトイージス」を纏った戦士「ウルティメイトゼロ」が姿を現した。

 

だがゼロは「うぐっ……!?」っと苦しそうな声をあげた後、ウルティメイトイージスは「ウルティメイトブレスレット」というブレスレットに変形。

 

ゼロの左腕に装着されるのだがブレスレットには所々に亀裂が入っており、ゼロはブレスレットをジッと見つめる。

 

『ありがとよ、ウルティメイトイージス……。 調子が戻ったらその内直してやるからな』

 

そしてゼロは視線を別の方向へと映すと、そこには1つの地球があった。

 

『キングの爺さん、久しぶりだな。 俺の声聞こえてるか?』

 

その後、ゼロは人目のつかないところで地球人としての姿……「モロボシ・ラン」へと変わって地球に降り立ち、彼はかつてのクライシス・インパクトで街に何か影響が出ていないか確認するため、歩き始めるのだが……。

 

「ぐっ……!? 地球人の姿になっても、身体へのダメージはやっぱり残ったままか……」

 

ランは古傷を押さえつつも再び歩き出し、しばらく街を歩いているとビルに設置された巨大なテレビ画面にのニュースでスクールアイドルと思わしき少女達の特集が取り上げられており、その中には現役時代のμ'sの姿も確認でき、ランはそれを見て少し驚いた様子を見せる。

 

「ありゃ、穂乃果達か? 成程な、この世界はどうやら、オーブのところと似た世界らしいな。 だがこの世界にも穂乃果達までいるとは驚いた……。 まぁ、アスカやコウマのどちらの世界にも響達とかがいたし、不思議じゃないか」

 

そう呟きながらランがまた歩き始めようとしたその時、突如として黒い光のようなものがどこからか放たれ、ダークロプスゼロが出現。

 

ダークロプスゼロは現れてすぐさま街を破壊しながら歩き始める。

 

「アイツは……ダークロプスゼロ!?」

 

それに以前対戦したことのあるダークロプスゼロを見てランは驚きの声をあげる。

 

さらにランはダークロプスゼロが元々はベリアルが作った「ダークロプス」というロボットだったことから、彼はまさかベリアルが生きているのかと考え、真相を確かめる為にもランはゼロに変身しようと変身アイテム「ウルトラゼロアイNEO」を取り出すのだが……。

 

『ウルトラマンジード! プリミティブ!』

 

そこに、ダークロプスゼロに対抗するため無爪が変身した「ウルトラマンジード プリミティブ」が現れ、ジードはジャンプして勢いをつけて拳をダークロプスゼロに叩き込む。

 

『ぐぅ!? いったぁ~!!? ってか硬い……!』

 

しかし、ジードはダークロプスゼロの予想以上の硬さに手をブンブン振り、その隙にダークロプスゼロはジードの肩を掴んで胸部を殴りつける。

 

『ウグァ!!?』

「アレは……! あの目は、ベリアル……!? いや、似ているが……違う……?」

 

ランはジードを見て一瞬自身の宿敵でもあるベリアルかと思ったが……。

 

ジードからはベリアルほど邪悪な気配を感じなかった為、即座にジードがベリアルではないことを理解した。

 

そしてジードは今度はダークロプスゼロに蹴りを入れようとするのだが、ダーロプスゼロは膝を曲げてそれを受け止め、ジードの右肩にチョップを叩きこむ。

 

『グア!?』

 

さらに続けざまにダークロプスゼロは2回連続で拳をジードに叩き込み、最後に腹部にストレートキックを炸裂。

 

『ウワアア!!?』

 

蹴り飛ばされ倒れるジードだが、なんとか立ち上がってジャンプし、ダークロプスゼロの背後に回り込むと後ろから掴みかかってバックドロップを決める。

 

『オリャアア!!』

 

それを喰らいながらもダークロプスゼロはなんとかすぐにジードから離れ、多少はダメージはあったのか若干フラつく。

 

しかしダークロプスゼロはすぐに体勢を立て直し、単眼から発射する破壊光線「ダークロプスメイザー」をジードへと撃ち込む。

 

『ウルトラマンジード! トライスラッガー!』

 

それに対してジードは「トライスラッガー」となるとジードは3つのアイスラッガーを操って扇風機の容量で光線をかき消そうとするのだが……ダークロプスメイザーはそれを撃ち破ってジードに直撃する。

 

『シェアアア!!!?』

 

火花を散らして倒れ込むジード、ジードはアイスラッガーの1つを頭部に戻した後、なんとか立ち上がって2つのアイスラッガーを両手に持ってダークロプスゼロに向かって接近。

 

それに対してダークロプスゼロも頭部の2本のブーメランである「ダークロプスゼロスラッガー」を両手に持ち、ジードはアイスラッガーを素早く振るうのだが……ダークロプスゼロはトライスラッガーの素早さにもついて行き、ジードのアイスラッガーによる攻撃をことごとく防ぐ。

 

「姿が変わった……。 アレはまかさ、ウルトラカプセル……? アイツが持ってるのか?」

『グッ、こいつ……硬いだけじゃなくて動きも読んでくる……!』

 

先ほどはドレンゲランの時と同じようにアイスラッガーでジードは相手の関節を狙おうとしたのだが、ジードの言うようにダークロプスゼロはこちらの動きを読んでくるため、ドレンゲランと同じようにはいかなかった。

 

さらにダークロプスゼロがジードの攻撃を次に受け流すと近距離からダークロプスメイザーが放たれて直撃し、直撃を受けたジードは膝を突き、ダークロプスゼロはジードにトドメを刺そうとダークロプスゼロスラッガーを振り上げる。

 

しかし、その時、ジードにトドメを刺そうとするダークロプスゼロを見てランはウルトラゼロアイNEOを目に装着する。

 

「デュア!!」

 

するとランは「ウルトラマンゼロ」へと変身し、ダークロプスゼロとジードの間に割り込むようにして現れる。

 

『お前等2人には色々と聞きたいことがある……! 先ずはダークロプスゼロ! なんでテメーがいる!? ベリアルは生きているのか!?』

 

しかし、ダークロプスゼロはゼロの問いかけには答えず、敵意だけを向けてダークロプスゼロスラッガーを構えて襲いかかってくる。

 

『なんとか言えよコノヤロー!!』

 

それに対してゼロも反撃しようと駆け出して行く。

 

戦闘BGM「ウルトラマンゼロ アクション」

 

ダークロプスゼロはダークロプスゼロスラッガーを振るって攻撃するがゼロはそれを頭をしゃがめて回避し、後ろに回り込む。

 

それに気づいたダークロプスゼロは即座に振り返りざまにダークロプスゼロスラッガーを振るうが、ゼロはそれを受け流し、ダークロプス腹部に連続で拳を叩き込む。

 

『デヤアア!!』

 

ダークロプスゼロは一度後退してゼロから距離を取ると額のビームランプから放つ光線「ダークロプスゼロスラッシュ」を放つがゼロはジャンプしてそれを躱し、そのまま右足に炎を宿した跳び蹴り「ウルトラゼロキック」を急降下キックの容量でダークロプスゼロへと叩きこむ。

 

『ウルトラゼロキック!!』

 

それを喰らって身体から火花を散らしてよろめくダークロプスゼロだが……、その時、クライシス・インパクトの時のダメージによってゼロは一瞬苦しそうな声をあげて胸の辺りを右手で押さえる。

 

その隙にダークロプスゼロは腕をL字に組んで放つ必殺光線「ダークロプスゼロショット」を発射。

 

それに対抗するようにゼロもすぐさま左腕を伸ばした後、腕をL字に組んで放つ必殺光線「ワイドゼロショット」を放つ。

 

『ワイドゼロショットォ!!』

 

2人の光線がぶつかり合うが……ゼロの方が威力が上だったらしく、ダークロプスゼロの光線はアッサリとかき消されてゼロのワイドゼロショットがダークロプスゼロに直撃。

 

完全に倒せなかったもののかなりのダメージを受けたダークロプスゼロは部が悪いと思ったのか、ゼロに背を向けてその場から飛び去ってしまう。

 

『逃がすかよォ!!』

 

しかし、ゼロは逃がすまいと頭部の2つのブーメラン「ゼロスラッガー」を胸部のカラータイマーの左右に装着し、エネルギーをチャージしてそこから放つ強力な光線「ゼロツインシュート」を逃げようとするダークロプスゼロに発射。

 

『ゼロツインシュート!!』

 

そしてダークロプスゼロはゼロツインシュートの直撃を受けて空中で爆発し、完全に破壊されるのだった。

 

『はぁ、はぁ、流石に身体へのダメージはそれなりにあるせいで何時もよりは上手く戦えねえな……』

 

するとゼロは話を聞こうとジードの方へと振り返り、肩で息をするジードにゼロは「おい、大丈夫か?」と声をかけるのだが……。

 

『うぅっ……! あなたは……?』

『あっ、オイ!!』

 

そのままジードはその場に倒れ込み、それと同時に変身が解除されて無爪の姿へとジードは戻ってしまう。

 

そんな倒れ込んだ無爪の元に「大丈夫!?」と声をかけながら心配そうにペガと千歌が駆けつける。

 

『……仲間がいるのか?』

『い、行こう無爪!』

 

今は無爪の身体を安静にさせるべきだと考えたペガは取りあえずはゼロのことは置いておいて一旦秘密基地の「星雲荘」に行こうということで一同はその場を離れ、ゼロは「オイ!」と声をかけようとするのだが、その時……ゼロの目に崩れ落ちそうなビルが彼の目に飛び込んできた。

 

そしてビルが崩れて瓦礫が1人の小学生の少年目がけて降り注ごうとし、それをあのレイジという1人の男性がその少年の元に「危ない!!」っと駆け出そうとするのだが……。

 

その際、足下にあった「バナナの皮」に気づかず、レイジはそれを踏んづけてツルっとその場に盛大に倒れ込んでしまったのだ。

 

「うわあああ!!?」

 

しかも運の悪いことにバナナの皮を踏んづけてしまったことで道路にいきなり飛び出した形となり、1台の運転中のトラックと衝突してしまうのだった。

 

 

 

 

それからしばらく経った後の星雲荘にて……。

 

「いやぁ、曜ちゃんや梨子ちゃんに色々と誤魔化すの大変だったね? 私も途中で2人とはぐれちゃってなっちゃんを探しに行っちゃったから後で合流した2人から怒られるし」

「うん、今度からもう少し心配かけないようにしないとね……」

 

今は無爪は傷を癒やすことと倒されたとはいえ念のために敵の情報を知ること、そしてあのウルトラマンゼロについてのことを知るために、無爪、千歌、ペガはこの場所に訪れており、先ずはレムに頼んでゼロのことを調べて貰うことにした。

 

「っていうか、私、初めてこの秘密基地に来たけど凄いね~! カッコイイ!!」

 

千歌は興味深そうに辺りを見回し、それに対して無爪は「でしょ!」と言ってどこか自慢げな表情を浮かべる。

 

『あっ、2人とも! データ出たみたいだよ!』

 

ペガの声を聞いて無爪と千歌の2人は部屋の中央に出されたモニターに視線を送り、そこではゼロが今日戦ったダークロプスゼロと戦闘を行っている映像が映し出されており、レムはゼロについての説明を行う。

 

『彼の名前はウルトラマンゼロ、ベリアルと敵対するウルトラの星の戦士です』

「えっ? ってことは、僕のこと捕まえに来たのかな……? 僕が、ベリアルの息子だから……」

 

レムの話を聞いて無爪は不安な気持ちになるが、そんな無爪の気を使ってか千歌は「大丈夫!!」と言って無爪の両手を握りしめる。

 

「なっちゃんは何も悪いことなんてしてないもん!! 捕まる理由なんかないし、例えそうだとしても私がどうにかゼロに話を聞いて貰えるように説得する!!」

「う、うん……! ありがとう、千歌ねえ……。 でも、あの……」

 

両手を握られ、顔を赤くしてドギマギする無爪に千歌はキョトンっとした表情をしながら不思議そうに首を傾げる。

 

「あ、あの……! その、なんていうか、手を握られるのちょっと恥ずかしいっていうか……」

「あっ……」

 

無爪にそう言われて彼の両手を握りしめている自分の両手に視線を送り、そこで彼女は急に恥ずかしくなったのか千歌はパッと急いで手を離し、「あ、あははは!」と笑って誤魔化す。

 

「ご、ごめんね?」

「い、いや……」

 

ただ手を離された無爪はどことなく名残惜しそうにしており、同時にまた「千歌ねえの手、柔らかかった……」などと考えていたりするのだった。

 

『ところでアレは? ウルトラマンゼロに似てる! 親戚かな?』

「いや、親戚だったらゼロが倒すのおかしくない?」

 

ペガがダークロプスゼロの方へと指差すとレムはすぐにダークロプスゼロのことについての解説を行う。

 

『ダークロプスゼロ、かつてゼロを模して作られたロボット兵器です』

「成程、通りで硬い訳だ……。 しかもドレンゲランと違って機動性は高いみたいだし、あの時みたいに関節を狙うのは難しかったよ」

 

取りあえず、何にしてもゼロがダークロプスゼロが倒してくれたおかげでファーストライブのことにも心置きなく集中できるし、しばらくは大丈夫かもしれないということで千歌はライブのことは自分達に任せて無爪は寝て傷を治すように言い、彼を寝かしつけるのだった。

 

「なんだったら眠れるまで子守歌でも歌ってあげようか?」

 

「ニシシ♪」とからかうように笑う千歌に無爪は「いらないよ!」とふて腐れたように言い返す。

 

「第一、僕もうそんなに子供じゃないし!!」

「まぁ、何にしてもしばらくはここで休んでて。 それじゃ私は梨子ちゃん達と一緒にグループ名考えなくちゃいけないから!」

 

千歌はポンポンっと無爪の頭を軽く撫でたあと、彼に手を振ってからエレベーターに乗り、地上へと戻るのだった。

 

 

 

 

とある病院にて……。

 

そこでは少年を助けようとトラックに轢かれ、瀕死の重傷となったレイジが運び込まれており、彼の命はもう長くは持ちそうには無かった。

 

「ご家族にはもう連絡した?」

「いえ、まだ……」

「ちょっともう、急がないと!」

 

病院の看護師達がそんな会話をしているとレイジの前に周りには見えないようにしたゼロが現れたのだ。

 

『見てたぞ? お前は少年を助けようとした。 顔は怖いけど良い奴じゃねえか、気に入ったぜ』

 

ゼロはそう言い終わった後、彼の命を救うためにゼロはレイジの身体の中へと入り、レイジとゼロは同化……。

 

すると、ゼロがレイジと同化したことにより、彼の負っていた傷は瞬時に回復し、一気に生命力の戻った彼は突然パチリと目を覚まし、起き上がった。

 

「あ、あれ!? えっ!? なに!? ここは!?」

 

突然起き上がったレイジに看護師達は驚き、「きゃああ!?」と悲鳴をあげるが……そんなことは露知らず、レイジは自分の腕時計を見て「ヤバい!?」と言って病院を飛び出すのだが……。

 

「あれ? なんだこれ?」

 

その時、胸の内ポケットに違和感を感じたレイジは変わった形をしたメガネのようなアイテムを取り出すのだが……すぐに今はこんなことをしている場合ではないと考え、近くのタクシー乗り場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

夕方、海辺にて……。

 

そこでは準備運動をしながら自分達スクールアイドルのグループ名のことを話し合っている千歌、梨子、曜の3人の姿があった。

 

「まさか忘れてたなんて……」

 

梨子が呆れた様子で言うが……。

 

「梨子ちゃんだって忘れてた癖に!」

 

と千歌も言い返す。

 

「兎に角、早くグループ名を決めなきゃ!」

「そうだよねぇ……。 どうせなら、学校の名前が入ってる方が良いよね? 『浦の星・スクールガールズ』とか?」

 

しかし、そのグループ名には「まんまじゃない!」が梨子がツッコミを入れて却下。

 

すると千歌は「じゃあ、それなら梨子ちゃんが決めてよ」と無茶ぶり気味なことを言われて梨子は「えっ!?」と一瞬戸惑う。

 

「そうだね! ほら、東京で最先端の言葉とか!」

「そうだよそうだよ!」

 

曜と千歌に言われて梨子は「えーっと」と呟きながら少し考え込む。

 

「じゃあ、3人海で知り合ったからスリーマーメイドとか……?」

 

少し自信なさげな様子で梨子はそうグループの名前の案を出すのだが……。

 

あまりにもあんまりなネーミングだったのがいけなかったのか、千歌と曜はスルーして準備運動に戻る。

 

「待って! 今の無し!!」

 

それから3人は体力作りのジョギングを行いながら話の続きをし、千歌は曜にもなにか良い名前が無いかと尋ねるのだが……。

 

「『制服少女隊』!! どう?」

 

曜はそう言いながら自信ありげに敬礼しながら提案するのだが、千歌と梨子からは「無いかな?」「そうね」と見事に却下され、却下された曜は「えぇー!?」と驚きの声をあげてショックを受ける。

 

それから3人は砂浜に木の棒で色々なグループ名を考えては書き込んで行くのだが、やはり良いのが無く、中々決まらなかった。

 

「ねぇ、無爪くんにも電話で聞いてみたら? ほら、無爪くんってヒーロー好きだからカッコイイ名前の案とか出るかも……」

 

梨子は無爪にもグループ名を考えるのを協力して貰ってはどうだろうかと言うのだが、それには曜も千歌も反対だった。

 

「無理無理、なっちゃんに頼んだらそれこそスクールアイドルとは思えない名前になるよ。 ドンシャインに因んで『爆裂アイドル戦記』とかいう名前になるよ絶対」

「うんうん、他にもなっちゃんが考えそうなのは超人機なんたらとか特警なんたらとかになるよ多分」

 

千歌と曜のその説明に梨子は「成程、確かにあり得るかも……」と納得し、結局無爪に頼む案も無くなってしまう。

 

「こういうのはやっぱり言い出しっぺがつけるべきよね?」

「賛成!!」

 

と梨子と曜が言いだし、千歌は「戻ってきた!?」と頭を抱える。

 

「じゃあ制服少女隊でも良いって言うの!?」

「スリーマーメイドよりは良いかな……?」

「それは無しって言ったでしょ!?」

「だってぇ~」

 

千歌と梨子がそんな会話をしていると不意に千歌はすぐ近くに書いてあった名前に気づいて視線を送り、それに釣られるように梨子と曜も千歌と同じ方向へと視線を向けるとそこには砂の上に「Aqours」と書かれた文字があったのだ。

 

「これ、なんて読むの? えーきゅー、あわーず?」

「アキュア……?」

「もしかして『アクア』?」

 

曜の言葉に梨子は「水ってこと?」と尋ねると彼女は「うん」と頷く。

 

「……水かぁ。 なんか、よくない? グループ名に!」

「これを!? 誰が書いたのか分からないのに……」

 

千歌の意見に梨子は少し不満げな様子を見せるが……千歌曰く「だから良いんだよ!!」とのこと。

 

「名前決めようとしている時にこの名前に出会った! それって、凄く大切なんじゃないかな!?」

 

「そうかもね!」

「このままじゃ決まりそうもないし」

 

そんな千歌の言葉に曜と梨子も納得し、彼女達のグループ名はスクールアイドル「Aqours」に決定するのだった。

 

「この出会いに感謝して……! 今から! 私達は……! 浦の星学院、スクールアイドル!! 『Aqours』!!」

 

また、そんな時のことである。

 

しょんぼりとした様子で海辺の近くを歩いて帰っていたレイジが近くにやってきたのは。

 

「はぁ~……」

 

何やら落ち込んだ様子で肩をガックリと落とすレイジに、レイジと同化したゼロが心配して話しかける。

 

『なんでショゲてんだ?』

「今日、東京からこっちの学校に転勤して明後日から早速教師として行くことになったんですけど、前の日に色々手続きなんかもあって……。 でも今日その手続きの約束の時間に遅刻しちゃったから『やる気があるのか』って怒られて……」

 

レイジはその場に蹲ってしょんぼりとした様子で自分が落ち込んでいる理由を話す。

 

『成程な。 でもまぁ、あのダークロプスゼロの騒ぎに巻き込まれたんだから遅刻するのはしょうがねえだろ』

「あっ、そっか! ちゃんとその辺説明してませんでした! 急いでたから忘れて……んっ?」

『んっ?』

 

そこでようやくレイジは自分が見えない誰かと話していることに気づき、彼は「えっ? えっ!?」と戸惑い、辺りを見回すが自分のすぐ周りに人はおらず、頭を抱えて半分パニックを起こす。

 

「えっ、なんですかこの声!? ままままま、まさか!! おばおばおば……!!」

『お化けじゃねえよ! 俺はゼロ、ウルトラマンゼロ。 お前の命を助けるにはこうするしかなかった』

 

レイジは取りあえず耳を塞いでみるが、耳を塞いでいてもゼロの声は聞こえ、レイジはますますパニックを起こす。

 

「耳塞いでも聞こえるんだけど!?」

『そうだよぉ~』

「なななな、なにこれ怖い!!? おばおば……! お化けさんごめんなさい!! マジですいません!! 何がいけなかったのか分からないけど兎に角すいませえええええええん!!!!」

 

パニックのせいでゼロの話があまり聞いていないレイジはその場で土下座して未だにお化けと勘違いしているゼロに対して必死に何度も頭を下げる。

 

さっき子供を助けようとした男の姿はどこに行ったんだと言いたくなるくらいのヘタレっぷりにゼロは少しばかり呆れるが……ゼロは「いいから黙って聞け!!」と大声で言い放ち、それに対してレイジもビビりながらも「は、はいぃー!!」と返事をして言われた通りしばらく黙ることに。

 

『えぇっと、じゃあ話を戻すけど……。 命を助けるにはこうするしかなかった。 身体を一体化させ、お前の身体の傷を癒やした。 一体化には俺にも利点がある。 前の戦闘で深いダメージを負い、まだ治ってない。 お前の身体の中に入らなければ俺は地球で長時間の活動ができないんだ』

 

またゼロは一応、人間態でもある「モロボシ・ラン」になることは出来るが、それでも身体のダメージを完全に無くすことは出来ないのだということも説明し、同化の方がダメージを人間態の時よりも最小限に抑えられるというのだ。

 

『だからそうだな~。 まぁ、つまり、Win-Winの関係だな。 説明終わり! 分かったか? あっ、喋って良いぞ』

「いや、何を言ってるのかやっぱりよく分からな……」

 

その時、「ちょっと何するんですか!!」という聞き覚えのある声が聞こえ、レイジが声のした方に顔を向けるとそこには海辺で練習していた千歌達に4人のチンピラがナンパしていたのだ。

 

「君たち可愛いね~! なにしてんの?」

「え、えっとスクールアイドルのダンスの練習を……」

 

チンピラの質問に素直に答える千歌に梨子は「こんな人達に答えなくて良いわ!」と注意するのだが、そんな梨子の腕をもう1人のチンピラが掴む。

 

「こんな人達なんて酷いね~! 俺達傷ついちゃう!」

「梨子ちゃんを離して!!」

 

すると今度は曜が梨子の腕を掴んでいるチンピラの腕を引き離すのだが、それでもチンピラ達は千歌達にべたべたと触って来ようとする。

 

「スクールアイドルって今流行のやつだっけ? そんなものよりさ~、もっと楽しいことしようよ!」

 

リーダー格のチンピラがそう言って千歌達3人をどこかに連れ去ろうとし、それを見ていたレイジは……。

 

「あわわわ! たたたた、大変だ!! 曜ちゃん達が! な、なんとか助けないと……!」

『随分下らねえことしてんな。 おい、ちょっと身体借りんぞ?』

「えっ? 借りるって……」

 

するとゼロはレイジの意識を乗っ取って文字通り身体を借りると彼は素早く千歌達の元へと駆け寄り、彼女達の腕を掴みチンピラ達の腕を素早く振り払う。

 

「っ、なんだテメェ!!?」

 

チンピラ達はレイジの人相の悪さに少しビビるが、それでも臆せず怒鳴り声をあげてチンピラAがレイジに殴りかかるがレイジはそれを片手で受け止めて右拳を振り上げるのだが……。

 

(んっ? ちょっと待てよ、教師が暴力沙汰ってまずいよな?)

 

と考え、拳を下ろすと今度は後ろから回り込んだもう1人のチンピラBが殴りかかる。

 

しかし、レイジは拳を掴んでいたチンピラを盾にし、盾にされたチンピラは仲間の拳を顔面に受けて軽く吹き飛ぶ。

 

さらに今度は別のチンピラCが背後から殴りかかるのだが、レイジはジャンプしてチンピラBの後ろに回り込み、今度はBを盾にしてCはBを殴ってしまう。

 

「ぐふ!?」

「コノヤロー!!」

 

すると今度はリーダーがレイジに襲いかかるのだがリーダーの攻撃を受け流しつつ、一瞬の隙を突いて額にデコピンを喰らわせる。

 

「げふ!?」

 

『さてと、それじゃちょっと失礼しようか』

「「「わわわ!?」」」

 

そう言ってレイジはチンピラのリーダーが倒れている隙に千歌、梨子、曜の3人を纏めて抱えるとそのままスタコラさっさとその場から逃げ出すのだった。

 

「いやぁ、ありがとうね? レイジお兄ちゃん!」

「えっ? あっ、うん……。 どういたしまして」

 

それから一定の距離まで逃げ切ったゼロは意識をレイジに返し、曜達からお礼を言われるのだが……助けたのは自分ではないので何とも微妙な気持ちだった。

 

「それにしても、これじゃ今日は海で練習はできないわね……」

「うん、取りあえず今日はここまでかな……」

 

千歌と梨子は残念そうにしつつも今日はお開きということになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから千歌はレムから持たされた通信機でまだ無爪が星雲荘で休んでいるということを聞いて迎えに行こうと思い、無爪の元へと訪れる。

 

「なっちゃ~ん? もう大丈夫?」

『彼の名はウルトラマンジード、敵ではありません。 運命に逆らい、立ち上がる者です。 無爪、これで良いですか?』

「……なにしてんの?」

 

そこでは無爪が世間やゼロに対して自分は脅威ではないということを知らせるためにレムに文章を作らせており、そんな時に丁度千歌がやってきて彼女は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。

 

「僕が世間に敵じゃないって知らせる為のメッセージをマスコミに送ろうと思って? それにゼロにも……」

「まぁ、確かに少しは効果があるかもしれないけど……『運命に逆らい、立ち上がる者』ってところはちょっとかっこ付けすぎじゃ無い?」

「えぇ~? そうかなぁ? まぁ、取りあえずこれで送るよ! レム、お願い」

 

無爪の言葉にレムは「了解しました」と返事をし、先ほどの文章をマスコミ宛てにメッセージを送るのだった。

 

「ところであのゼロって、僕の父さん……やっぱりベリアルと何かあったのかな?」

 

そこで無爪はフッと疑問におもったことを口にする。

 

「あぁ~。 そう言えば、クライシス・インパクトってベリアルと色んなウルトラマン達が戦ったって噂もあるし、その中にゼロもいたのかな?」

『はい、この宇宙はその影響で崩壊寸前にまで陥りました』

 

千歌と無爪が疑問に思ったことに対してレムがそう解答し、2人は「成程……」と納得する。

 

するとその時、パソコンを弄っていたペガがネットで何かを発見し、2人を呼んでパソコンの画面を見せる。

 

『ねえ! これ見て!』

 

無爪と千歌はパソコンの画面を覗き込むとそこには1人のまだ小学生くらいの少年が映し出されており、少年の頭上から瓦礫が振ってくるのだが……。

 

その瓦礫は少年の頭上に突然現れた光のバリアによって防がれ、少年は無傷だった。

 

『不思議な力……。 これってもしかして梨子ちゃんの時と同じあの不思議な力じゃ?』

「確か、リトルスター……。 早く探さないと……」

「ここってもしかして、今日行った沼津駅の近くじゃない?」

 

千歌の言う通り、動画が投稿された日が今日であることやこんな災害があった場所なんてダークロプスゼロが現れた辺りしかない。

 

それに明日もここでチラシを配る予定なので、その時に探そうということになるのだった。

 

「明日が学校じゃなければもっと早く探しに行けるんだけどなぁ……」

「しかも私は明日は町内放送で梨子ちゃんと曜ちゃんと一緒に宣伝しないといけないからなぁ……。 なっちゃんは先に行っといて貰える?」

 

千歌の言葉に無爪は「うん、分かった」と頷く。

 

 

 

 

 

そしてその翌日、千歌たちは町内放送でライブの宣伝をしていた。

 

「「「浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursです!!」」」

「待って! でもまだ学校の承認もらってないんじゃ?」

 

しかしそこで梨子があることに気づき、彼女に指摘され、千歌は「だぁー!?」と頭を抱える。

 

「じゃあ、えーっと……。 浦の星学院非公認アイドル! Aquaです!! 今度の土曜、14時から浦の星学院体育館にてライブを……!」

 

千歌は一応訂正を入れつつもライブの開催場所と時間を伝えようとする。

 

「非公認というのはちょっと……」

 

しかし、そこで梨子が「非公認」というのはいかがなものかとと言ってきたため、千歌は困り果てた表情を浮かべる。

 

「じゃあ、なんて言えば良いの~!!」

 

そして彼女の叫びは駅に向かって歩いていた無爪にも聞こえ無爪は呆れたような顔をしていた。

 

「はぁ、なにしてんだかバカ千歌ねえは……」

 

ちなみにペガは星雲荘で待機している。

 

 

 

 

同じ頃……とある喫茶店のとある席にて……。

 

そこではスカルゴモラに変身したり、ドレンゲランを呼び出したりした中性的な顔立ちの黒いスーツを着込んだ人物……「荒井」が椅子に座ってコーヒーを飲んでおり、彼は小説家としても活動しているため、今はその小説の編集者と打合せ中だった。

 

「先生、重版決まりました! おめでとうございます!」

「……そうですか」

「編集長も喜んでました!」

 

嬉しそうにそう荒井に対して語る編集者だったが、編集者は荒井がどこか暗い雰囲気を出していたことに気づき、何か嫌なことでもあったのかと問いかける。

 

「……気の合わない相手と、久しぶりに会うかもしれないのです。 あなたにもいるでしょう? そういう人が……?」

「は、はぁ……?」

 

すると荒井は窓の外を見つめ、その先には少し離れた場所から光の柱のようなものが立っていたのだが……それは荒井にしか見えなかった。

 

「気分次第でついたり消えたり……」

 

 

 

 

 

無爪が沼津に到着してから数十分後、彼はペガと一緒にあの動画に映っていた少年を捜し回っていたのだが……中々発見することができないでいた。

 

そんな時、チラシ配りを終えた千歌も合流し、一緒に探すことになるのだった。

 

「って千歌ねえ、曜ねえと梨子さんはどうしたの?」

「えーっと、『なっちゃんと一緒に寄るところがあるから先帰ってて良いよ』って言って先に帰らせたよ」

 

それに対して無爪は「ふーん、そっか」とだけ返すのだが……気のせいか、千歌の顔が少し赤かった。

 

「千歌ねえ? なんか顔赤いけど大丈夫?」

「へっ!? あ、イヤ、大丈夫大丈夫!!」

 

千歌は笑って誤魔化し、彼女は梨子と曜と別れる際に言われた言葉を思い出していた。

 

『無爪くんと一緒に寄るところ……。 それって……』

『デートだね』

『デートね』

『ち、違うよぉ!』

 

なんて2人にからかわれ気味に言われたものだから千歌は変に無爪を意識してしまい、彼女はまたも顔を赤くしてしまい、無爪に心配されるのだった。

 

(うぅ~。 もう~! 2人が変なこと言うからぁ~!)

 

すると・・・・・・。

 

2人が河原の辺りを歩いていると無爪が突然「あっ!」と声をあげ、隣を歩いていた千歌は「どうしたの?」と尋ねると無爪はある場所を指差す。

 

そこにはあの動画に映っていた少年が積み重ねた石をジッと見つめて立っていたのだ。

 

そして少年は右手に光を宿して石に向かって振り下ろすと石は見事に真っ二つに割れ、それを目撃した無爪と千歌は間違いなくあの少年がリトルスターの保有者であることを確信する。

 

「見つけた!!」

「行こうなっちゃん!!」

 

千歌の言葉に頷き、無爪と千歌の2人はすぐさま少年の元へと駆け寄る。

 

「探したぞ少年! ってん? あぁ!?」

 

すると無爪は少年の背負っていたランドセルについていたドンシャインのキーホルダーを発見し、彼は思わず大きな声を出して隣にいた千歌は思わず肩をビクリと振るわせてしまう。

 

そして少年はというと何も言わずにいきなり逃げだそうとし、慌てて千歌は少年の手を掴む。

 

「待って!! って熱!?」

 

千歌が手を握った少年は梨子の時と同じく熱かった。

 

少年は千歌の手を振り払って逃げようとするが無爪は素早く回り込んで少年の肩を掴んで引き止める。

 

「ちょっと待って!! 少年! そのキーホルダー、どこで買ったの!? 教えてお願い!!」

 

無爪は頭を下げて少年にドンシャインのキーホルダーをどこで買ったか聞こうとし、そんな無爪に千歌は呆れた表情を浮かべる。

 

「なっちゃん、今それどころじゃ……」

「それどころだよ!! ドンシャインだよ!?」

 

 

 

 

 

また、同じ頃……別の場所では。

 

『今日は学校とやらには行かなくて良いのか?』

「えぇ、出勤は明日からなんで……」

 

レイジは外を歩きながらゼロとそんな会話をしており、ゼロはレイジの身体の中から街の辺りを見回す。

 

『この街にはもうスッカリ破壊のあとは見当たらないな』

「……破壊?」

 

なにやら物騒な言葉が出てきたことにレイジは驚きつつも、どういうことかと尋ねてみるとゼロはかつてこの地球でクライシス・インパクトがあった時のことを説明する。

 

『この宇宙はかつて崩壊寸前の状態まで追い込まれていたんだ。 それを救ったのが、『ウルトラマンキング』の爺さんだ』

 

ゼロが言うにはこの宇宙は今のレイジと同じようにもう少しで死ぬところだったらしく、彼等ウルトラマンは身体を一体化させることで相手の傷を癒やすことができる。

 

それの応用とも言える形でキングはこの宇宙と一体化したというのだ。

 

『しかし、宇宙は幾ら何でもデカ過ぎた。 宇宙の崩壊は間逃れたが、キングの爺さんは宇宙全体に拡散し、呼びかけても返事がない』

「……知らなかった……。 あっ! それじゃ、テレビで言ってたベリアルのことっても?」

『全部本当だ。 だが、まだ終わっていない。 騒動の最中、光の国で開発された強力なアイテムが何者かに盗まれて行方不明だ。 俺はそれを探しに来た』

 

そこでレイジは「あるもの? それって……?」と尋ねる。

 

『戦況を覆し得る、究極の力。 無限の可能性……。 それは、『ウルトラカプセル』だ』

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、さらに別の場所では……。

 

人気のない場所に荒井は立っており、1つの「怪獣カプセル」を取り出し、それを起動させる。

 

「ダークロプスゼロ」

 

それを装填ナックルに入れ、ライザーでスキャンさせた後、ライザーを空に向けて掲げるとそこから紫の光が放たれる。

 

「エンドマークを打ってこい!」

『ダークロプスゼロ!』

 

やがてその光は昨日ゼロに倒されたのと同じ、「ダークロプスゼロ」となって街中に出現したのだ。

 

 

 

 

 

 

場所は無爪達のところへと戻り……。

 

ダークロプスゼロは無爪達からも近い場所に出現しており、無爪と千歌は昨日倒された筈のダークロプスゼロがまた現れたことに驚きを隠せないでいた。

 

「あれって昨日ゼロが倒したのに!?」

「それより今は! 少年! 君は狙われてる! 早く逃げろ!!」

 

無爪はすぐに少年に逃げるように言うのだが、少年は「イヤだ!」と言って言うことを聞かなかった。

 

「この力でみんなを守るんだ!!」

 

そう言いながら少年はダークロプスゼロに向かって走って行ってしまう。

 

「あっ! ちょっと!? もう! 子供って面倒だね!?」

「千歌ねえ、ブーメランって知ってる? 取りあえず千歌ねえはあの子をお願い! その間に僕は!!」

 

無爪の言葉に千歌は頷いて少年を追いかけ、無爪はジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと腰のカプセルホルダーの始まりの巨人「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現する。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルをナックルに装填させた後、さらにそれとは別に最凶最悪のウルトラマンと呼ばれた「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

「はああ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

「あれは……!」

 

また、ジードの出現にあの少年は立ち止まって嬉しそうな表情を浮かべ、それと同時に千歌も少年に追いつく。

 

(……なっちゃん……)

 

ジードは出現と同時に跳び蹴りをダークロプスゼロへと放つのだが……。

 

ダークロプスゼロは両手を交差してそれを防ぎ、逆にその身体の硬さ故に逆にジードの方が弾き飛ばされてしまう。

 

『ウワアア!!?』

 

空中でバク転し、どうにか着地するジード。

 

『今度こそ僕が勝つ!!』

 

ジードはそう言いながらダークロプスゼロに向かって行き、ダークロプスゼロの胸部を殴りつけるのだが「カーン!」という音が聞こえ、逆に自分の方がダメージを受けてしまう。

 

『っ~~!!』

「うわぁ、やっぱり痛そう……」

 

そしてそれを見て千歌は小さくそう呟く。

 

『こんのぉ!!』

 

ジードはさらにダークロプスゼロを殴りつけようとするのだが、ダークロプスゼロはその手を掴み上げてジードの顔面を殴りつける。

 

『ウグッ!? シェアアア!!!!』

 

一度距離を取ってから勢いをつけてジードは走り出し、ドロップキックをダークロプスゼロに放つのだが……ダークロプスゼロはジードの両足を掴み取り、フルスイングして投げ飛ばす。

 

『シュアア!!?』

 

投げ飛ばされたジードはビルに激突し、崩れたビルの瓦礫に埋もれてしまう。

 

それでもどうにか立ち上がり、ダークロプスゼロに向かって行くジード。

 

「ウルトラマンゼロ、どこに隠れている! そちらが出ないのであれば、こうするまでだ!」

 

また荒井は新たな2つのカプセルを1つずつ起動させ、1つずつスキャンしてライザーを掲げる。

 

「お前達もエンドマークを打ってこい!」

『ダークロプスゼロ!』

『ダークロプスゼロ!』

 

それによってジードの周りに新たなダークロプスゼロが2体出現し、ジードは「増えた!?」と驚きの声をあげる。

 

『残存していた試作機か、もしくは量産された個体と推測されます』

 

レムへの説明を受けて、それで昨日倒されたダークロプスゼロが今日もまた新しく出現したのかとジードは納得したのだが……。

 

『って今は納得とかしてる場合じゃないか!』

 

3体のダークロプスゼロは一斉にジードへと向かって行き、1体は拳をジードに叩き込み、さらにもう1体はジードに鋭い蹴りを喰らわせ、さらに最後の1体が回し蹴りをジードへと喰らわせ……ジードは身体から火花を散らして倒れ込む。

 

『ウグゥ……!?』

 

また別の場所から戦いの様子を見ていたレイジとゼロはというと……。

 

「ひぃ~! なんか凄いことになってる!? ってアレ? ゼロさんは……その、行かないんですか……?」

 

少しレイジは恐る恐るゼロに尋ねるとゼロ曰く今は「様子見」だそうだ。

 

それを聞いてレイジはホッとした表情を浮かべる。

 

『古傷のせいで俺への変身時間は限られている。 それに、アイツを見極めたい』

 

そしてジードはというと……。

 

ダークロプスゼロが自身の単目から放つ破壊光線「ダークロプスメイザー」を3方向から同時に喰らい、大ダメージを受けてジードは倒れ込んでしまう。

 

『グウウウ……!?』

 

さらに倒れ込んだジードをダークロプスゼロの1体が首を締め上げながら持ち上げる。

 

「このままじゃ……ジードが負けちゃう……!」

 

千歌は不安そうな顔を浮かべながらそう呟くが……。

 

「そんなことない!! 僕は知ってるんだ!! ウルトラマンは、必ず勝つって!!」

 

そんな千歌の言葉を否定するように、少年はそう叫んだのだ。

 

「頑張れ……頑張れ!! ウルトラマンジード!! 頑張れー!!」

 

少年は必死に恐らく昨日のテレビのニュースの放送で知ったであろうジードの名を呼びながら彼を応援する。

 

一方でレムは通信でジードに撤退を提案するのだが……。

 

『ぐぅ……! 待って! 聞こえる……! 僕を、呼んでる!!』

 

ジードはダークロプスゼロに首を締め上げられながらも視線を少年の方へと向ける。

 

「頑張れええええ!!!! ウルトラマンジード!! 頑張れえええええ!!!!」

『名前だ……! 僕の名前を呼んでる!!』

 

すると少年の胸から光が溢れ、それは少年と分離してジードのカラータイマーの中へと入ると無爪の元へと行き、『ウルトラセブンカプセル』として起動したのだ。

 

『ジェアアアア!!!!』

 

ジードは力を振り絞って両足を振り上げ、ダークロプスゼロの腹部を蹴りつけてどうにか相手を引き離す。

 

『ウルトラセブンカプセルの起動を確認しました。 無爪、カプセルの交換を』

「……よし!! ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

そして無爪はジードライザーを構え、セブンカプセルを起動させる。

 

『融合!』

 

するとカプセルの中から赤い戦士の「ウルトラセブン」が出現する。

 

『アイ、ゴー!』

 

さらに無爪は赤き獅子の戦士「ウルトラマンレオ」のカプセルを起動させるとカプセルからレオが現れる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『燃やすぜ、勇気!!』

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとセブンとレオの姿が重なり合い、赤い鎧を纏ったような姿……「ウルトラマンジード ソリッドバーニング」へと変身を完了させる。

 

『はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!』

『ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード!! ソリッドバーニング!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンジード ソリッドバーニング」

 

「おぉ! 赤くてめっちゃ強そう!!」

『これなら行けるかも!』

 

千歌と星雲荘にいるペガはソリッドバーニングを見て興奮した様子でそう言い、またソリッドバーニングとなったジードを見てゼロも思わずレイジの意識を交換してメガネを外し、驚きの声をあげた。

 

『あの姿は親父と師匠!? やはり、アイツがカプセルを持ってるのか!』

『シェア!!』

 

ダークロプスゼロの1体がジードに向かって駆け出し、右の拳を振るって殴りかかる。

 

それと同時にジードも駆け出して右腕を振り上げて腕部のブースターによる加速を加えたパンチを放ち、2人の拳は激突するが……ダークロプスゼロの腕はジードの放った拳によって破壊される。

 

『ダアアア!!!!』

 

さらにジードは連続で拳を何発も叩き込み、ダークロプスゼロを殴り飛ばし、吹き飛ばされたダークロプスゼロは地面に倒れ込む。

 

『全然痛くない! 鎧を着てるみたいだ!』

 

すると今度は別のダークロプスゼロが胸部を開いてそこにある「ディメンションコア」を展開して放つ光線「ディメンジョンストーム」を放つ。

 

それに対してジードは胸部のプロテクターから発射する光線「ソーラーブースト」を発射。

 

『ハアアア!! ソーラーブースト!!』

 

2人の光線はぶつかり合うが……ダークロプスゼロの光線はあっさりとかき消され、ジードのソーラーブーストがダークロプスゼロに直撃し爆発して倒された。

 

そして今度はもう1体のダークロプスゼロが頭部にある2本のブーメラン「ダークロプスゼロスラッガー」を両手に持ち、ジードに向かって突っ込んでいく。

 

『シュア!!』

 

それに対し、ジードは自身の頭部にあるブーメラン「ジードスラッガー」をダークロプスゼロに投げ飛ばすがダークロプスゼロダークロプスゼロスラッガーで弾き、ジードスラッガーは宙を舞う。

 

『タアア!!』

 

しかしジードは空中に飛んだジードスラッガーをジャンプして掴み、そのまますれ違いざまにダークロプスゼロを斬りつける。

 

腹部に傷を受けるものの負けじとダークロプスゼロはジードに振り返って向かって行き、ダークロプスゼロスラッガーを振るう。

 

それにジードもジードスラッガーを振るってダークロプスゼロの攻撃を防ぎ、ダークロプスゼロスラッガーを弾き飛ばした後、ジードスラッガーを足に装着し、回し蹴りを放つ「ブーストスラッガーキック」をダークロプスゼロに炸裂させる。

 

『ブーストスラッガーキィーック!!』

 

身体を斬りつけられたダークロプスゼロは爆発、ジードはジードスラッガーを頭部に戻す。

 

今度は最後に残ったダークロプスゼロがジードへと襲いかかるがジードはその攻撃を全て受け流す。

 

そしてジードは両肩にチョップを叩き込み、身体中のブースターを使いながら素早く後方へと下がり、装甲を展開した右手にエネルギーを集中させ、炎を纏った爆熱光線を正拳突きの姿勢で放つ「ストライクブースト」を放つ。

 

『ストライクブーストォ!!』

 

直撃を受けたダークロプスゼロは直撃を受け、攻撃に耐えきれず爆発するのだった。

 

『やったぁ!! 勝ったぁ!!』

「「勝ったぁ!! やったー!!」」

 

星雲荘にいるペガやあの少年や千歌もジードの勝利を飛び跳ねるように喜び、少年は千歌の方へと顔を向ける。

 

「ヒーローはね、必ず勝つんだよ!」

「……彼は、ヒーローだと思う?」

 

千歌は笑みを浮かべながら、少年にそう問いかけると少年は元気よく「うん!!」と頷くのだった。

 

「私も! そう思うよ!」

 

一方で戦いの光景を見ていた荒井は……。

 

「また新たにカプセルを起動したか……。 あと……」

 

 

 

 

 

 

その翌日……千歌達の教室にて。

 

「「……アレ?」」

「ほ、本日より、この学校で働くことになり、副担任となることになった……わ、渡辺……レイジです! よろしくお願いします!」

 

今日この日、レイジが副担任となって千歌達の教室へとやってきたのだった。

 

「「えぇ!?」」

 

そのことに千歌と曜は驚きの声をあげ、また梨子は「転勤してきたのね……」とボソっと呟くのだった。

 

ちなみにレイジはビクビクとした性格とは正反対に顔が怖いため、周りの生徒達は「副担任? ヤクザじゃなくて?」「顔怖っ!」と呟かれていたりしたが。

 

そして休み時間、曜はレイジに詰め寄って話を一切聞いていなかった曜は副担任とは一体どういうことなのかと問い詰めていた。

 

「レイジお兄ちゃんどういうこと!? 私、全然聞いてないんだけど!?」

「い、いやぁ~ごめんね? 曜ちゃん達を驚かせたくって」

 

レイジは照れ臭そうにしつつこのことを黙っていたのを謝罪。

 

「それよりもさ、折角曜ちゃんがいるこの学校で働くことになったんだから、僕も手伝わせてくれないかな? スクールアイドルって前々から少し興味もあったし!」

 

それを聞いて千歌と曜は「ホント!?」っと目を輝かせ、レイジは笑みを浮かべて「うん」と頷くのだった。

 

そして今日からレイジを加えて無爪、千歌、梨子、曜の5人は放課後からまた沼津でチラシ配りをすることになったのだが……。

 

『アイツ……』

 

レイジが無爪と会った際、彼の中にいるゼロが何かを感じ取ったらしく、レイジは「どうしたんですか?」と尋ねるのだが、ゼロは「いや、なんでもない」とだけ答えるのだった。

 

尚、千歌と無爪は何時も通りではあったが、最初恥ずかしかっていた梨子も今では普通にチラシを配れており、また曜はそのコミュ力の高さを遺憾なく発揮してチラシ配りついでに大勢と写真を撮ったりしていた。

 

「じゃあせーの! 全速ぜんしーん!」

『ヨーソロー!!』

 

と全員が曜と合わせて同じポーズを取っていることからも彼女の人気っぷりが伺える。

 

「流石曜ちゃん、人気者~」

「あはは……」

「やはり、コミュ力お化けだ曜ねえは……」

 

と曜の方を千歌、梨子、無爪の3人が見て呟く。

 

一方でレイジはというと……。

 

「あ、あの……」

「はい? ひぃ!?」

 

道行く女子高生にチラシを渡そうとするレイジだったが、その時顔が厳ついこともあって凄んでるようにしか見えず、旗から見たら怪しい勧誘しているようにしか見えなかった。

 

「あ、あの良かったらこの娘達のライブ……」

「ひ、ひい~!?」

 

そしてそのせいで女子高生は悲鳴をあげながらレイジから逃げ出すように走り去って行くのだった。

 

『お前、このままやると警察沙汰になりそうだな』

「うぅ……僕ってそんなに顔怖いですか?」

『まぁ、ヤクザレベルだな』

 

ゼロにそう言われレイジは「トホホ……」と落ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

その後は千歌の家で色んなことを打ち合わせることになり、無爪、千歌、曜、梨子の4人は千歌の部屋で色々と相談していたのだが……。

 

「千歌ちゃん! ここどう思う?」

 

ダンスの振り付けについて千歌に質問しようとした梨子だったのだが、千歌は疲れ果てたのか机の上に突っ伏した状態で寝てしまっており、それを見た梨子は思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「最近は色々と忙しいから疲れたんだな千歌ねえ?」

 

無爪は千歌の肩を軽くポンっと叩くと彼は「でもベッドで寝ないと風邪引くぞ」と言いながら彼女を抱きかかえ、そっとベッドの上に降ろして布団をかける。

 

「おぉ~、なっちゃん意外と大胆な……」

「ほ、ホントにね……。 でも、千歌ちゃんがこれじゃ今日はもうおしまいね?」

 

梨子の言葉に曜も「うん」と頷くのだが、時計を見ると既にバスに乗れる時間はとっくに過ぎており、それを聞いた無爪は「志満さんに曜ねえを車で家まで送って欲しいって頼んでくる」と言って彼女の元へと行くのだった。

 

 

 

 

 

 

それから曜は志満に車で家まで送って貰うことになり、そのことを車の中で親に連絡。

 

連絡を終えると志満は「大丈夫だった?」と曜に尋ねる。

 

「はい! いい加減にしなさいって怒られちゃったけど」

「ホント、夢中よね? 千歌ちゃんがここまでのめり込むなんて思わなかった」

 

そんな志満の言葉に曜は「そうですか?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「ほら、あの娘ああ見えて飽きっぽいところあるでしょ?」

「飽きっぽいんじゃなくて中途半端が嫌いなんですよ。 やる時はちゃんとやらないと気がすまないって言うか!!」

 

志満の言葉に曜はそう言葉を返し、志満はそれに対し「そっか……」と答えるのだった。

 

「流石曜ちゃん!」

「えへへ♪」

「それで、上手くいきそうなの? ライブは?」

 

志満のその質問に曜は不安な表情を浮かべ、彼女は自信なさげに「上手くいくといいけど……」と呟く。

 

「人、少ないですからねここら辺……」

「……大丈夫よ!」

「えっ?」

「みんな、暖かいから!」

 

そんな志満の言葉に曜は思わず笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてライブ当日。

 

この日は雨が降っていたが、特に大した雨でもないので千歌達はアイドル衣装に着替え、体育館の裏側で待機しており、無爪も彼女達の様子を見る為にそこに来ていた。

 

「やっぱり慣れないわ、本当にこんなに短くて大丈夫なの?」

 

梨子は自分達の衣装のスカート丈が少し短くないかと不安になるが、それを千歌は「大丈夫だって!」と言いながらμ'sの最初のライブ時に彼女達が着ていた衣装の写真をスマホに表示させ、梨子に見せる。

 

(・・・・・・μ'sの人達も千歌ねえ達も露出度高いな・・・・・・)

 

尚、無爪は千歌のスマホを覗き込んでそんなことを思い、また梨子はこんなことならスクールアイドルなんてやめておけば良かったかなと少しだけ後悔した。

 

「でもまぁ、みんな似合ってますし、可愛いと思いますし・・・・・・その辺は自信持って良いと思いますよ梨子さん?」

「うん、ありがとう・・・・・・」

「あれ? もしかしてなっちゃん珍しく私のことも褒めた?」

 

無爪の「みんな似合って可愛い」という言葉に千歌が少し嬉しそうにするが、素直じゃない無爪は「そ、そんなこと言ってない!!」と顔を赤くして否定するが・・・・・・。

 

「いや言ったよ。 もう、なっちゃんってばホントにツンデレなんだから~」

「でもそこがなっちゃんは可愛いとは思うけどね~」

 

千歌と曜はニヤニヤしながら無爪の頬をツンツン弄り、「う、うるさい!」と2人の手を振り払ってすぐさま離れる。

 

「もう!! 兎に角、僕はもう表に出てライブ始まるの待ってるから!!」

 

無爪は顔を赤くしたままそう言ってその場を立ち去ろうとするのだが、途中でピタッと急に立ち止まり、千歌達は首を傾げる。

 

「そ、その・・・・・・頑張って・・・・・・」

 

千歌達に背中を見せたまま、エールの言葉を贈った無爪はそのまま急いでその場から今度こそ去って行き、そんな無爪に千歌は小さな声で「ありがとう・・・・・・」と呟くのだった。

 

「そろそろだね! えっと~、それからどうするんだっけ?」

「確かこうやって手を重ねて・・・・・・」

 

曜の言うように千歌、梨子、曜の3人はライブに気合いを入れる為にそれぞれ手を重ね合わせるのだが・・・・・・。

 

「繋ごうか」

「「えっ?」」

「こうやって互いに手を繋いで・・・・・・ねっ? 暖かくて好き・・・・・・」

 

千歌の言うように3人はそれぞれ互いに手を繋ぎ、曜も「ホントだ」と千歌の言葉に同意して頷く。

 

「・・・・・・雨、だね」

「みんな来てくれるかな?」

 

彼女達はまだ会場にどのくらいの人達が来ているのかを知らない、そのため梨子は「もし来てくれなかったら・・・・・・」なんて不安を口にするが、それに千歌は「じゃあやめて終わりにする?」と尋ねる。

 

「「「・・・・・・」」」

 

少しの間の沈黙が流れた後、3人はなぜか急におかしくなって笑い出す。

 

「フフ、さあ行こう!! 今全力で輝こう!!」

 

千歌の言葉に梨子と曜は頷き、3人はかけ声をあげる。

 

「「「Aqours、サンシャイン!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

そして体育館の幕が上がり、目を瞑って手を繋ぎ合った3人が目を開けるとそこには確かに観客が来ていた。

 

しかし、そこにいたのは無爪や鞠莉や花丸、ルビィにレイジ、変装した善子、体育館の入り口辺りにいるダイヤや外で傘を差して様子を見に来ていた果南に他数人の生徒だけで・・・・・・体育館を満員にするには程遠い人数だった。

 

「千歌ねえ・・・・・・あんなに頑張ったのに・・・・・・たったこれだけ」

『でも、μ'sファーストライブよりは多いんだけどね』

「でもそんなのなんの気休めにもならないな・・・・・・」

 

無爪と、無爪の影の中にいるペガがそんな会話をする中、この光景に千歌、梨子、曜は人があまり来なかったことに悲しそうな表情を浮かべるが・・・・・・。

 

すぐに3人は気が引き締まった表情を浮かべ、千歌が前に出て叫ぶ。

 

「私達は!! スクールアイドル!! せぇーの!!」

「「「Aqoursです!!」」」

 

千歌に合わせ、梨子と曜の3人が自分達のグループ名の名乗りをあげる。

 

「私達はその輝きと!!」

「諦めない気持ちと!!」

「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました! 目標は・・・・・・スクールアイドル、μ'sです!! 聞いてください!!」

 

千歌はそう大きな声で宣伝し、そして始まる千歌達スクールアイドル、Aqoursのファーストライブ・・・・・・曲は「ダイスキだったらダイジョウブ!」

 

しかし、曲がサビに入ろうとしたその時だった。

 

外の電線に雷が落ちて切れてしまい、ステージのライトの光が消えてしまったのだ。

 

「えっ!? なに!? 一体なにが・・・・・・!」

『恐らく、雷かなんかで電線が切れたんだろうよ。 しっかし、このままじゃ・・・・・・』

 

レイジが停電に驚いている中、ゼロがそうレイジに説明し、ゼロは「発電機とかないのかよ?」と尋ねるとレイジは少しだけ考え込んだ後、「あるかどうか探してきます!!」と答えて外へと飛び出し、発電機を探しに行く。

 

その途中、ダイヤが体育館の近くにあった外の倉庫に向かって走って行くのが目に止まり、レイジは首を傾げる。

 

「あれって、生徒会長の黒澤さん?」

『もしかして・・・・・・おいレイジ! あいつを追いかけろ!! 多分、あの娘も考えてることは同じかもしれないぜ?』

「わ、分かりました!」

 

ゼロに言われるままレイジはダイヤを追いかけて行き、一方停電によってダンスが中断になってしまった千歌達はどうすればいいのか分からず困惑してしまう。

 

「どうすれば・・・・・・!」

「一体、どうしたら・・・・・・」

 

それでも、ここで諦めたくない千歌は「歌」の続きを不安な顔を浮かべながらも口ずさみ、それに曜も続いて歌を口ずさみ、それに梨子も続いて歌を歌う。

 

だが、やがて千歌は自身が口ずさんでいる歌詞の内容とは裏腹に、どんどん元気を無くしていき、彼女は顔を俯かせ、泣きそうな顔を見せる。

 

それを見た無爪は唇を噛み締める。

 

(千歌ねえの泣き顔なんて・・・・・・見たくない!! だから・・・・・・!!)

 

千歌の泣き顔をを見たくない、だからこそ、無爪は叫んだ。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならないだろうが千歌ねえ!! だから!! 頑張れええええええええええ!!!!!」

「っ!?」

 

大きな声で精一杯の声援を無爪が送り、その声に反応して千歌が顔をあげると次の瞬間、止まっていた電気の光が再びついたのだ。

 

「へっ?」

「バカチカー!!」

 

それと同時に体育館の扉が開き、千歌の姉の美渡や、他にも町中の人達が体育館にやってきたのだ。

 

「アンタ開始時間間違えたでしょー!!?」

「えっ?」

 

美渡の言葉を聞いた無爪が慌ててライブのチラシを取り出して見ると確かに彼女の言う通りライブの開始時間が間違っており、無爪は頭を抱え、同時にちょっとした怒りも覚えた。

 

「こんの・・・・・・! バカ千歌ねえーーーーー!!!!! なんか恥ずかしいことしちゃっただろうがーーーーー!!!!」

 

その無爪の文句に千歌も思わず「ご、ごめーん!」と苦笑いしながら謝り、そして町の人達によって満員になった体育館を見て千歌達は元気を取り戻す。

 

「ホントだ私、バカ千歌だ・・・・・・」

 

また、体育館の近くにあった倉庫・・・・・・。

 

そこではレイジとダイヤが協力して発電機を使い、体育館の電気を復活させており、レイジは「会長さんありがとう」と笑みを浮かべてお礼を述べるのだが・・・・・・。

 

「別に、このまま終わられるのも気持ちが悪いだけですわ!」

 

とそっぽを向くダイヤだったが、それを見てレイジもゼロも「素直じゃないな」と思うのだった。

 

そして場所は体育館へと戻り・・・・・・。

 

元気を取り戻した千歌はキッとした顔となり、ライブを再開させる。

 

やがてライブは今度は何事もなく無事に終了し、観客達は彼女達に拍手喝采。

 

千歌達も達成感に満ちた表情を浮かべており、それを見て無爪もライブが成功して内心ほっとするのだった。

 

「その、ありがとう。 美渡姉さん」

「んっ? なにがなっちゃん?」

 

無爪は自分の隣に立つ美渡にお礼を突然言うのだが、美渡はなんのことか分からず首を傾げる。

 

「結局千歌ねえのお願い聞いてくれたんだよね? この前こっそり幾つかの宣伝用のチラシ千歌ねえの部屋から持って行くの見たよ?」

「あはは・・・・・・。 バレてた? 先輩にチラシ貼りすぎだって怒られたけどね」

 

そして舞台に立つ千歌達は互いが互いに頷き合う。

 

「彼女達は言いました!!」

「スクールアイドルはこれからも広がって行く!! どこまでだって行ける!! どんな夢だって叶えられると!!」

 

曜と梨子の2人がそれぞれ言葉を言い放ち、2人に続いて千歌が続きを言おうとするのだが・・・・・・。

 

「これは今までのスクールアイドルの努力と街の人達の善意があっての成功ですわ!! 勘違いしないように!!」

 

そこへダイヤが前に出てきて厳しめな口調で千歌達に言うのだが、それに対し千歌は「分かっています!!」と言葉を返し、それにダイヤは少し驚く様子を見せる。

 

「でも、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!! 上手く言えないけど・・・・・・今しかない、瞬間だから!!」

 

 

そして千歌は左右に立つ梨子と曜と手をつなぎ合わせる。

 

「だから!!」

「「「輝きたい!!!!」」」

 

千歌、梨子、曜の3人が言い放つとそれに大きな拍手を送る観客達。

 

それを見て千歌は満面の笑顔を浮かべるのだった。

 

 



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第4話 『AIB』

サンシャイン映画公開記念。


Aqoursのファーストライブは無事、体育館を満員にしたことで成功。

 

その為、鞠莉からは約束通り彼女等スクールアイドル部の設立の許可を貰い、今は彼女が色々と手続きしているところだそうで数日後には部室も与えられて本格的に部活動を行うことができるだろうとのこと。

 

そして現在、千歌、梨子、曜、無爪の4人は初ライブの成功のお祝いということで千歌の部屋でお菓子などを食べてプチパーティーをしているところだった。

 

「いやぁ、ライブが成功して本当によがっだよ~!」

 

千歌はライブ成功に感動して泣きながらポテチを食べており、そんな彼女に無爪は「感動するか泣くか食べるかどれか1つにしろ!!」とツッコミ、そんな光景に曜と梨子は苦笑い。

 

「でも、ホントに成功して良かったわ。 停電が起きた時は一時期どうなるか分からなかったもの」

 

梨子の言う通り、ライブの最中に停電が起きた時は本当に焦ったものだと彼女の言葉に千歌、無爪、曜は「うんうん」と同意するように頷くのだが・・・・・・そこで1つ疑問に思うのが「でも、なんでまた電気がついたんだろう?」ということ。

 

曜は普通に電気が復旧したんじゃないか、落ちたブレーカーが誰か戻してくれたのではないかと予想するが・・・・・・。

 

「今それ考えてもしょうがないんじゃない? 原因も僕達はよく知らない訳だし」

「まぁ、それもそうだね。 取りあえず今はパァーッとヨーソロー!! と行きますか!」

 

そう言いながら曜と無爪は自分の手に持ったコップのジュースを飲み始め、その時、無爪は千歌が自分に視線を向けていることに気づき、彼は「なに?」と彼女に尋ねる。

 

「へっ!? あっ、いや・・・・・・その、なっちゃんにお礼を言わないとな~っと思って」

 

それを聞き、無爪は彼女の言う「お礼」とは恐らくチラシ配りなどを手伝ったりした時のことなのだろうと考えるのだが・・・・・・千歌が言うには「それもあるけど」とのことでそれ以外にも何か無爪にお礼を言いたいことがあるのだという。

 

「停電が起こった時、なっちゃん私達に『ジーッとしててもドーにもならないだろうが』って励ましてくれたでしょ? なっちゃんが、あの時言葉をかけてくれたおかげで・・・・・・私達は・・・・・・私はきっと、最後まで諦めなかったんだと思う。 私が言いたいのは、そのお礼。 だから、ありがとうなっちゃん!」

 

満面の笑顔でお礼を述べる千歌、それに対して無爪は顔を赤くしつつ「べ、別に・・・・・・」と照れ隠しをするかのようにお菓子をパクパク素早く食べ始める。

 

「それに、僕があの時千歌ねえに声をかけなくっても、お客さんはいっぱい来てたんだ。 チラシ配りこそ手伝ったけど、あのライブでは僕は何もできてなんか・・・・・・」

 

無爪がそこまで言いかけた時だった。

 

「そんなことないもん!!」

 

無爪の言葉を遮るように千歌が声を上げ、彼女は無爪の頭を優しく撫でる。

 

「あの時、なっちゃんが励ましてくれてなかったら・・・・・・私は完全にそこで1度は諦めてた。 諦めかけてたけど、完全に諦める前になっちゃんが声をかけてくれたから・・・・・・最後まで諦めずにいられたんだよ?」

「そうだよなっちゃん!! あれでなっちゃんは諦めてないって私達は思えて・・・・・・だからこそ私達も諦めたらダメだって思えて頑張れたんだよ。 流石は私の弟だね!!」

 

曜はそう言いながら後ろから無爪に抱きつき、それを見て千歌はムスっとした表情を浮かべる。

 

「曜ちゃん!! なっちゃんは私の弟だよ~!! 私の家に住んでるんだから~!!」

「そんなの関係ないもんね~!!」

 

すると今度は千歌が前方から無爪に抱きつき、前から千歌、後ろから曜に抱きつかれた無爪は顔をみるみると真っ赤にして目を回し、恥ずかしいやら嬉しいやら色んな感情が渦巻き、半パニック状態に陥ってしまう。

 

(ちょっ、ちょっ・・・・・・2人とも胸が・・・・・・!! って曜ねえは意外でもないが千歌ねえやっぱり意外と胸大きいな・・・・・・って違う!! こういう時は奇数を数え・・・・・・あれ? 奇数だっけ、偶数だっけ!?)

「ちょっ、2人とも無爪くんがオーバーヒートしかけてるから!!?」

 

梨子が立ち上がって慌てて無爪から千歌と曜を引き離そうとするが・・・・・・その時、彼女は足をテーブルにぶつけてしまい、バランスを崩し、彼女は無爪達の方へと倒れそうになる。

 

「ひゃああ!!?」

「あ、危ない!!」

 

咄嗟に無爪が両手を突き出して梨子を支えようとするのだが・・・・・・その際、無爪の両手に「ムニッ」という感触が伝わり、彼女を支えようとした両手は・・・・・・丁度、梨子の胸の位置に・・・・・・。

 

「あっ・・・・・・あの・・・・・・えっと」

「ひっ・・・・・・いやあああああ!!!!?」

 

梨子は耳まで顔を真っ赤にして涙目になってすぐさま大量の冷や汗を流す無爪から離れ、そのまま彼女は走るようにして千歌の部屋から出て行くのだった。

 

それにしばらくの間唖然となり、千歌も曜も無爪も黙り込んだままだったのだが・・・・・・そこで無爪の影からひょっこりペガが現れる。

 

『ちょっと!! なにボーッとしてるの無爪!! 梨子ちゃんに早く謝りに行きなよ!!』

 

ペガにそう言われて無爪はハッとなり、「そ、そうだね!! 僕梨子さんに謝りに行ってくる!!」と急いで彼女を追いかけることになり、千歌も「私も行く!!」と言って無爪と一緒に部屋を出て行くのだった。

 

『それにしても、ずっと影から見てたけど、無爪さっきからハーレムものの主人公みたいだね』

「まぁ、実際女の子3人に囲まれてたらねえ? ペガくんは影の中にいる訳だし」

 

その後、無爪は梨子に土下座して謝ったこととワザとやった訳では無く、助けようとしてやった事故ということもあり、彼女に許して貰えたのだった。

 

ちなみにこの作品は主人公のハーレムなどになったりしないのであしからず。

 

『そう言えば、今日は美渡さんがいなかったけど、仕事かな?』

「そだよ-、ニコニコ生命保険・・・・・・だっけ? それのね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、その美渡はというと・・・・・・。

 

彼女はとある男性と一緒にある古びた建物の立つ場所へと訪れており、男性と美渡は互いに視線を合わせて頷く。

 

「それじゃ作戦通りに」

「しくじらないでよ?」

「お前こそな!!」

 

男性はそう言って物陰に隠れ、それを確認すると美渡はコンコンっと建物のドアを叩く。

 

するとすぐに1人の中年の男性が「どなた?」と尋ねながら扉を開けて現れ、美渡は「ニコニコ生命保険のものです!!」と営業スマイルで言うのだが、男性は「セールスか・・・・・・」と呆れたような顔を浮かべて扉を閉めようとする。

 

「あっ!! ちょっと待って!!」

 

しかし、そうはさせまいと美渡は扉に足を引っかけ、無理矢理部屋の中を覗くとそこにはいかにも怪しげな植木に入った花のような植物が置かれており、彼女は「今です!!」と声をあげると待機していた先ほどの男性が駆けつけて扉を無理矢理こじ開け、中年男性の腹部に蹴りを叩き込む。

 

「ぐあっ!?」

「なんだお前等!!?」

 

部屋にはもう1人、中年の男性がおり、美渡と一緒にいた男性は植物を見て「やはりな」と口元をニヤつかせる。

 

「ええい!! 退けぇ!!」

 

すると2人の中年男性は正体を現し、「集団宇宙人 フック星人」「冷凍怪人 ブラック星人」としての姿に変身し、彼等は美渡と男性を押し退かして逃げようとするのだが・・・・・・それに対して男性も両手がハサミで緑の1つ目の「脳魂宇宙人 ザム星人 ザルド」としての姿に変身。

 

ザルドはジャンプしてフック星人とブラック星人の頭上を飛び越えて道を塞ぐ。

 

そこに丁度、1台の車が現れ、中からまた別の・・・・・・レイジほどではないが強面の男性・・・・・・人間に擬態した「宇宙ゲリラ シャドー星人ゼナ」が現れ、ザルドと共に殴りかかって来たフックとブラックに応戦する。

 

ザルドはフック星人の放つ拳を受け流しつつ右手のハサミでフック星人の腹部を挟み込み、持ち上げて地面に叩きつける。

 

「ぐらあ!?」

 

それでもなんとか必死に逃げようとするフックだったが、逃がすまいと後ろから美渡は跳び蹴りを喰らわせ、倒れ込んだところにすかさずサソリ固めを決める。

 

「おりゃああ!! 大人しくしろ!!」

『ぐおおおっ!?』

 

しかし、どうにか美渡を振り払って逃げようとするフック。

 

だがそうはさせまいとザルドは胸から放つ「ザムビーム」を発射し、それが命中したフックは身体が痺れてその場に倒れ込み、ザルドに取り押さえられるのだった。

 

またゼナはブラックの放って来た拳を受け流しつつカウンターで自分の拳をブラックの顔面に叩き込み、それによってブラックは僅かに怯むもののすぐさま再びゼナに殴りかかる。

 

だがそれをしゃがみ込んで避けつつゼナは拳をブラックの腹部に叩き込み、膝を突いたところをゼナはブラックの後ろに回り込んで腕を押さえつけ、確保することに成功するのだった。

 

「うぐお!!?」

『我々はAIBだ!! 観念しろ!! 高海 美渡、油断するなと言った筈だ。 危うく容疑者を取り逃がすところだったぞ。 それとザルド、戦闘になると本来の姿に戻る癖を直せと言った筈だ』

 

「AIB」とは犯罪行為を行っている異星人の取り締まりを主な任務としている様々な星の宇宙人達で結成された組織である。

 

そしてゼナの言葉に対し、美渡とザルドは「す、すいません先輩!!」と謝罪し、ゼナはブラックとフックを車に放り込んだ後、ザルドと美渡に中を確認するように指示。

 

ちなみに、ゼナは全く口を動かさずに言葉を発しているのだが、これは彼が地球人の姿になって口を動かすのが苦手な為であり、自分の言葉を伝える時はテレパシーを使っているのである。

 

そしてゼナの命令を受け、人間態に戻ったザルドと美渡は「アスタナージ・ガン」と呼ばれる銃を構えながら建物内に侵入。

 

一通り見たところ、他に仲間の影もなく、美渡は先ほど見た植物が間違いなく自分達が予想していたものと同じものであることを確認し、インカムでゼナに美渡はそのことを報告。

 

「ありました! 『宇宙植物ルグス』!! 条例により栽培が禁止されている植物です!! これって強力な睡眠花粉を出してそれを吸っちゃうと眠くなるんですよね?」

「全く、アイツ等変なもん持ち込みやがって」

「ホントに余計な仕事増やしてくれちゃって。 確かこの黄色いところを触ると花粉が噴射されるんだよね?」

 

そう言いながら美渡はついついうっかりとルグスの黄色い場所を触ってしまい、ザルドは「あっ!! このバカ!!」と叫ぶが時既に遅く、ルグスから黄色い花粉が噴出され、それを吸い込んだ2人は強烈な眠気に襲われ、倒れ込んで眠ってしまうのだった。

 

千歌の姉だけあって、美渡も案外こういううっかりなところがあるのかもしれない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ゼナにザルドと美渡は叩き起こされ、一同はフックとブラックを一件なんの変哲もない建物だが・・・・・・中身は異空間となっており、近未来的な光景が広がったAIB本部に連行。

 

『全くお前等は・・・・・・』

「は、は~い、すいません!!」

「いや、ルグスを触ったのは美渡さんで俺は関係ないっすよ!?」

『しっかりと見張っていなかったお前も悪い』

 

ゼナにそう叱られて不満そうな顔をしつつもザルドは「うっ、すいません」と謝罪。

 

『ルグスをちゃんと保管庫にしまっておけよ』

「「りょ、了解!!」」

 

ゼナは美渡とザルドにルグスを後で保管庫に仕舞っておけと指示した後、3人はフックとブラックを本部の中央部に連れて行く。

 

その後、ザルドと美渡はフックとブラックの2人をある場所に立たせ、ゼナは顔を地球人に変える為のインカム型の装置を取り外すと本来のデスマスク風の顔をしたシャドー星人の姿へと戻る。

 

「「おおっ!?」」

 

それを見て美渡とザルドは驚きの声をあげるが、それに対しゼナは呆れたような声を出す。

 

『いい加減に慣れろ。 というか、なぜザルドまで驚く?』

「こう言っちゃなんですけど・・・・・・ゼナ先輩の本来の姿の顔ってちょっと怖くて・・・・・・」

『1つ目のお前に言われたくはないな』

 

それからゼナは何かの装置を起動させる準備に取りかかり、それを見て美渡はブラックとフックの罪状を彼等に告げる。

 

「あなた達は違法な宇宙植物を栽培していました。 よって地球からの強制退去を命じます!!」

 

そう命じられたフックとブラックは「えっ!? ちょっと待っ・・・・・・!」と言いかけたが、勿論そんな言葉は無視され、ゼナは装置を起動させ、ブラックとフックは地球以外のどこかへと強制転移させられたのだった。

 

『達者で暮らせ』

「ふぅ、今日はもう仕事は終わりですかね?」

『いや、まだだ』

 

ザルドの言葉をゼナは否定し、ゼナは宇宙全域からベリアルに酷似していることからウルトラマンジードに関する問い合わせが殺到しており、それの対処に当たらなければならないのだという。

 

『ウルトラマンゼロも動いた。 宇宙警備隊も感心を寄せているのだろう。 ここは、ウルトラマンキングと融合した宇宙だからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、千歌と無爪はとあるスーパーへと訪れていた。

 

ちなみにペガは空気を呼んで留守番である。

 

「なんでスーパー? お使いとか、頼まれてないよね? しかもなんで私も連れて来たの?」

「梨子さんへのお詫びに、果物でも持って行こうかと思って。 千歌ねえ連れて来たのは同じ女の子としてどんなのが良いかアドバイスして欲しいから」

 

それを聞いて千歌は「へっ?」と首を傾げる。

 

なぜなら無爪はあの後、ちゃんと梨子に謝罪し、彼女もそれを受け入れて無爪を許してくれたのだから別にもうお詫びの品などいらないのではないかと千歌は思ったからである。

 

だが、千歌はそれを無爪の尋ねると無爪曰く「それだけじゃ僕の気が収まらない!!」とのこと。

 

「それに女の子の胸を触るとか事故とはいえ普通の重罪だよ重罪!! お小遣いも貯金も全部使ってお詫びしなきゃ!!」

「いやいや!! そこまでされると梨子ちゃん逆に困ると思うよ!?」

 

そんな無爪に、千歌は苦笑しながら「そこまで気負うことないと思うけど・・・・・・」と呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ゼナ達はというと・・・・・・。

 

ゼナは「Z車」という車をとある喫茶店の前に停めており、そこへ丁度ドーナッツとコーヒーを買ってきたザルドと美渡が戻って来た。

 

だが、その時2人は揃って「あっ!」と何かを思い出したかのように声をあげ、2人は急いで車の荷台を開けるとそこにはゼナに「保管庫に移しておけ」と言われたルグスが置きっ放しになっていたのだった。

 

それを見て2人は顔を見合わせて「ヤバい・・・・・・」と呟く。

 

「あ、アンタちゃんと仕舞っておけって先輩に言われたでしょ!?」

「お前も言われただろうが!! と、兎に角先輩に正直に言って謝ろう」

「そだね!!」

 

兎に角、今はゼナに謝罪するのが先決だと思い、「あ、あのぉ~」と2人は恐る恐る声をかけようとするのだが・・・・・・その直後にZ車に通信が入る。

 

『Z車、応答願います』

『こちらZ車、どうした?』

『ピット星人の科学者がスピード違反を起こして事故が発生、逃亡中です。 直ちに捕獲してください』

 

ゼナはその指示を受けて「了解」と返事し、場所を聞いた後、何かを言いかけているザルドと美渡に「行くぞ、乗れ」と命令し、2人は「は、はい!!」と慌てて返事をしてドーナッツとコーヒーを持って車に乗り込むのだった。

 

『名前は『トリィ=ティプ』、顔は分からないが、目撃者が服装を覚えていた。 我々の存在を地球人に悟られるな。 文明に影響が出ることをよしとしない』

「「はい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無爪は千歌の説得もあって果物の詰め合わせのセットをお詫びの品としてスーパーで購入。

 

2人は自転車に乗って家に帰ろうとするのだが・・・・・・。

 

突然現れた青い服を着た女性が現れ、女性は無爪を押し退かして彼の自転車に乗り、それを見た無爪は「なにしてんだ!!」と怒って女性の手を掴む。

 

「あっつ・・・・・・!!」

 

しかし、その女性の手は熱く、無爪は思わず手を引っ込めてしまい、女性は無爪の自転車を奪ってそのままどこかへ去って行こうとする。

 

「僕の自転車!!」

 

無爪は即座に脅威的なジャンプ力で女性の頭上を飛び越えて立ち塞がるのだが・・・・・・女性の胸の中央が光ると彼女の右手から光の剣が現れ、彼女はそれを振るい、無爪は慌てて攻撃を回避する。

 

その間に女性は素早くその場から逃走し、すぐに千歌が無爪の元に駆け寄る。

 

「どうしよう、なっちゃんの自転車が・・・・・・! ってか何あの剣!? あっ! 私の使って追いかける!?」

「うん、お願い・・・・・・」

 

しようとしたその時、「あれ? なっちゃん? 千歌?」と2人の名前を呼ぶ声が聞こえ、声のした方を見るとそこにはZ車から顔を除かせている美渡の姿があり、千歌と無爪の2人は彼女を見て「美渡ねえ!?」と驚きの声をあげる。

 

「あっ、丁度良いや!! 美渡ねえ車乗せて!! そっちの方が早い!! 自転車!! 僕の自転車盗まれたの!!」

 

無爪の指差す方を美渡が見ると自転車に乗った女性が逃走しており、その女性の格好は本部から聞いていたピット星人の服装と完全に一致しており、美渡はすぐに無爪の自転車を盗んだのが自分達が追いかけている人物と同じだと理解。

 

「分かったわ!! 2人とも乗って!!」

 

美渡は無爪と千歌を乗せ、一同は急いであの女性・・・・・・ピット星人のトリィを追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無爪と千歌はZ車に乗せて貰い、全員でトリィを追いかける。

 

「っていうか美渡ねえ達はどうしてあの人追いかけてるの?」

「あっ、えっと~・・・・・・あの人事故を起こして逃げてるの。 私達ほら、保険のセールスしてるでしょ? 事故と保険はあの~、あれな訳で!! 事情を今すぐ・・・・・・あれしないといけないの」

 

千歌の疑問に歯切れ悪くもなんとかAIBのことは伏せて説明する美渡。

 

そんな彼女を見てザルドは「説明雑だな」とケラケラ笑っていた。

 

「じゃあアンタが上手く説明してみなさいよ!!」

「はぁ!? なんで俺が!? お前の身内だろ!!」

 

また無爪はこっそりとゼナ達に気づかれないように装填ホルダーに手を当てて星雲荘にいるレムに小声で連絡を取る。

 

「レム、聞こえる?」

『はい、聞こえています』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある喫茶店にて・・・・・・。

 

「先生、お疲れですか?」

 

そこでは荒井が担当者と小説の打ち合せをしている最中であり、担当者の男性は荒井の様子から少し疲れているのかと思ったが、本人は首を横に振ってそれを否定した。

 

「いいえ、報告をしていたんです。 現状を」

「報告・・・・・・?」

「宇宙のとある場所に、心の一欠片を置いていましてね? 目を瞑ればそこにおられる神と対話ができるのです」

 

それを聞いて担当者は「またご冗談を!」と笑い、荒井も笑みを浮かべた後、窓の外を眺めると荒井の目にだけ移動する光の柱のようなものが映っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、外を歩いていたレイジは500円玉を手にしながら「はぁ」と溜め息を吐いており、手に持った500円玉を見つめながら「今月これだけしかないのか」と呟くのだった。

 

『無駄使いしすぎたんじゃねえの?』

「あはは、かもしれませんね。 でもまぁ、給料日までもう少しだし・・・・・・」

 

するとそこへ、自転車に乗ったトリィが「退いて!!」と叫びながら目の前を通り過ぎ、それに驚いたレイジは500円玉を池の中に落とし、彼は絶叫する。

 

「あぁ~!!?」

 

その時、レイジの中にいるゼロが何かが近づいて来ているのを感知し、すぐさま意識をレイジと切り替えて高くジャンプしながらその場を離れると地中から黄色い身体の怪獣、「宇宙怪獣 エレキング」が出現。

 

「キイイイイイ!!!!!」

 

エレキングはトリィを追いかけるように移動し、レイジはゼロに怯えた口調で「い、行くんですか?」と尋ねるがゼロは首を横に振る。

 

『いや、様子見だ。 本調子ではないからな』

 

それを聞いてレイジは内心ほっとするのだが・・・・・・。

 

『だが念のためにあの怪獣を追いかけるぞ。 いざって時の為にな!!』

『えぇ!? ちょっ!!』

 

ゼロはレイジの言葉を無視して急いでエレキングの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてトリィは人気のない山場まで行くと自転車を降りてそこに置いてあった車になんとか乗り込もうとしており、そこに丁度ゼナ達が乗ったZ車も駆けつける。

 

「「いたぁー!!」」

「後は私達に任せて2人はここにいなさい」

 

美渡にそう言われる無爪と千歌。

 

それに対し無爪は「えっ、でも美渡ねえ、あの人危険かも・・・・・・」と言うのだが、美渡は「大丈夫!」と答える。

 

「だって私、保険のセールスだから!!」

 

そう言いながらゼナ、美渡、ザルドの3人は車から降りてトリィを追いかけ、それを見て千歌は「保険のセールスって大変なんだね」と呟くのだった。

 

「えっ、いや・・・・・・これホントに保険のセールスなのかな・・・・・・?」

 

その時丁度、レムからの通信が入り、レムは無爪と千歌に怪獣が出現したことを知らせる。

 

「怪獣!?」

『はい、宇宙怪獣 エレキング。 ピット星人が惑星侵略の際に用いられることで知られています。 恐らく、無爪達が遭遇した女性もピット星人と思われます』

 

さらにエレキングがこちらに向かって来ていることをレムは知らせ、それに無爪は「分かった!!」と頷くと急いで千歌と無爪は車から降りる。

 

「レムの言葉からすると、その怪獣はあの女の人が操ってるってことなのかな?」

「いや、どうにも違うみたい。 レムが言うには、むしろ、怪獣はあの人のリトルスターを狙ってるっぽいんだ。 兎に角、このままじゃ美渡ねえ達も危ない!! 僕があいつを足止めする!!」

 

既に肉眼でハッキリと確認できるほど、エレキングがこちらに近づいて来ており、千歌は無爪の言葉に頷く。

 

「なっちゃん、頑張って!!」

 

笑顔を浮かべ、無爪にエールを送る千歌に、無爪も笑みを浮かべて「うん!!」と頷き、ジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルをナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

「はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンジードプリミティブ」

 

ジードはエレキングの前に立ち塞がり、これ以上は進行させまいと駆け出していき、エレキングに膝蹴りを叩きこむ。

 

「キュイイイイ!!!!」

 

エレキングも反撃しようと尻尾をジードに向かって振るい、ジードは尻尾を掴んで受け止める。

 

だが、エレキングは自分の尻尾から強烈な静電気を発生させ、「バチィ!!」という大きな音が鳴るとジードは苦痛の声をあげて思わず両手を離す。

 

『いったぁ~!! 今のまるで静電気だ』

「キュイイイイ!!!!」

 

すかさずエレキングはジードに向かって突進し、ジードはジャンプしてそれを回避し、振り返りざまに前腕の鰭状の部位から放つ波状光線「レッキングリッパー」をエレキングに向かって発射。

 

『レッキングリッパー!!』

 

しかし、エレキングもすかさず振り返って口から三日月状の電撃光線を放ち、互いに光線はぶつかり合って相殺。

 

『シュア!!』

 

その爆発にエレキングは少しだけ驚き、その隙を突いてジードはエレキングに向かって駈け出し、勢いよく拳を突き出してエレキングの顔面を殴りつける。

 

『デヤアアア!!!!』

「キイイイ!!!?」

 

一方、トリィを追いかけていたゼナ達は見事彼女の両腕を掴んで捕まえることに成功。

 

「あっ、ゼナ先輩アレ!! ウルトラマンジードです!!」

 

そこで美渡はジードがエレキングと戦っていることに気づき、またトリィはそれを見て「エレキング!!」と怪獣の名を呼び、ザルドは「お前が呼んだのか?」とトリィに尋ねる。

 

