Fate/ Army of Darkness (K氏)
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序章
地獄を越えて


アメコミ版死霊のはらわたシリーズの最新作を某所で買ってきて、更に某店でも昔発売されたシリーズが買えて、内容が普通に面白かった(小並感)ので初投稿です。

(ぶっちゃけ続くかどうかはわから)ないです。


 全ての始まりは、あの山荘での出来事だった。

 

 父さんの知り合いのイギリス人数人と一緒に、イギリスの山奥へとちょっとした旅行に出かけたのだ。ただし、当時は両親共に仕事があったので、ちょうど高校生活最後の夏休み中だった僕だけが、この旅行に同行する事になった。

 

 だが、その途中で車がエンスト。仕方なしに歩きで助けを求めに向かった先にあったのが、あの山荘だった。

 ノックしてみても、誰も出ない。どうやら、人がいなくなってそんなに時間は経ってないらしい。だから、この山荘の持ち主が帰ってくるまで、しばらく止めてもらおうと考えたわけだ。

 

 正直に言えば、僕はそこに行くのは反対だった。こればっかりは勘でしかなかったが……今思えば、そういう()()勘は信じるべきだったんだと思う。

 山荘を一目見た時に感じた一瞬背筋が凍り付くような感覚は、そして妙な違和感は、間違っていなかったのだ。

 

 結果から話すと、それはもう、凄惨なものだった。

 

 イギリス人の同行者は皆殺しにされ、後からやってきた山荘の持ち主の娘と助手、そして彼女に雇われた地元の人らしい二人もまた、()()にやられた。

 そして僕は――()()を時空の裂け目に追放してやった。霊体となっていた山荘の持ち主らしい博士がいなければ、僕もまた死んでいただろう。その代わり、僕もその裂け目に吸い込まれる羽目になってしまったが。

 

 そしてやってきたのは、中世のイギリス。()()()()()()異邦人な僕は、テレビの中でしか見た事の無かった騎士達に捕まり、色々と理不尽な目に会いながらも、なんとか自分がどういう存在かを説明し、納得してもらう事に成功した。……ちょっと荒っぽい事になったのは不可抗力だ、うん。

 そこで僕は、かの有名なアーサー王と円卓の騎士数人、そしてあのクソッタレ……もとい、インチキ魔術師の野郎と出会い、現代に戻る為に冒険を繰り広げる事となる。それはもう頭のおかしくなりそうなぐらいぶっ飛んだ冒険だったが、ここでは割愛しよう。

 

 数多の冒険を繰り広げ、クソッタレな()()との戦いを潜り抜けた僕は、最終的に現代へと帰りついた。

 

――心に、大きな()()を抱えながら。

 

 あんな出来事があった事を、誰かに理解してもらいたいとは思わない。いや、ちょっとぐらいは同情して欲しいが、まぁ、少なくとも誰も信じてはくれないだろう。

 事実、あれ程までに凄惨な事件が起きた山荘には、そんな事件などまるで無かったかのように、あの夜の出来事が夢か幻であるかのように、その痕跡が綺麗さっぱり消えてなくなっていた。死人は確かにいたというのに。

 中世時代での冒険が切っ掛けで歴史が変わったと捉えるならそれまでだ。だが、僕の……いや()()心、頭、そして記憶の中に、確かにあの光景が刻みつけられている。

 何より――山荘での戦いでチェーンソーでぶった切った後、中世で貰った鋼の義手の冷たい感覚が、あれが現実だった事を、暗に教えてくれている。

 しかも、あの事件を引き起こしたクソ忌々しいクソッタレな本……『ネクロノミコン(死者の書)』が、どういうわけか手元に残っていると来た。

 中身の数ページが無くなっていたのが妙に引っかかるが、まぁ気にする事でもないだろう。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「この畜生共め! 日本のマナーってのを教えてやらぁ!」

 

……気にする事では、なかったはずなのに。

 

 今、俺がいるのは日本某県某市の、とあるアパート。

 

 あの事件の後、俺は右手の怪我の事もあり、イギリスの病院に放り込まれてしまった。

 流石に、事件の真相、そして中世に行った事は話さなかった。黄色い救急車のお世話にはなりたくなかったからな。

 とりあえず俺は、黙秘を貫く事にした。するとどうだ。夜中に誰かの気配がするじゃないか。

 

 最初、俺は()()がやってきたのかと思った。廊下でこそこそと動いているらしいそいつを、俺は室内で待ち構えた。

 そして入ってきたところを……ドカッ、とぶん殴ったわけだ。そして電気をつけてみれば、普通の生きた人間だったってオチだ。

 黒服にグラサンと、如何にもな恰好をしたそいつを見て、「やっちまった」と思った。

 だからとりあえず、そいつを廊下まで引きずり、それっぽくもたれかけさせると、ナースコールを押して収容してもらった。

 その時は結局、黒服の男が何者か分からなかったし、その後数日して日本に帰ると、そいつの事はサラッと忘れてしまっていた。

 

 だから、高校をなんとか卒業した直後にアパートでひっそりと一人暮らしを始めてすぐ、外に黒服が数人立ってるのを見た瞬間、その時の記憶が甦った。

 

 けど、まぁ、殴っていい連中だとは思ったんだよ。何をしたのかわからんが、鍵をかけてたのに勝手に空いたんだから。つまり不法侵入者だ。殴られたって文句は言えないだろう。

 

「オラオラオラ!」

「うがっ」

「げっ」

 

 次々と入ってくる黒服を、殴って、蹴って、絞めて、エトセトラ。

 なんかこっちを指さしてブツブツ呟いてた奴には、土産で貰ったクリケットのバットを投げつけてやった。

 

「――そこまでよ」

 

 女の声が聞こえた、ような気がした瞬間、倦怠感が俺を襲った。そこに、黒服達の決死のタックル。

 不覚にも取り押さえられてしまった俺を見下すように、銀髪の女が部屋に入ってくる。

 

「な、なんでェこんにゃろうがぁ……あがが」

 

 抵抗するも、力が入らない。今まで殴られた仕返しと言わんばかりに力を込められ、畳に押し付けられた頬が痛い。

 

「貴方ね? 例の事件の生き残りというのは」

 

 銀髪の女がそう問いかけてくる。

 

 『例の事件』、『生き残り』……どう考えても、アレの事だろう。

 

「て、テメェら……俺に、俺に何の用だ!」

 

 はっきり言って、あんなのに巻き込まれるのはもう御免被る。誰が巻き込まれたくて、あんなスプラッタな出来事に巻き込まれるというのだろうか。

 

「アレか! 本が目的か! 持ってくなら好きにしろ! 俺を巻き込むんじゃねぇ!」

「……全く、喧しいわね。ジャパニーズはもっと物静かだと聞いているのだけれど」

 

 クソッ、せめてこの拘束をどうにかできれば……そう思ったのも束の間。

 

「……――――」

 

 何事かを呟く声。そして――

 

 

 

 

「――フォウ」

「……あぁ?」

 

 気付けば、妙ちくりんな小動物に顔を舐められていた。

 

 ああ、そういえば自己紹介が遅れたな。俺は藤丸立香。Sマート××店の家庭用品係をやってる、しがないアルバイターさ。無断でこんな所に来ちまったんだから、多分バイトはクビになってるだろうがな。

 



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Open the hell "Ass" hole

 実は、死霊のはらわたでアッシュが迷い込んだ過去の世界は1300年であり、Wiki先生の言を信じるならアルトリア(アーサー王)の活躍した時代から、かなりかけ離れているのです。
 しかしながら、自分もまたアッシュが出会ったアーサー王は「エクスカリバーを使うアーサー王」だと思っていたので、今作ではぐだおが行ったのは「エクスカリバーを使うアーサー王が活躍した時代」としています。

 当然ながらネクロノミコンが消えた時期もこの頃で、なおかつアッシュを手助けした賢者も彼となっています。


――瞬きをすれば、そこはあの忌々しい思い出が積もりに積もった、血塗られた山荘だった。

 

 右腕の重みに目をやれば、そこには鋼鉄の義手……ではなく、山荘で見つけたチェーンソーが装着されている。

 数多くの()()を屠ったその破壊の刃には、赤や緑のどろりとした液体がこびりついている。だが、「自分はまだやれる」とでも言いたげに、喧しくエンジン音を鳴らしている。

 否、その解釈は少々不適切だろう。何せ、今このチェーンソーは、自分の身体も同然なのだから。

 

 そして左手に握っているのは、銃身を切り詰めた(ソードオフ)レミントン水平二連ショットガン。使用する弾は12ゲージ。Sマート一番の売れ筋商品だ。ちなみにスポーツ用品売り場に陳列してある。小売価格は109ドル95セント。実際お買い得商品だ。

 弾は十二分にある。そして、狙う相手も。

 

 不意に、自分以外に生者などいないはずの空間に、笑い声が響き渡る。

 自分は笑っていない。ならば、誰が笑うのか?

 

――決まっている。()()だ。

 

 目を笑い声のする方に向ければ、鹿の頭部の剥製が、白目をひん剥きながらゲラゲラと笑っている。

 続けて電気スタンドが。その次は本棚に収められた本の数々が。更には棚そのものが。

 

 部屋にあるありとあらゆるものが、自身という生き残りを嘲笑うかのように、男とも女ともつかない笑い声を上げる。

 

 そして気付けば、自分も笑っていた。

 

 理由は分からない。分からないが、これが笑わずにはいられない。つまりは、頭がおかしくなったに違いない。

 

 だが、当の頭の方は、酷く覚めていた。だから、ひとしきり笑った直後、自分を笑うクソッタレな家具を、片っ端から破壊して回った。

 

 次いで襲ってきたのは、()()に取り憑かれた哀れな人間達。

 

 勿論、やる事は決まっている。殴って、撃ち抜いて、ぶった切る。シンプルイズベスト。

 

 窓から突入してきたそいつらを、あるいは地下室から這い出してきた奴らを、一片の情けも容赦もなく蹴散らしていく。

 

 銃声。チェーンソーのモーター音。雄叫び。悲鳴。そして――粉砕される血肉の音。

 

 壁が真っ赤に染まっていく。そして俺も。

 

「――は」

 

――だが。

 

「はは」

 

 

「ハハ、ははは、HAHAHAAAAAァーーーー!!!!」

 

 

 

 

――そんな状況で、俺は笑っていた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……で、オタクはどちらさん?」

「……名乗る程のものではない――とか?」

「あんだって?」

 

 気が付けば、どこかの施設の廊下に転がされていたらしい。俺ぁてっきり、人体実験か尋問か、そんな事されるもんだとばかり思ってたが、――眠気で身体が怠いのを除けば――特に怪我も何もない。

 だが、服以外の持ち物が一切ない。畜生。やっぱり連中、俺で何か実験でもするつもりに違いない。

 

 そうだ、思い出した。あの銀髪の偉そーな女だ。奴が黒幕に違いない。とにかく奴を見つけ次第、この俺の鋼鉄の右ストレートでぶん殴って――?

 

「……あ」

「あ?」

 

 直後、俺は自分の義手が無くなっている事に気付き、絶叫を上げてしまった。やっぱあの女、右ストレートだけじゃ済まさねぇ。

 

 あとどうでもいいが、俺に声を掛けてきた幸薄そうな眼鏡っこのビックリした様子が可愛かった。「ひゃっ」だってよ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 それから紆余曲折あり、俺は眼鏡っこ……マシュ・キリエライトと、後からやってきたモスグリーンの胡散臭いおっさん……レフ教授とやらに、この施設、『カルデア』について、少しばかり教えてもらった。

 

 人理だの保障だの、平凡な高校を卒業したばっかりな俺には難しい話だったが、魔術の存在自体は、あのクソッタレのネクロノミコンの事があったから特に驚きはしなかった。

 それにレイシフトだとかいうのも、つまりは自分でタイムスリップできるって事だろ? とあっけらかんに言ってみたところ、何やら二人して俺を変な目で見てきた。誰が好き好んでタイムスリップするのか分からんが、そのフリークか何かを見るような目は止めろ。

 

 そして代わりに、俺は意識を失う直前までの出来事を、彼らに話した。

 

 銀髪の女に気絶させられた、という話をした瞬間、レフは、あちゃー、と言わんばかりの反応を取る。

 

「オルガ……何の説明も無しに拉致したのか……」

 

 なるほど、あの女の独断専行って訳らしい。畜生め、何様のつもりだ。……何? オルガマリー・アニムスフィア『所長』? 実はアニムスフィア家とかいう魔術師の貴族の当主? なるほど、偉そっぷりが板についてるわけだ。

 

 だが、レフ達の話を聞いているうちに頭が冷えてきた俺は、その中で気になった事を、恐る恐る問いかけた。

 

「な、なぁおい、レフのとっつぁんよ。ここってよぉ……()()()()()()()()()?」

「と、とっつぁん……お、ホン。そういえば、君はこのフィニス・カルデアには拉致……もとい、連れてこられたんだったね」

 

 はっきり言っちまえ、拉致だって。

 

「ここは所謂魔術工房のようなものだが……ただの工房ではない。各国共同で設立された特務機関であり、同時に国連が主催する組織でもある」

「……つまり?」

「幸いな事に、予算が潤沢でね。機密性やら諸々の理由で、標高6000メートルの雪山の地下に作る事ができたのさ」

 

……Oh, my……。

 

 どうも、奴さんらは俺を生かして返すつもりはないらしい。

 

 視界の端に、吹雪く外の様子がちらちらと映っているのが見えた、気がした。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……あの(アマ)、いつかぜってぇ痛い目に会わしてやる」

「お気持ちはわかりますが、所長にも立場というものがありますし……」

「それで「ハイ、そーですか」って納得できるかよ、えぇ?」

「え、えぇと……どうなんでしょうか、フォウさん」

「フォッ!?」

 

 あの後、各国から集められたという48人のマスター候補だかなんだかの説明会に参加する為に、マシュと(ついでにレフも)一緒に管制室ってところに向かった。

 本来ならマシュは説明会には参加しない予定だったらしいが、俺が途中で眠らないか心配らしく、案内も兼ねて同席したわけだ。泣けるね、全く。

 ちなみにレフは、マシュを一人にするとオルガマリーの奴から雷を落とされるらしい。というわけで、仲良く三人で出席した――ところまではよかった。

 

 悲しいかな、あの時眠らされた後遺症が残っていたのか、俺はマシュ曰くレム睡眠状態に陥り、直後にオルガマリーからの熱烈なキス……ではなくビンタをお見舞いされ、管制室から追い出されちまった。

 

 そして今、俺は再びマシュに案内され、カルデアの職員にあてがわれたマイルームに向かっている。道中、ここに来て最初に俺の頬を舐めたチビ助……フォウとかいう見た事も無い小動物をお供にしながら。

 レフのとっつぁんによれば、俺の荷物は恐らくそこに置かれているはずだと。……持ち物と言えば、密かに隠し持ってたショットガンやらチェーンソーはどうなったんだろうか。あのクソ本には期待してない。寧ろ無くて助かる。

 

「先輩はファーストミッションから外されてしまったわけですが……代わりにフォウさんと戯れる時間を得られた、というわけですね。正直なところ、羨ましいです」

「そりゃどうも。……ところで、ずっと訊こうと思ってたんだが」

「? なんでしょうか、先輩?」

 

……純粋無垢とは彼女の事を言うのだろうか。僅かな時間しか共に行動していないが、それでも分かる。こいつは酷く真面目で、それでいて無垢だってのが。

 そりゃ分かるさ。少なくとも、あの山荘にも、そして過去のイギリスにも、こんな奴はいなかった。

 今も、やや首を傾けて、何の濁りもない無垢な瞳でこっちを見つめてきやがる。まるで童話に出てくる純粋な小動物だ。

 

「なんだって俺の事を先輩なんて呼ぶんだ?」

「……私にとっては、ここにいる皆さん全員が先輩です。ですが……」

 

……?

