ギター好きは死んでもまたギターが弾きたい。(仮題) (Ruminq)
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プロローグ 終わりはいつも唐突に。

一人称の描写は苦手ですし、心理描写はもっと苦手で苦手なものだらけですが
精一杯頑張って書いたので見ていただけると嬉しいです。
辛口な評価を期待しています。


プロローグ

 

 

 

誰が作ったかは知らないが、物語の始まりは唐突にという言葉がある。

だから僕もそれに則って唐突に言わせてもらおう。

 

僕はギターが好きだ。人生の転機にもなった大切な宝物だ。

 

ギターと出会ったのは僕が10歳くらいの時だった。

それまでの僕はまるで魂が抜けた抜け殻になったような気分で生きてきた。

だけど別段なにか不幸なことがあったわけでもない。強いて言うなら僕が生まれてからすぐに父さんが蒸発して母さんが一人で僕を育ててるということくらいだろうか?

別にその生活が嫌だったわけではない。ただ、母さんがいつも働きに出ていて家は毎日僕だけだった。寂しくなかったと言ったらウソになるけど、母さんが僕の為に働いてるって思ったらそこまで寂しくはなかった。

 

まぁ、僕の家庭の話はどうでもいいんだ。

 

当時、僕は鍵盤ハーモニカやリコーダーくらいしか楽器は触ったことはなくてそこまで楽器に興味はなかったんだけど、僕の人生の転機とも呼べる事が起きたのは何の変哲もない伽藍堂とした商店街だった。僕は学校の帰り道がその商店街が近道だったからしょっちゅうそんな寂しげな道をいつも一人で歩いて。誰もいなくて

 

「ただいま」

 

って言ってもなにも返事が返ってこない家に帰ってただ一人で時間をつぶす。そんな道の途中だったんだ。だからその時もその寂しげな商店街を通って帰ろうとしたんだけどその日は違った。

 

いつもは寂しげな道だったのに、一カ所だけ人だかりができていたんだ。

確か20~30人くらいだったと思う。

いつもこの寂しい商店街を歩いていた身としてはなんでこんなに人が集まるのか不思議でならなかった。だからただその人だかりをスル―できなくて気になって覗いてみたんだ。そうしたら――

 

――♪―――♪

 

綺麗な音色だった。人生を10年生きてきた中で聞いてきたハーモニカやリコーダーやカスタネット、小学校で聞く楽器では到底出せないような美しい音色だった。

 

――その時はすごく驚いたの今でも思い出すことがある。なんでこんなに良い音がでる楽器を学校で使わないんだろう?って。

 

…まぁ、ギターはコードを押さえるだけ手が大きくないと弾けないから小学生の手では当然引けないだろう。

当時の僕はそんなこともわからなかったから随分と不思議に思ったものだ。

 

それでその人だかりの中心にいた男の人は小学生4年生だった僕でもカッコイイと思えるほど整った顔で笑顔でギターを弾きながら歌を歌ってた。――弾き語りだった。

 

その時、自分の世界が広がった気がした。

いつも歩いて帰っていたこの寂しかった商店街がギターと歌声一つでこんなにも賑やかになるのかと!

 

その人の弾き語りを聞き終わってからは10歳の出せるだけのスピードで家に走りかえったのは今でもはっきり鮮明に覚えてる。玄関の鍵も締めずにその時たまたまパートの仕事が休みで家でテレビを見ていたお母さんに――

 

「お母さん! 僕ギター習いたい!」

 

後になって聞いたけどその時の僕は今まで見たこともないくらい満面の笑顔だったらしい。当時の母親の中では忘れられないほどの事件だったらしい。そのこともあってか母さんは二つ返事で了承してくれた。

 

それからギターの教室に通って基礎のコードとか弾き方だとかを叩き込んだ。

レッスンが終わってからはその先生の教室の隅を借りて指が筋肉痛になるくらいギターを弾いていた。

ピックから外れて自分の爪で弾いちゃって爪が剥がれたこともあったが、そんな痛い思いをしてもギターを嫌わずに続けた。

 

――――――――――――――――――――――

 

ギターを弾き始めて7年くらいになってもう自分も高校2年生の頃。

そろそろ人前に出しても恥ずかしくはないくらいにはギターが上達したと自身で感じるくらいには上手くなった。中学3年くらいの時から歌も練習をしてある程度は歌えるようにはなった。

 

僕はそろそろストリートライブをしようと思って、場所をどこにしようかと考えたときふとあの時ギターとの邂逅を果たしたあの時の商店街の一角が過ぎった。

 

そこで弾こうと決めたらすぐに準備して商店街へと駆けていくのであった。

走って商店街に着いて7年前に男の人が歌っていた全く同じ場所にギターや必死にバイトして買ったマイクと小型スピーカーを用意する。

設置が終了していつでもギターを鳴らして歌うことができる。

 

――あれから7年。あの男の人が弾いていたのを見て、憧れた僕が同じ場所に…

深呼吸してギターに指を掛ける。

 

ギターに出会ってから7年が経とうとも僕のギターへの情熱は衰えてなどいない。

だから7年前から培ってきたこの情熱を今この一時に、一瞬に――込める!

 

――♪――♪♪――♪

 

「――♪――♪」

 

ギターを弾きながら歌う。いいや、詠うのだ。

今の気持ちを、あの時に感じた気持ちを7年間感じてきた気持ちや感情すべてをたった5分弱に込める。

 

その詠が終わった時には周りには人だかりができていた。

 

拍手喝采――。

 

それが正にぴったりであろう拍手の嵐。

 

「ねぇ! その曲なんて言うの!?」

 

そんな声が聞こえる。でもこれはオリジナルだ。名前なんてない。

 

「えっと…これは僕が作った曲なので曲名はなくて…」

 

自分の一声で広がる驚きの声。

そこからは大騒ぎだった。握手や写真撮影をお願いされたりした。

それがたまらなく嬉しくて早く家に帰るために全速力で走った。

 

「お母さんに報告してあげなきゃ…!」

 

車がたくさん行き交う一般道の隣の歩道を走り抜けながら頭の中はお母さんをどうやって驚かそうか考えていた。浮かれていたと言ってもいいだろう。

 

だからだろうか――。

前から来ている自転車に気付かなかったのは。

 

「…わっ!?」

 

自転車に轢かれないように勢いよく体を捻って交わすが、その反動でギターケースが飛んで道路の真ん中へ飛んでしまう。

 

「あっ…! …っ!!」

 

それを一切の迷いなくギターを取りに走る。

今までで一番のスピードが出た。こける様にしてギターを拾い抱きしめる。

「…はぁ、どこも壊れてない…良かった」

 

安堵の息が漏れた。これは10歳の頃母さんが僕の為にフラフラになりながら働いて買ってくれたギターなんだ!

ずっと使ってきた。ずっと一緒に居た。学校でも。家でも。どこへでも。

 

ふと目の前を見ると大音量のクラクションを鳴らしながら走ってくる乗用車が。

躱すことは不可能だ。もうそれができないほど近くに迫っている。

もしギターを離してこの乗用車を躱せば、命は助かるだろう。でもきっと、いや確実にギターは壊れてしまうだろう。

 

――こんなのって…っ!

 

ここに来て、酷過ぎる。せっかくここまで来たのにこんな終わりって。

つい、心の声が口に出てしまう。

 

「あぁ…生きたいなぁ…」

 

僕自身の人生も。ギタリストとしての人生も。

大きな衝撃音と痛みと共に、泡のように消えてしまった。

もう、何も見えない。何も感じない…あ、感じないっていうのは嘘かな。すごく、寂しさが冷たさが孤独感を感じる。あぁ…これが、死ぬってことなんだなぁ…

あ、今良い歌詞を思いついたのに、メモも無いし、ペンも無いや…

あぁ―――願わくば、またギターが弾けますように。

 

 




はい、プロローグ終了です。
タグの通り原作開始前から始めていくので投稿も遅く、理論ガバガバになると思いますが、何卒この小説をご贔屓に。
ま、完結するかは原作次第なのですが。
あとここがおかしいと思ったら報告してくれると助かります。
あとで気づいて修正できないとこまで来てたら手遅れになっちゃうので・・・。

あとちなみにこの小説はセラ生存予定です。
タグには書かないよ!だって皆期待しちゃうでしょ?(震え声)
いつ出るかは秘密です。


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第一話 探索

至らぬ点や変な描写があればご指摘お願いしますー。


 

 

 

 

 

寂しさが、冷たさが、孤独感が僕を襲う。

どんどん深い泥のようなモノに沈む感覚がする。

あぁ――、来世はギターがまた弾けますように。

 

僕は沈む感覚に身を委ねる。深く、深く沈んでいく。

その刹那――。突然何かに引き上げられる感覚だけがやってくる。

まるで暗い水の底から明るい浅瀬に引き上げられていくようだ。

四肢が完全に感覚と機能を停止しているのも関わらず、陽だまりにいるような心地よさが体の内から徐々に湧き上がってくる。それと比例して自分の意識のようなモノが遠のいていく――。

 

よくわからないけど…なんか、心地いい…。

 

それを最後に僕の意識は完全に途絶えた。

 

―――――――――――――――――

 

僕の意識が戻ったとき、まず初めに襲ってきたのはまるで肉体の中に無理矢理風船のようなモノを押し込められたようなナニカが内側から外側に向けて広がるような感覚だった。

 

――圧迫感に似たような感じだろうか?

 

そして次に先程まで感じなかった視覚以外の五感が蘇ってきた。

ただ、なぜか触覚はしっかり機能していなくて違和感を感じるし、聴覚もまるで耳の中に水が入ったようにごわごわしてよく聞こえない。どうなっているのか困惑する。

今の自分の状況を確認しようにも眼はなぜか開かないから見えないし、耳はあまり聞こえないから耳で周りの状況を判断することもできない。

そんな状況に困惑していると耳の中に水が入ってごわごわしたような感覚のせいで聞こえにくい耳が誰かの声を捉えた。よくわからないが、女性の声だろうか?

 

『――れてき…れて、あ……とう。―――――!』

 

何を言っているのだろうか?よく聞こえない。最後のところは名前だろうか。いや全く聞こえなかったが。

 

――あ、なんか、眠気が……意識が、遠のく…。

 

その眠気に逆らう事ができず僕は意識が呑まれた。

 

――――――――――

――――――

――――

 

 

意識が遠のいてからどれくらい経ったのかわからないけど、かなりの時間が経ったらしい。

自分はそこまで時間か経っていないように感じるので先ほどという表現を使うが、先ほど違和感を感じていた聴覚と“視覚”と触覚はしっかりと機能するようになった。

 

――そう、視覚も機能するようになったのだ。つまり――!!

 

「どうしてこうなった…っ!」

 

三歳児ほどに身長が縮んで、さらに!…自分の顔が知らない人物の顔になっているという非現実的な現実を叩きつけられているのである!!

 

「えぇ…(困惑)」

 

三歳児ほどに縮んでしまったのはまぁ、まだ良いのだ。いや全然良くないけどね。

それより問題は顔の方である。

 

――なんだこのイケメン。

 

いや、銀髪と翡翠色の瞳だけですでにお腹一杯なのに、三歳児とは思えない程顔が整っているのだ。しかも貴族っぽい服きてるし。なにこれシルク?

 

なんだこれ。――いやほんとなんだこれ!?

友達が言ってた転生…とかいうやつなのかな。まぁ、いいやとりあえず今日は自分の容姿を確認できたので寝よう。うん、寝れば病院のベッドで万が一…いや億が一の確立で目が覚めるかもしれないし。

 

――お休みなさい。

 

誰に言うわけでもなく、心の中で就寝のあいさつをしてベッドに入った。

そうして僕は三歳児ですでにキングサイズのベッドを与えられているという事実をスル―しながらそのまま不貞寝するのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

――――――――――――

 

 

 

転生(仮)生活2日目――。

 

転生(仮)生活1日目は自分の容姿を確認して就寝したが、今日こそは自身が今置かれているの状況の調査とかをしなければならない。ここがどこなのかとか。ありえないけど奴隷商人の家とかだったりしたら割と洒落にならない。

転生(仮)生活2日目で人生の最終回とかマジで…本当に洒落にならん。

昏睡時の夢みたいなことも否定できない以上そこまで気にする必要はないかもしれんし。

 

なんて思って自分が今いる恐らく寝室であろう部屋を見渡してみる。

すると、ベッドのすぐ右隣に2段程度の本棚を見つけた。なにか情報がわかるかもしれないしとりあえず読んでみよう。記憶はしっかりしてるから多少三歳児程のこの体でも十分に情報収集できるだろう。

 

まずは1段目の本を調べる。えっと……おっ!

この分厚い本は歴史の本っぽいな。雰囲気的に…そうでしょ?

とりあえず分厚い本と言えばハリポタと広辞苑と歴史の本くらいでしょ?そう…だよね?(汗)

とりあえず数ページ開いてパラパラめくってみる。

 

――うん…読めない!わかってた! 明らかに日本じゃないもん部屋が!

 

ドイツ語とかロシア語みたいなそんな感じではなくもう言語化不可能な字が並んでいるのだ。別に決して僕がバカだからではない。今いる世界(?)の情報収集は無理そうだ。

次はこの家の主を探さなければ。奴隷商人かそれともこの世界の両親か。どちらかはわからないがなぜか三歳まで育ってきているのにそれまでの記憶がないという実に奇妙な状況だからこの世界の両親の顔も覚えていないため本当の両親が出てきても咄嗟に両親と判断できないのだが。

 

とりあえず、まずはこの部屋から出ないと。

心の中でそう呟きながら本を元あった場所に戻して寝室の出口のドアを目指す…がここで僕は大変な事実に気付いてしまった。

 

「………」

 

――届かない…っ!!!!

 

そう、今の僕は前世の様に17歳の僕ではなく今は三歳児の体なのだ。

つまり僕と開くためのドアノブは圧倒的なまでに高さがあるのだ。

 

――ジャンプすれば届くかな…

 

そう口の中で呟いて思いっきり足の力を込めて腕を振り子の様に降ってその遠心力をジャンプに利用して跳ぶ。

 

本気で跳んでやっとドアノブに手がかかる程度だったが幸いにも捻るのではなく下に引っ張るタイプのドアノブだったのでなんとか開けられた。

 

……なんでドア一つ開けるのにこんなに苦労しなきゃいけないんだ…。

 

内心毒づきながらドアを潜るとそこそこ長い廊下に出た。

廊下にはパッと見片方の壁にドアが三つ程度着いているようで、もう片面も同じようになっている。これを見る限り、この家が奴隷商人ではなく、恐らく貴族である両親の家である可能性が高くなってきた。少しほっとした。

 

廊下に所々飾られている絵やいかにも高そうな花瓶を見渡しながら歩き回ってみたが、2階は特にこれと言って気になるものはなかった。正確に言えば恐らく父親の私室だと推測できる書斎があったのだが文字が読めないのでノーカンである。

 

と、いうかドアを開けようとするたびに3歳児の体で全力ジャンプをして開けなきゃいけないため既にかなり疲労が溜まっている。まぁ、全力ジャンプを7回もすれば三歳児だから代謝が良いせいかすっかり汗だくである。うえぇ、服が汗で張り付いて気持ち悪い。

もしも、誰か居ればお風呂に入れさせてもらおう。

 

2階は全ての部屋を探索し終えたので、先ほど見つけた1階への階段を下りた。

階段を下りれば短い廊下があって降りた僕の目の前に、リビングらしき部屋につながるドアを開けるために実に8度目の全力ジャンプを敢行する。

 

…脚の全ての筋肉が悲鳴を発しているがどちらにせよ寝室を出た時にドアを閉めてきたしまったためあと一度全力ジャンプをするはめになるので痛みに手をドアノブに手を伸ばす。

正直これで誰もいなければもう今日は家に誰も居ないということにして寝室に戻ってFUTENEをしようと考えている。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

ただその考えも目の前の光景を見て無くなったが。

そこにいたのは――――。

 

「あら、ヴァー君起きたの? 昨日は疲れてたみたいだからご飯食べなかったからお腹空いてるでしょって……ヴァー君! 汗びっしょりじゃない! ご飯の前にお風呂ね!」

 

「おぉ、ホントだ! おはようヴァイス! まだお前の身長ではドア開けられないのによくドアを開けられたな! だから汗を掻いてるのか」

 

居たのはどうやら僕の母親と父親のようだ。見る限り優しそうな両親だろうから良かった。

 

しかもお母さん若い! 

