個性:コジマ粒子 (ドミナントソード♂)
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第1話 狭い世界、制限された自由。

ここは、名を捨てた獣の戦場。



その黒い鳥は、ある日突然に現れた。

 

すべてを焼き尽くす、黒い鳥。

 

その鳥は、瞬く間に世界を焼き尽くして行った。

 

カラードという体制が崩れ去り、ヴィラン連合も事実上解体され、革命家たちも、消え去った。

 

無辜の人々は、ただただ、災厄が過ぎ去ることだけを、震えながら待っていた。

 

人類種の天敵。

史上、最も多くの人命を奪った個人。

 

呼び名については色々あるが、1番知られたのは、この名だ。

 

ストレイド(首輪を外した獣)と。

 

 

 

 

 

 

 

chapter.1 "cradle"

 

 

 

 

 

 

 

世の中、わけわからん事ばかりである。

死んだと思ったら第2の生が始まっていたなんて、そりゃあポルナレフ状態にもなる。で、だ。問題はここからだ。この世界には超能力が普通にあって、個性という通称で呼ばれてる世界だったわけだ。なるほどヒロアカですね。ヒロアカはたいして知らんが、まぁ、そこまでならいいとしよう。ヒーローになったら億万長者確定だろうし、ヒーローにでもなろうと思うでしょう。でもね、まさかね、こんな個性とは思わないでしょう。

 

個性:コジマ粒子

 

これに気がついたのは、4歳の時だった。公園のきったねぇトイレで用を足そうと力んだら、AAをぶっ放しちまった訳だ。その後どうなったかは、まぁ、想像に任せるよ。あんまり語りたくないんでな。

まぁ、あの公園は浄化する必要性が出たとだけ言っておこう。

 

そんなこんなあって、俺は個性を使うか使わないか迷った。だって、コジマ粒子ですぜ? (政府の胃を)マッハで蜂の巣にしてしまう、あのコジマ粒子ですぜ? そら困りますわ。

だが、その悩みも1週間後には無くなった。なんか、母親が個性で汚染を浄化出来るらしい。やったね!

それ以来、俺は自重という二文字を忘れてしまったのだ。

 

事件から2ヶ月? ぐらい経ち、明らかにヤバそうな、マッドサイエンティストって感じの研究者から首輪(チョーカー)を着けられた。なんでも、その首輪(チョーカー)がコジマ粒子の毒性を綺麗さっぱり消せるそうだ。これで安心して個性の特訓が出来るゾイ。

 

そんなこんながあって、5歳の頃にはフワフワと空中を漂えるようになった。空を飛ぶの楽しい。あと、かなり弱々しいコジマキャノンを撃てるようになった。感覚的には、握りっ屁を投げつけてる感じ。いやぁ汚い。

 

6歳にもなると、とうとうQBを使えるようになった。

といっても、時速50kmぐらいしか出ないし、体勢を立て直せないけどな。いや、そもそも時速50km出せる事がおかしいのでは? ……いや、そんなことはないはずだ。

 

ちなみにQBの方法として、PAの一部を使うことによって可能にしている。コジマ粒子って体内から溢れてるっぽいし、こうでもしないと俺が爆ぜちゃうからね。もしかしたら大丈夫かもしれないが、怖くて出来ません。

 

 

 

そんなこんなで7歳になり、俺は驚愕の事実を知った。

 

カラードランク1、オールマイト。

 

は? カラードランク? お、おい、どういうことだよ。カラードランクは水没王子だろじゃなくて、ここはヒロアカだろ? え? どーゆーこと?

 

カラードランクの3を見てみると、ジナイーダだった。

 

……ハハッ、笑えねえ。

 

 

 

 

 

 

10歳の段階で、QBで時速200kmを出すことに成功した。これ以上速くなったら身体が保たなそうだけど、ここってヒロアカだし……ね? 時速1000kmぐらいなら耐えられる気がする。

 

『AMSから、光が逆流する……!? ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

うん、怖いし辞めておこう。

 

 

 

 

13歳になった時、とうとうQBで時速500kmを出すことに成功。案外、なんとかなるもんやなぁ。

まぁ、流石に1000kmは無理そうだ。流石に死ぬ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「ストレイド」

 

「ん? 何?」

 

今日も今日とて裏山で特訓してたら、何やらシリアスの香り。母親から、これから真面目な話をしますよオーラが溢れ出てやがる。

 

「お前……学校には、行って見たいと思わないのか?」

 

なんやこれ(困惑)。なんで申し訳無さそうにしてるんだ。いや、確かに俺は学校に行ってないよ? でもね、それはしょうがない事なんですよ。

 

「いや、別に。セレンと一緒に居られれば、まぁ、それで十分だし」

 

まぁ、コジマ粒子ってのが危険すぎるからなぁ。いざとなったらすぐに浄化出来る人が近くにいりゃあ問題ないじゃろってことで俺は見逃されてるけど、これ、下手すりゃあ政府のモルモットコース一直線だからなぁ。正直、十分恵まれてるんだよなぁ。ただのヒロアカ時空だったら問題なかったけど、この世界、地味にアーマード・コアが侵食してるからなぁ。迂闊に人を信じれば『随分と調子良さそうだねぇ。騙されたとも知らずに』なんて事になっちまう。そーゆー意味じゃあ、セレンの監視以外特に干渉されない時点で、俺は恵まれてるわ。母親が監視役ってこれ、最高じゃね?

 

「……そうか」

 

ありゃ、なんか思い詰めてる。返答ミスったか? 俺に背中向けちゃってるし。

 

……うーん。

 

「揺り籠から出なけりゃあ、俺の安全は保障されてる。なら、態々出て行く必要は無いだろ?」

 

追撃だ。

 

「ストレイド……もう、5時だ。今日は帰ろう」

 

ダメダこりゃ。完全に返答をミスったっぽいぞ。なんか、『覚悟完了』ってオーラが溢れ出てるわ。

 

「わかった。夜ご飯なに?」

 

なんか怖いし、気づいてない事にしよっと。

 

「そうだな……今日は、串カツにするか」

 

「へっへっへ、マッハで串刺しにしてやんよ!」

 

やっぱり二度漬けが最強かぁ〜。

 

 

 

 

 

━━翌日━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳だ」

 

「いや、ちょっと言ってる意味が分かりませんねぇ」

 

「これから貴様には、雄英高校を受験してもらう。ビシバシ鍛えてやるからな。覚悟しておけよ」

 

「じょ、冗談じゃ……」

 

俺、勉強で死にそうです。

 

「フッ、安心しろ。強力な教師を用意してある」

 

「勉強することは確定なんですね」

 

「入って来ていいぞ、ウィン・D」

 

……は? 今、なんて?

俺の頭がショートしてる中、時間は無慈悲に進み続ける。

 

リビングの扉が開かれ、1人の女性が入って来た。

 

「紹介された通りだ。ウィン・D・ファンション、よろしく頼む」

 

「あ、はい、ストレイドです。よろしくお願いします」

 

席から立ち上がり、しっかりと腰を折って挨拶をする。

 

「……ふむ、怯えられるようなことをしただろうか?」

 

すんません、ゲームの中でのトラウマが。少佐砲怖すぎんよ。

 

「フッ、内面を察したのだろう」

 

「……私は、そんなにも畏れられるのだろうか」

 

「では、お前のセリフを一つ、真似するとしよう。『死んだか、慰めにもならん』」

 

「っ! そ、それは無しだ!」

 

「ははは、よく言う。『死を告げる閃光』、中々いい二つ名じゃないか」

 

やっぱスミちゃん怖えよ。

 

「……今、何か失礼なことを考えたか?」

 

ジロリと、睨みつけられた。蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのこと。

 

「イ、イエ、ベツニナニモ」

 

「そうかそうか」

 

これにはセレンもニッコリ。殺気も元気そうに溢れ出している。

 

「……扱き倒してやれ」

 

「そ、そんなぁ!」

 

「……ストレイド。悪いが依頼なんだ。私のために、死んでくれ」

 

 

 

ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

こうして、勉強という名の扱きが始まった。

 

 

 

 

──なんだ?舐めているのか?

 

──ふざけているのか?

 

──これで強力な個性持ちだと? 学がなければ、言葉も解さんただの獣か。粗製とは、まさにこのことだな。

 

 

 

 

AMSから、成績が逆流する!? ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

──死んだか、慰めにもならん

 




ACらしさを出すべく、状況をあまり理解させずに進めていくスタイル。これ、結構難しい。
更新ペースはあまり早くない。仕方ないね。


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第2話 その世界に、色彩はなかった

 

I'm a Murder.

 

I can break all.

 

I'm a weapon.

 

I don't have heart.

 

 

 

 

 

それは、侵してはいけない領域だった。

彼が現れるまでは──

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

I'm back.

 

俺は戻って来た。ただいま、平穏なる生活。これからは12時起床24時就寝という堕落しきった生活を送ってやるぜ。、

 

「なんだ、出来るじゃないか。見直したぞ、ストレイド」

 

セレンもデレたことだし、これはもう合格確定なんじゃないですかね?

 

「とは言え、あまり調子づくなよ。本番で失敗すれば、今まで積み上げて来たものがパーになるのだからな」

 

知ってた。どうせそう続くんだろうと思ってた。

 

「……まぁ、よくやったよ」

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛萌え死ぬ。

 

「では、これからは実技を頼む」

 

「……え゛」

 

「だ、そうだ」

 

「え゛」

 

「ウィンディ、ストレイドは中々にやるぞ? こっちは厳しめで頼む」

 

「え゛」

 

「そうか、期待できそうだ。では、今から裏山に行くとしようか」

 

「……(諦観)」

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「なるほど。それがお前を守っているのか」

 

ウィンディから放たれたレーザーをどうにか防ぐことができた。結構心配したぞオイ。PAメッチャ削られたからビビったぞおい。

 

「PAって呼んでください」

 

その方が分かりやすいしね。

 

「なるほど、これからはそう呼ぶとしよう」

 

……さて、問題はここからだ。

 

「少しだけ、本気でいかせてもらおう」

 

「ッ! そりゃズルイ!」

 

ある意味じゃあ原作再現。ウィンディの個性は恐らく電気系。さっきはレーザーを出して来たし、今度は高速移動。こんな人外起動、一般人じゃ無理があるわ!

 

「なるほど、意外と堅いのだな」

 

直進してストレートを放って来たからよかった。正面なら、そこだけPAの装甲を厚くしやすい。見えてないと、何処を厚くすればいいか分からないからな。

 

「逃げるが勝ち!」

 

足元のPAを燃料にQBを発動させ、一気に上昇する。

 

「悪いが、撃ち墜とさせて貰う」

 

「じょ、冗談じゃ……」

 

嫌な予感がする。まさかとは思うが。

 

「ハァッ!」

 

ウィンディの発生と共に、俺の視界が閃光で埋まる。

 

少佐砲はズルすぎるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

俺が全力で厚くしたPAは、少佐砲を耐えられなかった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「……なるほど。これは確かに、匹敵するな」

 

デュアルハイレーザーを喰らって生き残るとはな。殺すつもりの一撃ではなかったとは言え、まさか、軽度の火傷程度で済むとは。

 

「あたりまえだろう? 私のストレイドなのだからな」

 

全く。セレンもそういう表情をもっと周りに見せていれば、婚期を逃すことも無かっただろうに。今、自分がどういう表情をしてるか、分かってるか?

 

「まったく、可愛い奴め」

 

普段の貴方からは考えられない、女の顔をしているよ。

 

「さて、帰るとするか。安心しろ、ストレイドは私が背負う」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

何が安心しろなのか、よく分からんな。

 

よっこいしょという掛け声と共に、セレンがストレイドを背負い、歩き始めた。

 

「さて、夜ご飯はどうするか。今日はハンバーグにするか? いや、だが、唐揚げも……うーむ」

 

ご褒美、といったところか。

 

「……聞きたいことがある」

 

「……どうした、レイテルパラッシュ」

 

「その子供は、誰の子だ」

 

「……科学の子供だ。あぁ、まさにその通りだ」

 

「そうか、道理で……」

 

「……」

 

「カラードは、雄英高校の入学のみを承認した」

 

「やはりか。どうせ他に選択肢などない。死ぬ気で受かって貰うぞ」

 

「……シリエジオ。一つだけ、言っておこう」

 

「なんだ?」

 

「手綱は、しっかりと握っておけよ」

 

「……あぁ。そんなこと、分かっているさ……」

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

地獄を乗り越え、受験日になった。

 

「必ず合格してこい。さもないと……分かっているな?」

 

という、ドスの効いたありがたいお言葉頂き、俺のやる気は限界点を突破した。

 

試験を速攻で終わらせ、余った時間は見直した。

で、問題の実技。これがまた……ね? 大変そうだね。

 

スタート位置に立つ。なるべくすぐに始められるよう、限界ギリギリの地点で合図を待つ。

 

PAの準備はオッケー。コジマ粒子も普段以上に精製してるから、PAがドンドン分厚くなっている。

 

まだかなーまだかなー。

 

「スタート!」

 

OB点火!

ミッション開始! 全目標の排除を開始する!

 

マッハで蜂の巣にしてやんよ!

 

指からコジマキャノンを放ち、雑魚敵を倒していく。コジマキャノンは指でチャージできるので、俺は10発分のスタックが有るのだ。フハハ、数は力だよ。

 

OBと2段QBを駆使する事によって生まれる人外起動で、自分でも調子がいいと感じる速度で敵を倒していく。

 

いい傾向です。これなら、1位で入学できる可能性もあるでしょう。

 

って、コレ、フラグだったな。

 

だってほら、めっちゃ重たい音がしてるもん。

 

おや? 今日は一日中晴れてる予定だったんだがな。お天気雨かな?

そう思い空を見上げると、そこには大きなロボットが。

 

あー、そーいや原作にこんなやついたなー。

これ、流石に倒すの無理そうだわ。撤退撤退。

 

……やっぱ変更。いいこと思いついたわ。

 

OBでロボットに近づき、足の関節部分に着地してコジマ粒子をチャージする。

 

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! これこそが! コジマの煌めき!

 

「アサルトアァマァァァァァァァァァァ!!!」

 

激しい閃光と爆発。恐らく、成功しただろう。平衡感覚が崩れているもの。目を開くことは出来ないが、このロボットは足関節を破壊され、もう歩くことは出来ないだろう。

 

取り敢えずフワフワと飛ぶことで危険を回避する。

あー、サングラス持ってくるの忘れちゃったからなぁ。ちょっと回復が遅いなぁ。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

──今年の受験者も、中々に豊作だな。

 

──あぁ、そうだな。今年も面白い奴が集まった。

 

──爆発の少年は凄かったな。圧倒的なまでの破壊力とタフネスさ。ヴィランと言われた方がしっくり来たね、アレは。

 

──その点で言えば、彼も凄かっただろう。0ポイントを正面からぶん殴って破壊した少年。彼は、まさにヒーローだった。

 

──いい加減にしろ。本題に入るぞ。

 

──ストレイド、か。仲間外れとはまた、随分と皮肉を効かせた名前だな。

 

──個性KPだと? KPとはなんなのだ。ふざけているのか?

 

──個性は自己申告だ。そいつにしか分からんこともある。

 

──安直にKill Powerだろうか?