 

「此処にいる人々の中で貴方が一番、その……()()()()()、と言いますか……駄目、でしたか?」

 

 その言葉に、俺は思わず、言葉に詰まってしまう。

 

――人間らしい、か。

 

「右腕が無くても、か?」

「い、いえ! その、私は……」

「……うんにゃ、構わんさ」

 

 頭の隅でちらつく真っ赤な記憶から逃げるように、俺はにっかりと作り笑いをした。多分、滅茶苦茶ぎこちない笑顔だろうよ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 この後ファーストミッションがあるらしいマシュと別れた俺は、フォウを頭に乗せ、マイルームへと入っていった。マシュ曰く、このみょうちきりんな小動物は人にあまり懐かないらしいが、俺はマシュに次いで気に入られたらしい。

 

「だ、誰だキミは!? というか右腕! 右腕が! すぐに医療室へ!」

「そっちこそ誰だテメェ。人様の部屋に不法侵入かましやがって」

「あいででで!? い、意外と力持ちィ!?」

 

 で、部屋に入った俺を待っていたのは、優男という言葉が一番似合いそうなおっさん……にいちゃん? だった。

 とりあえず締め上げて白状させてみたところ、ここはこの男……ロマニ・アーキマン、人呼んでDr.ロマンのサボり場なんだと。

 

「そっかぁ、キミが最後の48人目……あいてて、まだ痛む。キミ、ホントに一般人枠なのかい?」

「……そこはノーコメントだ、ドクター」

 

 この男、レフとまではいかないが、どうもきな臭い感じがする。しかし、話せばわかる人間らしく、俺達は間もなく意気投合した。

 

「マギ☆マリ? ありゃ絶対ネカマだろ」

「そっ、そんな事ないさ! なんてったってアイドルなんだから!」

「……なんつーか、どことなく昔会った奴を感じるんだよなぁ。殴りたくなるところとか」

「ちょっ」

 

……意気投合した。

 

 それからすぐにレフがロマンを呼び出し、ロマンは管制室に行く事となった。が、どうもあちらさんは、ロマンがサボってるとは知らないらしい。

 気の抜けた笑いを浮かべ、「じゃあ行かなきゃ」と手を振るロマンを見送――

 

 

 

 

「なんだ? 明かりが消えるなんて、何か――」

 

――ろうとした矢先にこれだ。

 

 直後、遠くから何かが爆発する音がし、アナウンスがエマージェンシーを発する。

 すぐにロマンが、えらく未来的な通信装置で管制室を見てみれば――そこには地獄が広がっていた。

 

「……立香、すぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く」

「おい待てよ。あの地獄に一人で突っ込もうってか?」

「……そうだね。そういう事になる。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前にキミだけでも外に出るんだ!」

 

 真っ先に外に駆け出して行ったドクターの後ろ姿を見て、俺は思わず舌打ちをしてしまう。

 

 そしてすぐさま、無造作にベッドの上に放り投げられていた二つのスーツケースの中身をひっくり返し、確認する。

 

……なんてこった。連中はバカか? それとも、魔術師って奴らはまだ中世時代にでも生きてんのか?

 いずれにせよ、こいつは僥倖だ。

 

 俺は()()()()()()()装備を整え、そして同じようにスーツケースに仕舞われていた義手を装着し、感覚を確かめる。

 

――よぅし、いけるぞ。

 

 一番物騒な愛用の得物をシーツで包むと、すぐさまロマンの後を追う。何やら頭の上でフォウが何やら言っているが、俺は動物の言葉何ぞわからん。

 

「ッ!? いや、なにしてるんだキミ!? 方向が逆だ、第二ゲートは向こうだよ!? てか、その格好は一体――」

「うだうだ言ってる場合じゃねぇだろ、ドクター。一人でなんでもできるスーパーマンにゃあ見えねぇぜ? それに、この手の経験なら俺の方が確実に上さ」

「経験って?! そ、そりゃあ人手があった方が助かるけど……」

 

 ロマンはどうしても、俺を巻き込ませたくないらしい。だから、走りながら言ってやった。

 

「生憎と、俺はそこまでお人よしってわけじゃねぇ。ぶっちゃけると、ここにいた連中を助けてやる義理も、何もねぇんだ」

「な、なら尚更――」

「だがな」

 

――此処にいる人々の中で貴方が一番、その……()()()()()、と言いますか……駄目、でしたか?

 

 あの時のマシュの言葉が、蘇る。はは、こいつぁ珍しいや。いつもなら、クソロクでもねぇ思い出しか頭に浮かばねぇってのに。

 

「カワイコちゃんに親切にしてもらったんだ。それを仇で返すようじゃ、男がすたらぁ」

「……ああもう、わかった! でも、隔壁が閉鎖する前に戻るんだぞ!」

 

 この後、俺は管制室に向かい――そして、マシュを見つけた。

 

――彼女は、バカでかい瓦礫に潰されていた。

 

「死ぬんじゃねぇ……死ぬんじゃねぇぞ……」

「……隔壁、閉まっちゃい、ました。もう、外に、は」

「ああ、そうだな。だから、最後まで一緒にいてやる」

 

 炎の熱気と共に漂う、肉の焦げる臭い。その中で、美少女と二人。全く、こんな地獄でさえなけりゃ、いいムードになれたと思うんだがな。

 カルデアスの状態がどうだの、隔壁が閉鎖されただのとアナウンスがペチャクチャと喋っている中で、俺は彼女の手を握っていた……生身の左手で。

 

「――あぁ」

 

 マシュが、微かな声で何かを呟く。

 

「あたた、かい――」

 

 

 

 

――……王の友よ――

 

 ふと、誰かの声が聞こえた。まさか。マシュ以外に誰か生きている様子も無かったってのに。

 

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。レイシフト開始まで あと3 2 1』

 

――どうか、この娘を……頼……む……――

 

『全工程 完了(クリア)。ファーストオーダー 実証を 開始 します』

 

 どこの誰かも分からない声にそんな事を頼まれ、俺の意識は暗闇の中に落ちていった。

 

 そこで思い出したのは、あの山荘での最後の戦いで、時空の狭間に吸い込まれた時の事だった。





 「FGO二次創作書いてる人達は大体書いてるだろうし、わざわざ自分が書かずともいいだろう」という判断から、プロローグの説明やら台詞やら、一部端折ってお送りしました。
 所長ファンの方、申し訳ありません。

 あと、今作のぐだお君は、日本人らしい謙虚さをそれなりに備えたアッシュをイメージしています。
 そうでもないと、あの強すぎるキャラに定評のあるアッシュそのままでは、属性:中立・善は難しいと判断したからです(建前)
 というか、あのキャラを完全再現とか無理です(本音)
 なので、サムライミ監督のアッシュ像(言伝で聞いた程度ですが、「卑怯で情けなくて臆病な男」との事)を想像してた方も申し訳ありません。
 本作ではブルースキャンベル分マシマシでお送りしたいです(願望)


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Hell's kitchin

 恐らく誰か気になる人がいると思うので先んじて解説すると、今作のぐだおがアルバイトの募集にホイホイされたのではなく拉致られたのは、

 山荘での事件を時計塔、ひいてはアニムスフィア家が把握し、その唯一の生き残りであるぐだおに適性があり、更にネクロノミコンを所持している事が分かった。
 ↓
 しかし事件のせいで警戒心が強い人間になったぐだおをホイホイするなどほぼ不可能なので、ある程度非人道的であってもぐだおを確保しようとし、最終的に日本で捕まえた。

 という感じの理由だった気がします(曖昧)

 まぁ特に必要のない裏設定みたいなもんなんで気にしなくて良し。作品をテンポ良く書く上での、致し方ない犠牲だ(コラテラルダメージ感)


 

 

 俺は藤丸立香。片手が鋼鉄の義手な、イカしたジャパニーズサムライ。

 コイツは相棒の――って呼べる程仲良くなったわけじゃねぇが――フォウ。見ての通り、謎の小動物だ。

 

「――うおぉぉッ!?」

「フォーウッ!!!?」

 

 で、俺達は今、燃え上がる廃都を、命がけで駆けずり回ってる。誰かが俺を狙っているのだ。陰謀論だとかそういうジョークは抜きだ。

 しかも俺に殺到してるのは銃弾じゃない。矢だぞ、矢。一瞬()()あの時代に行っちまったのかと思ったが、どう見てもこの風景は現代だ。

 現代なのに弓矢? ざけんじゃねぇ。しかも、建物を盾にしようが、瓦礫に隠れようが、アホみたいに正確にこっちを撃ってきやがる。どう考えても人間じゃねぇな。()()、それもあの時代にいたのに近い奴かもしれん。

 

 そんな考察してる暇があるのかって? NOに決まってんだろ!

 

 

「先輩!」

 

 丁度良くそこにやってきたのは、紫の鎧に身を包んだ救いの女神。その独特の淡い髪の色といい、声といい、どこかで見覚えがあるような――

 

「――って、マシュ!? なんだお前さん、そのカッコ!?」

「先輩こそ、その物々しい装備は一体――危ない!」

 

 何故か程よく成長している胸を強調している鎧に身を包んだ彼女は、手に持った身の丈程もある巨大な盾を構え、飛んでくる矢の雨を防ぐ。

 『どこか幸薄そうな感じのする儚げな美少女だったのが、唐突にワンダーウーマンばりのパワフルガールになっちまった』何を言っているのか分からないと思うが、俺もどうにかなっちまいそうだ。頭がかなりやられちまってる自覚はそれなりにあったつもりだが、どうもまだ俺には正気の部分があったらしい。

 

「チッ……マシュ! ここは一旦逃げるぞ!」

「逃げるって、どこへ!?」

「さぁな! 何とかならァい!」

 

 とりあえず、マシュの盾を背にし、矢を防ぎながら俺達は走り出した……。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ま、まさか本当にどうにかなるなんて……」

 

 はっはっは。人間、根性があれば命の危機ぐらいなら何とかなるもんさ。……で、一旦落ち着いたところで、彼女には訊かなきゃならない事があるのだ。

 そう、彼女の今の姿だ。

 

 そこから語られたのは、あの管制室の地獄の最中に起きた、奇跡のような出来事。

 名も知れぬ騎士が無垢なる少女に託した『守る為の力』。

 

「そうか、そんな事が……」

「はい……結局、名前も教えていただけないまま、その人は消えてしまって」

 

 もしや、あの時俺に語り掛けてきたのはその騎士か?

 しかし、あいつ「王の友」って言ったか?

 王……いや、まさかな。

 

 そんな折に、腕に装着されている最新のデジタル時計っぽい腕輪から音がなる……ちょっと待て、俺こんなもん着けてたっけ?

 てかよくよく俺の格好見てみたら、なんだこの小奇麗な服は。あれか、カルデアの連中め、俺が寝てる間に脱がせやがったな?

 

 まぁ、それは後にしておくとして。扱い方もロクに教えてもらってない腕輪をああでもないこうでもないと弄っていると、空中に青いホログラムのようなディスプレイが出てきやがった。うわ、何これ未来的すぎじゃない? Sマートで取り扱わせてくんない? いや俺アルバイターだけど。このままだとクビ待ったなしだけど。

 

 青い画面の向こう側では、ロマンが慌ただしそうにこちらを呼び掛けていた。

 

 マシュがハレンチな格好をしてるだのなんだのと喧しくしているロマンを、当のマシュ本人が封殺し、ようやくマシュの身に起きた事の解説が始まった――のはいいのだが、これがさっぱりわからない。

 サーヴァント? 融合? デミサーヴァント?

 

……駄目だ、全く分からん。

 

 えーと、話を纏めると、『死の淵に立たされていたマシュは、自分の名前を明かさなかったどっかの誰かさんと、これまたどっかの巨大ヒーローみたく融合して生き残れた』って事らしい。ちなみに本当の名前――真名が分からないと、そのサーヴァント? 英霊? どっちだかわからんが、宝具とかいう必殺技みたいなのが使えんらしい。

 

 あまりにも俺に知識が無さ過ぎるという事で、後でマシュが手取り足取り教えてくれる事になった。ヒャッホイ。お兄さん頑張っちゃうぞー。

 あ? ロマン? アンタはお呼びじゃねぇ。美少女を兵器扱いする悪い奴ァ、この右手でゲンコツだコノヤロー。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 その後、通信の乱れでロマンとの通信が途絶し、この燃える街……特異点『冬木市』にある、通信がしやすいポイントに向かう事となった。

 

 道中、あのヒス女がギャアギャア喚きながら、いつぞやに見た骸骨軍団に囲まれているのを目撃()()()()()()()()()骸骨共を蹴散らして助けた。「どうして私がこんな目に」? バチが当たったんだろどうせ。

 そのままポイントに着いた俺達は、ロマンとの通信を再開し――

 

「って、ちょっと待ちなさい! 危うくスルーしかけたけど、貴方の()()は何なのよ!?」

「……??? ソレって、どれ?」

「あの、先輩。状況の打破を優先して、結局流してしまった私が言うのもなんですが……その格好と、あとその武器の事かと」

 

 何? 俺の格好? オタクらが支給した制服だろ? それに、自前のホルダーに、Sマートの売れ筋商品の水平二連式レミントンだろ? 鋼鉄の義手だろ? (まだシーツに包みっ放しだけど)チェーンソーだろ?

