異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか? (ひきがやもとまち)
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プロローグ

「私は女神。この世界全てを統べる女神です。

 早速ですがあなたには、異世界を救って頂くために転生して貰おうと死んでいただきました。もう現世には生き返れません。

 地球とは異なる別の世界を救う勇者として第二の人生を歩む以外、あなたの人生における選択肢はなくなってしまったのです・・・・・・」

「わかりました。じゃあそれでお願いします」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・はい?」

「ほぇ・・・・・・?」

 

 お互いに不思議そうな顔を向けあうボクたち。

 

 今ボクは雲の上に造られた古代か中世のお城のような不思議空間で、一人の美しい女の人と向き合っています。

 

 その人の外見的特徴は、まず長くて豊かな紫銀の髪が上げられるでしょう。紫色に輝いてて、とても綺麗です。アメジスト色の瞳にも同じ光が宿っていて美人さんですね。

 

 服装は今時珍しい、如何にもな女神様装束。『女神の誕生』でしたっけ? なんかソッチ系の絵画でよく使われていた衣装で、服なのか白い布切れを巻いてるだけなのか判断しづらい例の衣装です。

 その割に胸は大変慎ましく、ひっそりと存在感を主張されていますがね。しかも明らかに偽装してるし。

 でも黙っときます。女性に肉体的な質問をするのは禁忌中の禁忌です。タブーです。言ってはいけない禁呪なのです。言って悪いことは言っちゃダメなのです。

 

 だからボクは言いません。ボクは善良で無能な平凡すぎる一般人です。常識を守るしか能がないのです。ですから今も常識を守ります。これからも守り通し続けるでしょう。

 

 たとえ第二、第三の人生が待っていようとも、ボクの生き方に変化はありません。

 常識を守る。ただそれだけがボクの信じる唯一無二の正義なのですから。

 

 

 

 

「えっと・・・い、いいんですか? 私たち神の都合で天の矢を地上に落とし、あなたの住んでた家ごと吹き飛ばして家族諸共殺してしまったんですが・・・」

「そちらの方は当人たちに謝罪しておいてください。もちろん、求められたのなら賠償もお願いします。

 明らかな殺人罪、放火罪、その他諸々余罪が多そうですが、ボクは別に警察の人間じゃありませんからね。そう言うのは専門家の人にお任せしますよ。

 素人が半端な知識で事件に首突っ込んで無事に解決できるのは、フィクションドラマのご都合主義探偵と刑事さんだけです。窓際部署といいつつも、管轄違いの事件に首を突っ込みまくって責任をとらされない特権的地位にいる某警部殿みたいな人たちとかね」

「は、はぁ・・・」

 

 困ったように曖昧な笑みを浮かべる女神様は、いったい何に困っておいでなのでしょうか? よく分かりません。

 とにかく今のボクは死んでしまった身。生きている生者たちの住まう現世のことは、今更気にしなくても良いのでしょう。案外と気楽なものですね、死ぬというのは。

 

「え、えっと・・・あなたの生前の名前は抹消され、もう思い出すことさえ出来ません。

 ですので新たな名前が必要になります。その際には女性として生まれ変わっていただくために女性名を付けて頂きたいのですが、なにかリクエストはありますか?

 何でもいいですよ? 神話系や伝説系、ファンタジーからSF、史実からフィクションまでなんでもオールオーケー!

 死なせてしまった身として、このくらいのサービスは当然のことーー」

「ではセレニアで。名字とかは何でもいいので、適当にそちらの方で決めてください。

 正直なところを言えばゲームで普段から使っているPC名『ナベ次郎』を採用していただきたいのですが、多分ダメなんでしょうからね」

「ダメに決まっているでしょう!? なんですかナベ次郎って! どこの世界にそんな名前の美少女勇者がいる!?

 つか、そんな名前の勇者に救われる世界の方が可哀想だろが! 少しは気をつかえや糞ジャリ!」

「美人なのに素はこんなか~」

 

 残念美人の典型みたいな人ですね。見た目は本当に悪くない、むしろ可愛らしいのに・・・。

 

「・・・こほん。ーーそれにしても落ち着いていますね。

 他の普通に死んだ魂たちは自分たちが死んだと聞かされたとき、驚き慌てて泣き叫び『生き返らせてください!お願いします!』と懇願してくるので私もついつい遊び心から無茶振りしてしまい、終わった後で天使長に怒られたりするのですよ?」

「子供が蝶の羽をもぎ取って地に落とし、足で踏んだり花火で燃やしたりバケツに沈めて眺めるのを悦しむのと同じ感覚ですか?」

「・・・・・・」

 

 すぃっと、目線を逸らした女神様はそのままの体勢で話を進められます。あまり聞いてほしくない内容を突っ込んでしまったようですねぇ。気を付けなければいけません。

 女性を傷つけるのは男として問題ありありなので。

 

「こほん。

 ーーあなたに女性として生き返り、救っていただきたい世界は剣と魔法のファンタジー世界です。あなたたちの世界で言うところのロープレワールドだと解釈してください。

 本来であるなら勇者らしく、様々なチート能力を授けて転生チート無双して頂きたいところなのですが、あいにくとそれをやるには天界の方に余力がなく・・・その・・・予算的な事情で?」

「近年のアニメ業界みたいなものですか?」

「こほんこほん。

 ーーとは言え、です。さすがに何も与えないで住所不定無職の少女を異世界に身一つで放り出し、路頭に迷わせるような無法は許されません。

 これでも私、女神様ですから」

「そうですね。女神様ですね。一応は」

「こほんこほんこほん。

 ーーそこでですが、まずあなたには最低限の装備として剣と鎧、そして転生先の異世界に関する知識を与えましょう。それだけあれば何とかなるはずです」

「最弱装備と知識だけ与えて冒険の旅に出発ですか。

 なんだか始まりのお城の王様みたいですね」

「ぐぇほぐぇほ!

 ーー勿論それだけではありませんよ? ちゃんとステータスも上げられる様にしておきました。これであなたは敵を倒せば倒すほど、経験値を手に入れれば手に入れるほど強くなる、最強勇者への道を歩めるようになったのです」

「つまり最初の段階、レベル1の時点では今のままの身体能力というわけですか。

 ーー最初のエンカウントバトルで殺されませんかね?

「・・・・・・・・・我が聖なる力を持って彼の者を勇者として転生させたまえーーっ!!!」

「最後は強引に力付くで締めたなー」

 

 

 

 

 こうしてボクは私となって、異世界に降り立ったのです。

 

「・・・で? 何でいるんですか女神様?」

「ーーアンタのせいで懲罰人事されたのよ! 責任とって天界への帰還を手伝ってもらいますからね! 死ぬまで私にお付き合いしてもらいますから覚悟するように! いいですね!?」

「イヤなプロポーズだなぁ~」

 

 “私”が心底から迷惑さを込めて言って差し上げてるとーー

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 何処かからか女の人の悲鳴が聞こえてきました。

 ーーまぁ、どうせ何処かの誰かが魔物に襲われてでもいるのでしょうがね。

 

 なぜ魔物が住み着く森の中に一人で侵入し、生きて帰ってくることが出来ると思うのか。せめて護身用の短剣でも持っているなら話は別ですが、それすら所持せずバスケット片手に「森の中へ薬草探しに」とか自殺志願者かと思いますよね全くもう。

 

「ま、いいです。どうせ女の身一つで行ってもミイラ取りがミイラになるだけ。犠牲者の数は少ないに限るとも言いますし、ここは素直に森を抜けて街への街道を探した方が賢明でしょう。

 若い女性の悲鳴が聞こえてくるのであれば、人里までそう遠くはないはずですからーー」

「ダメェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 

 女神様、激オコ。

 いったい何に怒ってらっしゃるのでしょうか? 理解できません。

 

「なんてこと言ってんですか貴女は!? 転生直後の主人公がいきなり現地人見捨てる異世界召喚モノなんて聞いたこともないですよ!?

 せめてそこはほら、『助けてやるから情報よこせ』あるいは『悪いが金がない。一晩泊めてくれるなら力を貸すぜ?』的な台詞を言って助けに入るのが、正しい異世界召喚系勇者の在り方というものでしょう!?」

「いや、助けようにも武器持ってないですし。仮に持ってても使い方分かりませんし。

 ・・・と言うか、与えられるはずだった武器防具は何処に・・・?

 そもそも民間人で冒険者に登録したわけでもない私が果たして武器を買ってもいいのか否か、それすら定かでない初めての異世界生活です。

 用心するに越したことはないでしょう?」

「だぁぁぁぁぁぁっ! この勇者、マジ理屈臭くて面倒くさい!

 だったらコレ! コレ貸してあげます! 魔王を倒すために作り上げられた伝説の聖剣です! これさえあれば相手がゴブリンだろうがオークだろうがコボルトだろうが、チョチョイのチョイで片づけられますよ!

 さぁ、TS転生した美少女勇者セレニアよ! 助けを求める弱き人々を救いに行くのです!

 未知の世界と果てなき冒険が貴女を待っている!」

「・・・・・・すみません、重くて持てないです・・・。

 せめて初心者用に毒が塗られたショートソード、もしくは毒牙のナイフあたりを貸して頂けませんか? あれなら弱い人でも強い相手に時間稼ぎぐらいは出来そうだ」

「この勇者、夢とロマンがねぇーーーっ!!!!」

 

 夢とロマンで人は生きれません。死なないためには最低限度の装備は必要なのです。

 毒がないならせめて痺れ薬を。刃に塗って切りつけて、逃げながら痺れて動きが鈍くなるのを期待しながら、ひたすら逃げまくります。

 

 子供は魔物に勝てない。基本です。ファンタジー世界だろうと肉体限界はあるのです。リーチも違いすぎますしね。

 大人しく逃げ延びて、装備を調えた後にでも再挑戦するのが吉でしょう。

 

 無理はしない。勝てる戦いのみ戦う。

 世界を救わせたいなら、それ程度の安全策は取らせて下さいよ女神様。基本ですよ?

 

 

 

 

つづく

 

主人公の容姿設定

 身長:140センチ未満。体重:約45㎏(巨乳補正入り)。ウェストとヒップは秘密だが、バストはやたらに豊か。所謂ロリ巨乳キャラ。

 

 表情は常に茫洋とした無表情を保ち続けて、どこを見ているのかよく分からない。口元や目元は垂れてもないが引き結んでもいない。ごく自然に柔らかい印象を与える角度に調整されている。

 

 髪型:頭の後ろ、やや上あたりで結わえられたポニーテール。体格の割に極端に多い量の髪を持っている。色は混じりっけのない、純粋な銀。

 

 目の色:青と言うよりかは蒼。海の色よりかは澄んで濁りのない湖の色。魚も住めない淡水の色。何を考えていても何も写さない純粋な蒼色。

 

現在の装備

 防具:おしゃれな服。ごく普通に可愛らしい女の子用装備。女の子と呼べる年齢でなくとも性別が女性なら装備できるが、多少痛い。

 あくまでも可愛らしい年頃の女の子が着ること前提の装備である。

 防御力は布の服よりかは高く、旅人の服より低い。ただし値段は、銅の鎧の二倍。

 

 武器:サバイバルナイフ。なんの変哲もない、ごく普通のサバイバルナイフ。日本のサバゲーショップでだって手に入れられます。

 聖剣が重くて使いこなせそうにないので女神に借りた短剣系武器。女神が持ってた理由は「護身用」とのこと。

 ちなみに女神は能力的に僧侶系であり、本来刃物を持ってはいけないし傷つけてもいけない。

 

 ・・・これは懲罰人事と言うよりも追放ではないだろうか? もしくは異世界と言う名の刑務所。

 

 

つづく



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第1章

「ーー助けて! 誰か、誰か助けて!」

 

 必死に叫んで助けを呼ぶけど誰も来ない。来てくれない。来られるわけがない。

 街まで遠くはないけど、声が木々に遮られて届かないんだ。

 助けてくれる力のある冒険者様の元まで声が届かなければ、いくら泣き叫んで助けを求めても救い主は現れない。

 それがこの世界の残酷な掟。人の支配する領域ではない森の中へと踏み入ってしまった私へ、神様が下した罰。

 

 人を越えた生物である魔物に勝てるのは、選ばれた存在である冒険者と騎士様たちだけ。それがこの世界の常識であり、絶対原則。

 普通の人間がどう足掻いたって、魔物には掠り傷ひとつ付けられやしない。

 

(お願いです神様! どうか、どうか私にもう一度だけ生きるチャンスを御与えてください! そうしたら今度こそちゃんと生きますから!真面目に生きますから!

 親孝行もしますし家の手伝いだっていやがりません!

 ですからどうか! どうかお願いします神様! 私を助けて!殺させないで!

 死ぬのはイヤぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

「ぐへはははははははははははーーー!!!!

 ーーぐふっ」

 

 どさり。

 

 岩場に追いつめられて絶叫した私を前に、勝利の高笑いをしていたリーダー格のコボルトが笑いの途中で倒れ伏します。首筋の裏側からは青い血が流れ出し、未だに止まる気配はありません。

 

「い、いったい何が・・・・・・」

 

 呆然としながらも私は、自分が死の危険を回避できたことを本能的に知ってはいました。ただ、実感がないだけです。

 だってそうでしょう? 入るはずのない助けが入り、九死に一生を得るなんて物語みたいな展開、誰が本気で期待したりするのでしょうか?

 

 間違いありません。これを成した人は勇者です!

 魔王を倒して世界を救うために降臨された、伝説の勇者様です!

 

 あぁ勇者様! いったいどんな凛々しくて賢い、騎士道精神に溢れたご立派な方なのかしらーー!?

 

 

 

 

 

「ふむ。やはり人外の魔物とはいえ人型である以上、生物の基本的な器官は一致しますか。頸動脈を切れば脳の血圧が下がり、一瞬で意識を失ってくれるようです」

「・・・」

「それから意識を失っても心臓が止まっていないところから見て、体内器官は人間とほぼ同じと見て間違いではないのでしょう。少なくとも殺す際に必要となる条件は大分合致しそうです。

 ーーですがなかなかに生命力が強い。

 最初に仕止めた一匹目、群から離れていたので首を刺し貫いたあと実験のために心臓も刺しておいたのですが、未だに止まらないで動き続けている。吹き出す血の量が一向に減らないなんて、どんな化け物生命力ですか。理解に苦しみますよ本当に」

「・・・・・・」

「ですが同時に限界も理解できました。

 顔が犬でしたし、もしかしたらとは思っていたのですが・・・この方々は風下から近づかれると急激に感知能力が低下しますね。お陰で背後から接近して首裏への一撃で、楽に仕止める事ができました。

 恐らく犬と同じで優れた臭覚を持ちながら、知恵を持ったことで野生が低下した代償なのでしょう。これなら私程度の凡人でも何とかなりそうです。安心しましたよ」

「・・・・・・・・・」

「しかし彼らの死体って、何かに再利用しちゃダメなんでしょうか?

 髪は縄に紐、皮は加工して皮鎧か革製品、骨は装飾品か何かの材料にすれば好事家の貴族なんかが高値で買ってくれそうなイメージがあるんですけどねぇ。

『人も魔物も生き物は皆、捨てる所なし』『生きることは他者の命を奪うこと。物を食べることは他者の命を美味しく頂くこと』

 殺して命を奪った相手だからこそ、有効な資源としてリサイクルしてあげたいです・・・」

 

 ーー神は遙かな昔に死んでいた!

 

 

 

「なんちゅーことしとるんじゃ! この戦争狂クズ勇者がーーーっ!!!!」

 

 すぱこーーーーーっん!!!

 

「・・・痛いんですが」

「じゃかあしいわボケェ! アンタのせいで現地住民の女の子の心から信仰心が欠片も残さず消え去ってしもうたやないか! 新たに芽生える余地すら残っておらんやろが!

 こん落とし前、どうつけてくれるんじゃ! こんチビガキがぁぁぁぁぁっ!!!」

「・・・・・・貴女が小さく生まれ変わらせた癖に~・・・・・・」

 

 恨みがましい目で自分の頭をはたいた青髪の少女を睨みつける、他称勇者様の女の子。

 たいする青髪の子は、見た目はかわいくて衣装が女神様みたいにエロいのに、なんだか口調が荒っぽい。いえ、はっきり言えば柄が悪い。チンピラ臭い。小物臭がヒドい。

 

 それを見た私は改めて、この世に神は居ないんだなと確信できました。

 もう私、二度と神様を信じたりなんか致しません。ええ、もう絶対に金輪際決して信じませんよ? 神様なんて詐欺商法の偶像のことなんか。

 

「あ、おい。あれじゃないか? おーい、リュシカー。

 無事かー? 生きてるかー?」

「あ!お兄ちゃん!それに冒険者様たちまで!」

 

 良かった!助けに来てくれたのね!

 神様が死んで見捨てられた世界だからこそ、人同士の助け合いがこんなに大事だなんて思ってもみなかったわ!

 これからは私も世のため人のため、困ってる人がいれば手を差し伸べられる立派な人間になろう。

 

 だって、そうでもしないと私たち弱い人間は生きていけないのだから・・・。

 

 

「あいたたた・・・・・・ああ、助けが来てくれたのですね。良かったです。私としても聞ける人を捜す手間が省けて助かりました。

 皆さんに一つお聞きしたいのですが、この辺に死体と草土、糞尿を混ぜて埋めておける、人が立ち入らない山とかありますか?

 魔物の死体でも火薬に生まれ変わらせられる硝石丘が出来るかどうか試してみたーー」

 

 ずばばこーーーんっ!!!

 

「だから、やめいちゅうとるじゃろうがいっ!!!!!」

 

 他称勇者様がアッパーカットで宙に浮かび、地に落ちて気絶なさいました。

 聖なる者が地に落ちて堕天したので、もう勇者様ではありません。魔王様です。

 血も涙もない冷酷非常な魔王よりも魔王らしい魔王様が、人間の中から生まれてしまいました。

 

 ・・・・・・やっぱり神様、絶対に信じたりなんかしない・・・・・・。

 

 

 

つづく



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第2章

18禁のオリ作書いてたら先にこちらが出来たので先に更新いたします。
なんだかオリジナル世界観の作品って楽でいいですね、自由度が高くて。色んな人が書きたがる気持ちがようやく分かりましたよ。

――尚タグに書いてある通り、今作はギャグ作品です。ダークファンタジーではありませんのでお間違えの無いように。


 ーー目を覚ましたとき、私は男の人の背中におぶさって運んで貰ってました。

 

「・・・ここは・・・」

「お? 気がついたか。良かったよ、安心した。これで俺の“背中に背負った幼女の胸が当たってニヤケていた最低男”という不名誉な烙印を取り消す生き証人を確保できた訳だ」

「ーー失礼ですが、貴方は・・・?」

「俺はリュテッヒだ。アンタらに助けられた女の子リュシカの兄貴さ。

 妹が世話をかけてしまい、申し訳なかったな」

 

 淡々と話される口調がなんとなく既視感を感じさせて、私的には安心できる人だと思いました。・・・無論、人間性と信頼性はイコールではないので油断はできませんが。

 

「アンタは連れの美人さんにアッパーカットされて気絶して、今の今まで俺が背負って運んでやってたんだよ」

「それはそれは、ご親切にどうも」

「いやいや、こちらこそ。お陰でご立派なモノを目一杯堪能させていただいてますから」

 

 おどけた口調で軽く自虐り、彼リュテッヒさんは私に色々と教えて下さいました。

 この世界のことについて・・・は、無理ですね。いくら何でも不自然すぎます。

 比較的人里近い森の中で女の子を襲っていたモンスターをナイフで背後から刺し殺した幼い少女が記憶喪失なんて設定は、猟奇的すぎるので即却下です。

 

 なので無難に、都会へと出稼ぎにいった両親の元へ向かう途中の女の子設定を採用してみました。着ている服を誕生日プレゼントに送って貰ったお礼を一言言うためにです。

 一人なのは家が貧乏なのでお金がないから。女神様は道中で偶然出会った旅の道連れ。ナイフを扱えるのは祖父が猟師で狩りの仕方と『食べさせてもらう事への感謝』を教え込まれたからと言う事にしておきましょう。

 

 色々矛盾だらけ穴だらけ、突き詰めていけば切りがないご都合主義設定でしかありませんが、所詮は一期一会の赤の他人です。旅人にとっては旅先で出会ったすべての人がそうなのです。

 ならば余計な感傷は無用。ビジネスライクに徹して、去る者は追わずの精神を相手にも期待すると致しましょう。

 

「なるほどね。じゃあ君は冒険者には成らないのかな?」

「冒険者ですか・・・恥ずかしながら田舎者なうえに貧乏なこともあって真っ当な教育が受けられず、どのようなお仕事なのか詳しく聞いたことがないのです。

 リュテッヒさん。できればで良いので、私に彼らのことを教えていただけませんでしょうか? もちろん、イヤなら拒絶していただいてかまいませんから」

「う~ん、女の子にそういう言われ方をされて教えなかったら完全に俺が悪者だからねぇ。教えざるを得ないよね、絶対に。

 さすがに俺も嫁さんもらう前から社会的に抹殺されたくはないからねぇ~」

 

 やれやれとでも言いたげな態度と口調で軽く了承してくれたリュテッヒさんに、心底から感謝です。

 

「彼ら冒険者たちは生まれも育ちもバラバラで、目的や職業、戦い方にすら統一感はない。しいて共通点を上げるとしたら彼ら全員が冒険者ギルドに登録していて、正式に冒険者であるという身分を国から認可されていること。この一事に尽きるだろうね」

「ギルド? それは国が運営している冒険者互助組織かなにかなのですか?」

「うん、近い。

 もう少し細かく言うと、ギルドは国と直接関係してはいない。あくまで代表が国から正式な依頼を受けたときだけ協力する形を取ってるし、事実として冒険者には国から受けられる支援や保証は存在してない。それらはギルドの管轄だからね。

 でも冒険者ギルドを建てるには建物の機能上、どうしても一定以上の大きさが必要になってしまう。受け持つ仕事が多岐に渡るから当然なのだけれども。

 でもそうなると広大な土地面積が必要になるし、利用客の生活環境なども考慮すると、どうしたって都市部の中心地近くに建てざるを得なくなる。

 交通の便はなによりも重要だ。どんなに設備が充実した豪華で安い高級ホテルを建てたところで、立地が悪けりゃ誰一人として客は来ない。来たとしても半年に一人くらいさ。閑古鳥だよ」

「無人島に最強武器防具のみを取り扱う超高級武具店があっても、買いに行けるのが達人級だけじゃあねぇ。武具屋はともかく彼らが宿泊するのに使う宿屋などの関連施設が成り立ちません。

 周辺環境が整っていなければ、都市計画は失敗に終わる道理です」

「まさしくその通り。だから国が都市計画を立てるとき、あらかじめ考慮されて設計されているのが冒険者街。所謂、冒険者御用達店が立ち並ぶ街の大通りだね。

 ほら、この時点でギルドと国が癒着しているのは誰が見たって自明の理だろう?」

「まぁ、確かにそうですね。

 とは言っても国とギルドの関係は、今までずっと上手いこと廻して来たのでしょう?」

「うん、そうだよ。

 それが社会という化け物の背中の上で暮らしてる人間たちの強さであり、したたかさでもあるんだろうなぁ」

 

 苦笑しながら彼が語ってくれたのは、国とギルドと教会の歴史。

 三者三様の都合で表面上いがみ合いながらも、予定調和で決着する人類三大組織の間で行われてきた闘争の歴史についてでした。

 

「国と教会と冒険者ギルド。どの組織とも管轄している仕事内容による利権が一部他組織と被さってしまう。そうなると当然もめ事が起きるんだけど、正直な話内輪もめで戦力を消耗できるほど俺たち人類には余力がない。

 だから毎回、出涸らしを何割か生け贄に差し出したり、古いだけで利便性が低く収益よりも維持費の方が高い大聖堂を敢えて襲撃させたり、問題児どもを纏めて処分する口実に使ったりして、後は過大な宣伝工作とプロパガンダと情報遮断と情報統制で巧みに乗り切ってきたんだよ。

 なにしろ人類を代表する三大組織が水面下で手を結んでいるんだ。出来ない事なんて人類社会内部に限定してだが、存在しないんじゃないかな?」

「世界の全てが共通する利益を守るために手を組んだら、そりゃ何でも出来るでしょうね。

 跳ねっ返りの原理主義者たちがレジスタンス活動や、パルチザンを行ったりしなかったのですか?」

「したねぇ~。て言うか、今もしているね~。

 完全に予定調和に組み込まれて、無駄に足掻いているだけなんだけどさぁ」

「ご苦労なことですねー・・・」

「まったくね。

 ーーああいう連中は世の中を変えるとか言ってるけど、本当に世の中と向き合う気があるんだろうか? ただ自分の見たいものだけ見て、聞きたいことしか耳に入れたくない、そんな子供じみた連中としか俺には思えない。

 何も知らない純真無垢な子供が唱える綺麗事は、説得力があるからねぇ~」

 

 ・・・世知辛い話になってきたな~。なんでファンタジー異世界に来てまで現実の地球と同じ様な事を話さなければならないのか。

 

 所は変われど人は変わらないし、変われない。

 美しさが不変なように、醜さもまた不変。

 

 ーーそう言うことなんですかねぇ・・・。

 いやー、世知辛いなー、いやマジで本当に。

 

「まぁ、その分だけ冒険者ギルドに登録してある冒険者は人々から信頼が得やすい。登録してないもぐりなんて、ならず者と大して変わらない扱いしかして貰えないからね。必要なときだけ誉めそやされて、要らなくなったら乞食扱いさ。

 だからもし君が冒険者になると言うなら、ギルドに登録することをお勧めしておくよ。

 ちょうど明日には州都から乗り合い馬車がくる。乗せていって貰えば冒険者ギルド支部がある州都まで約半日ぐらいだよ」

「なるほど、参考になります。

 では更なる参考のためにも、乗り合い馬車の運賃についてご教授いただければ幸いなのですが?」

「基本料金は銅貨50枚だが、ツケが利くし実際には払う必要性すらない場合もある」

「と言うと?」

「乗り合い馬車がくるのは半年に一度だけだ。

 これだけ言えば、君なら予想がつくだろう?」

 

 なるほど、確かに。

 私は大きく頷いて了解の意志を伝えると、彼の笑顔が詳しい解説を求めているのを察して御要望にお応えすべきだと思いました。

 

「乗り合い馬車に乗って州都からやってくるのは税金を取り立てるための徴税官。当然のように護衛が大量に付いてきますが、彼らに使った分を少しでも補填するために微々たる額でも払ってくれる貨物を載せたい。

 中身は人でも法的には貨物です。道中なにか事故が起きても保証は受けられず、国が責任を問われることは決してない。

 更には盗賊や野党、モンスターの襲撃に際しては自衛のための出動を無償で要求することが出来る。

 逃げたければ逃げてもいいぞ、どうせお前らの荷物は馬車の中だ。財産を投げ出して生きていけるかな?と言うわけですね。

 しかも彼らは法的には貨物です。税金を守るための兵を割いてまで守ってやる義務は兵士にも徴税官にもありません。すり減らして肉の盾扱いしても法的には裁かれないのです。

 よしんば撃退した中に目立った功績を立てる者がいたならば、特別報酬として撃退料を払って恩を売っても良い。どのみちモンスターなり野党なりは減ったのです。その分の報酬を払ってやったと思えば損はありません。

 それにまぁ・・・どうせ報酬として支払われたお金は、街にある娯楽施設などで消費され尽くすのでしょう? 街を治める領主様にとっては、最後には自分の元に戻ってくるお金を渡した。その程度の認識しかないのでは?」

「世知辛い世の中だよね~」

「・・・まったくですね~・・・」

 

 孫を背負ってなんとやらと言う歌を昔聞いたことがありますが、お婆ちゃんの背中でこんな話を聞かされて育った子供がいたらどの様に育つのか興味がありますね。一度でいいから見てみたいものです。

 

「ほら、もうすぐ村に着くよ。今日はもう遅いから、うちに泊まっていくといい。妹の命の恩人を夕暮れ間近な田舎の農村には放り出せないよ。

 これで結構、治安は微妙なんだ。どこにでも跳ねっ返りは入ってきてるから」

「・・・ああ、なるほど。明日が半年に一度の国へ納める納税の日だから・・・」

「清潔な政治を理想に掲げるテロリストにとって、国軍に関わり合う場所はひとつ残らず徹底的に、標的にする気満々なんだよねぇ~」

「ーー本っっっっ当に、世知辛い世の中ですねぇ・・・・・・」

 

 

 

 軽く異世界に絶望を覚えながらも、私の異世界生活一日目は終わりを迎えました。

 願わくば明日の二日目はファンタジー世界らしく、夢のある展開を期待したいものです。

 

 

 

つづく



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第3章

インターバル回です。ギルドに行くためには町に着かねばならないので入れた回です。
戦記物のノリですが一応ファンタジーです。
次回こそ、正統派ファンタジー展開を書いてみたいです!


 鬱蒼とした木々の葉に覆われた森の小道。州都アイントフへと続く一本道を武装した軍隊に守られながら、数輌の馬車がゆっくり進んでいく。

 護衛の兵士たちは全部で60人。そのうち専業戦士の職業軍人はそれぞれの小隊を指揮する部隊長だけで、兵士は全員部隊長たちが治める領地の農民だけで構成されている。

 数は多いし訓練も行き届いてはいるが如何せん、元となる素質が絶対的に足りていない。圧倒的に不足しすぎている。

 少なくとも彼らを襲撃しようと牙を削いで待ちわびている救国革命軍の勇者たちより弱いことは確実だ。負ける道理はどこにもない。

 

 ーーだと言うのに彼らのリーダー、アランは決断するのを躊躇していた。

 

(おかしい、違和感を感じる。これは何度か味わったことのある罠の臭いだ。今はまだ、攻め入るときではない)

 

 歴戦の雄である彼をして苦戦を確信させるナニカが、今回の税金輸送馬車には間違いなくあった。それが理解できるからこそ、憂国の志の元集まった仲間たちも自制してくれているのだ。

 

 ーーそれに何より、護衛隊の中に冒険者の姿が一人も見えないのが気にかかる。

 

 確かに有り得ない話ではないし、これまでも全く前例がない訳でもない。とは言え珍しいのも確かではある。

 事態の曖昧さがアランに決定を躊躇わせている最大の要因であり、連絡用の水晶球を使って事の次第を伝え聞いた革命軍本部が決断を下せずにいる理由でもあった。

 

「おい、リーダー。奴らがヒッポクリ街道に入った。このままじゃあーー」

「ああ、わかってる。待てるのは最大で、後半刻ってところだな・・・」

 

 不安顔の仲間から齎された報告に、彼もまた顔をしかめながら返答を返す。

 

 この任務に厳密な時間制限があることなど端から分かり切っていたことだった。なにしろ、それを前提として襲撃計画を立案したのだから。

 

 先の小道はアイントフへと続く三本の街道すべてに通じている。途中で必ずヒッポクリフ街道に入らなければならないと言う条件付きではあるが、それ以外ではメリットしかない利便性の高い道だ。

 

 だがその一方で、利用客が自衛行動をとるのには余り向いていない。幅が狭く、兵力を展開できないのだ。一般人や一般兵で構成された集団には、戦うのに不向きな地形と言えるだろう。

 だからこそ質では勝り数では圧倒的に劣る革命軍には、このポイントでの襲撃以外に選択肢がなかったのである。

 

 だがしかし、その小道はすでに通過されてしまった。もはや革命軍の一方的な圧勝は難しいと言わざるを得ない。

 それに手古摺って敵に余計な時間を与えれば、州都からの援軍が参戦する事だろう。

 彼らと違い、革命軍の目的は活動資金の強奪ーーいや、国が市民から不正に奪い取った汚れた金の奪還なのだ。官憲どもの処理など二の次以下にすぎない些事だと言い切れる。

 そんな雑魚どもを相手にしていて大物を取り逃しでもしたら、市民の盾たる正義の剣の名が廃る。なんとしても成功させたい作戦なのだが、本部からの作戦決行の指示は未だ届いてはいない。

 

「限界だな」

 

 アランがそう判断したのは先の宣告どおり、半刻の時が経過した後だった。

 

 

「いくぞ、仕掛ける。このまま手をこまねいて待ち続ければ、兵どもは殺せても物資が奪えない。

 あれは飢えた子供たちを養うために必要不可欠なものだ。断じて王国の犬どもに渡すわけには行かない。間違いは正さねばならんのだ」

『応。すべては我らが掲げる正義の旗のために』

「よし。良い覚悟だ。では行くぞ、抜刀ーーーーっ!!!!」

『うおおおおおおおおっーーーーー!!!!!!』

 

 全員が一丸となって輸送馬車隊へと襲いかかる革命軍に対し、王国軍は壊乱はしないまでも微妙に統制が崩れた。

 無理もない。彼らは全員が同じ部署に配属された兵士ではないのだ。それぞれの部隊長が持ち回りで役割を担っていて、各部隊長毎に自分の治める領地から精鋭と見込んだ若者を従者として従軍させているだけの存在。

 軍隊ではなく軍集団。それ故に統制がとれるのは各個の集団毎にであり、全体が組織だって動くのには熟練度が足りなすぎる。全員が一個の生物として指揮官が手足のように動かすなど、夢のまた夢だろう。混乱して逃亡兵を出さなければ御の字のレベルだ。

 

 そして事実として、そうなった。

 

 王国軍は混乱はしても統制は崩さず、奇襲に体する防衛本能から一カ所に集まって亀のように丸くなり、各部隊毎の方円陣形もどきを形成し始める。アランの読んだとおりの展開になった。

 

(これで良い。俺たちの狙いは物資だけだ。お前らの相手をしている暇はない。軍事教練の教科書通りに動いたのは失策だったぞ?

 ーーいや、それよりも早く目的を達成して、一刻も早く離脱しなくては!)

 

 途中までは余裕綽々な態度でせせら笑っていたアランだったが、冷静さが戻った瞬間に自分たちが決して一方的に有利な立場では無くなっていることを思い出して僅かに慌てた。

 急いで税が積まれているはずの輸送馬車へと向かう。

 探すまでもなかった。荷物の重要性上、どうしても偽装が必要不可欠となる今回のような任務で使われる馬車は、得てして見窄らしいナリをさせて豪奢な馬車たちの最後尾近くへ配置される。今回はその典型だった。

 

 まさに教科書通りの配置。アランは王国軍の時代錯誤ぶりに内心苦笑しながら馬車へと入り、貨物をどかし、巧妙に隠されていた税の満載されているはずの巨大な箱たち、その最前列に位置していた確認用の一箱を開けてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・? おい、アランはまだか? いくら何でも遅いような気がーー」

 

 各所で戦力を分断、封じ込めに徹していた革命軍戦士の一人がリーダーの遅すぎる帰還に疑問を感じて呟いた、丁度そのときーー

 

「敵の首魁は討ち取った! 残りの連中に用はない! 全員、突撃ーーっ!」

『なっ!?』

 

 敵司令官とおぼしき立派な体格の騎士の叫びに革命軍戦士たちは、揃って愕然とした。

 

 そんなバカな、有り得ない、あのアランが!?

 

 そう言った疑問で頭が埋め尽くされた瞬間を待ちわびていたかのように息を吹き返して襲いかかってくる王国兵たち。

 思っていた以上に激しい敵の勢いに多少飲まれながらも、彼らは猛然と言い返す。

 

「デタラメを言うな!貴様ら肥え太った国の飼い豚どもに、我らが誇り高きリーダーが討ち取られることなど有り得ない!」

「ならば何故、貴公らの大将自身がそれを否定しない!?」

「それは・・・」

 

 こういう時、口を濁して言い淀んでしまった方が敗けである。

 そのことを知っているのは清廉潔白を謡う誇り高き革命軍戦士たちではなく、薄汚い王国貴族たちとの会食で毒を飲まされ慣れている王国騎士隊長の方だった。

 

 彼は好機を逃すことなく発破を掛ける。なにしろ数では勝っていても質では大きく劣るのだ。少しでも戦力差を埋められるよう工夫するのは指揮官としての義務であり、果たすべき責任である。

 卑怯だなんだと言う弱者の戯言は、敗北した負け犬が自己正当化のために使うものだと言う事実を彼は知っていた。

 

「見よ!王国の勇者たちよ!敵は怯んでおるぞ!所詮は飢えた餓狼が徒党を組んで王国に牙を剥き、正義を唱えて民を苦しめる口実に使っているだけの無法者の集団! 恐れるに足りぬっ!」

「貴様っ!我らを愚弄するか!」

「敵を愚弄してなにが悪い! なにを勘違いしているのかは知らんが、ここは貴族の礼式に則って行われる決闘遊びの場ではないのだぞ!?

 子供同士でママゴトがしたいのであれば、早く家に帰ってかわいい娘たちと遊んでやればいい! なにせ子供は成長が早い、愛でられる期間はそう長くはないのでな!」

『!!!!』

 

 革命軍戦士たちの表情に迷いが走る。

 それは別に騎士長の挑発によるものではない。我が子を思いだし、郷愁に駆られたためだ。

 もとより彼らの大部分は、国のため、世界のため、人類存続のためにと立ち上がった救国の士。その志の根本には、愛する家族と愛する子供たちに正しき未来を残してやりたいがため。

 その想いがあるからこそ、彼らは泣いて縋りつく家族の制止を振り切って家を飛び出し、こうして密かに仕送りを続けながらも革命のために命を懸けて戦っていられるのだ。

 その覚悟に今、大きな罅が入った。彼らの家族愛が救国の志に一時的な勝利を収めたのだ。

 

 これは状況が成せた技だった。

 

 彼らの覚悟は常に想いに勝利し続けてきたし、これからもそう在り続けたはずだった。それが崩されたのは単純に、信じて付き従ってきたリーダーが敗れたと言われたこと、それをリーダー自身が否定してくれず未だに何の音沙汰もないまま返事もしないこと、そして自分たちの不利な体勢が否応もなく敗北を意識させられたことなどが理由だ。

 

 信じていたものが失われたと言われ、さらには否定材料となるべきリーダーは未だに帰らない彼らには信じるものが必要だった。

 即ち、自分たちが敗れる正当な理由付けが。

 

 ーーもしかしてリーダーは自分たちを見捨てて逃げ出したんじゃないか?

 ーーあるいは、リーダーが俺たちを売ったから敗け掛けてるんじゃないのか?

 

 これまで勝ち続けてきた彼らの心は、僅かな敗北で途端に惨めさの方が勝ってしまった。勝ちに慣れすぎていたのと、敗けを経験したことのある古参の人間が指揮官のアラン一人だったことが裏目に出過ぎた。

 若くて血気盛んな救国と革命の志の燃える彼ら戦士団は、勝ち戦以外の戦を知らない。総大将が彼らに若くして死ぬことを許さなかったせいでもあるが、王国軍の最近の惰弱ぶりも大きな要因の一つと言える。

 弱くなった王国軍は敗北して志気が下がり、勝利した革命軍は逆に上がる。士気の低下した軍隊は必然的に弱体化し、次の戦いでも負けた王国軍はまた志気が下がって革命軍はまた上がる。

 その際限ない繰り返しが今日のこの状況を作り出したと言えるだろう。まことに皮肉きわまる話ではあるのだが。

 

 ちなみにだが、この場に投入された革命軍戦力は優秀な若手たち、ほぼ全てと言って過言ではない。もちろん王国支部が保有している戦力の中限定ではあるが、未来ある指揮官候補たちは全て投入して安全な勝ち戦で経験を積ませている最中だったため、指導役のアラン亡き今彼らは自らの誇りと戦う意義を守るため虚像に縋りつくより他に手はなかったのだ。

 

「くそぅ!こうなれば我ら全員この場で討ち死にし、後世に名を残そうではないか! 

 それ以外に道はない!」

「そうだ!その通りだ! 我ら誇り高き革命軍に敗北と撤退の文字はない!」

「死ぬは今ぞ!散るべき時は今ぞ!総員、我に続けぇぇぇぇっ!!!!」

 

 意気上がる革命軍戦士団の若者たちを見ながら、王国騎士長の胸に去来する想いは只ひとつ。

 

(真性のアホかこいつら)

 

 ーーであった。

 

 古参であり経験豊かな彼から見て革命軍戦士団の言い分は、戦場を歌劇場かなにかと勘違いしているとしか思えない、青臭すぎて草生える三文芝居でしかなかったのだ。

 

(剣もって喉笛突けばいつでも死ねるだろうに・・・。なんで今でなければ駄目なのだ? 全く理解できんのだが・・・。

 あと、死んだ敗者に生き残った勝者が与える名誉は、そこに利用価値を見いだしたからだ。別段貴様等の死が綺麗に飾られて残るわけではない。脚色されて政治に利用される形で無理矢理に残されるだけだ。

 そのくらい歴史の授業聞いていれば、子供でもわかる事だと思うんだがな~)

 

 内心で嘆息しつつも騎士長は、謹厳実直な態度を崩さない。

 指揮官は常に役者であるべきだ。演技ができて部下を騙せなければ、人の上に立つ資格などない。正直さが美徳とされるのは政治的アピールの場だけで十分すぎるだろう。

 

「その心意気やよし! されど我ら王国軍は国のため、民のため、この身を張って盾とせねばならぬ身。申し訳ないが騎士の誇りを捨てて、保身に徹しさせていただく!

 者共!方円陣形を崩すな!味方同士で互いの背中を守り、支え合いながら確実に一人ずつ、仕止められる敵から仕止めていけ!

 弓兵隊が主力だ!それ以外の者は彼らを死んでも守り抜け! 彼らさえ生き残れば勝利は我らのもの、故郷で帰りを待つ家族の笑顔を守り抜けるぞ! 放てぇぇぇぇっ!!!」

『おおおっ!!! すべては偉大なる王国のため、家族のため、生きて故郷の土を踏むために!!』

 

 

 

 ーーなんかどっちが正義でどっちが悪なのか解んなくなってきたが、とりあえず戦闘は血気にはやり剣で攻め入ろうとする革命軍戦士団と、冷静で巧遅さと臨機応変さを崩そうとしない騎士長率いる弓兵隊との戦いに様相を変え、終結までに三時間を要する長期戦となった。

 

 その結果は、王国軍の被った被害数が重軽傷者12名に死者0名。革命軍戦士団は一人残らず全滅。

 最後の一兵まで戦い抜き、「神、よ・・・我らに勝利を、与え・・・たまえ・・・」と末期の言葉を呟きながら果てた、身なりの良い富裕層出身と思しき若者を最後の犠牲者として戦闘ーー途中から一方的な虐殺になってはいたがーーは終結した。

 

「ようやく終わったか・・・やれやれ、この死体の山は誰がどうやって処理すればいいのだ? 埋めるにしても州都の目の前だぞここ・・・」

 

 騎士長が疲れて凝った肩をグルグル回しながらぼやく。彼はいわゆる中間管理職に当たる地位の人物だ。事が終わった後は事後処理のことで頭がいっぱいにならざるを得ない。なにごとも後始末が一番大変なのだから。

 

「お疲れさまでした騎士長様。一人も死なせることなく無事に終わって良かったですね」

「卿か・・・今までどこに行っていたのだ? どう考えても逃げ回っているだけで保身を図ろうとする、素直な御仁とは思えんのだが?」

「どこか適当にそこいら辺へ。まぁ要するに、戦場の外周をうろつきながら陣を離れて傷の治療をしようとする人たちに背後から近づき、一撃で殺して回ってました」

「・・・」

「いやー、本当の戦場って怖いんですね。初めての実戦が楽勝な任務で助かりましたよ。改めてお礼を言わせてください騎士長様。

 おかげで私たちは無事に州都までたどり着けそうです」

「・・・・・・」

 

 騎士長は目を眇めて目の前の少女を見やる。

 銀髪を頭の上で結わえた青い瞳の少女だ。

 

 貴族令嬢と見紛うほどに可憐で気品ある美しさだが、その中身は紛れもなく魔王。

 わざわざ敵に見せつける様に行軍することで敵自ら位置的優位を捨てさせ、奇襲に対して慌てふためく芝居などせず可能な限り適切な対処を取ることで敵を油断させ、民兵組織故にあやふやになりがちな指揮系統のなか唯一確かな指揮権を持ったリーダーが中身を確かめるであろう、税の入った箱の中にジッと隠れ潜んで開けられた瞬間リーダーにナイフで切りかかる。

 ナイフの刃には猛毒が塗ってあって本命はこちら。油断していたとは言え子供に殺られる俺ではないと、掠り傷で済ませた自分に驕り高ぶって油断した相手の背後には伏兵。

 

 エロい衣装を身に纏った怪力無双な自称超僧侶の美少女が、税の満載された箱を掲げて頭から一撃。総重量1トンにも及ぶそれを食らって生きていられる人間などいない。

 

 おまけに村に住む若者が手土産にと持たせてくれた半径20センチ以内だけ音声を外に漏らさないマジックアイテムのお札(格安。村の道具屋でも銅貨3枚。子供のおもちゃ)を箱の底に貼ってたお陰で馬車内で行われていた諸々は最初のリーダーが箱から出てきた少女の一撃を避けるまでしか聞こえておらず、その程度は古い木造馬車ではよくあること。気にしないし、気にされない。

 

 ーーつまりは最初から最後まで革命軍は“自称”無学な小娘に踊らされて果てたというのが事の顛末だった。

 

 

「いつか地獄に落ちても知らんぞ・・・」

「私は常より、死後のことは死んでから考えればいいと思っていますよ」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 見た目は天使、中身は魔王。職業は異世界からTS転生してきた美少女勇者。

 

 転生勇者セレニアの伝説が今、始まってしまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

自称女神「私の出番が少ないですーっ!」

自称凡人「次回は多いといいですね」

 

 

つづく




注:流石に矛盾してるかなーと思ったので、途中の「5センチ」の部分を「20センチ」に変えときました。


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第4章

ようやくファンタジー感が出せました!・・・と思ったら、やっぱり半端になりました。
おかしいなぁ~、ファンタジー世界ってこういうのでしたっけ?

次回こそ、ファンタジーな世界と展開を!


 冒険者ギルド。古くは古典的RPGから存在し、比較的新しいところでは『OVER LORD』、もしくは『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?』辺りが有名所でしょうか?

 多くの場合、冒険者と呼ばれる荒くれ者たちを相手に仕事を斡旋したり、時には街の防衛に協力してもらう特殊な組織の名称です。

 

 ゲームなどでもそうですが、この世界のそれにも職業的性を見極めるなどの部署が存在し、我々もお世話になりに来たのですが・・・・・・

 

「いや~、驚きましたね。規模に。

 まさか物品鑑定、倉庫に銀行、保険会社や融資、最新通貨レートの説明役に両替商まで完備していて、止めに職業訓練校まがいの代物まで併設されてるなんて想像もしていなかったですからねぇ。

 あれだけの規模の施設を建てるなのら、そりゃ国と癒着でもしないとやってけないでしょうよ」

「うん・・・私もあれには驚かされました・・・・・・」

 

 この世界全てを統べてるはずの女神様が驚かれているのですから、相当な物だったんでしょう。女神様のスペックについては疑問の余地がありますが、とりあえず今は置いときます。

 

 ちょっとした大学のキャンパスみたいになってましたからねぇ。これなら冒険者街要らないんじゃね?っと思って聞いてみたところ、冒険者街を利用するのは最低限自分で自分を食わせられるようになった初級者以上の冒険者と、生活を楽にできる道具にならお金を払える余裕のある中流階級の庶民が顧客の主力となっているとのことでした。

 あらためて説明されると非常に納得できますね。

 

 冒険者はなり手が多い反面死亡率も高く、初陣が人生最後の戦闘になりやすい。確かに実力主義の世界で弱い冒険者など必要ないと言われてしまえばその通りなのでしょうが、世の中には大器晩成や遅咲きの大英雄と呼ばれる存在も確かに居るには居るので、人的資源の枯渇し始めた人類国家としては無駄に死なれても困るのでしょう。

 更に言うなら、別段戦闘力だけが冒険者の持つ力の全てではない。支援系能力でこそ才能を発揮できる未発掘の原石というのも確かに存在しているのです。

 そういうのを見極めれる様なスキルが存在しない以上、やらせてみて結果を見るより他、その人の向き不向きを確認する術はないのです。

 

 ーーああ、もちろん職業適正を調べる能力はありますよ? ただしこれはあくまで現時点でのステータスから判別されてるだけなので、将来性を示すものではありません。

 定期的に確認しながら自分にあった職業を自分と担当してくれてる職員さんの二人三脚で試していくしかないとのこと。

 ・・・『BAKUMAN。』を思い出したのは、私だけなんでしょうかね・・・?

 

「まぁ、時間的余裕があるのなら初心者向けの講座に参加してみるのも悪くはないでしょう。もっとも、『教科書通りすぎるから、あくまで参考に留めるように。自分にあった戦い方は自分自身で見極めること』って教官殿ご自身の口から聞かされたときは驚かされましたけど・・・」

「うん、私もあれには驚きました・・・」

 

 アンタさっきの台詞をコピペでもしてるんですか。いい加減現実世界に帰還しなさい。置いてきますよ?

 

「診断・判定・鑑定。すべての作業工程にランク付けがされていて値段も異なる。

 訓練生に見てもらう場合はタダだけれども何かあった際には自己責任で終わらせられるから、一定以上のランクを持った判定及び鑑定作業を訓練生に依頼するのは法的に許されない。

 武器の強化、魔力付与に素材の加工。大抵のことは受け付けていますが、どれも担当する係員のレベルを抑えてあるため、高ランク品に関する作業は売り買いも含めて冒険者街のプロたちに自己責任でもって依頼すること。

 一般市街における犯罪行為は地位身分を問わず通常の刑法が適用され、冒険者街内部に限り一部冒険者特例法が適用される。

 概要は、基本的には全ての行動に自己責任が適用されており、国や都市議会などは冒険者たちの責任問題に一切関与しない。街中で一般市民に危害が及んだ場合は問答無用で投獄。抵抗する場合は市民の安全を優先して実力排除が許されている。

 冒険者街の治安維持は冒険者ギルドの管轄であるため国軍が関与はしない代わりに、現役を引退してギルドに所属している古参の高レベル老冒険者たちが事に当たる・・・と。

 ・・・少し細かすぎませんか? ここまで綿密な設定を冒険者ギルドに求めなくても良いのでは? 一応はここ、ファンタジー世界なわけですし」

 

 正直このまま行くとこの世界、設定資料集とか出せそうなくらいに広がっていきますよ世界観が。たぶん、一国だけで。

 

「私もそれには驚かされました・・・」

 

 うん、やっぱ駄目だわこの女神様。ガチで役に立たん。

 いいんですけどね、別に。最初からあんまり期待してませんでしたから。

 

「まぁ、なにはともあれもう一度職業適正検査室へ行ってみましょう。予約受付した時間が迫っていることでもありますしね。なにかしら便利なスキルが手に入ればいいんですが・・・。

 おあいそ、会計をお願いします」

「あ、はーい。ありがとうございましたー。またのご利用をお待ちしていまーす!」

 

 ネコミミ生やしたウェイトレスさんに見送られながら、私たちは喫茶室を出ます。

 付けた、ではありません。生やした、です。この世界にはそう言った異種族が山のようにいて、国によっては共生しているようですね。

 無論、種族差による身分制度をとっている国や奴隷制を敷いている国もあるようですが、この国では比較的穏やかに平穏に暮らせているようです。良かったですね、ネコミミさん。

 

 ーーちなみにですが、今居たお店はギルド内部の中庭に併設されてる喫茶店です。出てくる料理や飲み物も異国情緒溢れた物が多く、冒険者が如何にリベラルな存在なのかを思い知らされる作りになってました。

 考えてるなぁ~、ギルドの代表さん。そりゃ脳筋ぽかった革命軍のみなさんが手玉に取られるわけです。くわばらくわばら。

 

 

 

「すみませ~ん、先ほど1時に予約させていただいたセレニアなのですが。

 私と後もう一人・・・あ~・・・匿名希望さんの職業適正審査をお願いできますか?」

「セレニア様ですね。確認いたしますから少々お待ち下さい。

 ・・・・・・確認が終了しました。係りの者が案内しますので、審査室へどうぞ」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」

「それから、これらは情報機密及び冒険者の安全保障にかんする事柄に関わってきますので、調べた内容については原則ご本人様のみにお伝えしております。

 仲間パーティーの皆様にお伝えするのはご自由ですが、それによって他者が被害を被った場合は連帯責任として処罰の対象となりますことを予めご納得して頂いた上で、了承のサインをお願い致します」

「ん、了解です。この契約書にサインすれば宜しいんですね?」

「はい、そうです。これは簡単な契約魔法が掛けられており、紙にも当ギルドの訓練生が作成した魔法紙が使用されています。

 低レベルの間は間違いなく効果が及ぼされると思われますので、よく考えた上でのご利用をお勧めさせていただきます」

 

 なるほどね、ここでも良くできてます。

 実績のない初級者は契約書が信用に対する担保となり、実績を得た経験豊富な高レベル冒険者には、担保の必要性も契約内容の重要性に関して理解を求める必要もないと。

 

「ーーはい、書けましたのでどうぞ」

「拝見させていただきます。ーー登録完了、冒険者セレニアの個人データを転送致しました。これでギルド本部に貴女の名前とデータが永久に保存されます。

 願わくば、貴女の名前が伝説とともに残ります事を」

「社交辞令の機能は要らないような気もしますが・・・まぁ、雰囲気重視なんでしょうね。たぶんですけど」

 

 私は内心苦笑しながらも、目の前で受付業務を担当している魔法生物ホムンクルスの少女を見つめました。

 良くできている反面、ところどころに違和感を感じさせるのは訓練生の制作した品で、整備や補修も彼らが実地訓練として担当しているからなのでしょうか?

 

 国が本腰あげて支援した場合の冒険者ギルドってスゴいですね・・・これなら人類三大組織と呼ばれるのも納得させられますよ。正直いろんな作品の同名組織を知っている身としては半信半疑でしたが、ここまで来ると疑う方が難しい。

 

 本当に良くできた組織だなぁ~。

 

「こちらが検査室になります。順番はどちらの方からでも構いませんが制限時間が御座いますので、一人頭に掛けられる時間は変わり在りません。その上で順番をお決めくださーー」

「はいはいはーい! 私!私が先です! だって私、女神様ですから!

 女神が人間の後塵を拝するとか有り得ねぇでしょう!?

 ですから当然、私の方が順番はいつだって先なのです!

 なんたって私、め・が・み・さ・ま、ですから!」

「・・・・・・畏まりました。どうぞこちらへ、メガミサマ」

 

 あ。最後の一言、カタカナの棒読みだった。ついには人の手で作り出された人工生命体にまで見下されちゃいましたよ、この女神様。

 いったいどこまで落ちていくんでしょうねぇ~。さすがにここまで来ると、ちょっとだけ興味が沸いてきますよ。

 

 とはいえ私の順番が回って来るまで一休みですね。ベンチにでも座って周囲の人たちの話に耳を傾け、情報収集に勤しむとしましょう。

 なにも知らない私たちには、なにが有益な情報で、なにが無益な情報なのかを判断できるようになれる情報が一番必要です。

 自前で済ませられたら聞く手間が省けて経費も減らせて一石二鳥ですからね。大人しく周囲をキョロキョロ眺めて子供らしさをアピールしておきます。

 なにか聞いても不振がられないよう、なにも知らない子供のフリは基本中の基本ですから。

 

 ・・・・・・なんか中途半端にファンタジー感が有ったような無かったような、微妙な感じで半日が終わってしまいました。

 

 残りの半日こそ、ファンタジー展開を期待させていただきます!

 とりあえずは仲間と出会いたいです! 今のままの編成だと、ものスッゲェ不安しかないので!

 

 せめて前衛の盾キャラかもーん!

 

 

 

 

つづく



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第5章

本当なら最初の事件解決まで書くつもりが文字数的に・・・やっぱり説明台詞好きは改善の余地あり過ぎますよね、気を付けます。

今話で冒険者セレニアの職業・固有スキル・使える魔法の属性とランクが明かされますが詳細は後日にでも。
今書くと、また長くなりすぎそうなのでね・・・。


「いや~、さすがは女神様による異世界転生ですね。お約束通りに『前例のない』能力やスキルばかりで、ギルドの職員さんたちも驚いていましたね。異世界転生勇者の面目躍如と言ったところですか。お見事としか言いようがありません。

 感服しましたよ、この世界すべてを総べているはずの万能なる女神様?」

「・・・・・・」

 

 私の心からなる賞賛の言葉に女神様は露骨に目を背けるとあらぬ方を向き、どこか遠くを見つめるフリをして私の言葉が聞こえていない風を装います。

 いいですけどね、別に。この人にはもう何も期待していませんし、私としても独り言には慣れているので気になりません。ぼっちの友はボールではなく独り言です。

 

 とは言え声量には常に留意せねばなりません。世間様はぼっちに厳しいのです。

 数で負けてる以上は勝ち目がありません。社会的勝者こそが真の勝利者なのです。

 

 

 

 ――そんなどうでもいい事柄をつらつら思い浮かべつつ、私は先ほど発行していただいたばかりの冒険者専用身分証明書『冒険者カード』を取り出して空へと掲げ、透かし見ようと試みましたが見通せません。

 

「むぅ・・・なかなか良い紙を使ってらっしゃいますね。あるいは先程のホムンクルスさんが言っていた、魔法で編まれた紙『魔法紙』を使用しているのでしょうか? 芸が細かいです・・・。

 しかも『透かし』を入れてあります。黒透かしと白透かしを組み合わせた白黒透かしで、です。

 陰影が名義の隣にありますし、その二つの間には透かしで文章まで入れる精巧さ・・・。

 ――どんだけ偽造対策してるんですか、この異世界の冒険者ギルドは。ほとんど日本の紙幣みたいなレベルで対策取られてるんですけど・・・もしかして冒険者ギルドって、他人の事は信用しない人たちの集まりだったりするんでしょうかね?」

「くっ・・・ツッコミを入れたいのに今言うとやぶ蛇になるから言えません・・・これがハリネズミのジレンマですかぁ・・・・・・っ!!!」

 

 女神様がなにか言ってる気がしますが、無視です。無視して欲しいそうだからです。

 話したいことがある時には自分から話しかけてくるでしょう。それ以外の場合で話しかけて欲しくなさそうな時には、全てガン無視です。

 人間関係において互いの領域を侵す範囲とタイミングの見極めはきわめて重要であり、微妙な問題でもあります。要注意しましょう。

 

 ーーああでもですよ女神様。それハリネズミじゃないでしょ、どう考えても。

 貴女の場合に限って言えば、神風特攻隊が成功するか否かを悩んでいる様な状態です。日本語は正しく使いましょうね。

 人のこと言う資格が私にあるかどうか分からない、現国「3」なセレニアでした。

 

 ・・・さて。ここで少しだけ冒険者カードについてご説明させていただきましょう。まぁ、大半がお約束通りなのであまり説明を要する特殊な場所はないんですけどね。念のためにです。

 まずは職業適正についてからです。

 

 この異世界における勇者の定義は『魔法陣グルグル』と同じ様に称号扱いの様で、冒険者カードのどこを見渡しても勇者に関する記述は一切見受けられません。

 ただし職業名の直ぐ隣には『称号名』と書かれたスペースがあり、ここには国や政府、団体等から授与された公的な意味での称号や、国王様や大貴族に自治領主など支配階級の方々から個人的に送られた、公的には意味が少なくとも限定的な効力は遥かにそれらを上回ってしまう特殊な称号等を頂いた際に、手続きが終わると記載されるそうです。

 

 称号の中には『○○族の勇者』『○○国の勇者』『第二次○○戦争の勇者』等々、条件に見合う枕詞の付いた勇者の称号もあるとのこと。

 今の私はさしずめ・・・・・・『女神に殺されて招かれた勇者』でしょうかね? 微妙にモモンガ様と似ていなくもない・・・かなぁ?

 とりあえず魔導王は目指さないよう気をつけましょう。世界征服は現代日本人的にイヤです。民主主義者なので。

 

 ああ、もちろん読む分には大好きですよ? オバロファンでしたし。

 死なずに済んでたら、映画版も観てみたかったですね。

 

 

 閑話休題。

 本来であるなら登録したばかりの初心者が就くことの出来る職業は、初期職四つの内どれかひとつを選ぶことになります。

 戦士、魔法使い、僧侶、盗賊。

 この内盗賊だけは多種多様な職業タイプを内包しており、内訳は普通に短剣をメインに戦うドラクエ系、短剣に毒を塗って殺しにかかるアサシン系、弓矢やトラップ等の敷設系能力を有する狩人系等々。

 ようするに他三つのどれにも含まれないですが、上級と言うほど大した力のない間接攻撃系職業を全部ぶっこんで「あとは自分で勝手にビルドアップしてくれ」と、そう言うわけですね分かります。

 

 私のステータスを見る限り、本来適正のある職業は当然のように盗賊なのですが、どういう訳か特殊な職業のエクストラジョブと言うより『ユニークジョブ』と呼んだ方が正しいであろう特殊職に固定されておりました。

 

「『職業『指揮官』に固定。恒久的に変更できない。

 軍を統べて統率し、進軍することに特化している極めて特殊な職業。

 指揮下にある兵士たちにとっては守るべき対象であり、自ら剣を手に取り戦わせるなど以ての外。それ故、当然のことながら個人戦闘能力は極めて低く、使えるスキルにも直接攻撃系のものは余り多くない。

 知力に特化しているクラスだが、その反面魔力は微量で魔法習得にも向いていない。それらを備えた優秀な人材を使いこなすための職業である』ーーこれって遠回しに、私は役立たずだって言われてません?

 個人戦かパーティー戦闘で戦うのが基本の冒険者に、指揮官なんて職業が必要とは思えないんですけど・・・」

「・・・・・・」

 

 更に私から目をそらして口笛を吹き始める女神様。

 おそらくはピーヒョロロ~と鳴らしたいんだろうなぁと思いますが、どう聞いても「い~しや~きいも~」としか聞こえない口笛のセンスは高いのか低いのかどっちなんでしょうね・・・。

 まぁ確かに、ちょっとだけ似ていなくもないですけども・・・。

 

「ーーとりあえずは次です。魔法属性ですね。これは正直、非常に興味があったんですが・・・案の定ガッカリな結果に終わりましたね・・・」

「・・・・・・ぴ~♪ ひ~♪」

 

 もう音さえ出れば何でもよくて、誤魔化したい一心で口笛吹いてるフリしてるだけの女神様です。何のために付いてきてるんでしょうかね、この人。

 相手より年下なのに養わされる身にも成っていただきたいのですが・・・。

 

 それはともかく魔法属性のお話です。ファンタジーが好きで、これに興味がない人はほとんど居ないと思われる、如何にもな王道ファンタジー要素ですね。

 

 まず最初に基礎的なことを説明しますと、この世界の魔法は大気中に漂うマナと誇称されている魔力を使い、使用されるものでは“ありません”。まったくの別物なんですよ。

 自然界を司る火水風土、いわゆる四大元素エレメンタルは、あくまで自然現象が持つ力に人が与えた便宜上の名前に過ぎず、特別な力や意味があるなどとは誰も考えてはいないそうです。世知辛いですね。

 

 では魔法はどのようにして使うのか? これも非常に夢のない話しになってしまいますが・・・技術と知識とスキルです。ただそれだけでした。本当の本当に夢がない・・・。

 

 職業適正で固定されたクラスでなかった人たちには前述した四つのクラスの内どれかが選べて、その内魔法使いを選んだ人には例外なく『魔法使用可能』のスキルが自動的に付与され魔法の使用が可能になります。

 とは言え魔法使いというクラスそのもが一定の知力と魔力を保持していないと選ぶことが出来ない、基本職の中で唯一なれる人が限られている職業のために需要の高さと希少性の高さは群を抜いているとのことでしたが。

 

 ただし数値と数字は所詮、カタログスペック。数値通りの性能と成果が出せるとは限りません。これは魔法使い系職業全般に言えることだそうです。

 そして面白いことにこの世界における魔法の向き不向きは、才能よりも好き嫌いに依存する傾向が強いのです。

 と言うのも、この世界の魔法は目に見えて成長し辛く、地味な努力を延々とこなしていく努力型、もしくは秀才タイプに向いている類の能力なんですよ。

 

 例題を上げてみましょう。

 ある所に魔法使いになりたての新人冒険者Aさんが居たとします。

 彼には他の人たちより魔法の才能があって、通常ならレベル15で習得できる『ファイヤーボール』をレベル10で習得することが可能でした。命がけで行わされて死に戻り出来ない序盤において5レベル差は半端ないです。すごいです。

 

 一方で彼はレベル10になってファイヤーボールを習得できるようになるまでは、目立った活躍の場がありません。レベルと共に魔力値は上がり、初歩魔法の『フレアボルト』の威力も上がってはいきますが使いどころが戦闘中のみに限定され、それ以外の時に魔法を使いMPを切らしてお荷物に成られるのを、他のパーティーメンバーが嫌がるからです。

 

 いくら才能があって魔力・MP共に高めでも、魔法使いは魔法使い。肉弾戦にもサバイバル生活にも向いてはいません。強くなるまでは仲間たちに依存せざるを得ないのです。

 

 また魔法には『火』や『水』等の属性が存在しますが、ぶっちゃけこれらは好き嫌い、個人的趣味趣向の範疇に過ぎず、『火魔法が好きだから努力するのが苦にならなくて成長が早い』『水魔法を便利に感じて多用するから扱い方を身体が自然に覚える』等の理由から成長速度と限界が決まる傾向にあるそうです。

 

 才能より真面目な努力がものを言う王道ファンタジー職、魔法使い・・・王道? うん、まぁ王道と言えば王道ですよね。たぶん・・・・・・。

 

「私の魔法適正は『全属性』。何の現象に対しても一切の拘りを持っていないので何でも使って良いそうですが、そのぶん得意不得意が存在していないそうですね。

 苦手がない代わりに得意なものもない。成長速度が全部一律で、あらゆる魔法を習得可能できる“かもしれません”が、出来ない“かもしれません”。

 ・・・詐欺商法っぽくないですか? これ・・・・・・」

 

 遙かな昔にお亡くなりになった魔法使いの基礎マニュアル作者さんへの苦言を呈する私に、女神様はもう聞こえないフリをしようとはなさいませんでした。

 

 ただ私に背を向けて、一人でラジオ体操に励んでおられるだけです。半ば見えてるお尻の割れ目が目に毒過ぎて逆に嫌なポジショニングです。

 お願い、誰か変わって。マジ恥ずかしいですから・・・。

 

 露出狂同然の格好をした貧乳美少女と、胸だけデカいロリ巨乳な、そこそこ美少女二人組の新米冒険者コンビは、曲者揃いの冒険者たちといえども流石に個性が強すぎるらしくて誰も近寄ってこようとはなさいません。遠回しにヒソヒソ囁きあってるのが聞こえてくるだけです。

 

 面倒くさいので全て、シャットダウンさせて頂いておりますがね。

 

 正直、この女神様と一緒にパーティー組んでる間はずっと続くであろう婉曲な嫌がらせにいちいち付き合っては居られませんよ、面倒くさすぎますから。

 少しでも楽しく生きてくためには、ストレスを溜めないことは基本中の基本。不愉快な被害妄想なんか必要ないので、一切しませんかったるい。

 

「はぁ・・・・・・最後です。

 最後と言っても、これが一番大きな大問題なんですけどね・・・」

 

 冒険者として初登録した初心者には自動的に送られる『初期スキル』システム。

 レベルや職業に関係なく「本来ここで手に入るのっておかしくね?ゲームバランス壊れるぞ」的な印象を受けさせられたり「これ最初に要るかぁ? 10ポイント払えば貰えるじゃん。もっと良いの持ってこいよ」な罵られ方をされたりもする、スタート初期から付いてくる特典スキルで、要するにあれです。『SDガンダム GGENERRTION』でレンタルキャラ雇うと最初に持ってるアビリティです。

 

 実際問題、中身も特徴も似ているところが多く、勉強熱心で魔法を習得するために努力し続けてきたから『能力限定習得率1・2倍』とか、力任せに剣振り回すのが得意な人だから『怪力:20パーセント上昇』等々。その人の逸話と言うか、人生そのものが影響しまくる一番不確定要素の強い能力。

 

 当然のことながら、『リアリス・フレーゼ』や『イマジンブレイカー』みたいに世界でただ一人しか使えない特別な力もあるにはあります。これらは通常のスキルと異なり特殊スキル扱いされてるみたいですね。

 名前もまんま『固有スキル』。Fateかよ。

 

 ただしこれ、あんまり旨味はありません。

 何故なら、その人固有のものなので前例がないからです。

 

 ギルドの持つ情報にも、教官たちの指導方針を定めている教導マニュアルにも概要が載っていない全くの未知スキル。謂わば前人未踏への挑戦。

 組織の長であれば誰だって避けたい、最低でも余裕があるときに限って挑戦したいのが前人未踏の地。

 なので当然の事ながらギルドの支援は受けづらくて、代わりに何か分かったら情報料を提供して貰えるそうです。もちろん、ギルドに報告してギルドが情報料に見合った額と判断した分だけですけどね。

 

 ただその一方で、売る支部の指定は一切されてはおりません。売値に不満がある場合は取り下げても構わず、売ってもいない情報を無断で使用された場合にはギルド本部に連絡して責任者の方を処罰していただけることを明言して頂きました。

 それから不正に関しての慰謝料および迷惑料などは予め額を決めて明記された契約書を渡されましたので、割と安心できそうですね。

 

 この町の冒険者ギルドに掲げられている標語「世間の皆様方を守るのがギルドの役目。面汚しに居るべき場所はない。この世の果てまで追いかけて、その首置いてけーっ!」・・・妖怪かよ、お前らは・・・。

 

「私の固有スキルは『チェック・メイト』。常時発動型の特殊な精神感応系のスキルで、絶対に外すことは出来ないそうですね。

 効果は『自らが戦争状態にあると判断した一帯全てを“盤上”として認識し、遙かな高見から俯瞰して眺める精神性を強制的に発動させられる。

 盤上に存在しているモノたち全てを“駒”であると捉え、チェスの如く状況を作り上げていくことが可能となる。また、使う駒に規定はない。

 自らが使えると判断したモノは例外なく駒として視ることが出来るようになり、そこに人間非人間、性別種族年齢有形無形存在の定義すべてにおいて一切の拘りがなくなり「使えるモノはすべて用いる」ことを良しとする人間性を獲得する事ができる』

 ・・・・・・どこの世界のルイ筆頭大臣ですか私は。明らかに転生先か原作世界を間違えまくっているでしょうに。場違いにも程があり過ぎる・・・。

 いったい、これらの能力を使って何をどうしたら世界を救えると言うのですかーー」

 

 

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

 

 

 

 ーー今度はなに!? 鬱陶しいなぁもう!

 暴漢!?チンピラ!?警察呼べ警察! 一般市民相手に冒険者の出る幕はねぇ!

 むしろこっちが犯罪者認定されるわ!ギルドのベテランさんたちにボコられるわ!経験豊富な老兵舐めんな! 強いし怖いぞあの人たち!

 「自分は強いぞ怖いぞ」とか日夜言ってる不良さんたちと違って、本当に人殺したことある人いますからね!戦争で! 軍事教練受けたご老人甘く見てると怪我じゃすみませんよ!注意せよ!

 

 

 

 

 

 

「おうおう、姉ちゃんよう。うちのワケぇもんがちぃっとばかし世話になったみてぇだなぁ?

 んでよぉ。その礼? みたいのがしてぇんだわ。ちょっとそこの事務所まで来てくんねぇかな?

 なぁに安心しろい、茶くらい出してやるからよ。こちとら落とし前さえ付けてくれたらなんの文句もなーーぶふっ!?」

「ふん、下郎どもが。武士の眼前で蛮勇を奮うとは不届き千万。成敗してやるから其処に直れ!

 我が正義の刃を以て悪を裁つ! 正義は我にあり!」

 

 

 

 

 

 

「「うわ~・・・・・・・・・」」

 

 思わずドン引きする私たち新米冒険者コンビ二人組。

 ・・・なにあれ? いつの時代劇?

 自分の治める国の首都で暴れ回ってる将軍様? もしくは他藩の領内に身分を偽って密入国して官僚の不正を暴き立ててる秘密警察じみたご隠居様?

 どっちにしても関わりたくねぇー・・・・・・。

 

 

「ね、ねぇセレニアさん? あの人ってもしかしなくても仲間パーティー第1号なんじゃ・・・」

「・・・仮にそうかも知れなくても、犯罪者と手を組むのは御免被ります。かと言ってこのまま放置するわけにもいきません。

 なにしろあの人、既に抜刀しちゃってますからね・・・チンピラが抜くより先に刀抜いて切る気満々な人を放ってはおけませんよ。

 最悪の場合、この通りが血の海に沈んで『切り裂かれジャックたちの横町』なんて呼び名が付けられたりする可能性も・・・・・・」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? な、なんちゅー恐ろしいことば考えちょりますかアンタば! 私、スプラッタもホラーも駄目なんですから止めてくださいよ!

 う、鳥肌立ってきたぁ、ジンマシンも出てきたぁ・・・怖いよぅ、痒いよぅ・・・」

「・・・そう言えば今思い出したのですが、私の残していった前世の死体ってどうなったんです?

 死んだ直後の記憶がないので死因も分からず、死体の状況すら判然としないのですが・・・」

「鬼ですかアンタは!?

