ぼくのかんがえたわるいかんりきょくをヘイトする話 (NonaIn)
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用語等設定資料集【ネタバレ含】

 当頁における全ての記事は、原作・出典作ではなく拙作におけるその人物・場所・組織などに対する物であり、原作については簡易に作品名を表示するのみにとどめています。
 原作・出典作と同様の内容についても表示をしている部分がありますが、あくまでも『拙作ではこのように扱っている』程度に考えて頂きますようお願いいたします。

 また一部、本編にて登場していない用語なども取り上げていますが、それらは長くとも更新時の最新話から2話以内には登場する予定です。
 一応頁下部になるべく纏めていますが、ネタバレを僅かであっても回避したい場合はこの頁は極力読まない事をお勧めします。


 

 

 

 

 

 

 

このさきには

暴力的で

鬼のような

ネタバレ設定どもが

あなたをまっています。

 

そ れ で も 読みますか?

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局

出典:リリカルなのはシリーズ各作品

 拙作は管理局アンチのため、有形無形のコキ下ろしを食らう運命にある。

 全次元世界を管理する、と言う荒唐無稽な目的を掲げ、様々な世界に強制介入しては問答無用で彼等の組織的な見解での「めでたし」を押し付けて回る組織。

 彼等にかかれば属地法は意味をなさず、属魔法とでも言うべき理不尽な正義に晒される事になる。そのため拙作では多くの反発を受けており、それを抑えるために様々な弾圧や洗脳を駆使していると言う事になっている。

 しかしその一方で身内(この場合は管理局法に従う魔導師)に非常に甘く、また管理局そのものの存続にも敏感。

 選民思想の帝国主義組織。魔導師に非ずんば人に非ず、を割と地で行く。そんな風に見せない辺りは流石としか言えない。

 

 

デバイス

出典:リリカルなのはシリーズ各作品

 魔導師の杖のようなもの。演算補助端末。無くても魔法は使えるが、あると幅が広がる。

 分類は多岐に渡るようだが、一定以上の性能を持ったデバイスの製造には『反応物質』と言うある種の特殊資源が必要となる。

 しかし反応物質は旧来の管理世界では殆ど産出されない、と言うよりそもそも魔法技術では入手が非常に困難。この事が管理局の帝国主義に拍車をかけたようだ。

 

 

原作とのデバイス及び使用魔法の差異

出典:なし、注釈

 現在、スバル、ティアナ、エリオのデバイスが原作とは大小各々異なっている。

 この項目では纏めてそれらを記す。以下小項目はa、b、c...と続くため注意。

 

 a.スバル・ナカジマ

  リボルバーナックルR、及びメディヴェル級タイタンFS-1041"マキア"。

  リボルバーナックルRをデバイスとしてはメインとして運用する。またタイタンパイロットのヘルメットやウェアラブルパッドの機能、ジャンプキットや戦術キットの格納・展開・瞬間装着もこれによる。

  "マキア"は特殊なタイタン・デバイスであり、作中では唯一のメディヴェル級タイタンである。詳しくは後述。

  またウィングロードが劣化変性しており、とぎれとぎれの複数の仮想壁を作り出す"フローティングウォール"となっている。他にも一部魔法を修得しておらず、多くのリソースをパイロットとしての技能に割いている事が窺える。

  なお魔法以外でも、格闘技能がストライクアーツではなくなっている。パイロット式格闘と華系(ルーフェン)武術のハイミックスで、拳による軽重入り混じった翻弄と、ジャンプキットによる推力を十二分に伝達可能な蹴り技をやや重視した、"双昴拳(そうぼうけん)"とナナが勝手に呼びスバル自身もそれに文句を言わない代物である。なおこれはパイロットでなおかつ格闘系の魔導師でなければ扱えない為、実質スバルのみが使う代物と言ってよい。

 

 b.ティアナ・ランスター

  クロスミラージュG2A5(グレードツーアームズファイブ)。本編中で全て細かく描写される事は恐らくない。

  ハンドガン、ツインマシンガン、ダガーガン、アンカーガン、マークスマンライフルの5形態を持つ。またカートリッジと同時に非殺傷の感電弾(スタンラウンド)に限るが実弾も装填できる。

  ツインマシンガンモードでは実弾を格納領域から順次転送し連射すると言う機能が動作し、中近距離における弾幕を張る事が可能である。そのため魔法リソースをほぼ全て幻影魔法等に利用できるという利点もあるが、あまり使われない。

  マークスマンライフルモードではほぼ別モノの、ライフル銃と化す。魔法弾にしろ実弾にしろ、直射に限るが非常に高精度かつそこそこの連射速度で発射する事が可能な構造になっており、文字通り選抜狙撃手(マークスマン)向けのライフルとして機能する。

  また中近距離における戦闘技法がパイロットのそれに非常に近く、フェイクシルエット(ホロパイロット)を出しながらのジャンプキットあるいは身体強化(フィジカルブースト)による立体跳躍機動しながらの射撃となっている。

 

 c.エリオ・モンディアル

  ストラーダ・プライム。鋭角を基本としてデザインされた、中央部から割れる構造と飾り布を持つ白と金の突撃槍。恐らく本編中で最も元のデバイスの機能を保ったまま変化したデバイス。

  テンノによって齎されたオロキン時代の設計図を基に素材レベルから改修された。

  大きな機能の差は、電磁力によって金属体を任意の速度・魔力付与を行って発射できるものと、飾り布だけを手元に残して"投げ飛ばす"事で着弾点に強力な電磁吸引を発生させるもの、そして飾り布を起点に投げ飛ばした槍本体を引き戻すものの3つとなる。

  また電気変換資質の大幅な強化も行われており、本人だけでも微弱ならば電磁変換を行え、条件によっては放電(アーク)グレネードの真似事も行える。またスチールワイヤーを電磁力によって高速で滑ると言う小技も可能となっている。

 

 d.キャロ・ル・ルシエ

  ケリュケイオン。魔法のみ変化。

  錬鉄召喚のバリエーションとして、より細かく長く遠くまで届く"スチールワイヤー"が追加された。鎖に比べ細かな制御は難しいようだが、その分量が出しやすい。ただし両端がどこかに接していないと落ち、更にそれなりにたわみやすいという性質がある。

  またワイヤーを使う事でパイロット技能持ちやエリオがそれを"滑って"ゆく事が可能なため、それなりに使っている。

  なおフリードリヒ(ヴォルテール)は飛行する必要が無い時は本編では戦闘に用いられず、やや不遇で不憫と化している(おそらく当竜はのんびりできているので不満は無い)。あんな可愛い生き物を戦闘に使える訳がないだろ!

 

 

ナナ

出典:なし

 正しくは傭兵集団『6-4』に所属する『PM-745』と言う認識コードのみを持つ女性パイロットの通称。空白期では10歳、StS期では19歳。戸籍登録をしていないため本名は無く、軍籍登録も『PM-745』で行っている。

 黒髪黒瞳で、比較的小柄ながらも発育は良い。しかし多くの場合それを悟らせないような戦闘用パイロットスーツに身を押し込んでいる上に、パイロットではない他人に対して一定の線を引いている節があるためあまり体型などは知られていない。隠れロリ巨乳か。

 目つきも悪く人によっては藪睨みされていると受け取るほどで、髪型も殆ど無頓着のためヘルメットに押し込める程に無造作に短く切っているだけと女性としての色んな物事を投げ捨てている。もっともこちらもヘルメットに押し込んでしまっているので、知る人はあまり多くない。

 搭乗機は高機能タイタン『RD-5013』、ペットネーム『レイ』。空白期ではイオン級、StS期ではヴァンガード級。

 

 

レイ

出典:TITANFALL2?

 ナナの相棒とも言えるタイタンAIの通称。正式名称『RD-5013』。

 イオン級のデフォルトボイスである女性声のAIで、高機能タイタン故の学習の積み重ねによってある程度の単独行動も可能。またある程度だが遠隔地からでもナナをサポートするためのオペレーションを行える。

 会話を近くで聞いていて呆れて肩をすくめるなど、かなり人間臭い言動をとる事がある。

 

 

パイロット

出典:TITANFALL、TAITANFALL2

 非常に多くの項目に於いて一定以上の能力を持つ、現代戦における最強に分類される兵士。特にタイタンとリンクする事でその真価を発揮する。

 銃撃、格闘、爆発物、タイタン整備、タイタン運用、ジャンプキット・パルクールは最低でも習熟している事が要求され、多くのパイロットは更に何らかの専門技術を身に着けている。専門技術を十全に活用するために全身義体化(スペクター化)手術を受けるパイロットも存在する。

 免許を得る過程で80%が、そして戦場に出ると90%が死亡すると言われる程に過酷な兵科だが、非魔法文明出身者にとってはそれでも唯一魔導師に勝てる可能性があるとして人気。

 

 

タイタン

出典:TITANFALL、TAITANFALL2

 全高7mほどの近人型汎用多環境適応作業重機。或いはそれを転用した陸戦兵器。

 その優位性は多岐に渡るが、特に装甲は対人用の火器や攻撃であればほぼ間違いなく通用しない。通用させるためには対装甲属性を持たせる必要がある。

 総じて頭部のない人型とでも形容すべき外見をしているが、多くの部位に於いて人間そのものではない。

 頭部にあるべき機能は胴体兼コクピットの前面に位置しているデータコアに集約されている。また脚部は中量、軽量型はイヌかネコのように踵が高い位置に存在する、言うなればつま先立ちの形状となっている。また指が四本ずつしか存在しない。

 タイタンは単体ではその真価を発揮しない。ニューラルリンクと呼ばれるマン・マシーン・インターフェースを用いて専属となるパイロットと一対一で非接触接続を行い、かつ搭乗操作を受ける事でその全機能を発揮する。特にタイタンによって異なる名称の『コア』は、必殺技とも言える大きな効果を発揮する。

 一部の高機能なタイタンは自我とも言い得る程の人工知能を搭載する。それ以外でも簡易な受け答えと状態に応じた幾つかのパターンを発声する程度のBOTは搭載されている。

 

 

ジャンプキット

出典:TITANFALL、TAITANFALL2

 パイロットが用いる特殊な装備。腰の後ろに装着し、リラックス・スタビリティという原理でパイロットの挙動を補佐する。見た目は噴射口の着いたベルトポーチ大の何かの装置。

 形状は身に着けている専門技術や体構造などによって非常に多彩であり、パイロットを10人も集めれば5や10のパターンくらいは簡単にみられるだろう。

 二段ジャンプやウォールランなどの特殊な挙動は全てジャンプキットにより補佐されている。そのためジャンプキットを喪えばパイロットはただの人、と思いがちだがジャンプキットを破損させる事は強度構造両面から非常に難しい。ジャンプキットが壊れる前に人体が壊れるだろう。

 実弾ポーチなどの役割も果たしており、フェーズシフト技術を応用することで理論上無限量の(実際には購入しておく事ができただけの)弾薬、エネルギーセル、手投げ弾を保持可能としている。また撃ち切ってない弾倉内の弾薬を集約し効率よく利用する機能も兼ねる。

 

 

再生処置

出典:TITANFALL2

 多数の戦闘を経験し、実質的な万能選手となるほどの蓄積を経たパイロットは、同様に非常に大きな後遺症を抱える。それを取り除くために行われる、インプランティングや義体化、あるいはクローン体への完全な記憶と意識の転写を行う特殊な処置。

 再生処置を経たパイロットは基礎スペックを保ったまま、より強力な存在となる。代償として一部のカテゴリに属する経験の殆どを失う事になるが、それらの再収得は戦闘の中でいくらでも行うしかない。

 また再生処置とは異なるが、パイロットと言う存在の希少性からミリシアではパイロットのクローンによる予備体を製造・保管し、戦場において戦死する瞬間に意識の転写を行う。生命倫理に反するなどと言われるかも知れないが、パイロットと言うのはそのくらいに貴重で、希少で、重要なのだ。

 なおリンカーコアが存在すると意識転写の妨げとなるようであるが、その原理は不明。プロジェクトFはこの点を解決しようとするものであったと思われる。

 

 

ストライダー級

アトラス級

オーガ級

出典:TITANFALL

 タイタンの重量による区分け。また戦闘専用に調整されていない、一般的に販売されているタイタンの名目上の区分。

 軽量型ストライダー級。

 中量型アトラス級。

 重量型オーガ級。

 

 

イオン級

ローニン級

モナーク級

出典:TAITANFALL2

 タイタンの武装による区分け。また戦闘専用に調整されている、一般的に販売されてはいないタイタンの名目上の区分。

 またこれらの他にもスコーチ、ノーススター、トーン、リージョンと言ったタイタンも存在する。

 各タイタンについてまで解説すると非常に長くなるため、ここでは記さない。

 

 

ヴァンガード級

出典:TAITANFALL2

 特殊なタイタンの級区分。戦闘専用であり、一般的に販売されていない。

 イオンやローニンなどの幾つものタイタンの武装ロードアウトを即時切り替える事でより多くの局面に対応する、質で数を圧倒するタイタンとして開発された。しかしその一方でコストは非常に高く、投入する局面は限られる。

 またヴァンガード級は学習型のコンピュータを搭載しており、ほぼ全ての機体が自我を持つと言っても良い程の高性能AIを持つ。

 

 

フロンティア

ミリシア

出典:TITANFALL、TAITANFALL2

 地球型の居住可能な惑星が多数存在する、新規に管理世界に編入しようとされていた宙域がフロンティア。

 そしてミリシアはフロンティアを自衛するための、一種の協定に基づいた武装組織。その母体となったのはフロンティアの惑星ハーモニーを統治していた政府であり、今ではフロンティアの代表ともなっている。

 全体的に先史文明によって様々な遺産が遺されており、人間が生きていくのには少々過酷。フロンティア出身の魔法資質者は存在しない。

 一部宙域はとても虚数空間への接続性が高く、それ故にその宙域の惑星からは反応物質が出土する事もある。またその宙域には何故か魔力素が殆ど存在しない。

 

 

斑鳩

出典:斑鳩

 ミリシアの武力偵察及び機動戦力部隊。主力部隊と言っても良い。

 高速航行と長距離ジャンプを行える母艦『不動明王剣(フドウミョウオウノツルギ)』によって、広い宙域で活動が可能。

 部隊長は『森羅』。元は航空機乗りのパイロットで、口下手ながら非常に意志の強い青年であり、開発部門の爺様がたが引き留めなければ単身で管理局中枢に突っ込んで自爆するまであり得る程。乗機はヴァンガード級タイタン斑鳩。

 母体となった惑星テンカクの研究組織は特殊な技術を幾つか保有しており、斑鳩の開発部門にもそれは引き継がれている。

 

 

森羅

出典:斑鳩

 ミリシアの"斑鳩"部隊の隊長。元飛鉄塊乗り。

 惑星テンカクの研究組織ではテストパイロット兼エースパイロットであった。

 口下手ながら非常に意志の強く固い青年。飛鉄塊乗りであるがゆえに改造手術を受けており、神経に直接打ち込まれた神経接続端子"楔"によって、古い技術で施術されていたこともありその寿命は元の二割にも満たなくなっている。

 しかしその腕前は一流であり、タイタンパイロットとなった現在でも空間把握能力と高速思考能力を余すところなく活用し、立体的な戦闘を得意とする。

 乗機はヴァンガード級タイタン"斑鳩"。カラーリングはモノトーン。兵種変更直前の飛鉄塊の部品を一部に使用しており、それゆえに独自のロードアウトを持つらしい。

 

 

出典:斑鳩

 ミリシアの"斑鳩"部隊の副隊長。元飛鉄塊乗り。黒髪を頭の後ろで櫛で一纏めにした、和系の女性。

 惑星テンカクの研究組織のライバル組織の、テストパイロット兼エースパイロットであった。

 現在はタイタンパイロットである。乗機はノーススター級ベースの航空化改造タイタン"銀鶏"。

 

 

『燦々たる銀の銃(Radiant Silver Gun)の伝承』

出典:レディアントシルバーガン

 全世界単位での輪廻の物語、と言えなくも無い。

 拙作においては人類全てを対象としており、それゆえその伝承に含まれる範疇も次元世界を越えた全てとなっている。

 

 

石のような物体(The Stone Like)、産土神黄輝ノ塊(ウブスナカミオウキノカイ)

出典:レディアントシルバーガン、斑鳩

 一言で言うならば『星の意志』。あるいは『造命主』、『神の意志』。

 全ての生命が星や世界と共存する事を望み祈り、それでも上手くいかなければ何度でも滅ぼし造り直す、極端に気の長く、極論的に気の短い存在。しかし拙作では恐らく、果てしないその繰り返しに『疲れている』と思われる――でなければ今まで通り単体で全て行っているハズだ。

 拙作では管理局によって本来存在していた星からミッドへその存在を移動させられており、魔法的アプローチを仕掛けた際に半覚醒。念話のようなものを介して評議会の三脳をその支配下へと置いた。

 なおコレに対する特効存在としては『人のような物体』が良いとされる。

 

 

グレイヴヤード

出典:HELLSINKER.

 ミリシアの遺産専門独立調査部隊。所属するパイロットの殆どは比喩では無い表現で『人でなし』である。

 調査部隊と名乗っているが、多くの場合は調査の後に遺産の破壊もしくは停止を行っている。

 ローニン乗りの『人でなし』パイロット、デッドライアー。そして彼専属のオペレーターと化しているトバリなどが所属している。

 

 

『人でなし』

出典:HELLSINKER.

 ヒトの形を保ったまま人を辞めた存在。高い『微かな存在』への資質が求められる。

 共通して『微かな存在』を引き寄せ操る能力を持つ。また特殊な処置によって限定的不死化(正しくはLIVINGをLIFEとして切り分ける事で数回ほど"死という現象"を食い止める)、そしてその副産物として限定的不老化(老衰は無視し得るが摩耗はすると思われる)が可能。

 魔導師ではない。

 

 

祈リ手(PRAYER)

出典:HELLSINKER.

 元ヒト。

 魂を石に、血を瀝青に、肉を鉄へと置き換え、思考する事を放棄し、祈る機械または祈りそのものと化した存在。『人でなし』の一種であるとも言え、『微かな存在』を操る事も可能。

 拙作に於いてはヒト自ら編み出した技術によるもののほかに、『石のような物体』が己に通ずる祈りを持つヒトを度々これに変換する事がある。

 

 

『微かな存在』

出典:HELLSINKER.

 資質あるヒトの魂に引かれ集う微生物様の存在。別名、ウィスプ、人魂菌。

 活動域は大気圏内であればどこでも。

 様々な特性を持つが、これを一定以上に操れる存在は総じてこれを衣と纏って空を飛び、存在を固めた弾(BULLET)を撃つ事ができる。しかしそこに在る限りは中立無害で、存在すら活性化するまでは物理的、魔法的に認識は不可能。

 魔力あるいは魔力素ではない。

 

 

デッドライアー

出典:HELLSINKER.

 グレイヴヤードに所属する『人でなし』のタイタンパイロット。古くたびれ疲れた雰囲気の青年。

 変態染みた戦闘技術と生存能力を持つ存在で、その変態的技術力は『人でなし』としての主兵装として使用する斬撃を飛ばす武装『リニアブレード/風切り笛』が、"一刀流でもバランスを崩しやすく"、"寸分の狂いの無い軌跡で振るわれなければ十分な効果を発揮しない"のに加えて"二刀流として一瞬のズレの内にほんの一点のみで軌跡を交錯させる事で威力を跳ね上げる"という……それを実戦で失敗無く毎回使いこなせると言う、まあ技量的変態である。

 それ以外の面ではやや頼りない印象も多く、また隠し事はグレイヴヤード所属の『人でなし』の常で多いようだ。

 搭乗するタイタンはローニン級。タイタンそのものはしょっちゅう大破損耗させてしまうためペットネームを付けていない、デッドライアーのローニンと言うだけでも認識出来てしまうとも言える。

 ――余談だが自宅で子猫を飼っているらしい。銀色の鈴と、白い体毛と、ろくに見えない金色の目を持つ雌猫だそうだ。若くして様々な事に疲れ果てたような彼にしては甲斐甲斐しい事である。

 

 

屠針丸(トバリマル)

出典:HELLSINKER.

 デッドライアーにマウントされた、旧いタイプの『宿リ木(ミステルトゥ)』。ミステルトゥは本質的には『微かな存在』のコロニーとそれをコントロールする足の無い小人型生体ユニットの共生体である。――極端に言えば『微かな存在』版のユニゾンデバイスのようなものの付属した、『微かな存在』の群体。

 ストレートロングの赤髪の裸の少女が、群体である透明な結晶体に下半身が埋まっているような形状をしている。

 皮肉屋かつ少々粘着質な性格でそれは辛辣な形で時に表に出るが、デッドライアーとは悪友か相棒として良い関係を構築できているようだ。『人でなし』としての戦闘ではこれ以上無く支え合い共存しあっていると言える。

 タイタンパイロットとしての戦闘では戦闘領域の外のほど近い区域で回遊しつつサポート、オペレーティングなどに務めている。

 

 

蓑亀

出典:HELLSINKER.

 グレイヴヤードに所属する『人でなし』のタイタンパイロット。金髪ロングでエタロリで赤と青のオッドアイで両性。男性のような女性のような、子供のような衣服を身に着けている事が多い。

 なお両性具有は法律上は男性であり、蓑亀もまた法律上は男性扱いだが、当作品に於いてそのパーソナリティはやや女性的に寄っている(そのため拙作では彼女と呼する事にしている)。言はその出自如何のせいで作り演じたようにやや大仰だが、その内容は直接的。

 『人でなし』としての能力は非常に高く、息をするように扱えるが、流石にタイタンパイロットを兼任するとなるとその能力の大半は封じられている――それでも広域制圧能力は頭二つとびぬけているらしい。

 搭乗するタイタンは本人の性質とは真逆のように見えるモナーク級。やはりよく大破させるため、ペットネームは無い。むしろ本人が限定解除を行って飛ぶ方が強いまでありえる。

 ――余談だが、蓑亀、と呼ばれる亀は実在する。甲羅に緑藻の生えたイシガメで、長寿の象徴だそうだ。

 

 

虎大

出典:TITANFALL、TAITANFALL2

 タイタンを製造している企業。フロンティア全域を対象に活動していた。

 現在では管理局管理宙域の開拓星にも細々と民生用タイタンを製造販売している。

 様々な思惑からミリシアに出資、協力している。

 

 

コーパス

出典:WARFRAME

 虚数空間ことVOIDを越えてやってきた巨大企業体。オリジン太陽系と呼ばれる恒星系全域で活動しているらしい。

 非殺傷魔力攻撃を無効化する個人用シールドや、高性能なエネルギー制御技術など様々な超常的科学技術を保有している。

 所属する社員は総じてゴム質の化学防護服に身を包み、頭部にはビルディングを模したような独特な被り物をしている。また彼等は身内では独自の言語とも思われがちなジャイヴトークで会話を行うようだ。

 様々な思惑からミリシアに友好的ではあるが、支払われるクレジットが無ければ小指一本どころか毛の一本すら動かさない。

 

 

クレジット

出典:WARFRAME

 単に現金を指す単語、ではない。先史文明およびオリジン太陽系における通貨。

 薄青の縁取りを持つ金属のカードのような外見をしている。

 管理局はさしたる通貨価値および資源価値を認めておらず、また大量に出土し入手可能な事からもクレジットでの支払いについては非常にザル。

 しかし一方で、コーパスやフロンティア宙域ではこれらが主流、あるいはそうなりつつあり、交易における一つの壁ともなっているとされる。

 

 

テンノ(TENNO)

出典:WARFRAME

 VOIDを越えてやってきたニンジャ。の、中の人。テンノ・パワーとでも称すべき特殊な能力を備えている。

 何かの目的のためにオロキンの遺物を回収するため、その一環として六課と協働体制をとる事にしたようだ。

 普段はウォーフレームに意識のみを転送した状態でランディングクラフト(揚陸艇)で各環境へと赴く。

 

 

VOID

虚数空間

出典:WARFRAME、リリカルなのはシリーズ各作品

 空間の裏や次元の間に存在する確かな事の何一つ存在しない特殊な場であり、同時に全ての次元を繋ぐ舞台裏(バックグラウンド)にして基礎背景(バックヤード)。

 魔力素やテンノ・パワーなどの源流だが、その色合いは常に変化し続けているため魔法に於いてそのまま使用する事はできない。テンノ・パワーは恐らくほぼそのまま使用している。

 この空間にオリジン太陽系の古代文明オロキンは終末期に逃げ込んでおり、多くの宇宙船やタワー船が遺物を乗せたまま漂っている。

 またこのVOIDの裂け目が通常空間に発生すると、亀裂を発生させて通常空間に復帰しようとしていたオロキンの遺物によって、付近の存在は洗脳されてコラプトされた存在となる。コラプトと化した存在は戻す事は不可能であり、しかし殺す事で『反応物質』を抽出できる。

 

 

オロキン

アルハザード

出典:WARFRAME、リリカルなのはシリーズ各作品

 VOIDに存在する、過去に存在した(あるいはしたとされる)古代文明。非常に高度な技術を持ち、しかしその挙句に自滅した。

 今でも彼等の遺産は総じてトラブルを引き起こす引き金であり、テンノはよくこれらの収拾に駆り出される事になっているようだ。

 いずれの勢力が彼等の遺物を大量に収集したとしても、それは管理局次元とオリジン太陽系次元の両方を巻き込んだ大事となりかねないだろう。

 現存する様々な文明の原型でもあり、それ故に遺物は同じモノでも現存する技術で作られたモノとは性能が明らかに高かったりする。

 

 

ウォーフレーム(WARFRAME)

出典:WARFRAME

 テンノが肉体として扱う、オロキンに由来する一種の義体。テンノはこれにソマティック・リンクと言う"能力発現態"によって意識を転送し、自らの肉体として使いこなす。その能力の源流はVOIDに在るらしい。

 基礎能力だけでも彼らは銃と剣の達人であり、跳躍力は10m近く、壁を走ったり一時的に貼り付いたり、滑空して落下速度を落としつつ移動距離を延ばしたりとカートゥーン・ニンジャじみたニンジャ・アクションの数々によって非ニンジャなモータルにテンノ・リアリティ・ショックを引き起こしかねない。――なお拙作では彼らがメインで動く時は意図的に某ニンジャツイートノベルをパクリスペクトした文体を用いている。アイエェェ!?ニンジャナンデ!?

 また基礎能力の他にもフレーム個々に1つのパッシブアビリティと4つのアクティブアビリティを持っている。アビリティそのものは非常に多岐に渡る。

 構成する物質などはVOIDあるいはオリジン太陽系次元宇宙の影響を強く受けており、管理局では破片をサンプルとして受け取ってなお解析できなかった。

 

 

セファロン(Cephalon)

出典:WARFRAME

 テンノが乗り込むオービターやランディングクラフトを管理・運行するオロキン製AI。本質が光と情報によって構築された"生命体"。

 性格や思考あるいは嗜好などは個体差があるが、総じて優秀な情報処理能力や演算能力を持ち、そしていささか以上に人間臭い。AIであるとは到底思えないほどに。

 

 

ロータス(Lotus)

出典:WARFRAME

 テンノの統括を行っている女性。

 しかし現在はまだオリジン太陽系次元に存在しているらしく、管理局次元までにはVOID(つまり虚数空間)を挟んで通信しなければならないため、その姿が直接描かれる事はない。

 テンノと共に『オリジン太陽系の均衡を保つ』事を最大の目的として動いており、その手段の一つとしてオロキンの遺物が他勢力に集まり過ぎる事を警戒している節がある。

 またテンノという存在そのものに対して深く関わりがあるようだが、その辺りは原作をプレイしていただきたい。

 余談だが原作のクエストでない一般ミッションにおける彼女のオペレーティングは手慣れたテンノの動きからすれば常に一歩どころか三歩か四歩ほど遅く、あまりアテにはならない。

 

 

アリシア・T・テンノ

出典:魔法少女リリカルなのは

 テンノとして管理局次元にやってきた少女。

 ウォーフレーム【LOKI】、【MAG PRIME】【FROST PRIME】を操る。因みにMODビルドはそれぞれ効果時間重視、威力重視、威力距離両立。

 搭乗するランディングクラフトの担当セファロンはオーディス(Ordis)、お調子者の若い男性型で、それなりに良い関係を築けているようだ。

 彼女は地球での一件の際に既に死亡している事が確定していたはずであり、テンノ・パワーなんて持っていなかったはずであった。しかしVOIDという不確定しか無い場に99.9999999%死亡した(おおよそどんな判定でも完全死亡と判定されるような)状態で落ち、高濃度なVOIDエネルギーに被爆した事によって限りなくゼロの()()()()()()()()()()()()した。それを発見され、今に至る。

 

 

メディヴェル級

出典:なし

 特殊なタイタンの級区分。戦闘専用であり、試作段階。またインテリジェント・デバイスの亜種として申請登録した、タイタン・デバイスでもある。

 リンクしているパイロットはスバル・ナカジマ。ペットネームはタイタンの"マキア"(Titan'o Machya)

 大まかなコンセプトはヴァンガード級と共通しているが、そこに更に『魔導の運用』を組み込んだ、限定された(特に魔導師でもある)パイロットへの適合を目指したタイタン。コストは非常に高く、投入する局面は限られるべきだろう。

 ヴァンガード級をベースとしているため、またインテリジェントデバイスの技術を組み込んだため、メディヴェル級は学習型コンピューターを搭載しており、ほぼ全ての機体が自我を持つと言っても良い程の高性能AIを持つ。

 このタイタンは以下の特徴を持つ。

・デバイスとして機能する

・魔導炉を搭載している

・機動性が高い(ゲーム的にはブーストゲージ3つ)

・魔導師としかリンクできない

・保護層がヴァンガード級に比べ少々薄い(ゲーム的には、ヴァンガードがHPバー5目盛り、メディヴェルが4目盛り)

・魔力素が存在しない、あるいは希薄だと性能が低下する(魔力素を含有した特殊なバッテリーで一時的に解消可能)

・虚数空間内で活動できない(他のタイタンは活動できる)

・試作機のため運用時に他のタイタンに比べてコストがかかる

 

 

ソーサリー・ロードアウト

出典:なし

 メディヴェル級専用の武装ロードアウト。

 試験的なロードアウトであり、実用性よりもメディヴェル級、ひいてはタイタンが魔導師武装部隊においてどのような活動をするべきかを模索するためのロードアウト。一応全ての武装が非殺傷設定化が可能になるよう魔導構造を持つ。

 ロードアウト構成は以下の通り。

・XO-16   :中距離向けチェインガン

・カートリッジコア:全機能を魔力により短時間上昇

・ブロードソード :近接攻撃に用いる

・ソードブロック :ブロードソードによる防御

・VTOLホバー :その場で上昇し、一定時間滞空した後、垂直着陸する

・MTMS    :マルチターゲティングミサイル。複数ロックを行い、誘導ミサイルを発射

 

 

ゲンドゥル級

出典:なし

 特殊なタイタンの級区分。戦闘専用であり、試作段階。またインテリジェント・デバイスの亜種として申請登録した、タイタン・デバイスでもある。

 ストライダー、特にローニン型をベースにメディヴェル級において得られた戦闘データを用いて最適化し、魔導化措置を施した武装で固めた量産型モデル。対タイタン戦性能は若干低いものの、対魔導師戦に於いては脅威とまで言える性能を誇る。

 学習型コンピュータはデフォルトでは搭載されておらず、またパイロットでなくても搭乗は可能。主にBランク以下の魔力量の一般武装局員に向けたプロダクトモデルであり、生産ライセンス及び最低限必要な技術は、50年ほどの通商契約のために虎大から管理局へと売却される予定。

 なお魔力を持つ者(ゲンドゥル)と言う名の通り、駆動には魔力あるいは魔力素が必要であり、通常のバッテリーだけでは動作できないことなどが難点。

 専用ロードアウト構成は以下の通りであり、全て魔導化されている。

・アークキャノン :有射程のチャージ式指向性放電砲

・トリガージコア :一撃のみ攻撃力を大幅に上昇

・ヴァーチャルS :半球膜状の視線と位置に追従するパーティクルウォール

・AMCDC   :アンチマギリングチャフディスチャージャー。魔力を遮断・かく乱する煙幕

・MTMS    :マルチターゲティングミサイル。複数ロックを行い、誘導ミサイルを発射

 




BTって重量級並のHPバーだったのね……うろ覚え書きは怖いし寺産まれは凄い。

そろそろ人物とそれ以外で分離した方がいいのかな?
もう13000文字行きそうとかイクイク……ぬぅ……


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空白期
Segment:- War Relics


 新暦元年。
 それは次元世界において、次元管理局法にて質量兵器が禁止となった事を記念する、画期的な記号である。

 ――しかしそれは"魔法資質保有者という生来資質的な特権階級"にとって、に過ぎない。

 では、その比率はどのくらいだろうか。
 主星であるミッドチルダであれば、それは90%を超えているとされる。

 だが数ある世界全体で見れば、魔法資質保有者などは10%にも満たない。と、一説には言われる。

 ――即ち其の意味する所は、90%の人々を社会不適合者と断ずる、いやそれ以上に恐るべき弾圧と強制、そして征服と洗脳が始まったのもまた、新暦元年であるという事に他ならない。

 故に、我々は起つ。
 故無く奪われ、封じられ、ただ柵の内にて飼い殺されよと命ずる声に、牙を剥く。
 あなたの痛みも、あなたの苦しみも、私の物と嘯いて、果て無く勝ち目の無い繰り返しに身を投じる。

 ――ただ、その尊厳のままに!