 

「こんなマッポーカリプスな場所に来るかもしれないって想定するなら、これぐらい準備はするもんだろ? まさか()()タイムスリップする羽目になるとは思わなかったが、何もおかしくねぇよな?」

「いやおかしいわよ!? 確かに貴方の家から荷物を持ってくる時、あの本の事もあるから自衛用に持っていても不思議じゃないとは思ったけど!」

「自衛用だ」

「過剰過ぎんのよ! 貴方本当に魔術師!?」

「いや違うけど」

「えっ」

「えっ?」

 

……どうやら、俺達は大変な思い違いをしていたらしい。どこをどう見たら俺がイギリス人に見える?

 

 何だ、マシュ? 「魔法使いじゃなくて魔術師」? 似たようなもんだろ。

 あと何? 「日本にも魔術師の家系は存在する」? ……マジかよ。

 

 結局、銀髪ヒス女とマシュ(と、ついでにロマン)を何とか説得するのにかなり時間を使ってしまい――

 

「あらあら、なんて可愛い子――!?」

「やい妖怪ババァ。かかってきな!」

「う、嘘……変質しているとはいえ、サーヴァントに傷を……!?」

「た……たかが人間風情がァァァ!!!」

 

――シャドウサーヴァントなる、サーヴァントとは少し違うらしい連中に襲われる羽目になっちまった。どうやらここでは、聖杯戦争っていうサーヴァント同士を争わせる殺し合いがあったのが、何かが狂ってマスターのいないサーヴァントがなんたらかんたら。

 

 で、成り行きでその内の一人の頭をレミントンでぶっ飛ばし、チェーンソーでぶった切ってやったところ、またまた凄い目で見られた。だからフリークを見るような目はやめろっての。

 

 あ、ついでにマトモなサーヴァントらしいキャスターって奴が仲間になった。

 なんでも、七つあるサーヴァントのクラスの内の一つで魔術師に当たる奴で、ルーン魔術の使い手なんだと。どっかのファンタジーものでそんな名前聞いた事あるような……。

 ちなみに本業は槍使い(ランサー)だそうな。どう違うのかはよく分からんが、マシュの分かりやすい例えによれば「設計士をやってる一般市民に『銃で戦え』と言っているようなもの」らしい。

 

 えっ、設計士って戦闘職だろ? 何、オタクら『狼よさらば』見た事ねぇの? 俺もねぇけど。

 

 

 

 

******

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はこの冬木の惨状が、柳洞寺って寺の地下深く、大空洞って場所にある大聖杯に原因がある事がわかった。

 そこから溢れ出る泥でサーヴァントをシャドウサーヴァントに変え、そいつらを配下にした奴もまた、そこにいるという事も。

 つっても、俺が分かるように噛み砕いただけで、正確かどうかまでは分からん。ちなみに、内数体はキャスターが既にぶっ倒したんだと。やるじゃねぇか兄貴ィ!

 逆を言えばそいつをぶっ倒して、更に聖杯もどうにかしちまえば全て丸く収まるという。

 分からん事ばかりで、本当にそれでハッピーエンドになるかも怪しいが、少なくともあの時代でのクソ本を取りに行く冒険よかマシだろう。何せ、やる事が単純だ。

 

 『全力で走っていって敵をぶん殴る』。小難しい呪文を唱える必要も無けりゃ、罠として同じものが三つも並んでるわけでもない。なんだ、楽だな!

 

 そう言ったらまた変な目で見られた。畜生。俺、馬鹿にされてね?

 

 しかし問題がある。奥にいるサーヴァント、セイバーを守護しているアーチャーというのをどうにかしないと、先には進めないという。ここに来て最初に俺を狙ってきた、あの矢を放ってきた張本人だ。だが、これはキャスターが一人で引き受けてくれた。

 

「いいのかい、キャスターの旦那。やっぱ手伝った方が……」

「いや、あいつも堕ちちゃいるが、一端の英霊。三人で掛かっても、消耗は免れんだろうぜ」

 

 あ、サラッと頭数に……。

 

「それに、あいつとはちぃとばかし因縁があってな。ここは任せてもらうぜ」

「あ、あー、そうだな! 手の内もアンタ良く知ってそうだもんな!」

 

 応とも! と返してくれるキャスターに、俺は内心汗だくだった。正直言えば、あの妖怪ババァ、もといランサーをぶっ倒せたのも、単純に戦いやすい相手だったってだけだ。油断もしてたし。

 

「マシュの嬢ちゃんは宝具を一応の形でも使えるようにはなったが、それでもまだまだ足りねぇもんばっかだ」

「まぁ、な」

「……はい」

 

 ここに来るまでの道中、宝具を使えない事を悩んでいたマシュの手助けとか言って、キャスターがルーンで敵を誘き寄せたり、しまいには殺意全開で襲い掛かってくるから、思わず情けない声が出そうになっちまったんだよなぁ。くそぅ、マシュに初対面でセクハラしたの忘れてねぇからな。

 

「本来ならこういうのは切り込み役ってのがいるもんだが、俺はさっき言った通りアーチャーとの決着がある。そこでお前だ」

「……あっ」

 

 しまったァーー!!! そうだ、アーチャーをコイツに任せても、ここのラスボスと直接ガチンコバトルしなきゃいけねぇんじゃねぇか! 畜生! 帰りてぇ!

 

「泥に犯されていたとはいえ、仮にもサーヴァントをぶっ倒したんだ。それに……」

「それに?」

 

 何だ、俺の義手をチラチラ見て。やらねぇぞ?

 

「……いや、何でもねぇよ。だが、相手は七騎のサーヴァントの中でも最優と謳われるセイバーだ。お前が倒したランサー以上の強敵になるだろうぜ」

 

 そこでだ、と、キャスターは俺の武器を差し出すように指示する。

 何をするつもりだと、レミントンとチェーンソー、あとついでに義手を差し出すと、キャスターがそれぞれに指で何かを書きだす。

 あっ、テメェ! まさかまた……。

 

「馬鹿、ンな怪訝そうな顔してんじゃねぇ。こいつは念の為の加護って奴だ。本来なら人間の武器ってのはな、サーヴァントには通用しないもんなんだよ」

「ランサーには効いたじゃねぇか」

「それでも、だ。ここで勝てなくちゃ意味がねぇだろうが」

 

 真剣な眼差しでルーンを描くキャスター。ヒューッ、流石兄貴。

 

 何? 手の平返し過ぎ? 喧しいわい。

 

「ところで、キャスターのサーヴァント」

「あ? なんだよヘタレの嬢ちゃん」

 

 ぶッ、ヘタレって言われてやんの。ざまぁ。

 

「ヘタッ……オホン。大事なことを確認してなかったのだけれど、貴方、セイバーの真名は知っているの? 何度か戦っているような口ぶりだったけど」

「ああ、知っている。奴の宝具を食らえば誰だって真名……その正体に突き当たるからな」

 

 なんでも、他のサーヴァント達を倒したのもそいつの宝具が強力だったかららしい。

 

 そして語られた宝具の詳細、そして直後に現れたアーチャーの口から真名を聞き――俺は今すぐにでも帰りたくなった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「あぁ、遂に来ちまった……」

「マスター、大丈夫ですか?」

 

 心配そうに俺の面を覗き込むマシュに、俺は「大丈夫」としか返せない。つか、ここで帰りたいなんて言えるわけがねぇ。後ろにはヒス女もいるし、また眠らされたらたまったもんじゃねぇ。

 

「……全く、貴方って人は」

 

 と、唐突にヒス女が俺の前に回り込んでくる。

 

「って、何身構えてるのよ!」

「いやぁ、また眠らされるのかと」

「違うわよ! ……ふぅ」

 

 一息ついたヒス女は、おもむろに懐から出した何かを差し出してくる。……なんだこれ。あ、あれか。最近食料品売り場で見かけるドライフルーツってやつか。

 

「一体どういう風の吹き回しだオイ。まさか毒でも仕込んでんじゃ……」

「今度余計な事言うと口を縫い合わすわよ」

「アイ、マム」

「……こ、ここまでの働きは及第点です。カルデア所長として、貴方の功績を認めます」

 

 うわ、ヒス女に褒められた。この大空洞崩壊するんじゃね?

 

「ぶん殴るわよ貴方」

「えっ、俺何か言いました?」

「顔に出てるのよ、顔に!」

『あー、確かに顔に出やすいタイプの人間ですよね、彼』

 

 ファック。ドクターめ、ヒス女の味方に回りやがった……と、思ったら、「無駄口叩いてる暇があったら彼に補給物資の一つでも送りなさい」って睨まれてら。

 まぁ、うん、頑張れ。

 

「……ま、ありがたく受け取っとくぜ、所長さんよ。サンキューベリーマッチョ。なんなら、先払いでキスも貰おうかい?」

「キッ――!?」

「先輩最低です」

 

 なんだ後輩、嫉妬か? 可愛い奴め。お前さんにも後でキスして……いらない? あ、そう。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 変な漫才をする事、数回。その合間に所長が襲われそうになる事、数十回。

 

 妙にぐだってきたなぁ、とぼんやり考えながら進んでいくと、急に視界が開けた。

 

 奥の方に見えるのは……あのでけぇのが大聖杯とやらか。さ、早くアレをぶっ壊すなり何なりして――

 

「―――来たか」

 

――その前に、俺達の前に立ちはだかってる()()()をどうにかしなきゃなんねぇか。

 

 俺達三人の眼前で、黒い剣を地面に突き刺して待ち構えているのは、これまた真っ黒な鎧に身を包んだ女――女?

 

「……マジかよ」

 

 オイオイオイ、死んだわ俺。確かに昔の()()()も似たような格好してたけどさぁ! 絶対男だって思ってたんだよ俺は! あの声も、ちぃとばかし声変わりが遅かったとかそういうもんだと……。

 

「ほう、面白いサーヴァントが一騎。それに――」

 

 威風堂々という言葉を体現するように立つその女騎士は、顔を隠していたバイザーを解除する。

 

――現れたのは、金色の目。昔の()()()と似てるようで、しかし違う目だ。ありゃ、悪党どころか善人ですら躊躇せず斬れるって感じの目だ。昔はそんなんじゃなかったんだが。敵には容赦なかったけど。

 

……やな思い出が溢れそうだったからここでやめとこう、うん。

 

「――よもや、()()貴様と、このような場所で会う事になろうとはな」

「はは。俺もビックリだ。……再会を祝して、また酒盛りでもするかい?」

「え……先輩?」

「貴方、何言って――」

 

 ああ、気になってしょうがないって顔してるだろうな。だが、今そんな話してる暇は……無さそうだよな。

 

「それも良い――が、今の私は貴様の敵対者。つまり、()()()()()()()()()()というわけだ」

 

 だーッ!? 嫌な思い出が、思い出がァー!!

 

「だが、私にも貴様との記憶(思い出)がある。故に、挨拶ぐらいはせねばなるまい」

 

 

 

 

「久しいな――我が友よ」

「そうだな、アーサー。ところで顔面殴った時の事、まだ恨んでたりします?」

 

 その言葉の返答とでも言わんばかりに、黒い女騎士……かの有名な聖剣使いのイギリスの王様、アーサーが、その黒い剣を振りかざした。

 

 




 死霊のはらわたにおけるタイムスリップとレイシフトは別物ですが、まぁその辺りの違いが、今作のぐだおの強さの理由の一つになっているとかいないとか(妄言)

 (人間に憑依したりしているとはいえ)悪霊や悪魔をチェーンソーでぶった切ったり、ショットガンで吹っ飛ばしたりできる→なら、シャドウサーヴァントぐらいなら、加護とか無くてもなんとかなるんじゃない?

 という、スパロボ辺りのクロスオーバーにありがちなご都合パゥワーを働かせていますが、まぁ元がハチャメチャB級ホラーだし多少はね?(震え声)


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アーサー王とスーパーの店員・前編

 アッシュの右手、コミックだと色んな機能が備わってるわ、なんかすごい義手に付け替えるわで、実はアメリカ版ライダーマンって言われても驚かない。
 皆もアメコミ版、買おう!(露骨な販促)

 あ、ちなみに赤髭のとっつぁんがアルトリアの生前の時代にいるのは突っ込んじゃやーよ。


 はてさて、俺がアーサーと出会ったのはいつの事だったのやら。Wikipediaによればアーサーが活躍していたのは5世紀ぐらいってなってるが、別にその時代に行ったからって、一体いつなのかがわかるわけじゃない。

 つまり、本当にあれがイギリスが誇るアーサー王物語の舞台、時代だったのか、皆目見当もつかない。

 

……だが、あのタイムスリップでの出来事は、紛れもなく現実だった。

 

『何者だ、貴様』

『あー、俺? リツカ・フジマル。日本人だ。スシが美味いって評判の。あー、でもオタクら生モノ食べねぇよな?』

『……何を言っているのだ貴様』

 

 馬の上から偉そうにこっちを見下す、端正な顔つきのアーサー。

 

『やぁやぁ、待ちたまえよ。彼こそ、死者の書に書かれている勇者に違いない』

『勇者だと? この道化が? ……そうではあるまい。こ奴は敵の手の者だ! この者も穴落としの刑に処す!』

『は? え? 何?』

 

 その傍で俺の事を『勇者』だと呼ぶ、クソッタレの魔法使い。本人はハナの魔術師だとか名乗っていたが。花? 鼻か?

 だが、アーサーは特に考えたわけでもなく、俺を奴隷のようにしょっ引きやがった。連中が敵対していたという赤髭のとっつぁんとその配下も一緒に。

 ひでぇ体験だった。関係ないのに石は投げられるわ、殴られるわ、ついでに兄上の仇だとか言われて髪の毛むしられるわ、あんなのは二度と御免だ。

 

 そして俺は、穴に落とされた。穴にいたのは、あの山荘で嫌という程戦ったクソ忌々しい化け物――死霊。

 

 ただでさえ疲れ切っているというのに、数少ない武器すらも没収された俺は、右手無しというハンデを背負って殴り合いの死闘を演じさせられた。

 上では民衆がギャアギャアと喚いてやがる。思わず皆殺しにしてやろうかという考えを抑えられたのは、目の前の死霊(クソッタレ)との戦いで必死だったからだろう。

 

『天の使いよ! これを使いたまえ!』

 

 そこに助け舟を出したのは、他ならぬ魔法使いの野郎だった。

 

 奴が投げ入れた武器――チェーンソーを右手に嵌めた俺は、死霊をぶった切り、ケツの穴から脱出する事に成功した。

 まぁ正確には脱出するまでに、追加で現れた死霊と、迫りくる棘付きの壁からの死に物狂いの逃走劇があったのだが、そこは割愛しよう。

 

 脱出に成功した俺は、ぶっ倒れてしまいそうな体に鞭打ち、俺にこんな仕打ちをしたアーサーの前に立った。

 

『――よぉ、大将。靴の紐が解けてるぜ』

 

 後はまぁ、予想通り。クソムカつくその面に、一発パンチをお見舞いしてやった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する――光を呑め!」

 

――それがまさか、こんな形で返ってくるなんて誰が思っただろうか。

 

「マァァァシュ!! 宝具だ! 急げ!」

「は、はいッ! 真名、偽装登録――行けます!」

 

 急いで俺は、マシュに宝具の解放を命じる。畜生、英霊ってやつぁなんて出鱈目なんだ。見ろ、アイツの剣、なんか黒い光が集まってんぞ。昔会った時はあんなじゃなかったのに!