 なんで今思い出すの!?なんで今思い出させるの!? ちょ、やめ・・・ぎゃああああっ! 記憶が!記憶のフラッシュバック現象がぁぁぁぁっ!!!

 ネズミが!壁の中から大量のネズミが走り回る音が!

 死ぬ死ぬ!マジで死ぬ!死んでしまう!殺されるーーっ!

 悪夢に襲いかかられて、恐怖の記憶に殺されるーーっ!!」

「・・・・・・貴女いったい、どこのクトゥルー邪神群に襲われてるんです? むしろ古き神様「旧神」は貴女の方でしょうに・・・。

 いいから早く来なさい。冒険者としての初仕事です。せいぜい派手にやらずに地味に片づけますよ。

 さてーーそれでは、私の仕事を始めましょう」

 

 

 

意味深なセリフで続きますが、格好付けただけです。次回もほのぼのと進行させます。



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第6章

先日は失礼しました。改めまして、本来のサムライガール敗北回になります。
正論に負けるサムライ少女をお愉しみ頂ければ幸いです。

なお、今話もまた女神様の出番が殆どありません。理屈っぽい回だと出すのが難しいです。なんとかせねば・・・。


「・・・ちっ。町中でいきなり刃物持ち出す冒険者か・・・イカレていやがる・・・。

 おい、どけハチ。お前は早く冒険者ギルドへ通報しに行ってこい。この場は俺が責任もって預かってやるよ」

「兄貴!? で、ですけど俺らのせいで兄貴にまで沙汰が及んじまったら・・・」

「構わねぇし、もう既に及んじまってるよ。

 奴さんはお前らと俺を区別する気なんざ、端からあるまい。自分が悪と決めつけた連中は残らず斬らんと気が済まない正義バカの目をしていやがるからな、このスリットが入った着物のポニーテール姉ちゃんは。

 たく・・・どうしてこうも世の中、正義正義と浮かれ騒ぐ馬鹿な色ガキが多すぎるのかねぇ。お色気パラメータに補正入れる前に、少しはINTも上げておいて欲しいんだ」

「武士道大原則一つ、強く美しくなければイズモ武士に非ず。

 天が与えし己が美を隠すは、天命に背く行為だからな。天子様も望んでおられぬ。美しき肉体にこそ、正しき心と強き魂が宿るのだ。貴様ら身も心も醜き者共には、とうてい理解し難きこの世の摂理よ。

 それ故に貴様と私は、共に同じ天を仰ぎ見ることは叶わないのだろう?」

「別に俺はアンタと同じモン見たって、全然気にはならんのだがね」

「私が気にするのだ!

 武士道大原則ひとつにして、この世の摂理。

 正義は勝つ! 悪は滅びる!

 故に正義の私の前に立ちはだかる貴様等は例外なく、この世の絶対悪なのだ!」

 

 

 ・・・・・・なんでしょう、この展開。

 勧善懲悪の時代劇から極道モノへとシフト変更。さらには時代錯誤などこぞの騎士道一直線な熱血少年みたいな事言い出しやがりましたよ、このエロ着物なサムライガールさん・・・。

 

 挙げ句の果てには悪役ポジのはずのヤクザ屋さんが妙に人格者風味を出し始めてるし・・・マジでどうするよこれ? 介入しても大丈夫なもんなん?

 

 会話内容が途中からヒドくなりすぎて、介入する機会を逸してしまいました・・・。

 

 

「・・・はぁ、仕方がありませんか。多少空気を読めない登場の仕方になりますが、やむ得ませんよね」

 

 なにしろ今のままだと介入する隙が生まれそうにない。私なんか必要とせず格好の良い展開になってしまいそうです。

 それで平和的に解決するなら放置するんですけどね。あの武士道バカなサムライガールさんに平和的解決とか期待するのは望み薄そうですから。

 

 やっぱりやるしかないのか・・・。はぁ・・・。

 

「ーー天下の往来で白昼堂々刃傷沙汰とは穏やかじゃありませんねぇ。

 貴女の唱える武士道とやらでは、子供の見ている前での殺人が正しく尊いとでも記されているのですか? だとしたらそんな駄作、とっとと燃やすなり捨てるなりした方がよっぽど世のため人のためになっているのでは?

 大衆から求められない作品は、すべからく呪われますよ?」

 

 無理矢理な介入のために攻撃的な論法で注意を引かざるを得えなくなり、あまり好きではありませんが、悪態じみた言い方でもって二人の間に入れる隙間を作り出すことに成功しました。

 

 立ち止まって口と動きを止めた二人の中間地点。その当たりを目安にして私はゆっくりと歩を進めていきます。

 

「君は何者だ? この戦いは私が悪と戦う正義の戦だ。無関係な奴は引っ込んでいたまえ。たとえ怪我しても治してくれる都合のいい相手は、この場に存在せぬのだからな」

「貴女はどうもでいいです。私が用があるのは貴女ではなく彼ですから。

 関係のない赤の他人はすっこんでいて貰えせんか?」

「・・・・・・」

 

 不愉快そうな表情で口をつぐまれたサムライガールさんから目線を逸らし(正確には始めから向けてはいませんでしたけど)ヤクザ屋さんっぽい人たちのリーダー格さんに声と視線を向けて固定します。この人が本命なのでサムライさんは無視してしまって問題なしです。

 

「はじめまして、ヤクザ屋さん。私はセレニア。今さっき冒険者ギルドに登録してきたばかりの新米冒険者です。

 ーーさっそくですが、ヤクザ屋さん。私を護衛に雇いませんか? 今なら開店セールということでお買い得ですよ?」

「・・・なに?」

「見たところお困りのようですからね。彼女が冒険者ならば相対するのに冒険者が必要なのは自明の理。そして今この場であなた方に雇われても良いと言ってくれる奇特な冒険者さんは私だけ。

 どうです? 双方にとって望ましい商談だとはお思いになられませんか?」

「・・・・・・」

 

 思案するように腕を組んで考え込むリーダー格さん。

 言うまでもなく、これは些か以上に無理がありすぎる言い分です。見た感じだけでなく実際の実力的に私と彼女の力量差は一目瞭然。少なくとも彼女と事を構えても良いとした彼なら、それが分かるはず。

 

 だからこそ、この取引の裏話には直ぐに気付くはず。なにしろ普段からやっている事でしょうからね。いつも通りのセオリーを守れるならば、そっちの方がいいに決まっているのです。

 

「・・・いいだろう、アンタを雇おうじゃないか。是非とも護衛として、俺たちを守り通して見せてくれ。

 それと今は緊急事態だ。報酬などの話は後にしてもらうぞ? 無論、正当な代価を支払うことだけは確約させてもらうがな」

「ご契約いただき有り難うございます。契約書などの手続きは事務所がない身ゆえ省略させていただくことを御了承ください。

 代わりと言ってはなんですが、契約は必ず遂行させていただきますよ。

 絶対にあなた方には、掠り傷一つ付けさせやいたしません」

「・・・・・・随分と大風呂敷を広げる女の子だな・・・」

 

 不意に正面から危険さを感じさせる女声が聞こえ、振り返ればそこに、怒りに震えるサムライガールが。なんかのCMみたいで良い響きでしたね、今のナレーション。

 

「念のために聞くが、君は正気か? 言っておくが私は強く、君は弱い。勝敗など戦う前から、火を見るよりも明らかだ。

 わざわざ悪党をかばって痛い思いをする必要は無いと思うが?」

 

 呆れたように首を振りながらも、諭すように語りかけてくるお侍お嬢様。

 

 確かに彼女の言ってることは正しいのですが・・・前提が違いすぎます。話も理論も成立していません。

 

 だからこそ彼女は負ける。確実に。

 

 

 

 

 ーーもっとも、私が勝つわけでもありませんけどね。

 

 彼女の敗けは、私の勝ちを意味していません。これは勝つための戦いではなく、負けることで彼女を負かす為の戦いです。

 ややこしいですねー、まったくもう。

 

「・・・返事はなし、か。少なくとも覚悟はあるという事かな。

 それならば良し。我が正義の刃でもって君の間違いを修正してやろう。

 子供であることを考慮して峰打ちで済ませてやるが・・・多少痛いのは我慢するのだぞ? 良薬口に苦しという奴だからな。

 この痛みが、君の将来を守ってくれるのだ。この身は未来ある君を守るため、自罰を込めて刃と成らん! チェストーーっ!!」

 

 刃を返して私に向けられていた彼女の刀が、気合い一閃に放たれました。

 私の右手首に峰打ちが叩きつけられ、激痛が走ります。一応は取り出して構えておいたサバイバルナイフを取り落としてしまった程ですよ。

 

 ・・・もっとも峰打ちなので痛いだけなんですけどね。

 時代劇に出てくるヘッポコ侍じゃあるまいし、この程度で死んだり気絶したりする程か弱くもありません。

 

 

 ーーあまり知られていませんが、本来の峰打ちは相手に「斬られた」と本気で思いこませなければ効かない技だったりします。

 峰打ちだと知られてしまえば木刀で叩くのとなんら変わりがない。胴払いや袈裟懸けで倒されるお侍さんなんて、現実には実在しませんよ。

 なので本当に峰打ちを使う場合、構えたときには必ず刃を相手に向けます。そして斬檄を放つ際に相手の身体に刃が触れる直前、一瞬で柄を握り返して棟で打つ。

 当然、再び構えなおした時には刃は相手に向いています。これが出来ねば成立しないのが、峰打ちという剣術の奥義。達人だからこそ出来る剣の極みの一つです。

 

 

 峰打ちとは謂わば『気合術』です。相手を生かす“尊い剣”でこそあれ、相手を格下と見下し手加減する“傲りの剣”でもある。

 殺す覚悟があって初めて成立できる剣の極みの一つ。

 

 端から殺す気のないことを意思表明するド素人侍なんかに使いこなせるほど柔な技ではないんですよ。べーだ。

 

 

 なので彼女が自らの口で「峰打ちで済ます」と言い、本当に刃を返した時点で分かる人には誰でも分かるだろう事実。

 このサムライガール、偉そうに悪人成敗とか言ってる割に人を斬り殺したことがない。完全なる殺人処女です。お話になりませんよ。

 

 町中で人を切ったことが無く、本気で人を切り殺そうという意志も覚悟もないから知識も身につかないし覚えられない。

 

 正義を信じ、自分を信じる。

 自分の正義で世を変えたい、正したいと願いながらも世の中について学んでいない。変えたいと希っている現在の社会の社会システムを、まるで理解できていない。

 

 ーーその程度だから、私みたいな小策士のつまらない詐術に引っかかるのです。

 

 

 ビィィィィィィィッ!!!!!

 

 突如として鳴り響く警告音。

 

『警報発令!警報発令!

 市街地13番地において攻撃によるダメージを感知しました。周囲の人々は避難してください。

 避難場所が分からない方は、青い魔法光の灯った街灯の下で待機を。見回り中の警邏隊各班が、避難誘導に向かっています。

 繰り返します。攻撃によるダメージを感知しました。周囲の人々は避難してくださいーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーダメージ認定警報。一定量の数値を超えたダメージを負った場合、問答無用で発令される魔法の装置だ。最低でも都市にひとつは必ずある。

 攻撃であれなんであれ、危険と判断されたダメージには即座に反応して周囲に避難を呼びかけるんだ。

 まさかとは思うがアンタ、これだけ大きな都市部の治安を現役引退した爺さん婆さんたちだけで守り切れてるとでも本気で思っていたのか? だとしたら呆れるしかないぜ、本当にな」

 

 鳴り響く警報と逃げまどう人々。その光景が心底意外であったらしいサムライガールさんは、あんぐりと大きく口を開けたまま茫然自失と化していました。

 

 その醜態を冷ややかな目で眺めやりながら兄貴さんが丁寧にも、彼女の対して状況解説して上げています。見かけのよらず、優しい人みたいですね。素直に好感が持てますよ。

 

 ・・・まぁ、打たれた右手首を押さえてうずくまりながらも痛みに呻き声を上げてる女の子をガン無視して、タバコを吸いながら敵に対して解説役やるのは正直どうかと思うんですけどね・・・。

 

「都市部の人口比率は通常の村落と比べて大凡九十倍から百倍以上。文字通り、桁が違う。とうていカバーできる数値じゃない。

 それでも限られた人員でカバーし尽くすには、タネも仕掛けもなけりゃダメなのさ。あの警報みたいにな」

 

「あの警報は、純粋にダメージ量だけに反応する。攻撃であれ事故であれ病気であろうと一切合切関係なく例外なく問答無用で鳴り響く。『攻撃ダメージ』と判断してな。

 これぐらい過剰な基準を設けないと、剣やら槍やらブラブラ持ち歩いて買い物してる冒険者から平民が身を守るなんて出来ねぇだろうが」

 

「攻撃と判定されるダメージ量は、新米の成り立て冒険者が戦闘力を損失する辺りまでに設定されている。

 なったばかりで職業にもついたばかり。当然ながらパラメータも手には入ったばかりの冒険者たちに、さほどのステータス差は生じていない。魔法使いと戦士でさえ大人と子供ほどの差はないくらいさだ。

 ま、装備可能な防具で防御力には大きく差が開いてるがな。そこら辺で職業選びに偏りが出過ぎないよう配慮されているんだよ」

 

「冒険者になろうなんて奴は大抵、故郷の村や町なんかから飛び出してきた命知らずな若造さ。熱意はあるが金がないし、その上経験も少ない。

 故郷から飛び出してきた奴に幼馴染みなり友達なりが付いてきてくれてるのは、幸運の部類としちゃ恵まれすぎだな。大半の連中は慣れない都会で右往左往して仲間を集めることすら出来やしない。

 同期と言っても出立地が違いすぎてるからな。到着した日が遅いか早いかで、そりゃ普通に格差くらいは容易に付くさ。実際に中堅どころが、成り立て魔法使いなんて仲間にするのは死んでもごめんだと断った話は有名だからな」

 

「だからこその冒険者システム。職業を選んだ際に、必ず一定数までステータスが上がるよう工夫されている。逆に成り立てで強すぎる奴には、若干上がり具合を落として微調整される。それによって冒険者ギルドは、冒険者の質と量の確保を両立させていられるんだ」

 

「話が逸れたが、つまりはそう言うことだ。あの警報が鳴り響くのに必要な条件。

 『新米冒険者が戦闘続行不可能』として認定されるほどのダメージ量、これを食らって『死亡判定』までは受けていない奴は間違いなく平凡な民間人じゃない。

 最低でも訓練か、実戦経験を経ていないと不可能だ。それくらい絶妙な計算が、あの警報を開発するときには必要とされている」

 

「警報が鳴った地域に派遣するための人員。定期的に町中を巡回するいくつかの部隊の人員。そしてギルド支部に残って集められた情報を精査し、分析する僅かな人員が居れば、この町の治安は確実に守れる。

 なにせ冒険者ギルドが対応しないといかんのは、冒険者がらみの事件だけだからな。本来であるなら過剰な人員と定数だが、都市部に支部を置いてる手前もあって住民たちには決して悪印象を持たせるわけにはいかねぇのよ。下手すりゃ町から追放されちまう。

 民間からの依頼を受けることで勢力と特権を保てている組織だ。それ故の縛りが、この過剰すぎるまでに徹底された未然に犯罪を防止するシステムな訳だな。

 平民と書いて依頼主と読む、すなわち金になる。そう言うことさ」

 

 

 

 兄貴さんの解説が終わった丁度その時、折りよく駆けつけてきた警邏隊か老冒険者さんたちによる出動部隊が到着し、未だに動けずにいるサムライガールさんを取り囲んでしまいました。

 

「な、なにをするのだ! 離せ!

 貴様等! 組織などに迎合しおって・・・正義をなんだと心得ているのだ!」

「国にとっての正義は法さ、お嬢ちゃん。法を守る奴が正しくて、守らない奴は悪者。

 そして、力付くで守らせてる方が正義の味方なんだよ。

 国家の許した範囲内で振るわれる暴力、人はそれを軍事力と呼んでるのさ」

「!!!!!!」

「国内にいる限りにおいて、王と政府が正しいと言ったことが正しくて正義だ。不満があるなら教師にでもなって、啓蒙運動でもするんだな」

「な、なぜだ! なぜ貴様ら冒険者は力を持ちながら正義のために戦おうとはせんのだ!

 か弱い民草を守ることこそ、冒険者の果たすべき正義ではないのか!?」

「いや、そう言われても。自分より弱い女の子を切りつけといて、正義もなんもないだろうに。正義を守る前に、社会的なルールを守った方が良くはないか?

 社会生命終わらせられた奴が大声だして「間違っているのは俺じゃない!世界の方だ!」とか罵ってたら、率直に言ってどこからどう見ても人生終わっちまってるだろ」

「な・・・あ・・・・・・」

 

 目と口を(゜д゜)ポカーンと開けて、真っ白に燃え尽きて灰となったサムライガールさんがしょっぴかれていくのを見送った後、老冒険者さんたちのリーダー格さんが一応といった体をとって、私にも声をかけてくれました。

 

「君が彼女と揉め事を起こしていた冒険者かな? だとしたら済まないが、ギルド支部に来て事情を説明して貰いたいのだがね?」

「その必要はねぇよ」

 

 ぶっきらぼうな声がして、背後から私を擁護してくれたのは兄貴さんです。

 老冒険者さんとリーダー格さんは特に驚いた様子もなければ意外そうでもなく、むしろ慣れた様子でいつも通りに確認作業を始められたようでした。

 

「なぜかね? 理由を聞かせてもらえると有り難いのだが」

「そいつは俺が雇った護衛だ。護衛対象である俺を守り抜いたし、町民に被害が及ばないよう最大限留意して逃げも隠れも、攻撃を回避すらせず我が身で受け止めたんだ。

 俺たちの組はこれに感謝の意を表し、報酬として支払う予定だった銀貨40枚を60枚に増額して渡すことを決定した。

 これで支払いが済むまでにしょっぴかれたら、組の沽券に関わる問題になるんだがね・・・」

 

 ぷはぁ~、とオヤジ臭いしタバコ臭い息を盛大に吐いた後、

 

「ついでに言やぁ、奴さんと俺が交わした契約の内容は『護衛クエスト』さ。俺を守るために敵を殺せと契約事項にない命令を下したのは命惜しさで目が眩んだ、俺の違約違反だよ。賠償せんといかんのだから、連れてって貰っちゃこちらが困る。

 誠実な商売を心がけてる表の看板に、泥塗りつける訳にはいかねぇのよ」

「・・・・・・ふむ・・・・・・」

 

 老冒険者さんは周囲を見渡し私を見つめ、考え込むフリをしてから兄貴さんに視線を戻します。

 

 

「相分かった、委細は承知。こちらから後日改めて連絡して、ギルド支部に来て貰うこととする。沙汰は追ってその時に。

 ああ、当然のことだが冒険者は自営業の風来坊だ。不定期な仕事のために時間の都合は付けづらいだろう。

 拠点となるホームを持てるような大手だったら話は別なのだが、君のような駆け出しには無理に引き止めて破産させるつもりはないから安心してくれたまえ。好きなときに仕事を受けて、好きなときに帰ってくると良い。

 今回の件では任意同行なのだから、遠慮はいらん。仕事を果たしただけの日雇い労働者に過剰な義務を押しつける趣味は領主様にもないよ。都合が良ければ参加してくれる程度で十分だ」

 

「加えてだが、君の負傷はクエストを遂行中に起きた民間人を守るための事故犠牲と判定させて貰う。

 労災などの補償制度はない故、私からの個人的感謝の気持ち程度になるが、これを受け取って欲しい。何かの役には立つはずだ」

 

 

 そう言って渡されたのは冒険の途中で起きる戦闘イベントなどで手に入る貴重なアイテム・・・ではなくて、単なる小切手。

 冒険者カードと同じく魔法紙が使われていますが、こちらの方が高級品の風格を醸し出してます。

 

 ・・・あれ? これってもしかして・・・・・・。

 

 

「冒険者には金品だけでなくトレード用のアイテムや、調合などに使われる高級素材の方が喜ばれると聞く。

 もし金額に不満があるか、もしくは物々交換しか応じていない辺境地域で使う場合には、その紙自体を交換材料にしてもらって構わない。

 記載されている数字と等価値を持つ魔法紙を素材に使っているから、場所柄を問わず交換が可能だぞ?」

 

 ーーやっぱり古代貨幣かよ! 一体この世界は、どこの国の何時の時代をモチーフにしているんだ!?

 古代から中世まで飛び飛びだなぁおい!

 

 

「ーー蛇の道は蛇、か。暗黙の了解で事が進むってのは気分がいい。

 民から嫌われてる以上、国に守ってもらうには国の定めたルールを守っておくのが一番手っ取り早く、なおかつ費用が安く済む。

 お互い、持ちつ持たれつってことかね」

 

 混乱していた私を置いて老冒険者さんは去り、現在は女神様に傷の手当てをしてもらってる最中です。

 回復魔法は高レベルなのに、やたらと下手な包帯の巻き方のせいで大変な見かけになっていく右手を見下ろしていると、兄貴さんからお声がかかりました。

 

「ところで、報酬に関して確認を済ませておきたい。

 さっきも言ったとおり、こちらはお前さんに慰謝料も込みで金貨六枚を支払うつもりでいるが・・・どうするよ? 旅を続けていくのなら正直、銀貨での払いはお勧めしないぞ?

 所詮は信用で成り立っているのが貨幣だからな。容易に額面以上の価値を持たせられるが、その逆も然りだ。人気次第で額面なんかいくらでも変動しちまう。

 そうだな・・・もし仮に南の方へ向かう気があるんだったなら、胡椒とかどうだ?

 軽いしかさばらないし、冬には肉料理が増えるから値段も上がりやすい。お勧め品だぞ?

 ーーしいて問題があるとするなら、最近聞いた南の方の戯曲だな。

 大商人の前に悪魔が出てきて、こう言うんだ。“ここで最も美味い人間をーー”」

 

 やめて! 『狼と香辛料』ネタはやめて! RPG風ファンタジー異世界の雰囲気壊しまくる作品はやめて! 思い出したらなんだか、この世界にいろいろ変化もたらしちゃいそうだから本気でやめて!

 

 だいたい、お金の話しでファンタジー世界なら『ログ・ホライズン』でしょう!? なんで『まおゆう』素っ飛ばして『ホロ』に行くの!?

 魔王様が泣いちゃいますよ! メイド長に泣きついて盛大にね!

 

 

 

 この異世界の法則がますます分からなくなる中で、(おそらくは)主人公ポジにある勇者の私は痛みに震えて未だに声が出せていません。おかげで好き放題に語られて、世界観崩壊待った無しです。

 

 

 

 だれか、この人の語りを止めて私を助けてくださーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄「ちなみに塩を報酬として支払うのもありだぞ?」

セ「もうそれ、古代ローマじゃないですか・・・」

弟分「貝殻もありやすぜ?」

セ「いりません!」

女神「?????(全てを統べる者だが、世界史は苦手な女神様)

 

 

 

つづく



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第7章

更新遅れてすみません。前回の指摘を受けて自分なりに反省し、一応書き換えてはみましたが、まだまだ矛盾点や無理やりなご都合主義的部分が多いと思われます。
徐々に直していきますので、とりあえず今はこれで。

あと、精神的な理由などから短めです。


 侍ガールさんの逮捕から三ヶ月。私たちは未だに町に居座り続けて小銭かせぎに精を出す毎日を送っております。

 

 私が受けたクエストは、《食堂でお客様に注文された冷水を魔法で注げ》。

 すさまじく地味であり、本当にクエストなのかと疑われる方も居られるでしょうが間違いようもなく正真正銘のクエストです。ええ、絶対だと断言できますとも。

 

 そもそもにおいて《クエスト》の定義は《人々から冒険者への依頼》であって、別にギルドを通さなければいけないなどと言うルールは存在しません。むしろ掲示板がいっぱいになるような数の依頼はご遠慮しているほどなのです。

 

 個人で受けてもらった方が手間が省けて面倒もなくて良いと言うようなクエストは、基本的に冒険者個人が町の家々をまわって求人募集を探し歩きます。食堂のオバちゃんに「オニオンを三つ取ってきて欲しい」とか言うのがこれですね。

 個人からの依頼なので仲介料は取られず、その分ギルドが関わり合いにならないので報酬は全額ポケットマネーへ。その代わり負債を抱えた時には全額自分持ち。国もギルドも関知してくれません。自己責任が徹底しすぎて偶に怖いです・・・。

 

「《ウォータ》、つづけて《スノー・ウィンド》・・・はい、冷えたお水が完成と。

 ・・・これ一杯で並のゴブリン一匹倒すよりも稼ぎが良いってRPG好きから石投げられても文句は言えませんよね・・・」

 

 溜息をつきつつ、私は二杯目に水を注いで冷気で冷やすために再度魔法の詠唱に入ります。

 

 

 

 このクエスト、一見誰にでも出来そうに見えますし、事実として魔法使い系の職業に就いてさえいれば誰でも出来ます。

 にも関わらず需要と供給が常に釣り合っていないのは、本質的に冒険者が“家業を継ぐのがイヤで故郷の村を飛び出してきた夢追い人という名のフリーター集団”だからです。

 

 

 平凡な暮らしはイヤだから、波乱のない人生はつまらないから、漢に生まれたからには浪漫を追いたい! そんな感じのノリで上京してきた方々が目指すのが大抵の場合冒険者だったので、結果的にギルドは大きく成らざるを得なくなったわけですね。

 

 英雄志願な若者たちがフリーターとして都に押し寄せた挙げ句、あちらこちらで「俺の信じる正義の名の下」正義の刃を振るい続けたら、血風と白刃の魔都と化してしまいます。幕末京都の人切り抜刀斎が大量生産されて大安売りです。人切り対策用に新撰組つくって人々を守らないと、治安と人心の崩壊は待った無し状態ですよ。

 

 と言うわけで出来たのが冒険者ギルド。最初はささやかな規模だったのが時流に乗り、魔王軍の侵攻が本格化してきたのにも付け込み、幾人かの謀略家や策謀家と大多数の見栄えする英雄たちが輩出されたことで現在の地位と規模と権限を手に入れたという訳。

 なんかオバロよりも夢がないな、この世界の冒険者ギルド。モモンガ様的にもガッカリです。

 

 

 そんなこんなで夢追い人と書いてルビはフリーターと書く方々が大半を占めてる冒険者の皆様方は、実入りが良くても夢がないこの手のクエストが非常にお嫌いで借金返済期日でも差し迫っていない限りは募集に応じようとはなさいません。

 

 水道がなく、井戸から水を手作業で運ぶしかないこの異世界において非常に重宝がられる仕事なのに勿体ないことですよね、まったくもう。

 

「《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。・・・・・・」

 

 ちなみにですが、このクエストが不人気な理由の最たるものは「なんか穴掘っては埋め返すだけの刑務所(この世界風に言えば監獄)生活を彷彿とさせるから」との事でしたが・・・うん、確かにそっちは納得できるかもしれませんね・・・・・・。

 

 

 

 ドカドカドカ!

 

 どがしゃんッ!!

 

 

「きましたよ! お水くださいセレニアさん!

 今すぐ早急に!一秒でも早く! 40秒で支度しな!」

 

 どっかの空賊さんが露出狂女神の姿形をとって来店されました。早急に追い返したいところですが、こちとら只のバイト店員です。そんな権限はありません。

 言われたとおりに冷や水つくって、女将さんに持って行ってもらうだけです。

 言い忘れてましたが、個人経営なので他の従業員は一人もいません。うまい食事と居心地の良いアットホームな店舗がウリの田舎風食堂です。孤独なグルメで紹介して欲しい。

 

 

 

「はいよ、お待っとうさん。いつもの冷や水だよ」

「ありがとうございます、女将さん!

 ごくごくごく・・・・・・ぷはーっ! 仕事の後の一杯は最高においしいですねぇ!

 この一杯のために生きてますし、仕事もしてます!

 冒険者稼業で得たい物は、よく冷えた一杯の水!」

 

 ・・・ブラック発言! なんか今、すごいブラック発言しなかったですか女神様!?

 異世界社会の労働者たちがものすごい生活送らされてるような言い方やめてくださいよーっ!

 

「お客さん、毎日きてくれて毎日水を注文してくれるのはありがたいんだけどさ・・・たまには別のモンも一緒に注文しとくれよ。

 うちは食堂であって水を専門に売り買いしてる業者じゃないんだからさ・・・」

「うぐっ・・・し、仕方ないじゃないですか! お金ないんですから!

 だいたいギルドがいけないんですよ! クエスト受注にランク制限なんて設けるから・・・。

 どれだけ強くても信頼度と実績が高くなければ高収入なクエストを受けられないって変だと思いません!? こんなの絶対おかしいですよ!」

「ああ、今のアンタを見るまで私も同じ事考えてたね、確かに」

「でしょう!? そう思うでしょう!? この制度、絶対におかしいですもんね!」

 

 噛み合わない会話と、交わらない意志。

 

「でも、僧侶系の仕事は需要あるだろう? それも高額で好待遇なのが大量に。

 なんたって高レベル僧侶はハイウィザードよりも希少で、民需にとっては最もありがたい魔法使い様だ。

 どこに行ってもありがたがれるだろうに、なんだって毎日コップ一杯の水だけで腹膨らませようと無駄な努力してるんだい」

「・・・・・・以前に一度パーティー戦闘に参加して、混乱の状態異常になった味方を「殴れば治る」と言って実行したら、干されるようになりまして・・・・・・」

「自業自得じゃないか」

「その上、ブラックリストに載せられてると警告されてイエローカードもらったから、闇医者に仕事を斡旋してもらおうと事務所に行ってみたらガサ入れが入ってレッドカードに・・・」

「100%自業自得じゃないか」

「止めとして回復魔法を強制的に使用できなくする呪いのアイテム《愚者の首輪》まで無理やりに装備させられて・・・・・・」

「自業自得を飛び越えて犯罪者まで超越し、遂には奴隷みたいな恰好させられてるねアンタ・・・」

「女の子相手にヒドいと思いませんか!?」

「いや? むしろザマーミロだと思うけど?」

「ですよね!?そうですよね!? かわいそうだって誰でも思いますよね!?

 だって私、かわいいですもん♪」

 

 ・・・なんでしょうかこの女神様。超ウゼー・・・。

 

「ーーはっ! こんな事している場合じゃありませんでした!

 セレニアさん!セレニアさんはどこですか!? 明日の休みの日にご一緒していただきたいクエストがあるのですが!

 なんと! 遺跡発掘クエストですよ!冒険者の本領発揮です!

 偉人の墓から伝説のアイテムひとつ持ち出さずして、どうして冒険者などと名乗る事が出来ようか!?

 平和を愛する自称平和主義者たちよ。死者の眠る墓に手をつけるなど許されないと叫ぶ一部の自称宗教家たちよ。迷妄から覚めよ! 諸君等のやっていることは結果として我ら冒険者の利益を侵犯しているのだ!

 法を守ることを押し付けられることほど、冒険者にとって迷惑なことはない!」

 

 言い切りやがった!自分が人のクズだと言い切りやがったぞ、この女神!

 

「さぁ、セレニアさん。共に征きましょう!

 二人で伝説のアイテムを盗掘して高値で売り飛ばし、左うちわな生活をするために!」

 

 格好良く言ったつもりなんでしょうけど、全然かっこよくない首輪の女神様(注:装備は布切れみたいなのが申し訳程度に胸と腰を覆ってるだけで、しかも裸足です)。

 

 

 

 ーー先行きが見えすぎてて行きたくねー・・・。

 

 

 

 

 三ヶ月の間に更新されたステータス。

 女神:レベルが2上がった。パラメータは全て10ずつだけ上昇している。

 強すぎる状態でスタートしたから早々にザコ敵倒しても経験値が得られなくなった。

 食料買うお金がないから遠出することが出来ず、遠征に参加した際には上記の理由で出禁を食らい、二度と遠征には参加させてもらえないレッドカード保持者となる。

 

 所持金はドラクエ風に換算すると50ゴールド。

 現在の相場は、冷えた水一杯で10ゴールド。生ぬるい水は3ゴールド。宿屋は飯なし一泊15ゴールド。飯ありだと25ゴールド。

 物置や屋根裏部屋なら7ゴールドなので、女神はもっぱらこれらを利用している。

 

 セレニア:《ウォータ》と《スノー・ウィンド》の熟練度だけが上がっている。それ以外はいっさい変動していない。つまりは弱いまんまである。

 

 この世界の魔力値は精神修行や日頃のトレーニングで上昇させる仕組みのため、同じ魔法使い続けてれば経験値がたまりレベルアップして何故か知力までもが上がるという謎現象が起きることはない。知力は勉強して上げるものである。敵倒して上がる知力ってなんじゃい。

 熟練度はあくまで魔法の習熟度を示す値であって、威力などの向上には影響しない。効率配分や出力の調整などで継続時間が増すだけである。工夫次第で応用できるが、そちらは知力と知識量の分野であろう。

 

 所持金は総額5000ゴールド近く。日当が70ゴールドと破格だったのも大きいが、特にこれと言って使い道が思いつかずに銀行へ預けて貯金してたら気づかない間に貯まってた。

 銀行はギルドが経営してるので、預けられた資産の運用は彼らが行っている。教会側と大きく利権が被さる重要案件であり、永らく対立の火種と成り続けているためにか従業員の質はよく、セレニアの資産も含めて良好な状態で都市の経済を牛耳るのに役立てている。

 守秘義務があるのでセレニアには知らされていないが、初心者冒険者の多くが一攫千金を夢見て甘い話に乗り、投機的な投資に手を出しては失敗してギルドに身売りするため、彼女のように始めから銀行に頼る者は極めて希であり、それが理由で一部において有名になりつつあるが余談である。

 

つづく



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第8章

久し振りなのに短くて済みません。
リハビリだと言う解釈でどうかお許しを。


 女神様が持ってきた遺跡発掘クエスト。

 RPGでは定番中の定番クエストであり、クエストシステムがあるゲームだったら確実に一つは受けられるであろう異世界ファンタジーには無くてはならない、地味な重要な意味合いを持つことが多いイベントでもあります。

 

 多くの場合遺跡の奥には知られていなかった秘密の部屋があり、その先で世界を破滅を目論む悪の秘密結社やらなんやらの実験魔法生物が眠っているモノなのですが・・・この異世界では趣が大きく異なるみたいです。

 

 

「・・・・・・『毎年恒例、王家の方々がお墓参りするために陵墓に巣食う亡霊モンスターをお掃除クエスト。

 全滅させても一定期間が経過すると自動的にポップするアンデッドモンスター・レイスが出現するようになったため許可がない限りは立ち入りを禁じた陵墓を、一年間の埃と共に払い落としてしまおう。定員制限なし。報酬はランク毎に頭割りで』ですか・・・」

「ランク毎に担当できる場所が決まっていて、王家が所有する陵墓ですから範囲も広大。おまけに出てくるのが実体を持たない幽霊系のレイスばっかりなんで女神の私なら楽勝のクエストですよ!

 おまけに報酬は普段の二倍!二倍なのです!王家の方々太っ腹ーっ!

 ああ・・・これで今日こそ冒険者ギルドで味噌カツ定食が食べられる・・・・・・」

 

 どこか遠いお空に向かって祈りを捧げ始めた女神様。

 きっと世界のどこかで自分たちを見守っている、見てくれだけはよく似た幸運の女神様にでも感謝しているのでしょう。ご自分が『この世すべてを統べる者であったことなど』、今は遠き理想郷のお伽噺ですよ。

 

 

 

 ーーさて、ここで私が転生してきた(させられてきたとも言いますね)異世界における幽霊系モンスターに関して説明をさせて頂きたいと思います。

 

 一般に幽霊系、もしくはアンデッドと呼称されるモンスターの大半は死者の魂に何者かが仮初めの命を与えて骸骨か霊魂の状態で使役するものです。ここら辺は一般的RPGと同じなので分かり易いかと思われますが、違いというか問題はここから。

 

 「死者の魂をもてあそびおって!」とか、色々言われて否定的な目で見られがちな存在アンデッド。その認識自体はこの世界でも健在なのですが、なにかと即物的で即金的な思考法を尊ぶ傾向の強い異世界冒険者の方々の場合これら一般的価値観とは大きく異なる見解を有しておいでのようで・・・・・・。

 

 

「一年ぶりの幽霊掃除か・・・アンデッドとの戦闘自体はこの前行ったばかりだが、なんかやる気沸いてこないなー。

 あの時みたいに生前がそこそこ位の高い騎士とかだったら、高価な武具を持ってるし倒した後に高値で売れたりするんだが・・・」

「うむ、確かに。

 某も、どことは知らぬ国の王侯貴族と思しき豪奢な身なりをしたスケルトンと死合うた事が御座りまするが、ステータスが他と変わらぬくせに装備が高価な布切れだけでは勝負になりませぬ。

 あの時は剥ぎ取った王冠やら錫杖やらが高値で引き取られなければ、あやうく死者に攻撃スキルを連発してしまうところでしたぞ」

 

「あー・・・、今度の相手はアンデッドはアンデッドでもスケルトン系じゃなくてレイス系かー・・・メンドくさ。

 あいつら残留思念みたいなもんだから、魔法使ってくるタイミングを聖水振りまいて調整できるし、なにより物理的に触れないから直接攻撃の物理ダメージ0なんだよなー」

「その分魂に直接作用してくるから、精神強化の魔法かけとかないとフィアー状態に陥るけどね。

 でもまぁ、雑魚モンスターにカテゴライズされてるゴミだって事実に変わりはないのよねー・・・」

「出没するのが王家の先祖が眠る陵墓ってのが問題なだけで、そこ以外の場所で出没しても何一つ触れねぇから何一つ壊せないし、被害総額0なんだよなアイツらって。

 いや本当に、出没したのが神聖な墓所である王家の墓でよかったぜ。あそこ以外で出没してたら後始末教会に押しつけて終わりだったもんな王国政府」

 

 

『あ~、よかった。敵が物理利かない以外に強みの少ないアンデッドで。

 今回も楽勝だぜ!!』

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・あやまれ! お前ら全員モモンガ様に謝って土下座してこい!

 私の夢を壊すなぁーーっ!!

 

 ・・・・・・はぁはぁ、ふぅふぅ・・・・・・

 

 失礼、取り乱しました。オバロ大好きなものですからつい。以後気をつけます。

 

 

 

 私たちと同じクエストに参加するため馬車に同乗している冒険者の方々が交わし合っていた会話を見れば一目瞭然なように、この世界のアンデッドモンスターは妙に軽い扱いになってます。

 

 たぶん、冒険者ギルドと教会が三代勢力の一角同士で利害が対立しているのが大きいのでしょう。

 折衷案として教会は冒険者に対し「ギルドに所属するなら洗礼を与えない。既に与えられてたら無効にして、死んでも葬式はしてもらえないことを宣誓しろ」と教皇令を発布したそうなのですが、これで別段なんの実害も被らないあたりが世知辛すぎる異世界の法則で、破門された後も普通に神聖魔法を使えるは覚えられるわで、本当に信仰する価値あるのかねこの神様は?な感じの異世界最大宗教の御神体です。

 

 「このすば」において女神アクア様やエリス様の前例もあることですし、この世界でもうちの女神様は信仰されているのかなと思って聞いてみたところ、笑い飛ばされ否定されました。

 

「ないです、ないない全然ナッシング。確かに古代には神代に実在した神様とか龍とか名状しがたきナニカを信仰したりしてたんですが、途中で「神様からのお告げがー」だの「私は○○神の生まれ変わりだー」だの「お布施という一つの慈善行為が七つの大罪すべてを倒すのだー」だの「たった一つの真理、それは今生で得た金を寄進して来世で幸福になることだー」だの、戯言ほざきだした髭のオッサンとかが新興宗教ブチ立てて権力者洗脳して神権国家作って他の宗教弾圧して絶滅させて数年で破綻して群雄割拠して戦国時代やって「金が世界を救う」を掲げる魔王と、「労働者万歳、拝金主義者撲滅」を唱える聖人が最終戦争したりしてるうちに昔の神様みんな忘れられちゃいましたからねー。

 今では大半の宗教が、どっかに落ちてた石ころや、木を削って作った変なオッサン像とかを崇め奉ってて昔の神様大激怒。「もう人類なんて知らんプイっ!」と言って他の世界線へお引っ越しして早数千年。

 見捨てられて管理人いない世界だから私も好き放題やれてます。てへっ☆」

 

 ーーとりあえずこの話を聞いた後、私は女神様に冒険者ギルド名物、東方出身者と西方出身者が合同で作り出した異世界最先端の料理「味噌カツ定食」を初任給で奢るのやめときました。

 

 

 

 

 とまぁ、そんな感じで(どんな感じなのでしょう・・・?)宗教の影響力を軍事力と権威と金で維持しているらしい異世界の教会は、影響下に含まれていない国々から依頼されるアンデッド退治には、さして協力的ではありません。

 権威付けを目的として大物退治には出張ってきてくれるのですが、逆に司祭級の大物聖職者を出撃させてくれないから戦果はかなり半端な程度です。

 

 土着の神様とか山とか谷とか森とかを崇めてる税収低い田舎村にアンデッドが出没しても教会ガン無視。墓の前とかに浮かんでプカプカしてるだけだから、近寄りさえしなければ実害無いけど、遊び盛りの子供たちとかが危ないですからね。

 そう言うときこそ我々冒険者の出番がーーーないです、ごめんなさい。水系魔法に回復術あるから聖職者系の職業とる人少なすぎるんです。対アンデッド専門職に近い感じのビルドになっちゃうんで成りたがる人ほとんどゼロです冒険者には。

 

 代わりに何処からともなくやってくるのが『さすらいの聖職者』とか名乗って問答無用で国境を踏破し、人々に害なすアンデッドを退治して回ってる正体不明のシスター&牧師さんたち。

 パーティーではなく単独で動き回り、独自の信仰心の名の下すべての『この世成らざる悪』を成敗して回ってる不可思議すぎる方々。

 

 時には巨大な十字架で敵を殴りつけ、時には投剣乱舞で針山状態にし、時には股ぐらに頭つっこませて昇天させて成仏させるというキチガイじみたド変態尼さんシスターもいるようですが、会ったことないので真偽のほどは不明です。不明なままで十分です。

 

 

 彼ら彼女らのお陰で辺境では割と人気の高い(帰依する人は少ないですけど)教会ですが、逆に彼らとしてはモグリ風情に神の名を唱えられるのは不愉快極まりないらしく、賞金賭けて追い回したり討伐隊編成して殲滅しようと狙ってみたり聖撃隊とか言うエスカフローネの「竜撃隊」っぽいのを編成してたりするそうですが、大半は返り討ちにあって、残りには裏切られてます。

 

 いい感じに末期的というか末世と言うべきか、無法ではないけど平和でもない時代を象徴しているかのような異世界の宗教団体。

 

 そのうち私も戦わされるんでしょうかね・・・?

 思想的にめっちゃ敵視されそうで、なんかイヤ。

 

 

 

「冒険者さんたちー、もう少しで陵墓に着くよー。

 今日と明日の二日がかりで大掃除するんだから、キャンプの道具は馬車に忘れてくれるなよー。取りに追いかけてきても待ってやらんぞー」

 

「見くびるなよ御者の分際で! ワシを誰だと思っているんだ?

 この道三十五年、毎年の陵墓大掃除において冒険者たちの生活を世話するために働き続け、剣一振りすら持ったことのない陵墓管理官の老いぼれが並の騎士隊長様方よりも高給食んでる事実こそが、諸君らがクエスト期間中なに不自由ない生活を送れる事を保証する証である。

 明記せよ、この事実を! 勤続三十年で恩給もつくようになり、さらには来年の退官時には昇級して年金も増額!

 バラ色の退役軍人年金生活を守るため、私は諸君らの生活を何一つとして汚させはしない! なぜなら何か問題が一つでも起こると昇級がパァーになるどころか年金すらもらえなくなる恐れがあるからだ!

 私は私の豊かな老後を護るためにも諸君らの生活空間、その全てを快適な状態にして守り通すことをお約束しよう。

 わかったか!? この愛し慈しむべき最高最良のお客様共めが!!」

 

 

『お、おう・・・・・・。

 ーーなんかスゲーな、この爺さん・・・』

 

 

 

 うん。もういいや、こういう人は。なんか疲れた、現実に。

 

 

 ところでーー

 

 

「女神様。今日になってクエスト内容教えてもらってからずっと気になってたんですが、聞いても宜しいでしょうかね?」

「え? 珍しいですねセレニアさんから私に質問なんて・・・。

 いいですよ! お答えしましょう! なんでも聞いてください!

 この私の豊かで大きな胸は、いつでも愛と知識で満ち満ちているのですからねっ!」

「ありがとう御座います。それじゃあーー

 ーーこのクエストって全然、遺跡“発掘”じゃありませんよね? どうしてなんですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・貴女にはわかりませんよ、私の気持ちなんて!

 魔王から異世界を救う勇者物語にあこがれて異世界転生させたのに、三ヶ月もの間トム爺さんと戯れられてたマスタードラゴンの気持ちなんか、貴女には決してわからない!

 理解できるはずがないんだぁぁぁぁぁっ!!!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!!!!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 えーと・・・なんて言うかその・・・・・・うん、まぁーー

 

 

 

 ーーごめんなさい・・・・・・。

 

 

つづく




書き忘れてた設定説明:
エネルギー体に過ぎない残留思念のレイス系モンスターは物理法則が邪魔して物質に干渉できません。逆側からも同様です。
一方で精神や霊魂は肉体によって物質界に留められてる存在のため、触れられたら干渉できます。

魔法などを使えるのは無念の思いが暗い情念となって憎しみの炎を象ったから。肉体を持たない情念だけが残された存在だから自然の理にも限定的に干渉できるようになった設定です。

死んだ時に未練と無念が「死にたくない、他人の命を食ってでも生きたい」と言う具体的な志向性を持たない妄執が幽霊の形を取っただけの存在ですから、特定の目的を持てずに個人に対する想いも記憶も残っていません。ただの残留思念が幽霊の形を取ってるだけです。
脳が無くなってるので思考する事が不可能になっちゃってるんですよね。なので話しかけても口きけないから時間の無駄です。

普通の人間が死んだ時に強い情念を抱いたくらいでは取るに足らない残留思念にしか成れなかったと言う、相変わらず世知辛い異世界モンスター。

置き忘れられた想いだけの存在ですので、一度染み付いた場所からは中々離れられない性質をもってます。一定期間で復活するのは、そう言う理由。
ようするに会話できない地縛霊もどき。世知辛い。


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第9章

前回は半端なのを出してしまってゴメンナサイでした。
実は今話はいくつか候補があって、どれにでも対応できるようにと前話を出したのですが無駄になってしまったなと後悔してます。

今回の話には作者の大好きな「空の境界」ネタをパロってギャグとして使われてます。
サブタイトルが無い作品なので書いてませんが、もし付けるとしたら「空の教会で」にしてました。そんな感じの回です。

前回とはなんの脈絡もない展開ですが、お楽しいいただける事を祈っております。


 墓地でのお化け退治。

 古くはドラゴンクエストⅤのレヌール城で、将来のお嫁さんでもあるビアンカさんとの初作業。

 新しい上に異色すぎますけど、オバロに出てくるワーカーチーム『フォーサイト』によるナザリック調査も類似系ではあるのでしょう、一応は。・・・全滅しますけどね。

 

 別にそう言うルールがあるわけでもないのですが、どう言うわけかお化け退治はファンタジーにおけるお約束要素の一つであり、多くの場合において重要イベントの発生場所だったりします。

 

 ーー例えば、人を救いたいと切望したのに現実に裏切られて絶望し、人類絶命計画練り初めて偽りの生命体生み出して、

 

「お前の命は偽物だ。私が与えてやっただけなのだ。お前に価値はない。でも、私が何したいのかは自分でも覚えていない。私には望みなど無いのだ」

 

 とか、どっかの荒耶なオッサンみたいなこと言い出したりするんですよね。隠し階段を降りていった先にあるダンジョンを踏破した最奥部とかで。

 

 いきなり何の脈絡もなくてゴメンナサイ。なんで私が今更になってこんなこと言いだしてるのかと言うとーー現に目の前で起きてちゃってるからですよ! そんな格好いいけど矛盾しかしてない台詞の応酬が!!

 

 

 

「お、俺が今まで俺だと思っていた自分は偽物だったのか・・・?」

「違う! ロバーデーク! お前はお前だ!俺の知ってるロバーデークはお前だけだ!

 他の誰でもない! お前こそが世界で唯一人のロバーデークなんだ!」

『くっくっく・・・。無駄なことだ、限りある命しか持たぬ者たちよ。お前たちは決して死の恐怖からは逃げられない。

 自らの命が残りわずかで、与えられた物でしかなかったと知らされた苦悩は理解できない・・・』

 

 

 様々な時代、様々な国の聖人たちと思しき方々が殺し合い、助け合い、最後には天に召される構図を描いたらしいステンドグラス。

 一番奥の大机には巨大な空っぽの杯が鎮座し、神を称えて罵る文言が書かれた呪符(っぽい何かです)がベタベタと張り付けられまくり、止めとしては天井に浮かぶ黒い穴・・・って、あれ? この教会もどきな場所ってもしかして型つーーおっと、失言失言。言っちゃいけない言葉でしたね。忘れてください。

 

 

「セレニアさんセレニアさん! 見てくださいよ、あれ!

 すっごく正統派ファンタジーしてます! 私たちも参戦しましょう!

 今こそ異世界転生勇者セレニアの大冒険を始める時なのです!」

「レベル3でサバイバルナイフ装備した職業『指揮官』の勇者が参戦しても大丈夫な状況なんですかね? めっちゃくちゃ場違いすぎる気がしますけど?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・だから最初に聖剣渡してあげたのにーーっ!!」

「だから最初に重くて持てないと言ったじゃないですか」

「職業補正は!?」

「指揮する兵のいない指揮官に、どれほどの補正が入ると思ったんですか?」

「軍隊なんて大っ嫌いだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「同感です。珍しく気が合いましたね女神様」

 

 テンションが違いすぎる前線と後方。ある意味では現実的な戦争の構図ですよね。善し悪しはまったく別の話ですけども。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 そして私たちと同じく前線のテンションに付いていけてない、他のレイドパーティーメンバー冒険者の皆様方。

 空気読めない人たちと思われるかもしれませんが、彼らの気分も察してあげて下さい。

 

 なにしろ大部分のレイスを退治し終えて昼ご飯食べてる最中に隠し階段見つかって、「この奥にもいたら倒し尽くさないと報酬もらえないんじゃね?」と言う結論に達して降りていったらダンジョンあって、依頼通りに退治しながら先へ先へと進んでいくうちに大きな部屋に出て、魔法陣敷いてある中央に変なお爺さんが立っていて意味不明な呪文を唱えてて、いきなりレイドメンバーの一人が「お、お前はまさか!」とか言い出したと思ったら「うっ! ・・・ここは? 俺はいったい何を・・・う、うわぁぁっ!?」「どうしたんだ!? ロバーデーク!」『ふっふっふ・・・時は来た。我が元へ帰れプロト1』だのと部外者には訳わかんない事この上ないやりとりをはじめられてしまったんですからねぇ~。普通であれば誰でも同じ反応を返すでしょうよ。

 

 

「将来的に世界の運命を左右することになる選ばれし者が運命に立ち向かう最初の切っ掛けに偶然一般人が居合わせちゃうと、こんな反応返しますよね普通。彼らは悪くないです、正しいです」

「・・・あ、あのー・・・セレニアさん? 今さっき思い出させたばかりなんですけど、あなたも歴とした選ばれし者ですからね? 実在する女神様に」

「そんな戯言、この場の誰が信じると?」

「言い切った!言い切りやがりましたよこの人!薄々気が付いてましたけど、この人の自己評価の低さ半端ない!パナすぎます!

 まだ若いんですから、もう少し夢を見ましょうよセレニアさん!」

「夢とか希望とか、形がなくて見ることも出来ない代物を魅力として上げてるあたり、案外勇者ってブラックなご職業だなと以前より私は思っておりまして」

「夢が無いにも程があるわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 叫ぶ女神様ですが、私的には「そうかなぁ?」と首を傾げてしまいます。

 夢とは、目標を達成して幸せになった自分の理想像のことなんでしょう? だったら諦めずに前へと進むための起爆剤として私のも十分機能してると自分では絶賛しているのですが・・・。

 

 

 

「エリヤ! 貴様いったい何が狙いだ! 何のためにロバーデークを操って、俺をこんな場所まで連れてこさせた!」

『私に願いなど無い。何もない。ただ私は知りたいのだ。人類は生きるに値する生物なのかという問いの答えを。この世の真理、その全てを私は知り得たいのだよ』

「その為にロバーデークを騙し、利用したというのか!?」

『違う。騙したのではない。ソレには初めから意志など無い。私がこの儀式を成功させるために適当な女の腹から取り出した子宮に自身の精子を受精させ、貴様をこの場所へ連れてくる様に、貴様を頼って貴様に信頼されるように貴様に都合の言い存在と成れるよう調整し、強制し、人格を構築させたのだ。

 ソレの役割は生まれたときより貴様をここに連れてくることのみ。然るにソレは、役割を果たしただけであり、貴様を裏切ったわけでは決してない。

 初めから仲間を陥れるためにパーティーに加入するメンバーを仲間などとは表現しないだろう?』

「・・・人の意志と魂をもてあそびやがって・・・っ!」

『人ではない。人形だ。自然に生まれておらず、仮初めの肉体に魂を入れただけの代物に人間という言葉は適切ではない。本物の生者には成り得ない、偽りの命に人と呼ばれる価値など存在しないのだ。

 生と死を乗り越え、生きていないが故に死ぬこともない超越者となった我が造ってやっただけの人形に感情移入するは大人げなーー』

 

 

 

「あー・・・、すいませんが見苦しいだけなんで、そろそろ終わらせて頂いても宜しいでしょうか? いい加減、茶番劇は見飽きてしまったものですから」

 

 

『「・・・・・・・・・・・・・・・」』

 

 

 

 ーーいつものように空気読めてない発言なんだろうなーと自分でも思いつつ、私は暇潰しにやってた○×ゲームにも飽きてしまって声をかけさせて頂きました。

 遠回しで中身のない空っぽの内容の、出来損ないな空の境界もどきはウンザリでしたからね。

 特に、あの作品のファンである私には見過ごすことは出来ません。

 

 本物ではないから価値のない偽物さんに、殺されることで私たちに報酬を与えられるボスモンスターとしての価値を付与して差し上げると致しましょう。

 

 

『・・・人間の娘よ。これは私と聖騎士との話し合いだ。人類の未来を決める聖騎士と私の戦いだ。人類が生きるべき存在か、死すべき存在なのかを裁定するための神聖な場にお前たちは相応しくない。早々に立ち去るかさもなくばーー』

「少女よ。エリヤの言うとおりだ。ここは私に任せて君たちは王都へ救援をーー」

「知りませんよ貴方たちの都合なんか。除け者にされた以上は好きにするだけです。

 あなた方はそのまま自分たちだけで雰囲気つくって勝手に盛り上がっててくれて構いませんので、どうぞご自由に。私は私の都合で貴方たちの話に割って入って手前勝手な理屈を囀るだけです。

 取るに足らない人間の理屈と見下すなら、それで結構。雑音として聞き流しながら今まで通りに青臭くて素人臭い厨二会話を継続してて下さいな」

『「・・・・・・・・・・・・」』

 

 ーーおや? どちらからも攻撃されない。おかしいですね、殴られるどころか即死攻撃も覚悟してたのですが・・・・・・これはもしかしなくてもアレですか? 主人公の主張を最後まで聞いてから否定し、互いの覚悟が決まってから戦闘を開始するというお約束の展開。実に礼儀正しくてお行儀のよい、自称人類の裁定者さんですねぇ。

 ・・・ああ、だから教会なのか。元は聖人の類で、現実知って外道に落ちてから魔術師になった人か。ありふれてて詰まりませんね。

 先ほど存在を否定されたことですし、折角なので否定させてもらいます。

 

 

「第一にお聞きしたいのですが・・・あなた確か最初の件で言ってましたよね?『私に願いなど無い。何もない』。そしてその後、ろ、ロバさん?だかなんだかいう名前の人を『ソレには初めから意志など無い』と言い、『仮初めの肉体に魂を入れただけの代物』と評してましたが・・・これってどう違うんです? 私には、まるきり同じ物としか思えないんですけども」

『・・・・・・・・・』

「それに願いがないなら今行ってるソレはなんですか? 犠牲を必要とする魔術儀式を行いながら自分の願いではないと? では誰ですか、ソレをやりたかった『本物』さんは。

 本物のやりたかったことを勝手にやってる『偽物』さんの暴挙についてご報告したいと思いますので、良ければ連絡先を教えて下さい。他人の遺産を無断使用した売名行為は感心しません」

『・・・・・・・・・』

「あと、『生と死を乗り越え、生きていないが故に死ぬこともない』って、要するにゾンビでしょ?

 生きる屍、半死人、生に執着して成仏できない出来損ない。なんでも宜しいが今では生きてないゾンビ風情が偉そうに生命を批評しないで下さい。吐き気がします。

 あなたと比べればまだしも、残り短い命と知らされて藻掻き苦しんでるロバさんの方が人間らしくて生命力に満ち溢れてますよ」

『・・・・・・・・・』

「それと最後になりましたが、『適当な女の腹から取り出した子宮に自身の精子を受精させた』って、これ普通に生命誕生のプロセスですよね? 場所が母胎の中にある子宮か、試験管の中に薬品付けで保存されてる子宮か違うだけで。

 生まれ落ちてきた彼には何の関係もない理由で人間以下扱いするのは辞めて上げてもらえません? ダンジョンの地下に引き籠もって自分を裏切った人類見下してるオッサンが社会人の息子にそれやると、見苦しさしか感じられないんで」

『・・・・・・・・・』

「・・・・・・あ、そうだ。確かあなた『この世の真理をすべて知り得たい』って言ってましたよね?

 これはあくまで私の私見にすぎないのですが・・・『どうせ自分が受け入れられない真理は真理と認められないんでしょうから、とっとと自分で納得できる理屈を捏ねくり出して勝手に納得してしまいなさい』です。

 勝手に信じて、勝手に裏切られたと解釈して引き籠もったあげく、勝手に人類の価値を決めつけたがる人生の負け犬は頭の中お花畑のままでいた方が幸せに過ごせますよ?

 現実の嫌な部分を見たくない、自分が綺麗と感じて見たいと思った部分だけ見ていたいと願ってるお子様には、此処が一番綺麗で理想的な『あなたの愛する人間像を妄想できる』場所なのではと愚考する次第です」

 

 

 

 ヒュルルルルッ!!!!

 

 バシィッン!!!

 

 

 

「危ないですねぇ。うちの勇者様に不意打ちなんて止めて下さいよ、50ポイントのダメージ受けただけで死んじゃうんですから。

 弱っちいんです、この人でなし勇者様は。スライムにだって殺されかねない雑魚を、この私が無防備のまま放置しておくはずないじゃないですか?」

 

 目前まで迫ってきていた触手っぽいナニカによる攻撃を、突如現れた女神様の右手が掴んで止めてしまいました。お陰で私はノーダメージです。

 

 余談ですが今の攻撃命中してたら、私は間違いなく殺されてましたね。即死です。苦しむ余裕も死を実感している暇すら与えられなかったことでしょう。だからこそ動かなかったわけでもありますが。

 避けても、返す一撃で死ぬ。防いでも、防御突破されて死ぬ。頭使ってる時間的余裕もなし。

 死ぬ死ぬ尽くしでなぁんにも出来ませんでしたし、じゃあ別にいっかと思っての行動だったのですが・・・・・・今日は女神様に優しくして上げようと心に誓った命の危機でしたねぇ。

 

「お世話になります女神様。帰ったら味噌カツ定食は私が奢らせて頂きますね」

「マジですか!? よーし、それじゃあ私、もっともっと頑張っちゃいます!

 敵・即・殴! それが私の正義である女神道!

 理想を夢見ながら撲死しろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

『ぐふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 ば、バカな!? どうして死すらも超越してリッチとなった私に人間ごときの攻撃が・・・?

 ま、まさか貴様は天界より舞い降りた神のし・・・・・・ごふぅっ!!??』

「うぅぅぅるさぁぁぁぁっい!! あなたから貰う物は何もありませんし要りません!

 私が欲しい物は唯一つ! 味噌カツ定食!ただそれだけだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

『えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??

 そ、そんな下らない理由で我負けちゃうの!? めっちゃ嫌なんですけど!!』

「敵の都合なんか知らぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!

 私の食べる味噌カツ定食のためにもあなたは死ね! 生きていることを認めない! 生きている価値を認めない!

 ただただ私に味噌カツ定食を食べさせるためだけに殺されろぉぉぉぉぉっ!!!」

『嫌すぎるぅぅぅぅぅぅっ!!!!

 せ、戦争は何も生み出さない! ただ痛くて苦しいだけ! だから武器を捨てて共に手を取り合って歌をうたーー』

「私の拳が光って以下略!

 ヒイィィィィィット・エェェェェェェェェッンド!!」

『ぐおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!

 救済の念が光と共に拳で握りつぶされるぅぅぅぅぅっ!!??

 神は、神は、神は・・・人を救うべき神は遙かな昔に死んでいたぁぁぁぁっ!!!!』

「此処からもあの世からも世界の全てから未来永劫いなくなれぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

 

 ジュワァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

 

 

 

 

 ーー魔術師っぽい感じの・・・エミヤさん? だかなんだか言う人が消え去ってしまったので、私は本来の仕事に戻ろうと思います。

 

「さて、皆さん。私の仲間が単独で事件を解決してしまいましたが・・・宜しかったのですか?」

『え?』

「依頼内容には倒した『モンスターのドロップアイテムは原則として倒した人の物。怪我をした人は危険手当が適用されますが、戦闘における報酬はパーティー毎に分配されて、その額は功績と戦闘回数に比例する』と書いてありました。

 はじめからランク毎に条件が異なる依頼ですから、提示されて契約書にサインした内容以上の物を得られる権利は今の戦闘に参加した彼女と、一応攻撃が当たりかかった私だけにあります。

 このままだとリッチ討伐の功績が、私たちに独占されちゃいますけれど?」

『!!!!!!!!』

「改めて見回してみるとこの教会もどき、結構いろんなアイテムが置かれてますねぇ。魔術師系職業ではないから分かりかねますが、希少と言われるマジックアイテムも隠されてる可能性だって無きにしも非ず?」

『・・・・・・・・・』

「ちなみに陵墓内に設置されている置物などは王家の所有物ですから持ち出し禁止ですが・・・それは王家直轄の陵墓管理局が把握している物だけに限られてまして。

 記録にない余計なお宝が見つかったりすると利権が絡んで要らぬトラブルが宮中に・・・」

『奪え! すべてを奪い尽くすのだ! 錫杖だろうと王冠だろうと遠慮はするな躊躇うな! 管理官の爺さんが来る前に奪い尽くせば後でなんとでも誤魔化せる!

 王の墓から盗掘するのは俺たち冒険者のライフワーク!

 この一件に関する限り、王家よりも役人よりも国家の保有している治安維持機関よりも俺たちの方が伝統も権威もあるってことを思い知らせてやれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』

 

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 轟く雪崩となって押し寄せる略奪者の群れ、冒険者。現実なんてこんなものです。

 

「ふぅ、良かった助かりましたよ。

 これで私たちだけが独断で許可されてない戦闘開始したと怒られて、報酬なしなんて事態は避けられそうです」

 

 ほっと安堵の吐息をつく私の隣で、すっかり忘れ去られてた聖騎士さん?だかなんだかが青ざめた表情で震えながら私に問いを寄越してこられました。

 

「君は・・・・・・いったい何故エリヤと戦い倒したんだ・・・?」

 

 ・・・えりや? ーーああ、そう言えば魔術師っぽいナニカさんはそんな本名でしたね。忘れてましたよ。

 どうせ直ぐに忘れちゃうんでしょうけど、今だけでも正しい名前で思い出せたのは幸いでした。

 序盤で倒したボスモンスターの扱いなんてそんなものです。一部のネタに使えるのだけが例外で、他のは中盤以降に雑魚としてポップしたりしますから。覚えておくだけ損ですよ損。一方的な大損です。

 

「仕事です。

 受注したクエストの最中に立ちはだかる敵モンスターを倒すのは冒険者にとって立派なお仕事です。受けた仕事をキチンとこなすのは社会人として当然の義務です。それは勇者であろうと冒険者であろうと軍人であろうとも変わりません。

 敵を殺してお金を稼ぎ、生活に使って社会に還元する冒険者という職業に特別な使命なんて求めないで下さい。私たちはただただ・・・お金が欲しくて敵を殺してるんですよ?」

 

 陰惨な内容になってしまったので出来る限り明るい声で言ってのけるよう努力してみたのですが、何故かドン引きされて逃げだされました。謎です。

 

 やっぱりファンタジー世界は不思議がいっぱいだぁ~。

 

つづく



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第10章

活動報告の件ではいろいろご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。今出来ましたので投稿いたします。
久し振りの更新なので上手く出来ている自信はありませんが、出来る限りで頑張りました。

今回はセレニアが本当に英雄になる話です。ただしセレニアらしい形での英雄ですけどね。
世知辛さだけは人一倍の異世界ファンタジー最新話をお楽しみください。


 ある日突然王族の誰かが倒れ、高レベルの回復魔法を使っても一向に治らない。

 そこで昨今、名を馳せだした冒険者の主人公に治療を依頼し、治した暁には王家の娘を嫁に出して未来の婿とする。

 異世界転生に限らず王道ファンタジーの基本的な展開です。実績のある冒険者、すなわち何でも屋に病の治療を依頼するのは不条理なようでいて案外理に叶ってる。だって何でも屋ですからね。

 人知れず咲いてる万能薬の材料や、それを処方できる人嫌いの名医と知り合いだったとしても不思議ではない。

 だから凄腕冒険者への病気治療依頼は決してご都合主義的展開ではないと私は信じてます。信じてますが、しかし。しかしです。

 さすがに凶悪なモンスターを倒して名を上げた“だけ”の冒険者に治療を依頼するのは無理があるんじゃないですかね? 殺しの実績しか持たない奴に、人助けを依頼するなよ。なに飲まされるか分かったもんじゃねーぞ?

 最悪、治ったは良いけど前より異常行動が増えて、ある日突然ナイトゴーンドに・・・とかもあり得るんですよ? 王族が患った病の治療は、どんなに切羽詰まっていたとしても素人に任せるのはいけないとボク思います。

 

 

 

 ・・・・・・なぜ突然、何の前触れもなくこの様な話をし出したのかというと・・・・・・。

 きちゃったんですよ!実際に!王城から王様の病の治療依頼が名指しでね!

「悪名高きネクロマンサーを退治した若き英雄に期待する」って、絶対不可能じゃアホーっ!! こちとら昨日まで三ヶ月間バイト生活送ってたフリーターなんじゃい! 実質的には三ヶ月間ずっと毎日毎日トムじいさんを家まで送ってやってただけの若造が、初陣で大将首穫ったぐらいで英雄になれれば苦労せんわい! 銀河の英雄舐めんな!

 

 

 

「どうされたんですかセレニアさん? なんだか、前回と出だしがソックリですよ?」

「・・・なんですか? その“前回”って・・・? この世界は本当にフィクションのRPG内だったとかいう設定ですか? だとしたら今すぐ帰りたいんですけども。この際リセットでもいいので」

「いやですねー、冗談ですよ。じょ・う・だ・ん☆ ほら、私って一応は女神ですから神様視点で物語り読んでる風に語りたくなる時だってあるんですよー♪

 もう、イヤですねーセレニアさんは夢がなくて。せっかくファンタジー世界で生きてるんですから、もっとファンタジーな展開を望みましょうよー」

「・・・・・・・・・」

 

 いや、女神様。『一応』って。あんた歴とした女神様でしょ本物の。なんで自分の正体に自信なくしてきちゃってるんですか貴女。

 ただでさえパチモン臭いのに、これで自ら「私の名前は自称女神!」とか言い出したらフォローできません。全力で彼女の痴呆症を治してあげなくては・・・。

 

「・・・? どうかされたかセレニア殿? なにやら気分が優れぬ様子だが・・・」

「・・・いえ、お気になさらないでください子爵様。生まれながらにして貴き身分である貴族の方と馬車をご一緒できて興奮しているだけです。

 一介の平民が抱きやすい無意味な劣等感故の挙動不審ですので、どうかお気にされることなく無視していただければ幸いでございます」

「その言い回しで口先だけの謙虚さを発揮されても、説得力に欠けること甚だしいのだがな・・・」

 

 苦笑しながら微笑も浮かべ、困った孫を見るような目で私を見つめてくる口髭子爵様。すっごく気まずい・・・。って言うか、居心地が悪い。自分が目上に逆らいたいだけの子供に逆戻りしてしまった気分になって、めっちゃ恥ずかしい。

 早く着かないかなぁー、目的地に。着いたら即座に宿屋へ直帰する、盛大なピンポンダッシュができたら文句なし。無理ですけどね?

 

「なんにせよ、殿下を治療するに当たって必要な物があったら言ってくれ。状況が許す限りにおいてはと言う条件付きだが、我々に可能な限りで最大限の便宜を図るよう陛下から直々に命を受けている。遠慮はいらん」

 

 王宮から派遣されてきた使者の髭子爵は誠実な口調で告げた後、やや表情を改めて背筋をただし真面目な口調と態度で声をひそめます。・・・イヤだなー、この展開。モノすっごく陰謀のにおいがプンプンするから。

 一介の平民如きを王族の権力争いに参加させないで。お願いだから冒険者らしく、場末の酒場で飲んだくらせて。宮廷闘争はイヤなの嫌いなの無理無理無理なのー!

 セレちゃんお家へ帰りたいよーーっ!!

 

「ここだけの話だが、宮中では気の早いことに陛下が崩御した後の王位継承者について語り合う者が日に日に数を増してきている。病にかかったのは末息子であらせられる第四王子殿下であるにも関わらずだ。まったく、話にもならん。

 しかも、殿下の病を癒すためとはいえ冒険者ギルドに借りを作ってしまうのは如何なものかと主張する勢力まで台頭してくる始末。後継者争いに勝つための裏工作で多額の金が市井と裏社会に出回っているのも大問題だ。

 正直、今の王城は安全な場所とは言い難くなっていると言うのが現実だな」

 

 ほら、やっぱりーっ! こういう話にシフトしていくから王様からの依頼は受けたくないんですよ! RPGとかでもトップクラスの面倒くささを誇るイベントなんだからー!

 後継者争い反対! 御館の乱は嫌い!大政奉還の方がいい! 慶応維新で平和的に日本の民主化を成し遂げよう!

 

「だが、それ故にこそ殿下には病を治して再起していただきたい。

 既に始まってしまっている継承者争いには、陛下を蔑ろにする第一王子と第二王子が最有力候補として名が上がってしまっている。どちらも国政より自身の趣味を優先される愚鈍な方々だ。王位に相応しいか否か以前に、国難に立ち向かう気概がそもそもあるまい。苦労知らずの宮廷暮らしに危機対処能力など、誰も期待してはおらんのでな」

「え・・・・・・」

 

 ・・・あれ? なんかこの人、めっちゃくちゃ貴族らしい見た目なのに言ってることが実利主義っぽいぞ? 権威主義じゃないの? 世襲貴族なのに?

 

「第四王子は年若く幼いが、そのぶん何の益体もない王家のプライドに囚われず他者から学ぶ姿勢を重視しておられる。

 おそらく王位ともっとも縁遠い順位に位置しておられたから追放同然に送られた中立都市国家『魔法学術都市ガリアンド』で同世代の若者達と触れあいながら幼少期を過ごされた故なのであろうな。

 周囲に魔法使いばかりがいる環境を一流貴族の方々は良く思われてはいなかったし、当時の私もどちらかと言えば彼らよりの考えであったのだが、こうして国難を実感するまで戦乱の影響が出始めると嫌でも思い知らされるのだ。王侯貴族としてのプライドなど、平民達には糞以下の価値しかないのだとな」

「・・・・・・・・・」

 

 思わず唖然としてしまう私。

 あ、あれ? あれれ~? おっかしいなー。この世界って中世風ファンタジー異世界なはずなのに、貴族の考え方がすさまじく荒んじゃってるぞ? ほんとに大丈夫なのこの国? 滅びたりしない? リップシュタット連合軍が門閥貴族だけで形成されて、残った貴族は全てローエングラム候に味方したら勢力図が一変しちゃうぞ?

 

 現実主義が貴族の間にまで広がったファンタジー異世界って、なんかイヤですね。思いっきり。

 

「えーと・・・貴族様はもう少し王様に対して忠誠心持ってるもんだと思ってたんですけど、違うんです? なんか今、ものスッゲェ夢のない発言をダンディなお髭のお貴族様の口から飛び出してきた幻聴を耳にしたんですけれども・・・?」

 

 おお、女神様がテンパってる。スゴいぞ子爵、そのイキだ。もっとやっちゃえ。

 たまには女神様にも地獄を見せろーーっ!

