ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか (征嵐)
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第一話 魔剣顕現
艦これはちょっとお休み(ごめんなさい)
この小説において、魔剣少女たちは異常なまでに強化されています。
迷宮都市オラリオ。すぐ側に超巨大建築物(建築?)の
「神々なんてそんなに良いモノでもないわよ? マスター。」
顔のすぐ横で声がする。視線を向けても、そこには誰もいない。当然だ。戦闘でもないのに
「あんまりそういうコト言わない方が良いんじゃないかなー···。」
なんかバチ当たりそう。天罰的なサムシングが。
僕が···否、
「まーすたー! はーやーくぅー!!」
最早点にしか見えない程の距離で声を張り上げる──どれだけの大声なのだろうか──のは、旅の道連れ世の情け、我等がバイト戦士にして僕の妹分、リディだ。
「待ってよーリディー!!」
この辺りに魔物は出ないし、出ても遮蔽物のないこの地理で見逃すことなどないだろうけれど、やはり大声は避けて欲しい。彼女には戦闘能力がないのだから。
走ってリディに追い付くと、彼女は「楽しみだねー!」などとにこにこと笑いながら、今度は数歩だけ先を歩いている。
「退屈ねぇ···。」
またも顔の横で声がする。道中の魔物は悉くが彼女の一撃で木っ端微塵と成り果てた(彼女以外の魔剣はもっと暇なのでは?)からか、唯一──では、ないが、それでも「魔剣」の名を冠する彼女はつまらなそうに呟き続ける。
「ねぇマスター? そのオラリオには、私が本気を出すに値する敵がいるのかしら?」
完璧にして完全な魔剣の名に相応しい誇りを持つ彼女からしてみれば、そこらの雑魚の相手は不本意なのだろうか。なんか申し訳ない、が、最も慣れ親しんだ魔剣のうちの一人(一振り?)である彼女を使うのが、効率面で見ても最良なのだが······
「まぁ、別に、構わないけれど。」
「そりゃ、どうも。」
なんとなく黙ってしまい──いや、魔剣少女たちは普段は黙っているが(例外多数)──歩くこと数分。
「■■■■■■ーーーーー!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
オラリオまでもうすぐだと言うのに、魔物と戦う同世代くらいの男の子を発見してしまった。
「 こ れ が 天 罰 か 」
やはり口は災いのもとだ。
一見すればライオンのような···いや、山羊、蛇、鷲、色々な生物が混ざりあった混合生物、キメラという奴だろう。手にした短剣をやたらめったらに振り回す白髪の少年。
「うおおおおおおお!!」
キメラの(本体? と思しきライオン部分の)横腹に全力のタックルをお見舞いする。ダメージ0! 進捗駄目です! どころか反作用でこっちがダメージを被っている。
「逃げて! 早く!」
キメラを構成する生物の多数の目が此方を向いた瞬間に叫ぶ。
「で、でも!!」
見た限りでは何の武装もしていない僕の様相では説得力なぞ皆無! ですよね! が。そこまでは予想済みさ!
「安心して! 僕は回避技術だけはずば抜けてるんだ! オラリオに行って、冒険者の人を呼んできてくれ!」
「······わ、分かった!」
少年は一目散に駆けていく。──僕の言葉を信じたからだよね? 逃げたいだけじゃないよね?
「■■■■■■■ーーーー!!」
逃げ出した食事を追いかけようとするキメラ。その行く手を阻むように回り込む。僕を敵と認識したのか、ただ食べる順番を変えたのか、白髪の少年に向いていた目も全てが僕を見据える。
「おいで·········グラム。」
右手を横へ差し出す。
体内魔力が活性化する。
大気のエーテルが収束する。
体が変質する。
体が支配されていく。
ずっしりとした重みが手に掛かり。
魔剣はここに顕現する。
────『魔剣グラム』顕現。
右手には僕の体をゆうに超すほどの大剣が握られている。鋼鉄より硬く、氷より冷たく、炎よりも熱い。質量は極めて大きいが、自在に振れる。慣性は極めて大きいが、自在に制動できる。剣の腹、コアとでも言うべき宝玉に光が灯る。その色は蒼。包帯のような白い布の巻かれた柄を片手で握りしめ──宝玉が紅く光る。
身体無き声が、今度は鼓膜を震わせずに直接脳に響く。
「さぁ···始めましょうか? Get Ready?」
「BLAZE!!」
呼吸が合う──いや、僕の体は彼女のものだ。呼吸は
──────終。
ただの一閃で、キメラは肉塊へと変貌を遂げた。
「もうお仕舞い?」
硬い柄を握っていた筈の僕の右手には、いつの間にか細く、柔らかい少女の手が握られている。僕の右で肉塊を冷ややかに見つめるスレンダーな少女──胸元の肌蹴たドレスのような装いに身を包む(ガーター美脚の)美少女。彼女こそが──
「お疲れさま。グラム。」
魔剣グラム。僕の所持する魔剣の中でも最高位から二つ目、Sランクに位置する魔剣だ。
「えぇ。···ところでマスター?」
僕の右手から手を離さないままに、微笑む彼女は爆弾を投下する。
「リディちゃんはどうしたの?」
「···ああああぁぁぁぁぁぁ!?」
感想待ってます!
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第二話 迷宮都市
「えーっと···最期にリディを見たのは何時だったっけ···?」
「漢字が違うんじゃないかしら?」
僕もグラムも意外と冷静だった。いや、だって···ねぇ?(意味不明)
「案外、オラリオの酒場で魔石ダイヤでも集めてるんじゃないかしら?」
「いや、さすがに僕たちを置いてアルバイトなんて···」
しそうだ。「もー! どこいってたの! マスター!」とか言われそうだ。
そんな未来を幻視していると、遠くから声がした。ちょうどオラリオの方から、男の叫ぶ声が。
「おーい! 君達! 大丈夫か!?」
「うぉ···!?」
二人組の男。鎧と槍はそれなりの···訂正、
「早いですね。今さっき、白髪の子が助けを呼びに行ったと思ったんですが。」
「あぁ、いや、レベル3の俺たちにすればこの距離はまだ近い方なんだが···これは、君達が?」
肉塊へと成り果て、未だに血でてらてらと光っている
──現実逃避、了。
「あのー?」
「おっと、失礼。それで、怪我はないか? もし良かったら、オラリオまで同行するが?」
「あー···じゃあ、お願いします。」
道中、色々と(グラムが)質問されたけれど、それをのらりくらりと躱し、なんとかオラリオへ到着する。ただ、始めに驚きの声を上げて以来、一切話さなかった方の男。奴のグラムに向ける視線は要注意だ。舐めるような、そして隙を伺うような、気味の悪い視線。
「いや、ありがとうございました! おかげで魔物にも遇わなかったし···」
「···。」
魔物が出てこなかったのは、始終不機嫌オーラを発しまくっていた──いや、発しまくっている(進行形)グラムの所為な気もするが。言わぬが吉。君子危うきに近づく前にそれを殲滅す。
「私が顕現していると言うことは、貴方とは魂レベルで繋がっているのだけれど? マスター。」
ふむ? つまり?
「脳内の独白は控えなさい。と、言うことよ。」
ぎゅう、と握りっぱなしだった右手に力が加えられる。···す"い"ま"せ"ん"て"し"た"。
「はぁ···もういいわ。さっさとリディちゃんを探しましょう?」
そう言って、グラムは大気に溶けるように消えて行った。魔力の供給を絶てば、当然のように魔剣少女は顕現できなくなる。つまり彼女たちは戦闘中に魔力を絶てば簡単に僕を裏切れるのだが──そんな心配は、とうの昔に卒業した。···一部、反逆の意思を持つ子もいるけれど。
「探すって言ったって···」
ぐるりと周囲を見回す。人、人、人、人、人、人、人、人、店、店、店、店、店────!!!! ···どうしろと?
「お! そこの君!」
面倒だ···いっそレールガンかオーア·ドラグでもぶっ放して
「いや、洒落にならないよ? て、言うか呼ばれてない? マスター。」
件のレールガンの声が鼓膜を震わせる。で、僕が誰に呼ばれてるって? きょろきょろと周りを──真後ろ!?
気配を感じて振り返ると、黒髪ツインテロリ巨乳の紐──と、いつかの(さっきの)白髪赤目の子! 生きてたか!
「はい? えっと、何か?」
「君も、新しく
「さっきはありがとう! 僕が君と一緒に冒険したいから、って、神様に頼んだんだ! あ、えっと神様って言うのは──」
目を輝かせるロリ巨乳と白髪赤目。神様、と、いうとこの紐が?
「えぇ。そうよ、マスター。
またも顔の横で声がする。この声は──アダマス、か。僕が所持する魔剣には神殺しも何人か(何振りか?)いるが、その中でもアダマスは桁外れの能力を持っている。が、まぁ、
「えっと···ファミリア、って何ですか?」
家族? 親友?
「うーん、まぁ、家族みたいなもの、かな?」
「はぁ···別に、構いませんよ。確か、恩恵? を、貰う為には、ファミリアに所属しなきゃいけないんでしたよね?」
「お、よく知ってるね?」
ヘスティアに先導される形で歩きながら、説明やら自己紹介を済ませてしまう。ふむ、白髪の子はベル·クラネル、紐はヘスティア。覚えた。
「それで、君の名前は?」
「あ、僕は■■■■■────皆は、マスターって呼んでました。」
「ふーん。じゃあ、ボクらもマスターって呼ぼうか、ベルくん。」
「あ、はい。そうですね。」
暫く歩き、オラリオの端のほうまで来る。
「さぁ、着いたよ! ここが今日から、君達のホームだ!」
「······!」
「···。」
脳内がほぼ全ての魔剣少女からのブーイングで埋まる。···いや、分からなくもないけれど。ルンブレの一撃で壊れそうな廃教会が、そこには鎮座していた。
「いや、まぁ、中は超ハイテクかもしれないじゃん? レールガンみたいな。」
レールガン姉妹から同時に「そんなわけないじゃん」とツッコミが飛ぶ。タブーちゃんの貴重なツッコミシーンだ! わぁい!
──現実逃避、了。
「まぁ、一度言った事を覆すのもアレだし。」
と、まぁ、そんな感じで。
所属ファミリアが決まった。
「マスター。リディちゃんは見つかったのかって、お姉ちゃんが···」
鼓膜を震わせるのはグラムの妹、もう一人の、《魔剣》。
「···。」
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第三話 恩恵
僕とベルは神ヘスティアに恩恵を刻んでもらい、早速腕試し、という事でダンジョンへ行こう! とした矢先、ギルド職員に捕まってしまった。今は冒険者登録を済ませてチュートリアルを受け、初期装備の支給を終えてやっとこさ迷宮に入ったばかりだ。
「に、しても。まさか恩恵がここまでシビアとはねぇ···。」
独白しながらウエストポーチに手を突っ込み、一枚の紙を取り出す。そこには僕のステイタスが表記されている、のだが。
────────────────────────
Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
魔法:
スキル:
·魔剣を顕現可能
·魔剣少女を顕現可能
·心を通わせる事で性能上昇
─────────────────────────
全く、笑いが出る程にシビアだ。神ヘスティアは僕のスキルはレアだから、落ち込む方がバチが当たる、などと言っていたが。
と、そういえば。
「ベルはどこだ?」
「ん···さっき···もっと下に行くって···逝ってた。」
その時点で伝えて欲しかった、と思いつつ。
「下に···って、レベル1じゃ無理だろ、初期装備なんだし··。···おいで、ネクロノミコン。」
───魔力が渦巻く。
───本来は無色無性質のそれに特性が与えられていく。
───性質は極めて邪悪。吐き気を催す冒涜的存在へ。
───魔力が固まる。
───形状は本。
───銘は『死霊秘法』。
─────魔導書『ネクロノミコン』顕現。
手に少し湿った革の感触があり、膨大な知識と尋常ならざる邪悪が流れ込んでくる。···SANチェック! の、筈なのだが、生憎と
「
指示を飛ばすと、本が少しだけ開き触手が溢れるようにして蠢き出る。そしてそれらは迷宮の壁を這い進み、下層へと潜って行った。
「見つけた···第5···階層···。」
「
ネクロノミコンへの魔力供給を絶ち、全速力で下層へ走る。道中では一匹もモンスターに遇わなかった。これは幸運EXですわー。と、そんなことは無いらしい。五階層に着くや否や、ミノタウロスに追われるベルが目に入った。
「ベル!!」
「ま、マスター!? たす···」
いや、無理だろう。1レベルの冒険者二名ではミノタウロスは倒せない。ここでベルが出すべきだった声は「逃げろ」だ。まぁ、分かるけれど。怖いし。キモいし。
「本当に···面倒だ。」
「あら? こんな場所で私を使うのですか? 主様。」
「うん···風情の欠片もないけれど。我慢してくれ···雪月花。」
───魔力が渦巻く。
───大気のエーテルが収束する。
───体が変質する。
───魂が変貌する。
───身体は支配され、彼女は僕を使いこなす。
───魔剣『雪月花』顕現。
「破ッッッッ!!」
抜刀──居合。剣閃は飛び、剣線に沿ってミノタウロスの首を撥ねる。
「雪見で···あら、もう終わってしまったの?」
硬い柄を握っていた筈の右手は、いつの間にか柔らかな雪月花の左手を握っていた。どうして、こう魔剣たちは少女の姿を取りたがるのか。魔力消費もあるというのに。
「それは勿論、主様と一緒にいたいからでは? 皆様の心は、貴方の下に一つですから。」
「一つでは無いんじゃないかな···。」
口許を扇で隠して目で笑う彼女に苦笑を返しながら、僕はベルの元へ歩き···背後に殺気。
「オォォォォォォォォォォ!!!!」
ミノタウロス───もう一体の!?
雪月下が右手の扇を
「煩いですよ?」
流れるような所作で雪月花(少女)が持つ雪月花(太刀)がミノタウロスの胸骨──あるのかは知らないが──の辺りに突き立つ。と同時に、ミノタウロスの肩から反対側の脇腹までが袈裟斬りにされる。
「え?」
「あら?」
雪月花一人での同時斬撃はまだ出来なかった筈だが···と、後ろに誰かいr ···ミノタウロスが爆散し、血液が降り注ぐ。雪月花はいつの間にか魔力供給を絶って消失しており、僕だけが血みどろになった。
「···大丈夫?」
ミノタウロスを斬った金髪のおねいさんが首を傾げながら尋ねる···はい。審議開始。
「美人だし許す。」
「美人だし許す。」
「美人だし許す。」
「美人だし許す。」
「美人だしry」
「美人ry」
「美ry」
満場一致。賛成多数。閣議決定。許す。···一部の魔剣少女が凄く怒ってるけれど。
「えぇ。大丈夫です。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
まぁ、さっきの雪月花の斬撃でベルも似たような状態だし、俺に怒る権利は無いけどね!
「あ···。」
「あ、すいません。後で言って聞かせておきます!」
ベルを追って走り出す。魔剣少女の事を聞かれることは避けるべき、という判断だ。断じて美少女と二人きりという状況に耐えられなくなった訳ではない。断じて。
「おーい! ベルー!」
迷宮を出て、道行く人々にじろじろと見られながら──何見てるんだ──ベルを探す。ネクロノミコンでも出してSANチェックテロでもしてやろうか! はいはいテロ準備罪。
全く、一体何処にいっt···ん? いい匂い。香ばしい、食欲をそそられる···酒場だ! わぁい!! ベル? 後回しだっ!!
豊饒の女主人、と看板の出ている酒場に入る。血? アルカードがprprして取ってくれました。描写するとほぼR18だからね! 仕方ないね! ···で、だ。何故、初見のはずのこの酒場から、聞きなれた声がするのか。
「···いらっしゃーい! あ、マスター! もーっ! どこいってたの!?」
────僕には預言者の才能があるかもしれない。
魔剣は割りと適当に出してるんで、出してほしい娘とか居ればお気軽にドゾ
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第四話 豊饒の女主人
「いや、先にいなくなったのはリディの方だからね? 僕は悪くない。」
「えー? そうだったっけ? まぁいいや! はい、これ!」
満面の笑みでリディが差し出したのは、ぎっちりと中身の詰まった麻袋。ありがとう、と受けとると、どうも中身はメダルらしい。
「メダルじゃなくて
「お、おう···と、取り敢えずご飯食べていいかな?」
その後、リディにヘスティア·ファミリアに所属することや、恩恵を貰ったこと、シビアすぎるステイタスや正確無比なスキル表記について話していると、ベルもフラフラとした足取りで酒場に入ってきた。
「ベル。お疲れ。ここに座りなよ。」
「あぁ、マスター。ありがとう···。」
「おぉ···大分疲れてるね···ま、飲もうよ!」
大ジョッキに入ったエール──風のジュース──を掲げてベルのテンションを引っ張り上げる。お酒は二十歳になってからだぞ!
「で、ベル。ちゃんと金髪のおねいさんにお礼は言ったの?」
「アイズさんのこと? いや、それが会えなくって···」
うーむ。こうなったらダンジョン出口で待ち伏せ···いや、ホームの出口で待ち伏せ? てかあの人、アイズさんって言うのか。そこ知らなかったんだけど。
「ダンジョンにいればそのうち会えるんじゃないかな?」
「そうかな···あ! そういえば! マスターが連れてた女の子! どこでいつ知り合ったの!?」
「女の子?」
···あぁ。いや、待て。魔剣少女のことはなるべく秘密にした方がいい、と神ヘスティアに言われているし、僕もそうだと思う。彼女たちは強力に過ぎる。一振りでオラリオ全域を滅ぼせる子だって、いるにはいるのだし。···ここははぐらかすべきか。
「あ、アイズさんだ。」
「え? ···ッ」
「えっ」
ベルの後ろを指して言った瞬間にロキ·ファミリアの面々がわらわらと酒場に入ってきた。やべぇよやべぇよ···やっぱり僕には預言者の才能があるよぅ······。
───現実逃避、了。
ベルは顔色を赤から青に変えている。まぁ、そうだろう。今まさに、ロキ·ファミリアの連中はベル(と僕)の血まみれ事件をネタに爆笑している。···いや、ベルが青ざめているのはそこじゃないな。あの狼人の「雑魚ではアイズの隣にはいられない」という一言。想い人の横に相応しくない、とこんな形で告げられれば、そりゃあ気分も悪いだr──ん? ベルがいない。慰めの言葉でも掛けてやろうと思ったのになぁ···。あ、女将さん? なんです? え? お勘定? ベルの分も? お、おぅけぃ。
で、まぁ。腹いせとベルの本質を知らない
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
「あぁ? ···さっきのトマト野郎じゃねぇか! なんだよ?」
「あぁ、いえ。···さっき、ベルの事を「雑魚」だと言っていましたが、貴方も人の事を言えませんよね? 録な武器もないくせに。」
「······あ?」
テーブルが一気に静まり返る。制止の声が狼人にも僕にも飛ぶが、そんな事はどうだっていい。僕は今、この「雑魚」と話をしているんだ。
「お前、レベルは?」
「1。」
端的な問いに端的に返す。ロキファミリアの面々が一気に狼人を制止する。まぁ、そうだろう。僕の一撃では目の前の狼人──レベルは3か、4か──には傷すら付かない。
「そうかよ。じゃあ教えてやるよ。俺が雑魚かどうか。」
そう言って狼人は外へ出ていく。ありがたい。リディのバイト先をぐちゃぐちゃにする訳にはいかないからね。
「ねぇ、マスター。誰を使うの?」
「落ち着いてよグラム。君たちSランクなんか使ったら面倒すぎる。」
不貞腐れるような雰囲気を出して黙ったグラムと入れ替わるように狼人が話しかけてくる。
「俺はベート·ローガ。レベルは5だ。」
「あれ? 5か。見誤ったかな···。名乗るような名前はないけれど、マスター、とでも呼んでください。」
「おい
「···。」
うおおおおおお!? 冷静なようでめっちゃキレてるぅ? いや、でも、今、なんて言った?
「殺しましょう、マスター。」
「えぇ、そうね。主様、殺しましょう。」
「拷問したいけれど···まぁ、いいわ。殺しましょう。」
落ち着けぇぇぇぇ!! 殺すのには全面的に同意するけれど、落ち着いてぇぇぇぇ!!
「あぁ···もう、いいよ。かかってこいよ、犬。」
「ぶっ殺す!!」
僕の豹変にも気づかない程、向こうも怒り心頭なのか、地面が陥没する程の踏み込みと共に殴りかかってくる。同時に、僕の周囲に魔剣たちが一斉に顕現し、切っ先や魔導の照準をベートへ合わせる。気分はどこぞのAUO。
「!?」
ベートは驚いた顔をしているが、安心して欲しい。顕現しているのはルーンブレードや胴太貫を始めとするAクラスの魔剣だけ。死にはするだろうが、余波でお仲間が死ぬ可能性は半分以下──30%ってところだろう。アイズさんはベルの想い人だから、残さないと不味いか? いや、彼女たちを侮辱した奴の同輩なんて、残した方が気分が悪い。
「死ね」
「···!!!」
ベートが咄嗟に後ろ向きに跳躍して先頭だったルーンブレードを回避し──ブロードソードに貫かれる。血が迸る。腕が千切れる。血が迸る。両腕が無くなる。血が迸る。脚が飛ぶ。血が迸る。両脚を失う。血が溢れる。臓物が腹から漏れ出てくる。血が無くなる。まだ死ねない。筋肉が剥がれていく。痛い。骨が折れる音が聞こえる。痛い。首がぐるぐると回転している。痛い。すごく痛い。まだ──死ねない。
「おぶっ···おえぇぇぇぇ!?」
「良かったですね、外で。店の中なら女将にぶん殴られてました···よっと。」
背中を押す。嘔吐によって体力を消耗していたベートは踏ん張ることすらできず、自分の吐瀉物に倒れ込んだ。
「じゃ、失礼しますね。」
ペコリ、と、唖然としているロキファミリアの面々に一礼してさっさとダンジョンへ向かう。どうせ、ベルはそこにいるだろうし。
「ミア母さん。ヘスティアファミリアの子がどちらも食い逃げしました。」
「追いな。リュー。」
「はい。母さん。」
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第五話 成長
迷宮でベルをとっ捕まえてホームへ帰宅する。ホームへ帰宅って意味被ってるな。ホームへ戻る。が、的確か。日本語は正しく使いましょう。
それで、何故僕がこんな現実逃避をしているのか、と言えば。それは僕に跨がって頭を抱えている黒髪ツインテロリ巨乳の紐──神ヘスティアの所為だ。いや、神ヘスティアには何の落ち度もないし、そもそもの原因は僕なのだけれど。
「なんなんだい!? このステイタスの上がり方は!?」
先にステイタスを更新したベルのように大幅に──異常な程、大幅にステイタスが上昇した、という訳ではない。むしろ、その逆だ。今の僕のステイタスは──
───────────────
Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:H100
───────────────
スキルと魔法は相変わらずだが、あぁ、いや、
「きっちりと、説明して貰おうか!!」
「ベルとリディはもう寝てるんですから、静かにしてくださいよ。神ヘスティア。」
リディは明日も朝からアルバイトだそうだ。ほんと、どういう勤務時間してるの······。年中無休、朝の4:00から夕方16:00までは確実。加えて秘密のアルバイト···うわぁ、僕はもう酒場に足を向けて寝られないな。
「あ、ご、ごめん···。それで?」
「僕のスキル、
「えっと、魔剣を顕現可能、魔剣少女の顕現可能、心を通わせる事で性能上昇。だったよね?」
「お、正解です。」
指折り、スキルの内容を諳じる神ヘスティアに驚きを隠せない。
「当然だろ? 君も、僕の大事な家族なんだから!」
「イケメンですね。···で、話を戻しますけど、僕にできる事は『魔剣の顕現』だけなんですよ。」
魔剣を顕現させるだけ。つまり、
つまり、魔剣を振るう意思は僕のもので、魔剣に流す魔力も僕のものだが、それを行使、実行する身体は僕のものではないということ。そりゃあ、魔力以外のステイタスは上がらない。
「···まぁ、こんな感じですかね。」
一通りの説明を終える。
「···そう、だったのか。」
一切の疑いを持っていない瞳で、神ヘスティアは僕を見据える。そう言えば、神々に嘘は吐けないんだったか。···カンタレラの嘘泣きが通じるかどうか、今度実験してみようか。
「でもなぁ···そうすると他のステイタスが上がらないんだよなぁ···あぁ···どうしよう···。」
「いや、そこは、なんとかしますよ。」
頭を抱えて悩む神ヘスティアに適当な言葉をかける。あぁ、と、言うか。
「寝ていいですか?」
今、日付が変わった気がする。時計なんてものはないけれど。
「まぁ、そこは僕の方でも考えてみるよ。おやすみ、マスターくん。」
で、翌日、と言うか朝。僕は大変な事に気付いてしまった。そう。
「すいませんでしたっ!!」
「ごめんなさいっ!!」
僕とベルの声が朝の酒場に響きわたる。頭を下げている為に分からないが、酒場の中からは苦笑の雰囲気が漂ってくる。これは···助かったか?
「アンタら昨日の食い逃げ犯だろ? 出頭とは、また随分と殊勝じゃぁないか。」
骨の鳴る音が聞こえてくる。···あ、死んだな(確信)
後ろ襟をがっしりと捕まれる。ちょ、え?
「ほら、アンタはもう行きな。」
「あ、はい。本当にすいませんでした!!」
ベルがつったかつったかと走り去っていき、見えなくなる。
「えーっと···」
「なんでアンタだけ残ったのかって?」
「あい。」
と、言うか、どうもこの人が相手だと魔剣達が浮き足立つというか、落ち着かないようなので女将の前職とか詳しく···鍵師ではない? あ、やっぱり? 他人の空似だったか。
「アンタの分は、昨日リディが払って行ったよ。ほれ。」
「あ、どうも。」
今日払った分の袋を返される。リディ、お前、神なのか···? 拝んどこ。
開店準備に勤しんでいるリディに合掌して感謝の念を送る。しあわせれんせい! なーむー。···おっと、別アプリの宣伝はやめておこう。グリモアに消されてしまう。
その後、数十分ほど、「あんな良い子に金を払わせるとはどういう事か」みたいな説教を延々と受けて、ようやくダンジョンへ向かう。
「げ。」
「ん?」
運悪く──いや、普通は幸運と感じるのだろうが──ロキファミリアの一団と遭遇してしまった。しかも、ダンジョン内部で。
「···。」
「あ、君は···昨日は済まなかった!」
「!?」
すわ戦争か。と身構えた僕の予想を裏切って、ロキファミリア団長の小人は僕に頭を下げた。
「昨日はベートが君と、君の仲間を侮辱してしまった。本当に、悪かったと思っている。」
「あー、いえ、怒ってないので、頭を上げてください。」
僕が怒ったのは魔剣たちを侮辱されたと
「ありがとう。で、本題なんだけど、君の持っていたあの魔導書。あれは何の魔法が顕現するものだったんだい?」
「···。」
「あぁ、うん。そうだよね、勿論、身内以外に手の内を明かすべきではない。当然だね。」
いや、唐突すぎて付いていけてないだけなんだけど。謝罪から一転、詰問されてるってどういうことなの···。
「そこで、提案なんだが。──」
「···。」
演出の為か、まぁ十中八九そうだろうけど、そこで間を開けるのは狡いと思う。此方も、どんな条件が出てくるのか気になるじゃあないか。
「──ロキファミリアに入らないか?」
何でステイタスが上がらないの?
↓
ソウルを介して魔剣を使ってるから
↓
ソウルってなーに?
↓
何かすごい身体
誤字報告ありがとうございました···。謎なミスしてるな···。
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第六話 対話
キャラ判別がしにくい、という指摘が噴出。対応策が思い付かないことに主憤死寸前。
「いや、僕、ヘスティア·ファミリアに所属してるんで···」
「そうか。じゃあ挨拶しに行こう。」
「ちょっと待ってくださいよ···」
物凄くテンポ良く移籍の手続きを踏まされかけたな? 今。これが《
「まず、なんで、僕を勧誘するんですか? 僕はレベル1だし、ステイタスもオールIだし、発展アビリティもないし···」
「でも魔法は使える。それも、格上の対魔導防御を貫通するような。」
え? 何? どういうこと?
「君がベートに魔法を使った時、彼には、ダンジョンでリヴェリアが掛けていた対魔導防御壁が残っていた。効果時間ギリギリだったとはいえ、《
「お前は難なく破っていたから、気付かなかったようだがな。」
にこやかな団長と違い、目に見えて機嫌の悪い緑髪の麗人。あ、この人がリヴェリアか。
「んー。」
どうするか。じりじりと後退りながら頭を回す。別にヘスティア·ファミリアに思い入れがあるわけでもないし、移籍することに抵抗がある訳じゃない。僕としては。ただ、グラムやゲイボルクを筆頭とした北欧勢力は、やはり神ロキに良いイメージがないのではなかろうか?
それに、どうせ移籍するなら、将来のことも見据えてヘファイストス·ファミリアに入りたい。よって、ここは。
「お断りします。」
言った瞬間に全力疾走でこの場を去る。万一、武力交渉になっても鏖殺は容易い。が、後処理が面倒すぎる。魔剣機関のように、「冥獣の所為だ。僕は悪くない。だから絶対に謝らない。」と言えば、「あ、そうなん?」で通る程、ここオラリオのギルドは甘くないだろう。
「はぁ、はぁ、は──ッッ!?」
唐突に足場が消える。これがチュートリアルで聞いた縦穴か。不味い。不味いぞ。何階層落ちr
「ぐふっ」
意外に浅かった。上を見ればダンジョンの壁や天井が見えるし、ちょっと助走すれば登れそうな程度の深さだ。これは──落とし穴か。···いやいやダンジョンに落とし穴とか冗談じゃ済まないでしょ···モンスターでも落とそうってか?
「よいしょっ」
軽く助走を付けて穴から出る。
「大丈夫かい? 怪我は?」
「あ、大丈夫でs···。」
団長が心配そうに訊いてくるのでつい答えてしまった。まぁ、レベル1の敏捷Iじゃ、勝てませんよね。知ってた。失念はしてたけれど。
「何なんですか? これ。」
「これはモンスター捕獲用の落とし穴だよ。君は体重が軽いから、落ちただけで済んだんだね。」
落とし穴と連動した重量感知式のトラップがあるらしい。いや、ほんと冒険者が落ちたらどうするの···
「で、どうかな? 移籍が嫌だって言うなら、遠征の時だけ手伝うっていう契約でも構わないよ?」
「···。」
そんな腕を掴みながら言われても脅迫にしか感じな痛い痛い。腕! 握力! 離しt痛い!?
