HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ (グレン×グレン)
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設定資料集

そういえば作るのを忘れてました。

作りながらなのでゆっくりですが、ぜひお楽しみください


◇各種設定

 

☆転生者

 ケイオスワールドシリーズの根幹設定。

 

 異世界で死亡した者の魂がD×Dの世界に流れ着いた存在の総称。その大半が何らかの形でこの世界とは異なる異能を持っている者達であり、それを程度はともかく使用できる者達。堕天使元総督アザゼルは、聖書の神の死がきっかけで渦のようなものが発生して、輪廻転生のメカニズムに巻き込まれていると推測している。

 

 この世界の在り方に合わせる形になっているが、異世界の異能を行使可能。その戦闘能力には大きなばらつきがあるが、過半数が何らかの形でこの世界の異能を併用しており、禍の団の戦いでは敵味方問わず重要戦力を担っている者が多く存在する。また、悪魔の駒のブラックボックスを刺激して駒を変異の駒にする特性を持っており、存在が広く認識されるまでは、優れた戦力を少ない駒価値で獲得する事もできていたが、流石にまずいとの判断で駒そのものが調整を加えられている。

 

 明確な特徴として、発見されている該当世界五つの内四つが何らかの形で異能が堂々と公表されている。最後の一つも異能勢力の独善的な理由で秘匿されているにすぎず、この世界の特性に変化した結果その意味を消失しているのが現状。これが遠因となり、数々の異能が人間世界にばらまかれた事もあり、其の影響力は良くも悪くも莫大。

 

 

☆五の動乱

 ケイオスワールド本編における、禍の団との最終決戦の呼称。フィフス・エリクシルの名前にあやかって名付けられた。

 

 フィフス一派による大量の技術流出や第三次世界大戦。更には主要先進国への悪影響など、その被害は禍の団の関わる事件においても桁違いに大きいのが特徴。これは、フィフス自体がこの世界において異能を秘匿する必要性が薄かった事と、彼に協力する転生者の大半が異能を堂々と使っている環境下であった事も大きく、転生者の負の側面ともいえる。

 

 これの影響と、リゼヴィムによるE×Eへの挑発行動による異世界間戦争勃発の危険性から、異形社会はその存在を人類社会に公表する方向性にシフトする他なくなるなど、その被害は非常に大きい。一部の識者は禍の団との戦いは現政権側の敗北というほど傷跡は深い。

 

 

☆コロンブス計画

 ケイオスワールド後日譚に発生した計画。

 

 様々な勢力との和平が結ばれた事で発覚した、どの勢力も関わっていない大規模な魔力事変と、禍の団との戦いの中で発覚した情報から、様々な異世界の存在を推測した事により、E×Eが来るより先に異世界と接触して交流を結ぶという、対E×E計画の一つ。

 

 過程においてそれ以上の危機に見舞われたが、結果的に目的は達成されており、その恩恵は莫大と予測されている。

 

 

☆エイエヌ事変

 ケイオスワールド後日譚の事件の総称。

 

 異世界探索計画コロンブス計画に参加した宮白兵夜眷属が、多世界連合体であるフォード連盟で行われていた聖杯戦争を利用した地球侵略計画に関わった事で起きた事変。

 

 時空管理局としても、自分達に次ぐ大規模多次元世界組織がたった一人に支配されていたという事実に衝撃を受けている。また、一部職員の技術流出すら疑う程だった第三次世界大戦の原因や、地球周辺に存在する小規模次元世界とその影響力などに驚愕するなど、ある種の転換期ともいえる事件。

 

 一歩間違えれば準備が全く整ってない状況下で圧倒的不利な異世界間戦争を行う事になる寸前であり、その危険度という意味では五の動乱を遥かにしのぐ。が、結果的に時空管理局と接触をする事に成功しており、その恩恵は皮算用ではあるが非常に莫大。

 

 五の動乱を含めた禍の団との戦いにおける英雄である宮白兵夜が、一歩間違えれば世界を滅ぼす程の害悪になるという事態が発覚した事で、様々な意味で波乱を巻き起こした。

 

 ことフォード連盟はこの影響で政治的空白期になっており、事件に関わった冥界出身のアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスの支援抜きでは立ち行かない状況に陥っている。ちなみに地球及び周辺世界は、学園都市技術を捨てる事は今更できない可能性が高く、フォード連盟に加盟する方向で調整が進んでいる。

 

 

☆幻想兵装

 前作ケイオスワールドで禍の団が開発した、英霊召喚の応用術式の総称。英霊の分身ではなく、英霊の力だけを召喚し、身に着ける事が可能。

 英霊召喚が基本の聖杯戦争に精通しているフィフスと、規格外の魔術師であるキャスターが手を組んだ事で初めて可能とした術式であり、五の動乱の最終決戦においては禍の団の切り札の一つとして運用された。

 反面、被使用者との相性によって下せる英霊やその度合いが大きく変化する為、安定した戦力というよりかは優れた戦力を補佐する追加武装としての側面が強い。

 

 本作においてはフォンフ一派と三大勢力側でそれぞれ技術を発展させており、フォンフシリーズの機能や、七式として開発されている。

 双方共に再現できる力をより高める事が可能だが、三大勢力側では制限時間が厳しく、フォンフ一派は人格汚染の危険度が高いなど技術は未だ未発達。

 

 ★幻想兵装 七式

 来るべきE×Eとの接触に対抗する為に、魔術師組合が研究を行っている試作兵装。

 幻想兵装のデータを基にしており、薬物投与を基本としている幻想兵装と異なり、装着型の装備として運用している。また、キャスターの技術を流用するだけではなく再現されたアーチャーの技術も使用されている為、再現度だけならば幻想兵装を超える。

 しかしまだ研究中の技術であり、本格的な完成には程遠いのが現状。本作開始前時点では、正しく実戦運用が可能な域に達しているのは兵夜の使用する弓式のみ。それも兵夜の肉体の特殊性が大きい為、完成というには程遠い。

 

 ★フォンフシリーズ

 フィフス・エリクシルの呪いといってもいい存在。あえて名称をつけるならば、自立稼働型人造神器とでも言うべき存在。

 

 量産に成功した業獣鬼をベースに、フィフスの意識を焼き付けさせており、量産型の暗黒鬼とでもいうべき凶悪性を持つ。加えてその大半は英霊を宿しており、それぞれ型にはまるとフィフス以上の戦闘能力を発揮する。反面一部は英霊に人格を汚染されており、完成しているのかといえば少し違う。

 

 禍の団の遺産を半分以上取り込んだうえ、エイエヌ事変で新たな力を回収。その際エイエヌの確保していた各組織に対するパイプの多くを獲得しており、中には高位の吸血鬼であるディミトリエ・ヴァトラーも含まれる。その組織の規模は禍の団の一派閥どころではなく、時空管理局からしてみても大規模次元犯罪組織クラスの脅威度である。

 

 ……と、実に恐ろしいのだが、開発理由の根幹が「乳恐怖症を押し付けることで精神の安定を図る」である為、根源到達を完全に放り出して兵藤一誠への復讐も兼ねた全世界の女性の貧乳化を目的としている。

 

 

 

☆赤龍の乳乳帝

 兵藤一誠がケイオスワールドで覚醒した禁手の進化形態。

 守護者のシステムを流用し、更におっぱいを使うことで、理論上は人類の約半分からバックアップを受けることができる。その戦闘能力は強大で、本当に全部使った時は龍神とも勝負になるトリプルシックスとフィフスの組み合わせと渡り合って見せた。

 反面、協力してくれるおっぱいがないと戦闘能力が大幅に激減するという欠点を持つ。それでも原作における真女王を圧倒するだけの戦闘能力が発動可能という辺り気が狂っている。

 ★詠唱

 我、目覚めるは乳の神秘に魅了されし赤龍帝なり

 無限に続く夢幻の煩悩とともに、王道を行く

 我、赤き乳の帝王となりて

 何時に乳房のように輝く天道を魅せつけよう

 

 

 

◇世界関係

☆D×D

 ケイオスワールド世界に、異形社会が付けたコードネーム。グレートレッド及び、若き英雄達の集まりであるチームD×Dからつけられた。第97管理外世界「地球」及び、その周辺に存在する各種神話的世界の総称

 

 時空管理局では小規模次元世界による連盟と位置付けられており、実際に各神話宗教で和平が結ばれ連携を取っているので実体としてもそれに近い。規模そのものでは時空管理局とは比較にならないほど小さいが、ロストロギア級の技術をいくつも運用している中々強大な勢力と認識されている。

 

☆S×B

 ストライク・ザ・ブラッドの世界に、異形社会が付けたコードネーム。

 

 様々な異形達が人間達の世界に堂々と名乗って一応は共存しているという意味で、D×Dは今後のモデルケースとして認識している世界。

 

 現時点においては管理外世界であり、地球は獅子王機関と接触を行っている程度の関係。しかしエイエヌ事変での空間転移現象の詳細及びそこから派生する事実は、一部の優れた空間関係の術者なら想定可能であり、事件そのもののA案件と呼ばれており分かる人には分かる。

 

 

☆時空管理局

 リリカルなのはシリーズで有名な次元間組織。

 

 次元世界の平和を目的としている組織であり、属している管理世界を中心にして活動している。その存在そのものはあくまで体制側であり、一部の腐敗や方針による反発はあれど、三大勢力や国連などと規模はともかくあり方は大して変わらない。

 

 とはいえその基本技術はリンカーコアを使用した魔法体系であり、それとは異なる方法を運用しているD×Dの異能関係に関しては奇跡的なレベルでノータッチだった。その為、第三次世界大戦で受けた衝撃は下手をすれば地球より大きく、第三次世界大戦が発生した時には、地球出身の管理局院に一時期技術漏洩の疑いがかけられたほど。

 

 あくまで次元世界の平和維持を目的としている世界である為、D×Dやフォード連盟に関しても積極的に危害を加えるつもりはなく、現時点においてはむしろ友好的。エイエヌ事変における貢献などもあり、E×Eの問題に関しても協力的と言っていい関係を築いている。

 

 ……のだが、その方針状の問題点を突かれて、フォンフたちによって不満分子などに技術が流出されており、ある意味とばっちりを喰らう羽目になる。

 

 

☆フォード連盟

 ケイオスワールド後日譚、卒業旅行のホーリーグレイルの舞台となる次元間組織

 

 ピラミッド構造の組織であり、色々と問題がある世界だったが、エイエヌ事変を機に大きく改革が行われている。

 

 とはいえその影響は悪い意味でも莫大であり、現時点においては時空管理局やD×Dの協力が必須である状況。現政権側に協力していたアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスの支援を受けて少しずつ状況を改善している状態である。

 

 なお、D×Dは人間の質量兵器を評価している傾向もあり、時空管理局ではなくフォード連盟に加盟する方向で話が進んでいる。

 

 

◇九大罪王

 四大魔王制度の後継たる、新たなる悪魔の王。

 

 本来七つの大罪に倣って七大魔王制度にするところだったが、どうしても兵藤一誠を魔王に据えたい現四大魔王の意向ゆえに、八代魔王制度に変更しようとしたのを知った宮白兵夜が、それを危険と判断して呈示した制度。

 

 七つの大罪はもともと嫉妬がなく、虚飾と憂鬱が存在していた。それを利用して元々の八つの枢要罪と嫉妬を含めた、九つの大罪を司る大罪王を魔王の後継とする制度である。

 

 これらの制度を宮白兵夜が提唱したのは、帰化外国人といえる兵藤一誠を、特例を設けてまで政治の中枢に据えることは人間世界の者たちに低評価される可能性があると踏んだため。くわえて兵藤一誠の人間世界での来歴が知られた場合、下手をすれば人間と異形との間で戦争が勃発しかねないため。ゆえに王の数を増やすことで結果的に薄め、かつそれらしいものを用意することで納得させやすくするため。

 

 しかし、これが手遅れであることを知るのはまたのちの話である。

 

 

◇アザゼル杯関係

 原作最終章で行われるのと同盟の国際レーティングゲーム。

 

 各勢力のガス抜きと疑似実戦による戦力増強が裏の目的であり、アザゼル個人としてはヴァーリの願望を安全にかなえるという側面がある。その為割と自由にチームを編成できる為、シャレにならない戦力形成のチームもぞろぞろ出てきている。

 

 本来なら禍の団との戦いがひと段落ついた時点で行われる予定だったが、五の動乱における悪影響があまりに酷い為、エイエヌ事変が終わる時期に漸く開始の段取りが付いた。加えて土壇場で兵夜が手を回した為、試合ルールが事前に通告されるパターンが存在したり、使い魔の使用条件が緩くなったりするなどの変化が起きている。

 ★スカウティング・ビット

 レーティングゲームの特殊ルールの一つ。

 フィールド内に自立稼働するビットを放出。それをかくほすることで勝敗を決するゲーム。

 ランペイジ・ボールと同じく一定時間で撃破されたものが復活するため、撃破が決定打にならないゲーム。加えてビットそのものが小型であるため、長丁場になりやい。とどめにビットを破壊すると破壊したチームの敗北が確定するため、大火力を運用しずらいのも特徴の一つであるテクニカルなゲーム。

 その特性上優れた探索系能力の持ち主や、数を補完することができる能力の持ち主がいるだけで大きく勝率が上がるルール。

 ★スプレッド・フィールド

 レーティングゲームの特殊ルールの一つ。

 広範囲のフィールドに両チームのメンバーがランダムで転送され、長距離念話などの類もできないというルール。元々は乱戦状態になって散り散りになった状況を想定して作られたルール。

 その特性上サポート特化型は大きく不利になるルールであり、こういう時の為の集合の基本ルールをいくつ保有しているかどうかで勝敗が大きく左右されることもある。また、長距離通信ができない状況ゆえに軍師タイプのメンバーも不利になる。

