無敗の最弱とその影は (まぐなす)
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1.プロローグ

タグは増えるわ、あとから話が増えるわ、登場人物増えるわでグダグダな作品ではありますがどうぞ読んでいって下さい。


自分の記憶が無くなる―――――それがどんな気分か皆さんにはお分かり頂けるだろうか.....

 

 

 

 

 

 

『アティスマータ新王国』

 

 

かつては世界の5分の1を支配していた大国、

『アーカディア帝国』が5年前にクーデターによって滅びた後に出来た王国

 

 

 

そしてここはその王都―――――

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁ!」

 

「ん?」

 

軍の練習場へと向かう途中だった長髪の少年―――――アリシア・レイヴンは眼下にある少々広めの通路から聞こえてきた悲鳴に足を止めた。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ‼」

 

そこには7人の男女と、2つの大きな金属の塊―――装甲機竜がいた。

 

『装甲機竜』―――それは十数年前に遺跡で発見された古代兵器。

そこにいたのは、その汎用機竜と分類される機体の飛翔型『ワイバーン』だった。

 

「何やってんだ...?」

 

片方の装甲機竜―――どこかの学校の女子生徒の乗っている方―――が倒れており、もう片方の男の乗ってる方は勝ち誇ったように立っていた。

アリシアはそれを見ただけで、だいたい何があったか予想は出来た。

 

旧アーカディア帝国は男女差別が酷く、5年経ち、国が変わった今でもその風習はまだ抜けてない男は多かった。

その為、新王国の兵も男が大半を占めている。

だが機竜に乗るための『機竜適正値』は女性の方が高く、今では機竜使い育成用の女学校ができるほどだ。

聞いた所によると、今は城塞都市(クロスフィード)にある王立士官学校の3年生が王都へ遠征に来てるらしく、女子生徒の方はその所属だろう。

そして女が堂々と、しかも自分と同じ機竜使いとして目の前にいるのが許せなかったのだろう。

それで男の方は手を上げた、と言った所までは安易に予想できた。

 

ところが男はそれで満足せずに次の行動に出た。右手に持った剣―――装甲機竜の―――を大きく振りかぶって、未だに倒れている女子生徒を攻撃しようとした。

 

「.....!」

 

それを見てアリシアも行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

「...『厄災(ディザスター)』」

 

そう呟いてアリシアは後ろに吊るしてあった白の機攻殻剣を少し抜き、そこから飛び降りた。数メートルの落下の末、2体の装甲機竜の間に着地すると、降り下ろされた男の剣を片手の―――しかも人差し指と親指の2本で受け止めた。

 

 

 

「んなっ.....」

 

「あ、アリシア教官!?」

 

男は驚き、後ろにいた別の男が声を上げる。

 

そう。アリシアは軍の指導教官を務めている。

 

「何があったかは知らんし知る気もないが、そこまでだ」

 

アリシアは睨み付けるようにそう言い、

 

「こっちの子達から手を上げたとは思えんが...」

 

「.....」

 

「さて、どうなんだ?」

 

すると男は皆、黙って目を反らした。

 

そしてアリシアは怒鳴るわけでもなく、

静かに、ただ静かに、しかし威圧的に言った。

 

「さっさと訓練に行ってこい」

 

男どもは1秒と経たず、皆一斉に回れ右をし、練習場の方へ走って行った。

 

 

 

「ふぅ...」

 

そこで初めてアリシアは女子生徒の方を向いた。その途端に装甲機竜が解除され、怯えたように身を固くしていた。

アリシアは内心苦笑いしながら出来る限りの優しい笑顔で手を差し伸べた。女子生徒は怖がりながらも手を取り、アリシアに起こされた。

そして―――

 

「申し訳ない」

 

アリシアは綺麗に直角に腰を曲げ、頭を下ろしていた。これには女子生徒も驚いていたようだが、下を向いてるためアリシアにはわからない。

 

「私はこれでも軍で指導教官を務めています。あの者たちも私が教えています。あのような態度を取らせたのは、指導をしている私にも責任があります。本当に申し訳ない」

 

更に女子生徒は驚いていたようだが、知る由もない。数秒後―――

 

「か、顔を上げてくださいっ」

 

顔を上げると、女子生徒は驚いていたが、さっきより幾分落ち着いた様子で

 

「そ、その、挑発に乗ってしまったのはこっちなので...お、お気になさらず」

 

とおずおずと言った。

アリシアは数秒考えた後に、

 

「挑発を許したのもこちらの落ち度です」

 

「で、でも...」

 

と女子生徒はこう言うことにあまり慣れていないのか、おどおどとしていた。

キリが無さそうだと思ったアリシアは

 

「...では、責任者かそれに準ずるような人に合わせて貰えないでしょうか―――――」

 

 

「これは何事ですか!?」

 

奥から金髪碧眼の美少女が現れた。

 

「せっ、セリスさん!」

 

他の女子生徒の言った名前には聞き覚えがあった。

愛称ではあったが、セリスと言ったら、領地に第一遺跡『塔』を持つ四大貴族ディスト・ラルグリスの娘、セリスティア・ラルグリスのはずだ。

―――と考えながらもアリシアはもう一度、深く頭を下げた。

 

「うちの兵がそちらの生徒に大変ご迷惑をおかけしました。充分に言い聞かせておくので、どうかお許しを」

 

そう言うと、流石に少し目を見開いたが直ぐに鋭い目になり、近くにいた生徒に事情を聞いていた。

...はずだ。

 

女子生徒の話す内容は大方予想通りだった。

話を聞き終えたセリスティア・ラルグリスはしばし目を瞑って考えていたが...

 

「頭を上げてください。あなたの謝罪を受け入れ、許しましょう。ですが、今後こう言うことが一切ないようにお願いします。」

 

と静かに告げた。

 

「感謝いたします。後程学園の方にも謝罪を入れさせていただきます」

 

 

アリシアもそう告げ、一礼すると、その場を去った。

 

 




アリシア「激白!≪製作秘話≫のコーナー!」

パチパチパチ....

アリシア「このコーナーは、同ハーメルンのとある方の投稿を勝手にリスペクトしてできたコーナーです!初投稿から一年と二ヶ月後に第一話の後書きにて急に始まったこのコーナーですが、作者『闇鴉』がアリシアとして、アリシアが作者『闇鴉』として製作中にあったこと等を話していくコーナーです!と言ってもアリシアじゃない人にもなるかもしれませんし、ゲストとしてどなたかが追加されるかもしれません!」

アリシア「と言うことで第一回からゲストがーーー...え?説明長すぎ?見る気起きない?」

んーーーーーーーーーーー

アリシア「では今回はここまで!本編の修正に合わせてこのコーナーも随時追加していく予定です!それでは!」


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2.学園訪問

今後逐次日本語が気になるところ等を修正していきます。物語自体はほとんど変わりませんが、セリフの追加等はあります。



「腰痛い...」

 

 

宿のベッドに身を投げ、髪を一つに結わえた少年―――アリシアは少し1日を振り返っていた。

 

 

 

 

 

―――本日朝

練習場へ行く途中、馬鹿が馬鹿やってるところへ教官として乱入した。

この事を報告するため、王城へ向かった。

だが、通されたのはなんと謁見の間、即ち女王の元だった。

アティスマータ新王国はクーデターを首謀した男が戦死したため、王様ではなく、女王が国のトップだった。

そして報告を済ませると...

 

「ごめんなさい、アリシア。あなたに軍の指導を全て押し付けているからですね。私個人としては、あなたには同年代の人たちと同じように過ごしてほしいのですが....」

 

そう言うラフィ女王は申し訳なさそうに少し俯く。

 

「ですが、起きてしまったことは仕方がありません。ちょうどいい機会です。あなたに1ヶ月程休暇を与えます。その間に学園に赴き、謝罪をしてきてください。」

 

そう言うと女王は徐にペンを走らせ、手紙を書き上げてアリシアにそれを渡した。

 

「どうせなら、罪滅ぼしにでも臨時教官をして来ても、いいかもしれないわね」

 

アリシアが手紙を受け取る。

 

「その手紙を門番に見せれば、中に入れてくれるでしょう。そしたら学園長にそれを渡してください」

 

そして、ラフィ女王陛下は微笑むと、

 

「休暇、楽しんで来なさい」

 

と言ってくれた。

 

「ありがとうございます」

 

 

そうしてアリシアは謁見の間を後にした。

その後練習場へ顔を出し、さっきの3人組に説教し、他の奴らにも釘を刺しておき、王都を出た。

 

 

だがしかし一ヶ月経たずして彼らと再開することになるとはこのときはまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

そして馬車に揺られること1日。

城塞都市に着いた頃には辺りは真っ暗になっており、

なおかつ、1日中座っていたものだから少し腰が痛かった。

そのため適当なところで宿をとり、今に至る、と言う訳だ。

 

だがそこで寝ることはせず日課である筋トレを行い、汗を拭いて、機攻殻剣を磨き、そして寝た。

翌日は波乱万丈な1日になるだろうと予想しながら。

 

 

 

 

明くる日、いつもより少し遅い時間に起きたアリシアは、身なりを整える―――と言っても、すぐに王都を出たために、ろくな着替えも持っておらず、昨日と同じ指導教官としての少々お堅い服を着直し、宿を出た。

 

そう時間はかからずに学園―――王立士官学校の校門へついた。

 

「止まれ!用のある者は通行証となるものを提示しろ!」

 

「ないのなら早急に立ち去れ!」

 

と警備員2人―――流石に面識はない―――に言われた。服の内ポケットから女王からの手紙を出して警備員に見せると一瞬訝しげな目を向けたが、その目線がアリシアの左の腰に吊るしてある機攻殻剣に向き、

 

「学園長に話がある。通してくれ」

 

とアリシアが言えば、更に数秒間睨まれ続けたが

手紙を返しながら

 

「案内は必要でしょうか?」

 

片方の男が言う。

 

「では、お願いします」

 

アリシアが言うと、もう何も言わずに歩いていったので、黙ってそれについていくことにした。

そして歩いてる時にそれに気が付き、聞いた。

 

「校舎から離れていっているようですが...」

 

すると止まることはなかったが、少しこちらを見て

 

「現在演習場で模擬戦を行っており、そちらにいると聞いていたので、演習場に向かっています」

 

と言う。

だがこの時期に模擬戦とは少しおかしい気がした。

全竜戦に向けての選抜戦はもう少し先のはずだし、士官学校とは言え、そう簡単に模擬戦をするとは思えなかったのだ。

その疑問を口にするべく、口を開けようとした瞬間、

 

光の柱が立った。

 

演習場から。

 

これには警備員も唖然としていた。勿論アリシアも。

唖然としながらも考えることを止めなかった。汎用機竜の装備にあんなものはなかったはずだ。つまりあれは汎用機竜じゃない―――すなわち神装機竜だ、と。

『神装機竜』それは汎用機竜を遥かに上回る出力に、神装と呼ばれる特殊能力をもった機竜。

それを学生どうしの戦闘でしかも模擬戦で使うとはこれ如何に...

そう思いながら、唖然としながら、歩いていた。

それからと言うものの轟音が鳴ったり歓声が上がったりしていたが、演習場へとあとちょっとと言うときにそれは出てきた。

 

 

 

 

 

ギィィィィィエェェェェェェェ!!!!!

 

 

 

幻神獣だった。

 

『幻神獣』

それは遺跡より現れる謎の生物。

色々なタイプがいたが、今回のはガーゴイル型と呼ばれるものだった。

 

だが1体ではなかった。

計3体だ。1体は演習場の方へ、2体は上空へと上がっていった。

 

そして直ぐに悲鳴が上がった。

そりゃそうだ。いるはずのない、安全なはずのところに幻神獣がいきなり現れたら普通の女子は悲鳴を上げるだろう。同時に警備員は門の方へと走り戻って行った。彼は機攻殻剣をもっていなかったからだ。

 

だが驚いたことに数名の生徒が避難誘導を行っていた。年長の3年がいないから動きは悪いかと思っていたが、そうでもなさそうだ。

実際に随分な量の生徒達はその避難誘導に従って避難していた。

 

 

だがそれを邪魔するものがいた。

 

幻神獣だ。上空へ上がっていた片方が、避難誘導をしていた特装型に分類される『ドレイク』と呼ばれる機竜を目掛けて急降下してきた。

 

直前にドレイクの機竜使いは気が付いたがもう遅かった。

 

「っ...」

 

息を飲んだその瞬間

 

 

 

 

 

 

「『厄災』」

 

アリシアは既に纏っていたワイバーンでその少女の前へと出ると、幻神獣の攻撃を受け止めた。

 

「下がって!!!」

 

助かったことへの安堵と、いないはずの、そして幻神獣の攻撃を防げている少年へ驚きが入り雑じった瞳をしていたが、直ぐに後方へと跳んだ。それと同時に幻神獣も再び中空へと飛んだ。

アリシアは追撃をする。だがその速度は汎用機竜のそれではなかった。神装機竜にも負けてなかっただろうその速度で幻神獣に追い付き、その体を一刀両断した。

 

「...!!!」

 

これには先程助けたおとなしそうな少女も目を少し見開いていた...気がする。その驚いた目には、あり得ないその速度もそうだが、幻神獣を一人でしかも一刀で倒したことへの驚きがあった。

 

だがアリシアはそんな少女の反応を気にも止めず上空の幻神獣へと迫った。

こちらは一刀とはいかなかったが、一刀目で片方の翼を落とし、返す剣で足を落とし、次の剣で胴体を横に薙いだ。そして絶命した幻神獣をも気に止めず、演習場へと飛ぼうとした。

 

 

 

その瞬間―――

 

 

 

 

また光の柱が立った

 

先程見たやつだ。

そうわかった時には演習場へと降り立っていたが、

そこには圧倒的な存在感を誇る1機の赤い、朱い竜がいた。神装機竜だ。

聞いたことがある。真っ赤な神装機竜とその機竜使い。

――――――リーズシャルテ・アティスマータ

そう思ったときには行動していた。先程の速度にも劣らない勢いで機竜を解除し、頭を垂れた。

 

「お初お目にかかります、リーズシャルテ姫。アリシア・レイヴンと申します。」

 

 

 

『リーズシャルテ・アティスマータ』この国の女王、ラフィ・アティスマータの娘にしてこの国の王女。

そんなお姫様であるはずだが、突然の闖入者に驚いてる様子で口をパクパクさせていた―――のを一瞬確認した後に続けざまに

 

「先程こちらにも幻神獣が来るのを確認しましたが...」

 

そこで王女は再起動したのかハッとした表情になり

 

「残りの2体は!?」

 

と身を乗り出して聞いてきたので

 

「私が始末しました」

 

とは答えたものの内心、王女らしさがなんかないな...と苦笑いしていたりした。

 

「そうか...さっきこっちに来たのは私が処理した。....ま、大半奴の手柄だがな」

 

そこまで言って、王女が機竜を解除した。

そしてそれまで機竜に隠れていたものが見えた。

 

.....人だ。

 

倒れている。

 

そしてその白髪と横顔には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

「ルクス!?」

 

 

 

奇しくもそれはアリシアの親友にして戦友であった。

 

 




アリシア「第二回!激白!≪製作秘話≫のコーナー!」

パチパチパチ...

アリシア「何も考えずに始まったこのコーナーは一応第二回!第一回とてあってないようなものでしたが、やっていきましょう!」

アリシア「それではまずは本日のゲストをご紹介しましょう。こちらの方です!」

リーシャ「新王国第一王女、リーズシャルテ・アティスマータだ。気軽にリーシャと呼んでくれ。よろしく頼む」

アリシア「と、いうことで今回は本編ではまだ会って数行のリーシャ様にお越しいただきました!」

リーシャ「おほん!私が新王国の王女としてーーー」

アリシア「はい、キャラじゃない言い方をするリーシャ様は置いといて」

リーシャ「っておい!そこは王女らしさというものが必要だろう!」

アリシア「リーシャ様の王女らしさなんてそのうち崩壊しますよ」

リーシャ「なんだと!貴様!不敬罪で捕まえるぞ!」

アリシア「残念ながら俺、作者でもあるので不可能です」

リーシャ「そんなバカな!」

アリシア「逆に言えばリーシャ様を登場させないってこともできるんですよ」

リーシャ「そんな理不尽な!」

アリシア「さぁ、認めた方が楽になりますよ?」

リーシャ「わた、わ、わたしは...」

アリシア「さぁ、さぁ、さぁ」

リーシャ「...私は実は王女なんてキャラじやーーー」

アリシア「おっと今回はここまで!それでは!」





ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ......


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3.無敗の最弱とその親友

後書き追加版!




「ん........」

 

「おっ...起きたか寝坊助王子」

 

「...まだ夢が覚めないみたい...アリシアが見える」

 

「そうかそうかお前は俺が夢に出てくるほど恋しいのk...」

 

「そんなわけないよねっ!うん!現実だ!」

 

「理解してもらえてなによりだ」

 

馬鹿な、それでいて懐かしいやりとりを行いながら二人して笑っている。

 

「それにしても久しぶりだね、アリシア」

 

「ああ、久しぶりだな、ルクス」

 

『ルクス・アーカディア』知る人ぞ知る旧アーカディア帝国の元第七王子、今では女王の恩赦で解放されており、その代わりに国民の依頼をすると言う生活をしており、付いたあだ名が『没落王子』

まぁアリシアに関してはルクスのことは色々な呼び方をしている。

 

 

 

「それにしても何で連絡来れなかったのさ」

 

そうアリシアはルクスとは5年前会っただけだったのだ。

 

「こっちはこっちでお前とは違う意味で捕まってたのさ」

 

「はぁ?どういうこと?アリシアは罪人じゃないじゃん」

 

そう言ってルクスは首に嵌められた黒い首輪を触った。

ルクスの首に付いているこれは罪人の証なのだった。

 

「ま、罪人ではないにしろ、あんなことやらかしたからな」

 

と言ってアリシアは肩を竦めるもルクスは納得いかないといった様子だった。

 

「それで?何をしてたの?」

 

「軍の指導教官やってた」

 

「ふーん.....って、え、え、えぇぇぇぇぇ!?」

 

流石にルクスは面白い反応をする。いつかくるこの時が楽しみだったため話さなかったのも理由の1つだ。

 

「くっ...くっくっ...」

 

堪えきれずに声に出して笑った。

それでルクスは再起動したらしく、

 

「え、ちょ、なんでなんで!?」

 

驚きながらも呆然とした雰囲気が混ざった様子で聞き返してきた。

 

「詳しくは知らんが機竜操作の腕を買われてラフィ女王殿下に頼まれた」

 

「なっ.....僕とは大違いだ...」

 

それもそうだろう。旧帝国の王子が我が物顔で王都を闊歩してたら、またあの帝国に戻るのではないかと国民も気が気でないはずだからである。

 

コン、コン

 

ルクスが項垂れているとノックされた。

返事を待たずに、

 

「は、入るぞ」

 

そう言って入って来たのはリーズシャルテ姫だった。

瞬時にアリシアは頭を垂れようとしたが、

 

「ま、待て。その...気恥ずかしいからやめてくれ...」

 

そう言うとそっぽを向いてしまった。

これにはアリシアもきっかり1秒唖然とした後に、

 

「え、えっと...王女殿下がそうおっしゃるな...」

 

だが次のセリフを言い切らずに

 

「その敬語もやめろっ!」

 

えぇー?

 

アリシアは内心びっくりしていた。ここまで言われては王女と接するか女友達と接するか大差ない気が...と思っていた。それが顔に出ていたのか、

 

「これは王女としての命令だからな」

 

釘を刺されてしまった。

 

王女はそこで浅い深呼吸をすると、ルクスに向かい

 

「き、傷は痛むか...?ここの医師の腕はいいはずなんだがな...」

 

王女の顔が少し赤かったのは夕日のせいだろう。

 

「......」

 

何かちょっと変な雰囲気だった為静かに外へ出ようとしたのだが、

 

「まぁ待てアリシア・レイヴン」

 

止められた。

 

「貴様は何者で、なぜここにいる?」

 

来た。そりゃ女の園に、やたらと王女に頭を垂れる男が来たら警戒もするだろう。

 

「答え次第では警備員につき出さねばならんしな」

 

随分とお茶目な姫様のようだ。

 

「改めて、初めまして姫殿下。アリシア・レイヴンと言います。軍の指導教官を勤めていましたが、諸事情によりこの王立士官学校に赴いた次第であります」

 

直立し、王女を真っ直ぐに見ながら告げた。

 

とてつもなく長く感じられた数秒が経つと王女殿下は息を吐いて、

 

「まぁ、いいだろう。その事情とやらは...聞かないことにしておこう。ここに来たのだ、学園長にでも用があったんじゃないのか?」

 

「あ」

 

思い出した。学園長に手紙を渡さないといけないんだった。

 

「す、すみません。それではちょっと学園長に挨拶へ行ってきます...」

 

そう言って扉を出ると王女殿下も続いて扉を出て、

 

「あぁ、そうそう。この後どうなるかはわからんが、私のことはリーシャと呼んでくれ」

 

「へっ.....?」

 

驚いている間に王女殿下―――リーシャ様は扉の向こうへとまた戻って行ってしまった。

 

「えぇ.....」

 

アリシアは驚く気力も尽き、かすれた声しか出なかった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「......なるほどね」

 

アリシアは、ことの次第をレリィ・アイングラム学園長に説明した。

 

「もう一度確認するわ。貴方の教えている軍人がうちの生徒にちょっかいを掛けたため、その謝罪に、当校で生徒たちを伸ばすために教えてくれる、という訳ね。」

 

「ええ」

 

改めて確認したレリィ学園長。だが少しその確認は大袈裟な気がした。

 

「その処遇、より生徒を伸ばすため変えてもいいかしら?」

 

やけに鋭い目をして聞いてきたため、試されているのかと思ったアリシアは、

 

「ええ、より伸びるのなら、なんなりと」

 

するとレリィはさっきの目が嘘のように、にっこり笑って、

 

「じゃあ生徒として、ここに通って頂戴。」

 

「はい、わかり..............え?」

 

思わず聞き返す。

 

「だから、明日から生徒として通って頂戴」

 

「.......理由を聞いても?」

 

流石に不信感を抱き、聞き返す。

 

「実はリーズシャルテさんから、ルクス君を通わせたい、とお願いされてね。どうせなら、切磋琢磨できるライバルは少ないよりは多く、強い方がいいでしょう?と思ってね」

 

笑顔でそう言い放つレリィに、

 

(この人も中々にお茶目だな.....)

 

そう思わざるを得ないアリシアだった。

 

 

 

 

そして無事王立士官学園(女の園)への入学式を果たした

 




アリシア「激白!『製作秘話のコーナー』!」

アリシア「第三回たる今回は前回に引き続き!」

リーシャ「リーシャだ」

アリシア「はいリーシャ様です」

リーシャ「反応薄いなー...」

アリシア「前回も前々回も秘話なんて語ってないから早く言いたいんですよ」

リーシャ「あー...そうだったな、じゃあそうだな...会話と戦闘の描写が苦手って話するか?」

アリシア「そーですねー...、まぁリーシャ様の言った通り、会話と戦闘の描写がとにかく苦手で。会話なんて前回のラフィ女王陛下の謁見なんて軽く会話っぽくするつもりがあーなったからなー」

リーシャ「読み返すと戦闘のとことか、何がどうなってるのかわからなくなるよな」

アリシア「そーゆー所を修正しながらこのコーナーの追加もやって行きます」

リーシャ「この作品、いつの間にか話としても修正されてることが多いからな、定期的に最初から読み直すことをオススメするぞ」

アリシア「まぁこんなところで第三回を終了したいと思います」

リーシャ「じゃあまた次の回でな」


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4.学園生活①

はたまた書き始めは続けざま。
いつ投稿できるのやら...


「―――――と言うわけで、彼らがこの学園に通うことになった、ルクス・アーカディアとアリシア・レイヴンだ。皆慣れないことも多々あるだろうが、よろしく頼む」

 

例によって転入の挨拶だが、クラスメイト―――やはり女子しかいない―――の前に立たされている男二人は、女の園だと喜べる様子ではとてもなかった。ルクスは勿論のことアリシアも教官をやっていたとは言え、人前に立つのは緊張する。

 

「ほら、お前らも自己紹介しろ」

 

すぐ横に立つこのクラスの担任の女性―――ライグリィ・バルハート―――に急かされ、急ぎ挨拶をした。

緊張しているのはライグリィ教官が隣にいるのも理由の1つだ。

 

「えっと、ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします......」

 

「アリシア・レイヴンです。よろしく」

 

ルクスに続いてアリシアも自己紹介をする。

だがそれに続いたのは意外な人物だった。

 

「アリシア・レイヴンの機竜操作の腕は私も認めている。何かあったら聞いてみるといい」

 

そう言ったのはライグリィ教官だった。

これにはアリシアは泡を食った様に

 

「ちょ、余計なこと言うなよ、ライグリィ――」

 

「教官、だ」

 

 

 

 

「...教官」

 

ライグリィ教官に一睨みされ縮こまったアリシアはそう最後に付け足した。隣のルクスは少し笑っているが、周りの生徒はそうもいかない。皆近くの人とひそひそと話始めた。

それもそうだ。ライグリィ・バルハートと言ったら女子差別のあった旧帝国でも唯一の女性機竜使いとして活躍し、クーデターでは新王国側にもついた。

さらにその美貌を含め多くの女子生徒から絶大な人気を誇っているライグリィ教官が、若い男の機竜操作の腕を買い、しかもその男が教官を呼び捨てで呼んだ―――――呼ぼうとしたら、それはどんな関係かと女子の喜びそうな話題に繋がるわけだ。

 

「あー...アリシアとは私がこの仕事に付く前に少しの間だけ一緒に仕事をしていただけだ」

 

ライグリィ教官自ら説明したが、それを聞くと先程にも負けず劣らずの盛り上がり具合だ。

 

(だ、誰か止めてくれ...)

 

そう思い隣を見るも、ルクスは目を反らした。

アリシアが内心、この野郎...って思っていたが、幸い別の声が止めてくれた。

 

「......あ。ルーちゃんとアーちゃんだ」

 

間の抜けたような声が飛んで来た。声の出所は教室の窓側の席でそこには桜色の髪を持つ少女―――女学校だから男がいるわけない―――がいた。

 

「「――――――え?」」

 

「久しぶり、だね」

 

ルクスとアリシアの間の抜けた驚きを気にも止めず少女は続けて言った。

 

「えっと、もしかして、フィルフィ......?」

 

「うん、そうだよ」

 

ルクスの問いに、少女が頷いた。

 

「学園に通うんだ?嬉しいな。よろしくね、ルーちゃん、アーちゃん」

 

あんまり嬉しくなさそうな棒読みで、少女―――フィルフィは言う。

 

「あ、うん。こちらこそ、よろしく」

 

ルクスは挨拶を交わしたが、アリシアは呆然と立っていた。

 

「アーちゃん?」

 

フィルフィの声に再起動したらしくハッとした表情を浮かべたアリシアだったが、すぐに笑顔になり

 

「あ、ああ。久しぶり。よろしく、フィルフィ」

 

何処か戸惑ったようにそう言った。

 

 

 

そこへ、

 

「よし、ルクス。お前はその子の隣だ」

 

とライグリィ教官が指した。

 

ルクスはフィルフィの隣に座ると安堵の息を吐いた。

そしてアリシアは一番奥の席に着いた。

 

そしてルクスとフィルフィは何か話し始めると

 

「フィーちゃん、でしょ?」

 

そっぽを向いていたフィルフィにそう言われ、数回の会話―――――ルクスが話し掛けてるだけ―――――の後にルクスが負けたように、

 

「......ねぇ、フィーちゃんってば」

 

諦めたようだった。そのやりとりに教室中から、くすくすと、笑い声が漏れた。それにはついぞ、ライグリィ教官までも笑いを押し殺していた。

目を覚ましてその様子を不機嫌そうに見ているリーシャともう一人の女生徒の視線に、そして未だアリシアの様子が少し変なことにルクスが気付くことはなかった。

 

 




アリシア「激白『製作秘話のコーナー』」

パチパチ

アリシア「最初に一つ激白させて貰いますけどこれ編集する時に間違えてブラウザバックして2回目書き直してるんだよね」

アリシア「だからちょっとやる気の削がれた中やって行きます」

ルクス「せめて順序通りにやろうよ」

アリシア「うるせー...気力が持たないんだよ...。はい第4回たる今回のゲストはーーー」

アリシア「...いやお前が順序守れよ」

ルクス「はいご紹介に預からず勝手に出てきてしまった元第七王子ルクス・アーカディアです、よろしくお願いします」

アリシア「ね、こうやって無視してくるのひどいよね」

ルクス「頭っからやる気無さ全開なのもひどいと思う」

アリシア「んなことはどうでもいい」

ルクス「どうでもいいって...」

アリシア「今回吐露していきたいのは俺(作者)の表現のバリエーションの悪さとその感性の無さだ」

ルクス「まぁ、気にする人は気にするところではあるよね」

アリシア「趣味どころか興味で始めた小説書きだが存外書いてて皆さんからの感想やらUA(ユニークアクセス)が増えてくと何かダメだなーと思うようになる」

ルクス「それにいざ読み返すと何か、変、って思うよね」

アリシア「川◯礫様やら明月◯里様の著作を御愛読させて頂いて、あの辺を参考にしてるんだが、いざ自分のを見ると違和感が半端ない」

ルクス「そんな拙いこの作品ですが、皆様に読んで頂き喜ばしい限りです」

アリシア「嬉しさのあまり、ルクスがオクラホマミキサー踊ります」

ルクス「踊りません。ではまた次回!」


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5.学園生活②

さて、このモチベがいつまで続くのやら...




「えっと、ありがとう。クルルシファーさん」

 

 

 

学校の屋上まで連れてこられたルクスとアリシアであったが、ルクスはクルルシファーの意図を汲んでお礼を言った。

 

それは数分前に遡る―――――

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

昼休みの始まった直後、ルクスの元へはすごい数の女生徒が集まってきた。フィルフィとのやりとりが警戒を解いたんだろうが、授業の小休憩の度にルクスの元にくる女生徒の数は増えていき、今では溢れ帰っていた。少なからずアリシアの方にも来ていたが、ルクスの方が圧倒的に多かった。だがそれの一番の理由だと思われることを直後、一人の女生徒が言った。

 

「ルクスくん。そういえば雑用のお仕事も、まだやってるんだよね?」

 

「えっと。はい、まぁ......、僕の義務ですから」

 

ルクス自身そこで気が付いた。だがもう遅い。

 

「あ、じゃあ早速頼んじゃおうかな?」

 

「あーずるいずるい。私も頼みたいのに」

 

今度はルクスへの依頼でわいわいし出した。

もっとも、関係ないとたかを括っていたアリシアであったが、それを直ぐに後悔することとなった。

 

「アリシア...くん。機竜操作について...教えてもらえないかな?」

 

一人の女生徒が声をかけてきた。だがそれで止まらなかった。ルクスの方にいってたはずの人たちまでアリシアの方に来た。これはやばいと思っていた時、徐にティルファーが立ち上がると、

 

「みんなー、依頼があったらわたしがまとめるよ?一度に言い寄っちゃ、ルクっちもアリっちも大変でしょ?」

 

などと言い出した。しかもとてつもなく不名誉なあだ名付きで。

そうしてると話がまとまったのか、何処からともなく箱を2つ取り出した。

片方がルクスでもう片方がアリシアの依頼箱らしい。するとすごい勢いで箱に依頼書が溜まっていった。

アリシアとルクスは同時に項垂れた。更にはルクスにリーシャ様、フィルフィも加わり、大騒ぎになり出した。これ以上はやばくないか?アリシアが思考を巡らせ始めたとき、

 

 

 

 

 

 

「―――忙しそうなところ悪いけど、いいかしら?」

 

 

 

 

 

彼女―――――クルルシファー・エインフォルクに助け出された。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

「助けてくれた......んだよね?たぶん」

 

ルクスの問いに、至って真面目そうに驚いて

 

「子供っぽい顔の割に、意外と鋭いのね?」

 

言った。

 

「そ、それは関係なくない!?意外と気にしてるんだよ!?」

 

ルクスとクルルシファーはその後も数回やりとりしていたが、今度はアリシアに向かって

 

「こうやって見てみると意外と女顔なのね」

 

言った。

 

「ねぇ、ひどくない?ひどいよね。絶対わかって言ってるよね?」

 

こちらも凹んでいた。

 

「まぁ、助けたのもあるけど、依頼もあるわ」

 

無視した上、唐突に真面目な顔になったので、ルクスとアリシアも少し身構える。

 

「......あなた達、『黒き英雄』って知ってる?」

 

口を開いた。

 

「......王都にいましたからね。よく聞きますよ」

 

何も喋らないルクスに代わり、アリシアは少し前に出て言った。

 

「そう.....じゃあ、『白き影竜』については?」

 

「『白き影竜』?」

 

更に聞き込んで来たクルルシファーに対し、今度はルクスが聞き返した。

 

「えぇ、5年前のクーデター、『黒き英雄』の影で『黒き英雄』にも負けず劣らずの活躍をしたとされる機竜よ。余り知名度は高くないようね」

 

「......それで、依頼とは何でしょう?」

 

少し警戒した様子でルクスが尋ねる。

 

「その英雄のどちらかを探して。私はその人に用があるの」

 

 

 

 

 

 




アリシア「短!」

アリシア「ああいや申し訳ない、第4回のこのコーナー書いてから第5話読んで、それでこのコーナー書こうとしてるんだが...」

アリシア「第5話短過ぎないか?」

アリシア「いやまぁ作者俺なんだが、いざ読み返すと短過ぎると率直に思った」

アリシア「見たら1400字しかない」

アリシア「そもそもネタ考えるの得意じゃないんだよね」

アリシア「だから基本方針は原作ルート辿るようにしてるし、だから原作知識必須タブつけて原作と同じ描写のとこを削るということをやっているんだが」

アリシア「最近(2018/11月編集現在)33話の編集してるんだけどこの少し前からなるべく原作から遠いようにと思いまして」

アリシア「まぁ暖かい目で見守っといてくれ」

アリシア「じゃ、第6回で会おう」


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6.歓迎会と入団試験

できたー.....

タグの見直ししなきゃ.....