 

 私の心の声に呼応してくれたのか髭子爵は、女神様からの質問を「ふん」と軽く鼻で笑い飛ばします。

 

「貴族などいなくても人々は困らない。国がなくなれば、新たな王朝が生まれるだけだ。

 人々が個人でできないことを我々がやっているだけのことで、貴族は選ばれし者だ等という戯言は、国父様に王権を授けられた教会の権力至上主義者どもが勝手に作り上げた妄想だ。初代教皇の名前など聞いたこともない世代の私にとっては、むしろ邪魔でしかない。

 やれ魔王だ、革命軍だと民衆は騒ぎ名門貴族は弾圧し、不況に喘ぐ王都で政治改革すれば権威への冒涜だなんだと不平ばかりを口にする。

 おまけとして、何故かは知らんが平民たちまで政治についてにわか知識を振りかざし、井戸端集会をそこいら中で開いているから物流が影響を受けて経済が悪化してと、踏んだり蹴ったりの悪循環だ。経済官僚としては堪ったもんじゃない。

 こんなバカ騒ぎはさっさと消火してしまいたいぐらいなのだから、冒険者に頭を下げるくらい訳ないさ。所詮、貴族なんて平民が税を納めてくれなければ飢えて死ぬ生き物に過ぎないのだぞ?

 あまり過大評価され過ぎるとこちらが困るので辞めてもらえんかな、美しいお嬢さん?」

「え、ええぇぇ~~~・・・・・・」

 

 あまりにもあんまりな言い分に女神様もげんなり気味。斯く言う私もげんなりしてます。夢でお腹は膨れませんけど、もすこし夢があってくれてもさー。

 

「お、話をしている間に着いたようだぞ。あれが我が国の王城『ビッグブリッジ』だ」

「・・・しまった。話に圧倒されてるうちに逃げそびれました。どうしましょうか女神様?」

「??? 普通に病気を治せばいいのでは? 転生者の主人公らしくこう・・・「リカバリィ!」みたいな感じで」

「職業『指揮官』が上位回復魔法を使えるのであれば、『軍医少佐』ぐらいに転職できるのでは?」

「ペニシリンを製造するのは?」

「仁かよ。無理ですから、それ。一般人が幕末時代にタイムスリップしたってペニシリンは生み出せません。

 転生者でもないのにチートを発揮するスーパードクターの猿真似を、平凡な元男子高校生に期待しちゃダメです」

 

 いやほんと、今思い出してもスゴいですよね仁先生。スゴすぎます。あれ見てから他の異世界転生主人公が医療知識でチートしても「ふーん」としか思えなくなる自分がいるくらいでしたからね。J●N・・・恐ろしい子!

 

「じゃあ、あれやってくださいよあれ。現代知識で技術チートする、転生モノの王道展開。アレならできますよね、セレニアさんにも? だって転生者で勇者で女神に選ばれし者でもあるんですから!」

「じゃあ貴女が治してください。この世界全てを統べられているのでしょう?

 だったら世界の理も真理の扉もガン無視して、問答無用で対価なしの賢者の石生成ぐらいはやってくださいよ。あなた一応は女神様なんですから」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・くっ! ガッツが足りない!」

 

 這いニャルかよ。やっぱりこの人、光の女神じゃなくて邪神だったわ。見た目に騙されなくてよかったー。

 

 ・・・いや、よくはないな全然。むしろ状況が悪化しちゃってるわコレ。

 万能の存在であるはずの女神様が真性の役立たずであることが判明した今、王族の治療に望んでも確実に失敗することは明らかです。

 依頼の失敗は自己責任。冒険者の基本理念がそれである以上、牢屋送りは避けられません。そうなっては断頭台まで秒読みが開始してしまいます。

 

 ふ~む・・・。そうなった時の対処法としましては・・・。

 

1、城に放火して火事を起こし、混乱している中を脱走する。

2、看病するフリをして第四王子を人質にとり、部屋に立てこもるフリをして脱走する。死体だろうと弾避けの楯ぐらいになら使えるでしょう。子供ですがサイズ的に私を守るぐらいは可能なはずです。

3、とにかく暴れまくって城内を混乱に陥れ、適当な王侯貴族を殺して回れば指揮系統を分断できる可能性が無きにしも非ず? ・・・いかんな~、思考が完全にテンパっちゃってます。少し頭を冷やしましょう。

 

 幸い廊下は涼しいので、王子のいる病室までにはクールダウンが可能です。あー、涼しくて気持ちいい~。

 

「・・・セレニアさん、今一瞬私の脳裏にあなたの思い描いていた思考が伝わってきまして。

 女神らしいことを言わせてもらえば、貴女は最低です! 悔い改めてください!

 でないとお仕置きしちゃいますよ! 女神らしく! そう、女神らしくお仕置きを!」

「・・・すみませんが、自分が女神であること再認識したいだけなら他当たってくれません? 私いま結構な割合でテンパっていますので」

「セレニアさんのイケず~。女神、もう知らない!プンだ!」

「・・・・・・」

 

 ・・・うぜぇー・・・この女神様超うぜぇー・・・水銀並にウザすぎます。誰か早く引き取ってー。

 

 そうやって私と女神様がしょうもない漫才を繰り返しながら髭子爵の後について城内を歩き続けていくと、徐々に風景が移り変わって天井も床もすべてが石で、明かり取り用の小さな窓以外には光源のない、灰暗くて空気のひやりと冷たい場所へと進んでいきます。おそらくは、守城戦を想定しているのでしょう。

 

 患者である第四王子のいる病室は、二十畳ほどの広さで一番奥には大きな暖炉があり、赤々と炎が燃えて部屋を暖めています。

 全体的に薄暗く、室内の素材はすべて石。壁はさすがに剥き出しではなく、ビロードや絵画で装飾されています。

 高貴な者の住む部屋らしく、清潔の保たれてる上に良い香りのお香が炊かれて日の射さない部屋独特のかび臭さが感じられません。

 

 王子は天蓋付きのベッドで寝込んでおり、先ほどからうめき声が響いてきてうるさいです。背中を丸めて寝込んでいるせいか猫背になっており、脊椎が変形してしまっているようです。

 

 宮廷魔術師を名乗る若い女性が進み出てきて私たちに挨拶し、患者の様態について手短に説明してくれました。

 

「殿下は幼い頃に兄である第三王子を亡くし、それ以来一日の大半を勉学に捧げ、その甲斐あって大陸でも最難関と目される魔法学術都市の入学試験にも最年少で合格され、都市内部では私とともに同じ師のもとで魔法を学び研鑽に励んでまいりました。

 しかし、ある時から慢性的に頭痛と目眩に襲われるようになり、大事をとって清潔で安静な場所での療養を勧め、この部屋に移られはしたものの一向に病状は改善に向かわず私どもの魔術でも直る見込みは毛頭見いだせません。

 今現在、使いの者が古代図書館に魔道文明時代の文献を漁るため出向いておりますが、果たして間に合うものかどうか私は気が気でなりません。

 どうかお願いします、冒険者様! 王子だけでなく、わたくしのことも助けると思って治療依頼をお引き受けいただけませんでしょうkーー」

「うん、とりあえず日光の当たる場所に患者を移して、青魚とか卵とか豚の肝とかを食べさせてください。そうすれば治ります。

 ーーて言うか、国一番の知恵者だったらこれくらい知っときなさいよ。どう見たってこれ、日光とビタミンDの不足による骨の発育不全クル病でしょうが」

 

 時代遅れの異世界転移ものに出てくる知識を、現代日本人に披露させるなよボンクラ賢者の給料泥棒めが。

 

 

 

 目をパチクリしている宮廷魔術師さん(と、女神様)のお尻を蹴飛ばすようにして治療に当たらせ(ただしくは「調理に」ですけれども)食事療法というか、ふつうの食事をふつうの場所で食べるようにしただけの王子様は一週間が経つ頃には病状も回復に向かい始めており、無事に事なきをえられたようで何よりでしたね。

 

 

 ーーつまり、傷ついたのは私のファンタジーに対する憧れだけと言うこと。

 

 

 本当もう、マジで勘弁してくださいよ。異世界転生した勇者がクル病治した話って聞いたことないんですけど? どうなってるんですかこの世界。

 あれですか? 現代の発展途上国と同じ様に風邪や下痢で死んでしまう子供たちを救うために経口補水塩を作って、ひたすら量産する経口補水塩大量生産マシーンになれとでも? 三ヶ月だけで済んだトムじいさんのお水サーバーをワールドワイドに一生やれと?

 HAHAHA、絶対にイヤです。ごめん被ります。それぐらいなら二度目の死を実体験した方が百万倍もマシな行為ですよ!

 

 

 

 中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーの文化レベルは、本気の本気で中世レベルだった件について。

 

 

(たぶん)本当の英雄になれた時点でつづく




経口補水薬ではなく保水塩にしたのは簡易版だからです。セレニアの知識量じゃこれが限界でした。
所詮は内政チート作品が好きな読書家です。現実に異世界行って役立つと保証できる知識なんてこの程度しか持ち合わせていません。

知っているのと作れるのは違いますしね。
知ってるだけの物を土壇場で確実に成功させる主人公たちは、知識よりもラックが凄いんだと私は思う。


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第11章

久し振りの更新です。最後ら辺で新武器が手に入ります。勇者らしく伝説の武器です。

次回は勇者らしく敵を倒しに行きます。
勇者らしく! 勇者らしくね!


「いや~、すまないねー。息子を助けてくれた命の恩人に窮屈な思いをさせてしまって。三週間近い軟禁生活は辛かったでしょ?

 おまけに政治的理由が絡んでるとは言え三週間ぶりに出られたシャバがむさ苦しい髭オヤジと相席するテラスでの食事会だなんて、これ何て拷問? みたいな~な感じー?」

「「は、はぁ・・・・・・」」

 

 めったやたらにハイテンションな自称「むさ苦しい髭オヤジ」のペースに飲まれ、普段よりかは大人しい私と女神様。いつもだったら質問責めにしていたかもしれない相手との会食ですが、今日の私は静かに出された料理を食べることに集中しております。

 

 ーーだって、めっちゃくちゃやりにくいんですもん。この“王様”。

 ノリが女子高生なのに言ってることは毒舌気味で、自虐もけっこう混じってる。諧謔を使って笑い飛ばしながら、内容はかなりダークだったり重かったりと捉え所が全く見あたらない。

 それでいて煙に巻くタイプかと言えばそうでもなくて、説明は懇切丁寧に要所要所を要点まとめながらオモシロ可笑しく解説してくれる。なんと言うか、学校の先生とかでいたら超人気でるタイプなんでしょうね、こういう人って。

 

 ・・・・・・とは言え、聞かされてる私たちが他国人な上に、お国自慢にくるんで国家機密を漏洩されまくっている身としては正直勘弁してほしいんですけどね・・・。

 

 

 

 

 王子の治療(と言うか、普通に生活させただけ)クエストを終えた後、私たちは王宮の一室に三週間もの間軟禁されておりました。

 まぁ、これに関しては仕方のないことですので気にしません。仮にも王族の治療に当たった身としては当然の義務でしょう。遅効性の毒を盛った可能性はいくらでもありますし、回復したときには人格が一変していた例も数限りなくあるわけですからね。安心安全が第一ですよ。

 国家にとっては王族に危害を加える者自体が劇薬なので、危険物には蓋の代わりに施錠しろと言った感じです。

 

 王子の体調自体は一週間も過ぎた頃には回復に向かっていたそうですが、そこら辺は政治の事情。危篤状態にあって余命後わずかと叫ばれていた王子が急速に回復したなんて知られたら何が起きるか分かったもんじゃありません。とりあえずは三週間タイムラグを置いてからようやく公表された「危機的状況からは脱した」の報。

 

 この後段階的に情報を開示していくらしいのですが、んなもん国の庇護もうけられない冒険者には関係ありません。どうぞ御勝手に~としか。

 

 

 

 私にとって目下の課題は王子の回復を担った私たちに個人的なお礼がしたいと、王様御自身からの申し出を受けてしまったこと。正直失敗だったと反省しております。

 

(まさか城のテラスで王様自身の口から謀議を持ちかけられるとは・・・・・・)

 

 国一番の美食を堪能しているはずなのに、何故だかあまり美味しく感じられない私です。

 隣の女神様も困惑気味ではありますが、出されたお肉を一口食べた瞬間には、

 

「何このお肉!? 超うめー!! うまうまマイウーっ!!」

 

 と、アッサリ陥落されてしまいました。女神って肉が主食の種族だったかな~?

 

 ・・・ああ、そうか。この人、野菜人っぽいところあるからーー。

 

 

「あ、胡散臭い笑顔のままでゴメンね? ずっと笑顔を保ってたら元に戻んなくなっちゃってて。僕って入り婿だからさ~、立場弱いんだよね。

 大臣からも「陛下は泰然と構えていてくだされば、それで良いのです。それだけで天下万民すべてをひれ伏させてご覧に入れましょう」って言われてるから」

「お兄さんが即位されたので再就職されたのですか?」

「うん、長兄が即位しちゃったから三男の僕にはスペアとしての価値すらなくなって就職先を探してた所に遠方の小国から「十歳以上年下の美姫から縁談来てます。三食昼寝付き王様の地位、お買い得ですよ?」って言われてホイホイ釣られちゃったカモネギが僕です」

 

 王様の諧謔を訊いて私は思いました。

 ふむ・・・『カモがネギ背負って来る』は異世界でも適用されてたんですね。今度使ってみようかな?

 

 私がどうでも良いことを(本気でどうでも言い内容でしたね)考えてる間にも、王様の昔語りは続いてます。

 

「いや~、あの頃は僕も若かったんだろうなー。美味しい話には裏があるって常識に思い至らず喜び勇んでやってきたんだけど来てみてビックリ、この国の王様って本当になにもしなくていい仕事だったんだよね。

 偶に式典とかに出席させられて「うむ」「ほう」「そうか」「大儀であった」「よきに計らえ」を適当な順番で言ってるだけで後はどうにかなっちゃうの。会食とかでも美味しそうな料理を食べてる連中見ながら勲章だらけで重そうな服着た貴族たちに囲まれて「年頃になった娘の縁談がどうたらこうたら」本気でどーでもいい話に付き合わされ続けるの。もう、お腹グーグーだよ。腹の音が鳴ってるのに気を使って無視されちゃうし、王様って意外と飢えるお仕事だったんだなーって現実の厳しさを思い知りました。甘い話には乗っかるもんじゃないよね、本当に」

「「そ、そうですね・・・」」

「しかも! 王様の仕事って王座に座ってこなすじゃん? 年がら年中座ってばっかりじゃない?

 だからさ~、痛いのよ。お尻が。痔のせいで。

 他国を侵略するため陣頭に立ってる覇王以外の王様にとって、痔は職業病なんだと僕は思う」

「・・・・・・夢が・・・私の思い描いてきたファンタジーなドリームが・・・」

「あんた、まだそんなの保持してたんですか・・・」

 

 いや、気付よふつうに、無理だって。この世界見たら分かるでしょ? そんな甘っちょろい異世界ファンタジーワールドじゃないことくらい。

 そう言うのが好きなら『いせスマ』とかの超面白い異世界転生ファンタジーに飛ばしてくださいよ。その方が私も楽できましたし、主に胃痛の問題で。

 

「おまけに先代が亡くなる寸前に魔王が代替わりにして今の強大な魔王軍が爆誕しちゃったもんだから、さぁ大変!

 歴史と伝統で糊塗された悪習は大昔の大国時代に基礎が造られたもので、衰退と縮小と妥協と譲歩と挫折の繰り返しが近代における国の歴史の全てだって言うのに偉大なご先祖様を持つ門閥貴族たちは緊急時における改革案を全然受け入れてくれなくてさ~。

 ひとつでも法律変えるためには彼らに甘い汁を舐めさせてあげなくちゃいけなくて、お墓参りを盛大に執り行うようになったのもその一環なんだよね。あれって明らかに必要経費が過剰に算出されてて、毎年かならず何割かは冒険者ギルドと癒着してる貴族たちの懐に収まっちゃってるんだよねー。

 ああ、ちなみに今年のお墓参りは例年にない規模で行われる予定だったから予算も倍増。君たちみたいな新人でお皿洗いしかできそうもない子供でも雇えたのは、それが理由です。闇へと消えた予算は僕の死後に発生する継承者争いで勝利するための裏工作費用として犯罪組織に回されました」

「「うわ~・・・・・・末期だぁー・・・・・・」」

 

 冒険で最初に訪れる国が意外すぎるほど重い事情を抱えていてドン引きしてる異世界転生勇者の図(+女神様も)。のほほんとした雰囲気の国で王位継承争いが勃発中という設定はよく訊きますが、流石にここまで末期な国からスタートする異世界転生ファンタジーも珍しいのでは?

 てゆーかおい、そこのボンクラ駄女神。あなた王道のファンタジー異世界を味わいたいなら、こんな世界選ばないでくださいよマジで。本気で凹むわ。つか、死ぬわ。胃痛だけで余裕で死ねるわ、この異世界。

 バッドステータスに『胃痛』と書かれてた場合どの回復魔法で治せますかね、全てを司ってる女神様?

 

「とりあえず僕の代でいくつかの新興国家と通商条約結んで軍事大国とも同盟締結しといたけど、僕が死んだ後どうなるかまでは自信ないだよねぇー。ほら、僕って一応良いとこの三男坊じゃない? 意外と融通利いたり、公式発言じゃなければ家の名前を出すだけならできるのよ。

 そのおかげで『現在は小国、されどかつては大国だった国に対する安っぽい投資』って名目をギリギリで買わせてもらってたんだけど、それが却って大貴族たちの自尊心をくすぐっちゃったみたいでさぁ~。「我が国の威光におそれをなした属国を併合するには今が好機!」・・・みたいなノリになっちゃっててねー。挙げ句の果てには都合良く「陛下の御命は長くても半年未満です」って宣告されちゃって、もう踏んだり蹴ったりです」

「・・・医師が買収されてる可能性は?」

「無いと思うよ? だって意味ないからね。僕が生き長らえたら医者だけ死んで他は誰にも沙汰はなし。いっくら謀略好きな貴族たちでも、流石に無駄金すぎるでしょ。

 彼らは楽して儲けたいのであって、ドブに金を捨てるために策謀練ってるわけじゃないからねー。

 なにしろ暗殺者と押し入り強盗を区別する必要がない国だから。どっちに依頼しても同じ事しかしてくれないし、テロ組織よりも救国革命軍の方が遙かに強いし強すぎるし。

 テロ組織がレジスタンスに恐れをなして活動辞職してる国なんて、なかなか希少価値ありそうなんだけどねぇ~。残念ながら骨董商にすら見捨てられてる古ぼけた老廃国家に銅貨一枚払う気ないそうで~す。あはははー」

「あはははーって、いいんですかそれで!? あなたの国でしょ!? 王様なんでしょ!?

 だったら死ぬ気で守りなさいよ自分のためにも! そして結果論で私の夢も命かけで守り抜きなさい!!」

「女神様・・・本音が後ろに付随しちゃってますよ・・・」

 

 ほんとうに駄女神な人だなぁ、この人。・・・アクア様かエリス様にトレードできないものなんでしょうかね? 同じ女神で僧侶系なんだし行ける気がしなくもないような?

 

 具体的にはサンダーとフリーザーを取り替えっこするみたいな感じで。物理系最強ポケモンは誰だったか忘れたので、覚えてる二匹の名前を挙げてみました。

 どうでも良いことですが、サトシ君。君、そろそろ自分のポケモンたちに名前付けてあげなさいよ。いつまで経っても「行けっ! ピカチュウ! 十万ボルトだ!」なんて種族名で呼ばれて命令されてたら可哀相じゃないですか。毎日足で蹴られて遊ばれてるキャプテンさんの友達みたいで。

 

 昔のアニメが再放送しているたびに主人公の友達に同情していた私は、たぶん悪い子なんだろうなと思ってます。

 

「お飾り国王が残り半年でできることなんて、何もないからね。大人しく王座を尻で暖める役割に徹するつもりだよ。

 ーーでもまぁ、なんにも残さないで終わってしまうのも勿体ないって思ったからこそ君たちをここに招待した訳なんだけど・・・ね?」

 

 ーー来たよ! やっぱり来たよこの展開! 絶対王位継承争いに巻き込まれる流れですよこれ! やだーーっ!帰りたいよー!お母ちゃーーっん!!

 

 ・・・・・・私の母親って、なんて名前でしたっけ? いかん、思い出せない。

 異世界生活始まってから激動続きで、思い出してる余裕なかったからなー。そのうち思い出すかも知れないし今は必要ないから、とりあえずは別にいっか。

 

「この国が昔大国で、衰退と縮小を繰り返して今に至るって話はさっきしたよね?

 その程度の国がどうして大国にまで成り上がれたと思う? 歴史ある大国になるまでには征服と侵略で領土拡張していく必要性が必ずあるんだぜ? その過程をすっ飛ばして大国から歴史が始まる国なんて実在しない道理だよ?」

「・・・新兵器。それも画期的で誰もが使えて大量生産が利く時代を超えた発明品が、何者かによってもたらされた。それを造れた唯一の家系が国王に徴用されて国を乗っ取り、正当なる支配権を主張した。

 彼らはその武器を神からの賜り物とすることで神の代理人を自称し、自らこそが全人類の頭上に君臨すべきだとして武力侵攻し続けた。

 ーーそんな感じでしょうかね。お約束的展開で行くならば」

「まさしくその通り、お約束通りの事が起こっちゃった訳だね。いや、この場合は使いやすいからお約束になって確立されたと言うべきなのかな?

 まっ、既に死んで墓の中の人がどういうつもりで言ってたかなんて心底どうでもいいんだけどさ。とりあえず彼らはーー僕の養父で先代の国王様のご先祖様たちは画期的な新兵器を使って侵略戦争し続けて、広大な版図を持つ大帝国を築くに至ったんだけど如何せん。征服者から支配者の側になったことで謀反や反乱を警戒しなくちゃ行けない立場に立たされちゃって武器の扱いに困り始めたんだよ」

 

「なにしろ、誰でも使えて大量生産が利いて威力も絶大。こんなの持ってる軍隊なんて独裁者にしてみたら怖くて怖くて仕方がない。

 初代皇帝がストレスの余り胃に穴が空いて死んじゃってからは「これは神より授かりし聖なる武器。資格なき者には使いこなせない。資格とはすなわち王の血を引く王族のみ」って事にして秘匿兵器扱いしてみたらしいんだけど、今度は身内の裏切りが怖くなったらしくて「この世が闇に覆われた時、いずこから現れた勇者が必ずや国難を救ってくれるであろう。その時にこれを渡すことこそ我らが神より賜りし神聖な責務。子々孫々に至るまで、決して他言せぬままに一子相伝で教え伝えるのだぞ? 良いな?」って風に改変しちゃって、武器の存在自体ほとんどの人の記憶から自体忘れ去られちゃいました。ちゃんちゃん」

「「うわ~・・・・・・もう本当に最悪だぁ~・・・・・・」」

「本当だよねぇー。勇者に渡すため、神より授けられた伝説の聖剣を守り抜く一族って、無理がありすぎる存在だからねぇー。

 百歩譲って一族の全員が長命種でエルフとかだったら分からなくもないんだけどさ、人間種で国王の一族が代々役目を引き継ぐって無理じゃん絶対に。

 だって、何代かに一度は必ず王家に別の王家の血が混じるんだぜ? 敵対国家の王子を婿に迎えて終戦条約結んだ時にはどうすりゃいいのさ? しかも王位継承時に王様の意識があるとは限らないんだよ? 毒飲まされたり呪われてることだって少なくないんだから、千年以上も続いてる勇者の導き手の家系なんて無理無理絶対に無理、少なくとも王家じゃできません。

 なのでお荷物引き受けてくださいお願いします。王様の命令なので断ったら死刑ですが、どうされますか? はい/いいえ」

「「選択肢が選択肢になってなーい!

  レヌール城の王様幽霊より性質悪いですね貴方!?」」

「はっはっは。政を行う権力者にとって、勝った後に聞かされる「性質悪い」と言う言葉は勝ち鬨だからね。人が嫌がることを合法的におこなうためにはどうするかで無い知恵ひねり出すのが政治家と呼ばれる生き物なのさ。

 君たちも将来、世のため人のために成りたいと思うなら、絶対に政治家と医者にはなっちゃいけないよ? 教師もダメだ、過激思想に走る学生を育てるだけだからね」

「・・・なんで革命家の重要な供給源である上位四つを・・・」

「王様だからだけど?」

「なるほど・・・」

 

 いくら何でも説得力ありすぎるだろ、このオッサン。マジで帰りたい。凹んでるから・・・。

 

「とまぁ、快く快諾してもらえたところで今回のクエストの追加報酬です。王家の家宝で一子相伝してきた負の遺産でもある伝説の武器ですが、歴代の王が王位を譲る際に口伝形式で伝えてきてしまったから現在、僕以外に存在していることを知る人は誰もいません。

 伝説とかだと偶に見かけるらしいけど、色々あって変質しちゃってますから全くの別物になっちゃってます。説明書は付いてるけど変質前に書かれたものだから、役には立ちません。取り扱いには十分に注意してください。よく注意して使わないと死にます」

 

 呪い! 呪いのアイテム! 積もり積もった恩讐が聖なる武具を変質させちゃった系の武具だ! 神とか人を恨んでる、持ち主の身体を乗っ取っちゃう系のアイテムだ!

 いやだ! もらいたくない! 超怖い!

 

 なにが怖いって、一番怖いのはオッサンが言った最後の言葉! なんだよそれ!すっげぇ聞き覚えあるから止めてくださいよそう言う言い方!

 騎馬とかパカラッてる所を皆殺しにしたり、麦畑に火をかけて笑ってる髭おやじを連想させられちゃうじゃん! 超イヤだーーっ!

 

 

 

 

 

「んじゃ、はいこれ。『ヒナワジュウ』って昔は呼ばれてたらしい武器。今は変質して別物になってるから好きに名付けて呼んじゃって。

 ちなみに性能とかは分かりません。最後に撃ったのがライバル国の王様で、決戦を前にして夜の散歩中に月見てたら撃たれたらしくて、無念の余り今でもその地はアンデッドの巣窟になってるらしいのでホント注意してね? マジでやばいよこれ。持ち主として認めてもらえなかった場合は呪い殺されるだけじゃすまないこと請け合いだよ?」

 

 そんな物騒すぎる代物を、恩人に渡すなクソボケーーーっ!!!!

 恩賞でも報酬でもなくて罰則だよ! 厳罰ものの処罰だよこれ! 牢屋に入れられるよりも辛いじゃん! 死後も魂が囚われ続ける系の呪われた武器じゃん!

 

 冒険で最初に訪れた国の王様から、王子を助けてお礼として渡される呪いのアイテム『火縄銃』! もうヤダこの異世界! ホントの本気で帰りたいよーーー(>o<)

 

 

「あっと、そうだったそうだった。ついでとして教えとくけど、今回の件で君たちの命狙われてるよ? 第一王子と第二王子の取り巻き貴族たちからね」

「セレニアさんが第三王子お命を救ったからですね!? 継承争いでせっかく築いた優勢を覆されたのを逆恨みしての襲撃!

 くーっ! 燃える展開ですーー! 王道ファンタジー万歳!!」

 

 女神様・・・。仮にそうなったとして、私が敵を撃退するには今手に入れたコレを使うしかないんですけど、そのこと自覚してますか? パーティーだから一緒に戦うんですよ? 巻き込まれない保証0なんですけど、本当に王道ファンタジー展開で襲われたりしたいのですか・・・?

 

「まっさかー。たかだか死にかけの第三王子が助かったぐらいで覆される優勢なんて砂上の楼閣じゃん。だいたい一回の失敗で破滅が確定するのは、謀略じゃなくてギャンブルでしょ。保身に長けた貴族の取るべき手段じゃないよ。当然、三男が死ななかったときのことも踏まえて二の手三の手は用意してあるんだろうなと思う」

 

 カタン、と。肩を落としながら女神様が、先ほど勢い余って立ち上がった席へと座り直します。

 ・・・そんなに継承争いに巻き込まれたいのかなぁー。ドロドロしてるだけだと思うんですけどね・・・。

 

「でもね、こう言うのはメンツの問題だから。これから王位に就こうって連中が余所者に邪魔されて泣き寝入りするなんて示しが付かないでしょ? だから狙うの、君たちを取り巻きの中でも小物に類する雑魚たちが。失敗したら切り捨てれば良いだけだしね。

 壁を何枚も通してあるから、本当の依頼人は雑魚たちでさえ知り得ていない。場合によっては敵対勢力に捜査の手が及ぶように細工されてると思う。

 こう言った点で彼らはプロだ。蓄積された謀略の知識と技術とノウハウと、それをやり易くなるよう少しずつ整えてきた法整備。それら全てが敵となれば、勇者にだって勝てやしないさ。数の差で押し切れずとも、法律で勝てるように出来ている。

 正義の味方は大義名分を取り上げられた途端、無法者へとランクダウンしちゃうからねー。やっこさんらは自分たちが悪だと自覚してるから容赦ないぜ?」

 

 ・・・ふ~む。結構やっかいな状況ですね。そうするとコレがああなってこうだから・・・ああ、面倒くさい。手っ取り早く簡略化してしまいましょう。その為の道具が手には入ったばかりなので試し撃ちで性能テストです。

 

「黒幕の予測は付きますか?」

「え? そりゃまぁ勿論だけど・・・って言うか、第一・第二王子の取り巻き筆頭が主犯で決まりなんだし考えるまでもないけどね。

 でもなぁ~。こいつらは君たちの襲撃には無関係なんだよねー。ただ「メンツを傷つけた奴らが居るので始末してきます」って部下から言われただけの老人二人で、ついでに言っちゃうと、どっちの派閥から派遣されてきた小物か分からない。小物すぎて双方とも眼中にない雑魚だし捨て駒だし覚えておく価値ないし」

「構いません。根を絶てば葉は枯れるものです。大元の二人を始末すれば派閥は瓦解して離散し、第三王子勢力が王位を継承されるのでしょう?」

「え、うん。そうだけど大義名分が・・・」

「安全第一。自分の身を守るためにも、大貴族の屋敷を焼き討ちするだけですよ。逃げ遅れた老人が火に巻かれて死ぬくらい、珍しくもない事故でしょう?」

「事故・・・なのかなぁ~・・・?」

「いくら大貴族でも死んだ後まで権勢は振るえません。跡取りが後を引き継ぐとはいえ、王様が崩御しようと言う時期に家臣たる身で、盛大なお葬式や継承の議を執り行うわけにも行かないでしょうし、燃やしたらさっさと出国するだけです。

 継承争いで生じる犠牲は、老人の焼死体が二つだけ。後ろ盾を失った第一・第二王子の勢力は衰えて、第三王子勢力がその隙に乗じる。問題は解決して王様も満足の内に成仏できる。

 たった二人の犠牲でみんなが幸せになれるのですから、最善の結果と呼ぶべきですよ」

「そ、そうなのかなぁ~? なんか微妙に間違ってる気がするんだけど・・・?」

「老い先短い老人の命で大勢の人が救われるのです。国家主権者として喜ぶべき吉日なのでは?」

「・・・奴らはクズだけど、クズにだって家族に看取られながら逝く権利ぐらいあってもいいんじゃない?」

「国家の存亡は一個人の権利というレベルで語りうるものではないと聞いたことがあります。私にとって国家とは国民のことを指して使う言葉ですので、大貴族二人の平凡で幸せな死を迎える権利を無視しようと言うだけです。大したことじゃない」

「・・・権力者は国民を犠牲にして利益を得る役柄なんだよ?」

「見ている観客としては詰まらないのでシナリオの変更を要求させていただきます。

 たとえばーーこのようにして」

 

 

 

 

 がちゃ。

 

 

 

 

 火縄銃の銃口を王様の眉間に押し当てながら、私は普通に説明して差し上げます。

 

「どうやら私は持ち主として合格らしく、使い方が頭の中に入ってきました。撃てますよ、これ。

 弾が込められてなければ大丈夫だとでも思っていたのですか? ご自分で変質してしまった別物だとおっしゃっておられたではないですか。もう少し自分の発言には責任をお持ちください、国民を束ねる王としてね」

「・・・・・・・・・」

「では、先ほどの質問を私なりに改造して返させていただきます。

 選択肢1:大貴族二人を殺した後で私を指名手配し、自分は無関係を決め込む。

 選択肢2:今ここで私に撃ち殺されて、後からやってくる後輩二人をあの世で雑用にこき使う。

 さて。あなたは、どちらがお好みですか?」

 

つづく

 

 

セレニアは『呪いのヒナワジュウ』を手に入れた!

真名と性能解説は、また次回!

 

メガ「でも、スゴイですねセレニアさん! その銃ほんとに撃てるんですか!?」

セレ「撃てません。ハッタリです。とりあえず急場しのぎの出任せで一任されましたから、ぶっつけ本番での性能チェックになりますね。王道展開で嬉しいでしょう? 女神様」

メガ「嫌みか、このロリおっぱいーーーっ!!」

セレ「む、胸のサイズは私のせいじゃありません!(真っ赤)」




書き忘れてた次回の軽い予告です。

「ハッタリかまして国家権力が介入して来るまでの時間的猶予が得られました。これで大貴族の屋敷に火が付いても憲兵隊は即座に出動してきません。安心してボヤ騒ぎを起こせます。
 何でもいいから屋敷へ捜査の手を入れる口実さえ出来れば、それで良しとしましょう。
 勢力バランスさえ崩せれば、後は流れでどうにかなりますよ」


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第12章

昨日今日と更新しましたが、やはりブランクがありますね。ノリで書き過ぎました。反省。
次回はもう少し落ち着いて大人しく書こうと思います。


「・・・しっかし、今回のは冷や汗ものでしたね。さすがはセレニアさんです、えげつない」

「・・・はい?」

 

 城下町にある食堂の一角に座って食後のデザートを平らげたばかりの女神様が、よく分からないことを言い出しました。

 

 えげつない? ・・・何についてのお話で?

 

「いやー、さっきのは女神の私でさえドン引きしましたよ。まさか人の命を数量で捉える思想をあそこまで徹底できるとは。

 いよっ、マイン・ヒューラー! ジーク・ハイル! ハイル・セレニアー!!」

「・・・はぁ~・・・」

 

 毎度の事ながらアホなこと言ってますね、この人は。

 

 ーーなのに、やたらめったら純粋な性格なのはどうしてなのでしょう? 謎です。

 ハッタリかまして逃げ出してきた人間が、脅迫相手と交わした約束なんて守るはずがないでしょうに・・・。

 

「何を考えてるのか分かりませんが、落ち着いてください。追っ手を撒くときまで体力を温存しておきたいですから」

「ハイルハイル、クリーククリーク♪ ・・・はい? 追っ手を・・・撒く?

 ーーあの、セレニアさん。もしかしなくても、また腹黒いこと考えたりとかしていませんよね・・・?」

「してないから安心してください。ただ、セオリーを守って密約を利用するだけです。

 明文化されてない約束なんて口約束ですよ。相手との信頼あっての賜物です。初対面の相手と交わした密約が遵守されると思う方がどうかしている」

 

 (゜д゜)ポカーンと、口と目を真ん丸にして私を見つめる女神様はやはり良い人ですね。私と違って。さすがは腐っても女神様という事なのでしょう。

 

 彼女と違い、私は人間。

 欲に塗れて俗界に生きる、七つの大罪を背負った罪人たちの末裔です。親の罪が子に及ぶのは非民主的ですが、ここは中世的な専制国家。貴族によって支配される差別を制度化した前時代的で文明未発達の異世界ですからね。郷に入っては郷に従うのが筋と言うものでしょう。

 

 ところでーー

 

「女神様は、鉄砲の本質というのを聞いたことがあったりしますか?」

「ーーほへ?」

 

 いや、「ほへ?」って。仮にもあなた美人さんなのですから、もう少し言葉遣いをですね・・・まぁいいか。それより今は鉄砲についてです。

 

「私もマンガでしか読んだこと無いので実際にどうかまでは推測の域を出ないのですが・・・銃の本質は『恐怖』なんだそうです」

「恐怖?」

「はい。音と光と衝撃と畏怖、それらを『初めて見て聞いた事による』未知への恐怖心。

 人は本能的に『知らないと言うこと』を恐れますからね。なにがしかの理由付けを求めるでしょうし、与えられれば何にでも飛びついて信じたがる。

 欲しいのは真相ではなく安心であり、『心の平穏』である以上は致し方のないことですけどね」

 

 女神様に説明しながらも、私の視線は火縄銃に固定されてまま。バレルとストック、ブリーチプラグを外して拭いたり磨いたりのメンテナンス作業に没頭中です。

 

 ーーなにしろ火縄銃ですからね! 戦国スリップ物好きで、信長作品好きの人の中で夢中にならない方は皆無だと信仰している代物ですよ! 心躍らない方がおかしいでしょう!?

 

 来る途中で買ってきた布と細い棒。魔法で出した水と、魔法で沸かした熱湯。これらを使って鼻歌交じりに分解作業と整備を行います。

 

 あ~、やっぱり一部は錆び付いていますね。このままじゃ撃てないので、魔法も併用しながら補修しときましょう。説明し終わるまでには作業も完了しているでしょうから。

 

 え? 持ち主に選ばれたんだから撃つ方法わかるんだろうって?

 いや、だからハッタリですって。あれ全部が。嘘八百で適当な出任せ並べただけですよ。当然じゃないですか? 千年以上も秘匿され続けた兵器なんて入り婿が撃ったことあるはず無いですし、説明書読んだだけで分かった気になってる素人さんを騙すぐらいなら私でも出来ます。

 

 騙し合いの場においては、騙される方が悪いのですよ。

 

 

「当然の認識として政府は民衆の集団心理をコントロールする術に長けています。それが一番楽に支配する方法ですからね、支配階級なら民を治める術として代々伝えられていても不思議ではない。

 いえ、歴史ある大国で神の名を政治に利用したことさえある国ならば、知ってない方がおかしいと考えるべきでしょう。

 ですから、未知の恐怖で民衆が混乱したとしても即座に神の御名でも持ち出せば混乱を収められてしまう。脱出の機会をみすみす取り逃してしまう。

 それは余りにも惜しい時間の浪費です。偉大なる戦術家を師として崇める私としては看過できない」

 

 幸いにもブリーチプラグ・・・ええい呼びづらい。尾栓ねじは固着を起こしておらず、更には引き金の構造も単純な作りであったことに内心で喝采を上げながら上機嫌に整備を続ける私です。

 火縄銃の引き金は特注品の物がほとんどと聞いていましたので、正直これは大助かりです。おかげで昔から足繁く通い詰めてた火縄銃の解体ショーで得た知識と経験が役立てられる。

 

 異世界転生後、初めて役立った現代知識が火縄銃についてって言う現実には色々物申しあげたいのですが、まぁいいですよ。今のところはね?

 貸しと言うのは、返してもらわない方が役立つ場合もありますので。

 

「このとき重要なのは情報伝達手段の有無と、その速度と規模です。

 どれほど的確な命令も避難指示も、届かなくては意味がない。聞こえなかった救いの声が人を救うことなど出来ないのですから当然です」

「・・・つまり?」

「然るに、本来なら数をそろえてナンボの火縄銃を一丁だけで活用するには、こういうやり方が一番有効だという事。

 ちょうどお客様が全員出そろったみたいですし、派手に活きますよ。

 女神様、ご準備を」

「へ? へ? あの、いったいなにを・・・・・・」

 

 

 

 

 ずたぁぁぁーーーーーーっん!!!!!!!!

 

 

 

 

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 な、何いまの音!? 爆裂の魔法!?』

『ち、違う! あんなスゴい轟音は城攻め用の代儀式でも行わないと使えない! 俺、魔術師だから知ってるもん! 見習いだけどさ!』

『じゃあ、なにか!? おまえは国の首都に敵国が攻城魔法をぶっ放してきたと、そう言いたいのか!?』

『知るかそんなもん! 上に聞け上に! 俺みたいな下っ端が奥の院を覗けるとでも思ってんのか、この考えなしで筋肉だるまの脳筋野郎!』

『んだとコラァ! 俺のどこがダルマだって言うんだよ! つか、ダルマって何だ!?

 誰か俺に教えてくれぇぇぇぇぇっ!!!!』

『うおおおおおおっい!? なんか変な理由で収拾つかなく成っちまったんですけどぉぉぉっ!?』

『なんでもいいから、誰か何とかしてちょうだいよぉぉぉぉっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ーーこれはその・・・なんと言いますか・・・・・・。

 

 

「ヨソウガイデス・・・」

「犬を父親に持つ色黒の日本人男性みたいなこと言ってる場合ですか!?」

 

 ソフトバンクぅぅぅ・・・・・・。

 

「いや、正直こういう形での混乱助長は予想してなくて・・・騒ぎを起こしたら乗じる形で逃げ出して、走りながら発砲しまくり自分たちで混乱を助長する予定だったんですけど・・・」

「どんだけ危険人物なんですかアンタ!? もう既に、あるく迷惑発送装置になっちゃってるじゃないですか!」

「いやその・・・呪いの影響か、弾は百発ぐらい連射できそうだったので・・・・・・ちょっとぐらい撃ってみたいなぁ~って・・・」

「かわいく言ってもダメ! 許さないし許されません! 『かわいいから許してね☆』で許してもらえるのはフィクションの世界だけだと自覚しなさい!」

「う、うぐぅ・・・」

 

 き、今日の女神様は手厳しいですね。返す言葉がありませんよ・・・。

 

 とは言え、起きてしまった混乱は致し方ありませんからね。今更私たちで止めることなど出来るはずもなし、混乱に乗して脱出する方針に変わりはありません。

 

「こうなったら行けるとこまで言っちゃいましょう女神様。賽が投げられたのなら進むだけです。止まったところで待っているのは死刑台だけですよ?」

「ああもう! なんでこの人選んじゃったかなー私! ぜんっぜん救う気ないじゃないですか! むしろ救われるべき人々を生み出す側の人じゃないですか!

 どうすんですか! どうする気なんですかこの状況!? 絶対に地方全体まで波及しますからね王都で発生した大混乱は!」

「・・・・・・この海は、まだ若いのです。波が穏やかになるには時間が必要です。

 ですから私は、ただ駆け抜けるだけのことです」

「ガトーーーーーーーっ!!!!!」

 

 アホなやりとりを交わしつつも、混乱する群衆の中で冷静に状況を判断し混乱を沈めようとしていたウェイトレスさんや商人さんや店の前に座ってた物乞いさんたち等、明らかに一般人と異なる反応を示した人たちだけを背後から襲って首筋にナイフを突き立てながら行動不能にし終えると生死の確認をすることなく全速力で逃げ出します。

 

 道中、適当な場所で適当なことを叫びつつ混乱に拍車をかけながら、人々に流れがない道を選んで走り続けて、人混みを避けまくります。

 混乱する中で人が押し寄せるのは避難に向いてる場所と、公的機関、権力者の屋敷などがメインです。比較的安全な貧民街へと逃げだす人は余りいません。

 まぁ、貧民街は貧民街で危険なのですが、この場合私たちが向かっているのは貧民街ではないので別に構わないでしょう。

 

 

「ところで私たちはどこに向かってるんですか!? なんだかどんどん市街から遠ざかっていますけど!?」

「墓地です。あそこなら今、誰一人として民間人は来ていないはず。混乱のただ中であろうとも命令をこなさなければ消されてしまう諜報機関の人たちは私たちを補足、抹殺するのを諦めてはいないはず。

 誰も巻き込まずにすむ場所まで誘い込んで決戦に及び、この国との因縁に決着をつけますよ」

「了解です! ・・・って、あれ? この国の暗殺家業はチンピラと大差ないって王様が・・・」

「ええ。ですから王様配下の諜報機関の方々と決戦するんですよ? あんな狸親父の言葉を本気で真に受けてどうすんです? なにか企んでいるのであれば、火縄銃を頂いたお礼として銃火で薙払って差し上げるまでです」

「・・・・・・・・・」

 

 なんだかんだと言いつつも王道展開好きな良識人である女神様は、王様と一戦交えることを良しとは思えないようですが、これは必要なことなのです。

 だってこのまま行くと私たち指名手配されちゃいますし。どうせ悪いことして捕まるなら、国で一番の権力者に喧嘩を売るという大逆罪で捕まりたいのが私という民主主義者です。

 

「急ぎますよ。数で負けてるのはこちら側なのですから、罠でも張って待ち伏せするより他、勝つ見込みはありません。勝敗は実際に戦いが行われる遙か以前より決まっているものなのです」

 

 足を早めた私たちは墓地へと急ぎ、到着してから準備を始めました。

 

 

 ーーが。

 

 なにぶん初めて訪れた王都ですから“少しだけ道を間違えてしまったり”馬車で送り迎えしてもらう予定だったので存在自体を“今このとき知った場所”など、よけいな手間暇かけたあげく時間を大きくロスしてしまい、現場に到着したときには完全に出遅れてました。

 

 結果、待ち伏せして迎え撃つはずの私たちが待ち伏せされて迎え撃たれるという体たらく。やれやれです。

 やはり私のように無能な小娘が一人で何とかしようとするよりも、多勢を頼って数の力でねじ伏せた方が良かったみたいですねぇー。勉強になりました。参考にさせていただきますね。

 

「くっくっく。今この場で死ぬ人間には将来のための参考資料など必要あるまい?」

「あら、サキュロン。それだと流石にかわいそうだわ。せめて冥土の土産ぐらいに持たせておあげなさいな」

「はっ、ストリームは優しいな。同じ女同士、情でもわいたか? 俺なら新しい毒の実験材料としか思わんぞ?」

「マルムスティーン、貴様の毒マニアぶりにはアンデッドの私でさえドン引きさせられる。同じ種族である人間に思うところはないのか?」

「それこそ、レバーノック。人間であるからこそ無意味な感情なのさ。俺たち人間は他人を食い物にして肥え太る生き物なのだからな」

「くっくっく、まったくだ。ペシュロンも偶には良いことを言う。

 ああ、最初に戻るが俺はサキュロンだ。殺すまでの短い間、覚えておいていただこう」

 

 

 

『くっくっくっくっくっくっく・・・・・・』

 

 

 

「ーーその辺にしておけ、野郎ども。仕事は手早く片づけちまうもんだ」

 

『こ、これはボス・ザ・ゼロ!! し、失礼しました!』

 

「ふん。ーーところで小娘、おまえの推理力はなかなかのものだったぞ? 子供にしてはだがな?

 国王配下の諜報機関・・・確かに子供が好きそうな単語だ。貴族たちの目にも魅力的に映ることだろう。

 だが、現実は物語じゃない。夢など何処にもありはしないのさ。国王の下で諜報を担っていたのは俺たち国内最大の規模を持つ犯罪集団『六本腕』。手段を選ばず確実にをモットーとする現実主義者の集まりだ。第三王子の昏睡も、それを回復したお前らを使った第一・第二王子失脚計画もすべて腹グロ国王の掌の上。アイツは俺たちにも劣らぬ悪だからな。それぐらいは容易い。

 どうだ? 驚いたか? 自分の浅知恵を思い知ったのなら疾く死ね。特別に自害を許してやる。なぁに、今回は時間がないんでな。特別扱いさ。これから俺たちは市街各所で火事場泥棒をしなけりゃならん。貴族様の屋敷から金銀財宝をごっそりと盗んで半分は俺たちの懐に、残りは国王陛下で山分けだ。

 どうだ? 羨ましいだろう?

 羨ましいと言ってみてから死にさらせやクソガキャーっ!!!」

 

「よーし、ボス・ザ・ゼロが片手をあげたぞ! 戦闘開始の合図だ!

 総員! ばっーー」

 

 

 

『抜刀ーーーーーーーっ!!!!!!』

 

 

 

「「「「「・・・へ?」」」」」

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国の裏社会を支配してた六腕だったか八本指だったか、とにかくそんな感じの方々と見た目だけは酷似しすぎた下位互換の犯罪組織の幹部さんが、自分たちの背後に控えた百人の部下の方々(たぶん、途中まで私たちをつけてた方も混じっているのでしょうね。何回か交代してたので見分けがつきませんが、鏡に映ってた顔が何人か見受けられましたから)に命令を下そうとしたところ途中で横入りされ、みな驚いておられます。

 

 だから言ったんですけどね~。一人でやると待ち伏せされて失敗に終わるのを学んだから参考にさせていただきます“ね”って。

 

 ーーこれでも、教えてもらったことは実践する質なんですよ? 恩を徒で返すようなひねくれ者じゃありません。恩は恩として同じ形で返させていただきます。

 

 ・・・この様にして・・・ね?

 

 

「後はお願いして構いませんか? 冒険者ギルドの王都支部の代表殿」

「ああ、任された。王都内の混乱は依頼がないから介入できなくて困ってたところなんだ。このままだと、おまんまを食いっぱぐれちまう。緊急時に備えてギルドが依頼なしに市民の安全確保のため駆け回れるよう、法改正が急務だな。奴らを片づけたら直ぐに取りかかるとするかい」

「今回の件で王国政府には、相当な貸しが作れることでしょう。どうか有効に利用してください。明日明後日に出国してしまう私たちには関係のない事柄ではありますが」

「おうよ、あんがとさん。お礼はきちんと現金で即日払いだ。後腐れ無く縁を切れるのが冒険者の強み、せいぜい俺たちのことも利用しちまいな。俺たちもお前さんらを利用させてもらうからさ」

「では、さっそくに」

「ああーー掛かれ野郎ども! 犯罪者どもを皆殺しだ! 指名手配されてる奴は首だけ残して後は好きに奪い尽くせ!

 ドロップアイテム欲しさに王家の墓さえ盗掘する冒険者の意地汚さを半端者共に思い知らせてやるのだぁぁぁぁっ!!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!

 クリーク! クリーク! クリーク! クリーク! クリーク! クリーク!

 犯罪者どもを食らって換金するのが冒険者の仕事なり! 恨むなら俺たちを敵に回したテメェらのボスを恨めぇぇぇぇっ!!!!』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 お、王都中の冒険者が一同に会しやがってるーーーっ!?

 も、もうダメだ! 逃げるしかねぇぞぉ!?」

「狼狽えるな雑魚どもが! 質では俺たちに分があるのが見てわかんねぇのか!?

 見てやがれ! 溜めは必要だが威力も効果範囲も絶大な、俺の超必殺技で敵が紙屑のように吹き飛ぶ様を! 『シャーマニーック・アデプーーーート』!」

 

 

 

 

 ずだんっ!

 

 

 

 

 

 ・・・がく・・・ぱたり。

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

「失礼。デカい的が動きを止めたので、当たるといいなぁと思って撃ったら当たっちゃいました。当てるつもりで撃ちましたけど当たるとは正直思ってなかったんです。

 誤射でボスさんを殺しちゃって、ごめんなさいでした」

 

『ぼ、ボスがやられた! もうダメだーーーーーーーっ!!!!!!

 総員たいきゃ・・・・・・』

「遅せぇぇぇぇぇっ!!!」

「ぎゃぁぁっ!?」

「よっし、指揮官撃破。これで撤退命令はくだせねぇ。逃げる敵を背後から追い討てるのに、みすみす逃してやるお人好しがいて堪るかよ。常識で考えろ常識で」

「大声上げてる奴から先に倒せ! 混乱を纏めさせるな助長しろ! 組織が組織として動けなければレベル差なんて関係ねぇ! 三人一組でかかって確実に仕止めろ! 一人仕止めたら次の奴に配分するんだ! 略奪は勝ってからだ! 死体からでも宝は取れる! 味方は信じなくていいから互いの損得勘定を信じろ! この世で最も固い絆だ!

 絆の力で我らに勝利をーーーーーっ!!!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!

 金の光は絆の力! マネー・イズ・マイホーム!!

 配当金を貰うゴロツキと、本物の拝金主義者の差を思い知らせてやるぅぅぅっ!!』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーこの日、王都において発生した暴動の原因は未だ解明されていない。

 確かなのは暴動発生直後、国王の腰が普段以上に重く判断と指示が遅れに遅れ痺れを切らした第一・第二王子が手勢を引き連れ待機の王命を無視して出動し、共同作戦により混乱の鎮圧に成功したことだけである。

 

 この時、対立する二人の王子は一時現場で睨み合う場面があったそうだが、第三王子派に属する中堅貴族で髭子爵とも揶揄されてきた『シュトライト子爵』の仲介によって事なきを得て、この功により子爵は伯爵に階位を進め国の重鎮として辣腕を振るい王国中興の祖と称えられる逸材として王国の歴史に黄金の文字で名を刻んだ。享年91歳。

 短命が当たり前だった時代において、誰よりも天に愛されたが故に天寿を全うできたのだと世の歴史家は語り継いでいる。人生の最期まで国のために尽くした偉人であった。

 

 第一・第二王子は暴動の鎮圧指示において己の未熟さを晒け出しあったが、事後処理が続くなか二人の守護天使が突如として勤労意欲に目覚めたらしく、以降二人はいがみ合いながらも協力しあって混乱と衰退から国を再生させることに尽力した。

 王位は第一王子が正王、第二王子が副王の地位につく形で落ち着き、派閥争いはそのまま内部の腐った貴族どもとの宮廷闘争へと装いを変え、守旧勢力の旗頭である父王との抗争の末、勝利を収めた。

 享年51歳と53歳。この時代において平凡きわまる寿命であり、能力と相まって彼らの凡人さが際だたされた結果と言えるだろう。一説には凡人の身でありながら過剰な期待と責任感が彼らの胃を圧迫したのだとも言われている。

 二人は遺言で「神格化するのだけは止めてくれ。死んだ後まで働きたくない。とにかく疲れた」と同じ文言の文章を別々の場所で書き記しており、一言一句過たずに同じ内容の遺言を残した二人は実は仲が良かったんじゃないのか?と言う疑問について、後世においても結論が出る兆しはない・・・。

 

 国王はそれまで必ずしも評判の悪い王ではなかったが、この一件によって馬脚を現し、様々な不正が明るみに出たことににより息子たちの手によって失脚させられた。

 が、彼は権力の座を捨てたわけでは決して無く、退位したあと余生を過ごすために選んだドラン湖に浮かぶ湖城において、自らを王国が帝国時代に君臨していた皇帝の血を引く庶子であり、国の支配権を神より授かった正当な継承者であると主張した。

 これは暴論であってが、新政権から除外された旧来の貴族たちからは支持され勢力を増強していくことには成功する。

 彼は血筋の正当性を証明する証拠として皇帝が使っていたと言う『火を噴く魔棒』を示したが、それは何者かによってへし折られた後であり火を噴くことが出来ず、決め手とするには説得力に欠けていた。

 その結果、内乱のはじめにおいていくつかの勝利を収めるまでは加速度的に増えていった味方の貴族が敗けを喫し始めた途端に離反を始め、急速に勢力を衰えさせて行く事となる。最終的には僅かな供回りを率いて新王都と定めたドランの街から逃走。

 追っ手に追われ、逃げきれないと観念した彼は帝国時代の貴族たちにならい、呪詛の言葉を並べ立てながら手首の血管を切って自殺した。

 享年108歳。一時は余命幾ばくもないと診断された身でありながら時代を超越した長命ぶりであり、生への執念と死への恐怖の象徴として後世には語り継がれている。

 

 

 

 尚、一連の内乱は「一発の銃声からはじまった」と書かれた文献が近年発見されたのだが、筆者が無名の冒険者であることと、そもそも中世期の王国に銃が実在していたのか等の理由によって公開は保留とされている。

 

 

 なんにせよ、この事件が発端となって国が生まれ変わり、立憲民主制へ移行していく切っ掛けとなったのは間違いない。現代に生きる我々にとっては喜ぶべき慶事であり、当時の人々にとっては呪わしき災厄だったのも確かだろう。

 

 教わったことを書き写すだけでは、学んでいない。

 自分で考えるための教材が教わった内容であり、書き写すのは覚えるだけの行為である。この本を読み終えたちびっ子諸君には是非とも本を本棚に戻して、勉強をはじめて学んでもらいたい。

 本は作者の出した答えであって、君たちの出すべき答えは載っていない。私の本を読み終えた読者たちが、私と異なる答えを出してくれることを切に願う。

 

共和国国立中学校・歴史学の教材『ドラン紛争から共和国に至るまで』より一部を抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・話し合えば解決できる問題を、戦争で血を流すことでしか分かり合えないなんて・・・人の歴史とはなんて愚かしいーーあ痛っ!? ちょ、女神様ぶたないでくださいぶたないでください! 私が悪かったですからお願いぶたないで!

 いつも計画練って動いてたから、初っ端がノリで始めちゃった今回は暴走するしかなかったんです! 臨機応変とか苦手なんです! 深慮遠謀タイプなんですよ私は! 一応ですけどね!

 だからお願いそれやめて! おててを開いて笑顔を浮かべながら私の腰を抱え込まないで! 明らかにこれ、お尻ペンペンの態勢ですから! 子供向けのお仕置き姿勢ですから!

 私これでも前世は高校生なんです! これやられると洒落にならない恥ずかしさで死にかける年頃なんです! お願いやめて! ごめんなさいごめんなさいごめんなさ――」

 

 ペチーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!!!

 

 

つづく



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第13章

最近、1話内に収められずに前後編になってしまいがちな事を意識しすぎてしまいました。
無理やりにでも1話内に纏めようとしたら文章を削り過ぎて地の文が殆どない回に・・・。次回はもう少し気を使おうと思います。

前回で「はじまりの王国編」が終わりましたので今回は次章へと繋げるための回です。
要するに伏線回収回ですね。物語の矛盾を無理やりにでもこじつける回とも言いますが。

久し振りにセレニア節が発揮されまくるイカレタ国を舞台にしたお話の、はじまりはじまり~♪


 飛沫をあげて進む船。

 ファンタジーRPGにおいて定番の移動手段ですが、たいていの場合プレイヤーの自由に海を行き来できる個人所有の物が手にはいるのは中盤以降で、序盤に乗れるのは行き先が限定されてる定期便ぐらいでしょうね。

 

 実際、私たちが今乗っているのも定期便です。

 この前の一件で王都にいずらくなった(と言うか居たら捕まりますよね絶対に)私たちは追い出されるようにして(表向きはそうしてもらいました。真相は居座られ続けると面倒だからと支部長殿直々の指名で馬車の旅です)隣国の交易都市まで逃げ延びてきて、「訳ありな乗客だろうと金さえ払えばOKよ」な船の船員さんに賄賂を渡して荷物代わりに貨物室で寝泊まりです。

 

「・・・ここが貨物室ですか。セレニアさんの御実家はさぞかし裕福だったんでしょうね、羨ましいです」

「・・・・・・皮肉はやめてください女神様。先日の件で迷惑をかけたことは謝りますけど、私も恥をかいたんですから、いい加減水に流してくださいよ。女々しい方ですね本当に全くもう」

 

 水筒から水を一口飲んで乾いた唇を潤し、初の船旅が貨物室生活であることを苦痛に感じている私の苦言に対して女神様は、

 

「こ・れ・の・どこが貨物室だって言うんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 叫び声をあげてお茶を飲み干し、高価そうなマイセン風のティーカップを乱暴な仕草でソーサーに戻されました。

 

「・・・あまり乱暴に扱わない方が良いですよ? それ、1セットで女神様のお給料三ヶ月分以上するそうですから」

「私の婚約指輪代はティーセットにも劣るんかい! てか、今認めましたよね!この部屋が貴賓室だって遠回しな表現で!

 明らかにこの船って、最大の収入源が亡命希望の密航者な非合法船ですよね確実に!

 私のファンタジーに対する憧れを考慮して嘘ついてくれる気持ちだけは嬉しいですけど、現実と乖離しすぎた理想を思い知らされる心の痛みを少しは理解してくださいよ! いい加減、私だって泣きますからね!(>_<)」

 

 ・・・青い海~♪ 白い雲~♪

 そんな私の邪魔をするのは、船が港に到着したことを告げる鐘の音~♪

 

「ーーと言うわけで下船の支度を。この国はあくまで通過点であり、中継地点にすぎません。明日には出国するのですから今日中にすべき事を全部終わらせておきますよ。

 ノンビリしている暇はありません。四十秒で支度を終えてください。遅れたら置いていきますからね女神様?」

「空賊の名台詞つかえば逃げられると思うなよーーーっ!!」

 

 逃げます。逃げ切れますし、逃げ切ります。何故なら空賊だからです。

 襲って逃げるのが仕事の空賊は、逃げ上手なのですよ女神様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーさてはて。所変わって国も代わり、今私たちが来ている場所は「サン・タ・マリノア共和国」。評議員による議会政治をとっている国ではありますが、実のところは教会のひとつに属している宗教国家です。

 

 説明が遅れましたが、この異世界における教会とは特定の神様を崇める統一宗教団体すべてを指して使う単語。

 同じ神様さえ崇めていたら問答無用で教会と言う一つの単語にまとめられ、一括りにして表記されちゃいます。

 

 が、言うまでもなく教えは宗派ごとにバラバラで、国との宥和政策を推奨している商売系の教え、異教徒滅ぶべしと唱えて軍国主義に協力的な軍神系の教え、戦争とは縁もゆかりもない平和国家で崇められてるラブ&ピースな教えなど、実に様々な宗派が混在しており「もうこれいっそのこと、全部別の宗教にした方がよくないか?」な状況が何百年も前から続いているそうです。

 

 これは大昔に宗教の開祖が現れ、彼の死後に後を引き継いだ弟子たちが教えを広めていく過程で様々な政治的問題に直面し、乗り越える度に変質と変貌を繰り返していった結果として今の歪んだ統一されてない統一宗教になったのだとか。

 

 なんだか、どこかで聞いたような話ですが国ごとに崇めていた土着の神様と「名前が違うだけで同じ存在だよ?」と言うことにして名前だけ受け入れてもらい、短期間の間に宗教“組織”だけは世界規模にまで膨らんだのだと言われております。

 

 まぁ、内実はどうあれ数さえ揃えば力を持つのが政治家ですし。署名をたくさん集めて国家に対抗していると思えば抵抗感も少なく済むでしょう。・・・多分ですけどね?

 

 

 

 

「と言う感じでサン・タ・マリノア共和国は宗教色が強い割に商売っ気も強く、『お金が人生の全てではない。八割ぐらいだ!』が信徒たちの守るべき基本教義なのだそうです」

「・・・それ、本当に宗教の教え?」

 

 知りません。私は聞かされたことを、そのまま語ってるだけです。彼らが宗教の教えだと言うなら、宗教の教えなんじゃないですか?

 ぶっちゃけ無神論者の国から転生してきた日本人である私に、宗教なんて興味ないですしね。通り過ぎるだけの国で何があがめ奉られていようと構いやしません。お好きにどーぞーな感じですよ。

 

「とりあえず大聖堂に向かいますよ。

 評議会によって統治される交易国家だけあって、国一番の港町であるここが事実上の首都であり、本当の首都には便宜上の意味しかないそうですから、国教としている宗教の大聖堂も首都にある奴よりデカいそうです。

 当然、ハイレベルのプリーストなんかも多く在籍しているそうですから生傷の絶えない冒険者にはありがたい存在なんだそうです」

「いや、待って。それはおかしい。

 だって私、前に聞かされてますもん! 冒険者ギルドと教会と国が世界を三分割してるって! 教会はギルドと冒険者を目の敵にしているから気をつけろって言われてますもん私!

 女神ちゃんは汚い大人の嘘に、もう騙されないですからね!?」

「幼児退行したフリしてないで早く歩きなさいよ・・・。普通に考えたら分かるでしょう?

 一般市民が日常生活で負う怪我の割合と頻度よりも、冒険者が日常的に負わざるを得ない深手の傷を回復したり呪い解呪したり毒の治療とかをこなす方が遙かに楽で確実に儲かる商売なことぐらい。

 ーー所詮、神の信徒であろうと銭の亡者であろうとも。人はお金がなければ飢えて死ぬ生き物なんですよ女神様・・・?」

「そんな生臭い話、女神である私に聞かせないでもらえません!?」

 

 お金で買えないからこそ買う価値がある。プライスです。

 

 

 

「迷える子羊達よ。ようこそ、我が教会へ。今日はどのようなご用件で参られたのかな?」

「実は、とあるアイテムにかけれれた呪いを解呪していただきたくて・・・」

「ふむ・・・呪いの解呪か・・・本来我ら教会の門扉はすべての者に等しく開かれており、異教徒たる冒険者であろうと例外ではない。組織間による政治の都合など末端の信徒である我らには関わりなきこと。

 故にできるのであれば直ぐにでも解呪の儀式を執り行いたいのだが・・・この状況ではな・・・」

「すごい行列・・・何百人待ち? 番号札配った方が効率的じゃありません?」

「ご覧いただいた通り、毎日のように冒険者が列をなして治療を待ち続けている。重傷者であるなら優先順位として最優先に選ばれるべきだが、解呪の必要な呪いの多くは遅効性で緊急性には乏しい。

 申し訳ないが、しばし宿屋に腰を落ち着けて順番がくるのを待っていただいても構わないだろうか?」

「・・・わかりました。そういう事情であるなら止むを得ませんね。ではこちらの用件では後日改めて参らせていただこうと思います。

 ただ、代わりにこれをお渡しさせていただきたい。隣国の冒険者ギルド王都支部の代表殿より預かってきた書状です。これをお渡しするのが本来わたくしめに与えられたクエストでありましたので、受け取っていただかなくては国に帰れません。

 どうか、何卒お受け取りくださいますように・・・」

「・・・左様か。致し方ありませんな。では、すぐさまお返事を書かせて頂きたいので、聖堂の中へ。他の治療を待つ者達の順番を遅らせることがないように、聖堂の主で通常の治療は施されない主教猊下の元へご案内いたします」

「お手間をおかけしますが、よろしくお願いいたします」

 

 

 

「どうですかセレニアさん! あの模範的な信徒っぷりを見ましたか!? あれこそが神を崇める信徒の在るべき姿ですよ! やはり私は間違ってなどいなかった!

 ・・・あ、そう言えばさっき彼に渡してた書状って何時の間に預かってたんですか? そう言う大事な物を受け取るイベントの際には私を同席させる様にって、いつも言ってるじゃないですかー!ぷんぷん!」

「?? 便宜を図ってもらうための賄賂だったんですけど、受け取りの手続き時には同席させた方が良かったですか? 良いと言われるなら、次からそうしますけど?」

「・・・・・・」

「正直なところ、前の国で儲けすぎましたからねぇー。千枚以上の金貨なんて二人だけでは持ち運べません。と言って低ランク冒険者が保有している資産なんて、いつ組織に召し上げられるか分かったもんじゃありませんからね。

 ある程度影響力なり実力なりを手に入れるまでは常識的な額を銀行に預けて、持ち歩いても不便にならない分だけ現金で持ち歩いた方が安心だと思いましたので代表殿にお願いして経理部に試算してもらったんです」

「・・・・・・・・・」

「で、旅にでるのに必要な装備を調えるのに必要な物をそろえられる場所の情報と直筆の紹介状。それが前回の犯罪組織に関するタレコミへの報酬とさせて頂きました。

 最初に提示された額が高すぎたのと、王様から頂いた報奨金でスゴいことになっちゃってましたからね」

「え。あのときの報酬って火縄銃・・・」

「あれ? あの王様、追加報酬って言い足してませんでしたっけ? ちゃんと金貨でも支払っていただきましたよ依頼の成功報酬。火縄銃で脅して密約結ぶ際に為替発行書でね」

「為替!? 発行書!? え、ちょっと、あれ? 王様の子供を救った褒美として宝物庫の鍵を開けてもらい、部屋の中に置いてある宝箱から1000ゴールドを手に入れたんじゃなくて!?」」

 

 セントシュタイン城・・・。

 

 ーーぜんぜん関係ないですけど、黒騎士さんって格好良かったですよね。あの作品で一番性格が美形だったのが骸骨顔の騎士ってなんだかなぁーと思いました。

 

「女神様、ゲームと現実を一緒くたにしてはいけません。1000枚の金貨なんて算盤もなければ数えられないことくらい、少し考えれば子供でも分かることじゃないですか」

「・・・またしても、身も蓋もないこと言い出しやがりましたね! この、エロおっぱいな銀髪ロリ娘が!」

「だから、胸のサイズは私のせいじゃないと前にも言ってあるでしょう!?

 ・・・こほん。と言うか金貨1000枚なんていう大金を王城から自然に持って帰るには貴族にでもなるしかありませんが、なりたかったんですか? あの内乱勃発寸前になってる伝統と格式最優先で新入りには厳しすぎる門閥貴族の見習いとして?」

「・・・・・・・・・為替発行書で・・・いい・・・です・・・!!!」

「・・・いや、血涙で悔し涙の滝を流さなくても・・・」

 

 プレイしていた時に少なく感じた1000ゴールド。今思うと結構な高額報酬だったんだと思い知らされますね。

 本当の価値は、持ってる人より持ってない人の方がよく分かる。

 つまり、輝かしい理想の未来よりも、今日寝る寝床や温かいスープを欲しがった骸旅団副団長の思想は正しかったという事。

 

 お金で買えても買えなくても、買うお金がない人には価値がない。プライスです。

 

 

 

「ようこそいらした旅の方。

 して、今回解呪をご依頼する品とは?」

「これです」

「ほほぅ。これはなかなかに珍しい形をした杖ですな。私でも見たことがないとは大変希少な品です」

「そうでしょうね。なにしろ隣国秘伝の家宝ですから」

「ちょっ!? セレニアさんそれ、この前自分で壊した火縄銃じゃないですか!?

 なんで残ってるんですか!? 壊したんじゃなかったんですか!? 王様の元に届くよう裏工作してもらったアレは偽物だったんですか!?」

「偽物でしたが、それが何か?」

「王様だました罪悪感、微塵も存在してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 ほえ猛る声の女神様。・・・相変わらず純粋な人ですねー。あんな狸おやじを相手にでも真っ正直に本物を返却すると思いこむなんて・・・。

 

「どうせ撃てなくする代物です。本物だろうと偽物だろうと大差ない。呪いさえ解けば使いこなせそうなお気に入り武装を、自分の手で壊すはずがないでしょう?

 メンテナンスした時に何十年間も倉にしまいっぱなしだったのは判別できてましたからね。最後に分解整備したのが何百年前だかも判然としない代物なんですから、本物とすり替えたところで誰も見破れやしませんよ。本物を見たのが持ち主だけでは証拠能力もありませんしね。

 偽物と見破られない限り、偽物は本物と同じ価値を持つ。政治の場では特にその傾向が強い。本物を欲する私の元に本物をおいて、偽物でも問題ない王様には偽物を送った。それだけのことです。気にする程のことではありませんよ」

「・・・悪魔や・・・この人やっぱ勇者じゃなくて魔王軍側の人間やわ・・・・・・」

 

 お金で買えない偽物がある。プライスです。

 

 

「さて、それでは解呪の儀式を始めるとしますかな。

 ーーああ、もしもワシらが壊したり盗んだり掠め取ったときのために保証書でも書いておきますかな? それとも血判書の方がお好みか?」

「ずいぶん古風なことを・・・いや、この時代的には妥当なのかな・・・?

 ーーまぁ、それはともかくとして。

 無用の気遣いですよ主教さま。ここがそう言う場であることぐらいは承知しておりますから、ご安心を」

「ほっほっほ。若いのに聡い娘じゃな。よかろう、ではこちらへ。解呪の儀式をしている間、隣室でお茶でも飲んでお待ちなされい」

「ありがとうございます主教さま。お言葉に甘えさせていただきますね」

「ちょっ!? なんで隣国の家宝を他国の要人に預けちゃうんですか!? 最悪私たちを抹殺して政治闘争に利用されかねませんよ!?」

「・・・女神様、率直さは美徳だと私は思っていますけど、そう言うのはせめて本人の居ないところでですね・・・」

「ほっほっほ。よいよい構いませんよ旅の方。貴女のおっしゃるとおり、率直さは美徳。美徳が正しく報われない世の中だからこそワシ等はこの様な行為に手を染めているのですから、こちらのお嬢さんの誠実さと愚直さには聖職者として正しく報いさせていただきましょう」

「・・・すいませんが、ご面倒をおかけします・・・」

「詮無きことです。

 ーーさて、お嬢さん。ワシ等が隣国の家宝を盗んで政治に利用するか否かという話じゃったが・・・ハッキリと断言させてもらおう。ない。その可能性は限りなく0以下じゃ。あり得ない。

 天地がひっくり返ろうとも、それだけは決して起き得ない」

「・・・なんでですか? 理由を聞かせてください」

「簡単な話じゃよ。ワシ等の国サン・タ・マリノアは“こう言った商品の取り扱いを”主産業としておる。要するに訳ありの品じゃな。

 表沙汰になったら持ち主どころか大勢の人間が処罰される品物をワシ等はふつうに使える武器や防具、道具などにして世に送り返している。

 “世の不浄により穢された清きものたちを禊ぎで洗い落とし、清浄なる楽園へ導かん”・・・。教会の理念にもかなった立派な人助けじゃろ?」

「ただのマネーロンダリングでしょ!?」

「“まねーろんだりんぐ”と言うのが何かは解らぬが、ワシ等の尊い信仰を理解し模倣してくれている存在が他にもいてくれたとは実に喜ばしい福音だ」

「駄目だコイツ等! 神様! この罰当たり共に天罰覿面を! ホーリースマイトを!」

 

 アンタだよアンタ。神様はあんた自身だってば、女神様。

 

「ほっほっほ。若さ故の元気があるのは羨ましいですなぁー。

 ・・・それにまぁ、ぶっちゃけてしまいますとサン・タ・マリノアは教会の中でも外様でしてな? 手柄を立てても横取りされて損な役回りを押しつけられ、こき使われた末に捨て駒として使い捨てられるのは確実なので本国である教皇領には然したる忠誠心も抱いていないのです。

 どのみち組織の都合で使い捨てられる中級幹部のワシとしては、奉仕に対して相応に報いてくれるお金の方がありがたい。

 お金は、持ち主を裏切りません。持ち主の方から裏切らない限りは絶対に。これだけはどうか、どうか心に留めておいて頂きたい・・・!!!」

「ちょっ、なんで辛そうな顔しながら号泣してるんですか腐れ爺! 離しなさい! 尊くて綺麗な私の汚れてない手を、金に塗れた薄汚い手で触らないで握らないでやめてやめてやめてたーーーすーーーけーーーてーーーっ! けーがーさーれーちゃーうーっ!」

 

 いや、元から綺麗なのは外面だけだったんですし、別にいんじゃね?