N.D.0066 Autumn

MID-CHILDA ;Development Area

 

 ミッドチルダの首都クラナガンよりやや外れた場所にある、開発地区。そこは様々な思惑によって人の居住区を増やすため、急速かつ集中的な建設が行われている区画である。

 もっともそれにもグレードがある、高収入者のための一軒家を大量に並べた区画然り、あるいは低収入層のための団地のような集合建築物然り。

 

 そしてその内の、集合建築物の建造エリア付近にて、二人の少女と"一機の重機"が肩を並べて"歩いて"いた。

 少女のうち、茶髪の方は名を、高町なのは、と言う。未だ齢10を少し超えたに過ぎないが、その身に秘める才――即ち魔法資質によって、管理局局員となった才女だ。ここでは深くその身なりを描く事はしないが、既に冬の兆しの見え始めた秋の暮れと言う事もあり決してその衣服は薄着ではない。

 しかしもう一人の黒髪ショートヘアの少女は、季節感を甚だしく欠いていた。いや、なのはと同年齢のはずなのに少女らしい感性と言うモノが全く感じられないいでたちである。半袖のシャツ、その上から羽織ったポケットの多い袖なしの作業用ジャケット、そして膝パッドの着いたコンバットパンツ。そして、腰の後ろにつけたウェストポーチ大の、"左右に噴射口のついた何かの機械"。

 顔立ちも含め、隣に立つ茶髪の少女と比べると月とスッポン……とまでは行かずとも、やや不釣り合いなくらいであった。

 

 だがそれよりも異様なのは、その後ろを大股かつゆっくりと、通行人を踏んだりしないよう細心の注意を払いながら歩く異形の鋼鉄の巨人である。

 それは"タイタン(TITAN)"と呼ばれる全高7mほどの人型汎用作業重機であり、専属パイロットとなる人間とのニューラルリンクによって搭乗中のパイロットのほぼ考えた通りの動きができる他、高度な――インテリジェントデバイスに匹敵あるいは凌駕するほどの――人工知能により、単独でも各種判断及び作業を行う事のできる存在である。

 人間と同じ四肢と、背部の二本の補助マニピュレーター。そして実質無尽蔵の動力。パイロットと絆を結ぶ事のできるAI。これらを搭載したタイタンは、未だミッドでは多く見る事は無いものの、新しく管理下に組み込まれ開発が大きく推進される地域においては非常によく見かけられるものだ。――なのはは知らなかったが。

 

 そして彼女らが何をしているのかと言えば、仕事中にどこかにいってしまった黒髪の少女のペットを、休憩時間を使って探しているのである。

 もっとも休憩時間でのペット探しは普段からよくしているし、そうでなくても迷惑だからと何度も黒髪の少女は断ったのだが、なのはは頑として手伝うと言って聞かなかったのだが。

 そしてそれに付随するように、何故かタイタンが付いてきたのだ。

 

 そんなわけであちこちから作業の音が聞こえて来て煩い中、少女二人と、黒髪の少女にリンクしているタイタン一機は通りを練り歩く事になったのである。

 

 黒髪の少女はタイタンのセンサーを、そしてなのはは対象を絞り込んだワイドエリアサーチを頼ってのペット探しだ。だがどちらも会話をする程度の余裕はある。

 

「うーん、この辺りには居ないみたいなの。もうちょっと遠くなのかな」

 

 サーチ結果を脳内で処理していたなのはは、一人と一機に先駆けてそう結論を出す。

 黒髪の少女は一つ頷くと、つい、と視線を一方向に向けた。それだけで察したのかタイタンは転進し、そしてそれに一拍遅れて「待ってよー」と言いつつなのはも続く事になる。

 

 黒髪の少女は、比較的無口であった。その代りしきりになのはの事をチラチラと見て、気にはかけているようだったが。

 そしてタイタンもそれと同じくらいに、あまり話さなかった。その代り、胴体に――タイタンに首は無い――半ば埋め込まれた球状の視覚センサー兼データコアを瞬かせながらしきりに動かして、あちこちに注意を払っていた。

 そしてなのはの首に提げられた赤い宝珠、"レイジングハート"も先ほどからちかちかと瞬いている。もっとも、なのはは情報の処理にそれなりに集中しながら、他の思考タスクではどうやって黒髪の少女と話をしようか考えていたし、もう一人はそんな事をわざわざ口に出そうともしなかったが。

 

「中々見つからないの。……オーグ処置済みのワタリガラス、だっけ? そう居るはずが無いからすぐ見つかると思ったのに」

 

「ここまで離れるのは珍しい」

 

『現時点で平均探索時間まで残り1分24秒、休憩時間終了まで13分ほどです、パイロット。徒歩での移動を前提とするなら、帰投を推奨』

 

「ん、多分夜にはかえってくるし、餌を持て余すだけ……」

 

「ダメなの! もしかしたらカラスさん迷子かも知れないの!」

 

 何事か、と黒髪の少女はなのはを見つめた。そろそろ切り上げなければ仕事に戻れないし、黒髪少女は出稼ぎのために建築作業に従事している事だって既に知っているはずだろうに、まるでそれを無視するような。

 それでいて、どこか必死なような。少なくとも、見ていないようで見ている事に気づかれたと気づかない程度に見ていた黒髪少女でもそう思える態度だった。

 

「RD-5013。……搭乗して走ると仮定したら、どのくらいの時間行ける?」

 

『安全基準を無視すると仮定しても2分程度です、パイロット』

 

「あと90秒だけ探そう」

 

『了解』

 

「え、と……?」

 

 パイロットとタイタンのやり取りと言うのは、様々な要素によって省略されがちである。特に、長くリンクしているならば猶更。

 そのせいでなのはは首を傾げるしかなかった。

 

「やるならあと80秒で見つけて見せて、"魔導士"。 ……レイ、乗せて」

 

『パイロット搭乗準備よし』

 

 言う事は言った、とばかりにタイタンに向かい合う黒髪少女。わざわざ声を掛けずとも乗せるつもりはあったはずのタイタンも、あえて声に出して搭乗準備を整えた事を知らせる。

 タイタンの胴体の前面装甲が上下に大きく割れるように開き、タイタンの手に持ち上げて貰って黒髪少女はその割れた装甲の内にある人一人分ギリギリのシートに身を滑り込ませた。

 

『操縦権をパイロットに移行』

 

 無機質なようで、それでいて僅かに喜びを含んだAIボイス。機材を弄りつつ、黒髪少女は魔導士――なのはの"計測"をこっそり始めていた。

 

 なのはもまた、残り時間が1分を切ろうかと言う事に気づき、少々色々な制限を無視しての広域サーチを行う。

 その結果、探していたカラスはサーチ範囲外の地面ギリギリを飛んでいた事が判明した。鳥だからと上空ばかり気を使っていたため、見つける事が難しかったのだ。そしてついでに言えば、オーグ処置、つまり機械的拡張処置を行われていたため、場所さえ判れば指向性通信で呼び戻せると言う。

 

 これにて一件落着、とため息をつくなのは。

 

「無事見つかってよかったの」

 

「助かった、"魔導士"」

 

「……魔導士、魔導士って、それはわたしの名前じゃないよ。なのは、って名前があるもの」

 

「そう」

 

「むぅ……。 ねえ、あなたの名前も聞いて良い?」

 

「7……」

 

 そこまで口にしてから、ハッと少女は気づく。

 

 今、こいつのペースに呑まれていなかっただろうか?

 

 既に自分を表す記号の一部は口にしてしまっていた。すわ洗脳魔法か、とセルフスキャンをタイタンに行わせるも、ニューロリンクによって脳をスキャンさせた結果は否。

 つまり、素の雰囲気で乗せられた、と言う事に他ならない。少女は戦慄した。しかしすぐに考え直す。

 

 どうせ管理局局員様との関係なんて、すぐになかったことになるのだ、と。

 

「ナナ、って言うの?」

 

「……それでいい」

 

「良い名前だね! あ、それからこっちが相棒のレイジングハート!」

 

『We've got everything at a good start, let's keep it that way.』

 

 ちかちかと明滅する宝珠、レイジングハート。

 しかし少女、ナナはそれに対しても、そう、と答えただけである。が、それでは何となくしつこくくっついてきそうだ、と言う直感もあった。だから。

 

「……パイロット、ナナ。イオン高機能モデルタイタン、識別番号RD-5013、ペットネーム"レイ(RAY)"。 これでいい、なのは?」

 

「うん!」

 

 そうこうやり取りをしているうち、イオンの上にカラスが舞い降りる。一見して普通のワタリガラスであるが、おかえりレイヴン、とナナが声をかけた事で彼が探していたカラスであると解った。

 そして踵を返し、レイヴンを機体に降着させたまま走り去ってゆく。別れの挨拶も無い、慌てた様子だった。

 

 もっとも、それは仕事の時間に間に合わなくなる可能性がある以上当たり前と言えば当たり前だったが。

 

「あ、またねって言い忘れたの……」

 

『Don't worry about it, master. Will be we can meet they again.』

 

「……そう、だね。ありがと、レイジングハート」

 

『It's okay.』

 

 暫し彼女らの大きな後ろ姿を見送るなのは。

 そしてふと、相棒にたずねる。

 

「そういえばレイジングハート、レイさんと話してたみたいだけど、何を話してたの?」

 

 そう、この二機は探索中、頻りに瞬きあっていた。

 何か重要な事でもあったのかもしれない、とは思わず訊ねてみるものの。

 

『It's secret.』

 

「秘密? ……そっか、仲良くなったんだね」

 

『Of course.』

 

「わたしもいつか、ナナちゃんと仲良くなれたらいいなぁ」

 

 既に遥か遠く響く雷鳴のような足音に思いを馳せるも、既にそれは建業の喧噪に紛れて聞こえないのであった。




自称初投稿兄貴と化したライフルマン!
評価がつけば「6時の方向から増援!」とか叫びつつStS編とかも書くそうです。

レイのナンバーが5013ではなく8013になっていたのを修正


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Segment:+- Trial

長さがすーぐ変わる。たまげたなぁ。


N.D.0066 Winter

New superintend world "TYPHON"; Fall prediction point

 

 

 新規管理宙域惑星群"フロンティア"。

 そこは幾つかの希少資源が存在する事と言い訳のような魔法文明の存在によって管理局による管理を強要され、接収された幾つかの惑星によって構築される宙域である。

 

 そして当然、そこにはもとよりあった政府があった。しかしそれらは強制的に解体をされ、今やその求心力と残党が集い合い、フロンティアを防衛する巨大集合体"レジスタンス"として活動をしている。

 無論、彼等にも後援者、そして技術提供を行う存在も幾らかいる。

 

 そうして身を寄せ合った彼等の要求は単純であり、それでいて管理局には認め難いもの。

 

 ――非魔力素質者の護身用武器の携行許可、そしてフロンティア内での自治権。

 

 認め難いからこそ、正攻法では全く相手にもされない。逆に弾圧すら行われた。

 そうなればこそ、もはや抵抗するしか手段はなく。

 

 次元空間に浮かべられた偵察プローブから、管理局の航行船、それも巡洋艦あるいは軽空母クラスが複数迫っている事を彼らは既に知っていた。

 そして航行速度、惑星の自転・公転周期などなどを計算し、降下予測地点に戦力を集結させている。プローブからは既に転進と不干渉宣言を行うよう何度も要求をしているにも拘わらず、戦力を伴っての航行が確認されている――即ち、テロリストとして武力による強制鎮圧を行う為であろう事は想像に難くない、それゆえだ。

 

 多惑星へのタイタン供与を行う"虎大"、そして新機軸の機械文明による多世界商業集団"コーパス"。他幾つもの後援企業によって、"レジスタンス"の戦力は少なからず、非魔導士であっても魔導士に対し拮抗、あるいは封殺しうるものとなっている。

 

 ――もっとも、それらも名目上は"工具"や"事故対策装具"であるのだが。

 

 しかしそれでも、彼等は諦めはしない。諦めるくらいなら立ち上がりはしなかっただろうから。手には武器、頭には冷静さ、心には熱。そしてただ――その尊厳と共に。

 

 そして今現在、"レジスタンス"の武力偵察および機動戦力として編成された斑鳩艦隊、その司令官であり歴戦の猛者にして自身も特型バンガード級タイタン"斑鳩"のパイロットである青年、"森羅"の口下手故に虚勢の無く率直な言葉が集結した兵士達を奮起させていた。

 兵の数は巡洋艦にして4、戦艦1、軽空母が1に相当し、ここ"タイフォン"を落とされればレジスタンスの司令部が存在する惑星"ハーモニー"への直通航路が開いてしまう事から、ほぼ本土防衛に匹敵すると認識されている。

 それゆえ当然、"ジャンプキット"とタイタンを用いて高度な空間戦闘行動が可能なエリートである"パイロット"も、10を超える数が投入されている。これは現状で防衛力を集中させ過ぎず、かつ1度の高速航行で集結できるほぼ全ての数であった。

 

 森羅は口下手である。それゆえ長くかからず、レジスタンスの合言葉である"KEEP YOUR DIGNITY"を口にし、演説は終わってしまった。イオン型とはまた異なる姿のバンガード級のハッチを開き、搭乗する森羅を見送りながら、兵士達は行動を開始する。ただ、それと同時にウワサ話も始めてしまう。

 

「今回は厳しい戦いになりそうだな」

 

「何でだ? この程度の戦力だったら、幾らでも退けて来たじゃないか」

 

「それが、今回は管理局の大型新人の実戦も兼ねてるんだってウワサだぜ。まだ10歳前後にも関わらず、収束型のブレイカーをぶん回す恐ろしい奴だって」

 

「もし本当だとしたら陸戦じゃないな、だからこんなにイージスシステムを強く構築してたのか……」

 

「奴ら、形振り構ってられなくなったのかもな。ま、俺達は俺達の仕事をするだけだ、大物はパイロットに任せるしかない」

 

「ああ、タイタンが居るしな。何とかしてくれるだろ、俺達が生き伸びれるかは知らないけどな!」

 

「全くだ! ハッハッハ!」

 

 そして遅れながらも到着した一人のパイロットは、そのウワサを聞きつけて思わず苦い顔をせざるを得なかった。

 黒髪のその少女はミッドチルダでの出稼ぎから先週戻って、丁度タイタンを再調整させている所だったからだ。――つまり間も無く終わるとは言えタイタン抜きで、パイロットとして戦闘を行わなければならないと言う意味。

 

 ともあれ、戦闘に招集された事は間違いない。

 彼女の作業衣とは異なるフルコンバット用パイロットスーツの肩と片胸には『6-4 PM-745』と刺繍されていた。独自の正義感を持つ傭兵集団6-4(Six Four)からの出向であり、パイロットであり、その745番目。

 

 激戦の予感に身を震わせ、パイロット独特のフルフェイスヘルメットに頭を押し込んだその少女は――先日ナナと名乗った彼女であった。

 

「レイ」

 

『聞こえています、パイロット。戦闘開始予定時刻まで残り15分、私のリビルド完了は恐らく戦闘直前になるでしょう。 ……どうかご武運を』

 

「そっちこそ。会えるのを、待ってるね」

 

 ナナは不安げに、小さな体に不釣り合いな、強いて現代兵器に例えるならばPDWのP90に似たエネルギー・ライトマシンガンを手の感覚だけで確かめる。エネルギーセルよし、ヒートシンクよし、磁場形成ライフリングよし。

 腰の後ろに着けたジャンプキットも、サブアームのネイルガンも、対障壁用チャージレーザーも、空間探査音響パルスブレードシステムも正常。ヘルメット内無線も、戦術ネットワークへの接続も問題無し。

 

 ナナは時間が来るまで、戦場となる事が予測されるこの廃墟群の壁の崩れたビルの片隅に座り込み、繰り返し、繰り返し武器となる"工具"の点検をしながら体を休める。

 ヘルメット内に視界左下に表示され、遅遅としてしか進まないタイタンビルド進行率ゲージに、早く100%になってくれ、と祈りながら。

 

 しかしそれはかなわない祈りであったらしい。まだ予測時刻までのカウントダウンが5分以上残っているにも関わらず、全体へのバースト通信が入ったからだ。

 

『――こちらEcoh-Five-Five防衛部隊! 敵襲!! LTP(Long TransPortation、長距離転送)による奇襲を、ぐわあああ!!』

 

 長距離転送による奇襲。

 それだけを聞いて、ナナは咄嗟に割れた窓越しにパルスブレードを投擲した。緩い放物線を描いて向かいの壁に突き刺さったブレードは探査パルスソナーを三度発信し、既にこの建物が囲まれている事実を示した。

 戦術ネットワークを介して、"レジスタンス"はその位置情報を共有している。囲まれているならば、打って出るだけだ。下階に隠れていたライフルマン――パイロットではない多くの兵士――が飛び出し、めいめいが手にした工具を陸戦魔導士たちに浴びせてゆく。

 

 むろん、工具に非殺傷設定など、無い。エネルギー弾によって体を沸騰させ爆発する者、実体弾によって身体を欠損する者。地上の地獄とは、この事だろう。

 悠長に降伏勧告などしようとしていた管理局の魔導士は、攻撃を受けた時点で防御し反撃する。しかし非殺傷設定かつ魔力量の少ない生温い魔力弾は、須らく"コーパス"の供与した個人用シールド装置によって防がれてしまっていた。

 かと言って殺傷設定にする事は、彼等はするまい。しかしシールド装置にも限度はあり、出力が下がりきってしまえば普通に通用はするのだが、そんな事に気づく筈も無い。

 

 だが、一方で防御魔法は工具をしっかりと受け止める事が出来ていた。フィールドやバリアは然して効果を発揮しないものの、シールド、つまり一方向への防御であればしっかりと受け止め切ってしまう。

 最初こそ一方的な虐殺であったが、30秒もたたない内に膠着してしまった。

 

 とは言え、この狭い範囲だけの事しかナナには解らない。解らないなら、探れば良い。

 パイロットスーツの左の胸ポケットから、ブースト――そうそう乱発できないものの特定の支援を受けるための単機能発信装置――を取り出し、側面のスイッチを押し込む。

 

「レイヴン、探って」

 

 ガァ、と鳴き声がどこからかして、オーグメントの埋め込まれたワタリカラスが広域を高速で飛ぶ。彼に埋め込まれた機械は、短時間ではあるが広域の探査を可能としていた。

 そしてその探査結果は、もちろん戦術ネットワークに共有される。"虎大"の技術は非常に先進的であり、それでいて――能力の高い存在による個人戦をよしとする管理局の方針とは真逆。

 

 ミニオンが潜伏地点を取り囲み、未だ高反応な存在(パイロットや高ランク魔導士)は付近には無し。しかし少し離れた地点で、3体ほど大暴れはしている。間も無くこちらにも来るだろう。

 そうなれば、それより早くこちらが殲滅せざるを得まい。

 

 そう判断したナナは、いや、傭兵PM-745は武器を手にビルの窓から跳び出した。

 ジャンプキットが跳躍と同時に点火、マイクロジェットによる推進力によってひと跳びで2メートル近くの高さを稼ぐそれを使い、対面のビルの壁面を目指す。

 しかし距離が足りない。

 そこでもう一度空中で足を、ジャンプするように動かす。マイクロジェットにエネルギーが再度サージ供給され、まるで空中ジャンプでもしたかのように――いや文字通り空中ジャンプを行って飛距離を稼いだ。

 

 壁面に激突するかと思ったが、空中で姿勢制御を行い、片手と両足を壁面に付ける。姿勢判断からマイクロジェットに継続的なエネルギー供給が行われ、ナナはパイロットの基本動作、ウォールランを行い始める。

 ウォールランは文字通り、短い時間だが壁に張り付いて走る事のできる技術だ。ただ地上を走るよりも速く、更にその状態からマイクロジェットにサージ供給しつつ壁を蹴ってジャンプする事も、また更にそこから空中ジャンプを行う事も可能。

 ウォールランとジャンプ、そしてマイクロジェットを駆動させつつの膝スライディングはパイロットの基本的な機動戦術と言えるだろう。

 

 ウォールランからのジャンプ中に、ナナはスーツのジョイントに取り付けられた害獣駆除用の電気スモークグレネードを、器用にも片手でピンを引き抜いて地上の魔導士に投げつける。

 パンッと乾いた破裂音がすると同時に薄灰色の煙が広がった。それは荷電させられた金属の粉の煙。目の前の敵に集中していた陸戦魔導士たちは急に襲い掛かった電撃を防御する事すら敵わず――バリアジャケットや騎士甲冑の防御も数秒もたない――、痺れながら気絶、あるいは火傷によって戦闘不能に陥った。

 戦術ネットワーク経由で戦闘不能となった敵は、パイロットのヘルメットに戦果(スコア)として計上される。ビルの四方の、その出入り口の敵群を一掃した事により、中から抗戦していた自軍ミニオンも打って出る事ができる。雪崩出た味方を上から見下ろしつつ、ナナは更に上方から敵にエネルギー弾を浴びせて掃討していった。

 

 地上と空中から同時に襲われれば、どちらかはシールド魔法で防ぐ事はできなくなる。そうでなくともより高度を取った方がアドバンテージを得るのは、近代戦闘における常識と言える。

 こう言った理由もあり、航空魔導士を封じる意味でも一定以上の高度はイージスシステムによってIFF識別しながらも封鎖されるのが"レジスタンス"の戦場での常だ。

 

 そのため、平均的な空戦魔導士と平均的なパイロットの戦力比は限定条件下で3対2――つまり計算上で戦力的つり合いが取れるのは空戦2人に対してパイロット3人――と言われている。余談だがタイタンとパイロットであれば5対4となる。

 非限定条件下であれば比べるべくも無い。もっとも、"レジスタンス"は防衛を専らとしているのだから考える必要はあるまいが。

 

「こちらPapa-Mike-Seven-Four-Five(PM-745)。支援の継続は必要か」

 

 バランスは崩れた、と判断する。ゆえにナナは通信越しに地上部隊に問いかけた。

 

『大丈夫だパイロット、ここは何とかする!』

 

「了解。高反応の対応に急行する」

 

『おう! ひと泡吹かせてやってくれ!』

 

「負けたりはしないよ」

 

 会話そのものは短いし、発砲音は魔力弾の飛翔音が紛れ込むが、しかし管理局局員とは異なりそこに怖気や畏怖は存在しない。あるのはただ、勝利を掴もうという強い意志だけだ。

 それはある意味、非殺傷設定と言う甘えが生み出す士気の差でもある。

 

 いつの間にかもうすぐ満タンになるタイタンビルドゲージをちらりと見ると、ナナは最短距離を走り始めた。

 時に壁面を、時に窓を突き破って屋内を、時に地上をちょろちょろする陸戦魔導士にエネルギー弾を浴びせつつ。時に地上へ魔力弾を撃ちおろす低ランクな空戦魔導士を跳躍からの蹴り一発で容赦なく叩き落としつつ。

 一瞬一瞬では止まる事があっても、少しでも早く。一瞬でも早く。たった一つの高反応によって味方が減っている事を戦術ネットワークを介して理解していたから、焦りを抑えながら走る。

 

 ちらりと視界左上のレーダーを見れば、タイタンに乗ったパイロットが別方向から接近していた。

 好都合だ、と思わず笑む。そしてビルの壁から跳んだ一瞬で、わずかに見えた壁の隙間を縫うようにリチャージの完了したパルスブレードを投擲。偶然にもそれはミニオンに当たったらしく、スコアが加算される。

 

 しかし、ソナーの反応がおかしい。

 高反応が1つ、そして疎らなミニオン反応。明らかに数的有利はこちらにあるのに、もうすぐ殲滅されそうな。

 

 つまり、それだけ高反応体は強力と言う事だろう。まさか10も20も同時に誘導弾を精密操作して、カバーを回避して撃ち抜くと言う事はあるまいが。そんな事ができたら、それは人間ではない。

 

 そう推測を建て、戦術をチョイスする。

 少なくとも、カバー主体の歩兵的戦術は無意味。

 広域サーチを使えるなら、今は戦闘に集中していると仮定しても思考の1枠くらいは割いている可能性がある。不意打ちも成功しないものと見て良いだろう。

 防御力も高い。対タイタン用にも用いられる、工具という言い訳すら捨て去った対装甲兵器も辛うじてだが防ぎ切っているようだ。

 しかし高機動を行えるワケでは無さそうだ、少なくとも見ている限りでは地上を走るミニオンよりわずかに早いか、同等程度の機動性。

 

 ならば結論は、ウォールランなどのパルクールを継続して機動戦を仕掛けつつ、電気スモークで視界を遮り、ありったけのエネルギー弾を浴びせる。そしてタイタンの"全出力"を一点集中させ、撃墜。

 

「レイ」

 

『状況を確認しました。ニュークリアイジェクト・キットを選択。準備完了まであとわずかです』

 

「ごめんね」

 

『謝罪する必要はありません、パイロット』

 

 短く、恐らく他の誰かが聞いても解る事の無い会話。しかしそこには確たる勝利への執心と、確信。そして互いへの信頼があった。

 壁越しに位置を認識しつつ、走る。まだ間には壁がある、流石に撃たれる事は――

 

『警告! 高エネルギー反応!』

 

 しかし、それを軽く上回るのが"それ"である。

 

 纏う白いバリアジャケットは、百合の花の如く。

 手に持った杖は、砲の如く。

 撒き散らす桃色の光は、死の如く。

 堂々たる佇まいは、魔王の如く。

 

「ディバイン……バスターっっ!」

 

「ッ!」

 

 警告に反応したのか、それとも詠唱に反応したのか。ナナが壁を蹴り跳んだ直後、そこを一条のと言うには太い、桃色の光線が貫いた。

 間一髪、とはこの事だろう。どこかで聞いた声のような気もしたが、その疑問をナナは息を一つ吐くだけで棄て去る。

 

 現状認識。ただ、タイタンではなく自分が囮になっただけだ、と。

 

 接近してくるタイタンの機影も確認できた。ツートンカラーのローニン級タイタンだ。ペイントされたエンブレムからすると独立調査隊"グレイヴヤード"所属。

 

「デッドライアー、か。心強い」

 

 きっと自分がダメでも、彼ならやってくれる。後詰めがあるのは心強い。

 そう自身を振り絞り、数度のウォールジャンプを挟んでナナは跳び出した。

 

 相対する二人、などと言うドラマチックな光景にはならない。撃破すべき敵の位置が確信出来ている以上、ナナは、パイロットはただ弾丸を浴びせるのみだ。

 一方で魔導士は、なのはは困惑していた。何故躊躇いもなく武器を、殺せる凶器を人に向けられるのか理解できなかったからだ。その一瞬の動揺、気持ちの差が彼女らの初動を大きく分ける事になる。

 

 人間が見てからシールドを貼る、などと言うぬるい弾速ではない。レイジングハートが咄嗟に、それこそ条件反射的に自動でプロテクションを発動しなければ、腕の一本、足の一本では済まなかっただろう。

 本物の殺意、などと言うモノにたかが小学五年生が慣れている事がおかしいのだ。それを戦場に送り出した管理局はもっとおかしいが。

 そのせいで数十発の速射されるエネルギー弾によってなのははプロテクションの維持のために足止めを余儀なくされ、電気スモークを展開する事を許してしまう。

 

 これ以上高度を取れば更なる弾丸の暴風に晒される。ゆえに慌てて高度を下げれば、今度はローニンが機体の高さと同じほどの長さのブロードソードを携え、ショットガンを乱射し威嚇牽制した。

 狙いが甘い訳ではないが、これはプロテクションで防ぎ切りバスターを放つ。

 桃色の光をローニンの貧弱そうな機体を貫くかと思われた瞬間、もはや予見していたとしか思えない速度でブロードソードを横に構え、その腹によって防がれる。

 

 そしてその間隙にナナがミニオンを狩りつくす。ここまでが、ほんの二十数秒のやりとり。

 だがそのミニオン狩りが、それこそが魔王の逆鱗に触れる行為であった。

 

 目の前で、ここにやってくるまでの短い間とは言え言葉を交わした人間が沸騰し破裂する。並の精神であれば吐いてしまいそうなその光景を目の当たりにした魔王は、逆に怒りを感じた。

 それはもっと以前より命をかけるような、それでいてどこか生温い戦いを経験し続けて来たからこその反応。死ねば返らぬ事を心の底から知っているからこその憤怒、怒号。

 

「どうして……どうしてそんな酷い事を簡単にできるの!?」

 

 だが傭兵たちは答えない。応える義理も無い。

 言葉の代わりに向けられるのは、触れれば熱く沸き上がり命を奪う弾丸と、人一人を容易に挽肉に変えてしまうブロードソード。――殺気などと言う無駄なものは表出しない、それすら内に押し込める異様なまでの戦闘慣れ。

 

「全力全開で倒して……お話聞かせて貰うんだからッ!」

 

 更に怒りのボルテージを引き上げたなのはは、先ず大きな障害を取り除こうと決める。大きさの差はそれだけで危険につながり、危険対処を自ずから自然に学んでいた彼女にとって優先順位を決める目安になったからだ。

 デバイスを突きつける。それだけで射線から逃れるためにスラスターを吹かし、横スライドで遮蔽物へ入るローニン。

 

 防御の大部分をレイジングハートに任せ、なのは自身は攻撃に集中する。

 そう言った割り振りを、一瞬で決めたらしい。シューターによる曲芸染みた猛攻撃の最中にちょっかいを出したナナの攻撃は、一瞬だけ展開されたプロテクションによって防がれる事となる。

 

 しかしローニンを駆るデッドライアーは、古強者だ。

 

 そのわずかな硬直で、戦闘用に調整されたタイタンの奥の手――コアを発動させる。

 

『ソードコア、オンライン』

 

 既に保護層が半ば以上削り取られ、機体の背後にある冷却口から火を噴くローニンの、渋く凛々しいAIボイスが響く。

 機体の限界を超えた駆動を開始し、機体全体に過剰なエネルギーが供給され、暴発防止のためにショットガンは使用不能となるもののブロードソードが常時放電現象を起こす程に帯電する。

 

 ソードブロックの精度が上がり、殆どの攻撃は防がれる。それでも攻撃の手は止まらない。

 優しさと生温さで生きて来た魔法少女が、憤怒を知ってしまえば、その瞬間の力と言う物は大きくなる。

 

 それが理不尽に人の命を奪う事に何ら躊躇の無い『悪党』相手ならば、猶更。

 

 一歩も動かないまま、魔力の残量を考えもせず、レイジングハートに全ての攻撃を防がせつつシューターとバスターによって削り取ってゆく。

 タイタン相手に人が真正面から殴り合いを挑む、異様な光景がそこにはあった。

 

 だがそれが戦う上でどんな関係があると言うのか。

 

『済まない、このままでは抑えきれそうにない』

 

 デッドライアーの、古強者と表現できるにも拘らずいつまでも若い姿を現すような、疲れ切った青年の声がナナの耳朶を打つ。

 恐らく彼の専属オペレーターであるトバリに怒られているのだろうな、などと考えつつ、100%になったタイタンビルドゲージを見た瞬間に座標を指定する。

 

「タイタンフォール、申請」

 

 なのはの居る座標に軸を合わせ、上空から線が一本引かれる。

 いや、それが見えるのはパイロットだけだ。ヘルメットの内側に表示される光景に、ARで重ねられているだけ。カウントダウンは5秒から。

 

 ローニンは――デッドライアーは素早く退いてゆく。もう保護層も剥がれきり全身炎上し、シャーシそのものの強度で何とか壊れずに済んでいるだけという危篤状態だったからだ。彼が『死をすら偽る』と呼ばれるのは、ひとえにその引き際の見極めが上手いからに過ぎない。

 それ以前に、フルコンバット許可を持つパイロットと言うのは異様なまでに生存率が低いものでもあるのだが。――免許を取るまでで80%が、一度戦場に立てば90%が"死亡"すると言われている。そう言う意味では、彼のように生き残る嗅覚を持たなければ古強者とはなれないのだろう。

 

 カウントダウンが進行する。残り2秒、という所でレイジングハートが鋭く警告を発した。

 

『Warn! TITAN fall detected!』

 

 警告に弾き飛ばされたかのようになのはが高速移動魔法を使った直後、先まで居た場所に『巨人が空から降ってくる(タイタンフォール)』。

 フォール直後のタイタンは、すぐに行動を開始はしない。いや、一部はさせるパイロットも存在するが、多くは粒子ドームフィールドを展開し、攻撃から保護する。しかし、可視ではあるのだ。

 

『……Enemy TITAN chassis IDNO RD-5013.』

 

「RD-5013、って……えっ!?」

 

 彼女は友達想いであるが、その判断基準は割とわからない。名前を互いに呼べば友達、などとも言う程に友達を欲しがる面もあるのだが。

 

 だがそもそも、ナナもレイもただ"魔導士"としてしか認識していなかった。

 それこそ路傍の石、あるいは花壇の花。いや、それより酷いかも知れない。なぜなら、いずれ敵対する事は解っていたのだから。

 

 動揺するなのはを油断なく監視しつつ、ナナはレイ――イオン高機能モデルタイタンに乗り込む。ドームシールドがある故にその隙を攻撃されても防げただろうが、無くても攻撃されなかっただろう。

 

『無事でよかった、パイロット』

 

「レイ、また会えて嬉しい」

 

 短くも相棒との再会を喜び、しかし今は戦闘中だとスラスターでの前方へのステップイン。何か呼びかけようとするなのはに対して、その40トン超の全重量を叩きつけるようなテレフォンパンチを繰り出した。

 

 ごぎゃん、と重厚な金属同士がぶつかり砕けるような音。それは攻撃失敗を意味する。

 例えベルカの騎士であっても、それが生身の人間である以上タイタンの全重量など受けてしまえば赤い染みになるのが道理と言うモノだ。

 

