幻想郷でまったり過ごす話。 (夢見 双月)
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霊夢と名前の話。

どうも、はじめましての方ははじめまして、夢見の双月と言います。よろしくお願いします。

二週目以上の読み直しをしている方は、やぁ、私だ(キリッ
ほんとにありがとうございます。

この作品を通して楽しんでもらえれば幸いです。
それではどうぞ!



「いい加減、名前をつけましょう」

「そうだな」

「そうですね」

「ゑ?」

 

 上から、霊夢、魔理沙、早苗、俺の順である。

 

「どうしたの突然。今まで気にした事無かったじゃないか」

 

「メンドくさいのよ。いつになってもあんたは名前を名乗らないし、いつまでもあんたーとか、おまえーとか言いたくないのよ」

 

 霊夢の言い分に他の二人も頷く。

 

「そうだぜ。前なんかお前が湖で妖精と遊んでた時、私が『おい、お前!』って言ったら三人中二人がこっち向いた事を忘れてないからな!」

 

「チルノはノーカン」

 

「とにかく、あんたが良くても私たちが困るの!せっかく早苗も来てくれた事だし、さっさと決めましょ!」

 

「そういえば霊夢さん。魔理沙さんだけでなく、なんで私まで呼んだんですか?」

 

 早苗が疑問符を浮かべる。霊夢は眉をひそめながら答えた。

 

「私も魔理沙も何かの名付け親になった事がないから、そういうもののセンスが分からないのよ。意見は多いに越した事はないでしょう?」

 

 私はペットとか飼った事ないしね、と付け足す。

 

「名付け親……はっ!つまりこの中の誰かが俺のお母さんに!?」

 

「うっさいペット!」

 

「霊夢の俺への扱いがわかってよかったわ。涙出そう」

 

「それと魔理沙はすぐふざけそうだしね」

 

「ひどいぜ霊夢!私はいつも真面目だぜ!」

 

「ふざける方に真面目になってたら意味ないでしょうが」

 

 霊夢は呆れるように言い放つ。魔理沙は「ひどいぜ〜」とおどけた。早苗は苦笑を漏らし、俺は手を顔に当て「やれやれ」と笑う。

 

「そういう事なら喜んでお手伝いします!!じゃあ、早速始めましょう!」

 

「まぁなんにせよ、言いづらいならつけた方がいいか」

 

 気合が入った早苗と、納得しながら了承する俺。

 

 

 これにより、『第1回 名付け会議』の火蓋が落とされた。

 

 

「早速、どんな名前がいいか発表してってくれ。誰からでもいいぞ」

 

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「おい」

 

 

 火蓋は早々に消火寸前だった。俺は頭が痛くなった気がした、

 

 

 

 仕切り直し。

 

「名前を付けるってなったのはいいけど、そもそもどんな名前が良いのかが分からないわね」

「あるあるですね。いざ考えるとなると全く思いつきません」

「いや、どーすんだよ。てっきり、候補を用意してあるのかと思ってたんだが?」

「簡単に考えつく訳ないだろフツーは。んむぅ、どうすればいいんだー?」

 

「こういう時はあれです!本人に聞いちゃいましょう!」

 

「はぁ!?俺に!?……えーっと、ジョナサンとかでいいか??」

 

「違いますよ!?……『この名前がいい』ではなく、『こんな感じの名前がいいなぁ』みたいな要望があれば、みんなも思い付きやすいと思いまして」

 

「なるほどな!そりゃいいぜ」

 

「ナイスよ早苗!」

 

「要望かぁ。そうだなぁ……」

 

 

「カッコよくて、頭良さそうで、儚くとも美しいものを体現したような感じで、ただ誠実だけじゃなく優しさを兼ね備えていて、簡単に書くことができて、かつ画数の多い複雑な字を使っていて、情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そしてなによりも速さを纏っていて、その上さらに強靭・無敵・最強!!粉砕・玉砕・大喝采!!そんな感じの名前を頼m」

 

「「「出来るかぁぁぁああああああ!!!」」」

 

「ペプシッ!?」

 

 総ツッコミ(物理)により、俺は卓袱台に突っ伏した。女三人で姦しいとはよく言うが、こういう事なのかな、とふと思った。無論、原因は自分である

 

「あら、死んだ?起きなさい」

 

「コークッ!?!?」

 

「霊夢やめろ。壊れたテレビを直すみたいにそいつを叩くな」

 

「人に脳天チョップすると起きられるんですね。今度諏訪子様にやってみましょう!」

 

「ダメだ早苗。これはいわゆる『よいこはまねしてはいけない』やり方だ。霊夢もそいつをもう揺するな。ビンタもだ。もう十分だぜ」

 

「気付いたら俺の顔が原型留めてないのだが?イテテ……」

 

「起きられたんだから感謝しなさい」

 

「うるさいぞ元凶。……にしても脱線し過ぎたか。何処まで進んだっけ」

 

「お前のせいだぜ」

 

「あーはいはいそうでござんすね。俺の名前の希望だったな。そうだな、冗談抜きで言えば日本人風の名前がいいかな」

 

「日本人?」

 

「漢字で構成されて、苗字が前、名前が後ろの順番のやつですよね」

 

「ああ。ここにいる三人、それと咲夜さんもこれに当てはまるよ。カタカナとかよりはしっくりくる」

 

「なら簡単じゃないか?自分たちの名前が見本だぜ」

 

「よし、その上でみんな考えてくれ。霊夢もそれで頼む」

 

「わかってるわよ」

 

 霊夢は腕を組み、魔理沙は頬杖をつき、早苗は顎に手を当て、俺は頭を掻く。

 

 途中、語感も大事だろうと、漢字を書くためのメモをそれぞれに渡した。すると、霊夢はペンを持って書いては消し、書いては消しを繰り返しはじめた。霊夢も真剣に考えてくれていると思うと嬉しさがこみ上げて来る。なんか魔理沙がニヤついていたので卓袱台の下から器用に蹴る。蹴り返して来やがった。この野郎。

 

 卓袱台の下の戦争を行っていると、早苗が「出来ました!」と声をあげた。

 

「さすが早苗!早いぜ!」

 

「ムゥ…」

 

「どんなのだ、早速教えてくれ」

 

「んっふっふ。これです!」

 

 

『山田 太郎』

 

 

「確か外の世界にいた時、この様な名前をよく見ました!これならきっと気にいるはずです!」

 

「却下」

 

「ええ!?」

 

「この様な名前、じゃなくてこの名前を見た事あるだろうが!日本の書類を書くときのお手本の名前だこれは!!嫌に決まってるだろうが!!」

 

「お前、外の世界の細かいところよく知ってるな」

 

「え〜、自信あったのに……」

 

 早苗は分かりやすくうなだれた。一番外に詳しい奴なのにこれってことは……。

 

「霊夢、これは人選ミスじゃないか?」

 

「なんとなく、そんな気はするわ。ごめんなさい」

 

「霊夢さんまで!?」

 

「とにかく、平凡なのは嫌だ。なんかこう、個性的なものがいい」

 

「我が儘な奴だな。なら、私のはどうだ?」

 

 魔理沙が自信ありげに言い出した。

 

「魔理沙が真面目な時は凄いものを見せてくれるからな。期待してるよ」

 

 魔理沙は性格が軽く見えがちだが、内心はかなりの努力家であると思っている。以前、彼女が使う魔法の構造を本や図を入れて説明してくれた事があったのだが、とても複雑すぎて一ページ分すら碌に理解出来なかったのだ。理解出来た箇所も、魔理沙がわかりやすく教えてくれたおかげである。

 

 つまり、魔理沙が真面目に考えてくれたら案外いいものが出来ると踏んでいたのだ。

 

「ムムッ」

 

「?」

 

「へへっ、これだぁ!!」

 

 思いっきり紙を裏返し、俺たちに見せてきた。そこには予想を遥かに上回る……

 

 

『虚無なりし無銘』

 

 

 ……バカの発露であった。

 

「拒否する」

 

「何ぃぃぃいい!?」

 

「バカ野郎!これは名前じゃなくて二つ名だろうが!しかも、『名前がないこと』を小難しくしただけだろうこれは!」

 

「おっ、よくわかったな。その通りだぜ」

 

「すごいです!」

 

「褒められてんのに、貶されてる気しかしねぇが……!?ちゃんと考えてくれよ魔理沙ぁ……!」

 

「あんたはどうなのよ。良い案をちゃんと考えているんでしょうね」

 

「当たり前だ。そんじょそこらの少女に遅れはとらんよ」

 

「ふーん」

 

「む、信じてないな。なら見せてやる!これだッ!」

 

 俺はメモを裏返した。

 

 

『佐藤・ヤマーダ・田中』

 

 

「決定ね、佐藤さん」

 

「こんにちは、ヤマーダさん」

 

「よぉ、田中」

 

「分かった。俺が悪かった。ふざけたのは悪かったからせめてツッコんでくれ頼む」

 

 霊夢がため息を出しながら話しかけてくる。

 

「で?結局、いいのは思い付いたの?」

 

 俺は少し悩み、告げることを選んだ。

 

「正直な話なんだが、俺は俺の案で行く気はない」

 

 思いつかないではなくて、出したくない。それは以前から決めていた事だった。

 

「名前だけが欲しいだけなら、とっくに自分で勝手につけてる。でも、親が子に、飼い主がペットに名前をつける時には特別な感情があるはずだ。願いとかこだわりとか色々あって、そうやって考えてるうちに一種の愛情が注がれていく。俺はそれを知りたい、自分の名前に君たちとの繋がりが欲しい。だから、大事な友人である君たちに、名前を渡して貰いたいんだ」

 

 友の証。その価値があるなら、どんな名前でも後悔しない。そう思った。いい機会だと思う。この繋がりも一層深くなるはずだ。しかし、彼女たちはどんな形であれ、俺に名前が出来ることを祝福するだろう。その名前で俺がいる事を誇りに思うのだろう。

 

「だからこそ、妥協はしたくない。俺を含めてみんなが納得出来る名前にして欲しい。我儘だとは思うがやって貰えるか?」

 

 気づいたらちょっとした懇願になっていた。少し恥ずかしい。なのに彼女たちはきっと、

 

「ああ、任せておけ!ぜってぇ、いい名前をつけてやるよ!」

 

「はい!任せてください!奇跡のような名前にしてあげます!」

 

 

「分かってるわよ。あなたが私たちに向けた思いは今知ったけど、そもそも私たちが妥協なんかするはずないでしょう?」

 

「ああ、ありがとう」

 

 笑顔でこんなこと言ってくるのだろう。まったくずるいにも程がある。

 

 魔理沙は「お前も霊夢も、顔が赤いぜー」と煽って、同時に「うっさい」と目を背けた。早苗がその様子を見て笑う。

 

「じゃあトリだな、霊夢。ガンバッテ」

 

「ゑっ」

 

 え、なんで聞き返すの?

 

「そうだぜ。あいつは論外だが「俺のことかお前!?」一応、みんな案は一つずつ出てるぜ?」

 

「そうですよ。さぁ、観念して見せてください!」

 

「あー、うー……」

 

「はぁ。おい、霊夢」

 

 何故かさっきよりも真っ赤になっている霊夢だが、俺の言葉に縋ろうとしているのがありありと見て取れた。だから、俺は笑顔で言い放つ。

 

「諦めろ!」

 

「えぇ!?」

 

 全ては俺の名前のため。慈悲はない。

 

「ちょっと!?そこは助けてくれるんじゃないの!?」

 

「ええい、恥ずかしがるな!薄々お前もやる気はしただろう!ここは一旦死んで来い!」

 

「そうだぜ霊夢!そんなんだったら今日の内に決まらないぜ!今日、こいつに名前をお「魔理沙それはダメェ!!」クペッ!!?」

 

「魔理沙さんが死んだ!?」

 

「このひとでなし!!」

 

「もうわかったわよ!!見せればいいんでしょ見せれば!!」

 

「あ、うん、ソダネー……」

 

(魔理沙さんの二の舞になりたくないから凄い慎重です……)

 

「…」

 

「「…」」

 

「……」←(魔理沙気絶中)

 

「霊夢?」

 

「な、何?」

 

「見せてくんない?」

 

 再度赤くなる。何故だ。一体何を書いていると言うんだ。

 

「……これ、……デス」

 

 霊夢は紙を卓袱台に置いた。

 

「え、黒っ」

 

「全部書いて消したんですか?こんなにも」

 

「気に入らなかったのよ!別にいいでしょ!?」

 

「まぁ、いいけど……」

 

 正直、どれが本命なのかが分からない。全て塗り潰されている上から見るのには無理がある。しかもたくさんあるからどうすればいいか……。

 

「ありましたよ、多分。ここの小さいのがそうじゃないでしょうか?」

 

「ッ!」

 

「お、あった。って小さっ!よくそのペンでこんなに細かく書けたな!?どれどれ……。えーっと『れ「やっぱダメェェ!!!」ああああああ!!!!名前(だったもの)が黒の線に消えたぁぁあああ!?!?」

 

「ええええええ!?!?」

 

「ごめん、やっぱ今のなし!」

 

「なんで!?一体どんなのを書いたら恥ずかしくなんだよ!?せめて教えてくれよ!!」

 

「絶対言わない!バーカ!!」

 

「なにゆえ!?」

 

「あはは……」

 

 早苗は苦笑しながらこう思った。この巫女めんどくせぇ、と。

 

 この後、結局教えて貰えず、魔理沙が「ここは誰!?私はどこ!?」と目覚めたので、取り敢えず(霊夢の脳天チョップは記憶喪失にも効くらしいので)しばいてもらい、元に戻ったところで、今に至る。

 

 しかし、しばらくしても霊夢は候補を一つもあげれず(また書いては消してた)、魔理沙と早苗は不発を繰り返していった。

 

「名字から考えよう」

 

 午後の五時を回った辺りで魔理沙がそう切り出した。

 

「名字?」

 

「そうだ。名字からピッタリなのを考えればイケると思ってな」

 

「なるほどな。だがどうしようか。なんにせよ新しく作らなければいけないだろうし」

 

「使えばいいじゃない」

 

「「「はい?」」」

 

 霊夢が呟く。三人揃って理解が追いつかない。

 

「つまり……?」

 

「〜ッ!だから、私の名字を使ってもいいって言ってるのよ!」

 

 再度顔を赤らめた霊夢が怒鳴った。

 

「つまり霊夢、お前は俺のこと……」

 

「えっ、あ、ち、違うから!だってあんたはうちに居候してるし、私の名字使えば大抵の妖怪は危害を加えないと思って、だから、その、」

 

「ここまで好意的に思ってもらっていたとは、嬉しい限りだよ」

 

「決してそういう事じゃ……。ん?好意的?」

 

 早苗と魔理沙は既に突っ伏していた。まるでコントのようだ、と二人は心の中で揃っていた。二人の感情はずれている。ビックリするほどすれ違う、ラブコメのような展開。

 

 霊夢も違和感に気づく。そして聞いた質問は、不幸にも核心を突いた。

 

「あんた、私の事どう思ってる?」

 

「……?好きだが?」

 

「……どういう意味で?」

 

 

 

「気が置けない程の友人、という意味だが」

 

 

 

 ピキピキ、なんて実際には聞こえないが、トマトみたいに赤くなりながら青筋を浮かべてる霊夢が容易に想像できる。魔理沙と早苗はアイコンタクトを取り、即座に行動を始めた。

 

「私ちょっと、お茶を淹れてくるぜ」

 

「私も手伝いますよ、魔理沙さん」

 

 逃げた。触れぬ霊夢に祟りなし。しかも、逆鱗にも触れているからタチが悪い。

 

 二人は、霊夢の機嫌が直るか分からないが、お茶をせめて美味しくしようと丁寧に淹れ始めた。

 

「この、大バカ野郎ーーーッ!!!!」

 

「ギャァァァアアッ!!!!!」

 

 男の慟哭は博麗神社に無惨に響いた。

 

 

 その日の夜にて。

 

「ふぅ」

 

 青年は縁側に座っており、緑茶片手に一息ついた。月の光で周りが見えるほどの明るさではある。こういうのも風情ってやつなのかな。風情というのはよく分からないが、なんとなくそう思った。

 

 一週間に一回はこうしている。手に持つものはお茶だったり、酒だったりするが、これだけは唯一の日課となった。

 

 最初夜空を見上げながら何かを飲んだ時はいつだったか。それはどんな時だったか。もう朧げだった。いつか思い出すだろう。そんな気がする。

 

「ほんと、そこが好きね」

 

 霊夢が寝間着を着て、青年の横に座った。髪が下ろしてあり、いつもとは違う美しさがあった。そうだな、と青年は霊夢の言葉に頷く。

 

「風呂、空いたわよ」

 

「わかった。もうしばらくしたら行くよ」

 

 静寂。二人は喋ろうとはしない。会話がなくても居心地がいい。そんな雰囲気がここにはあった。茶を啜ると、もう一人と同時に啜っていて、思わず顔が綻んだ。

 

 不意に、青年は話しかけた。

 

「これでよかったのか?」

 

「何が?」

 

「俺の名前。主催は霊夢だったんだろ?必死に考えてくれたのに、夜遅いからまた今度、って」

 

 霊夢はその事かというように「ああ」というと、湯呑みを置いて、縁側に両手を置いた。

 

「あんただって、何も言わなかったじゃない。それとも何?名字だけ決まったのって嫌?」

 

 後ろにいくにつれ、霊夢の声色に不安が募るのを感じた。それに嬉しさを感じながらも答える。

 

「いいや。こういうのはじっくり考えた方がいいと思ってるからな。焦って妥協点を見つけるよりは好ましい、ってのが俺の意見。そんなに真剣に考えてくれるならいつだって待つさ。当分は『博麗の名無し』と言われても構わないよ」

 

「そう」

 

「そうさ」

 

 微かに霊夢は安堵したのか、また茶を啜り始める。

 

「あの……さ……」

 

 霊夢が切り出しながら、俺の肩に頭を乗せる。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。俺の顔が熱くなるのがわかった。きっと、霊夢は俺よりを赤くなっているはずだ。顔は見えなくても、そういうのはちょっとした付き合いで分かっていた。

 

「今日、何の日か覚えてる?」

 

「今日、か。祝い事ではなかったと認識しているが」

 

「……うん」

 

 霊夢は伝えない。彼は冗談を前置きに言う時がある。それが本音を言う前の照れ隠しというのを付き合いで知っているから。

 

「それとも今日か?俺が来て、一年経ったのは」

 

「うん、そう」

 

「なるほどなぁ。中々に粋な事をしてくれるよ。そんな記念日に名前を贈ろうとしてたなんてな」

 

「でも、甘かったわ。たかが一日で決めれる程、名前というのは簡単じゃないのね。私の名前もそう考えて貰ったと思うと感慨深いわ」

 

「よく考えない奴なんていないよ。何かしらの愛情や願いがそこにある。それが例え澄んでいようが、歪んでいようが間違いではない。何処かの恩人が言っていたよ。『名前は初めて愛情を受けるかたちであり、キッカケ。そうであって欲しい』ってね」

 

「いい言葉ね。その恩人さんとは気が合いそう」

 

「合うだろうさ。また今度、どんな人だったか教えてやるよ」

 

「ねぇ」

 

 霊夢が向きなおる。優しげな顔。いつだって、この微笑んだ顔に惹かれてしまう。今も、昔も。

 

「初めて会った日の事、覚えてる?」

 

 俺は照れ隠しでこう言った。

 

「恥ずかし過ぎて、覚えちゃいないよ」

 

 

 

「いい湯でした、と」

 

 風呂から上がって寝間着になり、飲み物を取るために流しの方に歩く。

 

 一年前から疑問に思っていた事がある。霊夢は何故、見ず知らずの俺をここに置いてくれたのか。昔こそ生きるのに必死で気にすることすらなかったが、今思うと不思議だ。まぁ、霊夢の人徳と言えばそれまでだが。

 

「霊夢?ああ、寝てるのか」

 

 途中、卓袱台で寝ている霊夢を発見。しっかりしていると言えばいいのか、綺麗な正座で腕を枕がわりにして寝ていた。

 

「少し失礼するぞ。よっと」

 

 霊夢をお姫様抱っこで抱き抱え、寝室に向かう。少し行儀は悪いが、足で襖を開け、布団を剥ぎ、ゆっくりと置いた。そして布団を掛けて終わり。最近、霊夢を移動させるために抱えることが多くなった気がする。それぐらいはなんでもないのだけど、ちょっと心配。

 

 実際に寝るともう少し体重がかかると思うんだが、思った以上に軽いのも心配。無理なダイエットはしてないはずだし、寝たふりでもないはずだ。そうだよな。

 

 あれ、こいつ心なしか赤くなってない?分かりやすっ。

 

 どうしてかは知らないし、聞く気もないのでとりあえず飲み物を取りに行く。

 

「ん?」

 

 また卓袱台を通過しようとすると、上に紙がのっていた。名前を書く紙だった。おそらく、俺が風呂に入っている間も一生懸命頑張ってくれたのだろう。本当に感謝しかない。

 

「お、これは……」

 

 彼が見つけたのは、たった一つだけ塗りつぶされて消えていない名前だった。

 

 彼は驚きながらも口角が上がっていくのを感じた。その後、水を二杯程飲み、床に向かっていった。

 

 

 

 翌日。

 

 霊夢は目が覚めた。時計は10時を回っている。大分疲れていたらしい。欠伸をしながら、身支度を始めた。

 

「……は……な!………りだ…!」

「……です…。と……い…と………す!」

「そ……。…り……う。……れな……か……だが」

「…て……ますねぇ。そ…で…、任……下…い」

 

 境内で話し声が聞こえる。いないと思っていたら外にいたらしい。朝食を作ってもらいたいので、話し声のする方に歩いていく。外にいたのは、魔理沙、早苗、名字だけ決まった博麗、そして何故か文がいた。

 

「噂をすればですねぇ。それでは行ってまいりますので!」

「ああ、頼むよ。おはよう霊夢」

 

 文はすぐに飛んで行ってしまった。なので、彼に問いただす。

 

「ちょっと、あいつに何頼んだのよ?」

 

「すぐ分かるさ。なぁ、魔理沙、早苗」

 

「えぇ、そうですね」

 

「そうだぜ」

 

「むむっ」

 

「私達もそろそろ行きますね」

 

「え?結局何しに来たのよ?」

 

「んー、彼の案に同意した、って事です!」

 

「そういうこった。私ももう行くぜ。じゃあな、霊夢、『レイマ』」

 

「え?」

 

「「あ」」

 

「……あ」

 

「「「「……」」」」

 

「「それじゃあ!!」」

 

「おい待て!お願い!待って!嫌な予感しかしないんだ!」

 

「……ちょっといい?」

 

 肩を掴まれただけなのに、心臓を握られたかの様なプレッシャーに、首が錆びれた機械の様に回る。

 

「……は、はい」

 

「レイマって、誰かしら?」

 

「……俺の名前です。先程、満場一致で決まりました」

 

「見た?」

 

「な、何を?」

 

「見 た か ?」

 

「すいません出来心で見ちゃいましたほんとすいません」

 

「バカラスに頼んだのは?」

 

 

 

「俺の名前が『博麗 霊魔』になりましたー……という事を広めて貰おうかと」

 

 

 「この、大馬鹿野郎ぉ〜〜!!!」

 

「ぎゃあああああッ!!」

 

 さらに翌日、発行された号外は『ついに博麗神社に正式加入!その名は博麗 霊魔!』という見出しにより、文々。新聞は少しだけ人気になったとか。

 

 

 

 博麗霊夢に家族が出来た。




本体名 博麗 霊魔(本来の名前は不明)

ステータス

パワー C
スピード B+
テクニック A+
射程距離 D(半径1m)

能力
『ーーーー程度の能力』

気づいたら居候していた青年。人付き合いがうまく、殆どの住人と繋がりがある。楽しい事には頭から突っ込むタイプ。
弾幕は練習中。




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霊夢とデートの話。

お、お気に入りが……!あるッ!?
ありがとうございます!

書き溜めがないので時間はかかりますが、ちゃんと頑張っていきますので!(*´Д`*)


「霊夢ー。おはよう」

 

「んー?」

 

「いきなりですまないが今日暇かー?」

 

「んー」

 

「遊びに行きたいんだが、いいか?」

 

「んー」

 

「じゃあデートだな」

 

「んー。……ん?」

 

 今日の朝。目覚めたばかりではあるが二人は予定を決めていた。ちなみに霊夢は目覚めきっておらずにまだ寝ぼけているので、話に流され続けているだけだが。

 

「でぇと?誰と?」

 

「俺と。お前」

 

「ん。わかったー」

 

「じゃあ準備しろよー」

 

「んー。……ん?」

 

 霊夢が完全に覚醒する。さっきの会話を頭の中で反芻。現状把握、完了。

 

 

 

 

 「って、えええええええええ!?!?」

 

 

 

 

 博麗神社は今日も変わらず、騒がしい朝になった。

 

 

 

 

「霊夢、落ち着け?」

 

「ああどうしよう、デートなんてやった事ないからどうすればいいか分からないし、化粧?をすればいいのかしら、でも化粧なんて今までした事なかったし、服なんていつも巫女服だからどの服がいいのか分かるはずないでしょあーもうどうすれば……」

 

「目覚めよ理性」

 

「きゃあああ!?」

 

 霊夢の首辺りに牛乳を入れたコップを当てる。唐突な冷たさに、霊夢は案の定ショックから抜け出した様だ。少し反感を買ったが。

 

 霊夢は首を抑えてジト目でコッチを見てくる。かわいい。

 

「元はといえば、あんたがデートなんて言うからこんな事には……」

 

「寝ぼけながら了承したヤツは言う事が違いますねぇ。自分の不覚を棚上げして八つ当たりをするなんてな」

 

「ぐぬぬ」

 

 ニヤニヤし続けていると割と本気で殴られそうなので、からかうのはこの辺りにしておく。

 

「じゃあ、朝ご飯持ってくるからもう少し待ってろ」

 

「……」

 

 ジト目再び。かわいいだけだから、あまり意味はなさそうなんだけどなぁ。言った方がいいかな?