 

 お金で買えない美貌を無駄遣いする。女神様です。

 

 

 

 

「さて、次はサン・タ・マリノアの冒険者ギルド支部です。前回のクエストでなんやかんやあったとは言え、とりあえずは高難度の依頼を無事達成したのは事実ですからね。冒険者ランクの更新申請をしませんと」

「・・・依頼を・・・“無事”に達成した・・・?」

 

 何ですか女神様? そのもの凄く物言いたげな顔は?

 言っときますけど私、嘘ついてませんからね? ちゃんと“王子の病を治療せよ”のクエストは無事に達成してます。それ以降のは王様から個人的に依頼されたクエストなので冒険者ランクに影響しません。

 記録上存在してないものは、評価基準に影響しないのです。

 

 

 

 

「ようこそ、サン・タ・マリノア唯一の冒険者ギルド支部へ。今日はどのような御用向きで入らしたのでしょう?」

「冒険者ランクの更新手続きです。先日、こちらの方へ隣国の王都支部から使いが来ているはずなのですが・・・」

「少々おまちください。ーー確認がとれました。セレニア様とメガミ様ですね。ギルド支部長がお待ちです、そこの階段を上がって三階の会議室へどうぞ」

「ありがとうございます。お手数おかけしてすいません」

「いえ、こちらも仕事ですのでお気になされずに。

 ーーただ、冒険者ランクの更新には基本的にプロセスがあり、それを経ずに飛び級でランクを引き上げるには特例事項第三条を適用する必要があり、有権者であるギルドの重鎮六名のうち四名の賛同が必須となります。

 それを決めるための更新決定会議ですので、決定までにはそれなりの時間がかかると思われます。予めご了承頂きたく存じます」

「ご親切にどうも。こちらはゆっくり待たせていただくつもりで居ますから、お気になされずに。

 特例で出世したりすると嫉妬やヤッカみを買うのは当然ですからね。配慮するのがギルドとしての仕事です。なので、端から気にするつもりはありませんよ」

「お心遣いに感謝いたします」

 

 

 

 

 

 がちゃ。

 

「失礼します」

「ん? 来たか。君が隣国からランク更新に訪れたセレニアだな? ほれ、更新決定の書類。受付に持って行けば後は自動でやってくれる。

 いらぬ手間を省いてくれて、その上見た目もいいのだからホムンクルスというのは最高だな。発明者には金一封を贈呈したいくらいだよ。無論、ギルド支部の経費でだがな?」

「あ、あれ? 更新決定会議は・・・? あと他の五人は何処に・・・? ギルド支部長っぽい髭で小太りのオッサンが一人しかいないように見えるんですけど・・・?」

「ふん。そこの踊り子装備のプリーストは見た目は良いけど頭は空だな。私は断然ホムンクルス派だが、一応支部長としての義務だけは果たしてやろう。説明してやるから、耳の穴かっぽじってよく聞くのだぞ?

 ーーただ通り過ぎるだけで国内のクエストを受ける気もない余所者の為なんかに、誰が好き好んで手間暇かけて集まるか。こっちだって暇しているわけじゃないんだ。冷やかしなら帰って貰いたいくらいだよ全く。

 わざわざ事前に白紙の招待状ばらまいて、変装して会議室はいってトイレに立って変装して戻ってくるのだけでも手間だったんだ。これ以上タダ働きさせられて堪るかってんだ」

「・・・・・・(死んだ瞳の女神様)」

「他の冒険者共のやっかみなんかも気にせんで良い。もともと奴らが気にしてるのはメンツであって、自分たち下っ端がどう足掻こうと決定が覆らないことぐらいは承知の上さ。形ばかりでも抵抗して見せたという事実さえあれば十分なのだ。

 ・・・まぁ、あまり悪く思わんでやってくれ。新入りや低ランクの冒険者たちにとってメンツは死活問題なのでな。同ランク同士で仕事を奪い合うときに、人気と評判で決められてしまうのは仕方のないことなんだ」

「・・・・・・???」

「仕事を奪うために同ランクの同僚を殺すのはリスクと釣り合わんしな。相手より強いのであれば、依頼されたその時に示せばそれで済むのだし。

 同程度の強さで圧勝しようと思うと犯罪行為に手を染めざるを得ず、討伐対象にされかねんのだ。

 結果、合法的に低ランク冒険者として生きていくためには、メンツを守ると言う形式を守ることが必要になってくる。弱肉強食の社会でも“社会”である以上ルールはあるし、破れば罰される。どこの世界でも変わらぬ現実だよ。

 迷惑をかけられる側の君たちに分かってくれとまでは言わんが、多少は大目に見てやってくれ。「負け犬が吠えていやがるぜ」ぐらいの気持ちで無視してくれればそれでいい」

「了解しました。こちらは先刻承知で来ていますのでお気になさらず。

 ーーそれより、もう一通の書状のお返事は?」

「ん? ああ、これか。腕のいい武器改造専門の鍛冶師を紹介してくれと言う話だったな。注文にぴったし合う店がこの街にはある。まぁ、それを承知で選んできたのだろうがな。ここに紹介状と地図を用意しておいた。

 行けばすぐにわかる作りーーいや、着けばすぐにわかる作りの内装になっておるよ。せいぜい度肝を抜かれてこい。グッドラック」

 

 

 

 

 

 その後、私たちは会議が続いている風を装うためいったん裏口からでて鍛冶屋へと向かいます。更新手続きは帰り際にでも。

 

 

「お、おおおおお!? こ、これは如何にも名工の住まう住居って感じがするボロ屋じゃないですか!

 息子に先立たれて酒におぼれる毎日を過ごしている年老いた伝説の鍛冶師が住んでそうな潰れかけの家屋! くぅーっ!燃えてきたぜーーっ!!」

「アホやってないで早くはいりますよ女神様。置いていかれたいのですか?」

「あ~ん、待ってくださいよマイダーリン♪ 私をパライゾへ連れて行ってー♪」

 

 

 

「・・・なんだい、お前さんらは・・・。なに? 儂に武器を打ってほしいだと・・・?

 帰ってくれ! 儂はあのとき全てを失い、槌を打つ気力も無くなったんじゃ・・・。今の儂は伝説の鍛冶師などではない。ただのシワガレたろくでなしに爺に過ぎんのじゃ・・・」

「きゃーっ♪ 私好みの超王道テンプレ台詞キタ━(・∀・)━!!!!

 聞きましたかセレニアさん、今の台詞!? 「今の儂は伝説の鍛冶師などではない」ってこれ、完全に歴史上の偉人だった過去を隠してる人の台詞ですよね!?

 私はこういう展開を待っていた!」

「お爺さん、これをどうぞ。ギルド支部長さんからの預かり物です」

「ん? これは《メンバーカード》・・・ふ。成る程そうかい。お客さん、《そっち側》の人間かい。

 いいぜ、ついて来な。案内してやろう」

「あ、あれ? なんかお爺さんが本棚の本を一冊引いてから花瓶を傾けてベッドをずらしたら地下へと続く階段が・・・まさかこれは!?」

「ああ、そっちは官憲に見つかっても良いように作った偽装だ。本物はこっちの裏口からでて少し歩いた高級ホテルの地下にある。この業界もいろいろ規制が厳しくなってきててな、地下に潜ったモグラとして細々とやっておるよ」

「本格的な闇市場の気配キタコレー!(>ュ<。)ビェェン」

 

 

 

 

 

 

「さあ、サン・タ・マリノア・アンダーグラウンドへようこそ! どんな訳あり商品だろうと誰にも難癖付けられない完全な別物に生まれ変わらせて見せますぜ!

 マネーロンダリングの本場の力、お見せ致しやしょう。うえっへっへ」

「ああ! さっきまで伝説の鍛冶師っぽかったお爺さんが別の意味で伝説に名を残しそうな極悪人顔に!?

 て言うか今、マネーロンダリングってハッキリ言いましたよね確実に!」

「これなんですが、改造できますか? 一応こちらの注文としましては着火と弾込めの手間さえ軽減できれば十分すぎるのですが・・・」

「ふーむ、これはなかなかに珍しい品ですな。少なくとも私には無理そうですので、サン・タ・マリノア1腕のいい違法改造の達人職人をお呼びしましょう。街の至宝であり、この世に二人といない凄腕なんですが特別に。

 ただ、その分お値段の方が少々・・・」

「船旅の途中、私の見た目だけを評価して奴隷売買を持ちかけてきた奴隷商人さんを担保にしたのでは足りませんか? 支払い用の金貨が詰まった袋の横に置いてある箱の中で宝石だらけの服を着たままモガいてますけど?」

「毎度あり! 金貨に色は付きませんからお気になされずに! 直ぐにでも職人を参りやす!しばらくお待ちくだせぇ!

 サン・タ・マリノア1腕のいい違法改造の達人職人たちを“十人ばかし”呼び集めてきやすので!」

「職人・・・たち!? 十人!? この世に二人といないって今さっき言ってましたよね!?」

「いやその・・・へへへ、あれはまぁ、宣伝広告とでも言いますか・・・。値上げ交渉では最初に手の内全てを誤解させるのが基本ですぜ?」

「聞きたくない! もう聞きたくないし居たくない! この国イヤ! もう女神ちゃん国に帰るーーっ!!」

 

 国って・・・どこの? 女神様の国だから天国? それとも惑星ベジ○タ?

 もしくは・・・M78星雲とか?

 

 

 

 

「ふーむ、これは凄い。こいつを作った奴は間違いなく天才ですぜ旦那。とうてい俺たちの腕じゃ手に負えやせん」

「・・・おい、まさかお前ら、ここが“出来ませんでした”の通用する世界だなんて思っちゃいねぇだろうな? 払って貰った分の仕事が出来ない場合はお前らだけの死体じゃ済まされないんだぜ? わかってんのかアアん?

 裏家業は信用が全てなんだ。一度でもできないと言ってしまえば直ぐにも廃れる。

 サン・タ・マリノアが、俺たちの故郷が無くなっちまうんだよ! お前らそれを分かっていて本気で言ってやがるのか!?」

「へっへっへ。勘違いしねぇでくだせぇ旦那。俺たちゃ道をはずれた鍛冶師集団だ。まっとうな仕事では素人さんにだって勝てるかどうかわからねぇ。

 ただし、それは正攻法で挑んだ場合はの話だ。違法鍛冶師が合法的な武器作りで勝てる道理がねぇ。蛇の道は蛇使いが誰よりもよく知っているもんですぜ?」

「・・・なるほどな。ーーそれで? 蛇だけが知ってる道を蛇を利用して案内させて一網打尽にするお前らから見てそいつはどういう武器なんだ?」

「端的に言えば、《人を殺すためだけの兵器》ですね。それ以外に言い様がねぇ。

 もちろん、人を殺せる以上はカモだろうと鷹だろうと当たれば殺せるんでしょうがね。それでもこいつの真価は人殺しに使われてこその物だと俺たちは確信してます。

 正直、模倣して大量生産出来れば大もうけ間違いなしだと思ってるんですがね・・・。俺たちみたいな外法の徒じゃ無理そうなのが残念でなりませんよ」

「ふん。そうだろうさ。鍛冶の里から追い出されたり牢屋にぶち込まれてたのを無理矢理引っ張り出してきただけのお前らにそこまでは期待しちゃいねぇよ。

 ーーで? どうなんだ? ハッキリ答えて見せろや」

「では、ハッキリとお答えしてーーめちゃくちゃ俺たちみたいなのと相性が良い武器です。使われてる技法はもとより、使い方が世界中のどの武器とも違っているから違法に当たりようがねぇ。いくらでも禁忌の技法や製法が使いまくれる。これほどやる甲斐のある仕事は滅多にありやせんぜ? 全力で殺らせて頂きやす!」

「よし! この俺が許してやる。遠慮なく殺れ!」

『ヤー・ヘルコマンダール! クリーク! クリーク! クリーク!』

 

 

 

「大丈夫ですか、女神様? 顔色が真っ白ですよ? ・・・灰みたいに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・(真っ白な灰になって燃え尽きてます)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、旅立つ準備は完了。後もう一つだけ欲しいのは馬車なんですが・・・無意味でしょうねぇ。だって私も女神様も御者役がこなせませんから。

 

 あー、誰か適当な御者役の仲間キャラクターが加入しないもんですかね?

 

 

「そこ行く二人! しばし待たれよ!」

「「・・・へ?」」

 

 不意打ちでかけられた声に振り向けば、そこには何となく見覚えがある気がしなくもいない風貌の侍っぽい雰囲気をまとった女の子が、ボロボロになった着物を着て立っていました。

 

「某は、東の果てより武者修行のため旅にでた正義の武者! 訳あって路銀を奪われ汚名を着せられ獄中の虜囚となっていたのだが、国の混乱に乗じて脱出に成功したばかりの身!

 名も知らぬ旅人よ! 突然で驚いているだろうと思うが・・・頼む! 拙者を次の国まで供として連れて行ってはもらえまいか!?

 某には倒さねばならぬ二人組がいる! 決して許せぬ悪逆の徒がいるのだ! 奴らをこの手で裁くまで某は国へと帰るわけにはいかぬのだ! それでは朝令暮改の度が過ぎている!

 それ故に・・・後生だ! 頼む! この目的を達成した暁には某はお主の下僕にでも奴隷にでもなる覚悟は出来ているのだ!

 御者でも荷物持ちでも何でもやるから何卒・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャン!

 

 

「ほい、終了。奴隷票と《服従の首輪》を付け終わったよ。これで、この嬢ちゃんはお前さんの所有物だ。命令には逆らえんし、復讐なんて論外だ。

 大昔に奴隷制度のあった時代に使用されてた呪法で、文明国では違法とされてる類の魔法だが、日陰者の冒険者が奴隷を持ってようが誰も気にしない。

 そもそも奴隷制度が残ってる国からやってきた凄腕冒険者だって少なくないからな。文化の違いに関して多国籍な冒険者に理解を求める方が今時だと珍しい。せいぜいが内心で見下されたり陰でヒソヒソ笑われるぐらいだろう。

 つまりはいつも通りって事だな、気にするだけ損だ」

「どうもです。お代はこれだけで宜しいですか?」

「毎度。・・・しかし、この嬢ちゃんはアホなのかね? 街から一歩でも出たら無関係、全ては自己責任の冒険者同士の問題に街と教会と職人組合が関わってくるはずないなんて言う建前を本気で信じきって戦闘を開始するなんてな」

「まぁ、少しだけ驚きましたね。・・・彼女が刀を抜いた途端に頭を殴られ気絶させられ、人畜無害そうな若い衛兵さんに片足を捕まれたままズルズルと街中へ引きずられていく彼女を見せつけられた時にはね・・・」

「へっへっへ。建前ってのは平等に守られるもんじゃねぇのさ。高い買い物して気持ちよく送り出したお客様と、禄に買い物もしないでゴミ箱漁りながら食いつないでた浮浪者の若い女。

 同じ権利が保障されてると思う方が、頭がおかしいってもんよ」

「なるほどね。所変われば品代わり、国が変われば法律も倫理観も価値観も変わるものですねぇ。ーーあ、馬車の準備は整いましたか?」

「おうよ、準備万端。いつでも行けるぜ。もう行くのかい?」

「ええ、余計な時間を浪費してしまいましたので次の街まで急ぎたいんですよ」

「そうか、元気でな。達者で暮らせよ。生きてさえいれば再会できる可能性は幾らでもあるからな。その時お互いに覚えていたら酒でも飲みかわそうや」

「なかなか夢のある話ですね。では」

「おう、良い旅を。ーーほらっ! 早く発車させねぇか!役立たずの愚図めが!

 今のお前はいつ売り飛ばされても文句は言えねぇ立場なんだぞ! 分かってんのか!? 分かったらさっさと行きやがれ、この雌豚侍がぁ!」

 

 

 

「ううう・・・拙者は正義の侍のはずなのに・・・正義が、正義がぁぁぁぁぁ・・・・・・(ToT)」

「早く行けってんですよ、この奴隷。あ、私のことは偉大なる尊い女神様って敬意を込めて呼ばないと駄目よ? 少しでも生意気な口聞いたらお仕置きだからね?」

「うううう・・・・・・・・・正義が悪の女王に支配されるなんて~・・・・・・」

「おーほっほっほっほ! 負け犬が吠えてるわ! すっごく気持ちいい! 久しぶりの万能感よ! 気晴らしに何も失敗してなくても、お尻叩きのお仕置きをしてあげようかしら? おーっほっほっほっほっほっほーーーごえっほごえっほ・・・む、咽せました・・・」

 

 

 

セレニアのパーティーに新たな仲間が加入した(奴隷を購入した)!

セレニアは《違法改造火縄銃》を手に入れた!

銀行預金がだいぶ減った! その分、持ち歩ける所持金が増えた!

 

次なる冒険の舞台へ続く!



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第14章

ようやくの正式更新です。侍ガールが仲間に加わった事で話の展開に幅が広がりましたし、これからは更新速度を優先した短い話を短期間で連続してと言うのも悪くないかと思い、今回のは短めです。

容赦ない子セレニアの暴君ぶりをお楽しみください。


 横暴な領主に仕える部下の兵士に追われている少女なり子供なりを助けてあげて、悪徳領主の不正を暴いて勧善懲悪。

 王道展開であり、物語の基本ではありますが・・・。コレって結構ヤバい展開ですよね。王国正規軍の兵士と剣を交える国籍不明、身分不詳の冒険者たち(場合によっては異種族もいたりします)どう考えても事案です。むしろ嘘偽り無く、正真正銘の武装テロリストではないでしょうか?

 

 その上、追われている子供なり少女なりはたいていの場合スリや万引きなどの現行犯として追われていることが多く、実際に相手から盗んだ財布を懐に隠し持ってたりします。「悪徳領主が重税をかけるせいで家が貧しく、親が病に冒されたので薬代ほしさに・・・」そういうのが定番ですよね。比較的まっとうな理由だとは思いますし。

 

 ただねぇ・・・だったらなんで盗む対象として外国からきた冒険者を選ぶんでしょうか? 法律で守ってもらえる立場でないのは同じですし、相手の方が強いし武器も持ってますよ?

 法に縛られない無職のフリーターで、腕っ節だけが自慢の冒険者から財布盗むぐらいだったら隣家の貧乏人一家でも皆殺しにして財貨を奪い、奪った六割を役人に献上した方が安全だと思うんですけどね。

 

 

 

 

 さてはて。ここまでの件で皆様方にはもう状況は概ね、おわかりになられているのでしょう?

 そうです。ここ最近ではすっかり定番化しているセレちゃんの回想説明からスタートする「実際に私たちが今現在体験している真っ最中です」な展開ですね。

 今回の主役は、この前の国でパーティーに加入した(奴隷として買い取った)侍少女のトモエさん。

 宿場町に到着した早々、走ってきた子供と正面衝突しそうになって避けたら財布スラレていることに気づいて慌ててらしたので、奴隷契約魔法で私の所有物に持たせている手荷物扱いの彼女の財布を検索したら直ぐに見つかりました。

 

 怒り顔で走っていった彼女の後を歩いてついて行ったら、この始末です。

 

 

「お主等! この様な子供に寄ってたかって恥ずかしくないので御座るか!? 国に仕える兵として、王に忠誠を誓った士として義にもとるとは思わぬのか!?」

「へっへっへ。俺たちゃ、領主様に仕える私兵さ(ようするに民間から雇い入れた足軽です)国だの王様だのとは縁遠い。

 それにだ。この地方を支配する地位と権力を領主様に与えたのは王様なんだから、領主様の命令に従うことが王様へ忠義を尽くすことに繋がるってぇもんじゃねぇか」

「戯れ言を!」

 

 いや、めっちゃ正論でしたよ今のは。だって封建制ですからね、この国。地方を納める貴族は、貴族領の王様で合ってます。

 

「お嬢ちゃん、犯罪者を庇い立てすると只じゃあすましてもらえねぇぞ? ましてやアンタは見たとこ、この国の住人じゃあねぇ。法で守られてねぇ外国人が国に仕えてる兵士と事荒立てたなんて知られたら、こりゃあ大事だぜ?

 悪いことは言わねぇから、大人しく家に帰って糞して寝ろ。子供はベッドで夢寝る時間が大人よりも多く必要なんだよ」

 

 ・・・なんでかなぁ~。

 この異世界の悪人さんって、態度と口調が荒いだけでめっちゃくちゃ言ってる事まとも過ぎてて反論できねぇー。勧善懲悪どこ行った?

 

「五月蠅い!聞く耳持たないで御座る! 正義の役目は悪を切る! それのみで御座るよ!」

 

 うん。ものすっごい人切り思想だこの人。例えるなら、狂信的な正義の味方思想を持った人切り以蔵。実際の彼は思想を持たない暗殺兵器みたいな人だったらしいので。

 

 え? 新撰組? 京都の治安維持部隊が「正義のために!」と問答無用で殺しまくってたら首になっちゃうじゃないですか物理的に。

 彼らは所詮、雇われ者の喰詰め浪人でしかないことをお忘れなく・・・って、あれ? それだと今まさに私の目の前で新撰組VS人切り以蔵のバトル展開に・・・ヤバいですねこれは。トモエさんが本格的に正義を自称する狂ったテロリストに見えてきちゃいましたよ。どうしましょう・・・?

 

「いや、どうしましょうもなにも、助けに入る以外にはないんじゃありません? 今のあの人って、セレニアさんの奴隷で所有物待遇なんでしょ? 奴隷が仕出かした不始末は持ち主に帰せられちゃうんじゃありません?」

「私もそう思っていたので予め調べておいたのですが・・・どうにも中途半端な感が否めないのが現状の異世界な様でしてね・・・」

「と言うと?」

「奴隷は持ち主の所有物で財産で道具扱い。生き物ではないですし、人間様扱いでは断じてないんです。極端な例を挙げるなら出入国の検問時に奴隷の項があって、剣や薬草と同じ《道具》の中に入れて書き込んでも咎められない国まであるらしく・・・

 まぁ、端的に言っちゃいますと忘れてしまって宿に置いていった奴隷が人を殺したとしても置き忘れられてたナイフが偶然刺さったような扱いであり、持ち主が名乗り出さえしなければ忘れ物のナイフをどう扱おうと取得者の自由と言うことに」

「・・・自転車の防犯登録より適当じゃないんですか・・・」

「ですよねー。ちなみに奴隷の料金は日本円に概算しますとおおよそ二万五千円くらい(超どんぶり勘定)で、奴隷登録料はタグ付けるだけだから二百五十円くらい(超適当)に・・・」

「ちょっ!? シティサイクルより安いんですか彼女の命って!? マウンテンバイクやロードサイクル、BMWとかなら二十万円近くするんですよ!?」

「現代日本は飽食の時代、中世ヨーロッパ風異世界は飢餓で日常的に人が死ぬ時代」

「現代日本の文明パネェーーーーっ!!!!!」

 

 いや、全く以てその通りだと私も思います。物で満ちあふれた現代日本の資本主義経済と民主主義に乾杯。

 

 ーーとは言え、そのどちらともが近代まで時代を下らなければ発生しえない代物ですからねぇ。無い物ねだりをしても仕方がないので、一先ずは有る物で急場を凌ぐといたしましょう。応用もまた、近代に至るまでの過程で生み出した人類文明の所産です。

 

 

 ばーーーーーーーーーーーーっん!!!!

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!

 魔法の爆発並にデカい音と光が俺たちの間近でーーーーーっ!!!!!

 い、いったん退却ーーーーーっ!!!!!!!』

 

 

 

 ・・・・・・そして、誰もいなくなってもらいました。

 

「・・・あれ以来、味を占めましたね? セレニアさん」

「いずれは通じなくなるんですから、使えるうちに最大限使っといた方が元取れるでしょ?」

「元て。あんたそれ、タダでがめてきた代物なんですけどね・・・しかも王族から脅し取った挙げ句、偽物かえして本物をガメると言う横領によって・・・」

 

 あー、あー、私はなんにも聞こえなーい♪

 

 

「・・・で? トモエさんは、その子供をどうなさるおつもりですか? 軽犯罪とはいえ、罪を犯した罪人ですよ彼は。貴女の正義に悖ること甚だしいと言うことに成りはしませんので?」

「子供を襲う大人がいたら、大人が悪で、子供はかならず被害者で御座る!」

「あ、そう」

 

 もう知らん。どうにでもなーれ、と。

 

 

 

 

 

 時と場所が移り変わって、宿屋の一室に今の私たちは宿泊中です。

 

「ほら、お腹が空いているので御座ろう? スープだけでも飲まないと体を壊すで御座るよ?」

「・・・・・・(ふるふるふる)」

「でも・・・」

「いいじゃないですか、トモエさん。食べたくないと言っている子供に食べなきゃ体に悪いからと無理矢理食べさせようとするのは、大人の傲慢と言うものですよ?」

「されどセレニア殿! このままでは坊が・・・!」

「食べれる物があるのに食べないで死ぬのは個人の自由。自ら死を選んだ人に掛けるべき言葉は『愚か』の一言だけでよく、感じる感情は『理解できない』だけでいい。それが生きると言うことですよ」

「セレニア殿・・・! 流石にそれは・・・!」

 

 トモエさんが気色ばんで詰め寄ってくるのを手で制してから、私は女神様へと片手をかざし、

 

「ちなみに食べたいなら急いで食べ始めた方がいいですよ? 躊躇ってたら二人の分まで全部平らげちゃう戦闘民族な女神様がいらっしゃいますからね。

 食べてるときの彼女に弱者救済の概念など期待しても無駄です、万人平等の早い者勝ちが食卓という戦場での彼女が貫く信念です」

「・・・・・・(ガツガツガツガツガツ!!!!!)」

「「・・・・・・」」

 

 真っ青な顔して慌ててテーブルへと向かうトモエさんと、斜に構えて厭世的な態度と表情を保ち続けていたお子さまも大急ぎで自分に割り当てられてた取り分を確保するためテーブルへと駆けつけました。

 

「ちなみにですが、あなた方がノロノロしている間に半分ぐらいは奪われてしまった後ですよ?」

「「・・・・・・(; ;)ホロホロ」」

 

 食料を奪い合って戦争していたのが中世ですからねー。早い者勝ちは現代日本でならともかく、中世ヨーロッパ風異世界では生きていく上での真理です。

 

 慣れてる私はさっさと食べ終えていましたので、食後のお茶の香りを楽しみながら飢えた彼女らが目に涙を浮かべながらも食べ終わるのをのんびりと待ち、最後の一切れまで胃袋に収め終わるのを見届けてから食休み時間に入ったのを見計らって声をかけて話を振ってみました。

 

「・・・それで? 君はどうして盗みなどに手を染めたのです?」

「・・・・・・」

 

 途端に彼の顔に警戒の色が浮かび、「自分以外は、この世すべてを信じない」とでも言いたそうな雰囲気を全身から発散し始めました。

 良いですけどね、彼の都合なんか別にどうでも。私は聞きたいことを聞くだけであり、答えるか否かは彼の自由であり勝手。好きにすればいいんですよ。

 

 でもまぁ、ただしーー

 

「・・・どうせお前等も他の大人たちと同じで、最後には俺を見捨てるんだろ?

 だったら俺は何も言わない教えない。俺は一人で生きていくんだ。もう二度と大人なんて信じないーー」

「では、先ほどの食事代を払ってください」

「信じる前に裏切るなよ!? 今まで会ってきたどの大人よりもえげつないなアンタ!?」

「情報料として払ったつもりで食べさせてあげただけですからね。奢ってあげたつもりは微塵もありませんので、払う気ないなら帰ってください。私たちは宿と役所に食い逃げ犯の捕縛願いを届け出なくてはなりませんので忙しいのです。

 ああ、もちろんですが捕まったときに支払う保釈金がなかった場合は奴隷として他国に売り払うつもりでいますので、そのおつもりで」

「こいつヤバい!マジヤバい! 俺なんかより全然ヤバい!下手したら領主よりも外道な奴が、どうして美少女冒険者なんかやっているんだよーーーっ!!!!」

 

 知りませんよ、そんなこと。隣で食べ残しがないか眼を皿のようにして探し回っている、私を転生させた女神様にでも聞いてください。

 

「さ、奴隷として売り払われたくなかったら、ちゃっちゃと吐くもの吐いちゃってください。こっちは何時までも暇してないんですからね。

 ーー言っときますけど、私は善良な類の人間ですよ? 魔術師たちの中には物好きが多いらしくて新鮮な死体が欲しいとか、違法にならない人体実験の材料を提供して欲しいとか、そういう依頼も冒険者ギルドのボードには貼ってあるんですからね?」

「喜んで知ってること全部吐かせていただきまっす! だからお願い、売り飛ばさないで!」

「はい、良い子ですね。人のお願いを素直に聞いてくれる男の子は将来女の子にモテるようになりますよ? 都合が良いですからね。

 利用されて捨てられないよう気を付けながら、上手い具合に世渡りしつつも幸せに長生きしてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鬼だ。鬼の生まれ変わりがいるで御座る」

 

 注:地球から異世界を救うために転生召還された転生勇者です。

 

つづく



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第15章

お笑い展開を考えてたのに「いせスマ」原作を4巻まで購入してしまったせいか、作風に合わない恋愛要素を入れてしまいました・・・反省。

次話からは気を付けるぞ!(ふんす)


 カイル君(先ほど助けた(?)少年の名前だそうです。偽名かもしれませんが、些細なことでしょう)が訥々と語り出した悪徳領主殿による圧政問題は、元を正せば魔王軍による魔物の被害に端を発していたんだそうです。

 

「「魔王軍? 魔物による被害?」」

 

 私と女神様は思わず異口同音にそう呟いて目と口をポカンと開けてしまい、神妙な顔で話し始めたばかりのカイル君のみならずパーティーメンバーで共に戦う仲間でもあるトモエさんとも全然気持ちを共有できない心境に陥ってしまいました。

 

「そうなんだ・・・あの、人間を遙かに越えた力を持った魔王の部下がこの国を征服するために派遣されてきてから領主様は変わっちまった。アイツ等さえこなければ・・・畜生め! ーーって、なんでアンタらモノすげぇ驚いた顔してるんだい?」

「「いえ、別に・・・」」

「「・・・???」」

 

 面妖そうに疑問符を浮かべて私たち二人を見つめてくるトモエさんとカイル君の視線から逃れるように、顔と目を逸らしまくる顔中冷や汗だらけな私と女神様。

 

 い、言えない・・・。これは流石に言うわけには絶対いきません。

 

 まさか・・・・・・魔王から異世界を救うために転生召喚された転生勇者が三ヶ月近くの長きにわたって魔王の存在自体を忘れかけていただなんて・・・!!!!!

 

 生活するのに忙しくて使命を忘れ果てるだなんて、世知辛いにも程がありすぎます!

 これは異世界転生モノの主人公にあるまじき、酷すぎる展開だぁぁ・・・!!!

 

 内心で密かに猛省している私に気付くこともなく(当たり前ですけどね・・・)彼の話は進んでいきます。まるでプレイヤーの都合などお構いなしで進行していくクリックする必要のないボイスありRPGのイベントシーンのように・・・!!!

 

「元々俺たちの町は貧しい中でもみんなが助け合って暮らしていた良い村だったんだ・・・。でも、アイツが来て「滅ぼされたくなければ一月に一度美しい娘を生け贄に差し出せ」と要求してきて、国に報告したのに王様からは何の返事も帰ってこない。

 俺たちも領主様も困り果ててた中で助けてくれたのが隣の国の王様だった。あの人は領主様の親戚だとかで「お前たちの国の王に代わってワシが兵を派遣して守ってやろう」って言ってくれた。

 派遣されてきた軍隊によって『魔王様の手先』って名乗ってたモンスターは退治されて町は救われたんだけど、その後領主様は人が変わったように残忍な暴君になってしまって俺たちを力づくで支配し始めた。派遣されてきた軍隊も最初は優しかったのに今では横暴そのもので、あちこちから傭兵を集めてきては町が唯一持ってた鉱山の中にあったとかいう『テンネンシゲン』ってのを金に換えて好き放題し始めちまった・・・」

 

 ・・・うん、とりあえずの感想として適切かどうかは分かりかねますが・・・まさかの出落ちで終わっちゃいましたよ『ピサロの手先』ならぬ『魔王の手先』! しかも人間の軍隊に討伐されるというしょうもない形で!

 挙げ句の果てには明らかな海外派兵の口実に使われているだけの魔王軍・・・この世界の人間国家はどうにも魔王軍への対応が冷淡だなぁ~。政治に利用しているだけな気がしてきましたよ。

 あれですか? 天変地異とかの自然災害と同じ扱いなのですか?

 

「・・・今思いだしたんですが、弾道ミサイル対応策も災害対策センターの人がTVで紹介していたような・・・変なところで現代地球世界とリンクしてますよね、この異世界。

 ひょっとして此処、遙か未来で文明崩壊した後の地球世界だったりしませんか?」

「さ、さぁ・・・? 正直な話、そこまでは調べてなかったと言いますか、私好みでファンタジックな異世界だったらどこでも良かったと言いますか・・・ぶっちゃけ世界設定よりも雰囲気重視なプレイスタイルなものですから!」

「死んでしまいなさい、取説読まないでメーカーに苦情の電話かけてきそうな駄女神様」

「酷すぎる!? 分かり易く具体的に指摘してくるから、カズマさんより尚ヒドい!」

 

 ムンクの雄叫びを上げる女神様ですが・・・こちらもよく思い出してみたら彼女の趣味を実現させるために殺されたんですよね、前世の私って。なんか今更になってビミュ~な気分になってきたんですけれど・・・。

 いやまぁ、今がイヤという程でもないですし、嫌がっても帰れるわけではないので別にいいっちゃ良いんですけどね別に・・・。

 

「しかし、思っていたより大事になってきましたね・・・まさか他国が介入してきていようとは・・・王国政府はどのように対応してきているんです?」

「え? 王様かい? アイツだったら数ヶ月に一度『酷使』とかなんとか言う、キラキラの服着た貴族を派遣してくるばっかりで何にもしてくれないけど?」

「『国使』を派遣、ですか・・・」

 

 私はつぶやき、手元に広げた厚紙を見ながらため息をつきました。

 それは、お三方へのオヤツ代わりと言う名目で先ほど購入してきた軽食を包んでいた包み紙です。中にはビッシリと文字が書き記されていて、その内容は隣国による領土内での不当な武力支配の実体を記載したもので、

 

『圧政者の支配から祖国を解放するには君たちの力が必要である。

 騙された上に利用され、愛する家族と人権を踏みにじられた国民たちよ。悲しみを怒りに変えて今こそ立ち上がるのだ! 祖国は、諸君等の力をこそ欲している!

 立てよ、国民! ビバ・レストレーション!』

 

 ーーとの一文で結ばれておりました。王政復古の音がする~♪

 

 この時点で誰もがお気づきでしょうが、この紙は政権側が行っているビラ工作。そのビラが軽食の包み紙に使用されているのは国民の識字率が低すぎるから。

 どんなに尊い思想も輝かしい未来も、人として与えられて当然の権利の保障であろうとも、意味を理解できなければ相手にとっては無価値な文字の羅列に過ぎません。

 死んでも葬式して弔ってもらえる訳でもない牛さんが念仏を聞き流すのは、与えられて当然の権利なのですよ。

 

「しかも、この紙。時代的に考えて羊皮紙を予想してたのに、そこらの雑草から作れる原始的な紙じゃないですか・・・誰が考えついたんでしょうかね、この時代の先いく超技術・・・。

 おまけに書かれてる文字は全部同じサイズで同じ筆跡しているし・・・活版印刷つかって包み紙に使われてしまうビラ工作をばらまき続けるとか、オーバーテクノロジーの使うべき場所をどんだけ間違えたら気がすむんですかこの国は・・・」

 

 富国強兵したいんだったら国民の基礎学力向上させんかい。出来るだろ、こんだけ向いてる技術が有り余っているんですから。王権を維持するために国民を無知な状態においておく政策とるのにも程がある。

 春秋戦国時代の奏より進んだ技術を持ちながらも、王政復古主義的思想の王様が奉ずる『教育を受けさせる者は国が選ぶ』という19世紀のカトリック並に教条的な教育理念が政策として用いられた結果、マキャベリが危惧していた自分の国を自分たちの力で守ろうとしない国民が生まれた・・・。

 

 そして更にーー

 

 

「軽食屋の女将さんから、こんな物を渡される情勢下じゃねぇ・・・」

 

 ポケットから取り出した一枚の魔法紙。記されているのは異世界風の住所のみ。

 店番してたオバチャンに「おや、可愛らしい。見ない顔だけど旅人さんかい?」と聞かれたので「駆け出し冒険者で、安全で実入りの良い仕事はないかとギルド支部のある街を目指している最中です」嘘ではないけど真実でもない答えを返しておきました。

 嘘というのは真実の別解釈ぐらいに留めていた方が、都合良く誤解してくれるから楽なのです。

 

 案の定、オバチャンは。

 

「そうかい。それじゃあ雇われ兵士ばかりが彷徨いてるこの情勢下だと仕事にあぶれて困るだろう? これも何かの縁だし仕事を斡旋してくれそうな奴の事務所を紹介しといてあげるよ。なぁに、四人分も一度にまとめて買ってってくれる客なんて珍しいから、気まぐれを起こしただけさ。気にしないで良いよ」

 

 そう言って大きな体躯を揺すられると、大きな声で快活に笑い出しながら店の奥へと入っていってしまわれました。

 

 そして現在。あらためて紙に書かれた数字と、Cランク以上になって一定の信用を得た冒険者には閲覧が許可される危険人物に関してのデータを見比べてみればドンピシャです。

 密偵ドローザ。革命軍の一員であり、数々の紛争地域で活躍したらしい潜入工作のプロで、暴動が起きそうな土地に先回りして陣取ると周囲にとけ込みながら捨て駒となる冒険者を集めて回り、表向きは革命軍ならぬ『解放軍』の拠点となる場所で訓練を施し施設軍隊を作り上げて政府軍と反政府軍の戦いに第三勢力として介入。

 

 紛争を泥沼化させていきながら両陣営を疲弊させての共倒れを狙うと言う、自分の手を汚そうとはしないやり口のせいで革命軍内部での評判は決してよくはないとのことですが、それと同時に革命と改革の意識は誰よりも強く純粋であり、捨て駒として犠牲になるのが滅ぼすべき邪悪『国家権力にしっぽを振って餌をねだる』冒険者の卵たちに限定されているのもあって能力面での評価は高いようでもありますね。

 

 なんでも王位を巡って勃発した王族同士の内紛で家族を皆殺しにされた経歴の持ち主だとかで、こと権力者同士で行われる詰まらない内輪もめを大規模化して暴動から内紛にまで発展させる手腕においては右に出る者はいないそうです。

 

 完全に本末転倒しているとしか思えませんが、人それぞれですからね~。トチ狂った復讐鬼の相手なんざ火縄銃一丁で事足りるわけがありません。ここは一先ず・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「逃げましょう。国外に。

 泥沼の内戦なんて、勝っても負けても恨み辛みを買うばかり。戦略的に何の価値もありませんから、今は全力逃走こそが一番の良策です」

 

 

 私が決断に至るまでの思考と、その選択肢を選ばせた前提条件となる情報を提示した後で口にしたゴクゴク真っ当な結論に、何故か皆さんからの反応は、

 

 

 

『え、ええええええええええーーーーーーーーっ!?』

 

 

 

 

 

 ーー絶叫による、驚愕の雄叫びでした。

 

 ・・・・・・何故に・・・・・・?

 

 

「ち、ちょちょちょーーーーっと待ってください、セレニアさん! 今のはさすがに聞き捨てなりません!」

 

 女神様が全力で挙手して意見を言いたそうにしてたので、指名して上げました。

 私はその間も、出立準備に励んでます。

 

「なんですか? 今なんておっしゃいましたか? 近く内紛が発生するから逃げるとか、そんな勇者らしからぬことを仰っておられたように聞こえましたが聞き間違いですーー」

「その通りですが、それが何か?」

「否定して欲しいという意味合いの台詞にすら言い終わらせてもらえねぇぇぇぇっ!!」

「待ってくれ!」

 

 叫ばれる女神様を蚊帳の外において準備を進めていく私に制止の声をかけたのは、驚いたことにカイル君でした。いったい何があったというのでしょう?

 

「どうされたのですか? カイル君。別に私たちが何時どこへ行こうとも、一人で生きていくと決めた貴方にはかかわり合いのないことでしょうに」

「そうだよ!そうだけどさ! ・・・でも、だからって生まれ故郷のふるさとが戦争に巻き込まれようとしているって時にジッとなんかしていられねぇんだよ!」

 

 雄々しく男らしさを示したカイル君は、私の前で身体をくの字に折ってお辞儀をし、精一杯の懇願の意を示した後に、

 

「頼む!助けてくれ! 俺にできることは何でもやるし、何でも用意する! 俺の命なんかでよかったら喜んでくれてやる! だからーー」

「無理です。絶対にね。私たちの戦力が加わった程度ではどうにもできませんし、なにより私たちには組織による後ろ盾がない。それらを得るには三つの勢力の内どれかに組みして成り上がる以外に手がありませんが、そうすると必然的な帰結として敵兵の・・・つまりは君の祖国の人たちを大勢殺さなくてはならなくなります。逆に殺されなければ、ですけどね。

 どのみち平和的に解決できる段階は過ぎてしまっていたようですから、今更どうすることも出来はしないでしょう。一先ずは君だけでも逃げ延びて、命を全うできることを喜ぶべきでしょうね」

「ふざけるなっ!!」

 

 せっかくの好意も彼には届かず、怒り顔で私を睨みつけながら、

 

「戦争の元凶になってる悪い奴がいるんだろ!? そいつを倒せば戦争は起きないんだろ!? だったら俺が倒してやる!

 倒すべき悪を倒せば、戦争は起きなくなるから問題はない!」

 

 どこかのアフター・コロニーで聞いたような気がする言葉だなぁー。

 

「では、誰を倒すと言うのですか?」

「悪だ! 戦争を起こす元凶の悪! そいつさえ倒せば戦争を起こさずにすむ悪を、俺は倒す!」

「だから、その悪って言うのが誰なのかを聞いているんですよ。

 祖国の王ですか? 敵国の王ですか? 敵国の現地軍司令官に過ぎない領主さんですか? それとも起きた後で戦争を煽ろうとしている革命軍の工作員さんの事ですか?」

「そ、それは・・・」

 

 途端に勢いを弱めた彼に、私は一歩近づいてから上から目線で相手の眼を、まっすぐ見上げます。・・・身長低いって、こういう時には格好悪すぎる・・・。

 

「仮に、です。もし仮に侵略してくる敵国の王を倒したとしましょう。その後どうなると思います?」

「それは・・・戦争が終わって平和が戻って・・・」

「きません。むしろ今度は攻め込む側に回るでしょうね。侵略された側にとって憎むべき怨敵である敵国の王が倒されたというのに平和外交するバカな政治家など実在しません。

 愛する家族を殺されたのだから、敵国兵士の愛する家族を殺しに行くのは当然の権利。それが戦争で家族と仲間と隣人と、愛する人たちを失わされた人たちの怒りと怨嗟の念は、端から見ているだけでヤジを飛ばしてるだけの無関係な赤の他人たちが思ってるほど軽くはないのです。

 悪を殺せば、殺された悪の遺族たちに憎悪される。憎悪は戦争を生み、悪を倒した貴方への恨みが次なる戦争の篝火となる。それが勧善懲悪の現実ですよ」

「・・・・・・」

 

 黙り込んだ彼を放置し、部屋を出ていこうとした私の背中にーー

 

「・・・いいのか? そんな余裕かましちゃっても」

 

 不気味な声をーー少なくとも彼は“不気味な声”をイメージして表情ともに作ってみせてはいるのでしょうが、無駄なことです。何を言ってくるのかは、あらかた予測がついていますから。

 

「アンタらが俺に協力してくれないなら、俺は領主の館へ密告しにいく。そしたらお前たちは戦争の裏側を知る生き証人として処分されるだろう。死にたくなかったら俺に協力した方が賢明だと思うがな」

「・・・・・・!!!!!」

 

 トモエさんが驚愕の表情を浮かべ、女神様は「あちゃー、やっちゃったよこのバカ様は」って感じの顔を見せ、私は深く深くふか~~~くため息をついてからウンザリした表情で相手の顔を見返して、

 

「・・・アホですか? あなたは・・・」

 

 と、正直に言ってみたところ、相手はうろたえ狼狽して余裕を崩しながらこちらの眼を見つめてきましたので、私も外すことなく見つめ返してあげました。

 

「なぜ私が貴方の前で今の話をしたと思っているのですか? 邪魔な口なら閉じさせるのも手、などと考えていたわけではないのですよ? 貴方にはそうする必要性すらなく、何もできないし何をしても意味がない」

「な、なんでだよ! 俺だって町の一員だ! 余所者のお前らなんかよりも証言を信じてもらえて当然じゃないか!」

「ええ、そうですね。町の一員で、スリの常習犯で衛兵にくってかかった無法者。

 態度が悪くて大人に懐かず、“自分は一人で生きていくんだ、大人なんか信じない”と誰憚ることなく大声で叫ぶ『他人を信じない』子供を、どうして他人が信じてくれると信じ込めたのですか? 貴方は」

「・・・・・・!!!!」

 

 ようやく今まで自分が仕出かしてきた諸々を思い出してきたらしい彼は、青ざめた顔で沈黙し、私はいつもどおりに当たり前の常識について語り出しました。

 

 それは人として守るべきルールについて。人を信じる必要性についてです。

 

「ルールとは本来、守る人たちにとっては守らない人たちを攻撃するための武器に使えるものです。守らない人たちから身を守るための防具となって然るべき物なのです。

 政治家たちの腐敗だなんだとかで“力さえあれば許される”なんて、アホみたいな理屈を並べたてる大バカさんたちには事欠きませんがね。あんな人たちはアホです、無視して宜しい。

 力づくで国を成立させた過程があるのですから、力の論理が上では通じるのはむしろ当然。

 一方で、守られる立場の人間が唱える現体制を否定する言葉など、所詮は予定調和に過ぎません。大人の支配にたいする反逆なんて、豚所に引かれる豚の反乱としか大人たちの眼には映らない。

 大人たちに信じてもらいたいのであれば、まず自分から大人たちを信じられるように努力しておきなさい。歳をとって大人になれば分かるはずだなんて・・・大人になるまで死なずにすんだ幸運な子供たちの言葉なんですよ?」

「ーーー!!!!」

 

 ダッ!!

 

 バタンッ! ドタドタドタ・・・・・・

 

 

 

 遠ざかっていく足音を聞きながら、私は先ほどよりも更に深くて重いため息をついてから疲れ果てた声と口調で無理矢理に声を絞り出し、出発を促すことにします。

 

 

「ーー行きましょうか、お二方。どうやら私にとってこの国は・・・なんだかスゴく疲れるみたいです・・・」

「「・・・・・・」」

 

 何も言わずに承諾してくれた二人には、次の町の宿屋でデザートを御馳走しようと心に誓った私でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタゴトガタゴト・・・・・・

 

「・・・メガミ殿」

「ん~? なんですかー? 今ちょうどセレニアさんが疲れ果てて眠ってくれたから、膝枕して寝顔愛でてる最中なんで邪魔した理由がしょうもなかったら殺しちゃいますよ~」

 

 月が昇って、日が落ちて。

 夜の街道を河がないから普通の速度で進んでいく馬車の上で。

 泣き疲れて眠りこけたセレニアを、珍しく女神らしい慈愛に満ちた表情で見つめる女神にたいして御者席に座る侍ガールのトモエが前方に顔を向けたまま振り返ることなく決意を述べる。

 

「拙者は強くなるで御座るぞ。心も体も強くなって見せるで御座る。

 ーーもう、子供の拙者は卒業いたす」

「ん。せいぜい頑張りなさい。私たちの勇者様は、強くて弱くて傷つきやすいんだから、ボケッと守られてるままだと辛くなる一方ですからね」

 

「まったく。ぜんぜん勇者らしくないのに、女神様の寵愛を独占できちゃうところだけは勇者らしいなんて反則ですよ? 私のかわいい勇者様」

 

 

 ちゅっ。

 

 

 

・・・はじめてタグにガールズラブついてる作品らしい締め方で続きます。



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第16章

突然ですが、作者は「いせスマ」ではユミナが好きです。大好きです。冒険するお姫様と言うのは、いつの時代も可愛いものだと思います。・・・パーティーに加えると、面倒くさそうですけどね。


と言うわけでユミナのこと考えてたら変なキャラを最後ら辺で付け足しちゃったのでご勘弁を。


『どうだ!? 見つかったか!?』

『ダメだ! どこを見渡しても、それらしいモノは見当たらない!』

『くそぅっ! 光源が乏しすぎるし、光魔法の使い手が少なすぎる! このままだとジリ貧だ!』

『いったい、何をどうすればいいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』

 

 

 

 

 ・・・・・・いきなり阿鼻叫喚の地獄絵図です。

 このままでは訳が分からないでしょうから、簡単に説明させていただきますね?

 

 

 そも、この事態は至るには昨日の晩に到着した新たな国の辺境にある地方都市まで話を巻き戻さなくてはなりません。

 

 門番さんたちから「防衛上の観点から、夜はあまり開けたくないんだがな・・・」と苦言を呈されながらも私はたちは無事に入国及び街へと入ることが許されました。

 魔物は獣タイプが多いので夜目が利きます。都市の防衛を勘案した場合、夜は門を閉め切っておくのが一番安全だと言う意見は私も同意できますし、街のトップである市長も含めて行政側は「良し」と考えているようなのですが、街に住む住人たちの方々は正反対。

 

「夜こそ儲け時」と叫んで、夜だけ営業する裏っぽい酒場や賭博場。歓楽街と呼ぶには細やかすぎる規模ですが、それでも“もどき”ぐらいは自称できそうな夜の裏街みたいな場所が、ド田舎の中心地でしかない田舎町では主要な収入源となっているんだとか。

 

 それらの店で歓迎される顧客はもちろん冒険者。根無し草でならず者の皆様方です。

 

 結果的に町の主産業は冒険者向けに娯楽を提供する歓楽街としての機能が充実し(辺境としてはですよ?)綺麗どころが近隣の村々から仕事を求めて集まってくるので、辺境という言葉とは裏腹に町は綺麗に掃除されてて「衛生的だな」と感じたのが強く印象に残ってます。

 

「綺麗でござるな。やはり若い女子が多いと町は華やかになるもので御座るよ」

「いえ、おそらく性病対策だと思われます。不特定多数の男性と性的交渉をするお仕事は病気を移されやすく、病を患った遊女は商品としての価値がダダ下がりしますから店側も気を使うのはとうぜーーあ痛っ!」

 

 ーー左右からグーで叩かれた事も、今となっては良い思い出です。

 

 そんなこんなで辺境都市までやってきた私たちですが、ダメ元で訪れた冒険者ギルドでは緊急クエストなるものが受注されたばかりだとかで、詳しく説明を聞くことにしました。

 

 曰く「王女殿下がお忍びで遊びに来るから馬車の護衛を雇いたい」との事でした。

 

 面妖なことです。なぜ王女様ともあろう御方が根無し草に護衛を依頼するのか、むしろ情報を売られて窮地に陥るだけでしょうに・・・。

 

 そう思い、そう質問してみたところ、帰ってきた説明役のお姉さんのお言葉は、

 

「だから、護衛に雇うんでしょ?」

「なるほど。納得しました。クエストを受注させてください」

 

 納得してサインした私と、心得顔のお姉さん。

 振り返った私の背後でハニワみたいな顔して疑問符浮かべてた女神様とトモエさんの二人が面白かったです。

 

「要するに、陽動役の囮馬車を護衛しろって意味です」

「「なるほど(で御座る)」」

 

 アッサリと納得した二人とともに護衛隊に参加し、敵の狙いを誤魔化すために適当な場所をうろついてるもんだとばかり思ってましたが・・・・・・。

 

「まさか、囮と見せかけて本人が乗ってる馬車だったとはねー。不覚にも気がつきませんでしたし、側近以外に教えてなかったから雇った誰が密告したのかも分かりません。難儀なものです」

「・・・落ち着いてる場合ではないで御座るよセレニア殿! 拙者たちは、どことも知れぬ真っ暗闇の空間に閉じこめられたので御座るぞ!

 不意打ちで転移させられて平然としているキチガイが、いったい何処に・・・」

「「ここにいますが?」」

「・・・・・・」

 

 挙手した私と女神様に白い目を向けてこられるトモエさん。

 いやいや、違うから。そうじゃないから誤解ですから、そんな人を辞めた生き物見るような目で見ないでください地味に痛い。

 

「現時点では魔法によって転移されたと言うことしか判明していないから、動くに動けないだけです。畑違いで素人でもある私としては、もう少し状況を確認してから動きたいんですよ。それだけです」

「・・・・・・」

 

 ぜんぜん信用してもらえてませんね、この白い瞳は。この前の一件を、まだ根に持ってるんでしょうか?

 高校生にもなって(前世ではです。今生では生まれ変わってから生後数ヶ月ぐらいですかね)泣き疲れて眠りにつくという赤っ恥をかいたのは私もですし、いい加減水に流してくれても良さそうなものなのに・・・ふぅ、やれやれだぜです。

 

 ・・・まぁ、今の会話で大方の事情は理解できたと思われますが、最後のまとめは一応入れときます。

 道中、転移魔法をかけられて護衛隊もろとも馬車を真っ暗闇の空間に飛ばされました。現在は閉鎖空関係へのディスペル魔法と、結界を構築している起点になっているはずの魔法陣なり水晶球なりを探し回っていて難航中。以上です。

 

「とは言え、手にはいる限りの情報は出揃ったようです。そろそろ動くといたしましょう」

 

 私は休めていた身体を起こしながら、今まで漏れ聞こえていた魔法使いさんたちの会話内容を記憶巣から掘り起こして適当に繋ぎ合わせていきます。

 

 曰く、「この魔法はきわめて特殊で前例がなく、『闇魔法』とでも呼ぶべき新種の魔法であると推測される」

 曰く、「通常、同格の魔法を解除するには、その魔法に呼応して出来た対抗魔法としてのディスペル魔法が用いられてる。つまりは万能薬ではなくて、解毒剤のようなものと規定されている」

 曰く、「同格の魔法をキャンセルするには同格で対応したディスペル魔法を一回使用すれば確実に解ける。格下ならすべての魔法に通用するが、ランク毎に効果の振り幅は上下動する。格上の場合は相性次第」

 曰く、「今度のこれは位階を問わず、ディスペル魔法で効果が出ない。普通なら対応していないにしても何らかの反応くらいはあるはずなのだが、それもない。故にこの魔法は全く新しい新種の魔法であり、今ある既存魔法では解除不可能な可能性が高い」と。

 

 ーー大雑把にまとめてしまえば、こんなモノでしょうかね?

 

 

「ちょ、セレニア殿!? 一流所をそろえた王室魔術師団がどうすることもできない状況を、畑違いのお主がいったいどうやってーー」

「餅は餅屋です。魔法でおきた現象のすべてが同一の魔法で行われているとは限らない以上、こういう発想の仕方もありなのではないかと思いましてね」

 

 私は火縄銃を少しイジって音だけが高く鳴り響くように設定し直してから床に置き、風の谷のナウシカ風に火薬の量を調整してから小規模爆発を起こしてあげました。

 

 

 ズドオオオオオッン!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

『はわ、はわわわわわわわっ!? い、いったい何が起こったんだーー!?

 ・・・って、あれ?』

 

「お早うございます、皆さん。良い夢はご覧になられましたか?」

 

 眠りこけていた皆さんが飛び起きるのを、一緒になって起きあがりながら私は普通に声をかけ、装備が奪われていないことを確認しながら肩を回して体の異常を確かめました。

 うん、正常ですね。問題なしです。これなら十二分に動いてくれるでしょう。・・・元から大した動きは期待してませんのでね。

 

 

「ふ、ふぇ? あ、あれ? あれれ? ここはドコで御座るか? 拙者は騎士で御座るか? メガミ殿、昼餉はまだで御座ろうか?」

「ボケ老人かよ。普通に記憶喪失になっときなさいよ面倒くさい人ですね。

 魔法で転移されて来た場所に睡眠魔法がかかってて、到着直後には夢の中だったから部屋の中を暗闇の中と勘違いさせられていた。

 認識阻害魔法と催眠暗示の併用で効果を倍増させてたけど、そのぶん催眠効果が解けただけで破綻した。

 高位の僧侶系クラスについてる私の見解では、そんな感じです」

「な、成る程。納得でござる。・・・いや、やっぱり納得できないで御座る!

 ハイプリーストのメガミ殿と違って、セレニア殿はエクストラジョブ! 何故かような魔法理論を読み解けたと言うので御座るか!?」

「さぁ? どうせ、キチガイだからとかの理由じゃないですか?」

「理由にも説明にもなってないで御座るぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」

 

 寝起きから元気だな~、トモエさんは。若干ですが低血圧気味な所のあった前世の私としては羨ましい限りですよ。

 

「さて、それでは敵地より脱出するための冒険に出発するとしますかねーー」

 

 私が一歩前へと踏み出したとき。

 

「しばし待っていただきたい」

 

 凛とした声音で私を制止したのは、魔術師風のローブを着た大人の美女さん。

 赤茶けた髪とグラマラスな肢体がファンタジーにおけるお約束感を出してはいますが、逆にローブはちょっとだけ普通です。正統派の魔術師らしい魔術師であって、色物では決してない。

 つまり、この異世界においては必ずしも無条件で信じられる相手ではないと言うこと。・・・普通の人間は信じちゃいけない異世界って、何なんでしょうね・・・?

 

「私は宮廷魔術師団の一人で、ネレイドと言います。申し訳ありませんが、私たちにはあなたのことを信用することが出来ません。

 だって、そうでしょう? 私たち国に認められた実力と実績を持つ玄人が思いつかなかった方法で危機を脱し、機転を利かして魔法を見破る魔法使いではない幼い少女。

 あまりにも出来すぎた偶然です。これで信用しろと言われる方がおかしいと、私は思いますが?」

 

 ふむ。尤もすぎる言い分に、返す言葉もありませんね。かと言って、真実ではないことを証明するのもまた難しい。どうするべきなのでしょうか?

 

「ですので私は、あなたが王女誘拐犯の一味であり、闇魔法の使い手であると推察させていただきました。申し訳ありませんが、我々があなたの決定に従うわけには行きませんし、職務上の理由により容疑者である可能性がある人物を放置するわけにも参りません。不自由とは思いますが、ここから先は私が監視役としてあなた方の側にいて見晴らせてもらいます。よろしいですね?」

「構いませんよ? むしろ、願ったり叶ったりです。これで味方から疑われても殺されずに済みそうですので」

 

 相手は一瞬だけ虚を突かれたようにキョトントして黙り込んでから、先ほどより幾分か柔らかくなった表情で私に丁寧な口調で問いかけられます。

 

「では、その様に。・・・ところで、先ほどはああ言いましたが、実は気になってるんですよね。闇魔法の存在を一瞬で見破った理由について。よければ後ほど教えてもらっていいですか?」

 

 口調まで柔らかく砕けた彼女は、思ってたよりずっと幼くて年若いことに今更ながら気がついた私です。どうやら彼女自身が宮廷出仕に慣れようと努力した結果に惑わされてたみたいです。本当にまだまだな私だなぁ~。

 

 二つの意味合いでもって、私は肩をすくめると。

 

「大した理由はありませんよ。闇で敵を拘束するなんて不可能だから、魔法じゃないと判断した。それだけです」

「??? 闇魔法での敵拘束が不可能? なぜですか?」

 

 私は再び肩をすくめると、前世においては当たり前すぎて考える必要すらなかった事実を元に闇魔法を完全否定し尽くします。

 

「闇と言うのは『光がない状態』を指して使う言葉です。光は一応物質ですが、闇は物質でもなんでもない、結果として生じるだけの現象に過ぎません。

 現象相手にディスぺル魔法かけても意味ないでしょうし、果てのない闇の空間に足場となる空間があるのはおかしい。そして皆さんの反応を見るに、新種の魔法とはーー少なくとも効果が大きいのはーーそう簡単に発明できるものではないのでしょう?

 国で一番を集めた宮廷魔術師さんたちが手も足も出ない、単一の敵魔術師が国内にいたというのは、ちょっとだけ無理がある気がしましてね。ただそれだけですよ」

「なるほど。納得しましたわ」

 

 お上品に笑ってみせる彼女ですが、エクボを発見。笑ったら怒られるでしょうから指摘しませんが。

 

「宮廷魔術師殿! 外へと続く扉には鍵がかかっております! 開けられません!」

「わかりましたわ、直ぐ参ります。解錠魔法程度なら素人でも使えますので、問題はありません。ただし・・・」

「なにか別の問題点が?」

 

 私の質問に彼女は難しそうな表情を浮かべて、

 

「呪文が長すぎるのです。あらゆる鍵に適用されて、使い手の実力次第で開けられる難度が変わるために犯罪に用いるのが容易すぎるからと施された処置なのですが・・・。

 我々の世代では干渉できない、古代魔法王国が生み出した古代魔法であることもあって使いやすさとは裏腹に使いどころが極めて限定されてしまう。

 正直この状況下では鍵を魔法で開けるよりも、敵に捕虜として連れて行かれて黒幕の前に引きずり出されてから逆檄して一発逆転する賭けに出た方が勝算は高いかと・・・」

 

 なるほどね。意外とよく考えられてるもんです。

 

「ならば話は簡単です。こうしてしまいましょう」

 

 ズダンっ!

 

「はい、鍵は開けましたよ。ちゃんと鍵穴じゃなくて蝶番の方を撃ち破っときましたから再使用は出来ません。

 さっさと進んで、奇襲してくるつもりだった敵兵を奇襲して捕虜にしてボスの部屋まで案内させて、部屋の近くで気絶させたら別方向からの奇襲で一端退却させて逃げられないよう出口を先に魔法か何かで塞いでおけば詰みです。楽でいい」

『『『・・・・・・・・・・・・』』』

「ほら、なにやってんですか皆さん。お仕事の時間なのですから、シャンとなさい。見敵必殺は奇襲で数の差を埋める際には基本ですよ? 楽に殺せるうちは、楽に殺していった方が絶対に良い。

 正々堂々なんて言葉は、正々堂々挑んでくる相手にだけ用いてあげなさい。卑怯な手で来る相手には、その流儀に合わせて卑怯な手で殺して差し上げるのが正々堂々と言うものですよ。

 戦場には戦場の流儀というものがあります。王宮住まいで危機感のない貴族のバカ息子さんたちが、王女様がらみで行う宮廷闘争を戦場でまで行いたいというのであれば、其れも良し。

 自分たちが闘争と思っている遊びが、如何に高い授業料を必要とする物かという事をみっちり教育して差し上げましょう。ーー彼らの嫌う鞭では叩かない代わりに、鉛弾を撃ち込んであげますから感謝なさい」

 

 それにはまずーー

 

 

 ズダンっ!!

 

「はい、最初の一人は足を撃ち抜きました。次来る人から殺していきます。

 案内役はその人だけで十分ですが、その人だけは絶対に殺さないよう気をつけて戦ってくださいね? 餌は生きていないと旨味がなくて、魚が寄ってこなくなっちゃいますのでね」

 

 

 

 

 

「う、うわー・・・。友釣りてセレニアさん、マジ鬼畜外道。マジ狙撃手スナイパー・・・。

 女神は勇者の行いにマジでドン引きした」

「よっぽど、この前のことが恥ずかしかったので御座ろうなぁ~。八つ当たりで犯罪者を殺すくらいなら、いい加減に水に流して良いと思うので御座るが」

 

 

 

 

「・・・ああ、なんて凛々しいお姿なのでしょう・・・。

 まるで婆爺が寝物語で聞かせてくれた、扇を矢で射り、敗走する敵を背中から追い討って射殺す、お伽噺に登場した伝説の騎士様のようですわ・・・。

 果たしてあの御方は、年下であっても同姓であっても気になさらず、性交していただけるのでしょうか?」

 

「「・・・へ?」」

 

 

 

怪しすぎる爆弾発言とともに新キャラ登場!

次回、セレニアは貞操を守りきれるのか!?

 

 

つづく




セレニアが珍しく殺る気をだしてる理由。
前回の件での恥ずかしさが消えてないから。モヤモヤを発散するために銃を撃つ言霊少女は変な所でトリガーハッピー。



――ところで最近、改名しようと思う時が稀にあります。

新タイトル(仮)「異世界転生のお供に火縄銃を。」

・・・パクリにも程がある・・・辞めときましょう。

追記説明:
判り辛く書いてしまいましたが、最後の台詞はネレイドさんではなく馬車内のお姫様です。


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第17章

前回の続きです。電池残量の問題で最終確認が出来ておりません。
誤字脱字は結構あると思われますが、ご勘弁の程を。
最後ら辺は割と本気で汲々としておりました・・・。


 私の活躍というか、暴走によって活路が開かれたお姫様護衛部隊は何処にあるとも知れない建造物の中を、ひたすら上へ上と昇っておりました。

 状況情報数配置。全てにおいて敵よりも劣っていると思われる私たちの陣営ですが、気持ちだけは負けておりません。やる気というか、殺る気満々マンさんたちで満ちあふれてます。

 

「へっへっへ。大人しく眠ってりゃ痛い目を見ずに済んだものを。わざわざ苦しむ抜いて死にに来たがるとは気が知れねぇぜ。

 まぁ、いい。こっちもビジネスだ。俺としては殺した奴が多ければ多いほど金になーー」

『ずおうりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

「ぐへはぁっ!?」

『多人数相手に一人で来んな素人野郎! こちとら数で押すことの専門家だ!

 卑怯汚いは負け犬の遠吠えと知っときやがれ!!』

 

 機先を制して気宇が大きくなってるらしい冒険者の皆様方は、相も変わらず卑怯卑劣な手段で勝つことのみを優先してます。

 部隊中央でお姫様を円陣組んで守ってる正規軍兵士のみなさんは、ドン引きしてます。あれ見て平然としてられても困りますが、今の私はどちらであろうとやっぱり困る。

 

 ーーと言うのも・・・

 

 

「・・・八つ当たりで大量虐殺してしまうなんて・・・・・・」

 

「「それを今更気にされてもなぁ~(で御座る)」」

 

 冷淡に冷静にツッコミ入れてくる女神様とトモエさん。

 くそぅ・・・深夜テンションで盛り上がった翌日の朝に昨晩でのことを思い出して『やっちゃった感』に苛まれ、床を転がり回っていた前世の日々を思い出させられる情景です。

 認めたくないのに認めなくちゃいけない黒歴史という若さ故の過ちは、地味に痛すぎる・・・。

 

 皆が盛り上がりを見せる中、ついカッとなってもいないのに殺りまくってしまった私一人だけは絶賛自己嫌悪中。戦いはなにも生み出さず、黒歴史だけを積み重ねていくものなんですね・・・。

 

 

「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでくださいよセレニアちゃん?

 私の膝枕で眠りについた時の寝顔はもっと可愛かったんですから、いっそあちらをデォルトにしてみては?」

「うむ。寝る子は可愛く育つで御座る」

 

 ーーーあああああぁぁぁぁぁぁっもう!!

 

「分かりましたよ! やりますよ‼ 殺ればいいんでちょ!?」

「「・・・・・・(に~っこり)」」

 

 ちぃぃぃぃくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突入まで三秒前。3、2、1・・・よし、開門!」

 

 バンッ!

 

「はい、宮廷魔術師団の先陣さん。《ファイヤーボール》一発発射ー」

 

「魔力よ、火球となりて敵を撃て。《ファイヤーボール》」

 

 シュバァァァァァッ!!!

 

 チュッドーーーッン!!!

 

『ぐぁあああああああっ!?』

 

 ・・・・・・5、6、7、8、9、10。

 

「はい、第二陣の人。第二射を発射ー」

 

「魔力よ、火球となりて敵を撃て。《ファイヤーボール》」

 

 シュバァァァァァッ!!!

 

 チュッドーーーッン!!!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 ・・・うん。やっぱり死んだフリしてた人がいましたか。あるいは、防火マントでも装備してたんですかね?

 どちらにせよ死んでくれたなら問題ないのですが、念のためにもう一発と。

 

「第三陣の人。威力を抑えて魔力消費は最小限にして、最後の確認のためにもう1発ー」

 

「魔力よ、火球となりて、細やかなる敵を撃て。《ファイヤーボール(小)》」

 

 シュバァァァァァーー。

 

 チュドーーーン。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しーん。

 

 

「室内の安全は確保できたみたいですね。

 念には念をで、防御力高い重装備の方が先に入室してってください。倒れてる人たちは生死は気にしないでいいので片っ端から頭に剣なり槍なり突き刺して止めをお願いします。

 防御力も体力も低い私たち支援組は、死に損ないの放った破れかぶれの一撃でも死ねますのでね。回復要員は全員残してありますので、気にせずどうぞ」

『応! 殺・戮!!』

 

 嬉々として突入していく冒険者の皆さんを見送ってから、私は紙に書いた地図の一つに×印を付け足します。

 

 ふむ。これでフロアの大部分を制圧完了しましたね。

 ・・・今思ったんですけど、今の私がやってる行為ってネルフ本部を奇襲した戦略自衛隊じゃね? 室内に向けて火炎放射器放って「きゃーっ!」と何度も何度も断末魔をあげさせてた奴。

 人類の敵と戦うロボットアニメで一番残忍だったのが日本の自衛隊だったとは、これ如何に。

 

「・・・うん、良し。建物の構造はだいたい把握しましたので、2階層からは多少なりとも楽が出来るかと。最低でも大規模な罠が配置されてる部屋かどうかは判別が可能になったと思いますので」

「セレニアさん? ダンジョンの地図を手書きしていくマッピング作業の使い方を間違えていますよ?」

 

 女神様の苦言に私は肩をすくめながら、

 

「あいにくと私はマッパーではなく、指揮官なので。地図を見ながら戦略練るのがお仕事なクラス補正のお陰でだいぶ楽に配置やら何やらがわかって、意外と重宝してますよ」

 

 代わりとして後方(宮廷魔術師団のみなさん)から睨まれるようになるのは、避け難い前線指揮官の背負うべき宿業として理解し、受け止めておりますよ。

 

 

「では、ダンジョンを攻略するため、いざ出発しんこー。

 無事に脱出して、ギルドに帰還して報酬を受け取るまでがクエストですので最後まで気を抜くことなく頑張りまっしょい」

『おおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!』

『・・・・・・・・・・・・おー』

 

 やたらテンションの差が明確な冒険者(前線)と宮廷魔術師団(後方)の皆様方。

 

 戦争を支える後方と前線の関係性なんて所詮、こんなモノです。

 

「いい加減に慣れてきたので構わぬので御座るが、つくづくセレニア殿は敵と悪が一致しない状況をつくる天才で御座るなー」

「天災とも言いますけどね。あるいは、人災と書いて戦争です」

 

 ーーうっさいですよ! ほっとけ外野!

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでダンジョンの構造を(一層目の時点で)あらかた把握できた私たちは効率よくダンジョン内のイベントを消化していきました。

 どうやら上へと続く階段は各階に一カ所だけで、それはボスが待ちかまえている中ボス部屋を抜けた先に配置されてるのが基本のようでした。

 

 ザコ敵とのエンカウントを警戒していたのですが、よく考えてみると最初に出会った敵さんが犯罪者グループであった時点でザコモンスターは出ませんよね、このダンジョンには。

 

 だって食べられちゃいますもん。彼ら自身が。RPGだと、飼い慣らした設定の敵魔獣系のモンスターには事欠きませんが、ブリーダーでもない上に学がないから犯罪者になるしかない人たちに扱えるもんでもないでしょうし。

 「魔物使い」とかなら分かりますが、彼がいない場所で犯罪者たちが魔獣に襲われないためには室内にトラップとして配置しといた方が安全と言うものです。

 

 え? 盗賊とのエンカウント? ・・・なんで?

 だってこっちは大人数ですよ? 廊下の幅的に敵がこちら以上の数で向かってくるの不可能なんですよ? 軍隊じゃないんですから「いくら犠牲を出そうと構わん!」なんて言ったらボスが先に部下たちの手で殺されてしまいますよ。

 

 

 なので中ボス部屋で一緒に待ちかまえているかな~と、勝手に思い込んでいたのですが。

 

 

「ほう。牢を突破したのか。どうやら我らが利用している人間どもの大臣よりかはデキるらしいな。

 どれ、この塔を魔王様から預けられた魔王軍幹部さまの御為にも、貴様等を我自らの手で抹殺してくれんーー」

 

 ターーーーーーーーッン!!!