 

──遺伝子を破壊することで個性を消す能力。恐ろしいまでに強力だ。

 

──だが、今はその毒性も消されている。あぁ、毒性を消されていても、あれだけ能力に幅がある。

 

──強力過ぎる。首輪が必要だ。

 

 

 

 

 

 




元よりプロットなどない。


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第3話 ヒーロー試験

 

雛鳥は、空を求めた。

 

だが、原子の記憶を求め、鋼の監獄へと向かい続けるのは本能だ。

 

その先に、答えはあるのか──

 

 

 

 

 

 

 

chapter2. "Project Phantasma"

 

 

 

 

 

 

 

ワイ、無事に合格した模様。

送られたビデオに映ってたオールマイトも、「HAHAHA! あの機動力は素晴らしかった! 怪我人などの救助をする時、とても活躍しそうな個性だね!」と褒めてくれた。やったぜ。

セレンママも「お前も、一端の人間になって来たもんだ……」と、なんだか感慨深そうに頭を撫でて褒めてくれた。貴重なデレ要素でワイのエーレンベルクが大規模コジマ収縮を始めちまった。アサルトセルを一掃しなきゃ(使命感)。なお、ウィンディは既に仕事をしている模様。最近現れたヴィランを殺しつくすとかなんとか。ヒェッ、怖すぎ。

次の日のニュースは、フィリピンの麻薬組織が壊滅したとか言われてた。ウィンディさん、あなたニュースになるぐらいに何かやらかしたんすか? 惨殺祭り?こええよ。

 

そんなこんなでお祭りムードを入学式まで引きずっていた。セレンママ、デレデレってレベルじゃないっすよ。萌え死ぬ。夜は大好きホールドで抱き締められた状態で就寝(力が強過ぎるため、意識を落とされる)。朝はおはようの笑顔(普段が恐ろしいからそのギャップでAP90%減少レベルの大ダメージ。萌え死ぬ。)から始まる。裏山での特訓も、「流石だ。私が見込んだだけのことはある」と、評価が甘々。やばい、萌え死ぬ。

 

そうそう。なんか、ヒーローコスチュームを作るとかなんとかで、企業に行ったんだよ。その企業の名前、アスピナ機関だってさ。その名前を聞いた瞬間、鳥肌が立ったわ。その筋の界隈では有名らしく、協力関係にある企業とか子会社には、キサラギとか、ムラクモとか、トーラスとか、有澤重工があるらしい。失神しかけたわ。

 

で、まぁ、社長と会って話したのよ。どんなコスチュームがいいかって。だから俺はこう答えてやった。「ロマン溢れるパワードスーツ」ってね。背中には変形するブースターがあって、ヘッドパーツはカメラの保護機能が付いてて、みたいな感じでホワイトグリントの説明をしまくったのよ。そしたらね、社長さん、名前はアブ・マーシュって言うんだけど、「それ、面白い。その発想を買おう。もう一つぐらい何かないか?」なんて言ってきたわけよ。だから、今度はこう答えた。「鴉みたいに鋭く尖っててカッコいいやつ」ってね。勿論、アリーヤをイメージして説明したさ。で、なんやかんやあって個性を把握しなきゃ、個人に合ったのを作れないとか言うからコジマ粒子をちょっとあげたのよ。研究サンプルみたいな感じで。結果的に言えば、解剖されそうになった。セレンママが居なかったら、確実に死んでた。

と、まぁ、こんな感じで濃い日々を過ごしてたが、今日は入学式だ。

 

なんだか、登校してる最中の気分は桃色。視界も桃色。うんうん、春は桜が満開でいいね。こんな日にはブレオン機体でソルディオスと斬り合いたいもんだ。なんて考えてたら教室に辿り着いていた。今日の俺、上の空すぎませんかねぇ?

教室に入り、適当な席へ座って眠る。

フッ、これぞボッチスタイル。話しかけるなオーラを撒き散らす、最強のバリアーだ。

勿論PAも張ってる。俺の眠りを妨げることは許さん。セレンママがデレデレなせいで、精神的に参っているんだ。寝てスッキリしたいんだ。起こすなよ、起こすなよ! フリじゃないからな!

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「ハメさせてくれ」

 

──っ!?

 

「手こずっているようだな、尻を貸そう」

 

──っ!!??

 

「面白い素材と聞いている」

 

──っ!!!??? 離脱だ! 離脱させてもらう!

 

「こちら、ジョシュア・O・ブライエン。離脱? ダメだ」

 

「「「「ヤラナイカ」」」」

 

──ウワァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!!」

 

……なんだ、夢か。はぁ、心臓に悪かった。顔を上げ、背伸びをする。ゴキゴキカァオと、いい具合に音がなる。あ〜気持ちいい〜。骨鳴らして身体慣らすの気持ちいい〜。

 

「つーわけで、グラウンドに集合だ」

 

……あれ? 俺が寝てる間に、話進みすぎじゃない?

 

髭もじゃ寝袋オジサンが、のそのそと教室から出て行った。

 

「……はぁ」

 

状況がよくわからん。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

なんか、体力測定をやるらしい。

へー、個性もありなんだー。

……俺だけイロモノ感が出るんじゃねぇかな?

 

へぇ、お試しで個性ありのソフトボール投げやってくれるんか。ほぉ、なるほど……飛ぶねぇ。いや、めっちゃ飛ぶねぇ。ちょっと爆破くん、705.2mって飛ばしすぎじゃないっすか?

えぇ……怖すぎんよ。

 

……え、なに? 最下位は除籍? 嫌だなぁ。初日で退学とか、セレンママに殺される。本気出さなきゃ(使命感)。

 

まずは50m走か。なるほど、QBの出番だな。

 

え、なにあいつ。足にエンジン? んでもってタイムは3秒? なんじゃそりゃ、卑怯すぎないすか?

 

「おら、お前の番だ、ストレイド」

 

え、もう俺の番? いやーでもなぁー。

 

「あー……その……なんというか、ですねぇ。その、個性がどれくらい影響を与えるのか分からないんで、1人だけで走っていいですか? 走るのは最期でいいんで。あんまり、迷惑かけたくないんで……」

 

QBがどんくらい影響を与えるか分からんのよね。ほら、近くに人がいる状況で使わないし。え? セレンママはどうしてたって? 離れたところで見守ってただけですよ。

 

「……まぁ、そう言うんだったらいいだろう。ただ──」

 

「あざます! 最後に走りますね!」

 

「……」

 

ひゃっふぅ! これで迷惑かけずに済むぜ!

 

ノリに乗った俺は、後ろの方でコジマをチャージし始めた。

 

「オイオイなんだよあれ。なんかエメラルドグリーン色に輝いてんだけど……」

 

「え、気持ち悪! なんなのあれ」

 

「メロンシロップみてぇな色してんのな」

 

ひどい言い様だ。泣いちゃうよ。

でも俺、頑張るよ。全力で2段QBするからね!

そのためにも、PA分厚くしとかなきゃね!

 

「ストレイド、お前の番だ」

 

「はい! 全力出します!」

 

どうやら順番まで回ってきたようだ。

位置につき、いつでもQBを吹かせられるよう構える。

 

「あ、すんません。後ろは危ないかもしれないんで、出来れば横か、遠くに離れてください」

 

「だ、そうだ。お前ら、離れておけ」

 

みんなが離れたのを確認し、構えた。

 

『位置について、ヨーイ』

 

足元を少しだけ浮かし──

 

『ドン』

 

ドッッッヒャァァァァ!!!!!!

 

──ドの段階で、2段QBを吹かす!

これだけ準備の時間があったんだ。2段QBはいとも容易く発動させられる。

濃厚で上質なコジマ粒子を一気にプラズマ化させた影響で、AAと間違えるほどの爆発力が生まれた。

俺もやり過ぎたと思ってる、うん。

だってほら、測定装置がかなり後ろにあるもん。うわぁ、戻るの気まずいなぁ……自然に遅くなるのを待つんじゃなくて、途中で横QBやっときゃよかったなぁ……はぁ。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ストレイド、お前の番だ」

 

「はい! 全力出します!」

 

俺の言葉に対し、こいつは元気よく答えた。受験の際、超高速起動を繰り出していたこいつにとって、50m走は得意な分野だろう。

プロフィールを確認するか。身長90cm体重54kg、小中学校にも通っていないため、常識は持ち合わせていない。政府指定特別監視対象。まったく、これまた面倒な奴だ。

 

「あ、すんません。後ろは危ないかもしれないんで、出来れば横か、遠くに離れてください」

 

「だ、そうだ。お前ら、離れておけ」

 

なるほど。得意分野なだけあって、随分と調子良さそうじゃないか。だが──

 

──それしか取り柄がないなら、お前はここで落ちる。

 

『位置について、ヨーイ、ドン』

 

ドッッッヒャァァァァ!!!!!!

 

「ッ!? クッ!」

 

なんだ、こいつの馬鹿げた爆発は!

たかだか50m走のためだけに、これだけの閃光と爆撃を起こすだと!? 正気かこいつ! 後方に待機していたら、確実に衝撃波で何人かやられていたな。

……こいつは、ヤバイ。50mどころか、200m以上先に居るじゃねえか。こいつ、化け物か?

 

──ピッ

 

手に持っていた端末が記録を表示した。

 

「0.40……だと?」

 

……ハハッ。こいつは面白え。

たとえ速度の一点強化だろうと、この速さなら、誰も追いつけねぇよ。

 

いいだろう。テメェを歓迎してやるよ。

俺たちが更にその先の領域まで、連れてってやる。

 

 

 

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最下位は除籍と言ったな。アレは嘘だ。

 

ナ、ナンダッテー!

 

最下位だった冴えない少年は除籍を免れたようだ。ヨカッタネー。

 




chapter2が1番長いと思われる。
ここでの選択肢でオルカルート行ってから虐殺ルート行かなきゃいけないせいで、情報を小出しにしながら進めないといけない辛み。
ヒロアカ時空の情報がある程度集まらないと自然な形でオルカルート行けないので、更新は遅めと思って下さい。


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第4話 停滞

 

 

クイックブースト。

それは、ネクストにのみ許された世界。

 

──貴様には、ノーマルがお似合いだ。

 

 

 

 

 

 

 

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古今東西なんでもござれな食堂があると聞いたのだが、流石にコジマサイダーやアミダステーキは売っていなかった。そりゃそうだよね。世界観違うし。

 

昼食も終わり、午後の授業が始まった。

 

「わーたーしーがー! 普通にドアから入ってきたー!」

 

うわ、アメコミおじさんだ。こいつだけ作画濃いよ。筋肉モリモリマッチョマンの変態って感じだわ。

でもやっぱり、カラードランク1は水没王子にすべきでは? それとも、アメコミおじさんが水没するのか?

水没おじさん……コレ、イイッ!

 

……お? ヒーロー基礎学担当で、初っ端から戦闘訓練?

ウッ、頭が……。

 

……え? コスチューム込みで戦闘訓練?

力加減間違えたら殺しそう(小並感)。やべぇよやべぇよ。格上としか戦ってないから、戦闘向きじゃない人は殺しちゃうぞ。オイオイオイ、俺、社会的に死んだわ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

あれれ〜? おかしいな〜? 俺以外にも、メカメカしいやつがいるぞぉ〜?

 

キャラ被りなんだよ! やめてくれよ! ホワイトグリントが映えないだろ! やめろよ! 背中の変形機構まで再現されてんだぞこの野郎! アスピナ機関なめんなよ!

 

あ、説明始めるのね。真面目に聞こっと。

 

へーなるほど。ヒーロー役とヴィラン役に分かれるのね。

これ、騙して悪いが……みたいなのはありかな?

 

へー、くじ引きでパートナーを決めるんだ。

ま、俺のパートナーは空気で構わんがな。俺1人でも十分だ。むしろ1人にしてくれ。戦いにくい。

 

アメコミおじさんがくじを引いていき、ドンドンコンビが出来上がっていく。

 

「ほう、そう言えばこのクラスは21人だったね」

 

「そうですね、俺だけまだ組まれてないっす」

 

「そこでだ。君には頼みたいことがある」

 

「なんでごぜーましょう」

 

「君には、既にヒーロー1人を人質として確保したヴィランとして振る舞ってもらいたい」

 

「ほぉ。1人しか確保できなかったってことは、増援が来るんですね? 分かります分かります、無理ゲーですね。ちなみに、こっちのパートナーはヒーロー側に確保されてたりしますか?」

 

「勿論だとも。つまり、情報は筒抜けだと考えてくれ」

 

「うーわぁ。なんつー無理難題。これはかなりキツイっすねぇ。なぜこんな無理難題を?」

 

「いやなに、他の人ならちゃんとパートナーを組んでもらおうと考えていたんだが、君の個性は単独行動に向いていそうだったんでね。それに、君自身の実力もある。かなり面白いことになりそうだと思ったんだよ」

 

「ランク1のヒーローに言われたら、流石に断れないっすよ。まぁ、失望させないよう頑張りますわ」

 

「よし! その意気だ! では、対戦者を発表だ!」

 

オールマイトがくじを引き、答えが出された。

 

爆破・エンジンと、氷人間・触手人間コンビだった。

 

あれ、おっかしいな。氷人間と爆破君って、どちらも主要人物だったよね?

なんだこの殺意溢れる組み合わせは……どないせえっちゅうねん!

 

「では、ストレイド君。誰を人質にするかね?」

 

「うーん……まぁ、人質は爆破くんですかね。爆破君はガンガン突っ込んで来るタイプでしょうし、割と簡単に孤立しますよね。んで、エンジン君が異変を感じて救援を求めに行くと。エンジン君は個性の通り速いですから、伝令役にはピッタリでしょうしね。じゃあ逆に、なんであっちのペアを選ばなかったかと言うと……まぁ、どちらも伝令役には向かなさそうだったんで」

 

氷人間って時点で個性も氷だろうし、触手人間も足が速そうには見えない。てことで、こうなるわけだ。

 

「まぁ、その考えが妥当だろう。では演習を──」

 

「おい待てゴルァ!」

 

ヒェッ。爆破少年沸点低過ぎぃ!

 

「俺が捕まるたぁどういうことだよあぁん!?」

 

うっはー、めんどクセェ。横から近づいて来てやがる。絶対ガンつけられますやん。もうやだめんどくさい。

 

──ドヒャャァ!!!

 

「っ!?」

 

「おぉ、すごい」

流石はランク1のヒーローだ。QBの速度を乗せた腹パンをギリギリのところで止めるとは。

 

「まぁ待ちなさい。殴り合いで語り合うのもいいが、君達はヒーローの卵だ。殴り合いで交友を深める必要もあるまい」

 

「よくよく考えるとそうっすね。未来のことも考えると、爆破君の面倒な絡みも適当に流すべきでした。すんません。これから気をつけます」

 

「いや、謝るなら私じゃなくて、爆豪君にだな」

 

「爆豪君、腹パンしようとして悪かったと思っている。仲直りの印に、握手してくれないか」

 

「……」

 

すっげー嫌そうに手を見てるわ。

 

「……爆豪君」

 

「チッ、わーりましたよ。おら、仲直りの握手だ」

 

先生に言われて嫌々握るとは、中々に拗らせている。こいつぁ中々に面倒なやつだ。

 

 

「さて、仲直りも済んだことだし、演習を始めるとしよう」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「では、君達にはストレイド君の入試風景を見てもらおうと思う」

 

モニタールームで、生徒たちにあのシーンを見せる。

 

「え、何これ。瞬間移動?」

 

「なんか、ビーム出てない?」

 

「は? 自分を起点に爆破? 意味が分からないんだけど」

 

「と、まぁこんな感じで、彼の個性は恐らく室内に向かない」

 

「なら、なぜ彼を単独でヴィランとして配置したのですか?」

 

「その理由は実に簡単。Plus ultraさ」

 

「なるほど、欠点の克服、と」

 

「そう! そのとぉぉぉぉり!!! さて、これで彼の個性も分かった事だ。ヒーローチームは、これからビルへ向かってくれ。開始は私が合図する」

 

「分かりました! 先生!」

 

うんうん、飯田君は元気いい挨拶をする。それに比べ2人は、なんだか悲しいなぁ……

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

ビル内はやっぱり狭いため、羽はパージしました。悲しいけど、これが現実なのよね。

さて、核の場所がバレてる以上、核の隠す場所を移すしかあるまい。つってもまぁ、階段移動は無理だし、かといって窓の外に行くのもあれだから、部屋を変える程度なんだけど。

 

「爆豪君、核の隠す場所を変えるからついてきてくれ。あ、出来れば運ぶのも手伝ってもらいたい」

 

「あぁん? なんでんなこと手伝わなきゃいけねぇんだよ」

 

「……それもそうだな。じゃ、俺はこれを運んでくるから、しばらく待っててー」

 

核を手に持ち、部屋から出て廊下を彷徨う。

右に行ったり左に行ったりグルグル回って、ようやく良さそうな場所を見つけた。

よし、ここでいいだろう。後は爆豪君の所に戻って……やべ、道が分からねえ。

はぁ、仕方あるまい。

見敵必殺作戦にするか。

 

だがなぁ。この状況のヴィランって隠密行動しなきゃいけないし、コジマもAAも難しくないか?