 

前世では父親は蒸発してしまっていたので、居なかったけど母親は優しかったのをよく覚えている。いやここまで若くはなかったが。いつこの人たちは結婚したのだろうか。

 

「ね、かあさん。おふろのまえにゴハンがタベたい」

 

――すごいしゃべりにくいんですけど…。三歳児の舌ではこれが限界か…。

自身の滑舌の悪さに驚愕した僕だがそれよりも先に母さんに昨日ご飯を食べていないこと

を指摘されてから、急激に空腹感が襲ってきたため先にご飯を優先しよう。

 

腹が減っては戦は出来ぬ。

 

と、いうことで――。

 

「わかったわ! すぐにシェフに用意させるわね」

 

―――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――

 

 

ご飯を食べ終わって満腹になり、頭にブドウ糖が回り活性化した脳が僕にキュピーン!!と唐突なインスピレーションを与えてきた!

 

言葉は伝わるんだから両親に読み書きを教えてもらえばいいじゃないか…と。

うん、完璧だ。我ながら天才ではないだろうか。

将来は軍師だな。…嘘。軍の犬とか成りたくない。

そういえば前世で居た友達に見せられた動画の中に、

 

【軍の狗】

 

という動画があり、軍の一番下っ端である主人公とその連れである二人組の乗った軍用車を走らせ余所見をしていたら、道路の前に赤信号で停車していた貴族の乗った黒塗りの高級車に追突してしまって

 

「オイゴルァ!」

 

から始まり屋敷に連れて行かれ

 

「なんか足んねぇよなぁ?」

とか言われて首輪とか尻尾つけられたり

 

「四つん這いになんだよ!」

とか

 

「馬鹿じゃねぇの(嘲笑)」とかイロイロされる、という動画があったな。

 

閑話休題――。

 

先のインスピレーションを無駄にしないために早速両親に打診してみる。

 

「かあさん、とうさん。ぼくによみかきおしえて!」

 

僕のお願いを聞いた両親の最初の反応は“困惑”だった。

まぁ、無理もないだろう。なんとなく予想もしていた。

恐らく三歳児の僕――ヴァイスという名前らしい――が突然文字の読み書きを教えろ、なんて僕も親の立場であれば困惑するだろう。

 

困惑から母さんより早く立ち直った父さんが苦笑を顔に浮かべながら

 

「読み書きかぁ…ヴァイスにはまだ早いんじゃないか?」

 

と一蹴しようとする。…だがしかし、ここで諦めるわけにはいかない!

 

「よみたいホンがあるんだ!」

 

読みたいモノがあるという明確な理由を作って一刀両断に否定できなくさせる。

 

「お父さん、いいんじゃないかしら? 別に文字が読めるのは早くて困ることはないんだし」

 

「母さんがそう言うなら…よし、ヴァイス! 読み書き今日からみっちり教えてやるからなぁ!」

 

ファッ!? 脚の筋肉痛と疲労で疲れがマッハの速度で増幅中なのにそんな状態で勉強したら――

 

死ぬ!!! 断固阻止しなければ…っ!

 

「え…? や、やっぱりあしたにしない?」

 

若干上ずった声が出てしまった。頼む、明日にしてくれぇ…っ!今からなんて死ぬからぁ…っ!

 

「何を言うんだヴァイス、お前が言い出したんじゃないか!…ヴァイス、私が本で読んだ格言を教えてやろう。…“明日って今さ”!」

 

無駄に良い顔で無駄なセリフ吐きやがって…ちょ、抱えるな! 運ぶな!

――うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「ていうかさきにオフロはいらせてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

勉強の前にこのベトベトになった体を洗わせてくださぁぁぁぁぁい!!!

 

こんな感じで僕の転生(微断定)二日目は幕を閉じたのであった。

 

 

 

…ちなみにこのあと暴走した父を止めるために母さんが笑顔でお父さんを絞め落としたのは驚きを隠せなかった。

 





「ギブギブギブギブ…………ガハッ……」

「と、父さん…っ!?」

「あらー、お父さん寝ちゃったみたいだからベッドに寝かしてくるわねー」

「は、はい」

感想評価待ってます!次は少し期間が空くかもです!
ストックが減ってきたので補充執筆するので…。


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第二話 第二の家族は。

お 待 た せ

なにかおかしな点があればご指摘お願いします。


父さんから読み書きを習い始めてから5年が経過した。

 

僕は8歳になった。身長も結構伸びたし、身のまわりの環境も変化したし、色々わかったことも多い。

 

父さんが途中から調子に乗り始めて読み書き以外にも社会情勢や歴史や数学など一通りの勉学も叩き込まれた。いくら僕が転生して前世の記憶を引き継いでいるから勉強の飲み込みが早いからって

 

「ようし、読み書きも概ねできてきたな! ついでに他の勉学も手を出してみるか!」

 

なんて言い出した時は頭が真っ白になった。

それからしばらくしてから驚いたことがあった。父さん――レナード=フィーベルは実は魔導省の高級官僚らしく、こんな性格で実はすごかったという驚愕の事実が発覚した。

そして次に家がガチで貴族だった。フィーベル家というかなり名の通った誇り高い名家でした。

 

つまり僕の名前はヴァイス=フィーベルということになるようだ。

次に母さん――フィリアナ=フィーベルも同じく魔導省の秘書官らしい。

他にも分かったことは父さんはアルザーノ帝国魔術学院の講師をしていたことがあるらしく、母さんはその時の教え子だそうだ。道理で父さんは教えるのが上手いわけである。

 

父さんが講師を最初は不真面目授業をやっていたらしいが徐々に改心して真面目に取り組み生徒想いの講師なっていったらしく、そこに母さんが惚れて最終的に無理矢理押し通して結婚したらしい。通りで母さんが若いわけである。

 

――閑話休題。

 

今は講師ではなく先ほど言った通り講師ではなく二人とも魔導省に勤務しているため最近は滅多に帰ってこなくて代わりに爺さん――レドルフ=フィーベルに面倒を見てもらっていた。

 

僕はよく知らないのだが確かフェジテという学究都市の西側に位置する上空に位置するメルガリウスの城というものの謎を探求する狂信的な人――その人達を総じてメルガリアンと呼ぶらしい。――というものに爺さんは入るらしい。

まぁ、僕はそこまで興味は湧かなかったから代わりに魔術と魔術理論など魔術関係を教えてもらっていた。

 

ちなみに僕の一歳年下の妹――7歳のシスティーナは爺さんのメルガリウスの城の話を大層お気に召したらしく、僕の勉強中でも構わず押しかけてきて話をせがむほどだ。そのたびに毎回僕たちはシスティーナのことを苦笑しながら授業を中断して爺さんはメルガリウスの城の話を語りだし、僕はその話に耳を傾けながら授業の内容を復習しながらまとめるのだった。

 

これが3歳から8歳になるまでの5年間の軌跡である。

まぁ、全部説明したわけじゃないんだけどね。

 

でもとりあえずはこんな感じかな。

前世の僕だったらきっと死ぬような勉強をしても辛くもなんともなく、むしろ楽しく思えたのは前世の世界にはなかった魔術という存在のおかげか、それともこのフィーベル家の人たちが温かいからだろうか?それとも血筋?

…いや、気にするだけ野暮か。もうここで8年も生きてるんだ。

今更前世の世界のことを思い出したってなにかが戻ってくるわけではないんだし。

 

さて、勉強、勉強。

 

―――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――

――――――――――――

 

 

 

今僕はフェジテ学究都市から離れて帝都にいる。

父さんと母さんに着いてきているためだ。ちなみにシスティは爺さんと一緒に家にいる。僕がいない間に少しでも例の城の話を聞こうとしているらしい。

…今両親は二人とも魔導省の仕事で手が離せないらしいので帝都の商店街的な通りに冷やかしに来ているのだ・・・・。

 

その商店街の一角に色々の国から様々な楽器を集めて置いている店を見つけた。

前世でギターを弾いていたこともあってか惹かれるように僕はその店に入った。

 

10分程物色して弦楽器コーナーらしき場所に踏み入れた時、それを見つけた。

僕はそれを見た時、驚愕半分、嬉しさ半分という複雑な感情になった。

 

「こ、これは…!?」

 

見つけたのは形は違うがそれは間違いなくギターと呼べる代物だった。

 

「ギター…!? まさかこんなとこにあるなんて、もはやこの世界にはそんなものはないと思ってたけど…いやでも形がちょっと違うな…ウクレレ?」

 

僕が余りの衝撃にブツブツ独り言を呟いていると、それを聞きつけたのか、それとも8歳の子供がこのような楽器の店を訪れているのが珍しいのかは知らないが店主らしき人がやってきてしゃがんで僕に目線を合わせて声を掛けてきた。

 

「お、坊主見る目がいいな!それはリュートって言ってな、その片方の手で下の辺りで弦を弾きながらもう片方の手で上の辺りの弦を押さえて音程を調節して弾くんだぜ! 東南の国の方から入手したんだけどよ、俺ぁこの楽器には詳しくなくてなぁ、弾き方はしらねぇんだ。すまねぇなぁ」

 

そうか、これはリュートというのか。道理でギターの割には真ん中の穴が小さいと思った。

僕が使ってたのはアコギだからもっと大きいし、図体もでかい。

こんなウクレレみたいに小さくないしね。

でもリュートがあるなら希望が見えてきた。

 

「い、いえ!…それにしてもよく仕入れましたね、これ。この辺りじゃ見ない楽器でしょう?」

 

「へっへ、そうだろ? 昔の友人に東南の国出身の奴がいてよ。そいつに地元で有名な楽器持ってるって言ってたからそれを郵政機関で送ってもらったわけだ」

 

ほう、友人にギターに似たリュートがある国住んでいる友人かぁ…。そうだ!

 

「すみません、店主! このリュートを持ってきた人ってどんな仕事についてるんですか?」

 

「ん? そうさなぁ…実はそいつ兄弟でよ、俺が頼んだのは兄貴の方なんだがそいつは確か木を彫って磨いたりして彫刻を造っとったかなぁ…んで弟の方は鍛冶師でよ、ちょうどお前さんが持ってるリュートの弦を造ったりしてるって兄貴から聞いたような…」

 

「そ、それホントですか!?」

 

僕はつい鼻息を荒げながら目を輝かせて店主のおっちゃんにリュートを持ったまま詰め寄る。それを見た店主は僕の雰囲気に気圧されたのか、少したじろぎながら肯定する。

 

「あぁ、確か間違いなかったと思うが」

 

店主から肯定の意を受け取った僕はテンションが上がる。

諦めかけていたギターの道に希望の光が差し込んできた。

もはや、僕の為に舞い込んできた出来事と言わんばかりのイベントである。

 

「でしたら、その二人に製作…オーダーメイドを依頼したいのですが!!!」

 

「オーダーメイド? まぁ、そりゃあ目の良い坊主のためにひと肌脱いで用意するのも吝かじゃぁねぇんだけどよ…お前さん、金あるのか?」

 

「…あ」

 

しまった失念していた。ついついはしゃいでしまったが、店主のおじさんから見れば僕はただの8歳の子供なのだ。お金なんて、持ってるわけがない。

元々この世界にない弦楽器のオーダーメイドを依頼するのだから当然大金が必要になるだろう。

 

 

「坊主には悪いが一応これでも俺ぁ商人なんだよ。こう見えてもな。金が必要なのはそれだけ目端の効く坊主ならわかるだろう?」

 

「すいません…気が舞い上がって…気付きませんでした……」

 

店主の目から見ても分かるくらいにしょげてしまう僕。店主はそんな僕をどう慰めようか迷っているようだ。その時だった。

 

「あぁ、ここにいたのか!」

 

聞き覚えがある声がしてそちらを振り向けばいたのはどうやら父さんの様だ。

 

「父さん…仕事は?」

 

「なに、今日は早く仕事を終わらせてヴァイスと遊ぼうと思ってな。帝都に来てまで勉強することもないだろう。 ところで、なんで楽器店にいるのだ? てっきり私は図書館にいるのかと思ってここから全く逆方向の帝都図書館に行ってしまったわ。はっはっは」

 

笑いながら僕になぜここにいるのかを尋ねる父さん。そんな父さんに僕は先ほどまでの話していた内容と僕がしようとしていたことを包み隠さず話したのだった。

 

―――――――――――――――――

―――――――――――

―――――――

 

 

 

「成程、リュートのオーダーメイドを頼みたい…か」

 

父さんは何かを悩むように手を顎に当てながら首をひねっている。

 

「うん、と言ってもリュートの面影はほとんどなくなるんだけど…」

 

「ん? つまりはなんだ、ヴァイスは元々リュートのオーダーメイドが欲しいと前から考えてたってことか?」

 

「…まぁ、そういうことになるかな」

 

何かに気付いたのかハッとした父さんは僕に今ではなく前からリュートが欲しかった旨を聞いてきたので、とりあえず肯定する。

…まぁ、リュートが欲しいわけではなくギターが欲しかったのだが店主と父さんと話してみる限り、ギターという楽器名は存在しないか、相当マイナーなモノであると予想できたので、リュートということにしておこう。

 

「なら私がお金を出そう」

 

「え?……いいの!? きっとすごい大金になるよ!?」

 

父さんは手を腰に当てて思いっきり胸を張って自分が金を出すと答えた。

その発言に動揺を隠せない僕は父さんに大金になると警告する。

前世のような近代ならまだしもこの世界はまだ蒸気機関車が普及し始めたばかりなので

技術はまだまだであろう。つまりそれに比例してオーダーメイドの値段も跳ね上がると推測されるのである。その僕の気持ちを理解してかせずか父さんは胸を張ったまま

 

「ヴァイスは三歳の読み書きを教えてということ以外でなにかモノをねだるということがなかったからな。5年間分貯めた分をここで清算してやるのも良いだろう!」

 

「……母さんには許可を取らないの?」

 

「……いや、母さんにはあとで報告する! それにまだ8歳のお前が気にするようなことではない!…さて店主」

 

おい今間があったぞ。

 

「店主、金は出す。出すからこの子の言うとおりのモノを作ってあげてほしい」

 

「はい、毎度ありがとうごぜぇます! …よかったな坊主」

 

「はい…!」

 

うぅ…不覚にも父さんの愛に感動してしまいそうだったよ。さっきの間がなければ完璧だったね。うん。でもホントに良いお父さんに恵まれたよ。家族ってこういうことを言うんだろうか。

 

「よし、坊主。こっちに来い。いまからあいつらに送る設計図を描くからお前さんの作ってほしいモノの特徴をできるだけ細かく教えろ」

 

「はい!」

 

店主にこっちにくるように促され、父さんにありがとう!とできるだけの笑みでお礼を言ってから店主にギターの特徴をできるだけ詳しく伝えた。

ほとんど太陽が沈んで日が暮れるまでそれは続いたが、その甲斐あってか、店主からは

 

「これだけ詳しく書けばお前さんのイメージ通りのものが作れるだろうさ! 待ってろ、今すぐ手紙書いて郵政機関の速達で東南の国の兄弟のとこに送ってやるからな!」

 

だ、そうだ。できでから僕の家に届くまで多少の時間がかかるらしいがなるべく早く届けてもらえるそうだ。

 

僕は家で

 

…楽しみだなぁ!