 ……反面通信などはあくまで念話や通信機などによるものであり、原始的な狼煙や発光信号などは有効という裏技じみた攻略法は存在する。

 

 

☆神喰の神魔チーム

 宮白兵夜がリーダーを務めるチーム。

 

 宮白兵夜眷属を中心とし、更にエイエヌ事変で知り合った異世界の出身者をスカウトして構成されている。ちなみに、兵夜はのちの異世界交流において異形社会が異世界をなめてかからないようにする為のデモンストレーションを目的の一つとしている。

 

 高位神格にすら匹敵する第四真祖の眷獣の存在もあり、最大火力では参戦チームの中でもかなり上位に位置するが、その肝心の眷獣がルール上扱いが難しく、本領を発揮し辛い。また、異世界出身者の都合がつきにくい事や、グランソードとその舎弟達が出場を辞退している事もあり、数の面において不安が残る。

 

 しかしそれを差し置いても宮白兵夜の率いるチームということで注目度は高く、平行世界の黄昏の聖槍の存在もあることからその注目度は非常に高い。

 ◇最新チーム構成

 王:宮白兵夜

 女王:暁古城(学業優先につき、不定期出場)

 戦車:ノーヴェ・ナカジマ(状況により騎士としての出場あり)

 戦車:ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド

 僧侶:宮白雪侶

 僧侶:高町ヴィヴィオ

 騎士:姫柊雪菜(職務優先により、不定期出場)

 騎士:シルシ・ポイニクス

 兵士:近平須澄(事実上、アップ・ジムニー及びトマリ・カプチーノ含む。駒価値8)

 リザーブ枠:ディミトリエ・ヴァトラー

 

 

☆斬撃猫一番チーム。

 

 ヴァーリチームのムラマサがチームリーダーを務めるチーム。ナツミが参加している。

 

 メンバー構成の問題であぶれたムラマサと、兵夜達とは別チームで参加したかったナツミ、そして警備員の戦力向上を狙っていた正姫工業との間で利害が一致した事で誕生した。

 

 異能との関わりが薄い警備員が多い事から優勝候補からは外されていたが、ナツミとムラマサの戦闘能力が一線級である事から中々の勝率を持つ。加えて正姫工業がパワードスーツを入れるなど本腰を入れている事から、その戦力は大きく拡大している。

  ◇チーム構成

 王:ムラマサ

 女王:宮白ナツミ

 戦車:宮白陽城 他一名。

 その他:正姫工業警備員

 

 

☆シュトリズセイバーチーム

 

 桜花久遠が王を務めるチーム。

 

 本来なら久遠はソーナ・シトリーのチームに参戦するのが道理なのだが、彼女自身が上級悪魔に昇格して駒を持っている事、アウロス学園の教え子に実戦的な訓練を積ませたい事、そして何より、アザゼル杯での駒価値計測機能ゆえに、シトリー眷属がフルメンバーで参戦できない事から別チームでの参戦を決断した。

 

 彼女の教え子は相当数いるのだが、神クラスすら参戦するこの大会に怖気づいた者が多く、教え子だけではフルメンバーに到達しない。その為、学友である松田と元浜が「活躍してもてたい」ということで参戦している。

 

 ちなみに、個人的な目的として「匙の彼女を増やして兵夜とのダブルデートの時に人数的なつり合いを取りたい」という秘めた野望があったが、セラフォルーの小姑としてのハードル設定が高過ぎた為「匙とソーナの結婚を了承させる」に変更する気になっている。

 

 ◇チーム構成

 王:桜花久遠

 女王:松田

 戦車:元浜

 その他:アウロス学園生徒

 

◎魔王剣チーム

 アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスが王として参戦しているチーム。

 

 アルサムも兵夜と同じ理由で眷属をフルメンバーで集めていないが、同様の理由でフォード連盟などから戦力を集めている。

 

 また、サーゼクスたちによる九大罪王候補として認識されており、その見極めのために沖田総司が派遣されている。

 

 ◇チーム構成

 王:アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス

 女王:サムライエッジ(沖田総司)

 戦車:リオ・ウェズリー

 戦車:コロナ・ティミル

 騎士:右腕四天王二名

 僧侶:右腕四天王二名

 兵士:シェン《駒価値2》及びフォード連盟魔導士六名

 



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登場人物設定

とりあえず、本作においてオリジナル要素が多く出ているメンバーを中心に紹介していこうと思っています。



◇神喰いの神魔チーム

 ☆宮白兵夜

 本シリーズ主人公。兵藤一誠の無二の親友にして、冥界の英雄の1人。

 

 戦闘でも内政でもスキャンダルでも大暴れしており、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)やら魔王の首輪やらラブシーン公開処刑宮白兵夜やら合成悪魔(デビル・オブ・キマイラ)など様々な異名を持つ。

 

 現時点においては、様々な事業をやることになっていることから、冥界を活動の拠点として行動中。主に魔術師組合の組織運営に力を入れている。

 

 アザゼル杯においては、身内の参加に影響される形で出場を決定。同時にその裏では時空管理局やS×B、フォード連盟などが舐められないようにする為の宣伝を目的としている。

 

 ☆近平須澄

 宮白兵夜の前世、近平戻の実の弟。魔術儀式の失敗に巻き込まれてこの世界線に転移しており、兵夜の血の繋がらない年上の実弟というわけのわからない関係を構築している。

 

 エイエヌ事変において、罪深い形とはいえアップやトマリの二人と関係を新たにし、今では平和に暮らしている。が、もともとスラム出身ということもあり貧乏暮らしであり、食費に苦労しなくてもいい状況を作る為にアザゼル杯に参加を決める。

 

 禁手にまで到達した聖槍の持ち主という規格外であり、駒価値は郷愁の存在もあって8というハイスペック。そこに年齢においてはチームトップのトマリや、グラムの担い手であるアップも加わっているため、かなりの戦力。反面当人は聖槍だよりであり自身の技量は低いという欠点もあり、戦闘スタイルとしてはパワータイプ。

 

 

 

 

 

◇斬撃猫一番チーム

 ☆ムラマサ

 ★禁手 剣鎧創造(ソード・バース・ブレイドメイル)

 ムラマサの持つ魔剣創造の亜種禁手。魔剣で出来た鎧を形成する。

 ムラマサは非常に高い領域で使いこなしており、巨人として運用することが可能。更には応用も利き、獣の姿をさせるなどすることで翻弄することもできる。

 

 ☆宮白陽城

 兵夜の現世での姉。社会人であり、正姫工業の社員をしている。ちなみに既に管理職であり、王座はできる限りひいきにしないようにしている為、実力で掴み取っている。

 五の動乱の影響で能力者となっており、秘書課から保安部の事務を担当する部署に移る予定。その一環として斬撃猫一番チームの戦車として参戦している。

 筋骨隆々の男が女装している姿に萌える難儀な性癖を持つ。

 ★大能力(レベル4) 金剛鉄皮(オリハルコン)

 レベル4の能力。自分及び接触している物体を頑丈にする。

 その強度は非常に頑丈。ナイフをデュランダルの攻撃にも一度は耐えれる強度にすることができる。

 

 

 

 

◇フォンフシリーズ

 

 ☆フォンフ・アーチャー

 フォンフシリーズの一体。主にS×Bでの活動を中心としている。

 英霊アルジュナを宿しており、滅龍魔法と炎神の咆哮を組み合わせることにより、一流の上級悪魔ですら一撃で致命傷を負いかねない威力の矢を、数十キロ離れたところから命中させるという規格外の遠距離砲撃戦を可能とする。加えてフィフスから受け継いだ近接格闘技術もあり、Fate恒例弓を使わないアーチャーとしても成立しうる。

 フォンフシリーズの中でも人格汚染が酷いが、アルジュナ自身の目的の為、反旗を翻したりはしない。その目的であるカルナとの決着を着ける為、カルナを宿した七式使いである雪菜を標的として定めている。

 

 

◇フォンフ一派

 ☆宮白天騎

 宮白兵夜の実兄。

 非常にストイックな気質であり、加えて多彩な者の多い宮白家では数少ない剣技一点特化型。その技量はすさまじく、様々な剣技で免許皆伝した実力を持つ。今現在は京都神鳴流を習得中。

 命がけの実戦を潜り抜けてこそ真の意味での成長ができるという持論を持ち、それとある理由の為にフォンフ達と行動を共にする。割と目的の為には手段を選ばないうえに、手段の為にも目的を選ばないタイプであり、兵夜相手でも遠慮はしない。

 

 ☆越智晶子

 フォンフ一派の一員。少女と女性の中間地点にいる存在。

 転生者もしくは転生者の系譜であり、過去をキーワードとする合成能力者。存在を過去に回帰させることが可能であり、時間操作の領域に到達している。加えてボクシングを習得しており、上級悪魔すら殴り殺せる。

 何故か兵夜を執拗に狙っており、その為ならば命を捨てても惜しくないほどに恨んでいる。其の辺りの詳細は不明。

 

 

◇所属不明

 ☆マコト

 兵夜の窮地を救った謎の女。

 S×Bで非合法の賞金稼ぎをしている二十代の女性。実力及び業界に入る前の来歴が完全につかめないことから、業界内では注目されている。

 なぜか聖魔剣を保有しているなど、謎が多い。

 



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プロローグ 参加者を募ろう!!

皆様、お待たせいたしました。


……え? そんなに待ってない? それならそれでよかったです。



とりあえずオープニングは完成しているので、先ずは出してみることにします。


 

 仕事

 

 仕事

 

 仕事

 

 仕事仕事

 

 仕事仕事

 

 仕事仕事仕事

 

「だぁああああ!! もうめんどくさい!!」

 

「文句を言わないの兵夜さん。偉い人が仕事をするのは当然でしょう?」

 

 と、シルシが更に書類を置いてきた。

 

 ええい! 自業自得とはいえこうも仕事が多いと嫌になる!!

 

 人からはワーカーホリックだと言われる俺だが、息抜きすらできない大量の仕事はごめんだぞ!!

 

 ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。

 

 俺の名前は宮白兵夜。リアス・グレモリー眷属の一人にして、赤龍帝兵藤一誠の親友だ。

 

 そして、異世界から来訪した転生者。魔術回路をその魂に持つ魔術使いだ。

 

 そんなこんなで俺がやってきたこの世界。かなり大波乱のトンデモ世界だ。

 

 聖書の教えに由来する天使・悪魔・堕天使で和平が結ばれたことを機に、世界を揺るがすテロリストとあらゆる神話宗教の戦いが一年弱ほどぶっ続き。

 

 終わった時には人間世界も巻き込んだ破格の大人災。そして俺も後遺症。止めに三十年後には異世界との戦争が起こるかもしれないという超難易度。

 

 そして一年ほど後始末が続き、それに嫌気がさして息抜きに異世界捜索を試してみれば、先行で異世界からの侵略の危機に陥るというトンデモサプライズ!

 

 ああ、まあざっと書くとこんな感じだ。

 

 詳しいことは「ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド」を読んでくれと、メタ発言をぶちかましておこう。

 

「サボるわけじゃないけどさぁ。少し息抜きさせてくれない、シルシ?」

 

「駄・目。もう四分の三ほど終わらせたのだから、もう少しだけ頑張りましょう? これでも兵夜さんが必要ない部分はある程度やっておいたのよ?」

 

 子供を嗜めるように俺をなだめるのは、俺の婚約者のシルシ・ポイニクス。

 

 俺がある学園で特別授業を受け持った時に、それに感銘を受けて俺に惚れたという在りがちだが説得力のある惚れ方をしてしまった少女だ。

 

 そんな妻に言われたら、流石に反論できない。

 

 ええい! これも半分ぐらいは身から出た錆!

 

 気合入れてやるか!!

 

「アザゼル杯の為の必要書類及び事務作業! 気合入れるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アザゼル杯?』

 

 俺は、フォード聖杯戦争事件で知り合った異世界の地球の少年、暁古城にその説明をしているところだった。

 

「ああ、前に俺の世界を説明する時に教えたろ? レーティングゲームっていうやつの、いわゆる国際大会だ」

 

『そんなことやってていいの? 確か、いろいろ大変なことになってるって聞いたけど?』

 

 と、同じく知り合いになった藍羽浅葱にも言われるが、しかしこれは結構必要なことだ。

 

「だからこそ、だよ。この混乱状況を利用して和平反対派や保守的な神話勢力が動く前に、そいつらの鬱憤を晴らすガス抜きをしたいって意向だろう」

 

 実際、彼らの鬱憤はとんでもないことになっている。

 

 ガス抜きをせずに貯めたままにすれば、それこそフォードで示された人類滅亡寸前の滅ぼし合いが勃発しかねない。

 

「それに、こんな大打撃を受けた状況だからこそ戦力確保に躍起になっている勢力は数多い。そのための競い合いの場を用意しようってことでもある」

 

 平和主義のサーゼクス様やアザゼルは、その為の準備を和平成立時から進めていたのだろう。

 

 流石に第三次世界大戦やその後の動乱の所為で忙しかったが、その辺も最低限の対応はできたことで、暴発する前にガスを抜こうって判断だろうな。

 

「実際参加チームは多いんだ。「悪魔と天使が戦ったらどうなるか」「レーティングゲームに神が参加したらどうなるか」ってのに興味津々の連中は多いんだよ」

 

 そういう意見が参加チームから続々出るにしたがって、最初は反対していた人達も何人も参加している。

 

 しかもいわゆるチャリティーイベントの側面もあって、大会を観戦したりなどのもうけはすべて復興に使うという感じだ。

 

 え? 開催に使うお金を復興に使え? 世の中には海老で鯛を釣るって言葉があるのを知らんのか、馬鹿なの?