 なのはの命は事実、風前の灯火と言えなくもなかった。レイジングハートが衝撃を"弱める"ためのプロテクションを貼り、それの破砕された衝撃でなのは自身を突き飛ばしていなければミンチより酷い事にはなっていただろう。

 そしてそのダメージによって、更に覚悟を固める事となった。今目の前に居るのは話の通じる友達ではない、ただ"魔導士"を排除しようとしている"敵"なのだと。

 

 白い魔導士は高度を取る。しかしそれもまた悪手。イオンのサブアームには、超長距離電送用のレーザーショットが一門装備されている。それはチャージに時間を要せず、即時に着弾する代物。

 直感に従って身を翻したすぐ隣を大人の腕ほどの太さの濃い橙色の光線が一瞬だけ通り抜け、空気がオゾン臭を伴った事に冷や汗を禁じ得ない魔導士。

 

 人間の対タイタン戦におけるセオリーは、障害物を最大限利用した"Cat and Mouse"――猫とネズミ、つまり次々に違う場所から顔を出しては一撃当てて逃げるおちょくり戦法。

 しかしそれを知らず、そうでなくてもしようとしないで真正面から当たる魔導士。パイロットは眉一つ動かさず、ただ淡々と追い詰めてゆく。

 レーザーショットと、手持ちのスプリッターライフル。そして地面に設置するトリップワイヤートラップ。たまに放たれる被害の大きそうなダメージは、左手から生じるヴォーテックスシールドでかき消して。

 

 それでも無被弾とはいかない。小さなダメージの蓄積は、気付けば自動回復するシールドと保護層の半分を削り取っていた。

 遠距離戦であれば確実に撃ち勝てると言うのに、なぜ中近距離戦を仕掛けていたのか。パイロットは自省した。故に距離を取る――それは魔導士にとっても願っても無いチャンス。

 

 二人の兵が取った行動は、奇しくも、いや必然として同じであった。

 手札の内での最大火力での、勝利。

 逃げ場はない、隠れる場所も無い。そう言った開けた場所にいつの間にか移っていたが故の必然の選択。

 

 タイタンはあちこちを炎上させつつも、コアに取り付けられた余剰エネルギーの蓄積回路を全段直結。装甲前面そのものを発振器として、"レーザーコア"の発動にかかる。

 それよりわずかに早く、しかしわずかに発動にかかる時間がかかるのは、魔導士の"収束砲"。詠唱を破棄し、威力よりも速度を重視しての発動となる。

 

『レーザーコア、オンライン』

 

「スターライト・ブレイカー!!」

 

 魔力"粒子"の奔流が、レーザー"光線"の束とぶつかる。

 それらは相互に干渉する要素だ。ただし膨れ上がるのではなく、喰らいあい潰し合う類の。

 

 タイタンの腕ほどもあるレーザーが魔力砲を過熱し、その術式を無意味として霧散させる。

 しかしタイタンを丸ごと飲み込むほどの魔力砲は、それを打ち破らんと怒涛の如く押し寄せる。

 

 だが。機械による一定の出力を持ったレーザーと、魔術師のメンタルによって出力の変動する砲撃では、砲撃に軍配が上がった。

 

 せめぎあう間になんとか回復しきった自動回復シールドと、50%を切っていた保護層。そしてシャーシそのものの強度のほぼすべてを、非殺傷設定にも関わらず魔砲は消し飛ばしていた。

 その対価は、継戦によって減少していた体内魔力のほぼ全て。辛うじて浮いている事が限界のなのはは、もはや立っているばかりで全身炎上しているタイタンへとふらふら近づいてゆく。――これでやっと、お話聞いて貰える。と

 

 しかし、そのせいで己を危機へと晒す事となった。タイタンの巨腕が、無駄の多い咄嗟でのシールドもフィールドも貼るほどの余裕が無いなのはを捕らえる。

 

『プロトコル2、プロトコル3を実行』

 

 ピン、ピン、ピン。

 

 微かな電子音が三度。その直後、レイは異様な音を発し始めた。まるで機械が暴走しているかのような。

 その機体が、動力源である"コア"のある内側から光り輝く。清廉で、穢される事の無い白の光。

 

「ッッ、プロテクションパワードっ!」

 

 それを遮るは撃発の音、桃色の星光。それ故に細かい部分は見えない――見る事をしなくなり。

 

 一呼吸の後、ニュークリアキットの名に恥じぬ大爆発へ巻き込まれるのであった。

 




もうちょっとだけ続くんじゃよ。

TITANFALLカウントがうろ覚えでガバかったのでこっそり修正。他色々。


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Epilogue

N.D.0067 Spring

MID-CHILDA ;Administration bureau

 

 管理局の全リソースの大半を割き、その軍事力によって"フロンティア"へと侵攻する計画は頓挫。"フロンティア"を自治区として認めるも、個人護身用質量兵器に関しては交渉。

 

 この日の新聞の一面記事は、概ね――その視点の置き方も含めて――こう言った内容となっていた。

 

 内部情報においては、管理局、"レジスタンス"改め"ミリシア"両陣営の情報のより信頼性の高いモノを統合すると、こうなる。

 

・"ミリシア"損耗率、5%。捕縛、22%

・内訳、タイタン損失9、パイロット捕縛7、ライフルマン捕縛、多数

・巡洋艦損失2、空母損失1

 

・管理局武装隊損耗率、37%。捕縛、1%

・内訳、AAランク以上捕縛3、死亡5。AAランク未満捕縛20、死亡多数

・巡洋艦損失3、空母損失2

 

 一般的に損耗率が40%に達すると、機能停止に陥ると定義されている中でのこの被害は無視が出来ないと言う事だろう。

 

 それゆえ管理局は、テロであるという認識を撤回し、不正な要求を行っていた事を認め、『自らの非を認め侵略をやめた』と言うある種の美談としてその傷を隠す事にしたのだ。

 それそのものもまた別の方向性で治安を悪化させる要因とはなったものの、ただちに影響はない、というやつである。

 

 "フロンティア"は管理局に金銭及び物資を含む戦争賠償金を支払う事を既に公共の場、特にマスメディアに於いて宣言している。形式上は痛み分け、と言う事にしておかないとならないからであり、紛争に質量兵器を用いた――用いるしか無かった――事に対しての声明なども出している。

 

 しかしそれらは民衆に対し、意図的に遮断されていた。

 

 その代りに民衆に対して与えられた情報は、殺害された高位の魔導士について。特にその遺族についてである。

 見え透いた感情操作、世論操作はこれから先、様々な論争を生み出す事だろう。そして各々の思想、理念、そして尊厳を。それらのぶつかり合いを。

 

 しかしその中でもおかしな、と言ってしまえばそれこそおかしいが、そう言った流れに囚われない存在も居た。

 

 白い魔導士。高町なのは。

 

 彼女はあの後、必死の思いで展開したプロテクションにより、魔力欠乏によって戦闘不能になったもののほぼタイタン1機を全快状態から削りきる"ニュークリアイジェクト"の爆発から無事生還していた。

 

 ――それでも撃墜判定は喰らったため一時的に捕虜となり、その過程で様々な"真実"を目の当たりにしたわけだが。

 

 そして彼女は、両陣営の撃破・撃墜、あるいは生還者のリストを精査していたのである。

 リストには知らない名前があり、知っている名前があり、しかし探している名前は無かった。

 

 ナナ、という名前はどちらの名簿にも存在しなかったのである。そしてタイタンはそもそも名簿に載る事すらない。

 

 なのはは何度目になるかもわからないような資料の精査、そのついでの解析を終え、ぐっと背伸びをする。

 

「……ねえ、レイジングハート。 あの時も、レイさんと話をしてたよね。何を話してたの?」

 

 何か、ヒントがあるかもしれない。そう思って、訊ねてみるものの。

 

『It's secret.』

 

 そっか。とだけ相棒の答えに呟く。

 そして生きているかどうかも解らない、まだマトモに話す事すらできていない『友達』の無事を祈るのであった。

 



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S(すごく)t(違う)S(ストライカーズ)編
Chaptar.1 マギ・ガントレット


6時の方向に増援!
パイロットだ、運が向いてきたぞ!

四等ライフルマンです。お待たせしました。

StSのようなモノ編、はっじまっるよー。
いくら頭を捻ってもどうしようもなかった、以下の要素にご注意ください。

・キャラクター改変
・原作レ○プ! 独自と化した展開
・クロスオーバーゆえの設定のねつ造
・一人称か三人称かこれもうわかんねぇ地の文


N.D.75.5

MID-CHILDA ;Task Force 6 Training Area

 

 

 機動六課、と命名された例外的な特殊部隊が設立されてから、既に半月が経過しようとしていた。訓練自体は概ね良好であり、新人魔導師組――ティアナ、スバル、エリオ、キャロの四人は、限界ギリギリを見極めたきわめて効率の良い指導を受ける事ができていた。

 その遠い原因とも言えるのは、機動六課設立時に司令官である八神はやてが受けた指示のひとつであろう。

 

 ――タイタンおよびパイロットの空戦魔導士との連携可否の実証実験、及び魔導師パイロットとタイタンの運用実例の作成を行う事。

 

 つまり、非魔導師の内の2%のエリートの力を目の当たりにする機会があると言う意味である。

 

 この日もまた、そのためにミリシアから派遣されてきた――のではなく、ミリシアの安寧のために依頼を受諾した傭兵集団"6-4(Six-Four)"の一員であるその女は、年若くしてパイロットとなり戦い抜いて来たその能力をいかんなく発揮し、訓練にいそしんでいた。

 ヘルメットに収まるよう、無造作に短く切られた黒髪。どことなく擦れた印象を抱かせる黒瞳の、人によっては藪睨みされていると受け取られそうな目つき。比較的小柄かつ細身ながらも発育は良く、しかしその身体を迷彩柄のコンバットスーツの中に詰め込むように押し込んでいる。

 10年、いやもっと長い時間を戦いと戦いの準備の中で費やした彼女は、"PM-745"と六課の面々には自己紹介していた。ただし、約一名は違和感を感じていたようだが。

 

 訓練、と言っても大したものではない。

 シミュレーターポッドと呼ばれる五感を上書きして仮想現実へとダイブする装置を用い、ほぼ現実と変わらないそこで実弾実包を使っている設定で、予め設定されたコースをより早く走り抜ける、パイロットたちの間では"ガントレット"と呼ばれる一般的なモノだ。

 ただし、ただ走るだけではない。そこにはパイロットとしての機動と、そして射撃、状況判断など多くの要素が集積されている。

 途中に設置された歩兵を模したホロターゲットにダメージを与えないと、それだけでゴール時にその数に応じてタイムが加算される――つまりより良いタイムを出すためには、より素早い動きを継続しつつ止まらず正確に標的を攻撃する技能が要求されるのだ。

 

 平均的なパイロットのタイムと言うのは、彼女が行っているコースであれば1分少し。

 そして彼女が先ほど叩き出したタイムは、その半分以下の29秒55。

 

 ミリシア内で共有されるガントレットのタイム一覧のトップ10をスタート地点兼ゴール地点に表示させ、ナナはヘルメットの中で溜息を一つついた。

 ふと、仮想空間内に響く足音に彼女は振り向く。

 

「またやってたんですね、毎日よく飽きないと言うか」

 

 これまたパイロットヘルメットに隠れているものの、そこに居るのはナナより半回りほど年下の少女であった。改造したと思しき管理局制服に包まれたカラダは、よく鍛えられているにも関わらず女性的アピールを強く持っている。

 

 新たに仮想空間に入って来た彼女は、スバル・ナカジマであるとHUDには表示されていた。

 

「死にたくなければ鍛え続けなければならない、諦めた時が死ぬ時」

 

「死ぬ時、は言い過ぎだけど解らなくもないですねー」

 

 ナナは彼女と、そして彼女のバディであるティアナ・ランスターとはそれなりに接している。と言うのも彼女らは空中に足場を作りだす事での限定空戦を得意とするコンビであり、その用いる手法――空中に"とぎれとぎれの"足場と壁に見立てた障壁を発生させる――はそのままパイロットをより戦術的かつ限定空戦に拡張して運用可能なものであり、また一年以上前からパイロットの卵として見出しており、ゆえにナナが機動六課に居る理由を果たすために関わらなければならなかったからだ。

 

 とは言えだからと言って、本来ならシミュポッドを使わせる理由にはならない。少なくとも、それだけだったら使わせる気も無かった。

 ナナが持ち込んだ"私物"を使わせる気になったのは、彼女らが見せた才能の片鱗を伸ばすべきだと判断したからである。魔導師としてのそれでもあるが、魔導にのみ頼らないが魔導も組み込めるというスタンスは次世代のパイロットとして非常に大きいと考えたのだ。

 

 それゆえシミュポッドをわざわざ局外のメカニックに弄らせ、機能を一部拡張してまで参加させた。

 本来、五感のうち味覚はシミュポッドでの訓練には必要無い。

 その代わりに組み込んだのが、"魔力覚"とでも言うべきものだ――これを組み込んでないシミュポッドで大人組は盛大に一度吐いていた事で必須だと判明した。尊い犠牲となったなのは、フェイト、はやての三人組に合掌。

 

「ナナさん、もう上位3位には食い込んでるじゃないですか。まだやるんです?」

 

「感覚的にはあと0.3秒も縮められるから。……けど、先にどうぞ。デバイス、魔法無し。目標タイムは1分を切る事」

 

「うへぇ、きっつ」

 

 冗談めかして言いながらも、スバルからはやる気が溢れているのをナナは感じ取った。

 

 軽くストレッチしてから一気にトップスピードに乗るスバルをナナは見守る。

 ジャンプキットの加速特性もある程度把握している事だし、最初のように律儀に階段を走って2分以上かかる事はあるまい。そう思える程度には色々詰め込んでいたから、現段階での成果を見ようとしたのだ。

 

 空戦可能な魔導師にジャンプキットなど必要無い、と多くの魔導師は言うだろう。しかし飛行や浮遊、あるいは足場を作る事に使う魔力を温存できるのだからそうではない、と言うのがナナの――そしてそれを解説された機動六課の大半の見解となっていた。

 年少組のキャロとエリオには流石にまだジャンプキットに触らせていないが、他は概ねシミュポッドを使って一度以上は触れている。その中でも特に適応し、そしてパイロットとしての芽も見せ始めているのがスバルだというだけで。

 

 そしてこのガントレットは、魔力運用が不可能な状態をある程度想定している。もちろん魔力運用が可能な状態用のものもあるが、それは高町教導官が使う事だろうし、教える事だろう。なのでナナはそちらには触れない。

 それゆえシミュレーション、あるいは仮想世界とは言え、使っているのは本物の"質量兵器"である。

 特に管理局法の行き届いた魔法文明に浸かり続けた魔導師たちは、これには強い忌避感を示していた。しかしナナはこう反論したのだ。

 

 ――デバイスも質量兵器も本質的には変わらない。使い道の広さが違うだけで、心持ち一つで人を殺せるんだから。

 

 さらに言えば、10年近い年月は管理局法にも一部メスを入れるに至っていた。

 "マスアーム・フルコンバット・ライセンス"――つまり質量兵器による完全任意戦闘の許可免許、と言う物がごく限定的に認められ得るようになったのだ。もっとも、戦闘に用いる武器は全て登録が義務付けられ、その所在まで魔法的・記録的に監視されている。

 とは言えミリシア側に便宜上位置するナナは、全ての装備を登録した訳では無い。監視されるための装備をわざわざ用意しなおしてから来たので、仕事上がりにはそれらは適当に処分する事になるだろう。

 

 ともあれそう言った理由もあり、若くそしてそこそこ柔軟な思考のできるスバル、そして理屈で色々考えた結果訓練しないよりした方が良いと理解できるティアナは忌避感こそありつつも仮想空間では実銃を使う事ができるようになっていた。

 

 つらつらと色々ナナが考えている内にスバルは戻って来ていたらしく、セイフティをかけなおしたEVA-8ドラムマガジン・ショットガンを片手で肩に担ぎ、もう片方の手を腰に当ててヘルメット越しにもわかるような見事なドヤ顔をしていた。

 

「タイムは?」

 

「58秒24。ふふん」

 

「そう。 ……なら、次に行ってもいいね。それとももう1週する?」

 

「いえ、次に興味があるので! 是非! おねがいします!」

 

 まるで子供のように、やや食い気味に返事をするスバル。ナナはその剣幕に、少しだけ微笑まし気になった。

 それと同時に――パイロット式の訓練が混じった事で、少なからず全員の性格が元から変わったような気もしていたが。まあ、悪くはなっていないだろう。

 

「わかったわ。でも、まず広い場所が必要ね。シミュレーションの設定を変えないと」

 

 そう言ってナナは、ウェアラブルパッドを弄る。

 

 次の瞬間、二人はどこまでも広がる草原に立っていた。

 そしてその視線の先で、鋼鉄の巨人が立ち上がる。だがその巨人は"イオン"ではなく、むしろ"モナーク"と似通っていた。

 

「多装備即時換装の可能な高性能高機能モデル。通称、"バンガード(前線)"級よ。 データコアは昔なじみのレイ、……RD-5013だけれど」

 

「バンガード級……って、ミリシアの虎の子じゃないですか!?」

 

 通常、戦場に持ち込むのはバンガード級ではなくモナーク級である。

 その理由は主に、コストだ。バンガード級は多くの装備ロードアウトを切り替えて使用できる一方、それらを揃えるために実質的にタイタン8機分以上のコストが必要となる。それゆえ損失が予見されるか、あるいは失敗が許されない状況以外ではバンガード級の下位に位置づけられるモナーク級のシャーシが持ち出される、と言う訳だ。

 あるいは、単に重機として用いるなら戦闘用に調整されていない中量級アトラス、重量級オーガ、軽量級ストライダーのいずれかで十分と言うのもある。

 

 驚くスバルを余所目に、ナナは解説を続ける。

 

「パイロットはタイタンと信頼しあってこそ初めて全力を出せる。そしてタイタンが最初から領域に居るのは、危険な事よ」

 

「あぁ。保護層補助用のカートリッジ・バッテリーは上面にあるから、乗られると抜かれるって言ってたっけ」

 

「そう。だからある程度掃討が済んでから、装備や調整も万全にしたタイタンを高軌道あるいは安全域からから突入殻に入れて射出、領域に送り込むの。 これを『タイタンフォール』と言う」

 

 もっとも、稀にタイタン同士での総力戦もあるのだけど。と補則するナナ。

 そう言った状況はあまり発生するものではないと言う事を言外に含ませているのだが、スバルはただ、かっこいい!と目を輝かせる程度であった。これがティアナなら色々考察もするのだろうが。

 

「だから、タイタンフォールのやり方を覚えて」

 

「やり方? 自動で送ってくれるんじゃ……」

 

「タイタンフォールは繊細かつ慎重に行わないといけない。そのためには大まかにしか把握できない遠距離での広域監視を基にするより、戦場に居るパイロットの判断に委ねる方が正確」

 

「……あぁー、何となく解る気はします」

 

 何となくでも解るならいい、とナナは頷いた。

 もっとも、レイはその会話をある程度聞いていたのか、人間臭く肩をすくめる動作などして見せていたが。

 

「やり方は簡単よ。敵が近くに居ない事を確認して、ヘルメットの視点の中心にフォール申請する座標を捉えて、PDAで申請。 申請を受けると軌道上の専用人工衛星から、高速でタイタンが撃ち出される」

 

「撃ち出す、って。なんだか壊れそう」

 

「そこは大丈夫。大気圏突入さえ何とかなれば、タイタンは割と高い所からでも着地できる。 やってみて」

 

「え、えっと。 はい!」

 

 恐らくまだパイロットでもないし、魔導師なのに。と考えたのだろうな、とナナは始終微笑ましく感じていた。

 魔導師は敵、というのはナナ自身の価値観ではない。雇い主と、状況からそう振る舞っていただけだ。そして新たなパイロットとなるなら、既に激戦による疲労や怪我などから幾度かの"再生"を経験したナナにとっては、手塩にかけて育てる価値もあると言うものだ。

 

 申請を正しく行えたのか、上空から轟くような飛翔音が聞こえてくる。

 

「上を見ろ、アナタのタイタンがくる」

 

「お、おぉー……!」

 

 上空から落ちてくるタイタンのシャーシ番号は、FS-1041。本来ならば別の所で使用されるはずであった番号を受け継いだ、"曰く付き"のシャーシである。

 ある程度の高度で突入殻は自らを排するために爆発、タイタンにかかる加速度を殺して。未だデータコアは挿入されていないものの、シャーシだけでもタイタンは見事な着地を決めて見せた。

 

「ここまでで訓練は五合目をちょっと過ぎたくらい。ここから先はタイタンの運用と、特性を学ぶ事になる。 けど……」

 

「けど何ですか? はやくやりましょうよっ!」

 

「わかった。ただし、教導官とバディにはしっかり自分で説明して」

 

「はい!」

 

 だがここで焦ったのは、どちらにとっても痛手となる事をスバルだけが予期していなかった。

 

 近接魔導師として育てたい高町教導官と、パイロットとして育てたいナナ。

 同時進行で、しかもパイロットとしての技能の方が早く身についてしまうとなれば、その分の時間を魔導師としての鍛錬に割り当ててほしくなるのは当たり前であり――しかしタイタン搭乗訓練はそれなり以上に時間がかかる。

 

 タイタンの基本的な動かし方だけをレクチャーした所でこの日のシミュポット訓練はお開きとなり、二人そろって何人かからお説教を受ける事になったのだった。



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Chaptar.2 血と錆び、そしてニンジャ

ドーモ、四等ライフルマンです。

読者のTENNOの皆さま、お待たせしました。ようやっと本格的にクロスオーバーが始まりますよ! 今頃トカ遅スギルゾコノヤロウ。

本編中で"彼"が何がしたかったのかよくわからねぇと言う場合は、LOTUSの思考をちょっとなぞってみると解ってくる可能性もあるんじゃあないかなぁーと。


N.D.75.5

MID-CHILDA ;High speed Railway Area

 

 

 動体硬目標をサイトに入れる、ロックを待つ、リリース。追尾ロケットが飛ぶ、命中。

 それだけの繰り返しで、非魔法重攻撃に対する耐性を一切考えられていなかったであろう機械は赤い華となって散ってゆく。

 

「エクスペディション・ロードアウトだと、まるで鴨撃ちね」

 

『作戦行動が楽な事は良い事です、パイロット』

 

 しかし、友軍の支援、と言う言葉は口に出さない。そこまで気を回してしまえば、それは逆に現場に出ている少女達(約一名は少年)の成長を阻害する事になると言う事を言い含められ、理解していたからだ。

 今、タイタンとパイロットに求められているのは、どこから湧いてくるかもわからないほどの数のドローンの後続及び高危険度標的に対する対処である。そのため、護衛対象となっている列車が高速で走っている事もあって、彼女らは随伴するように飛ぶミリシア製タイタン用無人輸送艇の側弦を開き、ほぼ誘導固定砲台と化して作業を熟していた。

 

 しかし、それはあくまでも咄嗟に飛んで行く事のできない、パイロットとタイタンという組み合わせだからこそでしかない。

 

 列車の外を如何にかする高位空戦魔導師は二人とも、AMF(アンチ・マギリング・フィールド)と呼ばれるある種の魔法無効化フィールドに苦戦させられていた。そも空を飛ぶだけでも魔力を使うのだから、こういった時に魔導師は非情に苦戦させられる。

 それゆえ、かく乱しつつ誘導、固定砲台と化したレイとナナが非魔法攻撃で撃破という流れになっているのだ。

 

 そして列車の中では、また違った阿鼻叫喚となっていた。無論、列車内にもドローンは入り込んでおり――幸いと言うべきか無人化された貨物列車であったため人的被害は無い――それの対処に思った以上に苦戦していたのである。

 パイロット訓練をそれなり以上に熟したスバル、それなりに熟したティアナは、魔力を無駄にしない方針で動く事ができていたために疲労以外はさしたる被害も無く順調に何とかなっていた、はずだったのだが。

 

『あれ? この列車って、無人化されてたんじゃ……』

 

『違うわスバル、コイツ、侵入者よ。変なバリアジャケットで、顔まで見えないなんて、あからさまにおかしい』

 

 通信から漏れ聞こえる情報からすると、何やら第三者が入り込んできていたようだ。作業と化している鴨撃ちは片手間でもできるが、逃げつつ誘導、あるいは撃破と言うシビアな戦闘を強いられている執務官と教導官は、思った以上の攻勢にやや押され気味であるとナナは判断した。

 デバイス越しに通信・念話変換装置で声をかける事にする。デバイスで直接接触の秘匿性の高い念話に変換するよう予定されていたので、聞かれる心配もあるまい。

 

「その侵入者の映像をこっちにも。あと、ロングアーチにも一応回して」

 

 了解の返事も無く、二つの視点からの映像がタイタンのメインモニターの左右に表示される。

 

 それは異様であった。

 

 まるで何か鋭いモノで切り裂かれたような、鋭利な断面を見せるガジェットの山。

 そしてその中央にたたずむ、白いヒトガタ。ヒトガタ、としか表現のしようがない。

 

 なめらかでありながら、あからさまにヒトが着ている事を示す特有の厚みのある、金属質なのに生物的な表皮。のっぺりとした、目も耳も鼻も口も無い、仮面のような顔面。しかしその額上部には、まるで途中で折れた角を思わせる突起が一本上向きに生えている。

 手には今やアームドデバイスですら使われる事の稀な、弓。両太腿には何かを収めておくポーチと、そして背中には曲刀なのか和刀なのか判断のつかない鍔の無い刀剣が一振り。しかし弓を持っていない手には、まるでエネルギーそのものが形を取ったかのような白く清廉な輝きを持った刀剣が収まっている。

 

 それ――恐らく、彼、は唐突に出くわした予想外の相手に多少の警戒心を持っているようだったが、唐突に弓を肩にかけて背負い、手の中の光の刀剣を鞘に納めるようなモーションで消す。映像の視点が少しブレた事から、身構えたのがわかった。

 

 だが。彼の取った行動は予想外であった。

 両手の掌を胸の前で合わせ、そのまま腰を深く折る。――お辞儀をしたのだ。

 

 アイサツはとてもだいじ。古事記にもそう書かれている。もっとも、イクサの前のアイサツでは無さそうで、ポカンとしている二人を見届けるとそのまま武器を手に取りなおし、背を向けて走り出してしまったのだが。

 ナナですら一瞬呆気にとられたが、すぐに思考が切り替わる。

 

「ソイツにドローンを取られると、拙い! 横取りされたら部隊の評価につながる、追って!」

 

『ッ! 了解!』

 

 その一言だけである程度察する事ができたのは、当然のようにティアナの方だった。スバルは若干理解しそこねているようだったが、それでも数瞬の後に納得したようであった。

 なおキャロとエリオには特に何を言うでも無い。それは保護監督責任者でもある執務官と、教育を一手に引き受けているであろう教導官の仕事だと考えていたからだ。――逆説、スバルとティアナにはナナはある程度の責任を持つつもりでいた。才能あるパイロット候補は、特に魔導文明の出の彼女達は非常に貴重なのだ。

 

 しかし、アレは一体何なのだろう。バリアジャケットと言うには異様で、かといってああいう生物と言うには異形で、いずれにせよここに居る事に誰も気付かなかったのが異常。

 追いついた先でドローンを弓矢と腰ポーチのクナイの投擲で射抜き、背負った実体刀と手の内から生やす光剣で切りすてる姿は見るだけでも魔導師と言うには遠い事が見て取れた。ジャンプキットも無しにそれを凌駕する跳躍力や機動力を見せる事も合わせれば、更にどちらでもないと予測はつく。

 

 それどころか、手にした光剣を掲げれば周囲のガジェットが怯み、地面に突き立てれば見えない矢の雨が百舌の早贄よろしく射貫く。横振りに振りかぶれば恐ろしい勢いでダッシュしながらすれ違いざまに斬り捨てるその有り様は、アメリカンコミック(ミッドチルダコミックか?)のカートゥーン・ヒーローがそのまま出て来たと言われても納得できるものだ。

 

「ティアナ候補生。魔力計測を」

 

『してます、けど……魔力が感知できません、むしろ逆です。 虚数空間のエネルギー特性が検出されてます!』

 

「虚数空間……VOIDの事? じゃあアレは、コーパス関連……?」

 

 通信越しに聞こえないよう呟く。

 ミリシアに前大侵攻時から技術販売を行っている企業体の一つである"コーパス"は、全てではないがその一部にVOID――虚数空間のエネルギーを用いているとは聞いた事があった。しかし。

 

『パイロット。映像越しではありますが、アレからはコーパスの構造特性は検出されません』

 

「でも近しい何かはあるはず。……帰ったら問い合わせてみよう」

 

『了解。レポートを作成、送信準備』

 

 こんな会話をする内にも事態は進んでゆく。大物をスバルとティアナに譲りつつ、小物の掃除をして、しかしそれでも二人を引き離すように高速で駆け抜けてゆく白い彼。

 列車の外は大よその戦力が片付いており、事態の収拾も間も無くつくかと思われた。しかし事が起きるのは唐突であった。

 

 ほんの少し鴨撃ちに集中した隙に、通信越しに小さな悲鳴が二つ。すわ何事かと思ってみやれば、二つの視点はどちらも足元に刺さった一本ずつの矢を見ており――そして視線が上がった時には既に白い彼は扉を潜り抜けてその先に進んでしまったのか、先頭車両へ続く扉が閉まる所。

 半自動のはずのそれを、どうやったのかご丁寧にロックダウンまでして何かしているようであった。六課の面々に冷や汗が出る。このまま、列車が暴走したまま進んでしまえば、それほど多くの時間もかからず――首都のメイン交通インフラに大きな被害が出てしまう。

 むろん、積み荷の中には奪われてはならない"レリック"と呼ばれるロストロギアなども存在し、それがどうにかなっている事も危険ではあるのだが。ドローンは丁寧に潰しているし、白い彼も何故か先頭車両に籠ってしまったので、奪われる可能性は低い。

 

 そう、考えていた。

 

 しかし焦る六課の面々とは真逆に、列車は異常化していたデータストリームを"一瞬で"正常化させ、通常運行に戻ったのだ。そしてその数秒後には列車の窓をブチ破って落ちてゆく白い彼と、それを超低空の物陰から上昇しつつ拾い上げるカブトガニのような形の小型の"船"。

 むろん、停止勧告は出すもののそれは見事に無視され、船はあきらかに人が乗る事を考慮しない速度で加速しつつ宇宙にまで昇って行き、そこで反応を見失う事となった。

 

 ――異常があったのはそこまでで、そこからはいたって簡単なお仕事であった。

 

 正常化した事で遠隔操作も可能となった列車を退避路線へ引き込み、内部の検分を総出で行う。無論、重機であるタイタンとそのパイロットも引っ張り出された――着陸させるのを面倒がって無人運送艇からタイタンで跳び下りたのには魔導文明側が皆して驚いていたが。

 

 貨物の中には、RD-5013とFS-1041のためのパーツも幾らか存在している。ナナが特に重視したのはこれらだった。魔導師達はレリックを重視していたようだが、惑星が滅びる程度の遺産などナナの産まれたフロンティアでは割とそこらへんに転がっているモノであり、さほど危険性も感じなかったというのもある。

 そしてついでに言えば傭兵という職業柄、そう言った危険物は正規の部隊に任せた方が問題が少ない事も知っていたので、ナナは通常の貨物のスキャンと確認にいそしむのであった。




ちなみにスバルは"ウィングロード"が"フローティングウォール"になってしまっている影響で、まだマッハキャリバーを受領してません。ティアナはクロスミラージュを受領してますが。
その辺りはもうちょい先で何とかなってくる、はず。

あとナナの産まれた場所とかについてはちょっと小話を書こうかと考えてます。
10歳でフルコンバット・タイタンパイロットとか異様ですもんね。


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Outer Tips.1 七番目の夢

書こうと思ったら割とすんなり書けたので初投稿です。

ご都合主義? 知らんな。


N.D.64.2

FRONTIAR Planet"Garland" ;Slum area

 

 

 遠く"遺物"達と"人でなし"達、そして"人でなし"達に加勢する"パイロット"と"タイタン"達が撃ちあう音が響く。

 いや、遠くなどはない。それは窓から少し見れば、飛び交う弾(BULLET)や弾(AMMO)が肉眼でも見えるほどだ。それ故に既にスラムに住まう危険に敏感な存在は動けないか動かないほんの少数を見捨てて、今日の食事をたかるためにも既に"人でなし"達の本陣に押し寄せていた。

 

 フロンティアの惑星には、いくつもの先史文明が存在する。その多くは自滅あるいは滅亡の徒を辿っており、そしてここ"ガーランド"にはその文明が遺した"遺産"が幾つも遺っていた。

 もっとも、人々は先史文明のせいで過酷となったガーランドの環境を生き伸びるため、あるいは単に楽をするため、そう言った遺産の中でも比較的に理解できる――安全でもなければ制御可能でもない――ものの周囲に集落を作って生活している。

 

 そして多くの理解不能な遺産の周囲にも、スラム街は形成される。

 

 そう言った理解不能な――それ故に猶更危険で予測もつかない――遺産には、"グレイヴヤード"が調査に入る事も多々あった。そしてここ最近はフロンティア全域で協働している、パイロットやタイタン達もだ。

 そのせいで激しい戦闘があちこちで起こり、スラムの住民は往々にしてその努力で作り上げたみすぼらしくも立派な住処を追われる事となる。

 

 "遺物"はただ祈る事だけに特化した、血と肉と精神を辞め瀝青と鉄と石に成り果てたモノと言われている。

 対して、"人でなし"はまるで対となるような、人の形を保ったまま命を7つに切り分け、死を遠ざけた存在とも。

 