「確かにエレキングは私達が育てた個体よ。 でも眠りにつかせておいたの! 私が仲間を裏切って・・・・・・地球侵略を中止に追い込んだ時に・・・・・・」

「なに?」

「裏切ったって・・・・・・どういうこと?」

 

トリィは視線を美渡に向けながら、彼女は自分が仲間を裏切った理由を語る。

 

「この星の文明が気に入ったから。 だけどあの子が目覚めるのを感じた。 あの子、私を狙ってる。 だから周辺に被害が出ないよう人が少ない場所を目指してたの」

「そういうことか・・・・・・」

 

ザルドはトリィがずっと逃げていた理由を知って「成程」と頷き、また美渡はそんなトリィに笑みを浮かべて彼女を優しく抱きしめる。

 

「ありがとう。 あなたはみんなを守ろうとしてくれたんだね」

「・・・・・・っ」

 

そしてジードはエレキングの顔のアンテナ部分から放つ電撃をバク転して避け、高く跳び上がってからの跳び蹴りをエレキングの胸部に叩きこむ。

 

「キュイイイイ!!!!」

『シェア!!』

 

さらにそこからジードはエレキングに掴みかかるのだが、エレキングはジードを両腕を振るって振り払い、さらに尻尾を振るってジードの身体を叩きつけて吹き飛ばす。

 

『グウウウ!!!?』

「キイイイイイ!!!!!」

 

エレキングは電撃を纏わせた尻尾を伸ばしてジードの身体を拘束し、ジードに強烈な電撃を流し込むとジードは身体中から火花を散らして大きく吹き飛ばされ、岩山に激突し倒れ込んでしまう。

 

『グアッ・・・・・・!?』

 

ジードを吹き飛ばしたエレキングは視線をトリィ達がいる方へと移し、エレキングは彼女達のいる方向へと歩き始める。

 

それを見てジードはエレキングを止める為になんとか立ち上がろうとするのだが・・・・・・先ほどのエレキングの攻撃のせいで身体の全身が痺れて動けずにいたのだ。

 

『身体が、痺れて動かない・・・・・・!!』

『高圧電流の影響です。 立ち直るまで、数十秒かかります』

 

レムがジードの身体が動かない理由を説明し、それを聞いたジードは「そんなに待ってられるか!!」となんとか身体を起こそうとするが、身体は言うことを聞かなかった。

 

そうこうしている間に、エレキングはトリィ達に迫っていたのだが・・・・・・その時・・・・・・。

 

『シェア!!』

 

突如、空中から「ウルトラマンゼロ」が右足に炎を纏わせた「ウルトラゼロキック」をエレキングに喰らわせながら現れ、攻撃を受けたエレキングは大きく蹴り飛ばされる。

 

「キイイイイ!!!?」

『ウルトラマンゼロ・・・・・・!!』

『追いかけてきて正解だったな。 ここは俺に任せな!!』

 

ゼロはファイティングポーズを取りながらエレキングに向かって駈け出し、エレキングは三日月状の電撃をゼロに向かって放つが・・・・・・ゼロはそれら全てを弾きながら一気にエレキングに接近。

 

ゼロはエレキングの頭を掴んで背負い投げを繰り出す。

 

『デヤア!!』

「キュイイイ!!?」

 

 

 

 

 

同じ頃、荒井は戦闘が行われている近くの場所で静かにゼロとエレキングの戦いを見つめていた。

 

戦いはゼロが圧倒的に優勢、しかし荒井はそれを快く思わなかった。

 

「・・・・・・困りますね。 リトルスターがジードに譲渡される前にエレキングを倒されては」

 

荒井はそう呟くとライザーを取り出し、2つの怪獣カプセルを起動させる。

 

「ベムラー」

 

1つは「宇宙怪獣 ベムラー」のカプセルでそれを装填ナックルに装填。

 

「アーストロン」

 

次に起動したのは「凶暴怪獣 アーストロン」のカプセル。

 

それも起動し、ナックルにカプセルを装填。

 

そしてライザーでナックルをスキャンし、ライザーのトリガーを引く。

 

「これでエンドマークだ!!」

『フュージョンライズ!!』

 

すると荒井の姿が「ウルトラマンベリアル」の姿へと変わり、ベリアルの前にベムラーとアーストロンが現れ、2体は粒子のようになってベリアルの口の中へと吸い込まれるとベムラーとアーストロンが融合した「ベリアル融合獣 バーニング・ベムストラ」へと変身を完了させる。

 

『ベムラー! アーストロン! ウルトラマンベリアル! バーニング・ベムストラ!!』

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻り、エレキングの振るう尻尾を回し蹴りで弾き飛ばし、左腕を伸ばして「エメリウムスラッシュ」を発射する態勢になるゼロ。

 

そこへ一閃の光線がゼロの背中に直撃し、ゼロは苦痛の声をあげてその場に膝を突きながら後ろを振り返る。

 

『なんだアイツは・・・・・・!? 新手か!?』

 

そこには光線を吐いた後のベムストラの姿があり、ベムストラは両腕を広げてゼロに向かって突進。

 

鋭いパンチを立ち上がったゼロへと繰り出し、ゼロは両腕を交差してガード。

 

しかし、そこに今度はエレキングの放った三日月状の電撃光線が迫り、ゼロは手刀でそれを弾く。

 

すかさずゼロは次にベムストラが自分に攻撃を仕掛けて来ると読んで振り返りざまに拳から「ビームゼロスパイク」という光弾を放つのだが、ベムストラは青い球体になって攻撃を回避。

 

球体となったベムストラはゼロの周りを高速で飛び回り、ランダムに移動しながら球体状態から光線を発射。

 

『グウウウ!!? ウロチョロしやがって!!』

 

ゼロは頭部にある2本のブーメラン、「ゼロスラッガー」を球体状態のベムストラに投げつけるのだが、ベムストラはそれらを軽く回避。

 

『エメリウムスラッシュ!!』

 

だが、ゼロは額のビームランプから放つ「エメリウムスラッシュ」を先ほど投げたゼロスラッガーに向けて放ち、スラッガーに当たると光線は反射。

 

さらに反射された光線はもう1つのスラッガーに当たってまた反射し、光線が球体のベムストラに直撃。

 

落下する球体をゼロは回し蹴りで蹴り飛ばし、スラッガーを頭部に戻す。

 

『デアアア!!』

「グアアアアア!!!!?」

 

地面に激突し、元の姿に戻るベムストラ。

 

ベムストラはすぐに立ち上がるが、ゼロに両腕を掴まれて動きを封じられてしまう。

 

だが、ベムストラは頭を大きく振りかざして頭部の角でゼロを斬りつけ、自分から引き離す。

 

『グウウ!?』

 

そしてエレキングはベムストラがゼロの相手をしている間にトリィのリトルスターを狙って移動を始め、ゼロは「待て!!」とエレキングを追いかけようとするのだが、それを阻止するようにベムストラが立ち塞がる。

 

「グルアアアアア!!!!」

 

ベムストラは一度吠え、口から青い光線を発射する「ペイルサイクロン」をゼロに向かって発射。

 

対するゼロも左腕を伸ばしてから腕をL字に組んで放つ「ワイドゼロショット」を放ち、ぶつかり合った光線は両者の間で爆発が起きる。

 

その直後に、ベムストラのドロップキックがゼロに炸裂し、ゼロは地面に転がるように倒れる。

 

『クッ!? こいつ、中々やるな!!』

 

そしてエレキングが迫っているのを見てトリィは「あなた達は逃げて!! エレキングは、私の体内の光を狙っている!!」とゼナ達に逃げるように言い、胸の光・・・・・・リトルスターが輝くと彼女はピット星人の姿へと戻る。

 

『ここは私がなんとかする!! だから・・・・・・!!』

「・・・・・・あの怪獣は、トリィさんを狙ってるんですね?」

 

美渡はあることをトリィに尋ね、それに対し、トリィは「そうよ。 確実に来る」と頷き、だから自分が囮になって美渡達を逃がそうとするのだが・・・・・・。

 

トリィは美渡に強く肩を掴まれ、彼女はトリィに対し、首を横に振った。

 

「そんなことしなくても大丈夫。 私に良い考えがあります」

「お前それ大体失敗する時に言う台詞だけど大丈夫か?」

「大丈夫よ!! だから、トリィさんついて来てください」

 

ザルドの言葉に美渡はそう叫び、そしてそれを聞いたゼナは怪訝な様子で「何をするつもりだ?」と問いかける。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならないってね。 これ、あの男の子・・・・・・なっちゃん、無爪って子やウチの妹の千歌がよく言ってる言葉なんだ。 さぁ、早くしよう!!」

『おい!』

 

トリィ達は美渡に言われた通り、取りあえずは彼女について行くことに。

 

「千歌!!」

「あっ、美渡ねえ!」

 

彼女等はZ車のある場所に戻るとそこではジード達の戦いを見つめている千歌だけがその場に残っており、美渡は「なっちゃんは?」と問いかけると千歌は焦って「えっと、あの!」となんとか誤魔化そうとする。

 

「そ、その美渡ねえ達が行った後、急にお腹が痛いって言ってトイレを探しに・・・・・・!」

「何してんのよこんな時に全く・・・・・・。 兎に角!! 取りあえずは千歌も車に乗って!!」

 

美渡の指示によってトリィと千歌、念のためにザルド、ゼナを乗せ、ゼナはZ車でこのまま逃げるのかと思い、車を運転しようとするのだが美渡に「待って!!」と言われてゼナは引き止められる。

 

「このまま動かさないで!!」

 

それから美渡は車の後ろに回り込み、またこちらに向かって来ているエレキングを見てトリィは「やはり胸のリトルスターに引き寄せられてる」と呟く。

 

『リトルスターとはなんだ?』

『研究所仲間の話では幼年期放射の結晶で、発生条件は不明。 最近なぜかこの街を中心に同時多発的に発生してる!!』

「誰かが裏で操ってるってことでしょうか?」

『・・・・・・今はまだ、なんとも言えん』

 

そして美渡はエレキングが目と鼻の先というほどZ車の近くまで来ると彼女はZ車のトランクを開いてルグスを取り出し、それをバックミラーで確認したゼナは「何をしている!?」と慌てて車から出る。

 

「お願い、上手く行って!!」

 

すると美渡はルグスの黄色い部分を掴むと緑の花粉が放たれてそれがエレキングの鼻の中に入り、エレキングは苦痛の声をあげる。

 

「キュイイイイ!!!!?」

 

また、それを近くで受けたゼナは眠りにつき、美渡もまた急激な眠気に襲われるのだが・・・・・・。

 

彼女は眠気を必死に抑え、ルグスの黄色い部分を「ブチィ!!」と千切り取ると朦朧とする意識の中・・・・・・けれども確実に当てるように・・・・・・それをベムストラへと全力で力を込めて放り投げたのだ。

 

「届けええええええええ!!!!」

 

そして、美渡の投げたルグスは見事ベムストラの鼻の中に「スポッ!」と入り、ベムストラもエレキング同様に目尻に涙を溜めて苦痛に満ちた鳴き声をあげた。

 

「グルアアアアアア!!!!」

 

その後、それを見届けた美渡は「よし!」っとガッツポーズをしてから、彼女は目を閉じて倒れ込んで眠ってしまうのだった。

 

『ありがとよねーちゃん!』

『エレキング、及び新たに出現した怪獣に異変発生』

『よし、僕もようやくなんとか動けるようになった!! 今の内だ!!』

 

レムからの報告を受け、痺れの解けたジードは立ち上がり、使用カプセルを交換する。

 

『融合!!』

 

1つは既に使用している「ウルトラマンベリアル」のカプセルをもう1度起動させ・・・・・・。

 

『アイ、ゴー!!』

 

それから新たに「ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー」のカプセルを起動させてナックルに装填。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!!』

『飛ばすぜ!! 光刃!!』

 

そこからジードライザーで装填ナックルをスキャンし、トリガーを引いてライザーを掲げる。

 

『はああああ、はぁ!! ジィィーーード!!!!』

『ウルトラマンベリアル! ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー! ウルトラマンジード! トライスラッガー!!』

 

そしてジードはプリミティブからウルトラマンベリアル、ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガーの力を融合させた「ウルトラマンジード トライスラッガー」に姿を変える。

 

戦闘BGM「ウルトラマンゼロ アクション」

 

一方でゼロはルグスの影響により、フラつくベムストラに向かってストレートキックを叩きこんだ後、ベムストラの身体を持ち上げて投げ飛ばす。

 

『シェア!!』

「グルアアアア!!!?」

 

それを受けてもベムストラはフラつきながらも立ち上がり、なんとか破壊光線、ペイル・サイクロンを放とうとするのだが、それよりも素早くゼロのアッパーカットが顎に炸裂し、ベムストラは殴り飛ばされる。

 

「グオオオ・・・・・・」

 

ならばとベムストラは今度は球体に変化してゼロに攻撃を仕掛けようとするのだが・・・・・・。

 

『その技は既に見切った!!』

 

ゼロはゼロスラッガーを融合させて三日月状の剣にした「ゼロツインソード」を構え、刀身を緑色に輝かせ・・・・・・こちらに向かって迫ってくるベムストラにすれ違いざまにツインソードを横一閃に切り裂く「プラズマスパーククラッシュ」を炸裂させる。

 

『プラズマスパーククラッシュ!!』

「グゥ・・・・・・ラアアアアア!!!!?」

 

球体は真っ二つに切り裂かれて爆発するのだった。

 

そしてジードはというと・・・・・・。

 

『トライスラッガーアタック!!』

 

ジードは頭部の3つのアイスラッガーをエレキングへと投げつけて切り裂く「トライスラッガーアタック」を繰り出し、斬りつけられたエレキングは身体から火花を散らす。

 

「キイイイイ!!!!?」

『デュア!!』

 

エレキングはどうにか電撃光線をジードに向かって放つが、ジードは腕を振るって弾き飛ばし、ジャンプして勢いよく拳をエレキングの顔面に叩き込む。

 

さらにそこからすかさず連続で拳を叩き込み、最後にまた拳をエレキングの顔面に喰らわせ、ジードはエレキングを殴り飛ばす。

 

「キュイイイ!?」

 

また、その様子を見ていたトリィは・・・・・・。

 

『エレキング・・・・・・!』

 

エレキングを可愛がりながら育てていたことを思い出し、彼女は車から勢いよく飛び出し、ザルドも彼女を追いかける。

 

「おい!」

『エレキング・・・・・・。 っ、お願い、その子を楽にしてあげて!!』

 

トリィのその叫びを聞き、ジードはその願いを聞き入れ、頷く。

 

ジードは右拳に黒いエネルギーを集めてから腕をL字に組んで放つ「デススラッガーショット」を発射。

 

『はあああ、デススラッガーショットォ!!』

 

デススラッガーショットはエレキングに直撃し、直撃を受けたエレキングは身体から火花を散らして倒れ込み爆発するのだった。

 

『ごめんね、エレキング・・・・・・。 ありがとう、ウルトラマン・・・・・・』

 

トリィが悲しげにそう呟くと、彼女の胸の光・・・・・・リトルスターが分離し、ジードのカラータイマーの中へと入り、無爪の手元へとウルトラカプセルとなって届く。

 

そして手にしたカプセルには青い姿の光の国の科学者、「ウルトラマンヒカリ」が描かれていたのだった。

 

「今度は青いウルトラマンか!」

 

その後、ゼロがジードに対して何か言いたそうにしていたが、活動限界が迫っていた為、結局は何も言えず2人はそれぞれ別々の場所で人間の姿へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

「ゲホゲホッ!! おのれ、あの小娘・・・・・・!!」

 

その一方でゼロに敗れた荒井はというと・・・・・・。

 

怪獣に変身していた為にルグスの効果を最小限に留められていた為、眠気こそあるものの気を失っておらず、荒井はルグスを投げてきた美渡に怒りを覚えていた。

 

「だが、これで新たな私のカプセルは手に入る」

 

すると荒井は何も描かれていないカプセルを空中に向けると、そこに漂っていた黒い霧のようなものがカプセルに吸収され、何も描かれていなかったカプセルにエレキングの姿が浮かび上がるのだった。

 

「恐怖に追い立てられ、人は祈る・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、トリィから自転車を無事返して貰い、また彼女はAIBに新たに所属することとなった。

 

また無爪はお詫びの品を梨子に渡し、彼女からは胸を触ったことを完全に許して貰うことができたのだった。

 

そして今は無爪がバイトしているという駄菓子屋「銀河マーケット」の飲食スペースで無爪、美渡、千歌、梨子、曜の3人が購入したお菓子を食べてくつろいでいるところだった。

 

ちなみに無爪は今日はバイトではなく普通の客として来ている。

 

「全く、なっちゃんは・・・・・・。 お腹壊したのは仕方ないけど、やっぱり怪獣が出たのに千歌を置いて行くなんてねぇ?」

「そ、その、その説は・・・・・・本当にごめんなさい。 美渡ねえ、千歌ねえも・・・・・・」

「い、いやいや!! 仕方ないよそりゃ!! だから謝ることないって!! 美渡ねえももういいでしょ! それよりもさ、美渡ねえ。 あの女の人だけど・・・・・・なんか変なとこなかった?」

 

不意に千歌がトリィのことを尋ねると美渡は飲んでいたラムネを吹き出しそうになり、「なななな、なんにもないよ!?」と目を泳がせながら誤魔化す。

 

「あ、あのぉ~」

 

そこへレイジが恐る恐る店へと入って来るとその顔を見た店長のハルヲが「ひぃ!? ヤクザ!?」と怯えていたが・・・・・・それは放っておいてレイジは無爪に話があると言って店の外に連れ出す。

 

「なんだろ? レイジ兄ちゃんがなっちゃんに話って?」

「さぁ?」

 

店の外に連れ出された無爪は「どうかしたんですか?」と尋ねると、レイジは意識をゼロに切り替え、レイジの身体を借りたゼロは無爪に「よぉ!」と挨拶する。

 

「えっ? レイジさん!?」

『俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ。 訳合って俺はこいつと今一体化している』

「えぇ!? レイジさんが・・・・・・ウルトラマンゼロと!?」

 

レイジ・・・・・・というよりも、ゼロから告げられた真実に無爪は驚きの声をあげる。

 

「確かに、今のレイジさん声もゼロに似てるけど・・・・・・」

『しばらくお前の戦いの様子を見させて貰ったぜ? お前には色々と聞きたいことがある・・・・・・がっ・・・・・・』

 

ゼロは視線を楽しげに談笑している千歌達に映すと、彼は「今日はまあいい」と言って無爪の肩に手をかける。

 

『頑張れよ。 スクールアイドルの手伝いもウルトラマンもな』

「は、はぁ・・・・・・」

 

ゼロはそう笑顔で言うと意識をレイジに戻す。

 

「あっ、驚いたよね? でも、僕も無爪くんがジードなのは驚いたし、そこはお互いさまってことで。 じゃ、じゃあ僕はまだちょっと仕事があるから・・・・・・。 曜ちゃん達によろしくね!」

「あっ、はい」

 

無爪はレイジの言葉に頷き、彼はそれだけを告げるとその場を立ち去るのだった。

 

 




デススラッガーショット
トライスラッガーアタックは本作オリジナルの技です。
デススラッガーショットは普通にスラッガー使わないリフレクトスラッガーです。

ちなみにザルドがゼナと同じ装置を使っても戦闘時になるとどうしてもザム星人の姿になります。
そしてジードサンシャインは戦闘要員が1人欠けている為それを埋めるキャラでもあります。



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第5話 『もう1つの炎』

今年はラブライブ!9周年なのでそれを記念しての更新です。


国木田 花丸は小さい頃から隅っこで遊ぶ目立たない子だった。

 

運動も苦手で、学芸会も木の役で・・・・・・だからだんだん、彼女は1人で遊ぶようになっていった。

 

彼女は本を読むことが大好きになっていったのだ。

 

中学頃の当たりから図書室はいつしか彼女の居場所となり、そこで読む本の中でいつも空想を膨らませていた。

 

そんなある日のこと・・・・・・。

 

彼女が何時ものように本を読み終え、本を読み終えて少し寂しさを感じていた時・・・・・・。

 

近くで「ガサガサ」と物音が鳴り、音のした方を見てみるとそこには赤い髪をしたツインテールの小柄な少女の姿があり、彼女は何やらアイドルの雑誌を読んでいるようだった。

 

そしてルビィが花丸の視線に気づくと人見知りな彼女は「わぁ!?」と少し驚きの声をあげて顔を雑誌に隠し、そんな少女を見て花丸は思わず笑みを浮かべる。

 

するとこっそりと雑誌の上から花丸の笑った顔を見て、少女も自然と釣られるように笑顔を浮かべるのであった。

 

『その娘は黒澤 ルビィ・・・・・・。 マルの大切な友達!』

 

そう、それこそが・・・・・・花丸とルビィの出会いだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレキングの騒動から数日が経ち、鞠莉の手続きが終了した為、千歌達スクールアイドル部の活動が承認され・・・・・・。

 

彼女等は今、与えられた体育館の部室にスクールアイドル部の表札をかけているところだった。

 

「それにしても、まさかホントに承認されるなんて!」

「部員足りないのにね」

「理事長が直々に承認してくれたんでしょ、別に良いんじゃない?」

 

「良いっていうかノリノリだったよね?」と苦笑しながら曜がそう無爪に言葉を返す。

 

「でも、どうして理事長は私達に肩を持ってくれるのかしら?」

「まぁ、『スクールアイドル目指すならここくらい満員にしてみせろ!!』ってちょっとキツいこと言って来たけどね」

 

無爪のその言葉を聞いて曜と梨子は鞠莉ってそんな言い方していただろうかと首を傾げるが、それよりも今は梨子が疑問に思った「どうして自分達に肩を持ってくれるのか」という部分である。

 

それに対して千歌は「鞠莉もスクールアイドルが好きなのでは?」と予想するが・・・・・・梨子はどうにもそれだけではないような気がしてならないのだった。

 

「兎に角入ろうよ!」

 

鞠莉のことも少し気になるが、今は先ず部室に入って中の様子を見ることが先決だということで千歌は貸して貰った鍵を使って部屋の中へと入るのだが・・・・・・。

 

「「・・・・・・おぉう」」

「片付けて使えって言ってたけど・・・・・・」

「これ全部ぅ~!!?」

 

その部屋はかなり散らかっている上に埃だらけの汚部屋で千歌、無爪、曜、梨子は少々どん引きし、千歌は文句を言っていたが梨子に「文句を言っても片付かないわよ!?」と注意される。

 

「もぉ~!」

「じゃあ僕は部員じゃないんでこれで!」

 

そして無爪は部員じゃないのを良いことにそそくさとその場から離れようとするが・・・・・・当然、彼女等が逃がす訳もなく、「逃がすかぁ!!」と千歌と曜に首根っこを掴まれて無理矢理引き止められるのだった。

 

「そんなこと言わないで!!」

「お願いだから手伝ってよなっちゃ~ん!」

 

曜と千歌にそう必死に懇願され、無爪は「えぇ~?」と嫌そうな顔を浮かべる。

 

「おねがぁい・・・・・・」

 

目尻に涙を溜め、上目遣いでそう頼み込んで来る千歌。

 

それを見て無爪は「うっ」と声をあげ、うるうるとした瞳で訴えてくる千歌に無爪は溜め息を吐き「しょうがないなぁ」と部屋の掃除を手伝うことを決めるのだった。

 

(なっちゃんチョロい)

「ホント!? ありがとうなっちゃん!!」

 

それに千歌は笑顔を浮かべて喜び、彼女は無爪の手を握りしめながらお礼を言い、それに対し、無爪は頬を赤くする。

 

「も、もぅ・・・・・・。 じゃあ早く済ませよう!」

 

無爪は千歌の手を少々名残惜しく思いつつも離し、掃除を始めようとみんなに言うのだが・・・・・・その時、千歌が部屋に置いてあったホワイトボードに何か書かれているのを見つける。

 

「んっ? なんか、書いてある?」

「歌詞・・・・・・かな?」

「どうしてここに?」

 

そこには歌の歌詞らしきものが書かれており、なんでこんなところでそんなものが書かれているのだろうと疑問に思う一同。

 

その中で無爪はそのホワイトボードを見て1つのある予想を立てていた。

 

(昔、アイドル部みたいなのがあったってことなのかな? 歌詞みたいなものが書いてあるってことは)

 

その時、一同は気づかなかったのだが・・・・・・外から部室の中の様子を伺っているルビィの姿があり、彼女は千歌達の姿を目にするとすぐにその場から走り去って行き、Aqoursに部室が出来ていることを親友の花丸に報告しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

学校の図書室にて。

 

周りには誰もおらず、そこでは図書委員である花丸が静かに本を読んでいるところだった。

 

そこへ、部屋の扉を勢いよく開いたルビィがやってきて花丸の元へと駆け寄り、彼女は嬉しそうに千歌達のスクールアイドル部が承認されていることを彼女に報告した。

 

「やっぱり部室出来てた!! スクールアイドル部承認されたんだよ!!」

「良かったね~」

 

それを聞いて花丸も笑みを浮かべ、ルビィはほっこりした様子で「またライブ見られるんだ~」と楽しげな様子を見せる。

 

その時、図書室の扉が再び開き、部室に置いてあった本を返しに来た千歌達がやって来たのだ。

 

「こんにちわ~!」

「ピギャ!?」

 

それに驚いたルビィは咄嗟に花丸の隣に置いてあった扇風機の後ろに隠れる。

 

「あっ、花丸ちゃん! っと・・・・・・ルビィちゃん!!」

「ピキャッ!?」

 

だが、すぐに千歌は扇風機の後ろに隠れているルビィを一差し指を指して発見し、それに曜は「よく分かったね~」と感心の声を出す。

 

「ってかルビィちゃん、その体勢スカートの中見えそうだからやめた方が良いよ」

 

図書館に入ったほぼその直後になぜか顔を天井に向けていた無爪だったが、今の言葉を聞いて梨子は「あぁ、だから上を向いてるのか」と納得した。

 

「ピギッ!?」

 

すぐさま顔を真っ赤にしつつ自分のスカートを抑えながら立ち上がり、彼女は小動物のように戸惑いながらも「こ、こんにちわ」と千歌達に挨拶し、それを見て千歌は目を輝かせる。

 

「かわいい~!」

「あっ、これ、部室にあったんだけど図書室の本じゃないかな?」

 

そこで梨子はここに来た目的を花丸に話し、花丸が本を確認すると「多分そうです」と言ってわざわざ返しに来てくれたことにお礼を言おうとした瞬間。

 

『ガシッ!』と花丸とルビィの2人は力強く千歌に手を掴まれる。

 

「スクールアイドル部へようこそ!!」

「千歌ちゃん・・・・・・」

「バカ千歌ねえ・・・・・・おいコラ」

 

その光景に梨子は呆れ、曜は唖然とし、無爪は頭を抱える。

 

「結成したし、部にもなったし、絶対悪いようにはしませんよ~!」

「それ悪い人がいう台詞でしょーが!! 離れろバカ千歌ねえ!!」

 

無爪はそんな千歌に怒りながら彼女を花丸とルビィから引き離す。

 

「だって2人が歌ったら絶対キラキラするもん!! 間違いない!!」

「で、でも・・・・・・」

「・・・・・・オラ・・・・・・」

「「オラ?」」

 

つい滑ってしまった言葉に、花丸は慌てて「いえ!!」と言ってなんとか誤魔化す。

 

「マル、そういうのは苦手っていうか・・・・・・」

「る、ルビィも・・・・・・」

 

花丸と同じように困ったような表情で「自分もちょっと」という感じのルビィ、そんなルビィを見て花丸は何か言いたそうな顔を浮かべる。

 

また同じようにそんなルビィの表情を察してか、無爪もまた「んっ?」とそんな彼女に対し何かを感じていた。

 

「千歌ちゃん、強引に迫ったら可哀想だよ!」

「そうよ! まだ入学したばかりの1年生なんだし!」

 

曜と梨子に注意され、反省する千歌。

 

「そうだよね、あははは。 可愛いから、つい・・・・・・」

「千歌ちゃん、そろそろ練習」

「あっ、そっか。 じゃあね!」

 

曜にそう言われ、千歌達は練習に行くこととなり彼女等は図書室を出て行ったのだった。

 

千歌達が部屋を出るのを見届けると、花丸はルビィに「やりたいんじゃないの?」と尋ねられ、彼女はそれに「へっ!?」と驚いたような声を出す。

 

「で、でも・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の帰り。

 

海岸沿いにてルビィは自分がスクールアイドルをやろうとしない理由を花丸にそこで説明していた。

 

「ダイヤさんが?」

「うん、お姉ちゃん、昔はスクールアイドル好きだったんだけど、一緒にμ'sのマネして歌ったりしてた」

 

だが、高校に入ってしばらく経った頃・・・・・・。

 

『片付けて』

『へっ?』

『それ、見たくない!』

 

ダイヤはなぜか不機嫌な様子でスクールアイドルの雑誌を部屋で読んでいたルビィにそう言い放ち、それが理由でルビィは自分がスクールアイドルをやることに抵抗を感じていることを悲しげな瞳を浮かべながら、花丸に語るのだった。

 

「そうなんだ・・・・・・」

「本当はね、ルビィも嫌いにならなくちゃならいけないんだけど・・・・・・」

 

そんなルビィに対し、花丸は「どうして?」と疑問を投げかける。

 

「お姉ちゃんが見たくないって言うものを、好きでいられないよ!!」

 

そんな時のことである。

 

そう言い放つルビィの元に、学校帰りの無爪がやって来たのだ。

 

「あっ、ルビィちゃんに花丸ちゃん?」

「ピッ!?」

 

無爪の姿を見てルビィは突然現れた彼に驚きの声をあげながら花丸の背後に隠れ、それに対し、無爪は思わず苦笑してしまう。

 

しかし、人見知りの彼女に対し以前千歌がやっていた方法を思い出し、鞄の中にあった飴を取り出す。

 

「えっと、飴・・・・・・食べる?」

「あ、ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」

 

と言っても千歌のように餌付けする訳では無く、無爪は普通にルビィに手渡しで飴をあげ、ルビィはペコリと頭を下げる。

 

「そんなかしこまらなくても・・・・・・。 僕ら同級生なんだから。 敬語も無しでさ」

「は、はい・・・・・・。 あっ、いや、うん」

 

無爪の言葉にルビィは戸惑いつつも頷き、そんな2人を見て花丸は「なんか煮え切らない態度の2人ずら」と思うのだった。

 

「ところでさ、さっきチラっと聞こえたんだけど、ルビィちゃんは・・・・・・ダイヤさんが嫌いだって言うから、自分もスクールアイドルを嫌いにならないといけないの?」

 

無爪にそう質問され、ルビィはまだ無爪のことを少し警戒しているからか、ぎこちない様子で「うん」と頷く。

 

それを聞き、無爪は「それって、おかしくない?」と彼女に対して言葉を返し、それにルビィは「えっ?」と首を傾げる。

 

「だってさ、好きなものを・・・・・・そう簡単に嫌いになんてなれないでしょ?」

「そ、それは・・・・・・」

「ダイヤさんが強制した訳でもないのなら、尚更だよ。 好きって気持ちからは・・・・・・多分、逃げられないと僕は思う」

 

笑みを浮かべながら無爪はルビィにそう語り続け、それを受け、ルビィは顔を俯かせる。

 

それを見て無爪は「困らせちゃったかな」と不安になり、「ごめんね!」と両手を合わせてすぐさま謝罪する。

 

「余計なこと言っちゃったかもね。 また変なこと言う前に僕はもう帰るよ、じゃあまた明日!」

「あっ、さ、さようなら・・・・・・」

「ま、また明日・・・・・・」

 

無爪は手を振りながら自分はもう帰ることを告げてその場から立ち去って行き、無爪を見送った後・・・・・・ルビィはフッと思ったことを花丸に問いかけた。

 

「ところで・・・・・・花丸ちゃん自身は興味ないの? スクールアイドル?」

「マル!? ないない!! 運動苦手だし、ほら、オラとか言っちゃう時あるし・・・・・・」

「じゃあルビィも平気!」

 

ルビィは花丸に笑顔を見せながらそう言うのだが、花丸は悲しげな表情でそんなルビィを見つめており・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、果南の家のダイビングショップにて。

 

「ありがとうございました! またよろしくお願いします!」

 

果南はダイビングショップに来ていた客を見送り、店の手伝いに戻ろうと後ろを振り返った瞬間・・・・・・。

 

『ヌゥ・・・・・・!』っと怖い顔引っ提げて何かの袋を持ったレイジが立っており、それを見た瞬間果南は「ビクゥ!?」と肩を震わせ、「ひやああ!!?」と驚きの声をあげるのだった。

 

そんな果南の悲鳴に驚いてか、レイジも「うわあ!?」と驚き、彼は思わず尻餅をついてしまう。

 

『いや、なんでお前も悲鳴もあげてんだよ』

「だ、だって急に大声出すから・・・・・・」

『だからオメーのせいだよそれは!!』

 

そんな風に、ゼロにツッコミを入れられるレイジ。

 

すると果南はレイジの顔を見て見知った顔であったことに気づき、彼女はほっと胸を撫で下ろした。

 

「な、な~んだレイジさんか。 ご、ごめんねレイジさん? でもレイジさんも悪いよ? 振り返ったら急に怖い顔したレイジさんが立ってたんだから」

「ご、ごめんね? 別に驚かせるつもりは無かったんだけど・・・・・・」

 

ちなみに、レイジが曜の従兄で千歌や無爪と知り合いなこともあり、果南もレイジのことは昔から知っているので2人は互いに顔見知りである。

 

「聞いたよ、お父さん怪我して今果南ちゃん店の手伝いで学校を休んでるって」

「うん、実はそうなんだ」

「だからこれ。 こっちに帰って来て忙しくて遅れちゃったけど、お見舞いの品」

 

レイジの持っていた袋は果南の父に対してのお見舞いであり、果南は「ありがと~」とお礼を言いながらそれを受け取るのだった。

 

「折角だし、レイジさんもダイビングして行く?」

「うーん、そうだなぁ・・・・・・」

 

そんな時のことである。

 

突然、いつの間にか現れていた誰かが果南の腰に抱きつき、彼女が視線を下に向けるとそこには・・・・・・。

 

果南の胸に頬ずりをする鞠莉の姿があるのだった。

 

「えっ、理事長!?」

『おい、あれ完全にセクハラだろ』

「やっぱりここは果南の方が安心できるな~♪」

「って鞠莉!!」

 

果南は自分の胸に頬ずりしてくる鞠莉を引き離すのだが、彼女は身体をターンさせた後に今度は普通に「果南、シャイニー!」と言いながら嬉しそうに果南に抱きついてくる。

 

「・・・・・・どうしたのいきなり?」

 

険しい表情を浮かべながら、果南が鞠莉にそう尋ねると鞠莉は一度果南から離れ、レイジの方へと振り返る。

 

「ソーリー、レイジ先生。 少し、果南と2人だけで話したいことがあるの」

「あっ、は、はい!! 僕は席を外しますね!!」

 

鞠莉の言葉を受けてレイジはそそくさとその場から離れ、鞠莉は再び果南と向き直る。

 

「スカウトに来たの!」

「スカウト?」

「休学が終わったら、スクールアイドル始めるのよ!! 浦の星で!」

 

それを聞き、果南は険しい表情を崩さないまま「本気?」と鞠莉に尋ねると鞠莉は先ほどまでのおちゃらけた様子から一変し、真剣な顔つきとなる。

 

「・・・・・・でなければ、戻って来ないよ」

「・・・・・・」

 

それを受け、果南は目を滲ませながら何かを鞠莉に強く言い放った後、彼女は店の中へと戻って行くのだった。

 

「・・・・・・相変わらず頑固親父だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、黒澤家にて・・・・・・。

 

そこでは部屋の隅っこでルビィはμ'sの雑誌を読んでいた。

 

「・・・・・・」

 

すると彼女はふっと視線を別の場所に移し、彼女はその場所でよくダイヤと一緒によくμ'sの話を2人で楽しくしている時のことを思い出していた。

 

『ルビィは花陽ちゃんかなぁ?』

『わたくしは断然エリーチカ! 生徒会長でスクールアイドル、クールですわ~!』

 

エリーチカがクール・・・・・・?

 

ではなくルビィがそんな自分達の押しのことを話し合うという当時のことを思い出し、その時のことを思い出して寂しくなったのか、一瞬彼女は暗い表情となるが・・・・・・。

 

再びμ'sの雑誌に視線を映すとすぐに彼女は自然と笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・」

 

そんな様子を丁度学校から帰ってきたダイヤがこっそりと覗いていたのだが、彼女はルビィがμ'sの雑誌を読んでいることに何も言わず、そのままその場を立ち去るのだった。

 

「あっ、そうだ」

 

するとルビィは冷蔵庫にアイスがあったことを不意に思い出し、彼女は丁度喉も渇いたのでアイスを食べようと台所に立ち上がって向かう。

 

「あった♪」

 

ルビィはそのアイスを手に取り、食べようと蓋を開けるのだが・・・・・・。

 

「えっ!? あれなんで!?」

 

なぜかそのアイスは既に溶けており、一瞬冷蔵庫が壊れたのかと思ったのだが・・・・・・見たところ冷蔵庫に異常はなく、ルビィは訳が分からず首を傾げ困惑する。

 

尚、その時ルビィは気づいていなかったのだが・・・・・・彼女の胸から米粒ほど小さな光が一瞬だけ宿っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、とある廃工場のある部屋にて・・・・・・。

 

そこでは壁にサーベルを始めとしたハンマーや銃など様々な武器が飾られており、その部屋の中央に置かれたソファには右目に傷があり、レスラーパンツのような模様の入った黒い身体の宇宙人・・・・・・「武装暴君 マグマ星人 マクリル」が武器の手入れをしながら座っていた。

 

『ふぅ~、なんかおもしれぇことねえかなぁ』

 

そんなことマクリルが呟いていると突然、彼が机の上に置いていた端末機が鳴り響き、それを受けてマクリルは慌てて端末機を手に取る。

 

『おっ! こいつは・・・・・・どうやら、例の噂の光を発症した人間が、この辺りにいるらしいな』

 

そう言いながらマクリルやニヤリと笑みを浮かべ、ソファから立ち上がり、壁に飾ってある武器を手に取っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とある本屋で花丸がルビィと同じμ'sの雑誌を立ち読みしているところだった。

 

「μ's・・・・・・かぁ。 オラには無理ずら」

 

花丸はそう呟きながら次のページを開くとそこにはμ'sのメンバーの1人である「星空 凛」の姿があり、彼女は凛のページを少し興味深そうに眺めていた。

 

「・・・・・・んっ? あれって・・・・・・花丸ちゃん?」

 

尚、その時少し離れたところで漫画を買いに来た無爪がたまたま通りかかり、彼は雑誌を読んでいる花丸の姿を見て何か思うところがあるのか、「ふむ」と小さく呟く。

 

「ズラ丸降臨! しかも同じクラスの男子も! なんでここに!?」

 

その時、サングラスとマスクをした不審者がこっそりと移動していたのだが、花丸と無爪はその気配に気づき「んっ?」っと首を傾げるのだった。

 

「ってあれ? 無爪くん?」

「また会ったね、花丸ちゃん」

 

するとそこで花丸は無爪の存在に気づき、彼女はそれに驚いた表情を浮かべる。

 

「やっぱり花丸ちゃんも興味あるの? スクールアイドル?」

「い、いやぁ・・・・・・マルは・・・・・・。 ルビィちゃんがよく話してくれるから、少し気になっただけで・・・・・・」

「そう? その雑誌、凄く興味深そうに読んでたみたいだけど・・・・・・」

 

無爪にそう指摘され、花丸は「えっ!? そうずら!?」と声をあげる。

 

どうやら興味深そうに読んでいたのは無自覚だったらしい。

 

「ずら?」

「あっ、いや・・・・・・そうかな?」

 

また思わず「ずら」と言ってしまったことに慌てて言葉を訂正する花丸。

 

「うん。 興味深そうに見てた。 スクールアイドルが気になるのなら、千歌ねえ達の部活も良かったら見に来てね」

 

無爪はそれだけを言い残すと手を振ってその場を立ち去って行き、そんな無爪に影からこっそりとペガが誰にも気づかれないように顔を出す。

 

『なんやかんや言ってるけど、無爪って千歌ちゃん達の為に色々やってくれてるよね?』

「別に、千歌ねえの為じゃないし! 花丸ちゃんが興味ありそうだったから言ってあげただけだし!!」

『素直じゃないんだから』

 

何時ものようにそっぽを向いてツンデレ全開の無爪にペガは呆れたように苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、朝練として千歌、梨子、曜の3人は体力作りをするために淡島神社の長い階段を駆け上がっていたのだが・・・・・・。

 

流石に長すぎる為、彼女等は息を切らして途中で座り込んでしまっていた。

 

ちなみにこれには無爪も少し心配になって付いてきて一緒に階段を駆け上がっていたのだが・・・・・・そこはやはりウルトラマンだけあって彼は全く息切れをしていなかった。

 

「はぁ、はぁ、無理よ、流石に・・・・・・」

「でもぉ~、μ'sも階段登って鍛えたって~」

 

千歌の言葉を聞いて無爪は自分の影の中にいるペガに梨子にバレないようにこっそり「そうなの?」と尋ねる。

 

『いや、μ'sはここまで長い階段登ってないよ』

「だと思った。 千歌ねえ、もう少しペース配分考えようよ」

 

無爪は苦笑しながら千歌にそう言い、それに曜も「だね」と頷く。

 

「だってこんなに長いとは思わなかったし」

 

そんな時、「千歌?」と上から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえ、声のした方に視線を映すとそこには走りながら果南が階段から降りて来た姿があり、千歌も「果南ちゃん!」と彼女の名を呼ぶ。

 

「もしかして上まで走って行ったの!?」

「一応ね、日課だから」

 

それを聞いて千歌達4人は「日課!?」と驚きの声をあげる。

 

「いやなんで無爪も驚くの? 無爪の方がとんでも体力じゃん」

 

果南にそうツッコまれ、無爪は「そういやそうか」と思わず納得。

 

「っていうか千歌達こそどうしたの? 急に?」

「鍛えなくっきゃって! ほら、スクールアイドルで!!」

 

果南の質問に千歌がそう答え、それに対して果南は「あぁ・・・・・・そっか」と納得し、「じゃあ店開けないといけないから」と言い残して彼女はその場を走り去って行くのだった。

 

「息1つ切れてないなんて・・・・・・」

「上には上がいるってことだね」

 

そんな果南を見てそれぞれ感心する梨子と曜。

 

また千歌も一度息を吐いてもう1度走り出そうと「私達も! 行くよ~」と言ってもう1度走り出そうとするのだが・・・・・・その時の千歌はかなり弱々しく見え、それに無爪達3人は苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、学校にて・・・・・・。

 

「えぇ!? スクールアイドルに!?」

「うん」

 

教室で花丸が突然、ルビィに「スクールアイドル部に入部したい」と言ってきたのだ。

 

尚、その言葉は同じ教室にいる無爪の耳にも入り、彼は慌てて「えっ、ホント!?」と嬉しそうに花丸達の元へと駆け寄る。

 

それに急に来たものだから花丸とルビィは「わっ!?」と声をあげて少し驚いてしまい、ルビィは思わず花丸の後ろに隠れてしまった。

 

「あっ、ご、ごめん急に・・・・・・驚かせちゃって。 でも、花丸ちゃんがアイドル部に入部してくれるって聞こえて・・・・・・つい」

 

無爪は申し訳なさそうに花丸とルビィに謝り、ルビィも花丸も「気持ちは分かるから、気にしなくて良いよ」と声をかけてくれたのだった。

 

「それで花丸ちゃん、急にどうして?」

「どうしって、やってみたいからだけど? ダメ?」

 

ルビィからの疑問に花丸はそう答え、花丸の言葉に対し、ルビィは「全然!!」と返す。

 

「ただ、花丸ちゃん興味とかあんまり無さそうだったから・・・・・・」

「いやぁ~、ルビィちゃんと一緒に見ている内に『良いな~』って! だから、ルビィちゃんも一緒にやらない?」

「ルビィも!?」

 

花丸はさらにルビィも一緒にスクールアイドル部に入らないかと誘い、それに驚きの声をあげるルビィ。

 

「やってみたいんでしょ?」

「それは、そうだけど・・・・・・人前とか、苦手だし、お姉ちゃんが嫌がると思うし・・・・・・」

「それは関係無いよ」

 

そんなルビィの言葉に、無爪が言ってきたのだ。

 

「人前はきっと、頑張ればどうにかなるし。 やりたいかやりたくないのかは、ダイヤさんじゃなくてルビィちゃん自身が決めることだよ?」

「うぅ・・・・・・」

 

しかし、それでもルビィはアイドル部に入部するのを躊躇い、それを見て花丸は「じゃあこうしない?」と1つの意見を彼女の耳元でささやいて提案したのだ。

 

「体験・・・・・・入部?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、放課後のスクールアイドル部の部室にて。

 

「ホントぉ!?」

 

花丸とルビィが体験入部をする為にこの部室に訪れ、そのことに対して千歌は嬉しさのあまり、目尻に涙を溜めた後、「やったぁ~!!」と喜びのあまり部室を飛び出してハイテンションなジャンプを披露。

 

「これでラブライブ優勝だよ!! レジェンドだよ~!!」

 

そう言いながら千歌は梨子と曜の間に入って2人の肩に腕をかけるのだが・・・・・・無爪はそんな千歌に呆れた視線を向ける。

 

「千歌ねえ、話聞いてた? 花丸ちゃんとルビィちゃんは体験入部する為に今日は来たんだよ?」

「ほぇ?」

 

つまり、お試しで一時入るだけでそれで行けそうならば入部するし、合わなければ入らずにやめるということを梨子は千歌に説明し、説明を受けた千歌は「そうなの?」と首を傾げて尋ねる。

 

「いやぁ、まあ・・・・・・色々あって・・・・・・」

「もしかして生徒会長?」

 

どうにもぎこちなさそうな2人に対し、曜は「もしかしてダイヤのことを気にしているのでは?」と思い、問いかけると花丸は苦笑しながら「は、はい」と頷く。

 

「だから、ルビィちゃんとここに来たことは内密に・・・・・・」

「僕は、気にする必要ないと思うんだけどなぁ・・・・・・。 っていうか・・・・・・!」

 

一方で千歌はAqoursの部員募集のポスターに「国木田 花丸&黒澤 ルビィ 参加」とマジックと書き込んでおり、そんな彼女に無爪は頭を抱えて後ろから軽めのチョップを千歌の頭に叩きこんだ。

 

「ほわっ!? なっちゃん何するの!?」

「何するじゃないよ!! 千歌ねえ、話はちゃんと聞こうか?」

 

無爪に注意され、梨子と曜もそんな千歌に対し思わず苦笑してしまうのだった。

 

「じゃあ取りあえず、練習やって貰うのが1番ね?」

 

梨子がそう言うと、彼女は部室のホワイトボードに色々なスクールアイドルのブログを見て参考に作ったという練習メニーが書かれた紙を貼り付け、それを見た無爪、千歌、ルビィ、花丸は感心の声をあげた。

 

「曲作りは?」

 

そこで曜が梨子の考えて来たメニューに曲作りの箇所がないことに気づき、彼女がそのことを手を挙げながら梨子に尋ねる。

 

「それは別に時間を見つけてやるしかないわね」

 

曜の質問に対し、梨子はそう説明を行う。

 

また、その光景を見てルビィは「本物のスクールアイドルの練習・・・・・・!」とスクールアイドルの練習場面を生で見れることに感動していた。

 

「でも、練習どこでやるの?」

 

次に曜がダンスの練習などはどこでやれば良いのかと疑問に思ったことを口にすると、すっかりそのことを忘れていたのか千歌は「あっ・・・・・・」と声を出し、一同は練習できそうな場所を探しに行くことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、グランドも中庭も殆どの場所が他の部活の生徒達が使用しており、部室もダンスの練習ができるほど広くはないので千歌達は練習ができる場所に悩んでいた。

 

「砂浜じゃダメなの?」

「移動の時間考えると、練習場所はできたら学校内で確保したいわ」

 

曜がならばファーストライブの時のように砂浜でやるのはどうかと提案したのだが、それでは移動だけでも時間がかかってしまうということで梨子は却下し、他の方法を考えていると・・・・・・。

 

「それなら屋上はどうですか!?」

 

そこでルビィが練習場所で悩んでいる千歌達に意見を出し、千歌は「屋上?」と首を傾げ、それを無爪の影の中から聞いたペガは「成程」と納得する。

 

『屋上か。 確かに良い案かも』

「んっ? 屋上がどうかしたのペガ?」

『μ'sもね、ダンスの練習とかは学校の屋上を使っていたんだって』

 

無爪の問いかけに対し、ペガはそう答え、またルビィも千歌達にそのことを教えると彼女達も「そうか!」と納得し、早速一同は屋上へと向かうのだった。

 

「そう言えばペガもスクールアイドル・・・・・・μ'sが好きなんだよね? ルビィちゃんと仲良くなれるんじゃない?」

『確かになれそうだけど・・・・・・驚かせたくないし、でも、何時か話せたら良いなとは思うよ』

 

その道中、無爪は梨子達にはバレないようにペガに話しかけ、もしかしてルビィとペガは話が合うのではないかと言うのだが・・・・・・。

 

ペガ自身は「驚かせたくない」ということで、取りあえず今は黙っていることにするペガであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、屋上に辿り着くと思ったよりもその広く、その広さに千歌は「すっごーい!!」と飛び跳ねて喜んでいた。

 

「富士山くっきり見えてる~!」

「でも日差しが強いかも・・・・・・」

 

曜と花丸もそれぞれ屋上の感想を言い、また花丸の言葉に千歌は「それが良いんだよ!!」と返す。

 

「太陽の光をいっぱい浴びて!! 海の空気を、胸いっぱいに吸い込んで・・・・・・」

 

そう言いながら座り込んだ千歌は床に手を置き、笑みを浮かべながら「暖かい」と小さく呟く。

 

すると、そんな彼女の元へと曜達が歩み寄り、千歌と同じように床に手を当てる。

 

「ほら、なっちゃんも!!」

 

ただ一方で無爪だけは離れた位置に立っており、そんな彼の手を掴んで千歌は引っ張り、それに無爪は顔を赤くする。

 

「い、いや、僕が一緒にやるのはなんか場違いじゃない!?」

「全然そんなことないよ!! ほら、一緒に!」

 

そんな千歌に流されるまま、彼女と一緒に床に手を置く無爪。

 

それに無爪は「ホントだ、暖かい・・・・・・」と呟き、それに千歌は嬉しそうに笑顔を見せるのだった。

 

「ん~! 気持ち良いずら~!」

 

また花丸はそのまま寝転がり、そんな彼女の方をルビィは「花丸ちゃん?」と軽くつつく。

 

そんな光景に、千歌達はほのぼのとしつつ、「さあ、始めようか!」とダンスの練習を行うこととなり、千歌、梨子、曜、花丸、ルビィは立ち上がってそれぞれが手を重ね合う。

 

「なっちゃんも一緒にやらないの?」

「いや、だから僕はスクールアイドル部に所属してないから。 それこそなんか場違い感あるし。 まぁ、手伝いくらいはするけど」

 

千歌が無爪が参加しないことに少し寂しそうにしているが、無爪は「それこそ場違い」ということで拒否し、千歌も無理強いはできないので渋々承諾。

 

気を取り直して千歌は練習開始の号令をかける。

 

「じゃあ行くよー!! Aqours・・・・・・!!」

「「「「「サンシャイン!!!!」」」」

 

それから・・・・・・。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー! ワン、ツー、スリー、フォー!!」

 

曜の声に合わせて千歌とルビィはダンスの練習を開始。

 

「ふぅ、できた! できました!! 千歌先輩!!」

 

一通り終わると、ルビィは自分が想像してたよりもちゃんと出来たことに驚きつつも嬉しそうに千歌に「自分にも出来ました!」と話しかけるのだが・・・・・・。

 

千歌はルビィとは全く違うポーズを取っており、完全にダンスの振り付けが間違っており、そのことに千歌は「あれ?」と首を傾げる。

 

「千歌ちゃんはやり直し」

「今日始めたばかりの後輩に出し抜かれるとか、先輩の威厳はないね、千歌ねえは・・・・・・」

 

梨子と無爪にそう言われ、「あはは~」と苦笑いする千歌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日までって約束だった筈よ!?」

「あはは、思いつかなかったんだもん~」

 

その後、部室に戻った無爪達だったが・・・・・・。

 

「なにかあったんですか?」

「あぁ、新しい曲、今作ってて」

 

何か言い争っている千歌と梨子に首を傾げながら何があったのかと疑問に思ったことを花丸が曜に尋ねると、彼女が言うには現在、千歌は今日までに出すようにと梨子に頼まれていた歌の歌詞をやっていなかったので、現在彼女から怒られているところなのだという。

 

「あっ、花丸ちゃんも、何か思いついたら言ってね!」

「・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

不意に千歌にそう言われ、思わず返事をする花丸。

 

するとそこで、花丸がふっと隣にいるルビィを見ると彼女は小さくダンスの振り付けの練習をしていることに気づき、そんなルビィの姿に花丸は思わず笑みを零れた。

 

 

 

 

 

 

 

「これ・・・・・・一気に登るんですか!?」

 

その後、淡島神社の階段前に来た千歌達はルビィと花丸に練習の一環としてここの階段を駆け上がって走ることを説明。

 

それにルビィは驚きの声をあげ、千歌は「勿論!」と胸を張って答えるが、その後に曜から「いつも途中で休憩しちゃうんだけどねー」と説明が入る。

 

「でも、ライブで何曲も踊るには頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし」

 

さらに梨子からもこの階段を駆け上がる意味を花丸とルビィに話し、そして一同は千歌の掛け声を合図に階段を走って行くのだった。

 

「それじゃ、μ's目指して・・・・・・よーい、ドーン!!」

 

尚、無爪も今日始めたばかりの花丸やルビィが無茶をしないようにフォローをする為、彼もまた一緒に階段を駆け上がることになったのだった。

 

しかし、花丸はかなり早い段階で既に体力が付きかけてしまっており、花丸が遅れていることに気付いたルビィは立ち止まり、花丸が来るのを待つ。

 

「どうしたのー?」

 

そんなルビィに気付いた曜がどうかしたのかと尋ねるとルビィは「ちょっと息が切れちゃって」と苦笑しながら曜に話す。

 

「先行っててくださ~い」

「無理しないでね~?」

 

ルビィに先に行っててくれと言われ、曜達は頷き、無理しないようにだけ言って彼女等は先に階段を駆け上がって行くのだった。

 

「花丸ちゃん、無理しないでね?」

「だ、大丈夫だよ・・・・・・」

 

無爪からも花丸に無茶をしないように言うのだが、花丸は笑みを浮かべてそう言うのだが・・・・・・。

 

その時、花丸は上の方でルビィが待っていることに気づき、彼女は「ルビィちゃん?」と首を傾げる。

 

「一緒に行こう!」

「・・・・・・ダメだよ」

「えっ?」

 

一緒に階段を走ろうと誘うルビィだが、花丸から返って来た言葉に彼女は戸惑い、「花丸ちゃん?」と不思議そうに彼女の名を呼ぶ。

 

「ルビィちゃんは、もっと自分の気持ち大切にしなきゃ!」

 

息を切らしながらも花丸はそうルビィに語りかけ、顔をあげると花丸はさらにルビィに対して言葉をかける。

 

「自分に嘘ついて、無理に人に合わせても辛いだけだよ!」

「・・・・・・合わせてる訳じゃ・・・・・・」

「ルビィちゃんはスクールアイドルになりたいんでしょ? だったら、前に進まなきゃ!」

 

そう言いながら花丸は笑みをルビィに向け、彼女を後押しする。

 

「さあ、行って?」

「で、でも・・・・・・」

「・・・・・・さぁ!」

 

最初こそ、花丸の言葉に戸惑うルビィだったが、花丸の強い言葉にルビィも笑みを浮かべて「うん!」と頷くと、彼女は再び階段を駆け上がり始める。

 

「自分に嘘ついてるのって、花丸ちゃんもなんじゃないの?」

 

そんな2人の様子を見ていた無爪が、不意にそんなことを花丸に尋ねて来る。

 

しかし、花丸は苦笑いしながら「そんなことないよ」と言葉を返す。

 

「マルはただ、とても優しくて、とても思いやりがあって、でも・・・・・・気にしすぎで、素晴らしい夢もキラキラした憧れも、全部胸に閉じ込めてしまって・・・・・・。 マルはただ、それを切り拓いてあげたかっただけだよ。 中に詰まっている、いっぱいの光を」

 

花丸はそれだけを言い残すと、先に階段を降りていることだけを千歌達に伝えてくれと無爪に頼み、彼女は階段を降り始める。

 

そんな彼女を見て、ひょっこりと無爪の影から顔を出すペガ。

 

『花丸ちゃん、追いかけなくて良いのかな?』

「多分だけど、それは僕達の役目じゃないと思う。 でも、花丸ちゃんの言ってることって、殆どブーメランだよね」

 

そんな花丸の背中を見つめながら、思わず苦笑する無爪。

 

そして、ルビィはと言うと・・・・・・。

 

彼女は自分を頂上で待つ千歌達に追いつき、息を切らしながらもなんとか彼女は辿り着いた。

 

「やった、やったぁ!」

「すっごいよルビィちゃん!!」

「見て!」

 

すると千歌が祠の方を指差すとそこでは輝く綺麗な夕焼けがあり、それに「うわぁ~!」と歓喜の声をあげるルビィ。

 

「やったよ! 登り切ったよぉ!!」

 

そして、登り切ったことを飛んで喜ぶ千歌であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の隅々まで照らせるようなそのルビィの輝きを、花丸は大空に放ってあげたかった。

 

それが花丸自身の夢だった。

 

花丸はその夢を叶えられたことに満足し、階段を降りると彼女は一瞬だけ笑みを浮かべる。

 

「なんですの? こんなところに呼び出して」

 

その時、聞き覚えのある声が花丸の耳に入り、声のした方を向くとベンチに座っているダイヤの姿があり、ダイヤの姿を見ると花丸は気を引き締めた表情をすると彼女はダイヤの元まで歩く。

 

「・・・・・・あの、ルビィちゃんの話を・・・・・・。 ルビィちゃんの気持ちを、聞いてあげてください」

「・・・・・・ルビィの?」

 

花丸はそれだけを言うとダイヤに頭を下げた後、その場を走り去って行くのだった。

 

「あっ・・・・・・。 そんなの、分かってる・・・・・・」

 

沈みゆく夕日を見つめながら、ダイヤがそう呟くと・・・・・・「お姉ちゃん!?」という声が聞こえ、ダイヤが声をした方へと顔を向けるとそこにはルビィ、千歌、曜、梨子、無爪の5人が立っていた。

 

「ルビィ!? これは、どういうことですの?」

 

鋭い目つきでこれは一体どういうことなのかとルビィに問いかけるダイヤ。

 

「あの・・・・・・それは、その・・・・・・」

「違うんです!! ルビィちゃんは・・・・・・」

 

そんなダイヤからルビィを庇おうとする千歌だが、そんな彼女の肩に手を置き、引き止め、首を横に振る無爪。

 

「なっちゃん・・・・・・」

 

それによって千歌は口を閉じ、ただ彼女は心配そうにルビィを見つめる。

 

「大丈夫です、千歌さん」

 

ルビィはそれだけを言うと、彼女はダイヤの元まで歩き・・・・・・。

 

「お姉ちゃん・・・・・・。 ルビィ・・・・・・!」

 

だが、そんな時・・・・・・。

 

『見つけたぞ、胸の光を持つ人間を・・・・・・!!』

『っ!?』

 

後ろから聞こえて来た突然の声に千歌達は驚いて後ろを振り返るとそこにはマグマ星人 マクリルが右腕に装着した「マグマサーベル」を構えながら、そこに立っており、マクリル出現に一同は慌て、動揺する。

 

「えっ!? なになに宇宙人!?」

「えっ、またぁ!?」

「な、なんですのあなたは!? いつの間に・・・・・・」

 

初めて見る宇宙人に特に動揺する曜、梨子はまた宇宙人と遭遇したことに危機感を抱き、ダイヤはルビィを後ろに下がらせて庇うように立つ。

 

『俺が用があるのはそこの赤い髪の奴だけだ!! 関係ない奴等は引っ込んでいろ!!』

 

マクリルはそう言うと左腕に銃のような武器を出現させて装着し、銃口をルビィに向けるのだが・・・・・・そうはさせまいと無爪がジャンプして大きく飛び上がり、膝蹴りを喰らわせる。

 

「おりゃああ!!」

『ぐはっ!?』

 

それに倒れ込んだマクリルに無爪は覆い被さり、早く逃げるように千歌達に言い放つ。

 

「こいつは僕が押さえ込むから、ダイヤさんや千歌ねえ達はルビィちゃんを連れて一緒に逃げて!!」

「えっ、ですがあなたは・・・・・・!!」

「こいつはルビィちゃんを狙ってる!! 早く!!」

 

一般の生徒を残し、自分達だけで逃げるなど・・・・・・と思うダイヤだったが、無爪はさらに力強く「早く逃げろ!!」と言い放ち、それにダイヤは確かに無爪の言う通り、あの宇宙人がルビィを狙っているのは確実。

 

ならばと考え、ダイヤは「わ、分かりました」と渋々頷き、ルビィの手を引っ張ってその場から走り去って行く。

 

「お姉ちゃん!」

「千歌さん達も早く行きますわよ!!」

「で、でも・・・・・・なっちゃんが・・・・・・」

『いい加減退きやがれ!!』

 

そうこうしている間にマクリルは力尽くで無爪を押し退かし、左腕の銃「マグマショット」から弾丸を無爪に向かって発射。

 

「うわっ!?」

 

なんとか躱す無爪だが、即座にマクリルから放たれたドロップキックを喰らい、無爪は吹き飛ばされてしまう。

 

「「なっちゃん!!」」

「無爪くん!!」

 

即座に千歌達は吹き飛ばされた無爪の元に駆け寄り、マクリルはその隙にルビィ達を追いかけて一気に彼女達の元へと追いついてくる。

 

『待てやコラァ!!』

「ひっ!?」

「こ、来ないで~!!」

 

すると、ルビィの胸が突如として眩い光を放ち・・・・・・咄嗟に突き出した両手から炎が放たれ、炎はマクリルを包み込む。

 

『おわっ!? あっつ、あっつい!!? 熱いんすけど!?』

「・・・・・・えっ?」

「る、ルビィ・・・・・・? 今のは、なんですの?」

 

それにはルビィやダイヤ、近くでその光景を見ていた千歌達も驚きの表情を浮かべ・・・・・・また、特に梨子は・・・・・・目を見開いて唖然としていた。

 

「あれって・・・・・・梨子ちゃんの時と同じ・・・・・・」

「じゃあ、ルビィちゃんが・・・・・・リトルスターを・・・・・・。 あの宇宙人はそれを狙ってるんだ」

 

小声で千歌と無爪は2人ではそんな会話を繰り広げ、またダイヤはルビィが両手から炎を出したことには驚いたもののすぐに彼女はハッと我に返り、ルビィの腕を引っ張ってその場から逃げようとする。

 

「あつっ!?」

「あっ、お姉ちゃん!? 大丈夫!?」

 

リトルスターを発症したせいか、ダイヤが腕を握るとその熱さで彼女は一瞬腕を引っ込めてしまうが、ダイヤは笑みを浮かべて「大丈夫ですわ」とだけ言うと、すぐに「兎に角逃げて!!」とルビィをその場から逃がそうとする。

 

『そうはさせねえぞ!!』

 

しかし、マクリルはルビィに燃やされた怒りもあり、彼女を逃がすまいと巨大化し、一度武器を消すとその巨大な両手でダイヤ諸共、ルビィを掴み取ろうとする。

 

「ルビィちゃん!! ダイヤさん!!」

 

だが、その直後……。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

いつの間にか曜や梨子に気付かれないように場所を移動した無爪がそう言い放つと腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

変身を完了させたジードは跳び蹴りをマクリルの顔面に喰らわせ、蹴り飛ばしてダイヤとルビィから一気に引き離すことに成功。

 

「ウルトラマン・・・・・・!」

「ジード・・・・・・!」

 

ダイヤとルビィがジードの姿を見て、彼の名を呟くとジードは2人に「もう大丈夫」とでも言うように頷き、ファイティングポーズを取りながらマクリルへと駆け出す。

 

『シェア!!』

 

ジードは勢いをつけた膝蹴りをマクリルに繰り出すが、マクリルはそれを受け流し、左腕のマグマショットをジードに突きつけて近距離から弾丸を発射。

 

『グアアッ!?』

 

さらにマクリルは両腕に爆発的なパワーを発揮させる効果のあるガントレット型の武器、「マグマガントレット」を装着し、その強烈なパワーによる拳をジードに繰り出すが、ジードは後ろの方へと後退しながら回避。

 

『レッキングリッパー!!』

 

それと同時に前腕の鰭状の部位から放つ切断光線「レッキングリッパー」をジードはマクリルに繰り出すのだが、マクリルは拳を前に突き出してレッキングリッパーを打ち砕く。

 

『フン!! オリャアア!!!!』

 

そのままマクリルはジャンプしてマクリルの拳がジードの胸部に直撃し、ジードは大きく吹き飛ばされる。

 

『ウワアア!!?』

 

それにより、倒れ込むジード。

 

『そこでジッとしていろ!!』

 

マクリルはそれだけを言うと、ジードに背中を向けて再びルビィに視線を向ける。

 

「ひっ!?」

『無爪、ここは防御力の高いソリッドバーニングの方が有効です』

 

そこでレムから通信が入り、彼女のアドバイスを受けてジードは「分かった!」と頷いて立ち上がる。

 

そして無爪はジードライザーを構え、セブンカプセルを起動させる。

 

『融合!』

 

するとカプセルの中から赤い戦士の「ウルトラセブン」が出現する。

 

『アイ、ゴー!』

 

さらに無爪は赤き獅子の戦士「ウルトラマンレオ」のカプセルを起動させるとカプセルからレオが現れる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『燃やすぜ、勇気!!』

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとセブンとレオの姿が重なり合い、赤い鎧を纏ったような姿……「ウルトラマンジード ソリッドバーニング」へと変身を完了させる。

 

『はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!』

『ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード!! ソリッドバーニング!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンジードソリッドバーニング 」

 

姿を変えたジードは背中のブースターで一気にマクリルに接近すると、マクリルの肩を掴んでこちらに無理矢理振り向かせると同時に腕のブースターで加速させた強烈なパンチをマクリルに叩きこむ。

 

『ぐああ!!?』

 

ジードの攻撃を喰らい、膝を突くマクリルだが・・・・・・マクリルはすぐさま左腕をマグマショットに変えて銃弾を撃ち込むが・・・・・・ソリッドバーニングの装甲には一切効かず、ジードはマクリルを無理矢理立ち上がらせるとそのまま巴投げを繰り出す。

 

『うおわあ!!?』

 

ジードに投げられ、背中を地面に打ち付けるマクリル。

 

『なんでお前はあの娘を狙う!!』

 

倒れ込んだマクリルに向かってジードはなぜルビィを狙うのかと尋ねると、マクリルは「フン」と鼻で笑った後立ち上がる。

 

『あの胸の光を狙う奴は、他にも大勢いる。 だから俺はその光を持つ者を、欲しがる奴等に高値売りつけて一儲けしたい! その為に俺はそこの小娘を狙ってるだけだ!!』

『ふざけるな!! そんなのただの人身売買じゃないか!!』

『うるさいんだよぉ!! 仕事の邪魔すんな!!』

 

そう言うとマクリルは左手にフック、右手にマグマサーベルを装着してジードに向かって駆け出し、フックとサーベルでジードを斬りつけるが・・・・・・ソリッドバーニングの装甲はやはり硬く、一切のダメージを与えられなかった。

 

『デヤアア!!』

 

さらにジードは両手でマクリルの両肩にチョップを叩き込み、続けて回し蹴りをマクリルに喰らわせる。

 

『ぐはああ!!? ならば、これならどうだ!! 俺の最強武器!! 『マグマキャノン!!』』

 

だが、それでもマクリルは臆さず新たに両腕に装着した巨大なキャノン砲・・・・・・「マグマキャノン」を装備。

 

それを見て大技が来ると判断したジードは即座に装甲を展開した右手にエネルギーを集中させ、炎をまとった72万度の爆熱光線を正拳突きの姿勢で放つ「ストライクブースト」を発射。

 

『ストライク・・・・・・ブーストォ!!』

 

同時にマクリルもエネルギーをチャージし、一気の放出する巨大なエネルギー光線を放ち、2人の技がぶつかり合うのだが・・・・・・ストライクブーストはあっさりと打ち砕かれ、エネルギー光線はジードを飲み込み、ジードは身体中から火花を散らす。

 

『うあああああああ!!!!?』

 

火花を散らしながら、ジードは大きく吹き飛ばされてしまい、地面に激突。

 

それと同時にカラータイマーも点滅を始める。

 

『ぐっ・・・・・・うぅ・・・・・・』

『よっしゃ、効いたぜ!!』

「ジード!!」

 

大ダメージを受け、倒れるジードを見て悲痛な声をあげる千歌。

 

また曜や梨子、ダイヤやルビィもその様子を見てどうすれば良いのか分からず、困惑してしまう。

 

『もう1発喰らいな!』

 

そう言うとマクリルはもう1発マグマキャノンから光線を発射しようとエネルギーをチャージする。

 

『ぐっ、うっ・・・・・・!』

 

また、ジードは傷つきながらもなんとか立ち上がるのだが・・・・・・既に身体はフラフラであり、立つのがやっとであった。

 

「ど、どうしよう・・・・・・私達じゃ、なんの助けにも・・・・・・」

 

最初こそ、「少し怖い」とジードのことを評していた曜だったが、今までのジードの活躍から少し警戒が解けた為か、ジードのことを彼女は心配する。

 

「・・・・・・いや、もしかしたら、ルビィちゃんなら・・・・・・! ルビィちゃん!!」

「ひゃ、ひゃい!!?」

 

梨子に突然名前を呼ばれ、驚きの声をあげるルビィ。

 

「実はね、私も前にルビィちゃんと似たような現象が起きたことがあるの。 その時、私も手から炎が出た」

「そ、そうなんですか・・・・・・!?」

 

それを聞き、ダイヤは「それであなたはどうなったんですの?」と尋ねると、梨子は症状が治った時のことをダイヤとルビィに説明する。

 

「ジードに、助けて欲しいって願ったんです。 そしたら、私の胸の光が分離してジードの方へ飛んでいって力が消えたんです。 もしかしたら、あの光はジードに力を与えてくれるのかも・・・・・・」

 

「だから私と同じように、ジードに願って!」と強く言い放つ梨子。

 

「ですが、ジードはベリアルと何か関係のある・・・・・・」

 

しかし、どうやらダイヤはジードはベリアルと何か関係があるのかもしれないという疑念を抱く側の人間だったらしく、そのことに少なからず彼女は抵抗感があったのだが・・・・・・。

 

「ベリアルとか、そんなこと関係ありません!! ジードは私の時も、今も・・・・・・ルビィちゃんを守ろうと必死に戦ってくれています!!」

「そうだよ、ジードはみんなの為に戦ってくれてる・・・・・・ヒーローだよ!!」

「・・・・・・お姉ちゃん、ルビィもね・・・・・ジードさんはあんなにボロボロになるくらい戦ってくれてる。 だからルビィもジードさんを信じたい」

 

梨子と千歌、そしてルビィの3人に力強くそう言われ、ダイヤは困惑するが、ルビィはダイヤの返事を待たず、ジードの名を叫ぶ。

 

「ジードさああああん!! 負けないで・・・・・・頑張れええええええ!!!!」

 

ルビィがジードに向かって叫ぶと・・・・・・彼女の胸から光が溢れ出し、光の球体となって彼女と分離。

 

光はジードのカラータイマーの中へと吸い込まれて、カプセルとなって無爪の手に届く。

 

そこにはレオによく似た赤い戦士の姿が描かれていた。

 

『レオの弟、『アストラカプセル』の起動を確認しました。 レオとのフュージョンライズが可能です』

『ぐっ、分かった・・・・・・!!  気合い・・・・・・入れないと!! 融合!!』

 

無爪はジードライザーを構え、再びレオカプセルを起動させる。

 

するとカプセルの中から赤い戦士の「ウルトラマンレオ」が出現する。

 

『アイ、ゴー!』

 

さらに無爪はそのレオの弟「アストラ」のカプセルを起動させるとカプセルからアストラが現れる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『たぎるぜ!! 闘魂ン!!』

 

何時もよりも気合いの入った決め台詞を言うと、ジードライザーで装填ナックルをスキャンし、トリガーを引いてライザーを掲げる。

 

『はああああ、はぁ!! ジィィーーード!!!!』

『ウルトラマンレオ! アストラ! ウルトラマンジード!! リーオーバーフィスト!!』

 

頭部は逆立った髪や炎を思わせる形状に変化し、腕には手甲や包帯を装備している赤い姿、「ウルトラマンジード リーオーバーフィスト」へとジードは姿を変える。

 

『マグマキャノン!! 発射ぁ!!』

 

しかし、その直後にマクリルがマグマキャノンからエネルギー光線を発射しようとするのだが・・・・・・光線が発射されるその前にジードが一瞬でマクリルに詰め寄ると右手に炎を纏った手刀を振るい、マグマキャノンを真っ二つに切り裂いたのだ。

 

『ぬあっ!?』

 

切り裂かれたマグマキャノンは爆発し、その爆風に巻き込まれてマクリルは吹き飛ばされ地面を転がる。

 

『ぐっ!? なんだ!? さっきまであんなに弱っていたのに・・・・・・!!』

『そんなもの・・・・・・気合いだぁ!!』

『はぁ!!?』

 

ジードから返って来た言葉に、訳が分からないといった様子のマクリル。

 

戦闘BGM「真紅の若獅子」

 

マクリルは慌てて両腕にマグマショットを装着し、2丁の銃から弾丸をジードに向かって放つが、ジードは両手に炎を宿した手刀で弾丸を全て弾き、一気に詰め寄るとマクリルの胸部に連続で何発もの拳を叩き込み、最後に顔面に強烈なパンチを喰らわせる。

 

『シェアアア!!!』

『ぐああっ!?』

 

パンチを喰らい、大きく吹き飛んで倒れ込むマクリル。

 

『この姿になってから妙に身体が熱い・・・・・・。 凄く気合いが入る!! 魂が燃えるようだ!!』

『防御力、パワーはソリッドバーニングに劣りますが・・・・・・その分リオーバーフィストはどうやら攻撃特化、手数で攻める形態のようです』

 

レムからの説明を受け、「成程」と納得して頷くジード。

 

そのままジードは倒れ込んでいるマクリルに近づくのだが・・・・・・マクリルは不意に立ち上がって右腕をハンマーに変えた「マグマハンマー」をジードに振りかざすのだが、ジードはそれを両手で受け止めると押し返し、マクリルの腹部に蹴りを叩き込む。

 

『ぐあっ!?』

『ハアア、ダァ!!』

 

さらにジードは回し蹴りをマクリルの腹部に喰らわせ、後退するマクリル。

 

『クソがぁ!!』

 

すると今度はマクリルは左腕をフックに変えてチェーンを伸ばしてジードの腕を拘束しようとするのだが、逆にジードはチェーンを掴んでフルスイングし、マクリルは空中へと放り投げる。

 

『シェアアア!!!』

『おわああ!!?』

 

そしてジードは足にエネルギーを纏って跳び上がり、空中のマクリルに連続キックを叩きこんだ後、さらに最後の一発の蹴りを繰り出す「バーニングオーバーキック」を炸裂させる。

 

『バーニングオーバァー!!!! キックゥ!!!!!』

『ぐあああああああ!!!!!?』

 

それらを喰らい、耐えきれなくなったマクリルは空中で爆発し、ジードは地上へと着地するのだった。

 

「やった!! ジードが勝ったよ!!」

 

ジードが勝利し、そのことに喜びの声をあげる千歌。

 

また、そのことにルビィやダイヤ、曜に梨子もホッと一安心するのだった。

 

それからジードは空に向かって飛行して飛び去り、危険が去った今、ルビィは改めてダイヤと向き合い、自分の気持ちを伝えることにするのだった。

 

「お姉ちゃん、さっきルビィが言いたかったこと、聞いてくれる?」

「ルビィ・・・・・・?」

「お姉ちゃん、ルビィ・・・・・・ルビィね・・・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、荒井は遠くからジードとマクリルの戦いを静観しており、彼はジードが新たな姿となり、マクリルを倒したことにニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「あんな小物でも、少しは役に立つらしいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、生徒会室にて。

 

「良かったね、希望が叶って?」

 

ダイヤが窓の外を眺めていると、不意に生徒会室に入って来た鞠莉にそう言われるのだが・・・・・・。

 

「なんの話ですの?」

 

ダイヤはなんの話か分からないと惚け、誤魔化すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、Aqoursの部室にて。

 

そこではルビィがアイドル部に正式に入部するための書類を書いており、それを千歌に提出して彼女は正式にAqoursのメンバーとなるのだった。

 

「よろしくお願いします!」

「よろしくね!」

「はい!! 頑張ります!」

 

しかし、そこで梨子がルビィが入部してくれたのは良いのだが、一緒に体験入部をした花丸はどうしたのだろうとルビィに尋ねると、彼女は「あっ・・・・・・」と声を出し、どこか沈んだ表情を浮かべる。

 

「・・・・・・いこっか、ルビィちゃん」

「えっ?」

 

不意に無爪からそんな言葉をかけられ、首を傾げるルビィ。

 

「昨日花丸ちゃんがルビィちゃんに言ってたこと、ルビィちゃんなりの言葉で言い返してやろう。 『お前が言うな』って感じで」

 

無爪にそう言われ、少し考え込むルビィ。

 

だが、彼女はすぐに決意し、「うん!!」と頷いて彼女は花丸のいそうな場所に向かって駈け出して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、花丸はというと・・・・・・。

 

彼女はルビィの背中を押し、スクールアイドル部に入部させることに満足して図書室で図書委員の席に座っていた。

 

(これでマルの話はお仕舞い。 もう夢は叶ったから、マルは本の世界に戻るの・・・・・・)

 

すると、花丸の目に僅かに開けられた机の引き出しからμ'sの特集雑誌が見えており、彼女はそれを手に取るとμ'sのメンバーの1人、「星空 凛」の姿が映っているページを開く。

 

「大丈夫、1人でも・・・・・・バイバイ」

 

そして、凛のページを閉じようとしたその時・・・・・・。

 

「ルビィね!!」

「っ!? ルビィ・・・・・・ちゃん?」

 

声のした方を振り返ると、いつの間にかルビィがそこに立っていたのだ。

 

「ルビィね、花丸ちゃんのこと見てた!! ルビィに気を使って、スクールアイドルやってるんじゃないかって!! ルビィの為に、無理してるんじゃないかって!! 心配だったから・・・・・・。 でも、練習の時も屋上にいた時も、みんなと話してる時も、花丸ちゃん・・・・・・嬉しそうだった!!」

「っ・・・・・・」

「それ見て思ったの。 花丸ちゃん好きなんだって! ルビィと同じくらい好きなんだって!! スクールアイドルが!!」

 

ルビィに力強くそう言われ、花丸はハッとした顔を浮かべる。

 

「マルが・・・・・・? まさか・・・・・・」

「じゃあなんでその本、そんなに読んでたの?」

 

ルビィは机の上に置かれたμ'sの雑誌のことを指摘し、花丸は「それは・・・・・・」と呟く。

 

「ルビィね! 花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルできたらって、ずっと思ってた!! 一緒に頑張れたらって!!」

「うっ・・・・・・。 それでも、オラには無理ずら。 体力ないし、向いてないよ」

 

しかし、それでも花丸はルビィの言葉に「自分は向いていない」と首を横に振り、彼女の誘いを断ろうとする。

 

「そこに映ってる凛ちゃんもね、自分はスクールアイドルに向いてないってずっと思ってたんだよ?」

 

ルビィは雑誌の開かれた星空 凛のページを見ながら、花丸にそう呟き、それに彼女は「えっ?」とでも言うように驚いた表情を浮かべる。

 

「でも好きだった。 やってみたいと思った。 最初はそれで良いと思うけど?」

 

そこへ、いつの間にか千歌、梨子、曜、無爪の4人が図書室に訪れており、梨子が花丸にそう語りかけると千歌が手を花丸に差し伸ばした。

 

「っ・・・・・・」

 

それでも、未だに迷いを捨てきれない花丸。

 

そんな時・・・・・・。

 

「ルビィ! スクールアイドルがやりたい!! 花丸ちゃんと!!」

 

目尻に涙を浮かべながらも、自分の本心を花丸に打ち明けるルビィ。

 

「あっ・・・・・・。 マルに、できるかな・・・・・・?」

「私だってそうだよ? 1番大切なことはできるかどうかじゃない、やりたいかどうかだよ!!」

 

手を差し伸ばしたまま、千歌は花丸に笑みを向けながらそう語りかける。

 

そんな彼女の言葉に、花丸も笑みを浮かべ、千歌のその手を・・・・・・掴んだのだった。

 

「千歌ねえにしては、良いこと言ったんじゃない?」

「えっ? なにその言い方? なっちゃんひど~い!」

 

頬を膨らませながらジトーっとした視線を無爪に向ける千歌。

 

しかし、すぐになんだかおかしくなり、思わず笑ってしまう千歌と無爪。

 

それに釣られるように他のメンバーも笑い出し、手を握った千歌と花丸の手に他のメンバーも手を重ねていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行くよ! せーの!!」

 

部員も5人になったことで、ネットで正式にスクールアイドルとして千歌は登録。

 

するとネットに「RANK4999」と書かれた文字が浮かび上がる。

 

「4999位・・・・・・」

「上に5000組もスクールアイドルがいるってこと!? 凄い数・・・・・・」

「スクールアイドルってホントに人気なんだね。 僕、多くて500組くらいだと思ってた」

 

今現在、活動しているスクールアイドルの数に梨子やルビィ、無爪は驚きつつも、それでも尻込みすることなく、花丸は笑顔を浮かべて右手を挙げる。

 

「さっ、ランニング行くずらー!!」

『おー!!』

 

そして一同はランニングする為に外へ出て行くのだが・・・・・・その時、ルビィは机の上に置かれたあのμ'sの雑誌に一瞬だけ視線が向くと・・・・・・彼女は嬉しそうに笑い、自分もランニングする為に外へと向かうのだった。

 

「フフ♪」




武装暴君 マグマ星人 マクリル
右目に傷があるのが特徴のマグマ星人。
サーベルやフック以外にもマグマキャノン、マグマショット、マグマハンマーなど様々な武器を扱う為「サーベル暴君」ではなく別名が「武装暴君」となっている。
特にマグマキャノンはソリッドバーニングですら耐えきれない程の強力な威力を持つ。
リトルスター保持者を狙う宇宙人に高値で売るためにリトルスターを発症したルビィを捕えようとした。


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第6話 『堕天使降臨』

とある人気のない場所にて・・・・・・。

 

そこでは1つのダンボールが置かれており、「ぼくをもらってください」という文字が書かれた紙が貼られていた。

 

そこへやってきたのはそのダンボールの中に「不思議な生き物がいる」という通報を受けたAIBのエージェントの3人、ゼナ、ザルド、美渡だった。

 

3人はそのダンボールの中を覗き込むとそこにはサメのような姿をした小さな怪獣、「海獣 サメクジラ」の幼体がいたのだ。

 

「これがサメクジラ? 可愛い!! 私、初めて見ました」

『まぁ、地球上には存在しない生物だからな』

 

ゼナはそう言うとサメクジラを優しく抱き上げる。

 

そこでゼナは様々な星でサメクジラはペットとして飼われていたそうなのだが、成長すると恐ろしい怪獣兵器になることが判明した為、廃棄が相次いでおり今問題になっているのだということを美渡とザルドに説明。

 

そしてこのサメクジラは恐らくそれらの過程で地球に漂着してしまったのだろうとゼナは美渡とザルドに説明し、美渡が「可哀想・・・・・・」と呟きながらサメクジラの頭を撫でようとする。

 

『触るな! 噛むぞ!!』

「ちょっと撫でるだけじゃないですか~! 敵意は無いんだからそんな心配しなくても大じょ・・・・・・」

 

そう言いながらザルドがサメクジラの頭を撫でようとした瞬間・・・・・・。

 

『ガブッ!!』

 

と思いっきりサメクジラはザルドの手に噛みついたのだった。

 

「うっぎゃあああああ!!!!?」

「ぷはっ!!」

『だから触るなと言っただろ?』

 

その光景に美渡は思わず吹き出し、ゼナは呆れた視線をザルドに向ける。

 

その時、美渡の持つAIB専用の端末機の音声が鳴り響き、彼女は端末機を取り出して画面を見るとメッセージで今度は「ルナー」と呼ばれる生物の目撃情報があったという報告を受ける。

 

「今度はルナー種の目撃情報があったそうです」

『ルナー種? サメクジラ同様宇宙に棄された生物だ。 7年前にエチオピアで捕獲に失敗したのと同じ個体かもしれん』

 

美渡はその「ルナー」という生物の画像を表示すると、そこに映っていたのはモコモコした小さく丸っこい生き物であり、そのルナー種を見て美渡は思わず「可愛い!!」と言い放つ。

 

「もう見た目に騙されないぞ! 絶対こいつも噛むだろ!!」

『サメクジラはお前の接し方が悪かっただけだ。 だが、ルナーも危険なのは変わりない。 子供達が接触する可能性もあるからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、あるマンションの一室・・・・・・。

 

そこでは頭のシニヨンが特徴的な少女、善子が黒い羽のついたゴスロリ風の衣装を身に纏ってロウソクを灯しカメラの前でポーズをつけながら動画の生配信を行っていた。

 

「感じます。 精霊結界の損壊により魔力高層が変化していくのが。 世界の数世が、天界議決により決していくのが。 かの約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼がそのすべてを見通すのです!! すべてのリトルデーモンに授ける!! 堕天の力を!!」

 

そうして厨二全開の台詞を言いながら、最後の締めにロウソクを消して放送を終了。

 

「・・・・・・フッ」

 

放送が終了した後、善子は不敵な笑みを浮かべると彼女は窓の方に行き、勢いよく締めていたカーテンを開けて叫ぶ。

 

「やってしまったぁ~!! 何よ堕天使って!! ヨハネってなに!!? リトルデーモン? サタン? いる訳ないでしょ!! そんなも~ん!!!!」

 

一通り彼女がそう叫んだ後、「モ、モコォ~!」という鳴き声が聞こえ、それにハッとなって善子が振り返るとそこにはゼナ達が探している「ルナー」と呼ばれるモコモコした白く丸っこい生物がいたのだった。

 

善子が叫んでいるのを見て何か怒っているのかと思ったのか、身体を振るわせて怯えた様子を見せ、それに善子は「ごめ~ん!!」と謝りながらルナーを抱きかかえる。

 

「ごめんねモコ? 別に私、あなたに怒ってる訳じゃないのよ? どちらかと言えば自分に怒ってるっていうか・・・・・・。 でも、怖がらせてごめんね?」

「モコォ~」

 

善子は「モコ」と自分が呼ぶルナーの頭を優しく撫で、鏡に映る自分を見つめながら、小さな溜め息を吐く。

 

「はぁ。 もう高校生でしょ、津島 善子! いい加減卒業するの! そう、この世界はもっとリアル、リアルこそ正義・・・・・・! リア充にぃ~! 私はなる!!」

「モコ!! モコ!!」

 

ガッツポーズを取りながらそう意気込む善子、そんな善子を応援するように鳴き声をあげるモコ。

 

『堕天使ヨハネと契約して、あなたも私のリトルデーモンに、なってみない?』

 

しかし即座に学校で自己紹介した時のことを思い出し、彼女は頭を抱えて悶え苦しむ。

 

「うわああ~!!!! なんであんなこと言ったのよ!! 学校行けないじゃな~い!!」

「モコォ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aqoursの部室にて。

 

千歌達はノートパソコンを開いてネットを立ち上げ、自分達Aqoursのランクがあまり上がっていないことに悩んでいたのだった。

 

「今日も上がってない・・・・・・」

「昨日が4856位で今日が4768位・・・・・・」

「まぁ、落ちては無いけど」

 

梨子が昨日と今日の順位を言い、それに曜は昨日より少し上がったとは言え、やはりもう少し順位が早く上がってくれないかと思わずにはいられなかった。

 

『まぁ、だってまだ千歌ちゃん達はスクールアイドル始めたばかりだし、ライブも1回しかやってないし、これくらい普通な気もするけど・・・・・・』

 

無爪の影からそう小さくペガが呟き、ペガの言葉に無爪も「確かに」と同意して頷く。

 

「千歌ねえ達はまだ活動も少ないし、ほんの少しでも順位が上がって来てるなら今はこれで上出来だと僕は思うけどなぁ」

「うーん、でもなぁ・・・・・・」

 

それでもやはり新しく2人も加入したのだからもう少しペースが速くなっても良いかもしれないと曜は考え、またルビィも「ライブの歌は評判良いんですけど・・・・・・」と呟く。

 

「それに、新加入の2人も可愛いって!!」

「そうなんですか!?」

 

千歌が新加入の2人、つまり花丸とルビィのことを可愛いと書かれたコメントを読み上げるとルビィは嬉しそうな声をあげ、さらに曜が言うには特に花丸の人気が高いらしい。

 

「『花丸ちゃん応援してます』」

「『花丸ちゃんが歌ってるところ、早く見たいです!』」

「ねっ! ねっ! 大人気でしょ!?」

 

梨子と曜がそれぞれ2人で花丸に関してのコメントを読んでいき、千歌が花丸に「人気でしょ?」と言っていると、ふっと花丸が不思議そうにパソコンを見つめていることに千歌達が気付き、彼女等は首を傾げる。

 

「こ、これがパソコン・・・・・・?」

「気にするところそこなの?」

 

花丸は興味深そうにノートパソコンを見つめており、そんな彼女に気にするところそこなのかと無爪にツッコまれるが、彼女は聞いておらず、キラキラした視線を花丸はパソコンに送っていた。

 

「もしかして、これが知識の海に繋がってるというインターネット!」

「そ、そうね、知識の海に繋がってるかは兎も角として・・・・・・」

 

梨子の言葉を聞いて花丸は「お、おぉ~!!」と歓喜の声をあげ、千歌がルビィに花丸はもしかしてパソコン使ったことないのかと尋ねると・・・・・・ルビィ曰く、花丸の家は古いお寺であり、その関係で電化製品などが殆どないというのだ。

 

「そうなんだ」

「この前沼津行った時も・・・・・・」

 

 

 

 

 

数日前、沼津のどこかの女子トイレにて。

 

『こ、この蛇口、回すとこないずら』

 

トイレに行った時、花丸が自動的に流れる蛇口の下に向かって手を伸ばし、水が出た時は「お、おぉ~!!」と今、パソコンを見た時と同様に目を輝かせ・・・・・・。

 

また、その後ハンドドライヤーの所でも頭をあててドライヤー代わりにしていたりしていたらしい。

 

『未来ずら!! 未来ずらよ! ルビィちゃん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「って・・・・・・」

「現代機器に疎いって・・・・・・余計に花丸ちゃん人気上がりそうだね、それ」

 

ルビィの話を聞いて思わず苦笑いする無爪。

 

また花丸は千歌達に「パソコン触っても良いですか!?」と尋ね、千歌は「もちろん!」と返事を返すと花丸は嬉しそうに笑みを浮かべ、パソコンに触れようとするのだが・・・・・・。

 

「わぁ~! んっ?」

 

花丸はノートパソコンのキーボード右上にある光るボタンの存在に気付き、彼女は何気なくそのボタンを「ずら!」と言いながら押すと、パソコンの画面が消えてしまったのだった。

 

「うわっ!?」

「えっ、なに押したの!? いきなり!?」

「えっ、あ・・・・・・えへ? 一個だけ光るボタンがあるなーと思いまして・・・・・・」

 

直後、梨子と曜が素早い動きで花丸の横を通り抜けてノートパソコンの元に駆け寄り、急いでデータの確認をする2人。

 

「大丈夫!?」

「衣装のデータ保存してたかなぁ~!?」

 

それに対して花丸は何かやっていけないことをやってしまったのかとみるみると不安げな顔になって今にも泣きそうな表情になり、恐る恐る梨子と曜の方へと振り返る。

 

「ま・・・・・・マル、何か行けないことしました・・・・・・?」

「あははは、まぁ、大丈夫大丈夫・・・・・・」

「まぁ、機械に疎いって最初にルビィちゃんに聞いてたのに押しちゃダメなところ教えなかった僕達にも問題があったよ」

 

千歌と無爪は2人でそう言いながら花丸を慰めた後、一同はダンスの練習のため屋上へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一同は練習の為に屋上へとやってきたのだが・・・・・・。

 

「おお! こんなに弘法大師、空海の情報が!」

「うん! ここで画面切り替わるからね?」

 

練習の前に曜が花丸にノートパソコンの操作方法を説明しており、それを受けて「凄いずら~」と花丸は歓喜の声をあげていた。

 

「もう、これから練習なのに・・・・・・」

「でも、さっきみたいなこと起こらないようにしないとだし、多少は大目に見ようよ、梨子さん?」

「それは、そうかもだけど・・・・・・」

 

無爪にそう言われ、確かに一理あるかもしれないと考える梨子。

 

また千歌はそれよりもランキングをどうにかする方法を考えなくては・・・・・・と意見を出し、毎年スクールアイドルは増えているからと話すルビィ。

 

「僕が想像してたよりずっと人気だったんだね、スクールアイドル・・・・・・」

「そうだよ~! 悪いことじゃないんだけど、私達はこんな何もない場所の地味&地味&地味!! ってスクールアイドルだし・・・・・・」

 

無爪はスクールアイドルの人気っぷりを改めて確認し、千歌は海や空、そして自分を指差して地味と評して落ち込む。

 

「千歌ねえはそんなに地味じゃない気もするけど・・・・・・」

「えっ」

 

ボソッと呟いた無爪のその言葉を聞いて顔を赤らめる千歌。

 

それにハッとなった無爪は慌てて自分の口を塞ぐ。

 

「じ、じゃあなっちゃんは私のこと地味じゃなかったらどんな風に思ってるのかな~?」

 

少しニヤついた笑みで千歌が尋ねると・・・・・・無爪は「それよりもAqoursの人気をあげる方法でしょ!!」と話題を逸らそうとする。

 

「あっ、ちょっと話題を変え・・・・・・」

「やっぱり目立たないとダメなの?」

 

千歌は話題を逸らそうとする無爪に文句を言おうとするがそれよりも先に梨子がやはり目立たないとダメなのかと千歌に尋ね、それに千歌は「うーん」と腕を組んで悩む。

 

(梨子さんナイス!!)