 

 無償奉仕よりも有償奉仕の方が奉仕する側も気分がいいだろう。つまりはそういうことだ。

 

『で? なんで俺達にそんなこと言うんだよ』

 

「そりゃお前、俺のメンバーとして参加してほしいからに決まってんだろ? 報酬は出すぞ、もちろん」

 

 ああ、マジで参加してほしい。

 

 やるからには優勝したいし、それにこれは意味のある内容だ。

 

 おそらく、暁達の地球と俺達の地球はどんな形であれ交流を進めるだろう。

 

 そうなる際に、こっち側の地球や神話世界がなめた目で見ない為にも宣伝は必要だ。

 

 世界最強の吸血鬼、第四真祖ともなれば、それに相応しいだろう。

 

 それに―

 

「ぶっちゃけお前、眷獣を使いこなせてないんだろ? レーティングゲームならよほどのことが無きゃ死人は出ないし、練習するにはもってこいだぞ?」

 

『あー、確かにいろいろと厄介なことになりそうだからなぁ』

 

 暁はそう言って考え込む。

 

 ……先ほど最強の吸血鬼と言ったが、暁はいろいろと事情のある存在だ。

 

 なんでも本来の第四真祖からその力を押し付けられたらしい。

 

 らしいというのは、其の辺りの記憶を失っているから。しかし少し調べてみたが、どうもただの記憶喪失とは毛色が違う。

 

 そしてこれは俺の直感だが、どうにも少し前の俺やイッセーみたいな雰囲気がある。

 

 つまりは、短期間で大量のトラブルに巻き込まれるというたぐいの天命だ。少なくとも奴が聖杯戦争に巻き込まれた時点で正しい意味での悪運が強いことは間違いない。

 

 しかし、第四真祖の力はかなり危険だ。

 

 暁達のいる世界、暫定コードS×Bは表世界で人間とあらゆる異形が共存している世界だ。その中には吸血鬼以外の魔獣や妖術使いなども含まれる。

 

 そんな世界で吸血鬼は最強の存在と呼ばれている。そして、その中でも暁は最強の存在とされる第四真祖の力を持っている。

 

 暁の世界の吸血鬼は眷獣と呼ばれる召喚獣を使って戦ういわゆるサモナーだが、暁の眷獣はその中でも桁が違う部類だ。

 

 龍王クラスの破壊力を持つ存在が、12体。後天的な吸血鬼化の影響で使いこなせている眷獣は三体だけだが、そのうち一体は高位の神クラスでも出せないような莫大な破壊力を生み出すことに成功している。

 

 しかし、暁が住んでいる絃神島は人工島。しかも割と住人が多い都市で、その特性上重要区画しか存在しない。

 

 必然的に大火力の技なんぞそう簡単に使えない場所なのだが、暁はそんなところで都市破壊級の能力しか使えないことになる。実際日本円にして五百億の損害を出したこともあった。

 

 ちなみに、前回の聖杯戦争でどさくさに紛れて獲得した聖杯でその建て替えをしておいたが、これは獅子王機関という暁を監視している異能者組織にだけ伝えてある。

 

 どうせあいつらも裏で手を回しているみたいだし、今後の牽制球も兼ねて恩を売っておいた形だ。

 

 とはいえ、どうも獅子王機関は暁に嫁とトラブルを送り込みたいと思っている節があるようだ。獅子王機関は国家を守護する組織である以上、小を切り捨てる組織であり、それについては理解もある。

 

 理解もある。だが、暁が気にするかは別問題だ。

 

 そういうわけで、俺の実利である優勝と、暁の実利である能力の制御が一致する都合上、練習相手に事欠かないアザゼル杯は都合がいいと思うのだが……。

 

『まあ、アンタには助けてもらった借りもあるし、参加してもいいが……』

 

 少しの間言葉を切って、暁は申し訳なさそうに告げた。

 

『それで成績落として留年とかは嫌なんで、必要な時だけ呼んでくれ。姫柊にも説明しなきゃいけないしな』

 

「OKOK。その辺は予想済みで運営にもルールを用意してもらってる。お前の能力はレーティングゲームのルールでどの塩梅にするかも難しいしな」

 

 まあ、あいつの日常生活を壊すわけにもいかないしな。

 

 それに、暁の眷獣はレーティングゲームにおいて能力か使い魔かの線引きが曖昧だ。

 

 使い魔として認識するとルールに引っかかるし、其の辺りの都合がつくルールの時だけ参加させればいいだろう。

 

 幸い、アザゼル杯はゲーム参加がOKなタイミングが王の判断で調整できるから、比較的デメリットは少ないだろう。

 

 それを踏まえても暁の参戦はかなりいけるからな。

 

 それに、暁が参加するなら姫柊ちゃんも当然参戦する。

 

 あの子もあの歳の戦士としては優秀だし、何より主武装の雪霞狼は驚異的だ。

 

 ……さて、これで来るべきS×Bとの交流が始まった時に上の連中がなめてかかることはほぼないだろう。

 

 あとは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―すいません。当分はDSAAの方で忙しくって」

 

「そうですね。ちょっと両立は難しいと思います」

 

「あ、そういえばそんなこと言ってたな」

 

 時空管理局。数多く存在する次元世界の平和・安寧を維持する、管理世界の共同組織。。

 

 あくまで管理局に参加している世界が中心であり、諸事情あってまだ地球は参加していないので、あくまで交流にとどまっている組織でもある。

 

 フォード連盟のように、次元渡航技術を持っているけど時空管理局に所属していない次元世界の連盟もある。そしておそらく、地球はフォード連盟の方に登録される可能性が高い。

 

 まあ、それに関しては時空管理局の方針の一つである「質量兵器の基本撤廃」ができそうにないからなだけだが。フォード連盟も急激に改革が進んでいるから問題にはならんだろう。

 

 今は、アルサムがエイエヌ死亡のどさくさに紛れてクーデターを成功させたレジスタンス達に政治的指導などをしている真っ最中だ。

 

 なにせ、主要な政治家はエイエヌの手で従僕化している。それが解除されたら、つまりは政治家の大半がいなくなっているということだ。

 

 まあ、そういうわけで現在異形社会と時空管理局は交流を続けているわけで。こっちからも参加者を募るつもりではあった。

 

 なにせ時空管理局相手に一部の傲慢な実力者がなめた口きく可能性があるからな。少なくとも数だけ多い組織などとは思わせないようにしなくては。

 

 そこで俺が狙ったのが一緒に走っている高町ヴィヴィオとハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド。

 

 ハイディは12でヴィヴィに至っては十歳だが、二人とも中級昇格試験の実技部門なら余裕で突破できそうなほどに強い。たぶん上級昇格試験もいい線いくだろう。

 

 こんな逸材がしかも十歳児ともなれば、一部の阿呆もなめた口なんぞきけなくなるだろうからぜひスカウトしたかったんだが、これは無理か。

 

「ふむ。レーティングゲームのシステムなら安全に神クラスとも戦闘が行えるし、桁違いの上を体験するいい機会かとも思ったんだが」

 

「いや、なのはさんでも勝てないような化け物達と戦わせるとか鬼か」

 

 と、そこでツッコミが入ったのでその相手に視線を向ける。

 

 赤い髪と金色の目をした十代後半の女性。

 

 ヴィヴィとハイディのコーチで、確か名前は―

 

「ノーヴェ・ナカジマだったな」

 

「ああ。っていうか、地球って今大変なことになってるのにそんなことしていいのかよ?」

 

 ふむ、大体の事情は知っているようだ。

 

 まあ、時空管理局でもニュースにはなっていたらしいから当然か。

 

「これ以上大変なことにしない為にやるんだよ。……各勢力の鬱憤を晴らすガス抜きも兼ねてるのさ。うちの世界、ポジションがリベラルか保守派かで極端でなぁ」

 

「ふぅん。割と大変なんだな」

 

 同情してくれてありがとう。時空管理局も割とリベラルらしいけど、こっちの世界には劣るからな。

 

 なにせ、大規模テロ組織の二代目首魁ともいえる奴が、堂々と参戦を表明してるからな。

 

 ヴァーリも大概やらかしてるくせに平然と参戦してるし、お前らもうちょっと自粛しろって。普通死刑もんだぞ、人間世界なら。

 

「しっかしそうなるといろいろ大変だな。なあ、お宅らの知り合いで暇してる実力者っていないか?」

 

 次元世界の出身者と当たりがつけれる輩はそういない。

 

 しいて言うならアルサムだが、アイツはフォード連盟の方を中心にしているだろうしなぁ。

 

 少し悩んでいる俺だったが、その時ヴィヴィははたと手を打った。

 

「あ、だったらノーヴェが参加してみたらどうかな?」

 

「「え?」」

 

 俺とノーヴェの声が重なった。

 

 言われてみたら、ヴィヴィの師匠なら実力は申し分ないはずだ。

 

 なるほど、それは盲点。

 

「そうですね。ノーヴェさんなら戦力として十分なはずです」

 

 ハイディもそこまで言うほどか。

 

 俺は、視線をノーヴェに向けると、電卓を取り出した。

 

「ファイトマネーはこんなもんでどうだろうか? 優勝した場合は成功報酬を出すが」

 

「いや、ちょっと待てって!!」

 

 ふむ。流石にいきなりは話が早すぎたか。

 

 とはいえアザゼル杯もそろそろ開催間近。この辺でメンバーになるかどうかだけは決めておいてくれた方が俺としても助かるんだが。

 

「いや、あたしはその、身体上の理由で参加できないと思うし―」

 

「ん? ……一応どんな理由か聞いてもいいか?」

 

「いや、なんていうか……そっちの言葉でいう、サイボーグ?」

 

 ………ふむ。

 

「それ位ならいけると思うぞ?」

 

「え?」

 

 ああ、それ位ならいけるだろう。

 

「肉体の大半が別物って意味なら、俺もそうだ。その辺の細かいルールは確認してる」

 

 ああ、その辺のルールに関してはギリギリ行けるだろう。

 

 王の駒の不正使用などは流石にアウトだったが、暁のフル使用よりは楽にできそうな気がするな。

 

「なら、ノーヴェも参加してみたら? ほら、選手の視点から見えるものもあるっていうし!」

 

「お前、言うようになったな」

 

 そして、ノーヴェは少し考え込んで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果はまあおいておいて、俺は最重要のメンバーについに声をかける。

 

「と、いうわけでできればお前には参加してほしいんだよ、須澄」

 

「いいよ。うんいいよ」

 

 軽いな! 他のパターンより遥かに難易度が楽だったぞ!!

 

「兄さんの頼みだしね。だけど、優勝景品は少しぐらいこっちに回しといてよ?」

 

「ああ、そっちが目的か」

 

 今俺が話している相手は近平須澄。

 

 俺の前世の実弟という、それだけ聞いたらわけのわからない人物だ。

 

 細かいことはケイオスワールドの後日譚で書いてあるから、この作品を見るような輩はみんな知ってると思うけどな。

 

「それでっ? それでそのアザゼル杯の優勝賞品ってどんなのっ?」

 

「トマリ。あんた最年長なんだからもうちょっと落ち着いて食べなさいって」

 

 持ってきたお土産のケーキを食べながら訪ねるトマリに、アップが即座にツッコミを入れる。

 

 ああ、なんか微笑ましい光景だ。

 

 一度は完全にぶち壊された光景だと思うと、俺もなんていうか感慨深い。

 

 まあ、二人揃って幽霊なんだが。

 

「そこ、せめて守護霊と言いなさい」

 

 心読むなアップ!

 

「それで? それでどんな優勝賞品なの?」

 

 と、須澄が目を輝かせて聞いてくる。

 

 まあ、国際大会の商品ともなれば相当の豪華賞品が期待できると思っているのだろう。割と子供っぽいな。

 

 だが、それに見合うだけの超豪華賞品であることは認めよう。なぜなら―

 

「参加者を輩出する神話体系のトップが協力して、世界を混乱に陥れないという条件でどんな願いでも叶える……だ」

 

 ああ、これはすごい豪華商品だ。

 

 下手をすれば聖杯を超える規模の願いを叶えらえるかもしれない大チャンス。これは見逃せんだろう。

 

 実際、三人とも結構乗り気になっている。

 

 まあ、俺は現状困ってないから優先順位を上げてもいいだろう。それ位の不幸には巻き込まれてるしなこいつら。

 

「ね、ねえ! 食費完全負担とか行ける!?」

 

「須澄、貧乏って辛いな」

 

 そんな願いが真っ先に出るとか涙出てきたぞ。

 

 せめて、そこは生活費完全負担とか言えよ。なんで食費だけなんだよ。欲がなさすぎるだろう。

 

 これも貧乏が悪い。我が弟よ、もっと欲を持て!!

 

「じゃあ、じゃあ須澄くんとアップちゃんに可愛い服着せても怒られないんだね!?」

 

「それは神々の範疇外だ。あと二人揃ってお前の方に指が―」

 

 あ、遅かった。

 

「ね、ねえ! いじめられたり無双されたりするのが大好きな人とかいるかしら!! そういうの集めてもらうっての問題ない?」

 

「切実な願い来たな」

 

 悪性と折り合いつけるって大変だよな。

 

 大丈夫。世の中には変態って意外と多いから。レーティングゲームのルールと併用すればきっと大丈夫。

 

「とにかく、とにかくね? 僕達は協力するよ」

 

 そう、須澄は笑みを浮かべる。

 

 アップも、そして頬をつねりあげられて涙目のトマリも笑顔だった。

 

「それだけのことを、兄さんはしてくれた。だから、だから僕達にも恩返しをさせてよ」

 

「確かに。アンタがいなけりゃ私達は一緒になれなかったしね」

 

「今のトマリちゃんは須澄君の守護霊だからね! 手伝うよっ」

 

 ああ、ありがたい。

 

 これでとりあえず準備は完了。

 

 ああ、思う存分暴れてやろう!!

