ウェルカム異世界へ!歓迎します転生者!by魔王  (カイバーマン。)
しおりを挟む

第1話 上司にイジメられ死のうと思ってた俺が異世界に転生したらとんでもないチート能力手に入れて無双状態www

魔王

 

それは魔族の頂点に君臨せし人間達にとって最も恐るべき存在。

彼が一度姿を見せれば種族関係なく皆震え上がり、その場で無様に命乞いをしながら息絶えるであろう。

人々は彼の存在に畏怖し、生きながらも死んだように一日一日何も起こらない様にと必死に祈りながら不憫な生活を送る事を義務づけられている。

 

そしてその魔王がいる場所は当然魔王城。

 

地平線の果てに存在し、歩く事さえ不可能な荒れ地の真ん中に置かれた巨大な城。

その一番てっぺんにある魔王の間にて今宵も魔王は玉座にていずれ現れるであろう勇者を待ち構える。

 

「クックック……退屈だ、この上ない退屈だ……退屈過ぎて国の一つでも滅ぼしたい気分だ……」

 

広大な魔王の間にこれまた大きな玉座に座るのは、それまた巨大で恐ろしいシルエットをした魔王が身も凍る恐ろしい戯言を呟いている。

 

そんな魔王の姿は漆黒の闇よりも黒く、顔と思われしき場所にかろうじて二つの赤い目の様なモノが見えるだけ。

例え日の光を浴びようが決してその姿を拝む事は出来ない。

魔王というものはいざという時に本当の姿を現す物、魔王を討つべき勇者がいない今その姿を晒してはいけないのだ。

 

「早く来い勇者よ、このままだと我は退屈過ぎて貴様の大事なモノを全て消し炭にしてくれようぞ、クックック……」

 

倒すべき相手がいないと魔王というのは退屈なモノ、いつやって来てもいいように万全の状態にはしているが待っているだけでは興が醒めてしまう。

このままでは本当にどこぞやの国を半ば八つ当たり気味に滅ぼすであろうという矢先。

 

遂に魔王の下へ待ちに待った吉報が舞い降りた。

 

「申し上げます、魔王様」

「黒騎士か……」

 

魔王の間にて魔王の許可なく立ち入って来たのは黒き鎧に身を包み、身の丈を超える長い槍を背中に携えし騎士であった。

 

彼は通称「黒騎士」

魔王に仕えし雑兵の一人であり、雑用係を行うがてら特別に魔王への伝令を許されている数少ない魔族の一人である。

 

「クックック……一体何だ」

「は、遂に一の街にて、我等を討たんがために異界から転生した勇者が立ち上がった模様」

「!」

 

重苦しい雰囲気の中で放った黒騎士の言葉は、魔王の機嫌を高揚させるには十分な効果であった。

玉座に座ったまま魔王は内心喜びに身が震えそうになるも、部下の前であるという事を思い出し、気を取り直して

話を続けさせる。

 

「……で? その勇敢なる転生勇者様がどうした」

「既に装備を整えて一の街を立ち、まずは王への謁見へと向かう為に一二三の城へ向かっている模様です」

「ほう……」

 

一の街、それはこの魔王城からとてもとても遠い場所にあり、魔王の魔の手から逃れるためにひっそりと暮らす者達が集まる小さな街。

 

そして一二三の城とはその地方を治める王がいる場所、勇者はまず最初に王からの勅令を受けて魔王討伐を認められ、改めて冒険に出るのが従来のルール。数々のあの手この手の特権を王から頂けるのだから当然勇者もそれが目当てであろう。

 

「クックック……民からの税を貪り贅沢に贅沢を重ねたあの肥えた王がどれ程のモノを勇者に授けるか見物だな、だがどれ程の得物を授かりどれ程の才能を持っていようと……」

「おお……魔王様が玉座から立たれた!」

 

座っていただけでさえ巨大であったのに立ち上がった魔王はまさに破壊の化身と呼ぶに相応しい大きさと威圧感を誇る。

その姿を拝んでしまっただけで魔族でさえ震え上がり、走馬燈が頭を巡りつつショック死を迎える事もさほど珍しくはない。

 

我等が魔王が立ち上がった姿を間近で見た黒騎士は、ほとばしる王のオーラに必死に震えながらやっと耐えていると、魔王は人間の家ぐらいなら簡単に潰せそうな大きな手を腰らしき部分に当てて。

 

「フハハハハハハハハ!! 来るがいい勇者を!! さすれば我直々にその無謀なる勇気に賞賛を与え! 永遠なる死という贈り物を貴様に与えてくれるわ!!」

 

盛大に笑い声をあげながら魔王はこの魔王城にてかの勇者が現れるのを待つ。

自分を討たんと小さな街から飛び出した愚かな人間が目の前に現れる事に心躍らせながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王が城周囲に響き渡る不気味な笑い声を上げている頃、彼の求めし勇者は一の街から出て数刻程経っていた。

 

「ふぅやれやれ、俺が十数年生まれ育った町がもうあんなに小さくなっちまった」

 

魔物がはびこる魔物山にて呑気に自分の故郷である街を眺めているのは銀髪碧眼、膝まで伸びた黒いコートに身を包み、背中には煌びやかで美しい剣が鞘に収められたまま背負っている。

 

そしてかの者がその勇者であり名はデルタ・クロノス。仲の良い幼馴染の少女やその友人からはクロノと呼ばれていた。

 

「にしても魔王討伐か、やる気しねぇな……」

 

街の方角から踵を返し、クロノは再び歩き始めると心底けだるそうにしながらブツブツと独り言を語り始めた。

 

「俺は元々会社勤めのサラリーマンだったんだぜ? それが突然女神が現れて「私達の世界を救って欲しい、魔王を倒す為に私達の世界に転生して」とか……」

 

そう、彼は元の世界ではごく普通の会社に勤めるしがない営業マンであった。

周りには良いようにコキ使われ、30代を迎えてもなお上司にいびられ続け、同僚からは小馬鹿にされる日々。

 

そんな人生に嫌気がさしていっそ死んでしまおうとか思ってた矢先、彼の前に現れたのはとても言葉に出来ないほどそれはそれは美しい金髪の女神。

 

その女神の下で彼は異世界へ転生する羽目となり、今までの人生をリセットし、新たにこの世界で生を受けたのだ。

 

「気が付いたら美人な女の人に抱き抱えられてオギャーと叫んでる俺、やれやれここまで育つのに大変だったぜ、しかし俺は転生する際に女神様から頂いた能力があったから、そのおかげでそれなりに楽しい人生送れたんだけどさ」

 

彼は異世界へと来る前に女神から魔王を倒す為にと数々の能力を授かった。

 

それは「時間停止」というこの世界で唯一彼しか使えない最強魔法。

時間を止められるのは今の所数分ではあるが、経験を積めばより長くの間時間を止められ、いずれは完全に時間を操作する力を手に入れられるらしい。

 

おまけに彼は転生先で出来た家族から武術を義理の姉から教わり、勉学を義理の妹から教わり、魔術を義理の母から教わり続けてきたおかげで、既にその系列の分野は街一番の天才と称される程であった。

 

街のチンピラはおろか、街の周囲にいる獣程度なら楽々素手で倒せてしまう程、幼き頃から様々な技術を大人がぐうの音も出ないほど習得してしまった彼は、日々周りから賞賛される日々を送っていたのである。

 

それ程の神童である上に顔は超絶イケメン、当然異性にモテまくりで、隣りに住む幼馴染の女の子からは好意を持たれ、一の街で一番の権力を持つ村長の娘からも好意を持たれ、一緒に住んでいる義理の姉妹からも好意を持たれ、挙句の果てには義理の母からも好意を持たれまさにハーレム状態の人生であった。

 

しかしあまりにも強すぎる上にモテすぎる為に同年代の男の子や、嫉妬深い大人からはかなり反感が持たれていた。

そういう連中は喧嘩を買って適当に素手でボコってわんわん泣かせながら土下座させるにかぎる。

大抵それで手っ取り早く済むから楽なのだ。

 