「あーもう、疲れたぁあぁあ.....」

 

 

その日の夜。

 

女子寮に併設された、大浴場。

ルクスは昼間のあのあと、空腹に悩まされながら午後の授業を過ごした。

もっともアリシアは空腹とその後に続いた慣れない依頼のせいでもう既に休んでいる。

1日を過ごしていてわかったことだが、アリシアについてはクラスの人以外はあまり知らないようだった。それでもアリシアに依頼が大量にあったことを考えると、クラスの大半の人はアリシアにも依頼しているということだろう。

そんなことを考えながら、依頼である大浴場の掃除を行っていた。

だが別のことも考えていた。

 

「僕なんかが、こんな所にいていいのかな?」

 

思わずそうぼやいていた。雑用王子にしては良すぎる待遇。良すぎるが故にルクスを悩ませていた。

 

だがそこで、コンコンと言う軽いノックの後、脱衣所への扉が、いきなり開かれた。

 

「わ、わわっ!?ごめん!もうお風呂入って終わってて、今はちょっと―――!?」

 

ルクスは慌てふためいていたが、

 

「期待に添えなくてごめんなさい、兄さん。見たかったですか?私たちの裸」

 

冷ややかな目線と言葉を向けてきたのは、妹のアイリだった。三和音の一年生、ノクトもいる。

 

「な、そ、そんなわけないだろ!あ、ノクトさんも、こんばんは......」

 

「Yes,ですが、仕方ないかと。年頃の男性は、普段から何かと大変だと聞いています。肉親に対して欲情するのは、果たして如何なものかと思いますが」

 

尚も慌てていたルクスだが、普通にノクトに挨拶したら、これまた辛辣な言葉を返された。

 

「ほんと...みんな酷いよ...」

 

打ちひしがれていたルクスに追撃が襲いかかる、

 

「ちょっとしたお仕事があります、兄さん。後で女子寮の大広間に、真っ直ぐ来て下さい。寄り道禁止ですよ。それじゃ」

 

「あ.....うん、すぐ行くよ」

 

それを聞き届けると踵を返し、行ってしまった。

 

「まぁ...がんばろう」

 

一人呟いて、残り少しの掃除を再開した。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

その後アイリに言われた通り、寄り道せずに大広間に行ったルクスだが大広間の前でアイリと合流し、連れられた先は食堂だった。

そしてそこでルクスを迎えたのは何人もの生徒たちであり、ルクスのためにサプライズで編入祝いを開いてくれたようだった。

だがそこにはアリシアの姿はなく、何気なくいたレリィに聞いたところ、アリシアは1ヶ月の限定的なもののためおおっぴらに公表するつもりはないとのことだった。

 

そしてルクスはようやくここにいてもいいのだと認められた気がした。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

その翌日、休息日であったがアリシアは依頼にあった、工房へと向かっている。休日の朝にしては少し早い時間ではあったが、日課の朝の鍛練を行っていたため、頭は冴えていた。程なくして工房に着いた。

ノックし返事を待ってから中に入ると、ルクスとリーシャがいた。

どうやらルクスにも依頼があったようだ。

そこでアリシアは話を進めるため依頼主である所長を探そうとルクスの方を見た。するとルクスは苦笑いで返してきた。そして指の指す方向には......リーシャ様がいた。

 

「は.....?」

 

思わず聞き返したが、

 

「私がここの所長だ」

 

ルクスより早くリーシャがそう言った。

 

「へ......?」

 

余り驚愕と言う感情を知らないアリシアだったが、これにはまさに驚愕であろう感情で頭は溢れていた。

だが次の行動が珍しい感情によって遅くなった所に、肩をプルプル震わせたリーシャが静かに言った。

 

「お前もなかなかに人を挑発するのが上手い奴だな......」

 

あ、ヤバいと真面目に思っていると、幸いルクスが助けてくれた。

しかもリーシャは少し顔を赤らめてルクスの言うことを聞いたのであった。

 

「まったく...これでようやく本題に入れる」

 

リーシャがぼやくとルクスが聞いた。

 

「本題って......依頼ですか?」

 

「ああ、そうだ。といっても依頼と言うのかは微妙なことだがな」

 

そう言うと

 

「着いて来い。お前らの新しい仕事場に案内してやる」

 

リーシャはキラリと目を光らせると歩き出した。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

「なんなんだよー、もうー」

 

リーシャが連れた先は、演習場であった。リーシャがルクスとアリシアを騎士団に入れたいとの事だったため、

急遽チーム対抗戦を開くこととなったのだ。

 

あっという間に終わった、チーム対抗戦。

その後、演習場の控え室にはリーシャとルクスとアリシアが残っていてリーシャは頬を膨らませていた。

 

「そろそろ機嫌を直してください。一応勝ったじゃないですか?」

 

ルクスが困り顔でご機嫌斜めなリーシャを宥めると、

 

「何でお前は攻撃しないんだよ!?アリシアはガンガン攻めてったのに!アリシアは認められたが、お前がいなきゃ何の意味もないじゃないか!」

 

アリシアは存在を全否定された気がしたが、ルクスはこの対抗戦の間、一度も攻撃することなく、防ぐか回避するかしかしてなかった。

敵を倒したのはリーシャとアリシアで、当然ルクスの入団は認められなかった。リーシャは尚もぶつぶつ言いながら仕切りの向こうで着替えていたが、着替え終わったかと思うと突然出て来て、

 

「そ、そういえばこの後は、雑用の依頼は請け負っていなかったはずだな?」

 

リーシャは口元を尖らせ、少しだけ頬を赤くしながらルクスに聞いた。そのルクスは一度アリシアの方をみると、アリシアは無言で頷くので

 

「え、まぁ......はい」

 

ルクスはリーシャの方を見て頷きながら答えると

 

「じゃ、じゃあ追加の依頼だ。その―――、今からわたしと、つき合ってくれ」

 

 

 

こうしてアリシアは手持ちぶさたになったのだった。

 

 




アリシア「第6回、激白!『製作秘話のコーナー』」

アリシア「今回のゲストは...」

アイリ「アイリ・アーカディアです、よろしくお願いします」

アリシア「喜べ、アイリだ」

アイリ「ものすごい嬉々としてるのは嬉しい限りなのですが、そのうちクルルシファーさんと付き合うこと考えると複雑です」

アリシア「やっぱり決めきれないよねー」

アイリ「優柔不断は好まれませんよ?」

アリシア「...はい」

アイリ「アリシアさんがそんな状態の中始めますが、今回は...何でしたっけ?リアル?事情的な?でしたっけ?」

アリシア「はいそういうことで、このバカみたいな不定期さの原因等の説明をば、と思いまして」

アイリ「趣味で始めたんですよね?」

アリシア「えぇ、まぁ、このハーメルンに投稿する方には恐らく、学生であったり社会人であったり、趣味で始めたりなどなど...いや趣味以外があるなら逆に知りたいですけど」

アイリ「そんな中、アリシア(作者)さんは学生、と」

アリシア「そうなの、しかも今受験してるから」

アイリ「なるほど、それで更新が遅くなる、と」

アリシア「その上趣味で始め、更に俺が結構な気分屋なんで気分向いたら一気に編集するし、向かなかったら数ヶ月空くしって感じ」

アイリ「気分屋もあまり印象良くないですよ」

アリシア「すみません...」

アイリ「まぁそんなわけでダラダラなこの小説でーーー」

アリシア「その前に1つお知らせが」

アイリ「......なんでしょう」

アリシア「春頃からオリジナルも執筆を始めようかと」

アイリ「..............はぁー」

アイリ「二股は最低です」

アリシア「いや違うからね!?」

アリシア「えー...こほん、ジャンルとしては異世界系、主人公最強、を考えているんですが...」

アイリ「が...?」

アリシア「いろいろ漫画見てて思ったんですが、異世界から地球モノってあんまり見なかったので、それを書こうかと」

アイリ「新境地...だといいですけどね」

アリシア「その後、異世界に召喚される、みたいなの、良くない?」

アイリ「まぁ悪くはないんじゃないですか?」

アリシア「と、言うことで不定期の裏事情と新作のお知らせでした」

アイリ「春からはもう少しペース上がるのでご安心を、それではまた次回お会いしましょう」


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7.再会

遂にアリシアの機竜について、少しだけですが触れます。




ルクスがリーシャに連れられ、一人控え室に残されたアリシアであったが、その頃には昼食時になっていたため食堂に向かった。

食堂に着いた頃には昼としては少し遅い時間になっており、生徒はあまりいなかった。

 

だがあまり目立ちたくなかったアリシアにとっては幸運だった。

今までのご飯も生徒の大半が出払った後の遅い時間に食べており、今まではあまり人がいなかったが、今日は休日故か多からず生徒が見れた。

それぞれ同席者と話したりしてるらしく、アリシアが来たことに気付いてる生徒はいなかった。

 

「あっ........」

 

思わず声が出た。

アリシアがトレイに昼食を乗せ席を探している時だ。

懐かしい、本当に懐かしい人がいた。

アリシアからは笑みが漏れ、近づいて行くと、対面に座るおとなしそうな女生徒―――初日に助けた―――との会話が聞こえてきた。

 

「まったく......本当に兄さんには困ったものです。入団試験が終わって直ぐだと言うのに、もう次の依頼ですか。だいたい.......」

 

尚も不甲斐ない兄を嘆いてるようだ。絶えず出てくるその言葉には反面、愛も籠っていることだろう。

その事に苦笑いしながらも近づき、当人の―――――特徴的な白髪にルクスと同じ黒い首輪をしている少女の横に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイリ」

 

その名を呼んだ。

 

「はい。なんで......しょ......う.....」

 

呼ばれ、振り向くとその顔は驚愕へと変わっていった。

 

「う...そ、アリシア...さん......?」

 

戸惑いの含むその声は、しかしとても美しかった。

 

「久しぶり、アイリ」

 

アイリの瞳はだんだんと涙ぐんでいった。そして一粒の滴を落とすと、

 

「もう......どこに...行ってたんですか......?」

 

堪えるようにそう言うアイリであったが、遂に堪えきれなくなったように、アリシアの胸に飛び込んできた。

そして声にならない声で静かに泣いていた。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

アイリとはルクス同様、5年前別れたきりであった。

 

ひとしきり泣いたアイリは恥ずかしいのかさっきから隣で赤くなり、背中を丸めていた。

アイリの隣に座り、昼食を食べ終えたアリシアは隣のアイリを宥めながら、正面に座るおとなしそうな少女ーーーノクト・リーフレットと話をしていた。

 

「ところでアリシアさん、何故ワイバーンであそこまで戦えるのでしょうか?」

 

初日の戦闘のことを言っているのだろう。

 

「変な話ですが私にはあれがワイバーンには見えませんでした。なんと言うか......出力、でしょうか?汎用機竜のそれにはとても思えませんでした」

 

「ノクト、それは―――」

 

ノクトの疑問はもっともだ。それに対しアイリが止めようとするが、アリシアが右手でそれを止めた。

 

「いいよ。答えるよ」

 

「ですがあれは......」

 

その様子でノクトもなんとなく察したのだろう。

 

「Yes,安心してください、アイリ。従者の一族、リーフレット家の誇りと、我が主に誓って今からの話を内密にします」

 

それを聞いて渋々といった渋面でアイリは引き下がった。

それを見てアリシアは一つ頷くと話始めた。

 

「そのためにはまず、俺の持ってる神装機竜について話さないといけないかなー?」

 

無言を肯定と判断しアリシアは続ける。

 

「俺の神装機竜の名は『ゼル・エル』、その神装は『厄災(ディザスター)』。能力は普通の強化だ。」

 

「強化.....ですか」

 

「うん。全体的に能力の底上げを行うような感じね。でもその強化は数十倍にも及ぶ」

 

「す、数十倍......そんなもの使ったら機竜のエネルギーが一瞬にして消えるのでは...?」

 

「そう、『厄災』の最大の特徴にして欠点は『ゼル・エル』の装着中には発動できないことなんだ」

 

「神装機竜なのに神装が使えない.....と言うことですか?」

 

「厳密には違うんだけど....まぁ、そういうこと。だけど発動条件は別にあるんだ。それは『ゼル・エル』を装着してないときに、機攻殻剣を少しでも鞘から抜けばいい。それで発動できる」

 

「それでワイバーンに乗ってる時に神装を発動し強化した、と言うことですか。なるほど数十倍ともなればワイバーンは神装機竜をも上回りますか......。でもそれは流石に強すぎませんか?」

 

 

 

「効果時間は発動後、最大で約30秒間です」

 

アイリが補足する。

 

「更には生身でも使用可能。使えば汎用機竜の攻撃程度なら防げるよ」

 

アリシアもそれに続く。

 

「それは......流石に破格の性能......と言うわけでもありませんね。他にデメリット等があるのでしょうか?」

 

「ええ、冷却時間(クールタイム)が発動時間に関係なく、効果終了後30秒間は使えません」

 

「それでも30秒ですか.....確かに機竜同士の戦闘に置いては少々長いかもしれませんが....」

 

「ええ、私もそう思って他に欠点等がないか調べてるんですが....」

 

アイリはそう言いながらアリシアをチラっと見るが、アリシアは肩を竦めるだけだ。

それを見たアイリはノクトの方を再度向くと、首を横に振った。

 

「実際にないのか、わかってないだけなのか、それともアリシアさんが黙ってるだけなのか分かりませんけど」

 

ジトーっと見てくるアイリに微笑み返すと、アイリは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

そんなアイリの頭を撫でながら、ノクトへ向き直し、

 

「まぁ、この事は、ね」

 

「Yes,大丈夫です。もし漏洩があったとしたら、その時は私を煮るなり焼くなり好きにして構いません」

 

「流石にそこまでは...ね」

 

その言葉にアリシアは苦笑いを浮かべた。

この後も談笑を軽くしていたが、午後も1つだけ依頼があったためアリシアはアイリたちと別れた。

 

 




アリシア「激白!『製作秘話のコーナー』!」

アリシア「前回、今回初登場のはずのアイリが出てしまったので、今回はゲストなしで行こうと思います」

アリシア「最近編集作業を再開して気がついたんですけど、このコーナーの最初の括弧、二と三話の間で変わってるんですよね」

アリシア「と、前回オリジナルがーって言ってたと思うんですが、やっぱ止めるかもです。か、言ってたジャンルじゃなくなりそう?って感じです」

アリシア「そんじゃ、新作作ることになったらその時はよろしく!」


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8.相談、そして急襲

少々時間軸が原作とは異なります




午後の依頼を終えた後、アリシアは依頼をしていた応接室にいた。依頼自体は生身での戦闘、即ち護身術についてだった。特に問題なく終えた依頼であったが、やはりあまり慣れない依頼で疲れ一息ついていた。

 

「あれ?こんなところでどうしたの?アリシア」

 

そこへ妙に暗いルクスが入ってきた。

それをルクスに聞いたところ、リーシャに対し「王女らしく」なんて言い、王女とは何かと返され、ルクスは自分の言葉に後悔しているらしかった。

 

 

 

 

「なんと言うか、ちっぽけな悩みだな」

 

アリシアは突き放すようにそう言う。だがルクスは少なくともアリシアとは親友であり、よくその性格を知っているため、何が言いたいかは理解できた。けど、

 

「周りから見たらそうかもしれないね。でもリーシャ様にとっては自分の中の大半を占める重要なことだと思うよ......」

 

ルクスの言わんとすることはアリシアにもよくわかる。だが...いや、だからこそ

 

「諦め、受け入れることも重要だと思うぞ?俺も機攻殻剣(コイツ)のデメリットに関しては受け入れてるつもりだし、なにより特別なら特別なりに楽しまないと、な?」

 

俺がルクスに笑いかけると

 

「ほんと、アリシアは前向きだね...」

 

苦笑いを浮かべるルクスに追撃を放つ。

 

「お前だって受け入れてるじゃんか。自分が女子校に通ってるって事実を、な」

 

「ちょ!それはアリシアもだろ!」

 

「俺はーーー、ほら、どっちかと言えば教える側だし?」

 

「僕と一緒に教えられる側だよね!?」

 

テンパるルクスにアリシアは笑う。それに吊られるようにルクスも笑っていたが、ひとしきり笑うと、

 

「なんか、悩んでた僕が馬鹿みたいだ......。でも、ありがとう、アリシア」

 

「どーいたしまして」

 

笑いかけるルクスに肩を竦めながら答えるアリシア。

 

「王子さまも大へ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォオオン!

 

 

 

突如鳴り響いた鐘の音に二人は、しかしただならぬことを感じとり、顔を見合せ一つ頷くと同時に応接室を後にした。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「こら!アリシア!お前どこいってたんだよ!」

 

さっきルクスから聞いた話が嘘かのようなリーシャに、きっちり1秒呆然としていたが、

 

「お前も騎士団の一員だからな、出撃だ」

 

リーシャが続けて言った。

状況は大型の幻神獣が出現、第一の砦は既に突破され城塞都市(ここ)に来るのも時間の問題とのこと。

それに対し騎士団は緊急出動となったわけだ。

 

「3分間待ってやる。さっさと着替えてこい」

 

その言葉にアリシアはその場で服を脱ぎ始めた。

 

「ちょ.....お前、何をやっている!?」

 

焦るように目を反らしたリーシャ。後ろにいたアイリも目を隠していたが、ルクスは特に反応を示さない。

そして服を脱ぎ終えたアリシアを見てリーシャは驚愕した。

 

「アリシア.....お前まさか、いつも装衣(それ)を着ているのか!?」

 

そう。アリシアはいつも服の下に装衣を着ていたのだ。

 

「王都にいたころは緊急出撃なんてよくありましたからね」

 

そう言うアリシアに信じられないと言った目でリーシャが見てくる。それもそうだろう、アリシアでさえ慣れててもこれを着ながら生活するのはちょっと気分が悪い。

 

「まったく.....お前には毎度驚かされてばかりだな」

 

とリーシャは言うが、

俺そんなに驚かしてなくね?っとアリシアはルクスを見るが、ルクスは肩を竦めるだけだった。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

演習場でリーシャその他騎士団員と飛び立ったときリーシャの纏う、見覚えのない機竜に驚いた。

 

「ん?ああ、これか?これは《キメラティック・ワイバーン》と言ってな。私が開発した装甲機竜だ」

 

アリシアの視線に気付いたリーシャがお世辞にもあるとは言えない胸を張り、説明した。

しかしこれには、さしものアリシアも驚愕した。機竜は未だほぼ全て解明されてない。それなのにこのお姫様は言った。開発した、と。つまり世界初。いや機竜を最初に作った、遺跡の民を除いて世界初だろう。

王女らしく......この時点で全くもって王女らしくなんてないな。アリシアは内心苦笑いしていた。

 

 

 




段々と投稿ペースは落ち、本文は短くなって行く...



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9.戦闘開始

最近ほんと、暑いですね...
頭回らないと誤字脱字が多くなりますのでご了承下さい。



「こいつが―――――例の幻神獣か?」

 

幻神獣より200mlほど離れた大地と上空から、アリシアを含めた騎士団のメンバー十数人は、目標を確認する。

崩れたゼリーのようなコイツは知性をほぼ持たないスライム型と呼ばれ、弱点である核は分厚い粘液に囲まれている。

 

(さて....どうするかな?)

 

アリシアはいつもの癖で作戦を考えていたが、

 

「いきなり撃つ気ですか!?」

 

背後にいた騎士団のひとりが、怯えたようにそう叫ぶ。

見ればリーシャが機竜息砲を構え、エネルギーを充填させていく。

 

「やってみなくちゃ始まらないだろ。行くぞ!」

 

ドン!と音をたて着弾したが、粘液飛び散っただけであった。

本当にお転婆姫だなー、アリシアはそう思った。

その後リーシャは数秒かけて考え込んでいたが、ひとつ頷き、

 

「よし。核めがけて、主砲での一斉射撃だ。全員、200mlの距離を取って、エネルギーを充填しろ。秒読みは私がする」

 

皆も頷き、機竜息砲を構える。

アリシアもその作戦に意義がないため、指示通りエネルギー充填を開始する。

 

「秒読みを開始する。ゼロで斉射だ。5、4、3、2――――――」

 

 

 

 

 

 

―――――ィイイィィイイイイ!

 

そのときどこからか、耳障りな笛の音が聞こえた。

すると、幻神獣の体に異変が起きた。

幻神獣の体が、膨れ上がり、そして爆発した。

 

「障壁を最大展開しろ!機竜咆哮も使え!」

 

リーシャの声が聞こえたときには、目の前が一瞬にして白く染まった。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「ほう、随分と王女ヅラが板についてきたではないか、リーズシャルテよ」

 

飛びかけていた意識がその声で呼び戻された。

ひとつ周りを見回してみたら、騎士団は半壊していた。

 

「だがな。お前はそんな器ではない。そのような誇りなどないのだよ」

 

「貴様。何を言って―――ッ⁉」

 

再び聞こえたその声にリーシャが反応する。

すると上空より飛来した砲弾がリーシャへと肉薄する。

かろうじて直撃を回避したリーシャは、だが機竜ごと地面を横転した。

 

「うっ......く!一体、何の真似だ......⁉お前は確か王都から配備された、警備部隊の隊長では―――――⁉」

 

「それは間違いでございます」

 

上空を睨むリーシャに、嘲るようにそう言った。

 

「私がやって来たのは帝都からでございます、リーズシャルテ王女殿下。アーカディア帝国近衛騎士団長、ベルベット・バルトが、私の名です」

 

アリシアにそして恐らくリーシャにも戦慄が走った。

帝都から来た。つまり......反乱軍だ。

 

「新王国を裏切ったのか.....?」

 

「裏切ったなどと、人聞きの悪いことを。正道に立ち返ったのだよ。力を得てな!」

 

それを聞き動いたのは、リーシャでもベルベットでもなかった。

 

「真面目なやつだと思っていたが......面白い冗談を言えるではないか、ベルベット近衛騎士団長よ」

 

先程まで意識を朦朧とさせていたアリシアだった。

 

「なっ......⁉どうしてお前が......ッ⁉」

 

「おいおい、大物ぶってた仮面が剥がれてるぞ」

 

あまりの動揺に言葉使いが荒くなっていたが、それだけアリシアがここにいるのは計算外なのだろう。

そしてベルベットが更に何か言う前に告げる。

 

「ああ.....お前の部下だったな。先日、少々問題を起こしたやつがいてな。そいつの尻拭いに来てるんだよ」

 

それまで固まっていたベルベットであったが、ようやく再起動し、

 

「そ、それはそれは、ご迷惑をお掛けしました、アリシア教官殿。ですが、男なあなたが私を邪魔するわけないですよね?」

 

表面を取り繕ってはいるが、内心恐る恐るなのが丸分かりだ。

 

「期待には添えないな.....。コイツらのお守りも頼まれてるもんでね」

 

「それはとても残念でなりません。あなたの様な優秀な方なら是非、帝国にとお思いしていましたのに」

 

あくまでも残念そうにベルベットは言った。

 

「おいおい、勝てると思ってるのか?」

 

「も、もちろんですとも。勝算あっての実行ですから」

 

そうすると、ベルベットは中空へと降りてきて先ほど暴ぜた幻神獣の前で、小さな黄金の笛を手に取った。

 

「さあ、孵れ。卵よ」

 

そして、またも不協和音が鳴り響く。

直後。

ドロドロになっていた幻神獣の中から、100体近い幻神獣―――ガーゴイル型が出てきた。

 

 

 

 

「目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。≪ティアマト≫!」

 

リーシャが素早く≪キメラティック・ワイバーン≫を解除し、初日に見た神装機竜―――――≪ティアマト≫を纏う。

そこへ―――――

 

「リーシャ様はベルベットの相手を。俺は幻神獣をやります」

 

アリシアは言う。リーシャはその真意を図ろうと―――もしくは本当に大丈夫なのか、考えている様子だった。

そして―――――

 

 

「よし、わかった。幻神獣の相手は任せた。」

 

リーシャは言った。

 

「そんな!流石のアリシア君でもそれは無理ですよ!」

 

騎士団の一人がそう叫ぶが、

 

「騎士団の皆さんには私の援護をお願いします」

 

アリシアはそうとだけ言って、飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『厄災』」

 

 

 

 

 




次回はとうとう二人の英雄の正体がーーー
って言わずともわかりますよねー



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10.黒き英雄とその影

決着!
ただ事後に関しては次回になります。




幻神獣に一瞬で近づき、切り捨てる。

永遠とその作業のみを行う。

 

 

戦闘開始より約2分半。3回目の冷却時間だ。

だが段々と一度の神装発動時に倒せる幻神獣の数が減ってきた。

もう既に騎士団は撤退。敵の総数自体も減っているため、幻神獣同士の間隔が広く、接近に時間が取られるのもそうだが、1回目の発動後より幻神獣はなるべく回避行動を取り始めた。

明らかに時間稼ぎだろう。

比較的機竜適正の高めなアリシアだが、異様と言うほどの高さではないため、そう長くはもたない、そう思ってのことだろうし、実際にアリシアは焦っていた。

 

集中力も途切れ始め、冷却時間中に被弾することが多くなった。

 

 

 

そして、幻神獣の数が20を切った、8回目の神装発動後、それは起きた。

 

 

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

鈍いその音と共にリーシャは大地に落ちた。

 

「リーシャ様‼」

 

アリシアも助けに行こうとするが、幻神獣がそうさせない。

 

 

「『神速制御』かつての帝国軍に伝わる、機竜使いの奥義の一つだ。近衛騎士団長まで上り詰めてから、更に五年もの修練を経て―――ようやく俺はこいつを体得したのさ」

 

自慢げに話すベルベットの声はアリシアには届いていない。

尚も何か会話している様だが、神装の使えない汎用機竜ではアリシアは幻神獣の対処で手一杯なのだ。

もともと強かったアリシアだが、神装なしではルクスに及ばない。そのためリーシャを助けに行きたいのだが、幻神獣を突破することができない。

その上反乱軍の援軍さえいる。

だが、命令がないからか、幻神獣以外アリシアに攻撃するものはいなかった。

それが唯一の救いだった。

 

 

 

だが、とうとう冷却時間があと数秒のところで状況が動いた。

 

「―――いいだろうリーズシャルテ。気が変わったよ。お前のばらばらになった死体を王城に投げ込んで、そのまま攻め入ってやる!ここで死ねッ!」

 

ベルベットはそう叫ぶとリーシャに機竜咆哮を向け、リーシャは大粒の涙を落とす。

 

「リーシャさ―――――」

 

 

 

 

ドウッ!と砲撃が放たれ、大気が爆ぜる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......すみません、リーシャ様。せっかく直してもらったのに」

 

 

砲撃は蒼い機竜―――ルクスのワイバーンに止められていた。

しかしルクスも抑えきれたわけでもなかった。

砲撃のエネルギーを機竜の全身に流し、だが機竜がバラバラに大破した。

 

「ルクス......?どう、して―――――」

 

ルクスは寂しげな笑みを浮かべる。

 

 

 

そして、大破した≪ワイバーン≫の接続を解除し、その腰に残ったもう一本の機攻殻剣に、素早く手をかけた。

 

同時に『厄災』の冷却時間が終わった。

 

 

 

「『厄災』!」

 

 

 

「ーーー顕現せよ、神々の地肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、≪バハムート≫!」

 

 

アリシアは最後の力を振り絞り、

そしてルクスはーーー

 

 

 

「お前は......、まさかーーー?」

 

禍々しい殺気と光沢を帯びた、黒い、漆黒の機竜を纏う。

 

 

 

そして反乱軍を蹂躙し始めた。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

ルクスが反乱軍を蹂躙し始めてから30秒。

アリシアがちょうど神装の効果が切らしたとき、幻神獣を殲滅し終えた。

そしてリーシャの近くに着地し、

機竜のエネルギー切れで、その装甲を光の粒と化した。

 

 

 

突然だが、アリシアでもルクスに勝っていることがある。それは―――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――体力である。

 

 

 

アリシアは地面に足をつけると、腰に残ったもう一本の機攻殻剣を抜き放った。

 

 

 

 

 

「―――昇華せよ、万物を絶つ諸刃の剣、我を糧とし力と化せ、≪ゼル・エル≫!」

 

アリシアの後ろに一振りの剣が現れた。

それは光をも切り裂かんとする純白の剣であった。

 

「接続・開始」

 

その声に剣は開かれ、アリシアの体を包み込み、装甲と化す。

それは剣と言うにはあまりにも禍々しく、竜と呼ぶにはあまりにも麗美であった。

 

 

「ルクス‼」

 

アリシアはルクスに向かって特殊武装《双重刃(インディペンド)》を振りかぶる。

 

「アリシア‼」

 

同じくルクスもアリシアに対し特殊武装《烙印剣(カオスブランド)》を振りかぶる。

 

同時に振り抜き、互いの後ろにいた反乱軍を撃墜する。

そしてそのまま飛んで行き、更に剣を振るって行く。

 

「馬鹿なッ!?漆黒と純白の神装機竜だと......お前らが.....!あのクーデターの.......!?」

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

「はぁ......。やってくれましたね。兄さん、アリシアさん.....」

 

ノクトと共に戦場の荒野から、数百mlほど離れた地点でアイリは戦闘を、ルクスのバハムートのデータを記録していた。

 

「何が起こっているのですか?ルクスさんの....あの黒い神装機竜に、アリシアさんの......あの白い神装機竜は―――?」

 

普段は冷静なノクトが、声を震わせて尋ねる。

 

「......ノクト。いつしかあなたはいいましたね?従者の一族、リーフレット家の誇りと、我が主に誓って今からの話を内密にします、と」

 

「Yes,もちろんです」

 

はぁーともう一度アイリは息を吐くと、話し出す。

 

「あの日の続きの話をしましょう。兄さん.....あれが、『黒き英雄』です。そして、アリシアさん.....彼がその影に隠れた、『白き影竜』です」

 

「まさか.....!?旧帝国を滅ぼしたのは―――旧帝国の王子だったのですか!?何故.....!?」

 

アイリはその質問には答えず、淡々と、ただ淡々とルクスについて説明を始めた。だがその顔に見え隠れする悲しそうな、寂しそうな感情にノクトは気付いていた。

 

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

 

「何者だ!?何故貴様は―――!?」

 

「僕の顔に覚えはないか、ベルベット近衛騎士団長よ」

 

アリシアは更に敵を殲滅しに飛んで行った。

そのときには周辺の敵をあらかた打ち落としていたルクスにベルベットが問いかけた。

 

「な......ッ!?」

 

ほんの一瞬。

冷たく、底知れない眼差しを向けたルクスの言葉に、ベルベットは、はっと息を呑む。

同時にルクス周辺の残る反乱軍たちも、攻撃の手をやめた。

しばしの静寂が訪れ、遠くでアリシアが反乱軍を打ち落とす音のみが響く。

 

「ふっ、くっくっく......!はっはっは!」

 

ベルベットはルクスの首輪を見て笑い声を上げた。

 

「これはこれは、第七王子殿下。―――――なにゆえ、どうして新王国に―――――帝国の敵などに味方なされるのですか?」

 

ルクスは答えない。

顔を伏せており、その表情も読めない。

 

「何故だ!ルクス・アーカディア!王子であり皇族の生き残りであるお前が、何故我らに剣を向ける!英雄にでもなったつもりかッ!」

 

「僕は英雄なんかじゃありませんよ」

 

ルクスは乾いた笑みで、そう答える。

そして、

 

「聞いてください、リーシャ様」

 

未だ大地に横たわるリーシャを見て、優しげな声をかける。

 

「僕は王子として何もできなかった。全ての人を救おうとして、失敗して...。だけどやっぱり救いたい。新王国の王女にふさわしいあなたに、認められたいから」

 

ルクスはベルベットに《烙印剣》を向け、宣言する。

 

「僕は、帝国を滅ぼす、最弱の機竜使いだ」

 

そう、ルクスが啖呵を切った直後、

 

「ならば死ね!英雄気取りの没落王子!」

 

その声に反応し、残っていた反乱軍が同時に攻撃を再開する。

 

「『暴食』」

 

ルクスはバハムートの神装を発動。

一瞬にして、残りの反乱軍を打ち落とした。

刹那の間隙を縫って、ベルベットが襲い来る。

同時にルクスのベルベットを挟む反対側にも、撃墜を逃れた1機が襲う。

 

「ルクス!」

 

リーシャの叫びが聞こえる。

ベルベットは神装の効果が切れた瞬間を狙い攻撃してきた。

そしてベルベットは神速制御を使い、不可避の斬撃を放つ。同時にもう一人も剣を振り下ろす。

だがベルベットの装甲腕に、斬線が走った。

同時に―――――

 

「ルクス!」

 

もう一人を高速で飛んできたアリシアが落とす。

 

「何故だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ベルベットが叫びながら乾いた大地に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

ルクスが地上に戻ると、何とか立ち上がったリーシャが、歩み寄ってくる。

そして、

 

「―――ありがとう、ルクス」

 

瞳を潤ませ、ルクスにその体を預ける。

そして、ふっと、その体が傾いた。

 

「お、おい!?大丈夫か!?ルクス!」

 

「あはは。久しぶりに、少しだけ―――――疲れました」

 

ルクスはそう言うと意識を手放した。

 

 

 

遠くから聞こえる、騎士団の歓声を微かに聞きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんと初の3000字超え....な気がする。
次回は随分短いと思いますが、ご期待ください。



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11.男子生徒達は

事後からです。
どうぞ.....



「ん、んん.......っ、く」

 

小さな呻き声と共に、ルクスは瞼を開ける。

比較的新しい板張りの天井が見え、花と薬草、そして微かなアルコールの香りが、鼻腔をくすぐった。

 

「おっ...起きたか寝坊助王子」

 

アリシアが手に持つ本から視線を上げると、何故か聞き覚えのある台詞を言った。

 

「ここはーーー?」

 

「医務室です。神装を連続使用しての体力切れでしょう。分かりきった結果です」

 

問うルクスに、素っ気なく答えたのはアイリだ。

 

「......もしかして、怒ってる?」

 

ルクスがぎこちなく、そう笑うと、

 

「口にしないと、わかりませんか?」

 

迫力のある、満面の笑みが返ってきた。

 

「あ....あはははは.......」

 

ルクスは逃げるようにアリシアに視線を向けるが、

 

「自業自得だ」

 

「ですよねっ!」

 

バッサリ切り捨てられた。

 

「まったく.....兄さんはーーー、大馬鹿です」

 

怒るようにして言った口調だったが、その声は段々と萎んでいった。

 

「心配させてごめんね。アイリ」

 

謝るルクスに、宥めるアリシア。

 

「俺にはないの?」

 

アリシアは面白がるように言ったが、

 

「僕が、助けに入ったんだけどなぁ」

 

ぼやいていた。

 

 

 

「そういえば......、みんなは無事なの?」

 

少し心配そうに言ったルクスの一言に、アイリは呆れたようなジト目を向ける。

 

「それは、彼女たちに聞いてください。私はもう、行きますから」

 

「あ、じゃあ俺も。お大事に」

 

「うん、またね」

 

そう言うとアリシアはアイリに続いて医務室から出ていく。

それに入れ替わるようにして、三和音の三人が医務室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

「まったく.......本当に......私がどれだけ心配したか.......」

 

 

医務室を出て少し歩くとアイリはアリシアの胸に顔を埋めるようにして、呟く。

それはルクスのみならず、アリシアのことを言っていたのだろう。

 

「........」

 

アリシアは特に何も言うことなく、少し迷った後に、軽くアイリを抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

程なくして、復活したアイリと共にアリシアは学園長室を訪れていた。

そこには三和音や、クルルシファー、フィルフィといった、いつものメンバーが既にいた。

すると、廊下から微かな振動が、伝わってきた。

それは段々と大きくなってきて

 

 

バン!

 

 

学園長室の大扉が開いたとき、姿を見せたのはルクスだった。

 

「正式入学おめでとう!ルクス君!」

 

小さな歓声と共に、ぱちぱちと割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 

「え......?」

 

数秒間間抜け面を晒していたルクスは、後ろから入ってきた制服の少女の方を向いた。

 

「リーズシャルテ、様?」

 

「こほん。では、学園長の代わりに、私が挨拶をさせてもらおう。雑用王子ルクス・アーカディアよ。神王国の王女たるわたしから、咎人の貴公に君主を授けよう」

 

リーシャはそう言うと、ルクスの前に立つ。

真新しい鞘に納められた、一本の機攻殻剣を持ちながら。

 

「貴公の協力でーーー私は命を救われた。この城塞都市と、ひいては我が国を守ることができた。貴公の身に、確かな力と正義があることを、このわたしが認め、称えよう」

 

そう告げて、リーシャはそっと微笑みかける。

 

「だから、私からの命令だ。お前はここに残ってくれ。私たちの雑用王子として、男子生徒として、私たちの力になってくれ。本来ここにいることは許されないお前の存在を、わたしたちが認めよう。異論はないな、英雄」

 

尚も動揺しているルクスにアリシアは笑いが込み上げる。

それを必死に我慢する。

 

「受け取ってくれるか?私の剣を」

 

リーシャは頬を赤く染め、目を少しだけそらしながら、剣を差し出す。

それを見た瞬間、ルクスはふっと息を漏らして、跪いた。

 

「仰せのままに、我が姫よ」

 

ルクスが剣を受け取り、歓声があがる。

リーシャの笑みにつられて、ルクスも苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

 

 

アリシアもその光景を見て笑みを漏らしていた。

そしてとあることを思い出し、こちらも少しだけ微笑んでいたアイリに問いかける。

 

「そいや、アイリ。クルルシファーのことは聞いたけど、何でフィルフィは出撃しなかったの?」

 

そう大きくない声で聞く。

アイリは顎に指をあて、考えるようにしながら、

 

「確か、学園長が止めていたと思います。人のことは言えませんが、ほら、アリシアさんは知ってると思いますけど、フィルフィさんも体弱いですから」

 

丁寧にアイリは教えてくれた。

 

「ありがと」

 

短くアイリに礼を言う。

 

少し嬉しそうなアイリに、アリシアは内心謝った。

 

 

 

 

 

 

ーーーごめんね、アイリ......

 

 

 

 

 

ーーー俺は、もう......

 

 

 

 

 

ーーーフィルフィのことは覚えていないんだ.......

 

 

 

 




随分と短くなりそうだったんですが、
以外と書けました。
次回はクルルシファー編!
ご期待ください。

(設定はやめました。すみません)


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12.争奪戦

すいません。
設定やめました。
クルルシファー編です。

追記:そんなに大きくありませんが、一部追加しました。


「はぁ......まったくアリシアさんはいったい、何を考えているんですか?最初から私の所へ持ってきとけばよかったんですよ」

 

呆れと怒りが入り雑じった声で、アイリは大きなため息をついた。

 

「本当に申し訳ない」

 

その正面に正座させられてるアリシアはかつてない程に縮こまっていた。

 

何があったかは、昼間まで時を遡る。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「「そ、争奪戦?」」

 

「ええ。あなたたちへの雑用依頼。あまりに数が多すぎて、随分溜まっちゃうのよ」

 

そう言うとレリィ学園長は左に視線を向けた。

そこにはいつしかティルファーが出した、2つの箱がある。だがそこには入りきらず、依頼書が山積みになっていた。

 

レリィが悪戯っぽい笑顔を見せる。

するとルクスが引きつった笑顔を浮かべる。

何かわかっているようだ。

 

「だから今、生徒たちに向けて説明しているのよ。私が企画した催し物ーーー『ルクス君争奪戦』と『アリシア君争奪戦』のね」

 

「「......はい?」」

 

ルクスとアリシアは同時に首を傾げる。

と、レリィは赤い紙と、青い紙に書かれた一枚の依頼書を、机の上に広げて見せた。

 

「まぁ、簡単に言えば、ルクス君とアリシア君を一週間独占できる、って言えばいいかしら?制限時間の終了時に、この依頼書を持ってた女の子がその権利を手にするわ」

 

レリィは今一度満面の笑みを浮かべると、

 

「制限時間は今から一時間。あなたたちにこの依頼書を預けるから、制限時間まで逃げ切れば誰の命令も聞かずに済むわ。あ、装甲機竜は使用禁止だから。じゃあ、頑張ってね」

 

その言葉とともに廊下から、地鳴りのような音が聞こえてきた。

ルクスとアリシアは同時に学園長室から飛び出して、走り出した。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

その争奪戦の結果、ルクスはリーシャに、アリシアはクルルシファーに依頼書を取られた。

しかもその方法はスリ紛いのものだった。

廊下の角で激突すると、瞬間に依頼書を取っていったのだ。

アリシアはまったく気づかず、ないと分かった時には大いに驚いたものだ。

そしてクルルシファーは、対外的には『恋人』になると言う依頼をしてきた。

だが実質は政略結婚避けの、一時的な『恋人役』だった。

 

 

 

 

 

そして現在に至る。

 

アリシアは何故か、アイリに床に座らされた上、その前に立ち、ジト目を向けられる。

 

「アイリのとこに行こうとはしたんだけど.....」

 

一瞬視線が厳しくなる。

 

「すみませんでした」

 

アリシアは頭を下げる。だが、ふと思い出すと何故俺は謝っているのだろう、と言う疑問が浮いてきたが、尚もジト目を向けてくるアイリを見ると口に出せない。

 

「Yes,気持ちはわかりますが、アイリ。その辺にしておいてあげましょう」

 

アイリの隣で同じく立っていたノクトは、流石に可哀想と言った表情で止めてくれる。

 

尚も何かぶつぶつと呟いている。

 

「ほんと......なんで.....クルルシファーさんと......なんで.......持ってきてくれなかったんですか......」

 

消え入りそうな声でアイリが何か言うが聞こえない。

どうしたんだろう、と思い顔を上げる。

 

 

 

ーーーそしてアリシアは急いで立ち上がった。

 

その行動にノクトは少し頬を赤らめてジト目で見てくる。

 

「まぁ、初日に助けていただいたお礼としときましょう」

 

そう言った。

 

アイリは首を傾げていたが、アリシアは引きつった笑みを返すだけだ。

 

だがそのとき、扉がノックされた。

 

「アイリ?僕だけど」

 

ルクスの声だった。

 

「さて、アリシアさんだけでは不公平なので、第2ラウンドと行きましょうか」

 

そうとだけ言うとアイリは扉を開けた。

そして徐にルクスにも説教をし始めた。

 

その光景を見ながら、ジト目のアイリも可愛いなー、とか思ってほおけていたら、

 

「アリシアさん、依頼です。行きますよ」

 

と言って出ていってしまった。

アリシアは急いでそれに続く。

 

「それでは、学校内と聞いておりますが、お気をつけて」

 

ノクトが見送ってくれたが、アリシアは気づかなかった。

 

 

 

 

ノクトが少し、面白くなさそうな目をしていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、こんなところが......」

 

ルクスと一緒にアイリに連れてこられたのは、図書館の地下だった。

 

「この場所の存在は、秘密にしてくださいね、兄さん、アリシアさん。」

 

 

 

そして、もう少し進んで小部屋に入ると、

 

「待っていたわ。三人とも」

 

学園長レリィ・アイングラムが、小さなテーブルの前にいた。

 

「こんばんはルクス君。ちゃんとフィルフィには構ってあげてる?それともーーーもう襲っちゃったかしら」

 

「あのですね.....」

 

ルクスがなんとも言えない表情を返す。

 

「学園長。兄さんをからかうのはまた今度にして、話を進めませんか?」

 

コホン。と、咳払いをひとつして、アイリがそう申し出た。

 

「それもそうね。じゃあここから先は、他言無用でお願いするわ」

 

レリィはそう言うと、テーブルの上に金属の小箱を乗せ、錠に鍵を差し込む。

 

「王都の宝具庫でさえ、ほとんど入り口だけなのに。随分と厳重なんですね」

 

「ええ」

 

頷きを返しながらレリィが箱を開くと、奇妙な形をした、黄金の笛が見えた。

 

「知ってるとは思うけど、二週間前にこの都市を襲った元帝国近衛騎士団長、ベルベットが所持していたものよ」

 

この笛は幻神獣を喚び、操る力を持っている。

 

「一応、上には報告はしたんだけど、こちらの方が遺跡に近いし、ラフィ女王陛下から、ここで解析を進めながら研究してもらうよう言われたのよ」

 

「「......」」

 

「ベルベットは、これを異国の商人から買ったと自白したらしいわ。『角笛』と呼ぶものだそうよ」

 

「あのベルベットという男は、他に何も知らなかったようですが、遺跡の調査と平行して、このアイテムも解析していく必要はあると思います」

 

と、アイリが分厚い分厚い本ーーー遺跡の調査に関する文献を開きつつ、そう補足する。

 

「ははぁ、なるほど、遺跡の調査にそれを持っていけ、と?」

 

アリシアがそう言った。

 

「女王陛下から報せでもあったのかしら?」

 

「ええ、近々士官学校の生徒に遺跡の調査を行って貰うのでそれに同行するように、と」

 

そう。数日前にアリシアの元にラフィ女王陛下からその旨の手紙が届いていたのだった。

 

「最初はルクス君に頼もうかとも思ったんだけど、やっぱり経験のあるアリシア君に頼むことにしたの」

 

「じゃあ、僕が呼ばれた意味って....?」

 

少々しょんぼりしつつルクスが訪ねるも、

 

「ルクス君には事情を知っている人としてアリシア君の援護ーーーいえ、支援をしてもらおうと思ってね」

 

「支援......ですか?」

 

「ええ、騎士団の皆には詳しいことはあまり言うつもりはないのよ。情報が多すぎても混乱するだけだからね。だから、ルクス君にはこの事を知っておいてもらって、臨機応変にアリシア君のサポートを、って思ってね」

 

「.....わかりました。喜んで引き受けます」

 

ルクスが了承する。

 

「アリシア君もそれでいいわね?」

 

レリィが確認する。

 

「まぁ、女王陛下からの命令もありますしね、いいですよ」

 

 

アリシアが了承し、秘密の密会はお開きとなった。

 

 

 

 




執筆中に思ったんですが、アリシアとルクスが平行して会話してるシーンがあまりない気がする....



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13.実技演習

会いたくないやつらと遂に再開?