 

 

 ・・・・・・・・・・・・ガシャーーーッン。カラン、カラン・・・・・・。

 

 

「ーー第二階層のボス撃破」

 

 さまよう鎧か、もしくはピサロナイトっぽい鎧騎士さんの中ボスモンスターがDQ5のジャミと似たようなことも言ってたので一先ず撃ってみました。

 青銅の鎧を着てさまよっていたのか、それとも鉄の鎧だったのかは判然としませんが、少なくともオルテ党武装親衛兵団に所属していた重装兵よりかはモロい甲冑を装備していたようですね。

 さすがは中世ヨーロッパです。製鉄技術で日本のそれとは程遠い。

 

 数百年以上続いた騎士の支配も武士の支配も終演させた、次なる時代へ続く扉を鉛弾でぶち壊してしまった鉄砲の前では騎士の鎧など紙屑も同然です。

 

 ・・・と言うか、なんだって人間見下してるくせに長々と前口上述べたがる? 実は構ってちゃんだったりするんでしょうかね魔物の皆さんは。

 

 

 

「さ、それはともかく次へ行きましょうか皆さん」

「あ、ああ。ところでだがな、冒険者の娘よ。我々は国の政を担う一員に名を連ねる者として、その筒に非常に興味がーー」

「政を担う一員であるならば、まずはご自分の部下を警戒されてはいかがです? 王女様を危険にさらしてしまった責任は大きいですよ? 現場責任者の宮廷魔術師団長様?」

「・・・・・・!!!」

「そう言えば、私は余所者なので詳しくは存じませんが、この国の王宮では人事とかどうなってるんでしょうかね? 仮に今回の件で魔術師団長様が失脚した場合、誰が後任に選ばれるのでしょう?

 次席殿ですか? それとも副団長様ですか? あるいは実力と実績で実質的ナンバー1に目されてる方とか他にいらっしゃったりするのですか?」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

 

 よし、黙り込んだまま互いに互いを不審に満ちた瞳で見渡し、警戒し始めました。これでダンジョン脱出に紛れ込む形で脱走しても何とかなりそうです。国境を越えたばかりの町で良かったですね。

 

「鬼だ。鬼が再び限界しているで御座る」

「いや、鬼は鬼でも「人」と言う名前の鬼ですよ。邪鬼が来たとも言いますけどね」

 

 クェスかよ。αジールは好きです。

 でも、ヤクト・ドーガはギュネイ機の方がもっと好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 第二階層。中ボスの間「嵐の大蛇」

 

「おーっほっほっほ。ようこそ妾の待つ部屋へ。愚かな人間どもよ、歓迎しよう。

 まずはこの、飛んでくる弓矢さえ弾き飛ばす風の結界『テール・ウィンド・ハリケーン』を見るがよい!」

 

 ヒュオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

「ほーーっほっほっほっほ!

 これで妾の急所である頭部にまで矢は届かなくなった。

 貴様等の矮躯でもって妾の巨体を前に如何がする!?」

「こうします」

 

 ターーーーーーーッン!!!

 

 ・・・・・・ドベシャっ。

 

 風を捉えて乗せて飛ばす弓矢と違って、鉄砲の弾は風を引き裂きながらだろうと真っ直ぐしか飛べないんですよね。

 いえ、正確には重力とか射角とか色々あるのですが、今回に関しては敵がデカかったので的当てみたいなもんでした。楽でいいです。

 

「次行きましょう」

『・・・・・・・・・』

 

 さっきと違って冒険者さんたちからも返事がこなかったのが、地味に痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三階層。最後の中ボスの間「最凶戦士」

 

「・・・あ! どなたか知りませんが、助けに来てくれたーー」

 

 ターーーーーーッン!!!!

 

 ・・・・・・ぱたり。

 

 

「ーーちょっ!? セレニアさん!? 今のは完全に民間人の女の子が人質に取られていただけでしたよね!?」

「鎖で繋がれてるとは言っても、ダンジョンの最上階近くに民間人の女の子が服を着たまま拉致されてるなんて事はあり得ません。私たちが地下から這い出るとき地下牢を見つけたのを忘れましたか?」

「あ、そっか。じゃあコイツは敵ですね。殺します。えい」

 

 ズゴンッ!!!

 

 グシャッ!!!

 

「・・・女神様。もう少し女神らしい戦い方にシフト変更いたしません?

 見た目だけでも人間風な倒れてる女の子モンスターを頭部に踵落としてドミノピザって酷すぎませんか?」

「その台詞をあなたが言いますか・・・セレニア卿・・・。それから“どみのぴざ”って何ですか、魔法用語ですか古代言語ですか興味あります教えてください」

「ネレイド殿は隠れ魔法バカだったので御座るな・・・見た目美人なのに殿方が守って差し上げようとなされないのは、そう言うご事情か?」

「自分は、一介の宮廷魔術師に過ぎません。そのようなご質問にお答えするのは分を越えます」

『ハイホー♪ ハイホー♪ 敵ボースの首~♪』

 

 ・・・なんだろう、この頭がおかしい集団は。これから最上階のボス部屋に行こうとしてるって言うのに緊迫感ないなぁー。

 

 ま、いいや。とりあえずは入ろう。

 

 

 ギィィィィィィィッ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 チャ~♪ ラーラーラーラーラーラー、ラ、ラーラーラー♪ チャラーラーラー♪

 チャラララララーラー♪ トゥットゥットゥットゥ♪

 

「・・・おや? 階下がなにやら騒がしいと感じておりましたが、御逃げになったのですか王女様。いけませんねぇ、そのような不作法な真似を王族である貴女がやらねるのは実に感心できません」

「な!? クロード侯爵!? なぜ貴公がこのような場所にいる!

 ま、まさか貴公・・・!!!」

「ふっふっふ。お察しがよくて助かります。ええ、ご想像の通り私は魔王と契約して吸血鬼となりました。そしてそちらの王女様こそ、私の后として国を治めるに足る器と見初めたのです。だからこそ浚いました。魔王軍の下っ端と、宮廷貴族のバカ息子どもと、大臣の末席と犯罪者グループによる反政府勢力を結集してまでね」

 

  タキシード着てグランドピアノ弾いてた黒髪の兄ちゃんがゆっくりと振り向きながら、いやアンタやりすぎだよってツッコまずにはいられな台詞を笑いながら述べられました。

 

 ・・・つか、ダンジョン歩いてる最中ずっと聞こえてた変な音って、城主自ら演奏して聞かせてくれてたんですね。

 

「はじめまして、城主殿。冒険者の一人でセレニアと申します。この度は長い時間ずっと我々の心を休めるために音楽を演奏していただいてたようで有り難うございました」

「うっ! い、いえいえ滅相もございませんとも。なにしろ私は限りある命の人間をやめ、吸血鬼になることで不老不死を手に入れた身なのです。

 たかだか6時間ピアノ演奏しているぐらいどうって事は・・・・・・って、なに言わせようとしているのですか貴女は!」

 

 貴族っぽい見た目の男性(たぶん、元は王国貴族さん)で吸血鬼にジョブチェンジしたらしい男の方は途中から、口角泡を飛ばして猛抗議しはじめられたのですが、私としてはそれどころではありません。

 

 まさか・・・そんな事になっていただなんて・・・・・・。

 

 

「6時間も・・・・・・それは何というかその・・・・・・ごめんなさい・・・」

「いや、謝らないで! わりかし本気で謝らないで頂けません!?

 これだと私が自分の娘さえ生け贄にして吸血鬼になった理由が、ただ6時間ぶっ続けでエンドレス演奏したかっただけになっちゃいそうだからマジでやめてお願いだから!」

 

 必死に慌てられる吸血貴族さん。しかし、しかしですよ? アイドルコンサートの裏事情とか、アーティストが如何に苦労しながら演奏し続けているか等の特番を視聴してきた身としては、些か以上に気にせざるを得ない問題なのですよ。

 

 24時間ライブでさえ6時間もの間ずっとエンドレス演奏なんかさせたりしません。つか、現代だったら録音して流してます。現代文明の恩恵を受けて育った自分の身の上が酷く卑しい者のように感じられて、私は・・・私は・・・!

 

「本当に・・・私なんかが生き残っちゃっててご免なさい・・・・・・」

「なんで吸血鬼になった私に言うのですか、その台詞を!? これから言うつもりだった諸々が全部台無しにされてしまったのですが!?

 え、もしかしなくても嫌がらせですかこれ?」

「あー、すまぬで御座る。吸血鬼殿。コレは余所に退かしておくで御座るので、貴殿等は適当にやっておいてほしいので御座るよ」

「ほら、セレニアさん。お呼びじゃない? 失礼しましたーを、しましょうねー?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 前回のことが未だに尾を引いてるせいで情緒不安定になってしましました。

 テンション戻るまで脇役になってまーす♪

 

 ・・・ふぅ、一番メドいボス戦は他人に押しつけられて良かったですね。武器の性能と相性だけで勝ってきたザコが、ボス戦にまで参加するとかマジ勘弁ですよ。ーーん?

 

「・・・・・・(にっこり)」

 

 な、なんでしょう・・・? さっきからずっと黙りこくってたお姫様が(いえ、今も黙っていることに変わりはありませんけども)私のことを見つめたまま柔らかく高貴な笑みを浮かべられたのですが・・・ものすっごい寒気に襲われたのですが?

 つか、この人って外見が他の同国人と違いすぎてません? 和風美人風なんですが・・・?

 

 定番で考えるなら、異種族の血が混じった王族故に差別の対象にされていて、その境遇に自分の生い立ちを重ね合わせたブサイク貴族が家族を生け贄に差し出すことで彼女との幸せな結婚生活を望んだ・・・そういう展開を期待したいところなのですが。

 

 

 ーーどうにも私はこの人に対して「あ、この人とは合わない」と感じさせられてる気がするんですね。

 なんと言いますか・・・決して分かり合えない運命の星の下に生まれた二人とでも言いましょうか。とにかくそんな印象の人です。

 

 

 

 

「さぁ、アイリス姫よ! 貴女に下賤の血が混じっているという根も葉もない噂話を根拠として、貴女に嫌がらせを繰り返してきた貴族のゴミ共はおまけと一緒に一人残らず処分いたしましたぞ! これで何ら後顧の憂いはありません!

 旅立ちましょう! 純白のバージンロードの向こうにある、ボクと貴女の愛の旅路、へ!」

「・・・好きですわ。愛しておりますの。一目惚れです。わたくしの身体にはサキュバス王家の血が色濃く流れておりますので、性欲を抱くと抑えられませんの。

 大変失礼だとは存じますが、結婚を前提に今すぐこの場でレズビアンセックスいたしましょう」

「NOォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!!

 ガッデム・ファッキンゴッドビーーーーーッチ!!!

 僕の夢は今死んだ! 幼い頃に夢見た姫君とともにな!

 こうなったら皆まとめて、あの世へ道連れにしてやるーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 

 ターーーーーーーーーーッン!!!!!!

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・ぱたん。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・サラサラサラサラ~~~~~~。

 

 

 

「銀の弾丸です。吸血鬼の身には効くでしょう?」

「・・・どっから手に入れたんですか? それ・・・・・・」

「ダンジョン内の宝箱からですが、それが何か?」

「ああ、なぜか自分を倒せる唯一の武器を地下室の宝箱に入れておく系のボスだったんですね、この人。・・・なんで?」

「おそらくで御座るが、見つけてほしかったのでは御座らぬか? 「そんな物を持っていても無意味だ! 君たちでは使いこなすことなど出来ないのだからな!」とか言ってみたくて」

「ショッボ・・・。小物臭ぇー・・・・・・」

「まぁ、彼は元々家柄だけしか取り柄がないと評判のバカ貴族でしたから仕方がありませんわよ。

 父親も祖父も曾祖父も、先祖代々ずーーーっとそんな家系でしたからこそ、これだけに人員が集まってきたのかもしれません。傀儡にする気満々で」

「「「「世知辛い世の中だな~」」」」

 

 

 

 

 

 

 ・・・お~い? 現実逃避したいのは分かりますけど、そろそろ助けてもらえませんでしょうかね? 割と必死にパンツを死守してるせいで声出す余裕もないんですけども?

 

 つか、この姫様の力強い! なんで王女様が片手で冒険者を圧倒できるの!

 ちょ、本気で誰か助けて! このままだと脱がされ、るーー。

 

「一度感じてしまったら、セックスするまで止まりません。セックスし始めたら、し終わるまでは辞められません。英語で言いますと、セックスライフ・イズ・ワンダホー。

 さぁ、セレニア様! わたくしと共に憎むべき敵の城で強引に肌を重ね合わせられるという屈辱的なクエストを!!」

 

 私が殺した真犯人に、自分の罪を擦り付けてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!

 

 

変態サキュバス系王女様が物語にサブキャラとして加入しました。

 

つづく




今クエストでの感想

セレニア「今思うと、ダンジョン駆略しないでさっさと逃げ出せばよかったですよね。
     敵はダンジョン内から出て追ってきませんし」
女神「セレニアさん。それは言わない約束でしょう? 
   いい加減にしないと、ぶちますよ?(に~っこり)」


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第18章

昨日の夜に急遽思いついたから書いてみた、変態王女メインの回です。
彼女の恐るべき本名が今明かされる!

あと、ついでとして魔改造火縄銃の説明も少し入ってます。


 ゲームにおいて銃という武器は意外と威力が低く、空を飛ぶ飛行系のモンスター以外には然したるダメージも与えられないことが多かったり、剣で切る方が強い遠距離戦でしか役に立たない武器扱いされてるケースが多くRPGでは割を食う印象がある武器でした。昔はですけどね?

 

 最近だと強力な武器として登場しますし、主人公が持ってる場合も多くなってきてます。近代兵器なのにどう言うわけか古代兵器として登場する『魔銃』とかのアレンジはお約束の一つとも言えるでしょう。

 

 ーーですが。

 根本的な疑問として私はファンタジー世界の銃系武器に、昔から気になり続けている点がありました。弾の補給です。

 店で売っているならともかく、教団の秘匿技術として温存されてる『ガン』とかの武器は、火薬はともかく如何にして薬莢を確保しているのでしょうか?

 

 その疑問が、この世界では私自身にも適用されています。火縄銃です。魔改造されたとは言え、単発式にすぎない火縄銃があれだけ撃ちまくっても弾切れにならないはずがない。

 

 

 

「ーーと言うわけで、燃料切れです。しばらくは私、火縄銃撃ちませんので、そのおつもりで」

「「・・・・・・はい?」」

 

 朝食の席において放った私の言葉に、トモエさんと女神様がそろって小首を傾げられました。

 ・・・なんかおかしな事言いましたかね私は? 身に覚えが全くないんですけども・・・。

 

「え、え? あ、えっと・・・冷やし中華? 冷やし中華はじめました?」

「・・・なぜ火縄銃が冷やし中華に・・・? そうじゃなくて火縄銃ですよ火縄銃。先の戦闘で撃ちまくりすぎたのでエネルギー供給が間に合わなくなりました。

 その為、しばらく温存するつもりだとお伝えしているのです」

「エネルギーって・・・それ、エネルギーで撃っていたので御座るか!?」

「そうですよ? エネルギーじゃなかったら、一体なにを撃っていたと思っていたのですか?」

「えっと・・・か、神のご加護とか?」

「・・・貴女の祖国東の国って、仏じゃなくて神を崇めてたんですね・・・」

 

 そういえば思い出してみるとこの世界、一応は統一宗教を国教とすることでまとまっていた世界でしたよね。武士が中世ヨーロッパ風異世界にある大陸に渡ってきている以上、東の国にも宣教師とかが渡来してないとおかしくなりますか。道理ですね。

 

「まぁ、今まで整備以外はしてきませんでしたし、弾込め作業もやってなかったですからね。弾数制限なしと誤解されるのも無理はないかとも思いますからお気になされずに」

「はぁ・・・。しかしセレニア殿。弾切れがあると言うならそのテッポウ、一体どのような理屈で弾を撃って補充もしていたので御座るか?」

 

 ふむ? そう言えば今まで一度も説明したこと無かったですね。うっかりです。

 ちょうど良いタイミングを得られたわけですし、折角なので解説しておきましょう。

 

「端的に言うとこの火縄銃は、大気に満ちた負の情念を吸収することでエネルギーに変え、一時的に弾丸という物質へと変化させられるという呪われた一品です。

 弾の形状をとっていられるのは弾倉内に収まっている間だけで、撃ち放たれた瞬間から崩壊が始まり、三十秒以内に世界から完全消滅して消え去るのが通常弾頭。一分以内か、それ以上保つのが特殊弾頭として類別されてるみたいですね。

 言うまでもなく負の情念だけで形作れるほど特殊弾頭は容易くなくて、最低でも人間一人分の命と魂を弾丸に変えてしまう必要がありまして、撃ち殺した相手の魂は転用可能なれども自給自足を可能とするには変換効率が悪く、他人が殺した人間の魂の方が断然回復速度は速くなるそうです。

 魔物なんかでも魂でさえあるなら吸収、弾への変質が可能。その代わりとして負の情念が人と比べて原始的であり本能的な理性無きものでしかないから効率は悪く、自分が殺されなければならない理不尽さと怒りと屈辱が最高の火薬となり得る作りになっておりましてーー」

 

「「捨ててしまいなさい! そんなキチガイ殺人兵器!

 呪われてるとは思ってましたけど、呪いのレベルが半端じゃなかった!!」」

 

 ーーだから最初から呪われてるって言っておいたのに~・・・。

 

「お二人とも、落ち着いてください。大丈夫ですから、呪いは解いてもらってますから。いくら負の情念を食らっても、暴発の心配はありません」

「そこは気にしてねぇんですよ! あぶなっかしい殺戮兵器と旅をしていること自体に危機感を抱いているんです!」

「・・・人を殺すために作られた兵器なんて使い方次第で、どれも同じ殺戮兵器に成り得ますよ?」

「だとしてもで御座る! その様な禍々しいと言うか、完全に呪われてる仕様の武器と一緒では安心して旅できないで御座るよ! 早急に捨ててくるで御座る!今すぐに!」

「ううう・・・でもでもこれなくなっちゃったら私、なにひとつ取り柄がなくなっちゃいますし・・・」

「「大丈夫!(で御座る!)まだちゃんとある!(で御座る!)

 デッカイおっぱいが!(デカパイがで御座る!)」」

「怒りますよ!?」

 

 さすがの私もこれには席を立たなければなりません! 今生において最大限の侮辱を受けて黙っていては男が廃ります! 早急に謝罪と前言撤回を要求したい!

 

「おっぱい・・・。それは異世界最強のエクスカリバーである・・・」

「なに、カッコ良さげな顔して格好悪すぎること言ってんですか女神様! つか、アンタが私に押しつけてきただけでしょうがコレ!」

 

 それにアンタにも付いてるだろ立派なのが! 人の物ばっかり見てんじゃねぇ!

 

 

 バンッ! ガタンッ!!

 

 

「セレニア様のおっぱいと聞いて飛んで参りました! この国の王女です!」

 

 余計に場を悪化させそうな人キタ━(・∀・)━!!!!

 会いたくなかったから報奨金もらった直後にトンズラして、城下の中でも中堅どころの周囲に紛れて分かりづらいけど普通に繁盛はしている宿屋の二階に宿泊場所を選んでおいたのにーーっ!

 

「おや、王女様では御座りませぬか。おはようで御座るな」

「貴女もおはよう御座いますわ、トモエ様。ご機嫌麗しゅう」

「・・・面目ない。拙者、武に生きんと欲する無骨者故に宮中での作法などトンと分かり申さぬ。どうかご寛恕あられたい」

「ふふ、お気になさらずに。わたくしも礼儀を気にしないですむ気楽な食卓の方が好きですわ。ご同席しても構いませんかしら?」

 

 賢しくも王女様は、頼まれれば断る気満々の私ではなく、許しを願って許しを与えられたばかりのトモエさんに許可を求めて承諾され、彼女の隣の席を確保してしまわれました。

 ちなみにですが、安宿の個室は高いです。お値段が。長旅には向いていません。

 どのみち同性しかいないのだからと中くらいなサイズの部屋を一つだけ貸し切り、全員まとめて寝泊まりしているこの部屋は大部屋というカテゴリーな割に四人入れば隙間が殆どなくなってしまう狭苦しい作り。

 宿代をケチった訳ではありませんではありませんでしたが・・・見つからないように目立たないようにと立地を考えすぎた結果、思わぬ危機を招いてしまったみたいです。

 

 ちゃぶ台みたいな形をした背の高いテーブルでは、トモエさんと私と女神様が簡易式の円卓みたいな配置になっていますので、必然的に誰の隣に座っても私の隣か対面にしか席がない!

 

「うふふ・・・これは、とっても美味しそうなソーセージですわねセレニア様。

 ーーはむ。ん、ちゅ、んえろぉ~ん・・・」

 

 くっそーーーーーーーーーーーっ!!!! 完全に狙ってやがったなビッチ王女め!

 お前みたいな女がRPG世界で悪女になるんだコンチクショーーー!!!

 

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたわね。わたくしの名はイスパーナ王国の第三王女、

 『ヨヨ・ミレイユ・アリシア・イスパーナ』と申します。以後、お見知り置きを」

「アリシア? アイリスじゃなかったの?」

「そちらは父がつけてくれた愛称です。親しい血縁者と、勘違いした若手男性貴族の方々は好んでその名を使いたがりますが、わたくし自身はあまり好きな呼び名とは感じていません。できればヨヨか、ミレイユか、アリシアのどれかで呼んでいただきたいものです」

「なにか拘る理由でもおありなので御座るか?」

「いえ、特には。ただ、なんだかとても好ましく思えて。わたくしにはぴったりな名前だと幼少の頃からずっと感じていて大好きなんです。ただそれだけですわ」

「「ほほ~」」

「ちなみにわたくし、アリシアと親しげな態度で呼んでくる騎士の幼馴染みが大好きでしたが、今では過去の思い出ですのでお気にされないでくださいねセレニア様?

 わたくしは前を向いて生きていく女・・・。いつまでも過去を引きずるほど未練がましくもなければ女々しくもありません。

 面倒くさくないサッパリした恋愛しやすい女ですのでお得ですわよ? い・か・が・で・す?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 全戦力を持ってしてでもお断りしたい気持ちでいっぱいなんですが、撃っても良いですか? エネルギー回復量は・・・くそ! ガッツが足りない! 一発撃って外れたら犯されてしまう!

 

「・・・・・・私如きには恐れ多いことです。なにやら不穏な空気が漂っているようですし、私どもは早急にこの国から出て行くことにいたします。お世話になりました。ネレイドさんによろしく。ではっ!さようならっ!」

「あっ、ちょっとセレニアさん!? 珍しく準備もしないで出発なんて王道っぽい真似、私をおいてはさせませんよ!」

「ほほう。姫君を救った国から逃げるように国外逃亡・・・これは人助けの予感がするで御座る! いざ行かん! 正義の旅へ! とおーーーっう!!」

 

 

 ばたん! どたん! がっちゃんごっちゃんデデーン!!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うふふ♪ 逃げられてしまいましたか。残念です。

 でもまぁ、助けてもらったお礼に今回だけは逃がして差し上げますわセレニア様。

 次会うときまでオッパイを揉んで洗って綺麗なまま、守り抜いてくださいましね? 間違っても男どもなんかに揉まれたり触られたり見られたりなさいません様に。

 ーーでないと・・・・・・ヒッドい事しちゃいますからね?(クスクス♪)」

 

 

つづく




変態王女の名前の由来となったキャラたち

ヨヨ(バハムートラグーン)
ミレイユ(魔界塔士Sa・Ga)
アリシア(LIVE A LIVE)



――ゲーム世界三大悪女から名前の全てを受け継いだ王女の過去は推して知るべし。


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第19章「セレニRPG」

サブタイトルから見ても解る通り、本来のストーリーとは一切関係のない「もしもセレニアがRPG世界のキャラだったなら」をテーマに書いた話です。

本当はもう少し夢が無いのを想定してたのですが、やり過ぎるとドギツクなるのでこの辺でと言った感じです。


「ーーちっ。お前の辛気くさい顔を見てたら酒が不味くなる。俺ぁ、帰るぜぃ」

「お父さん! お願い待ってお父さん!」

 

 バタンっ!

 

「う、うっうっう・・・・・・・・・」

 

 泣き崩れる娘さんと、先程叩きつけられて割られた酒瓶。残された中身があふれ出して床の絨毯に染みを作りながら浸食していき、かつては偉大な鍛冶師だったお爺さんは父と娘と孫娘との関係性を拒絶するかのように堅く扉を閉ざしたまま出てきません。

 

 

 ーーそして、

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 唖然としたまま見ていることしかできなかった、状況がよく分かっていない私たち部外者三人です。

 

 え? なに? 何が起きたの? なんでお爺さんいきなり怒り出して飲んでたお酒を瓶ごと壁に投げつけて割ってしまったんです!? まだ半分近く残ってましたのに!

 

「・・・申し訳ありません、旅の御方。せっかく来ていただいておきながら不愉快なものをお見せしてしまって・・・お気を悪くされたでしょう?」

「いえ、私たちは別に何とも。むしろ、ドアをノックしたのに出てこないし返事もないからと強行突入しちゃった私たちの方こそ不快な思いをさせてしまってごめんなさいでしたよ?

 なのでお灸は、このエロ服きたエロいお姉さんに据えて上げてください」

「は、謀りましたねシャリア! 私の想いを、恋人にしてくれるという約束までして裏切ったのですか!?」

「・・・アホなこと言ってないで、謝ってあげてくださいよ女神様。

 貴女が強行突入してもしてなくても、今の事件を見ているだけだった私たちが何にも出来なかった役立たずであるという事実に変わりないんですから・・・」

 

 いや、もう本当に何にも出来ていないと言うか訳すら分からないまま見ていただけの私たちに謝られても困ると言うべきでしょうか、とにかく本気でこちらが困る。困りすぎる。

 

 ーーつか、私たちって依頼されて訪れてきただけの部外者に過ぎないんですよね。なので渡すもの渡したら帰りたいです。ソッコーで。

 

「ああ、そうでした。これを貴女のお父上にお渡しするよう、領主様から個人的にお願いされてきたんです。ただそれだけの身ですから、どうぞお構いなく家にも上げていただかなくても構いませんよ? では、さようならーー」

 

 ガシッ!!

 

「・・・旅の御方。今夜はもう遅いので、せめて一晩だけでも泊まっていってください。見ての通り貧相な掘っ建て小屋で満足なオモテナシもできないのですが・・・」

「・・・この小屋に近づくまで真昼だったのに、なぜだか峠を越えた瞬間から急に日が落ち始めて気づけば夜になっていましたが・・・?」

「山の天気は変わりやすいですから」

「・・・・・・小屋から遠ざかったら時間が逆戻りしていたように見えましたけど・・・?」

「山の中にいると、時間感覚が狂いやすくなるものですから」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・(ぐぐぐ・・・*逃げ出そうと力込めてる音)

「・・・・・・・・・(ギチギチギチ・・・*逃がすまいと引っ張ってる音)

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

「「ふぅ・・・・・・」」

 

 一息ついて。

 

「「・・・五分ですね」」

 

「「なにが!?」」

 

 

 久しぶりに私がボケてお二人がツッコむ展開に。

 偶にはこう言うのも悪くはないと思うのですよ。

 

 

 

 

 

 

「ーーそもそも父が槌を置いたのは、中央にいる貴族社会が鍛冶技術を戦争に悪用しだしたからなんです」

 

 そう言って彼女ーー山奥に隠遁して引きこもってしまった伝説の鍛冶師の孫娘で、毎日酒浸りになってる父親の面倒を一人で見ているよくできた娘さんです。私とは大違いですね。さすが。

 

 あれから私たちは、どうしても泊まっていって欲しいらしい彼女の誘いに乗るより他に選択肢がなく、合ったとしても絶対レヌール城の王様幽霊になりそうだったから諦めて誘いを受けたら歓待されてご馳走を振る舞ってくれました。

 

 罠である可能性もなくはないので、女神様に出された料理すべてに魔法をかけて害をなくしてから食べ始めました。

 相手の娘さんも、

 

「用心するのは大切なことです。山奥の宿屋で毒料理を出し、泊まった宿泊客を襲って殺す山賊もいると聞いたことがありますからね。用心するにしくはありませんよ」

 

 と、物わかりが良すぎる事を言ってくれたので有り難く言葉に甘えさせてもらったと言うわけです。

 

 ちなみに料理は鹿肉の足と温野菜。それにシャンパン。・・・完全に山の中で暮らす収入なし老人で出して良い料理じゃねぇな。何があったんだオヤジ。

 犯罪だったら、お姉さんじゃなくても許しませんよ?

 

 

「父は名のある鍛冶職人から工房を受け継いだ鍛冶の達人で、当時は多くの弟子たちに囲まれながら毎日を笑顔で楽しく過ごせていたのです。

 ですが、それも隣国との戦争が始まるまででした。各地へ召集されていく弟子たちに父は国への怒りと不満を溜めていき、最終的には工房を閉め、家を飛び出し、この山奥の小屋へ隠遁してしまったのです。

 それ以来、父は酒浸りの毎日を送るばかりで仕事をしようも致しません。鍛冶職人としての父は、戦争によって殺されたのです」

「なんと下世話な! 職人にとって槌とは、武士の刀のようなもの! 侍の魂でござる!

 魂を穢され踏みにじられた老巧の苦しみは如何ほどか・・・察するに余りある!

 セレニア殿! 拙者、この依頼は降りさせて貰うでござるよ! とてもではないが、このような悪行をなす領主の依頼など信用できーー」

 

 

 

「はい、合い言葉の確認終了です。お疲れさまでした。最初合ったときは言動が怪しすぎたので疑っていましたが、貴女が本物みたいで良かったですよ」

「いえいえ、こちらこそ。それから父の年金を送り届けていただき有り難うございました。大変だったでしょう? こんな山奥の掘っ建て小屋まで登ってくるの。

 それから、本来であるなら部外秘にして秘匿して、独占維持をしていくべき軍需技術である鍛冶の技を祖父のわがままで散逸しそうになるのを防いでいただけるだけでなく、こうやって魔法で結界まで張っていただき領主様には感謝の言葉もございませんとお伝えしてもらえませんでしょうか?

 なにぶん、私は飲んだくれの父が貧困生活に嫌気がさして、他国へ鍛冶技術を売り飛ばさないかを監視して、国民の皆様方と祖国の安全を守る義務と責任がある身なので・・・」

「承諾しました。依頼料の半分は成功報酬として領主様の館へ戻ったときに貰う約束でしたから、ついでとしてお伝えしておきますよ。

 それでは、私たちは街へと戻りますので貴女もお身体にはくれぐれも気をつけて。山の中だと病気になっても医者にはなかなか掛かれませんのでね」

「お心遣い、ありがとうございます冒険者様。

 ですが、ご心配なく。そう言うときの為にこそ、仕事をしない穀潰しの父親を持った若い娘は「やくそう」を森へと取りに行くのを日課としているのです。モンスターに襲われる可能性なんて、日々の日常を山の中のボロ小屋で過ごす家事炊事担当の若い娘から見れば、雷に当たって死ぬよりも低い確率です。問題ありませんよ」

「なるほど、頼もしい。それでは、良い人生を」

「ええ、貴女たちも良い旅を。結界に守られて異界化した山奥から祈っておりますわ」

 

 

 きぃぃぃぃぃ・・・・・・バタン。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ーーで? 今回の仕事降りるって? 別に私は良いですけども、報酬はセレニアさんと私で山分けしちゃいますけどOK?」

「・・・・・・・・・・・・・・・もらえるはずだった分の、三分の一だけでも欲しいでござる・・・」

「五分の一よ。これ以上は負けてやらないわ」

「くっ! ならばせめて四分の一に!」

「五分の一プラス、街に戻ったら供される約束の豪華な食事のローストビーフ。

 ここの娘さんも、昔は領主様の屋敷で働く使用人だったことがあるらしいからスゴいんだって聞いたわよ?」

「その話・・・乗ったぁぁぁぁぁで御座る!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あの・・・早く来てくれません? 私一人で山降りるの無理なんですけど・・・?」

 

つづく




勇者セレニアの特徴:弱い。


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第20章

ひさしぶりの更新となります。
本当だったらもう少し長い話にする予定だったのですが、どういう訳か疲れてしまって眠いので切りがよいところで切らせていただきました。

新キャラが登場しますが、仲間には加入しません。登場するのもクエストの期間内限定です。今後も出すかはわかりません。


「・・・来客が来ている? 私にですか?」

 

 依頼を達成し報告をすませ、報酬を受け取った私たちが宿屋に帰ってくると女将さんの娘さんが伝えてくれた言伝。

 なんでも数刻前より宿屋に来て、近場の森へクエストに出ていた私を待つため居間に居座り続けている人物がいるのだとか。

 

 しかもその人物、超ビッグーネームだったのですから驚きです。

 いったい全体、何がどうなって私のところなんて超零細新人パーティーに会いに来る用事が出来るのなら、ですね。

 

「神代の時代に生きた種族最後の生き残りにして、幾度も世界の危機を救ってきた大英雄。時代ごとに現れる勇者たちを教え育てるため何処からか現れて助けに入る最強無敵の助っ人剣士様ね・・・この設定、さすがに出来すぎてません? チート転生者でもないでしょうに・・・」

「まぁ、そうですね。本物の転生者さまは弱っちくて小狡いだけのガキでしたし」

 

 うん、その通りだけどアンタが言うのはムカつきますね女神様。この姿も能力値もあなたが決めたものであって私は指定していなんですけどね?

 

「とは言え、一介の中級冒険者パーティーには国を跨いで活躍している所属なし大英雄さまをお待たせする権利も資格も自由すら与えられてはおりません。急いで帰るといたしましょう」

「「おーっ!」」

 

 どこの国にも所属してないけど、冒険者でもない。それでいて世界最強、絶対無敵の剣士様なんて普通だったら国が存在を許しておいてくれるはずがない最大級の不確定要素です。自分の国に翼の生えた人の心を読める虎を放し飼いしておける支配者なんて、実在できるはずがありませんから。

 それでも彼は厳然として実在しており、今のやりとりから国への入国も滞在中の自由もある程度は保証されていると見てよいのでしょう。

 そこにある理由がコネであろうとお金であろうと、どのみちお呼びがかかった中級パーティーに選択肢などないのです。宿まで全速力でダッシュです。きーーっん!です!

 

 

 

 

 

 ・・・そして、私たちが宿泊している二流半レベルのお宿『出会い停』にある一室で。

 

「はじまして。私はクライスラー。冒険者ではありませんが、クラスは種族特性による固有の専用職で『剣聖』・・・ソードマスターに付いているものです。

 レベルは上限突破の200オーバー。ステータスも軒並み計測不能で、使える魔法も回復系を中心に召喚獣から攻撃系まで幅広い使用が可能です。今後ともよしなに」

 

『お、おおぅ・・・・・・』

 

 私たちは田舎から出てきたばかりのお上りさんみたいに口をポカンと開けて、目の前に立つ絶世の美青年を見つめてしまいました。

 

 まず、金髪です。それに眼が蒼いです。

 背も高いですが、細身です。鎧は頑丈そうなのに、重そうな印象は受けません。希少で強力な魔法の品なのでしょう。腰にはいてる剣も立派な拵えをしております。

 

 ーーただ、私が彼を見たときに一番注目してしまったのは、それらの様な些事ではなくて。

 

「・・・山田さんのお兄さんです・・・」

 

 もしくはレゴラスさんですね、ロード・オブ・ザ・リングに出てくる奴。弓使いのエルフで王子様の。あれとそっくりな長くて細い耳をした色白の金髪碧眼青年を見て『エロマンガ先生』の山田さん兄妹を思い出さないなんて私には出来ません。不可能です。

 

 ・・・しかし、何度見ても本当に似ているなー、エルフと。

 いやまぁ、あっちと違ってこっちは本物のエルフなんでしょうけども。

 

 私たちがボケッとしたまま沈黙してると、相手のエルフさん(もしくはお兄さんのクリスさんでも可)は苦笑を浮かべ、照れたようにハニカみながら質問してきます。

 

「エルフ族をご覧になるのは、初めてでしたか?」

 

 ーーはっ!? わ、私はなにを・・・とにかく、失礼があった以上はお詫びしなくては!

 

「大変失礼いたしました、クライスラー様。故郷の村で語り部たちから聞かされ続けた憧れの大英雄のご尊顔を拝することができ、感動のあまり言葉を失っておりました。

 礼儀を弁えぬ田舎者の不作法を、お笑いください」

 

 瞬間的に考えついた、それっぽい言い訳と嘘設定を並べ立てながらも頭を下げて表情を読まれないよう隠してしまうと、相手の方は穏やかに微笑む気配と共に私たちの非礼を笑って許してくれるようでした。ふぅ~、危なかったー。

 

「お気になさらないでください。人里で見かけるエルフの数が非常に限られているのは、紛れもない事実ですから」

 

 そう前置きした後に、彼は自分たちエルフ族について(正確には彼だけは古いエルフ族、もっとも神に近い一族と呼ばれている古代種なんだそうです。FF7かよ)詳しく教えてくれました。

 

 

 

 この世界においても他の王道ファンタジーと同じでエルフ族は気位が高く、他の種族を下に見がちな排他性を持った閉塞感のある種族として生きているそうです。

 得意な武器は弓と魔法。ここまではセオリー通りですが、職業システムが存在しているRPG風異世界においては自由度の高さ故なのか向き不向きに関係のない職業を選んで活躍するエルフさんも少数ながらおられるとのこと。

 侍エルフとか、モンクのロリッ子エルフちゃんとか見てみたいですね。

 

 彼らは国という物を持たず、それぞれの部族が聖地として崇めている深い森の中で生まれ育ち、ほとんどの人たちは一生を森の中だけで過ごして死んでいくそうです。

 原住民のようにも聞こえる言い方でしたが、彼らの暮らしは決して原始的なものではなくてクライスラーさんたち古代種から受け継いだ技術と文化(ちなみに今のエルフは古代種の末裔が交配を続けて生まれた種族なのだとか。なので能力的にも血筋的にも所謂「雑種」だったりします)をフル活用し、部分的には人間の王国よりも優れた技術を持ってるんだそうですよ。

 

 ただし、それらの多くには寿命があり、経年劣化を遅らせるためにも効率よく古代技術を節約するため自給自足を旨とする森の中で生活することを選ばざるを得なかった裏事情が存在しているそうなのです。

 

 もちろん、技術を使い切った後に1から再出発すると言う選択肢もあるにはありました。が、彼らには『神にもっとも近い一族の血を引く末裔』と言う名誉を捨て、凡俗と同じ視点に立って地べたを這いずり回る生活を送るなど不可能でした。

 結果として彼らは延命療法により種族全体の誇りと優越感を守り抜く道を選び、将来的には確定している技術の停止した後にどうするかを考えない道を選択したのです。

 

 こうしてエルフたちは、その長い一生を森の中だけで過ごし始めました。森の中にいれば外界からの情報は入って来づらく、自分たちの信じる『エルフは神にもっとも近い一族の末裔』と言う伝統を否定される心配がないからです。

 

 彼らにとって森の中とは、まさに聖域。自分たちが夢見る世界を実現させてくれるドリームマシーンのような場所なのでしょう。

 エルフたちは自分たちの誇りを守るために未来を捨て、今を生きることだけを選んだ者たち。それ故に絶望し、故郷を飛び出す若者が後を絶たなくなったのだとか。

 

 

「・・・なんだか凄く夢のない話を聞かされた気がしましたよ・・・」

 

 ゲンナリしながら慨嘆する私の横で女神様も「王道が・・・王道が・・・」と天井を見上げながら譫言のようにつぶやき続けてます。

 

 ただ一人だけ瞳を輝かせながら英雄の話に聞き入っているのは、純情侍少女のトモエさん。彼女にとっては幼い頃から寝物語に聞かされ続けた英雄殿から話を聞かせてもらえるだけでも十分すぎるほど幸せなのでしょう。内容なんてほとんど耳スルーして問題ないくらいには。

 羨ましい精神性です。私も彼女のように斯くありたい。

 

 

「・・・とまぁ、ここまでが近年までのエルフ史なのだけどね。ここからは今を生きるエルフ族について知っておいてもらうためにも、近況話に入らせてもらうが構わないかな?」

「・・・? 何故わざわざ確認を? 地続きで話してしまっても問題ない話題なのでは?」

「確かに関連付けられる話ではあるよ。ただし、凄惨というか生臭い方向に話が飛んでしまうけどね」

 

 そう言って苦笑してから話し始めてくれた近年エルフ族に生じている問題は、確かに生臭いことこの上ありませんでした。

 

 近年、エルフ族が抱えている問題点。

 それは長すぎる寿命が招いた社会の歪みだったのです・・・・・・。

 

「森の中で部族ごとに固まって暮らし、他の部族との交流も限定的。さらには閉塞的で高貴な血を持つ者を重視する制度化された階級社会がエルフ族の特徴だ。これだと結婚して子を産み続けていけば必然的に集落は、身内以外に存在しなくなってしまう。近親婚が多発してしまうんだよ」

「「「・・・うぇ~・・・」」」

 

 これまた初っ端からお茶の間に流してはいけない話題を・・・。続きは大丈夫なんでしょうね? チャンネル変えた方がよくありませんか? どうもそう思われまーー

 

「その結果、昨今では同じ森に住まうエルフ同士の間に生まれた子供が奇形児である確率が飛躍的に高まってきてしまった。

 誇り高い血筋を尊ぶエルフの里に奇形児が生まれたなど知られるわけには行かないから、産まれた子供が奇形児であった場合には親を含む村全体が全会一致で『生まれてないから存在してない子供』を作り出すことに躍起になる。

 一方で優れた才能を持つ奇形児が生まれた場合には神子として拝み奉り、神殿の中に幽閉して一生を門外不出の切り札としてしまい込ませる。教育で洗脳された彼ら彼女たちに意志など無く、自分だと思いこまされてる偽物の神を演じ続けることに生涯を費やすんだ。くだらないだろう?」

 

 ーー変えて! 早くチャンネル変えて! 一秒でも早く! 光よりも速い速度でリモコンまで駆け続けてーーーーっ!!!!!

 

 

「ちなみにだけど、ドワーフ族の体が頑健なのは、暗い穴蔵で日光も浴びずに半生を過ごす生活が体に異常をきたしてしまうから耐性を付けなくては生き続けられなかったからだと言う学説があってだね・・・」

「もういいです・・・おなかいっぱいです・・・これ以上は無理なんで、勘弁してくださいよ本当に・・・」

 

 うう、吐きそうです・・・気持ち悪い・・・。

 ーーあと、女神様ー? 帰ってこーい。そっちから落ちたら地獄ですよー?

 

「エルフ族についての説明はこんなものかな。どうだい? なかなかに興味深くて楽しめただろう?」

「・・・ええ、まぁ・・・ある意味ではでしたけどね・・・」

 

 それは良かったと、快活に笑う英雄様ですが肝心の来訪目的については一言も説明されておりません。ここまで嫌な話を聞かされたのですから、本命についても聞かせていただかなければ困ります。

 

「・・・それで? 今のお話はあなたの来訪目的と関連性があるものだったのですか?」

「いや? 全くないが? ただ、楽しんでくれるといいなと思って言ってみただけさ。気に障ったのであれば失礼」

 

 ーー唐突に口調が砕けたものに変わったことで、私の警戒感は一気に高まります。

 勝てないと分かり切ってる相手を前に警戒もなにも有ったものではありませんが、念のために位なら・・・ね?

 

「貴方いったい、何者なので・・・?」

 

 私の問いかけに対して英雄様は「ふふん」と鼻で笑い飛ばした後に足を投げ出し、椅子にふんぞり返って偉そうな態度で座り込みながら、私に対しては親しげに懐かしそうな声音で癖のある笑顔とともに話しかけてくれたのです。

 

 

「なぁに、同郷のよしみで先輩様から後輩に対して情報提供してやってただけさ。

 尤も、俺はアンタと違って神様にも女神様にも拾ってもらえなかった平凡きわまる凡人の魂に過ぎんがね」

「あなた・・・」

「俺の名は英雄クライスラー・・・を、守護者として機能させるために必要だからと適当な魂を拾ってきて入れられただけの『サブで出てくる最強英雄キャラクターの、中の人』さ」

 

「世界からの指示があって掃除人としての仕事をしなきゃならなくなったが、サブキャラなんでな。自主的に介入することができん。

 魔王を倒せる最強なのに世界を救わない英雄キャラには援軍として参戦するしか救い方が存在しないんだ。悪いがアンタら俺の仕事を手伝ってくれ。問題起きてる国いって、介入さえしてくれたら後は俺が一人で無双するからよ」

 

 ーーあまりの事態に脳の処理速度が追いつかなくなっていた私は、分かり切っている戯けた質問をしてしまいました。

 

 

「えっと・・・つまり貴方が私たちにしたい依頼というのは・・・」

「おうよ。

 世界の秩序を守り、事が起きたときだけ行って暴れて力で解消してしまう、悪者をやっつけるだけで飢餓も貧困も解決してはくれない、戦争は止めるが止めるだけ、戦後処理は他人に押しつけて自分は悠々自適に戦争で傷ついた心を癒すためにも旅にでる、人間の人間による不幸なんざ知ったことか自分たちで何とかしろよを地で行く存在ーー

 人々のため敵と戦い守ってくれる、勇者様ご一行として内乱勃発寸前の国まで俺を連れてってくれて「怪しい奴め!止まれ!」と槍先で脅されてくれればいいだけの簡単なお仕事。要するに・・・」

 

 ポンっと、彼は私の小さな肩に右手をおいて。

 

「おめでとう。最強英雄が同行者枠で押し掛けパーティー加入を強制してきたぜ」

 

 ーー魔王よりも英雄こそが地獄に落ちるべきだと思った、今日この頃な私です。

 

 

つづく




キャラ紹介:

英雄クライスラー。職業『剣聖(ソードマスター)』
種族:古代種(エルフの祖先で正式名称はエノク語っぽい神様の言語なので人語では表記しようがない。便宜上『ハイ・エルフ』と自称しているがディードの真似したいだけである)

神ではなく世界によって招かれた『守護者』の中の人。守護者そのものはシステムでしかないため人の世では上手く機能できないと適当な魂を見繕ってきた。セリフなどは自動変換されるため本人は本当に中の人でさえあればいい。
世界の危機ではなくて、世界の秩序を守るための存在なので常時現界したまんま。

勇者が人を救う存在『人界』を守る者なのに対して、英雄は『世界』を守る存在。個ではなく全体を守る存在でもある。それ故にひとつの国に属することができない。

魂がなくては動かない自動人形の限界故に必要だった人柱の青年で、生前はセレニアと同世代人で日本人。死後は時間とか関係なくなるので異世界の数千年前まで戻されている。
脳が万年単位で生きれるハイ・エルフの物に置き換えられているので、前世の事は忘れていない。ただし性格が適当なので興味ない事はすぐ忘れる。女の子の事は忘れない。

「最強チートが自主的に介入出来たら秩序が保てん」と言う理由からスポット参戦でしか介入できない。最強剣技で誰にでも勝てるが、止めはさせない。必ずHP1で止まる。
これは剣聖の固有スキル『活人剣』によるもので、手加減はしなくても強制的にできてしまうが殺しはできない。

まさに『英雄と言う名のシステム』でしかない存在だが、本人曰く「素を出してもモテない。何もしないでモテるのはありがたい」と気楽に自分の境遇を受け入れている。

ちなみにチート英雄の血を引く最強なんて生まれたら秩序がヤバいので子は成せない。でも、行為自体はできる。


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第21章

最近、小説を読んでいると新たなアイデアが沸いてしまって書きたくなる。書きたくなって書いてたら読む時間が大幅に減る。減った分だけ読めてないから、書くのに必要な文章力が低下することが、ガチに解決すべき問題点となってきました。

早く何とかしないとヤバいなぁー・・・。


 英雄クライスラーさんからの依頼を受けた私たちは一路、隣国を含む辺境地域の一部の集合体『バレアンヌ地方』を目指して歩みを進めておりました。

 彼が言うにはバレアンヌは元々この地域一帯を示す名前ではなく、地方を形成している一小国の王都を指していたんだとか。

 

「?? たかが一国の王都の名前が、どうして地域全体の名称に? 連合国家を形成するにしたって、もう少し妥当な名前がありそうなものですけども・・・」

 

 話を聞いた私は疑問を口にしました。

 軍事力で他国を飲み込み支配下におき、属国だらけと化さしめたなら支配国の名前が付けられるはずであり、比較的優位な軍事国家が中心となって外的から身を守るために形成された軍事同盟ならば中心国の王都名は用いないと思うんですよね。角が立ちそうだったので。もう少し国を意識させない穏便な前を採用するのが基本なのではないかなーと。

 

 すると彼は肩をすくめて見せてから。

 

「そこはそれ、ファンタジー世界故の厄介事があるものでな」

「と言うと?」

 

 興味を持った私が尋ねると、彼はバレアンヌ地方独特のファンタジー感について説明してくださいました。

 

 

 ーーかつて、この大陸にも全土を巻き込む大きな戦、戦乱の時代があり、バレアンヌ地方は地形と気候さえも激変させてしまう強大さ故に封印された魔法『禁呪』と呼ばれるファンタジーのお約束魔法が行使された大陸国家内でも唯一の国が存在していたのだそうです。

 

 “していた”と言う表現から推測できるとおり、今は存在しておりません。滅びました。人の身に余る強大な力『禁呪』を人同士の争い事に用いたことで滅びたのです。

 

「つまりーー心得違いをした者が禁呪を蘇らせた! だけど、禁呪がもたらしたのは勝利ではなく滅亡だったと・・・そう言うことですよね英雄さん!?」

 

 ・・・なんか鼻息荒げた女神様が横から割り込んでこられました。しかも、言ってる内容にどこかで聞き覚えが・・・ああ、『伝説の巨人』ですか。騎士ガンダム物語の。子供の頃に好きだったので覚えています。

 思い出したら見直したくなってきましたねー、OVA版。もう二度と観られることはないのでしょうけどね。

 

 ーーどうでもいいですが、女神様の好きな王道ネタが妙に古すぎる件について。

 

「いや? 戦には普通に勝利したよ?」

「・・・ほへ?」

「だって、最凶の力行使できるんだもん。たかだか一地方にある国同士の戦で負けるはずないじゃん。封印してあるんだから制御方が記録されてないわけないし」

 

 女神様の勢い込んだ質問に対して英雄さんはキョトンとした顔で普通に応じ、今度は女神様の方がキョトンとされてしまいました。

 

 私は肩をすくめながら一言。

 

「まぁ、封印を解けた以上は、封印の仕組みについても解析できてたはずですからねぇ。封じ方は解らないまま解き方だけ解ってるってのも微妙な設定ですし」

「いくつかの王家に分割して跡継ぎのみに受け継がれていくってのも難しいしなー。

 ーー今思うと、あれって継承させる時どうやって封印を移植してたんだろう? 『BASUTADO!!』のシーラ姫が封印破られた時って、子宮の辺りが破裂してたよな確か。・・・処女のはずのシーラ姫が・・・」

「さぁ? 普通に母親の胎内に居た時点で受け継がれていたのでは? 実際、メタ・リカーナ王家の中では彼女だけしか子宮をもてる者である女性はいなかったようでしたしね」

「・・・一子相伝で四百年間、封印を継承していくのか・・・? 娘を政略結婚の道具に使えねぇじゃん。よく四王家の同盟関係維持し続けれたな。女性に優しい世界を描く萩原先生、マジ紳士。超リスペクトっす」

「女性のお尻丸出し装備が基本の世界観で紳士もなにも無いかもしれませんけどね」

 

 いけません、脱線しすぎました。軌道修正、軌道修正と。

 

「それで? 禁呪を使った結果、その国はどうして滅びたのですか?」

「ん? ああ、スマン。女のおケツについて考えるのに夢中で言い忘れてたな。

 ーー先祖代々敵対関係にあった隣国を禁呪で地形変動引き起こすほど完膚無きまで徹底的に滅ぼしまくった国は、当然近隣諸国から従属の申し出が相次いだ。当たり前だけどな。誰だって国一つを一発で滅ぼせる核弾頭以上の破壊力持った国相手に戦いなんか挑みたくねぇし」

「まぁ、宇宙から地上を狙えるメメント・モリを相手に地上にある国家は従属以外に打つ手がありませんからねぇ。

 移動するコロニーレーザー程度だったなら、艦隊持ってるサイドでも対応策はありますけども」

「足止めれば済むだけだもんな、あれ。逆に地上から空だと何もできん。何かしようにも、上からなら丸見えだし。従属を求めてるだけなんだから、素直に白旗揚げといた方がマシってもんだ」

「それに、戦乱の時代ですからねー。支配したりされたりを繰り返すような時代に、意地や矜持は生き残るのに邪魔なだけですし。ましてや一地方にある国家群たちなら尚更です」

「そうそう。・・・って、またまた話が逸れてたな。戻すぞ?

 ーー戦には勝利したし、各国も従属させることが出来た。戦わずに勝てた王として当時の王様は希代の名君として崇められたが、それも長くは続かなかった」

「その理由は?」

 

 彼は再び肩をすくめ、両手を大きく広げてみせる外国人的ジェスチャーで「どうしようもない」と表現すると、

 

「先祖代々敵対関係にあった隣国だ。当然、国力も規模も比肩しうる物があるだろう。交流も部分的にはあっただろうし、産出する特産品で依存し合ってる部署だって無いことはない。

 そんな隣にある対等な巨大さを持った大国が、一晩にして地形変動させられるほど破壊し尽くされたらどうなると思う? 異常気象が続発して環境被害は甚大、隣国と国境を接する地域には寒波が襲い飢餓が蔓延し、飢えた流民たちが絶頂期にある王都へ向かって流入してくる。辺境地域との境目に長大な石壁を作って隔てようとした封じ込めにも失敗し、地方国家の属国になるような国が遠方にあるはずもないから二度目の禁呪使用を躊躇っている間に内部から崩壊。

 今では禁呪で永久凍土と化した元敵国の隣に廃墟として残っているだけの亡国だよ」

「えぇ~・・・」

 

 化学兵器を過信しすぎた軍事国家の末路・・・と言うべきなのでしょうかね。哀れなんだか、自業自得と言うべきなのかサッパリです。

 

「で? 結局バレアンヌ地方という名前の由来については?」

「おう。こっからは近代史になるんだが、禁呪で滅びてからバレアンヌではーー当時は別の名前で呼ばれてたんだがーー地方一帯に存在している国々を纏めた連合国家思想が生まれてな。狭い地域で隣人同士が殺し合ってても意味ないから、協調路線で外敵から身を守れるようにしておきましょうと。つまりはロードス島戦記に出てくる英雄戦争勃発前のモス公国だよ。あんな感じで一つの大公国を中心に纏められてる」

「禁呪の存在は? 抹消するなり消滅させるなりしたのですか?」

「うんにゃ、戒めとして残してる。と言っても国が管理しているわけじゃないけどな。

 協調路線、平和路線への切り替えと同時期に教会側から『平和を愛するもの同士』として支援があり、それを契機につながりを持った連合国は教会に禁呪の監視を委託してバレアンヌの地に巨大な大聖堂をぶっ建てさせた。

 感激した教皇猊下は禁呪を欲深き者共から守護し、教会側も決して使うような不届き者が出ないよう数人の枢機卿に神殿騎士団を率いさせて常駐し、近隣諸国を丸ごと守護しながら治安維持につとめてもいるから、比較的に他より平和が保たれてる国ではあるな。

 ちなみにバレアンヌってのは元々都市の名前ですらなくて、禁呪を蘇らせた暴君の名前だ。人類が犯した過ちを決して忘れさせてはならないと未来永劫残るように愚か者の名を大聖堂のある街に付けるよう連合国側に要請したんだそーだ」

「それは・・・・・・」

 

 なんと言いますか、何と言っていいのかすら解りませんが・・・・・・

 

 

「ーー完全に恫喝目的で故人の名前を利用しているとしか思えませんね。自分たちは『かつて人間をして、この大地の主と成した奇跡の技と力を我らは復活させた。我らに従うならば・・・』って感じでしょうか?」

「うええええええええええええええっ!? 今の流れでその答えに行き着いた勇者ってはじめて見ましたよ私っ!! 夢を! もう少しだけでも夢を見ましょうよセレニアさん!」

「ああ、銀髪ロリ巨乳の解釈で大体は合っている」

「合ってるの!? 教会が国とグルになって旧世界の環境破壊兵器を秘匿しちゃったとか言う最低最悪の推測が合ってていいんですか! この異世界の秩序を守らせてる世界さぁん!?」

「実際にバレアンヌの各所に福利厚生目的を建前とした教会がいくつも建てられてるから他国の軍隊が進駐し辛いことこの上ない状況が作り出されてしまってから数百年以上もの間、この国は対外的には戦死者を一人も出していない。

 その分、裏側での暗闘と身元不明者の死体と事故死と病死と行方不明者と、何でかよく分からんけど身内が死んでましたので跡継ぎますとか言う不審死と、お家の継承問題でのゴタゴタが続発しまくりだったが、秩序を保つための暗闘ならば世界の秩序的にはOKだ。問題ない」

「・・・貴方を派遣している世界さんて人は、随分アバウトな方なんですねぇ・・・」

「そんなもんだろ。精霊ルビスによる性格診断とか、プレイ開始時のタロット占いでハッピーエンドを迎えられるか否かを確定しちまう占い師のウォーレン爺さんとかもそんな感じだったからな。

 つか、世界を救う勇者個人には勇気と正義とかいう感傷的な加護だけ与えて、自分たち解放軍全体には栄光と勝利っていう実質的な利益を求めるような連中に厳密さなんて求めちゃダメだし、官僚は責任逃れと分散こそが本領だって『異世界転生騒動記』に書いてあったし」

「世知辛い・・・」

 

 なにが一番世知辛いって、異世界に転生しておきながら普通にオタク話に花を咲かせちゃってる自分が誰より何より世知辛いのですよ・・・。

 何故に異世界まで来て学校の級友とおしゃべりしているかの様なお話を・・・? ホントの本気で自分が解らなくなってきた瞬間でした。

 

「まぁ、そんな感じでバレアンヌは教会側が威信と支配領域をかけて全力での統治が行き届いてるから、冒険者ギルドの出る幕が全くない。

 支部さえ作られてないから冒険者だろうと国内では戦えないぞ、気を付けとけよ? 下手したら剣抜いただけで豚箱に放り込まれかねないほど冒険者へのマークが厳しすぎる国だからな」

「わかりましたけど・・・」

 

 そこまで来て、尚更解らなくなってた質問を付く前にしておきます。もうじき目的地に着いちゃいますのでね。

 

「私たちの存在って何に必要なんです? 今のお話だと、居ても邪魔にしかならないと言うか、なれないと言いますか・・・」

 

 私が聞くと相手の方は「あ~・・・」と、気まずそうに視線を逸らして頭をかきながら、どう答えれば傷つけずに済むかと考えているようでした。

 やがて答えが出たのか、決心が付いたのか割り切れたのか。どれだったとしても彼は私の質問に答えるため、目を見つめながら口を開かれます。

 

「・・・実のところ、アンタら自身に何かをしてもらいたい訳じゃあないんだ。アンタらを含めて介入する口実に使わせてもらいたいんだよ。その為のキーマンを用いるための条件がアンタだったって言う、ただそれだけの事なんだ。黙っていて済まなかったな」

「いえ、別にそれはいいんですけども・・・」

 

 ぶっちゃけ英雄のお手伝いとか嫌すぎましたし、拒否権あるなら拒否してましたし、選べる選択肢があるのであれば即座に縁を切って帰りたいこと山の如しでしたからね。

 単なる口実役なんて、むしろウェルカムでしかありません。

 

 ・・・どちらかと言えば私たちの使い方について興味を惹かれ、少し強めの声で重ねて問います。

 

 彼は空を見上げて、明るい日の光に遮られない特殊な眼で視て星の位置と月の満ち欠けから時刻を推し量りでもしていたのでしょう。「時間的にはピッタリのはずなんだが・・・」と、つぶやき。

 

「ーーお、キーマン発見。こっちに気づいたみたいだぜ」

 

 うれしそうな表情を浮かべて指さされた先に立っておられた方はーー

 

 

「「げっ!!」」

 

 私と女神様が異口同音に悲鳴を上げ、

 

「おお! ヨヨ王女殿ではござらぬか! 斯様な僻地で奇遇でござるなー!」

 

 システムから会話に参加できずに参加した気にだけされていたトモエさんが、嘘偽りなくシステムには関係してない喜びの声を上げました。

 

 そうです。そこに立っておられたのは・・・・・・。

 

「うふふ、またお会いできましたわねセレニア様。わたくしとっても嬉しいですわ・・・」

 

 希代の悪女王女様ヨヨ・ミレイユ・アリシア・イスパーナ様で在らせられました。

 

「・・・・・・・・・」

 

 無言のまま疑問の視線を投げかけると英雄様は「まぁ、そう言うことだ」とのこと。

 どう言うことだよ、ちゃんと説明しろよ。事と次第によっては只では帰さん。泣いてやるからな、大声で。

 いい歳した銀髪ロリ巨乳のお子様に泣かれる事が男にとって如何に恐ろしいか、其の身を持って思い知るがいい。

 

 

「だからーーな?

 如何にもなお姫様が陰謀たくらんでる国に訪れたら浚っちゃうのが悪の大臣のお約束というものだからして」

「そして、浚われた哀れで可憐なお姫様を救い出す際に、行きがけの駄賃として蹴散らされるのが偶然にも仕える国の大臣が悪だった一般兵士の皆さん。即ち・・・戦争を仕掛けるために必要不可欠な戦力なのですわ」

「姫様が浚われる目的で入国し、予定通り浚われてった姫様を救い出すため身分も国も関係ない。平民出の冒険者が国家権力相手に挑んで何が悪い! 伝説上の英雄は皆そうやって英雄と呼ばれるようになったんじゃないか!ーーと。で、その結果・・・」

「・・・勇気ある若者よ、汝こそが真の勇気を持つ選ばれし者。その名は『勇者』。力を貸そうぞ・・・と?」

 

 そうそうと、気楽にうなずいてみせる秩序の守護者にして世界最強の英雄剣士クライスラーさん。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かんっぜんに、マッチポンプじゃないですか! 漆黒の英雄を笑えませんよ!

 

 

 実在する伝説の英雄の中にもモモンガ様もどきが混じっていた可能性について考えさせられてしまうクエストと相成りました。

 

つづく



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第22章

別作を進めるためにもひとまずは英雄クライスラー編を終わらせる必要がありましたので完結編です。

テンポよく書いてたせいで地の文が少なすぎちゃいましたが、ノリだけで書くとこんなもんです私の場合には。


「な、何故なのだ大臣・・・? 今までずっと私を支え続けてきてくれたお主が何故・・・!」

「黙れ! 本来であれば偉大なるババズ陛下が王位に付くはずだったところを、王妃様が魔物どもに誘拐されたことで救出のために出奔され、やむを得ぬ事情故に弟の貴様を仮初めの王座に付かせてやっていただけのことだ!

 実質的に国の運営をこなしていたのは貴様ではなく、私ではないか! なのに何故いつまでも僭王の下に甘んじていなければならないのだ!? そんなことは許されない! たとえ天が許しても私が許さん! 認めん!

 故に真の実力者が誰なのかを目に見える形で分かり易く示してやろうというのだよ! この禁断の力、禁呪を持ってしてなーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 バババババババババババババっ!!!!!!

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 英雄さんの名前を使って潜入していたバレアンヌ王国連合首脳が主催するパーティー会場の席上で、ドラクエ5のグランバニア王家みたいなイベントが発生しちゃいました。大臣さんの謀反です。

 無責任にも国を捨てて妻への愛を優先した王様の地位を引き継いだ弟王様に、色々思うところがあるみたいですね。気持ちは分かりますけども。

 

「い、いやでもな大臣? 兄上が即位してから10年たつけど、その間に国にいたのは1年にも満たない短期間だけじゃあ、いいかげん亡くなったことにして新しい王を立てなくちゃヤバい時期だとは思えんものか?」

「貴様、それでもババズ陛下の弟御か!? あの方は武勇に優れて才気煥発、戦えばトロールだろうと一騎打ちで倒し、皮の腰巻き一丁で山脈をも踏破してしまえる大英雄なのだぞ! お前にあの方の陰だけでも踏むことが出来るか!?」

「・・・いや、出来てもやっちゃダメだろそれは普通なら。てゆーか、いくら剣の達人だからって国家主権者が偽名名乗って身分偽って他国に家持つなよ。バレたら国際問題になりかねんから。

 あと、なんでお前空飛ぶお釜に乗ってんの? つーか、その悪趣味なデザインは何だよ、マジで引くわい」

「貴様にはわからん! わからんのだ! そして、それ故に相応しくないのだ! あの方の後継の座につく者にはな!

 あの方のセンスは常人の理解できうる範疇を越えていた・・・! 儀式様に打たせた王剣に御自身の御名を冠せられ、城の中でも堂々と帯剣し、『ババズの剣』と言えば近隣諸国で知らぬ者がおらぬくらいに有名にしてしまった偉人の真似をするには、まず形から入るのが重要なのだ! それ故に私も作らせたのだ!

 この、『大臣UFO』と言う空飛び乗り物をなぁーーーーーっ!!!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 どうやら同じ連合王国の王様でも、獅子心王の様にはいかなかったみたいですねババズさん。見た目の差でしょうか? それともお髭でしょうか? どっちでもいいのでスルーさせてもらいます。

 

「嘗て、あの方が掲げた理想! 世界平和! 世界統一! 世界人類すべての永遠の安らぎと平穏をもたらすために! 今こそ私は王を越えて大王となる!

 世界の支配者クーパー大王さまの誕生であーーーーーーーーーーっる!!!!!」

 

 空飛ぶお椀の上でクッパ・・・いや、失礼。クーパー大王さん(笑)が高らかに世界帝国の樹立と即位を宣言されましたが・・・今のところ彼の地位はまだ公式身分のままなんですよね~。大臣ってどのくらいの地位にある身分なんでしょ?

 

「国によって違うけど、基本的には王を補佐するという関係上、王都を長らく離れられないから大貴族の中では低い方だったかな確か」

「はぁ」

「あと、大臣っつっても頭に何かしら担当部署がつくのが基本だからなー。ただの大臣って要するにお飾りって意味なんじゃねーの? あるいは便利屋かパシリとか」

「なるほど。それなら確かに国を実質的に動かしてると勘違いできるかもですね。大王なんてカメハメハさんみたいな頭のおかしい呼称を何も成してない時点で自称するくらいですから誇大妄想病の患者なんでしょうね、きっと」

 

 うんうんと私が納得して頷いていると隣から

 

「こ、こいつらと一緒にいると私のファンタジーに関する常識が壊れる・・・」

 

 などと失礼きわまりないことを呟き捨ててる女神さまが居られました。相変わらず失礼な人ですねー、ぷんぷんですよ本当にもう。

 

「そして! 偉業をはじめる第一歩として、絶世の美女として名高いヨヨ王女を我が后として迎え入れる!

 大国の王子や大英雄騎士など数多いる婚約者たちを一人残らず袖にしておきながらも、誰一人として責を問う者のいない彼女こそ我が理想とする伴侶である!

 彼女の神に愛されているとしか思えない幸運に加え、禁呪までもを手に入れた私こそが世界最強! まさに向かうところ敵なしである!

 者共ひれ伏せひれ伏せ頭が高ーい! 控えおろー! 私を誰だと思っておるのじゃ!? 恐れ多くもクーパー大王さまであらせられるぞー!!! 控えおろーーーっう!!!」

「きゃー、たすけてくださいセレニアさまー。わたくしったら、さらわれてしまいそうですわー」

 

 

 モノすっごい適当すぎる棒読みで助けを求められましてもねぇ・・・。相変わらず自分が目立ってないときにはダラケたがるお姫様です。

 自身にスポットライトが当たっていそうなシーンだと、宝塚みたいな身振り手振りを交えながら元気よく美辞麗句を並べたがるのに、自分以外がメインの時には休んでるか寝てるか歌でも歌っているかのどれかしかしてないヨヨ姫さまは今日も平常運転で何よりですね。

 

 それよりも・・・

 

「・・・あの空飛ぶUFOってどうやって飛んでるんでしょうかね? 理論とかわかったりします? 是非とも内部構造とか知りたいんですけども」

「この状況下でその質問!? 人質の心配とかは!?」

「人質を取ったということは逃亡する時までは殺す気ないんでしょうから、大丈夫なんじゃありません?」

「そ、そういう問題なんでしょうかねぇ・・・???」

 

 頭上に無数の?マークを浮かべながら首を傾げている女神さまでしたが、そう言う問題です。そう言う問題と言うことにしておきます。しておいてください。それよりも今はクッパ大王が乗ってるのと酷似している見た目の大臣UFOに用いられてる機構の方が遙かに重要事なのですからね!

 

 なんと言っても形状からして特殊すぎます! 出力が原因で重い物を乗せたまま空中移動するのが不可能とされたフライングプラットホーム。

 それと同じ原理で乗ってる台の下に回転翼たるプロペラがついていて、しかも大きさは大の大人二人分から三人分! クッパ大王さんが乗ってる方のは超重量級の彼が乗っても重さで落ちずに天高く飛翔する超弩級の発明品でしたが、こちらの大臣UFOはどうなのでしょうかね!? 楽しみです! わっくわっく♪

 

「・・・あ~、銀髪ロリ? 夢を壊して申し訳ないとは思っているんだけど・・・すまんが、一言だけ言わせてくれ。

 ーーグランバニアの大臣を背後から操ってたのは誰だった?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・一瞬にして心が冷え切った私は、大臣さんが乗る大臣UFOから視線を上へ上へと上げていきーー見つけました。ホークマンさんたちです。数人がかりでなにか縄のような物を引っ張り上げようとしているのと同じポージングをしておられます。

 おそらく魔法で見えなくしているか、あるいは神の塔にあった『見えないけど存在しているから渡れる床』みたいな感じの技法で編まれただけで性能自体は普通のロープで吊ってるだけなんでしょうねぇー・・・・・・。

 ・・・・・・おにょれ、恥をかかせましたね。かくなる上はーー。

 

 

 

 

「さぁ、後は教団の幹部を脅したり買収したり弱み握ったりして何とか手に入れた禁呪の制御キーを持って封印の塔へと赴くのみ! 普通であるなら徒歩で上らなければならぬところだが、この大臣UFOがある私には関係ない!」

「!! そ、そこまで計算して作った物だったとは・・・貴様、よほど周到に計画を練り続けていたのだな!」

「ふはははははっ! 上司であり国法の守り手であるべき身でありながら気づかぬ貴様が悪いのだよ!

 さぁ、いくぞ! 私は今、新世界の神となる! ふははははははーーーーっ!!!」

 

 

 バァンッ!

 

 

 ・・・・・・ガクンッ。

 

 ーーーーーヒュ~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ボーーーーーーイル!? ちょ、おま、何やってんの!? 何やらかしちゃってんの!? 何やられちゃってんだよお前!

 俺たちの少人数で、この馬鹿でかいデカ物持ち上げるのがどんだけ大変な難事業か本当にわかっててやられっちゃってる訳ぇぇぇぇぇっ!?」

「バカ野郎! デケェ声出すんじゃねぇ! 俺たちは下にいる人間どもに存在を気づかれちゃ不味い魔王軍特殊部隊だってことを何度言わせりゃ気が済むんだ! このクズどもが!」

「ぐ、軍曹殿・・・」

「いいか!? 今の貴様等は下等な人間以下だ! 名も無き○○だ! 俺の指揮の元、この任務から生きて帰れたその時、貴様等は初めて兵器となる! キラーマシンとなるのだ! それまで貴様等は××同然の存在だ!」

「いやあの、ちょっと? 軍曹殿・・・少しお声の声量が大き過ぎるのではないかと・・・」

「俺は貴様等を憎み、軽蔑している。俺の仕事は貴様等の中からフニクリ野郎を見つけだし切り捨てることだ! 勝利の足を引っ張る○○野郎は容赦せんから覚えておけ!」

「いえ、ですからあの軍曹殿・・・? 眼下から大声量の発生源に狙いを定めているらしき人間の小娘がボウガンっぽい何かを構えているのですがお見えになりませんか・・・?」

「笑うことも泣くことも許さん! 貴様等は魔族でもなければ人間でもない! 殺戮のためのマシーンだ! 殺さなければ存在する価値はない! 隠れて○○かいてるのがお似合いの××野郎に過ぎん!」

「あの~。ですから聞こえてます軍曹殿? 軍曹殿ー?」

「わざと力を抜いて目立ちたいか! 重いフリをして同情を引きたいか!? この負け犬根性のゴミ溜め野郎どもが! パパの作ったシーツのシミになって、ママの○○に残ったのがお前らだ! 泣き言を言うならこの場でケツから○○を流し込むぞぉっ!」

「だから聞けって人の話。狙われてるって言ってんだろ、さっきから。死ぬぞアンタ、そのままそこで叫んでいたら」

「貴様等の彼女は両手で握っている、その透明なロープだけだ! ケツがでかい○○女なんぞ、貴様等には必要ない! そのボールを熟れる前の瑞々しくて愛らしい幼女だと思って精一杯綺麗にして差し上げるのだ!