こうして異世界へと転生してきた彼は、天才少年デルタ・クロノスとなり、そのあまりにも凄さに神の生まれ変わりとして街の皆から熱い声援を送られながら、魔王討伐へと出発したのである。

 

 

「やれやれ、俺はあの街でのんびりと暮らすのが性にあってたのに……まあいいか、魔王なんざ適当にサクッと片付けてさっさと帰るとするか、ん?」

 

めんどくさそうに彼がそう呟いていると、前方を見てみるとふと小さなシルエットが上下に動きながらこちらに迫って来た。

 

この山に棲む魔物である。

 

「ギー」

「……なんだこのザコっぽいモンスター? いやザコっぽいというより完全にザコキャラだねこれ」

 

勇者デルタ・クロノスの前に最初に敵として現れたのはいかにも弱そうな魔物であった。

 

血走った目玉にコウモリの羽と鳥の足が付いてるだけの極めてシンプルな見た目をした魔物。

 

名は見た目通りこの世界では「メダマン」と呼ばれており、羽をパタパタさせながら勇者を大きな目玉でジーッと見ている。

 

「ギーギー」

「うわ、なんかすげぇギーギー言いながらこっち見てるし、まあ序盤の敵だから当然ザコだろうしさっさと殺すか」

「ギーギーギー」

「俺にしか使えない最強呪文「完全なる時間の支配者」を使う相手でもないし、義姉さんから貰ったこの黄金の剣でコロッとね、はぁ~こんな相手じゃなくてもっと強い奴とやりたいんだよな俺」

 

この程度の相手には「完全なる時間の支配者」(名付け親自分)を使う必要ないと判断し、勇者デルタ・クロノスは大きな欠伸を掻きながら背中にある自慢の愛剣に手を伸ばそうとしたその時

 

「ギッ!」

「……え?」

 

メダマンの攻撃は終了した。

 

超人的な動体視力を持つ勇者デルタ・クロノスはメダマンの目が赤く光ったのはかろうじて見えた。

 

だがそれが自分の体に七つの風穴を開けた事にはまるで気付かなかったのである。

 

「?」

 

体にちょっと違和感を覚え彼は自分の体を見るとそこには綺麗にポッカリと空いた穴がいくつもあった。

そしてそれに気付いたと同時に

 

「あ……れ?」

 

一体自分の身に何が起こった事かもわからずに、前のめりにゆっくりと倒れる勇者デルタ・クロノス。

倒れるとわずかながら体がビクンビクンと痙攣した後

 

 

 

 

 

 

二度とその身体が動く事は無くなり、彼の時間は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 

勇者デルタ・クロノス、一の街から旅立ち数刻後、メダマンに倒され死亡。

 

最期の言葉 『あ……れ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は再び戻り魔王城、ガチャガチャと足音を立てながら黒騎士が駆け足で魔王の間の扉をバタンと開いた。

 

「申し上げます! 異世界からの転生勇者! 一二三の城へ向かう途中で死亡との事です!!」

「……」

 

黒騎士からの突然の報告に玉座に座り勇者の登場を待っていた魔王は、少々間を置いた後……

 

 

 

 

 

 

 

「えぇー! マジで!? もう死んじゃったの!?」

「マジです! もう死んじゃました!! ただいま逆転生の間に送られた模様!」

 

いつも使うべき魔王口調を忘れてしまう程驚いてしまう魔王。玉座から身を乗り上げて仰天している彼に黒騎士が残念そうに報告を続ける。

 

「原因は魔物山にいるメダマンからの攻撃を受けたみたいですね……メダマンってウチの世界では最序盤に出現する担当の魔物ですよね? 魔王様、メダマンのレベルってどれぐらいに設定してるんですか?」

「えーっとね、最初に出て来る魔物はかなり低くしてる筈なんだけど、メダマンのレベルは確か向こうの世界基準の数字にすると……」

 

恐る恐る訪ねてきた黒騎士に魔王は思い出す為に頭を振りながら記憶の捜索に入った後

 

「1溝(10の32乗)」

「魔王様それ半端なく高いですよそれ!」

「うっそ!? ウチの世界基準だと1とか2ぐらいだよコレ!」

 

全然ダメだと指摘されて素直にショックを受ける魔王。

他の異世界や勇者が転生してくる世界の総合レベルを合わせると、こちらの世界では大体このぐらいの数値になる。

魔王も内心「ちょっと高いかな? まあでも楽過ぎると勇者も飽きるだろうしいっかコレで」とは思っていたのだが

 

「勇者のレベルが確か50ぐらいだと一の街の村長からの報告です! 50が1溝にどう勝ちゃぁいいんですか! さすがにそれは魔王様といえど酷過ぎですよ! もっと弱く設定しないと!」

「いやでもこれ以上弱くさせるって、大丈夫? ヌルゲーになるんじゃないの?」

「今の所超高難易度の鬼畜ゲーか、理不尽かつロクな前情報も与えずに進むしかないクソゲーと化してる今よりはずっとマシですよ!!」

「クソゲー!? それはさすがに言い過ぎだよ! 我だって頑張って貴様等の力の調節やスキルを作ってるのに!」

「ではその魔王様が頑張って調整した魔物により! 意気揚々と旅に出たのに即殺された勇者の身にもなってください!」

「新しいヒロインとのフラグや金儲けして贅沢できるチャンスや最強チートスキルが手に入る筈だったのにいつの間にか人生終わった……」

「そうです! しかも相手がこの世界で一番弱い魔物です!」

 

ちなみにメダマンが勇者を絶命に至らしめたのはなんの変哲もない一点集中型のビーム。

ただしそのビームは人間の想像を遥かに上回るスピードと威力であり

その威力はこの広大なる星を7周半してしまう程。

 

勇者の遺体に北斗七星型の七つの風穴が出来たのはそういった理由である。

 

 

「理不尽すぎますよこんな設定! また女神様に怒られますよ絶対!」

「ええーそれはヤダよ、前の転生者がチュートリアルで死んじゃった件でまだ女神怒ってるのに……」

「ああ確か全ての属性魔法を操れる力を授かった転生者の事ですね、まさか最初にゴブリンの群れを出現させるのはどうかと思ったんですよ私」

 

呆れた様子で頭を押さえながら首を振る黒騎士に対し、魔王は床を指でなぞりながら縮こまった様子で弁明する。

 

「アレは転生者がキメ台詞吐いてる時にゴブリンが頭吹っ飛ばしちゃうのが悪いと思うんだけどなぁ……」

「魔王様がそう指示しないといけないんですよ、「勇者がドヤ顔で語り出す時は攻撃しない」とか「勇者がめんどくさそうな態度を取った時は激昂する姿勢を取れ」とか」

「マニュアル的なモノを作った方がいいって事?」

「そもそも作ってない方がおかしいんじゃないですか? 他の異世界にいるボスはみんなちゃんと作ってるって話ですよ?」

「余所は他所、ウチはウチです」

「単にマニュアル作るのめんどくさいだけのクセにお母さんみたいな事言わないで下さい」

 

この魔王、勇者の冒険を円滑に進めることが目的であるのに、部下である魔物達にロクな指示を与えていなかったのだ。

言い訳がましい態度を取る彼に対し部下である黒騎士もさすがに苛立ちを隠せない。

 

「いい加減にしてください魔王様! あなたの野望はそんな生半可な気持ちで達成できないんですよ! 今ここではっきりと宣言していただきたい! この世界において魔王であるあなたが目指す夢を!!」

「そ、そんな強く言わないでよ……貴様って一応我の部下なんだし……えーっと我はこの魔王城にて異世界から転生してきた勇者と戦って」

 

鬼気迫る黒騎士に押されながら少々情けない声を出すも、魔王はたどたどしい口調で己の夢を改めて彼に宣言した。

 