 




そういうわけでプロローグを投下しました。

事前に説明しますが、本作はアザゼル杯を舞台にしますがそれだけではありません。……っていうかそうじゃないとすぐ追い抜いてしまいます。

ストライク・ザ・ブラッドの話だったり、リリカルなのはvividの話だったり、それからオリジナルの話だったり、そういうのを挟みながら兵夜たちのアザゼル杯を書いていこうと思っております。

……ちなみに、活動報告のアンケートは今でも受け付けておりますので、興味があるあるかたは是非ひとつどうぞ。


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アザゼル杯、開幕です!

 レーティングゲーム国際大会の開幕式、運営メンバーの一人でもある俺ことアザゼルは、こうして運営スタッフの一人として専用の特別席に向かっていた。

 

 しっかし、俺の名前がついた国際大会とか、少し恥ずかしいな。

 

 だが、こうして堂々と観戦できるのはなかなか楽しいもんだ。なにせ国際大会だからな。

 

 帝釈天の奴は自分のところの四天王を堂々と投入してチームとして参戦。リアスのところもとんでもないのを参加させて参戦。オリュンポスとアースガルズは、テュポーンまで巻き込んでチームで参戦。

 

 まだできたばかりで無茶が利くとは言え、これはまた大盤振る舞いだ。ノミネートした直後に参戦をやめたビビリもたっぷりいるぐらいだ。

 

 ああ、だがその分諦めない奴らはきっと伸びる。

 

 ヴァーリ、どうだ?

 

 お前好みの強敵達が何チームも参戦してるんだぜ?

 

 これはきっと楽しいはずだ、そうだろう?

 

 そんなことを思いながら歩いていたら、意外な奴に出くわした。

 

「お、アザゼル元総督じゃねえか。ちょうどよかった、関係者席ってどこか知ってねえか?」

 

 グランソードじゃねえか!?

 

 おいおい、こんなところで何やってんだ?

 

「お前は関係者席じゃなくて参加者側だろうが。流石に女王(クイーン)がここに来て欠席はまずいだろ」

 

 意外だな。こういうのはきちんと出席する奴だと思ったんだがよ。

 

 宮白もたぶん参加してるはずだし、早くしねえと遅れるぞ?

 

 だが、グランソードの奴はきょとんとした顔をして平然としていた。

 

「何言ってんだ? 俺は参加しねえぞ?」

 

「は?」

 

 え、おいおいちょっと待て。

 

 常識人とはいえ、自分がどこまでのし上がれるか試す為に禍の団に入った奴が、こんな激戦を安全かつ平和的に行えるチャンスを不意にするって? あり得ねえだろ!

 

「カッカッカ! つったって俺は元テロリストだからよ。今は協力してるからって、こんなイベントに積極的に参加するわけにゃあいかねえだろ?」

 

 真面目だなおい!

 

「ヴァーリも曹操も堂々と参戦してんだぜ? 今からでもチームに入れてもらって来いよ」

 

「そりゃあいつらの面の皮が厚いだけだろ。俺はもうちょっと貞淑にやるさ」

 

 こりゃ決意硬いな。今から行っても曲げたりしねえか。

 

 魔王の名持ちで一番の常識人を名乗るわけだ。柔軟かと思えば意外とお堅いところもあるようで。

 

「……次の機会があったら参加しとけよ? お前みたいな奴らが人に迷惑かけずに強者に挑める。ここはそんなところなんだぜ?」

 

 せっかく俺が苦労して作ってやったんだ。お前は冥界の英雄なんだからそれぐらいしたってかまわねえだろ。

 

 宮白の眷属なだけあって、妙なところで硬いんだから困ったもんだぜ?

 

「ま、次は考えとくぜ。とはいえ禍の団(カオス・ブリゲート)との戦いが終わって一年そこらの今はダメだな」

 

 へいへい、わかりましたよ。

 

 流石は俺らをリベラルすぎるといってくる奴の眷属だことで。少しはヴァーリの爪の垢を煎じて呑めってんだ。

 

「そんで? お前が抜けた穴はどうにかなんのかよ? 舎弟からか?」

 

「いや、あいつらも俺と同意見だ」

 

 真面目な連中だな。少しは俺達みたいに肩に力を抜けってんだ。

 

 だが、そんな状態で宮白が参戦するわけがない。

 

 十中八九戦力を確保した状態で参加してるはずだ。そうでなければおかしい。

 

「つまり、凄腕揃いってことでいいんだな?」

 

「ああ? 俺の舎弟でも勝てる奴は一割以下の連中が揃ってるぜ?」

 

 ってことは少なく見積もっても中級の上、下手したら上級悪魔クラスか。

 

 その時、俺の脳裏にある連中の影がよぎる。

 

 ………ああ、確かにあいつらなら、中級悪魔クラスなら十分倒せるな。

 

「なるほど、そういうことかよ」

 

「お、わかったかい元総督」

 

 ああ、あの野郎面白い趣向で来やがったじゃねえか。

 

 こりゃ、この大会荒れるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? その暁っていうのは今日は無理なんだな?」

 

「ああ、補習だそうだ」

 

 朝に弱いって、吸血鬼らしいといえばらしいんだがな。

 

 問題は―

 

「妹分の血を吸われて嫉妬した女の所為で学校が大打撃。その隙を突いて藍羽誘拐したテロリストが古代の超兵器を覚醒させて大暴れしたせいで、色々と単位がやばくなったらしい」

 

 あいつどんな緊急事態に巻き込まれてんの?

 

 っていうか古代の超兵器になんで現代のプログラマーが出てくるんだよ。

 

「それ、なんてロストロギアだよ」

 

「俺は神滅具思い出したよ」

 

 自己修復機能に学習しての耐性獲得とかチートだろ。しかも龍王クラスの攻撃にも耐えるとか頑丈すぎる。そんなもん二桁もあるとか驚きだ。

 

 問題は、その専門家がどれだけ頑張っても解けなかった制御コードを藍羽が数時間で解いたうえに、存在しなかった自爆コードを作ったということなんだが。

 

 あいつ本当にチートすぎる。なんとしても今後の深い関係を結ばなくてはいけないだろう。いや、本当にシャレにならないチートなんでございますが。

 

 ……あいつが異世界の出身でなければ、解析中の学園都市技術のプログラムを解析して欲しいもんだ。

 

 しっかし、想像以上にすごい数になったもんだ。

 

 須澄もこんな舞台は初めてだからか、結構テンションを上げてきょろきょろしている。

 

「人、人が多いね。参加してる人何人ぐらい?」

 

「確かレーティングゲームって16人でやるんでしょ? それが千チームぐらいいるから……うわ、一万六千人!?」

 

 アップが計算するが、確かに理論上の最大人数はそれぐらいあるだろう。 

 

「そんなに入れるなんてすごい競技場だねっ」

 

「全員連れて来てる奴やフルメンバーの人達ばかりでもないですの。でも、数千人は間違いなくいますわね」

 

 トマリと会話している雪侶の言葉が正しいがな。

 

 一人で複数の駒価値を持っている奴なんて珍しくも何ともない。

 

 イッセーに至っては一人で駒七つも埋めている。それも、転生者である俺が近くにいたことから発生するバグが原因だから本来なら歩兵の駒全部使ってるだろう。今ならそれでも足りないだろう。

 

 ちなみに、転生者による駒のバグは修正することになっている。まあ、既になっている人に関しては「それも面白い」って感じで受け入れているそうだが。

 

 助かるけど、自由すぎないか三大勢力。もうちょっとリベラル度合いを下げるべきな気もしないでもないが。

 

 ちなみに、このアザゼル杯は駒のあたりが若干緩くなってる。

 

 高位の神クラスの実力者でもなければ、本来駒価値が複数あっても一つの駒で運用可能だ。

 

 最も、プロモーションの特性上ゲームバランスが崩れかねないということで歩兵(ポーン)だけは結構厳しいけどな。それでも、本来のレーティングゲームに比べればだいぶ緩くなっているはずだ。

 

 まあ、それでも八駒全部埋めることになった須澄は割と凶悪な部類だが。

 

 能力も人数制限に喧嘩を売るような反則じみたものだ。流石にこれを他の駒で使うのはノンマナーな気がするし、須澄には兵士オンリーで行ってもらおう。

 

 そういう意味では帝釈天とかテュポーン辺りは遠慮しろと言いたいが。どいつもこいつも高位神格クラスを何人も入れてやがる。テュポーンのところの「巨人たちの戯れ」チームに至っては、次期主神のウィーザルとアポロンが入っているという反則レベルだ。

 

 次の機会があれば、神格クラスの人数制限ぐらいは入れてほしいものだ。これではほかのチームが勝ち目薄いだろうに。

 

 まあ、聖槍持ちの須澄がいれば勝算はある。やるとなってもそう簡単に負ける気はない。暁、その時は絶対に入ってもらうぞ。真祖の眷獣なら、一体いるだけでもだいぶ変わる。

 

「待っていたわよ、兵夜」

 

 と、そこに姫様が笑みを浮かべてこっちに近づいてきた。

 

「やあ宮白君。チームは準備できたみたいだね」

 

「色々あって抜けも多いがな」

 

 苦笑交じりで木場にそう告げるが、しかし準備ができたことには変わりない。

 

 もし、予定しているメンバーがフルで揃えば。

 

「勝ち目はありますよ、姫様にもヴァーリにも」

 

 ああ、勝算は十分にある。

 

 それを聞いて、姫様もまた不敵に笑う。

 

 ああ、そうだろう。そこで怒り出すようなタマじゃないだろう、貴女は。

 

「その意気よ! 私も全力をもってあなたを倒してあげるわ。彼も連れてくるし、余っている戦車の駒も必ず埋めるわ」

 

 ふふふ。あなたならそういってくれると思いましたよ。

 

 そうでなければ面白くない!

 

「……そういえば、イッセーにぃはどこに行きましたの、義姉様方」

 

 と、雪侶が辺りを見渡しながら首を傾げた。

 

 あれ? そういえばイッセーの奴まだ来てないのか?

 

「イッセーって赤龍帝だよね? 独自にチーム作って参戦するっていう」

 

「あたしもそう聞いてる。だけどそろそろ開会式じゃないか?」

 

 須澄とノーヴェも時間を確認しながらそういうが、あいつまさか寝坊してねえだろうな。

 

「どうしましょう? おっぱいドラゴンが遅刻だなんて、格好がつきませんわ」

 

「アーシア先輩とゼノヴィア先輩がいるなら大丈夫だと思いますが、少し不安になるますね」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんも少し心配そうにする。

 

 おいおい、これってまずくないか?

 

「仕方がない。ちょっと連絡を取ってみると―」

 

「―ねえ、義兄さん?」

 

 あ? なんだアップ。今ちょっと忙しいんだが。

 

「こっちの赤龍帝って、確か空飛ぶ船を持ってるとか言わなかったっけ?」

 

 ああ、漁船みたいな名前つけてたな。

 

 それがどうしたと思いながら振り返ると、アップは空を見て半目になっていた。

 

 ……まさか!

 

 振り返ると、そこには巨大な船が浮かんでいた。

 

 しかも舳先にはイッセー達がおそろいの服を着て勢揃い!!

 

 確かあのでかいドラゴンはボーヴァとか言う奴!

 

 それと、誰か見知らぬ女性もいるな。なんか仮面をつけてるせいで悪目立ちしてるんだが。

 

「イッセー! 遅かったじゃない」

 

「ごめんなリアス。ちょっと準備してたら遅くなっちゃって……」

 

 そういって謝るイッセーに、何人ものチームが挨拶に訪れる。

 

 サイラオーグ・バアル、ヴァーリ・ルシファー、曹操、匙、他にも何人も―

 

「人気あるんだな、あの旦那」

 

「そりゃもう。変態なのが難点だが、人から好かれるに値する立派な奴だよ」

 

 そういいながら、俺もイッセーに声をかけようとするが―

 

「やっほー兵夜くんー!!」

 

 後ろから瞬息で抱き着かれて、俺はつんのめった。

 

「く、久遠!?」

 

 お前、いきなり抱き着くなよ!!