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

 うわ、なんかビームが出た!

 

 しかし、そのビームを防ぐように、魔法陣の描かれた光の膜が、マシュのデカい盾から展開される。

 

「宝具――展開します!」

 

 展開された仮の宝具――『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』が、黒い光のビームを防ぐ。だが、相当な威力なのか、マシュが苦悶の声を上げ始める。

 こいつぁいかん、と、俺はマシュの手に自分の手を重ね、一緒に盾を支える。

 

 つか、こんなトンデモビーム使えるならあの時の戦いでも使っとけ! 何、城が吹っ飛ぶ? やられるよかマシだ!

 

 

 

 

 どれぐらい経っただろうか。ようやく黒い光が消えた時、俺達は――なんと両足で立てていた。だが、支えていた足が悲鳴を上げている。

 

「ほう、今のを耐えたか。……だが」

 

 しかし、そんな俺達を見て憐れんだり、加減してやろうと考えるようなアーサーではなかった。

 さっきのビームをまた撃たんと、再び剣を構えている。

 

 だが、そうはいかんざき!

 

「マシュ、よく頑張った。今度は俺の番だ」

「先、輩――」

「所長さんよ。ちぃとばかしコイツを持っててくれ。今のままじゃ邪魔になる」

「えっ、ちょっとォ!?」

 

 マシュの声を背にし――ついでに所長にチェーンソーを投げ渡し――俺はアーサーに向かって駆け出す。

 ムッ、とした顔をするアーサーは、構わず剣を振り抜こうとするが、それよりも先に、左手に持ったレミントンが、いつもより派手に火を噴く。

 

「そんなもの――ッ!?」

 

 余裕ぶっこいて鎧で防ぐアーサーだったが、まるで最近の特撮番組みたいに、これまた派手に火花が散る。

 キャスターの加護が効いているのか、アーサーにある程度のダメージが入ったらしい。これが生前ならノックアウト出来たんだがな。

 とにもかくにも、黒いビームをキャンセルせざるを得なかったアーサーは、再度剣を構えるが、そこを俺が許さない。

 過去の戦いで培ったショットガン捌きで、高速でリロードを完了させ、再度撃つ。またリロード、そして撃つ!

 

「チィ!」

「獲ったァ!」

 

 それなりにダメージが蓄積されているのか、さっきから剣で散弾を防ぐアーサーと距離を詰めた俺は、必殺の鉄拳をアーサーに繰り出し――

 

「……と、そんなもので私がやれるとでも?」

 

――あっさり、アーサーに拳を引っ掴まれた。ジーザス。

 

「あら、あららぁ?」

 

 ギ、ギ、ギ、と義手が嫌な音を立てて、腕が捻り上げられる。チッ、流石にダメか。

 

――ま、是非もないよネ!

 

 どこからともなくそんな声が聞こえた、気がした。なんだ畜生。幻聴か?

 

「フンッ」

「うぉあぁぁぁ……」

 

 そのままあっさり放り投げられた俺は、面白いように吹っ飛ばされ、うつ伏せで回転しながら地面を滑った。いてぇ。

 

「無駄な足掻きを……」

 

 俺を仕留めに歩み寄ってきたアーサーが剣を振り下ろす。だが、それを何者かが防ぐ……マシュだ!

 

「やらせません!」

「猪口才な!」

 

 無様に倒れている俺の目の前でぶつかり合う、マシュとアーサー。

 

 キャットファイトだなんて生易しいもんじゃない。アーサーはマシュの未熟さを見抜いて、盾を弾いた隙を突いて攻撃しようとしているし、マシュはマシュで、その未熟さを補うように、向上した身体能力で無理矢理盾を振るい、これを防ぐ。

 

 全く、俺の入る隙間がねぇってぐらいのやり合いだ。お熱いね全く。突っ込んだら確実に死ぬわ俺。

 

「――甘い!」

「あっ……?!」

 

 しかし、やはりというべきか、最終的にはアーサーの方が上手だった。

 

 黒いオーラ的な何かを発すると同時に、マシュの体勢を崩したアーサーは、そのまま力任せに盾ごとマシュを殴り、そのまま倒す。

 

「これで、終わりだ」

「ッ、しま――」

「――ってねぇ!」

 

 それを、みすみすやらせるわけにゃいかねぇ。倒れたマシュに剣を振り下ろすアーサーに合わせるように、俺は右手を差し込む。

 ぶった切れねぇかと冷や冷やしたが、思った以上に頑丈で良かったぜ。

 

「……おのれ。やはり貴様が邪魔をするか。花の魔術師よ」

 

 だが、その安心も長くは続かない。アーサーは剣をいったん腕から離すと、今度は薙ぎ払うように剣を振るう。

 何度も、何度も。何度も!

 

「アッ、おい、ちょ、やめろこのヤロ! オイ! 聞いてんのか馬鹿野郎!」

「ああ。聞こえているとも。それが何か」

 

 畜生めェ! あの頃のお前はもっとマトモだったぞ!

 

「だが、これで――」

 

 そして、今以上に剣を振りかぶると――

 

「終わりだ」

 

――ガシャン、という音と共に、俺の義手が吹っ飛んじまった。

 

「て、んめぇ!」

「それもだ」

 

 抵抗とばかりにレミントンを構えようとしていたが、それも足で蹴られ手放してしまう。

 

「さて、これでもう障害はなくなった」

 

……ああ、その通りかもな。

 

「やべぇ、チビりそう」

 

 いけね、つい本音のほう言っちまった。

 

「せ、んぱい」

 

 視界の端でマシュが、腰の抜けた俺を助けようと立ち上がろうとするが、ここまでの戦いでの疲労のせいなのか、腕がガクガクと震え、生まれたての小鹿どころじゃないレベルで立ち上がれないでいた。

 

「ふむ。そこのサーヴァントは見込み違いだったか。まぁ、致し方なし」

 

 どこか、失望混じりの目でマシュを見やったアーサーは、その冷たい目を俺に向ける。

 

「私に負けるようでは、この先の戦い――()()()()()()()()()()()()()など、夢のまた夢。故に、慈悲をもって逝くがいい」

 

……ん? 今なんかわざとらしく意味深な言葉が……。

 

「――さらばだ。我が友よ」

 

 それを問いかける前に、アーサーの黒い剣が俺に向かって振り下ろされ――

 

 




 アルトリア含め、円卓の騎士が生前、あのトンデモ宝具の数々を後のFate作品同様に使えたかの解釈。これがまた難しい。
 アンデルセンやシェイクスピア、マリー・アントワネットやドレイクの姐御達のはともかく、エクスカリバーはFate世界では正真正銘の神造兵器なので、生前でも案外あんなビームが撃てそうだよなぁとか思わないでもなかったり。

 Fateは基本アニメ・漫画民なので、もしどこかで生前の頃のエクスカリバーの描写があったら教えてください、オナシャス!


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アーサー王とスーパーの店員・後編

 ようやく、死霊のはらわたリターンズシーズン1を借りてきました。現在は4話まで視聴。しっかし、ブルースキャンベルが画面にいるだけで凄く安心できるなぁ……。

 そういえば、主人公が一番輝くハズの対雑魚戦を、冬木では全く描写してませんでした……というわけで多分次の特異点からそうなると思います。多分。

 あ、あと今回からスプラッタ描写を盛り込んでいきます。


「……あり?」

 

 いつまでたっても、くるはずの痛みがこない。

 

 ビビッて両目を閉じていた俺は、片目だけ開けて、アーサーの方を見る。

 

「――やってくれる」

 

 アーサーは、剣を振りかざしたままの態勢で微動だにしない。

 

「なるほど、ただの足手纏いだと思っていたが……」

 

 何? 足手纏い?

 

 アーサーが目だけで指し示す、その背後を見てみれば――

 

「――わ、私を、無視してんじゃないわよ!」

 

 所長がアーサーに威勢よく啖呵を切っていた。その指を、まるで銃を撃つ仕草のように、人差し指をアーサーに向けながら。めっちゃ震えてるけど。足もガックガクだけど。

 

「ガンドか。我が対魔力を上回った……と、いうわけでもないようだが。……そうか、これも。フ、私も油断しきっていたらしい」

 

 アーサーはアーサーで、なんか一人で勝手に納得してる。俺にも分かるように説明しろっての。

 

「運が良かったのか分からないけど、今このサーヴァントは、私の、この私の! 魔術で動けなくなってるの! アーサー王クラスの英霊相手だと、普通なら対魔力に弾かれて効かないだろうけど! でも長くは持たなそう!」

 

 ご丁寧に解説どーも。

 

「だから――藤丸立香!」

 

 そういうと、所長は預けていたブツ――伝家の宝刀ことチェーンソーを抱えると、何かを呟く。その瞬間、腕に何か、光のラインのようなものが浮かび上がった。

 

「貴方が! ケリを着けなさい! 知り合いなんでしょ!?」

 

 知り合いだからって、そんな無茶苦茶な理屈があってたまるか――と、言いたいところだが、ナイスだと褒めてやろう。

 

「受け取り……なさァーーーーい!!!」

 

 そして、所長の華奢な腕からチェーンソーが飛ぶ――割と凄い勢いで。

 

「オイオイマジか……!」

 

 こうなりゃヤケだ。幸い、義手は吹っ飛んじまったから、一々付け替える手間が無くて済む。

 俺は抜けた腰を元に戻し、飛んでくる相棒をキャッチする為に駆け出し――

 

「ち、ィ!」

 

――それを邪魔するように、アーサーも魔術の拘束を解き、また剣を振りかざす。今度は……駄目か。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

 だが、アーサー目掛けて、マシュが盾を構えながら突っ込んでいく! その姿、さながらアメフト選手、いや、人間戦車だ! 普段なら口笛でも吹いて持て囃したいところだが、今は仕事中だ、抑えろ立香。

 

「せ、んぱい! 今のうちに!」

「未熟なりに、根性はあるらしい――な!」

「グッ!?」

「マシュ!」

 

 あっ、アーサーテメェ! 俺の可愛い後輩の腹蹴るなんざ、男の風上……いやまて、女? 男? どっちでもいい! 俺のダチだったアーサーは、偉そうだが誇りだけはいっちょ前の騎士様だった!

 だが、今は逆に考えるんだ。マシュの勇気ある行動で、時間が稼げたと!

 

「今度こそ……!?」

 

 またまた襲い掛かろうとするアーサーを、今度は炎の縄みたいなのが縛り上げる。

 お次は誰だ……?

 

「こういう時、現代じゃこう言うんだろ? 騎兵隊参上、ってな!」

「兄貴ィ!」

 

 俺達がやってきた方から現れたのは、キャスターの兄貴だった。何故上半身が裸なのかは知らんが、アーチャーに勝ったと見て間違いない。

 

「行け! 俺の拘束も長くは持たねぇ!」

「ぐ! 離せ!」

「やなこった! 駄目押しにコイツも喰らっとけ! 灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

 キャスターが叫ぶと、拘束されたアーサーの真下から、炎の塊がせり上がってくる。うわぁ、熱そー。

 

 炎の塊はそのまま数十メートルまで大きくなり、人の形を取る。そして現れたのは、細い木の枝の身体を持つ巨人。

 胸のところに鉄格子が付いていて、そこにアーサーが閉じ込められている。

 

「サンキュー、兄貴! 今度美味い酒奢ってやるぜ! 勿論Sマートでな!」

「ヘッ、楽しみにしないでおくぜ!」

 

 しねぇのかよ。

 

 炎の檻を維持するキャスターにサムズアップし、俺は未だに空中を舞うチェーンソー目掛けて、跳ぶ!

 なんでこんなに宙に浮いてられるとか、ンな事は考える必要はねぇ!

 

「たァァァーーーッ!!!」

 

 丁度、円を描くチェーンソーの、刃とは真逆の方がこっちに向く。そこには、俺の腕の太さに合わせてある装着口が。

 そこに俺の右腕を、イン!

 

――ああ、馴染み深い感覚だ。

 

 思えば、コイツを嵌めたのはいつ振りだろうか。なんやかんやでチェーンソーを使ったのは、あの時代じゃクソムカつく『()()()』を一度バラバラにしたのが最後だったが、腕に嵌めたって意味じゃ、穴に落とされたのが最後だろう。

 

 最初に俺の右手を。そして、並みいる悪霊死霊どもを、このチェーンソーでぶった切ってきた。

 本来なら木を切る用途であの山荘に置かれていたであろうコイツは、俺の手に渡った瞬間、その本来の用途では使われなくなった。いや、違うな。俺が用途を変えたんだ。

 

『クソッタレの死霊どもをバラバラにする』

 

 それこそが、コイツの真の用途、ってな。

 

 俺は腕の嵌め心地を確かめながら、チェーンソーのエンジンスターターを何度か引っ張る。

 スターターを引っ張る度に、チェーンソーが唸りを上げ、三度目で唸りが最高潮に達した。

 

……心なしか、チェーンソーの刃が光ってるように見えるのは気のせいだろうか。ま、いいや。

 

「舐め――るなァ!」

「チィ! ンの馬鹿力が!」

 

 ほとんど同時に、アーサーが炎の巨人を吹き飛ばして脱出する。

 そこが俺の狙い目だ。

 

「うぉォォォォ!!!」

「――ッ!」

 

 格闘ゲームにもあるだろ? 着地狩りって。それと同じだ。奴が地面に降りてきたところを――チェーンソーでぶった切る!

 

 俺は雄叫びを上げ、左手でチェーンソーのグリップを握り、腰の捻りを使い、振り上げるようにチェーンソーを振り抜く!