 両者に共通するのは何れも己の持つ概念的な引力によって惹かれ集った"微かな存在"を操り、飛べるはずも無く飛び、持ち運べるべくもない量の弾(BULLET)を撃ち、そうして争い合う事である。

 

 もっとも。

 そんな事はこのスラム産まれの両親を知らぬ黒髪黒瞳の、襤褸を纏った少女には一切関係無かった。

 

 ただ、少女はぬくもりが欲しかった。それは他者から与えられる物でも良く、あるいは自身から流れ出る血でも良い。そう感じてしまっていたからこそ、激戦区と化したスラムのド真ん中で、いつ崩れるかも知れないあばら家の中でただ空を見上げていた。

 空を飛ぶ者たちが放つ"微かな存在"の残滓は、彼等の魂に染まる。その染まった輝きは、きらきらと空を彩り、ただ見るだけでも不思議と見るモノの心に与えるモノがあったからだ。

 そして与えられるモノは、少女の場合はぬくもりであった。故に、逃げようとも思わず、ただただ空を見上げている。

 

 ロクに食事も得られず、既に9つの齢を数えようとしていたのにあからさまに小柄でやせ細っていて、それでいて不思議と身体能力の低くない――高く無ければ死んでいた、スラムはそういう場所だ――彼女は、ただただ、見入っていたのだ。

 

 ふと、空の輝きが幾つかこちらに向かってきている事に少女は気づいた。惹かれるように手を伸ばす。もうすぐ。もう少しで、届く。

 そう思って笑った瞬間"遺物"は弾(BULLET)と弾(AMMO)を撃ち、しかしそれでも逃げようとしなかった彼女を護るように、すぐ近くの物陰からタイタンが滑り込む。

 

 ――"微かな存在"を操るモノたちは言う。引力とは、運命の力であると。そしてこれも恐らく、運命だったのだ。

 

 そのタイタン、イオン級の扱う防御装備であるヴォーテックスシールドは、エネルギー弾であればかき消し、物理弾であれば捕らえて跳ね返す事もできるものだ。しかし弾(BULLET)を構築するモノ――"微かな存在"はどちらでもあって、どちらでも無い。

 それゆえ一瞬でオーバーロードを引き起こし、それだけでなく高活性化したそれは乗り手の魂をも汚染してしまっていた。"遺物"はそのまま暫し浮遊していたが、タイタンが動かなくなった事を認めるとどこかへ行ってしまった。

 

 ただ少女は茫然と見ているしかなかった。美しく温かいと感じていた存在が、如何に危険であったかを理解してしまったからだ。そしてタイタンに人が乗っているとも知っていたから、そう、ただほんの少しだけ見返りを期待して、助けようと打算を働かせた。

 窓枠をヒョイと跳び越えて、タイタンによじ登る。どこにコクピットがあるかはわからなかったが、どこかに開けられる場所はあるはずだ。

 

『警告。タイタンへよじ登る事は危険です。 ――現パイロットが発狂、自我を永久喪失と認定。再起不能。緊急手順I-014に従い、直近の人間を精査。臨時パイロットに任命します』

 

「……」

 

『付近にパイロット及びライフルマン無し、未成年の民間人1を検知。 ……民間人、申し訳ありませんが手伝っていただけませんか』

 

「……なにを、すれば?」

 

 タイタンと言うのは重機である。子供の手を借りる事など、そう無いと思うのだが。

 少女はそう考えていた。しかし、それは違っている。すくなくともこの場では違う。

 

『元パイロットが発狂による脳死となり、降ろさなければ動く事もできません。 作戦行動中に深度の発狂、あるいは事実死となったパイロットはプロトコル3・パイロットを保護の対象からは外されます。 コクピットを開くので、元パイロットを下ろすのを手伝ってください』

 

 本来、タイタンと言うのはパイロットを何よりも大切にする物である。しかし今ここではそれは例外となっていた。

 偶然にもイオンに乗っていたパイロットは魂の容量が小さく、オーバーロードを引き起こした。それにより自我が喪われ、パイロットとしての機能を失った事で、タイタンはサブルーチンとして組み込まれていた緊急手順に移行。

 直近のライフルマン、あるいはそれに近い人間に避難を手伝って貰おうとして――誰もいなかったために少女にそれを頼む事となったのだ。タイタン単機でも移動自体はできるが、より確実性を増すためには臨時であってもパイロットが必要なのだ。

 

 そして何より、発狂などをする事があれば直近の人間を臨時パイロットに任命しろ、とふざけ半分で前パイロットがイオンに話していた事もあった。

 

 そういった理由で、少女はタイタンのコクピット内部でコンソールに指が食い込むほどにしがみついたまま死んでいる前パイロットを引きずり出し、AIからの指示を上手く出せないイオンにニューラル・リンクを行い、臨時パイロットとなる事になったのだ。

 

 その後、幾度も彼女らは"遺物"に襲われる事となる。

 イオンはその度に逃げる事を推奨し、しかし全機能を少女に預けなければならなかったため、少女はそれらを直感的に迎撃してしまった。――大型に分類される"遺物"すらだ。

 

 そう言った経歴があり、前パイロットよりも戦闘効率評価が上がってしまった少女はイオンにパイロットとして指名され、前パイロットが所属していた6-4で"傭兵番号745"と言う名を与えられる事となった。

 元々身体能力も高く頭も悪い訳では無かった彼女は、わずか1年と言う"狂気に呑まれた"かのような驚異的な速度で正式なパイロットとなる事になる。その理由は――タイタンとのつながりに、あたたかさを感じてしまっていたからに他ならない。

 

 かくして少女は745となった。そしてイオンはレイとなった。

 

 ――まるで全てが予定調和、初めからそうなる事が定められていたかのように。




実際、後付だから深く考えてはいけない。
世の魔法少女が何で魔法少女になれるのか、淫夢ネタはなぜ不意にやってくるのか、ってくらい触れちゃあならないんだ。


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Chaptar.3 Once Awake. パイロット、スバル・ナカジマ

チャプ3一丁、ヘイお待ちィ!

そろそろ原作を蹂躙してイきますよーイくイく……ヌッ!



N.D.75.5

MID-CHILDA ;Task Force 6 Office

 

 

『レポートは読ませて貰った、パイロット。我々はアレを知っている』

 

 甚だしいコーパス訛り、いやジャイヴトーク寄りの発声で通信がナナの耳朶を叩く。VOID通信の先はコーパス・フロンティア支社となっている巡洋艦、クレジット・ゲームスの外商担当だ。

 独特の縦長い、ビルを思わせる帽子だかヘルメットだかよくわからないモノを被り、化学繊維の防護服を深く着込んだコーパス社員は幾ばくか――生粋の商人となるよう教育されている彼等には珍しい――機嫌悪そうな声で話す。

 

『アレは夢幻の類だ。少なくとも我々はそう認識していた……十年かそこら前まではな』

 

「……それで? そう言うって事は、既にコーパスの商品には」

 

『違う。一時期はアレ、WARFRAMEも商品にしようとはしていた。しかしTENNOの絆は強く、……ああ、これ以上は話せないな。タダでは、だが。ハハハ』

 

 コーパスは生粋の商人であり、それ以上に金、特に次元世界にも最近流通し始めた先史時代の一般的な通貨である"クレジット"をもはや信奉していると言っても良い。大多数はどのような些細なモノでも、それがより大きなクレジットになると感じたならば気前よく渡すが、逆にクレジットにならないと感じたならば支払いを要求するのが常だ。

 ナナももちろんその事を知っていたが、クレジットの手持ちはわずかだった。彼女への管理局、ひいては六課からの支払いはクレジットではなく、管理局の通貨によるものだったからだ。

 

「管理局機動六課に請求して。この件は司令官にも許可を取ってるから、公費で落ちるはず」

 

『ああ、ああ、なるほど、お役所お得意の口約束ね。払えないなんて言い訳は聞かないぞ。はず、なんて曖昧な言葉で騙されるほど我々コーパスは甘くない、目の前にクレジットを積まれるまでは話す事も無い』

 

「……もうすぐ大規模なロストロギアのオークションがあるから、それに入れるよう口利きしてみると言っても?」

 

『ロストロギア? ……先史文明、オロキン! いいだろう、そこまでしていただけるのでしたら信用いたしましょう。ヘヘヘ』

 

 コーパスはクレジットと共に、先史文明、特にオロキンと呼ばれるVOIDに漂うある種のそれの遺産を信奉している。それらを手に入れるチャンスとなれば、それなり以上にクレジットを手放す価値も感じているのだ。

 むろん、オロキン・アーティファクトがオークションに出てくる保証などないし、ただの一傭兵の口利きなどあってないようなものだ。しかしこの通信は六課の公式回線を一部使用しており、その事もあってはやとちり気味にあちらは確約されたものと思い込んだようだ。

 

 むろん、いちいち訂正する必要も無ければ、してやる義理もない。

 

『WARFRAMEとTENNOについての情報でしたね、500万クレジットほど請求させていただきますがよろしいですか?』

 

 なお入手しやすいが弱いと評判の装備一式ですら4万5千クレジット。つまり概ね100人分のフル装備に匹敵する価値となる。もっとも、質量兵器である以上管理世界ではさしたる価値を持たない装備たちであるし、未だに管理世界では一般通貨は管理局貨幣なので数値そのものに意味はないとも言える。

 

「400万」

 

『480万』

 

「430万」

 

『ふぅーむ。……まあ、仕方ないでしょう。お役所にも予算は限りがありますからな。450万』

 

「……通しておく」

 

『毎度ありがとうございます。ヘヘ、ヘヘヘ……』

 

 守銭奴め、とつい言いそうにさせられるゴマすり笑いを見て、それでも何とかぐっと飲み込むナナ。

 手元のコンソールで必要経費として計上したところ、まだクレジットを通貨として認めきることのできない管理局ゆえのガバ査定によって即座に通ってしまう。そして通った事を証明する電子文書を送信すると、文字通り初めから用意していたかのようにコーパス側からもデータが送信されてきた――ただしコーパス側のプロトコル(通信規約、異なるプロトコルで送信されると良くて文字化けなどを起こす)で。

 

『いやあ、翻訳代を削りましたからな。申し訳ない、ですが知る限りの情報は送信させていただきましたからね』

 

「十分。また何かあったらお願い」

 

『ええ、いつでもご連絡ください。たんまりクレジットを用意してね。ヘヘヘ……それでは失礼します、お客様』

 

 通信が切れ、ふう、とナナは息を一つ吐いた。

 本来ならこんな交渉事は彼女の仕事ではなく、上司に当たる八神司令官が行うべきものなのだ。連絡先と交渉のコツを教えて投げつけようとしたら、ユニゾンデバイスのリィンフォースツヴァイ共々の二人がかりの口撃で押し返されて予算上限をつけて投げ返されたので、こんな事をしていたわけだが。

 パイロット戦であれ、タイタン戦であれ、それ以外の何かであっても、基本的には数は力である。人間の目は前にしか付いて無いので。

 

 ともあれコンソールからデータのエンコードを指示しておき、出力待ちの間に格納庫に向かう事にする。ヘリが1台とタイタンが"2機"収まっているだけの、機動部隊としては及第どころか落第ものではあるのだが。――汎用可能かつ肉体に依存しないリソースを使える限りで使う、と言う考え方は果たして否定されるべきものなのだろうか。それとも肉体的リソースは自然回復するからそっちを酷使すべきだとでも?

 

 途中、他のフォワードメンバーが管理外世界への遠征と言う名の休暇に行くと聞いて、自主的かつナナからも頼み込んで留めておいたスバルを連れてゆく事にした。――戦力を全部休暇に出すとは、もはや自殺行為であるという考えは傭兵だからこそか。

 

 まあ、有効に利用させて貰う事にしたが。

 実質的に一人だけ特別扱いする事になっている現状、その事は教導官も理解しているからかあまり強くは言われなかった。

 

「それで、わたしだけ置いて行かせたのは何でなんです?」

 

 知らぬは本人のみなりけり。

 ナナは足を止めず、かと言って聞かれて困る話でもないため通路を歩きつつ、ズレた返事をする。

 

「3年前、だっけ。4年前? 空港火災の時。 それから、主席卒業をした時」

 

「へっ?」

 

 懐かしむように遠い目になるナナ。

 そこに映るのは、燃え盛る建物。落下してくる建材、そして間一髪タイタンで身を挺して護った記憶。そして怯え竦む目が一転、憧れ煌めく目になったその瞬間。

 その後の光線すらも、もはや見えていないほどの、純粋ゆえに盲目的となった姿。

 

「どっちも、見ていた。 あなたが火災の時にタイタンに何かを見たように、わたしもあなたに『次』を見て……それは教導官にも伝えてある」

 

「……へへ、えへへ。 ばれてました、か」

 

 恥ずかし気に照れ笑いをする姿は、とうの昔に笑うと言う行為を攻撃的なものに昇華させていたナナにはとても尊く見える。思わず目を細めてしまっていた。

 

「1年。たった1年」

 

「ですね、ナナさんに師事してからまだ1年」

 

「私はあなたより幼いころに、同じ期間でパイロットになった。 体が出来ていて、心構えもできていて、ただ技術を学ぶだけのあなたなら……なれて当たり前の時間でもある」

 

「……はい」

 

「シミュレーションポットでも、既に並のパイロットは超えつつあるわ。 だから」

 

 移動速度を重視するが故の職業病で早足に、しかし普段であるという意識からゆっくりと話している内、格納庫へと到着した。資材の他には輸送ヘリが一台、運送艇が一台、少数のM.A.R.V.I.N.(モノアイカメラと胸部に設置された感情表現モニターが特徴的な人間大の二足歩行型汎作業ロボット)、そしてタイタンが"二機"があるきりの物寂しいそこ。

 二機ある内の一機は、スバルもナナも良く知るレイだ。しかしもう一機は、スバルの知らないタイタン。

 

 モナークに似て、しかしロードアウトは今までに見た事のないもの。それだけはない。魔導師でもあるスバルだけは、そのシャーシの奥から魔力を感知していた。

 

「Factor Sorcery 1041。 私からあなたへのプレゼント」

 

「え、でも、そう言うのって」

 

 驚いた様子の候補生に、パイロットは頷く。

 

「良くは無い。だからそのものはダメでもパーツは問題無いから、"1年かけて少しずつ贈与した"事にして、先月から組み立てていたの」

 

「何って裏ワザっ!?」

 

「そしてこれそのものの設計図は、管理局にも引き渡したモナーク級をベースにしている。 ……と言っても、かなりリワークしたけれど」

 

「リワークって。パイロットってそこまでできるのが普通……なわけないですよねえ」

 

「まあ、色々協力を受けているからね。 ……FS-1041はヴァンガード級を素体にした上で管理局法下での運用を視野に入れている、言うなれば"メディヴェル(Medieval/中衛)級"。

 小型魔導炉を強引に詰め込む事で保護層がヴァンガードよりは少し薄くなったけれど、これそのものがインテリジェント・デバイスの一種として登録され、機能してる。だから管理局の、特に陸の一部との共同開発って事になって……試作機を押し付ける事になる」

 

 しさくき。と純粋に目を輝かせる脳筋少女に、脳筋女はちょっとだけ頭痛を感じた。試作と言う事は無駄もアラも多く、素体が優れていても問題が幾らでも出てくると言う意味でもあると言う事を理解していないようだったからだ。

 

 データコアを未だ埋め込まれていないメディヴェル級タイタンは、既に独自のロードアウトを装備させている。ソーサリー・ロードアウト、とナナはそれを名付けていた。

 ローニン級のプライム個体が持つ細身の『ブロードソード』、モナーク級が持つ『XO-16』チェインガン、そして多数の動体対象にロックオン可能な『マルチターゲティングミサイル』が外から見える質量武装だ。この他にも背部の追加ブースターによって、限定的にだが立体的機動を可能とする『VTOLホバー』がオプショナル武装として使用可能である。

 

 そう言った情報を一通り説明すると、スバルはようやく少々顔をしかめた。既存のタイタンロードアウトのいい所取りのように見えて、その実運用の幅が"広すぎる"事に気づいたからだ。

 しかし、その後に続く言葉でそれはある程度払拭される。

 

「ソーサリー・ロードアウトのコアは攻撃用じゃないの。カートリッジ・コアと言って、使用する事で戦闘時に放出した魔力を再収束して魔導炉の出力を向上させ、全性能を一時的に向上させる物。 そしてこれそのものがデバイスでもある事から、全ての攻撃に"非殺傷設定が適用可能"……これが一番無駄な機能だけれどね」

 

「いやそれ一番重要ですよね!? 一体どうやって……って言うのは考えるだけ無駄なんだろうけど、なんだか複雑」

 

 まあ、質量兵器が云々は非人道的だからと言う話だったのが、ここに来てその前提が覆されているのだからそれはそうかもしれない。とは言えまあ、アームドデバイスも質量兵器みたいなモンなのに非殺傷設定できているのだから、出力と式さえあればできない理由も無いのだ。

 

 色々複雑そうに首をひねっているスバルに、ナナはタイタンのデータコアと、何かの見積もり書を手渡す。

 

「あの、これは?」

 

「撃破はされない前提でタイタンを1回出撃させるために必要な諸経費」

 

「……何か、わたしの給料の数か月分くらいの数字が……これって単位は」

 

「管理局の貨幣単位。 個人の所有物だから、個人で維持しようね」

 

 そう言われて白目を剥いて茫然としているスバルの肩を、ナナはどこか粘着質な――強いて表音するならニチャァとした――表情を浮かべながら叩く。

 

「良いバイトなら教えてあげる。パイロットとしての経験も積めるけど……どうする?」

 

「……こっそり、お願いします」

 

 正気を失った彼女の返事を聞くとナナは、偽名だけ用意しておいてね、とどこか楽しそうに伝えたのであった。




なおFS-1041のペットネームは特に考えてません。マッハでもキャリバーでもないんで、適当に考えなければ。
案などあれば、所以と共に感想欄にでもついでで気軽に投げてもらって大丈夫です(ただ規約的にはほぼ黒らしいから、感想もきちんとね!)。
案だけであればメッセージか何か……何が使えるんスかね。 ね?

チャプ4は長いです。
消耗戦と比べた時のFDくらいには長えっす。


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Chaptar.4 Op.Frontiar Shields,And First shot.

長いと思ったら意外と短かったという罠。

フロンティアディフェンスの実際の空気はタイタンフォール2を買ってプレイしてください。としか言い様が無い、非力な私を許してくれ……



N.D.75.5

FRONTIAR Planet"Garland" ;Area "Homestead" //Excavation MISSION -Easy-

 

 

 五人も居ると立っていてすら狭く感じるVTOL輸送機の中、六人のパイロットが詰め込まれていた。内二人は義体化――パイロットはスペクター化と別称する――により性別不明、二人は男性、二人は女性。女性の内の一人は手に持ったEVA-8オートショットガンと、腰に提げたウィングマン・エリート、背負ったMGL、そして言い訳のように手首に接続されたグラップル・ワイヤーからも解る通り、必要以上にソワソワとしている初心者であった。

 その様子を見て取ったのか、小隊司令をコンビで行っている男二人の内の片方、デービスと言う名の彼がそのソワソワしている少女の顔をヘルメットを挟んで覗き込んだ。

 

「よー新兵、お前童貞か? リラックスしろって、たっぷりイかせてやれよ」

 

「おいデービス、お嬢さんにソレは無いだろ。見ろよ、顔が真っ赤だぜ?」

 

「いやヘルメット被ってるから見えないだろドロズ。ちょっと緊張をほぐしてやろうとだな」

 

「お前にゃ後でよーく話をしておかないとな。 それよりパイロット、降下するぞ、さあ行け!」

 

 コンビの相方、ドロズが輸送機の後部ハッチを開き、所定の降下ポイントに到達した事を知らせる。デービスも笑いながら近くに居たパイロット――片方は先の少女新兵であり、もう片方は義体化パイロット――の肩を叩き、送り出した。

 ジャンプキットの補助によって通常ならパラシュートが無ければ地面の染みとなるような高度から無傷で着地する姿を眺めながら、ドロズがぼそりと相方のデービスにたずねる。

 

「なあドロズ。あの新兵のお嬢さん……エレクトラとか言ったっけか。生きて帰ってくると思うか?」

 

「お前らしくないなデービス。過ぎし日の残光(オールドデイズ・フラクション)たぁ言え戦略核と同等のエースクラスを落とした"タイフォンの傑物"の一人の愛弟子で、しかも本人が付いてるんだぞ?」

 

 それもそうだな、と納得したような返事をすると、彼はすぐにいつも通りのオペレートに戻る。ハーヴェスターと呼ばれる発掘装置を遠隔で起動、パイロット達に端的にすべき事を二人で伝えてゆくのだ。

 

 今回、ナナそしてエレクトラことスバルがバイトとして参加したのは、フロンティア宙域の星に存在する先史文明の遺産を発掘する作戦だ。それはフロンティアディフェンスと俗称され、魔力を持たぬがゆえに非公式の派遣であり、かつ先の大侵攻の際に切り捨てられた『管理局残留艦隊兵』が目の敵としている活動でもあった。

 残留艦隊兵は終戦通達をされる事も無く廉価タイタンすら運用しだす海賊となり下がり、どちらの陣営からも賞金を懸けられているので、ある意味では被害者とも言えなくはない。――その活動のために略奪と殺戮を繰り広げていなければだったが。

 

 それらの駆除と、希少遺物(時にはロストロギア認定される)の発掘のためにパイロットはたった四人で艦ひとつ分の人員を相手に立ち回る事になるのだ。残留艦隊による強制徴兵とミリシア艦の強奪で、艦隊そのものの懸賞金は年々上がり続けている事からも解るように、管理局の上が暴走しているように下も暴走している訳だが。それ自体はナナにはこれっぽっちも関係無く、六課に囲われているスバルらにもあまり関係は無い。

 

 作戦開始と同時に、ナナは巨大な狙撃"砲"とも言えるクレーバーAPスナイパーライフルを手に無言で走り出した。スバル――もといエレクトラも、EVA-8を手に逆方向へ駆け出す。

 今回の作戦領域となる"自作農場"エリアは食料を得るために残留艦隊が住民を皆殺しにして接収した土地だ。農場、と付くだけあってその大半は見通しの良い平地であり、残りは建物と高台、そして疎らな木くらいしかない全体的に平坦で見通しの良い土地である。

 作戦前にナナがエレクトラに指示したのはただふたつ、魔法は使うな、装備を競うな装備の持ち味をイカせ、と言う事のみであった。この二つから導き出される結論として、エレクトラが走ってゆく先は小狭い崖道を裏に持つ、扉の壊れた資材倉庫の建っている高台となった。ショットガンは総じて射程が短く、それを生かすためには障害物が多く必要だからだ。

 

 ――なお、既に非殺傷に拘る精神はシミュレーションポッドでの殺人訓練で完膚無きまでに粉々にされている。それは惑星ガーランドやその周辺のように、魔力素の極めて薄い空間(ガーランドではその代りにか人魂菌/"微かな存在"が場を充たしているがそれ自体は共存しうる)に於いては質量兵器を運用しなければならない以上は必須とも言えた。

 

 そもそも管理局武装局員であるならば、武装している以上はそれがヒトを殺す道具であると認識しなければならないのだが。どうしてこうも魔法という便利ツールはヒトの認識をずらして……と考えた所でナナは小さく頭を振って息を一つ吐き、思考を狙撃と状況確認へ研ぎ澄ます。

 

『ドロップポッドの特性を検出。第一ウェーブが来るぞ、準備はいいか!』

 

『いいに決まってるだろ、なあ皆!』

 

 まったく、6-4だったころからデービスとドロズの軽妙な掛け合いの会話は変わっていない。その頃を知らないパイロットでさえも、思わずヘルメットの中で小さく噴き出しているのが通信越しに聞こえた。

 

 しかし艦隊兵はだからと言って待ってくれる訳では無い。ミリシアの戦力が『正当な接収によって管理されている地域』に踏み込んだからなのか、歩兵やスペクター(戦闘用の機械歩兵)を投下するために使うドロップポッドがもはやにわか雨の如くに自作農場のあちこちに降り注いだ。

 タイタンは彼等にとっても希少であり、こちらにとっても貴重だ。ゆえに、発掘ミッションことフロンティアディフェンスにおいて第一ウェーブは必ず歩兵戦となる。しかしそれは逆説的に、エレクトラの敵撃破童貞、いや処女を喪失する事を意味する。まあ血も出るし間違いではあるまい。

 

 しかしそのショックを少しでも減らす事はできる。

 最初の一人さえ乗り越えてしまえば、後はどうとでもなる。身分を隠して、そして隠した事を気付かれないよう宿泊や各施設の入場履歴を作ってまで参加させたアルバイトだが、これもやはりパイロットの実地訓練なのだ。訓練でなければ一人で敵地へ突入させていた。

 

 にわか雨の如く降り注ぎ、氷柱の如く地面に突き刺さったドロップポッドからわらわらとという表現が生温い数の有人無人を問わぬ歩兵があらわれ、戦場に荒みきり自由な思考を奪われた独特の狂った目でハーヴェスターへと規律を保って殺到する。その数、一瞬を切り取ったとて30を下らない。多ければ50、ウェーブ内であれば総数100を超える。

 

 魔導師どうしの魔法戦闘、非殺傷攻撃での戦闘とは全く違う。

 その30が全て、数発当たれば運が"悪くて"戦闘不能、幸運ならば苦痛を感じる間も無く即死させる武器を手に、恐怖を薬と調教で押し込め、盲目的に歩み寄ってくる。

 それはエレクトラもといスバルには、遠目に見ただけでも恐ろしく感じられるモノであったが――ほかのパイロットは何も感じていないかのように撃ち殺し、粉微塵にし、時に爆殺、感電死、パルスブレードによる脳シェイクなどなどバリエーション豊かな12種類のフレーバーで味付けをしていた。

 

 狂っている。あちらも、こちらも。

 

 戦場に確たる芯を持たぬまま憧れのみで堕ち、恐怖と畏敬に塗れた魔導師の感想はただそれだけだった。

 

『エレクトラ』

 

「はい、ナナさん」

 

『獣よ。あれは、ヒトの形を持ったままの、心を解さぬ獣。 食っていくために獣を狩る事は、罪?』

 

「……いいえ。 でも言わせて」

 

 幾ばくか、エレクトラの緊張は解れた。まるで催眠のようにスッと入り込むタイミングと言う物を理解しているのだろう。だがスバルとしては言わなければならなかった。ほんのわずかに、ヘルメットの中で微笑みをたたえて。

 

「この外道」

 

 四人一組で踏み込んできた歩兵におおまかに照準を合わせ、腰だめに三度引き金を引いた。運悪く生きのこった一人をグラップルで引き寄せ、おおお、と言葉ならぬ咆哮と共に次撃を考えぬ拳を叩き込む。パイロット神拳は対人間において一撃必殺。

 

 これで、たったの$40。四人の――ちがう、四匹の命が。

 

 きっと先の一言が無ければ、考え過ぎて吐いていただろうけれど。そんな暇も時間も無い今は、外道そのものの言葉が支えとなっていた。

 ふとレーダーを見れば、赤い光点が納屋の屋上に陣取っていた。しかもヘルメットのAR表示によれば、花瓶のようなマーク――迫撃砲持ちであると解る。全く休む暇も時間も無い、すぐに武器を掴んだまま駆除に向かった。

 

 幸いにか不幸にか、そうして忙しくハーヴェスターを守るためにカラダを動かしていれば、1ウェーブなどすぐに過ぎてゆくものだ。

 ウェーブとウェーブの合間に、フロンティアディフェンスでは装備や防御装置を購入できる。とはいえエレクトラは殆ど稼げなかったため、強化バッテリーを一つ購入したきりだが。

 

『いいかよく聞け、お前達のタイタンの準備が出来た!』

 

『ああ出来た。要請してくれ!』

 

 腰の後ろ、ジャンプキットの上に黄色く発光する強化バッテリーを背負ったまま、他のタイタンフォール予測線とかぶらない位置に視線を向ける。そして、タイタンフォールを要請した。

 

 はるか空から落ちてくる。

 

 それは星。それは鉄。それは死。

 

 ただ一人、己の相棒となる存在のためだけに宇宙より来る力。

 

『お待たせしました、パイロット。RD-5013、スタンバイ・レディ』

 

『フォールシーケンス全行程成功。FS-1041、搭乗待機』

 

 ナナの相棒たるレイは、今回はリージョンロードアウトを適用している。プレデターキャノンと呼ばれる重機関砲の使用のみに特化した、本来なら重量型のタイタンの装備だ。

 一方でエレクトラことスバルの乗機、FS-1041のロードアウトはデフォルトのソーサリー・ロードアウトだ。ヴァンガード級よりも二門多いベクタースラスターにより、限定条件下であれば短期空戦も可能な特殊タイタン。AIボイスは若い男性の声質である。

 

 他の二人のパイロットのタイタンはトーン級と、スコーチ級だった。トーン級は音響等による索敵とロックオンしてからの誘導ミサイル射撃を得手とする中量型、スコーチ級はテルミットを操りある程度の広さの地面を灼熱地帯へと変えてしまう重量型。

 

 比較的近接攻撃ができるのは、現状FS-1041のみとなる。

 ナナはそれにすぐ気づいた。エレクトラもそれを少し考えて理解し、誰よりも前へ出てゆく。その姿に少しばかりナナは心配をしたものだが、すぐに考えを改めて足止めに使う放電地雷ことアークトラップを敵の予測通路に仕掛けた。

 

 一方、エレクトラはタイタンのコクピットで震えていた。いくら対人戦は経験したし、"殺し"も経験してしまったとは言え、自分ではない躯体で自分より大きい相手と渡り合う、と言う事は恐怖を抱くものだ。

 

『パイロット。極度の緊張状態は戦闘効率に悪影響を及ぼす可能性があります。深呼吸を推奨』

 

 どこか機械的で、平坦なFS-1041の言葉。エレクトラとて仮想空間で幾体かのタイタンを相手に戦い、生き延びる訓練はしている。しかしこれは本番で、死ねばそこまでなのだ。スゥーッ、ハァーッ!と表音すべき出所不明の独特の深呼吸で何とか精神と肉体を抑え付け、既に続々と降り始めたタイタンの雨を見やる。

 敵タイタンは幸いにも、比較的簡易なAIによって制御されただけの、フレーム強度までもケチった『廉価な』タイタンだ。戦闘用とは言え、使える機能は著しく制限されている。

 

「勝てる。……行くよ!」

 

『了解、ポジティブな思考は生存に優位です。XO-16発射準備』

 

 どの距離でも、タイタン戦闘で重要なのは不意打ちとクロスファイアである。パイロット戦ではその状態でも何等かの手で抜けられる事は多いが、タイタン戦であればそうはいかない。一発の弾丸で足りないなら十発百発と撃つのだ。

 進路上から少し離れた物陰に身を隠しつつ、ありったけの武装を叩き込む。正面はリージョン・ロードアウトのガンシールドによって多少なりとも引き受けられるナナとレイに任せて、気を引きつつ火力を当てれば良い。

 幾度となく魔導師としての戦術を否定するかのように仮想の十字砲火に晒された、パイロットとしてのスバルことエレクトラが得た、数少ない戦術。

 

『敵戦力を解析。歩兵戦力、プラズマドローン、クロークドローン、廉価スコーチ級、廉価リージョン級、廉価トーン級、廉価ノーススター級、廉価ローニン級を確認』

 

「ほぼ全種類かぁ。でも、廉価は耐久力が低いって聞いたし何とか」

 

『警告。廉価リージョン級はニュークリアタイプです。危篤状態、あるいは任意でニュークリア・イジェクトにより大爆発を発生』

 

「ち、近づかなければ」

 

『警告。廉価ローニン級はアークタイプです。危篤状態に陥るまで、周囲にアーク放電を常時行います』

 

「それも近づかなきゃいいんでしょ?」

 

『警告。廉価トーン級は迫撃砲タイプです。遠距離からハーヴェスターに砲撃を加えるため、手早く撃破することを推奨』

 

「近づいて叩き込めばいいのね!?」

 

『警告。クロークドローンにより、その直下の敵戦力が視認及び視覚に基づくMTMLロックオンが不能になります。ニュークリアタイプ、アークタイプのタイタンに特に警戒を』

 

「どうしろっていうのよ!!」

 

『腕の見せ所です、パイロット。 ……ストレス増加を検知』

 

「誰のせいだと思ってんのよおぉ!!?」

 

 少なくとも、先ほどよりはガチガチでは無くなった。むしろ良い感じにいつも通りまであり得る。

 が、どちらもそんな意図で会話をしていたわけではない。FS-1041はただ情報を開示し返答をしているだけだし、スバルは特に何も考えていない。

 

 しかしまあ何にせよ、そうして十分解れた上での初陣はとても楽なものだった。特に語る事が無い程度には、だ。




ちなみに報酬として、リリカル勢的にはとんでもない代物が出たようですが、それはまた次回以降で。
少なくとも原作が形無しにはなる、だろうなぁ。Prime版装備ほしす。


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Chaptar.5 Hidden massage.