「わかった! わかりました!」
「そうか! ありがとう!」
満面の笑みでダンジョンの奥へと進んで行く団長を眺めながら、頭の横で囁く声に耳を傾ける。
「どうして、殺さなかったの? アレはマスターを利用しようとしているのに。」
怒りと疑問で埋め尽くされた声。普段は冷静なグラムでも、やはりそういう点には反応するのか。
「簡単だよ、グラム。あの人はただ、仲間の生存率を上げる為に、僕を利用しようとしている。勿論あそこで「仲間になる」と言っておけば、その庇護対象になれたんだろうけどね。僕はね、グラム。私利私欲の為でなく、誰かを守る為に武器を振るう人を尊敬してる。だから、彼に協力しようとした。それだけだよ。」
だって、僕には出来ない事だから。僕は、僕の為、僕の魔剣たちの為にしか武器を取らない。だって、死にたくもないし、魔剣たちに死んで欲しくもないし。···あ、そうだ。クランベリー医師がいないから、魔剣たちの
ダンジョンを出てヘファイストス·ファミリアへ行く。桁! 零! 桁ぁ! と、見ただけで発狂しそうな武器が陳列されているウィンドウを一瞥して、ドアを叩く。
「すいませぇぇぇん。ちょっといいですかぁぁ!!」
中から聞こえてくるガチャガチャという金属音に負けないように声を張り上げる。が、反応なし。なので仕方ない。
「魔剣修理の時間だオラァ!!」
毒電波を受けてしまって、礼儀も何もあったものではないが、まぁ、ドアが開く。あ、いや、ドアは開いたんじゃなくて、僕が蹴り開けました。今は反省している。
「ちょっと、なんなの!? 今は忙し──」
最も手近にいた赤髪眼帯の女性に怒られる。ファミリア総出で品物整理でもしているのか、鎧を運ぶ者や剣の納められた箱を持ち上げようと四苦八苦する者がそこらにぞろぞろといる。
「ちょっと、貴方···」
「あ、いや、すいません。出直しますね。」
「
マジでどうしよう···
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第七話 鍛鉄の神
「
「···。」
この女性、どうやら常人ではないらしい。無性質にして観測不能、大気に溶け込んですらいる非顕現状態の魔剣たちを見る──どころか、その本質まで見抜いてくるとは。そういうスキルでも発現しているのか···
「マスター。
「えぇ···そりゃあ魔剣を見れる訳だよ···」
アダマスの声も聞き取れているのか、少しだけ誇らしげな表情を浮かべる神ヘファイストス。
「それで? 貴方は何者なのかしら? 私の自己紹介は必要ないようだけれど。一応、礼儀として言っておくわ。私はヘファイストスよ。よろしくね。」
「···僕はただの、魔剣使いを目指すマスターです。名前は■■■■■···マスター、とだけ呼んで頂きたい。」
名乗った時、少しだけ怪訝な表情をしたようだけれど···まぁ、いいか。それよりも本題だ。
「それで、神ヘファイストス。お願いがありまs」
「あれ? マスターくんじゃないか! なにをしてるんだい?」
背後からした聞き慣れた声に振り向く。···神ヘスティア、貴女こそ何をしてるんですか。 バイト? え? 違う? ベルの武器を作って貰ったから代金分タダ働き? ···あの、僕の分の武器はないんですかね···。この扱いの差には断固として抗議を···いや、武器が欲しい訳じゃないのだけれど。もう十分だし。
「僕は、そうですね。武器の
「はぁ!? いやいやマスターくん!?」
魔剣のことは秘密だってば! みたいな目で見られても困る。迷宮の上層では傷ひとつ付かないだろうけど、万が一があっても困るし、綺麗好きな子達もいる。何より、使った武器はしっかりとメンテナンスするべきだ。その結果問題を呼び込んでしまった所で、武力で叩き潰せば──おっと、思考が偏ってるな。初めは和解を優先すべきだよね。やっぱり。魔剣たちは叩き潰す選択肢しか取らないだろうけど···。
「でも、神ヘファイストスは神ヘスティアと親交···神交? が、あるんですよね? じゃあ問題ないんじゃないですか?」
「
「ほら。」
神ヘファイストスとしても、僕のこと、僕の魔剣たちのことには並々ならぬ興味があるはずだ。いや、ある(断言)。彼女の目がアイズさんの事を聞くときのベルに似てるから。
「わかったよ。初めから、ボクに発言権はなかったからね···。」
「ありがとうございます。神ヘスティア。」
「それで、君の依頼は「その子たち」のメンテナンス、という事で良いのかな?」
「はい。」
「分かったわ。じゃあ書類を書いて貰うから、ちょっと来て貰える?」
神ヘファイストスに付いてカウンターへ行く。背後から神ヘスティアがバスターソードを十本一気に持ち上げようと「ふぉぉぉぉぉ!!」と叫ぶ声が聞こえてくる。いや、無理だって気付きましょうよ···それは並みの冒険者でも難しいんじゃないかな······。
「はい。ここにサインしてね。あぁ、一応、契約内容にも目を通してね。」
「はーい。えっと···」
契約書。この契約が成立したとき、これはステュクス川への誓いとなる。
うーん。初めの一文が既にヤバいな。えっと、続きは···僕の依頼内容の詳細については担当者以外には秘密。依頼内容は武器のメンテナンス、詳細は同じく秘密。はいはい、おっけおっけ。で、漏洩時の対処は、と。武力による解決を最終手段とするが、罰則についてはこちらに決定権があり、担当者には拒否権がない。おぉ、なんだこれ···で、担当者は···神ヘファイストス!? いやいやどういうことなの。
「問題があったかな?」
「あ、いえ、えっと···」
確かに、オラリオ最高の鍛冶師は彼女だろうし、魔剣のメンテナンスができるとすれば彼女ぐらいだろう。が、まさか彼女から言ってくるとは思わなかった。てっきりこちらからお願いして、あちらの譲歩──こちらの「借り」としてくると思ったのだけれど。
「いえ、期待以上、最高です。」
サインした瞬間に、バベル内部に届くほど大きな雷鳴が鳴り響いた。今日は快晴だった、と、言うことは、本当にステュクス川に誓ったことになるのだろう。
「これからよろしくね。マスター君。」
「えぇ。こちらこそ。あ、そうだ、神ヘファイストス。一つお願い···と、言うか、忠告があります。」
「何かしら?」
忠告、という上からの物言いに腹を立てた様子もなく、微笑とともに聞き返してくる。いや、あの、ホントに心苦しいんですけど、これだけは言っておかないとなんで···
「何があっても、彼女たちを研究、模倣しようとしないで下さい。彼女たちがこのオラリオを容易く滅ぼせるのはお分かりだと思いますが、彼女たちは、それを躊躇わないことも知っておいて欲しい。」
「···分かったわ。もともとそんなつもりも無かったけれど。」
「ですよね。いや、念のため、というだけです。信用···信頼します。」
握手を交わした後、ヘファイストス専用だという鍛冶場を案内して貰ったり、彼女が手ずから鍛えたという武器を見せて貰ったりしているうちに、少し面白いモノを見つけた。
「これは?」
ルーンブレードやカールスナウトに近い、刀身に文字の彫られた剣。
「あぁ、それよ。ヘスティアに作ってあげた剣。銘は
「···凄いですね。いや、流石だ。」
魔剣たちを任せるに足る人物がクランベリー医師以外にも居ようとは、驚きだ。いや、そりゃ、神なんだから当然なのだろうけど。
評価、感想、ありがたいです···! モチベーションが上がる。凄く。言語中枢に問題が生じるレベルで。
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第八話 襲撃
今日は(主にリディが)待ちに待った、
そんな決意を胸にホームの廃教会を出る。僕以外のメンバーはとうに出掛けた。いやまさか寝坊するとは思わなかった···。時刻は正午といったところか。さっき起きたばかりで、祭りで朝ごはん──昼ごはんを食べようと思います。ジャガ丸くんでも買うかねぇ···。と、思った瞬間に見知った顔を発見する。それも二つ並んで。
「シルさんとベルが、ねぇ?」
とても仲良さげに並んで歩いている。ふむ。デートか。羨ましい···むしろ、妬ましい······。
「ま、良いけどね。僕はとりあえず、ご飯を···あ。」
財布を忘れました(爆) ──いや、笑ってる場合じゃないな。さっさと戻ってお金を···お?
「どこだここ」
「本気で言ってるの···?」
祭り特有の、いつもと違う交通規制に引っ掛かって「こっちが近そうだな」とかやってたら、全く知らない道に入ってました。そもそも、このオラリオは道が入り組み過ぎてる。そこに住む人、訪れる人の事を全く考えてない。もっと魔界を見習──あー、いや、危険性では変わらないか···。
「とりあえず、来た道を戻りましょうよ。」
「そうだね。それが定石だよね、グラム。でも、ね。」
もと来た道を覚えていれば迷ったりしない。もといた場所に戻れるのなら、迷子とは言わない。
「うーん···レゲノダは覚えてたりしない?」
「見てもいない道をどう覚えろと仰るのですか、マスター。」
だよね。今の今までマビノギオンを読みふけってたもんね。でもマビノギオンを暗記した所で、その魔導を操れる訳ではないのだけれど···知識欲の為? そうですか。
「ワイバーンに空から見て貰うか···いや、もういっそカタストロフでも顕現させて飛ぶか···。」
「オラリオを消し飛ばすつもりなら、喜んで協力するわよ?」
「あー、うん。イデアが出るとオラリオどころじゃ済まないかもね···。NGで。」
「はーい。」
残念そうな返事を聞きながら打開策を考える。あ、そうだ。迷路と言えば!
「左手方式だよね!」
左手を壁につけて全力疾走。曲がり角は左一択! クラピカ理論なぞ知らぬ。···が、この方法には欠点がある。それは正解がすぐ側にあってもやたら遠回りをしなければならないこと。それに、もうひとつ。壁が繋がっていなければ使えないこと。でなければ···
「あれ? ここさっきも通ったな?」
これを延々と繰り返す羽目になる。
「うーん? と、」
人影発見! かなりの長身をフードで覆い隠した不審者スタイル···だが、背に腹は代えられぬ!
「すいませーん。ちょっと道を聞きたいんですけど···。」
ぞくり、と、身体中の体毛が逆立つような感触。まるで冥獣の前に立ったような、身体を突き刺す、殺気。僕自身はそんなに武道の心得がある訳ではないけれど、それでもひしひしと感じられる程濃密な──
「
身体が支配される感覚。この冷たくも優しい感触は──最早語るまでもない僕のパートナー、魔剣グラムだ。
目前には大剣の刃。フードの大男が振り下ろしたにしては、あまりにも早く、速い。
左側に首を傾げる。
大剣の切っ先が頭の右側を通過し──僕の右手が大剣の柄を捉える。
フードの男は、何かを投擲したような姿勢で──いや、もう明らかだろう。この男は、僕の頭を粉砕する気で、大剣を投擲したのだ。だとすれば、その暗殺者じみた装いに反してこの男、特級の戦士か。
男が服を脱ぎ、上半身を露出する。隆起した筋肉と、纏わりつくような剣気。
「俺の名はオッタル。■■■■■だな?」
「マスター、と呼んで欲しいな。それで、都市最強が僕に何の用ですか?」
迷宮都市オラリオ最強の冒険者。それがこの男、フレイヤ·ファミリアの《
「フレイヤ様から質問だ。「その魂は何だ」と。」
「なんで攻撃したんだ···質問に答えられなくなったらどうするんだ···。」
実はアホなのか。
「フレイヤ様は「とりあえず殺しなさい。あんな汚れた魂はあってはならないわ。それが無理なら、情報を集めなさい。」とも仰っていた。」
···怖っ。なんなの? 僕の魂が汚れてるってのも酷い話···あ、いや、そりゃあそうか。100を超す魔剣に対応し、さらには廃人製造機たる魔導書を多数所持している訳で、中には外神や旧神に由来するものまである。SAN値はピンチを通り越してアンダーフローしている。が、それにしたって勝手に人の魂を覗き見て勝手に気分を悪くしても、そりゃあ僕の所為じゃない。
「殺されるのは困るな。」
「そうか、なら情報を話せ。」
「···。」
「どうした? 死ぬのは嫌なんだろう?」
違う。そうじゃない。僕の沈黙の意味は──
「何故、お前は僕を殺せる気でいるんだ?」
彼我の実力差を理解できない雑魚が、僕たちの前に立つなど傲慢も甚だしい。理性なき魔物ならばまだ分かる。が、それが戦士の極致など、笑えもしない。
「···!!」
無言で石畳を踏み砕いて突進する。大剣を振りかぶり、そのまま脳天を──脳天を砕かんとした大剣はオッタルの肩から腰を袈裟斬りするに終わる。
避けられたとは驚きだ。魔剣グラムを持っていれば剣圧で肉塊へ変わっていた間合いだ。慣れすぎた事による弊害かもしれない。──ところで、この考察は現実逃避だ。僕の眼前、オッタルは僕の振り抜いた大剣を片足で砕き、鈍く光る手甲を纏った右腕を振り上げている。まさに、絶体絶命という奴だ。···
魔剣、魔鎌、魔槍、聖剣、聖槍、魔典、聖典、杖棒、魔拳、魔弓、戦斧から聖旗に至るまで、様々な凶器兵器がオッタルを取り囲み、その切っ先を、照準をぴったりと合わせている。
凄まじい勢いで僕の魔力が喰われていくが、それに見合う破壊力は秘めている。
「動かないでくださいね、凡夫。この子たちを解放すればあなたの敬愛する神フレイヤもろとも、このオラリオが吹き飛びます。それぐらいは分かるでしょう? 貴方の一ミリ用の物差しでは
オッタルが無言で拳を下ろし、三歩下がる。その間も魔剣たちは照準を外さず、命を刈りとらんとしている。
「では、失礼して。」
──右手を横へ。
──魔力が渦巻く。
──大気のエーテルに色が、形が、性質が付与される。
──色は蒼く。
──形は本。
──内包するのは全ての魔法。
右手にずっしりとした感触が現れ、頭にあらゆる知識が流れ込む。魔導書『マビノギオン』顕現。
「記憶を消させて貰います。」
抵抗しても良いことはない、と分かっているからか、オッタルは身動き一つしない。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
宣言通りに記憶消去の呪文を行使する。本当は詠唱なんて必要ないのだけれど、魔力も惜しいし正規の手順を踏む。オッタルの意識が朦朧としているうちに魔剣たちを戻して華麗に去ろう。
「さて、ではさようなら。」
オッタルの姿が見えなくなるまで歩き···はい。しまった。道がわからない。仕方ない、そこの家の人に聞こう。···ここからなら曲がり角は全部右? それで大通り? あ、どうもありがとうございました。
···クラピカ理論が最強か。
感想ありがてぇです! ネタの量はこれぐらいの割合でいいかな···
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第九話 怪物祭
ちょっと短いかな? すいません。
華麗に裏通りを抜けて大通りへ戻る。迷った事実はすっぱり忘れて、怪物祭を楽しもうじゃないか!
数歩歩くと、横から立ち上がった影──ウォーシャドウが襲いかかってくる。カールスナウトで一閃して爆散させると、その奥にいたキラーアントへとワームスレイヤーを投擲してこれも爆散させる。これが怪物祭か! オラリオに魔物を放つとは、面白い事を考える。あ、でも、非戦闘員はどうするんだろうか。···やっぱり神ってアホの集まりなんじゃね?
「まぁ間違えてはいないわね。」
「でしょ?」
アダマスの賛同も得られたところで、魔物を狩って行きましょう! ルールとかよくわからないけど、多分、オラリオ内の魔物を多く狩った冒険者に景品があるとか、そんな感じでしょ。定番だよね。···いや、強力な魔物を狩った方がポイントは高いのかな? わからん。
悲鳴を上げて逃げ惑う人をぼんやりと見つめる。やっぱり非戦闘員の退避がされてないしアホなんじゃ···? それともテイムされているモンスターで、非戦闘員は怖がらせるだけで殺さないのだろうか。そっちの線が濃厚かな? いや、でも、神だし···。神ヘスティアを基準に考えるのはどうなのか知らないが、神々はどうも抜けている気がしてならない。
ぐちゃり。背後からそんな音がした。
振り向く。
まず目に入ったのは地面にぶち撒けられた血液と内臓の破片──赤とピンクの混じった、汚物。次いで、それを垂れ流す肉塊。子供か大人か、男か女か、情報が全くといって良いほど分からない、肉塊。分かるのはそれが最早死んでいるということ。そして、
「またお前か···。」
目の前のミノタウロスが
「と、いうか。殺すのは不味いでしょ。事故か? テイムできて無かった? いや、ガネーシャ·ファミリアによるテロ···?」
と、とりあえず殺すか。うん。考えるのは後にしよう。
「ミノタウロスって確かミノス王の···攻略した英雄、誰だっけ?」
「テセウスよ。武器は無銘の短剣だから、マスターは持ってないわ。」
なんだそりゃ。つまらん。でもビーストキラーでもマンイーターでも特攻は入るのか。いや、でも、まぁ。
「別に天丼でも構わんのだろう?」
雪月花を顕現させて斬りかかる。AAランクの魔剣ではあるが、そもそも魔剣──超上位の武器であるが故に、下級の魔物であれば一閃で終わる。
筈だった。
きぃん。そんな軽い音を立てて刃が弾かれる。あぁ、知っている。この感触。通常の物理攻撃であればSランクの魔剣だろうと弾き返す、最高位の防護。
「神性とはね。ステュクス川にでも浸かったの?」
アキレス腱が弱点なのだろうか。なんて益体のない事を考える。まぁ幸いにして、神殺しも何人かいる。が、その前に。
「誰が、その加護を与えた?」
冥界に流れるステュクス川に、ミノタウロスごとき下級の魔物が浸かって無事な訳がない。ならば、神が加護を与えたと考えるのが妥当──いや、神々は下界では神の力を使えないのではなかったか? 抜け穴でも見つけたか、或いは、本当に自力でステュクス川から帰ってきたのか···。
「わからない。わからないな···。」
別に分からない事があるからといって死にたくなったりはしないが、それでも不快なことに変わりはない。
「ウォォォォォォオ!!!」
武器が弾かれた事を嘲笑うかのように咆哮したミノタウロスが突っ込んでくる。全く。不幸な目に遭うのはベルの役目じゃないのか···、と。
ミノタウロスの両拳のラッシュを避けて大きく後ろに跳躍する。攻撃は単調で、躱すのに苦労はない。雪月花の攻撃はほぼ必中だが当たっても無意味。対して、相手方の攻撃は余程のことがない限り当たらないが、当たれば神性による強化の所為で大ダメージ。分かりやすいピンチだ。
ならどうするか。雪月花よりも強力な、神性を持つ魔剣で攻撃すればいい。
──魔力が渦巻く。
感想も評価も、凄く嬉しいです! どこが良くて何が悪いとか、どこが面白いとか、この主人公強すぎかよとか、ほんと嬉しry
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第十話 燃魂一撃
渦巻く魔力をそのままに、今更ながら周囲を確認する。よし、大丈夫だ。モンスターの影響か、この辺りに人はいない。なら・・・思い切りできる。
「おいで・・・オルタ。」
──右手を横に。
──大気のエーテルが収束する。
──形状は剣。
神性を持つ敵には神性を持つ攻撃か、SSランクの武器しか通じない。そして、僕の選んだ魔剣は『魔剣グラム・オルタ』。北欧の主神オーディンが林檎の樹に突き刺した魔剣、『魔剣グラム』の
特級とも言える神性に加えて、魔剣グラム・オルタのランクは最大のSS。ここまでやるか、というオーバーアタック具合だ。・・・まぁ、実は、ランクAAとはいえ、僕の魔剣が弾かれた、という事実は、僕の自尊心とか矜持とか、そんな感じのモノをいたく傷つけていた。
顕現させるまでのタイムラグに繰り出される攻撃を雪月花の身体支配に任せて回避し続ける。馬鹿野郎、変身中の攻撃はご法度だろうが!
そんな怒りも含めて、決意する。
「オルタ・・・あっちにしよう。」
「はい・・・マスター。」
顕現寸前のグラム・オルタへさらに魔力を流し込む。
──その純度、存在を歪めるほど。
──その量は、魔核を変えるほど。
──グラム・オルタが変貌する。
──変位する。
──変異する。
──変容する。
──変質する。
──変遷する。
そして、成る。
──『魔剣グラム・オルタ【極】』顕現。
迸る活性化した魔力が稲妻のように大気を焼き、バチバチと音を立て、オゾンの臭いを立ち込めさせる。グラムと同じ、剣の腹にあるコアが蒼から紅へと光の色を変える。
「いやいや、違うよ、オルタ。全力で行くんだってば。」
「あ···分かりました···」
より強く柄を握りしめ、来る衝撃に耐えようと地面を踏みしめる。
「ウォォォォォォオ!!」
こいつはやばい、とでも思ったのか、ミノタウロスが突撃してくる。が、遅い。
「お姉ちゃん···力を貸して···!!」
僕の体内魔力が一斉にグラム·オルタへ流れ込んで行く。それは先程とは違い、干渉力を持った破壊そのものとして、世界へ投影され──
BLAZE DRIVE:不完全世界ファーヴニル
一斬一殺、ワンショット·ワンキル、一刺必殺、極められた殺傷技術を表す言葉は沢山ある。そして、僕の放った所謂、必殺技、体内魔力を魂もろともに燃やし、エネルギーへ変換して放つ『ブレイズドライブ』が起こした現象を表すのなら、それは、『一斬鏖殺』とでも言うべきか。いや、対象が一人(一匹?)しかいない状態で『鏖殺』なんて言葉は相応しくないのだが、その一匹にぶつけられた破壊の力は、同じ存在がたとえあと60億人(60億匹?)いたとしても、殺し切ることは容易かった。
では周囲は吹き飛んでいるのか? 答えは、否だ。爆縮に似た現象が起こり、その破壊をすべてミノタウロスへぶつけたから。
···では、ミノタウロスは? 答えは、「分からない」。十中八九死んでいるとは思うが、死体が蒸発か爆散かしている為に確認はできない。血煙すら起こらないので着弾確認もできない。
「さ、流石に死んだ、と思う···。」
「だ、だよね? 流石にね?」
ブレイズドライブをするなら私がやりたかった、みたいな抗議が脳内に吹き荒れているが、黙殺。モンスターが神性を持つとなれば、ベルに勝ち目は薄い。神造兵装である「
つったかつったかと軽快に走り──勿論魔剣は仕舞って──白いゴリラ? と、それに追われるベルと神ヘスティアを発見する。
「ベル!!」
「マスター!? よかった、無事でッ!?」
こちらを振り向いた隙に白いゴリラが攻撃を加え、ベルは回避したものの砕けた石畳と共に吹き飛んでしまう。やっぱ軽いな。
「加勢するよ、ベル···ッッ!?」
誰かに足を捕まれてすっ転ぶ。なんなの? 貞子?
足下を見れば、石畳を突き破って生えた植物の蔦が足首にまとわりついていた。
「お化けかと思った···。」
「ウォーシャドウはお化けみたいなものだろうに。」
む、何奴。なんて反応を返す前に足下に槍が突き立ち、絡んでいた蔦を断ち切った。誰かと思えばロキ·ファミリアの皆さんじゃないですか。···逃げたい。
「ありがとうございます。助かりました。じゃ。」
ちゃんとお礼を言って立ち去ろうとする僕の足を誰かが掴む。誰? 貞子? 団長? ···いや、うん。蔦だよね。知ってる。
今度は蔦を切る間もなく、頭を下にして足首を掴み上げられる。石畳を破壊して地上に出てきたのは、巨大な植物系の魔物だった。蔦を振るって僕を投げ──投げられた!? え? やばくね?
受け身を取るより早く石畳に激突する。肺から空気が漏れ、体を動かすのに必要な酸素が一気に失われる。あ、待ってこの感じ。
「おぶ···おえぇぇぇぇ······。」
ご飯···は、食べてないから胃液がダバァした。意外と、何も吐くものがないときの嘔吐の方が辛いよね! ──現実逃避、了。
ロキファミリアの面々が武器をだらりと下げて僕の方を見ている。驚愕に見開かれた目の奥に宿るのは畏怖か、単なる恐怖か。
──僕を取り囲み、守るように魔剣少女が顕現し、それぞれの武器を手にして魔物を見据えている。彼女たちの目に宿るのは怒りと、心配。
意識が暗転した。
ルビは『ブレイズドライブ』。
まぁアレって魂じゃなくて魔石サファイアを変換した魔力を燃やしてるだけだけどね。
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第十一話 豊饒の女主人 (労働編)
今回は平和。
「マスター!? 大丈夫!? マスター!?」
悲鳴に近いそんな叫びで、僕は目を覚ました。失神後特有の、体がまだ寝ているような感覚に抗って目を開ける。···知らない天井だ。視線を右へ流すと見慣れた赤目が目に入った。···ベル、怪我人を叩き起こすとはどういう了見だ。そもそも僕は···あぁ、投げ飛ばされた衝撃で気絶したんだったか。ここは···? 少なくともホームではない。もっと綺麗な施設と思われる。ベッドもかなりふかふかだし。病院とかだろうか。
「ここは···?」
喉の渇きからか、掠れた声しか出ない。
「豊饒の女主人だよ。ロキファミリアの人たちが運んで来てくれたんだ。」
「···そうか。」
魔剣たちがそんな行為を許すとは思わなかった。そういえば、ベルはあの白ゴリラを倒したのだろうか? 逃げ切ったとしても大したものだが···。
「あ、そうだ見てよマスター! これ!」
「ちょっと、危ないよベル···」
主にベル自身が。そんな至近距離でナイフを振るな。魔剣たちが浮き足立ってるから。──そのナイフは、神ヘファイストスの造ったアレか。僕の魔剣じゃないから詳しい性能は外見から推察するしかないが、そこまでの業物には見えない。
「あ、ごめん···。それでね、このナイフなんだけど!」
「知ってるよ。成長するんでしょ? 分かったから寝かせろ。」
掛けられた清潔なシーツから片手を出してヒラヒラと振りながら退室を促す。眠いんだから、出てけ。
「え? 何で知って···」
ベルの追及が始まった辺りでドアが開き、豊饒の女主人の店員が一人入ってきた。確か、名前は···あー、えーっと···誰でしたっけ。聞いたような、初対面なような? きっとこっちが一方的に見掛けただけなんでしょうね。
「マスターさん。気がつきましたか。良かった。」
「あ、どうも···。」
んー? なんだこの知り合い感。──もしかして:記憶喪失
「えっと、貴女は?」
「失礼。リディから貴方のことを聞いていたものですから。私はリュー·リオン。ここの店員です。」
よ、良かった。記憶喪失ではなかった。記憶が消えるレベルの打撃とか死んでても可笑しくないからね。怖いね。
「あ、どうも···。」
さっきからこれしか言ってないな、僕。いやだってリューさん美人だし。なんて返すべき場面かも分からないし。美人だし。
「クラネルさん。ギルドの方がお呼びですよ。」
「あ、はい、分かりました。」
そんなやり取りをしてベルが出て行く。···リューさんは何故残ってるんですかね。
「マスターさん。」
「あ、はい。」
何故、言葉の頭に「あ、」が付くのか。人類最大の疑問だよねこれ。
「怪我の具合はどうですか?」
「あ、大丈夫です。」
リューさんが怪訝そうな顔で僕の方を···やめて! 見つめないで! 緊張が!
「あと2日はかかると思ったのですが···治癒が早いですね。」
「あ、そうなんですか。」
まぁ、不死身の英雄が使ってた魔剣とかもいるんで、その魂とかが影響してるんじゃないですかね? 詳しいことは僕にも分からないけれど。詳細不明っていうより正体不明って言った方がかっこよくない?(唐突) ルビは《アンノウン》。はやくランクアップして二つ名が欲しいですねぇ···。
「もう大丈夫なんでしたら、下に来て頂けますか?」
「あ、はい。」
コミュニケーション力が低すぎるんだよなぁ···。もっと会話をするべきだ。魔剣たちと会話する分には大丈夫なのになぁ?
──下に降りたら一週間のタダ働きを言い渡されたでござる。僕の倒れていた時間分働け、と。つまり何か? 僕は一週間も寝てたのか? いや、予定ではあと2日も···マジかよ重症じゃないか。記憶喪失ありえたかもなぁ。怖いね。オラリオ。
「寝てたと言えば、アンタの寝てたベッドはリューのだからね。ちゃんと礼を言っとくんだよ。」
女将よ。ここでその事実を告げると言うことは断る選択肢を完全に消したな。もともとそんなつもりもなかったけれど。リディがどんな仕事をしているか、近くで見るのも面白そうだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結論から言って、僕は甘かった。リディの方を向く間もない重労働。筋力と敏捷と器用のステイタスがそれぞれ300は上がりそうな過酷な仕事だった。「上昇値トータル600オーバー!?」って神ヘスティアに驚かれるまである。ただ、視界に入った中だと、リディはジョッキを13個同時に運んでいたり、13のテーブルから同時に注文を取ったりしていたような気がする。
あと、ロキファミリアが入ってきたときは正直に言って逃げたかった。めっちゃこっち見てくるし···。怖いのなんの。
そして何より、筋肉痛。僕は普段は魔剣たちの支配に任せて体を動かすから、筋肉痛なんて滅多にならない。初日で折られた心、2日目で筋肉痛に慣れ、3日目で超回復というものを実感し、4日目で実は魔剣たちがこっそりアシストしてくれていたと気付き、5日目で漸く慣れ、6日目で店員のみんなと仲良くなり。
そして、7日目。
「アンタ、ここで働く気はないかい?」
「そうニャ! お前みたいな使えるヤツは大歓迎ニャ!」
「そうですね。私も賛成です。」
「マスターも一緒にアルバイトするの? やったー!!」
僕は店員スキルをマスターした。
──いや、働かないよ? 僕の本職は冒険者。それに「真の魔剣使い」になるって夢がある。酒場の店員をやってるヒマはない。
「きゃ、客としてまた来ます。」
皆の残念そうな顔を背に店を出る。いや、まさか一週間で店員スキルをマスターできるとは思わなかった。僕の才能が怖い。どうせなら魔剣を扱う方に欲しかったけれど。一番大変なのは酔っぱらい共の喧嘩とゲロだな。うん。ゲロは火属性魔剣たちで焼き払えば良かったにしても、喧嘩を止めるのは面倒だった。殺しちゃ駄目ってのがネック。
──明日からは、また迷宮に潜ろうか。
友人が言っていた。居酒屋のバイトで一番辛いのは喧嘩のとばっちり。次がたまにあるゲロだと。
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第十二話 自力の強化
迷宮の中でも高難度と言われる、下層。さらにその深部、最下層。···とは、関係なく、僕は今第4層にいます。その理由? 決まってるじゃないか。
「体を鍛えようと思う。」
ダンジョン内部も、魔剣たちと繋がっているはずの脳内も、どちらも痛いほどの沈黙に包まれる。
「マスター本来の実力じゃーどーにもなりませんよー。そんな事も分からないんですかー?」
「まぁ聞いてよ。」
救えないなー。と続いたであろう脳内のセリフを遮るように告げる。僕の意図。それは──
「バイトをして分かった。流石に素の体力が絶望的過ぎた。」
ステイタスこそ 筋力:I 0 なんて生易しい表記だが、そもそもの実力と平均値とを照らしてステイタスを表すシステムなら 筋力:K -200 ぐらいだろ、きっと。いや、そこまでじゃないかもしれないけど。
「と、言うわけで。僕が自分で戦ってみたいんだけど、いいかな?」
「駄目よ。」
「駄目です。」
「救えませんねー。」
満場一致か。はい。諦め···と、いう訳にはいかない。今のまま──魔剣たちに使われているだけでは、「真の魔剣使い」にはなれない。「真の魔剣使い」というのは字の如く、自分の力、自分の意思で魔剣を使い、その力を十全以上に発揮させる才能者のことだ。僕の目指す、極致。
「だから、頼むよ。僕の夢に、力を貸して欲しい。」
沈黙。魔剣たちが顔を見合わせるような雰囲気が漂う。一分、二分と時間が過ぎていく。
「分かったわ。但し、必ず誰かを顕現させて、バックアップにすること。いいわね?」
「分かったよ。ありがとう、グラム。」
「別に、お礼を言われるようなことじゃないわ。」
じゃあ取り敢えず、とばかりに魔剣少女を顕現させる。僕の持つ中でもトップクラスの熟練であり、長い付き合いの三人。『魔剣グラム』『魔剣グラム·オルタ』『ジャガーノート』。極状態──魔核を変質させるほどの純粋かつ多量の魔力を注ぎ込むことで、一時的に性能を底上げする状態のこと──でも自分自身で活動できる、数少ない魔剣たち。普通、極状態なら僕を使って行動するしかないのだけれど、彼女たちは慣れが違う。
で、僕がそんな彼女たち──Sランク内で、最もSSランクに近い『最高峰』を呼び出した事から分かるように。
「怖がりすぎよ、マスター。」
「だ、大丈夫です。お姉ちゃんが、いますから。」
「私たちがちゃーんと救ってあげますよー。」
「た、頼むよ!? ほんと頼むよ!?」
初期装備のダガーナイフだけでどこまでやれるのか。楽しみだ。(虚勢)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結論から言って、意外と戦えた。戦果としてはキラーアントが数十体といったところ。ただし、無傷で。···どうやら、彼女たちが僕を使っている状態でも、経験やら何やらは蓄積されるらしい。相手の攻撃は凄まじく遅く感じるし、どこにどう避けるべきかが分かる。勿論、雪月花のように華麗に、とか、グラムのように最小限の動きで、とかは無理だけれど。
「いける···いけるぞ!!」
調子に乗って魔物の群れへ突進する。一斬必殺を心掛けて、的確に魔石を攻撃していく。ひとーつ、ふたーつ、みーっt···ん? 三匹目のキラーアントを殺そうとした時点で、ある異常に気付く。ナイフが、欠けてる。
切っ先が砕け、刃もズタボロ、切れ味なんて期待外。そんな状態だった。
三匹目の魔石を砕くと同時に、ナイフの方も柄を残して砕けてしまう。あ、やばい。残る魔物は15匹くらいか。いや、キラーアントは性質上、倒せば倒すほど、仲間を呼ぶ。なら見積り25匹···いや、仲間を呼ぶ間もなく殺せばいい。だが武器がない。
「もう無理だ。任せた。」
「もうおしまいですかー? もうちょっと救ってあげましょうよー。」
「まぁ、初陣にしては上出来じゃない? 私を使うつもりなら、もっと強くなりなさい。」
「ふ、二人とも早くしないとマスターが死んじゃう···っ。」
あの程度じゃ死なないでしょ。みたいな声が聞こえてきたのは無視する。はやく、たすけて。
僕の周りを取り囲んでいたキラーアントの一部が
「ジャガーノート!!」
手を差し出しながら名前を叫ぶ。ジャガーノートもこちらへ手を伸ばし、手が触れた瞬間に、右手には僕の身長を優に越す戦斧が握られていた。そして、最早僕の体は僕の物ではなくなっている。
振り向き様に一閃し、飛びかかって追撃してきていた一体を爆散させる。──が、戦斧というのはフロントヘヴィなエモノで、攻撃直後には隙ができる。ジャガーノートほどの魔剣であれば隙の少ない攻撃も、一斬多撃も可能だが、咄嗟の行動だったために大振りになってしまった。そして、そこを逃すほど、魔物というものの知性は低くない。
怪鳥のごとき鳴き声を上げて、魔物が一気に押し寄せてくる。流石に不味いと思ったのかグラム姉妹が一気に距離を詰め──るより先、僕の声が彼女たちを止めた。
「来るな。巻き込まれるぞ。」
「最初からこれがしたかっただけなんでしょう? いいですよー。どうぞどうぞー。」
僕が魔剣を振るう中で、攻撃直後の隙を無くす為に思い付いたコンボ。攻撃直後の──
BLAZEDRIVE:ディヴァインフロート
解放された魔力が物理的な破壊力を伴って、殺到する魔物の群れを迎撃する。一瞬の後、ドロップ品の魔石すら残さずに魔物たちは蒸発していた。
「わざわざこれをやるために呼び出したんでしょう? 流石は変態マスターだなー。憧れちゃうなー。」
馴染みとすら言える棒読み具合が心地いい(末期)
「そ、それはそれとして。武器が無くなったし、今日はもう帰ろうか。」
「そうですねー。あ、どうでしたかー? 二週間ぶりの、私たちの感触はー?」
ちょっとエロみを感じる言い方···ん? 二週間とな?