 

「ふふんー! 試合であったらライバルだよー! その時はお互い全力でねー!」

 

 そう不敵な表情を浮かべる久遠の後ろから、見覚えのある顔が出てきた。

 

「まったくだ! 俺の大活躍の為の礎となるがいい」

 

「そう。俺達のハーレム街道の為の贄となるんだな」

 

 松田と元浜が煩悩に燃える男の目で、俺達を見据えながら自信満々に歩を進める。

 

「ソーナさまー! ゲームであったら容赦しませんのでよろしくお願いしますー」

 

 ……そう、今回のレーティングゲーム。久遠はあえて独自にチームを率いて参戦した。

 

 上級悪魔に昇格しているので何の問題もないし、俺もあまり驚いていない。

 

 今の久遠の戦闘能力は駒価値が何駒も使われるレベルだろう。必然的にシトリー眷属はある程度埋まってしまうはずだ。

 

 だから、あえて久遠は一人別のチームを率いた。

 

 その名もシュトリズセイバーチーム。久遠が指導している京都神鳴流の剣士達で構成されたチームだ。

 

 最も、いきなりこんなド派手な舞台に出るのに気後れしている人は多いので、松田や元浜など、駒王学園出身の異能関係者や異能力者などを入れて数を埋めているようだが。

 

「イッセーくんも負けないよー! 勝負では遠慮しないからねー!」

 

「ああ! 俺も負けないからなめるなよ?」

 

「おーおー。燃え上がってんな、オイ」

 

 そこに現れたのは小雪だった。

 

 小雪は、堕天使側のチームで参戦している。

 

 堕天使バラキエルのチームのメンバーとして参加だ。父親代わりと言ってもいいし、むしろ自分から売り込んだんだろう。

 

「こんなにファックに面白そうなのは滅多にねーしな。思う存分こっちも楽しませてもらうぜ?」

 

「……カッハハハ! そりゃそうだな、おい」

 

「実質こちらは真剣勝負なのですが。ミカエル様の名代とは言いませんがあまり楽しめないかもしれませんね」

 

 更にナツミやベルまで出てきたよ。

 

 ちなみに、二人ともそれぞれ別にチームで参加している。

 

 特にナツミのところは驚くべき構成だ。なんていうか、頭が痛くなるような感じだったり。

 

「なんか、前途が意外と多難というかなんというか」

 

 俺の愛する女達は、基本的にどいつもこいつも俺より強いからなー。

 

「まあ、兵夜君ならいい線いけると思うけどねー」

 

「うんうん。兵夜と戦うことになったら遠慮はしちゃだめだよね」

 

「ファックな作戦展開しそうで怖いけどな」

 

「実質、遠慮は致しませんよ」

 

 おいおい、もうちょっと愛する男に加減してくれよハニー達。

 

 うん、だがまあ。

 

「ああ、いい勝負をさせてもらうぜ?」

 

 こいつらの男として、それにふさわしい勝負だけはきちんとしないとな。

 

 そして、そんな俺にシルシが並ぶ。

 

「さて、それじゃあそろそろ始まるし、一言言ってあげなさい」

 

 そういって指し示すのは、俺を見据えるイッセーだ。

 

 ああ、親友。

 

「……遠慮なしだ。本気で俺はお前に勝つぜ?」

 

「ああ。俺も全力を出してお前に勝ってやるよ!」

 

 俺達は拳を打ち合わせ、そして開会式が始まった。

 




ヴァーリと曹操はグランソードの爪の垢を煎じて飲むべき。

そういうわけで、グランソードはアザゼル杯には参戦しません。こいつの性格だと散々テロやっておいてこんな大舞台に立つのは躊躇すると思ったのです。



あと、聖槍+守護霊二人の須澄や、低く見積もって龍王クラス12体(実は11体)をその身に宿す古城とかはアザゼル杯のルールでも兵士の駒全部や女王の駒を使わないと対応できそうにないと思ったのも理由ですね。兵夜も反則ギリギリなのは自覚してるのでそれぐらいのフェア精神は見せます。



そして、兵夜ラヴァーズは四人そろって別々に参加。彼女たちはそれぞれ兵夜やイッセーの難関として立ちふさがります。一度、ガチバトルさせたかったんです。


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アザゼル杯、初戦です!!

なんとかフォンフのサーヴァントは埋まりました。でも味方がまだです……(;・ω・)


 

 そして、初戦がスタートすることになる。

 

 なるのだが―

 

「いくぞ! マッスル!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「マッスル!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 それは、筋肉だった。

 

 レスラーやら相撲取りやら、もう見ていて目が染みてきそうな筋肉の塊がやってきた。

 

 普通魔法使いタイプのはずの僧侶の担当すら、ごつかった。なんでも筋力強化魔法の使い手らしい。

 

「……話には聞いてたけれど、こうして直接見るとなんていうか目に沁みそうね」

 

 シルシが目頭をもむ気持ちも分からなくはない。

 

 何ていうか、見るからに暑苦しい。

 

「……全員動きにスキがないな。筋肉も魅せるタイプじゃない。あれは気が抜けないな」

 

「見て、見るだけでわかるものなの?」

 

「まあな。筋肉付けるのにも色々あるんだよ。慣れればすぐわかるぞ?」

 

 ノーヴェと須澄がそんな会話をしているが、しかし微妙に緊張感が入らない相手だ。

 

 今回の相手は名前からしてそのまんまのレッツマッスルチーム。

 

 筋肉に魅せられた者たちの集まりで、悪魔祓いから堕天使、さらには上級悪魔はおろかフリーランスの連中まで参加している驚愕のチームだ。

 

 ちなみに堕天使は筋肉フェチが高じて堕天したらしい。なんだそれは。

 

 これも和議の恩恵かと考えてみるが、ある意味で負の側面が見え隠れしないか、オイ。

 

「とはいえ油断はできんな。中には上級悪魔クラスも数名いる」

 

 何ていうか、濃い奴多いなこの業界。

 

「ねえ、ねえ! 歩兵の担当は八人いるけどつまり雑魚よね? ボコっていい? 蹂躙していい?」

 

「うん、アップちゃん落ち着いてっ」

 

 開幕速攻からアップはアップでテンションが上がってトマリになだめられているし、こっちもこっちで癖が強いメンバーが多かった。

 

「……アップ義姉様が申し訳ありませんの。この人これでも悪癖を自覚して抑える努力をしてるので、我慢してくださいまし」

 

「ん? ああ気にすんなよ。ヴィヴィオから話は聞いてるしそれぐらいならな」

 

 ノーヴェって、ヴィヴィオの師匠なだけあって人間出来てるよなぁ。

 

「極悪非道の悪党の側近やってたんだが、意外と平気なんだな」

 

「人に歴史ありっていうだろ? あたしもそういう意味じゃあ色々あるし、まあ気にすんな」

 

 本当にできた人だ。

 

 まあいい。今回は比較的わかりやすいルールだし、入門編にはもってこいか。

 

『さて! 今回のルールはダイス・フィギュアです!!』

 

 ダイス・フィギュアのルールは俺もよく知っている。

 

 普通の六面ダイスを双方の王が同時に投げ、出た目の合計数だけ駒価値を出すことができる。

 

 その駒価値の数までなら、何人でも出すことが可能。例えば双方ともに6が出れば合計十二。兵士八人に騎士1人とか、騎士と僧侶二人ずつとか、戦車二人に兵士二人とか、いろいろと編成の自由がある。

 

『ダイス・フィギュアといえば、宮白兵夜選手によって前代未聞の大激戦が行われたことを思い出しますね』

 

『ああ、宮白とサイラオーグの激戦は、中々派手だったな』

 

 すいません、恥ずかしいので司会も解説のアザゼルもちょっと黙っててくれない!?

 

『特に、神喰いの神魔チームは、平行世界からの神滅具流出や、異世界の大規模連盟組織である時空管理局からの参戦ということもあって注目のチーム。その実力を見るには中々好都合な試合ではないでしょうか』

 

『ああ、俺もエイエヌ事件で会ったことがあるが、どいつもこいつもなかなかできる奴だ。個人的にはその時の子供の師匠やってるノーヴェってやつに興味があるな』

 

「……そんなこと言われてるが」

 

「……いや、時々面倒見てるだけだし、DSAAに参加する以上名義貸しだけってわけにもいかねぇだけだし」

 

 顔が髪並みに真っ赤だな。

 

『なお、今回宮白兵夜選手は駒価値4での参戦です。最上級に届いた悪魔としては低いと言ってもいいですが……』

 

『散々無茶したツケが出たようなもんだ。あいつ5の動乱まで改造しまくりの強化しまくりだったからなぁ。そのうえこれで最後と無茶苦茶な投薬までしてやがったし』

 

 うるせえよアザゼル! それでなおギリギリだったんだから仕方がねえだろ。

 

「兄さん、どんだけ無茶したのさ」

 

「だってフィフスの奴、エイエヌと一対一でやり合えるほど強化してんだから仕方ないだろ。遠坂の系譜としてアインツベルンの暴走は見過ごせなかったし……」

 

 うう、これでも結構気を使った上なんだぞ?

 

「流石はあたしが出れる大会。割と緩いんだなその辺」

 

「まあ、義手や義腕は認められますもの。サイボーグもギリギリOKでしょう」

 

 うんうんと、半ば呆れながらノーヴェと雪侶が納得する。

 

 ああ、意外とルールが緩いところあるよな、レーティングゲーム。流石は三大勢力の一大イベントといったところか。

 

 さて、そんなことをしている間についにゲームはスタートだ。

 

 とりあえず俺と相手の王が同時にダイスを振って、出た目は両方ともに4

 

 つまりは合計8。

 

 となると……

 

「はい! はいはいはい! 私でる!! 蹂躙する!!」

 

 ……こうなるよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に登場したメンバーを見て、会場の人々は少しどよめいた。

 

 レッツマッスルチームは歩兵を全員投入。それに対して神喰いの神魔チームも同様の歩兵を三人とも投入した。

 

 投入したのだが、なぜか会場のモニターの神喰いの神魔チーム側には、メンバーが一人しか登場しない。

 

『ああ、因みにこれはバグでも何でもない』

 

 ゆえに、事情を知っているアザゼルがにやりと笑って解説する。

 

『近平須澄の禁手は、死者の魂を取り込んで、サーヴァントのように使役できるって能力だ。あいつらは三人で出てるんじゃなくて、一人で出てるようなもんなんだよ』

 

『なるほど、悪魔の駒も死者を蘇生させて眷属として運用することもありますし、そういうこともあるのでしょう』

 

 司会がすぐにそうまとめたことで、反発的な意見はあまり出てこなかった。

 

 ある意味で死者を利用するようなことを言っているが、しかし言われてみれば悪魔も似たようなことをやっている。

 

 こと宮白兵夜も死亡してから転生した転生悪魔だ。そういうこともあるといわれては反論できないだろう。

 

『ですが、それはそれとしてレーティングゲームのルール上問題になりませんか? これでは人数制限が意味をなさないというか、使い魔の運用と同様のレベルになるのでは?』

 

『いや、今回のところは「複数体を同時運用する独立具現型神器」と同様の判断だ。そもそも聖槍の亜種禁手としてはすでに何件も出ている類でなぁ、あれ』

 

 そういうと、アザゼルは過去を懐かしむように目を細める。

 

『昔、十字軍の旅団とやり合った時に部隊を壊滅させた時に覚醒されてな。こっちも疲弊していたところに倒した連中全員復活した所為で、俺らもだいぶ数を減らしたもんだ』

 

『あの、やっぱりそんなことができるとレーティングゲーム上反則なのでは?』

 

 旅団といえば数千人で構成されている部隊だ。それらを殆ど纏めて守護霊にできるとした場合、レーティングゲームとしては反則以外の何物でもない。

 

 だが、アザゼルはカラカラ笑うと片手を振る。

 

『今のところはあれでフルメンバーだから勘弁してやれよ。これから更に増えるなら話は変わるが、あの人数なら帝釈天の容赦ないメンツに比べればかわいいもんさ。それも含めて駒価値8なんだからよ』

 

「うん、その心配はいらないからね」

 

 須澄はそういうと、むすっとした顔でアップとトマリを抱き寄せる。

 

「他の誰もいらないもん。二人だけでいいんだもん」

 

『須澄!? お前23歳の男がもんはないと思うぞ!?』

 

 兵夜のツッコミが即座に飛ぶが、しかし試合は待ってくれない。

 

『そういうことなら仕方がない! それでは第一試合スタートです!!』

 

 それと同時に、誰よりも早く動いたのはアップだった。

 

「全員まとめて、喰らいなさい!!」

 

 いうが早いか、大量の魔力弾が一斉に放たれる。

 

 ちなみに顔が真っ赤なのは性癖を満たせそうなことによる興奮か、それとも突発的な須澄の暴走に巻き込まれたことによる羞恥かは判別しない。

 

「なめるな小娘! その程度の魔力弾で我々の筋肉は屈しない!!」

 

「その通りだ!」

 

「むぅん! うなれ筋肉!!」

 

 マッスル達は一斉に受け止めるが、しかしそれこそが狙い。

 

「ええ、それは倒すためのものじゃないもの」

 

 そうにやりと笑うアップの狙い通り、魔力弾は男達を()()した。

 

「な、拘束具に!?」

 

 一瞬で拘束具へと変貌した魔力弾に、男たちは驚愕する。

 

『なんとぉー! 初手の様子見と思われたアップ選手の攻撃ですが、実は捕縛が目的だったとは! てっきりじわじわ削っていくものかと!!』

 

『あれが魔導士の魔法ってやつだ。バインド系ってやつで体系化されてんだとよ』

 

「そういうこと。そして……」

 

 相手の動きが止まったことを確認して、アップはその口元を吊り上げた。

 

 既に彼女の攻撃は本命へと移行している。

 

 気づけば、無数の魔力弾がアップの上空に展開されている。

 

「スフィアバレット、ジェノサイドシフト……」

 

 嗜虐の笑みを浮かべながら、アップはその攻撃を解き放つ。

 

「シュート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開幕速攻から瞬殺した戦いにおいて、続いて行われるのは駒価値10

 

 レッツマッスルチームは趨勢を盛り返すべく、戦車二人を同時に投入。

 

 それに対して、今回兵夜が投入したのは騎士二人だった。

 

『来ました来ました来ましたよ!! 時空管理局の管理世界から出向の、ノーヴェ・ナカジマ選手! そしてタッグを組むのは宮白兵夜選手との婚約が発表された、シルシ・ポイニクス選手!!』

 

 美少女二人に観客も沸き立つ中、司会はしかし冷静にコメントをアザゼルに求める。

 

『なんでも、桜花久遠選手をはじめとする女性陣から推薦されたとのことですが……』

 

『ベタ惚れしてくれている貴族の娘。政略結婚の相手としちゃあ上出来すぎるからな。いやぁ、理解のある女に恵まれてよかったなぁ宮白』

 

『うるせえよ!!』

 

 顔を赤くした兵夜の大声が飛ぶ中、試合は即座開始される。

 

「ここで取り戻すぞ!」

 

「相撲取りは機動性も高いということを知るがいい!!」

 

 レッツ・マッスルチームの騎士は双方ともに相撲取り。

 

 デブと侮るなかれ。相撲取りは何気に瞬発力にも優れた優駿な技量の持ち主。

 

 加えて、異形の技術でもまれている彼らの能力は間違いなくチームの中でも上位に位置していた。

 

 ノーヴェとシルシは素早くかわすが、しかし今回の会場であった遺跡風の柱が一発で粉砕される。

 

『おお! 中級悪魔クラスなら数発は必要な障害物が一発で粉砕! これは直撃したら大ダメージだぁあああ!!!』

 