 

 

 

 

「その圧倒的な力の差に怯えながら無様に命乞いをしつつ「そうだ! この世界の半分をくれてやろう!」とかなんとか言いつつも当然受け入れてもらえず、そのまま容赦なくぶっ殺されたい」

「目的だけは立派ですよね相変わらず」

「魔王だからね我」

 

異世界とは普通の世界とは感覚がかなりズレている。

 

そこに住む者達にとって生きる目的とはいかにして死ぬという事。

 

生き様より死に様

 

そして魔王を始めこの世界の者達はその役目を全うする事こそが至上の喜びとも言えるのである。

 

ここはとある異世界、転生し能力を授かった者達を温かく受け入れてくれる世界。

 

ただ一つ問題なのはほんのちょっぴり攻略難易度が高いという事。

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに私は魔王様の情報を洗いざらい吐きながら「こ、これで俺の命だけは勘弁してくれよ! な! な!?」とか言うんですけど「後は用済み」とか短い言葉と共に剣でズバァって殺されるのが夢です」

「いいなそれ採用、我が使う」

「魔王様は無理でしょ、ご自身が魔王なんですから」

「あ、そうだった。それじゃあ次の転生者が来るまでに魔王より強い大魔王でも女神様に創ってもらおうかな」

「散々女神様に難易度下げろって言われてるのに更に上げてどうするんですか」

 

 

彼等は待つ、新たなる転生者が女神の導きによりこの異世界にやって来る事を

 

自分達を問答無用にバッタバッタと薙ぎ倒してくれるようなそんな最強の勇者が現れるのを期待して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 引きこもりだった俺が異世界に転生して貴族や魔王をボッコボコWWWWメシウマWWWW 

勇者、ジークリード・ベルダンテは異世界から来た転生者である。

 

元の世界では高校生であるのだが同級生から酷いイジメを受けて不登校となり、それからは引きこもりとして希望も見いだせない暗がりの生活を送っていた。

遂には自ら命を絶とうとか思っていた、しかし突如彼の前にとても美しい女神が現れ彼をこの世界へと誘ったのだ。

 

新たなる生を受けて異世界へと転生した彼は、新たなる名と様々な最強技能を手に入れ

それから十数年後、ジークリードとして魔王と戦う決意をしたのであった。

 

「ふむ、一二三の城もすぐそこか。かの有名な強欲たる王とはいかがな人物であろうか」

 

短い黄金色の髪、金色に光り輝く硬そうな黄金の鎧、そして両手にハメられているのはこれまたとてつもない黄金のグローブ。

彼の姿は勇者というより戦士に近しい。

 

それもその筈、彼は勇者でありながら剣や魔法に頼らず、素手技能をカンスト状態に高めた最強の戦闘士なのだから。

 

黄金の刃も通さない屈強なる鎧、黄金でも簡単に砕く事の出来る拳、そして黄金級のルックスを兼ね備えたまさに勇者に選ばれしる事を宿命づけられた男なのである。

 

当然モテる、半端なくモテる、引くほどモテる。

 

「街の者達は俺がいなくなって随分と寂しがっていたな、達者でやっているだろうか、クリスティーヌ、ピンキー、レサレサ、クラウダ、アカリン、ビビアン……」

 

今彼が上げた人物は無論全員攻略済みの女性である、村にいた男性の事など刹那に忘れている。

 

街を出てからもう軽いホームシックに悩まされている勇者、ジークフリード。

しかしそれに対しあまりよろしくない顔をしている小さなサポーターが彼の目の前に不意に現れる。

 

「もう勇者様~、せっかく私と二人っきりの旅の真っ最中なのに~! 他の娘の事ばかり考えて~!」

「ふむ、すまんすまん、この俺とした事がつい物思いにふけってしまった。悪かったなエレナ」

 

彼の前に現れたのは綺麗な緑髪と羽をなびかせながら空中を浮遊する妖精エレナ、頬を膨らませて焼きもちをやいているところがこれまた可愛らしい。

手の平サイズの小さな体でありながら、勇者の行く先や魔物の情報などを的確に送る事の出来る万能サポーターであり、これから先に幾度もお世話になる大切なパートナーなので、ご機嫌を損なわせたらマズイと勇者ジークフリードも苦笑しつつ謝った。

 

妖精エレナとの出逢いは数刻前、彼が街を出て数秒後に

”偶然にも”町の入り口手前で罠にかかっている彼女を見つけ

”偶然にも”彼女もまた魔王に一族を殺された恨みを抱えてる為に魔王への復讐を狙っていて

”偶然にも”勇者ジークフリードも魔王討伐の度に行く所だったので半ば無理矢理パートナーとなったのだ。

 

「さあ勇者様! 街の事は一旦忘れてお城に行きましょう! こっから先は危険な魔物もわんさか出るし”見た目に比べて結構強い魔物”とか出ますから十分警戒して下さい!」

「ふむ、この俺がこんな序盤に出て来る魔物程度などに遅れを取るとは思わんが?」

「油断してはいけません勇者様ぁ!!!」

 

黄金の鎧、黄金の拳、そして黄金の髪、勇者ジークフリードはもう既に最強装備と呼んでも過言ではない状態。

こんな自分がどうやってそんじょそこらの魔物風情にやられるのかむしろ聞きたいぐらいだと言った感じの彼に対し、何故か妖精エレナは目を剥き出し物凄い気迫で彼に迫った。

 

「いいですか勇者様! 旅に出たこっからがあたなの本当のスタートなんです! ここから先は勇者様が街では知りえなかった過酷でデンジャラスな出来事が起こりまくるんですよ! 下手すれば死にます! マジで死にます! もう一度言いますからね! 絶対に油断しないで下さい!!」

「どうしたエレナ、表情が物凄い事になってるぞ……やれやれわかったよ、ここはエレナの言う通りにしよう」

「ありがとうございます、勇者様♪」

 

先程程までの可愛らしい表情から一変してこちらを睨み付けながら叫んでくるエレナ、勇者ジークフリードはそれを見て身震いするも、諦めたように彼女の意見に賛同すると、すぐに妖精の表情はコロッと元に戻るのであった。

 

(ふむ、ここはやはり一つ俺の実力を彼女に見せてやるとするか、そうすれば余計な心配も起こすまい)

 

っと適当にその辺の魔物を瞬殺してエレナに自分がいかに強いかというのを証明したいと勇者が思ってた矢先。

 

「ん? アレは宝箱か?」

 

ふと自分が歩いている道の真ん中に奇妙な宝箱があるのを見つけた。

 

それは両手でやっと持てるぐらいの大きめの宝箱であった、そしてここからが実に奇妙と思われる部分なのだが。

 

「ふむ、どうして箱は開いているのに中身はちゃんと残っているのだ、しかもこれまた中々使えそうなアイテムが残っているぞ」

 

なんと宝箱は思いきり開かれているのだ、しかも中身は取られておらず、黄金に輝く盾がキラキラと輝きを放って収納されている。

 

しばし勇者が怪訝な表情を浮かべていると、待ってましたと言わんばかりに妖精エレナがバッと両手を広げて彼の顔の前に出る。

 

「いけません勇者様! これは罠です! この箱の正体はなんと魔物! その名も「パンドラ」! 宝箱だと思って開けようとしたら即座に手首を噛み千切るという大変恐ろしい魔物なんです!!」

「ふむ、しかし箱を開けようにも既に開いているが?」

「こ、これは見た目ですぐに罠だとわかるようにと私とパンドラが考え……」

「え?」

「じゃなかった! とにかく近づいてはなりません! 序盤の魔物とはいえこういう宝箱系の魔物はやたらと強いんです! ここは一旦避けてレベルを上げてから挑みましょう! うんそれが一番良いです! それが一番賢いやり方です!」

 