 

 食事は霊魔が作る事になっている。はじめて作ったものを霊夢に食べさせた時に、何故か霊夢が泣きながら食べ(本人曰く美味すぎたらしい)、その後に綺麗な土下座をしている素敵な巫女さんを見てから俺の仕事になった。今日は洋食という事で、トーストとベーコンエッグ、そして牛乳である。

 

 ナイフとフォークを未だに慣れない手つきで使っている霊夢が聞いてくる。

 

「結局、私はなにをどうすればいいか全然分からないんだけど?」

 

 ベーコンエッグをそのままトーストに乗せながら霊魔は答える。

 

「まず化粧だが、お前ならしなくていい。正直、霊夢は化粧しなくても十分かわいいし、綺麗だ。化粧をすればもっと良くなるだろうが、今回はそのままで行こう。『ナチュラルなんとか』ってやつだ。流石に俺もやった事ないのは教えられないしな。今度、アリスにでも教えてもらえ。服に関してはもう考えてある。心配するな」

 

 霊夢は「かわいい」「綺麗」の辺りで噴き出しそうになった。急にこんな事を言ってくるのだからずるい。

 

 とにかく、霊夢は霊魔に任せる事にし、食べ進める事にした。

 

 

 

 

「じゃあ、この中のものを着てくれ」

 

「なにこれ?」

 

 食後に、霊魔が部屋から中に色々詰まった袋を持って来た。

 

「今回のデートでお前用に選んだ服だ。いつもの巫女服だと変に思われる可能性があるからな。こっちに着替えてくれ」

 

「あ、そうなの……」

 

 そう言って、霊夢に袋を渡す。あらかじめ今日のために買っておいたのだ。霊夢は寝室に入っていった。しばらくして、霊夢が襖越しに話しかけて来た。

 

「これって何?」

 

 襖が少し開いて、それが見える。

 

「ブラジャーだ。お前いつもサラシだったろ。たまにはそんなのもいいと思ってな」

 

 そう答えると、霊夢の顔がひょこっと出て来た。

 

「いや、流石に分かるわよ。……言い方が悪かったわね。あんたが用意したのよね?」

 

「そうだが」

 

「なんであるの?」

 

「買ったからだが?」

 

「女物を?」

 

「……?ああ、そういや買った時、じろじろ見られていた……か?」

 

「……女物を男が買うな、変態」

 

「あっ」

 

 やっと気付く。しまったと項垂れながら霊魔は着替えるのを待った。喜んで貰いたい一心で女性物の店に行ったのが裏目だったようだ。好感度がかなりヤバそうだし、今度からは気をつけよう。

 

「ねぇ、なんでピッタリなの?」

 

「ん?ピッタリ?……あ」

 

「変態」

 

「……」

 

 デートに行く前なのに、もうダメな気がした。

 

 

 

 

 待つ事数十分。霊夢が部屋から出て来た。

 

「これでいいの?」

 

「ああ、それ……で……い……」

 

 霊夢が着ているのはベージュのワンピースに、淡いピンクの薄手のものを羽織っている。そして胸元にワンポイントとして小さめな花が付いていた。髪も結ばずに下ろして貰っているからか、やや大人っぽく見える。かわいいよりも綺麗な印象が強く思え、俺はつい見惚れてしまっていた気がする。似合うとは思っていたが、これほどとは。

 

「霊魔?どうしたの?」

 

「……予想以上だった。似合ってるよ霊夢」

 

「ああ、そう……」

 

 霊夢も素っ気ない返事になっているが、顔が真っ赤に染まっていて誤魔化しきれていない。

 

「あなたも着替えたのね」

 

「ああ。似合ってるか?」

 

 にへらっ、と笑顔を浮かべる。霊魔が着ているのは黒いズボンに、白い無地のシャツ、黒いジャケットを羽織っていた。

 

 いつもは霊魔も巫女服の様なものを着ている。彼によると、ちゃんと男用に改造したものではあるらしいが。しかし、今までのそれと比べると雰囲気がまるで違う。つまり、いつもよりもかっこよく見えたのだ。

 

「ええ、かっこいいんじゃ……ないの?」

 

 あまりの霊魔の変貌ぶりに、口が回らなくなる。何故か疑問符がついてしまった。

 

「自信なさげか?率直に言ってもらってもいいぞ?似合わないってさ」

 

 それを変に思ったのか、勘違いし始める霊魔。

 

「それはない、から。似合ってるわよ、霊魔」

 

 取り敢えず、第一印象だけは伝えておく。そんな勘違いはして欲しくない。

 

「そうか、ありがとう」

 

 笑顔で返す霊魔。自分がまだ紅潮しているのが分かる。恥ずかしいが、収まる気配が無いので、もういっそ開き直ってデートを楽しもう。そうしよう。

 

「それで?どこ行くの?」

 

 そういえばと、聞いていなかった事を伝える。いつもの巫女服ではいけない場所というのがイマイチ想像出来なかった。

 

「外へ行こう」

 

 幻想郷じゃないとは思わなかった霊夢にとって、それは予想外であった。

 

「外?」

 

 

 

 

「ああ、俺が以前訪れた所。外の世界に行くんだ」

 

 霊魔は微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

 

「幻想郷にはいくつもの境界や歪みがある。大きいものから小さいものもあれば、形や原因なんて多種多様だ。でも、そのほとんどは結界の綻びか、『境界を操る程度の能力』の八雲さんが生み出したものだ」

 

「ねぇ、なんで私はお姫様抱っこをされてるの?」

 

「実はその八雲さんが行動する時の境界と、『幻想入り』するための境界は性質が異なる。『幻想入り』の境界はあれだ。『幻想郷は全てを受け入れる』ってあるだろ。この言葉の通り、実はあらかじめ、幻想入りした人が幻想郷に出る道が用意されているんだ。毎回、何かを幻想入りさせるのに道を一から作るのは面倒だろう?」

 

「だが逆に、そこから辿る事が出来れば、外の世界に行くことが出来る。そういう事だ」

 

「ねぇなんでお姫様抱っこされてるの!?」

 

「外に出るための裏技には『速さ』がいるんだよ。お前にはヒールがあるものを履かせちまったからな。速度の条件もシビアな以上、俺が抱えた方がいいのさ」

 

 それとも、嫌か?と、聞く。そしたら、「嫌ではないけど……もにょもにょ」と言われた。よく分からないが、大丈夫らしい。

 

「じゃあ行くぞ」

 

 早歩きしながら神社の正面入り口に向かう。

 

 大きな鳥居をくぐった瞬間。

 

 

 

 

 世界が変わった。

 

 

 

 

「え?」

 

「この鳥居の前が、《《俺の唯一知ってる出入り口だ》》。外の世界に行くときもいつもここから出てくる。俺としては正確には『久しぶり』って感じなんだが、霊夢はどうだ?」

 

「え、ええ……」

 

 霊夢は驚くことしか出来なかった。今まで考えたこともなかった。外来人が来ることがあり、元の世界に戻すことはあったから出入り口の存在は知っている。しかし、それを利用する事は考えたことすらない。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 後ろを見る。空間が波紋の様に少し揺れていた。その先には古びた神社があった。鳥居から外の世界の鳥居へ繋がっているらしい。

 

「ねぇ、此処はどこなの?」

 

「ここは……って地名言っても伝わらないな。日本のどこかっていうのだけ分かっていればいい」

 

「あの神社は?」

 

「博麗神社に似ているが全然違う。『御九字社〈みくじやしろ〉』と言う宮司や巫女すらいない無人の神社だそうだ。誰もいないから、人目を気にせず気楽に帰れるよ」

 

「……そうなのね」

 

 御九字社を霊夢はしばらく眺め続ける。

 

 霊魔は霊夢が悲しい雰囲気になったのを悟った。霊夢は幻視したのだろう。博麗神社が、自分たちの世界が、いつか古くなり忘れ去られ寂れてしまうのを。この場所は心の何処かにあった霊夢の不安を掘り起こすに至ったのだ。その霊夢の不安は最もではある。だが、

 

「今は辛気臭いのは無しだ。幻想郷が好きな奴らはたくさんいる。そいつらに協力してもらえば一瞬で解決する事だろう?」

 

 それは今じゃなくてもいい。いずれ起こるかもしれない。でも、みんなで一丸となれば、きっと大丈夫。そう自分にも言い聞かせた。

 

「うん、そうね」

 

 霊夢は静かに微笑んだ。どうやらもう大丈夫のようだ。微笑んだ先にあったのは未来の幻想郷だった気もするが、何故、俺を見て言ったのには別の理由も感じた。

 

 

 

 

 神社を降りて歩く事五分、駅前に着いた。朝だからか、忙しなく歩いて行く会社員や学生が多い。霊夢は自分の服装を見つめ、周りと見比べる。なるほど、確かにこの服なら巫女服よりは溶け込んでいる。変に見られることはないだろうと思った。

 

 すると霊魔が、

 

「先に寄るところがあるから、そっちに行かせてくれ」

 

 と言ったので、霊夢は頷き、霊魔について行った。

 

 自動ドアに霊夢は驚きながらも店内に入ると、仕切りごとに置かれた7つの機械があった。

 

「何?これ」

 

「ATMだ。お金を出し入れするのに使う。まぁ見てて」

 

 そう言って霊魔は一つの機械の前に行く。霊夢は隣に立ち、その様子を見た。

 

「引き出しを選んで、通帳を入れて暗証番号。これで金を出すことが出来る。まぁ、10万ぐらいあれば不足はないだろ」

 

「通帳って?」

 

「自分がどれだけお金を持っているかが書いてあるものだ。こういう単純な機械で行えるのは、自分のお金の分だけしか渡さんっていう条件があるからだよ」

 

「へぇ、そんなのがあるのね。……幻想郷でやってみようかしら」

 

「預ける金がないのにか」

 

「……それもそうね」

 

 引き出したお金を財布に入れている間、霊夢は通帳をまじまじと見つめていた。すると、おかしな文字を見つけた。

 

「ん?」

 

『◯◯銀行 普通預金 ヤクモ ユカリ様』

 

「ねぇ霊魔」

 

「どないした?」

 

 二人で銀行を出たあとに霊夢が尋ねる。少し顔が引きつっていた。

 

「なんで紫の名前があるのよ?」

 

「あぁー、それか」

 

 霊魔が頰を掻く。しばらくして理由を話し始めた。

 

「実はそれには少し深い訳があってな……

 

 

 

 

 

 霊夢が用事があっていなかった昼頃、事件が起きた。

 

「事件?何よそれ」

 

 まぁ聞いとけ。その時、俺は美味しいマタタビが手に入ったので、猫の式神である橙を呼んで遊んでいたのさ。

 

『橙〜、美味しいか?』

 

『とっても美味しいです!ありがとうございます!』

 

『お礼と言っちゃなんだが、膝に来い。頭を撫でさせてくれ』

 

『わかりましたー♪』

 

 そんで、橙を手元に置きながらある人に電話をかける。

 

「誰によ?」

 

 八雲紫の式神、八雲藍さんだ。

 

「何やってんの!?」

 

 いやさ、藍さんは自分の式神である橙が大好きであることを知っていたから、少し話をしてみたかったんだよ。別にやましい心はないさ。ホントホント。

 

『もしもし、どなたですか?』

 

『お前の娘は預かった(ゲス顔)』

 

『……!?!?!?』←目の前が真っ白になった。

 

「本当に何やってんのアンタ!?」

 

『クックック……。(何もする気はないけど)無事に返して欲しければ、次の条件を飲むんだな』

 

『貴様ァァアアッ!!!』

 

『飲まなければ、どうなるか分かるかな?』←橙をくすぐり始める。

 

『きゃー☆』←事前にふざけているだけだと聞かされている。

 

『橙ッ!?!?分かった!何でも聞く!だから頼む!!何もしないでくれ!!』

 

「藍……うちの馬鹿がホントにごめん……」

 

『まずは、博麗霊夢が1日外出する事を容認しろ。紫にも話を通しておくことだな』

 

『ああ、分かった(ついでに犯人もな)』

 

『次に、八雲紫が外の世界で使うためのお金があるはずだ。それを少し貰いたい。なぁに、簡単だ。三時までに博麗神社に通帳を持って来てくれさえすれば良い』

 

「ここで通帳が出てきたのね」

 

『通帳、か。いいだろう。だが、覚えておけよ貴様』

 

 

 

 

 

 ……という事があってな。多分盗んだんだろうコレを渡してくれたんだ。だけどこの後、シラを切ったのにボコボコにされた」

 

「……自業自得は貴方のための言葉ね。事件でもなんでもないし」

 

「しっかし、なんで俺だって分かったんだろうな?」

 

「んー、……さぁ?」

 

 そこだけは二人は揃って首を傾げた。

 

 

 

 

「ここは?」

 

「まずはゲーセンってとこだな。ここはゲームセンターって言って、色んな娯楽があるところだ」

 

「音が騒がしいわね」

 

「本当に沢山あるからな。よし、気になるものから全部やって行こうぜ」

 

 こうして、二人のゲーセン珍道中が始まった。

 

 

 

 

「何これ、パンチングマシン?」

 

「いわゆる力試しのゲームだ。グローブをはめて殴るゲームだよ」

 

「へぇ、やってみようかしら」

 

「おい、好戦的な目をするな。って!?そのステージは一番難しいヤツだぞ……」

 

『CLEAR!!』

 

「やったわ」

 

「ひぃ!?何だあのねぇちゃん!?!?」

「ドガンと音がしたぞ!?!?」

「ばけものがいる」

 

「ハイスコアまで出しやがったこいつ。おい、ドヤ顔やめろ」

 

 

 

 

「このUFOキャッチャーっての、壊れてるんじゃないの!?全然取れないんだけど!!」

 

「狙う場所とタイミングが重要なんだよ。慣れればいけるさ」

 

「あのにいちゃん、三つ同時に取ったぞ……!」

「さっきのミスは、これへの布石だったのか……!?」

「ばけものがいる」

 

「あんた凄すぎない!?」

 

「おいそこにいる子供。お前だ。この菓子やるよ」

 

「ありがとー(もっきゅもっきゅ)」

 

 

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「これは?」

 

 霊夢がそれに駆け寄る。またも違う形の機械で、もちろん幻想郷には無いものだ。霊魔がすかさず説明をし始める。

 

「ホッケーマシンだな。四隅にあるマレットというものを使って、円形のパックをここのスキマに入れられれば得点だ。対戦型だから、俺とやってみるか?」

 

「面白そうね、早速やりましょう!」

 

 霊魔は百円を入れ、ゲームをスタートさせた。

 

『Ready GOッ!!』

 

「さぁて、行くわよ!」

 

「ん、パックがこっちから出てきた。先攻は渡してやるよ。ほら」

 

「あら、舐めてんのかしら?」

 

「いや、ちょっとしたハンデだよ。俺がやった事あるから、その経験の分を埋めるって感じで」

 

「そう、なら遠慮なく……」

 

 

「えい」

 

 パァン、と鳴り響いた。

 

 

『GOAL!!』

 

「なっ……、ま、マレットが、弾かれた……だと……!?」

 

「あら?手加減でもしてたのかしら。ありがとうねぇ?」

 

 なかなか黒い笑顔でこちらをあざ笑う霊夢。これに霊魔の何かがぷちっと切れた。

 

「……ほう、いいだろう……!たかが遊びだろうと侮っていたがッ!!これは真剣勝負ッ!!全力でやってやろうじゃねぇか!!慢心ダメ、絶対ッ!!」

 

「いいじゃない、熱くなってきたわね」

 

「もうお前を女とは思わん!ぶっ倒してやる!!」

 

 息を吸うように放たれる衝撃発言である。直後、マレットが顔面にヒットした。

 

「言い過ぎよバカ!!」

 

 流石にこれには霊夢も傷ついたようだ。

 

 

「おい!あのカップル、今ホッケーやってるんだがすごいぜ!」

「すげぇ、パックが見えねぇぞ……」

「こんな攻防今まで見た事がねぇ……!」

「ねぇちゃーん!頑張れー!」

「にぃちゃん男だろうが!踏ん張れやー!」

「ばけものがふたりいる(パクパク)」

 

 いつの間にかギャラリーが集まっているが、しかし当の本人たちは目の前の相手にしか集中していないため、気づかない。そこに霊魔がストレートを放つ。パックは霊夢のマレットに触れることなく、スキマに吸い込まれていった。

 

「あっ!」

 

『GOAL!!』

 

「いよっし!やっと同点!!」

 

「ああああ!悔しい!」

 

 ワァアアと歓声が上がる。霊魔はガッツポーズをし、霊夢は体が崩れた。

 

「くっ、生意気ね!」

 

「こっちだってなりふり構ってられんのよ。よし、次行こうぜ!」

 

 しかし、まるでタイミングを合わせたかのように。

 

『TIME UP!!』

 

 ゲームが終了した。

 

「あれ?」

 

「ああ、時間切れだな。終わったらしい」

 

『Draw!!』

 

「ああ〜、結局最初のアレしか入らなかったじゃない!」

 

「どんだけ拮抗してたんだろうな俺たち……」

 

「すごいぞにぃちゃん!」

「おねーちゃんもすごかったぞー!」

「もう一回やらんのかー!?」

 

「「え?」」

 

 ようやく、周りに気づく二人。野次馬の規模は人が人を呼び、かなり大きなものとなっていた。

 

「い、いつの間に……」

 

「……こうなったんだろうな。……あ、そうだ霊夢。パックまだ持ってるだろ?せめてそれを入れてから次の場所に行こうぜ」

 

「そうね。()()

 

 瞬間、目が変わる。

 

 霊夢によって弾かれた音速を超えるパックは、霊魔によって上からマレットで叩き伏せられる。

 

 既に先程まであったお互いの朗らかな笑顔はなく。

 目の前にいるは我が宿敵。

 ここにて至るべきは栄光ある勝利のみ。

 故に。

 

 

 

 延長戦開始。

 

「行くぞ霊夢!!しゃあ!」

 

「えい」

 

「オラァ!」

 

「えい」

 

「でりゃ!」

 

「えい」

 

「そぉら!」

 

「えい」

 

「いやその『えい』やめろ!?なんか怖いんだけど!?」

 

「また始まったぞ!?」

「嘘だろ!?さっきよりも速いぞ!?!?」

「ここからがほんぺんだったのか(ペロペロ)」

 

 

 この闘いは長きに渡った。

 

 

 が、霊夢の夢想☆シュート(命名、霊魔)によって12分経過後、二人の戦いは鳴り響くような歓声とともに終結した。

 気恥ずかしさのあまり、二人揃ってコソコソ移動する事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 その後ショッピングモールに向かい、買い物の前に何か食べようと霊魔が提案。そこでフードコートに行く事になった。時間を確認したら、1時半を過ぎていた。お腹も空腹を訴えていたのにも気が付いて、どこまでゲームに熱中していたのだと、少し呆れ気味になった霊魔だった。

 

 そのフードコートにて。

 

「何これ!?」

 

「ふーむ、たこ焼きにスパゲティ、ピザ、ローストビーフ丼にラーメン、まあこんなところだな。好きな物から食ってけ。俺も食べるけど」

 

「はぁぁ……!」

 

 霊夢は目を輝かせながらどれから食べようか吟味し始めた。ちょっとしてたこ焼きに目を付け、一個を頬張る。「あっふ!?」とハフハフさせながら食べるが、大分熱いらしい。水を渡すとすぐに水を口にした。

 

 その一連の動きが可笑しく思えて、笑ってしまう。博麗の巫女というのは、代々食い意地が張っていたのかもしれないと心の中で独りごちた。

 

「焦らなくてもいいよ。ゆっくり食え」

 

「……!」(目を輝かせながらパクパク食べる霊夢)

 

「デザートも後で買ってやるからな」

 

「……!?」(信じられないというような顔)

 

 近くのスパゲティを自分に寄せて食べながら、霊夢を観察する。とろけるかなようにニンマリとした笑顔をしているのを見ると、誘った甲斐があったと言えるだろう。この笑顔にはそのぐらいの価値はある。

 

(太るぞ、なんて言ったら絶対怒るな)

 

 しかし、余計なことも考えてしまう霊魔である。台無しであった。

 

 

 

 

 この後、クレープを新たに買って来たら、霊夢は大層気に入って食べていた。

 

 三つとも丁寧に食べ尽くしていた。霊魔の分などもちろんない。

 

 

 

 本当に太らないかひそかに危惧し始める霊魔だった。

 

 

 

 

 よし、ショッピングをしよう。そう言ってショッピングモールの中を歩く。やはり幻想郷にはないものが多く、霊夢は色んなものに目移りをしていた。

 

「これは何!?よく分からないけどかっこいい!」

 

「仮面ドライバーシリーズの変身ベルトだな。なりきりセットのオモチャだが、クオリティは結構高いぞ」

 

「これは?」

 

「遊戯神のデュエルディスクか。カード遊びのやつだよ。今度買おっかな」

 

「これは?」

 

「ハイパーマン変身グッズだ。最近は二人のハイパーマンが合体するらしいぞ。というか男の子が好きそうなやつしか見てないなお前。ほれ、次のところに行くぞ」

 

 

「スッゴイこれ!ふっかふか!気持ちいい!」

 

「霊夢のとこに布団はあるがベッドはないから、余計新鮮かもな。霊夢、そんな寝転ぶな。そんなことしてると……」

 

「zzz……」

 

「……早過ぎるだろ寝るの。あぁもう、言わんこっちゃない」

 

 

「霊魔!これどう!?」

 

「イートオモウヨ」

 

「ちょっと待って、これも着てみるから!」

 

「ワカッタ」

 

「たまにはこんなのもいいわね!ファッションに興味が出て来たわ!」

 

(もう2時間はやってるぞ。店員さんもニヤニヤするだけだし。誰か助けてくれ)

 

「よし、次の店行くわよ!」

 

「もう勘弁してくれ!!」

 

 

「ん、もう時間か。案外早いな」

 

 霊魔は店内の時計のを確認しながらそう言った。

 

「時間って?」

 

「そろそろ遅くなる。タイミングもいいしそろそろ帰ろうか」

 

「え、ええ……」

 

 霊夢は少しだけ悲しくなった。楽しい時間は終わりに近づいている。もう少しだけ彼と遊んでいたい。そう思った。

 

「よかった」

 

 霊夢が振り向く。確かに彼がそう言った気がした。しかし声は小さく、聞き取る事は出来なかった。

 

 その中、霊魔は言葉を重ねる。

 

「最後に寄りたいところがある」

 

 そこへ行ってもいいか、と。

 

 彼女は何も言わず、けれど、いいえと答えることはなかった。

 

 

 

 




本体名 博麗 霊夢

パワー A+
スピード B
テクニック B(A+)
博麗の巫女のためか、戦闘面においての技術は異様に高い。
射程距離 30m

能力『空を飛ぶ程度の能力』

みんなお馴染みの「楽園の素敵な巫女」。霊魔の名付け親にして、居候先の博麗神社の住む少女。人との関わりは基本淡白な性格なのだが、それが却って霊魔と絶妙な関係を築いている。しかし、彼の事情が事情なので、時折、心配する事がある。

ツンデレですね分かり(ry

霊魔にとっては姉のような存在であり、同時に親しい女性であると認識している。


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霊夢と今までの話。

ちょっと短めのデート終盤と、少し過去に触れるお話。
シリアスなところもこれからちょくちょく入ると思いますので、ご了承を。
みなさんに愛される主人公を目指しております(*´Д`*)


 波の音が大きくなり、小さくなり、それを繰り返す。砂は攫われ、押し付けられ。太陽は既に水平線に浸かって穏やかな光を放射していた。

 

「ここって……」

 

 霊魔が連れて来た場所。それは海だった。

 

「綺麗だよな。ここ。この景色だけで俺はこの世界が好きになった。初めて見た時は……なんだろうな。上手く言い表せないけど、凄かったと思った。霊夢はどう思う?」

 

「ええ、とてもキレイ……。幻想郷に海はないから、余計かもね」

 

 引き寄せられ、離れていく。どんな模様かも分からず、上から見ても決して模様見えることはない。そう思う内に絵は変わっていく。未知の美しさがそこにあった。

 

「俺はそれだけじゃない、って思う」

 

 そう、彼は呟いた。

 

「何よりも美しく思うのは、この光景を見たということなんだ。『海を見る事』を教えてくれる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ダイヤモンドだって、綺麗だと思う前に、そもそも見る事が出来なければ価値のない石ころと一緒だよ」

 

 なんてね、と言いつつも霊魔は真っ直ぐ、落ちていく夕陽を見つめている。

 

「だから、霊夢と一緒にここに来れてよかった。うん見れてよかった。」

 

「さっきの、あなたの言葉?」

 

「いや違う。恩人の受け売りさ」

 

「そう。ホントに会いたくなるわね、その人に。とても共感出来るもの」

 

「いつか教えてやるさ。また今度な」

 

 さざ波が近づき、遠ざかっていく。それらの音には耳触りの良いものがあった。

 

「いつになったら、教えてくれるのかしらね?」

 

 霊魔は一拍置いて応えた。

 

 

「今度は、今度さ」

 

 

 今はその時じゃない。語ることがなくとも、そう言ったようだった。

 

「霊魔」

 

 霊夢の方を向き、目と目が合う。真剣な眼差しがそこにあった。

 

 彼は霊夢の透き通った眼に吸い込まれたかのように見惚れ、少し上の空になっていた。

 

「これでも私、心配してるのよ。あなたの過去を知らないし、あなたも多くは語らない。あなた、たまに私でもない遠くを見るのは何故?」

 

「……ごめんな。まだ言うことは出来ない」

 

 絞り出したように答えられたそれは、とても苦しそうで、つらそうで、決して掴むことは出来ないような。

 

 そんな悲しさが彼の言葉にはあった。

 

「大丈夫だよ。今は事情があって話せない。話してはいけないだけ。でも、いつか必ず言える時が来る。必ず」

 

 霊夢は目を伏せてしまった。

 

 俺はまだいい。彼女を悲しませる訳にはいかない。でも俺の事は話せない。

 

「霊夢」

 

「……何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだ」

 

「俺を拾ってくれたあの時から」

 

「霊夢が助けてくれたあの時から」

 

「この一年間。ずっと」

 

 

「好きだった」

 

 

 せめて。

 

 

 壊さぬように抱きしめる。

 

 今は。

 

 ありがとう、だけでも。

 

 言わせて欲しい。

 

 いつかは報いなければならないとしても。

 

 

 

 

 

 

 いつかのあの夜。

 

 雨がシトシトと降っていたあの夜。

 

 博麗神社の扉をどんどん、と叩く音が響く。

 

 

 

 

 扉を開けると、今にも消えてしまいそうな青年がいた。

 

 全身はずぶ濡れになっており、足は泥だらけになっていた。

 

 

 

 

 青年は言った。どうも、名無しの根無し草です。……もしよかったら、ここにおいてもらえませんか。

 

 

 

 

 扉を開けた少女は青年を見て少し驚いたが、青年のお願いには即答した。

 

 

 

 

 青年には、少女がなんと言ってくれたのかは聞こえなかった。

 

 

 

 

 玄関に手で招かれ、タオルを渡され、その場で顔を拭き始める。

 

 少女は少し微笑みながら言った。

 

 

 

 

 あなた、寂しかったのね。

 

 ……え?

 

 涙が出ているわよ。

 

 

 

 

 青年はやっと、泣いている事に気がついた。

 

 少女は青年の頭を胸に置き、そのまま抱きしめた。

 

「大丈夫」少女は言った。

 

 ここには、私がいるから。

 

 

 

 

「大丈夫さ。お前がいてくれるから」

 

「……うん」

 

「今日で、俺と霊夢が出会って、やっと。一年だ」

 

「ばか」

 

 

 

 

 

 博麗神社の縁側にて。

 

 霊魔は御猪口を口に運んでいた。

 

「隣、いいかしら?」

 

「ああ、いいぜ」

 

 霊夢がぺたり、と座り込む。

 

 霊魔がくいっ、と飲み干す。

 

 二人はふぅっ、と息を吐いた。

 

「たまには外の世界も悪くはないだろう?」

 

「そうね。やっぱり新鮮ね。物心つくかつかないかの辺りまで外の世界にらいたつもりだけど、変わるものね。ほとんど見たことがなかったわ」

 

「いい経験になったなら、考えた甲斐があったよ」

 

「……ありがとう」

 

「顔、赤いぞ」

 

「知ってる」

 

 静寂。

 

 訂正、霊夢が霊魔の太ももをつねっていた。少し痛い。

 

「何考えてたの?」

 

「一番最初に、お前にあった時のこと」

 

「そう」

 

「今だから言えるが、なんで抱きしめたんだよ。お母さんみたいな事しやがって」

 

「うるさいわね。私だって分からないわよ。気付いたらやってたのよ」

 

「え、素でやってたの!?怖いわー、さすが博麗の巫女怖いわー」

 

「なんならもっかいやってやろうか!」

 

「ちょま、うぷっ」

 

「どう!?」

 

「柔らかいです、凄く」

 

「なぁ!?そうゆうことじゃないわよばか!」

 

「どういう事なnぶへぁ!?」

 

「ヘンタイ!ばーかばーか!死ね!」

 

「くぅ、なんでてめぇがやった事で変態呼ばわりされなきゃならないんだよ!」

 

「霊魔なんか––––」

「霊夢こそ––––」

 

 

 夜は更ける。

 

 

 

 翌朝。

 

「霊魔さーん、幻想郷に来て1周年という事で取材に来ましたー!」

 

「あれ?誰もいない……」

 

「霊魔さーん?霊夢さーん?」

 

「あちゃー、まだ寝てる。って、これは……」

 

「…。パシャりと、1枚ってね。今日も平和です、という事ですかねぇ!」




文「お互い抱きつきながら寝てる写真がこちらに」
霊魔「言い値で買おう」
霊夢「おいこらクソガラス」

〈情報が更新されました〉

本体名 博麗 霊魔(本来の名前は不明)

ステータス

パワー C
スピード B+
テクニック A+
射程距離 D(半径1m)

能力
『ーーーー程度の能力』

博麗神社まで放浪してきた青年で、霊夢に住まわせてもらっている立場である。人付き合いがうまく、殆どの幻想郷の住人と繋がりがある。楽しい事には頭から突っ込むタイプだが、この人格には過去に救ってくれた恩人が大きく影響していると思われる。
弾幕は練習中。出来ない。何故だ。



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霊夢達と「好き」の小話。

地の文がない小話を書いてみました。
もしかしたらまたやるかもです。
やらないかも……?
ごめん、忘れて。

ギャグと砂糖多めとなっており、コーヒーを飲みながら見ると噴き出す可能性がございます。ご注意を(*´Д`*)


「きゃー!!それってつまり、告白ですか!?」

 

「え、あ、まぁ、うん」

 

「まぁ、そうなる、のか?」

 

「お前らも人が悪いぜ!一年丁度で付き合い出すなんて……」

 

「ん?おい待て魔理沙。今なんて言った?」

 

「え?一年?」

 

「その次だ」

 

「付き合い出す?」

 

「それだ」

 

「どうかしたんですか霊魔さん?まさか付き合ってないとか……」

 

「え……」

 

「その……付き合うって……なんだ?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

「え……」

 

「ん?」

 

 「「「えええええええええっ!!!」」」

 

「え!?何っ!?」

 

「え!?どういうことなんだぜ!?!?何を言ってるか全然分からないんだが!!」

 

「初めて聞く疑問ですよ!?どういう事ですかぁ!!」

 

「もしかして、あれはウソ……だったの?」

 

「ゲェッ!?霊夢がめっちゃ落ち込んでる!?」

 

「違うって!好きだってことは間違っちゃいない!でも、付き合うって言葉の意味がわからないと言っただけだ」

 

「////」

 

「こいつ地味に惚気たぞ」

 

「えーっと?霊魔さん?もしかして、『付き合う』って言葉自体知らないって事ですか?」

 

「そうだよ。なんなんだ、そんなに驚いて」

 

「好きは?」

 

「知ってるに決まってるだろ」

 

「付き合うは?」

 

「分からない」

 

「愛は?」

 

「なんとなくわかる」

 

「恋は?」

 

「なんで愛を一文字だけ変えたんだ?」

 

「結婚は?」

 

「ああ、それならわかるぞ。みんなに好きな人を紹介するんだろ?大事な事だ」

 

「なるほど〜。よーくわかりました」

 

「早苗、どういう事?」

 

「霊魔さんは好きという感情は分かっていても、好きな人たちが何をするのかを知らないんですよ。知識として少ししかないんです。だから、デートとか結婚ぐらいしか分からないのではないでしょうか」

 

(まぁ、結婚ですら怪しかったですが。本当は愛する事を誓う儀式のようなものなんですけど……)

 

「つまりあれか!イチャコラする事を知らないって事だな!?」

 

「イチャコラ?」

 

「そういうことです魔理沙さん!」

 

「あんた、よくそれでわたしに告白出来たわね」

 

「あ、復活した」

 

「面目ない。出来れば教えてもらいたいのだが、頼めるか?」

 

「任せとけ!」

 

「任せてください!」

 

「ねぇ、私不安なんだけど」

 

「…?気のせいじゃないか?」

 

 

「まず『付き合う』というのは、好きということを伝えて相手がそれを受け入れることから始まります!付き合いはじめとか、そんな言い方をしますね!」

 

「なるほどな。じゃあ今がそれに当たるんだな」

 

「そういうことですね」

 

「なら、具体的にはどうすればいい?」

 

「鉄板なのは、抱きつくことだぜ!」

 

「ブッ!?」

 

「なるほどな。あっ、確か前に霊夢から「ダメェ!」たわばっ!」

 

「れ、霊魔が死んだ!?」

 

「この人でなし!」

 

「いってえ……」

 

「ふん!」

 

「あっ、今ピンと来たぜ」

 

「どうしたんですか?」

 

「霊魔霊魔ー」

 

「なんだよ」

 

「実際にやってみようぜ」

 

「「はぁ!?」」

 

「恋愛初心者の霊魔くんじゃあきっと出来ないぜ。それなら練習した方がいいと思ってな」

 

(うわあ、黒い笑顔ですね……)

 

「そんなのやれるわけないじゃない!霊魔も何か言いなさいよ」

 

「……一理、あるか……?」

 

「霊魔ぁぁあ!?!?こんの、裏切り者がぁぁあ!!」

 

(ちょろいぜ)

 

(ちょろいですね)

 

「さぁ、実践あるのみだぜ霊魔!まずは単純に正面から抱きついてみるんだ!」

 

「お、おう。やけに張り切ってるな魔理沙」

 

「ちょっと、来るな」

 

「そういえば、俺からやった事はなかったよな。なら、やっておかないとダメだと思ってさ」

 