今アリシアは演習場でワイバーンを纏っている。

 

だがいつもと違うところが一点。

それはーーー

 

 

 

 

ーーー髪を下ろしているところだ。

 

 

 

 

「それでは、今日は二週間後に行われる校内選抜戦へ向けての、実技訓練を中心に執り行う」

 

ライグリィ教官の凛とした声が、広い演習場に響いた。

 

別に髪を結わえるためのゴムをなくしたとかではなく、訓練内容に不満があるわけでもなく、ライグリィに苦手意識があるわけではない。

問題はその横だ。

 

「......本日は王都の軍より、三人の機竜使いが臨時講師としていらしている。皆、この機会を逃さず、しっかり学ぶように」

 

ライグリィは微妙な表情で、三人を紹介する。

別に紹介に問題があるわけでもない。

問題なのは当人たちの方だ。

 

「ほう。やはりここに来て正解でしたな」

 

何を隠そうコイツらが、アリシアが士官学校に来ることとなった原因の三人組なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

「おい貴様!そんなぬるい動きじゃ、戦場だと的にしかならねえぞッ!?ふざけてるのか?あぁ!?」

 

「どうした!?もうへばったのか?その程度で機竜使いが務まるとでも思ってるのか!」

 

「甘えてるんじゃねえぞ!人に教わるな!自分で考えてやり直せ!」

 

それは、普段の演習とはまったくの別物だった。

 

 

 

開始から十数分。

 

観客席にいるアリシアは頭に来ていた。

イライラを隠そうともせず、それを見ていた。

 

「ーーー隣、いいかしら?」

 

背後にいたクルルシファーにも気づかない程、アリシアはキレていた。

クルルシファーは無言を了承と判断したか、隣に座る。

 

「どうやら、知った顔のようね」

 

流石クルルシファー、鋭い。

 

「...よくわかったな」

 

「今のあなたを見ていれば、リーズシャルテさんでも分かるんじゃないかしら?」

 

心を読んだかのように平然と言ってきた。

 

「......俺がここに来ることになった、問題起こした三人組だ」

 

クルルシファーに目を向けずに告げる。

 

「あら?だったら感謝しないといけないかしら?」

 

流石に冗談だと分かってても、形容しがたい気持ちになる。

 

「......」

 

反応に困っていると、クルルシファーは立ち上がり、

 

「冗談よ。そろそろ行きましょうか?わたしたちも」

 

アリシアは一息吐くと、

 

「......そうだな」

 

そう言いクルルシファーと一緒に演習場に戻った。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

「キャアアッ!?」

 

アリシアとクルルシファーが演習場に戻り、訓練を再開しようとしたとき、それは起こった。

 

「はははっ!やはりこの程度か!」

 

一人の女子生徒が撃ち落とされ、上空から勝ち誇ったような声が降ってきた。

 

「危険な真似はやめていただきたい!」

 

ライグリィが強い口調で諫めようとする。

 

「ライグリィ殿こそ、過保護はやめていただこうか?我々は軍の厳しさを、こうして覚えさせてるに過ぎないのだよ?」

 

「くっ......!」

 

ライグリィは悔しそうに歯噛みする。

 

「ちょっと、いい加減にしてください!こんなのーーー何の訓練にもなりません!」

 

いかにも生真面目そうな少女が、そう言って立ちはだかると、

 

「ほう、さすがは新王国の体制で甘やかされて育ったお嬢様たちだ!ははははは!お前ら、今日の放課後は全員補習だな!」

 

厳つい顔の男が哄笑し、他の男たちもつられて笑う。

 

「では、わたしがーーーーー」

 

その少女が武器を構えようとしたとき、隣から伸びた手で誰かがそれを制止した。

 

「あなたたちに人を教えれるような人格があるとは思えませんが」

 

アリシアだった。

 

「先程の発言には、軍の厳しさだとか言ってましたが、ここは士官学校ですよ?軍ではありませんよ?」

 

男たちは、驚いたように仰け反り、そして食って掛かった。

 

「ほお?だが、これから軍に入る奴等が大半だろう?ならば今教えてたって損はないはずだろ?お嬢様?」

 

あえて挑発するように男はそう言った。

 

「それに俺らに人を教えれないだと?笑わせるな。どうやってそれを証明する?」

 

「それでは勝負でもしましょうか?あなた方三人と」

 

その言葉に男どもは顔に汚い笑いを浮かべた。

 

「二言はないな?お嬢様?」

 

その笑いを隠すことなく別の男が更に続く。

 

「だが俺たちは出ずっぱりで戦っていたから、お前より疲弊している。故に、お前の機竜に重量の枷を付けさせて貰うが、構わないな?」

 

その問いにアリシアが頷くと、男どもは顔を見合わせ、演習場の隅にあった重しを、アリシアのワイバーンに取り付け始めた。

 

そこでアリシアは観客席にルクスを見つけた。

そのルクスは苦笑いしていた。

そして口が動く。

 

ほ、ど、ほ、ど、に、ね

 

と。

アリシアはそれに少し方をすくめて返事をした。

 

するとちょうど重しをつけ終わった。

 

「くっくっく。これで対等だな?じゃあ始めようか?」

 

男たちが笑い、演習場にいた他の生徒たちを端まで下がらせる。

女子生徒たちは何か言っているようだが、気にしない。

 

そして、ライグリィに一つ目配せをして、

 

「模擬戦・開始!」

 

 

 

戦闘が開始した。

 

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

ひとまずアリシアは機竜息砲で弾幕を張る。

だが、流石に一応は軍人なだけはある。

それを全て防ぎ切った。

アリシアはワイバーンで地面を走り、ワイアームの元に辿り着く。

そして、高々と剣を振りかぶり、振り下ろす。

それを余裕を持って回避した相手は直ぐに詰め寄り、一閃。

だがアリシアはそれを飛んで回避しそのまま一回転。

回転のエネルギーと増えた重量を余さず剣に乗せて、剣を振り切った格好のワイアームを障壁の上から叩き切る。

すかさず飛び、飛来した銃弾を避け、防ぎ、いなす。

そして、演習場の端から機竜息砲を撃ってくるドレイクにダガーを投擲。

直ぐに弾幕を張りながら飛んで接近。今度はコンパクトに一振り。

すぐさま、中空にいるワイバーンからの射線を切り、ほぼ密着状態で剣を振るう。

追加された重量を生かし、押し切る。

だが、アリシアの振りが一瞬遅れた。

そこへ鋭く突きが放たれるも、剣の上に足を乗せ、踏み台にし、またも一回転。

ワイバーンの足がドレイクの肩口に命中。ドレイクは吹き飛ぶ。

すぐに中空のワイバーンの方へとーーーーー

 

 

 

 

 

パァアン!

 

「キャアアッ!」

 

アリシアの随分上を飛んだ光弾が、観客席に届いた。

 

「うあっ.....!」

 

観客席に障壁を張っていた生徒の一人、ティルファーが直撃を受けて体勢を崩す。

 

「おっと済まないな。中々当たらないんで先読みしたんだが、外れてしまったよ」

 

白々しく男が言う。

 

 

 

「あ........やらかしたね」

 

 

 

 

ルクスが何か言っていたが、アリシアの頭には全く届いていなかった。

 

「いいか?かわすなーーー」

 

 

 

 

 

 

「『厄災』」

 

 

 

 

 

 

ーーー男はいつの間にか落ちていた。

 

 

「勝者!アリシア・レイヴン!」

 

ライグリィのその言葉を聞いて、男たちが強張るのが見て分かった。

そこでアリシアは髪を戻し、機竜を解除した。

 

「さて......言い訳はあるか?」

 

とても、とても低い声で睨みながら言う。

 

「こ、れ....は.......」

 

三人組はそれ以上何も言わなかった。

 

「除名も覚悟しとけよ......!」

 

男どもは魂が抜けたように演習場を後にした。

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

笑顔でタオルを渡してくれたクルルシファーに心が弾んだのはここだけの話だ。

 



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14.デート

「今日はこれから、私とデートして欲しいの」

 

 

「え、あ、はい。行きましょう」

 

恋人役をし初めて数日。女性との付き合いなんて皆無だったアリシアも随分慣れた。

そして、授業後。すぐに来たクルルシファーはデートのお誘いをした。

反射的にOKを出していたが、後から思うととても恥ずかしかった。

しかも回りからは黄色い声が上がっており、クルルシファーは平然と、アリシアはバレない程度に、そそくさと教室から去っていった。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

「さて、残念ながら俺はこっちに来てから1週間しか経ってない身。どこにも連れて行けるような所なんて、知らないよ?」

 

今はクルルシファーと並んで町を歩いている。

行った通り、アリシアは1週間前に城塞都市に来たばかりであり、こっちに来てからもあまり外出はしなかったため、女性を連れていけるような所など知っていなかったのだ。

 

「残念ながら私もあなたには期待してないわ」

 

分かり切っていながらもひどいと思う。

そうして数分歩いて行くと、美麗な看板と彫り物の飾りがついた、大きめの洋服屋にたどり着いた。

 

「さ、行きましょう?」

 

クルルシファーが入って行ったため、後に着いていく。

 

 

 

ーーーそして一時間。

 

「......って俺の服だったんだな」

 

そう。ここで購入したのはなんとアリシアの服だった。

 

「安心した。試着した限りでは礼服もなかなか似合っていたわ。さすがは、軍の指導教官様ね。」

 

他人事のような笑みを浮かべ、クルルシファーが返す。

 

「いやでもーーー、流石に払ってもらうのは.....」

 

男としてのせめてもの威厳が......。

 

「気にしなくていいわ。私が自由に使えるお金の範囲だから。たいした額でもないし」

 

さらりと言う辺り、やはり彼女もお嬢様なのだと、改めて思い知る。

アリシアも少なからず給料は貰っていたが、大半はルクス達の借金返済に当てていた。

こんなことになるなど思ってもいなかったため、生活に必要な分しか残していなかったのだ。

 

などと、話していると.....

 

 

 

 

 

「.....ッ⁉ 危ないッ!」

 

アリシアは叫ぶと同時に、クルルシファーへ抱きつくような形で、身体を押す。

 

直後、鞭のようなものが高速で伸び、何もない空間を巻き取った。

同時にーーー

 

「動くなよ、上から仲間が狙ってる」

 

ローブを纏った男が一人、ナイフを突きつけてくる。

屋根の上にはドレイクが3機。

一つ舌打ちすると、アリシアは剣帯から機攻殻剣を外し、地面に置いた。

クルルシファーも両手を上に上げるが、

 

「どうにかして、隙をつくって貰えないかしら?機竜召喚したいわ」

 

小声で言ってきた。

アリシアは小さく頷く。

そしてーーーーー

 

 

 

「ぐふっ......!」

 

アリシアは目の前のローブの男の腹に、右ストレートを見舞った。

ドレイクは驚いたように一瞬動きを止め、そして機竜息銃を構える。

だがアリシアはそのローブ男の首もとを掴むと、空に掲げる。

ーーーその男を盾にするようにして。

 

流石にドレイクは発砲しなかった。

隙としては十分以上だろう。

 

 

 

 

 

「ーーー転生せよ。財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ、≪ファフニール≫」

 

 

 

「デートの邪魔をした借りは、返させて貰うわ」

 

そうとだけ言うと、クルルシファーの機竜ーーーーーファフニールが素早く動いた。

一動作が一秒にも満たない、標準を定める間もない恐るべき早撃ち、そして、三方向への発射にも関わらず、異常な速さと正確さで、全てのドレイクを打ち緒とした。

 

だが決して、賊の動きも悪い訳ではなかった。

つまりーーーーー

 

(あれが、財禍の叡智......)

 

以前リーシャより聞いていたファフニールの神装だろう。

間近でそれを見、その恐ろしさを垣間見た衝撃に、呆然としたいた。

そして気付いた。

 

「あ」

 

右手で持っているローブだが、中身がなかった。

急いで周りを見回すと、ナイフを片手に走り去る男が見えた。

だがその先には、細身の女性が立っていた。

 

「危ないッ!」

 

咄嗟に、後ろの白い機攻殻剣を抜こうとしたがーーー、

 

「助けなら、必要ないわ」

 

「え......?」

 

真顔のクルルシファーに、そっと手で制止される。

 

「随分と治安が悪いのですね。この国はーーー」

 

キンッ!

 

静かに女性が呟いた直後、賊のナイフが宙を舞った。

 

「動かないでください。手もとが狂いますから」

 

その場で尻餅を着いた男は、長剣の切っ先を喉元に突きつけられる。

女性の持つ長剣の表面には、無数の銀線が走っているーーー機攻殻剣だ。

 

そして、その女性は顔を上げた。

 

「ご無沙汰しております。お嬢様」

 

その言葉に合点がいった。

つまりこの女性こそーーー

 

「ええ、彼女はエインフォルク家の執事、アルテリーゼ・メイクレア。私の様子を見に来た、エインフォルク家の従者よ」

 

「場所を変えてもよろしいですか?ここは話をするには不向きです」

 

アルテリーゼと呼ばれた女性は、そう静かに申し出る。

 

遅れてやってきた警備兵ーーーーー面識はないーーーーーに事情を話し、賊を引き渡すと、アリシアとクルルシファーは、アルテリーゼの後に従った。

 

 




すべきことが山程ありますが、なるべく早め早めに出そうと思いますので、気長にお待ち下さい。


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15.宣戦布告

意外と長かった。



 

 

「まずはそうですね。ご壮健で何よりです、お嬢様。と言いたいところですがーーーーー」

 

 

 

先に戦闘したところから歩いて十数分後。

アルテリーゼに、学校の敷地からやや近い酒場に連れてこられた。

 

 

「級友の前だからといって、余計な気遣いはいらないわ」

 

アリシアをちらりと見て言ったアルテリーゼに対し、クルルシファーは素っ気なく言う。

 

「では、率直に。もう少し気をつけてください。あなたの身体は、エインフォルク家のものなのですよ?」

 

「なら賊に狙われるのも、名家の宿命だから仕方ないわね」

 

どこか不機嫌そうなアルテリーゼの言葉に対し、クルルシファーは皮肉を混ぜて返す。

アリシアもだがクルルシファーに言葉で勝てる人はいないと思う。

 

「寮の門限も近いから、手短にしてもらえると助かるわ。どうせ、あなたの用件はわかりきってるし」

 

「お嬢様がそのように不真面目なものですから、こうして私が来たのです」

 

クルルシファーの言葉に、女執事は強い口調で返す。

 

(なんだ?仲悪そうだな.....)

 

さっそく居心地が悪くなり、帰りたくなるアリシア。

そんなアリシアには気づく素振りもなく、会話を続けるーーーと思いきや

 

「ところでーーー、その男性はどなたなのですか?」

 

話の話題がこっちに向いた。

 

「私の恋人よ。素敵でしょう?」

 

アリシアは小さく会釈する。

 

「恋人?その少年が、ですか......?」

 

訝しげな目で、アルテリーゼが見てくる。

 

「ええ。彼は今、諸事情により士官学校に通っている私の級友。何か問題があるかしら?」

 

「ええ?そうですね。それは困りましたね。実はーーーーー」

 

「これはこれはーーーーー、私も見くびられたものだな?」

 

突然発せられた男の声に、アリシアも顔を上げる。

金の刺繍がはいった、赤い豪華な外套を纏った男が、アルテリーゼの背後に立っていた。

アリシアにはその男の顔に見覚えがあった。

 

「......バルゼリット・クロイツァー、.....何でこんなところに」

 

物凄く小さな声で言ったが、クルルシファーだけでなく、バルゼリット・クロイツァーにも聞こえていたようで、

 

「ほう?見ない顔だが、よく知ってるではないか」

 

そしてクルルシファーもようやく合点かいったようだ。

 

「まさかアルテリーゼ、あなたはーーーーー」

 

僅かに眉をひそめながら問う。

 

「ええ。誠に勝手ながら、明日に予定していた会食にてバルゼリット卿にお嬢様を紹介し、その場で婚約を交えていただくよう、私が話を進めておきました。ですがーーーーー」

 

「どうして相手の私が、その話を耳に入れてないのかしらね?」

 

呆れたような口調で、クルルシファーが問いかけると、

 

「このくらいしないと、お嬢様はまた理由をつけて逃げてしまいますから」

 

アルテリーゼは悪びれることなく、平然と返した。

 

「そう?でも残念だったわね。この通り今の私には、お付き合いしている男性がいるわ。」

 

クルルシファーに目線を向けられ、アリシアはしょうがなく立ち上がり、

 

「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアリシア・レイヴンと申します。以後、お見知りおきを、バルゼリット卿」

 

礼をしながら、挨拶をする。

 

「アリシア.....?」

 

バルゼリットは何か思案するように呟き、そして、

 

「はっはっは!なるほど、エインフォルク家のご息女もやり手ではないか。これは無下にもできまい」

 

「なっ.......」

 

バルゼリットは笑った。

アルテリーゼが泡を食らったように驚き、そして椅子を鳴らして立ち上がる

 

「な、何故ですか!?」

 

叫ぶように問いかけた。

 

「アリシア・レイヴンと言ったら、女王陛下にその実力を認められ、軍で兵の指導教官を勤めている男の名だ。うちの者も何人か世話になったようでな。随分と好評だったぞ」

 

「お褒めに預り、光栄です。クロイツァー家の者達は、とても素晴らしい方ばかりで、私もいい経験をさせて頂きました」

 

満面の笑みを浮かべ、アリシアは言う。

そう。アリシアはこの男の家の者も何人か指導したことがあるのだった。

 

その態度を見たバルゼリットは不機嫌そうに鼻を鳴らし、アルテリーゼは、唖然としていた。

 

「まぁ、いいだろう。これからの世界は機竜使いとしての力と指導者としての力が、何より求められている。私もお前もそれを備えているとなると......そうだな。装甲機竜でひとつ勝負するというのはどうだ?」

 

バルゼリットは口許を弧に歪め、余裕を見せてくる。

 

「バ、バルゼリット卿、それはーーーーー」

 

アルテリーゼが、驚いてそう口走ったとき、

 

「確かに、ご息女に婚約の話は通ってなかったようだ。それは今回の件を取り付けたそなたの落ち度だ。しかし、ここで強引に婚約を結んだところで、彼女は納得しないだろう?オレの力量も見せておいた方が、その後の夫婦生活もうまくいくというものだ」

 

まるで旧帝国の考えが丸見えの台詞だった。

 

「わかりました。受けましょう」

 

アリシアは即答した。

アルテリーゼは未だに茫然が抜けない顔で、

 

「いえ、バルゼリット卿のお手を煩わせるわけには......」

 

納得いかないのか、そう口を挟みかけたとき、

 

「この際、あなたも決闘に参加してみたらどうかしら?」

 

クルルシファーが静かに、そう提案してきた。

 

「......どういう意味ですか?」

 

「当事者の私と、今回の件を持ちかけた責任者が高みの見物というのは、気分が悪いわ。どうせならお互い二体二のペアで、まとめて決闘をするというのはどう?」

 

「な、何を言っているのですかあなたは!?冗談もいい加減にーーーーー」

 

「まぁ待て、アルテリーゼ殿。オレは構わんよ」

 

バルゼリットが不適な笑みと共に、アルテリーゼを止め、快諾する。

 

「明日の会食は残念だがキャンセルだ。では、三日後の夜。決闘の場所は用意しておこう。それではな、指導教官殿?」

 

それだけ言うとバルゼリットは豪奢な外套をなびかせ、酒場を出ていった。

 

 

 

 

「お二人とも、自分たちが何をなされているのか、お分かりなのですか?」

 

諌めるような口調で、アルテリーゼが眉を上げる。

 

「私は承諾しただけですよ?大元の原因はそちらでしょう?その上、決闘も提案したのはそちらです」

 

アルテリーゼは面を食らったように、少し仰け反っていたが、体勢を立て直すと何か言おうとする。

 

「それがーーーーー」

 

 

 

「それより」

 

それに被せて、アリシアはさほど大きくはないがよく通る、威圧を込めた声で言った。

 

「あなたこそわかっていますか?ご自分が何をなされているのか。先程も言われましたが、私は軍の教官ですよ?そもそも、あまり実力を見せるような役職ではーーーいえ、見せてはいけない役職ですよ?それなのに決闘を申し込む、この意味がわからないような方ではないでしょう」

 

ほとんど脅迫に近い形で、アリシアは告げた。

 

数秒間苦い顔をしていたアルテリーゼであったが、その後すぐに立ち上がると、

 

「今夜はこれで失礼します」

 

それだけ言って、執事姿の女性は酒場を後にした。

 

 

 

 

その後、アリシアとクルルシファーの間に、奇妙な沈黙が流れる。

 

 

 

「門限が近いわ。今日はもう帰りましょう」

 

やがて放たれたクルルシファーの一言で、アリシアも帰ることにした。

 

 




ルビ振りめんどくさいです....


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16.夜の密会

「おお、やっと来たか、アリシア」

 

 

 

バルゼリットと決闘することとなった日の翌日。

夕刻にリーシャから依頼があるということで、工房を訪れたアリシア。

中に入るとそこには、リーシャを始め、ルクス、アイリ、ノクトがいた。

とりあえずルクスの隣に座ると、ノクトが紅茶を淹れてくれたため、それを啜る。

 

「まったく、お前も随分落ち着いた奴だな」

 

リーシャに呆れられたが、気にしない。

一呼吸置いて、

 

「それで?実際依頼じゃないんでしょ?」

 

アリシアが尋ねると、アイリが頷き、数枚の紙をその場に広げた。

 

「これはーーーーー」

 

「はい。《バハムート》と《ゼル・エル》の出力解析結果です。前回の戦闘をノクトのドレイクで観測させていただきましたので」

 

ルクスとアリシアはそれぞれの紙束に目を通す。

 

「それよりアリシアよ。ひとつ聞きたいんだが」

 

粗方読み終えると、リーシャが聞いてくる。

 

「何ですか?」

 

「お前の機竜、バカみたいに出力が高いがなんでだ?」

 

当然の疑問だろう。隣のルクスの結果と比べても、倍に近い数値が出ていた。

 

「出力を落とそうかとも思ったんだが、流石に高すぎるし、この前も十分戦えていたからな。理由を聞いてから変えようかと思ってな」

 

なるほど、リーシャなりにちゃんと考えてくれているようだ。

 

「あー、俺の機竜が装着中に神装を使えないことは知っていますか?」

 

こくりと頷く。

 

「理由も知ってるかと思いますが......」

 

そこで急にアリシアの声は小さくなっていく。

 

「アリシア?」

 

リーシャが聞いてくるも、アリシアは下を向き、表情がわからない。

 

「確か、要求出力が高過ぎるからだったと思いますが、使えないものにエネルギーを流すのは非効率的ですから、神装への出力を完全に切ってるらしいですよ」

 

ルクスが助け船を出してくれた。幸いリーシャは怪しむ様子はなかった。

 

「最低出力でもなのか?」

 

さらに疑問をぶつけてくる。

 

「切ってると言うより、切れてる、ですけどね」

 

それには再起動したアリシアが答えた。

 

「たぶん初期設計から最低出力を高くしてあると思います。最低出力でさえ今のバハムートより少し高いですから。て言うか、何かロックがかかってるようで神装へのエネルギー供給をオンにはできませんでしたよ」

 

紅茶を一口飲み、

 

「つまりこの機竜は神装は諦めて、出力で押す感じですね」

 

「じゃあ、出力はそのままでいいんだな?」

 

「微調整してくれると言うのなら、喜んでお願いします」

 

リーシャの確認にアリシアは頷く。

 

「ルクスのもーーーそれを見ながら、私が細かい出力の調整をバハムートにしておいたんだ。無駄に使われていそうな出力をできる限りカットしたから、前よりだいぶーーーーー楽に戦えると思う」

 

「ありがとうございます。リーシャ様」

 

ルクスが笑顔を向けると、リーシャはぽっと顔を赤らめて、視線を逸らす。

 

「私とノクトもお手伝いしていますからね。兄さん。アリシアさん」

 

「あ、二人とも、ありがとう」

 

「ありがとな、二人とも」

 

「Yes,恐縮です」

 

「なっーーーーー」

 

背後で絶句するリーシャをスルーして、アイリは話を続ける。

 

「お二人とも?長時間戦って欲しいという意味ではありませんからね?」

 

「あ、うん。わかってるよ」

 

アイリの念押しに、ルクスは返事をし、アリシアは渋い顔をする。

 

「ありませんからね?」

 

「りょ、了解」

 

更なる念押しに、ようやくアリシアも返事をする。

返事を聞き、アイリは満足そうな笑顔を向けてくる。

 

 

 

コンコン。

 

という軽いノックが聞こえてきた。

 

「こんばんわーっす!」

 

返事をする間もなく、ティルファーが入ってくる。

 

「みんな何やってるの?面白そうだから私も混ぜてよー」

 

その高いテンションに一同、渋い顔をする。

 

「何をしに来たのですか?ティルファー」

 

みんなに代わってノクトが、呆れたように尋ねる。

 

「えっとね、男子二人に伝言なんだよ。レリィ学園長から、今夜は後5分くらいしたらーーーーー、お風呂入れそうだってさ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「どーも」

 

どうやら珍しく、ちゃんと目的があって来たようだ。

 

「じゃあーーーーー」

 

「僕達は行ってきてもーーーーー」

 

「むう.......、仕方ないな。今日は解散だ。この話は、また今度にしよう」

 

アリシアに続きルクスもリーシャの許しを得て、工房を出る。

 

 

 

そして何事もなく、ルクスとアリシアは入浴を終えた。

 

 




遅くなった割りに短くてすみません
次回はいつになるかわかりませんが、
8月上旬中には出せるはずです。


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17.作戦開始

な、長くなってしまいました。



「では、本日の作戦決行の、予定変更点についていくつかあげる」

 

 

 

 

教官のライグリィが、微かに苦い顔を見せて言う。

 

 

先日の情報交換の翌日。

作戦決行の当日となるその日に、ルクス、アリシアを含めた十五人ほどの騎士団の団員は、演習場の控え室に集まっていた。

だが、何故かーーーーー、

 

「まずーーーーー今回の作戦に、留学生のクルルシファーも、特別に参加してもらうこのになった。」

 

「よろしく。みんな」

 

そう。クルルシファーがいるのだ。

留学生は他国との関係で普通はこういう作戦には出ないはずだが、本人の強い希望だそうだ。

だが、例外はそれだけではなかった。

 

「そしてこの方はーーーーー」

 

「ああ、紹介はオレ自らしよう。教官の手を煩わせることもあるまい」

 

アリシアは内心舌打ちした。

俺とて教官やってるんだがな、と思いながら。

そしてライグリィの隣を見ると、見覚えのある男がいた。

 

「オレの名はバルゼリット・クロイツァー。この度の幻神獣討伐及び遺跡調査の任に関し、手助けになればと思い、協力を申し出た」

 

決闘相手のバルゼリットだった。

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「これが、『箱庭』.......」

 

隣でワイバーンを纏い、滞空するルクスが言う。

 

出発してから十数分。

城塞都市から二十klほど離れたところにそれはある。

アリシア自身は周辺警備も、内部探索も行ったことはあるが、ルクスは中に入る機会はなかったのだろう。

少し物珍しそうに眺めていた。

 

「おい。みんな気をつけろ!前方に幻神獣を確認した!」

 

そこにリーシャからの竜声が届く。

ルクスもすぐに警戒態勢をとった。

 

そこにいたのは半身を岩の鱗に覆われた、金属の巨兵だった。

通称、ゴーレム。

巨驅を誇る、大型の幻神獣。

今回の討伐目標だ。

 

「時間がかかり過ぎるわね」

 

そう言ったのは今回特別に付いてきてるクルルシファーだ。

元々予定していた作戦では、ワイバーンで敵を撹乱し、地上からワイアームの最大充填した機竜息砲で胸部へ攻撃、核が露出するまで削り続けるというものだった。

 

「陽動と攻撃は、私に任せてもらえるかしら?その方が早いわ」

 

つまり一人でやるということだ。

 

「ちょっと待て!流石のお前でもそれはーーー」

 

「じゃあーーー行動を開始するわ」

 

そうとだけ言って、本当に一人で二役をこなし始めた。

 

(やはり何か焦ってる......)

 

ルクスも気付いているであろう。

アリシアは少しルクスを見るも、ルクスもクルルシファーの突進に茫然としながら、リーシャの説明を聞いているところだった。

 

 

 

グ.......ォォアアア!

 

 

 

いつの間にか、ファフニールの連射でゴーレムの胸部と核を撃ち抜いていた。

 

一瞬の後、歓声が上がった。

 

「ええい、静かにしろ!まだ作戦の途中だぞ!」

 

それに対し、リーシャが怒鳴り散らしている。

だがーーーーー

 

 

「みんなっ!気をつけてーーー何か来る!」

 

地上にいたティルファーが、警戒の声を上げる。

 

「レーダーによる敵影を確認。新手の幻神獣です」

 

続いてノクトも声を出す。

そこにいたのは、短剣ほどの牙を持ち、赤黒い口を凶悪に歪める、化け物だった。

 

「ディアボロス......か!」

 

リーシャが眉をひそめて叫ぶ。

 

「ーーーギエェァアァアアエイアァァァッ!」

 

同時にディアボロスが絶叫にも似た、唸り声を上げた。

そして空を蹴る。

それと同時にーーーーー

 

「『厄災』!」

 

アリシアも声を張った。

 

ノクトの元へ爆発的な速度で迫ったディアボロスとノクトとの間に、間一髪でアリシアが間に合う。

 

「逃げろ!」

 

頷くことさえせず、すぐにノクトは引き下がった。

だが、ディアボロスの力は半端ではなかった。

厄災を使ったアリシアでさえ、押されることはなくとも、押し返すことができないのだ。

このまま保持することは可能だが、アリシアにも当たる可能性があるため、騎士団は攻撃ができない。

ーーーそう、騎士団は。

 

 

 

「ふ、はははははッ!」

 

 

瞬間、バルゼリットの哄笑が響き、バルゼリットの纏う神装機竜《アジ・ダハーカ》の両肩に連結された特殊武装、《双頭の顎(デビルズグロウ)》が火を噴いた。

アリシアと拮抗するディアボロス目がけ、二筋の閃光が襲いかかるーーーが、紙一重で敵は空に逃れ、しかしディアボロスを押し返そうとしていたアリシアは、前にーーー先程までディアボロスのいた位置につんのめる。

 

そしてその閃光が爆ぜた。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

どこからともなく悲鳴が上がる。

騎士団は混乱状態だ。

 

「バルゼリット!貴様......!」

 

リーシャが睨み付けるも、その混乱を見逃すディアボロスではなかった。

 

「グルアァアァアア!」

 

再度、咆哮を上げディアボロスは、しかしまたもノクトを追った。

ノクトもアリシアの被弾に動揺しており、とても防御も回避も間に合わなかった。

 

 

 

「ーーーーーッ!」

 

 

 

またもやアリシアが割り込まなければ。

 

「ガアァアァアアッ!」

 

ディアボロスは二度も攻撃を止めたアリシアに、猛攻撃をする。

単なるパンチのようだが、一発の威力が桁違いだ。

そう気づいた時にはアリシアは、厄災での全力を持って、伸ばされた右腕を切り落としていた。

 

「ギエェァアァアアエイアァァァッ!」

 

そこでディアボロスは距離を取ると、ようやくその場に滞空し、様子見の態勢をとっていた。

 

そこにーーーーー

 

「どうだ、教官殿?このオレと勝負しないか?あの幻神獣を、どちらが先に倒せるのか」

 

アリシアはあえて何も言わず、意識はディアボロスに向けながら、冷ややかな視線をバルゼリットに向ける。

 

「いい加減に、ふざけた真似はやめてもらえるかしら?」

 

側に戻ってきたクルルシファーが、いつになく真剣な声で割り込んだ。

 

「あなたより先に私が敵を始末するわ」

 

そして、少し離れたとこに滞空するディアボロスに向かって、クルルシファーは飛翔した。

そして接近すると同時に、特殊武装《凍息投射(フリージング・カノン)》を構えて、幻神獣を狙う。

だが、

 

「......ッ!?どうして、ファフニールの予知がーーー?」

 

交戦の瞬間、クルルシファーの横顔に動揺が走り、動きが止まる。

そしてその瞬間にディアボロスが火を噴き出した。

 

「危ないッ!」

 

厄災は切れていたが、アリシアはとっさに最大出力で、クルルシファーを突き飛ばす。

 

「アリシア!」

 

ルクスが叫び、リーシャはすぐに射撃を開始。

すぐにルクスと騎士団も集中砲火を浴びせるも、全てかわされる。

 

「やれやれ、やはりオレの助けが必要じゃないか」

 

地上にいたバルゼリットが砲撃を行う。

当然ディアボロスはそれをかわすーーーーーが、

 

「グアアァッ!?」

 

その胸に、一本の戦斧が、突き立っていた。

そう。バルゼリットが地上から投擲し、当てたのだ。

だが、ディアボロスはあくまでも、周りに障害物のない空中にいた。

だがバルゼリットはどこに逃げるかがわかってるかのように投擲し、見事に命中せしめたのだ。

 

 

みんなが呆気に取られていたが、

 

「グ、ルァアアアア........!」

 

突然、胸に大穴の空いたディアボロスが声を上げると、その体が倍以上に膨れ上がった。

 

「全員、障壁を最大出力だ!」

 

リーシャの叫びが耳に届く、と同時に、

幻神獣の全身に赤い亀裂が入り、光を帯びた。

 

そしてアリシアはそれに気がついた。

 

「どうして.....動かないの?私のファフニールがーーーーー」

 

クルルシファーが、状況を理解している様子もなく、そしてその機竜が、ガタガタと震えていた。

 

 

ーーーーー暴走の兆候だ。

 

だが、暴走することも危険だが、クルルシファーはこのままではろくに障壁を展開することなく、爆発に飲まれる。

アリシアはそこまで考えが至った瞬間駆け出していた。

 

厄災は切れている。

アリシアは機竜咆哮も使用し、クルルシファーを抱き抱え。必死に耐える。

視界が真っ白に染まった瞬間ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーアリシアは意識を失った。

 




少し家を空けるので、次回はいつになるかわかりません。
8月中旬.......お盆ぐらいには出せるようがんばります。

それと毎回の誤字・脱字報告ありがとうございます。
これからもお願いします。


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18.遺跡

最初はグロいです。
注意。


白い空間にいる。

 

白い空間が広がってるだけだ。

 

足が着いているのかさえ、わからない。

 

そんな白い空間にいる。

 

「アーちゃん」

 

いつの間にか、ピンクの髪を下げた大人しそうな少女がいる。

 

年は十歳ぐらいだろうか。

 

そう。フィルフィだ。

 

だが、アリシアがフィルフィの方へ一歩踏み出すと、それに気づいた。

 

フィルフィの体の下半身が、ない。

 

そしてフィルフィの横には、腰までしかない下半身がある。

 

アリシアは驚きのあまり声も出せずに一歩後ずさると、

 

トンッ

 

背中に触るものがあった。

 

急いで後ろを振り返ると、そこには、

 

年は十五、六くらいだろうか。

 

特徴的な白髪に、整った顔、鋭利な目は剣の刃を想像させる。

 

フギル・アーカディアだ。

 

胸を撫で下ろし、もう一度見ると、

 

フギルの目はなかった。

 

目のあるべきところからは血が溢れていた。

 

「アリシア」

 

呼ばれ、右を見ると、

 

優しそうな笑顔で、茶髪の女性が立っていた。

 

どこかアリシアを思わせるその顔は、

 

アリシアの母、ライラ・レイヴンだ。

 

「母さん」と呼ぼうとして、それは起きる。

 

ライラの体が一瞬にして膨れ上がった。

 

そして、濁流の如き赤黒い液体が流れてきた。

 

いつの間にか白い空間は真っ黒に染まっている。

 

そしてそこは、見える限りの

 

人、人、人、人、人、人、人.........

 

だかその全ての人は正常ではない。

 

ある人は両腕がなく、ある人は体に穴が開き、ある人は頭が割れ脳が見えある人は........

 

アリシアは悲鳴を上げた。

 

そしてアリシアは血の如き奔流に飲み込まれる。

 

アリシアは必死に手を伸ばし、足掻き、もがき続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーー誰かが手を取り、助けてくれると信じて

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

「....シ..ん!ア..シ....くん!アリシア君!」

 

その声にアリシアは跳ね起きる。

 

そして声の方を向くと、暗くて分かりにくいが、クルルシファーが心配そうな目でこちらを見ている。

 

「随分うなされてたけど、大丈夫かしら?」

 

だが、アリシアにはその声も聞こえてないようだった。

 

 

 

「みんなと.....ごうりゅうしないと.....」

 

アリシアは独り言のように呟き、遅い速度で立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと.....大丈夫なの?」

 

クルルシファーが声をかけてくれるが、気づかず、一歩踏み出そうとすると、視界が急に傾いた。

 

ぱたん

 

アリシアは自分が倒れたことに気がつかない。

十七歳の男性が倒れたとは思えない軽い音だった。

 

「アリシア君、落ち着いて」

 

少々強めのその声で、やっと自分が倒れていることに気がついた。

再び立とうとするも、

 

「だから落ち着きなさい」

 

クルルシファーが肩に手をかけて、止める。

だがアリシアはそれを振りほどき、尚も立とうとする。

だが、それは叶わなかった。

クルルシファーが後ろから抱き着いてきたのだ。

 

「クルルシファー.....?」

 

アリシアは初めてクルルシファーに声をかけた。

 

そのまま永遠にも感じられた数秒が経って、

 

「落ち着いたかしら?」

 

微笑を浮かべるクルルシファーと目が合った。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「随分と取り乱していたようだ。すまない」

 

あれから一分くらいの後、ようやくクルルシファーは離してくれた。

 

「らしくないわね。あなたが、上の空状態なんて」

 

それにはアリシアは苦笑いしながら返す。

 

「それはこっちの台詞なんだけどね。クルルシファーこそ、らしくないぞ?随分焦ってるように見えたが」

 

すると驚いたように身を見開き、

 

「驚いたわ.....。あなたちゃんと周りを見ているのね」

 

「すっごい馬鹿にしてるだろ」

 

笑いが漏れた。

少なくとも、馬鹿話ができるくらいには回復したようだ。

そして気付く。

アリシアの横には炭が転がっており、だんだん明るくなってきたことに。

 

「.....もしかして、一晩寝てた?」

 

恐る恐る聞いたその質問にクルルシファーは、こくりと頷く。

 

「......すまない。迷惑をかけたな」

 

その言葉にクルルシファーは、くすりと笑う。

 

「あら?それこそ私の台詞よ?あなたが幻神獣の爆発から守ってくれなかったら、私が無事じゃなかったもの」

 

アリシアはそこでようやく状況が整理できた。

 

「じゃ、お互い様だな」

 

アリシアとクルルシファーは顔を合わせ、笑い合った。

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

「さて、じゃあどうしようか」

 

ひとしきり笑い終え、今後の方針の相談を始める。

 

「ーーー中心の祭壇へ向かいましょう。そこにきっと、みんなも集まるはずよ」

 

アリシアは考える。

負傷しているなら脱出を優先するが、幸い二人は目立った負傷はない。

みんなもそうだとするなら、合流の見込める祭壇に行くのも一つの手だ、と。

 

「......そうだな」

 

そしてアリシアとクルルシファーは祭壇へ向かい歩き出す。

 

 

 

しばらくの間、二人は無言で足を進めた。

 

「.......聞かないの?」

 

クルルシファーが問う。

先程うやむやにされた、クルルシファーが焦っている件だろう。

 

「聞いて欲しいのか?」

 

足を止めず、前を向いたまま、アリシアが返す。

 

「.......ありがとう」

 

アリシアはわざと聞いていない。

彼女自らが話せるようになるのを待っているからだ。

 

 

 

そして、十数分後、

クルルシファーとアリシアは、ついに中心地の祭壇へ、辿り着いた。

 

「どうやら、私たちが一番乗りみたいね.......」

 

クルルシファーは辺りを見回しつつ、そっとその宝石に歩み寄る。

すると、

 

『《鍵》の存在を認識しました。特殊コードの解錠を行います。問題がなければ転送を開始します』

 

突然、その場にその音が響き渡った。

瞬間、床に描かれていた模様が、目映い光を放つ。

 

 

 

光が収まると、全ての景色が変わっていた。

 

「ーーーどうやら、私たちは内部に転送されたようね」

 

青白い金属板に囲まれ、瓦礫が無数に転がる、無機質な回廊。

少し行った所には壁ーーーいや扉があった。

クルルシファーがその扉に触れた瞬間、

 

『鍵の認証を確認。第二層管理室への施錠を解錠します』

 

祭壇で聞こえたのと同じその音がなった。

同時に、その扉が開いた。

 

「そう.......。やっぱり、私は、そうだったのね」

 

部屋の中は比較的広く、壁際には棚が並んでいる。

そしてその部屋の奥には、地下へと続くと思われる階段がある。

クルルシファーは棚に向かって、歩き出した。

棚には、無数の《ボックス》が置いてあった。

従来、ボックスは時間をかけて壊す以外に開ける方法が解明されてない。

 

だが、ボックスはクルルシファーが触れた瞬間、小さな音と共に開いた。

中にあった、紙束に目を通すと、その度に「違う.....」と、静かに首を振り、奥の階段へと歩いていく。

アリシアは驚きを隠すことも忘れて、ただ茫然と見ているだけだった。

 

だが次の瞬間、ズンッと辺りに衝撃が走る。

その振動にクルルシファーは足をとられ、転んだ。

そしてアリシアは天井から、パラパラと小石が落ちてきておるのを認めると、急いでクルルシファーを抱え、階段を懸け下りた。

 

 

 

 




早くあげたかったので少し短くして切り上げました。
次回で決闘ぐらいまで行くかな?