 

と踊りながら鼻歌を歌う僕の隣で何故僕の機嫌が良いのか知らない一つ年下のシスティーナも僕に釣られて踊って鼻歌を歌っていた。

 

そんな二人を見ながら微笑んでいる母さんが居て―。

微笑んだままの母さんが父さんに渾身の力でチョークスリーパーを決められて

 

「待って、許して、ギブギブギブ……ガハッ」

 

勝手に大金を使ったことを咎められそのまま昇天した父さんが居て―。

 

混沌極まりない家庭だけど温かくて優しい家庭がそこにはあったのだった。

これからもこの幸せな生活が終わらないことを願う。

 

たがしかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せがそう長く続かないことはこれからの事を考えれば自明の理であっただろう。

それに気づかない愚かな僕はただ今だけの幸せを噛締めるだけであった。

 




あと数話すればギターの要素が減って原作キャラがどんどん増えていくと思います。

ま、タイトルは仮題ですし? あとからちょいちょいと変えてしまえばいいからね。
多少はね? どうしてもやりたいシーンがあるのでそれをやるがために結構捻じ曲げてしまうと思いますがこれからもこの当作品をよろしくお願いします。


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第三話 出会いと別れと。

1万字の長編になってます。
駆け足になったせいで少し雑になりましたがおかしかったらご指摘お願いします。
それでは、どうぞ。


出会いと別れと。

 

 

リュートのオーダーメイド、もといギターの作成依頼を出した日から約3か月の月日が流

れた。…まだギターは届かないのかと今か今かと待ち続けてもう三ヶ月が経った。

 

正直ここまで待たされるとは思っていなかったから流石に気になりすぎて父さんに出されている課題をまともにこなすことすら出来なくなってきた。

 

一つ年下の妹にさえ心配されるくらい顔色が悪くなっているらしく食事も喉を通らなくなってきてかなり憔悴している。嘘です、憔悴はしてないよ。ゴハンもおいしいよ。気分だけです。

 

「ギター…ギター…がぁぁぁ…こないぃぃぃ」

 

頭を抱えながら父の書斎の床をゴロゴロと転がる。

 

「…これは重症だな…」

 

今日はたまたま仕事が休日だった父さんが僕を見て呟く。

なんでこんなに時間がかかるんだぁ……

 

「まぁ、頼んだのが東南の国の方だからな。設計図が届くにも時間が相当かかるだろし完成品が家に届くのもまた然りだな」

 

もしかしたら今日届くかもしれないしな――。と付け足した父を見てあからさまに慰めに来てるんじゃないよと内心さらに落ち込む。

 

いや確かに頼んだのは遠方の国だし時間がかかるのかもしれない。それはわかる。

だから仕方ない。それでもってこのギターを待つ時間は別なのだ。前世もギターが壊れて修理に出したこともあるが、待つ時間は本当に治るか不安で仕方なかった。

 

――前世といえばふと思ったことがある。

 

…そういえば、転生してからもう5年3ヶ月も経ってるならこれもう夢じゃないよなぁ…。

 

というやつである。

 

つまりは転生(断定)生活である。断定。

 

まぁ、そんなこともあるか…となるべくギターのことを考えないように父さんに出された課題を終わらせようとする。これを終わらせないと次の課題に進めないのだ。

次は歴史なのであまり家から遠くにいけない僕には大事な情報収集にもなる割と重要な教科なのである。それに先に父さんの課題を終わらせないと爺さんの魔術の講義を受けられないのだ。

 

スイッチを切り替えて課題に取り組もうとした矢先――。

 

ゴンゴンゴン。と来客を伝える玄関の扉のノック音が聞こえたのだ。

 

今日は来賓の用事も確か家になかった筈だし、この世界には熱帯雨林のような宅配便もない。つまりは今日来るとしたら自分の――っ!

 

向かっていた机から大きな音を立てて離れて、その音に驚く妹に謝りながらよく勉強する際に使っている父の書斎のドアを叩きつける勢いで開けて廊下に出で、床に足を取られないギリギリの速度で玄関に向かう。

 

階段を下りて玄関に向かえば母さんが先に立っていた。どうやら荷物を先に受け取ってくれていたらしい。

「母さん! 荷物は!?」

 

「うふふ、良かったわね、ヴァー君? 届いたわよ頼んでた物…ぎたーだったかしら?」

 

「届いたの!? 開けていい!?」

 

年甲斐もなくはしゃいでしまっている僕を母さんは仕方ないわね…というような顔を浮か

べながらも優しい眼でこちらを見ている。

 

…相手から見れば僕は8歳児だが、実年齢は25歳ほどなので年甲斐もなく、という表現は間違っていないので悪しからず。

 

母さんから肯定の頷きを受け取った僕は厳重に梱包された木箱をできるだけ素早く繊細に開けた。そこから出てきたものは――。

 

「おぉ…」

 

思わず感嘆の息が漏れ出る。

 

――まんま僕が前世で使っていたギターだ…。

 

やはりあそこでオーダーメイドを頼んだのは正解だった!

僕がギターを見て喜んでいるのを見て母さんも喜んでくれているようだ。

 

「良かったわね、ヴァー君」

 

「お、それがぎたーという奴か…変わった形だな!」

 

どうやら父さんも降りてきていたらしい。

届いたギターを見て感想を零している。

 

「なにそれぇ~? 兄さんママとパパ達に何か買ってもらったの!? いいなぁ私もなにか買ってほしい!」

 

「システィ! これ見ろよ、すごいだろ! ギターっていうんだぞ!」

 

嬉しすぎて楽器に全く詳しくないであろうシスティーナにも自慢してしまう僕。

仕方ないでしょ…ま、三ヶ月も待ったんだし、多少はね?

 

それからなんやかんやはしゃいで、家族から弾いてみてと催促して二つ返事で了承して爺さんの部屋で演奏会をしようということになったが…僕はとんでもない事実に気付いてしまう。

 

これよく考えたら前世…17歳に使ってた頃のサイズだから指…コードに届かないんじゃね!?

 

…と。

 

だがしかし、もうすでに僕の目の前には聞いたこともないであろう音色を放つと期待の眼で僕の演奏をまだかまだかと待ち続ける家族の姿が…。

 

システィーナとか子供特有のキラキラした目を向けてるし…その前世では嬉しかった視線が今ではとても攻撃力のある視線に感じてしまう。

 

「えっと…あの…」

 

『?』

 

僕の反応に?マークな一同。

 

「そのですね、弾きたいのは山々なんですが…その…弦に手が届かないので…弾けないというか…」

 

家族一同はきょとんとした顔をした直後、皆笑い出した。

僕はなぜ笑われたのかが理解できずに今度は僕の頭に?マークが浮かんだ。

 

「ふふふ、勉強は出来て頭が良いのに、変な所で抜けてるのね…っ! ふふっ…!」

 

「兄さんって意外と…ふふっ…馬鹿だったんだね…!」

 

どうやらシスティや母さん達は僕のことを一種の天才だと思っていたらしい。

一度教えたことは覚えてどんどん知識を吸収している姿が家族にはそう見えてしまっていたらしい。

父さんも爺さんも顔を見る限りそう思っているらしい。

僕はそういうことかと意を得た顔になった。

 

「いいや、僕はそんなんじゃないよ…やりたいことがあっただけさ」

 

そう、やりたいことがあっただけ。

 

「なんだ、ヴァイスのやりたいことって?」

 

「私そんなの初めて聞いたよ!? 教えて教えてー!」

 

父さんとシスティが僕に興味津々といった感じで尋ねる。

 

「いや、秘密だよ…でもいつかきっと…僕がその夢を成し遂げたらわかるさ!」

 

どれだけ長い月日が流れるのか分からないけどきっと…いつか…。

 

「えぇ――!? 兄さん、教えてよー!」

 

「ダメダメ、秘密は教えないから秘密なんだよー」

 

肩に掛けたギターをついでに一緒に作ってもらったギターケースの中に仕舞いながらシスティの追及をのらりくらりと躱す。

 

――結局、システィーナの追及は夕飯になるまで続いた。

 

よっぽど、天才(他称)な僕のやりたいことが気になるのだろう。

言及を躱してる間にシスティーナが

 

「じゃあ、私もやりたいこと言うから! 私はメルガリウスの城の謎を解き明かしたい!」

 

とか言ってきたが正直僕はメルガリアンではないので

 

「ふーん、そっかー頑張れよー」

 

の一言で終わってしまった。

 

ギターは弾けなかったが、家族が僕のことをどう思ってるのか分かったのでまぁ、よしとしよう。

 

今日はお風呂に入って、寝よう――。

ギターの件はまた明日…。

 

――――――――――――

――――――――――

―――――――

 

太陽が昇り、二階の寝室の窓から差し込む朝日で目が覚める。

キングサイズのベッドで寝ることは最初は慣れなかったが、今はもうなんともなく、ぐっすり眠れる。

 

「ッ…ふわぁ……んっ…朝、かぁ…」

 

欠伸をしてから背伸びをする。

朝特有の二度寝に入りたい衝動を押し殺しつつ、顔を洗いに中庭にある井戸に向かう。

濡れてもいい半パンのパジャマを残して服を全て脱ぎ捨て中庭で紅茶を飲めるようにと母さんからのお願いで置かれた丸テーブルの上に畳んで置く。

そして井戸から湧水を汲み頭から被る。

 

真冬の水のように冷たい湧水が僕の体の全てに突き刺すような清々しさがとても気持ちいい。

 

頭から滴る水を切って髪を乾かすために持ってきておいた綺麗なタオルを髪に当て大雑把に掻き乱して髪を拭く。

拭いてすぐに服を手際よく着替えてもうすでに朝食を準備している料理人に挨拶して机に座って談笑しながら朝食が出来上がるのを待っている母さんと父さんに声を掛ける。

 

「おはよう、二人とも!」

 

「おはようヴァイス!」

 

「おはよーヴァー君! 今日も早いわね―」

 

母さんと父さんが僕に笑顔で挨拶を返してくる。

僕はそんな相変わらず温かい両親と軽い談笑をしていると

 

「そうだヴァイス、システィを起こしてきてくれないか? あの娘、珍しく今日はまだ寝ててな…」

 

「良いよー。起こしてくるけど先にご飯来てたら食べてても良いよ?」

 

父さんに未だ起きていないシスティーナを起こしてくるように頼まれたので別に断る理由もないので承諾し、リビングのドアを開けて二階に行く直前に朝食ができたら先に食べてても良い旨を伝えると父さんと母さんの二人は苦笑を浮かべ

 

「まさか、数少ない家族で集まれる機会なんだ、ちゃんと待つさ!」

 

「お父さんの言うとおりよ。息子娘を差し置いて食べるようないやしんぼじゃあありませんよ。うふふ」

 

そんな両親の返答になんとなく気恥ずかしくなった僕は少し頬を染めてそっぽを向きながらシスティーナを起こしに二階に心なしか早歩きで向かうのだった。

 

――――――――――

 

システィーナの部屋の前に来た僕は柄にも無く緊張してしまう僕がいることを自覚した。

いくら一つ年下の妹で7歳だからと言ったって前世では恋愛のれの字もしたことない小心者だった僕は女の子の部屋に入るのも若干の抵抗があるのだ。

 

妹なのでその緊張感も幾分かはマシなのだが。

 

システィ―ナの部屋の前で少し間を置いて呼吸を整えて父さんに教えてもらったマナーの作法でノックを三回叩く。

 

…ちなみにこのフェジテやアルザーノ帝国では基本的に貴族や上の者に対してはノックは三回なのだが、他国の人も来る会談などの場合は文化の違いによってノックの回数が4回のとこもあるのでそういう場合は4回に暗黙の了解的な物でされるらしい。

 

まぁ、今現在この場には必要の無い情報であるが。

 

――ノックをしたものの返答がない。

 

「システィ…これはやっぱり寝てるな…。システィ!? 入るぞぉ!?」

 

少し声を張り上げて呼びかけてみるものの返事がない。やはりまだ寝ているようだ。

声を張り上げたことによる軽い息の乱れを直し、システィの部屋の扉に手を掛け一息にドアを開ける。

 

ドアを開けた先に広がっていたのは――いかにも女の子の部屋と言った感じの部屋で

 

可愛いお人形がベッドなどに立ち並び、ピンクの壁紙にかわいいデザインの筆記用具が机に立ち並んでいる。

 

――ということはなんてことはなく。

 

ベッドは僕の部屋と同じキングサイズのベッドのデザインで、机にはシスティーナがルドルフ爺さんで多大な影響を受けているだろう魔導考古学の本が積み重なっており、机の隣の大型の本棚には考古学の本だけでなく、魔術関係の本がズラリと並んでいる。

ただしその中にはあまり攻勢魔術関係の本や錬金術の本などはあまりないようだ。

 

どうやらシスティーナは魔術を本当にメルガリウスの城の謎の探求に費やしているようだ。

 

そんなシスティーナは机に突っ伏したまま寝ている。

どうやら遅くまで起きていたようだ。7歳児にあるまじき不規則な生活である。

どうせ僕が言っても聞かなさそうだし、あとで爺さんにでもそれとなく言ってもらうように頼もうか。

 

そうしようと決心した僕は父さんに頼まれていた事を思い出しシスティーナの肩をゆすって少し大きめの声で呼びかける。

 

「おーい、システィー? 朝だぞー」

 

「…むにゃむにゃ…メルガ……スの…の謎は…解け…わ…」

 

「どんな夢見てるんだよ…」

 

システィーナの寝言に苦笑を零してしまう。

ただ全く起きる気配がないのでもう少し強く揺さぶってみる。

 

「起きろー! システィー!」

 

「んん…あと五分…」

 

「そんなべたな寝言は良いから! 起きろー!」

 

全く起きる気配がない。一体どれだけ遅くまで机に向かっていたのだろうか?

…仕方ない、イチかバチか、最終手段だ。

 

――すぅぅぅ、はぁぁぁ…よし、行くぞ!

 

「ああああ! 窓の外にメルガリウスの天空上へと続く階段が出てるぞー!(棒)」

 

「えっ!? ホント!?」

 

僕の名演技(笑)を聞いたシスティーナはすごい勢いで飛び起きた。

流石メルガリアンだ。寝ていてもメルガリウス関連の情報は聞き逃さないようだ。

7歳ですでにもうメルガリアンの才覚を見せ始めている妹に呆れた溜め息を吐きながら

 

「嘘だよ…システィ、おはよう。朝ごはん、もうすぐできるから着替えて下においで?」

 

「え…あ、夢…? せっかくメルガリウスの天空上の謎を解明できたと思ったのにぃ~!」

 

「たかが夢で謎を解明できたら爺さんも苦労しないよ…早く着替えて下においでよ」

 

「…うぅ~、わかったわよ~すぐ行くから出て行ってよぉ~…」

 

「はいはい…」

 

どうやら天空上の謎を解明できた夢を見ていたらしい。

夢であること絶望しているのか頭を抱えてうーうー唸っている可愛い妹を後目に僕は着替えて下に降りてくるように伝えて部屋を後にして朝食の食卓に向かうのだった。

 

――――――――――――

―――――――――

――――――

 

二階から眼をこすり降りてきた妹も席に着き家族一同で軽いお祈りを捧げてから朝食を摂った僕たちはそれぞれのやるべきことをやるために両親は仕事をするために魔導省へ、妹は爺さんの部屋に行ってしまった。

 

ちなみに爺さんはもう年なので朝食は摂らずに、昼食と夕食だけ使用人が部屋に行って用意するらしい。なので食卓に来ることはもうない。

 

…それはともかく、今日は僕はやることがないのだ。

父さんから課されてた課題も終了し、父さんは好きなことをしていて良いと言ってくれたので数日前から爺さんの出してくれていた課題をこなしていたのだがそれも昨日の時点で終わってしまったので、本当に今日はやることがない。

 

あまり、普段外に出ていないのもあってか、外でやることもない。

ただでさえ元々白い肌と銀髪がさらに白くなってしまいそうだ。

 

「うーん…外を適当に散歩してみるか…」

 

思い至ったが吉日。

 

そう思った僕は誰に相談をするわけでもなく、さっさと外に出る用に買ってもらっていた数少ない私服を着て未知の冒険に繰り出すのだった。

 

――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――

 

 

 

外に繰り出した僕は何をするわけでもどこか行くところがあるわけでもなく、ただブラブラとフェジテの町を散歩していた。

 

フェジテは学究都市なのでアルザーノ帝国魔術学院とこの国が魔導大国と呼ばれる所以の学校があるため、こんな朝っぱらでも学院に向かう生徒がちらほらと見える。

 

そんな若人たちを横切りながら僕は商店通りへと向かった。

 

―――――――――――――――

―――――――――

―――――

 

商店通りはこんな朝からでも、かなりの人で賑わっていた。

食物を売っている店もあれば道具屋的な店もあるようだ。ちなみに魔術系の店はない。

魔術は一応存在は周知の事実なのだが、使い方は一般市民には秘匿されている。

 

一般市民には空に浮かぶあの城も、魔術も縁遠い存在なのだ。

 

別に料理がしたいわけでもないので八百屋など魚屋に行っても意味がないのでパっと見道具屋らしき店に冷やかしに入る。

 

入り口のドアを開けてみるがどうやら誰も居ないようだ。

壁や沢山用意された台の上には色んな道具が置かれている。

包丁や鍋などの料理道具、羽ペンやインクやノートに使う冊子などの勉強道具、魔術にも使える水銀なども売られている。

 どうやら魔術の触媒は売られているが、使い方は知らないから大丈夫、ということだろうか?…確かにそうだが。だが流石に魔晶石や虚無石などの触媒は売っていないようだ。

 

「流石に虚無石とかは売ってないよね…まぁ当たり前か」

 

「ほう、虚無石を知っているとはなかなか勤勉な坊やだな」

 

僕の独り言に僕の背後からなぜか返答があった。

 返答の主を見るために振り返る。

そこにいたのは金髪で真紅の眼で僕を見下ろすその女性こそ人外と呼ばれる第七階梯に至った永遠者。

 

セリカ=アルフォネアだった。

 

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――――――――――

―――――――

 

私は基本、弟子を取らない主義だ。…と思っていたのだがな、いつも予想を良い意味で裏切ってくれるアイツを例外的に弟子にしてからその主義も揺らいでしまいそうだ。

グレンに魔術を教えている時ふと、私という格上ではなく、同じ立場のもう一人の弟子がいれば、お互いに切磋琢磨しあえて今まで以上の効率でグレンは成長できるではないかと私は考えた。

 

そして私はグレンに適当に魔術の勉強を課してフェジテの商店通りで朝から弟子探しに興じていた。

 

私はこれでも最近アルザーノ帝国魔術学院で教授をしているからな。

こんな学生の登校帯に歩いていたら自惚れではなく大騒ぎになること間違いなしなので、黒魔≪セルフ・イリュージョン≫でなんてことはない一般人に見せかけていた。

 

そうして商店通りをブラブラしながら弟子探しをしていたらふと目の端に映った銀髪で翡翠色の子供の事が気になってしまった。その子は目的を持って歩いているわけではなさそうで私と同じ様に商店通りをうろついているだけのようだ。

 

あの子はどうだろうか? 幸い、グレンと同じくらいの年齢だ。

グレンも同い年の人間がいれば少しは気が楽になるかもしれんしな。

 

そう思ってその子が入っていった道具屋に悪戯心でバレないように入りながら≪セルフ・イリュージョン≫を解除する。

 

モノのついでにその子の魔術特性を調べてみた。

私はこの子の魔術特性を視て驚愕した。それと同時に笑ってしまった。

 

……!? …これはまたグレンの様に面白そうな特性を持って生まれてきたものだな。

 

決めた。この子にしよう。

そう思って声を掛けようとした瞬間

 

「流石に虚無石は売ってないよね…まぁ当たり前か」

 

「ほう? 虚無石を知っているとはなかなか勤勉な坊やだな」

 

これが私とヴァイスの出会いだった。我ながら唐突な出会いだったと思うがな…ふっ、あの時ヴァイスの驚いた顔は傑作だったな!