「いや、ホントにそういうのいいからいや嫌じゃないんだけどこういう事は二人きりのときにやりたいななんてちょっと近づいて来ないで霊魔こわいって話を聞いていやぁぁああ、あふん」

 

「秒で陥落したな」

 

「大丈夫ですかね?霊夢さんが一瞬で安らいでるようなとろけたような顔になりましたけど」

 

「全く問題ないぜ」

 

「おい、霊夢?大丈夫かー?」

 

「えへへー、あたたかーい」

 

「ダメだ、子供レベルの精神年齢になってるぞ」

 

「ぱぱー」

 

「!?!?」

 

「もうトキメキを通り越して家族みたいになってますね」

 

「ぱぱだぞー、よしよしー!」

 

「えへへー♪」

 

「かわいい」

 

「おとんだぜ」

 

「誰がおとんだ」←正気に戻った

 

「いやぁぁあ!」←正気とともに悶絶

 

 

 

「次だぜ」

 

「ねぇ、もうやめない?」

 

「見事に疲れ切った顔してますよ、霊夢さん」

 

「他にもあるのか?」

 

「もちろんだ!次はあすなろ抱きだぜ!」

 

「アス…ナロ?どういうものなんだ?」

 

「いわゆる後ろから抱きつくやり方ですね。一番女性がされたい抱かれ方とも言われていますよ」

 

「なるほど、では早速」

 

「ひゃひぃぃいい!」

 

「……!」(吹き出した)

 

(魔理沙さんもひどいですね〜。笑ってる私が言えることではないですけど)

 

「ふわぁああ!!わぁぁあ!!ああああ!!」

 

「あの、その、霊夢がかなりやばいことになっているんだが」

 

「大丈夫です、問題ありません」

 

「うにゃぁぁあああ!!!!」

 

 

 

「ぜー、はー、ぜー、おえっ」

 

「さて、次に行こうか」

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!ヒィーー!」

 

「あっはい。次は1番メジャーであろう、お姫様抱っこです!さぁ、やって見ましょう!」

 

「早苗も元気だな。いいことあったか?」

 

「恋の手助けはいいものですよ(こんな可愛い霊夢さんは眼福なんです!)」

 

「そうなのか。とりあえずやり方を……」

 

「はぁ、はぁ、さすがに死ぬかと思ったわ……。ノドがやばいことになってるわね」

 

「大丈夫か?霊夢」

 

「元はと言えばあんたが……。はぁ、もういいわ。水持って来るから手を貸して」

 

「分かった」

 

「……?肩まで貸してとは言ってないけど……」

 

「こうやって、膝を、こうか!」

 

「へ」

 

「お姫様抱っこらしい。どうだ、霊夢?」

 

「え、あの、ちょ、顔、近、もにょもにょ……」

 

「運ぶにも良さそうだな……って霊夢?どうした?」

 

「きゅう」

 

「霊夢!?どうした!?」

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

「それはさっきも言ったろう!一番いいのを頼む!」

 

「耳元でこう言えばいいぜ!ゴニョゴニョ……」

 

「ふむ、分かった。霊夢ー、起きろー。……ふぅ、『起きねぇとキスするぞ』」

 

「ひゃいッ!?」

 

「あだっ!?」

 

「あっはっはっは!!期待を裏切らないな!!」

 

「魔理沙さん、私が霊夢さんの水を持って来ますね」

 

「おう、頼んだぜ!さぁーて、次はどんな事をさせようか……ん?」

 

「魔理沙?ちょっといいかしら?」

 

「えっ!?おい、早苗って、あっ!あいつ逃げやがった!待て、霊夢!これは霊魔のためにやった事なんだから、責任は全てあいつに……」

 

「安心しなさい。折檻済みよ」

 

「あー、いつの間にぃ……」

 

「安心しなさい、早苗もすぐに後に続くわ」

 

「ぎゃああ!!」

 

 

「早苗?ちょっと来てくれる?」

 

「は、はい?あ、あの、霊夢さん?なんで二人とも倒れて……」

 

「問答無用」

 

「ぐえっ」

 

 

 

 

「あんたはもう少し気持ちを考えなさい!主に、私のとか私のとか私のとか!」

 

「わかったって。同じ事を何遍も言わなくてもいいから……」

 

「いいや、ぜんっぜんわかってないでしょ、このトンチンカン!私だって女らしくないとは自分で思うけど、羞恥心ぐらいは持ち合わせてんの!」

 

「なんだと!?お前が女らしくないワケがないだろう!お前は魅力的だろうが!」

 

「〜ッ!今、口説くんじゃなぁぁあああい!!!」

 

「いっだぁ!?ええい、恥ずかしくなると殴る癖をなんとかしろ!」

 

「うっさい、女たらし!」

 

「ごちそうさま、ですね」

 

「いてて、もらいたくないもんももらっちまったけどな。おーいてぇ、タンコブができちまってる」

 

「バーカ!」

 

「アホー!」

 

「バーカバーカバーカ!!」

 

「アホアホアホアホー!!」

 

「ってかさー、一つ聞いていいか?」

 

「どうした魔理沙?」

 

「お前らって、付き合ってから何か変わったか?」

 

「「…………。いや、何も」」

 

「むしろ、お前らいつも何やってんだ」

 

「ん?まず朝起きるだろ?」

 

「「うん」」

 

「そんで、俺の布団にいる霊夢を起こす」

 

「はぁ!?」

 

「えぇ!?」

 

「ちょ、あんた、舌の根の乾かぬうちに何言ってんのよ!?フォローを入れなさい!」

 

「ああ、分かった。別にいつも霊夢が潜り込んでいるというわけじゃないんだ」

 

「そうだよな!てっきり毎日かと思ったぜ」

 

「そうですよ!びっくりしたじゃないですか」

 

「2日に一回だ」

 

「「多いッ!」」

 

「十分じゃねぇか!」

 

「ベッタリじゃないですか!?」

 

「あんたそこは言わなくていいのよ!!」

 

「すまん。次に朝ごはんだな。基本俺が炊事係だから俺が作ってる」

 

「そうなのか。でもまぁ、男でも作るときはあるだろ」

 

「意外ですね。主夫って感じでいいと思います」

 

「その時に霊夢が寝ぼけてたら食べさせてる」

 

「「待ったぁ!!」」

 

「そうなの!?」

 

「霊夢が知らないってどういう事だ!?」

 

「これは違うのよ!えーっと、霊魔!フォローしなさい!」

 

「『あ〜ん』って言うと、『あ〜ん』って言いながら口開けてくれるんだよ」

 

「なんのフォローしてんのよあんたはあああ!!!」

 

「かわいいと思わないか早苗?」

 

「激しく同意です!」

 

「あーもうあんたら、Gaaaaaaa!!」

 

「霊夢が発狂した!?」

 

「やっばい、逃げろぉ!」

 

「もうピチュりたくないです!」

 

「霊夢落ち着けなんで真っ先に俺の方に来てんのちょっと待ってぎゃぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

 

「あー、疲れた。やっとあいつら帰ったー」

 

「お疲れさん。色々すまなかったな」

 

「ホントよ。恥ずか死ぬかと思ったわ」

 

「でも、事実だろう?いいじゃないか、隠さなくて」

 

「あんたとは隠したい所までの線引きが違うの!みんなそうよ。あんたみたいにだだっ広くないの」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうものよ」

 

「イマイチまだ分からないな。もう少し頑張ってみるよ」

 

「そうよ。頑張りなさい。まずは酒を用意しなさい。一杯やるわよ」

 

「いつも通り縁側で、だな。……そうだ」

 

「どうしたの?」

 

「聞きそびれてたことがあったんだ」

 

「……何よ?」

 

「いつもじゃあないけど、こうして」

 

 

「二人で風呂に入ってるのは、普通なのかなって」

 

 

「何よ、文句あるの?」

 

「文句はないけどさ、知りたいのさ。一般的なのか違うのか」

 

「絶対に聞かない事。いいわね」

 

「はいはい、そういう事か。先上がるな。酒の用意して待ってる」

 

「行ってらっしゃい〜」

 

「……」

 

「……もしかして、一緒に入るのって普通じゃないのかしら?」

 




霊魔「霊夢さん、知ったかはダメですよー」
霊夢「黙れ」
霊魔「解せぬ」

こんな二人が楽しくケンカするのは書いていて面白いです。


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魔理沙と大掃除の話。

遅れて、本当に、すいませんでしたァァアアッ!!!

言い訳します。
忙しかったんです。
他の人の小説が面白すぎるんです。
ショボい文才で書き切れるか分からなくなって、いじけちゃったんです。

……流石に間隔開けすぎですよね。すいません。

頑張ってもうちょっと更新速度速めます。
これからもお付き合いくださいorzペコリ


「来たわね。あら、時間ピッタリ」

 

「そちらの準備は?」

 

「いいわよ。いつでも行けるわ」

 

「よし。じゃあ、行こうか」

 

「ええ」

 

 1組の男女は互いに目を合わせた後、向かうべき場所に向かっていった。

 

「ところでそれ、ツッコんだ方がいい?」

 

「……どっちでも」

 

 

 

 

 午前10時頃。

 

 チャイムが鳴る。「はいよー」という声が家の中から微かに聞こえ、ドタバタと慌ただしい音がしばらく響く。そして、ドアを開けながら快活な少女が顔を出した。

 

「はーいどちらさん、ってヴェ!?」

 

 家のドアを開けた少女、霧雨魔理沙が見たのは完全掃除用装備でやって来たアリスと、完全フル装備を整えた黒い仮面の男だった。

 

「アリスー……と、誰?」

 

「シュコ-」

 

「あのー……」

 

「シュコ-」

 

「……」

 

「ワタシダ」

 

「いや誰だよ!?」

 

「コレハ『星の戦争』シリーズノ シュコ- ファザーヘルメットダ シュコ-」

 

「いや、そんな説明は求めていないぜ。明らかに描写してはダメな感じの形してるからな。あと、呼吸がうるさい。おいやめろやる気まんまんのBGMを流すな」

 

「トッテイイカ?」

 

「はよ取れ!」

 

 仮面を取ると、いつもの博麗神社に住み着く青年の顔が出て来た。

 

「ふぅ、そういうわけでだ」

 

「どういうわけだ」

 

「大掃除を始めよう」

 

「え……はぁ!?」

 

 

 

 魔理沙宅にお邪魔させてもらい、霊魔は事の顛末を語り始めた。

 

「知ってるかお前。パチュリーの愚痴が最近マジでヤバいんだぞ。今の魔理沙と研究してる方向が似てるらしくて、肝心な資料ばかりが魔理沙に盗まれているから図書館に資料がないことを当事者でもない俺にネチネチネチネチと言って来て。図書館に世話になっている身としては手を貸すしかないだろう」

 

 そこへ補足をするようにアリスが話し始める。

 

「それを私にしゃべって、最近魔理沙も研究ばかりでまともに整理整頓出来てないだろうという話になって。ついでについでにを二人で繰り返すうちに掃除も視野に入っちゃったから、いっそのこと、大掃除をしようということになったの」

 

「私には何も知らせずにか」

 

「気にせずに研究に没頭してもらった方が都合がいいからな。さっさと済まして本を全部返した方が、ちと時間がかかるかも知れんがまた盗られるよりかはいいだろうさ」

 

「じゃあ、勝手に始めさせてもらうわね」

 

 アリスが動き出すと、魔理沙が肩をすくめながら言う。

 

「いや、さすがに私も大掃除するぜ。幻想郷のおかんとおとんに言われちゃあやるしかないだろ」

 

「「誰がおとんだ(おかんよ)」」

 

「そういうところだぜ」

 

 しかし魔理沙が魔法を研究を終わらせないなら、使用済みの資料とまだ使うであろう資料を分けなければならない。霊魔は自身の掃除用具をもう少し隅に置いた。

 

「なんにせよ、掃除よりは片付けが優先だな。こんだけ散らかってれば歩くこともキツイしな。午前中に頑張って終わらせて、午後に掃除出来るようになれば上々か。おい魔理沙、お前にやって欲しいことがあるんだが」

 

「ん?なんだ?」

 

「お前がいつも言ってる『永遠に借りてる』本を全部持ってこい」

 

「なんでだぜ?」

 

「パチュリーに返す」

 

「イヤだぜ」

 

 魔理沙は霊魔の言葉を笑いながら切り捨てた。

 

「ちょっと魔理沙!?」

 

「だってよー、『永遠に借りてる』から、永遠に借りてるものなんだぜ?そんなものを誰が返すか」

 

 べーっ、と舌を出しながらそう告げる。盗人魂のようなプライドがあるのだろう。アリスが思わずいつも通りの魔理沙に頭を痛くし、ため息をこぼした。

 

 霊魔もため息を吐いたが、アリスとは意味が異なっていた。まるでワガママな子を見て、「仕方ないな」とでも言わんばかりに。

 

「ちょっと魔理沙、耳貸せ」

 

「なんだよ、絶対イヤだからな。来んな」

 

「いいから」

 

 少し強引に耳を寄せ、ゴニョゴニョと小さな声で喋り始めた。すると、魔理沙の顔が赤くなり、青くなり、いきなり慌て始めた。

 

「な、なんでそんな事知ってんだぜ!?」

 

「『火のないところに煙は立たぬ』ってな。俺が何でブン屋の文のところを手伝ってると思ってる。情報も上手く使えば剣になるのさ。さ、どうする?」

 

「わ、わかったよ!持ってくりゃいいんだろ!バーカバーカ!」

 

「え!?」

 

 アリスの驚愕は魔理沙を知っているなら当たり前のことだろう。魔理沙は自分の意思や好奇心には頑なな部分があり、曲げようとするだけでも一苦労するのである。

 

 それを、瞬殺。たったの耳打ちのみで屈服させたのだ目の前の男は。魔理沙に見えないように真顔でピースする霊魔。

 

「一体、何をしたの?」

 

 自然と口から溢れた。それを聞いた霊魔は微笑みながら答える。

 

「人には必ず隠したいことってのがある。大体は人に知られたくないものが大半だが、最も隠したいものは自分で隠蔽するだろう?でも、『ひょっとしたらバレないだろう』と思えるほどの小さな事は本気では隠蔽しないし、きっと大丈夫だ、と思わないか?」

 

「……あ、まさか

 

「簡単に言ってしまえば、『小さい事だけど知られたくないもの』を俺が知っているだけ。そうすれば、こういう時のような些細な事なら動いてくれるからね。ブン屋の文はそれをたくさん知ってるから、手伝う代わりに教えてもらってるのさ」

 

「……なるほどね。情報戦はあなたらしい切り口とも言えるわね」

 

「一応言うが、魔理沙も中々しぶとかったぞ。『あと30個はあるヨ』って言わないと動いてくれなかった」

 

「あなたって本当に人間?ゲス妖怪と言われても仕方ない事してるわよ」

 

「万が一、秘密をバラしても俺がボコボコにされるだけなら問題ない。そもそもバラすなんて一言も言ってないしな」

 

 どうするかとしか言ってないし、最悪な事には絶対にさせないよ、と笑いながら付け加える。

 

 ふーん、と言いながら、アリスは彼のちょっとした魅力がわかった気がした。

 

 おちょくりつつも怒らせることはしない。そういう気遣いのようなものが自然に出来るところをアリスは少しうらやましく思った。なるほど、霊夢が惹かれたのも分かるかもしれない。これならある程度の悪ふざけは許してしまう。でもある意味タチは悪そうだとも思えた。

 

 アリスはふと気になった。

 

「もしかして、私の秘密もあるの?」

 

「いや、まぁ、あるにはあるがしょーもないぞ。それ以前にアリスの秘密はそんなに持ってない。少ないのはアリスの人徳から来てるものだとでも思っておいてくれ」

 

「そう思っておくわ。でも、しょうもないと言われても気になるものね。一つ教えなさいよ」

 

「いいのなら。そうだな、『アリスは一人より人形たちと風呂に入る事が多い』とかどうだ?」

 

「あら?それだけ?」

 

「人によって恥ずかしく感じるものなんて違うだろう。これでも誰かにとってはとても恥ずかしいと思えるものだ。俺の持ってる情報なんてほとんど不発覚悟のものだけだし。魔理沙は……たまたま恥ずかしいところに当たったなら不運としか言えん」

 

「ちなみに、伝えた魔理沙の秘密は?」

 

「言うと思うか?」

 

 2人が笑いあったのとムスッとした魔理沙が大量の本を運んで来たのは、ほぼ同時の事であった。

 

 

「すまんが、ちょっくら行ってくる。これで多少溜飲を下げればいいが」と、霊魔が本を持って紅魔館の大図書館に向かってしばらく。

 

 小一時間かかって魔理沙の自宅に戻ってこれた霊魔は、ノックを適当にして上り込んだ。

 

「おう、遅かったな!」

 

「おかえり、霊魔。思ったよりかかったわね」

 

「ああ、ただいま。魔理沙の本を本棚に戻してた。小悪魔達と一緒にヒィヒィ言ってきたぜ。ふぃー」

 

「変なとこで律儀だなオマエ」

 

「元々の原因はオマエだろが。反省でもしてろ。何処まで進んだ?」

 

「あなたがやれなさそうな魔法道具をやっていたわ。残りは大体生活用品になるかしら」

 

「魔法道具がどこかに埋もれてる可能性はあるから、見つけたら頼むわ」

 

「分かったわ」

 

「りょーかいっと」

 

「12時までには終わらせるぞ。……よし、やるか!」

 

 アリスと魔理沙も作業を再開させる。アリスはキッチンで水回りの整備兼昼ご飯作り、魔理沙は自分の部屋の整理と捨てるものの選択、霊魔はその他全般をこなしていった。

 

「おい霊魔!それはわたしがやるから!やるな!」

 

「どうした?」

 

「誰が服をたためっつったんだ!」

 

「あらかた終わったから暇なんだよ。アリスは料理一人でやってるし、家事ぐらいしかやる事ないんだよ」

 

「ちょ、それ私の下着……」

 

「ほいほいほい、っと。……ん?どうした固まって。あ、ここ置いとくな」

 

「な、あ、あ……」

 

「?」

 

 「この大ばか野郎ぉ〜!!!」

 

「いっだぁ!?」

 

「霊魔なんか嫌いだ!!片付けしてくる!」

 

「……えーっと、御愁傷様?」

 

「……下着が恥ずかしいのはわかってるが、たたむだけだろう?なんでそこまで怒る?」

 

「博麗神社で完全に主夫になってるあなたには分からない事よ」

 

「……そうなのか」

 

 こんな時にも何かやらかすのも霊魔にアリスは思わず、くすっ、と笑ってしまった。霊魔は何故怒られたかわからない子供のような顔をしていた。

 

 

「なぁ」

 

「……」

 

「魔理沙って」

 

「……」

 

「悪かったから。な?機嫌なおしてくれよ」

 

 お昼時。休憩ということで、アリスが三人分のキノコと卵のチャーハンを作ってくれた。キノコの芳醇な香りが鼻をくすぐり、食欲が促進する。しかし、それ以上に魔理沙が俯いていてご飯どころではなかった。大きいいつもの帽子をさらに深く被っている。あ、目が合った途端反らしやがった。こいつ。

 

「分かった?魔理沙は純情なのよ」

 

「身に染みてな。……魔理沙には悪いが、正直謝って許してくれないならどうしようもない」

 

「あら、お手上げなの?」

 

「ああ、物で釣るぐらいしかないからな」

 

 魔理沙が睨みつけてくる。それでは大変不服のようだ。それはそうだ、俺だって物で釣ると言われてあまりいい気はしない。しかし、それ以外に思いつかないのだ。

 

「一応、渡すとしたらどんなの?」

 

 興味本位でアリスが聞いてくる。いや、これは助け舟だ。とりあえず魔理沙に話だけでも聞かせなさい。そう目で言っていた。

 

「……相手が魔理沙だ、やはりというかもちろんキノコになる。そんで多分だが、幻想郷にはないのを知ってる」

 

 瞬間。

 

 ぴくっ、と。

 

 帽子が動いた気がした。

 

 アリスと2人で振り向くが、魔理沙は無反応。気のせいだったようだ。

 

「どんなものなの?」

 

「トリュフと呼ばれるものだ。絵に描いたようなキノコの形はしていなくて、基本黒くてゴツゴツしている。外の世界では世界三大珍味の一つと言われ、土の中にあって見つけにくいってのもあってかなり高値で取引されるキノコだ。そこまで有名なものなら、まず幻想入りはしないだろうから魔理沙も知らないはずだ」

 

 ぴくぴくっ。

 

 動いた。

 

 2人とも瞬時に振り向く。くっ、気のせいか。

 

「……食べ方としては、トリュフをスライサーで削っていろんな料理に入れて食べる。食材というよりは、パスタに入れる粉チーズのような感覚で使われることが多い。もし仮に魔法の材料として使えなかったとしても、美味しく戴けることうけあいだな」

 

 ピクピクッ。

 

 目標が動く。

 

 ばっ、と素早く振り向く。

 

 すっ、と戻っていった。

 

「……友人である魔理沙のために、予約とか金銭的な問題で時間はかかってしまうが最ッ高級品を用意するつもりだ」

 

 がばっ。と顔をあげた。

 

 しゅばっ、と振り向く。

 

 さっ、と目をそらす。

 

「……それでも許してくれないならしょうがない。高値なのは確かだし、贈ること自体を白紙に「しょうがねぇな!グチグチ言うのはわたしらしくないし、それで折れてやるよ!」……そうか、よかった。よし、じゃあ冷める前に食べよう」

 

 今日一番というぐらいに元気に復活した魔理沙。女心は秋の空やらどこへやら。さっきまでの沈んだ感情は消し飛んだようだった。

 

(チョロいな)

(チョロいわね)

 

 霊魔とアリスは同時にそう思ったが、口に出すことはなかった。

 

 好奇心とは恐ろしいものだと、アリスの料理に舌鼓を打ちながら霊魔は思ったという。

 

 

「しかし、魔理沙の片付けが少し遅れてるのを除いて大分順調だな。このまま行けばいいのだが」

 

「心配は無用よ。魔理沙もなんだかんだで手伝ってくれてるもの」

 

 午後1時頃。霊魔は時計を見て呟き、アリスはそれに優しく応えた。折り返し地点は越えただろうと、安心しながら上から埃をはたいていく霊魔。

 窓を拭いていくアリス。途中から魔理沙も「援軍だぜ!」と参戦し、3人体制で作業が進んでいった。

 

「そこの机拭きの洗剤を取って……いや、いいわ」

 

「ん?どうしたんだぜ?」

 

「アリス、ついでだ。ここまで出来るようになったぞ。そら」

 

 洗剤に手を向け、思い切り引くと洗剤が霊魔の方に引っ張られるように勢いよく飛んで行く。洗剤は手に収まり、霊魔は歯を見せてにやけた。

 

「あら、すごいじゃない!」と、嬉しそうにアリス。

 

「え!?何したんだぜ!?」と、驚きを隠せない魔理沙。

 

「糸を霊力で創ったんだよ」霊魔は得意げにそう言い放つ。

 

「糸?」

 

「糸ってのは実は汎用性が非常に高い。霊力でそれを創れるならかなり行動の幅が広がると思ってな。少し前にアリスから教えて貰ってたのさ。まだ細すぎて見ることができないし、千切れたらすぐに霧散して無くなるが。……まぁ、洗剤を引き寄せるには十分な強度って事さ」

 

「霊魔って凄いのよ。ある程度のコツを掴むとすぐ出来るようになっちゃって。人形を操る気がないのが残念でならないわ」

 

 アリスは自分の事のように喜んでいる。

 

 こいつって実は凄いのでは。と、魔理沙は今更ながら感じた。アリスの言っていることを本気にするならば、一日かそこらで糸の出し方を掴んだということである。成長速度が目に見えて速い。

 

 本人は気にせずに魔理沙の研究用の机を拭いているが。うわっ、口笛吹きながらやってるけど口笛ヘッタクソだな。息を吐いてるだけにしか聞こえないぜ。

 

「魔理沙」

 

「ん?」

 

 アリスが小さめな声で話しかけてきた。

 

「彼、習得が速いのもあるけれどそれ以上に興味深い事があったわ」

 

「なんだ?」

 

「身体を少し調べさせてもらったの。……霊力の他に魔力も微かながら検知したわ」

 

「え、それってつまり……」

 

「ええ。彼は魔法を使いこなす才能がある。今は霊力が体の大半を占めているけれど、扱いは相当なものよ」

 

「マジか。でも、なんで魔力があるかもって思ったんだぜ?」

 

「彼が使ったからよ。私の糸は魔力を編んだもの。彼は霊力で作りたかったみたいで最初は全然上手くいかなかった。それでコツを教えたんだけど、それでも上手くいかなくて」

 

 アリスの目は真剣に語っていた。『彼は恐ろしい』と。空気が引き締まる。

 

「最初はかなり苦労してたからどう教えようか途方に暮れてた時、彼はわたしの身体を見始めたのよ。『観察させてもらう』なんて言われてね。もちろん下心なんてなかったけど、舐め回されるように見られたわ」

「そこからよ。彼は……体になかったはずの魔力を生み出した。それも()()()()()()()()で創りあげたの。聞いたらイメージも、体勢も、糸になるまでの過程も昔の私。魔法を覚えたばかりの私にとても似ていたわ。違うのは成長速度のみ。まるで今までの私を短くして映像で見せられた気分よ。そして何より」

 

「彼はほぼ完全な投影が可能なの」

 

 今は魔力から霊力にエネルギーを転換して糸を生成、使用している。とは言っていたわ。と、続ける。しかし、アリスの問題視したところはそこではなかった。

 

「将来、魔法使い以上の何かになるわ。それほどまでの逸材よ」

 

「だからこそ……怖いわ。とても」

 

 

 

 掃除するなら徹底的に。疲れただろ。休んでていいぞ。

 

 霊魔はそう言って、外の壁や屋根を掃除しにいった。

 

 そこまでしなくてもいいとは思ったが、アリスの話を聞くには都合が良かったのでそのままやってもらうことにした。ていうかあいつ、なに喋ってたか全然聞いてなかったのか?

 

 途中から感情を思いもよらないところから吐き出したアリス。真意を聞くために自分から口を開く。

 

「……なんで怖いんだぜ?あいつはいい奴だ。少なくとも私はそう思ってる。アリスがなんでそう思うのかを知りたいんだぜ」

 

「彼がいい人なんて分かってはいるの。でも、それだけなのよ。誰もが少し前まで裏だけでなく表すら知らなかったのが異常で、今も知れていないというのがおかしいとわたしは思う。そんな彼がもし、何かの拍子に敵に回った時、あらゆる人物の投影模倣を終えた時、私たちはこのままだと多大な被害を受けるでしょうね」

 

 ここ一年を振り返る。彼が幻想郷に来て一年とちょっと。それまでの彼を。

 気付いたらこの世界にいて。

 気付いたら住み着いていて。

 

 気付いた時には仲間として加わった青年。

 

「信じられる?一年経つギリギリまで誰も名前を知らない。素性も知らない。能力さえも知らなかった。今も分からないままよ。やっと最近名前をあなた達が考えて名付けたことも知っているけど、それでもそれだけじゃない?」

 

 それは魔理沙も疑問に思っていた。好きなものとか他愛のないものなら魔理沙もある程度は知っているが。彼の根幹。心の奥までは誰も知らないし覗いたこともない。サトリ妖怪のさとりもまだ霊魔のココロの中を見ていないそうだ。

 

「彼は何者なの?こっちが知りたいことは知ることが出来ない。彼は何も話そうとしない。敵か味方さえも分からない。好奇心で近づいて、唯一わかったのはおかしいぐらいの技術の習得速度と異常なまでの模倣とその投影。彼は一体、なにを隠しているの!?」

 

 アリスは頭を抱えた。それほどまで彼を気にかけていたと言うのか。魔理沙は何も言わずただただじっと待って聴く方に回っていた。

 

 ぼそり、とアリスがまた喋り始める。

 

「……楽しいのよ、最近。寂しいとふと思った時には魔理沙や霊夢が遊びに来てくれる。なぜ来たかと言えばと言われたら『霊魔が行きたいと言ったから』が大半よ。まるで私が寂しいのがわかるみたいに。一度、彼の前で嬉しくて泣いたこともある。彼の正体が分からなくてもいいと思った事は何回もあるわ!でも、だからこそ知りたい!裏がない人だと知りたい!酷い人ではないと知りたい!楽しい日々が嘘であって欲しくないのよ……!」

 

「霊夢みたいに恋愛感情ではないの。ただ『ひとりの友人』として彼は……とても優しくて楽しい人。それが間違いでない事を知りたい……」

 

 

「でも、彼はなにも教えてくれはしなかったわ……」

 

 

 彼ほどの才能を持っていてなお優しい人物ならば、他にもいるだろうと思っていた。だが、もし彼が敵なら精神的にも実力的にも勝てない。少なくとも自分はそうであると吐露した。

 

 魔理沙が口を開く。静かに、けれどしっかりと声を届かせる。

 

「アリス、いいか?」

 

「……何?」

 

「霊夢に聞いた話だ。あいつは家に霊魔を置いているからな。アリス以上に気にしてたりするのさ。特に気になっていたのはさっきお前が話した『名前』だ。霊夢は記憶喪失かと思い聞いてみたらしい。答えは『記憶喪失ではない』だ。ならば、なぜ教えてくれないのか。霊夢はかなり噛みついたらしい。霊魔もかなりたじたじしていたそうだ」

 

「で、言った事は『教えられないんじゃない。俺に名前は()()んだ』だったそうだ」

 

()()!?どういうこと!?」

 

「落ち着け……結局どういうことか教えてくれなかったってよ。『事情がある。それに触れてしまう事柄はまだ教えられない』だそうだぜ。確かそん時だな。『名付けられるなら構わない』とも言ったのは。おかげでまだ若いのに名付け親になっちまったぜ」

 

「霊夢でさえも……そうだったの……」

 

「冗談は見事にスルーか……。だがアリス、情報を渡さなかったのが問題じゃないんだ」

 

 魔理沙が座り直し、帽子を脱いだ。

 

「そのことを霊夢に教えてもらった時、同時に霊夢が直感で『未完成な人間』と感じた事を教えてくれたんだ」

 

「未完成?どう言うこと?」

 

「霊魔は今でこそ生活出来ているが、少し前までは何も出来なかったはずの人物と感じたそうだ。最低限の知識だけ持ってな。なんとなく納得できる要素があった。『好き』の感情は知っていても、その後の恋人同士の行動はほとんど分かっていなかったようにな。確かに一物の何かを抱えているのは確かだろう。だがあとの事は全て、自分でさえも分かっていない。経験したことがない白紙の状態。それが霊夢から見た霊魔の印象だそうだ」

 

「……なるほどね」

 

 頭の後ろに手を回して、椅子の背もたれに思いっきり体重を乗せる。そして、アリスに向けて朗らかに笑ってみせた。

 

「あいつが将来、味方になるか敵になるかっつーことなら、大丈夫だろ。あいつが優しさはあいつのいう恩人が色を付けて教えてくれていたことだと思う。後、なんだかんだで霊夢の事が好きだし。そんな事はしないどころか、させてもらえないんじゃないか?」

 

「ええ、そうね」

 

「だいたいなぁ。お前は真面目で心配性過ぎなんだよ。それでも悩むぐらいならもうちょい早めに相談しろっての」

 

「う、悪かったわね。……ありがとう魔理沙」

 

「へいへい。少しでも安心したならいいぜ」

 

「話は終わった??」

 

「「わぁ!?」」

 

「話し過ぎだぞ。外から見てみろ、ピッカピカ過ぎて沈む夕日が屋根や壁に乱反射してしちまってる」

 

「い、いつから聞いてたの?」

 

「ん?いや、なんも。聞かない方がいいと思ってな。聞こうとも思わん。……ふむ、ところで母さんや、飯はまだかーい?」

 

 霊魔は答えた後、軽くおどけた。

 

 アリスが時間を見る。6時半過ぎを回っていた。口角を上げながらそれに応える。

 

「あらお父さん、ご飯ならさっき食べたばかりじゃない?」

 

「そうだったか?……いや、そうだったな」

 

「なに熟年夫婦みたいなことやってんだ」

 

 ぷっ、と誰かが噴き出した。あとの2人も我慢出来ずに、3人で笑いあった。

 

 

 

「部屋の中も見違えた事だし、帰るか。アリスはどうする?」

 

「時間も時間だし、魔理沙の夕飯作ってから決めるわ。魔理沙さえよければ泊まろうと思うけど。夕飯、あなたはどうする?」

 

「腹を空かせて待ってる奴がいるからな。博麗神社に戻ってから一緒に食べるさ」

 

「霊夢の扱いが腹ペコのペットね」

 

「……気のせいだ」

 

 そろそろ霊夢の腹の虫が鳴き始める時間だ。弁当は持たせたが、正直不安である。もしかすると空腹で既にぶっ倒れているかもしれない。流石にあり得ないだろ。……たぶんきっと。

 

「おい霊魔!」

 

「ん?おー魔理沙、俺そろそろ帰るな」

 

「これを持っていけぇぁ!」

 

「ちょ、投げんな!?……なんの本だコレ?」

 

「魔理沙!?コレって……」

 

「……魔法の基本が書いてある私御用達の本だ。アリスから聞いたぜ、お前が魔力を持っていることをな」

 

「え?そうなのか?」

 

「え、そうよ?……もしかして気づいてなかった?」

 

「全然」

 

「だから、貸してやる。私の大事な本の一つだ。必ず返せよ!」

 

「うん、分かった。とりあえず『永遠に』借りておこう」

 

「てめぇ!!」

 

「冗談だ。ありがたく受け取る。必ず返すよ。じゃあな!」

 

「ああ、またな!」

 

 ……アリスと何か話してた時に良いことでもあったかな?なんてことを思いながら、帰路につく。

 

 

 今日は泊まりたい、とアリスは言っていた。きっとアリスと魔理沙は、今日の夜を楽しく過ごすのだろう。

 

 友人という関係の何と美しいものか。

 

 

 あの関係は、羨ましいな。とても。

 

 

 

 一応は頑張って早めに帰る、と俺は言った。だからと言って、博麗神社での夜が楽しくなる訳ではなくて。

 

 恋人という関係の何と醜いものか。

 

「ご……ごはん……」

 

 倒れている素敵な巫女のステキなすがたを見るハメになってしまった。

 

「3時のおやつをちゃんと作っておいたはずなんだが、まさか食べてない……あ、無くなってた。よかった」

 

 

 

 

「遅い」

 

「はいはい」

 

 もっちゃもっちゃ、とふくれっ面になりながら食べている霊夢。頰が膨らんでいるのは怒っているからか?それとも食べ物が入っているからか?