「うん、人気は大切だよ」

 

また曜からも人気は大切だと言われ、千歌は何か目立つことがないかと考え込む。

 

「例えば、名前をもっともーっと奇抜なものに付け直してみるとか?」

 

そこで梨子は例えとして自分達のスクールアイドル名をもっともっと奇抜なものにしてはどうかと提案する。

 

「奇抜って、スリーマーメイド・・・・・・?」

「っ!?」

「あっ、ファイブだ!」

 

以前梨子が提案した「スリーマーメイド」の名前を出し、即座に今5人いるのでファイブと言い直す千歌。

 

それに梨子が耳まで真っ赤にして肩をワナワナ震わせる。

 

「ファイブマーメイド・・・・・・!」

 

それを聞いてルビィは気に入ったのか、嬉しそうにな顔を見せ、自分と千歌、梨子、曜、花丸が5人で人魚の格好をしたイメージを頭に思い浮かべる。

 

『私達は・・・・・・』

『『『『『ファイブマーメイドです!!』』』』』

 

尚、そのイメージの中なぜか花丸だけパソコンを弄っていたが。

 

(人魚姿のAqoursか・・・・・・。 ちょっと見たい・・・・・・!)

 

また無爪も人魚姿のAqoursを思い浮かべ、少し見てみたいと思うのだった。

 

「なんで蒸し返すの!?」

 

そして梨子はファイブマーメイドを蒸し返されたことを千歌に怒るのだが、彼女は話を聞いておらず、「ってそれじゃ踊れない!」と人魚では足が魚になっているので踊れないと嘆いた。

 

「あっ、じゃあみんなの応援があれば足になっちゃうとか!!」

 

ピョンピョン跳ねながらルビィが意見を出し、それに対して千歌も「なんか良い!! その設定!!」と気に入った様子だった。

 

「でも代わりに、声が無くなるという・・・・・・」

「ダメじゃん!」

「本末転倒じゃないか」

 

曜の言葉に千歌はダメじゃないかと頭を抱え、無爪も呆れた顔を見せる。

 

そして未だにマーメイドで弄って来る千歌に梨子は掴みかかって身体を大きく揺さぶる。

 

「だからその名前忘れってって言ってるでしょ!!?」

「おわあ~!」

「・・・・・・悲しい話だよねぇ、人魚姫」

 

そんな時、花丸が誰かの視線を感じ、階段の方へと顔を向けるとそこでは壁に隠れてこちらの様子をこっそり伺う今まで不登校だった善子の姿があり・・・・・・。

 

またそんな花丸の様子に気付いた無爪も彼女と同じ方向に目を向けると彼も善子の姿を発見する。

 

「なんでこんなところに先客が・・・・・・」

「アレ? あの娘は・・・・・・」

「善子ちゃん?」

 

それに対して善子も花丸と無爪の2人が自分の存在に気付いたことに気付く。

 

「ずら丸!? それに、アレは確かクラスメイトの男子・・・・・・!」

 

そのまま彼女は咄嗟に身を隠し、そのままどこかへと立ち去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げた善子は誰にも見つからないようにと廊下に設置されている戸棚の中に隠れ、蹲っていた。

 

「うぅ、いきなり屋上から堕天してしまった。 うぅ、今すぐ帰ってモコに抱きつきたい・・・・・・それでモフモフしたい・・・・・・」

 

するとその時、戸棚が突然開かれ、ニヤッとした笑みを浮かべた花丸が現れ、それに善子は驚いて小さな悲鳴をあげる。

 

「学校来たずらか」

「全然学校に来ないから、みんな君のこと心配してたんだよ?」

 

ちなみに花丸の後ろには苦笑いしている無爪の姿もあり、彼は戸惑いつつも善子に「えっと、大丈夫?」と声をかける。

 

「わあぁ~!!?」

 

そしてそのことに驚いた善子はすぐさま戸棚の中から飛び出し、2人から距離を取ると彼女は尻餅をつく。

 

「き、来たって言うか、たまたま近くを通りかかったから寄ってみたって言うか・・・・・・」

「制服着てるのに?」

「たまたま?」

 

無爪と花丸が制服も着てるのにたまたま学校に寄っただけなのかと尋ねると善子は「どうでもいいでしょそんなこと!!」と怒鳴り、それよりも彼女は無爪と花丸にクラスのみんなが自分に何か言ってなかったかと2人に尋ね、それに無爪と花丸は顔を見合わせて「えっ?」と首を傾げる。

 

「私のことよ!! 変な娘だねーとか! ヨハネってなに~? とか!! リトルデーモンってなに? ぷふ! とか!!」

「「・・・・・・はぁ」」

「そのリアクション! やっぱり噂になってるのね~! そうよね、あんな変な事言ったんだもん。 終わった! ラグナロク・・・・・・まさにDead or Alive!!」

 

そのまま嘆く善子は再び戸棚の中に入って扉を閉め、閉じこもってしまう。

 

「それ生きるか死ぬかって意味だと思うずら」

「っていうか、そんなこと言う人ウチのクラスにはいないよ、善子ちゃん」

「でっしょ~? んっ? えっ?」

 

無爪の言葉を聞いて「えっ?」となる善子。

 

「それよりもみんなどうして来ないんだろうとか、悪いことしちゃったのかなって心配してて・・・・・・」

 

無爪に続いて花丸もクラスメイト達は善子のことをバカにするどころか心配してくれているということを伝え、それに善子は「ホント?」と扉を少しだけ開けて尋ねる。

 

「うん」

「ホントね? 天界堕天条例に誓って、嘘じゃないわよね?」

「てん・・・・・・えっ? なんて? まぁいいや、それに誓って嘘じゃないよ。 僕も心配だったし」

「ずら!」

 

無爪と花丸も誓って嘘ではないと善子に伝えると彼女は勢いよく「よし!」と戸棚から飛び出して立ち上がり、右腕を掲げる。

 

「まだ行ける! まだやれる! 今から普通の生徒でいければ・・・・・・!!」

 

そこで善子は自分が勢いよく飛び出した際に尻餅をついた花丸にずいっと顔を近づける。

 

「ずら丸! それとこの際だからそこのクラスメイトの男子!!」

「な、なんずら~!?」

「無爪です」

「じゃあ無爪くん!! 2人にヨハネたってのお願いがあるの・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、善子は清楚でおしとやかな雰囲気を溢れさせながら学校に登校して歩いて来ており、その様子に同じクラスメイトらしき他の生徒達も驚いた様子を見せていた。

 

「誰だよ」

 

尚、遠目から無爪もその様子を伺っており、善子のことはあまり知らないのだが、なぜかそう言わずにはいられなかったのだった。

 

(フフ♪ 見てる見てる、花丸やあの無爪って人が言ってたようにみんな前のことは覚えてないようね。 よぉーし!)

 

そこで善子は一度立ち止まって生徒達に振り返り、朝の挨拶を行う。

 

「おはよう♪」

「「「お、おはよう」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、教室にて・・・・・・。

 

善子のことを心配した女子生徒達が彼女の周りを囲んでおり、花丸や無爪の言うように善子をバカにするような者は誰1人おらず、それどこから生徒達は気立て無く善子に話しかけていた。

 

「雰囲気変わってたから、ビックリしちゃった~」

「みんなで話してたんだよ。 どうして休んでるだろうって!」

「ふふ、ごめんね? でも今日からちゃんと来るからよろしく!」

 

善子は生徒達にそう笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「こちらこそ! でも、津島さんって・・・・・・名前なんだっけ?」

 

すると、女子生徒の1人が申し訳無さそうに善子の下の名前が何だったのかを尋ね・・・・・・それに一瞬ビクッとする善子。

 

「酷いなぁ、アレだよ!」

「確かよ、よ・・・・・・ヨハ・・・・・・」

「善子!! 私は津島 善子よ!!」

 

自己紹介の時に行った「ヨハネ」という名前を生徒の1人が出そうとしたので慌てて善子は立ち上がって自分のフルネームを教え、それから善子と生徒達は互いに笑い合って打ち解け合うのだった。

 

それを見ていた無爪は善子がちゃんと他の生徒達と仲良く話せていることに安心し、また花丸と一緒にいるルビィも善子が学校に来ていることに驚いている様子だった。

 

「ずら! マルと無爪くんがお願い聞いたずら!」

「お願い?」

 

それは昨日のこと・・・・・・。

 

『監視?』

『そうなの。 私、気が緩むとどうしても堕天使が顔を出すの。 だから・・・・・・』

『堕天使が顔を出すとか言うパワーワード・・・・・・。 よく分かんないけど、自己紹介の時みたいなことをしないようにってことだよね?』

 

無爪が善子が自己紹介した時のことを言うと彼女は顔を真っ赤にして「アレは忘れなさい!!」と怒鳴られたが・・・・・・兎に角そういうことらしく、善子は無爪と花丸に堕天使が出ないように監視してくれと頼むのだった。

 

「危なくなったら止めてっと!」

「堕天使が出ちゃう・・・・・・?」

 

花丸の言葉に首を傾げるルビィ。

 

その時、クラスメイトの1人が善子に「趣味とかはないの?」と問いかけると善子は「趣味!?」と驚いた声をあげ、どう答えるべきか一瞬迷う。

 

「と、特に、なにも・・・・・・」

 

堕天使のことなど本人的には言える訳がないので趣味は特にはないと答えようとしたが、そこで善子はふっと「ちょっと待って!」と思い、ある考えが頭を過ぎった。

 

(いやこれは! クラスに溶け込むチャンス!! ここで上手く好感度を上げて・・・・・・!)

 

それはここで堕天使のことは兎も角、自分の趣味のことを話せば少しでもクラスに馴染めるかというもので彼女はクラスメイト達に自分が占いを少し嗜んでいるということを話す。

 

「う、占いを、ちょっと・・・・・・」

「ホント!? 私占ってくれる!?」

 

占いとなれば気にならない女子は基本いない為、女子生徒の何名かが自分を占ってくれと頼み、善子はそれを快く承諾。

 

「良いよ!! えーっと、あっ! 今占ってあげるわね!」

 

そう言うと善子は鞄から黒い布を取り出し、さらには黒いロープを取り出して羽織り、頭のシニヨンに黒い羽を差し込む。

 

『・・・・・・えっ?』

「これでよし♪ はい、火をつけてくれる?」

 

その光景に生徒達は若干引いており、生徒の1人はその光景に戸惑いながらも火をつける。

 

「ちょっと、幾ら何でもこれ派手過ぎない? 占いってこんな大がかりだっけ?」

『ず、随分本格的(?)だね・・・・・・』

 

無爪や影の中のペガも引き攣った笑みを浮かべ、また生徒の1人は戸惑いながらも善子に言われた通りロウソクに火をつける。

 

「天界と魔界にはびこるあまねく精霊、憐獄に堕ちたる眷属たちに告げます。 ルシファー、アスモデウスの転生者、堕天使ヨハネとともに、堕天の時がきたのです!」

 

そう言いながら両手を広げて高らかに宣言する善子。

 

そこで善子はハッと自分がやってしまったということに気づき、周りを見ると全員引き攣った顔をしている。

 

(や、やってしまったぁー!!?)

 

そしてそんな善子に呆れた視線を送りながら花丸はふーっとロウソクに息をかけて消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、Aqoursの部室にて・・・・・・。

 

「どうして止めてくれなかったのーーーーー!!!!」

 

善子はこの部室に逃げ込んで花丸や無爪が自分を止めてくれず、堕天使が出てしまったことに膝を抱えて嘆いていたのだった。

 

「ごめん、まさかあんなに本格的だとは思わなくて・・・・・・圧巻されて止められなかった」

「そうずら。 マルもまさかあんなものまで持ってるとは思わなかったずら」

 

無爪は両手を合わせて申し訳無さそうに謝り、花丸はじっとした視線を善子に送っていた。

 

「どういうこと?」

 

しかし、千歌達はイマイチにこの状況が飲み込めていならいらしく、曜が「どういうこと?」と尋ねると先ほど善子から話を聞いたと言うルビィが説明を行う。

 

「ルビィも、さっき聞いたんですけど・・・・・・。 善子ちゃん、中学時代はずっと自分は堕天使だと思い込んでいたらしくて・・・・・・」

 

例の1つとして、昔善子は中学時代、学校の屋上へと行って決めポーズを決めながら厨ニ全開の台詞を吐いていたのだと言う。

 

『天界より舞い降りしフォーリンエンジェル、堕天使ヨハネ。 みんな一緒に堕天しましょ? フフ♪』

 

とまぁ、こんな感じだったらしい。

 

「つまりは厨ニ病」

『多くの人が通る道だね』

 

ルビィの説明を無爪とペガがボソッとそう呟き、ルビィ曰く「まだその頃の癖が抜けきっていない」とのことである。

 

するとそこで善子が机の下からゆっくりと立ち上がって来た。

 

「・・・・・・分かってる。 私が堕天使の筈ないって・・・・・・。 そもそもそんなのいないんだし・・・・・・」

 

善子はみんなに背中を見せた状態で肩をぷるぷると震わせてそう語るのだが・・・・・・そこで梨子が「ならどうしてあんなもの学校に持って来たの?」と占いに使ったアイテムをどうして持って来たのかを尋ねる。

 

「それはまぁ、ヨハネのアイディンティーみたいなものでぇ~。 アレがなかったら私は私でいられないって言うか!!」

 

そう言い放ちながら善子はみんなの方へと振り返って厨ニ病的なポーズを思わず取ってしまい、そのことで善子はすぐに「またやってしまった」ということに気付いてハッとなる。

 

「なんか、心が複雑な状態にあるということは、よく分かった気がするわ」

「ですね。 実際今でもネットで占いやってますし」

 

そこでルビィがノートパソコンを開いて善子がやっている動画のページを開き、みんなで視聴。

 

『またヨハネと堕天しましょ?』

「わぁー!! やめて!!」

 

しかし、即座に恥ずかしくてたまらなかった善子がノートパソコンを閉じてみんなが自分の動画を視聴するのを阻止する。

 

「兎に角私は普通の高校生になりたいの!! なんとかして!!」

 

目をうるうるとさせながら花丸達に頼み込む善子。

 

しかし、なんとかしてと言われてもどうすれば良いのか分からず、困惑する一同・・・・・・。

 

だが、ただ1人だけ・・・・・・千歌だけは善子の動画を見て何かを閃いたのような表情を浮かべていた。

 

「・・・・・・可愛い」

『えっ?』

 

千歌の呟きに首を傾げる一同。

 

「これだ!! これだよ!! 津島 善子ちゃん!! いや、堕天使ヨハネちゃん!! スクールアイドル、やりませんか!?」

 

千歌は立ち上がってグイッと顔を善子に近づかせ、彼女は善子をスクールアイドルに勧誘するのだった。

 

「・・・・・・なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、一同は高海家の旅館、十千万にやって来ると千歌の部屋で無爪を除く6人は黒のゴスロリ衣装を着ることに。

 

ちなみに善子の衣装は自前である。

 

尚、無爪も一緒にいるのは衣装の感想を聞く為である。

 

「こ、これで歌うの!? この前より短い・・・・・・。 これでダンスしたら、流石に見えるわ・・・・・・」

 

しかし、その衣装はやたらとスカートが短く、梨子はこれでは流石にスカートの中が見えてしまうと懸念。

 

そのこともあって無爪は座らせずに立たせている。

 

「大丈夫♪」

「っ!? げほっ!!? ごほっ!!?」

 

だが、梨子の隣に立つ千歌は下にジャージのズボンを履いているので平気でスカートをたくし上げ、ズボンを履いてるなんて知らなかった無爪は千歌のその行為を見てついつい咳き込んでしまう。

 

そしてすぐさま梨子は「そういうことしないの!!」と強く注意しながら千歌のスカートを元の位置に慌てて戻す。

 

「ほらもう無爪くん咳き込んじゃってるし!!」

「それで、どうかななっちゃん、衣装の感想は?」

 

そこで千歌は無爪に自分達の衣装の感想を求められ、無爪は一瞬戸惑う。

 

(良いと思います!! って凄い言いたい・・・・・・!! 言いたいけど、言ったら曜ねえ辺りに絶対からかわれるし!!)

「なっちゃん? おーい?」

「わ、悪くはないとは・・・・・・思うけど・・・・・・」

 

歯切れ悪く千歌の問いかけにそう応える無爪。

 

「なっちゃんが悪くないって言うなら、つまりは良いってことだね!」

(いや、でもなっちゃんのことだから下心ありそう)

 

千歌はツンデレの無爪が言うことなのできっと特に問題はないのだろうと判断するのだが、曜からはそんな風に思われる無爪だった。

 

「はぁ、良いのかな本当に・・・・・・」

 

こういう感じで大丈夫なのだろうかと小さく梨子

 

「調べたら堕天使アイドルっていなくて結構インパクトあると思うんだよね!!」

「確かに、昨日までこうだったのが・・・・・・」

 

曜はベッドに置かれた自分達のファーストライブの時に着ていた衣装を見た後、同じようにゴスロリ服を着た他のメンバーを見渡す。

 

「こう変わる・・・・・・」

「うゆ、なんか恥ずかしい・・・・・・」

「落ち着かないずら」

 

曜や千歌は結構ノリ気ではあるもののルビィや花丸も梨子と同様この衣装はなんだか恥ずかしいしあんまり・・・・・・という感じであり、梨子はこんな格好で本当に大丈夫なのかと千歌に問いかける。

 

「可愛いね~!!」

「そういう問題じゃない!」

 

千歌の的外れな解答にツッコミを入れつつ、善子も本当に良いのかと疑問を口にするが・・・・・・千歌は「これで良いんだよ!!」と応える。

 

「ステージ上で堕天使の魅力をみんなで思いっきり振りまくの!!」

「堕天使の・・・・・・魅力・・・・・・?」

 

そんな千歌の言葉に善子は惹かれるが・・・・・・すぐにハッとなって彼女は「ダメダメ!!」と両腕を交差して×を作る。

 

「そんなのドン引かれるに決まってるでしょ!?」

「大丈夫だよ~、きっと!」

 

それを受けて、善子は少しだけステージに立った自分の姿を想像してみる。

 

『天界からのドロップアウト、堕天使ヨハネ・・・・・・。 堕天降臨!!』

「大人気・・・・・・くく、ふふ・・・・・・」

 

膝を抱えて蹲りながら、歓声を浴びる自分の姿を想像して不気味に笑う善子。

 

「どうやら善子ちゃんもノリ気になったみたいだね」

「うん、協力・・・・・・してくれるみたい」

 

無爪とルビィが善子が協力してくれるようだと言うと、梨子も渋々「しょうがないわねぇ」と了承。

 

その後、梨子が一度部屋を出ることになったのだが・・・・・・。

 

梨子が部屋を出るとそこには犬のしいたけを可愛がっている美渡の姿があり、しいたけの姿を見ると梨子は徐々に引き攣った顔になっていく。

 

「あっ、来てたんだ」

「・・・・・・っ」

 

次の瞬間・・・・・・。

 

「いいいやああああ!!!!?」

 

梨子はしいたけに追い回され、美渡は必死に梨子を追いかけ回すしいたけを止めようとする。

 

しかし、しいたけは一向に止まらず梨子を追いかけ回す。

 

「やめて来ないでえええええ!!!!?」

「梨子ちゃん!? 大丈夫! しいたけはおとなし・・・・・・」

 

千歌がそこまで言いかけた時、梨子は咄嗟に千歌の部屋の隣の部屋に逃げ込み、そのまま襖が千歌の方に倒れて下敷きになり、その際巻き添えで無爪軽く吹き飛ばされ、そのまま彼は真っ直ぐ曜の胸の辺りに顔を埋めるような形でダイブ。

 

「がふっ・・・・・・!?」

「おぉ!?」

「ご、ごめ・・・・・・!!」

 

それに曜も驚いた様子を見せるが、特に恥ずかしがる様子もなく咄嗟に無爪は曜から離れようとするが逃がすまいと曜は無爪を抱きしめて彼の頭を撫で始める。

 

「ちょっ、何してんの曜ねえ!?」

「いやぁ、久しぶりになっちゃん可愛がりたくなっちゃって~」

 

2人がそうこうしている間に梨子は真っ直ぐ千歌の部屋の開いている窓からジャンプし、身体をくるくる回転させながらそのまま自分の部屋のベランダに尻餅をつきながらも着地するのだった。

 

「とおおりゃああああ!!!!」

 

その光景を見た一同は「おぉ~、飛んだ」と感心の声をあげながら拍手喝采。

 

そんな千歌達に梨子はすぐ立ち上がり、文句を言おうとするのだが・・・・・・。

 

「お帰り・・・・・・」

「っ!? ただいま・・・・・・」

 

梨子の部屋には彼女の母親が掃除をしており、彼女は恥ずかしさからかその場にへたり込んでしまうのだった。

 

「っていうか、曜ねえはいつまで僕を抱きしめてるつもりなんだ・・・・・・! 早く離して恥ずかしいから!!」

「私だってたまには弟を可愛がりたいから無理」

 

また曜達に気付いた千歌が「あっ!」と声をあげ、千歌は曜と無爪を引き離そうとする。

 

「だからなっちゃんは私の弟だってば~!!」

「千歌ちゃんは何時でもなっちゃん可愛がれるでしょ!?」

 

そんな風に千歌と曜による無爪の取り合いを見て、善子はボソッと一言呟いた。

 

「なにあのリア充・・・・・・」

 

 

 

 

 

「じゃあ衣装、よろしくね?」

「ヨーソロー!!」

 

千歌、梨子、無爪はバス停まで曜、善子を見送り、またそこで花丸とルビィも無爪達に別れの挨拶をして2人は家に帰り、今日はみんな解散することに。

 

「あいたた・・・・・・」

 

ルビィと花丸と別れた後、梨子は尻餅をついた衝撃で未だに痛む自分のお尻を撫で、それに千歌は思わず笑ってしまう。

 

「笑い事じゃないわよ! 今度から絶対繋いでおいでよ!」

「梨子さんが無駄にしいたけを怖がりすぎてるだけな気もするけど」

「そんなことないわよ!」

 

無爪と未だに笑ってる千歌に対して梨子はムスッとした顔を浮かべ、「人が困ってるのがそんなに楽しい?」と不機嫌そうに梨子は千歌に尋ね、千歌は「違う違う」と首を横に振って否定。

 

「みんな色々個性があるんだなーって」

「えっ?」

「ほら、私達始めたは良いけどやっぱり、地味で普通なんだなーって思ってた!」

 

千歌のその言葉を聞き、梨子は「そんなこと思ってたの?」と問いかけると千歌は「そりゃ思うよ!」と頷く。

 

「一応、言い出しっぺだから責任はあるし! かと言って、今の私にみんなを引っ張って行く力は無いし・・・・・・」

 

どこか暗い表情を浮かべ、そう語る千歌に梨子と無爪はなんと声をかけて良いか分からず、困惑。

 

「でも、みんなと話してて少しずつみんなのこと知って、全然地味じゃないって思ったの! それぞれ特徴があって、魅力的で・・・・・・だから、大丈夫じゃないかなって!」

 

しかし、すぐに笑みを浮かべながらそう語り出す千歌に梨子も釣られるように笑みを見せ、「やっぱり、変な人ね」と呟き、それに千歌が「えぇー!?」と驚きの声をあげる。

 

「初めて会った時から思ってたけど」

「それね、僕もずっと思ってた」

「なに!? なっちゃんまで! 褒めてるの貶してるの!? ってかなっちゃんにだけは変って言われたくないよね! 特オタだし!」

 

そんな千歌に梨子は「どっちも?」と褒めて貶してるかもと意地悪く返し、それに同調するように無爪もコクコクと頷く。

 

「兎に角、頑張って行こうってこと! 地味で普通のみんなが集まって、なにができるか・・・・・・ねっ?」

 

そう言いながら梨子は千歌の肩を軽くポンッと叩き、そのまま彼女は自分の家に向かって歩き出す。

 

「よく分かんないけど・・・・・・まっ、いっか」

「ウチまで競争~!!」

 

すると梨子が突然その場から「競争!」と言い出して走り出し、それを千歌は慌てて追いかける。

 

「えっ!? あっ、ちょっとズルい~!!」

 

それに千歌も慌てて梨子の後を追いかけるのだった。

 

『無爪は競争しないの?』

「加減しても、僕の方が早い可能性あるからね。 なんか邪魔しちゃいけない気もするし」

 

ペガとそんな会話をして、走る千歌と梨子の背中を見つめながら、彼女等の後を歩いて追いかける無爪だった。

 

 

 

 

 

 

 

善子の住んでいるアパートにて。

 

「ただいま~」

「モコォ~!」

 

自分の部屋に入るや否や、留守番をしていたモコが善子に飛びつき、それに善子が両手で受け止め、モコの頭を撫でる。

 

「ただいまモコ、良い子にしてた?」

「モコ!」

 

尻尾を振るうようにして返事をするモコ。

 

善子は一度モコを机の上に置き、帰りにコンビニで買って来たパンを袋から取り出し、それをモコに差し出す。

 

するとモコは大きな口を開けてパンを吸い込むようにして食べ、その様子に善子は思わず苦笑いしてしまう。

 

(モコって普段可愛いけどご飯食べる時だけは怖いわね・・・・・・)

「モコ! モコ!」

 

パンを食べ終えるとモコは何やら窓の外を見ながら何かを訴えている様子を見せ、それに善子は「あぁ、外に行きたいのか」とモコが何を言いたいのかを理解し、ロングコートを着てサングラスとマスクを装着した善子はモコをコートの内側に入れ、こっそりと家を出るのだった。

 

(このアパート、ペット禁止だからね。 誰にも見つからないようにこっそり外に出なきゃ)

 

こっそり外に出るならその格好は逆に目立つ気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、学校の屋上にて。

 

「はぁ~い? 水のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ!! みんなで一緒にぃ~、堕天しない?」

『しない?』

 

屋上で善子を中心に、堕天使スタイルのAqoursがポーズを取りながらの撮影を行っていたのだった。

 

その後、一同は元の制服に戻って動画編集した後、動画サイトに投稿。

 

「やってしまった・・・・・・」

 

ただ梨子だけは若干の後悔があり、軽めに頭を壁にぶつけていた。

 

「どう?」

「待って、今は・・・・・・」

 

千歌と曜の2人がそんな会話をしていると昨日まで4768位だった自分達のランクが953位となっており、それに千歌は「嘘!?」と驚きの声をあげる。

 

「堕天使効果凄いね・・・・・・」

「コメントも沢山!!」

 

無爪はまさかここまで凄まじくランキングを彼女等が上げたことに驚き、またルビィも複数のコメントが送られていることに気付く。

 

「『ルビィちゃんと一緒に堕天する!』」

「『ルビィちゃん最高!』」

「『ルビィちゃんのミニスカートがとても良いです』・・・・・・」

「『ルビィちゃんの笑顔』・・・・・・が・・・・・・」

 

ただ、そのコメントの大半はルビィに関することばかりであり、それにルビィや「いやぁ、そんなぁ~」と照れるのだった。

 

ちなみにメンバー全員が堕天使スタイルで個別に自己紹介する映像も撮っているのだが・・・・・・その中のルビィの自己紹介映像が・・・・・・。

 

『ヨハネ様のリトルデーモン、4号。 く、黒澤 ルビィです。 1番小さい悪魔・・・・・・可愛がってね!』

 

モジモジして恥ずかしそうにしながらもなんとか自己紹介を行い、決めポーズを取るルビィ。

 

その映像を見た無爪とペガは心の中で一言。

 

((何これあざとい!!))

 

無論、良い意味でだが。

 

 

 

 

 

 

「Oh! プリティーボンバーハート!」

 

一方、生徒会室ではダイヤと鞠莉も動画を視聴しており、鞠莉はルビィの動画を見てプリティーと評する一方、ダイヤはワナワナと肩を震わせていた。

 

「プリティー? どこがですの・・・・・・!! こういうものは破廉恥と言うのですわ!!」

 

という訳で、千歌達はダイヤに呼び出されてお説教を受けることになり・・・・・・。

 

「なんで僕まで!?」

『止めなかったからじゃない?』

 

無論、無爪も一緒に。

 

「い、いやぁ~、あれはそういう衣装というか・・・・・・」

「キャラと言うか・・・・・・」

 

千歌と曜が怒るダイヤに対し、そう言い訳をし、梨子は「だから私は『良いの?』って言ったのに・・・・・・」と呆れた視線を送りながら千歌に呟く。

 

「そもそも! わたくしがルビィにスクールアイドル活動を許可したのは節度を持って自分の意思でやりたいと言ったからです!! こんな格好をして注目を浴びようなど・・・・・・!!」

「ごめんなさい・・・・・・! お姉ちゃん・・・・・・」

 

そこでルビィが前に出てダイヤに謝罪し、彼女から謝られ、少し黙り込むダイヤ。

 

「・・・・・・兎に角、キャラが立ってないとか個性がないと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことをするのは頂けませんわ!!」

「努力する方向性、間違えたな、千歌ねえ達・・・・・・」

「うっ、でも・・・・・・一応、順位は上がってるし・・・・・・」

 

曜の言うように、堕天使スタイルのおかげでAqoursの順位が急激に上がったのは事実。

 

しかし、ダイヤ曰く「そんなものは一時的なもの」らしく、彼女は自分の傍にあったノートパソコンを曜に渡してサイトを開かせる。

 

すると、そこには確かにダイヤの言う通り・・・・・・先ほどまで953位だったのが1526位にまで下がっていたのだった。

 

「あっ・・・・・・!」

「本気で目指すのならどうすれば良いか、もう1度考えることですね!」

「は、はい・・・・・・」

 

またその時の善子は、この中で誰よりも暗い表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

「失敗したなぁー」

 

Aqoursと無爪のみんなは防波堤の上で座り、千歌は膝を抱えてしょんぼりした様子を見せていた。

 

「確かにダイヤさんの言う通りだね。 こんなことでμ'sになりたいなんて失礼だよね」

「千歌さんが悪い訳じゃないです!」

 

落ち込む千歌にルビィがそう声をかけると善子も「そうよ」と呟き、その言葉に全員の視線が善子に行く。

 

「いけなかったのは、堕天使・・・・・・」

「えっ?」

「やっぱり、高校生にもなって通じないよ・・・・・・!」

 

そう言葉を続ける善子に、千歌は「それは!!」となにか声をかけようとするが・・・・・・善子はそれを遮るように立ち上がり、両手を広げる。

 

「なんかスッキリしたぁ! 明日から今度こそ普通の高校生になれそう!!」

「じゃあ、スクールアイドルは!?」

 

ルビィの問いかけに対し、善子は腕を組んで少しだけ考え込む。

 

「うーん、やめとく。 なんか、迷惑かけそうだし」

 

そう言って善子は「じゃあ」とだけ別れの言葉を告げ、そのまま帰ろうとするのだが・・・・・・一度だけピタリと止まり、振り返る。

 

「少しの間だけど、堕天使に付き合ってくれてありがとうね? 楽しかったよ!」

 

善子はみんなに笑みを浮かべお礼を述べるのだが・・・・・・その顔はどこか悲しそうであり、みんなはそんな善子に何も言えず、ただただ彼女が帰るのを見送ることしかできないのだった。

 

「・・・・・・なんで堕天使だったんだろ?」

 

善子が帰った後、ふっとそこで梨子が気になったことを呟いた。

 

「マル、分かる気がします」

 

そこで幼稚園と一緒だったこともあってか、花丸が梨子の疑問に応えるように話だす。

 

「ずっと、普通だったんだと思います。 私達と同じで、あまり目立たなくて・・・・・・そういう時、思いませんか? これがホントの自分なのかなぁって? 元々は、天使みたいにキラキラしてて何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかって」

「そっかぁ」

「確かにそういう気持ち、あった気がする」

「そういうことなら、善子ちゃんの気持ちも少し分かるかも・・・・・・」

 

ルビィや梨子、無爪は花丸の言葉に納得し、また黙り込んだままではあったが曜や千歌もみんなと同じような気持ちだった。

 

「幼稚園の頃の善子ちゃん、いつも言ってたんです」

 

それはずっと昔、花丸や善子が幼稚園児だった頃・・・・・・。

 

『私、本当は天使なの!! いつか背中に羽が生えて、天に帰るんだ!!』

 

善子は滑り台の上に乗って、右手の一差し指を天に向けそう言い放ち、滑り台の下では花丸が目を輝かせながらそんな善子の姿を『ず~ら~!!』と言いながら見つめていた。

 

「って・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

それから、千歌と無爪、ペガは今日はみんなと別れ、3人は何となく星雲荘に来ていた。

 

善子のことをどうすれば良いか、このまま黙って彼女が堕天使をやめるのを見過ごすか、それに自分達がどうすれば良いのか落ち着いて考える為に、3人は静かな場所で考えようと思ったのだ。

 

「ねえ、なっちゃん・・・・・・善子ちゃんのこと、どうすれば良いのかな・・・・・・」

「そんなの、僕にも分からないよ。 最後に決めるのは、善子ちゃん自身だもの・・・・・・」

 

無爪はそんな風に、千歌に言葉を返すのだが・・・・・・。

 

「でも、自分の好きなものを、ワザワザやめる必要ってあるのかな?」

「・・・・・・えっ?」

「見た感じ、善子ちゃんは堕天使のことが好きなんじゃないかな? それなのに、ワザワザやめる必要ってあるのかな・・・・・・」

 

無爪は善子を見ていて彼女は別に堕天使のことを嫌っている訳ではないのだから、無理にやめる必要があるのかと思い、疑問を口にし・・・・・・。

 

それに千歌はどう返せば良いか分からず、黙り込んだまま・・・・・・。

 

『無爪! 千歌! ペガ! テレビをつけて観てください!』

 

そんな時・・・・・・突然、レムが無爪達の名を呼び、彼女が星雲荘にあらかじめ設置されてあったテレビをつけるように言い、慌ててペガがテレビをつける。

 

「一体どうしたのレム?」

『無爪! これ・・・・・・!』

 

テレビの画面にはニュースで「噂のあの人を直撃」というコーナーが放送されており、その番組の女性キャスターはなんでもどんな傷でも治せるという少女について取材してきて紹介していたのだ。

 

『今日は今噂の『ヒーリング堕天使』について取材をしてきました。 なんと彼女は、ありとあらゆる傷を治すことができるそうなのです!』

「「『ヒーリング・・・・・・堕天使?』」」

 

そのニュースを観て無爪、千歌、ペガはなんだか最近物凄く聞いたようなワードが出てきて首を傾げ、次の瞬間、テレビの場面は代わり、その「ヒーリング堕天使」と思われる少女が映し出される。

 

「なんか・・・・・・見覚えのあるシニオンが頭にあるんだけど・・・・・・羽差してるし」

 

その少女はロングコートを着てサングラスとマスクを装着しているがどう見ても善子その人であり、「一体なにやってるんだ・・・・・・」と思わずにはいられない無爪達。

 

「あれ、でも善子ちゃん堕天使やめるって・・・・・・」

「数日前の映像なんじゃない?」

 

千歌は先ほど善子は堕天使をやめると言っていたのになぜまた堕天使を名乗っているのか疑問に思うが、それは無爪の言うように、これは数日前に撮影された映像なので特に矛盾はない。

 

『フフフ・・・・・・、今こそ見せてあげましょう! 我が堕天の力・・・・・・、堕天使ヨハネの力を!!』

 

そう言うと善子は自分のいる公園に来ていた怪我をしていた人々を1人ずつ、胸を光らせて右手をかざすとそこから光が溢れ出し、怪我人の傷を次々に治して行ったのだ。

 

「えっ!? アレって・・・・・・リトルスター!!?」

「でも、善子ちゃんそんな素振り全然・・・・・・!」

 

当然、それに無爪達は驚き、無爪は善子がリトルスターを発症しているにも関わらず、全然そんな素振りが無かったことを疑問に思う。

 

『能力を使いこなしてるって・・・・・・ことなのかな? 梨子ちゃんやルビィちゃんはいきなり能力が発現してる感じだったし・・・・・・、ダークロプスゼロの時の子供は自分の意思で能力を使ってたみたいだし・・・・・・』

「かもしれない。 でも、リトルスターを発症してるなら身体が熱くなる筈だけど・・・・・・」

「取りあえず善子ちゃん探してみよう! 善子ちゃんを狙って怪獣が現れるかも!!」

 

千歌の言う通り、善子がリトルスターを発症しているのだとすればこれまでの例からしてまた怪獣が現れ、リトルスターの保持者を狙うかもしれないと思い、3人は急いで善子を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃・・・・・・とある公園では・・・・・・。

 

そこでは不審者スタイルの善子がテレビに映っていた時と同様、スーツを着た男性の怪我をした腕を治しており、腕が治った男性は嬉しそうに「ありがとう!!」と頭を下げてお礼を述べ、財布を取り出してお金を支払おうとする。

 

「ちょ、ちょっと!! お金なんていらないわよ!!」

「えっ、でも・・・・・・腕の怪我を治して貰ったのにタダって訳には・・・・・・」

「い、良いから!! 私、元々お金が欲しくてこんなことやってた訳じゃないし!!」

 

善子はそう言って男性から代金を受け取るのを拒否し、今日はもう怪我を治して欲しい人もいないので彼女は逃げるようにしてその場から走り去る。

 

「それにしても、堕天使やめると言っても・・・・・・ヒーリング堕天使の方はどうしようかしらね。 調子に乗ってテレビの取材なんか受けなきゃ良かった・・・・・・」

 

人気のない場所まで行くよ善子は頭を抱えて「やってしまった」とテレビの取材に応じたことを後悔していると、胸ポケットにしまっていたモコが顔を除かせ、鳴き声をあげて来たのだ。

 

実は、人の傷を治すのは善子の能力ではない。

 

それはこのモコの能力であり、善子はモコの存在を秘密にしながらモコの力を借りて人々の傷を癒やしていたのだ。

 

「モコォ~?」

「モコ? どうしたの? お腹空いたの?」

 

善子は右左を見て、誰も人がいないのを確認すると彼女は傍にあった置物の後ろに隠れ、パンを取り出してそれをモコに差し出す。

 

「モコォ~!」

「んっ? お腹が空いてるんじゃないの?」

「モコ!」

 

そんな時のことである。

 

「すいません!!」

「ひゃあ!!?」

 

当然声をかけられ、善子は慌ててモコを隠す。

 

「あれ? あなた・・・・・・この前、家に来てた・・・・・・」

「あっ、あなた・・・・・・あの千歌って人の、お姉さん?」

 

善子に声をかけたのはペットキャリーを担いだ美渡であり、その後ろからひょいっとザルドが顔を出す。

 

「んっ? なんだお前等知り合いなの?」

「まぁ、妹の友達。 えーっと、善子ちゃんだっけ? 実はさ、私・・・・・・保健所の人で・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

その後、美渡とザルドはなんとかAIBに関することは伝えず、善子に納得して貰う形でモコを回収。

 

そのことを美渡とザルドがゼナに通信機で連絡を入れ、報告するのだが・・・・・・。

 

「えっ? 傷を癒やす力はない?」

『特殊な事例かもしれない。 兎に角地球に1体しかいない貴重な種だ。 速やかに本部へ届けろ』

 

モコ・・・・・・ルナー種には本来、傷を癒やす力は存在しない。

 

そのため、連絡を受けたゼナは「なにか特殊な個体なのでは」と考え、美渡とザルドに本部の帰還を促し、それに2人は「了解!」と返事をして本部へとモコを届けに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃・・・・・・。

 

モコを美渡とザルドに連れられ、モコと離ればなれになってしょんぼりした様子で顔を俯かせて家に向かって歩く善子。

 

「はぁ・・・・・・。 堕天使も卒業して、モコもいなくなって・・・・・・これから寂しくなるな。 悪いようにはしないって言ってたから多分モコのことは任せて大丈夫なんだろうけど・・・・・・」

 

何より、あのザルドという人物のことは知らないが、美渡は自分によくしてくれり、気を使ってくれた千歌と無爪の姉なのだ。

 

ならば信じても問題はないだろうと善子は考えるが・・・・・・やはり寂しいものは寂しい。

 

その為、彼女は大きな溜息を吐きながら歩く。

 

そのせいで未だにサングラスとマスクは装着しているので不審者スタイルに磨きがかかってしまっており、周囲の人達がヒソヒソ話し始めているが善子は気付かない。

 

そんな時・・・・・・。

 

「あの! すいません!! 今噂になってるヒーリング堕天使の人ですよね!!?」

「はい・・・・・・?」

 

後ろから声をかけられ、善子は振り返るとそこには強面の顔面が・・・・・・。

 

そう、なにを隠そうそれは強面フェイスのレイジである。

 

「きゃあ!!? ヤクザ!!?」

 

レイジの顔を見て善子は驚きのあまり尻餅を突いて転んでしまう。

 

『お前はいい加減後ろから登場するのやめろよ』

「うぅ、今度からそうします・・・・・・。 ってそれよりも!! あ、あの!! 僕はヤクザじゃないですよ!! こんな顔で勘違いされやすいですけど!!」

 

レイジは尻餅をついた善子に手を差し伸べ、それに善子は「ここで差し伸べられた手を拒めば殺られる!!」と思い、彼女はすぐさまその手を掴み、レイジに引っ張られて立ち上がる。

 

「え、えっと・・・・・・す、すいません・・・・・・。 それで、私に何の用でしょうか・・・・・・?」

「あ、あの! どうか治して欲しいんです!! 僕の中の人!!」

「はっ? 中の人・・・・・・?」

 

善子はレイジの言っている意味が分からず、首を傾げる。

 

というか、傷を癒やす能力を持っていたモコは美渡とザルドに連れて行かれてしまった為、どっちにしても彼女にはもう誰かの傷を治すことはできない。

 

しかし、ここで断ってしまえば・・・・・・。

 

『あぁ!? テメェ、テレビでやってたのはインチキだったのかゴルァ!!?』

 

とレイジにキレられてしまうのではないだろうかと思い、善子はサングラスの中で目尻に涙を溜め、冷や汗を流しながらなんと言い訳すれば良いかを必死に考える。

 

(どうしようどうしよう!! なんて言って誤魔化そう・・・・・・!!)

 

そこに・・・・・・。

 

「いたー!! 善子ちゃん!!」

 

千歌と無爪が駆けつけて来たのだ。

 

「アレ? レイジさん?」

「無爪くん!! 千歌ちゃん!!」

 

そのまま千歌は善子、無爪はレイジの元に駆け寄り、無爪は先ほどチラッと聞こえたことをレイジに尋ねる。

 

「さっき中の人を治してって言ってたよね? もしかしてゼロのこと!? 怪我してるの!?」

 

するとレイジはメガネを外して人格をゼロと交代。

 

『バラすんじゃねえ! 色々あるんだ!! シーッ!』

 

ゼロはそう言って無爪に口止めし、無爪も戸惑いつつ「は、はい!」と頷く。

 

また千歌は善子の手を触れてみるとやはり善子からはリトルスター保持者特有の体温の熱さは感じず、今度は千歌は咄嗟に善子の胸部辺りをまさぐる。

 

無論、その時無爪は目を見開いて凝視していた。

 

「ひゃあ!!? ちょっ、なにすんのよ!?」

「あっ、ごめんね善子ちゃん!?」

 

咄嗟に手を引っ込めて頭を下げて謝る千歌。

 

「それより、善子ちゃんに聞きたいことがあるんだけど・・・・・・」

「・・・・・・えっ?」

 

頭を振って余計な考えを振り払い、無爪は善子に「あの胸の光はなに?」と人々の傷を癒やしていたあの光はなんなのかを尋ねる。

 

「えっ、な、なに・・・・・・? もしかしてあなた達もモコのこと探して・・・・・・」

「「「モコ?」」」

 

ついモコの名前を口走り、ハッとなって咄嗟に口を両手で塞ぐ善子。

 

「・・・・・・話してくれるかな? そのモコについて・・・・・・」

 

無爪はそのモコという存在について話してくれないかと善子に頼むが、善子はどうすべきかと悩み、顔をしかめる。

 

「お願い、善子ちゃん!」

 

千歌にも頼まれ、善子は渋々モコについて話し始めることに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前。

 

その日善子は沼津で買い物を終え、帰宅している時のことだった。

 

突然といった感じに急に天気が曇り始め、激しい雨が降り始めたのだ。

 

『もぉー!! なんでいっつもこんな目に~!!』

 

今日の天気予報は晴れだと言っていた為、傘も持たず善子は出かけてしまっていたので、当然ずぶ濡れになってしまい、さらにはその途中足を滑らせて転んでしまい、右膝を擦りむいてしまったのだ。

 

『うぅ、ツイてないわね・・・・・・ホント・・・・・・』

 

その為、彼女は帰る途中にある公園で擦りむいた傷を水で洗うために立ち寄ることにしたのだが・・・・・・。

 

『モコ!!』

『んっ?』

 

そこで善子はモコと出会ったのだ。

 

公園の屋根のある場所で雨宿りしているらしきモコの姿に善子は気づき、彼女は興味本位から恐る恐るモコに近づいてしゃがみ、彼女は首を傾げる。

 

『なに? この動物? 犬・・・・・・じゃないわよね?』

『モコォ~!』

 

するとモコが突然善子の左の方の膝の上に乗るとモコから眩い光が放たれ、善子の擦りむいて怪我をしていたた右膝があっという間に完治したのだ。

 

『えっ、嘘!? 傷が・・・・・・! あなたが治してくれたの・・・・・・?』

『モコ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

善子曰く、「そのお礼としてモコを内緒でウチで飼うことにした」とのことで彼女を話を聞き、無爪達は「そういうことか」と納得したのだった。

 

「でも、リトルスターがまさか動物にまで発生するなんて驚いた」

「えっと、それでその動物に治療させて金儲けを・・・・・・?」

「金儲けだなんて人聞き悪いわね!! 私は一切お金なんて受け取ってないわよ!! ただ、モコがそういう人達を助けたかったみたいだから、私はそれを手伝っただけよ!!」

 

レイジは人々の傷を治しているなんて凄い能力を持っているので、てっきりお金を貰っているものなのだと思ったのだが・・・・・・どうやら早とちりだったようだ。

 

「す、すいません・・・・・・」

「それで、そのモコはどうしたの?」

 

そのモコという動物が今、善子の元にはいないようなので彼女にどこへ行ったのか尋ねると彼女は美渡とその同僚っぽい人・・・・・・つまりザルドがモコを保護したということを話す。

 

「美渡ねえが? えっ? でも美渡ねぇって生命保険の人じゃ・・・・・・」

「取りあえず、美渡ねえを探そう! 早くしないと怪獣が現れちゃうかも!!」

 

兎に角、今はモコを保護しているという美渡とザルドを探しに向かおうとする千歌と無爪。

 

「えっ!? なに!? 怪獣!?」

 

千歌の言葉に善子は「怪獣ってどういうこと!?」と尋ねようとするのだが・・・・・・その時・・・・・・。

 

突如として地響きが鳴り、地中から襟巻きをした恐竜のような怪獣・・・・・・「エリ巻き恐竜 ジラース」が出現したのだ。

 

「グルアアアアアアアア!!!!!!!!」

「わああ!!? やっぱり出てきた!?」

「やっぱりあの怪獣もモコって動物を狙って・・・・・・」

 

善子は千歌や無爪の会話の内容を聞き、2人の話はよく分からなかったが・・・・・・。

 

兎に角善子はモコが怪獣に狙われてると聞いたらいても立ってもいられず、彼女は無意識の内に身体が動き・・・・・・モコの名を叫びながら全力で走り出したのだ。

 

「モコーーーーーーー!!!!」

「善子ちゃん!?」

「危ないよ!!」

 

無爪と千歌が呼び止めるが、善子の耳には全く入っていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

出現したジラースは真っ直ぐモコを保護しているザルドと美渡の方に向かって歩いて来ており、ザルドと美渡は「なんで追いかけてきてるんだー!!?」と叫びながら逃げ惑っていた。

 

「ちょっと!! アンタ巨大化してあいつと戦って来なさいよ!!」

「無理無理!! 俺巨大化できない個体だし!! 大体そんなことしたらAIBの存在がバレる可能性だってあるし!!」

 

その時、美渡は自分が抱きかかえていたペットキャリーの中が光り出し、美渡とザルドはそれに慌ててキャリーの中を覗き込む。

 

するとそこにはモコがリトルスターの輝きを放っており、それを見てザルドと美渡は「まさか・・・・・・」と同時に呟く。

 

「「リトルスター!!?」」

 

「グルアアアアア!!!!」

 

気付けば、ジラースは目の前にまで迫ってきており、それに驚いた美渡は驚いて転んでしまい、その拍子にキャリーを落としてしまう。

 

「きゃああ!?」

 

その衝撃でキャリーの扉が開き、モコはコロコロとどこかに転んで行ってしまうのだった。

 

「大丈夫か美渡!?」

「それよりもルナーが・・・・・・って怪獣が!!?」

 

ジラースは美渡達のすぐそこに立っており、後一歩踏み出せば自分達は踏み潰されてしまう・・・・・・。

 

そんな時・・・・・・。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はジードライザーを構え、腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。

 

「はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

無爪は「ウルトラマンジード プリミティブ」に変身を完了させ、ジラースに向かってドロップキックを炸裂させる。

 

「グルアアア!!!?」

 

蹴り飛ばされたジラースは大きく美渡達から引き離され、ジードは大地に降り立つ。

 

「アレは・・・・・・」

「ジード・・・・・・すまん、助かった」

 

美渡はジードの登場に驚き、ザルドはジードに礼を言うとジードは頷き、立ち上がって来たジラースに向かって駈け出して行く。

 

『シュア!!』

 

ジードは先ず、勢いをつけて膝蹴りをジラースに叩き込み、ジラースが怯んだところにジードはさらに掴みかかるのだが・・・・・・ジラースは身体を大きく左右に揺らして振り払う。

 

「ガアアアアア!!!!」

 

振り払ったジードに向かってジラースは尻尾を振るって攻撃し、それをジードはしゃがみ込んで躱すが続けざまにで口から放つ熱線を放ってジードに直撃させ、吹き飛ばす。

 

『ウアアアア!!!!?』

 

吹き飛ばされ倒れ込んだジード。

 

ジラースはジードが倒れ込んだところを狙い、ジードに向かって突進。

 

『ぐっ! 燃やすぜ、勇気!!』

『ソリッドバーニング!!』

 

しかしジードは「ウルトラセブン」と「ウルトラマンレオ」の力を使う「ソリッドバーニング」へとチェンジすると両手でジラースの突進を受け止める。

 

そのままジードはジラースを押し返し、腕のブースターを使ったパンチをジラースの顔面に叩きこんで怯ませる。

 

『ハアア!!』

「グアアア!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でモコはというと・・・・・・。

 

ジラースから逃げている途中、モコは勢い余って漁船の網に絡まってしまい、身動きが取れないでいたのだ。

 

「モコォ~」

「モコーーーーー!!!!」

 

そこへモコを探していた善子がモコを発見。

 

彼女は網に絡まっているモコを見るとすぐさまモコを助けようとモコに絡まった網を解こうとする。

 

さらにそこに少しばかり遅れて善子を追いかけていた千歌とレイジも合流。

 

「あ、危ないよ君!! 早く逃げないと・・・・・・」

「モコを置いて逃げられる訳ないでしょ!!? モコは、私が落ち込んだ時ずっと励ましてくれてた!! そんな優しい子を、放っておける訳がないじゃない!!」

「モコォ~」

 

レイジの言葉に善子は噛みつくようにそう言い返し、それを受けてか千歌も「そうだね」と頷き、一緒にモコに絡まった網を解こうとする。

 

『いざとなれば、俺も行く。 レイジも手伝って来い!』

「わ、分かりましたよ・・・・・・。 僕だって、これくらいの勇気!」

 

ゼロにもそう言われ、レイジはジラースの存在にビクビクしながらも千歌と善子を手伝い、3人でどうにかこうにかモコに絡まった網を解き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、互いに向き合ったジード ソリッドバーニングとジラースは同時に走り出し、2体同時にジャンプすると空中で僅かな時間だが凄まじい殴り合いを行い、最終的にジードがジラースを地面に叩き落とすことに成功。

 

「グアアアア!!!」

 

それでも膝を突きながらもジラースは熱線をジードに向けて発射。

 

それをジードは両腕を交差してなんとかジラースの熱線の直撃を耐えきり、真っ直ぐジラースに向かって駈け出す。

 

対してジラースはエネルギーをチャージし、先ほどよりも強力な熱線を発射・・・・・・ジードはもう1度両腕を交差し、直撃を耐えようとするのだが・・・・・・。

 

先ほどよりもより強力な威力である為、ジードは空中に投げ出されるように吹き飛ばされてしまうのだった。

 

『ウアアアア!!!!?』

 

しかし、ジードは空中に吹き飛ばされながらも「ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー」と「ウルトラマンベリアル」のカプセルを使い、「トライスラッガー」にチェンジし、空中で体勢を立て直す。

 

『トライスラッガー!』

『シェア!!』

 

ジードはそのままジラースに向かって急降下キックを繰り出し、蹴りを受け、怯むジラース。

 

その隙にジードは背後に回り込んでジラースの尻尾を掴み、ジャイアントスイングで投げ飛ばす。

 

『ハアアア、シュア!!』

「グアアアア!!!?」

『今だ!!』

 

そしてジードは今がチャンスだと思い、両腕をL字にして放つ「デススラッガーショット」を放とうとするのだが・・・・・・。

 

『待ってください無爪! その怪獣の後ろにガスタンクがあります。 今光線を撃てばタンクが爆発し、大きな被害が出ることが予想できます』

 

不意にレムからの通信が入り、それによって光線を放つのを中断するジード。

 

『くっ、投げ飛ばす場所ミスった・・・・・・!! どうにかしてあいつをガスタンクから遠ざけないと・・・・・・!』

 

しかし、ジラースをガスタンクから離れさせる方法を考えている間に立ち上がったジラースは熱線を放ってジードに直撃させ、ジードは地面に倒れてしまう。

 

『グアアアアア!!!!?』

 

その際、その衝撃で今まで耐えていたがバランスを崩した千歌と善子が倒れそうになり、それを慌ててレイジが咄嗟に両手で背中を支えるように受け止める。

 

「危ない!!」

「あっ、解けた!!」

 

だが、それと同時にモコに絡まっていた網が解けるのだが・・・・・・。

 

「グルル・・・・・・!!」

 

その光景を睨むようにジラースが見つめており、それに驚いた千歌と善子は「ひっ!?」と怯えた声を漏らす。

 

「モコォ~・・・・・・」

 

そんな2人の怯えた様子を見て、モコはジードに振り返ってジードを見つめる。

 

「モコォ~!! モコ~~~!!!!」

 

すると、モコは身体を輝かせ、その光はモコから分離し、光はジードのカラータイマーの中へ。

 

そしてジードの中の無爪はホルダーから新たなカプセル、「慈愛の勇者」と呼ばれる青き巨人、「ウルトラマンコスモス」が描かれたカプセルが起動する。

 

『コスモスカプセルの起動を確認しました。 ヒカリとのフュージョンライズが可能です』

『よし、分かった!! 融合!!』

 

レムの言葉に無爪が頷くと無爪はジードライザーを構え、最初に青い姿の光の国の科学者、「ウルトラマンヒカリ」のカプセルを起動させる。

 

『アイ、ゴー!!』

 

続いて無爪は先ほど手に入れたコスモスカプセルを起動させ、ナックルに装填。

 

そこからジードライザーで装填ナックルをスキャンし、トリガーを引いてライザーを掲げる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!!』

『見せるぜ、衝撃!!』

 

そしてジードはトライスラッガーからウルトラマンヒカリ、ウルトラマンコスモスの力を融合させた青い姿、「ウルトラマンジード アクロスマッシャー」に姿を変える。

 

『はああああ、はぁ!! ジィィーーード!!!!』

『ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンジードアクロスマッシャー」

 

「青い、ジード・・・・・・?」

 

千歌が姿の変わったジードに向かってそう呟き、ジードはジラースをタンクから離れさせる為に両腕を回しながらエネルギーを貯め、左手を右腕の関節に乗せて十字を組み、大気を収束させた青い光輪状の波動光線「アトモスインパクト」を放つ。

 

『アトモス・・・・・・インパクト!!』

 

それを受けたジラースは空中に浮かび上がり、ガスタンクから遠ざけられ地上に落下して叩き落とされる。

 

『シェア!!』

 

それによってジードも大きくジャンプしてジラースの元まで行き、立ち上がったジラースは唸り声を上げながらジードに向かって突進。

 

『ハアア!!』

 

しかし、ジードはそれをひらりと躱し、後ろに回り込むと同時にジラースの首元に肘打ちを喰らわせる。

 

「グル!!? グルアアアアア!!!!」

 

一瞬、ジードの攻撃を受けてフラつくジラースだが、すぐさま振り返りざまに左手でジードに殴りかかって来るがジードはそれを両手で受け止め、そのままジラースの右腕を両腕で掴むとジラースの足に自分の足を引っかけ、足払いをして投げ飛ばす。

 

『シェア!!』

「ガアア!!?」

 

それによって地面を転がるジラースだが、転がりながらも熱線をジードに向かって吐き出し、攻撃を仕掛ける。

 

『スマッシュビームブレード!!』

 

それをジードは右手から光の剣を形成、「スマッシュビームブレード」を出現させ、熱線を縦一線に切り裂く。

 

『アレは・・・・・・ウルトラマンヒカリの技か!?』

 

またその戦いの様子を見ていたゼロも今度はジードがヒカリの力を使ったことに驚きの様子を見せていた。

 

『ハアア!!』

 

起き上がったジラースはさらに強力な熱線を放とうとエネルギーをチャージし始めるが・・・・・・。

 

『ハアア、スマッシュムーンヒーリング!!』

 

ジードは両手から興奮抑制効果のある光線「スマッシュムーンヒーリング」を放ち、それを受けたジラースはエネルギーチャージを中断。

 

ジラースは大人しくなり、ジードに向かって背を向けるとそのまま地面に潜り始め、やがて姿を消すのだった。

 

「怪獣を、大人しくさせた・・・・・・?」

 

その光景を見て千歌は小さくそう呟き・・・・・・。

 

『成程、コスモスの力か・・・・・・らしいな』

 

またレイジの中のゼロは感心したようにそう呟くとレイジは「こ、コスモスってなんですか?」と尋ねてくる。

 

『それは後で説明する』

 

 

 

 

 

 

 

 

それからジードの活躍もあり、善子もモコも怪我もなく、善子は手の平にモコを乗せてほっとした笑みを浮かべていた。

 

「モコォ~」

「もうこの子に、傷を癒やす力は無いんだね」

「これじゃ、ヒーリング堕天使も、無理・・・・・・かな?」

 

リトルスターをモコはジードに譲渡してしまった為、もうモコは傷を癒やす能力は使えない。

 

しかし、善子はそんなことなど気にした様子は無い。

 

「良いのよ、モコが無事なら」

「アレ? なっちゃんに千歌?」

 

すると丁度そこへモコを探していた美渡とザルドが現れたのだ。

 

「あっ、保健所の・・・・・・」

「んっ? 保健所? 美渡ねえがやってるのって保険のやつじゃ・・・・・・」

 

善子の言葉に疑問に感じた無爪はそのことについて美渡とザルドに尋ねるのだが、美渡は冷や汗流しながら必死に誤魔化すように「そ、そうよ!」と応える。

 

「だだだ、だから保険の仕事じゃない? ほら、両方にほほほ、『保険』ってあるしな?」

(ザルド、アンタキョドりすぎ!!)

「んっ? 保険のセールスってこんなことまでやるの?」

 

ザルドと美渡はどうやって誤魔化そうかと必死に悩むが・・・・・・どう考えても2人とも上手く応えられないので美渡は強引に自分達の仕事を全うすることにした。

 

「い、色々あるのよ保健所には! それよりも、その子!! ごめんね、これも仕事だから・・・・・・」

 

美渡は申し訳無さそうにしつつも善子からモコを自分の手に取り、それに善子は「あっ」と物凄く悲しげな顔を浮かべる。

 

「えっ、ちょっとそれは酷いんじゃない美渡ねえ!?」

「そうだよ!! 酷いよ美渡ねえ!!」

 

千歌と無爪にそう言われ、「うっ・・・・・・」と罪悪感に蝕まれる美渡。

 

「このままこの動物持って帰ったら、完全に俺達悪者になるぞ」

「で、でも・・・・・・」

「・・・・・・はぁ、仕方がない。 俺に1つだけ提案がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に言えば、モコは善子が引き続き飼うことになった。

 

しかし、善子の住んでいるマンションはペット禁止で何時までも隠しておく訳にもいかないので浦の星で飼うことに。

 

勿論、鞠莉の許可も貰っており、またザルドが必死にゼナに対して頭を下げて頼んだこともあり、定期的にAIBの監視付きという条件で学校で飼うことになったのだった。

 

ただ色々と飼う為の道具なども必要になってくる為、準備ができるまではAIBが保護することに。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その翌々日。

 

前々日は怪獣騒動もあり、昨日は昨日でモコの問題などでバタバタしていた為、彼女はAIBにモコを一時預かって貰っている間、自分の持っていた堕天使アイテムを処分するためにそれらをダンボール箱に入れており、一通り入れ終えると彼女は「これでよし」と言ってダンボールの箱を閉じる。

 

彼女はダンボールをいつでもゴミに出せるように玄関に一度置くと、何気なく外に出てみることに。

 

そんな時だった。

 

「堕天使ヨハネちゃん!!」

 

不意にそう呼ばれ、声のした方に顔を向けるとそこには千歌をはじめ、あの堕天使衣装を着ていたAqoursのメンバーがいたのだった。

 

「「「「「スクールアイドルに入りませんか!!!!」」」」」

 

5人は声を合わせて善子にそう言い放つ。

 

「・・・・・・はぁ?」

 

それに善子は何がなんだか分からず、首を傾げる。

 

「ううん、入ってください!! Aqoursに!! 堕天使ヨハネとして!!」

「・・・・・・なに言ってるの? この前話したでしょ?」

「良いんだよ!! 堕天使で!! 自分が好きならそれで!!」

 

千歌は力強く、真剣な眼差しで善子にそう訴えかけるのだが・・・・・・。

 

しかし、善子は小さく「ダメよ・・・・・・」と呟き、千歌達に背を向けて逃げ出したのだ。

 

「あ、待って!!」

「生徒会長にも怒られたでしょ!?」

「うん、それは私達が悪かったんだよ!! 善子ちゃんは良いんだよ!! そのまんまで!!」

 

千歌達は善子を追いかけながら、言葉を投げかけるのだが・・・・・・善子はなんとか一度建物の影に隠れて身を潜める。

 

「千歌ねえの言ってること、分からない?」

「おわぁ!? あなた・・・・・・無爪くん!?」

 

しかし、いつの間にか彼女の後ろに無爪が立っており、先ほど千歌達と一緒にいなかったが無爪もまた自分を捕まえようとしているのかと思い、逃げようとするが・・・・・・無爪はそんな善子に慌てて待ったをかけた。

 

「僕は捕まえるつもりはないよ。 それはきっと、千歌ねえ達がやるべきことだから」

「・・・・・・」

「僕さ、爆裂戦記 ドンシャインって特撮ヒーローが大好きなんだ!」

「・・・・・・なによ、突然」

 

いきなり無爪はドンシャインが好きだと言う話を善子にし始め、なんで今そんな話をしてるんだと怪訝な顔になるが、無爪は話を続ける。

 

「特撮ヒーローってさ、子供向けに一応は作られてる訳じゃない? それを高校生にもなってってたまにバカにされることがある。 幼稚だとかなんとかって・・・・・・腹立つし、悲しいよね、そういうのって。 高校生が観ても面白いのいっぱいあるのに。 よく知りもしないのにさ。 なんでそういうこと言えるかな」

「それがなに・・・・・・? 愚痴言いに来たの?」

「違う、そうじゃない。 僕が言いたいのはそれでも僕はドンシャインが好きであることをやめない。 だって本当に好きなんだから。 何かを『好き』だという気持ちに、嘘はつけないんだよ。 そして誰にもそれを否定する権利なんてないんだ。 僕が言いたかったのはそれだけ」

 

無爪は笑みを浮かべて「それじゃ、後は千歌ねえ達に任せようかな」とだけ言い残すと彼はその場を歩き去って行き、善子は「なんなのよ・・・・・・」と不満げな顔を見せるが・・・・・・。

 

そこへ無爪と入れ替わるように「見つけたぁー!!」という千歌の声が聞こえ、善子は慌ててまた逃げ出す。

 

「しつこーい!!」

「私ね、どうしてμ'sが伝説を作れたのか! どうしてスクールアイドルがそこまで繋がって来たのか、考えてみて分かったんだ!!」

 

やがて体力の限界が来たのか、善子の足は徐々に遅くなり、遂に立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・。 ステージの上で自分の『好き』を迷わずに見せることなんだよ!!」

 

荒くなる息を整えつつ、千歌は必死に自分の考えを口にして善子に伝える。

 

「お客さんにどう思われるか、人気がどうとかじゃない! 自分が1番好きな姿を、輝いている姿を見せることなんだよ!! だから善子ちゃんは捨てきゃダメなんだよ!! 自分が堕天使を好きな限り!!」

『何かを『好き』だという気持ちに、嘘はつけないんだよ』

「・・・・・・っ」

 

千歌にそう言われ、善子は無爪に言われた言葉を思い出しつつ、彼女は戸惑いながらも千歌達の方へと振り返る。

 

「・・・・・・良いの? 変なこと言うわよ?」

「良いよ!」

 

善子の問いかけに、曜が応える。

 

「時々、儀式とか始めるかもよ?」

「それくらい、我慢するわ?」

 

善子の言葉に今度は梨子が応える。

 

「リトルデーモンになれって言うかも!」

「それは・・・・・・。 でも、ヤだったらヤだって言う!」

 

一瞬苦笑いする千歌だったが、すぐにそう言葉を返し、千歌は善子の元に踏み寄ると黒い羽を彼女に差し出す。

 

「っ・・・・・・!」

「だから・・・・・・!」

 

すると、善子はそっと千歌の手に触れ・・・・・・それは、「Aqoursに加入する」という善子の答えであり、千歌と善子は互いに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善子と別れ、きっと千歌が上手く彼女を勧誘することに成功しているだろうことを信じて無爪は自宅に帰っている途中・・・・・・彼はある男性とすれ違い、不意に立ち止まった。

 

その男性に見覚えがあったからだ。

 

「アレって・・・・・・あの! すいません!!」

 

無爪が呼び止めた人物・・・・・・それは荒井であり、無爪は荒井の元に歩み寄ると内ポケットからメモ帳を取り出す。

 

「いきなりすいません。 実は、友達があなたのファンなんです! サインして貰えないですか?」

 

尚、無爪の言う友達と言うのは花丸のことであり、彼女が荒井の書いている小説を愛読していることを少し前に知った為、無爪は荒井にサインを頼んだのだ。

 

そして無爪が荒井にそう頼むと彼は笑みを浮かべ、「良いですよ」と快くメモ帳にサインを書き上げ、それを無爪に渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

無爪は頭を下げて荒井にお礼を言うと振り返ってそのまま歩き去って行き・・・・・・そんな彼の姿を荒井はニヤリとした笑みを浮かべて怪しく見つめた後、無爪とは反対の方向に歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒井は無爪と別れた後、人気のない物陰に隠れ、ライザーを取り出す。

 

「今のお前の力を試してやろう。 ウルトラマンジード・・・・・・! 少しは私も楽しまなければなぁ?」

 

荒井はそう呟くと2つのカプセルを起動させる。

 

「エレキング!」

 

1つは「宇宙怪獣 エレキング」のカプセルでそれを装填ナックルに装填。

 

「エースキラー!」

 

次に起動したのは「異次元超人 エースキラー」というロボット怪獣のカプセル。

 

それも起動し、ナックルにカプセルを装填。

 

そしてライザーでナックルをスキャンし、ライザーのトリガーを引く。

 

「これでエンドマークだ!!」

『フュージョンライズ!!』

 

すると荒井の姿が「ウルトラマンベリアル」の姿へと変わり、ベリアルの前にエレキングとエースキラーが現れ、2体は粒子のようになってベリアルの口の中へと吸い込まれるとエレキングとエースキラーが融合した「ベリアル融合獣 サンダーキラー」へと荒井は変身を完了させる。

 

『エレキング! エースキラー! ウルトラマンベリアル! サンダーキラー!』

「キイイイィィィ!!!!!」

 

街中にサンダーキラーが現れるとサンダーキラーはビルを腕を振るって破壊し、そのまま街を蹂躙する為に歩き出す。

 

「・・・・・・怪獣!」

 

怪獣の出現に気付いた無爪はすぐさま怪獣の元に向かって駈け出しながらジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

『ウルトラマンジード! プリミティブ!』

 

無爪は「ウルトラマンジード プリミティブ」に変身し、サンダーキラーの前に立ち塞がり、戦いを挑むのだった。

 

『行くぞ!!』



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第7話 『守るべきもの』

突如として出現した「ベリアル融合獣 サンダーキラー」。

 

街で暴れるサンダーキラーを止める為、無爪は「ウルトラマンジード プリミティブ」に変身し、サンダーキラーに立ち向かう。

 

一方、星雲荘ではジードとサンダーキラーの戦いの様子をレムが球体型偵察機「ユートム」を使ってその様子を星雲荘のモニターに映しており、ペガや星雲荘にやってきていた千歌がその光景を見つめていた。

 

また、それと同時にレムの調べでこの辺りの住民の避難は完了しているとのことで近くにリトルスターの反応なども全くないとのことだった。

 

『じゃああの怪獣はリトルスターを狙って現れた訳じゃないってこと?』

『恐らくは』

「じゃあ、あの怪獣はなんの目的で・・・・・・」

 

ペガの問いかけにレムはそう応え、千歌はサンダーキラーがなんの目的で現れたのか首を傾げる。

 

またジードはサンダーキラーに向かって膝蹴りを繰り出し、それによってサンダーキラーが怯むとジードはサンダーキラーの顎を左手で掴みあげる。

 

「キイイイイイ!!!!」

 

しかし、サンダーキラーは電撃を纏わせた左腕の鉤爪でジードの身体を斬りつけ、引き離すと黒い三日月型のカッターを口から吐き出し、ジードに直撃させる。

 

『ウグアアア!!?』

 

サンダーキラーは続けざまに口からカッターを放つが、ジードはジャンプして飛び上がることで攻撃を回避し、サンダーキラーの頭に向かってチョップを叩きこむ。

 

しかし、サンダーキラーの頭部は非情に硬く、逆にチョップを繰り出したジードの腕にダメージがいってしまい、ジードは思わず飛び退いてしまう。

 

『ウグアア!!? いってぇ~!! 硬い奴が相手なら!!』

 

そう言うとジードのインナースペース内で無爪はジードライザーを構え、セブンカプセルを起動させる。

 

『融合!』

 

するとカプセルの中から赤い戦士の「ウルトラセブン」が出現する。

 

『アイ、ゴー!』

 

さらに無爪は赤き獅子の戦士「ウルトラマンレオ」のカプセルを起動させるとカプセルからレオが現れる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『燃やすぜ、勇気!!』

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとセブンとレオの姿が重なり合い、赤い鎧を纏ったような姿……「ウルトラマンジード ソリッドバーニング」へと変身を完了させる。

 

『はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!』

『ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード!! ソリッドバーニング!!』

 

ソリッドバーニングとなったジードはサンダーキラーに向かって跳び蹴りを放ち、サンダーキラーはそれを左腕を振るって受け流すが・・・・・・。

 

ジードは素早く頭部に装着された「ジードスラッガー」を右足に装着し、加速させた回し蹴りを放つ「ブーストスラッガーキック」をサンダーキラーの顔に向かって叩きこむ。

 

『ブーストスラッガーキック!!』

「キイイイイ!!!?」

 

ジードの攻撃を受けて後退するサンダーキラーだが、サンダーキラーはお返しとばかりにジードの頭を左手で鷲掴みにし、ジードに電撃を流し込む。

 

『ウアアア!!? こんの・・・・・・離せぇ!!』

 

だが、防御力の高いソリッドバーニングにはあまり電撃は効いておらず、ジードは即座に反撃しようとするのだがそれよりも早くサンダーキラーはジードの腹部を力強く蹴りつけて少しだけ自分から引き離すと素早く左腕の鉤爪でジードを斬りつける。

 

『ウアアア!!?』

 

攻撃を受けながらもジードはなんとかジードスラッガーを今度は右腕に装着し、装甲を展開した右手首の発射口にエネルギーを集中させ、炎をまとった爆熱光線を正拳突きの姿勢で放つ「ストライクブースト」をサンダーキラーに繰り出す。

 

『ストライクブーストォ!!!!』

 

しかし、サンダーキラーはジードの光線を吸収し、そのままジードのストライクブーストを跳ね返してしまったのだ。

 

『なっ!? うわああああああ!!!!?』

 

そのままジードは跳ね返ってきた光線の直撃を受けて吹き飛ばされ倒れ込んでしまう。

 

さらに、倒れ込んだジードに素早くサンダーキラーは接近すると、立ち上がろうとするジードを力強く踏みつけ、ジードが立ち上がるのを阻止する。

 

『ぐっ、この!!』

 

だが、パワーならこっちが上だとジードはサンダーキラーの足を掴んで無理矢理押し退かそうとするが、サンダーキラーは三日月型のカッターを口から吐き出し、ジードの顔面に何発も攻撃を浴びせる。

 

『グアアアアアア!!!!?』

 

幾ら防御力の高いソリッドバーニングでも、顔面に近距離攻撃を浴びせられてはノーダメージという訳にも行かず、ジードは苦痛の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、自分の暮らすアパートで学校に行く準備をしながらテレビのニュースでジードとサンダーキラーが戦う様子を観ていたレイジは・・・・・・。

 

「あっ、ジードが・・・・・・!!」

『レイジ!! ちょっと身体借りるぜ!』

「えっ、でも僕これから学校が・・・・・・」

 

ゼロはレイジに身体を貸すように頼むが、レイジ自身臆病な性格なこともあり、学校に行かないといけないことを理由に断ろうとするが、レイジは自分の意思とは関係なく、服の内ポケットから「ウルトラゼロアイNEO」を取り出してしまう。

 

「えっ、ちょっ、待ってくださいゼロさん!! ゼロさん? 聞いてますかゼロさん!!?」

『このままじゃジードがヤバイんだ! 腹をくくれレイジ!! お前ならできる!!』

 

そのままゼロに成されるがままレイジはウルトラゼロアイを目に装着し、スイッチを押すとレイジは「ウルトラマンゼロ」へと変身を完了させるのだった。

 

ちなみに、ベムストラやエレキングが出現した時もこんな感じでほぼ強制的にレイジはゼロに変身したとか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてゼロはサンダーキラーを自身の操る頭部に装着された2本のブーメラン、「ゼロスラッガー」を投げてサンダーキラーを斬りつけてジードから引き離し、そのままゼロはゼロスラッガーを頭部に戻してサンダーキラーとジードの間に割って入るかのように現れ、ファイティングポーズを構えてサンダーキラーと戦おうとする。

 

『俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ!!』

『・・・・・・ゼロ?』

 

しかし、サンダーキラーはゼロの姿を見ると突如としてその姿を消し去り、それにゼロは驚き、周囲を見渡すが・・・・・・やはりどこにもサンダーキラーの姿は見当たらなかった。

 

『っ!? 消えた・・・・・・?』

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

その後、変身を解除した無爪はサンダーキラーの攻撃によってボロボロになっており、同じく変身を解いたレイジと迎えに来た千歌に抱えられ、3人は星雲荘にやってきたのだった。

 

ただ、星雲荘に初めて来るレイジは「えっ、なにここ!?」と当然ながら驚きを隠せず、またレイジはペガの姿を見ると「宇宙人!!?」と驚きの声をあげていた。

 

「なっちゃん、大丈夫?」

『無爪! 救急箱用意してあるから傷の手当てを』

 

無爪はペガと千歌の2人によって椅子に座らされ、ペガは救急箱を持って来て無爪の傷の手当てを行うことに。

 

「っていうか千歌ちゃんもなんで・・・・・・一体どうなってるの!? もう訳が分からないよ!!」

『レイジは少し黙ってろ、ややこしいから』

 

何がなんだか分からず、騒ぎ立てるレイジを黙らす為にゼロはレイジと自分の人格を入れ替えてレイジがかけていたメガネを外す。

 

しかし、そうは言っても色々と聞きたいことだらけであり、再び人格がレイジに戻ると「えぇ、でも・・・・・・」と黙っていることはできないという風だった。

 

「それよりも!! レイジさんがウルトラマンゼロだったの!? 私、全然知らなかったよ! ビックリしちゃった~」

 

また以前ゼロから直接説明を受けていた無爪は兎も角、千歌はレイジがゼロであることをたった今初めて知った為、彼女もまた驚きを隠せず、ゼロも詳しい事情を説明する必要があると思い、またゼロが自分とレイジの人格を入れ替えて表に出て来る。

 

『俺がこの地球で暮らす為にはだな・・・・・・』

「いやちょっと待って!! なんかもう訳分かんないから!! レム、これなんとかならない!?」

 