 ・・・ああ、幼女は良いぞ。最高だ・・・特に見た目が幼いのに妙に大人びて見えて、でもちょっぴりだけ抜けてるところもあるロリ巨乳の女の子なんかと出会った日には即日の内にゴールイnーー」

 

 バァン!

 バァンバァンバァン!!!

 

 

『ぐ、軍曹殿ーーーーーーーーーーっ!!!!!!』

「やべぇっ! 今なんかものスッゲェ殺気を感じたわ! 鳥肌たっちゃってるもん俺! いや、元から鳥の肌なんだけどさ!」

「アホなギャグ言ってないで何とかしろよお前! ただでさえ人数ギリギリだったのに二人も抜けちゃったから揚力維持できなくなりつつあるんだぞ! どうすんだよ! どうすればいいんだよぉっ!?」

「俺・・・生きて帰ったら魔王軍を辞めて、母ちゃんの待つ故郷に帰って家業の果樹園経営手伝って暮らすんだぁ~。そんでさ、美人って程じゃないけど器量がよくて面倒見がいい雌のホークマンと番になって鶴みたいに一生二人で寄り添いあいながら生きていくんだぁ~」

「いかん! なんか妄想に逃避し始めた奴まで現れだしやがった!」

「しっかりしろハンス! 俺たちはホークマンだ! 東の果てにあると言われている黄金の国ジャパングの周囲には出没しない種族なんだぞ! 鶴とは違う生態系を持ってるんだ! それを分かるんだよハンス!」

 

 バァンッ! バァンッ! バァンッ!

 

「ハーンス!? ディードリッヒ!? エーレンベールグ!?」

「ああ、なんてこったい! これで残るは俺とお前の二人きりーー」

 

 

 

 

 バァンッ!

 

 

 

 

 ・・・残念、一人きりでしたね。ご愁傷様です。

 

 さて、と。

 あの大重量です。これだけ数を減らせば十分すぎるでしょう。

 残りは彼の判断にお任せするといたしますかねぇ。

 

 

 

「お、おい! 落ちてるんだけど! 高度がさっきから落ち続けているんですけどもぉ!?」

「当たり前じゃクソジジィ! こちとら小さな翼で人間と同じサイズのまま空飛ぶために極端な減量を自らに架してるホークマン一族! 体力なんて端から皆無なんじゃい!」

「なんでそこで偉そうな態度するのぉ!? ・・・ええい、とにかく今はそれどころではない!

 いいか? 落とすなよ! 絶対に!何があっても私の乗ってるUFOを落とすんじゃないぞ!? いいな!? わかったな!? わかったなら分かったって言えや、この焼き鳥野郎!」

「ああん!? なんだって俺たち魔族がお前みたいな使い捨ての人間の命を守るために自分の命まで張らなきゃなんねぇんだよ? バカバカしい、俺は縄を離して逃げるぜ。後はテメェだけで何とかしな。じゃあな」

「バァカめが! あの銀髪ロリ巨乳な小娘は、さっきからお前の事しか見ておらんわい! 空中にいる間、人間である私に意識を割く必要性がないことを熟知しまくっておるのじゃよ! 私の乗ってるUFOを放した瞬間、お前には生かしておいてやる理由も価値も人間側にはなくなってしまうのじゃ。私の存命時間がそのままお前の命の命数!

 死にたくなかったら私を殺すな! 私の命を守れ! それが結果としてお前の寿命を引き延ばす事に繋がるのじゃから!」

「ちょ!? おま、き、汚ねぇ! 人間の選ぶ手段汚すぎるんですけどもぉ!?」

「ええい、叫ぶ余裕があるなら力め! 力むのじゃ! 私を安全な場所へ降ろすために!」

「図太い! そして厚かましい! なんだってこんなのを魔王さまは使い捨ての駒として選んじまたんだー!」

 

 なんだか味方よりも敵の方が可哀想な気がしてきましたが、戦場で情けは無用だとかなんとか。

 

 と言うわけですので、脅迫タイムです。

 

「その人を乗せたままパーティー会場の一角へ不時着してください。貴方も一緒に、です。場所は仲間がこれから誘導いたします」

「・・・もし俺が断った場合には?」

 

 バァンッ!

 

「・・・・・・」

「勘違いしないでください。私は交渉しているわけではありません。無条件降伏を呼びかけてやっているのです。この場において誰が主導権を握っているか、貴方の生死が誰の一存で決まってしまうものなのか。よく考える時間は与えませんので、即断願います」

「・・・性急すぎるな、人間という野蛮な生き物はこれだかrーー」

 

 バァンッ!

 

「・・・・・・(ツー・・・)」

「最後通牒です。死か、降伏か。お好きな方をどうぞ。

 ーー言っておきますが、私にお姫様を含む人質交渉は持ちかけるだけ時間と労力の無駄ですよ? 再発を防ぐためにもテロリストには譲歩しない。これは大前提なんです」

「・・・・・・・・・アイ・マム。降伏勧告を受諾する・・・」

 

 バッサ、バッサ、バッサ・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・ドシャ。

 

「さぁ、大臣とお姫様はお返ししたぞ。これで俺の身の安全は保証してもらえるんだろうな?」

「ええ、もちろん。私の権限で守れる範囲においては最大限、貴方の命と名誉と身の安全は守ると誓約いたしましょう。約束です」

「そうか・・・。それなら、いい。任せる。だからーー」

 

『我らが神の子たる神殿騎士たちよ! 神の敵を殺すのだ! 殺すのだ! 殺すのだ! この地上のありとあらゆる場所からウジ虫どもを殺して殺して殺し尽くすのであぁぁぁぁぁっる!!』

 

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!

 

「なっ!? なんだ異様なテンションの連中は!? お、おいアンタ! 助けてくれ! 俺を助けてくれ! だってさっき誓約したもんな!? 俺を守ってくれるってさ!

 だからーー」

「すみません、神殿騎士団は教会が保有している唯一の軍事組織であり、神旗も持ってきていますので一介の冒険者には扱いかねる相手なんですよね。

 ですので『私の守れる範囲と権限』を大きく逸脱して余りありすぎる存在となりますので、契約内容の範囲外となりますね。そのため今回の件では契約は適用されません。

 申し訳ありませんが、御自身の力だけで何とかしていただくよりほか御座いませんので、力及ばぬ事を平にご容赦くださいませ」

「なぁっ!? き、聞いてねぇぞそんな話! だいたい契約内容なんて詳しく見せてもらってねぇのに分かる訳ないだろう、そんなものはよぉ!?」

「中身を精査せずに契約書にサインをすると自己責任で破滅すると言う、いい教訓が得られてよかったですねぇ~。次からは気をつけてください?

 ーーでは、ヨヨ殿下。この場所にいると危ないですので私たちと一緒に避難いたしましょう。さっきまでは隠していましたが、もうバレちゃったので王族待遇での宿の手配とかお任せしちゃって構いませんよね? 私いろいろ行きたい所があるんですけども?」

「ええ、セレニア様。喜んでお連れさせていただきますわ。

 だって、これが二人で初めて行う共同作業になるんですもの♪ がんばります!」

「「・・・・・・(悪魔と悪女のバカップル・・・(で御座る)・・・」」

 

つづく

 

 

 

おまけ:英雄の座にて

 

英「な~、世界よー。今回のクエストで俺って本当に必要だったのか~?」

世「アノ少女ハ、ナニヤラ私ノ知ラヌチカラを秘メテイル気ガスルナ・・・モシカシタラ敵ニナルヤミ知レヌ。オ前エ以外ニモ監視要員ヲ当テテ置イタ方ガヨサソウダ。

  ――世界ノ秩序維持コソ我ガ使命、我ガ存在スル証。ソノ為ニモ次ハマズ・・・・・・」

英「バレアンヌ饅頭食うか? うまいぞ?(むっしゃむっしゃ)」

 

 英雄クライスラーは英雄の固有スキル《人の意見を聞く気がなーい》を使用中。

 

 

 

 

おまけ2:宿屋の一室にて。

セ「今回は防御力低くて体力も乏しい、本来なら回避力と素早さの高さと何よりも飛行能力こそが最大の武器である相手が長所のすべてを封じられてる状態で戦えたので弾の消耗が思ったよりも少なかったので助かりましたよ。大半は当てる必要なかったですし。

 ーーまぁ、だからと言って、大した意味もない無益な消耗戦を仕掛けてしまったという過ちは認めざるを得ないんですけどね・・・」

メガ・トモ「「・・・・・・意味のない、無益な消耗戦・・・(微妙に戦慄中)」」



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第23章

最近、レトロゲームにはまっているせいか微妙に原点回帰したいと言う願望から逃れられずに雰囲気だけでも戻してみました。新キャラ(ぽいのが)登場します。

尚、今まで書いてこなかったトモエの設定も(ようやく)解説させて頂いております。


セ「今話から火縄銃を封印しようと思うんですよね」

め「なんでですか? 数少ないって言うか唯一の取り柄でしたのに」

セ「いや、流石にご都合主義過ぎててチート臭いなーと」

ト「“ちーと”とは何なのかは分からぬで御座るが、正義は拳と刀で語り合うもので御座るよーっ!」

セ・め「「・・・え? あなたの其れ(刀)って・・・抜けた上に使えたんですか・・・?」」

ト「ヒドすぎる!(>o<) 切るどころか抜くことさえ許してもらえない展開は拙者のせいでは御座らぬのにーーーっ!!!(>_<)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、色々あって疲れてたので(英雄さんとか王女様とかで)少し気楽に異世界旅を満喫しようと思って、目的地を決めずに棒きれ拾って適当に倒して指し示してた方向へ進んでいくGEETな自衛隊の手法で歩みを進めてきたわけですが。

 

 町から出立して三日ほど経った頃に馬車の前へと躍り出てきた方が現れました。

 

「止まれ! そこの馬車! ここで会ったが百年目だ! 今こそお前たちに殺された兄の恨みを晴らしてやーーぐへぇっ!?」

「・・・ん? 今、なにか踏んづけたで御座るかパトラッシュ?」

「さぁ~あ? 私はセレニアさんとお話ししていて見ていなかったですけど、ゴブリンでも現れた途端に倒された系の話なんじゃないですか?」

「馬車の車高って以外と高いですからねぇ。しかも幌馬車だと中から外はほとんど見えませんし、馬の背中って予想を超越してデッカかったりしますし。突然前にでて来られても気づく前に踏んづけて終わっちゃう場合も、あるにはあるんですよね」

 

 旅も三日目に入ると怠惰な日常にも慣れてきて、神経が弛緩してきちゃうんですよねー。なので馬車を引いてる馬さんに前方注意の概念がないのも手伝って、交通事故が多発しやすいのが馬車で行く旅路。ハンドルもブレーキもない馬車は、急にどころか結構ゆとりがないと止まれないことが多々あります。御者さんの腕とかのもありますし。

 

 こう言うことも考慮して、街道では馬車と徒歩での旅人がかち合った際には徒歩で歩いてる方が道を譲るのが基本です。

 つか、一度はずれたら元の道に戻ってくれるのにスンゲー手間取る馬車と人とでは優先順位が違いすぎてて比べるバカなんていやしません。そう言うものです。

 

 なので馬車の目の前に飛び出してくる相手は、よほど身分が高くでもない限りはバカで済みます。街道を一人で歩いてる時点で平民階級なので、たとえひき殺されても自己責任ですしね。問題ありません。

 

「まぁ、踏んづけちゃったかもしれないなら仕方がありません。通り過ぎてから背後に死体でも落ちてたら埋めるか追い剥ぐかのどちらかを選ぶで構わないのでしょうから、気にせず行きましょう」

 

 キングス・フィールドで死んでいたミーナさんみたいなものです。作品のヒロイン的ポジションにある女性が魔物に殺されて死体となった後に見つけられたというのに、主人公の感想が「ミーナの死体」だけだった時は素直にファンタジー異世界の怖さに震えたものですよ。懐かしい話です。小学生の頃の私は純粋無垢だったな~。

 

 何ヶ月も一緒にやってきたお陰か、私の性格や思考法にもスッカリ慣れていただけたお二人は「死んだ後じゃ仕方ないか」と言った感じに肩をすくめて提案を受け入れていただけましたが、やはり死体からアイテム持ち去ることには倫理的な理由により抵抗が激しく、諦めざるを得なくなりました。ちょっとだけ残念です。良いアイテム持ってる場合もあるんですけどね・・・。

 

 

 

 

 

「ーーで、『埋めるなら言い出しっぺが』を口実にしてセレニア殿を当事者から外したわけで御座るが・・・これ、一体どうするおつもりか? メガミ殿・・・できれば追い剥ぐ以外の代案を頂戴できれば助かるので御座るが・・・」

「・・・・・・ないですよ、そんなもの。て言うか、あるわけないでしょう? だって私、セレニアさんを当事者から外したかっただけですもん。

 これ以上あの人を関わらせたら絶対ろくでもない方向に向かうの確実だと思っただけが行動理由でしたからね」

「・・・・・・同じ穴の狢が気づかず共闘し、自らが落ちる穴を二人で掘ってただけで御座ったか・・・」

 

 本気でどう致そうか、この死体・・・。埋めるにしても地面を掘る道具なんてないので御座るが・・・。

 

「メガミ殿。死人対処の専門家、ハイ・プリーストとして何かしら役立つスキルなり能力なり魔法を修得しておられては・・・」

「死者の軍勢を相手に祈りながら十字架振り回して戦う聖職者の在籍する宗教など実在しません!」

「いや、いるで御座るよ拙者の祖国にも故郷にも!? でなければアンデッド最強伝説が確立されてしまうでは御座らぬか! 聖なる力で祈って除霊が神官系クラスの十八番だったはずでは!?」

「死者の魂を肉体とともに消滅させることは除霊と言わない! 単に相手の存在を消滅させる悪の大ボスがよくやる攻撃です! つまりは神と魔王は紙一重!」

「お主の信仰心は奈辺ぐらいに!?」

 

 驚愕の不信徳ぶりで御座るな、この御仁! 引くわ! 全力で引くで御座るわ! 宗教建前に使うでないわ!

 

「はぁ・・・。仕方が御座らん。とりあえずは道ばたに寄せておいて、次の町に着いたら場所を伝えて供養をお願いしておく程度で妥協いたすしか状況で御座ろうからな・・・埋葬は諦めるで御座るよ」

「賢明ですね。それじゃあ私は、なにか目印になりそうな巨木でも探してきまーす」

「お願いするで御座るよー、メガミ殿ー」

 

 ふぅ、では拙者も自分の仕事としてメガミ殿が良い場所を見つけてくるまでの一時保管場所として道の脇に移動させて、と。・・・よし、ここまで運べばもう安心。無理なくゆとりのある埋葬計画が遂行できそうで安心したで御座るよ。

 

 ーーしかし、見れば見るほど不可思議な格好。顔どころか性別すら見ただけでは分からなくしてあるなど、いくら恥ずかしがり屋さんでも限度という物があーー

 

「あーーーにーーーのーーーかーーーたーーーきーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「ぎゃーーーーーーーーーっ!?

 死体が! 死体が呪いの怨嗟の叫びとともに蘇ったで御座るーーーーっ!!!!!」

 

 無念を残して死んだ人の魂がアンデッド化したで御座るーーーーーーーっ!!!!!

 間合いが近すぎて刀を鞘走らせることすら出来そうにないで御座る! 助けてくだされメガミ殿ーーーーーっ!!!!

 

「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーMEN!!!!」

 

 ズゴンッ!!

 

 ごごごごごごごごごごごごごっ・・・・・・・・・。

 

 ーーーぐわっしゃあああああああああああああ!!!!!!!!

 

「き、きゃあああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

 ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 スタスタスタ。

 

 どやぁぁぁぁぁぁん!!!!

 

「どうですか! この神なる祈りの一撃のすさまじい威力は!

 神に拳で祈りを捧げることで地を割り、地割れを起こし、敵を大地の裂け目より地の底へと落下させて封じ込めてしまうという、まさに伝説的聖者の御力!

 ふっ・・・。歴史的大偉人と同格に並び立つまで上り詰めた、私の聖職者としての徳とアガペーが恐ろしすぎる件について」

「・・・まぁ、確かに恐ろしかったで御座るがな? 主に威力と主義主張の内容が・・・」

「そうでしょうとも! さぁ、もっと私を崇めるが良いのです愚民ども! 真なる神は私なり!」

「信仰心は!?」

 

 ダメで御座る! この人本当にダメな人だったで御座る! 早く何とかしないとな人で御座ったよーーーーーーーーーーっ!!!!

 

「さぁ、埋葬は済みました。セレニアさんが待っています。先を急ぎましょう。

 なぁに、天災雷火事親父・・・どれが起きても全部あなたたちの信仰心が足りないせいだと言い張れば大概のことは通ってしまうのが宗教と神を崇める民衆との関係ですので無問題ですよトモエさん。世は全て事もなし、東部戦線異常なしです」

「そうで御座るな確かに! 世の中にある問題ではなくて、お主の中にある心の有り様に問題がありすぎてるだけで御座るからな!」

 

 特一級の危険人物たちと旅する自分の将来が不安で仕方なくなる拙者の名は『平家トモエ』。没落した名家を先祖に持ち、お家再興を目指して剣の修行に勤しんでいる武者修行中の若武者で御座る。

 

 腕を上げて父上や御師匠様のような剣豪に大成し、世のため人々のため悪を討つ正義の剣士になることを夢見て故郷を飛び出してきたので御座るが・・・・・・最近、挫折ぶりがヒドすぎる気がしているで御座る・・・。

 

 ーーされど負けぬ! 死なぬ! 武士道を奉ずる一人の侍として、正義を貫くことは拙者の義務なので御座るぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!

 

「・・・ちょいと? 何やってんですかあなた、置いてきますよ。奴隷身分から解放されて借金帳消しになる代わりに、生活費が手持ちの小銭だけの状態で独立させられたくなければ急ぎなさいですよね」

「やぁ~ん、メガミ殿様ったらせっかち様で御座るなぁ~☆ トモエは主様方の忠実なる可愛い狗なので御座るから置いて行っちゃ御座るよ~☆ いけずいけずはい・や・よ・で御座る♪」

「・・・・・・・・・キモ」

 

 ーーく、屈辱! されど暖かい食事と屋根のある寝床に代えられる物など何ひとつとして無し!

 ただ生きていくだけの家畜に墜ちようとも、人は生きていかねばならぬで御座る! 死んで花実が咲くものか! 生きてこそ叶えることの出来る下克上の夢を掴むまで、この命! そなたらに預ける故、存分に弄ぶが良いので御座る! 何度負けても最後で勝てば官軍で御座るよーーーーーーーーっ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がしっ!!

 

 

「あ、兄の仇を討つまでは私は決して死んだりしません・・・。兄の無念を、執念を、無慈悲な悪に破れた正義の志を引き継いだ私こそが正義の勇者。必ずや魔王を倒し、世に正義を敷く為にも、まずは仇を討って聖剣を取り戻す!

 そうです! 私は正義! 世のため人のために戦う正義の味方から金を取ろうなんて不届きな輩がおかしいだけなのに借金の抵当に入れられてしまった我が家に伝わる伝説の聖剣を取り戻すためにも兄の仇であると教えられた三人組を討ち果たすのが我が使命!

 銀髪の巨乳、ピンク色した着物の美人。そして・・・エロい格好のハイプリースト! 

 教えてもらった特徴に間違いがない以上、あの人たちさえ倒せば聖剣が・・・聖剣が・・・聖剣が、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 つるっ!

 

 

 がら! ガラガラガラガラガラガラガララガラガラガラーーーーーーっ!!!!!!

 

 

「一度負けたくらいで諦めたりするものか! 正義は必ず最後には勝つのだからな! 

 次こそ私が勝って、お前たちをぎゃふんと言わせてやるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁん!

 ・・・でも、いやいやいやぁぁぁぁっ!!! 落ちるのは嫌なの! 落ちてくのは嫌なのぉぉ!!

 正義は、悪にはめられて負かされて穴に落とされるのが一番イヤなのよーーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・ボッチャン。

 

 

 

 

 

「・・・ちっ、使えねぇ辺境出身の田舎勇者様だぜ。まあいい、あれで時は稼げたんだ。罠の用意は万全。後は仕上げとしてお優しい勇者様にもう一働きしてもらうとしますかねぇ。・・・人質として、ね」

「へへへへ、正義だの人助けだのと甘っちょろい事ほざいてる苦労知らずどもに、本当の悪の怖さを思い知らせてやりましょうぜアニキ。そしてその後はあのダイナマイトボディを・・・うひひひひ」

「ああ、そうだな。楽しみだよな。

 ーーだが、しかし・・・・・・」

 

「「さっきの地割れは何だったんだ? 魔法にしては呪文が聞こえなかったけど・・・・・・雨で地盤が緩んでたのかな? ・・・・・・分からん・・・理解不能な現象だったわ・・・・・・」

 

つづく



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ボツ案「別ルート1章目」

実は本編23章を書く前には本気でやり直しを検討しており、途中まで書いたところでボツにして本編を書き直したため中途までは出来てた別ルートの「異世界にTS転生勇者」1話目。

折角なので途中までとは言えボツ案として出しとく事にします。
今朝方に更新した本編23勝は1話手前ですので戻って閲覧ください。


 ぴーん、ぽーん、ぱーん、ぽーん。

 

 この物語は前回で区切りよく終われたことと、ストーリーが有って無きが如しなままでは問題あるかもなと危惧した作者により、途中から分岐したと言う形で今までとは別展開に進めさせていただきます。お許しください。

 

 また、どこら辺からどう分岐してという類の方針変更ではなくて、最初の国で何事もなくクエスト終えて次の国へと向かっている途中ぐらいに大雑把なくくりで解釈しておいていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ?」

 

 私が口の中にあるパンをモグモグと租借し終えてごくんと飲み込み、コップに残っていた牛乳もどきで綺麗サッパリ流し込んだとき、違和感に気づいてお尻の後ろにあるポケットに手を伸ばすとあるべき感触がなくなっていることに気がつきました。ーーいつの間にやらスられてたみたいです。

 

「ふぇ? ほうひはんへふか、ふぇへりあさん?」

「とりあえず、口の中にある物飲み込んでからしゃべってもらえませんか? 女神様。さすがに美少女に見た目でそれは・・・ちょっと以上に辛いです・・・」

 

 特に“元”男としては、ね。

 私の意を汲んでくれたのか否かは分かりかねますが、目の前のハムスターみたいに口を食べ物でいっぱいにしている女性、エロい格好した青髪青目の美少女ハイ・プリーストにして私を異世界に勇者として(拒否権なしで無理矢理に問答無用で)召喚した女神様は口を閉ざしてから黙り込み、超スピードで早送りするビデオ再生みたいな勢いで口の中の物を飲み込み終えると「ふぅ」と息をついてから。

 

「で? どうしたんです? もしかしてお財布でもスられてたんですか?」

 

 ・・・何事もなかったかのように平素と同じ顔で会話を再開しやがりましたよ・・・。どうなっとんねん、女神の肉体構造は。マンガかよ。

 

「ふむ。この賑わいの中で御座るからなー。そういう事をする輩もでてきているので御座ろう。嘆かわしきことに御座る」

 

 隣で蕎麦に似たナニカ(余談ですが地球だと、麺料理の元祖は中国産ではないと言われているそうです)をズルズルと啜っていた黒髪黒目で総髪の髪型している、ピンク色の着物をまとった侍少女(正確には元服前らしいので武家ではあれど制度上は国に出仕して仕えている侍ではないそうです。ジイヤとかに教育されてる若様の中堅階級バージョンでも連想しといてください)この世界で最世に訪れた国で出会って、紆余曲折あった末に刑務所に入れられて出所してきて文無し宿無し一文無しだった所で泣き着かれて、致し方なしにパーティー加入を認めてあげた借金浪人のトモエさんが他人事のように論評されました。・・・給料減らしちゃってもよろしいですかね?

 

「どうやらそうみたいですね。まぁ、大した額が入ってたわけでもないので構わないと言えば構わないのですが・・・」

「入れてなかったんですか? 大金を?」

「夕食食べに訪れただけの屋台へ、大金持ってやってくる人って何です?」

「・・・ま、まぁ確かにそうなんですけども・・・」

 

 微妙すぎる表情の女神様。それでもキッチリご飯を食べる速度だけは落とさない当たりは流石と言えるのでしょう。

 

 

 異世界に勇者として召喚するため、地球での現世で殺されて転生させられた私は(改めて考えてみるとスゴい犯罪臭ですね・・・)最初に訪れた国でのチュートリアルみたいなイベントを消化し終えてから次の国へとやってきたばかりの地点にいます。

 

 具体的にはウォルロ村から旅にでてセントシュタイン城に着いたばかり。あるいは北から訪れたせいで砂漠の城フィガロについたら王城に先に着いちゃったけど、本来ならこっちが先の城下町サウスフィガロの町に着いたところ。そんな感じですかねー。もしくはごった煮した中間点。

 

 次の国に到着して最初に訪れた国境近くの町。これがたぶん一番の大正解。

 

 この町は宿屋が食堂を兼ねておらず、食事は各々が外にでて食べてくると言う西洋様式に統一されてるみたいでして、日本式の“おもてなし”は期待できません。宿屋に泊まれば問答無用で食事が付いてくる日本の古いお宿は世界的に見て少しだけどおかしいのです。無論、良い意味でですよ?

 

 

 宿屋で食事を取るか取らぬか選んでもらうためには、常備されてる広々とした食堂が必要不可欠ですからね。デスマーチの門前宿レベルのスゴい高水準のサービス精神でもない限りは妥当な選択だったと私は高く評価いたします。

 ・・・13歳であのスタイルと美貌を併せ持つチートな看板娘のいる宿と比べられても迷惑なだけでしょうからね・・・。

 

 

「どのみち異国情緒あふれる屋台が建ち並んだ、人並みでごった返してる街の一角です。スリが頻発する条件は満たしているのですから油断してスられて大金取られる方が悪いのですから気にする必要もないでしょうよ。

 ここの払いぐらいは他の箇所に隠してありますしね。問題ありません」

「ほほぉう。流石はセレニア殿、用意周到で御座るな。・・・して、財宝を隠した場所とは何処に?」

「徳川の埋蔵金じゃないんですけどね、私のへそくり・・・。普通に靴の下や靴下の中、服の内ポケットとか裏側とかに縫いつけてあるだけですよ? 別に珍しくもないふつうの隠し場所ですよ」

「・・・なぜに町の吹き溜まりみたいな悪所で暮らすしかない戦災孤児の持つ生活の知恵を、現代日本で暮らしていたあなたが知っているんですかね、セレニアさん・・・?」

「基本です」

 

 復興は日本人のシンボルであり、忘れてはならない心根です。大事にしましょう。

 

 

 

 

 ーーと、言うわけで普通に食事を済ませ、支払いも終えた私たち一行は町の広場を冷やかしながら観光して回っている私たちでしたがーー

 

 

 

 

「退いた退いた! そこ退いたぁぁぁっ!!」

 

 ドンっ。

 

 走ってきた少年に体当たりされてよろめく私に構うことなく「へへーん、トロ臭い姉ちゃんゴメンよぉー!」と言って、そのまま走り去っていく継ぎ接ぎした服を着ている男の子。

 ・・・・・・なんとまぁ・・・・・・

 

「「80年代アニメな・・・・・・」」

 

 異口同音にユニゾンする女神様と私。

 どこかの国のマルコ君みたいな見た目をした少年が、同時代の別作品に登場していたモブキャラ少年と混同されちゃってました。悲しいものですね、世界観の違いって・・・。

 

「・・・いやだから、お主らだけが解せる言語での会話は同行者として止めてほしいと、あれほど申し上げているのに・・・」

 

 置いてけぼりにされてる現地人トモエさん。意味わかんないですよね、当然ですね。

 でも、説明して分かってもらうには途轍もなく時間が必要だろうなと思いますのでパス1で。

 

「あれ? でもセレニアさん、さっき財布スられてましたよね? 新しく買い換えてたんですか?」

「まさか。そんな無駄金は使いませんよ。再発を防ぐ意図で別の物を入れといただけです。ドラマじゃないんですから、スったばかりの財布が本当に財布であるかどうかなんて確かめようとはしないでしょうからね。

 逃げ延びて落ち着いてから中身を確かめようとするはずです。その時に効果があれば御の字かな、と」

 

 スリが主人公のミステリードラマが多い中で、時折見られる意味不明なスーパー無駄テクニック。あれって本当にスリには必要なんですかね? もっと別の仕事に就くのに役立てた方がお得なのでは? 雑伎団とかにでも。

 あと、犯罪者がミステリードラマの主人公の名探偵役って訳わかんね。

 あれはあれですかね?

 名探偵なんて言う存在は仕事ではなく役割につけられてる俗称に過ぎなくて、名探偵としての機能さえ持っていたら問題ないとか言う「王様は国を治めるための機械だ」なセイバーさんの正義論が適用されているのでしょうか? だとしたら杉下さんとかの独善的すぎる自己満足な正義感にも納得がいくんですけども。

 

「それで? 何入れといたんです? まぁ、職業クラス『指揮官』じゃ何も作れないでしょうし、即席で用意できる物なんて大したことないんでしょうけども」

 

 女神様が上から目線の表情と視線を付け加えながら仰られてきました。・・・その通りではあるんですけど、微妙に悔しい気持ちにさせられてしまう私はまだまだ全然、感情を処理できないゴミの如き人間みたいですね。

 

 私は心の中でも肉体的にも肩をすくめて見せながら。

 

「確かに、大した物じゃありませんけどね・・・成果だけではなくて、もう少し努力自体も見てもらいたいと言いましょうか・・・」

「新人サラリーマンみたいなこと言ってないで早く吐いちゃってくださいよ。何入れたんです? 何入れちゃったんですか?

 もしかして爆弾ですか? 爆弾なのですか? もしかしなくても爆弾なんですよねぇ!?」

 

 何故そこまで暑苦しいまでの爆弾プッシュ・・・。紅蓮の錬金術師とか好きそうなタイプですね、この人も。・・・私もなので何か言う資格持ってないのが残念無念です。

 

「子供がスリで戸口を凌いでいるとしたら間違いなく貧乏でしょうからね。百合の根とかの美味しそうな見た目をしているのなら食用に使って飢えを一時だけでも脱しようとするのではないかなーと・・・」

「ああ、なるほど! それは確かにで御座る! あれは我が家でも食した事がありまするが、花に似て根も中々に美味な食べ物になる面妖で不可思議な有り難みのある草花で御座ったなー」

「・・・そういう風に考えてしまう可能性を考えてヒガンバナの根っこを袋の中に入れておきました。百合の根に似ていますが、食べたら危険な毒の花です。

 症状としては吐き気や下痢などが有名で・・・・・・OK、女神様。今回は私が全面的に悪かったので謝ります許してくださいもうしませ(ゴチンっ!)・・・痛い・・・」

 

 心に修羅ならぬ不動明王を宿した女神様の怒りに満ちた正義の鉄拳が、手段を選ばぬ報復攻撃にたいして報いを与えてくれました。正義は守られたのです。良かったですね。

 

「・・・・・・二度目はない。女神は仏と違って三度も人を許さない・・・・・・」

「・・・・・・はい・・・・・・」

 

 謝罪して、二度と毒攻撃を用いないことを誓わされる私です。卑怯な手段を用いる犯罪者には、正攻法たる圧倒的武力でもって思い知らせてやるのが最前の抑止力だと語ってくれているようでした。現代日本人として断固として反対したい思想ですが、勝てないので言えません。

 抗い続けても踏みつぶされて終わりという場合は幾つもありますからね。今回のがそれだったと言うだけのこと。今日も一日平和に過ごせましたとさ。



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第24章

新作と言うか昔書いてた物を完成目指して途中まで書き進めたところで想う所があり、こちらを優先させて頂きました。

次話からは一応ストーリー性を持たせようと思い、セレニアが戦いに出る前の心境変化、もしくは戦士としてのセレニアの考え方を説明する回として書き直したのが今話となります。

戦いに出られるようになる理由はシンプルに、上位職へのクラスチェンジです。
今まで『尉官』だったのが『佐官』に昇進したから権限が拡大し、指揮下にある兵力が増えたのだと解釈しといてください。・・・ファンタジーはどこ行った?


「国と民の信頼を裏切った悪徳冒険者セレニアっ! 貴様に殺された兄の無念を晴らすため! 復讐の鬼と化した私自身にケジメを付けるため! 今こそ我が全てを正義の刃として悪鬼外道に振り下ろさん!

 悲劇の賞金稼ぎミリィ・ワイルダー、いざ尋常に勝負!」

 

 

 

 パァンッ!

 

 

 

 ・・・・・・・・・ぱたり。

 

 

「・・・私が攻撃して悲劇の賞金稼ぎを倒しました。悲劇の賞金稼ぎをやっつけました」

 

「チャッチャラ~♪

《勇者セレニアたちは敵をやっつけた!

 それぞれ 2ポイントの経験値を獲得! 5000ゴールドを手に入れた!》」

 

「ちょっと待つで御座るーーーーーっ!?」

 

 異世界に暮らす冒険者らしく通常業務に勤しんでいた私と女神様の二人にたいして、久しぶりにトモエさんが常識的反応でツッコんできてくれました。

 懐かしいな~、本来ならこれが普通なんだよな~と思いつつ、私たちは真顔で彼女へと振り返ってこう言うのです。「なにか問題でも?」・・・と。

 

「いやいや、大有りで御座ろう!? むしろ、問題しか無いで御座ろう!?

 だって、今、人間が! 女の子が! 殺してたのをやっつけたって・・・!!」

 

 

「「ええ、そうですね。それがどうかしましたか?」」

 

 

「ええぇっ!?」

 

 

 驚愕のトモエさん。今まであんまりこういうイベントが無かったから仕方がないのですが、一般的な正義思想の持ち主から見ると、やはり異常な光景として映るんでしょうねー。

 

「敵が殺意を以てこちらに刃を向けてきた。

 私は死にたくないから、殺されないために銃の引き金を引きました。

 ・・・これのどこに矛盾があるのです?」

「有りまくるで御座る! 剣を相手に飛び道具を使うなど卑怯卑劣! 許し難い武士道違反に相違御座らん!」

「はっ」

 

 私は悪意たっぷりに笑い飛ばし(そう見えるよう努力はしました。動かない顔で。結果的にどう見えてたのかは知りたくありません・・・)彼女の傲慢すぎる正義感を完全否定して差し上げます。

 

「では、トモエさん。貴女はこう言いたいのですか?

 剣を得物として扱うソロの賞金稼ぎを相手に、接近戦が超苦手で遠距離から隠れ撃つぐらいしか取り柄のない私が剣をもって戦い、正々堂々斬り殺されることこそが正義であり正しい結果なのだと・・・貴女の主張は詰まるところそう言う意味合いを持っているのでしょうか?」

「そ、そこまでは言って御座らんが・・・しかし! しかしで御座る! 正々堂々ひとりで挑みかかってきた勇気ある者にたいしては相応の対応をもって接するのが礼儀と言うものだとお考えにはなれませぬか!?」

「剣士が銃を相手にしたとき、卑怯だというのは当然です。届きませんからね、自分の持ってる剣の刃が。

 一方的に殺されてしまう位置にいる人物が、こちらの有利な間合いにまで敵が降りてくることこそ正しく正義であると主張するのは至極当然。戦争の基本でしょう。なんら珍しいものではありませんし、別に特別視する必要性はないのでは?」

「そ、それは・・・」

「では逆に、立場を入れ替えた場合を例にして考えてみましょうか。

 接近されては使い物にならなくなる飛び道具しか持ってない相手が、目の前に突きつけられた刃を前にした時にこう言ってきたら、どう答えますか?

 『飛び道具が使えない間合いで接近戦を仕掛けてくるのは卑怯だ』ーーと」

「・・・・・・・・・・・・」

「卑怯という言葉は、本当に卑怯な言葉だと私はずっと思ってきました。

 不利な体制下にある時に口にすれば、問答無用で相手を卑怯卑劣な悪者に仕立て上げられ味方を得やすくして裏切りを誘発できもします。

 数の差を頼んだ力押しを卑怯だなんだと罵ることで味方を増やし、敵を減らす。それによって数の差を逆転させて敵を追い込み増えた数によって包囲殲滅する。

 やってることは変わらないのに自分の方が先に敵を「卑怯だ」と罵ったことで正義の立場を得て、敵には悪のレッテルを貼れる。大義名分として用いるには最高の言葉ですよ、反吐がでますがね。

 先に言った者の勝ちとは本当によく言ったものですよ、貴女もそう思われてるでしょうトモエさん? ・・・いいえ、正義の味方をすることで悪者と言う名の人間たちを切りたがる、正義の味方の人切りさん?」

「違う・・・違うで御座る・・・。拙者は・・・拙者はただ正義を・・・武士道を・・・正しき道を歩みたかっただけで・・・だからこそ拙者はお主のことをーー!!!」

 

 

 

「・・・よしっ! 長ったらしい詠唱完了! 瀕死の重傷全回復魔法《キュア・オール・ヒーリング》! 相手は生き返る! これで万事オッケーです!」

 

 

 

 ーー遠くでと言うほどではありませんが、私たちが無駄話して暇潰しをしていた場所よりかは少しだけ離れている、倒したばかりの敵少女さんの傍らで立ち上がりながら女神様が元気よく手を振ってらっしゃいます。

 

「・・・回復は終わりましたか? ドロップアイテムの回収と、賠償金の接収は?」

「モチのロンですよ! まぁ、さすがに5000ゴールドは盛りすぎでしたけど、そもそもゴールドって貨幣単位が意味不明なんでオールOKと言うことにしておきます!」

 

 倒した敵の懐を漁り終え、意気揚々と凱旋してきた女神様から戦果報告を受け取りつつ、私は再度出発する準備をはじめました。

 

 ふぅー、出発準備終了直前に変なのが襲ってきたときにはどうなるかと思いましたが、何事もなく誰一人怪我することなく終わって良かった良かった。

 

「・・・へ? あの、ごめんで御座る。ちょっと意味が・・・・・・」

 

 と思ってたら、トモエさんが変ま顔して私たちに問いかけてきてます。

 一体なんでしょう? 急いでるときに全くもう、困った人ですねー。

 

「どうしましたトモエさん。鳩が豆鉄砲食らったときのような顔してと、表現すべきなのだろう表情になっておられますが?」

「細かい描写説明をありがとうで御座る! でも、違くて! そうじゃなくてそこじゃなくて! 細かい説明がいるのはあれ! あそこで倒れ伏してる賞金稼ぎの女の子!

 セレニア殿、さっきあの少女を撃ち殺したはずなのでは御座らぬのでしたか!?」

「は? なにを言ってるんですか、トモエさん。そんな事あるわけ無いじゃないですか、バカバカしい」

「だって、現にさっき撃ってたで御座るもん! 拙者見てたで御座るもん! ばーんって音がして敵が倒れてセレニア殿が戦の現実について拙者に語りきかせて来くれてーっ!」

 

 はぁ・・・。この人はまったく・・・まだ戦場のリアリズムというのが理解し切れていないようですね・・・。仕方ありません、最後にもう一度だけ教えといてあげましょう(フラグです。これ言う人はまず間違いなく何度でも同じ言葉を同じ相手に言い続けます。なので意訳すると「これからもよろしく」です)

 

 

 

 

「いいですか? トモエさん。

 そもそもーー銃弾一発で人を殺すのは難しすぎるのです。

 私じゃ無理です。だから撃たれた彼女は死んでませんでしたから、回復させていただきました。この説明でご満足できましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「うっわー・・・セレニアさん、自分が今まで当ててきたこと全否定しちゃいましたねアンタ・・・」

「仕方がありません。当たってしまうのだから、私の腕ではどうすることも出来ませんでしたのでね。神様か世界の都合で当たっては殺せていたのでしょうよ。

 運だけで勝ててきたのが今回は運に見放されたみたいなので殺せず生き残り回復させた。以上です。何か残りの質問はありますか?」

「・・・・・・・・・・・・何もないで御座る。ないったら無いで御座るよーだっ!」

「・・・子供ですか貴女は・・・」

 

 私は、涙目になって頬を膨らませているトモエさんに手を返して立ち上がらせてから、女神様に顔を向けて入手したばかりのドロップアイテムリストを確認させてもらい

 

「あ、この辺りの地図が入ってましたね。ラッキーです。

 ・・・どうやらこのまま行くと盗賊団のアジトとやらに行き当たるそうですので大回りして避けて進み、次の町の役所なりギルドなりに通報しておくといたしましょう。面倒事はゴメンですから」

「イエーイ! セレニアさんの民主主義的個人主義キタ━(・∀・)━!!!! 今日も狂信的な民主主義者は絶好調だぜイエイ!」

「・・・ううう・・・今日はとんだ赤っ恥をかかされたで御座るよー・・・(T-T)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー兄貴! 奴らまだ到着してませんぜ! 勇者の野郎が気絶して倒されてただけでさぁ! これで後は待ってるだけで俺たちの大勝利は確実です!」

「よーし、よくやった馬鹿野郎ども! 到着するまではゆっくり待つぞオラー!」

 

 

 ・・・数時間後。

 

『・・・・・・来ない』

 

 

 

 

 盗賊団のアジト:倉庫の中で。

 

「・・・・・・あふ・・・ぅ・・・ん・・・(縛られて気絶中の辺境勇者)」

 

 注:彼女は後ほど陵辱予定のためにトップレスで机の上に拘束されてますが、寸前で討伐隊が到着するはずですので問題なしです。

 本気で何のために出てきたんだか分からない役所のキャラになってしまいました・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ:彼女たちにとっての敵とは何なのか?

 

ト「先ほど敵を『やっつけた』と表現したのは、殺してなかったからなので御座るな! さすがはセレニア殿。奥が深い」

セ「いいえ? たとえ殺しちゃってたとしても『やっつけた』と表現しましたよ? 当たり前の常識でしょう?」

ト「え・・・。だって、あれ、人殺しとやっつけるは全然違う・・・」

セ「同じです。焼き殺そうとも斬り殺そうとも串刺し刑でハリネズミ状態にして殺そうとも、全部まとめて同じ表現『やっつけた』が適用されるのが世界の常識なのです。基本ですよ?」

ト「そ、そう言うものなので御座るか・・・?」

セ「そう言うものなのです。

 また、倒した敵を表す言葉も『個体名』か『敵』のどちらかであり、複数で現れた際には『魔物の群れ』で統一されてます。

 神だろうと魔王だろうと天使だろうと悪魔だろうと一切合切関係なく敵は敵、魔物の群れは魔物の群れ。

 これには例外が存在しておらず、人間もまた例に漏れていません。人間が敵として襲ってきたら、その存在は『人型モンスター』であると認識して起きなさい。それがファンタジーと呼ばれる世界の鉄則です」

ト「ファンタジーなのに、夢も希望もない!(>o<)」

 

つづく



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第25章

久々の更新です。最近色々あったせいで戦争の事ばかり考えてるのに嫌気がさしてきましたので、少し現実から乖離して逃避したいと思い微チート能力と変態強キャラを仲間に加えてみました。


「ふむ・・・・・・」

 

 冒険者ギルドの扉を通って外にでた私は、先ほど受付の人から渡された紙の資料を眺めながら感慨深げに息をつきました。

 

 ふー、ようやっと一区切りつく所まできましたね、と。

 

「なになに? 何かあったんですかセレニアさーん。水臭いじゃないですか、私にも見せてくださいよ~」

「むむ? セレニア殿が上機嫌とはなんとも面妖な事態・・・。今宵は雨か霙か、はたまた天変地異なのか!? 気になって夜も眠れなくなりそうで御座る故、拙者にも見せてほしいで御座るよ!」

「・・・あななたち・・・」

 

 少しは成長してくださいよ、ようやく一区切りついたんですから・・・。

 

 ーーとは言え、彼女たちが野次馬気分で他人事のように語れるのも無理がありません。

 だって実際、他人事ですからね。他人にとってのみ重要な意味のある問題なのですから、無関係な周りの人たちにとっては大部分が他人事で聞き流してもいいお話なのです。

 

「大したものでもありませんよ。単にジョブランクが上がっていたことを伝えるためのお知らせです」

 

 私はピラピラと紙をつまんで振り回しながら、皆さんにも見えるように書かれている文字についての補足も行います。

 

 曰く、『冒険者ランクが半端な割にスゴい依頼ばかりが押し寄せてきていたため依頼料として含まれていた分も合わせたらジョブランクがひとつ上がるので、手続きをして欲しい』とのことでした。

 なので最近だとあんまり来れてなかった冒険者ギルド支部へと出頭し、依頼成功料の引き替え係でもある受付さんに案内していただき各所を盥回しにされた挙げ句に刷新したステータスとスキル表とを記した紙をいただけたと言うわけですね。

 

 私がそう説明すると、お二人からは「あ~・・・」と半ば納得半ば呆れたと言った感じの曖昧な返答を返されてしまいましたとさ。

 

「そういえば私たちって中堅ランクの癖してご指名依頼ばっかり受けてましたよね最近だと。しかも結構身分高い人たち相手からのばかり。

 そりゃランクも上がりますし、ギルドこなくても生活には困りませんよね。パトロンついてるに等しい高待遇ぶりですから。転生勇者のご都合主義万歳」

「しかも国を跨いでの長距離移動ばっかりしていて、一つどころに落ち着いて腰を据えた経験も皆無で御座るからな~。

 普通そう言うのは上級以上の冒険者がやるものなので御座るが、拙者たちは拠点となる町すら探したことが御座らぬし横紙破りにも程があるで御座るよな~。・・・・・・ところでテンセイユウシャって何の話で御座るかメガミ殿?」

 

 ――ちぃっ! ピンク侍がいつも気にしてなかったことを、今日に限って気にしてきやがった! 誤魔化さなければ!

 

「・・・・・・ま、其れは一先ずおいておくとしまして。私の新しいジョブ名とステータスとスキル表です。詳しくご覧になられますか? 一応は個人情報ですので詳細は別の紙に記されているんですけど?」

 

 最近だと忘れられがちですが、冒険者は基本的にアウトロー集団であり「農家なんてつまんない仕事を継ぐのはウンザリだ! 俺にはもっと相応しい仕事があるはずだから都会に行くぜ!」なノリで上京してきた方々がなるのが一般的なイマドキ日本の若者的人たちが多く、それら血の気ばかりが多い経験不足のバカ者もとい若者たちをコントロールして制御するためにあるのが冒険者ギルドの本業です。

 

 要するに、犯罪者の息子さんたちとかを生活保障してあげる代償として軍人になる訓練受けさせて、一般人の代わりに最前線へ送り続けている米軍みたいなものです。

 使い捨ての駒にされるけれど成果を出せばそれなりに良い暮らしも送れる。殺されて死んだら終わりと言うあたり、微妙にこの世界の冒険者システムに近いですよね、アメリカの更正プログラムって。

 

 ですので冒険者にとって同業者は、必ずしも味方とは限りません。場合によっては裏切られる恐れは常にありますので野良パーティー組むときとかは気をつけた方がよろしいでしょうし、自分の切り札とかも伏せておくに限ります。知られてなければ対処法も想定外ので切り抜けられるかもしれませんから。

 

「良いので御座るか? では、早速・・・」

 

 そんな安全保証上とても重要な個人情報を「友達から大切な秘密を教えてもらっちゃった♪」とか言ってキャピキャピして見せる少し前のアホキャラ美少女高校生みたいなノリで受け取り嬉々として見始めるトモエさんに多少ながらジト目をむけてしまう私でしたが、この場にいる後一人だけの女神様も一緒になってご覧になられ出しちゃいましたので私の方が空気読めないアホの子状態です。なんか微妙に悔しい。

 

 

 ーーーんで、ここからが私の新しいステータスね。まずは出だしから。

 

 

 

『セレニアのジョブランクが1上がった!

 職業《指揮官(大尉)》が《指揮官(中佐)》になった!』

 

 

 

 

 

「「だからなんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!」」

 

 

 

 

 お二人絶叫。

 美少女二人が満面の笑顔で友達から受け取った紙をみた数秒後の般若の表情うかべて叫び声を上げられたのですから、そりゃ周囲にいる人たちはビックリ仰天するでしょうね当然。ガヤガヤと騒ぎはじめて視線が痛いのですが、騒ぎの中心にいるお二人は気づいてさえいません。これが当事者たちと周囲の人々との温度差と言うものです。

 

「変わってないじゃん! 指揮官のままじゃん! 単に階級が二つ上がっただけじゃないですか! 二階級特進しただけじゃないですか! これのどこが成長だ! むしろ戦死した人扱いされてるだけなんじゃありませんかねぇ!? つか、ただの昇進だこれ!」

「見たことない名称なので詳しいことは分からないで御座るが、サムライがマスターサムライになれたのとは全く違うということだけは理解できるで御座るぞ拙者にも!

 て言うかこれって、どこがどう今までと違うので御座るか!? 『大』が『中』になって下がったようにも見えるので御座るが!?」

 

 トモエさんが意外にも的確な表現をされてきました。ピンポーン、半分だけですが正解です。

 

「よく分かりましたねトモエさん。昇進(ランクアップ)したことで分かったことなのですが、指揮官は階級があがる度に前線には立たなくなるのでステータス自体は低下していく一方なんですよ。

 その代わりとして指揮できる兵数と権限、つまりは攻撃可能となる対象が増えたり攻撃手段が増加したりと言ったメリットがあります。

 デメリットとしては先にも言ったステータス低下の他に、同じ能力でも内容に変化が生じてしまって別物に近くなるのが出てきますので試し撃ちや演習が必要不可欠になることぐらいで・・・」

「結構デメリット多いで御座るな!」

「階級が上がるとはそう言うものです。出来ることが増えるのですから、やらなくてはいけない仕事、果たさなければならない義務の数も増加する。

 地位に伴う責任の増量は当然の義務ですからね。基本です」

 

 私は当たり前の常識だけを告げて、次へと移ります。ステータスの詳しい変化についてです。

 

 ・・・まぁ、詳しいもなにも滅茶苦茶おおざっぱに表現されてるのを一言一句過たずに読み上げるだけなんですけどねぇー・・・。

 

 

 

 

 

『セレニアの、知力以外すべてのステータスが低下した!』

 

 

「「やっぱりデメリットが多すぎる!!」」

 

 

『新たなスキルを覚えた! 今までのスキル内容が変化した!

 火縄銃《革新/地獄》が使用不能になった!』

 

 

「「滅茶苦茶弱くなっちゃってるじゃん! たった一つの取り柄だったのに!!」」

 

 

 ・・・おい?

 

 

『火縄銃を使った新たなスキルとして《ファイエルボール》が使えるようになった!

 効果は火縄銃からファイヤーボールを撃ち出せると言うもの。異界の技術が使われてるので魔力を消費しなくても撃てる。

 ただし威力はバカ高くなり、一定の火力の弾しか撃てなくなるので使う場所はよく考えること。連射可能』

 

 

「「キチガイに大砲(魔弓)!!」」

 

「・・・お二人とも・・・? いい加減にしないと、私でも怒るときはあるんですよ・・・?」

 

 

『指揮官らしく《乗馬スキル》が使えるようになった』

 

 

「なんで!? 指揮官がなんで乗馬スキル!? 近代なんでしょ指揮官って職業は!? 騎士団長とかでもないのに、なんで乗馬スキルなんかが!」

「あれ? 女神様はご存じなかったのですか? 太平洋戦争頃まで軍の移動手段は車ではなく馬でしたから、指揮官にとっての乗馬は必要不可欠な嗜みだったのですけれど?」

「つくづく現代じゃなくて近代ですね! この《指揮官》って職業は!」

「まぁ、あれで戦争のやり方が大きく変わったわけでしたからーーーーーって、そうだった。乗馬スキルで思い出しましたよ。

 トモエさーん、ちょっとこっち来てくださーい」

「ん? なんで御座るかセレニア殿。ーーーああ、拙者も此度の一見でランクアップを果たしたので奴隷の持ち主として内容を確認しておきたいと・・・・・・」

 

 ガチャン。コション。・・・・・・ポイッ。

 

「はい、これで首輪はとれましたよ。長い間ご苦労様でしたね。はい、これ。今までの慰労金。長旅お世話になりましたー」

「え。・・・・・・あの、ごめんで御座る。ちょっと意味が・・・・・・・・・」

「え? だって私、貴女のことを馬車を扱う乗馬スキル覚えるまでの御者代わりに雇っていたつもりでしたから、乗馬スキル覚えた今となっては無理に残ってもらう必要性ないのでイヤならお暇しても構わない自由をお与えしようと・・・・・・」

「拙者の存在価値って今までは御者オンリーだったので御座るか!? 残るで御座るよ! 慰留するで御座るよ!

 ここまで一緒に旅してきた仲間から御者としてしか思われてなかったままパーティー離脱なんて絶対に絶対にイヤで御座るーーーーーっ!!!

 ヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 子供のように泣きわめき、歩道の上でジタバタしはじめるトモエさん。

 ・・・これは明らかに、『奴隷設定があったことすら忘れていた件については』秘密にしておいた方がいいパターンですよね・・・。

 

 いや、悪気があって忘れていたわけじゃないんですよ? ただ、元々の奴隷として買った理由が馬車あっても御者なしじゃ役立たないし、旅の間中使うんだったら専属でないければ意味ないですし、お金で雇って荷物だけ持ち逃げされたりするのは困るので裏切れないし逃げられない御者スキル持ち奴隷を買えるんだったら一番安心できるのにな~とか思っていたところで偶然襲ってきたからという、只それだけが理由だったのでね?

 うん、悪気はないんですよ悪気は。本当になかったですし、今でもないです。

 

 設定を忘れていたのだって『思想や理想とは無縁で、純粋に金だけを目的として戦う傭兵。報酬次第で誰からのどんな依頼だろうと請け負う戦闘のプロ』とプロフィールには書かれている人でなし傭兵キャラクターが最初に払った1000ゴールドかそこらで一生ついてきてくれるのがRPGのお約束なわけですから何となく・・・ね?

 

「あ~・・・、わかりましたからトモエさん。道路の真ん中で転がりまくって駄々こねるのは止めましょう? 通行人の皆様方に迷惑ですから邪魔になっていますから」

「・・・くすん。少しだけ気になっている思い人からの扱いが微妙な上に、拙者自身もこんなのが気になる理由が曖昧になってきたで御座るよ・・・」

「あら、イヤですわトモエ様ったら。そこがセレニア様の魅力の真骨頂じゃありませんか☆」

 

「「アリシア王女!?」」

 

 

 ・・・・・・また出ましたか、この悪女姫様は・・・。しかも何やらコスチュームチェンジしてパワーアップしているように見えなくもない?

 

 具体的な変化としましては、動き難すぎていたドレス姿が機能的に変化して、動きやすそうなレベルにまで進化した感じなので・・・・・・《武道家のドレス》?みたいな印象を受けなくもない、お上品で清楚な感じの矛盾した姿です。そんな装備は実在しないとは思いますけどね。

 ついでに言えばスカート姿ではなくて、緩やかに大きく広がったスカートの下に大きめのズボンを穿いた、何というかいまいちよく分からない格好なのに、上半身がいろいろと綺麗に飾られてるので結果としては清楚でお嬢様っぽく見えている。そんな感じの言葉では言い表し難すぎる複雑怪奇なドレス?もどき姿のアリシア姫様。

 

 ・・・本気で職業が何なのか見た目からでは想像できない人になっちゃいましたね~、この人も・・・。

 

 

「で? 今日は何のご用なんですかお姫様。私たちこれから新しく上がった能力を試すため、演習代わりに軽く遠征しようかと思ってたんですけれども?」

 

 これは無論、口実にすぎません。厄ネタっぽい人には早々と御退場いただくに限るのです。

 

「あら、それはグッドタイミングでしたわね。やはりわたくしとセレニア様は結ばれる運命にあったようです。

 ランクアップして新たに得た能力を試すのでしたら、是非わたくしも一緒に連れて行ってくださいませ。足手まといにはなりません。これでも職業ランクを上げて強くなりましたから」

「・・・は? え、ちょっと意味が分かりかねるのですが、姫様の就いてる職業っていったいーーーーー」

 

 

 シュバッ!!!

 

 

 一瞬後、私の目の前には姫様の握りしめられた拳があり、そこから落下していくのは一匹の蠅。

 

 一国の姫君で在らせられるアリシア姫様は、拳一つで飛んでいる蝿を撃墜できる宮本武蔵以上の格闘家にまで成長されていたようです・・・。

 

「セレニア様と一緒に旅しながら悪者さんたちを退治できるようになるため、わたくしは精一杯修行いたしました・・・・・・」

 

 目を伏せながら涙ぐみ、今までの辛かった日々を思い出しては胸が引き裂かれる想いがしているようにジェスチャーしてくる王女様。

 ですが、右手の位置だけは先ほどと変わらないまま私の眼前から1ミリたりとも微動だにしてくれていませんので単なる恫喝と判定して良いものかどうかの見分けが非常に難しい状況です。

 主に、恫喝と判定した場合の後に起こるであろうスプラッタ劇場が原因で。

 

 

「セレニア様への想いを捨てきれないでいたわたくしは、寂しさを慰めるために身分を隠して市井を散策し、ガラの悪い殿方に声をかけられても毅然とした態度で臨み、セレニア様に相応しい女として王族の威厳を保ち続けました。

 時には悪者さんに捕まってヒドい目に遭わされそうになることだってありましたが、セレニア様を想うわたくしの気持ちに小波ほどの揺らぎさえ生じさせることは不可能だったのです」

 

「セレニア様から人の抱える事情の違いと、自分と違ってしまった人たちへの敬意をわたくしは決して忘れませんでした。

 悪の魔道師に囚われた時だって、国に失望して己の正義を見失っていた黒騎士様にセレニア様から教えられていた『人の評価を決めるときには、もっと長いスパンで見る必要性』について語ることで理解を得ました。

 貧乏な農村にすむ農民たちが悪い人たちに脅されている振りをして正義の味方さんを騙したときにだって、『動乱の時代に生きる民衆たちはそうでもしないと生きていけない。状況判断と柔軟性という表現をすれば非難するものではなくなる』の精神のもと、わたくしは民衆たちを擁護する側に立ち続けました。

 肉親としての情より国の行く末を取らざるを得なかった父王が、国防の必要性から剣術大会の優勝者にわたくしを嫁がせようとしたのだって『立場の違い』について教えられていた私は甘んじて受け入れました。

 その直後、国よりも愛を選んでくれた幼馴染みによって浚われた時にも、父の命令に従い騎士としての義務を遂行するため救出にきてくださった英雄様と幼馴染みの騎士が合い争うことになった時にも『王族の果たすべき責務』として、勝利した方に嫁ぐ運命を受け入れる覚悟は出来ていたのです」

 

 

「「「う、うわ~~~・・・・・・・・・」」」

 

 

「・・・ですが、わたくしの純愛は同性愛という悪しき文化と誤解され、運命を司る神の呪いをうけることになったのです・・・。

 黒騎士様は自らの絶望にこれ以上、人々を巻き込み続けるわけにはいかないと決意して悪の魔道師退治に協力し、その直後に民衆たちの復讐によって倒れられました。

 勇者様を裏切った民衆たちも、王位継承権をもたない王女のもつ影響力程度では守りきることができずに全員牢獄行き・・・。

 英雄様と幼馴染みの勝負は相打ちに終わり、わたくしは常に一人残され見送る側に立ち続ける悲劇的な運命を背負わされてしまったのです・・・・・・よよよよ・・・」

 

 よよよ、じゃねぇよ。全部お前のせいじゃねぇですか。拳が目の前から動いてなかったら全力でツッコんでいた所でしたよ今のお話、その全てがね。

 

 

「当初は悲しみに暮れたわたくしでしたが、やがてセレニア様が残してくれた言葉と想いを胸に抱き、明日に向かって飛び立つことを決意しました。運命に抗い、向き合い、対決し続けることを誓ったのです」

 

「手始めとして、まず一連の出来事で牢獄行きとなった人々をわたくし自身の手で罰する役を負いました。自分が原因で罪人となってしまった人たちの怨嗟と怒りを一身に受けることにより、他の人たちへ怒りや憎しみが向かうことを避けるためでした。

 わたくしは自分が悪者になるために拘束されて身動き一つとれない彼らを、想いを込めた拳で殴り続けました。

 『人を殴れば自分も痛いのだ』とするセレニア様がどこかの小父様から聞いたことがあると仰っていた教えの通りに、人を殴れば殴るほど自分も罰せられているのだと信じて信じて信じ続けて、殴って殴って殴りまくって殴り殺し続けたのです」

 

 

「やがて王国内にアンデッドが大量発生する事件が多発し、超弩級レベルの無念が数千人分ひとつの場所に密集していた場合にのみ召喚しうる史上最悪の存在『デーモンロード』が魔界より喚び出されたことを知らせる急報が城にもたらされました。

 わたくしは自らの犯した罪と決着をつけるため、数千人を殴り殺していく過程で獲得した膨大な経験値と熟練度を武器にしてデーモンロードに戦いを挑みに行ったのです」

 

 

「「マッチポンプ! それ、ただのマッチポンプですから! 悲劇口調で英雄譚ぽく語ってますけど、実際には悪魔も真っ青レベルの最悪すぎるマッチポンプに過ぎませんからね!?」」

 

「まっちぽんぷ?」

 

 

「わたくしは悪魔の王と三日三晩の間、休むことなく戦い続けました。

 戦って、戦って、戦い続けて、最後の一発で勝利をつかんで勝ち残ったわたくしは、国に混乱を招いた責任をとる形で出奔し、国境間の移動が楽になれるアウトローな冒険者となり、盗賊さんに襲われては浚われて、浚われていった先にある盗賊団のアジトを内部から制圧し血の海へと沈めてから宝物庫に赴き、持てるだけの銀貨を手に入れてから近くの村に盗賊さんたちを退治したことを教えて上げて、貧しい村なりに何かお礼をと言ってくれる心優しい村人たちに元王族として負担をかけまいと丁寧な態度で断りを入れて再度旅立ち、こうしてセレニア様にお会いできるまでの旅費をやりくりしながら参った次第です」

 

 嫌すぎるロバーズキラーでした。見た目がお嬢様っぽくて、胸まで大きくなってるからドラ股さんより性質悪い気がするほどです。

 

「ドラゴンも跨いで通ると言うよりかは、ドラゴンを股に挟んでくわえ込みそうなドラ股女に急成長しましたね。この外見詐欺お姫様サブキャラ」

「女神様、お下品ですよ」

 

 私も似たような感想を思わなくもなかったのは内緒です。

 

「今のわたくしが就いている冒険者としての職業は、『人々の血に染まり、怨念によって呪われた武道家』。正確なクラス名を《魔拳士》と言います。

 大変に珍しいエクストラジョブで、攻撃時には呪いの追加効果が付与される場合などがありますし、黒魔術系の攻撃魔法と呪殺系の魔法もいくつか使えるようになりました。

 決して足手まといにはならないよう努力しますので、どうかわたくしをパーティーに入れて、一緒に連れて行ってくださいませセレニア様。

 ーーーでないとわたくし・・・わたくし・・・次は自分が誰を犠牲にしてしまうのか不安で不安で仕方がなくて、あまりの恐怖から思いあまった行動に出てしまいそうで・・・・・・」

 

「わかりました。わかりましたから、落ち着いてる本音を隠して取り乱してる振りするのは止めなさい。嘘泣きもだめです。指揮官の目はごまかせませんよ?」

「・・・・・・・・・・・・てへ☆」

 

 

 ・・・・・・笑顔と見た目だけは可愛いんだけどなぁー・・・・・・。

 

 

「・・・セレニアさん?」

「心の底から反省していますので、どうか今回のばかりはお仕置きはご勘弁を。・・・絶対に償いきれる気がしないほど罪が重すぎるの確実なので・・・」

 

 ここまでヒドい状態にまでなってしまった人は始めて見た気がしますよね。

 同じ『乱心王女』ならデスマーチのアリサさんの方がいいのですが、取り替えっこシステムってないんでしょうかね? 通信交換でも可です。

 半端なチートが手に入ったばかりの私じゃ手に負えない相手としか思えませんし、この際ロリっ子な全裸に襲われそうになるぐらいなら耐えられます。これと比べたら異世界中あらゆる王女様キャラの誰だろうとマシです、確実に。

 

 

「はぁ・・・。とりあえずパーティ全員ランクアップして、今までよりかは強くなったと言うことで宜しいんですよね?

 では早速新しい能力の試し討ちのため簡単な遠征クエストをーーーーーーそう言えば女神様の職業ランクは? なんか最初の冒険者就任以来なにひとつ変わったという認識がないんですけど・・・」

 

 

 

「え? なに言っちゃってるんですかセレニアさん。私、神様ですよ?

 完全にして絶対的な超越者的存在なんですから、変化なんてするはずないじゃないですか」

「ーーーーーつまり・・・?」

「いくら敵倒しても経験値は得られませんし、ステータスがカンストした状態ではじまる仕様ですから体力も魔力も素早さも上がったり下がったりは致しません。

 当然! 知力なんか与える側である私たちゴッドには英知が満ちていますので上げる必要まったく無しなのですよ!!!

 知恵の実や生命の実を食べてドーピングしないと、完璧な存在になれない人間なんて下等生物とは物が違いすぎるのです。えっへん!」

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

つづく

 

 

セレニアたちのステータスが更新されました。

 

 セレニアの職業:指揮官(大尉)=指揮官(中佐)。

 入手したチート能力『ファイエルボール』。弾数がチート(無限ではない)。

 専用装備品:火縄銃(革新/地獄)=火縄銃(民主革命/怨嗟の子守歌)

 注:大佐じゃないのはアニメ版より小説版の方が好きだから。ファースト的に。

 

 アリシア姫の職業:小国の王女=魔拳士。

 種族:悪意のない魔性美人=この世すべての絶対悪女。

 キャラ名も『ヨヨ』で次から統一します。

 

 トモエの職業:武者修行サムライ=元服サムライ。

 

 女神の職業:この世界が終わろうとも何一つ変わることなどあり得ない。



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第26章

チート展開の話、1話目です。魔王軍の内情とかに関しても描かれております。
あと、王道ファンタジー大陸へ移動している最中でのお話でもあります。


 ざぶ~ん。波しぶきを上げながら、私たちの乗る船は進んでいきます。

 現在、私たちセレニアパーティーは大陸間を移動しております。

 目指す目的地は東側の大陸。

 魔族軍の主力と人類側が対峙している主戦場からはもっとも遠く離れた、謂わば戦時中に平和を謳歌できる楽園とも呼ぶべき土地。

 

 この異世界で一番はじめに到着した国より更に東へ東へ、海を渡った先にまで行くと東大陸が存在しており、西側の大陸にある列強が中心となって設立されている諸王国連合の影響力が乏しく、弱いくせに戦ったことないから強いと思いこんでいるデカいだけの大国さんが乱立している地なのだとか。

 そんな場所に私たちが向かっている理由はただ一つだけ。

 

 ーーーー強くなったら、ゲームバランス崩壊したのでパッチ当てたい。

 

 それだけでした・・・・・・。

 

 

「まぁ、エクストラなジョブですので世界的に見ても想定外な存在なのです。そこいらの一般人相手にすること前提で戦い挑んできているザコモンスターさんたち相手に無双できてしまうのは致し方ないかと」

 

 ヨヨ姫様から有り難~いアドバイスをいただきましたので、移動している私たち。

 ・・・ちくそぅ・・・。ステータス低いままでもスキルを覚えさえすれば勝ててしまう、通常攻撃ばっかしかしてこない普通のモンスターなんて嫌いです。

 

 

「しかし、それでは何故に戦場から離れた土地に向かっているので御座るか? 普通逆では?」

「良い質問ですわねトモエさん」

 

 調子よく笑顔で相づちを打ってくれる王女様は、確かに人好きするタイプなんですよねー。中身にさえ気づかなければと言う前提条件付きではありますが。

 

「ですが、その質問にお答えする前に魔王軍と魔界について説明しておきたいと思います。魔界のことはご存じですか?」

「拙者が父上たちから聞かされた寝物語によると、百年以上前にあらわれ魔族を統一し、人間種族へ征服戦争を挑んできた最強最悪の悪魔と言われている存在では御座らなかったか?」

「正解です。ですが正確さを期すためにも多少の補足が必要になりますね。

 ーーもともとの魔界は魔大陸と呼ばれていた不毛の土地で、そこでは無数の魔族たちが好き勝手に生活しており、互いが互いを食い殺し合い、生を謳歌している野蛮な大陸だったのです。

 ある時に魔王が現れ大陸を統一し、武力によって魔族に秩序をもたらし、東から西、北までの広い範囲にわたって人間国家に侵略戦争を仕掛けてきたのですが、これは当初の時点で大きな計画失敗を招いてしまいました。

 内陸で生まれ育った魔王は海を知らず、人間側の大陸のいくつかに巨大な山脈や断崖絶壁があって、陸上兵力を運び込むのが思っていたより困難だったのです」

 

「魔王は当初の予定を繰り上げて、クラーケンなどの大型海王類の背中に乗せるか、ホークマンたちに一人一体運ばせることにより何とか奇襲に成功して複数の国を落とすまでは成功しましたが、その直後からは失敗が続いています。

 その理由は、人間国家群の王たちを甘く見過ぎていたからだと世間では噂されているそうです」

 

「魔王軍はオークやゴブリンなど弱いくせに繁殖力ばかりが旺盛な亜人たちを捨て駒として先兵に用い、犠牲がでること前提で数の上での主力に使うことにより人々の恐怖を煽り立てることで自分たち魔族に寝返ろうとする者を増やしていき、徐々にそして確実に勢力範囲の拡大を目論んでいたそうです。それが、魔王が当初たてていた世界戦略だったのです。

 これに対して人間側は徹底的な対応策を実行し、個の力で勝る魔族に数の力で対抗できているのです」

 

「守れない町は即座に見捨てる代わりに、守るべき土地は死んでも守る。裏切り者には死あるのみ。なれど従う限りにおいて国は諸君等平民たちを全力で守り抜こう。

 それが西側諸国の対魔族軍基本戦略であり、この策が徹底していることによって西側の主戦場は一進一退・・・・・・と言うよりかは一歩も進んでいないし戻れもしない泥沼な戦況を続けることになってしまいました。

 その結果、力付くで成立させていた魔王の地位は絶対的なものではなくなり、あちらこちらで魔族たちは己の配下である魔物たちを使い、好き勝手に振る舞うようになっていきます。

 当初は魔王も見せしめによる粛正で対処していたのですが、さすがに軍として勝利できるのが魔王本人が出馬したときだけの状態で軍としての統制など効き続けられるはずもなく、徐々に魔王軍は結果主義、成果主義、終わりよければ全て良しの独断専行が当たり前の組織となってしまい、今では軍とは名ばかりの強者たちが徒党を組んで功を競い合い騙し合う、互いが互いを隙あらば殺して席を奪おうとしている烏合の衆に成り果ててしまったのです。

 ――これが主戦場地域での実情です。まぁ、もとが欲望全肯定の秩序とは完全に無縁な化け物たちの集団ですから当然の結末かもしれませんけどね♪ うふふ」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 いや、アンタ「うふふ」て。そりゃ完全に軍として末期状態ですぜ? 軍として機能できてすらおりませんぜ?