うわーどうすっかなー。QB加速パンチにでもするか? いや、それなら速攻で捕縛した方が良さそうだな。

せやな、そうしよう。

 

『ストレイド君、これから試験を始める』

 

「あいあいさー了解ですよ。ちなみに、どんくらい情報漏れてますか?」

 

『君の入試試験の様子を見せたのと、核の位置を変える前の場所ぐらいだな』

 

「うーわ、中々に酷いことする」

 

『これもまた試練だ。乗り越えてきたまえ!』

 

「うぃっす、了解でーす」

 

通信が切れた。

よし、頑張るとするか。

 

一階へ降り、入り口から延々とコジマゼリーを撒き散らす。コジマゼリーとはその名の通り、ゼリー状のコジマ物質だ。本当はライフルの弾をコーティングする目的で使うんだが、俺は違う。

起爆薬として使う。

俺の個性は、対外的にはKPと言っているが、どうやらこの個性は複合個性、もしくは応用が効く個性らしい。

そもそもコジマ粒子ってのは、コジマ物質に安定した量の電気を流すとかして出来るもんだったはずだ。つまり俺の個性がコジマ粒子の場合、コジマ物質を作る能力と、電気を扱う能力が備わっていると考えた訳だ。結果は勿論、俺の予想通りだった。

 

そーゆーわけで、能力の幅が結構広がったのだ。

 

『スタート!』

 

マジか。始まったか。

って、ん?

 

パキパキと言う音と共に、ビルが凍りつき始めた。

 

なんじゃこりゃあ!? 卑怯だ! チートやチート!

足場を凍らせるとかずるいわ。まぁ、俺は飛べるから問題ないけど。俺は飛べるから問題ないんだけど……ね? コジマゼリーが氷の中に閉じ込められちまった。まさか、こんな形でコジマゼリーを無効化されるとは、予想外だわ。

はぁ……さて、こっからが本番か。

気配を隠す訳でもなく、堂々と近づいてくる。

 

「……1階で待ち構えているとはな。驚いた」

 

「こっちもだ。まさか、こんなにも夏に向いている個性だとは思わなかったぜ。ちなみに、他の2人はどうした?」

 

情報くれー。情報くれー。

 

「あぁ、あいつらは外に置いてきた。はっきり言って、邪魔だからな」

 

やったぜ。

 

「なるほど、お前も俺と似たようなもんか。さて、ヒーローとヴィランが出会ったんだ。やることは決まってるだろ?」

 

「そうだな」

 

悪いが、俺はヴィランなんでな。用意はしっかりとしといたのさ。

 

軽めのアサルトアーマー!

 

──ドォォォォン!

 

「……クッ!」

 

フッ、AAは軽めでも、強烈な閃光を発生させる。勿論破壊力もちゃんとあるぞ!

さて、目眩しで動けない間に終わらさせてもらうぞ。

 

──ドヒャドヒャドヒャア!

 

ふっ、これで一丁あがり!

捕縛テープ巻きつけ完了!

ま、これだけ個性が協力でも、QBには流石に対応出来ないか。速すぎるしね。

 

「……クッ」

 

よし、なんか恐ろしい目で睨まれてるし、外の奴を捕まえに行くか。

 

凍りついたビル内をスイスイと進み、出口へ向かう。

……いや、これは、あれだな。

予定を変更し、3階へ向かう。

そのまま出口からノコノコと出て行けば、簡単に見つかってしまう。それだと2対1になっちまう。それは避けたい。なら、どうすべきか。答えは簡単だ。

まとめて始末すればいい。

 

3階の窓を開け、下を見る。

おっ、2人とも待ち惚けてるな。よしよし、あとは簡単だ。

 

窓から飛び降りて、連続QBだ!

 

──ドヒャァドヒャアァァァ!!!

 

「っ!?」

 

「くっ!」

 

「ちっ、逃したか」

 

エンジン野郎め、意外といい反応しやがる。

だが、お前は終わりだ。詰んでいる。

 

捕縛した触手人間の喉元に手を突きつけ、エンジン君を脅す。

 

「おっといいのかな、エンジン君。君が怪しい動きをした瞬間、こいつの首は飛ぶぜ。これがどう言う意味か、分かるかな?」

 

「クッ……卑怯者め!」

 

「悪いが、俺はヴィランなんでな。卑怯だと? 最高の褒め言葉だよ、ハハハハハハハハハ!」

 

手で顔を隠すようにし、高笑いで相手をイラつかせる。これぞまさにヴィラン。

 

「クッ……分かった、降参する」

 

両手を挙げ、降参の意思を示した。だが、まだダメだ。

 

「お前が俺にあげるのは、手じゃなくて支配権だ。うつ伏せになり、両手をケツの位置で組め。いいな? 早くしないとこいつが死んじまうぞぉ? ハハハハハ!」

 

「クッ……分かった」

 

エンジン君が膝を折り、うつ伏せになった。そして手を、しっかりとお尻の位置で組んだ。

 

「いい子だ。よく出来た」

 

──ドヒャア!

 

「グゥッ!」

 

QBで一瞬でエンジンの上に跨り、逃げられる可能性を限りなく無くし、首元に捕縛テープを巻きつけた。

 

『ヴィランチーム、勝利!』

 

「……ふぅ、終わったか。いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ」

 

『これから講評をする。みんな、モニタールームに集まってくれ』

 

「あいあい了解です」

さーて戻るとするか。

 

 

 

 

 

 




書き溜め終わり。
次の更新は未定。
次更新する時はきっと、USJで戯れるところまで投稿すると思われ。

追記
主人公の身長が低かったりするのは仕様。
フロム脳を働かせて下さい。


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第5話 muddy

──平和の象徴(オールマイト)? あぁ、例の死に損ないか……

 

──雄英高校で教師として活動、か……

 

──なるほど、そういうことか

 

──確認すべきだ

 

──試せるか

 

──了解

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

「では、講評を始める。まぁ、当たり前なんだが、今回のMVPはストレイド君だ」

 

やったぜ。完全勝利。

 

「本当はその個性を、屋内戦闘用に工夫してもらいたかったんだが……まぁ、屋内でも十分通用する個性だと分かったからいいだろう。だが、気になる点が一つある」

 

そう言って、オールマイトは俺に視線を向けた。

え、なんかやらかした?

 

「君は、なぜ人質である爆豪君を放置したんだい?」

 

あー……なるほど。

 

「核を別の場所に移動させたのはいいんですけど、その……帰り道が分からなくなっちゃったんですよね。なので、もう……放置でいっかなーって思って」

 

「なるほど。ヒーローもヴィランも、建物の構造をしっかりと理解し、頭の中に入れなくちゃあならない。そこが、次へ活かすポイントだね」

 

さーせん。

 

「ま、こんなところだろう。正直、君のスピードがあれば大抵の難題は攻略できるだろう。だからこれからは、スピードを活かせない場合の個性の使い方を考えるといいね」

 

「うぃっす、分かりました」

 

スピードを活かせない時に、どう個性を使うか……ねぇ。

 

やはりAAぶっぱでは?

それかコジマゼリーかな?

 

いや、やはりここは普通に電撃を使うべきか?

うーむ、悩むなあ。

今回みたいな状況では、ヴィランでもヒーローでも、相手にバレないようにする必要があるからなぁ。コジマ粒子を扱うと、どうしても大きな音とか光とかが発生しちまうからなぁ。うーむ……マッハで蜂の巣にすれば問題ないか。

 

うむ、実に脳筋だが、同時にスマートな方法だな。

 

「以上で講評を終わりとする。君たちは戻りなさい。では、次の対戦チームは持ち場に移動してくれ」

 

あ、終わったの? じゃ、観戦しますかね。

 

今度は……へぇ、冴えない少年とカルシウム不足の手榴弾が戦うのか。スッゲー面白くなさそう! 全然興味湧かねえ!

よし、コジマ粒子の運用方法についてでも考えるか。でもなぁ、既に行き詰まってるんだよなぁ。

……あっ、そうだ。コジマ物質を固形化しよう。コジマ物質を固形化すれば、なんかに使えるかもしれん。

よし、善は急げ。作り出すぞ。

 

ぬぬぬぬぬぬぬぬ……おりゃ!

 

出来上がったのは、粘土ぐらいの柔らかさのコジマ物質だった。

 

うーむ、ちょっと難しいな。

よし、もう一回作るか。

 

ぬぬぬぬ……ほぁ!

 

ダメだ。粘土ぐらいの柔らかさのしか出来ない。もっとこう……石みたいに硬いのはむりなのか? もしかして、これが限界だったりするのか? うわー、悲しいなぁ。

いや、逆に考えよう。これで何が出来るのか。

 

うーむ。形が崩れにくくなった程度で、他はコジマゼリーと大差ないからなぁ。結局、何も変わらねえってことか。

はぁ……ほんまつっかえ。

 

……え? 授業終わった? マジで?

えー……コジマ粘土を作るのに、めちゃくちゃ時間がかかってたってこと?

うわー、まじかー。他の人の見逃しちゃったな。ま、いいか。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

えぇ……なんやこれ(困惑)。

 

「カラードランク1のオールマイトが教師として活動していると聞きましたが──」

 

「尻を貸そう」

 

「オールマイトは! オールマイトの授業風景は!」

 

「オールマイトは本当にいるんですか!?」

 

マスコミが高校の入り口で生徒に集ってるのほんと草。コジマミサイルぶち込んだら一気に殺せそうでいい感じの位置どりっすね。

 

ま、俺は空飛べるからマスコミ無視して問題ないんだけどね。

 

頑張れマスコミ諸君。あと、被害被ってる生徒たち。ふふふ。やはり、空を飛べるというのは最高だな。この爽快感がたまらないぜ。地上という縛られた世界から飛び立って、自分だけは自由でいられるような気がするぜ。でもなぁ。俺、逆関節機体はあんまり使わなかったんだよなぁ。やっぱりマシンガンでの撃ち合いとか、ミサイルカーニバルの方が楽しかったせいで、逆関節は手を出さなかったなぁ。あーあ、逆関節機体も使うようにしとけば、空中戦の幅も広がってたかもしれねぇなぁ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「つーわけだ。委員長決め、よろしく」

 

うわー、相澤先生ひっどーい。何でもかんでも生徒に任せるなんて、やる気が感じられないゾ!

はぁ……とりあえず、委員長とか面倒いし、適当に誰かに任せるか。

 

「はいはいはいはい俺やる!」

 

「わたしも!」

 

「俺もやるぜ!」

 

な、なんやこれ……まさか、みんながこんなにも委員長になりたいとは思わなかったぜ。委員長になりたくないの俺だけかよ。俺は嫌だぜ、そんな仕事。好きなように生き、理不尽に死ぬ。それが、フロムって奴だろ?

 

『好きにハメ、理不尽にイク』

 

『選んでハメることが、そんなにも偉いことかね』

 

『尻を貸そう』

 

ウッ、頭が……

 

「みんな、静粛に!」

 

ん? どうしたエンジン君。トイレに行くにはタイミングが悪いぞ?

 

え、そんな……うそ。こんなにも真面目に委員長決めについて力説するだなんて。

 

じゃあ俺、お前が気に食わないからビッチコスチュームだった透明な子に投票するわ。

 

透明で全裸とか、はぁはぁはぁはぁ……俺のエーレンベルクが暴発しちゃう。

ツン気質な子もエロくていいけど、ありゃあダメだ。なんというか……鋼の錬金術士? みたいな香りがする。なんか、こう……錬成しそうだよね。もしや、その胸も錬成したのか?

 

「えー、ということで、委員長は緑谷に、副委員長は八百万になりました。はい、皆さん拍手」

 

え? 決め終わったの? え? 冴えない少年が委員長? 無理無理無理無理どう考えても君じゃあ無理だよ。だって君、冴えない顔してるし、今もキョドッてるし、君、リーダーシップないでしょ? どう考えても人を率いる才能はない。絶対に向いてないよ。

 

でも、まぁ、信頼されてるなら、いいんじゃないか? 信頼されてない奴に指図されるよりは、マシかもしれんな。俺は誰かに指図されるのは嫌いだがな!

ハッハー!

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

なんか、雄英バリアー(笑)がマスゴミの熱意で破壊(熱殺)され、偏差値70超えと謳われる雄英高校の優秀な生徒(笑)は怯え惑ってる。雄英高校の生徒無能過ぎィ! 自分草生やしていいっすか? やーもう、いくら高校生だからって無能過ぎない? そんなんじゃ、この先生きのこれないですよ? いくら日本人は個性のない、無個性な、没個性な、場に流されやすい種族でも、ねぇ……? 幾ら何でもこれは無能。ちょっと平和ボケし過ぎてない? この世界ってそれなりに危ないんだから、もうちょっと危機感持とうぜ? 仮にも、東大的な立ち位置にある学校の生徒なんだぜ? それなのに生徒がこの程度の最底辺を彷徨ってるようなレベルって、ヒーローの質もたかが知れますね。

 

え? 俺はどうだったのかって? セレンママの愛情たっぷりラブリー弁当を屋上で食べてました。

 

というか、雄英バリアーが弱すぎる問題。そんな簡単に壊せるんなら、今まで何度でも侵入されてただろ? どーゆーこっちゃ。マスゴミの中に能力者でもおったんかな?

 

あっ、髭もじゃおじさんとDJおじさんがマスゴミに群がられてる。暑そう。よーし、ここは俺も張り切っちゃうぞー! マスゴミから助けてやんよ!

やることは簡単。マスコミの上をふらついて、高濃度コジマ物質をばら撒くだけ。ただそれだけで、電子機器はイカレる。

コジマ物質をばら撒けば電子機器の電流と合わさってコジマ粒子が出来たり出来なかったりして、その結果プラズマ化したりなんなりして電子機器はイカレる訳だ。やったぜ。

 

って、あれ? パトカーがこっちに来てるぞ? あ、ふーん。命拾いしたな、マスコミども。だが、次は無い。お前らの大事な電子機器を破壊し尽くしてやるぜ!

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

結局、委員長はエンジン君になった。ま、妥当なところだな、委員長体質だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




白栗はパワードスーツなだけであって、ブースターとか羽とかはただの飾り。羽からは白い煙が出るようになってる。ただそれだけのロマンコスチューム。

ACしか知らない人とか、ヒロアカしか知らない人向けにもうちょっと詳しく書いたほうがいいのかもと思い始めた今日この頃。でもまぁ、フロムって死に覚えゲーだし、読み覚えってことでいっかな(脳死)。


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第6話 憧れた白

 

 

 

 

──遅すぎる、これは

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

今日も元気にOBで登校。うーん気持ちいい。って、あれはもしや?

 

「捕まえた!」

 

「ぬおおぅうっっ!!??」

 

オールマイトが空を飛んでいたため、襟の辺りを掴ませていただいた。ジャンプして飛びながら出勤とは、これまた中々に乙ですな。

 

「き、君はストレイド君!? は、離したまえ! 今、そう正に今! 事件が起きたんだ!」

 

「だいじょぶだいじょぶ。あんた以外にもヒーローは沢山いる。あんたがそうやって馬鹿みたいに仕事してると、新人ヒーローの仕事が減って、結果的に新人ヒーローは陽の目を見る事なく潰れちまうぜ? そんなんでいいのかい? 平和の象徴さん」

 

「それとこれとは話が別だ! すぐに離──」

 

「それこそ、それ(ヒーロー)これ(教師)は別だ。あんは今、教師なんだ。教師なら、学校の方を優先させるべきだろう。それに──」

 

雄英高校から少し離れたビルの上に降り立ち、ちょっとしたお節介を焼いてやる。

 

「──あんたは、いい加減引退すべきだ。もう十分に輝かしい実績を残した。ならば、後は後輩に任せるべきだ。そう思ったから、教師になったんじゃないのか、あんたは?」

 

「それは、そうだが……」

 

「それに、だ。ヒーローに守られるのが当たり前だと思っている、この世界もおかしい。己の身は己で守れ。それが、生物として当たり前の常識だ。だったら、襲われないようにするとか、そーゆー努力は、誰でもできるだろ? ヒーローにだって数は限りがあるし、無理なこともある。ヒーローを何でも屋だと勘違いしてる馬鹿どもには、そーゆーことを教えてやらんとダメだぞ、ダメ教師」

 

「……ぐぅ」

 

「ま、人間には得手不得手がある。あんたは殴るしか能がないんだし、そこは諦めな。んじゃ、先に登校しますんで、ヒーロー基礎学ではよろしく」

 

オールマイトを残し、俺は飛び立った。

 

まったく……

 

──歪んでるよ、この世界は。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

なんか今日はちょっと遠くでヒーロー基礎学をやるらしく、バスで移動するみたいなんで、中でグースカ寝てた。うん、やっぱり昼ご飯の後は昼寝をするべきだね。

 

で、辿り着いたのがUSJ。見た目もUSJだし、中身もUSJだった。ちょっと何言ってるのか分からない。嘘の災害やらなんやらの救助活動訓練で使うんだってよ。

コジマ粒子って、どう考えても救助向いてないよね?