エレナが言い辛そうに口をもごもごさせて変な事を言ってた様に聞こえたが気のせいだったのだろうか。

そんな彼女に念入りにあのパンドラという魔物には近づくなと言われるがまま、勇者はそれを避けようかと一瞬思ったのだが

 

「いや、ここはコイツの中身を頂くとしよう」

「ワッツ!?」

「コイツの中にあるのは黄金の盾だ、黄金は装備の中で最強レベル、ここで手に入れれば後々かなり楽になる」

 

勇者ジークフリードは黄金が大好きだ、装備も黄金だし髪も黄金だ。ゆえに目の前に黄金系の類があれば是が是非にでも欲しくなってしまうのだ。

しかしそれに対しエレナは口をあんぐりと大きく開けて驚愕の表情浮かべている。

 

「いやだからダメなんですってば! 本当にヤバいんですよこの宝箱は!」

「ふむ、それにいい機会だ、エレナにはまだ見せてなかったからな俺の実力を」

「いいです! 後でじっくり拝ませてもらいますから! レベル上がってから! 勇者様が十二分にお強くなられてから見ますから!」

「ふむ、さてさてエレナよ、まるで俺がこのおもちゃ箱みたいな奴に適う訳ないと思っている様だが、残念ながら見当違いもいい所だ」

(この勇者様なんで喋る度によく台詞の頭に「ふむ」って付けるんだろ? クセなのかな? それとも転生者特有の? いや今そんな事気になってる場合じゃなかった! とにかくここは全力で阻止を……!)

「では頂くとしようか」

「ちょ! もう手を伸ばそうとしてる! ダメです勇者様一旦落ち着きましょう! いくら序盤でレア装備をゲットできるチャンスがあるからってさすがにここでパンドラと戦っては……!」

 

エレナがまたもしても切羽詰った表情で止めに入ってきたがジークフリードはやれやれと首を振りながら余裕の笑みを浮かべ

 

「よく見ろエレナ、俺の腕に装備されているコレを、これはわが一族相伝の黄金の小手という奴でな、例え黄金製の剣であろうが槍であろうが貫く事は出来ないのさ、だから」

 

そう言いながら勇者はスッと宝箱の中にへと手を入れてしまった。

 

「ふむ、コイツに噛みつかれて噛み千切られる心配はない、むしろコイツの牙が砕けるだろうさ、ん? どうしたエレナ、そんな青ざめた表情を浮かべて」

「あ、あ……」

「ふむ、そんなに驚く事か? 全く、これから俺のパートナーとして旅に行くのだからこれしきの事で驚かれたら身が持たないぞ、ってあれ?」

 

さっきまで凄い剣幕で叫んでいたのに自分が宝箱に手を突っ込んだ瞬間、エレナの顔からは血の気が失っている様だった。

これっぽっちの事で驚かれてもなぁと勇者は内心思いつつ、ふと宝箱に手を伸ばした右腕に違和感を覚えた。

 

というか

 

右腕そのものの感覚が無かった。

 

「……」

「グゥ~」

 

ざわつく予感と奇妙な泣き声、勇者ジークフリードはゆっくりと宝箱の方に目をやる。

いましがた自分が出した右腕は本来あるべき場所に無く

目の前にある宝箱は満足げに何かを食べる様にクッチャクッチャと音を立てて箱の口にある鋭い歯を剥き出していた。

 

そして歯の隙間から僅かに見えたのは先程あった筈の自分の右手……

 

「な、なんで……?」

「グァァ!」

 

勇者ジークフリードは知らなかった。

モンスタートラップ、パンドラが持つ牙は

先程からしつこい程言っている黄金などという彼が元居た世界の鉱物など

 

豆腐を噛むようなものだと

 

そしてそれに気付く間もなく

 

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「グァァァァァァァァァァ!!」

 

パンドラは彼本体に向けて飛び掛かった。

右腕を失い痛みで混乱状態である彼をあっという間に口を大きく開けて覆いかぶさるパンドラ。

そしてすぐにグシャリグシャリと生々しい音を立てながら彼を口の中で細かく千切っていきながら食べ始める。

丸のみだと喉に詰まるのでこうして細かくしないと消化器官を通らないのだ。

食べる時は10回以上噛む、それが食べ物を効率よく胃におさめるコツだとパンドラは街に住むおじいさんから教わっている。

 

こうして勇者は細かく噛み砕かれていった。

彼が決して砕けぬと自慢げに装備していた黄金の装備と共に

 

 

 

 

 

 

 

勇者ジークフリード・ベルダンテ、一二三の城到達直前で、モンスタートラップのパンドラに食われて死亡。

 

最期の言葉 『なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此度は申し訳ありませんでした……」

「グエェ~……」

 

それから少し時間と場所が変わりここは魔王城。

 

現在、妖精エレナとモンスタートラップ、パンドラは魔王の間にて玉座に座る魔王に深々と頭を下げて詫びていた。

 

「私があの時もっと必死に止めていれば……うう……」

「い、いやもう済んだ事だからそんなに泣かなくても……」

 

理由は勿論、みすみす魔王討伐に赴く勇者を死なせてしまった事である。

洪水のように流れる涙をぬぐいながら何度もこちらに頭を下げ続けるエレナに。

さすがに魔王も困った様子で慰めていると。

 

「ギィ~」

「え、どうしたのメダマン?」

 

彼の周りをさっきからずっとパタパタと飛んでいた序盤の雑魚キャラメダマンが、魔王の顔へと近づき

 

「まあコイツはコイツで反省してるからもう許してやれよ、今回は大目に見てやろうや」

「貴様喋れたの!? しかも何故に上から目線!? 貴様も前回勇者殺したよね!?」

「失敗は誰にもである、その事を責め続けるというのも酷というものだ。魔王であるならば器もデカくなれ」

「ふてぶてしい! ふてぶてしいよこの雑魚キャラ! ここまでムカついたのは理不尽な死に方ばっかするゲームやった時以来だよ!!」

 

てっきり「ギー」としか喋れないと思っていたのだが妙に饒舌に喋りまくるメダマン。

部下の意外な所を見てしまった魔王は内心ショックを受けていると、魔王の間の門が勢いよく開かれる。

 

「魔王様大変です!」

「ああ黒騎士? 勇者の事ならもう彼女達に聞いたから大丈夫だよ」

「そうではありません!」

 

門を開きやって来たのは魔王城の兵、黒騎士。

何やら焦っている様子で魔王の下へ駆け寄っていく。

 

「今回の件で女神が! 魔王に直接言いたい事があるとこちらにやってきました! 完全にブチ切れてます!」

「マジで!?」

「マジです!」

「逃げよう!」

「魔王城の周りに結界張られて逃げられません!」

「オーマイゴッド!」

「いや魔王がオーマイゴッドって……」

 

女神がやってきた、それを聞いただけで魔王は黒いシルエットでよくわからないが酷くうろたえている様子。

 

そしてそんな事も束の間、開かれた門から一人の女性が音もなくやってきた。

 

美しいブロンドをなびかせ、純白かつ綺麗な羽衣に身を包ませ、蒼き眼と紅き眼を持ったオッドアイの女性。

 

それが女神、そしてこの世界の創始者

 

「め、女神様……!」

「魔王よ……しかと私の言葉を聞きなさい」

 

女神が目の前に現れた事で思わず声を震わせてしまう魔王。

そんな彼に対し彼女は慈愛に満ちた表情でやんわりと微笑んだ後……

 

 

 

 

 

「てんめぇよくもまた勇者殺しやがったなぁ! 私がたんせい込めて育てた転生者を性懲りもなく殺りやがって!!」

「ひぃぃ~! す、すみませんでした~!」

「今度という今度はマジで許さねぇからな!!」

 

急に目を大きく開いて凄まじい形相を浮かべて魔王を責め立てる女神。

反射的に謝ってしまう魔王に対し完全にお怒りの様子、こうなってはもう時が過ぎるのをただ待つしかない。

しかし荒い息を吐きつつ握り拳を構えながら魔王に近づこうとする彼女の下に、先程魔王に謝っていた妖精エレナが身を乗り出す。

 