 当たったのは――アーサーの右腕。つまり、エクスカリバーを握っている方。その手甲に覆われていないところに、回転するチェーンソーの凶悪な刃が食い込む。

 

「ぐ――グアァァ!!」

 

 チェーンソーが唸り、アーサーは苦悶の声を上げ、俺は力の限り叫ぶ。

 アーサーの腕に喰らいついた刃は、一瞬だけその動きを止めたが、チェーンソーの唸りに呼応するようにすぐさま回転を再開する。

 チェーンソーで肉を切るとどうなるか? これがその答えだ。

 

 刃がめり込んだ箇所から、赤黒い血が噴き出し、肉片が飛び、俺の顔にぶちまけられる。

 何、死霊と戦ってる時じゃ、いつもの事だ。

 同時に、摩擦熱か何かのせいなのか、人肉の焼き焦げる気色悪い臭いがする。

 

 普通なら吐き気を催して当たり前のそれらに耐え抜き、俺はチェーンソーを振り抜いた!

 

「ガァ……ッ!」

 

 悲鳴をなんとか押し殺すアーサー。流石だ。そこは流石としか言いようがねぇ。俺も経験したけど、痛すぎてヤバかった。具体的にどうやばいかっていうのはちょっと口にしたくないんだが、とにかくヤバかった。漏らさなかったのが奇跡だ。

 

 そんなアーサーの近くに、さっきまでアーサーのものだった腕――ご丁寧にエクスカリバーを握ったまま――が、少し離れた所にボトリと落ちた。

 

「勝負あったな、アーサー。正義は必ず勝つのだ」

「……フッ、よりにもよって貴様が――いいや、貴方が、正義を語りますか」

 

 うるせぇやい。勝ったやつが正義だって、昔の偉い人も言ってただろうが。

 

 




 話を区切る形だと、どの辺りで、どんな形でそのシーンを締めればいいのかが時々分からなくなる。あると思います。


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Grand "evil" Order

仕事で失敗ばかり、いやぁきついッス(素)

死霊のはらわたリターンズのシーズン1を見たんですが、まさかこっちでも『狼よさらば』ネタがあるとは、この海のリハクの目をもってしても(ry (狼よさらばネタ書いた時まだ第一話すら見てなかった)

あと、リターンズ見た影響で、ここまで書いてた話の一部が改変されてます。探してみよう!(激寒)


「や、やった……?」

「ああ。終わりだ。試合終了。33-4で立香チームの大勝利……で、いいんだよな?」

「……その数字の羅列にどことなく悪意を感じるが、まぁ、いい。お前達の、勝ちだ」

 

 お手上げだ、とでも言わんばかりに、俺が切った手の無い右腕を掲げるアーサー。

 

「……何故」

 

 何事かを問いかけようとするマシュ。なんだ、何か不満か? 俺ら勝ったんだぜ? 俺に関して言えば2勝目で勝ち越しだ。

 

「――フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。誇れ、未熟なる盾の騎士よ。その男は、中身こそアレだが――頼れる男だ」

「アレ?」

「兄貴、気にすんな。つまりその……最高にクールって事さ」

「どう聞いてもそういう風にゃ聞こえんが……」

「シャラップ」

 

 俺がそうしてキャスターを黙らせていると、まだアーサーを警戒しているらしい所長が、微妙にびくびくしながらアーサーに歩み寄る。

 

「あ、貴方は負けを認めたって事で、いいのね?」

「ああ。……もっとも、雑魚一匹程度を屠る程度なら、まだ元気はあるがな」

 

 アーサー、何ビビらせてんだ。ほら、所長チキンだから「ヒッ」って言っちゃってんじゃん。ちょっと男子ィー! ……あ、そういや女だっけ?

 

「そ、それよりも! どうして貴方が『冠位指定(グランドオーダー)』の事を――」

 

 所長が何かをアーサーに問い詰めようとした、その時だった。

 

「――時間切れ、か。忘れるな、我が友、否――()()()()()()()()()よ。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事を、な」

 

 唐突に、アーサーから光が溢れだす……というより、アーサーそのものが光になっていくような、とにかくそんな感じで、徐々に消え始めてやがる。

 

「人類最後のマスターだ? なんの事だよ、ちゃんと説明しやがれ!」

「……ではな。友よ。縁があれば、再び肩を並べる事もあろう」

 

 聞けよ人の話を!

 

 最後まで肝心な事を言わず、アーサーは光となって消えちまった。あとついでにキャスターも。

 なんか「次があるんならランサーとして喚んでくれ!」とか言ってたが……。

 

 そうして、この冬木に召喚されたっつぅサーヴァントが消え、後はこの異変を起こしていたらしい水晶体を回収すりゃ、作戦は無事終了――

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

――だと思っていたら。俺達の前に、あの胡散臭い男……レフのとっつぁんが現れたのだ。

 

「特に、君だ。48人目のマスター適性者。あのセイバーとの会話を聞く限り、本当に時間移動を行ったとはね」

「……ケッ、頼まれたってやるつもりはなかったさ。そういうオタクは何だ? ……奴ら(死霊ども)の仲間か?」

 

 そう言うと、レフの奴が鼻で笑いやがった。何がおかしい。おかしいのはテメェのその格好だけにしやがれ。

 

「まさか。あのような低俗なクズどもと一緒にされるなど、心外という言葉どころか、腹の中の何もかもを吐き戻してしまいそうになる」

「だったら勝手に吐いてな」

 

 なんとなくだが、こいつはヤバい。死霊や悪霊も十分厄介極まりないが、コイツは――それ以上に、邪悪だ。

 

 俺はレミントンをレフに向ける。だが、視界の端に動いた銀髪に、ついうっかり気を取られてしまう。

 

「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!」

「馬鹿! 戻って来い!」

「先輩下がって! 危険です! 所長も!」

 

 俺達の呼び止める声などまるで聞こえてないかのように、所長はまるでゾンビみたいにフラフラとレフの方へ近づいていく。

 

 思わず舌打ちをし、俺は先んじて、レフの脳天を撃つ。

 

「――全く、無駄な事をする」

 

……馬鹿な。レミントンの弾は確かに命中した! 散弾だからな! だが、脳漿ぶちまけるどころか、仰け反りもしねぇなんて、どうなってやがる!?

 

「ふん。人間の武器()()、死体を破壊する事はできようと、私に通用するなどと思っていたのかね? まぁ、いいだろう。キミはあまりにもイレギュラーな存在だが――同時に無力な存在に過ぎない」

 

 ち、畜生! どういう理屈だ!?

 

 もはや万事休すな俺達を他所に、所長とレフが会話を始める。

 

 そこで明らかになったのは――所長が既に死んでいる、という事。

 

「予想外だったよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したというのに」

 

 つまり、残留思念をトリスなんとかが此処に転移させたとか、そんなこんだで所長は既に死んでいるというのに、此処にいるという事、らしい。まるで意味がわからんぞ!

 しかも、既に死んでいるから、カルデアに戻っても意識が消滅してしまう、だと?

 

 そこまで所長に告げたレフは、手に持った金色の杯を掲げた。

 すると、カルデアの管制室で見た、あのでけぇ球体が現れた。えーっと、なんつったっけ……カル、カルデ……。

 

「な……なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる……?」

 

 そうだ! カルデアスだ! スッキリ! ってそんな場合じゃねぇ!

 

 手に持ってる黄金の杯、聖杯の力で時空を繋ぎ、カルデアスを呼び出したとほざくレフが、所長を更に挑発する。

 

「所長! そいつの言葉に耳を貸すな! オイ! 聞こえねぇのか!?」

 

 駄目だ、まるで聞こえてねぇ。

 

 そうこうしている内に、何故か所長の身体がイリュージョンみたいに浮かび上がった。畜生、今度はなんだ!?

 

「今のカルデアスは……まぁ、キミのような愚か者でも分かるように言えば、ブラックホールや太陽そのものでね――」

「い、嫌! 嫌よ! だって私、まだ――」

「よせェェ!!!」

 

――そして、彼女の身体は、太陽のように真っ赤なカルデアスに吸い込まれ、消えた。

 

「――ああ。折角説明してやろうと思っていたのに。カルデアスとは高密度の情報体。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。つまり、触れれば最後――生きたまま、無間の死を味わう事になる」

「て、メェェェ!!!」

 

 怒りのままに、レミントンをぶっ放す――が、やはり奴には通用しない。何でだクソッタレめ!

 

「全く。人類というクズの群れは愚かだという事は百も承知だったが……君は私の想像以上に愚かだな。私はただ、彼女の望みを叶えてあげただけだというのに」

「ハン、少なくとも、自殺志願者にゃ見えなかったぜ、このクソ下衆野郎が!」

 

 罵声を浴びせるも、レフの野郎は偉そうにこちらを見下すばかり。畜生、畜生! 余裕ぶっこきやがって!

 

「では、改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様達人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ」

 

 そして――と、レフはロマンの名を呼び、続ける。

 

「――カルデアは用済みになった。おまえ達人類は、この時点で滅んでいる」

 

 そこから奴の口から語られた内容を、俺はほどんど理解できていない。

 人類史による人類の否定だの、王の寵愛を失っただの、何の話だかさっぱりだ。

 

 だが、それでも分かる事がある。それは――

 

「おっと。この特異点もそろそろ限界か。では――」

「レフ!」

「――なんだね、48人目の適性者」

 

――コイツは死霊どもと同じだ。二度と蘇る事がないように四肢をバラバラにしてやらねぇと。

 

「また会ったら、その時がテメェの最後だと思いな、クソ野郎」

「……期待はしないでおこう」

 

 その言葉を最後に、レフはどこへともなく消えてしまった。チッ、そのムカつく面に一発でもお見舞いしてやりたかったぜ。

 

「地下空洞が崩れる……いえ、それ以前に空間が安定していません! ドクター! 至急レイシフトを! このままでは――!」

『分かっている! 後は天に運を任せる事しかできない! とにかく意識だけは強く――』

 

 そこまで聞いて、俺は肝心な事を思い出す。

 

「やっべ、義手が!」

「あ――先輩!?」

 

 さっき、アーサーとの戦いで吹っ飛ばされた義手を回収する為に駆け出す。ええと、確かこの辺りに――あった!

 

「……って、なんじゃこりゃ! ボロボロじゃねぇか!」

 

 あの馬鹿力め、少しは手加減しろい! あーあー、色んなところが凹んじまってるし、中指が引っこ抜けてやがら……。

 

「……ん?」

 

 悲惨な事になっている義手を見て落ち込む俺の視界に、気になるものが映り込む。

 この地下空洞と不似合いなそれが、どうしようもなく気になって仕方がない。

 思わず引っ掴んでみれば、それは確かに見覚えのあるものだった。

 

……こいつは、確かあの時――だけどなんで?

 

「先輩! 手を……!」

「え、あ――?」

 

 それを掴んだまま、俺はマシュに手を取られて――

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「よーし、キミはずいぶん良い子でちゅねー。……それにしても、一体何の動物なのかイマイチ不明だね。でもいっか、可愛いから! ……ん?」

「……こいつぁすげぇ美人だ。でもどっかで見覚えのある気がするんだが、会った事あるか?」

「おや、目が覚めて早々なんだい。新手のナンパかい?」

 

――目の前に、美人がいた。美術館とか美術の教科書で見た気がする感じの。あとどことなく男くさい。

 




 ちなみにマシュの疑問は、「アーサー王ほどのサーヴァントが、片腕やられたぐらいではやられないのでは?」という、型月ファンなら誰でも思う感じのやつです。
 そら(一般人がサーヴァントぶっ倒したり腕チョンパしだしたら)そう(ツッコミもしたくなる)よ。


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Ready to fight

 仕事でヘマやらかして落ち込む今日この頃。(自分のドジっぷりに)頭にきますよー!

 とりあえず、死霊のはらわたリターンズを見終えた後にTSUTAYAで2013年のも含む映画版(3を除く)借りてきました。リターンズ見てからだと、2の後日談がリターンズのはずなのにところどころ違うところがあったりして、やっぱり平行世界か何かなのかなと思ったり。
 
 あとリターンズシーズン2のレンタルはまーだ時間かかりそうですかね?


「では、改めて自己紹介をしよう。私こそはダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな? ま、気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ」

「は……はぁ!?」

「うーん、いいリアクション!」

 そらそうだろ。レオナルド・ダ・ヴィンチだぞ? 教科書にも載ってるやつが、実は女でしたってかぁ?

 

……まぁアーサーも実は女だったけど、そういう事じゃなくて。

 

「それはともかく。とりあえず目が覚めたなら、管制室に向かいなさいな。そこで、大事な人が待ってるから」

「……大事な、人」

 

 その言葉を聞いた瞬間、脳裏に一瞬、何かの映像が過ったが、俺はあえて無視する事にした。……多分、いや、確実に思い出しちゃいけねぇやつだ。

 

「……わーったよ。行きゃいいんだろ、センセ」

 

 その時自分では気づかなかったが、後に聞いたところでは、「凄く不機嫌そうだった」、らしい。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「やぁ、来たね立香君――って、ダ・ヴィンチ!? なんで君が立香君と!?」

「そりゃあ、私が彼を起こしにいったからに決まってる。誰も起こしにこないからね!」

 

 そこでロマンに教えてもらったのだが、なんとこのダ・ヴィンチちゃん、カルデアの技術顧問なのだという。サーヴァントらしいのはさっきの召喚英霊なんたらってので予想できてたが、サーヴァントでもそういう立場になれるもんなんだな……サーヴァントって単語自体、その、そういう意味合いだし。

 

「ンッンー。それは正確じゃないな。それは英語的な意味合いだろう? 魔術におけるサーヴァントというのはね、使い魔の事を指すのさ。ただし、歴史的に、あるいは伝説として知られた、偉大なる存在がなっているのだがね!」

 

 ふっふーん、と自慢げに胸を張り、鼻を鳴らすダ・ヴィンチちゃん。どうでもいいが、それなりにでけぇからブルンって揺れてるんだ。何がとは言わんが。ワァーオ。

 

「……先輩?」

 

 同じく管制室にいたマシュが、俺の事をジト目で見てくる。よせやい、カワイコちゃんにそんな風に見られると照れるぜ。

「しかし、かのレオナルド・ダ・ヴィンチが女性なんて、おかしいです。異常です。倒錯です!」

「既成事実は疑ってかかるべきだぞー。というかそれってそんなに重要?」

 

 話を聞くと、なんとこのダ・ヴィンチ、あのモナ・リザの美しさを理想として、それを自分の肉体として再現してしまったのだという。天才ってのはイカレてんな、全く。

 

「覚えておくといい、藤丸立香。芸術家系サーヴァントは、誰もが例外なく、素晴らしい偏執者だと……!」

「だろうな」

 

……そこで何故か、あのクソ本の事を思い出してしまったのは何故だろう。

 

 そんなこんだあって、俺達はこれから為すべき事……特異点の修正という、人類の命運がかかったミッションの説明を受けた。

 

 これから向かう、七つの特異点。それらが原因で、2016年で人類は破滅し、逆を言えばそれらをどうにかすれば未来を取り戻せるとか、なんとかかんとか。

 

「そして、恐らく特異点の発生には聖杯――レフが持っていたアレが関係している」

 

 曰く、聖杯とは願いを無制限に叶えられる魔法のランプのようなものらしい。そんなとんでもないのがあっちこっちに落ちてるのか……それがあったら、俺もなんか夢、叶えられるかな? 一度行って見たかったんだよなぁ、ジャクソンビル。

 ホントだったらアメリカに行くはずだったのに、なんでイギリスの、よりにもよってあんな不気味な山荘に行く事になったのやら……。

 

 あと、ロマンが「聖杯でもなければ時間旅行とか歴史改変とか不可能だから。ホントに」とか言ってたんだが、いやいや、時間旅行なんてクソ本みたいな魔導書があったりすりゃできるもんじゃねぇの?