 

「もう7時よ?流石に待ちきれないわよ!」

 

「10分だか20分でそのご飯を作った俺をまず褒めてくれ。あと、夕飯は7時か8時ぐらいが普通と聞いたが」

 

「それは夜食の時間よ」

 

「……最近ホント食い意地張ってるよな。そろそろ制限しないと太r」

 

「いい度胸ね。次は狙うわ」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 圧倒的敗北。彼女には勝てなかったよ。ほおを掠めた霊夢の箸が後ろの壁にめり込んで刺さっているし。なにこれ怖い。

 

 しかしよく食う。身体の体積に合わない量を食べるから、食卓にはまだ付かずに霊夢用の2、3品を追加で作る。昔は金がない所為で少食と聞いていたが、最近は軽く幽々子と張り合えるらしい。

 

 流石に冗談だろう。

 

 嘘だと言ってくれ。

 

 

 

 

 家計が火の車なんだッ!!

 

 

 

 

 

「何、悩んでるの?」

 

「ん?」

 

 唐突に言い出された言葉に反応出来ず、聞き返してしまう。変わらずもっちゃもっちゃと食べているまま、霊夢はまた声をかける。

 

「だから、何か悩んでるでしょ?」

 

「……いや、まぁ、あることにはあるが。……なんで分かった?」

 

「なんで分からないと思ったの?」

 

「…………ふぅ」

 

 どうやら霊夢には頭が上がらないらしい。女の勘とか言う奴だろうか。単純に凄いと思えるし、気付いてくれたことに嬉しさが湧いてくる。

 

 

「あんたが悩むことなんてほとんどないんだから気づくに決まってるでしょ。ほら、言ってみなさい。あんたが大好きな博麗の巫女がなんでもバシッと解決してあげるわ」

 

「……本当にか?」

 

「本当よ。さ、言ってみなさい」

 

「……いや、あ、うーん……………

 

 

 

 

 お…………お金を……貸してくれるか?」

 

「え」

 

「……今日魔理沙を怒らせてしまって、お詫びにお高いキノコを買ってあげることになってな。軽く調べたら凄い値段なんだよ。少なくとも今持ってるお金を集めても払えないぐらいに。いや、正直ナメてた。すまん」

 

「…………ごめんなさい。無理です」

 

 スゴイ葛藤してた。流石に金だけは無理なんです。そう涙目で言われた。敬語に何故かなってるし。まぁ、こればかりは仕方ない。

 

 本人曰く、「霊魔も悩んでた事だし、たまには自分のカッコイイところを見せたかった」との事。髪飾りのリボンまで心なしか悲しそうに垂れていた。かわいい。

 

 

 

 夜、飲酒、縁側にて。

 

 グラスに冷酒を入れて少しずつ呑む。空を眺める。雲は少しあるが、いや、あるからこそ、月は映えていた。

 

 肴としては十分だろう。

 

 月光が霊魔を照らす。酒すら光り、より美味くなるように感じた。酒をもう一口煽る。酒は弱くはないが、そこまでは呑まない。毎回の晩酌も一杯で終わる。限界まで呑んだことはないが、今だに酔いつぶれたことがない。宴会では大概片付けの役目である。

 

 まぁ、そんなことは今はいい。今はこれだ。

 

 魔理沙から渡された魔法の本。表紙はよく分からない記号が羅列されている。(よく分からないが、ルーンと呼ばれるものか?)この魔法の基本構造が記されていると思われる本に霊魔は少なからず興奮を隠せないでいた。

 

 魔法は、決して万能ではない。

 

 霊魔自身、そこまで便利だとは思っていない。むしろ危険が伴うことだと分かっている。

 

 それでも男たるもの、未知のチカラ、魔法や超能力に憧れるだろう(個人差があります)

 

 そして、魔法を扱うための最初の1ページ目を開いて、

 

 

 固まった。

 

 

 思考再開。「ん?」と何度も呟きながら本を見回す。もう一回開き、閉じ、後ろを開き、カバーを取る。

 

 

 分かった。

 

 

「これ、カバーと内容が違う。中身が虫の図鑑だこれ……」

 

 衝撃のあまり、人目も憚らずにうなだれる。拍子抜けだ。これならオモチャとかのなりきり魔法使いセットの方がまだいいだろう。ムシて。ムシてなんだよ。

 

 ちくしょう。

 

 

 森の向こうから虫の鳴き声が聞こえてきて、妙に煩わしく感じた。




アナザータイトル「不変」

霧雨魔理沙

大体、何かあった時には首を出してくるトラブルメーカー。今回は首を出してないのに巻き込まれた。乙女脳の盗人キャラは相変わらず。霊魔とは仲よりも息が合い、実はどちらかがボケ始めると、もう片方がすかさずツッコミに回るため、ボケのみのカオスな空間になる事がない。弾幕はパワーだ!……ん?速さが足りない?知らない子ですねぇ……。

アリス・マーガトロイド

相変わらずのオカン属性。巷で噂のオトンとも仲はいいが、お互い異性としてみておらずに友人として接している。魔理沙大好き。めっちゃ大好き。霊魔特製魔理沙人形を使っておびき寄せたところ、見事ヒット。ワナにかかった実績がある。今でも魔理沙人形は枕の隣にあるとかなんとか。


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幸運少女と虫捕りの話

どうもゆめみんです。
家ではロクに書けず、通学中にチマチマ書いている毎日です。
時々、面白い小説に寄り道しますが(・∀・)

……すいません、もうちょっと頑張りますね。
月一!月一投稿を目標にしますんで!


「機は熟した」

 

 

「今こそ進軍の時である」

 

 

「我らは夢の為、浪漫を求め、万里を行く。この歩みを止めるものなど無きに等しい」

 

 

「行くぞぉ!出陣だぁぁああッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「えっ、嫌だけど」

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 博麗神社でのひと時。セミが鳴き始め、夏である事を否応なく伝えてくる。

 そんな中、青年は縁側に立って両手を腰に当てて少しつまらなそうに喋りはじめた。

「そこはあれっすよぉ。『うおおお』みたいな感じで雄叫びをあげて貰わないと」

 

「なんで男でもないのに雄叫びをあげなきゃいけないのよ。……で?なんでそんな愉快な事になったのよ」

 

 卓袱台に膝をついて頬杖をしている少女、霊夢は呆れながら口にした。

 それに対し直立不動のまま腕を組む青年、霊魔は自信満々に答える。

 

「率直に言って虫捕りがしたい!いやぁ言ってみるもんだね!霖之助に金を稼ぎたいと言ったら、『この季節は虫が実はよく売れる』と聞いてね。聞けばカブトムシを学校の自由研究に使う子供が多いが、ほとんどの子供達は上手く捕まえる事が出来ないそうだ。だから俺が代わりに捕まえれば、霖之助が買ってくれると言ってな。まさに一石二鳥!……マッタク!虫がお金になるなんていい時代になったものだな!」

 

「びっくりするほど安く買い叩かれる、っていうオチが見えるわね」

 

 この青年、かなりウキウキである。霊夢の言葉にもどこ吹く風であった。

 

「図鑑というのはいいぞぉ〜、霊夢。昆虫にはカブトムシやクワガタぐらいしかない思ってた俺の視野をこんなにも広がるなんて!図鑑というものは人間の知識の最果てにあるものだったんだなッ!」

 

「結局読んだのね。魔理沙からもらった本」

 

 魔理沙から本を受け取った事は霊魔本人から聞いていた。そして、その夜に魔法の本ではなくてうなだれていた事も知っている。その後に興味なさげに読み始めたのも。その後に霊夢は先に寝てしまったのだが、興奮度合いからみて、徹夜で虫の図鑑を読んでいたのだと十分理解できる。子供か。

 

 しかし、このテンションである。ぐったりしていた霊夢は流石についていけない。

 

「……あー、私はいいわ。神社の掃除してるから勝手に行って来なさい。今日はゆっくりしたいのよ」

 

「む、そうか……残念だ。……じゃあちょっくら行ってくる」

 

「……う」

 

 あからさまに落ち込んで霊魔は自室に向かった。子供か。

 

 断った事に結構な罪悪感があるが、ゆっくりしたいのは本当だ。最近出掛ける用事が多く、霊魔とも(朝起きる時と夜寝る時を除いて)まともに会えてない。だから霊魔と何かをしたいという思いはあるのだが、どうにも疲れすぎていた。

 

「でも仕方ないじゃない、最近忙しかったし!……にしても、このだるさは割とまずいわね。今日はやることやって昼寝しよう……」

 

 自分の気持ちを言い訳で誤魔化しながら、切り替える。霊夢は体の状態を正確に把握し、今日のスケジュールを頭の中で構築し始めた。

 

 外を見ると、ひたすらに長い棒を背負って駆ける霊魔の姿があった。

 

 あ、つまづいて転んだ。子供か。

 

 

 

 

「俺とした事がはしゃぎ過ぎた。反省だな」

 

 霊魔はそう言って息を深めに吐いた。ここは博麗神社の裏を少し歩いていったところだ。高い木々が生い茂り、中には立派な幹が生っているところもある。思わず手で撫でる。生命の雄々しさ、逞しさ、そして力強さ。幻想郷で生きる神秘のようなものが確かに感じられた。

 

「この世界は生きている」なんて、な。

 

 柄ではないが心の中でそう呟くほどには。こういうものをあまり意識して見なかった霊魔にとっては一種の感動があった。

 葉の間から照りつける太陽が眩しくも綺麗で、上を見上げるが思わず手で遮る。大きく息をつく。

 

「うん、駄目だ。……迷った」

 

 現実逃避はやめよう。

 神社の裏から歩いて来たはずだ。しかしはしゃぎながら森の中を駆け回った結果、まさかの迷子である。方角すら分からない。

 

「いい歳して迷子になるなんざ、笑い話にもならないな。元々トラブルに見舞われやすい体質とは言え、自分からドジを踏む事になるとは」

 

 とりあえずもう少しあたりを歩いてみよう。本来の目的でもある虫を探すのも忘れずに。

 知らず知らずの内に、足取りは真っ直ぐ。森のさらに奥へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 夜、少女は家出をした。

 親と思っていた人はもう親ではない。事あるごとに暴力を繰り返すあいつらを親とは絶対に認められない。認めたくない。

 自分はもう助けられることはない。助けてくれる人なんていない。

 だから逃げた。両親がどちらもいないタイミングを見計らって逃げ出した。駆けて、駆けて、駆けて……。

 息が切れた頃、少女は夜の森の中にいた。後ろにはまだ微かに道路の照明が見える。

 

 戻りたくない。もう限界。考えていたのはそれだけ。

 

 構わず少女は歩く。逃げる一心で。枝を踏み抜き、草を押し退け、歩く。

 

 闇へ。ひたすら闇へ。

 

 離れられる。あと少し。

 離れられる?あと少し?

 それでもいい。いいから早く。

 

 瞬間、足を踏み外し、奈落へ落ちていった。

 

「きゃあああ–––––!!」

 

 転がるように、吐き出されるように、現世から遠ざかり。

 

 少女は、幻想へ訪れた。

 

 

 

「これは……」

 

 霊魔は虫を見つけては逃し、見つけては逃しをしている最中のことだった。

 木の幹にあったのは大きく抉れた跡。引っ掻いた、というには明らかにおかしい怪力でくり抜かれていた。そして、伐採されたかのように倒れている木々。人間ではなく、おそらく妖怪の仕業。

 

 ……たぶん、狩りの途中だろう。

 

 幻想郷には人喰い妖怪もいる。たくさんいるわけではないが、中には人を喰べないと死んでしまう種類の妖怪もいる。そこで幻想郷では、幻想郷の住民でなく外から「幻想入りした住民ではない人間ならば喰べていい」というルールになっていたはずだ。細かいルールはあるがともかく、この跡は妖怪が外の人間を追い詰めている跡だろうと霊魔は予測した。

 そして–––––。

 

 間に合わないかもな。

 

 妖怪だって必死に生きているのだ。邪魔はいけないとは分かっている。

 霊魔は気配が強く感じる方に向かって勢いよく駆けていった。

 

 

 

 なんでなんでなんでなんでなんで–––––––––!?!?

 

 ちょうど同じ時、少女は息が切れるのさえ無視して走っていた。

 

 ほんの少し遡り、気がついた時には土の感触がした。

 黒で塗りつぶされたような穴を通ってどこかに落ちたのまでは覚えている。不思議とそんなに怪我はない。かすり傷程度だったのは意外だった。かなりの間落ちていたはずなのに。

 

 不幸だったのはこの後に、あの幼い子供に遭ったからだろう。金髪で黒い服を着る、血のように紅い眼をした女の子。

 

『あなたは、食べてもいい人間?』

 

 なんて訳の分からない事を言った後に、急に遅いかかってきたのだ。

 

 つまずく度に頭の上から空を切る音、それに当たった木か何かが砕ける音が聞こえる。偶然だが、今のところ掠るのみではある。

 

 アイツがどこにいるかなんてもう分からない。でも確実に追いかけてきている。追い詰められている!

 

「あ……!?」

 

 何かにつまづいて転ぶ。

 痛い。いや、そんなのはどうでもいい。

 生きたい。絶対に嫌だ。死にたくない。

 走らなきゃ。もう、足が動かない。

 

 かなりの時間を走っていたからか、足は疲労で棒になったかのように動かない。急激な運動に肺が酸素を、呼吸を求め、途端に息が詰まり出す。荒い呼吸に喉が悲鳴をあげる。腕さえもまともに動かない。

 

「もう、追いかけっこはおしまい?」

 

「……!!」

 

 黒い殺気が後ろから感じる。振り向くことは出来なかった。思わず悲鳴をあげようとして、それすら出来なかった。頭の中が恐怖で塗りつぶされる。

 

 死ぬ……!

 

 諦めの言葉が頭を駆け巡る。切り抜ける術は、ない。

 

 明確に、はっきりとわかる。

 

 

 殺される。

 

 

「また動かれるのもヤダし、疲れちゃった。だから、首……切るね」

 

 小さな幼女は手を凶刃の如く振りかぶり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないが、間に合ったようだな」

 

 

 狂人の腕は棍のようなもので弾かれた。

 

 

「え?」

 

 

 それは誰の口から出たものだったか。

 体の向きをずらして、攻撃を弾いたであろう青年をかろうじて見つめる。

 

 白衣と呼ばれる白い和服を纏い、赤い袴は裾が別れていてスカートではなくズボンのようになっている。肩には上から下に大きな切れ目があり、肌色の腕が露出されて見えている。

 

 右手に持っている青年の身長よりも長い棒には、端に紙のようなものがヒラヒラと漂っていた。

 

 

「……巫女?」

 

 

 その人は、人生で初めて助けてくれた人で。

 

 私にとって生涯––––––

 

 

「邪魔をしにきたの?」

 

 怒りを隠すことなく睨みつける幼女。

 それに青年は受け止めるように応える。

 

「本来なら、邪魔する気は無かったんだが……。幻想郷(ここ)のルールをあることだし、理解はしているつもりなんだがな?」

 

「なら、どうして!?」

 

「《《そんなことよりも緊急事態だからだ》》。すぐ移動しろ。ついて来いルーミア。こっちのヤツは俺が担ぐ」

 

「え……!?あっ……!?」

 

 手際よく体を回され担がれる。

 ……ってこの体勢って、お姫様だっ……!?!?

 

「舌噛むぞ、気を付けろ」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 青年とルーミアと呼ばれた少女はそのまま場所を離れた。

 

 

「霊魔、どういうこと!?」

 

 困惑しながらルーミアが告げる。

 

「知らんがさっきから嫌な気配しかしなくてな!俺が追いついたのがお前たちが襲われる直前でよかった!後ろにさっきから追いかけて来る無粋なヤツがいるぞ!」

 

「……!?この感じ!気配があからさまに!」

 

「奴さん、殺意を隠す気すらないと来た!スピード上げろよ––––!」

 

 ルーミアが顔をしかめる。担がれている少女は何が何だか分からずにただただ目を閉じてしがみついていた。恐怖を取り除くように霊魔は少女に話しかける。

 

「えーっとなぁ、子供みてぇに縮こまってるのは及第点だがな。その空いている両手を俺の首に巻きつけておけ。間違えても落とす気はないけどな?」

 

「あなたは誰?恩人?もしかして神様か何か!?」

 

「面白い事は言えるみたいだが自己紹介は後でな。しっかし、この速さなら追いつかれはしないが、撒くこともできんな。一旦迎撃してみるか」

 

「そうだね、食事を邪魔した恨みは晴らさないと」

 

 二人揃って足を止める。少女を降ろし、「変に動かないでいろ」と釘を刺しておく。動いた方が危ない時が多いし、うろちょろされたら守れないかもしれない。霊魔は思考を防衛に回す。

 

 それぞれ臨戦体勢をとる。ルーミアは浮き、霊魔は棍のようなものを構えた。

 

「ところで、その棒は何なの?」

 

「ん?大幣だよ。霊夢も持ってるお祓い棒だ。ただ、とてつもなく長いだけで」

 

「–––––––––––––ッ!!」

 

「うるせぇなこいつ。お祓い的な事は出来ないが、物理的に祓うことは出来るぜ。例えば目の前のこいつとか。性能はすぐに分かるだろうよ」

 

「そうだね。……そうだ!こいつ、食べれるかな!?」

 

「いや食うなよ。なんで『閃いた!』って感じにキラキラさせてんだ」

 

 二人の前に巨大なムカデような化け物が突撃を繰り出す。

 

「よっと!」

 

 すかさず大幣を突き出すが、化け物は方向転換で素早く回避した。

 

「がああっ!!」

 

 ルーミアが俊敏な動きの化け物を捉え、腹に突きを放つ。が、幾度となく外殻に弾かれる。それならばと噛み付くが、化け物は身体をくねらせてルーミアを木に叩きつける。

 

「アアッ!?」

 

 骨が軋む。口から体液が血と混ざって吐き出される。

 化け物はルーミアを木もろとも締め上げ始めた。

 

「祓えぃッ!」

 

 霊力を大幣に込めて振りかぶる。大幣に流れた霊力は実体化、小さくも鋭い刃となる。その光の刃は化け物の外殻を貫いた。

 

「うおッ!」

 

 化け物は奇声を上げながらルーミアを後回しにして、辺りを高速で走り回る。霊魔は化け物に刺さった大幣を掴んで吹き飛ばされないようにするが、振り回されるせいで体勢が安定せずに振り回されるままであった。

 瞬間、振り回されていた霊魔が大きい幹に衝突した。衝撃で抜けたであろう大幣と共に地面を転がる。

 

「急に襲って来たな。前口上すら碌に言えてないってのに。イテテ」

 

「えっ、あんな化け物にも言うの?バカなのかー?」

 

「うるせぇ煽るなダマレェ!そんなんだからちんちくりんってバカにされるんだ!」

 

「ちんちくりん今関係ないよね!?」

 

 二人に堪えている様子はない。少女は二次元のバトルマンガの世界にでも入ったかのような気持ちになった。ついていける気がしない。

 何故、幼女は口から胃液やら出してたのに元気なのか。

 何故、巫女の青年は振り回された挙句ぶつけられたのにケロッとしているのか。

 

 しかし、そんな疑問は次の瞬間、空気によって消し飛ばされた。

 

 

 

 深呼吸。吸って、吐く。その動作は小さく。けれど、少女にはとてつもなく重くはっきりと感じた。

 

 深呼吸。吸って、吐く。少女は青年が行なっている事だとやっと知覚した。呼吸の息が見える気がした。

 

 深呼吸。吸って、吐く。青年の赤い眼が光って見えた。青年は数瞬、少女を見てから静かに口を開く。

 

 

 

 

「名前、聞いてなかったな」

 

 

 

 

「……え?あっ、その、えぇと……」

 

 先ほどの雰囲気の違いと唐突な問いに困惑が隠せなかった。咄嗟に名前を名乗ろうとして、止まる。

 

 名前。両親–––とは思いたくない人達–––から名付けられた名前。そんなものになんの意味があるのか。名字すら名乗りたくない。

 

 故に。

 

「……名無し。今の私の名前はナナシです」

 

 今だけの、私の、私だけの名前。今までの◼︎◼︎◼︎◼︎(あんな名前)とはおさらばだ。だから、名無し。

 

 青年はそうか、とだけ呟いた。微笑む親のように優しい声だった。私の、ナナシの全てを見透かしているかのようにその声は溶け込んだ。

 

 そして青年は正面を向いた。目の前の化け物は先程から殆ど動かずに威嚇している。

 

「お前の名を決めさせてもらう。……バケムカデ、とでも呼ばせてもらおうか。では……

 

『コレハ警告デアル』」

 

 より一層静かになる。ここには「必ず聞かなくてはならない」空気があった。冷や汗が流れる。

 

「『我、ルーミア、及びナナシを害する、又はその意思がある場合、我らは我らの制約に従い防衛を行使し、バケムカデ、貴様の存在を抹消する。速やかに撤退するならば、今までの襲撃は水に流そう』。襲撃に関しては、先の迎撃をもって清算されている。貴様のこれからの行動で未来が変わるぞ」

 

『答えを示してもらおう。如何に』

 

 化け物……バケムカデの出した答えは、口の中から大型の牙を出す。つまり、それは交戦の意思。殺意の噴出を意味した。大気が震える程の声にならない叫びを上げながら、霊魔に向かっていく。

 

「仕方ない。『真名封鎖・擬似奥義展開』」

 

 霊魔はスペルカードが苦手である。

 

 しかし、それは決して弱いという意味と同義ではない。彼自身の戦い方と合わない故の苦手意識である。

 

「この一撃をもって」

 

 ならば、彼はどういう立ち位置か。それは明白。

 

 博麗の巫女である霊夢がスペルカードルールで解決することのプロフェッショナルならば。

 博麗霊魔はスペルカードルールなしによる殺しのプロフェッショナルである。

 

 構えは投擲。

 貫く軌道は直線。

 謳うは必中。

 

 放ちし時既に、回避は不可能の一射である。

 

「手向けと受け取るがいい」

 

 霊力が大幣に流れ、白い光が呼応し、全体に巡る。先端に眩いほどの刃が発現する。

 

「『流星の如く全力投射(ただ投げるだけだが)』」

 

 曰く、大地から放たれる一筋の咆哮。

 

 

 一瞬のことだった。少なくともナナシにとっては。

 巫女の青年が警告を促し、ムカデが凄い速度で襲いかかり、それを越える速度でお祓い棒を投げた。

 

 たったそれだけで決着は着いたのだから。

 

「は、はは……」

 

 乾いた笑いしか出ない。ムカデの口内へ入っていったお祓い棒が真っ直ぐ貫いたことは分かった。お祓い棒が見えたわけではなく。お祓い棒の光が見せたその軌道を見ただけなのだが。

 ムカデは力無く崩れていき、青年は棒を担いで息を吐いた。

 

「ふぅ、随分呆気ないな」

 

「『ふぅ、呆気ないな』じゃなーい!!私の出番は!?何もすることなく終わっちゃったじゃない!」

 

「んぅ?……ああなんだ、戦いたかったのか?言ってくれりゃ譲ったのに」

 

「そうだけどそうじゃない!久しぶりに一緒に遊べると思ったのに!」

 

「すまんすまん。バケムカデの肉やるから許してくれ」

 

「わぁい」

 

「冗談だバカッ!ちゃんと美味い飯食わせてやるからよだれ垂らすな!」

 

「えー」

 

「ふふっ」

 

 あ、思わず笑ってしまった。

 二人がこっちを見る。

 

 違うの!バカにした訳ではなく、ただ微笑ましいなー、とね?