 

 あ~・・・、なるほど。だからフィールドでエンカウントするモンスターの中に動物タイプ以外の「明らかに軍に所属しているはずだよなコイツ」みたいな見た目と設定が交じっている場合があるわけですか。納得です。

 

 

「魔王軍結成以来、魔王に忠誠を誓っている者たち同士の間でさえ派閥争いが絶えたことがありませんし、もとが犬猿の仲の種族同士だと上の統制が弱くなっただけで独断専行が増えてもいきます。

 おまけに魔王によって統一されて魔界と改名された魔大陸から海を渡って送られてきた多数の兵士たちのほとんどは、数だけは多いザコ部族の出身者たちばかりですからね。現地に到着した途端に野盗同然となって村々を襲い、派遣軍司令官は国との戦いと占領後のことで手一杯になり、許可なく越境しては各地に散ってしまって離散していく始末。

 草原などで現れるモンスターの内、『大ガラス』などの巨大動物系は野生の獣が何らかの影響により悪性変異しただけの生物ですが、それ以外のよく分からない生き物たちのほぼ全ては彼ら元魔王軍兵士たちが野盗化したものか、あるいは彼らが軍馬代わりに騎乗していた魔獣が戦場で乗り手を失い野生化したものと考えられている程ですわ」

 

 ・・・・・・適当に考えただけの推測が当たっちまいましたよ・・・。どこの百年戦争時代に生まれた武装集団『コンパニー』ですか、その方々は・・・。

 そりゃ、裏切り者予備軍ばかりになりますよ魔王軍も。寝返り組が続出するのだって納得です。中には魔王の恋人を殺すことで再利用して、魔王様を大魔王に改造しちゃおうなんて輩な大魔道師さんも出てきちゃうでしょうよ。だって末期ですもん。

 

 

 

「まぁ、そんなわけで魔王ご本人としましては目の前の強敵よりも先に、どこかの弱小勢力を倒して成果見せないと軍組織が維持できそうにありません。

 かと言って山脈を沈めてしまう力なんて持っているなら、軍組織そのものが世界征服には必要ないわけでもありますしね。

 この二つの問題を解決するには、列強たちに警戒されにくい半端者を人間に化けさせることで監視網を抜け、人間国家の遙か後方にある平和ボケして驕り高ぶった諸王国連合に非協力的な貴族制国家を内部から乗っ取るか崩壊させるかするしかないと言う理由から、魔王は後方地域一帯で破壊工作を展開させ続けるようになったのです」

 

 

「数年前より、あちらこちらで悪徳領主の圧政や大臣の謀反。頭のおかしそうな新興宗教が勃興したり、国教の地位をねらう第二位の宗教勢力で中堅幹部たちが悪巧みをしていたりと言った風に混沌とした世情になっているんですよね。ですから腕試しというか、試し斬りと言うべきでしょうか。とりあえず悪者さん退治の対象には困らない状況に陥ってるのです。

 列強は役立たずの癖して態度だけは大きい、歴史が長いだけしか脳のない弱小国家集団のことなんか興味ないそうですしね。何年か前にも王たちの集まる会議場で「自分のお尻も自分で拭けない老廃物を助けてやるために、私が愛する国民たちを戦場に赴かせねばならない理由がどこにあると?」って発言された老王さまがいらっしゃったそうですから、助けがくる見込みもありません」

 

「ですので、セレニア様が活躍なさるには持ってこいの戦場かと思われました。

 だからこそ後方大陸ーーーーもとい、東側の大陸へと向かう船に便乗させて頂いているというわけなのです。御納得いただけまして? トモエ様☆」

「・・・なんと・・・なく・・・?」

 

 絶対に分かってなさそうだなー、この人。戦士系ジョブの知力は低いのです。

 

「しかし、そうなると少しだけ気がかりなことが出来ましたね・・・。後方を扼するのであれば前線との連絡網を絶つのは基本中の基本のはず。

 漁船まで襲ってしまったら住人たちが餓死してしまうので占領する必要なくなりますし、この船なんかの大型帆船とかを襲って沈めるのが一番効率宜しいのではないですか? 見栄え的にも宣伝に使えそうで効果は倍増しそうなのですが?」

「・・・・・・・・・(に~っこり☆)」

 

 あ。ものすごくヤな予感。

 このパターンはひょっとして、ひょっとしなくても・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 カン!カン!カン!カン!カン!!

 

 

「海賊だーーーーっ!! この船は海賊船に狙われているぞーーーーーっ!!!!」

「違う! よく見るんだ! あれは海賊船じゃねぇ! 幽霊船だ!

 元は人間たちの乗る海賊船だったのが、魔物に殺されてアンデッドとして再利用された幽霊海賊船なんだよ!」

「それって、普通の海賊船とどこが違ってるんだ!?」

「元はただの一般人だろうと、海賊幽霊船の乗船員に殺されてしまえばアンデッド化して海賊幽霊に変えられちまうのさ! 場合によってはオール漕がせるためだけに奴隷として飼われることがあるんだけどな!」

「ヤベェじゃねぇか! ヤバすぎるじゃねぇか! 生きてる間は傍迷惑な連中だった海賊たちが殺されたことで迷惑度が急上昇しちまってるじゃねぇか!畜生!」

「アンデッドの糞野郎どもめ! この世を恨んで人殺したいなら、自分を殺せよ社会のゴミ虫野郎めらが!

 つまんねぇ自己満足による個人的復讐に巻き込もうとしてんじゃねぇ! ブッ殺されてぇのかアニサキスども!」

 

「・・・て言うか、さっきの説明してたお前。よくそんなことに詳しかったな~。どこで覚えてくるもんなんだ? そう言った知識って」

「ふっ。なにしろ俺は500回幽霊海賊船に捕まって奴隷として飼われ、500回脱走に成功してきた男! たとえ五百回が501回に増えようとも502回脱走してみせるまで!」

 

『か、カッケェェェェェ!!! マジ格好良いぜコイツ!

 ・・・でも、戦う前から負けること前提の話をするのは止めような? 戦意落ちるから』

 

「あい・・・・・・(しょぼーん)」

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 なんか、いつも通りに平和的で殺伐とした名前なしのモブキャラさんたちによる面白トークが展開されてるみたいですねぇー。今日のは船員さんたちかー、はじめてだなー、面白いなー。

 

 ・・・などと現実逃避をしていたところ・・・

 

 

 

 

『その船に勇者って奴が乗ってるはずだーーーっ!! 出てこーーーーーい!!!』

 

 

 ・・・名指しで指名されてしまいました。団体客様に。観光業界だったら売れっ子になれてたかもしれませんけどねー。

 

 

「フフフ・・・お初にお目にかかります、勇者ご一行様。私は魔王軍配下の私略船団長タタリと申します。先ほどは部下たちが大変な失礼を働いてしまい申し訳御座いません。何分にも生前は、誇り高き海の荒くれどもが中心で御座いましてね。何卒よしなに」

 

 なんか、芝居がかった嘘丁寧臭い態度の悪徳海賊らしいキャプテンさんが出てこられましたね。

 

「ああ、勇者という存在そのものを隠されても無駄ですから、お止めになった方が宜しいですよ? 見苦しいだけですからね。

 ーー魔王様はご自身の計画を妨害するため神とやらが送り込んでくる勇者の存在に早くから警戒されておられました。故にあなたが東大陸行きの船に乗るであろうことは予測がついておりました。

 後は餌を蒔いて獲物がかかるのを待つばかり。簡単な作業でしたよ、クククク・・・」

 

 ・・・餌?

 

「ヨヨ姫様、何かご存じだったりされますか? 彼が言ってた餌のこととかについて」

「さぁ? それについてはわたくしは何も。わたくしとしましてはセレニア様に魔王軍が保有する海の戦力について知っておいてもらおうと思っただけでしたので・・・」

 

 困惑顔のヨヨ姫様。この人の場合、本気の本音で嘘はけそうだから信じていいのかどうかよく分からんとです。

 

「魔王様が東大陸に派遣された上級幹部を倒しに行く途上なのでしょう? ちゃんと分かっておりますよ・・・なにしろ噂を流させたのは私なのでね、クククク・・・。

 どうやら知恵比べでは私に及ばないようだ、勇者様方は・・・ふぇっふぇっふぇ・・・」

 

 ・・・・・・その噂、今はじめて聞かされた初耳なのですが?

 

「まぁ、侵略戦争始めるまで大陸から出たことない内陸の民である魔族のなかで海に住む方々は外様ですからねー。

 噂を流してくれるよう協力してもらうために払ったお金を持ち逃げされた詐欺に引っかかった類のアンデットたちなのではないでしょうか? アンデッド化した海賊たちは海に縛られてしまい、陸には二度と上がって来れなくなりますから世情に疎くなるのは止むを得ませんし」

 

 ・・・魔族さえも世知辛い異世界なんですね、ここって・・・・・・。

 

 

「早速ですが、あなた方には船と共に海に沈んでもらいます。否やはありません。私どもの手柄となるため、海の藻屑となるのです。

 ーーそう! 我らが悲願である魔王軍海軍を設立するための人柱となってもらうために!」

 

『うおおおおおおおおおおおおっっ!!! くたばれ陸の豚ども! 俺たち海賊船はお前たちを乗せて大陸間を運んでやるための輸送船なんかじゃねぇーーっ!!!』

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 

「あなた方を倒せば手柄となり、目出度く海軍を創設させていただける件を魔王様からご承認いただけた直後に本人の乗る船とかち合えるとは! 私は邪神様に愛されているに違いありません!

 野郎ども! あの船にカタパルトを使って大石を投げ込み、早く沈めてしまいなさい! 手加減は無用です! ファイヤーです!」

『せ、船長! 大変です! 空からバードマンどもが・・・・・・ぐふはぁっ!?』

「『艦長』とお呼びなさいと何度言ったら分かるのですか!? この脳味噌なしのスケルトンパイレーツどもが! 少しは覚えることも覚えなさいよ役立たず!」

『す、すいやせん艦長サマ・・・。ーーじゃなくて! 空から! 空からバードマンどもが俺たちの手柄を横取りしに来たんですよ!

 勇者を倒した功績によって、魔王軍空軍を創設してもらうために!』

「な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」

 

 

 

 バッサ、バッサ、バッサ、バッサ、バッサ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『ゲハハハハハ! 俺たちは海に縛られてる不自由な奴らと違って、本当の自由を愛する者たち空の民バードマン!

 勇者よ! 空のモンスターと言えばグリフォンだのドラゴンだのガーゴイルだのと言った有名どころしか重宝してもらえない現状を打破するために犠牲となってもらうぞ!

 死にさらせ陸の豚ども! 俺たちはお前たちを持って運んで大陸間移動してやるための運送屋じゃねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!』

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 バードマンの宅配便。もしかしたら魔女さんとかが宅急便のアルバイトしている気がしなくもない、異世界の種族問題です。

 

 

 

 

 

「くぅっ! 美味しいところだけ横取りしようとは所詮、海鳥の同類どもですね! 実に意地汚い!

 ーーはっ!そうか! さては奴ら陸軍が自前で建造中とか言う空中戦艦の噂を耳にして焦りだしたのですね! ならば仕方がありません、攻撃開始です!

 野郎ども! お邪魔虫どもから先に消えていただきなさい! どのみち最終的には敵になるのですから遅いか早いかの違いだけが問題。潜在的な敵は、殺せる内に殺しておくに限るのです! ファイヤー!」

 

『おおおおおおおおおおおおっっ!!!! くたばれ!苦労知らずの鳩に鴉ども!!』

 

 

 

 ブォンッ! ブォンッ! ブォォォォンッ!!!

 

 

 

『うおっ!? 海のハイエナどもが撃って来やがったのか! あん畜生・・・!!

 手柄を他人にも分けてやろうとって気概すら持ってねぇから、海の野蛮人は嫌いなんだよ! こちとら海と違って空飛んでくる手柄首なんざ噸とご無沙汰だってぇのに!

 ーーはっ!そうか! さては連中、陸軍が自前で建造中だとかいう海上要塞の噂を聞きつけて功を焦りやがったんだな!

 ちくしょう! こうなったら反撃だ! どのみち人間どもを滅ぼした後には敵になるんだ! 今の内から殺して滅ぼしちまったって問題はねぇはずだ!

 てめぇら! 石落とせ石! 奴らの頭の上に、思いっきり熱いのぶちかましてやれ! ファイアーッ!』

 

 

 ヒューッン! ヒューッン! ヒューッン!

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 ・・・・・・え、なにこの末期状態を越え過ぎちゃった日帝軍みたいな状況。て言うか魔王軍、いくら何でも陸軍国家過ぎるでしょう・・・もう少し新興の海と空にも優しくして上げましょーよ、いやマジで。

 

 

「てゆーか、この状況。私が一方的に殺しまくれるんですけど、本当に大丈夫なんですかね? 画的に悲惨な状況を展開してしまうと思うのですが・・・?」

 

 一応、女神様に選ばれた転生勇者らしく配慮してみます。一応は。

 

「大丈夫ですわセレニア様。古今東西、あらゆる伝説において勇者とは一方的な殺戮者のことを指して用いられてきた言葉なのですから問題なしです。

 たった一人で一国を相手取る力を持ち、世界を数人で救ってしまえる超人類にしてバケモノども。雲霞のごとく押し寄せる敵軍を一騎当千して無双して千切っては投げ、吹き飛ばしては猛追撃。

 それが勇者と呼ばれる存在の英雄譚です。ただひたすらに敵を斬り殺し続ける、敵軍にとっての死神のことを人々は昔から勇者と呼んで崇め奉ってきた伝統が人類にはあるのですから大丈夫です」

「・・・・・・」

「さぁ、どうぞセレニア様。レッツ・ジェノサイドですわ!」

「・・・・・・・・・はぁー・・・」

 

 私は覚悟を決めて銃口を向け、一言だけつぶやきました。

 

 

「ファイエルボール」

 

 

 シュゥゥゥゥ・・・・・・ズドン!!

 

 ヒュルルルルルルル・・・・・・・・・どっかーーーーーーーーーっん!!!

 

 

 

「うおっ!? な、何が起きやがりましたか!? 者共、報告を上げてきなさい!」

『か、艦長! 砲撃です! 船の甲板からファイヤーボールによる砲撃を受けてます!』

「なんですって!? ・・・ですが、あの魔法は連射が利かず、詠唱時間が長いうえに魔力消費も激しい・・・。魔法使い系の上級職に就いている者でさえ、今の威力で使い続けては体が保ちません。その程度の被害なら幽霊船と化した海賊船が沈む心配はありませんから気にせず空への攻撃を続けなさーーーーーー」

『続いて第二射きます! 後ろからは第三射も!』

「なっ!? し、しかし船そのものが巨大なアンデッドモンスターである点こそ幽霊船が浮沈である理由。

 巨体にふさわしいHPを誇っているのですから、火がついたくらいで沈むことなど心配する必要はありませんよ・・・」

『敵弾が着弾いたしま・・・・・・・・・』

 

 

 ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーっん!!!!!!!

 

 

「ーーーなんですか、この爆発は!? 火薬など船倉に入れてなかったはずなのに、どうして火球が当たっただけで船が爆発するのですか!?

 理解できない・・・ありえません! こんなこと絶対にあってはならない!」

『艦長! 直撃弾がこちらに向かってまっすぐ・・・・・・か、艦長ーーーーーーっ!!!』

「か、か、神さぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 

 チュッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッン!!!!!

 

 

 

 

「族長! 奴らの船が勝手に沈みましたぜ。火薬か油でも満載してたんでしょうか?」

『さぁな。それよりお前ら、オードブルが海の底に逃げちまった以上は本命を頂くぞ。勇者狩りだ! 抜かるなよ!』

「「「応っ!!!」」」

『よーし、いい返事だ! それじゃあ、行くぞ・・・・・・』

「族長ーーーーーーーーーっ!!!!! 勇者の乗ってる船から火球が次々と打ち上げられてきます!」

『!!! 勇者のパーティーには魔道師が入ってやがったのか! 散会しろ! 大きく距離をとって火球には掠り傷ひとつつけられるんじゃねぇ!

 こちとら海鳥のと違って、海水に塗れたら飛び立てなくなる羽根の生えてる種族。火傷一つでもして飛べなくなったら落ちて沈んで死んじまうぞ!

 一発だけか、多くても二、三発しか連射しずらい火球魔法による対空砲撃は、やり過ごした後から反撃に点ずるのが基本よ』

「ぞ、族長! 火球の数が一気に倍増! し、しかもこの火球、普通のと違う気がするーーー」

 

 

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・どっかーーーーーーーっん!!!!!

 

 

 

 

『誰にも当たってないのに爆発するだとぉぉぉぉぉぉっ!?

 たたたた、助けてがみざブバハアバァっっーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・敵部隊、全機撃墜を確認。敵の母艦(?)も沈められたようです。海に落ちた中には生存者もいそうな気もしますが、ほっときゃそのうち死ぬでしょう」

 

 私が少し疲れ気味に報告し(《ファイエルボール》の魔力消費は0じゃないだけで、消耗はするのです)背中にあった手すりに寄りかかりました。

 

 ヨヨ姫様は「お見事です」と褒め称えてくれて、

 

「では、次はわたくしの番ですわね。アンデッドは殺しただけでは、いずれ復活してしまいますので、完全に消滅させることを狙わないといけません。その為の、これです」

 

 そう言って、手袋をつけてないし拳ダコもできてない白魚のように美しく細い右手をスゥッと前方に翳します。

 

 

 

 

「死者たちの無念よ、わたくしが美しく生き続けるための糧となりなさい。

 《ソウル・スティール》」

 

 

 

 ・・・海に沈んだ幽霊船からだけでなく、海上を漂っていた羽の生えた死体たちからもエネルギーっぽいナニカが飛び出してヨヨ姫様の右手の中に。

 

 背中が凍えるような悲鳴の嵐が聞こえたような気もしましたが、まぁハガレンの『お父様』がやってたことと比べたらこれぐらいはね。

 

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・・・・。

 

 やがて吸収(食事?)が終わって一段落したらしいヨヨ姫様も「ふぅ」と軽く肩をすくめられてから感想を述べられました。

 

 

「やはり穢れた魂では数だけ集めても大して呪いの蓄積には役立ちそうにありませんね。

 次に拳を放つ際には、最優先で相手の体内に流し込むことで使い捨ててしまうと致しましょう」

 

 どうやら魔拳士の拳は『気』ではなくて吸収した魂を『呪い』として打ち込むことで相手の体を内部から破壊してしまう系の、現実に世界救済の旅する勇者が仲間に入れちゃうと不味いタイプみたいでした。

 

 

「何で御座るか、この史上最低最悪の組み合わせコンビ・・・・・・アンデッドにとって最悪の相性過ぎるで御座ろう・・・・・・」

 

 トモエさんに呆れられてしまいました。

 無理もありませんが、私単体でならそれほど大したホラー要素ないことだけはお忘れなく。

 

 

「ん? そう言えばメガミ殿はいずこで御座るかな? 戦闘開始よりずっと前に甲板の隅っこに移動して行ってから、一度も声を聞いていないで御座る故、いささか心配が・・・」

「女神様ですか? 彼女だったら、ほら。あちらにずっと居られましたが?」

 

 私はそう言って船の舳先辺りにいて、うつむいている女神様の後ろ姿を指さしてあげました。

 

 

 

「お、なんだ居たのでは御座らんか。心配かけさせるで御座るなー、もー。

 メガミ殿ーっ、敵は全て倒し尽くされました故、もうこっちに来ても大丈夫で御座るよー・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウゥゥゥエェェェェェッっ‼ ・・・ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・。

 て、天にまします神様である私が下界のアビスで水遊びとか、世の中狂っているとしか思えませ―――ウウウウェェェェェェェェェッッ‼‼‼」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「(ぽんっ)そっとしておいて差し上げましょう、セレニア様。新しい冒険の舞台へ胸を弾ませながらの移動中に夢を壊されたのです。彼女の受けた心の傷は、計りしれません。今は、そうっとしておいて上げるのが一番の優しさというものです・・・」

「ヨヨ姫様・・・」

「・・・・・・(こくり)」

 

 

「さぁ、セレニア様。傷心中の女性にヘタな慰めなどしようとは思わずに、わたくしと二人で夏の海での一時を満喫いたしましょう。大丈夫ですわ、安心してください。

 ーーー天井のシミを数えているほど暇な時間を送る心配はしなくても良いのですよ・・・? さ、わたくしにセレニア様のすべてを預けて身も心も楽にして・・・・・・」

 

 

「そのお言葉はお色気ネタなのでしょうか? それとも真摯に思いを伝える愛の告白なのでしょうか? それによって対応と結末が変わると思うのですが?」

 

 

 セレニアヒロインの百合AVG。

 最後の選択肢で告白した場合には『ミンチよりも酷ぇやEND』

 「冗談だ」を選んだ場合には物語は終わることなく続いていきます。

 

 

なので『うふふ、冗談ですわ』を選んで続く、と。



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第27章

久し振りに書きたいように書きまくったRPGあるあるネタ回です!やはり世界観が複雑化しちゃうとこういうのがやり辛いですからね! 舞台変えたのは正解だったと今では自負しております!書き上げるまでは不安で一杯でしたけども・・・。

何はなくともRPGネタテンコ盛り(予定)の東大陸編スタートです。


 敵からの襲撃によって知り得た魔王の陰謀(発端は魔王さんの戦略ミスによるものでしたが)それを未然に防ぐため(と言う建前のもと)長くもなく短くもない航海を終えて陰謀渦巻く東側大陸へと到着した私たち。

 

 船が寄港地としている東大陸の港町カレッカにて、はじめて来た町の定番である住人たちから話を聞きまくっての情報収集をしていたところ。

 

 

「きゃー! カワイイーっ☆ セレニアさんって意外とミニスカートも似合ってたんですね! 次はコレ着てみてくださいよ! コ・レ♪」

「いやいやメガミ殿。普段は素っ気なくて冷たいけど偶に優しいセレニア殿にはギャップが魅力となり得るもので御座る。

 然らば常のイメージからは想像もできないようなファッションこそ、セレニア殿には似合っているかもしれぬで御座るよ!?」

「わたくしは是非ともセレニア様には、ネコミミスーツとウサミミスーツをお勧めいたします。小さくて可愛らしい女の子には年相応の格好がもっとも相応しく似合うものですから」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・何故かは知らねど服屋さんでファッションショーを開催させられておりました。本当に、何故にどうしてこうなった・・・・・・?

 

 

「あの、みなさん? 情報収集のほうは・・・・・・?」

 

 私からの弱々しい嘆願は、圧倒的女子力の前では無力でした。

 

「えー? だって女の子だけで海外旅行してるんですよ? ふつうに考えて海外に来たら現地の服屋さんで珍しい服見つけて騒ぐのが女の子旅でしょ~?」

「そうで御座るよセレニア殿。如何に冒険者と言えど、拙者たちは年頃乙女。普段は荒みきった生活を送らねばならぬ身の上だからこそ、太平の世の中では女子らしい嗜みを楽しまなくてはならぬ義務があるので御座るよ」

「うふふ、やはり市井で生きるふつうの女の子としての生活は楽しいものですわね。女の子が戦わなくていい平和な世の中とは本当にすばらしいものです」

 

 

 魔王軍と戦っている最前線から遠く離れた後方地域。

 平和な風景、平和な町並み、平和な日常生活。

 それらを見た数時間後にはすっかり平和ボケに染まりきってしまった現代日本人ーーーの私以外の異世界人と女神様方。

 

 平和・・・・・・恐ろしい子!!!

 

 

 

「結局買わされてしまいました・・・・・・」

 

 私たちって、この大陸に何しに来たんでしたっけ・・・? つか、私って何のためにこの異世界へ転生させられたんでしたっけか・・・。

 

「まぁまぁ、セレニアさん。たまにはいいじゃないですか、こう言うのも。冒険者にだって勇者にだって休息は必要不可欠というものですよ♪」

「然り然り、まさしく持ってその通り、メガミ殿も偶にはよいことを言うで御座る」

「うふふ、本当にそうですわね。似合っていますよ? セレニア様♪」

「うー・・・・・・」

 

 まさか本当に「足がスースーする・・・」だなんて、スカート穿かされた女体化主人公の定番セリフを口にしたくなる日が訪れるだなんて・・・。屈辱です・・・。

 

「・・・しかし、これ、思ってたよりずっと動き辛い履き物だったんですね。足の可動範囲そのものは何も穿いてないのと変わらないのに、一応は穿いているという認識と知識の違いで感覚が狂ってしまいそうですよ」

「・・・・・・その感想を口にするスカート穿かされた女体化主人公には出会ったことありませんでしたね、女神である私でさえも・・・」

「神様が全知全能ではないという、よい証左となって良かったじゃないですか? ガンバって精進してください、女神様。前に進むことを止めてしまった生き物には停滞と衰退しか待っていませんのでね」

 

 お店で買って、そのまま着て帰らされてしまった私のミニスカート姿。いったい、誰得なんでしょうね、この無様な醜態姿・・・。

 

 

 そんなこんなで姦しくも女子らしい(元男が混ざっていますけど)女の子オンリー冒険者パーティーが観光していたところーーーー

 

 

 

 たったったったった・・・・・・・・・・・・

 

 

 ーーーーーばさぁっ!!!

 

 

 

「あっ」

 

「やったぁ! お姉ちゃんのパンティ純白だぁ!」

 

 

 ・・・走ってきたお子様にスカートめくりをされてしまいました。

 

「あ! こら、マセガキ! 私のセレニアさんが穿いてるパンツをただ見したのに逃げる気ですか!? 待ちなさい! 逃げるんだったら金払えやコラーーーっ!!!!」

「へっへーんだ! 油断していた方が悪いんだよーっ! 悔しかったら捕まえてみろベロベロバー!」

 

 アッカンベーをしながら背中を前に向けた状態で走り去っていく器用な少年。

 

 ・・・子供の頃にクラスメイトがやっているのを見たことあった気がしますが、まさか自分がやられる側に立つ日がこようとは・・・・・・。

 

 

「・・・・・・軽い自己嫌悪に陥ってしまいそうです・・・」

「「なんでっ!? スカートめくられた被害者の側でしょあなたは!!」」

 

 

 認識を共有できない女の子と、元男の子。ジェンターの違いって難しい問題ですよね。

 

「ーーってぇ、こんなことやってる場合じゃなかった! あの色ガキを取っ捕まえて縛り首にしてやらなければ! 早く追いかけましょうセレニアさん! 処刑台を見下ろしながら飲む極上の美酒があなたを待っています!」

「・・・どこの独裁者なんですか? 女神様の中に君臨している私の姿って・・・」

 

 あるいは民が苦しむ姿を見て悦しむ暴君。どっちにしても、なりたくねー。

 つーか、そんなことよりも何よりも(と言うほどでもないですが一応重要)重大なことが起きていますので、そちらの方を優先しましょうよ女神様。

 

「別にいいじゃないですか、スカートめくられてパンツ見られるぐらいなら。ミニスカート穿いて戦闘すれば必ず見えてしまうもんなんでしょうし、穿いてるからには無視して然るべき問題でしょう?」

「世に五万といるミニスカ服美少女戦士たちを愚弄する気ですかセレニアさん!?」

 

 しませんて。つか、元男が女としてパンツ見られて恥ずかしがってたら、それはそれでイヤでしょうに。むしろ、男のパンツなんか見せられて喜んでいた少年の不幸を哀れむべきだと思ってしまう私はTS転生勇者のセレニアです。

 

「まぁ、その件は一先ず置いときまして・・・・・・財布を盗まれてますね。おそらくはさっきの少年がスカートめくる際にスっていったのではないかと」

「・・・・・・は?」

 

 (゜д゜)ポカーンとした表情をされる女神様と違い、ヨヨ姫様は「ああ」と手を打ち理解を示してくれました。頭脳労働ができる人が増えるのは良いことです。

 

「職業:盗賊としての『盗む』スキルですわね。・・・なるほど、平和な大陸においては冒険者として魔物と戦う盗賊の需要は少ないというわけですね・・・」

 

 彼女の言葉に私は大きく頷いて賛意を示し、「だと思います」と声にも出して表明しました。

 

「少なくとも敵モンスターと戦ったりダンジョン探索で役立つよりかは、この手の犯罪行為に手を染める人達の方が需要の多い職業でありスキルと言う認識なのでしょう。

 戦闘やダンジョン探索などのクエストが少なくなると生活が立ち行かなくなるのが冒険者の背負っている宿命ですからね。こう言った仕事で虎口をしのいだり、子供たちにスキルを教えて盗賊ギルドを結成したりとかも平和な大陸では有り得ることではと」

「・・・戦わなくていい世の中で、魔物対策用の冒険者が犯罪に走ってしまうだなんて・・・思っていたより平和とはずっと怖くて、難しいものだったのですね・・・」

 

 しんみりされてしまったヨヨ姫様。・・・この異世界って、こういう話をするタイプのファンタジー世界観でしたっけ?

 

「ーーいや、だからそうじゃなくて! スカートめくり犯! そして泥棒! この二つが揃えば追いかけてって罪を償わせるのが正しい大人の在り方ってもんでしょう!?」

 

 女神様が熱い口調で主張されますが、どうにも私たち残っている三人はこの件について淡泊にならざるを得ません。

 

「・・・そうは言いますけどね、女神様。実際に私が油断していたのは事実であり、ミニスカートを穿いていながら油断してしまった時点で責任の半分は私にも生じてますし、必ずしも少年だけを責めるというのはいささか酷ではないのかな、と・・・」

「え」

「『油断していた方が悪い』というのは、ある意味での真理と呼べないこともないですし、無理に断罪するため追いかけるほどではないと私は判断しているのですが・・・」

「え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 驚愕する女神様。

 その後ろでは、現地異世界人の侍少女とプリンセスが「うんうん」と何度もうなずいておられる姿が見受けられました。

 

「左様。まったく持ってその通りで御座る。戦場で油断した側が銭を奪われるなどよくあること。油断しなければ盗まれない程度のザコ盗賊にスられている方が間抜けとそしられても文句はいえませぬ。

 ーーダンジョン内でときおり出会す盗賊系モンスターによる『ひったくり』など、こちらが油断してようがしてまいが一切合切関係なく持ってかれてしまうで御座るからな。あれと比べたらこの程度の罪など、軽い軽い」

「そうですわよねぇー。『盗む』系のスキルを使う盗賊さんの中には、手を触れることなく相手の着ている服や穿いている下着まで盗んでしまえる超ハイレベルの変態シーフさんたちが実在しているのだと聞いたことがありますし、この程度のザコ盗賊スキルぐらいで盗まれてしまったのは、言葉は悪いですけど醜態と呼ぶより他ないかと・・・」

 

 二人の仲間から口々に突きつけられる、異世界西大陸(魔物と戦う前線)での一般常識。

 魔物と戦うことが日常を守る一環となっている『自己責任』の社会において『出来たのにやらなかったから損害を被ってしまった場合』相手が悪いで済ませられるのは既得権益層である王侯貴族と金持ちだけに許されている特権だったりするのでした。

 

 とは言え、油断していから盗まれてしまった相手の醜態が、盗んだ側を正当化するものであるはずないんですけれど。

 

「じゃ、じゃあセレニアさんは物盗まれたときに盗まれた側がバカだったからで済ませてしまえる役立たず探偵みたいな考え方の持ち主なんですか!?

 『騙した方が悪いに決まっている』的な格好いいイケメンキャラっぽいこと言った人の方が悪くて悪だと、そうおっしゃるつもりなんですか!?」

「まさか」

 

 私は軽く肩をすくめて見せてから、西大陸側の倫理観に私流のを織り交ぜてみた感じの論を展開してみます。

 

 

「『騙す人の方が悪い』のは当然のことです。犯罪ですからね。人から物を盗んでおいて相手の油断を正当化の理屈として用いたがる理屈が私にはまるで理解できません。

 あくまで『油断していた方が悪い』と言うのは本人の心がけの問題であり、盗まれた本人の防犯意識が欠如していたことを示す物であるに過ぎません。

 油断していて盗まれた方も悪いですし、油断している奴からは盗んでいい等と犯罪を正当化したがる子悪党さんも当然ながら悪い。

 でも、その悪徳は全く別種の悪です。人の心を裁く法律などあるわけないですし、それは自分自身で自戒し自罰し是正してゆくべき問題点。盗んだことへの法的な罰則とは何ら関わり合いのない事柄ですので、現場に居合わせたときには問答無用で何を言っても聞く耳持たずガン無視して治安維持の担当者の元に突き出してしまえばよいのではと、私はそう考えています。

 ーーですので今回の一件は私の不注意から盗まれてしまったこととして無理して追うことなく水に流し、いつかどこかで彼が再犯をしてしまっている現場を押さえたときには容赦しないという形で収めてしまうのが一番良いのではと愚考した次第です」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・なんで黙り込むんですか皆さん、返事してくださいよ。話し終えた途端に距離が広がってたみたいで寂しくなるじゃないですか・・・」

「いやまぁ・・・ただセレニアさんはやっぱりセレニアさんなんだなぁと思っただけで他意はないんですよ? 本当の本気で大本気に」

「で御座るなぁ。セレニア殿はどこまで行ってもセレニア殿で御座るからなぁ」

「セレニア様は永久に不滅なのですわね。うふふ、女が愛し合う相手として求める最高の条件に適合していていただけて嬉しく思いますわ♪」

「・・・・・・・・・なんか納得いかないんですけど・・・・・・」

 

 

 そんなこんなで東大陸編スタートです。

 

 

おまけ『東大陸の冒険者事情』

 

セ「本格的な侵攻が行われていないせいで出没する魔物がザコばかりですねぇ・・・。  

 まぁ、そのおかげで兵士の皆さんのレベルが上がらず簡単なザコの討伐まで冒険者に依頼してくれてるみたいですから仕事にあぶれなくて助かりますけど・・・」

 

メ「でも、村の近辺に出没するようになったクマ退治とか、下水道にスライムが大量発生したから駆除してほしいとかの依頼は正直どうなんでしょうかねぇ・・・。

 日常生活に直結しているインフラ保全までもを不確実で不確かな冒険者への依頼に依存できる精神性だけは、ゲーム時代から理解できません・・・・・・」

 

ト「・・・うわっ! なんで御座るか、この依頼!? 『迷子になった私のペットを探して』って、そこいらに張り紙でも張っておけばよいものまで冒険者に依頼するとはこれ如何に!? しかも結構ギャラ高っ! あと、『挑戦者求む!』ってこの依頼なに!?」

 

ヨ「・・・『太古のエルフの呪いで村全体が覚める事なき眠りについてしまった村人たちを助けるために、古代神殿にあると言われる秘薬が必要だ。取ってきてほしい』・・・この国には毎日を歌って踊っているだけで王が果たすべき義務を果たしたことになる法律でもあるのでしょうか・・・? わたくしの祖国である小国でも軍を派遣して国民を助けていましたのに・・・。

 ーー平和になるとここまで他人の手に委ねてしまうものなのですわね・・・本当に平和というのは難しいです・・・」

 

セ「・・・・・・(び、微妙に心が痛いです・・・(T-T))」



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ファンタジー日常系風に書き直した『第8章』

チートファンタジーに憧れて方針転換してみたはいいものの後が続かなくなり、結局は当初考えていたアイデアの一つ、8話目のファンタジー日常系バージョンを投稿する羽目になるという己のダメ作者っぷりに涙です・・・(ToT)/~~~

やっぱり私にはコッチ系しか向いてないのかな~・・・と、意気消沈しながらもスムーズに書けてしまう悲しさよ。


「ん・・・しょっと。ーーふぅ~、結構疲れる作業ですねー」

 

 額に浮かんだ汗を拭いながら、私は一息つきました。

 そこそこ大きめの石を指定された場所まで持って移動して置いて、また戻って持って置きに来る機械的作業。前世で夏休みにやったアルバイトを思い出します。

 

 ・・・あの時はベルトに乗って流れてくるソフトクリームに、ひたすらフタつけて密閉する作業だけでしたからねー・・・。意外と精神的に来るモノがあるバイト内容でした。

 まぁ、高時給に惹かれてドンキに行った同級生は店卸しやらされて、始業式の日に休んでましたからアレよりゃマシだったんでしょうけれども。

 

 ま。つまるところは、要するにーーー

 

 

「お金のためにする仕事というのは、得てして夢がないし求めるものでもない・・・と言うことですかねぇー」

「そういう現実話を異世界でする展開は、もういいんですよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 おや、女神さまが来ちゃいましtーー来られたようですね。

 

「どうされたんですか女神さま。クエスト中ですよ?」

「コレのどこがクエストなんですか!? 穴掘ったり石押したり持ち上げたりと、完っ全に土木作業と一緒じゃないですか!

 こんなの私が求めていた遺跡発掘クエストなんかじゃ全然なーいーっ‼」

「・・・ご自分でもってきた依頼書の内容を、私に批判されましてもねぇ・・・」

 

 ポリポリと、私は自分の頬をかきながら誤魔化すように周囲を見渡します。

 何十人もの冒険者さんたちが、岩を退けたり瓦礫を撤去したりと、遺跡の上にのっかっている発掘調査をするのに邪魔なものを退かして遺構確認面を路程させる作業・・・所謂『荒掘り』をしている最中です。

 

 現代だとブルドーザーやパワーシャベルなどの大型作業機械を用いておこなう作業ですので、レベルやステータスが存在していて一般人と冒険者の間に力の差がある異世界だと私たちの仕事に該当するというわけ。普通の人より力の強い冒険者は、人間ブルドーザ~。

 

 

「いや、そういう現実論はいいですから! もっと遺跡発掘クエストらしい夢とロマンと一攫千金を! 一夜にして平民が国家的大英雄になれるような強敵との出会いと討伐のイベントをーっ‼」

「・・・そんな国を揺るがす大陰謀が国内で進められていたにも関わらず、気づいてなかったとしたら治安当局が大慌てで隠蔽工作計りそうな気がしますけどね・・・」

 

 いつの時代、どこの世でも責任をとりたくない人たちが憧れて目指すのが『権力者』という名の責任者。責任をとるのが一番のお仕事なのに、誰よりも責任を取りたくない人が一番目指したがるとは、これ如何に。

 

「プリーズ! 古びた遺跡らしいモンスターPOP!! ゾンビにスケルトン、リッチにデュラハン! デス・ナイトぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!」

「・・・人前で奇声上げるのやめてくださいよ、恥ずかしい・・・。他の人たちから変な生き物でも見る目でみられてるじゃないですか・・・」

 

 まぁ、慣れたからいいっちゃいいんですけども・・・。

 

「OoooooVeeeeeeeRLORoooooooooooD!!!!!」

「フォーサイドになって全滅したい願望でもあるんですか、あなたは・・・」

 

 あるいはウェブ版で大変なことになっていたアルシェさんとかね・・・。今の服装が後半のそれっぽいと言えないこともないですから、もしかしたら・・・シャルティアさまが嫌がるでしょうからたぶん無理か。

 

「ほら、女神さま。呼ばれてますから早く入ってきてくださいよ。即主戦力の大型新人として期待されているのでしょう?」

「うっ、うっ、うっ・・・プリーストなのに力自慢の冒険者たちの中で最高の成果を出す大型新人とかイヤすぎます・・・私、美少女なのにぃ・・・美少女なのにぃぃぃぃぃ・・・・・・」

 

 泣きながらしゃくりあげつつも担当しているポイントに向かう女神さま。

 そうして現場にいた屈強なオジサンたちから満面の笑顔で期待とともにツルハシ(っぽい異世界の土木用具)を渡されて、めちゃくちゃ複雑そうな表情をされた後。

 

 

「・・・・・・もぉぉぉぉう、あったまキタ━(・∀・)━!!!!

 やぁぁぁぁぁぁってやればいいんでしょ!? コンチクショォォォォォォ!!!!」

 

 ーーと。モノスゴい勢いで作業が押し進められてゆく手腕に、拍手喝采な周囲の王国政府関係者たち。逆に冒険者のみなさまがたは不満顔。

 

 

「・・・ヤベェな・・・これだと予定よりかなり早く作業が終わっちまってクエスト完了しちまうじゃねぇか・・・せっかく楽して安全に小銭を稼げるいいクエストだったってのに・・・」

「まったくだぜ。俺たちは日雇い労働者やりたくて冒険者になったんじゃねぇ。英雄になりたいって夢を抱いて農家を飛び出し、はるばる王都まで上洛してきたんだ。

 ・・・だってのに、いざ着いてみりゃ現実は非常。その日暮らしで明日の仕事にあり就けるかどうかすら保証がねぇ、夢も希望もありゃしない仕事だったときたもんだ。

 純粋無垢な子供だった頃の俺様に英雄サーガを語って聞かせた吟遊詩人どもは、みんな詐欺師だったって言うことかねぇ~」」

「あーあー。どっかに、見つかってから大分経ってて中身調べ尽くされてる洞窟なのに調べてみたら未発掘の横穴があって、世界の命運を決めるマジックアイテムが眠ってましたとかの、おいしい儲け話落ちてたりしないもんかね~」

 

 

 ・・・・・・どこの世界にも『このすば』主人公カズマさんみたいな人はいるものなのですね・・・いや、嫌いな作品ではないのですが。

 

 そうこうしている内に笛が鳴らされます。担当者の方が休憩時間を知らせてくれる合図の音色です。

 

『よーし、午前の作業はここまでにして休憩に移れーっ! 使っていた道具類は係りの者にいったん預けてから休憩にはいるように』

 

 そう叫んでから、さも“忘れていたことを今思い出した”風をよそおって付け足されます。

 

『ああ、そうだった。今さら言うまでもないとは思うが、今回のクエスト報酬は一日事、半日ごとに分けて配られる仕組みになっている。

 道具類を集める係りの者が給金の手渡し役も兼ねており、道具の返却と午前分の支払いは同時に行われるから、そのつもりでいるように。以上! 休憩開始!』

 

 そう言って締めくくり、責任者の方が退がっていった頃には半数ぐらいの冒険者の皆様方が再活性化されて係りの人の元へ我先にと走っていきます。

 

 近くにいた普通に休憩しているベテラン風の冒険者さんたちが、

 

「あいつらの内、何人が午後まで残ってると思う?」

「一人だ。装備を見れば誰でもわかる。どこの世界に遺跡発掘などの悪路を進むこと前提のクエストに、戦闘用のブーツを履いてくるバカがいる。

 受注したクエストの内容にあわせて自前で最適な装備を揃えてくるのは当然のことだ。その基本すら出来とらん苦労知らずの阿呆どもに何が期待できるというのだ?」

「ま、確かにな。あの調子じゃぁ、とっぽい人生に憧れて都会に出てきたはいいものの・・・な典型で終わりそうだし。午前分の給料もらったら逃げ出して酒かっくらって帰ってこようとは思いもしねぇか。・・・バカだねぇー。そこで踏ん張れないからランク審査でダメ出し食らって、実入りのいい仕事を回してもらえないって言うのにさぁ」

「ふん。地味な苦労を嫌がらずに続けることで上がる評価方式など連中は知らんだろうし、知っていても考慮はせん。屁理屈を並べて今まで通りのやり方を続けるだけだろうさ。

 仕事から逃げ出した負け犬どものご都合主義など、所詮その程度にすぎんよ」

 

 

 ・・・耳に痛い内容の会話があちらこちらから聞こえてきて、現代日本人としては辛すぎるのですが・・・。

 ようするに今回のクエストは“そういう人たち用”のもの。

 

 田舎から「家の仕事を継ぐのはイヤだから」と逃げ出して上京してきたはいいものの、根気がない癖に夢ばかり見ているロクデナシさが原因で長期の仕事にあり就けない、もしくは最初から『冒険者になりさえすれば全て上手くいくに違いない!』と根拠もなく信じ込んで登録してしまった方たちへの施しとして、小銭を恵んで上げるのが一番の目的。

 日がな一日働きもしないで飲んだくれられたり、喧嘩ばかりされていたのでは迷惑ですからね。と言って州都である以上は追い払っても追い払っても必ず来る類の人たちでもありますし、適当な仕事をやらせる代わりにお金を恵んで上げて治安維持しているというわけです。

 

 考えてみなくても「俺は農家なんかで終わる男じゃない! 英雄の器があるんだ!」とか叫んでるプー太郎な若者見かけたら誰だって頭の中身と正気を疑うでしょうからねー。

 『海賊王に俺はなる!』と言って、ハイスピードだけど着実に実績を積み重ねていったルフィさんとは違うのですよ、ルフィさんとは。

 

 

「・・・ところで、さっき言ってた“帰ってきそうな一人”って誰だよ? 今年の新入りで見込みのありそうなのは、あそこでボンヤリしながら休憩してる銀髪の重装備娘以外にいたっけか?」

 

 ・・・・・・はぅ・・・(////)

 遺跡発掘と聞いて『吉村作治教授の古代エジプト発掘ミステリー』を思いだし、思い出に浸っていたことが今更になって墓穴フラグに・・・。

 

「・・・いの一番に係りの奴まで走ってった女だ。ここからは見えたが、おまえのいた角度からだと見えなかったかもしれんがな。

 あれはスゴいぞ? 絶対に午後も帰ってきて終わるまで作業するだろう。断言する」

「? なんでだ? そんなにランク上げるための評価基準気にして準備万端整えまくってきてたのか?」

「逆だ。ーーーパンツ一丁みたいな格好してサンダル履いたまま、俺たちの何十倍も活躍していやがった。あれは俺たちよりも王国政府の連中が手放したがらん。絶対に他の奴らよりも日当上げまくって確保しようとするだろう。断言できる。それぐらいに凄まじかったから・・・・・・」

 

 

 ーーごめんなさい、ごめんなさい。うちの連れが美少女なのに人外すぎてて、ホントーにごめんなさい・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・斯くして私たちは、異世界生活最初の大きなイベントを達成したのでありました。

 今回得た報酬はお金の他にも称号があります。

 

 女神さまーーー『エロい格好の破壊神』

 

 私ーーー『辺境の聖女』・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

メガ「なんでだよ!?(激怒)」

セレ「知りませんよ!!(涙)」

 

 

答:前回までやってたバイトクエスト《食堂でお客様に注文された冷水を魔法で注げ》で上がったスキルを遺憾なく発揮しまくった休憩時間を過ごしたせいです。




注:ついにPomeraがご臨終に近くなってきましたのでDM200を近々購入したいと思ってます。その間、今使ってる方の不調から書ける時間が制限されますので更新が遅れる場合がございます。ご承知おきくださいませ。

・・・バックライトがほとんど点かなくて、夜とかキツイのでね・・・。


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第28章「魔王討伐編のはじまり」

久しぶりの更新となります。
あれから色々な異世界転生モノを視たり読んだりしながら自分でも書いたり考えたりしたんですけど、どうにもシックリくるのが無くて結局は原点にと言う流れになってしまいました。
なので、それらを参考にセレニアが勇者として異世界を救う旅に出た後の話を書いてみた次第です。

魔王討伐編として再スタートした『お約束へのツッコミファンタジー』である今作を改めて宜しくお願い致します。


 異世界転生から約一年かそこら。私たちのパーティーは、のんべんだらりと適当に後方地域をあちらこちらへ移動しながら旅を楽しんできたわけですが。

 

「異世界転生勇者なんですから、そろそろ魔王軍の侵略うけてる人類国家のある前線に赴いてくださいよコラ」

 

 と、唐突に使命と役割を思い出したっぽい女神様から怖い顔してスゴまれてしまったので、致し方なしに魔王軍に所属しているモンスターとエンカウントする前線地域にある最初の国を目指して(ようやく)勇者らしい世界救済旅に出たのでありました。

 

 

 

 ――――のです、が。

 

 

「おお、そなたらが賊の手から娘を守り抜いてくれた勇敢なる若者達だな! この国の王としてではなく、一人の父親として礼を言わせてもらいたい。ありがとう。

 ・・・王女を警備していた部隊の隊長から聞いたところによれば、其方達は魔王を討伐するため旅に出た勇気ある者達だとのこと。そんな其方達を見込んで折り入って頼みたいことがあるのだが―――」

『はぁ~~・・・・・・』

「王様が心の底から礼を言っている最中に盛大すぎるため息を吐くのは、流石にどうかと思うのじゃが!?」

 

 王様激高。・・・まぁ、気持ちは分からなくもないんですが・・・・・・ただねぇ~・・・・・・。

 

「・・・そうは仰いますけどね、国王陛下? 私たちは次の国へ向かう途中の森の中で偶然あなたの娘さんが襲われてるところに出会して、これから行く先の国の貴人を見殺しにする訳にもいきませんから助けに入らざるを得なくなって加勢したら、なぜだか護衛の方々まで守らされる羽目になり、勝ったら勝ったで護衛の方が一人残らず負傷してて任務続行は不可能な状態。

 重傷者から『自分たちの代わりに姫様の護衛を』って弱々しい声で言われて断れるほどヒトデナシにはなりたくないからイヤイヤ引き受けて馬車の周りを固めながら歩かされて、ようやっとお城に着いたと思ったら『王様から話があるとのことです』と呼び出しをくらい、満足な小休止も与えてもらえない状況では、このような態度になる事情も多少は大目に見ていただけたきたいなと思う次第なのですが・・・?」

 

「あ、うん、えっと・・・・・・スマン・・・・・・・・・」

 

 こうして私たちは、人類国家と魔王軍が戦争している地域への第一歩と一日目を記したという訳なのです。

 

 んで、次の日の朝。

 

「と、言うわけで、この国から街の外を歩いていると魔王軍に所属している兵士としての魔物と戦う可能性が出て参りますのよ、セレニア様」

「・・・“この国から”? 今までの国の荒野で襲ってきていた魔物たちは・・・?」

「野生化した元魔族軍所属の雑魚モンスターか、野生の獣が魔力とかの影響受けて凶悪化しただけの魔獣がほとんどですね。魔王軍との関係性はほぼ皆無な、野盗さんたちの又従兄弟みたいなものですわ」

「・・・・・・・・・」

「まぁ、普通に考えて魔王軍から侵略受けた人類国家が同盟組んで防衛戦してる世界でしたら、私たちのいた後方地域一帯は敵国内の最深部みたいなものに当たるわけですからねー。

 戦争している国の首都に魔王の側近クラスが入り込めてるんでしたら前線突破されてるでしょうし、後方攪乱するためにもっと暴れろよサボってんじゃねぇ重臣ども、ってぇ事になっちゃうわけですので、穴を抜けてきたアリンコ達と便乗して騒ぎまくってる不平分子なゲリラ共って言うのが現実だと私は思いますよ? セレニアさん♪」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 アリシアさんと女神様から、この世界についての有りがたーいアドバイスをいただいた私でした。

 ・・・一年間ずっと一緒にやってきたお陰で、二人ともすっかり逞しくなられたみたいで何よりですね・・・。

 

「しかし、その理屈でいくなら人類国家側の前線地域に至るための入り口に当たるこの国に出てくる魔王軍所属のモンスター達って・・・」

「魔王軍に参加を表明した地元の豪族魔族達ですね。主にコボルトやオーク、ゴブリンにリザードマンなどの『先祖が当時の魔王に仕えていた』系の子孫達が人間族と戦うため普段は仲の悪い者同士で手を組もうと魔王という絶対強者を大義名分として欲した結果ですわね。

 基本的には本国からもらえる援助は、部族の幹部クラスが上位種族へ進化させてもらえたぐらいで、後は現地調達してまかなうよう命じられているらしく物資の面で不足しがちで、町や村を襲っては補充し続けないと飢えて死ぬしかない現地徴用兵の寄せ集めです。ですからこそ逆に容赦がありません。

 ですのでワタクシ達も彼らに対して情けなどかけることなく、生きるためには仕方がないと割り切りまして、遠慮容赦なく皆殺しにして人間種族を邪悪な害獣たちの魔手から守り抜きましょうね♪ セレニア様♡」

「・・・・・・・・・」

 

 ねぇ、この人って一応は“元”お姫様でしたよね?

 ・・・・・・ゲーム三大悪女の名前すべてを受け継いじゃってる方ですけども・・・・・・。

 

 

「・・・で? この国で王様から直接よそ者になんとかして欲しいと頼み込むほどの問題になってる豪族モンスターはどの種族なんです? ゴブリンですか? オークですか? それとも少し強くなってオーガとかでしょうか?」

「アンデッドみたいでござるな。南方にある古い時代に戦争で滅ぼされた国の王都があった場所にダンジョンがあり、その国に仕えていた高位の司祭が外法によって不死化した魔物が魔王への忠誠を示すため国中の人間をアンデッドに変えようと内乱に近い状態に発展しかかっているらしいでござるぞ? 前線に派遣してしまっているせいで現在この国にはアンデッド対策の専門家たるハイ・プリーストが不在らしく、決め手に欠けている故に犠牲を抑えるためにも時を待つよう、国王陛下から下々の者に通達が言っておるらしいとのこと。

 それから、現場指揮官の元司祭は『不死王』と名乗っているそうで御座るよ」

「種族がアンデッドで、名前が不死王ですかー・・・・・・」

 

 微妙だな~。モモンガさまだったら出会った瞬間に全滅ルートが確定するでしょうし、デイバーノックさんだったら正直よく分かりません。セバスさんが強すぎて基準にならなかったので。

 後の候補は思いつかん、最近の(転生前に見れていた最後のアニメ事情です)作品でアンデッドはオバロ以外だと悪ではなくてヒーロー側にいることの方が多かった気がしますのでね。

 

「ま、いいでしょう。とりあえずは一度向かうだけ向かってみて、危なくなったら逃げ帰ってきて、無理そうだったら諦めてレベル上げに勤しんでから倒すという方針ということで」

 

 無難ですが、別に魔王を倒したいと願う特別な事情もない『勇者の役割押しつけられただけ』の私としては、急ぎたい理由もないので適当なのが自然なのです。

 

 さて、それではフィールドに出て最初のエンカウントバトルを待ちましょ――――

 

 

「フハハハハハッ! 我こそは『魔王のシモベ』成り! 勇者セレニアよ、貴様のような者が異世界から呼び出されるであろうことを魔王様はとっくの昔に予測しておられ、その時のための対策として幾重もの罠を張り巡らせてある! お前の未来は既に閉ざされたのだ! 諦めるがいい!

 しか~し、魔王様は慈悲深き御方。たとえお前が下等で下劣な人間種族に類する猿の仲間であろうとも、女神とやらの都合で異世界から呼び出されて自分と戦わねばならなくなったことを甚く哀れまれており、特別に俺を派遣して苦しまぬうちに楽にしてやるよう命じられたのだ。

 光栄に思えよ? この俺様の手にかかって死ねるなど魔王軍広しと言えど候補は百匹ぐらいしかいない大変な栄誉であるのだからな!」

 

 モンスターさんが現れたみたいですね。

 

「はぁ、なるほど。・・・・・・で? お話は今ので終わりでよろしいのでしょうか? こちらは戦闘を始める準備はとっくの昔にできているんですけども・・・」

「ていうか、セレニアさん。準備できてるんでしたら、先手必勝でさっさと袋叩きにして仕留めた方が楽だったのでは? 一匹できたみたいですし、一人一方向から襲いかかれば四方を取り囲んで逃げる隙も与えることなくタコ殴りにできたと思うんですけども」

「やめなさいって、そう言う現実論で最初から飛ばしまくるのは・・・。旅の始まりくらいお約束を守ってあげるのが様式美というものなのです。

 あなたも一応は女神様なんですから、弁えて下さいよ本当にもう・・・」

「貴様ら――っ!? この俺を無視して雑談とはいい度胸だ! よろしい、ならば戦闘開始だ! この俺様の必殺技でお前達を一瞬にして全滅させてやるぜ! 食らえ!

 ダークネス・ファン――――」

 

 

 ズダァァァァァァッン!!!!!

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・パタリ。

 

 

「勝ちました。魔王軍との初戦は、私たちの勝利です」

 

 う~ん、やはり使い慣れた武器を撃つのは気分いいですねぇ-。苦労して伝説の鍛冶屋さんに直してもらっただけのことはありましたよ! 『呪いの火縄銃』!

 

 ・・・まぁ、苦労と言っても偶然訪れた町中で酔っ払いが喧嘩しているところに巻き込まれて家まで連れて帰ってあげたら娘さんから勝手に家の事情を話し始められて、家を継ぐのが嫌になって飛び出していった碌でなしの息子さんを探させられる羽目になり、その時の目的地に向かう道の途上にあった三つ目ぐらいの街で襲ってきたチンピラが息子さんで、とっぽい人生に憧れて家を出たけど才能無くて故郷に帰りたくなっていて、でも一度入っちゃったら抜け出しにくい裏家業に手を染めてたから抜け出せなくてどうしようとか言っていて、結局最後は悪の側の方々が全部裏でつながっていたから一つを潰せば芋ずる式に全滅させられる都合のいい悪役連合だったお陰でアッサリと解決。

 

 強ささえ持ってりゃどうとでもなる程度の簡単なクエストと言えなくもない、時間と手間暇だけが無駄にかかりまくる精神的疲労度の高いイベントをこなして直してもらった火縄銃は私の宝物です。一生大事にすると伝説の鍛冶師さんの前で誓いました。

 名前も覚えてない彼らの想いとは関係なしに、私個人が気に入りまくっていますから・・・(ピト~♡)

 

 

「うわ。この人、性格悪くて友達いないからって火縄銃相手に抱きつく奇癖を身につけ始めましたよ。マジでキモい」

「末期で御座るな・・・。これならまだ拙者が目覚めた刀収集と、刀大好き癖の方が遙かにマシで御座るよ。――この波紋の揺れ方と刃の反り具合がなんとも言えず絶妙で・・・グヘヘヘ・・・」

「はぁ・・・♡ いつかワタクシも火縄銃のようにセレニア様に抱きつかれてみたい・・・。

 そして××を○○して、△△を□□□――――」

 

 ・・・・・・貴女たちがそんな風に変わっちゃったから、心の拠り所を無機物に求めるしかなくなっちゃっただけでしょー!? 他人の欠点だけじゃなくて、少しぐらいは自分が良いと思い込んでる奇癖を疑う癖を身につけなさーい!!!

 

 

 こうして私の、異世界転生勇者としての旅が新しく始まったのでした。

 

 

つづく

 

 

 

 

「・・・・・・あれ? 私は前と全然変わってないのに、どうして拠り所にしてもらえてないの?」(事の発端な自覚なし女神のつぶやき)




*前線地域の設定説明(忘れてたのを思い出したので書いておきますね)

『前線地域にある最初の国』と言う表現の通り、今いる国は前線と後方との間を繋ぎでいるいくつかの国の一つに当たります。
これ等の国の王たちは、国自体を関所兼通していいかどうかのレベル判定係を担っておりまして、今回の件での報酬がそれに当たります。
また、前線と後方では冒険者関連の法律にも違いがあります。これはメインで相手にするのが魔族軍か魔獣かによって同じ基準が使えなくなるからです。

それから、前線地域にも革命軍は存在しており少数精鋭で各地を転戦しながら支持を訴え続けてます。彼らは民衆のためにある組織ですので、民衆を害するなら魔族軍だろうと王国軍だろうと関係なく敵対して、王国軍とは極稀に共闘してたりもします。

後方よりも危険な分、不足な事態が起こり易く選択肢には自由度が高い反面、何かあった時の危険度と自己責任の判定基準がメッチャ厳しくなるため報酬も上がります。
危険手当と言うより、「そのために金を与えた。金で解決じゃ」なグルグルの王様理論がまかり通ってしまう場所、それが前線地域一帯です。


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第29章

更新。魔王討伐編における初のボス戦です。
セレニアらしい決着と戦い方をご賞味いただきたい。


 会ったこともない魔王陛下から公式に勇者一行と認められた(知らないうちに認められてたみたいでしたね・・・)私たちは、短期目標の地である前線地域最初の国の首都から南方にあるというアンデッドさんのいる旧王国跡地に向かっていったところ。

 

「おお・・・これは・・・・・・」

 

 思わず感心したくなるほどの光景が広がっておりました。

 

 

「・・・・・・完全無欠に柱しか残ってませんね、この王国跡地。名前さえ覚えられてないほど大昔に滅びた国ですから当然っちゃ当然なんですけども・・・・・・」

 

 王国跡地というか、『かつて王国があった場所に残されていた痕跡』みたいな形で、途中で折れた柱とか屋根も壁も壊れて風化して吹きっ晒しになってる小さな小屋かなにかだったと思われる場所が点在しているに過ぎませんでした。

 天井がなくなってボロボロだけど、『お城だった場所』と目視で判断できるほどのRPGによくある光景とは無縁なただの『遺跡跡地』。

 

 まぁ、現実なんてそんなものですけどね~。

 

 

「・・・・・・待っておったぞ。無能で悪辣きわまる神によって召喚された勇者共よ・・・・・・」

「ん?」

 

 声がしたので見てみると、遺跡に中央に黒い霧が集まってきて一つの人型を形成し始めておられました。

 霧が晴れて姿を現したのは・・・・・・骸骨の魔法使い、リッチさんで

 

 

 

「我が名はバタンデール! かつてこの地にあった神に見捨てられた王国の最高司祭だった者にして、魔王様に忠誠を誓い神への復讐戦を挑もうとしておる者!

 またの名を、『不死王バダンデール』!!

 魔族としての種族名は『親分ゴースト』である!!!」

 

 

 

 ・・・リッチさんではなくて、ただの親分ゴーストさんだったみたいです。

 ――――中途半端なのが来たもんですねぇオイ!!

 

 

「元は魔法が使える人間が無念のうちに死んで怨霊となった、魔法を使えるアンデッドモンスター『ゴースト』でしかなかったが、魔王様からいただいた偉大なるパワーによって『親分ゴースト』として生まれ変わり、地獄の底から舞い戻ってきた者である。

 そう! すべては我が信心深き王国と民を見捨てた憎き神への復讐を果たすために!!」

 

 ・・・いけません。このままだと笑ってしまいそうです。相手は彼なりにとは言え真剣に不幸自慢と復讐の正当性を語りたがっているみたいですから出来るなら訊いてあげてから倒してあげたいのに、雰囲気とかムードとかがブチ壊しにしてしまいそうな予感が・・・。

 

 とりあえず今は、なにかで話を逸らさなくては!

 

 

「・・・神様への復讐と言うことでしたが、あなたの国は何かされたのですか? 神様に」

「無論だ。我が国は建国してより三百年もの間、欠かすことなく神への祈りを捧げ続けた信心深き宗教国家であったのだ・・・しかし!

 あるとき北方より襲いかかってきた蛮族共の襲撃によって国は滅ぼされてしまった!

 宗教国家であるが故、回復魔法に長けた僧侶たちこそ多くいたから守るだけは出来ていた。だが、癒やし続けるだけでは勝つことは出来ん。故に神へと祈りを捧げて待ち続けたのだ。

 我らは救いの神が降臨してお力添えしていただけると信じ、只ひたすらに祈りすがりながらも耐え凌ぎ続けた・・・。だが、結局最後の滅びが訪れるまで神は降臨してくれなかった・・・。

 徐々に減っていく神官たちが最後の一人になるまで待ち続けた我らの祈りは、神の傲慢により徒労にされてしまったのだ・・・三百年もの長い間あれほど真摯に祈りを捧げてきたのに!」

「・・・・・・ふむ」

 

 なんと言うか、どこまでもお約束通りな展開が起きる場所ですね、前線地域って言う場所は。物語中盤に起きる出来事は妙に似てくること多いですけど、これもそのうちの一つなのでしょうか?

 

 ま、其れはさておくとしましても気になることが一つあります。それを訊いてみるといたしましょう。

 

 

「あの~、質問があるのですが宜しいでしょうか? あなたの国を見捨てたのは『神様』なんですか? 『女神様』じゃなくて?」

「馬鹿にしておるのか? 我が国は伝統的な男尊女卑を基調とする正当なる宗教国家であった。女神信仰など穢らわしい。女など男に媚びを売って生きていくため生み出された存在であるだろうに」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

「私が嘗て崇めていたのも、『ヤハイルダオト』という名の男神であった。男は魂の次元で生まれたときより女よりも優れているのだから当然のことであろう?」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

「なる・・・ほど・・・・・・」

 

 この人の国の国教って、初代キリスト教みたいな教えだったんですねー。地元産の地母神信仰が根強い地域に進出して信仰広めるより以前の、マリア信仰が無かった時代の徹底した男尊女卑なキリスト教の時代。

 滅びたのが今の宗教とは無縁な時代だったことを鑑みるなら不思議じゃない・・・のかな~?

 いや、今はそれよりも確認すべきことがあったんでしたわ。それ先に訊いてから悩みましょう。

 

「女神様、この地には最初、神様がいたって言ってた気がしますけど、その人の名前ってなんて言うか解ります? あと、どれくらい前にいなくなってたかも解るようでしたら教えて欲しいのですが?」

「んあ? 確かえっと、どっかに名前書いた手帳を入れてたような気が・・・・・・お、あったあった。オッパイの谷間に収納しちゃってました。はい、取り出しプルン♪ いやん、セレニアさんったらHなんですからぁ~♡」

「そう言うボケはいいですから、早く開いて調べて下さい。面倒くさい」

「ちぇ~。・・・えっと、あ! このページに載ってましたね。

 元いた神の名前は『アクーア』。・・・聞いたことない名前ですね、どこのド田舎世界から左遷させられてきた無能神だったんでしょうか? 世界から去って行ったのは創世から僅か五百年後。今より千年以上前となってますね。展開通販サイトの履歴で確認取れましたから間違いありません」

「千年以上前ですか・・・三百プラス数百年分くらい滅びた後の時間を足しても足りませんね・・・」

「まぁ、私たち神族って基本寿命がありませんからね。千年や二千年程度は誤差ですよ誤差。ですから大した違いはありません」

「・・・・・・そうですか・・・」

 

 いかん、墓穴掘ったくさいです。マジでどうしましょう、この状況・・・。

 

「私は、祖国の民が藻掻き苦しみながら死んでいった怨嗟の念を吸収してアンデッドとなった。偽りの神を崇める狂信者どもを絶滅させて、神はいないのだと思い知らせてやるために! 只それだけのために!

 ・・・だが、所詮は地縛霊の集合体。この地から遠くにまで離れることは出来なかった・・・“今までは”な。

 魔王様の加護を受けた私は親分ゴーストとなり独立した個体として活動が可能となったのだ! これで地上にある村々をすべて恐怖のドン底に叩き落としてやることが出来る・・・。

 我が国を忘れた愚か者共に思い出させてやろうではないか・・・死の恐怖を、苦痛を、怨嗟の声を、神の無能さを!

 千年近い時間をかけて私が作り上げた10000体のアンデッドによる、不死者の軍勢を率いてなぁぁぁぁっ!?

 《サモン・ネクロ・マジック》!!!!!」

 

 

 そう叫ばれて両手を複雑に交差させて機敏に動かしまくった後に、両手の平を大空に広げるポーズで呪文の最後の一言を言い終えると、彼のいる周囲の空間に変化が生じ始めます。

 無数の逆十字が飛び回り、色々な形を成していって最終的には巨大な髑髏として合体した後、眩い光とともに消え去って。

 

 後に残されたのは―――――この地域全部をフォローしてしまえそうなほど膨大な数のアンデッドさんたちの大軍勢でした。

 

 

「フハハハハハ!!! さぁ、神などと言うまやかしを信じてすがろうとする愚かなる勇者たちよ! この1万体の屍兵で築き上げた私の国を踏破し、見事私の元までたどり着いて討伐してみせるが良い! 出来るものならだがなぁ~?

 永劫続く、終わる事なき悪夢の世界で藻掻き苦しみながら死んでいき、地獄へ落ちろ勇者共めらが! ふひゃ、ふひゃははははははっっ!!!! ふひへへへへへははははっ!!」

 

 

 高笑いされるデイバ・・・なんとかさん。

 私はアリシアさんを振り向いて、うなずき返してくるのを見てから同時に動き出します。

 

 

 

「魔拳士スキル発動《魂喰い》」

「呪いの火縄銃のチェンバー開いて《死者の無念吸収して弾丸化》です・・・」

 

 

 アリシアさんが右手の平を前に出して、私はごく普通に火縄銃が弾込めの時に使うチェンバーを開くだけ。

 

 只それだけの動作で、この場に充満していた死のオーラは、アリシアさんの右手の平と火縄銃とに力尽くで吸い上げられて、下級霊程度では逃れることなど不可能な状態になってしまったのでした・・・・・・。

 

 

 ――ウオォォォォォォォォォッッン・・・・・・!?

 

 

 そんな聞いてて気持ちの良くなるはずもない怨嗟のうめき声を聞きながら、私たちはただ同じポーズをとり続けて、敵の悪霊が一体残らずいなくなるのを待ち続けました。・・・待ってるだけの行為をひたすら続けてただけなのです。

 にも関わらず、数分後には目の前にいた10000体のアンデッド軍が消滅していて、空気も清浄化されている。

 

 ・・・これがチートの理不尽さというものなのですよ、デイなんとかさんとキリトさん。あなた方と私たちは違うのです。なんかこう・・・アライメント的な意味でたぶん、善では無いと思いますからね・・・・・・。

 

 

「な、な、な・・・・・・」

 

 デイなんとかさん、大混乱中。・・・当たり前の反応ですけども。

 

「なんっじゃこりゃ――――――――――――っっ!?」

 

 そして絶叫。・・・・・・これまた当たり前の反応ですけども。

 

「わ、私が千年近くかけて築き上げてきた努力の結晶が・・・全て! 一瞬にして! チリも残さず消え去ってしまうなど、どんな悪夢だこの状況は―――――――っっ!?」

 

 本当にね~。こんな事しちゃダメですよね、普通なら。・・・いや、本当にマジでごめんなさい。

 反省はしてるんですけど、この銃ってこれ以外に給弾方法がなくて割り切って使う以外に手の施しようがなく・・・ほんとーにごめんなさい。

 

「お、おい! そこのお前! お前だよ! 右手で魂吸い尽くしてた美女!

 あのとき罪無く殺された哀れな民草たちによる怨嗟の叫びが、暴風雨としてお前の魂の奥底にまで響いてきたはずだよな! なのになんでそんな平然としていられるんだーっ!!」

 

 糾弾されて、元王族の一員でもあるヨヨ・ミレイユ・アリシア・イスパーナさんは、瞳を伏せて沈痛そうな表情を浮かべてうつむかれると。

 

「・・・人々の嘆きは悲しむべきものです。戦渦に巻き込まれ、家と家族を失い、道端で泣きながら死んでいった子供たちの死体を見たとき、誰が悲しまずにいられましょう・・・? 私は元とは言え、王族の一員。あなたの嘆き悲しみは勿論のこと民たちの怨嗟の念も重々理解しているつもりです。現に今も胸が張り裂けそうなほど痛くて辛い思いを味わっているのですから・・・・・・」

「であろう!? だったら―――――」

「・・・ですが、元とはいえ王族としてこうも思うのです。

 『敗者の恨み節を勝利の証と思えぬ者に、王族を名乗る資格はない』・・・と。

 所詮、王族とは民を殺して生かす者。必要以上に民草の感傷に振り回されるのは彼らのためにもなりません。王族と庶民では尊ぶべき価値観も、果たすべき役割も違うのですから」

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!

 くぉぅの、特権階級から民衆を見下ろしてくる女狐めがぁぁぁぁっっ!!!!!」

「負け犬の遠吠えと、受け取っておきましょう」

 

 容赦ねぇな! この異世界の王族さまは! 所詮は中世時代風ファンタジー異世界か!!

 

「で、ではそこのチビ巨乳! 貴様はどうなのだ!? 冷めた目をしてはいるが、その実それらは裏側にある豊かな感情を義務のために抑え込んでいるだけなのであろう!? 私には解るぜ! 生きている間は懺悔に来た様々な少年少女たちと対面してきたからな!

 お主の目は生来の悪人が持つ其れではない! 哀れな犠牲者である人々の魂を吸収して平然としていても、内心穏やかでいられるはずがない!」

 

 うん、まぁ、半分ぐらいは当たりですかね?

 

「仰られるとおりではあります。私も出来るならこの様な手法を用いたくはありません。ですが・・・」

「であろう!? ならば私とともに―――」

「最後まで聞いて下さい。確かに私はこの手の手法が好きではありませんが、この火縄銃なしだと雑魚にしかなれないので冒険者として生きていく限りにおいては手放すことは不可能なのです。そしてこの銃を使う以上は、先ほどの作業もまた必要不可欠。

 つまりは、呪いの火縄銃の性質を知った上で使うと決めた時点で、私の覚悟は決まっていました。

 今さら10000や20000程度の怨嗟を聞いて躊躇いやら後悔やらを抱くのであるなら最初から手に取る資格はなかったと言うこと。

 私に殺された者たちは、私が罪の意識から後悔をして道徳を学ぶための教材になるため殺された訳ではないでしょうからね」

「ぐぉおおおおおおおっっ!? 圧倒的に死生観が違い過ぎる――――っ!!!!!」

 

 藻掻き苦しみのたうち回り、頭髪のない剥き出しの骸骨頭を掻きむしりまくるアンデッドさん。・・・シュールだなぁ~。

 

「な、ならば今度はお前たちにこちらが合わせて、理ではなく利で釣ってやる! おい、女ども! 私について勇者を殺せ! そうしたら永遠の命を与えてもらえるよう魔王様にお願いしてやる!

 人間の姿を保ったまま、吸血鬼だろうと魔族化だろうとなりたい不死者系のアンデッドに変えてもらって永遠の美貌を得ることが出来るのだ! どうだ? 嬉しいだろう? 若く美しい美女たちにとって永遠の美貌は宝石の山をも超える最高の宝なのだからな!」

「ご遠慮しておきます」

「嫌で御座る」

「間に合ってます」

「ぐっおおおおおおおおおおおっ!?

 なぁぁぁぁぁぁぜぇぇぇぇぇぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!」

 

 さっきから叫びっぱなしのアンデッドさん。

 元気な死体さんですね~。生前はグルコサミンの愛飲者でもやってたんでしょうか? あるいはジョキング健康法とか。僧侶さんは大抵のゲームで肉弾戦もこなせる健康優良児なのが基本。

 

「永遠の美貌自体は魅力的なのですが、アンデッド化はちょっと。・・・滅ぼされるときが醜すぎますから」

「拙者は発展途上で御座る! これから成長するので御座る! いずれはメガミ殿みたいなボンッ! キュッ! ボンッ!の西方系の超絶体型にまで成り上がることが確定しているというのに今このときの体型で成長を止めるなど有り得ませぬ!

 くだらぬ戯れ言で生者を誑かそうとしてないで、潔く己の死を受け入れて成仏するがいいで御座る! 邪悪なりし屍人よ!」

「私は今の時点で美しすぎて永遠の美貌得てますんで必要な~いで~す♪」

「うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!!!!!」

 

 ジタバタジタバタ!!!!

 

 

 ・・・うん。いい加減、見苦しくなってきちゃったんで撃ってもいいですか?

 

「「「いいよ(ですよ・で御座るよ)」」」

 

 はい、全会一致と言うことで。

 じゃあ、撃ちまーす。ふぁいや-。

 

「えい」

 

 ダァンッ!!