 

「えー、始める前に、お小言を1つ、2つ、3つ4つ、5つ、6つ、7つ……」

 

いや多過ぎるわ。どんだけ増えるんだよ。

 

話してる内容は実に簡単なものだった。力そのものに善も悪もなく、力を振るうものによって善し悪しが変わる、的なアレだった。せやな。まさにその通りだわ。

 

「以上、ご静聴ありがとうございました。」

 

イイハナシダナー。クラスメートたちも、ブラボーだとか、ステキーだとか騒いでる。君たち、ノリがいいねぇ。

 

「よーし、そんじゃ先ずは──」

 

相澤先生の発言の途中で、施設に異常が起きた。

 

なんか、嫌な予感がするぞおい。

照明機器が不具合を起こしたのか暗くなった。

 

……ヤバイ、何かが来る。

 

いや、待て、情報を整理しよう。

今日の朝、オールマイトは事件を解決していた。

今日は普通の1日だった。

ヒーロー基礎学は、オールマイトと3人で担当することになった。

だが、今、オールマイトはこの場にいない。

 

ダメだ、情報が足りねえ。何も分からねえ。

 

チクリと首の後ろを刺されたような感覚と共に、俺の中の警戒度が一気に高まる。

 

「なっ、あっ!?」

 

なんだあれは!

噴水があった辺りが黒く染まり、大勢の人が溢れ出してきやがった!

 

これは、マズイ。相澤先生もマジモードに入ってやがる。これはもしや、襲撃されたのか!?

 

「──あれは、(ヴィラン)だ」

 

相澤先生の異様に落ち着いた発言で、俺たちに動揺が広まった。

 

チッ、まさかとはおもったが、やっぱりかよ!

出て来るのは基本的に雑魚ばかりだが、あの脳味噌が丸見えのやつ。あいつは、絶対にやばい。まともにやり合えば、死ぬ。

 

クソッ、今ここにいるのは餓鬼どもだぞ。そんな奴らが、まともに生きて帰れるわけがねえだろ。

 

今、相澤先生が敵陣に突っ込んで時間を稼いでいる。本当なら俺も敵陣に突っ込みたいが、仕方ない。誘導に従って逃げるとしよう。

 

だが、まぁ──

 

「初めまして。我々は、ヴィラン連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いた。平和の象徴、オールマイトに生き絶えて欲しいと思っての事でして」

 

──やっぱり来るよな、ワープ野郎。

 

通路を塞ぐように、その黒い靄は現れた。

 

「「でぇぇぇいいりゃぁぁあああ!!!」」

 

相手がグダグダ説明をしているというのに、まったく、あの馬鹿どもは。単純バカは、死なねば治らんか。

 

爆破と硬化が突っ込んだが、相手は見事なまでに無傷だった。良い噛ませっぷりを見せてくれた。

 

「退きなさい、2人とも!」

 

知ってた。足手纏いが突っ込んだところで、迷惑にしかならねえんだよなぁ。

13号先生が個性を発動させようとしたが、遅かった。

 

黒い靄が、俺たちを覆い尽くした。

いいぞ、いい事をしてくれた。俺にとっては、これ以上ない程に都合がいい。突っ込むのではなく、送り出されてしまった以上、正当なる防衛として、相手は殺しても問題ないのだから。ま、なるべく殺さないようにはするが。

 

ちょっとした浮遊感の後、砂漠の上に放り出された。

ジェットを吹かせ、ゆっくりと着地する。

 

さて、どうするか。

 

「──来たか」

 

「ッッッ!!??」

 

あまりにも自然に溶け込んでいた。気配を感じ取れなかった。

 

反射的にQTで後ろを振り向く。

 

「チィッ!」

 

状況を確認し、即座に横QB。

野郎、斬り掛かって来やがった。

大体、それはなんなんだよ。

 

あまりにも分厚い、紫色の刀身。

よく見慣れたそいつの名は──

 

「……参る」

 

──MOONLIGHT

 

なんだってヒロアカ世界でパワードスーツを着込んだ奴が月光で斬りかかって来るんだよ!

 

だいたいそれ、背中に追加ブースターがあるじゃねぇか! ふざけんじゃねぇ! テメェ真改かよ!

 

「クッ!」

 

月光はマズイ。流石にPAが削り取られちまう。

だったらこっちも、本気を出してやるよ。

 

空へと浮かび上がり、上からコジマキャノンで狙い撃つ。

だが、当たらない。回避が上手すぎる。

まさか、弾道予測? なるほど、否定できん。

 

「まさかとは思ったがな──」

 

──野郎、とうとう空飛びやがった。俺の領域に、足を踏み入れやがった。

 

クソッ、こいつとは相性が悪すぎる。戦法を変えよう。

 

一旦地上へと戻り、今度はコジマゼリーをばら撒きながら、相手の剣戟を避ける。コジマゼリーをばら撒く事で相手は警戒し、少し余裕が出来た。

 

だが、なんだこいつは。動きを先読みされてるせいで、逃げた先に回り込まれてやがる。

いくら速く動けたところで、置かれたら意味がない。

そもそも、こいつの動く速度と対応速度が速いわ。

 

だが、そろそろ流れを変えよう。

 

「っしゃあ!!!」

 

先読みで攻撃が置かれてる事を見越し、すぐ近くに相手がいる状況でAAを展開!

 

「クッ……ッ!」

 

っしゃあ! AAの直前、俺から離れるように逃げられたが、それでも装甲をかなり抉ってやった! 破壊力ならピカイチだぜ!

 

「……終止」

 

あいつは、ボロボロのパワードスーツで背を向けた。恐らく、これで終わりという事だろう。正直、俺としてもここは終わりにしておきたかった。幾ら何でも、相性が悪すぎる。

 

「出来れば、改心するなりなんなりして、ヴィランを辞めてくれるとありがたいんだが……無理そうだな」

 

取り敢えず、こいつは放置しよう。

……さて、問題のあいつらをどうにかしなければな。

 

ワープ野郎と、あの脳味噌丸出し野郎。あいつらは、殺さなきゃヤバイ。ワープ野郎に関しては殺しやすいだろうが、あの脳味噌丸出し野郎、アレの個性が分からない限り、迂闊に手は出せねえ。

 

だが、相澤先生の手伝いなら問題なくできる。

 

OBで一気に中央広場へと向かう。蛙の子とかが相澤先生の動向を見守ってるってことは、まだ余裕そうだな。

よし、突っ込むぞ!

 

「QBパンチ!」

 

説明しよう! QBパンチとは、時速300kmから繰り出される、手加減されたパンチである!

勿論、一般人が食らえば死ぬ。

 

ムキムキのモブに対して使ったら、あら不思議。骨が折れたような感覚と共に男が吹っ飛んでいった。

 

やっべ、殺したかも。

ま、いっか。殺す気でやって来てるんだから、殺されても仕方ないよね。

 

「あーいざーわせーんせ! 助けに来ましたよー」

 

「クッ、ハッ、なぜ来た!」

 

ま、そうだよね。普通ならそう反応するよね。

 

「いやー、よくもまぁそんなに器用に回避しながら話せますね。来た理由? 簡単ですよ。先生を援護する為ですよ」

 

こっちもこっちで、話しながらQBパンチを繰り出して雑魚を殺して回っていく。

 

「まったく……ヒーローってのは、カッコいいねぇ?」

 

なんやあいつ。手に掴まれてるコスチューム気持ち悪っ! 趣味悪過ぎだし陰キャラ臭やべえ。

 

「せんせー! せんせーの個性ってなんですかー?」

 

「個性を消す、個性だ!」

 

「じゃ、援護しやすいよう、さっさと雑魚を片付けますかね」

 

パパッとQBパンチで纏めて雑魚を殺し、これで2対2となった。

 

「じゃ、先生。俺があの陰キャラ殴るんで、援護頼みます」

 

「ダメだ」

 

「え? なんでですか?」

 

「人殺しは犯罪だ。その程度、分かるだろう」

 

「何馬鹿なこと言ってるんですか? 放置してたら生徒が殺されちゃいますよ? そしたら後々、面倒なことになりますよ? そんなんでもいいんですか?」

 

「そうならないよう、対処しているんだろう」

 

「はぁ……まぁ、そう言うんなら別にいいですけど。で、俺はどうすりゃいいですかね? 教師としては、生徒を逃して1人犬死するのが普通でしょうけど、どうします? ここで無様にヴィランに殺されるのと、大人しく2対2で対処するのと」

 

「……チッ! 卒業出来ると思うなよ!」

 

「了解したくはないけど、いい判断だ!」

 

このままQBパンチで吹っ飛ばして──

 

「じゃ、こっちも始めようか」

 

──ダメだ! 今、動いたらダメだ!

 

突っ込もうとしたのを止め、即座に後方へと連QBで回避する。

 

「ぐおおおッッッ!!!!!」

 

やべえ、相澤先生が脳味噌丸出し野郎にぶん殴られて吹っ飛んでった。

 

「先ずは、1人」

 

「……チッ」

 

あの脳味噌丸出し野郎、俺が普段使ってるQBかと思うほど速えぞ。

 

「どうせだ。お前には俺の個性を教えてやるよ」

 

「へぇ? 教えちゃっていいんだ。もう死ぬから、覚悟でも決めたのかい?」

 

「ま、そんなところだな。後には湖があるし、正に背水の陣ってやつだ。自分で言うのもあれだが、俺の個性は強力すぎてな、普段は封印されてるんだ」

 

「へぇ? でも、さっきまで普通に個性を使ってるように見えたけど?」

 

「封印されてあんな感じだ。だから、その拘束を解かせてもらうぜ」

 

頭部パーツを外し、着けられていた首輪を外す。

首輪があるおかげでコジマ粒子の毒性は無くなっている。だが、その首輪を外せばどうなってしまうのか。誰でも分かることだ。そして、首輪を着けられてからもう10年ぐらい経っている。その間、俺の個性は常に強くなり続けた。つまりだ。首輪を外した今、俺は本来の強さの個性を扱える。

 

「ゴメンな、セレン。首輪を外さなきゃ、無理そうだ」

 

首輪を後方にある湖へと放り投げ、ヘッドパーツを装着する。コジマ粒子を一気に精製し、PAを厚くしていく。

 

『不━な─━▲─が─━され◇━た』

 

ウッ、頭痛が激しい。頭の中に、ひどいノイズが走ってやがる。クソッ、これが本気を出した弊害か。高濃度のコジマ粒子に慣れてないせいで、気分が悪い。

 

 

 

あぁ、吐き気がする。

 

 

 

「あぁ? どうしたんだ、こいつ。さっきからフラフラして」

 

 

 

でも……やら、なきゃ。

 

 

 

「ター……げっト。確、に、ン……」

 

 

 

ヴィランを、殺さなきゃ。

 

 

 

──ハイ、除……カイシ

 

 

 

 

 

死神の鎌が、狙いを定めた。

 

 

 

 




これ書いて燃え尽きた。


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第7話 塗り潰してしまった黒

 

──戦いの中にしか、私の存在する場はない。


──好きに生き、理不尽に死ぬ。それが私だ、肉体の有無ではない。

 

──戦いはいい。私には、それが必要なんだ。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

変化は直ぐに起きた。ストレイドがヘッドパーツを装着してから、パワードスーツの白い塗装が剥がれ落ちたのだ。

 

「ター……げっト。確、に、ン……」

 

塗装の下からは深淵を思わせる漆黒が顔を覗かせ、唯の飾りだった筈のブースターからは、地獄の業火を思わせる、燻った炎が吹き出していた。

 

「ハイ、除……カイシ」

 

空のように澄んだ色だったカメラアイも血のような赤色に染まり、黒い鳥は、焼き尽くす為だけに行動を開始した。

 

──ドッッヒャアアァァァァ!!!

 

ただ、OBとQBを同時に発動させただけ。ただそれだけで、普段の約3倍ほどの速度が出た。突っ込む先は改人脳無。

 

普通の能力者ならば、対応が出来ない速度。だが、脳無は違う。たとえ対応出来ずとも、攻撃を受けてから反撃出来るタフネスさを持っている。

 

だが、その程度のこと黒い鳥とて分かっている。ならばやる事は1つだけ。

 

AAによる高濃度コジマ汚染をしながらも、QBを連続する事によって攻撃を避けるだけのことだ。

 

黒い鳥の超高速接近に脳無は対応出来ず、直ぐ横へと回り込まれた。そして、炸裂するAA。

 

「グゥッ! ここまで爆風が届くか!?」

 

脳無の真横で発動されたAAは、強烈な爆風と爆音、閃光を生み出し、棒立ちだった死柄木をも吹き飛ばした。

 

普段のストレイドでは不可能な、OBとQBとAAを同時に発動させるという荒技。上質で濃厚なコジマ粒子がありえない速度で大量に産み出される事によって可能となる、人外起動。

 

黒い鳥は脳無に捕捉される事なく、AAを通り抜けざまに成功させたのだった。

 

「クッ……脳無! 早く、そいつを殺ッッッ!? グッ、ァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

死柄木が指示を出すよりも早く、黒い鳥のコジマキャノンが放たれ、死柄木は無残にも、胴体の左半分から先が殆ど消しとばされていた。

 

「なっ!? なんなんだよ、これぇっ!? お、俺の、俺の身体がっ!? 腕がっ!? 父さんもっ! あっ、あぁっ、あああぁぁああぁあぁぁぁ!!!???」

 

ショックが大き過ぎたのか、半狂乱になる死柄木。消し飛んだ部位が焼け焦げて塞がっていただけマシだろう。もしも塞がっていなければ、恐らく、どう足掻いても助かってはいなかっただろう。

死柄木の指示は中途半端にしか出せていなかったが、脳無には通じていたようだ。

 

AAを至近距離で受けてなお、無傷の脳無が、ゆらりと此方を振り向く。此方が圧倒的不利に感じるかもしれないが、脳無の身体は既に、コジマ粒子に蝕まれていた。それは、死を意味する。

 

「排除、排除、排除、排除」

 

黒い鳥が再び行動を開始した。空中へと浮かび上がり、安全地帯からの射撃。更に、高速で且つ、連続で行われるQBにより、脳無はまともに攻撃を当てる事も、避ける事も出来ず、コジマキャノンの餌食となっていた。

 

コジマキャノンを当てる度に脳無の肉体は消しとばされ、高速で修復される。

だが、その修復速度は、目に見える速度で落ちていた。

 

コジマ粒子の特性には、遺伝子の破壊がある。まずは個性を司る遺伝子が破壊され、その後は普通に遺伝子が破壊される。

 

脳無の場合は遺伝子すらも修復されているが、それでも、段々と個性としての在り方が歪み、まともに機能しなくなってきているのだ。

 

高濃度のコジマキャノンと常にばら撒かれるコジマ粒子により、脳無の個性は既にボロボロだった。

 

「排除」

 

コジマキャノンが、的確に脳無の心臓部を打ち抜いた。

 

「クウ、ウゥゥゥアアァァァァァァァ……」

 

脳無の個性は完全に消滅したのだろう。左胸に風穴が空いたまま、地に伏した。

 

「排除」

 

コジマキャノンが脳を撃ち抜いた。脳が修復されないことを確認すると、黒い鳥は新たな獲物へと視線を向けた。

 

「ターゲット、確認」

 

「クッ。あの脳無を倒しますか……」

 

先程までは居なかった筈の黒霧が、死柄木のすぐ隣に現れて居た。

 

「排除」

 

脳無ですら反応出来ない速度で2人に接近、間髪入れずにAAが放たれた。

 

悲鳴をあげる事なく、死柄木の姿は消えた。

 

「グゥッ!? 」

 

予め、靄を身体全の前面に展開させていたのだろう。黒霧は爆風の影響も受ける事なく、その場にしっかりと立っていた。だが、種は既に撒かれた。

 

「排除」

 

ダメ押しにと、コジマキャノンが黒霧目掛けて乱射される。だが、そのすべては靄に吸い込まれて消えていく。

 

「止まれ! ストレイド!」

 

黒い鳥は攻撃の手を止める事なく、視線だけを横へと向けた。

 

「クソッ、異形系の個性か!? いいか、お前はヒーローの卵だ! そして、お前はまだ子供だ! 手を汚す必要はねぇ!」

 

イレイザーヘッドが髪を逆立たせ、ボロボロの身体に鞭を打ちながらも、個性を発動させていた。

だが、イレイザーヘッドの言う通り、コジマ粒子は発動系の個性には分類されない。

 

「邪、まを、するか……」

 

黒い鳥の右手が、イレイザーヘッドに向けられた。

 

「ターゲット、確認」

 

「正気に戻れ! この馬鹿生徒!」

 

イレイザーヘッドの身体は、素人が見ても行動不能だと分かるほどに酷かった。うつ伏せの彼は、唯一動かせる首だけで導くべき生徒へのみ視線を向け、言葉をかけ続けている。いや、かけ続けるしか出来ないのだ。

 

彼は、動けないのだ。

 

脳無によって吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれたせいで抜け出すだけの力も、余力も無いのだ。

 

「排除、開──」

 

━━ドゴォォォォォォォォォンンン!!!!!