さっきから人格入れ替えってばっかりで色々とややこしさを感じた千歌はレムにこの状況をどうにかできないかと尋ね、レムは「分かりました」と彼女の頼みを聞くとレムはある機械を用意する。

 

その機械をレイジの頭に取り付けると星雲荘の空中に映像が投影され、その映像の中にはゼロの姿が映る。

 

これによって映像に映るゼロとの会話が可能となり、ムが言うにはこの状態ならば人格を入れ替える必要は無くなるとのことだった。

 

『まぁ、そんな訳でしばらくこんな感じで行こうってことになったんだ。 つまりその、Win-Winの関係だな』

 

それからゼロは一通りの事情を千歌達に説明し、それによって千歌やペガは「なるほど~」と納得。

 

一方で傷の手当てをすませた無爪は休みがてらソファに寝転びながら星雲荘に設置されたテレビを見ており、先ほどの戦いがニュースとして取り上げられていた。

 

『苦戦するジードのピンチを救ったのは、もう1人のウルトラマンでした!』

 

またジードのピンチに駆けつけたゼロのこともニュースで取り上げられており、取材でゼロのことをどう思うかと町の住民達に聞いてみたところ、ある1人の女性は「単純にかっこよかったですね、やっぱり見た目大事ですよ」と言ったり、子供達は「かっこいいー!!」という純粋な意見を言ったりとジードに比べて好意的な意見が多かった。

 

『ジードってのは面構えが気に入らねえ。 あいつはベリアルにそっくり・・・・・・』

「っ・・・・・・」

 

さらにある老人がゼロに比べジードについてどう思うかという質問をしたところ、そんな意見があり、それを聞いた無爪はどこかショックを受けたかのような暗い表情を浮かべる。

 

そんな老人の言葉に、憤りを感じずにはいられずにいられなかった千歌はムスッとした表情を浮かべてテレビの電源を切る。

 

「なにあの言い方! 面構えが気に入らないって酷いよ!! 人を見た目で判断するなんて!!」

「千歌ねえ・・・・・・」

 

千歌が自分のことに怒ってくれたことに少し嬉しさを感じる無爪だったが、すぐにまたゼロばかりみんなが持ち上げていたことを思い出し、無爪はまた暗い表情を浮かべてしまう。

 

そんな無爪を励まそうとレイジは無爪の肩に手を置き、「気持ちは分かるよ」と励ましの言葉を送る。

 

「僕も、見た目はこんなんだから、外見のことで色んな人に怖がられちゃうし、通報も何度かされかけたから・・・・・・」

 

レイジはそう言って「あはははは!!」と笑い飛ばすが、ゼロも無爪も千歌もペガも「笑えないよ・・・・・・」とツッコまずにはいられなかった。

 

「でも、やっぱり・・・・・・なんかズルいよ、ゼロは。 最後の方に出てきてほぼ立ってただけなのに・・・・・・」

『あっ? いや、それはお前がやられてたから助けに・・・・・・』

 

そう言うゼロの言葉を遮り、「やられてない!!」と反論する無爪。

 

「ちょっと休んでただけだし、あんな怪獣僕1人でも・・・・・・!!」

『いや、お前はあの時防戦一方だったじゃねえか』

「っ・・・・・・!!」

 

無爪はゼロの言葉に上手く反論することができず、言葉を詰まらせて悔しそうに拳を握りしめ、千歌はそんな無爪を心配そうに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、浦の星学院では強張った表情のダイヤが突然理事長室に押しかけるかのように現れて椅子に座る鞠莉の元まで行くとダイヤは力強く机を叩き、学校に送られて来た「あるメール」の件について彼女は鞠莉に問いただす。

 

「鞠莉さん!! あのメールはなんですの!?」

「なにって、書いてある通りデース・・・・・・」

「そんな・・・・・・」

 

鞠莉からの返事を聞いて、今よりもさらに驚愕しかのような表情を浮かべ、拳を力強く握りしめるダイヤ。

 

「嘘でしょ・・・・・・?」

「沼津の高校と統合して浦の星学院は廃校になる。 分かっていたことでしょ?」

 

何時も通りおちゃらけた雰囲気を最初こそ出していた鞠莉だったが、徐々に彼女は真剣な口調で沼津の高校と統合するに当たってこの浦の星学院が廃校になることを告げ、そのことを告げられたダイヤもその可能性については前々から気付いてはいたことなのだが・・・・・・。

 

「それは、そうですけど・・・・・・」

 

だが、できることならばそうならないことをダイヤは願っていた。

 

ただし、鞠莉曰くまだ確定した訳ではないらしく、まだ待って欲しいと彼女自身が強く頼んだことで今はまだ猶予を貰っている状態だとのことで少なくともすぐに統廃合ということは無いらしい

 

「鞠莉さんが?」

「なんの為に私が戻って来たと思っているの? この学校を無くさない、私にとって・・・・・・どこよりも、大事な場所なの・・・・・・」

 

そう語る鞠莉はどこか儚げな様子で、静かだが確かな強い意志を持ってダイヤにそう言い放つ鞠莉。

 

「・・・・・・方法はあるんですの? 入学者はこの2年、どんどん減っているんですよ?」

「だからスクールアイドルが必要なの。 あの時も言ったでしょ? 私は諦めないと。 今でも決して終わったとは思っていない。 ジーッとしてても、ドーにもならないってね?」

 

鞠莉は無爪の口癖を借りながらダイヤに握手を求めるかのように手を差し出し、ダイヤは「なんですのそれ?」と怪訝な表情を浮かべながら先ほどの言葉のことを尋ねる。

 

「無爪くんの口癖らしいわ。 まさに今の状況のピッタリの言葉でしょ? ねっ? ダイヤ?」

「・・・・・・わたくしは、わたくしのやり方で廃校を阻止しますわ」

 

しかしダイヤはそう言い残して鞠莉の差し出された手を取らずに理事長室を後にし、鞠莉はそんな去って行くダイヤの後ろ姿を見て寂しそうな表情を浮かべるのだった。

 

「ホント、ダイヤは大好きなのね。 果南が・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、モコは無事に学校で飼うこととなり、堕天使キャラも続けることを決めた善子は今日はしっかりと学校に来ていたのだが・・・・・・。

 

やはりまだ表立って堕天使キャラを披露するには抵抗があるらしく、彼女はなるべく可能な限り堕天使を抑えつつ、クラスメイトの女子達と談笑していた。

 

「そ、そうだよねー。 マジムカつくよね~? よねー・・・・・・」

「だよねー」

 

そのまま会話を終えると、クラスメイトの女子達は「じゃーねー」と善子と別れの挨拶をし、善子の方も苦笑しつつも「またねー」と手を振りながら別れの挨拶を返す。

 

その際、クラスメイトの1人が「善子ちゃんって面白いよね~」と好意的に言っていたので、特に以前の占いの時のような失敗は犯していないようだった。

 

「はぁ、疲れた~」

 

クラスメイトと話し終えた善子は机に突っ伏してしまう。

 

「普通って難しい・・・・・・」

「無理に普通にならなくても良いと思うずら~よっ!」

 

そう言いながら花丸はどこからか黒い羽根を取り出し、それを善子のシニヨンに突き刺すと彼女は「ギラリン!」と目を光らせて勢いよく立ち上がる。

 

「深淵の深き闇からヨハネ堕天!!」

 

善子はついつい決めポーズを決めながら堕天使キャラになってしまい、そのことに「はっ!?」となり、「またやってしまった」とでも言いたげな彼女。

 

「そのシニヨンと羽根何かのスイッチなの? でも、そうだよね、花丸ちゃんの言うように無理することないと思うよ。 堕天使やってもここのクラスのみんななら受け入れてくれそうだし・・・・・・」

 

さらに花丸に同意するように、無爪も善子は堕天使やってもきっと問題は無いだろうと主張。

 

しかし、善子はスクールアイドルの活動でなら「アイドルだからそういうキャラ」と説明できるし、事情を知っている千歌達の前なら遠慮はいらないが、それ以外のことを善子はそう簡単には割り切れないようだった。

 

「絶対大丈夫だよ。 面構えが気に入らないってだけで嫌われるジードに比べれば、善子ちゃんのキャラみんなから好かれそうだし」

 

そんな風にジードに比べれば好意的に受け止めてくれる人は多いと思うと自虐的に言う無爪に善子と花丸は首を傾げ、無爪はなんだか元気がないようでそんな彼を心配した善子は「具合でも悪いの?」と尋ねる。

 

「それと善子じゃなくてヨハネ!」

 

ちゃんと自分の呼び方を訂正するように言うのも善子は忘れずに。

 

「あっ、いや・・・・・・具合が悪いとかじゃないんだ。 心配かけてごめん」

「別になんともないのなら良いんだけど・・・・・・」

「無理はダメずらよ、無爪くん?」

 

善子と花丸は無爪にそう言い、そんな彼女等の気遣いに無爪は「ありがとう」と笑みを浮かべてお礼を言い、そこでふっと善子は先ほど無爪が言っていた言葉を思い出し、「えっ、ってか普通にかっこよくない?」と彼女は無爪にそう言って声をかけた。

 

「えっ?」

「いや、面構えが気に入らないって昨日ニュースに出てたお爺さんのやつでしょ? 私的には、むしろカッコいいと思うんだけど・・・・・・あの悪そうな目つきとか特に!! ダークヒーローみたいでカッコイイじゃない!! モコのことも助けて貰ったしね」

 

まさかの善子からの意外な言葉・・・・・・。

 

彼女曰く、むしろジードはあの悪そうな面構えが逆にカッコイイと思っているらしく、善子は特にアクロスマッシャーのジードが気に入っているらしく、「青い悪魔みたいで好き」とのこと。

 

「青い悪魔ってアボラスかよ・・・・・・。 アボラスってなんだっけ?」

「知らないわよ」

 

正直、最後の評価は微妙な気がするが、それでも1人でもこんな風に好意的なことを言ってくれるのは無爪は素直に嬉しく、少しだけ感性ズレているような気がしないでもないが、それでも無爪はそんな善子に対し笑みを浮かべ、「ありがとう」とお礼を述べるのだった。

 

「なんで無爪くんがお礼を言うのよ」

「いや、なんとなくだよ」

「・・・・・・あれ? この作品のヒロインって善子ちゃんだったっけ?」

 

花丸がそんな風にメタいことを言っていると、突然教室の扉が勢いよく開き、そこから息を切らし、慌てた様子のルビィがやってきたのだ。

 

そんな彼女の頭の上には無事に学校で飼うことになったモコが乗っかっており、どうやら善子のことを迎えに来たようだった。

 

尚、学校で飼っていると言っても誰かと一緒という条件ではあるものの基本的にモコは自由に学校内を移動することが可能となっており、夜などは学校の用務員などが餌などを与えて世話をしてくれているそうだ。

 

「モコォ~!」

 

モコは善子の姿を確認するとモコはぴょんっと跳ねるように善子の方へと飛び、善子はそれを見事に両手でキャッチする。

 

「モコ! 迎えに来てくれたの?」

「モコ!!」

 

善子はモコを優しく抱きかかえ、それにモコは嬉しそうに尻尾を振る。

 

「ってルビィちゃんは一体どうしたずら?」

 

そこで花丸が息の上がっているルビィに一体どうしたのだと尋ね、ルビィは少しだけ息を整えた後、無爪達に大事なことを伝える。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・大変!! 大変だよ!! はぁ、はぁ、大変!! 学校が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『統廃合!!?』

 

部室にて、そこに集まったAqours6人+無爪はルビィによってこのままでは学校が統廃合になってしまうという話を聞かされ、なんでもルビィが言うには沼津の学校と合併して浦の星学院は無くなってしまうかもしれないのだという。

 

「そんなぁ!!」

「いつ!?」

 

曜はそれは一体いつ統廃合になってしまうのかとルビィに尋ねるのだが、ルビィもまだそこまでは分かっておらず、どうやら今はまだ可能性が高いというだけの話のようだ。

 

「一応、来年の入学希望者の数を見てどうするか決めるらしいんですけど・・・・・・」

 

だが、このまま何もしないのならば統廃合になるのはほぼ間違いないようで、ルビィの話を聞いてショックを受けたのか、千歌は先ほどからずっと顔を俯かせたままだった。

 

「千歌ねえ?」

 

そんな千歌の様子のおかしさに真っ先に無爪が気付き、もしかして学校が統廃合になってしまうことが余程ショックなのだろうかと心配になり、無爪は彼女に声をかけるのだが・・・・・・。

 

その瞬間、千歌はバッと勢いよく顔をあげ、その表情は落ち込んでいるどころかむしろ「統廃合? 来た!!」とまるで嬉しそうにしており、それに目をまん丸とする無爪。

 

「はっ?」

「遂に来た!! 統廃合ってことはつまり廃校ってことだよね!? 学校のピンチってことだよね!?」

 

なぜかはしゃぎ出す千歌に「こいつ何言ってんだ」とでも言いたげな視線を無爪は送るのだが、千歌はそれに気付かず、そんな千歌に対して梨子や曜も動揺する。

 

「まぁ、そうだけど・・・・・・」

「千歌ちゃん? なんだか、心なしか嬉しそうに見えるけど?」

 

曜はなんでそんな嬉しそうにしているのか、千歌に尋ねると彼女は勢いよく部室の扉を開いて外に出て部室の周りを突然駆け出す。

 

「だって、廃校だよ~! 音ノ木坂と、一緒だよぉ~!!!」

 

部室の周りを一周すると、出て行った方向とは反対側の部室の扉を開いて再び部室に入り、「これで舞台が整ったよ!!」と言いながら善子の両手を握り、それに善子は驚いて目を見開く。

 

「私達が学校を救うんだよ!! そして輝くの!! あの、μ'sのように!!」

「そんな簡単にできると思ってるの?」

 

千歌は左腕で善子を抱きかかえるようにして右手の一差し指を天に向け、そう高らかに宣言するのだが・・・・・・。

 

梨子はそんな彼女に呆れ顔を見せ、無爪にはなんのことを言っているのか分からず、こっそりとペガに彼女がなんのことを言っているのかを問いかける。

 

『あのね、そもそもμ'sが生まれた切っ掛けは学校が廃校になるかもしれないってなったからなんだ。 それで、μ'sは見事に人気が出て、学校を救うことに成功したんだよ』

「あぁ、成程。 つまり、好きなものと同じシチュエーションが来て喜んでいると・・・・・・」

 

ペガからの説明を受けて、無爪はなんとなくではあるが、千歌の気持ちが分かった。

 

自分が初めてウルトラマンジードになった時、レムから自分には怪獣と戦う力があると聞いて「ドンシャインのようなヒーローになれるかもしれない」と、少なからず喜ぶ自分がいた。

 

勿論、それ以上にそれはみんなを守りたいという強い想いがあったからだが。

 

なので「好きなものと同じ状況」になるという気持ち自体はなんとなく共感することはできる。

 

その為、何時もなら何かしらのツッコミを入れるところだが、彼女の気持ちは少なからず分かるので敢えて黙っていることにする無爪。

 

だが、それと同時に無爪は蓋を開けてみれば別に悪いことしてないのにベリアルに酷似した見た目のせいでみんなからは賛否両論の嵐が未だに巻き起こっていることを思い出し・・・・・・。

 

そんなことまで思い出してしまった無爪はどんどん表情が暗くなっていき、それに気付いた千歌は「どうしたの?」と意気消沈していく無爪に心配そうに声をかける。

 

「えっ!? あ、いや、なんでもないから・・・・・・」

 

無爪は無理に笑みを作って誤魔化すが、千歌はなんとなく、無爪がそんな顔をすることに思い当たる節があるため、もしかして昨日のニュースの件で落ち込んでいるのだろうかと首を傾げる。

 

「私は信じるよ、なっちゃんのこと」

 

千歌の小さな呟きに、「えっ?」と首を傾げる無爪。

 

「花丸ちゃんはどう思う?」

 

無爪は千歌に先ほどなんと自分に言ったのか聞こうとしたが、それよりも前にルビィが喋ったことで遮られ、彼女は統廃合について花丸はどう思うかと問いかけたのだ。

 

「統廃合・・・・・・!?」

「こっちも!?」

 

尚、花丸の方もなぜか統廃合について嬉しそうにしていた。

 

「合併ということは沼津の高校になるずらね!? あの街に通えるずらよね!?」

「ま、まぁ・・・・・・」

「うわぁ~♪」

 

そんな花丸の様子を見て、善子は「相変わらずね、ずら丸」と呟き、彼女が言うには昔から花丸はあんな感じなのだそうだ。

 

「そうなの?」

「そうよ、幼稚園の頃なんて・・・・・・」

 

幼稚園児の頃、花丸が自動点灯するライトの下に、足をゆっくり滑り込ませ、範囲に入ると、ライトが点灯。

 

それを受けて彼女は両手を挙げて「未来ずら~!!」と言いながら興奮していたらしい。

 

「そうだったんだ」

「善子ちゃんはどう思う?」

 

するとルビィは今度は善子に統廃合についてどう思うかを尋ね、それに対して善子も統廃合には賛成派だった。

 

「そりゃ統合した方が良いに決まってるわ! 私みたいな、流行に敏感な生徒が集まってるだろうし!!」

「良かったずらね~、中学の頃の友達に会えるずら!」

 

しかし花丸のその指摘を受けて、善子は「うっ」と苦い顔を浮かべる。

 

「あぁ、そう言えば善子ちゃん中学時代に・・・・・・」

「わー!! 統廃合絶対反対ーーーーー!!!!」

「モコ!」

 

中学の時、堕天使キャラのせいで色々とやらかしてしまった為、善子は中学の同級生に会いたくないということで即座に手の平を返して統廃合反対を主張し、彼女の頭の上に乗っているモコも同意するように鳴く。

 

「ってかこの子が噂のモコちゃん? 可愛い~!」

 

そこで曜がモコの存在に触れ、善子の頭の上に乗っているモコの頭を撫でると、モコは「モコォ~」と鳴きながら嬉しそうに尻尾を振り、梨子もなんだか触りたそうにしている。

 

「あれ? 梨子さん犬苦手なんじゃ・・・・・・」

「この子犬なの? いや、でも・・・・・・なんかこの子は凄く、見てると触りたくなる衝動が・・・・・・モフモフが・・・・・・」

 

無爪はてっきり、犬が苦手な梨子のことなのでモコのことも苦手がると思ったのだが、どうやらモコのモフモフはそれほどまでの魔力を持っているらしい。

 

「何事も例外ってあるものよ」

「際ですか・・・・・・」

 

なんにせよ、これを切っ掛けに犬が苦手なのも治ってくれるかもしれないと無爪は思い、梨子は恐る恐る善子の頭の上に乗っているモコの頭を撫でるとそのモフモフっぷりに梨子の顔はとろけそうになってしまう。

 

「っていうか!! 今はモコちゃんじゃなくて!!」

 

するとそこで千歌が部室の机を「バン!!」と叩き、みんなが自分に注目するようにする。

 

「兎に角、廃校の危機が学校に迫っていると分かった以上、Aqoursは学校を救う為・・・・・・行動します!!」

 

千歌はそう言い放ってこれからのAqoursの活動方針について高らかに笑顔で宣言し、それに曜や梨子も同意するかのように笑みを浮かべ、曜は「ヨーソロー!!」と言いながら敬礼する。

 

「スクールアイドルだもんね!!」

「でも、行動って何するつもり?」

 

そこで梨子が千歌に行動するにしても何をするつもりかを尋ねるのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・へっ?」

『えっ?』

 

どうやら何も考えていなかたっらしい。

 

「そんなこったろうと思ったよ、バカ千歌ねえ・・・・・・」

 

無爪は頭を抱えてそんな千歌の無計画さに呆れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千歌達は屋上に行って準備体操をしながら今後のことを話し合うことになり・・・・・・。

 

ちなみに無爪は千歌と曜によって強制連行され、ほぼ強引に話し合いに参加させられたりしていた。

 

「結局μ'sがやったのはスクールアイドルとしてランキングに登録して・・・・・・」

 

尚、モコも善子の傍にいたいようだったのでモコもついてきている。

 

次に、千歌達は体力作りの為のランニングとして淡島神社に行き・・・・・・。

 

「ラブライブに出て有名になって・・・・・・」

 

ランニングを終えた一同は最後に砂浜に行ってみんなで寝そべりながら廃校阻止の為、スクールアイドル活動をどう生かすかの話をすることになるのだった。

 

「生徒を集める・・・・・・」

「それだけなの!?」

「みたい・・・・・・」

 

つまり、今まで千歌が言ったことを一言で纏めるとμ'sがやったのはスクールアイドルとしてランキングに登録し、ラブライブに出場して有名になったということだった。

 

正確に言えば廃校阻止自体はラブライブに出場する前に達成しており、μ'sがラブライブに出場したのは第2回の方である。

 

第1回ラブライブの時もμ'sは大会に出場することを目指していたが、文化祭の時にちょっとしたトラブルが発生したことでランキングを除外することとなり、彼女達は大会を辞退した為、それが理由でμ'sは第1回ラブライブには出場していないのだ。

 

「それだけって言うけどさ、多分そんな簡単なことじゃないと思うよ。 スクールアイドルのことをよく知らない僕でもそれだけは分かる」

 

無爪に指摘され、「それだけなの?」と言った本人である曜は苦い顔を浮かべ、無爪の言葉に千歌達も「確かに言うだけなら簡単だよね」と納得するのだった。

 

『あっ、そうだ』

 

すると影の中からみんなにバレないようにこっそりと何かを思いついたかのような様子のペガが千歌の耳元にこっそりと耳打ち。

 

『取りあえず、μ'sの活動記録を参考にしてみたら? ほら、μ'sって確かPVとか作ってたでしょ?』

 

ペガからの意見を聞いて、ハッと目を見開く千歌。

 

それを受けて勢いよく起き上がった千歌は「成程!」と納得し、みんなの方へと顔を向ける。

 

「そうだよ、PVを先ずは作ってみよう!!」

「「PV?」」

 

千歌のその発言に、不思議そうに梨子と無爪は首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、生徒会室では・・・・・・。

 

ダイヤがノートパソコンを開き、なぜ浦の星が廃校になりかけているのかを調べており、その1つとして分かったことはそもそも浦の星を受ける受験生が減っているというものがあった。

 

「そもそも受験生が減っているんですのね」

 

それに何か打つ手はないかと考えるダイヤだったが、その時、生徒会室の扉から誰かがノックする音が聞こえ、パソコンを閉じて「はい」と応えると、扉を開けて妹のルビィがオドオドとした様子で入って来たのだ。

 

「お姉ちゃん?」

「どうしたんですの?」

「実は、今日もちょっと遅くなるかもって・・・・・・」

 

ルビィはこれからみんなでPVの撮影を行う為、それのせいで帰るのが遅くなるかもしれないというのをダイヤに伝えに来たのだ。

 

「今日も?」

「うん、千歌ちゃんが入学希望者を増やす為にPV作るんだって言ってて」

「・・・・・・」

 

少しの間だけ沈黙が続くが、ダイヤは「分かりましたわ」と頷き、それに嬉しそうな顔を浮かべるルビィ。

 

「お父様とお母様には私から言っておきますわ」

「良いの? ホントに!?」

「ただし、日が暮れる前には戻って来なさい」

 

ダイヤは優しい口調でそう言うとルビィは「うん!! じゃあ行ってくる!!」と頷き、千歌達の元へと戻ろうとするのだが・・・・・・。

 

その時、不意にダイヤから呼び止められる。

 

「どう? スクールアイドルは?」

 

それにルビィは慌てて立ち止まり、ダイヤの問いかけに少し驚いた様子を見せつつも、彼女は応える。

 

「大変だけど、楽しいよ」

「・・・・・・そう」

「他の生徒会の人は?」

 

今度はルビィがダイヤに今、ここにはダイヤしかいないのかと尋ねると、彼女曰く、他のメンバーは他の部と兼部で忙しいからいないというのだ。

 

「そう・・・・・・」

 

ルビィは何か言いたそうにその場に佇んでおり、彼女は何か意を決したようにダイヤに何かを言おうとするのだが・・・・・・それは先に出たダイヤの言葉に遮られてしまう。

 

「おねえ・・・・・・!」

「早く行きなさい!!」

「っ・・・・・・」

「遅くなりますわよ?」

 

ダイヤに力強くそう言われ、ルビィは口を閉じて黙ったままその場を去って行き、彼女は千歌達の元へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、ルビィは千歌達と合流し、仕事を一通り終わらせ、手伝いたいと言うレイジと一緒に彼女達は今、PVの撮影をする為に外に出ていた。

 

ちなみにレイジと初対面の花丸や・・・・・・特にルビィは彼の強面顔にビビって尻餅をついていたりした。

 

まぁ、最も、そこはすかさず曜がレイジが見た目に反して気弱な先生であると2人に教えてフォローしてくれたりしたが。

 

「それでPVってどんなことするの?」

「千歌ねえ曰く、内浦の良いところを撮影したい・・・・・・だそうです」

 

一応、PV撮影をするということ自体は曜から聞いてはいたのだが、具体的になにをするかまでは聞いていなかった為、それに無爪は応える形で教え、レイジは「成程」と納得する。

 

「内浦の良いところを動画にして色んな人に知って貰って、それで生徒を集めようって言う感じ?」

「その通りだよ、レイジさん!!」

 

レイジの言葉に千歌がビシッと一差し指を彼に指しながら、言い放ち、彼女は両腕を広げてさらに詳しくPVの説明を行う。

 

「東京と違って外の人はこの街のこと知らないでしょ? だから先ずこの町の良いところを伝えなきゃって!」

「それでPVを?」

「うん、μ'sもやってたみたいだし、これをネットで公開してみんなに知って貰う!」

 

先人達のことを参考にし、浦の星の受験生を増やす為に町の良いところを紹介するというのは確かに理に叶っているとレイジや彼と同化しているゼロも感心し、さらにゼロに関しては「これが本格的に動き出したスクールアイドルの活動か」なんて興味深そうに呟いていたりもした。

 

「ゼロさんはスクールアイドルのこと知ってるんですか?」

 

以前にレイジが千歌達と一緒にチラシ配りを手伝ったことやファーストライブを観に行ったりはしていた為、彼と一体化しているゼロも少なからずスクールアイドルのことについて多少なり知る機会はあっただろうとは思うものの・・・・・・。

 

だが、それだけであんな言葉が出て来ることにレイジはなんとなく違和感を感じ、もしかしてゼロは以前からスクールアイドルのことを知っていたのだろうかと気になってレイジはゼロに尋ねる。

 

『ある程度はな。 μ'sのことも。 とある俺の後輩のウルトラマンがその辺詳しくてな。 光の国に訪れた際に、アイツちょっと広めて行ったんだよ。 おかげでちょっとプチ流行したぞ』

「へぇー、ウルトラマンの中にもスクールアイドルが好きな人いるんですねぇ」

「レイジお兄ちゃん、さっきから何ブツブツ言ってんの?」

 

ゼロの声は基本レイジ以外には聞こえない為、先ほどから1人で何かブツブツ言っているレイジに背後から怪訝そうな顔を浮かべた曜が現れ、それにレイジは「ぴゃっ!?」と驚いて思わず飛び退いてしまう。

 

「そんなに驚かなくても・・・・・・」

「あっ、ご、ごめんね曜ちゃん? なんでもないから、なんでも・・・・・・」

「なら良いんだけど・・・・・・」

 

レイジは両手をぶんぶん振って慌ててゼロと会話していたことを誤魔化す。

 

そこでそれよりもと千歌は早速曜にカメラを持たせて内浦の良いところを伝えようと高らかに宣言し、PV制作について「知識の海ずら~」と感心していた花丸に「1つよろしく!」と千歌が言うと、曜はカメラを花丸に近づけ、それに花丸はビクッと肩を震わせる。

 

「あっ、いや、ま、マルには無理ず・・・・・・! いや、無理・・・・・・!」

 

次に曜はルビィにカメラを向けるのだが、それにルビィも花丸同様にビクッと肩を震わせ、彼女は恥ずかしがってどこかに行ってしまい、姿を見失ってしまう。

 

「んっ? あれ?」

 

曜が首を傾げながら辺りを見回しても、ルビィの姿は発見できず・・・・・・。

 

「見える!! あそこ~っよ!!」

 

そこで善子はルビィがいそうということで大きな木の上を指差すのだが、全然別のところから「違います~!!」と言いながらルビィが出て来る。

 

しかし、どちらにせよそれでルビィの姿が見つかったので曜はすぐさまビデオカメラをルビィに向けるのだが、それに驚いた彼女は「ピィ!?」という小さな悲鳴をあげながらまたどこかに逃げ去ってしまう。

 

「おぉ~、なんだかレベルアップしてる!?」

「えっ? いや、むしろレベルダウンしてない?」

 

そんなルビィに感心の声をあげる千歌だが、むしろ逃げ足が速くなっているのはレベルダウンなのではとツッコミを入れる無爪。

 

「ってそんなこと言ってる場合!?」

 

そこで梨子に注意されて花丸やルビィには少し街の紹介などはハードルが高いということで街を紹介する係は主に千歌が担当することとなり、一同は移動して先ずは富士山の見える場所へと向かう。

 

花丸がカチンコを鳴らすと、早速千歌が両手を広げて富士山の存在をアピール。

 

「どうですか~? この雄大な富士山!!」

 

次に海がよく見える場所に行き、今度は梨子はカチンコを鳴らして今度はそこでの撮影がスタート。

 

「それに、この綺麗な海!」

 

さらにまた別の場所に移動し、ルビィがカチンコを鳴らすとみかんが大量に溢れた箱を手に持った千歌が現れる。

 

「さらに! みかんがどっさり!!」

 

そこからさらに移動して、次の内浦の良いところを紹介しようとするのだが・・・・・・。

 

「そして街には・・・・・・!! 街には・・・・・・特に何もないです!!」

 

と笑顔でサムズアップする千歌だが、それを言ってしまってはおしまいである。

 

「それ言っちゃダメ・・・・・・」

「うーん、それじゃ・・・・・・」

 

そこから一同は今度は都会の方まで行き、今度は曜が街のことを紹介。

 

「バスでちょっと行くと、そこは大都会!! お店もたーくさんあるよ!」

 

さらに再び一同は場所を移動し、千歌達は自転車に乗って伊豆長岡の商店街を目指すのだが・・・・・・そこに行くにはそこそこ長めの坂を登ることになり、辿り着く頃には無爪以外全員息切れを起こし、大量の汗をかいていた。

 

「そして・・・・・・ちょっと・・・・・・!」

「自転車で、坂を越えると、そこには・・・・・・伊豆長岡の商店街が・・・・・・!」

 

花丸とルビィも既に体力の限界で、坂をどうにかこうにかみんなと登り切って息を切らしながら2人は息を切らしながら背中合わせになってその場に座り込んでしまう。

 

「全然、ちょっとじゃない」

「沼津に行くのだって、バスで500円以上かかるし・・・・・・」

「行き帰りで、合計1000円するのは・・・・・・確かに高い、かも・・・・・・」

 

ゼロと一体化していても、人格をゼロと入れ替える時以外、基本人格や身体能力は元のレイジのままなので、レイジ自身も坂を自転車で登った際には息切れを起こしてその場にへたり込んでいた。

 

尚、無爪は自転車などは一切使わず、普通に走って坂を登ってきたのだが・・・・・・それでもやはり超人的な体力を持つ無爪は顔色1つ変わっておらず、千歌と曜はジトっとした恨めしそうな視線を向けていた。

 

ちなみにモコは最初、善子の自転車の籠の中に入ろうとしていたが、流石に危ないということで無爪に抱きかかえられている。

 

「な、なに? そんなに見つめて・・・・・・」

「相変わらず体力お化けだよねぇ、なっちゃん」

「その身体能力の高さ、羨ましいよ、なっちゃん」

 

千歌と曜にそう言われ、どこか複雑そうな顔をする無爪。

 

それに気付いた千歌は「あっ」と声をあげ、今の無爪の気持ちを考えると、嫌味に聞こえたかもしれないと思い、慌てて千歌は「ご、ごめんね!」と無爪に謝罪する。

 

「えっ、なんで千歌ねえ急に謝るのさ?」

「そ、それは・・・・・・その・・・・・・」

 

どう言って良いのか、分からず千歌が困っていると・・・・・・。

 

その時、少し遅れてやってきた善子がガシャンっと音を立てて倒れ、それに驚いて「大丈夫!?」と無爪がモコと一緒に善子の元に駆け寄る。

 

「うぅ、いい加減にしてよ・・・・・・」

「モコォ~」

「もうちょっと、なんか良いのないかな、千歌ねえ?」

「うぅん、じゃあ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

善子に注意され、無爪にもう少し何か良い感じのものはないかと言われた千歌は今度は善子に街のことを紹介して貰ってみようということになったのだが・・・・・・。

 

「フフフ、ウフフ、リトルデーモンのあなた。 堕天使ヨハネです。 今日は、このヨハネが墜ちて来た地上を紹介してあげましょう。 先ず! これが・・・・・・土!! アーハッハッハッハ!!」

 

堕天使スタイルの衣装に着替えた善子が、土で出来た小さな山を手で指して高笑いしながら紹介するのだが・・・・・・なぜそんなものを紹介しようと思ったのかと首を傾げる無爪。

 

「やっぱり善子ちゃんはこうでないと~」

「モコ!」

「いや、でも千歌ねえの『街に何も無い』って言うのと同じくらいダメでしょ、これ」

 

花丸はそんな善子に彼女らしいと評するが、正直PVにはあんまり使えそうにないということで、曜はこれはもう根本的に考え直さないとダメだなと呟く。

 

「そう? 面白くない?」

「「面白くてどうするの!?」」

 

梨子と無爪の双方からツッコまれ、取りあえずもう少しだけ話し合おうということで無爪達はとある喫茶店へと向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一同は喫茶店で再びみんなで話し合うことになったのだが、モコを頭に乗せた善子が怪訝な顔を浮かべながら「どうして喫茶店なの?」となぜ喫茶店に来たのか分からず、千歌達に尋ねる。

 

「もしかして、この前騒いで家族の人に怒られたり・・・・・・」

 

なぜ今日は千歌の旅館ではなく喫茶店での話し合いなのか、それは以前、Aqoursの堕天使スタイルの件の時、騒いだせいではないかとルビィは気に病むが・・・・・・なんでもそういう訳ではないらしい。

 

「ううん、違うの。 梨子ちゃんはしいたけいるなら来ないって・・・・・・」

「っ、行かないとは言ってないわ! ちゃんと繋いでおいてって言ってるだけ!」

「モコは平気みたいなのにね」

 

善子が頭の上に乗っているモコをテーブルの上に降ろして注文したお菓子を手に取ってモコに差し出すと、モコは鋭い牙を見せながら口を大きく開き、吸い込むように食べる。

 

「えっ、モコちゃんってそんな風にご飯食べるの!?」

 

例外があると言っていた梨子も、流石にこれには驚いていたが・・・・・・それでもやはりモコに対してだけはそんなに苦手意識を持つことはできず、梨子もお菓子を差し出してそれをモコに食べさせる。

 

「ホント、梨子さんモコは平気なのになんで犬だけ・・・・・・」

「ここら辺じゃ、家の中だと放し飼いの人の方が多いかも」

 

曜がこの辺りでは家の中だけとはいえ放し飼いしている人が多いと聞いて、梨子は「そんなぁ・・・・・・」と溜め息を吐くが・・・・・・その直後、「ワン!」という声が背後から聞こえ、それにビクッと肩を震わせた梨子は恐る恐る後ろを振り向く。

 

そこには小さな黒い子犬がおり、それにルビィ達は「可愛い!!」と目を輝かせるが・・・・・・梨子は顔を引き攣らせて「ひい!?」と悲鳴をあげる。

 

「こんなに小さいのに!?」

「モコとそんなに変わんないよ大きさ?」

 

まさかこんな小さな子犬にまで恐怖を感じるとは思わず、無爪や千歌は驚きの声をあげる。

 

「大きさは関係ないわ! その牙! そんなの噛まれたら・・・・・・死!?」

「そうそう死ぬことはないと思うけど」

「そうだよ、噛まないよ~」

 

千歌は子犬を抱きかかえ、無爪はその子犬の頭を撫でる。

 

「あ、危ないわよ!? そんな顔を近づけたら・・・・・・」

「あっ、そうだ! ワタちゃんで少し慣れると良いよ!」

 

どうやら、この子犬の名前は「ワタアメ」こと「ワタ」というらしく、千歌はワタで少しは犬に慣れて見てはどうかと梨子の目の前にまでワタを近づけると・・・・・・ワタはペロリと梨子の鼻先を舐める。

 

「あっ・・・・・・あっ・・・・・・! うううううう!!!!」

 

しかし、梨子はそのまま逃げるようにしてトイレに駆け込み、避難してしまう。

 

「ダメだこれ」

「梨子ちゃーん?」

「話は聞いてるから、早く進めて!!」

 

千歌はそんな梨子に「しょうがないなぁ」と呆れたように言いつつ、ノートパソコンで編集をしている善子にPVの出来具合はどうかと尋ねると、丁度彼女は編集を終わらせたようなのだが・・・・・・。

 

「簡単に編集しただけだけど、お世辞にも、魅力的とは・・・・・・言えないわね」

「モコォ~」

 

両手でやれやれといったポーズを取りながら、そう報告する善子。

 

「やっぱりここだけじゃ難しいんですかね・・・・・・」

 

ルビィがそう呟くと、千歌はワタを抱きかかえたまま「うーん」と唸る。

 

「じゃあ沼津の賑やかな映像を混ぜて~」

 

千歌は「これが私達の街です!!」と賑やかな街のイメージを浮かべるが・・・・・・。

 

「そんなの詐欺でしょ!?」

「なんで分かったの!?」

 

トイレの中から即座にツッコミを梨子から入れられてしまい、思考を読まれたことに驚く千歌。

 

「梨子さんも千歌ねえの行動パターン、だんだん読めて来たね」

「んっ?」

 

その時、曜は窓から見えるバス停に、終バスが来たことに気付き、「うわ!? 終バス来たよ!?」とこれに乗り遅れたら帰れなくなるので曜と善子は慌てて会計を済ませてみんなに別れの挨拶を済ませる。

 

「モコのこと、学校まで返しておいてね!」

「あっ、うん」

「モコォ~」

 

善子は千歌にモコを預け、モコは寂しそうにしつつも両耳を左右にピコピコ動かすことで「バイバイ」と善子と曜に伝え、その動作が可愛くてついつい見とれそうになるが、本当にもうバスが出発しそうだったので2人はすぐさまその場を後にするのだった。

 

「フフ、じゃあまた」

「ヨーシコー!!」

「むっ、もう!」

 

自分の名前を弄られ、善子は文句を言いながらバスの方まで走った曜を追いかけながら自分も急いでバスに向かって行くのだった。

 

「結局何も決まらなかったなぁ」

「なあああ!!? こんな時間!? 失礼しまーす!!」

 

モコとワタを抱きかかえつつ、千歌がそう呟くと突然ルビィが叫ぶようにして立ち上がり、彼女は時計を見てもうじき家の門限の時間が近づいていることに気付き、彼女は未だにデザートのお菓子を食べている花丸の首根っこを掴んで会計を済ませるとルビィと花丸の2人は別れの挨拶を千歌達に済ませ、急いで帰宅するのだった。

 

「・・・・・・意外と難しいんだなぁ。 良いところを伝えるのって」

 

家に帰宅するルビィと花丸を見送りながら、千歌がそう言うと、トイレの方からそんな千歌に対し、梨子が話しかける。

 

「住めば都。 住んでみないと分からない要素も沢山あると思うし」

「うん。 でも、学校が無くなったらこういう毎日がなくなっちゃうんだよね」

 

どこか悲しげな口調で、そう語る千歌に梨子は「そうね・・・・・・」と小さく頷く。

 

「スクールアイドル、頑張らなきゃ」

「今更?」

 

千歌はモコをテーブルの上に置き、ワタを床に降ろしつつ、改めてスクールアイドルとして頑張ることを宣言。

 

「だよね。 でも、今・・・・・・気がついた。 無くなっちゃダメだって! 私、この学校好きなんだ・・・・・・」

「あっ・・・・・・うん」

 

そう言い放つ千歌に、梨子はトイレの扉を開いて顔だけを覗かせながら、千歌に同意するように頷き、そんな風に言える千歌を無爪は少しだけ羨ましさを感じてしまう。

 

「強いよね、千歌ねえは・・・・・・」

「無爪くん?」

 

誰にも聞こえないくらいの声で、そう小さく呟く無爪だったが、無爪のすぐ隣の席に座っていたレイジにはハッキリと聞こえており、元気が無さそうな無爪の様子に、レイジは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、小原家の鞠莉の部屋にて・・・・・・。

 

そこにダイビングスーツを着たままの、水浸し状態の果南が静かに部屋に入ってきたのだ。

 

せめて着替えるかスーツを乾かしてから来い。

 

「来るなら来ると先に言ってよ。 勝手に入って来ると家の者が激おこぷんぷん丸だよ?」

 

しかし、水浸しで部屋に入ってきた果南に鞠莉は特に怒ることもなく、むしろ彼女はどこかうれしそうな様子を見せていたが・・・・・・。

 

「・・・・・・廃校になるの?」

 

果南が鞠莉の部屋に訪れたのは、学校が廃校になるかもしれないという話を聞いたからであり、そのことを鞠莉に問いかけるのだが、彼女は首を横に振って否定する。

 

「ならないわ。 でも、それには力が必要なの」

 

そう言って鞠莉は部屋にある机の上に置かれた「復学届」と書かれた紙を果南に見せる。

 

「もう1度、果南の力が欲しい」

「・・・・・・本気?」

 

怪訝そうな顔で、果南がそう問いかけると、鞠莉はうっすらと笑みを浮かべてみせる。

 

「私は果南の、ストーカーだから」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、学校の理事長室にて・・・・・・。

 

昨日作ったAqoursのPVの出来映えを確認するために、鞠莉に動画を見せに理事長室まで来た千歌達。

 

無爪やレイジもPVの出来の感想が気になったのでこの2人も理事長室に訪れており、鞠莉は目を細めながらジッとノートパソコンに映るAqoursのPV動画を見つめ、視聴していた。

 

『以上、がんばルビィ! こと、黒澤 ルビィがお伝えしました!』

 

動画から聞こえる台詞から、動画が終了したことが分かった千歌は鞠莉に緊張した様子で「どうでしょうか?」と恐る恐る尋ねる。

 

しかし・・・・・・。

 

「・・・・・・ZZZzzz・・・・・・」

 

鞠莉はいつの間にか眠ってしまっており、「さっきまで起きてたでしょうが!!」と無爪がツッコミを入れると、それに気付いた鞠莉は「ハッ!」と目を覚まし、それにずっこける善子以外のメンバー達。

 

「もう! 本気なのに! ちゃんと観てください!!」

「本気ぃ?」

「はい!!」

 

鞠莉の問いかけに力強く応える千歌だったが、鞠莉はそっとノートパソコンを閉じ、呆れたような視線を千歌達に向ける。

 

「それがこのテイタラァ~クですか?」

「テイタラーク?」

「為体って言いたいのね」

「えっ、流石にそんな言い方・・・・・・」

 

若干発音がおかしかったので、無爪が訂正するとすかさずレイジが流石にそんな言い方はないのではないかと抗議する。

 

それに同意するように、曜や梨子も鞠莉の言い草に意見する。

 

「そうだよ! それは流石に酷いんじゃ・・・・・・?」

「そうです! これを作るのにどれだけ大変だったと思ってる・・・・・・!」

 

すると、鞠莉は梨子の言葉を遮るように机の上に両手を「バン!」と叩き、身を乗り出して梨子達に反論する。

 

「努力の量と結果は比例しません! 大切なのはこのタウンやスクールの魅力を、ちゃぁーんと理解してるかでーす!」

『確かに。 彼女の言うことは一理あるぜ』

 

鞠莉の話を聞いていたゼロも、彼女の意見に一理あるとして頷き、それにレイジは「ゼロさんまで!?」と心の中で驚きの声をあげる。

 

「それってつまり・・・・・・」

「私達が理解してないということですか?」

「じゃあ理事長は、魅力は分かってるってこと?」

 

善子が鞠莉にそう尋ねると、鞠莉は「当然」とでも言うような表情を浮かべる。

 

「少なくとも、あなた達よりは・・・・・・。 聞きたいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結論から言えば・・・・・・千歌は鞠莉からの話を聞かなかった。

 

鞠莉の話を終えた後、千歌達は昇降口にて一同は靴を履き替えつつ、梨子がなぜ先ほど鞠莉の話を聞かないことにしたのかと千歌に尋ねる。

 

「なんか、聞いちゃダメな気がしたから」

「なに意地張ってるのよ?」

「モコ!」

 

モコを頭に乗せた善子がそう言うと、千歌は「意地じゃないよ!」と言葉を返し、それに善子は不思議そうにモコと一緒に首を傾げる。

 

「それって大切なことだもん。 自分で気づけなきゃPV作る資格ないよ」

 

鞠莉から街の良さなどを教えて貰うのは簡単だろう。

 

だが、それは楽して逃げているだけだ。

 

だからこそ、千歌はあそこで鞠莉から話を聞かなかった。

 

自分達で街の魅力に気付いてこそ、意味があるのだと千歌は感じたのだ。

 

「・・・・・・そうかもね」

 

それに梨子も千歌の言葉に共感して頷いたのだ。

 

「ヨーソロー!! じゃあ今日は千歌ちゃん家で作戦会議だ! 喫茶店だって、タダじゃないんだから、梨子ちゃんも頑張ルビィして!」

 

曜はジト目で隣にいる梨子に視線を移し、それにムッとした顔を浮かべる梨子。

 

そんな梨子達のやり取りを見て「フフ」と思わず笑みを零し、笑い出す千歌。

 

「ふふ、あははは! よぉーし!!」

 

千歌はそう言い放ちながら、右拳を突き上げるようなポーズを取るのだが・・・・・・。

 

「あっ、忘れ物した」

 

気合いを入れた直後にこれである。

 

これによって一気に力が抜けて、ずっこけそうになる梨子達。

 

「締まらないなぁ、千歌ちゃん」

 

どうにも締まらない千歌にレイジが苦笑し、千歌は「ちょっと部室見て来る~!!」と言い残して彼女は部室へと向かって行くのだった。

 

そんな風に去って行く千歌の背中を見つめながら、また暗い表情を浮かべる無爪。

 

「無爪くん? どうしたの?」

 

そのことに気付いたレイジが、無爪に声をかけると、無爪はビクッと肩を震わせつつも、頬をぽりぽりと掻きながら先ほどの千歌を見て思ったことをレイジに話し出す。

 

「いえ、やっぱり、千歌ねえは強い娘だなって思ったんです。 あんな風に厳しく言われても、へこたれないで自分で道を切り拓こうとしてる姿を見ると・・・・・・。 自分なら鞠莉さんに街の良さを聞いてたかもしれないし」

「無爪くん・・・・・・」

 

レイジは、もしかしてサンダーキラーが現れた時のことを気にしているのだろうかと思い、レイジは何か、無爪に励ましの言葉をかけようとしたのだが、上手い言葉が見つからず、口ごもってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、忘れ物を取りに行く為に部室のある体育館へと戻って来た千歌はというと・・・・・・。

 

体育館の中に入ると、そこでは壇上で舞をただ1人披露しているダイヤの姿があり、それを目撃した千歌そんなダイヤの舞の美しさに見惚れ、彼女は思わずダイヤに向かって拍手を送る。

 

「凄い! 私・・・・・・感動しました!」

「な、なんですの!?」

 

ダイヤの方も千歌の存在に気付いたようで舞を見られていたことに恥ずかしそうに頬を赤くする。

 

「ダイヤさんがスクールアイドル嫌いなの分かってます! でも、私達も学校続いて欲しいって・・・・・・無くなって欲しくないって思ってるんです! 一緒にやりませんか!? スクールアイドル!」

 

ダイヤが自分達と同じように生徒会の方で学校を存続させる為に行動していることは小耳に挟んだ程度ではあったが聞いていた。

 

だからこそ、彼女は目的は同じならばと、千歌はダイヤをここでスクールアイドルに誘ったのだ。

 

そんな彼女達の様子をこっそりついてきた無爪達が体育館の入り口から覗き込んでおり、ルビィはダイヤの方に視線を向けながら複雑そうな心境で「お姉ちゃん・・・・・・」と小さく呟く。

 

「・・・・・・残念ですけど」

 

しかし、ダイヤは千歌の誘いをそう言って断り、壇上を降りてその場から立ち去ろうとする。

 

「ただ、あなた達の気持ちは嬉しく思いますわ。 お互い頑張りましょう?」

 

ダイヤはそれだけを言い残し、彼女は口元に笑みを浮かべながらそれだけを言い残してその場を去って行くのだった。

 

「ルビィちゃん、生徒会長って前は・・・・・・スクールアイドルが・・・・・・」

「はい。 ルビィよりも大好きでした」

 

曜の問いかけにルビィはそう応え、千歌はダイヤが壇上に降りる際に落とした1枚のプリントらしきものを拾いあげるとそこには「署名のお願い」と書かれており、それは学校を存続させる為、署名運動に使うプリントだったのだろう。

 

「っ・・・・・・!」

 

また千歌はルビィの「前はルビィよりもスクールアイドルが大好きだった」という話を聞き、ダイヤの方へと振り返って何か言葉をかけようとするのだが・・・・・・それを遮るようにルビィが声をあげたのだ。

 

「今は言わないで!!」

「ルビィちゃん・・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・・」

 

言葉を遮ったことに、謝罪するルビィだが・・・・・・ルビィがなぜそんな行動に出たのか、そんなのは言われなくてもなんとなく分かった千歌は特に追求するようなこともせず、黙り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館を出て昔、自分と果南と鞠莉の3人でスクールアイドルをやっていた日のことを思い出しながらどこか暗い表情でダイヤが歩いていると・・・・・・。

 

「ダイヤ。 逃げていても、何も変わりはしないよ?」

 

不意に、鞠莉に声をかけられてダイヤは思わず立ち止まってしまった。

 

「・・・・・・」

「進むしかない。 そう思わない?」

「逃げてる訳じゃありませんわ。 あの時だって・・・・・・」

 

ダイヤはそれだけを言い残し、彼女は再び歩き出してその場から去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌の家の旅館にやって来た曜達。

 

今彼女達は千歌の部屋に集まってPVのことについて話し合うことになっていたのだが・・・・・・梨子だけは千歌の部屋に入らず、障子からしいたけがいないか警戒しながらこっそり確認しており、部屋の様子を伺っていたのだ。

 

「梨子さん幾らなんでもビビりすぎだって」

「そうだよ、しいたけいないよ? ねっ? 千歌ちゃん?」

 

そんな梨子に無爪は苦笑しながら部屋にしいたけがいないことを教え、曜もしいたけのことをなぜかベッドの上で布団を被っている千歌に尋ねると彼女は布団の中でモゴモゴしながらもしいたけがいないことを伝える。

 

「それよりもPVだよ! どうすんの?」

「確かに何も思いついてないずらー」

「それはそうだけど・・・・・・」

 

その時、みんなが話し合っていると「あら、いらっしゃい?」とそこにお茶を持って来た志満が現れたことで流石にずっと廊下にいる訳にもいかない梨子はやむなく千歌の部屋に入りベッドに腰かける。

 

「あら、レイジくんお久しぶりね~!」

「あっ、はい! ご無沙汰しております志満さん!」

 

また志満はレイジの存在にも気付いたようで、何気なく挨拶を交わす2人。

 

「ところで、みんなで相談?」

「あっ、はい」

「いいけど、明日はみんな早いんだから今日はあんまり遅くなっちゃダメよ?」

 

志満にそう言われて「はーい!」と返事をする一同の言葉を聞いて志満は部屋を出て行くのだが、梨子は明日一体なにがあるのか分からず、曜に明日何があるのかを尋ねるのだが・・・・・・曜は「なんだったっけ?」と彼女も明日何があるのか忘れている様子だった。

 

「現地民でしょうが曜ねえ」

「あー、明日アレだよねぇ。 もうそんな時期かぁ。 懐かしいな」

 

無爪とレイジは明日何があるか覚えているようでそこで丁度障子の方からひょっこりと千歌が顔を現し、梨子に明日何があるのかを教える。

 

「海開きだよ!」

「あれ!? 千歌ちゃん!?」

 

海開き・・・・・・つまり、海水浴場を開設する為に明日は街のみんなで海のゴミ拾いなどをしなくてはいけない日であり、志満が遅くならないようにと言っていたのは海開きは朝早くから行われる為。

 

それを聞いて梨子は「成程」と納得したのだが・・・・・・1つだけ疑問が。

 

それはベッドの上にいる筈の千歌がなぜか目の前にいること。

 

「じゃあ・・・・・・」

 

ならばベッドの中にいるのは一体誰なのか・・・・・・。

 

薄々、ベッドの中にいる誰かに物凄く心当たりのある梨子は顔を引き攣らせ、その時ベッドの布団が膨れあがると・・・・・・。

 

ガバッとその中からしいたけが姿を現したのだ。

 

「あ・・・・・・あ・・・・・・!」

「なんかホラー映画みたいな演出になってるね・・・・・・」

 

そんな梨子の様子を見て、まるでホラー映画を観ているようだと呟くレイジだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日の、午前4時半頃。

 

梨子はタイマーをセットしていた時計が鳴ると音を止め、彼女は未だ残る眠気をなんとか振り払いながら起き上がり、学校のジャージに着替えて海の方へと向かう。

 

「おーい! 梨子ちゃーん!!」

「おはヨーソロー!!」

「おはよう、梨子さん」

「おはよう」

 

そこでは梨子と同じくジャージを着て提灯やゴミ袋を持った千歌や曜、無爪が既に海辺に来ており、4人はそれぞれ朝の挨拶を交わす。

 

「梨子ちゃんの分もあるよ?」

「こっちの端から海の方まで向かって拾っていってね!」

 

千歌は梨子にゴミ袋を差し出し、曜はどこからどこまでのゴミを拾えば良いのかを教えるのだが・・・・・・その時、梨子はふっと海辺に集まった人々を見て少しだけ疑問に感じたことを曜に尋ねる。

 

「曜ちゃん」

「なに?」

「毎年、海開きってこんな感じなの?」

 

梨子は不思議そうに海辺に集まった多くの人達の姿を見つめ、曜も「うん!」と梨子の問いかけに応えると彼女曰く「町中の人がここに集まって来ている」とのことだった。

 

「町中の人が来てるよ! 学校のみんなも!!」

 

確かに町の住民達だけでなく、自分と同じ学校のジャージを着ている人もチラホラ見え、花丸に善子、ルビィ、ダイヤや果南、鞠莉にレイジの姿も確認でき、そんな風に町のみんなが一致団結している姿を見て、梨子は感心したように「そうなんだ」と呟く。

 

「・・・・・・これなんじゃないかな?」

 

その様子を見て、梨子はハッと何かに気付き、自分達が探していたのはこれなのではないかと感じたのだ。

 

「この町や、学校の良いところって・・・・・・」

 

梨子の言葉を聞いた瞬間、千歌は「そうだ!!」と言って何かを閃いたらしく、彼女は道路沿いにある階段の方へ行き、彼女は声をあげてみんなに呼びかける。

 

「あの! みなさーん!! 私達、浦の星学院でスクールアイドルをやっているAqoursです!! 私達は、学校を残すために、ここに生徒をたくさん集めるために、皆さんに協力してほしいことがあります! みんなの気持ちを、形にするために!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌のお願い、それは・・・・・・町の人達みんなに協力を呼びかけ、PVのライブシーンで使う『スカイランタン』の製作を手伝ってもらうことだったのだ。

 

町の人達は千歌の頼みを快く引き受け、結果数多くのスカイランタンが完成し、千歌達は屋上でライブシーンの撮影を行うことに。

 

そのライブで使う曲は・・・・・・「夢で夜空を照らしたい」

 

その曲はサビに入る瞬間、空がふっと暗くなり、そんな夜空を照らすかのようにスカイランタンが町の人々の手によって浮かび上がり、その光景をビデオカメラを持って撮影していた無爪や後ろの方で念のために待機していたレイジ、影の中から見ていたペガは圧巻され、感動を覚えていた。

 

『凄く、凄く綺麗だね、無爪・・・・・・』

「うん。 とっても・・・・・・」

 

曲が終わると、ペガと無爪はその感動を互いに共感し合い、そこにレイジが静かに無爪の隣に立つ。

 

「ねえ、無爪くん」

「レイジさん?」

「最近、無爪くん元気なかったよね? それって、やっぱりこの前のことを気にしてるから・・・・・・なんだよね?」

 

レイジの言葉に、無爪は戸惑いつつも「はい」と頷く。

 

「君は千歌ちゃんが強い娘だって言ってたけど、僕からしたら無爪くんだって強いと思う。 だって、僕なんて怪獣が出たら今でも怖くて、臆病なのに・・・・・・無爪くんは何時も臆さないで立ち向かって行くじゃない?」

「それは・・・・・・」

「それは君に、どうしても守らないといけないものがあるからじゃないのかな?」

 

レイジにそう言われて、「えっ?」と不思議そうにレイジの顔を見つめながら目を見開く無爪。

 

「確かにこの町の人達の何人かはジードに警戒している人も多いと思う。 でもね、だからと言ってこの町の人達のこの『温かさ』が無くなる訳じゃない。 もしかしたらだけど、君はそういう人の中にある『温かさ』を守りたかったんじゃないのかな?」

「っ・・・・・・人の中の、温かさ・・・・・・」

「でも、君の場合はこの町の人達だけじゃないよね。 世界中の人達の温かさを守りたい、きっとそう思ってる筈だ」

 

レイジに指摘され、無爪は初めてジードに変身し、スカルゴモラと戦った時のことを思い出す。

 

確かにあの時、無爪は「みんなを守りたい」と思った。

 

でも本当にそれだけだったのだろうか?

 

人を助けるのに理由なんていらないとはよく言うし、実際その通りだとは思う。

 

だが、自分には守る理由があった気がずっとしていた。

 

でもそれが何かは分からず、梨子がこの街の良さに気づいて、レイジが指摘してくれるまで、気づけないでいた。

 

梨子やレイジが気付いてくれたおかげで、ようやく自分も気付くことができたのだ。

 

あの時、戦おうと決心したのは・・・・・・。

 

ただ単純にみんなを守るだけじゃ無い、世界中の人々の中にある「温かさ」を守りたいのだと。

 

「私、心の中でずっと叫んでた。 助けてって・・・・・・ここには何もないって。 でも違ったんだ!」

 

学校の屋上で夜空を見上げながら千歌はそう言い放つ。

 

「追いかけて見せるよ。 ずっと、ずっと! この場所から始めよう! できるんだ・・・・・・!!」

「千歌ねえ・・・・・・」

 

千歌は自分がジードだと知って、ベリアルの息子だと知っても以前と変わらず、接してくれた、信じてくれた。

 

そうだ、彼女のような人が持つ、温かさを守る為に、自分は今まで戦ってきたのだ。

 

その時、千歌は自分の方へと視線を向けている無爪に気づき、彼女は彼の元に駆け寄って来て彼女は無爪に笑みを向ける。

 

「なっちゃん、きっと何時かはこの町の人達はジードのことを受け入れてくれる。 そしてそこからどんどんジードのことを受け入れてくれる人達が増えていくと思う。 根拠はないけど、そう思うんだ。 だって、この街の人達は・・・・・・こんなにも、温かいんだもん。 だからね・・・・・・」

 

千歌は優しく無爪の手を握りしめ、それに戸惑う無爪。

 

「みんながジードのことを受け入れてくれるまで大変かもしれない。 ニュースとかでまたジードのことを悪く言われるかもしれない。 でも、そんなの気にしないでなっちゃん。 だってなっちゃんは何も悪いことなんてしてないんだもん! みんなに教えてあげよう、どれだけ時間がかかったとしてもウルトラマンジードは・・・・・・みんなの味方、ヒーローだって!」

「千歌・・・・・・ねえ・・・・・・うっ、く・・・・・・」

 

千歌にそんな言葉をかけられ、思わず涙ぐんでしまう無爪。

 

2人の話の内容は聞こえなかったものの、そんな2人の様子を今までニヤニヤした顔で見ていた曜は「あっ、なっちゃん泣かした!」と千歌を指差し、それに彼女は「えぇ!?」と驚きの声をあげる。

 

「ちょっ、曜ちゃん私別になっちゃんを泣かした訳じゃ・・・・・・!」

「そ、そうだよ、別に泣いてないし・・・・・・!!」

 

だが、そんな瞬間をブチ壊すかのように・・・・・・。

 

「キュイイイイイイ!!!!!」

 

学校から離れてはいるものの、屋上からでも見える位置に「ベリアル融合獣 サンダーキラー」が突如として出現したのだ。

 

突然現れたサンダーキラーに「ピギャア!?」と驚いて尻餅をついてしまうルビィ。

 

「る、ルビィちゃん大丈夫ずら!?」

「う、うん・・・・・・」

「ってか唐突に現れたわね、あの怪獣・・・・・・」

 

いきなり現れたサンダーキラーに善子は疑問を覚えつつ、そこでレイジがみんなに避難するように呼びかける。

 

「みんな!! 早く避難して!! 無爪くんは学校の中に取り残された生徒達を避難させて欲しい!」

「っ!」

 

レイジは無爪が怪獣の元に行けるように建前を作り出し、それに気付いた無爪はレイジに向かって「分かりました!」と頷くとすぐにその場から立ち去ろうとする。

 

「なっちゃん!!」

 

だが、その際、千歌が無爪を呼び止め、思わず立ち止まった無爪は千歌の方へと振り返る。

 

「私は、なっちゃんを今も昔もこれからも、ずっと信じてるから」

「・・・・・・うんっ」

 

無爪は千歌の言葉を受けて、笑みを浮かべると校内に戻って人気のない場所に行くとジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」 

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。 

 

「はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ジードはサンダーキラーの前に降り立ち、ジードはファイティングポーズを取って構える。

 

『僕の名はジード、ウルトラマンジードだ!!』

 

サンダーキラーは右手で「クイクイ」とジードを挑発すると、敢えて乗ってやるとばかりにジードは飛び膝蹴りを繰り出すが、サンダーキラーは左手の爪で受け流すと右手の拳でジードを殴りつける。

 

『ウアッ!?』

 

さらにサンダーキラーは三日月型カッターを口から放ち、ジードを攻撃するがジードはそれを腕を振るって弾き飛ばし、サンダーキラーの頭部を掴んで屈ませるとその顎に膝蹴りを叩きこむ。

 

『ヘアッ!!』

「キュイイイ!!」

 

サンダーキラーはその攻撃によって怯むものの左手の爪でジードの腹部を斬りつけ、さらに右拳ででジードの胸部を殴りつけ、続けざまに電撃を纏わせた尻尾による連続攻撃を喰らい、ジードは吹き飛ばされて地面に倒れ込む。

 

『グアアッ!?』

 

さらに倒れ込んだジードに向かって容赦なく三日月型のカッターを放ち、ダメージを受け続けるジード。

 

『ウアアアアッ!!?』

「ジード!!」

 

避難するために学校のグランドにまで出た千歌達は丁度そこからジードがサンダーキラーに苦戦する様子が見え、それを見て千歌はジードの名を呼びながら悲痛の声をあげる。

 

そしてサンダーキラーは片膝を突きながら立ち上がろうとするジードを容赦なく蹴り飛ばし、地面に背中を打ち付けるジード。

 

『グッ、ウゥ・・・・・・!』

 

倒れ込んだジードの首をサンダーキラーは右手で掴みあげて無理矢理起き上がらせる。

 

「っ、頑張れジードオオオオオオオ!!!!」

『っ!?』

 

その時、ジードが応援する声が聞こえ・・・・・・声のした方にジードが視線を向けると、そこに自分に向かって「頑張れ」と応援する曜の姿があったのだ。

 

「曜ちゃん・・・・・・」

「頑張れ、ジード!!」

 

それに千歌も驚いて目を見開くが、すぐに彼女もジードに精一杯の声援を送ることに。

 

「頑張れジード!! 頑張れええええええ!!!!」

「頑張ルビィだよ!! ジードさん!!」

「頑張るずら!! ウルトラマン!!!!」

「ボディ狙いなさい!! ボディを!!」

「モコォ~!」

 

曜や千歌に続いて梨子やルビィ、花丸、善子に避難する時一緒について来させたモコもジードに精一杯の声援を送り、他にも全生徒でないにしてもジードを応援する一部の生徒達がチラホラと見えていた。

 

「みんな!! 早く避難を・・・・・・」

 

レイジは応援よりも早くみんな避難するように注意を促そうとしたが、すぐに思い留まり、レイジも声を張り上げてジードに応援の言葉を送る。

 

「頑張れ、ジード!! 負けるなああああああ!!!!」

『千歌ねえだけじゃない。 曜ねえ達が僕を・・・・・・応援してくれてる・・・・・・! そうだ、こんなところで立ち止まってなんていられない!!』

 

千歌達の声援の声を受け、ジードは自分の首を掴むサンダーキラーの右腕を両手で掴みあげる。

 

『僕は・・・・・・みんなを守るんだ!! みんなの中にある、『温かさ』を!!』

 

そう言い放つとジードはサンダーキラーの腹部を蹴りつけて無理矢理サンダーキラーの右手を自身から引き離し、距離を取るとインナースペース内の無爪は右手を掲げる。

 

『ジードクロー!!!!』

 

すると、二又のかぎ爪型「ジードクロー」がインナースペース内の無爪とジードの手に握られ、ジードは新たな武器を構える。

 

『機は熟した。 そういうことですね』

 

星雲荘で戦いの様子を見守っていたレムが1人、そんな言葉を呟く。

 

挿入歌「スリリング・ワンウェイ」

 

『今の自分を飛び越える!!』

 

無爪はトリガーを1回引いてボタンを押すとジードはジードクローの刃先から赤黒いカッター光線を放つ「クローカッティング」を放ち、サンダーキラーはそれを胸部で受け止めて吸収しようとするが・・・・・・吸収し切ることができず、ダメージを受ける。

 

『クローカッティング!!』

「キュイイイ!!?」

『よし、効いてる! 行けるぞ!』

 

インナースペース内の無爪はヒカリカプセルを起動させ、ナックルに装填。

 

『融合!』

 

続いて無爪はコスモスカプセルを起動させ、ナックルに装填。

 

『アイ、ゴー!』

 

そこからジードライザーで装填ナックルをスキャンし、トリガーを引いてライザーを掲げる。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!!』

『見せるぜ、衝撃!!』

 

そしてジードはウルトラマンヒカリ、ウルトラマンコスモスの力を融合させた青い姿、「ウルトラマンジード アクロスマッシャー」に姿を変えるのだった。

 

『はああああ、はぁ!! ジィィーーード!!!!』

『ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

 

サンダーキラーはジードに向かって三日月型のカッターを連射して放つがジードは素早い動きと共にジードクローを振るって弾き飛ばし、すれ違いざまにサンダーキラーをジードクローで斬りつける。

 

「キュイイイ!!?」

 

さらにそこから目で追えないレベルの素早さでジードは動き回り、気付けばジードクローで気付けばジードクローでサンダーキラーは身体中を斬りつけられており、サンダーキラーは身体中から火花を散らす。

 

『ショア!!』

 

続けてジードはもう1度高速でサンダーキラーに突っ込み、一撃を喰らわせようとするがなんとかサンダーキラーはジードの動きに反応し、左手の爪で攻撃を防ぐ。

 

『スマッシュビームブレード!!』

 

だがジードは本来は右手だが、今ジードクローを右手に持っていることもあり、応用として左手に光の剣「スマッシュビームブレード」を出現させることでサンダーキラーの腹部に刃を突き立ててダメージを与えることに成功し、さらに素早くスマッシュビームブレードとジードクローをX字に振るって切り裂き、火花を散らすサンダーキラー。

 

「キイイイイイ!!!!?」

 

そしてジードはブレードを仕舞い、無爪がジードクローの片側の刃をジードライザーでリードした後クローの中心を押してクローを展開、トリガーを3回引いてボタンを押すとジードはジードクローから無数に分散させた光線を相手の頭上に向けて放つ「ディフュージョンシャワー」をサンダーキラーに繰り出す。

 

『シフトイントゥマキシマム!』

『ハアアア、ディフュージョンシャワー!!!!』

 

それを受けて耐えきれなくなったサンダーキラーは身体中から火花を散らし、爆発。

 

サンダーキラーはこうしてジードに倒されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの怪獣の目的は、あなただったのかもしれません』

 

翌日、星雲荘に訪れていた無爪、ペガ、千歌は先日再び現れたサンダーキラーが現れた理由についてレムから説明がなされていた。

 

最も、説明と言ってもあくまで予想でしかないのだが、ゼロが現れた途端に消えたことや再び現れ、ジードと対峙した際にはジードを挑発するかのような動作をしていたことからレムはサンダーキラーはジードと戦うこと自体が目的だったのではないかと予想したのだ。

 

『でもどうして?』

『ジードの活躍を快く思わない人物の仕業かもしれません』

 

ペガがレムになぜそんなことをと尋ねると、彼女は誰かがジードを邪魔だと感じた、だからジードを倒そうとしたのかもしれないと話す。

 

「なっちゃん・・・・・・」

 

レムの話を聞いて、心配そうに無爪の方へと顔を向ける千歌。

 

「大丈夫。 これから先、もっと予測のつかないことや自分に危険なこととか起こるかもしれないけど、それでも僕は戦うよ。 みんなの心の温かさを守る為に・・・・・・」

 

武器を使うには使う人間にもそれ相応の器がいると誰かが言っていた。

 

あの武器が自分に与えられたのはほんの少しかもしれないが自分が成長したからかもしれない。

 

自分が守りたいものの為にも、新しい武器・・・・・・ジードクローもより使いこなせるように無爪はレムに用意して貰った木刀を持ってレムの手ほどきの指示の元、彼は自分を少しでも鍛える為、それを振るうのだった。

 

「頑張ってね、なっちゃん」

「うん」

 

そんな風に、みんなの為に戦う無爪の姿を見つめながら、千歌は笑みを浮かべて彼を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある薄暗い空間にて・・・・・・。

 

「全ては順調です。 我が主、ベリアル様・・・・・・!」

 

不気味な笑みを浮かべながら、そう語る荒井の目の前には・・・・・・。

 

ジードの父親にして、光の国で悪の道に墜ちた巨人、「ウルトラマンベリアル」が立っていた。

 

ベリアルは自身のカラータイマーから紫色のエネルギーのようなものを荒井に与え、荒井はそれを両腕を広げて受け止める。

 

「あなたがお与えになったこの力で、私はまた・・・・・・フュージョンライズできる! さて、そろそろ邪魔者には退場して貰いましょうか」

 

目を赤く光らせながら、荒井はそう呟くのだった。




花丸ちゃんに渡そうと思ってた荒井のサイン普通に無爪、忘れてます。
原作だとリクが守るべきものを探すという感じの話でしたが、こちらではあの町に住んでたら逆に守るべきものが何か気付くって感じになりそうって感じの話になりました。


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第8話 『私は悪』

荒井の故郷、「ストルム星」。

 

この星では地球と同じように、ドンシャインのような「特撮ヒーロー」が放送されていた。

 

星は違えど、ヒーローが悪い怪人や怪獣を倒し、人々を守る。

 

そんなヒーロー達の姿に子供達が憧れ、一部の大人達からも愛されるのは地球でも同じだった。

 

だが、ごく希に、ヒーローではではなく、怪人や怪獣・・・・・・所謂「ヴィラン」達に憧れる者も少なからず存在する。

 

それは地球でも、ストルム星でも同じであり、ストルム星人荒井も、その1人だった。

 

彼は子供の頃からずっと特撮ヒーロー番組が好きだった。

 

しかし、彼が好きだったのはヒーローではなく、悪・・・・・・ヴィランだったのだ。

 

ヒーロー番組を見るのは好きだったが、何時もヒーロー達が最終的に勝ってしまうことだけは小さい頃から納得することができず、不満を持っていた。

 

時折、ヒーロー側が実質敗北するという終わりを迎える作品もあるにはあるものの、やはり基本はヒーローが最後は勝つシナリオの方が圧倒的に多い。

 

「悪が栄えた試しはない」と言う言葉があるが、現実の世界でもそうだ。

 

最後には必ず悪が滅びる。

 

最も、仮に悪が栄えたとしても、自分の故郷を支配されてディストピアなんかに変えられたりでもしたら自分としても困るが・・・・・・。

 

それが頭では分かっていても、自分はどうしても「悪」というものに惹かれて仕方がなかった。

 

そんな彼だからか、同い年くらいの子供達からは変わり者扱いされ、邪険に扱われ、仲間はずれにされずっと孤立していた。

 

「テレビの中の悪に憧れることがおかしいのか」、「悪の中にも、カッコイイキャラクターはいっぱいいるのに」と荒井は何時も不満を募らせていた。

 

その不満は大人になっても拭うことができず、なぜ最後の最後に悪が勝つというシナリオがみんなにあまり受け入れられないのか、荒井にはそれが全く理解できなかった。

 

しかし、ある時、荒井は「ウルトラマンベリアル」なる戦士の噂を耳にした。

 

光の国で唯一悪に墜ち、幽閉されていたウルトラマンが脱獄し、光の国をほぼ壊滅状態にしたという噂を。

 

その噂を聞いた瞬間、荒井はベリアルに激しく興味を持つようになり、気付けば、彼について色々と調べるようになっていた。

 

そしてベリアルのことを調べれば調べるほど、彼は「自分の理想の悪に最も相応しい人物」だと思うようになっていったのだ。

 

それはなぜか?

 

最終的に、「ウルトラマンゼロ」に負けはしたが、強力な武器であるギガバトルナイザーがあったとはいえウルトラマンとセブン、メビウス、レオ兄弟以外のウルトラ兄弟やパワード、グレート、マックスといった強豪をほぼまとめて倒し、さらにはウルトラの父すら倒し、光の国を壊滅状態に追い込んだから。

 

さらには死んでも尚、魂のみの状態でゼロに戦いを挑み、自分を倒したゼロの身体を乗っ取ることでウルティメイトフォース・ゼロの他のヒーロー達を一度は皆殺しにしたから。

 

最終的に負けてこそいるものの、それまでの過程で彼は何人ものヒーローを1度は倒している。

 

負けた回数よりもヒーローを倒した数の方が断然多い。

 

だから荒井はベリアルこそ、「自分の理想に最も近い悪」だと思ったのだ。

 

そんなベリアルに、荒井は何時しか憧れを抱き、荒井はベリアルに会ってみたい、彼の部下となり、彼の為に働いてみたいと思うようになっていった。

 

だが・・・・・・そんなある時、ある日悲劇は起こった。

 

緑豊かな美しい星だったストルム星は何らかの原因で勃発した争乱によって星は炎に包まれ、荒井は自分の星の文明が滅びていくのをただ見ていることしかできなかった。

 

既に逃げ場のない炎の中でただ呆然と立ち尽くし、既に文明が滅びるさまを見て生きる気力も無くした荒井はただ静かに、自分も炎に焼かれて死ぬのをただジッと待つことしか自分には出来なかった。

 

だが、そこへ・・・・・・。

 

生きることを諦めた自分を救ってくれたのが・・・・・・自身が憧れた悪、「ウルトラマンベリアル」だったのだ。

 

ベリアルに救われた荒井は必死になってベリアルに自分を部下にして欲しいと頼み込んだ。

 

ベリアル自身も、荒井の能力は役に立つかもしれないという考えから、彼を部下にすることを決め、荒井はベリアルに忠誠を誓うことになったのだ。

 

その後はベリアルの為に働き、ベリアルの指示の元暗躍を開始。

 

荒井が暗躍している間、その間にベリアルは「クライシス・インパクト」を発動し、キングの介入があったものの、クライシス・インパクトでの出来事を経て、ベリアルの忠誠心はますます向上していった。

 

なぜなら、光の国のウルトラマンが総動員しても、ベリアルの企みを食い止めることができなかったからだ。

 

しかも、ウルトラマン達が大切にしている地球の崩壊を一度はウルトラマン達に見せつけることができたのだから。

 

ある意味、これは荒井にとって事実上のベリアルの完全勝利だった。

 

これ以上気持ちの良いことがあるだろうか?

 

こんなこと、あのエンペラ星人ですら為し得なかったことだ。

 

さらに、これを切っ掛けにあのウルトラマンキングの動きすら封じてしまうのだから、やはりベリアルは凄いと自分の見る目は間違っていなかったと荒井はベリアルについて行って良かったと自分の選択に誇りを持つことができた。

 

そして、彼の部下となったことで、荒井は・・・・・・自分自身も「悪」になれたと心の底から、ベリアルに強く感謝していた。

 

これこそが、荒井が「悪」となった理由・・・・・・彼が「悪」となった、オリジンである。

 

「ベリアル様、あなたの部下になって良かった。 あなたのおかげで、私も『悪』となることができました。 あぁ、ベリアル様・・・・・・! かっこ良く、悪のカリスマであるあなた様に、絶対悪であるあなた様に仕えることができて・・・・・・!! あぁ~、私はなんと幸せなのだろう! 敬愛しております、愛しております、ベリアル様ぁ・・・・・・!!」

 

そして今現在、荒井は自分が暮らしているアパートの部屋で恍惚とした表情を浮かべながら床に寝そべって悶えており、その姿はハッキリ言って物凄く気持ち悪かった。

 

だが、突然ピタリと動きを止めると、彼は起き上がってテーブルの上に置いてあったノートパソコンを起動し、動画サイトに載っていたジード関連の動画を視聴する。

 

その関連動画には主にジードが何者なのかという考察をする者やジードの戦闘シーンなどが載っており、荒井はその中の1つ、ジードの戦闘シーンの動画を再生する。

 

スカルゴモラ、ドレンゲラン、ダークロプスゼロ、エレキング、マグマ星人、ジラース、そしてサンダーキラー。

 

それらの怪獣達と戦う映像を眺めながら、荒井は映像のジードに指先で触れ、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 

「あんまり強くなられても困るが少しずつ、強くなって行ってるなジード。 だが嬉しくも思う。 仕事とプライベートは別に分けたいところだが、それでも、君の存在を愛おしく思うよ。 君は、ベリアル様のための道具でもあると同時に、私の・・・・・・私だけの敵なのだから・・・・・・! 君のことも愛しているよ、ジード! そして・・・・・・憎くてたまらないよ、ジード・・・・・・!!」

 

荒井は愛憎入り交じった表情で、動画で戦うジードの姿を見つめ、1つの動画が終わると次にゼロがバーニング・ベムストラと戦った時の映像が流れる。

 

「君が来ることも予想していたが、やはり・・・・・・ウルトラマンゼロ。 君は邪魔だ。 私の描くシナリオに、君は必要ない・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

移動販売で「久米 ハルヲ」という男性が店長を務めている駄菓子屋にして、無爪のバイト先でもある「銀河マーケット」にて。

 

そこでは今日はシフトが入っていた為に千歌達の部活の手伝いも出来ず、真っ直ぐ学校帰りに銀河マーケットへとやってきていた無爪がせっせと働いていたのだが・・・・・・。

 

「なんで・・・・・・なんで千歌ねえ達がここにいるのさ!?」

 

何故か千歌達は今は学校で活動しておらず、彼女達は店で買ったお菓子等の商品を店の表に出されていたテーブル席に座ってポリポリ食べながら、今後のスクールアイドル活動についてみんなで話し合っていたのだ。

 

ついでにモコとたまたま近くを通りかかったというレイジも来ていた。

 

「話し合いなら学校で良くない!?」

「なっちゃんが働いてるところって見たことないから、どんな風にしてるのかな~って気になっちゃって。 こうやって座って食べられるところもあるし、どうせだからみんなで行こうってなってね!!」

 

無爪のお姉ちゃん分としては彼がちゃんと働けているのか気になったこと、どうせ座って食べられる場所があるなら無爪の様子見ついでに今後の活動についてもそこで話し合えるだろうということで千歌はみんなを引き連れ、ここにやってきた訳なのだが・・・・・・。

 

正直、無爪としては単に冷やかしに来ただけではないのかと思わずにはいられなかった。

 

また、梨子などはそう語る千歌に対して「だから邪魔になるからやめようって言ったじゃない」とでも言いたげな呆れた視線を送っており、そのことには無爪も気付いたが・・・・・・恐らく千歌が強引にみんなを連れて来たのであろうことは想像に難くなかった。

 

「いや、別に冷やかしとかに来た訳じゃないからね!? なんでなっちゃんと梨子ちゃんそんな視線を私に送るの!?」

 

無爪と梨子の視線から2人が何を考えているのかなんとなく察した千歌は別に冷やかしとかに来た訳ではないと言い、単に彼女は無爪のことを応援しに来ただけだと説明する。

 

「あとは売り上げに貢献してあげようと思って! だからAqoursのみんなも連れて来たのだ!」

 

千歌は「えっへん!」と胸を張って無爪のためにAqoursのみんなも連れて銀河マーケットの売り上げに貢献するために来たのだと話し、それを受けて無爪は「それなら別に良いけどさ・・・・・・」と一応その説明で納得はするが・・・・・・。

 

「でも仕事の邪魔はしないでね千歌ねえ!」

「しないよ! する訳ないじゃん! 私のことなんだと思ってるのなっちゃん!?」

 

またそんな2人のやり取りを見ていた曜はどこかほっとしたような安堵の表情を見せており、そんな彼女に気付き、梨子は「どうしたの曜ちゃん?」となぜそんな安心したような顔を浮かべていたのかを尋ねる。

 

「んっ? いやさ、最近なっちゃん、元気が無かったみたいだったから・・・・・・」

 

曜はその理由を知らないが、ここ最近、無爪の元気が無かったのはサンダーキラーに一度目は敗北寸前にまで追い込まれたこととテレビでのジードへの批判意見を聞いたからだった。

 

しかし、今はすっかりと無爪も元気を取り戻し、千歌と何時もと同じようなやり取りを交わしていることに曜は安堵し、無爪が元気が無かった理由は分からないが、それでも彼が元気を取り戻して何時も通りに振る舞うようになれたのを彼女は自分のことのように嬉しく感じていた。

 

「なっちゃんは、私に取っても弟みたいなもんだからね」

 

だから自分に取っても嬉しいのだと梨子に説明していると・・・・・・その時、「NOoooooo!!!!!」という誰かの叫び声が聞こえ、無爪や千歌達はその叫び声に驚き、ビクリと肩を震わせて声のした方に視線を向けるとそこには膝を抱えて蹲るハルヲ店長の姿が。

 

「えっ、なにあの人・・・・・・? 誰?」

「ウチの店長」

 

頭にモコを乗せた善子の質問に無爪がすぐ傍で蹲ってどんよりとしたオーラを出しているのがこの店の店長であることを話すと彼女は「あれが!?」と驚きの声をあげる。

 

「ど、どうしてあんなに落ち込んでるんだろう・・・・・・?」

「店長、荒井っていう小説家のファンで、その小説家の特別講演会の抽選に外れたんだって」

 

ルビィがなんであんなにハルヲが落ち込んでいるのか無爪に尋ねると、無爪は荒井の特別講演会の抽選に外れたからであると説明し、それを聞いた瞬間、先ほどまで「美味しいずら~」とお菓子をご機嫌に食べていた花丸の目が見開き、目にも止まらぬ速さでハルヲの元に駆け寄ってきた。

 

「店長さんも荒井先生の小説読んでるんですか!!?」

「うおっ!? って君は・・・・・・もしかして、君もアライデスト!?」

 

「アライデストってなんだよ」とツッコミを入れる無爪だが、彼の声は2人にはまるで聞こえておらず、2人は荒井の小説の話題で大盛り上がり。

 

「私は先生の『星の恋人』って話が好きですね~!」

「俺は『悲しみの沼』かな。 あれ滅茶苦茶泣けるんだよなぁ!」

「分かるずら!!」

 

なんて話す2人はその後も「『怪獣使いと少年』は胸くそだけど考えさせられる話だよな」と話したり、「『わたしはだぁれ』はお腹抱えて笑いました!」など、周囲の人置いてけぼりの会話を繰り広げ、花丸の親友であるルビィですらぽかんとした顔をしていた。

 

「なんの話してるのかさっぱり分からない。 ネオマキシマとかメテオールとかって何よ・・・・・・」

「モコォ~」

 

ここにいる全員の考えを代弁するかのように、善子はそう呟き、モコも花丸とハルヲが何を話しているのか全く理解できず、頭からぷすぷすと煙を出していた。

 

「しかも花丸ちゃん、興奮のあまり『素』の状態で話しちゃってるわね」

 

梨子が言うように、何時も花丸は主に初対面の相手などに対し自分の「オラ」という一人称や語尾に「ずら」とつけて喋らないように気をつけているのだが・・・・・・今回は全くその素振りがなく、そのことから彼女がどれだけ荒井のファンであるか、どれだけ興奮しているかが分かった。

 

「あっ、そうだ。 ずっと花丸ちゃんに渡そうと思っていたの忘れてた」

 

そこで無爪はサンダーキラーとの戦いのいざこざのせいで花丸に渡しそびれていた荒井のサインを鞄から取り出し、それを花丸に対し「はい!」と手渡す。

 

「えっ? 無爪くん・・・・・・これって、荒井先生のサイン!!?」

「なにぃ!?」

 

それを見て花丸はすぐにそれが荒井のサイン色紙であることに気づき、それに対してハルヲを目を見開いてサインをマジマジと見つめる。

 

「この前歩いてたら偶然荒井先生に会ってね? 花丸ちゃん、その先生のファンだって以前聞いてたから折角だし、貰っておこうと思って」

「い、良いの無爪くん!?」

「うん、元々花丸ちゃんにあげようと思ってた物だし」

 

花丸はニヤケ顔になるのを必死に堪えつつ、プルプルとした手で無爪から荒井のサイン色紙を受け取ると彼女はそれを抱きしめるように持ちながら「やった~!」とピョンピョン跳ねて喜ぶ。

 

「ってなんで花丸ちゃんだけ!? どうせなら俺の分も貰って来なかったんだよ無爪!?」

「いや、だって店長が荒井先生のファンだって知る前の出来事だったんで・・・・・・」

 

ハルヲはなんだったら自分の分のサインも貰って来て欲しかったと無爪に文句を言うが、時系列的にここで働き始める前なので無理言わないでくれと無爪は主張し、それにハルヲはガックリと肩を落とすのだった。

 

また、サインを花丸にプレゼントする無爪に対し、千歌はぷくっと頬を膨らませながらジーッと無爪の見つめており、不機嫌そうな顔を浮かべていた。

 

「なっちゃんってさ、前々から思ってたけど、ちょっと花丸ちゃんに甘くない?」

「えっ? そうかなぁ?」

 

無爪としては単に友達が喜ぶと思ったからという至極真っ当な理由で荒井にサインを貰った訳で、ハルヲと出会うのがもう少し早ければ彼の分のサインも頼んでいたので、別に花丸が特別という訳では無い。

 

なので無爪は千歌がなぜ不機嫌そうになっているのかが分からず、もしかして千歌も荒井のファンだったのだろうかと思ったが・・・・・・だとしたら千歌の性格的に先ほどの荒井や花丸との会話の中にも入って行っていたであろうことは想像に難くなかったので無爪はその考えを否定。

 

そうじゃないなら何故こんなにも不機嫌そうなのか、それが分からず無爪は首を傾げるのだった。

 

(・・・・・・はっ! もしかして胸!? 花丸ちゃんの胸が私よりも大きいから!? だからなっちゃん花丸ちゃんに甘いのかな!?)