 

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――――――――

 

 

僕の目の前にかの有名なセリカ=アルフォネアさんがいる。

それだけで僕の頭はフリーズを起こしていた。

 

「え…あ…うぇ…」

 

僕の口から言葉とは言えない言葉が驚きで零れてしまっている。

 

「そんなに驚くことか? 私はここで魔術学院の教授をしていてな。その私がたまたま此処に来ても不思議ではないだろう?」

 

「え…あ、はい、そうですね…」

 

僕の驚いた顔を見てアルフォネアさんは呆れながらも慈愛の眼で僕を見下ろしながらそう言った。

 

「ところでな、君……えーっと」

 

「ヴァイスでしゅ! ヴァイス=、フィーベル…です……」

 

アルフォネアさんが僕の名前が分からず困っていたので名乗ったのは良いものの、出だしで噛んでしまい、羞恥から後半徐々に声が小さくなってしまう。

頬も熱い。穴があったら入りたい衝動に駆られる。

 

「ふふっ、そうか…それでヴァイス」

 

「は、はい!?」

 

「私の弟子にならないか?」

 

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……はっ!? いけない、フリーズしてしまっていた…。

気のせいであろうか、あのセリカ=アルフォネアさんが僕に弟子にならないかと誘われたような…。いや、ありえない。あの第七階梯のセリカ=アルフォネアが…僕に?

 

「あ、あのアルフォネアさんので、弟子になるっていうのは…」

 

「そのままの意味だ。私の知りうる技術を君に教えるんだ。ま、君以外にももう一人弟子がいるがな。それとセリカで良いぞ、長いだろう?」

 

「じゃ、じゃあえっと…セリカ…さんの弟子になるのは全然僕も良くて、むしろこっちからお願いしたいくらいなんですが…」

 

「が? なんだ?」

 

「僕はこれでもまだ8歳なので…両親の許可無しには…」

 

「そうか、いや私も急ぎ過ぎていた…もし許可がもらえたら、ここに来てくれ。泊まりがけになるだろうから、しっかり許可をもらってこい。いつでも待ってるからな」

 

そう言ってポケットから小さな紙を取り出して何かを書いて渡してきた。

…どうやら住所のようだ。フィーベル家から少し遠いが、なんとか徒歩で行けなくもない距離である。

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

「ではな、良い返事を期待している」

 

微笑を顔に刻んだまま、手をひらひらと降って道具屋からセリカさんは去って行った。

 

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嬉しさのあまり少し立ち尽くしていたが、道具屋の窓から差し込む夕日で自身が少しではなく長い間立ち尽くしていたことに気付いた。

 

「あ…今日はもう、帰らないと…日が沈んできてるし…」

 

そう呟き道具屋を後にして、8歳の僕の体で出せる速度でもう既に帰ってきているであろう両親が心配してると思い、走って帰るのであった。

 

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―――――――

 

僕はもう自宅の直ぐそばまで帰ってきていたが、もう既に日は暮れてしまっていた。

 

「どうやって父さん母さん、システィに爺さんびっくりさせようかなっ…!」

 

前世含めて25歳程だが相も変わらず、我ながら子供っぽい思考でどうやって皆を驚かせてやろうか考えていた。

 

なぜならあの第七階梯で学院で教授をしている真の永遠者と呼べるあのセリカ=アルフォネアに直接魔術などの指導をしてもらえるのだ。僕じゃなくて快挙ともよべる出来事である。皆は確実に驚くだろう。

 

もう日も暮れているので両親も既に仕事から帰っているだろう。

 

皆のするだろう反応を想像するだけで笑みがこぼれてしまう。

そんな愉快な想像をしている内に自宅に着いてしまった。

 

玄関のドアノブに手を掛けたところでふと気付く。

 

「あれ、僕誰にもなにも言わずに出てきたんだっけ…怒られるかも…」

 

なんて怖いことを想像してしまって顔を青ざめさせてしまう。

ああ見えても自分の母親は怒らせるととても怖いのだ。父さんにやってるチョークスリーパーなんてやられたら最悪である。

 

「でも、セリカさんの弟子入りの件を話したら許してくれるよね…うん」

 

そう呟いて気持ちを落ち着かせる。

少しドキドキしながら玄関のドアを開けて自身が帰ってきたことを伝える。

 

「ただいまー! 父さーん、母さーん!…まだ帰ってきてないのかな…?」

玄関で父さんと母さんに帰ってきたことを大声で伝えるものの返事もない。

驚くほど静かで少し不気味だ。

 

「システィー! 爺さーん! 誰も居ないのかー!?」

 

そう叫びながらリビングなど一階の部屋をくまなく探すが明かりもついてないし、誰もいない。

 

「二階かな…?」

 

一階には誰もいないので消去法で二階にいると判断した僕は少し小走りで二階に上る。

階段を上ってみて廊下を見渡せば、爺さんの部屋の扉が開いている。

安堵の息が漏れ出る。

 

「なんだ、いるんじゃないか…」

 

そう呟きながら爺さんの扉の前に来ると、ドアを入ってすぐに父さんと母さんが居た。

 

「父さんと母さん? 僕ただいまって言ったんだけど…?」

 

そう苦言を申し立てるが二人に反応はない。

ただ父さんと母さんは顔を俯かせて見えないが肩が震えているのに気づく。

どうやら部屋の中でなにか起こっているようだ。

 

「……?」

 

首を傾げながら部屋の全貌が分かる位置に移動するとベッドにもたれ掛っているシスティもいた。システィも何故か肩を震わせているのに気付く。

 

――笑ってる?……いや、泣いてる?

 

泣いてると気付いた瞬間、頭の中に嫌な予感が過ぎる。

 

待ってくれ…まさか……嘘、だよな?……

 

「あ……爺、さん……?」

声が震えているのが自分でもわかる。

一歩、また一歩とふらついて今にも現実に叩きつけられて崩れ落ちそうな足に鞭打って爺さんが寝てるであろうベッドへ向かう。

 

「ね、ねぇ、冗談だよね…?こ、こんな…こんな…別れ方って……」

 

ベッドにたどり着いて見たものは――。

 

悔しげに顔を歪めて逝った爺さんと爺さんにしがみ付いてすすり泣くシスティの姿だった。

 

「…………」

 

それを見て僕の顔が悲痛に歪む。

そして気配で気付いたのか後ろを振り返るシスティ。

僕の姿を見た瞬間怒鳴ってきた。

 

「兄さん!? どこに行ってたの!? お爺様が兄さんの事呼んでたのに!」

 

「……っ!」

 

「なんで家に居なかったの!? お爺様はどうしても兄さんに伝えたいことがあるからってずっと待ってたのに……」

 

「…ごめん、ごめんな…」

 

システィの言葉の一つ一つ心に突き刺さって苦しくなる。

そしてシスティが最後のトドメの言葉を放つ。

 

「嫌い、兄さんなんて大っ嫌い!!!」

 

「言い過ぎよ、システィ!」

 

「でも!」

 

「いいんだ…母さん。…ごめんなシスティ、爺さん」

 

そう言って僕は爺さんの部屋から母さんと父さんの横を横切り立ち去る。

 

「ヴァイス!…あまり気を落とすなよ…」

 

父さんが僕を気遣ってか声を掛けてくれる。やはり優しい父さんだ。

 

「わかってるよ父さん…少し外の空気を吸いたいから外出てくるね」

 

そう声を掛けられた僕は父さんに今現状できるだけの顔を作って明るい声で外出する旨を伝えた。声は震えていないだろうか?

 

「あ、あぁ……気を付けてな」

 

「分かってる。…あ、少し遅くなるかもだから夕食はいいや」

 

「……分かった」

 

そう言って僕はポケットに入れた紙の感触に意識を向けながら玄関から飛び出した。

 

外に飛び出ると、雨が降り出していた。

まるで、僕の代わりに泣いてくれているようだった。

雨の滴が僕の頬を濡らす。雨が目に入って少し視界が滲む。

前が見づらくなっても僕は気にせず走り続けた。

 

走って息が上がって脳に酸素がしっかりと回らない中、僕は考えていた。

 

爺さんは僕に何を伝えたかったのだろうか?

 

何故僕は今日に限って家に居なかったのだろうと悶々と考える。

いや――。

後悔しても遅い、意味もない…。

後悔は後から悔やむから後悔なのだ。後から悔やむなど、いくらでもできる。

だから今は、今だけは――!

 

なにも考えたくない…っ!

 

「う……ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

僕の号哭は雨音に溶けて消えて行った。

 

 

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――――――――

 

もう、あれから僕は――――――――――――。

 

 

 

 

 

 

家に帰っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………そう、これは僕の後悔の1ページ目。

これから僕を襲うだろう後悔もする暇もない苦難のほんの序章に過ぎなかった。

 

 




今更だが、幼少のシスティとお父さんとお母さんの口調があってるか不安になってきた。まぁ、もうしばらく出てこないから多少はね?(震え声)

次回はあの人との邂逅です。

グレ……ゲフンゲフン。ネタバレはいかん。


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第四話 魔力円環陣。

遅れました。

あとがきに報告書いておきます。
目を通してくれると助かります。

それではどうぞ。


―――――――あれから僕は家に帰っていない。

 

いや、誰が悪いわけでもない。ただ、爺さんが死んだあの日の出来事を思い出すのが嫌だからずっと我儘を貫き通して帰っていないだけだ。実年齢25歳で精神的に大人の僕が駄々をこねる様は傍から見れば滑稽極まりないだろう。

 

――――――――――――。

 

あの夜の出来事から一週間が経った。

あの雨の日の号哭から、爺さんの死を悼んでも涙が出なくなった。

理由は分からない。ただ、泣くほど辛くなっても、涙だけが出てくれないのだ。

 

雨の日の号哭の後、僕はセリカさんの自宅に転がり込んで事情を説明した。

 

しかし、家族にはここにくることを伝えておらず、そのまま来てしまったことは黙っていた。

そして両親には許可をもらって、ここで生活しても大丈夫だと嘘を吐いた。

不思議と罪悪感は湧かなかった。

 

ただそれを聞いたセリカさんは

 

「…………そうか、辛かったな」

 

と言いながら慰めるような優しい笑顔でまずは風呂に入ってこいと言って裏に引っ込んでしまった。

僕はその言葉に甘えてお風呂を貨してもらった。

バスタブやシャワーもあったが、浴槽に浸かる気にはなれなかった。

なんとなくその日は風呂に入ってリラックスできる気分ではなかったのだ。

セリカさんには

 

「ありがとうございます。良い湯でした」

 

とまた嘘を吐いた。

またセリカさんに嘘をついてしまったことに罪悪感を覚える。

そして僕はそのあとセリカさんに空室の寝室を借りてもうその日は寝てしまった。

 

もう、その日はなにも考えたくなかった。その日は爺さんが死んだことに気持ちが追い付いてなかったのだろうと思う。

 

その日以降の6日間はセリカさんから

 

「まだお前は気持ちが整理できていないだろう。魔術というものは術者の精神状態にも大きく左右されるものだ…だからしばらくは魔術の講義はお預けだ」

 

という言葉を頂いた。

それから僕は勉強を一切せずにただひたすらに、本を読んだり、窓の外を眺めたり

とりあえず、時間を潰し続けた。

 

……これではダメだと理解している自分がいる。でも頭では解っていてもどうすればいいのかわからないのだ。

 

―――――――――――――――――。

 

前世では僕は誰の死も見てこなかった。

死に関連した出来事があったのは自分だけだ。

僕があっちで死んだ時、母さんもこんな風になったのだろうか?

そうだったら正直、嬉しいような悲しいような申し訳ないような複雑な思いが頭を過ぎる。

 

……いや、やめよう。前世の事はもう振り返らないと決めたんだった。

 

ただ、あっちの世界で多少なりとも死を見ていれば今の結果が変わったのだろうか、とかifを考えてしまう。

 

こんな感じでずーっと一週間を無駄に過ごした。

多分なにかきっかけでもなければ一生こんな感じなんだろうな。

僕自身、そう思っていた――――。

 

「……ねぇ、ねぇってば」

 

「……うるさいな、僕は誰とも話したくないんだ、あとにしてくれない」

 

「でも君が来てからもう一週間も経ってるのに僕の自己紹介すらできてないんだけど……」

 

僕が鬱陶しげに突き放してもなんでもないかのように会話を続ける彼こそが――

 

グレン=レーダスだった。

 

―――――――――――――――――

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時は一週間前にまで遡る。

あのとき、僕はセリカに基本三属の物理作用力(マテリアル・フォース)の変換効率について教えてもらっていた。

 

基本三属とは――。

 

攻性呪文の基本となる属性、炎熱:冷気:電撃の三属性のことだ。

なぜこの三属性なのかと言うと、魔力を物理作用力に変換する際に最も効率がいいのがこの三属性なのである。

 

ちなみに変換率はツァイザーという者によってすでに導き出されており

 

魔力量を10とすると炎熱:冷気:電撃の順で8.5:7.9:8.2という極大値となる。

つまり攻性呪文の中で最も魔力効率がいいのは炎属性ということになる。

ただ、基本的に炎熱は軍用呪文しか無いので魔術学院では教えられないそうだが。

 

「…今日の予習はこの辺りで良いだろう。よし、次は復習だ。グレン、魔術について口頭でまとめろ」

 

「うん!…えっと、魔術とは昔々に“原初の魂”が最初に発した“原初の音”に最も近いとされる暗示に特化した専用言語の“ルーン語”を用いて自身の深層心理を変革して世界の法則に介入する技術のこと…かな?」

 

「正解だ、流石だなグレン」

 

僕はセリカに頭を撫でられながら褒められて、気恥ずかしいけどやっぱり嬉しかった。

 

「へへ……」

 

「お、嬉しいのか、可愛いやつだな。ほれほれ、もっと撫でてやる!」

 

そう言ってセリカは僕の髪をくしゃくしゃにしながらさらに撫でる。

 

「や、やめて! くすぐったい!」

 

「ほれほれ~…うん?」

 

セリカがさらに悪乗りして激しくしようとした時玄関からドアを叩く音が3回鳴った。

それを聞いてセリカは撫でていた手を止め

 

「こんな時間に客人か?…中々に礼儀のなっていない奴のようだな。私とグレンの時間を邪魔するとは…身の程を弁えさせてやる…」

 

「ほ、程々にね……」

 

少し顔を険しくさせたセリカが玄関へと向かっていた。

その後ろ姿を見送った僕はまた机に向かって先ほどやった魔術の予習を簡潔にノートにまとめ出した。

 

それから数分後、セリカが戻ってきた。

 

「あ、客人誰だった?」

 

「……あぁ、今日お前の後輩になる弟子を探していたのだがな、商店通りにある道具屋で中々の逸材を見つけたから、声を掛けたんだが……」

 

「え!? セリカまた弟子取ったの!? もう僕以外に取らないって言ってたんじゃ…」

 

「…さてな。お前といると余りにも楽しいから存外もう一人欲しくなったのかもしれんぞ?」

 

「……はぐらかされた」

 

うまい具合に追及をはぐらかされた僕は少し眉をひそめてからセリカからそっぽを向く。

 

「…それで僕の後輩になる人がどうかしたの?」

 

「いや、そいつはお前の同じくらいの年なんだがな…だから両親に報告をしに行くと言って家に帰って行ったらしいんだが…どうやら先方でゴタゴタがあったらしくてな。そのまま来たらしい…許可は取ってきたと言い張っているが、タイミング的に怪しいものだな」

 

セリカは先ほどに比べて少し暗くした顔と声で僕の質問に答える。

後輩の人になにかあったのかな?

