吸物語 (daith)
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位置エネルギー>重量

「まったく、お前は一体何を考えているんだよ」

 

「・・・・・・痛いわ」

 

「多少、そうなるように拘束しているからな」

 

いきなりの変態的な発言に対して、ついてこれない読者諸君のために少々時間を遡ろう。

 

僕の名前は阿良々木暦。直江津高校の第三学年に所属している。

 

そんな僕は放課後クラスの副委員長として文化祭の準備を、委員長の羽川翼と共に雑談をしながらも行っていた。

 

途中、忍野からの呼び出し(これがまた、手紙を紙飛行機にして飛ばしてくるなどという、ある意味斬新な方法であることについては、もう慣れたものである)を受けて、急いで帰り支度をして教室を出たところで、背中から

 

「羽川さんと何を話してたの?」

 

と、声を掛けられた。

 

そして振り向きざまに_たっぷりと刃を伸ばしたカッターナイフを口の中に挿入された。

 

驚いた僕は咄嗟にカッターの刃を噛みしめ、パキッと折ってそのまま噛み砕き吐きつけた。

 

怯んだ相手に対して、僕は

 

⇒背負い投げを掛ける。

 

⇒倒れ伏したところで、素早く拘束。

 

⇒イマココ。

 

と、相成った訳である。

 

「大体なぁ、戦場ヶ原。お前は小学校で、『人に刃物を向けてはいけません』って習わなかったのか?」

 

「・・・・・・返す言葉もないわ」

 

ちなみに、彼女の名前は戦場ヶ原ひたぎ。僕のクラスメイトで、深窓の令嬢然とした奴だった。

 

そのはずなのだ。

 

「で、なんでこんなことを?」

 

「・・・・・・気付いてるんでしょう?」

 

剣呑な目つきのまま、それこそ今にも伝説の

 

「くっ、殺せ!」

 

のセリフとか言いそうな雰囲気で、戦場ヶ原は僕に問う。

 

こんな深窓の令嬢いてたまるか。

 

(いや、しかしある意味いそうではあるな)

 

こんな益体のないことを考えながらも、僕は答える。

 

「?何に?」

 

「とぼけないで」

 

と、言われても僕には全く心当たりがない。

 

だって、戦場ヶ原ひたぎとの接点なんて、精々今朝遅刻しそうになって階段を駆け上がっていたら、落ちてきたのを受け止めたぐらいで・・・・・・あ、まさか。

 

「そうよ」

 

「え、マジで?」

 

「あなた、私を受け止めたとき思ったでしょう。軽すぎるって」

 

「・・・・・・」

 

「そう、私には―重さがない」

 

体重がない。

 

「と言っても、全くないって訳ではないのよ。私の身長・体格だと、平均体重は40㎏後半強というところらしいのだけれど」

 

50㎏らしい。

 

「40㎏後半強というところらしいのだけれど」

 

戦場ヶ原は主張した。

 

譲らないみたいだ。

 

「でも、実際の体重は、5㎏」

 

5㎏。

 

精々、生まれたばかりの赤子より、一回り重い程度。

 

「まぁ、正確には、体重計が表示する重量が5㎏というだけなのだけど」

 

「ふむ」

 

「本人としては、自覚はないわ。40㎏後半強だった頃も、私自身は今も、何も変わらない」

 

「ふむふむ」

 

成程成程。

 

「それは、先ほどのカッターを始めとする身体中にある装備の数々から鑑みるに、身に着けている物にもある程度及ぶわけだ」

 

どの程度の範囲まで及ぶかは分からないが。

 

成程ね。だとしたら、これはこちら側の案件だ。

 

「何はともあれ、いくつかお前に言うことがある」

 

「・・・・・・」

 

「まず、一つ。僕は、お前の身体の異常に先程気付いた」

 

「え?」

 

「まぁ、詰る所今朝の段階では全く気付いてなかった」

 

「・・・・・・フッ」

 

「嘲笑われた!?」

 

いやいや、この件については僕の問題じゃないぞ。

 

「というと?」

 

「さっき、そこでまだ残って仕事中の委員長が言ってたんだがな」

 

この場合、重量はそんなに問題じゃないんだ。

 

「?」

 

「うちの学校の正面の昇降口のところにある階段ってさ、螺旋階段だろ」

 

だから、中央部分は吹き抜けになっている。

 

「んで、お前は何故かは知らんが、4階付近から落ちてきて、その時僕は一階の階段を昇り始めたところだった訳だ」

 

つまり、彼我の差は約15mはあった。

 

「・・・・・・」

 

「位置エネルギーってのは恐ろしいもんでな。そんだけあれば、僕のところに落ちるまでに40㎏後半強なら60㎞/h、5㎏でも50㎞/hぐらいにはなる訳だ」

 

そんなもの、受け止めようものなら・・・・・・。

 

()()()腕が折れて、お前もただじゃ済まないな」

 

「じゃあ、何z「そう、()()()な」・・・・・・」

 

「という訳で改めて自己紹介だ。

僕の名前は、阿良々木暦。私立直江津高校3年。でもって、」

 

一息ついて、僕はこう続けた。

 

「一応、吸血鬼です」

 

以後よろしく、とね。

 

 

 



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