「お待ちください女神様! 今回の件は魔王様ではなく私とパンドラに非が!」

「テメェが元凶かコラァ!」

「ひぃ~!」

 

健気にも身を挺して魔王を庇おうとしたエレナを女神は一瞬で右手で鷲掴みにする。

この女神、例え相手が可愛い妖精であろうが一切の慈悲を与えるつもりはない。

 

「どうなんだ、あ? テメェが勇者殺したのか? 私が苦労してこの世界に転生させた勇者をお前が殺したのか?」

「い、いえ直接殺したのはこのパンドラですが……私は勇者様に強く助言出来なかった事もまた原因でした……」

「テメェ勇者が旅立つ前に言ってたよな? 私が勇者のサポート役になって無事に魔王城までお連れしますって? その言葉を信じて魔王はテメェを採用したんだろ?」

「ま、まことに申し訳ありません……」

「謝れば済むと思ってんのかコラァ!!」

「ぎょえ~!!!」

 

エレナを鷲掴みにしたまま上下に手を振り始める女神。

上と下に激しく揺さぶられ、エレナが思わず泣き叫んでいると慌てて魔王が「まあまあ!」と勇気を振り絞って女神のなだめに入る。

 

「その辺にしてあげてくださいよ女神様、妖精もモンスタートラップも採用したのは全て魔王である我なのですから……」

「おうそうだ! テメェが全部悪い! 魔王が全部悪い! 私の苦労を毎度毎度無駄にさせやがって!! 難易度が高すぎるって毎度毎度言ってるのにテメェはどうしてこういつもいつもいつも!!!」

「おっしゃる通りです……でも結構難しいんですよコレって、代わりに女神様がやってくれるというのは?」

「魔物の創造と配置はテメェ担当だろうが! 私はその為にテメェを創造したんだよ! 自分の仕事だけでもキッチリこなせねぇのかテメェは!!」

 

基本、どのような魔物を作り、それをどのような場所に置くかは魔王の役目である。

その為に魔王がいる様なモノであり、そして彼自身を生み出したのは外ならぬ女神だ。

 

「私は私でやる事あるんだよ! 転生者候補をこっちに送る為に色々と苦労してんだよ! 転生者に異世界飛ばす用の雷落としてくれるよう雷神様に必死に頼んだり!」

 

『すみませんどうかまた一つ、我々の世界に送る為に雷落としてくれませんか……?』

『またですか? あなた前に来たばかりじゃないですか? 悪いけどこっちも色んな方から依頼来てるんですよねぇ……もう異世界運営は諦めた方がいいんじゃ……』

『なんとか、なんとかお願いします……どうか私にご慈悲を……」

『いや女神が慈悲をくれって……』

 

「え? アレって女神様本人が落としてる訳じゃないんですか?」

「出来る女神はいるけど私はまだ資格持ってないから出来ないんだよ……しかもいつも頼んでる相手の雷神様は、学生時代の後輩なんだよ私の……」

「うわ頼みづら……女神様も苦労してるんですね」

「うん、すっごく苦労してるんだよ、精神的に」

 

女神は女神で色々と大変らしい、普段はヤンキー口調で常に高圧的な態度で接してくる彼女は、苦労話を語る時は途端に弱々しくなってしまう。

 

「他の女神や神様は異世界で勇者達をブイブイ暴れさせて満足なチート生活を送らせてあげてるのに……私の世界は何時まで経っても攻略者ゼロ、それどころか王様の城にすら到達できないムリゲー……」

「すみません、あれこれ試行錯誤してはいるんですがどうも我々強すぎるみたいで……」

「私だってもっと出来る事が増えれば転生者達を満足させる事ぐらいやれるのよ! 妹にいつも言われてんだから!「お姉ちゃんはやればできる子なんだから」って!」

「駄目だコレ、聞いてねぇや……」

 

遂には床に両手を突いてブツブツと嘆き始める始末、こうなってはもう魔王の声も彼女の耳には届かない。

 

「ああでも雷がダメならトラックで転生者を轢いて異世界に送るって手も……でも私まだ大型持ってないし、それに転生トラックは結構な期間の研修を受けなきゃいけないって聞いたし……この世界の運営しなきゃいけないからそんな暇ないし……」

「よく転生者はトラックに轢かれて異世界に送られるって聞きましたけど、アレって女神様自ら運転して候補を轢くんですか?」

「基本は女神や神様が姿を変えてやるのよ、上位の神様なら手下とかにその役やらせたりするけど、私じゃまだ手下なんか出来るほど出世して無いし……」

「ああ良かった、我の言葉が女神に届いてくれて……」

 

質問にはちゃんと答えてくれるらしい、女神とは転生者の湯水の如く溢れる質問にいちいち答えてあげる事など当たり前、魔王の問いかけに反応したのも条件反射みたいなものであろう。

やっとのこさ床から魔王の方へ顔を上げると、女神は涙声を上げながら

 

「私だって! 私だってねぇ! 転生者にはちゃんと異世界で気ままなチート生活とか送らせたいのよ! ちっぽけな事で周りから賞賛させたり! 以上に嫉妬心だけが高い野郎共をボコボコにさせたり! そして何より赤ん坊から墓の下までのヒロイン達を攻略させてあげたい! そして! そしてぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

「私もヒロインになりたい! あわよくばメインヒロインになって勇者と結ばれたい!!」

「ハハ、無理無理、超無理、仮に我が転生者ならこんな中身がヤンキーみたいな人はまず攻略しない」

「女神パァンチ!」

「おぅふ!!」

 

彼女の悲痛な叫びに非情にも笑いながら手を横に振る魔王。

彼に対してすぐ様飛び掛かり怒りの鉄拳を食らわせる女神。

 

 

この異世界はこの二人の存在によって動いているといっても過言ではない。

 

 

 

 

「閃いた! 女神の私が転生者のお供として旅に出るってどうよ!?」

「またどこぞ聞いた様なアイディアですね……その間誰が異世界の運営やるんですか?」

「あ? 私の代わりならテメェしかいねぇだろ」

「えー自分の仕事ぐらいキッチリこなせ的な事言ってたくせになんたる理不尽、もう我じゃなくて女神様が魔王になったら良い気がする……」

「私が魔王に……魔王がヒロインになるのもよく聞いた事あるからその案はアリかもしれねぇな」

「駄目だこりゃ」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 メタボでニートだった俺が悪い王様と貴族を殺して王権奪取成功wwwうれぴーwwwwww

一二三の城一の街、ニの街、三の街を長年支配下と置いている王が住む強大なお城の事である。

 

豪華絢爛の飾りつけが成されてゴージャス感漂よわせており、気品というよりいかにも俺悪い事してお金儲けしてますとあからさまなアピールをしてる様な強固な城であった。

 

しかし城と違い、王が支配する三つの街はみずぼらしく、平民達は満足に食事さえ取れない。

それは至極簡単な理由。この城に住む王が住民から多額の税を取り絞っているからだ。

 

ゆえに王族やそれに使える貴族のみがぜいたくな暮らしを堪能し、酒池肉林の日々を謳歌している中で

彼等に良いように扱われているにも関わらず、反乱を起こす力も武力も持たない平民達はただただ大人しく従うしかないのだ。

 

しかしそれは”あの男”がこの城にやってくるまでの話だ。

 

長き苦しみに耐え抜き、必死に明日を送れるよう生き延びる生活を何世代も渡って暮らしていたい平民達の為に(正確にはその平民の中の女性、男はどうでもいい)

 

魔王を討伐戦と立ち上がった勇者が世直しの為に王の下へと現れたのだ。

 

 

後にこの地区は大きく変わるであろう。

 

何故なら民を虐げ己は裕福な生活を送る堕落した王に成り代わって、この男が新しき王となり平民達を長きに渡る苦しみから解放してくれるのだから

 

 