 

「……そっか」

 

「…まぁ、悪いやつではないんだ。私が直々に見極めてきたんだから当然だがな。グレン、お前と年が近いし先輩だししっかり面倒を見てやってくれ」

 

「…わかった」

 

よし、っと頷いたセリカは僕の目線までしゃがんで来て

 

「今あいつに風呂を貸しているからな、それまでに夕食の準備を済ませてしまおう。グレン、手伝ってくれ」

 

「分かった!」

 

先ほど暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように明るくなったセリカに僕は同じく明るく笑顔で答えるのだった。

 

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夕食の準備があらかた終わり、あとは今日からここに住む後輩君を待つだけとなり僕は手持無沙汰だったので頭の中で先ほどこなしていた魔術の勉強の内容を思い出して復習していた。

 

そんな思考も廊下とリビングを繋ぐドアが開いた音によって断ち切られた。

その音に釣られてそちらを見やるが僕は絶句した。

 

――なっ…っ!?

 

僕が見たのはお風呂に入ったにも関わらず少しハネている癖っ毛気味の銀糸のような銀髪のショートヘアの男の子。確かにパッと見は僕と同年齢くらいだろう。

 

…だけど、驚いたのはそこじゃない。

 

若干俯き気味だがそれでも見える。

明るい日の下で見れば息を呑んでしまうような綺麗な翡翠色の瞳――

だったであろうそれは曇りきってしまい、もはやドブ川のようになにも映さない虚無の瞳だった。

 

一体、なにがあればこんなに眼が曇りきってしまうのか見当もつかない。

 

……いや、心当たりならある。

 

“僕もそうだったから”。

 

きっと大切な人を失くしたんだなと思った。

それと同時にこいつは僕が助けるべきだと思った。

きっと同じような思いをしているであろう僕が。

 

そうして僕と後輩君の激闘が始まったんだ。

 

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それから僕が助けると決めた日から一週間。

 

毎日の様に話しかけた。

もちろん、魔術の勉強も並行してやった。

…ただ最初はとりあえず声をかけまくった。

それを三日間繰り返して、ふと思った。

 

――反応してくれたら次はどうしたらいいのか。

 

と。これには大分頭を悩ませた。

それを横で見ていたセリカは僕の苦悩も露知らずに優しげな微笑をこちらに向けて眺めるのみだった。

 

――ちょっとは手助けしてくれてもいいのに…っ!?

 

そう内心で毒づきながら僕はその日半日以上頭を悩ませた。

それはもう大好きな魔術の勉強が滞るぐらいにはね。

――せっかく、できた弟弟子なんだ、少しは兄弟子らしくフォローしてあげないと!

とか最初は思ってたけど、もう後半はただひたすらに意地だったと思う。

 

ここから話は長くなるから結果だけ話すね。

ずっと頭を悩ませていた時、ふと僕は思った。

僕が好きな魔術を使ってなんとかできないかなと。

それが閃いた後は早かった。

 

セリカに研究室を貸してもらえるように頼んで、道具屋にまで僕の計画に必要なモノを買いに行ったりして準備したりでもう後輩君と出会ってから一週間が経過していた。

 

そして7日目。

 

僕は計画を実行に移すためにまずはこの問題児をどうにか研究室に連れて行くためにいつもより何倍もしつこく話しかけ続けたのだ。

 

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「……ねぇ、ねぇってば!」

 

「……うるさいな、僕は誰とも話したくないんだ、あとにしてくれないか」

 

僕にしつこく話しかけてくる誰かの声にそう苛立ち気に返す。

この1週間近く口を食事以外に開かなかったからか少し声が掠れてる気がする。

そのせいで思った通りの声が出なくてさらに苛立ちが増す。

負のスパイラルである。

だがそんな苛立ちを見せている僕をなんとも無いかの如く普通に話しかけてくる彼は

こう言った。

 

「でも君が来てからもう一週間も経ってるのに僕の自己紹介すらできてないんだけど……」

 

そう苦笑交じりに。

そして彼はそれでね――。と話を繋げた。

 

「ちょっと見せたいものがあるんだ! ついてきてくれない!?」

 

そう子供らしい満面の笑みを浮かべながら僕に鼻息荒くグイっと顔を近づけた。

…それが妹のメルガリウスの話を爺さんにせびる姿に似ていて少し胸が苦しくなった。

 

――こうなったら、大体頷かないとしつこいんだよなぁ……。

 

と思いつつ、その胸の奥の小さな苦しい疼きを無視しながら僕は仕方なく彼のお願いに頷いたのだった。

 

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そうして案内されたのはどうやら研究室。

もちろん、彼のではない。恐らく家主のセリカさんからだろう。

自身の身長より若干高めの机の上には色んな魔術触媒などが整頓されて置かれている。

それらを見渡していると彼がどんどん奥に進んでいく。

僕はそれに倣って彼に着いていく。そうすると彼が研究室の少し開けた空間に出たところで立ち止まる。

 

「さ、ついたよ!」

 

そうして僕に見えるように大股で一歩右に退く。

そしてその奥にあったものは――。

 

「……魔法陣?」

 

僕は未だに掠れた声で呟いた。

そう、魔法陣だ。書物では知っていたが実物を見るのは初めてだ。

僕の家には研究室はあったが考古学の研究が主だったので魔法陣なんて作るスペースなんてなかった。

 

僕が初めて見るそれをじっと見つめていると

 

「どう、すごいでしょ! これ僕一人で書いたんだぞ!」

 

「これを……君が?」

 

そう言いながら彼は誇らしげに胸を張る。

僕は少し目を見開いて彼に問う。

 

「そうだよ!……見ててね!」

 

そう言って彼は円陣の少し外に立ち、手を円陣に向ける。

 

「≪廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ≫」

 

彼が詠唱を紡ぎ終わった瞬間、僕の視界は白一色に染め上げられた。

それも数瞬の内で、その光も収まる。

そこに広がっていたのは――。

 

「………あぁ」

 

鈴の様な心地良い音を奏で、魔力を通されたことで七色の光が円陣の線の上を縦横無尽に走っていた。

 

――絶景だ。

 

「な! 綺麗だろ!? すげぇだろ、魔術って!?」

 

彼の声が聞こえる。

だがそんな声は僕の耳には入っていなかった。

今の僕はある日の爺さんの出来事を思い出していた。

それは僕がセリカさんから誘われるほんの少し前。

 

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『のぉ、ヴァイスよ――お前さんは魔力円環陣の実物を見たことあったかの?』

 

唐突に僕を見てそんなことを言い出した爺さん。

 

『なんだよ、藪から棒に。見たことあるわけないじゃないか。この家の研究室爺さんの部屋しかないし、爺さんの部屋狭いから円陣書けないじゃん』

 

ペンを置いて爺さんの方に向き合った僕は見たことがないと一蹴して、さらにこの部屋に対する不満を漏らす。

 

『ほっほ、確かにそうじゃのう。……ヴァイスや、ワシはな、最初魔術が嫌いだった』

 

そんな僕を笑いながら見据えて大きな手で僕の頭を撫でながらそう言い放つ爺さん。

僕はその言葉に少し興味を持った。

 

『え、それは意外も意外だ。あのメルガリウスの城の謎に一生を注ぐ情熱を持った爺さんが魔術を嫌いだった想像もつかないな』

 

『そりゃ、誰にも話したことなかったからの。お前さんが初めてだよ。…だがな、ワシは魔術学院で初めに習う魔力円環陣に魔力を通した時な…心が躍ったわ。魔術とはこんなチンケな円陣でこれほど美しいのかとな』

 

『…………』

 

いつの間にか僕は爺さんの話に引き込まれていた。

 

『そしてワシはな当時世界最高難度の問題であったメルガリウスの天空城の話を聞いたのだ。そして思ったのだヴァイス。…チンケな近代魔術の円陣でこれほど美しいなら超魔法文明の中の最大の謎であるメルガリウスの天空城に中にある魔術とはどれだけ美しいのだろう…とな』

 

『そんなに綺麗なんだ、魔力円環陣って。爺さんにそう思わせるくらいならいつか見てみたいな』

 

素直に自身の気持ちを漏らす僕。

 

『見れるさ。……お前ならきっと、な。いいやさらにもっと、もっと遠くに…それこそワシを超えて――この世界の謎にすら辿り着ける。そう信じておるぞ』

 

いつになく真剣な眼で僕を見据えて僕の手の上に自身の手を重ねた爺さん。

そして気恥ずかしくなってなんとなく腹が立った僕は爺さんの腕を振り払いながら

 

『……そーですか』

 

そう言いながらそっぽを向いてまた勉強を始めたのだった。

腕を振り払ったしまった時の爺さんの顔は、僕がそっぽを向いていたため、見えなかった。

きっと、悲しそうな顔を浮かべていたんだろうか。

 

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「…………ッ!」

 

また胸が張り裂けそうになる。

でも今度は抑えきれない。こんなの思い出すなんて……っ!

僕は前屈みになって必死にこの苦しさをどうにかしようとするが、どうにもできない。

 

――あぁ…………っ!!!

 

「あれが、爺さん、の…最期のっ!…言葉だったのか……っ!」

 

そう僕は嗚咽交じりに呟く。

 

「あぁ…爺さん……綺麗だよっ!」

 

――あなたの言った通り、最高に綺麗な光景だ…っ!

 

今度は――涙が出てくれた。

あれから一週間。塞き止められていた涙腺が一気に解放される。

 

「僕は……あなたの自慢の孫になりたかった! だから、セリカさんから、弟子にならないかっ……てっ! うぐっ、誘われた時、あなたに一番に自慢したかったのにっ!!!」

 

とめどなく溢れる涙で目の前が歪む。

 

歪んだ視界の中に映し出されるのは

 

――魔術の公式を初めて覚えた時、笑いながら頭に乗せた爺さんの温かい手の感触と爺さんの顔。

――爺さんがメルガリウスの天空城の謎を解き明かしたいと話してしわくちゃになった顔に浮かぶ野望に満ち溢れた顔。

 

――僕と妹が喧嘩したときに見せる苦笑しながらこちらを見つめる爺さんの優しげな顔。

 

そして…

 

――先日初めて見た悔しげに顔を歪めて逝った爺さんの顔。

 

「ごめん、ごめんなさい…っ! 貴方の最期のコトバを聞くべきだったのにっ!」

 

あの人は僕に何を言いたかったんだろうか?

もう、聞くことはできない。

今更になって焦燥感と哀しみが込み上げてくる。

 

 

僕はこの日、前世と今世合わせて、初めて人の前で泣いた――。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

報告についてですが、母が脳梗塞で倒れたので少しバタバタしていますので投稿が遅れるかもしれません。
可能な限り投稿ペースを開けないように善処しますがそれだけご了承ください。

改めて自分の周りでそういうことが起こると動揺するものですね…。
あ、もう少し描写が欲しいところがある場合は感想にお願いします。
少しあわてて書いたので描写が足りていない部分あるかもしれません。

追記:ショタグレンの性格が違ったようなので修正しました。そのため、ストーリー大幅に変更入ってます。。
感情的になる描写は初めてなのでおかしければご指摘お願いします。


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第五話 僕(俺)の区切り目。

ここいらで少し投稿したものすべてを見直していきます。
なので今回は1000文字弱と少なめです。

ごめんなさい。

それではどうぞ?


 

わんわん泣き喚いてすっきりした後に襲ってきたのは人前で号泣したってことによる羞恥心だった。

 

「えっと…大丈夫?」

 

「すみません今話しかけないでください死にそう」

 

そう早口で捲し立てた僕は顔を両手で覆い研究机の下で丸まっていた。

落ち着け、いくらあんな醜態曝したからって別にこれからの生活に支障があるわけじゃないんだから……。

 

…やっぱ待ってぶり返してきた。

 

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「すみません、もう大丈夫です」

 

数分間、心を落ち着けることに集中した結果、なんとか持ち直すことに成功したので

机から這い出して彼の正面に立った。

 

「う、うん…じゃあ、自己紹介してもいい?」

 

「どうぞ」

 

彼は恐る恐ると言った感じで自己紹介を切り出してきた。

…そういえば、僕はこの子の名前を知らないな。

そして彼は僕の返事を聞いた瞬間、顔をパァッという表現が似合うような勢いで笑顔になると嬉しそうに自身の名前を教えた。

 

「…! うん! 僕の名前はグレン=レーダス! これからよろしくね!…えっと」

 

「ヴァイスです。ヴァイス=フィーベル」

 

「じゃあヴァイス! よろしく!…あと敬語いらないよ! 同い年なんだから!」

 

彼…もといグレンに敬語を外すよう言われる。

まぁ、彼がそういうのであればいいのだろう。これまた元が日本人だからか敬語を外すと

違和感がバリバリなのだが。

 

「そうなんで…そうかい? じゃあこれからよろしく、グレン」

 

「…うん!」

 

それから僕とグレンは研究室から出て、リビングに向かう。

向かうとセリカがこちらを生暖かい眼で見つめていた。

まるで、さっきの僕の状況を知っていたかのような…。

 

――うん? もしかしなくてもここまで響いてた?………

 

なんだろうか、また穴に入りたくなってきたぞ。

 

「どうやら、その様子だと少しは状況は進展したようだな」

 

その眼をしといてその言葉はないんじゃないだろうか?

 

「どうせ、聞いてたんでしょう?…笑いたければ笑えば良いじゃないですか」

 

僕は顔を不快と言わんばかりに歪めてセリカさんから視線をそらす。

 

「いや、笑わないさ。子供はそうやって感情を表に出すべきだろうさ」

 

むしろ前の方が子供らしくなくて不気味だったさ。――とセリカさんは付け加えた。

 

「さて――、ヴァイスがグレンのお蔭で元に戻ってくれたことで一週間していなかった魔術を教えることができる…ま、明日からだけどな」

 

前半部分で少し期待をたぎらせていた僕とグレンは明日から宣言を受けて一気に脱力してしまった。

「安心しろ。その代わり、明日からはみっちり鍛えてやる。しっかりやれば固有魔術を作れるようになるのも夢じゃないぞ?」

 

その時のセリカさんの顔を見た僕は悪寒を感じてしまった。

ちらりとグレンも見ると顔を青ざめさせているところから察するに同じらしい。

 

僕は明日からどうなってしまうんだろうかと期待と不安が織り交ざった気持ちで明日を待つのだった。

 

 

――――――――――――――。

 

…………僕からは語りたくないのでただ、“地獄”すら生温いモノを見た。

 

とだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうして3年が過ぎた。

 

そして僕たちは、フェジテの某所のある門の前で立っていた。

 

「……ここが、アルザーノ帝国魔術学院…。大きいな…」

 

「そうだね……ま、なんとかなるでしょ?」

僕とグレンの表情は対照的だった。

グレンは不安に顔を曇らせ、僕は大胆不敵に堂々と構えている。

 

なんだかセリカさんのせいで性格も変わってしまったか。

 

なんてどうでも思考を巡らせながら僕とグレンはアルザーノ帝国魔術学院の敷地に一歩踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと長めの休暇ください。
他のキャラの視点の描写とか三人称の描写を入れようと思ってるので。

……やなぎなぎさんっていいよな……。


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第六話 ?似た者同士?