 

 ナナシはわたわた焦りながら言い訳を紡ごうとするが「えっと、これはー、そのー」と、なかなか口から出ない。霊魔が近づき、ナナシの前に立って手を出した。

 

「大丈夫だったか?」

 

 優しく聞かれる。

 

「えっ……は、はい!」

 

 少しどもってしまったが、はっきり伝える。

 ナナシは両手で手を掴み、引っ張りあげられる。

 

 ナナシはもう一度「ふふっ」と笑い、顔を綻ばせた。

 

 

 

「ねぇ、あなたは食べてもいい人間?」

 

「え!?そ、それって……」

 

「おい、トラウマを抉るな。……いいか、こいつには正直に『食べてはいけない人間です』って言うか、こいつ自体を手懐ければいい。それでなんとかなる」

 

「そ、そうだったんですね」

 

「この世界の住民の関係者なら食べられないがな。ちゃんとルールはあるんだ」

 

「この……世界?日本じゃないんですか?」

 

「ああ、違うぜ。外来人のナナシさんよ。ここは幻想郷。……そうだな、『忘れられた者達の楽園』という認識でいい」

 

「『忘れられた者達の楽園』……」

 

「だから辺りは化け物やら妖怪だらけだぜ?それが怖くなけりゃ楽しくやれるがな」

 

「そうなんですか……」

 

「そーなのかー」

 

「ルーミア、テメェは知ってるだろ。てかお前がそうだろ」

 

「え!?そうなの!?」

 

「そーなのだー」

 

「こいつは人喰い妖怪のルーミア。定期的に人を喰う妖怪だ。ちゃんと人は選んでるぞ?……たぶん」

 

「よく見たらこんなに可愛いのに妖怪……」

 

「いひゃいいひゃい、ほおをちゅみゃむにゃー」

 

「……なんというか。お前、結構したたかな人って言われないか?」

 

「何回かありますよ。そこらの雑草を食べてた所を友達に見られた時とか。その後お菓子貰えました!」

 

「妖怪でもしないことやってるよー」

 

「霊夢でも流石に……やってないよな?」

 

 雑談に花を咲かせてしばらく。

 

「ところで、お前みたいなやつはここに住むか、外の……元の世界に帰るかを選べる。お前はどうする?」

 

 そう問われて、ナナシはしばらく考える。親の顔はもう見たくない。学校にも思い入れはない。この世界には元の世界にないものがある。こっちにい続けた方が楽しいだろう。

 

 だからこそ。

 

「決めました!元の世界に戻ります!」

 

「うん。……なんでか聞いてもいいか?」

 

「……今まで生きていたんですけど、私、実は何かから逃げるのって初めてなんです。親に殴られた時も何度も反撃したし、いじめられたらまっすぐ戦いました。今日初めて逃げて、なんていうか、恥ずかしくって。もう逃げたくない、って弱いながら思ったんです。助けられちゃいましたけど。それで、この世界に留まるって思うと、それは元の世界から逃げてることになるんじゃないかなって。そう思ったんです」

 

「……意外と強いんだね」

 

「うん、うん」

 

 ルーミアは感想を呟き、巫女さんはただうなづいてくれている。それがナナシにとってはありがたかった。

 

「どうせなら逃げずに立ち向かって、満足したらここに戻って来ます!それじゃあダメでしょうか!あなたにも会いたいし、ルーミアちゃんにもまた会いたい!食べられたくはないですけど、改めて友達になりたいんです!どうでしょうか!」

 

 これがナナシである私の感情であり、意思であり、結論。

 

 巫女さんが口を開く。

 

「ナナシの今までのことはよく分からんから、これからについて俺に言えることを少し。まず、少なくともここから戻った人間は二度とここに来ることはない」

 

「え!?」

 

「これは事実だ。全ての人々は一時の夢の中だと信じて疑わない。お前も例外はないだろうとも思う。ここは夢物語に過ぎない。現実だと証明するものもない。必ず、夢かも、とは思うだろう。そんな人間は絶対と言っていいほどここには来れない」

 

「……」

 

 目に見えて沈むナナシ。巫女は言葉を続ける。

 

「次に、動機はともかくだ。その決断をしたのは、おまえが二人目だ」

 

「……え?」

 

「そいつは今も幻想郷にいるよ。……『幻想郷はすべてを受け入れる』という言葉がある。この言葉はきっと、お前のその決断さえも包み込んでくれる筈だ。まぁなんだ、たとえ夢であろうと信じろ。そうすりゃきっと届く」

 

「……っ!はいっ!」

 

「私は初耳だなー。そんなやついたかー?」

 

「いたさ。だが残念。名前までは覚えちゃいねぇがな」

 

「そうかー、残念だー」

 

 

「さて、そろそろ虫捕りを再開するかね」

 

「虫捕り?」

 

「だからこんなとこにいたのかー。でも網とか籠は?」

 

「え?手掴みじゃないのか?」

 

「「え?」」

 

「えっ」

 

「……よく虫捕りをしようと思ったね」

 

「呆れればいいんですかね?尊敬すればいいんですかね?」

 

「呆れよう、今すぐにね!」

 

「通りで、全然捕まえられないと思ったが……」

 

「思った時点でおかしいことに気づけバーカ!」

 

「なんだと!」

 

「まあまあ!取り敢えず私は……どうすればいいですかね!?」

 

「あ?あー、一番は博麗神社に行くのがいいかな。基本的に霊夢に元の場所に帰すの任せてるから、今回もそうしよう」

 

「レイムさん?誰ですか?」

 

「こいつの彼女」

 

「ん?」

 

「へ?えー!?!?彼女持ち!?」

 

「そうだが?それよりルーミア、案内してやれ」

 

「えー?そっちはどうすんの?」

 

「言ったろ、虫捕りってな」

 

「網を籠もないのに?」

 

「あー……まぁな」

 

「ふーん……。じゃあ行こ、ナナシ」

 

「は、はい。……あの!!」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「名前!教えてください!」

 

「ああ、まだ言ってなかったっけか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  博麗霊魔。『博麗のミコ』をやってる居候だよ」

 

 

「いい名前ですね!霊魔さん、また!」

 

「ああ。またな」

 

 

 

 

 

 

 

 ––––あんたは私の子だ!

 

 ––––私が決める。あなたの名前は……

 

 ––––……いい名前だな。お前らしい、いい名だ。

 

 

 ふと思い出す。かつての彼らの面影を。

 

 捨てた訳ではない。置いておく必要があっただけだ。

 

 かつて置いていった名前の軌跡を遡る。

 

 

 一人。その名を叫び、家族となった。

 

 そしていなくなった。

 

 一人。その名を決め、道を定めてくれた。

 

 そしていなくなった。

 

 一人。その名を呼び、在り方を認めてくれた。

 

 そして……いなくなった。

 

 

 

 いや、よそう。

 

 ナナシは俺とは名無しだった理由が異なる。たかが少し似ているだけで思いふけることもない。境遇が違うのだ。

 

 まずは目の前のお節介を終わらそう。

 

「ふむ、全部で4匹。悪い予感は未だ継続していたということか」

 

 目の前には先程のバケムカデの群れ。先程とは違って殺意はつゆほどもない。気配こそあったが会話が終わるまでずっと動く気はないと霊魔は感づいていた。

 

「疑問には思っていた。お前らみたいな妖怪は今まで見たことがない。ならば誰かが創り出したか、送ってきたか、だ。今思えば納得だ。お前らは主人を守る為にルーミアを殺そうと追尾していたはずが、俺が現れたために逆にお前ら自身が脅威になってしまったようだが……皮肉な話だな、創った主人から恐れられるとは」

 

「自覚こそなかったがこれは能力の発現、それもかなり強力な部類に入る。助かるためだけに因果をも改変させる。どんなに虐げられようと決して折れることのない精神と肉体。言うならば、『何が何でも死なない程度の能力』。その能力でナナシに創られたお前達は、防衛を目的とした出来の悪い道化だったと言うことか」

 

 ムカデ達は何も応えず、ただ佇む。それは機械のような空虚さを感じさせた。

 

「下位互換とはいえ、不死よりもタチが悪いな。死にたい時に死ねる分幸運とも言えるが。さて、せめてもの慈悲だ。人形の貴様らに役目を与えよう。僅かな誇りと名誉を以って殉ずるがいい」

 

 明確なナナシへの殺意を見せる。それに反応するかのようにバケムカデ達は霊魔に目を向けた。威嚇をする者も現れる。

 

 この距離ならばナナシもルーミアも気付くことはないだろう。彼らという存在は彼女らに見せるには目に余る。

 

 ––––さぁ来い。俺は敵だ。

 

「臆さずかかってくるがいい。生半可な望みを果たさせるほど、この身は温くはないぞ?」

 

 霊魔は不遜に笑いながら大幣を構えた。

 

 

 

「夕方か。しまった、今日のおやつの仕込みしたまま忘れていたな。霊夢が怒ってなければいいが」

 

 森の中を歩きながら思案に耽る。思ったより熱中してしまったようだ。霊夢が心配になる。

 

 というより、この後に霊夢によって引き起こされるであろう、自分の身の安全を案じているのだが。

 

「昼飯も食べてなかったな。道理で腹が減っているわけだ。人里に寄って買い物して帰るか」

 

 食欲もある、今日は豪勢な食事にしようか。喜んでくれるといいが。

 そう思いながら道を変えようとして、立ち止まる。

 

「あ。迷子だったの忘れてた」

 

 霊魔は今になってやっと自分の置かれてる立場をおもいだし、思わずうなだれた。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わり、博麗神社では––––

 

 

「霊夢!?!?」

 

 

 ––––居間にて霊夢が倒れていた。

 

 

 




ル「飛んでった大幣どうすんの?」
霊「ちゃんと戻ってきてくれるぞ、ホラ」
ル&名無し「「すげぇ!」」

ルーミア
宵闇の人喰い妖怪。なのにもかかわらず、今回宵闇要素なしという少し残念なポジションに。霊魔とは実は気が置けない程の仲なのだが、その分、喧嘩した時にお互い躊躇いがない(平気で目潰しとか急所を狙う)。最終的に二人ともボロボロになりながら夕焼けをバックに握手して仲直りする。どこの不良マンガだよ。

ナナシ(名無し)
本名募集中。でも本名は出ないと思う。多分、きっと、メイビー。『何が何でも死なない程度の能力』を持ち、繁殖能力さえあればほとんどゴキブリと変わらないぐらいのしぶとさを備えている。自覚はない。実は一週間雑草で過ごしていたにもかかわらず、栄養失調にならないどころか、全ての栄養がバランスよく取れていると診断されたウラ話がある。いんがのかいへんってすげー。

大幣(お祓い棒)
霊魔の愛用しているお祓い(?)道具。悪い奴らを(物理的に)滅する事が出来る。大幣に流す霊力の量によって、先端に出来る刃の大きさを変える事が出来、小さい穂先で突き刺し、大きくして叩き潰す事も出来る万能兵器(!?)。投げた後は自分で戻ってくる機能付き。必殺技はまだナイショ。実直な性格の持ち主。

博麗霊魔
博麗のミコ(笑)の居候。

博麗霊夢
博麗の巫女。雑草だけで一週間生き残るしぶとさを持つ。


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ルーミアと霊夢が倒れた話

どうもゆめみんです。
月一ギリギリです。
忙しかったんです。
嘘です、遊んでました。

もうちょい頑張りたいなぁ……(吐血)


「れ、霊夢が倒れてる!?!?」

 

「どうした!?」

 

「うわぁ!?」

 

「早ッ!?霊魔なんでいるの!?前話から一分も経ってないんだけど!」

 

「霊夢が倒れたと聞いて」

 

「あんたは実は妖怪じゃないの?」

 

「そんなことより大丈夫か霊夢!?」

 

「おお霊夢さんよ。死んでしまうとは情けない」

 

「お前まだ帰ってなかったのかナナシ!ふざけてる暇あったらさっさと手伝え!!」

 

 

 

「う…うん……」

 

「大丈夫か?」

 霊夢が目覚めた時、目に移ったのは霊魔の顔。と、後ろで騒いでいるルーミアと女の子であった。

 

「そら、水だ。とりあえず飲んどけ」

 

「ありがとう、霊魔」

 

「一体、何があったんだ?」

 

「……実はあんまり覚えてないのよ」

 

「そうなのか」

 

「急にクラッとして、転んで壁の角に頭ぶつけてからの記憶がないの」

 

「全部覚えてんじゃねぇかそれ。十中八九それで気絶してんじゃねぇか」

 

「気絶はしてないわ。気を失っていただけよ」

 

「だれか永琳連れてこい。こいつは重症だ」

 

「……ところで、その娘は誰?」

 

「私?私はルーミ「お前じゃない」

 

「私ですか?」

 

「お前だろうよ。自己紹介してやれ」

 

「ナナシと言います。そうですね、霊魔さんの……妹です(キリッ」

 

「よし、今から外の世界に帰してやる。有り難く思え」

 

「待って!?待って、冗談ですぅ!?元の世界に戻すのは霊夢さんしか出来ないんじゃないんですか!?」

 

「出来ないとは言ってない。ただ信頼性が霊夢の方がいいと言うだけだ」

 

「……失敗したことあるんですか……?」

 

「バラバラになった事があるぞ(大幣が)」

 

「いやぁぁぁあ死にたくないぃぃぃい!!!」

 

「離してあげなさいよ。そのまま帰したらトラウマものよ?」

 

「さっすがレイム=サン!!助かりましたー!!」

 

「全く。……私が帰せばいいのね?」

 

「具合悪いなら無理すんな。一晩ぐらいならこいつらは俺が世話してやる。お前は治すことに専念しとけ」

 

「ん、了解。頼むわね」

 

「看病なら任せとけ。おいルーミア寝んな、ナナシ来い、会議すっぞ」

 

「んみゅ?」

 

「はーい」

 

「……いいか。霊夢が倒れた。俺だけでは知識面では心許ない。協力してくれ」

 

「わかりました!」

 

「えー」

 

「ルーミア、霊夢が満足したらスゴイ肉料理を食わせてやる」

 

「やる!」

 

「私は!?私にはないんですか!?」

 

「ナナシには……そうだな。もちろん、霊夢が満足してたら今日のお前への食事は豪華になるだろう」

 

「ほうほう」

 

「まぁ、ダメだったら俺が外の世界まで案内してやる」

 

「絶ッ対にぃ!!成功させっぞぉぉおお!!!」

 

「お、おおお!?!?」

 

「お前面白いな。どんだけ嫌なんだよ」

 

 

 作戦会議。卓袱台の囲み、腕を某司令官のように組む二人と『そーなのかー』ポーズで待機する幼女。これでも真剣である。

 

「まず、どうするべきか?」

 

「このまま寝かせておく選択肢はないんですか?」

 

「霊夢にしかできない不測の事態が出てくると困る。だから早めに治してもらいたいし、それは霊夢も分かっている筈だ。なんにせよ、悪化だけは避けねぇとな」

 

「何か飲み物を飲ませればいいんじゃないかー?」

 

「「それだ!!」」

 

「さっきも渡したが、水を置いておけば良いのか?」

 

「確か、病人にいい飲み物があった筈ですよ!」

 

「そうなのか!?どんなのだ!?」

 

「……すいません、名前しか分からなくて、こんな漢字だった筈ですけど……」

 

「……ん、これならわかるぞ。ちょっと待ってろ、作ってくる」

 

 

 

「霊夢大丈夫か?飲み物を持ってきた。飲みたくなったらこっちも飲んでおけ」

 

「助かるわ、ありがとう。これは」

 

「白湯だ」

 

「白湯?」

 

白湯(パイタン)だ」

 

「脂じゃない!?白湯(さゆ)持ってきなさいよ!!ふざけんな!!」

 

 白湯(パイタン)……鶏白湯ラーメンなどに使われるゼラチン質と脂肪が主成分のスープの素。

 

 

 

「失敗のようだ」

 

「綺麗なタンコブだなー」

 

「ちゃんと白湯(これ)持って行ったんですか?」

 

 紙に書いた文字を見せながらナナシが言う。

 

「ああ、ちゃんと白湯(パイタン)を持って行ったぞ!」

 

「私でも違うと分かるわバカ」

 

「ルーミアちゃんが素になった!?」

 

 

「黙ってれば訳わかんないこと言って。天才かあんたら。そもそもよ?私妖怪よ?妖怪の私が人間の常識なんか分かるわけないのになんで人間のあんたらはポンコツなの?」

 

「はい……」←知らない

 

「返す言葉がないです……」←うろ覚え

 

「二人ともなんで分からないの?バカなの?」

 

「「風邪って一日で治るから」」

 

「分かったわ。あんたらはバカよ」

 

「うー、弟に看病任せないで私もやっておけばよかったぁ!」

 

「知らないは免罪符にはならんか。……さて次はどうするか?」

 

「取り敢えず、霊魔さんは白湯を持って行ってあげて下さいよ」

 

白湯(パイタン)?」

 

白湯(さゆ)っ!!」

 

 

「持っていったぞ。.どうする?」

 

「どうしましょう?」

 

「二人とも、本当に何も出ないの?」

 

「ああ」

 

「はい」

 

「ほんっとーに?」

 

「そうだが?」

 

「ですね……」

 

「……そーなのかー、って現実逃避もしたくなるよ、まったく。次は消化に良いものを作って食べさせなさいよ」

 

「消化に良いものですか……そんなのあったかな?」

 

「流石に私も人間にとっての良いものは分からないわよ?」

 

「大体、大好物なものなら消化もいいんじゃないか?」

 

「きっとそうですね」

 

「それなら……」

 

「そりゃな、……」

 

「確実に……」

 

 

「「「肉」」」

 

 

「だよね!」

 

「だな」

 

「でしょ!」

 

 

 

「霊夢、消化に良いものを持って来たぞ」

 

「ありがとう。でも、今は食欲がないの……」

 

「後でもいいから、しっかりと食べてくれ。食べれるぐらい元気な方が早く治るぞ」

 

「……一つ、聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

「その鉄板は何?」

 

 

「ステーキだが?」

 

「消化の良いものはどこよ?」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

「「……」」

 

 

「霊魔」

 

「……はい」

 

「ルーミアとナナシも呼んできなさい」

 

 

 

「何がダメだったんだろうか」

 

「まったくもって分からないですね。迷宮入りです」

 

「だーかーら!!なんであんたらは知らないの!?」

 

「お前だって肉だって言ったろ!?」

 

「私の大好物を言っただけよ!!たまたま一緒だったから安心しちゃったけど!!そっちこそ、なんで肉だって答えたの!?」

 

「私だって自分の大好物なものを答えたよ!?」

 

「俺はちゃんと霊夢を好きなのを言ったぞ!?以前に『ニクちょーうめー」って本人が言ってたからな!!」

 

「そんな言い方は博麗の巫女はしないよ!!勝手に捏造すんな!!」

 

「どう考えても思春期男子の台詞ですよ霊魔さん!?あんな綺麗な人が言うわけないじゃないですか!!」

 

 息が切れる三人。とりあえず霊魔は、持って帰ったステーキに手を伸ばす二人にフォークを投げた。

 

 

 

 魔理沙は何の気なしに寄っただけである。もし愉快な状況だったら賽銭でも入れてやろうかと、そのぐらいの軽い気持ちで博麗神社に来ていた。

 喧騒が聞こえるにつれて「ありゃ、本当に賽銭を入れることになりそうかも」と、そう思っていた程度だった。

 

「おーい、てめぇら遊びに来てやったぞー!」

 

「「ギャァァアアア!!」」

 

「これは霊夢のステーキだろうがぁ!!気安く触んなこの役立たずどもがぁあ!!」

 

「ええええええ!?霊魔さんキャラ変わってません!?」

 

「うるさい!!お前らがポンコツなのが悪いんだろ!?これは正当な報酬だ!!」

 

「うるせぇ、霊夢を満足させたら、つっただろうが!!」

 

「食わせろ!!」

 

「食べたい!!」

 

「 対 価 を 払 え ッ !!」

 

 

 魔理沙は人目もはばからず噴き出した。

 

 

 

 

「なぁ、三人集まったらよ。流石に正解の一つや二つは出るぜ?ぷっふふ、なんで、肉とか、渡そうと思うんだよぉ!!そこはお粥とかじゃねぇの!?あっはっは!!やっべ腹痛い!!アヒャヒャヒャ!!」

 

「魔理沙に久しぶりに殺意が湧いた」

 

「同じく」

 

「初めましてですけど、私も」

 

「まぁいいや!アリス呼んでくるよ。私よか看病は得意そうだしな。悪かったと思ってるし、ちゃんと助けてやるよ。ありがたく思え」

 

「「「断る」」」

 

「……いい性格してんなお前ら。霊夢に熱があるならちゃんと冷やせよ?じゃあまた来るわ」

 

「「「二度と来んな」」」

 

 

 

 

「あいつ、助けてやるとかほざいてたが、結局は他人任せじゃねぇか?」

 

「他人任せでも、あいつの手は借りたくない」

 

「いっそ、来る前に治しちゃいましょう」

 

「「「……」」」

 

「「さて、どうしよう?」」

 

「頭を働かせろポンコツども!!」

 

 

「しょうがないか。非常に業腹だが、魔理沙がさっき言っていたお粥?なるものを作ってみよう」

 

「オカユ?」

 

「あ、それがありましたね!!」

 

「「知っているのかナナシ!?」」

 

「任せてください!まず、コメと水を用意します」

 

「おお……!」

 

「これならいけるんじゃない!?」

 

「そして、調理します!」

 

「「ん?」」

 

「出来ます」

 

「「ちょっと待て」」

 

「どうかしました?」

 

「どうもこうもないよ!?」

 

「材料以外、具体的な事がわかってないんだが!?」

 

「当たり前でしょう!私に頼るのがダメなんです!」

 

「さも当然の事のように言うな!」

 

「あーもう!これしか分からないってなら仕方ない。試行錯誤して作るしかないか」

 

「出来るの霊魔?」

 

「やってみる。なんとか形にしてこよう」

 

 

 

「霊夢、さっきはすまなかった」

 

「……あんたも私も風邪なんかほとんどかからないから仕方ないかもしれないけど、あれはね……」

 

「とりあえず、オカユを作ってみたんだが……」

 

「あれ?霊魔ってお粥作ったことあった?」

 

「ない。だから、それらしくなるように作ってみたのだが……」

 

「」←大量の餅

 

「どうやっても餅になってしまった。すまない」

 

「あんた、はじめて作る料理だけはダメダメなんだから。……今から作り方教えるからその通りに作りなさい。いい?まずは……」

 

 

 

「作れたぞ」

 

「流石霊魔さん!私は出来るって信じてました!!」

 

「信じてるならもう少し教えてくれてもよかったんじゃない?」

 

「お礼と言ってはなんだが、プレゼントがある」

 

「えっ、なに?」

 

「なんですか?」

 

「これ」←大量の餅

 

「「……」」

 

「……」

 

「「……えっ」」

 

「じゃあ、俺はステーキを……」

 

「「させるかぁぁああ!!」」

 

「グワァァァアアア!!目がぁぁ!?」

 

「何勝手にステーキにありつこうとしてるんですか!?それに餅て!?せめてご飯にしてくださいよ!!」

 

「うるせぇ!!テメェらホント使えなかったじゃねぇか!!そんな奴らに食事を与えるだけありがたいと思え!!」

 

「どうせオカユの失敗作を押し付けてるだけでしょ!?自分の失敗は自分でなんとかしてよ!!」

 

「なんだクソガキ」

 

「やんのかポンコツ」

 

「あ?」

 

「はん?」

 

「なんで喧嘩腰なんですか!?やめましょうよ!?」

 

「我、奴を滅さんと欲す」

 

「凄惨の時の来たれり、我は汝を殺す者」

 

「何言ってんですか!?変な風に言っても、両方共『お前を殺す』としか言ってないじゃないですか!?こういうのはゲームかなんかで決めましょうよ!!」

 

「ゲーム?」

 

「……そうですね、ジャンケンで決めましょう。それなら公平ですし」

 

「……まぁ文句はない」

 

「同じく」

 

「なら、細かいルールを。勝ったらではなく、負けたら脱落で、さっさと餅を食べててください。しかし、二回で。二回負けて脱落です。また、グー、チョキ、パー以外の手は認めない。これでどうですか?」

 

「「異議なし」」

 

「決着はこれで決めてやる。引導を渡してやろう、ルーミア」

 

「私に勝てると思ってるの?返り討ちよ」

 

「熱い戦いですねぇ。私はグー出してますんで好きにやっててください」

 

 

「「「最初はグー!」」」

 

「「「ジャンケンポン!」」」

 

 

 霊魔、ルーミア パー

 

 ナナシ チョキ

 

 

「二人とも、あと一回ですね」

 

「「何ぃぃぃい!?」」

 

「貴様!?さっきグーを出すと……」

 

「嘘ですよ?ふつーに」

 

「嘘なんて卑怯よ!」

 

「ルールに抵触していなければいいんですよ。ちゃんと確認しましたよね?私を気にも留めずに見落としたあなた方の落ち度ですよ」

 

「ぐぬっ……!」

 

「戦いは始まっていた……か!やってくれる!」

 

「ステーキは私のものです。なんで脱落という形を取ったのかも教えましょう。二人勝ちでステーキを半分にさせないためですよ……!」

 

「ちぃ……!ちっぽけな温情すらないのか!」

 

「完全に私たちに餅を押し付けようとしている!?何この子怖いっ!」

 

「ふっふっふ、今のうちにきな粉と醤油と海苔の準備をしておくことです……!あ、後で少し餅貰ってもいいですか?食べたくなってきた」

 

「黙れ!あんこと大根おろしを忘れるな!」

 

「違う、怒るところはそこじゃないよ霊魔」

 

「じゃあ、次はパーを出しましょうかね」

 

「だが、魂胆さえ分かれば恐るるに足らず!負けの二文字を叩き込んでやる!」

 

 

「「「最初はグー!!」」」

 

「「「ジャァンケンポォン!!」」」

 

 

 霊魔 グー

 

 ナナシ パー

 

 

「なんだってェー!?」

 

「正直に言ったのに、なんで信じてくれないんでしょうか……?ぷふっ、悲しいです」

 

「思いっきり笑ってんじゃねぇか!」

 

「喜ぶのは私の手を見てから言ってよ」

 

「えっ……?なんですかそれ!?」

 

 ルーミア 闇の能力により視認不可

 

「お前……!」

 

「ふっふっふ」

 

「この作品で初めて使った能力がこんなくだらない事でいいのか!」

 

「ほっとけ!」

 

「そんな……!ほぼ後出しじゃないですか!卑怯ですよ!」

 

「今、盛大なブーメランが飛んで行ったな」

 

「お前が言うなッ!!」

 

「グヘァ!?」

 

「あ、刺さった」

 

「ちゃんと私は手を出してるよ?みんなから見えないだけで、ね?ねぇ霊魔、なんの手がいい?」

 

「え?……!?そうか、これでチョキを出せばあいこになるッ!如何にお前を説得出来るかがカギになるのか……!」

 

「そういうことよ。さぁ、どうする?」

 

「……は、」

 

「は?」

 

 

 

 

「博麗神社の特製缶バッジをやるよ」

 

 

 

 

 ルーミア パー

 

 

「餅でも食ってろ」

 

「何故だぁぁああ!?」

 

「いやいらないでしょ」

 

「無料でも少し悩みますよ」

 

「後はあんただけだよ、ナナシ」

 

「ぐっ……、圧倒的不利に……!一回まで負けられるけどそれまでに勝てるかどうか……!」

 

「さぁやるか」

 

「霊魔、あんたは脱落したろ」

 

「ふっ、俺をよく見ろ!」

 

「なんで上の服脱いでいるんですか!?」

 

「露出狂の変態だったのかー」

 

「違う!外の世界には服を生贄にすることでジャンケンを再開させることができるという……。その名もヤキューケン!俺のライフは服の枚数だ!」

 

「……そんなのあるの?」

 

「ありますね。本来の目的が服を脱ぐ過程であるはずのゲームですが」

 

「霊魔だからこそやれるってことだね?」

 

「そうですね、霊魔さんみたいな露出になんの羞恥も持たない変人にしか出来ない芸当です」

 

「喧嘩なら買うぞ?」

 

「さぁ、行くよ……」

 

「今度こそ!」

 

「絶対に勝つ!」

 

「「「最初はグー!!!」」」

 

「「「ズァンケェン……!!!」」」

 

「ねぇ、うるさいんだけど」

 

「「「……」」」

 

「ねぇ」

 

 

 

 

「でも、本当に珍しいわね。霊夢が風邪なんて」

 

「だろ?しかも霊魔が面白おかしく看病してるから笑えてきてよ。でも霊夢にもしものことがあったら怖いからさ、頼むよ」

 

「別に構わないけど……。もう少し色々持ってきた方が良かったかしら」

 

「お前の家にいた時はそれの二倍は持ってこようとしたろ。それぐらいで十分だっての」

 

「そう?」

 

「そうだよ。……おーい、アリス連れてきたぞ……」

 

 

 

「「「」」」

 

 

「あら、魔理沙にアリスじゃない」

 

 

 

「……どゆ状況?」

 

「やかましかったから、殴って止めた」

 

「目覚まし時計なのかこいつらは」

 

「霊夢、後は私が看病するから寝てなさい」

 

「ええ、頼むわ」

 

 

 

「あーあ、畳に三つの穴が出来ちまってるぜ」

 

「まったくだ」

 

「霊魔、起きたか」

 

「やれやれ、看病は苦手なようだ。後は任せていいか?」

 

「あぁ、いいけど。どこか行くのか?」

 

「外の世界に。こいつが外の住人だからそろそろ帰しに行ってくる」

 

「そうか、いってらー」

 

「ナナシ起きろ。ま、いいか。ついでにルーミアも連れて行こう。よいしょっと」

 

 

 

 二人を担ぎ、博麗神社前の鳥居を走ってくぐる。世界に波紋が起き、景観が瞬時に切り替わる。

 

「ん。ここは……」

 

「帰って来たぞ。お前の世界だ」

 

「あれ、でも……」

 

「お前は少しでも早く戻れ」

 

 霊魔の眼の奥が透き通るほど綺麗だとナナシは思った。自身を心配している言葉だとしても、少し違和感があった。

 

「なんでですか?あの空間の中に私はいちゃダメなんですか?」

 

 思ったよりも言葉に棘があったことにナナシは驚き、心の中で自嘲する。霊魔は少し考えるように俯いたあと、ナナシに目を向けて言う。

 

「ああ、俺にとって不都合だ」

 

 突きつけられたのは明確な拒絶。ナナシは彼の言ってることに間違いはないと感じた。同時に、本当は私に優しさをかけた上での言葉というのも理解できた。

 俺にとって。それはつまり、霊魔のみが拒否しているということであり、向こうの世界の人たちの総意ではない。

 

「理由を聞いて、いいですか」

 

 まだだ。泣くのはまだ早い。

 

「近いうち、あそこには俺を中心とした異変が起こるだろう。その時、お前がいればお前自身が死んでしまうこともある。代わりに誰かの命が消えるかもしれない。そんなところへ、生きるだけの能力を持った人間がいるだけでも自殺行為に等しい」

 

「えっ?生きる……?」

 

「自覚はなかったか。思えば当然か。以前にムカデの化け物がいただろう。あれはお前が喚び出したものだ。お前の生きたい、という意思でだ。もっとも、あの程度ではまともに勝つことすら出来ないがな」

 

「はい……」

 

 ナナシは力無くうなづく。

 

「あなたはこれからのことで、危険があることを知ってるんですね」

 

「……ああ、そうだ」

 

「最後にひとつだけ」

 

 

 

 

 

「あなたは私が戻ってくるときまで、生きてますか?」

 

 

 

 

 

「……分からない。明日死ぬかも俺には分からん」

 

「誤魔化さないで下さい……!」

 

「……」

 

 今のナナシには溢れ出る涙を止めることは出来なかった。止める気も起きなかった。泣きながらも前を見据えて言葉を重ねる。

 

「たった一日やそこらしかいなくても、あなたがたが優しい人というのは、いい人だというのは分かります!霊夢さんも!ルーミアさんも!みんな楽しく生きている事も!だって私の恩人だからッ!!」

 

「……」

 

「そんな人達に『しばらくしたら死ぬかもしれない』と言われて、黙っていられると思いますか?」

 

「思わないだろう」

 

「……ッ!」

 

「だから連れてきた。お前の意思が介在する前にな。……以前、俺はお前のようなやつを知っていた」

 

「どういう事ですか?」

 

「終始ふざけながら笑ってる奴だった。調子に乗って、ほかのやつらを怒らせて、それでも笑いながら怒られていた」

 

「……その人、どうなったんですか?」

 

 聞かずにはいられなかった。まるでナナシが辿る未来の一つのようで。きっと今、彼はまだ誰にも話していない事を話してくれている。本来なら、私たちが決して聞いてはいけない事を。

 

「死んだ。俺のせいでな。俺に巻き込まれて、あっけなく死んだ。あの時は呆然としてただ見ることしか出来なかった」

 