 

強烈な衝撃音により、黒い鳥の手が止まった。視線が、音の発生源へと向けられる。USJの出入り口が煙で覆われていた。

そして、煙の中から、その姿が現れた。

 

「もう大丈夫」

 

それは、ありとあらゆる凡人を救った言葉。

 

「何故って?」

 

誰もが安心感を覚える、魔法の言葉。

 

「私が来た!!!」

 

普段ならば笑顔で贈られる言葉は、忿怒の形相で、(ヴィラン)へと送られた。

 

「スゥゥゥゥゥゥトォォォォォレェェェイィィィィィィドォォォォォォォォオオオオ!!!!!!」

 

煙の中から、もう1人の姿が浮かび上がった。

 

「私の息子に馬鹿な真似をさせた奴は、誰だ? 死すら生温いと思わせるほど、後悔をさせてやる」

 

ひどくドスの効いた声を出しながら現れた、桜色のパワードスーツを着た女性。

 

ヒーローネーム、シリエジオ。

 

ありとあらゆるモノを消す個性の持ち主。

 

「ここからは大人の時間だ。ヴィラン共、ただで帰れると思うなよ」

 

「先生! 違うんです!」

 

「何がだ?」

 

お茶子の発言に、オールマイトが聞き返した。

 

「ヴィランはもう、ストレイド君たちが倒しました! でも、ストレイド君の様子がおかしいんです!」

 

お茶子は広場を指差しながら説明した。

 

「……なんだと?」

 

オールマイトとシリエジオの視線が、広場中央へと向けられる。

 

「──いかん! ここから直ぐに生徒を連れ出せ!」

 

「どういうことだ!」

 

「いいから早く! 後悔することになるぞ!」

 

「クッ、分かった! 後は任せたまえ!」

 

オールマイトがは、各災害エリアへと救助に向かった。

 

「クッ……まさか、暴走するとは」

 

これについては、流石のセレンも予想外だった。普段からしつこく首輪を外すなと言い伝えて来たが、その首輪が外された。そこまでならまだ良かった。だが、暴走するなど、誰が予想できただろうか。

 

「これは私の責任だ。帰ったら、たっぷりと説教してやるからな!」

 

シリエジオが移動を開始する。

 

だが、広場まではあまりにも遠すぎた。

 

「排除」

 

黒い鳥の攻撃が、再開される。

 

「……クッ、ここまでか」

 

イレイザーヘッドは死を覚悟し、とうとう目を瞑ってしまった。

 

「開始」

 

──笑止

 

「ッッッ!!!」

 

黒い鳥の羽が、斬り落とされた。

照準がズレ、コジマキャノンはイレイザーヘッドの直ぐ横へと着弾した。

己の翼を斬り落とした者を確認すべく、ゆっくりと地面へと降りながら、黒い鳥が後ろを向いた。

 

「……フッ」

 

そこには、ボロボロの装甲を纏った武人がいた。

 

「……参る」

 

振るうのは紫色のレーザーブレード。

扱われるのは達人の剣技。

 

だが、ストレイドが戦った時よりも、圧倒的に強い。

 

剣技は前よりも速くなり、回避した先には攻撃が置いてある。

黒い鳥は考えた。どうすれば倒せるか。

そして、答えにたどり着いた。

 

──自分も、レーザーブレードを生み出せばいいと。

 

右の腕と手がコジマ物質で覆われ、手の先にコジマ粒子が収束、圧縮されていく。

 

「……ナル、ホド」

 

とうとう、バチバチという音を立て続けるコジマブレードが生成されてしまった。

 

「……オマエモ、オナジ」

 

振るわれるコジマブレード。だがそれは、紫色のレーザーブレードで切り払われた。

 

QBが脅威ならば、同じ土俵に立たせればいい。そう言いたいような戦い方である。QBを使われないよう、上手い具合に攻撃を誘導し、お互いに斬り合う。これは最早、剣の舞とでも言うような、一種の芸術性を感じさせるものだった。

 

「未熟」

 

たとえどれだけ速く移動出来ようとも、剣の振るう速度は速くならない。本来ならば優勢のはずの黒い鳥が、段々と押され始めた。

 

だが、彼の本当の目的は、タイマン勝負をすることでは無い。圧倒することでは無い。

 

「ッッッ!!??」

 

「帰ったら、たっぷりと説教してやるからな」

 

シリエジオが此方へ来るまでの時間稼ぎと、隙を作るためのものだった。

 

シリエジオがガッチリと黒い鳥を拘束し、彼も黒い鳥を拘束した。

 

「おい! そこの少年! 首輪をこっちに投げろ!」

 

丁度シリエジオの正面、湖の岸から此方を観察していた、首輪を持っていた少年へ向け、シリエジオは声をかけた。

 

「えっ? あっ、ハイ!」

 

投げられた首輪を上手い具合に掴み──

 

「いい加減にしろ! この馬鹿息子!」

 

──ヘッドパーツを外し、首輪を装着した。

 

「ウッ、ア、ァァ……」

 

黒い鳥から力が抜け落ち、完全に脱力した。瞼も落ち、呼吸も、ゆっくりとするようになった。

 

「ここまで予測済みか。奴等、まさか……」

 

嫌な予感が、セレンの脳裏をよぎった。

 

「いや、今は浄化を優先すべきか」

 

セレンは、正面にいる謎の男の体内に蓄積された毒性を消し飛ばし、次いで、周囲の毒性を消し飛ばした。

 

「さて、仕事はまだある。派手に汚染してくれたな、ストレイド」

 

ストレイドの襟元を掴み、引きずりながら浄化を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に語られるこの『USJ襲撃事件』は、ヴィラン、ヒーロー問わず死傷者ゼロ、オールマイトと生徒達によって解決されたということになっている。

 

そして、生徒達には、箝口令が敷かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

──真改、どうだった?

 

──未熟

 

──そうか、やはりか

 

──レイレナード唯一の成功作、まだ途上か……

 

──ヴィラン連合の坊や達はどうした

 

──ダメだな。使いもんにならん

 

──これだから無能はダメだと言ったのだ

 

──文字通りの『無能』だったな

 

──まぁ、いい。熟すまで待つだけだ

 

 

 




偽りの個性(タイトル)、失礼いたしました。

あなた方(フロム脳)には、ここで果てて頂きます。

理由は、お分かりですね。


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幕間

 

 

 

What are you fighting for ?

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「歓迎しよう」

 

懐かしい記憶だ。

 

「君は今この瞬間から、レイヴンだ」

 

初めてアーマード・コアに触れたあの日、あの時、あの瞬間から、俺は傭兵だった。

 

「好きなように生きて、好きなように死ぬ」

 

そうだ、そうだった。

 

「誰のためでもなく」

 

あぁ、そうだ。俺は傭兵だ。金のためなら、どんな依頼だって受ける。偽の依頼で騙されようが、力でねじ伏せる。

 

「それが、俺らのやり方だったな」

 

そうだ、俺は傭兵だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 

個性がコジマ粒子だからって、周りに配慮する必要なんて無え。奴等は、俺の個性を、俺という一個人を否定しやがった。

 

復讐だ。

 

俺という存在を無かったことにした奴らへ、復讐だ。

 

あぁ、いいぜ、殺してやる。

 

総てを焼き尽くしてやる。

 

「いい加減にしろ! この馬鹿息子!」

 

ゲェッ!? セレン!?

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「ゴメンなさーい!」

 

って、あれ?

 

「な、なんだ、夢か。驚かせやがって……」

 

布団を被り直し二度寝をしようとしたが、世の中そんなに甘く無かった。

 

「ほう? 謝りながらの起床とは、いい心がけだな」

 

「……エッ?」

 

ギ、ギ、ギ、という擬音が似合いそうなペースで、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「さて、お説教の時間だ」

 

「ひぃぃぃぃぃぃっっ!!!」

 

いつものセレンよりも5割り増しで怖かった。

 

 

 

──1時間後──

 

 

 

「……」

 

「まったく、私がどれだけ対応に回されたと思っているのだ」

 

「……」

 

「少しぐらい、返事をしたらどうだ?」

 

「……ごめんなさい」

 

「お前の何が悪いことだったのか、分かるか?」

 

「……セレンに、迷惑かけて、ごめんなさい」

 

「……チィッ。そうじゃない。私が言っているのはそうではない。なぜ人を殺した?」

 

「……なぜ? なんでそんなこと聞くの?」

 

「ッッッ!? ストレイド、お前……」

 

セレンにとって、この反応は不気味という他なかった。殺しというモノは、いままで1度だって教えたことはなかった。だが、この反応はどうなんなのだ? まるで、人を殺すことが普通の人間のような──

 

「ストレイド!」

 

「……ごめんなさい」

 

──私は今、何を考えた?

 

「あぁ……クソッタレめ」

 

ガリガリと頭を掻き毟り、悪態をつく。

 

「……いいか、ストレイド。誰かの為に戦うんじゃない。己の為に戦うんだ。誰かの為に戦った結果、己の為に戦えなくなってしまっては、本末転倒だ」

 

その言葉には、先程までの怒りはなく、ストレイドの身を案じるものだった。

 

「ストレイド、頼むから、自分を大切にしてくれ」

 

そう言い残し、セレンは部屋から退出した。

 

「……自分を大切に、か」

 

果たして、その言葉は通じたのか。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「アブ・マーシュ。貴様、どこまで知っている」

 

盛大に扉を蹴破り、研究室へと入ったセレン。

 

「いや、ちょっと今、先客がいるんだけど」

 

それに対しアブ・マーシュは、冷静に返答した。

 

「んっんん〜〜〜? なんだい? ナニナニ、なんか随分と切羽詰まってそうな声だったけど、どうしたんだい?」

 

その声の発生源は、アブ・マーシュの正面からだった。あまりに配慮に欠けた軽薄な声は、セレンの神経を逆撫でした。

 

「……誰だ」

 

「誰かって聞かれたら答えなくちゃねぇ? ま、主任と呼んでくれりゃあいいよ。え?名前はどうしたって? ほら、お互い裏の人間だし、そーゆー詮索は無しにしようぜ?」

 

「で、お前は誰だ」

 

「ありゃりゃ、欲しいのはこっちじゃなかったのね。うーん、誰って言われてもねぇ。どこまでなら話していいものやら」

 

「彼は、ヴィラン連合とちょっとした繋がりがあるんだよ」

 

「おいおい。そーゆー情報はポンポン出さないもんだぜ? なんだか一気に冷めちまったよ」

 

「ヴィラン連合との繋がり、か」

 

「あ、こいつやべえ。敵にしたら面倒なタイプだ」

 

「その一言で殆ど察したぞ。ほら、内部事情をさっさと話せ」

 

「た、助けてアブえもん!」

 

「お前もだ、アブ・マーシュ」

 

「……え?」

 

「お前も知っているんだろ?」

 

「やーボクわからないなー」

 

「ストレイドについて、キリキリ吐いてもらうぞ」

 

──あ、これダメなやつだ。

 

2人は、同じ結論に至った。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「これは、思っていた以上に根が深いな」

 

「ま、しょうがないね。そーゆー時代だもの」

 

「そーゆー時代だからこそ、俺たちみたいなのが生きやすいんだよ」

 

お茶を啜りながら、2人の男がそう返した。

 

「ヴィラン連合。USJを襲撃した奴等は所詮捨て駒か」

 

「ま、そうだね。いわば、本命への布石ってやつだ」

 

「お前ら、他人事だからってなぁ……」

 

「やべ、怒ってる」

 

「だって実際他人事だしなぁ」

 

この2人、結構仲がいい。

 

「ストレイドは、これからも暴走するのか?」

 

セレンの問いは、本当にストレイドの身を案じたものだった。

 

「うーん……僕の見立てだと、そうだな。多くて、あと5回がいいところだな」

 

「……まさか」

 

「限界が来れば、もう助からないね」

 

「……そうか」

 

その言葉を聞いたセレンは、とても落ち着いていた。

 

「あら、やっぱり落ち着いてるね。血も涙もないって噂は本当だったかな」

 

「取り乱したところで何も変わらん。で、解決策は何かあるのか?」

 

「無いね。ま、首輪を外されないことを祈るしかないね」

 

「チッ」

 

「ま、諦めな。ストレイドにも、このことを伝えておきな。それが保護者としての責任ってやつだろ?」

 

「……協力、感謝する。失礼したな」

 

そう言い残し、セレンは部屋から退出した。

 

「やっぱり、大事なことだけは言わないのね」

 

「ギャハハハハハハ! そりゃそうだろ。じゃなきゃ、こんなことやらねぇっての」

 

「君も中々、難儀な生き方をしてるねえ」

 

「俺の使命なんだから、仕方ねえだろ」

 

「ま、仕方ないか。僕はただの研究者、君はただの監視者。目指す所は違うし、その過程もまったく違う。でも、協力することはある」

 

「頼むぜ、相棒。やることはまだあるからな」

 

 

 

 

 

 




第1部 完 (まだChapter2の途中
こうしてストレイド君は、首輪を外して超パワーを出せる回数が、多くて4回までと制限されたのだった。5回目はほら、ね? もう終わりを意味するしね。

本当は緑谷とかの、周りからの視点とか書こうと思ったけれども、AC的には無くした方がいいかなーと思い、やっぱり書きませんでした。

体育祭が書き終わったら、また投稿します。


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第8話 アリーナ開幕

ピーピーピーボボボボボボ



久し振りに学校に登校したら、お祭りムードになってた。

どゆこと? 上から辺りを見渡せば、屋台がズラリと並んでいる。やべ、朝ごはんしっかり食べて来たのに、腹減ってきた。お? あの特徴的なエロいコスチュームのお方は、もしや。

 

「すんませーん! マウントレディーさーん!」

 

「あら? 上から声が?」

 

おっ、こっち見てくれたか。

 

「すんません。退院してから初登校なんですけど、今日ってなんかイベントあるんですか?」

 

「えっ? もしかして今日はなんの日か、知らないの?」

 

マウントレディが爪楊枝に刺さっているたこ焼きを皿に落とした。可愛いよマウントレディ可愛いよ。ヒーロー名『ワンダフルボディ』に変えない? いけると思うよ?

 

『わ、私の方が……ワンダフルボディだぞ!』

 

ウッ、幻聴が。

……っと、いかんいかん。話を戻さなくては。

 

「通常授業じゃないんすか?」

 

なんかイベントあんの? もしかして文化祭? いや、それにしては流石に早すぎるか。もしかして今日はフリーマーケット的なアレだっまりするのか?

 

「今日は体育祭なのよ! 雄英体育祭! ほら、生徒ならさっさと着替えて会場に行きなさい!」

 

「マジすかッ!? すんません、あざます!」

 

やべーよやべーよ、体操着持ってきてねーよ。仕方ねえ、制服でやってやらぁ!

 

取り敢えず、マウントレディが指差していた方へ向かって飛んでいく。

 

『俺が1位になる』

 

微かに声が聞こえた。

よっしゃ! やっぱり方向は間違ってなかった! あの爆破少年の声が聞こえるってことは、間違ってねえ!

 

ドームの屋上から入ると、なんか生徒は出入り口付近にウジャウジャと集まってた。え? どゆこと?

 

取り敢えず、真ん中にいた痴女っぽい先生目掛けて突っ込み、話を聞く。

 

「すんません。退院して初登校なんで状況がわからないんすけど、どーゆー状況っすか?」

 

「あなた……名前は?」

 

そんな睨まないで下さい。むしろ興奮しますから。我々の業界ではご褒美です。うーむ、本当にエロい格好をしている。まったくけしからん。

 

「おっとっと、これは失礼。1-Aのストレイドです」

 

紳士ですからね。姿勢を正し、しっかりと挨拶をしなければ。

 

「なるほど、ストレイド君ね。話は聞いているわ。これから障害物競走を始めるからみんなスタート位置についてるのよ。コースはこの建物の外周よ。ただ、コースはちゃんと守りなさい。コースさえ守れば、何をしても構わないわ。わかったら、さっさとあなたもスタート位置に付きなさい」

 

「わかりました。あざます!」

 

えーと、スタート位置はあそこかな。よし準備オッケー!