投稿遅れてしまいすいません。

今回は三人称に挑戦してみました。
できれば感想欄に前の一人称と今回の三人称どちらが出来が良いか言って頂けたらいいな…って。
はい。
それではどうぞ。


 

あらすじ――。

 

ヴァイスとグレンはアルザーノ帝国魔術学院に入学するために栄えあるその土地に足を踏み入れたのだった。

 

学院の中はヴァイス達と同期になるであろう入学生とそれを案内する講師たちで溢れかえっていた。

 

「…すごい人だね、これだけ人がいるのを見るなんて久しぶりだよ」

 

「まぁ、僕たちはこの三年間セリカの家にほとんど籠ってたからねぇ……」

 

グレンとヴァイスはその人の多さに圧倒されていた。

 

「……入学式ってどこでやるんだっけ?」

 

「確か大きな講義室を使ってやるって書いてあった気が……」

 

「講義室って…どこ…?」

 

ヴァイスとグレンは早速迷子になってしまった。

講師がどうやら講義室に案内をしているようなのだが、なにせヴァイスとグレンはまだ11歳。周りの学院生になるであろう者たちは恐らく14歳か15歳前後であろう。

身長も段違いでそれ故二人は他の人たちの足の埋もれて講師の案内の声も届かないのである。

 

「うーん、どっちに進めばいいかわからないね…」

 

ヴァイスは眉を八の字に曲げて不安そうな顔になる。

それを見たグレンは

 

「とりあえず、この人ごみから出ることを考えようよ」

 

「そうだね」

グレンの提案に乗ったヴァイスは見失わない様に注意しながらグレンと共に人混みの足をかき分けながら前へ進み続けた。

そんな中で、ヴァイスは誰かの足に引っかかってしまい、コケる。

 

「へぶっ!?」

 

まともな足場もない人混みの中でヴァイスは地面に顔を叩きつけてしまう。

そしてヴァイスは痛みのあまり顔を手で押さえる。

 

「痛てて…あれ、グレンは……?」

 

ヴァイスが気付いた時には既にグレンの姿はなく、あるのは人混みのせわしなく動く足だけだった。

 

「……まずったなぁ」

 

自分はまだいい。一応精神年齢は前世含めれば20ウン歳なのだ。

これくらいは別にどうってことはないのだ。

それより心配なのはグレンの方なのだ。多少精神年齢はセリカやヴァイスと過ごしてきたことで同年代の他人よりは上なのだが、それでも11歳の子供なのだ。

 

「……グーレーン!? どこだー!?」

 

ヴァイスは大声でグレンに呼びかけるが、周りの喧騒によって11歳の体で出せる声では掻き消されてしまった。

 

「どうしようかなぁ…。講義館に行けば合流できるかなぁ……」

 

一度講義館に行こうとしたヴァイスだが、それは一人の人物によって遮られた。

 

「ちょっといいかしら?」

 

「…はい?」

 

ヴァイスは背後から掛けられた声に振り返る。

その人物は燃え盛るような真紅の髪と紫炎色の瞳が特徴的な女性だった。

「講義館の行き方ってわかるかしら?」

 

「いえ、僕も今探してるところです」

 

悲しきかな元日本人の習性か初対面の人間には敬語が出てしまい少し焦るヴァイスだが

どうやら相手は気にしないようだ。

 

「あらそう。…ねぇ、二人で一緒に探さない? 二人で探す方が効率が良いと思うんだけど」

 

「…そうですね、それが良いと思います」

 

彼女の提案を別に断る理由もないのでヴァイスは提案を受け入れる。

 

「なら決まりね。…私の名前はイヴ。イヴ=イグナイトよ。イヴでいいわ。よろしく」

 

ヴァイスは表は平静を装っていたが、内心は驚いていた。

なにせ、あのイグナイト公爵家である。

 

ちなみに爵位とは貴族の称号を序列したものである。

 

下から男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、大公となる。

つまり、イグナイト公爵家は貴族としては上から二番目の序列にいることになる。

フィーベル家は有爵家ではないが、フェジテでは名の知れた大地主なため、爵位があるとすれば公爵と同等の権力を持っていたりするが、そこまで詳しいことはヴァイスにはわからなかった。

 

「…まさかあのイグナイト家の出身とは…僕の名前はヴァイス=フィーベルです。ヴァイスで良いですよ」

 

「そういう貴方も大概ね。フィーベル家の人間なんて。でも変ね。一年前にフィーベル家との会食があったときは女の子しかいなかったけど」

 

「……事情があって、家には帰っていません」

 

一瞬ヴァイスは冷水を掛けられた様な感覚に陥った。

それでもヴァイスは必死に動揺を隠し、事情があると説明した。

 

「……そう、まぁ深くは追及しないわ」

 

イヴが深くまで聞いてこなかったことに安堵の息が漏れそうになるが堪える。

それと同時にイヴに感謝する。三年経った今でも、家族に会おうとは思えないヴァイス。

自身はそれが我儘だと解っていながらそれを放置して前へ進み続ける。

進みたくても進めない、停滞を強いられる人だって、いるのだから。

 

「感謝します。イヴさん」

 

「イヴでいいわよ。ほとんど同年代なんだし…あと敬語もいらないわ。同じ名家の出身なら周りも気にしないでしょ」

 

「そうです…いや、わかった。イヴ」

 

敬語を外したヴァイスを見て満足そうに片頬を吊り上げる。

 

「それで良いわ。…さて、講義館にそろそろ行かないと間に合わなくなるわね」

 

高そうな懐中時計を取り出して時間を確認しながらそう言うイヴ。

それを聞いたヴァイスは自身が先ほど何をしていたかを思いだした。

 

「…あっ!? グレンの事探してたんだった!? 早く探さないと!」

 

慌ててヴァイスは辺りを見渡すが、相も変わらず人混みでグレンを見つけることはできない。それを見たイヴは浅い溜息を吐き出し

 

「あのねぇ、仮にもここへ入学できるくらいなら大丈夫でしょ。心配しすぎよ…さ、早く講義館へ行くわよ。貴方のせいで間に合わなかったら燃やすから」

 

「……心配だなぁ…って燃やす!?」

 

恐ろしすぎる脅迫をしながら歩き出すイヴにヴァイスはその脅迫が嘘だと思えずに冷や汗を掻きながら慌ててイヴを追いかけたのであった。

 

 

 

† † † † †

 

 

 

なんとか講義館に辿りつけたイヴとヴァイスは人混みの熱気に当てられ脂汗を掻きながら

講義館の一番最後方の席に腰を下ろした。

 

「あぁ~、やっと着いた~…ここは涼しいなぁ~」

 

ヴァイスは人の熱気によって熱くなった体を冷やすため体を伸ばして少しでも体温を下げようとする。

それを見たイヴは呆れた目でヴァイスを見やりながら

 

「貴方、≪エア・コンディショニング≫が付与(エンチャント)された服を着てこなかったの?…てっきりフィーベル家のような魔術の名家ならそれくらい持ってるものだと思ったけど」

 

「……あ、確かに」

 

イヴに指摘されたことでハッとするヴァイス。

 

「どちらにせよ、ここに入学したら≪エア・コンディショニング≫が付与(エンチャント)された制服が支給されるけどね」

 

「ほぇ~すっごい」

 

イヴの補足にヴァイスは間の抜けた返事で返した。

それを見たイヴはアホを見る目でヴァイスを見ながら貶した。

 

「貴方…見た目に反して意外とバカなのね」

 

「なんで!?」

 

唐突に貶されたヴァイスは驚きで声を荒げた。

イヴと他愛の無い雑談――というより一方的に弄られてる――している内に入学式の式典が始まり、前の教壇には恐らく、この学院の理事長であろう人物が登壇しているのが伺える。

それを見たヴァイスは一向にグレンが来ないことに焦っていた。

 

(やっぱり探しに行けばよかったんじゃ……)

 

そう思って今からでも探しにいこうと立ち上がろうとした時――。

ヴァイスの後ろのドアが勢いよく開いた。

 

「…はぁ、はっぁ…! つ、着いた……間に合ったぁ――!」

 

息を荒げながら入ってきたのはグレンだった。

それを見たヴァイスは大きく安堵の息を吐いた。

 

「おーい! グレーン! こっちこっち!」

 

大きく手を振ってグレンを呼ぶヴァイス。

隣で大声を出されたイヴは少し眉を潜めてヴァイスを睨んでいる。

それに気づかずに未だ大声でグレンを呼ぶヴァイスに苛立ちの肘鉄をヴァイスの横っ腹に入れる。

 

「痛っ!?…なにすんのさ、イヴ!」

 

「隣で大声出されたら不愉快だわ」

 

それだけ言って目線を前に戻すイヴ。

それを見たヴァイスは少し自重したほうが良いだろうかと考えていた時に

グレンがヴァイスの隣の席に座った。

 

「ヴァイス! 良かったぁ…ちゃんと講義館来れてた……」

 

「あの人混みに足取られて転んじゃってね…はぐれてごめん」

 

「いいよいいよ、謝らなくて。僕たちもう付き合い結構長いんだからさ」

 

グレンはヴァイスが講義館に来れていたことを安堵し、ヴァイスは自身の不注意ではぐれてしまったことを謝罪する。

それを見たグレンは笑いながら許した。

 

それを見たイヴは自分が話の蚊帳の外なのが貴族のプライド的な琴線に触れたのか

先ほどの比ではないほど眉を吊り上げた。

 

「二人だけで随分楽しそうな話してるわね」

 

イヴはヴァイスに向けて皮肉の笑みを浮かべながら言う。

ヴァイスは慌てて

 

「あっ、ごめん!…グレン、この人はイヴ=イグナイト。イヴ、こいつはグレン=レーダス。僕とは三年間同じ師匠の元で修業した中なんだ」

 

「ふーん…ご相伴に預かった、イヴ=イグナイトよ。イヴで構わないわ…そちらのフィーベル家の人にはこの辺りでは序列は負けるけどそこそこ名家の出身よ。ま、別によろしくしなくてもいいわ」

 

「うん! 僕の名前はヴァイスが言ったけどグレン=レーダス! よろしくね!」

 

イヴはナチュラルにヴァイスに対して皮肉りながらグレンに挨拶をする。

そんな皮肉だらけのイヴとは正反対にグレンは11歳の純真無垢な笑顔で挨拶を交わす。

そんな笑顔に当てられたのか、イヴは不愉快と言わんばかりの顔で鼻を鳴らしてグレンから視線を外した。

 

「……なんでそんなに僕に刺々しいのかなぁ…?」

 

「さぁ…なんでかしら」

 

ヴァイスは先の挨拶での皮肉に困ったような苦笑を浮かべながらイヴに問うが、イヴは適当にあしらい話すことはもうないと言わんばかりに正面を向いて未だ続く理事長の答辞に耳を傾けだした。

 

「やれやれ……」

 

イヴを見ながら内心で溜め息を吐いたヴァイスはイヴの行動を不思議そうに見ていたグレンに対して肩をすくめたのだった。

 

(なんだか大変そうな学院生活になる予感がするなぁ……)

 

とヴァイスは思いながらこれからどんな学院生活になるのか楽しみにしている自分がいるのを自覚して年甲斐もなくはしゃいでることに苦笑するのであった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

理事長の非常に長い答辞のあとはかの有名第7階梯(セプテンデ)であり、グレンとヴァイスの師匠でもあるセリカ=アルフォネアのありがたい答辞と二人へのウィンクをもらったりしたが

無事に入学式典はした。

 

次は制服の採寸があるのでヴァイス達はそれぞれ男女別に分けて指定された部屋へと向かった。

 

あとで合流する約束をしたヴァイスとグレンは次こそ迷わない様に簡易的で手書きだが地図を書いてもらい――セリカから学院の地図をもらえば良いのだが二人は気付いていない――指定された部屋へと向かった。

 

 

 

――迷わず指定部屋まで来れた二人は他愛の無い話をしながら部屋のドアを開けた。

 

中には採寸係一人しかおらず、他の生徒が見当たらなかった。

そんな不思議な状況を見たヴァイス達は頭の上に?マークが浮かんでいる。

 

「あれ? 僕たち二人だけ?」

 

「うーん、部屋間違えたかなぁ…? でも採寸する人はいるしなぁ…」

 

なんて話していると採寸係がこちらを見て営業用の笑顔を顔に張り付けて

「あぁ、お二人はこの学院の中でも最年少の入学だそうで。当然周りよりも特別小さい制服が必要になるのでお二人だけ別室でという話になりました。ですのでここで部屋はあってますよ」

 

「あぁ…なるほど」

 

採寸係の言葉に納得したヴァイスはグレンを引き連れて採寸できるように上の服を脱いで採寸係に向き合う。

 

「では、採寸していきますね」

 

とトントン拍子で採寸を済ませたヴァイスはさっさと服を着てしまう。

グレンも同じように採寸を済ませ、制服はエンチャントするために一度違う業者に引き渡すので数週間後に自宅に届けると伝えられた。

 

採寸を済ませてイヴを待たせている食堂に向かった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

ヴァイス達が指定された教室に向かっていた同刻――。

 

イヴ=イグナイトは同じく女性専用の採寸部屋に向かっていた。

その道中で考えるのは先ほどの銀髪で翡翠色の瞳を持つフィーベル家の少年のことであった。

 

イヴ=イグナイトは名前ではイグナイト家の人間となっているが、本当の意味ではイグナイト家の人間ではない。

 

イヴは私生児だ。前イグナイト公爵家当主がなんてことはない平民に産ませた妾の子供だ。

妾の意味の通り、イヴを生ませる条件として多額の経済的援助を今もなお受けている。

そこに――愛情はない。

だからイヴは本来一般人の家庭に生まれながらイグナイト家の人間になり、その貴族社会の中で肩身の狭い思いをしてきた。

やれ――平民の子だ。

やれ――愛情の無いただの操り人形だ。

 

散々な物言いを受け続けた。

だからイヴは相手がなにも言えなくなるくらいの実力を身に着けるために自身の心を誤魔化して冷徹な人間としての皮を被った。

 

そう生きてきて数年が経ったころ、イヴに陰口を叩くものはもういなくなっていた。

それどころか自身がなにかをやれば

 

やれ――さすが当主様の子だ。

やれ――1を聞いて10を理解する天才だ。

 

すぐに手のひらを返した。

 

イヴは反吐が出そうになった。

なにが、貴族だ。

なにが、眷属秘呪(シークレット)だ。

 

お前たちはイグナイト家の恩恵が欲しいだけではないか。

私は1を聞いて10を理解する天才などではない。

お前たちの知らないところで血反吐を吐くくらい努力をしたのだ。

それ“天才”だの一言で済ませられた。

 

――ふざけるな。

 

だから――貴族は嫌いなんだ。

だからイヴは、平民に憧れることは当然だっただろう。

外を出歩いた時に見る平民達の顔。

なんの幸福なことなんてないはずなのに、なぜあんなに笑っていられるのか。

貴族達はあんな嘘で塗り固められた笑顔を振る舞っているのに、平民達の笑顔は嘘偽りがない心からの笑顔に見えた。

イヴにはそれが不思議に思えた。しかしそれと同時に

 

――酷く…………羨ましかった。そんな風に笑える人達が。

 

そんなある日、私はイグナイト家当主に引き連れられ、フェジテの大地主――フィーベル家との会食があった。一応のイヴの父である当主からは

 

「フィーベル家のご息女と仲良くなり、魔導省に新たなパイプを作るのだ」

 

と言われた。その愛情の欠片も無い言葉にイヴは

 

あぁ――反吐が出る。

そう心中吐き捨てながら当主の言葉に頷いた。

そしてその夜、フィーベル家にて会食を行った。

イヴは当主の言いつけ通り、フィーベル家の娘――システィーナ=フィーベルと話をしていた。

 

話を聞く限り、フィーベル嬢は生粋の“メルガリアン”、と呼ばれる人種らしく私が話す暇もなくずっとメルガリウスの天空城の自身の見解を話し続けていた。

フィーベル嬢はその魔導考古学の専門家から見れば年相応の理論とは思えない程のクオリティを誇っていたが魔導考古学には全く興味がないイヴはただ相槌を打つことしかできなかった。

それを見たフィーベル嬢は何故か急に話を止めイヴを見て悲しそうな顔をして

 

「兄さんと同じ反応をするのね…………」

 