 

「いやいやいや。それは君の持っていたあの本……ネクロノミコンが異常すぎただけだからね?」

「――いやいやいやいや! え、ネクロノミコン? へ? まさかあの神話の!?」

「ロマニ、恐らく君が言いたいのはアブドゥル・アルハザード(狂えるアラブ人)の著書だろう? 創作作品のアイテムとして登場したソレじゃなく、実在する死者の書(ブック・オブ・デス)の事さ」

「……すみません。私には何のことだかさっぱりなのですが……」

 

 困惑するマシュ。ここは親切に説明してやった方がいいのだろうが……いや、駄目だ。こんな子に、あの本の事を教えちゃいけない。あれは、底知れない邪悪そのものだ。

 「ネクロノミコンというのはだね……」と語りだそうとするダ・ヴィンチちゃんに、俺は視線だけを向ける。「余計な事は言うな。何も」という思いを乗せて。

 あっちもそれを察してくれたのか、「おっと、今は急ぎの用があるんだった」と、咳払いをしてごまかしてくれた。

 

「そうだ。藤丸立香。後で私の工房に来たまえ。君の()の事で話がある」

 

 ああ、そういえばそうだった。俺の右腕は、あの時アーサーにボッコボコにされたんだった。で、起きた時に気付いたら、右腕に木製のマネキンみたいな手がくっついてたんだから、まだ夢でも見てんのかと思っちまった。でも妙にしっくりくるのはなんでなんだ?

 

「……あの、先輩」

 

 唐突に、マシュが話しかけてくる。なんだ、デートのお誘い? ジョークだよ。

 

「色々と訊きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「……うん。僕も質問がある。『何故アーサー王と顔見知りなのか』とか、ね。山ほどあるよ」

「はっ、スター気分も悪くねぇ」

 

 ああ、こいつらが聞きたい事なんて、大体想像はつく。けど……その全てがネクロノミコンと、そしてあの山荘での血みどろの惨劇に繋がってる。無くなった右腕なんて特にそうだ。ドクはともかく、マシュに聞かせていいものなのか。はてさて、そこをどうやってぼかして喋るか……駄目だ、いい案が浮かばねぇ。

 

「――いいぜ。何だって聞きな。ただ……聞いて気分の良くなるような話じゃない。映画ならR指定間違いなしだ。特にマシュには、ちと刺激が強すぎる。万が一の時はドクター、アンタが医務室に連れて行ってくれ。それと――」

「……それと?」

「まずはダ・ヴィンチのとっつぁんのところに寄ってからだ」

 

 結局、頭の悪い俺では、隠すべき真実を隠す方法が思いつかなかった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「いらっしゃーい! ささ、ずずいっと奥まで! 退屈してたんだ~」

 施設のとある場所にある工房に出向いた俺を、ダ・ヴィンチちゃんが美人面の満面の笑み――だが、男だ――で出迎える。しかも声も美人そのものなんだから、たまったもんじゃねぇ。しかし、これで中身が男だとわかると――

 

「ん~? なんだか不埒な考えをしてるような顔だねぇ」

「よく顔芸に定評があるって言われるよ」

「それはなんとまぁ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの疑いを素面で誤魔化しつつ、俺は彼……彼女? の工房内を見渡す。

 

 天井から吊るされた、蝙蝠の羽根をした模型。どこか古臭さを感じる――あの山荘の書斎のような――本の並ぶ机。壁にはダ・ヴィンチちゃんが書いたと思しき何かのイラストが描かれた紙が貼られている。

 

 なんというか、カルデアという施設はどこもかしこも白いイメージがあったのだが、ここは凄く、人間臭さがあるというか、場違いというか。

 

「さあさあ。テキトーに腰かけてくれたまえ」

 

 そう促され、俺は部屋にあった椅子を引っ張って来て腰かける。

 

「で、俺の腕はどんな具合だ?」

「……まぁ、言うまでもないだろうけど」

 

 そう言いつつ、ダ・ヴィンチちゃんは机の上に転がっている、布に包まれている何かを持ってくる。

 それを広げてみれば、無惨にもボロボロにひしゃげた、元俺の右腕があった。

 

「これじゃ、使い物にならんな」

「分かってないなぁ」

 

 はい? 何が分かってないって?

 

「君がどういう経緯でこれを手に入れたのかは知らないが、あえて解説させてもらおう。というかしよう。したくてたまらない! 見たまえよ、この義手は明らかに中世のそれ――恐らくは5世紀から6世紀頃のものと思しき籠手をベースにしていながら、内部構造は現代的なそれだ。というか、君の腕そのものがバッサリと何かで切られて、その上に金属板で籠手の繋ぎにしているから神経すら通わないというのに、一体どうやったらこの籠手を自由に動かせるんだい!? 内部を見る限り、あるのは人間の手の骨に近い構造になっているのはわかるが、それでも――」

 

――あ、コイツそういうタイプかぁ……。

 

 ふと、あのインチキ魔術師もこういうのに興味津々だったのを思い出したが、あっちの方がまだマシだな。アイツもアイツでロクデナシなのは間違いないが。

 

 そういえば、この手のギミックに興味津々な騎士がいたっけ……なんつったっけな、モー……モード……なんとか。なんか犬か猫みたいな奴だったな。アイツの兜も相当カッコ良かったけど。どうなってんだあの変形。

 

 そんな関係ない事を考えていると、気づけば30分近く経過していた。

 

 ダ・ヴィンチちゃんはまだ喋ってた。ウッソだろお前。

 

「――つまり、この籠手はかなり特別なものには違いない。これがあったからこそ、君はあのアーサー王とやり合えたと言っても過言じゃない。ああ、全く惜しいな。この籠手の開発者と、是非とも語り合いたいものだ!」

「お褒めに預かり光栄だね」

「ああ、限られた技術でここまでのものを――へ?」

 

 あ、今度はフリーズした。まぁ正確にゃ、二人ほど手伝ってくれたんだがな。あと最後のほうだけ魔術師の奴も。何したのかはさっぱりだが。

 

******

 

 

 

 

「……ふぅ。失礼。取り乱してしまった」

 

 ようやく我に返ったダ・ヴィンチちゃんは、何事もなかったかのように話を戻そうとする。別にいいんだがね。

 

「ともかく、この籠手は貴重な一品ではあるが……しかし、今の状態ではまともに運用する事すら叶わないだろう」

「そうだろうな」

「そ・こ・で」

 

 俺が同意を示したと同時に、ダ・ヴィンチちゃんはわざとらしくウィンクし、笑みを浮かべる。様になってんのがなんかムカつくぜ。

 

「喜びたまえ、藤丸立香。世界最後のマスター。君に、この天才レオナルド・ダ・ヴィンチの偉大なる才能が生み出す、素晴らしい発明をプレゼントしよう(の実験台になってもらおう)!」

 

……今、不穏な台詞が聞こえたような気がするんだが。

 




 いつもの改造タイム。しかしあの義手、どうやって動かしてるんだ...

 それはともかく、ダ・ヴィンチちゃん含め、原作キャラの言い回しをもっとこう、それっぽくしたい...したくない?(曖昧)


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Once upon a time:Evil Dead

 Ash vs Army of darkness、ダイナマイトコミックスから絶賛発売中!(突然の販促)

 それにしても2013年版死霊のはらわた怖すぎィ! 過去作のオマージュやりながらも、過去作と同じようにはいかない辺り、ブルースキャンベルの主役補正が神がかってたんやなって...(褒め言葉)


「あ、先輩。ダ・ヴィンチちゃんの用事は終わったのですか?」

「ああ。まぁな。有意義な時間だったよ」

 

 主に、次の義手にどんな機能を搭載するかについてでな。

 

――――――

 

『まずはヒアリングからだ。つまり、君がこの次世代型万能義手『オムニア・ウィンキト・ブラスアルミュール』、略してO.V.Aに望む事を言えばいい。ああ、ちなみに名前は我が友の作品その他諸々からありがたく借り受けさせてもらった!』

『ブラスの部分がどこ行ったのかはあえて聞かないとして……そうだな、じゃあ孫の手なんかあると――』

『ふむふむ。孫の手ね』

『――待った、今のジョークだ。いや確かに魅力的だが』

『ま、何かに役立つ事もあるだろうし、一応それっぽいのを搭載しておこう』

『アンタ最高だな! ドリンク奢るぜ』

『9本で良い』

『謙虚だなー憧れちゃうなー』

『よーし、ついでに君の得物も英霊と戦えるようにしちゃうぞー! Foo! 漲ってきた! この天才の力の見せどころだね!』

『天才だなー憧れちゃうなー、でも別に英霊とやり合いたいなんて思ってないんだけどってか嫌なんだけどなー!!! ヤメロー! シニタクナーイ!』

 

 

――――――

 

「……えーと」

「何も言ってくれるな、ベイビー」

 

 情けなくなんかない。あんな化け物連中と戦わないのが普通だって、所長とかロマンも言ってただろ。あん時はノリと勢いでどうにかなったが、今後もそう上手くいくとは思えんしな。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……それで、話して下さるんですよね?」

 

 今、俺達がいるのはカルデアの医務室。いざって時に……そう、例えばマシュが俺の話を聞いてて気分が悪くなった時の為に、薬が色々揃ってるここは都合がいい。俺としてはマイルームでマシュと二人、ゆったりとしたトークでも……なんでもない。

 

「そうだな。どこから話せばいいものか……そう、アレは一年程前。俺がまだ高校生で、最後の夏休みを楽しもうと、知り合いのいるイギリスに行った時の事だ――」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 そこから、藤丸立香という一人の少年の口から語られたのは、二十歳にも満たない少年が経験するには、あまりにも過酷すぎる地獄。

 

 かつて、彼は家族ぐるみで付き合いのある、イギリス人の少女の友達がいた。可愛らしくも明るく活発な彼女に誘われ、謙虚な日本人の立香は様々な経験をした。バーベキュー。キャンプ。Sマートでのバイト。フィッシュアンドチップスの早食い対決。その他諸々エトセトラ。

 

 そしてこの夏も、今までのように少女の家族と一緒に、何処かの避暑地で夏を満喫する予定だった。

 

 しかし、その年ばかりは違った。立香の家族は仕事等で家を空けられず、少女の家族も、急な用事で一緒に出掛けられなくなったのだ。

 それだけならまだ良かった。家の中でまったり過ごしたり、近所に出かけたりできるのだから。

 

 だが、少女の兄とその知り合いが、彼と少女を運命の地へと誘った。そこで、何が起こるかも、何がいるのかも知らず。

 

『リツカ……あのね。貴方に話したい事があるの』

 

 マシュらに話してはいないが、出掛ける直前に少女が彼に告げた言葉が、今もなお立香の頭の中でリフレインしている。

 彼女の頬が赤く染まっていたのは、別に夕焼けに染められていたわけではない。というか、あの時は太陽が上に来ていたし、立香自身そんなに鈍感ではない。彼女が一体何を言おうとしたのか、憶測でしかないがなんとなくわかる。ただ、それにどう応えるべきか、それに悩んでいた。

 

――そして、終ぞその悩みは解決される事は無かった。

 

 少女は最初に死んだ。呼び出された何かに取り憑かれて。少女ではない『何か』となり果てたモノを、彼がバラバラにして埋めた。そうしなければ、彼女はずっと穢されたままなのだから。

 少女の兄と、その友人達、その後やってきた『死の本』の研究者の親族達も、皆死んだ。少女を襲った何か……『死霊』によって。

 

 彼自身も、右手を無くした。しかし、彼は諦めなかった。僅かな正気と、微かな理性、更にありったけの知恵と怒りを振り絞って、戦った。

 

 そして――

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「――そんな」

 

 絶句するマシュ。だが、驚く事に嘔吐を催したりなんかはしなかった。……全く。強い子だな。

 

「……っと、今スタッフから連絡があった。最初の特異点が確認されたそうだ」

 

 行こう、とロマンが促す。マシュの気持ちを汲んでの事だろう。が、マシュはその言葉に異を唱えた。

 

「……すみません。少し、気持ちの整理を」

 

 しかしまぁ、やはり精神的にクルものがあるらしい。俺はロマンを先に行かせ、マシュの傍に、ただ黙って寄り添う。

 

「マシュ。無理して聞くこたなかったんだぜ?」

「……いえ。今の私は、マスターのサーヴァントなんです。ですが、その、貴方の事を何も知らなすぎる。だから、知らなきゃならないんです」

 

 そんな気がするだけなんですけどね、と、マシュは力なく笑う。

 そんなマシュの肩を、俺は出来る限り優しく抱こうとして――それが手の無い右手なのに気づき、思いとどまる。

 

「……気にすんな、なんて、そもそも話をした俺が言えた事じゃないが」

「い、いえ、そんな! 話を聞きたがったのは私の方で――」

「いいんだ、マシュ。とりあえず、今はゆっくりしろ。な? そうだ、ホットミルクか何かいるか?」

 

 マシュはただ無言で、頷いた。

 

……参ったな。勢いでそんな事言っちまったけど、どこにカップとか諸々あるのか知らねぇや。でもマシュに訊くのも気まずいし。ジーザス。

 

 ロマンを待たせるのは良くないが、カワイコちゃんが笑顔を曇らせてるんだ。優先順位なんてくっきりはっきりしてんだろ?