「弟がいるんだろう?今はその場所に帰ってやれ。『今、俺たちの世界に留まらない』それはお前が出した結論のはずだ」

 

 

 

 

 御九字社と呼ばれた神社。その鳥居が博麗神社に通じる神隠しの門であり、博麗神社と違って寂れてしまった場所。宮司はおらず、時々不良がここへ来る。

 そこで霊魔は、御九字社の倉庫に隠しておいた日本酒を持って石階段に座った。お猪口は二つ用意している。

 

「起きていたか」

 

「結構前からね。あれが正解なの?」

 

「正解かどうかまでは知らん。だが、俺が決断した事だ。お前が気にする必要はない」

 

「そう。……彼女、弟いたのね?」

 

「看病のときに口にしていただろう」

 

「それだけ?弟が死んでるとは思わなかったの?それとも、直感ってやつかしら」

 

 からからと笑う金髪の女性は、実に楽しげだった。楽しげに赤いリボンを取る。

 

「まぁ、あなたが答えにくい事は分かってるし、そんな事はどうでもいいわ」

 

 女性は立ち上がり、振り返る。どこまでも深い赤の瞳は真っ直ぐと霊魔を写していた。

 

「あなたは食べてもいい人間?それとも……殺していい人間?」

 

「せっかくの酒がお楽しみになったな」

 

「いやよ、酒なんて。ありのままのあなたを殺したいのに」

 

「こっちもナナシのムカデで体が鈍ってたことに気づいたんでな。手加減は無しでいけるぞ、ルーミア」

 

 大人の姿になったルーミアは楽しそうに笑う。狂気さえも見せず、ただ純粋に。瞬間、周りは闇夜に覆われた。

 

「途中から幼い言葉を使うことすらやめやがって。絶対的秘密だと念を押してた筈だが」

 

「そうだったかしら?これから死ぬ人には意味はないでしょう?最期に聞くわ。そろそろ教えてくれないかしら。私の封印を解いて、何がしたいのかしら?」

 

「最期、か。ならば答えなくていいな。先程、泣きながら『死ぬな』と言われたばかりなのでな。精々、生き抜くとしようか!」

 

 二人は交差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、タンコブを頭に生やしたルーミアと共にいなくなったことを霊夢に怒られる霊魔の姿があった。




次回、シリアス回。

霊魔の過去に少し触れましょう。


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小休止 博麗霊魔と硝子の記憶

どうもゆめみんです。
今回はシリアス。

……感想を送ってもいいんだよ?(チラッチラッ)


 ルーミアと戦闘を終えた直後。

 無造作に転がっているルーミアを尻目に、赤いリボンを拾う。霊力を流し、本来の封印の役割を復活させてからルーミアに結び直した。

 

 この赤のリボンはかつての封印に使われたものではない。新たに霊魔が用意したものである。

 

 何故そうなったか。結論から言えば、霊魔の所為である。しかし、根拠を説明するには彼の過去が大きく関係するだろう。

 

 

 

 彼は生後間もないころ、山に囲まれた小さな村に突然捨てられた。

 

 誰に捨てられたかは分からないが、問題はそこではない。食事を与えてくれる肝心の拾い手がいなかった。

 この小さな村の村人たちは捨て子に気づくことがなかったのだ。

 捨て子は泣く事がなかった。しかしこの時においては裏目に出ていたと言えるだろう。たった数日で餓死寸前にまで追い込まれていた。

 

 その時、村は妖怪に襲われた。妖怪は村人の悉くを殺し、村を根城にした。

 しかし、幸運にも捨て子は見つかることはなかった。この時でさえ泣くことはなかった。陰に潜み、ずっと待っていたようだった。

 

 しばらくして、ある女性が村を訪れる。巫女装束を崩した服装に身を纏い、一瞬で妖怪達を殲滅したという。建物は倒壊し、畑は土に変わり果てた。

 そして、女性は声を聞いた。小さく儚い、今にも消えそうな泣き声だった。

 壊れた建物の間にいた赤子は、女性に抱き締められると、微かに笑った。

 

 

 女性は後に、先代の巫女と呼ばれる博麗の巫女であった。

 

 

 場面が変わる。

 怒声と罵声が耳に刺さる。何を言っているかは赤子の身に理解出来るはずもない。大きい木造建築の和室だったとは思う。周りには同じような人がたくさんいた。

 

 誰かが言葉を吐き捨てた時、博麗の巫女の雰囲気が急変した。

 博麗の巫女は赤子を強く抱いた。

 そして、叫んだ。

 

 何を叫んでいたか、今でも分かってはいない。ただ、その叫びで心の中に暖かくなったのは確かだ。

 

 しばらくして、森の中に小屋を建てて、二人で住むことになった。

 時々、博麗の巫女は出掛けてしまうが、近いうちに帰って来ていた。

 

 そして赤子は少年となる。

 

 赤子の頃の記憶をなんとなく持っていた少年は、母となる女性に聞いた。

 

 

 俺はあなたの子ではない。それでも、愛してくれるのか。

 

 

 母は驚き、見たこともない剣幕で少年に抱きついた。

 

 

 何を言っている!?あんたは私の子だ!もし、もう一度私の子でないと言ってみろ!あんただろうが許さないよ!

 

 

 少年に変わってから、初めて泣いたのはその時だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、母親が帰って来ることはなかった。

 

 心の硝子が、割れていくのを確かに見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーミアに会ったのは幻想入りしてから少しした頃だ。赤いリボンに母親の面影を見た。その結果、大妖怪を解き放っていた事に気付いた時には後の祭りである。今は事情が変わっているが。

 

 目を回すルーミアを見ながら、自身の起源を振り返る。

 ルーミアの闘いの為にとっておいた酒の一杯が妙に冷たく思えた。

 

 

 

 

 まだ。きっと、また帰って来る。きっと––––––。

 

 

 当時は毎日のように同じ言葉が、頭にこびりついていた。

 

 

 頭では理解していた。きっといないという事は、死んだ事に他ならない。妖怪退治とはそういうものだ。殺される時もある。そういう世界なのだ。

 

 心は、考えることを放棄していた。

 

 

 一ヶ月を過ぎた頃。大人が何人かで小屋に現れた。彼らは博麗の巫女への依頼を持ってきた者達だった。不在を告げると、大人達の顔は絶望に染まる。

 

 どうすればいいのか。激昂を見た。

 

 誰に頼れば。狼狽を見た。

 

 

 初めて母が背負っていたものを知った。

 

「待ってください」

 

「俺が代わりに行きます」

 

「母から技術は受け継いでいます。任せてください」

 

 大人達は喜んで場所を伝えた。

 

 嘘だ。技術なんて持っていない。母は受け継ぐ前にいなくなった。

 

 それでも、母の居場所は守らなくてはならない。きっと帰って来ると信じて。

 

 俺を、息子と言ってくれた事。たったひとつの恩を返す為に。

 

 母が少年にどんな未来を送らせるつもりだったかは分からないまま、少年はこれこそが正しい道だと信じて疑わなかった。

 

 

 邪悪な鬼が一人暴れているという詳細を受け、少年は旅立った。この時、少年は衣服と多少の食料以外を持ち込まなかった。その時点で、妖怪退治の専門家としては三流であった。本来、より多くの武器を持って殺す手段を用意しておくべきである。

 

 元々、何かと芸達者だったこの少年の実力はこの時点で半分はなくなったと言っても過言ではない。

 そして持っている手段は徒手空拳のみであった。これは自信や油断の表れではなく、無知による愚行である。

 

 鬼に相対した時、襲い掛かる様に身体を覆う死の恐怖。

 

 森の中で一対一となった闘いは鬼の一撃によって粉砕された。

 

 遥か遠くに飛ばされ、瀕死の少年はそのまま気絶する。

 幸運にも遠くまで飛んだ為に、追撃される事はなかった。

 

 次の日、左手が既に使い物にならなくなっているまま、鬼との再戦に臨だ少年。

 

 昨日の小童か。そう思っていた鬼の顔は一瞬にして驚愕に染まった。

 

 拳による全力の一撃を片手で防がれたのだ。

 

 鬼とは、妖怪の種族の位として、上位に位置する種族である。言わずもがな、圧倒的な腕力や爆発力だけで敵をねじ伏せられる。それだけで脅威なのだから。

 

 少年は、それをたった一日で克服した。少年の呟きが聞こえた。

 

「鬼をも殺さないで、何が博麗の巫女だろうか」

 

 馬鹿な。言い切る前に、鬼の頭は少年の右脚によって刈り取られた。

 

 少年の目には既に光はなかった。

 

「守れた」

 

 

 

 大人達は喜び、「博麗の御子」と呼んだ。

 

 

 

 みんなが少年に縋り、少年は応え続けた。

 

 母親なら、自分と違わず守り続けると信じて。

 

 

 

 少年は異才だった。

 

 幻想郷にいる霊夢を天才、魔理沙を努力の天才ならば、少年は天才となるべき器であった。

 

 しかし、急激な進化を自ら追い求め、母親に近づこうとする余り。

 

 痛覚は消し飛び、

 

 意思は潰えて、

 

 感情を失い。

 

 人として大切な何かを着々と壊していった。

 

 

 妖怪は皆殺しにし、幼い妖怪すら遺さない。

 

 やがて、大人達は忌避する様になり、孤独に苛まれた。

 

 それでも、見知らぬ誰かを守るために度々現れる正義の味方。

 

 

 

 その姿は確かに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 化け物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も月が綺麗だ」

 

 

 

 

 運命は、廻り始めたばかり。




アナザータイトル
「守護者」


今回はまったり要素ゼロとなっております。

霊魔は時折月を見て思いを馳せる事がありますが、過去の霊魔と現在の霊魔は月に何を見ているんですかね?
まぁ、どう考えても眼に映っているモノは違うようですが。

こんな感じにストーリーが進む毎に、小話も挟んで行きたいなと思います。

正直、この時点で霊魔の正体を完全に看破出来る人は神様です。
もし分かったらなんでも言う事聞きますよ。
(なんでもするとは言っていない)

霊魔の謎を推理しながら、ギャグにクスリと笑ってもらえると感無量です。

次回は、「⑨、死す」
「⑨、散る」
「⑨、止まるんじゃねぇぞ……」
の、三本になります。ではまた!


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チルノと臨時教師の話

遅くなってサーセン。

「たまには、サボってイイヨネ!」

と、堕落した結果、かなり投稿が遅れました。
すいません。

ただ、暇つぶしに書いた他の短編が評価が思いの外あって凄い嬉しかったので、真面目にまた書き始めます。
モチベって大事。ほんと。身に染みた。


 キーン、コーン、カーン、コーン、とチャイムが鳴る。

 

 ザワザワとした中、男は男同士と、女は女同士と仲良く喋っているのが目に映る。

 そこに扉を勢いよく開け、教師が入ってくる。

 

「騒がしいぞー!さっさと席につけ、授業始めるぞー!」

 

 ハッキリと、そしてどこか諦めの混じった声で叫ぶ男教師の声に、少年少女達は口々に「ハーイ」と返事をしながら席に着いていく。

 

「今日は教科書開いて、続きから……」

 

 その様子を高めの堤防から眺める。付近に川があるのと学校を囲う塀が比較的低いため、中の様子を見ることは容易かった。

 

 

 

 

 そこには頬杖をついて座っている霊魔の姿があった。

 

 霊魔は外の世界に一人で来ることが多い。霊夢とのデートの時は例外であるが、ほとんどはなんとなしに一人きりでぶらぶらしている。

 行き当たりばったりこそ多いものの、世間知らずの身である割には中々楽しめている。

 

 野性味溢れる男が魚を売っていた姿が何故か様になっていたのを流し目で見たり、粋な喫茶店に訪れたり。他にも様々な色んな施設を見て回ったりしている。

 

 ここは学校というものらしい。幻想郷には寺子屋があるが、おそらく似たようなものだろう。

 

 何人かが手を挙げて質問に答えようとはしゃいでいる。微笑ましい光景だ。

 新鮮に感じたので、ほんの少しだけ、やってみたいと思った。

 

 まぁ、やることはないだろう。

 

 まさかこれがフラグとやらになるとは、この時の霊魔には予想する事は出来なかったが。

 

 

 

 

「お兄ちゃん。何してるの?」

 小さい男の子と目が合う。何もしてないよ、と答えた。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、にーと?」

 霊魔は足早に退散した。

 

 

 

 

「俺が教師に?」

「ああ、そうだ。最近、何かと入り用だと耳にしてな。私に友人との予定が出来たから、代わりを頼みたいと思っている」

 

 霊魔は口を開けて固まった。目の前の女性、上白沢慧音からの提案に驚きを隠す事が出来なかった。

 

 外の世界から帰ってきて翌日の早朝の事である。

『早起きは三文の徳』という言葉があるので早起きで本当に三文の得になるのか、とアホな事を実践していた時の事であった。まだ地平線から太陽が顔を出したばかりの空である。

 

「いいけど、随分と急な話じゃないか?慧音」

「こちらにも事情がある。今回はかなり急に入って来た用事でな。妹紅のヤツから呼ばれる事など殆どないから、それほどまでにあいつが焦っていると言う事だろう。久方ぶりの友への救援だ、行かない訳には行かないだろう?」

「……あんたらの仲の良さが羨ましく思えるよ」

「ほう?博麗の巫女を侍らせている男が何を言う」

「人聞きが悪いな。単なる居候に過ぎんよ」

 

「で?どうする?やるのか?」

「折角、朝早くに神社にまで来てもらったんだ。やるよ。……ただ、貰うもんは貰うぜ?こっちにも事情はあるんでな」

「ふっ、口だけはよく回るな」

「よく言われる。まぁ、期待はしないでおくさ。任せておけ」

「頼んだ」

 

 そうと決まったら、早速準備をする。

 霊夢への埋め合わせも考えながら、予定が出来たことを伝えに行く霊魔であった。

 

 やれやれ、諺もバカには出来ないな。

 

 ふと、そう思った。

 

 

 

『期間は今日一日の五時間目まで。国語、算数、理科、社会の分野毎に一時間ずつ授業をやってもらいたい。内容は……お前に任せよう。教科書を進めても構わないし、興味を引く話をしてもいいだろう』

 

『五時間目まで授業があるが、最後の時間はお前の好きなことをしてもらって構わない。道徳の授業をするもよし、体育で体を動かすのもよし、好きなようにしてくれ。危険な目には合わせないようにな?』

 

 霊魔は職員室にて、慧音の椅子に座りながら教科書を覗いていた。

 慧音に言われた事を元に、自分のやりやすい方向性を考える。しかし、思ったよりも思い浮かばない。結局、授業しながら考えるという後先を考えない結論に達した。

 

 

 幻想郷の寺子屋において、外の学校との違いとは何か。

 それは言わずもがな、人間以外の種族が学びに来るという点だろう。

 

 子供と大差ないように見える妖精や妖怪が同じ場所に学びに来るのである。人間の親からすると、これは恐ろしい以外の何物でもない。そこで曜日毎に区切り、人間は月曜から金曜の平日、妖怪達は土曜と日曜の休日に教わる事になっているのだ。

 ちなみに、慧音は人間にも妖怪達にも教鞭を執っているが、妖怪達の先生は慧音しか居ない。

 

 今日は日曜日。これから何が起こるかは誰にも想像できない、妖怪が教わりに来る日である。

 

 

 木造の廊下を教材を携えて歩く。

 正直、教師とやらに興味を持ってすぐの事であり、魔理沙の事でお金にも困っていたのでまさに『渡りに船』と言ったところか。そう考えて、妙に先生らしくあろうと諺を使っている自分に笑みがこぼれる。

 実際、楽しみになっているのは否定できないな、と霊魔は思っていた。

 

 チャイムが学校中に始業を伝える。

 唐突な鐘の音に体が反応し、思わず眉をひそめる。学校を知らない霊魔にとってこの音は驚くに相違ない衝撃であった。

「こんなにうるさいのか……」

 霊魔が呟いてしまうほどの音量ではなかったのだが、霊魔は学校というものに通った事はない。今日は日曜日のため、人間の子供達に教える先生達は誰もいない。慧音もいないため、これが始業の合図という事を教えてくれる人はいなかった。

 

 ただ、ガッコウという場所ではこの鐘の音と同時に先生は来ていたな。霊魔はそう思い、急ぎ足で向かう事は出来ていた。

 

 

 

 教室の扉を開ける。その先には五人の少女が席に座っていた。

 霊魔に気づいてからは少女達の反応は様々であった。

 

「あれ?けいね先生じゃない……」

「えっ?本当だ」

「わはー、霊魔だー」

「アタイったら、サイキョーね!!」

「チルノちゃん!もう先生来てるよ!?早く座ろうよ!」

 

「おーい、静かにしてくれ。特にそこの青いの。お前は座れ」

「何よあんた!」

「それを今から説明するんだよ。疾く座れ」

 

 青い少女はむっとむくれながら座る。それを見た霊魔は教卓の前に立ち、自己紹介を始めた。

 

「今日、急な用事で来れなくなった慧音先生の代わりに来た、博麗霊魔だ。今日一日だけだが、よろしく頼む。それじゃあ、えーっと……次は……出席の確認か」

 慣れない手つきで出席簿を捲る。名簿には五人の名前があり、目の前にも五人いるが念のために名前を読み上げていく。

 

「大妖精」

「は、はい!」

「……これは名前なのか?」

「……多分、名前です……」

「……そうなのか?苦労しているな」

 

「チルノ」

「アタイを呼んだ?」

「そうだが。返事だけすればいいぞ」

「アタイより弱そーねあんた!家来にしてあげるわ!」

「……そうだな」

 

「ミスティア・ローレライ」

「はい」

「よぅ、女将さん」

「今はそう呼ばれるのは困るかな……?みすちーでいいよ」

「そうか。じゃあ今日はそう呼ばせて貰う」

 

「リグル・ナイトバグ」

「はい!」

「初めましてか?よろしく」

「いえ、たまに会ってますよ。宴会とかで」

「え?……すまん」

「……いいえ、大丈夫です……」

 

「よし、出席は問題なしだな」

「待って!?私まだ呼ばれてないよ!?」

「お前は呼ばなくて大丈夫だろ。あれだ、『多分出席』って書いとくから」

「全然よくないよ!?ちゃんと呼んでよ!」

「……冗談だ。ルーミア」

「……はい」

 

「よし、じゃあ一時間目は国語だ。と言っても、慧音先生が普段どう進めているのか俺にはサッパリ分からん。だから、俺なりに問題をいくつか出していこうと思う」

 

 はーい、と元気に返事をする子供達の反応に気恥ずかしくなりながらも霊魔は考える。

(そういえば、どの程度のレベルの問題を出せばいいんだ?……ま、問題を出せば分かることか)

 そう思い、黒板にチョークを引いていった。

 

 

「まずは漢字辺りから攻めていくか。大妖精。『山』をどう読む?」

「『やま』です。先生」

「正解だ大妖精。この辺りは楽勝か」

 

「んじゃあ、『蛍』はどうだ?リグル解けるか?」

「はい!『ほたる』ですよね!」

「ああ、正解だ。慧音先生の教え方もリグルもいい感じだな」

 

「少しずつ難しくするか。『鴉』は解けるか?みすちー」

「えーと……ごめんなさい、分からないです」

「これは『からす』と読む。他にも『烏』の字が同じ読み方が出来るぞ」

 

「じゃあ次ルーミアな。『南無阿弥陀仏』を答えろ。5秒以内な」

「えっ!?ナニコレ!?というか、明らかな差別が入ってない!?」

「気のせいだ」

「ぬぬぬ……!」

「時間切れ。『なむあみだぶつ』な。ここテストに出るぞ」

「出るわけないよ!」

 

「最後にチルノ……なんだが……」

「どっからでもかかってきなさい!」

「……じゃあ……『氷』を読んでみろ」

「みず!」

「せめて自分に関係ある漢字は知ってると思ったんだが……」

 

 

「まぁ肩慣らしとはいえ、色々漢字の問題を出して誰がどのくらい頭がいいかは分かったな」

 

 一通りの評価を載せたメモを一瞥しながら、霊魔はこれからの授業を考えていった。

 

 〜〜〜

 優等生 大妖精(5問全問正解)

 

 一般的な子 リグル、みすちー(3問正解)

 

 バカ チルノ(正解なし)

 

 取るに足らん雑魚 ルーミア(論外)

 〜〜〜

 

「じゃあ、残りの時間で文章を読み解く問題でも……」

「おい待てやクソ教師」

「ハッハッハどうしたルーミア。キャラがブレてるぞ」

「どう考えても私の問題だけ難しいわよ!?必ず四文字以上の問題ばっかじゃない!『曖昧模糊』ってどう読めばいいのよ!?」

「落ち着くんだルーミア。ちゃんと理由がある。イジメではないんだ」

「何よ?」

 

「安心しろ。ちゃんとした私怨だ」

 

「外に行こう」

「上等だ」

 

「「「喧嘩はやめよう!?」」」

 

「そうよセンコー!ケンカなんてバカのやることよ!」

「むっ……チルノにまで言われるのは拙いか。分かった、悪かったよ。だが、先公じゃなくて先生と呼んでくれチルノ」

「分かったわセンコー!」

「むー……」

「すまなかったってルーミア」

 

 

 

「授業が終わってから喧嘩しようぜ」

「よしきた」

 

「「「だから喧嘩はやめようって!!」」」

 

 

 

「実は諺というものには面白いエピソードが背景にあるのがほとんどなんだ。例えば『株を守りてウサギを待つ』という諺がある。『守株』と短くされる事もあるが、これがどういう意味か分かるか?」

 

「うーん?」

「株を守ってウサギを待つ?なんで?」

 

「これはある偶然の出来事がキッカケだ。農家の人が畑仕事をしていたら、急にウサギが現れたんだ。そのウサギがたまたまあった切り株に頭をぶつけてピチュって、農家は何もせずにウサギを捕まえる事が出来たという話から来ている」

 

「「へぇー」」

「なら『自然を大事にしよう』っていう意味かな?」

 

「残念だが違う。この話には続きがあって、その農家の人は『またウサギが切り株にぶつかるんじゃないか』と思ってずっと切り株を残して見張り始めたんだ。でもそれは他の人たちから見たらおかしい行動だろう?だから、『偶然の出来事に期待するダメダメな行為』って意味になったんだ」

 

「あ、そっか!また同じように捕まえられるワケじゃないから!」

「そういう事だ。だからみんなは偶然のことに期待せず、頑張って勉強しろよ?慧音先生も頑張っているみんなにはきっと応えてくれるからな」

 

 チャイムが鳴る。「それじゃ、国語はここまで」と声を掛け、近くにあった教科書を片付ける。子供達もそれぞれ思い思いに過ごし始めた。

 

「ねーセンコー」

「先生だ。どうしたチルノ」

 

 扉を開けて廊下に出る直前、意外にも声をかけてきたのはチルノだった。

 

「けっきょく、のうかは強いのか?」

「ん?強い?」

「だって『ウンもじつりょくの内だ』って魔理沙がいってたんだ。だったらのうかも強いのか?」

 

 霊魔は合点がいって、「そういうことか」と独りごちた。しばらく考えた後にチルノに向けて答えた。

 

「『運も実力の内』という意味なら、ウサギを捕まえられた時の農家は強い人だったんだと思うよ。でも、それからは捕まえる事はなかった。運というのは、おみくじの大吉や凶のように変わっていってしまうものなんだ。だから、その後の笑っちゃうぐらいおかしな事をしていた時は弱いと言えると思うぞ」

 

「……???」

「わからないか。運っていうのは、ずっと変わらないわけじゃない。いい時もあれば悪い時もある。だから、あてにしちゃいけない。いくら運が良くても、元々が強くないと勝てない事だってある」

「つまり、あたいは強いのか?」

「どうだろうな。……だが確実に分かるのは、お前はどんどん強くなっている事だ。勉強して、少しずつでも賢くなっているからな」

 

 そう言って、霊魔はチルノの頭に手を置く。

 

「頑張れ。人間も妖怪も等しく、努力は実る」

 

 そう言って、霊魔は微笑んだ。

 

 

 

 

「遊びに来たぜ霊魔ー!」

 

 顔を顰めた。

 

「なんだよその顔は。せっかく美少女が来てやったのによ!」

「ハイハイ努力の天才こと魔理沙さん。あなたに教える事はございませんので早急に卒業しやがれ?」

「今日はいつにも増してあたりが強いな」

「お前が来ると授業が進まなそうだからな」

 

「ところで、なんで職員室にいんだよ」

「昼休憩だよ。飯ぐらい食わんと持たん」

 

「なに食ってんだ?」

「霊夢お手製おにぎり」

「おっ、一つくれよ」

金剛石(ダイアモンド)並みの硬さでよければやるよ」

「やっぱいいわ。道理でおにぎりを食べてるとは思えない音がするわけだぜ」

「当人曰く、『アルデンテに仕上がった米一合をおにぎりの形に凝縮、圧倒的握力で凝固させた逸品』らしい。その後に謝罪の言葉も貰ったよ」

「霊魔が普段作っているから、久しぶりで料理の腕がなまってたんだろ」

「だろうな。だが、気遣いには感謝しかない」

「はいはい。惚気はいらねぇぜ」

 

 

 

 

「帰れよ」

「断るぜ」

 

 

 

 

 

「帰れ!」

「嫌だ!」

 

 

 

 

 

「死にたいらしいな」([∩∩])

「殺してやるよ」([∩∩])

 

 

「と、いうわけだ」

「「「分かりません、先生!!」」」

 

「何故だ?事の顛末は分かったろう?」

「それが何でチルノちゃんと魔理沙さんがクイズ大会する事になるんですか!?」

「チルノが魔理沙に勝てるわけないよ!」

「先生は正気なの!?」

「霊魔はチルノの馬鹿さ加減が分かるはずだよ!?」

「そーだそーだ!!」

 

「チルノ。頷くのはいいが、お前が主にディスられてるぞ」

「誰だ!?今あたいを馬鹿にしたのは!?」

「いや気付けよ」

 

 

「……さて、何だかんだチルノがやる気なのでルールを改めて説明だ。

 

 1.魔理沙とチルノで問題を四択で答える。

 

 2.授業と言い張る為に、理科と社会の問題を出す。

 

 3.公平を期するため、大妖精、リグル、みすちー、ルーミアの四人が問題を考える。

 

 4.チルノ=バカなので、多少のズルは笑って容認する事。

 

 5.卑怯汚いは敗者の戯言。

 

 6.負けた方の解答者(チルノが負けた場合は霊魔に)は、死または死に等しいナニカが与えられる。

 

 これに異議はないか?」

 

「おい待てやクズ」

「どうした魔理沙。なんか文句でもあんのか?」

「文句しかねぇわっ!!なんだそのルールは!?明らかに『イカサマしまーす♪』って言ってるようなもんじゃねぇか!!」

 

「くっ、流石魔理沙。ルールの裏にこんな早く気付くとは……」

「バカにしてんだろてめぇ」

 

「それは冗談として、お前が戦うのはあのチルノ(そんじょそこらで話題に出すのも憚れるバカ)だぞ?少しでもハンデを貰わないと公平じゃないだろ」

「それもそうか!」

「「アッハッハッハ!!」」

 

 笑い合う二人の肩に手が置かれる。

 何事か、と振り向くと。

 

「……バカにしてるって、流石に分かるよ?」

 

 ふつーにキレたチルノがいた。

 

 

 

「さぁ、やるか」

「うん」

「負けねぇぜ!!」

 

「私達が楽しく問題を作っている間に一体何が……」

「先生も魔理沙もボロボロだね……」

 

『第1問!』

『カエルはどの種類に分類される生き物?』

 1.魚類

 2.両生類

 3.ほ乳類

 4.いっその事、植物じゃね?

 

「即答だぜこんなもん」

「テレフォンを!」

「チルノ、そんなルールはないぞ」

 

 

「さぁ、答えの確認だ。両方2だな。正解だがつまらん」

「流石に問題が簡単すぎるぜ。でも意外だな。何だかんだでチルノのヤツも正解しているし。なーんか怪しいな」

「実は賢いヤツなんだよ。アイツは」

「アイツがかぁ〜?」

 

「お、おぉ……!?当たったぁ!!当たったよ大ちゃん!!あたいだいしょーり!!」

「やったね、チルノちゃん!」

 

「……本当か?偶然っぽいけど?」

「……たぶんな」

 

 しかし、いくつか問題が出されていくうちに、その不信感は確定的なモノへと変貌していったのだった。

 

「……両方正解!!」

「……正解!」

「……両方合ってる」

 

(ありえねぇぜ!?チルノが一回も外してないだと!?)

 

 魔理沙は驚愕していた。なんの魔法か、今までの問題でチルノは全問正解を出しているのだ。チルノの頭の悪さを知っている者からしてみれば信じられない光景である。

 

(チルノはイカサマでもやってんのか?いや、そんな様子はない。色んなところを見ながら唸りながら書いてるだけだ)

 

「魔理沙まだか?チルノは書き終わったぞ」

「えっ!?あ、悪りぃ、すぐ書く!」

 

 現在は社会の問題で、『はくぎょくろう』を答える問題だが、漢字の細かい違いのみの、いわ引っかけさせる選択肢。この時、チルノの事を考えていた魔理沙は注意力が散漫していた。

 

「魔理沙。不正解だ。正解は3だ」

 

「はぁっ!?……ち、チルノは!?」

 

「正解してるよ」

 

「何……だと……!?」

 

 よって、どんでん返しが起きる事はありえなくなかった。

 チルノの解答用のフリップに書いてあったのは紛れも無い『③』の字。

 

「す、凄いよチルノちゃん!遂にリードしてる!」

「何で勝ってるの!?」

「まさかこんな事になるなんて……」

「霊魔が絶対なんかやってるよ」

 

 問題を出していた生徒たちから歓声が湧いた。

 ルーミアが霊魔を怪しんでいるが、それを聞いた魔理沙は内心で舌打ちをする。

 

(くそっ、案の定イカサマだったのか!?だが、それにしても仕掛けが分からない!……もしかして本当にチルノが頭良くなっているんじゃあ……。……心なしか寒気がしてきたぜ……ッ!罰ゲームは後でどうとでもなるが、霊魔には負けたくない!!)