最も近くにいるイヴにすら聞こえない小さな声でそう呟いた。

イヴは突然悲しげな顔をされて困惑するのみだった。

 

それから間もなく会食は終了したが、イヴは酷くフィーベル嬢の呟いた何かが気になっていた。

そして部屋に案内されるときにちらりと見えた不可思議な形の楽器が置かれた酷く寂しげな部屋も何故か脳裏にちらついて離れなかった。

 

そして現在――。

アルザーノ帝国魔術学院で出会ったフィーベルの性を語るヴァイスという少年。

フィーベル嬢と同じく銀色の髪に翡翠色の瞳は見間違う事なくあのフィーベル嬢と血がつながっていることを表していた。

 

なぜあの会食の時にいなかったかを聞けば帰ってきたのは悲しげな表情と

 

「事情がある」

 

の一言だけだった。

イヴはその事情とやらが酷く気になったが敢えて追及することは避けた。

本来貴族の子息は親の手によって何の困難もなく育てられるため

事情という物があるはずがないのだ。

イヴは事情がどのようなものかは分からないが、いつぞやの自身と似たその瞳の奥に隠された悲しげな表情を視た時、放っておけなくなった。

 

 

それは冷徹な仮面を被り続けたイヴ=イグナイトが初めて他人に興味を持った瞬間でもあったのだった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

イヴが思考しながら採寸なども全て済ますという地味に器用な真似をやってのけ

食堂へと向かっている頃、ヴァイスとグレンは既にイヴより一足先に食堂へ着いていた。

 

「はぁぁ……学院の食堂ってでかいなぁ……」

 

「しかも、こんなに食べ物がたくさん…っ!」

 

二人は人の多さと目の前に置かれている食べ物の圧巻な光景に目を見開いている。

 

「これって好きなだけ食べていいんだよね!?」

 

グレンの問いにヴァイスは思考する。

 

(そういえばセリカから学院の学食はおいしいから好きなだけ食べて来いってお金をたくさんもらってるんだっけ)

 

たくさんイルをもらっていることを思い出したヴァイスはグレンの問いに答える。

 

「セリカからたくさんセルト銅貨もらってるから好きなだけ食べていいよ」

 

「ホント!? よし、食べるぞぉ~!!」

 

そう言ってグレンは袋からセルト銅貨をその小さな手でできるだけ掴みさっさと食べ物を取りに行ってしまった。

その後ろ姿を見送ったヴァイスは

 

(やっぱり、11歳って感じだよなぁ……だからグレンじゃなくて僕にお金を渡したんだろうけど)

 

自分の手の中にあるセルト銅貨が大量に入っている財布を見下ろしながら苦笑する。

グレンの微笑ましい姿を目で追っていると肩を叩かれた。

後ろに降りむけばイヴが立っていた。

 

「遅かったね」

 

「この学院は女子生徒の入学が多いから私が遅くなるのは当然でしょ」

 

「まぁ、とりあえずご飯、買いに行こうよ。お腹空いてるでしょ?」

 

「いえ別に……そうね」

 

ヴァイスの言葉を否定しようとした瞬間イヴのお腹が鳴ってしまい

イヴは素直にヴァイスの提案に乗った。

 

イヴとヴァイスはグレンがいる場所へ移動した。

二人が着いたころグレンは目の前の食堂のおばちゃんを困らせる程注文していた。

おばちゃんは目に見えて困惑している。

それもそうだろう。ヴァイスの目から見ても…というか11歳児の胃ではとても入りきらない程注文していれば誰だって驚くはずだ。

 

「…グレン、それは頼み過ぎだよ……」

 

「なんで!? ヴァイスは好きなだけ食べて良いって言ったじゃん!!」

 

「11歳児すぎるでしょこの子……」

 

ヴァイスの呆れにグレンが突っかかり、それを見たイヴがグレンの事を11歳児と称したりとその後の現場はカオスな光景になっていくのだった。

 

 

 

†  †  †

 

 

 

――某所。

 

光さえ食らう程の常闇の暗がりの中に窓から伸びる月の光。

それに照らされるのは銀と黒が相混ざった異色の髪色の青年。

青年は月光に照らされる壁にもたれ掛り窓から覗く月を見ている。

 

「夢…か」

 

青年は長い時間同じ体勢でいたことで硬くなった筋肉を背伸びして伸ばしながら

青年は思う。

 

(どんな夢を見ていたか覚えていないが、随分気分の良い夢みたいだったな)

 

何故だか酷く懐かしい気分に襲われた彼はもう一眠りしようと壁に凭れ掛かる。

 

――あわよくば、もう一度その夢を見られるように。

 

青年の意識は微睡みの中に消えていった。

 




一体最後の青年は誰なんですかね……(すっとぼけ)

トコハナいいゾーこれ。

次回もまた投稿期間開くかもしれませんがそれでもこの小説を読んでくれる方には感謝を。

それにしてもロクアカの二次小説評価高い人多いですね…。
はぁ~ウラヤマ。

イル通貨からセルト銅貨へ変更しました。
通貨のレートがよくわからないので、誰か教えてくらぁさい。


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第七話 魔術特性x固有魔術xきっかけ

お 待 た せ 。

夏休みってこんなにも忙しいものでしたっけ?
活動報告で修正をしていくとか言いましたけど人称を変えると全部書き換えなので実質一から書き直さなきゃいけなかったとは…失念していた。

今回も三人称です。
よければ一人称と三人称どちらがいいか感想してくれたら嬉しいです。




 

 

 

食堂でのカオスな出来事から数か月。

無事(?)にアルザーノ帝国魔術学院に入学できた三人は何の因果か

同じ1学年次1組の所属になった。

 

「さぁ、皆さん講義を始めますので席に着いてください」

 

担任はヒューイ・ルイセンという男性講師だ。

講義がわかりやすく、生徒からの人気も高い。

 

それも含めてヴァイスら三名は学年でも優秀な成績を収め学年順位でも三人が3位以内を取り合いながら独走中だ。

 

――ただし。

 

“筆記の場合”という言葉先の文頭に着くが。

 

実技の場合、学年トップに躍り出ているのはイヴとヴァイスのみだ。

グレンはほとんど最下位にいると言っても過言ではないほどに底辺にいるのだ。

 

原因はすでに判明している。

それは約一ヶ月前の魔術検査が原因だ。

 

「変化の停止・停滞か……」

 

ヴァイスが悲しげに呟く。

 

――そう。グレンの魔術特性は変化の停滞・停止だった。

 

魔術は世界の法則へと介入、そして“改変”させる技術だ。

グレンの魔術特性はそれを停滞させているため、常にブレーキをかけている状態なのだ。

兆候はかなり前からあった。

 

それが判明した時の彼の絶望した顔は忘れられない。

ヴァイスはかなり曲者の特性であったがグレンの様に魔術自体に影響するような物ではなかった。

 

そのせいでヴァイスはグレンに距離を置かれている。

 

「どうしたものかなぁ……うーん!」

 

「うるさいわよ。…他人の事を気にする暇があるなら早くその課題仕上げてくれないかしら」

 

「はいはいはい、わかりましたよお嬢様」

 

「…燃やすわよ?」

 

「はいすいませんでした」

 

課題を仕上げている最中であったことを思い出したヴァイスはイヴの催促を揶揄うことで受け流していると脅迫とは思えない脅迫を受け素直に謝罪する。

机の下でに蹴りをかまされながらヴァイスは課題のレポートをこなすのだった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

放課後ヴァイスがイヴに急かされている同刻――。

現在のヴァイスの悩みの種の原因であるグレン=レーダスは人気のない貧民街を歩いていた。

 

「確か…この辺りだった筈」

 

グレンは辺りを見渡しながら記憶を呼び起こしてある目的地を目指す。

そしてグレンは見覚えのある道に躍り出た。

 

「お、ここだここだ」

 

貧民街にふさわしいボロボロの孤児院の前に立つ。

グレンはしっかり来れたことに安堵する。

そしてその屋敷の門を思い切り押して開けた。

ギィィィ――…という軋む音を大きく立てながらグレンはその敷地内に躊躇いなく入った。

 

「お~い、来てやったぞー!」

 

と大きな声で屋敷の奥に向かって声を掛けるグレン。

それから少し間を空いてから、孤児院の中から大きな足音が大量に聞こえてきた。

孤児院の玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

「あ~! やっぱりグレンだ~っ!」

 

「今日は何して遊ぶの~?」

 

グレンよりさらに年が下だと伺える子供達がグレンに迫る。

 

「今日は遊びに来たんじゃないの! 俺は勉強を教えに来てやったんだからな!」

 

「えぇ~? 勉強ヤダ~」

 

「教えるのはお前らじゃないの!」

 

しがみつく子供たちを引き剥がそうと四苦八苦しながらグレンは言う。

子供たちとしばらく格闘していると、玄関の方から聞き慣れた声がこちらに向けて放たれる。

 

「やぁ、グレン! 来てくれたんだね!」

 

「ニーナ! ちょっとこいつら何とかしてくれないか!?」

 

「まぁそう言わないで少しだけ相手してやってよ。いっつもボクが相手してやってるからたまには他の遊び相手が欲しいんだよ、きっと」

 

「グレン! 鬼ごっこしよ! 鬼ごっこ!」

 

「かくれんぼがいい!」

 

「…だぁぁ! わかった鬼ごっこしてやるから早く逃げやがれ!」

 

グレンは仕方なく鬼ごっこを選択する。

 

「俺が鬼な! 10秒数えてやるから早く逃げろよ~!」

 

グレンがそう言うと、子供たちはきゃっきゃっと賑やかに散らばっていく。

グレンはそんな子供たちを見てニヤリと笑いながらカウントを開始する。

 

「10、9、8、7、6、5、4」

 

グレンはカウントを読みながら、足に力を込めていつでも全速力でスタートできるようにする。

それを見たニーナと呼ばれる少女は苦笑とも呆れとも言える曖昧な笑みを浮かべながらグレンを見ている。

そしてグレンは自身のマナバイオリズムをニュートラルにして即興の呪文改変を行った。

 

「≪我・()秘めたる力を・()解放せん()≫」

 

(――0ッ!!)

 

白魔≪フィジカル・ブースト≫を発動して自身の身体能力を強化する。

 

「悪いが、さっさと終わらせるぞ!!」

 

勝利を確信した笑みを浮かべながらグレンは一気に子供達を捕まえていく。

強化された身体の前では子供達は為す術もなく捕まえられていくのだった――。

 

 

 

†  †  †

 

 

 

子供たちの鬼ごっこを秒で終わらせたグレンは当初の目的であったニーナの家庭教師をしていた。

 

「それにしてもさっきのは大人げないんじゃないかな~?」

 

目の前の算数の問題集を解きながらほがらかに笑いながら言う。

 

「俺は元々お前の勉強を見るために来たってのになんでガキ共と遊ばなきゃなんねぇんだよ」

 

「つれないなぁ~」

 

「つれなくて結構。…そこ、間違ってるぞ」

 

「えぇ!?……あーもう! 難しすぎるよ~!!」

 

グレンは適当にニーナをあしらいながら問題の間違いを指摘しながらどこが間違ってるかを分かりやすく紙に書き記していく。

 

グレンが最近ヴァイスに距離を置いているのは勿論魔術特性(パーソナリティ)の事もある。

それでも前までは冷たいながらもヴァイスとは接していた。

全くと言っていいほど接していない理由はこの孤児院での家庭教師の真似事が原因だ。

 

数週間前、学院で魔術検査があった時グレンは自身の魔術特性(パーソナリティ)に絶望した。

それと同時に憤慨した。

 

(セリカはなんで教えてくれなかったんだ!?)

 

おかしいと思った。

皆と同じ魔力量で自分だけ魔術の威力が低かったりしたのは才能だと思っていたが

そうではなかった。自身の特性が常にブレーキを掛けていたのだ。

 

それを当然第七階梯(セプテンデ)のセリカなら知らない筈がないのだ。

3年間も魔術を教えてもらっていたのだ。そんな筈がない。

グレンは青筋を立てながらセリカの家もとい自宅に殴り込み、激昂した。

 

なぜ自分の魔術特性について教えてくれなかったのかと。

これでは自分の夢なんて叶うわけがないと。

 

そして散々好きなだけ八つ当たりをしたグレンはセリカの悲しげな顔を見た時、

自分が惨めになり、セリカの制止の声も聞かずにそのまま家を飛び出して走り続けた。

 

自分がどこを走ってきたのか分からなくなるほど走り続け、気付けば貧民街に来ていた。

そのままフラフラと歩いている内に前を見ないで俯いていたグレンは柄の悪い三人の不良の一人にぶつかってしまう。

そしてグレンは三人の不良達に取り囲まれてしまう。

 

「痛ってぇなクソガキぃ!」

 

「ッ! ≪幼き雷精よ・汝その紫電の衝撃以て・彼のて――≫」

 

「舐めてんじゃねぇぞこの餓鬼ぁぁぁぁ!!」

 

「意味わかんねぇことブツブツブツブツ、まずは謝罪だってママに教わらなかったんでちゅかぁ~!? あぁ!?」

 

自分の危機に半ば無意識的に魔術を発動しようと詠唱をするが、不良に殴られることで脳が揺らされて詠唱がキャンセルされてしまう。

そしてそのまま殴られ、蹴られ、踏みつけられ、脳震盪により朦朧とした意識の中に衝撃が走る。

 

グレンは自身の無力さを実感する。

先の詠唱(スペリング)でもそうだ。もしもまともな魔術特性(パーソナリティ)であれば一節詠唱で不良を撃退していただろう。

 

(僕の特性が【変化の停滞・停止】なんてものじゃなければ……っ!!)

 

無力感に苛まれる間も不良達のリンチは続いている。

ただでさえ打ちひしがれているグレンにとって今回の魔術を知らない不良に負けたという事実はグレンの心を折るには十二分であった。

 

(もう……いいや……)

 

諦めて意識を手放そうとした瞬間――。

 

「ちょっと待ちなよ」

 

凛とした鈴のような通る声が響く。

 

「弱い者イジメは良くないと思うなぁ~ボク」

 

これがグレンの固有魔術【愚者の世界】のきっかけになった少女との邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この辺りはヴァイス君はあまり登場しません。
ヴァイス君はもう少ししたら主人公するのでお待ちください。
評価、感想お待ちしてます。

より良い小説にするために協力お願いします。
あとモチベーション維持のため((ボソッ


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第八話 力の使い方

 

 

 

 

その少女はグレンより年上のようだ。15、6歳だろうか?