「マスター。貴方、一週間近く寝込んでいたのよ? 何度か目は覚ましていたけど···直ぐに寝たから、覚えていないのね。」
ふむ。で、寝込んでいた分+働いてた分=二週間。と。そういうわけか。い、意識したら凄まじい疲労が···!!
「一週間働いてたんだし、大丈夫でしょ。」
「それもそうか。」
あ、なんか疲労も無くなった。病は気からってアレ迷信じゃないのか。
「んじゃ、帰ろうか。」
魔剣たちを非顕現状態へ戻して、意気揚々と地上へ戻る。と、ベルを発見。
「おーい、ベル。」
「あ、マスター!!」
ん? ベルの横に置いてある巨大なリュックサックは···いや、
「そちらの御仁は?」
「あ、この人はリリルカ·アーデさん。サポーターとして雇うことになったんだ。」
サポーター、ねぇ? チュートリアルで一通りの説明は受けたけど···サポーターが必要なほどの戦果が上がるのだろうか。まぁ、帰ってきてのお楽しみということにしておこう。
やっとベルと絡ませられそう。(げんなり)
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第十三話
ベルと別れてホームへ戻った僕が真っ先に行ったのは、ステイタスの更新だった。自力で魔物を屠ってきたのだし、ステイタスが上昇していることを祈って。いざ! ステイタス開帳っ!!
───────────────
力:I 3
耐久:I 3
器用:I 5
敏捷:I 3
魔力:G 320
───────────────
んー。うん。成長はしてる。成長はしてるんだけど。もっと、こう、ベルみたいな劇的な変化に期待してたんだけど···。
「そういえば、魔力の上昇が凄まじいけど、何かあったのかい?」
魔力値の220という伸びに大して驚きもせず、神ヘスティアはジャガ丸くんをもさもさと食べながら聞いてきた。さては順応したな、この神。ベルで異常なステイタス上昇に耐性つけたな。
「まぁ、ちょっと。」
大方、ブレイズドライブを使ったからだろう。それに極状態も使ったし。自前の魔力を使えば使うだけ、魔力の値は伸びるのだし。
「他のステイタスも少しとはいえ伸びてるし···やったね、マスター君!」
はいこれお土産。などと宣う神ヘスティアは、さっきまでもさついていたジャガ丸くんとは別の、小豆クリーム味なるものを投げて寄越した。なんだこれ美味しい···。
僕と神ヘスティアがジャガ丸くんをモサモサと食べていると、ベルが満面の笑みと共に帰ってきた。
「見て下さい神様! マスター!」
じゃら、という金属音を奏でる袋を持った──中身は金貨だろう。そのまま帰ってくるとは不用心な──ベル。ほう、サポーターのお陰かな?
「すごいじゃないか! どうしたんだい? 今日は。」
「それがですね、神様···」
ベルがサポーターのことを神ヘスティアへ説明している間、僕はずっとジャガ丸くんを食べていたのだけど。神ヘスティアがソーマ·ファミリアに危惧を抱いているという事実には気を引かれた。
「ねぇ、アダマス。神ソーマってどんな奴?」
「奴? って貴方ねぇ···。まぁいいけど。」
僕の不遜な言い方に苦笑を漏らした様子だったが、声だけが鼓膜を震わせているために本当かどうかは分からない。と、いうか、まぁいいんだ。
「ソーマは酒好きで知られているけど···あいつ、自分で最高の酒を作るんだ。って息巻いてたのよ。お陰でディオニュソスに睨まれるわ、出来損ないの酒が人間に流れて大惨事になるわで···。」
「飲む側じゃなくて、造る側だったのか。で、大惨事って?」
「依存者の多発と、酒を求めた依存者の暴走。」
ほう。麻薬みたいなものか。魔界でも攻撃力を底上げするクスリとかはあったけどね。材料に水晶と血液って、酒なんかより余程危ないんじゃないの。
「ソーマが下界でも同じことをしているなら、注意しておきなさい。」
珍しく真剣な表情の···あ、いや、声色のアダマスに気圧される。
「なら、そのサポーターの小人も暴徒化するかもしれないな···。」
「酒と金と異性には注意しなさいな。」
はーい。きをつけまーす。
「ちょっと、本気で言ってるのよ?」
いや、だって、僕が酒やら異性やらに溺れる前に、君たち魔剣が僕を正道に戻すでしょ。暴力で。権力、暴力、謀略。この3つは金、酒、異性と並んで強力な武器だ。暴力どころか破壊の権化みたいな魔剣たちに囲まれていれば、堕ちることもないだろう。
「堕ちたりしたら、君たちに失望されちゃうからね。」
呟きは聞こえたのか、或いは聞こえなかったのか。どっちだっていい。
「ねぇベル。僕も明日からついて行っていいかな?」
「マスターも、リリを疑うの···?」
誰だよリリって。
「リリルカだから、リリ。リリがそう呼べって。」
「「リ」がゲシュタルト崩壊してきた···。別に疑う訳じゃないよ。今日のベルの効率を見るに、二人いればもっと稼げるんじゃないかって思っただけだよ。」
ちょっと考えて「そうだね!」と返すベルを見て純粋なのかバカなのかを真剣に考え出した今日この頃。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日早朝。僕はベルと一緒にリリルカさんと顔合わせをしていた。
「よろしくお願いいたします、マスターさん。
ん? 獣人とな? また読み違えたか···。
取られたフードの下、頭頂付近から生えたケモミミはぴくぴくと動いている。獣人である、というのは本当らしい。
「···よろしく。リリ。」
三人で連れ添って迷宮へ入る。「昨日みたいに、狩場は二人で決めていいよ。」と言った結果、十階層まで降りてきた。
で、問題が発生。僕は今武器を持っていません。昨日壊れたから。で、ここは武器なしでどうにかなる階層じゃありません。部外者がいるので魔剣も使えません。
Q.どうする?
A.どうしよう···。
「待ってホントにどうしよう。」
刻々と堕ちていく評価。とてもつらい。
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第十四話 強敵
「なぁ、ベル。武器忘れたんだけ···ど···。」
背後、リリよりももっと後ろ。魔物の気配がする。それも相当数。足音が聞こえないということは、飛行型か幽体型か。
「えぇ!? マスター、どうやって戦うつもりだったの!?」
「いや、まぁ、そりゃ···」
魔剣で。とは言えない。ベルだけならまだしも、
「後ろから来ます!!」
リリが警告を発する。ここは取り敢えず逃げるべきじゃないの···?
「僕が最後尾に行くから、マスターはこの先の様子を見てきて!」
「わ、分かった!」
リリとベルを置いて──え? 僕が一人で行動するの? おかしくない? ···リリとベルを置いて走り出す。薄暗い迷宮の中を、壁から涌き出るモンスターに注意しながら動くのは意外に神経を使う。
二人が見えなくなるまで走ったが、ここまでは一匹たりとも魔物を見ていない。他の冒険者や遠征パーティが通った後なのだろう。
「ロキファミリアじゃないといいなぁ···。」
呟き···
また落とし穴か!? ···いや、落下が、長い。これが所謂、縦穴···下層へ繋がる一方通行ルートなのだろう。
「クソ···!?」
下から凄まじい重圧──殺気を感じる。
あぁ、懐かしい。例のオッタルが並ぶかと思っていた、実際は遥かに強力で凶力な、魔剣たちの、魔剣使いたちの、
「マスター!!」
「分かってる!!」
グラムの叫びに応え、右手を基準に魔力を収束させる。顕現させるのは、『魔剣グラム【極】』。
落下の勢いを乗せ、グラムと僕の体重と位置エネルギーを全て運動エネルギーに変換して攻撃する。並の魔物なら──いや、並の建造物なら容易く両断できる一撃を、「そいつ」は人間のような上体、その片腕で防いでのけた。
「やっぱりか···。」
ぶよぶよとした肉団子状の下半身から、悲鳴を上げているかのような無数の顔を覗かせ、頂点部分から人間の上体を生やした、異形──ワンドメイス型冥獣。
防御に長けた訳でもない「そいつ」は、グラムの一撃を防いだ瞬間に、攻撃に転じていた。
攻撃を終えて着地した瞬間に、目の前には黒い大腕が迫っていた。回避不能なスピードのそれに、辛うじてグラムを翳してガードする。凄まじい質量、凄まじい運動量だが、耐えられない程ではない。地面に跡を残しながら攻撃を受けきる。
「らぁっ!!」
グラムを一閃する。
二つの斬撃が刻まれる。
グラムを一閃する。
三つの斬撃が刻まれる。
グラムを一閃する。
九つの斬撃が刻まれる。
一斬多撃。だが、グラムの真骨頂はそこにはない。
──冥獣が姿勢を大きく崩す。防御不可状態···ブレイク。グラムのような質量の大きい武器で攻撃し、ガードや姿勢を崩すことで、一時的に防御力を大きく下げる状態だ。そして、防御の下がった今にこそ、攻撃を叩き込むべきだ。
「行くよ、グラム!!」
「終焉なき永劫の回廊···黒い雨···闇夜の蝶···磔の翼···これが、「魔剣」というものよ···。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト
完成品たる魔剣の、終極の一撃。終焉すら終わらせる、
数秒もの間光なき世界に佇んでいた僕の腹部に、唐突に凄まじい衝撃が加わった。
「げぼっ···」
肺にあった空気が、胃液と血液と一緒に口から漏れた。もんどりうって吹き飛ばされる。地面を転がるが、グラムだけは手放さない。
「あぁ···痛かった。」
痛覚はある。が、傷は、ない。
魔剣を顕現してさえいれば、僕の負傷は全て魔剣へフィードバックされる。そして、魔剣たちに支配されている体は凄まじく強靭なものに創り変えられており、負傷なぞしない···と、タカを括っていたのだけれど。慢心だった。
「大丈夫? グラム。」
「えぇ···大丈夫よ。この程度。」
滅ぼした手応えはあった。が、さっきの一撃は、まず間違いなく
「ゲージが幾つかあるのかな···面倒くさい。」
冥獣のもつ仮初めの命のことを、「ゲージ」或いは「☆」と言い表すのだが、冥獣や暴走した魔剣の中には、これを複数持つものも存在する。
攻撃の手を緩めた所為でブレイクも解け、万全の迎撃体制を取られている。些か以上のピンチである。
「僕一人で先行して正解だったんだけど···釈然としないな。」
左手にも魔剣を喚び出す。選ぶ魔剣は、『アダマス【極】』。白と赤の、翼のような刃をもつ魔鎌。
「まさか、君を使うことになるとは、ね。」
「神相手でなく、こんな所で冥獣相手とはねぇ?」
アダマスを一振りする。
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第十五話 時神の鎌
薄暗い、高さも5、6メートルほどの空間に、三つの超越存在が圧倒的な力の奔流を垂れ流していた。
一つは、僕の右手でコアを紅く輝かせている最上にして完成された武器。『魔剣グラム【極】』
一つは、魔剣グラムのブレイズドライブをその身に受けながらも、未だ攻撃の意思も殺気も健在の怪物。ワンドメイス型冥獣。
一つは、僕の左手で神々しいまでの輝きを放つ神の武器。『アダマス【極】』
「どうでもいい話なんだけどさ、冥獣は一匹見たら百匹いると思え。魔剣機関はそう言ってたけど···それエンドレスだよね? 一匹につき百匹居るんなら、百の百乗の百乗の···って続くと思うんだけど。そこのところ、どう思う?」
「本当にどうでもいいわね···」
グラムの呆れたような声に笑いの成分が含まれているのを確認する。うん。破損には至ってないようで安心だ。
「ねぇ。まだやらないの?」
左側、アダマスが不満げな声を上げる。いや、もう勝負はついたようなものだし?
アダマスが顕現した瞬間に、最早勝敗は決していた。
ギリシャ神話において、オリンポス十二柱の神の最高位、大神ゼウスや海神ポセイドンの父であり、時の神であるクロノスが振るい、自らの父であり、空の神とも、空そのものともされる神ウラノスの
砂埃や砕けた岩の破片が空中で停止し、重力に抗っている。
冥獣が攻撃姿勢で停止し、大きな隙を見せている。
どういう理屈か、光や空気、電子や分子の運動は止まっていないので、僕が傷つくことはない。優先度も、アダマスを持つ僕が最上位であって、砂埃に突っ込んで行っても、その粒子に阻まれたり、体がズタズタになったりはしない。
「お前は別だけど、ね。」
悠々と冥獣の下まで歩き、グラムとアダマスで攻撃を加えていく。一発ではかすり傷程度かもしれないが、数十、数百と重ねれば、いつか死ぬだろう。死ぬまで、何分でも何時間でも何日でも、延々と攻撃を加えてやればいい。
そんな考えを裏切るように、十数回目の攻撃であっさりと冥獣を構成するエーテルが爆散した。
「あれ? 意外と弱かったな。」
思えば、何日間も攻撃を加えなければならないような強力な冥獣であれば、止まった時間の中であろうと行動できた。覚悟損だな、これは。
「お疲れ様、アダマス。」
「この程度なら、私が出る必要も無かったんじゃないの?」
「んー。そうかもね。」
苦笑を交わしてから魔剣二人を非顕現状態へ戻す。止まっていた時間が動き出すのに合わせ、砂埃が舞い、岩の破片が辺りへ飛び散り、冥獣が消滅していく。
「ドロップアイテムとかありませんかね···新しい魔剣とか、魔石ダイヤとか。水晶でもいいなぁ···。」
冥獣のいた場所に落ちていたのは、手のひらにすっぽりと収まるサイズの魔石。魔石と言っても、魔力変換効率の凄まじい魔石サファイアや、魔剣の強化に最適な魔石ルビーではなく、ギルドで換金できる、オラリオでも一般的な「魔石」だ。
「え? なに? ハズレ?」
レアドロップと呼ばれる、希少部位や希少素材の類の入手確率は、運に拠る所も大きいが、冒険者の熟練度に左右される。と言ってもコンマ数パーセントの域だが、命を張って戦う冒険者にとっては大きい値でもある。希少素材があれば上質な武器や防具が作れるし、それがあれば生存率はかなり上がる。
そして、今回顕現していた二人、魔剣グラムとアダマスの熟度はどちらも
「うわぁ···ハズレか···。」
故に、期待が大きく、外した時のショックも大きい。
「帰るか···。」
俯き気味に、空洞の横穴から出ようと歩を進める。流石に、縦穴を垂直に昇る訳にもいかない。昇る手段はいくつかあるが、どれも魔剣を使う為、縦穴の出口で他の冒険者に見られる可能性があるからだ。うーん。僕の成長がはっきり分かるね。今までだったらここで垂直上昇した上で出口でロキファミリアに遭遇してた。
「でも、マスター。ここってかなり下層だよ? どちらにしろ、武器は必要なんじゃない?」
「仰る通りだよ、レールガン···。」
完全に失念していた。いつどこから魔物が「こんにちは! 死ね!」してくるか分かったものじゃない。
咄嗟にレールガンを顕現して、構えながら進んでいく。なるべく、上に上に行くように心がけながら、かつ慎重に歩いていく。何分歩いたのか定かではないが、見慣れた景色が視界に広がり、落胆の声を上げる。砕けた岩、天井の縦穴。先ほどの空洞に間違いない。そして、ここに至るまでに分岐点はなかった。つまり。
「ここを昇るしかない、と。そういうことですか。」
縦穴を見上げ、溜め息を吐く。ぽっかりと空いた穴は、奥が見通せない程度には長く続いていた。まぁ、かなりの距離を落ちてきましたし?
「と、言うか。僕以外の冒険者が落ちたら詰みだよね。これ。」
飛行アビリティとか転移魔法でもあるなら別だが。かなりのレアスキルだろうし。そもそも冥獣を倒すつもりなら魔剣は必須だ。
「さて···。登りますか。」
参考資料:wikipedia
冥獣が出たという事は···分かるな? 原作で新しい魔剣が登場したとしても、対応できるということだ! やったね!
さしあたっては···トライデント=メルトが欲しかった。(引けてない) バスにゃんサマーも出したいなぁ···
ウサ耳ジャガノが実装されたら出します(預言)
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第十六話
感想も評価も嬉しいです!
登攀技術やロッククライミングに造旨が深い訳でもないし、そもそも迷宮の壁は登るのに適していない。凹凸はそれなりに存在するけれど、壁からは魔物が出てくる可能性が大きい。ミノタウロスと壁登り競走なんて御免被るぞ、僕は。
そもそも、僕の腕力やら握力やらで、ゴールの見えないレベルの高さを登れるとも思えない。じゃあ、どうする? こうする。
──右手を横へ。
──魔力が渦巻く。
──全身を風が包み込む。
魔剣そのものを顕現させる必要は、ない。顕現に伴う、身体の再構成の方が重要だ。まぁだからと言って魔剣を顕現させない訳ではないけれど。
──背中、肩甲骨辺りを起点として、擬似的な神経と筋肉が構成される。
──エーテルが固定化される。形状は翼。数は三対。
──右手には杖棒。秘める魔力は世界と同等。
──杖棒『カタストロフ=イデア』顕現。
大気を鳴らし、翼を羽ばたかせて空を舞い、縦穴を垂直に昇っていく。尋常ならざる速度だが、身体を最適化された僕にとっては問題にならない。身体が潰れることも、耳が壊れることも、目が乾くことすらない。
「見えたわよ、マスター。このまま迷宮の天井を壊して地上に出ましょうか?」
「いや止まろうよ!?」
迷宮を壊そうモノなら、まず間違いなく面倒ごとに巻き込まれる。いや、面倒ごと──ギルドの追及とか──諸共に、壊してしまえばいいのだけれど。それを躊躇う程度には、この町に愛着があった。
「仕方ないわね···。」
気だるげな声を上げたイデアが、翼を細かく操作する。凄まじい風圧を撒き散らしながら、縦穴の出口で静止する。幸いにして、縦穴の付近には誰も居なかった。いや、吹き飛んだだけという可能性も微妙に否定できないけれど。
「ありがとう。イデア。」
目立ちすぎる純白の翼を消し去り、イデアも非顕現状態にして迷宮を出る。と。
「えーっと?」
迷宮の入り口付近にテントが立ち、ロキファミリアやフレイヤファミリアを筆頭としたトップ層の冒険者が群がっていた。それぞれ、己の持つ最上の装備で身を固め、ポーションの類をバッグに詰めたり、武器のメンテナンスをしたり、と、遠征にでも出るかのような気合いの入れようだ。ギルド職員と、トップファミリアを代表する冒険者と神々が地図や何かの図面を見ながら真剣な表情で話し合っている。
「何かあったのかな? トラブルとか?」
出口でぼけーっと突っ立っていては邪魔になるだろうし、さっさと退きましょう。面子を見るに、僕がいた所で何の意味も──ん? 名だたる冒険者や神々に混じって、明らかに場違いな顔、ベルと神ヘスティアを発見する。事情を聞くならあの二人ですね。
「ねぇ、ベル。何かあったの?」
「いや、マスターが···え? マスター?」
ん? 僕がどうしたって? ···縦穴に落ちたことかな? いや、いち冒険者が縦穴に落ちた程度ではここまでの大規模レイドは組まれないだろう。捜索隊にしたって、依頼でもなければ組まれないというのに。
「ま、マスター!? 無事だったの!?」
聞き慣れた叫び声と共に、背後から腰へ衝撃が加えられる。自分の腰のごきっ、という悲鳴は聞き流す。意識するな···意識したら死ぬぞ···!! 死因:腰痛。笑えもしない。
「り、リディ。これ、なんの集まりなの?」
神様ぁー! エイナさーん! マスターが帰ってきましたぁ! というベルの叫び声を聞きながら、リディの方へ視線を向ける。
「ま、マスターが縦穴に落ちたって! 縦穴は危ないって! 下に危ないのがいるって! 全然帰って来なかったからぁ···!!」
「んー?」
要領を得ない話し方だが、なんとなく、僕を探す為のレイドパーティなのだろうと察する。ぼろぼろとリディの両目から溢れる涙を両手で拭いながら、ベルの帰りを待つこと数分。
チュートリアルでお世話になったギルド職員さんと一緒に帰ってきたベルと神々を残して、大規模レイドパーティは迷宮へと入っていった。
僕が帰ってきたことはさっき伝わっていたから、別の目的があるのだろう。
「マスターさん。こちらへ。」
テントへ誘導され、簡易式の椅子に座らされる。
「マスターさん。縦穴に落ちたとの事ですが、お怪我はありませんか?」
「え? あ、はい。大丈夫です。」
どちらかと言えばグラムの損傷度合いが心配です。と心中で付け加える。まともに攻撃を喰らったのは彼女だし、ここオラリオには医師クランベリーのように信頼できる魔剣技師がいない。神ヘファイストスがどの程度
オラリオでは魔石ルビーも魔石ダイヤも、魔界で取れる鉱石は一切が入手できない。よって、再入手の目処のない魔石エメラルドはあまり使いたくないのだが。
「それは良かった。念のため、ホームへ戻られたら、キチンと検査しておいて下さいね。」
「あ、はい。」
にこやかに此方の心配をされても、「それが本題ですか?」という表情しか返せない。
「それで、ここへお招きした理由ですが···。」
一拍空く。無駄な演出を挟まないで欲しいものだ。僕はとっととグラムを神ヘファイストスへ預けたいんだ。本題、はよ。
「縦穴の下に、強力なモンスターがいませんでしたか?」
「···。」
冥獣のことか。アレを倒すのには魔剣が必須、通常の武器では傷すら付かない存在のことを、ギルドは認知している? いや、だとすれば、それを討伐するつもりか? と言いたくなるような豪華なパーティを編成するとも思えない。大方、冥獣の放つ殺気を感じ取ったのだろう。
「モンスター、ですか? 僕は、穴の途中で出っ張りに引っ掛かって最後まで落ちなかったので···。」
わかりませんねー。と表情で語る。口調は棒読み寸前だったが、不自然一歩手前で踏み止まってくれた。
「そうですか? では、もうひとつだけ。」
「何ですか?」
また一拍空いた。良いから、はよ。
「『魔剣』という存在に心当たりは?」
「···。」
見開きそうになる目と、排除に動こうとする魔剣達を意思の力で押さえ込む。いや、後者に関しては懇願に近いセリフを脳内で垂れ流したのだけれど。内容に関しては僕の名誉のために伏せさせてもらう。
「知ってますよ? 限られた、凄く腕の良い鍛冶師だけが打てる、魔法を放つ剣のことですよね? なんでも、家一つと等価な割には使い捨ての、ブルジョワ武器だそうですね。」
「···。」
僕の挙げた『魔剣』の特徴は、オラリオでも一般的に知られている『魔剣』のことだ。僕の持つ『魔剣』とは、存在の格も保有する破壊力も違いすぎる代物だし、武器としてのランクも、Aランク魔剣にも遠く及ばないゲテモノだ。パチモンとすら言えない。
「いいえ、マスターさん。私たちの言っている『魔剣』とは、そんなチンケなモノではありません。正真正銘の神代の武器のことです。」
「···えーっと?」
シラを切りとおす方針でも別に構わないけれど──面倒だ。
マビノギオンを顕現させ、ギルド職員──確か、エイナさん? って名前だったはず。ベルはそう呼んでいた──の『魔剣』についての記憶情報を消し去る。テントに覆われているから、他の人に見られる心配もない。
一瞬で作業を終わらせる。
「あれ? えっと···ま、マスターさん。何か、疑問点などありませんか?」
いきなりどうしたんだろうか。記憶が吹っ飛んだことでパニックを起こしたと考えるべき···あ、僕のせいですか。
「えーっと···結局、なんの為にあんな大規模パーティを組んだんですか?」
どうせなら、情報を引き出したいし、渡りに船って奴ですね。記憶と一緒に意識も奪っておけばよかった。
「はい。えっと、迷宮の深層、迷宮から切り離された閉鎖空間に、ある強力な魔物が存在しています。普通はそこに冒険者の方が行くことは無いんですが、今回、ベルく──クラネルさんが、マスターさんが落ちたという縦穴の位置と深さを調べてみたところ、件の地下空洞に繋がっていることが分かりました。そんな危険な縦穴は塞いでしまうに限りますが、低レベルの方にお任せして、万が一、件の魔物が登ってきていた場合、成す術なく殺されてしまう可能性があったので、こういった形になりました。」
魔物──冥獣のことだろうな。
「そこに、魔物とは違う、何か凄まじいモノがいる、と、言われたのですが···」
なんだったかな···と、エイナさんが黙りこんだタイミングで、そうですか。ありがとうございました。と、さっさと席を立ってテントを出ていく。──と。待て。「言われた」ってなんだ。誰にだ。そんな事を思った頃にはヘファイストス·ファミリアに着いていた。うーん。時すでに遅し。
「マスター。言い忘れていたけど。」
「ん? どうしたの?」
上半身だけ実体化して、僕の頭に両肘で頬杖をつく痛い痛い痛い。
「ちょ、アダマス。痛いってば。」
「あら、ごめんなさい?」
悪びれもせず、今度は上体をだらりと預け柔らかい暖かい良い匂い。
「···で、何? どうしたの?」
しばらく満喫してから聞き返す。時刻としては遅くはないし、周囲にも人はちらほらといるが、彼ら彼女らが、アダマスや僕に目を止めることはない。目が止まっていたとしても、それを認知することはない。動きを止めた人々、止まった時の中で、アダマスが口許を歪めた。
「あのギルド。祀る神は、
「···え? 嘘でしょ?」
「気を付けなさい。マスター。」
サディスティックに笑いながら、アダマスは体を大気中のエーテルへと溶かしていった。
「えーっと···あんまりアダマスを使わない方が良いって事だよね?」
じゃあなんで今時間を止めた! 言え! と小一時間問い詰めたい。
エイナさんが魔剣について教えられた相手も、十中八九
「失敗したなぁ···。」
無闇矢鱈と時間を止められなくなった。時止め無双の夢は完全に潰えたし、冥獣も出てきたし、グラムも傷つくし。散々だ。
ヘファイストス·ファミリアの扉が、いやに重く感じた。
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十七話 追跡者
陰鬱な気分を振り払うように、乱雑に扉を開ける。鉄と炎の匂いに包まれながら、剣や盾、鎧などが陳列された棚の合間を縫って奥へ奥へと進んでいく。
「失礼しまーす。」
三連ノックをしてから目当ての扉に入っていく。神ヘファイストス専用の工房。魔剣を修理できる
「来たわね、魔剣使い君。」
「魔剣使いって訳じゃないんですけどね。僕。」
片手にハンマーを持った神ヘファイストスに対応するように──という訳でもないが、魔剣グラムを顕現させる。素人目には──あ、いや、魔剣に関しては素人の域は出ているし──鍛冶師ならざる身としては、殆ど損傷が無いように見える。グラムの状態は手に取る様に分かるから、「傷付いている」ということは確実なのだけれど。···手に取るように、って結構上手いこと言った感があるね。
「···。」
グラムのため息が聞こえた。審議拒否って奴ですか。
「それが例の『魔剣』ね。貸して貰える?」
「あ、はい。」
「···ん?」
グラムを受け取った神ヘファイストスが僅かに眉根を寄せた。何か不都合でもあるのだろうか?
「この子たちの事を大切にしている君らしからぬ···いや、彼女が誤魔化したのかな?」
「なんですか?」
どうにも釈然と···いや、待て。そうだ。何故気付かなかった? いや、楽観しすぎただけだ。グラムは、何度か戦闘を繰り返していたのにも関わらずメンテナンスを受けていなかった。そこに冥獣の一撃を思い切り喰らった訳で。そして、僕がハッキリと認識出来るのは半壊レベルの負傷だけで。
「グラム!」
「そんな大声を出さなくても聞こえるわよ···。」
魔剣少女として顕現したグラムの白いドレスは所々に穴が空き、破れ、肌の見える脚や腕にも細かい傷が付いていた。半壊──破損寸前、と言ったところか。表情こそいつもの微笑だが、怒りや痛みがない交ぜになった瞳の色を、僕はハッキリと認識した。
どうして、こんな状態に? ···それは、「この程度の魔物しか出ないエリアで、傷を負う訳がない」と、油断していたから。
慢心したから? ···その通りだ。
誰が? ···他でもない、この僕が、だ。
じゃあ、どうする? ···慢心は捨てる。もう絶対に、魔核崩壊はさせたくないから。
そうだ。彼女たちの最重要基幹、「魔核」が壊れてしまえば、存在そのものが揺らいでしまう。そもそもが規格外な存在なだけに、すぐさま消失、とは行かないが、それでも、今まで積み重ねた技術も、努力して得た力も、記憶さえも、消えてしまう。
「ごめんね···グラム。」
「この程度の損傷、今まで何度もあったじゃない。」
「ここは魔界じゃないんだから···僕の···ん?」
いやいや待て待て。それはおかしい。ここは魔界ではない。当たり前だ。唐突すぎて忘れていたが、なぜ、ここに冥獣がいる? 古代遺跡でも早々お目にかかれない、滅びの獣が、何故こんな、人間界の都市の地下深くにいる?