 司会の的確に興奮させる実況が響く中、シルシはエストックを抜くと一歩前に出る。

 

「フェニックスの系譜である私は不死の力を持つわ。ある程度手札を出させるから、ノーヴェさんは様子をして―」

 

「いらねーよ」

 

 シルシの言葉を遮って、ノーヴェは一歩前に出る。

 

「こっちは雇われてるようなもんなんだ。その嫁さんに無茶はさせれないって」

 

 そう言いながら、ノーヴェは再突撃してくる騎士を迎え撃つ。

 

「動かず倒すなどと、なめるなよ小娘!!」

 

 騎士の一人が一気に踏み込んで一撃で撃破しようと突撃する。

 

 順当にいけば細見ともいえるノーヴェが耐えられるとも思えないのだが―

 

「あまりなめんなオッサン。あたしはこれでも―」

 

 ノーヴェの足が一瞬で閃き、騎士の側面に蹴りが入る。

 

 そしてその一撃が騎士の軌道を逸らして防御にすらなった。

 

「―強いんだからな!」

 

「ならばこれはどうだ!!」

 

 いうが早いか、もう片方が即座に組み付いた。

 

 相撲取りは組み合って戦う格闘技。必然的にここから先は彼の土俵。

 

 しかし、その瞬間騎士の体が浮き上がる。

 

 明らかに重量のある体格である相手の騎士を、ノーヴェはその膂力で持ち上げたのだ。

 

「な、俺の体重は190キロは!!」

 

「それ位なら問題ねえ!!」

 

 そして、同時にノーヴェの装備であるジェットエッジが駆動する。

 

 ローラースケート型の装備であるジェットエッジは、地面を高速走行するデバイスだ。

 

 それは大質量を抱えている状態でも劣らない。

 

 相手の失敗は体格差に油断して相手の膂力を見誤ったこと。

 

 その混乱が、手を放して仕切りなおすという判断をとるのに時間をかけてしまい―

 

「ぐぉぉ!?」

 

 そのまま急反転したノーヴェの楯とされ、壁に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合結果はノーヴェとシルシの勝利。というより、シルシはほとんど何もできなかったといってもいい。

 

『これはすごい! ノーヴェ選手! ある意味時空管理局の代表なだけあり大活躍!! 騎士の駒価値とは思えない実力だぁああああ!!!』

 

 わぁあああああ!!! と大歓声が上がる中、しかし試合は続いていく。

 

 レーティングゲームの中では初心者向けといってもいいルールであることもあり、慣れていないメンバーも特に労せずに試合を進めていく。

 

 その試合は全戦全勝。そして最後には王の対決へとなっていた。

 

「……まさか、我々の筋肉がこうも無残に砕けるとは」

 

「気にするな。この業界、体格が意外と関係ないこと多いからな」

 

 相手の王を慰めながら、兵夜は身内の筋力担当である小猫の体格を思い出す。

 

 最近だいぶ成長してきたが、しかしいまだ白音モードをしない限りロリ体形なのはいかがなものか。

 

 小猫に気を使っているのか、イッセーは未だ童貞だ。

 

 ああ、頑張れイッセー。そんな感慨を兵夜は抱きながら、前に出る。

 

「悪いが一矢報いさせてもらう! 我が筋力、そのような細腕でどうにかできると思うなよ!!」

 

「いいだろう。なら、こちらもその流儀に合わせてもらう」

 

 組み合おうとする王に対して、兵夜はあえて組合を受け入れる。

 

 どう考えても悪手だろう。

 

 宮白兵夜はテクニック・サポート・ウィザードタイプを網羅するが、パワータイプだけは専門外だ。

 

 策と武装と技量をもって戦局を変えるタイプであり、奥の手である義足があるとはいえ、単純なパワーではグレモリー眷属でも低い部類だ。

 

 しかし、その下馬評は一瞬で覆る。

 

 明らかに圧倒的な筋力を持っているだろう敵の王に対し、兵夜は見事に力比べを成し遂げていた。

 

 その光景に観客たちが沸き立つ中、王は目を見開いて驚愕していた。

 

「なんと! 細腕に見合わぬ剛力! いったい何を!!」

 

「何を言う! この俺が、どういう存在が忘れたとは言わせない!!」

 

 そう、宮白兵夜の特色の一つは多重神格。

 

 こと様々な神の多い日本の国津神の類。その様々な神々から力を与えられて神格となった宮白兵夜は必然的に様々な属性の神格である。

 

 そして、その中にはもちろん―

 

「力を司る神々も含まれる!!」

 

「まさか、あえて力の神を使って挑もうというのか!?」

 当然といわんばかりに、兵夜は全身に力を籠める。

 

「相手に対して少しは敬意を見せるさ! 何より―」

 

 そして力比べの趨勢は傾いていき―

 

「―これはゲームだ、燃える展開の方がいいだろうが!!」

 

 兵夜は王を投げ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開幕序盤のアザゼル杯。その初期の試合において、神喰いの神魔チームはストレート勝ちという好成績を収める。

 

 異世界からの実力者。そして平行世界から来たもう一つの聖槍などに注目が集まる中、彼らはこの大会の本選出場候補の一つとして、間違いなく名を集めていた。

 

 なにせ、彼らはまだフルメンバーには遠いのだ。それが中堅レベルとはいえフルメンバーのチーム相手に圧勝したとなれば、その注目度は計り知れない。

 

 そして、それゆえに時空管理局に対する注目は飛躍的に高まっていった。

 




初戦はとりあえず圧勝! まあ、割と化け物集団ですので当然といえば当然ですが、ルールがシンプルなので変な引っ掛かりがないのも大きかったですね。

ですが、今回の相手はしょせんモブ。こっから先が大変だぜ兵夜!


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祝勝会、始めます!

 

「初戦圧勝を祝して、乾杯!!」

 

「「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

 冥界のレストランで、俺達は祝杯を挙げた。

 

 ああ、まさかここまでスムーズに勝てるとは思わなかった。

 

 上級悪魔や堕天使がいる状況で、ここまで簡単にできるとは驚きだろう。

 

「掴みは完璧でしたの! これは完璧に近いスタートではありますのよ!! アップ義姉様もさあ祝杯を!」

 

「まったくね。ああ、蹂躙……最高っ!」

 

 雪侶におだてられたこともあって、蹂躙の喜びにアップが割と本気で正体をなくしかけている。

 

 どんだけ我慢してたんだ、オイ。

 

「須澄、トマリ。お前らホント首輪つけとけよな? 抑えられてないぞ、あれ」

 

「あ、あはははは……」

 

「気を付けるから安心してっ」

 

 自信満々にいうトマリの方が信用できない……。

 

 頑張れ、須澄!!

 

「それはそれとして、ノーヴェだっけ? すごかったね、アレ」

 

 須澄が言うのは二番目の戦闘の時の大暴れだろう。

 

「ま、まあな。格闘型戦闘機人としちゃぁ、あれぐらいできないとドクターにも悪いし、この映像家族も見てるし……」

 

「兄上は実にいい戦力をゲットしましたの! 流石は時空管理局の代表ですの!!」

 

 ああ、現状では時空管理局の管理世界唯一の参加者だからな。

 

 ああ、そもそもそれが目的だとは言え、これはいい拾い物だ。

 

 流石はヴィヴィとハイディの師匠。マジすごい。

 

「あらあら。これは無様な試合はいろんな意味でできないわね。……無様な負け方したら時空管理局が舐められるわ」

 

「それは大丈夫だろう。上級相手にまともに渡り合える奴がいるという時点で、なめてかかることなどできるものか」

 

 茶化すシルシを嗜める様に俺は断言する。

 

 ああ、このスペックは非常に優秀だろう。流石はヴィヴィやハイディの師匠。

 

「いや、別にそんな大したことじゃないって。……おとーさん達も見てるし、あんまり無様な試合はできないっていうか」

 

「それでも十分すごいさ。この大会に出てくるような連中なんて、少なく見積もってもどこの業界でも中堅以上だろうしな」

 

 ああ、若手四王(ルーキーズ・フォー)も既にプロで通用するほどの実力を持っている逸材揃い。それ以外の俺の知り合いが所属しているチームも、全員初戦は勝利している。

 

 神クラスと当たっていないとはいえど中々すごい。流石は対クリフォト組織D×Dのメンバーといったところか。

 

「だけど、中堅から上は流石に厳しいだろうな」

 

「うわぁ、ノーヴェさん水差さないでほしいですの」

 

 いや、ノーヴェの言うことももっともだ。

 

「確かに、フルメンバーならまだしも今の戦力だと苦戦しそうだな」

 

 なにせ優勝候補の帝釈天やらテュポーンは無茶苦茶すぎる。須澄くんのような反則一歩手前の化け物を何人も用意してるんだからな。っていうか誰かツッコめよ。

 

 あれに対抗するには、やはり暁の力が必要不可欠だろう。それ位ないと勝ち目がない。

 

「なあ、そのグランソードって人の舎弟? そいつら呼べないのかよ」

 

「全員揃って辞退された。ああ、あいつら真面目というかなんというか」

 

 ああ、あいつらの爪の垢を煎じてヴァーリや曹操にのませたい。認める運営も運営だが、もう少し……ねえ?

 

「ま、人に歴史ありっていうしな。時空管理局も反省してたら結構処罰は軽いし、かくいうあたしもそのクチだし」

 

「え、まじで?」

 

 喧嘩ぐらいしかしそうにないんだけど、サイボーグだっていうのとなんか関係あるのだろうか?

 

 いや、まあそれは聞かない方がいいだろうから聞かないでおくが、しかしさてこれからどうするか。

 

「まあ、リザーブ枠のことは後で考えるとして、だ」

 

「リザーブ、あくまでリザーブなんだ」

 

 そりゃ強い方が本命だろう。あの火力は間違いなく本選出場者最上位に届くからな、須澄よ。

 

 まあ、今は素直に祝杯を挙げるとしようか。

 

「あら、中々甘いことを言っているみたいじゃない」

 

 と、俺達にそんな声が届けられた。

 

 ああ、こんなところで聞くとは、これも和平のおかげかねえ。

 

「……なんなら奢るぜ、姉貴」

 

 俺は振り返らずにそう返す。

 

「失礼ね。弟に奢られるほど、私は困窮してないわよ?」

 

 姉貴もあっさりそう返した。

 

 今俺の後ろにいるのは宮白陽城。俺の実の姉だ。

 

 ……なぜか、ナツミとチームを組んで参戦している。

 

「なんで、アザゼル杯に参戦なんてしているのかって顔してるわね」

 

「いや当たり前だろ!! 正姫工業は表の人間世界の会社だろうが!!」

 

 なんでその警備員が続々と参加してるんだよ!! しかも姉貴と!!

 

 心からのツッコミを俺は入れるが、しかし姉貴はため息をつくと肩をすくめた。

 

「私が参戦してる理由は簡単。……全部フィフスが悪いわ」

 

「アイツは俺の姉に何をしたぁああああ!!!」

 

 またか! またあいつか!!

 

「姉君? 一体何されましたの?」

 

 あ、そうだね雪侶! まずはそれを聞かないとね!!

 

「それが能力者に覚醒しちゃって……」

 

 おぃいいいいい!!! 俺の家族はどいつもこいつも超人になってるじゃねえか!!

 

 あの野郎の所為で元浜も能力者に覚醒していたが、まさか姉貴まで覚醒するとは!!

 

 ええい! どんな能力に覚醒したかはわからないが、でもなんで?

 

「そんなこんなで犯罪発生率も上がってるでしょう? 正姫工業もそれに備えて、自社専門の対テロ部隊を作ろうって話になったのよ。それでまずは先発として、正姫工業の所属で集めて鍛える方向で―」

 

「いいや、いやいくらなんでも過激な方向に出てない、それ?」

 

 須澄がドンビキするのも当然だろう。

 

 何を考えてるんだ、あいつらは。

 

「まあ、半分お遊びみたいなものなのよ。ちょうどその時ナツミちゃんから相談受けてね。私も義理の妹の頼みだし、数合わせも兼ねて出てきたのよ」

 

「あの、姉貴? 俺がハーレム作ってる件についてのツッコミは?」

 

 うん、そういうのが起きてもいいと思ったんだけど、俺?

 

「別にいいんじゃないの? 悪魔はそういうの合法なんだから。……私も人に言えないフェチ属性あるし」

 

「それを言ったら終わりじゃね?」

 

 あるだけで問題だって。

 

「あらあら、義姉さんも割と面白い方なのね」

 

 シルシはくすくす笑うが、それに対して姉貴も苦笑を返した。

 

「まあね。まあ、だからこそいいリーダーが見つかったっていうか……」

 

「そういうことや。余りもんさかい頭数だけは入れへんとな」

 

 言葉を繋げたのは、実はあまり馴染みの無い人物。

 

 俺はその新たな人物に視線を向ける。

 

「よお、ムラマサ。姉貴が世話になるな」

 

「ああ、かまへんかまへん。元テロリストをメンバーに加えてくれる輩はあまりおらへんからな」

 

 そういってからからと笑うのはムラマサだ。

 

 なんでも、駒価値の計測上余ったので自発的にチームから降りたらしい。先輩として後輩を立てているとか。

 

 そして、そんなメンバーの一員がもう一人。

 

「やっほー兵夜ぁ!」

 

 そういって抱き着いてきたのはナツミだった。

 

「ああ、ナツミの抱き心地を久しぶりに実感できる……」

 

「うんうん一杯堪能してね! あ、シルシも元気してた?」

 

「ええ! ナツミさんも元気みたいね」

 

 ああ、最近ナツミを抱きしめてなかったからなんかほっこりする。

 

 うわぁ癒される。

 

「……冥界って、進んでるんだな」

 

「……ノーコメント、ノーコメントでお願い」

 

 ノーヴェと須澄が何か言っているが、合法なので俺は開き直る。

 

「うんうん。でも当分はシルシを大事にしなきゃだめだよ? ほら、ちゃんと抱きしめる!」

 

「え、ええ?」

 

 シルシが思わぬ展開に顔を赤らめるが、しかしナツミさんや。

 

「お前はそれでいいのか?」

 

「え? だって二年ぐらいあどばんてーじあるもん。少しぐらい埋め合わせしようって四人で決めたもん」

 

 ああ、最近忙しいからってあってくれないのはそういうのもあるのか。

 

「ボクはもっと一緒にいたいけど、シルシは兵夜のお嫁さんだもんね。ゆうせんじゅんいってものがあるでしょ?」

 

「それを言うならお前は俺の使い魔じゃないか。主人命令だからなー」

 

 そういうわけだから逃がさんぞ。

 

 ああ、可愛い女の子は癒されるなぁ。最近は仕事も忙しかったから癒しがほしいぜぇ。

 

「はっはっは。あんたの弟さんは色々と疲れとるみたいやなぁ」

 

「これが、中身の年齢も含めると年上とか嘘でしょう……」

 

 そこ、ため息つくな姉貴!