ここまで来てバルゼリットの倒し方をまだ思い付いてない......

次回も少し遅れると思いますが、よろしくお願いします。


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19.クルルシファー・エインフォルク

遅れる詐欺してすみません。

決闘までいきませんでした。
次回も決着が着くかどうか.....



パラパラ

 

 

崩れ、塞がった階段の入口からは小石が落ちる。

クルルシファーを抱え飛び込んでから、すでに数分経っていた。

アリシアは未だに、肩を上下させて息を荒げていた。

 

「はぁっ......はぁっ......はぁっ」

 

体力に自信のあるアリシアがここまで息を荒げているのは、一重に疲れているわけではーーーーーいや実際に疲れてはいるのだがーーーーーなく、珍しく感じた命の危機ってやつから生還し、生きてることを自覚するために、たくさんの空気を吸っているのだ。

もっとも、

 

「あんまりキレイじゃねぇけどな」

 

たくさん吸いたくなるような空気ではなかった。

 

「あら?そんなに私重かったかしら?」

 

からかうように言ってくる。

 

「そ、そんなことはない!」

 

勢いよく起き上がると、否定する。

 

「ええ、そうね。ありがとう」

 

クルルシファーはにっこり笑っていた。

 

「........」

 

やはり口では勝てないアリシアであった。

 

「そ、それよりも......」

 

強引に話を変えて塞がった階段の方を見る。

 

「ちょっと突破は難しそうだな」

 

そこは階段であるため、瓦礫を除いても上から降ってくるだろう。

上から掘ってくれない限り、たぶん出られない。

 

「ちょっと、辺りの様子見でもしてくるかな」

 

言いながら立ち上がる。

 

「.......ごめんなさい」

 

いつの間にか黙って下を向いていたクルルシファーが、謝罪の言葉を述べる。

 

「気にすんなよ。それよりーーーーー」

 

言いながらクルルシファーの頭を撫でていると、不意にクルルシファーがアリシアの手を取った。

 

「もう少しだけ、わがままを言ってもいいかしら。話を聞いて欲しいの」

 

アリシアは無言で了解の意を表す。

 

「私は、遺跡の生き残りなのよ」

 

クルルシファーはぽつりぽつりと、言葉を並べ始めた。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

クルルシファーによれば彼女は、ユミル教国の第四遺跡『坑道』で発見された。

先程のものとは別の形のボックスに入っていたらしい。

それを今の義父が発見し、養子として引き取った。

何も知らずに育っていったクルルシファーだが、段々とその事実に気がつき、それでも家族として認めてもらえるように努力を重ねた。

だが重ねる毎に、クルルシファーは家族から遠退いてしまった。

そして、ユミル教国での遺跡の暴走が起き、疫病神のように扱われ、他国に送られた。

そしてクルルシファーは、今回の遺跡調査でそれが事実だったのか確かめたかったらしい。

 

 

そしてそれは、その通りであった。

遺跡はことごとくクルルシファーに反応し、今までとは違う対応をしてきた。

 

 

「もう、いいのよ。今はもう、怖くなったしまったわ。この遺跡を探し続けて、他に私のような遺跡の人間がいても、私を認めてくれないかもしれない。そう思うと」

 

その間、アリシアはずっと無言で聞いていた。

何をするわけでもなく、ただ、ずっと。

 

「俺はーーーーー」

 

そして口を開く。

 

「俺はお前にかけるような言葉を持ってはないし、そんなことが言える立場でもないと思ってる」

 

少し怯えたような目でクルルシファーはこちらを見る。

 

「だがーーーーー」

 

今一度、浅い深呼吸をし、告げる。

 

「少なくとも俺はこの数日間、一人の女、俺の恋人として、お前に接してきたつもりだ」

 

クルルシファーの目を見、伝える。

 

「そしてわかった。お前はただ、不器用なだけの一人の女の子なんだってな」

 

アリシアは微笑む。

 

「だから俺は言おう。誰がお前の存在を否定しようが、俺はお前を一人の女の子として認めている、とな」

 

クルルシファーは、きょとんとした顔で茫然としていた。

そしてアリシアは目をそらし、

 

「あ、青臭かったか......?」

 

顔を赤らめて言った。

 

「ふ、ふふふ......」

 

何かを堪えるような顔で、笑い出した。

 

「かっこいい台詞を言ったのだから、胸を張っていればよかったわね。それじゃあ折角の台詞が台無しよ?」

 

「な........」

 

アリシアは開いた口が塞がらない。

 

「でも本当に、どうしてそんなに人がいいのかしらね。この前の国のことを考えると、男性で女性に優しくできる人なんて珍しいと思うのだけれど」

 

「本当に、何でだろうな」

 

クルルシファーの言い分もその通りである。

 

「親が旧帝国の思想に染まらず、厳しい人だったのかしら」

 

更に続ける。だがーーーーー

 

「俺は親のことは、覚えていないんだ」

 

「え......?」

 

クルルシファーは思わず聞き返した。

 

「幼いときに亡くなった.....とかかしら?」

 

少し遠慮がちに聞いてくる。

 

「それもわからない」

 

苦笑いして肩をすくめる。

 

「誰にも.......何がなんでも、絶対に、他言しないと誓って貰えるか?」

 

「誰にも?」

 

そんなことは口にせず、頷く。

 

「わかったわ。あなたの認めたクルルシファー・エインフォルクの存在に誓うわ」

 

その大袈裟な言い様に苦笑いする。

 

「じゃあーーーーー俺の機竜の神装は知っているよな?」

 

クルルシファーにはいつか話したはずだ。

無言で頷く。

 

「実は、ちゃんと、しかも大きな欠点が一ヶ所あるんだ」

 

クルルシファーはすこし肩を震わせた。

 

「俺の機竜は神装を発動する度に.......」

 

 

 

 

塞がった階段からすきま風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

 

「あなたそれ、アイリさんに言ってないわよね」

 

一通り話し終えると、呆れたようにクルルシファーが聞いてくる。

 

「うっ.........」

 

図星なのだ。

 

「やっぱりそうね。知ってるのなら彼女が止めないはずないものね」

 

細い目で見られると、悪いことをーーーーーいや実際に隠しているなら悪いことをしているのだろう。

 

「はぁ....。だってーーーーー」

 

アリシアは急に話すのをやめた。

首を傾げるクルルシファーに対し、アリシアは自分の口元に人指し指を伸ばしあてる。

静かに、と。

 

すると崩れたときより弱く、定期的な小さな振動が伝わってきた。

そして声。

 

「この下にいるの!?アリシア!クルルシファーさん!」

 

ルクスの声だ。

 

「おー!下にいるぞー!」

 

そこでアリシアは数秒考えると、

 

「ルクスー!他に誰かお前の周りにいるか⁉」

 

「リーシャ様だけだけど!」

 

すぐに答えてくれた。

アリシアはひとつ頷く。

 

「ルクス!そこから十分に距離をとって離れてろ!」

 

「......りょーかい!」

 

少しの後の返事の直後より、定期的な振動はなくなった。

そしてアリシアは徐に後ろの、白い機攻殻剣を抜き放った。

 

 

 

「ーーー昇華せよ、万物を絶つ諸刃の剣、我を糧とし力と化せ、≪ゼル・エル≫!」

 

 

そして白い剣竜を纏う。

 

「ちょっと離れてて貰えるか?」

 

クルルシファーは頷き、下がった。

アリシアはそれを確認すると双重刃を構えた。

もともと双重刃は両刃の双剣であり、両手に持つその剣の腹同士を合わせるように平行にし、少しだけ間を空ける、そしてその切っ先を塞がった階段に向けた。

すぐに、二本の剣の間に雷のように光が走る。

剣の切っ先は、キャノンのエネルギー充填のように光が溜まって行く。

 

そして、発射。

 

 

着弾した瞬間に瓦礫は吹き飛んだ。

アリシアはすぐに障壁を展開したため、後ろにいたクルルシファーも無事だった。

そして先程いた部屋からは二つの悲鳴が聞こえた。

一つはルクス。

もう一つの方は、女子とは思えないその悲鳴からして、リーシャだろう。

 

「く、くっくっくっ......」

 

アリシアは笑いながら機竜を解除した。

 

「あなたって.....本当に無茶苦茶だわ」

 

アリシアは後ろで呆れているクルルシファーと共に階段を登った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー確かな誓いを胸に秘めて。

 

 

 

 




相変わらずそんなに長くないですね。
もうちょっと長い方がいいですかね?
希望がありましたらお教え下さい。

.....ペースが落ちるとは思いますが。


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20.決闘

白き影竜(えいりゅう、かげりゅう、どちらでも構いません


「それで決闘、『鍵』に関しては、何の成果も得られなかったわけですか?ワイバーンを大破させてしまっておきながらーーーーー」

 

 

学園に戻り、一通りの処置を行ったアリシアは、アイリの部屋を訪れていた。

ノクトはおらず、アリシアと二人きりなのをいいことに、アイリの説教が始まった。

アリシアはアイリの前で丸まっており、アイリは鬼の形相でアリシアを見下ろしている。

 

「いやほんと.....すみません」

 

アイリに対しては謝る他ない。

 

「私が怒っているのは、アリシアさんが何も反省をしてないことですよ。ただでさえ、遺跡は危険なのに、また無茶をしてーーーーー」

 

まだ続きそうだ。

と思っていると、急に声が小さくなって、

 

「また......またいなくなっちゃうかもって....心配しているんですよ.....」

 

あまりよく聞こえず顔を上げる。

 

(あれ....?なんか既視感.....)

 

と、思っていたが、もう遅い。

いつしか、視界に捉えたのと同じ色。

 

しかし、それを理解するよりも早く、アリシアは体を起こし、姿勢を正す。

 

アイリは既に元に戻り、よくわからない、といった風に首を傾げていた

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーが、

 

 

 

アイリは急に、かあっと顔を真っ赤にさせると、

 

アリシアの視界が反転した。

 

「さ、最低です......」

 

平手打ちされたのだと理解したときには、アリシアは意識を失っていた。

そしてその薄れ行く意識の中で思い出されたのは、

 

ーーーーー白だった。

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

視界にとらえたのは、滅び、荒れ果てた廃墟。

無数の瓦礫が転がるその中には、大きな影が三つ。

一つは機体の大きい、上部付近には長く大きい二つの影。

そしてその後方には、それよりは小さいが、ワイバーンよりは少し大きい。

ーーー強化汎用機竜。それも陸戦型。

 

そして最初の大きな機体の目の前に、倒れている大きいが細身の機体が見えた。

続いてーーー安堵。

機体が見えると言うことは、まだ負けてないと言うことだ。

 

それを確認すると、自らが両手に持つ剣を平行に並べ、切っ先を大きな機体に向ける。

 

そして発射。

 

だが着弾の寸前にその機体は素早く後退した。

 

「何者だ!?」

 

機体の主から叫び声が聞こえる。

 

「どう、して......」

 

細身の機体の主が唖然として呟く。

 

「ーーーーーすまん。遅くなった」

 

 

 

そこには光をも切り裂く純白の剣竜がいた。

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

アリシアが目を覚ますと、そこにはルクスとリーシャがいた。

その二人から事情とアイリからの伝言を聞いた。

「無茶はしてないでくださいね」と。

そして、ルクス達に一つお願いをすると、『厄災』で町外れまで猛ダッシュ。

町外れで『ゼル・エル』を纏いここまで飛んで来たわけだ。

 

 

 

 

 

「違う!私はもう、あなたを巻き込むつもりなんてなかった!」

 

クルルシファーから竜声が届く。

 

「何故、『ゼル・エル』を纏って来たの!?それじゃ、あなたの正体までーーーーー」

 

遺跡調査でワイバーンは大破。

ルクスから借りる手も考えなくもなかったが、バルゼリットのアジ・ダハーカについてとある仮説を思い付いたため、『ゼル・エル』を纏ってきたのだ。

そして、クルルシファーの前に、左手の剣を投げ、突き立てる。

 

「決闘相手のアリシア・レイヴンだ。現時刻をもって、決闘に参戦する」

 

アリシアは心意を込めて宣言する。

 

「純白の神装機竜.....? 彼は、一体ーーーーー」

 

アルテリーゼは困惑したように呟き、双剣を握りしめる。

 

「ハハハハ!ハッハッッハァ!」

 

バルゼリットが哄笑する。

心底愉快そうな表情で、アリシアを睨み付けた。

 

「これはこれは、見誤っていたぞ。てっきり逃げるものかと思っていた。たかが、女ひとりを助けるために正体を明かすとはーーーーー。予想以上に愚かな男のようだな、『白き影竜』とは」

 

「ーーー『白き影竜』!?まさか、こんな少年が......!?」

 

アルテリーゼも動揺して叫ぶが、アリシアは微動だにしない。

 

「いや、噂通りの『英雄気取り』だとも言っておこうか?無意味な真似はよせ。怪我と疲労を押して戦ったところで、この女は何もお前に接してきた利をあたえんぞ?」

 

確かにアリシアの機体は僅かに傾いている。

クルルシファーはその指摘に内心、歯噛みする。

 

「断る。バルゼリット・クロイツァー」

 

アリシアは動じることなくバルゼリットを睨み、告げる。

 

「何.....?」

 

「お前に測られるほど、俺も落ちているわけではない」

 

そして剣を両手で持ち、飛びかかるため、前傾姿勢をとる。

 

「お待ち下さい!」

 

ゴウッ!っと、突風を巻き起こして、アルテリーゼがアリシアに飛びかかる。

 

「バルゼリット卿は、お嬢様との戦いで消耗しています。これは二対二の正式な決闘です。まずは、私がお相手致しましょう」

 

陸戦型強化汎用機竜《エクス・ワイアーム》の質量と強化された膂力を最大限に生かし、アルテリーゼは双剣で、『ゼル・エル』に斬りかかる。

 

意表を突いた、一瞬の出来事。

そして決着も一瞬だった。

 

着地したアルテリーゼは、しかし、すぐに転んだ。

 

「なッ......!?これはーーー!?」

 

アルテリーゼの纏うエクス・ワイアーム。

その右足が半ばより切れていた。

『神速制御』によるカウンターの一閃は、その足を切り落としていた。

 

「まだ、終わっていない!」

 

アルテリーゼは持っていた双剣を地面に突き立て、それに寄りかかり、キャノンを構える。

 

「アルテリーゼ殿」

 

穏やかな声で、背後からバルゼリットのアジ・ダハーカが、その肩口に手をかけた。

直後、エクス・ワイアームから光が消える。

そして解除された。

 

「ここはオレに任せていただきたい。今のあなたでは勝ち目はないでしょうし、何よりーーー彼に手加減された時点で、勝負はついている」

 

「.....くっ!」

 

アリシアがエクス・ワイアームの破壊を片足に留めていたのは、彼女のプライドを慮ってのことだ。

と言うのもあるが、あまりバルゼリットに情報を与えたくなかったのもある。

 

そして、バルゼリットと向き合う。

 

「ふん....来るか?白き影竜?」

 

アリシアは返事をせず、ファフニール程のスピードで突進する。

そしてバルゼリットの直前で方向転換。

先程より早い速度で、目で捉えられても、反応できない速度で背後から斬りかかる。

 

だが、アリシアの剣がアジ・ダハーカの装甲に当たる寸前、三重の光の壁に阻まれる。

そして、戦斧が頭部目掛けて振り下ろされる。

 

「アリシア君!」

 

クルルシファーの悲鳴が聞こえるが、アリシアは中空へと逃れていた。

 

「ほぉ、流石に不意打ちでは、顔色ひとつ変えんか」

 

その言葉が終わる前にアリシアは、再度斬りかかる。

今度は最初から先程の速度で、左からの水平切りと見せかけ、上から切り落とす。

だがこれも、三重の光の壁に阻まれた。

そして、陸戦型の重量を生かした、戦斧の切り落とし。

またも直前に中空へと逃れた。

 

「ああ、やっぱり。俺の嫌な予感ってのはだいたい当たるんだよなぁ」

 

「ほう。負け惜しみでも言うつもりか?」

 

嘲るようにバルゼリットが言う。

 

「はっ....。それは自分に言っているのか?バルゼリット・クロイツァー」

 

「今の攻防を終えてもそんなことが言えるとは、お前はよっぽどの楽天家のようだーーー」

 

「それかお前の機竜の種がわかったから、だろ?」

 

一瞬バルゼリットが顔色を変える。

だがすぐに戻った。

 

「聞いてやろう。言ってみろ」

 

「アジ・ダハーカの神装《千の魔術》は他の機竜のエネルギーを奪い、触れれば神装をも奪うことができる。そうだろ?」

 

バルゼリットが険相を浮かべる。

 

「ほう、なかなかいい読みだ。いつから気づいていた?」

 

だが、顎を上げ、あくまでも強者として言う。

 

「遺跡調査のとき、お前がわざとらしく、ファフニールに触れ、直後からクルルシファーの様子がおかしくなったからだ。そして最後の戦斧の投擲。あれは明らかにおかしかったからな」

 

「ハハハハハ!」

 

バルゼリットは笑う。

 

「だが、わかったところで貴様は所詮、オレには勝てん」

 

ふいにアリシアを睨み付けると、左肩のキャノン、双頭の顎を既に身動きの取れないクルルシファーに向けた。

 

「その女の手足が多少不自由になろうが、俺はちっとも構わんのでな」

 

嘲笑うような声と同時に、砲撃が放たれる。

 

「ーーーーー」

 

クルルシファーが声にならない悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《逆鱗(アイギアス)》」

 

 

 

 

 

ドウッ!

 

 

 

大気が爆ぜた。

 

 

 

だが砲撃はクルルシファーには当たっていなかった。

 

クルルシファーの前に突き立っている剣の前に、アジ・ダハーカのものより複雑な模様を描く、光の壁が展開していた。

 

「なっ......」

 

バルゼリットは絶句していた。

 

「旧帝国のやり方はよく知っているよ。バルゼリット・クロイツァー」

 

「ちぃっ.....」

 

バルゼリットは舌打ちし、右肩のキャノンも放つ。

だがそれも光の壁に阻まれた。

何度も意味のない砲撃を行う。

だが結果は変わらない。

 

「貴様ッ......!何をした!」

 

堪えきれないようにバルゼリットが叫ぶ。

 

「ふん。俺の特殊武装だ。残念ながらお前のそれじゃ突破できねぇよ」

 

バルゼリットは絶句していたが、すぐに俺を睨み付け、戦斧を構える。

 

「貴様あぁぁぁぁぁ!」

 

足の車輪を猛回転させ、急接近してくる。

アリシアはそれをギリギリまで引き付けて、やはり先程と同じ速度で避け、上から剣を振り下ろす。

 

「ハッ!」

 

そして先程の雄叫びは何だったのか。

バルゼリットは哄笑し、三重の障壁を展開した。

そして俺の剣が障壁に当たる前に、バルゼリットは戦斧を振り始めた。

 

今までとは違うタイミングで降ってきたその攻撃に、だがアリシアは目を少し見張るだけでそのまま振り下ろす。

 

そして、激突。

アリシアの剣は三重の障壁に。

だがバルゼリットの戦斧はーーーーー

 

 

 

 

「『逆鱗』」

 

アリシアの前に展開された、さっきと同じ光の壁に止められていた。

 

そして、そのまま拮抗する。

だが、

 

「...ッ!」

 

アリシアの光の壁が押され始めた。

そして気付く。

それが≪千の魔術≫によるものだと。

そして悟る。

近接戦は不利だ、と。

 

だが今不用意に下がれば、押しきられかねない。

下がることもできず、また押しきることもできず、アリシアはその場に留まる。

 

 

 

「ーーーどうして、戦うのよ.....」

 

不意にクルルシファーが呟く。

クルルシファーは気付いている。

彼が何故か手を抜いていることを。

それ故の疑問。

 

「私は!あなたを、利用していただけなのよ!?最初からそのつもりで、近づいたのよ!だからこれ以上は、責任も義理も....あなたが感じる必要はないのよ....」

 

その声は徐々に消えゆく。

 

「だからもう、諦めて.....。あなたは誓ったんでしょう。アイリさんと、ルクス君と、その彼が守ろうとした理想とする国のために戦うんでしょう....?」

 

血を吐くような思いで、クルルシファーは言葉を紡ぐ。

 

「私にとって、あなたはただの道具だったわ。だからあなたにも、そう言って欲しいの.....。そう最初から割り切ってくれたら、『もしかして』なんて、期待せずに済むから。こんな思い、しなくて済むからーーー」

 

ぽたり、と。

クルルシファーの頬を、堪えきれなかった一滴の涙が伝う。

 

 

 

ーーーーーそして、静かに、その言葉は流れた。

 

「お前は言ったな。俺は、俺らの理想とする国のために戦うのだ、と」

 

アリシアはそのままの状態で続ける。

 

「今!俺の描く理想の国には!」

 

目前のバルゼリットを睨む。

 

「笑顔のお前が!必用なんだよ!」

 

『ゼル・エル』が小刻みに震える。

 

それは剣竜の怒りか。

 

はたまた、哀しみか。

 

「ーーー勝負だ!バルゼリット!」

 

そして遂に、白き影竜はその本性を表す。

 

その場にいたはずの純白の剣竜はバルゼリットの後方に、剣を両手でもって、振りかぶっていた。

 

「チィッ....!」

 

バルゼリットは舌打ちするが、剣を掲げたアリシアの前に、ファフニールの特殊武装《竜鱗装盾》が現れた。

そしてその後ろに三重障壁。

 

「俺は、あの話を聞いて決めた!」

 

目に見えない速さで剣を振り下ろす。

 

「絶対に、その笑顔だけは守ると!」

 

ビキイィイイィッ!

 

崩壊を告げる不協和音が、夜の協会跡地に響き渡った。

 

「ーーーなッ!」

 

反応できない速度だったが、絶対の防御を誇る、ファフニールの竜鱗装盾と三重障壁があった。

 

だがそれを易々と吹き飛ばした。

 

そして肩口に触れた、刃の接点から、崩壊が広がる。

そしてアジ・ダハーカは触れてはい方の肩口と頭周辺が一部残るのみとなった。

 

「さて、命は.....取らないでおこうか?」

 

見下ろし、アリシアは告げる。

 

「.......くッ!ハハハハハハッ!」

 

バルゼリットは醜悪な笑みを浮かべて、笑った。

 

イイィィィイ!

 

残ったアジ・ダハーカが耳障りな咆哮を上げる。

 

「ハハハハハハッ!これでお前も終わりだ!『王国の覇者』が負けてはならないのだよッ!」

 

だがアリシアはただ、冷徹に見下ろすだけだった。

 

「言っただろう。旧帝国のやり方はよく知っている、と」

 

「くくく、ではーーーーー」

 

と、バルゼリットが、何か言おうとした瞬間、

 

「やはり、こうなりますか、バルゼリット卿」

 

そこに、一匹の竜がいた。

見るものを圧倒し、畏怖を抱かせる破滅の象徴。

バハムートを纏ったルクスが両の手に数人ずつ、強化汎用機竜を持っていた。

 

「お前の私兵とはこいつらか?随分頼りになる連中だな」

 

さらに、ティアマトを纏ったリーシャが、エクス・ワイバーンを空から投げ捨てた。

 

「ほ、他の連中はどこへーーー!?」

 

「アーちゃん。大丈夫だった?」

 

バルゼリットの声を、間延びした声が上から被せた。

 

「な.....!」

 

その声の主、フィルフィは装甲の解除された数十人の私兵を引きずって現れた。

 

「残念だが貴公の奸計は全て聞かせてもらっていたよ。バルゼリット卿」

 

更に、ワイバーンを纏ったシャリスが現れる。

その横にはティルファー。

そして、

 

「Yes,私のドレイクの傍受機能で、会話を拾い、全て、連れてきた軍の方々に、確認していただきましたのでーーー」

 

「う、ぐ......う!」

 

「終わりだな。バルゼリット・クロイツァーよ」

 

アリシアの威圧を込めたその言葉に、バルゼリットは気絶した。

 

 

 

 

アリシアは装甲の解除されたクルルシファーに近づく。

 

 

「帰りましょう。俺たちの学園に」

 

 

「.....ええ」

 

 

今度こそ、笑顔のクルルシファーとともにその場を後にした。

 

 




あっ5000文字.....。
多くなってすみません。
次回でクルルシファー編終了!
その次はセリスティア編!
あ、セリスティアはルクっちガールズなので悪しからず。

誤字脱字等ありましたら、報告お願いします。


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21.婚姻?

投稿ペースが落ちると言ったな。

あれは嘘だ。



基本不定期なので、よろしくお願いします。


 

 

「んっ.........」

 

 

 

 

アリシアは混乱している。

 

目の前には少し頬を赤くした、クルルシファーの整った顔がある。

 

もう一度言おう。

 

 

 

 

アリシアは混乱している。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

「此度の件。バルゼリット卿の謀を見抜けず、婚約を推し進めようとした私の責任です。お嬢様とアリシア・レイヴン様には、謝罪の言葉もございません。厳罰はエインフォルク家に戻り次第受けますので、この場ではどうか、ご容赦のほどを.....」

 

現在、バルゼリットと決闘を決めたあの店に来ている。

そして、クルルシファーの横に座り、出された紅茶を啜っていたら、アルテリーゼが頭を下げた。

アリシアは何も言わずクルルシファーに視線を向ける。

 

「顔を上げてくれるかしら。店内で頭を下げられるのも、恥ずかしいから」

 

涼しげな顔で、クルルシファーが答える。

 

「今回の件は、私も悪かったわ。あなたも苦労するわね、アルテリーゼ。だからーーーーーおあいこよ。何も謝ることはないわ」

 

ほんの少しだけ、二人の視線が交わり、穏やかな沈黙が生まれる。

アリシアはまたも何も言わない。

 

ーーーーーいや、内心は驚愕で染まっていた。

何も言わないのではない、言えないぐらいに驚いているのだ。

あのクルルシファーが優しく、丁寧に、謝った。

それが驚きでしかなかった。

 

「もったいなきお言葉です。ですがーーーーー私の使命は、もはや解決されたも同然ですね」

 

「えっ?」

 

アルテリーゼの突然の言葉と、自分に向いた視線に、驚いていたアリシアは聞き返した。

 

「アリシア・レイヴン様の機竜使いとしての実力、バルゼリット卿の策略を見破り、罠を打ったその叡知。しかと拝見させていただきました。更に、新王国の女王陛下にも認められ、軍の上に立つその立場。我がエインフォルク家の当主も、婚約者として相応しいと判断するでしょう」

 

「うえっ!?あいや、えっとーーーーー」

 

アリシアは慌てて隣で、涼しい顔をして紅茶を啜るクルルシファーに耳打ちする。

 

「ちょ、クルルシファー!どゆこと!?言ってないの!?その.....一週間だけだって」

 

「そんな暇なかったのよ。だから今から、言うつもりだったのだけどーーーーー」

 

想定外だったのか、形相だけは焦ったように、だけど声だけはいつも通りに言う。

 

「ちょっ.....アルテリーゼさん!そのーーーーー」

 

「ご安心ください。ここからは私の仕事です。我が主であるエインフォルク家の当主には、是非あなたを婚約者にと、私の全霊を懸けて推挙させていただきます」

 

アリシアは敬語も忘れ、慌てて訂正しようとするが、

 

「ではーーー私はこれにて。料理の会計は済ませておりますので、お二人でごゆっくりどうぞ。私からの、せめてものお詫びです」

 

そう短く告げると、アルテリーゼは静かに席を立った。

 

「では、失礼致します。お嬢様ーーー。またいずれ、お伺いします」

 

「あなたもーーー元気でね」

 

クルルシファーの穏やかな笑みに、アルテリーゼは一礼して、そして出て行ってしまった。

 

「あっ.....」

 

「行ってしまったわね。ユミルに戻っても、元気でやってくれるといいけど」

 

アリシアは轟沈した。

 

「アリシア君さえよければ、正式に婚約を交えてもいいのよ?」

 

クルルシファーが悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

アリシアは机に突っ伏したまま、顔だけクルルシファーに向ける。

 

「でも、これであなたとの契約も、ひとまず終わりだわ」

 

学園長の気紛れで作られた、魔法の依頼書は、その効果を失おうとしていた。

『恋人』になる、というクルルシファーの依頼。

雑用の義務はないアリシアだが、初の大仕事だった。

 

「そうだな」

 

クルルシファーに振り回され続けた行ってるを思い出す思い出す。

決してーーー、悪くはなかったはずだ。

 

「報酬を払わないといけないわね」

 

クルルシファーが微笑む。

 

「あ、でもそれはーーーーー」

 

「目を瞑っててもらえるかしら?」

 

決して強い声ではなかったが、その声には有無を言わせぬ何かがあった。

 

意を決し、目を瞑る。

 

 

 

クルルシファーの近づく気配。

 

 

そして、唇に触れる、柔らかな感触。

 

思わず目を開く。

 

目の前には少し頬を赤くした、クルルシファーの整った顔がある。

 

アリシアは混乱する。

 

だが、口に入り、舌に触れ、口の中を蹂躙する、柔らかいーーーーークルルシファーの舌。

 

そして、理解する。

 

「ーーーーー」

 

アリシアは何も出来ず、何も考えれず、なされるがままとなる。

 

そして、離れる。

 

アリシアとクルルシファーの口の間に銀線が延びる。

 

「もし、アリシア君が本当に婚約してくれればーーー、この続きをしてあげてもいいわよ?」

 

アリシアは呆然とする。

 

 

「な、なにやってるんですか!」

 

突然、ノクトを連れたアイリが店内に乱入してくる。

 

「仕方がないわね。それじゃ、婚約の話は考えておいてね」

 

「こ、こんやっ.....」

 

アイリが顔を真っ赤に染め上げる。

 

「ちょ、それはーーーーー」

 

アリシアはやっと再起動する。

 

 

 

アリシアたちの、慌ただしい日常が帰って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルシファーはアリシアに舌を絡ませながら、とある会話を思い出す。

それは、遺跡での、アリシアの話。

 

 

 

『ーーーけど、大切なことは無くなってない。アイリと初めて会ったときのことはまだーーーある』

 

 

 

クルルシファーは一つの決意のもと、この策を決行した。

 

アリシアに、自分を植え付けるのだ、と。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

クルルシファー、アイリと並び、ノクトが斜め後ろより着いてくる、士官学校への帰り道。

 

頬を膨らませ、そっぽを向いたままのアイリを見ながら、アリシアはいつしかクルルシファーに言ったことを思い出し、内心アイリに謝る

 

ーーーーーごめんな、アイリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーーー俺の機竜は神装を発動する度に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の記憶を喰っている』

 

 

 

 

 





原作2巻相当まで終わりました。
これも一重に読者の皆様が読んでくださってのことです。
ありがとうございます。
そしてこれからも、
『無敗の最弱とその影は』
をよろしくお願いします。


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22.男子(?)生徒達は

セリスティア編です!
どうぞ.....


「随分冷え込むなー.....」

 

校内選抜戦があと数日というところまで近づいたある日。

アリシアは三和音に頼まれ、学園敷地内の夜間見回りをしていた。

 

だがいつもと違うところが一点。

それはーーー

 

ーーー髪を下ろしているところだ。

 

 

 

 

 

三和音によればここ数日、変質者が学園敷地内で確認されている。

そのため数少ない男子生徒に頼んできたのだろう。

三和音に確認を取れば、ルクスも見回りをしているのだと言う。

 

ーーーそのとき、三和音の三人が少し目をそらしたのをアリシアは見逃さなかったのだが。

 

 

 

 

そうして歩いていると、向こうから栗色で長髪の少女があるいてきた。

人気が少なくなっているとはいえ、学生が歩いてることは珍しくはなかったが、何か気になることがあり、ついぞ二度見してしまった。

少女はその視線に気付き、顔を伏せてしまった。

そのまま通り過ぎようとしたが、それに気付いた。

 

 

 

「ぷっ......く、くっくっく.....」

 

アリシアは笑いを堪える。

その声に気付いたのか、少女が振り向く。

 

「いやー、うん。よく似合ってるよ。かわいいよ........アイリに報告しなくちゃ」

 

「ストーーーップ!」

 

少女が急に大声を出す。

 

「どうしたの?俺今から親友の妹に会いにいかないと.....」

 

「ねぇ!?わかってるよね!?わかって言ってるよね!?」

 

少女が詰め寄ってくる。至近距離から見ても美少女にしか見えない。

 

「あっはっはっはっはっは。そんな趣味があったのか?ルクス.....ちゃん?」

 

「そんなわけないじゃないか.....」

 

その少女ーーー女装したルクスが項垂れる。

三和音にルクスのことを聞いたときに、目をそらした理由がよくわかった。

ルクスが似合ってる以上に、美少女にしか見えないからだ。

正直アリシアもそれに気付かなかった限りわからなかっただろう。

 

 

 

 

「でもよくわかったね。クラスメイトでさえ気付かなかったのに」

 

少し行ったところのベンチに座り、ルクスと話す。

 

「ん?ああ。俺以外に二本も機攻殻剣を持ってるやつなんて一人しかいないからな」

 

「ああ....なるほど」

 

ルクスも理解したようだ。

そう。女装していてもルクスは、ワイバーンとバハムート両方の機攻殻剣を腰に下げていたのだ。

 

「まあ、バレてたらお前が、明日から学校で女装ルクス君って言われるだけだからな。バレなくて良かっただろ?」

 

「それでも複雑だよ.....」

 

ルクスは頭を抱えていたが、はっと顔を上げると、

 

「って、何でアリシアはそのままなの!?」

 

再度詰め寄ってくる。

アリシアは髪を下ろしているだけで、制服は男子用のままなのだ。

 

「さあ?制服の余りがなかったとかじゃない?」

 

「り、理不尽だ....」

 

また頭を抱えてしまう。

 

「ま、頑張ってね。ルクスちゃん」

 

そう言い、アリシアは立ち上がる。

 

「そのちゃん付け止めてもらえると嬉しいかな...」

 

ルクスの呟きを背に、アリシアは立ち去る。

 

 

 

 

ルクスをそのままにし、アリシアは見回りを再開する。

 

だがほんのちょっと歩くと、後ろから悪寒を感じた。

アリシアは直ぐに後ろを向くと、さっきいたベンチの方に駆ける。

 

先程のところに戻ると三つの人影を確認した。

ひとりは美少女ルクスちゃん。

ひとりは後ろ姿だが、身長、体格から男性、つまり変質者と見える。

そして最後の一人。

半身を黄金の機竜に覆われた少女。

その悠然とした姿、鮮やかな金髪、底無しに深い翡翠の瞳には見覚えがあった。

ここ、城塞都市に来る前に王都で一度出会った騎士団団長。

セリスティア・ラルグリス。

 

 

「ぐっ.......う!」

 

アリシアからはよく見えなかったが、男の喉元にはセリスティアのもつ刺突剣が突き付けられていた。

だが男はポケットから球体を取り出すと地面に転がす。

 

パン!