 

また千歌は花丸と自分の胸を交互に見比べて、無爪は巨乳好きのムッツリ野郎だから花丸に対してなんだか甘いのかと考えるが・・・・・・無爪が荒井のサインを花丸にあげたのは下心など一切ないただの善意で行ったことなのでそれは誤解である。

 

と言っても無爪が巨乳好きのムッツリ野郎なのは間違ってないのでそういう誤解をされても仕方ないところもあるが。

 

そんな2人を見て、曜は「お互いに鈍いと大変だね」なんて言いながら苦笑していた。

 

「オラも特別講演会外れてたけど、これで元気出たずら!」

「良いなぁ~、羨ましいなぁ~」

 

ハルヲがサイン色紙を大事に抱きしめている花丸を見つめながら羨ましがっていると「こんにちわ」と挨拶をしながら銀河マーケットにスーツに身を包んだ荒井が現れたのだ。

 

「こんにちわ・・・・・・ってえぇ!?」

「あ、あ、あ、荒井先生!!? えっ、嘘!? 本物!?」

 

噂をしていればなんとやら・・・・・・まさかのご本人登場には花丸やハルヲは勿論、無爪や千歌達も驚きを隠せず、ハルヲは「バン!」と無爪の肩を叩く。

 

「痛!?」

「夢じゃない、荒井先生だ・・・・・・」

「いや、僕を叩いて夢かどうか確かめないで貰えます店長!?」

「講演会、応募してくれたんですね?」

 

荒井は花丸達に笑みを向け、彼の言葉に花丸とハルヲは「はい!!」と元気よく頷き、返事を返す。

 

「でも、不覚にも講演会、外れてしまいましたぁ・・・・・・!」

「お、オラ・・・・・・じゃない、私もです・・・・・・!」

 

ハルヲと花丸は荒井のファンであるにも関わらず、講演会に外れてしまったことを申し訳無さそうにし、「でしたら・・・・・・」と荒井が呟くと、彼はここにいる一同にある提案をする。

 

「どうでしょう? ここにいる皆さんを私の講演会にご招待させて頂くと言うのは・・・・・・」

 

なんと荒井は自分から花丸やハルヲだけでなく、無爪や千歌達を自分の講演会に招待し、それに花丸やハルヲはパアァっと顔を明るくするが、レイジは「い、良いんですか?」と戸惑いながらこんな見ず知らずの自分達まで招待してくれるのか、そんないきなり迷惑ではないかと不安そうに尋ねる。

 

「構いませんよ。 人との出会いは、宇宙が司る壮大な計画の一部ですから」

「計画・・・・・・?」

「『運命』ということです」

 

荒井は「それでは」とだけ言い残すと、彼はその場を去って行くのだが・・・・・・その時、彼は一瞬怪しい笑みを浮かべ・・・・・・それに唯一気付いた千歌は彼の笑みを見て背筋がビクリと震えるのを感じ、どこか顔を青ざめさせた千歌に気付いた無爪は「どうしたの千歌ねえ?」と心配そうに声をかける。

 

「えっ? いや、なんでもないよ!」

 

それに千歌は笑って誤魔化し、そこから立ち去って行く荒井の背中をジッと見つめる。

 

(最後、先生が一瞬なんだか凄く怖く見えたけど・・・・・・きっと気のせいだよね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、千歌や無爪の自宅である十千万の、無爪の部屋にて。

 

そこではペガが造花づくりの内職に精を出しており、無爪と千歌はその手伝いをしているところだった。

 

『はぁ~あ、ペガも小説書けたらなぁ。 造花より儲かるのに・・・・・・』

「まぁ、ペガくんって地球人に擬態できないもんね・・・・・・」

 

ペガも無爪のように出来れば表立ってバイトしたいのだが、地球人に擬態できない以上、こうした造花のような内職くらいしか自分に出来るバイトは存在しない。

 

だからペガは同じように姿を見せなくても小説の方が売れ方次第ではあるものの、少なくとも今よりも稼げるのにと嘆いていたのだ。

 

最も、ペガ自身そんな才能があまり無いことは自覚しているので半ば小説を書くのは諦めモードだったが。

 

「あっ、だったら今度荒井先生にこっそりと触れてみなよ。 もしかしたら才能あやかれるかもよ?」

 

そこで無爪がペガに今度の講演会の時にこっそりと荒井に触れてみてはどうかと提案し、それを受けてペガも「じゃあ先生に触れられたら試しに何か書いてみるよ!」とノリ気となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイジが暮らしているアパートにて。

 

「講演会かぁ。 僕SFってピンッと来ないんですよね」

 

あの後、レイジや無爪、千歌達は「折角先生が講演会に招待してくれたんだから1冊だけでも」という理由で花丸やハルヲから荒井の書いた小説の幾つかを強制的に借りさせられ、レイジは椅子に座りながら花丸から借りた荒井の代表作「コズモクロニクル」を手に持ちながらゼロに「SFってリアリティ感じます?」と質問していた。

 

『今、絶賛SF中みたいな奴が言うことか』

「そうかもですけど、だって小説のあらすじも『炎の盗賊団』とか『鏡の勇者』とか」

 

レイジはさらに今度はハルヲから貸して貰った「歌の戦姫と銀河」「軍艦の力を宿す少女達と未知の超人」といった小説を手に取り、パラパラとページを捲る。

 

「しかもなんですか、これ。 歌いながら戦う女の子とか、軍艦の力を持った少女達ととか、なんかぶっ飛んでるし。 特に前者」

『なに!?』

 

小説をテーブルに置いたレイジは椅子から立ち上がろうとするが、その時、ゼロがレイジの右手のコントロールを奪って本を手離さないようにし、「おい、今すぐこれを読むんだ!!」と言って強引にレイジに小説を読ませようとする。

 

「えっ、ゼロさん?」

『良いから読むんだ!! 今すぐ読め!!』

「あぁ、ちょっと!?」

 

そのままレイジは勢い余ってすっ転んでしまい、ゼロがあまりにもしつこかった為、レイジは渋々荒井の小説を読むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、講演会当日・・・・・・。

 

無爪、ハルヲ、千歌、レイジ、梨子、曜、善子、花丸、ルビィ、そして無爪の影の中に隠れてやってきたペガの10人は講演会の会場へと訪れ、受付けを全員済ませるのだが・・・・・・。

 

ハルヲは講演会に来れたことがよっぽど嬉しかったのか、受付の女性に「ちょっとお尋ねしますが・・・・・・」と声をかける。

 

「2万年早いぜ!! あっ、今のはね、人気の敵キャラ、『ゾーラ』の台詞でね・・・・・・」

「店長、それ受付の人にやることじゃないでしょ」

 

他にも受付待ってる人いるのだからそういうのは他のファンとの交流でやれと無爪から注意を受け、ハルヲは「はい」と渋々その場から去って行く。

 

「こ、こんなに人がいっぱいいるなんて・・・・・・やっぱり花丸ちゃんが言ってた通り、凄い人なんだね、荒井先生」

「そりゃ勿論ずらよ! ルビィちゃん!!」

 

人見知りが激しい性格故か、会場の予想以上の人混みの多さのせいでルビィは肩を小動物のように震わせながらついつい花丸の後ろに隠れつつ、改めて荒井の人気の高さを知り、それに花丸は自分のことのようにどこか誇らしげな表情を浮かべる。

 

「というかルビィちゃん大丈夫? 人も多いし、あんまり無理しなくても・・・・・・」

 

だが、それと同時に花丸は人混みの多さのせいで緊張しているルビィに気を使い、別に無理して来なくても良いと言うのだが、彼女は首をブンブンと横に振り、「大丈夫!」と言葉を返す。

 

「私は平気だよ! 折角先生に招待して貰ったし、それに、花丸ちゃんから貸して貰った荒井先生の本も面白かったし!」

 

そう言いながらどこからか「地球生まれの宇宙怪獣」と書かれた本を取り出し、それを花丸に返すと、彼女も「ルビィちゃんが楽しめたのなら良かったずら」と自分が貸した荒井の小説を面白いと言ってくれたことを喜び、2人でお互いに微笑んでいると・・・・・・。

 

そこへ怪訝そうな顔を浮かべた善子がズイズイと花丸に向かって何か言いたげな様子で向かって来る。

 

「ちょっと!! ずら丸が貸してくれたこの本なんなのよ!? めっちゃ怖いんだけど!!? ってか出て来る怪物がもれなくグロい!!」

 

善子は花丸から借りた「Nexus」と書かれた小説を見せつけながら彼女は小説の内容に文句を言って来るのだが・・・・・・花丸的には何時も堕天使堕天使言ってる善子のことなので、そういう感じのホラー系なやつとか好きかと思い、彼女の好みに合わせたジャンルを選んだつもりだったのだが・・・・・・。

 

どうやらあまり好みには合わなかったらしい。

 

「特にネズミの怪物が凄くヤバかったわ・・・・・・。 というか、ずら丸ってこういうの読んでたんだって言うのが何よりも怖いんだけど!? アンタこういう作品読むキャラだっけ!?」

 

どうにも「Nexus」という作品は登場する怪物が字面だけでも分かるくらいとてつもなくグロいのが多い上に、やたらとその怪物達が人を襲う描写がリアルで、主要人物も読者も精神的に追い詰めるような展開が多く、そのため善子は花丸の性格的に彼女がこんなホラーチックな作品を読むことに驚きを隠せなかったのだ。

 

「いや、マルだって平気だった訳じゃないずらよ!? でも先生の作品だったから・・・・・・それに、そのNexusシリーズは一度読んだらもう続きが気になって気になって仕方ない作品だったし・・・・・・」

「確かにこれ、怖いのに滅茶苦茶引き込まれたわ。 しかもこれ、怖いだけじゃなくて要所要所熱い展開があるのよね。 最終話とか凄く熱かったわ。 その過程で幾つかトラウマ植え付けられたけどね!」

 

とはいえ、面白かったのは事実なようで、ルビィもそのシリーズが少し気になったようだったが、それは花丸と善子が全力で阻止した。

 

そんなやり取りを花丸達がやっていると、荒井がやってきて彼の存在に気付いた無爪達は改めて今回講演会に招いてくれたことに対してお礼を言うため、彼の元へと駆け寄る。

 

「あ、荒井先生! ほ、本日はおお、おまなき頂き、ありがとうぞんじたてまつります!」

「店長、緊張のあまり言動が支離滅裂なものになってるから落ち着こう!」

 

無爪はどうどうとハルヲを落ち着かせ、そんなハルヲを見て「あはは」と荒井の方も思わず笑うと「今日は最後まで楽しんでください」とだけ無爪達に言うと、彼はそのままスタッフ達との打ち合せに向かうのだった。

 

『さて、それじゃこっそりと・・・・・・今だ!』

 

そこでペガがこっそりと荒井の影の中から現れると、彼は荒井の才能をあやかるため、彼にそーっと触れようとするのだが・・・・・・その時、ペガは荒井がジッとこちらを見ていることに気付き、その凍てつくような視線を受け、ペガは「うわぁ!?」と小さな悲鳴をあげる。

 

そのまま彼はペガに向けて不気味に笑うと、その場を去って行き、その一部始終を見ていたゼロは人格をレイジと交代し、メガネを外してペガの元へと駆け寄る。

 

『おい! アイツ今、お前に気付いてなかったか!?』

『あの人なんか怖い・・・・・・、僕先に家に帰ってるね』

『あっ、おい!』

 

すっかり荒井に対し、恐怖心を覚えてしまったペガは影の中へと引っ込んでしまい、それに気付いた無爪や千歌が「ペガ帰ったの?」と彼の元へと駆け寄る。

 

「ってあれ? メガネ外して目つきが鋭くなってるってことは・・・・・・今はゼロになってる?」

「えっ? 元々レイジさんって目つき鋭かったような・・・・・・だから何時も伊達メガネかけてるんでしょ?」

「いやあれ伊達メガネだったの!?」

 

千歌が言うには少しでも自分の強面さを和らげるためにレイジは何時も伊達メガネをかけていたようで、その新事実に無爪は驚きを隠せなかった。

 

最も、メガネをかけたとしてもそれでもレイジの強面っぷりは余りあるものがある為、何度もそのスジの人と勘違いされ、通報されかけているので効果があるのかは微妙なところだが。

 

『って今はそんな話はどうでも良いんだよ!』

『僕にとっては死活問題なんですけど・・・・・・』

『それよりも、あの荒井とか言う小説家・・・・・・恐らくはこの星の人間じゃない』

 

そう言いながらゼロが懐から荒井の小説の一冊、そう言いながらゼロは懐から「コズモクロニクルⅠ 闇よ輝け!」と書かれた一冊の小説を取り出し二人に見せると千歌は首を傾げながら「それがどうかしたの?」とゼロに問いかける。

 

『この本に書かれているのは、俺の戦いだ』

「ゼロの?」

『始めは偶然かと思ったんだが、表紙の絵。 これはベリアルが『アークベリアル』ってのになった時の姿だ』

 

そこに描かれているイラストはかつてゼロが初めて「ウルティメイトゼロ」となり、アークベリアルへとパワーアップを遂げたベリアルと決着をつける時の光景と非常に酷似しており、さらにはこの本の内容も台詞も自分とベリアルの戦いを見たとしか思えないほど似通っているというのだ。

 

さらにまた別にゼロは2冊の小説を取り出し、それを無爪と千歌に見せる。

 

『それに、この『歌の戦姫と銀河』『軍艦の力を宿し少女達と未知の超人』。 これは俺の後輩達、ギンガ、ビクトリー、エックスとその仲間であるシンフォギア奏者と艦娘達の話だった』

「それってただのウルトラマン達のファンなんじゃないの? ゼロの仲間のウルトラマン達も、色んな星で平和を守ってるんでしょ?」

 

千歌はだったら荒井はウルトラマン達のファンで、彼等が好きだからゼロ達の話を題材にした話を書いているのではないかと思ったのだが、ゼロはそんな千歌の考えを首を横に振って否定した。

 

『このコズモクロニクル、この話の中で・・・・・・俺は悪役だ。 しかも、悪役にされてるのは俺だけだった。 俺のことを挑発してるとしか思えない』

 

それに荒井はあきらかにペガの方を見ていたにも関わらず、彼は特に驚いた様子を見せなかった。

 

そのことからも、ゼロは無爪や千歌に荒井に対してハッキリと事が分かるまで警戒を怠らないように忠告するが・・・・・・。

 

「地球人じゃないから敵なんて、そんなの決めつけだよ!」

「そうだよ、ゼロ! それに、ゼロが悪役なのも敢えてそういう風にしてるって可能性もあるじゃん!」

 

無爪はジードがベリアルに似てるという理由だけのせいで人々から賛否両論な評価をされている身だからか、地球人じゃないから敵というゼロの言い分に納得することができず、それは見た目のせいで辛い思いをしたりしている無爪を見てきた千歌も同じで、ゼロが言うことは偏見だと反論する。

 

『決めつけでも偏見でもない! 戦士の勘ってやつだ』

「そうかな? 僕は、信じたい・・・・・・」

「私もなっちゃんと同じだよ、ゼロ。 私も・・・・・・ッ!」

 

だが、次の瞬間、千歌は脳裏に見た荒井の、背筋が凍り付くような不気味な笑みを思い出し、言葉を詰まらせてしまうが・・・・・・。

 

それでもやはり、先ずは信じてみるべきだと彼女もゼロに強く主張する。

 

「私も、先ずは兎に角信じるよ。 私達のこともこうして招いてくれたし!」

 

その時、講演会が間も無く開始される合図のブザーが鳴り響く。

 

「3人ともそんなところで何やってるの!? もうすぐ講演会始まるよー!」

 

そこへ曜がこちらに手を振りながら無爪、レイジ、千歌に講演会が始まることを伝え、無爪と千歌は「今行くよ!」と返事をすると、2人はそのまま会場へと向かい、ゼロもメガネをかけて人格をレイジと入れ替えるのだった。

 

「ゼロさん・・・・・・だ、大丈夫なんでしょうか? 僕、なんだか不安になってきました・・・・・・」

『仕方ない、いざとなったら俺が出る。 行くぞ』

 

不安を口にするレイジに対し、ゼロは安心させるようにそう言うと、レイジは「はい!」と頷いて彼も会場へと向かうのだった。

 

「ゼロさんがそう言ってくれるなら、安心ですね。 ゼロさんと一緒なら、怖い物なしです」

『嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。 だが、レイジも油断はするなよ』

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「正義の名の元に、輝きの騎士団を操り、宇宙の全てを支配したバルグ王に主人公である勇者アガムは戦いを挑みます。 しかし返り討ちにあってしまい、反逆者として追放される。 これが私のデビュー作『コスモクロニクル 闇よ輝け』のオープニングです」

 

講演会では壇上に立って荒井が自分の作品のあらすじを語り、それを聞いていたゼロはそれがベリアルの都合の良いように物語が書き換えられていることに憤りを感じずにはいられなかった。

 

つまり分かりやすく言うとコズモクロニクルは『ウルトラマンベリアル THE MOVIE 超最強! ベリアル銀河帝国』ということである。

 

『ベリアルの都合の良いように書き換えやがって』

「あっ、そうなんですか?」

 

それを聞いて思わず声を出してしまったレイジは左右に座る花丸と曜に「シー!」と注意され、両手で自分の口を慌てて塞ぐ。

 

「ところで、初期三部作の中で人気の高いキャラクターと言えば、誰でしょう?」

「「はい!! 『輝きの騎士、ゾーラ』!!」」

 

荒井の言葉に我先にと花丸とハルヲが手をあげ、そのことに周りから笑みが零れるのも構わず荒井に「正解です」と言われると2人はガッツポーズをしてとても嬉しそうにする。

 

「そうですね。 最初こそ、ゾーラはそのヤンキーっぽい性格から賛否両論のあるキャラでしたが、話が進むに連れて今ではすっかりと悪役にも関わらず、人気のキャラクターとなりました」

『ゾーラってのは俺のことか。 チッ、ヤンキーっぽい性格で悪かったな』

 

ゼロは荒井にヤンキー呼ばわりされて不機嫌となるが、そんなゼロの声は当然聞こえておらず、荒井はそのまま話を続ける。

 

「輝きの騎士、ゾーラは勇者アガムと幾度も激しい戦いを繰り広げます。 ところが、ゾーラはコズモクロニクル3作目、『闇よ美しく』で死んでしまいます」

『「えっ、死ぬの!?」』

「先生、シーッずら!」

「そうだよ、レイジお兄ちゃん、静かに!」

 

左右から花丸と曜に注意され、申し訳無さそうにするレイジ。

 

「そこで本日は、ゾーラに代わる新しい輝きの騎士を考えてみたいと思います。 そして、次の作品に登場させましょう」

 

荒井のその提案に会場が一気にどよつき、会場に来ていた人々はその発表に拍手を送る。

 

「では、皆さんの中からどなたか1人、舞台に来て頂けますか? その方をモデルに輝きの騎士を、作ってみたいと思います」

 

それを受け、花丸やハルヲを始め、多くの人々が「自分こそが!」と手を挙げる中・・・・・・荒井は何故か特に手を挙げた訳でもないレイジに視線を向け、「そちらの方」とレイジに手を伸ばす。

 

「えっ、えっ、僕!?」

「そうです。 是非こちらに・・・・・・」

「え、えっと、でも、僕・・・・・・」

『上等じゃねえか。 レイジ、身体借りるぜ』

 

レイジは荒井の招きに戸惑っていたが、ゼロの方は敢えて受けてやるとレイジと人格を交代し、メガネを外して荒井の元へと歩いて行く。

 

「羨ましいずらぁ・・・・・・レイジ先生」

「頑張ってレイジお兄ちゃん!」

 

花丸の羨ましがる声と、曜の応援を背に受けながらゼロは荒井の元へと辿り着くと荒井は来てくれたことに「ありがとうございます」と笑みを向けながらお礼を述べる。

 

「あなたのお名前を伺っても?」

『渡辺 レイジだ』

「ではレイジさん、先ず・・・・・・握手を」

 

そう言いながら荒井はゼロに手を差し伸べて握手を求め、ゼロは警戒しながらも荒井の手を掴み、握手をする。

 

「私は何時もこうして想像します! 目の前の人の手の感触、匂い、息づかい、そこからどんなキャラクターが生まれるか・・・・・・失礼」

 

荒井はそう言うとゼロに小声であることを耳打ちする。

 

「やぁっと会えましたねぇ、ウルトラマンゼロ」

『っ、お前やっぱり・・・・・・!』

「おっと、動かないでください。 このまま・・・・・・」

『お前、一体何者だ?』

「これからあることが起こります。 あなたは決して動いてはいけない。 私に従ってください、良いですね?」

 

荒井はゼロに決して動かないように忠告した後、ゼロから離れる。

 

「うーん、成程、あなたは浦の星学院で教師をなされていますね? そこにはあなたの従妹も通っていてお友達とスクールアイドルをやっている。 そして、自分は気の弱い性格だけど顔が怖いせいで何時も苦労していると・・・・・・」

(こいつ、レイジのこと徹底して調べてやがるのか?)

 

自分のこと、正確にはレイジのことなど一切荒井に話していないにも関わらず、レイジが浦の星で教師をやっていること、従妹の曜のこと、その彼女がスクールアイドルをやっていること、強面に悩まされていることなどを荒井は言い当て、ゼロは荒井を睨み付ける。

 

「あれ? レイジお兄ちゃんって荒井先生と全然話したことないのに、よくあんなにレイジお兄ちゃんのこと知ってるね」

 

また荒井がレイジの周囲のことなどを知っていることに曜も違和感を感じ、あらかじめ打ち合せでもしてたのだろうかと思ったが・・・・・・先ほどのレイジは荒井に自分が選ばれたことに戸惑っていた為、その可能性は薄く・・・・・・。

 

ならば何故、と首を傾げる頭に疑問符を浮かべる曜。

 

「さっき小声で何か話してたみたいだからその時、レイジ先生が色々話したんじゃないかな?」

 

そんな疑問を解消するように花丸が先ほど小声で話していた時に、レイジが自分のことを話したのではないかと言うのだが、それにしては少々話す時間が短かったようにも曜には感じてならなかった。

 

「では、新しい登場人物は普通の先生ということにしましょう。 彼は何が切っ掛けで輝きの騎士になるのか。 何か、アイディアはありませんか?」

 

荒井はにっこりと笑いかけながらゼロに何かアイディアは無いかと尋ねるが、ゼロは何も応えない。

 

「ハハ、まぁ、いきなり聞かれても困りますよね。 ではこうしましょうか? 私は、あなたの敵役です。 そしてあなたをこう脅す。 『動くな。 動けばこの建物ごと集まった人間を吹き飛ばす。 お前の従妹と、その友人達も一緒だ』」

『っ』

 

周りの人達から見れば、それは荒井の演技だと思うだろう。

 

だがゼロは違う。

 

この荒井の台詞は演技でもなく、紛れもない事実。

 

下手に動けば本当にこの建物ごとここにいる人々を吹き飛ばしかねない。

 

そのことを瞬時に理解したゼロは目を見開き、動くに動けない。

 

「跡形もなく、焼き尽くしてやる・・・・・・」

『お前はどうなる?』

「迫真の演技良いですね~! 勿論、私は無事です」

 

荒井はノリが良いとレイジに軽い拍手を送り、ゼロは荒井に「目的なんだ!?」と尋ねる。

 

「目的は、お前だ・・・・・・」

 

荒井はそう言いながらゼロを指差す。

 

「お前の中にはゾーラの魂が宿っている。 その魂を、肉体ごと滅ぼしてやる・・・・・・!!」

 

荒井は拳を握りしめ、その様子を見ていたハルヲは「絶対絶命のピンチじゃないか!」と思わず興奮して立ち上がる。

 

「えっ? どっちが? これどっちがピンチなの?」

 

曜はどちからと言えばレイジの方がピンチのように見える為、一体どっちが今ピンチなのかが分からず、彼女は軽く混乱してしまう。

 

「ね、ねぇ、なっちゃん、なんか様子がおかしくない? 今、レイジさんゼロと人格を交代してるよね?」

「確かに・・・・・・なんか変、かも・・・・・・」

 

また千歌や無爪もレイジがメガネを外していることからゼロがレイジと人格を交代し、ゼロや荒井の様子がおかしいことに気づき始めていた。

 

「ですが皆さんご安心を。 逆転の一手を用意しています」

 

そんな時、荒井は白い機械竜のようなロボットが描かれた1つの怪獣カプセルを取り出し、ウルトラカプセルにも似たそれを見たゼロ、無爪、千歌は目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

 

「これは、次の作品に出すアイテムの模型です。 これを使うことで、平凡な教師は輝きの騎士に変身ができるのです」

「あれって、ウルトラカプセル!? じゃあ、もしかして荒井先生もウルトラマン・・・・・・?」

「いや、違う。 あれに描かれてるのは怪獣だ!」

 

千歌は遠目なこともあって荒井が手に持っているのが無爪が持っているのと同じウルトラカプセルかと思い、それを持っているということは荒井もウルトラマンなのかと思ったが・・・・・・。

 

無爪はカプセルに描かれているのがウルトラマンではなく、怪獣だったことから即座に似て非なるものだと見抜き、荒井はニヤリと笑うとカプセルのスイッチを起動させ、腰に装着してあった装填ナックルに差し込む。

 

そして装填ナックルを取り外すと、無爪と同じ「ライザー」を取り出し、そのスイッチを押してナックルに装填したカプセルをライザーに読み込ませる。

 

「さぁ、新しい騎士の・・・・・・誕生です」

『やめろぉ!!』

 

ゼロは荒井にやめるように叫び、席を立ち上がった無爪も荒井を止めようと急いで駆け寄ろうとするが・・・・・・間に合わず、荒井はもう1度ライザーのスイッチを押すと会場の外に向かってそれをかざす。

 

『ギャラクトロン!』

 

そして会場一帯が緑色の光に包まれ、それが収まった時・・・・・・無爪の持つ装填ナックルを通してレムから通信が入る。

 

『無爪、あなた達がいる会場の付近に怪獣が現れました』

「えっ!?」

 

レムが言った通り、会場の少し離れた場所で突如空に魔法陣のようなものが現れ、そこから白い機械竜とも言える巨大なロボット、「シビルジャッジメンター ギャラクトロン」が出現し、大地へと降り立ったのだ。

 

ギャラクトロンは胸部から放つ赤い閃光光線を放って街を破壊し、またギャラクトロンの出現で無爪達のいる会場も怪獣出現のアナウンスが流れ、警報が鳴り響き、人々は半ばパニック状態になりながら外に出ようと逃げ惑う。

 

「怪獣だぁ!!」

「早く逃げろぉー!!」

「千歌ねえは曜ねえ達を避難させて!!」

 

無爪は一度千歌の元まで戻って耳打ちして曜達を避難させてくれと頼むと、彼女は「分かった」と頷き、曜達を急いで避難させようとする。

 

「曜ちゃん! みんな! 早く外に!」

「えっ、でも無爪くんはって・・・・・・ひゃああ!!?」

「あっ、梨子ちゃん!?」

 

梨子は無爪が逃げようとしないことに気付いて、彼はどうするのだろうかと千歌に尋ねようとしたが、彼女は逃げ惑う人々の波に押され、そのまま出入り口の方へと行ってしまい、よく見ればハルヲや曜達も同じように人々の波に飲まれ、彼女等も出入り口へと向かうこととなった。

 

「むしろ結果オーライってうわああ!!? 私も!?」

「千歌ねえ気をつけてね!!」

 

無爪は千歌に怪我だけはしないように言うと、彼はゼロの元へと駆け寄る。

 

「怪獣はこっちに向かって来るかもしれない、落ち着いて! 落ち着いて避難してください皆さん!」

『てんめぇ・・・・・・!』

 

ゼロは荒井を睨み付けるが、荒井は「おっと動くな」とゼロを制止し、親指をクイッと後ろの方に向け、ゼロや無爪が荒井の指差したところを見るとそこには監視カメラが。

 

「下手なことはしない方が良いですよぉ? ウルトラマンゼロ。 音声こそ切ってはいますが、今ここで私を殺す、もしくは暴行を加えて大人しくさせる、そうすればあの怪獣は止まるかもしれない。 しかしそうなればあなたは著名な小説家を殺害した人殺し、殺さなくても暴行を加えれば傷害罪として訴えられる」

『チッ・・・・・・』

 

そんな風に、自分達が迂闊に手出しできない状況であることにゼロは舌打ちし、それと同時に、荒井は右手で自分の顔を覆うと、彼は「ククク・・・・・・」と小刻みに突如笑い出す。

 

「あぁ~、待ちましたよ、この時を・・・・・・。 ようやくだ、ようやくこうしてあなた達の前に『本当の私』として現れることが出来た。 ヒーローを追い込む為に私が考えたこのシナリオ、最高だ。 これほどまでに楽しいとは思いませんでしたよ」

『何を言っている?』

 

そして荒井は両腕をバッと大きく広げ、高らかに笑い出したのだ。

 

「フハ、アハハハハ!! だってそうでしょう!? 今まさに私は、さいっこうに『悪』って感じがするじゃないですかァ!! 今まで本来の自分をなるべく抑えていただけの甲斐があるというものです!!」

『あぁ?』

 

 

 

 

 

それと同じ頃、千歌達は外に出ようと出入り口の前に出ていたのだが、何故か扉が開くことができず、そのことから人々はパニックに陥ってしまっていた。

 

「そんな、なんで扉が開かないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、無爪はゼロに一緒にギャラクトロンを倒すため、戦いに行こうと言うのだが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

何故か、ゼロは動こうとはしなかった。

 

「ゼロ?」

「ハハハハ、どうやら戦士の勘がささやくのでしょう。 あの怪獣は強い、今の彼の力では勝てる訳がないと」

「そんなこと、そんなことない! 外にいる怪獣は、僕が倒してみせる!」

 

そう言って無爪は監視カメラのない場所を目指して走ってそこで変身を試みようとするのだが・・・・・・。

 

「栗本 無爪くん!!」

 

突然、荒井に名前を呼ばれ、無爪は思わず足を止め、荒井の方へと顔を向ける。

 

「改めて自己紹介しよう。 私の名は『荒井』。 感謝するよ、君がヒーローになる道を選んでくれて。 だから、覚えておいてくれ。 君がヒーローなら・・・・・・私は、ヴィランだ」

「っ」

 

無爪は一瞬、荒井を睨み付けた後、監視カメラが映していない場所を見つけてそこの窓からガラスを割って飛び出し、外に出ると彼はジードライザーを取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」 

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

『シュア!!』

 

すると、ジードの姿を確認したギャラクトロンはジードの身体をスキャン。

 

それに戸惑うジードだったが、構わずギャラクトロンに飛びかかってジードはニーキックを繰り出す。

 

しかし、ギャラクトロンは全く怯まず、逆にその巨大な爪のついた右腕を振るってジードを殴り飛ばしてしまった。

 

『ウアッ!?』

 

殴られたジードはそのまま前のめりに倒れ込み、ギャラクトロンはジードを踏みつけようと足を振り上げるが、身体を転がすことで攻撃を回避し、ジードは立ち上がる。

 

『タアア!!』

 

今度はジードは跳び蹴りをギャラクトロンに繰り出すが、ギャラクトロンは右腕で受け流し、ジードの背後に回り込むと左腕の回転式の大剣「ギャラクトロンブレード」を展開し、ジードの背中を斬りつける。

 

『ウアア!!?』

 

さらにギャラクトロンは右手でジードを殴りつけると、軽く空中へとジードは吹き飛ばされてしまう。

 

『グウウ!!?』

 

だが、ジードは空中で身体を捻ってなんとか地面に着地し、オーブ・エメリウムスラッガーとベリアルの力を融合させた姿、「トライスラッガー」に今度はフュージョンライズして姿を変える。

 

『トライスラッガー!』

『ジードクロー!!』

 

そこから二又のかぎ爪型の武器、「ジードクロー」を構え、ジードは頭部に装着された3本の宇宙ブーメラン、「アイスラッガー」をウルトラ念力を使い、ギャラクトロンに向けて飛ばして攻撃。

 

同時にジードもギャラクトロンに真っ直ぐ突っ込んでいき、自分は前、右、左、後ろから自身が操るアイスラッガーでギャラクトロンを斬りつけようとするのだが・・・・・・。

 

ギャラクトロンはジードクローによる攻撃は敢えて正面から受け、残りの3つのアイスラッガーは魔法陣のバリアを張り巡らせて防ぐと、ギャラクトロンは胸部から放つ破壊光線「ギャラクトロンスパーク」を近距離からジードに向かって放ち、直撃を受けたジードは大ダメージを受けながら吹っ飛ばされる。

 

『グアアアアア!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が怪獣を操っているのか?』

 

一方、講演会の会場では未だにゼロと荒井が対峙しており、荒井は「その通り」とだけ淡々とした様子で応える。

 

『お前は俺に何をさせたい?』

「話が早くて助かりますよ、ゼロ。 あなたにして頂きたいこと、それはあの怪獣の放つ熱線の直撃を受けて欲しい。 ただ・・・・・・それだけです」

 

荒井は不気味に笑みを浮かべながら、ゼロにそう言うと、当然ゼロは険しい表情となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ジードは未だにギャラクトロンと戦闘を行っており、ジードは「ロボットって言ったら関節が弱い筈!!」という考えから、アイスラッガーの1本を左手に持ち、ジードクローを右手に持ちながらギャラクトロンの右の懐になんとか潜り込むと肘関節を狙ってアイスラッガーを振るうが・・・・・・。

 

ギャラクトロンはそれを読んでピンポイントにバリアを張って防ぎ、眼から放つ閃光光線をジードに撃ち込み、自身から引き離す。

 

『グウウ!!?』

 

さらにギャラクトロンが右腕をジードに向けると、右腕をロケットパンチの如く発射。

 

『ロケットパンチ!?』

 

ギャラクトロンは飛ばした右腕を自由自在に操り、ジードを翻弄した後、空中で一時停止するとそこから光線を発射。

 

同時に、ジードが自身の右腕に気を取られ、後ろを見せた隙を突いてジードの背中に眼と胸部から放つ閃光光線を放つ。

 

『なに!?』

 

前後から放たれたギャラクトロンの光線に、ジードは躱すことも防ぐこともできず、直撃を受けて身体中から火花を散らし、その際にジードクローを落とし、ジードは悲痛な声をあげて力無く倒れ込んでしまう。

 

『ウアアアアア!!!!?』

「なっ・・・・・・ジード・・・・・・!」

 

またジードとギャラクトロンの戦いは千歌達が外に出ようとした出入り口からもガラス越しに見えており、先ほどから手も足もでないジードの姿を見て、思わず「なっちゃん」と言ってしまいそうになるのを堪えながら心配そうに彼女はジードを見つめていた。

 

『ぐぅ、こいつ・・・・・・なんで僕の動きをさっきから読んで・・・・・・』

『恐らく、最初にジードの身体をスキャンした時に無爪の戦い方をあの怪獣がインプットしたからでしょう。 そのため、怪獣はジードの動きを先読みすることが可能になっていると思われます』

 

レムから通信でどうしてギャラクトロンには自分の攻撃がことごとく通用しないのか、予想ではあるもののその理由を聞かされ、それを受けたジードはだったら今まで使ったことのないフュージョンライズなら対抗できるのではないかと思いつくが・・・・・・。

 

『理には叶っています。 ですが残念ながら、今持っているカプセルで新しいフュージョンライズすることは不可能です』

『だよね・・・・・・! なら、どうすれば・・・・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「悩む時間はありません、時間を遅らせればジードは死ぬ!」

『ゼロさん、僕達はどうすれば・・・・・・!』

 

未だに荒井と対峙するゼロ。

 

しかし、荒井の要求について考えている時間はない。

 

そのため、ゼロが出した答えは・・・・・・。

 

『・・・・・・受けてやるよ』

「フフフ」

 

そんなゼロの返答に荒井は笑みを浮かべると、指をパチンと鳴らし、人々が逃げた場所とはまた別のところの扉が開き、荒井はそこからゼロにギャラクトロンのところに行くように指示を出す。

 

「誰もがウルトラマンジードの戦いを見ています。 あなたの死を見届ける者はいない。 1人寂しく・・・・・・逝くが良い」

『っ・・・・・・』

 

ゼロは胸ポケットからウルトラゼロアイNEOを取り出し、それを握りしめると荒井の言う通り彼が開けた扉に向かって駈け出し、外へと出てギャラクトロンと戦うジードの元へと辿り着く。

 

『・・・・・・レイジ、震えてんのか? そりゃそうだよな』

 

ゼロアイを握るの手はぷるぷると震えており、それは彼と一体化しているレイジが怯えているからであり、ゼロはレイジを絶対に死なせはしないから安心しろと声をかける。

 

『レイジ、お前も、千歌達も、無爪も、みんな俺が死なせない!』

 

一方、ギャラクトロンは後頭部から伸びる大きな鉤爪の付いた「ギャラクトロンシャフト」で倒れ込んだジードの身体を掴み、持ち上げるとギャラクトロンはブレードを構え、それをジードへと突き刺そうとする。

 

『おい!! オーブから聞いてんぞこのクソコテロボ!! お前の攻撃を受けに来てやったぜ・・・・・・』

 

ゼロの呼びかけに気付いたギャラクトロンは視線をゼロへと向ける。

 

『ゼロ! レイジさん・・・・・・! 無爪! 2人が危ないよ!』

 

星雲荘で待機していたペガはユートムを通してそこからジードの戦う様子を確認しており、通信でジードにレイジとゼロが危ないことを伝え、ジードはレイジとゼロを助けようと必死にもがき、シャフトを何度も殴るがビクともしない。

 

そして、ギャラクトロンは右手をゼロに向けると・・・・・・そこから破壊光線を発射。

 

『っ、フン!!』

 

しかし、ゼロはゼロアイを構えてギャラクトロンの光線を防ぐ。

 

『グウウウ、ウウウウウ!!!!!?』

 

やがてゼロアイから「ウルトラマンゼロ」本人が出現し、ゼロはギャラクトロンの攻撃を全て自分が一手に引き受け、レイジに光線が当たらないように必死に自分が身体全体で受け止める。

 

『レイジ、よく、耐えてくれたな・・・・・・』

「っ、ゼロさん・・・・・・!? ゼロさん!!!!」

 

次の瞬間、レイジは光線によって弾き飛ばされ、身体を地面に強く打ち付けはしたもののゼロが全力で庇ってくれたおかげで特に怪我をすることはなかった。

 

しかし、レイジの手から離れ、同じように地面に「コツン」と落ちたウルトラゼロアイは石となってしまうのだった。

 

「ゼロ・・・・・・さん・・・・・・? ゼロさん!?」

 

それを見たレイジは慌ててゼロアイを拾いあげ、何度もゼロアイに向かってゼロの名を呼ぶのだが・・・・・・レイジにはゼロの声が全く聞こえず、同時に、その光景を見たジードもまた悲痛な声をあげる。

 

『ゼロ・・・・・・!? うあああああああ!!!!』

『ソリッドバーニング!』

 

ジードは「ウルトラセブン」と「ウルトラマンレオ」のカプセルを使い、「ソリッドバーニング」に姿を変えるとそのパワーでシャフトを両手で掴み、シャフトの左右を引っ張ってなんとかギャラクトロンの拘束から脱出することに成功。

 

そのまま素早く先ほど弾き飛ばされたジードクローを回収し、それを構える。

 

『だったらまだ使ってない技だ!!』

 

現状、新しいフュージョンライズが不可能ならばまだ使用していない技を使えば良いとジードは判断し、ジードクローのトリガーを2回引いてボタンを押し、ジードの全身にオレンジ色の炎のエネルギーを身に纏い、ジードクローを切っ先にして回転しながら敵に突っ込む「コースクリュージャミング」をギャラクトロンに繰り出す。

 

『コースクリュー・・・・・・ジャミング!!!!』

 

だが、ジードが初めて見せる技にも関わらず、ギャラクトロンは前方にバリアを張り巡らせて攻撃を防いでしまう。

 

しかし、それでも今、初めて使用する技ということもあり、コースクリュージャミングはギャラクトロンの予想を上回る攻撃力を発揮し、バリアはジードに砕かれ、次の瞬間ジードとギャラクトロンの間に爆発が起きる。

 

『ウアアッ!!?』

 

それによってジードは弾き飛ばされるが・・・・・・ギャラクトロンも左手を破壊され、ギャラクトロンブレードを失うこととなった。

 

既にジードのカラータイマーも点滅しており、ジード自身の肉体へのダメージも相当で立つこともままならない状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、荒井は・・・・・・。

 

「フフフ、ヒハハ、ヒハハハハハ!!!! いやっっったああああああ!!!!!!」

 

ゼロをギャラクトロンによって消し飛ばすことが出来た。

 

その事実に、荒井は歓喜し、ハイテンションにガッツポーズをしながらそのことに喜ぶのだった。

 

「やりましたよ、ベリアル様!! ウルトラマンゼロを、始末致しましたァ!! これで私も、ヒーローを、殺せたぁ・・・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローの条件ってなんだろう。

 

僕にはまだ、分からない。 

 

ただ、幾つか言えることはある。 

 

華麗に戦い、かっこよく勝つこと。 

 

大切な人を守るため、命を懸けられること。 

 

この時の僕には、まだどちらも出来ていなかった・・・・・・。

 

『なんで・・・・・・なんでだよおおお!!!!』



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第9話 『限界を超えてゆけ』

『グウウ、ウアアアアアッ!!!!』

 

前回、ギャラクトロンの攻撃によって消し飛ばされ、消滅したゼロ。

 

それを直に目撃したジード・ソリッドバーニングはゼロを倒したギャラクトロンに対し、怒りの雄叫びをあげながら向かって行き、拳をギャラクトロンの顔面に叩き込む。

 

『ヘアアッ!!』

 

しかし、ギャラクトロンはジードの攻撃を直接受けてほんの僅かに身体が揺れる程度で逆にジードはギャラクトロンに殴り飛ばされてしまう。

 

『ウグッ!?』

 

そのままギャラクトロンは右手の鉤爪をジードに向けて振るうが、ジードは素早く頭部に装着された宇宙ブーメラン、「ジードスラッガー」を手に取ることで攻撃を受け止め、なんとか押し返すとジードスラッガーを右足に装着して脚部ブースターを点火、加速を加えたキックで敵を切り裂く、「ブーストスラッガーキック」を繰り出し、ギャラクトロンの胸部を斬りつける。

 

『ブーストスラッガーキック!!』

 

その攻撃の直撃を受け、ギャラクトロンは怯むものの即座に眼から放つ閃光光線の直撃をジードは受けてしまい、身体中から火花を散らして吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

『ウアアア!!?』

 

それでもジードは諦めず、地面を殴って立ち上がり、ギャラクトロンに向かって拳を何発も叩き込んで行くがギャラクトロンにはあまりダメージを与えられない。

 

とは言え、実は先ほどまでとは違う点が1つだけあった。

 

それはさっきまでジードの攻撃をほぼピンポイントでことごとく攻撃を防いでいたギャラクトロンだったが、今ではジードの攻撃の幾つかがギャラクトロンに当たっていたのだ。

 

なぜギャラクトロンに攻撃が当たるようになったのか・・・・・・。

 

その理由は先ほどジードが繰り出した技、「コースクリュージャミング」を受けた際、ギャラクトロンの左手を失うことになったのだが・・・・・・。

 

実は左手以外にもジードはギャラクトロンが読み取った自分の戦闘データが保管されていた部分も破壊することに成功していたのだ。

 

そのため、先ほどまでとは打って変わってジードはギャラクトロンに攻撃を当てられるようになった。

 

しかし、だからと言ってそれで完全に逆転できるかと言えばそうではなく、左手を破壊され、ジードの戦闘データを失っても尚ギャラクトロンはジード相手に終始優位に立っており、ジードの方もゼロが倒されたことで動揺していることもあり、まるで勝機を掴むことができないでいた。

 

「あぁ~、ジィードォ・・・・・・! その必死にもがく姿、まさにヒーローらしい」

 

それと同じ頃、講演会の出入り口までやってきていた荒井はそこから逃げようとした人々から距離を取りつつ、ガラス越しにジードとギャラクトロンの戦いを見つめており、荒井は誰にも気付かれないように嫌らしい笑みを浮かべていた。

 

「ですが、やはりまだまだあなたは若くて未熟で不完全! だが、それが実に良いですねぇ~? ウルトラマンジードォ・・・・・・! さて、それではそろそろ・・・・・・」

 

荒井が小さく、そう呟くと彼は右手を挙げ、指を「パチン」と鳴らす。

 

それと同時に、ジードの放った拳がギャラクトロンの胸部に炸裂したのだが・・・・・・。

 

ギャラクトロンは突如として動きを止め、眼と胸部にあった赤い光が消え去り、機能を停止したのだ。

 

『っ!? 止まった・・・・・・? ぐっ・・・・・・』

 

そしてジードの方も活動限界時間である3分が経過したことで、ジードもそこから姿が消えてしまい、その場には変身が解除された傷だらけの無爪が片膝を突きながらギャラクトロンを見上げていた。

 

「はぁ、はぁ、あれは、僕の攻撃で・・・・・・止まった・・・・・・訳じゃない。 なんで、どうして・・・・・・こんな、ことに・・・・・・」

 

そして無爪はそのままその場で倒れ込んで気を失い、それと同じ頃・・・・・・。

 

講演会の会場の出入り口がようやく開き、人々はやっと外に出ることが可能となり、みんなは急いでその場から逃げていくのだった。

 

「あっ、やっと開いた!! もう、なんなのよ!! どうなってんのよここのスタッフ! しっかりこういう非常事態に備えてちゃんと点検とかしときなさいっての!!」

 

ようやく外に出れた善子は扉が開かなかったことからこの建物のスタッフなどがちゃんと安全確認していなかったのではないかと文句を言い、そんな善子を見て花丸は何故か意外そうな視線を彼女に向けていた。

 

「善子ちゃんがまともなこと言ってるずら・・・・・・」

「どういう意味よ!? ってか善子じゃなくてヨハネ!!」

 

兎にも角にも命拾いしたのは確かであり、ルビィなどは外に出た直後、涙目で力無くぺたんっとその場にへたれこんでしまっていた。

 

「うぅ、怖かったよぉ・・・・・・」

「大丈夫? ルビィちゃん?」

「ジードも負けてしまいそうだったもんね・・・・・・」

 

そんなルビィを心配そうにする花丸に、ジードがギャラクトロンに負けそうだったことからルビィがそうなってしまうのも分かると語る梨子。

 

(・・・・・・なっちゃん!)

 

また千歌はギャラクトロンの攻撃を受けまくっていたことから、無爪が大怪我を負っているかもしれないと思い、みんなの目を盗んでそっとその場から抜け出すと彼女はジードが最後に立っていた場所へと向かって走って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロさん、ゼロさん!! そんな・・・・・・僕を庇って・・・・・・! 僕を助ける為に身代わりに・・・・・・!」

 

その頃、レイジはウルトラゼロアイを手に取りながら何度もゼロの名を叫ぶようにして呼ぶのだが・・・・・・ゼロアイからはやはり何も聞こえず、彼は目尻に涙を浮かべながら顔を俯かせていた。

 

「おやおや? なぁ~んだ、ゼロと一体化していたあなたは死ななかったんですか?」

 

そこへ、未だ顔を俯かせ、ゼロの名を呼び続けるレイジの元に荒井が現れると彼は自分の計算ではゼロはレイジ諸共消し飛んで貰うつもりだった為、レイジだけが生き残ったことにやれやれと言った感じで溜め息を吐く。

 

「自分と一体化した地球人も一緒に死ぬ。 そうすればゼロに取ってこれ以上ない屈辱を味あわせ、バッドエンド以上のバッドエンドになったのに・・・・・・。 非常に残念です。 まっ、流石にそれは欲張りというものですか。 ゼロを殺せただけ良しとしましょう」

「っ、荒井・・・・・・!!」

 

レイジは荒井を強く睨み付け、そんなレイジに対して荒井は「おぉ~、流石に睨まれると怖いですねぇ?」なんて相手をおちょくったような態度を見せる。

 

「お前が睨んだところでなんにもならない! 所詮お前はゼロがいなければただの平凡でちっぽけで、弱いだけの人間! 顔が強面なだけの勇気のない、ヘタレた人間だ!! そんな奴がウルトラマンの力を持つこと自体、おこがましいことだったんですよぉ!!」

 

すると、荒井はレイジに近より、彼の顔を覗き込みながら ボソッと言葉を呟く。

 

「ゼロが死んだのは私の計画が完璧だったのもあるだろう。 だが、お前に勇気が無かったのも原因かもしれないなぁ~?」

「っ・・・・・・!!」

「お前がもっと積極的にゼロと戦う姿勢を見せていれば、少しは違った結果になったかもしれませんね?」

 

どことなく物凄く楽しげに話す荒井の顔を見て、レイジは無性に「こいつの顔をぶん殴ってやりたい」と気持ちになった。

 

しかし、レイジは身体に力が入らず、ただ手をぷるぷると小さく震わせることしか出来なかった。

 

それは荒井の「ゼロが死んだのはお前に勇気が無かった」という言葉が胸に突き刺さったから。

 

彼の言う通りかもしれないと思ったから。

 

自分がヘタレな人間であることを自覚していたから。

 

だからレイジは荒井に対して何も言い返すことが出来ない、何も出来ない。

 

そして荒井はニヤけ顔を必死に堪えながら、彼はその場を立ち去って行き、レイジは去って行く荒井の背中をただ睨むことしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから無爪とレイジの姿を発見した千歌と彼女の手伝いに来たペガは2人で彼等を星雲荘まで運び、怪我の手当てを行うことに。

 

「う・・・・・・んんっ」

「あっ、なっちゃん!! 目、覚めたんだね! 大丈夫?」

「千歌・・・・・・ねえ?」

 

そこで気を失っていた無爪が目を覚ますと、こちらを心配げに見つめる表情をした千歌が視界に入り、それと同時に後頭部にはやたらと柔らかいものが当たっている感触を感じ、そのことに無爪は困惑する。

 

(えっ? あれ? これって・・・・・・)

「ひゃあ!? ちょっ、なっちゃん! いきなり動かないでよ! スカート越しでもちょっとくすぐったいんだからね!?」

 

少しモゾッと自分が動くと、千歌は妙に可愛らしい悲鳴をあげ、寝起きで頭がボーッとしていた無爪は徐々に今の自分がどんな状況にいるのかを理解していく。

 

(えっ、これ・・・・・・千歌ねえに膝枕されてる!? じ、じゃあこの後頭部にさっきから当たってる柔らかい感触って・・・・・・!)

 

千歌ちゃんの太ももですね。

 

(マジかあああああああ!!!!!?)

 

一応スカート越しとはいえ千歌に膝枕されていることに内心大歓喜し、それを千歌に悟られまいと無爪は必死に両手で口を塞ぎ、誤魔化そうとするが・・・・・・千歌からはジトッとした視線を向けられ、無爪が今考えていることが彼女にはほぼほぼバレていた。

 

最も、自分からやったことだし、無爪なら当然こういう反応をしてくるだろうなとは思っていたので千歌は特に咎めるようなことはしなかった。

 

「って、そうだ!! それよりもゼロは!!? レイジさんは!?」

 

そこで無爪は自分がギャラクトロンと戦っている時にゼロが消し飛ばされたことを思い出し、そこからガバッと起き上がって辺りを確認すると・・・・・・。

 

自分と千歌とは少し離れた位置で以前、レイジとゼロが同時に自分達と会話できるようにと使用した装置を再びつけたレイジが座っている姿を発見した。

 

どうやら、あの時の装置を使ってゼロは本当に消滅したのか、レイジの身体の中にももういないのかを調べるために今回は使用しているようだった。

 

「レム、レイジさんの身体の中からゼロの反応ってあったの?」

『いいえ、レイジからウルトラマンゼロの反応は検出されません』

『そんな・・・・・・ゼロは死んじゃったの!?』

 

レムからの報告を聞いて、顔を俯かせる無爪とレイジ。

 

またそれを聞いてペガは本当にゼロは死んでしまったのかと問いかけるとレムはその可能性は高いとのことだった。

 

『ですがもう1つ可能性があります。 それはゼロが検知できないほどエネルギーが低下しているか・・・・・・』

「もしそうなら、まだゼロは死んでないってことだよね!? だとしたら、ゼロを復活させる方法は無いのレム!?」

 

レムからそのもう1つの可能性を聞き、無爪はゼロは死んだのではなく、エネルギーが低下しているだけなのだとしたらそのエネルギーの問題さえ解決すればゼロは復活するのではないかと思い、彼は僅かな希望を抱いてレムに尋ねるが・・・・・・。

 

『残念ながら・・・・・・現状、それだけのエネルギーはこの地球には存在しません・・・・・・。 ジードがエネルギーをゼロに分け与えたとしても、それをすれば今度は逆にジード、無爪の命が危険に晒されてしまいます・・・・・・』

「そんな・・・・・・!!」

 

レム曰く理論上ではゼロを復活させることは可能なようだが、しかし、それだけのエネルギーはこの地球にはどこにもないとのことでさらにはジードが自分のエネルギーを分け与えようものなら今度は逆にジードが命の危機に瀕してしまうというのだ。

 

「なら、ちょっとずつジードがエネルギーを分け与えるって言うのは!?」

 

そこで千歌はならば分割で少しずつゼロにエネルギーを分け与えていけば良いのではないだろうかと提案するが、レムの計算ではやはりそれも難しいようだ。

 

『少しずつエネルギーを分けてもそれだとゼロが復活するには何十年もかかってしまいます。 それに、それをやってしまうと怪獣への対応も大きく遅れてしまい、町にも甚大な被害が出る可能性が・・・・・・』

 

もはや八方塞がり・・・・・・ゼロが生きていたとしても、復活させるためには膨大なエネルギーが必要、だがそのエネルギーを調達する方法はない。

 

ゼロの仲間達が来てくれればゼロも助かる可能性はあるが、その仲間達と通信できる手段もない。

 

奇跡でも起こらない限り、ゼロの復活は絶望的だった。

 

『みんな! 観て!』

 

そんな時、テレビのニュースで荒井が画面に映り、無爪や千歌は画面に映る彼の姿を見て睨む。

 

『ファンの方々には怪我をされた方もいなくて幸いでした・・・・・・!』

 

画面に映る荒井はホッとした様子で自分のファン達が何事も無かったことを喜ぶ。

 

『あの時、ウルトラマンが来てくれなかったらどうなっていたか・・・・・・。 彼こそ、ヒーローです。 ありがとう・・・・・・本当にありがとう、ジード!』

 

いけしゃあしゃあとどの面を下げて言っているのかと無爪は頭に血が上るのを感じ、座っていたソファから立ち上がると「あいつ、ぶん殴って来る!!」と言って星雲荘を出て行こうするが・・・・・・。

 

それを千歌が無爪の腕を掴むことで引き止める。

 

「待って、待ってなっちゃん!! ダメだよ!!」

「離して!! 離してくれ千歌ねえ!! アイツだけは・・・・・・!!」

「ダメ!! きっと行ったらまた荒井の思う壺だよ!!」

「でも、だけど・・・・・・負けたままで悔しくないのかよ、千歌ねえは!?」

「悔しいよ!! だって・・・・・・だって、私、あの時・・・・・・! 気付いてたんだ。 荒井が不気味な笑みを浮かべてるのを・・・・・・」

 

涙ぐんだ表情を見せながら、千歌は荒井と初めて会った時、彼が不気味な笑顔を浮かべていたこと、だけどきっとそれは気のせいだろうと思い込んで何もしなかったことを彼女は無爪達に話し、千歌は自分がもう少し荒井のことを疑っていればと・・・・・・。

 

彼女はもっと荒井のことを疑っていればまた違った結果になったかもしれないと後悔し、目尻に涙を溜めながら言葉を吐き出し、無爪はそんな千歌を見て、戸惑いながらも彼女の肩にそっと手を置く。

 

「ごめん、千歌ねえ・・・・・・。 でも、千歌ねえのせいじゃないよ。 それを言うなら、僕がもっとゼロの言うことを聞いていれば・・・・・・! もっと警戒していれば・・・・・・!」

「違う! 2人のせいじゃない!!」

 

しかし、そんな時今まで黙っていたレイジが突然声をあげ、無爪と千歌の2人は視線をレイジに向ける。

 

「2人の、せいなんかじゃない・・・・・・。 僕の、僕のせいなんだ・・・・・・。 僕のせいで、ゼロさんは死んだ・・・・・・」

「レイジさん・・・・・・。 いや、ゼロはまだきっと死んでない!! 絶対に復活するって信じよう!! その時、一緒に戦うのはレイジさんだ!!」

 

レムからゼロが生きている可能性があることを聞かされたからか、無爪はまだゼロは死んでいない、きっと復活すると信じ、だからその時はレイジも一緒に戦おうと無爪は言うのだが・・・・・・。

 

レイジはそれを「無理だ」と言って拒絶した。

 

「出来ない、僕には出来ない! 怖いんだよ!! 僕はあそこで初めて、死の恐怖を感じた・・・・・・。 元より、怪獣の前に立つのだって怖かったんだ! そしてゼロさんがこんなことになって・・・・・・僕には、僕にはやっぱりウルトラマンは無理なんだ!!」

 

元々、レイジ自身は怪獣と戦うことを恐れ、戦うことに消極的だった。

 

それでも戦えたのはゼロがいた安心感があったからだ。

 

まぁ、ゼロが強制的に変身させたというのもあるが。

 

しかし、ゼロが倒され、消えたことで今回初めて感じた「死」への恐怖。

 

その光景は元より臆病な性格であったレイジの心が折れるのには十分過ぎるほどの恐怖感を与えた。

 

だからレイジは石となったゼロアイをテーブルの上に置き、戦うことを拒絶したのだ。

 

「今、この町を守れるのは僕達だけなんだ・・・・・・!!」

「勝てないのに!? あの時、無爪くんは負けていた。 なんでかよく分からないけど、あの怪獣に・・・・・・荒井に僕達は見逃して貰った・・・・・・。 力の差は圧倒的、戦うなんてバカげてる・・・・・・!!」

 

レイジは身体をガクガクと震わせながら星雲荘から出て行こうとするが・・・・・・。

 

「逃げるの? レイジさんはこの町がどうなっても良いの!?」

 

千歌にそう言われ、レイジは思わず足を止める。

 

「僕に、僕にどうしろって言うんだよ! もうゼロさんはいない、ジードはあの怪獣に勝てない。 もう逃げるしかないんだ・・・・・・!! 君達も逃げよう? みんなでさ・・・・・・逃げるんだ!!」

 

ギャラクトロンに勝ち目が無いのなら、もはや自分に出来ることは逃げることくらい。

 

だから無爪や千歌もペガも、曜達と共に一緒に逃げようと言うのだが、当然、無爪と千歌、ペガは決して逃げようとはせず、むしろ無爪はそんな逃げ腰のレイジに対し、「僕は逃げない」とキッパリと言い返した。

 

「まだ、まだ僕は諦めない。 必ずあの怪獣を倒してみせる!」

「・・・・・・どうやって倒すって言うんだよ・・・・・・。 僕には、僕にはそんなこと出来ない。 君みたいに無責任に命を懸けることなんてできない!! 無駄死になんて僕はしたくないんだよ!!」

「っ!!」

 

次の瞬間、千歌はレイジに頬に向かって「パアアン!!」と平手打ちを繰り出し、それに頬を抑えながら目を見開くレイジ。

 

「無駄って・・・・・・なに? 無駄死にってなに!? なっちゃんは、無責任に命を懸けてなんてない!! なっちゃんはそんなことのために戦ってるんじゃない!! なっちゃんがなんの為に戦ってるのか、それはレイジさんが・・・・・・!!」

「・・・・・・ごめん」

 

しかし、レイジは千歌の言葉を遮ってその場から逃げるように星雲荘から出て行き、ペガは「待って!!」とレイジを呼び止めようとするが、それを無爪が引き止める。

 

「良いんだ、ペガ。 レイジさんが死んじゃったら、曜ねえになんて言えば良いのか、僕には分からない。 僕は曜ねえに、家族を失わせたくなんてないし、そんな思いをして欲しくないんだ・・・・・・」

「なっちゃん・・・・・・」

 

曜はレイジのことを実の兄のように慕っている。

 

もし、レイジが死んだら・・・・・・きっと曜は激しく落ち込み、悲しむだろう。

 

だから無爪はこれ以上レイジに無理は言えなかったのだ。

 

また、千歌はそんな無爪を見て彼女は自分達が今よりもずっと幼かった頃・・・・・・。

 

彼女はまだ幼かった無爪がこっそりと影に隠れて、よく泣いていたのを思い出していた。

 

当時はなんで泣いていたのか分からなかったが・・・・・・今なら分かる。

 

無爪のことは高海家が引き取り、高海家の夫妻からは息子同然に愛情を持って育てられ、志満と美渡も自分同様、弟として大切に想ってくれた。

 

しかし、それでも無爪は自分達とどこか距離があるように感じられ、やはり心のどこかで孤独を感じているようだった。

 

そんな家族のいない寂しさを知っている無爪だから、レイジに無理を言えなかったのだ。

 

それも、千歌や果南以外で姉のように慕っている曜の身内ならば尚更。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、星雲荘から逃げるように飛び出したレイジはというと・・・・・・。

 

彼は1人、夜の公園に佇みながらゼロが消滅した時の光景を思い出していた。

 

『レイジ、よく・・・・・・耐えてくれたな・・・・・・!』

「ゼロさん・・・・・・」

 

今にも泣き出しそうな声で、レイジはスーツのポケットに入っていた荒井の小説を取り出し、それをぐしゃりと握りつぶすようにしてから小説を地面に叩きつけようとするが・・・・・・。

 

「っ!! うぅ・・・・・・!!」

 

こんなことをしても、何にもならないとレイジはそれ以上のことはせず、ただただ悔しそうに唇を噛み締めるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また無爪、千歌、ペガの3人は一度十千万へと帰ることとなり、今3人は無爪の部屋で暗い雰囲気に包まれながらも再びジードに変身出来る時間が来るのを待っているところだった。

 

「レム、次に変身できるまで、後何時間かかりそう?」

『次に変身出来るのは、およそ14時間後です』

 

無爪は装填ナックルに手をかけながら後何時間でまた変身出来るのかをレムに尋ね、再変身まで残り14時間であることを教えられると無爪は「ありがとう」とだけお礼を述べる。

 

『・・・・・・ゼロ、本当にいなくなっちゃったのかなぁ?』

「そんなことないよ。 ゼロはきっと戻ってくる。 絶対に・・・・・・信じるんだ・・・・・・!」

 

弱気になるペガに、無爪はゼロは絶対に復活すると信じると言い放ち、それに千歌も同意するように力強く頷いた。

 

「うん、私も・・・・・・信じる。 ゼロは帰って来る」

「それまでは僕が、1人でも戦って見せる」

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、とある丘の上の、草むらで・・・・・・。

 

そこではレイジが身体を蹲るようにして座り込んでおり、ただ頭の中で繰り返し荒井の言葉が響いていた。

 

『所詮お前はゼロがいなければただの平凡でちっぽけで、弱いだけの人間! 顔が強面なだけの勇気のない、ヘタレた人間だ!! そんな奴がウルトラマンの力を持つこと自体、おこがましいことだったんですよぉ!!』

『ゼロが死んだのは私の計画が完璧だったのもあるだろう。 だが、お前に勇気が無かったのも原因かもしれないなぁ~?』

『お前が最も積極的にゼロと戦う姿勢を見せていれば、少しは違った結果になったかもしれませんね?』

 

何度もリピートされる荒井の言葉の数々。

 

ムカつくが、荒井の言う通りもっと自分が積極的に戦う姿勢を見せていれば・・・・・・少しは今とは違う結果になったかもしれないとレイジはそう思わずにはいられなかった。

 

だが、後悔してももう遅い・・・・・・。

 

所詮自分は、荒井の言うように勇気のない、ゼロがいなければ何も出来ない無力な人間なのだ。

 

ゼロが死んだのはきっと自分の勇気の無さのせい。

 

だからレイジはずっとここで自分自身を責め続けた。

 

こんなことをしても意味は無いと分かっているにも関わらず。

 

「・・・・・・レイジお兄ちゃん?」

 

だが、そんな時・・・・・・。

 

不意にレイジの背後から聞き覚えのある声が聞こえ・・・・・・レイジが振り返ると、そこには不可思議そうにこちらを見つめる曜が立っていたのだ。

 

「曜ちゃん・・・・・・?」

「どうしたの? こんなところで?」

「落ち込んでる」

「それは見たら分かるよ」

 

曜に一体こんなところで何をしているんだと尋ねられ、レイジは落ち込んでると応えるが、そんなことは見れば分かると曜に苦笑され、それにレイジも釣られるように「だよね」と思わず苦笑してしまう。

 

すると曜はレイジの隣に座り込み、それにレイジは首を傾げる。

 

「曜ちゃん?」

「レイジお兄ちゃん、昨日の講演会の帰りからなんだから元気無いよね。 一体どうしたの? 私で良ければ話を聞くよ!」

「・・・・・・」

 

曜の気持ちは有り難いものの、なんと話せば良いのか分からないレイジ。

 

「僕は、ずっと厳つい顔の癖して、ヘタレな自分がイヤだった」

 

しかし、無意識に勝手に口が動き始め、レイジはゼロのことはぼかしつつもここ最近あった出来事を話し始めた。

 

「でも、最近ある人と出会って、自分が強くなれた気がしてたんだ。 でも、結局それは自分が強くなったんじゃなく、所詮は『気がしただけ』。 結局、自分は何も変わってなかった。 その人がいなかったら、僕はこんなにも無力なんだって痛感した。 僕はなんにも成長なんてしていなかった。 弱い自分のままだった」

 

顔を俯かせ、膝を抱えて暗い表情のまま語るレイジ。

 

そんな彼の話を、黙って聞き続ける曜。

 

「そして僕はその人のピンチを救うことが出来なかった。 逆にその人に僕は守られて・・・・・・その人は傷ついてしまったんだ・・・・・・」

「・・・・・・よく分からないけど、でも、それに気づけたってことは小さな一歩かもしれないけど、物凄く大切な一歩でもあると私は思うな」

 

そこでレイジの話を今まで黙って聞いていた曜が口を開き、そう言葉をかけるとレイジは「えっ?」と首を傾げる。

 

「『強くなった気がしただけ』、それに気づかないで過ごしていくより、それに気づいて、自分の弱さを自覚できるのは良いことだと私は思う」

「弱いことが、良いことなんて・・・・・・」

 

弱いままじゃ、何も出来はしないとレイジは曜に言い返すが、それを曜は首を横に振って「そんなことない」と否定する。

 

「レイジお兄ちゃんは自分の弱さが分かるから、他の誰かの弱さに気づくことができる。 そういう人なんだって私は思ってる。 そしてそんな人の助けになろうとしてくれる。 ヘタレでも良いんじゃん、無理に強くなろうとしなくて良いじゃん。 確かにレイジお兄ちゃんは気が弱いところがあるけど、でも、それは同時に、レイジお兄ちゃんの強さなんだと私は思うな!」

「弱いことが、僕の強さ・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とあるビルの屋上では・・・・・・。

 

そこには荒井が立っており、時計を確認して「そろそろか」とだけ呟くと彼は指を「パチン」と鳴らす。

 

「ウルトラマンジード。 さぁ、これくらいの状況、ここから逆転してみせろ・・・・・・! 出来るものならなぁ?」

 

すると荒井の指の音に反応するかのようにギャラクトロンの目と胸部のコアが怪しく、不気味に赤く光り出し、再び動き出したのだ。

 

それを星雲荘で朝早くから待機していた無爪、千歌、ペガにも部屋に映し出されたモニターでギャラクトロンが再び動き出したことが伝わり、無爪はゴクリと唾を飲み込みつつ、星雲荘のエレベーターを使って現場へと向かおうとする。

 

「なっちゃん!! なにか、作戦はあるの? レイジさんが言うようにあの怪獣となっちゃんの力の差は歴然だった・・・・・・」

 

心配げな表情を浮かべながら、千歌は無爪はあの怪獣に勝てる見込みがあるのだろうかと尋ねる。

 

「レムとシュミレーションした。 戦い方は17通り。 その内、失敗する可能性が高いのは、17個だった!」

「全部じゃん!! なんでちょっと自慢げ!?」

 

確かに、最初の戦いでジードの放ったコースクリュージャミングによってギャラクトロンは左腕と読み取ったジードの戦闘データが破損し、それを失った。

 

しかし、それでも17度の戦闘シュミレーションをしてもギャラクトロンには全て通用しないと無爪は言うのだ。

 

これでギャラクトロンは万全の状態ではないと言うのだからよりギャラクトロンの恐ろしさが際立ち、千歌はますます無爪が心配になるが・・・・・・。

 

「だったら、18通り目を試せば良い。 それがダメなら、19通り、20通り目を試すまでだよ」

「もう言ってること無茶苦茶だよ!?」

 

無爪の言っている言葉は千歌の言う通りもはや滅茶苦茶なもの・・・・・・しかし、それでも無爪の目からは闘志が消えておらず、それを感じ取ったからか、千歌は未だに不安が消えないものの、彼女はそっと自分の右手を無爪の胸に添える。

 

「全くもう・・・・・・。 でも、なっちゃんらしいかもね。 絶対に、絶対に無事に帰って来てね? 約束だよ?」

「うん、約束だ。 行ってくるよ、千歌ねえ! 僕は、ウルトラマンだから!」

 

無爪は必ず無事に帰って来ることを千歌と約束すると、無爪はエレベーターに乗り込み、レムにギャラクトロンのいる現場まで急いで送って貰うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラクトロンは目から放つ赤い閃光光線を放ち、町を破壊。

 

さらにそこからギャラクトロンは歩き始め、小さな建物は足で踏み潰し、大きなビル等は閃光光線を発射しながら破壊し、ギャラクトロンは暴れまくる。

 

それを丘の上から見ていたレイジと曜。

 

「あぁ・・・・・・遂に、またあの怪獣が動き出した! 曜ちゃん、家族と一緒に早くこの町から離れて逃げるんだ・・・・・・!」

 

レイジは急いで今すぐに家に帰って家族に一緒に逃げるように言い、彼女の腕を引いて渡辺家に連れて行こうとするが・・・・・・。

 

「避難はするよ。 でも、私も、お父さんもお母さんも、この町から出て行くつもりは毛頭ないんだよね・・・・・・」

「何言ってるんだ。 あの怪獣はジードでも勝てなかったくらいに強いんだ! もう、この町は・・・・・・」

「きっと大丈夫だよ。 私は最後はジードが勝つって信じるし・・・・・・それに、ウルトラマンはもう1人いるもん! そのウルトラマンだってきっと来てくれるって信じてる。 ウルトラマンは何時だって必ず・・・・・・来てくれる!」

「曜・・・・・・ちゃん・・・・・・」

 

そんな曜の言葉を受け、レイジは自分の震える右手を見つめ、その手を左手で押さえつける。

 

曜はゼロが今、どんな状態になっているのかを知らない。

 

それでも彼女はジードだけでなく、ゼロも必ず来てくれると信じている。

 

ゼロが本当に死んでしまったのかどうか、ハッキリとは分からないし、生きていたとして復活する見込みは薄い。

 

だが、それでもレイジは・・・・・・ここで逃げるなんてことも、ジッとしていることも出来なかった。

 

「行かなきゃ」

「えっ?」

「曜ちゃんは、家族や友達と一緒に避難所に向かって」

 

当然、いきなりそんなことを言われてもと曜は困惑してしまい、「レイジお兄ちゃんはどうするの? どこに行くの?」と尋ねる。

 

「どうしても行かないといけない場所があるんだ。 こんな頼りない僕だけど、ヘタレで弱い僕だけど・・・・・・それでも守りたいんだ。 曜ちゃん達や大好きなこの町も全部・・・・・・。 だから、祈ってて? ヒーローの復活を」

「レイジお兄ちゃん・・・・・・? なんか、よく分かんないけど・・・・・・分かったよ。 気をつけて行ってきて」

「うん」

 

レイジは曜の言葉に力強く頷くと、彼はギャラクトロンのいる方へと走っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、星雲荘のエレベーターを使ってギャラクトロンのいる現場へと無爪が到着。

 

『無爪、時間です。 変身が可能となりました』

「・・・・・・分かった。 ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと、カプセルホルダー腰のカプセルホルダーから「初代ウルトラマン」のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させるとそこからそのウルトラマンが出現。

 

「融合!!」

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に「ウルトラマンベリアル」のカプセルを取り出し起動させると今度はそこからベリアルが出現。

 

「アイ、ゴー!!」

 

同じくベリアルのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!』

「決めるぜ、覚悟!!」 

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すとウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、無爪は2人のウルトラマンの力を合わせた「ウルトラマンジード プリミティブ」へと変身を完了させたのだ。 

 

「はああ!! はぁ!! ジイィーーーード!!!!」

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

『行くぞぉ!!』

 

ジードはジャンプしてギャラクトロンに跳び蹴りを喰らわせ、それに怯んだギャラクトロンの隙を見逃さず何度も拳をギャラクトロンに叩き込む。

 

しかし、ギャラクトロンはジードの攻撃を受けても身体が多少揺れる程度であり、胸部から発射する閃光光線を撃ち込んでジードを引き離す。

 

『ウアア!!?』

 

さらにギャラクトロンは右腕の爪でジードの腹部を殴りつけ、身体が蹲ってくの字になった所をギャラクトロンは右足を振り上げてジードを蹴り飛ばす。

 

『グアアア!!?』

 

地面を転がるジードだが、なんとか立ち上がり、それと同時に前腕の鰭状の部位から放つ切断光線「レッキングリッパー」をギャラクトロンに放ち、続けざまに口から超音波を出して敵を攻撃する「レッキングロアー」を繰り出す。

 

『レッキングリッパー!! レッキングロアー!!』

 

それにギャラクトロンは両腕を交差してレッキングリッパーによる攻撃を耐えるが、続けて放たれたレッキングロアーによる攻撃で両腕を弾かれ、防御を崩してしまい、そこにジードが飛びかかって右手で頭を押さえつけ、左拳でギャラクトロンの顔を何度も殴りまくる。

 

『シュアアアア!!』

 

しかし、それでもギャラクトロンは大して怯みすらせず、後頭部から伸ばした大きな鉤爪の付いた「ギャラクトロンシャフト」を使い、背後からジードの身体を掴みあげ、自分から引き離すと空中に大きく投げ飛ばし、同時に胸部から放つ閃光光線をジードに撃ち込んで直撃させる。

 

『ウアアア!!!?』

 

攻撃を受けたジードは火花を散らしながら地面に倒れ込むが、それでもジードはフラつきながらもどうにか立ち上がる。

 

『グッ・・・・・・ウゥ・・・・・・。 負けるかぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

またレイジは今、息を切らしながらギャラクトロンと戦うジードの元へと向かって走っており、ようやくすぐ近くまで到着したのだが・・・・・・。

 

そこでレイジは躓いてしまい、その場に転んで倒れ込んでしまう。

 

「うわっ!? ぐっ・・・・・・無爪くん!!」

 

ジードは未だにギャラクトロンに劣勢であり、レイジは何か・・・・・・何か自分に出来ることはないかと必死に頭を回転させて考えるが・・・・・・。

 

「レイジさん」

 

そんな彼の元に、石になったゼロアイを持った千歌が現れたのだ。

 

「千歌ちゃん・・・・・・?」

「・・・・・・なっちゃんってさ。 私が言えたことじゃないかもしれないけど、普段はあんまり頼りないんだよね。 そんななっちゃんが、ウルトラマンなんて・・・・・・。 私は、なっちゃんのお姉ちゃんなのに・・・・・・何時も見守って応援するくらいしか出来ない」

 

レイジの前に現れた千歌はギャラクトロンと戦うジードを見つめながら、彼女は不意に何時も見守り、声援を送るくらいのことしか出来ないことを悔やんでいることをレイジに話し始める。

 

「私にもその力があれば・・・・・・せめてなっちゃんと一緒に戦えることが出来ればって・・・・・・そう思う。 なっちゃんが戦う度に、何時も心配で仕方が無いんだ。 だけど、なっちゃんがウルトラマンになったのは・・・・・・きっと運命なんだよね。 それは、レイジさんにとっても・・・・・・」

 

レイジは上半身だけを起こし、千歌はそんなレイジの前にしゃがみ込むと、石になったゼロアイをレイジに差し出す。

 

「なっちゃんは、レイジさんのおかげで自分が守るべきものが何か気付くことが出来たって言ってた。 それがなっちゃんがウルトラマンになってしたいことだって。 レイジさんは、ウルトラマンの力で・・・・・・何がしたいの?」

「・・・・・・」

 

レイジは千歌の差し出したゼロアイを手に取ると、千歌の問いかけに応えるように、ゼロに自分は何がしたいのか言うように、語り始める。

 

「僕も、守りたい。 この町の人の温かさや・・・・・・弱さに苦しんでる人達を支えてあげたい。 僕じゃ、2万年早すぎますか? それでもやってみたいんです! みんなを守るってことを・・・・・・!!」

 

そして、そんなレイジの想いに応えるかのように・・・・・・彼の胸に、小さな光が灯ったのだ。

 

「これって・・・・・・リトルスター!?」

「えっ、僕に・・・・・・?」

 

すると、レイジに宿ったリトルスターの影響を受けてかウルトラゼロアイの石化が解け、元の状態へと戻ったのだ。

 

『俺の相棒だったらもう30分早く判断しろ』

「ゼロさん・・・・・・!?」

『行くぞ、レイジ!』

 

再びゼロの声が聞こえ、レイジはそのことに喜ぶと彼は笑みを浮かべて「はい!!」と頷き、立ち上がる。

 

そしてメガネを外し、「ウルトラゼロアイNEO」を構え、目に装着し、スイッチを押して起動させる。

 

『デュア!!』

 

するとレイジの身体は光に包まれ、彼は赤と青の身体に銀色のプロテクター、頭部に2本の宇宙ブーメラン、「ゼロスラッガー」を装着した戦士、「ウルトラマンゼロ」が現れ、登場と同時にゼロはギャラクトロンの頭部に跳び蹴りを喰らわせ、蹴り飛ばしたのだ。

 

『シェア!!』

 

そして地面に着地し、大地に降り立つ。

 

『俺はゼロ・・・・・・ウルトラマンゼロだ!!』

『・・・・・・ゼロ!!』

「やった、復活したぁ!!」

 

ここにきて、ゼロが完全復活したことにジードも千歌も歓喜の声をあげるが・・・・・・。

 

戦いの様子をビルの屋上から見ていた荒井は逆に、驚愕した表情を浮かべ、忌々しげにゼロを睨み付けていた。

 

「な、なぁにぃ? そんな・・・・・・そんな・・・・・・!! ゼロが生きていただとぉ!? 巫山戯るな・・・・・・ふざけるなああああああああああ!!!!!」

 

荒井は自分の頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった後、ビル屋上の手すりを両手で掴み、ガンガンガンガンと血が吹き出るほど何度も自分の頭を激しくぶつける。

 

「アアアアア・・・・・・!! 殺したと思ったのに、殺したと思ったのにいいいいいいいいい!!!!!!」

 

しかし、怒りのせいで全く痛覚を感じていないようで今度は手すりを何度も激しく蹴りつけ、八つ当たりを始める。

 

『ゼロ! 遅いよ!』

『へっ、よく言うだろ? 主役は遅れてやってくるってな! 行くぞ!!』

『はい!!』

 

一方、ジードはゼロの元へと駆け寄り、2人のウルトラマンは並び立つと同時にギャラクトロンへと向かって行く。

 

戦闘BGM「ウルトラマンゼロ アクション」

 

ゼロとジードは同時にギャラクトロンに掴みかかるとジードは膝蹴り、ゼロは拳をギャラクトロンに同時に叩き込み、ギャラクトロンが僅かに後退ったところを狙い、ゼロとジードの2人はギャラクトロンの腹部に蹴りを左右同時に炸裂させる。

 

『シュア!!』

 

そこからジードの後ろ回し蹴りが繰り出し、ギャラクトロンに喰らわせるとそのままジードはしゃがんで土台となり、ゼロはそんなジードの背中を踏み台にして飛び、勢いをつけたゼロの拳がギャラクトロンの顔面に炸裂。

 

それにギャラクトロンは反撃とばかりに胸部から発射する破壊光線「ギャラクトロンスパーク」を放つが、ゼロは巨大な光のバリアーを作り出す防御技「ウルトラゼロディフェンダー」とジードは前面に円状のバリアを展開する「ジードバリア」でギャラクトロンスパークをなんとか防ぐ。

 

『ウルトラゼロディフェンダー!!』

『ジードバリア!!』

 

そして、荒井はというと・・・・・・。

 

彼は出血した額を抑えながらもなんとか冷静に、ようやく落ち着きを取り戻し・・・・・・今の状況をどうするべきか考えていた。

 

「逆に考えよう。 むしろ、ゲームが盛り上がったと・・・・・・!! そして、今度こそ・・・・・・ウルトラマンゼロ、私がこの手で・・・・・・お前を葬ってやろう・・・・・・!!」

 

荒井はゼロを睨み付けながらも、ライザーを取り出し、構える。

 

「キングジョー!!」

 

そこから荒井は金色のロボット、「宇宙ロボット キングジョー」の怪獣をカプセルを取り出し、起動させて装填ナックルに差し込む。

 

「ギャラクトロン!!」

 

さらにもう1つの「シビルジャッジメンター ギャラクトロン」のカプセルを取り出し、起動させ、装填ナックルに差し込む。

 

「これでエンドマークだ!!」

 

そこからライザーのスイッチを押して起動させ、装填ナックルをスキャンし、ライザーのトリガーを引く。

 

『フュージョンライズ!』

 

すると荒井の姿が「ウルトラマンベリアル」の姿へと変わり、ベリアルの前にキングジョーとギャラクトロンが現れ、2体は粒子のようになってベリアルの口の中へと吸い込まれるとキングジョーとギャラクトロンが合体したかのような姿の怪獣、「ベリアル融合獣 キングギャラクトロン」へと変身したのだ。

 

『キングジョー! ギャラクトロン! ウルトラマンベリアル! キングギャラクトロン!』

 

キングギャラクトロンへと変身を完了させた荒井は地上に降り立ち、ゼロとジードに向かって目から放つ赤い怪光線「ギャラクトロ・デスレイ」を発射。

 

『危ねえ!?』

『うわ!?』

 

それをゼロとジードは左右に飛ぶことでなんとか直撃避け、新たに現れた怪獣にゼロとジードは警戒する。

 

『新手か・・・・・・。 こいつは俺に任せろ。 そっちは任せたぞ!』

『おう!!』

 

ゼロはジードの胸を軽く叩くとゼロはキングギャラクトロン、ジードはギャラクトロンに向かって駈け出し、それぞれの相手と戦い始める。

 

『ウルトラゼロキック!!』

 

ゼロは両足に炎を纏わせて連続蹴りを叩き込む「ウルトラゼロキック」をキングギャラクトロンに繰り出すが、キングギャラクトロンはそれらの攻撃に全て耐え、左腕に虹色の魔法陣を形成し、素早い連続パンチを繰り出す「ペダニウムパンチング」で反撃し、ゼロを殴り飛ばす。

 

『ヌアア!!?』

『私の計画を台無しにしてくれた貴様だけは、貴様だけは許さんぞぉ!! ウルトラマンゼロォ!!』

 

それによって地面に倒れ込んだところを狙い、インナースペース内で荒井が怒りの声をあげながらキングギャラクトロンは右腕の「ペダニウムハードランチャー」から発射する強力な黄色いビーム攻撃を撃ち込もうとするが・・・・・・。

 

『回避が間に合わな・・・・・・!!』

 

その時、ゼロのインナースペース内にいたレイジに宿った胸のリトルスターが光を放ち、ゼロの左腕に装着されていた「ウルティメイトブレスレット」が突然修復されたのだ。

 

『これは・・・・・・』

 

それと同時に、キングギャラクトロンのビーム攻撃が放たれるが・・・・・・ゼロの身体が一瞬青く輝くとゼロの身体が青くなり、そこから素早く瞬間移動で攻撃を回避。

 

『なにぃ!?』

『ルナミラクルゼロ!』

 

気付いた時には青い身体となった「ルナミラクルゼロ」がキングギャラクトロンの懐に飛び込んでおり、右掌を相手に当てて衝撃波を放って相手を吹き飛ばす「レボリウムスマッシュ」を放つ。

 

『レボリウムスマッシュ!!』

『ぐおお!!? バカな、今、奴は姿を変える力を失っている筈・・・・・・!!』

 

荒井の言うように、ゼロの持つウルティメイトブレスレットは破損していた為、ブレスレットが無ければ使えなかった武器や姿を変えるタイプチェンジ能力などは使うことが出来なかった。

 

しかし、レイジに宿ったリトルスターの「時間を巻き戻す」力のおかげで今、ゼロはかつての力を一時的に取り戻していたのだ。

 

最も時間を巻き戻すにも限界はあるようで、ブレスレットからは火花が散っており、今のブレスレットはせいぜい「壊れる寸前」の状態で、ゼロの古傷も完全には治ってはいなかった。

 

『それでも十分だ! ミラクルゼロスラッガー!!』

 

しかし、タイプチェンジが出来るのなら十分だと言い放ち、ゼロは光のゼロスラッガーを作り出し、それを無数に分裂させて相手を切り刻む「ミラクルゼロスラッガー」をキングギャラクトロンへと放つ。

 

だが、それに対してキングギャラクトロンは全身からエネルギーを放出させることでミラクルゼロスラッガーを全て弾き飛ばし、ゼロに向かって駈け出し、体当たりを喰らわせる。

 

『ウアア!!?』

 

それを受けて吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだゼロ。

 

そこを狙いキングギャラクトロンはジャンプしてゼロを踏みつけようとするが・・・・・・。

 

『ストロングコロナゼロ!!』

 

素早く起き上がったゼロは赤い姿、「ストロングコロナゼロ」へと変わってキングギャラクトロンの両足を掴んで受け止めると相手を回転させながら投げ飛ばす「ウルトラハリケーン」を繰り出す。

 

『ウルトラハリケーン!!』

 

しかし、キングギャラクトロンは空中で体勢を立て直すとペダニウムハードランチャーから強力なビーム攻撃を放ち、それに対してゼロも右腕から撃ちだす高熱エネルギー弾「ガルネイドバスター」を放つ。

 

『ガルネイドォ!! バスタアアアア!!!!』

 

両者の光線は空中で激しくぶつかり合い、両者の間で爆発が起きる。

 

一方でジードもギャラクトロンと激しい戦闘を繰り広げており、ジードはギャラクトロンの背後に回り込んでギャラクトロンシャフトを掴みあげ、シャフトによる動きを封じながらギャラクトロンの背中を何度も蹴りつける。

 

『オリャアア!! シェア!!』

 

だが、ギャラクトロンはシャフトを自在に動かし、左右に勢いよく揺らすことでジードを引き離し、振り返りざまに目から閃光光線をジードに撃ち込んで吹き飛ばす。

 

『ウアアア!!?』

 

そしてキングギャラクトロンもペダニウムハードランチャーによるビーム攻撃と目から放つ赤い怪光線「ギャラクトロ・デスレイ」による同時発射による攻撃をゼロはまともに喰らってしまい、大きく吹き飛ばされ、ビルに突っ込んで倒れ込んでしまう。

 

『グアアア!!!!?』

 

その時に受けたダメージのせいでゼロはストロングコロナから通常形態に戻ってしまう。

 

『ぜ、ゼロさん!? 大丈夫ですか!?』

『あぁ、レイジ・・・・・・。 それより目の前の敵に集中だ!』

 

とは言っても、チラリと見ればジードの方もギャラクトロンの方に苦戦しており、自分もキングギャラクトロン相手に徐々に劣勢になりつつある。

 

どうすればと・・・・・・ゼロがそう考えていた時。

 

『んっ? あれは・・・・・・』

 

その時、ゼロに向かって飛んでくる巨大な光の球体が現れ、球体はゼロの身体を飲み込むと・・・・・・辺り一帯が白く染まる・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けばゼロの隣にレイジが立っており、2人の目の前にはゼロの故郷、光の国の科学者でもある青い光の戦士・・・・・・「ウルトラマンヒカリ」が立っており、ゼロはヒカリが現れたことに心底驚いた様子を見せていた。

 

「あ、あなたは・・・・・・?」

『ウルトラマンヒカリ・・・・・・!?』

『探したぞ、ウルトラマンゼロ。 新たな力を授けに来た』

 

そう言ってヒカリが右手をレイジとゼロにかざすと、2人の目の前には1つのライザーと装填ナックル、そして4つのウルトラカプセルが現れる。

 

『『ニュージェネレーションカプセル』、ゼロ専用のパワーアップアイテムだ。 さぁ、行け!』

 

それを受け、ゼロとレイジは互いに顔を見合わせて頷き合うと、2人同時にそのアイテムを手に取る。

 

すると場所が変わり、ゼロのインナースペース内にレイジは戻る。

 

『成程な。 よし、コウマ、零無、夜空、紅葉、お前等の力・・・・・・借りるぜ! 行くぞレイジ!!』

『はい!!』

 

レイジはライザーを取り出し、スイッチを押してそれを先ずは起動させる。

 

その後、目の前に浮かんだ青いクリスタルの巨人、「ウルトラマンギンガ」のカプセルを手に取り、起動させた後、装填ナックルへと差し込む。

 

『ギンガ!』

 

次に下半身は黒い模様、上半身は赤い模様の巨人、「ウルトラマンオーブ オーブオリジン」のカプセルを手に取り、それを起動させ、今度はそのカプセルを装填ナックルに。

 

『オーブ!』

 

そこからライザーで装填ナックルをスキャンさせ、ライザーのスイッチを押すと2つのカプセルが融合し、新たな1つのカプセル「ニュージェネレーションカプセルα」が生まれる。

 

『ウルトラマンギンガ! ウルトラマンオーブ! オーブオリジン! ニュージェネレーションカプセルα!!』

 

次にレイジは全身にV字のクリスタルのある黒い巨人、「ウルトラマンビクトリー」のカプセルを手に取り、それを起動。

 

『ビクトリー!』

 

それもまた装填ナックルに差し込み、今度はメカニカルな外見をした巨人、「ウルトラマンエックス」のカプセルをレイジは手に取り、起動。

 

『エックス!』

 

そこからまたライザーで装填ナックルをスキャンし、ライザーのスイッチを押すと今度はその2つのカプセルが融合し、新たなウルトラカプセル、「ニュージェネレーションカプセルβ」が生み出される。

 

『ウルトラマンビクトリー! ウルトラマンエックス! ニュージェネレーションカプセルβ!!』

 

さらにライザーにウルトラゼロアイNEOを装着させ、空中に浮かんだニュージェネレーションカプセルαを手に取り、それを起動させる。

 

『ギンガ! オーブ!』

 

するとそこからギンガとオーブが向き合うようにしてレイジの前に現れ、装填ナックルに装填。

 

『ビクトリー! エックス!』

 

続けてレイジはニュージェネレーションカプセルβを手に取り、起動して装填ナックルに差し込むと今度はそこからビクトリーとエックスが向き合うようにして姿を現す。

 

そしてライザーで装填ナックルをレイジはスキャンし、読み込ませる。

 

『ネオフュージョンライズ!!』

『俺に限界はねえ!!』

 

最後に、ゼロアイを装着したライザーを自身の顔の前にかざし、スイッチを押す。

 

するとレイジの身体がウルトラマンゼロの姿に変化すると、左右にギンガ、オーブ、ビクトリー、エックスの幻影が現れ、4人のウルトラマンの姿がゼロと重なり合う。

 

『ニュージェネレーションカプセル! α!! β!!』

 

そしてゼロは頭部のゼロスラッガーは倍の4本になり、ビームランプは大型化して3つに増え、胸部や肩のプロテクターがなくなり、カラータイマー周りがジードと酷似したものとなり、銀を基調にした紫のカラーリングの姿・・・・・・。

 

「ウルトラマンゼロビヨンド」へと強化変身したのだ。

 

『ウルトラマンゼロビヨンド!!』

『俺はゼロ、ウルトラマンゼロビヨンドだ!!』

 

ゼロが強化変身し、それを見たキングギャラクトロン内のインナースペースにいる荒井は「ギリギリ!!」と音が聞こえるほどの歯ぎしを起こし、ますます怒りが込みあがってくるのを感じた。

 

『あああああ!!!! どこまでも私の予想を上回りやがってえええええええ!!!!! ここでパワーアップだとぉ? 私が負けそうではないかぁ!!』

 

怒りのままにキングギャラクトロンは右腕のペダニウムハードランチャーを構えるが、ゼロはキングギャラクトロンがビームを撃つよりも先に頭部から光でできた四つのゼロスラッガーを飛ばし、自在にコントロールして相手を切り裂く「クワトロスラッガー」をキングギャラクトロンとギャラクトロンに放ち、2体を斬りつける。

 

『クワトロスラッガー・・・・・・!』

 

それを受けたキングギャラクトロンとギャラクトロンは身体から火花を散らしながら吹き飛び、ゼロはレイジに語りかける。

 

『今だレイジ! その光、リトルスターだったか? それをジードに譲渡するんだ! できるか!?』

『えっ!? でも・・・・・・良いんですかゼロさん!? これのおかげで少し力が戻ったんでしょ?』

 

レイジは僅かとはいえストロングコロナやルナミラクルといったかつての力が戻ったのに、それを手放しても良いのかと問いかけるが・・・・・・。

 

ゼロは「問題はない」とハッキリとレイジのその問いかけに応えた。

 

『へっ、心配ねえよ。 お前がいりゃ十分だ!!』

『ゼロさん・・・・・・分かりました、やってみます!!』

 

ゼロのインナースペース内のレイジは胸に宿るリトルスターの光に右手を添え、目を瞑り・・・・・・神経を集中させる。

 

(無爪くん・・・・・・どうか、この力を使ってくれ!!)