「分からないな···。」
分からないことがあっても死にたくはならないが、それでもやはり不快なことに変わりはない。その不快さも、僕の苛立ちを増長させている。
このままだと苛立ちを爆発させそうになったので、グラムを神ヘファイストスに預けて早足でホームへ戻る。神ヘファイストスは、「このぐらいの傷なら、二時間も掛からないわ。」と言っていたし、信用しよう。
ホームまで十数分ほど、という辺りで立ち止まる。どうも、尾けられているらしい。僕が歩けば数メートル間隔で付いてくるし、
「今すぐに···あっ。」
「今すぐに出てくれば許してあげますよ。」なんて、上から目線なセリフを吐いてしまう所だった。さっき決めたじゃないか。慢心は捨てる、容赦はしない。と。
「···おいで。ティンダロス。」
クトゥルフ神話体系。見ただけで発狂してしまうようなハードな邪神を数多擁する神話体系だが、その中で追跡に特化した能力をもつ神話生物、『ティンダロスの猟犬』。90º以下の鋭角さえ存在すれば、どこへ逃げようと追跡する、
「マビノギオン? 出番だよ。」
こちらも巨乳のお姉さん。あらゆる知識と魔導を記した、「これだけ持ってれば他の魔導書になんの意味があるの?」と言いたくなる魔典。その中に記された、攻撃補助と防御補助をティンダロスに掛けまくる。そこらの神となら殴り愛ができる(勝てるとは言ってない)レベルにまで強化し尽くす。
見て分かるレベルの脅威だが、認識能力が残念なのか、こちらを格下と侮っているのか、恐怖で動けないのか、尾行者は全く行動に出ない。攻撃も転身も逃走も連絡も、一切の行動を取っていない。
「いや、駄目だね。相手を格下だと思い込むのは下策だった。」
相手が神性を持っている可能性もあるし、ソードブレイカーのような、「武器を壊す」ことに特化した武器を持っている可能性も考慮しなくてはならない。
──故に。
──両手を開く。
──魔力が渦巻く。
──大気のエーテルが集束する。
──起源は龍。
──形状は「腕」。
──拳闘『バハムート』顕現。
僕の両腕を覆う、黒い龍の腕。それを振るうのもまた、龍の身体だ。
他の魔剣とは一線を画した身体の最適化。人の身に龍を宿し、莫大な力で以て地面を蹴る。流石にやばい、とでも思ったのか、尾行者は細い路地へ入り、姿を闇に溶け込ませている。が、それがどうしたというのか。
「ティンダロス。」
「はい、ご主人様。」
語尾にハートマークでも付いていそうな、媚びた声。これが最悪の追跡者? と、僕も当初は首を捻ったものだ。
どろり、と、ティンダロスの猟犬のシェルエットが溶け、大気へ染み込んで消えた。人間では存在できない「向こう側」を通って、相手の元へ転移するのだろう。全力疾走する傍ら、少しだけ見えた「向こう側」は、ネクロノミコンやセラエノ断章といった魔導書を読んだ身でも、あまり直視したくない景色だった。尤も、普通の人間であれば発狂して然るべきなのだろうけれど。
「見つけましたよ。マスターさん。」
脳内へ響く幼い声。バハムートのものだ。視線を正面に投げて見れば、両足に人ならざる「なにか」に喰い千切られたような傷を作った男が倒れ、痛みに悶えていた。
「いや、痛みに···か? 違う気がするぞ?」
男の目は、恐怖と嫌悪で濁っていた。ティンダロスの猟犬と、「向こう側」を見たことで正気度喪失が起こったのだろう。
「よっと···。」
右手で──バハムートの装備された右手で、男の頭を掴んで持ち上げる。浮遊している龍の手のお陰で、それなりの身長のある男の身体を宙に浮かせられた。
「何故、僕を尾けたんですか?」
左手で──バハムートの装備された左手で、男の両腕を胴体ごと握る。これで一切の行動は出来なくなったし、それに──
「あ、ぐぅ····!?」
左手に力を込めることで、拙いながらも拷問の真似事ができる。本職の魔剣たちに任せても良かったけれど···正直、これ以上の魔力消費は避けたい。今日だけで何回顕現させたと思って···8回? いや9回かな? わかんないけど。
「で、貴方はどこのファミリアの方ですか?」
ぎしぎしと骨を軋ませながら悶える男に問う。答えが帰ってくるなんて期待してはいない。ただ、そう。この男で憂さ晴らしがしたいだけだ。魔剣たちを付き合わせる形になってしまったが···ここ暫く実体化していなかった子もいる。久しぶりの運動だ、と、ポジティブに捉えて頂きたい。
「ぉ···ぁ···。」
肺に空気が残っていないからか、殆ど声が聞こえなかった。もう一度言って貰えます?
「···。」
ぐちゃっ。そんな音がして、男は呻くのを止めた。あぁ、しまった。締め過ぎたか。脊髄が逝ったか、肋骨が内臓に刺さったか。死因なんてどうだっていい。問題は。
「ねぇバハムート。今、なんて言ったか聞こえた?」
「ごめんなさいマスターさん。ファミリア、のところしか聞こえなかった。」
「そっか···ティンダロスは?」
「お許しください、ご主人様。私は、ソーマ、までしか···。」
「君たち最高だ。」
マビノギオン含む三人を非顕現状態へ戻し、足取り軽くホームへ戻る。
今日のうちに魔力を回復させておこう。
明日は、戦争だ。
いや、なんで尾行なんてしたのか聞けなかったから、それを聞きに行くだけなのだけれど。
追跡者→尾行者とティンダロスの猟犬
ちなみに、主は以前trpgにてティンダロスと素手でタイマンしました。結果? 惨敗だよ。
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十八話 ソーマ·ファミリア
ぐっすり眠って現在時刻は午前10時を過ぎたところ。雲一つない快晴だ。清々しい、という描写がピッタリと合う景色である。···僕の心情とは裏腹に。
昨晩、グラムが何者かに襲撃を受けた。何処かのファミリアの冒険者、それも中堅クラスの身のこなしだったらしい。グラムに襲いかかったそいつは、その首と胴体を別れさせ、首だけをヘスティア·ファミリアのホームで寝ていた僕の所へ来させていた。下手人は勿論、グラムだ。目覚めた時にベッドのシーツが血で染まり、目前に男の生首が置いてあった時は流石に焦った。心臓が数秒止まった気がする。
「それで? 胴体はどこ行ったの?」
「さぁ? 誰かが食べちゃったんじゃない?」
魔剣少女として顕現したグラムと一緒に、昨夜襲われた場所へ来ている。幸いにして、今日の目的地であるソーマ·ファミリアとは同じ方向だった。小さな路地の一ヵ所に、僅かながら血痕が残っている。首を撥ねられたとは思えない出血量だから、誰かが「後処理」をしたのは確実だ。
「グラムが何者かを理解して襲った訳じゃなさそうだけど···」
その存在を知っている相手が、武器の極致たる魔剣に一対一で襲いかかるとは思えない。
「まぁ、どうでもいいか。」
ソウルコレクター辺りに魂から情報を集めて貰うにしても、魂を回収できなかったのではまず不可能。殺したその場で魂をキャッチしなければ。
「行こう。」
「えぇ。」
グラムが僕の右手に滑り込ませた、彼女のひんやりした左手の感触に戸惑いながら、僕はソーマ·ファミリアへ歩を進めた。
「ソーマ·ファミリア」と彫られたプレートの掛かったドアを勝手に開ける。アルコールの匂いと一緒に、訝しげな視線も向けられる。まぁ、僕の年齢じゃ酒を買いに来た様には見えないだろうからね。当然だ。
話を聞くと言ったな、あれは嘘だ。とでも言い捨てて火でも放とうか、という誘惑に駆られながら、手近な冒険者の男に声をかける。
「すいません、神ソーマに会いたいんですけど。」
「なんだ、坊主。主神のお使いか?」
神同士のメッセンジャーだと思われているのか? 好都合だ。
「えぇ、そうです。神酒がどうのって聞いてますけど、どこに行けば会えますか?」
「そこの扉の奥だ。工房になってるから、火気厳禁だぞ。」
目に見える武装もしていないし、ここに入る前にグラムも非顕現状態へ戻している。丸腰の子供なら、通しても問題ないと判断したのだろう。
愚かしい。
「失礼しまーす。」
酒の並べられた棚の間をすり抜けて、工房へ続く扉を開ける──寸前で、背後から剣が振り下ろされた。
「お前だな?」
「何がですかね?」
一本の長剣を顕現させ、凶刃を防ぎながら答える。
「ジョンが尾行していたのは···ジョンを殺したのは、お前だな?」
誰だよジョン。···いや、尾行だと? 昨日の冒険者か。あの人ジョンって名前だったのか。憎しみに歪んだ顔で斬りかかってきた男を蹴り飛ばす。酒の陳列された棚を盛大に倒しながら吹き飛ぶ男を見て、先ほど声を掛けた男を筆頭に、敵意を剥き出しにした冒険者たちが武器を持って向かってくる。あぁ···面倒臭い。
「シャドウゲイト。」
「あまり乱発しないほうが良いわよ?」
「乱発とか卑猥なこと言わない方がいいよ?」
「ちょっ!?」
──転移する。
滲み出るように現れた、不自然な影···と、いうか、闇の中に体を入れると、冒険者たちと僕の位置がそっくりそのまま入れ替わっていた。杖棒『シャドウゲート』を用いての空間移動。闇の中を潜り抜けるようにして転移する。が、便利なだけに魔力消費も大きい。彼女の言うように、あまり乱発したくはない。
「じゃあ、さようなら?」
シャドウゲイト···宝玉を嵌め込んだ杖を持った左手ではなく、先ほどの一撃を受け止めた剣を持つ右手を突き出す。「何が起こったか分からない」といった表情の冒険者たちと、酒にまみれて昏倒している冒険者が一斉に炎に呑まれる。右手の長剣の銘は、『ガラティーン』。円卓の騎士ガウェインの持っていた、「太陽の剣」である。
さて。酒が盛大にぶちまけられた場所に高火力を浴びせるとどうなるか。当然、引火炎上する。そして、アルコールというのは揮発性が非常に高い。空気中にも、微細なアルコールが飛んでいる訳だ。つまり。
爆発する。
左手を一振りして建物の外へ転移し、炎に巻かれるソーマ·ファミリアを眺める。途中で何度か爆発が起こり、何度目かで神ソーマが送還されていった。
また転移してギルドへ行き、アリバイを作る。魔剣たちは当然、非顕現状態だ。これが···これが完全犯罪だ!! プロフェッサー·マスターと呼んでくれたまえ。
「誰のお陰だと思っているの? プロフェッサー·マスター。」
「ごめん、シャドウゲイト。やっぱそれナシの方向で。」
「えー? なんで? カッコいいよ? プロフェッサー·マスター!!」
「ガラティーンも、頼むからやめて···。」
シャドウゲイトの場合はからかっているだけだろうが、ガラティーンは半分ぐらい素の可能性が残っている。
「で、なんで尾行したりしたのか、分かったのかしら?」
グラムの質問には聞こえていないフリで返す。はぁ、とため息が聞こえた気もするが気にしない。忘れてたなんて言えない。
修正完了?
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第十九話
こ れ を 待 っ て い た 。
あと、今回のブレxブレのイベント難しくないですか? 高火力の娘ばっかり育ててたから、ヒット数高くて育ってる娘がティナ=エンプレスしかいない。キラキラの魔法~(現実逃避)
ソーマ·ファミリアで火事があったらしい。そんな話を聞き付けたギルド職員と一部の冒険者が、水属性の魔法を駆使して鎮火作業に勤しんでいる。いや、ご苦労様です。僕のせいで余計なお仕事を増やしてしまって申し訳ない。
そんな視線を向けて、汗をぐっしょりとかいているギルド職員の皆様を眺めていると、気になる言葉が聞こえた。
「恩恵の無くなった冒険者は、まだ迷宮にいるんじゃないか?」
今日も今日とて、ベルと件のサポーターちゃんは迷宮に潜っている。あの矮躯で、あのサイズのバックパックを背負えるのは、恩恵あってのことだろう。バックパックを捨てて逃げられればいいが、それにしたって、脚力は落ちているはずだ。ベルは耐久がそこまで高くない敏捷型で、誰かを庇いながらの戦闘には向かない。
「やらかした?」
「やらかしたわね。」
グラムからの無慈悲な言葉に心を抉られつつ、迷宮へ走る。途中で何人か見知った顔とすれ違ったが、声も掛けずに素通りする。
最近のベルは、そこそこ良い稼ぎが出る6、7階層で狩りをしていた。が、居ない。
「もっと下に行ったのかな···?」
入れ違っただけなら構わないし、徒労に終わっても構わない。とりあえず行くだけ行ってみようとして──下層から登ってくる人影に気付いた。
「あれ? マスター! どうしてここに?」
「ベル···良かった、生きてたんだね。」
荷物は置いてきたのか、ベルはリリを背負い、リリは何も持っていなかった。
「そうだ! 聞いてよマスター! さっき···」
しばらくベルから報告を受け、得た情報を整理する。
まず、リリがベルへモンスターを唆かけた。
で、そのモンスターたちをどうにか撒いて、リリの所まで行ったら、恩恵を失った冒険者に、こちらも冒険者を失ったリリが囲まれていて、ついでにキラーアントの特性である、増援を呼ぶフェロモンまで発動していた。
で、それもなんとか蹴散らして逃げてきた。と。
「···その冒険者達は?」
見た限り、ここにはベルとリリしかいないし、ここに来るまでも誰とも会わなかった。下層で死んだとは思えない。ベルの性格から言って、なんとしても全員を助けようとするはずだ。
「流石に、恩恵の消えた人たちを連れて逃げるのは辛かったから、安全地帯で待って貰ってる。あとで、ギルドにでも言って救助してもらうつもり。」
「じゃあ、ギルドには僕が行くから、ベルは休んで。リリは···」
「えっと、神様に言って、ヘスティア·ファミリアに入れて貰おうと思うんだけど···」
いや、伺いを立てるような視線で見られても。僕にはなんの決定権もないので。ただ、神ヘスティアなら大丈夫だろう。なんだかんだベルに甘いし。
「ダメそうなら、僕も一緒に交渉してあげるよ。まずは迷宮を出よう。」
「ありがとう! マスター!」
言って走り出してしまったベルを追う。あの状態で魔物に会ったらどうするんだよ···あ、僕も武器ないじゃん。
「待ってよ、ベル~。」
5階層まで登ったところで、
「ま、マスター! 逃げて! 早くッ!!」
「え? な、何?」
僕を押しながらもと来た道を戻っていく。意味が分からん···。
「ベル! 何? 説明してよ!」
「ミノタウロスが!!」
一言で察し、ベルを押し退けて坂道を昇る。曲がり角を曲がった先、目には見えないながら、そこに居ると分かる圧力が発せられている。知っている──いや、違う? 冥獣に近い、全てに向けられた殺気。それが収束し、僕に向いている。理性なき破壊の化身、冥獣には見られない特徴だ。「破壊すべきモノ」として僕を殺そうとするのではなく、「僕」を殺そうとして、僕を意識している。
「なんだ···それ?」
分からない。見たことがない。いや、知ってはいる。いや、違う。外見の情報は知っているし、纏う要素も知っているものばかりだ。だが、何故、お前らが、それを纏う? 誰が、それを与えた? 分からない。
外見はミノタウロス。たった三匹の、頭が牛で体が人間の、ポピュラーな怪物だ。
一匹目。首に爛れたような跡──まるで、
二匹目。胸骨(あるのかは不明だが)の辺りに、赤く輝く宝石が埋め込まれ、右肩から逆側の腰にかけて、こちらも同じような跡がある。こいつも神性持ち。
三匹目。いや···これを一匹と数えて良いのか分からないが。形容するなら、黒い粒子の集合体。それが偶々ミノタウロスの形をとっただけの様に思える。ミノタウロスという異形の中でも突出した異形っぷりだ。しかも、冥獣と同じ気配を漂わせている。
やばい。今の残存魔力から考えて、オーア·ドラグを筆頭とした、高火力で広域殲滅に長けた魔剣なんぞを顕現させた瞬間にぶっ倒れる。が、この場を切り抜けるにはそれぐらいしか方法がない。
魔剣グラムやグラム·オルタでは、三体同時に相手をするのはきつい。魔剣少女二人と共闘するという次善策も、魔力商品の観点で言えば好ましくない。アダマスの時間停止能力も、神性相手では心許ない。効かないことはないだろうが、もし、万が一、神性を付与したのがギルドの「あの神」だとすると、全く効かない可能性も存在する。
「シャドウゲイトの転移はこれだから···」
悪かったわね。と脳に響く声。いや、シャドウゲイトの転移は魔導書から使う転移魔法よりも出が早いから緊急時には重宝するんだよ? などと言い訳してみたり。
「どうしよう···。」
気絶してもベルがリリを背負っている以上、誰かが運んでくれるとは考えにくい。魔力が枯渇するなんてこと、今まで無かったのだけれど···魔界と違って、大気中のエーテルが薄いのが原因だろうか。回復速度の問題か···。あ、そうだ。魔力回復の手段が残っていt──背後から伸びた手に襟首を掴まれ、そのままミノタウロス(?)の横を通り抜ける。誰か、と、首を回すとベルだった。人一人を背負い、さらに追加でもう一人引きずってこの速度か。驚きだ。
「マスター! 走って!!」
「分かった!!」
ミノタウロスsは意外なほどあっさりと僕らを通した。僕に視線を向けたまま、憎悪を振り撒きながら。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
迷宮を出た僕たちは予定通り、僕がギルドへ、ベルはホームへと戻った。
いや、僕はギルドには行けてないのだけれど。
「ちょっと、お茶でもどうかな? 勿論、奢るよ?」
にこやかに自分達のホームを指す、オラリオトップクラスの冒険者、フィン·ディムナ。ロキ·ファミリアの団長である。僕を取り囲むように団員たちが展開しており──詰んだ。
「お、お言葉に甘えます···。」
修正完了。
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第二十話 (圧迫)面接
「えっと···。」
三人用の丸テーブルに着き、団長とエルフの女性とがそれぞれ座る。確か、リヴェリアとか言った、オラリオ最高の魔術師···? そのテーブルを囲むように、ロキファミリアの冒険者たちが立っている。そんな筈はないのだが、彼ら彼女らの放つプレッシャーで、空気そのものに重量が付与されたようだ。
「まずは、お礼を。この前は、僕たちを助けてくれてありがとう。」
「え? ···あ、はい。」
怪物祭のときのことだろう。あの後、魔力枯渇でぶっ倒れた僕を運んでくれたのは彼らだし、こちらもお礼を言うべきか? ちらり、と団長の顔を盗み見るが、相変わらずの微笑で心情は分からない。が、「まずは」と言った辺り、これが本題ではないのだろう。
「···。」
「···。」
両者が沈黙し、テーブルに置かれた紅茶に口を付ける。美味しいなこれ。
「さて、本題だけど。···君は、壊獣、というモノを知っているか?」
「怪獣、ですか?」
いきなり本気の声色になった団長の変貌ぶりに動揺する。オウム返ししちゃったよ···。怪獣、と言われても、ポピュラーな所では竜種···ファフニールとか、ワイヴァーンとかだろうか? いや、彼ら冒険者から考えれば、階層主と呼ばれる一部のモンスターも怪獣だろうし···。
「そう。壊獣。破壊の獣だ。」
「壊獣···? どんなモンスターなんですか?」
「モンスター、と言っていいのかどうか分からないけど···それは、ダンジョンの地下、隔離された空洞に閉じ込められていた。」
「いた? 過去形です···か?」
相槌を打ってから気付いたけど···それ冥獣じゃないの?
「そう。昔、僕らロキファミリアが交戦し、そこに閉じ込めた。」
「閉じッ!?」
冥獣と交戦して生き残ったことがまず驚きだ。魔剣なしで相手取れるようなヤワな存在ではないぞ、冥獣は。
「だが先日、何者かによって倒されていた。」
「は、はぁ。」
ちびちびと紅茶を飲んで口元を隠す。苦笑の域に収まらないレベルの苦い笑いが浮かびそうだ。
「そこに君の魔力の残滓があった理由を聞きたい。」
「···。」
紅茶が鼻から出た。鼻の奥が痛むのを我慢して口元を拭い、恨めしげに団長を見る。彼の表情は真剣だった。そして、僅かながら敵意すら宿している。「お前が嘘を吐くなら、我々は君を殺す。」と、そう言っている気がした。
「···
「···それで?」
僕が話したことに驚いて声を漏らした周囲の冒険者達と違い、リヴェリアさんと団長は冷静に僕を見据えている。
「僕は、冥獣との戦いに特化した武器を持っています。」
「この前使っていた武器のこと?」
「はい。僕のスキルで呼び出せる武器、『魔剣』です。」
「君はk···冥獣について、どこで知ったんだ?」
「昔居た場所で、冥獣との戦いを生業とする人たちがいました。」
「···そうか。」
本当はスキルじゃないとか、その
「じゃあ、あの地下にいた冥獣は、君が倒したんだね?」
「えぇ。」
また、「そうか」と呟いてカップに口を着けた団長は、側にいたアマゾネスの冒険者にお代わりを要求していた。空だったのか。
「幾つか、質問がある。」
「···どうぞ?」
答えるかどうか、真実かどうかは保証しないけれど。
「その魔剣は、無尽蔵に産み出せるのか?」
「···は?」
「もしも無限に産み出せるのなら、僕たちにも貸して欲しい。僕たちでは、冥獣に対抗できない。」
何を言っているんだ? こいつは。僕の魔剣を、貸す? 脳内に吹き荒れる魔剣たちの声は、怒りと嘲笑で荒れ狂っていた。
「殺すぞ(お断りします。)」
おっと失礼。逆だ逆。
「お断りします。」
「···すまない。大切なものだったんだね。」
当たり前だ。そもそも、最適化されていない有象無象では魔剣を持った瞬間に消し飛ぶ···いや、魔剣たちが「自分を振るうに相応しくない」と判断した瞬間に吹き飛ぶ。なんなら今ここで魔剣少女を顕現させるだけで、このホームは壊滅する。そんな魔力は残ってないけれど。
「じゃあ、ロキファミリアに入らないか?」
「お断りします。」
あまり使いたくないが、緊急時の魔力回復手段がない訳ではないし、戦闘に発展する事なんて考えずに正直に答えていく。
「魔剣の威力を教えてほしい。」
「黙秘します。」
即答。敵になるかもしれない輩に、誰がこちらの戦力情報を教えるかっていうんだ。居るとすれば、慢心しているか愚者なのか、でなければトラップだ。
「残念だ。···これが最後の質問だ。···君は、僕らの敵か?」
「···。」
これが聞きたかったのか。僕を怒らせて、この質問をぶつける。僕が感情で動く相手かどうか確かめようという算段か。策士だな。正直言ってこの団長のせいで「このファミリア潰さない?」という魔剣たちの提案が吹き荒れているが。
「貴方たちが、ヘスティア·ファミリアに敵対しないのなら、敵にはなりません。」
どうよ。この大人な対応。「大人は自分で大人とか言わない」って? ぐぅ。
「···それを聞いて安心した。ここから先は、上位ファミリアの団長としてではなく、冒険者同士の話し合い···交渉なんだけど。」
「···。」
何が上位ファミリアだよ滅ぼしてやろうか。と、主に邪悪属性の魔剣たちの為に最適化された部分の心が吼えている。
「最近、ダンジョンでちらほらと冥獣を見掛けるんだ。君にはこれを討伐してほしい。勿論、僕たちロキファミリアも全力で支援する。」
···ちらほらってなんだよ魔界かよ。実はここはまだ魔界だった? 或いは、迷宮が魔界と繋がっているとか、迷宮は実は古代遺跡だった、とかか?
「まぁ、それぐらいなら。」
と、言うか。この団長最後まで上からだったな? ほんと何なの?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、ロキファミリアの宴会に混ぜて貰ったが、話してみたら普通にみんな好い人だった。
で、新事実。団長、僕より年上だった。それもだいぶ。···いや、うん。そりゃ上から目線で当然だったよ。むしろ僕の態度が問題だったよ。謝りに行ったら「知らなかったのかい?」と笑って許してくれた。···いい人?
誰一人感想でミノ復活に触れない辺り、「あ、魔剣との絡みが大事なんやな」って思った。
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第二十一話 再会
「ランクアップ?」
「そう。マスター君は、まだかもしれないけどね。」
朝···いや、太陽の位置的には最早昼なのだが、僕が今さっき起きたから、今は「朝」だ。僕の中では。···で、今、僕は神ヘスティアに「ランクアップ」についての説明を受けている。モンスターを倒して
「僕は···って。ベルはそろそろなんですか?」
そういえばベルの姿が見えない。酒場にでも行ったのだろうか。
「ベル君は···なんというか、特別なんだよ。」
「はぁ···と、言うか。僕に「経験値」って入るんですか?」
魔剣を使った状態でいくらモンスターを屠ろうとステイタスが上昇しなかったように、経験値も反映されないのではなかろうか。と、言うか、されない気がする。
「···。」
それは神ヘスティアも同意見らしかった。
「ところで神ヘスティア。」
「ねぇマスター君。そろそろ、その呼び方辞めない? なんか他人行儀じゃないか。」
「はぁ···じゃあ、神様?」
「そうそう! そんな感じ!」
よくわからない判断基準だが、満足げに頷いているので放っておこう。
「それで神···様、ベルは?」
「むっ。···ベル君なら、とっくにダンジョンに行っちゃったよ。リリも一緒にね!!」
神ヘスティア、と呼びそうになった事を見咎められたと思ったら、なんかより一層怒り出した。と、言うか。ダンジョンだって? あの超強化ミノタウロスsの居る? 神性だけでも十分ヤバい相手だというのに、冥獣···っぽい何かまでいるんだぞ? 頭が悪いとしか言いようが···待て。そう言えば僕、ベルに神性やら冥獣やらの事を何一つ教えてないじゃないか。
「と、取り敢えず行ってきます!!」
「気をつけてね~。」
神様も神様でアルバイトらしく、いそいそと準備をしながら返事をする。気の抜ける声だが、気を抜いてはいられない。
「最悪だ···。」
最近、ダンジョンまでの道を走ってばかりいる気がする。ゆっくり見るほどの物もないし、敏捷のステイタスも上がるから別に害はないのだが。
ホームを出て少しすると、見知った金髪が目に入った。
「あ···マスター。どこいくの?」
「アイズさん良いところに。なんでこんなオラリオのはしっこに居るのか知りませんが丁度良かった。···。」
···何? 何が、どう良かったと言うのか。ダンジョンにヤバい奴がいるのでベルを助けに行きましょう。とでも言うつもりか? 神性のある武器も、SSランクの攻撃力が出る武器もない相手に、神性持ちのいる場所へ行け、と? それはただの死刑宣告だ。
「···今日はダンジョンには入らないで下さい。良いですね?」
なんとか理にかなった台詞を吐いて、返事は聞かずに走り出す。背後で何か言っているのが聞こえたが、重要な事なら追ってくるだろうし聞き返さずに走破する。
「退化したかな···。」
主に思考力とかが。あの勢いのまま口を開き続けていれば、飛び出た台詞は「ベルが危ない。一緒に来てください。」だった。
ダンジョンの階層を繋ぐ坂道を転がるように駆け降り、道中の有象無象のモンスターを雪月花で切り捨てていく。あのミノタウロス擬きたちは、何故か前回は僕らを見逃した。それに、その殺意は全て僕に向いていた。だからと言って、今回もベルが見逃されるとは限らない。
「···。」
覚えのある気配が坂道を上ってくる。6階層と7階層を隔てる坂道をゆっくりと後退して登り、それに合わせるかのように三つの異質な殺意が昇ってくる。
「!?」
見覚えのある異形どもが、6階層へ続く坂へ姿を見せた。近い順に、首に傷のある奴、宝石の埋まった奴、影、と、行進のように並んで歩いている姿は滑稽にすら映る。その本質を知らなければ、だが。
神性を持っているだけで、通常の攻撃は悉くが無効化される。その気になれば、都市一つ滅ぼすことも容易いだろう。冥獣に至っては、最早言うまでもない。魔剣以外は一切通さない馬鹿げた防御力と、魔剣の一撃にも匹敵する攻撃力。文明の破壊者、崩壊の権化だ
「ォォォォォォォォォ····」
唸り声を上げて、先頭のミノタウロスが威嚇してくる。一列に並ぶしかないこの坂道で屠らなければ──取り囲んで攻撃できる、6階層のフロアにまで登ってこられるのは些か不味い。流石に、最適化された体が防御面でも人外の域にあるとはいえ、神性二匹と冥獣の同時攻撃はきつい。広範囲殲滅攻撃は、迷宮そのものを壊す危険もある。
「ォォォオオオオオオオ!!!」
ミノタウロスが咆哮し、一直線に突進してくる。いやまぁ、それ以外の攻撃手段はないが。
「一匹目ぇ!!」
大上段からグラムを切り下ろし、脳天から真っ二つに切り捨て──
グラムの刃は、鈍く光るミノタウロスの角と
「···げぼっ」
僕は、咄嗟に
「何をしているの!? マスター!!」
支配も解け、受け身を取るどころか身体強化も大幅に削られた状態で壁に激突し、背骨が逝ったらしい。首から上しか動かせないし、体の感覚の一切がない。肺は機能しているようだが、空気を吐くごとに血も吐き出される。
「なんで···どうして···!?」
「いや···この間、グラムがズタボロになったのを見て···ね。」
思い出した。魔核が崩壊し、一切の思い出を無くした魔剣の、僕に向ける冷めた目を。
「この···!!」
馬鹿。とでも言うつもりだろうか。そんな悲痛な声を上げられても応えられないし···何より、
「お説教は後で聞くよ。グラム。」
踏み下ろされた、超重量級の脚を左手一本で受け止め、押し返す。バランスを崩したミノタウロスが、お仲間を巻き込んで坂道を雪崩落ちていく。僕の左手は、既に人の身ならざる銀色に変色し、変質し、変容していた。冥獣と同格の『災厄』として伝わる龍の骸から作られた、「腕」。
──銘は、『ぎんいろ』。
「マスター?