 

という軽い音を立て弾けたそれは、白煙を上げる。

そして男はそれに紛れるように、少女たちと反対にーーーアリシアの方に走ってくる。

終始顔だけは後ろを、セリスティアたちの方を見ていた男は途中、短剣を懐から出すと、後方へなげる。

 

「危ないッ!」

 

聞き覚えのある、ルクスの声がし、男がようやく前をーーーアリシアを確認する。

一瞬、目を見開き男は拳を振り上げる。

 

「どきな!お嬢ちゃん!」

 

そして、叫び声。

 

「逃げてくださいッ!」

 

セリスティアの声を聞きながら、降り下ろされる拳を、アリシアは横にずれ、掴み、投げ飛ばす。

 

「うおっ!」

 

男は背中を打ち付けたが、直ぐに体勢を建て直し立ち上がると、走り去る。

 

アリシアは舌打ちすると、その男を追った。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

その翌々日。

昼になり、珍しくリーシャのいないルクス、クルルシファーと共に少し早い昼食を取っている。

そこでルクスの馬鹿話を聞かされた。

裸のセリスティアにマッサージをしたこと。架空の女子生徒ルノを作り、セリスティアとデートを取り付けたこと等。

 

「もはや、才能だよなぁ.....」

 

アリシアの呟きにルクスは過剰なまでに肩を震わせる。

 

「むしろルクス君は、わざとやってるように思えるわね」

 

クルルシファーも追撃する。

 

「あれはしょうがなかったんだよ.....」

 

ルクスがぼやく。

それにアリシアとクルルシファーは笑いが溢れるが、

 

「ルクっち!アリっち!ここにいたの!?」

 

息を切らしたティルファーが駆けてくる。

 

「その呼び方、やめてくれない?」

 

アリシアの頼みも虚しく、ティルファーは顔を上げると、

 

「ちょっと大変なんだよ!セリス先輩が、学園長に君ら二人を退校させるように、直談判してるらしくて、リーシャ様がそれを止めにいっててーーー」

 

と酷く焦ったように言う。

その言葉にルクスは立ち上がる。

 

「アリシア」

 

ルクスは驚いていても真っ直ぐな目をアリシアに向ける。

 

「はぁ。行くか」

 

アリシアも腰を上げ、ルクスと食堂を後にした。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「だから、ルクスとアリシアの編入に問題などないと言っている!元はわたしの提案だが、学園長にも話を通し、正式な手続きを踏んだのだ。今更退校なんてーーー」

 

ルクスとアリシアが学園長室に入ると、リーシャがセリスティアと向き合い、言い合っている。

そして、二人がルクスとアリシアに気付く。

 

「お前ら、何でここにーーー!?」

 

驚くリーシャを気にせず、ルクスは扉を閉め、アリシアは数歩前に出る。

 

「お久しぶりです。ラルグリス卿」

 

アリシアはセリスティアに礼をする。

セリスティアは数秒間アリシアを黙視した後、アリシアの隣まで進んだルクスに目を向ける。

 

「あなたが旧帝国の元王子、ルクス・アーカディアですか?」

 

一呼吸の間を置き、値踏みするような視線で問いかける。

 

「私の留守中に、何度か学園の危機を救っていただいたことは感謝します。ですが男性であるあなた方は本来、ここにいてはいけません」

 

あくまでも譲る気はないのか、悠然と言い放つ。

 

「ラルグーーーーー」

 

「セリスティア先輩。僕からあなたにお願いがあります」

 

何か言おうとしたアリシアに被せてルクスが言った。

 

「バルゼリット・クロイツァーが請け負うはずだった、終焉神獣(ラグナレク)討伐の部隊をあなたが率いていただけませんか?」

 

学園長室内の一同が息を飲む。

セリスティアは一度息を吐く。

 

「私は例の討伐依頼を受ける予定ですが、終焉神獣は私一人で倒します」

 

ある意味、予想通りの一言だった。

 

「ではまだ、僕たちは学園を去れません」

 

だが、ルクスの言葉もアリシアは予想通りだった。

 

「......どういう意味ですか?」

 

セリスティアは怪訝な顔で問い質す。

 

「僕とアリシアを終焉神獣討伐に同行させていただきたいからです。ラルグリス卿」

 

ここまで完璧に『威厳のある四大貴族』だったセリスティアは、初めて動揺の色を見せる。

 

「一学生にこの危険な任務を依頼するのは、我が国の軍の弱さを示すものとなりますが、だからこそ、依頼を請け負うあなたには万全の状態で挑んでいただきたい、そう思ってのことです」

 

アリシアも付け加える。

 

「あなた方の実力がただならぬことは聞いています。ですが、私はあなた方を認める気などーーー」

 

やや険を帯びた声で、セリスティアが言う。

それに対しルクスが口を開こうとするとき、

 

「二人とも、ちょっと落ち着きなさい」

 

レリィが苦笑いを浮かべて、仲立ちに入る。

 

「まとめると、男の子二人は『セリスさんが幻神獣の討伐、及びその同行』、セリスさんは『ルクス君の退校、及び同行の拒否』」

 

二人は頷く。

 

「でも生徒たちの意見も半々なのよ。すぐに今のお話の決着をつけるのは、難しいんじゃないかしら?」

 

そこでレリィの浮かべた笑みを、アリシアは見たことがあった。

 

「三日後から始まる校内選抜戦ーーーその結果次第で今回の論争に決着をつける。ということでどう?」

 

 

レリィのその提案に、今度あの笑みを見たら絶対に逃げようと誓うアリシアだった。

 

 




遅くなってすみません。
次回からは校内選抜戦です。
あと、あまりルノ視点はないと思います。


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23.校内選抜戦①

ルクスとアリシアの在学をかけた校内選抜戦の話は瞬く間に拡がり、放課後になる頃には、校内はその話題で持ちきりだった。

 

 

 

 

 

そしてその放課後の教室で、その騒動の中心人物達はーーー

 

 

「おいルクス。ヤバイことを思い出した」

 

その片割れであるアリシアは、もう片方であるルクスに小声で話しかけていた。

 

「え?」

 

振り向くルクスに、さらに小声でそれを告げると、ルクスも顔を青ざめさせた。

 

 

 

 

日が暮れる頃。

アリシアはルクスが依頼を終えるのを待ってから、共にそこを訪れた。

三和音のノクトと相部屋であるそこは、ルクスの最愛の妹ーーーーーアイリの部屋である。

中に入れば、制服姿のアイリひとりだけが、小さな机の前にいた。

 

 

「こんばんは。兄さん、アリシアさん」

 

これが無言の圧力と言うものなのだろうか。

挨拶以外何も言わず笑顔でいる彼女は、少し怖かった。

 

「そ、その、怒ってる?アイリ........?」

 

まさに、おそるおそるとルクスが尋ねる。

 

「怒ってませんよ?ええ、お二人はきっと、私に怒られたくてやってるんでしょうから、ここで私が怒ったら、ますます喜んでしまいますからね」

 

変わらず笑顔なのが恐い。

 

「おいルクス。言われてるぞ」

 

小声でルクスに言うが、

 

「あなたもですよ、アリシアさん」

 

変わらずーーーーーいや、何かオーラの増したアイリが笑顔で顔をこちらに向ける。

 

「すみませんでした」

 

やはりアイリには頭を下げるしかないアリシアであった。

 

「そ、その。ちょっとこの件は、いろいろあってーーーーー」

 

ルクスも弁明を図る。

 

「別にいいです。二人とも負けて、この学園を追い出されてしまえばいいんです。私の気持ちを知らないで危険な目に遭うより、そっちの方がよっぽど安心ですから」

 

と、小さく口を尖らせて、アイリは拗ねる。

 

「アイーーーーー」

 

アリシアが何か言おうすると、コンコンという軽いノック音と、

 

「アイリ、入っても大丈夫ですか?」

 

ノクトの声だった。

 

一瞬更に頬を膨らませたように見えたアイリだったが、すぐにいつもの様に戻ると、ノクトに声をかける。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

すぐにノクトが入ってくるが、男子二人を見ると、

 

「No,大丈夫ではなかったようですね。私は急用を思い出しました」

 

そう言って出ようとする。

 

「ちょっ、ノクト!大丈夫ですって!もう終わりましたから」

 

珍しくアイリが慌てる。

だがノクトはその台詞を聞くと更にーーーーーいや、変わってないように見えるが、微妙に困った顔になり、

 

「終わった、ですか。とうとうアイリも遠い所へ行ってしまうのですね」

 

少し、しみじみした様子で、うんうんと頷く。

ルクスは首をかしげていたが、アイリは顔を真っ赤にさせると、

 

「終わったのは説教です!」

 

そう叫ぶ。

 

「Yes,わかっています。冗談です」

 

無表情でノクトは告げた。

 

「はぁ、ノクト。アリシアさんに何か聞きたかったのではなかったのですか?」

 

「Yes,そうでした。危うく忘れるところでした。」

 

そう言い、ノクトはアリシアに向き直る。

 

「と、言うことで、いくつかよろしいですか?アリシアさん」

 

本当にほぼ無表情のまま聞いてくる。

アリシアは内心苦笑い、ノクトには笑顔を向ける。

 

「内容にもよるけど、なるべく答えるよ」

 

「では、一つ目ですが」

 

早速とばかりに聞いてくる。

 

「先日、学園長室でセリス先輩に対し、前にも会ったようにしていましたが、そこのところどうなんでしょう」

 

なぜ事実確認を、どうなんでしょう、と聞いてくるのか疑問に思ったが気にしない。

 

「あ、それ僕も思った」

 

ルクスも乗ってくる。

 

ーーーアイリが耳を澄ませてることには気づかない。

 

「ここに来ることになった理由は言ったよね?」

 

いつしか話した記憶がある。

ノクトもそれに頷く。

 

「遠征の責任者に謝ろうとしたら、ラルグリス卿が出てきた、ってわけ」

 

「なるほど、それだけでしたか」

 

それだけ、と言うのに何か感じたが気にしない。

 

ーーーアイリが胸を撫で下ろしているのには気づかない。

 

「では、もう一つ、よろしいですか?」

 

やはり無表情で聞いてくる。

 

「どうぞ」

 

「バルゼリット卿との決闘の時のことなんですが」

 

少し一同に緊張が走る。

 

「砲撃からクルルシファーさんを守ったあれは何ですか?確か、特殊武装と言ってた気がしますが」

 

クルルシファーを守った光の壁のことだろう。

 

「そそ。特殊武装『逆鱗』。『ゼル・エル』に内蔵されていて、まぁ、強力な障壁発生装置と考えてもらえればいいよ」

 

アイリとルクスは知っているため特に変化はない。

ーーーノクトも無言のだから変化は見られないが。

 

「ですが、あれは剣から障壁が出ていませんでしたか?」

 

そう。機竜の標準装備の障壁発生装置は、その機竜の回りのみに自動的に発生させるものなのだ。

 

「ま、特殊武装だからね。あの障壁は『ゼル・エル』の装備からなら、何からでも出せるようになってる。投擲したダガーでも、弾かれた剣からでも。ーーー流石に自動じゃないけどね」

 

肩を竦めながら言う。

 

「Yes,答えていただき、ありがとうございます」

 

最後まで無表情だったノクトは頭を下げた。

 

「また何か聞きに来て。答えられる範囲で答えるよ」

 

「Yes,そのときは遠慮なく」

 

 

それを最後にルクスとアリシアはその部屋を後にした。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「それでは、校内選抜戦Aグループ二番ペア対、Bグループ一番ペアの模擬戦を開始する。互いに抜剣し、装甲機竜を装着せよ!」

 

 

校内選抜戦初日。

少々のいざこざの後に、リーシャとクルルシファー、フィルフィとルクス、アリシアは個人戦のみ、という風に決定された。

そして、ペア最初の試合はリーシャ、クルルシファーペア対セリスティア、サニアペアだ。

この試合はセリスがわざわざ一、二年に自分が出ると、宣戦布告をしていったものだ。

 

 

審判を務めるライグリィの声で、四人は一斉に機攻殻剣を抜き払う。

サニアはワイバーンを、リーシャはティアマトを、クルルシファーはファフニールを纏った。

二人は本気のようだ。

そしてーーーーー

 

「降臨せよ。為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、《リンドヴルム》」

 

言葉を失った。

 

その美しさもさることながら、迫力に圧倒された。

 

 

ーーーこれはうちの連中がぼろ負けするわけだ。

 

なるほど、と内心納得する。

それほどに実力が見てとれた。

 

そしてその危険性も。

 

 

 

 

「模擬戦、開始!」

 

 

 

 

戦闘が開始した。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「戦闘続行不可能と見なし、三年生『セリスティア、サニア』ペアの勝利とする!」

 

 

ライグリィが模擬戦終了を告げた。

 

先の戦闘に対し、ルクス達が解析しているところだが、アリシアは別のことに驚いていた。

 

 

「どう思いましたか?アリシアさん」

 

アイリの質問に対し肩を竦める。

 

「......どう見ても学生の実力じゃあない」

 

率直な意見を述べる。

 

「攻略法は....見つかりましたか?」

 

ノクトがいつも通り、いや、いつもより緊張したように聞いてくる。

 

「この試合だけじゃ無理だな。手加減してた」

 

「なっ......」

 

ルクスを含めアイリや、あのノクトも驚いていた。

ーーールクスの隣のフィルフィは、そのままだったが。

 

「ど、どういうことですか?」

 

近くにいた別の生徒も耳を傾けているようだ。

 

「神装の発動も少なかったが星光爆破や重撃も最後まで使わなかった。彼女ほどの実力者が、その程度しか使えないわけではないはずだ」

 

「ーーー手を抜いていなければ、か」

 

少し大きめに言った声にルクスが続いた。

その声が、演習場から出ようとするセリスティアに聞こえるように。

 

 

 

 




ノクトのクルルシファーの呼び方がわからない....


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24.校内選抜戦②

名無しにすると書きにくかったので、三年生の騎士団団員にひとり勝手に名前をつけました。(セーラ・クインティ)
今後出る予定はないです。


「「本当に、すみませんでした」」

 

 

ルクスと行ったリーシャとクルルシファーの見舞い。

血迷ったルクスに着いていったアリシアは、着替え中の少女たちがいる部屋に突入。

何も言えない少女たちを見ていたルクスの足を払い、同時にアリシアも土下座。

少女たちが着替え終わるのを待ち、今に至る、というわけだ。

 

「......あれだな。お前はほんと、わざとやってるだろ!?なに考えてるんだよ、このドエロ!」

 

羞恥に頬を赤く染めたリーシャが怒鳴る。

 

「あなたには決してそんな事がないと思っていたんだけれど」

 

こちらも少し頬を赤くしたクルルシファーが冷ややかな目を向けてくる。

 

「「面目ありません」」

 

頭を下げる他ない。

 

「ま、まあーーーそれはその、後でたっぷり反省してもらうとして、ど、どうだった?」

 

「え?な、何がですか?」

 

「な、何ってその、決まってるだろ!?さっきのことだ.....」

 

恥ずかしそうに床の隅に目を反らしつつリーシャがルクスに問う。

その間アリシアはクルルシファーからの冷たい目線から逃れるために、頭を下げたままである。

 

「そ、そのーーー。リーシャ様の身体、小柄なのに女の子っぽくて、すごくエロかわいくて、正直興奮しました....」

 

何を口走っているんだ、こいつは。

 

「.....ッ!?う、あぅ.......」

 

リーシャの戸惑う声が聞こえる。

その間アリシアは、クルルシファーの視線よりは暖かい床に額をつけていた。

 

「そ、そうじゃなくて、わたしはさっきの戦いのことをだなーーー」

 

「」

 

ルクスの絶句する様子がすぐにわかった。

 

 

 

「あなたはどうだったかしら?アリシア君?」

 

更に冷ややかな声で掛けられた言葉に、頭を上げることはできなかった。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「それでは、本日の個人戦第十二試合、アリシア・レイヴン対、セーラ・クインティの戦いを、これより執り行う!」

 

二日目最後の試合、そしてアリシアが出ると言うこともあるのだろう。

全学年の生徒と関係者ほとんどが集まっている。

 

今回のアリシアは髪を下ろしているわけではないが、いつもとは違う所が一ヶ所。

それはーーーーー

 

「来たれ、根源に至る幻想の竜。幾重にも瞬いて姿を為せ、《ドレイク》」

 

ドレイクを使っているというところだ。

 

 

 

アリシアには、ワイアームを纏った相手、セーラに見覚えがあった。

だがそれがわかるより早く、先方より竜声が届いた。

 

「その....王都では助けていただき、ありがとうございました....」

 

思い出した。

一番最初。王都で三人組と戦闘していた少女だ。

 

「助けていただいた借りがありますが、これも皆のためです。すみませんが全力で行かせて貰います!」

 

学生とは言え、その構えは随分と完成されたものであった。

対するアリシアは、機竜息銃を手に持ってはいるものの特に構えず、しまいには空間ウィンドウまで開いていた。

客席からどよめきが上がった。

アリシアはそれを気にせずライグリィに目線を投げ掛ける。

ライグリィは溜め息をし、宣言する。

 

 

 

「模擬戦、開始!」

 

 

 

その言葉を合図にセーラがブレードを手に突進してくる。

対するアリシアはーーーーー、

 

「なっ........」

 

どこからか声が上がった。

それもそうだ。

アリシアは、ドレイクの能力である、透明化を使ったのだ。

正確には迷彩であるそれは、出力上、戦闘に耐えうるものではない。

攻撃するのに武装にエネルギーを流せば、たちまち迷彩は解除されるようなものなのだ。

 

だがそれで終わらなかった。

 

「ッ!?」

 

セーラが驚きに目を見開く。

何もない所から、機竜息銃の弾丸が飛んできたのだ。

しかもセーラを中心に、その発射地点は回転していた。

つまり、透明化をしながら、しかも走りながら、その上弾幕を張っている。

 

「くっ....!」

 

負けじとセーラもその発射地点に機竜息銃を撃つ。

すると見えない攻撃者からの攻撃が止まった。

こうなればセーラは、アリシアがどこにいるかわからないため、無闇に攻撃できない。

 

そしてセーラの後方、死角となる、またも何もない所から弾丸が飛んできた。

そしてこれには、セーラも反応しきれず被弾した。

 

 

無傷だった。

セーラに被弾した弾丸は、自動的に展開する障壁に当たると、霧散したのだ。

 

「え?.....」

 

機竜息銃の弾丸は、キャノンほどではないとは言え、障壁程度は貫通するはずなのだ。

それをもできないと言うことは、機竜息銃にエネルギーが渡ってない、ということだ。

 

そしてアリシアはその攻撃力のない攻撃を先程と同じように続ける。

セーラは時々被弾するも、その全てを障壁が阻んだ。

 

「なっ....舐めているのですか!真面目に戦って下さい!」

 

イラついたようにセーラが叫び、先程と同じように発射されるところに弾幕を張る。

またも攻撃が止んだ。

 

イラついていても、回りを警戒し、見渡している。

すると不意に、少女に西日がさした。

 

午後に行う個人戦の最後だ。

もちろん日は西に傾いている。

 

演習場の上端。

まだ一応見えている西日が一瞬強くなった、ようにセーラは感じた。

そして、

 

 

「ッ!?」

 

 

セーラは空を見上げ、それに気づく。

ブレードを両手で持ち、高く振りかぶる、透明化を解除したアリシアの姿を。

 

「くッ......」

 

歯噛みした少女は、剣を上空から落下し始めたアリシアに向け、そして剣を少し引き、構える。

ワイアームの腕力を生かし、迎撃するつもりなのだろう。

陸に足をつけ、重量のある陸戦型に対し、落下しているとはいえ、特装型のドレイクである。

タイミングを見計らい、最大のエネルギーをブレードに流し、ドレイクの剣を叩き折るつもりなのだろう。

アリシアから目を離さず、少女は見続ける。

だが高度が下がると、セーラは剣を少し戻し、顔の前に持ってきた。

西日だ。

演習場より差していた西日が眩しく、アリシアを見ることが出来ないのだろう。

だが不幸なことに、剣で顔を隠す寸前、アリシアが剣を降り下ろし始めるのは見られていた。

 

セーラは先程のタイミングと自分を信じ、剣を振った!

 

 

 

バキッ!

 

 

 

「え......」

 

 

セーラの纏うワイアームの肩口に、ブレードが突き立っていた。

 

「戦闘続行不可能と見なし、アリシア・レイヴンの勝利とする!」

 

ライグリィの宣言を合図に、わっと歓声が上がった。

 

そこでセーラは見た。

アリシアのドレイクの右手には、竜尾鋼線が握られていた。

その竜尾鋼線の先にはーーー、先程解除されたワイアームに突き立っていたブレード。

 

「な.....」

 

つまりアリシアはセーラが西日で顔を隠している間に手のブレードを離し、竜尾鋼線を振り抜いた。

当然ワイアームの構えるブレードに当たった竜尾鋼線は、そこを支点とし、回転。

見事背中に突き立ったわけだ。

だが、それが容易でないことも明らかだ。

敵の行動の予測もさながら、タイミング、そして竜尾鋼線の長さも変えなければ、当たらない。

 

そこまで考えることができたのは、何人いたのだろうか。

 

回りを見渡すと、セリスティアと目があった。

そこには僅かながらも、驚きの色があった。

アリシアは機竜を解除すると、一礼し、演習場を去った。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

突然だがアリシアの部屋は、寮の一階、寮母とは別の管理人用の部屋があったらしく、そこにある。

 

いつもは皆が着替え終えた後の、演習場控え室を使うのだが、今回は自室で着替えている。

 

模擬戦後、演習場控え室をスルーし、外へ繋がる通路を歩いていると、前から少女が歩いてきた。

 

「お久し振りです、アリシア卿」

 

セリスティア・ラルグリス

現在対立中の彼女であった。

 

「先日はろくに挨拶をすることができず、申し訳ありません」

 

一貴族令嬢としての挨拶なのだろう。

何故か敬語を使っているが。

 

「貴族ではないので卿は必要ありませんよ」

 

社交辞令用の笑顔で返す。

 

「あなたがこちらに来た理由も知っています。あなたの人物像も父から聞いています。だからこそ、何故ルクス・アーカディアの味方をするのですか?彼が害悪ではないと、どうして言い切れるのですか?」

 

彼女の真剣そのものの顔には、少しの罪悪感が見てとれた。

アリシアでも、前回会っていなかったら分からなかっただろうそれは、話す内容からルクスに向けてのものだろう。

そうすると、

 

「あなたはそれが既に、わかっているのではないですか?セリス先輩」

 

わざと先輩を用いたが反応はない。

 

「私自身の意見が欲しいと言うのであれば.....そうですね」

 

一呼吸置き、

 

「貴女よりは、彼のことは知っているから、です」

 

目を細めたセリスティアに一礼し、横を過ぎる。

 

「校内選抜戦の後、一度ルクスと話してみると良いでしょう」

 

そう言い残して。

 

 



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25.休息日

読み直してたんですが、別の方の作品に似てるんですよね...。
決してパクりではありません。


いやまぁ、参考程度にはしましたけど。


今、アリシアは町に出ている。

そしてその隣にはーーーーー

 

 

 

ーーーーー微妙な顔をしたアイリがいた。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

個人戦の後、セリスティアと対話を終えたアリシアは、着替えるために自室に帰っていた。

そしてその自室では世にも恐ろしい光景が広がっていた。

そこには、静かに睨み合う、細身の少女が二人。

片方は蒼い長髪を腰まで伸ばした少女。

もう片方は肩までの白髪で、黒い首輪をした少女。

クルルシファーとアイリが睨み合っていた。

 

「......何やってるの?」

 

「「.....!?」」

 

部屋の主の突然の帰宅に驚く二人。

いやほんと、何やってんだよ。

 

「この部屋の前でアイリさんに会ってね」

 

「ええ、この部屋の前でクルルシファーさんに会いまして」

 

「それで?何故中に?」

 

特に顔を見合わせようとはせずに答える。

 

「あなたの部屋に何か隠してないか確かめようって話になったのよ」

 

「それで、クルルシファーさんと協力して探していました」

 

何故か、協力して、を強調したアイリ。

クルルシファーに対抗意識でもあるかのようだ。

 

「めぼしいものはなかっただろ?」

 

特に何も隠してなどいない。

そのため何もでないと、思って、いたの、だが、

 

「.....それが問題なのよね」

 

「......」

 

何を言っているんだ。

アイリは黙っている。

 

「年頃の男の子がそういうものを持ってないのは、逆に問題ではないのかしら?」

 

本当に何を。

 

「でも、そういえば、ルクス君とよく一緒にいるわよね?」

 

もはや独り言を始めたクルルシファー。

アイリは可愛らしく頬を膨らませ、こちらを睨んでくる。

 

「貴方って浮かれた話を聞かないと思っていたけれど....まさかそっちの趣味が?」

 

「ないわ!」

 

何て恐ろしいことを聞くんだ、クルルシファー。

 

「じゃあやはり問題よ」

 

その話はもう止してくれ。

 

「貴方の場合、ルクス君ほどアクシデントがあるとは聞かないのだけど.....でも、昨日のが初犯だったら流石に耐えられないわよね...」

 

また始まった。

てゆうか、初犯って何だ。耐えられないって何だ。

お前は何を知っていて、何をしてるんだ。

 

 

無視することにした。

 

「アイリはどうしたの?」

 

もう一人の少女に声をかける。

アイリは今度は顔を反らしてしまった。

 

「勝利の祝いに来たのですが、美しい婚約者さんが来ていたので私は不要ですね」

 

拗ねてるだけのようだ。

 

「それに、アリシアさんなら勝てると分かっていましたから。今回は別の人の付き添いです」

 

そうして場所を開けるように一歩横に動くと、そこにはノクトがいた。

 

「そう言えば、ドレイクを使っていたわね」

 

いつの間にかクルルシファーが入ってきた。

 

「ああ。ノクトに貸して貰った」

 

少し驚いたように、

 

「戦闘でダメージ受けるかもしれないのに、よく貸したわね」

 

ノクトに視線を向ける。

 

「No,アリシアさんは傷ひとつ付けないと言っていましたから」

 

呆れたように、

 

「素晴らしい程の自信ね」

 

こちらを見てきたのであった。

アリシアは胸を張ろうとしたとき、部屋の扉がノックされた。

 

「アリシア?入っていい?」

 

ルクスだ。

 

「どーぞ」

 

入ってきたルクスは腰に三本の機攻殻剣を下げていた。

 

「あ、そう言えばアリシアさん、ノクトの機攻殻剣しか持ってませんでしたね」

 

それに気付いたアイリが声を出す。

ルクスの腰には、黒の機攻殻剣と白の機攻殻剣が二本あった。

だが、二本のうちの一方は、もう一方と違い、麗美な装飾がしてあった。

そう。アリシアの機攻殻剣だ。

 

「厄災使う気がないからね。邪魔だと思って持ってて貰った」

 

ルクスに預ければまず安心だ。

アリシアはルクスから機攻殻剣を受け取る。

 

「ノクトも、ありがとう」

 

そう言い、ドレイクの機攻殻剣を渡す。

 

「Yes,一つ貸しにしておきましょう」

 

ノクトも、持っていたワイバーンの機攻殻剣をアリシアに返す。

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

 

 

その後、すぐにクルルシファーとルクスは帰っていったが、残ったアイリとノクトとしばらく話していた。

 

「そう言えば、兄さんは明日、女装してセリス先輩とデートだそうですよ」

 

思い出したように言うアイリ。

.....面白そうな話だ。

 

「追い掛けようぜ」

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

そして今に至る、というわけだ。

 

用事のあると言っていたためノクトは来なかった。

そのためアイリと二人っきりで、ルクス....ルノちゃんとセリスティアを追い掛けていた。

 

そしてルクスお気に入りの庭園にやって来た。

ストーカー被害者二人は休んでいる。

 

「すー....すー...」

 

いつの間にか隣のアイリもアリシアに寄り添うように寝ていた。

 

「まったく......」

 

アリシアは少し連れ回したことを反省した。

 

 

 

どれくらいいただろうか。

アリシアも少しうとうとしてしまい、ルクス達が立った時に反応できず、見失ってしまった。

 

 

「ふあぁ」

 

アイリが可愛らしい欠伸をし、回りを見た。

そしてその目がアリシアを、そしてアリシアの袖を持つ自分の手に向いた。

 

「ひゃっ」

 

厄災もびっくりの速度で手を引いたアイリは顔を真っ赤にしていた。

 

「い、行きますよ!」

 

そしてすぐに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

この時間ならまだ町にいるだろう。

そう思い、アイリとアリシアは町に戻り、二人を捜索していた。

だがーーーーー

 

 

 

 

ーーーーーィイイィィイイイイ!

 

 

 

 

聞いたことのある不協和音が鳴り響く。

咄嗟にアイリを庇い、機攻殻剣に手をかける。

機竜を召喚しようとした瞬間、轟音が鳴り響いた。

その音のする方を見たら、天使の如き神々しさを纏う黄金の機竜がいた。

 

 

††††††††††

 

 

同じ頃別の場所で、同じ音を聞いた二人のーーー少女。

 

「なんでしょうか、この音はーーー?」

 

金髪の少女、セリスは突如響いた不協和音に疑問符を浮かべる。

 

「これはーーー、まさか!」

 

もうひとりの少女ーーーもといルクスは、その音に顔をあげる。

そして視界の端に凶兆の影を捉えた。

 

「ルノ。あなたは、ここで待っていて下さい。様子を見てきます」

 

走り出すセリスに着いていくルクス。

 

着いた先の中央広場は、恐怖と混乱に叩き込まれていた。

そこには中型の幻神獣、キマイラがいた。

 

それを確認した瞬間、セリスは動いていた。

疾走するセリスを覆う黄金の雷竜。

思念操作のみで機竜を呼び出し纏う。

ーーー高速機動展開。

 

「ギィイ!?.....ガアッ!?」

 

キマイラがセリスに気付いた時には、決着がついていた。

 

バシィィィ!

 

雷光穿槍で貫き、更に電撃を浴びせる。

セリスが槍を引き抜くと、キマイラはそのまま、前のめりに崩れ落ちた。

 

「すごい....」

 

思わずルクスが声を漏らす。

 

「大丈夫ですか、ルノ?」

 

ランスを引き抜いたセリスが安全を確認しようと振り返ったそのとき、巨大な黒い塊が、その背後で起き上がった。

 

「危ないッ!」

 

「」

 

ルクスが叫ぶと同時に、セリスのリンドヴルムが素早く上昇する。

一瞬前までセリスのいたその空間を、業火が焼き払った。

胴体をぶち抜かれていたはずの傷は塞がり、新しい皮膚が既にできていた。

 

「どういうことですか?ーーー何故キマイラが?」

 

セリスが呟き、雷光穿槍で追撃をかける。

 

「ギィ、イイェエア.....ッ!」

 

咆哮を上げたキマイラは、繰り出されたランスを前足で挟み、掴み止める。

 

「シャアァアアアアアッ!」

 

奇怪な鳴き声とともに、鋼のような尾っぽの蛇が、背後からセリスに襲いかかった。

 

「セリス先輩ッ!」

 

「ーーー!?」

 

紫の毒液を帯びた、牙の攻撃。

それを察知すると同時に、ルクスは動いていた。

 

「ギィッ!?」

 

ザシュッ!という切断音とともに、蛇の半身が宙を舞う。

ルクスが咄嗟に抜いた機攻殻剣の一閃により、キマイラの尾を断ち切ったのだ。

 

「今です!とどめをーーー」

 

「心得ました」

 

バシィィイィイイイッ!

 

先程より数段強力な電撃が、手にしたランスから迸った。

 

「グ、ギ......!ァア.......!」

 

前足で食い止めていた先端を突き抜け、再び槍が胴体をぶち抜いた。

 

「ギ、ィアアアアア.....」

 

そして、断末魔と共に燃え上がり、一瞬で灰になった。

その瞬間、わっと歓声が上がった。

 

「幻神獣はこの一匹だけのようですね」

 

その声と共にセリスは機竜を解除した。

 

「それより、助かりました。ありがとう、ルノ」

 

セリスはそのままルクスの側に寄ってふっと頬を緩めた。

 

「あっ.....!」

 

ルクスが手にする黒の機攻殻剣を、セリスは物珍しそうに見つめている。

 

「とても美しい機攻殻剣ですね。まさかルノはーーー」

 

「おねえちゃーん!ありがとう!」

 

セリスの言葉の途中、幻神獣に襲われかけていた幼い男の子が礼を言いにこちらへ駆け寄ってきた。

ルクスとしては話の続きがとても気になったが、こちらに駆けてきたのは、そう男の子、だ。

 

「あ、ちょっと待って!この人はーーー」

 

セリスは大の男嫌い。

 

 

ーーーーーのはずだが。

 

「元気ですね。怪我はありませんか?」

 

と、優しい声で、少年の頭を撫でていた。

 

「あれ......?」

 

セリスは男嫌いだと思っていたルクスは疑問に思い、聞こうと

 

 

 

 

 

ギィィィィィエェェェェェェェ!!!!!

 

 

 

 

 

 

雄叫びのする方をルクスとセリスが見ると、そこには急接近する幻神獣ーーーガーゴイルの姿があった。

 

「......ッ!」

 

ルクスも、ましてはセリスも避けられるタイミングではなかった。

ガーゴイルの孟突進をーーーーー

 

 

 

 

「『厄災』‼」

 

 

 

 

 

横から凄まじい勢いで来たアリシアが、手にする白い機攻殻剣でガーゴイルを叩いた。

一瞬、ルクスとアリシアの目が合う。

ガーゴイルはアリシアの攻撃をもろに受け、胸が半分切れ、生き絶えていた。

 

「ふぅ.....危なかった」

 

アリシアは剣を払うとルクスーーーには目もくれずセリスティアに向き直る。

その顔は驚愕に染まっていた。

だがーーーーー、

 

「まだだッ!」

 

ルクスの警告。だがアリシアは気付いていた。

 

「回復しきるのを待ってたんだよ!」

 

解除してなかった厄災を用いて再度突撃。

アリシアのワイバーンは軍のものであり、定期メンテのため使えないのだ。

だが、厄災を使えば30秒間とは言え、生身でも問題なく戦える。

アリシアが飛べないと見たのか、ガーゴイルは中空へと上がる。

 

「逃がすかッ!」

 

声を荒らげ、まず屋根に飛び乗り、そしてガーゴイルの元へ跳躍。

 

「シャアァアアアアア!」

 

雄叫びを上げ鋭く拳を振り抜いてくる。

だがアリシアはそれを、真っ正面から迎え撃った。

アリシアは剣を、突きだされる拳目掛けて振り抜く。

流石に空中では体勢を立て直すのが精一杯のため、攻撃は避けれないのだ。

それにーーーーー、

 

ドウンッ!

 

鈍い音と共にガーゴイルが地面に叩きつけられる。

勝てる見込みがあったのだ。

そしてそこまでいけば後は下がやってくれる。

 

バシィィィイィイイイッ!

 

いつの間にか機竜を纏っていたセリスの一撃で、ガーゴイルの胸に穴が開き、力尽きた。

 

 

 

「ギィ...ァァァァァァ....」

 

 

 

先程と同じように断末魔を上げ、灰になった。

わっと先程と比べ物にならないぐらいの歓声が上がった。

だが、セリスだけはアリシアに鋭い視線を向けている。

それでも何も言わない。

言われないからには立ち去ろう、と思っていたが、

 

「待ってください、アリシア・レイヴン」

 

それでも敬語なのは年ではなく、実力者としてなのだろうか。

 

「先程のは何なんですか?」

 

鋭い視線を向けたまま、聞いてくる。

 

「何故貴方は生身で幻神獣の相手をーーー」

 

「何がありましたか!?」

 

そこへ警備員がやってきた。

セリスに一礼し、教えたことのある警備員に事情を説明。

その間にルノーーーもといルクスとセリスには帰ってもらった。

そして、

 

「お疲れさまです。アリシアさん」

 

離れた所に避難させていたアイリと合流。

他愛のない話をしながら、学園へと帰った。

 

 




今回はアリシアの内心を書いてみました。
どうだったでしょうか?
あといつもはアリシアのいる所のみの描写でしたが、今回初めてアリシアなしの部分を入れてみました。
ダメだったらお教えください。


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26.校内選抜戦③

最初に...

遅くなって本当にごめんなさい!

不定期のつもりとは言え、少し遅すぎました。
あと前回は少々やらかした感がありました....。
すいませんでした。


「では、本日の個人戦第三試合、アリシア・レイヴン対、セリスティア・ラルグリスの戦いを、これより執り行う!」

 

 

校内選抜戦四日目午後個人戦第一試合。

 

朝教室に行く際、三和音のシャリスを見つけ、セリスティアへの伝言を頼んだ。

午後の個人戦第一試合アリシア・レイヴンが出ます。と

 

そしてセリスティアはそれに乗ってきた。

前回の試合を見た、と言うのもあっただろう。

 

アリシアは午前中をイメージトレーニングとノクトへの謝罪で過ごした。

 

なのでーーーーー、

 

「また、あのような試合をするつもりですか?」

 

ドレイクの機攻殻剣を手にしている。

 

「あんな戦い方では、あなたには敵いませんよ、セリス先輩」

 

無詠唱でドレイクを纏う。

 

「全力で行きます」

 

セリスティアは機攻殻剣を抜く。

 

「わかりました」

 

こちらも無詠唱で機竜を纏う。

 

「私も、全力でお相手します」

 

そして、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

セリスティアは直ぐに上昇した。

特装型のドレイクでは飛べないため、まずは飛んで距離をとるのが定石だ。

だが基本はすぐに攻撃のできる中空までのはずだが、セリスティアはそのさらに上まで行ったのだ。

そう、アリシアが前の試合で跳んだ、最高点(あの高さ)に。

流石に警戒されているのだろう。

その事実を確認しながら、右手に転送した機竜息銃で弾幕を張る。

セリスティアはそれを難なく避け、右手の『雷光穿槍』を構えた。

瞬間、ランスの穂先から電撃が迸るがアリシアも最低限の動きで避け、再度弾幕を張る。

 

 

世界を光が覆った。

 

 

セリスティアがリンドヴルムの神装、『支配者の神域』を発動した。

すぐにセリスティアがそこから消え、アリシアの背後でランスを構えていた。

必中ーーーと思われていたが、

 

 

 

「戦陣ーーーーー流転」

 

 

 

セリスティアのランスはドレイクの僅か横を通りすぎた。

 

「......ッ!?」

 

セリスティアが驚き一瞬止まった。

そこを狙い、『神速制御』で左手の機竜牙剣を振り下ろす。

それを『支配者の神域』で転移し、避ける。

 

再度上空で佇むセリスティアの顔は、しかし驚きに満ちていた。

 

そして、突撃。

だがその攻撃もアリシアの横を通り過ぎ、『神速制御』の反撃を受け流し、今一度上空へ飛んだ。

 

「どういうことですか.....。何故攻撃が.....」

 

呟くように言った。

 

「教官になるに当たって、世界中を回って技術を集めてたんだ。で、ブラックンド王国にいる時に、これを得た。学生にはまだ早いけどな」

 

アリシアは肩を竦めた。

 

だがセリスティアは直ぐに突撃してきた。

そして今度は、ランスを引き絞らず、連撃を仕掛けてきた。

アリシアは回避と戦陣・流転を使いながら、後退する。

剣でいなすと電撃により動けなくなるから、そうする他ない。

だが、このまま続けていてもジリ貧なのは事実。

そう思い剣を振り上げ、一歩前に出る。

そしてランスを戦陣・流転で弾く。

 

 

「戦陣ーーーーー劫火」

 

 

剣を振り下ろす。

『支配者の神域』の光は出ていない。

ランスも攻撃直後で、受けれない。

だが、セリスティアは冷静だった。

背面の推進装置を全力で動かし、ランスの後を追ったのだ。

瞬間、アリシアは空振りするが、セリスティアも上空に上がり、反撃して来ない。

 

 

 

「調律の応用.....ですか」

 

 

 

流石、学園最強。

数回の攻防でその真相がわかったようだ。

 

「各部の出力を落とし、腕の出力を瞬間的に上げた。同様に自動で発生する障壁を操作し、攻撃を弾いた......もし同じ汎用機竜だったら、私は負けていたのかもしれません」

 

ランスを構えるセリスティア。

 

「ですが、これは試合です。悪く思わないで下さい」

 

また光が覆った。

そしてセリスティアはダガーを投げる。

瞬間、セリスティアの姿が消え、背後から殺気。

右に避けながら見たのは、

 

セリスティアではなく、

 

光弾。

 

『星光爆破』の。

 

驚きにアリシアの動きが鈍る、

 

更に背後に殺気。

 

「チッ......‼」

 

アリシアは前回の戦闘で使った跳躍をする。

そして、一瞬前までアリシアのいたそこを、電撃が迸り抜けた。

だが、その場からセリスティアの姿がなくなる。

振り返ると、ランスを引き絞ったセリスティア。

戦陣・流転を使い、攻撃を避ける。

そして伸ばされた、ランスを握るリンドヴルムの右手に触れる。

 

「戦陣ーーーーー紫電」

 

リンドヴルムの動きが一瞬止まる。

すかさず『神速制御』を伸ばされた手に見舞う。

落とすことはできなかったが、装甲は大きく削れた。

攻撃後直ぐにアリシアのドレイクが軋み始める。

 

「『強制超過』、戦陣・劫火」

 

『強制超過』の発動寸前に戦陣・劫火で威力を上げる。

 

「くっ......‼」

 

セリスティアはランスを、振り下ろされるアリシアの剣目掛け振る。

 

刃が触れる寸前。

 

電撃が迸り、出力がダウンする。

それでも『雷光穿槍』に触れた瞬間、双方の剣が砕け散った。

 

だがもうセリスティアはそこにはいなかった。

視界の端にはダガーを振り出すセリスティアの姿。

 

「戦陣ーーーーー王土」

 

ダガーがドレイクの肩口に当たる寸前、アリシアのドレイクが弾けた。

さしものセリスティアも反応できず、被弾した。

 

 

「そこまで!」

 

ライグリィの声が響き渡る。

 

「時間切れだーーーーー、よって引き分けとする!」

 

ほとんど装甲の無くなったドレイクで着地し、アリシアは肩を上下させて息をする。

同時にセリスティアも着地し、機竜を解除した。

 

そして、歓声。

大半は一、二年のものだが、ところどころ三年のものもあった。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

「はぁーーーーーーーーーーーー..........」

 

 

自室のベットに体を沈め、息を吐く。

しんどかった。

侮っていた訳ではないが、ドレイクでも戦陣を使えば勝機があると思っていた。

だが、負けることはなかったものの、勝てなかった。

学園最強の名は、想像以上だったようだ。

 

コンコン

 

ノック音が聞こえる。

 

「あいてるよー」

 

起きるのも面倒でそのまま返事をすると、入ってきたのはアイリとノクトだった。

 

「だらしないですよ、アリシアさん。まだ試合をしている人もいるんですからね」

 

さっそく小言を言われてしまった。

 

「Yes,ですがあんな試合の後です。疲れるのも無理はありません」

 

ノクトがフォローしてくれる。

 

「それでも装衣ぐらいは着替えておくべきだと思います」

 

いつも装衣を着ているアリシアだが、流石に戦闘後は着替えている。

 

「No,そんな暇もなかったように思います。アイリは決着後すぐにこちらに来ましたから」

 

それで合点がいった。

着替えていないのではなく、着替えれなかったのだ。

アイリが来るのが早すぎて。

 

「で、でもベットに身を投げることはないでしょう」

 

少々頬を膨らませアイリが反論する。

 

「No,あの戦闘の後に普通にしろ、と言うのは無理な話です。それにアイリはこの状況を望んでいたのではなかったのですか?」

 