その勇者の名は

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう、ぬしが魔王を討伐せんとはるばる一の街からやってきたといわれる”ルシファー=ヘルヴェイン”という者じゃな! よう来たよう来た!」

「……」

 

ここは選ばれた者のみが足を踏み入れる事を許される、王の間。

そして中央の煌びやかな玉座にて座るのは一二三の城で最も偉いもの、すなわち王である。

 

ふさふさの白いひげを蓄え腹はでっぷりと出し、ゲラゲラと笑う様はいかにも堕落した王という感じだ。

 

そんな彼の謁見を許されたのは一の街からやって来た一人の男。

 

名はルシファー=ヘルヴェイン。肩まで伸びた黒い髪、そして着飾っているのは漆黒のローブ。

見た目はどう見繕っても勇者っぽくないのだが、どういう訳か彼はこの格好を好んでいた。

 

そして彼の真の正体を知る者は例え王であろうと知る由もない。

 

実は彼はとある異世界からはるばるやって来た転生者なのだ。

 

大学を卒業してから親のすねを血が出る程かじり続けて10年もの時間を無職で過ごしていた所

 

ある日、アニメグッズだらけの小汚い彼の城ともいうべき部屋に上から巨大な雷が屋根を突き抜けて落下。

 

その雷をまともに食らい、男は即死したのかと思いきや、なんといきなり真っ暗な空間に移動しており、そこでとてもとても綺麗な女神が現れたのだ。

 

その女神は彼に言った。私達の世界にはびこる悪の権現である魔王を倒す為に来て欲しいと、そして望むべき力があるのであればなんなりと申し付けてみよと

 

男は即決でやると言った、魔王を倒せと言った時は渋ってたクセに、望むべき力を与えると言った瞬間コンマ0.1秒で承諾した。男は極めて欲に忠実な性格だったのだ。

 

そして男はこの世界に転生し、新たな名、ルシファー=ヘルヴェインと女神から与えられた特殊能力を授かり、それから数十年の時を費やし遂に魔王討伐の為に立ち上がったのだ。

 

「なるほど、これが俺の故郷を支配していたかの王か。まるで醜い豚のようだ」

「な、なんじゃと!? 今なんと言うた!」

「やれやれ見た目だけでなく耳も悪いのか、とことん救いが無いな豚が」

 

そして勇者ルシファーは王都の謁見を特別に許されてもらったにも関わらず、その王に対して無表情で突然キツイ言葉を浴びせる。

 

「何度でも言ってやろうか、お前にはこの城はもったいな過ぎる、豚は豚らしく養豚場に行け」

「ぐぬぬぬぬぬ! このわしに向かってなんて無礼な……! 貴様それでも勇者か!」

「鏡を見た事無いのか? その醜く太った体、たるみにたるんだ贅肉、それを豚と称して何が悪い」

「ぬぅ! この王を何度も何度も豚と呼びおって!(豚ってああ見えて体脂肪率低いしそんな太ってる訳じゃないんだけどなぁ……)」

 

鷹の様に鋭い目つきでズバズバと物を王に浴びせるルシファー(言ってる事は大体同じ事を繰り返してるだけである)

そんな彼に王の顔色は徐々に赤くなりカンカンに怒っている様子、遂には自ら玉座から飛び降りて、その豊満な体を震わせながらキョロキョロと見えない首を振り回しながら叫び始めた。

 

「兵士達よ! すぐにこの男をひっ捕らえよ! 王を侮辱した大罪人としてすぐ処刑してくれ!」

「悪いがお前の兵達は既に俺のモンだ」

「ひょ!?」

「俺にはある御方から授かった能力を生まれつき持っている、その力を持った俺に、お前等豚共はこの俺に触れる事さえ出来ないんだ」

 

突如、ルシファーの周りに黒い霧がたちどころに発生する。

そして黒い霧の中から次々と何かが這い出るように姿を現し、それを見た王はあまりの恐怖に腰を抜かし、大きな尻を高級カーペットの上に付けてしまう。

 

ルシファーの周りには今、かつて自分が従わせていたであろう兵士達が体を腐乱させた状態でワラワラと沸いて出て来るではないか。

 

「俺はこの霧を吸った者の命を奪いそして肉体をコントロールする事が出来る、いわば俺は無限にゾンビ兵を生み出せることが出来るのだ、この秘術の名は「百鬼夜行」」

「ひぃぃぃぃ~!!(百鬼夜行ってそれ鬼や妖怪が夜な夜な歩き回るってアレじゃん……ゾンビを生み出す力には合わないんじゃないの? ウォーキングデッドとかの方がまだマシじゃないかな)」

 

ルシファーが能力名を言った時、一瞬王が真顔になったような気がしたがすぐに王は悲鳴を上げて腰を抜かしたまま後ずさり

 

間抜けな恰好で醜態を攫す王を前にして、周りにウヨウヨとゾンビ達を囲ませながら、まさに鉄壁の布陣といった構えでコツコツと一歩一歩と王の下へ歩を進めていくルシファー。

 

「豚は養豚場へ行けと言ったがやはり撤回だ、お前にはやはりここで死んでもらう、かつての部下によって盛大に惨く惨めに、少しずつ千切ってその体に嫌という程痛みを味わいながら地獄に堕ちろ」

「す、すまんわしが悪かった! 欲しいモノはなんだってやる! だから命だけは! 命だけは取らんでくれぇ!」

「悪いが俺が欲しいのはこの城そのものだ、故にお前は邪魔以外の何者でもない。下らん命乞いをする前に神に対して懺悔でもしておけば良かったな、アディオス」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

キメ台詞に使いたいワードトップ10に入るであろう「アディオス」を使われてはもう詰みである。

ルシファーがカッコよく指パッチンすると(失敗して音は鳴らなかった)ゾンビ兵達はそれを合図と察して(正確には空気を読んで)次々と無様な王の下へと歩み寄って行く。

 

そして

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

醜き王の断末魔の叫びが王の間にて木霊する。

それを聞き届けたルシファーは一人踵を返して両目を閉じる。

 

「哀れな王よ、自らの部下に切り刻まれながら死んでいくがいい」

 

 

 

 

 

 

 

「キングカウンタァァァァァァァァァ!!!!」

「え?」

 

突如背後から力強い咆哮を共にまばゆい光が放たれた。

 

カッコつけてたルシファーは何事かとすぐに振り返るとそこには

 

周りのゾンビ兵を全てひれ伏させ、天に向かって拳を掲げる肥満な王が立っているではないか。

 

「フッフッフ、滾る、滾ってきたぞ! こんなにも熱くなったのは久方ぶりじゃ!」

 

王はまだ倒れずに食らいつこうとするゾンビ兵達に向かって掲げていた拳を構え直すと

 

「キングパァァァァァァァンチ!!!!」

 

再び雄叫びと共に正拳を一発お見舞いする。その衝撃は食らったゾンビだけでなく周りの者も灰に帰す程。

 

「キングキィィィィィィィィィク!!!!」

 

今度は背後から近づこうとしていたゾンビ兵に短く太った足をお見舞い、その威力をゾンビを貫通して向こう側の城壁を楽々破壊して穴を空ける程。

 

「ほらほら来~い、もっと来~い! わしを倒して王に成り代わってみせ~い!」

「お、俺の秘技! ひゃ、百鬼夜行!」

 

ポキポキと拳を鳴らしながら王は極悪人の様な凄みのある表情でゆっくりと勇者ルシファーの下へ歩み寄って行く。

その迫力に表情に怯えが見えつつも、能力を使って再びゾンビ兵を黄泉の地から呼び戻すルシファー。

 

再びルシファーを守るようにワラワラと現れるゾンビ兵達、それを見た王はスゥーと大きく息を吸うと……

 

「キングブレェェェェェェェェス!!!!」

 

王の口から放たれたのはただの勢い良く放たれた巨大な息、しかしその息は瞬く間にルシファーを守っていたゾンビ兵を遥か彼方へと飛ばしてしまった。

 