 

「ふぐおっ!? ・・・じ、呪文を唱えさせることなく魔法使い系のモンスターを飛び道具で倒すとは卑怯な・・・り・・・・・・」

 

「・・・これ言っちゃうと終わっちゃうから、あまり言いたくはないんですけどね・・・・・・『敵を前にしてのんべんだらりと雑談に集中しちゃってた貴方が悪い』のです。

 こちらは何時でも攻撃可能な状態で話し込んでたんですから、貴方もそれぐらいはしておくべきだったんですよ。

 ルールを破った側が一方的に得をするような状況下では、相手だろうとルールだろうと信用して委ねてしまうこと自体が間違いなのですからね・・・・・・」

 

「それ・・・本当に、言ったらおしまいの台詞やが・・・な・・・・・・」

 

 

 さらさらさらさら~~~~~~・・・・・・・・・。

 

 

 灰となって空へと舞い上がっていく親分ゴーストの―――名前なんでしたっけ?

 ま、いっか。

 

「では、前線地域最初のクエストは依頼達成と言うことで帰りましょうか。報酬として次の国へと入国できる手形をもらえるそうですから」

 

「「「オーッ。いざ行かん、次なる国の美食と報酬(拙者は刀も!)を求めて!」」」

 

「・・・・・・(世界を救う旅にでるまでの一年間で、ずいぶんと俗っぽいパーティーになっちゃったものですねー・・・)」

 

 

つづく

 

セレニアのパーティー紹介:

侍少女・巴。

職業:伍長(一年間で僅かに出世した)

 セレニアに連れられて旅してる間に心の安らぎを求めて骨董屋に立ち寄り、名刀に魅了されて墜ちたサムライガール。

 性格など様々な面で元通りだが、名刀が絡むと途端に妥協しまくったり前言撤回しまくるなど竜頭蛇尾な面が目立つようになってしまった。

 また、名刀を買うには金がかかるため、名刀の購入資金という名目でなら色々と融通が利く性格にもなってしまってもいる。

 ただし、元の真面目すぎる委員長気質はそのままなので、ごく偶に矛盾を起こして口先だけの詭弁家みたいになってしまうこともあるギャグキャラに成長してしまった女の子。

 色物ぞろいの癖して無駄に強い奴が揃ってるパーティーの中では、比較的普通の強さ。

 

 現在の愛刀は『ノサダ』。

 ピンク色の着物の上から青い袖無し羽織をまとう姿にコスチュ-ムチェンジ。



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第30章

久々の更新となります。
散々に悩んでみたんですけど、斬新なアイデアが浮かびませんでした。


 勇者としての務めを(遅ればせながら)果たそうと思い立ち、前線地域にやってきた私たちは、魔王の住まう魔界を目指して西へ西へと西遊記みたいに旅を続けていたわけなのですが。

 

「・・・そう言えば前線地域の情報って、誰か持ってらっしゃいませんか? 私、全っ然ご当地のこと知らないまま来ちゃったんですけども・・・・・・」

『・・・・・・(フルフルフル)』

「でしょうねー・・・・・・」

 

 全員そろって首を振って答えを返してくる姿を振り返って確認し、私は大きく溜息を吐きます。

 考えてみれば当然のことなのですが、『防衛上の理由から前線の名が付けられた場所』の情報など民間には簡単に流布してくれるはずもなく。

 ましてや、『金目当てで戦うゴロツキ集団・冒険者』に渡してくれるほどバカな国なら、とっくの昔に滅ぼされていて当然ですからね-。前に進めば進むほど情報が得にくくなってくるのが自然の道理というものです。

 冒険者は冒険者で、前線地域で働くためには守秘義務を守らないと即刻処刑もあり得ますし。国防上の前線とはRPGのような穴がボコボコの警戒心では務まらないものなのですよ。

 

 

「しかし、前線であろうとなかろうと働かなきゃ食べ物さえ得られませんからねぇ。なんとかして現地の情報を最低限得ておかないと予算が・・・・・・おや?」

 

 ボヤいたとき、遠くから何かが悲鳴を上げて走ってくるのが見えました。どうやら誰かが追われているようです。

 様子を見るため一端草むらへと待避。状況を観察致しましょう。

 

 距離が近間って双方の姿恰好が見えるようになると、三人の男の人たちが二派に別れて追う者と追われる者とを形成してます。

 追われているのは、見るからに農民風の若者が一人。追っているのは見た目は紛れもなく正規軍の騎士で、でも叫んでいる言葉の内容は明らかに騎士崩れの野盗そのもの。正直、頭の中だけでも記述したくないほど下品なものばかりです。

 

「ふむ・・・・・・」

 

 私は腕を組んで考え込みました。

 さて、どうしたものだろうかと。

 

「お、セレニアさん悩んでますね!? 勇者らしく悩んでおられますね!? 権力にすり寄り民衆を弾圧する悪い軍隊から無力な民を守って戦うか、それとも人類を守る使命を帯びた勇者として国の秩序を守る方を優先するべきかと!? 異世界転生勇者らしく! 勇者らしく! 大事なことなので二度言いました!!」

「いえ、助ける役と襲う役、どちらの方が利になるのかなと。其れを悩んでいたところですが?」

「・・・・・・」

 

 久しぶりに王道勇者物語大好き病を発症した女神様の妄言に、私は切って捨てる答えを返しながら目の前の状況を今しばらく観察するため視線を戻します。

 

 常識的に考えれば当然の選択であり、他人様同士の厄介ごとに事情を知らない赤の他人が割って入っていいことなど何一つないのが当たり前のこと。

 仮に正義感から襲われている側を助けてあげたとしても、弱者が必ずしも正義であると決まっているわけでもなく、悪党っぽい人は皆悪党でなければならないとする法もない。

 口が悪いだけの善人もいれば、被害者ぶって哀れみを買おうとする加害者もいる。王道ものの基本です。安易に見た目だけで善悪を決めつけるべきではありません。

 

 そういうのは『幻想水滸伝Ⅲ』に出てきた、世間知らずで思い込みが強い英雄崇拝思想の持ち主、ワガママお嬢様のリリィさんとかぐらいで十分です。私のキャラじゃありません。

 

 ―――とは言え。

 

「ん。やっぱり助けましょう。今はそれで十分です」

「おおっ!? 遂にセレニアさんの冷たく凍った心が人の優しさに触れて溶かされて、生来の優しさを取り戻すことが出来たんですね!? 辛い過去を秘めた勇者らしく! 勇者らしく! 大事なことなので二度言いました!」

「いえ、どうせ恩を売るなら弱くて追い詰められてる方に売らなきゃ意味がないでしょう?

 手を貸さなくても勝てる方に味方したところで感謝なんかしてくれませんからね。実績も名声も持たない立身出世系の主人公が最初にやるのが人助けなのと同じですよ。まずは弱者に恩を着せるところから始めなければ何一つ始められませんから」

「・・・・・・・・・」

 

 王道ものであれば何でも良いらしい女神様の妄言を再び切って捨てて、私は思います。

 きっと正義の味方が弱い側に付き続けるのも、同じ理由なんだろうなぁ―と。

 

 同じ量のパンしかあげられない懐事情の時、あげる相手は余裕のある町人ではなく、飢えた難民にするべきなのです。その方が同じ量でも得られる感謝の念が強くなるからです。

 

 人とは自分勝手な生き物です。困っているときに助けられて感じた恩は長続きせず、苦しんでいるときに救ってくれた相手に一生感謝し続けられる人は珍しい。苦しくなると恩人であろうと二束三文で売り飛ばす人の方が多いのが、人間というものの現実。

 

 ですが、そんな人たちでも助けられた直後に捧げる感謝は嘘偽りなく本物です。心の底から相手に感謝し、誠心誠意できるかぎりのことをしてくれる人が多くいるもの。少なくとも好き好んで敵対するよりかは、手心を加えた対応で恩着せがましくされないよう配慮するぐらいのことは期待しても良いはずです。きっとね?

 

 

「どうせ行きずりで助ける一期一会の相手でしかないのです。感謝を永続してくれる必要性は微塵もない。もしも非合法任務だった場合とかには目撃者として私たちも一緒に殺されかねませんしね。

 この国が通過点に過ぎない私たちにとっては、今必要な分だけ情報をくれたらそれでよく、それならば国の内情までは知らない農民の知識で十分事足りる。

 名前も知らない初対面の相手を助けてあげたぐらいで、本当のこと言ってるかどうかだの裏切られる可能性がどうだのと議論する方がおかしいのですよ。教えても問題ないと思った部分だけ信じてあげれば良いだけですから」

「・・・・・・・・・」

「ああ、それから兵士さんたちを生かして返さないでください? 捕縛もダメです。一撃必殺、不意打ちで確実に息の根を止めて死亡を確認すること。これが絶対条件です。

 捕まえたあと逃げられでもしたら堪りませんし、魔物に殺されたことにして助けるためには余計な痕跡は残さないに越したことはありません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なぜだか女神様の視線がどんどん暗~くなっていって、ドヨ~ンとしたものに変わっていってる気がするのですが・・・気のせいだと思っておきましょう。何も言ってこない限りは気づかないフリしてればそれでおK。

 

「あのー、セレニア殿? 拙者には一応武士道というものがあって御座ってな・・・?」

「では、トモエさんは追われている人を守ってあげてください。私たちは悪漢を殺す野盗役に徹させてもらいますから」

「!!! 相分かった! 委細承知! この正義の武者トモエにお任せあれ――っ!!!」

 

 そう叫んで飛び出していくトモエさん。

 

 

「やぁやぁ我こそは東方の国ジパングから来た正義の武者トモエなり! 悪党どもよ! 覚悟するで御座る! お主たちの命運は今このとき、拙者の前で乱暴狼藉を働いた瞬間に終わっていたので御座るから!!!」

 

 

 勇ましく名乗りを上げるトモエさん。・・・よし。

 

「これで後は私が火縄銃の狙撃で倒すだけですね。目立つ囮役がみずから立候補してくれたので大分楽になりましたよ」

「ウフフ・・・♡ 鬼ですわねセレニア様・・・でも、そんな貴女様がわたくしは好き・・・(ピトッ♡)」

「アリシアさん、アホなこと言ってないで早く回り込んでくださいよ。敵は二人いるんです。一人倒せば、もう一人が反対側に逃げようとする可能性は極めて高い。逃げ道に先回りして可能な限り証拠を残さないで倒して来ちゃってくださいませ」

「あら、わたくしとしたことが失態。では早速行って参りますわね?

 ・・・まぁ、見たところ心が弱そうな方ですから、怨霊の百ばかりを体内に流し込んであげれば勝手に心が壊れて体の内部から破壊し尽くしてくれると思われますし、楽な相手ですわ。ご安心を」

「お願いします」

 

 パーティー内で一番身体能力が高い(ステータス的な意味では女神様なんですけどね。使いこなせないので意味ないのです)アリシアさんが地を這うように低い姿勢で足音も立てずに移動していき、残ったのは私と女神様の二人だけ。

 

 

 

「では、始めますか。私たちの冒険を・・・・・・」

「・・・・・・なんっっっっっっか、思ってたのと全然違う展開にいくんですよねー・・・この人たちは本当に・・・・・・(T_T)」

 

 女神様のボヤキ。

 思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくはありませんが、現実です。

 ―――受け入れなさい。乗り越えられる強さを持たない普通の人たちにとっては、それが全てです。

 

「では、撃ちます。ファイエル」

 

 

 パァン!!!

 

 

つづく

 

次回は前線地域の情報紹介回を予定中♪

 

 

セレニアのパーティー紹介:

女神の女神(言語的矛盾?)。

職業:女神

 更新ステータスおよびコスチュームチェンジの有無は、

 

 

「神は永久不変の偉大なる存在です!」

 

 

 …要するに、何一つとして変わった箇所が存在しない。



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『大陸中央部冒険編』

少し前にお伝えした『転スラ』を基にして描いた大陸中央部を適当に冒険しているバージョンのお話です。
内容自体は思いついていたのですが、忙しくて書けなかったので思い切って完成させました。本編とは関係のない読み切り短編ですので気楽に読んでくださいませ。


「精霊王の住まう洞窟・・・ですか?」

 

 私は木製のコップをテーブルに戻して言葉を返しながら、相手の顔をボンヤリ見つめました。

 異世界に転生させられてから一年かそこら、コーヒーもカフェオレもMAXコーヒーもない異世界生活での飲料類はどうにも脳の働きに活力を与えてくれなくなって困りますね。

 

「はい、そうです。この村の近くには古くから聖地として崇められてる洞窟があって、そこには精霊王様が住まい、選ばれし者に試練を与えて魔王を倒すために必要となる伝説の聖剣を授けていただけるのだと昔から言い伝えられておりますですハイ」

 

 相手の老人は、久々に羽振りのいいお客様が来たから機嫌がいいのか、やたらに愛想良く情報を提供してくれました。山奥にある貨幣経済からも取り残された物々交換が基本の農村で店モドキみたいな商売やってるのですから、そりゃこうもなるでしょうけれども。

 

 

 ――魔王を倒すため、大陸中央部地方を適当に歩き回り始めてから早一年か数ヶ月かそこらぐらいの、年月日に意味感じなくなる程度には時間が過ぎたある日のことでした。

 たまたま立ち寄った村にある食堂モドキ(正しくは“何でも屋”です。実質には“出来ることなら何でもやる屋”でしたけれども)で食事をしながら店主さんに近くで面白い探索場所(遺跡かダンジョン)はないものかと聞いてみたところ、全然期待していなかった上にあまり聞かされたくない情報が手に入ってしまって思わず私は顔をしかめてしまいました。

 

 ・・・この手の情報に飛びつきたがる人がうちにはいますからね~。はてさてどういう反応をすることやら――

 

 

「さぁ行きますよセレニアさん! 選ばれし勇者のみが抜くことが出来るならぬ、授けられる聖剣を手に入れるため精霊王の住んでる洞窟へ! 勇者らしく! 勇者らしく! 勇者らしく!!

 大事なことなので、言ってくれるまで何度だろうと言い続けるつもりでいますけど、どうしますか!?」

「・・・わかりました。行きます。行ってあげますから、いい加減黙りなさい。そろそろ本気でウザすぎますから・・・」

 

 王道マニアの女神様が本気でウザくなり始めている私たちに選択肢などありません。嘘か誠かはどうでもよくて、ただ女神様がウザすぎるから行ってあげる。そのためだけのダンジョン探索が今始まります。

 

 

 

 んで、やってきました精霊王の住まう洞窟~。

 巨大な扉がデデン!と聳え立っており、中から鍵がかけられている気配は・・・ないみたいですね。普通に開けられてしまいましたわ。

 

「たまに思うんですけど、こういう場所に住んでる家主さんたちは皆セキュリティ面に関して甘すぎるというか、防犯意識が低すぎますよね。

 侵入者から宝物を守りたいなら、入り口を爆破して崩壊させて入れなくするか、最低でも鍵穴にガムなり何なり差し込んでおいて見た目はそのまま使用不能な状態にするぐらいしておくのが当たり前でしょうに」

「あー、確かにそういうところはありますよねー実際に。

 しかも、そういうのに限って『我の眠りを妨げるのは誰だーっ!』とか言って襲いかかってきたりしますし。

 お前がちゃんと鍵閉めとかなかったからじゃー!とか、たまに言っちゃいたくなる気持ちはよくわかりますよ、女神的に。そう、女神的にね! 大事なことなので二度言いました! 最近なんだか忘れられてる設定の気がしてましたので!」

「気のせいですよ、女神様」

 

 そう言って私は、言葉を向けた相手と目を合わせることなく入口を通過。巴さんとアリシアさんも後に続きます。・・・小走りで、逃げるように、目と目を合わせることなく一瞬の間合いによって。

 これが私のパーティー内における女神様の置かれた立場というものです。

 

 

 

 そして現在。洞窟を進んでいた私たちは奇妙なことに気がついていました。

 ――外観から見る印象と、中の広さとが全く噛み合っていないと言うことに、です。

 

「これって・・・外側はただの飾りで、中身は異次元につながってるとか言うアレでしょうかね!? もしくは空間が歪んでいるから仕方がないって感じの例の奴なんでしょうか!?

 ファンタジーらしく! 王道らしく! 幻想的に! 具体的には神話的設定として!」

「・・・そうかもしれませんが、多分それの元ネタはファンタジーはファンタジーでも結構新しい気がしますし、ついでに付け加えるなら同じ神話でも前につく単語はクトゥルーな奴でしょう」

 

 も一つ付け加えさせてもいいのであれば、『ルルイエランド』な『ニャル子さん』で使ってた設定だと思います。アレも一応は神話なので有りっちゃ有りなんでしょうけども。

 

 所詮、幻想は人が生み出す物語。英雄も英霊もサーヴァントでさえも、その原則からは逃れられず、神が先か人が先かのロジックエラーでさえ結論は2000年代の末に『神による世界創造論』が人類の過半から支持を得たことで決定づけられてしまうほど。

 結局は、人が生きる人界の摂理は人間社会の都合と主観で決定してしまっていいという答えの出し方なのでしょうね。神や悪魔が実在しようとするまいと、知覚できない人にとっては認識できて関係がある事柄までを定義づけできさえすればそれで良い。

 

 ・・・勝手な理屈ですが、人にとってはそれが真理。なんとも嫌な結論ですが、不完全な人類にそれ以上の答えが出せるとも思えませんしね。それ以上を求めるのは、今以上に進化した後の世を生きる人類たちに任せると致しましょう。今を生きる私たちは間違いながらも歩み続けるしかないのです。

 

「とは言え、どうしようもない現実に抗ってはいけないというのは、それを決めた圧制者のご都合主義ですからね。私たちは私たちなりに出来ることをしてみましょう。――えいっ」

 

 ズダァン!!

 

 私は呪いの火縄銃をダンジョンの一角目掛けて問答無用で撃ち放ち、遠くからナニカが「パリーンッ!」と砕け散る音を聞きながら、再び歩を進め出すのでした。

 

「??? い、今何をしたので御座るかセレニア殿? なにか今、なにか今「ぱりーん」って・・・」

「いえ、なんかダンジョンの構造的に違和感がある箇所がありましたので撃ってみただけです。もしかしたら認識阻害の魔法陣かナニカが設置されてる可能性がありましたのでね。

 ――まぁ、罠である可能性も少なからず有ったわけでもありますが・・・・・・」

「ダメでは御座らんか!?」

「どうせ考えていても悩んでいても、自分たちだけで出した答えに現実が合わせてくれる義務はない類いの問題でしょう? こう言うのって。

 だったら結果から答えを逆算した方が手っ取り早いですよ。

 自己満足の試行錯誤は自分の成長を促しはしても、現実的問題の解決に役立つとは限らないのと同じ事です。

 物質界で起きている物理的な問題は、行動という物理的結果を伴う答えだけが解決しうる類いの物。最初から最後まで自分の中だけで始まって終わる心の中だけの問題なんて意味はなし。行動だけが他人と世界に影響を与えられるのが現実という物でしょうよ」

「うわー、勇者が絶対しちゃいけない類いの思想と価値観を当たり前のように持ってる人だなー相変わらず。女神の私もたまにドン引きです」

「さすがですわ、セレニア様・・・」

 

 なんか失礼なこと言われた上に、異世界人から「さすおに」口調で評価された元地球人になっちゃった気もしましたけども。

 気のせいだという事にして前を向いて歩んでいけばダイジョーブ。「そんな気がしても」確認取らない限りは自分が勝手に感じてる疑惑。自分の中だけで起きてる問題。

 勝手に決めつけて、勝手に答えを出しちゃっていいご都合主義万歳な自己満足世界での出来事です。そう思ってることを口に出さなきゃダイジョーブ。

 自分の中で出した答えを、口に出す行動さえ取らなきゃ結果には行き着かないからダイジョーブ。

 

「ちなみに私、女神ですから人の心を読めたりしますよ? 読心しちゃってもいいですかセレニアさん?」

「いいですよ? その前に私が貴女を撃ち殺す覚悟を今決めましたから」

 

 そして始まるダンジョン内での仲間同士の啀み合いと一触即発な剣呑すぎる雰囲気。・・・王道ですね。こう言うのがきっと女神様の求めてらした展開なんですよきっと。

 

 

 

 

 ・・・・・・クスクス・・・、・・・くすくす・・・・・・

 

「ん?」

 

 再び通路を進んでいくと、どこからともなく声が聞こえてきた気がしました。

 声というか、笑い声と言うべきなのか。

 とにかく幼い子供たちの声音で笑い声が響いてきたのです。

 

 ・・・・・・フフフ・・・あははっ・・・クスクスクス・・・・・・

 

 ダンジョンには似つかわしくない幼い子供の、酷薄そうな笑い声。

 当然ながら周囲を見渡しても人影はなく、子供の姿は見つかるはずもありません。

 

 

『なんだなんだ、つまらぬではないか人間たちよ。久しぶりの客人だと思って迎えに来てやったと言うのに、一向に驚かぬでは張り合いがなくて愉しめぬではないか』

 

 

「子供達の笑い声のようですわね・・・わたくしの纏っているオーラに吸収されないところから見ても、悪意や恨み辛みが込められた魑魅魍魎、ザコ悪霊の類いではないようですが・・・」

「頭の中に直接声を届かせる術を使っているみたいで御座るな・・・」

 

 アリシアさんと巴さんが、それぞれの感想を口にします。・・・アリシアさんの方は察した理由がアレ過ぎましたけど、いつもの事っちゃ何時ものことでしたので今更です。

 

 

『もっと怖がれ。もっと怯えよ。

 もっともっと怖がってくれないと、我はつまらない・・・っ!!』

 

 傘にかかったように声の方は仰ってきますけど・・・しかしですねぇー。

 

「怖がれと言われましても・・・笑い声が聞こえてくるだけの状況下で、一体なにをどう怖がれば宜しいのでしょうか? 出来れば具体的に怖がる理由をご教授していただけると有り難いのですが」

『――へ?』

「たとえば、こう・・・笑い声は誘い水で、それに誘われていくと落とし穴が隠してあって穴の底には突起状に加工された木が上向きで埋められているベトコン戦法パンジステークとかが仕掛けてあるというならスゴく怖いと思えるのですけど・・・有ったりしませんかね? ダンジョン内にそういうトラップ」

『ある訳ないじゃろ!? お前人が住んでる場所をなんだと思っとるんじゃ!? そんなヒトデナシトラップを我が家に設置しておくキチガイなど居るかボケ―――ッ!!!!』

 

 失礼な、ベトナムの人たちだって好きでこの手を編み出したわけではありませんよ。数が絶対的に足りなかったからこそ、環境に即した地形に合った戦い方を考案しただけです。人類史における戦術の成り立ちと発展の仕方から見て非常に正しい理由であり思想です。ベトコン戦法はキチガイなどでは絶対にありません。

 

 ・・・ヒトデナシ戦法であることまでは否定しきれませんけれども・・・。

 

 

「実を申せば拙者の故郷、ヒノモトの国にも『小豆荒い』という名の夜中に川縁で小豆洗ってるだけの無害な妖怪がいるので御座ってなぁー・・・」

「わたくしの実家は王宮でしたので、誰からともしれない笑い声が聞こえてくるなんて日常茶飯事でしたわ。その程度で怖がっていては王族の端くれなど務まりません。恐怖より先に、気が狂って暴君になるだけですわ」

「私は女神ですからね! 怪談話なんて聞いても『ご愁傷様!』と言って浄化するだけです! なんたって私、女神様ですからね! 私、女神さまですからね!

 最近なんだか忘れられてる設定の気がしてましたので以下同文!」

 

 

 アリシアさんと巴さんも似たような理由(?)で困った風な表情を浮かべて笑うだけ。・・・そして、女神様はウザいです以下同文。

 

 相変わらずマイペースな人たちだけで構成された私たちのパーティーに、笑い声だけで怖がれというのは無茶振りだったと言わざるをえませんので先を急がせてもらいましょう。

 

 ダメだったら笑い声以外の形で意思を示してくるはずです。気持ちは声に出して言わなきゃ誰にも伝わらない――現代日本人こそ大切にしなきゃいけない基本的な常識です。私もう日本人じゃないですけどね。

 

 

 

 

「・・・とは言え、まさか本当に深奥部まで着いてしまえるとは思っていなかったわけですが・・・」

 

 やや呆れ気味な口調で私。

 いや、本当にあのまま素通りして問題なかったとは思いもしなかったものですからねーハッハッハ。・・・割と本気でどうしましょう、この状況。想定してなかったから全然考えてなかったですわ。

 目の前にデデンと大きな扉が聳えちゃってるんですけど、入っちゃってもいいもんなん? それとも大人しく引き返したほうがいいもんなんですかね? こういう状況ってあんまし経験ないからセレちゃんわかんな~い。

 

 

「・・・どうします? 入ってみますか?

 正直、別に欲しくもなんともない聖剣だかなんだかのために危険を冒す必要性はないんじゃないかと今更ながらに思い始めてるんですけども・・・」

「本気で今更ですねその言葉・・・。て言うか、ここまで来て引き返すぐらいなら何のためにダンジョン潜って来たんですかセレニアさん!」

「女神様が『行ってくれないと駄々こねる宣言』したからですが、それが何か?」

「・・・あ~、あ~、私はなにも聞こえていませ~ん。

 神は悩める子羊が答えを求めるときに限って人々の声が聞こえなくなる難聴系ヒーローおよびヒロインなのが基本でーす」

 

 相変わらずな女神様の応対に溜息を吐きながら、それでも発言自体には一理あるにはありましたので私は覚悟を決めて扉に向かい。

 

「では、開けますので下がってください」

 

 皆さんが三歩後ろに下がったのを確認してから、火縄銃の弾を扉の蝶番に二発だけ撃ち込み、扉を蹴破ってから中へとパーティーメンバーをバラバラに潜入させたのでした。

 

「・・・ふむ、どうやら待ち伏せもされていなければ、扉にトラップも張られていなかったようですね」

「・・・そりゃそうでしょうよ・・・。と言うか、なんでダンジョンにあるボスの間に対テロ特殊部隊みたいな潜入の仕方で突入させてんですかアンタは・・・」

「念のためです」

 

 石橋を叩いて叩いて叩き壊して『ほら、やっぱり落ちたじゃないですか』と言えるぐらいの人が銀行員に向いていると、前世のラノベで読んだことがある私としては忠実に実行したいときもある『フレイム王国興亡記』が突然読みたくなってる今この時の私でした。

 

 

『――よくぞ来ましたね、人間達よ。いくつもの試練を乗り越え、ここまで辿り着いた勇気ある者たちに敬意を込めて歓迎しましょう』

 

 

 うおっ!? なんかいきなり出てきましたね!

 背中から後光差してる神聖そうな精霊っぽいナニカが!

 

『私の名は精霊王オベイロン。精霊達の王にして、聖なる者の導き手。・・・来たるべきとき、然るべき勇者に対して試練と聖なる剣を与える役目を担いし者・・・。

 人間よ、久しく現れなかった勇気ある若者よ。あなたが世界の危機に立ち向かうため選ばれた伝説の勇者であるならば、私はあなたが世界を救うのに必要な最後の試練を与えましょう・・・。

 さぁ、こちらへ。あなたが聖剣を手にするための最後の試練が待っていますよ・・・』

 

 聖なる精霊っぽいナニカさんはそう言って、私たちを部屋の奥へ誘います。

 よく判りませんが、どうやらこの部屋に着くまでに起きた諸々は聖剣入手イベントに必須な『見えないだけで普通に渡れる通路』みたいなものだったみたいです。

 

『安心しなさい。私は全ての者に平等な者・・・。

 誰も覚えていない遙かな昔、神が見捨てたこの世界のバランスをずっと保ち続けていたのは私なのですからね。

 魔王の力が増大して世界のバランスを崩そうとしている今、貴方たちが魔王に対抗するため力を欲し、正しく振るう心と意思を持っている限り私はあなたたちを決して見限ることはありません・・・』

 

 へー。この聖なる精霊っぽいナニカさんが、神様のいなくなってたこの世界をず~っと守り続けてくれてた存在だったのですかー。へー、ふーん、そう。

 

「で? 何か仰るべきことはあったりしませんか? この世界全てを統べる女神さま?」

「フッ・・・甘いですねセレニアさん。その程度の口撃では、私を傷つけることはできませんよ?」

「いつから悪の帝王にジョブチェンジしてんですか貴女は・・・」

 

 いや、最初っからそうだったような気もしないわけではないのですが。

 

『勇者よ。この部屋まで来るのに、あなたの勇気は十分に試させてもらいました。ですから最後の試練はあなたの力を試させてもらいます・・・。

 ――いでよ! 遺跡の守護者にしてガーディアン! あなたが作られた務めと役割を今こそ果たせ! 《サンダー・サーペント》!!!』

 

 フシャァァァァァァァッッ!!!!

 

 精霊っぽいナニカさんが呪文を唱えて魔法陣から召喚したのは、巨大な白蛇さん。

 日本でも白蛇は聖なる動物扱いされてましたので、蛇さん自体が聖なる存在なのは不思議じゃ有りません。・・・サーペントって名前は変えてあげた方が良いと思いますけどね。

 

『このサンダー・サーペントは、とぐろを巻いて相手を圧迫してくるサーペントに対して、雷で相手を麻痺させ弱体化させることが出来るサンダー系の魔法をスキルとして使用できるよう進化させた上位種です。

 圧倒的な力で押し包んでくる強大な敵を、力だけで押し返すことは難しいでしょう。ましてや雷の麻痺という支援もあるとなれば尚更です。

 この試練は文字通り、試練。あなたがこれから立ち向かう困難に打ち勝つことが出来るよう、力だけではない。心だけでもない。心と力の双方を兼ね備えた真の勇者となるため潜り抜けなければならない重要な関門です。

 立ち向かいなさい、勇者セレニアよ。あなたの勇気と力が今、試されるのです』

「ではまず、わたくしから参りましょう」

 

 精霊っぽいナニカさんから試練開始の合図が出た途端、自分から立候補して試練に挑むことにしたのはアリシアさんです。

 

「わたくし一人だけの挑戦で始めさせて頂きますが・・・よろしいでしょうか? 精霊王様」

『構いません。勇者にとって越えられない壁を仲間と共に乗り越えるのは必要なことですが、そのためには一人で出来ないこともあるのだと心の底から自覚することもまた必要なもの。

 あなた一人が成せるのならば、それもまた良しです。あなたをその域に至らせるため、この試練はあったと言うことも出来るからです』

「ありがとうございます。・・・それと今ひとつ確認なのですが・・・」

 

 一度深くお辞儀をした後、アリシアさんは相手の顔色を覗いながら放言されたのでした。

 

「別にあの蛇さん。わたくし一人で殺してしまっても構わないんですわよね?」

『・・・ご自由に。困難を知るため、己の知ることもまた戦士の資質であり、勇者を支えるものには必要なのだと理解していますから・・・』

 

 ややムッとしたような口調で精霊様が言い終えた後、試合ならぬ試練開始。

 最初に仕掛けてきたのはサンダー・サーペントさん。いきなり初手から麻痺効果を持つ雷攻撃を広範囲に撒き散らし、アリシアさんの動きを遅くさせてから飛びついて尻尾を巻き付けて締め上げ始めたのです!!

 

 それだけではありません。

 

 

 ――キシャァァァァァァァァッッ!!!!

 バチバチバチバチバチィィィッッ!!!!

 

 

 ・・・相手の身体に巻き付いた状態での放電攻撃。これでは確かに防ぎようがありません。作戦面ではアリシアさんの完敗です。

 もっとも、“作戦面では”と言う前提条件は付きますけどね。

 

 

 キシャァァァァァァァ!!!!! ―――シャ・・・?

 

 

「……ふふふっ」

 

 

 ぐぐっ!!

 

 キシャァァッ!?

 

 

 なんとアリシアさんは、巨大な蛇に巻き付かれて身体から雷発して直接電撃攻撃くらわされながら右手を繰り出し、至近距離まで近づいてきていた白蛇さんの(たぶん)首の辺りを握りしめると力一杯握りしめて圧迫し始めたのです。

 

「えーと・・・あれってもしかしなくても、遺跡の守護者さんを窒息死させようとしていません?」

「いや・・・あれはそんな生易しい握力では御座らん! 相手に首の骨をへし折るつもりで御座る!」

「どこの新撰組三番隊組長になる気なんですか!? あのキチガイ悪女お姫様は!!」

 

 こっちの世界の事情しか知らない巴さんが解説してくれて、あっちの古い事情に詳しい女神さんが全力でツッコんでるのを脇に見ながら、私は別のものをイメージしており、それが「なんだったかな―?」と名前が出てこずに考え込んでいたところ。

 

 

 キ、キ・・・キシャァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

 死に物狂いになったらしいサーペントさんが、殺される前に殺ってやろうと更に力を込めてアリシアさんを締め上げながら、放電する電気の量も増加させていくのが傍目に見ていても判るレベルになっていき、

 

 

「ウフフフ・・・・・・♪」

 

 

 アリシアさんはサディスティックな微笑を浮かべながら、相手の首を絞める右手により力を込めていって、そして。

 

 

 キシャアアアアアアアアッ!!!!!(グシャッ!!)・・・・・・バタリ。

 

 

 最終的に、ナニカが凄まじい力によって握り潰される時特有の嫌な音が部屋中いっぱいに響き渡ると、力が抜けて動かなくなった蛇さんは大きな音を立てて床に倒れ、痙攣すらしないまま白目を剥いて永遠に覚めない眠りへと落ちていったが一目で分かる状態となり。

 

 そこまで来て私はようやく彼女が、誰の何に似ているかという記憶を思い出したのです。

 

 

「そうでした。ブルー将軍が海賊のアジトで自分を絞め殺して食べようとしていて電気鰻さんの首を握り潰して倒しちゃった姿に少しだけ似てたんですね、さっきのアリシアさんて。

 つまり――」

 

 ――世界最悪の軍隊で最強の軍人やってた人の同類が、私のパーティーでも最強の主戦力キャラになっているという現実があるわけで。

 ・・・これのどこが世界を救う選ばれし勇者のパーティーなのか、本気で聞きたくなってきましたね・・・誰か答えて・・・。

 

 

 

『しゅ、守護者の首が・・・選ばれし者かどうかを確かめるためのガーディアンが首の骨を片手でへし折られて殺され、て・・・』

「あらあら、ウフフ♪ イヤですわ、わたくしったら・・・拙い技を披露してしまってお目見汚しでしたわね。お恥ずかしいですわ。

 次からはもっと修練を積んで技を完成させ、はしたない女と思われないよう留意致しますので、どうかご容赦の程を。精霊王陛下」

『・・・・・・・・・(ぷるぷるぷる・・・)』

 

 

 

 ――こうして、魔王退治に必須となる武器『伝説の聖剣』を手に入れるために訪れた、精霊王様の住まう洞窟探索は終わりを告げたのでした。

 

 尚、余談ですが伝説の聖剣は『くれる』と言われたのですけど謹んで謝絶させていただいた次第です。

 

 ・・・剣使える人がいないのでね、私たちのパーティーメンバーには・・・。

 

 使わない剣もって旅するのは邪魔なだけでしたので謹んでお返しして、私たちはまた次なる冒険の旅へと出発するのでした。

 

 めでたし? めでたし?



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「転移させられ閉じ込められた地下迷宮からの脱出編」

注:頭冴えて読み直したら今一すぎる内容でしたため順番を上にあげて変更いたしました。
止まる前の最後の回を読み直した後、あらためて書き始めたばかりの本編続きをお待ちください。


 ヒタ、ヒタ、ヒタ・・・・・・。

 私たちは今、ダンジョンの中を歩いていました。暗くて陰鬱でジメジメとした地下迷宮の奥深くを・・・。

 発端は、遺跡の探索中に侵入者撃退用トラップに引っかかってしまって転移魔法陣を作動させられてしまったという、お約束のパターンによるもの。まったく、冴えないお約束展開になったものですよ本当に。プンプンです。

 

「いやー、しかし意外でしたねセレニアさん。地表から見たら崩れかけの神殿の地下に地下遺跡が眠っていて、祭壇に飾られてあったオーブが入り口としての転移魔法陣作動装置を兼ねていたなんて、まさに王道! 王道勇者らしい展開ですよね! ワクワクしますよねセレニアさん!」

「そうですね~」

 

 私は横からハイテンションになって話しかけてくる女神様に向かって、テキトーな口調で答えてあげてました。

 そして、付け加えてあげることも忘れません。

 

「確かに意外でしたよね。あんな見るからに怪しすぎる壊れた神殿の中で、如何にも怪しい祭壇見つけて、仲間の制止も聞かずに不用意に飛び出して転移魔法陣を作動させてしまうとかいう、素人じみた罠の掛かり方する一定の実績と経験積んだ冒険者が本当に実在していたなんて意外すぎましたよ。

 てっきりフィクションの中だけにしか存在できない、王道アホッ子キャラだけの問題だと思ってたんですけどね~。いや意外意外、ビックリビックリです。ねぇ女神様?」

「ぐぎぎ・・・っ、女神の足下見やがってチクショウ・・・・・・ッ!!

 下等で愚かな人間の勇者如きめ、今に見ているがいいのですよッ! いつか私が世界の頂点に立って思い知らせてあげま――ぎゃーッ!? ネズミの死体踏んづけたー!? 気持ち悪い! エンガチョッ!!」

 

 ギャーギャー騒ぎだした、事の発端であり原因でもある女神様を一人置いて先を急ぐ私たちパーティー。

 元から、こういう人だとわかった上でパーティーに入れ続けている私の責任ですからね。文句は言ってもそれ以上思うことは特にありませんよーっと。

 僧侶としての能力だけは高いのですし、能力だけ評価して使い続けているなら徹するべきです。人格を評価基準に加えるべきではありません。

 

 『使って信じず』は人格面を信用できない、能力だけ見て曲者キャラを仲間に加える際によく使われている言葉ですからなぁ~。

 まだしも裏切ると決まっているわけじゃないだけマシな女神様ですし、今のところの被害程度ならそれでいいです。

 

「・・・しかし、ここは一体どこで、地下何階ぐらいなので御座ろう・・・?

 魔法による転移だったせいで自分たちの現在位置すら分からんで御座るし、最悪地下数十階の迷宮に迷い込まされたのかもしれないと思うと、武士道を貫くべき拙者でさえ足に力が入らなくなってきそうで御座る・・・・・・」

 

 トモエさんが、存在自体のすべてが不明で未知のダンジョンに飛ばされてしまったとき特有の不安に苛まれ、普段は元気な顔に青ざめた表情を張り付かせながら言う声が聞こえてきて、その気持ちは分からなくもなかった私としては同情的な気分になりました――が。

 とは言え。

 

「ご安心くださいませ、トモエ様。大丈夫です、心配ありませんわ」

「・・・アリシア殿」

 

 私が不安を取り除くためのアドバイスをしてあげようとしたところで、性格悪い悪女プリンセスのアリシアさんが、比較的仲のいいトモエさんを元気づけるように先に話しかけてしまったため、私は素直に順番守って後回し。

 彼女の言葉で納得してくれるなら、それはそれで面倒がなくなって有り難いことですし、とりあえずは静観です。

 

「恐れを抱く気持ちは分かります。ですが心配はいりません、大丈夫ですわ。

 ここが何処で、どんなに深い場所だろうとも、地下7階以上の深さを持つ場所では絶対にありません。歩き続けていれば遠からず地上に出られることは確実です。ですので勇気を出して頑張ってくださいませ」

「アリシア殿・・・っ、いや、お心遣いは有り難いが、この状況下で斯様な楽観論は危険なだけ。ここは慎重を期すべきところだと拙者も自覚いたした故、もう大丈夫で御座――」

「あら、楽観論ではありませんわよ? 根拠ならあります」

 

 友人が気を遣ってくれたのだと解釈したらしいトモエさんが、あらためて前に向き直ろうとするのを穏やかな笑顔で普通のことのように断言して返し、

 

「・・・・・・どのような根拠で?」

 

 と、やや胡乱げな口調と縋るような視線で同時に問われて、アリシアさんはニッコリ微笑みながら壁を指さしました。

 

「これをご覧くださいトモエ様。何に見えますでしょうか?」

「石壁・・・で御座るな。何の変哲もない普通の石壁で御座る」

「ええ、その通りですわ」

 

 当たり前のことを聞かれて、当たり前のように答えただけなのに、なんで相手は自信満々なのか分からないらしいトモエさんが怪訝さを深めた顔になり、アリシアさんは穏やかな笑みを深め、私の方はやることなさそうだなと安堵しながら前方へと向き直ると、背中の方からこんな会話が聞こえてきたのでありましたとさ。

 

 

「こんな地下深くの罠にはまった愚かな冒険者しか来る者のいない地下ダンジョンの床如きに、むき出しのままでも一向に構わないところを綺麗に舗装させた石畳を敷き、挙げ句の果てには複雑ではあっても意味のない文様まで刻み込ませる資金と手間の膨大なる無駄遣い。

 これほど無駄な部分にばかり建設費用を割いてドブに捨てるような建築様式を用いている場所なのですから、そう深くは造れなかったことは間違いございません。

 元王族として幾つかの地下神殿建設を命じるたびに頭を抱えて、国庫に残った金貨の数を財務大臣に確かめていた父を持つ私が保証いたしましょう。絶対に地下7階以上は造れませんと」

「・・・・・・い、いや・・・めっちゃくちゃ説得力ある根拠では御座ったが・・・もう少しその、地下迷宮らしい理由で、地下深くない理由も見つけ出してほしかったなと思わなくもないで御座るんですれども・・・・・・」

「あら? 自然にできた洞窟と違って、地下遺跡は人の手による人造物ダンジョンですし、人の手によって造られたものがお金で限界を決められてしまうのは地下遺跡らしい理由だと思われません?」

「そうなんで御座るけども~、も~! もーッ!!」

 

 ・・・・・・なにやらトモエさんまで女神様菌でも感染したのか、女神様病の患者みたいなこと言い出しはじめてしまったみたいですね。

 これだから最近の若い異世界ラノベ風現地人の人たちは夢見がちで困ったものです。ふぅ。

 

「そ、そう! たとえば今の拙者たちが使っている魔法とは桁が異なる魔法文明を誇っていた古代魔法王国などが、現代の常識とか経済観念とかでは計ることの出来ない超常的な建設方法で造られたダンジョンである可能性などは如何で御座ろうか!?」

「・・・?? 確かに古代魔法王国は実在しておりましたし、当時に造られたマジックアイテム等は現在の魔法技師たちの制作したものよりも遙かに高性能で高価でもありますが・・・・・・マジックアイテムである以上、造る際にコアとなるオーブが必須ですし、オーブの性能とアイテムの性能は比例していますので、結局は大金がかかってしまうことに変わりはなかったのが古代魔法王国の滅びた原因というのが定説だったと記憶しているのですが・・・・・・。

 造り出すものの性能と、造るのに必要な制作費のバランスが崩れはじめてきていながら進みすぎた文明技術は途中で止まることを許さず収支が崩壊して経済破綻したという理由で」

「魔法技術の優れた夢の古代魔王王国なのに夢がまったくなかったで御座る!?」

 

 ・・・初めて聞かされた古代王国秘話ですけど、本当に夢がない話ですねそれ・・・。

 高性能なものを造り出せるようになったことで性能の質が落とせなくなり、結果的にお金が足りなくなって繁栄が逆に国を滅ぼす。いつの時代、どこの世界でも人の国は同じ愚行を繰り返しては滅亡して、やがて別のお約束新興国家を無数に生み出して、また滅びるエンドレス文明社会。夢がない話ですよねぇー、たしかに。

 

「とはいえトモエ様のおっしゃることにも一理あります。油断して警戒を緩めるべきではないという意見にはワタクシも同意見ですわ。

 ――たとえば、この地下迷宮の制作者が迷宮を完成させる途中で予算が尽きて破産してしまい、自らの全てを失ってまで造ろうとしたダンジョンだけでも完成させたいと妄執に取り憑かれ、当初は最深部に飾っておく予定だった伝説級マジックアイテムさえ売り払って資金に充てたことで完成させることが可能となった、地下7階以上の深さを持つ広大な地下ダンジョンである可能性も0ではありません。

 証拠もないのに、そうである確率が天文学的だからという理由だけで、無闇に可能性を否定するのは良くないことだと、ワタクシもセレニア様から教わらせていただてますものね。

 ですのでワタクシは、トモエ様の意見に賛成いたしますわよ。ええ、心の底から本当に」

「そんな有り得ない出来事があったこと前提でしか成立し得ない可能性あつかいされるぐらいなら、素直に否定された方がマシだと思うので御座るが!?

 あと、その可能性が真実だった場合、今の拙者たちものすごく無駄な徒労していること確定してしまう故、ものすっごく嫌な理由による賛成意見だったので御座るけれども!?」

 

 先ほどのものより、さらに夢がなくなってしまった古代魔法王国の遺跡ダンジョン建設秘話IN妄想話。

 しょせんは可能性上のタラレバ話でしかないとはいえ、たしかにその予想が当たっていた場合は嫌ってのは事実ですよねぇ~。嫌すぎますよ。

 

 “深い深い地下迷宮を制覇すると、最深部の宝箱に入っていたのは借金差し押さえの札であった”・・・・・・RPGとしては支離滅裂と言うより踏んだり蹴ったりですものね。ユーザーから抗議ハガキがいっぱい送られてきそうな展開です。

 あの世に逃げた後の大昔に滅びた魔法王国人である今の身分を嬉しく思う日がきちゃうのかもしれない仮定の未来。・・・嫌すぎる・・・。

 

 ――ガッチャ・・・、ガッチャ・・・、ガッチャ・・・。

 

 まっ、そういう可能性上の未来の危険性をどうこう危惧するより先に、現在進行形で対処すべき危険性が実体を持った足音立てながら近づいてきている現状になりつつあるみたいですけれども。

 

「――ッ!! 鉄のブーツが石床を叩く足音・・・敵で御座るか!?」

「地下遺跡を守っているガーディアンですね!? しかも音の数からして寿命関係なく主から命じられた宝物の番をし続けている魔法生物とか武装したゴーレムとかアンデットとかが大軍で来るパターンなんですね!? くぅ~!! やっぱり王道は燃えますーッ☆☆」

 

 明らかにテンション違いすぎてる上に、思っていることの理由までもが違いすぎてる風にしか見えようもない女神様とトモエさんが異なる解釈をして、異なる行動を開始始める異音を放つ集団の接近情報。

 

 比較的この中では速度の速いトモエさんが斥候のため急速に前に出て、私たちの進行方向に階の出入り口に当たる階段を見つけたことを知らせるハンドサインを出してくれたのが見えましたので小走りに近寄って、階段の上から迫りつつある驚異の姿を警戒心とともに見上げる私たち。

 今更なんの種族が何体くるかなんて、私たちに決められることではないため注文付けする気はまったくないんですけれども。

 

 ・・・ただ、できればアンデットだけは止めてほしいところではあります・・・。

 この遺跡を造らせた方が、前世で見てたアニメの『八男って、それはないでしょう!』に登場していた地下遺跡造らせてた古代魔法文明の魔術師なんとかさんと同じように理性にあふれ、武装ゴーレム配備しまくっているタイプであることをガチで願います。

 いやもう本当に、アンデットだけは流石にない・・・。

 

「あ! 見てくださいセレニアさん!!」

 

 女神なので夜目が利く女神様が、子供のように瞳をキラキラさせながら報告してこられた武装した大人が二人並んで降りてこれそうな階段を、アリの漏れ出る隙間も残さぬよう計算し尽くされた歩幅で近づいてきている敵迎撃集団の兵種を見抜き。

 

「【竜牙兵】ですよ! 王道中の王道ガーディアンモンスターですねセレニアさん!?」

「・・・おぅふ・・・」

 

 ピンポイントで嫌なところを狙い撃ちされた私は思わず呻き声を上げて、見えない天を仰いで信じてもいない神に祈りを捧げる仕草だけをしてから・・・仕方ないと割り切って、相手の人に対処のすべてをお願いして一任してしまいましたとさ・・・。

 

「・・・だ、そうですのでお願いしてもいいですか? アリシアさん・・・」

「ええ、もちろん♪ セレニア様からのお願いとあれば喜んで♡」

 

 気軽な口調と態度でそう応え、歩調も軽く敵陣に真っ正面から突っ込んでいってしまう階段上っていく最中のアリシアさんを見て無謀と思ったのか、

 

「危ないで御座るアリシア殿! 今拙者が助太刀いたす故しばらくの間耐えてくだされ!」

 

 トモエさんも同じくアリシアさんの背中を追って走り出してしまって。

 私はそれを見て、一瞬止めようかとも思いました必要ないかと思って上げかけていた手を下ろし、ボ~~ンヤリとした視線と気分のまま階段降りてきている途中のアンデット軍団に突っ込んでいっていたアリシアさんが戦闘集団に接触した、そのときの音が鼓膜に響き渡ります。

 

 

 ドカン!ドカン! ドカカカカン!!!

 シュイン!シュイン! シュイィィィィ――――――ッン!!!!

 

 

 人間の元お姫様による、アンデット軍団への一方的な蹂躙と暴力とが幕を開けた音が聞こえ始めてしまったと、そういう訳ですよね分かります。

 

「・・・・・・あれ?」

 

 そしてトモエさんには分かっていないようでした。だから説明して上げようと思いいます。

 

「私の持つ、【呪われた火縄銃・改】と同じように、アリシアさんのユニーク職業である【魔拳士】は殺した相手の残した無念や怨嗟の声を吸収して、敵を殺す新たな力へと利用する存在です。

 地下迷宮の番人である以上、寿命のない魔法生物しかありえなかったとはいえ、私とアリシアさん相手にアンデットは最低最悪の愚策なのですよ。

 ですので彼女は最大限チャンスを活かして、敵ぶっ倒しまくるのに利用しまくっていますね。さすがです」

 

 流石は三大悪女の合体キャラネーム持ち。相変わらず・・・えげつない・・・。

 

『――――』

 

 無論、敵とて木の股から生まれた負けるぐらいしか存在意義のない、自分で何がいま適切なのか考えつくことさえ出来ないクルミ割り人形兵ほど馬鹿じゃありませんので、手に持った盾と剣を十分に使いこなしながら振りかぶり、アリシアさんに向かって振り下ろそうとして

 

 ガキィィッン!!

 

『――――ッ』

 

 刃の切っ先が壁に当たって弾かされ返しましたとさ。…何やってんでしょうな、この自分で考えること知らないアンデットさんたちは一体…。

 武装した大人二人が並んで歩ける程度の広さしか持たない狭苦しいスペースで、剣なんか抜いて自分の横にまで進軍してきた敵を迎撃しようと振りかぶったら、壁か天井に当たってこうなる。常識です。

 

「ハァァァッ!!!」

 

 ズボンッ!!! ・・・そして剣が弾かれ、動きが止まっていたところをアリシアさんの手刀で武器持った利き腕斬り飛ばされて戦闘力奪われた後に、殺すというか倒されて終わり。

 後続にしたところで、武装した大人二人が並んで歩ける程度の階段に、武装した大人二人分のガイコツ兵を並ばせた隊列組ませた状態で階段降りてきているせいで、一番前に先頭集団だけしか戦闘に事実上参戦できないわ、迎撃に出た戦力の大半が遊兵化しちゃってますし・・・・・・本気でこんな無様すぎる事態はやって欲しくなかったんですよなー、私としては。

 

 楽して勝てるのは嬉しいんですけれども、さすがに哀れにもなってきてしまうアンデット特効の私たち二人を相手にアンデットばっかりって言うのはちょっとだけ・・・ね?

 イジメいくないという、現代日本の舐め腐った正義論の中で育てられてきていた私は弱いものイジメを見るのもやるのも好きなわけでは御座いません。

 

 アインズ・ウール・ゴウン様でも来たら終わりですけど、たかが竜牙兵如きじゃゴーレムの方が遥かにマシ。そういう邪道タイプな異世界救う勇者系の私たち相手には、王道は常に相性が悪すぎる。

 

「ウフフ♪ 殺せば殺すほど、恨まれれば恨まれるほど、自らの拳が倒した敵の血で真っ赤に染まれば染まるほどに回復して強くなっていく・・・・・・それがワタクシの職業【魔拳士】の強さたる所以なのですわ。

 補給や維持費を必要としないアンデットたちに、トラップにかかった者たちだけが訪れる地下迷宮の番人をアイデアだけは評価してあげますけれど・・・・・・互いに互いの動きを阻害し合い、あまりにも緩慢な動きしかできなくなっているようでは不老不死の番人たちにはほど遠いでしょうね。

 頭数だけ揃えたところで半人前にすら及ばないのだという現実の戦を知らずに迷宮を作った、貴方たちと迷宮の制作者を呪いながら永遠の闇の中へと回帰してしまいなさい。

 ――――【ソウル・スティール】」

 

 なんとなーく、「テンプテーション」とかの技名の方が似合ってそうな味方キャラと自分の属性と、地下迷宮という性質との相性の悪さによってゲームバランス崩壊してしまった今回のトラップで運ばれた先にあった地下迷宮遺跡の脱出口。

 普通の人にとっての緊急時ほど、やる気を出す必要性がなくなってしまいやすい私たちは、やはり勇者じゃなくて異常者パーティーなのかもしれませんねぇー・・・・・・。

 

 死神みたいなこと言い出した人の右手に吸い込まれていく魂たちの悲鳴が啼く頃に、私が思った感想がそれです。プライスでした。おわり。

 

つづく



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第31章

久しぶりの投稿となる『異世界に勇者としてTS転生』最新話を更新です。
本当だったら前線地域の世界観説明も書きたす予定だったのですが、リハビリの意味もあって次話に続かせていただきました。ご了承くださいませ。

…最近いろいろな転生作品のアニメが出てて誘惑多いものですからね…。


「もしもし? 大丈夫でしたか? お怪我はしておられませんか? ・・・生きてますかー・・・?」

「ちょっ!? セレニアさん! 台詞の最後が勇者らしくなかったですよ! もっと勇者らしく優しい言葉でいたわりを込めてオブラートに!!」

 

 消炎たなびく森の中で、私たちは追っ手らしき兵士さんに追いかけ回されていた男性を、兵士さんたちに奇襲しかけて全滅させて安全を確保した後に村人Aっぽい服装をした男性の安否と、ついでに生死を確認しておりました。

 

 せっかく人殺してまで助けた人なので生きてて欲しいんですけど、こればかっりは人間の領分じゃどうにもなりませんからねー。命は神様からの贈り物。死んだら返してハイ終わりが、日本の伝統的な古式死生観ですし。

 

 ――要するに、この世界を統べてるはずの女神様がやるべきことです。私の仕事じゃありません。いい加減なんか人の役に立ちなさいよ、この堕女神様。

 

「う、ううぅぅ・・・・・・」

「あ、生きてたようで御座るな。ただ気を失っていただけみたいで御座る」

「おそらく、負傷によるものではなくて疲労によるものと思われますわ、セレニア様。生命力がだいぶ弱まっていますし、生気が息をするたびに弱まっていく気配が感じられますから」

「・・・それは、貴女が近くにいるせいで吸い取ってしまってるから――とか言うオチじゃないですよね? 信じてますよ? アリシアさん?」

「うふふ♪ イヤですわ、もう。セレニア様ったら冗談ばっかり☆」

 

 そう言って朗らかに微笑みを浮かべられながら、一歩ずつ一歩ずつ村人の男性から距離を取っていく元王女様。・・・この悪王女さまめ・・・・・・。

 

「う! こ、ここは・・・・・・?」

「大丈夫ですか? 私たちは近くを通りかかった行きずりの者で、あちらの方で兵士さんの死体を見つけて魔物にでも襲われた後かと思い、慌てて生存者が残っていないか見に来た者です。何かあったのですか?」

 

 適当に最もらしく嘘八百を並べ立ててみる私。疲労困憊から目覚めたばかりで意識朦朧としている相手に真相など不要。死にゆく者なら尚のこと必要ありません。

 耳障りのいい綺麗事を吐いて、安心して死んで逝かせてあげるのが世間一般でいうところの勇者の役目。私は勇者としての義務を果たしているだけですよ、本当に。

 

「だ、誰かは知らないが村を・・・俺の村を救ってくれ・・・! 頼む・・・っ! このままだと俺の家族が・・・っ」

「落ち着いて下さい、怪我は大したことないそうですから、あなたも直ぐ村へと帰れます。お気を確かに」

「俺のことはいい! それより村を・・・村を救うために俺は行かなくちゃ行けない場所があるんだ! ここから北に行ったところに俺の村があるか・・・ら・・・そこの窮状を西側の領主様のもと・・・へ・・・・・・(バタリ)」

「あっ!? ちょっと!? 名前があるかどうかも知らない村人Aさ――――ッん!?」

 

 女神様が再び意識を失われた自己紹介まだの村人Aさんが倒れ込んでくるところを抱き止めて、ガクンガクンと前後に力一杯振り回し・・・って、オイやめろ死んでしまいますから。

 

「ちょっと退いて下さい、女神様。邪魔ですし迷惑です。――うん、大丈夫そうですね。

 気を失われただけです。しばらくすれば意識も回復して目覚めてくれることでしょう」

 

 私は患者さんを暴行犯の魔の手から救い出すと、胸元に手の平当てたり、瞼を開けさせて光を照らし眼球の反応を見定めたりしながら簡易的ながらも症状を確認。

 気絶しただけであることを確認し終えると、余計な負担がかからないように地面の上に横たえて、顔の角度も調整して気道も確保。

 ついでとして、毒などを食らわされている場合のことを憂慮して女神様に最上級レベルの状態異常回復魔法を一回だけかけてもらってから、回復魔法もそこそこ良いのをかけてもらいます。

 

 ファンタジー作品だと、先に体力を回復させて体内に埋め込ませていた怪物活性化~とか言う展開が多いですからね。あらゆる状態異常を完全に治癒することが出来る神様レベルの奇跡魔法を使える術者がパーティーにいるなら念のために石橋を叩いて渡った方が安全なのですよ。

 

「・・・いや、いいんですけどね別に。神様的にもオールOKなご指示なんですけど・・・それどう考えても勇者のやる人助け方法じゃないでしょ。僧侶ですらやりませんよ今のは。むしろ明らかに違う別のナニカ的職業に就いてる人たちが出しそうな指示でしたし。具体的には救急隊員とか」

 

 女神様がなんかうるさいですが・・・いいじゃないですか別に。人助けしてる結果に変わりはないんですし、やり方が古式だろうと新式だろうと問題なしでも助けたらそれでいいのです。

 結果良ければ~、とまでは言いませんが、少なくとも『結果悪けりゃ全てダメ』なのは当たり前のことでしょう?

 

 ・・・それより何より、私たちは早急に決断しなければならないことが他にあるので、そちらを先に議論した方が少しはマシと言うものです。

 

「それで、その『北にある村』とやらに行ってみますか? ・・・正直、私はあまり行かない方が良いと思っているのですけども・・・」

『『え、ええぇぇぇっ!?』』

 

 予想通り女神様と、今度はトモエさんからまで批判的な驚きの悲鳴を上げられてしまいました。・・・分かりますけどね、気持ち的には。“気持ちとしてだけ”ならば。

 

「ちょ、ちょっと待って欲しいで御座る! それはあまりにも酷というものでは御座らぬか!? 苦しんでいる民草の住む村落が直ぐ近くにあることを知らされ赴かぬのでは武士道と仁義に悖るというもの!

 『義を見てせざるは勇なきなり』という、ヒノモトに伝わる有名な言葉を知らぬので御座るかセレニア殿!?」

 

 知りませんねぇ~。なぜなら私はヒノモト人ではなく見た目だけ白人で、中身極東の黄色いサルですから。異世界にある国の諺なんて知っていたとしても中身別物かもしれませんので知りません。

 

「トモエ様、ことはそう簡単ではないのです」

「?? どういう意味で御座るか? アリシア殿」

「考えてもご覧なさいませ」

 

 軽やかに手の平を上向けする優雅な所作で元王族のアリシアさんが、気絶している村人さんAを指し示し、トモエさんにこう続けて説明してくれました。

 

「気絶している彼は危機的状況にある村から脱出してきた難民であり、それを救ったわたくしたちはドコの馬の骨ともしれぬ怪しげな外国人。

 仮にわたくしたちが気絶したままの彼を村まで送り届けてあげたとして、疑心暗鬼に陥っていて身内以外は信じられなくなってるやもしれない辺境の村人たち相手に、いったい誰が正しい事情を説明して理解を得られるというのですか? 不可能でしょう? そんな芸当」

「うぐっ!? そ、それは・・・」

「むしろ、わたくしたちこそ犯人だと思い込んで攻撃してくる可能性だって高いのです。救うつもりで赴いた先で、救出対象と戦闘状態に陥るのが貴女の言うところのブシロードだとでも言われるですかトモエ様。

 現実に苦しんでいる村人たちを救いたいと願うのであるならば、夢幻の綺麗事ではなく現実をこそ尊びなさいませ」

「う、う、・・・うぐぅ・・・・・・」

 

 悔しげに黙り込まされるトモエさん。こう言うときは、元王族でリアルな政治手法を身近で見てきたアリシアさんは頼りになりますよね。・・・お近づきにならずに済むなら、それが一番よいことであるタイプなのが困りものでもありますけけどね・・・。

 

「そ、そこは村人たちも話せば分かってくれるはずで御座――」

『『甘いですね(わね)』』

 

 今度のは私もアリシアさんに加勢して反論しました。まず先方はアリシアさんからです。

 

「追い詰められ、生き延びようと足掻いている民衆というのは怖いものです。自分が生き延びるためなら、どんな事でもやってしまえるパワーがありますからね。

 それこそ、友を踏み台にして城壁へと這い上がり、愛する我が子を置き捨ててでも迫る凶刃から逃げ延びようとする・・・そして、生きて安全な場所へ辿り着いてから己の犯した罪を悔やみ、出家して教会へ入り、一生を償いに捧げることで安楽な生活を享受する道を選ぶのですわ。それこそが民衆という者たちが持つ自覚のない悪意的な側面なのです」

「農民を侮っているなら改めた方がいいでしょうね、トモエさん。彼らは弱い故に強い。

 完全武装した騎士百人も、手作りの棍棒や槍を持った千人の農民に勝つことは出来ません。数で押し潰されてしまいます。

 素人故に一度暴走すると退くことを知らず、血と興奮に酔いやすい部分も持ち合わせていますしね。

 生き延びるため戦わざるを得なくなった農民たちというのは、決して救ってもらうしか取り柄のない無力な群衆ではなくなるのが戦乱の世の常なんですよ」

 

 私たち二人のコンビネーション悪意的解釈による民衆の脅威説明を聞き終えて、トモエさんは冷や汗タラタラ垂らしながら黙り込んでしまわれました。

 

 ――が、しかし。今日の彼女はそれだけでは終わらず、最後の最期に毒の一針を放って来やがりましたのです!

 

「・・・前々から思ってたので御座るが・・・お二方は民衆に対してなにか恨みでもあるのでござるか・・・?」

『『・・・・・・(ぷいっ)』』

 

 ゆっくりと、ごく自然な態度で視線を逸らし、改めて私たちは倒れている彼を見下ろす姿勢に戻りました。

 さてはて、本当にどうしたものか・・・。

 

 

 

 

「――見えてきましたわ。おそらくアレが、この方の言っていた村なのでしょう」

 

 高レベルな格闘家で身体能力の高い、先頭を行くアリシアさんが後ろについてく私たちに教えて下さいました。

 結局あのあと私たちは、彼の村に行ってみることを決めたのです。

 理由は『他には特に行く当てもなかったから』という、適当極まりないものでしたが、まぁRPGで新天地についた時に村の危機を救うことになる勇者様なんて大方はそんなようなものですよきっと。

 

 隊列は、未だに目を覚まさない村人さんをお姫様抱っこで運んであげてるアリシアさんを先頭に、二番手が私。三番目がトモエさんで、支援職の回復魔法系プリーストである女神様は定石通りに一番後ろについてきてもらってます。王道でしょう?

 

 ちなみに、この隊列の隠された意味は、村人さんを前面に出すことで敵に攻撃を躊躇わせ、背後からの奇襲に対しては一番頑丈でバカだから死にそうにない女神様を盾として防ぎ、左右からの奇襲は私とトモエさんで一方向ずつの警戒を担当。そんな布陣です。

 

 最悪の場合、村人さんを盾代わりにして最後尾を守ってもらいながら全速力で逃走し、距離が離れた隙に適当な場所へと放り投げることで追っ手を分散。邪魔な重りがなくなって速度を増した私たちは更に前進して全力逃走。そういう算段に私とアリシアさんの間で打ち合わせ済みです。

 

 非人道的なやり方なのは承知の上。ですが、コレが一番人死にの出る確率と、出た際の犠牲者が少なくなる方法として有効でしたのでね。仕方がありません。外聞なんか気にしているより人命を優先した方が、まだしも人道的対応というべきものなのですから。

 

 

「で? 村のご様子は?」

「明らかに武装してらっしゃいますね。それに、警戒もしておられます。いつどこから敵に襲われるか判らずに怯えきっているようです。

 まだ、わたくしたちの接近に気付いていないから大人しいですけど、気付いてしまったらどうなることやら・・・そんな状況ですわ」

「・・・それは難儀そうですね~・・・」

 

 相手がどんな反応をするか判断するための要素が存在しないというのは、思う以上に厄介な状態です。

 村の近くまで送ってあげたんだからと、このまま村人Aさんを置き捨てていった方がいいのかすら判りゃしない。

 

「・・・・・・っ!? 誰だ! 止まれ! そこから一歩も俺たちの村に近づくな!!」

 

 しばらく歩いて接近すると、相手方の普通の視力を持つ一人が私たちの存在に気付いて警告を発し、近くにいた弓を持つ年配の男性――たぶん村落に一人はいる狩人さんだと思われます――が弓をつがえて構える前に陣取って、震える声で私たちの素性を明らかにするよう命じてこられました。

 

 私としては隠すような要素は(この件に関してのみ)何ひとつ持ち合わせていませんでしたので、余すところなく素直に正直に白状したのですが。

 

「あ! アイツが抱えてるのってピーターじゃないのか!?」

「なに!? ・・・本当だ! ピーターだ! 貴様ら! ピーターに何をした!!」

 

 うん、まぁ、やっぱりこうなりますよね。予想通りです。

 

「落ち着いて下さい。別に私たちが彼を傷つけたわけじゃありません。助けて運んできてあげただけです。私たちは――」

 

 

『うるさい! 黙れ! ピーターを返せ! さもないとブッ殺してやるぞ!?』

 

 

 ・・・うわーい、テンプレなお約束てんかーい。ぜんぜん嬉しくな~い。

 ――とは言え、こうなってしまったら止むを得ませんか。礼の手でいきましょう。

 

 私はアリシアさんとアイコンタクトして意思を伝え合い、トモエさんが。

 

「ま、待つで御座るよ! 拙者たちはただ――」

『うるさい! ザイアンの手下め! ピーターを離せぇぇっ!』

 

 と、村の皆様方とファーストコンタクトを取っているのをボンヤリ見物しながら、押し寄せてきた大人数のお客様方の前で大きく息を吸って吐いて深呼吸。

 

 

 

『渡しはしない! 大事な古里と仲間たちを、お前たちなんかに渡してなるものかぁぁぁっ!!!!』

 

 

 ズダァァァァァァァァァァァッッン!!!!!!!!

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(シ――――――――――――・・・・・・ン)』

 

 

 空へと向かって私が撃った、一発の実弾が場に沈黙をもたらし、一時的なエアポケット空間を形成させました。

 火薬の最たる効果は身を焼く炎でも、切り裂く破片でもなく音と光。衝撃と畏怖。

 即ち恐慌です。

 銃の本質は恐怖と、ノブさんも言ってらっしゃいましたからね~。

 

 初めて見る鉄砲の発煙砲火と発砲音。

 それは恐怖を与えて、暴発するまでの間に一時的な意識の空白時間を作り出し、その場にいる全ての者の時間の流れを心身共に空白化させる効果をもたらしてくれるものでもあるのです。

 

 空砲じゃなくて実弾ですけど、空に向けて撃ったから問題なしです。

 『当たらなければどうと言うことはない』と、赤い英雄さんが保証してくれています。だから大丈夫です、問題はありません。フラグじゃなしに!

 

 

「き――ッ」

 

 

 そして、誰か一人が危うい緊張の上に保たれた意識の空白の糸を断ち切る寸前。

 止まった時間を利用して、もう一つの『衝撃と畏怖作戦』を発動させる。それが私の考えた、この状況になった時の対応策なのです。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

 

 

 ズドガァァァァァァァァァッン!!!!!!!

 

 ミシミシミシ!!!

 

 ・・・・・ドドォォォォォォォォォォン・・・・・・・・・

 

 

 

 裂帛の気合いと共に放たれる強大無比な打撃音。

 それに続くようにして、巨大なナニカがへし折られ、地面に倒れゆく轟音が轟き渡る。

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

 騒ぎかけていた村人たちの誰もが静まりかえり、声を出そうと開けかけていた口を開けっぱなしにするか、もしくは「あうあう」と意味を成さない単語を連発するマシーンと化すか、あるいは普通に気を失って静かになるか。・・・まぁ、最後に人が一番多かったらリムル・テンペストさんになりかねませんでしたので、そうならなかったのは不幸中の幸いです。

 

 

「申し訳ございません、村の皆様方。手元が狂ってしまいましたの。わざとではないですので、どうかお許し頂けませんでしょうか?」

『・・・・・・』

 

 ウルウル瞳で「お願いポーズ」をするアリシアさん。

 私の火縄銃に注目が集まった隙を利用して、近くにあった適当な大木まで密かに移動し、タイミングを見計らって拳一本でへし折ってしまわれた美少女からのお願いであれば、まぁ話ぐらいは聞く気になってくれるでしょう、たぶん。

 

 

「さて、皆さんも落ち着かれたようですので、私たちの話を聞いては頂けませんでしょうか? そして、できれば皆様方からも教えて頂きたいことが幾つかあるのです。

 代価は払いますし、なにか困っていることがあるなら協力できることもあるかもしれませんし話して頂けませんでしょうかね? 無論、イヤだと言われるのでしたら無理強いする気はありませんが・・・・・・」

 

「ええ、わたくしもセレニア様のご意見に賛成致します。

 力尽くで無理矢理聞き出そうとするのは良くありませんものね、力尽くで聞き出そうとするのは」

 

 

 そう言って、顔の高さにまで右手の平を広げて持ち上げていき、言い終わると同時に「グッ!」と拳を握りしめて、村人たちに優しい笑顔で微笑まれるアリシアさん。

 

『イヤなら、こうだ』と言うわけですね、判ります。

 

 アリシアさんは相も変わらず、優しくて怖い悪女らしい悪女な美少女王女様なようで安心です。

 

 こうして私たちは前線地域最初の事件にして、ファンタジー異世界に転生した勇者らしい内容の事件に遭遇することが決定されたのでした。

 

 

 

「・・・・・・なんか、どんどん勇者の概念から遠ざかって行ってる気がするのわ私だけですか? セレニアさん・・・」

「いいじゃないですか。人死には出ていませんし、戦闘は発生していません。結果だけ見れば世界を救う勇者らしい成果を出せてるはずですよたぶん」

 

 ものは言い様、口は重宝。親を売るにも国を売るにも理由や理屈はつけられるもの。

 耳障りの良い詭弁で殺戮行為を正当化しようとする勇者さま方よりも、よっぽど正々堂々として良いじゃないですか、この方が。

 

「それに最近では、世界を救うために世界全土を壊すような戦いを勃発させる殺戮のイフォーシュアな勇者様とかもいるような世の中ですから、これぐらいはギャグで済む範疇かなーっと思っている私です」

「・・・・・・本っ当にものは言い様ですよね、セレニアさんの言い分って・・・・・・」

 

 

つづく

 

 

 

セレニアのパーティー紹介:

根っから悪女な元王女:ヨヨ・ミレイユ・アリシア・イスパーナ。

職業:魔拳士(特殊条件必須のユニークジョブの中でも職業名が変わらないタイプ)

 セレニアに惚れて旅に同行するため手段を選ばなかった元王族のお姫様。

 自らの拳で殴り殺した敵の血と憎しみを吸収して、己の力とする呪われた武闘家少女でもある。――が、本人は便利な職業としか思っていない。

 

 性格など様々な面で元通りだが、前より更に性格が悪い部分が増えてきており、最近セレニアと話が合う機会が増えてきている。本人は喜び、セレニアを自己嫌悪で胃痛中。

 パーティー中、最もコスチュームが変化したキャラで、今までの美しいが禍々しさも感じさせる服装ではなく、装飾過剰ながらも露出度を押さえた清楚さを感じさせるドレスに変更されている。

 一見すると動きにくそうな服装だが、「ふんわり」と大きく広がって動きを阻害しない、ゆとりのある造りになっているため意外にも動きは遅くなっていない。

 

 スカートに履き替えたので、蹴り技の名前が『パンチラ蹴り』に変更されたが、見えそうで見えない絶妙な体捌きと、遮蔽物を利用して見えると思ったら見えなかった演出、見えると思った次の瞬間に蹴り飛ばされてきた味方にぶつかって見えなかったり等、男心を弄ぶ戦い方に磨きがかかった。

 

 清楚に見えるような服装を着たら、余計に悪女らしさが増した悪女の王女様。

 彼女の辞書に『後悔』の二文字は「男心をくすぐる涙」としか書かれていない気がする・・・。



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