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Calling, and make up

 あの後、俺は落ち着いたマシュを伴って管制室にやってきていた。ロマンはと言えば、さっき俺の話を聞いたせいか、俺のツラを見て少し暗くなった気がしたが、すぐに元に戻った。

 そして、俺達が最初に向かう特異点がロマンの口から発表された。「今回は、特異点の中で最も揺らぎの小さな時代を選んだ」、とはロマンの言だ。

 

「で、それがフランス? おフランス、ガイセンモーン、ってか」

「ま、まぁそれが実際にあるかどうかはともかく……揺らぎが小さいとは言っても、妨害が無いとは言い切れない。だから、僕から一つ提案があるんだ」

 

 ロマンが言うには、基本的にサーヴァントの召喚は現地でマシュの盾を用いて召喚サークルを設置し、そこから現地に縁のあるサーヴァントを呼び出す、というのが主な流れらしい。

 だがそもそもの話、マシュの盾さえあれば、このカルデアでも召喚は可能なんだと。触媒とかなんとか言ってたな。

 

「その場合、普通なら彼女の盾に関連した英霊が召喚されるんだけど……カルデアの英霊召喚システム『フェイト』は未熟でね。どの英霊がサーヴァントとして召喚されるか、そこまでは確定できないんだ」

 

 なるほど。全く分からん。

 

 理解の及ばない俺の脳ミソを置き去りにし、ロマンの先導でその英霊召喚を行う部屋に向かう事となった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 向かった部屋にあったのは、如何にもな魔法陣が地面に描かれた、それなりの広さのある部屋。薄暗いのは仕様か? なんていうかこう、嫌な思い出が溢れ出そうな……。

 

「さ、マシュ。君の盾をここに」

 

 ロマンに促されたマシュは、サーヴァントとしてのあの鎧姿になると――おっと、説明してなかったが、今の今まで彼女は最初に会った頃みたいな私服だったんだぜ――、手にしたでかい盾を魔法陣の上に置いた。

 変身はどんな感じかって? 少なくともキューティーなハニーだとかセーラーなムーンだとか、そんな下の心が刺激されそうな感じじゃなかったとだけ言っておこう。

 

「さて、これから君には次の通り詠唱を唱えてもらう事になる」

 

……はい?

 

「えーと、よく聞こえなかったなぁー。もう一回言ってくれる?」

「へ? いやだから詠唱をしてもらうって……」

「……それってつまり、呪文か何かの?」

「まぁ、そういう事になるね」

「アー! アー!!」

 

 なんてこった。呪文の詠唱。ただでさえ嫌な思い出があるってのに! 二重の意味で!

 

「勘弁してくれよ……幽霊(ゴースト)を呼び出す呪文を唱えるなんて! 俺への当てつけのつもりか!? それに俺ァ、そういうの覚えるの苦手なんだよ……」

「え、えぇと……」

「だ、大丈夫ですよ! 呼び出されるのは英霊――つまり、先輩の話されてたようなものが呼び出される事はありません! 絶対!」

「……ま、まぁ、記憶に関してもカンペがあるしね! ……もしかしたら反英霊が呼び出されるかもだけど」

「ドクター、少し黙っていてください」

 

 反英霊ってのが何のことかわからないが、きっとロクでもねぇ連中に違いない。

 

「うーん……先輩に同意させる為にはどうすれば……い、いえ! 決して一人では自信がないだとか、そういった事ではありません! まだまだ未熟ですが、マスターのサーヴァントとして精一杯頑張りますから!」

「マシュ? 誰もそこまでは言ってないからね? ……でも、そうだなぁ。彼の要望を聞くとなると、呼びたいのはやはり真っ当な英雄……冬木でも共に戦ってくれたクー・フーリン辺りか。もっと欲を言うなら、反転(オルタ化)していないアーサー王に来て欲しいところ……ん?」

 

 不意に、ロマンが何かを考えるように、手を顎元にやり――ん? なんで俺をそんなキラキラした目で見るんだ?

 

「そうだ! そうだよ! 丁度時間が無くて聞き損ねたけど、君はあのアーサー王と知り合いなんだろう!? じゃあ、彼……彼女? まぁいいや、アーサー王(ゆかり)の品か何か持ってないのかい!? それを触媒にすればアーサー王は高望みだとしても、円卓の騎士辺りなら召喚できる可能性が増えるんじゃないか!?」

 

 うむむ……分かるような、分からないような。つまり、アイツと何か関係のあるものを触媒にして呼び出そうって事か? クソ本で死霊どもを呼び出すみたいな?

 

「そうは言うが、あの時代のモノなんて、それこそ……」

 

 そうだ。そのクソ本こそは、少なくともあの時代から存在しており、俺とアーサーを出会わせる切っ掛けになったものだ。そういう意味では縁の品には違いないが……アレは駄目だ。絶対に。

 

「と、なると後使えそうなのは――」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「で、思いついたのがこの義手というわけかい?」

 

 他にあの時代に関わりがあるものが無いしな。というわけで、俺はダ・ヴィンチちゃんが参考にするという理由で預かった義手を取りに戻った。「今イイところだったのに~」とぶー垂れていたが気にしない。中身は男だ。

 

「もうちょいで完成らしいし、別に構わないと思ってな。つか仕事早過ぎだろJK」

「ジェイ、ケー?」

「そこは気にしなくていい」

 

 マシュの疑問を封殺した俺は、義手を盾の上に乗せる。

 クソ本もあれば確率が上がったんだろうが、アレ使うと冬木で会った時のアーサーが出てきそうだし、そもそも所長に没収されたのか、今どこにあるのか分かんねぇからな。

 

……あれ、実はやばいんじゃね? 今の状況……。

 

「どうしたんだい? 早く召喚を始めよう」

「へ? あ、あぁ……」

 

 その嫌な考えを頭の片隅に追いやり、俺はロマンからカンペを受け取る。いよいよ召喚だ。山荘の時の事思い出して頭や腹が痛くなったりしてるが、気のせいに違いない。そうだ、そうに違いない。

 

「えーと……素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバ、シュバイン、オーグゥ……」

 

 ありがたいもんだな。ご親切に振り仮名まで振ってある。なんだか舐められてる感が否めないが、まぁいいだろう。あの魔術師の野郎が不親切過ぎたんだ。くそぅ、聞いて無いぞ、三冊あるだなんて! しかも呪文も覚えづらいし! この召喚みたいに日本語にしろよ!!! 無理か!!!

 

「……えーと、これなんて読むんだ? アンファング?」

「あ、ごめん。振り仮名振ってなかった。……これは、セット、だね」

「どうも。Anfang(セット)――――告げる。汝の身はぁ、我が下に、我が命運は、汝の剣に。聖杯のよる……寄るべに従い、この意、この……コトワリ? に従うならば応えよ」

 

 ところどころ噛んだりはしたが、ちゃんと詠唱さえできていればちゃんと召喚は出来るらしいから安心だ。

 長ったらしく小難しい文を苦戦しながら読む事数分。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 おぉ、カンペ万歳。何とか読み切った俺の前で、唐突に盾から光の玉が複数飛び出す。

 それが盾の上でくるくると、まるでメリーゴーランドのように周りだし、徐々に回転する速度が上がったかと思えば、気が付けば光の輪と化す。

 一瞬、ほんの一瞬だけ輪がキラリと光ったかと思うと、更に輪が広がり、三本に分裂する。

 

「す、すごい魔力反応だ! このパターン、まさか……」

「オイオイ、なんだ、何が起こるんだ!?」

 

 サークルの中心から吹き荒れる風で、俺の髪の毛が大暴れしている。イテッ、目が! 目がぁ!

 

「先輩、先輩! 召喚されますよ!」

 

 髪の毛が入って痛む目を擦りながら、俺は眼前の神秘的な光景を見やる。死霊どもを呼んだ時よか派手だな。

 

 三本の光の輪が中心に収束し、一瞬風が止んだかと思った瞬間、極太の光が天に立ち昇る。

 

「何の光!?」

 

 思わず口をついて出てきたその台詞は、誰も聞こえてなかったのかあっさりとスルーされた。

 それはどうでもいいんだ、重要な事じゃない。

 

 立ち昇る光が徐々に収まると――そこには一人の青い騎士が立っていた。

 

「――サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう。貴方が私のマスターか」

 

……全く。懐かしい面だ。凛々しい顔つきに、決意を秘めた瞳。まるで俺と正反対だ。

 

「よう。アーサー。千年振りか?」

「正確に言えば、あの冬木での戦い以来だ。左程時間は経っていないのだろう?」

「うげ、覚えてたのかよ……ところで、マジで女だったんだなお前」

「ああ。今の私はアーサー・ペンドラゴンとしてではなく、アルトリア・ペンドラゴンとして座に登録されている。今後はアルトリアと呼んでくれて構わない、マスター」

「そうかい。……お前に主人(マスター)って言われるなんて変な感じだ。ところで座って何だ?」

「……ああ。そうだったな。そういう男だったな、リツカ・フジマルという奴は」

「ヒデェ野郎だ! クソッタレィ!」

 

 久々のような、そうでもないような、なんとも奇妙な感覚を抱え、俺達は久々に軽口を交わす。ったく、懐かしいなぁ。昔はあの魔術師に、ゴリラみたいなゴツい騎士に、人妻好きの騎士に、それからいっつも嘆いてる騎士とかいたっけ。あとモーなんとか。

 

「ところでリツカ」

「あん?」

「――靴紐が解けているぞ」

「え、マジ?」

 

 そう言われて下を向いた瞬間――ガツン、と衝撃が来たかと思えば、俺は天井を見ていた。うごご……頭もくらくらする……。

 

「礼は返させてもらったぞ」

「せ、先輩!?」

「ちょ、ええええええ!!? サーヴァントがマスターを殴ったァ!?」

「何、気にする事ではありません。これがいわゆる、スキンシップ、というものです」

 

 真面目そうで、良い性格してんね、全く。

 

 実はあの黒いのが、昔のアーサー、じゃなかったアルトリアの姿を借りて呼び出されたんじゃないかとか思っていると、俺の意識は暗闇の底へと落ちていった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「助けてぇぇぇ!!! なんでもしますからぁぁぁ!!!」

 

――司教の服を着たふくよかな男が、情けなく黒い何者かの足下に縋りつく。

 

 縋りついているのは、黒い女。色素の薄い金髪に、生気を感じさせない肌。見るからにこの世ならざる存在だとわかるその女は、司教の男を見下し、高らかに嘲笑う。

 

 その瞳から感じられるのは、怨み。怨念。

 

『決してこの男を許してはならぬ。絶対に許さない。この男だけではない。フランスという国そのものに。この星の生きとし生ける者全てに滅びを』

 

 彼女の周りに侍るは、七人、否、七騎の英霊。黒い女によって喚びだされ、そして狂わされた彼らは、その瞳に狂気を湛えてる。男も、女も。

 

 黒き女は命ずる。この国を蹂躙せよと。神はそれを許すだろうから。よしんば罰せられるとしても、それこそが神の実在を知らしめるものなのだから。

 

 女は、自らをジャンヌ・ダルクと名乗った。かつて救国の聖処女と呼ばれ、神の声の元にオルレアンを救い、それ故に火にかけられた者だと。

 

 だからこそ。女はこの国を、人類を裁くと宣言した――裁定者(ルーラー)のクラスとして。善人であろうと、悪人であろうと平等であり、平等だからこそ、有罪であるとして。

 

「おお……おお……! なんという力強さ! 偽りのない真理なのか!」

 

 その傍で、狂気に魅入られた出目金男が叫ぶ。

 

「これこそ救国の聖女! 神を肯定し、人々を許す聖女に他ならないっっっっ!」

 

 語る言葉の端々から感じられる矛盾と狂気。男はどこまでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 愛の狂信者は、愛する黒き聖女に問う。此度の旗印に何を掲げるのかと。

 そのジャンヌは、旗印として(ドラゴン)を選択した。偶然か必然か、此度の召喚では竜に縁のある者が多い。それ故に、欧州などでは災禍の象徴として名高い竜を以て、この世界を徹底的に灼き尽くすのだと。

 

「ふむ……では、私も及ばずながら、そのお手伝いをさせていただきましょうか」

 

 完全に、一抹の混じりも無く彼女に同調した出目金男は、手にした何かを掲げる。

 

――それは、本だった。人の皮で装丁された、禍々しき気配を漂わせる本。

 

 本からは潮臭い水が染み出し、男のこれまた生気の薄く、しかしながら鍛え上げられた腕を伝う。

 

 知る人ぞ知る。それこそは、遥かな昔に、人でも、ましてや悪魔でもない、邪悪なるモノの手によって書かれた書物、その写本。

 

「我が友、プレラーティよ。貴方より送られたこの本の力、お借りしますよ」

 

 男の名は、ジル・ド・レェ。かつてジャンヌ・ダルクと共に戦ったフランス軍の元帥であり、英雄的存在でもあり、同時に狂気の殺人鬼としても名高き男。此度は狂える魔術師(バーサーク・キャスター)の格を与えられ限界した彼は、そのおぞましき気配を隠そうともせず、黒き聖女と共に高らかに笑う。笑う。笑う。

 

……彼の持つ本の顔の皮膚が笑ったように見えたのは、気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……やなもん見ちまった」

「おはようございます、先輩。……その、大丈夫ですか?」

「あー、多分な」

 

 嘘だ。正直言うと頭がまだガンガンする。何時ぞやの事を根に持っていたらしいアルトリアに顔面をぶん殴られて、あんな気味の悪い夢見るなんて、ツイてねぇもんだ。英霊になると筋力が強化されて、アルトリア程の英霊なら、普通なら頭がもげてるらしいが。

 

「おろ、俺いつの間に部屋に……」

「あ、すみません。もしや床の方が寝やすかったでしょうか?」

「そういう事じゃなくてだな……ま、いいや。ありがとな、マシュ」

 

 あの後、俺は自室に運ばれ、ベッドに寝かせられていたようだ。可愛い後輩だぜ、全く。

 顔をてしてしと小さな足で叩いてくるフォウを引っ掴んで頭に乗せると、俺はマシュと一緒に自室を出て、管制室に向かう。

 

「おはよう、立香君! よく眠れたかな?」

「誤魔化してるつもりだろうが、俺はよぉく覚えてるぜ、このインチキ野郎」

「い、インチキ!? 言っておくけど、呪文の詠唱は間違えてなかったハズだよ!?」

 

 開口一番に嫌味――本人はそのつもりはないのだろうが――をぬかしやがったロマンに文句をかます。なんつーか、あの魔術師と似たようないい加減さがあるんだよなぁ……。

 

 俺の夢見の悪い最もたる原因のアーサー王はと言えば、素知らぬ顔で知らんぷりを決めこんでいるときた。喧嘩売ってんだろお前。

 