「···いや、駄目だね。
ぎんいろの中には、もう一人のぎんいろが居る。災厄の、最悪の龍王として顕現する、破壊を創る錬金装置。
──その銘は、『アルギュロス=ぎんいろ』。
「どうせだし、君もおいで。オーア·ドラグ。」
ぞわり、と。世界そのものから滲み出るように顕現したのは、アルギュロスと対になる、黄金の龍王。棺桶に似たフォルムの二つの超越存在を背後へ浮かせて従え、追撃を開始する。
「撃て。」
「いいわ。」
「いいだろう。」
片や静かに、片や傲慢に。応えると同時に、大気中のエーテルと僕の魔力を吸い上げ、
砂塵と血煙を上げ、それらをすら捩じ伏せるように、大量の黄金と白銀の魔剣が降り注ぐ。
並の魔物なら消し飛ぶ···どころか、攻城すら可能な攻撃。が、依然として牛畜生は健在。化け物どもめ、と悪態を吐く間もなく砂塵が晴れ、一面の黒──否、闇が露になる。
「庇ったのか···?」
「···そう。滅ばないの。」
「そんなことは認めんがな。」
らしくもなく殺意を漏らすアルギュロスと、どこまでも彼女らしく傲慢に嗤うオーア·ドラグ。いや、彼女も殺意を漏らしているのには変わりないが。
冥獣ミノタウロスが神性しか持たない雑魚を庇うように前面へ出て、その影の体で攻撃を受けきったのだろう。二人の攻撃を受けてなおその殺気が薄れない辺り、前回のワンドメイス型冥獣よりも強力な個体か。
「オァ■ァァ■■■■ァァ■ア■■■アアア!!!!」
こちらの動揺を見透かし、攻撃のチャンスとでも思ったか。
「そんなのありなの? ズルくない?」
リアル多忙につき更新頻度が低下(預言)
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第二十二話 片鱗
「猪口才な奴よ···。おい小僧、ブレイズドライブだ。」
「マスター。私も。」
「無茶言わないでよ···。」
冥獣ミノタウロスの壁を盾に、神性ミノタウロスの二匹はオーア·ドラグとアルギュロスの攻撃を防ぎ切っている。もう十分ほども、この拮抗は崩れない。いくら冥獣とはいえ、SSランクの魔剣二人の猛攻を凌ぎきれるものなのだろうか? 勿論、かつて世界を滅ぼした
「とはいえ、ブレイク状態にもならないってのはなぁ···?」
これだけ攻撃を加えてもガードブレイク──隙ができないとなると、本格的に何かしらの対策を練る必要がある。一生ここで粘る訳にはいかない。ベルを探しにいく必要もあるし、なにより何かの間違いでここにベルが来ようものなら、ほんの数秒で肉片と化す。
「はぁ···仕方ないか。グラム?」
「えぇ。いいわよ。」
殺意と怒りを漂わせる応えとともに、右手に馴染みの重さが加わる。願わくは、その殺意と怒りが僕に向いていないように。
「二人とも、
地面を蹴って加速し、黒い障壁へ剣を振り下ろす。柔らかく受け止め、絡み付いてくる影を切り払い、そこに金と銀の魔剣の贋作が雨のように突き立っていく。
「無傷か···ッ!!」
影が大きく膨れあがり、一部を腕のように成形して攻撃してくる。鞭のようにしなった一撃は、迷宮の壁を抉りながら殺到し、魔剣の贋作によって撃ち落とされた。
「凡百が、疾く潰えよ!!」
「させない···!!」
「ありがとう、アルギュロス!! オーア·ドラグも、いい対応だったよ!!」
意外と、この災厄の龍王二人と竜殺しの『魔剣』の相性は良いのかもしれない。
と、そんなことを考えていると。
「マスター···!?」
「は?」
アイズさんが、黄金と白銀の棺を背に、坂の上から驚愕に目を見開いて僕を見下ろしていた。
「今日はダンジョンに入らないでって言ったの、にッ!?」
また贋作が降り注ぎ、僕に向けて豪腕を振るおうとしていた、首に傷のあるミノタウロスが吹き飛ばされた。今のは本気で死ぬかと思った。腕はさておき、目前数センチを白銀の魔剣が通過したからね。
なんて。ビビった理由について語っている場合じゃなかった。
「オァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!」
胸に宝玉を生やしたミノタウロスが、金と銀の魔剣の猛攻を受けながらもアイズさんへ突進していく。アイズさんもすぐさま剣を抜いて迎撃の姿勢を取るが──そんなナマクラでは、神性を突破できない。打ち合った瞬間に吹き飛ばされてチェックメイトだ。
「仕方ないか。シャドウゲイト?」
「この状態で? まぁ構わないけど。」
僕だってSS魔剣二人を顕現させながらシャドウゲイトの転移なんてしたくない。既に魔力は半分ほど。神性二匹と冥獣を攻略するのには心許ない。
と、ぼやいていてアイズさんに死なれても困るので、さっさとアイズさんの前に転移し、ミノタウロスの前に立ちふさがる。アイズさんは邪魔なので、シャドウゲイトが2つほど下の層に送った。···正直言ってかなり魔力を喰われた。「ここでアイズさんを殺しておいた方が楽だったんじゃないか?」と考える程度には。
「ォァァァ···」
「獲物が消えて不満···って感じかな?」
こちらを睨んでいる一匹の背後、首に傷のある方も上ってくる。あの障壁を突破しない事にはどうしようもない···が、そこに至るまでの道筋は出来上がっていた。さっきのグラムの一撃を受け止めたとき、あの影は、僕の魔力をそのまま喰らっていた。攻撃力や衝撃が、インパクトの一瞬だけゼロになるという訳だ。
「つまり、僕の魔力があの影と同化している訳か。」
アルギュロスたちの攻撃も、悉くが吸収されていく。僕の魔力と大気中のエーテルが黄金と白銀の棺の中で混ぜ合わされた
ところで、僕の魔力は凄まじく変換効率がいい。魔剣を成形するのにも、ブレイズドライブを撃つのにも適した、
つまり。
「アルギュロス、戻って!!」
「オァァァァアアアアアアア!!!!!」
ミノタウロスが咆哮を上げて豪腕を鳴らし、豪快な右フックを繰り出すと同時、左手に纏った
影がぎんいろから魔力を吸った瞬間、体内の魔力を影の中にある僕の魔力ごと燃やして発動する。
BLAZEDRIVE:
影が爆発した。いや、意味の分からない表現ではあるが、そう表現するしかない現象が起こった。牛畜生どもの纏う防壁は消え失せ、脆い本体を晒している。···が、そもそもギリギリの状態でブレイズドライブなんぞ、自殺行為に他ならない。
がくり、と、意思に反して膝が折れる。ヤバい。さっきの爆発でミノタウロスどもは吹き飛んだが、別に死んだ訳ではない。現に今、宝玉の方が立ち上がり、殺気を噴出させながらこちらへ歩いてきている。駄目だ。意識が遠のいていく。魔剣たちはとうに実態を保てなくなっている。最適化も解け、ただの脆い一般人···いや、ボロボロの一般人と成り果てていた。
さっき、僕は攻撃を受けて吹き飛んだ瞬間にグラムの顕現を解き、僕自身が傷を負った。直後、魔剣を顕現させて体を最適化し、魔剣たちが支配することで負傷を一時的に治癒させていた。そこで魔剣の顕現を解くとどうなるか。当然、支配される前の体──背骨の逝った死に体に戻る。
「げぼっ···」
魔力の残量は限りなくゼロに近い。誰かを顕現させても、戦うことは不可能だ。
だが。
「ジャガー···ノート···。」
「本当に救えないひとですねー。あの金髪の半人を救わなかったら、こんなことにはならなかったんですよー? 分かってるんですかー?」
いつもの棒読みに僅かながら熱が籠っている。どうやらお怒りらしい···が、そんな状態でも僕の意思は汲んでくれた。
片腕だけが支配下に置かれ、ポケットへ手を伸ばす。そこに入っているのは「魔石ダイヤ」と呼ばれる、膨大な魔力を秘めた、虹色に輝く石だ。なんと、
「魔界の魔石はオラリオでは手に入らないから···なるべく使いたくなかったんだけど。」
ゆっくりと立ち上がり、右手のジャガーノートでミノタウロスを指す。呼応するかのように、牛畜生も腰を落として突進の姿勢を見せた。
「来いよ牛畜生···僕が救いを与えてやる。」
「ォォォォォオオオオオオ!!!!」
胸の宝玉を輝かせ、凄まじい速さで突っ込んでくる。どうもあの宝玉、敏捷のステイタスを底上げする力があるらしい──まぁ、関係ないが。
「僕の魔力量の上限は分からないけど···ここオラリオで一睡した程度じゃあ、全快しないんだ。勿論、魔剣を顕現させるのに足る分は回収できるけどね。で、僕は今魔石ダイヤを使って
──魔核の駆動開始。
──魔剣少女をアンロック。
──魔剣のロック、解除。AランクからSSランク。
──絆による性能の上昇率、100%。
──極状態及び極弍状態、解放。
──全プロセスの正常履行を確認。
──発動。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
跡形も残さずミノタウロスどもを鏖殺し、全快から半分ほどにまで減った体内の魔力を思ってため息を──吐いてる場合ではなかった。ベルを探しにいかなくては。
「って言うかさぁ···あそこまでやる必要あったの?」
「折角魔力が全快したんですよー? やらなきゃ損じゃないですかー。」
などと話しつつ、二階層分降りたところで、アイズさんに膝枕されたベルを発見した。おのれ羨ましい···美脚は共有財産だろうが!!
「はぁ···。」
ジャガーノートに本気のため息を吐かれたんだけど、これってどういうこと?
「あ、マスター。」
そっとベルを置き、早足でアイズさんが向かってくる。先程までは、こいつのせいで貴重な魔石ダイヤを使う羽目になったんだし、殺そう。という意見が何人かの魔剣から飛び出していたが、久々に《愚かな卑怯者の鍵》を解放したことで、今は上機嫌になっていた。
「さっきのあれ、何?」
「うっ。」
ですよねー。やっぱりそれ聞いちゃいますよねー。気になるよねー。
ワールドイズマインの効果? 秘密だよ。
ミノたんは何度でも復活する。だから退場が雑とか言ってはいけない。
誤字訂正終了?
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第二十三話
「あれが『魔剣』ですよ。説明しましたよね?」
「もう一回、見せて。」
多少辟易しながら言うと、即答で以て返された。面倒臭いな···殺すか? カルマ値がプラスの──性格が善性寄りの──魔剣たちから否定の声が上がる。じゃあ記憶を消すか? 殺害に比べて確実性に劣るが···まぁ、次善策か。残る案としては、「素直に従う」だが···別に、魔剣を貸せ、と言われた訳でもないし、僕を──ひいては、魔剣たちを利用しようという意図も見えないし構わない気もする。
審議開始。
「美人だしいいんじゃないかな。」
「美脚は正義。」
「脚には勝てない。」
「どうせ団長が出張ってきて見せる羽目になる。」
「じゃあここで見せて口止めしたほうが良い。」
審議終了。決定、見せる。
「···けど、条件があります。」
「分かった。」
まだ何も言ってないんだけど? 「死ね」とかだったらどうするんだよ···。
「まず、誰にも話さないと誓って下さい。」
「分かった。誰にも言わない。」
良い返事だ。あと一つだけ。
「それと···」
「···分かった。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アイズさんがリリを、僕がベルを担いでダンジョンを出る。アイズさんは僕より長身だが、それでも女性であって、リリの担いでいたリュックがその上体から大きくはみ出ていた。冒険者が一斉に帰路につく夕暮れどきにも関わらず、ヘスティアファミリアのホームまで事故らなかったのは、《剣姫》としての悪名(?)から、道行く冒険者諸君がモーセよろしく道を開けるからだろう。
おかげさまで何事もなく、我らがボロホームの廃教会に着いた。
「ここです。」
「そっか。」
「そういえば、何で昼はこんな所に?」
質問には答えずに、アイズさんはさっさと廃墟···じゃなくて、廃教会に入ってしまった。
「君はッ!! ヴァレン某君!?」
「ただいまです、神様。ベルも無事ですよー。」
ヘスティアの剣幕に面食らった様子のアイズさんを放置して、取り敢えずベルをベッドへ寝かせる。
「さぁて、と。」
こういう時ってどうすりゃいいんだっけ? 心臓マッサージ? 人口呼吸? 除細動? 手頃な発電装置とかないし、タブーの電流流せばいいかな?
「おっと、そうだ。意識の確認だ。」
いや、魔界に救命手順なんてなかったけれど。
「ベルー? 大丈夫ー? 聞こえるー?」
ぺちぺちと頬を叩くと、「神様ぁ···むにゃ」という答えを得る。
ふむ。
「ベルー? すぐそこにアイズさん居るけどー?」
「アイズさんッ!?」
跳ね起きた。こっちが驚くレベルの反射で。
「ベル君はボクのものだー!!」と叫ぶ神様を興味深げに見つめたあと、アイズさんがこちらを向いた。そのせいでベルがフリーズし···なに? 何かあったの? いや、待て。そう言えば膝枕されてたな? 羨ましい。
「はいはい、今度してあげるから、今は真面目な話でしょう?」
「ホントに? じゃあ是非。」
魔剣少女·ザ·ベスト·オブ·お姉ちゃん·その1──ベストなのに複数じゃないか、とか言ってはいけない──のシュムハザに膝枕してもらう約束をちゃっかりと取り付け、思考をきっちりと切り替える。
「で、ベル。何があったのか聞かせてくれる?」
「う、うん。それが──」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ふむ。大体分かった。ベルの倒したミノタウロスもどうやら通常のモノとは違うようだが···取り敢えず、生きていて何よりだ。しかも、僕の戦っていた階層の二つ下、つまり、僕がアイズさんを転移させた場所で戦っていたそうな。それにアイズさんの支援を断って、単騎でミノタウロスを屠ってのけるとは。本当に驚かせてくれる。
「やったよ、ベル君!!」
思考に浸っていると、ステイタスを更新していた神様が大声を上げた。
「ランクアップできるようになった!!」
「ホントに? 凄いじゃないか!!」
いやいやいやいや、まだ一月とかじゃないか? ベルがダンジョンに潜ってから。化け物なんて言葉じゃ言い表せないレベル。シンプルに凄い。言語力が···語彙が···
「じゃあ、次はマスター君の番だねっ!!」
ランクアップじゃなくて、ステイタス更新の話ですよね? そうですよね?
「服を脱いで、背中を見せて。」
安心した。
で、問題のステイタスがこちら。
──────────────────
力: 測定不能
耐久: 測定不能
器用: 測定不能
敏捷: 測定不能
魔力:A 869
──────────────────
スキルは相変わらずで、魔法は相変わらず発現していない。
「マスター君!? これ、どういうことだい!?」
「いや、まぁ、そりゃあ。」
「私を使い続けるーなんて、バカな事をするからですよー?」
せやな。
「君は···?」
いきなり僕の隣に現れ、ベッドに腰かけているナース服の少女──ジャガーノートのことをじっと見つめる神様。
「ジャガーノート、活動限界まであとどのくらい?」
「戦闘さえしなければー、数日は保ちますよー? 果たしてそんなことが可能なんでしょうかねー?」
無理でしょうね···。
「この子は、『魔剣少女』の一人で、ジャガーノートって言います。軽く病んでますけど、いい子ですよ。」
軽く病んでる、の辺りで睨まれたが無視する。
「で、この子と君のステイタスと、どんな関係があるんだい?」
「いや、実はですね、僕って、『魔剣を使える』訳じゃないんですよ。」
「それは聞いた。」
あ、そうですか···。
「···今の僕の体は、ジャガーノート用に最適化されて、彼女に支配されているんですよ。魔剣を扱おうと思えば、それだけの肉体キャパシティが必要ってことです。」
「どうして、そんなことを?」
「···僕の生身は、脊髄骨折と内蔵破裂で瀕死なんですよ。どこかの誰かがモンスターに神性を付与した所為で、ね。」
「モンスターに、神性だって? いや、それよりも、君は大丈夫なのかい!?」
「えぇ。大丈···あっ。」
「な、何!? どうしたの?」
魔導書使えば治せるじゃん。
「え? 気づいてなかったんですか? ···救いようがありませんねー。」
めっちゃ本気トーンで言われた。いや、だって、ねぇ?(意味不明)
ベストオブお姉ちゃんその1、シュムハザ。その2はアークチャリオット。
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第二十四話
って感じのローテンションで書いたから設定と齟齬があったり誤字脱字があるかも。
あとサブタイトル。思いつかなかった。
背骨を治して数日、神様が
「二つ名、ねぇ? "ルーキー"とか、"天衣無縫の使い手"とか、色々あったよね。」
「あれは、『称号』だったはずよ。魔剣機関が勝手に決めたモノだけど、それなりのセンスはあったわね。」
ほう。グラムをして「センスがある」と言わしめる称号か···何があったっけ? "経験してるしっ!!"とかかな。
「張り倒すわよ?」
ごめんなさい。せめてこのパンだけ食べさせてください。
「じゃあ、行ってくる。ちゃーんとカッコいい名前を付けて貰ってくるからねっ!!」
「あ、はい! よろしくお願いします、神様。」
「"魔王"とかオススメですよ、神様。」
「ベル君に魔王は合わないなぁ···。」
「僕もそれはちょっと···」
そうかなぁ···良いと思うんだけど。魔王。
「あとどんな称号があったっけ···"不撓不屈の使い手"とか?」
「"魔王"とかね。」
やっぱり良いよね? 魔王。グラムもそう思うよね?
「いいえ、露程も思わないわ。」
ぐさっ。今のは大ダメージだよグラムさん···お、オルタ···慰めて···。
「あ、あの···私も、お姉ちゃんに賛成です···。」
「真似るのは辞めて頂戴、と、言いたいところだけれど。これに関しては許してあげるわ。」
ぐはっ。僕のライフはもうゼロだよ···。
一人で悶えていると、ベルに物凄い目で見られた。もうね、冷たいとかいう次元じゃない。純粋に心配されてるのがホントに辛い。ベルには教えていいかな···ロキファミリアが知ってて仲間が知らないっていうのも変だし。
「ベル。今、「誰と話してるんだろう」と思ったでしょ?」
「え? いや、今は···」
「教えてあげるよ。僕のスキルのことも含めてね。」
僕は、魔剣について語って聞かせた。勿論、その具体的な威力や本数、消費する魔力量については隠したままだが。ちなみに後から聞いた話だが、このときベルは「リリはまだ寝てるのかな。そろそろ起こした方が良いよね···。」と考えていたらしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃ、じゃあやっぱりあの時の女の子って···!!」
どの時だろう···ベルの前で魔剣を出したのは···ミノタウロスから助けた時か。なら雪月花だね。
「マスターの体を舐め回してた女の子は、幻覚じゃなかったんだね!!」
「ぶっ」
飲んでたスープが鼻から出た。なに? 僕を舐め回した? 誰が? ···いや、いや、待て。そうだ。トマト化したときだ。酒場に入るのに不都合だから、アルカードにペロペロして貰ったんだった···!!
「べ、ベル···見てたの···?」
「遠目だったから、マスターだって確信は持てなかったんだけど···。」
そっかー、マスターだったんだー。と、納得した様子のベル。
「ま、まぁ、うん。そうだね。」
「ねぇ、その魔剣って、僕にも使えるの?」
「無理だよ(殺すぞ)」
逆···には、なってないな。大丈夫だ。でも声が冷たくなりすぎたし殺気も漏れた。いかんいかん。だから落ち着いてよ、みんな。
「···!?」
僕の周囲に多数の魔剣が──長剣、大剣、太刀、騎槍、杖棒、魔典から魔鎌に至るまで様々な魔剣達が顕現し、その切っ先を、照準を、ぴったりとベルへ合わせていた。オラリオ最強の戦士オッタルでさえ絶望する布陣。なのだが···
「うわぁぁ!? ごめん、ごめんってば、マスター!!」
狼狽える程度で済むベルは、もしかすると大物かもしれない。いや、まぁ、迷宮に出会いを求めて潜るような人間なのだし、大物だろう。
「驚かせてゴメン。でも、魔剣を貸すことは出来ないよ。」
「うん。分かった。」
ロキファミリアでも似たような事を言われたが──あの時はよく耐えられたと自分でも思う。ミョルニル辺りが全力で潰しにかかるかと思ったけど。
「私は貴方と違って、感情では動かない冷静な女なのよ!」
あー···うん。そうだね。(投げやり)
「で、ベル。今日はどうする?」
「今日は、ダンジョンには潜るなって神様が言ってたから···酒場にでも行こうかな?」
「そっか。じゃあ、僕も行こうかな。リディの働きぶりを見に行こう。」
とりあえず、鼻から出たスープの後片付けをしてから、ね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ、すみませーん。まだ営業時間じゃ···ベルさん!!」
お久しぶりです、などと返す辺り、ベルと懇意にしている店員なのかな···いや、そうだ。怪物祭のときにデートしてた人じゃないか!! スゴいな、ベル。まさかオラリオに来て一月そこらで···
「おや、マスターさん。お久しぶりです。先程シルも言っていましたが、まだ営業時間ではありませんよ?」
「あ、リューさん。お久しぶりです。」
おんなじセリフを返したようだが、僕とリューさんは付き合ってる訳ではない。一週間働いている間、彼女が僕にも仕事を教えてくれたのだ。···料理だけは、何故か別の人だったけれど。
「ただ様子を見に来ただけですよ。リディは?」
「リディちゃんなら、さっきミア母さんと買い出しに行きました。まぁ、中へどうぞ。」
営業時間外だと言いながら、机に乗っていた椅子を下ろして水を出してくれる辺り、この人は好い人だと思う。
リューさんに近況報告をしていると、我らがバイト戦士リディが帰ってきた。見たところ荷物の類いは持っていないが···置いてきたのだろうか。
「リディ。荷物はどうしたのですか?」
やっぱりリューさんも気になりますよね? まさか女将に全部持たせて···も、大丈夫なんじゃないか?
「荷物はねー、この人が運んでくれたのっ!!」
「ここに置けばいいの···?」
リディの背後から大量の袋を抱えたアイズさんが姿を見せた。小柄な体躯の半分近くが、パンや野菜の入った袋で覆われている。っていうか、アイズさん何やってるんですか···昨日も気づいたら居なくなってたし···。
「荷物運んでくれたら、ジャガ丸くんの限定バージョン、買ってくれるって言われたから。」
おい。リディ。オラリオトップクラスの冒険者を食べ物で釣るとかどんな神経してるんだ。っていうか荷物持ちぐらいなら僕がやるから、他所のファミリアに迷惑かけないの。
「はーい!! じゃあ、明日からお願いね? マスター!!」
しまった。釣られた。
お疲れ様でした。と言ってアイズさんにも水を渡すリューさんを眺めながら「なんかこの二人似てるな···」などと考えていると、不意に袖を引かれた。
「リディ? どうしたの?」
「マスター、マスター。リリさんはどうしたの?」
「···おおっと。」
完全に忘却の彼方へ飛び去っていた。ベルー!! ベルー!!
「何? マスター。どうしたの?」
おいおいシルさんとイチャついてる場合じゃないぞ···。リリのこと、忘れてないか?
「え? いや、ちゃんと朝ごはんは置いてきたし、「酒場に行く」っていう書き置きもしてきたよ?」
そういう問題じゃないだろ···。あぁ、もう遅い。入り口に立つあの小さな影は···
斯くして、第二次ベル争奪戦が始まった。
へいわなせかい
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第二十五話 魔剣製造者(ブラック·スミス)
ブキダスさんではない。
「マスター、見てないで助けて···って、見てすらいない!?」
両腕をシルさんとリリに引っ張られているベルの悲鳴を遠くに聞きながら、リューさんに注いで貰った水をくいっと傾ける。三人掛けのテーブルは僕とリューさん、それにアイズさんが、始業前だというのに占領していた。
「アイズさん、冥獣の情報はありましたか?」
「そっちは、大丈夫。」
そっちは、ということは、
「オラリオには、
「魔剣を打てる、ですか···。」
魔剣を作る、と聞いてまず浮かぶのは、埴輪のような顔のついた
「どこに行ったら会えますかね?」
「ごめん、そこまでは分からない。」
まぁ仕方ない。そんな凄まじい鍛治師が居るとして、「俺は魔剣が造れるぞー!!」と吹聴していたら正気を疑う。
「じゃあとりあえず、ヘファイストス·ファミリアとかギルドとかに行って、情報を集めてみます。」
お邪魔しました、と言って店を出ていく。アイズさんが何か言った気がしたが、リューさんが対応していたようなので、僕に言ったのではないのだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ、神会だから、ヘファイストスファミリアの武器屋は休み···行っちゃった。」
「ギルドも、そう言った情報は教えてくれませんよ···行ってしまいましたね。」
数日後。こんな会話があった、と、僕はリディから聞いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「すいませーん。」
こんこんこん、と、ノックしても、ヘファイストスファミリアのドアは開かなかった。鍵も掛かっているし···まずはギルドに行こうか。
「あら先生、この程度の鍵、わたくしが開けて差し上げますわ!!」
「え? セスタスって、ピッキングとか出来るの?」
舌足らずな声が響き、魔力が吸われ、一瞬の後に、水色と白のグラデーションの髪をツインテールで結んだ幼女が表れた。華美なドレスや可愛らしい顔に似合わず、両手には銀色の無骨なガントレットを着けている。
「じゃあ、まぁ、よろしく?」
別にそこまで急がないのだけれど···そもそもセスタスがピッキング技術を持っている事が驚きだったので見せてもらうことにした。それもレディのたしなみなのだろうか。
「えい。」
可愛らしい声を上げ、
「···ぇ?」
ピッキングというより、ドアブリーチ?
「えい。えい。えい。えい。」
殴った。殴った。殴った。殴った。
開いた。
「どうです? 見事に開いたでしょう?」
「···え? あ、うん。そうだね?」
ありがとう?
「ふふん。」
セスタスは満足げに実体化を解いて消えていった。えーっと···まぁ、いいか。
「お邪魔しまーす。」
武器や鎧の並んだ棚の間やカウンターには誰もおらず閑散としているが、工房の方からはハンマーの音が聞こえていた。
「すいませーん。開けますよー?」
手近なドアを開け、熱気漂う工房へ入っていく。中にいた赤髪の男性の、「誰だお前」という視線が痛い。
「あ、えっと、神ヘファイストスと契約している者なんですが、彼女はどこに?」
「ヘファイストス様なら、神会に行ってますけど?」
あー。そっか。そうだよね。うん。忘却の彼方だった。
「そ、そうですよね···忘れてました。」
「武器のメンテナンスって訳じゃなさそうですけど、何の用事ですか?」
「あぁ、いえ。ちょっと聞きたい事があって。···そういえば、貴方は、『魔剣が造れる鍛治師』って、知りませんか?」
ん? 今この人、顔が強ばったな。···というか、ヘファイストスファミリアの鍛治師は髪が赤くなる呪いでもあるの? それともそういう風習なの?
「···その鍛治師について知って、どうするつもりだ?」
「え? うーん···。」
特に理由は無かったが、強いて言えば、新しい魔剣が造れるのか試したかったし、魔剣の強化も頼みたかった。
魔剣たちの強さ──製造時点からの成長度合いを「レベル」と呼ぶのだが、リディの連れていたペット(?)の、「もち」──業界の人は「ちーもー」って呼ぶらしいが──を使った強化では、レベルにして215レベルまでしか強化出来なかった。が、もしも、ブキダスさんのごとき超級の鍛治師がいるのならば、その上を見てみたかった。
さっき、この思惑を魔剣たちに語った時に「既に完成されたこの私を、さらに強化するというの? ···貴方、世界でも滅ぼすつもり?」と、グラムに心底愉快そうに言われたけれど。
「···って言うか、こっちの魔剣はゲテモノ以下のゴミ同然の代物だったっけ。」
しまったなぁ···今週のしまった。『魔剣』が造れる、なんて言っても、どうせオラリオで言う『魔剣』であって、僕の持っているような真性の『魔剣』には遠く及ばないモノしか造れないだろう。
「···おい、お前。」
「はい?」
なんか怒ってる?
「一週間後、もう一回来い。」
「は、はぁ? 分かりました。」
え、なに? なんで怒ってるの? ···あ、そうか。こっちでも「魔剣」は武器の極致なのかな? なるほど。僕がそれを侮辱するような事を言ったから怒ったのか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
つい了承してから数十分。僕は足取り重くホームへ戻ってきていた。
「ブキダスさんが居るわけないよなぁ···はぁ···。ただいま···。」
「おかえり、マスター君! ベル君の二つ名が決まったよ!!」
魔王?
「いや、もう離れようよ···。ベル君の二つ名は、『
「···なんというか、普通ですね。」
「それで良いんじゃないか! シンプルイズベストって奴だよ!」
魔王の方がカッコいいんじゃないかな···いや、待て。僕がランクアップしたときに『魔王』の称号を取れば良いじゃないか。よし。そうしよう。
感想ありがてぇです···低評価と減っていく総合評価に心折れてエタる所を救われたよ···
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第二十六話 予兆
ベルの二つ名が決まって数日。防具の新調と言って買い物に行ってしまったベルを置いて、僕はダンジョンへ潜っていた。10層付近で新種のモンスターが出現した、という情報がもたらされたからだ。曰く、そのモンスターには一切の攻撃が通じない。迷宮のどんなモンスターより奇怪な姿をしている。そして、
「十中八九、冥獣だろうね。」
情報が出た──つまり、その姿を見て生き残った者がいる時点で、そこまで強くない個体だろうと推察できる。本来の冥獣とは、文明ごと生命を破壊し尽くすモノのハズだからだ。魔剣を持たない一般人では交戦など不可能。
──いや、待てよ? では何故、武器が通じないと分かったのか。一戦交えたのは確実か? くそ、もっとちゃんとした情報を貰っておくべきだった。慢心しない、などと言ったくせに。
──後悔は文字通り「後」にしよう。今は情報を整理すべきだ。心を挫き勇気を損なわせる力──勇気分解、と、魔剣機関は呼んでいた──を持った咆哮を上げる冥獣と戦うのなら、当人の意思に関わらず身体を動かす為の、魔剣の顕現と最適化は必須。故に、オラリオの冒険者では対処不能。魔剣使いでも居れば別だろうが···そんなことはありえないと断言できる。
──一撃かそこら、攻撃を加えた冒険者は冥獣の咆哮を受けて逃走した···そう考えるのが妥当だろうか。いや、冥獣どもは外観に似合わず素早い。逃走なんてできるのか? ···パーティーの仲間を犠牲にしたのか? 囮···生け贄か。合理的だし納得もできる逃走方法だ。
──と、なると、その冥獣は広範囲攻撃の手段を持っていない?
──これは楽観的すぎるな。そして、最も気になる一文。
「おっと。」
思考に没頭していたら、いつの間にか問題の十階層へ到着していた。
「···仕方ない。冥獣を探して答え合わせといこう。」
十五分ほど歩いただろうか。人一人が通れるくらいの小さな壁の亀裂を見つけた。──この奥だ。
冥獣は何度も言うように、「文明の破壊者」である。故に彼女たちは、全方位へ膨大な殺気を向けている。この世において文明を根底に置かぬモノが無いように。彼女たちの破壊の対象にもまた、区別はない。
「でも迷宮は壊れないのか。···なんで?」
亀裂に身体をねじ込みながら独白する。全ての知識の載った魔導書である『マビノギオン』や、原初の魔剣の一振りであり、天地開闢の実行者である『カラドボルグ=エア』に聞けば──後者は忘れている可能性もあるが──分かるだろうが、この方法は実際のところ有用ではない。マビノギオンやセラエノ断章には、確かにあらゆる知識が乗っている。が、分かりやすいかどうかは別だ。最適化された僕であれば読むことはできるだろうが、理解できるかと言えば疑問が──いや、見栄を張るのは止めよう。正直言って全く分からない。
「···よいしょっと。」
最終的にかなり狭くなっていた亀裂を通り抜け、開けた空間に出る。半径20メートルほどのドーム状の空間で、僕の通ってきた亀裂の丁度反対側の壁に、情報源の冒険者が通ったと思しき大きめの穴──通路がある。
巨大な、なんだかよく分からない生物の頭蓋骨から、不釣り合いなほどに華奢な女性の身体を生やした異形──カタナ型冥獣。名前通り、片腕からは湾曲した刀身を生やしている。
「···うーん?」
正直言って、そこまでの脅威ではない。RPGで言えばストーリー一章の中ボスくらいだ。魔剣使いからすれば、だが。
範囲攻撃もない。そこまで高位でもない。僕の推理が悉く外された。恥ずかしい。
「『答え合わせといこう』···ふっ。」
僕の声まねを投げてきたのは、決闘の魔剣──槍だが──『グラーシーザ』。
「名推理だったよ、マスター。ふふっ···。」
「いつまで笑ってるんですかそろそろやめてくださいおねがいします···。」
精神が死ぬ。
腹いせも兼ねて、この冥獣には一瞬で退場願おう。
「おいで、ミストルティン。···あとグラーシーザも。」
「ちょっと、止めてと何度も言っているでしょう?」
「まぁ、いいじゃない。私は結構気に入ってるんだから。貴女との共闘。」
「え? 剣でしょ?」というヴィジュアルの騎槍『グラーシーザ』と、「ホントに剣として作る気があったの?」というヴィジュアルの騎槍『ミストルティン』。関係性は──ミストルティンがグラーシーザを過剰に意識している、といった感じか。グラーシーザはそれを楽しんでいる感じだが。
「さて···行くよ?」
右手には炎属性の決戦兵器『グラーシーザ』。
左手には風属性の運命を司る武器『ミストルティン』。
「準備は良いかしら?」
「行くわよ、マイマスター。」
「十全だよ。」
槍を扱う上で重要なのは、器用さやスピードだ。従って、僕の身体はそれらに偏って最適化されている。一撃食らえばそれなりのダメージを被るだろう。相手がもう少し強大ならば、の話だが。
「まず一撃ッ!!」
リーチの長いミストルティンで高速の刺突を繰り出し──違和感に気づく。
確かに、今の一撃の速度は凄まじい。並の魔物なら視界に映ったことにも気付かないだろう。だが、こいつは冥獣だ。そんじょそこらのモンスターとは一線を隔する化け物。見えない訳もない。槍を二人という手数重視の戦闘スタイルであるが故に、一撃触れた程度では確かに即死はしない。が、熟度75、レベル215の魔剣の一撃だ。生命力の大半は奪える威力を持っている。
──避けない?
──違う、こいつは···!!
ぐさり。と、面白いくらいあっさりとミストルティンの切っ先が突き立った。
冥獣は、既に息絶えていた。ならば、あの殺気を放ったのは何か。この冥獣を屠ったのは何か。このドームには冥獣の死骸と僕。そして出口は2つだが、片方僕が来たから、必然的にもう片方から出た事になる。
あの特徴的な殺気は間違いなく冥獣のものだった。だが、この空間にあったのは死骸のみ。誰か、或いは何かが、冥獣を屠ったことになる。出口の高さは2~3メートル。冥獣を屠れる人間がいるとは思えないから···
「超小型冥獣とかかな?」
ここに至るまで戦闘音はなかった。つまり、あの冥獣は鎧袖一触に屠られたことになる。強力な冥獣でもなければ無理だ。
「マスター。これを見てくれない?」
魔剣少女の状態で顕現していたグラーシーザが、出口の前で僕を呼んでいた。
「なに? どうしたの? ···ぉぉぅ。」
あったのは足跡。僅かながら、赤く漂う強烈な魔力を持っていた。
「なんだよ、それ···。」
そんな特徴的な魔力は、僕は一つしか知らない。
──暴走した、魔剣少女のものだ。
なお主のところのミストルティンは熟度15ぐらい。レベルは1。グラシは熟度3でレベルは1。だ、だって使ってないし···。
感想とか評価とかありがてぇです!!