 

レイジがそうジードへと願うと、レイジに宿ったリトルスターが分離し、その光がジードのカラータイマーの中へと入ると、インナースペース内にいる無爪の手にその光が渡る。

 

『これは・・・・・・金色の、ゼロのカプセル?』

『シャイニングウルトラマンゼロカプセルの起動を確認しました。 ウルトラマンカプセルとフュージョンライズが可能です。 ですが、気をつけてください無爪。 シャイニングの力を使った形態は身体にとてつもない負担がかかります。 今のあなたではせいぜい5秒が限界・・・・・・』

 

無爪の手に渡ったリトルスターは金色の姿の「シャイニングウルトラマンゼロ」のカプセルへと変化し、それを受けてレムはウルトラマンカプセルとのフュージョンライズが可能であることを無爪に伝えるが・・・・・・。

 

そのフュージョンライズは身体に相当の負担がかかるため、使い時にレムから注意を受ける。

 

『分かった。 これはトドメの一撃に取っておく!』

 

無爪は取りあえずは一旦カプセルを仕舞い込むが・・・・・・その隙を突いてそこで起き上がった来たギャラクトロンが目から閃光光線を発射。

 

『ゲッ、しまった!?』

 

まともな防御が間に合わず、ジードは咄嗟に両腕を交差して攻撃を耐え抜こうと身構えるが・・・・・・。

 

『シェアアア!!』

 

その時、空からウルトラマンヒカリが降り立ち、右腕に装着された「ナイトブレス」から展開した光の剣、「ナイトビームブレード」を振るうことでギャラクトロンの光線を弾いたのだ。

 

『あなたは・・・・・・!?』

『私はウルトラマンヒカリ。 ゼロと同じ、M78星雲から来た。 君の噂は聞いているぞ、ウルトラマンジード。 私も手を貸そう』

『えっ、でも・・・・・・僕は・・・・・・』

『話は後だ。 行くぞ!!』

 

色々と戸惑うことはあるものの、ヒカリの言う通り先ずは目の前にいるギャラクトロンの撃破が先だと思い、ジードは「はい!!」と頷き、返事を返す。

 

挿入歌「Radiance~ウルトラマンヒカリのテーマ~」

 

ジードとブレードを一度仕舞ったヒカリは共に並び立ち、ギャラクトロンに向かって掴みかかる。

 

『デヤア!!』

『シェア!!』

 

そこからジードは膝蹴りをギャラクトロンの腹部に叩き込み、ヒカリは手刀をギャラクトロンの首筋に繰り出す。

 

だがギャラクトロンはなんとか2人のウルトラマンを引き離し、右腕をジードに飛ばして攻撃を仕掛け、その攻撃を受けてジードは吹き飛ばされる。

 

『ウアア!!?』

 

そのまま空中に浮かんだギャラクトロンの右腕は光線をヒカリに向かって放つ。

 

しかし、ヒカリはジャンプして躱し、ギャラクトロンの右腕に向かって飛ぶと再びナイトビームブレードを展開するとそれを振るってそれを真っ二つに切り裂き、地面に叩き落とす。

 

『デエイ!!』

『ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!』

『スマッシュビームブレード!!』

 

ヒカリとコスモスのカプセルを使い、2人の力を融合させた姿「アクロスマッシャー」になるとジードは右手に光の剣を形成する「スマッシュビームブレード」を出現させ、ヒカリと共にギャラクトロンに向かって駈け出して行くと2人はすれ違いざまにギャラクトロンを左右から斬りつける。

 

攻撃を受けたギャラクトロンは身体中から火花を散らすが、それでも未だに動き続け、ギャラクトロンシャフトを伸ばしてヒカリの身体を掴みあげると持ち上げてジードの方へと投げ飛ばす。

 

『ヌウアアア!!?』

『ウアア!!?』

 

2人は互いに激突し、地面に倒れ込む。

 

そこを狙い、ギャラクトロンは空中へとジャンプして2人を踏みつけようとするが・・・・・・ジードとヒカリはなんとか身体を転がすことで攻撃を回避し、起き上がる。

 

ヒカリは両手を上下に広げて放つ必殺光線「ホットロードショット」を放ち、ギャラクトロンはそれをバリアで張り巡らせて防ぐが・・・・・・。

 

『うおおおおおおお!!!!!』

 

徐々にバリアは耐えきれなくなり、粉々に砕けると光線はギャラクトロンに直撃し、ギャラクトロンは火花を散らしながら大きく吹き飛び、倒れ込む。

 

『今だジード!! 君が決めろ!!』

『はい!!』

 

ジードはヒカリの言葉に頷くと、インナースペース内の無爪はウルトラマンカプセルを取り出す。

 

『融合!』

 

ウルトラマンのカプセルを装填ナックルに装填させた後、さらにそれとは別に先ほど手に入れた「シャイニングウルトラマンゼロカプセル」を取り出し、それも起動させる。

 

『アイ、ゴー!!』

 

それもナックルに装填し、ジードライザーで装填したカプセルをスキャンする。

 

『ヒア、ウィー、ゴー!!』

『フュージョンライズ!』

『目指すぜ、天辺!!』

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押して起動させる。

 

『はああ、はぁ!! ジィィーーーード!!!!』

 

ウルトラマンとシャイニングゼロの姿が重なり合い、ジードは新たに両腕に刃のようなものを装備し、胸部と両肩には銀色のプロテクター、額に青いクリスタルのある新たな姿、「ウルトラマンジード シャイニングミスティック」へと姿を変えたのだ。

 

『ウルトラマン! シャイニングウルトラマンゼロ! ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!』

 

そこへ起き上がったギャラクトロンが「それがどうした」と言わんばかりに胸部と両目から同時に閃光光線をジードに向かって放って来るが、ジードは右手をギャラクトロンにかざすとギャラクトロンの「時間が僅かに巻き戻り」、光線が引っ込んでしまう。

 

このことにギャラクトロンは困惑した様子を見せ、ジードは両腕の刃を相手に飛ばして切り裂く「スラッガーカッティング」を繰り出す。

 

『スラッガーカッティング!!』

 

それによってギャラクトロンシャフトと胸部が切り裂かれ、トドメの一撃として頭上に太陽のような光球を召喚し、相手の時間を止めたあと腕を十字に組んで光線を撃つ必殺光線「スペシウムスタードライヴ」を放つ。

 

『スペシウムスタードライヴ!!』

 

その攻撃を受け、ギャラクトロンは耐えきれず倒れ込んで爆発し、遂に倒されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またジードとヒカリがギャラクトロンと戦っているのと同じ頃・・・・・・。

 

挿入歌「ULTRA FLY」

 

左腕に虹色の魔法陣を形成し、素早い連続パンチ「パダニウムパンチング」をキングギャラクトロンはゼロビヨンドへと繰り出すが、対するゼロも紫色のエネルギーを纏った目にも止まらぬ連続パンチ「ゼロ百裂パンチ」を繰り出し、互いに拳が何度もぶつかり合うが・・・・・・。

 

やがてキングギャラクトロンの左腕がゼロの拳に耐えきれなくなり、裂けるようにして破壊される。

 

『シェア!!』

 

そのままの勢いでゼロはキングギャラクトロンの身体を殴りまくり、空中へと殴り飛ばすとキングギャラクトロンはペダニウムハードランチャーを構え、ビームを撃ち込もうとするが・・・・・・ゼロは一瞬でキングギャラクトロンよりも空高く跳び上がると、そのままキングギャラクトロンの背中に蹴りを炸裂させて地面に叩き落とす。

 

それにフラつきながらもなんとか立ち上がるキングギャラクトロン。

 

だが、直後にゼロの繰り出して来た急降下パンチが顔面に直撃し、キングギャラクトロンは大きく吹き飛ばされる。

 

『グウウウ!!!! おのれウルトラマンゼロォ!!!!』

 

それでも負けじと立ち上がり、ゼロへと戦いを挑んでくるキングギャラクトロン。

 

ゼロは殴りかかってくるキングギャラクトロンの拳を躱すと、、カウンターとして腹部にパンチを叩き込み、連続でアッパーカットをキングギャラクトロンに喰らわせる。

 

『オリャアア!!』

『ガアアアア!!!?」

 

そしてゼロは周囲に八つの紫色の光球を出現させ、一斉に光線を放って相手を撃ち抜く必殺光線「バルキーコーラス」を放つ。

 

『銀河の果てに、ぶっ飛ばしてやるぜ!! バルキーコーラス!』

 

それをキングギャラクトロンは魔法陣によるバリアを展開し、攻撃を防ごうとするが・・・・・・そのバリアはまるで最初から無かったかのようにあっさりと砕かれ、バルキーコーラスによる直撃を受けて光線が身体を貫くとキングギャラクトロンは火花を散らしながら倒れ、爆発するのだった。

 

『そん・・・・・・な!! まだ、まだだ!! まだ私は負けて・・・・・・ぐああああああああああ!!!!!?』

 

そして・・・・・・そこへギャラクトロンを倒し終え、ゼロの元にヒカリとシャイニングミスティックによる大きな消耗のせいでヒカリに支えられ、プリミティブに戻ったジードがやってくると、3人のウルトラマンはお互いに頷き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああ!!!!! ああああああ!!!!!」

 

ゼロに敗北し、人気の無い場所で倒れ込んだ荒井は大声をあげながら何度も拳を地面に叩きつけ、声にならない叫びをあげ続けていた。

 

「ハァ、ハァ・・・・・・。 まぁいい。 少々難易度は上がったが、これはこれでゲームは盛り上がる。 それに、私の最終目的はウルトラマンゼロ、貴様ではない。 悪が勝つ物語は、まだ終わっていないのだから・・・・・・!」

 

荒井はそう呟きながら、なんとか起き上がり、頭を抑えながらそこから去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを、僕に?」

 

その後、ジードとゼロは変身を解いて無爪とレイジの姿に戻ると、ヒカリは片膝を突きながら無爪に2つのカプセルを渡したのだ。

 

『これは盗まれなかった2つのカプセルだ。 『ウルトラマンメビウス』のカプセルと、『ゾフィー』のカプセル。 君にそれを託そう』

「でも、良いんですか? だって、僕は・・・・・・」

『君は別に何も悪いことなどしていないんだろ? それに、強敵を相手にたった1人でも最後まで諦めず、みんなを守る為に戦った君は、立派なウルトラマンだ』

 

ヒカリは「兎に角受け取っていてくれ」と頼むと、ヒカリはそこから立ち上がる。

 

『ウルトラマンジード。 君にも仲間がいるんだろう? なら、決して忘れるな。 この世に生きる者は皆支え合って生きていること、君は・・・・・・1人ではないということを』

 

ヒカリのその言葉を受け、無爪は一瞬、後ろを振り返り、そこに立っている千歌や何故か先ほどからグスグス泣いているレイジ、またここにいないAqoursのメンバーやペガ、レムを思い浮かべながら無爪は再びヒカリを見上げると、「はい!!」と力強く返事を返す。

 

『うむ。 では、さらばだ』

 

ヒカリはそんな無爪に頷くと、彼は空へと飛び立ち、光の国へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、ぐす、ぐすっ。 ご、ごめんね無爪くん。 本当にありがとう・・・・・・」

 

その後、無爪とレイジはベンチのある場所に腰掛けて身体を休めていたのだが・・・・・・唐突にレイジが泣き出してしまい、そのことに無爪や合流して一緒にいた千歌は「えっ!? なんで泣いてるの!?」と困惑していた。

 

「千歌ちゃんもごめんね。 それと、ありがとう・・・・・・」

「いやそんな、私の方こそ・・・・・・ぶって、ごめんなさい・・・・・・」

 

動揺しつつも千歌はレイジのことをぶってしまったことを謝罪し、無爪は立ち上がってレイジに手を差し伸べると、それにレイジも戸惑いながらもその手を握り、お互いに笑みを浮かべるのだった。

 

「それにしても、レイジさんが発症したリトルスターって時間をある程度巻き戻すものだったんだよね? だったら、どうしてゼロは今も無事でいられてるの?」

 

そこでふっと千歌が疑問に思ったことを口にし、それにはレイジも「確かに」と疑問を抱かずにはいられなかった。

 

レイジが発症したリトルスターは「周囲の時間をある程度巻き戻す」というもの。

 

だからこの能力でゼロは復活し、一時的にストロングコロナやルナミラクルゼロになれたのだろうと思ったのだが・・・・・・今はレイジがリトルスターを手放した為、ストロングコロナにもルナミラクルにもまたなれなくなってしまった。

 

にも関わらず、ゼロ自身はちゃんと復活したまま。

 

最も喜ばしいことであるのは間違いないのだが。

 

「それはきっと、ゼロが復活出来たのはリトルスターだけの影響じゃないからだと思う。 きっと、レイジさんの想いが、ゼロに通じたんだよ」

「そう、かな?」

『そうだよ。 お前の想いが、俺を復活させてくれたんだ。 だから自信を持て!』

 

無爪とゼロにそう言われ、レイジは嬉しそうに「分かった!」と頷くのだった。

 

「おーい! レイジお兄ちゃん!! なっちゃん!! 千歌ちゃーん!!」

 

そこへこちらに手を振りながら梨子に善子やルビィ、花丸を引き連れて現れる曜の姿が見え、無爪達は彼女等に手を振り返す。

 

「あっ、曜ちゃーん!! みんな~!」

 

人にはそれぞれ、運命がある。

 

力の無さに泣いたり、大切な人を失ったり。

 

どうして自分が、そう思うこともあるだろう。

 

でも、大切なのは運命を越えて行くこと。

 

そうすれば、見えていく景色がきっとある。

 

 

 

 



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第10話 『Saint Snow』

「この前のPVが5万再生?」

 

浦の星学院、スクールアイドル部の部室にて千歌が団扇を扇いでいると、ノートパソコンを開き、以前撮影した「夢で夜空を照らしたい」のPV確認をしていた曜達がその動画がかなりの高評価を得ていることを彼女等は千歌に報告しており、それを受けて「マジで?」と言いたげな表情で反応する千歌。

 

さらに動画のランキングも99位と千歌達の予想を遥かに上回る結果となっており、そのことに梨子は信じられないと言わんばかりに驚愕し、花丸もランキングの順位を見て「ずら!?」と驚いているようだった。

 

これには善子の頭の上に乗っているモコも意味が分かっているのか分かっていないのかは不明だが、それでも善子も喜んでいるのを感じ取ってか「モコォ〜!!」と鳴き声をあげながら嬉しそうに尻尾を振り、無爪の影の中・・・・・・ダークゾーン内で話を聞いていたペガも「すごーい!!」と歓喜の声をあげていた。

 

「99位・・・・・・!?」

「来た・・・・・・! 来た来たぁ!! それって全国でってことでしょう!? 5000以上いるスクールアイドルの中で100位以内ってことでしょう!? そういうことだよね!? どうよなっちゃん!! 凄いでしょ!? 私達凄くない!?」

 

ランキングの順位を聞いた千歌は何故か無爪に対して胸を張りながらドヤ顔で99位になったことを自慢げに語り、それに対して無爪も確かにこの前全員スクールアイドルを始めたばかりの娘達だというのにも関わらず、5000以上あるスクールアイドルの中でランキングに100位以内に入るのは凄いことだと痛感し、流石に今回は何時ものような軽口や皮肉も叩くことが出来なかった。

 

「全員、まだスクールアイドルを始めて日が浅いって言うのに、確かにそれでこの順位は凄いかも・・・・・・」

 

なので、無爪は何時ものような軽口を千歌には叩かず、素直にAqoursのランキングが99位になったことを褒め称えるのだが、そんな無爪を見て千歌と曜は面喰らったかのような表情を浮かべながらお互いに顔を見合わせ、彼女等2人は無爪が珍しく素直に自分達のことを褒めてくれたことに驚きの声をあげたのだ。

 

「あ、あのなっちゃんが・・・・・・!! 私達のこと素直に褒めてくれた!?」

「てっきり、なっちゃんのことだから『べ、別に普通なんじゃないの?』とか言いながら実は浮き足立ってて内心凄く喜んでくれてるって感じの反応だと思ったのに・・・・・・! がっかりだよなっちゃんには!!」

「曜ねえは僕に何を期待してるの!? 僕だってちゃんと褒める時はちゃんと褒めるよ!?」

 

千歌も曜ももっと無爪がツンツンした態度で「あんまり調子乗るな」くらいは言ってくると思っていたものだから、彼女等2人は無爪の予想外の反応に心底驚き、動揺してしまい、特に曜に至っては何時ものツンデレを見せてくれなかった無爪にぶーぶーと文句を垂れていた。

 

「なっちゃんからツンデレを取ったら何が残るのさ? なっちゃんのツンデレは可愛いのに、特オタ要素しか残らないじゃん!」

「そもそも僕はツンデレじゃない!!」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

そんな無爪のツンデレじゃない発言に対し、千歌、曜、梨子、ルビィ、花丸、善子の全員が一斉に無爪に注がれ、「それマジで言ってんの?」とでも言いたげな視線を向けられ、全員の視線を受け、それに「えっ?」となる無爪。

 

「いや、アンタはどう考えても言い逃れできないレベルのツンデレだから」

「なっちゃん、自覚無かったんだね・・・・・・」

 

善子からはもはや誰がどう見てもツンデレだと言われ、そのことに自覚無かったのかとどこか呆れたように呟く曜。

 

確かに自分は素直じゃない性格をしているなという自覚は多少はあるが、だかと言って「ツンデレ」と言われるような性格はしていないと思っていたので、千歌達からツンデレと言われてイマイチ納得がいかない無爪。

 

「まぁ、ツンデレって言ってもその『デレ』る時の相手に関しては何時も特定の1人が基本的に多いみたいだけどね・・・・・・」

 

ニマニマした顔をしながら、曜は千歌の顔を見つめると、千歌はそれに「ほへ?」と間の抜けた声を出しながら彼女の言っている意味が理解できず、小首を傾げるのだが・・・・・・逆に曜の言っている言葉の意味を理解した無爪は顔を真っ赤にして「コラァ!!?」と彼女を怒鳴りあげる。

 

「だ、だだ・・・・・誰が千歌ねえになんて・・・・・・」

「誰も千歌ちゃんなんて言ってないよなっちゃん?」

「ぐっ、この・・・・・・!!」

 

小声で何言ってくれてんだと文句を曜に垂れる無爪だったが、曜はニヤニヤした表情のまま誰も千歌のことだとは言っていないと誤魔化されてしまい、忌々しげに曜を睨む無爪であった。

 

(全く、曜ねえには一生敵う気がしないな・・・・・・)

 

取りあえず、今は無爪がツンデレなのかどうかよりも、ランキングの話の方が重要だ。

 

なので、梨子は「そろそろ話を戻さない?」と脱線しかけていたランキングについての話に軌道修正して戻し、改めてランキングの順位を確認すると、千歌達は「やっぱり何度見てもすごーい!!」と大はしゃぎ。

 

「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでも凄いわね!」

「ランキング上昇率では1位!!」

「わぁー! 凄いずらぁ!!」

「なんかさ、このままいけばラブライブ優勝出来ちゃうかも!!」

 

動画の評判を聞いている内に、千歌はふっとこのままならラブライブに優勝できるかもしれないなんて、そんなことを言いだしたのだが・・・・・・。

 

流石にこれには先ほどとは違い、「それは幾ら何でも調子乗りすぎ」と無爪から注意される千歌。

 

「あんまり調子乗ってると、足下掬われるよ千歌ねえ?」

「無爪くんの言う通り、そんな簡単な訳ないでしょ?」

 

梨子も無爪の意見に同意し、そんな簡単に上手く行く筈が無いと言われる千歌だが、そんなこと千歌自身にも分かっていることだった。

 

だが、それでもこの状況だとどうしても考えてしまうのだ。

 

この勢いを維持し続ければ、もしかしたらラブライブにだって優勝出来てしまうのではないかと。

 

「分かってはいるけど、それでも可能性は0じゃないってことだよ!」

「そりゃまあ、もしかしたらってあるかもしれないけどさ・・・・・・」

 

すると、そんな時のことである。

 

彼女等の使うノートパソコンに、1通の電子メールが届いたのは。

 

「んっ? これ・・・・・・」

「『Aqoursのみなさん、東京スクールアイドルワールド運営委員会』」

 

ルビィがパソコンに届いたメールを開くと、差出人は「東京スクールアイドルワールド運営委員会」と呼ばれるところからであり、一体そんなところから自分達に一体なんの用だろうかと首を傾げる一同。

 

「東京って、あの東にある京の・・・・・・?」

「なんの説明にもなってないけど?」

「っていうかなんの説明だそれ?」

 

千歌の言葉に対し、梨子と無爪の2人からツッコミを入れられ、再びメールの内容に目を通すとそこには東京からスクールアイドルのイベントがあるのでそれに是非参加して欲しいというお誘いのメールがあり、千歌達は数秒間、そのメールの内容の意味を理解することが出来なかったが・・・・・・。

 

「「「「「「東京だぁ!!?」」」」」」

 

そして、数秒間の沈黙が流れた後、自分達は東京でライブが出来るということを理解し、彼女等は目を輝かせたのだ。

 

「えっ、つまりどういうこと?」

 

ただ無爪だけはあんまり理解していなかったようだったが。

 

『つまり、ラブライブほどではないけど東京の大きなスクールアイドルの一大イベントに、Aqoursがお呼ばれしたってことみたいだね』

「あっ、成程」

 

一応、ペガから説明を受けたことでメールの内容の意味を無爪もようやく理解することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

黒澤家にて・・・・・・。

 

「東京?」

「うん、イベントで、一緒に歌いませんかって・・・・・・」

 

部活が終わり、家に帰宅したルビィは念のために報告しなくてはと思い、彼女は不安げな表情を浮かべつつも姉のダイヤにも東京のスクールアイドルイベントに自分達Aqoursが招待されたことを伝えていた。

 

「東京の・・・・・・スクールアイドルイベント・・・・・・」

 

それを受けて、ダイヤは何か思うところでもあるのか、どこか険しそうな顔を彼女は見せ、そんな険しい表情を見せるダイヤに、ルビィは不安な気持ちを抱くが・・・・・・それでも物怖じせず、しっかりと伝えるべきことは全て伝えようと彼女は口を開く。

 

「あ、あのね! ちゃんとしたイベントで・・・・・去年のラブライブで入賞したスクールアイドルも沢山出るみたいで・・・・・・」

 

東京からの誘いを受けて速攻で千歌がお小遣い前借りしてでも東京に「行きます!!」と決断したこともあり、出来ることならば自分も行きたいとルビィは東京で行われるスクールアイドルイベントへの参加の是非についてダイヤに尋ね、「やっぱり、ダメ?」と不安げな表情のまま問いかける。

 

「鞠莉さんはなんと仰ってるの?」

「みんなが良ければ理事長として許可を出すって・・・・・・」

 

それを受け、ダイヤは少しばかり考え込むと・・・・・・彼女は黙ったままその場を立ち去ろうとする。

 

「っ、お姉ちゃん!!」

 

しかし、立ち去ろうとするダイヤをルビィは呼び止め、それを受けてダイヤは思わずその場に立ち止まる。

 

「お姉ちゃんは、やっぱり嫌なの? ルビィがスクールアイドル続けること・・・・・・」

「・・・・・・ルビィ? ルビィは自分の意志でスクールアイドルを始めると決めたのですよね?」

 

ダイヤがルビィに背を向けたまま、彼女はそのような問いかけをルビィにすると、問いかけられたルビィは力強く「うん!」と頷き、彼女のその背中を向けたままでも分かる力強い返事にダイヤは満足したかのようにルビィの方へと振り返って微笑むと、そっと彼女の近くまで歩み寄る。

 

「だったら、誰がどう思おうと関係ありません。 でしょう?」

「でも・・・・・・」

「ごめんなさい。 混乱させてしまってますわよね? あなたは気にしなくて良いの・・・・・・」

 

ダイヤは昔スクールアイドルの雑誌を読んでいたルビィに対し、ダイヤは「それ仕舞って。 二度と見たくない」と発言したことがあった。

 

それを受けて、ルビィは自分自身に負い目のようなものを感じ、自分の姉がスクールアイドルを嫌いになったからという理由でルビィ自身もスクールアイドルへの興味を必死に無くそうとしたいたことにはダイヤも薄々気付いていた。

 

確かに、ダイヤはスクールアイドルに対して複雑な感情を抱いているのは間違い無かった。

 

しかし、だからと言って彼女は自分がそうだからと言ってルビィにまでそれを強要するつもりなんてない。

 

今のルビィは他の誰かなんて関係無く、自分自身の意志で自分が好きなスクールアイドルへの活動を行っているのならば、節度を持ってスクールアイドルをやってくれているのなら、自分が口を出すようなことは何も無かったのだ。

 

「私は、ただ・・・・・・」

「ただ・・・・・・?」

「いえ、もう遅いから今日は寝なさい」

 

そこで、何かを言いかけたダイヤだったが・・・・・・彼女はそれを最後まで言わず、ルビィに今日はもう早く寝るようにだけ言うと、彼女は部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ルビィから東京でのイベントの話を聞いたダイヤは、鞠莉に確かめることが出来たために家を飛び出て彼女のいる淡島ホテルへと向かうことになった。

 

淡島ホテルに到着すると、ダイヤは鞠莉のいるであろう部屋に真っ直ぐ進み、彼女のいる部屋に訪れると彼女は自分が来ることを予想していたのか、「来ると思った」と開口一番にそう言葉を発してきたのだ。

 

最も、鞠莉なら自分が来ること予想しているだろうなということもダイヤは予想出来ていたので、ダイヤは特に驚きはしなかったが。

 

「・・・・・・どういうつもりですの? あの娘達を今、東京に行かせるのがどういうことか分かっているのでしょう?」

 

なので、ダイヤも特に前置きはなど無く、鞠莉に何故千歌達が東京に行くことを許可したのか、ストレートに疑問を彼女へとぶつけたのだ。

 

「なら止めれば良いのに。 ダイヤが本気で止めれば、あの娘達は諦めるかもしれないよ? ダイヤも期待してるんじゃない? 私達が乗り越えられなかった壁を、乗り越えてくれることを・・・・・・」

 

壁に寄りかかりながら、千歌達に何かを期待しているかのような不敵な笑みを浮かべる鞠莉。

 

「もし乗り越えられなかったらどうなるか、十分知ってるでしょう!? 取り返しがつかないことになるかもしれないのですよ!?」

 

そんな鞠莉に、ダイヤは鋭い視線を鞠莉に向けながら、彼女がそう鞠莉に問い詰めるものの、鞠莉は笑みを崩さない。

 

「だからと言って、避ける訳にはいかないの。 本気でスクールアイドルとして、学校を救おうと考えているなら・・・・・・」

 

次の瞬間、ダイヤが鞠莉に素早く近寄ると、彼女の顔のすぐ真横にある壁に「パン!!」と手を突くと、彼女はジッと鞠莉を睨み付ける。

 

「変わっていませんのね? あの頃と・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、Aqoursの6人+無爪+彼のダークゾーン内にいるペガは早速東京で開催されるスクールアイドルのイベントに参加するため、曜と善子は一足先に駅で待つこととなり、千歌、梨子、花丸、無爪、ルビィは十千万の前で合流することになったのだが・・・・・・。

 

「東京トップス!! 東京スカート!! 東京シューズ!! そして〜!! 東京バッグ!! えへ♪」

「一体、何がどうしたの?」

 

そこでは最初に家が近いということもあって、千歌、無爪、梨子の3人が合流することになったのだが無爪より少し遅れて旅館から出てきた千歌の格好は・・・・・・なんと言えば良いのか、兎に角奇抜と言うべきか、かなりド派手なものとなっていた。

 

それに膝を抱えながら千歌を待っていた梨子は、呆れたような視線を千歌へと向け、無爪は目をまん丸にして唖然としていたのだ。

 

「どうしたの? その格好・・・・・・?」

「バカさ全開じゃん・・・・・・」

「むぅ、誰がバカだってなっちゃん!? っていうか、なっちゃんこそ何それ!? Tシャツにドンシャインのイラストがプリントされてるじゃん!! なっちゃんだって特オタ丸出しじゃん!!」

 

千歌の言う通り、無爪の着ている服はドンシャインのイラストがプリントされてあるTシャツであり、千歌的には無爪こそ「そのTシャツはなんだ!? そのドンシャインのイラストは!? その痛シャツなんだ!?」と言いたくなるようなおかしな服装だと訴えるが、彼女に比べたら無爪の服装の方が全然マシである。

 

梨子の方もこういう服着てる人は比較的割とそこそこ多かったりするので、彼女的には無爪の服装について特に言及するようなこともなく、むしろ無爪がこういう服持っているであろうことくらいは予想出来ていたので咎めるようなこともしなかった。

 

尚、よく見れば旅館の扉からそっと千歌を見つめつつ、クスクス笑っている美渡の姿があり、それを見た無爪は美渡が何かあること無いことを千歌に吹き込んだんだなということを即座に理解し、なんの疑問も持たずにこんな格好をして騙されてしまう千歌も千歌だが、これには関しては千歌だけが悪い訳ではないなと思い、後で美渡のことも注意しておこうと思う無爪だった。

 

「東京行くからってそんなに構えなくても・・・・・」

「梨子ちゃんは良いよ〜。 内浦から東京行くなんて、一大イベントなんだよ!!」

「内心舞い上がってるのは分かるんだけどさぁ・・・・・・」

 

梨子も無爪も、千歌のテンションが上がる気持ちが分からない訳では無いが、それでもこれは美渡に色々と吹き込まれたからと言えどズレにズレまくってるな思い、取りあえず普通の服装に着替え直して来いと無爪が言おうとした時・・・・・・。

 

「「おはようございます!!」」

 

不意に、花丸とルビィの声が聞こえ、無爪や梨子もおはようの挨拶をしてきた2人に自分達も「おはよう」と挨拶を返そうとするのだが・・・・・・2人の姿を見た瞬間、梨子と無爪は固まってしまった。

 

「「おは・・・・・・え゛っ!!?」」

「ど、どうでしょう・・・・・・? ちゃんとしてますか?」

「こ、これで・・・・・・渋谷の険しい谷も大丈夫ずらか?」

 

そんなルビィと花丸の格好はと言うと、ルビィは服の真ん中に熊のようなイラストが描かれ、色々と派手に着飾った格好をしており、花丸はツルハシを手に持ちながら何故か探検家のような格好をしており、千歌に負けじと奇抜な服を身に纏っていたのだ。

 

「なに・・・・・・その、仰々しい格好は・・・・・・?」

 

梨子に「仰々しい」と言われ、口を揃えて2人は「ガーン!!」と言いながらショックを受け、互いに顔を見合わせて涙目になる花丸とルビィ。

 

「それに、渋谷は険しくない」

「2人とも地方間丸出しだよ!」

 

そんな2人を見て、千歌はクスクスと笑うが・・・・・・そんな千歌に、無爪はどこからか取り出した柔軟性の柔らかいブーメランを手に持つと、それをコトンッと軽く千歌の頭に角を押しつける。

 

「えっ、ちょっ、何なっちゃん!?」

「千歌ねえ、ブーメランって知ってる?」

「・・・・・・? ??」

「お前が言うなって意味よ、千歌ちゃん」

「えっ? えぇー!!!!?」

 

取りあえず、梨子に言われて花丸とルビィ、千歌は一旦家に戻して着替えさせ、彼女等が着替えて終えてまた集合するまで、無爪と梨子は2人で待つことになるのだった。

 

「・・・・・・というかさ、僕まで一緒について行って良かったのかなぁ・・・・・・。 僕、部員じゃないんだけど」

『まぁ、もう無爪も部員の1人みたいなものだし。 それに千歌ちゃんも一緒に来て欲しそうにしてたし良いんじゃない?』

「半ば強引だったけどね」

 

無爪はAqoursのみんなとよく一緒に行動しているとは言え、明確には部員ではないのでそんな自分が一緒に東京に行っても良いのだろうかとそのことについて無爪は梨子に気付かれないように自分の影の中にいるペガに相談するのだが、そもそもAqoursのリーダーである千歌が「一緒に行こう行こう」と無爪を強引に誘ってきたのだから、無爪はそこまで気にすることはないと思うよとペガは言い、それを受けて無爪も「それもそうか」と納得するのだった。

 

ペガが一緒にいるとは言え、決して女の子6人と一緒に旅行が出来るからとか、だから断れなかったとか、決してそんなのではない、多分・・・・・・。

 

ちなみに、怪獣が街に現れた場合にはレムに星雲荘のあのどこで〇ドアならぬどこでもエレベーターを出して貰って駆けつけるつもりなのでその辺の心配は特には無い。

 

それに先日・・・・・・。

 

『無爪くんは、千歌ちゃん達と旅行楽しんでおいでよ。 君はまだ学生なんだから、そういうイベントは楽しんだ方が良い』

『あぁ、こっちは俺達に任せな』

 

東京に行くことを星雲荘でレイジやゼロに話すと、そんな心強い言葉を発しながらレイジもゼロもいざという時には自分達に任せろと言って来たので、無爪はそういった意味でも安心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千歌、花丸、ルビィは一度家に帰らせて普通の格好に着替えさせ、旅館に再集結してから志満に全員車に乗せて貰い、曜と善子の待つ沼津駅まで送って行って貰うことに。

 

「結局、何時もの服になってしまった・・・・・・」

「そっちの方が可愛いと思うけど?」

 

何時も通りの服装で良いと言われたとは言え、もっと気合いの入った服装に本当にしなくて良かったのかという不安を口にする花丸だが、むしろ変に気合いの入った格好をするよりも、今のような格好の方がずっと可愛いと梨子に言われたことで花丸は「本当ずら!?」と気持ちを持ち直すことができた。

 

「えぇ。 でもその『ずら』は気をつけた方が良いかも・・・・・」

「ずらぁ!!?」

「・・・・・・」

 

また、花丸や千歌と同じく、普通の服装に着替えたルビィはというと・・・・・・先ほどからずっと窓の外を見つめており、彼女は家を出る際に、玄関でダイヤに言われたことを思い返していた。

 

『ルビィ・・・・・・』

『んっ?』

『気持ちを、強く持つのですよ・・・・・・?』

 

優しくそんな風に微笑みながら、ダイヤに気を強く持つようにと言われて、ルビィは「あれはどういう意味なのだろう?」と彼女が一体何を言いたかったのか、窓を見つめつつ、先ほどからずっとそのことを考え込んでいると、不意に隣に座る花丸に「ルビィちゃん」と呼びかけられたことで、彼女はそこで考え事を一度中断し、自分の名を呼んだ花丸の方へと顔を向ける。

 

「マルが『ずら』って言いそうになったら、止めてね?」

「あっ・・・・・・うん!」

 

「ずら」と言いそうになったら、ルビィに止めて欲しいと花丸は彼女に頼むと、ルビィは花丸の頼みを快く受け入れ、彼女は笑みを浮かべながらコクリと首を縦に振って頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沼津駅にて。

 

「みんな遅いなぁ」

 

スマホに表示された時間を見つめながら、善子と一緒に千歌達が来るのを待っていた曜。

 

「フフフ、フフフ・・・・・・!」

 

またそんな彼女の隣には・・・・・・背中に黒い羽根をつけ、赤く長い爪を装着し、ピエロのようなメイクを施した何時も以上に力を入れまくった堕天使ファッションの善子が隣に立っており、曜はそんな善子にジトッとした視線を向けるのだが、善子はそんな彼女の視線に気付かない。

 

「天都雲居の彼方から堕天使たるこの私が、魔都にて冥府より数多にリトルデーモンを召喚しましょう・・・・・・」

 

無論、人だかりの多い駅でそんな格好をしていれば注目されない筈も無く、多くの人々からスマホでパシャパシャと写真を撮られまくり、子供には「ねね、あれなに?」と指を指される善子。

 

「物凄く、注目されてるんですけど・・・・・・」

 

しかし、善子自身注目されていることに関しては特に気にしていないようで、一体どんなメンタルしてるのか物凄く堂々としており、全く気にしている様子は無かった。

 

「こ れ は 酷 い」

「あっ、なっちゃん! みんな遅いよー!」

 

そこで、ようやく沼津駅に到着した無爪達がやってきたのだが、善子のそのあまりにも奇抜過ぎる格好を見て無爪は少しばかり引いてしまうのだった。

 

「「「くっくっくっ・・・・・・」」」

 

また、そんな善子の格好を見て物凄くニタニタと笑う花丸、千歌、ルビィ。

 

「善子ちゃんも・・・・・・」

「やってしまいましたねぇ」

「善子ちゃんもすっかり堕天使ずら」

「・・・・・・善子じゃなくてぇ・・・・・・!」

 

そんな3人のニヤついた視線を受けて、善子は一瞬肩を震わせるが・・・・・・すぐさま彼女は不気味に怪しい笑みを浮かべながら低音ボイスを発すると、それを受けた千歌達は一瞬小声で「うわ!?」と少しばかり驚いた声をあげ、次の瞬間・・・・・・善子は両手を挙げてビシッと決めポーズを決める。

 

「ヨハネ!! 折角のステージ!! 溜まりに溜まった堕天使キャラを解放しまくるの!!」

「「「「「お、おう・・・・・・」」」」」

 

そんなノリノリな様子の善子を見て、無爪も千歌も、花丸もルビィも曜も何も言えなくなってしまい、「際ですか、頑張ってください」くらいしか返事をすることが出来なかったのだった。

 

尚、今ここにはいない梨子は一体何をしているのかというと・・・・・・車からキャリーバックを降ろし、みんなに合流しようとした梨子を志満が呼び止められていたのだ。

 

「梨子ちゃん」

「あっ、はい?」

「みんな、あんまり東京に慣れてないから、よろしくね?」

 

梨子は志満にそうお願いされ、確かに千歌、花丸、ルビィ、善子のあの奇抜な格好を見た後では曜や比較的まともな格好をしていた無爪もいるとは言え自分がしっかりしなくてはいけないなと思い、彼女は「はい!」と頷いて志満の頼みを快く引き受けるのだった。

 

「千歌ー!!」

「あっ、むっちゃん!」

 

その頃、梨子が来るのを千歌達が待っていると、彼女と同じクラスのむつ、いつき、よしみという3人の少女が駆けつけ、明日東京で行われるイベントをどうか頑張って来て欲しいと千歌達にエールを送りに来たのだ。

 

「イベント、頑張ってきてね!」

「これ、クラスみんなから!!」

 

するとよしみから袋にギュウギュウに詰まったのっぽぱんがクラスメイト達からの差し入れだとして千歌に差し出され、それを喜んで受け取る千歌。

 

「うわあ、ありがとう!」

「それ食べて浦の星の凄いところを見せつけてやって!!」

「うん、頑張る!!」

 

むつ達にそう力強く言われたことで、千歌の方も気合いが入ったようで彼女もまた「任せて!」とでも言うように力尽く頷くと、彼女等はよいつむトリオの「いってらっしゃーい!!」という見送りの言葉を背に受けながら、東京を目指して駅の方へと歩いて行くのだった。

 

「いってきまーす!!」

 

 

 

 

 

 

それから、電車を乗り換えたりなどをしつつ無爪達は特に問題もなく東京へと辿り着き・・・・・・。

 

「ここがあまねく魔の者が闊歩すると言い伝えられる約束の地。 魔都、東京!!」

「あー! 見て見て!! ほらあれスクールアイドルの広告だよね!!」

 

東京の秋葉原駅から出て来ると、千歌達は早速東京の街にキラキラと目を輝かせ、大はしゃぎ。

 

「はしゃいでると、地方から来たって思われちゃうよ?」

 

しかし、そんな千歌達に曜はあんまりはしゃぎすぎると東京の人達に地方から来たと思われ、変な目で見られてしまうのではないかという懸念を呟くと、彼女の隣にいたルビィも「そ、そうですよね!」と同意し、これは気をつけなければいけないなと考えるのだった。

 

「慣れてます〜って感じにしないと!」

 

ルビィにそう言われ、「そっか!」と何かを納得する千歌。

 

すると彼女はルビィの言う「慣れてます」アピールを自分なりに考えた結果、それをすぐさま実行することに。

 

「こほん! ホント原宿って何時もこれだからマジヤバくなーい? ホーッホッホッホ!」

「ここ秋葉だぞ、バカ千歌ねえ」

 

そんな千歌を、街行く人々は微笑ましそうにクスクスと笑い、梨子と無爪は呆れた視線を彼女へと向け、地方感どころかバカっぽさ丸出しな千歌に無爪は「見てるこっちが恥ずかしい」と両手で顔を覆って隠してしまうのだった。

 

「てへぺろ!」

「それで誤魔化せると思うなよ千歌ねえ!?」

 

舌を出して笑って何か誤魔化そうとする千歌だったが、無爪からの視線は冷たいままである。

 

「あれぇ?」

 

その時、ルビィは先ほどまで隣にいた筈の花丸がいないことに気づき、辺りを見回してみるとそこには秋葉原の街を見つめながら「うわぁ〜!!」と目を輝かせている花丸の姿を発見し、秋葉の街を見て何やら歓喜に打ち震えているようだった。

 

「未来ずら・・・・・・! 未来ず・・・・・・!!」

 

そこへ、ルビィが彼女は車の中で花丸と交わした約束を守る為に、彼女の肩に手を「ポンッ」と置くと、花丸はつい「ずら」と自分が言ってしまっていることに気づき、彼女は慌てて両手で自分の口を塞ぐ。

 

花丸との約束を守ったルビィは千歌達の元に戻ろうと視線を千歌達の方へと向けるのだが・・・・・・。

 

「あれ?」

 

そこには先ほどまでいた千歌達の姿がいつの間にかいなくなっていたのだった。

 

「輝く〜!!」

 

そして、その千歌達はというと・・・・・・スクールアイドルの専門店に訪れており、千歌はうっとした目でμ'sのグッズを興奮した様子で眺めており、また曜もそこで売られている衣装に興味があるようで彼女も千歌と同じくそこで売られている商品を手に取ったりなどして注目していた。

 

ちなみに、ペガも影の中に潜みながら、外の出入り口付近で待機している梨子達や他の客に見られないよう上手く立ち回りながら千歌と同じくμ'sのグッズに目を輝かせており、両腕を組みながら買おうかどうか悩んでいる姿がそこにあった。

 

「缶バッジもこんなに種類がある〜!! あっ、このポスター見るの初めて!!」

『ホントに凄いね! うぅ、どれも欲しくなっちゃって迷うなぁ』

「わぁ〜、可愛い〜!!」

「時間無くなるわよ?」

 

そこで梨子はあんまり長居してしまうと、色々と時間が無くなってしまうと千歌や曜に呼びかけるのだが、彼女等は「あともう少しだけ!!」と言って店から出ようとはせず、そこで今になって善子が花丸とルビィがいないことに気が付いたのだが・・・・・・。

 

「あれ? 花丸とルビィは? んっ?」

 

その時、「黒魔術ショップ堕天使」と書かれた看板が善子の目に入ると、彼女は「堕天使・・・・・・!」と呟きながらゴクリと固唾を飲み込んだのだ。

 

また、同じ頃で鼻歌を歌いながらスクールアイドルショップに売られている衣装を物色していた曜はというと・・・・・・。

 

「んっ?」

 

彼女は「秋葉原版制服専門店」と書かれたチラシを発見。

 

「制服・・・・・・100種類以上!?」

 

それを見た曜は、興味津々といった様子で善子の時と同じようにゴクリと固唾を飲み込む。

 

「まぁ、はしゃぐ気持ちも分かるんだけどさ。 もうちょっと落ち着いても・・・・・・んっ?」

 

また、外で待機しながらこんなにも自分の好きなもので溢れかえっている店なら、興奮してはしゃいでしまう千歌達の気持ちも理解できるもののもう少し落ち着きを持って欲しいとボソッと千歌達に向けて呟く無爪だったが・・・・・・。

 

そんな時、スクールアイドルショップから少々離れた位置にて・・・・・・「爆裂戦記 ドンシャイン専門店」と書かれた店があるのを発見。

 

その店を見た瞬間、無爪もまた善子や曜と同様にゴクリと固唾を飲み込み・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! じゃあみんなで明日の成功を祈って神社の方に・・・・・・! あれ?」

 

μ'sのグッズを幾つか買った千歌は、グッズの入った袋を手に持ちながらようやくダークゾーンに隠れたペガと一緒に店から出てきたのだが、既にその場には梨子しかおらず、そのことに彼女は困惑して「あれ?」と首を傾げるのだった。

 

ちなみにペガは自分のお金を千歌に渡して自分の分を彼女に買って貰うことで、μ'sのグッズをゲットした模様。

 

その後、そこでようやく千歌や梨子も花丸とルビィがいないことに気づいた2人は、千歌が花丸とルビィに電話をしてなんとかスクールアイドルショップの前で合流することができたのだが・・・・・・。

 

「善子ちゃんに曜ちゃん、それになっちゃんは?」

「3人とも場所は分かるから・・・・・・。 もう少ししたら行くって」

「もう少しって・・・・・・?」

 

千歌は梨子に曜、善子、無爪の居場所を尋ねると、梨子は大体あの3人が行きそうな場所なら把握しているとのことで、曜は制服専門店、善子は黒魔術ショップ、無爪はドンシャインの専門店にそれぞれ自分の好きなものが売られている店に行っているとのことだった。

 

「もう! みんな勝手なんだから!」

 

そのように、それぞれが勝手な単独行動を行うことに不満を口にする千歌だったが、正直、スクールアイドルショップに夢中になっていた彼女自身も人のことを言えないだろう。

 

「それに、今日はこれから少しの間雨が降るって天気予報で言ってたから、早めに色々と見て回りたかったのに・・・・・・。 みんな早く戻って来ないかぁ」

 

スマホの画面で今日の天気予報を確認しながら、そんなことをぶつくさと呟く千歌。

 

「しょうがないわねぇ・・・・・・。 んっ?」

 

結局、無爪、曜、善子の3人の単独行動っぷりにどこか呆れつつも梨子はここで大人しく待っているしかないと待機することになったのだが・・・・・・ふっと彼女の視界に「新作同人誌 乙女のキュンキュン壁クイ」と書かれた看板を見つけると、それを見た瞬間、彼女はゴクリと固唾を飲み込む。

 

おいこれ4回目だぞ。

 

「壁・・・・・クイ!?」

「梨子ちゃん?」

 

そんな梨子の様子に、一体どうしたのだろうかと千歌が尋ねると、梨子は両手をパタパタと振って「なんでもない!」と言うのだが、千歌からすれば一体何がなんでもないのだろうかと疑問を口にするが、梨子はそれには応えず、徐々に千歌達から距離を取りつつ後退る。

 

「い、いえ! わ、私ちょっとお手洗いに行ってくるねー!!」

「えぇー!!?」

 

梨子はそう言ってその場を走り去ると、すぐそこにあった「女性同人誌専門店 オトメアン」と書かれた看板のある店に突入し、千歌はそんな梨子に彼女までもが単独行動するのかと不満げな声をあげるのだった。

 

『ぼ、僕もドンシャインの専門店には興味があるし、無爪の様子を伺う目的も兼ねてちょっと行ってくるね! ごめん千歌ちゃん!!』

「えっ、ちょっ、ペガくんも!?」

 

ペガも影の中からこっそりと花丸とルビィに気付かれないように千歌に自分もドンシャインの専門店に行ってくるということを伝えると彼もまた無爪がいると思われるドンシャインの店へと向かうこととなり、それに千歌は「ハアアァァ〜!」と大きな溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『もう! ドンシャインのお店行くなら僕も誘ってくれれば良かったのに!』

「ごめんごめん! だけど、ペガはスクールアイドルのお店の方に夢中だったみたいだったし・・・・・・。 それに、ドンシャインの店を見たら頭の中真っ白になってつい」

 

ペガと店の中で合流した無爪は彼と共にドンシャインのグッズを幾つか購入した後、満足げな表情でペガとそんな言い争いをしながら店を出て、ペガと共に千歌達と合流しようと思ったのだが・・・・・・。

 

「って、あれ? ねえペガ・・・・・・なんか、外、やけに暗くなってない?」

『あれ? 本当だ。 夜になるにはまだ早すぎる時間帯の筈だけど・・・・・・』

 

店の外を無爪達が出ると、先ほどまで晴天で明るかった空がまるで夜のように暗くなっており、仮に雨が降るとしてもいきなりこんなに暗くなるのは普通ではあり得ない事態だった。

 

そのことに、無爪やペガの2人が少しばかり天気が突然暗くなったことに疑問を抱いていると、そんな時、血相を変えて青ざめた様子で何やら物凄く慌てた様子の千歌達(梨子、曜、善子は合流済み)がこちらに向かって駆け寄って来るのを視界に捉え、無爪は一体どうしたのだろうかと首を傾げる。

 

尚、ペガは千歌が梨子やルビィ、花丸を引き連れて来た為彼は慌てて無爪の影の中に隠れた。

 

「なっちゃんなっちゃん!! 大変!! 大変なの!!」

「えっ、ちょっと待って。 一体どうしたの千歌ねえ? みんなもそんな血の気の引いたような顔を浮かべて・・・・・・」

「あれ!! 無爪くんあれよ!! あれ見て!!」

 

千歌や他のみんなと同じように、顔を青ざめたさせた梨子が空を指差しながら「アレを見て!!」と無爪に空を見上げるように促すと、彼は梨子に言われた通り、顔を上に向け、空を見上げる。

 

すると、そこには一言で言うなら「ゴツい」という言葉がよく似合う巨大な怪獣、「亜空間怪獣 クラウドス」が気持ち良さそうにグースカスピスピ、スヤスヤと空中を浮遊し、いびきをかきながら爆睡していたのだ。

 

「ZZZzzz・・・・・・(スヤァ」

「・・・・・・なんじゃありゃあ!!!?」

 

そしてクラウドスの姿を見た無爪も、目をまん丸にして驚き、驚愕の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ほんの数分前の出来事だった。

 

太陽黒点の異常活動による強烈な太陽風によって、地球電離層に巨大なプラズマ空域が発生。

 

それによってプラズマ空域に亜空間トンネルが開き、そのトンネルを通って1体の巨大な怪獣が出現したのだ。

 

そして、その亜空間トンネルから出てきたのが、本来はその亜空間を住み処とし、現在、無爪達のいる東京秋葉原上空に出現したのがこの亜空間怪獣 クラウドスなのである。

 

当然、亜空間から怪獣が出て来るなんて異常事態はAIB案件であり、クラウドスの出現はすぐさまAIB本部所属のエージェント達にも伝わり、対応に追われる形となった。

 

今日は非番だった美渡にも緊急事態として招集をかけ、AIB内本部ではモニター越しに空中を漂うクラウドスを怪訝な顔でゼナが見つめており、デスクの上に置かれた「スカルゴモラ」や「ドレンゲラン」「ジラース」に「バーニング・ベムストラ」、そして「サンダーキラー」などの怪獣達の資料を一瞬視界の隅に入れると、彼は「ハァ」と小さな溜め息を吐くのだった。

 

『全く、まだこちらの捜査が終わっていないというのに・・・・・・』

「すいませんゼナ先輩!! 遅れました!!」

『右に同じくすいません先輩!!』

 

そこへ少し遅れて美渡と宇宙人状態のザルドがやってくるとゼナは「遅い」と送れて来た2人、特に非番でもないのに遅刻したザルドに苦言を零すと、ゼナは再びモニターに視線をやり、美渡とザルドにもモニターを見るようにと指示し、ゼナからの指示を受けた2人は言われた通り、モニターに視線をやる。

 

「それで、ゼナ先輩・・・・・・この怪獣は?」

『あぁ、まだ少々調査班が調べただけだが・・・・・・この怪獣、見た目はこんなのだが、特に際だった攻撃特性は無いらしい』

 

さらにゼナが言うにはクラウドスは睡眠中にたまたま開いた亜空間トンネルから飛び出してしまっただけで、地球に来たのはたまたまの全くの偶然らしいのだ。

 

つまり、地球に来たのはクラウドスの意志などではなく、それどころか爆睡しているクラウドスは今自分がどこにいるのかさえも分からない状況なのだという。

 

『それは・・・・・・なんか可哀想だな。 家で寝てて、目が覚めたら自分が全然知らない場所にいたってことでしょ? なんとか家に帰してやることはできないんですか先輩!』

『確かに、あの怪獣にとってそれが1番のベストだろう。 そのことに関しても今調査班が調べている』

 

ザルドはクラウドスの今の境遇に同情し、殆ど事故のようなもので来たのだからなんとか元の場所に帰してあげられないのだろうかとゼナに相談するが、ゼナも元いた場所に帰すのが1番だろうという考え自体はザルドと同じであるものの今はクラウドスをどう家である亜空間に帰せば良いのかは彼にも分からなかった。

 

「あれ・・・・・・、あの、ゼナ先輩。 この怪獣のいる場所って・・・・・・東京の、秋葉原・・・・・・ですか?」

 

そんな時、美渡がモニターに映る街並みを見てクラウドスが今いる場所・・・・・・それは東京の秋葉原ではないのかとゼナに尋ねると、ゼナは「あぁ、そうだが?」と応え、それを聞いた瞬間・・・・・・。

 

美渡は血の気の引いた顔を浮かべ、慌ててAIBの本部から出て行こうとする。

 

『おい美渡! どこに行くつもりだ!?』

「今日!! 千歌となっちゃん・・・・・・私の妹と弟同然の子が、友達と一緒に秋葉原に行ってるんです!!」

『えっ、マジで!?』

『なに?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、東京秋葉原にて・・・・・・。

 

取りあえずはクラウドスは今でこそ空中に浮いているものの何時、どんな時に落下してくるか分からない以上、なるべく距離を取るべきだと判断した千歌達は現在、クラウドスから逃げるようにしてせっせと指定された避難場所に一同は移動していたのだ。

 

「つまりアイツは、寝ている間は身体が風船みたいに軽くなって空に浮かんでるってこと?」

『その通りです。 逆にあの怪獣が目覚めた場合、自身の動きが活発化することによって体内に亜空間プラズマが発生。 それにより体重が大きく変化することによって怪獣は重力に逆らうことが出来ず、真っ逆さまに地上に落下するものと予想されます』

 

無爪は千歌達と一緒に避難所に向かいながら梨子達に気付かれぬように装填ナックルに手で触れながらクラウドスについての情報をレムから聞いていた。

 

「どうするのなっちゃんあの怪獣?」

「アイツは、事故でここにやってきただけなんでしょ? 荒井の使役してる怪獣って訳でもないみたいだし・・・・・・出来ることなら、元のいたところに帰してやりたい」

 

この状況をもし、どうにかできるとすればそれは無爪しかいないと思った千歌は、彼にクラウドスに対してどう対処しようと思っているのかを尋ね、レムから教えられた情報で彼もまたクラウドスがただの偶然でここにやって来たことを知った為、無爪もザルドと同じように出来ることなら元いた場所に帰してやりたいと千歌の質問にそう応えた。

 

「でも、元の場所に帰すってどうやって・・・・・・」

「それなんだよね。 教えてレム先生! 何か方法はないの?」

『無いと言えばありませんし、あると言えばあります』

 

元いた場所に帰すと言っても、方法が分からない以上様々なことに精通しているレムに頼らざる得ない無爪はクラウドスをどうにかして帰す方法は無いかと尋ねるのだが、返って来たレムの返答の意味が分からず、無爪と千歌は不思議そうに首を傾げる。

 

『理論上、ジードは『ウルトラマンティガ』と、『ルナミラクルゼロ』のカプセルを使用すればそれらの力を兼ね備えた『ムゲンクロッサー』と呼ばれる形態にフュージョンライズすることが可能です。 そのムゲンクロッサーに備え足られたルナミラクルゼロの超能力パワーを駆使すれば、亜空間を開いて怪獣を元の亜空間に戻すことも可能だと思われますが・・・・・・』

「そんな・・・・・どうしよう・・・・・! どっちも持って無い・・・・・・!」

 

そう、理論上・・・・・・クラウドスをジードの力で亜空間に戻すことは可能なのだ。

 

ムゲンクロッサーに使うためのティガとルナミラクルゼロ、2つのカプセルがあれば・・・・・・。

 

しかし、無爪の所持しているカプセルは現状ウルトラマン、ベリアル、オーブ・エメリウムスラッガー、セブン、レオ、アストラ、ヒカリ、コスモス、シャイニングゼロ、そしてウルトラマンヒカリに直接託されたメビウスとゾフィーのカプセルのみ。

 

無爪はルナミラクルかティガ、どちらか片方のカプセルすら持っていなかったのだ。

 

「い、今からリトルスターを保有する人を探しに行くしか・・・・・・!」

「手当たり次第探せって言うの!?」

「んっ〜? アンタ達さっきから何ぶつぶつ言ってんの?」

 

千歌はこうなれば手当たり次第に探すしかないと提案するものの、そんな時間は無いと言い返す無爪。

 

すると、あの後すぐに(何故か巫女服を着た)曜と共に合流した善子がそんな風に言い合う千歌と無爪に向けて一体何を話してるんだと怪訝そうな表情を見せ、無爪と千歌は両手をぶんぶん振って慌てて「なんでもない!!」と誤魔化すのだった。

 

「っていうか曜ちゃんはなんで巫女服着てるの? さっきから思ってたけどさ」

「いやだって、神社に行くって言ってたから。 似合いますでしょうか!?」

「敬礼は違うと思う」

 

てかあの巫女服曜ちゃんめっちゃ可愛いよね!

 

まぁ、それは兎も角、千歌はそんな巫女服姿で敬礼してくる曜にジト目な視線を向けつつ、取りあえずあの怪獣が目を覚まさない内になんとか解決法をみんなで考えるのだが・・・・・・結局何も良い案が浮かばず、歩きながら途方に暮れていると・・・・・・。

 

「ZZZzz・・・・・・」

 

ふっと、少しばかり強い風が吹くとその風に乗って未だに眠ったままのクラウドスがふわふわと移動を開始したのだ。

 

「うわっ!? あの怪獣、こっち来たわよ!?」

 

しかも運の悪いことにクラウドスは無爪達のいる方向に向かって来ており、さらに最悪なのはこのまま真っ直ぐクラウドスがこちらに向かって来たとすれば、クラウドスは間違い無くビルとビルの間に激突してしまうということだった。

 

もし、このままクラウドスがビルに激突すれば、ビルは破壊され多くの人が避難するために通っているその道に、瓦礫が降り注ぐこととなるだろう。

 

もっと言えば、ビルに激突すればほぼ間違い無くクラウドスも目を覚ます可能性が高いため、クラウドスが目を覚ませば、さらに多くの被害が広がることはまず間違い無かった。

 

幸い、無爪達はそのビルの間は既に通り過ぎていた為、彼等に瓦礫が降り注いだりすることはないだろうが、未だにビルの間にある道を通って避難をしていた人々は怪獣がこちらに向かって来ていることに混乱し、パニックに陥っているのが遠目からでも無爪達には分かった。

 

「うわああ!!? 怪獣がこっちに来たー!!?」

「退け!! 退けぇ!! 俺が先だ!!」

「ふざけんな俺だ!!」

「ZZZzz・・・・・・」

 

しかし、そんな人々の混乱の中でも、クラウドスは気持ち良さそうにスヤスヤ眠っており、先ほどまでクラウドスに同情していた無爪ではあったが、そのように呑気に眠るクラウドスに少しばかりイラッとせずにはいられなかった。

 

「呑気に寝やがってあの野郎・・・・・・。 でも、マズいな・・・・・・。 僕、ちょっとあのパニック状態をどうにかしてくる!!」

「えっ!? なっちゃん!!?」

「どうにかって、どうするずら!?」

 

しかも徐々に徐々にだが、混乱の並が段々とこちらにまで押し寄せて来ているのを感じ、無爪はあの混乱をどうにか抑えてくると言って曜や花丸の声を振り切って人混みの中をかき分けながら避難していた方向とは逆方向には進み始める。

 

(ごめんね。 お願い、なっちゃん・・・・・・)

 

そんな人混みに消えて行く無爪の背中を見つめながら、千歌はこの状況を無爪がなんとかしてくれるのだと信じ、彼女は無爪を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはあ!」

 

そして、人混みの中に消えた無爪はなんとか途中から人混みの中を抜け出すことに成功し、人気のない場所に移動してジードライザーを取り出す。

 

「取りあえず、アイツをここから遠ざけないと!! ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと、カプセルホルダー腰のカプセルホルダーから「ウルトラマンヒカリ」のカプセルを起動させる。

 

「融合!!」

 

起動させたヒカリカプセルを、無爪は装填ナックルに差し込む。

 

「アイ、ゴー!!」

 

続いて無爪はコスモスカプセルを起動させ、ナックルに装填。

 

そこからジードライザーで装填ナックルをスキャン。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!!』

「見せるぜ、衝撃!!」

 

そして最後に、ジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すと、ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスの姿が無爪の前で重なり合い、2人の力を融合させた青い姿の「ウルトラマンジード アクロスマッシャー」へと無爪は変身する。

 

『ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

「あっ、ウルトラマンジード!!」

「ここまで来てくれたのね・・・・・・」

 

ジードが現れると、彼の姿を見た曜や梨子がジードが来てくれたことにホッと胸を撫で下ろして一安心し、クラウドスの目の前に現れたジードは両腕を回しながらエネルギーを貯めると左手を右腕の関節に乗せて十字を組み、大気中のエネルギーをスパークさせて収束させた青い光輪状の波動光線「アトモスインパクト」をクラウドスに向けて発射。

 

『アトモス・・・・・・インパクト!』

 

ジードから放たれたその衝撃波により、クラウドスは吹き飛ばされてビルから遠ざけることに成功したのだが・・・・・・現状、クラウドスを傷つけず、人々を守る為にはこれしか手が無かったとは言え衝撃波を受けたことによってクラウドスはパッチリと目を覚ましてしまったのだ。

 

「グオオオオオ・・・・・・!!」

 

目を覚ましたクラウドスはそのまま地上にまで落下してしまうのだが、そこは特に建物なども無い広場であった為、特に被害が出るようなことはなかった。

 

『よし、狙い通りだ!』

「グルルルル・・・・・・!!」

 

ジードは被害が出にくいであろう狙い通りの場所にクラウドスが落下したのを見ると、ジードは大ジャンプしてクラウドスのいる場所まで移動し、鼻息を荒くするクラウドスを大人しくさせる為に興奮抑制の効果を持つ「スマッシュムーンヒーリング」を放つ体勢に入る。

 

『スマッシュムーン・・・・・・!』

 

しかし、それよりも素早くクラウドスが突進をジードに向かって繰り出して来たのだ。

 

『ウアアアッ!!?』

 

突進を喰らったジードは空中を一回転しながら吹き飛ばされて倒れ込み、さらにクラウドスは倒れ込んだジードに向かって覆い被さるようにジャンプし、踏みつけて来た。

 

『ウアアッ!?』

「グオオオオオオオオ!!!!!」

 

クラウドスは前足でばんばんジードの身体を叩いて攻撃を炸裂させ、さらにクラウドスは身体全体をジードに覆い被さるように乗せることで、自前の体重を使いジードを押し潰そうとしてくる。

 

『グアアアア!!? おも、重い・・・・・・!! 退けええええ・・・・・・!! この野郎おおぉ・・・・・・!』

 

ジードはクラウドスの身体をペチペチと叩くものの、自分にのし掛かるクラウドスのあまりの体重の重さのせいでジードには力が入らず、そんなしょぼい抵抗しかすることが出来なかった。

 

「グルルルル!! グアアアア!!!!」

 

どうやらクラウドスは、ジードに睡眠を邪魔されたのを怒っているようで甲高い雄叫びをあげるとクラウドスは前足でジードを蹴り飛ばし、それによって地面を転がり、クラウドスはジードに起き上がる隙を与えないように、すかさず倒れ込んでいるジードに向かって覆い被さるようにボディプレスを仕掛ける。

 

『ソリッドバーニング!!』

 

しかし、間一髪ジードは「ウルトラセブン」と「ウルトラマンレオ」のカプセルを使い、赤い鎧を身に纏ったような姿の「ソリッドバーニング」になると、ジードは片膝を突きながらも素早く立ち上がり、ボディプレスを仕掛けて来たクラウドスを両手で受け止める。

 

『ウアッ!!? ぐうう、うぅ・・・・・・。 ソリッドバーニングでも重いなんて・・・・・・』

「グルルル!! グルルル!!」

 

クラウドスを受け止めたは良いものの、パワーに優れたソリッドバーニングでもジードはクラウドスの重さに完全に耐えきることが出来ず、クラウドスがジタバタ暴れることもあり、徐々に徐々にだが、腕の力が抜けて行くのを感じた。

 

『グウウウ・・・・・・シュア!!』

 

だが、そこはどうにか気合いでクラウドスをジードは投げ飛ばすことに成功し、少しばかり痺れた腕をぶんぶん振りつつ、立ち上がってファイティングポーズで構える。

 

「グルアアアアア!!!!」

 

そこでクラウドスはまたジードに向かって突進を繰り出してきたが、それに対してジードは額のビームランプから放つ必殺光線「エメリウムブーストビーム」をクラウドスの足下に放つことでクラウドスの目の前を爆発させ、思わず立ち止まったところにジャンプしてクラウドスの背中に飛び乗る。

 

『シュア!!』

「ガアアアアア!!!!」

 

クラウドスの背中に飛び乗ったジードは多少のダメージを与えなくてはクラウドスは大人しくならないと判断し、背中にチョップを何度か叩きこむが、クラウドスはジードを背中から振り落とそうと激しく身体を揺らす。

 

『うわっ!!? だから大人しくしろって・・・・・・!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと着いたぁ」

 

その頃、ザルドが自身が所持している宇宙船を使い、東京の秋葉原にゼナや美渡と共にやってきたAIBの3人。

 

本来なら、文明に影響が出ることを考慮してAIBの方針的に宇宙船なんて使わないのだが、ザルドの宇宙船にはステルス機能が付いているとは言え、今回は緊急事態ということもあり、使用が許可されたのだ。

 

宇宙船を林の多い場所に隠して降り立った3人は、クラウドスを亜空間に帰すための目処が立ったためにやってきており、ザルドはAIBの科学班が制作してくれたクラウドスを亜空間に送り返せるというレーザー銃のようなものを持っていた。

 

『今のところ、あの怪獣による人的被害はウルトラマンジードによる活躍もあって特に出ていないようだ』

「そうなんですか!? 良かったぁ・・・・・・」

 

端末を見ながら、ゼナがまだクラウドスによる被害が出ていないことを美渡に説明すると、ならば千歌達もきっと無事なのだろうということに安堵するが・・・・・・まだクラウドスのことが解決した訳ではないため、ゼナはそんな美渡に「まだ安心するには早い」と叱責する。

 

『取りあえず、美渡、お前は妹達の安否を念のために確認してこい。 あとのことは我々がやる』

「りょ、了解です! 任せましたゼナ先輩! ザルド!!」

 

ゼナは美渡のことを気遣ってか、彼女に千歌達の元に行くように言うと彼女はすぐさまその場を離れていき、美渡が千歌達の元に行くのを見送ったザルドは、レーザー銃を構える。

 

「おう、気をつけて行って来いよー! よーし、それじゃあとはこいつで・・・・・・」

 

ザルドがAIBの科学班から渡された、レーザー銃を未だにジードと戦うクラウドスに向けて照準を合わせる。

 

尚、そのレーザー銃は、亜空間トンネルを再び開くためのアイテムであり、そもそも亜空間トンネルが開いたのは太陽風のプラズマと電磁荘のプラズマの相互作用が原因。

 

なので科学班はクラウドスの亜空間プラズマと雷の膨大なプラズマを相互作用させることで再び亜空間トンネルを開こうと考えたのだ。

 

そのために彼等は急いで亜空間トンネルを再び作り出すためのレーザー銃を大急ぎで開発。

 

このレーザー銃から放たれるレーザーによって、雷をクラウドスに誘導させることで亜空間を再び発生させようという作戦に彼等は出たのだ。

 

「おっ、丁度空が曇って来たな」

 

さらに天気予報を確認したところ、運の良いことにこれから少しの間雨が降り始めるようで・・・・・・ザルドの言うように、空が曇って来ると同時に、ゴロゴロと雷の音が鳴り響いていた。

 

「ジードォ!!」

 

クラウドスをレーザー銃で狙いながら、ザルドはクラウドスと戦うジードに大声を上げて呼びかけ、彼の声が耳に届いたジードは、クラウドスに馬乗りになりつつ視線をザルドの方へと移す。

 

『あれは・・・・・・ザルドさんに、それにゼナさん!? なんでここに・・・・・・』

「ジード!! この銃を使えば、その怪獣を元いた場所に送り返すことが可能だ!! だから、なんとかその怪獣を動かないように押さえ付けといてくれ!!」

『えっ、なにその銃・・・・・・。 うわあ!!?』

 

なんで美渡と同じ、生命保険の人がそんなアイテムを持ってるんだと疑問に思い、考え込むジードだったが、ジードはそこでクラウドスに遂に振り落とされてしまい、地面に倒れ込むとクラウドスはジードを踏みつけようとしてくる。

 

間一髪、地面を転がることでクラウドスの攻撃を避け、立ち上がったジードだが・・・・・・兎に角、今はザルドを信じるしかないかと判断し、彼は言われた通り、クラウドスに掴みかかって動きを封じようとする。

 

「グアアアアア!!!!」

『ぐう・・・・・・ウウ・・・・・・! ちょっとで良いから、動きを止めてくれ・・・・・・!!』

 

それでも中々動きを止めようとしないクラウドスに、ジードは止むなしとしてクラウドスの顎に膝蹴りを叩き込み、それによって一瞬動きが止まるとザルドは「今だ!!」と判断し、レーザー銃から光弾を発射。

 

その光弾がクラウドスの頭上に放たれると、その光弾を通して雷がクラウドスに降り注ぐのだが、クラウドスが素早く後退した為に降り注いだ雷は不発となり、逆にジードに直撃してしまう。

 

『ウアアア!!?』

『バカ! 何をやっている!!』

「いや、そう言われてもアイツが動くから・・・・・・! すまないジード!! 悪いけど、もう1度頼む!!」

 

ザルドはジードに謝罪しつつ、もう1度ジードにクラウドスの動きを封じるように頼み、ジードは一瞬ザルドのことを睨み付けたが、一応は彼の頼みを引き受け、もう1度クラウドスに掴みかかろうとするが、クラウドスはそれをひょいっと避けてしまった。

 

『こ の 野 郎・・・・・・!!』

 

こちらはクラウドスを家に帰してやろうと必死にやってるだけなのに、全然こちらの意志がクラウドスに伝わらないことに両手で握り拳を作りながら若干苛立つジード。

 

(いや、ダメダメ。 こんなことで怒っちゃダメだ)

 

なんとか怒りを抑えようとするジードだが、既にカラータイマーは赤く激しく点滅しており、もう時間がない。

 

そのため、ジードは急いでクラウドスを押さえ付けようとするのだが、クラウドスは躱したり、掴んだら掴んだで暴れて振り払ったと中々動きを止めてくれなかった。

 

そして、そんなどこか煮え切らない戦い方をするジードに、梨子達も気づいたようで・・・・・・。

 

「なんでジードは、怪獣を押さえ付けようとしてるんだろう・・・・・・?」

 

何時もなら怪獣を倒すために、果敢に立ち向かうのがジードだった筈。

 

それなのにも関わらず、今回は妙に消極的な戦いを行うことに梨子は疑問に感じ、それを口にするのだが・・・・・・そこでフォローを入れるように言葉を発したのが、千歌だった。

 

「え、えっと・・・・・・ほら! あれじゃないかな? あの怪獣、特に悪い奴じゃないから・・・・・・。 だからジードは、倒さないように大人しくさせようとしてるんじゃないかなーって」

 

クラウドスの事情を無爪を通してレムから聞いていた千歌は、ジードがクラウドスを倒さないように立ち回っているのを知っていた。

 

しかし、ジードの正体が無爪だとは教える訳にはいかないので、彼女はそのことをかなりボカしつつ、梨子の疑問に応える形で千歌はみんなにそう教えたのだ。

 

それに、ジードは以前にもジラースという怪獣を大人しくさせたことがある。

 

ジラースの件を考えると、ジードも無闇やたらに怪獣を倒す訳ではないんじゃないだろうかと千歌は自分の考えを梨子達に伝え、それを聞いた梨子達・・・・・・特にジードとジラースの戦いを千歌やモコと一緒に目撃していた善子はそうかもしれないと納得するのだった。

 

「でも、全然大人しくなる気配がないんだけど・・・・・・。噂だと、ジードって3分しか活動できないって時間制限があるんでしょ? それをこんなにモタモタやってたら・・・・・・」

 

だが、仮に千歌の言っている通りだとしとしても善子はジードには3分の時間制限があると言うのに、大人しくさせるなんて悠長なことを言っていられないのではないかと考え、善子の言うことにも一理あると思った千歌は「うっ、確かに」と頭を悩ませた。

 

(うーん、確かに善子ちゃんの言う通りかも。 こうなったらここはゼロに来て貰った方が・・・・・・)

 

こうなれば、千歌はゼロに救援を頼むしか無いかと思い、レイジに電話をかけるため、スマホを取り出そうとするのだが・・・・・・そんな時、突然ルビィの「あっ!」という声が聞こえ、一瞬ビクリとしたものの、千歌はすぐに首を傾げつついきなり声をあげたルビィに「どうしたの?」と問いかける。

 

「大人しくさせるなら、もう1度眠らせれば良いんじゃないでしょうか!?」

「眠らせるって・・・・・・どうするつもりよ? 見た感じ、アイツめっちゃ興奮してるみたいだけど」

 

ルビィはクラウドスを大人しくさせるつもりなら、最初にクラウドスが現れた時のように、眠らせてしまえば良いのではないかと考えたのだが・・・・・・眠らせると言っても今のところ、クラウドスは睡眠を邪魔されたことでかなり怒って興奮しているようで・・・・・・。

 

そんなクラウドスをもう1度眠らせるなんて、簡単に出来るのだろうかと善子は思ったが・・・・・・そこで、そんなルビィの考えを聞いた花丸が「あぁ、そうか!」と何かを閃いたかのような表情を浮かべた。

 

「な、なによずら丸まで・・・・・・」

「つまり、眠らせるなら子守歌を聴かせれば良いんだよ!」

「そうか! 成程! 要するに、あの怪獣に子守歌を聴かせてまた眠らせる! そういうことだね!」

 

花丸の考え、それはクラウドスに「子守歌を聴かせることで眠らせ、大人しくさせる」というものであり、彼女の考えを理解した曜は、ならばそれを行うには、スクールアイドルで合唱力を常日頃鍛えている自分達の出番なのではないかと思い、「よーし!」とガッツポーズをする曜だが・・・・・・。

 

そのように気合いを入れる曜に、梨子は「待った待った!!」とストップをかけたのだ。

 

「ちょっと待って曜ちゃん! 私達で子守歌を怪獣に聴かせるってこと!? そもそもここから怪獣の耳に私達の声が聞こえるの!?」

 

梨子は自分達の歌声で怪獣を眠らそうと意気込む曜に、流石に少しばかり危険・・・・・・何より、ここから自分達の歌声が聞こえるのだろうかと思い、不安げな表情を浮かべる梨子。

 

そんな時、彼女の目の前にひょいっと花丸があるものを差し出し、それを見て梨子は目を丸くした。

 

「メガホンがあるずら。 ちゃんと人数分」

「なんであるの!? っていうかどこから取り出したの!?」

 

どこからともなく何故か人数分あったメガホンを取り出した花丸に、梨子は驚くものの、彼女以外はそれを特に気にすることもなく、千歌は「花丸ちゃんナイス!!」とサムズアップし、花丸からメガホンを受け取る。

 

「えっ、みんな割と乗り気!?」

「ジードには、何時も助けて貰ってるからね」

「うん、ルビィも、ジードさんに助けて貰ったから。 だから今度はルビィが!」

「私も、モコのことで借りがある。 今こそ! 我が堕天使 ヨハネの歌声を持ってして、巨大なる獣を永遠の眠りへと誘いましょう・・・・・・!」

「永眠させたらダメずら、善子ちゃん」

 

曜やルビィ、善子は、ジードに助けて貰ったお礼が出来るならと迷わず花丸からメガホンを受け取り、善子の「ヨハネよ!!」という言葉を聞き流しつつ、彼女は梨子にもメガホンを手渡す。

 

「まぁ、確かにここだと人混み多くて声が聞こえないかもだし。 ちょっと移動したところで、みんなで子守歌を怪獣に聴かせよう!」

 

千歌のその言葉を受けて、曜達は右手を掲げて「おー!!」と叫び、そんな彼女等を見て梨子は「はぁ」とどこか呆れたような溜め息を吐く。

 

「流石に花丸ちゃんの考えは驚いたけど、勿論私も一緒に行くわよ! 私だって、ジードに助けられた1人なんだもの!」

 

そしてまた、梨子も千歌達と同じように意を決して怪獣に子守歌を聴かせて眠らせる作戦に参加する意志を表明すると、一同はもう少し歌声がクラウドスに届きそうな場所を目指し、少しばかり、けれども急いで人混みをかき分けながら移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウドスは背中に乗るジードを振り落として倒れ込ませると、クラウドスは棍棒型の尻尾で倒れ込んだ状態のジードの身体に何度も叩きつけて攻撃する。

 

『グッ、ウゥ・・・・・!』

「全く、あの暴れん坊め・・・・・・!」

『早くしろ・・・・・・!』

 

ザルドは再びレーザー銃を構えるが、クラウドスが暴れるせいで上手く照準が合わず、ジードはどうにかクラウドスの攻撃から抜け出すが、これまでに蓄積されたダメージとエネルギーが残り少ないこともあり、片膝を突いた状態で上手く立ち上がることが出来ずにいた。

 

『ハァ、ハァ・・・・・』

 

しかし、そんな時だった・・・・・・ジードの耳に、誰かの歌声が聞こえて来たのは。

 

「「「「「「〜♪」」」」」」

 

ジードが歌声のする方に視線を向けると、そこには「シューベルトの子守唄」を歌う千歌達6人の、Aqoursの姿があったのだ。

 

無論、花丸がクラウドスにも歌声が届くようにと何故か複数個所持していたメガホンを全員で使用して。

 

(千歌ねえ! みんな・・・・・・ってあのメガホンどこから手に入れて来たんだ?)