「まーまー、ロマンにぶー垂れるのなんて、というかロマンなんてどうでもいいじゃないか」

「酷い!? マシュ、扱いが酷いよ僕!」

「ドクターはもう少し空気を読む事を覚えるべきかと」

「マシュも冷たいよぅ……」

 

 一人いじけるロマンを押しのけ、ダ・ヴィンチちゃんが何やら布が掛けられたデカいカートを押して俺の前にやってくる。

 

「おはようさん。ところで、こいつは?」

「ムフフー……気になる? 気になるよねー?」

「勿体ぶんじゃねぇよ」

「そうかー! 楽しみなら仕方ないよね! というわけでご覧あれ、我が芸術品を!」

 

 天才ってのは勿体ぶるのが好きなんだろうか。それはともかくとして、ダ・ヴィンチちゃんが掛けられた布を取り払うと――

 

「……ほぉ」

 

――そこには、預けた武器やベルトのようなものと一緒に、新たな俺の右腕が置かれていた。

 

 いぶし銀気味だった以前の腕とは違い、磨き上げられた銀色のメタリックな輝きを持つそれを手に取ると、以前のそれよりも心なしか重く感じる。

 

「オイオイ。前よりも重くなってるような気がするんだが?」

「そりゃ、仕方ないだろう? 何せ、急ピッチで色んな機能を搭載した試作モデルなんだぜ?」

「試作」

 

 なるほどね。ぶっつけ本番。俺に馴染み深い言葉だ。どっかの偉い人が言ってた五段階の調査なんてもんよりか遥かにな。

 

「機能については現地で説明するとして、他にも君のショットガンやチェーンソーにも改良を加えてみたんだ」

「……ほぉー。どういう理屈かは知らんが軽いな。見た目は全然変わってないのに」

「だが、性能は保証するよ。両方とも魔術的に強化を施しているし、チェーンソーの切れ味も、これまで以上にバツグンだ。できればもうちょっと手を加えたかったんだけどねー」

「幾ら欲しい?」

「10万QPポンとくれ」

「キツいジョークだ」

 

 そんなやり取りをしながら、俺はダ・ヴィンチちゃんの指示に従い、新たに製作されたホルダー付きベルトを装着し、レミントンをクルリと回し、背中のホルスターに差す。

 

「ん? なんだこのぶっといの」

「ああ。それはチェーンソー用の鞘だね。試しにチェーンソーを入れて、と……さ、この状態で、君の右腕をチェーンソーに装着したまえ」

 

 腰の後ろ側にあるその鞘にチェーンソーを入れると、俺は木製のマネキン義手を取り外し、右手をチェーンソーに嵌める。

 

「で、こっからどうすりゃいいんだ? こりゃそのままだと抜きづらいんだが」

「フッフッフ。それを下に払うように動かすと……」

「こうか? ――おお!」

 

 こいつぁすげぇ! 鞘の下からそのままチェーンソーの刃が出てきて、しかも金具の部分に掛けられたスターターが引っ張られてエンジンがかかった!

 それに、ダ・ヴィンチちゃんの指示通りに下に払うようにそのまま動かすと、スターターの紐が金具から上手い具合に外れると来た。

 若干だが引っ掛かりがあるのは、誤差の範疇だ。ならばこそ、こう評価せざるをえない――

 

Groovy.(イカすぜ)

 

――ってな。

 




 死霊のはらわた名物、主人公のうっかり。

 見た目は青アルトリア! 素顔は若干黒アルトリア! だから呪文を唱えるのは嫌だったんだ!

 はい。今回の話はアルトリア召喚とオルレアンのアバン、それから着装完了までを一度に消化したかっただけです。かなり駆け足気味なのは、単にノープランで書いてるからです。お前の書き方ガバガバじゃねーか。

 あと今作でのアルトリア(アーサー)は、ぐだおに対しては死霊のはらわた3におけるアーサー寄りの感じで、その他には礼儀正しい普段のアルトリア(若干黒要素アリ)になっています。


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【次回予告】第一章『オルレアン風・邪竜巻』

 新卒だけど中途採用で(家の事やら自分の事やら諸々の事情で)営業になりはや四か月。ぶっちゃけ分からない事だらけで毎日ヘマをやらかしてる気がして、このままじゃ試用期間が終わったらクビを切られても不思議じゃないと戦々恐々としていたら、能力不足につき本当に切られてしまったでござる。やってしまったねぇ...(FNK)

 という(言い)訳でちょっとモチベーションが上がらないので今回は次回予告です。


「聖女は甦った。魔女となって」

 

――時は、1431年。舞台は、オルレアン。百年戦争の休止期間に当たるその時代にて、一人の乙女が死に、そして返ってきた。

 

 聖処女と呼ばれた女は竜の魔女となり、自らを裁定者として戻ってきた。邪竜を従え、そして歴史に名高き英雄・反英雄を配下とし、世界を灼き尽くすと宣言した。

 

 圧倒的過ぎる力の前に、この時代の人類には成す術も無く。神はただ無言にて彼らの行く末を見守り、人々は絶望の内に、燃え尽きるかに見えた……。

 

「なるほど? つまりそのジャンヌって奴ァ死霊なんだな。なら、不本意だが俺の出番ってワケだ」

 

――だが、天は彼らを見放せども、天より来たる勇者がいる。その頼もしき仲間達がいる。

 

 供に行くは、身の丈程の盾を操りし、未熟なる女騎士。そして、星の聖剣を操る、勇者のかつての友たる凛々しき女騎士。古の文字を使いて、全てを焼き尽くす槍使いの魔術師。

 

 そして歴戦の強者(つわもの)を率いるは、数多の死線を潜り抜け、死霊に追われ、死霊と戦う事を運命づけられた少年。

 自らの腕を切り落とし、代わりに破壊の刃(チェーンソー)を備え、屍を粉砕する魔法の杖(ショットガン)を携えた彼は、竜に恐れ慄く兵士達に叫ぶ。

 

「いいか野蛮人ども、よぉーく聞け。もしこの魔法の杖(Boom Stick)を買うんなら……必ずSマートで買うように。分かったかァ!」

「はい分かりました!」

「りょ、了解しました!」

「Sマート! Sマートですねはい!」

 

 馬車の上に乗り、サラッと(無駄な)販促活動を行い、少年はフランス兵を鼓舞する。

 

『話の途中だがワイバーンだ! 数は一匹だがその位置は危ない!』

「邪魔だボケェ!!!」

 

――BOOM!!!

 

「ま、マジかよ……あの魔法の杖、ワイバーンの頭を吹っ飛ばせる程つえぇのかよ……」

「うぉりゃアアアアアア!!!!」

「見ろ! ワイバーンが真っ二つに!」

 

 どこか――特にアメリカはNY辺りで――見た事があるような光景に、フランス兵がどよめく。

 

「ところで、ワイバーンの肉はどのような味がするのでしょうね」

「あれ、アルトリアさんそんなキャラでしたっけ?」

「あんなマスターのダチなんだ。血を見過ぎたんだろうぜ」

「それで納得してもいいのでしょうか……?」

 

 従者達のそんなやり取りの有無はともかく、勇者達はこの時代に召喚されたと宣う、一人の少女と出会う。

 

「りゅ、竜の魔女! 勇者様! コイツです! コイツが竜の魔女――ジャンヌ・ダルクです!!!」

「ま、待ってください! 私は味方です!」

「どうだかな……もしかしたら死霊が取り憑いてるかも知れねぇ」

「本当なんです! 信じて下さい!」

「せ、先輩! どう見てもこの方はマトモです! 先輩の仰ってたような死霊の特徴はありません!」

「いや、分からんぞ。奴らは狡賢いからな」

「ええ。生者を装い、或いは死者と偽り、生者を欺き、その命を刈り取る。奴らの常套手段です。マシュ、覚えておくといい」

「そ、そんなぁ……」

 

 過去の経験から聖女への疑心を抱く勇者(と女騎士)。紆余曲折あり、彼らは和解し、共に戦う仲間となった。

 

「……つまり、ジャンヌが二人いるのか。いやぁ、悪かったなぁジャンヌ……」

「えぇっと、今度はなんですかその、凄く同情の色が見られる目は……?」

「しかし参ったな。リツカ、確かそなたの時は、バラバラにして埋めたのに甦ったのだったか?」

「え」

「あぁ……その前に、ミニサイズの俺の大群に襲われたりして散々だったがな」

「えっ」

「あとなんでだろうな。昔切り取った右手から身体が生えて俺になりそうな予感がするのは」

「えぇ……」

 

 自分との殺し合い(迫真の一人芝居)の経験者は、もう一人の聖処女を名乗る何者かとの戦いに備え、それを知らぬ聖処女(と後輩)は、ただただ困惑するばかり。一方その頃、ケルトの勇士は思考を放棄していた。

 

 それから、数多の出会いがあった。

 

「アハハハハ!! どうしようジル! 私笑いが――」

 

――BOOM!

 

「ひッ!?」

「黙りやがれこの【自主規制】。今からバラバラにしてやるからそこで待ってろ」

「どうしようジル! アイツの目、ジルの目並にイッてる!」

「ジャンヌ!?」

 

 竜の魔女とその配下との邂逅。

 

「ヴィヴ・ラ・フラーンス!」

「Yeahhhhh!!!」

「あぁ! マリーさんにキキキ、キスをされた先輩がハイに!」

「でも、ハイになった勢いでワイバーンが狩りつくされてるし、結果オーライじゃない? ……別に何も思ってないからね? 彼女のクセみたいなもんだから、うん」

「アマデウスさん、最後のはいらないと思いますよ」

 

 窮地に陥った彼らを助けに来た、ヴェルサイユの華と呼ばれるフランス王妃と、彼女に付き添う天才音楽家。

 

「ヘイヘイ、嬢ちゃん達。周りの迷惑になるから、キャットファイトはベッドの上でやってくれ」

「何よ!」

「燃やしますよ?」

「先輩、キャットファイトとは……?」

「そこの後輩っぽいのは黙ってなさい! これはアタシとコイツの問題なんだから! そう、アイドルの座は渡さないわよ!」

「アイドル? え?」

「それはそうと何やら安珍様の気配が……」

「この人も何言ってるんですか……」

「やかましい。ド(タマ)吹っ飛ばすぞテメェら」

「先輩、それはちょっと流石に容赦無さ過ぎなのでは……」

 

 拷問を嗜好とし、後に血の伯爵夫人とまで言われる事となるアイドル(自称)と、嘘を嫌いながら、少年を愛する人(安珍)の生まれ変わりだと信じてやまない愛に狂う少女(ヤンデレ)

 

「すまない……今の俺では竜退治の役に立てそうにない……本当にすまない……」

「その無念もあとしばらくの辛抱です。その呪いが解呪できたならば、共に戦いましょう」

「……フッ、よもやかの名高き聖人と肩を並べる時が来ようとは」

「私も嬉しいですよ、ジークフリート」

 

 すまないさん、もとい竜殺しの大英雄と、同じく竜殺しの守護聖人。

 

 彼らと共に、邪悪なる竜の魔女の軍団に立ち向かう。

 

「ア……アア……」

「こんな……酷い……」

「……アルトリア。マシュを頼むぜ」

「ああ。任された」

「――ッ! マスター、一人で行くのは危険です!」

「なぁに。心配するこたねぇ。あれでも、戦士としての素質はあるみてぇだしな」

「しかし……!」

「――二度は言いませんよ、ジャンヌ。心配はいらない。するだけ無駄だ。何せ、あの手の屍の相手は、彼の専売特許なのだから」

 

 焼き焦げ、腐り堕ちて彷徨う屍との戦いで垣間見える、藤丸立香という少年の一面。

 

――そして現れる、因縁の敵。

 

「な――ありゃあネクロノミコンか!?」

「ほう? この本の同類をご存知とは。……ふむ、ふむふむ。奇妙なものだ。我が宝具、友より賜りし『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が反応を示すとは!」

『ま、まさかカルデアの死の書と共鳴しているのか!?』

『プレラーティー、と彼は言ったね。つまり恐らく、あの本自体はフランソワ・プレラーティーがイタリア語に訳した、ルルイエ異本の写本なのだろうが――』

「実に興味深いものを見せて頂いた。……では、礼としてお見せしましょう。最高のCOOLを!」

 

 邪本に書かれしは邪法。その一端が、勇者達に牙を剥く。

 

「先輩、見てください! ファフニールを中心に魔力の渦が――!」

「――って、ちょっと待て! なんかルルイエって名前とは無関係そうなトルネードが起きてんだが!?」

『……なるほどね。所長の部屋に隠してあったネクロノミコンを調べて分かったんだが、どうやらあの手の魔本は、言ってしまえば()()()()()()()()を繋ぐゲートの役割を担っているらしい。そして、本によってその属性が異なる』

「それとどう関係あるんだ!?」

『詳細は省くが、ルルイエ異本とは海と関わりが強い本だ。つまりかくかくしかじかで、海の一面である嵐が呼び出されたんだよ!』

「さては説明がめんどくさくなったなコン畜生め」

「おお……何という事だ……渦が竜巻のように……」

「それどころか、ワイバーンまで巻き込んじゃってるわよ!?」

「つまりワイバーンネードかぁ!?」

「いえ、ファフニールを核とするならドラゴネードの方が正確かと」

「どちらでもいいと思います!」

 

 邪竜で出来た竜巻――即ち邪竜巻に乗り、ワイバーンがオルレアンを飛び交う。飛来したワイバーンに、次々と襲われるフランス兵達。

 

「た、助け……ガァ!」

「クソッ! ダ・ヴィンチちゃんよぉ! あれを止めるにゃどうすりゃいい!」

『手っ取り早いのは、核、つまりファフニールをどうにかして排除する事、なんだけどなぁ……』

「……すまない。俺の『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』でも、ワイバーンに阻まれてファフニールに届かないようだ……本当にすまない」

「……なら、方法は一つだ。それは――」

「それは……?」

 

「――竜巻の中に突っ込めェ!」

「もうちょっと考えましょうよ先輩!?」

 

 文字通りの竜巻と化した邪竜共に、勇者達は臆する事無く立ち向かう! はたして、フランスの命運や如何に!

 

 Fate/Army of Darkness、第一章『オルレアン風・邪竜巻』。

 

「アハハハハハ! 火を噴きなさい、ファフニール! そのまま、全てを燃やし尽くす炎の柱となりなさい!」

「ジャンヌ、頭に目を回したワイバーンが噛みついたままですぞ」

「何ワイバーンが目ェ回してんのよ! 襲うのはあっちよあっち!」

 

 公開日未定!

 

 




(完全版で公開するとは言っていない)


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