再び一人になってしまったルシファーは歯をガチガチ鳴らしながら完全に怯え切った表情を浮かべている。

 

「どうした勇者よ、まだ奥の手があるんじゃろ? 隠してないでさっさと出さんか~? まさか死体を操るだけがおぬしの力な訳ないじゃろ~?」

「……けてください」

「ん~?」

 

ブハーッと満足げに笑いながら王はこの戦いを愉しむかのようにルシファーの下へと親し気な態度で歩み寄って行く。

だがルシファーはどういうばかりか、先程まで散々豚呼ばわりしていた王に対して目を涙でにじませると

 

「助けて下さい!」

「聞こえんな~わしは見た目も悪い上に耳も悪いんでな~」

「もう嫌だなんだよコレ! なんで王様がこんな強いんだよ! 命だけはどうか! 故郷には俺の帰りを待ってくれる娘達がいるんです!」

「キ~ングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

プライドも何もかもかなぐり捨てて、必死に命乞いをするも王は真上に飛んだと思いきやまたもやこちらに向かって何かしようとしている。

 

遂にルシファーは彼に背を向けて震える足で必死にその場から逃げようとするのだが

 

「ドリルキィィィィィィィィィィィク!!!!!」

 

背後から王の最後の咆哮が聞こえたと同時に、王は空中を回転しながら飛び蹴りを勇者ルシファーの背中に浴びせた。

その瞬間、ルシファーの体は一瞬でバラバラに飛び散り、周りに彼の身体の一部であった肉片を盛大にぶちまけた。

 

一撃を叩きつけた王はスタッと綺麗に床に着地するとフゥーと一呼吸。

 

「さあて余興もこれでまでじゃな、命乞いの演技は見事じゃったぞ。では! 本番と参ろうではないか!」

 

そう叫びながら王が拳を構えるが返事はない。見るとそこには”ルシファーだったモノ”があちらこちらに散乱している。

 

「フッフッフ、読めたぞ勇者よ。バラバラになって死んだと見せかけて、実は強靭な再生能力を持っていて瞬く間に復活できるのじゃろ、死体を扱うぬしならそれぐらい容易いという事か……」

 

不敵な笑みを浮かべながら王は腕を組み静かにその時を待つ、だがその時が一向に来ない。

 

「……あれ? 勇者よどうした? 勇者? ゆ、勇者様……?」

 

段々不安を帯びた表情を浮かべ出す王様、そして恐る恐るルシファーだったモノに歩み寄ってしゃがみ込むと

 

「もしかして……本当に死んじゃった?」

 

返事はないただの屍の様だ。

 

 

 

こうして勇者は王権奪取の為に討とうとした王に見事に返り討ちにあった。

屍は操れる力をもってなお自らが屍となっては元も子も無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

勇者ルシファー=ヘルヴェイン、一二三の城で平民を貪り私腹に肥えた王に肉片にされ死亡。

 

最期の言葉 『誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ない……」

「なんで王様が勇者殺しちゃうのよさ……」

 

時は進んでいつもの魔王城。

玉座に座るのは王ではなく魔王、彼に対して深々と頭を下げるのは先程勇者を肉片に転職させたばかりの王であった。

 

「そこは普通に殺されてあげようよ……自分が従えていた兵達に殺されるとか最高の死に方だったのに……」

「いやだってやっとこさ来た勇者がいきなり王権奪取イベントやるんじゃぞ、テンション上がっちまうじゃろ普通、死ぬ前にせめて一太刀浴びせてやるわーといった感じで適当に戦ってたらいつの間にかバラバラになっちゃうんじゃもん」

「もう開き直ったよ、神経図太いなぁ」

「わし王じゃからね」

 

得意げに親指を立てて自分を指す王に魔王は呆れつつふと疑問が頭に浮かんだ。

なぜ彼は直接この魔王城にわざわざ出向いて来たのであろう。

 

「そういえば今回ばかりは我に非はないよね? だって王様というか人間全般の管理は女神様がやってるんだし、我は魔物全般の管理しかやってないから関係ないよね? 謝るなら我じゃなくて女神様にじゃないの?」

「いや別に謝りに来たのは建前で、本当は女神様から逃げる為にこの魔王城へ駈け込んで来たんんじゃ」

「ちょっと魔王の城を避難場所みたいにすんの止めてくれる!?」

「固い事言うなよ、わしとお前の仲じゃろ」

「いや魔王と王は本来敵対するもんでしょ!」

 

サラッと本音を吐露する王は悪びれる様子も微塵も感じない。

さすがは民を虐げる事を生業とする目的で女神から創造された王、性格もかなりねじ曲がっている。

 

魔王と王が気さくに会話している一方で、魔王の間の扉がバタンとまたもや強く開かれる。

 

「くおらぁクソキング! テメェやっぱここに逃げてやがったかぁ!!」

「ほげぇ~女神様! どうしてわしがここにいると!」

「人間を統括している私ならテメェを見つけるぐらいお茶の子さいさいなんだよ!」

 

やって来たのはこの世界の創造神である美しき女神。ズカズカと魔王の間へ入ると早速王を見つけると、チンピラの様な表情で王の元へ歩み寄ると、勢いよく彼の胸倉を掴み上げる。

 

「なぁんで勇者をお前が殺してんだコラァ! お前王だろ! 魔物じゃねぇだろ!? なに勝手な事して戦闘イベントやってんだああ!?」

「いやだってずっと勇者が来なくて色々溜まってたんだもんわし……ていうかあの勇者に能力授けたの女神様ですよね? 死体を操る能力以外にももっとマシな能力与えられんかったかの?」

「いいだろ別にゾンビを創り出す能力でも! あの勇者は自分で戦いたくないからそういう能力欲しかったんだよ! ずっと他人任せの人生送ってたんだから永遠に自分だけに従ってくれる駒が欲しかったんだよきっと!」

「だったらもっと他の能力も付け加えてあげれば……」

「私の女神の特権じゃ与えられる能力は一個だけなんだよ! 世の中そんな上手くいかねぇんだバーカ!!」

 

物凄い気迫で睨み付けて来る女神に対しても若干言い訳がましい事を呟く王に彼女は更に激怒する。

だがしかし、そもそもそんな王が転生者に比べてずっと強く設定されていたのが事の元凶なのであって

 

「そもそもわし等人間の設定を弄っているのは女神様なのじゃから、キチンとバランスのいいレベルにしてくれないとわし等もどう立ち回ればいいのか……」

「うるせぇ! 王が戦おうとするなんて考えてもなかったんだから仕方ねぇだろ! ただでさえ転生者をこっちに呼ぶのにでさえ大変なのに! 全員のレベルを上手い具合に調整なんて出来るかぁ!」

「ああ、女神様また雷神様にお願いしてきたんですかの?」

「そうだよ! 遂に泣く泣く土下座するという選択権がない程追い込まれてる一方だよ! 周りの女神や神様からも白い目で見られて立場完全に無いんだよ!」

 

抗議する王に対して女神は逆切れで食ってかかる。彼女も彼女なりに辛い境遇に立たされているのだ。

あちこち頭を下げてばかりの日々を送り精神も追い込まれてる模様である。

 

そんな毎日辛くても転生者をこの世界に送り続ける事に一生懸命頑張っている女神を、玉座の肘掛けに頬杖を突きながら魔王は「あ~あ」と言葉を漏らす。

 

「やっぱ異世界の運営って難しいんだなぁ」

「魔王様」

「お、黒騎士、いたの?」

「つい先ほど、死んだ勇者が逆転生の間に送られたようなんですが……魔王様、一つよろしいですか?」

 

この先一体どうなるのかなと魔王がしみじみと感じているとふと足元には自分の部下である黒騎士の姿が

どうやらいつもの様に勇者の情報を伝えてに来ていたらしいが何か他にも言いたげな様子。

 