 

 霊魔が近づいて来る。

「魔理沙、流石にケアレスミスじゃないか今のは?俺でも間違えねぇぞ」

「ウッセェ、お前なら間違えねぇかどうかじゃなくて……」

 

 魔理沙は、気付かされた。

 

「……なぁ」

「ん?どうかしたか?」

「……お前なら、今までの問題。全部分かってたか?」

 

 動いていたことを。

 

「さぁ、どうだろうな?」

「……ッ!?テメェ……!」

「ま、頑張れよ魔理沙。勝てねぇかもしれないがな」

「やってくれんなぁ……!」

 

(確定だ!アイツがなんかやっているっ!クッソ、今思えば俺たちの目の前で問題を読むって怪し過ぎじゃねぇか!?ガキどもの誰かにやらせりゃいいものをよぉ!!)

 

「大妖精。次の問題は出来たか?」

「はい!次はこれで!」

「ああ、『第9問––––』」

 紙をもらい、読み上げ始める霊魔。

 魔理沙はその一挙一動を見逃さずに観察する。

 

(大前提として、このイカサマは確実にチルノに分かるようにしなければならない。小さな印や合図ならチルノが気づかない場合があるし、曖昧なものなら注意力が試される四択クイズでは致命的になるからだ)

 

(まず、『どう答えを知るか』。答えの紙は大妖精達がイカサマをさせないように後から渡してくれる。なら、霊魔自身が問題を読み上げると同時に自分で解いているという推理が濃厚だ。霊魔ならまず間違える問題はない。つまり、ここで挫ける障害はない)

 

(そして、『チルノに伝える手段』。これが問題。チルノに分かりやすく、なおかつ私には分かりにくい作りにしなくちゃいけない。だが、確信めいたものが私の中にある)

 

(逆に、チルノだから出来るイカサマ。それは––––––。)

 

 

 

 

 

「チルノ。アイツらが場を整えてる間にちょっとした実験だ。大妖精も見ててくれ」

「ん?なんだ?そのゆびさきのウネウネしたヤツ」

「え?チルノちゃん何も見えないけど……?」

 

 

 

 

(ヤツは自分の霊力を印にして、チルノに見せているんだ……ッ!)

 

『いいか。これは垂れ流した俺の霊力だ。幽霊とかオカルトの特徴の中には、薄暗さや気味の悪さ、そして『寒気』なんかがあるだろう?それこそ、俺ぐらい強力でさらに自由自在に操れるなら、大妖精でも分かりやすいぐらいハッキリとさせることが出来る。それに『冷気を操る程度の能力』を持つチルノなら、()()()()()()()()()()()()()()と予想してみたんだが、大正解だったようだな』

 

『あ、チルノは俺の体から出てくるウネウネの本数を数えるんだ。それが正解になるようにしておくから』

 

(道理で、チルノはあちこちを分かりやすく見るし、ここら辺で寒気がする訳だ。アイツは霊力の量も、霊力操作も他のヤツとは段違いだからな……!この程度ならやりかねない!)

 

(そもそも、こんな事を考えつくのは私と霊魔ぐらいしかいないな!なら……!!)

 

「……っ!?……んん!?」

「ん……?どうしたチルノ?」

 

(知ってるか霊魔?魔力もただ垂れ流すだけなら、霊力と似たような習性を持ってる。私の場合はこんな事したコトねぇから一本ぐらいしか出せないが……)

 

「一本……増えた?」

「おっと、もう気付いたか?」

 

(偽装することぐらいなら出来る!)

 

「ちょっとまって!かきなおす!」

「ん?大丈夫かチルノ?」

 

(そして!霊魔の性格なら、もしもの時の策がもう一つ!)

 

「大妖精!なんでこっちに向かってピースしてるんだぜ?」

「え!?え、えーっと……さっき、と、友達が空飛んでるのを見たから……」

「そうか、てっきりチルノに答えを教えようとしたのかと思ったぜ!」

「……!?」

 

「なっ!?やられたか……!」

「さぁ、答えを教えてもらおうか?いつでもいいぜ?」

 

 霊魔は顔を驚愕に染めていたが、少しするとにやけだした。

 

「まさか、見えないものに警戒しているなら、今度は見えるものが疎かになると思ったんだが……。さすが魔理沙だな」

 

「へへん!お前の二段構えには散々面食らってたからな!今回はやられねぇよ!」

 

「イカサマがバレたんだ。魔理沙、お前の立場ならどうにでも出来るが、どうする?」

 

「どうもしねぇよ。その代わり……」

 

 思いっきり力を入れて、フリップを立てる。そこには『2』と書いてあった。

 

「これで同点だな」

 

「……正解だ。チルノ、お前はどうせ『3』とでも書いてしまったんだろ。すまなかった。ズルがバレた」

 

「えっ!?ホントに!?」

 

 チルノが自信ありげな顔から一変、口をあんぐり開けて驚いていた。そのフリップには大きく『3』と書かれていた。

 

 

「んで?どうするんだぜ?」

「まだ時間はあるが、今回出した問題を元に、補足や面白いタメになる話が思い浮かんだ。だから、区切りも良いしあと一問だけ出して終わりにしたいんだが構わないか?」

「遊んでるだけかと思ったら抜け目ねぇなお前。で?またイカサマするのか?」

「するつもりだが?」

「少しは憚れよ!?」

「なら、こんなのはどうだ?俺は今からチルノと一緒に悪巧みをする。だから多分正解する。お前は正解するか、タネを明かせば勝ちだ」

「へぇー、とっておきってことか?」

「そうとも言うな」

「やるぜ」

 

 おし決まった、霊魔はそう言うとチルノを連れて走り去って行った。

 

 しばらくして霊魔が帰ってきた時、チルノは凄く怠そうにしていた。

「頭が重い」と言いながらも、どこか幼さが抜けている印象を受ける。

 

「おい何やった?」

「それを考えろよ」

 澄ました顔で霊魔はそう言い切った。

 

「んじゃ、最後の問題は俺が出す。魔理沙には是非とも間違えて貰わないといけないからな」

「悪意しかねぇな」

 

『第10問』

『次の問題を解け』

『2xの二乗+4x+8』

 

「はぁ!?算数かよ!?」

「いや、算数の上位互換の数学だ。今のチルノが解けるレベルだよ」

「そんな訳っ……」

「どうせ解けないように出題してんだ。魔理沙。お前はタネを推理してみな。ちなみに俺は答えは教えていない。ただ、解き方を教えただけだ」

 

 魔理沙はチルノに目を向ける。おそらく、答えだけを書いていたなら嘘だと思えた。霊魔に、お前が答えを言ったんだ、チルノが解けるわけがない、と。

 

 しかし、チルノが書いていたのは。

 

「あ、ありえねぇぜ……」

 

 途中式。答えに至るまでの過程を書いたもの。

 

 チルノは確かに、問題を解いていた。

 

 

「独学では限界はある。数学のような公式を突き詰めるような分野は特にな。これでもまだ、外の世界では子供が習うものらしいがな。とにかく、魔理沙には悪いが……」

 

「答えは『-2』!!」

「俺たちの勝ちだ」

 

「……ふぅ、タネも仕掛けも分かんねーよ。完敗だぜ」

 

 

 

 その夜。キッチンにて。

 

 ピックで球の形に削った氷をコップに入れ。ウイスキーを入れる。氷は勝利に喜んだチルノがお礼をすると言ったので、『氷を作って欲しい』と言って作って貰ったものだ。そこらの氷に勝るとも劣らないだろう。ウイスキーの方は安価なものだが。

 

 盆に二つの杯を乗せ、肴の皿も置いて縁側に向かう。

 

 暇つぶしに作った干し肉と、チーズを肴にしてウイスキーを煽る。

 

 三日月が欠けたのを埋めるように、球の氷が映える。

 

 一気に飲み干した後、大きく息を吐いた。

 

(少し、氷が大き過ぎたな。ウイスキーを瓶ごと持って来ればよかった)

 

 ため息のようなものを吐いて立ち上がり、キッチンへ瓶を取りに行く。

 戻ってくると、彼女がいつもの場所に座っていた。

 

 いつもの、俺の隣に。

 

「いつのまに」

「いつでしょうね」

 

 霊魔は腰を下ろした。

 

 

 

 

 

「……だから、罰ゲームとして『一週間キノコ禁止』って言ったんだ。軽い気持ちで言ったつもりなんだが、魔理沙のヤツが青ざめてな。『流石にやめてくれ』と涙目で言われたら引き下がるしかないだろ?結局は保留ってことになった。俺は特に思いつかないから、霊夢に任せる。たまにはこき使ってやれ」

 

「あははっ!カッコよく『負けたぜ……!』って言った後にそれ!?相変わらず締まらないわねぇ魔理沙は!!」

 

「そういってやるな。アイツの大半がキノコで出来ていることを俺が忘れてただけなんだからさ」

 

「そ。ところで五時間目は自由にしてよかったんでしょう?その後はどうなったの?」

 

「別れを惜しんで弾幕大会してた。弾幕出来ねー、って言ってんのにみんなバンバン撃って来やがってよ。魔理沙に至っては悔しさをぶつけるかのようにマスパを連射してきやがったぞ」

 

「負けず嫌いは相変わらずね。避けきれた?」

「死ぬかと思った」

「よかったじゃない」

「当たりまくったわ!」

「あら」

 

 瓶の中身が半分になり、肴がなくなる。

 

「ところで……チルノにあなた、何をしたの?」

 

「……どうしたか、は言えん。どうなったのか、ならまだ言える。チルノの脳みそを大きくした。人間が進化するにつれ、大きくなったように。だが……まぁあれだ、急激な変化なんてすぐに戻るものだろう?次の寺子屋に行く時には元に戻ってるよ」

 

「チルノも嘆いてそうね。また頭良くして欲しい!なんていうかも知れないわよ?」

 

「それこそ、もうやらないさ。株を守ってウサギを獲ろうとするようなものだよ」

 

「えっ?どういうこと?」

 

「なぁに」

 

 

「過去の幸運に縋った、愚かな男の話さ」

 

 




寺子屋についてですが、詳しい設定が分からないので捏造(意味浅)して、小学校レベルの問題まで進ませています。
最後のチルノは除いて、ね!

そうです。慧音先生が凄いんです。

そして深まる霊魔の正体。
大丈夫です。ちゃんとチートなので。
霊魔についての設定は作者でもこんがらがるんです。
そろそろ次かその次には能力を出すつもりです。
多分出ます。きっと。メイビー。

ではまた。


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紅美鈴と紅魔館前での話

実は上海紅茶館が東方の曲の中で一番好き。

始まりますぜ。


「よー!れーむ!」

「お邪魔しまーす!」

 

「あーはいはい。お客さんって、あんた達だったのね。とにかく上がりなさい」

霊夢はそう言って、チルノと大妖精を迎えた。

 

霊魔が言うには、

「魔理沙と対決(バカ)をやって勝ったから機嫌が良い。協力してくれた奴らにお礼でスイーツを作ったから、俺がいない時に来たら食わせといてくれ。ん?……お前の分だと?あるに決まってんだろ。三人分あるから、全部食べるなよ」

という事である。

 

冷蔵庫から小さめの三つの器を取り出し、小さなお客様の前に出す。

 

プリンを食べながら、最近離れることの多い霊魔の話でも聞こうと考える霊夢だった。

 

 

 

 

「霊力も魔力も、性質的には大きな差はない。……そうだな、イメージすれば分かりやすいか?霊力は白色で、魔力は青色又は水色のイメージだろう。だが、両方ともイメージで言えば寒色系の色と言えるだろう。ともすれば、性質が似てるかもしれないと思うのはそう難しくない。白色は……そうだな、暖色だとも言えるかもしれん。でも、霊力、だからなぁ。冷たい気がしないか?だが、この二つは形だとか、生成する方法が異なる。霊力は幽霊やポルターガイストなど非生物的な存在も使うからか、身体全体から湯気みたいに放出されてて、霊力を扱う奴らは身の周りに纏うのが特徴だ。霊力ってのは存在感のようなものだから使ってもしばらくしたら回復する。何もしなくてもだ。だが、魔力というのは身体の内側に蓄積という形で保有し、魔力の補充にもイメージトレーニングと若干のコツが必要になる。よく言われるのが、蛇口をひねるようなイメージ、というものだな」

 

「ふぅむ」

 

「以前、魔理沙にバレずにチルノとイカサマした時に漂う空気の温度の面で性質が似てるせいでチルノが誤認しまった訳だが、実はこの時にもう一つ、魔理沙が懸念したであろう事がある」

 

「何ですか?」

 

「魔力操作だ。さっきも言ったが、霊力と魔力では貯まる場所が違う。しかも、霊力は通常なら気体の様な感覚で、魔力は液体の様な感覚なんだ。だから、霊力は通常弾の発射や密度を高くして硬質化させる単純強化がしやすく、魔力は内側からの強化と道具への魔力注入を得手としている。魔理沙の八卦炉なんかは魔力を注入する事で魔弾に変える典型的なアイテムだろう」

 

 

おっと、話が脱線したな。と言って、霊魔は話を戻す。

 

 

「俺のイカサマって言うのは、身体を覆っている霊力を広範囲に高密度で放出するに等しい。それでいて霊力の操作で太い尻尾の様な形状の物を作っていた。それをチルノに温度差で認識させて、尻尾の本数で選択肢の一から4を答えさせていたということだな。だが魔力の場合、まず液体状の魔力を気体のようなものにして体に纏わせた上で放出するという手間がかかる。本来、これは魔法使いにとって無駄な行動だ。何のために魔法の術式だの何だのがあるんだって話になるからな。道具や術式に魔力注入するという形を取れば霊力が得意な使い方なんてすぐに上回る。そんなものをただ解決策に気付いただけで成功出来るかまではわからない。それほどの事を魔理沙はやってのけたのさ」

 

「……つまり、私に何を言いたいんですか?」

 

「……」

 

 

 

「あー、すまん。ただのライバル自慢だこれ」

「ですよねぇッ!!」

 

現在、霊魔アルバイト中。

内容、紅美鈴の話し相手。である。

 

 

 

「面白くはありましたが、イマイチピンと来ません。私が使っている、妖力の話とかはないんですか?」

「ない。使えないから興味ない」

「どうせなら、私に関係ある話にしてくださいよぉ!特訓内容に反映出来ないじゃないですか!!」

「門番そっちのけでそんなもん考えてていいのか?」

「敵なんて気配で分かりますよそんなもの」

「そうか」

 

霊魔は壁にもたれかけながら、先程の話の本題を思い出そうとする。しばらくしてから、霊魔は美鈴に話しかけた。

 

「そうだ思い出した。だから武道でよく聞く、気の使い方を教えて欲しいって言おうとしたんだ」

「気ですか?」

「ああ、気と呼ばれるものはエネルギーに近い物だと聞いた。だったら、使い方次第では簡易的な治療も出来る様になるからな。一朝一夕でできるようにならなくても、身体の循環を通して感じる気の訓練をすれば自然と霊力や魔力の操作性も上がると踏んでる」

「成る程。確かにそれはアリですね」

「実は、そういう力の緻密な操作が苦手でな。それも克服出来たらと思う。どうだ、『気を操る程度の能力者』」

「面白いですね。やりましょうか」

 

流石にヒマを潰していた二人である。身体を動かす事に躊躇いはなかった。

 

 

 

 

 

「やはり、素手に一家言あるメンツは格が違う。俺も大幣を使ってないとは言え、ここまでボロボロになるとは」

「私の攻撃の全てを回避してなお、昼ごはんの時間だからと中断した人の台詞ではないですね」

「かすり傷もキズはキズだ。俊敏には自信があったのだが」

 

霊魔はお手製の握り飯を頬張り、美鈴も咲夜が届けてくれたサンドイッチを食べている。

 

不意に美鈴が霊魔に声をかけた。

 

「貴方の戦い方って、どんなやり方なんですか?」

「ん?さっきも見たろ」

「あんな防戦一方な戦いをする人に見えないから言ってるんです。貴方は弾幕が苦手だからと殆ど戦わないでしょう。まともに戦ったところを見た事がないんです」

「……うん、そうだな……」

 

確かに、とでもいいそうな顔で霊魔は思案し始める。他人の身振り手振りを観察するのが得意な霊魔も、自分を省みる事をした事が少ない為に言葉を詰まらせた。

 

「まぁ、さっきのは全力ではあったが本気ではないな」

「ですよね。失礼ですよ」

「すまん。だが、その分観察していたんだ。美鈴の動きは武術というだけでなく、確実に敵を倒す技術としても有用な動きだと思ったからな」

「真似をする為ですか?」

「ああ」

「他人のものを見ても自分のものにはなりませんよ」

 

「そんなのは理解が足りないから起こる事だ。基本的な動き、肉体内部の働き、力の流れと強弱、その動作の用途や理由、さらにはその人を癖を見極めた上で自分の肉体で模倣する」

 

そう言って、左手を正面に突き出す。

その突きだけで、美鈴が先の戦闘で繰り出した突きであると、美鈴本人が感覚で理解できた。

 

「ま、さっきの一瞬でもこれだけ情報量を叩きださなきゃならん。防戦一方にもなるさ」

 

霊魔は大体の事を喋ると、美鈴は目を丸くしていた。

どうした?と、霊魔が聞くと、

 

「貴方って意外に理論派なんですね。ホントに意外です」

 

と、言われたので、しばらく顔をしかめていた。

 

 

 

「話を戻そうか。確か……その上で俺の戦い方だったな?基本は情報収集は欠かせない。出来る事ならさっき美鈴とやったように、お互い本気でもない試合を垂れ流すのが好都合だがな」

 

「む」

 

「気付いてねぇとでも思ったか?気の使い方を知りたいって言ってんのに、全然使わずに拳法の型を延々と繰り返しやがって」

 

「だって、そっちも手抜きだったじゃないですか」

 

「少しぐらい見せろよ。ケチ。……とにかく、情報を集めた後に戦闘。それでも、一撃食らわせたら逃げる。お前の様に取っ組み合うのは得意じゃない。やったとしても精々、自分の死期を遠ざけるのが関の山ってとこだ」

 

「避けるのもギリギリでしたしね」

 

「それはわざとだ。大きな動きばかりで避けていたら、連撃に対応出来ねぇだろ」

 

「その前に反撃すればいいじゃないですか」

 

「これだから脳筋h……なんでもない。口が滑っただけだからこっち見んな。まぁ、反対に言えば一撃必殺なら自信はある。それなら霊力を全部大幣にぶち込んでから薙ぎ払えば大軍を塵芥に出来る程の規模で破壊出来るからな」

 

「災害かなんかですか?」

 

「これでも人間だ。……たぶん」

 

「ダウトです」

 

「うっせぇ」

 

「ですが、さっきの話だと霊力を道具に注ぐのは面倒なんですよね?あの長い大幣(?)を使うのは非効率じゃないんですか?」

 

「それはあれがバケモンみたいな性能なだけだ。素手に霊力纏わせて殴るよりも強い」

 

「誰が作ったんですか」

 

「俺だけど」

 

 

 

「今日一番にアホっぽい顔になってんぞ」

 

 

 

 

 

「うまかった!ありがとな!」

「ご馳走さまです」

 

「お粗末様、なんて私が作ったワケじゃないけど」

 

チルノに氷水を、大妖精と自分にはお茶を用意してテーブルを囲う。

チルノは寝そべって日向ぼっこをしていた。

 

「……平和ねぇ」

 

ふと、そう呟く。

何かを訝しむものではなく、寛いでいるこの雰囲気から来たものだった。

 

 

「霊夢さん」

 

「なに?」

 

大妖精が霊夢に声をかける。

 

「霊魔さんって、どんな方何ですか?イマイチ、よく分からなくて」

 

恐る恐る、と言った感じで聞く大妖精。

言われてみれば、大妖精の気持ちは分かる。ただでさえ隠していない隠し事が多い霊魔の事だ。性格が良くても、全体像が見えないのは気味が悪いのだろう。

 

霊夢は言葉を選んで説明するために少々考え込んだ。

 

 

「霊魔は……そうね、私よりも強くて。そして、私よりも脆い人よ」

 

そして、自分なりの所感を述べた。

 

 

「もろい?」

 

「ええ。彼の精神的な問題よ。知識とか経験はある癖に、何というか、幼いのよ。無邪気さで言ったらチルノと同じくらい」

 

下手すると知識すら偏ってるけど、と付け足しながら霊夢は続けた。

 

「魔理沙と仲が良いのが証拠かしら。あいつはそういう子供みたいなヤツに好かれやすい性質だから」

 

「それがどうもろいんですか?」

 

「討たなければいけない敵を倒せない。存在するだけで悪なものを攻撃出来ない。同情してしまう。エゴに近いもので、博麗の巫女としては致命的よ」

 

微笑みながら、続ける。

 

 

 

「きっと、彼は幻想郷の為に誰かを切り捨てられない。とても優しい人」

 

 

 

 

 

「じゃあな美鈴。お前の事は忘れない」

 

「これが博麗の巫女のやる事ですかぁ!?」

 

 

なお、その頃。霊魔は美鈴を見捨てていたりする。

 

 

「いいのかしら?重ねて依頼する事になるけれど……」

 

「気にすんな。魔理沙に気づかなかったコイツが悪い。給料は全部コイツが払う手筈だから、追加の依頼料も吹っかけるさ」

 

「ちょっと優しそうに見えてドス黒い!?」

 

「そう。じゃあお願いね」

 

「任せとけ」

 

「私を放置して会話を進めないでくださぁいッ!!ちょ、咲夜さん!?襟を持たないで…………!ぁぁぁぁ…………」

 

 

美鈴は咲夜に連れて行かれた。

 

霊魔は、呆れながら息をつく。

何が気配で分かるのか。素通りではないか。

 

聞けば、俺と美鈴が戦っている間に魔理沙が忍び込んで、いつものように盗みを働いたとか。

 

主に魔理沙のヤツがここで盗むのは、大図書館にある魔法関連の本だ。だが、大図書館にいた魔法使いのパチュリーが実験的な研究を丁度行なっていたらしい。

 

恐らく、「集中を乱された。本ま盗られた。アイツまぢアカン」とか、パチュリーが咲夜にでも言ったのだろう。

 

じゃあ通したのは誰だ、となり。

 

シワ寄せが美鈴に来て今に至る。

 

おかげで、話し相手から門番にジョブチェンジである。

暇つぶしの為に呼んだ人に暇をつぶさせるのはなかなかいい度胸である。

そこまで怒りがあるわけではないのだが、シバく所はシバかねばなるまい。

 

 

 

門番をしてしばらく、ロクに客も来ないので腕を組みながら壁にもたれる。

正面の道が拓けている上に、湖があるのが問題だろう。誰もいない事が安易に分かる。湖の上に妖精がいる事もあるが、不幸にも今はチルノや大妖精と言った俺と関わりのある妖精はいない。

探せば他の妖精はいそうだが、知らない妖精に近づくなんてもはや不審者である。

 

だが、そもそも門から離れてはいけない事に気付き、どちらにしろ無理だと諦めた。

 

思わずあくびをする。

日差しが暖かいが、決して暑すぎるわけでもない。昼寝には最適な天気だった。

 

「まさか、眠気と戦う事になるとは。さて、勝てるかどうか……」

 

人知れず、霊魔VSシエスタが始まった。

 

 

 

 

霊夢はチルノ達が帰った後、だらけながら何をしようか悩んでいた。

 

ヒマなのだ。

 

最近は妖怪退治の依頼もなく、どうせならと霊魔に任せっきりになっていた家事をやっていたが、料理をしくじったおかげで折れた。

あの時は自分で何が起きたか分かっていなかった。気付いたら芯が残るアルデンテな白米が出来て、気付いたら、石のように硬い握り飯が完成していた。霊魔の苦笑いをしながらのフォローが本当に心にキた。

いつも……というか、昔の一人暮らしの時はこんな事はなかったはずなのに。

 

神社の掃除も珍しく、チルノ達が来るまでに終わらせてしまっている。

他にやる事がないか考える。

 

横になっていた体勢から寝返りをうつ。うつ伏せになり、頰が畳に乗っかった。むにっ、とほっぺたが潰れる。

 

妙に空虚な何かが辺りに漂っていた。

最近、芽生えた小さな違和感。

 

 

寂しさが、そこにあった。

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

……うん。

 

「会いに行こう。紅魔館にいたわよね」

 

霊魔の予定を思い出す。邪魔になるかとも思ったが、偶には魔理沙のように茶々を入れに行くのもいいだろう。

小さなモヤモヤを無くすために、早急に準備を始めた。

 

 

「霊夢さーん、遊びに……って、どこか行くんですか?」

 

「早苗……。……あんたも来る?門番やってる霊魔をからかいに行くんだけど」

 

「最近、色んなところで働いてるとは思ってましたが、そんな所にまでいるんですね……」

 

「いいから。来るの?」

 

「もちろん。行きますよ」

 

 

 

 

霊魔は目を閉じたまま。世界を感じる。

 

僅かな風を体で感じ、夕日に染まる体を認識する。

 

鳥の囀りを耳で聞き、小さな葉と葉が擦れる音をも聴き取る。

 

土の匂いを嗅ぎ、大地と後方の建物に漂うものを判別する。

 

 

 

脳内に格子状の空間を作成。

 

記憶から引用したマップデータを写し込む。

 

視覚以外の感覚で感じた全ての情報も心象風景に流出させる。

 

透明な起伏、形状に色彩が加わり、一つの箱庭が形成された。

 

 

そっと、目を開ける。

 

 

体には大粒の汗が滲み出ていた。

 

「……ふぅ。あぁ、きっつ」

 

思わずそう零した。

 

やろうとしていた事は、視界が遮られた際の地理の把握と敵の動きの察知である。

頭の中に立体的な地図を作り出し、感覚を通してリアルタイムに更新していく。そんなイメージの元、実践していた。

 

「ダメだ。一つ一つの情報を整理しないといけないからラグが出てくるな。そもそも、紅魔館の中の咲夜も脳内に投影してみたが……なんだありゃ。頭の中の妄想と絡まってヘンテコな動きをする時があるな。誰かの動きを察するには近くないと駄目か……」

 

霊魔は考えをまとめる。

 

「このやり方は駄目だ。複雑すぎて、何かを削らないと役に立たないな」

 

「何やってたんですか?」

 

視界を遮断しての周辺の把握する練習を終えると共に、緑のチャイナ服を着た少女が帰ってきた。

 

「ん……。暇だから、目をつぶって周りを察する訓練をしてた」

 

「感覚を鋭敏に……ってヤツですか。どうでした?」

 

「全然。頭が痛くなった」

 

「そうなんですか」

 

「お前はどうだ?説教は終わったか?」

 

「はい。絞られちゃいました」

 

てへっ、と朗らかな表情を浮かべて、すいません代わりますよ、と交代を促した。

 

「全く。やれやれだ」

 

 

「ところで霊魔さん。さっきのアレ。いい方法がある、って言ったら気になります?」

 

 

「……気にはなるが……教えてくれるのか?」

 

「まぁ。理論派の霊魔さんにはコツが少し掴みにくいかも知れませんが。

聴勁(ちょうけい)って、知ってます?」

 

「なんだそれは?」

 

「聴勁の『聴』は『聴く』と書きます。でも、これは聴覚を使いません」

 

「……??」

 

「やって見せた方が早いですね。まず、私は目を瞑ります。同時に、この目の前に出した右手の甲に、貴方の右手の甲を合わせてください」

 

「こう、か……?」

 

少し戸惑いながらも手を出して手の甲に合わせる。

 

「そうです。では、好きに動いてみてください」

 

「分かった」

 

美鈴の方向へ歩く。すると、同じ速さで後ろに下がる。

後ろに回り込もうとすると、必ず霊魔の方に正確に向く。

 

あらゆる不規則な動きの尽くに、合わされてしまう。

 

その間、二人の手は接触したままである。

 

 

美鈴は目を開いた。

 

「どうですか?」

 

「凄いな、これは……!」

 

「体全体をアンテナのようにして、相手の動きを察知する。これが聴勁です。慣れるまでが長い道のりですが、今のように合わせるだけでなく攻撃も避けることが出来るようになります。きっと役に立ちますよ」

 

「ありがとう。使わせてもらう」

 

「では、給料も事前に言った通りの金額で……」

 

「二倍から一・五倍くらいにはなるほどの価値だな」

 

「増えてるのは変わらないじゃないですか!?怒ってると思って、折角教えたのにぃ……」

 

「冗談だ。契約通りで構わん」

 

「ほんとですか!?流石霊魔さん!やりましたよー!」

 

「分かったから。うるさいぞ」

 

 

「しかし、終わりまで後1時間ちょっとか。思ったよりも長いようで短い……か?少なくとも、俺は門番には向いてなさそうだ」

 

「そうですか?意外と似合ってると思いますが」

 

「やめてくれよ……」

 

「む」

 

「お」

 

同時に正面の人影に目を向ける。

その気配が強者のものであることに美鈴が。いつもの知己であることに霊魔が声を漏らした。

 

「霊夢さんと早苗さんじゃないですか。霊魔さん目当てですか?」

 

「そ。このバカ、ちゃんとやってる?」

 

「ひでぇこったな。早苗まで来ることはないだろうに」

 

「いいじゃないですか!楽しい事はみんなで共有ですよ!」

 

「楽しく見えるか?これ」

 

「はい。とても楽しく見えます!」

 

「お前たちにとって、だろうが」

 

霊夢と早苗が来た事により、会話が流れるようになった。

美鈴は凄い嬉しそうな顔で喋っていた。そんなに門番がつらいならやめればいいだろ。

 

そう言うと、やめたくない理由があるんですよ。と言われたので、好きにしろ、と返した。

 

 

 

 

「いつまでいることになってるの?」

 

「後、数分程度だ。どうせなら酒瓶でも買ってから帰るか?」

 

「良いわね。そうしましょう」

 

「やっぱり、この二人はいいですよね!分かりますか!?これが!」

 

「わ、分かりますから……!グイグイ来すぎですよ早苗さん!」

 

 

 

「……!おい美鈴」

 

「っ!はい!」

 

気付いたのは霊魔だった。呼びかけに応じると共に美鈴が。その言葉に反応するように二人も気付く。

 

「今日は紅魔館の中で花火大会でも予定があったのか?」

 

「いえ。むしろ、静かに優雅に過ごしましょうと言われたぐらいですよ」

 

「厄介なお前らのとこの妹さんか、それとも……」

 

「敵、ですね……!」

 

紅魔館の壁が破壊され、吹き飛び。

中から、異形の人型が現れた。

 