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二十七話 回想1
暴走した魔剣少女が現世を彷徨することは、実際のところそこまで珍しくはない。魔剣機関にも対策本部が頻繁に立っていたし、魔剣使いや勇者もよく駆り出されていた。強力無比な魔剣が暴走するのは、その依り代である「ガワ」──つまるところ、魔力の結晶体である魔剣が壊れた場合だ。それでも魔剣使いとの信頼関係や絆の強さ次第では、逆に暴走し強力さを増した力を振るってくれたりもする。が、逆に、魔剣との絆が不十分だった場合は──「存在そのもの」がバラバラに散り、色々な場所で、暴走した魔剣として出現する。その薄れきった存在の核を強化し、実戦に耐える形になるまで育て上げる、といった事もしていた。僕の持つ中では···マビノギオンやアルカードがそうだ。
で、何故こんなことを今さらになって思い出したのか、と言えば。
「暴走してる魔剣、誰?」
僕は、魔剣機関から出された討滅依頼を悉く無視し、暴走した魔剣たちの存在の欠片を集め、元あった姿に戻してきた。記憶や、思い出、経験、そういったモノは、かけがえのないモノであるハズだから。──で、だ。僕は魔剣機関が討滅依頼を出す都度に、余さず出撃していた。だから「暴走した魔剣」なんてものはいない筈だが···
「新しく魔剣が発見されたのか?」
冥獣と同じく古代の武器である魔剣たちは、たまに新しい娘が発見される。今回もそのパターンの可能性があるが···
「魔剣機関め。把握していなかったのか?」
魔剣機関が認知した瞬間、討滅依頼が出される手筈に──いや、人間界では奴らの腰も重いのか? 支部がない、なんて、そんな弱っちい組織ではないし。
「マスター。なんとか、助けてあげられませんか?」
「そうだな、マスター。助けないにしても、せめて我々が裁くべきだ。」
思考の淵から僕を引きずり出したのは、二人の魔剣少女の声だった。マビノギオンと、イノケンティウス。どちらも、暴走していたのを僕が討伐·回収した娘だ。それだけに、暴走することの怖さを知っているのだろう。記憶が薄れ、何故、自分が暴走しているのかも分からぬままに、もて余した力を解放する···。
「···言われなくても、そのつもりだよ。」
足跡を辿って、どんどん迷宮の奥へ進んでいく。機嫌よさそうにしている二人は、いつの間にか実体化し、僕の両手を占領していた。
「どうかしましたか? マスター。」
微笑しながら首を傾げるマビノギオン。左手を引いて先に歩いて行ってしまうイノケンティウスに付いて歩きながら、逆に問いかける。
「どうか、って···何が?」
「だって、マスター。すごく怖い顔を···いいえ、すごく、
「···そうだな。まるで悪事の露見した罪人の様だぞ。」
いや、別に悪事を働いた訳じゃないのだけれど···。そう、だね。怖い。僕の知らない魔剣がいるかもしれない事が、というよりは、この、デジャヴを感じる状況に。
次回、回想2にて、伏線回収(予定)
予定は未定で不安定。
感想ありがとうございます!! 下がり続ける評価に怯え日々の癒しになりつつある。
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二十八話 回想2
僕は、右手をジャガーノートに、左手をグラムに引かれて歩いていた。魔剣機関の出した『リーマ郊外の遺跡を探索せよ』という依頼をこなす為だ。依頼内容は、探索と銘打っているクエストのくせに、『遺跡最奥部の暴走魔剣の討伐』ときている。
「でも、どうせ討伐なんてしないでしょう?」
僕の数歩前を歩くグラムが、前を見据えたまま問うてくる。流石に長い付き合いだけあって、僕の思考が分かっている。その通り、僕は「暴走魔剣」とやらを壊すつもりなんてない。その存在の欠片を再構築し、元通りにする。だから、
「うん。そのつもりだよ。···だからよろしくね。みんな。」
と返した。冒険者の集う街、『リーマ』を出てから、僕は三人の魔剣を顕現させていた。『魔剣グラム』、『魔剣グラム·オルタ』、『ジャガーノート』。一番付き合いの長い、気心の知れた兵器たち。
「ほらほら、マスターさん。見えてきましたよー?」
ジャガーノートが右手で指した先、古びた神殿のような遺跡がある。中に出現する魔物はそこまで強力ではないが数が多いため、結構な頻度で魔剣機関の勇者や魔剣使いが駆り出されている。
「あそこで暴走させるって、余程酷使してたんだね。」
「救いようのないヒトも居るものですねー。」
「あの程度の魔物で暴走する魔剣の方も、問題があるんじゃないかしら?」
「お姉ちゃん、そ、その、魔剣を暴走させるような敵が、居るかもしれないし···。」
心底どうでもよさげなジャガーノート。自分以外が「魔剣」を名乗ることにまだ抵抗のあるグラム。その対象の一つであるオルタ。
不安材料がてんこ盛りだった。──通常なら。彼女たちはその態度や風貌からは察することすら出来ない強大な武力を持って──いや、彼女たち自身が、強大な武力そのものだった。
「じゃあ、行くよ? 魔剣の所まで突破するッ!!」
いつものように遺跡に沸いた魔物を蹴散らしながら、どんどん奥へ進んでいく。半分ほど進んだだろうか。僕は、凄まじい悪寒に襲われた。
「···え?」
遺跡の最奥。「暴走した魔剣」が居るとされている場所。そこから、そこらの冥獣より余程強い殺気が溢れていた。
「おい、おい、なぁ、嘘だよね? なんで? なんで?」
こんな超級の──特級の武器を振るうに相応しく、特級の精神を持った僕をすら怯えさせるほどの──殺気を放つのは、まず間違いなく
アビス級冥獣。
『ノーマル』、『ハード』、『ルナティック』と区分される冥獣のランクの埒外──言葉にすれば、『熟練の魔剣使いによるレイドが必要』というレベルの災厄。間違っても1人で倒すような相手じゃない。ラッキーパンチでどうこうできるレベルじゃない。魔力総量の半分しか残っていない僕が相手取る奴じゃない。
やだなぁ、関わりたくないなぁ···なんて呟きながら、確認だけでもしようと歩を進める。
最奥、ホールになった場所の中央に、そいつはいた。
形状としては『アロウ型』──謎生物の頭蓋骨の口から、骨で組まれたボウガンを突き出したような形状をしている。
「グァ■■■■ァァ■■ァ!!!!」
目が合い、冥獣が咆哮を上げる。
「!?」
遺跡の最奥、だだっ広い空洞の中に、耳を突き刺す大音量が響く。
「あーあ。逃げたい。」
逃げられない。こんな所に──こんな、街の近くに冥獣が居るなら、討伐する他に選択肢はない。ここで逃げても、どっちみち街ごと──下手すれば国ごと──滅ぶだけだ。
「あら、なら逃げればいいじゃない。私達が時間を稼いであげるわよ?」
あぁ、グラム。君は本心から言っているのだろうが···その言葉で、道は消えた。戦う以外の道は、だが。
「···そんな格好悪いところは、見せたくないかな。」
「今更、ね。」
そうかも、ね。
さぁ、行こう。
視線を冥獣に戻したとき、目前には骨で出来た鏃が迫っていた。
「会話中の攻撃はタブーじゃないか?」
ぱし。そんな拍子抜けする音を立てて、僕は鏃を掴む──筈、だった。
「マスター、駄目ッ!!」
珍しく大声を上げたグラム·オルタが割り込み、右手で矢を掴み取った。彼女たちにしてみれば、落ちたコインを拾うのにも等しい、なんのことはない行動だ。その筈だった。なのに、ぱきん、なんて、軽い音を立てて、オルタに回していた魔力がゼロになった。
ふっと掻き消えるように実体を失うオルタを見て、何が起こったのかを必死に考え──わからない。
「ジャガーノートッ!!」
ジャガーノートの支配に任せ、冥獣に肉薄し──一閃。ぎゃりっという音を立てて刃が火花を散らした。
「なんなんですかー、あれ。」
「並みのアビスより強そうだね···ッ!!」
またしても飛来した矢を避ける。大丈夫だ。そこまで早くはない。
僕は安堵のため息を吐き──右手のなかで、ジャガーノートの実体が消えた。からん、と音を鳴らし、冥獣の方を向いて矢が転がる。
「ホーミング?」
僕を守るように立ったグラムへ魔力を注ぎながら、謎の攻撃の正体と対抗策を必死に考える。考える。考える···。駄目だ。思いつかない。
「鏃に当たらなければいいんでしょう?」
なんて言って、グラムは手に持つ大剣で地面を抉り、壁にして防いでいるけれど、そんなものは長く続かない。
「いや、でも、それはその通りだ。レヴァンテイン、ヘル。壁を作ってくれ。」
右手に炎を切り取ったかのような、赤い、波打つ剣を持った少女と、左手に地獄の業火を切り取ったかのような、黒く、波打つ剣を持った少女。僕を挟んで実体化した二人が同時に剣を振るい、僕らと冥獣の間に焔の壁を作った。これで安全──とりあえずジャガーノートたちの様子を見て、後は遠距離攻撃で安置からボコボコにしてやる。
「大丈夫? 二人とも。」
「は、はい。魔力がなくなっただけです···。」
「ちょっと屈辱的ですねー。」
棒読みのジャガーノートのセリフには、本心からの殺意が籠っていた。僕も、そうだ。
「どういう訳か知らないけど、魔力をゼロにするらしいね。」
タネを探る必要なんてない。対策なんていらない。
「···は?」
「お姉、ちゃん···?」
僕とオルタの呆けた声に合わせるように、冥獣の口から覗くボウガンが、白く光る矢を射ち出した。
あれは、やばい。そう直感した。
僕を庇おうと前に出たレヴァンテインを全力で押し退け、右手で矢を受ける。鏃が貫通し、少量の血が飛沫となって顔に跳ねる。レヴァンテインの戸惑いと怒りの声が耳に入るが、それよりも大事なことがある。魔力の供給を一斉に遮断し、魔剣たちの実体を奪う。
あの矢──あの矢は、魔力を削るなんて可愛いシロモノじゃない。
「マスターっ!」
オルタの叫びが脳へ響くが、それに被せて質問する。
「オルタ。LPが減ってないか?」
LP。魔剣たちの
「あっ!? 減って、ます···。」
「私も同じです···これ、どういうことですかー? マスターさーん。」
簡単なこと。魔力もろとも、LPを奪う矢なんだよ、あれは。装甲も、HPも、関係ない。当たれば、即座に、LPを奪われる。
さっきまではそうだった。今、奴が撃ったのは──より強力な、
「ふざけ■な。」
グラムの魔核は崩壊した。
グラムの記憶は無くなった。
グラムの技術は退化した。
グラムとの思い出も無くなった。
グラムとの絆は消え失せた。
また、彼女の目が冷たくなる。
僕や、魔剣たちを仲間だと認めてくれた、彼女の、あの優しげな声は、聞けなくなった。
「ふざ■る■。」
にやり、と、冥獣が笑った気がした。傍目には、僕の魔力が尽きて、魔剣を顕現させられなくなったように見えるだろう。実際、矢の所為で魔力はゼロに近い。もう立っているのも辛い。──それで?
だから?
だから、どうしたって言うのか。
倒れる? まさか。
諦める? そんな訳がない。
僕の、大事な、大切な、
「
冥獣の動きが止まった。馬鹿め。警戒するなら、即座に殺すべきだよ。
右手で魔石ダイヤをポケットから取りだし、砕く。瞬間、膨大な魔力が体を包んだ。
「
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
崩壊した魔核は、魔石エメラルドを10個使用すれば修復できる。···そこに、記憶は宿っていないが。
「貴方が、この私を振るう魔剣使いかしら? ふふ···「魔剣」使い、を名乗れるのだから、光栄に思いなさい?」
「あぁ···うん。よろしくね、グラム。」
上手く笑えていたか。僕は今でも自信が持てていない。
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第二十九話
右手を握っていたマビノギオンの手を解き、魔石ダイヤを握りしめる。もし、もしも、あの時のような状況に陥れば、即座に『
「怯え過ぎじゃないかしら。私たちは、あの時よりも強くなっているのよ? それに──」
クスクスと笑ってグラムが言う。台詞の最後を聞く前に、通路の奥にぼんやりとした光が見えた。
「···どうやら、冥獣じゃなかったみたいだね。」
「そうですね···でも、あんな娘、居たかしら?」
通路の奥には赤い魔力を垂れ流す、暴走した魔剣少女が佇んでいた。だがマビノギオンの言葉通り、その風貌に見覚えはない。新しい魔剣なのだろうか。
「ねぇ君、名前は?」
「···?」
彼女がこてん、と、首を傾げる。僕の言葉は届いているが、理解が出来ないのだろうか。
「それにしても、僕の知らない魔剣か···。」
油断せず、何時でもグラムを顕現してマビノギオンとイノケンティウスの三人で攻撃できるように構えながら思考を巡らせる。
「新しく造られた魔剣なのかな?」
「誰がそんな事をする? ···いや、誰が、そんな事を可能とする? ブキダスでも持っていると言うのか?」
イノケンティウスの言う通りだ。魔界ならばさておき、ここはオラリオだ。魔剣少女を造るなんて、そんな超技術はないだろう。
「···。」
絢爛豪華、と言い表すのが相応しいドレスを纏った暴走魔剣は、その赤い魔力を纏った両手をゆっくりと持ち上げ、此方を指した。そこには、二挺の拳銃が握られている。
「!?」
「避けろ、マスター!!」
「ばーん。」
発射音を口で言う意味は分からないが、起こった現象は洒落になっていなかった。
ぐい、と、イノケンティウスに腕を引かれ、5メートル近くを移動する。僕が今さっきまで立っていた場所には、巨大なクレーターが出来上がっていた。
「?」
彼女は僕がまだ生きている事を不思議がるかのように首を傾げ、銃の照準を合わせ直す。
「完全に魔剣じゃないか!」
「誰も『魔剣じゃない』なんて言ってないだろう!」
仰る通りで。
に、しても。
「正規の魔剣っぽいから、殺さないようにしよう。いいね? 皆。」
「確約はしかねるが、まぁ善処はしてやろう。」
「マスターの、御心のままに。」
「私に並ぶ魔剣なら、本気で行っても死なないでしょうに。」
三者三様の返事を受けて、イノケンティウスを振るうに最適化されたスピード型の速度で以て、マビノギオンの強化を受けた、グラムを使うに相応しい火力特化に最適化された体で以て攻撃する。そこに内包された魔力は、マビノギオンを操るに足る膨大さ。
『
「はぁっ!!」
一撃入れて即座に離脱。グラム単体では成し得なかった動きが可能になっている。···さらに。
「え···?」
暴走した魔剣が困惑の声を上げる。恐らく、今の彼女の脳内には「何故、自分の魔力変換効率が低下しているのか」とか、「何故、思った通りの速度で動けないのか」という疑問が吹き荒れているのだろう。まさか、グラムの攻撃にマビノギオンの魔術が内包されているとは思わないだろうから。
「うぉぉ···流石に魔力を喰うなぁ···。」
とは言え、単純に三人同時に使う以上の魔力消費はある。乱用はできないし、そもそも、使い勝手が良いわけでもない。意表は突けるが、特化させ切ったソウルに勝てる適性が出る訳じゃない。あくまで、パワー型にスピードを与え、代償としてパワーを下げる、平均化としての手段に過ぎない。
「私の魔術も弱体化されていますし···やっぱり、そう上手くは行きませんね。」
「致し方ないことだ。気にするな。」
「とりあえず、そこの新参者をなんとかするべきよ。」
三者三様の慰め。いや、別に、落ち込んでいる訳じゃない。···本当だ。
「やっぱり、順当に行こうか。マビノギオン?」
「はーい。分かりました。」
まずマビノギオンが離脱し、本人が僕へ強化を掛ける。
「次はイノケンティウスだね。」
「任せておけ。」
次いでイノケンティウスが離脱し、僕へ余剰魔力を回す。
「よーし、行くよ。グラム?」
「魔剣の何足るかを、教えてあげるわ···。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト
回避もガードもできない状態で、グラムのブレイズドライブを受けたのだ。その結果何が残るかなんて、分かりきっている。
だが、魔剣というモノは大半が魔力で構成されているし、魔核の完全破壊なんて、それこそ全盛期の魔王でもなければ無理だろう。つまり、暴走していた魔剣の意識は吹き飛び、魔力も吹き散らされているが、魔核は無事だと言うことだ。
ここに、新たな魔剣が、僕の元へ加わった。
感想ありがとうございます
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第三十話 しゅんしゃつ
「ふっ!」
「ばーん。」
「せいッ!」
「どっかーん。」
ダンジョン十層。未確認魔剣改め新参魔剣、『ティターニア=ネオ』の試射を行う僕の姿は、さぞかしシュールなモノだろう。
どこぞの山猫も斯くやというガンプレイを挟みながらの精密速射。ダンジョンの壁に弾痕の域に収まらないクレーターを穿つ高威力。──僕の背中に負ぶさるように実体化し、射撃の度に口頭で気の抜けた銃声を鳴らすドレス姿の少女。耳元で「ばーん」とか言われると凄くくすぐったいし、背中に暖かな体温が感じられて表情が引き締まらない。それでも馬鹿げた威力の武器を扱うのだから、と気合いを入れようとした結果、なんとも言い難い表情を晒している。
「はぁッ!」
「ばきゅーん。」
なんか すごい ぞくぞく してきた。
「···じゃなくて。試射はこれくらいにして、質問があるんだけど、いいかな?」
「んー? なーに?」
「何故ここ──いや、何故、魔界の外にいたの?」
こてん、と、またもや首を傾げられた。
「まかい?」
「そう。魔界。」
「わたしは···気づいたらここにいたよ?」
「···。そっか。」
暴走前の記憶が消えているのかな? だとしたらまだ完全に修復できていないのか···。
「あ、でもねマスター。」
「どうしたの?」
「わたしは間違いなく、ここで生まれた魔剣だよ。」
「ここって···オラリオで、ってこと?」
こくり、と彼女は頷いた。
ふむ? ブキダスさんがオラリオに居ると仮定して、だ。魔剣が造られた瞬間に暴走するなんてあり得ない。特にブキダスさんが造り出した魔剣は安定しているから、誰かが意図的に暴走させたり、大量のダメージを負わせでもしない限りは──あ? いや、そうか。意図的に暴走させなくたって、資格のない者が無理やり使おうとすれば暴走の危険性もある。
「なんにせよ、ブキダスさんがこっちに来ているのは確実かな。」
「でも、誰が持ち出したの? あんなオーパーツ、魔剣機関が持ち出しを許可するとは思えないけれど?」
グラムの指摘通りだ。ブキダスさんは魔石ダイヤさえあれば無限に魔剣を造り出し、運が良ければ既存魔剣の強化すら可能とする驚異の装置。まさに、
「盗まれた可能性もあるけれど···アレ、結構重いし嵩張るわよ?」
「え? でもアレ、飛ぶよ? ロケット付いてるし···。」
「え?」
本当にどんな技術なのだろうか。
「ま、まぁ、それは良いわ。魔剣機関から何の通告もないのだし、ブキダスが盗まれた、なんて事は無いんじゃないかしら?」
「うーん···まぁ、そうかもしれないね。」
魔剣機関は結構抜けてるからなぁ···しょっちゅう何かしらのお詫びとして魔石ダイヤ配り歩いてるし。美味しいからもっとやれって感じだけど。
「それで、ネオ。何か他に覚えてることはない?」
「んー。あ、そうだ。わたしがマスターと戦うちょっと前に、すごく強そうな奴が居たよ。」
「えーっと···冥獣のこと? さっき空洞に居た···」
「えっとね、先に空洞にいた弱い奴を、しゅんしゃつしたの。」
しゅんしゃつ···。瞬殺、か。
あのレベルの冥獣を瞬殺するとなると、最低でもルナティック級の冥獣かな? ネオが屠ったにしては死骸が綺麗だと思ったが、成程。新手が居たか。最悪、アビス級を相手取るのも視野に入れて──
「何の感情もなく、淡々と冥獣を殺してたよ。」
「···えぇ·········?」
何の感情もなく? 冥獣は手当たり次第に殺気をぶつけまくる。と、なれば、新たな魔剣でも居るのか? 全く、ここは魔界じゃないんだからもっと自重をだな···なんて考えていたら、グラム·オルタのおどおどとした声が鼓膜を震わせた。
「あ、あの、本当に魔剣なんでしょうか···?」
「と、言うと?」
「無感動、無感情に敵を滅ぼすのは、魔剣だけじゃありません···。」
「ハッキリ言いなさいな、オルタ。」
「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん···。」
はぁ、と、ため息混じりのグラムと同じで、僕も今一つオルタの言いたい事が分からない。無感情に攻撃してくる奴なんて···あぁ、いや、待て、居た。いや、でも、そんな、まさか、そんな訳がない。ここは魔界じゃないんだ。そんな事があってたまるか。
「れ、霊獣なら、あのレベルの冥獣をしゅんしゃつ出来ると思います···。」
運が良ければ既存魔剣を強化できる(運が良いとは言ってない)
主は水着ガチャでダイン様の水着を狙った結果、AA超強化を8回とアンハッピーフライトの水着、それとセラエノ断章を引いたよ。
凄く···虚しかった。
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三十一話 見敵
ルナ引けたぜイエェェェェェイ!!!
8月からずっと石貯めてた甲斐があった···。
あ、お待たせしました。
霊獣と言うのは、元は魔剣使いだったモノたちが死に、歪に最適化された魂だけがこの世に残り、彷徨う姿のことだ。彼ら彼女らにかかれば、冥獣ごとき一捻りだろう。僕も以前に交戦したことがあるが、グラムのブレイズドライブやイデアの崩壊の極光に絶えた挙げ句、僕に
「霊獣まで出てくるとなると、いよいよオラリオも終わりでしょ。」
オワリオ。という単語が浮かんだが、グラムとジャガーノート辺りに「もうダメかもな、こいつ。」という目を向けられるのが読めるので、口には出さない。
「救いようがありませんねー···。」
「私たちに聞こえていないと思っている辺りが、本当に愚かね。」
そうですね。魂レベルの最適化までしてますものね。当然、心中の独白ぐらい読んできますよね。···死にたい。
「駄目かな、オワリオ。語感は良いと思うんだけど···って、そうじゃなくって。霊獣だよ霊獣。」
割りとマジで、霊獣がオラリオに解き放たれるのは不味い。霊獣は冥獣とは違って通常の武器──勿論、高ランクのモノ限定だが──でも、ダメージを与えられる。が、桁外れの耐久力と攻撃力を前に、オラリオの冒険者
「この閉鎖空間から逃げるなら、霊体化でもしたのでしょうね。」
「だとしたら、移動力は、そこまでないから···。」
「そうだね。でも、人間の足よりは余程早い。だから···。」
三対の翼を広げ、飛翔する。右手に掴んだ杖を翳し、一層までの直通ルートを作り上げる。
「いいぞイデア! そのまま飛ぼう!」
「えぇ、マスター。行くわよ?」
ぱぁん! と、大気を鳴らして飛翔する。手に持つ杖の先端から極太のレーザーを放ち、天井を抉り抜いて垂直に。上へ。上へ。誰かを巻き込もうが知ったことじゃない。その1人の犠牲でオワ···オラリオの大多数が救えるのなら、僕はその合理性に従うまでだ。
「気に入ったの?
「実は結構···。」
グラムとそんな気の抜けた会話をしながら1層まで戻る。流石に都市と迷宮を隔てる最後の壁までぶち抜く訳にはいかない。霊獣じゃなく普通のモンスターでオラリオが壊滅してしまう。この迷宮には冥獣もいることだし、尚更だ。一部、『
「···。」
一階層をぐるりと廻り、霊獣を探す。が、居ない。想定よりも移動が遅い、という事は、大型の霊獣なのか、そこまで高位の霊獣じゃあないのか。···計算ミスの可能性も微粒子レベルで存在しているけれど。ところで微粒子レベルってサイズだと凄く小さいけど、個数だと莫大だよね。閑話休題。
「ここから下がってみるか···。」
「ここで待った方が良いんじゃないかしら?」
確かに、索敵掃討よりは待機迎撃の方が良いことは確かだ。だが、相手が突進系の攻撃を得意とする霊獣姫『ジャンヌダルク』や、魔導能力に特化した霊獣姫『タマモノマエ』や『ロイヤルメイジ』であった場合、僕を突破して都市へ出てしまう恐れがある。それは非常によろしくない。よって──
「!!」
待機状態にあったグラムを顕現させ、体の前に翳す。ガキン!という金属音が鳴り、大幅に体がノックバックする。からん、という音を立てて足元に転がった物体を見れば、それは円錐形の杭のような刃物だった。鋼色の鋭利な突端は濡れて光り、毒物の付着を主張している。
「霊獣『アサシン』か。僕をずっと待ってたって訳?」
「不味いわね···。」
移動力、隠密性、殺傷能力。どれで見ても凄まじいモノを持つ個体だ。特筆すべきはその殺傷能力。『即死』という、ポピュラーではあるが厄介な能力を持つ。しかも、冥獣や魔剣たちの持つ『即死攻撃』の仕組み──『相手の生命力の器と全く同じだけのダメージを与える』タイプや『相手の生命力を数倍する超ダメージで殺す』タイプとは一線を画する、『死ぬ』『壊れる』という現象を直接引き起こす、イレギュラーな奴だ。魔剣たちの何人かが持つ、即死無効化能力『冥王神の資質』では防げない、凄まじく厄介な相手。
だが、僕はこの相手に対する対処法を確立している。
僕自身に攻撃されれば死ぬしかないが、魔剣たちであれば、『被弾』から『魔核崩壊』までには若干の猶予──暴走期間がある。その間に魔石エメラルドを使って急速回復してやればいい。それに『即死』ではあるが『確死』ではない。『即死』能力の発動は精々15パーセント。勿論、それを補って余りある手数の攻撃が飛んでくるが──僕と魔剣たち──訂正、魔剣たちなら、なんとかなるレベルだ。
では、何が不味いのか。簡単だ。
アサシン、と名付けられるだけあって、その個体は闇に潜み、影に徹し、虎視眈々とこちらの命を奪いにくる。潜伏能力、というよりは透明化と気配遮断か。どういう訳か相手は僕個人を狙っているから良かったものの、オラリオに出ていればあっという間にゴーストタウンになっていた。
「そこッ!!」
グラムを一閃し、飛来した杭を弾く。迷宮という閉鎖空間の中で、そしてそこまで高さのないこのフロアで投擲という直線攻撃に出れば、あっという間に敵の位置は突き止められる。が、当然、霊獣とてそんな事は分かっているだろう。つまり、飛来した場所には敵はいないということ。そこに攻撃でも仕掛けようモノなら、出来た隙を見逃さず、大量の杭が降り注ぐだろう。
「いや、そういうブラフなのか?」
そこにいるはずがない。と思わせるのは、ミスディレクションの基本。ならば──と、思い立った瞬間に、
「うわぁっ!?」
慌ててグラムを翳し、杭をガードする。グラムの半分以下の大きさ、質量の癖に、かなりの速度があるから威力が高い。
「クソ···エリアまるごと···は、無理か。一階層だもんね、ここ。」
ブレイズドライブやレールガン、イデアといった広範囲殲滅攻撃は、迷宮の壁や天井をぶち抜いてモンスターやら冥獣やらを都市に解き放ってしまう危険性があるのでNG。
「どうするかねぇ···。」
グラムを握る手に力が籠る。今まで『即死』能力は発動していないとは言え、15パーセントならそろそろ当たる。勿論、確率が収束するのはおよそ10000の母数が確保された場合なので、凄まじく幸運であれば···幸運とな?
「マスター様? わたしの出番?」
あとはルナを75/215にするだけだな。
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第三十二話 共闘
ラストリゾート。『最後の切り札』『最終手段』の名を関する魔剣であり、その特性は、『幸運』。···とは言うが、僕がそれを実感した事は少ない。確かに彼女とジャンケンをして勝ったことはないし、ポーカーをしたときも、彼女は初手でスペードのロイヤルストレートフラッシュを引き当てていた。だが、僕が彼女を顕現させた時にはそんな幸運は起こっていない。彼女単体での攻撃·防御性能はそこまで高くないし──
「そんな子のために、
あくまで彼女自身の能力である『幸運』を、他の魔剣に付与するための技。複数の魔剣を同時に顕現させ、個々の特性を生かす技術。『
「まだ行けるよね。グラム?」
「当然よ。マスター。」
何度か攻撃を弾いたグラムだが、そこまでの損傷はないらしい。
「よし、行くよ?」
まずグラムとラストリゾートを同時に顕現し、最適化を行う。これで即死発動はかなり抑制されるはずだ。問題は僕自身への攻撃だが、グラムがそれを許す訳がない。
「ッ!···そこだろっ!!」
飛来した杭を弾き、即座に飛んできた方向へ攻撃する。が、やはり、そこに霊獣はいない。
「やっぱり、かなり小型だ。しかも速いな···。」
攻撃を弾き、切り払い、受け流しながら必死に反撃するが、こちらの攻撃は全く当たらない。天井の高さがおよそ4メートルのこのフロアで活動している時点でかなりの小型種だが、そこに速度も乗せられてはどうしようもない。
「と、言うかマスター。霊獣『アサシン』は、そこそこ大型だった筈よ?」
「だよね···。変異種、かな。」
以前に討伐した『アサシン』はかなりの体躯で、固有能力である完全不可視化能力を無効化すればただの的だった。が、今回の相手は違うらしい。
「ねぇマスターさーん。私、最近すっごく暇だったんですよー。どうですかー? 一緒に霊獣、救ってあげませんかー?」
「駄目だ!」
脳内で上がった棒読みの声に、即座に否定を叫ぶ。君は、君だけは、絶対に顕現させない。グレイプニル、アヴァロン、アイギス、そしてカラドボルグ=エアの四人がかりで僕の奥底に封印し、二度と使わないと誓った、君だけは。
「どうしてですかー、マスターさーん。
「どうしても、だ。君は···しまった!?」
大気を切り裂いて杭が飛来する。数は──三本。激昂した所為で反応が遅れてしまう。
一本──弾く。
一本──逸らす。
一本──飛来した槍が、杭を弾き飛ばす。
「···!!」
「件の『冥獣』って奴かな。今の攻撃は。」
颯爽と登場したのは、ロキ·ファミリアの団長──『
「ありがとうございます、助かりました。」
「いや、大丈夫だよ。さ、みんな。」
ざくっ、と、旗を地面に突き立てた団長は、背後の冒険者たちに指示を飛ばす。唯一、冥獣にダメージを通せる僕を攻撃の主軸に据え、自分も含めた全員が支援とガードに回るように。
ばさり、と、旗に描かれたロキファミリアのシンボルマークがはためく。──風のない迷宮内部で?