黒騎士はふと疑問に感じた事を思い切って魔王に問いかけてみた。

 

「逆転生の間というのはどういったものなのでしょうか? 私は魔王様に幾度も死んだ勇者はこの場所へ送られたと伝えておいてなんですが、実は私自身はその場所の事をよく知らないのです」

「ああそっか、そうだよね。そこ知ってる者は本当にこの世界でも限られた者しか知らないからね、いいよ教えてあげても、別に隠す事でもないし」

「ありがとうございます」

 

逆転生の間とは如何な場所なのであろうか、黒騎士の素朴な質問に魔王は頷きつつ答えてあげることにした。

 

「逆転生の間というのはいわゆる異世界で死んでしまった勇者が送られる安置所みたいな所なんだよ、そんで次の転生を決める為の場所でもあるんだ」

「転生? 転生者をもう一度転生させるのですか?」

「そうそう、一度死なせてしまったのもこちらの責任だし、だから次はどういう世界に行きたいですかとアンケートを取って、希望通りの場所へ転生させてあげるんだ」

「なるほど、という事は無念に死んでしまった勇者達もそれで少しは浮かばれるという訳ですね、希望通りの人生を送れるならさぞかし転生者達も喜びましょう」

 

そうかそういう場所だったのか、死なせてしまった転生者達にせめてもの慈悲を込めて、希望通りの異世界に転生させる、それが逆転生の間なのだと黒騎士は理解したと手をポンとと叩く。

 

しかし魔王は頬杖を突いたまま平然とした様子で

 

「まあウソなんだけどね」

「へ!?」

「だって他の世界に転生させるなんて出来っこないじゃない、そんな権力ウチが持ってると思う?」

「いやだって転生者にどこへ転生させたいかアンケートを取って……」

「アレはそういう希望持たせないと暴れ出したり泣き喚いたりするから書かせてるだけ、実際の所何を書こうが送る場所は一緒」

 

あっけらかんとした感じで普通に話す魔王に戸惑いを見せる黒騎士に、魔王は話を続けた。

 

「元々その転生者がいた世界にもう一度送り返すんだよ、記憶を失った状態にして転生される直前の時期に戻してね」

「えぇー!? そうなんですか!?」

「本当の事言ったら転生者は素直に戻ってくれないんだよ、だからウソついてあなたのお好きな世界へご案内しまーすって言っておくの、そんで記憶を奪って元の世界へボッシュート。ね、簡単でしょ?」

「なんだか救われませんねそれって……」

 

こっちが来てくれと呼んだのに死んだとなったらすぐに送り返す、しかもこちらにいた数十年の記憶を奪って。

それを知れば死んだ転生者達は抵抗するのでウソを付くしかない、何故なら異世界へ来てくれと女神の誘いを受けたという時点で、元々彼等は自分がいた現実から逃げたかったという事なのだから。

その現実に再び送り返すと思うと……黒騎士は少々この世界で死んでいった勇者達に哀れみを覚える。

 

「おい魔王、適当な事言うな、私だって一応救いは与えてるんだよ。こっちに呼んだ手前私にも責任あるし」

「女神様?」

「ええそうなんですか、知らなかったですよ我」

「まあ私なりに考えてキチンとアフターフォローしてんだよ、散っていった転生者達は」

 

二人の会話を聞いていたのか、王との喧嘩を止めて女神がしかめっ面で歩み寄って来る。

魔王でさえ知らなかった死んだ転生者達に授けた最後の女神の力というのは……

 

「元の世界に戻ったらこれから先の人生、ほんのちょっぴり運が良くなるわ」

「ほんのちょっぴり運が良くなるって……具体的にどうなるんですかそれ?」

「そりゃまあ宝くじ買えば5ケタぐらいの金額が当たる確率が少しだけ上がるとか、仕事先で凄いタイプという訳ではないけど中の上ぐらいの異性とお近づきになれるチャンスがあるかもしれないぐらいな?」

「すっごい微妙……」

「仕方ないでしょ、私の力じゃそれぐらいが精一杯なのよ」

 

一応彼女なりの贈り物なのであろう、魔王は首を傾げて「うーむ」と声を漏らす。

少しだけ運が良くなる、まあ無いよりはマシ程度に考えればいいのであろうか。

 

「それにここにいた記憶を全部奪うって訳じゃないのよ、多分たまにこの世界の事を夢に見るとかおぼろげにフラッシュバックしたりする事があるのよ。もう勇者にはなれないけど、目を背けたかった現実の中でたまにはこの世界でやって来て色々と頑張っていた事を思い出して欲しいからね」

「楽しい思い出だけじゃなく辛い思い出も蘇るって事ですよねそれ……」

「まあね、でも思い出は思い出でしょ、辛い事なら今後の人生で役立つ経験になるかもしれないし、何はともあれ運がよくなったり思い出もあれば多少の後利益はあるって事だよ」

 

そう言って女神はいつものヤンキーみたいな様子とは打って変わって、子供を見守るかのような優しい微笑みを見せた。

 

「ここでは見つけられなかった本当のヒロインだって見つかるわよきっと」

「……頑張ってほしいですね、元の世界に戻っても」

「まあ私はこっちの世界で頑張って生き抜いて、私というヒロインをゲットして欲しいんだけど」

「最後の最後にぶっちゃけやがったよこの女神」

 

踵を返してこちらに背中を見せつつ女神は最後にぶっちゃけると、呆れている魔王を置いてスタスタと歩き出す。

 

「さあて向こうの世界の事なんざ考えてるヒマなんかもうねぇぞ、またすぐに転生者こっちに送るから。目に入る神様全員に土下座してなんとかこっちに回してもらうよう頼んで来るから、おい王様、今度勇者とバトったらマジで許さねぇからな」

「わかっておるわい、次からはちゃんと素直に殺されればええんじゃろ」

「それと魔王、今回はテメェに責任はねぇが魔物の管理は常にチェックしておけ。とりあえずあの目玉だけの魔物をどうにかしろ、勇者が生まれる予定の一の街にも出て来たって報告があったぞ」

「どんだけ自由なんだよメダマン……了解しました」

 

王を連れて女神は魔王の間を後にする、そして去り際に彼女は魔王の方へ振り返ると

 

「それじゃ、頑張れよ魔王様、頑張って勇者に殺されてみろ」

 

それだけ言い残して手を振ると彼女は扉の向こうへと消えてしまった。

 

ラストバトルの舞台にポツンと残された魔王と黒騎士はしばし間を置いた後ゆっくりを顔を合わせて

 

 

 

 

 

「頑張ろうか、転生者にこの世界のエンディングを迎えさせる為に」

「はい、散っていった転生者達に負けられませんからね、我々も気合を入れて殺されましょう」

 

転生してきた勇者がエンディングを迎えるまで

 

この世界の者の戦いは終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

元転生者 デルタ・クロノス

 

現実世界に戻った後、ブラック会社から転職を決意。家の近くの工場で働き始める。

4度目の婚活パーティで出会った女性と結婚、後に二人の子供をもうける。

どういうわけか巨大な丸形を見ると変な汗が出る。

 

元転生者 ジークフリード・ベルダンテ

 

現実に戻った後、親に頼んで在籍していた学校を転校する。新しい高校ではなんとかやっている模様。

同じ委員会の同級生の子に片思い中である。

周りの人の話をしっかりと聞き、無駄な特攻をかまさないように淡々と告白の準備をしている。

 

元転生者 ルシファー=ヘルヴェイン

 

現実に戻った後、他人に頼らず自分の力で生きてみようと親のすねをかじるのを止める。

今は警備員としてバイト生活の日々。

休日の日には痩せる為にトレーニングジムに通うのが習慣となる。

同じくダイエット目的でジムに通ってるちょっとぽっちゃりしてる女性と話し友達になった。

別に痩せる為とかではないのだが、何故か豚肉が食べれない体に。

 




これにて完結です、ご愛読ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。