 

すると、クラウドスの尻尾がピクピクと反応すると、クラウドスもまた千歌達の視線を向け、彼女等の子守歌に聴き入っているようだった。

 

「グウウウ・・・・・・」

 

すると・・・・・・ジーッと歌を聴いていたクラウドスはやがて、ウトウトとし始めると、それを見たジードはクラウドスの動きがほぼ完全に止まったことを確認し、ザルドの方を見て「今だ」と頷く。

 

「よし、今度こそ!」

 

それを受けたザルドもレーザー銃を構え、クラウドスの頭上に光弾を発射。

 

クラウドスの頭上でその光弾が光ると、その光弾を通して雷が再びクラウドスに降り注ぎ、それに眠りかけていたクラウドスは雷の音に驚いてまた目を覚ますが、空を見上げれば体内の亜空間プラズマと雷のプラズマで相互反応が起こった事でプラズマトンネルが開放される。

 

「グウウウ・・・・・・」

 

その時に発生した巨大な音のせいで、又もや目をパチリとさせるクラウドスだったが・・・・・・。

 

「グギャア!?」

 

ジードはプラズマトンネルを指差すことで、クラウドスに元いた場所に帰るように促すと、クラウドスはそれが自分の元いた場所に帰るためのトンネルであると察知したらしく、お礼を言うように首を上下に動かすと、クラウドスは空中へと浮かび上がってプラズマトンネルを通って元の亜空間へと帰って行くのだった。

 

クラウドスが帰るのを見届けると、ジードも空を飛んでその場を去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「づっがっれだぁ!!」

 

ダミ声を吐き出しながら、変身を解いた無爪はクラウドスと戦った疲労感からとある公園のベンチに腰かけ、少しばかりここで休んでから千歌達と合流しようと考えて、そこで休憩していたのだが・・・・・・。

 

そんな時、彼の頬にピトッと冷たい感触が伝わり、「おわああ!!?」と悲鳴をあげて思わず立ち上がり、背後を振り返るとそこには缶ジュースを手に持ちながら悪戯っ子のように「にしし」と笑う千歌の姿があったのだった。

 

「えへへ、なっちゃんへのイタズラ成功〜♪ お疲れ、なっちゃん!」

「千歌ねえ・・・・・・。 全く、下らない真似しないでよ」

 

千歌は手に持っていた缶ジュースを労いの言葉を無爪に送りながら投げ渡すと、無爪は子供がやるようなイタズラをしてくる千歌に呆れつつも投げられた缶ジュースを見事にキャッチし、受け取る。

 

「まぁ、でも、ありがと。 さっきも・・・・・・」

「うん? あぁ、そっか。 子守歌のこと?」

 

無爪は缶ジュースの蓋を開けて、中に入っているジュースを飲みながら、飲み物を渡しに来てくれたことや、先ほどクラウドスに苦戦する自分を千歌達が子守歌を唄うことで助けてくれたことに対してお礼を述べるのだが、そんな無爪に千歌は「別に大したことはしてないよ」と言葉を返すのだった。

 

「みんななっちゃんに、ウルトラマンジードに何時も助けて貰ってるからって、守ってくれてるからって、だから今度は私達が助けようと思った。 ただ、ジードへの恩返しがしたかった。 それだけのことだよ?」

「それでも、だよ。 ここで千歌ねえにしかお礼が言えないのがもどかしいけど」

 

ジードが何時も自分達を助け、守ってくれることへの恩返しだとしても、危ないところを千歌達に助けられたのは事実。

 

だから無爪は、そうだとしても千歌達に感謝せずにはいられなかったのだ。

 

ただ本当ならば千歌だけでなく、お礼を言うのならば曜達や、何故かへんてこな銃を持っていたザルド達などにもお礼を言いたかったのだが、流石にジードの正体を明かす訳にもいかないため、それが言えない状況に少しばかり胸の中に凝りが残ったような感覚を無爪は覚えずにはいられなかったが。

 

「曜ちゃん達に、別にもうジードの正体がなっちゃんだって明かしても良いような気もするけど」

 

梨子も、曜も、花丸もルビィも善子も、ジードのことを信じてくれている。

 

ならば、もどかしいと言うのならばAqoursのメンバーにぐらいジードの正体を明かしても良いのでは無いだろうかと千歌は提案するのだが、無爪としてはまだみんなに正体を明かすつもりにはなれないようだった。

 

「今でこそ、みんなはジードのこと信じてくれてるかもしれない。 でも、正体を明かしたら、みんなの僕を見る目が変わってしまうかも・・・・・・。 そう考えてしまうと、やっぱり正体を明かすに明かせられないんだよ」

「・・・・・・」

 

曜達なら、ジードの正体を明かしたとしても以前と変わらず無爪と接してくれそうな気もするが・・・・・・それはただの千歌の憶測にしかすぎない。

 

それに、無爪が正体を明かすことへの不安があるのも理解できる。

 

そのため、千歌はそれ以上無理強いしてまで曜達に無爪が自分こそがウルトラマンジードだと、言う必要はないと判断し、彼女は「分かったよ」と頷くと彼女は無爪の隣に座り込む。

 

「これ飲んだら、曜ねえ達と合流しよう」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、千歌達を探しに行っていた美渡はというと・・・・・・。

 

彼女は公園のベンチで休んでいる千歌と無爪の姿を遠目からではあるが発見し、声をかけようとしたのだが、何を話しているのかは聞こえはしなかったが、なんだか無爪と千歌がいい雰囲気に見えたため声をかけるのを野暮と思った美渡は空気を読んでその場を離れることにしたのだ。

 

(なっちゃんと千歌がなんかいい雰囲気のようだし、空気を読んで私はかっこ良く去るぜ! てか、思わず声をかけようとしたけど私がここにいる理由を説明しないといけなくなるから声をかけなくて良かったー!!)

 

あと思わず声をかけそうになったが、その後はどうして自分がこんなところにいるのかという疑問を無爪も千歌も当然抱いてそのことについて説明しなくてはならなくなる為、むしろここで声をかけなかったのは正解だったと思い、見つかる前に急いで美渡はこの場から離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ〜、やっぱり時間無くなっちゃったなぁ。 折角じっくり見ようと思ったのに」

 

その後、曜達と遅れて合流した千歌と無爪。

 

しかし中々来る機会のない秋葉原で、それもμ'sが主に活動していた聖地ならば色々と巡礼しようと思っていた千歌は、怪獣騒ぎなどもあったことからすっかり空は赤く染まって夕方となってしまい、もう神社ぐらいしか寄れないことを千歌はボヤいていた。

 

そんな千歌の呟きを聞いて、確かにこんな時間になってしまった主な原因は怪獣騒ぎのせいなのだが、自分達の勝手な行動にも一因があると思ったのか梨子は慌てて自分の買った本が入った袋を後ろに隠し、善子は「な、なによぅ!」と千歌に反論する。

 

「だから言ってるでしょ!? これはライブのための道具なの!」

「千歌ねえだって1人だけスクールアイドルのグッズ買い漁ってた癖に。 1人だけ買い物楽しもうだなんてそうは問屋が卸さない!!」

 

無爪にそう指摘され、実際自分だけ買い物を楽しんでいた千歌はぐうの音も出ないという感じで何も言うことが出来ずに黙り込んでしまい、何も言い返すことが出来なかったのだった。

 

そして、そうこうとしている内に、一同は目的の場所である「神田明神」の階段前にまで辿り着くことができた。

 

「ここだ・・・・・・!」

「これが、μ'sが何時も練習していたって言う階段!」

 

そのμ'sが練習に使っていたというその階段を見て、μ'sが駆け上っている姿を想像し、感慨深そうに見つめて思いを馳せる千歌達。

 

「登って、みない?」

 

少しばかり、遠慮がちに、けれどもどこかワクワクを隠せない様子の千歌が梨子達に折角なのだから階段を登ってみないかと提案すると、みんなを代表して梨子が「そうね」と頷くと、千歌は満面の笑みを浮かべて「よーし!!」と声をあげながらいきなり階段を走って駆け上がる。

 

「ええっ!?」

「ちょっ、待ちなさいよ!?」

 

突然走り出す千歌を梨子達は慌てて追いかけ、彼女と同じように階段を一同は駆け上がる。

 

ただ、無爪だけは普通に歩いて階段を登っていたが。

 

(μ'sが登ってたんだ・・・・・! ここを! ラブライブを目指して!!)

 

憧れの存在と、同じ場所で、同じように階段を駆け上がっていくことが嬉しいのか、千歌は先ほどよりも興奮した様子で、上を目指し、最後の一段を一際大きく飛んで階段を最後まで登り切ったのだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 

汗を垂らし流し、息を切らす千歌だが、彼女の表情からはしんどさなどが感じられず、それどころか彼女の表情はどこか満足そうで、とても楽しげな顔をしていた。

 

「「〜♪」」

「んっ?」

 

そんな時、息を整えた千歌の耳に、どこからか誰かの歌声が聞こえ・・・・・・。

 

歌声のする方に視線を向けると、そこにはどこかの学校の制服を着た2人の少女が神社の前で歌を口ずさんでいたのだ。

 

その歌声はどこか、人を魅了するように美しく、思わず彼女等2人の歌声に聞き入ってしまった千歌は、その歌声に吸い寄せられるかのように彼女等の傍に近寄ると、次の瞬間一際大きな風が千歌に吹いて来たのだ。

 

まるで今目の前にいる2人の少女の歌声に、千歌が衝撃を感じたのを現わすように。

 

「千歌ちゃん?」

「どうしたの千歌ねえ?」

 

そこへ、遅れて無爪や曜達がやってくると同時に、千歌の目の前にいた2人も丁度歌い終わり、彼女等は歌が終わると同時にゆっくりと千歌の方へと振り返り、彼女に向かって微笑んできたのだ。

 

(よく似ているな。 姉妹かな?)

 

そんな彼女等の存在に、無爪達も気付いたようで無爪は少女2人の容姿が身長差こそあるもののよく似ていて髪の色も2人とも紫系だった為、姉妹なのだろうかと予想する。

 

もし姉妹だとすれば見た感じ髪をサイドテールにしていて背が高い方が姉で、髪をツインテールにしていて姉っぽい人に比べると背が低くツリ目になってる方が恐らくは妹なのだろうとなんとなく無爪は考察。

 

「こんにちわ!」

「こ、こんにちわ・・・・・・!」

 

サイドテールの方の少女が、千歌に挨拶をしてくると、千歌は戸惑いつつも同じように挨拶を返す。

 

「千歌ちゃん?」

「まさか、天界直視!?」

「はっ? ってか善子ちゃん割と人見知りだよね」

 

狛犬の像に隠れながら、よく分からないことを言う善子に無爪は「いや、何言ってんの?」とでも言いたげな視線を送るが、善子は視線自体は特に気にせず、取りあえず「ヨハネよ!!」と彼女は無爪に訂正するように言うのだった。

 

(そして何故かツインテちゃんの視線が鋭いのはなんででしょうか。 僕達何かやらかしましたっけ? 会って20秒ぐらいだと思うんですけど)

 

それと無爪は気のせいかもしれないが、何故かやたらと睨んでくるツインテール少女の視線が少し気になったが、特に彼女を怒らせるようなことはしていない筈なので睨まれてる理由が分からず、彼は困惑してしまう。

 

強いて何かやらかしている人物がいるとすれば神社に巫女服のコスプレしてる曜ぐらいだろうか。

 

神社に偽者の巫女が来てんじゃねえ!! とかそんな感じで怒ってるんだろうかと思ったが、どうにも誰か1人を睨み付けているという訳でもないようで・・・・・どちらかと言えば、曜だけでなく、千歌達全員を睨み付けているような感じだった。

 

「あら、あなた達もしかして・・・・・・Aqoursの皆さん?」

「嘘!? どうして・・・・・・」

「この娘、脳内に直接・・・・・・!?」

「いや、普通に言葉を発してたよ」

 

サイドテールの少女が、Aqoursのことを言うと千歌や善子はまさか知って貰えるとは思っていなかったのか驚きの声をあげ、花丸はもう自分達はそんなに有名になったのかと呟き、そのことにルビィは「ピギィ!」と歓喜の感情の籠もった悲鳴をあげるのだった。

 

「PV、観ました。 素晴らしかったです!」

「あ、ありがとうございます!」

 

街のみんなと一緒に作ったこともあり、サイドテールの少女にPVの出来を褒められて嬉しそうにはにかむ千歌。

 

「もしかして・・・・・・明日のイベントで、いらしたんですか?」

「えっ? はい・・・・・・」

 

サイドテールの少女の問いかけに、千歌がその通りだと頷くと、サイドテールの少女は口元に薄らとした笑みを浮かべる。

 

「そうですか。 楽しみにしています」

 

サイドテールの少女は、それだけを言い残すとそのまま彼女は歩き去って行き、次いで・・・・・・彼女の隣に立っていたツインテールの少女も一度だけペコリと千歌達に頭を下げると、彼女は唐突にこちらに向かって走り出して来たのだ。

 

いきなり走り込んできたツインテールの少女の行動に、無爪達は驚くが・・・・・次の瞬間、彼女は空高く跳び上がり、側方倒立回転を披露。

 

その際不敵な笑みを浮かべながら・・・・・・まるで千歌達に自分の身体能力の高さを見つけるようにして・・・・・・地面に着地するのだった。

 

(あの娘すっげードヤ顔するじゃん!! あと・・・・・・)

 

そのままツインテールの少女は、サイドテールの少女の隣に並ぶと、彼女はサイドテールの少女と共にその場を去って行こうとするのだが・・・・・・。

 

「あのさ、ツインテの娘、あんまり人前でバク宙みたいなのやらない方が良いと思うよ? だってほら、あんな風に跳び上がったらスカートの中がちょっと・・・・・・」

 

ついつい先ほどのツインテールの少女が行った側方倒立回転に対し、無爪はスカートを履いているのならば人前でやるのは辞めた方が良いのではと忠告すると、それを受けたツインテの少女は無爪が何を言いたいのかを察し、彼女は顔を真っ赤にして自身のスカートの丈をバッと押さえ付けた。

 

「っ~!!」

 

恥ずかしそうに自分のスカートを抑えつつ、先ほど以上に無爪にのみ強く睨み付けるツインテの少女。

 

「なっちゃんってばやらし~」

「なっちゃんさぁ・・・・・・」

 

曜はそんな無爪にニヤニヤした笑みを向け、千歌を始めとした他のAqoursメンバー達は呆れたような視線を向け、それに無爪は納得出来ず千歌達に反論。

 

「いやでも、誰かが教えるべきでしょ! ああいうの! 僕以外言う気配無かったし!!」

「まぁ、彼の言うことも一理ありますね。 殿方もいるのにスカート履いてるにも関わらずあんな動きすればそりゃ下着くらい見えても仕方ないと思いますし・・・・・・」

「姉様ぁ!?」

 

まさかの自分の隣に立つ姉が無爪の方をフォローしてきたことに驚き、ツインテ少女の姉と思われるサイドテールの少女は「私からも後でしっかり注意しておきます」とペコリと頭を下げた後、彼女等は今度こそその場を去って行くのだった。

 

ただツインテ少女にはもう1回無爪は睨まれてしまったりしたが。

 

「えっと、スカート云々は兎も角、あんな動きができるなんて東京の女子校生って、みんなこんなに凄いずら?」

「あったり前でしょ! 東京よ、東京!!」

 

ツインテールの少女の先ほどのアクロバティックな動きを見て、花丸はμ'sの存在などもあることからか東京の女子校生はこんなにも凄い人達ばかりなのだろうかと驚き、そんな花丸に善子は東京なのだからあれぐらい出来て当然だと断言した。

 

しかし、多分だが恐らく東京は関係ない。

 

「いやでも、みんな驚いてるみたいだけど梨子さんもあれぐらい出来るじゃん。 ほら、しいたけに追いかけられた時」

「そこで私を引き合いに出すのおかしくない無爪くん!? それに、それを言うなら無爪くんだって身体能力高いじゃない!」

 

ドヤ顔されたのが少しばかりムッとしたからか、無爪は以前梨子がしいたけに追いかけられた時、千歌の部屋から自分の部屋へと空中で回転しながらダイナミック帰宅した時のことを引き合いに出すが、あの時は逃げるのに必死だったからたまたま出来た偶然で、あのツインテ少女のようにやろうと思ってやれる芸当ではないと梨子は言うのだった。

 

「歌、綺麗だったな・・・・・・」

 

また、そんな風に周りがやいのやいの言う中、去って行くあの2人の少女の背中を見送りながら、千歌は彼女等の歌声の綺麗さを褒め、小さくそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無爪達は今日泊まる予定の旅館へと向かうこととなり、全員が温泉に浸かって今はみんな浴衣に着替えて部屋でくつろいでいた。

 

「ふぅ〜、落ち着くずらぁ・・・・・」

「気に入ってくれたみたいで、嬉しいわ」

 

団扇を扇ぎながら、リラックスして旅館をご満悦の花丸を見て、喜んでくれたのならここを選んで良かったと嬉しそうにする梨子。

 

ちなみに同室にはペガの例を覗けば唯一の男性である無爪もいたが、他に部屋が空いていなかったこともあり、彼女等と同じ部屋で泊まることになっている。

 

最も、寝る際には隅っこの方に寄って寂しく寝て貰うこととなるのだが。

 

(・・・・・・お風呂上がりの女の子の浴衣姿ってなんかエロいよね・・・・・・)

『無爪ェ・・・・・・』

 

尚、無爪は風呂上がりで浴衣姿の梨子達を見て、少しばかり彼女等のことをそういう視線で見てしまったが、ウルトラマンとは言え彼もまた年頃の男の子なのでこれは仕方のないことだろう。

 

そしてペガはそんな無爪の考えを彼の表情から読み取り、呆れ気味な声を出すのだった。

 

とは言っても、全員が全員浴衣という訳では無く・・・・・・。

 

「なんか、修学旅行みたいで楽しいね!」

「曜ねえ、もしかしてそれも買ったの?」

 

曜は何故か巫女服の次はCAのコスプレをしており、善子は私服で堕天使ショップで購入したと思われるマントを装着してテーブルの上に乗り、みんなに自慢するかのようにバサッと広げてポーズを決めていた。

 

「堕天使ヨハネ、降臨!! ヤバイ、カッコイイ!!」

「ご満悦ずら」

「アンタだって東京のお菓子でご満悦の癖に!!」

 

直後、テーブルの上に乗る善子を行事が悪いとして梨子が「降りなさい!!」と叱ったことで、怒鳴られた彼女はしょんぼり顔で渋々テーブルの上から降りるのだった。

 

「お土産用にも買ったけど、夜食用にもまだ別に取ってある・・・・・・」

 

旅館のお土産コーナーで買ったと思われる「バックトゥザぴよこ万十」というお菓子の箱を取り出しながら、それとはまた別に購入したという夜食用の饅頭をキョロキョロと探す花丸だったが、何故か見当たらず、確かに置いてあったのにと首を傾げる。

 

「あれぇ?」

「旅館のじゃなかったの!?」

「マルのバックトゥザぴよこ万十ーーーー!!?」

 

見れば花丸が買っていた饅頭を旅館の物と勘違いした曜と梨子がモグモグと食べており、それを見た花丸は悲痛な叫び声が響き渡るのだった。

 

「なにその車型のタイムマシンが出て来る映画のタイトルみたいな名前の饅頭・・・・・・」

『やっぱりバック・トゥ・ザ・フュ〇チャーはデタラメなのかなぁ?』

 

無爪が饅頭の名前についてツッコミを入れると、ペガは某タイムトラベル映画のことを思い出し、某スーパーヒーロー映画で言っていたタイムトラベル系はやはりデタラメなのだろうかと疑問を抱きながら小さく呟いていた。

 

「花丸ちゃん、夜食べると太るよ?」

 

またルビィはそんな花丸に対し、夜にお菓子なんて食べたら太ってしまうと(何やら夜空に向けて祈りを捧げていた善子に「静かにして! 集中できないでしょ!?」と怒られつつ)注意するが、自暴自棄になった花丸はそれを聞き入れず、お土産用に買った筈のお菓子を開封して自分で食べ始めてしまうのであった。

 

「もういいずら! 食べちゃうずら!! はむ!!」

「それより、そろそろ布団敷かなきゃ・・・・・」

 

明日には大切なライブがあるのだから、そろそろ寝なくてはいけないとルビィが布団を取り出して敷こうとするのだが、小柄な彼女が持つには少々布団の量が多すぎたようで、バランスを崩したルビィは無爪達を巻き込んで布団ごと倒れ込んでしまうのだった。

 

「うわっとと・・・・・・! ぴぎいいい!!!!?」

『わあああああ!!!!?』

「ねえ! 今、旅館の人から聞いたんだけど・・・・・・あれ?」

 

そこへ丁度、どこかへ出ていた千歌が戻って来たのだが、彼女の目の前には布団や饅頭が散乱し、倒れ込む無爪達という地味にカオスな光景が広がっており、それに千歌は一体何があったのだろうかと不思議に思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「音ノ木坂って、μ'sの?」

 

散乱した布団や饅頭を片付け、一同が千歌が旅館の人から聞いてきた話とやらに耳を傾けると、どうやらなんでもこの旅館の近くにμ'sがかつて通っていた高校、「音ノ木坂学院」があるとのことで、音ノ木坂の名前を聞いた瞬間、梨子は一瞬複雑そうな表情を見せるが・・・・・・。

 

「梨子ちゃん! 今から行ってみない? みんなで!!」

 

しかし、千歌はそれに気付かず、今からみんなで行ってみないかと誘って来たのだ。

 

「私、一回行ってみたいって思ってたんだ〜! μ'sが頑張って守った高校、μ'sが練習していた学校!!」

 

千歌は目をキラキラと輝かせながら、今すぐにでも自分が憧れ、尊敬するμ'sが通っていたという学校に行きたい気持ちを抑えきれない様子を見せ、これにはルビィや曜も「ルビィも行ってみたい!!」「私も賛成!!」と彼女に同意する姿勢を見せ、今からみんなで音ノ木坂に行く流れとなっていた。

 

「でも、東京の夜は物騒じゃないずら?」

「なっ、なっ、なに? 怖いの!?」

 

しかし、既に夜も遅い時間である為、花丸は不安がり、そんな花丸に対し、怖いのかと善子が言ってくるが・・・・・・どう見ても怖がっているのは声が震えている上に、身体も地味に小刻みに震えている善子の方であり、当然ながらそのことは花丸にも見透かされていた。

 

「善子ちゃん震えてるずら〜」

「でも花丸ちゃんの言う通り、もう遅い時間だし。 僕がみんなと一緒について行くとしてももしもってことがあるかもしれないんだから、明日朝早くとか、ライブ終わってからとかでもいいんじゃないの?」

 

最後に憧れの対象がμ'sかドンシャインかの違いなだけで、千歌の今すぐ音ノ木坂に行きたいという気持ちは分かるからか「千歌ねえの気持ちは痛いほど分かるけど」と付け足しつつ、無爪も流石にこんな夜中に出歩くのは物騒だと言って音ノ木坂に行くのを反対する意志を見せ、それに「えー!?」と項垂れてみせる千歌。

 

「行こうよ行こうよー!! みんなで行けば大丈夫だよ〜! それになっちゃんがいればそんじょそこらのただの不審者なんて出てきても簡単に叩きのめせるじゃん!」

「僕が一緒にいたとしてももしもってことがあるでしょ!? さっきも言ったけど、明日もあるし、ライブだってあるでしょ!?」

 

そのように、千歌と無爪が何時ものようにギャーギャーと言い争いを始めるのだが、そんな2人の口論を割って入るように、梨子が「ごめん!」と口を開き、謝罪の言葉を発すると口論していた千歌と無爪はいきなり謝りだした梨子に驚き、何事かと思い黙り込んだ。

 

「私は、いい・・・・・・」

『えっ?』

「今行くなら私は先に寝てるから、みんなで行ってきて? 今日じゃなくて明日行くとしても、私は置いて行って来て良いから」

 

梨子は今行くにせよ、明日行くにせよ、音ノ木坂に行くのなら自分は遠慮しておくと言いだし、彼女は立ち上がって一度部屋を出て行くと、その時にチラリと見えた彼女の表情はどこか不安げに見え・・・・・・その表情を見ると、千歌はなんとなくではあるが、彼女が音ノ木坂に対し、どこか複雑な心境を抱いているのを察することが出来た。

 

そのため、千歌はこれ以上音ノ木坂の話題を出すことが出来ず、同時に梨子を置いて音ノ木坂に行く気にもなることができなかった。

 

それは他のメンバーも同じ考えなようで・・・・・・。

 

「やっぱり、寝ようか?」

「そうですね、明日ライブですし」

「・・・・・・」

 

千歌に次いでノリ気だった曜とルビィも、梨子に気を遣って明日はライブもあるから寝ようと言うと、全員特に反対することもなく、それぞれの布団を敷いて今日はもう寝ることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、みんなが布団を敷いて寝静まった頃・・・・・・。

 

眠れなかったのか梨子は1人、窓の傍で夜空を眺めており、そんな梨子を気にしてか、彼女と同じようになんだか寝ることが出来なかった千歌が「眠れないの?」と尋ねながら起き上がると、それに対して梨子は「千歌ちゃんも?」と聞き返してきたのだ。

 

「うん、なんとなく・・・・・・」

「っ・・・・・・。 ごめんね? なんか、空気悪くしちゃって・・・・・・」

 

梨子は先ほど自分のせいで変な空気を漂わせたことを反省し、そのことについて千歌に謝罪するが、彼女はそんなことはないと首を横に振る。

 

「ううん。 こっちこそ、ごめん」

 

梨子が音ノ木坂にどこか複雑な感情を抱いていたのは、薄々感じていた。

 

それなのに、自分ばかりはしゃいで梨子への配慮が欠けていたことを千歌は反省し、自分の方こそ申し訳ないことをしたと謝ると、梨子はそんな千歌に苦笑しつつ、彼女は再び夜空を見上げながら自分の知る音ノ木坂について千歌へと語り始める。

 

「音ノ木坂って、伝統的に音楽で有名な高校なの。 私、中学の頃ピアノの全国大会行ったせいか、高校では結構期待されてて・・・・・・」

「そうだったんだ・・・・・・」

「音ノ木坂が嫌いな訳じゃないの。 ただ、期待に応えなきゃって・・・・・・何時も、練習ばかりしてて・・・・・・でも結局、上手くいかなくて・・・・・・」

 

しかし、梨子が言うにはいざ大会が始めると、上手くピアノを弾くこと出来ず、彼女は周りの期待に応えることはできなかった。

 

それが音ノ木坂に対して抱いていた複雑な感情の正体・・・・・・、だから梨子は、音ノ木坂に行くことを拒んだのだ。

 

「期待されるって、どういう気持ちなんだろうね?」

「えっ?」

 

梨子の話を聞いて、不意に千歌が期待されるのはどんな気持ちなのだろうかという質問をぶつけられ、そんな千歌に「いきなりどうしたの?」とでも言いたげな様子で梨子は首を傾げる。

 

「沼津出る時、みんな見送りに来てくれたでしょ? みんなが来てくれて、すごい嬉しかったけど、実はちょっぴり怖かった。 『期待に応えなくきゃって』『失敗できないぞ』って」

「千歌ちゃん・・・・・・」

 

千歌はクラスメイトの3人が見送りに来て送り出した時のことを思い出した為か、その時に感じた「期待に応えなくてはいけない」という気持ちが蘇り、彼女は不安げな表情を見せる。

 

「ごめんね? 全然関係ない話して」

「ううん、ありがとう」

「へっ?」

 

千歌は梨子に関係ない話をしてしまったと謝ったが、きっと千歌は千歌なりに、自分のことを励まそうとしてくれたんだろうと、梨子には分かっていた。

 

だから彼女は、千歌に対して「ありがとう」とお礼を述べたのだ。

 

「さっ、寝よ! 明日のために!」

 

梨子にお礼を言われて、なんでありがとうと言われたのか分からず一瞬キョトンッとする千歌だったが、笑顔を取り戻した梨子の顔を見て、一応の吹っ切れを感じ取った千歌は彼女の言葉に「うん!」と頷き、2人は明日のライブの為に眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

その翌日の、早朝、まだ朝も早い時間。

 

千歌はふっと自分だけが目を覚ますと、みんなを起こさないように静かに練習着に着替え、みんなに黙ったまま旅館を飛び出し、彼女は1人、走り込みを行う。

 

「よし!」

 

しばらく1人で走り込みをしていると、いつの間にかかつて、自分が以前修学旅行で訪れ、自分がスクールアイドルを始める切っ掛けになった場所。

 

巨大なモニターが設置された建物、「UTX学園」の前まで来ていたことに気付いた。

 

そのことに気付いた千歌は一度息を切らしつつ立ち止まり、モニターを見上げると彼女はここでスクールアイドルを初めて知った時のことを思い返す。

 

「ここで初めて見たんだ! スクールアイドルを・・・・・μ’sを!」

「千歌ちゃん!」

 

以前、ここに訪れた時のことを思い返していると、不意に後ろから自分を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返るとそこには自分と同じように練習着に着替え、息を切らす曜達の姿があったのだった。

 

「やっぱり、ここだったんだね!」

「みんな・・・・・・? あれ? なっちゃんは?」

 

しかし、唯一無爪だけがいなかったことに疑問を感じた千歌は、無爪はどうしたのかと曜に問いかけると、曜が言うには無爪はまだ眠っているらしく、曜曰く「マネージャーでもない上に、無理言ってついて来て貰ったのだからなっちゃんまで朝練付き合わせるのは申し訳ない」とのことで、起こさなかったそうだ。

 

「でももう無爪くんマネージャーで良くない? まぁ、それよりも、練習するなら声かけてよ、千歌ちゃん!」

「そうよ! 1人で抜け駆けなんてしないでよね!」

「帰りに神社でお祈りするずらー!!」

 

梨子と善子、花丸がそれぞれ上から順番に千歌にそう言っていくと、その時・・・・・・。

 

突如、UTXのモニターの画面から音楽が流れ、千歌達がモニターの画面を見上げると、画面にある映像が映り始め、そこには「LoveLive」と書かれた文字が表示されたのだ。

 

「ラブ・・・・・・ライブ・・・・・・!?」

「ラブライブ! 今年のラブライブが発表になりました!」

 

千歌とルビィは目を見開きながら、そこのモニターでラブライブのエントリーが始まったという告知が流れ、梨子は千歌に「どうするの?」と尋ねると、当然エントリーすると千歌は言い放ったのだ。

 

「勿論出るよ! μ’sがそうだったように、学校を救ったように! さあ、行こう! 今、全力で輝こう!!」

 

そして、千歌、梨子、曜、花丸、ルビィ、善子の6人がそれぞれ手を重ね合わせる。

 

『Aqours!! サーンシャイーーーーン!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後、本日のライブ会場に到着した千歌達は、1つの作品を除いて3作ラブライブシリーズ皆勤賞みたいな顔したレポーターっぽい感じの人から今回のイベントについての説明を今は受けていた。

 

「ランキング?」

「ええ、会場のお客さんの投票で出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」

「上位に入れば、一気に有名になるチャンスってことですか!?」

 

曜はそのランキングでもしも上位に入ることが出来れば、自分達は一気に有名になれるのかと尋ねると、レポーターの人は「まぁ、そういうこと」と彼女の言葉を肯定した。

 

「Aqoursの出番は2番目、元気にはっちゃけちゃってね!!」

「2番・・・・・・?」

「前座ってことね」

 

自分達の順番的に考えると、Aqoursは言うなれば前座。

 

そのことについて梨子は少しばかり怪訝な顔をするものの、ルビィ曰く、他のスクールアイドル達は誰もみんなラブライブの決勝に出たことがあるグループばかりなのだという。

 

「でも、前座が後座の人達より目立っちゃいけないなんてルール無いし、むしろ喰うぐらいの勢いが良いとは僕は思う」

 

例え、周りがラブライブ決勝に進出したグループばかりだとしても、むしろ臆することなく前座がメインを喰ってやるぐらいの気構えでいる方が良いだろうと無爪が千歌達に言うと、それに千歌も「そうだね」と同意するように頷く。

 

「そうだ、チャンスなんだ! 頑張らなきゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから千歌達6人は無爪と一旦別れ、無爪は客席に向かい、千歌達は控え室でライブのため着替えをすることに。

 

「千歌ねえ!」

 

しかし、控え室に行く直前、無爪に呼び止められた千歌は「んっ?」と立ち止まり、彼の方へと振り返る。

 

「えぇっと、その・・・・・・頑張って」

「んっ・・・・・・? うん! 勿論!」

 

無爪からのエールの言葉を受け取り、今度こそ千歌は梨子達と共に控え室へと向かうのだった。

 

そして、控え室に辿り着くと、彼女等はすぐに6人全員が余裕で入るくらいの更衣室に入って着替えを済ませるのだが・・・・・・。

 

「緊張してる?」

「そりゃね」

 

曜はどこか強張った表情をしている梨子を見て、ならその緊張をほぐす為にと彼女は敬礼のポーズを取る。

 

「なら、私と一緒に敬礼!! おはヨーソロー!!」

「お、おは・・・・・・ヨーソロー・・・・・・!」

 

曜に言われたように、梨子も敬礼しながら「おはヨーソロー」を言うと、曜はそんな梨子に「よく出来ました!」と笑いかける。

 

「緊張が解けるおまじないだよ♪」

 

と言いながら、曜は梨子の緊張を自分なりにほぐしてみたのだが・・・・・しかし、緊張しているのは梨子だけではないようで・・・・・・。

 

「やっぱり無理ですぅ・・・・・・」

 

ここに来て、相当のプレッシャーが自分に降りかかったのだろうか、見れば膝を抱えながら自分には無理だと、顔を俯かせているルビィがそこにおり、そんな彼女の肩に花丸はそっと自分の両手を乗せる。

 

「ルビィちゃん・・・・・・」

「っ」

「ふんばルビィずら!」

 

花丸が、ルビィの口癖を真似て彼女を励ますと、それを受けたルビィもどうやら緊張が解けたようで彼女は花丸に「うん!」と元気よく頷き、お互いに笑い合う。

 

「ダメダメ! 弱気になっきゃ!!」

 

そして千歌は、自分の頬を両手でパンッと叩いて気合いを入れると、レポーターの人から「Aqoursのみなさーん! よろしくお願いしまーす!!」という声が聞こえ、千歌達は気を引き締め、先ずはステージの裏で1番最初のグループが終わるまで待機することに。

 

ちなみに善子は変な呪文を唱えていて何時も通りの様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてステージ裏に到着した千歌達。

 

善子、花丸、ルビィはこっそりと客席を伺うと、その訪れた来場客の数に若干圧倒され、緊張がぶり返しそうになってしまう。

 

「す、凄い人です・・・・・・」

「だ、だ、だ! 大丈夫よ!?」

 

緊張するルビィに善子は客が大勢だろうが平気だと強がりを見せ、そんな1年組の様子を、千歌達が微笑ましく見守っていると、不意に後ろから誰かがこちらに向かって歩いて来る足音が聞こえ、音のした方へと振り返ると・・・・・・。

 

そこには神社で出会った、アイドルの衣装と思われる服を身に纏ったあの2人の少女がこちらに向かって歩いて来ているのが見えたのだ。

 

「よろしくお願いしますね!」

「スクールアイドル・・・・・・だったんですか?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 私は、『鹿角 聖良』」

 

神社で出会ったサイドテールの少女は、「鹿角 聖良」と千歌達に不敵な笑みを浮かべながら名乗り、ツインテールにしている方の少女、妹の「鹿角 理亞」の名を聖良が呼ぶと、呼ばれた理亜は一瞬千歌達を睨んだ後、聖良に続くように、2人、スクールアイドル「Saint Snow」はステージへと上がるのだった。

 

「見てて、私達・・・・・・『Saint Snow』のステージを!』



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第11話 『0から1へ』

「で~わ~!! トップバッターはこのグループ!! Saint Snow!!」

 

例のレポーターの女性がSaint Snowの名前を言い放つと、呼ばれた聖良と理亜の2人組のスクールアイドル、「Saint Snow」が会場へと現れ、舞台に立つと彼女等の曲が始まり、2人のライブが始まった。

 

そんな彼女等の歌う曲は・・・・・・「SELF CONTROL!!」という曲。

 

始まった聖良と理亜の2人の、彼女等2人のそのライブでのパフォーマンスは少なくとも千歌に取ってはとても圧巻されるものであり、彼女は素直に「凄い」と称えられるほどのものだったのだ。

 

そして気付けば、いつの間にかSaint Snowのパフォーマンスが終了しており、すっかりSaint Snowのライブに見入っていた千歌は今度は自分達Aqoursがレポーターに呼ばれていることに気付かず、曜に「千歌ちゃん!」と呼びかけられたことでようやく自分達の番が来たことに気付き、彼女は戸惑いながらも「う、うん!」と頷きながら、曜達と共に舞台へと上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、全ての出場スクールアイドル達のライブが終了し、イベントが終わると無爪達は残された時間を観光に回すこととなり、一同は今は東京タワーへと訪れているところだった。

 

「この街、1300万人の人達が住んでいるのよ」

「そうなんだ・・・・・・」

「って言われても、全然想像できないけどね・・・・・・」

「やっぱり、違うのかな? そういうところで暮らしていると・・・・・・」

 

結果から言えば、あのスクールアイドルでのイベントでAqoursがランキングで10位以内に入ることは無かった為、彼女等が入賞することは無かった。

 

その為か、Aqoursのメンバー達はどこか元気が無さそうで、梨子と曜は窓から見える街を見下ろしながら、少しばかり暗い表情と気分が沈んだような声のトーンで2人はそんな会話をしており、その横では花丸とルビィが双眼鏡を使いながら東京の街の光景を眺めていた。

 

「あれが富士山かなぁ?」

「ずら・・・・・・」

 

やはりと言うべきか、花丸やルビィもどこかテンションが低く、そんな元気のない曜達の姿を少し離れた場所で見つめていた無爪は彼女等をどうにかして励ますことは出来ないのだろうかと考えるのだが、その方法が全くと言って良い程彼には思いつかなかった。

 

「ペガは、みんなを励ます良い方法とか思いついたりしない?」

 

なので、無爪は自分の影の中、ダークゾーン内にいるペガにみんなを元気づける為のアドバイスなどが何か無いかと尋ねるのだが、ペガはひょこっと人に見られないように気をつけつつ、顔をだけを出しながら「全然」と言って首を横に振るのだった。

 

『それに、今はそっとしておいてあげようよ。 余計な励ましは、却って逆効果になると思うし』

「それは、そうなんだけど・・・・・・僕も余計なことだとは思うけど・・・・・・。 でも、僕は落ち込んでる時、何時もみんなに励まされて来たから、だから今度は僕が何かしてあげられることがあるんじゃないかって・・・・・・」

 

アドバイスを求める無爪に対し、ペガは無理にみんなを励まそうとしても、それは却ってみんなを傷つけかねない行為だと言って今は何もせず、ただ見守ってあげようと言うと、無爪自身も確かにペガの言う通り今はそっとしておくのが1番だとは思った。

 

ここで無理にみんなを元気づけようとしても、逆にそれはみんなを傷つける行為になりかねない。

 

それは無爪も理解している。

 

だが、サンダーキラーとの戦いでは彼女等の声援があったからこそ勝利することができ、前回のクラウドスとの戦いだって彼女等の協力があったからこそ、クラウドスを元の場所へと返すことが出来たのだ。

 

特に、千歌には何時も励まされ、何度も自分にとって心の支えとなってくれた。

 

それなのに、今の自分は彼女達に対して何も出来ないのか、彼女達が自分にしてくれたことを、今度は自分が返すことは出来ないのかと無爪は強く思い悩んだのだ。

 

だが、無爪がそんな風に思い悩んでいると、「フフフ」と不敵な笑い声をあげる善子の声が聞こえ、無爪達が声のした方へと振り返るとそこには何時ものように黒いケープを纏いながらポーズを決める善子の姿があったのだった。

 

「ふふふ、最終呪詛プロジェクト・・・・・・。 ルシファーを解放! 魔力1千万のリトルデーモンを召喚! 」

 

バサッとケープを広げながら、空中に飛ばした1つの黒い羽根をその手に掴み、決めポーズを決める善子。

 

「・・・・・・カッコイイ・・・・・・!」

「善子ちゃんは元気だね」

「善子じゃなくて、ヨ・ハ・ネ!」

「ライブは終わったのにヨハネのままずら」

 

そんな何時ものやり取りを見て、思わず苦笑いとなる無爪。

 

もしかして善子は場を和ませようとしたのだろうかと思い、多少なりとも善子のおかげで少しはマシな空気になったのではないだろうかと思った無爪は「僕にはこんな風には出来ないな」と彼女に少しばかり感心の声をあげながら小さく呟く。

 

最も、無爪の呟きは善子に聞こえていたようで「ヨハネ!!」とこれまた何時のように訂正を入れられるのであった。

 

するとそこでみんなのアイスを買いに行っていた千歌が「お待たせー!!」と元気な声をあげながら戻ってくると、彼女はみんなに「笑顔」を見せながら、無爪達にアイスを配っていく。

 

「なにこれすごーい! キラキラしてる~!! それにこれもすっごい美味しいよ!」

「千歌、ちゃん・・・・・・」

「千歌ねえ・・・・・・」

 

そのように、みんなに元気に笑顔を向ける千歌であったが、その表情は誰がどこからどう見ても無理にしているようにしか見えず、無爪達はそんな千歌に戸惑いながらもアイスを受け取っていくことしかできなかった。

 

それから一通りアイスを配り終えた千歌はみんなの元気があまり無いことを察してか、彼女はは今日のライブのことを振り返りながら、今までだってライブは全力で挑んでいたが、例え入賞出来なかったとしても、今日は特に今までで1番の全力を出し尽くしたのだから後悔は無いと語りだしたのだ。

 

「・・・・・・全力で頑張ったんだよ? 私ね、今日のライブ今まで歌ってきた中で出来は1番良かったって思った! 声も出てたし、 ミスも1番少なかったし・・・・・・」

「でも・・・・・・」

「それに、周りはみんなラブライブ本選に出場しているような人達でしょ? 入賞出来なくて当たり前だよ!」

「だけど、ラブライブの決勝に出ようと思ったら、今日出てた人達ぐらい、上手く無いといけないってことでしょ・・・・・・?」

 

元々、今日のイベントでライブを披露していたスクールアイドル達は元より実力の高い者達ばかりだった。

 

千歌はそんな人達ばかりいる中で、千歌や他のメンバー達も「もしかしたら」というちょっとした希望を期待こそしていたが、スクールアイドルを始めたばかりの自分達が入賞出来ないのは当然のことだと言うのだが・・・・・・。

 

そんな彼女に対し、梨子はラブライブの決勝を目指すなら、今日出場していた他のスクールアイドル達ぐらいの実力が必要で、そのことについて千歌も「それはそうだけど・・・・・・」と今日のイベントを通して、自分達ではまだまだ実力不足だということは頭では理解しているつもりだった。

 

「・・・・・・私ね、Saint Snowを見た時に思ったの。 これがトップアイドルのスクールアイドルなんだって。 このぐらい出来なきゃ、ダメなんだって。 なのに、入賞すらしていなかった」

 

そんな時、曜が千歌に対してSaint Snowのライブを見た時、彼女等が大会で入賞するのは間違い無いだろうというちょっとした確信を得るぐらいには十分なほど、Saint Snowの実力はかなり高いものだと感じたことを語りだし、それに続くように無爪もまた、素人目線ながらもSaint Snowへの評価を千歌へと語ったのだ。

 

「スクールアイドルについて疎い僕でも、ちょっと悔しいけど、正直Saint Snowのライブは凄いって思った。 高い実力の持ち主だって言うのが分かった。 なのに、あれで入賞出来ないって・・・・・・。 正直、『有り得ないだろ』って思ったよ。 スクールアイドルの世界って僕が思ってるよりも物凄く厳しいんだなって・・・・・・」

 

しかし、実際にはそう感じたSaint Snowすらも今回のイベントで自分達同様に入賞することが出来ていなかった。

 

それは、スクールアイドルについて全然詳しく無い無爪が見ても、Saint Snowの実力が相当なものであることは理解することができた。

 

なので無爪も曜と同じように少なくともSaint Snowは絶対に入賞しているだろうと思ったのだが、しかし、そんな無爪や曜の予想や確信を裏切り、Saint Snowの実力を持ってしても、今日のイベントで彼女等もまた入賞することは出来なかったのだ。

 

「・・・・・・あの人達のレベルでも、無理なんだって・・・・・・」

 

だが、そのSaint Snowの実力でも、イベントで入賞出来なかったことを考えると、自分達Aqoursがまだまだ実力不足であるということを痛感せざる得なかった。

 

「それは、ルビィもちょっと思った・・・・・・」

「マルも・・・・・・」

 

花丸やルビィもまた、曜と同じように自分達がまだまだ実力不足であるということを頭の片隅で考えていたようで・・・・・・。

 

そんな暗い表情で、弱気な発言をする花丸とルビィに対して善子は両腕を組みながら彼女はあれはただの偶然だと突然主張しだしたのだ。

 

「な、何言ってるのよ! あれはたまたまでしょ? 天界が放った魔力によって・・・・・・!」

「何がたまたまなの?」

「何が魔力ずら?」

「ふえっ!? いやぁ、それは・・・・・・」

「慰めるの下手すぎずら」

 

暗い雰囲気になりつつあった場の空気を和まそうと思って発言した善子であったが、花丸やルビィの指摘に思わずあたふたとした様子を見せ、そんな不器用な姿を見せる彼女に花丸やルビィは思わず笑ってしまうのだった。

 

「な、何よぅ! 人が気を効かせてあげたのにぃー!!」

「そうだよ・・・・・・」

「「「えっ?」」」

「今はそんなこと考えてもしょうがないしさ! それよりさ、折角の東京だしみんなで楽しもうよ!」

 

曜や無爪の言いたいことも分かる。

 

だが、今は気分転換をした方が良いだろうという考えからか、まだ帰るまでに時間もあることなので残された時間を使い、東京での観光を楽しもうとみんなに提案する千歌であったが・・・・・・。

 

その時、千歌の持つスマホから「プルルル」という着信音が聞こえ、彼女は「誰からだろう?」と思いつつスマホをポケットから取り出して通話に出ると、電話をかけてきたのはあのレポーターからであった。

 

「はい、高海です。 えっ? はい、まだ近くにいますけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、レポーターに呼び戻され、今日行われたライブ会場へと戻ってきた千歌達。

 

「ごめんなさいねぇ、呼び戻しちゃって。 これ、渡し忘れていたからって思って」

 

そう言いながらレポーターは1つの封筒を千歌へと差し出し、千歌はそれを不思議そうに見つめる。

 

「なんだろう?」

「もしかして、ギャラ?」

「そんな訳無いでしょ。 アイドルたって千歌ねえ達の活動はあくまで部活動なんだし」

「卑しいずら」

 

ルビィはレポーターの差し出した封筒がなんだろうと首を傾げ、善子はもしかして今日イベントに参加してくれたお礼として金銭的なものを渡されたのだろうかと考えたが、幾らイベントだからと言ってもこれは部活動の一環なのでそんなものが発生する訳が無いと言う無爪。

 

また、お金が貰えるのではと期待するそんな善子に対し、花丸は呆れたような視線を彼女へと向けるのだった。

 

「今回、お客さんの投票で入賞グループ決めたでしょ? その集計結果」

「わざわざ、ありがとうございます」

 

無爪、ルビィ、花丸、善子の1年組4人がなんの封筒だろうと話し合っていると、レポーターからこれは集計結果の紙の入った封筒であるということが説明され、千歌はお礼を言いながらレポーターから封筒を彼女は受け取った。

 

「正直、どうしようかなーってちょっと迷ったんだけど、出場して貰ったグループにはちゃんと渡すことにしてるから」

 

どことなく、気まずいような顔を浮かべるレポーターの言葉に何か引っかかる部分があるものの、それを聞く前に彼女はまだ作業も残ってるからか「じゃあ」とだけ言い残してその場を去って行ってしまい、曜が「見る?」と千歌に問いかけると彼女は「うん」と頷き、封筒を開封して中に入っていた紙を取り出すとみんなでその紙に書かれていた集計結果の内容を確認してみることに。

 

「あっ、上位入賞したグループだけじゃなくて、出場グループ全部の得票数が書いてある!」

「Aqoursはどこずら・・・・・・?」

「えーっと、あっ、Saint Snowだ」

 

千歌達がAqoursの名前を探していると、それよりも先にSaint Snowの名前が目に止まり、Saint Snowの順位は30組中9位であった。

 

「9位か、もう少しで入賞だったのね・・・・・・」

 

梨子がそう呟き、花丸が自分達Aqoursの名前はどこにあるのかと急かすと千歌は1枚目の紙にAqoursの名前が入っていなかった為、2枚目の紙を確認してみると、そこには1番最後に・・・・・・Aqoursの名前が書かれていたのだった。

 

「っ、30位・・・・・・」

「30組中、30位・・・・・・?」

「ビリってこと!?」

「わざわざ言わなくて良いずら!!」

 

千歌、曜、善子、花丸の順にそれぞれそう言うと、梨子は得票数はどれぐらいあったのかと千歌に尋ね、千歌はAqoursの得票数を確認してみるのだが・・・・・・。

 

「えっと・・・・・・」

 

そこには、「0」とただ無情に紙に書かれており、その数字を目撃した瞬間、千歌や他のメンバーはそのことに目を見開き、ただ彼女等はその結果に驚愕することしかできなかった。

 

「0・・・・・・?」

「そんな・・・・・・」

「私達に入れた人、1人もいなかったってこと?」

 

尚、ここでペガは投票が出来ないのは仕方が無いとして、無爪は投票しなかったのかと思うかもしれないが、あらかじめ千歌が「なんかそれちょっとズルい気もするから」と言ってあらかじめ彼には自分達に投票しないようにと釘を刺していたのだ。

 

そのため、無爪は今回のイベントでAqoursには票を入れておらず、他のスクールアイドルに投票するのも嫌だったのでAqours以外のグループにも票は入れてはいなかった。

 

「1人もいないって、嘘だろ・・・・・・?」

 

この結果に、無爪は会場に何人もの多くの人達がいたんだから流石に1人ぐらい誰かが投票してくれていても良いだろうと思わずにはいられなかったが、現実は非情である。

 

無爪や他の誰かがどう思おうが、どう言おうが、結果は変わらない。

 

「お疲れ様でした」

 

そんな時、投票結果に千歌達がショックを受けていると、不意に聞き覚えのあった声が聞こえ、千歌が顔をあげるとその視線の先には聖良と理亜のSaint Snowの2人が立っていたのだ。

 

「Saint Snowさん・・・・・・」

「素敵な歌で、とても良いパフォーマンスだったと思います」

 

それは別に、最下位で、0票のAqoursに対する皮肉などではない。

 

聖良は今日のAqoursのライブを見て素直にそう感じ、本心からAqoursのことをそう称えたのだ。

 

「ただ、もしμ'sのように、ラブライブを目指しているのだとしたら・・・・・・諦めたほうがいいかもしれません」

『っ・・・・・・!!』

 

聖良の言う言葉には嘘偽りは無い。

 

千歌達のライブ自体は悪いものではなかった。

 

だが、もしラブライブを目指すのだとすれば・・・・・・今日ぐらいのAqoursのパフォーマンスでは全く通用しないということを聖良は非情にも言い放ち、それに千歌達は何も言い返すことができなかった。

 

「っ、なんだよ、それ! 勝手なこと言うな! なんでアンタにそんなこと言われないと・・・・・・!!」

 

ただ1人、無爪はだけはそんな聖良の言葉に苛立ち、言い返そうとしたが、無爪の影の中からペガが彼の足をガシッと掴んだことで無爪は言葉を遮られ、「なにするんだ!?」とでも言うような視線をペガの方へと向ける。

 

『ごめん、でもここは君が間に入って良いところじゃないと思うから・・・・・・』

「っ・・・・・・」

 

ダークゾーンから小声で無爪にだけ聞こえるようにペガがそう言うと、無爪もすぐにこれはスクールアイドル同士の問題だということを理解し、冷静となって自分は口を挟むべき問題ではないと思い、唇を噛み締めながらも、彼は悔しそうに黙り込むのだった。

 

「・・・・・・」

「んっ・・・・・・?」

「バカにしないで・・・・・・」

 

そこで、千歌はジッとこちらを鋭い目つきで見つめてきている理亜の視線に気付くと彼女は目尻に涙を浮かべつつ、そう言ってきたのだ。

 

「ラブライブは、遊びじゃない・・・・・・!!」

「っ・・・・・・!?」

 

理亜は千歌達に強くそう言い放つと、彼女等は聖良と共にその場を去って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、もはや観光なんてする気分になれなかった無爪達はそのまま真っ直ぐ駅へと向かって電車が来るのをただ待ち続け、帰りの電車が来ると一同は未だに暗い雰囲気を纏ったまま、それに乗り込み帰路へと付くのであった。

 

「・・・・・・泣いてたね、あの娘・・・・・・。 きっと、悔しかったんだね。 入賞できなくて・・・・・・」

「ずら・・・・・・」

 

電車に揺られながら、ふっとルビィが口を開くと泣いていた理亜の顔を思い出しながら、その時の彼女の心情を理解し、そんなルビィの言葉に花丸が頷いて同意すると、後ろの席に座っていた善子が顔を覗かせながらだからと言ってあの言い草は無いのではないかと言い始める。

 

「だからって、ラブライブをバカにしないでなんて・・・・・・!!」

「だよね、千歌ねえ達が何時ラブライブをバカになんて・・・・・・、何年何月何日何時何分何十秒、いつ、どこで! 地球が何回廻った時にしたんだよ! 一瞬たりともしてないだろ!」

 

無爪もまた善子と同意見なのか、ずっと千歌達の活動を見守ってきた彼は千歌も、梨子も、曜も、善子や花丸、ルビィだってラブライブをバカにしたことなんて一瞬たりともないことを知っている。

 

それは例え、無爪やダークゾーンの中にいるペガを含めたとしてもだ。

 

「でも、そう見えたのかも」

 

しかし、曜は客観的に見て理亜にはそう見えてしまったのではないかと予想し、考えてしまう。

 

「・・・・・・私は良かったと思うけどな」

 

そこで電車の窓の外を見つめながら不意に千歌がそう呟くと、全員が一斉に彼女の方へと視線を向け、そんな彼女に曜は「千歌ちゃん?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「精一杯やったんだもん。 努力して頑張って、東京に呼ばれたんだよ? それだけで凄いことだと思う! でしょ?」

「それは・・・・・・」

「だから、胸張って良いと思う!! 今の私達の、精一杯が出来たんだから!」

 

東京のイベントで、誰1人としてAqoursに票を入れて貰えず、聖良からは「ラブライブを目指すなら諦めた方が良い」とまで言われて、所謂「完全敗北」とでも呼べるような結果に終わってしまったというのに、それでも東京に呼ばれるまでになったのだから、それだけでも今は十分だとみんなに笑いかけながら気丈に振る舞う千歌。

 

「千歌ちゃん・・・・・・」

「んっ?」

「千歌ちゃんは、悔しくないの?」

「・・・・・・えっ?」

 

それは、今日1日無理に明るく振る舞う千歌を見てみんなが思っていたことだった。

 

しかし、今の今まで誰1人としてそんな千歌を気遣ってからか誰もそれを中々言い出すことができず、指摘することが出来なかった。

 

だが、遂にこのまま黙っていることが出来なくなった曜は全員が千歌に対して抱いていたであろう疑問を率直に彼女へとぶつけ、それに一瞬戸惑いの色を千歌は見せる。

 

「・・・・・・くやしくないの?」

 

もう1度、改めて曜が千歌へと問うと彼女は動揺しながらも「そ、そりゃちょっとは・・・・・・」とどうにか言葉を絞り出すようにして応える。

 

「でも満足だよ! みんなであそこで立てて、私は、嬉しかった」

「・・・・・・そっか」

 

それ以上、曜は特に千歌に問い詰めるようなことせず、以降電車が沼津駅に到着するまでしばらくの沈黙が続いたのだった。

 

(全く、人のこと何時も『素直じゃない』とか言う癖に、自分だってそうじゃないか・・・・・・)

 

また、そんな千歌に視線を向けながら、心の中で自分のことを何時も千歌は素直じゃないだの言う癖に自分もそうではないかと呟く無爪であった。

 

 

 

 

その後、既に日も殆ど暮れた頃、無爪達は沼津駅に到着。

 

「ふいぃぃ、戻ってきたぁ・・・・・・」

「やっと『ずら』って言えるずらぁ」

「ずっと言ってたじゃ無い!!」

「ずらあぁぁ!?」

 

ルビィと花丸はようやく帰ってこれたことに、ほっと胸を撫で下ろし、そんな花丸の言葉にツッコミを入れる善子。

 

「おーい!! お帰り~!!」

 

するとそこへ自分達に向かって呼びかける声が聞こえ、声のした方へと千歌が顔を向けるとそこにはよしみ、いつき、むつの3人を始めとした多くのクラスメイト達や、それに加えてレイジや、彼の頭に乗るモコもわざわざ迎えに来てくれたのか、こちらに手を振っている姿が見えたのだ。

 

「モコ~!」

「わっ!? モコ!? わざわざみんなと一緒に迎えに来てくれたの?」

「モコ!」

 

レイジの頭に乗っていたモコが善子に飛びつくと、彼女はモコを抱き留め、モコの頭を優しく撫でながら彼女はほっこりとした表情を浮かべた。

 

「はぁ~、今モコに会えて良かったわ。 癒される・・・・・・。 でもこの時間帯は学校にいないとダメだったんじゃ・・・・・・」

「どうしても善子ちゃんに会いに迎えに行きたかったみたいだったから、学校に許可取って連れてきたんだ」

 

モコまで迎えに来てくれたこと自体は嬉しいが、幾らモコが自分に会いたかったからと言って既に日も殆ど暮れてモコは学校にいないとダメな決まりだった筈なのに、なぜここにいるのだろうかと善子が疑問に思っていると、それをレイジがモコが善子を迎えに行くことを学校側に許可を取ってくれたそうで、善子はそのことにレイジに頭を下げながらお礼を言うのだった。

 

「えっ? そうなの? あ、ありがとうございます、先生・・・・・・。 ただ私は善子じゃなくてヨハネです」

「モコ!」

 

善子とモコは頭を下げながらレイジにお礼を述べ、そこへ今度はよしみ、いつき、むつの3人が代表するように千歌達の元へと駆け寄ると彼女等は早速千歌達に東京での感想を尋ね、それを受けて無爪は心配げに視線を千歌の方へと向けると、やはりと言うべきか千歌はそれに内心若干の気まずさを感じつつ、平静を装いながらも彼女はどうにかその問いに応える。

 

「どうだった東京は?」

「あぁ、うん。 凄かったよ! なんか、ステージもキラキラしてて・・・・・・」

「んっ?」

 

そんな千歌の姿を見て、レイジは彼女がどうにも妙によそよそしく感じてしまい、よく見れば千歌以外のメンバーもどこか複雑そうな顔をしていることに気づき、レイジは「無爪くん」と彼を呼ぶとボソボソと小さな声で「なにかあったの?」と東京であったことを尋ね、それに無爪もどう応えて良いのか一瞬迷ったものの、よしみ達や千歌達にも聞かれないように彼女等と少し距離を取ると、東京であったことの大まかな内容をレイジへと話したのだった。

 

「それで・・・・・・みんなちょっと、いや、大分落ち込んでるみたいで・・・・・・。 今は少しは落ち着いてきたみたいなんですけど、それでも・・・・・・」

「そっか。 曜ちゃん達の活動ってかなり調子良さそうなイメージだったのに、それは確かに結構なダメージかもね・・・・・・」

『・・・・・・0票か。 なんだろうな、俺は別に何もしていないのに、妙に罪悪感を感じちまう』

 

東京での出来事を無爪があらかたレイジに話し終えると、レイジはAqoursがイベントで入賞どころか誰も票を入れてくれなかったことを残念がり、彼と一体化しているゼロも無爪の話を聞いて自分の名前が『ウルトラマンゼロ』だからか、妙な罪悪感を抱いてしまうのだった。

 

「いや、流石にゼロさんが責任を感じることは・・・・・・」

『まぁ、そうなんだが、それでもやっぱりちょっと気にしちまうな』

 

レイジはこのことにゼロが責任を感じることはないとフォローを入れるものの、それでも少しばかりどうしても気にしてしまうと語るゼロ。

 

「ちゃんと歌えた!?」

「緊張して間違えたりしなかった!?」

 

そこで、レイジと無爪が千歌達の方へと視線を向けると、今度はむつとよしみからライブでミスをしなかったかと心配される千歌達の姿があり、それに対しては先ほど千歌が述べていたように今日のライブではミスらしいミスは殆ど無かったのでそこは素直に正直に千歌は応える。

 

「それは、なんとか・・・・・・ねっ?」

「そうね! ダンスのミスも無かったし・・・・・・」

「そうそう、今まで1番のパフォーマンスだったねってみんなで話していたところだったんだ!」

 

未だに気まずそうな顔のまま、むつ達の問いかけに応える曜、梨子、千歌。

 

「なぁ~んだ。 心配して損した~!」

(アイタタタ・・・・・・! なんだろう、見てて胃が痛くなってきた・・・・・・)

 

それを聞いてか、クラスメイトの面々はほっと一安心した様子を見せ、そんな光景を見ていたレイジは胃が痛くなって来るのを感じてお腹を押さえ、無爪の方も千歌達の表情を見て「お願いだからもう少し察して!」と思わずにはいられなかった。

 

「じゃあじゃあ! もしかして本気でラブライブ決勝狙えちゃうかもってこと!?」

「・・・・・・えっ?」

 

むつがその発言をした瞬間、無理に笑顔を作っていた千歌の表情が一瞬強張ったものへと変化したのだが、そんな彼女の表情に変化には気付かず、話がますます盛り上がるクラスメイト達。

 

「そうだよね! 東京のイベント、呼ばれるぐらいだもんね!」

「あー、そうだね。 だと、良いけど・・・・・・」

「だぁー!! もう我慢できない!! 千歌ねえも、言い辛いのも分かるけど、これ以上黙ってたら余計にみんなに言いにくくなるだけだよ!! あと、よしみさん達も盛り上がらないで、ちゃんと話聞いて!!」

 

流石に、もう見ていられないと我慢の限界だった無爪は千歌にこれ以上東京での出来事を話さなければより一層言いにくくなるだけだと言い放ち、よしみ達にも勝手にあんまり話を盛り上げないでちゃんと千歌達の話を聞いてくれと彼女等に頼みこむ無爪。

 

「あっ、ちょっと、なっちゃん!?」

「えっ? なに? なにか、あったの・・・・・・?」

 

無爪のその様子に、よしみ達は驚き、東京で何かあったのだろうかと頭に疑問符を浮かべていると・・・・・・。

 

「お帰りなさい」

「っ、お姉ちゃん・・・・・・?」

 

唐突に、ルビィに対して誰かが声をかけ、彼女が後ろを振り返るとそこには自分の姉であるダイヤが立っており、ダイヤはルビィに対して慈愛に満ちた優しい笑みを向けると、それを受けたルビィは徐々に目に涙を溜めていき・・・・・・。

 

「うっ、うぅ・・・・・・! うっぐ・・・・・・!」

 

彼女は涙を溢れさせながらダイヤへと抱きついたのだ。

 

「よく頑張ったわね」

「あ、ああ、うわあああああ!!」

 

ダイヤはそんなルビィの頭を優しく撫でながら、彼女を抱きしめ、同時に、よしみ達はそこで千歌が暗く顔を俯かせている姿に気付き、先ほどの無爪の様子もあってそこでクラスメイト達は東京で何があったのかをある程度察することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、千歌達はクラスメイトと一旦別れ、ダイヤや無爪、レイジ等と共に近くの川辺まで一同はやってきた。

 

「得票、0・・・・・・ですか・・・・・・」

「っ、はい・・・・・・」

 

全員はそこに設置してあった階段に腰かけ、ダイヤは自分の膝の上に頭を乗せながら甘えるような仕草をするルビィの頭を優しく撫でながら、彼女は東京であった出来事の詳しい詳細を千歌達から聞くと、ダイヤはこの結果をおおよそ予想していことだったのか「やはりか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

「やっぱりそういうことになってしまったのですね。 今のスクールアイドルの中では・・・・・・。 先に言っておきますけど、あなた達は決してダメだった訳ではないのです。 スクールアイドルとして十分練習を積み、観てくれる人を楽しませるに足りるパフォーマンスもしている」

「あれ? なんか、さっきも同じようなことを聞いたような・・・・・・あの聖良って人が確か同じようなことを・・・・・・」

 

千歌達と共にダイヤの話を聞き、先ほども似たような話を聞いたような気がした無爪は、今日一日の記憶を思い返してみると聖良がAqoursに対して言っていた言葉と殆ど同じ、言い方の問題なだけで少なくとも意味合い自体は同じことを言っていることに気付き、聖良は確かに「ラブライブを目指すなら諦めた方が良い」と厳しめの言葉を残したものの、歌とパフォーマンスについては確かにAqoursのことを本心から評価してくれていた。

 

だが、スクールアイドルについてそこまで詳しくないと言うのもあるのかもしれないが、ダイヤの言うように観てくれる人も楽しませられるくらいの実力があると言うのならば、千歌達の一体何がいけなかったのかと無爪は疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「でも、それだけではダメなのです。 もう、それだけでは・・・・・・」

「どういうことです?」

 

観てくれる人を楽しませられるパフォーマンスだけでは足りない、それだけでは足りない、それは一体どういうことなのかと曜がダイヤに尋ねると、彼女は唐突に「7236」と何かの数字を呟き、それが何を現わした数字なのかと千歌達へと問いかけた。

 

「7236、なんの数字か分かります?」

「ヨハネのリト「違うずら!」ツッコミ早っ!?」

 

善子が答えるよりも早く、鋭いツッコミが花丸に入れられ、そんな2人のやり取りを見て「ふふ」と微笑ましく少しだけ笑うと、ダイヤはその数字が何を意味しているのかを説明しだす。

 

「去年最終的にラブライブにエントリーしたスクールアイドルの数ですわ。 第一回の十倍以上」

「・・・・・・そんなに・・・・・・」

「スクールアイドルは確かに以前から人気がありました。 しかし、ラブライブの大会の開催によって、それは爆発的なものになった。 A-RISEとμ'sによってその人気は揺るぎないものになり、アキバドームで決勝が行われるまでになった。 そして、レベルの向上を生んだのですわ」

 

つまり、厳しめの言い方となってしまうが、シンプルに言えば現在のAqoursのパフォーマンスでは幾ら完璧であろうが、他のスクールアイドル達と比べるとやはり純粋な実力不足ということを意味しており、Aqoursが投票して貰えなかったのも、仕方のないことだとダイヤは言う。

 

「じゃあ・・・・・・」

「そう、あなた達が誰にも支持されなかったのも、『わたくし達』が歌えなかったのも・・・・・・仕方のないことなのです」

「・・・・・・えっ?」

 

さも当然のことのように言うので、危うく聞き逃しそうになってしまったが、先ほどダイヤは確かに『わたくし達』と発言したことに千歌は気づき、「どういうこと?」とでも言いたげな表情でダイヤの方へと彼女は視線を向ける。

 

「2年前、既に浦の星には統合になるかもという噂がありましてね・・・・・・」

 

それは2年前、ダイヤがまだ浦の星学院の1年生だった頃の話・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『School idol?』

 

当時、浦の星学院の高校1年生だった頃のダイヤは千歌や無爪、曜もよく知っている人物でもある幼馴染みの果南と共に学校を廃校の危機から救うため、一緒にスクールアイドルを始めようと同じく自分の幼馴染みである鞠莉を誘い、学校の教室で勧誘していた。

 

『そうですわ!! 学校を廃校の危機から救うにはそれしかありませんの!!』

『鞠莉スタイル良いし、一緒にやったら絶対注目浴びるって!!』

 

しかし、当時の鞠莉はスクールアイドルについて疎かったこともあり、ダイヤと果南の勧誘を申し訳なく思いながらも謝罪して断ってしまい、彼女は自分の席を立つとそのままどこかに歩き去ろうとしてしまう。

 

『Sorry、そういうの、興味ないの・・・・・・』

 

だが、そんな鞠莉を果南は逃がすまいとペロッと舌を出しながら悪戯っ子のような表情を浮かべると、果南は後ろから飛びつくようにして鞠莉に抱きついて来たのだ。

 

『ハグ!!』

『わっ!? なにするの!?』

『『うん』って言うまでハグする!!』

『ふふ、わたくしも仲間に入れてください!』

 

そんな風に、果南が本当に中々に離してくれなかった上、さらにはダイヤも参加してきた為に、鞠莉はダイヤや果南の熱意に根負けしてしまい、結果、最終的には3人でスクールアイドルを結成することとなったのだった。

 

そして、ダイヤ、鞠莉、果南の3人がスクールアイドルとして活動を始めてしばらくが経った時。

 

千歌達も招待されたあの東京でのイベントに、ダイヤ達もお呼びがかかったのだ。

 

『東京?』

『そうですの! わたくし達が呼ばれたんですのよ!』

 

アイドル部の部室にて、ダイヤが興奮気味に自分達が東京のイベントに呼ばれたことを果南や鞠莉に話していると鞠莉はそんなダイヤに呆れた視線を向け、鼻息が荒くなってしまっていることを指摘した。

 

『ダイヤ、随分鼻息がBerry hot』

『っ! 兎に角チャンスですわ! このイベントで有名になれば、ラブライブが一気に近づきますわ!!』

 

鞠莉に指摘されたからか、自分の鼻を両手で押さえながら恥ずかしそうにしつつも、彼女は東京でのイベントに前向きな姿勢を見せ、3人は東京でのイベントに参加することとなったのだった。

 

しかし・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、歌えなかったのですわ」

 

ダイヤの言うように、彼女達は歌うことが出来なかったのだ。

 

「他のグループのパフォーマンスの凄さと、巨大な会場の空気に圧倒され・・・・・・」

 

他のスクールアイドル達のレベルの高さと、その巨大なライブ会場から感じる空気による強いプレッシャーにより、ダイヤ、鞠莉、果南の3人はライブを行うこと、歌うことすら出来なかったのだ。

 

「何も歌えなかった・・・・・・。 あなた達は歌えただけ立派ですわ」

 

だから、ダイヤは何も出来なかった自分達に比べれば千歌達は歌えてライブを最後までやり切っただけでも十分だと称え、曜はそんなダイヤを見て今まで彼女が自分達の活動を反対していた理由を察することが出来たのだった。

 

「じゃあ、反対してたのは・・・・・・」

「いつかこうなると思っていたから」

 

曜の問いかけに、ダイヤがそう応えると、千歌はファーストライブの時ダイヤに言われたことを思い出した。

 

『これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人達の善意があっての成功ですわ! 勘違いしないように!!』

 

あれはきっと、いずれはこういう事態になることが分かっていたから、千歌達に対して言い放った言葉だったのだろう。

 

あの時のダイヤの言葉の意味を、真に理解した千歌は暗い表情を落とし、そんな彼女の表情の変化に気付いた無爪は、何か声をかけようとしたが、何も思い浮かばず、ただ見ていることしかできなかった。

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、海辺の近くで果南は鞠莉の2人は対峙するかのようにお互いに向き合いながら、果南は鞠莉からスクールアイドルを再びやろうと彼女からの勧誘を受けている様子であった。

 

しかし、果南は過去の失敗からか、頑なに鞠莉の誘いを断って撥ね除けてしまい、決して彼女は首を縦に振ろうとはしなかったのだ。

 

「外の人にも観て貰うとか、ラブライブに優勝して学校を救うとか、そんなのは絶対に無理なんだよ!!」

「だから諦めろって言うの?」

「私はそうすべきだと思う」

 

険しい表情を見せながら、果南は千歌達の前では見せなかったスクールアイドル活動に対しての否定的な考えを鞠莉に言い放ち、全て諦めるべきだと主張するが、それでも、鞠莉としては全てを諦めるなんてことは出来はしないと反論。

 

だからか、彼女はかつて果南にハグされてスクールアイドルに勧誘された時の意趣返しなのか、鞠莉は両手を広げて果南に、彼女の名を呟き微笑みながら、ハグを求めてきたのだ。

 

「果南・・・・・・」

「っ」

 

だが、果南の険しい表情は変わることはなく、彼女は鞠莉の横を素通りしてしまう。

 

「誰かが、傷つく前に」

 

そう言葉を言い残して。

 

「っ、私は諦めない・・・・・・! 必ず取り戻すの!! あの時を!!」

 

そのまま立ち去ろうとする果南の背中を、振り返って身体を振るわせて見つめながら、それでも自分は諦めないことを言い放ち、かつてスクールアイドルとして「輝いていた」時の時間を取り戻すのだと、彼女は果南へと宣言するのだった。

 

「果南とダイヤと失ったあの時を!! 私にとって、宝物だった時のあの時を・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

それから、ダイヤの話を聞き終えた千歌達は美渡に車でそれぞれの家に送って貰い、最後に無爪、千歌、梨子が自分達の家の前まで帰宅すると、千歌はしいたけの顎を撫でながら戯れていたのだが、やはり後ろを向いていても千歌に元気がないのは一目瞭然であった。

 

「早くお風呂入っちゃいなよー!」

「うん・・・・・・」

 

美渡に風呂に早く入れと言われ、返事を返してもやはり声に元気はなく、そんな千歌に、梨子は心配げな様子で「大丈夫?」と千歌に尋ねと、彼女は梨子に「うん」と返事を返し、顔だけを梨子の方へと振り向かせる。

 

「うん、少し、考えてみるね! 私がちゃんとしないと、みんな困っちゃうもんね!」

 

そう言いながら、笑顔を梨子や無爪に見せるのだが、やはりというべきか、今の千歌はどうにも空元気といった感じが拭えなかった。

 

「あの、さ、無理しないで千歌ねえ。 僕に出来ることあるなら、言って欲しい」

「えっ、なんか何時もよりなっちゃんが私に優しい!? 変なものでも食べたのなっちゃん!?」

「普段僕が優しくないみたいに言うなよ!?」

 

無爪は少しでも千歌が元気になって貰えるなら、自分に出来ることはなんだってやろうと思い、今の言葉を言ったのだが千歌からは何時もより優しく接してくる無爪に驚き、彼は普段自分のことをどんな風に思ってるんだと少しばかり怒ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、それぞれが自分達の家に帰宅したAqoursの面々。

 

花丸は自分用に買ってきたお土産の饅頭を食べ、ルビィは部屋でダンスの練習、善子は動画配信、梨子はベランダで夜空を眺め・・・・・・それぞれの時間を過ごしていたのだが、やはりと言うべきか彼女等の表情はどこか暗く、その中でも曜は特に何かを思い詰めたような顔をしていた。

 

「・・・・・・」

 

彼女は自分の部屋で、幼い頃の自分と千歌や無爪にしいたけと一緒に映った写真を見つめながら、曜は千歌が美渡の車に乗り込む際、彼女に後ろから問いかけた時のことを思い出していたのだ。

 

『千歌ちゃん・・・・・・』

『んっ・・・・・・?』

『やめる? スクールアイドル?』

 

ダイヤの話を聞いたからか、曜は千歌もかつてのダイヤ達と同じようにスクールアイドルを辞めてしまうのではないかという不安があった。

 

だからか、曜は思わず千歌に対してあんなことを聞いてしまったのかもしれない。

 

結局、千歌は曜の問いかけには応えなかった、というよりも応えられなかったのかもしれないが、今思い返しても自分は親友で幼馴染みでも千歌になんて嫌な質問をしてしまったのだろうかと後悔し、彼女は机の上で項垂れるのだった。

 

「ううぅぅぅん・・・・・・!」

 

そんな後悔の入り交じった唸り声をあげながら。

 

しかし、そのように曜が頭を抱え、悩み混んでいると不意に彼女のスマホから着信音が鳴り響き、彼女はそれに一瞬驚いてビクッとしてしまうものの、こんな時間に誰だろうと思いつつ、スマホをポケットから取り出して画面を見るとそこには「なっちゃん」と名前が表示されており、それは無爪からの着信だったのだ。

 

「なっちゃん? なんだろう、こんな時間に・・・・・・? もしもし?」

 

不思議に思いながらも、曜が通話に出ると「曜ねえ、大丈夫?」どことなく心配げな声色の無爪の声が聞こえてきた。

 

「んっ? なにが? どうしたのなっちゃん?」

『曜ねえ、さっき千歌ねえに言ったこと、後悔して今頃『うーんうーん!』って言いながら唸ってるんじゃないかなって思って電話したんだけど』

「えっ? あははは。 なっちゃんにはお見通しかぁ。 流石私の弟でもあるね」

 

一瞬、今の自分の状況をほぼピタリと言い当てられたことで少しばかり困惑した曜だったが、流石は昔から自分達と一緒にいる弟分の無爪だと考えることで納得。

 

「それで心配してわざわざ電話してきてくれたの?」

『まぁ、そんなところ。 でさ、曜ねえが千歌ねえに言ったことなんだけど・・・・・・。 曜ねえはさ、千歌ねえにただ『辞めない!』って言って欲しかっただけなんでしょ?』

「それは・・・・・・」

 

それはダイヤにスクールアイドル部を認めて貰えなかった時やAqoursのファーストライブの時で体育館を満員にしなければいけないという鞠莉の難題を押しつけられた時、曜は無爪と共に「じゃあやめる?」「諦める?」と問いかけたことがあった。

 

しかし、その都度千歌は「やめない!」「諦めない!」と応えて最後までやり遂げてくれた。

 

だから、今回も曜はその時と同じように思わずあんなことを聞いてしまったのかもしれない。

 

結局、彼女は今回は何も応えてはくれはしなかったが。

 

『僕も曜ねえと同じ気持ちだから、分かるよ。 きっと曜ねえが言わなかったら、僕が言ってたと思うし。 僕もあの時、千歌ねえには『辞めない!』って言って欲しかった。 結局、千歌ねえは黙ったままだったけど・・・・・・』

「うん・・・・・・」

『『気にしないで』なんて曜ねえに気安く言えないけど、1人で抱え込まないで。 僕やペガもいるから』

「うん、ありがとう。 なっちゃん。 心配してくれて。 そう言って貰えて、ちょっと気は楽になったかも」

 

曜は自分を心配し、わざわざ電話してきてくれた無爪に「ありがとう」とお礼を述べると、2人はもう遅い時間だからということもあり、互いに「おやすみ」とだけ言い合うと、スマホの画面の終了ボタンを押し、通話を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

『えぇ、話しましたわ。 きちんと』

 

その頃、ダイヤは東京でのAqoursに起こった出来事を果南へと報告しており、また自分達がかつてスクールアイドルとして活動し、東京で挫折を味わった時のことを千歌達に話したことを彼女は電話で果南に伝えていた。

 

「そう」

『良かったんですわよね、これで?』

 

果南はダイヤの問いかけに「うん」と頷くと、彼女はダイヤに「ありがとう」とお礼を述べた後、スマホの通話を切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌朝、パジャマにも着替えず、ピアノの上でついうたた寝してしまっていたらしい梨子。

 

しかし、空は曇っているとは言え、僅かに部屋に朝の光が差し込んだことで彼女は目を覚まし、何気なくベランダの外に出てみると梨子は千歌が海の方に向かって歩いているのが見えた。

 

「んっ? 千歌、ちゃん・・・・・・?」

 

千歌の姿を発見した梨子は、彼女の姿を不思議そうに見つめていると・・・・・・なんと、千歌は突然海に向かって走り出し、海の中へと潜って行ったのだ。

 

「千歌ちゃん!!?」

 

それを目撃した梨子は急いでスマホを持って無爪に連絡を入れながら、外へと飛び出し、それと同時に通話に無爪が出たので彼女は慌てた様子で千歌が海に飛び込んだことを報告した。

 

『ふわぁ。 どうしたの梨子さん? こんな朝早く』

「無爪くん!! 千歌ちゃんが、海に飛び込んで・・・・・・!!」

『えっ!?』

 

梨子からの報告を受けた無爪はスマホをベッドへと放り出して部屋を飛び出すと、急いで道をショートカットする為に2階から飛び降りて着地し、2階から飛び降りてきた無爪に梨子は驚きながらも彼女は「無爪くんならこれくくらい出来るか」と即座に納得し、梨子と無爪は互いに頷き合って一緒に海の方へと走っていくのだった。

 

「全く、何してんだよあのバカ千歌ねえは!」

「千歌ちゃーん!!」

「千歌ねえーーー!!」

 

砂浜に到着すると梨子と無爪は必死になって千歌の名を叫び、辺りを見回していると不意に海から「ぷはっ!」と声をあげながら千歌が顔を出し、彼女の姿を見た梨子と無爪はほっと一安心し、胸を撫で下ろしたのだった。

 

「あれ? なっちゃんに、梨子ちゃん?」

「一体何してるの!?」

「なんで海に入ったのかは分からないけど、溺れたのかと思ったわ!! 紛らわしい!! せめて水着着て海入れよ!」

「「・・・・・・」」

 

自分達に心配かけたことを千歌に怒る梨子と無爪だったが、今の発言に対し、千歌と梨子から冷ややかな視線を無爪は送られてしまい、そんな彼女等の視線に気付いた無爪は「今回ばかりはその目は心外なんだけど!?」と反論するのだった。

 

「それよりも! 結局何してたわけ?」

「えっ? あー、うん。 何か見えないかなって」

 

無爪が結局千歌は海に潜って何をしていたのかと尋ねると、千歌曰く、「梨子ちゃんと同じことをしていた」とのことだった。

 

「ほら、梨子ちゃん海の音を探して潜ってたでしょ? だから私も何か見えないかなって」

「それで?」

「うん・・・・・・!」

 

だから、昔自分がやっていたことを真似て海に潜っていたのかと梨子が尋ねると、千歌は梨子の方へと顔を振り向かせて笑みを向けながら頷き、そんな彼女の表情に釣られて、梨子も思わず笑ってしまったのだ。

 

「それで、見えたの?」

「ううん。 何も」

「何も・・・・・・?」

「うん、何も見えなかった」

 

しかし、海に潜ってみたはいいものの以前とは違い海の中に潜っても、今回は何も見えなかったという千歌。

 

「その割に、なんか吹っ切れた感じが見えるけど・・・・・・?」

 

そんな千歌に、無爪は何も見えなかったのになぜそんな色々と吹っ切れたかのような表情をしているのかと問いかけると、彼女は「だからだよ」と無爪に応えたのだ。

 

「だから、思った。 続けなきゃって! 私、まだ何も見えてないんだって。 先にあるものが何なのか。 このまま続けても、0なのか。 それとも1になるのか、10になるのか・・・・・・」

 

右の手の平に組んだ海の水を見つめながら、無爪や梨子に何も見えないからこそ、思ったことを口にしていき、今の自分の考えを無爪や梨子に打ち明ける千歌。

 

「ここで辞めたら全部分からないままだって!」

「千歌ちゃん・・・・・・」

「だから私は続けるよ! スクールアイドル! だってまだ0だもん!!」

 

そう言いながら千歌は右手を胸の前で拳にすると、彼女は「0なんだよ・・・・・・」と小さく呟き、次の瞬間、彼女は僅かに肩を振わせ始めたのだ。

 

それは別に、海で濡れた寒さからでは無い。

 

「あれだけみんなで練習して、みんなで歌を作って、衣装も作ってPVも作って! 頑張って頑張ってみんなに良い歌聴いて欲しいって! スクールアイドルとして輝きたいって・・・・・・!!」

 

そう言いながら、千歌がさらに肩を震わせると彼女は両手で自分の頭を殴るように抑えると、千歌はそこで今まで仲間達に直隠しにしていた本心をようやく吐き出したのだ。

 

「なのに『0』だったんだよ!! 悔しいじゃん!! 差が凄いあるとか、昔とは違うとか、そんなのどうでもいい!! 悔しい・・・・・・!! やっぱり私、悔しいんだよ・・・・・・!!」

 