邪悪な爪。禍々しいツノ。そして、全てを魔に堕とすかのように真紅に輝く眼がこちらを覗いていた。

 

「デーモンを絵に描いたら、大体あんな感じじゃないか?」

「あんたはそんな画力ないでしょ」

 

「そう言えば、パチュリー様が召喚術の実験をするとかなんとか……」

「どう考えてもそれじゃないですか!?」

 

 

「「来る(ぞ)(わよ)!!」」

 

 

正面の門扉を破壊して強靭な爪が四人に襲い掛かる。

 

霊魔がデーモンの手首を全身を使って受け止め、霊夢が顔を横に蹴り抜く。

 

しかし、デーモンはにたりと笑い、目の前の霊夢を見て目の光を増幅させた。

 

すかさず、胴に向かって美鈴は掌底を、早苗が飛び蹴りを叩き込む。

踏ん張るデーモンに博麗の二人は手に霊力を込めてさらに押し込んだ。

 

「「くたばれ!」」

 

食らって堪え切れなくなったデーモンが横の雑木林に吹っ飛んでいった。

 

四人は警戒しながらデーモンの様子を伺う。

 

 

 

「頃合いか」

 

低い声が、三人の耳に届いた。

 

「何が、ですか?霊魔さん」

 

 

「なぁに、そろそろこの幻想郷でも手の内を見せようと思ってな」

 

 

それは三人を驚かせるに余りある言葉であった。

隠し続けていたものの一つを今明かすと言ったのだから。

 

 

「本気なの?霊魔」

 

「本気さ。霊夢。見せるなというならやめるが、あいつは本当の悪魔のようで全然堪えない様子だったからな。やるしかないだろう」

 

 

「勝てるんですか!?アレに!?」

 

「勝てるぞ。明日は疲れて寝込むかも知れんが」

 

 

「あなたは戦いを見せたくないのでは……」

 

「戦い方の知りたいと言ったのはお前だろう、美鈴。なぁに、一撃必殺には自信があると言った理由、ここで教えるとしよう」

 

 

 

「中々凶悪な相手だ。迅速に終わらせるとしよう。霊夢、10秒くれ。拘束か何かで隙を作ったら全員離れてろ。余波がどうなるか俺も分からんッ!」

 

と言って、霊魔は空へ飛ぶ。

 

霊魔には飛ぶ力は持っていない。そう霊夢が思っていたのも束の間。

 

 

 

霊魔は、空を駆けた。

 

 

 

見えない床を走るように。徐々に加速していき、やがて見えなくなった。

 

 

 

 

幻想郷の端まで来た霊魔は、見えない壁に着地した。見上げるはその先の悪魔。

 

霊力の強化を全身に施す。鎧のように。これから起こる事態に耐えうるように。

 

 

そろそろ、霊夢が隙を作る頃合いだろう。

 

 

空を駆ける。

一歩走る毎に速度が異様に上昇する。

 

加速。加速。加速。加速。加速。

 

 

既に体には限界が来ている。しかし、潤沢な霊力によって密度を高くすることにより、Gに耐える体を即席で作る。

 

 

加速。加速。加速。加速。加速。加速。加速。

 

視線の先に紅魔館が見えた。次の瞬間には。

 

()()()()()()()()()()

 

「戦力過多だが。許せ。貴様如きの悪魔に幻想郷を潰させるわけにはいかない。早々に退場願おう」

 

 

 

 

 

「瞬間時速、1光年。」

 

 

 

 

 

 

「『陽は昇り、流星になりて(ただの体当たりだ)』」

 

 

 

 

掠っただけであろう、対象は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一献注いで、少し口付けた後に一気に煽る。腕の痛さに思わず顔をしかめる。

少なくとも、さっさと寝たい気分だった。しかし、痛みが治まらずに酒の力を借りようとしている始末である。

 

 

デーモンを倒したのはいい。放置してはいけない存在だ。

 

 

しかし、やりすぎた。

デーモンは影も形もなく崩壊して爆砕し、三人は吹っ飛んで林の中で強打、打ち身がアザだらけで大変な事になった。自分自身も全身が重度の筋肉痛でまともに動けなかった。

さらにそれだけでは治まらず、湖と紅魔館の間にクレーターが出来るという面白おかしな状況にしてしまった。後日、改めて謝りに行く。

 

とりあえず、早苗と霊夢に肩を貸してもらいながら帰宅した後、三人で能力の説明をした。

 

『空を駆ける程度の能力』。それが俺の能力である。

 

詳細はまた後で話す、と言って、全員が急な戦闘で疲れたので早々に切り上げた。

 

 

途中、早苗に「霊夢さんと能力が似てますね」と言われた。

 

 

「そうだな」と返しておいた。

 

 

という訳で、夕飯も(霊夢が口に運んでくれる事で)済ませ、晩酌も霊夢が先に寝てしまったために一人で行っていた。

 

腕が動かすだけでもう痛い。さっさと寝よう。

 

 

 

結局、詳しい事情を明日以降に全部放り投げて、床についた。

 

 

 

やはりというか、全然眠れなかった事を日記に記しておく。

もうあんな無茶はしない、と、心に決めた霊魔だった。




徐々に秘密は明かしていくスタイル。
霊魔はタイミングを見て情報を開示していくところがありますね(読者感)。

結局、デーモンが現れたのは何故か?
霊魔の能力の詳細とは?
そんなこんなは次の話にぶっ込みますのでお楽しみに。

次回は「みんな大好きメイド長」でお送りします!
ゆめみんでした。またね!


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十六夜咲夜と能力の話

作者名で、ツイッターやってまーす。
フォローしてくださーい。
面倒ですかー?
ならいいでーす。


 デーモンショック(主に霊魔の所為)から三日後。

 

 霊魔は人里にて待ち合わせをしていた。

 

 悪魔との闘いで負った、というか完全に自分の自業自得なのだが、筋肉痛は完治し、動けるようになった霊魔はこれまでの三日間の悪夢に思いを馳せた。

 

 文字通り、悪夢を見た訳ではなく。

 何が楽しくて、生理現象やその他諸々を彼女に任せなければならないのか。という話である。嬉しいが、恥ずかしさが何より勝った。

 

 決定的だったのは尿瓶である。全力で逃走し、早苗や魔理沙までもが動き、果てには偶々来ていた慧音も追跡に参加し、痛みに苦しみながら走る霊魔を女性陣が追いかけ回すというカオスな空間が出来上がった。女性達は全員善意から来る行動のため突き放す事が出来ず、説得の末、トイレだけは自力で行う事を許可された。

 

 二度と無茶はしないと固く誓った時である。

 

 

「待たせたかしら?」

 

 そういいながら、銀髪の瀟洒なメイドが目の前に立つ。

 

「いや、今回ばかりは待たされても文句は言えない。申し訳なかった」

 

 霊魔は頭を下げ、メイドである咲夜にそう告げた。

 

 

 あらましはこうである。

 

 三日前に紅魔館正面にて起こった惨状。行動不能となった霊魔の代わりに後始末を請け負ったのが咲夜である。

 

 単純に仕事が増えただろう咲夜自身に思うところは無かったが、霊魔が何か埋め合わせをしたいという事で、今日の待ち合わせとなる。

 

 その事で霊夢が、能力の話よりも先に「予定を埋めるな!」とキレ始めていたのだが、こればかりは仕方がないだろうと霊魔が鎮静化させていたが。

 

 

「さて、あなたにはこれからの私の買い物を手伝って貰っていいかしら?」

 

「いいが、そんなんでいいのか?」

 

「どこかの誰かさんにあてられてね。私も話し相手が欲しい時があるのよ」

 

「そうか。分かった」

 

「……ちなみに、誰の事か分かるかしら?」

 

「ん?美鈴だろ?前に俺はあいつと喋ってたし、それの影響だろ?」

 

「……貴方、やっぱりないわ」

 

「何がだ」

 

「鈍いのね、って話よ。行きましょう」

 

「???」

 

 そう言って、歩き始める咲夜。

 霊魔は頭を傾げながら後を追って行った。

 

 

 メイドと居候の奇妙な珍道中が始まった。

 

 

「よぉ、咲夜ちゃん!……と、霊魔じゃねぇか!浮気か!?」

「違うわ!」

「あー!れーまがきれいなねぇちゃんと一緒にいるー!しゅらば?」

「誰だ!?修羅場なんて言葉をこいつに教えたやつ!?」

「霊魔さん!?そういうのは良くないと思います!」

「違うっつってんだろうがぁ!!!」

 

 

「あははは!」

 

「おかしい!人に出会うたびに尽く誤解から始まるんだが!?」

 

「貴方達ってそういうことをしてるのね。てっきり、こっそりやってるのかと思ったわ」

 

「そんな事ないぞ。意外と二人で買い物やら用事を済ませる事も多いからな」

 

「どちらから誘うの?」

 

「霊夢の方からだ。基本的に俺はフリーだから、毎回付いていっている形だな」

 

「ふぅん……」

 

「なんだよその顔。刺さるぐらいには怖い笑顔だな」

 

「失礼ね。これでも上機嫌なのよ?」

 

「ならせめてその顔はやめとけ。いつもの可愛さが半減するぞ」

 

「……」

 

「なんだよその顔」

 

「いいえ、何も」

 

「さっ、行こうか」

 

「……ふぅ、これは中々に強敵ね」

 

「ん?なんか言った?……まぁ、いいや」

 

 

 そういった会話を所々交えながら買い物を進める。

 

 そんな中で咲夜が驚いたのは、霊魔の追従が徹底的であった事だった。

 食品は当たり前、女性の服選びにも付いて来て、さらには女性しか付けない化粧品の類いにすら興味を示す付き合いぶりである。

 

「見たいものはないのかしら?」と、聞けば。

 

「ない」と、即答である。

 

 

「恥ずかしくないのかしら?」と、付いてくる事について聞くと、

 

「商品見てるだけだろ」と、澄ました顔で言い切った。

 

 そういう事なら、とちょっとしたイタズラ心で咲夜はランジェリーショップ、つまりは女性用の下着屋に行ったが、霊魔は困惑するどころか、咲夜に似合うものを見繕い始めたので「あとで一人で買いに行くわ」と早々に切り上げた。

「似合うと思ったんだが……」と一人で勝手に凹んだ霊魔を置いていくかのように歩く咲夜の顔は、ほんのりと赤くなっていた。

 

 

 

 日が傾く。夕焼けに染まる景色が妙に明るく美しかった。

 

「こんな所ね」

 両手に買い物袋を携えて咲夜が呟いた。

 

「ほう?これのどこが『こんな所』だ!どこがっ!頭おかしいんじゃねぇの!?」

 後ろから霊魔が付いてくるが、両手にはパンパンに膨らんだ買い物袋が合計12個持っており、背中にはリュックサックタイプのものやナップサックタイプのものをいくつか抱えていた。

 

 正直、正面からでないと霊魔と認識出来ない程、持たされていた。

 

「そのぐらい、いつものことよ」

 

「お前の常識で物事を測るな!時を止められないヤツがこの量を持てば、こうなるに決まってるだろ!」

 

「そういえば、白胡椒も切れていたかしら……?」

 

「話を聞け!このバカメイド!」

 

 珍しく霊魔は咲夜に悪態を吐く。

 流石にやりすぎかしら、と思い、咲夜は時計を取り出した。

 

 

「うおわっ!?」

 荷物が急に無くなったために、霊魔はバランスを崩した。

 転ぶのを避けるためにたたらを踏んで、辺りの一変した景色を見る。

 

 紅魔館正門前。

 霊魔がパチュリーが誤って召喚したであろう、デーモンを地面ごと木っ端微塵にした所である。

 

 咲夜の時止めによって、ワープに近いことをされたらしい。

 彼女がここにいないと言うことは、主人に呼び止められたりしているのだろうか。

 

 時間があるので、咲夜に修復された地面を検分する。

 確かに、全て綺麗に直っていた。どこまでが砕けていたのかすら分からない程まで綺麗になっていたのにはただただ感服するばかりであった。

 

 

 今度何か差し入れでもしようかな。そう思いながら立ち上がった瞬間、後方から風を切り裂く音が聞こえた。

 

 咄嗟に背後に振り向き、弾き落とす。

 

 そばに落ちたのは銀に光るナイフだった。

 霊魔は投擲した人物に声をかける。

 

「随分と粗いな。お前としても本意ではないと見るが、どうだ?––––」

 

 

「––––咲夜」

 

 

「お嬢様が仰られたのよ。『あなたの能力を知りたい』とね。唐突だけれど、腕試しといきましょうか」

 

 そう咲夜は言った。

 既に指の間にナイフを数本挟んでいる。

 

「良く言うよ。なんかおかしいと思えば美鈴が門番してないじゃねぇか。最初からそのつもりのハラだったんだろ?」

 

「美鈴は休暇よ。たまには休みをあげないとね」

 

「その休みを決めれるのはお前かお嬢様のレミリアだろ。まぁ、門番の仕事をしてないだけで、働いてないかは知らんが」

 

 咲夜の表情が一瞬固まった。図星と見て、霊魔が話す。

 

「最近、あいつ自身に聴勁ってのを教えて貰ったんだ。だからある程度の気配なら遮断されてても分かる。左側の林の50メートル先で登って待機してるな。どう、合ってるか?」

 

「あれは触れていないと感じ取れないものと聞いたのだけど」

 

「風でなんとなく分からないか?」

 

「……あなた、本当に人間かしら。人とは思えないわ」

 

「さぁな。……で?イマイチやる気が出ないんだが、やるのか?」

 

「ええ、命令ですもの。あなた、無気力なまま死にたいのかしら?」

 

 咲夜の視線が冷たいものに変わる。

 変化した雰囲気も意に介さずに霊魔は答えた。

 

「無気力も何も、やる気起きないだろ。お前が悪い事した訳でもないし、こっちは出来るなら能力の本質は多くの人間にバラしたくないしな」

 

「能力の本質……。やっぱり『空を駆ける程度の能力』なんて嘘なのね」

 

「嘘じゃない。能力の一端を語呂よく言っただけだ。実際、やっていないだけで出来る事に変わりはない。まぁ、最近気付いた事ではあるが」

 

「胡散臭さに磨きがかかってるわね」

 

「うるせぇ、言いたくても言えねぇ事が多すぎるだけだ」

 

 

 その言葉に咲夜が驚いた。霊魔も失言に気付いて罰が悪そうにする。

 

 

「言いたくても言えない?あなたは何を……」

「言葉の綾だ。深い意味はないから気にするな」

 

 

「……そう。今はそれでいいわ。そろそろ始めましょう」

 

「だから、やりたくないんだが」

 

 咲夜はため息を吐く。霊魔という男、意外と強情である。

 これはお嬢様から言われた条件を言うしかない。そう思い、条件を提示した。

 

 

 

「あなたが来ないなら、博麗霊夢を殺すわよ」

 

 

 

 返事はない。だが、瞠目したような表情に一変した。

 咲夜は続ける。

 

「私は有耶無耶にされたくないの。命令ならば完璧をもって従う。貴方が従わないなら従わせるだけよ。霊魔」

 

 やる気は出たかしら、とは続けられなかった。

 

 

 刹那、咲夜の全身に走ったのは恐怖と事実だった。

 

 目の前の()()による底知れない殺意と、これから殺されるという純然たる事実。

 

 冷や汗が全身から溢れ、視界が急激に狭まる。

 霊魔の足元をしか注視出来ずに体が固まり、ついに震え出した。

 

 

 咲夜はやっとの思いで霊魔の眼を見る。

 

 顔が歪んでいた。

 

 今までに見た事がないぐらいに発露した怒りである。

 

 

 それと同時に咲夜が感じたのは、苦しみであった。

 感じたそのまま、霊魔は苦しんでいた。

 

 咲夜は自分の身の危険さえ忘れ、その感情がどこから来るのかを思考する。

 

 簡単な事だった。彼は私を殺すのを抑えているのだ。

 感情から来るどす黒い怒りを、それと同等の意志や決意で抑えていた。

 感情と理性。その二面性で葛藤していた。

 

 

 しばらくして、おさまった様子の彼は口呼吸を荒げながら言った。

 

「分かっていた」

 

 咲夜は、何が、とは言えない。

 

「誰かが、霊夢を餌に俺に何かをさせようとすることはいずれあるだろうと、分かってたんだ」

 

 咲夜は、何かを言う気もなくなった。

 

「分かってはいたんだ。でも……はぁ……、ここまで自我が消えちまうとはな……」

 

 確実に、霊魔は自分に向けて語っていた。

 

「ふ……ふふ、ふはは……!」

 

 そして、笑った。大きく口を開けて笑った。

 しばらくして、息を切らしながら言う。

 

「よかった。何もしなくて本当によかった。咲夜、大丈夫か?」

 

 霊魔に名指しされる事で、やっと口が動いた。

 ええ、と言ったつもりだったが、そう言えたのかは覚えていない。

 

 しかし、霊魔には聞こえたようで、うなづいていた。

 

 

「これも『成長』か。初めて、この感情に耐える事が出来た。礼を言いたい」

 

 本人は自己完結していた。

 咲夜には、彼の胸中に何があるのかは分からない。

 ただ、自分は高確率で死んでいたかもしれないという事は分かり、次第に足から力が抜けた。

 既に心は折れていた。瀟洒な姿が辛うじて表面を覆っているだけである。

 

 それを真似るように霊魔もへたりと座り込み、遠くに告げるように大声を出した。

 

「すまない美鈴。茶をくれないか!」

 

 

 

 

 紅い主人がいた。紅魔館の主である。

 彼女は狂ったように微笑んだ。

 

 やはり面白い。利用価値がある。

 

 隠すまでもなく、彼女こそ霊魔の実力を測ろうとした人物であり、そして今しがた最上の結果を得たのだ。

 声が思わず漏れる。

 

 あの激情をコントロール出来れば、幻想郷の上に立つ事も容易だろう。かつての異変で苦渋を飲まされた分だけでも、仕返しをするのにこれ以上の逸材はない。

 

 仕切り直した二人を見て、静かに嗤う。

 これからの選べる運命の中に霊魔が勝てる運命はない。咲夜が辛勝する運命こそあれ、霊魔は勝つ事はない。

 ……だが、先ほどの殺気だ。咲夜が気圧されながら戦うのは、勝利の後の疲労に直結するだろう。

 

 そう思い、紅魔館の主は運命を操作した。

『運命を操る程度の能力』。これを確かに使用した。

 

 

 

 

 だからこそ、これから起こる運命が信じられなくなった。

 

 

 

 

 少し遡り、紅魔館正門前。

 二人は人に見られるにはあまりにもだらしなく、美鈴から紅茶を受け取った。

 咲夜は一口飲み、「……ふぅ」と息を漏らした。

 

「なぁ、美鈴。緑茶なぁい?紅茶の作法とか知らないから、なんか飲みづらくてよぉ」

「知りませんよそんな事。それに……今は気にしなくていいと思いますけど」

 

 そうか、と一言漏らして豪快に煽り、一滴残らず口に含んで飲み干した。

 すかさず美鈴が「限度があるでしょう」と呆れる。

 

「霊魔」

 

「ん、ちょっと待て。……美鈴、外せ。頼む」

 

「あ、はい。では、ごゆっくり」

 

 そう言って、美鈴は紅魔館の中へ戻って行った。

 美鈴には、これから起こることが決して血生臭いものにはならない確信があったのか、霊魔が帰るまで外に出る事はなかった。

 

「……霊魔、ごめんなさい」

 

「謝るのはこっちの方だし、むしろ感謝さえするよ。やっと、自分の課題だった感情のコントロールが、一歩前に進んだんだから」

 

「……でも」

 

「それに、これ以上謝られるとさっきの事を思い出してしまう。それはお互いに嫌だろ」

 

「……そうね」

 

 気が付けば、空の青色が濃くなっていた。

 そろそろ帰らないとな、と霊魔は考えた。

 

 

「貴方は、霊夢をどう思ってるの?」

 

 不意に、咲夜がそう尋ねた。

 

「……好きだよ。ただ、それ以上の思いが彼女にはある。その為に生きてるようなもんだ。今は、それで手一杯」

 

「口を滑らせていいのかしら?」

 

「お前なら、もういい。まだ他の奴には言えんが」

 

 そう言って、距離を置いて立ちはだかる。

 

「さっき礼をすると言ったな。俺としては聞いて欲しい事もあるが、先にやるべき事がある。……立って構えろ」

 

「霊魔……」

 

「真髄を見せる、と言っている。生半可に立ち向かうのもいいが、全力で来ないと本質を理解する事は出来んぞ」

 

 無言で構える咲夜。

 

 それに満足するように、微笑む。

 

「一度しか見せられん。だが、お前なら問題はないだろうッ!」

 

 それを皮切りに、咲夜に向けて走り出した。

 既に音速を越えようとする霊魔に、咲夜は全身全霊をもって応える。

 

 

咲夜の世界(ザ・ワールド)ッッ!!』

 

 

 

 

 時間が、停止した。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、ってね。……じゃ、帰るな。治療はしたから静養しておけよ。おやすみ」

 

 そう言って霊魔は立ち去った。

 戦闘開始して二秒、咲夜が時間を止めて後、一秒経った後の言葉である。

 

 傷だらけになりながらも門にもたれかかる咲夜は、ただ「はい」とだけ答えた。

 

 咲夜はしばらくして立ち上がった後、珍しく家事を何もする事なく就寝したと言う。

 

 後日、レミリアや美鈴から霊魔の能力の詳細を問われたが、咲夜から話す事はなかった。

 

 

 

 夜。いつもの縁側につまみと酒を用意する。

 今回は趣向を変えて、普段は手に取らないものに手を出してみた。

 

 ワインだ。

 

 グラスに注いで匂いを嗅ぐ。

 

 咳き込んだ。

 

 仕切り直して、グラスを揺らす。

 ワインレッド、と言うのだろうか。この鮮やかに輝く赤にまるで吸い込まれるようだ。

 

 チーズをひと齧りし、一口煽る。

 

 咳き込んだ。

 

 渋い。ダメだ、合わん。

 情緒もへったくれもなく飲み干し、床に向かう。

 

 否、向かおうとした。

 

「良いもの持ってるわね。付き合ってくれない?」

 

「霊夢。良いが、俺にはこれは合わない。注ぐだけで良いか?」

 

「付き合ってくれない?」

 

「れ、霊夢……?」

 

「付き合ってくれない?」

 

「………………はい」

 

 たまには、と自分を無理やり納得させ、空いたグラスともう一つのグラスにもワインを入れる。

 

 ワイン越しに見る月は紅かった。

 

 

 今日は長い夜になりそうだ。

 そう、心の中で呟いた。




能力が分かると言ったな。
うそは言ってない(全部教えるとは言ってない)。


咲夜は一体何見たんでしょうかね?(すっとぼけ)

次回から、もう少しほんわか出来たらいいなぁ……。


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ミスティアと語る短い話

今回かなり短いので、
がっつり読みたい人には物足りなくなってしまってます。

申し訳ねぇ。

物語にも息抜きは必要なんです。


「やぁ、女将さん。一杯いいかい?」

 

「ああ、霊魔さん!どうぞー!」

 

 黒髪に赤い目が特徴の青年。霊魔はいつものように、空を歩いて来た。

 何故、毎回空を歩くか。単純にミスティア・ローレライの屋台を見つけるために上空に上がるだけである。

 

 彼は完全にオフのようであり、外の世界のようなラフな洋服を着ていた。

 

「今日はどうしたんだい?」

 

「無理に女将さんぶらなくてもいいぞ、女将さん。……まぁ、霊夢がご機嫌ナナメなもんで逃げてきた。しばらく居座らせてくれ」

 

 

 

 霊魔がここへ来る時は大体同じ理由である。

 それは、自分のした事の罪悪感や自己嫌悪。

 それらを払拭するために来る。

 

 と、言っても、懺悔の内容は大小様々で。

 

 以前は『虫を殺してしまった事を急に思い出して、申し訳なく感じ始めた』などと言って来た事もある。

 

 ここに来た時の彼は、きっと他で見るどの彼よりも可愛い。そう思いながら微笑み、料理を提供するミスティアであった。

 

 

 

「そんでそんで?何をしたらあの博麗の巫女を怒らせられるのさ!」

 

「あんた楽しんでるな?いつも言ってるが、笑い事じゃあないんだぞ」

 

「笑い事だよ。悲しい事の一つや二つ、ここじゃあ酒の肴にしかならないからね。いつもの酒でいい?」

 

「ああ、ヤツメウナギも一皿頼むよ」

 

「かしこまりました〜」

 

 

 ここの酒は名前こそ知らないものの、霊魔は『普通の酒』という認識だっあだ。そこらにある普通の酒という意味ではなく、霊魔が普通に飲みやすいと感じる酒、という意味であり、酒器を支える手がより傾く。

 早々にコップ一杯の酒を軽く飲み干した霊魔は、なめらかに口を滑らせた。

 

「関係、というのはイマイチ分からん」

 

「へぇ。そのココロは?」

 

「以前に俺と霊夢は……所謂、恋仲?……に、なったんだが……。距離感、というものがおかしいらしい」

 

「おかしい、か。何が?」

 

 

 

「『結局、いつもと変わらない』ということらしい」

 

「…………あー」

 

 

「あー、って何」

 

「理解した、って意味合いになるかなー?」

 

「ああ、ユアリーカとかいうやつか」

 

「え?ユア……?なにそれ?」

 

「確か、ほぼ全裸で街中を走った学者の名言だ」

 

「ふーん。バカなことする人もいるんだね……じゃなくて!今は霊魔の話!他に何か言ってなかった!?」

 

「理解した、と言ってるのにまだ引き出すのか」

 

「情報は多い方がアドバイスしやすいの!ほら、早く、ハリー!!」

 

 

「後、他の奴らと二人きりでいるのが気に食わないみたいだ」

 

「なるほどねぇ。ちなみに、最近一緒に居たのは誰?」

 

「咲夜だ」

 

「へぇ、あのメイドの。二人で何してたの」

 

 

 

「女性用下着の店で下着を選んでた」

 

「そりゃだめだよ」

 

 

 

「くっ、やはりセンスとやらが俺にはないからか……!」

 

「違うっ!!なんでそんなところに二人きりで行くのさ!?そりゃ霊夢もカンカンになるよ!!」

 

「じゃあ、そんなに行きたいなら、霊夢も誘って三人で行けば問題ないのではないか?」

 

 

 

 

『アッハッハー……』

『ウフフー……(憤怒)』

『フフフ……(真顔)』

 

 

 

 

 

 

『……チッ(鬼の形相)』

『……フン(夜叉の貌)』

『?』

 

 

「いや、あんた死にたいのか!?修羅場待った無しじゃん!!」

 

「どうすればいいんだ!!」

 

「行かなきゃいいだろンなモン!!」

 

 

 

「まったく、毎度の事とは言え飽きさせないねぇ……ふふふ……!」

 

「後は……あれだ。単純に一緒に過ごす機会が少ない、って言ってたな」

 

「それは君の腕の見せどころじゃない?男らしく、自分からデートしに行かないと」

 

「男ってのはそういうもんか」

 

「……まぁ、この幻想郷には男少ないからねぇ。前に見た男達はそんな感じだったよ。なんていうか『俺についてこい!』みたいな?」

 

「なんとなく、わかるかも知れん」

 

「それ、ホントに分かってるの?」

 

「知らん」

 

 

 焼けたばかりのヤツメウナギの蒲焼きを一切れ摘む。噛むと同時に魚の脂が口の中に広がる。皮もパリパリを音を立て小気味よい。

 

 コップに残っている酒を喉に流し込む。

「もう一杯飲んで今日は帰る」そう言って、霊魔は最後の話を持ち出した。

 

 

「実は、な。咲夜を殺しかけた」

 

「そうなの」

 

 あっけらかんとミスティアは返す。出来るだけ軽くしてあげたい立場としてミスティアは、ここで雰囲気を重くする訳にはいかない。

 

 今日は重い懺悔だったかぁ……と少し眉を傾けながらミスティアは続きを促す。

 

「自分でも分かっていたことなんだが、霊夢を脅し文句に使われただけで発狂寸前だったんだ。ただ、度が過ぎてた。向こうに実際にはその気が無くても、かなりヤバイところまで来てた」

 

「……そう」

 

「殺したくは、ないよなぁ……」

 

「そうだね……少々、君は過保護なんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「君の彼女は、君がいない時から幻想郷を異変から守ってるあの博麗の巫女だよ?ただのメイドや吸血鬼に遅れはとらないと思うよ」

 

「でも、少女だ」

 

 

 

「彼女は少女なんだよ。人間で、まだ若いんだ。そんな娘を心配するなという方がどうかしている!!」

 

「……」

 

「……悪い、怒鳴る程じゃあなかった」

 

「……あなたねぇ」

 

 

 

 

「あなたも博麗の巫女と同じぐらいでしょう。あっても一歳や二歳程度違うだけで大人ぶってはダメ」

 

「な……」

 

「彼女から見たら、あなたも危なっかしくて見てられないよ?分かってるの?」

 

「……」

 

「少し、歌ってくるね。あなたなら信用してるからいいけど、ツケでもいいわ。飲んだら帰りなさい」

 

 

 そう言ってミスティアは側を離れた。

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。……そうだよな。考えれば分かることだった。俺が霊夢を守ると同時に、霊夢もまた俺を守ろうとするんだよな」

 

 それは、当たり前過ぎる感情で。

 

「厄介な感情だな。恋ってヤツは」

 

 霊魔には、その本質が分からない。

 

 

 自分のやりたいことの為に、咲夜への頼み事が増えたかな。

 

 しばらく居座った後、銭を一纏めに置いて霊魔は椅子から立ち上がった。

 

「ごちそうさん」

 

 

 微かに夜雀の唄が聴こえる。

 それを朧げに口ずさみ、歩きながら森の風に当たる。

 

 

 霊夢と今度一緒に来よう。

 

 

 俺一人じゃ、寂し過ぎる。

 

 

 湧き出てきた小さな負の感情を拭うように。

 

 霊魔は一人、星空の下を駆け上がる。

 

 

 不意に、空に光が流れた。

 

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

「あわよくば、俺の望む結末が迎えますように……ってね」

 

 

 ……祈るなんて俺らしくもねぇ。

 

 そう言って博麗神社に戻っていった。




決して、彼は狂ってる訳ではない。

少し、大事なものが欠落しているだけ。

それでも、ここは受け入れてしまった。


もし、彼に何かを望めるなら。

「●●を●してあげて––––。」


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