好きなように書き、好きなように投稿する。誰のためでもなく。

それが俺達の書き方だったな。なあ、読者たち……



N.D.75.5

MID-CHILDA ;Task Force 6 Office

 

 

「それで、何が分かったんや?」

 

 そもそも組織人としての気質が大いに欠けているナナにとって、管理局での上役と言うのは常々口煩く感じているものだった。まず顔を合わせれば小言、呼び出して説教、最悪OHANASHI――は、実力行使が伴う場合は逆に返り討ちにしている。

 しかし今回は八神司令官――はやてが直接、休暇上がりと言う名のラスト・リゾート帰りなナナをとっつかまえて、何かを探りに行っていた事を確信していたような口調で問いただしに来た。ヘルメットを脱ぐのは個人的な主義によって寝る時とシャワーを浴びる時と個人的な友人と会う時だけなナナは、幸いにも大いにしかめっ面したのを見られる事は無かった。

 

「何が、って何が?」

 

「トボけたらアカン。わざわざクレジット予算をがっつり使った上に、フォワードを一人連れてったんやで? 何か有用な情報くらいは手に入ったんやろ」

 

 なるほど、思ったよりは確りしているのかもしれない。とナナは彼女の評価をこっそり上方修正し、その直後にリィンフォースツヴァイが一緒に居ない事から仕事を押し付けたのだと察して下方修正した。

 

「例の闖入者についてと、それから……あんまり関係無さそうな"レリック"について」

 

「はァ!?」

 

 何を驚いているのか、と首を傾げる。はやてはその様子に、またか、と小さくうめくしか無かった。

 ロストロギアについて、ナナはどうにもその危険性を軽視し過ぎるきらいがある。それははやてら管理局局員としては大いに説教したくもなるものだったが、逆に『刺激して持ち出さなければ何も起きない、でなければ死んでいる』と言われて唖然とするしかないのでやめておく。

 

 はやての様子を、またいつもの発作かな、と思いつつ眺めていたナナだったが、すぐに情報を展開した。空中投影式のホロウィンドウに文章が流れる。

 

「闖入者はTENNO、正しくは彼等の使う戦闘体WARFRAME。駆動原理も何もかも不明だけれど、上位か最上位の陸戦魔導師とそう変わらない身体的基礎性能、そして1機種5種のユニークな能力を持っているみたい」

 

「1機種て、他にも居るみたいな言い方……いや、居るんやな」

 

 一つ頷き、ナナはデータを更に展開していく。

 

「私達が遭遇したのは【EXCARIBUR】タイプ。機動性と剣戟能力に偏った、それでも近中距離で隙のない能力を持つ、強力で古くから稼働している機体みたい。……それから、非殺傷設定攻撃はほぼ間違いなく利かない」

 

「……アレか、ミリシアがつこてた個人用シールド装置と同じ防護機構があるんか。やとすると、」

 

「SLB(スターライトブレイカー)かPLPS(フォトンランサーファランクスシフト)くらいに"極まった"非殺傷攻撃か、殺傷設定の魔法攻撃くらいしか通用しないはず」

 

「でなければ、アンタやな、PM-745」

 

 その通り、とは言わないし頷きもしない。それはある意味で苦渋の選択だと察しているからだし、嘱託よりも関係性的に"遠い"傭兵に頼る癖をつける事も避けるべきだと判じたからだ。

 

「それ以上に警戒すべきは、WARFRAMEの中には光学的、機械的に透明化する潜入特化のものもある、と言う事。 彼等の揚陸艇でもある宇宙船"ライセット"はそもそも超光速で動くらしいから観測した瞬間には接近されてるし、魔法での認識は不可能だと思う」

 

「入り込まれるだけなら何とでも、いや、……そうかハッキング能力もあるんやったな」

 

「透明化しうるWARFRAMEは認識できてるだけでも【LOKI】【ASH】【IVARA】【OCTAVIA】【WUKONG】の5機種。特に【LOKI】は潜入特化で、戦闘能力は程々だけど、潜入と隠密に関しては並ぶものが無いみたい」

 

「どないせえっちゅうんや。まあ、でも、希望的観測をするなら今の所は敵対しに来とるワケやないから、潜入諜報はともかく暗殺は警戒せんでもええっちゃええんか。 味方になってくれるかもしれんしな!」

 

 概ね、意見は一致しているとみてよさそうだ。していないとしても一人だけなら生き延びる自信もあって、ナナは特に何もツッコまない。ちょっとだけ寂しそうなはやてを放置して、話を進める。

 

「彼等の目的は不明。少なくとも、コーパスは何も知らない。 ……強いて言うなら、オロキン……こっちだと"アルハザード"の遺産は回収したがるようだけど」

 

 VOID、つまり虚数空間。魔法という魔法が発動しないが、向こう側にはまた別の宇宙が存在すると言われる概念的な世界の裏側。いや、舞台裏(バックグラウンド)か。

 そこにアルハザードは存在すると伝説では言われ、そしてオロキンはそこに避難したという歴史が存在する。遺物もまた、二つが同質である事を示している。

 

 フロンティアでは常識だが、全く知らなかったはやてはまたも頭を抱えてうがぁと呻いた。ナナはただそれを冷ややかに見つめた。

 

「それと、休暇のお土産。はい」

 

「何やこれ、赤い宝石で……なんや、どっかで見た事あるなぁー」

 

「それね、レリック。MESO-S6だって」

 

「そうそう丁度レリックがこんな感じーって、ロストロギアやないか! え、何? そんなポンポンポンポンとロストロギアが売ってるん?!」

 

 胃痛を感じ始めたのかお腹に手を置いて顔色を青くしはじめたはやてに、ナナは首ごと目を逸らしながら答える。ついでにそっと局内薬局で一般に売られている胃腸薬も渡して置く。

 

「……こっちに来てからその形になったから、こっちに来たらロストロギアになる、んじゃないかな」

 

「信じられん。ホントやったらフロンティアはとんだ魔境やな……報告はこんだけか?」

 

 渡しついでにデスクを立とうとしたナナに、はやては薬を飲みながら訊ねた。

 ナナは、ひとまずは、と頷く。

 

 なお入手経路について言及していないので、嘘はついていない。そもそも騙す気も無い。

 

「フロンティアでならタイタンを動かしても咎められないから、前々から話してた通りにメディヴェル級の試験運用もしてきた。データは教導官経由で渡す、先にあっちに見せないと」

 

「わかったで。 ……あんな、ついでやけど、頼むからもうちょいうちの事も労って動いてほしいんやけど」

 

「前向きに善処する」

 

「おぉん!」

 

 なんでや! とツッコみを入れているはやてを放置して、ナナは訓練エリアへと足を運ぶ事にした。会話というより事務連絡でしかないのでナナが彼女の望む反応をする事は極稀であり、そのせいで時々絡まれるので、今後はどうしようかと少しだけ考えながら。

 考えたところで結論の出る問題でも無く、とりあえず次は何か思いついたらいい返しをしておこう、程度の事を頭の隅のさらに隅に投げ捨てておく。つまりは何も変える気はない。

 

 しかし移動中のちょっとした暇をつぶす程度の思考にはなったらしく、訓練区画の管制室のような場所に到着していた。誰かが見ているワケでもなく、幸か不幸かナナ一人が見ているような状態だ。

 窓越しに見えるのは魔導文明と言うある種の先進を極めたにも関わらず、肉体をイジメてデバイスと言う名前の近接武器を振り回す、高機動性と遠距離攻撃が上位である環境を考えれば時代錯誤な訓練風景である。ついでに言えばイジメるにしてもやり方がぬるい、と超人製造(と書いてパイロット訓練と読む)過程を経験し継続しているナナは思わざるを得なかった――身体なんて体組織を壊してからの治る過程で強くなるのだから。

 

 何にせよ、そうして彼女らのスポ根的訓練を見ている時間はそう長くなかったようにナナには感じられた。補助装備として常時携行しているMk-4スマートピストル(パイロットヘルメットと連動し視界内ロック可能なホーミングピストル)の分解整備をしていたからだ。

 組み立て終わってスライドを引き全動作の正常を確認したところで、教導官が管制室に入ってくる。新人組四人は休憩だろうか、談話しつつも機能性飲料を摂っているようだった。

 

「お疲れ様、高町教導官。 パイロットスバルの実戦データと、メディヴェル級タイタンの実戦稼働データを送信する。機械式無線ポート解放許可を」

 

「あ、うん。 ……えっとね、共有してくれるのは嬉しいんだけど、」

 

「その話は、」

 

 ナナは知っていた。少なからず、その後に続くのはパイロットとしての訓練に対する否定的な言葉だ。やれ質量兵器を使わせるのは、やれ魔法戦と関係ない訓練をさせるのは、と。管理局はエースオブエース様に対してしっかりと刷り込みができているようである。

 その度にそれらに対する明確な反論と証拠を提示していると言うのに、だ。ナナは少なからず彼女の境遇に対して理解もしていたし、だから彼女の思想がどうこうとは言わない。魔法が全て、と少なからず考えているだろう事に対しても特に何かを言う事はない。

 

 どれこれも全部、管理局って奴が悪いんだ!

 

 とまでは心にとどめ口では言わずとも。少なくともそう言った思想の違いによる不毛な言い合いを避けるために、少し強めに言葉を続けるのを止める程度にはナナは個人として彼女を嫌いではなかった。

 

「既にそれなり以上にこなした、既定路線。時間の無駄。 要点だけ伝える」

 

「時間の無駄、って。そんな事ないと思うんだけど……」

 

「パイロット候補ティアナ・ランスター、及びパイロット候補生スバル・ナカジマは、ミリシアのパイロット基礎訓練の修了を訓練課程記録の提出によって公式認定。ただしティアナは執務官希望と言う事なので、これ以上の維持訓練は自主に任せる」

 

 既にこれらの情報は、ナナにとっては仕入れていたモノだ。パイロット技能は邪魔にはならないしバディだから一緒に育てただけで、まさか修了するとも思っていなかったのだが。

 教導官ことなのはも、それ自体は特に異論ないらしい。無言で続きを促してくる。

 

「パイロットスバルは管理局、ミリシア両側の安全基準を満たした新造試作タイタン"メディヴェル級FS-1041"を取得、ニューラルリンクを形成済み。魔法を限定された環境においても、パイロット戦、タイタン戦共に優良可で言えば良以上優以下。無制限であれば恐らく優でもいい。ただし、CSR発症の可能性も否定できないので留意を」

 

「CSR?」

 

「戦闘ストレス反応。PTSDの一種になりうる……まあでも、多分無い。武装局員なら誰でもあるものだろうし、既に戦闘そのものには適応していた。人類種の殺害に対してもストレス耐性は叩き込んだし」

 

「……そういうの、あんまり良くないと思うの」

 

 ナナはなのはの言葉に、否定はしなかった。彼女たちはどこまでもまだ子供であり、兵士という"数字"ではない。ナナがスバルに施したのは、彼女を兵士に作り替える過程でもあり――ナナと同じ境地に至らせ得る蠱毒でもあったのだから。

 その一方で悪い事ばかりでない。既にスバルはパイロット訓練課程を経て戦う事、そして選択肢として殺す事に対して、一定の価値観を持たざるを得なくなっていたようだからだ。

 

「私見だけれど、彼女はもう、揺るがない。"逃げも隠れも許容するが不屈の心"を持っている」

 

 ナナがヘルメットを被ったままほんのちょっとドヤ顔をしたのが分かったらしく、なのはは引きつった笑いを浮かべていた。

 自分の訓練で身につけさせようとしていたものの一端をあっさり押し込んだ事に対してもそうだが、人を兵に変えると言う事にたいする技量もそうだし、何より――それを当たり前のように"処理"できる事にだろう。

 

 それでもまあ、一応は協力体制にあるのだし、お互い悪気が無いのも知っている。決定的な線を互いに踏みにじってはいても、敵対すればどっちもただでは済まないし、そもそも傭兵という人種が契約外では好き放題するのが得意だと言う事も承知の上だ。

 

「うん、だいたいの事は見たよ。 それでだけど、……このメディヴェル級っていうタイタン?は、魔力が無いと不十分にしか動けないんだよね」

 

「そう。だからその時は増槽を付けた。1戦分くらいなら戦闘可能になる」

 

「それデバイスじゃなくて魔導兵器じゃないかなって思ったの」

 

「戦闘用タイタンは分類上、陸戦兵器」

 

 あっさりと悪びれもせず応えるナナ、思わず頭痛を堪えるなのは。傭兵だからだとかそう言う問題ではなく、ナナには著しくコミニュケーション能力が欠けていると言う事をたったひとことで再確認してしまうハメになったようだ。

 しかしそれでも訓練課程についてのミーティングは必要になる。師が二人いると言うのは、思った以上に面倒で手間がかかり、その一方でなのはの教導スキルの向上も促している。――ナナの対話能力は一切向上しないようだが。

 

 一通りの打ち合わせを既定路線と定番で済ませ、ミーティングも終わろうかと言う際。

 

「……それで結局、スバルはどういう進路を希望してたの?」

 

「メインはパイロット。サブで陸戦魔導師。だから教導の主軸をこっちに欲しいのと……いずれ1年ほどの長期休暇が取れるよう下準備が要る」

 

 六課での生活では十分とは言えない、と言う事なのだろうとなのはは一応の納得を示した。

 

「わかったの。 それにしても。パイロットになりたい子、はまだいいけど……。レリックを狙って来る何者かに、TENNO、WARFRAME。対策、手伝って貰ってもいいかな」

 

「それは契約に含まれる。教導過程を補助すればいい?」

 

「お願い。仮想敵とかしてもらうから」

 

「ん。……高町教導官、じつは地球のギリシア産まれだったりしない?」

 

「なんでなのっ!?」




好きなように書き、理不尽に評価される。それが私だ、原作の有無ではない。

原作ブチ壊しな二次創作はいい。私には、それが必要なんだ……


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Chaptar.6 The Archwing.

思った所までは話が進まなかったけれど前回投稿からちょっと日にちが空いたので初投稿です。




N.D.75.6

???

 

 

 宇宙の如く昏い空に、無数の世界達が星として煌めいている。その空のただ中に、一隻のオービターが浮いていた。どことなく"カブトガニ"を彷彿させる揚陸挺を貼り付けるようにドッキングさせているその軌道船が周回するのは、ミッドチルダと呼ばれる世界(惑星)の高高度軌道である。

 

『オッペレーター(Operator)! オッペレーター!』

 

 どことなく調子の良さそうな、男声の声が響く。いや、正しくは声の主はその船そのものと言っても良い存在で、肉体は持たないのだが。

 

『間も無く降下時間ですよオッペレーター! 瞑想に耽るのも良いですが準備をしてください! イツマデモネテルンジャネエゾコノヤロウ』

 

 ぬるり。と表音するのがまさに適切だろう。オービターに接続されたランディングクラフト(揚陸艇)の中で宙に浮きつつ胡坐をかいて座禅めいた瞑想をしていた一体のWARFRAMEが、地に足を付け武装を確認する。

 

 そのWARFRAMEは一度既に姿を見せていた白い剣鬼、【EXCALIBUR】ではない。

 頭部は両側方から横に向けて伸びる角を持ったような、独特の複雑な形状で――そこからはENIGMAと言う単語が何故か思い浮かぶ。胴体の紋様はまるで一種の男物の着物を思わせた。全体的なカラーリングは、薄青がかった灰色を基調に青と赤のライン。

 

 【LOKI】、と呼ばれる種類のWARFRAMEである。

 

「起きてるよ、Ordis(オーディス)。いつでも行ける、それがTENNOでしょ?」

 

 しかし男の形のFRAMEにも関わらず、発せられたのは女の子の声であった。――その声を"T"の姓を持つ機動六課の彼女が聞けば、きっと驚きと恐れとで固まってしまうだろう。あまりにも似ているのだから。

 Ordisと呼ばれたセファロン――オロキンAIは、素直に感心したような声をあげた。

 

『流石ですオッペレーター! あまりにも見事な瞑想ですからワタクシ、ついつい寝てしまっているのかと……WARFRAMEを使っている間って寝てるんじゃないでしたっけ?』

 

「今はもう起きてるままだからね!?」

 

『そうなのですか? まあ何でもいいんです、それでは早速降下しましょう。そして敵ヲ血塗レニ……いえ、何でもありません』

 

「そういう作戦じゃなかったような気がするけどなぁ……Lotus(ロータス)、そうだよね?」

 

 虚空に向けて語り掛ける【LOKI】。通信が飛んできたのか、大人びて抑揚の弱い女性の声が聞こえる。彼女こそが全TENNOを統括し、作戦指揮を執るLotusである。

 しかし通信先とかなりの距離があるのか、声にはノイズが混じり、ホロウィンドウがその姿を映す事は無い。仮に映っていれば独特の、しかし上品な姿が見れただろうが。

 

『そうですTENNO。今回の作戦は、コーパスなどが"こちらの宇宙"でオロキンの遺物(Orokin Relic)を手に入れられないようにする事と、長期的な回収の下準備。そのための第一段階として――』

 

 

N.D.75.6

MID-CHILDA ;Hotel AUGSTA

 

 

 この日、ナナは思っていた以上に意外な人々と会っていた。いやまさか警備業務の途中にコーパス社員がゾロゾロと連れ立ってくるのは(そして彼らが悪目立ちするのも)想定内としても、"人でなし"と"飛鉄塊乗り"がわざわざ会いに来るとは思ってもみなかったからだ。

 

 ここで言う"人でなし"は一般的な意味ではない。魔導師では無く、"幽かな存在"を知覚し操り、空を飛び弾を撃つ存在の事である。

 ナナの知り合いは"グレイヴヤード"にてパイロットを兼任するたった2人だけ。ローニン乗りの古くたびれた青年"デッドライアー"と、古臭く格式ばって直接的な物言いの両性にして虹彩異色の少女"蓑亀"だ。(※なお蓑亀が虹彩異色かつ両性というのは拙作の独自設定ではなく原作からである、ということを念のため記しておく。)

 

 ついでに記すならば、"飛鉄塊乗り"と言うのは惑星テンカクに於いて主力となっていた、人体改造を要する高負荷な小型飛行戦闘機の操縦者の事だ。なお大型の機体は仏鉄塊と呼ばれている。

 ナナが面識を持っているのは斑鳩の"森羅"、同じく斑鳩の"篝"の二名のみである。しかしこの日来ていたのは"篝"のみであった、森羅は仮にも一部隊を率いる立場であり忙しいからだろう。

 

 久しぶり、元気だった?

 などと差しさわりの無い会話をしつつ、周囲の意識をそれとなく逸らす。特に警備任務についている機動六課の面々の意識が逸れきるまでは、一般人と同じ差しさわりの無い会話のみで場を繋いだ。

 が、逸れた瞬間に四人の間のみの空気が音を立てて緊張する。

 

「それで。こんなに物々しい面子が集まって、私なんかの所に来て。何があったの」

 

「ははッ。なんか、と言われては我等"タイフォンの傑物"の呼び名も地に落ちるな。予想はだいたい合っているだろうよ」

 

 黒のタンクトップにショートスパッツと短パンと言う少年染みた服装で、淡い金髪を長く長く伸ばした蓑亀がさもおもしろげに笑う。トレードマークの大きなベレー帽がずり落ちそうで落ちないのは彼女が"微かな存在"で固定しているからだろうか、と気になって聞いたものは誰も何も言わないという噂もあったりなかったりする。

 

「仕事だよ、七四五(ななしご)。我等の因縁は終わって等いなかった、そら、こいつが斃れていないのがその証拠よ」

 

「あまり"それ"は口にしてくれるな、蓑亀」

 

 薄刃のついたガントレット(風切り笛、と言うらしい)を両腕に着けた外は何処にでも居そうな、と姿を形容するのが正しいだろうに、どこにも居る訳がないほど剣呑かつむっすりと何かを止めさせるデッドライアー。

 すまないな、と芝居じみてすら居る古臭い口調の割に軽く謝る蓑亀。

 

「10年と言う時間をかけて、"斑鳩"と"グレイヴヤード"は管理局について調べていたの。そしてつい先日、管理局の先兵としてやってきた"ある存在"から、決定的な証拠を得た」

 

 簪で髪を後ろで纏めた、東洋系の美女である篝。今は少々厚着をしていて見えてこそいないが、上着を脱げば金属の塊を神経に直接打ち込むと言う痛々しい飛鉄塊乗り特有の接触型インターフェース"楔"が見える事だろう。――なお飛鉄塊乗りの寿命は"楔"のせいで劇的なまでに短いと言われる。

 その彼女達が10年、という時間を丸ごと使って調べ、そして今動いた。その意味はナナにはよく解る。

 

「――"遺物"が?」

 

「ええ。それも"祈り手(PRAYER)"付の"石のような物体(The Stone Like)"よ」

 

「我等はそれを封じるのではなく、壊さねばならぬ。この惑星の何処かに在る事は間違いないのだが、場所が特定しきれぬのだ」

 

 なるほど。とナナは深く納得した。

 旧くからの"燦々たる銀の銃(Radiant Silver Gun)の伝承"によれば、"石のような物体"と呼ばれるソレは自ら神の如く振る舞い、人々に己の理想を押し付け、気に食わなければ人類世界の再初期化も辞さない存在であると言う。

 そして"祈り手"は己の理想を実行するために只々祈り、祈って、祈るだけの存在。祈りの過程として"人でなし"と同じ行動もとる事があるが、それはあくまでも余分な行動(サブルーチン)に過ぎない。

 

 この二つが噛み合ってしまえば、何があってもおかしくはない。

 知る限りの本質は同じであり、行動も酷似しており、故にその行末も同じだからだ。

 

 そしてこの二つはいずれも古の遺物であり――ならばその処理のプロである"グレイヴヤード"と、母体となった組織が"燦々たる銀の銃"の後継でもある"斑鳩"が対処に来るのは自然な事だった。

 そしてそれをナナに伝えたと言う事は、いずれ彼等からの依頼がくると言う予告に他ならない。そうなればナナは今の依頼を完遂する事よりも、フロンティア全域に関わる事である彼等の依頼を優先するだろう――"石のような物体"を探し壊す、と言う依頼を。

 

「ゲイツの了承は?」

 

「おうおう、既に取ってある。優先順位は此方が上とも言って居った、だが暫くは獅子身中の虫を成してくれ」

 

 はて、獅子身中。と言う事は管理局に。

 そこまで考えてナナはヘルメットの中で驚愕に目をひん剥いた。

 

 そしてその反応を見透かしたように呵々大笑し、そうだ、と頷く蓑亀。

 

「彼奴は管理局の最上、最高評議会に憑いておる。否、彼等こそが"祈り手"に為って居ったのだ。考えてもみろ、彼等の行動に人間味が在るか?」

 

「なるほど。……了解、内偵を務める」

 

「貴様も程々人間味が薄いな。くれぐれも祈り手などに堕ちてくれるなよ……否それこそ要らぬ心配か」

 

 後ろからデッドライアーに睨まれ、流石の蓑亀もフォローするような言葉を口にはする。しかしその左右で色の異なる瞳は、それを撤回してなど居なかった。

 ナナもそれには何とも言えなかった。事実、自身の人間味がどこか薄い事は自覚があったからだ。その代りにか首元のスイッチを押してヘルメットの前面を開き、顔を曝すとその目をじっと見返した。

 

「心配してくれてありがとう。――あなたたちのような友人がいる、だから大丈夫」

 

「お、おおう。 そうか、それならば、まあ、よい」

 

 気圧された訳ではない。真正面から、友人、などと言われては"人でなし"は戸惑ってしまうものだ――人であることを棄てているのだから。

 そして戸惑った事を隠しきれなかった蓑亀の様子に、デッドライアーも篝も思わず微笑ましくて笑みが浮かびそうになっているのだった。

 

「それからもう一つだが、"エイペックス・プレデターズ"の連中が何者かに雇われたようだ。それも、密航船での密出国つきでな」

 

 続いて焦りながら紡がれたその言葉に、ナナの元より藪睨み気味な目が細まりながらギッと吊り上がる。それはパイロットとしてのそれではなく、もっと強い、人間味を帯びた感情によるもののようだった。だが、無理もない。

 

 エイペックス・プレデターズ(APEX PREDETORS)。

 10年前の管理局との戦いの折、フロンティアを裏切って管理局へと戦力を売り込んだ傭兵集団である。そのトップに立つ男である"ブリスク"にとって、戦争とは何よりも儲かるビジネスに他ならない。いや、管理局とミリシアの戦いですら彼にとっては戦争ではなかった。

 そして更に言えば、ミリシアによって戦争犯罪者であると認定され指名手配されてなお、彼は荒稼ぎをやめなかった。

 彼とその部下が行った犯罪行為は数知れない。武器や麻薬の密売、捕虜の拷問・虐殺、物資の略奪……などはまだ序の口であるとまで言われる。到底口にすることもはばかられるような犯罪も一通り総なめしていると思った方が良いだろう。

 

 が、彼等は管理局法では『罪人ではない』。

 

 管理局に協力し、惑星"デメテル"などフロンティアにおける幾つかの惑星での戦いを管理局の勝利へと導き、報酬とは別に罪状に関する恩赦を受け取り続けた結果、彼等は管理局法の裁定の下では無罪……それどころかごく一部だが支持ある英雄とすらなってしまったのだ。

 ミリシアもそうなれば易々と手を出す訳にも行かなくなり、新たな犯罪行為に手を染める事を待っては居たのだが。

 

「奴等は残忍で、狡猾で、非情。何をするかわから――」

 

 ふと口を閉ざすナナ。他の面々も同じモノに気づいたのか、難しい顔をする。

 

「俺達はどうすればいい」

 

「一般人として、避難した方がいい。潜伏はするんでしょ。 ……ガジェットドローンの相手は、六課と私がする事になる」

 

「解りました、ご武運を」

 

 そう言葉を交わす彼女達のはるか上空。一瞬、太陽をカブトガニのような影がよぎった。




なおホテルアグスタにおける交戦は、密輸品の辺りをLOKI=サンが守ってた以外は何も無かったのでバッサリとカットする模様。
冗長になるだけだからね。仕方ないね。蟹になりたいね。


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Chaptar.7 Certain Ephemeral Dream.

今回はツナギ回なので短いのデェス。

毎回ツナギって言われたら何とも言えない今日この頃


N.D.75.6

MID-CHILDA ;Task Force 6 Office

 

 

 ホテルアグスタの襲撃の直後、六課のオフィスには何とも言えない空気が流れ――もせず、澱むようにたまっていた。その中心に居るのは3名。功を焦り誤射の危険を顧みず銃撃を行ったティアナ、そして2名……いや2体の『ウォーフレーム』である。

 味方だと思っている相手が思ったより追い詰められていて、更にそこに敵だとほんのり思っていた相手が味方としてやってくると言う状況に若干混乱をきたしつつ、どう接するべきかと困惑していたのだ。

 

 そして当のウォーフレーム2体のうち片方、【エクスカリバー】は管制室の片隅でじっと立って見ているばかり。そしてもう片方、【ロキ】はあちこちをうろついていた。

 彼等はホテルでのロストロギアのオークションの裏で流通しそうになっていた密売ロストロギアの存在に誰よりも先に気づいており、それが奪われる事を防いでいた上に密売人も捕らえていたのだ。そしてそれらを手土産に『協力したい』と申し出て来た事により、ある種の司法取引でここに協力者として存在している。

 

 特に警戒しているのは、フェイト執務官と高町教導官、そしてナナだ。司令官として八神も警戒はしているようだが、そもそも書類業務で忙殺されて出てこれないのでどうしようもない。

 珍しくナナの方から執務官に話し掛けると言う光景も、この辺りから出て来た事であろう。なお話し掛けられた方は二重に驚いてしまったらしく、少々挙動不審であった。

 

 その事そのものを、話す内にナナは違和感として感じ取ってしまった。フェイトの事を、良くも悪くもマイペースであり多少の事では動じ過ぎる事は無い、と思っていたためだ。

 

「武器は預かってる。それでも警戒しなければならないのは、魔導師相手でも同じ。……そこまで緊張する理由は、あるの?」

 

「え、あー、その……なくも無い、んだけど……」

 

 歯切れが悪く、目が泳ぐ。視線の先、壁に背を預け腕組みをして立っていた【ロキ】が小さく肩を上下させた。笑った、のだろうか。

 

「情報の開示を要請する」

 

「開示する必要はありません、その、個人的な事情なので」

 

「……VOIDの向こうの相手に、個人的な事情? 信じがたい、余計に知る必要がある」

 

「ええと、その……あはは……私からは、ごめんなさい、言いたくない」

 

 笑ってごまかそうとする姿は、更に違和感を助長するだけであった。そうなれば警戒しつつも(もっとも、ナナは自分以外のだいたい全員を警戒する癖があるが)【ロキ】本人にたずねるしかあるまい。

 隠す事ではあると感じ、話を聞き取られ辛いよう物陰に呼び込む。話せない事は無い、と言うのは知っていたので特に問題は無いと感じていた。

 

「【ロキ】、フェイト執務官と何か因縁が?」

 

 その質問に対し、口のあるべき辺りで人差し指を立てて、シーッ、と言うジェスチャーを取る【ロキ】。ナナは何となく言いたい事を察した、秘密にしてくれ、と言う意味だろうと。頷いて同意を示す。

 それに満足げに頷くと、【ロキ】は腕組みを解いた。

 

「ある。 と言うより、ありすぎる、かな」

 

「その、声。 ……レイ、声紋解析、フェイト執務官と比較」

 

「ありゃ、一瞬でバレたか」

 

 参ったなあ、と頭をかく【ロキ】。それは放っておいて、本体は格納庫に居るままのレイが持前の演算速度で以てあっという間に声紋解析を終える。

 

『一致率、95%以上です、パイロット。環境や経験などによる誤差を考えれば同一人物ですが、現実的には何らかの形で生き別れた一卵性双生児などを考えるべきでしょう』

 

「あるいはわざと似せたか」

 

「そこまでする理由は無いなぁ。 んー、でももうちょっとこれについてのネタバレは待ってね。フェイトが受け入れる心構えを作るまでは。その時に、きちんと話すから……ね?」

 

「……了承。他の事柄についての情報は共有を?」

 

「ああうん、するよ? レリックとか、コーパスとか、オロキン……アルハザードとか。その辺りは"私達"の専門分野だし」

 

「なら、いい」

 

 一先ずは情報を出すと言う事で、信用はできるとナナは判断した。先送りであっても、口約束であっても、しないと言うよりはよっぽどだ。

 

 そうなれば残りは誤射を嫌厭するようにさんざん叩き込んだのに誤射紛いをしでかした、ティアナの方を気にかけなければならないだろう。

 それにそもそも、オーバーワークとオーバーリジェネによって超人の如き肉体を得る事を旨としたパイロット訓練をしているのに、その上で人目を避けて追加の自己鍛錬をしているとしか思えない肉体の痛み方をしているのだ。

 とは言えその辺りは、基本的には頼れる(ただし魔法が絡むと少々過激な)教導官に任せてしまっていい。万が一を考えてシムポッドの使用キーを同封し、懸念だけショートメッセージで飛ばしておくことにする。

 

 一通り今すぐやらなければならない事を終えたら、次は装備の手入れにかからなければならない。個人武装レベルの装備は使用後すぐに手入れができるものの、タイタン本体の手入れとなると時間がかかる。

 スバルにその辺りのやりくりも教えなければなるまいと、ナナはオフィスを後にした。――背中に【ロキ】の隠しているつもりの視線を受けながら。

 

 しかし。と、移動中にもナナはヘルメットに顔が隠されているのを良い事に、考え込む。

 戦場において止まる事、考えない事は死を呼び込む行為だ。それはもはやナナという存在の存続に関わる程に染みついたプロセスであり、同時に周囲に注意を払ってはいるので誰も気づきはしないが。

 

 ――なぜ、誰も最高評議会がPRAYERである事に、悪しくとも人間を超えた時間を存在している事に気づかないのか。軽く調べた限りでもその存在は無い訳では無く、それでいて代替わりしたと言う情報も無い。

 魔導文明、いや管理局文明の意図した欠陥なのだろうか。そもそも表舞台に立つ事自体が、ある時期からパッタリと存在しなくなり――同時に他惑星、いや他世界への干渉も徐々に目立つようになっているのにだ。

 仮に最高評議会の構成員が斃れたならば、次の構成員をどこかから補填しているに違いないにも関わらず、そう言った情報もまず無い。

 

 ただ『管理局を構築した存在がそこに所属していた』と言う事実と『現在もそういう機関がある』と言う情報のみが存在していて、それでいて構成しているメンバーの情報は全くない。

 海と陸が相反する主義主張を持ちながら管理局という枠に収まっているのは、まぎれも無く彼等の創った"管理局"という枠の実効力が存在しているからに他ならず――つまりちょっとした意図外の動きでもすぐに感知できる程度の場所に評議会が物理的に存在していると言う証拠にもなる。

 

 ――だと言うのに、不気味なほどに誰もその存在に触れようとしない。

 

 つまりうっかりや偶然でも人目に触れる可能性の無い場所で、それは恐らく。

 

「レイ。昔やっていた建築作業時の構造物構築素材の反響データと、トーン・ロードアウトの準備を」

 

『了解、パイロット。準備したデータはヘルメットに転送しますか?』

 

「しない。こっちから反響データだけをそっちに転送するのが良いと思う。けど、FS-1041と"銀鶏"への算出データの転送準備だけはしておいて」

 

『わかりました。……サブロードアウトはスコーチに設定』






ちょっとやる気が減って来てしまったので、そろそろ端々を端折ってダイジェスト進行しようかなと。
無理矢理書いてどっちも面白くないモノ読むよりは、書きたい事だけ書く方が効率もいいし、気分もいいですからね。


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Chaptar.8 Shadowrunners. Prime weapon.