そう言い放ちながら千歌は一筋涙を流すと、それと同時に雨が降り始め、彼女は本当に、本当に悔しそうに歯を噛み締めていると、そんな千歌を梨子がそっと後ろから優しく抱きしめ、そんな彼女の肩に、無爪が優しく静かに右手を置いたのだ。

 

「良かったぁ。 やっと素直になれたね・・・・・・?」

「人のこと素直じゃないだのなんだの言っといて、自分も人のこと言えないんだから、全く」

「だって私が泣いたら、みんな落ち込むでしょ? 今まで頑張ってきたのに、折角スクールアイドルやってくれたのに、悲しくなっちゃうでしょ? だから、だからぁ・・・・・・!!」

 

涙を流しながら、千歌がこれまでなぜ本心を誰にも言わず隠し続けていたのか、その理由を語ると無爪と梨子は思わず苦笑し、一度2人は千歌から離れる。

 

「バカね? みんな千歌ちゃんの為にやってるんじゃないの!」

「そうだよ。 僕だってそれは分かる。 第一、みんなが何時、どこで! 何年何月何時何十分何十秒、地球が何回廻った時、千歌ねえの為にスクールアイドルやったのさ?」

 

確かに、スクールアイドルをやり始めた切っ掛けを作ったのは千歌だったかもしれない。

 

だが、梨子や無爪が言うようにそれは決して千歌の為に曜も、善子も、ルビィも、花丸も、そして梨子もこれまでスクールアイドルをやってきた訳では無いのだ。

 

「そう、私も・・・・・・」

 

その時、梨子が砂浜の方に顔を向けると、そこには曜、ルビィ、花丸、善子の4人がいつの間にか来ており、彼女等の存在に千歌も気付く。

 

「曜ちゃんも、ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、勿論善子ちゃんも!」

「でも・・・・・・」

 

すると、梨子は千歌の両手を握りしめる。

 

「だから良いの! 千歌ちゃんは、感じたことを素直にぶつけて、声に出して!」

「千歌ちゃん!!」

 

そこへ曜、ルビィ、花丸、善子の4人も服が濡れるのもお構い無しに海へと入って千歌、梨子、無爪の元へと集まると(その際善子が足を滑れらせていたりしたが)、梨子は「みんなで一緒に!」と千歌へと声をかけたのだ。

 

「みんなで一緒に行こう! みんなで一緒に・・・・・・!」

「うう、うぅ、うわあああああああん!!」

 

その瞬間、大きな声で泣き始めてしまう千歌。

 

「今から、0を100にするのは無理だと思う。 でも、もしかしたら『1』にすることは出来るかも。 私も知りたいの。 それが出来るか・・・・・・」

「諦めろって言われて、諦めるバカがいるかって見返してやろうよ千歌ねえ。 ジーッとしてても、ドーにもならないからね・・・・・・」

 

梨子と無爪にそう言われ、千歌は未だに目尻に涙ながらも、笑顔を向けて力強く「うん!!」と頷いたのだ。

 

それと同時に、先ほどまで振っていた雨が止み・・・・・・太陽の光が辺り一面に差し込み、こうして

Aqoursは0から、1へとするための新たなスタートラインに立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ、ぐすっ、い゛い゛ばな゛じでずね゛~!! ゼロ゛ざ~ん゛!!」

『確かにそうだけど、お前なぁ』

『ティッシュ、使う?』

 

一方、物陰に体育座りで隠れながら曜に誘われる形で一応ついてきて、様子をこっそりと伺っていたレイジは涙や鼻水を垂らしながら号泣しており、そんなレイジにゼロは呆れ、彼の影を借りて隠れながらペガがティッシュをレイジに差し出していたのだった。

 

『折角来たんだからお前もあそこに加われば良いのに』

「いやぁ、ああいうのは少年少女だけの青春ってやつだと思いますし、僕が出る幕じゃないかなって。  あ、あとありがとペガくん。 ティッシュ使わせて貰います!」

『そういうもんか・・・・・・? んっ?』

 

レイジの中でゼロが彼の言い分に首を傾げていると、その時ゼロは何かに気付いたようでレイジが突然メガネを外すと人格がゼロと入れ替わって立ち上がると、彼はある一定の方向を突然見つめ始めたのだ。

 

『ど、どうしたのゼロ?』

『なぁ、お前あれ見えるか?』

『えっ?』

 

ゼロに言われ、ペガがゼロの指差す方向を見てみるとそこには山の奥の方からただジッと立っているだけの怪獣の姿がいつの間にかあり、それにペガは「うわあ!?」と驚きの声をあげる。

 

『か、怪獣!? 無爪に知らせないと・・・・・・!』

『いや、だが・・・・・・あの怪獣・・・・・・』

 

しかし、不自然なことにその怪獣の身体は半透明となっており、ペガが無爪に連絡を取ろうとした瞬間、怪獣は煙のようにまるで最初からそこにいなかったかのように忽然と消えてしまったのだった。

 

『消えた・・・・・・? なんだったの? あの怪獣・・・・・・?』

『分からねえ。 まるで蜃気楼。 蜃気楼の・・・・・・怪獣、か・・・・・・?』

 

 



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第12話 『9人のAqours』

2年前、浦の星学院スクールアイドル部にて。

 

「・・・・・・へっ?」

「私、スクールアイドル・・・・・・辞めようと思う」

 

まだスクールアイドルとして活動していた時期の、唐突に告げられた果南から放たれたそんな言葉。

 

それを受けて鞠莉は目を見開き、突然の果南の発言に対し、彼女は困惑するばかりだった。

 

「なんで・・・・・・? まだ引きずっているの? 東京で歌えなかったくらいで・・・・・・」

 

鞠莉は次のライブで自分達が使う予定の衣装を両手に持ちながら、東京でのスクールアイドルのイベントで失敗してしまったことを果南が引きずってそんなことを言っているのだろうかと思ったのだが・・・・・・。

 

「鞠莉、留学の話が来てるんでしょ? 行くべきだよ」

 

しかし、果南は鞠莉の問いかけには応えず、彼女は鞠莉の留学関係の話に話題をすり替えると果南は鞠莉に留学に行くべきだと言い出したのだ。

 

「どうして? 冗談は辞めて! 前にも言ったでしょ? その話は断ったって・・・・・・。 ダイヤも、なんか言ってよ!!」

 

どうやら鞠莉の中では、スクールアイドルの活動を続ける為にも留学の話は断って既に終わった話のつもりだったらしいのだが、いきなり果南はそのことを話題に出して留学を進めだし、そんな彼女に鞠莉はダイヤに助けを求めるのだが、ダイヤは黙ったまま、ただ彼女は複雑そうな表情を浮かべながら目を反らされてしまったのだ。

 

「ダイヤ・・・・・・?」

 

ダイヤなら、果南に何か言ってくれるのではないかという期待を抱いた鞠莉であったが、鞠莉が予想していたものとは違う反応がダイヤから返ってきたことで鞠莉は激しく動揺し、そんなダイヤの様子から鞠莉は「まさか・・・・・・」と嫌な予感が過ぎるのを感じた。

 

「ダイヤも同じ意見・・・・・・。 もう続けても、意味が無い・・・・・・」

 

果南は鞠莉にそう冷たげに言い放つと、彼女はダイヤと共に部室を立ち去ろうとするのだが・・・・・・。

 

「果南! ダイヤ!!」

 

そんな立ち去ろうとする2人を鞠莉は必死に呼び止め、自分の手に持つ衣装を果南とダイヤの2人に見せるのだが、果南もダイヤも、彼女等はこれ以上スクールアイドルとしての活動を続けるつもりはないようで果南は鞠莉に対し、これでお仕舞いにしようと告げるのだった。

 

「終わりにしよう・・・・・・」

 

 

 

 

 

そして現在。

 

「夏祭り!?」

「屋台も出るずらぁ~」

 

現在、Aqoursの6人+無爪とモコは十千万の待合室で今度沼津で開催される夏祭りから「ライブをして頂けませんか?」というオファーが来きたことで、千歌達はそれについて自分達はどうするのかと思い悩み、ライブをするのか、しないのかと話し合っているところであった。

 

「これは・・・・・・痕跡! 僅かに残っている、気配・・・・・・!」

「モコォ~!」

「善子ちゃん話聞いてる? っていうか何してんの? 痕跡? 花丸ちゃん、通訳できる?」

「ヨハネよ!」

 

無爪は夏祭りをどうするのかという話を自分達はしているのだが、善子はなぜかそれらの話に加わろうとはせず、何時もの返しを無爪にはしつつ、、彼女は背中にモコを乗せながらなぜか椅子の上に寝そべって頬ずりをしていたのだ。

 

「どうしよう、東京行ってからすっかり元に戻っちゃって・・・・・・」

「気にすることないずら無爪くん。 何時もの堕天使モードが発動しているだけだから放っておくずら」

 

そんな善子に、ルビィとのっぽぱんをリスのように囓っている花丸は彼女に呆れたような視線を向けつつ、2人はこのまま善子のことは放置することを決めたのだった。

 

「それより、しいたけちゃん本当に散歩でいないわよね?」

 

犬が苦手な梨子はしいたけがいないかと警戒しながら不安げな表情で辺りを見回し、無爪はそんな梨子に苦笑しつつ「大丈夫ですって」としいたけが今は散歩で確かに不在であることを伝える。

 

「千歌ちゃんは夏祭り、どうするのー?」

 

そこで曜はAqoursのリーダーでもある受付けで店番をやっていた千歌にも夏祭りにライブをするのかどうか意見を求めると千歌は頭をカウンターの台の上で突っ伏させながらどうするべきかと悩んでる様子を見せ、「うーん」と唸るような声をあげた。

 

「そうだよねぇ。 決めないとねぇ~」

「沼津の花火大会って言ったら、ここら辺じゃ1番のイベントだよ? そこからオファーが来てるんでしょ?」

 

まだ転校してきて日の浅い梨子への説明も兼ねて、曜がそう言うと、花丸はAqoursの知名度を今よりももっとあげられる可能性が高いことも、出来ればオファーを受けたいという気持ちではあった。

 

しかし・・・・・・。

 

「Aqoursを知って貰うには1番ずらね」

「でも・・・・・・今からじゃあんまり練習時間ないよね・・・・・・」

 

折角オファーを貰ったのだから、出来ることならば夏祭りでライブをしたい・・・・・・。

 

それはここにいる全員が同じ考えだった。

 

しかし、既に夏祭り開催まであまり時間が無い為、ルビィは確かにAqoursの知名度あげるには打って付けのイベントであることは間違い無いのだが、今からでは練習しても間に合わないのではないかと考えてしまい、それに梨子も今は自分達は練習を優先した方が良いのではないかと考えるのだが・・・・・・。

 

「うん、私も今は練習を優先した方が良いと思うけど・・・・・・」

「うーん、千歌ちゃんは?」

 

そこで曜は改めて千歌に意見を求めて受付けの方へと視線を向けると、先ほどまでいた筈の千歌の姿が無く、曜は一瞬「あれ? どこ行ったんだろう?」と思ったのだが、すぐにこちらに駆け寄って来る千歌の姿が見え、彼女は曜達に向かって夏祭りのイベントに参加したいと自分の気持ちを素直に強く言い放ったのだ。

 

「うん! 私は出たいかな!!」

「・・・・・・そっか!」

「千歌ちゃん・・・・・・!」

 

心の中のどこかで千歌がそう言ってくれることを曜や梨子は期待していたのか、そんな彼女等の期待に応えるように千歌が「夏祭りでライブをやりたい」と力強く言ってくれたことで曜と梨子の2人はそれに嬉しげな表情を見せ、前回と比べると何か無理をしている様子も無く、何時ものように大分明るく振る舞う千歌に無爪もほっと内心で安堵の溜め息を吐くのだった。

 

「そうでないと。 うん、そうじゃないと千歌ねえらしくないもんね」

「うん! 今の私達の全力を見て貰う。 それでダメだったらまた頑張る! それを繰り返すしかないんじゃないかな・・・・・・」

「ヨーソロー!! 賛成であります!!」

 

千歌は無爪の言葉に頷きつつ、そんな彼女の色々と吹っ切れた姿を曜達に見せると彼女達は千歌がライブをやりたいと言うならば自分達もやりたいと言い放ち、これを受けて自分に賛同してくれたみんなに感謝するように千歌は「うん!」と嬉しげに頷くのであった。

 

「変わったね、千歌ちゃん」

「うん」

 

ボソリと曜が梨子の方に振り返りつつ、小声でそんな会話をしていると・・・・・・。

 

不意に千歌はその場で膝を抱え込んで座り込むと、彼女は今朝の走り込みであった出来事を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ?」

 

それは今朝・・・・・・淡島神社の階段下で偶然果南と出会った千歌はそのまま果南と共に、自分はスクールアイドルの体力作りの一環として、彼女は日課で淡島神社の階段を駆け上がることになったのだが・・・・・・。

 

「練習、頑張ってね!」

 

最後まで登り切ったは良いものの、千歌はぜえぜえと息を切らしていたのに対し、果南は息の乱れ1つ無く涼しい顔をしており、「流石だなぁ」と千歌は果南の運動神経の良さに感心していると不意に先日聞かされたダイヤの話が頭に浮かび上がり・・・・・・。

 

割とデリケートな問題かもしれないというのは理解しているが、それでも果南も昔スクールアイドルをやっていたのかどうか、どうしても本人の口から聞きたくなった千歌は彼女にそのことについて思わず問いかけてしまったのだ。

 

「やってたんだよね!? スクールアイドル・・・・・・」

「聞いちゃったか・・・・・・」

 

だが、果南は特にそれを聞いて怒るような様子は見せず、どちらかと言えば「あはは・・・・・・」と苦笑気味に笑い、ただ「ちょっとだけね」とだけ千歌に応えて彼女は神社の階段を走りながら降りてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

そんな風に、果南と今朝あった出来事を膝を抱えながら思い出しながら思い悩んだ様子の千歌を心配して、梨子がそう声をかけると千歌はなぜ果南はスクールアイドルを辞めてしまったのか、それが分からなくて悩んでいるのだと仲間達に打ち明けるのだが・・・・・・。

 

「果南ちゃん、どうしてスクールアイドル辞めちゃったんだろう?」

「生徒会長が言ってたでしょ? 東京のイベントで歌えなかったからだーって」

 

しかし、善子は先日ダイヤがそれは説明していただろうと千歌に指摘するのだが、果南とは幼馴染みで昔から彼女がどういった性格なのかをある程度知っている千歌はあの果南がそれだけの理由でスクールアイドルを辞めたとは思えなかったのだ。

 

「でも、それで辞めちゃうような性格じゃないと思う」

 

それには千歌と同じく果南と幼馴染みで、千歌と同じぐらいには彼女の性格もある程度理解している曜や無爪も同じ考えなようで、2人とも「確かに」と同意するように頷く。

 

「ダイヤさんの話を聞いた限りではあるんだけど、なんか・・・・・・あのカナねえにしては、ちょっと簡単に諦めすぎてるんじゃ無いかなぁって思っちゃうんだよねぇ・・・・・・」

 

ダイヤから話を聞いただけではあるが、無爪も果南がスクールアイドルを辞めたことには違和感を感じているようで、そんな千歌や無爪の2人の言葉に梨子が「そうなの?」と不思議そうに尋ねると千歌は「うん」と頷き、梨子達に昔、果南と一緒に海で遊んでいた時のことを話し始めたのだ。

 

「うん、小さい頃は何時も一緒に遊んでて・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは数年前のこと。

 

千歌や無爪がまだ小学生だった頃。

 

千歌と無爪は果南に誘われて近場の海で3人で遊んでいた時のことだ。

 

まだ幼かった頃の無爪と果南は桟橋から海に飛び込んだりして遊んでいたのだが、千歌だけはそこから飛び込むのが怖くて震えており、彼女はそこから飛び込むことが出来ず、そんな千歌に果南は怖くないからおいでと優しく呼びかけていた。

 

『怖くないって千歌! ここで辞めたら後悔するよ? 絶対出来るから!!』

『や~い、千歌ねえのビビり~!』

『・・・・・・なんでそういうこと言うかなぁ、無爪はさぁ~!?』

 

そしてそんな励ましの言葉をかける果南とは逆にニヤついた笑みで千歌を煽る無爪に果南は彼の頬を「なんでそんな意地悪言うの!!」とでも言いたげな表情を浮かべながら軽く引っ張り、頬を引っ張られて果南に怒られたことで無爪は涙を浮かべながら千歌や果南に謝るのだった。

 

『いだだだ!? ごめんなひゃい~!』

『ほら! 無爪にもこんな風に言われてちょっと悔しいでしょ!? こんな意地悪なこと言う奴今すぐ見返してやろうよ!』

『うっ、うぅ~! たあ!!』

 

未だに震える千歌に、果南がそう激を飛ばすと無爪に煽られた苛立ちも多少あったことから彼女は遂に意を決して勇気を出し、果南の「さあ!」という呼びかけと共に桟橋から海に飛び込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は戻り・・・・・・。

 

無爪達は先ほど千歌の話した桟橋に移動して、千歌は当時の思い出を振り返りながらみんなにその時のことを話すと、話を聞いた梨子は「そうだったのね」と納得したように頷くのだった。

 

「ってか今思い返すと、昔のなっちゃんって今と比べて私に意地悪だったよねぇ?」

「えっ!? いや、それは・・・・・・その、ごめん・・・・・・」

 

ジトッとした目を向けられながら、無爪は千歌に睨まれてしまい、それに対して無爪はどこか罰が悪そうな表情を浮かべることしかできなかった。

 

(それ好きな娘につい意地悪したくなるアレじゃん!!)

 

無爪の影、ダークゾーン内から話を聞いていたペガは千歌の過去話を聞き、たまに聞く「好きな娘に意地悪したくなるアレ」じゃないかと心の中で思うのだった。

 

「・・・・・・とてもそんな風には見えませんけど・・・・・・。 あっ、すいません・・・・・・」

 

すると、そこでルビィが千歌から果南の話を聞いて思わずそう呟いてしまったのだが、すぐにハッとなった彼女は即座に千歌達に謝罪するのであった。

 

「まぁ、だから・・・・・・そんな風に、誰かの背中を押してくれる、勇気を促してくれる、そんな漫画やアニメの王道的な主人公みたいなイメージがあったから、カナねえがスクールアイドルを辞めたことに違和感を感じてるんだと僕達は思う」

「漫画やアニメの主人公かぁ。 なっちゃんらしい表現だけど、でも確かになっちゃんの言う通りかも」

 

無爪の表現の仕方に、曜は確かに果南を分かりやすく例えるならそんなイメージがあると納得し、それと同時に千歌もそんな無爪の例えを聞いたことでやはり果南が東京で歌えなかっただけがスクールアイドルを辞めた理由のようにはどうしても思えず、彼女は悩ましそうな表情で考え込んでいると・・・・・・。

 

「はっ・・・・・・! まさか、天界の眷属が憑依!?」

「モコ!」

 

そこでモコを頭に乗せながら善子が何時もの調子で厨二発言をするのだが、これもまた何時ものようにみんなからは呆れられたような視線を向けられ、スルーされると千歌は海を見つめながら果南からもう少し詳しい話を聞けないかと項垂れるのだった。

 

「もう少しスクールアイドルやっていた頃のことが分かれば良いんだけどなぁ~」

「聞くまで、全然知らなかったもんね」

「言ってくれれば良かったのに・・・・・・」

 

千歌、曜、無爪の順で3人がそれぞれそう言うと、そこでふっと千歌、曜、梨子、無爪の4人は「あれ? そう言えば・・・・・・」と果南は「ダイヤ」や「鞠莉」と共にスクールアイドルをやっていたという話を不意に思い出し、4人の視線が一斉にダイヤの「妹」であるルビィに向けられ・・・・・・。

 

「ピギィ!?」

 

そしてそんな4人から一斉に視線を向けられたことに、一瞬ビクッと驚くルビィ。

 

「ルビィちゃん、ダイヤさんから何か聞いてない?」

「小耳に挟んだとか」

「ずっと一緒に家にいるのよね? 何かある筈よ・・・・・・!」

「カナねえのことについてももう少し詳しく何か聞いてたりしない!?」

 

千歌、曜、梨子、無爪の4人に一辺に強く問い詰められ、徐々に頭の中がパニック状態となるルビィ。

 

「あわ、あわわわ・・・・・・! ピギャアアアア!!!?」

 

それにより、4人からかけられるプレッシャーに耐えきれず、最終的にはルビィは悲鳴をあげながらその場から勢いよく走り出して逃げ出してしまったのだ。

 

「あっ、逃げた!!」

「フッ・・・・・・」

 

しかし、次の瞬間、モコを地面に置きながら善子が不敵な笑みを浮かべると彼女は逃げ出したルビィに即座に走って追いつくと、ルビィにコブラツイストを繰り出して彼女を捕まえることに成功。

 

「堕天使奥義!! 堕天流鳳凰縛!!」

「やめるずら」

 

だが、直後に善子の頭に花丸の軽めのチョップが叩きこまれ、善子はそれによって「はい・・・・・・」と言いながらルビィを解放するのだった。

 

(・・・・・・あれ戦いに使えるかもな、堕天使奥義、堕天流鳳凰縛・・・・・・)

 

そしてそんな善子の技を見て、怪獣との戦い等にも使えるのではないかと考える無爪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから無爪達はさらに場所を移して学校の部室に訪れると、そこで一同はルビィから詳しい話を聞くことになったのだが・・・・・・。

 

「本当に?」

「・・・・・・ルビィが聞いたのは、東京のライブが上手くいかなかったって話ぐらいで・・・・・・。 それから、スクールアイドルの話は殆どしなくなっちゃったので・・・・・・」

 

なんとなく、大方の予想はしていたがやはりルビィもライブの件以上の詳しい話をダイヤからは何も聞いておらず、ダイヤがスクールアイドルを嫌いになってしまったこともあってそれに関係した話も全くしなくなった為、これといった情報をルビィから引き出すことは出来なかったのだった。

 

最も、最近の様子を見るとダイヤは本心からスクールアイドルを嫌いになった訳では無いようだが。

 

「ただ・・・・・・」

『ただ!?』

 

しかし、ほんの1つだけ気にかかることがあるようで・・・・・・「ただ」なんだと全員がルビィに聞き返すと、彼女はそんなみんなに愛想笑いをしつつ、昔、鞠莉が黒澤家に訪れた時のことを語り出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げてる訳ではありませんわ!』

 

鞠莉が黒澤家に訪れ、鞠莉がダイヤの部屋で2人で話し合っている時、ルビィはお客様用にと2人にお茶を運んで来た際、ほんの少しだけ2人の会話を聞いたことがあった。

 

『・・・・・・』

『だから、果南さんのことを逃げたなんて言わないで・・・・・・!』

 

鞠莉と向き合いながら、ダイヤは彼女に対してそう言い放った場面をルビィは目撃しており、彼女はその険悪な雰囲気の様子からとても部屋に入ることができず、邪魔をしてはいけないと思い、ルビィはその場からその時は立ち去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「って・・・・・・」

「逃げた訳じゃない・・・・・・かぁ・・・・・・」

 

ルビィの話を聞き、千歌が意見を求めるように無爪の方に視線を向けると、視線を向けられた無爪は腕を組みつつ、自分の考えを千歌へと告げた。

 

「もしかしたら、やっぱり東京で歌えなかっただけが原因じゃないのかもね・・・・・・」

「だよね! 私も、なっちゃんと同じ。 なんかそんな気がする・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

そしてその翌日、朝も早い時間の早朝にて集まった千歌達。

 

なぜ、そんな早くからみんなで集まったのかと言うと、毎日何時も早い時間から日課としてジョギングをしている果南を尾行する為である。

 

『というかこれ、所謂ストーキングというやつなのでは・・・・・・?』

「それは、言わないお約束・・・・・・だと僕は思うな」

 

無爪の影に隠れながら、ペガがボソッとそんなことを呟いたが、そんな彼の言葉を無爪は聞かなかったことにしたのだった。

 

「ふあ~、まだ眠いずら」

「毎日こんな朝早くに起きてるんですね」

 

そんな風に、欠伸をする花丸と果南が朝早くから走り込みをしていることに感心の声をあげるルビィ。

 

すると、準備運動を終えた果南が早速そこから走り出すと、一同はそれと同時に、彼女に見つからないように尾行を開始するのだが・・・・・・。

 

「それより! こんな大人数で尾行したらバレるわ!」

「だって、みんな来たいって言うし・・・・・・」

 

ダークゾーンの中に隠れているペガを除けば、無爪を入れて7人も跡を付けているので流石にすぐに果南に尾行しているのがバレてしまうのではないかと最もなことを言う梨子。

 

しかし、全員果南のことが気になって仕方なかった為に結局全員行くこととなってしまったのだが・・・・・・。

 

「しっかし早いねぇ~・・・・・・!」

「一体、どこまで走るつもり・・・・・・!?」

「もう、かなり走ってるよね?」

 

千歌、善子、曜がそんな会話を3人で交えつつ、一同は必至で走る果南を追い続けるのだが・・・・・・彼女は既にかなりの距離を走っているにも関わらず、果南はまるで汗ひとつかかずに涼しげな顔で走りのペースを落とすこともなく走り続けており、無爪を除いて千歌達はついて行くのも必死になって息を切らしていた。

 

「マル、もうダメずらぁ・・・・・・!」

「花丸ちゃん!?」

 

やがて、この中でも特に体力の無い花丸が弱音を吐く中、どうにか千歌達は淡島神社の階段前まで果南を追いかけることは出来たのだが、既に限界だった彼女等は全員その場でへばってしまうのだった。

 

尚、果南はそのまま淡島神社の階段も最後まで駆け上がって行った模様。

 

「ぜえ、ぜえ・・・・・・。 ねえ、なっちゃん。 実は果南ちゃんもウルトラマンだったりしない?」

「いや、確かにカナねえは僕から見ても体力お化けだとは思うけど、多分・・・・・・違うんじゃないかなぁ?」

 

息を切らしながら、果南のそのあまりの体力お化けっぷりと唯一彼女についていけていてこの中で一切息を切らしていない無爪を見つめながら、小声で実は果南も無爪と同じウルトラマンなのではないかと疑ってしまう千歌。

 

一応、レムにも確認して貰ったがレム曰く、果南は間違いなく純度100%の地球人とのことだった。

 

「ぜえ、ぜえ、まぁ、確かに果南ちゃん、流石になっちゃんほどの怪力はないもんねぇ・・・・・・」

 

普通の女性と比べると、少し力もある果南ではあるが流石に無爪に匹敵するほどの怪力はないため、無爪の言う通り流石に違うかと千歌は納得し、少しだけここで休んだら自分達も階段を登ろうと提案し、それを受けて曜達も「りょうか~い」と弱々しくも千歌にそう返事を返すのだった。

 

「ふう・・・・・・。 それにしても、果南ちゃん・・・・・・。 走ってる時凄く気持ち良さそうだったね!」

 

階段の上を見上げ、朝日が照らす道を走る果南の姿を思い返しながら千歌がそう言うと、それに梨子も同意するように「そうね」と頷き、少ししてから千歌はある程度息が整うと、彼女は他のみんながまだバテていることもあり、みんなよりも一足先に無爪と共に階段を上ることに。

 

「あれは・・・・・・」

 

階段を上ると、そこでは果南が1人、その場でダンスを披露しており、流石元スクールアイドルだけあって動きも綺麗でとても洗礼されており、ほんの一瞬だったとはいえその光景は千歌や無爪を魅了するには十分なほどの動きだった。

 

「綺麗・・・・・・」

「流石、運動神経抜群で元スクールアイドルだけあるね」

 

思わず木の陰に隠れながら、果南のダンスの感想を言い合い千歌と無爪。

 

すると、そんな時果南の背後から「パチパチパチ」と誰かが手を叩いて拍手をする音が聞こえ、千歌と無爪が音のした方に視線を向けるとそこにはいつの間にか現れていた鞠莉が立っており、果南も一瞬鞠莉の方に視線を向けのだが、すぐに彼女は不満げな顔でそっぽを向いてしまう。

 

「復学届け、提出したのね」

「・・・・・・まぁね」

 

鞠莉の言葉に対し、ぶっきらぼうに返事を返す果南。

 

「やっと逃げるのを諦めた?」

「・・・・・・勘違いしないで。 学校を休んでいたのは父さんの怪我が元で・・・・・・。 それに、復学してもスクールアイドルはやらない」

 

ここに鞠莉が来たのは、どうせまた自分をスクールアイドルに誘う為だろうと思った果南は何度誘われたとしてもスクールアイドルを再びやるつもりはないとそれだけを言い残してその場から立ち去ろうとするのだが・・・・・・。

 

「私が知っている果南は、どんな失敗をしても笑顔で次に向かって走りだしていた。 成功するまで諦めなかった」

 

しかし、去ろうとする果南に鞠莉がそう言い放つと、果南は足を止めて立ち止まるのだが、彼女は鞠莉に対し例え今スクールアイドルに復帰したとしてももう自分達は3年生で再びスクールアイドルをやるには遅すぎると反論。

 

「卒業まで、あと1年もないんだよ?」

「それだけあれば十分!! それに、今は後輩もいる」

『うぇっ!?』

 

いきなり話題に出されたことで、千歌と遅れてやってきた梨子達含めて驚きの声をあげる一同。

 

「だったら、千歌達に任せれば良い」

「・・・・・・果南・・・・・・」

 

そして、後輩もいると言うのであれば千歌達にスクールアイドルのことは任せれば良いと鞠莉に言葉を返す果南。

 

「どうして戻ってきたの? 私は、戻ってきて欲しくなかった」

「果南・・・・・・!?」

 

そう言いながら果南は睨むように鞠莉の方へと顔を振り向かせると、そんな果南のキツい言葉と表情に鞠莉は僅かながらにショックを受け、一瞬動揺を見せるものの、彼女はすぐさまに冷静さを装って軽口を叩こうとするのだが・・・・・・。

 

「ふふ、相変わらず果南は頑固なんだか「もうやめて!!」っ・・・・・・!?」

 

そのように果南は鞠莉の言葉を強引に遮ってしまったのだ。

 

「もう、あなたの顔・・・・・・見たくないの・・・・・・」

「っ・・・・・・!!」

 

そして、果南は最後に鞠莉にそのような冷徹な言葉を浴びせると、彼女は鞠莉に背を向けてその場を歩き去ってしまい、その場に残された鞠莉は・・・・・・悲しげな表情で、顔を下に俯かせるのだった。

 

ただ、鞠莉は気付かなかったが、その場から去って行った果南の表情も、鞠莉と同じぐらいにどこか悲しげなもので・・・・・・。

 

「・・・・・・カナねえ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、そんな鞠莉と果南のやり取りの一部始終を見ていた無爪達はというと・・・・・・。

 

「・・・・・・酷い」

 

果南が神社の階段を下る為にこっちに向かって来ていた為、一同は大慌てでその場から逃げるようにしてその場を走り去り、別の場所に移動すると千歌達は先ほど見た果南と鞠莉のやり取りについてみんなで話し合ってみることとなり、その中でルビィは先ほど果南が鞠莉に対して言った言葉は、あまりにも酷いのではないかと思わず苦言を零していた。

 

「・・・・・・やっぱり、何かありそうだね」

 

そして、あの2人の様子からしてやはりダイヤから聞いていた話以上のことがあるのは間違いないだろうという確信に近いものを曜は感じ取っており、それには千歌も同意するように「うん」と頷いた。

 

「逃げるのを、諦めた・・・・・・かっ」

「んっ?」

「あっ、ううん、なんでもない!」

 

すると、先ほどの鞠莉の言葉に何か引っかかるものを感じたのか、梨子がボソリと小さく呟くと、梨子の言った発言が気になった千歌が彼女の方に視線を向けるのだが、それに梨子はなんでもないと誤魔化すように笑うのだった。

 

「なっちゃんはどう思った? さっきの果南ちゃんを見て」

 

曜が無爪に意見を求めると、無爪は少しばかり考え込んだような仕草を見せた後、彼は先ほど去り際に目撃した果南の表情のことを思い返した。

 

「確かに、ルビィちゃんの言う通りカナねえの鞠莉さんに対しての言葉は酷いし、あんまりだと思う。 だけど・・・・・・」

「だけど?」

「チラッと見えただけなんだど、鞠莉さんの前から立ち去ろうとする時のカナねえ、凄く悲しそうな顔してた。 なんか、無理して悪ぶってる感が凄い」

 

無爪の言うように、果南は先ほど鞠莉の前から立ち去る時、とても悲しそうで辛そうな表情を浮かべていた。

 

そのことから、無爪は果南が無理しているようにしか見えなかったと彼は曜の問いかけに応えると、だとすればなぜ果南はそんな自分までもが辛い思いをしてまで鞠莉にあんなことを言ったのかと新たな疑問が生まれ、千歌達はますます果南が何を隠しているのか分からず、困惑するばかりだった。

 

そして、そんな時のこと・・・・・・。

 

「クオオオオオオン・・・・・・!」

『!!!?』

 

突如としてどこか悲しげな鳴き声のようなものが聞こえ、無爪達が声のした方へと顔を向けるとそこには1体の巨大な半透明の怪獣が突如として出現しており、唐突に現れたその怪獣の出現に、当然ながら千歌達は驚きの声をあげる。

 

「なっ、怪獣!? いつの間に・・・・・・!?」

「それよりも早く逃げなきゃ!」

 

無爪も、怪獣の出現を受けてジードライザーに一瞬手をかけるが、千歌やペガ以外のメンバーがいては目の前でジードに変身することが出来ないために、どうやって変身しようかと迷っていると・・・・・・。

 

「クオオオ・・・・・・!」

 

怪獣は再び悲しげな鳴き声をあげた後、その場から最初からいなかったかのようにその場から消え去ってしまい、それに一同は「あれ?」と首を傾げる。

 

「ちょっと! 怪獣、消えちゃったけど・・・・・・」

「なんだったの、今の・・・・・・?」

 

善子が周囲を見回しても、先ほどまでいた筈の怪獣の姿は確認できず、梨子も特に何かをする訳でもなくいきなり消えてしまった怪獣に戸惑うばかりだった。

 

「レム、さっきの怪獣がなんだったのか分かる?」

 

それを受けて、無爪は腰に装着された装填ナックルに触れながらみんなに聞こえないように小声でレムに先ほど出現した怪獣について尋ねると、レムはあの半透明の怪獣についてのことを無爪に説明する。

 

『先ほど、その辺りの付近で『マイナスエネルギー』の反応を検知致しました。 恐らく、あの怪獣はマイナスエネルギーによって発生した怪獣だと思われます』

「マイナスエネルギー・・・・・・?」

 

「マイナスエネルギー」という初めて聞く単語に、無爪がそれはどういったものなのかと再びレムに尋ねると、レムは無爪の問いかけに応えるべく、マイナスエネルギーについての説明を行う。

 

『『マイナスエネルギー』とは、人間の悲しみや怒りといった負の感情によって発生するエネルギーのことで、そのマイナスエネルギーが大きく高まるとそれが怪獣となって実体化することがあるのです。 ですが、先ほど無爪が見たあの怪獣は・・・・・・』

 

しかし、レム曰くあの怪獣は姿が半透明だったことからまだ実体化していないとのことで、実体化するにはまだ時間がかかるとのことだった。

 

「そんなものがあるのか。 どうにか、完全に実体化する前に止める方法はないの?」

『マイナスエネルギーの発生源となっている誰かの負の感情を無くすことが出来れば理論上可能です。 しかし、誰が発生させているのかまでは本人達が無自覚なこともあり、特定は非常に困難です』

 

まだ実体化していないのならば、実体化する前になんとかなる解決作があるのではないかと無爪は思ったのだが、レムからはそれはほぼ不可能に近いと言われ、無爪は「じゃあどうすれば・・・・・・」と考え込むのだが・・・・・・。

 

(マイナスエネルギーの発生源になっている人・・・・・・。 いや、まさかとは思うけど・・・・・・)

 

レムのマイナスエネルギーについての説明を一通り聞き終えた無爪は、その発生源となってしまった者に僅かに心辺りがあるのだが・・・・・・取りあえず今はレイジやゼロにも報告するのを優先すべきだと思い、その日、曜達と別れた後に連絡を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、その翌日、学校の休憩時間にて。

 

「えっ、果南ちゃんが!?」

「うん、今日から学校に来るって」

 

千歌、曜、梨子の3人と彼女等の教室を訪れた無爪の4人は教室のベランダで果南が今日から学校に再び通うことになった果南のことについて話し合っているところだった。

 

「それで、鞠莉さんは?」

「まだ、分からないけど・・・・・・」

 

果南が復学したことで、梨子は鞠莉が再び彼女をスクールアイドルに誘うのではないかと考え、何かしらの行動を起こしているのではないかと思ったのだが、曜が言うには今のところ特にそういった感じの話は聞いておらず、現状その辺りのことは分からないとのことだった。

 

「まぁ、現在進行形で鞠莉さんが何かしらのアクションをカナねえに起こしている可能性も無くはないと思うけど・・・・・・」

「それは確かに、今私達がこうしている間にも・・・・・・」

 

無爪と曜が互いに顔を見合わせ、2人でそんな会話をしながら千歌や梨子と共に今、果南と鞠莉は何をしているのだろうと考えながら上の階にあるであろう3年の教室見上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その果南や鞠莉、ダイヤのいる3年の教室では・・・・・・。

 

案の定無爪の予想通り、鞠莉は果南をスクールアイドルに引き戻す為の行動を現在進行形で起こしており、彼女は自分達がまだスクールアイドルとして活動していた時、次のライブで使う予定だったが、グループ解散となった為に未使用に終わってしまった衣装を引っ張り出してそれを果南に見せつけるように持って来ているところだったのだ。

 

これを見れば、果南が少しでもスクールアイドルに戻ろうとしてくれるかもしれない。

 

「果南!」

 

そう願って鞠莉は衣装を持って来たのだが、それで果南の心が変わるようなことはなく・・・・・・。

 

彼女は鞠莉から衣装を奪うようにしてそれを摑み取ると、なんと果南はその衣装を窓の外へと投げ捨てたのだ。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

そして、その投げ捨てられた衣装は丁度ベランダで会話中だった千歌達の目の前まで落ちて来るのだが・・・・・・。

 

「クンクン・・・・・・制服!!」

「「ダメェー!!?」」

「何してんだバカ曜ねえ!?」

 

大の制服好きの曜がピクピクと鼻を動かすと、その衣装の匂いに引き寄せられるように彼女はベランダから身を投げ出して衣装を掴み取るのだが・・・・・・。

 

当然、千歌達のいる場所は建物から2階以上の位置する場所なのでそんなことをすれば真っ逆さまに落下して大怪我するのは間違い無く、その為に梨子と千歌と無爪の3人は慌てて曜の身体を掴んで引っ張り上げることに成功し、曜は事なきを得たのだが・・・・・・引っ張り上げられた曜は「危ないでしょ!」と怒る無爪に頬を両手で引っぱられてしまうのだった。

 

「ちょっ、いたっ!? なっちゃん痛いってぇ~!?」

「制服好きなのは良いけどさ、周りが見えなくなるのはどうにかしてよ! 僕等がいなかったらどうしたんだ曜ねえ!!?」

「うぅ、ごめんなさぁーい!」

 

無爪に叱られて反省した曜は無爪や梨子や千歌に謝ると、梨子が曜が先ほど手に取った衣装に視線を移しながら「それでそれは?」と尋ねると、無爪達全員その衣装に目を向ける。

 

「これって、スクールアイドルの・・・・・・」

「上から落ちてきた? まさか・・・・・・果南ちゃん達?」

 

衣装が落ちて来たのは、果南達3年の教室で何かあったからなのだろうかと思い、無爪、千歌、曜、梨子の4人は取りあえずは3年生の教室に行ってみようと考え、一同は果南達のいる教室へと急いで向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

「離して!! 離せって言ってるの!!」

「良いと言うまで離さない!! 強情も大概にしておきなさい!! たった1度失敗したくらいで何時までもネガティブに・・・・・・!!」

「うるさい! いつまでもはどっち!? もう2年前の話だよ!? 大体今更スクールアイドルなんて・・・・・・! 私達、もう3年生なんだよ!?」

 

そして3年の教室では無爪達がある程度予想していた通りの出来事が起こっており、鞠莉は果南の腰にしがみつきながら2人は激しい言い争いをしており、3年の教室の前には騒ぎを聞きつけた花丸やルビィも駆けつけており、遅れながら千歌達もそこで合流。

 

それからそんな果南と鞠莉の2人をダイヤはあたふたと慌てつつもクラスメイト全員に注目されてしまっていることから必死に止めようとするのだが、2人は全く聞く耳を持たない。

 

「2人ともお辞めなさい! みんな見てますわよ!?」

「だって、ダイヤもそう思うでしょ!?」

「辞めなさい! 幾ら粘っても果南さんが再びスクールアイドルを始めることは有りませんわ!」

 

ダイヤに同意を求める鞠莉であったが、ダイヤ自身は果南がまたスクールアイドルをやることはないと断言し、それを聞いた鞠莉はそれはなぜだと不思議に思わずにいられず、腕に力を入れてさらに果南にしがみついてくる。

 

「どうして!? あの時の失敗はそんなに引きずること!? 千歌っち達だって再スタートを切ろうとしてるのになんで!!?」

「千歌とは違うの!!」

「むぅ・・・・・・!」

 

しばらく果南や鞠莉、ダイヤの3人の様子を教室の外から無爪達と共に伺っていた千歌だったが・・・・・・。

 

何時まで経っても話が終わる気配がなく、それも話が平行線のように感じ、少しばかりうんざりとした千歌は流石にこれ以上黙って我慢していることができなくなってしまい、彼女はムスッとした表情を浮かべながら無爪や曜の呼びかけにも応じず鞠莉達の元へと歩いて行くと、息を大きく吸い上げて・・・・・・。

 

「千歌・・・・・・?」

「いい加減にぃ・・・・・・!! しろおおおおおお!!!!」

 

荒げるような声で、果南、鞠莉、ダイヤの3人にそう言い放ったのだった。

 

「もう!! なんかよく分からない話をいつまでもずーっとずぅーっとずぅぅぅーっと!!!! 隠してないで、ちゃんと話しなさい!!」

「千歌には関係な「あるよ!!!!」」

 

果南は千歌に関係のないことだと言いかけたが、そんな果南の言葉を遮りながら、千歌は自分にだって関係のあることだと言い放ち、千歌はダイヤも、果南も、鞠莉も3人とも放課後になったら自分達の部室に来るようにと伝える。

 

「ダイヤさんも、鞠莉さんも、果南ちゃんも3人揃って放課後部室に来てください!」

「いや、でも・・・・・・」

「い・い・で・す・ね!!?」

 

もはや有無を言わせない、そんな勢いの千歌に対して果南も鞠莉もダイヤも「NO」と言うことが出来ず、3人は思わず「はい」と頷くと、その一部始終を見ていた曜達は3年生に向かってあのように啖呵を切った千歌に感心の視線を向けるのだった。

 

「千歌ちゃん凄い・・・・・・!」

「3年生に向かって・・・・・・」

「少し、見直しちゃったな、千歌ねえのこと。 ちょっとカッコ良かった・・・・・・」

 

なんてルビィ、曜、無爪がこの時の千歌にそれぞれの感想を述べるのだが、その際、千歌は「あっ」と思わず声を漏らし、「やってしまった」と言いたげな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

その後、放課後にスクールアイドル部の部室に集まることとなった一同。

 

果南やダイヤも鞠莉も、ちゃんと千歌に言われた通り誰1人逃げるようなこともせず、部室に集まると、千歌は果南とダイヤを椅子に座らせ、先ずは果南から詳しい話を聞くことに。

 

ちなみに、また先ほどのように鞠莉や果南が激しい口論にならないように教師の目があった方が良いだろうという曜の判断から、彼女から一通りの事情を説明されて呼び出されたレイジもこの場には訪れており、彼は話し合い自体は千歌達に任せ、自分は大きな喧嘩になったりしないようにと千歌達の様子を見守っていたのだった。

 

あとついでに善子は何時も通り頭にモコを乗せている。

 

そして、千歌は果南にスクールアイドルを辞めた詳しい理由を聞き出そうとしたのだが、やはりと言うべきか果南は東京のイベントで歌えなかっただけだと主張し、それがスクールアイドルを辞めた理由だと話すのだが・・・・・・。

 

「だからぁ、東京のイベントで歌えなくって・・・・・・!」

「その話はダイヤさんから聞いた。 けど、それで諦める果南ちゃんじゃないでしょ?」

 

一瞬、果南は「お前そこまで千歌達に話したのか?」とでも言いたげな視線を向け、ダイヤを睨む彼女であったが、それに対して気まずそうにそっぽを向いて知らんぷりを貫く態度を見せるダイヤ。

 

「千歌ねえに激しく同意だね、僕も。 そうでなかったら異星人か誰かが化けた偽者かなんかでしょ」

「そこまで言う!?」

「でも千歌っちや無爪くんの言う通りよ!! だから何度も言ってるのに!!」

 

千歌や無爪の言うように、東京でイベントで歌えなかっただけで簡単に果南が取り組んでいたものを、スクールアイドルを諦めてしまうとは思えない。

 

「何か、事情があるんだよね? ねっ?」

 

そんな2人の意見に、鞠莉も力強く頷き、千歌は本当は何か別の事情があるのだろうと果南から本心をどうにか聞き出そうとするのだが、果南は一向にそれを話そうとはしてくれない。

 

「そんなものはないよ。 さっき言った通り、私が歌えなかっただけ」

「嘘つけやコラァ!? 言っとくけど、もうその辺嘘だってバレバレだからね!?」

「あーもう!! 私もイライラするぅ~!!」

 

何かを隠してる、歌えなかっただけがスクールアイドルを辞めた理由じゃないのはここにいる全員に確実にバレてしまっているというのに、それでも尚堅く口を閉ざす果南。

 

「その気持ちよーく分かるよ!! ほんっと腹立つよねコイツ!!」

 

それに無爪は思わず怒鳴り、千歌は頭をグシャグシャと掻きむしって苛立つのを堪えられず、その気持ちがよく分かると共感しながらビシッと果南を指差す鞠莉。

 

「勝手に鞠莉がイライラしてるだけでしょ!?」

 

しかし、鞠莉のみならず、無爪や千歌にまでも果南の言っていることが嘘であることがバレバレだと指摘されても、それでも果南はあくまでもシラを切り通そうとする姿勢を崩さない。

 

「でも、この前弁天島で踊っていたような・・・・・・ピギィ!?」

「・・・・・・ッ!!」

 

だが、そこでふっと思い出したかのようにルビィが先日、果南が神社の前で踊っていた光景のことを呟くと、そこを指摘された果南は顔を真っ赤に、ジロッとルビィを睨み付け、睨まれた彼女は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。

 

「おぉ! 赤くなってるぅ~!」

「うるさい・・・・・・!」

 

顔を赤くする果南を見て、口元がニヤついてしまう鞠莉。

 

「や~っぱり未練あるんでしょう~?」

「っ~!! うるさい!!」

 

すると、果南は椅子から立ち上がって怒鳴るように声を張り上げ、彼女は鞠莉を睨み付ける。

 

「未練なんてない!! 兎に角、私は・・・・・・もう嫌になったの!! スクールアイドルは、絶対にやらない!!」

 

果南はそう、鞠莉や千歌達に突きつけるようにして言い放つと、彼女はそれだけを言い残して部室を去って行ってしまうのだった。

 

「・・・・・・全く、ダイヤさん」

「うぇっ!?」

 

不意に梨子に名前を呼ばれ、ビクリと肩を震わせるダイヤ。

 

「何か知ってますよね?」

「えっ!? わたくしは、何も・・・・・・」

 

そのような梨子の問いかけに、果南同様にあくまでシラを切ろうとするダイヤ。

 

『こいつ等往生際が悪いな。 もはや隠しきれないだろ、ここまできたら』

「あはは、確かに・・・・・・。 割と部外者な僕でも見るからになんとなく隠し事出来る状況じゃないなっていうのは分かりますね・・・・・・」

 

今まで千歌達の様子を黙って見守っていたゼロやレイジも、流石にこれ以上言い逃れするようなことはできないだろうと考え、千歌達も一斉にダイヤの方に視線を集中させると・・・・・・ダイヤはみんなから視線を合わせないようにそっぽを向く。

 

「だったら、どうしてさっき果南さんの肩を持ったんですか?」

「そ、それはぁ・・・・・・くっ!」

「あっ、逃げた!」

 

梨子の鋭い問いかけに、ダイヤはゆっくりと椅子から立ち上がると彼女はその場から急いで駆け出して逃げ出してしまう。

 

「善子ちゃん!!」

「ギラン!」

 

しかし、そうはさせない、逃しはしないと言わんばかりに千歌が善子の名前を呼ぶと、彼女はすぐさま走ってダイヤに追いつくと、先日ルビィにも喰らわせた「堕天使奥義 堕天流鳳凰縛」という名のコブラツイストを繰り出したのだ。

 

「だからヨハネだってばぁー!!」

「ピギャアアア!!!?」

 

ちなみに、この時ダイヤはルビィが喰らった時と同じ体勢をしており、それを見た花丸は「流石姉妹ずらぁ」と謎の感心をしていたのだった。

 

『あの技戦いの時に使えそうだなぁ』

 

ついでに、善子の技を見たゼロも無爪と同じ事を言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワザと!?』

 

その後、場所を黒澤家の客間室まで移動してきた千歌達はダイヤからより詳しい話を聞いてみると、どうやら当時、果南が東京のイベントで歌えなかったのはワザとやったことなのだというのだ。

 

「そう、東京のイベントで果南さんは歌えなかったんじゃない。 ワザと歌わなかったんですの」

「・・・・・・どうして・・・・・・?」

 

窓の外の曇り空を見つめながら、鞠莉はダイヤになぜ、果南はそんなことをしたんだと問いかける。

 

「まさか、闇の魔術で・・・・・・「モコッ!」むぐっ!!」

「・・・・・・あなたの為ですわ」

 

空気を読まずに厨ニ的な台詞を言おうとする善子の口を塞ぐモコと花丸の姿を横目にしつつ、ダイヤは問いかけに応えると、それを受けた鞠莉はダイヤの方へと顔を向け、「どういうことだ?」とでも言うような表情で首を傾げる。

 

「私の・・・・・・?」

「覚えていませんか? あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう?」

「・・・・・・」

 

勿論、そのことは鞠莉は覚えていた。

 

『本当に大丈夫ですの!?』

『全っ然! 果南、やるわよ!?』

 

2年前、ダイヤの言う通り東京のイベントに出場することになった鞠莉はダンスの練習で傷を負ったのか、右の足首を怪我しており、鞠莉は痛みを堪えてでも東京の舞台に上がろうとしていたのだ。

 

『・・・・・・』

『・・・・・・? 果南・・・・・・?』

 

その結果、果南は鞠莉のことを気遣い、果南は「プレッシャーに押し負けて歌えなかった」という体でイベントでワザと歌わなかったのだ。

 

「そんな・・・・・・! 私は、そんなことして欲しいだなんて一言も・・・・・・!」

「あのまま進めていたら、どうなっていたと思うんですの!? 怪我だけでなく、事故になっていてもおかしくなかった・・・・・・」

 

ダイヤから当時のイベントでの出来事、果南が歌わなかったことの本当の理由を聞かされ、激しく動揺する様子を見せる鞠莉。

 

「英断、ですね。 ダイヤさんの言う通り、下手をすれば傷が悪化して鞠莉さんが一生まともに歩けない身体になってた可能性もあった訳ですし・・・・・・」

 

話を聞いていたレイジも、イベントでパフォーマンスすら行えなかったのは残念だったとは思うが、それならば果南の下した判断は何も間違っていない行動だったと評し、鞠莉の怪我が悪化しなくて良かったと安堵するが・・・・・・。

 

「でも・・・・・・!!」

 

だとしても、理解はできるが納得はできないとでも言いたげな鞠莉。

 

「だから、逃げた訳じゃないって・・・・・・」

「でも、その後は・・・・・・?」

 

確かに、果南がイベントで歌えなかった理由や「逃げた訳じゃない」とダイヤや果南が言っていた理由は分かったが、まだその2人がスクールアイドルを辞めた理由が分からないままだ。

 

「そうだよ、怪我が治ったなら、続けても良かったのに・・・・・・」

 

その疑問を千歌が口にすると、彼女に同意するように肩を震わせながら、窓に添えていた自分の右手を拳に変えながら、「そうよ」と小さく呟く。

 

「花火大会に向けて、新しい曲作って・・・・・・! ダンスも衣装も完璧にして・・・・・・! なのに・・・・・・!!」

「心配していたのですわ。 あなた、留学や転校の話がある度に全部断っていたでしょう?」

「そんなの当たり前でしょ!!?」

 

声を大きく張り上げながら、叫ぶようにしてそう言い放つ鞠莉。

 

「果南さんは、思っていたのですわ。 このままでは自分達のせいで鞠莉さんから色んな可能性が奪われてしまうのではないかと・・・・・・そんな時・・・・・・」

 

ある時、偶然職員室を通りかかった果南は、そこで鞠莉が教師から留学の話を蹴っていた場面を彼女は目撃したのだ。

 

『本当に断るの? ご両親も先方も是非って仰ってるの。 もし向こうで卒業すれば大学の推薦だって・・・・・・』

『良いんです。 私、スクールアイドル始めたんです。 学校を救う為に・・・・・・!』

 

教師と鞠莉の話を聞いた果南は、自分とダイヤがスクールアイドルに鞠莉を半ば強引に誘ってしまったせいで彼女の未来を妨害し、奪い去ってしまった。

 

そう感じ取った果南はダイヤと共に自分達がスクールアイドルを辞めれば、凝りのようなものが残ってしまうだろうが、鞠莉は海外に留学することができる、彼女の未来を約束することができる。

 

そう考え、だから、果南は鞠莉が戻って来た時も敢えて厳しい態度を取り、あそこまで頑なにスクールアイドルを再びやることを拒否したのだ。

 

「まさか、それで・・・・・・」

 

ダイヤから事の真相を聞かされ、果南の気持ちを知った鞠莉は思わずそこから走り出そうとするが、それをダイヤは呼び止める。

 

「どこへ行くんですの!?」

「・・・・・・ぶん殴る!! そんなこと、一言も相談せずに・・・・・・!!」

「・・・・・・お辞めなさい。 果南さんはずっとあなたのことを見てきたのすよ。 あなたの立場も、あなたの気持ちも。 そして・・・・・・あなたの将来も・・・・・・。 誰よりも考えている・・・・・・!」

 

ダイヤの言葉を受けながら、鞠莉は頭の中でこれまでの果南やダイヤと初めて出会った時のことや、一緒に過ごしてきた時間のことを思い返しながら、身体をふるふると震わせながら、強く拳を握りしめ、唇を噛み締める。

 

「そんなの分からないよ。 どうして言ってくれなかったの?」

「ちゃんと伝えていましたわよ。 あなたが気付かなかっただけ」

「っ・・・・・・!!」

 

そして、鞠莉は目尻に涙を溜めながら降り出した雨の中、彼女は黒澤家を飛び出すと鞠莉は激しく降る雨の中を必死に走り、ある場所に向かって突き進んだ。

 

しかし、鞠莉は途中でつまずいてその場に転んでしまい、彼女の目からはポツポツと溢れた涙が地面に垂れる。

 

(私は、ずっと・・・・・・!)

 

これまでずっと、果南やダイヤがスクールアイドルを突然ちゃんとした理由も言わないまま辞めたことに腹を立てて、不満を抱いていた。

 

ここに戻って来た時、2人をまたスクールアイドルに戻そうと色々としてきた。

 

ダイヤに拒否されようが、果南にどれだけ冷たくされようが、必ずあの時の「輝き」を取り戻そうと必死にあがきまくった。

 

だけど、真実を知った今、鞠莉は果南やダイヤがどれだけ自分を想い、どんな想いで自分のことを考えてくれていたのかが分かった。

 

だが、自分はそんな2人の想いに、それに全く気づくことができなかった。

 

ずっと果南が自分を拒絶することに苛立ちを覚えていたが、今はそれ以上に果南達の想いに気づけなかった自分が腹正しくて、悲しくて、情けなくて・・・・・・色々な感情がグチャグチャになるのを鞠莉は感じていた。

 

だから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな鞠莉のごった煮とも言えるようなグチャグチャの感情が、「マイナスエネルギー」となるのは必然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、鞠莉の身体から青白い炎のようなものが溢れ出し、それが彼女から離れるとそれはこれまで蜃気楼としてゼロや無爪が目撃してきたあの怪獣は、「硫酸怪獣 ホー」となって遂に実体化したのだ。

 

「グアアアア・・・・・・!!」

「えっ、なに・・・・・・今の・・・・・・?」

 

一瞬、身体に力が抜けるような感覚に見舞われた鞠莉であったが、顔を上にあげた彼女はすぐにほぼ目の前で怪獣が出現したことに気付き、ホーは鞠莉の方に視線を降ろし、互いに目が合うと鞠莉は「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、ホーはゆっくりと鞠莉に近寄ってくる。

 

「アアアアア・・・・・・!!」

「鞠莉さん!! ジーッとしてても、ドーにもならねえ!! 決めるぜ、覚悟!!」

 

だが、間一髪そこへ駆けつけた無爪がジードライザーを構えてそれを掲げると、ジードライザーから光が溢れて無爪の身体を包み込み、彼は初代ウルトラマンとウルトラマンベリアルの力を融合させた姿、「ウルトラマンジード プリミティブ」となって変身。

 

『ウルトラマンジード! プリミティブ!!』

『シェアア!!』

 

鞠莉に迫ろうとするホーに、変身を完了させると同時にジードはニーキックをホーへと叩き込み、蹴り飛ばすとジードは鞠莉を見下ろし、「ここは任せろ」とでも言うように頷く。

 

「ウルトラマン・・・・・・ジード・・・・・・!」

 

戦闘BGM「ウルトラマンジードプリミティブ」

 

それからジードはファイティングポーズを取りながらホーに向かって駈け出して行き、勢いをつけた拳をホーの顔面に喰らわせ、ホーを大きく怯ませるとすかさずジードはもう1度ホーを殴りつけようとするのだが・・・・・・。

 

「グアアアア!!」

 

ホーはするりとジードの拳を躱して背後に回り込むと口から七色の光線を吐き出し、光線はジードの背中に見事命中。

 

『ウアアア!!?』

 

それを受けて片膝を突くジードにホーは後ろから蹴りを喰らわせて突き飛ばすとジードは地面に倒れ込み、そのままホーがジードの背中に馬乗りとなるとまるで駄々をこねるかのように両手でジードの身体を殴りまくり、それと同時に泣き叫ぶような声をあげながら目から硫酸の涙を大量に流してジードに浴びせる。

 

「アアアア・・・・・・!! アアアア・・・・・・!!」

『ウグアアア!!!!?』

 

硫酸の涙を身体に受けたジードの身体からは「ジュウウ・・・・・・!」という音を立てながら煙が発生し、このままではまずいと感じたジードはレオとセブンのカプセルを使い、防御力とパワーに特化した形態「ソリッドバーニング」へとフュージョンライズ。

 

『ソリッドバーニング!』

 

ソリッドバーニングとなったジードの硬い装甲にはホーの硫酸の涙はまるで通用せず、未だにベチベチと鈍い音を立てながら殴って来るホーを立ち上がって押し退かして立ち上がり、ホーと向き合うと、ホーの顔面にジードはすかさず強烈な拳を炸裂させる。

 

『ハアア!!』

「グアアアッ!!?」

 

それによって大きく怯むホーであったが、直後にホーからの光線がジードへと向けて放たれ、ジードはそれを両腕を交差してガードし、耐え抜く。

 

『ジュア!!』

 

そのまま両腕を振るってホーの光線をかき消すと、反撃とばかりに腕部のアーマーを展開し、右腕の拳から発射する必殺光線「ストライクブースト」をジードはホーに放つ。

 

『ストライクブーストォ!!』

「アアアアア・・・・・・!!!!?」

 

ジードの光線による直撃を受けたホーは悲しげな声を上げながらその場に倒れ込み、爆発し霧となるのだが・・・・・・。

 

「アアアアア・・・・・・!!」

 

爆発した際に発生した霧はジードの背後で1つとなると先ほどジードが倒した筈のホーとなって復活。

 

復活したホーはジードの背中に向けて口から光線を発射し、光線はジードの背中に見事に命中。

 

『ウアアアッ!!?』

 

防御力の高いソリッドバーニングになっていたことでダメージこそあまり通らなかったものの、衝撃でジードは前のめりに倒れてしまい、すかさずホーは倒れたジードに向けて七色の光線を撃ちまくる。

 

『ぐっ、鬱陶しい・・・・・・!! アイツ、さっき倒した筈なのに・・・・・・!!』

『あの怪獣は、恐らくは小原 鞠莉の悲しみのマイナスエネルギーによって生まれた怪獣だと思われます。 つまり、彼女の悲しみが無くならない限り、あの怪獣を倒すことは・・・・・・』

 

ホーによる光線を受けながら、ジードは倒した筈のホーが復活したことに対して疑問を口にするとレムからその疑問に対しての返答があり、彼女が言うにはホーが出現したのは鞠莉の悲しみの感情によるものであるため、それを無くさない限りあの怪獣は倒し切ることが出来ないのだという。

 

『やっぱり、あの怪獣は鞠莉さんの・・・・・・』

 

ホーの光線を耐えながらも、どうにか立ち上がるジード。

 

そこでふっと「そう言えば鞠莉はどこに行ったのだろうか?」という考えが過ぎったジードはホーから連射される光線に耐えつつ、立ち上がってかぎ爪型の武器「ジードクロー」を呼び出して右手に持つと、背中のブーストを使って一気に加速し、すれ違いざまにホーを斬りつける。

 

『タアアア!!!』

「グルアアア!!?」

 

ダメージを受けたホーはその場に片膝を突くとジードはその間に周囲を見渡して鞠莉の姿を探す。

 

『・・・・・・いた!!』

 

見れば、鞠莉はあれからどうやら浦の星学院に向かっていたようで、人々の様子を見たところ、避難場所にも指定されていない学校になぜ鞠莉が向かっているのかと不思議に思っていると、そこへホーの勢いをつけたタックルが繰り出され、ジードはそれを受け止めると膝蹴りをホーに叩き込み、ジードクローを振りかざしてホーを斬りつける。

 

『アアアア・・・・・・!!?』

『タアアア!!!!』

 

さらに後ろ回し蹴りをホーに喰らわせて自分から引き離すとインナースペース内の無爪はジードクローのトリガーを2回引いてボタンを押すと、全身にエネルギーを身に纏い、ジードクローの切っ先を回転させながら敵に突っ込む「コークスクリュージャミング」をジードはホーへと繰り出す。

 

『コークスクリュージャミング!!!!』

「アアアアア・・・・・・!!!!!?」

 

ジードの繰り出したコークスクリュージャミングはホーの身体を見事に貫き、ホーは火花を散らして爆発して霧となるのだが・・・・・・。

 

やはりと言うべきか、霧は再び1つとなってホーとなり復活、ホーはドロップキックをジードへと繰り出し、それを受けたジードは衝撃で軽く吹き飛ばされてしまう。

 

『うわっ!? クソ、コイツ・・・・・・そんなに強くは無いけど、何回も即座に再生されるんじゃ切りが無い!』

 

ホーの強さ自体はそこまで大したものではない。

 

だが、自分には「3分」という時間制限がある以上、このままではジリ貧になるだけ。

 

どうすればこの不死身とも言える相手を倒すことが出来るのかと考え込むジードだが・・・・・・そこでふっとジードはあることに気が付いたのだ。

 

『・・・・・・そうか! 鞠莉さんの悲しみは、恐らくはカナねえとの確執が原因だった・・・・・・。 だとしたら、あの怪獣を倒せるのは事実上、1人だけだ・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

「そっか、分かったよ。 レム」

 

ようやくホーの攻略法に気付いたジードこと無爪はレムに連絡して千歌に伝言を頼み、無爪の指示を受けたレムは言われた通り、怪獣が出現した為、みんなと避難中だった千歌のスマホにメッセージを送り、それを読んだ彼女は「ごめん、みんな先に行ってて」と曜達に伝えると彼女はみんなから離れてどこかへと行ってしまう。

 

「えっ!? ちょっと千歌ちゃん!?」

「どこ行きますの!?」

 

突然の千歌の行動に曜やダイヤは驚きの声をあげ、いきなりいなくなった千歌を追いかけようとする曜達だったが、それをレイジが引き止める。

 

「曜ちゃん達は先に避難場所に行ってて! 千歌ちゃんは僕が追いかけるから!」

「レイジお兄ちゃん・・・・・・!」

 

レイジは曜達にそう言うと彼は急いで千歌を追いかけ、みんなから離れて彼女を追いかけると・・・・・・しばらくして人気のない場所にいた千歌の姿を発見。

 

彼女の元に駆け寄ったレイジは一体どうしたのかと尋ねると、千歌はレイジに一通りの説明を終え、これからホーを倒す為にも、果南に電話することを伝える。

 

「でも、こんな状況で出るかな」

「出てくれないと困る」

 

通話に出てくれることを願いつつ、千歌が果南に電話をするとしばらくの着信音の後、「もしもし?」という果南の声が聞こえた。

 

『どうしたの千歌? こんな時に・・・・・・』

「あのね、果南ちゃん!! 鞠莉さん、学校の部室で待ってるから!!」

『・・・・・・えっ?』

 

果南が通話に出るや否や、間髪入れず千歌は鞠莉が学校の部室で待ってることを伝えるとそれを受けた果南は電話越しでも分かるぐらいに動揺するのが感じ取れ、彼女は戸惑いつつも「どういうこと?」と千歌に問いかける。

 

「ダイヤさんからなんで果南ちゃんがスクールアイドルを辞めたのか、話は全部聞いたよ。 それで鞠莉さん、怪獣が出現する少し前に、学校に向かったみたいなんだ! それはきっと、果南ちゃんと今度こそお互いに隠し事も無しで本心で話し合う為・・・・・・」

『そんな・・・・・・怪獣が出現してるんだよ! 鞠莉の奴、こんな時に何してんのさ!?』

 

ジードが相手をしてくれているとは言え、ホーが出現して街で暴れ回っているというのに、こんな時に学校に行くなんて鞠莉は一体何を考えているんだと果南は怒り、千歌もそんな果南の怒りは最もだと頷く。

 

「だよね。 果南ちゃんの言いたいことは分かるよ。 でも、お願い。 私も果南ちゃんを困らせることを言ってるっていうのは分かってる。 だけどどうか鞠莉さんを迎えに行ってあげて。 鞠莉さんの涙を拭えるのは、果南ちゃんしかいないから・・・・・・!」

『・・・・・・千歌・・・・・・でも、私・・・・・・』

 

電話越しながら、どこか迷うような素振りを見せる果南。

 

「もう! スクールアイドルのことも! 鞠莉さんのことも! 本当はまだ大好きなんだろコラァ!!!!」

『っ!?』

 

そんな迷いを見せる果南に、千歌は3年の教室の時と同じように思わず声を荒げながらそう叫ぶと、それを受けた果南や近くで様子を見守っていたレイジは身体を「ビクッ!」と震わせ、驚きの表情を見せる。

 

「果南ちゃんはずっとこのままで良いの!? ずーっと鞠莉さんと喧嘩したままで!? 鞠莉さん、待ってるよ!! あの部室で!! ダイヤさんや果南ちゃんと一緒にスクールアイドルとして過ごしたあの部室で!!」

『っ・・・・・・』

 

そしてそんな千歌の言葉を受けた果南は、通話を何も言わずにプツリと切ると、彼女は通話を切る際、何も言わなかったが千歌はきっと果南は鞠莉の元に向かったのだろうと察し、千歌は心の中で「お願い」と果南が鞠莉を救ってくれることを願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨に濡れた状態のまま、学校のスクールアイドル部の部室へとやってきた鞠莉。

 

「・・・・・・バカ・・・・・・」

 

部室に訪れた彼女は、そこに置かれたホワイトボードにかつて書かれていた作詞の文字の跡を指先で触れると、頭をコツンっとホワイトボードに軽くぶつけ、一言だけ小さく呟いた。

 

「鞠莉!!!!」

 

するとそこへ、千歌から連絡を受けた果南が慌てた様子で駆けつけ、突然現れた果南に鞠莉が驚いた表情を浮かべていると、すかさず果南は怪獣が出てるにも関わらず逃げずに学校に来ていた鞠莉を怒鳴り上げた。

 

「何してんのバカ!! 怪獣が出てるの分かってる!!? なんでこんな時に・・・・・・」

「・・・・・・ごめん。 迎えに来てくれたのね・・・・・・果南。 迷惑をかけて、ずっと・・・・・・ずっと、ごめんなさい・・・・・・」

 

果南の言うことは最もである為か、鞠莉は反論するようなことはせず、避難しないで学校に来て果南に迷惑をかけてしまったことや、ずっと果南の気持ちに気付くことが出来なかったこと、それら全てのことを鞠莉は背中を果南に向け、顔を下に俯かせながら彼女に謝罪した。

 

「それでも、だとしても、どうしてもここに来ずにはいられなかったの・・・・・・。 ねえ、果南。 どうして言ってくれなかったの? 思ってることちゃんと話して・・・・・・! 果南が私のことを想うように、私も果南のことを考えているんだから・・・・・・!」

 

果南に背を向けたまま、彼女に力強く鞠莉はそう言い放つ。

 

「将来なんか今はどうでもいいの! 留学? 全く興味無かった! 当たり前じゃない! だって、果南が歌えなかったんだよ・・・・・・?」

 

震える声で、今の自分の気持ちを全力で伝えようとする鞠莉。

 

「放っておける筈ない!!」

「っ・・・・・・!」

 

目に涙を浮かべながら、果南の方へと鞠莉が振り返ると、そんな鞠莉の表情を見て果南は何も言えなくなってしまい黙り込んでしまう。

 

すると、次の瞬間、鞠莉は果南の頬を突然引っぱたいたのだ。

 

「私が、私が果南を想う気持ちを甘くみないで!!」

「・・・・・・! だったら、だったら素直にそう言ってよ!! リベンジとか、負けられないとかじゃなく、ちゃんと言ってよ!!」

 

果南もまた、目に涙を溜めながら鞠莉にそう言葉を返すと、鞠莉は苦笑気味に「だよね・・・・・・」とどこか自分に呆れたような口調で呟くと、彼女は自分の頬を指差しながら「ほら果南も叩いて良いよ?」とでも言うように果南に差し出し、それを見た果南は右手を構えるのだが・・・・・・。

 

その時、果南は昔、ダイヤと一緒に鞠莉の家が経営している淡島ホテルの庭に忍び込んだ時のことを思い出し、そこで鞠莉と初めて友達になった時のことを思い返していた。

 

『み、見つかったら怒られますわ・・・・・・!』

『平気だよ!』

『んっ? あなたは・・・・・・?』

 

しかし、結局は鞠莉に見つかってしまうのだが、そもそもの目的は鞠莉と友達となることだった為、果南は戸惑いつつもボソッとあることを呟いた。

 

『は、ハグ・・・・・・』

『へっ?』

『ハグ・・・・・・!』

「・・・・・・しよ?」

 

そうして、昔と同じように、初めて出会った時と同じように、今の果南が幼かった頃と同じように両手を広げて優しくそう言い放つと、鞠莉は一瞬驚いた表情を見せた後、彼女はボロボロと涙を溢れんばかりに流し、果南に抱きついてハグしたのだ。

 

「あ、う・・・・・・うわあああああ!!!!」

「うく、ふうう・・・・・・」

 

そして果南もまた鞠莉を抱き留めてハグをすると、彼女も溢れるように涙を流すのだった。

 

それと同時に、彼女等2人の心を照らすように雨が止み、空から太陽の光が差し込んで・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアア・・・・・・」

『っ、大人しく・・・・・・なった?』

 

一方で、ホーと戦っていたジードはというと・・・・・・。

 

突如として、見よう見真似でやっていた善子の「堕天使奥義・堕天流鳳凰縛」でホーの動きを封じていたジードはホーが突然動きを止めて大人しくなったことに気付き、ホーの拘束を解くとジードは果南が鞠莉の悲しみを拭ったのであろうことを察することができた。

 

『そうか、カナねえ・・・・・・ありがとう』

「アアアア・・・・・・」

 

ホーがジードの方へと振り返ると、ホーは両手を広げて無防備な状態で晒し、ホーの意図を何となく察したジードは頷くとウルトラマンコスモス・ルナモードとウルトラマンヒカリの力を融合させた青い姿の「アクロスマッシャー」にフュージョンライズ。

 

『ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

 

そこからジードは両手から興奮抑制の効果を持つ光線「スマッシュムーンヒーリング」をホーへと向けて放つ。

 

『スマッシュムーンヒーリング!』

「アアア・・・・・・!」

 

ジードの光線を受けたホーはどこか満足げな表情を見せると光の粒子となって消滅し、消滅したホーはそれ以降復活する様子もなく、ホーが完全に消滅したことを確認するとジードは晴れた空の上へと飛び去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・ホーがいなくなったことで、怪獣騒動が収まったこともあり、鞠莉や果南はどうしたのだろうと気になったダイヤは学校の学校のアイドル部の部室に自然と足を運んでいた。

 

そこでは互いに抱きしめ合って未だに泣きじゃくる果南と鞠莉の姿があり、それを影からこっそりと伺ったダイヤは2人の間にあった大きな溝はこれで埋まり、色々と丸く収まったのだろうと考え、彼女はホッと胸を撫で下ろすとそのまま2人の間に入るような真似せず、安心して学校を立ち去ることにしたダイヤ。

 

「うふふ! ダイヤさんって、本当に2人が好きなんですね!」

「っ・・・・・・。 それより! これから2人を頼みましたわよ! あー見えて2人とも繊細ですから」

 

だが、校門を出た先には待ち構えていたように千歌が立っており、千歌の言葉にダイヤは気恥ずかしそうな顔を浮かべながら、そっぽを向きつつ、果南や鞠莉のあの様子から2人は恐らくAqoursに加入することはほぼ確定していることから彼女は果南や鞠莉のことを頼むとダイヤは千歌にお願いするのだが・・・・・・。

 

「じゃあダイヤさんもいてくれないと!!」

「えっ!? わたくしは生徒会長ですわよ!? とてもそんな時間は・・・・・・」

 

ならばダイヤも一緒にAqoursに入ろうと千歌は誘うのだが、ダイヤは生徒会長としての職務があるからと一度は断ろうとする。

 

「あれ? ダイヤさんが推してるって言う絢瀬 絵里さんと千歌ねえが推してる高坂 穂乃果さんは生徒会長やりながらスクールアイドルやってたって僕の友達(ペガのこと)が言ってましたけど・・・・・・?」

 

いつの間にか千歌の後ろからひょっこりと現れながら千歌達が目標としているμ'sもまた生徒会長をやりながらスクールアイドルとして活動していたメンバーがいたことを無爪が指摘すると、それに続くように生徒会は問題ないと千歌が発言。

 

「それなら大丈夫です! 鞠莉さんと果南ちゃんと、あと・・・・・・6人とちょっと生意気な私の弟もいるので!」

「僕のとこ一言余計!」

 

気付けば、ダイヤ達の目の前には曜や梨子、花丸や善子にルビィも集まっており、そこで代表するようにルビィが前に出て両腕で抱えて持って来ていた1つの衣装をダイヤに微笑みを向けながらそれを差し出してきたのだ。

 

「親愛なるお姉ちゃん! ようこそ、Aqoursへ!!」

「あっ・・・・・・」

 

そして、ダイヤもルビィに微笑み返すと、彼女はその衣装をゆっくりと手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、ダイヤ、鞠莉、果南の3年組がAqoursに無事加入し、9人となった千歌達は練習も十分できた状態で夏祭りのイベントに無事出場。

 

9人となった、そんな彼女達Aqoursがそこで歌う曲は・・・・・・「未熟DREAMER」

 

 

 

 

 

 

「ふふ、Aqoursか・・・・・・」

 

そしてライブを無事に終えた千歌達は舞台裏に移動すると、不意に果南が笑い出し、そんな彼女に曜が「どうしたの?」と不思議そうに尋ねると果南は実は自分達が1年だった頃にスクールアイドルとして活動していた時のグループの名前も「Aqours」だったことを明かしたのだ。

 

「私達のグループも『Aqours』って名前だったんだよ」

「えっ、そうなの!?」

「そんな偶然が・・・・・・?」

 

当然、このことに驚く千歌達。

 

だが、そんな偶然があるのだろうかと梨子が疑問を口にすると、全員の視線がダイヤに向けられた。

 

「・・・・・・」

「千歌達も、私と鞠莉も、多分まんまと乗せられたんだよ!」

 

そう、あの時、砂浜で千歌達が見つけた砂浜に書き込まれた「Aqours」という名前。

 

あれを書いたのは本人は知らんふりを決め込んでいるが、何を隠そうそこにいるダイヤだったのだ。

 

「誰かさんに・・・・・・」



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コラボエピソード宣伝 グラブルジード・序章

12話共々更新です。

???さんの許可を得て、???さんに書いて頂いたグランブルーファンタジーとジードサンシャインのコラボ作品「ジードサンシャイン‼駆けるぜ、青空!Aqours Sky High」の序章部分のみ宣伝の為こちらで掲載します。
続きが気になった方は是非???さんの無料簡単ホームページへ。
こちらがURLです↓

https://www4.hp-ez.com/hp/hatenathird/page20




その世界は、どこまでも果てしなく広がる青い空が広がっていた。

人々は空の上に浮かぶ島々に居住を構え、その島々における独特の発展を遂げていった。その代わりからか、地上と呼べる場所は闇に覆われ、人と呼べるものはなく、空で暮らす人々もまた地上を空から見下ろせる未知の世界にして死後の世界として捉えていた。

 

この世界には、伝説の龍がいた。

破壊による創造を司る龍『バハムート』。

己の使命に従い、神に見捨てられたその世界を芳醇なものへと進化させる使命を持っていた。

しかし、その世界は『星の民』と呼ばれる侵略者の攻撃を受ける。

星の民は星の獣『星晶獣』を操り、圧倒的な力を持って空の世界を蹂躙し、空の民を苦しめていき、長い時の間、空の世界を支配し続けた。

だが空の民は蹂躙されるだけの己の運命を否定した。知恵を絞り、学び、策をもって劣勢を覆した。やがて星晶獣さえも超える者もあらわれ、逆に星の民から離反する星晶獣や星の民さえも現れた。

そしてついに空の民は、星の民から世界の支配権を奪い返すことに成功、以来星の民は自らの母星へと引き返す者、ひっそりと人知れず空の世界に留まる者に分かれ、現在に至る。

この激しき争いは後に『覇空戦争』と呼ばれ、長い時を経た現在でも語り継がれている。

 

 

『覇空戦争、そして星晶獣か』

 

その伝説に、興味を惹かれた者がいた。

 

『面白そうな力だ。実に興味深い…』

 

深淵の闇の中から空の世界を見ていたその者は愉快そうに笑い、その世界へと近づいていった。

 

 

 

 

 

空の世界は、狙われている。

 

 

今、神に見捨てられたその世界に、恐ろしい魔の手が伸びようとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

ラブライブ!ジードサンシャイン!!

駆けるぜ、青空!Aqours Sky High!

 

 

 

 

 

 

みなさん、こんにちは!

私は高海千歌。静岡のとある港町、浦和の『浦の星学院』に通う高校2年生。

部活動は『スクールアイドル部』!

スクールアイドルっていうのは、学校を宣伝するために、歌とダンスを見せる学校所属のアイドルのことなんだ!

私はそのスクールアイドル『Aquors』のメンバーなんです!

どうしてスクールアイドルを始めたのかというと、きっかけは進級前に、曜ちゃんと一緒に東京に来た時のこと。

UTX学園の校舎の外観に設置されていたモニターで見た、今から5年前に活躍した伝説のスクールアイドル『μ’s』のライブ映像。

普通の女子高生が、かわいい衣装を着て、素敵な歌とダンスを披露してたくさんの人たちを魅了する姿に、私はすごく感動した。

私と年齢が変わらなかった人たちが、あんなにキラキラ輝けるんだって。私はあの人たちが見ていた輝きを見つけたい、私も輝きたいって思って、耀ちゃんと一緒にスクールアイドルを始めました!

色々大変なことはあったけど、今では私も含め、9人の個性的なメンバーに恵まれました!

でも、現実というものは厳しいものです。

現在内浦は少子化、過疎化が進んでいて、住んでいる人たちが少なくなってるんです。

もうひとつ…過疎化を加速させる大きな壁が私たちに立ちふさがっています。

 

それは…怪獣。

 

最近になって内浦とその周辺…そして世界の各地に怪獣が現れ、たくさんの人たちが苦しめられてます。自衛隊や各国の軍の人たちも立ち向かってくれていますが…ケガをした人や、最悪死んでしまった人も…

そのこともあって、長らく住んでいた人たちも、内浦の付近が危険だと思って離れていってます…。

その影響は学校にも及んでいて、入学希望者も最低人数を下回っています。怪獣騒ぎのせいもあって、その数はさらに減っていってるんです。

このままだと本年度を持って浦の星も統廃合にされてしまうんです。みんなと出会ったこの学校が好きだから、私たちはスクールアイドルとしてパフォーマンスを披露し続け、この内浦を、浦の星をもっとたくさんの人たちに知ってもらいたいんです。

でも、歌って踊るスクールアイドルだけでは、怪獣を怖がって離れていく人たちを引き留めきれません。当然戦うこともできないです。

 

けど、そんな恐ろしい怪獣に立ち向かう人たちがいます。

AIBっていう宇宙人の組織、そして何より『彼』…栗本無爪君。私と曜ちゃん、そして果南ちゃんの幼馴染で、なっちゃんって呼んでます。

 

私もなっちゃんも実の姉弟じゃないことは、子供の頃に気づいてましたし、お父さんたちからも赤ちゃんだった頃のなっちゃんのことも聞いています。まだ赤ちゃんだった頃の彼は、内浦の天文台に捨てられていたところを、私のお父さんとお母さんが引き取って育てられてきました。名字が違うのは、最初に引き取る予定だった名付け親の栗本さんっていう人が、やむを得ず引き取れなくなったからです。だから小さい頃からずっと一緒で、私にとっては弟みたいな……と思ってました。

次第に背が高くなって、男の人らしくなっていくなっちゃんが、その…だんだんかっこよく………ああもうやめやめ!なんか話逸れちゃってるし、恥ずかしい!!

とにかく!私たち高海一家にとってなっちゃんはかけがえのない家族!これからもずっとです!

へ…変な意味じゃないですからね!?

 

…でも、今年の春に内浦に現れた怪獣がきっかけで、なっちゃんは過酷な運命の戦いに身を投じることになったんです。

なぜなっちゃんが?って思う人もいますよね?

それもそのはずです。

ここだけの話なんですけど…なっちゃんは普通の人じゃないんです。

なっちゃんは…『ウルトラマン』と呼ばれる正義の宇宙人の一人だったんです。なっちゃんは私たちと一緒に暮らしている一方で、ウルトラマンジードとして怪獣や悪い宇宙人と戦い、この内浦を中心に地球を守っているんです。

でも、ウルトラマンとしての戦いは辛いものだというのは、なっちゃんの無事を祈りながら見守っている私にも伝わってきます。

なっちゃんは確かにウルトラマンの子ですが、その親が普通の人じゃなかったんです。それも悪い意味で。

なっちゃんのお父さんは……昔、この宇宙を滅亡寸前にした、悪いウルトラマン、ベリアルの子供だったんです。

それはウルトラマンジードに変身したなっちゃんの顔にも表れていて、親譲りの怖い顔になったせいでなっちゃんは、みんなを守るために戦っているのに、事情を知らない人たちから露骨に中傷されることが多かったんです。普通の人として暮らしてきたなっちゃんが辛くないわけがありません。今でこそ少しずつ、ジードを認めてくれる人たちは増えていますが、ネット社会って恐ろしいもので…未だにジードを怖がる人もいれば、わざとジードを悪く言う煽り厨という人もいる始末です。面構えが気に入らねぇ!なんてことを言った酷いお爺さんもいたくらいで、なっちゃんのことを何も知らないくせに!って、正直怒鳴り込みたい気持ちに駆られました。

でも、私はスクールアイドルだし、言ったところで余計になっちゃんが悪く思われるのも嫌でした。

私がスクールアイドルをやっているのもそこに理由があります。

 

「あのさ、千歌姉」

 

μ’sがそうだったように、普通の女の子だった私が仲間たちと共にキラキラ輝くため。

私たちの歌と躍りで沢山の人たちに内浦を知ってもらい、統廃合から学校を救うため。

そしてこれが、私がスクールアイドルをやっている3つ目の理由。

 

「ちょっと」

 

世間から悪く言われても、辛い戦いの中でも、私たちの歌とダンスで、なっちゃんには笑顔でいてほしいから!

 

だから、次のPVも絶対にいいものにしたい!

 

みんな、見ててね!

 

 

「千歌姉ってば!」

 

 

「ひゃい!?」

 

行きなり後ろから声をかけられた!

誰、何事!?もしかして痴漢?でも今日は新作PV作るために学校の部室に居残りしてるから、私たち以外に誰もいないはず…まさかお化け!?

 

「さっきからなにブツブツ呟いてるのさ。あまり遅くなると、おばさんたちが心配するよ。まだ帰らないの?」

 

それは聞きなれた声、振り向くと、幼い頃から知っている男の子の顔が飛び込んできました。

 

「な、なんでもないよなっちゃん。PVのネタ、浮かばなくて悩んでただけだから…あははは…」

そう、この子がさっき言っていたなっちゃんこと無爪君。ウルトラマンジードをやっている私の幼馴染。

ちょっと抜けてて特オタだけど、いざって時に頼りになってくれる人。

 

 

私となっちゃん、そしてAquorsのみんなはまだこの時知らなかった。

 

 

まさか私たちが……ゲームによくある、ファンタジーな世界の冒険に飛び込むことになるなんて。



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