「なっ.....、そんなことはーーーーー」

 

面を食らったようにアイリが否定をしようとするも、

 

「聞こえていましたよ、汗だくのアリシアさんを私が拭いてあげたい、と言っていたのを」

 

「にゃっ.....」

 

アイリはよく分からない悲鳴を上げると、顔を真っ赤にさせ俯いてしまう。

 

「アイリ?」

 

アリシアも少し心配して声をかけると、ばっと顔を上げ口を開こうとした。

 

 

 

コンコン

 

 

 

同時に扉がノックされた。

 

「入っても大丈夫かしら?アリシア君」

 

クルルシファーの声。

唇を尖らせ、頬を膨らませているアイリの頭を軽く撫で、返事をする。

 

「どーぞー」

 

入ってきたのはやはりクルルシファーだった。

 

「流石は私の婚約者ね。ドレイクであのセリスティア・ラルグリスに引き分けるなんて」

 

「俺個人としては勝ちたかったけどな」

 

肩を竦めるも、比較的表情が顔に出にくいノクトとクルルシファーでさえ目を見開いて、驚いていた。

 

「汎用機竜で...しかも特装型で、神装機竜の...あのセリスティア先輩に勝てる見込みがあったの....?」

 

クルルシファーのその訪ね方には動揺を隠せない様子だ。

 

「『神速制御』や『強制超過』はいいとしても、戦陣は初めて見るはずだし、行けると思ったんだよ」

 

肩を竦めた。

 

「その気になってたんだけど、その戦陣って何なの?」

 

「Yes,それは私も気になりました」

 

「あー.....」

 

アリシアは困ったように考え込む。

 

「教えても、絶対に使わないって約束するなら、言う」

 

「いいわ、絶対に使わないことを約束する」

 

何か察したのだろう。流石クルルシファー。

 

「Yes,そういう事でしたら、私も約束しましょう」

 

二人とも頷くのを見て、アリシアは息を吐く。

 

「戦陣は調律の応用。流転は本来は自動で発生する障壁を手動で操作し、右から左、上から下、またその逆に動かすことで、相手の攻撃を受け流している」

 

驚きに声も出せないようだ。

 

「劫火は腕以外の出力を落として、攻撃力を上げる。王土は機竜解放に使うエネルギー量を増やして、爆発力を上げる。紫電はドレイクの他機竜調律の機能を使い、命令確認のため動作が一瞬停止する」

 

「どうやってそんなもの見つけたんですか....?」

 

機竜を纏えなくてもその恐ろしさはよく分かるのだろう。

 

「残念ながら俺が見つけたわけじゃない」

 

「じゃあルクスさんですか?」

 

以外そうに聞いたのはノクトだ。

だがアリシアは首を振った。

 

「ブラックンド王国のシングレンってやつ。その実力と底知れぬ野望には肝を冷やしたよ」

 

「その彼には勝てそうなの?」

 

クルルシファーの声に一同がこちらを見る。

 

「汎用機竜同士でも多分無理。神装機竜だと......」

 

少し考え込む。

 

「微妙だな。機竜の性能....て言うより、神装が強すぎる。出力で押す『ゼル・エル』だと相性が悪い、かな?」

 

「その神装とは...?」

 

全員、息を飲む。

 

「神装機竜リヴァイアサン。その能力は水の操作」

 

「み、水....?」

 

「それに加えて戦陣があるからなー...」

 

諦めたようなアリシアのその言い草にクルルシファーは勘づく。

 

「つまり勝てない、と?」

 

「認めたくないけど、8割方負けるかな」

 

「せ、世界は広いですね...」

 

その後話し合いは、アリシアの所用でお開きとなった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

四日目の全試合の終了後、工房にいるリーシャの元に来客があった。

 

「お前からとは珍しいな、何の用だ?アリシア」

 

そう、試合後より自室でアイリ達と別れた所用とはこのことだったのだ。

 

「ルクスが在学できるよう尽力している私めのお願いを聞いてはもらえないかと思いまして、こうして参った次第です」

 

にっこりと、にっこりと笑いアリシアがお願いを、あくまでもお願いをする。

 

「お前わざとやっているだろう....」

 

戦闘はしてないだろうが疲れた様子でリーシャが呆れる。

 

「そうですか.....リーシャ様の、リーシャ様のルクスのために尽力を尽くす私のお願いを聞いてはもらえないのですか....」

 

わざとリーシャ様の、を二回言って残念そうに項垂れる。

 

「そんなことは一度も言ってないだろう!」

 

あ、吠えた。

 

「あーもうわかったわかった!聞いてやるから言ってみろ!」

 

勝った。

アリシアの頼みたかったことには前提がある。

 

「その前に一つ聞きますが、リーシャ様の作ったキメラティクワイバーン、あれってワイバーンとワイアームを組み合わせているんですよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

あまりない胸を張って頷く。

 

「じゃあーーーーーってできますか?」

 

アリシアの提案にリーシャは悩む。

 

「すまん、その前に一つ確認させてくれ」

 

掌をアリシアに向け、待ったをする。

 

「お前って機竜整備とかの知識とかあるか?」

 

「え?リーシャ様程ではないですが、人並み以上はあるはずですが」

 

一応答える。

 

「わかった。引き受けよう」

 

「流石リーシャさーーーーー」

 

「ただし!」

 

急な制止につんのめる。

 

「お前も手伝うと言う条件を入れよう」

 

「ルクスじゃなくて?」

 

ついぞ聞き返す。

 

「何だその言い方は!私がルクスじゃないといけないみたいな言い方しよって!ま、まぁルクスの方が嬉しいのだが....」

 

独り言モードにでも入りそうだ。

 

「あーコホン、確かにルクスの方がいいが、今回ばかりは知識を持っている者がいた方がやりやすそうだからな」

 

「なるほど」

 

確かに今回アリシアの頼んだことは難しそうだ。

 

「それで異論はないな?」

 

アリシアは大きく頷いた。

 

 




これからは特殊武装と技の名前には『』をつけようと思います。
それとこれからたまにアリシアの心情を入れていこうかと思います。


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27.校内選抜戦・強襲

お待たせしました。
お待たせし過ぎて、アリシア君の口調忘れました...


追記:敵機竜の操縦士の特徴の書き忘れを直しました。


「それでは、校内選抜戦Aグループ一番ペア対、Bグループ二番ペアの模擬戦を開始する!」

 

アリシアと戦った翌日だと言うのに、演習場の、ルクスとフィルフィの反対側にはセリスティアがいた。

ルクスとの戦闘で負けたからか、ペアがサニアからシャリスになっている。

 

「アリシアさんは勝てると思いますか?」

 

聞いてきたのは無表情が特徴のノクトだ。

今回もいつも通りアイリやノクトと座って観戦している。

 

「ははは、嘘でも勝てると言った方がいいか?」

 

この試合結果で、ルクスとアリシアの在学も決定するはずだ。

負けてはならないのだ。

 

「No,軍指導者としての意見をお聞かせ願います」

 

士気のためにも勝つと言った方が良かったかとも思っていたが、ノクトは気にしないらしい。

 

「可能性は、ある」

 

アイリは話を気にもせずフィールドを見ている。

 

「フィルフィがどこまで戦えるかわからないが、シャリス先輩にルクスが無傷で勝利し、フィルフィが多少なりともセリス先輩にダメージを与えられれば可能性は十分ある」

 

アリシアもフィールドを見て、ノクトも続く。

そこでは、今まさに、戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

「ふふ、手こずらせてくれたけど、これでようやくーーー」

 

「立ち入り禁止場所で、探し物ができるーーーですか?サニア先輩」

 

フィールドではルクスとセリスの一騎討ちが始まっていた頃、図書館ではサニアとアイリ、三和音のシャリスを除く二人がいた。

 

「...何の用です?お兄さんの戦いを見守らなくていいの?アイリちゃん」

 

サニアは一瞬驚いた様な顔をしたが、すぐにそれはなくなり、アイリに話しかけた。

 

「動くな、サニア・レミスト」

 

だが、突如横から入る声。アリシアだ。

少し長めの前髪の隙間から覗くその目は、いつもからは考えられないくらい細く、鋭かった。

 

「何の用かは、言わずとも知れているだろう?ヘイブルグ共和国のスパイさん?」

 

そう言ってアリシアは懐から薄汚れた紙の束を取り出した。

それはサニアが学園の内情について記した、ヘイブルグ宛の密書だった。

 

「学園にも、王都の方にも報告済みだ。諦めてお縄につきな」

 

抜剣していた機攻殻剣をサニアにつきつける。

 

「そう簡単に捕まるとでも思っているのか?」

 

笑みを浮かべながら、サニアは三つ編みに結んだ髪を解いた。

 

「アリシア・レイヴン。お前は確か機竜を整備中じゃなかったか?だから選抜戦では、そこのドレイクを借りていたんだろ?」

 

アリシアはあくまでも表情を変えない。

 

「たかが、学生二人で捕まえられるとは...舐められたものだな」

 

サニアが機攻殻剣を抜き払う。

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、≪ワイバーン≫」

 

一瞬遅れて、ノクトとティルファーも機竜を呼び出す。

が、

 

 

 

ィイィィィィイィイイ.......!

 

 

 

 

聞いたことのある不協和音。

笛の音だ。

そして変化があったのは状況ではなく、サニアの纏うワイバーンだった。

機竜の表面に赤黒い血管のようなものが這い、装甲が悲鳴のような軋みを上げ、幻創機核が不吉な輝きを帯びた。

 

「『厄災』!」

 

それを見たアリシアは『厄災』を発動。

サニアに襲いかかる!

 

「出番だ!メス犬!」

 

だが、サニアに機攻殻剣が当たる寸前、一つの大きな影が割り込んで来た。

 

「ちっ...!」

 

それは、鈍い銀色と深緑の装甲機竜だった。

搭乗者は不気味な面をしており顔が確認できないが、装衣からして女子だろう。

そしてアリシアはその長い茶髪を見た瞬間、何か分からないが旋律を覚えた。

 

 

「っっ...!」

 

数秒間の鍔迫り合いを制したのは、身の三倍はあるのではないかという大剣を持つ、敵の機竜だった。

 

 

 

ーーーに留まらず、体勢をくずしたアリシアに追撃を放ってきた。

 

「アリシアさんっ!」

 

かろうじて攻撃を機攻殻剣に当てることが出来たが、アリシアは吹き飛んでしまう。

 

「余所見とは、随分余裕ですね」

 

アリシアに気をとられた、ノクト、ティルファーへ、サニアが剣を振り下ろす。

 

「ちょっ...」

 

ティルファーがワイアームで応戦。

ノクトはアイリを抱き抱える。

だが敵は一人ではない。

 

「...!」

 

ノクトの前に立ちはだかる、先程の銀と緑の機竜。

高々と振り上げられていた剣を無造作に振り下ろす。

ノクトはアイリを抱え込み、敵の機竜に背を向ける。

ただし、味方も二人だけではない。

 

「ノクト!アイリを安全な所に!」

 

飛ぶように戻ってきたアリシアが機竜の剣を受け止め、叫ぶ。

ノクトは頷き、ドレイクの迷彩を使い、姿を眩ます。

 

 

「変な力があるようだが、そんなのではどうにもーーー」

 

 

 

「昇華せよ、万物を絶つ諸刃の剣、我を糧とし力と化せ、≪ゼル・エル≫!」

 

 

 

アリシアは『ゼル・エル』を纏い、右の剣で、敵の機竜を吹き飛ばす。

 

はずだった。

 

 

少なくとも陸戦型の神装機竜でさえ吹き飛ばずとも押し戻せるはずだが、剣を弾くことには成功したが、その機竜はその場からは一歩たりとも動いてはなかった。

 

アリシアは怪訝そうに目を細め、左の剣を振り抜く。

だが結果は同じだった。

 

「ちっ....!」

 

やむを得ず機竜を放置、ティルファーの戦うサニアの元へ飛ぶ。

サニアに対しても右の剣で大降りをした。

こちらは狙い通り吹き飛んだ。

 

「ティルファー!学園の皆の避難を!」

 

頷いたティルファーは学園の方へ走り去って行った。

だが、吹き飛んだサニアも学園の方へ体を向けていた。

 

「待っ...」

 

追いかけようとするアリシアの行く手を阻む敵の機竜。

 

「邪魔だ!」

 

≪神速制御≫を使い剣を薙ぐ。

装甲が幾つかは破壊できると思って放ったその一撃だが、敵の機竜には大きな傷は見当たらなかった。

それどころか、こちらの足を掴み、地面に向かい投げ下ろす。

着弾寸前に体勢を立て直し、無事着地。

 

「野郎....っ!」

 

アリシアは降りてきた敵の機竜を睨み付け、再度突撃する。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

その頃の演習場では、セリスティアが一人で終焉神獣のポセイドンを討ち取った所だ。

 

「すごい...」

 

ルクスは感嘆した。

戦闘をしながら終焉神獣の核の位置を特定、無数の触手をくぐり抜け、その核を的確に撃ち抜いてみせた。

かの終焉神獣をひとりで倒して見せた。

 

「う...あ」

 

だが流石に消耗したのか、突き立てた槍を引き抜きながら、セリスはぐらりと体を揺らした。

 

「セリス先輩っ!」

 

ルクスが慌てて側に駆け寄ると、

 

「この私に、気遣いなど...」

 

「必要です」

 

頑なな声でセリスを一言で押し止める。

 

「どうして、あんな無茶をしたんですか?あなたが怪我をしたら、ここの生徒はみんな悲しむはずです。辛いのに、辛くないフリをする人のことを、だれかが気遣わなくてどうするんですか?」

 

「......。あなたはーーー」

 

ルクスの寂しそうな声に、セリスは一瞬、驚いたように目を見開く。

が、その時、

 

「ハッハッハッハッハァー!」

 

半壊した演習場の観客席から、甲高い哄笑が聞こえてきた。

そこにいたのは、頭まですっぽり覆ったフードを被り、その下から覗く銀髪が特徴の、男か女かも判断のつかない人間。

 

「さあ、早く俺を楽しませてくれ!お前ら下賤どもが喰われゆく様を、絶望の顔を、裏切り者たちの末路を見せ、この渇きを満たしてくれ!」

 

 

 

ィイィィィィイィイイ!

 

 

 

不協和音が鳴り響く。

同時に、ズン!と演習場のリングが陥没し、大地に深い亀裂がはいった。

 

「グ...ーーーヴァァアアアアアアァァァアアアア!」

 

核を貫かれ、完全に沈黙したはずのポセイドンが、咆哮を上げ、再び蘇った。

 

再び動き出す、最強の幻神獣を見たセリスは、≪雷光穿槍≫を構える。

その時、

 

ドォン!

 

≪リンドヴルム≫が爆風に吹き飛ばされ、セリスは瓦礫の山に激突した。

 

「な......ッ!」

 

驚きとともに背後を振り返ると、そこにはーーー

 

「さすがはセリスお姉様。まだやられてはいませんでしたか」

 

穏やかな微笑を浮かべたサニアが、中空からセリスを見下ろしていた。

 

「何をしているのですか、サニア...?」

 

それを聞いたサニアは、更に獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

その頃の、図書館付近ではーーー、

 

「チッ...!」

 

基本性能の桁違いな『ゼル・エル』が、だが性能の不明な敵機を倒しきれないでいた。

 

溜めの大きすぎる≪強制超過≫や、隙の生まれやすい戦陣こそ使ってはいないが、それなりの技術は目白押しに使っているつもりだった。

 

だが、敵の装甲に傷をつけれてはいるものの、あまり大きなものはなく、有利とは言えない状況だった。

 

対してアリシアは、傷こそつけられてはいないが、男である。更に消耗の激しい『ゼル・エル』なのだ。気を抜いたらいつ限界が来るか、と時間にも迫られている。

 

だが、アリシアは学園の心配はあまりしていなかった。

何故ならーーー、

 

「あんたらには、わかんないだろうがなぁ...あの王子って、意外と頼りになるんだよな...」

 

アリシアは話しかけるも、仮面の女は無反応だ。

 

「だが反面、抱え込みやすくも、あるんだな...」

 

アリシアは腰を落とす。

 

「だから、俺は先を、急いでいる!」

 

全速で敵に接近する。

だが敵は、敵機はその場から動こうとはしない。

アリシアは二つに揃え、並べ構えていた≪双重刃≫を前に突き出す。

そして、激突。

 

 

ギィィィン!

 

 

敵の大剣に止められた。

 

ーーーが、

 

「俺も最大威力での発射は初めてだ、悪く思うなよ」

 

充填していたエネルギーを放出。

 

 

ドォォォン!

 

 

最大威力の爆風によりアリシアも吹き飛ばされるが、その爆風に乗り中空まで上昇、学園の方へ飛び立った。

 

 

 

††††††††††

 

 

 

「頭悪ィなぁ、さすがは脳筋の公爵令嬢サマだぜ!お前たちは踊らせれていたんだよ!」

 

「ッ......!」

 

ローブの言葉に、セリスは絶句する。

 

「了解ーーーそういうわけで名残惜しいですが、死んでください。セリスお姉様」

 

サニアは大型のブレードを振りかぶり、セリスに斬りかかる。

 

「ハァ......。またお前か?そりよりもいいのか?祖父の敵を庇っても」

 

「どういう意味だ?」

 

ルクスは上空で佇むサニアを睨み付け、問いかける。

 

「お前の祖父を殺したのはその女だってんだよ!」

 

サニアの発射したキャノンにルクスは被弾。

終焉神獣の咆哮とともに撒き散らかされた黒い霧により、ルクスの視界が暗転した。

 




あ、場面転換は1話につき三つまでにしようも思ったんですけど、これ4つになってますね...
わかりにくかったり、見にくかったり、ご意見あればお願いします。
それと毎回誤字報告等ありがとうございます。


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28.決着

ボロボロですね...修正していきます。


「ーーーごめんなさい」

 

漆黒の闇が辺りを包み込み、爆発で崩れた、壁面のがれきが降る中で、セリスの消え入るような声が聞こえてきた。

 

「私、言い出せませんでした...。ウェイド先生のーーーあなたのお祖父さんのことを...」

 

そうしてセリスは語り出した。

セリスが偶然耳にした旧帝国の悪事、それをルクスの祖父であるウェイド・ロードベルトにそれを話してしまい、それを進言したウェイドは投獄されてしまったらしい。

 

「だからセリス先輩は、僕の協力を受けず、ひとりで終焉神獣と戦おうと...?」

 

セリスは小さく、小さく頷いた。

 

「ごめんなさい。恨んでいますよね?でも大丈夫です。あなただけは私の命に代えても、守ってみせますから...。絶対に助けて、みせますからーーー」

 

「違う!僕はーーー」

 

ザシュッ!

 

と、瓦礫の隙間を縫ってきた触手を切り落とされ、立ち上がろうとしたセリスの眼前に、ルクスの剣が掲げられる。

キマイラに襲われたセリスを救った、あの黒の機攻殻剣を。

 

「黒の、機攻殻剣...!?それは、ルノが持っていたーーー」

 

セリスが目を見開き、震える声を上げる。

それに対し、ルクスは寂しげに微笑んだ。

 

「黙っていてすみません。お叱りは後で、ちゃんと受けますからーーー」

 

そうしてルクスは剣を構える。

 

「顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、≪バハムート≫!」

 

直後、ルクスの背後に巨大な黒の機竜が現れた。

 

「漆黒の神装機竜...!?まさか、あなたは!?」

 

「安心して下さい。僕はセリス先輩を恨んでなんていませんから。必ず、あなたを守ります。あなたが尊敬していた、祖父の代わりに」

 

直後、陥没した地面を突き抜けて≪バハムート≫が飛び上がった。

 

「来たな!黒き英雄!お前までここで殺せるとは、手間が省けて助かるぞ!」

 

バハムートを纏ったルクスが現れた瞬間、サニアは凶暴な笑みを浮かべ、飛びかかる。

 

だが、

 

「すみません」

 

ルクスはまるで関心ない声でそう言うと、超高速の七連閃をサニアに見舞った。

 

「今は、あなたに構ってる暇はないんです」

 

「ッ...!」

 

サニアの≪Bーbloodワイバーン≫に無数の斬線が走りーーー崩壊する。

 

「くッ...!まだだッ!ーーー出番だ!メス犬!」

 

「なッ...!」

 

ルクスの目の前に現れたのは、鈍い銀色と新緑の神装機竜だ。

そしてその大剣を振り抜く。

だがルクスはそれを受け流し、抜き胴の要領で≪烙印剣≫を薙ぐ。

 

 

 

が、敵の機竜の装甲はまったく削れなかった。

その上ルクスの敵は一人ではない。

ずるりと、気色の悪い音に気付いたルクスが意識を下に向けると、そこにはポセイドンの触手が五本もあった。

 

「くッ...!」

 

ルクスは正面の機竜と相対してる。

そのため、下の触手の対処が出来ない。

その上セリスもまだ出てきてない。

未だに観客席から退避中だった女子達から見ても、絶体絶命だった。

 

ーーーはずだが、

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

一閃。

 

 

一瞬の後に五本の触手の全てが落ちた。

 

「何...?」

 

着地したサニアが不審げに声を出す。

更に触手を切って落とした流星は中空で大きく弧を描き、敵の神装機竜へ襲いかかる。

敵機と鍔迫り合いをする機竜は純白。

 

「悪い、遅くなった」

 

それは最弱とともに帝国を下した影であった。

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

「間に合ったみたいだな」

 

「アリシア...!」

 

現着したアリシアは、未だ詳細の不明な敵機と鍔迫り合いをしている。

 

「アレの相手は頼んだ。今の俺にはちょっとキツイ」

 

アレ、とは学園を蹂躙し続けている最強の幻神獣、≪ポセイドン≫。

 

既に戦闘を行っていたアリシアには終焉神獣を相手取る分の体力は残っていない。

 

それを理解したルクスは頷くと終焉神獣へと飛び立って行った。

 

 

「さて、もーちょっと相手してもらいますよ!」

 

右の剣で敵の大剣を払いのけ、左の剣で突くが何故か大剣に防がれた。

相手はそのまま大剣を押し込んでくる。

アリシアは上へ回り込み、回転しながら両の剣を同時に叩きつける。

必中のタイミングだった。

だが敵は左脚を振り抜いてきた。

咄嗟に左の剣でガードするが、敵はそのまま半回転。

そしてその勢いのまま上段にあった大剣を振り下ろす。

 

 

「≪逆鱗≫」

 

 

右の剣をガードに回し、更に『ゼル・エル』の障壁型の特殊武装を展開する。

≪逆鱗≫は大きさ、発生元、発現方法等によって強度が変化する。

今回だと直径は約四十cl、発生元は三番目に出力の高い≪双重刃≫、発現方法は二番目の相対固定。

それであれば、例えあのサイズの大剣でも悠々防げる

 

ーーーはずだった。

 

 

ピシッ!

 

 

敵の剣が振り抜かれた直ぐに装甲腕を見ると一線の傷が走っていた。

 

 

≪逆鱗≫が破られた!?

 

 

だが≪逆鱗≫も≪双重刃≫も破られてはいなかった。

それどころか傷一つない、無傷だ。

それを一瞬で確認し、敵を再認識する。

敵機は向こうの大剣の間合いよりも外で佇んでいた。

アリシアは油断なく敵を観察する。

 

 

 

 

ーーーしていたつもりだった。

 

 

ガキンッ!

 

 

アリシアが見たのは地面に突き刺さる≪双重刃≫。

 

そしてそれを持つ、『ゼル・エル』の装甲腕の一部だった。

 

いつの間にかアリシアの左側にあった大剣を、敵はアリシアに向けて振るう。

 

がアリシアは片手なくなったのが幸いし、バランスを崩し右に倒れていた。

そのお陰か大剣はアリシアの僅か上を通過した。

アリシアは大剣の間合いの倍以上の距離を開ける。

だが敵は詰めては来なかった。

そこまでの攻防でようやくアリシアは気がついた。

 

「形状変化...と言ったとこか」

 

敵の機竜の神装である。

 

「剣が≪逆鱗≫に触れる寸前に剣を変形、防御をすりぬけ腕を攻撃。剣を俺の目に向け、変形し伸ばすことで剣が近くなることに気付かせなかった。そういうことだろ?」

 

だが仮面の操縦者は返事をしない。

代わりにサニアの声が届いた。

 

「ふん...腕だけで済んだか。だがそれではもう戦えまい」

 

実際に今ので障壁も削れ、重心が少しズレたためロクに戦えそうもない。

 

 

 

そう、障壁が削れ、重心が少しズレたため。

 

「まさか、本当に使う時が来るとはなー...」

 

「何...?」

 

怪訝そうにサニアは目を細める。

 

「まぁ見てな、ーーー来たれ、不死なる象徴の竜。連鎖する大地の牙と化せ。≪エクス・ワイアーム≫」

 

アリシアの左側に召喚されたのは強化汎用機竜の≪エクス・ワイアーム≫だ。

そしてーーー、

 

「『超越装甲(オーバーユニット)』・開始!」

 

その≪ワイアーム≫は変形し始め、数秒の後に一本の腕となった。

そしてそれは『ゼル・エル』の左の肩口に嵌まり、途中まである左腕を覆い、落とされた部分もカバーする。

その腕からは六本の筒状の棒が出ており、その異様さを物語る。

そしてアリシアはその大型の腕を動かす。

 

「流石は姫さんだ。よくできてる」

 

それはいつしか、アリシアがリーズシャルテに頼み、作って貰ったもの。

実際は両腕をカバーし、出力を上げるものだが、アリシアの希望で幾つかの機能の追加を行った。

その一つがこれである。

 

未だに、元の腕の二倍ぐらいになった腕を物珍しそうに動かすアリシアに向かい、敵の神装機竜が飛びかかる。

 

対するアリシアはゆったりとも見える動作で右の剣を両手で持つ。

そして無造作に振り下ろす。

瞬間。

 

 

ドォォン!

 

 

凄まじい勢いで敵の機竜が地面に堕ちた。

それを行ったアリシアは尚も腕を眺めている。

 

「操縦が難しいな...」

 

そう言うアリシアに向かって剣が伸びてくる。

それを避けたアリシアが見たのは、背面の巨大な推進装置がなくなり、腕と脚が一回り大きくなった神装機竜だった。

 

 

やはり、陸戦型への形態変化!

 

 

だがアリシアは形の変わった敵機を警戒はするものの、そのまま突撃。

敵機は剣を元に戻し、迎撃の体勢を取る。

アリシアも右の剣を振り下ろす。

 

交錯。

 

鍔迫り合いの中、アリシアは左腕で殴り上げるように相手をボディーブロー。

そしてーーー、

 

「『衝撃(インパクト)』!」

 

六本の筒状の棒の内三本が腕の中へ押し込まれ、拳から衝撃が生まれる!

 

バキッ!

 

敵機は軽く吹き飛び、動かなくなる

装甲は随分削れ、骨も幾つか逝った音がした。

これならそうそう動けないだろう。

 

そう判断しルクスの方を確認すると、

 

 

 

ヴェ、アアアァァァアアアアァアァアアアアアアア!

 

 

 

断末魔の悲鳴とともに終焉神獣の巨体が黒煙を噴き、崩壊する。

丁度ポセイドンを討ち取ったとこのようだ。

 

パキン!

 

と、砕け散った終焉神獣の核から、人頭ほどの水晶体が姿を見せた。

 

「なッ...!」

 

アリシアはあり得ない、と言った風に目を見開き、声を上げる。

 

「サニア。出番だ」

 

ローブの声にサニアが反応し、その水晶を掴み、ローブをも回収する。

だが、ルクスは≪永久連環(エンドアクション)≫の負担で、アリシアも続いた連戦の影響で動けない。

 

「殺さなかった方がよかったかもなー。これでお前らは、完全に俺を怒らせちまったぜ?」

 

「お前は何者だ?その銀髪はーーー」

 

そう、銀髪。

それは旧帝国の王族に継がれている一つの特徴だ。

 

「フギル...。兄さん、なのか?」

 

ーーーが、

 

「ばぁーか」

 

がばっと、その顔を隠していたフードを、脱ぎ去った。

それは灰と蒼の左右非対称な瞳を持つ、見覚えのない少女であった。

 

「フギルだぁ?俺をあんな胡散くせーヤツと一緒にすんじゃねぇよ。俺の名はヘイズ。よーく覚えとけよ」

 

「行くぞ、メス犬」

 

その場で停止していた謎の神装機竜を連れ、ヘイズと名乗った少女とサニアは逃亡した。

だが今のルクスには、ましてやアリシアやセリスにも追う体力も気力もない。

それでも、

 

「俺は少し学園を見てくる。異常がなかったら戻って来るから、ここで安静にしてろ」

 

アリシアには国民を守る義務がある。

それを理解しているルクスは頷き、装甲を解除した。

それを端に見ていたアリシアは、学園の方へ飛び立つ。

 

そして学園中を見回したが、怪我人こそ確認できたものの、敵は全て撤退か拘束済み、特に異常はなかった。

 

すぐに壊れた演習場に戻ると、学園へ歩き出そうとする二人を見つけ、着地する。

 

「おかえり、アリシーーー」

 

パタン

 

だがルクスの台詞の途中でアリシアは倒れた。

直ぐに機竜も解除され、光の粒と化した。

 

「アリシア!」

 

「レイヴン卿!」

 

意識を手放していたアリシアに二人の声は届かなかった。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

「いッ...!」

 

左腕に走る激痛で目を覚ましたアリシアは、既にオレンジに染まる空を見て、随分寝ていたことを痛感した。

次に部屋を見回すと、そこはもう慣れてしまった学園の保健室だった。

 

そして、肩に毛布を掛け、寝ている銀髪の少女。

ヘイズではない。首には大きめの黒い首輪。

親友であり戦友であるルクスの最愛の妹、アイリだ。

その頭を撫でていると、それに気付いた。

 

左腕が動かせない。

よくよく見ると、その左腕は包帯がぐるぐるに巻かれており、添え木までして固定されていた。

 

コンコン

 

少々過剰な措置に驚いていると、扉がノックされた。

返事を待たず入ってきたのはルクスだ。

その後ろにはセリスティア。

 

「あ、起きてたみたいだね。大丈夫?」

 

最初に入ってきたルクスは体を起こしているアリシアを見つけると声を掛けてきた。

 

「ルクスは以外と元気そうだな」

 

あんな戦闘の後なのにピンピンしているルクスを見て、アリシアは皮肉そうに言う。

対してルクスは微妙な顔になった。

 

「丸三日間、眠っていたのですよ。レイヴン卿ーーーいえ、アリシア」

 

そう言ったのはルクスの横に出てきたセリス先輩だ。

 

「へ...?三日も...?」

 

ついぞすっ頓狂な声を出してしまったが気にしてられない。

 

「まぁまぁ、まだ治ってないんだから安静にして」

 

宥めるルクスの声に浮かせていた腰を戻す。

そしてーーー、

 

「申し訳ありませんでした」

 

セリス先輩が頭を下げてきた。

 

「あなたの待遇は分かってつもりでいましたが、私が間違っていたことを認め、謝罪します」

 

そして、顔を上げる。

 

「その上であと一週間ちょっとですが、在学を許可します」

 

少し微笑んだセリス先輩は言った。

 

 

後にルクスから事情を聞いた。

セリス先輩との約束、ルクスの祖父ウェイド・ロードベルトの話、そして校外対抗戦の代表メンバーの話。

曰く、一応アリシアも学園の生徒であったため、補欠として登録された模様。

最後にセリスティアの爆弾発言。

ルクスから男性のことを色々教えてもらうそうだ。

 

それを聞き、ルクスを一通り笑ってやると、二人は退出した。

 

 

静かになった赤く染まる部屋。

今一度、アイリの頭を撫でようとして、気付いた。

アイリと目があった。

頭に手を乗せる寸前の状態でアリシアは停止する。

 

「私の心配も知らず、随分楽しそうにしてましたね」

 

少し目を細めて言われた。

 

「その左腕、筋肉は傷付き、骨も一部ヒビが入っていたそうですよ」

 

更に目を細めて言われた。

 

「私、いつしか言いましたよね?『無理してほしい訳じゃない』って」

 

これでもかと言う程睨まれる。

 

「反省してます...」

 

するとアイリは体を起こし、頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。

 

「学園に来て再会できたと思ったら、何かあるごとに傷付いて...これなら私の知らない所で安全に過ごしていて貰った方が良かったです」

 

するとこっちを見て真剣な表情になり、

 

「今度無理したら、一週間口聞かないので」

 

言われてしまった。

 

「約束する、もうしないって」

 

アイリの頭を撫でる。

 

 

 

 

そうする間も、事態は動きつつあった。

 




途中から何書いてるのかわからなくなってしまったので、その内大幅修正入るかもしれません。
その時はよろしくお願いします。

追記:『ーーーだった。』みたいなのちょっとしつこいですかね...?
気になったらお教え下さい。
頑張って修正します。


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29.束の間の休日

遅ればせました。
次は早めに出せるはずです。




追記:一応予告という形にしますが、リエス島編はユグドラシル討伐まで原作と同じ道筋にしたいと思っています。そのため、『騎士団』のリエス島での合宿からユグドラシル討伐までを省略しようと思っています。
もし書いて欲しい、等の要望がありましたらお知らせ下さい。


「ふぁー...」

 

激戦より2日後、ルクスとセリスの距離感が近いのか遠いのかあまりわからなかったアリシアだが、学園長に呼ばれ、学園長室へ欠伸を噛み締めながら向かっていた。

 

「もう...だらしないですよ、アリシアさん」

 

体が弱く文官志望のアイリだが、騒動の後もよく働いてくれていたはずだ。

その疲れを表に出さず生活してーーーいや、よく見れば少し足が重そうだ。

今度ちゃんと労ってやろう、

と思いながらアイリを見ていると...

 

「...何見てるんですか?」

 

ジト目で返された。

 

「いつもありがとね」

 

アイリの頭を撫でる。

 

「もぅ...」

 

こんな日がいつまでも続けばいい...きっと二人ともそう思っただろう。

 

 

 

 

 

そうこうしていると学園長室前についた。

 

「それではアリシアさん、私はノクトとポセイドンの撃破現場を見ていますので」

 

 

ポセイドンーーーそれは世界最強の幻神獣、終焉神獣のうちの一体。

先日何故か反乱軍と侵攻して来たが、ルクス、アリシア、そして帰って来た学園最強セリスティアによって撃破された。

現在行われているポセイドンの死骸の調査にアイリも手伝ってくれているらしい。

アイリも思うとこあってのことだろうが、アリシアとしては少し心配だ。

 

「何があるかわからないから、気を付けてね」

 

そう言って別れ、学園長室をノックする。

 

「どうぞ」

 

間延びしたような声の主は学園長のレリィ・アイングラムだ。

 

「アリシアです。話があると言われて来たんですが...」

 

そう言いながら入るとレリィは手に持つ書類を机に置いた。

 

「忙しい中ありがとね。急ぎって程でもないけどなるべく早いほうがいいかなーって思ったから呼ばせて貰ったわ」

 

そういいながらソファーを勧められたので遠慮なく座る。

 

「さっそくだけど、さっき女王陛下から書簡があってね、基本的には今回の対応についてだけど、追記としてあなたに伝言を頼まれたわ」

 

その手には封筒と見覚えのある王国の紋章。

レリィはそこから一枚の手紙を取り出した。

 

「ちょっと簡略させてもらうけど...、そろそろ期限の1ヶ月になるから一度王城に戻ってきて欲しいそうよ」

 

そう。もともとアリシアは王都の軍所属。

1ヶ月休暇として来ているからそれが終われば帰らなければならない。

 

「一週間後から騎士団の合宿が始まるわ。それに合わせて帰ってはどうかしら?」

 

騎士団によるリエス島での強化合宿。

軍教官として同行できれば...と思ってはいたが叶わなさそうだ。

 

「そうしてみます」

 

そう言ってアリシアは学園長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいねアリシア君」

 

学園長は何も書かれていない紙の入った封筒を握りしめていた。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

「はぁ...」

 

決して忘れていた訳ではなかった。

軍教官の日々も嫌いではなかったが、ここでの生活が楽しかったためか、少し名残惜しい。

 

永遠の別れという訳でもないが、アリシアの気持ちが晴れることもなく、後片付けに終われ一週間は一瞬にして過ぎて行った。

 

 

 

 

騎士団が合宿に向かう日の早朝。

アリシアは部屋に手紙を残し、学園の正門で馬車を待っていた。

この事はルクス以外には言っていない。

察しのいいクルルシファー辺りは気付いてそうなものだが、特に声をかけられた訳ではなかった。

 

自分で決めたことだが...

 

「寂しいなぁ...」

 

日は出てないが十分に明るくなっている空を見上げ一人呟く。

 

「言ってくれれば一晩くらい付き合ったのに」

 

声のした方へ振り返るとそこには、見る者を魅了する青い髪の持ち主ーーークルルシファーがいた。

 

「強がって誰にも言わずに行こうとするけど、実際一人になってみると寂しかった、ってところかしら?」

 

隣まで歩いてくる。

 

「はは...恐れ入りました」

 

クルルシファーは自分の着ていた外套をかけようとしてくれるもそれを手で制する。

 

「でもちょっと早くないかしら?」

 

言われて計算する。

こっちに来て、最初の3日で反乱軍の襲来、約一週間後バルゼリットとの決闘、一週間後ポセイドン襲来、そしてその一週間後、今に至る。

 

「と言ってもほんの数日だよ。気にするほどじゃない」

 

そう返すがクルルシファーの顔は少しづつ曇っていく。

 

「今週、あなたはもちろん学園長も様子がおかしかったのよ。合宿どうこうと言うよりも、別のことに気がとられてた...そんな感じだったわ」

 

言われて思い出そうとするけど、この一週間あまり学園長を見ていなかったからわからない。

 

そうしていると馬車が見えてきた。

 

「ありがとう、クルルシファー」

 

クルルシファーは笑ってくれた。

 

「留学生枠で校外対抗戦に出場できれば王都に行ける...すぐ会えるわ」

 

そう言って徐に唇をつける。

 

「はしたなかったかしら?」

 

アリシアも微笑み返す。

 

「いいえ....それじゃあ」

 

馬車に乗り込む。

クルルシファーは馬車が見えなくなるまで見送っていてくれた。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

馬車に揺らされること1日。

王都に着く頃には空の色が変わり始めていた。

アリシアは軍の宿舎に部屋を持つが、部屋へ向かう途中にある演習場を訪れた。

 

そこには5人、各々が練習していた。

時間的には練習は終了、着替えたりする時間のはずだが、アリシアの離れる1ヶ月前もこの5人は残って練習していた。

そのうち2人はクーデター後からではあるが軍に入って来た女性だ。

 

見ていると2対3の模擬戦をするようだ。

1ヶ月前はやっていなかったはずだが、スムーズに戦闘を開始したところを見ると、多分何回もやっているのだろう。

 

だがアリシアも目の前で模擬戦をしているとうずうずするくらいにはまだ子供だった。

 

そしてーーー耐えきれなくなる。

 

無詠唱で『ワイバーン』を呼び出し、纏う。

そして直ぐ様3人チームの男の一人に飛びかかる。

 

驚いた様に振り返るがアリシアの振るう剣を危なげなく受け止める。

 

そしてーーー

 

「アリシア教官!?」

 

驚いたようにーーー実際に驚いていたのだろうーーー声を上げる。

 

アリシアはそれに笑い返し、剣を無理やり払う。

存外簡単に剣を払えたが、相手の男は機竜の左腕をこちらに向けーーー

 

「『機竜咆哮』!」

 

機竜操作の基本技能、『機竜咆哮』によって押し返してきた。

 

この辺の対応の速さは流石にお嬢様とは比べ物にならないな...