 

「天騎は天騎で武者修行の旅に出たら音沙汰無しで、兵夜は基本冥界に篭りっきり。雪侶は雪侶でイッセーくんのところに行ったり来たり。……あなた達、少しは父さんに顔見せしなさい」

 

「「……はい」」

 

 痛いところ突かれた。

 

 だが、そういえば兄貴の奴は一体どこに行った?

 

 この非常時の緊急事態の群れなら、いったん帰って報告をしてくれても別におかしくないだろうに。

 

 あの野郎、元々俺とはそりが合わなかったが、しかし何を考えてるんだか。

 

「仲が悪いのか?」

 

 ノーヴェ。心配してくれるのは嬉しいんだが、それは実に俺として応え難い。

 

「いや、なんていうか俺が何となく距離を置いているというか置かれてるというか……」

 

「私はともかく、父さんに関しては勝手に距離を置いているだけでしょう? まあ、天騎は別だけど」

 

「兄者と兄上に関しては当たりですの。性質が違う所為で反りが合わないですのよ」

 

 姉貴も雪侶もため息つくな。

 

「そう、そうなの? 割と誰とでも一定の仲は築けそうだよね、兄さん?」

 

 須澄、俺にも苦手なことぐらいはある。

 

「向こうから突っかかってくることもあるからなぁ。「何でもかんでも中途半端に手を出しすぎだな」とか言ってくるし、あの野郎は一点集中しすぎなんだよ」

 

 まったく、一点特化型なのは良いことだが、それで万能系を馬鹿にするのはやめてもらえないだろうか? 実に面倒なんだが。

 

「私からしたらあれよ。隣の芝生は青く見えるってやつ? 天騎は天騎で一つのことにしか才能ないのがコンプレックスみたいだしねぇ」

 

 そういう姉貴の顔は、まさにできの悪い弟を見る其れだったりする。

 

 ええい! なんか恥ずかしくなってきた! っていうか俺総計でいえば年上なのに何でいまだに年下扱い!

 

「うんうんっ。お義兄さんが思ってることはよくわかるよっ!」

 

 ………トマリ。

 

「有難う、おかげでどういうことかよくわかった」

 

「酷いよっ!?」

 

 取り合えず飲もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで祝勝会も終わり、俺達は再びアザゼル杯を行っていた。

 

 第二試合も順当に勝ち進んだが、しかしそのままというわけにもいかない。

 

 なぜなら、次の次の試合が割と難関だったからだ。

 

 敵対チームは斬撃猫一番チーム。

 

 ふざけた名前だが油断はできん。なぜなら、それは姉貴やムラマサ、そしてナツミのチームだからだ。

 

『それで? これが試合の様子みたいだけど、やるなあいつら』

 

 ああ、ノーヴェの言う通り俺も驚いている。

 

 異能にロクに関わってこなかったはずのただの人間のはずなのに、その戦績は一勝一敗。

 

 ナツミとムラマサに引っ張られているところはあるが、しかし最低限の役割はきちんと果たせている。それどころか一戦一戦で着実に成長しているのが見て取れた。

 

 しかも、このチーム未だに姉貴を出し惜しみしている。これは実に厄介だぞ、オイ。

 

「学園都市式の能力者は、割と能力に幅があるからな。果たしてどれぐらい強力なのかわからないのが痛い」

 

 下手したら神器以上に個性的な奴もあるからな。おかげで調べるのが実に大変なんだ。

 

 とはいえそれで一回負けていたら元も子もない。おそらく俺達との戦いでは出してくるはずだな。

 

『どう、どうするの兄さん? こっちも戦力確保した方がよさそうだけど……』

 

『ああ、暁には悪いが、そろそろ参戦してもらおう』

 

 圧倒的な火力で押し潰す選択肢が出てくるのはそれだけで戦術が楽になるからな。そろそろ一回出てもらうか。

 

「そうね、じゃあ、私が先に連絡しておくわ」

 

 そう言ってシルシがすぐに連絡に行く中、俺達は作戦を立て始める。

 

「とりあえず、警備員の多くは気の運用をメインに行っている。これはつまり身体能力の延長線上での戦闘がメインになる」

 

 考えてみれば当然といえば当然だ。

 

 警備員は警察官とは違うので、必然的に様々な制限がある。

 

 いかに正姫工業が荒事専門の役職を用意していると言っても、それはきちんと守らないといけない。

 

 其の為、彼らの多くは格闘技が中心だった。

 

 まれに電撃を出してくる輩もいるが、それはおそらく学園都市式の能力者に覚醒したものだろう。

 

 ゆえに基本的な戦闘方法は取り押さえを中心とした格闘技。そしてそのエキスパートが揃っている。

 

『単純な体術の腕だけならすごいのが揃ってるじゃねーか。これ、本当に会社の警備員?』

 

「雪侶が以前誘拐されて殺されそうになったことがありまして、それ以来父上は徹底的に警備員の戦闘能力を強化する方針になりましたの。格闘技経験者を呼んだり、PMCから教育担当を雇ったり等々。従業員の家族の問題にも介入させる気満々ですの」

 

 雪侶もそれ以来戦闘能力重視で鍛えられることになったもんな。おかげで助かってます。

 

 まあ今はそれが脅威になっているわけだが。

 

 アップ辺りは微妙に嫌そうな顔をしている。うん、これも当然。

 

『つまり全員格闘技でプロ級ってこと? 結構しぶとそうね』

 

『流石に魔剣持ちに勝てるほどじゃないよっ。だからきっと無双できるって!』

 

 そうそうトマリの言う通りだ。

 

 気の運用が可能とはいえ、所詮一般人の業界レベルだ。アップクラスなら十分無双できるって。

 

 そう、問題は―

 

「問題はムラマサとナツミだな」

 

 ああ、この二強が一番問題だ。

 

 間違いなく主力はこの二人。実際どの試合でも点取り屋はこの二人だった。

 

 そしてムラマサはルールの都合上もあったが、まだ禁手を出してない。

 

 更に言えば、超能力も本領を出してない。

 

 勝った試合はそもそも警備員達だけでも十分戦えていたし、次の試合は格闘技の団体戦みたいなルールだったので出す必要がなかった。

 

 そして、あの二人は間違いなく今回のアザゼル杯でも最上位に位置する戦力だ。

 

 逆に言えばこの二人さえどうにかできれば、難易度は比較的下の部類ともいえる。

 

「つまり、抑え込む役が必要不可欠なわけだ。……二人揃って技量もスペックも高い化け物だから、須澄だと技ではめられるし俺だとパワーで押し切られる」

 

 つまり、二人掛かりで抑え込むのが最適解。

 

「だから須澄達は三人で片方を抑えてくれ。もう片方は暁を入れれば何とかなるだろう」

 

『その間に残りをあたし達で潰せって? 結構人使いが荒い旦那だな』

 

 そういうノーヴェは、しかし割と乗り気だった。

 

『いいぜ。それなら何とかなりそうだ』

 

「そうしてくれると助かる。あとは暁が来てくれればいいだけだが……」

 

 そんなとき、ドタバタとした音が響いた。

 

「兵夜さん! 暁くんと姫柊ちゃん、またトラブルに巻き込まれたみたいよ!?」

 

 ……おのれトラブルめ!!!

 




ここでアザゼル杯はいったん中断。

ストライク・ザ・ブラッドの天使炎上編へと突入します。


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置き去りにされました!

天使炎上編スタート!!


 

 慌てて超高速艇で来た俺は、そのままの勢いで暁のところに殴り込んだ。

 

「暁! 今度は一体なんだ!!」

 

「宮白か! 来てくれたのか!」

 

 ああ、そろそろお前にも来てほしいしな。

 

 すなわちトラブルはさっさと終わらせるに限るということでもある。

 

「それで二人とも? いったいどういうトラブルなの?」

 

 シルシが冷静に二人に先を促す。

 

 ああ、俺も通信越しではトラブルが発生したということ以外は全くわかっていないから、状況が読めてないんだ。

 

 できる限り詳しく手早く教えてくれ。

 

「ああ、実は……」

 

 暁達の説明を簡潔に纏めるとこうなる。

 

 なんでも、暁が自分の正体を知っている攻魔師とかいう南宮菜月にこき使われて、つい最近起こっている魔族襲撃事件とやらの捜査……もとい討伐を頼まれた。

 

 相手の魔族は空中戦で大暴れしているので、暁の眷獣も問題なく使えると判断したらしい。

 

 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 敵の魔獣と思われる少女は、あっさりと暁の眷獣や姫柊ちゃんの雪霞狼を捌いたらしい。

 

 そんな緊急事態に事態は逆に窮地に陥ったが、しかしここで事態は更に動く。

 

 その魔族と交戦中だった他の魔族が、その魔族を攻撃したことで難を逃れたらしい。

 

 その後、その魔族は倒した魔族の何かを食べるとそのまま離脱したのだが、その魔族の顔が問題だった。

 

「……その、叶瀬夏音ってのは人間のはずなんだな?」

 

「はい。少なくとも魔族登録証はつけておりません」

 

 なるほど。つまり未登録魔族、もしくは別口の異能力者と。

 

「それで、俺達はとりあえず叶瀬の家でその養父に会おうって話になったんだが―」

 

「気持ちはわかるけど、とりあえず落ち着け」

 

 暁の言いたいことはわかるが、しかし早計だ。

 

「話に聞く限り、その手の戦闘は何度も行われていたんだろう? 向こうの方も気が付いていて放置、もしくは何らかの形で監視している可能性がある。昨日その戦闘に介入したお前らが不用意に行くのは危険だ」

 

 ああ、俺なら間違いなく警戒する。

 

「とりあえず、先ずは最低限の情報収集が先だ。藍羽に連絡を取って、最低限の情報を集めてから対応に入るぞ」

 

 そう思って振り返った時には、既に不敵な笑みのシルシが藍羽と伴っていた。

 

「そういうと思って呼んでおいたわ」

 

「……呼ばれて来たわよ」

 

 ああ、俺の女は動きが早くて助かるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで調べてみたが、あまりにも怪しいにおいがプンプンする。

 

 叶瀬夏音の養父である叶瀬賢生だが、その来歴が非常に特殊だ。

 

 アルティギア公国とかいうところの宮廷魔術師みたいな職業についていたらしい。しかし、問題はメイガスクラフト社とかいう今の職業の立ち位置。

 

 なんでも、掃除用ロボットなどを中心とした工学企業だ。一言言おう、新規事業に走るにしても突拍子もなさすぎる。

 

 っていうか、王家とかなんか不思議な気がしたんで調べてみたが、これがまたドンピシャ。

 

 ……叶瀬夏音と王家の直系の顔が似通いすぎている。

 

「これ、どういうことでしょうか?」

 

「普通に考えれば血縁者だろう。王家レベルともなれば、戯れで下女とかに手を出して孕ませた……とか普通にありそうだ」

 

 俺と姫柊ちゃんはその叶瀬賢生の住んでいるところに向かいながら、そう会話する。

 

 藍羽に調べてもらった情報によれば、アルティギア王家というのは霊媒の素質があるらしい。

 

 其の辺りも踏まえて考えれば、可能性としては……。

 

「アルティギア王家の血を利用する為に養子にした……というのが一番の可能性だな」

 

「はい。その順序で間違いないでしょう」

 

 まあ、言っては何だがよくある話ではある。

 

 よくある話ではあるが、しかしあれな話だ。

 

 まあ、悪魔の業界でも珍しい話ではないし、深入りした考えはしないようにしよう。

 

 そして、俺達はメイガスクラフトの本社に到達する。

 

 叶瀬賢生はここに住み込んでいるらしい。それに叶瀬夏音も付き合っている形になる。

 

「さて、それじゃあ俺達のやることはわかってるな、姫柊ちゃん?」

 

「はい。囮ですね」

 

 そう、俺達の目的は囮だ。

 

 謎の未登録魔族を使った大規模被害を出す乱闘騒ぎを起こしているような連中だ。当然対魔道犯罪組織である獅子王機関の存在は把握しているだろう。

 

 その獅子王機関のエージェントがいきなりやってきたと知れば、必然的に何かしらのリアクションをとってくるはず。少なくとも無視はできないだろう。

 

 俺はそんな姫柊ちゃんの護衛だ。グランソードは冥界に残しているし、雪侶は藍羽の護衛を言いつけている。そしてシルシは暁と一緒に後方待機で、千里眼で俺達をモニター中。

 

 何かあれば、事前に潜り込ませておいたPMCのフロント企業を用意している連中を呼び出す準備も万端だ。

 

「でも、暁先輩を呼ばなくてよかったんでしょうか? 私は一応先輩の監視役なんですけど」

 

「万が一社内で戦闘になったら被害が甚大すぎる。この手の事業は知っているのはごく一部って相場が決まってるしな」

 

 そう、おそらく大半の社員は事情を何も知らないだろう。

 

 そして暁が戦闘をすればほぼ確実に桁違いの被害が発生する。

 

 無意味な犠牲者を出すわけにはいかないからな。それに暁の面倒を見ているとかいう攻魔師に知られるとやばそうだ。

 

「一応言っとくぞ。これ、本来ならその那月ちゃんってのに伝えた方がいいことなんだからな」

 

「はい。黙って協力してくれている宮白さんには本当に感謝してます」

 

 まあ、だからこそ姫柊ちゃんにもこの危険な役を引き受けてもらうわけだが。

 

「とりあえず、防毒用の礼装は渡しておくからつけておくように。応接室に見せかけたガス仕様の処刑部屋とかあったら面倒だからな」

 

「はい。相手は雪霞狼や真祖の眷獣を無効化した相手を保有する組織、油断は欠片もできません」

 

 うん、そういうわけで俺達は中に入る。

 

 相当に有名企業らしいメイガスクラフトの社内を見渡しながら、俺は魔力的な通話でシルシに確認をとる。

 

―トレースできているか?