「ヨントーライフルマン=サン。話がある」

「アッハイ何でしょうか」

「今回の文章にジュートクなニンジャ・ミームが検出された。一体どういう事かキサマにインタビューする」

「ま、待ってくれ。ニンジャ・ミームだって? 気のせいだろう! 決して、決してそんな……」

「そうか。解った」

「ほっ……」

「ハイクを詠め、カイシャクしてやる」

「アイエェェェェ!?」


◆実際忍殺語注意な!◆




N.D.75.6

MID-CHILDA ;Task Force 6 Training Area

 

 

 ナナがタイタンや武器の調整のためのパーツの調達で居ないある日の事。

 

 エリオとキャロの二人がホロターゲット相手に自主訓練しているのを、珍しく一同に会したヴォリケンリッターの四人が見守りながら話をしていた。

 話題は、始めは訓練を行っている二人の動きについての評であった。しかし誰かがふと溢したこの一言から危険な領域へと加速することとなる。

 

「あの動き、あのメット傭兵のと似てるんじゃねえか?」

 

 と。

 言われてみれば、と他三人も注目する。

 確かに地面に接している際、前傾姿勢で突撃する場合と、逆に後傾姿勢で滑って移動する場合の二通りがあった。そして後傾姿勢の時は魔法による射撃戦で牽制を行う事が多い。

 その動きは確かに、赤毛の少女騎士が『メット傭兵』と呼んだナナとよく似ているのである。

 

 それだけでなく、キャロもまた動きではなくとも魔法のバリエーションにおいてそれを補佐するような面が多少なりとも見受けられた。摩擦係数を減らすと思われる魔法をエリオにかけたまま維持し、それだけでなく錬成捕縛魔法であるはずのアルケミックチェーンをマイナーチェンジさせたものを意味も無く――彼女らには無いように見える位置に張り巡らせている。

 しかし無意味に見えて、そうではない。なるほどヴォルケンリッターの四人であればなんの意味も価値も見いだせないのだろうが、エリオはスチールワイヤーとでも命名すべきそれを片手で掴み、微弱な魔力を電気変換した事で発生する電磁力によって滑ってゆく。それによって高所を一時的に取ったり、射線から素早く移動したりと縦横無尽に機動しているのだ。

 

「見事なものだ。我らの教えをモノにした上で、組み込んでいる」

 

「そうねえ、ちょっと応用に行くには早いって思ってたけれど、無茶は無い程度の無理をしているだけだし……」

 

「それが気に食わねえんだよ。ガキに無理させんなってーの」

 

 素直に称賛するザフィーラとシャマル、それに反発するヴィータ。

 

「しかし無理は通せば道理になるとも言う。己の信念を貫き通すのは騎士の誉れだろう?」

 

「まあ、確かにそりゃあ、そうだけどよ」

 

 シグナムに諭されて、ヴィータは不満げに黙ってしまった。

 

「とは言えベルカの騎士からすれば、彼女の戦いは肩を並べたいとは思わんな」

 

「そうだな。だがそう言った面を含めて"強い"と言うのは否定できない。正面からの戦闘もそれなりにはこなすと言うのだから猶更な」

 

 聊か否定的な意見を発したのはザフィーラ、そして否定的でありつつも認めているのはシグナムだ。

 

 なおシグナムは以前隙を見て一戦だけ模擬戦を行い、ブーストのホロパイロット・ノヴァ(ホログラムによる軽い実体を持った分身)に見事に騙されたと言う経緯もある――非魔法によるものと言うのもあって見分けが付かなかったのだ。

 それ以来、非魔法的な心眼を得ようと躍起になっているようだが、果たしてそれは出来る日がくるのかどうか。

 

 閑話休題。

 

 概ね強さを認めつつも、しかしその与え方求め方、そして戦い方に対しては騎士として大人として否定したい。

 

 そう言った認識がここに居る四人の共通したものであるようだ。人格についてはそれぞれがそこまで接していないせいもあって、言える事は少ない――と言うよりも人格について言える程接しようとしてこないと言う点のみが共通していた。

 

 だから人となりを知るために接しよう、とシャマルが纏めた所で訓練エリアを統括する装置が一瞬だけビープ音を発した。しかし不幸なるかな、一瞬過ぎたため、誰もその事に気づかない。

 

 そしてビープ音を発生させた原因は既に訓練中の二名にメッセージを発していた。いきなり本物以上に動きのよくなったホロターゲットと、目の前に小さく表示される『訓練相手になってやる エクスカリバー』の一文。

 

 管理局の最新鋭のコンピュータとてTENNOのヤバイ級フラッシュ・ハッキング・システムであるサイファーにかかれば実際チャメシ・インシデント。

 単調な動きしかしないよう設定されていたシステムを再設定し、ホロ・ターゲットは実際ワザマエな動きと連携でエリオ=サンとキャロ=サンを囲んで棒で叩こうとしている。

 しかしそこは仮にもエース・オブ・エースの教えを受けた存在であるのか、魔法によって常人の二倍の跳躍力でバック宙による回避、回避、回避。コトダマ構築仮想空間の地形を用いて見事に危機を脱して見せる。

 

 それこそが狙いであった。地形の影から無数のスリケンがキャロ=サンに襲い掛かる! ナムサン!

 だがごあんしんください。元からコロスつもりの無いその刃は、少女の服のみを狙って放たれたモノ。故に訳も解らずそのまま地面に縫い付けられ、しかしその一瞬で反射的に錬成魔法による鎖の一条をキャロ=サンは放っていた。

 鉄と鉄が擦れる独特の音と火花が影に散り、ぼうと幽鬼めいた白くのっぺりと頭全てを覆うメンポが浮かび上がる。

 

「エクスカリバー=サン!? ナンデ!?」

 

 悲鳴めいて放たれた声に、彼は悠然と光の当たる場所まで出て来る。ウォーフレームのエントリーだ。

 そしてただ本来口のあるべき場所の前で人差し指を立てて、シーッ、とキャロ=サンに静かにするよう示す。これが本気のニンジャ殺意を纏っているならばモージョーの一つも言う前に二人はネギトロめいて転がっていただろう。

 そうはならずに予告と不殺を行い、さらには纏っている雰囲気もただ稽古を付けてやろうと言う、ある意味慣れた物である。彼に戦闘不能の判定を下されたキャロ=サンは致し方なく黙った。

 

「ドーモ、エクスカリバー=サン。エリオです。ご指導アリガトゴザイマス」

 

 別に本当に片言になってしまった訳ではない、エクスカリバ=サンから溢れるニンジャ力によって奇妙な変換が成されてしまっているだけだ。

 二人とも一旦武器を収め、両掌を体の前で合わせつつ腰を折ってオジギをしアイサツを交わす。実際アイサツは大事、テンノ・コデックスにもそう書いてある。(※実際のゲム内では書いて無い。欺瞞!)

 

 オジギをして顔を上げた僅か0.3秒後、エリオ=サンは既にラディアルジャベリン・ジツの発動を完了したエクスカリバー=サンを見る事ができたのみであった。

 

「アバーッ!?」

 

「アイエエエエエ!?」

 

 そして実際手を抜いたのか気絶するのみにとどまった。そのあまりにも無慈悲な(しかし手加減はしていた)光景を見てキャロ=サンはしめやかに失禁!

 

 やれやれ、と肩をすくめると背を向けてエクスカリバー=サンは何かの有線LANケーブルをエリオ=サンのデバイスに接続。『データ転送完了ドスエ』電子マイコ音声アナウンスによって何かのデータが送り込まれた事が告げられる。

 

 そのまま音も無くログアウト。スリケンも塵となって分解されていた。

 年頃の少女の失態を見逃すだけの情けが、テンノには存在していた。

 

 そして全てが終わってやっと、保護者役を任されていた騎士四名は事態に気づく。

 これは後に解る事だが、デバイスに転送されていたのは幾つかの改装案――しかも2,3日で完了できるもの。エリオは少し悩んだ後、強くなれるなら、と改装を頼む事にしたのであった。





思ったより書けてない。ドリンクをキメるしかないのだろうか……


単に興味が逸れただけ。アッハイその通りです。完結を急がないといけませんねクォレハ……


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Outer Tips.2 訣別の霊廟

お待たせしましたスゴくない奴、二連投稿の1つめ。

ええ、今回は解説回って言う側面もあるので大いに番外編です。
あとルビ振り機能を使ってみようと言う試み。だいぶ無理なルビや傍点などあるかもしれません。

あとくどいけど独自設定炸裂注意ナ!


N.D.75.7

MID-CHILDA ;Task Force 6 Yagami's Officeroom

 

 

 フォワードの年少二人に休暇を与えた、ある日の事だ。

 

 機動六課の司令用個人オフィスルームに、6つの影があった。

 2つはこのオフィスの主であり籠りっきりになりがちな八神はやて、リィンフォースツヴァイ両名。

 残る3つは高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。そして傭兵ナナと――【ロキ】。なお【エクスカリバー】は居ない、おそらくオービターで次に向けて装備を整えているのだろう。

 

 【ロキ】は新参故にそうとは限らないのだが、この面子が集まる時は概ね、比較的重要度の高い様々な情報をやり取りする事になっている。そして雑談は可能な限り交わさない――ナナがそう言った物を避けて頃を見て入ってくるからだ。今回もそうだ。

 

「失礼、遅くなった」

 

「お、やっとやな。そしたら始めよか、誰からにする?」

 

 と問いかけるのは、形式的なモノに過ぎない。これまた概ね、ナナが共有したい情報がある、と言うから集まるのであるのだから。

 

「私から。 ……今回は三点、先ずパイロット・スバル個人に"支援者"が付く事になる」

 

「支援者? スポンサーとか、そんなんか? 見返りは……支援した事そのもの、と」

 

「その通り。我々パイロットはミリシアではたった一人のために艦隊砲撃や航空爆撃などによる支援すら惜しまない程の貴重な人材で、その一方でコストがかかる。そのため一人、専属に近い形で支援者が付く」

 

「断る事はできへんか?」

 

 やはりそう来るか、と言う程度の認識しか無いようにナナは即座にヘルメット頭を横に振る。

 

「断っても付く。パイロットの考え方次第では面識も持てるかも」

 

「……了解や」

 

 ナナとて、はやての懸念も理解できない所ではない。管理局から離れてゆく事に対しての危惧だろうが、それは無いと思う。

 

 フロンティアは――スバルには少し過酷だ。

 

 いや、パイロットであれリンカーコアを持つ存在は記憶転写復活措置(リスポーン)ができない都合上、まだ方々に硝煙と鉄による死が転がっているフロンティアには来るべきではない。と言うべきだろう。

 しかしそれを口にすればややこしく面倒くさい事になることは避けられないので、ナナは決して口には出さない事にした。

 

「次。実働データと仮想データの両面からメディベル(中衛)級タイタンの設計がブラッシュアップできた。近く虎大からゲンドゥル(魔力者)級、と言う形でライセンスが譲渡されるはず」

 

「具体的にはどういう感じになりそうなんや?」

 

「……魔術行使に特化した装備が設計されたので、それを持つ事になる。トリガーコア、主武装マナアークキャノン、攻撃装備MTMS、オプション装備AMディスチャージャー、防御装備ヴァーチャルシールド」

 

 それだけを言って、どやぁ、と言わんばかりに見つめるものだからはやてはもちろん、他の魔導師達も反応に困るしか無かった。何せ彼女らは質量兵器に対する知識が、良くて地球の日本相応なのだから名前も聞いた事が無いモノばかりだったからして。

 

「全然わからないの……」

 

 思わず苦笑いしながら言ったなのはを、えっ、と言いたげなタメを持って見返すナナが非常に滑稽にすら思えてくる。他の二人も、解らないと解ると、ナナは声色に出る程むっすりしながら解説を始めた。

 

「まず主武装。アークキャノン、と言うチャージ式の放電砲を魔力で再現するもの。有射程だけど、それ以外は概ね悪くない。……ちょっと型落ちした武装だから、実質在庫処分」

 

「魔力で、って事は非殺傷もできるんだ」

 

「全部できる。 AMディスチャージャーは、AMFと同じ発想を物理的に行う。魔力炉内壁の魔力反射材を粉末状にしたモノを周辺に散布して、誘導系や結界系、あと魔力収束なんかも阻害し、直進砲撃でも著しく減衰させる煙幕を張る」

 

「目に見えて対魔導師用って感じなの……」

 

 まるで魔導師は何も悪い事をしない、と言外に信じていそうななのはの言葉に淡々とした口調でナナは、閑話だけど、と言葉を紡ぐ。

 

「非魔力資質者と、魔力資質者の"再犯率"は、魔力資質者の方が20倍以上高い。 ……特に非魔力資質者への暴力的魔法行使が多い、ティアナの自主パトロールでもかなりの検挙数が――」

 

「まってまって、それ初耳だよ!?」

 

「連絡してるとばかり……本人にそこは聞いて。 続ける」

 

「続けないで!?」

 

 フェイトのツッコミを暖簾に腕押しとばかりに扱い、ナナは話を続ける。

 

「ヴァーチャルシールドは、半球状のシールド魔法を展開する。……半透明な一方通行の半球膜を目の前に発生・追従させる。私達の感覚だと、反射機能がない代わりにパーティクルウォールのように一定時間維持するヴォーテックスシールド」

 

「……さっぱりわからん。ま、まあええ、ほんで?」

 

「トリガーコアは……起動直後の攻撃を一発だけ大幅に強化する。以上」

 

「あ、そこはカートリッジシステムと似た感じなんやな」

 

 少しホッとした様子の魔導師3人である。

 しかし、続く報告にキョトンとした顔になり、そして険しい表情になった。

 

「……3点目。 フロンティア全土で特定指名手配された組織が密出国し、ミッドチルダに正式入国した」

 

「それはおかしい。基本、その辺は共有されとるはずや」

 

「"クーベン・ブリスク"率いる傭兵集団"エイペックス・プレデターズ"。罪状は民間人や捕虜の拷問虐殺、死体損壊、違法薬物の取引、略奪、強姦、誘拐……が、主なモノ」

 

 流石にこれだけの情報でも、皆が真顔になる。顔の見えないナナも、そして顔が表情を作れない【ロキ】すらもだ。

 しかし続く言葉が更に問題であった。

 

「けれど、管理局は彼等を()()()()()()()()()。なぜなら、10年前の戦いの折に、ミリシアを手ひどく裏切り、管理局に()()()()大きな貢献をしたから」

 

「……司法取引か?」

 

「違う。ただの()()()()。彼等の性質は何ら変わっていない、金だけで雇われる相手を選び、契約に無い事は何一つ縛られず……構成員は揃って残虐で、冷酷、冷徹」

 

「しかも違法出国で、かつ正当入国て事は……厄介やな」

 

 通常、入出国と言うモノは出国と入国がセットでなければ受理されないものだ。それを受理させたと言う事は、つまり。

 

 ナナは重く一つうなずき、続ける。

 

「敵対とは行かずとも対立する可能性は高い。そして彼らは一度雇われたら、完遂するまで幾ら金を出しても裏切る事はない」

 

「もしも対立した場合の対策は……?」

 

 万が一年少組が遭遇してしまったら、とでも考えているのか不安げなフェイトに対し、たった一言でナナは返す。

 

「生き伸びるためには、諦めて逃げる。無理なら、勝つ。戦場では常識」

 

「アッハイ、そうだね」

 

 そんな事も知らないのか。と言いたげな声色に、フェイトは思わずニンジャアトモスフィアを醸す返事をしてしまった。

 それに気づいたのか、【ロキ】がくすくすと小さく笑い声をたてた。

 

「他細かい点はデータを送る。私からは以上」

 

「うい、ご苦労さんやで。概ね把握したと思う。……で、えーと、そっちのロッキーも何や用事って言って無かった?」

 

「あ、そうだった。うん、そんな大した事じゃないんだけど、数点。まず先日の稽古の件。ちょっとやりすぎたからMODDINGして威力調整するって、彼は言ってたから」

 

 もでんぐ? と首を傾げる五人をそっちのけに【ロキ】は話を続ける。

 なお懸命な読者諸兄に簡単に言うならば、MODDINGとは所謂『改造』であり、テンノは全ての装備をカードと言う形で管理している改造用資材を使用する事で、ある程度性能を変化向上させることが可能なのである。

 

「その時に渡したデータがスピアガン『FERROX』と幾つかのPRIME武器を複合した……一言で言えば『ストラーダ・プライム』の設計図、かな」

 

「設計図だけとはいえ勝手に改良できてたんはちょっとビックリやな。ウチらのデバイスもできるん?」

 

「しないだろうけど、できると思うよ。デバイスもタイタンも、どっちも元を辿ればオロキンの技術から()()()()したモノだし」

 

「待って待ってそれ初耳やで」

 

 困惑する魔導師(+デバイス)に、え、言ってなかったっけ。と言う雰囲気をありありと出してしまう【ロキ】とナナ。暫く互いに顔を見つめ合った後、軽く肩をすくめて【ロキ】が語りだす。

 

「えっと……まず虚数空間(VOID)の事は皆知ってるよね」

 

「……まあ、存在は知ってるで」

 

「ん。中に何があるかも、ある程度は」

 

 既に知識に差があった。

 なので、仕方なしに【ロキ】は、そこについても語りだす。

 

「まずVOIDと言うのは、私達人類種が知覚可能な次元構成を持つ()()()()()()()()らしいんだよね。だから次元構成がゆがむと、繋がりができる」

「それと同時に、そこには()()()()()()()()()。常に変化してるとか、極めて不安定とかじゃなくて()()()

「だからVOIDに接続できている次元には、色々と()()()()()()()があるらしいよ。魔力素とか、テンノ・パワーとか……あとタイタンのバッテリーとか」

「でもVOIDには()()()()()()だけだから、直接そういうエネルギーを汲み出す事はできても、利用できない。でも()()()()()()()()()()()()()()()事を利用して、潜りこむ事はできる」

「それをしたのが古代文明アルハザード(オロキン)。今でもその遺跡は残ってるよ」

「そしてそこから零れ落ちて次元世界に広まった技術や存在が『魔導』『魔素』や『タイタン』、それに『飛鉄塊』『微かな存在』『WARFRAME』……って事」

 

 誰も納得はできなかったが、あまりにも淡々と語られた内容に何も言えなかった。だから【ロキ】は納得したという事にして、次に話を進める事にしたようだ。

 

「次は私たち、って言うかロータスの方針ね。今の所は協力するけど、テンノやオリジン太陽系に大きな影響を与える存在は回収または破壊する、って事みたい」

 

「…………あ、うん。えっと、こっちで封印しとるロストロギアとかも対象なん?」

 

「らしいよ? 渡さないって言ったら隠密ミッションになるだけかな、ならないに越したことは無いけど……」

 

 敵対してまで実行されるよりはマシなのか、そうでないのか。

 それは誰にも分らなかった。まあ、ここはもっと上が判断する事だろうと流石のはやても思考を放り投げる事にしたようだったが。

 

「それから最後に。もう一人の"彼"は名前を忘れてるからジョンとでも呼んでくれればいいよ」

 

「……あなたは?」

 

「あれ、もう言わなかったっけ?」

 

「聞いて無い」

 

 魔導師達の思考がフリーズしかかっているのを良い事に、部外者二人がトントンと話を進めてしまう。本筋ではない上に、どうでも良い事だと判断したからだろうか。

 

「アリシア・T・テンノだよ。よろしくね?」

 

 ――声の一つもあげず、フェイトが硬直しながら気を失った。

 

 




フェイトそんはそんな役回り。
これまでも、これからもな!

なおプレシアは生死不明の模様。
やったねフェイトちゃん、気苦労が増えるよ!


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Chaptar.9 Lostlogia, Lostideal, and Keep Degnity.

二連投稿の2つめ。
サブタイトル考えるの難しいし疲れましたよもぉおおん!




N.D.75.7

MID-CHILDA ;City Area

 

 

「全く、今日は厄日だな。俺達も、お前らも」

 

 どう見ても一般人には見えない、コンバット・ボディアーマーを身に着けた人相の悪い男は、検査衣を身に着けジュラルミンケースを手首に手錠で繋がれた金髪の少女(いや幼女か?)を背後にかばうエリオとキャロを睨むようにしながら言う。

 しかしその視線に明らかに竦み怯える幼女に、休暇であったがゆえに普段着かつ装具の一つも持ってきていない年少二人はぐっと身構える。その様子に大げさなまでに溜息をつき、口調こそ変えないものの語気を強めて男はもう一度言った。

 その瞬間、キャロには地下水道特有の湿った空気が、一瞬にしてぴりりと乾いた気がした。

 

「いいか、もう一回だけ言うぞ。俺はソイツの"臨時の護衛"だ、抜け出しやがったからこんなところまで追いかけてきただけだ。今すぐこっちにそいつを寄越せ。時間が無い、金が掛かってるんだ」

 

「そうはいきません。管理局局員として、ロストロギアの反応があるモノをこんな子供に持たせておくような相手には――ッ!?」

 

 するり、と警戒をすり抜けるように男はいつの間にかエリオの目の前まで近づいてきていた。身構えていた事すら無意味な距離で、寝起きの熊のような顔で睨みつけられれば怯みもする。

 だがそれ以上に、遠くから響く地鳴りのような音がエリオとキャロの危機感を煽った。重厚な金属が二本足で歩くような――タイタンだ!

 

 そう解った瞬間、エリオは改造中のためにストラーダを持ってきていない(そろそろ完了するはずだが出かけた時はまだだった)事も無視して、先ほどからこっそり溜めていた魔力を変換しつつ掌からサージ放出する。雷光による目くらまし……の、つもりで。

 しかし実際は別の効果を発揮した。どういった訳か電気が電磁に変換され、紫がかった青白いアーク放電光となり、男を強くひるませたのである。

 

「アーク……グレネード……ッ!?」

 

 一時的な痺れで上手く体が動かないのだろう。放った方も少しびっくりしていた。

 その隙を見るまでも無く待機状態のケリュケイオンを介して身体能力増強(フィジカルブースト)を起動したキャロが幼女を担ぎ上げ、単純な演算のみで行える魔力付与(エンチャント)をメモリ上――つまりは脳裏に発動待機させているエリオが殿を務めた。

 人の足ではタイタンに追いつかれてしまうが、そこは魔法の力によるゴリ押し。通信できるのがキャロだけと言う事もあって、時間稼ぎも兼ねて網の目の如く複雑な地下水道を出鱈目に折れ曲がり走り回る。

 

「ロングアーチ、こちら……っ、キャロ=ル=ルシエ三等陸士。 現在、先刻連絡したロストロギア反応追跡の途中で迷子と、それから正体不明のタイタンとパイロットと遭遇――」

 

『こちらロングアーチ、シャリオ一等陸士。正体不明のタイタン、ですか?』

 

「はい。迷子にロストロギア反応の出ているケースを手錠で保定してあって、それを追いかけて来たと……状況的にあまりにも怪しいので独断で保護し、現在撤退中です」

 

『わかりまし……あ、八神司令』

『キャロ、そいつは髭面のクマみたいな男やったか?』

 

 急に通信に割り込み、声色だけでも解るほどに真剣に問われてキャロは一瞬足が止まりそうになった。デキる人なのは知っていたが、真面目な人だとはあまり思えていなかったせいもある――比較対象が"仕事=趣味=生活=鍛錬"な(しごといがいしらない)ナナのせいで、なのはですら仕事狂いだと誰も思えなくなっていたりするが。

 

「ええと、はい。クマはクマでも野生のクマって感じでした。静止画像、送ります」

 

『受信しとるで。ああ、念話に切り替える。 ――ええか、こっちから救援を送るけど多分、間に合わん』

 

 これがただの通信であれば、運んでいる子にも聞かれていただろう。それを考慮したのか、あるいは。

 どちらにせよパニックを起こされるよりはマシである事に、キャロは気づいていない。遠くから響くタイタンの足音に気を取られているせいもあるが、助けが来ないと言う事に軽く絶望を感じたからでもある。

 

「じゃあ、じゃあどうすれば……」

 

『逃げなあかんな。そこからやと……貯水槽が近くにあるからそこは避け、ん、なんやナナ? は? 貯水槽に? ……ああ、雨も降ってへんかったし行けるか。なるほどなあ』

 

 不安が募る。タイタン相手なのだから狭い場所に隠れる必要があるのではないだろうか、と思ったのだが。それを否定するようなプロの提案である。

 何か策でもあるのだろうか。

 

『ホント()()やけど、貯水槽の近くの地上にスバルが居る。貯水槽の上面はぶっとい針金入りのコンクリートだけやから、ある程度叩き割ってタイタンフォールするんやて。補償費が、予算が、うう……』

 

 まさかの魔法を爆薬程度にしか扱わない作戦である。ああ、ナナさんらしいなあ、とぼんやり思わされた。なおはやてが呻くのはもういつもの事と慣れてしまった所がある。残念ながら。

 

『……こほん。とにかく、聞こえとったね? そしたら合流座標とルート案内をするから、皆気張りや!』

 

 こうして地下では、命をかけた追いかけっこが始まった。

 

 

 一方、地上ではスバルが独自魔法である"フローティングウォール"を併用して、壁を蹴って跳躍する事を繰り返して合流地点へと近づいていた。合流予測時間まで少々時間がある。

 そのためか、ナナから秘匿回線によって通信が入っていた。なおティアナはジャンプキットを持ってきていないせいもあり、完全に置いてけぼりとなっている。

 

『パイロット・ナカジマ。現状、タイタンフォールに使う再突入殻は一つしか用意できてない。私も今から輸送機で向かうけど、間に合わないと思った方がいい』

 

「その程度、っなら、秘匿じゃ、なくって、もっ」

 

 近いと言っても500m以上は離れた場所からの全速移動である。軽く息が上がっていた。逆に言えば軽くしか上がらない程に余裕はあったが。

 故に、多少頭を回す余裕はある、と言う事である。全くパイロット技能は身体だけでなく脳まで酷使するものだ。

 

『これからあなたが相対するのは、クーベン・ブリスク』

 

「……へっ? それって、あの"エイペックス・プレデターズ"のですか」

 

 スバルは過去にパイロットに憧れを抱いた際、その存在を調べた事がある。

 それ故に管理局からひっそりと表彰までされていた彼等の事はある程度把握していた。そのせいでパイロットという存在に対する尊敬や憧憬が強まった事もあるので、何事も善しあしであるが。

 

『多分、そのエイペックス・プレデターズの。こっちでどう言われているかは解らないけれど、全て忘れて。依頼のためなら、無辜の民間人を街ごと殺す事も厭わない連中。……証拠は要る?』

 

「要りませんよ、パイロット・ナナは今まで誇張や比喩は少ししても、本当の意味での嘘は言わなかったから。証拠を出せるなら多分大なり小なりそうなんだよね……っと、到着っ」

 

 とっ、と軽い足音を立ててスバルはARマーカーが示す合流位置に降り立つ。そこは裏路地にある、()()()ほぼ車の停められていない駐車場のド真ん中であった。

 幸いにも頭上に障害物は無く、足元のコンクリートは暗渠に被せられている特有ののっぺりとした質感を持っている。しゃがみこみ軽く右腕のリボルバーナックルの拳で叩いて、殆ど音が響かない事から顔をしかめる。

 

「これは砲撃魔法でも使わないと苦労しますけど、撃ったら余波で周囲まで巻き込み兼ねないですね。どうします?」

 

 スバルとしては、軍需品の遠隔起爆式梱包爆弾(サッチェル)でも使ってしまいたい気分であった。もっとも持ってきてなどいないので、魔法で何とかしろと言う事だろうが。

 念のためロングアーチにたずねたつもりであったが、まだナナが通信ポートを占有したままであった。

 

『そこを中心に、8か所に()()()()()()込みの震脚を打って。割れなくていい、中心部でヒビが重なればタイタンフォールの衝撃で割れる。……きちんと制御できていれば、巻き込み崩落も無い』

 

「――わかりました」

 

 いともあっさりとは行かなかったが、聞いて、理解して、()()して、返答する。

 

 ――彼女はその力を疎んでいた時期もあった。こんなもの誰も救えない、誰も幸せにしない、()()()()()()()()だと。だから魔導師としての自分しか出さないのだと。

 だがそれは()()()()()()()()訓練する内、銃火器と言う()()()()()()()()()()()()に触れ、その扱いを学ぶ内に徐々に変化していった。

 

 どんなに破壊と殺戮しかできない機能や能力であっても、使()()()()()()()()()()()()()のだと。使い手の心一つで何にでもなるのだと。

 その事実にひっそりと気付き、ナナの背中を見て確信したために精神が非常にタフになったのでもある。

 

 なおナナはとても早い段階で彼女が戦闘機人であるとは見抜いて()()()()()が、再生処置済みの人体であるとは認識していた。そのためその事について尋ねた折に詳細もある程度共有しており、それゆえに今回の指示を出す事ができた。

 

 誰も見ていない事も、力を使う事の一助になったのかもしれない。

 すう、はあ。と深呼吸をひとつ。脳裏のスイッチを切り替え、機械を叩き起こすイメージ。

 魔法陣とは異なるテンプレートを展開し、

 

「噴ッ!」

 

 気合い一声。それと同時にズシンと地面を揺るがす程に足裏で強く踏みしめる震脚。文字通り地面を振動させてしまうその一足によって、地面に深いヒビを入れた。もし彼女が本来使っていたストライクアーツであれば、こうは絶対にいくまい。

 ゆっくりと脚をどけて、ヒビが広がり過ぎていないかを調べる。問題は無さそうだと判断すると、エネルギーを無駄にしないためにもあと7度それを繰り返す。

 

 大ざっぱな計算ではあったが、周囲にひび割れが届かないよう、かつ八点の中心で重なり合うよう下準備を整え、リボルバーナックルの表面に指を走らせる。

 

『来たな、準備は出来とるで! タイタンフォール、スタンバイや! ……っくぅ、言ってみたかったんよコレぇ』

 

『八神司令……』

 

 タイタンフォール予告線と、予告時間5秒のカウント。それらが表示されると同時に、何故かはやてによって号令がかけられる。わざわざ回線使用権を強引に上書きしてまで言いたかったのか、とナナとスバルだけでなく他の面々も少々呆れた。――地下でブリスクと対面している2名+1名+1匹を除いてだが。

 

 若干微妙な空気になりつつも、上空からタイタンフォール特有の連続爆発音が聞こえてくる。突入殻が炸薬を使用して姿勢を制御し、精密に落下してくるためのものだ。

 さすがに周囲の住民が騒ぎ始めるが、この際細かい事は気にしていてはいけない。そもそもからしてもしナナの言が本当であるならば、相手は一帯が崩落する事などなにも躊躇いはしないのだろうし。

 

 そして正確地面を割り、地下へと落ち(タイタンフォールす)る。僅かにヒトのくるぶしまであった雨水が衝撃で激しく吹きあがる。

 フォール直後の挙動を決めるフォールキットはドームシールド。粒子シールドドームにより、おおよそ全ての攻撃を無効化してしまうという代物。それによって、1機は1機と3人の間に正確に割って入る事に成功した。

 

『FS-1041"マキア"、到着。お待たせしましたパイロット。 ……モンディアル陸士、フィニーノ技師より届け物です』

 

「え。僕にですか」

 

 戦況は膠着している、と言っていい。あるいはにらみ合いか。ドームシールドに守られたまま、FS-1041――"マキア"がデバイス特有の保存領域から文字盤が白、時針と文字が金の腕時計を取り出し、器用に投げ渡す。

 

『ストラーダ・プライムとの事です、確かに受け渡しました。プロトコル2任務を執行、サブプロトコルB、物資配送を完了。サブプロトコルA、民間人を保護しつつ撤退支援に戻ります』

 

「マキア、準備は」

 

『搭乗準備よし。いつでもどうぞ、パイロット』

 

 ドームシールドの中、スバルはやや緊張した面持ちでマキアのコクピットに収まる。今までは保護者(ナナ)同伴だったが、今回は正真正銘一人と一機で、しかも格上相手。

 

「……助けてね、マキア」

 

『勿論ですパイロット。力を合わせれば強力です』

 

 広い空間とは言え、銃器を使えば柱が崩れ崩落の危険がある。そう判断し、ブロードソードを手に振り返った。

 しかしブリスクが乗っているリージョンは、タイタンの身長ほどもあるガトリングガンを構えるのをやめてしまっていた。

 

『やめだ。割に合わねえ』

 

「へっ?」

 

 一同、一気に気が抜けてしまう。特にやる気を出して相対したスバルなどは猶更。

 揃って奇妙な声をあげてしまったのも仕方あるまい。

 

『お前らと今ここで()()()()のは割に合わない、って言ったんだ。どうせ増援も向かってるんだろ? だから、退かせて貰う』

 

「逃がすと思って――」

 

『パイロット。強化無人歩兵(ストーカー)小型装甲兵器(リーパー)を含む多数の敵歩兵が接近中、警戒を』

 

 ほんの数秒の差を置いて、多くの赤い装甲の人間大の無人歩兵ストーカーと、幾数かの3mほどの白いずんぐりむっくりした肥大化したストーカーのような兵器リーパーが天井の穴から跳び下りて来る。

 咄嗟にスバルはブリスクと無人兵器たちにマキアの背を向け、コクピットを開いて跳び下りた。

 

「――キャロ! マキア! こっちに!」

 

『推奨しませんが、了解です』

 

「え? あ、は、はい!」

 

 すっかり状況について行けておらず、モノも同然の幼子が空になったタイタンのコクピットに座らされた。と言っても、ニューラルリンクが無いので本当に"入れた"だけである。

 

「ごめんね、そこなら安全だから大人しくしててね。 ……マキア!」

 

「えっ、あっ」

 

『了解。プロトコル2、任務を執行。 プロトコル3、パイロットを保護』

 

 何か言いたげな金髪に虹彩異色の幼子を無視し、マキアのコクピットが閉ざされる。

 一同は悠々と立ち去ってゆくリージョンの背を睨み、しかしこれから始まる激戦のために揃って身構えるのであった。

 

 ――なお増援のティアナとナナは、ほぼ同時に到着した。あと1分も遅れていればだれか怪我をしていただろう、という状況で。

 

 




ほぼ顔見せ回。

まあちょい役ってこたぁ無いです、あと1,2回は出てくるんじゃないかな?
たぶんね!