 

押し返された力に逆らわずそのまま上昇。

5人を視界に捉えられる高さまで上がる。

そしてーーー制止。

 

「悪いな、見てたら入りたくなった」

 

子供っぽい悪戯な笑みを浮かべる。

 

「いやそんなことより教官、いつ帰って来てたんですか?てゆか、ちゃんと陛下に報告したんですか?」

 

いちいち煩いやつだ。

 

「お前が気にすることじゃない」

 

アリシアは目を逸らす。

 

「報告してきて下さいよ...」

 

こいつもジト目を向けてくる。

 

「今帰ったばかりなんだよ...そう急かすな」

 

そう言ってアリシアは剣を構える。

 

「明日は報告のため来れないからな...今日やれるなら相手してしまおうと思ってな」

 

もちろんそれは建前だ。

 

そしてーーー、突撃。

 

部下達と剣を交える。

 

帰ってみればこれも悪くない、そう思って相手していた。

 

 

 

 

 

勝ったのはやはりアリシアの入ったチーム。

教官である以上、負けられないものだ。

 

残っていた5人は要らないと言ったのに、ナルフ宰相に作られたアリシアの部隊。

押し付けられたが、メンバーはアリシア自身が決めた。

決め手は実力よりも性格。

今後の新王国に合った性格を第一に選定した。

時折主張の違いにより衝突することもあるが、皆実力も付いてきて、この歳でここまで優秀な部下を持てるとは恵まれている、とアリシアはつくづく思う。

 

 

アリシアは一ヶ月ぶりに戻った自室で、僅かな懐かしさを感じながら深い眠りに落ちた。

 




察してる方も多いでしょうが、私は学生の身のため編集に時間があまり取れません。

ですが、少しづつ編集して行きますので、どうか気長にお待ち下さい。

いつも応援ありがとうございます。


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30.異変

ちょっと前から≪≫と『』の使い分けを間違えてますが、直すにもどちらに統一したものか迷っているので、だんだんとどちらかに片寄っていくと思いますが、仕様なのでご了承下さい。


ーーー朝

 

宿舎でまだ明るくなり始めた頃にアリシアは起きた。

女王への報告の予定があると言えど、習慣付いてしまったものはやはり抜けない。

仕方なく起きて、運動用の軽い服装に着替える。

軽い準備運動の後、走り込みをする。

 

15分くらい走った頃だろうか。

アリシアの部隊の女性の一人にして副隊長のセルビア・リーリルが後ろから並走してきた。

 

「おはようございます、アリシア教官」

 

「ああ、おはよう」

 

息を切らしながらだが挨拶を返す。

 

「この後よろしければ少々訓練に付き合って頂けませんか?」

 

この真面目な性格と周囲の把握能力、部隊トップを誇る冷静な対処からアリシアはセルビアを副隊長に指名した。

 

「ん」

 

アリシアが軍の指導教官になったすぐの頃、いつものように走り込みをしようとしたら既に走ってる人がいた。それがセルビアだ。

しかしその後に控える訓練や睡眠時間を考えてもう少し遅めから走り始めるよう言ってからは、よく朝の鍛練を一緒にやるようになった。

 

これが普通の部隊や班だったのなら贔屓だとか言われただろうが、そう言うことを言わないメンバーを集めた部隊だ。

理由を説明するまでもなく皆特に食いついては来なかった。

 

そしてランニングを終える。

その足でセルビアと演習場へ向かう。

そしてセルビアと生身のまま剣を交える。

やはり才能とか言うものではなく努力の剣筋をしている。

より強いものと相対すれば更に強くなれるだろう。

 

休憩後、機竜を纏う。

あまり朝やると体力が持たないから、ある程度でやめなければならない。

そしてセルビアの付き合って欲しい訓練とはーーー、

 

「『強制超過(リコイルバースト)』の練習?」

 

そう、ルクスの開発した三大奥義の一つ、『強制超過』だ。

セルビアに限らず新王国軍にも数人だけ『神速制御(クイックドロウ)』を使える者はいるが、『強制超過』は知名度自体そんなに高くない。

それは強力無比なのは事実なのだが、危険度が高すぎると言うことだ。

ルクスとアリシアは危険過ぎるため、あまり広めようとしなかったのだ。

 

だがアリシアは、自身の部隊には三大奥義全てとその危険性、理論上のやり方、そして条件として練習するときは必ずアリシアがいること、を伝えた。

 

そして部隊ではセルビアと隊長のマルク・ファンネルが『神速制御』を使えるようになった。

だがアリシアはそこで城塞都市に行ってしまったため、練習ができなかったのだ。

 

危険性は話したため重々承知しているだろうが、それでも言って来たなら断る理由もない。

 

 

 

機竜によるフォームアップも終え、練習を開始する。

だが、『神速制御』が使えるとそっちの操作が身に染みてしまい、逆の操作が難しい。

絶対的な才能があればそれこそ違っただろうが、生憎セルビアは努力家なため、それも望めない。

更には、危険性を考えアリシアの同伴が練習の条件なので、やはり完成は随分先か。

 

 

と思ってはいたのだが、

 

 

アリシアが謁見のため帰るころには、意図的に暴走させることまでできるようになっていた。

ここからが難しいところだがここまで早くできれば、すぐにできるようになるだろう。

最後にもう一度だけアリシアのいるときに練習するよう釘を指してから、着替えるために宿舎へ向かった。

 

 

 

 

汗を拭き、髪を結び、いつものように装衣を着て、その上から正装する。

 

クーデター直後から緊急出撃がよくあり、着替えが手間に感じてから、装衣を下に着て過ごすようになった。

最初は違和感しかなかったが、数ヵ月も起たずに馴れてしまった。

 

今日は謁見だけのつもりだが、何があるかわからない。

まぁ着てない方が違和感を感じたのもあるのだが...。

 

 

 

そうこうしてると城門に着いた。

衛兵は元教え子だったため顔パスで通った。

 

中に入り謁見の間へ歩いていくと宰相のナルフに遭遇した。

 

「お久しぶりです、ナルフ宰相」

 

「ああ、アリシア軍教官か。休暇は楽しめたか?」

 

「えぇ、存分に」

 

この狸は腹の中で何を考えてるのかいまいちわからないが、大きく事をしてるわけではないので警戒程度に留めておく。

 

「女王陛下は今どちらに?」

 

「執務室でお仕事をされている」

 

ナルフの手には女王を通したと思われる書類の束がある。

 

「ちょうど今ぐらいに休憩してるだろう。会ってくるとよい」

 

「では、そうさせて頂きます」

 

一応礼をしてから執務室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

執務室の扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

扉を開け、中に入る。

同時に女王の顔が驚きに染まる。

 

「アリシア・レイヴン、休暇より戻りましたので報告に参りました」

 

「おかえりなさい、アリシア。積もる話もあるでしょう、かけて話しましょう」

 

執務室のソファに向かい合って座り、あった事を話す。

 

「そうでしたか...休暇とは称していましたが楽しめていたようで何よりです」

 

話終えてアリシアは力を抜く。

改めて思い出すと楽しかったと思うと同時に、やはり寂しさが滲み出てくる。

その寂しさを飲み込むように紅茶を啜る。

 

「それと、あなたさえよければエインフォルク家のご令嬢とのお話、受けてもらって構わないわよ?」

 

 

 

ゲホッゲホッ

 

 

 

いきなりの話にむせかえる。

 

「私としてもあなたにはちゃんとした幸せな人生を送ってもらいたいのよ...もちろんルクスにも」

 

「...少なくとも、もう少しこの国が安定するまでは、妻を持つ気はありませんよ」

 

それを聞いて女王は嬉しくも少し悲しそうな顔をした。

 

 

 

 

 

「そ、それよりも休暇もまだ3日あったんだしもう少しゆっくりしてきても良かったんじゃないかしら?」

 

「え....?」

 

一瞬、陛下が何を言っているのかわからなかった。

 

「どうしたの?」

 

出発前のクルルシファーの言葉を思い出す。

ーーー今週、あなたはもちろん学園長も様子がおかしかったのよ。

 

 

「い、いえ、陛下からの手紙があって帰って来たのですが...」

 

アリシアは出発前の事を必死に思い出しながら答える。

 

「?私は手紙なんて出してないわよ?」

 

陛下が素っ気なく言った言葉に耳を疑った。

だって実際に学園長から手紙で伝言があると伺い、帰って来た。

ちゃんと陛下からの手紙だというのをこの目でーーー、

 

いや、伝言の書かれた書面自体は見ていない。

つまりあれはーーー、

 

 

「報告します!リエス島付近に第三遺跡『方舟(アーク)』が浮上!同島に合宿に来ていた王立士官候補生学園の部隊とドバル公爵の部隊が無許可で調査に乗り出した模様!」

 

「なっ...!」

 

陛下が驚きのあまり声を上げる。

そしてアリシアは納得する。

 

要は厄介払いされた訳だ。

 

「私が様子をみてきます」

 

アリシアは女王の目をまっすぐに見て言う。

それで事情を察してくれたのだろう。

 

「ええ、まかせます」

 

それを聞いてアリシアはすぐに執務室の窓から身を投げ出した。

 

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜、我が剣に従い飛翔せよ、『ワイバーン』!」

 

空中で接続する。

 

「『厄災』!」

 

『厄災』を使い、最速でリエス島へと飛翔した。

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

海岸へ着くころには夜になっていた。

普段なら朝まで一泊する所だがそうも言ってられない。

軍人としてもそうだが、今回はアイリも同行しているらしい。

何か起きる前には着きたいのだ。

 

 

 

 

 

「昇華せよ、万物を絶つ諸刃の剣、我を糧とし力と化せ、≪ゼル・エル≫!」

 

人目がほとんどないことをいいことに、なるべく使わないようにしてきた『ゼル・エル』を纏う。

そして他の神装機竜を圧倒するスピードを、さらに調律し推進装置に大部分のエネルギーを流し、さらに速めてリエス島へ向かう。

 

 

 

リエス島が見えてきたのは太陽が真上に迫ろうとするような時間だった。

舟で2日かかるところを半日弱で着いたのだ。

そのまま浮遊する第三遺跡『方舟』に入る。

国内は元より、他国の遺跡への入り方もアリシアは一応暗記していたのだ。

光が消え行き、目を開けるとそこは、いつもより紅く、禍々しい『方舟』だった。

 

嫌な予感を感じ、覚えてる限り深層への道を辿る。

 

 

が、ある程度行った所で爆音がした。

 

それが敵の撃破なのか、考えたくもない『騎士団』の装甲機竜の撃沈なのか。

心配に足を速めようとしたとき、更に警報が鳴った。

 

そして少し先の部屋から3体ものディアボロスが一心不乱に奥の部屋を目指し飛んで行った。

ーーーそれはまだ調査結果の出ていない最深層に行き着くと思われる方向。

 

 

アリシアはそれを追いかけるため、推進装置にエネルギーを送った。

 

 

 




ナルフの口調わからない...。
あと敬語も。


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31.ユグドラシル

最後少しグロ注意

それと27話を一部修正しました。


ーーーユグドラシルを撃破した。

 

 

フィルフィさんも取り戻し、『角笛』も破壊した。

 

怪我人こそ出ているものの、勝利条件は十分にみたしているでしょう。

 

これで、これで諦めてくれれば......!

 

 

 

 

ヘイズの連れてきた終焉神獣『ユグドラシル』はルクスがバハムートの『限界突破(オーバーリミット)』を使用し撃破した。

 

フィルフィを操っていたユグドラシルに命令を出していた『角笛』もルクスの作戦により破壊することができた。

 

残るはヘイズとラ・クルシェのみ。

 

満身創痍ではありながらもルクスもセリスも、その場の全員が警戒はしていたが勝利を確信していた。

だがーーー、

 

「まだだ!ラ・クルシェ!出せるだけ幻神獣をこっちに持ってこい!」

 

「なっ...」

 

その場の全員が凍りついた。

全員、これ以上の戦闘に耐え続けられないことは自分が一番わかっているのだろう。

だが更なる追い討ちがかかった。

 

ヘイズが手に持っていた小さな種をユグドラシルの死骸に埋め込んだ。

瞬間ーーー、

 

 

 

 

エエエエエェェエェエアオオオォオォォオオォォォォ!!

 

 

 

 

ユグドラシルが咆哮を上げた。

だが伸びる触手は一本。

あの程度なら...誰もがそう思ったその時、最深層への入り口から大量の幻神獣がユグドラシルへ、そこから伸びる一本の枝へ自ら喰われに行った。

 

 

「ハッハッハァ!テメーらは終焉神獣を甘く見すぎだァ!核が壊されたってある程度は活動ができるんだよこいつらは!完全に沈黙する前に『種子』で生命力を補充してやりゃ、捕食ぐらいはできるんだよォ!」

 

 

「諦めて...たまるかぁぁぁァ!」

 

ルクスが叫ぶ。

まだ、皆諦めてはいなかった。

だがここは完全に敵地。

 

 

「『創造主(ロード)』様、今しがた生産し終えたディアボロス3体をこちらに向かわせています」

 

 

絶望へのカウントダウンを告げるようにラ・クルシェが声を出す。

 

そして近づいてくる気配。

 

「これでテメェらも終わりだ!」

 

 

入り口からディアボロスが飛び出す。

 

だがその一瞬の後に、更にその後方から光弾が幻神獣を襲った。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

エエエエエェェエェエアオオオォオォォオオォォォォ

 

 

 

 

聞いたことがない、だが似た音をつい最近聞いた叫び。

それはやはり終焉神獣。

そしてアリシアは悟る。

終焉神獣が健在なら先程の爆音はーーー...。

 

そのことを信じたくなく、前方を飛ぶディアボロスへ無理矢理意識を向ける。

と、その先に雰囲気の違う部屋が見えてくる。

そこが何処だかわかったアリシアは『双重刃』を揃え、砲撃のチャージを開始する。

 

そしてディアボロスがその部屋に入るのと同時に最大充填されたエネルギー弾を放つ。

 

 

最後方にいた1体に命中。

 

一撃で撃破し、その部屋ーーー、最深層へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

「なっ....!」

 

ディアボロスのうち1体が突如撃破され、ヘイズのみならず、ルクス達も驚き、固まる。

 

そして一番早く反応を示したのはなんと、ラ・クルシェだった。

 

「『創造主』様、『天敵(ガーディアン)』が現れました」

 

そして光弾の後を追うように入ってきたのは、

 

 

 

 

 

 

純白の神装機竜だった。

 

 

「アリシア!」

 

 

「っ...」

 

 

装甲の変形したバハムートを纏うルクスが声を上げる。

それを聞いたレリィはしかし顔を曇らせた。

 

「『天敵』...だとっ!?」

 

ラ・クルシェは無表情、ヘイズは驚くーーーいや、少し怯えた表情を見せた。

 

『天敵』...?何故怯える?

 

一瞬そんなことを考えたが、即座に止める。

そして

 

 

「新王国軍所属、アリシア・レイヴンだ」

 

ヘイズに剣を揃え、切っ先を向ける。

 

「一応警告しといてやる...持ってるものを全て地面に置いて両手を上げろ」

 

アリシアは答えが分かっている。

だからエネルギーの充填を開始した。

 

「クックックック....アーッハッハッハァ!」

 

ヘイズは先程の表情など嘘のように顔を歪め、アリシアを睨む。

 

「テメェ一人増えたところでユグドラシルは倒せねェよ!」

 

その言葉を合図にユグドラシルの枝が五本、向かってくる。

 

ユグドラシルーーー第五遺跡の終焉神獣だったはず。

能力は確か...再生と強化か。

だが枝が少ない...弱ってるのか?

 

だがアリシアは迎撃はせず、回避に徹する。

強化させないため...のつもりだったが、

 

 

「ちぃっ...」

 

枝の一本が後ろから迫ってくる。

更に上からも枝が伸びて来る。

 

 

回避も学習してるのか!?

 

 

こうなれば一撃で粉砕するしかない。

だが基本スペックの高い『ゼル・エル』とは相性が悪い。

仕方ない...

 

「クルルシファー!姫さん!セリス先輩!すみません時間稼ぎをお願いします!」

 

満身創痍ではあるが動けなくはないであろう三人に声をかける。

全員すぐに頷いてくれた。

そしてルクスとも目を合わせ、頷き合う。

 

そして『ゼル・エル』を解除する。

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜、我が剣に従い飛翔せよ、『ワイバーン』!」

 

『ワイバーン』を纏い、その手に『ゼル・エル』の機攻殻剣を持たせる。

そして調律を起動させ、腕と推進装置以外のエネルギーをカットする。

操作後、精神操作で突撃を、肉体操作で停止させる。

そしてーーー、

 

 

 

 

「『厄災(ディザスター)』!」

 

「『暴食(リロード・オン・ファイア)』!」

 

『ゼル・エル』の神装を『バハムート』の神装で圧縮強化する。

 

元より、『厄災』と他の操作技術を一緒に使わないのは、『厄災』の発動に機攻殻剣を抜いてる必要があり、その状態では基本的に操作技術は使えないからだ。

普通の的に対してはそこまで強化する必要もないし、機攻殻剣のサイズでは戦い難いからまったくこの方法を使おうとは思わなかった。

だが、ポセイドンとの戦いで、高火力の必要性と、巨体になら機攻殻剣が通用することがわかり、それ以来ルクスと検討してたものだ。

そしてやはり最初に使うことになったのは終焉神獣。

その中でもこの技に相性のよいユグドラシル。

 

五秒後。

 

 

 

「『強制超過』!」

 

 

 

ユグドラシルから伸びる五本の枝を吹き飛ばし本体に一瞬で迫る。

 

 

 

「戦陣・劫火!」

 

 

 

 

 

 

 

 

無造作にその腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォン!

 

 

 

 

 

 

世界が滅亡するんじゃないかと思われるような爆音が去り砂埃が晴れると、一部の枝を残し跡形もなく消し飛んだユグドラシルの死骸と、呆気にとられるヘイズ。

そして衝撃で吹き飛び、気絶してると思われるラ・クルシェが見えてきた。

 

攻撃の前、『騎士団』の面子には言っていたから各員無事だった。

 

そして最後に、機竜の腕と脚は無くなり、全身から血を流しているアリシアが浮かび上がった。

 

 

 

「っ...」

 

 

誰かの悲鳴にならない悲鳴が聞こえた。

だがアリシアは止まれない。

ぼろぼろになりながらも、すぐにほぼ全壊した『ワイバーン』を解除し、再度『ゼル・エル』を纏う。

 

「最終通告だ...。全てを置いて両手を上にあげろ...」

 

ヘイズは殺意を剥き出しにし、アリシアを睨む。

 

「...仕方ねぇ、来い!メス犬!」

 

同時に、いつしかの不気味な神装機竜が降りてきた。

 

「テメェだけは...確実に殺す!」

 

その神装機竜に連れられ、ヘイズは消えた。

 

アリシアは追わなかった。

さすがに神装機竜と相対できるほど体力もエネルギーも、そして血も足りてはなかった。

 

 

そして気が抜けたか、ルクスが意識を手放し、気絶し、『バハムート』が解除される。

リーシャとセリスがルクスに駆け寄る中、フィルフィを抱えるレリィへと、アリシアは歩を進める。

 

そして剣を向ける。

 

 

 

 

「レリィ・アイングラム...遺跡の無許可調査の容疑で出頭を命じる」

 

 

 

 

「えっ...」

 

リーシャとセリスがこちらを向く。

 

「なるほどね...」

 

クルルシファーとアイリは納得したようだ。

 

「期限は一週間だ。それまでに来なかったら指名手配になる」

 

アリシアは無慈悲に告げる。

 

「ちょっと待て、どういうことだ?無許可とは」

 

リーシャが声を出す。

アリシアはリーシャに礼をしているとクルルシファーが口を開けた。

 

「そのままの意味でしょう...、元々学園長は『方舟』がこの時期に浮上するのを知っていた。そしてフィルフィさんを王国に知られずに治す方法を探るため、許可を取らずに調査を開始した...そういうことよね?」

 

俯いていたレリィが顔を上げる。

 

「お願いアリシア君!私はどうなってもいい...だからフィーのことは報告しないで欲しいの!」

 

アリシアは暫し無言でいた。

十数秒後。

 

「私はあくまで、無許可の遺跡調査の容疑、と言いました。それ以上はあなたが証言することです。私に報告できるのは現状と対処だけです」

 

固唾を飲んで見ていた四人が息を吐く。

 

 

「ありがとう...ありがとう...」

 

 

レリィのすすり泣きを傍に、アリシアも意識を手放した。

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

白い空間にいた。

 

 

来たことのないはずだが、見覚えがある。

 

 

突然上から二つの大きな影が降ってきた。

 

 

終焉神獣ーーーポセイドンとユグドラシルだ。

 

 

その大量な触手と枝には、人が捕まっている。

 

 

見覚えのある人からない人まで。

 

 

だが次の瞬間、人が爆ぜた。

 

 

血が、肉が、内臓が、飛び散る。

 

 

終焉神獣が嘲笑うように哄笑する。

 

 

足元に首が飛んで来た。

 

 

長い茶髪で、アリシアを少し幼くしたような顔。

 

 

マナ・レイヴンーーーアリシアの妹だ。

 

 

今度は右に体が飛んで来た。

 

 

腕は千切れ、足は骨が出ており、内臓はバラけている。

 

 

その服装は銀と深緑の装衣。

 

 

アリシアの周囲の地面が割れた。

 

 

そこからは人、機竜、幻神獣、正常ではない大量の何かが、アリシアへと迫る。

 

 

アリシアは目を反らし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

この業を一緒に背負ってくれる人が現れることを信じて........

 



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32.その後

暗闇にいる

 

 

 

 

何も見えない

 

 

 

 

 

何も感じない

 

 

 

 

.......ん!

 

 

 

 

声が聞こえる

 

 

 

....り......ん!

 

 

 

 

暗闇に光が射す

 

 

 

........あり.....さん!

 

 

 

 

これは...俺を呼んでいる?

 

 

 

「アリシアさん!」

 

 

 

目を覚ましたそこはどこかの寝室だった。

僅かな潮の匂いと揺れる部屋から船の中のようだ。

そしてベッドの横には心配そうな顔をしたアイリがいる。

 

「大丈夫ですか...?」

 

アイリが何か言ってるがアリシアの意識には届かない。

 

 

 

「っ...!」

 

だが突如両腕に走った痛みに意識を覚醒させる。

 

「まだ傷が痛みますか?」

 

そこでやっとアイリの存在と現状が理解できた。

いつの間にか溜めていた空気を吐く。

 

「いや、大丈夫だよ」

 

アイリに微笑みかけ、痛む腕で頭を撫でる。

一瞬顔を赤らめたアイリは、だが直ぐにいつものように戻って、

 

「嘘をつかないで下さい。この怪我で痛くないわけがないでしょう?折れていたんですよ?」

 

アリシアの手を取りベッドに戻す。

更に視線の温度が下がる。

 

...あ、説教だ。

 

これから起こるであろうことを悟ったアリシアだったが、意外にもそれは起きなかった。

 

「今回は仕事で来たんじゃないんですか?それには私が言えることはありません」

 

思い出した。終えてはいるが、仕事で来たんだった。

 

「悪いアイーーー」

 

「ですが」

 

アイリに断りを入れて立とうとするも言葉を遮られる。

 

「......無理はしないで下さい。アリシアさんがこの国のため働いているのは、よく知っています。ですがそのアリシアさんとてこの国の一国民です。それ以前に私のもう一人の兄です。全部背負い込もうとしないで下さい...。それは兄さんや、あなたの悪い所です」

 

涙を溢しながらアイリが顔を上げる。

 

「辛いことがあれば言ってください。痛くても我慢しないで下さい。心配させるような隠し事はしないで下さい...。そう約束してくれるのでしたら、今は止めません」

 

アイリは確かな決意を涙ぐむ目に宿らせる。

 

 

あぁ...これか...

 

アイリを痛む両手で抱き締める。

 

「約束する」

 

その言葉にアイリも腕を回す。

 

 

 

 

 

静かな時が二人の間を通り抜けた。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

アリシアはすぐそばで眠る親友の顔を拝んでから痛む体に鞭を打ち、アイリに手伝ってもらい甲板へ出る。

 

「家族団らんの時間は終わったかしら?」

 

そこにアリシアの婚約者の姿があった。

 

「えぇ、お陰様で私に心配しかかけない兄の一人に首輪をかけれました」

 

どこか挑発したような物言いをするアイリと、その言葉に反応する婚約者。

正直に言ってとても居づらい。

 

「へぇ...私という女がいながら首輪をかけられたのね?アリシア君?」

 

黒い笑顔を向けてくる婚約者ーーークルルシファーは一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「べ、別に首輪を掛けられた訳じゃないぞ?ただ心配させないための約束をした程度だよ」

 

その言葉通りのはずだが、何故かアイリの後ろにダークなオーラが出現する。

それを見たクルルシファーは勝ち誇ったような顔をアイリに向けた。

 

「ふんっ...いいですねアリシアさんには、そんな綺麗な婚約者がいるんですから。私みたいなのはお呼びじゃないですよね」

 

そのままアイリは踵を返し、船内に戻って行った。

 

「........クルルシファー」

 

「ごめんなさいね。あの子には負けたくないから」

 

ある程度はわかってるつもりだが、事態は結構進んでいたようだ。

 

「そういえばあなたのいない間、いくつか面白いことがあったわ」

 

「ん?面白いこと?」

 

クルルシファーが少し思い出したように笑う。

 

「それも含めて全部教えるわ」

 

唐突な思い出話が始まった。

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

長い船旅の後、リエス島に到着した『騎士団』一同。

 

「まったく...、何やってるんですか?お二人とも」

 

冷ややかなアイリの目線の先には項垂れるルクスとティルファーがいた。

 

「No.これは全面的にティルファーが悪いと思います」

 

反論こそするもののアイリと似たような目をしてティルファーを見るノクト。

 

「学園長が間違えて持ってきていたお酒をティルファーさんが飲んで悪酔いしたとしても、はっきり断らない兄さんも悪いと思います」

 

そう、事は昨夜に遡る。

 

船で夕食を食べた後、ルクスの回りにはいつものメンバーが集まっていた。

 

「レイヴン卿も来れたら良かったんですが」

 

そう言うのは先日の終焉神獣の事件の後、男子生徒を認めた学園最強、セリスティア・ラルグリスだ。

 

「あれ?セリス先輩ってアリっち派だったっけ?てっきりルクっち派だと思ってたんだけど」

 

ゴホッゴホッ

 

むせる学園最強。

 

「私もそう思ってました。ですがティルファー、アリシアさんはその呼ばれ方は不本意だと思うのですが」

 

「えー、いいじゃん。愛称だよ、愛称」

 

「それで?セリス先輩はどっちにつくのかしら?場合によっては手を下さないといけなくなるのだけれども」

 

クルルシファーに細い目を向けられたセリスティアは目を反らしつつ、

 

「そ、その派と言うのが何を表しているのかはわかりませんが...、気になる、と言うのであれば、ルクスの方が...」

 

「なぁっ!?」

 

軽くガッツポーズするクルルシファーに対し、面食らうリーシャ。

 

「だ、ダメだダメだ!ルクスは私のなんだぞ!」

 

「リーシャ様のものになった覚えはないんですけど...、ていうか僕ここにいていいの?これ」

 

「いいんじゃないかしら?これを機に皆の気持ちを知っていっても」

 

いつの間にかビンを片手にレリィがすぐ後ろにいた。

 

「いや、ものすごく居心地が悪いんですけど...。それより何持ってるんですか?」

 

「ああ、これ?」

 

右手に持つビンをプラプラと振る。

 

「ちょっと前に知り合いに貰ったジュースよ。私はお酒飲みたいからこれはあげるわ」

 

「ジュース!?欲しい欲しい!」

 

そうしてティルファーは学園長の手からビンを奪い取り、持っていたカップにそれを注いで一杯あおった。

 

「ぷはぁー!おいしー!」

 

「そりじゃあ私はこれで、ほどほどにね」

 

そうとだけ言い残して学園長はどこかに行ってしまった。

 

「ねぇー!ルクっちも飲むー?」

 

「あ、うん、貰おうかな」

 

そうして注いでもらったそれを口に入れた瞬間、ルクスは悟った。

 

「ってこれお酒じゃないか!」

 

つまりティルファーは....、

 

「ね~、リーシャ様は~ルクっちのこと~、どう思ってるんですかぁ~?」

 

「ちょっ!酒くさ!近寄るな!」

 

酔っていた。

 

「ティルファー、それ以上は不許可です。水を飲んできなさい」

 

セリスがリーシャからティルファーを引き剥がすが...

 

「セリス先輩は~、ルクっちのどこが気になってるんですか~?」

 

ティルファーはそれをするりと避けた。

 

「わ、私の気になると言うのは別にそ、そういう意味ではなくて....」

 

「ほら~、素直になっちゃって下さいよ~」

 

そう言ってティルファーはぬるりとした動きでセリスの後ろを取った。

 

そして...

 

「えい!」

 

スカートを下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

セリス先輩、ダウン。

 

「以外と可愛い声出すんですね~先輩」

 

そうしてぬらりくらりと次の標的の元へと歩いていく。

 

「じゃあルクっちは誰が気になってるの~?」

 

「え、いや僕は誰とかは特に...」

 

「ほらルクっちも素直になろ~よ~」

 

ティルファーが手にしたのは三割程中身の残ったビン。

 

それをそのままーーー、

 

「むぐっ!」

 

ルクスの口に突っ込んだ。

 

「ーーーーーーー!」

 

「ほらほら~飲め飲め~」

 

「ーーーーーーー!」

 

声にならない悲鳴を上げるルクス。

 

「ぷはっ!何するのティルファー!」

 

「私はただルクっちを素直にさせようとしただけだよ~?さぁさぁルクっち!誰が好み~?」

 

「だから...僕...は...」

 

急激に回る酔い。

ルクス、撃沈。

 

 

 

 

「も~、ルクっちも素直じゃないんだから~」

 

そしてまたティルファーは目を光らせて...

 

「さて次はーーーむぐっ!」

 

後ろから羽交い締めにされてもがくティルファー。

 

「ーーー!ーー!ーーー!」

 

 

 

かくん

 

 

 

ティルファー、撃沈

 

 

 

「いい加減にして下さい、ティルファー」

 

その後ろには疲れた顔をするノクトが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあり、ティルファー、ルクスは二日酔いでダウンしていた。

 

「二人とも今日は休憩してて構いません。ですが明日からは皆の倍以上のメニューをこなしてもらいます」

 

確実に私怨の含まれた指示を出すセリス。

だが誰も反論することは出来なかった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

「それでその翌日には予想通りの地獄が二人を待っていたわ」

 

哀れむ目で海を見るクルルシファー。

その地獄は容易に想像がついた。

 

「その場にいなくて良かったと心底思うよ」

 

「私としては水着を最初に見てもらいたかったのだけども」

 

珍しく少し頬を膨らませる彼女はとても可愛らしかった。

 

「装衣とそんなに変わんないだろ」

 

水着というもの自体はアリシアは仕事で海に来たことがあったから知っていた。

 

 

 

 

 

 

「アーちゃん」

 

声の方を向くと、ルクスやアリシアに負けず劣らず包帯だらけのフィルフィがいた。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

流石にクルルシファーも察してくれて、黙認してくれている。

 

「ん、皆が看病してくれた、から」

 

「そうか」

 

だが、フィルフィは少し暗い顔をしていた。

 

「...レリィさんは王都に召集されたら、そのまま

審議に移ると思う。俺ができることは報告だけだが、お金も、そして何よりルクスとの繋がりがある。利用するためにも、保留にする、と思う」

 

「そう...」

 

だがあまり表情は晴れない。

 

「ルクスなら大丈夫だ。執政院もギリギリ可能なところを突いてくるはずだし、いざって時は俺も出る」

 

「...」

 

「大丈夫。なるようになるさ」

 

「...ん」

 

少しだけ明るくなった顔を上げた。

 

「じゃあね」

 

そうとだけ言って、フィルフィは中に戻って行った。

 

 

 

 

「これからどうするの?アリシア君」

 

波の音が風に流れる甲板。

 

「んー...、一足先に王都に戻ろうと思う。『厄災』使えばーーーあ、ワイバーン壊れてるんだった」

 

神装の重ねがけに『強制超過』更に戦陣を使い、ろくに障壁を張っていなかったため、ワイバーンは大破。

流石に国内であれば白き影竜の存在も認知されているので『ゼル・エル』で飛んで行く訳にもいかない。

 

「急がないといけないの?」

 

「...あぁ、俺が先に報告を上げておかないと色々と湾曲して伝わりかねない」

 

「それじゃーーー....」

 

「待て」

 

激痛に耐えながら左手でクルルシファーを制す。

耳をすますと微かにワイバーンの稼働音が聞こえてきた。

 

その音の方向ーーー船の進行方向を見ると、かろうじて二機のワイバーンが見えた。

そしてそのワイバーンは船の艦首甲板に降り立った。

 

「悪いクルルシファー、ちょっと支えててくれ」

 

クルルシファーに支えられながらアリシアは艦首甲板を目指した。

 

 




次もいつになるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。


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33.船上で

艦首甲板に二機の機竜と三人の男女が降り立った。

その中の一人の男が口を開いた。

 

「こちらは新王国軍所属、マルク・ファンネル!貴艦の所属を示し、責任者を出せ!」

 

すぐに中から一人の女性が出てきた。

 

「王立士官学園『騎士団』遠征責任者、レリィ・アイングラムです」

 

「...!」

 

五人の軍人全員が息を飲むのがわかった。

そして先程の男が剣をレリィに向けた。

 

「無許可の遺跡探索を行ったのはお前たちだな?」

 

レリィは小さく頷いた。

 

「セルビアはこの者を拘束しろ、カンナ、ギオン、シアニスは船内を改め、学生はここに集めろ」

 

「待って!生徒たちは関係ないわ!」

 

「それを判断するのはあなたではありません」

 

有無を言わせぬ男の発言にレリィは何もできない。

他の四人の男女がそれぞれ行動を起こす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルク・ファンネルの命令を破棄する」

 

 

 

 

 

その場の皆が声の方を向いた。

 

そこには蒼髪の女性に支えられた、ボロボロな女顔の軍人がいた。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

甲板に向かったアリシアとクルルシファーを待っていたのはアリシアの部隊の五人だった。

隊長のマルク・ファンネル、副隊長のセルビア・リーリル、ワイバーンを駆るシアニス・ベールヌイ、部隊一の破壊力を持つギオン・ゲルギウス、正確無比な射撃能力を誇るカンナ・マルテム。

 

その五人とレリィが先程声を出したアリシアを見ていた。

 

「「「隊長!」」」

 

部隊の者たちは通常は呼び方を自由にし、部隊で動く時のみ、『教官』呼びを禁止している。

 

「隊長...その怪我...!」

 

何を思ったか、俺の包帯を見て警戒を強める五人。

 

「待て待て、早まるな、この怪我は終焉神獣との戦闘だ」

 

「終焉神獣と戦ったんですか!?」

 

部隊一の戦闘狂のギオンが食って掛かる。

 

「まぁ、弱ってはいたがな、無事討伐した」

 

五人がどよめく。

 

「あの隊長がそこまでなるなんて...終焉神獣の強さがよく分かるわ」

 

「でも討伐するのは流石隊長だな」

 

「ん?怪我したのは終焉神獣との戦闘時だが、怪我自体は自爆だぞ?」

 

「「「「え?」」」」

 

五人が面食らう。

 

「あー...ここ来る前にセルビアから『強制超過』を教えてくれと言われたが、この怪我こそそれによるものだ。まぁ多少無理した結果だが。セルビアも、これから習得しようとする奴らも知っておいてくれ。『強制超過』はひとつ間違えるとこうなるとな」

 

「り、了解」

 

「本題に移ろう。シアニスは俺を連れて王都へ戻れ。マルクは上陸次第、レリィ・アイングラムのみを連れて王都へ、他三人はこのまま士官学園まで生徒を護送。着いたらカンナは俺の元へ報告に来い。ギオン、セルビアはそのまま学園に残れ。選抜戦に出れるなら生徒を王都まで連れて来い」

 

それぞれに指示を出す。

 

「動いて大丈夫なんですかい?隊長」

 

心配するのは連れてくシアニスだ。

 

「怪我に甘えてる訳にもいかんし、いざって時は『厄災』使う」

 

「あんま無理しないで下さいよ」

 

「はいはい」

 

「移動には機竜を?」

 

報告の任務を承けたカンナ

 

「ワイアームも馬もそう変わらん。機竜には乗るな」

 

「了解」

 

陸戦型のワイアームのため、使う必要性を感じない。

 

 

 

 

 

 

「これは何事だ!?」

 

 

任務の確認をしていると、中からリーシャが出てきた。

後ろにはセリス、アイリ、ノクトも続いている。

 

五人はすぐにリーシャに対し、頭を垂れる。

 

「俺の部隊だ。予定を変えた。詳しくは隊長のマルクに聞いてくれ」

 

マルクが立ち、礼をする。

 

「行く...んですか...?」

 

アイリが心配そうに声を出す。

 

「大丈夫、またすぐ会えるから」

 

頭を撫でるとアイリは引き下がった。

 

「シアニス」

 

呼ぶと機竜の手を出してくるのでクルルシファーに助けてもらいながらそこに乗る。

 

「ああそれと、彼女は成り行きではあったが一応俺の婚約者だ。手を出したら...地獄を見せる...!

 

残った男勢二人に釘を刺す。

 

「それは...洒落になりませんね」

 

「じゃあ任せたぞ」

 

そのままシアニスに抱えられ、船を飛び立った。

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

「全く...忙しない人ですね、ほんと」

 

 

「全くです。若いんだから遊んでればいいものを」

 

遠い目をしてアリシアを見送るアイリに同意するギオン。

 

「まぁ隊長はそういう人なので...。それよりも少し事情を説明してほしいのだけれども...」

 

 

「では僭越ながら私が」

 

そう言ったセリスの説明を四人は途中、驚愕しながらも静かに聞いていた。

 

 

 

「...そのお嬢さんの件、隊長は黙認と言う形を取ったのね?」

 

セルビアの確認に一同は無言で頷く。

 

「なら私たちは何も見ていない、聞いていないことにするわ。報告義務はあっても知らないことは報告しようがないからね」

 

「それを私王女の前で言うのはどうかと思わなくもないが...、こちらとしてもそっちの方がありがたいからな、私も何も見なかったことにしよう」

 

「それもまた国民の前で言うのはどうかと思いますけど...」

 

「では皆何も見てないということで」

 

「「「賛成」」」

 

皆の同意が得られ、この件は終了となった。

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

「...部隊でのアリシア隊長?」

 

アイリを筆頭に『騎士団いつものメンバー』が部隊のカンナに軍でのアリシアの様子を聞いていた。

 

今マルクはセルビアを連れてリエス島の確認に行っていた。

残るはギオンとカンナなのだが、強気そうなギオンには声を掛けにくかったのだろうか、カンナに話しかけていた。

 

「そうね...この人以上があるなら教えて欲しいって言いたいわね。人としても、軍人としても」

 

「「む...」」

 

お二方程面白くなさそうな反応をする。

 

「訓練は厳しいけどひどいというものでもないし、プライベートでは優しくしてくれる」

 

「「むむ...」」

 

「前の教官はセクハラとかあったけど、アリシア教官は全くない」

 

「「むむむ...」」

 

「おいおい、可愛らしい女性二人が物凄い形相になってるぞ」

 

蚊帳の外から見ていたギオンが声を掛ける。

やっとその形容し難い顔の二人にカンナが気がついた。

 

「...どうしたの?」

 

「...いえ」

 

「...なんでもないわ」

 

不服そうに答えるアイリとクルルシファーお二方。

そんな二人にカンナはーーー、

 

「ならどうしてそんなひどい顔をしているの?」

 

天然なのか。

 

「あははははははははは!流石だぜカンナ!あははははは!」

 

「...何よ」

 

今後はカンナが不服そうに声を出す。

 

「その二人は...隊長がカンナに取られるんじゃないかって心配してるんだよ...まぁ、嫉妬だ」

 

ギオンは笑い過ぎで途切れ途切れに真実を口にする。

 

「...そう。なら安心して。隊長子供っぽいから。私子供は好きだけど恋愛対象じゃないから」

 

それを聞いて三人は安堵の息を吐いた。

 

「なぁ、そっちでの隊長はどうなんだ?」

 

流れるようにギオンが入って聞く。

こうぬるりと会話に入れるのはギオンの特徴だろう。

 

「そうね...残念ながら教官としての彼は見れてないけど、強くて優しくて子供っぽい...まさにその通りね」

 

「まぁ少し無理し過ぎなところが悩みの種ですけどね」

 

「苦労してんなぁ...」

 

「私としてはアリシアの強さの秘訣を知りたいのですが」

 

アリシアトークに口を挟んだのはセリスティアだ。

 

「隊長の強さ?隊長自身は才能って言ってたけど...」

 

「才能...ですか」

 

「でも、『個人的には才能よりも努力のできる人間が強いと思う』とも言ってたわ」

 

「そう...なんでしょうか、私は逆な気がしますけど」

 

「『才能のみだと器用貧乏になりやすく上を目指そうとしなくなる上、新しい発見に行き着かないが、努力ができると言うのは他のものにも適用できるし、何よりその過程でより強力なものに行き着く』だとさ」

 

「なるほど、それには納得できます」

 

「それと『たまに無邪気になること』とも言ってたわ」

 

セリスが面食らう。

 

「無邪気...?」

 

「あーそうそう、無邪気ってのは別の角度から物が見れて固定観を捨てやすいらしい」

 

「なるほど...無邪気...無邪気...」

 

セリスが自分の世界に入り込む。

 

「まぁセリス先輩の場合、発言等無邪気すぎる点も既にありますけどね」

 

「なっ...」

 

ノクトの言葉に笑う皆。

 

そこにはもう激闘を匂わせるものはなかったのだ

 



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34.変化の時間

遅くなって申し訳ありません。
無事受験も終了したため、再開します。
他作品も追って更新していきます。

これからも不定期ではありますが、どうぞ『最弱無敗とその影は』をお願いします!