「!!」
団長が首を傾けると、寸前まで頭のあった位置を杭が通り抜けていった。
「姿の見えない敵か、厄介だね。」
「えぇ、物凄く。それと、今戦っている敵には、魔剣でなくとも攻撃が通ります。もし、見えたら。」
「あぁ、わかった。皆聞こえたね?」
肯定の返事を確認したところで、遠征メンバーの中で戦闘向きでない者──サポーターなどがダンジョンを出る。『アサシン』の狙いは僕のようだが、このイレギュラー達をどう捌く? お前の杭は所詮は直線攻撃。威力にしろ手数にしろ、団長以下ロキファミリアのメンバーならなんとかなるレベルだ。
「ふっ!!」
「はっ!!」
アマゾネスの姉妹がそれぞれの武器で攻撃を弾く。飛来した方向には即座にエルフの少女とリヴェリアさんの魔法攻撃が飛ぶ。当然、霊獣とてそこに留まる愚は犯さず、逆に魔法を撃った直後の二人に攻撃し──団長とドワーフの男性、それにアイズさんがそれを弾く。
「すごい連携だ···。」
僕の持つ魔剣達でも、ここまでのチームワークは見せられまい。むしろ何人かは率先して喧嘩するだろう。
「ありがとう。とはいえこのままじゃジリ貧だ。なんとかして本体を見つけないと。」
そこらに散らばった筈の杭は魔力に還り、どれだけの攻撃を防いだのかは最早定かではない。この手の攻撃は弾切れなんて期待できないし──やはり、本体を見つけないと話にならない。
「マスター。もっと敵の情報を頂戴。」
「いや、情報って言われても···あ、そうだ。杭の先端には致死毒が塗られてます。」
「はぁ!? 早く言いなさいよ!」
アイズさんの問いに答えれば、間髪入れずアマゾネスの女性から指摘が飛ぶ。うん。そうだね。これは僕が悪いです。
「マスター君。君の魔剣の中に、範囲攻撃の出来る魔剣はあるかい? あるなら、リヴェリアとレフィーヤと一緒に、この一帯にそれを放って欲しい。」
「ありますけど···ここ、一階層ですよ?」
「え?」
「いや、ですから、壁とか天井とか、壊れちゃ不味いですよね?」
「あ、いや、うん。そう、だね?」
まさかそこまで高威力だとは思わなかった。という顔をする団長。弛緩した空気が流れる寸前に、金属の砕ける嫌な音が鳴り響いた。
「っ···!?」
見れば、アイズさんの剣が砕け散り、柄と僅かな剣身を残すのみとなっている。
「『即死』か···!!」
「即死!? なんなの、それ!!」
そうですね。これも僕が一方的に悪いです。はい。
「相手の攻撃は、一定確率でこちらの武器を壊してきます! 気をつけて!」
「言うのが遅いよ···。」
団長もため息を吐いている。が、戦場で意志疎通や情報伝達がしにくいのは当たり前だろう(開き直り)···いや、ごめんなさい。反省してます。はい。
「本気でジリ貧だね、この状況は···。」
団長の言葉通りだ。何か、打開策が必要だ···。
感想をぉぉ···評価をぉぉぉ···私に活力をぉぉぉ···。
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第三十三話 共闘?
Q.今、必要なモノは?
A.打開策ぅ···ですかねぇ···。
マス太おにいさんになるまでもなく、姿の見えない小型で高速の敵を相手にするには、奇策妙策が必要だった。脳死広範囲殲滅攻撃ぶっぱをしようにも、ここ一階層では万が一壁をぶち抜いてしまったら詰む。フロア自体を陥没させて数階層分下げようにも、敵が霊体化して浮遊できるのなら意味はない。むしろ今度こそ都市へ解き放ってしまうかもしれない。
Q.じゃあ、どうする?
A.どうしよう···。
「マスター君。君の魔剣に、敵を探すことに特化した武器はないのかい?」
「ありますよ?」
ネクロノミコンとか、ティンダロスとか。
「じゃあ、それを──」
「いや、まぁ、ちょっと事情がありまして。今は使う訳にいかないんですよ。」
ロキファミリアの皆が怪訝そうな表情で僕を見る。が、これは戦力の秘匿とか、そんな問題じゃないんですよ。単純に、皆が発狂しないための処置であってですね。
「──分かった。君の武器だ。君が一番良く分かっているだろうしね。」
「えぇ、そう···でしょうね。きっと。」
会話の合間にも杭の攻撃は止まない。弾き、逸らし、受け流す。が、こちらは冒険者──恩恵があるとはいえ生物。つまり、疲労からは逃れられず、そろそろ危ない。
「マスターさーん。もう良いじゃないですかー。一緒に救ってあげましょうよー。一緒に狂気に身を委ねちゃいましょうよー。」
棒読みに。それでいてどこか艶やかな誘惑に抗うように、グラムを持つ手に力を込める。
彼女の銘──名前は、『ジャガーノート×ルナ』。「破壊によって救済を与える」戦斧『ジャガーノート』と対を成す、「狂気によって救済を与える」騎槍。その姿を見た者は誰であろうと狂い──精神を砕かれる。そして、それは幾多の魔導書で散々精神汚染を受け、SAN値のアンダーフローした僕も
「駄目だ。それだけは、絶対に。」
「ちぇー。変態マスターの癖にー。」
いくら罵倒されようと、こればかりは譲れない。脳内に響く声と音声で対話している僕の姿は、ロキファミリアから見れば既に狂っているのかもしれないが。
「マスター。」
「···うん。」
今は感傷に浸っている場合じゃない。虎視眈々と、霊獣がこちらの命を狙っているのだから。
「安心してよ、ルナ。いつか絶対、君を使うから。」
ルナを、「使う」。Aランク魔剣すら「使えない」僕が、SSランクの彼女を? 笑えもしない。
「待ってますねー。一体何時になるんでしょうねー。あーあ、救われないなー。」
だけど彼女は、微笑の雰囲気を漂わせ、己を縛る四人の封印に身を委ねた。
「話は終わったかな、マスター君。そろそろ打開策を···ッ!」
飛来する杭を防ぎながら団長が言う。分かってる。このままじゃ不味い。むしろロキファミリアの皆がいる所為で対応できなくなっている。かといって助けに来てくれた相手に「邪魔だ、どけ。」では流石に失礼にあたる。
「···じゃあ、全員、目を閉じて耳を塞いでください。魔力感知もしないで。」
「!! ···分かった。皆、彼の言う通りにしよう。」
戦場のど真ん中。攻撃を受けている最中にこの指示は、「死ね」という指示に他ならない。が、流石に団長は何かしらの策があってのことだと察したのか、率先して言われた通りにすることで、噴出寸前だったロキファミリアからの批判を押さえ込んだ。
「感謝します、団長。···さぁ、やっと出番だよ、ネクロノミコン。」
「···ん、わかった。」
──右手を横へ。
──魔力が渦巻く。
──無色無性質のエーテルに、色がつき、性質が付与される。
──その色は黒。光を飲み込む漆黒。
──その性質は極めて邪悪。
──形状は本。銘は『死霊秘法』
──魔導書『ネクロノミコン』顕現。
「
「まかせて···。」
本が独りでに開き、大量の触手が溢れ出てくる。壁や床を即座に覆い尽くし、続いて空間を圧迫し始める。ロキファミリアのメンバーに触れないように細心の注意を払って行われた蹂躙は、ネクロノミコンの一言で無意味と化した。
「いない···? 魔力、も、ない。」
「
壁一面、なんて規模ではなく、フロア一つを完全に触手で埋め尽くしても尚、見つからないなんて、それは霊獣『アサシン』じゃない。それは──
「遠距離操作砲台···。」
自在に霊体化させられる浮遊砲台を持ち、本体からは極太から米粒まで様々な弾幕を張る超大型霊獣。かつて、僕や魔剣機関の勇者、果ては七罪王まで駆り出した、古代文明を入れてもトップ10に入るロマン──じゃ、なかった。トップ10に入る殺戮兵器。霊獣姫『フォートレス』。似たような魔剣にラグランジェが居るが、彼女のレーザーよりも遥かに凶悪で、強力だ。レールガンですら火力負けする。
大気を裂いて、そしてネクロノミコンの触手も切り裂いて、
霊獣姫『フォートレス』に、そんな能力はない。確かに実体化、非実体化の切り替えは早いが、不可視状態での攻撃は『アサシン』のスキルだったはず。魔導特化の『タマモノマエ』や『ロイヤルメイジ』が不可視化の魔術を使ったのなら話は別だが···。
「まさか、ね。」
ネクロノミコンを非顕現状態へ戻し、迫る杭をグラムで弾きながら呟く。そんな夢のような──訂正、悪夢のようなタッグがあってたまるか。
ルナとジャガノは別物扱いとさせて頂きます。何故って? だって、ジャガノとルナが同時に編成できるから。
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第三十四話 損傷
お気に入りが300件減った!? と思ったら「しおり」の欄だった。
理想を口にして良いのなら、一連の攻防が全て夢であってほしい。ついでにちょっとだけ早く目が覚めて欲しい。
現実を述べるならば、手を組むことなんて滅多にない霊獣が結託して僕を殺しに掛かっていると推察される。
どちらにせよ、この場においてロキファミリアは最早頼もしい増援ではなく、ただの的だ。──いや、それは僕も同じ。霊獣姫『フォートレス』の本体は、まず確実にこのフロアに居ない。奴ほどの巨体なら、もっと下層のドームに腰を据えるしかないはずだ。ならば、破壊したところで大して本体に影響のない浮遊砲台から狙われ、いつ誰が死ぬか分からない現状では、僕も彼らも「的」だった。
だが良いこともある。相手が『アサシン』でないのなら、『即死』のスキルはない。つまり、魔力効率のよくない『新たな自分への鍵』は必要ないということだ。さっきアイズさんの武器が壊れたのも、きっと無理な位置から防いだとか、そんな理由だろう。
「お疲れ様、ラストリゾート。」
「マスター様、気をつけてね。」
「あぁ、分かってる。」
幸運の加護は無くなったが、相手が『フォートレス』なら、グラム単騎でも十分防げる。本体を攻撃するなら流石に一人では火力不足だが、浮遊砲台程度なら問題ない。
「団長。敵の本体はここじゃなく、もっと下層です。僕がここを受け持ちますから、皆は外に出て、他の冒険者に迷宮に入らない様伝えてください。」
「それは──いや、分かった。」
対霊獣に関しては僕の知識量·経験が団長に勝る。彼もそれは分かっているが故に、あっさりと軍を退いた。
「さて──もう一回だ、ネクロノミコン。今度はもっと下に!」
「まかせて···今度はみつける。」
ネクロノミコンを顕現させた瞬間に、凄まじい勢いで触手が奔出する。先ほどの負傷をまるで感じさせない速さと物量で、あっという間に一階層を埋め尽くす。そして下層へと走査の(触)手を伸ばし──
「みつけた···やっぱり、『フォートレス』···それに、『タマモノマエ』も。」
「霊獣姫が二体か···最悪だね。」
「そうもいかない、か。」
そもそも、そんな余裕はない。僕一人で、霊獣姫二匹を、屠るしか、ない。
「最悪だ···。ねぇ
「えぇ、勿論構わないわよ?」
「妙なフラグを立てるのは止めて頂戴···。」
グラムが呆れ声を出すが、こんな冗談でも言っておかないとやってられない。ホント、面倒だ。
「ネクロノミコン、敵はどこ?」
「ん···十階層···下···。」
十一階層か。存外近いな。十一階層は今ドーム状に拡張されており、そこに『フォートレス』と『タマモノマエ』がいる、ということか。
本体を発見した瞬間にぴたりと止まった浮遊砲台からの攻撃に注意しつつ、下へ、下へと歩を進める。道中、一切のモンスターと遭遇しないことが、言い知れぬ不安を与える。
「···みぃつけ、た。」
白い体。その体長は8メートルほど。ワンドメイス型の冥獣と似たフォルムの魔導特化型霊獣。霊獣姫『タマモノマエ』。
白い
「■■■■■」
全く聞き取れない言語で、『タマモノマエ』が何事か話す。
「■■■」
呼応するように『フォートレス』も発声し──砲口が光る。
「!!」
咄嗟に4メートル近く飛び退くが、そんな程度の距離、『フォートレス』の砲撃と着弾の爆風からすればゼロに等しい。結果、僕の体は熱風と砲弾の破片を受け、ズタボロに──は、ならない。魔剣を顕現している以上、僕の傷は全てそちらへ伝わり、僕は無傷に終わる。
──ところで、霊獣姫『フォートレス』というのは、分析するのが楽な種類の霊獣だ。体を覆う装甲の色で属性が分かるし、砲撃パターン、大口径主砲のタイプから威力まで、すべて外見情報から推察できる。···多くの犠牲の上に成立した公式だが、経験に裏打ちされている以上、確実性が高い。
そして、今、僕が相手にしている『フォートレス』の装甲の色は、白。属性は『光』。実弾の威力はそこまで高くなく、レーザー兵器に主軸を置く。大口径主砲は貫通力の高い熱線レーザーで、どの兵器も直線的故に避けやすい。時折織り交ぜられる、広範囲に爆風と破片を撒き散らす実弾に気を付ければ、かなり楽に相手ができる。
ただし『光属性』というのが既に厄介で、特攻の付く闇属性とは相互特攻。つまり、こちらの攻撃力も1.5倍になるが、向こうから受けるダメージも1.5倍になる。
よって──
「ぐぅっ!?」
「大丈夫!?」
グラムが苦しげな声を上げる。損害は──半壊、といったところか。まだ戦える。暴走する前にエメラルドを使えば即座に全回復だって──いや、駄目だ。今この場には霊獣姫『フォートレス』だけでなく『タマモノマエ』もいる。奴の魔導攻撃には麻痺や勇気分解──ブレイズドライブを撃つのに必要な、『魂の力』を奪う状態異常のこと──を起こすものもある。最悪のケースは、僕が麻痺状態になり、暴走し魔核崩壊を起こすグラムをただ見つめることしか出来なくなること。そんな状況に陥ったら、流石にもう「街を壊したくない」なんて言ってられない。
「直ぐに治療するから、ちょっとだけ我慢して。」
「大丈夫よ、まだ···」
言い募ろうとしたグラムだったが、過去の経験を思い出したのか、言われるがままになる。次から次へと地面を焼くレーザーを避けながら魔石エメラルドを砕き、急速回復する。LP、HP、共に全快。大丈夫だ。まだまだエメラルドもダイヤもある──が、慢心ダメ、絶対。なるべく短期決戦にしよう。幸いにして、『タマモノマエ』はまだ動いていない。『フォートレス』にバフを掛けているのか、或いは別の理由か。とにかく面倒なのは『フォートレス』だ。
「やばっ!?」
右ふくらはぎの辺りにレーザーが被弾し── ジュワァァァァ なんて、笑える音を立てながら、
「···は?」
「またなの、マスター!?」
「違う! 僕が最適化を解いたんじゃない!」
当然、いきなり片足になった僕は盛大にスッ転ぶ。焼き抉られたお陰で出血は殆ど無いし、神経まで焼け付いたのか痛みも少ない。少なくとも、右足の膝から先が無くなったにしては。
「まずいですよ···。」
『タマモノマエ』め。全く動かないと思ったら、まさか『防御貫通』バフ···じゃ、ないな。最適化を貫通するバフなんて聞いたことがない。が、起こった現象はまさに『最適化の無効化』だし、現実逃避に意味はない。
「マスター、逃げて!」
「どうやって!?」
いや、マジで。ケンケン? レーザーを避けらる速度でケンケンとかなにそれ一周回って面白い。
魔導書から治癒術式を使うか? 駄目だ、そんな悠長な事は──いや、できる。
「アイギス! アダマス! 時間を稼いで!」
「無様な姿ね、マスター。」
「大丈夫ですか? マスター様。···いやwwwちょwww足やばwww」
しまった。人選間違えた。くつくつと笑いながら瞳は心配そうなアイギスと対照的に、アダマスは目の奥まで笑っている。
止まった時の中、足を治す。
「ほんと、性格に目を瞑ればなぁ···。」
「何か言ったかしら? マスター。」
「あ、いえ、なんでもないです···。」
感想、評価ありがとうございます!! めっちゃ嬉しい
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第三十五話 悪魔の鍵の模倣
生え揃った足をぷるぷると振って感触を確かめる。うん。大丈夫。今までと変わず、ちゃんと僕の思い通りに動く。
「ねぇマスター。貴方、もしかして相当な愚者なのかしら?」
「唐突な罵倒が僕を襲う···。なんなのさ、アダマス。」
「足の一本に構っている暇なんて無い、ってことよ。」
霊獣姫『フォートレス』と霊獣姫『タマモノマエ』。この二匹は、どちらも特級の怪物である。中でも『タマモノマエ』は魔法攻撃·魔法防御、支援魔法に至るまでを使いこなす、才覚溢れる化け物である。そして、勇者や太陽聖域、果ては魔王までもが恐れるのは、その多彩な支援魔法だ。こちらに掛けられるデバフは『攻撃力低下』『ブレイク力低下』を筆頭に、『麻痺』『停止』『即死確率上昇』など、多岐に渡る。自己強化もそれに並ぶバリエーションで、『体力自動回復』『防御力上昇』『攻撃力上昇』といったポピュラーなものから、『麻痺無効』『ブレイク無効』といった面倒極まりないものまである。
つまり。
「はい、ガード!」
止まった時の中で大量に飛来したレーザーをアイギスが大盾で防ぐ。
「停止無効? ···じゃ、ないな。活動再開まで時間があったから···レジスト能力の上昇かな?」
時間が止まっているのに『時間があった』とはこれいかに。なんて無益なことを考えている場合じゃない。幸いにしてレーザーは全てアイギスが防いでくれたし、差し迫る脅威はない。
「いいぞアイギス。じゃあ···反撃といこうか。」
グラム単騎で突貫──なんて、愚かしいことはしない。そこまで手を抜ける相手じゃない。そもそも、魔法特化で物理防御の低い『タマモノマエ』はともかく、物理防御に長けた──どころか、物理防御力の塊みたいな『フォートレス』相手では、グラムよりも魔導書の類いの方がダメージが出る。
では魔導·物理共に秀でる魔鎌を使うか? それは微妙だ。鎌という武器は確かに物理·魔法共にそれなりの数値を誇る。が、それはどちらも本職には及ばず中途半端ということだ。(例外多数)
よって──
「行くよ、皆。
──魔核駆動開始。
──魔剣のロック、解除。
──魔剣少女をアンロック。
──魔力結晶体、解放。
──発動。『
僕のスキル『
故に。
「おいで、グラム。オルタ。あとイデアと···そうだな、マビノギオンとジェミニア、アイギスもだ。」
火力面ではグラム姉妹が。
機動力をイデアが。
補助にマビノギオンを付け。
レーザーをジェミニアが、物理攻撃をアイギスが跳ね返す。
両手には大剣が。
背中には三対の翼が。
鏡と盾と本を従えて、霊獣へ駆け──否、翔ける。
「らぁっ!!」
まず脅威のバフを扱う『タマモノマエ』に肉薄し──右手のグラムを一閃する。 が、『タマモノマエ』の張った障壁とぶつかり、競り合う。
「ソードブレイカー。」
左手のオルタを消し、一切のラグなく拳闘『ソードブレイカー』を纏わせる。そして思いっきりぶん殴り──障壁がガラスのような音を立てて簡単に割れる。
「ゼロ。」
その勢いのまま、今度は騎槍『ゲイボルグ=ゼロ』を顕現し、神速の刺突と共にさらに距離を詰める。
「■■■■■ーーーー!!!」
焦ったように霊獣が腕を振るい、僕に向けて攻撃してくる。
「アイギス?」
僕に追随するように浮遊していた黄金と純白の盾が滑らかに空を舞い、豪腕を容易く受け止める。所詮は魔法特化型か。
「せぁっ!!」
グラム二人で連撃を加え──ぐらり、と、『タマモノマエ』の姿勢が崩れる。
「はい、どうも。」
ブレイク状態。つまり──ガード不能。
「行くよ皆。ブレイズドライブ。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト 不完全世界ファーヴニル ディープカーネイジ 鏡写しのカルトスポルクス 神魔蒼鏡アイズオブヘヴン オールオブマジック 破壊衝動ブレイクオール 最後の審判の最後は大団円
命あるモノならば──なんて次元ではない。万物が滅びる、蹂躙。しかし──
「■■■ーー■■ー■ーーーーー!!」
「■■■■■ーーーーー!!」
敵は今なお、健在。
「化け物め。」
笑いを浮かべながら、僕はそのまま攻撃を続ける。一閃し、後退し、連撃し、防御する。劣化しているとはいえ『
戦闘で昂っていた精神が一気に沈静化していく。いやいやいやいや、待て待て待て。そういえばなんでだ。──なんて、慌てられるような余裕はない。ただ、沈静化しただけ。僕の──今の、僕の頭にあるのは『この二匹を殺す』という意識だけだ。その手段は、既に僕が内包している。
「■■■ーー■■ー!!」
『タマモノマエ』が咆哮し、『フォートレス』が僕へ向けてレーザーと砲弾を雨あられと降らせる。が、甘い。
「アイギス。ジェミニア。」
「分かってるわよぉ、マスターちゃん。」
甘ったるい声と共に、付き従っていた鏡がレーザーを跳ね返す。『フォートレス』の装甲に傷ひとつ付かないのは折り込み済み。ただ僕に当たらなければそれでいい。
「行くよ、グラム。全力だ。···ごめん、先に謝っておくね。」
「構わないわよ。それが、貴方の本意ではないことも、貴方が私達のことを大切にしていることも、分かっているもの。」
──そういう事を言われると、尚更やりたくなくなる手段なんだけど。
「お疲れ様、皆。」
グラムとイデア、アイギスとジェミニア、最後にマビノギオンを残して全員を戻す。『愚かな卑怯者の鍵』は、ただ僕の中で皆が活性化しているだけの、ただ魔力消費が尋常じゃないだけのスキルじゃない事を、お見せしよう。
「■■ーー!!」
動きを止めた僕を狙い、『タマモノマエ』の魔導砲撃と、『フォートレス』のレーザー、それに主砲である極光が飛来する。
「マビノギオン、ジェミニア、任せた!!」
「ジェミニアちゃんの可愛さと強さにぃ、これ以上惚れても良いのぉ?」
「お任せください。マスター。」
マビノギオンがジェミニアに防御強化を張りまくる。同時にグラムに『どんな攻撃でもHPを1残して耐える』バフを掛ける。そして──僕はグラムを地面に突き刺し、
「頼むよ···これで計算ミスしてたら自害するしか···。」
果たして、グラムは光属性ダメージの奔流に飲み込まれ、僕はそれを祈りながら眺めていた。
「くぅ···あぁぁぁぁぁ!!!」
グラムの叫びを聞きながら、砲撃が止むのを待ち続ける。まだだ。タイミングを間違えれば、僕も死ぬ。
そして──砲撃が止み、暴走寸前のグラムが、地面に突き立っていた。
「今だッ!!」
全力疾走し、グラムを握る。僕の身体には、既にマビノギオンのバフがこれでもかという程に積んである。
「変質開始。」
スピード強化系と魔力変換効率上昇系のバフの後押しを受け、さらに『愚かな卑怯者の鍵』の効果もあって、グラムを一瞬で極状態へと昇華する。さらに──
「効果発動。『窮鼠』『逆鱗』『吸血』。」
『愚かな卑怯者の鍵』発動状態の間のみ限定的に使用可能な、魔剣強化装置。名を、『記憶結晶』と言う。
かつて、僕たちが作り上げた魔剣たちとの『思い出』だとか『記憶』だとかを結晶化し、そのまま力として振るうことが可能になるトンデモマテリアル。ちなみに結晶化するのはブキダスさんだ。ほんと何者なの···。と、まぁそれはさておき、グラムに搭載可能な記憶結晶は3つ。僕はそこに『窮鼠』『逆鱗』『吸血』という3つを積んでいる。
まず『吸血』だが、これは単純かつ明快で、攻撃で体力吸収ができるようになる。勿論、等倍ではないし効率も悪いが──ダメージ量によって大きくなるので、後の2つと相性がいい。
二番目に重要なのは、『逆鱗』。属性が優位ならば、ダメージ量が上がる。
そして最重要。『窮鼠』。効果は──受けたダメージが多いほど、ダメージが上がる。
魔剣グラム【極】の総HPを、1しか残らない程に削ってくれたのだ。さぞかし、大ダメージが出るだろう。
「死ね。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト
空間が、死滅──いや、空間が、終わった。
感想、評価ありがとうございます!! いやほんとエタ防止になりますね()
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第三十六話 相手が死ぬまで撃てば相手は死ぬ
一体何回撃つのか。
一切の存在を許さぬ空間。空間そのものすら終わらせる一撃の中、滅ばない存在が2つ。
一つは当然、下手人たる僕自身。
もう一つは、対物理という点においては突出した防御性能を誇る装甲に身を包む、霊獣姫『フォートレス』。彫刻めいた整った顔を持つ本体をはじめ、砲塔や装甲は所々欠損しているが、それでも尚──いや、さっきよりも濃密な敵意と殺気を放っていた。
「相変わらず、馬鹿げた防御力だね。」
手の中で魔石ダイヤを砕き、失った魔力を急速回復しながらぼやく。見たところ『フォートレス』の沈黙にはもう一押しが必要か。幸い、『タマモノマエ』跡形もなく消し飛んでいるし、すぐに──いや、まずグラムの回復が最優先だ。『吸血』の効果で多少回復していたが、まだまだ傷は深い。
ポーチから今度は魔石エメラルドを取り出し、グラムを全快させる。
「マスター、もう一撃行くわよ。」
「 お ち つ け 」
回復するや否や、僕の体を駆って突貫しようとするグラムを必死に押し止める。確かに未だ『フォートレス』が生きているというのは度し難いが、グラムと『フォートレス』では相性が悪い。物理攻撃に重きを置く大剣であるグラムと、物理防御の高い『フォートレス』では攻めにくいというのに、向こうの攻撃はバッチリ通るのだから。
かといって、安直にジェミニア辺りの魔導武器を使えば、膨大なHPを削り切れない。そこで、ひと手間加える。
バフ祭りの主催者たる『タマモノマエ』を殺した以上、『フォートレス』はただの砲台。もう最適化貫通なんて芸当もできまい。ならば。
「凡百が。僕を殺したければ、七罪王に勝てるくらいにはなって来い。」
アダマスを顕現し時間を止める。
マビノギオンで以て、意趣返しとばかりバフを盛りまくる。
ソードブレイカーを内包し、グラムで攻撃を加えていく。ガードも、装甲も、一撃で無為にさせる攻撃。その連撃は容易く『フォートレス』のHPを削り──不意に、背筋が凍った。
「!?」
咄嗟に飛び退く──が、その努力も虚しく、
「レーザーだと!?」
それはそうだろう。フォートレスの武装のうち、焼き抉るような攻撃をするのはレーザーだけだ。もっと重要なことが沢山あるだろう。何故最適化を貫通しているのかとか、なぜ止まった時の中を動けるのかとか、なぜ背後から攻撃が飛んできたのかとか──
振り向けば、こちらへぴったりと照準を合わせる、宙に浮いた小型の砲台が目についた。
「浮遊砲台? なんで···いや、バフの効果時間? クソ、これだから···。」
かけたバフが死んだ後も残るとは。凄まじいまでの魔力濃度だ。
「補修するヒマは無さそうだね···よし、ツクヨミ?」
「あるじちゃんの腕になればいいのね~? ツクヨミちゃん様に任せて~。」
ほんわかとした声とは裏腹に、元々左手があった場所に、禍々しいまでの黒さ──否、
「マスター様、お身体、お借りしますわね?」
その左腕──どころか全身を支配し、西洋直剣を器用に振るのは、『魔剣らしい』魔剣。ダインスレイフ。所有者を支配し、相手を殺すまで止まらない呪いの剣──とは言うが、僕にとって『魔剣』とは、そういうモノだ。支配されるのが前提。目的は『敵を殺すこと』。何故、かつて多くの魔剣使い達が彼女を嫌ったのか、僕は未だに理解出来ない。
「あぁ、勿論構わないよ、ダインスレイフ。さぁ···殺せ。」
右手にグラムを、光を呑み込む左腕にはダインスレイフを携え、『フォートレス』へ突撃する。奴の性質上、ゼロ距離まで近付けば攻撃も出来まい。
「ふっ!!」
重さの違う二振りの魔剣を、彼女たちは僕の身体を壊すことなく使いこなす。一撃、二撃と、着実に弱点属性でダメージを与えていく。
「らぁッ! ···!?」
何撃目かも分からない攻撃の折、剣を振り抜いた瞬間に、右腕で魔力が一斉に弾け、小規模ながら爆発が起こった。
「──は?」
今のは、『タマモノマエ』のスタンダードな攻撃方法だ。
気密音を立てて『フォートレス』の装甲が開いていく。
装甲板の中。大きな空間になっていたピラミッド内部には果たして、霊獣姫『タマモノマエ』が鎮座していた。──なるほど、ブレイズドライブを『フォートレス』内部に入ってやり過ごしたのか。って、言うか。中、入れたんだ。
「!!!!」
目が合った。
右腕はただ千切れ飛んだだけで、滴る血は一向に収まる様子がない。
『タマモノマエ』の右腕がこちらへ向けられる。
「···ヘル!!」
「えぇ、いいわ。」
ゴオッ!!と、音を立てて大気を喰らい、右腕から蒼い焔が噴出する。それはやがて小さく収束し、今度は右腕の形状に収まった。
「どうせだ、アルギュロス。君もおいで。」
「分かったわ···。」
今度は一切の音を立てず、空気中から滲み出るように銀色の液体が僕にかかる。すぐにそれは固体へと変質し──白銀の鎧となった。
「来いよ霊獣ども···。」
呟き、グラムとダインスレイフを構える。この状態ならさすがにもう大丈夫だろう。まずタマモノマエを仕留めて···なんて算段を付けた瞬間、ぱたん。なんて、軽い音を立てて『フォートレス』の装甲が閉じた。『タマモノマエ』を中に入れて。
「···ま、そうだよね。うん。僕でもそうする。」
鉄壁の防御を誇る『フォートレス』の中から『タマモノマエ』が魔導攻撃。順当。順当すぎて涙が出るね!
「マスターさーん。もう我慢しないでー、私を使っちゃいましょう? 一緒に救われましょうよー。」
「···いやいや、ダメ。」
ちょっと悩んだけど。
「あー、悩みましたねー? い · ま。」
「キノセイダヨ···。」
仕方ない。脳死っぽくて嫌なんだけど···死ぬよりマシか。
「二人とも。ブレイズドライブ。アルギュロス、防御任せる。」
向こうが籠城するなら、
「ブレイズドライブ。」
倒れない。
「ブレイズドライブ。」
倒れない。
「ブレイズドライブ。」
倒れない。
「時間は止まってるんだ、まだまだ遊べるぞ?」
ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブ────!!
「はぁ···はぁ···今···何発···撃った···?」
「さぁ?」
「まだまだ行けますわよね? マスター様?」
「ちょ···無理···魔力が···。」
アホな事をしたとは思うが、お陰で霊獣どもは滅んだ。朽ちゆく体と、ドロップした魔石を眺めながら余韻に──なんてモノじゃないぞコレ。純粋な疲労じゃないの。
「魔力欠乏とか···ホント···バカじゃないのか···僕は···。」
息が整わない。ちょっとマジでヤバいと判断してダイヤを使う。燃え盛る右腕と光を呑み込む左腕を見ながら、「あー、腕も生やさなきゃなぁ」なんてことも考える。
「つっかれたぁ···。」
ぺたりと座り込めば、戦闘の余波で熱された岩肌が尻を焼く。
「座れもしないとか···きびしいせかい。」
はい。何回撃ったでしょう。
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第三十七話 愚かな卑怯者の鍵
「あー···疲れた···無理···死ぬ···いや死なないけど···。」
でも冗談抜きで疲れた。まるで自分の腕じゃないみたいな感じが···あー···。
左腕が光を飲み込み、世界の一部を腕の形に黒く染めている。
右腕は蒼く煌々と燃え盛り、動きに合わせてゆらゆらと揺れている。
──まぁ、その、比喩でもなんでもなく、僕の腕は自分のモノじゃなかった。
「マビノギオン。治療、よろしく。」
「はい、マスター。」
最上位の治療術式によって、身体の至るところにあった細かい傷も、両腕の欠損という大怪我も、全てが消え失せて正常な身体へと戻る。流石は、『本の形をした魔術そのもの』である。
両手を一通り動かして調子を確かめると、時を止める枷を外す。空気に流れが生まれ、塵は地に落ち、空間に活気が戻る。
「陥没は···迷宮が勝手に直すか。」
直らなかったらごめんね?