 

『スタート!』

 

っしゃあ! OBとQB同時展開じゃ!

ハッハー! 空を飛べば人混みなんて関係ないもんね!

 

『さーて! これから実況を始めていくぜ! 見所はどこだね、ミイラマーン!』

 

『見所? もう終わってるよ』

 

『え? どーゆーこと?』

 

『ほら、制服姿の生徒が居るだろ?』

 

『……は? 何だこれぇっ!? 幾ら何でも速すぎるぞ!』

 

『あいつは、空も飛べて高速で移動も出来る。正直、これは2位争いにしかならん。ほら、見てみろ。もう終わるぞ』

 

『ちょ、ちょちょちょちょちょっと待てー! 盛り上がる間も無く1位が決まっちまうじゃねぇか! てゆーか、そもそも制服姿のままで、鞄も背負ってるじゃねぇか! どーゆーことだよ!?』

 

『ま、大方通常授業だと思って登校したんだろ。ストレイドの奴、入院してたからな』

 

『はぁっ!? 入院明けでこれ!? ってか、もうゴールしてんじゃねぇか! 何の見所もねぇよ! なんだよこれ! 対空障害の1つや2つ、無いとダメじゃねぇか!』

 

なんだか今日は調子がいい。普段なら2段QBをしなきゃ出ない速度が、いとも容易く出やがる。ひゃふー!

 

おっ、あんなところに相澤先生が。うわ、何あれ、ミイラかよ。包帯でグルグル巻きって……大変そうだな。

 

取り敢えず、挨拶しに行くか。まぁ、窓越しなんだけど。

 

「いやー、先生方、おはようございます。今日って体育祭だったんすね? 通常授業だと思って体操着ないんですよHAHAHAHA!」

 

「……はぁ。まぁ、仕方あるまい。制服でやれ」

 

「相澤先生、了解であります。あ、それともひとつ」

 

「あぁ? なんだ?」

 

「USJの時は、すんません。まさか、暴走するとは思ってなくて……一応、検査とか色々と受けて、俺は大丈夫なんですけど、先生は……」

 

「……まっ、そーゆーこともあるさ。教師として、これからはお前をしっかりと導いてやる。気にすんな」

 

「……うぃっす」

 

うぅ、その心遣いがありがたい。

 

「じゃ、パパッと1位取ってきますね! んじゃ!」

 

さーて、クラスメートと交流でもしますかね。

あれ? 俺って友達いなくない?

うそ……ショックだわ。

 

あまりのショックに、芝生で体育座りをしてしまった。よし、地面にのの字を書いて気持ちを落ち着けよう。

 

ののののののののの……あーダメだ。余計気分が悲しくなる。こんな時は、脳内でオーダーマッチをするに限る。

勿論、相手は真改っぽいヴィラン。あいつエグいわ。なんで行動を予測出来るんですかね。ドミナントですか? まぁいい。また襲われた時のために、対処法を考えておこう。

レザブレ持ってて、空も飛べて、行動を予測されて……うーん。近づいたら負けだな。遠距離から狙撃、引き撃ちをしたとしても弾道予測されるだろうし、うーむ……ミサイルカーニバルかな? うわ、全然現実的じゃねぇな。マシとかで弾幕作って……あぁでもダメだ。パワードスーツが硬くて抜けねえかもな。となるとガドリングか? だが固定砲台だと膾切りにされそうだし……うーむ、中々に手強い。

 

「えー……と、ストレイド君?」

 

俺に声をかける……だと?

 

顔を上げればそこには、あの冴えない少年がいた。

 

「1位おめでとう。退院したばっかりなんでしょ? それなのに、よくそれだけ動けたね」

 

「こんな俺に話しかけるだなんて、君は神か?」

 

「……へ?」

 

「USJの時も、俺が投げた首輪をちゃんとキャッチしてくれてたらしいじゃないか! いやーほんと助かったよ! もしも君がキャッチしてくれてなかったら、俺ってば多分ヴィランよりもタチ悪いことしてたからね! ハハハ! いやー本当に助かったよ!」

 

思わず冴えない少年の手を握り締め、ブンブンと上下に振ってしまった。

 

「おっとすまない。つい興奮してしまった」

 

「い、いや、ううん! だ、大丈夫だよ! うん!」

 

なんか冷や汗とか凄いけど大丈夫かこの子?

 

「そうか、そりゃあよかった! あ、授業ってどんくらい進んだ? 出来ればノートを見せてくれると助かるなぁ……って」

 

成績が悪いと死ぬからね、うん。セレンさんのご機嫌はしっかりととっておかないとね。

 

「いいよ、大丈夫」

 

「ありがとう! ありがとう! 本当にありがとう! 自分で言うのもあれだけど、俺ってクラスから浮いてるから頼める相手がいなかったんだよ! いやー本当に助かる!」

 

「あ、あはは。じ、自分で言っちゃうんだね……」

 

「ま、事実だし仕方ないね」

 

「……」

 

やっべ、返答ミスった。向こうもなんて返せばいいのか迷ってるわ。

 

『次の競技は騎馬戦!』

 

おお、なんていいタイミングで。感謝感激です。

 

ふむ、何々? 2〜4人で戦えと。ほうほうなるほど、死ねってことか。えっ、予選順位が高いほど高ポイントになる?

 

『予選通過1位のストレイド君! 持ちポイント1000万!』

 

あっ、全てを察した。

うわーどうしよこれ。1位を取るのは問題ないけど、仲間を見つけるのが大変だわ。

 

あっ、そうだ!

 

「少年! 私と組んでくれ! 頼む! 君しか頼める相手がいないんだ!」

 

「えっ、えぇっ!? でも、僕は……」

 

「頼む! ここで騎馬が組めなきゃ、俺は失格になっちまうんだ! 頼む! この通りだ!」

 

誠心誠意手を合わせ、頭を下げて頼み込む。

 

「……ゴメン。君とは組めないよ」

 

そんなぁ……

 

「僕は、実力で君を超えなきゃならないんだ。お荷物じゃダメなんだ」

 

「なっ……」

 

なんて、高潔な魂の輝き……ッッッ!!!

クッ……フロムの住人には無い思考だ!

 

『この際プライドは抜きだ』

 

『騙して悪いが仕事なんでな』

 

『随分と調子良さそうだねぇ? 騙されたとも知らずに』

 

クッ……そんな自分が、恥ずかしい。

 

「そうか……なら、仕方ない。俺は俺で、他の人を探すとするよ」

 

「お互い、頑張ろうね」

 

「あぁ、そうだな」

 

お互いに言わずとも、男の友情ってもんは分かるもんだ。

拳と拳をぶつけ合い、そこで俺たちは別れた。

 

……さて、どうするかなぁ。

 

「1位の貴方! 私と組みましょう!」

 

女の子の声だ! やったぜ、とうとう俺にも春が来たか。落ち着け落ち着け、焦ってはいけない。ゆっくりと優雅に振り返るのだ。

 

「……どちら様で?」

 

「フッフッフッ。私はサポート科の発目明!貴方のことは知りませんが、立場利用させて下さい!」

 

「清々しいな。むしろ好感度が上がりまくりだぞ」

 

「それはありがたいです。それでですね、私は貴方と組むと必然的に注目度がナンバーワンになり、そうすると私の可愛いベイビー達がトップ企業の目に留まるわけですよ! それってつまり、大企業の中に私の可愛いベイビーが入るってことなんですよ! それでですね、貴方にもメリットがありましてですね、サポート科はヒーローの個性を、より扱い易くするためのものを開発します。フフフ、私、ベイビーがたくさんいますので、きっと貴方のお眼鏡に叶う物がありますよ? あっ、これなんかお気に入りでしてね、最近企業ではパワードスーツを作ることが流行りでしてね、こんな物を作ったんですよ」

 

ウワコイツメンドクサイ。

 

「長いから1行で」

 

「私達の自信作で最新作のパワードスーツを着て下さい!」

 

彼女が鞄のようなナニカから取り出したそれは、酷く見慣れたものだった。

 

「こ、これは……ッッッ!!???」

 

「フフフ、私達の自信作です」

 

そいつは、史上最凶最悪と名高い、あの兵器。

 

「その名も、アクアビットマンです!」

 

コジマの天使が、雄英高校体育祭に舞い降りた。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

騎馬戦もあっさりと終わった。

高度2000mで滞空してたんだから、そら誰も手出し出来ませんわ。あ、騎馬は勿論俺。女の子に肩車なんてさせたら、俺の体重支えられんからね。あ、でもアクアビットマンになれば支えられたのか? かもしれんなぁ。

でもちょっと、彼女には申し訳ないことしたなぁ。

 

「君としては俺が戦ってる姿を周りに見せつけた方がいいんだろうけど、まぁ、逃げてれば勝てる試合でゴメンね」

 

「いえ。アスピナ機関の方を紹介してくださるのなら、私はそれで満足です。フフフ、あのアスピナ機関との繋がりが出来るだなんて、大収穫です」

 

「まぁ、そう言うならそれでいいけど……」

 

こりゃ失敗したかもなぁ。

独力でアクアビットマンを作り出すやつとアスピナ機関なんて混ぜたら、酷いことになりそうだ。




体育祭編まだ書き終えてないのですが、かなり書くのが大変なので取り敢えず1話だけ投下です。
もしも書き終わらなかったら、来週また1話だけ投下。
書き終わったら適当なタイミングでドバッと投下します。


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第9話 初戦


──やるべきことは分かっているな

──はい

──手札はなるべく隠すべきだが、情報の為には本気を出すことも許そう

──はい。了解しました



 

さて、第3試合はタイマンでトーナメント戦だそうだ。んで、これから抽選で対戦相手を決めるらしい。だが、ここで2人が棄権した。なんでも、試合中の記憶があやふやらしい。ドーパミン垂れ流し状態だったらあやふやになるし、そんなもんじゃないですかね?

 

で、2人消えたから新しく2人、B組を選出。合計18名によるトーナメント戦となった。

 

18でトーナメント戦って、ちょっと難しくない? 16なら分かるけども。なんて無駄なことを考えている間に抽選が終わったようだ。

 

電子掲示板にトーナメント表が現れた。

 

えーとどれどれ? 俺は……おっ、あった。なんだこれ? シードか? シードだけど、一応戦うのか。ふーん。で、対戦相手は……え?

 

『ようし。それじゃあトーナメントは置いておいて、レクリエーションの時間だ!』

 

 

 

 

 

 

騎馬戦も無事に圧勝した俺は、レクリエーションに参加することなく、ドームの屋根に座り、勝利の余韻に浸りながら昼ごはんを食べていた。母親の愛情たっぷり弁当こそが至高。ハッキリわかんだね。

なんでA組の女子がチアの格好をしてるのかは謎。体育祭の熱気にやられたのかな?

 

さて、そろそろ現実逃避はやめておこう。

 

俺の対戦相手は『リリウム・ウォルコット』だ。まさか、ここまでフロムが汚染してきているとは思わなかった。お前、なんでこんなところにいるんだよ。字面からしてどう考えても外国人だろ。日本人じゃないだろ。

 

……とにかくだ。相手はリリウムと考えておこう。リリウムといえば、無駄に精度の高いライフルとレーザーとミサでチクチク削ってくるアンビエントを想像するが……さて、どれくらいリリウムなのかが問題だ。

 

ミサイルを撃ち込んでくるのか、レーザーを出すのか、銃を扱うのか、それともステルス系能力なのか……うむ、わからん。

 

ま、コジマパワーで蹂躙するぐらいしか思いつかないからなあ。だって俺、それしか出来ないし。

だが、これはあくまで体育祭だ。コジマキャノンを使ったら確実に殺しちゃうだろうし、かと言ってアサルトアーマーも危険度が高い。QBで背後に回ってぶん殴るか放り出すぐらいしか思いつかんぞ。

もう、それでいっかな。

 

食べ終わった弁当を鞄に仕舞い、下へと降りる。さて、第1試合まで暫くあるし、昼寝するか。

鞄を枕代わりにし、端の方で寝ようとした、が。

 

「すみません。あなたがストレイドさんで、合っていますか?」

 

声をかけられたので目を開けると、人が俺を覗き込んでいた。

 

「うん、そうだけど」

 

「申し遅れました。私、リリウム・ウォルコットと申します。初戦はよろしくお願いします」

そう言ってリリウムは、しっかりと腰を折って挨拶した。

 

「あっ、うん、こちらこそよろしく」

流石に向こうだけ礼儀正しく挨拶させるわけにはいかない。俺も起き上がり、しっかりと腰を折って挨拶した。

 

「よろしければ、少し、お話しませんか?」

 

「うん、いいよ。ま、座りなよ。立ち話もあれだし」

 

「では、失礼して」

 

そう言ってリリウムが俺の横に座った。

うん、百合だわ。

 

「んで、話って?」

 

「私は、イギリスから留学しに日本に来たのです」

 

「ほーん。留学生なのか。なるほど」

 

「ええ。なので、日本について教えて頂きたいのです」

 

「日本について、ねぇ……」

うーむ、特に何も思いつかんぞ。

 

「オールマイトが主に活動してる国」

俺が絞り出した答えは、こんなつまらないものだった。

 

「オールマイトは、いろんな国に行っていますからね。イギリスでも人気がありますよ」

 

「へぇ、イギリスでも人気なんだ。イギリスでは、オールマイト以外に誰が人気なんだ?」

純粋な疑問から聞いてみた。

 

「そうですね……デュアルフェイス、というヒーローが有名ですね」

 

「へー、デュアルフェイスって言うんだ。どんなヒーローなの?」

 

「そうですね……彼は、決してイギリス国外からの依頼は受けません。オールマイトは国外にも行きますが、彼は愛国者ですので」

 

「なるほど。イギリスの為に戦うヒーローなのか。カッコいいね」

 

「えぇ。過去にはジナイーダと共闘したこともあるのですよ」

 

「そりゃすごい」

 

ジナイーダと共闘ってことは、かなり強いんだろうなぁ。

 

「デュアルフェイスって、どんな戦い方をするんだ?」

 

「そうですね……彼は、グレネードランチャーを2つ背負っている為、とても動きが遅いです」

 

「うん……うん?」

 

「なので、グレネードランチャーを撃ち終えてからが本番です。グレネードランチャーをパージした後の彼は、身軽になったので高速で動き回ります」

 

「うん、まあ、そうだね」

 

「そして、撹乱した後、1人ずつ丁寧に気絶させていきます」

 

「丁寧だね」

 

「ええ、とても丁寧です」

 

デュアルフェイスと背グレって時点でそれ、どう考えてもジノーヴィーじゃねぇか。イギリスの依頼しか受けないってそれ、絶対危ない契約の関係で国から出られないだけじゃないですかやだぁ。ヒーロー名もそれ、表の顔と裏の顔って意味だろ。

 

「質問があるのですが、いいでしょうか?」

 

「答えられることなら、どうぞ」

 

「なぜ、制服なのですか?」

 

「ああ、これね。退院したばっかりだからさ、今日は体育祭って知らなかったんだよ。通常授業だと思ってたから、体操着は持って来てないんだ。だから制服でやってるんだ」

 

「なるほど。運が悪かったようですね」

 

「そうだな。運が悪かった」

 

体育祭って知ってたら、こんなことにはならなかったのにな。

 

「「……」」

 

どうしよう。この沈黙が辛い。なんか話した方がいいかな。いやでもなんも思いつかんしなぁ。

なんて事を考えてる間に、隣が立ち上がった。

 

「有意義な時間を過ごせました。感謝します」

 

「いや、俺はまったく役に立たなかっただろうが……まぁ、そう思ってくれたんならありがたいよ」

 

「試合では、お互い全力を出しましょう」

 

「そうだな。いい試合にしよう」

 

リリウムは立ち去っていった。

 

「腹黒淑女は、どんな手で来るのかねぇ……」

 

個人的に、イギリスだけは敵に回したく無い国だしなぁ。どうすりゃいいのかね。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

『これから始まるのはトーナメントのシード戦だ! 18なんて面倒な人数になっちまったから仕方ないな。まずはこいつだ! 退院して直ぐ来たせいで、体育祭だと知らなかった不幸な少年! 第1、第2種目で圧倒的なまでの速度を見せた男! ストレイドだ!』

 

──ワアァァァァァァァァァァアアア!!!