「.........」

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い空間に話し声が響く

 

 

 

 

 

 

 

「....いか?こいつを使え」

 

 

 

 

 

 

「これは...毒....ですの?」

 

 

 

 

 

 

 

片方が獰猛な笑みを浮かべ、暗闇に白い犬歯が鈍く光る

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ヘイブルグのイカれた奴らに開発させた。こいつは傷口周りの細胞を汚染し回復を妨げるものだ。無理矢理止血しても、後から勝手に傷口が開くようになってる」

 

 

 

 

 

 

 

「それでもし生き延びても後から大量出血...ということですわね」

 

 

 

 

 

 

 

クックック...と、不気味な笑い声が漂う

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ...これで奴を...『天敵』を...殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

「死ぃぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

演習場に男の怒号が飛ぶ。

 

 

「叫び声上げるのは良いとは言ったが、教官に対してどうなんだ?その言葉は」

 

呆れながら剣を受けるアリシア。

 

「普通に雄叫びでいいんでないですか?ギオン」

 

少し特徴的なしゃべり方のシアニス。

 

「いや、何か叫ぼうとしたらこれが出たから...」

 

上官に死ねと言ったのは戦闘狂ギオン。

 

「最初にその言葉が出る辺り性格が滲み出てるな」

 

「別にいいじゃないですか!今はこう言っても変な疑惑かけられなくて済みますし!」

 

「まさか前もそれでやろうとしたんで?」

 

「そうだよ!そしたらお前今何を企んでる?なんて剣突き付けられるんですよ!」

 

「俺も結構剣突き付けたい気分なんだが...」

 

「今も前もあんま変わってないでやすね...」

 

 

これは二年前の様子。

あの頃はーーー、

 

「あの頃は何も考えずにバカできたんですけどね」

 

隣には俺を王都まで連れてきてくれたシアニス。

 

「...全て終わったら、またそうなるさ」

 

マルク、カンナが戻り、今はレリィの判決待ちをしている。

 

と言ってもそんなにすぐには出ると思ってないからシアニスと訓練をしていた。

ギオンは一足先に上がって行った。

 

「判決...どうなるとお思いでやすか?」

 

差し出してくるタオルを受け取り少し思考する。

 

「多分...保留。あっても執行猶予付きだろう」

 

「な...遺跡の件は他国との兼ね合いもあるんでやすよ!?打ち首ですら甘い罪のはず...!」

 

結構食って掛かって来た。

こんな言い方だが打ち首を望んでないことを俺は知っている。

 

「まぁ、普通であればそうだろうがな」

 

一度息を吐く。

 

「恐らくルクスに対する手札にするつもりだろう。首輪に加え、罪を消すだの言えばルクスはほぼどんな命令だって受けるはずだ」

 

「なっ...」

 

開いた口が塞がらない、と言ったようだが...

 

「ルクスはそういうやつだ。そして執政院もそれを知っている...使わん手はないだろうな」

 

「そんな...」

 

やはりシアニスの様子が少しおかしい。

 

「どうした?随分気に掛けてるようだが?」

 

少したじろいだ。

そして昔を思い出したように少し幼い顔でぽつぽつと喋り始めた。

 

「帝国時代から軍にいましたが、僕はある程度まで母に育てられて来ました...。その時母は僕に、貴族とは国を守る盾であり、軍人とは敵を倒す槍であると教わり、それを憧れながら軍に入りました。ですが...」

 

「帝国の圧政か...」

 

「はい、そこには僕の憧れた軍の、貴族の姿はどこにもありませんでした。そんな時クーデターにより帝国は滅びました。そして思ったのです、今度こそ僕の憧れた国を支える人が見れるのだって」

 

「だがそれもまた幻想だった、と」

 

「はい...僕は思うんです。他人を脅し自らの利益にする人よりも、自分の守りたい物のため自分の持つ全ての物を犠牲にしてまで守る人の方がかっこいいって。...そういう意味では軍よりも士官学校に僕の憧れた物はありそうですけどね」

 

少し頬を赤らめ照れ臭そうに微笑む彼を、だがアリシアは笑い飛ばすことはできなかった。

 

「...一区切り着いたらお前の城塞都市行きを考えておこう。そこで自分の見たい物、自分の目指す物を存分に見つけろ」

 

「...っはい!」

 

一瞬戸惑った彼は、だがすぐに大きな声で返事をした。

彼はもう一度自らの求める物のための一歩を踏み出すだろう。

 

それとーーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

「レリィさん多分奥手だからな、大変だぞ」

 

爆弾を落としてやった。

 

「ちょっ...えっ!?教か...何知ってるんですかーーー!?」

 

「はっはっは、ある程度のことは把握してるのだよ貴君」

 

 

演習場には男の笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

判決が出た。

罰金及び禁固十年だったが予測通り一考の余地ありとし、一時釈放となった。

そして全竜戦も予定通り出場しろとのことだ。

あとから聞いた話だが、表立って他国にはバレてないらしく、そのまま隠し通そうとしたらしかった。

 

そのことをギオンとセルビアに伝え、そのまま生徒たちを護送してくるように命令しておいた。

 

早ければ今日の昼頃には到着するはずだ。

休息日ってわけではないが部隊が動いていることだし、仕事として迎えてやろうと思っている。

 

が、そんなことは思いつつも毎朝の日課は忘れない。

そうしてランニングを終え素振りをしようと剣を持った時、シアニスとマルクとカンナーーー今こっちにいる部隊のみんなーーーがやって来た。

そして、ビシッと音の出そうな程勢いよく敬礼する。

 

「「「おはようございます!」」」 

 

「あ、ああ。おはよう」

 

突然の態度に戸惑いを隠せないアリシア。

そもそもこいつらは最低限の礼しか普段はしないのだ。

の割に今回のこの気合の入り用であるため、何か用事があったっけ?と思考を巡らすも騎士団が王都に来ること以外思いつかない。

そうだったとしても、この気合の説明はつかないのだが。

 

「「「少々お願いしたいことがございます!」」」

 

「お、お願い?」

 

ここまで言われてアリシアにも分かって来た。

先日のシアニスとの会話や、ここ数日の訓練からするとーーー、

 

「「『神速制御』を教えて下さい!」」

 

隊長であるマルクを除いた二人が息を合わせて頭を下げてくる。

 

「自分には『強制超過』をお願いします」

 

マルク自身も自分の要件を言い、頭を下げる。

はあ、とひとつ息を吐く。

 

「...お前たちは他の奴と比べても頭を抜いて強い。特殊な部隊に入れられてるから当然と言ったら当然なんだがな」

 

アリシアは一人一人の顔をよく見ながら、言葉を紡ぐ。

 

「《強さ》というものは、ある種の薬みたいなものだ。正しく使えば人を救い、国を救い、自分の望むことに近づける。だが一歩間違えば人を殺し、国を壊し、自分自身をも苦しめる。それはーーー分かっているな?」

 

最後少し殺気を込めて語尾を強くし、一同を睨みつける。

だが三人は少し緊張した顔で、しかし大きく頷いた。

 

「お前たちはすでに《強さ》を持っている。それなのに更なる《強さ》を今求めているのは何故だ?」

 

わざと腰に下げていた機攻殻剣をならす。

 

「自分たちは、教官には全く勝てません。ですがその教官でさえ終焉神獣に対し苦勝でした。今王国は反乱軍を含め、不穏な空気に包まれています。これから何が起こるかわかりません。でしたら!国民を、ひいては国を守るために、今できることをしようと、城塞都市の二人を含め皆で話し合った結論です」

 

マルクはそう締め括った。

シアニスとカンナも真っ直ぐこっちを見る。

その目は、かつて民のため国をひっくり返した少年の目に似ていた。

 

 

 

 

 

「...いいだろう。お前を一段階強くしよう」

 

アリシアはそう言うと剣を抜いた。

 




アリシアの部隊について少し補足を
現在、アリシアとマルク・ファンネルの二人ともが隊長と呼ばれてますが、アリシアはどちらかと言うと総隊長的な立ち位置です。他の仕事等でアリシアのいない時はマルクが、いる時はアリシアが隊長になる、といった具合です。


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35.束のまの休日

更新遅れて申し訳ない!!
正直大学甘く見てました!!


昼前。

アリシアは午前中ずっと行っていた訓練に確かな手応えを感じながら体を拭く。

先程、ギオンとセルビアから王都に入り今から宿に向かうと連絡があった。

幸い、部隊の連中は午前のシゴキでバテたため午後は休憩にしてある。

一ヶ月ぶりの待望の再開をしようと思う。

 

と言うわけで、逸る気持ちを押さえながら新王国の竜王戦出場者の泊まる宿に向かっている。

辺りは竜王戦に加え、近付く建国祭のために人でごった返していた。

嫌な話、こういう日は決まってどこかでいざこざが―――

 

 

「離して下さい!」

 

 

 

...ほらな。

いつもと違いながらも、いつも通りの情景に安心しながら、軍人として見逃せないので、声の方に向かうアリシアであった。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

私たち王立士官学園の生徒たちは学園長が問題を起こし、竜王戦の出場が危ぶまれましたが、何故か学園長は釈放され、私たちはアリシアさんの部隊の人に連れられ、王都に入りました。

そこまで思い入れもない王都でしたが、最愛の―――もう一人の兄がいるというだけで物凄く楽しみです。

 

と、浮かれていたからでしょうか?

酔った男の人に手を捕まれてしまいました。

こんな日中から飲んで...。

 

「離して下さい!」

 

私が声を上げて手を振りほどこうとしますが、中々離してくれません。

今声を上げたことで、一緒に来ていた騎士団やアリシアさんの部隊の二人は気付いてくれました。

今、もう一人の兄はあまり頼りにならないので、他の人にすがるしかないのですが。

と流石は軍人、部隊のお二人は注意しながらこちらに来て―――

 

 

「嫌がってるじゃねぇか、離しやがれ」

 

 

 

私の後ろから伸びて来た手が、私を掴んでいた腕を持って捻り上げました。

それとともに聞こえてきた声は、私の待ち望んでいたものでした。

 

 

 

 

 

「アリシアさんっ!」

 

 

アイリの嬉しそうな声を聞き、アリシアも一安心する。

まさか絡まれてるのがアイリだったとは...。

それなりに人数連れているからしょうがないとは言え、ギオンとセルビアには少々お言を言わないといけないようだ。

と、いう思考が伝わったのか、こちらに来ようとしていた二人の体が少し震えていた。

 

「あぁ?なんだお前ぇ...?」

 

酔っぱらいは自らの腕を掴むアリシアへと視線を向け、若干回らない舌で文句を言う。

 

「私は軍人です。お昼から飲み過ぎですよ?」

 

アリシアは笑顔で、だが手を離さずに言う。

しかし酔っぱらいは言うことを理解してくれない。

 

「別にいいじゃねぇかぁ?いつ、どんだけ飲んだって俺ぇの勝手だろぉ?...ってぉお?あんた案外可愛いじゃ―――」

 

プチンッ

 

近くにいたアイリや部隊の二人には、実際に聞こえるはずのない音がアリシアの頭から聞こえた気がした。

同時に、アリシアは自分の尻へもう一方の手を伸ばした酔っぱらいの腕を引っ張ると、

 

「公務執行妨害ッ!」

 

男の体を投げ、地面に叩きつけた。

酔っぱらいは地面で一度バウンドをしてそのまま沈黙した。

 

「ってアリシアさん!やりすぎです!」

 

「ハッ...」

 

ついぞムカついたから思いっきり投げてしまった...。

けど実際に悪酔いし過ぎていたため、頭は冷やさせるつもりだったし、実際に公務執行妨害ではあるからこれでいい、と自分に言い聞かせる。

実際はグレーなのだが、そこはご愛嬌ということで。

 

「あー...ギオン、セルビア、現時刻を持って護送作戦を終了する。継いで...うん、違反者の連行を命じる」

 

ちょっと目線を反らしつつそう命令する。

 

「「り、了解」」

 

流石にそれは横暴な気がしなくもないが、二人はアリシアを哀れに思い素直に引き受けた。

 

そうして二人が意識のない男を連れていくと、アイリを含めた騎士団の王竜戦のメンバーが寄ってきた。

その中にはもちろん―――

 

「久しぶり、アリシア君」

 

いつの間にか気に入っていたクルルシファーの姿もある。

するりと入ってきたクルルシファーにアイリは少し膨れていた。

 

「ダメね、たった一ヶ月会わないだけで恋しくなってしまったわ」

 

そんなことは露知ら―――いや、知ってるかもしれないが、知らないふりをしながら、クルルシファーは続けた。

 

「この後予定空いてるかしら?空いてるなら―――」

 

「まずは!宿に行かないと!ですね!」

 

強引に割って入ってきたアイリによって中断された。

そのため周りの他の人たちもやっと会話に参加できるようになった。

 

「アリシア、怪我はもう大丈夫?」

 

そう言ってきたのはアイリの兄にして、我が親友ルクスだ。

怪我と言ったら...、

 

「あれ?お前だって結構な重症じゃなかったか?」

 

俺があの場に到着した時点でさえ、ルクスは結構ボロボロだったはずだ。

俺のことをどうこう言えるような立場ではなかった覚えがある。

 

「僕はつい先日まで療養してたから、もう大丈夫」

 

あれから一ヶ月、骨折でもしていなければ完治には十分だろう。

それはもちろんアリシアにも言えることで、

 

「俺も筋肉こそ痛めてはいたが、幸い骨折もしていなかったし、靭帯も無事だったからな。すぐに仕事も再開できたよ」

 

まぁ実際は結構ギリギリだったんだがな。

そんなことをわざわざ言ってやる必要もないだろう。

 

「そ、その...申し訳ありません、アリシア」

 

おずおずと謝罪したのはセリスティア・ラルグリス。

学園最強の肩書きを有する一際正義感の強い女の子。

先の事件の事を言っているのだろう。

 

「迷惑を掛けた上、口添えまで...」

 

って、ん?口添え?

まさかとは思うが俺が判決に関与したとでも思っているのか?

 

「俺は手を回してはいませんよ。恐らく狙いは―――」

 

ルクスに視線を向ける。

 

「...うん、僕だろうね」

 

流石にルクスもその事はわかっている。

 

「え...それはどういうことでしょうか...?」

 

よくわかっていないセリスティア。

ここで相談すべきなんだろうけど...

 

「いえ、何でもないですよ」

 

そう言ってしまうのがルクスだ。

はあっと見えないように小さく息を吐くアリシア。

ルクスは自分だけで抱え込み過ぎる癖がある。

それを察して動いてやらないと、そのうち壊れかねない。

もう少し人を頼る、と言うことを覚えてもいいと俺は思っている。

 

とまぁそんな事を話ながら歩いていたら目的地の宿に着いた。

 

「待ってたわよ」

 

中にはレリィさんがいた。

特段変わった様子もなく、寛いでいた。

 

「それとアリシア君...手紙の件、ごめんなさい」

 

そう、俺は女王の偽物の書簡によって露払いされたのだ。

実際には、女王はそんな手紙出していなかったのに。

 

「気にしてませんよ。ギリギリではありましたが、皆をちゃんと助けられたので」

 

これは本音だ。

俺は軍人である前に一人の男であり、人間である。

一ヶ月一緒に過ごして、絶対に守るべきものとして皆は位置している。

それが守れたのだ。今はもう気にしていない。

 

「ありがとう...」

 

丁寧に頭を下げてきたレリィさん。

これにはアリシアも少し驚いた。

そい長くない付き合いだが、今までにそんな仕草を見たことがなかったし、するとは思ってもいなかったのだ。

 

「さて!神妙な話はここまで!お腹減らない?どこか遊びに行って来なさい?」

 

先程とは打って変わって明るく言ったレリィさん。

現在昼過ぎ。昼前に王都に入ってきてここまでの移動なのでご飯も食べていない。

 

「あとそうそう、お小遣いも渡しとくわ。自由に使って?」

 

そう言って懐から取り出したのは明らかに学生の手に余る量の硬貨の入った袋。

それをレリィさんは一番近くにいたルクスに押し付ける。

皇族としての地位もそう高くなく、没落してからも持つ機会のなかった量のお金を手にし、ルクスは一瞬思考停止していた。

が、すぐに正気を取り戻す。

 

「って多過ぎますよ!?そして何で僕なんですか!?」

 

ルクスがレリィに詰め寄るがそこに色気など微塵も存在しない。

そしてレリィはレリィで全く動じ―――

 

「きゃっ、ルクス君、もう少しムードってものを...」

 

いや、遊んでるな。確実に。

 

「な!?ルクス!お前何をやっているのだ!?」

 

それを真に受けるお姫様。

もう少し落ち着いて女王としての自覚を―――

 

「ル、ルクス!そのような事はダメです!不許可です!」

 

訂正。貴族令嬢としてのおしとやかさを身につけてくれ。

にしても、こんなやりとりができるって平和だな。

 

「そう言えばアイリさん?先程言葉を遮られた件、忘れてないわよ?」

 

「いえ、そんな事ありましたか?私は少々疲れていまして、急ごうと思っただけですよ?」

 

へ、平和だな...

 

「ではアリシアさん。お二人は置いて私とお食事にでもどうでしょう?」

 

「なっ!?ノクト!抜け駆けは禁止ですよ!」

 

平和...俺の平和はどこだろう。

 

 

結局なし崩し的に皆で少し遅い昼食に行くことにした。

レリィさんはもう食べたらしいので、いつもの面子だけだ。

と、言っても三和音も酔ったなど疲れたなどで休憩するらしく、今回は神装機竜組のみとなった。

しかしそう何回も問題が起きるはずもなく、何事もなくご飯は食べ終え寛いでいると、唐突にクルルシファーが話しかけてきた。

 

「そう言えばアリシア君、この前あなたに指摘されていた事、ちょっと考えたことがあるから後で見てもらえない?」

 

「指摘されていた事?」

 

首を傾げるアイリ。

そう言えば、俺が王都に帰る前に相談を受けてたんだっけ?

曰く、合宿に行くに当たって自分の直すべき所を教えて欲しい、と。

それで俺が言ったことを解決できた、と言うことだろう。

だがしかし、

 

「もう片方はまだの様だけどな」

 

実は二つ指摘していた。

その片方とは、仲間を知ること。

機竜が飛行型で遠距離タイプのクルルシファーは遊撃に回ることが多い。

その時に、カバーする味方の事がわかっていれば効率的な援護ができる。

それと、仲間内での確執があったりするといざって時に動きにくい事がある。

そうならないためにも仲間のことをちゃんと知っておいて欲しかったのだ。

かつてそれをせずに単身で身を危険に晒したため。

しかし、さっきの様子では全然であった。

 

「うっ...仕方ないじゃない...恋は理屈じゃないのよ」

 

わかってはいるけど実行できない、そんな状態なのだろう。

何となく言わんとすることはわかるが、教官としての指導なので妥協するつもりもない。

 

「もう一つが解決できたのなら、あとはそれだけだ。頑張れ」

 

「はい...」

 

と、本題を忘れるところだった。

 

「確認だったな?この後なら軍の演習場が空いてるはずだから、王都の案内ついでに行こうか」

 

ここ数日は警備やらやらで皆訓練はしていない。

うちの隊員も竜王戦と建国記念祭の間は出払うことになっているが、逆にそれまでは暇している。

だから午前中はシゴいた訳だ。

そしてそのため午後なら演習場は空いてる...はず。

 

 

「おいおい、兄ちゃんまだ飲むのかい?」

 

ちょっと不安に思っていると店主のそんな声が聞こえてきた。

飲み過ぎると言う言葉な気になったので様子を見てみる。

 

「いいんだよぉ...俺の主義は無謀な挑戦、なんだよ...」

 

いや、無謀な挑戦はしちゃダメだろ。

そもそも酒を飲むには少々若すぎし、これ以上は少し危なそうなので、流石に見逃せない。

 

「行くんですか?」

 

俺が腰を上げたことを目敏く見つけてくるアイリ。こーゆーとこはアイリもクルルシファーも似ていると言うのに。

 

「ま、ねー。仕事だから」

 

と、向かおうとした時、店主との会話の流れだろうか、硬貨の入っているであろう袋を取り出す少年。

そして、すれ違い様にそれを掠めていく一人の男。

 

「ちっ...」

 

アリシアは何度か報告を受けていたからその手口を知っていた。

最近王都でよく出るスリだ。

そこからの逃げ足が早く、一般の警備兵では間に合わないそうだ。

だがそれも納得できる程の手際の良さだった。

 

スリを追いかけて出た外は人でごった返していたが、この暑い中外套を頭まで被ってるとなると嫌でも目立ち、追跡には然程苦労しなかった。

なるべくバレないよう追いかけること数分。

スリが路地裏に入った所でその手を取った。

 

「ちょっといいかい?お兄さん」

 

するとその男はこちらを見ることなく、手を振りほどき走っていった。

何となく察していたアリシアはすぐに追いかけるが、そいつの起こした行動に戸惑った。

なんとその男は走りながら剣を抜いたのだ。

まさか、戦う気か―――と身構えたところでそいつはワイバーンを召喚した。

そして少し腰を下ろしタメを作った。

これは初心者によくあるモノで実際はためなど必要なしに飛び立てる。

しかし、つまり、この男の選択した行動とは―――即ち逃走だ。

 

「逃がすかっ!」

 

アリシアは機竜を喚ばず、白の機攻殻剣を抜いて思いっきり膝を曲げる。

そして男が飛び立った瞬間

 

「ディ―――」

 

「逃がすわけがないんだぜ」

 

突如として宙に現れた巨大な影。

逆光で見にくいが紺のその機竜はかなりの大きさだ。

さらにはその威圧がその機竜と搭乗者が只者でないことを示している。

と、アリシアが急に現れた機竜に警戒の目を向けた一瞬の内にそいつはスリの男をワイバーンごと叩き落とした。

轟音を上げて着弾する男。

見ればワイバーンは既に解除され、クレーターの真ん中でノビていた。

それを確認したアリシアはすぐにそれを行った機竜を睨む。

 

「どういうつもりだ?」

 

影になっている中でもアリシアの眼はその機竜の搭乗者を捉えていた。

 

「俺はただ金を盗られたから取り返しただけだぜ」

 

それは酒場で金をスられた少年だった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「残念ながら王都で不許可で機竜を召喚、装着することは禁止されている」

 

アリシアは声を上げながら右足を引くと剣を握り直す。

 

「そいつが最初に使ったんだぜ」

 

高度を降ろすことなくふてぶてしく言う少年。

その目は獲物を見定める獣によく似ていた。

 

「それならそいつが捕まるだけでよかったんだ。君が使う必要性はない」

 

そいつが戦闘体勢ということもありどちらかというと説得口調になるアリシア。

 

「ふん、あんたがもう少し頼れそうならそうしたぜ。だがどうだ?あんたは機竜纏った相手に生身の剣一本で対処しようとしたんだぜ?そんななら自分で相手するんだぜ」

 

話していて何となく分かってきたが、機竜こそ装着しているがこいつにもう戦闘の意思はなさそうだ。

 

「俺がそれで十分だと判断したからだ。それに君のように規定外の人が機竜を使ったせいでこのスリは必要以上の怪我を負ったんだ。その責任はどうする?」

 

そう言うアリシアの足元ではスリの男が脚を逆に曲げて痙攣していた。

 

「ほう?飛び立とうとした機竜に生身で十分?この国の兵士は随分と強かなんだぜ」

 

そう言った少年は手に持つ特殊武装と思われる大剣を握り直した。

訂正。結構やる気みた―――

 

「何してるんだ!グライファー!」

 

そう大きくないのに不思議と通る声が後ろから飛んできた。

少年を警戒しながらそちらを見るとそこには()()が立っていた。

 

「ぐっ...!?」

 

突如頭を殴られたかのような頭痛に教われ、視界が砂嵐に飲まれる。

しかしそれは一瞬で終わり、視界には首を傾げる少年がいただけだった。

 

「ちっ...めんどくせーのが来たんだぜ」

 

すると不思議と素直にグライファーと呼ばれた少年は機竜を解除した。

 

「申し訳ありません。うちの者が迷惑をおかけしました」

 

「ちょっ...おまっ...何勝手に...」

 

緑の眼を持った中性的な顔の少年はこちらを向くとグライファーの頭を無理矢理下ろし、自らも頭を下げてきた。

幸いこちらには話が通じるようだ。

 

「今回はこちらにも少々落ち度が在ったことを認めて見逃しますが、本来許可の無い者が他国で勝手に機竜を装着することは禁じられています。次は無いです」

 

「はい、重ね重ね、申し訳ありませんでした」

 

そう言うと少年はグライファーの腕を掴んで、そのまま引きずるように連れて行ってしまった。

 

「何だったんだ...」

 

そう呟きながらアリシアはスリを連行するため、倒れた男の腕を取った。

 

 



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36.仮初めの平穏

打ち切りを感じてる旨のメッセージが来ていたので更新しました。
察しているとは思いますが、飽きてきています。
が、今回のメッセージを得て、アニメ同様に王都異変が終わるまではちゃんと書こうと思いました。
原作も終わり、読んでない方も多くいるでしょうが、読みたい方は是非最後までお楽しみ下さい。


スリの男を連行してから演習場に行き、クルルシファーへの課題を確認した。

 

他の皆は察してくれたのか、別行動をしてくれた。

ただ、ルクスとアイリは執政院からの呼び出しがあったため、更に別行動だ。

恐らくレリィさんの話だろう。

俺に話が回ってこないことからも面倒であることはよくわかる。

 

と、言うことで俺は暫定婚約者とのデートを楽しむことにした。

 

 

 

 

「ああ、そう言えば、遺跡のゴタゴタの時以降、幽閉されていた帝国の凶刃の行方がわからなくなってる。警備は厳重にしてあるが、そっちでも用心してくれ」

 

町を歩いていて、ふと思い出したことを隣のクルルシファーに伝える。

すると面白いくらいにクルルシファーの肩が跳ねた。

ただ、その実状に関しては面白さの欠片もない。

 

「まさか、何かあったのか?」

 

すると彼女は観念したようにこちらを向き、口を開く。

 

「何かあったって程でもないわ。...ただ、その帝国の凶刃さんがルクス君に何度も接触していたみたい」

 

確かに大きなことではないが、不安を呼ぶような内容だ。

これは本格的に調べないといけないかもしれない。

 

「そう言えば、お昼の男の子、誰だったのかしら?」

 

先の話題は楽しいデートに相応しくなかったのか、クルルシファーは唐突に話を変えてきた。

アリシアとしてもこんな時にまで頭を使いたくなかったため、ありがたくその話に乗ることにした。

彼女の言う男の子とはスられた方の機竜使いだろう。

色々と気になる要素の多い奴ではあった。

 

「見たことのない神装機竜だったし...歳からしてもおそらく王竜戦に出場する選手だろうな。厳しい戦いになるぞ」

 

「一対一でも負けるつもりはないわ」

 

強気なその発言に自然と笑みが溢れる。

流石だとしか思えない。

これこそ俺の婚約者だ、と心の中で自慢気になった。

 

「さて、城塞都市では私が案内したのだから、ここではエスコートを期待してもいいかしら?」

 

挑発的で魅力的な微笑みを向けてくる婚約者に右手を差し出す。

 

「ご期待下さい、お嬢様」

 

固く手を結んで歩き出した。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

しかしエスコートと言ってもアリシアは女性経験が豊富だったわけもなく、昼を食べてすぐだったため軽食に手を出すことも難しい。

 

先程まで演習場にいたわけだし、何よりデートでそんなところに行くのも違う気がする。

 

となると行くべきはいわゆる憩いの場、と言える所だろう。

と言うよりも残念ながら娯楽施設と言うものがほとんどないためそれしかない。

 

 

「あら、綺麗ね」

 

君の方が綺麗だよ、なんて言う気はさらさらない。

綺麗の方向性が違うのだ。

 

僅かに悩みながら向かった先は王都にはあまりみないであろう湖。

そこまで大きいわけではないが、並んでいた住宅が急に晴れて出て来たそこは、傾き始めた陽を浴びてキラキラと光っていた。

 

「でも意外ね。アリシア君こういうものには疎いと思っていたのだけれど」

 

正直に言えば何も言い返せない。

 

「まぁ警備で街を歩くこともあるからな」

 

本当のところを言えば、以前セシリアに教えて貰ったのだ。

彼女は勤務終わり、疲れたときにここに来て心を癒しているらしい。

まぁそのように他の女性から教えて貰った所に案内した、と言う事実を知られてはいい思いはしないだろうと思って黙っている。

 

「ふぅん...そういうことにしておくわ」

 

もう既に察されている気もするが。

 

と、並んで湖を眺めていると肩に頭を預けられる。

 

「ふふっ」

 

満足そうに笑う彼女に視線を向けることなく、穏やかな日常を水面に見た。

 

 

すぐに平穏が崩れ去るとも知らずに。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

息を切らしながらお腹から溢れ続ける命の雫を何とか止めようと手で押さえる。

しかし、暗い中月で紅く光るそれは留まることを知らずに、池を作り出す。

 

目の前が暗くなっていくのを感じながらも、必死に足を動かして前へ進む。

 

まだ...まだ...まだ...

 

足は...止めない

 



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37.序章

前回言ったかもしれませんがこの次また時間が飛びます


「お疲れ」

 

アリシアは執政院から出て来た二人を笑顔で迎えた。

対して出て来た二人は暗い中でもわかる疲れた顔をしている。

 

「本当に疲れたよ...」

 

疲労以外何も感じ取れないどんよりとした声を出すルクスに、賛同するように頷くアイリ。

 

想像以上にストレスが貯まっていたようだった。

 

「ま、まぁ乗れ」

 

二人と一緒に馬車に乗り込む。

 

「で、どうなった?」

 

「一応他言無用って言われてるんだけど...」

 

今更そんなのが通用すると思っているのか。

 

「まー、どうせ全竜戦全勝しろってとこだろ」

 

「おしい、四勝だったよ」

 

まぁ必要最低限と言った所か。

それでも神装機竜の使い手がいることを考えると少し厳しいかもしれない。

 

「俺が出れればもう少し楽になったんだろうけどな」

 

「まぁアリシアさんは国の最高戦力ですから仕方ないです」

 

それに当日は部隊の奴ら含め、王都の警備に駆り出される。

帝国の凶刃の件もあるしこちらも気を引きし―――――

 

 

 

「悪い」

 

「えっ!?アリシア!?」

 

一言断ってから馬車の扉を開け、飛び出す。

 

「先帰っててくれ」

 

去り行く二人の背にそう声を掛けて周りを見渡す。

ほぼ黒一色となっているそこには音も気配も一切ない。

 

しかし確かにそこにある。

濃密で、しかし抜き身の刃のように鋭い殺気が。

 

そして天はアリシアに味方した。

雲の隙間から僅かに覗いた月明かりが近付く物体を照らした。

見えていても認識がしにくいほど絶たれた気配。

ここまでの者はそういる訳ではないだろう。

 

すぐさま機攻殻剣を抜き、近付く刃を弾く。

僅かに距離が離れ、その全容が見える。

 

女だ。

それもかなりの腕前の。

そして見たことがないほど特徴的な服装。

つまりはこいつが帝国の凶刃なのだろう。

 

目的が掴めないが、こうして攻撃してきた以上捕まえる他ないだろう。

 

「『厄災』」

 

ゼル・エルの神装を使い力押しすべく突っ込む。

 

 

 

 

 

「あなたのその超強化、生身でやる時はその速さに付いていけてないんじゃないですの?」

 

「ッ!?」

 

脇腹を切り裂かれた。

奴は前へ出て姿勢を低くしアリシアの視界から逃れ、下から剣を降ってきていた。

寸前で回避に入ろうとしたが、避けきれず攻撃を受けてしまった。

 

これはよろしくない。

致命傷でこそないが、このまま出血し続ければ死に至るだろう。

しかしこいつに背を向ければその場で殺される。

 

つまり残された選択肢は、彼女を迅速に制圧してからすぐに治療をする。

これしかない。

 

「ハァッ!!」

 

解除してなかった神装の強化に物を言わせ、再度突撃する。

 

気を抜いていたのだろう。

反応の遅れた彼女は回避が間に合いそうもなく、剣を合わせようとする。

 

 

―――しかしそれは悪手だ。

 

右から出した強化された一撃は、受け流そうとするその動きを物ともせず彼女ごと吹き飛ばす。

 

奴は流石の身のこなしで空中で姿勢を直され、土を巻き上げて着地する。

 

しかし追撃の手を緩めるつもりもない。

自分ですら最初反応できない速度で突撃する―――

 

 

 

「ふふ...今回はこれくらいにしておきますわ」

 

彼女は屋根の上にいた。

その身に神装機竜を纏って。

 

「チッ」

 

無詠唱による高速召喚だろう。

今の強化された足なら同様に屋根の上に登れるが、神装のタイムリミットも近く、そうなれば勝てる見込みもない。

ワイバーンは修理中だしゼル・エルも王都では使えない。

 

それに奴の機竜は特装型。

この暗い中では奴に分がありすぎる。

 

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

激しく動きすぎた。

時間帯とは別に暗くなっていく視界が、己の限界を知らせてくる。

切られた左脇腹を押さえながら剣を杖代わりにする。

既に足に力が入らなくなっており、ほぼ這って動いている状態だ。

 

 

ポツ...ポツ...

 

と、頬に水が触れるようになった。

雨だ。

無我夢中で手を動かす中、頭の端っこで歯噛みした。

 

体が濡れれば体温が奪われ体力のなくなるスピードが加速するし、服が濡れれば重くなり、地面が濡れればぬかるんで進むことも難しくなる。

 

しかしそれでも止まるつもりはない。

いや、止まれない。

 

 

 

 

 

 

―――それが、『天敵』に選ばれた者の宿命だからだ。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「何があったのでしょうか...」

 

ここは新王国の王竜戦出場者が泊まる宿。

そのロビーでいつもの面子が暗い顔を合わせていた。

 

「普通に考えれば誰かにやられたってとこだけど...」

 

「あのアリシアがやられるような人間なんてそういないと思うのですが」

 

振りだした雨に帰ってこないアリシアに嫌な予感を覚えたルクスが捜索すると、宿から少し離れた所で倒れ伏すアリシアが見つかった。

か細くはあったが、息もまだしており、かろうじて一命をとりとめていた

 

「機竜じゃないのか?お前がそこまで言うならそれが一番可能性高そうなものだが」

 

「機竜にやられたにしては傷口が小さすぎます」

 

「む...それもそうか。なら不意討ちか?」

 

「それが妥当ですね」

 

議論を繰り返すセリスにリーシャ。

二人とも―――いや、ここにいる全員は生身でのアリシアの戦闘能力は知っている。

だからこそやられたとしたら不意討ちと思うが―――

 

 

「夜架...」

 

「...なるほどそれは可能性高そうですね」

 

以前接触してきた帝国の凶刃、切姫夜架なら犯行可能だろう。

 

 

「待て、どこへ行くクルルシファー」

 

と、それをただ聞いていたアリシアの婚約者がそこを出て行こうとした。

 

「もちろんその女を殺しによ」

 

「落ち着け、まだ帝国の凶刃の犯行と決まったわけではない」

 

「...そうね」

 

納得はしたのか元の位置に戻った彼女だったが、その組まれた腕は力を入れすぎたのか血が滲んでいた。

 

「所で今アリシアはどうしてる?追撃の心配はないのか?」

 

「今は王城内の医務室で治療を受けていますよ。アイリと三和音も一緒です。アリシアの部隊の人たちが警備をしてくれてます」

 

「ふむ...それなら安心か」

 

元々警備の厚い王城で更に専用の警護まで付いているなら、余程のことがない限り大丈夫だろう。

 

「追撃...多分ない...よ?」

 

「?どういうことです?」

 

フィルフィは眠そうな顔のまま恐ろしい事実を告げた。

 

 

 

 

 

 

「多分...毒塗ってあった」

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

「アリシアさん...」

 

静かな部屋に少女の細い声が溶ける。

セミロングの白髪に特徴的な首輪をしているのは、中心のベッドで寝ている彼を兄と慕う女の子。

―――アイリ・アーカディアだ。

 

夜も更けた頃にルクスが見つけたアリシアは、その場で止血されここ王城の医務室に運び込まれた。

本当は犯罪者たるアイリは王城に入るのが難しいのだが、セルビアとカンナが手引きをしてくれたため、入ることが出来た。

その二人は現在交代でこの部屋の警護をしてくれている。

 

ちなみに他の部隊のメンバーはマルクとギオンがペアで帝国の凶刃の捜索、シアニスが王都警備の任務とその合間にこっちの様子見をしてくれている。

 

クルルシファーは明け方までずっといたし、三和音は学園のメンバーとの間を持ってくれている。

 

 

「どうですか、アイリ」

 

ノクトが身に来てくれた。

 

「一度も動いてさえいませんよ」

 

どこか薄い笑みを張り付けて呟く。

 

「そう...ですか。一応、報告です。アリシアさんをやった犯人ですが―――」

 

 

「帝国の凶刃、切姫夜架さん...ですね?」

 

「! 気付いていたのですか」

 

一瞬ポーカーフェイスが驚きに塗り変わった。

 

「えぇ、生身でアリシアさんに傷を負わされるような方は彼女以外思い付きません」

 

「Yes,その通りです。そして彼女が接触する可能性が高いルクスさんとアイリには常々誰かと一緒にいるように、とのことです」

 

「兄さんと一緒にいるのはリーシャさん...ではなくフィルフィさんですね」

 

小さく頷いたノクトは昏睡する少年に目を向ける。

 

「なのでなるべく私と一緒にいるようにお願いします」

 

「私はここから動くつもりはありません」

 

その気持ちがわからなくないノクトは何も言わない。

 

「早く...起きてくださいね」

 

 

彼にその言葉が届いたかは誰も知らない。

 




アリシア「激白!≪製作秘話≫のコーナー!」

.....

「はいまぁ無言の圧力が画面向こうから感じ取れていますね」

「まずこのコーナーを今回入れた理由は...まぁ事情説明ですよね。いや皆さん予想はついてるでしょうけど」

「まず2年近く間理由としてはやはり"飽き"ですね。いっちゃん最初に書いてますけど趣味で始めたことなんですね。なんで、書く気が起きないときは全く書かない。で、ネトゲにハマったらもう書く気は霧散しましたね」

「次に原作の終了ですね。今までは原作新刊買う毎にやる気が少し出て書くってことをしてたんですけど、終わっちゃったらそうもならないですからね」

「でラストはやはり学校!舐めてましたね」

「以上!言い訳終わり!あとやはりアニメと同様のとこまでしか書かないと思います」



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