「マスター。上は上で結構面倒な事になっているみたいよ?」
「面倒とな? あー、まぁ、そりゃそうだ。」
なんせロキファミリアによる侵入制限だ。大事にもなるだろう。僕が中にいた理由を、魔剣と絡めずに説明するにはどうすべきか···。
そんな事を考えながら、ぱたぱたと羽ばたいて上へ昇る。一階層に着いたらイデアも仕舞い、完全に一般人化してから迷宮を出る。予想通り、迷宮の出口には人混みとそれを宥めるロキファミリアの面々が──え? いない? なんで? ···職務放棄ですかね。
「···いや、違──ッ!?」
やけに静かな、静かすぎるオラリオの様子に怪訝な顔をした瞬間、嫌な空気の流れを感じた。その方向に顔を向け──金色の砲弾が、目の前に迫っていた。
「は?」
ゴッッ!! という音を顎が鳴らし、遅れて痛みと目眩、それに浮遊感を覚える。どうやら、吹き飛ばされたらしい。
「もう、マスター様? 大丈夫ですか?」
ダインスレイフに支配され、空中で数回回転して着地する。腕の中にすっぽりと収まっていた金色の砲弾の正体は、気を失ったアイズさんだった。
「どういうことな···の?」
アイズさんの鎧に、不穏すぎる傷痕を発見する。擦っただけの小さな傷から金属が腐蝕し、大穴へと変化したであろう、見覚えのある形状の傷。
「『アサシン』の毒···?」
ひとまずアイズさんを物陰に隠し、飛んできた方向に目を向ける。方陣を組んだロキファミリアの面々が武器を構え、時折大気と火花を散らしている。──大気と、ではなく、姿を消した『アサシン』の攻撃を防いでいるのだろう。
そういえば、光属性の『フォートレス』にも『タマモノマエ』にも、杭による遠隔精密攻撃はできない。そもそも搭載されていないのだから当然だ。なら、僕が一階層で戦っていた相手は、やはり『アサシン』だったのだ。『フォートレス』と『タマモノマエ』がいたのは単なる偶然で、僕が勝手に『アサシン』じゃないと思い込んだだけのこと。──本当に? 偶然にしては悪趣味で、出来すぎている。ネクロノミコンの走査を掻い潜るには、やはり『タマモノマエ』の転移術式ぐらいは必要だし──三匹が組んでいたとすれば、納得が行く。でも、何故?
いや、今は陰謀論を提唱している暇はない。一刻も早く、ロキファミリアに加勢して『アサシン』を倒さないと、オラリオがオワリオになってしまう。
「団長! リヴェリアさん!」
「マスター君? ···どうやら、君の読みは外れたようだ。」
「面目ないです···『タマモノマエ』と『フォートレス』は倒しました。あとはこの見えない奴だけです。」
「三匹もいたのか!?」
リヴェリアさんの驚愕の声に合わせて杭が飛来する。が、迷宮内部に居たときのようなキレがない。端的に言って、遅──いや、違う!?
「マスター君、こいつは──!!」
フェイク!! 杭をグラムで防いだ瞬間、足元に黒い球体が出現する。身体中から金属の杭を生やした、僕の腰ほどまでの大きさのソレこそが──霊獣『アサシン』。
「不味──ッ!!」
脚で踏みつけようにも、乱立している杭のせいでこっちが怪我を負いかねない。スキル発動状態じゃない以上、他の魔剣を顕現させるのにはラグがある。
防げない。ズドン!! という衝撃が身体に伝わるが、鳴ったのは意外にも「すこん」という気の抜ける音だった。起こった現象としては洒落になっていないが。皮膚を裂いて身体へ侵入した杭は、胸骨を砕き、心臓を貫き、気管を破り、背骨を達磨落としのように抜いて、身体を抜けていった。
即死の一撃。しかし、激痛に苛まれながら、僕の意識はハッキリと残っている。
「···クソ。」
本当に、面倒なことをしてくれる。
「そうですねー。マスターにすれば、面倒でしょうねー。でもマスターさん、私に言わせれば、久し振りに運動できて、結構良いこともあるんですよー?」
がちり。がちり。と、そんな音が鳴り響く。鍵を掛けているようにも、鍵を開けているようにも聞こえる音が。
ボッ!! と、傷口から蒼い炎が吹き出す。魔石サファイアの燃焼する、魂の燃える、蒼い炎が。
心臓も気管も背骨も血液も、全てが焔で代用される。
──生命活動阻害を確認。
──外敵と認定。
──封印術式『【ヒト】を殺すのは常に【ヒト】である』失効。
「
ボッッッ!! と、一際大きく胸の炎が燃え上がり、僕本来の『愚かな卑怯者の鍵』が発動する。
「お帰りなさいませ、マスター様。」
僕の右側に立ったダインスレイフが艶やかに微笑み、その分身である直剣を握る。
「本当に、久し振りの感覚ね。」
僕の左側に立ったグラムが冷たい笑みを浮かべ、その分身である大剣を弄ぶ。
「また竜王と魔王に会わなくちゃいけないのは憂鬱ね···。」
背中合わせに浮かび、大気に腰かけたマビノギオンは、台詞に反して楽しげに笑う。
それだけではない。レヴァンテインが。カラドボルグが。ロンゴミアントが。ロンギヌスが。グラーシーザが。アヴァロンが。ジャガーノートが。レヴァンテイン=ヘルが。ロンゴミアント=オズが。カールスナウトが。マンイーターが。ビーストキラーが。ミストルティンが。ミストルティン=キラが。ティナ=エンプレスが。ティナが。ラストリゾートが。ラストリゾート=ジョーカーが。雪月花が。散花扇が。ルーンブレードが。ブロードソードが。グラム=オルタが。アイギスが。
僕の横か、或いは後ろを埋め尽くす魔剣たち。その中に混じらず、唯一僕の前に立つ魔剣少女。
「さぁ、マスターさん。久し振りに全力、出しちゃいましょう?」
悪戯っぽく微笑む彼女の名は、『ジャガーノート=ルナ』。我が軍勢の一番槍である。
「あぁ、そうだね···。皆、行こうか。Get Ready?」
「「 BLAZE!! 」」
重なりあった声が大気を揺らし──ここに、蹂躙が始まった。
感想ください···感想ぉ···評価も···
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第三十八話
以前、魔界にはとある魔王がいた。彼は強大な力も、膨大な富も、優れた知略も、麗しき容貌も、何一つ持っていなかった。かつていた魔王のように、世界を壊すことも、世界を創ることも、絶大な富を手にすることも、世界を裏から支配することも、何一つとして求めなかった。
彼は、ただ愛されていた。彼には、彼には従う魔剣たちがいた。しかし彼には、それらを振るう技量や資質は備わっていなかった。
魔剣は言った。「必ずしも王が武器を振るう必要はない。資質がないのなら、私たちが働こう。私たちが、貴方の願いを叶えよう。」
魔王は問う。「君たちの願いはなんだ。君たちが幸せなら、それでいい。」
魔剣は言った。「──ただ、貴方の側にいたい。」
当時、覇王の資質なき魔王には敵が多かった。見目麗しい魔剣少女たちが側にいることも一因だっただろう。「何故、あんな雑魚が。」「その玉座は、あんな奴には相応しくない。」そんな声を上げた『強者』たちは、次々に魔王へ反逆した。
「──なら、そうしよう。」
魔界で育ち、数多の魔剣の加護を、祝福を、支配を受けた体の膨大な寿命が尽きるまで。必ず生きて、君たちの側にいよう。そう決意した魔王は、魔剣少女たちを軍勢として用い、あらゆる外敵を排除していった。強大な武力は、彼自身ではなく、彼を慕う者たちが持っていた。
魔剣たちは一人で一城を落とすだけの力を振るい、魔王を守護した。自分の居場所を、自分の大切なモノを守護した。そうしていつしか、彼は『剣統べる魔王』として、世界に認められた。──しかし、強大な力というモノには、「より強大な力に屈する」という宿命がある。
次代の魔王と竜王は結託し、魔王を攻めた。次代の魔王は、特に封印に長けた魔術師だった。
「貴様の素質──『魔剣を軍勢として統括する才能』を封印する。」
「それで彼女たちが傷付かないのなら、そうしよう。」
「貴様の魔王としての権利は全て剥奪される。」
「元より、彼女たちと居られれば、それで良かった。」
剣を統べる素質。『剣王領域』は、次代の魔王と竜王によって封じられた。『剣統べる魔王』は、それ以来姿を消し、今もどこかで魔剣たちと平和に暮らしていると言う──。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
「──って、そこまで美談じゃないけどね。」
オラリオの一角を埋め尽くす魔剣たちを見て、魔界に伝わるお伽噺の一部を思い出していた。何を隠そう、この僕が『剣統べる魔王』である。いやでもここまでカッコよく魔王じゃなくなった訳じゃない。そもそも今代魔王と竜王ぐらいなら二人同時でも勝てる。──いや、勿論、正規の『
「そうですねー。だって、マスターさんが魔王を辞めたのは、ただ面倒臭かっただけですもんねー?」
「次の魔王と竜王の封印だって、魔王を辞めさせない為の脅しだったのに···まさか呑んじゃうなんて。」
「魔界史上最も平和で強力な治世だったのに、残念な事をしましたね。」
「ルナ。それは言わない約束。ヘル。呑まれて困る条件なら脅しにはならないよ。そしてマビノギオン。平和だったのは君たちの圧倒的制圧力による治安の向上のお陰だし、『強力』とは言っても戦争が終わればその言葉も無意味になる。」
戦争が終わるかどうかは知らないけど。
「でも、流石に「魔王辞めていいかな? 面倒だし。」って言われた時は驚いたわ。」
「いや、グラム。何度目か分からないけど取り敢えず僕の言い分をだね。」
儀礼式典の類いは面倒極まりない。何が面倒ってもうとりあえず堅苦しい。あとやたら長い。しかも普段の行動まで制限付くんですよ。あとそこそこの頻度で来る挑戦者とか。
「あーあ。封印も壊れたし、またアイツらが来るのか···。」
魔王と竜王による封印術式『【ヒト】を殺すのは常に【ヒト】である』は、僕の持つ素質『剣王領域』と、その発露である能力『愚かな卑怯者の鍵』を封じるSS級の魔術だ。無理矢理に外そうとすれば、僕の魂に傷が付くレベルで強固なモノ。解除条件は『施術者の死亡』か『被術者が致命傷を負う』こと。もし封印が解かれれば、即座に魔王と竜王が出張封印しに来る。──きっと暇なのだろう。
「態々私を封印するなんてコトしなくてもー、向こうを倒しちゃえばいいのにー。」
「やっぱり暇だった?」
ジャガーノート=ルナの顕現を制限していたのは、その狂気が『封印術式を狂わせてしまう』からだ。ルナを出せば封印が解ける。封印が解けると魔王が来る。で、魔王や竜王がのこのこ顔を出そうモノなら、まず間違いなく魔剣達が襲いかかる。そりゃ、行動を大幅に制限されていればキレもする。封印状態の僕が、完全な状態の──つまり、極状態と記憶結晶、それに各々の特殊技能や技巧を扱える状態の──魔剣少女を顕現させられるのは、最大で一人。今まで100を超える魔剣たちが顕現していた事を考えれば、凄まじい制限力だ。
で。魔王をうっかり殺してしまうと、「責任取ってもっかい魔王やれ」と、『図書館』辺りが言ってくるに違いない。そんなの面倒すぎ──あれ? やっぱり自分の為に制限してね?
「マスターさーん?」
おぉ···ルナちゃんやっぱりお怒りのご様子···。
「てへっ?」
ペロッと舌を出してみたり。
「てい。」
べし。と、脳天直撃チョップが下される。そこまで痛くないけど。むしろ距離の方が問題で──っと、
「マスターちゃーん。コレどうすればいいのー?」
頭上に掲げられ、ふりふりと振られる輝かしい直剣の切っ先に、まるで炙られたマシュマロのように突き刺さった『アサシン』。下手人はその直剣の持ち主であり、そのものである太陽の魔剣ガラティーン。
「流石に早かったね···。」
僕という人形を操るより、自分の体を動かした方が早くて強くて正確なのは道理だが。
「貴方が指示を出すまでも無かったわね。マイマスター。」
「そもそもその指示が必要なのか、僕は当時から疑問だったんだよ、ミストルティン。」
はぁ、と、溜め息を吐いて自分の胸を見る。傷痕から吹き出す焔は未だに煌々と燃え盛っている。──傷を治すのには指示を出さなきゃいけないの?
「マビノギオン。」
「もう少し、マスターの魂の輝きを見ていたいのだけど···。」
「駄ァ目。これ地味に眩しいんだから。」
「はーい。」
残念そうな声を出したマビノギオンが片手を翳すと、一瞬で傷が癒える。
「はーい、お疲れ様。取り敢えず···魔王と竜王が来るから。歓迎の準備しよっか。」
「えぇ···歓迎しましょう。盛大に、ね。」
顔は笑っているのに声が一ミリの笑っていないグラムに苦笑しながら、ガラティーンの方へ向かう。取り敢えず、『アサシン』を拷問なり解剖なりして、情報を集めなければ。
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第三十九話
「さーて、キリキリ吐いて貰うよー。」
「拷問だな? マスター!」
「ここは是非私に···。」
「いやいや、まず私ちゃんが···。」
「マスター様は見てはいけませんよ?」
「マスターは、お姉ちゃんと向こうでお話しましょう?」
「約束の膝枕もしてあげますね?」
「マスター。」
「マイマスター。」
「主様。」
「···。」
──不味い。流石に収拾が付かなくなってきた。100を超える魔剣達が街の一角に犇めき合い、拷問だの甘やかしだのに興じ始めた所為で、ロキファミリアの面々も唖然としている。そんな中、僕はアガートラムやらアークチャリオットやらダインスレイフやらに腕やら腰やらを引っ張られ、取り合われている。うーん、平和な世界。──訂正だ。魔剣達が「割りと本気で」満喫している所為で、そろそろ世界が危ない。エアとかイデアとかガラティーンとか、規格外の魔剣はホント暴れさせちゃ駄目だ。
「おいマスター見ろ! こいつ、内臓を全部引きずり出してもまだ動くぞ! あはは!」
「ちょおおい!? 見せなくていいから!」
「もう、アスカロン。マスターにそんなモノ見せないで下さい。」
アスカロンが笑いながらピンク色の肉片を振り回してこっちに血液を飛ばして来るので、庇うように立ってくれたティナ=エンプレスの背中に隠れる。
「ほらほら! もっと喚け!!」
ヴィィィン!!!! と、光の刃を振るうアスカロン。「楽しそうだなぁ···」と、十歩ほど離れた場所からそれを眺める。
「魔王時代を思い出す?」
愉快そうに、と言うには曇った、こちらを気遣うような調子でグラムが顔を覗き込んでくる。魔力消費よりも世界に気を払わなきゃいけない胃痛で倒れそうなこの感じ。魔王になる前の方が近いかな。
「マスター君、これは一体···いや、まず君は大丈夫なのか? 胴体に攻撃を食らったように見えたんだが···あの蒼い炎で防いだのかい?」
あぁん!?何だぁオメェ!!(意訳) という視線が魔剣たちから団長に殺到する。なんでや団長なんも悪くないやろ···。
「はいはい、みんな落ち着いて。団長、僕は無傷です。それよりアイズさんがあそこの陰にいるので、そっちの手当てをお願いします。」
「···分かった。でも、後で詳しい話を聞かせてくれないか?」
「えぇ、構いませんよ。」
そうして、団長以下ロキ·ファミリアの面々が去っていく。それをしっかりと見送り、未だに拷問に興じているドSたちに声をかける。
「何か有益な情報は得られたのかー、解剖研究会どもー。」
「なんだマスター。このアスカロンの実験台になる気になったのか?」
「マスター様にそんなコトはさせませんよ?」
「あらあら、女帝様には私ちゃん様達の高尚な趣味が理解できn」
ぺちっ。そんな音を立てて、ティナ=エンプレスに反駁しようとした龍の髭の頭を叩く。属性不利で単純な力比べでも負ける相手に喧嘩売っちゃいけません。まぁ、喧嘩を売られたぐらいで即刻戦争にはならないだろうけど。
「当然です! そもそも、貴方の魔剣が殺しあったりする訳ないじゃないですか!」
「それあの二人見ても言える?」
指差す先では、片や暴風を、片や業火を纏ったミストルティンとグラーシーザが鍔迫り合いをしていた。まぁ出力は抑えられているし、二人にしてみれば久し振りのじゃれあいなのだろうが···と、遠い目をした瞬間に、背後から凄まじい衝撃を受け、盛大に石畳へとダイブ──せず、正面にいたカラドボルグに抱き止められる。
「もぅ、二人とも? マスターくんが怪我したらどうするの?」
「あははー、ごめんねマスターちゃん。」
「マスターも一緒に遊べば問題ないにゃ!」
ガラティーンと戯れていたバステトが思いっきりぶつかってきたらしい。···いや、柔らかさから考えてガラティーンかな。
「マイマスター。そろそろ皆を止めないと···。」
大惨事になりますよ? とでも言いたげなレヴァンテインだが、もう遅い。アブソリュートだのジエンドだの、『災厄』シリーズの中でも世界への影響力が並外れた魔剣たちが顕現したせいで、空間が歪み始めている。まず空間が『終わり』、次いで『停止』する。『死滅』し、『再生』し、『乖離』し···
「はい、そこまで。全員戻ってねー。」
「まぁ、順当よね。」
なんの前触れもなく、全ての魔剣少女が消失する。非顕現状態へのシフト。「武器庫」となる『剣王領域』への強制送還だ。仰々しく聞こえるが、やっていることはただ魔力供給を絶つだけの簡単なお仕事だ。
全ての魔剣少女が消えたことで、団長以下ロキファミリアの面々が寄ってくる。さてさて、また尋問かな? ···いや、流石にないか。
マスターの過去話(魔王になるまでとか魔王編とか)を書こうと思うんですが、新たに「ブレイブソード×ブレイズソウル原作」のssを作るべきですかね? この作品で章分けすればおk?
短い理由は、過去編のプロット組んでたからモチベが吸われたせい。
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第四十話
一転して静まり返ったオラリオの路上。近隣住民は避難し終えたのか、窓という窓、扉という扉は締め切られ、さながら無人都市のようだ。
「マスター君、君は···」
「···。」
無言で団長の目を見返す。彼の青い目は、複数の感情を宿していた。猜疑、羨望、感嘆、感謝──憎悪。
「···?」
読み取った感情が不可解すぎて小首を傾げる。憎悪を心中に宿しているのに、それは僕には向いていない。僕の魔剣たちにも。自己嫌悪の類ではなさそうだけれど···。
「どうしたんだい?」
「いえ、別に···。」
ちょっとした読心術を使って内心を測らせて貰いましたけど、貴方、憎悪を心に宿してますよね? どうしてですか? ──なんて聞けるか。
「そうかい? それで、さっきの子たちは──」
「
「──げっ。」
団長のすぐ後ろに控えるロキ·ファミリアの面々のさらに後ろから、聞き慣れた、懐かしい、そしてなるべく相見えたくなかった人物の声が聞こえた。
「!?」
背後に迫られ、声を発するまで気配を一切感知出来なかった一級冒険者達が一斉に振り向き──視線を下げる。丁度団長と同じくらいの身長の少女が、傍らに栗毛の(巨乳)メイドを従え、傲岸不遜と言い表すのが相応しい笑みを浮かべて立っていた。その少女が、最早ただの少女でないことは、彼ら冒険者が庇護すべき対象でないことは、一級冒険者として鍛え上げた観察眼と直感が見抜いていた。
「ロルリアンレット···。」
魔界において、『司書王』の称号を冠し、原初の魔王と親交を持ち、単身で魔剣使い数十人を殲滅し得る怪物。自らの名を冠する『ロルリアンレット世界図書館』の主。
「退け。」
嘲笑の浮かぶ唇が動き、言葉を成す。数秒と経ず、冒険者の群れが紅海の如く割れた。
「···え?」
満足そうに唇を歪めたロルリアンレットは、しかし、その顔を怪訝な表情へと変えた。
「···はぁ、モドキ。貴方、ふざけているの?」
「···あ、バレた?」
道の左右に割れたロキファミリアの中に紛れて移動し、「一般人です」という空気を醸し出していたために、群れが割れて作られた「王の通り道」には、ロルリアンレットとメイドしか残っていなかった。乾いた風が吹く前に気付いたのは、流石はロルリアンレットと言うしかない。
「···。」
すぅ、と、ロルリアンレットの目が細まる。うーん、非常によろしくない。
「ごめんなさいでした。」
即断。平伏。五体投地。所謂、土下座。地面しか見えないから分からないが、きっと彼女の顔にはサディスティックな笑みが浮かんでいることでしょう···。
「はぁ。元魔王ともあろう者が、結構な姿じゃない。立ちなさい、モドキ。」
「···じゃあ足退けてくれないかな。」
「あら? 嬉しくないの?」
「嬉しいです(即答)」
──いやいや、ここで下手に否定すると長引くからであって、別に本心から嬉しいから即答した訳じゃないのよ? ホントダヨ。ウソツカナイ。
「で、ロルリアンレット。何しに来たの?」
「後見人に対して随分な言い種ね? 今の貴方が、E.D.E.N.と魔剣機関が総力を挙げてでも討ち取るべき「敵」だと分かっているの?」
ぐぅ。そうでした。
「だから私と──」
「私が、ワザワザ出向いてやったんだ。感謝しろ、魔剣使いもどき。」
背後に気配。振り向くと、ウェーブのかかった金髪を流し、右目に眼帯を当てた女性が立っていた。──げっ。
「アリス様···。」
僕の後見人その2だ。魔界においてアンタッチャブルとされるレベルの二人だが、掃いて捨てても売っても斬っても焼いてもまだ余るほどに
「えーっと···。はぁ、ルナ。だから止めとこうって言ったじゃないか。」
『そうやって人のせいにしないと、なーんにもできないんですかー? 救えないなー。第一、マスターさんが致命傷を負ったから、私達が一斉顕現したんですよー? 分かってるんですかー?』
「ぐぅ。」
正論過ぎて何も言えないのだが?
「ねぇモドキ。言っておいたわよね? 『軍勢顕現は使うな』と。封印まで施したのに、ルナで封印を狂わせて使うなんて···。さては、前回不自然に封印が緩んだのもソレのせいね?」
ソレ、というのは、ルナの何でも狂わせる性質を指すのだろう。流石は司書王陛下。賢察通りです···。
「封印術式は魔剣機関秘蔵の骨董品。ワザワザ私達がアレンジして抜け穴を作ってあげたのに、それだけじゃ満足出来なかったのかしら?」
「あ、いや、その···。」
「仕方ないだろう、ロールお嬢様? コイツに武器を扱う才能なんて塵ほども無いんだから。」
「ぐさっ。」
「そうね···なら、もう少し大きめの穴にするべきだったかしら?」
「無理だろうよ。E.D.E.N.にした言い訳を覚えてないのか? 『術式が古く、また思った以上の魔法抵抗力に阻まれたせいで、上手く魔法が掛からなかった。』だぞ? コイツにそんな魔法適性がある訳もないのに、これ以上どうすると言うんだ?」
「ざくっ···。」
内側で何人かの魔剣が暴れているが、全力でそれを抑え込む。無理無理。勝てる訳無いじゃん。やめとけ。やめてください···。ロキファミリアのみんなも、そんな憐れむような目で見ないで···。
「ねぇモドキ。忘れた訳じゃないでしょう? 貴方が魔王を辞める時に出された条件。」
「はい。」
「流石に可哀想と思って、ワザワザ面倒な術式改造をしてあげたのよ?」
「2分も掛かって無かったよね···。これ一応対神用の完全拘束術式なんだけど。部分的に穴を開けるとか逆に難しい筈なんだけど。」
「は?」
「いえ、ナンデモナイデス···。」
くそう。これなら団長に尋問された方がまだマシだったぜ···。
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第4/1話
聖杯。至高の聖遺物である聖血──神の子の血を受けた杯だ。それはあらゆる願いを叶えることが出来る、万能の願望器であるという。
そして、それを求めて7人のマスター魔剣が争う催しがある。名付けて、聖杯戦争。
7人の魔剣は、それぞれ7つのクラスに分類される。最優のクラスとされる、
それぞれのクラスに、毎回の聖杯戦争ごとに違った魔剣が召喚される。今回はこうだ。
セイバー:魔剣グラム
ランサー:ゲイボルグ=ゼロ
アーチャー:オーア·ドラグ
キャスター:カタストロフ·イデア
アサシン:ソードブレイカー
ライダー:???
バーサーカー:ジャガーノート=ルナ
この記録では、ライダーの視線から、今回の聖杯戦争を追っていく。
◇ ◇ ◇
side:ライダー
どうも、ライダー···マスターです。どうしてライダーなのかは分からないけど、自分の魔剣たちと争うというのは、特に殺し合うというのは気分が良くない。聖杯というのがどれだけのモノなのかは分からないけど、魔剣たちが僕を殺してまで欲しいものなのは明らかだ。ただ、僕が殺されれば今回の聖杯戦争に参加していない魔剣たちにも影響が出てしまう。それは大変よろしくないので、ここはみんなを説得していこうと思います。
まずは初日の夜。とりあえず歩き回ってみることにした──のだが、このフユキという土地には馴染みがなく、直ぐに迷ってしまった。仕方なく川沿いを歩き、途中で見つけた橋の上に登ってみる。うーん、あそこが仮拠点だから···と、帰る算段を付けたのもつかの間、まだ内側に残っている魔剣たちが警告を発した。
『あるじ···あそこに二人いる。』
「ん? どこ? ···あー、ほんとだ。」
遠くに目を凝らしてみれば、河港付近のコンテナ倉庫で火花と魔力が散っている。どうやら、既に戦闘になっているようだ。
「遠いなぁ···。」
歩こうが走ろうが、地図読めない族の僕には辛い道のりだ。と思ったが、また脳に直接響いた声で、一気にその問題は解決する。
『マイマスター。
「···はい?」
──僕は、風になった。
◇ ◇ ◇
足場となっていた風が、アスファルトを削る。その摩擦を利用して一気に減速し、停止する。いや、うん。確かに凄く速かった。が、待て。まず一言。
「マビノギオンとかシャドウゲイトとかさぁ!! 転移できる魔剣はいっぱい居るじゃん!! なんで風ダッシュ!?」
『他の子は燃費が悪いじゃない。それに、あの程度の距離で転移するのも格好がつかないわよ。マイマスター。』
「カッコつけようとはしてないんだけど···。」
嘆息。そして──回避。
風を巻き上げることすらせず、流れるように振るわれた大剣の一閃を、転がって回避する。体幹をずらしただけの最小限の動きでは、あの大剣が切り裂いた空気が刃となって襲ってくる。結果、大袈裟なほどの回避が必要となり、隙ができる。当然、残る一人もそれを見逃すような甘い魔剣ではない。神速としか形容できない刺突が襲う。それも──地面を無様に転がって──回避。一撃多斬。一回しか繰り出されていない筈の攻撃が、三つの穴をアスファルトに穿つ。
「···おいで。」
素早く立ち上がり、右手に一振りの大鎌を顕現させる。この場の魔剣たちにおいて、有利か、或いは互角に立ち回れる人選だ。
「あら、やっぱり貴方も来ていたのね。···マスター。」
「君が"剣の領域"から消えていた時は、本当にどうしようかと思ったよ。グラム。」
「ねぇアナタ。ここは引いてくれないかしら? 私はコレを倒さなきゃいけないの。」
「落ち着いて、ゼロ。僕は君たちが戦うところなんて見たくない。」
右側にセイバー···グラムを、左側にランサー···ゼロを据え、両手を広げて「落ち着け」というジェスチャーをする。
「マスター。邪魔をするなら貴方から殺すわよ?」
「えぇ、そうね···。お願い、アナタ。これが最後通喋よ?」
「なんか好戦的ですね二人とも···。」
本気の殺意を向けられ、一瞬で腰が引ける。仕方ないんだよぅ···怖いんだよぅ···。
「!?」
「!!」
二人の脚に力が籠るのを感じる。が、それは僕の首を落とし、心臓を貫く為にではない。もっと消極的な、退避の為の動き。
「危ないわよ、マスター様。」
「えっ。」
上空から聞こえた声に釣られて顔を上げれば、夜空の満月をバックに、背中から六枚の翼を生やした少女がスカートをはためかせ、微笑を浮かべて空に佇んでいた。
「イデア···!?」
クスクスと、距離を考えれば聞こえる筈のない笑い声が聞こえ、そして、イデアが手に持つ杖を軽く振るった。
極光が放たれる。──光というのは、質量を持っていないくせに膨大なエネルギーを持っている。どういう理屈なのかは知らないが、とにかくそういうモノなのだ。では、光が質量を持つとどうなるのか。結果は明快。万物を消し飛ばす死刑宣告の具現となる。
「っ!!」
タイミング的には、イデアが杖を振るうのと全くの同時。右手の大鎌をくるりと回す。続いてグラムとゼロを抱き抱え──るのは流石に無理なので、まずはゼロを、続いてグラムを順番に抱き抱えて移動する。滅びの光の影響が無いと考えられる地点──川の反対側にある公園まで。
移動を終えたタイミングで、崩壊の極光が着弾し、コンテナ倉庫が消滅する。近隣住民には、あとでジャメヴの記憶処理を施しておこう。
「危なかった···。」
「助かったわ、ありがとう、マスター。」
「イデアちゃんまで来ていたなんて···。アナタ、規格外の魔剣は出さないようにしてね?」
「うん···。」
竜王クラスは特にね。──あれっ。
「マスター? どうしたの?」
「アナタ、大丈夫? 顔色が凄く悪いわよ?」
いや、あの、えっと、そのですね。はい。とりあえず竜王クラスが"剣の領域"に居るかどうかをチェックしたんですけどね?
「···誰が居なかったの? まさかとは思うけれど···。」
いや、流石にジ·エンドとかペシェは居るんだけど···はい。ドラグ様が居ません。
「今頃気づいたのか、小僧。」
その愉快そうな声は──!!
背後からした声につられて振り向く。居た。全体的に金色でゴージャスなロリータが。居た。
「セイバーにランサー。それに小僧か。共同戦線でも組んでいるのか? 構わんぞ、同時に相手をしてやろう。」
「ドラグ様···小僧はクラス名じゃないよ···。」
うーん、非常によろしくない。グラムは龍に対して特攻が付くとはいえ──いやいや、つい癖でグラムとゼロを運用する方法を考えていたが、敵じゃん。駄目じゃん。
──敵?
──いや、待て。
そもそも前提がおかしいだろう。7人で殺し合う。なるほどそれっぽい。だが、
僕が多少の躊躇だけでみんなを「敵」と認識したのも不自然だし、そもそも行動として「迷ったから橋に登った」時点でおかしい。イデアが居ないなら居ないで、ワイバーンとかカタストロフとかを使って飛べばいい。橋に登るなんて行動にはまず出ない。おかしい。何かが──。
「···。」
「···。」
「···。」
「···みんな?」
さっきまで鳴っていた剣戟音が止んでいる。どころか、川辺だというのに水の音すら聞こえない。完璧な、あり得ざる静寂。
「気付いちゃったんですねー。マスターさん。」
「!?」
すぐ背後から聞こえた「音」に──聞き慣れた声に驚き、跳躍して距離を取る。
「酷いですねー、マスターさん。そんなに驚くようなことですかー?」
「···ルナ。君の仕業か。」
ルナはクスクスと笑うだけだが、その態度は完全に肯定を示していた。
「僕の認識も、魔剣たちの認識も、まるごと全部狂わせたのか。」
「それが分かる程度には頭のいいマスターさんで安心しましたー。」
うふふー、なんて、棒読みの笑い声を交えて話すルナの目は、魅入られそうなほどに赤く輝いていた。
「なんの為に?」
「それを探すのが、マスターさんの役回りですよー。ユウシャサマ。」
衣擦れの音が背後から聞こえた。少しだけ首を回してルナを視界に納めたまま背後を確認する。グラムがキョロキョロと周りを確認している。ドラグ様とゼロは相変わらず武器をだらりと下げて項垂れたままだ。
「グラムさんだけは返してあげますねー。あとの四人を倒して、或いは仲間にして、私の所まで来られたら元に戻してあげますねー。」
あ、そうそう。他の魔剣を使うのはナシですからねー? なんて宣ったルナが一際両目を輝かせる。···苦笑にもならない「苦い笑い」が浮かぶ。今の一瞬で「剣の領域」がロックされた。握り締めていたアダマスが粒子となって霧散する。
「マスター、これは?」
「後で説明するよ。」
すぐ横に来たグラムに囁く。
「じゃあマスターさん。頑張ってくださいねー。」
ルナが空気に溶けて消えて行く。振り向けば、ゼロとドラグ様も消えていた。これは、あれか。
四天王を倒してルナも倒そう!! みたいな、ロールプレイングなアレだな。うん。初期装備がグラムとかいうチートスタートだし、なんとかなるだろ。
とはいえ。僕達の冒険は、まだ始まったばかりだ!!
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