 

プレゼント・マイクの煽りに会場の熱気が上がった。凄い熱気だ。確かに、ストレイド君はどちらも1位で通過している。他の人たちは知らないだろう、彼が何を出来るのかを。第1種目は圧倒的なまでの速度でゴールしたから、誰も彼を見ていない。そして第2種目。第2種目でも、彼はずっとフィールドに居なかった。ずっと上空で待機して居た。麗日さんとは違い、空を飛ぶ事のデメリットがない。それだけで、途轍もなく強力な個性だ。でも、みんなは知らない。あの時、僕と一緒に居たあの2人しか、彼の本当の実力を知らない。

 

『続いては! あ、やべ、俺メッチャこの子応援してぇ。イギリスからの留学生! 名門ウォルコット家の優秀なヒーローの卵! その佇まいから溢れ出す、いいお嫁さんになりそうな空気! リリウム・ウォルコットだぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

──ワアァァァァァァァァァァ!!!

──リリウム可愛いよリリウム!!!

──リリウム俺だ! 結婚してくれえええええ!!!

 

……すごい、圧だ。同じ男として、あそこまでバカにはなりたくないなぁ。

 

リリウム・ウォルコット。イギリスからの留学生。騎馬戦では一緒に組んだけど、結局どんな個性なのかは詳しくわからなかった。

外国の生徒はどんな教育を受けて居たのか、どんな個性なのか、色々と気になる。今のうちにメモを取らなきゃ。

 

ノートを開き、白紙のページに新しくリリウムの項目を作る。

 

『それじゃあ、試合を始めるぜ!』

 

ストレイド君なら、絶対にこうする。

 

『レディー……ファイト!』

 

圧倒的なまでの速度を活かした速攻!

 

一瞬。瞬間移動だと錯覚するような速さで、ストレイド君がリリウムの背後に現れた。そして腰を掴み、投げ……ッッッ!?

 

『おぉぉーーっとぉ!? これはどういうことだ? ストレイドは腰を、リリウムは手を掴んだのはいいが、両者一歩も動かない!』

 

もしかして、ストレイド君の筋力が足りなかった? いや、彼は個性把握テストで上位にいた。つまり、能力を使用してもあまり効果がない分野でも優秀だった、つまり筋肉もあるはず! なのに、これは……いったい何が。

 

──ドヒャア!!!

 

爆音と暴風を撒き散らしながら、ストレイド君達の身体が1mほど浮いた。

 

──ドヒャア! ドヒャア! ドヒャア!

 

また、少しずつ浮いていく。

 

あれだけの推力を受けて中々上がらないということは……もしかして、身体を途轍もなく重くする個性とか?

 

『おっとお! ここでストレイドが手を離し、両者共に地面に着地……いや、ストレイドだけ膝をついている! どういうことだ!? 中々立たないぞ!』

 

これは……やっぱり、自分にだけ効果が発するんじゃなくて、対象に何かしらの効果を発する個性か?

 

『なんだなんだ、どういうことだ!? ストレイドが、勝手にフィールドの外へと向かって引き摺られていく! まるで、引っ張られているみたいに!』

 

……引っ張る? まさか、引力を発生させているのか!?

 

──ドヒャア! ドヒャア! ドヒャア!

 

『ストレイド頑張って前へ進むも、ほんの少ししか前へ進めない! 根気との勝負になりそうだ!』

 

あの、途轍もない推力を発生させる技を使っても中々進めないと考えると、個性を発動された時点で、僕は恐らく負ける。個性が発動するトリガーはなんだ? 可能性としては麗日さんみたく触られたら発動が1番あり得るけど、相澤先生みたいに、視界に入れば発動する可能性もある。

 

ストレイド君は……もしかしたら、詰んでいるかもしれない。

 

「────ォ……」

 

ん? ストレイド君の身体が緑色に包まれてる?

……まさか。

 

「みんな! 目を塞いで身を屈めて!」

 

「アアァァァァマアアァァァァァァァァアアアア!!!」

 

見たことがあったから、僕は咄嗟に身を屈めて目を隠すことが出来た。でも、初見の人はそうはいかなかっただろう。クラスのみんなにはギリギリで伝えたせいで、対応できなかった人も居るだろう。

 

強烈な閃光と爆音、途轍もない暴風が無差別に襲い掛かってきた。

 

『うぉぉぉぉ!? 目が、目が見えねえ!』

 

「ぐうぅっ!」

 

客席に居るからそれなりに離れているはずなのに、風が強く感じる。試合の続きを見るため急いで目を開けると、既に試合は終わっていた。

 

「そこまで! リリウム選手戦闘不能! 勝者ストレイド!」

 

──ウオォォォォォォオオオオオオオオ!!!

 

劣勢から一瞬で勝ったからか、歓声が最初よりも大きくなっていた。

 

「やっぱり、凄い……」

 

圧倒的な速度による瞬間移動、スタングレネードに爆風も付いているような、あの技。そして入学試験で見せた、手からビームを出す技。

 

応用が効き過ぎる。複数の個性を持って居ると言われた方が納得する、不思議な個性。

 

そして、USJで見せた、あの暴走状態。

 

君は一体、何者なんだ?

 

 




風邪引きました。書けませんでした。
あと2話ぐらいで終わると予想。
書き終わらなかったらまた来週月曜に1話だけ投下。

残りは雑談的なものです。

本当は緑谷視点は書かない予定でしたが、周りから見たストレイド戦と、リリウムの能力の推測をしたかったためこんなことに。ストレイド視点だと何をしたかが分かってしまうので、ね。

リリウムはB組ですが、B組にも個性はバラしていません。ほら、個性とかバラすべきモノじゃないですしね? たぶん偽の個性で申請してると思う。

リリウムっていい匂いしそう。紅茶とか似合いそう。はぁ〜リリウム可愛いよリリウム。

デュアルフェイス
みんなご存知ジノーヴィー。ぶっちゃけパチモンの方が強い。
今回ジノーヴィーがちょろっと出しましたが、これ以上本編に出る予定はないです。出たとしてもきっと死体です。

あんまりフロムの住人を増やすと作者の脳がキャパオーバーするのです。出すとしても主要キャラぐらいです。


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第10話 システム キドウ


テキ ハッケン キケン キケン キケン



初戦をどうにか切り抜けた俺は、選手用の観客席って奴に直接飛んだ。

 

「ストレイド君、お疲れ」

 

緑谷君だけだよ、俺に話しかけてくれるのは。まぁ、こっちから話しかけなかったから、向こうから話しかけて来ないんだろうが。

 

「あぁ、疲れたよ。相性ってのは、本当に大事だな」

 

運良く緑谷君の隣が空いていたため、そこに座る。

 

「ん? なんだそのノート」

 

膝の上に乗っていたそれをスッと抜き取り、表紙を確認してみる。

 

「うぇあっ!? そ、そそそそれはっ!?」

 

「ほーん。ヒーローの研究ねぇ」

 

「え、えぇっとそのそれは趣味みたいなもので、でですね」

 

ペラペラとページをめくっていく。ほうほう、色々と書かれているな。同じクラスの奴や、それに、俺やリリウムも書かれている。

 

「ほー、面白いじゃん。ありがと」

 

一通り読み終えたので、緑谷にノートを返す。

 

「お、面白かったんだ。うん、そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいよ」

 

『さーてー! これから第2試合の始まりだぁーー!』

 

「おっ、これから始まるのか。いやあ、楽しみだ」

 

「楽しみって……何が?」

 

緑谷が不思議そうに聞いてきた。まったく、何が楽しみなのかぐらい分かるだろう。

 

「何って、誰がどんな個性を使い、どんな風に戦うのかを観れるから楽しみなんだよ。どうせ緑谷も同じだろ? そんなノート書いてるぐらいだし」

 

「あはは、まぁね」

 

これが性分だから仕方ない。そんな言葉が伝わってくるような笑みを浮かべ、緑谷はそう返した。

 

「ほら、もう始まるし、じっくりと見るか」

 

さて、第2試合の相手は……ほうほう。上鳴と塩崎か。

 

『第2試合、スタート!!!』

 

開始の合図と同時に、ステージ上に電流が走った。なるほど、電気系の個性か。あっ、なんか植物で防がれてる。って、えぇ……あなたもう拘束されてるじゃないですかぁ。電気を無効化されたら為すすべがないってそれ、致命的すぎんよ。

 

 

気を取り直して、次の試合を観よう。

対戦者は……飯田と発目か。今度、アスピナ機関を紹介しないといけないなんて、憂鬱だなあ。

 

 

 

 

 

 

対戦は一通り終わった。観戦中に体育祭の実行委員的な人が体操着を届けてくれたので、どうやら俺は制服で戦う必要がなくなったようだ。やったぜ。

試合を見ていて個人的に相性が悪そうだと思ったのは、轟と爆豪ぐらいだった。方や一瞬で氷山を作り出し、方やPAにとっては天敵の爆破を扱う存在だ。中々に困ったぞ。ウム、どうするか。

 

手札はなるべく隠しておきたかったが……仕方あるまい。情報が漏れないようにすれば、まぁ問題ないだろう。

 

さて、俺はシード的な位置にいたため、一回休んでから試合をすることになった。

いやぁ、緑谷と轟の試合は凄かった。緑谷って、指を弾くだけで氷山を穿つほどの衝撃波を放つんだね。いやあ恐ろしい。

 

さて、俺の対戦相手は委員長ことエンジン飯田である。正直、楽勝である。速度特化だと? フン、笑わせる。本当の速度特化(ソブレロ)ってやつを、教えてやるよ。

 

とまあそんな感じで飯田君を(文字通り)一蹴し、次の対戦相手は相性の悪い轟君になった。休憩なしで連戦である。一瞬で試合が終わったからって、連戦の必要はなくない? 休憩とかくれないの? え、だめ? 余裕を感じられるって? あ、そうですか。

 

さて、作戦なんだが……特にはない。なんやねんあいつフレイザードかよ。チートかよ。はぁ〜キレそう。まあ文句はこのくらいにしておいて、相手は速攻で氷山を作り出すだろう。氷山じゃなくても、氷で動きを止めようとしてくるだろう。ならやることは簡単。滞空してればいい。ほんの数ミリでも浮いていれば、そう簡単には足を凍らされないだろう。凍らされないよね? 凍らさないで下さい。

 

『開始ぃぃぃぃ!!!』

 

──ドヒャア!

 

やっぱり速攻が1番だ!

QBで背後に回り込み、QBの加速を乗せて左足を蹴り飛ばした。

 

「ぐうっ!!!」

 

チッ。体重を崩すように下の方を蹴ったが、どうやら右足は地面とくっついて離れないようだ。氷で地面と離れないよう引っ付いてるせいで、左側だけが浮く程度になっちまったか。だが、これで終わりじゃあない。

 

「アサルト……」

 

「俺は……」

 

「アアアァァァァァァマアアァァァァァァ!!!!」

 

「負けらんねえ!!!」

 

至近距離でのAAだ。下手すれば死ぬが、お前なら死なないだろう。

 

アサルトアーマーの爆発と、轟の強烈な火炎とがぶつかり合い、轟音と爆風を撒き散らしながら会場が光に包まれた。

 

「はぁ……クソッ」

 

「ハァ、ハァ……」

 

眩い光が会場を襲った後、左半身を庇うように立つ轟と、右半身を庇うように立つストレイドが、お互いに少し離れた地点で睨み合っていた。

 

「まさか、俺が火傷をするとは思わなかった」

 

「それはこっちのセリフだ。まさか、回避が間に合わないとは思わなかった」

 

轟の左は焦げて黒に変色し、ストレイドの右は焼け爛れて真っ赤になっていた。

 

「「だが……」」

 

それでも、意地がある。

 

「「負ける気はねぇ!!!」」

 

お互いに、引けぬ事情がある。

 

──ドヒャア!

 

ストレイドが再びQBを使い背後に回り込んだ。

 

「読めてる!」

 

轟が右足を軸にし、左から炎を撒き散らしながら背後を振り向く。タイミングを合わせたのだろう。本来なら不意をつける筈の一撃は、そこにストレイドが居ないことで不発に終わった。

 

「遅すぎる」

 

背後からの声と、強烈な衝撃。

QBの加速を乗せたタックルが、轟の背中を撃ち抜いた。

ストレイドは、QBで背後に回り込んだ後、次の手を見越した上でもう一度死角へと移動して居たのだ。

 

「ガッ、ハッ……くうッ!」

 

ストレイドからの重いタックルをくらい吹き飛ばされるも、轟は氷を生成して勢いを殺していった。だが、ストレイドの追撃を許すには十分な時間だった。

 

「っしゃらぁ!」

 

ストレイドの左拳が轟の脇腹を抉った。

 

「ガホッ!」

 

轟の身体が吹っ飛ぶ。

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

轟は痛みを堪え、咆哮を上げることで己を鼓舞し、痛みを闘志でねじ伏せる。

ストレイドにこれ以上追撃をさせないため炎を最大出力で展開し、近寄れぬようにした。

その間に体勢を整えて、背後に氷の壁を作り、狙われにくくする。

 

だが、轟は重要なことをこの場で忘れていた。

 

「アサルトォ……」

 

声につられて上を見ると、ストレイドが上にいた。炎の隙間を掻い潜りながらも、己に近づいていた。

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

狙うはただ1人。己の持つ全力でもって、ライバルを倒す。

 

「キャノオオォォォォォォォォォォン!!!!」

 

再び、強烈な爆発と暴風が会場を包み込んだ。前回と違うのは、更に規模が拡大していることだ。

 

耳が痛くなる程の爆音と、吹き飛ばされそうな暴風が晴れた時、立っていた者は居なかった。両者共に、地に伏して。

 

『轟くん、場外! よって、ストレイドの勝利!』

 

━━オオォォォォォォォォォォォォォォオオオオオ!!!

 

会場が、さっきの爆音に負けず劣らずと言った声の圧で覆われた。

 

「……死ぬかと思った」

 

 

 

 

 

 

死ぬかと思った試合もどうにか勝利した俺は、治療してくれたおばちゃんのありがたぁいお小言を綺麗に聞き流し、次の試合に向けて闘志を高めていた。

 

対戦相手は、爆豪少年だ。

PAじゃあ、あの個性は苦手だ。もし何度も爆破を当てられれば、コジマ粒子の流れを掻き乱されて、上手くPAが維持出来なくなる。

 

相性はかなり悪い。

轟とも悪かったが、こいつもこいつで中々に面倒だ。どうすっかなぁこれ。近づいたらアウトな点は同じで、離れてもアウトな点も同じだ。ほんとこれどうしろってんだよ。

コジマキャノン解禁するか? いやでもマジで殺しそうで怖いしなぁ。うーむ。悩む。

 

仕方ない。手札を一つバラすか。

 

試合会場へと上がり、爆豪と向き合う。

 

「おい、お前」

 

「ん? 何?」

 

話しかけられるとは予想外。

 

「あいつと戦ったせいで本気を出せません、なんてふざけたこと抜かさねえだろうな」

 

あぁ、そういう。

 

「うーん……まあ、一応本気は出すけど、全力とは言えないかもね」

 

「ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ! あ゛あ゛ん゛!?」

 

ボンボンボンボンと、爆豪の掌から爆破が頻繁に起きた。

ヒエェ、何この子怖い。

 

「テメェ、さっきの試合でもどこか遠慮してたじゃねぇか! なのに本気を出さねえだぁ!? ざっけんじゃねぇぞ! 本気で、殺す気で来い! じゃなきゃ意味がねぇんだよ!」

 

爆豪のその言葉は、なぜかただの我儘には聞こえなかった。俺の()に、ストンと落ちてきた。

 

「そっかぁ……そっか。うん。そうだね」

 

まったく、ここまで俺をやる気にさせるとは。本当に、面倒な奴だ。

 

「ホントは好きじゃないんだ、こういうガチな勝負ってのは」

 

「オレのキャラじゃないしね」と付け足し、首輪(チョーカー)についているスイッチを押し続ける。

 

『システム、キドウ……ジジジッ……メインシステム、パイロットデータの認証を開始します』

 

頭の中で幻聴(COMボイス)が聞こえたのでスイッチから手を離し、指を3本立てた状態で爆破少年に見せる。

 

「なんだ、その指は」

 

「俺の本気を出せる時間だ。出す時間ではない。出せる時間だ」

 

「あ゛あ゛ん゛?」

 

怪訝な顔をするのも無理はない。

 

「3分だ。それ以上本気を出すと、俺は身体機能に甚大な影響を受ける」

 

「なるほどな。それが、テメェの個性のデメリットか」

 

『メインシステム、戦闘モード、起動します』

 

「さぁ、始めようか」

 

『ようこそ、戦場へ。私達は、あなたを歓迎します』

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告ありがとナス!
飯田君はスルー。骨が折れて入院。ステイン戦には間に合わず、といった展開も良かったのですが……ねぇ? やっぱり、彼には走ってもらわないと困りますので(愉悦スマイル)。

???「元より助ける気などない」

え? そんなことより進捗はどうかって?
一文字も書けてません。体育祭も書き終わってないのに、職業体験以降の構想練って、アレやろコレやろと妄想してたせいで書けてません。頑張って来週月曜には投稿したいです(願望)。
さて、今日もアーマードコアやらなきゃ(現実逃避)。


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第11話 機体名

──ナインボール?
──アリーナのトップがどうして……うわっ!