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Chaptar.10 Normality Abnormal.

あんまり長くはならなかったけれど、仕方ない。またも繋ぎ回。


いつものつなぎ回。メインどこだって? さあ……?







N.D.75.7 +few days later

MID-CHILDA ;Task Force 6 Office

 

 

 数日前に保護した幼女は、金色の髪に翠と赤の虹彩異色、と言う目立つ容姿をしている。本人申告では"ヴィヴィオ"と言う名らしく、何故か我らがエースオブエースなのは様()()非常に懐いていた。そして周囲がその様子に振り回されつつも癒されるのも、早くも日常として馴染み始めている。

 それだけならまあ、魔力持ち同士だから庇護を求めて強い魔力持ちに惹かれるのだろう、と納得できなくもない。

 

 しかし、それが正体不明かつ控えめに見て不審者そのものであり、しかもフレームを隠密型ですらっとした男性タイプの【ロキ】から防衛型でがっしりした男性タイプの【フロスト・プライム】に変更したアリシアにも懐いている、となれば。

 

「……わざと、ここに……?」

 

 ナナがそう訝しむのはそう不自然ではない。いや、ナナだけでなく懐かれたアリシア本人も訝しんではいる。この共通するのはどちらも単独任務をこなす事がおおい身の上であり、周囲が敵だらけである事も多い点だ。

 もっともアリシアはそれを表に出す事はしていない。スパイに対するカウンターは、まるで潜入が成功していると思わせながら逆に探る事だからだ。――単にウォーフレームに顔らしい顔がついてないせいで表情が読み取られづらい事も成立している理由ではあった。

 

 そして訝しむ理由はただそれだけではない。

 スバルのタイタンであるマキアからの証言とAIログの提出により、彼女自身がある種の特殊な()()を持っている事が判明したと言う事もあった。

 

 ――魔力に似ていながら、その性質は少々VOIDエネルギーに近い。TENNOであるアリシアとジョンは、データを各々のセファロンに解析させた結果をそう伝えていた。

 それだけでなく、ナナも掠めとったデータをこっそりと6-4に送って解析を依頼しているが、ある古代遺産のデータと近似しているのではないかと考えている。

 

 まず前提として。

 魔力が個人によって独自の光スペクトル(いろ)を持つのは、リンカーコアによってろ過しているからに過ぎない。本来魔力と言うモノは()()()()()()()()()()()()()()である。そしてVOIDエネルギーは()()()()()()()()()()()()()()()()()モノである。

 細かい差異はあっても、どちらも無色のように見えて()()の光スペクトルを持つ存在なのだ。

 そしてヴィヴィオの魔力光は()()()()()()。いや、正しくは()()()()()()()()()()()()()()()()。そして更に()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが何を意味するかと言えば、魔力ではなく魔力の様態を持つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である可能性が非常に高い。

 

 であれば、それは非常に不確定で何が起きるか解ったモノでは無く。そうでなくとも出力を確保すれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()存在である、と言う事。

 ナナがその推論・仮定から連想するのは。

 

「……アーク……時空屈折兵器(フォールドウェポン)? いや、でも……」

 

 フォールドウェポン。

 それはヴィヴィオがもつのと似た()()()()()()()()()()()()の結晶であるアークを用い、空間を折りたたむ事で2点間にエネルギー的なワームホールを形成し、恒星の重力エネルギーを惑星の核に送り込む事で()()()()()()()()()()()()()()()最悪にして災厄の兵器。

 かつて伝説となったパイロットが、同じく伝説となったヴァンガード級タイタンと共に破壊した代物。今ではその面影が微かに残る程度となった、旧い敵の置き土産。

 

 今ではフロンティアの殆どの兵士が知る程に有名なそれだが、流石に人体にアークを押し込める事は無理だ、とナナは思考を切り止める。

 

 今むしろ問題にすべきはヴィヴィオの魔力ではなく。

 

 メンタリティの面で幼女そのものであるヴィヴィオ本人なのだ。

 文字にすると邪魔な事この上ないためヘルメットの集音機能を切ってしまっていたが、丁度ナナの目の前には泣きじゃくるヴィヴィオが居る。別にナナやその周囲が何かをした訳ではない、ただただ彼女の面倒を見てほしいと頼まれて子供部屋と化した一室に入っただけだ。

 強いて言えば、武装を最低限にしただけで装備を解いて居なかったくらいか。パルスブレードやデータナイフ、予備武器(スマートピストル)にしても、なるべく見えないようにしていたのに。

 

 ただそれだけでなのは(ママ)アリシア(おねーちゃ)を半泣きで呼び、しかし運悪くどちらも居なかったせいでガチ泣きしはじめる。

 ナナからしてみればマニュアル通りに動いてインシデント発生したようなものであった。ただ、誰かに助けを求める事も考えはしたがそこまでする必要も無いと割り切ってしまう。

 

 彼女は不幸にも、真っ当な意味での子守りをした事が一度も無い。真っ当な子供をした事もない。

 そもそもがスラム出身であり、そこでは泣き叫ぶ子供と言うのは殴り殺されるか、でなければ無視されて疲れ死ぬか。死体すら残るか怪しいような環境で――独り生き抜き、そして傭兵という命を売る商売に入ったのである。

 

 要するに、泣き叫ぶ子供をどうにかする方法を知らずただ固まっているプロ傭兵、と言う何とも奇妙でお間抜けな光景が出来上がっているのであった。

 

「……ハァー。 レイ」

 

 クソデカ溜息と共に相棒に通信を繋ぐ。しかし返ってくるのは無情な言葉だ。

 

『申し訳ありませんパイロット、現状を打破する方法は記録されていません。命の危険はなさそうです。上手くいったら教えてください』

 

 四方塞がりである。

 

 塞がってはいるが、打開する必要も無いと判断した。ゆえに部屋から逃げ出したり、危険な事になったりしないよう、それとなく見張っておけばよいと結論する。

 扉の向こうではもっと知識のある人達が仕事にいそしんでいるのだと思うと、それはそれで"もにょ"っとした気分になるのは事実ではあるのだが、頼まれて引き受けた仕事は全うせねばなるまい。

 ひとまずここに居るだけでもそれは何とかなる。飴でも食べながら未整理のデータを整理しようか、と考え――ああそうか、と思いついた。きっと唯一の冴えたやり方だ。

 

 ジャンプキットのフェーズストレージから、包み紙で包装された飴玉を()()()取り出し、泣きつかれたのかガチ泣きからぐずつきに移行していたヴィヴィオの前でしゃがみこむ。

 それだけでも怯えたようにビクリとされたのは少なからず傷つくが、包装を解いて、彼女の目の前でヘルメットの前面を開いて、一つ口にする。そしてもう一つを掌に乗せて差し出した。

 

 傍から見れば幼女誘拐の現場ではある。しかしそれでもナナは、じっとこちらを見つめるヴィヴィオにためらいがちに言葉をかけた。

 

「あげる。少し、ここに居ないといけない。酷い事はしない。 ……居ても良い?」

 

 返事があるまで、じっと見つめる。ヴィヴィオも見つめ返す。

 何秒、あるいは何分経っただろうか。下手なパイロットを敵に回すよりも緊張しながらも返事を待つナナの掌から飴玉をパッとひったくると、ヴィヴィオは部屋の隅に置かれた長椅子まで逃げてしまった。――少なくとも、泣くのはやめてくれたようだ。

 

 とりあえずは嫌とも言われなかった、と安堵してヘルメットを閉じ、音響設定を元通りに戻す。そして部屋の中央にある長机に向い。

 

「すっぱい……」

 

 そう呟いて口をすぼめているヴィヴィオを見て、そういえばレモン味を持ち歩いているのだったなあ、とナナは今更にして思い出したのだった。

 

 いつの間にか、彼女を危険物(アーク)ではなく、ただの子供として見ている事に気付かないまま。






YOJO IS ANGEL.


はっきりわかんだね。


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Chaptar.11 Disobey the coma light.

日常つなぎパートその2
でも結構事態は大きく動いてます。





N.D.75.8

MID-CHILDA ;Administration bureau tower; Enterance

 

 

 その日、外回りと称して昼過ぎまで地上本部のパルスエコーを取る作業をしていたナナが帰って来て最初に見たのは、おそらくミッドで今彼女が最も見たくない組み合わせであった。

 まず目立つのは、子供であるがゆえに背丈の差で判別しやすいヴィヴィオだ。そしてその保護責任者に()()()()()()()()なのはとフェイト。その次に、数人との間に割って入るか仲裁するように立っている、あまり接点の無かった男性執務官――クロノ・ハラオウンだったか。

 

 そして現実逃避も兼ねて認めたくなかったが、クーベン・ブリスクを筆頭とした数人も居る。細身の男と、がっしりした女。

 

『個人情報を照合、特定しました。細身の男性は"バイパー"、恵躯の女性は"スローン"、共にパイロットです』

 

「……まあ、ケインやリヒターを連れて来ないだけ、理性的かな」

 

 名前だけ挙げた二人と、ここに来ている二人の差は、その犯罪歴と精神性の傾向くらいである。まだ一般人的と言うか、異常性が少ない人員を連れて来たと言う事なのだろう。

 ケインは薬物中毒者であり、リヒターは蛮族風精神性の持ち主である。

 

 ナナは暫く彼らの様子を眺める事にする。――武器を抜かない限りは割って入る気はない。

 何を話しているかはわからないが、見る限りはまず、ヴィヴィオの怯え方が目についた。ひっしとなのはの服を掴んで離そうとしていない。そしてなのはとフェイトはヴィヴィオをかばおうと、あるいは守ろうとするかのように立っている。気が立ってないだけまだマシだが、意志の強さは感じられるのが厄介な所だ。

 そしてそれと対立するようにして立っているブリスクら3人は、いくつもの書類を見せつけるように差し出している。今頃になってやってきてああしているところを見る限り、公式な管理局の書類であり、内容としては保護責任の所在を明らかにする――あるいは親権者が誰であるかを証明する書類だろう。

 そしてブリスクらがしていた(少なくともヴィヴィオにレリックを括りつけていた)事を欠片とは言え知っているなのは達が引き渡しを拒否し、話が長引いたので知り合いでもあるクロノが間に入って説得をしようとしている。

 

 そんなところだろう。概ね見立ては合っているはずだ。

 確かに保護責任者として適役であるのはなのは達の方である、とナナも考えはする。しかし"保護責任者"と言う立場は比較的()()ものだ。

 迷子を保護したらそれだけで保護責任者として法律上は扱われるが、だからと言って親権者あるいはその代理人からの引き渡しを拒否すれば明らかに法律違反であると思われる程度のもの。

 

 ゆえに今割って入って、結果的に犯罪の片棒を担ぐ訳には行かない。

 

 と、不意にヘルメット内無線ではなく民生用個人端末のナナのアドレスにメールが届く。その場で指をちょいちょいと動かしてヘルメットにリンクさせ、拡張現実(AR)で視界にウィンドウを展開。

 内容は単純なもので、蓑亀からのお茶(不定期報告)のお誘いだった。つまり何かしら知らせたい事があると言う事だろう、と判断する。

 一応、私用で外に居る、とだけ六課のメールリンクにメッセージを残して、ナナはあっさりとヴィヴィオ絡みの諍いから立ち去る事にした。

 

 

Few minutes later.

MID-CHILDA ;Open terrace cafe

 

 

 そうしてこちらにやってきた。とオープンテラスカフェの店外席の一つで珍しくヘルメットを外しているナナが語ると、蓑亀は呆れと諦めと納得を足して2で割ったような表情で頷いた。

 天候は曇り。雨の気配も遠く感じると言う事で、店外席はほとんど空いており、道行く人々は足早である。しかし彼女らの周囲は仄かで微かな金色の光に包まれていた。

 

「まあ致し方ないといえば致し方ないが、流石に非情に過ぎはせんか。……その、()()()()()()()()だったのだろう?」

 

「……言われてみれば」

 

「全く、お前はいつでもそうだな。とは言え涅槃(コレ)があれば乗せた時にタイタンは動かんかったはずだ、似てはいても違う……まあ急ぐ事もあるまい」

 

 涅槃。本尊(人造人間)である蓑亀がその身の内に押し込まれた、概念的な異世界。その片鱗を"微か"を通じて投射する事で現実を書き換える程の、驚異的な"理想世界"。

 もしそれを理解したうえでヴィヴィオを誰か――恐らく管理局最高評議会、あるいは更にその上のTSL(いしのようなぶったい)が回収に動き出したとすれば。それは、何かそれを使う前提の"何か"が整いつつあると言う事であり、それが"何"であれ、マトモな事にはならないだろう。

 

 しかしその一方で、わざわざ傭兵を用いて回収していると言う事は緊急性を持っていないと言う事でもある。もしかすると予備プランか、あるいは本当に単にこちらの勘違いの可能性もあるわけであり。

 

 いずれにせよ情報が足りない。足りなさすぎる。

 

「蓑亀。これ、地上本部の三次元音波反響データ」

 

「ん、そうだな、先にそっちを見る方がいいか。こっちでやっていた"外回り"は特に成果があったとは思えん――おい」

 

 転送ではなくマイクロチップを介した物理的な受け渡し。蓑亀は話ながらポケットから取り出した個人端末にそれを刺し、一目見ただけで険しい表情となった。

 

()()()()()()()()()()()

 

「え……?」

 

 きょとん、としてしまう。ナナには何も思い当るモノがなく、そういった構造を持った建造物だってあるのだろうな、としか思わずに見ていたからだ。

 

 円柱形の芯軸と、それを支える外軸の多軸構造なぞ、他にない訳ではないのだし。

 

「これは――()()()()だ。折れてはいるがな」

 

車軸(シャフト)?」

 

「ああ。祈り手(PRAYER)の無限再生機関などこそここには無いが、どこかには在るのだろう。空を飛び、瀝青と鉄と石でできた存在――見た事があるはずだ。ミッドチルダ(このあたり)でな」

 

「え、……いや、まさか、」

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 回答と、答え合わせがピッタリ一致する。

 

「本来ならばシャフトは『護るべき存在』と『人柱』によって機能する遺産だが……人柱は立てられているな」

 

「『護るべき存在』はヒトでなければならない?」

 

「――いや。なるほど、稼働条件がそろってしまっている」

 

「どうする?」

 

「どうしたものかな。大量虐殺が目的と言う訳でもなければ、侵略侵攻が目的でもないのだよ」

 

 そう言って蓑亀は、どうしようもないな、という雰囲気を醸しつつ珈琲に口を付けた。

 ナナはミネラルウォーターを注文していたが、それすら口にする気にはなれなかった。俯き気味にじっとその水面と、そこに映る曇り空を見つめるばかりである。

 

「そう焦るな、我々も戦力を持ってくる必要がある。折れたまま稼働する訳ではないからどこかに"片割れ"があるはずだし、それはすぐに用意できる代物でも無いだろうよ」

 

「……わかった。 それで、そっちからの報告は?」

 

 しぶしぶ納得したナナの返しに、今度は蓑亀がキョトンとする番であった。

 

「何だ、友と茶を嗜むのに何ぞ報告が無ければ呼んではいかんのか?」

 

「でも不定期報告って」

 

 不思議そうな顔をしているナナに、にまりと悪戯っぽく蓑亀は笑う。

 

「今、互いに元気である、と言う報告をしているじゃあないか。 んん?」






まーたチラ見せAPだよ……

主人公が関わろうとしてないからね、仕方ないね。
そしてウチの蓑亀さんは割と社交的なようです。


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Chaptar.12 火の試練

さて、ツッコミどころの多いこの作品ももうすぐ終わりが見えて参りました。チャプター14か15で終わり、かな?
と言っても多分年内に終わるかどうか。ごめんなさい許してください何でも書きますから!(すぐ書くとは言ってない)





N.D.75.9.16

MID-CHILDA ;Task Force 6 Office

 

 

 状況が変わった。

 

 ナナはたった一人の子供のためにほぼ全員が雁首揃えて頭を捻っている機動六課のメインメンバーの前で、そう言い放った。なおTENNO二人はどこかへ出かけている。

 

 そもそも何故彼女らが頭を捻っているかと言えば、ヴィヴィオを連れてゆかれた状況も連れて行った人員も、全て恐ろしいほどに状況が出来上がっているせいで裏を勘ぐらざるを得なかったからでもある。――AP(エイペックスプレデターズ)はそのアリバイが確りとあり、彼等がレリックなどという爆弾を子供に括り付けた訳では無く、ましてや()()()()親がやった訳でもなく、身の潔白を証明した上で法的根拠を以て連れていったのだから。魔力特性の事も多少は知っているせいで、逆に悩ましくもなると言うモノだ。

 

 ――余談だが、地上本部公開意見陳述会などと言うモノは何の問題も無く済んでしまっており、だからこそ余裕ができてこんな事で悩んでいるのである。

 

「……何が変わったんや? どうせロクでもない事やろ」

 

 流石にあの場面で回れ右したのは見殺しにしたと思われているのか、じっとりした視線がナナに突き刺さり、そして誰も何も言わないので仕方なしにはやてが返事をした。

 

「大真面目にロクでもない……全世界壊滅の危機。多分、オリジン太陽系宇宙まで含む」

 

「大しておもんない冗談やな」

 

「今まで言った事もないし、今も言ってないし、これからも言わないから面白い訳が無い。データを送る、例の保護した少女が深くかかわっている可能性が高いと判明した。……レイ、秘匿ファイル874を六課各位に転送」

 

『了解ですパイロット。……転送完了しました』

 

 情報と言うのはとても扱いが繊細なモノだ。――それが常識を覆すような代物であるならば特に。

 

 それを証明するかのように、多少なりとも頭の回る面子は一目見ただけで驚愕に顔を染めた。

 記されていたのは――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う情報。そしてその数々の裏付けとなる、フロンティアに存在する遺物の情報との照合、一致性。

 更にはある人造人間(蓑亀)と、ある子ども(ヴィヴィオ)と、そしてある遺物(アーク)。その()()()()()()について。そしてそれらを核として起動する、歪空兵器(フォールドウェポン)()()()情報。

 極め付けは伝承として知られているThe Stone Like(産土神輝黄ノ塊)の――その破片より得られたエネルギー特性と、性質。そしてエネルギー特性が()()()()()()()()()()()()()()()()()()という情報。

 

『プロトコル2、極秘任務217。我々の任務は危険な遺物と思われる物体、即ち地上本部にあるなにがしか、あるいはそのものを調査し、起動あるいはその直前であればこれを()()する事です。 これらの情報はミリシアの斑鳩部隊、並びに同ミリシアのグレイヴヤード、そして6-4各部隊の幹部によりあなた方()()()()()()()()()()()()()()()が許可されました』

 

「……現状、我々は地上本部をカーディナルシャフトの亜種、その一部であると断定し、コンクルージョンシャフト(終局的な軸)と呼称している。ただし後付けの、人為的な機能――つまり管理局という機能は含まない。 シャフトの()()()()()()により回避不可能となる宇宙終局シナリオを回避する事が、現状の私達に下された()()()()()()()()()

 

「つまり……現状の長期依頼を放棄して、そっちに専念する、と?」

 

 どうにも今回の一連の出来事に関して、彼女達のフットワークは軽いのに的外れだと思っていた。

 しかしはやては優秀だ、とナナは思う。可能性を幾つか考えてその中で最もありうる可能性を指摘してきた。

 

 だからこそ、YESともNOとも答えない。

 

「そちらの動き如何による。こちらは既にヴァンガード級を中核としたタイタン大隊(タイタン50機)、それをベースとした機動連隊規模を動かす事が決定している。そちらに()()()()()()()()()()()()()()()場合は()()する事も。 ――ミリシアの一住人として、この戦力で介入するのは心苦しい」

 

 お前がそれを言うか、と言うような視線があちこちから突き刺さる。それは殆どが政治的側面を考えずに済む数名からだったが、強く政治的側面に影響を受けるはやては腕組みをして考え込んでいた。

 

 きっとこう考えているのだろう。

 

 資料を信じたくはないが、信憑性はあると思わなければいけない。ミリシアの公式書式(フォーマット)によるものだったからだ。連名による電子署名にしても、偽造は現在技術的に難しい。

 そしてその資料の信憑性を認めてしまえば、管理局最高評議会と言う存在そのものが()()()()()()()()()()()()()、しかもそれがまた別のロストロギアによって()()されていて、その目的はナナが語った通りの()()()()()()()()であると言う事も認めざるを得ない――そこまで理路整然とした資料でもあったのだから。

 

 何より、ヴァンガード級による大隊規模の戦力と言うモノは、外に持ち出すのであれば明らかに局地陸戦では過剰戦力、決戦戦力の類と言っても良い。

 しかもそれを含め、機動六課にだけ開示を許可されたと言う。

 

「――裏切れ、っちゅーんか」

 

「違う」

 

「えっ違うん?」

 

 即答であった。そしてそれによって重く張りつめた空気がある種のギャグ的雰囲気を含んでしまう。

 

「……あなた方に期待するのは、折れたシャフトの片割れを探す事。別動隊……グレイヴヤードから2名、斑鳩から1名によってなる情報収集兼早期対処班の調べによれば――せい、せいこうのさかりば……?」

 

『"聖王のゆりかご"です、パイロット。再生による記憶障害ですか?』

 

 何とも空気がおかしくなり始めた。ほのかにラベンダーの香りがする系の。

 はやて以外の面々がだんだんと刺々しくするのが馬鹿らしくなってきているのが目に見えるようだ。

 

「皮肉を検知。 ……そっちでは古代の質量兵器とか言われてる代物だったと思うけど、なけなしの資料を集めた限り『それ』が最も片割れの可能性が高い」

 

「いや、アレは場所も解らんしそもそも起動には"聖王"が必要でやな」

 

 情報自体は色々集まっているらしく、言い訳を重ねるはやて。ここで管理局をガワだけとはいえ見捨てるのは嫌、と言う事なのだろうか。それとも単に信じたくないだけなのだろうか。

 

 が、どちらにせよ。

 

「場所はグレイヴヤードが特定した。聖王も同等の特性の人造体が一人、……違う()()確認されていて、一人は()()()()()()

 

「――ッッ、そう、か、そう言う事、か。 ……連隊が来るまでの猶予はどんなモンなん?」

 

 そう。もし少しでも管理局に義理立てするならば、既に協力する以外の手は無い状況に追い込まれてしまっているのだ。

 否。ミリシアにとっても協力する以外に無い状況とも言える。

 

 ある意味で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状態でもあると言えるだろう。

 

 もっとも、一傭兵であり一個人であるナナにとってそんなことはどうでもよかった。ただ、生き延びるために渦中へ飛び込む()()()()()の事であるため、まるで冷血かのように一切混乱も恐怖も見せる事はない。

 それでも、生き伸びたくはあるのだ。

 

「不動明王剣による長距離跳躍を最大活用して、()()()には。良い返事を期待――」

 

「いや、協力するで。嘘の脚本(カバーシナリオ)で地上本部から一般局員を退避させるまでが限界やと思うけど……」

 

「「はやて(ちゃん)!?」」

 

 今まで一言も発せず事の成り行きを見守っていたなのはとフェイトが、はやての正気を疑うかのような声を上げた。彼女らは確かに賢いが、頑固で、それ故に資料を読んでも理解しきれなかったのかもしれない。

 ――フォワードメンバーの中では、スバルは話さえ聞いてしまえばアッサリとナナの側に立ってしまっており、ティアナも理屈が通ると解れば反論はせず、そしてエリオとキャロはどちらにせよ『仕事』が出来たのだとだけ理解していたようだ。

 

「一つ確認や。 カバーシナリオの展開が済んで、その『シャフト』さえ『封印』、いや『破壊』できれば、他は()()()()()()()んやな?」

 

「それ()()()()()()()()()()()限りはその筈。あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()か……」

 

「それさえナナ、あんたから聞ければええ。現状そっちの上には話が付けれんから、それでええ。 ――つまり。ヴィヴィオを助ける機会があるっちゅうこっちゃで、なのはちゃん、フェイトちゃん」

 

「あ……」

 

「……なるほど」

 

 どうやったらそうなるのか、とナナは内心頭を抱えた。

 総ての人類よりも、目の前の子供一人を優先する。それは公務員としての心構えではない。個人としての心構えだ。

 

 それでも、モチベーションになるのだから口には出さなかったが。

 

「よっしゃ。方針も決まった事やし、ちゃちゃっと『ゆりかご』を抑えてハッピーエンドに――」

 

 そう言ってはやてが気合いを入れようとした瞬間。

 

 けたたましく緊急警報(レッドアラート)が鳴り響く。慌てて状況確認をしたロングアーチの通信士の誰かから悲鳴のような報告があがった。

 

 曰く――高エネルギー反応、地上本部直上2000kmに歪時空移動現出(フォールドアウト)。光学望遠等による自動解析の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 こうして、原作(本来)よりも()()()()()、ゆりかごの目指す所も近く、アースラ無しの状態で、……それ以外にも色々足りないままの決戦が始まってしまった。






足りず、後が無く、失敗は許されず、成功の足掛かりも見えない。

そんなのは――いつもの事だろう?


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Chaptar.13 偉大なる

怒涛の連続投稿、いっくよー!

なお何が書きたかったのか途中で見失った模様。このクソ作者がっ!





N.D.75.9.16

MID-CHILDA ;Administrative Bureau Midchilda Central Office Area

 

 

 上空2000kmから、質量兵器のロストロギアが降下してくる。しかしその速度は時速200km程度と酷くゆっくりしたものだ。魔導技術による重力制御フィールドか何かであろう、と技術的には結論された。

 

 だが政治的には、朝の10時から夕の4時までかかっても何の結論も出る事は無かった。

 辛うじて決定されたのは市街地の住民に対する避難勧告と、局機能の内最重要な物の一時移転(その先に指定されたのは市街地外れにある廃工場であった)。そして航空戦力による早期破壊の試行。

 しかしそこまで決まった段階で、誰が責任を取るのか、どう収拾するのか、などと言った事となり、会議は踊り始めてしまった。

 しかもナナ曰く、情報開示が許可されたのは()()()機動六課のみ。故に確定的な情報は何一つもたらされず。

 

 会議は踊る、されど進まず。そうしている間に『ゆりかご』より正体不明の無人機――PRAYERが文字通り湧きだし、さらに会議は紛糾する。被害をどう補填するのか、等々。

 

 この段階で推定残り時間――4時間。

 

 故に機動六課は会議の完了を待たず、はやての独断で()()()()()()()()()()()()()を決行する事となった。

 むろん、失敗すれば仮に切り抜けられたとしてもただではすむまい。

 

 この際に優先して護るべき対象――つまり中核突入決行者は、飛行魔法と結界魔法により十分な高度まで上昇可能、かつ活動可能な航空魔導士であるなのは、フェイトの2人。

 そして本来陸戦戦力でありながら、増設されたバイパースラスターと電池込みの魔導炉の出力によって()()()()()()()なメディヴェル級タイタンことマキアと、そのパイロットであるスバル。

 

 まだ足りない、とはやては判断した。故に首が飛ぶ事も覚悟で戦力を無理矢理引きずり出す事にする。

 

 解体寸前故に修復改修の不十分だった()()()()()()()()()のアースラを、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()のストレージデバイスを追加で持たせたシャマルにとりに行かせる。狂気の沙汰だが可能であるはずだと――転送魔法を魔力で強制的に範囲ブーストし、船単位で転送させるのである。

 そうして取り寄せたそれをリミッターを解除しリィンフォースツヴァイとユニゾンしたはやて、シグナム、ザフィーラで受動的・能動的に防御しながら浮揚させ、突入者三名をエリオ、キャロ、ヴィータの三名で護衛する。

 

 ナナは別働だ。地上に来ているミリシアの3名と合流し、『シャフト』の何処かに存在するThe Stone Likeと最高評議会を撃破する。この段階で上空の戦力が不足していれば、ナナとあと1人ないしは2人――篝か蓑亀あるいは両方の予定――が合流する手筈となる。

 そのためのデッドライアー(シャフト単独攻略経験者)であり、またタイタンを()()も運べる無人運送船も存在する。 そして篝は優先して上がる事となる――航空化されたノーススター級タイタン"銀鶏"ならば、出てくる可能性が否定しきれないAPのバイパーが乗る航空化ノーススター級タイタンに対応が可能だ。

 しかし同時に彼が地上と空中のどちらで防衛に出て来るかは予測がつかないため、こうなってしまったのだ。

 

 そして可能な限り早くTENNO二名も呼び戻す事となる。攻略に当たらせるのは地上本部側だ。

 これは数の差もあるが、『ゆりかご』内部にランディングクラフトが直接()()られるとは限らない事にも起因する(ほぼ大丈夫だろうが、『確実』と『ほぼ大丈夫』では天地ほどの差がある)。何より、アリシアが居てしまってはフェイトが挙動不審になりかねない――まだ割り切ってないようであったからだ。

 そしてここまで全てを外部人員に任せきる事はできないため、ティアナを同行させることとなっている。

 

 突入後は各々が可能な方法で中枢部へと可及的速やかに到達し、その機能を何らかの形で停止させる。それは破壊でもよいし、封印でもよい。

 

 ――作戦立案までわずか1時間。はやてはこれを、独断によって許可が下りる前に実行に移す事にする。

 突入決行は高度200km(オーロラより上)、残り推定()()()の時点。即ち、たったの2時間()()と言う狂ったような短時間で人でなし二名と元飛鉄塊乗り一名を含めた外部人員と面通しをして準備を整えろ、と通達してしまった事になる。

 

 無茶振りだ、と普通の人ならば言っただろう。

 

 しかし彼女ら彼らは幸いにして常人ではなく、本来あっただろう戦力を持った私で動く公僕でもなく、各々の思惑と理念と動機によって一つの目的を同じくする『柔軟な(フレキシブル)戦人(ソルジャー)』とでも言うべき存在として成立しつつある個の集団であった。

 ――いや、意図して成立させようとしていた。それが誰かと言えば飼い慣らす事を良しとする組織人ではなく、異物として招き入れられたたった一人によって、だ。

 

 それゆえ、誰も文句は言わず、決して低くない士気を保ったまま戦闘の準備を整える事ができていた。

 戦力となると解っているがゆえに、デッドライアー、蓑亀、篝、そして彼等のタイタンの3人と3機に対しても過ぎた拒絶反応は示さなかった(尤も、スパイも同然の存在だと本人達が自己紹介したがゆえに、よい感情も示しがたい、と公僕としての義務も一応果たしてはいた)。

 

 しかし彼等の――正しくはデッドライアーの齎した一つの可能性に拒絶感すら示す事をやめざるを得なかった。

 

「『あれ(ゆりかご)』が俺の知っているシャフトと同型の、その片割れなら、PRAYERの収録・無限再生機関()()()のだろう。それに対抗する手段はあるのか」

 

「……無いわ」

 

 同じ目標の攻略が割り当てられた、と言う事でそれなりに会話をして(そしてこの外様の3人が思った以上に戯言染みた事しか言わない事にうんざりして)いたティアナが手短に返答する。

 

「そうか。なら、()の『仕込み』も無駄ではないようだ」

 

「仕込み? そもそも奴って誰なんですか」

 

「……さてな、俺は対抗手段だと聞いただけでそれ以上は何も――」

 

 そう言った、その瞬間。作戦開始まで半時間を切ったこの時に、またアラートが鳴り響いた。

 オペレーターからの報告を一瞬でも早く聞こうと、視線が一点に集中する。

 

 その視線に射抜かれながらの報告に曰く。

 ――飛行型ガジェットドローン、()()()クラナガン市街各地の地下より()()、上空へと上昇を開始。航空隊の援護を実施中。

 

 全く皮肉ながら、本来の用途として想定されていた通り、しかしそれをはるかに超え無辜の民を護るべくして()()()()()()()として、生産・放出されているのだ。そう、文字通り()()に。

 

 一体何がどうなってるんや。

 総指揮官であるはずのはやては、ただそう呻くしか無かった。――胃薬を呷りながら。

 

 かくして、偉大なるモノ(ゆりかご)に微睡む偉大なるモノ(アーク)をめぐる戦いの火蓋を切ったのは、とてつもない数のモノモノ(The Great Majority)となったのである。



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Chaptar.14-A Be Come

信じて!!