金褐色のツンツンセミショートヘアをカチューシャで押さえて活発そうな印象を受ける顔立ちだ。

 

そしてその少女は現在不良に囲まれている状況にも関わらず彼女の立ち振る舞いには妙な自身と貫禄がある。

 

不良達はグレンをリンチするのをやめ、その少女に目を向けた瞬間動揺が走った。

 

「げっ!? なんでニーナがここにいんだ!?」

 

「ボクがどこに居ようとボクの勝手さ。それよりその良いとこ育ちそうな少年を苛めるのはやめなよ、かわいそうじゃないか?」

 

不良達は明らかにニーナと呼ばれる少女を恐れていたが現在数で勝っている事と

たった一人の少女に屈服して従うのは酷く屈辱的だったのか強く抵抗する。

 

「うるせぇ! 偉そうに俺らに指図すんじゃねぇよ!!」

 

「へっ、こっちは三人だ! お前なんてぶっ潰してやる!!」

 

不良達はグレンの時に比べ、まるでヒーロー映画の噛ませ犬のような悪役のようなセリフを繰り返しニーナに拳を大きく振りかぶりながら襲いかかった。

 

「オラァァァァ!!」

 

「……ふっ!」

 

ニーナは余裕の表情を崩さず振りかぶってきた拳を右手を添えて受け流し

すれ違いざまにその手を取り、勢いをそのまま使い――投げた。

 

一人目の不良はそのまま地面に激突する――前に二人目の不良がナイフ攻撃を回し受けると同時に一歩踏み込み不良の顎に左の掌打を叩き込み、流れるように三人目の前に移動し、右足を軸に回転しながら上段蹴りを三人目の不良の延髄に叩き込んだ。

 

ほんの数秒の出来事。

グレンは目を疑うような呆気ない顛末をその目で見て呆然としている。

そんなグレンにニーナは歩み寄り――。

 

「キミ…大丈夫かい?」

 

手を差し伸べながら

 

「ボクはニーナ。よろしくね?」

 

八重歯を覗かせながら笑うその顔はどことなくチャーミングであった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

彼女――ニーナは貧民街にある孤児院に住んでおり、先の格闘術――――帝国式軍隊格闘術は孤児院の元帝国軍人の院長から教わったもののようだ。

 

そんな彼女に連れられてきたのは彼女が住む孤児院。

そこでグレンは先の不良に付けられた傷の手当を受けていた。

 

「痛っ!? ニーナ応急手当雑すぎ!」

 

ただニーナは応急手当と名ばかりで大雑把に傷口に付着した砂などをゴシゴシと落としている。

 

「あはは、ごめんごめん……あっ」

 

消毒液を染み込ませた布をグレンの患部に力加減を間違え強く押し付けてしまう。

 

「~~~~~ッ!?」

 

グレンは唐突に迸った激痛に唇を噛むことで耐える。

ニーナの応急手当でむしろ傷が悪化しそうな予感を感じたグレンはニーナの治療の手を

払いのけ、患部に手を当て詠唱の準備に入る。

 

「≪慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を≫」

 

グレンは白魔《ライフ・アップ》を発動する。

患部に当てた手に淡い光が灯る。

そして徐々にゆっくりとしかし確実に傷が塞がっていく。

 

「やっぱり遅い……ヴァイスなんて1分で治してたのに僕は5分もかかるし……」

 

あまりにも遅い再生速度にグレンは顔を顰める。

魔術特性のせいでグレンは他人よりも多く魔力と時間を消費しなければならない。

改めて無能の現実を叩きつけられたグレンは気落ちしながら識域解放(オープン)する。

 

「キ、キミ……すごいねっ!?」

 

興奮気味に鼻息を荒くしたニーナがグレンに迫る。

 

「それが魔術なのかなっ!? わぁ初めてみたよ!? 凄いなぁ! うわぁ……っ!」

 

傷があった部分をベタベタ触ってホントに傷が無くなってるとさらに鼻息を荒くする。

グレンはあからさまに嫌そうにニーナから距離を置く。

 

「こんなの初歩の初歩、基礎の基礎さ。……ぼ――俺の同期なんかはもっと早く完治させちゃうし俺の友達なんか一瞬で……何が凄いもんか」

 

グレンの脳裏を過ぎるのは銀髪の優しい少年(ヴァイス)の姿。

彼と一緒にいると劣等感が募っていくのを日々感じていた。

それでも弟弟子だし親友だから当然仲良くしていたいという矛盾がグレンを少しずつ苛立たせた。

どんどんネガティヴな思考スパイラルに嵌っていくグレンを引き戻したのは

ニーナの興奮気味に発した言葉だった。

 

「それでもボク達にはそれすらできないんだから――うん……やっぱりすごいよ!」

 

羨ましげに屈託なく笑う彼女はグレンをひたすらに賞賛するのであった。

 

「いいなぁ……僕にもそんな『力』があればなぁ……」

 

少し意味ありげに呟くニーナ。それを訝しんだグレンはその心意を問おうとしたその時。

 

「おかえりニーナ……帰っていたんだね。……その子は?」

 

ニーナの部屋に初老の男が入ってくる。

男はとても人当たりの良さそうな雰囲気を漂わせ、微笑を浮かべている。

 

「アルド父さん、お帰りなさい。この子、グレン。街で拾ってきたんだ」

 

「こらこらニーナ。拾ってきたなんて……口が悪いよ」

 

テヘっと舌を出しながらおどけるニーナはアルドに先ほどから今に至るまでの経緯を説明した。

 

「そうでしたか……グレン君と言ったかな? それは災難でしたね」

 

アルドは同情的な視線を向けながら労う。

 

「この辺りは貧民街なだけあって治安も悪い。貴方のような高そうな服を着ている人は特に気を付けなければ」

 

「は、はい……ごめんなさい」

 

素直に頭を下げるグレンを見て礼儀のある子どもだ――と嬉しそうに頷くアルドはちらりと窓から差し込む黄昏色に暮れた外を見る。

 

「せっかく来てくれたのですからゆっくりしていきなさい……と言いたい所ですがもうすぐ日没です。この辺りは物騒ですから、一度家に帰りなさい。親御さんも心配しているでしょう」

 

『親御さん』という言葉を聞いてグレンは顔を少し暗くする。

思い出すのはセリカの見せた悲痛な表情。

ニーナとアルドはグレンの異変に気付かず話込んでいる。

 

「じゃあボクが送っていくよ」

 

「……いらないよそんなの。もう子供じゃないんだし」

 

「うーん……でも君、帰り道分かるの?」

 

ニーナの言葉を聞いてウッと喉を詰まらせるグレン。

セリカと喧嘩してそのまま感情に任せるまま走ってきてしまったので通ってきた道なんて微塵も覚えていない。

 

「あはは! じゃあやっぱり送っていくよ! 行こ、グレン!」

 

押し黙ったグレンを見たニーナは朗らかに笑いながらグレンの手を引っ張りながら歩き出した。

 

 

 

†  †  †

 

 

 

夕焼けで赤く染まる街中を歩きながらグレンはなんとなく気まずいので間を保とうと呟く。

 

「さっきのおっさん……すごく優しい人だったね」

 

思い出すのは先の初老の男。

 

「アルド父さんの事?」

 

「うん」

 

「立派な人だけど、怒ると元帝国軍人だから物凄く怖いんだよ」

 

怒った時の姿を思い出したのかニーナは冷や汗を浮かべる。

 

「そうなの?」

グレンはあの優しそうな男性が怒る姿を想像できなかった。

 

「任務中の事故で退役したらしんだけど、軍役中に戦争孤児をたくさん見てきたらしくて……それで余生をその子供たちのために使う事にしたらしいよ」

 

「それは……すごいね……」

 

ますます怒る姿を想像できなくなったグレン。

ニーナは急に顔を暗くして俯く。

 

「でも……父さん、すごく苦労してるんだ。……家族を、守るために……」

 

「家族……」

 

「そ、家族。……君も家族は大事にしなきゃだめだぞ?」

 

「余計なお世話だよっ!」

 

つい大きな声を出してしまうグレン。

しかしそれを見たニーナは満足そうに頷きながら言う。

 

「ならよし。キミ、どっからどう見ても家族と喧嘩して家出したきたクチにしか見えなかったから」

 

「…………」

 

「お、その反応は図星だなぁ? ボクの目は間違ってなかったみたいだねぇ~♪」

 

嬉しそうにスキップをしながらグレンを横目で見てふふんと笑うニーナ。

 

「そんな綺麗な服を着たいいとこのお坊ちゃんが、こんな所にあんな不貞腐れた顔で来る理由なんてそれくらいかな~って思ったんだ~。……帰ったらしっかり謝るんだよ?」

 

どこかヴァイスのような雰囲気を感じたグレンはそっぽを向きながら

 

「子供扱いすんなっ!」

 

「そういうところが子供なんだとボクは思うんだけどねぇ~。無理しちゃってぇ~♪」

 

ニーナはからかうようにグレンの頬を指でぷにぷにしながら笑う。

その行動でグレンは内心でどういうところがだよ……とむくれる。

 

そんなことをしている内に貧民街の街並みは過ぎ、元の見慣れた街並みが見え、グレンが知っている交差点に出た。

 

「ここでいいよ、ニーナ」

 

グレンはニーナに向き合い

 

「この辺りなら道知ってるから一人で帰れる。あと……その、ありがと……」

 

「ふふっ、どういたしまして! ま、今日あったのも何かの縁だしね。お安い御用さ」

 

「ん……じゃあね」

 

踵を返し、改めて帰路に着こうとしたグレンをニーナが呼び止める。

 

「ねぇ! グレン!」

 

「……なに?」

 

グレンが振り返ればニーナはなにか意を決したような顔をしていた。

 

「あのね、グレン……」

 

「ちょっ……ニーナ!?」

 

真剣な表情で自分の両肩をガシッっと掴むニーナに驚くグレン。

両肩を掴み、ニーナに顔を思いっきり近づけられたことで頬が染まる。

 

「言おうか言わないが迷ってたけど……ボク、やっぱりこの出会いをなかったことにしたくないんだ!」

 

「はっ……はぁ!?」

 

え、いやまさかそんな!? でも僕とニーナじゃ歳の差がていうか意外とコイツ美少女だしえ、まじでまだ会って一日だけど!?

 

と頭の中がものの見事に混乱しているグレンにニーナはお構いなしに言葉を紡ごうとする。

 

「グレン……ボク……ボク」

 

グレンはこれから出される言葉を想像してさらに頬が紅潮する。

 

「ボクに勉強を教えてくれないかな!?」

 

「…………はぁ?」

 

ここでグレンは冷水を掛けられたが如く冷静になったのだった。

帰ってから自分の考えたことがどれだけ馬鹿なことだったのか悶えたことは誰にも知られず墓まで持っていくことを決めたグレンだった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

出会いの回想を終えたグレンは隣で二桁の掛け算で唸るニーナを見ながらボソッと呟く。

 

「お前ってホントに天然だよなぁ……いやバカか」

 

「ちょっ!? いきなり酷くない!?」

 

呟きが聞こえたのか、ニーナが心外と言わんばかりに声を荒げる。

 

「だって、また間違えてるし……」

 

そう言いながら机に置かれているニーナが解いている計算ドリルを見る。

 

「だから11x11は121だってさっきも言ったじゃん。こういうのは計算するんじゃなくて暗記するんだよ。俺の同期は二桁の暗算なんて当たり前だよ」

 

「うっ、君たちと同じにするなよぉ……」

 

年下のグレンに呆れられたニーナはがくりと肩を落とす。

それを見たグレンは一度休憩にしようと切り出した。

 

「そういえばさ、ニーナは何で俺に勉強を教えてなんて言い出したんだよ。別に俺じゃなくてもアルドさんとかいるじゃん」

 

「アルド父さんはダメだよ……ただでさえ僕たちの世話で苦労してるのにボクの我儘でもっと苦労させることになるのは絶対ダメだ」

 

「……そっか」

 

グレンはニーナの暗くなった顔を見て自身の迂闊な発言にやってしまったと自己嫌悪した。

ニーナは暗くなった表情をすぐに切り替えグレンに向かって朗らかに笑いながら

 

「そう。それでボクが君に勉強を教わる理由だっけ? それは『力』が欲しいからかな」

 

「『力』……?」

 

そういえば格闘術を習った理由もそんな理由だったようなとグレンは思い出す。

先が気になったグレンはニーナに目で話を促す。

 

「実は……この孤児院、潰れるかもしれないんだ……?」

 

「はぁっ!? どういうことだよ!?」

 

ニーナの言葉に驚きを隠せないグレン。

机をガタッっと音を立てる。

衝撃の告白をしたニーナの表情は俯いているため前髪に隠れて見えない。

 

「経営が苦しいんだ……。政府からの助成金は家賃や土地代で消えてちゃうから僕達のゴハン代とかやりくりするだけでもかなり」

もちろんすぐにどうこうって話じゃないんだけどね――とグレンを心配させないように無理矢理引き攣った笑みを浮かべながら話すニーナ。

 

まさかの話にグレンは絶句する。

 

「もしこの孤児院が潰れてしまったらボクはこの世界に何にも無い状態で放り出されるんだ……もちろん、あのチビ達もね」

 

二人の脳裏に過ぎるのは、先ほど鬼ごっこで遊んだり、やたらグレンに引っ付いてきたちびっこ達の姿。

 

「だからボクは『力』が欲しいんだ。格闘術でも勉強でも、どんな『力』でもいい。この世知辛い世の中に抗うための『力』が必要なんだ」

 

その言葉にグレンがはっとしたような表情になる。

 

「どんな『力』でも、いい……?」

 

「そうさ、どんな『力』でもだよ。皆を守る……それがボクにとって一番大事なことさ。そのためならボクはなりふり構わないよ? それがどんなに悪いことで人から後ろ指を指されようとも構わないし、暴力で守れるなら僕はそれを厭わない。知識で守れるなら、君にこうやって頭を下げて教えてもらうことも厭わないのさ」

 

「…………」

 

真剣に自身の心中を吐露するニーナの横顔をじっと見つめるグレン。

しばらくするとなにかを誤魔化すように視線を逸らしながら

 

「まぁ、せいぜい頑張ればいいんじゃない?……こんな初歩の初歩の知識が役に立つかはわからないけど、こんなのでよければ教えてやるし……」

 

「ふふっ、ありがとグレン……それはそうとさ、グレンってスパルタだけど教え方上手だよね」

 

「そ、そうか……?」

 

唐突に褒められたグレンは満更でもない顔で言う。

そういえばヴァイスにも同じこと言われたな……と思うグレン。

 

「うん。将来教師にでもなったら?」

 

「冗談! 俺がなりたいのは《正義の魔法使い》――あ」

 

「《正義の魔法使い》……なにそれ?」

 

「な、なんでもない、忘れろよ……」

 

「んん~? 気 に な る な ぁ ~ ?」

 

面白いモノを見つけたかのような表情でにまにま笑いながらグレンに抱きつきながら

ニーナお姉ちゃんに話してごらん?と言われてグレンは

 

「だ、抱きつくな! 離れろ!!」

 

「赤くなってる! かわいい~♪」

 

その後グレンはニーナにからかわれ続けるのだった。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

孤児院の出来事があった日の深夜――。

セリカの屋敷の一角に構えられたグレンとヴァイスの共同部屋にて。

グレンは大量の魔術書や魔術論文が積み上げられた机に向かって横目で参考にしながら黙々と目の前のモノに向かって作業をしている。

 

「皆を守れるのならどんな『力』でも構わない……か」

 

ふと呟いたのはニーナの言葉。

その言葉を聞いた時、なにか憑き物がストンと落ちたような気分になったグレン。

もしかしたら自分の魔術特性(パーソナリティ)も誰かを守ることができるかもしれない――そう思えた。

 

そしてその呟きに反応した人物がいた。

 

「……~~っ……グレン、まだ起きてたんだ……」

 

ベッドから体を起こして背伸びをして欠伸をしながらグレンを見る。

 

「あ、ヴァイス……起こした?」

 

「ああうん、まぁ気にしないで。それより何してるの?」

 

申し訳なさそうにヴァイスを見るグレンに対して気にしていないような素振りをするヴァイス。

 

ベッドから降りてグレンのやっている作業を覗き見るヴァイス。

大量の魔術書や魔術論文、その他にも顔料や焼き鏝、ペインティングナイフも並んでいる

机を見て眉を片方吊り上げ訝しげな表情になる。

 

「……魔術の勉強?」

 

「いや、少し新しい魔術を作ってみてるんだけど……」

 

ヴァイスの問いに首を振って否定するグレン。

グレンの発言に目を見開くヴァイス。

 

「ってことは固有魔術!? さすが兄弟子だなぁ……てことは自分の魔術特性(パーソナリティ)とは向き合えたのかい?」

 

「……まぁ……ね……」

 

少し誇らしそうにするヴァイスを見て前から距離を置いていたことに罪悪感を覚えて少し顔を俯かせるグレン。

そんなグレンにも気付かずにヴァイスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「そう、よかった……あ、たまには一緒に講義受けようよ! 最近グレンと一緒に講義受けてないし」

 

「うん……」

 

「それより、どんな固有魔術作ってんの!? 僕興味あるなぁ! もしかしたら僕の固有魔術の作成の参考になるかもしれないし!」

 

「じゃあ隣で見てたら? 口で説明するのは少し難しいからさ」

 

「じゃあ……失礼して……」

 

グレンは隣で見れるように少し椅子を左にズラす。

ズラしたことで空いたスペースに嬉しそうに自分の椅子を持ってきて座るヴァイス。

顔は興味津々といった感じで輝いている。先ほどまで寝ていたとは思えない輝きっぷりである。

 

グレンはその姿を見て罪悪感を覚えていた自分がアホらしくなったのかヴァイスを見て苦笑しながら目の前の魔術作成に専念するのだった。

 

 

その微笑ましい姿を扉の影からこっそり見ていたセリカは安堵の息を吐いた。

 

「なんだか最近仲がギクシャクしてたみたいだが、もう心配いらなさそうだな……」

 

嬉しそうに呟きながら自室に戻るのであった。

その後ろ姿は完全に我が子を心配する母であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これから医大のオープンキャンパス見に行ったりとかで忙しくなるので投稿遅れるかもです。

なるべく間隔開けないように善処しますが。

感想評価、ご指摘などお待ちしてます!

あ、タイトル詐欺っていうツッコミはナシで。
仕方ないルミナだなぁ……って思っててください(汗)


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