──私を追っているらしいな。
──誰であろうと、私を超えることなど不可能だ。


予定調和、と言えばそうだったのだろう。

 

ジェット機が飛び立つ時のような爆音と共に、両者の姿が搔き消えた。

 

「カハッ……!!! ガハッ! ガホッ!」

 

爆豪の身体が観客席の壁にめり込み、激しく咳き込んでいた。

対し、ストレイドは場内に悠然と立っていた。

 

「爆豪場外! 勝者、ストレイド!」

 

雄英高校1年で最も優れた戦士を決める祭り事は、たった1人のイレギュラーによって、アッサリと幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──雄英高校の生徒を蹴散らし、圧倒的な性能(強さ)を見せつけたか……やり過ぎだな、メルツェル。

 

──よく言う。誰に手間をかけさせたのか。

 

──フッ、確かにな。あの男を説得するのは大変だっただろう。

 

──まぁ、いい。これでやっと、計画は第2段階を終えた。

 

──あまり期待はしていなかったが……なるほど。

 

──どうやら、あの程度では力を測るに不十分だったようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そうだな。次は、彼の相手になってもらおう。

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

今日は生憎の悪天候。雨は俺にとって苦手な存在だ。空を飛んで学校に行こうにも、ずぶ濡れになっちまうからだ。PA濃くすれば何とかなる気もするけど、どうなんだろうね? まぁ、今日は諦めてカッパを着て空を飛んで通学しよう。一応バスタオルと着替えも持参して向こうで着替えれば問題あるまい。

 

「いただきます」

 

今日の朝食はご飯と味噌汁、焼き鮭とたくあん。味噌汁のいい匂いが身体に染み込むぜ。あー、やっぱ落ち着いてメシを食うってのは、いいもんだ。

ゆっくりと朝食を楽しみ、学校へと向かう。

 

……うん。分かっちゃあいたが、結構濡れた。風邪ひきそう。ま、何とかなるでしょう。バスタオルを持ってきて、本当に正解だったなこれ。トイレの個室に入り、バスタオルで適当に拭き、教室へと入る。

 

外からでも聞こえるぐらいガヤガヤ煩かったが、中に入るともっと煩い。そっか、体育祭のことを話してるのか。

 

「よっこいしょっと」

 

席に座り、みんなの話に聞き耳をたてる。

へー、みんな色々あったんだな。

 

「おはよう」

 

ここで担任が登場。まさか、担任の一言でこうもクラスが静まり返るとはな。これが抑止力ってやつか。なんて恐ろしいんだ。お? 包帯取れてるじゃん。よかった。ちゃんと治ったんだな。

 

え? 何々? 今日のヒーロー情報学は特別だって? まさかまたなんかやらかすのか?

 

 

「『コードネーム』ヒーローネームの考案だ」

 

『胸膨らむヤツきたああああ!!!』

 

先生の一言で、教室が熱気に包まれた。

 

ヒーローネームの考案か。機体名でもいいですかね? メイトヒースとか、メビウスリングとか。

 

え? 何々? プロからのドラフト指名に関係してくるから作れってこと? はーなるほど。

 

「で、その指名の集計結果がこうだ」

 

黒板に指名結果が書き出された。

 

「例年はもっとバラけるんだが、2人に注目が偏った」

 

なぁにこれぇ。爆豪と轟だけ指名件数多くない? なんで4桁なんですかねえ。ところで、体育祭で圧倒的一位を獲得した俺の指名件数は……?

 

「ちなみに、ストレイドへの指名はカラード本部からの圧力で全部もみ消された」

 

なにそれこわい。

 

「んなこと言っちゃっていいのかよセンセー!」

 

頭ツンツン少年がそう叫んだ。俺の意思を代弁してくれてありがとう。

 

「ま、別にいいだろ。他言無用、なんて言われていないしな。念を押さなかった向こうが悪いってことだ」

 

こわ。

 

「これを踏まえ、指名の有無関係なく、所謂職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってこった」

 

あー、そういやヴィランが攻めてきましたもんね。

 

「まあ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!」

 

この声はまさか!?

 

「この時の名が世に認知され、そのままプロ名になってる人、多いからね!」

 

カツカツと音を立てながら、クッソエロい人が教室に入ってきた! ガーターベルトに全身極薄タイツ!

 

「ミッドナイト!」

 

「まあそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」

 

と相澤先生は言い、注意をすこし残した。

 

名は体を表す、だってさ。

 

……そっか。名は体を表す、か。

 

俺がじっくりと考えてる間に、何人か名前ができたようで発表している。やはり、憧れの存在をリスペクトして名を付けている者もいるようだ。

 

憧れの名を背負うからには、相応の重圧が付いて回る、とミッドナイトはその生徒に向けて覚悟があるか確認をしていた。

 

……相応の重圧、ね。

 

はあ。俺には、その名を語るだけの、資格があるのかな。どうなんだろ。でも、憧れちまったんだよな。

 

こうやって悩んでいる間にも、他のみんながドンドンヒーローネームを完成させていく。

 

「思ってたよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと、飯田くん、緑谷くん、そしてストレイドくんね」

 

げっ、もうそんな出来ちゃってんのか。

あぁクソもういいよやってやるさ俺はなってやるさ。この名を世界に知らしめてやるよ。

 

「先生、出来ました」

 

「じゃあストレイドくん、発表してちょうだい」

 

席を立ち、教団へと向かう。

ああクソ、珍しく緊張するな。

 

「俺のヒーローネームは“ARMORED CORE”略して“AC”だ」

 

「アーマードコア……?」

 

「炉心を覆うって事ですよ。これは俺の個性の話にもなりますが、俺はバリアーみたいなのを常に張ってます。それで炉心である俺を覆うって事です」

 

「なるほど、そういうことね。中々お洒落だし、いいんじゃないかしら?」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

ちょっと嬉しいかな。

 

「なんだよストレイド。オメー、くっそ洒落てる名前にしやがって」

 

「ネーミングセンスあるとか意外だぞおい」

 

「あはは……」

 

結構好評だな、これ。やっぱ、嬉しいな。

 

席に戻り、書いたヒーローネームをじっと見つめる。

 

──ああ、なってやるさ。この名に恥じない存在に。

 

 

 

俺が覚悟を決めてる間に授業が終わってた。

 

「職場体験は1週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ」

 

だってさ。相澤先生、俺の指名はどうなっちゃったんですかね?

 

「今週末までに提出しろよ」

 

あと2日じゃねーか!

 

相澤先生がみんなの席へ回り、そして俺に紙を渡した。

 

「お前にはカラード本部からの指名だ。これを断ったら、ヒーローにはなれないと思え」

 

「権力には勝てないんですね」

 

「所詮は国家公務員だ。権力には勝てんさ」

 

哀愁漂うセリフと共に、相澤先生は去って行った。

 

カラードからの指名ねえ。

チラリと紙を見てみると、色々と注意事項やらなんやらが書いてあった。んでもって、集合場所はオーストラリア支部。

 

……は? オーストラリア? え? ん? は?

 

いや、ちょっと何言ってるか分からないです。

 

 

 




AC6を信じろ。
そんなこんなでお待たせ。
みんな大好き職場体験イベントだよ。まぁ、彼がステインと関わることはないですけど。主人公組に頑張ってもらいましょう。
ヒーローネームは安直にACです。イレギュラーとかドミナントなんて名乗れるほど肝は座っていません。そもそもイレギュラーって名乗るもんじゃなくて、勝手に認知されるもんだしね……

次回の予想としては
・ステインのあれこれ
・ストレイドのオーストラリアでの様子
の2つになると思います。

あくまで予想。PVと現実が違うなんてよくあること。
最後に一言。

「名は体を表す」


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第12話 依頼契約

──状況はできあがっている

──あとはキミ次第だ、よろしく頼む。



みんなは国内俺だけ国外こんな世界嫌じゃ〜。

権力怖いんじゃあ〜。

権力には勝てない。いつの時代も変わらんのね。

セレンも言ってたぞ。「大人には気をつけろ。基本、みんな怖いからな」ってね。でもセレンのそれ、どう考えても俺を心配してのやつだよね? 俺、そんなに子供っぽいですかね? もう高校生なんですけれど。

 

ところでオーストラリアに着いたら迎えを寄越すって話だったが、はて、俺はどこで待ってればええんじゃろ。待合室的なとこの方がいいのか、それとも外に出た方がいいのか、ううむ悩ましい。

 

「そこの少年、ストレイドに違いないな?」

 

声のした方へ向くと、そこにはおっさんが。

 

「あー……どちら様で?」

 

「ふむ、どうやら間違いではないようだな。これからカラードオーストラリア支部へと向かう。ついて来い」

 

「あ、はーい」

 

空港から出て、車に乗ってわりとすぐ。カラードオーストラリア支部に到着した。今度は会議室に向かうとかでエレベーターで54階に移動。そこからまた5分ぐらい歩いてようやく到着。

あのさぁ……支部なのに、デカくない? デカすぎない?

大きすぎるよ。修正が必要だよ。もっと小さくていいよ。もっと慎ましやかでいいよ。

 

「失礼する」

 

おっさんがノックして会議室に入った。

 

「失礼しまーす……」

 

俺もそれに続いて、恐る恐る中に入る。

 

「おぉ、来てくれたか。よかったよかった。君がストレイドくんだね?」

 

メガネをかけた推定30代のおっさんが話しかけて来た。たぶん子持ち。

 

「あ、はい、そうです」

 

「じゃ、まあ適当なところに座ってくれ。これから依頼内容について説明するからね」

 

座っていいと言われたので、適当に空いているところに座る。

 

「じゃ、説明を始めるよ。依頼内容はテロ組織の殲滅。場所はクイーンズランド州、ヨーク岬半島西岸、カーペンタリア湾の東側に位置する独立無法都市グリフォンだ」

 

ん? なんか聞き覚えのあるような。

 

「あいつらは中々手強くてね。通常の方法じゃあダメなんだ。かれこれ1週間占拠されたままでね、こちらとしても、メンツってものがあるからね。最後の手段に出ることにしたよ。これは日本ではあまり知られていないことだが、そうだね。君は何のためにヒーローになるのか、それを教えてくれないか?」

 

なんのため? いやー、んなこと言われてもなー。

 

「ああ、別になんでもいいよ、本当のことを話してくれれば。モテたいでも、強いやつと戦いたいでも、なんでもいい」

 

じゃあ、本当のことを話すわ。

 

「なんか、成り行きでヒーローになることになってた」

 

この発言はさすがに想定外だったのか、目を丸くさせた後、大声で笑い始めた。そして一通り笑い終え、呼吸を整えてから話し始めた。

 

「いやまさかこんな子が居るとは雄英も中々捨てたもんじゃないね。いいよ、君は合格だ。それじゃあヒーロー稼業の裏話をしようか」

 

瞬間、部屋の中の空気が変わった。どこかフワフワとした空気が、急に引き締まった。

 

「ヒーロー。それは、人々を救う職業だ。根本的なところでそれは変わらない。基本的にヒーローは、ヴィランですら救おうとするもんだ。だが、それも例外がある。通常の手段では問題を解決できない際、一部のヒーローに対しては特別に、殺害許可を出される。そう、ヒーローがヴィランを殺すんだ。これは表には出せないことだ。ヒーローってのは、常に綺麗な存在でないとダメだからね」

 

あー……そういうことか。

 

「じゃあ、なんで俺を呼んだんです? 俺が所謂裏稼業に向いてない可能性もありましたよね?」

 

「いや、それはない。君はとても狡猾な男だ。体育祭の様子、私は会場で直接見たんだ。君の戦いをね」

 

なんともまぁ、面倒な奴に目をつけられちまったな。

 

「さて、話を戻そう。今回の依頼を一言で説明すると、テロ組織の構成員全員の殺害、可能なら捕縛だ。この作戦は、君のカラードに対するプレゼンテーションだ。後は君次第だ」

 

ほう……?

 

「目安としては、どれくらいがいい?」

 

「そうだな。20人の殺害もしくは捕縛を目安としよう。20人以上であれば、ヒーロー試験を受けることなくヒーローの国際資格の仮免許を報酬として渡すのも問題ないだろう」

 

ほお。美味いな。どう考えても報酬と依頼内容が釣り合っていないが、絶対に罠だろうが。

 

「その話、のった」

 

障害は、真っ正面から潰してやるよ。

 

「契約成立だな。よろしく頼む」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼むぜ」

 

お互いに手を出しあい、握手を交わす。

 

「作戦は今夜22時から開始だ。それまで紹介しておいたホテルで休むなどして、英気を養うといい」

 

「……今更なんだけどさ。俺を案内してくれた人、どちら様?」

 

俺の問いに対し、ハッとした表情で答えた。

 

「あぁすまんすまん。そうだね、自己紹介してもらった方がいいよね。じゃ、よろしく」

 

おっさんが立ち上がり、俺の前まで移動して来た。

 

「今日の依頼で共に行動する。ヒーローネーム、フィードバックだ。老兵は構わず、戦場では好きに動くといい。なに、新兵を育てるのも、老兵の役目だ。よろしく頼む」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

手を差し出されたので、俺も手を出して握手する。

あ、やっぱこの人絶対強いわ。というかあんた絶対アレやん。ローディーじゃん。

 

というかさあ、ローディーってGAなんだし、そこはアメリカだろうに。なんでオーストラリアに居るんだよ。この依頼勝ったな。ローディーがいる時点で勝ったわ。ローディーなら背中任せられるわ。いや待てよローディーに裏切られたら……アッ、死にそう。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

薄明かりの付いた路地裏にて、今、1人のヒーローが殺されていた。火を扱う個性だったのだろう。ゴミに火が付き、燃えていた。運が悪ければ建物を炎上させることになるだろう。

 

「ハァ……無能すぎる」

 

そう。いくらなんでもこのヒーローは無能にすぎた。故に、彼の粛清対象となった。

 

「よお。久し振りだな。今日も元気に殺ってたのか」

 

背後から声をかけられた。

 

「ハァ……日本に戻っていたとは、驚いた」

 

ヒーローを串刺しにした刃を右胸から引き抜き、血を拭き取りながら答えた。

 

「お前という存在が、オレには分からない」

 

「俺も何度も言っている。お前のソレは、結局は殺人だ」

 

瞬間、男の首が飛んだ。ああ、首を切られてしまったのだ。男の体からは力が抜け、前のめりに倒れた。そして、宙に溶けるようにして消えていった。

 

「手間を掛けさせるな」

 

また、背後から声がかかる。

 

「なぜ、お前は死なない」

 

当然の疑問だ。首を切り、殺したはずが、今こうして背後から声をかけてきた。平然と生きているのだから。

 

「さあてな。俺にとって、これが当たり前だからな」

 

火の勢いが強まった。誰かが気づかねば、火災事件になるだろう。

 

「夜はまだ長い。せいぜい好き勝手に楽しめや」

 

それだけ言い残し、男の姿はかき消えた。

 

「……ハァ。まあいい。オレにはオレの、為すべきことがある」

 

偽物を粛清し、今の社会に警鐘を鳴らさねば。そして、オールマイトの後を継ぐに値する、真の英雄を見出さねば。

 

「そして、世に平穏のあらんことを」

 

ヒーロー殺しステイン。彼の戦いは、決して報われることのないものである。

 




頑張った。モチベない中で頑張った。もうゴールしてもいいよね。
僕の傭兵アカデミアはこれからだ! みたいな感じで打ち切ってもいいよね……?
ウソです。頑張れる間は頑張ります。
次の更新はきっとかなり先。モンハンやるし、ダクソ3やってるし、リマスターも来るし。ん? AC? 最近やる気起きなくて、AC成分足りないのもあって筆が進まないんですよね。そもそもps3 がオンボロなせいで起動すら面倒という。
ハハハ、LRクリア出来てないんで、頑張って攻略してきまーす。

タイトル入れ忘れてたので修正しますた。


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