N.D.75.9.16 1922

MID-CHILDA OVER AIR ;The Great Thing "CRADLE OF HALLOWED MONARCH"

 

 

『こちらFS-1041"マキア"。『ゆりかご』内部への突入に成功、貴艦の援護に感謝する。幸運を』

 

 転移を併用した高速上昇によってゆりかごの下方へとつけるという、はやてとリィンフォースそして魔力ほぼすっからかんのシャマルの負荷と負担を一切考慮しない――つまり二度目を考慮しなくていい今だからこそ取りうるアホのような手法で以て接近し、そこからマキアのトリガーコアによって外殻を強引に打ち破り、強行突入したのである。

 そのせいかアースラは徐々に高度を失い、離れていく所だった。周囲のPRAYERからの攻撃は、ほんの短い距離ながらも激戦となってしまった故に撤退を命じられたヴィータら3人を含めた6人によって辛うじて防がれているのが見える。

 

『おうなのは、いいか、無茶だけはすんじゃねーぞ。フェイトも、スバルも、……あとそこの鉄野郎もな!』

 

 無機物故に痛みを感じないPRAYERの突進を鉄槌で捌きながら、ヴィータが激を飛ばした。しかし同時に、言外に『墜ちたら回収はできない』と言っているのである。

 

 ――故に、それは彼女らがどうしようもなくまだ生きている事を証明していた。

 

 飛び込んだ此処はゆりかご(CRADLE)などと銘打ってこそいるが、その実は墓石(GRAVESTONE)なのだと理解しているからこそ帰ってくる途として発した言葉なのかも知れない。

 理解しているからこそ『人でなし』を宛がうような事を良しとしなかったのかもしれない。墓を暴くのはいつでも生者なのだから。

 

 3人と1機は前へと進む。

 通路は無機物でありながら有機的な様相を見せ、一見無秩序に見えながらも合理的な噛み合いを行うブロック達によって構成されている。時折、そう本当に時折ふらりと迷い出て来るPRAYERが居る以外は何も無い。

 マキアの複合センサーを頼りに――魔力波動は干渉し過ぎていて人間の分解能では識別困難だった――奥へ進んでいるはずなのだが、通路のように見える空間にあるのは幾ばくの自動修復を担う機構らと寒々とした風ばかりである。

 それでいて上下左右は確りとした壁に閉ざされ、前後のうち前は開いているものの後は次々に不可思議な発光で作られた隔壁が閉ざされていた。ネズミ捕り、あるいは逆止弁という言葉がふと思い浮かび、スバルは小さく頭を振った。

 

「何だか、魔法の通りが悪い。なのはは大丈夫?」

 

「うん。でも、外殻を偽装していない純正のPRAYERがここまで魔法と相性が悪いなんて思ってもみなかった」

 

 そうだろうか。外に居たのも、純正のPRAYERである。唐突にスバルがぼんやりと呟いた。

 

「……マキア。機内魔力炉の励起率は?」

 

『スキャン中。……励起率が低下しています。原因としては、機材の不調、あるいは()()()()()()()()が考えられ――』

 

「――なのはさん、フェイトさん! AMFと、いえ、マナ(魔素)サプレッション(抑制)レディアス(円域)と似た状況です!」

 

 マナ・サプレッション・レディアス。

 

 『人でなし』たちが扱う基本的な防御行動であるサプレッションレディアスの魔法版であるが、その特性から他の防御魔法の方が重宝される領域(フィールド)魔法である。

 魔導師であればリンカーコアから半径数十センチ~2メートル程度の魔力の薄膜を展開し、その中に入って来た魔力素(ここには魔力として結合したものも含まれる)を強く抑制し不活性化すると言う代物だが、自身も魔法を扱えなくなる事と制御の難しさから訓練くらいにしか使われない。

 

 しかしそれを完全に魔力素に頼らない電子機器等で、広範囲に展開していたとなれば?

 

 下手なAMFよりもよほど脅威だ。展開していると知られる事なく、徐々に徐々に魔力素――つまり魔力そのもの、あるいはそれを蓄積するリンカーコアの機能を使用不能にしてゆく。しかも、毒のように気付かれる事無く、だ。

 

 その事に気付かされた魔導師二名は慌てて物陰に身を隠し、進行を停止した。放っておけば戦闘能力の一切を喪失する事になりかねない。

 その一方、幸いにもマキアから降りればスバルは()()()()()()()()()()である。

 

『不活性化魔力素の分布を解析中。 ……パイロット・スバル。あちらの方が不活性度が高い、恐らく発生装置があるのでしょう』

 

「わかった。 ……なのはさん、フェイトさん、分岐路も近いみたいです。別れましょう、わたしが一人で行ってきます」

 

 魔導師二名は思わず顔を見合わせた。危険だ、止めるべきか。でも行って貰わないと間に合わないし止められもしない。

 そんな事を視線だけでやりとりしたのだろう。しかし。

 

「――お願いできるかな」

 

 きっとその一言を出すのには、この上ない無力感があったに違いない。それでも魔法を使えなくなるよりはマシだ、まだ成功率はある。との判断でしかあるまい。

 

『パイロット。この先に大規模な亀裂を検知、PRAYERはここから外部へと放出されている模様。回り道をしている余裕はありません。 ――私の分析では、選択肢はただ一つ。行きましょう』

 

「……動けなくなる、ってことはないよね?」

 

『少なくとも純粋な魔導師よりは耐性があります。それでも急がなければ動力が低下する恐れはあるでしょう。ですが回り道をした場合は駆動可能限界予測時間を255秒超える計算です』

 

「了解、急がば回れとは言うけど、今は急がば突っ切れって事ね」

 

 マキアのフェーズストレージからアサルトライフルの"V-47フラットライン"とハンドガンの"B-3ウィングマン"を受け取り、送り出すと言っておきながら何か言いたげななのはとフェイトを置いてスバルはおもむろに壁に跳び付いて駆けだした。マキアも早足にそれに続く。

 その背中を見送る白と黒の魔法少女(?)たちもまた、先ほどまで進んでいた方向を頼りに進んで行った。

 

 曲がり角を2つか3つも超え、元は無かったと思われる『膜』の除去にやや手間取ったもののスバルとマキアは大亀裂に到達した。幸いにも、パンケーキにホイップクリームでも乗せたような形状のサプレッションレディアス発生装置がここから直接視認が可能である。

 が、やや遠い。壁も直進するには心もとなく、少々の回り道は強いられる事になりそうだ。

 

 亀裂の下にはPRAYERが海原の水面の如く『波打って』いた。それを生み出しているのは――見回せば、すぐに見つける事ができた。ゆっくりと右回転をする、針の無い時計板のような虚ろなPRAYER。

 それは今でこそ小型PRAYERを再生してはいないが、垂れ下がった鉄錆色の何かの『尻尾』を再生していると中である。

 

『"永久の暦"の同位体を検知。おそらく再生しているのは"錆びた竜"の同位体でしょう。 ――サプレッションの中心点を検知』

 

「でも、こっちからは行けそうに無い。どうするの?」

 

 マキアが指さした事で、改めてスバルはそれを見る事ができた。だが急がなければ"錆びた竜"が今にも生まれ落ちそうである。

 

『私の分析では選択肢はただ一つ、あなたを向こう岸へ()()()事です』

 

 思わずスバルはマキアを見上げた。

 マキアはそんな事お構いなしに、砲丸投げでも始めるような構えで片腕を低く下ろして待ち構えている――やめろ肩をくいくい動かして調子を確かめるんじゃない、と思わずスバルは思ってしまった。

 

「…………えっと、一応、聞くけど。自信は?」

 

『成功確率は61%』

 

「…………残りは?」

 

『失敗する確率が39%……その場合手足の複雑骨折、ないしは四肢の切断、あるいは激しい内出血、または落下してPRAYERに破壊される可能性があります』

 

 それでも、他に選択肢は無い。スバルにだってそう思えた。

 マキアの手に乗り、軽く身構える。武器を落とさないよう確りと握りしめた。

 

『距離約70m。方向、現方向より左右に0。微風影響皆無。投擲対象、重量……約70キロ』

 

 四捨五入されると凄く微妙な気分になる、と思い知った。スバルはこれでも意外と乙女なのである。

 しかしそんな事は相変わらずお構いなしのマキアは、指さし確認を終えるとグッと拳を握って見せた。

 

『信じて!』

 

「頼むよ……!」

 

 そうして、ミッドチルダで恐らく初となる『タイタンに投擲されるパイロット』にめでたくスバルはなる事になった。

 

 対岸は割れていたがゆえに、もし弾道が少しでもずれていたらむき出しの割れた建材に突き刺さる可能性もあっただろう。少しでもジャンプキットの整備を怠っていたら、着地もままならなかっただろう。

 幸いにも、そう言った悪い偶然は無かった。むき出しの床に数度ゴロゴロと転がって受け身を取るハメにこそなったが、何ら痛みを感じる事も無くわたる事に成功したのだ。

 

「――ッ、ナイスピッチング」

 

『ありがとうございます。私は一旦引き返して待機し、サプレッションが解除され次第迎えに来ます』

 

 そう言う彼女ら彼らは、既に立ち止まって会話などしていない。一瞬の遅れが致命傷となるからであり、それはパイロットとして動く際の最も重要な事として叩き込まれた事である。

 僅かに、だが明らかに先ほどまでに比べて迎撃密度の上がったPRAYERたちをフラットラインの射撃で叩き落とし、時には弾幕を潜り抜けてスバルは走る。床を走ってなどいられない、魔力など使う気もない。

 

 壁を走り、跳び、また壁を走る。その合間に射ち、撃ち落とし、狙いをかく乱する。

 

 一瞬とて澱む事の無いラン・アンド・シューティングは間違いなく、ガントレットで鍛えられたモノだ。

 幸いにも狭い通路故に小型のPRAYERしか居らず、それ故に実体弾でも十分に撃破可能である。

 

 だが、一瞬だけ亀裂に繋がった隔壁の隙間とでもいうべき場所から見えたそれは、スバルの精神を動揺させるのに十分だ。

 

「――"竜"が、もう生まれ落ちる……!」

 

 それは4つのユニットからなる大型PRAYERだ。中央のメインユニットは『尾』を垂れさがらせ、左右のサブユニットは見える程に"幽かな存在"を励起させている。

 なるほど大まかにみれば羽根つきの蛇か、竜といった形状だ。

 

 そしてそれに見つかればタダでは済まないだろう、ともすぐにわかる。

 何故ならば"竜"とはそう言う存在だからだ。――どこかでフリードリヒがくしゃみをした。

 

『見えましたパイロット、急いでください。遠隔解析によればサプレッションモジュールはデータナイフでハッキングできます』

 

「デバイスも開封に3秒かからない化け物ハッキングナイフね、了解」

 

『はい。私のようなタイタンとリンクすればインテリジェンスデバイスでもその水準です』

 

 褒めてるけど褒めてない、とツッコみを入れたくなったスバルである。

 だが今はそれがとてつもなく頼もしい。ハッキング待ちの間に撃たれるような事は考えなくていいし、これでダメならデバイス持ってきてもダメと言う事だからだ。

 

 "片翼"と呼ばれるPRAYERに撃ち切ったフラットラインを投げ捨て、ウィングマンを手にラストスパートをかける。距離残り10m、5m――

 

「タッチ、ダウン!」

 

 モジュールのコンソールに半ば跳び蹴りをかますような形で取り付くと、キーボードの隙間にナイフの刃を差し込みひっぺがして、側面にハッキング用の接触端子を出し、丁度良い端子が見当たらないので適当なもう少し大きい端子に突き立てる。

 リボルバーナックルを操作してマキアとのデータリンクを増強、ハッキングコードの埋め込みが始まる。

 

 ――その向こうで、"竜"が生まれ落ち、産声のような、錆び付いた機械の擦れるような耳障りな音を上げた。

 

 たった3秒。

 

 しかしその3秒がここまで長く感じられる事は、そう無いだろう。

 

 ゆっくりと回頭し、こちらを向こうとする"竜"。冷や汗をかきながらデータナイフの柄頭に浮かぶホロインジケータの進行を睨むスバル。

 もう少し、あと少しこちらを向いてしまえば――その時だった。ふっと、竜が高度を下げて行く。

 

『地上防衛部隊より入電。エイペックス・プレデターズと協働するも未確認()()()、及びヴァンガード級タイタン"()()"の出現を確認せり。 ――続けて地上本部攻略部隊より入電。篝、蓑亀両名が地上防衛の補助に回る模様』

 

「――たす、かったぁ……っ!」

 

『"斑鳩"の搭載されていた"不動明王剣"には自身、他者どちらにも使える超長距離転送機能が存在しています。恐らく()()()()してきたものかと』

 

「それは、今は、どうでも、……いいっと!」

 

 ホロインジケータの変動が止まり、埋め込まれたハッキングコードが3桁の英数字で表示される。それを確認して素早くデータナイフと連動させたリボルバーナックルから、停止指令を送り込む。

 

 ふぉぉん、と軽い音がして胸の辺り――リンカーコアに感じていた負荷が消えてゆく。スバルはようやくここで一つ大きな息を吐いた。

 

「これできっと、なのはさん達がヴィヴィオちゃんの回収はしてくれるはず」

 

『その通りですパイロット、見事な戦いでした。丁度迎えがそちらに行きましたので、彼女と合流してこちらへ来てください。戦闘が長引く事も想定して、アーク確保に向かった二人を追うべきです』

 

「……え? 迎え?」

 

 てっきりマキアがくるとばかり思っていたスバルである。しかし実際に来たのは、白と青の大柄なWARFRAME、つまりFROSTに入ったアリシアであった。

 

「アークウィングが使えたから、来ちゃった☆」

 

「アッハイ。ところで何で横抱きにして、ちょっと待ってなんでそっちにって言うかそっち亀裂亀裂アッアッ落ちるゥ!?」

 

 WARFRAMEはパイロットでは跳び越えられない亀裂を、あっさりとバレットジャンプとエイムグライドで跳び越えて見せた。

 それはスバルにとって――とても知りたくない感覚で、知りたくない事実だったと言う。

 

 

 ――ヴィヴィオを迎えに行ったなのは達については、特に何かしら語る事はあるまい。

 ただ皆の知っての通り、母娘のような会話をし、母娘のような絆を紡ぎ、フェイトとなのはの砲撃によって強引にヴィヴィオを取り戻した。それだけなのだから。





コレガヤリタカッタダケー


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Chaptar.14-B GRAVEYARD DIGGER

N.D.75.9.16 1944

MID-CHILDA UNDER THE GROUND ;UNKNOWN AREA

 

 

 地下水路を抜けて暫くは、どこへ続くとも知れぬ下り坂だった。既に作戦開始からだいぶん時間も経過していたが、篝と蓑亀を見送って後も3人と3機は黙々と降り続けたのだ。

 

 地上では陸戦魔導士たちがPRAYER相手に奮戦していたところへ何処からともなく湧きだしたガジェットドローンが防衛線を勝手に構築して匿い、更には金の使い先が無くなっては困るとエイペックス・プレデターズ達が協働して加わり、そこへコーパスのワープ技術によって仏鉄塊が乱入し、それらを食い止めんがために篝と蓑亀が地上へ戻った所へ超々長距離ワープフォールによって森羅が参戦。という混沌と混乱をコンクリートミキサーにかけてブチまけたような有様だ。

 一部無線からは『BGMが何か違うぅ!』だの『踊りよる……』だのとすら聞こえてくる。一体どういう状況の、いや何ゲーなんだ(パズルシューティング)……?

 

 しかしかと言って、地下への進攻を行うデッドライアーとティアナ、そしてナナの前に立ちふさがるPRAYERたちが決して少なかったり弱かったりと言う事はない。

 剣状のオブジェクトを護るかのような双子のPRAYERを排した頃には、既にティアナは魔力欠乏の所を、リミットカットした蓑亀の置き土産であるモナーク級にタイタンデサントして、危篤状態のローニンを乗り捨てもせず先を行くデッドライアーに辛うじてついて行くばかりであった。

 なおナナとレイはと言えば、後ろを警戒している。つまり意図せずティアナが守られているカタチになり、ティアナがそれで余計奮起してガス欠になっていたのだが。

 

「ちょっと、ちょっと待ちなさいって。一体どういうペースで……」

 

「こう言うペースだろう。無理なら戻ればいい」

 

 ナナは応えすらせず、デッドライアーは全く取り付く島もない。魔力という()()()資源を使っているティアナと、"幽かな存在"と言う実質()()()資源を使っているデッドライアー。そこだけでも違うが、この二名の大きな差は『無駄を排する』事にこそあった。

 

 まずティアナだが、戦闘で何をするにも――それこそ移動にすら魔力が必要であるにも関わらず、魔力は有限で決して多くもない。今でこそタイタンに便乗すると言う手を使っているが、そこまでは意地でも自力で付いて来ようとしていたのだから。更には攻撃もしていたし、防御は一度試して()()()()()()のでともかくとして、ホロパイロットで以ての支援までしている。

 しかし一方のデッドライアーはとにかく前に進む事だけを考えていた。逆に一発も撃たず、強いて言えばローニンの装甲とソードガード、あるいはフェーズダッシュ等でとにかく進んでいるのだ。

 それゆえ的を撃ち落とすのは今では専らオート状態のモナークと、時折レイの役目となっている。

 

 魔力があれば何でもできる、などと言うのは幻想だ。無論、"幽か"も、タイタンもだ。

 結局使うのはヒトであり、そこには限界がある。機械などにもそれはある。

 

 ともあれ、彼等は何とか、それこそ何とか――延々と続く螺旋道を時に跳び下りながら下り切り、塔の基底部に当たる高度まで降りて来ていた。計器によれば実にそれは2000メートルもの深さを示していた。

 そこで目にしたのは、中空に非接触で固定された金色に輝く小石と、それを取り囲む()()の回転リング。石は既に輝きを強く帯びており、リングはそれに共鳴するように言葉のようで言葉にならない悲鳴を上げている。

 

「……人柱にされているとは思ったが、こんな形とはな」

 

「ひと、ばしら? 生贄って事よね、……じゃあ、あのリング、が」

 

「恐らくだが、最高評議会と呼ばれていた存在だろうな」

 

「それより、()()()()()。欠片?」

 

『パイロット、時間がありません。停止手順を探るためスキャンを実施します』

 

 レイが無造作に一歩近づいた途端、リングの回転速度が上昇した。そして声が発せられる。

 声は老齢の男たちの、併し少々を通り越した疲れと憂い、そして希望を悲観を持ったものだった。

 

 ――全く。矢張り開拓民(フロンティアの住人)に礼儀など在りはしないか。

 

 ――然り。我等の墓標に立ち入り、(あまつさ)え世界の平定を邪魔せんと企むとは。

 

 ――故に。下がるがよい墓盗人、我等は悲願を成就せん。

 

 その場にいる内、タイタンではない3人にのみそれは聞こえていた。

 何故ならばそれは空気や魔力ではなく、"幽か"を伝う思念の声だったからだ。ティアナだけは念話だと思っていたようだったが。

 

「"幽かな存在"は幻を見せる蟲、か。 ……745、レイ、結果はどうだ?」

 

『スキャン完了。タイタンの攻撃や通常の(BULLET)、魔力攻撃に対しては無類の頑丈さを持つようです。ですが恐らくリング状PRAYERに対しては貴方の神懸り的な技能(スキル)が役立つでしょう、デッドライアー』

 

()()()、それと1層目は私達が。 ……ティアナ、下がって。もう魔法は使えないのだから」

 

 戦力外通知。

 

 それはティアナにとって、それは酷く、惨い言葉だ。

 確かに彼女は自身を凡人であると気に病み、それを抱え込むような性質の人間ではある。しかしそれはその裏に――自分を認めたいと望んでいるからであり、同時に特別になりたいと望んでいるからでもあり、それ以上に()()()があるからではないだろうか。

 

 ランスターの弾丸は全てを貫く。そう想い、磨き上げて来た全てがこの土壇場で役に立たない。

 ティアナはただただ胸の奥のリンカーコアに、奇妙な疼きを感じた。魔力素を変換しているのではなく、まるで想いが蟲となって這いずり回っているような。

 

 ナナは着実に、"石"の放つ弾幕を堅実に捌いて行く。ローニン・ロードアウトを用いれば少なからずダメージは負うものの、その後ろにいるデッドライアーを守る事はできていた。

 黒白二色の弾幕に、篝を地上に行かせなければよかった、とも思わなくもなかったが、無いものは無い。

 

 そしてその立ち回りを、必要以上には退かない在り方を、ティアナに見せてしまう。

 退かず、媚びず、顧みず。さりとて願い、想い、不器用ながら仲間を護る。

 だからこそ凡人は、疼きの強くなった胸を掻き毟る。どうして自分は護られる側なのだ、と。自分もそちら側のはずなのだ、と。

 

 そんな風に思わせているなどと微塵にも考えないナナはと言えば、実に気楽なものであったが。

 

「レイ、次のシャーシは何がいい?」

 

『トーンを。私の分析によれば、パイロットの精神状況を鑑みるに、前線から一時離れて休養を取る事を推奨します』

 

「確かに、疲れた。……データアップロードを」

 

『了解』

 

 ソードブロックはダメージを完全に抑え込む事はできない。機械故の高速さ・精密さでいなして、軽減するだけである。

 そんなもので弾幕を避けもせず受け止めればどうなるかは、例えフェーズダッシュによって時折シールドの回復を挟んだとしても明白だ。

 

 残り5秒。ドゥーム状態となったレイが、おもむろに前進を始める。ダッシュ、フェーズダッシュ、ダッシュ。

 

 残り4秒。ドゥーム状態でありながら、更にそのうえで完全損壊の寸前まで追い込まれつつも、レイとナナは"石"に到達する。

 

 残り3秒。レイが唐突に光りはじめる。過剰なエネルギーによって弾幕がかき消され、破損が進む事はない。レイ、己の頭部にあたるシアキットをもぎ取り、投げ上げる。

 

 残り2秒。ナナがレイの上部から排出され天井ギリギリまで打ち上げられる。先に投げ上げられたシアキット――そこにはデータコアが含まれる――をキャッチ。

 

 残り1秒。レイのリアクターが臨界を超え、大爆発を起こす。白い光に包まれた彼女に、ナナが謝罪の言葉を呟いた。リング第一層目が悲鳴を上げつつ粉砕される。

 

 残り0秒。デッドライアーのローニンが中から二つに割れ、巨大な斬撃が飛ぶ。リングの第二層を真っ二つに切り裂き、第三層を半ば程まで割った。

 

「おい、どうした貴様。切り捨てるつもりだったのだろう」

 

「思ったより硬かっただけだ。しかし参ったな、三つ目は斬撃耐性か……」

 

 デッドライアーの懐からトバリが抜け出し、それでもって今のデッドライアーが"EXECUTOR"であることを証明して見せる。

 だがそれ故に、物故となった遺志()ですらまだ在るべきなのだと証明するだけに他ならなかった。

 

 これは、まだ生きた意思。それを死人が如何にかするのは道理に反する。来訪者がどうにかするのは義に反する。

 

 そんななど知った事ではない。まだ死にたくないだけだ。

 ナナは背負っていた対タイタン武器のチャージライフルを手にすると、チャージするが早いか射ち放った。しかし120mmの弾丸すら止める鉄鋼を穿つ閃光ですら、微かな穴を開けるに過ぎなかった。それだけでなく、二射目の穴は一射目の穴を上書きしてしまったかのように――ダメージを与える事ができなかった。

 

「条件付きの再生……?」

 

「だろうな。十分な威力で同じ場所を二度三度穿てと言うのだろう。また60秒待つのも難しいし、狙撃がコイツにできるとは思ってないが、できるか、745」

 

「無理。リングの回転が不安定で、……くそっ」

 

 トバリの問いに、歯噛みし悪態を吐きながら応えるナナ。

 ここに蓑亀が居たならば、もしかしたらその埋め尽くす勢いの攻撃で何とかしたかもしれない。ここに篝が居たならば、機体崩壊覚悟の"力の解放"で何とか出来たかもしれない。

 あるいはここにテンノが居たならば、もしかしたらテンノ・パワーが何かしらの解決を見出したかも知れない。

 だがいずれも無い。ナナは大抵の事を熟すが超一流には少し遠く、デッドライアーはできなくもないが時間がかかりすぎてリングの自己再生が間に合ってしまうだろう。

 

 ――だが。不幸と幸運は紙一重であり、しかしその幸運がまた見舞われた本人の希望に適うとは限らないものだ。

 

 突然、デッドライアーとそれに少し遅れてナナは"幽かな存在"が急速に収束し高まるのを感じた。背後から、()()()()()()()()だ。

 

「ティアナ。それは」

 

「わかってるわよ、もう魔法は使えなくなる。でしょ?」

 

 よほどリンカーコアが痛痒いのか、掻き毟りながらも収束を止めようとはしない。

 

 "幽かな存在"を扱う存在がそれなりに居るフロンティアで、魔力素質保有者が存在しない理由の一つがこれだ。"幽かな存在"はリンカーコアを()()()()て、己のコロニーとする。それゆえに魔力素ではなく"幽かな存在"しか扱えなくなるのだ。

 

 魔力をほぼ全て放出しきって、一歩間違えれば萎縮しかねないティアナのリンカーコアに、デッドライアーが収束し使った後の"幽かな存在"が僅かに入り込んだ。そしてそのわずかな量によって書き替えが発生し、それをティアナはどうやってか――恐らく元から素養はあったのだろう――知覚し、使おうとしている。

 

「たしかに管理局には居られなくなるし、ましてや執務官なんてなれなくなるわ。でも、それでもね!」

 

 さらに収束する。練り上げる。星をも軽く砕く(スターライトブレイカー)ほどの意思の強さで以て、痛痒を抑え込む。

 そして、叫ぶのだ。彼女の掲げ得る、得た尊厳と共に。

 

「今はまだ護る側で! 自分の住んでる世界の事を、他の世界の誰かに任せて"はいそうですかお願いします"って言えるほど、面の皮厚くないのよッッ!!」

 

 最早デバイスとしては使えぬクロスミラージュだった物から放たれた弾は1発。

 それはLUNA()属性によるたったの1発だ。だが。

 

 その超超高速の1発の着弾点に瞬間的に数発の弾が重なり、寸分狂い無く同時に複数が着弾する。

 

 それこそが今求められる攻撃であった。

 それこそが凡人が超人に追いつくための秘訣であった。

 

 ――超人が1で事足りるならば、凡人はその1に10を詰め込めばよい。足りない分は、想いの力で補えばいい。

 

 リングが音を立てて割れ、物故としての機能を喪う。石の欠片が――輝きを()()()

 

 3人の表情が思わずこわばる。手遅れだったのか、あるいはリングが抑え込んでいたのか、それは分からない。

 だが欠片だけでも惑星一つをリセットするには十分な代物だと言う想像は容易にできる。

 

 もはやここまでか。

 

 そう、思った。思ってしまった、のだが。

 

 何かが虚を駆け抜けた(VOID DASH)。その着地点で誰かが一瞬だけ立っていたような気がした。

 目をそちらに向ければ、立っていたのは白い剣鬼(エクスカリバー)だ。手には、輝きを失った"石"の欠片を持ったまま、それを見つめている。――違う、()()()()()手に持っていた。

 

 そしてその輝きを、まるで無造作に、本当に石ころでも投げるようにティアナの前へと放り投げる。

 

「あ、ああああああ!!!」

 

 こういう時、異能を持った存在は不思議と何をすべきかが解ると言う事が稀にある。今がそれだったのだろう。

 ティアナは体内に残っていたSOL()属性の"幽かな存在"を一気に放出した。

 

 未だ"人でなし"としては不完全なティアナの、しかしそれ故に生きている者特有の熱を持ったディスチャージ(ボム)が発動し、形すらも定まっていないソレが輝きを覆い隠す。

 

 その一瞬。全ての人々の脳裏にある意思が浮かび上がった(呼び起された)

 ある者には全く理解できず、しかし一部の者たちには福音としか思えない、遥か上位の存在の意志()の欠片。

 

 ――それは抗う人々の姿。それは意思を貫く人々の姿。それは遺志を貴ぶ人々の姿。

 ――生きた人間の、生きている特権。死せる存在の、死してなお残るモノ。人の証明。

 ――生と死を踏み越えてまで成し遂げる、心の在り方の陰と陽。

 ――あらゆる存在の在り方への願い、祈り。そして、無数にそれらを繰り返した末の意思()

 

 

 

 『唯、其の尊厳と共に。(KEEP YOUR DIGNITY.)

 

 

 

 



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Chaptar.15 Still alive. Day after Day.

 それからの話をしよう。

 

 ミリシア所属斑鳩艦隊群はミッドチルダの双月軌道交差点に於いて、"石"の本体を発見した。輝きの失われた欠片とその欠けが完全に一致した事からそうと解っただけだ。

 発見された時、既にそのエネルギーは観測不能領域にて不活性化しており、所謂『休眠状態』に在ると判断されたのである。

 

 しかしそれを、ミリシアは管理局伝えない事にした。

 

 ミッドチルダの地上は、石の欠片の力の余波によって地上本部を中心としたかなりの広範囲が完全に()()と化していたからであり、その復興に際して人的リソースの多くを割く必要があり、それゆえに"石"などと言う超抜級のロストロギアを管理するだけの能力が無いと判断せざるを得なかったからだ。そうでなくともトップが失われた以上、意思決定に少なからぬ問題が発生するのは明らかだった。

 

 その上でミリシアはしれっと復興に協力した。

 タイタンは元々、汎作業用重機である。開拓に近い土木工事はお手の物だ。魔法よりも長く、多く、力強く、そう言った面においては役に立つ。

 

 それに何より、緑地と化した被爆半径内に於いては、人間や動物が無傷で取り残されていたからだ。

 

 動物たちはまだ良い。むしろ緑化した土地では活き活きとすらしていた。

 しかし人間はそうも行かない。

 

 通常の作業用重機ではエンジンの音で声などが聞き取り辛く、魔導師は先行探索が出来るにしても長時間移動し続けるには体力に問題があり、そう言った面でタイタンとパイロットという組み合わせは非常に有用だったのである。

 

 管理局、そしてミッドチルダの人々は、ごく一部を除いて一体何が起きたのかを理解できぬまま、この"災害"に力強く対応していった。

 その中にあって、タイタンパイロットであるスバルは非常に心強い存在として、そしてそれに負けずとも劣らぬ存在として機動六課は認識されて行く事になった。

 

 

 だがティアナの姿は、そこには無かった。

 

 蓑亀をはじめとしたミリシアからの出向者に連れられて、フロンティアに向かう事になってしまっていたのである。

 

 と言うのも、不完全な"人でなし"は不安定な存在だ。

 人のように肉体という『入れ物』がやや有利な存在ではなく、精神という『入れ物の無い水』が有利な存在であると言えば解るだろうか。

 

 それを解決するべく、どさくさに紛れて連れてゆく事になったのだ。

 

 そして二週間程という驚異的な時間で以て、彼女は"人でなし"――否、"遺言執行者(EXECUTOR)"として六課の面々の前に再び現れたのであった。

 彼女の隣には宿リ木(ミステルトゥ)が付き従っていた事だけは、一応記しておこう。

 

 

 エイペックス・プレデターズは相変わらず阿漕な商売をしている。

 

 彼等は傭兵だ。金さえあれば、戦う。戦う以外も金次第ではやらなくもない。

 だから、管理局(恐らく本局の方)に吹っかけて、復興に協力していたようだ。

 

 詳しい事は解らない。何しろ、一番忙しい時期だけ手伝って、また行方をくらましたのだから。

 

 

 斑鳩部隊は戦後処理を終えると、そっとミッドチルダから旅立った。

 

 元々彼等は部外者であり、他国人であり、長く留まる事は良くないからだ。挨拶すらもそこそこに、逃げ出すように居なくなったのだ。

 

 管理局は彼等を名目上、一瞬だけ罪人とし、そのまま特に逮捕に動く事も無くすぐに罪状を取り消した。

 地上本部の災難、そしてその後を見た上では、"陸"とは犬猿の仲である"海"も大概な扱いはできなかったのである。

 

 なお復興に際して必要なモノだからと特殊なタイタンを調達し、悲願が叶ったと咽び泣く陸の人も一部居たそうだ。

 

 

 そして、ナナ――つまり『私』は。

 

 

N.D.75.10

FRONTEAR; Somewhere planet.

 

 

 巨大樹木と絡み合った遺跡と化した箱状のコンクリート建造物の隙間に、一機のトーン級タイタンが佇んでいた。

 頭部メインセンサーをはじめとしたセンサー類は仄明るく光っており、彼女が未だ稼働している事を示している。

 

 タイタンの肩に止まった手術済みワタリガラス(オーグメント・レイヴン)は、既に老齢の域にあるにも関わらず忙しなく嘴で毛づくろいにいそしんでいる。しかし逆側に止まったハシブトガラスは――その数倍もの大きさがあった。

 遠近法などではない。この惑星の野生生物は全て、体格が二回り以上大きいのである。

 

 ぱき、と何者かが枝を踏む音がして、ハシブトガラスはその大翼を羽ばたかせてどこかに飛んで行ってしまった。

 トーンのメインセンサーが動き、音源の方を向く。現れたのは、一人のパイロットだった。

 

「ただいま、レイ。 ……捜索対象は発見できなかった」

 

『おかえりなさい、パイロット。 対象は余程"かくれんぼが上手"なのでしょう。休息を推奨』

 

 ナナは石を組んで作り上げた簡易のたき火かまどに焚き木を放り込んで着火剤で火をつけ、地面に置いてあるトラッカーキャノンの銃身に腰かける。

 

 ここはフロンティアの端、辺境の地。その更に果てにある、VOID(虚数空間)の揺らぎによって様々な宇宙がその一端を映し出す宙域。

 戦いから少し離れたいナナは開拓の先行調査依頼を請け、この星にやってきていたのだ。しかしそれも一筋縄では行きそうにない。

 

「未知の動力で動く"機械生命体"と"人間に酷似した機械"、って言うからすぐに見つかると思ったんだけど……」

 

『このエリアは概ね探索を終了しました。翌朝まで休息し、後に移動を推奨』

 

「りょうか――」

 

 ここに来てからごくありふれてしまった話をしようとした瞬間。がさり、と何者かが動く音がした。

 咄嗟にそちらを見れば確かにナニカが居て――

 

 

 

 

 

 ――The Game has been Over――

 

 ――But yet, They are still alive――

 

 ――With their dignity――






くぅ疲。

だいぶ迷走しつつ、プロットをガン無視して進んでしまったり、あるいは思いつきで要素がふらふらしたりと処女作っぽい仕上がりになったと思います。
ですがこれが私の今お出しできる代物であり、これ以下はあっても多分これ以上は難しいでしょう。

できることはやったつもりで、読んでみて面白いと思って頂ければ何より。そうでなければそっとじでいいんじゃよ。
書き直しとかしない限りは、こういう考えで居るしかないのかもしれません。いや、多分書き直してもそうでしょう。

ともあれあまり長々と語る事も無い事ですし、これにて一旦筆を置く事にします。
またいずれ、どこかでお会いする日まで。


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