 

『ええ、それと新情報よ』

 

 新情報か。流石は藍羽と言っておくべきか。

 

『メイガスクラフトは外国の軍に対してかなりの数のロボットを発注しているわ。……掃除用のロボットをね』

 

―十中八九名目だな。

 

 なるほど、意外と掃除用ロボットの業界は儲からないらしい。

 

 それで軍事転用を目論んでいると言ったところだろうが、この様子では失敗した可能性があるな。

 

 だが、その謎の未登録魔獣は話が別だ。

 

 龍王クラス以上の出力を持つ攻撃すらいなせる存在。しかもおそらく人体改造によるものだ。

 

 劣化品であろうと量産する術が確立すれば、間違いなく生物兵器として破格の性能を発揮することができるだろう。

 

 それに一発逆転を賭けている……といったところか?

 

「……宮白さん。どうもおかしなことが起こっているようです」

 

 と、姫柊ちゃんの言葉で俺は我に返る。

 

「ああ、藍羽も色々と情報を掴んでくれているようだ。……それでそっちのおかしなことって?」

 

「それが、私達はいきなり押しかけているはずなんですが、獅子王機関の名を出したら承っていると」

 

 ふむ。

 

 つまり、獅子王機関は既に状況を把握しているのか?

 

 それとも別件が偶然重なったのかわからないが、とにかく警戒はした方がいいな。

 

「後で獅子王機関に連絡した方がいいな。この後来る本命の機関の人間に迷惑がかかるし」

 

「そうですね。そうなると、南宮先生にも連絡が行きかねませんが……」

 

「つってもタイミング的に既に掴んでるみたいだしなぁ」

 

 これは遅かれ早かれ時間の問題か。

 

 ああ、少し早く動いた方がよさそうだが―

 

「お待たせいたしました」

 

 ふむ、もう来たか。

 

 そこにいるのはグラマラスな女性。おそらく秘書か何かだろうが……。

 

―シルシ、完璧に黒だ。この女からは血の匂いがする。

 

『わかったわ。兵員を動かすわよ』

 

 ああ、姫柊ちゃんは経験の少なさから気が付いていないが、これは裏関係の職業出身だ。

 

「私はベアトリス・バスターと申します。叶瀬賢生の、秘書のようなものを務めております」

 

「始めまして。こちら、獅子王機関の姫柊雪菜です。私は民間協力者の宮白兵夜です」

 

 表面上の挨拶をしてから、俺達はすぐに本題に入るがうんヤバイ。

 

 なんでも叶瀬賢生は娘と一緒に絃神島の外の研究施設にいるから、そこまで来たらどうかとか言ってきた。

 

 はっはっは。そんな島の外に態々設置するような施設に民間人をアポなしで入れるとかあるわけないだろ馬鹿野郎。

 

 うん、これは罠だ。

 

『一応船の用意はしておくわ。それと、孤島の置き去りとかされても姫柊ちゃんに手を出さないように』

 

―わかってて言ってるだろうが一応言うぞ。暁に悪いっつの。

 

 さて、虎穴に入らずんば虎子を得ず……か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜間の運用など考えられてない簡易な飛行場。

 

「俺はロウ・キリシマ。ベアトリスの使いっぱしりみたいなもんだ」

 

 何ていうかだらしなさそうな雰囲気の男の飛行機に乗せられて、俺達は運ばれているわけだが―

 

 ああ、いつこいつごと巻き込んで撃墜されてもおかしくないので、警戒は怠ってない。怠ってないけど―

 

「姫柊ちゃん? 大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です! 私は獅子王機関の剣巫ですから!!」

 

 全然大丈夫に見えない。

 

 そういえば、ラージホークでエイエヌの本拠地に殴り込みをかけるときも目を閉じていたような気がする。

 

 とはいえ、これは俺がどうこうするべき問題ではないというか、いっそのこと暁も連れてくるべきだったかと思うような気もするというかなんというか。

 

 うん、頑張れ姫柊ちゃん。

 

―それで、詳しい情報はわかったか?

 

『それについては現在調べている真っ最中ね。そっちこそ、まさかこの窮地にかこつけて暁くんから姫柊ちゃんを寝取ろうなんて思ってないでしょうね?』

 

―その手のジョークは聞き飽きたよ。

 

 シルシはいい女なんだが、この手のジョークが好きなのが困りものだ。

 

 人の女を寝取るほど俺は悪趣味じゃないっての。

 

『ああ、それとアルティギアの件なんだけど、その暁くんが興味深い話を聞いたそうよ?』

 

 なんだ? 暁はそういうのに詳しくなさそうな気がしたが。

 

『なんでも、ちょっと前のテロリスト事件で関わった煌坂紗矢華って人が、アルディギアの要人を護衛するって任務を受けたけど合流前に行方不明になったと、暁くんが電話で聞いてたらしいのよ』

 

―なあ、その煌坂ってやつ、まさかと思うが……

 

『可能性はありそうね』

 

 獅子王機関は、暁にどれだけ嫁を提供する気なんだ?

 

 いやいや、問題はそこじゃない。

 

 アルディギアってことは、つまり叶瀬ちゃんの関係者の可能性がでかいということだろ?

 

 それってつまり、今回の件と繋がってる可能性だってある。

 

―シルシ、スマンがその煌坂とかいうのに確認を取るように暁に行ってくれ。……あ、その前にそろそろ到着するっぽいからトレースよろしく。

 

 思ったより時間が経っていたらしく、何時の間にか島が見えていた。

 

「……あれが、その研究施設か?」

 

「ああ、俺達は金魚鉢って呼んでる」

 

 ……研究施設に金魚鉢?

 

 これは、既に待ち構えていて戦闘が行われるパターンとかか?

 

「姫柊ちゃん、そろそろ気合を入れなおした方が……」

 

 あ、駄目だ。魂抜けてる。

 

 これ、もしかして死んだんじゃないか?

 

 いやいやいやいや。いかにこの業界もインフレ高いとはいえ、俺も仮にも神だ。

 

 なんとしても生き残らなければならないだろう。まだアザゼル杯も序盤の序盤なんだぞ?

 

 そんなことを考えながら、俺達は島に降り立った。

 

 すぐに魔術を使いながら周囲を精査するが、研究施設らしきものは近くにはないぞ?

 

「姫柊ちゃん、悪いけど警戒フルで。これ間違いなく罠だ」

 

「そ、そうですね、大丈夫です、私は獅子王機関の剣巫ですから……」

 

 あ、駄目だ。これ俺がフォローしないと。

 

 おっと、もしかしたらあのロウとかいうのも使い捨てにされてるかもしれないから、一応声をかけておくか。

 

「ああ、アンタも危ないから逃げた方が―」

 

 ……あれ? 飛行機がない。

 

 視線を横に向けると、そこには飛び立った飛行機が。

 

「まさか、こう来るか」

 

 ああ、まさか捨てるとかいい度胸だ。

 

 だがそれは俺には通用しないのだよ、哀れな。




普通なら緊急事態にもほどがありますが、ここにいるのは兵夜(千里眼トレース中)ですので……。

え? 模造天使の余剰次元薄膜とかあれ使えば余裕? はっはっは。そんな原作通りのままにするなんてあるわけないじゃないですか


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模造天使とは一体何なのか

 

 暁古城とシルシ・ポイニクスは、念の為に兵夜が用意していたPMC(所属人員全員悪魔)の用意した高速艇で、金魚鉢まで即座に向かっていた。

 

 そして、暁古城は今大絶賛剣を突き付けられていた。

 

「どういうこと暁古城! 雪菜があなた以外の男と一緒だなんて聞いてないんだけど!? しかも無人島で二人きりって、羨ましいんだけど!?」

 

「仕方ねえだろ! あの場で戦闘する可能性があるから、俺は危険すぎるって言われたんだから!!」

 

 煌坂紗矢華。獅子王機関に所属する攻魔師の1人であり、かつての姫柊雪菜のルームメイト。

 

 恐ろしいレベルで雪菜を溺愛しており、其の為古城は一度殺されかけたことがあるほどだ。

 

 ……ちなみに、古城はそんな紗矢華にフラグを立ててしまっていることに気が付いていない。

 

 鈍感すぎて刺されないか不安になるものも数いるが、今は別の理由で刺されそうな状況になっていた。

 

「……とりあえず落ち着きなさい。あと兵夜さんは略奪愛とかしないから大丈夫だから」

 

 見かねたシルシが止めに入り、もう一度懇切丁寧に事情を説明する。

 

「……ってことは、もしかして私があそこに置いてけぼりにされかけたってこと?」

 

「やっぱりあなたが関わっていたのね。それで? 一体どういうこと?」

 

 シルシとしてはそこは確かめておく必要があるだろう。

 

「ええ、私も詳しくは聞かされてないんだけど、護衛する予定だったアルディギアのお姫様は、その叶瀬夏音に会いに来るのが目的だったのよ」

 

 それに関してはまあ納得である。

 

 既にアルディギアの王族と夏音の顔つきが非常に似ているのはわかっている。

 

 王家との関係がある可能性は既に分かりきっていたが、まさかこんなところでも繋がりがあるとは。

 

「それで、行方不明になった理由は一体何なの?」

 

「生存者の話では、移動のために使用していた飛行船が魔族に襲われたらしいわ。槍を持っている吸血鬼と、獣人の二人組だったそうなんだけど」

 

「……たった二人で王族を拉致しようとしたの? 相当の腕利きの護衛がいるでしょうに」

 

 シルシも貴族の出であるゆえにそれは理解できる。

 

 上級悪魔ならば大抵が眷属悪魔という直属の部下を持つものだ。そしてそれは基本戦闘能力で選ばれる。

 

 つまりは護衛ということだ。そしてそれは彼らが動かせる悪魔の中でも有数の実力者になる。

 

 ましてや人間の王族ともなれば戦闘能力が高いというわけではないだろう。必然的に護衛の戦力は精鋭が選ばれるはずだ。

 

 それを突破するとなれば、必然的に相当の腕利きだろう。

 

 それを想像して苦い顔をする二人を見ながら、古城はおずおずと手を挙げた。

 

「なあ、それでその王族ってのはどうなったんだ?」

 

「それはわからないわ。生存者の話では脱出ポッドに乗せたって言ってたんだけど」

 

 つまり、生死不明の状態ということだろう。紗矢華の言葉を聞いてシルシはそう考えた。

 

 とはいえ、王族の脱出ポッドともなれば普通に考えて救難信号の発信装置は用意されているはずだ。

 

 それが絃神島の近海で撃沈されたのになされてないということは……。

 

「既に確保されてるって考えた方がいいのかもしれないわね」

 

 もしくは、少ない可能性だがその王女とやらが自分で発信機を切っている可能性だ。

 

 追撃を考慮してそう判断してくれているのなら、まだ安全な可能性はあるのだが……。

 

「一応聞くけど、その王族というのはどういう人物なの?」

 

 もしかすると今回の事件に関与している可能性もある。

 

 場合によってはついでに捜すのも考えるべきと考えながらのシルシの言葉に、紗矢華は一瞬だけ躊躇したがすぐに答える。

 

「ラ・フォリア・リハヴァイン。北欧アルディギアの第一王女よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、高速艇は金魚鉢へと到着した。

 

 合流用に魔術的発信機のすぐ近くに強引に乗り付けた船から、一個分隊の歩兵戦力が即座に展開。

 

 そして、それより早く古城と紗矢華は飛び込んだ。

 

「姫柊、無事か!?」

 

「大丈夫、雪菜!!」

 

 雪菜と、そして優先順位は低いが兵夜の心配をした古城達の目に衝撃的な光景が飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォリりん、姫柊ちゃん。南海魚の磯鍋だ。暑い時に熱いものを食べるというのも乙なものだから早めに食べるといい」

 

「暖かいものは数日ぶりです。大義でした兵夜」

 

「あ、あの、先輩と紗矢華さんが見てるんですが」

 

 出来立ての磯鍋を囲んでいる、兵夜と雪菜。そして紗矢華が護衛する予定だったラ・フォリアの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんじゃそりゃぁああああああ!!!」」

 

 奇しくもシンクロツッコミを入れる二人に、兵夜は笑顔で発泡スチロール製のお椀を出す。

 

「まあとりあえず食え。今のうちに飯食っておかないと後が大変だぞ?」

 

「兵夜さん。私の分はあるのかしら?」

 

「安心しろ。二十人分作っておいた。これならギリギリ足りるだろう」

 

 シルシと兵夜は長年の夫婦を思わせるような会話をしているが、しかし古城と紗矢華にしてみればたまったものではない。

 

「そうじゃねえよ! っていうかそんな料理道具どこから出した!!」

 

「忘れてないか暁。俺は四次元ポケットを持っているようなものだぞ」

 

 そういえば、この男はどこからともなく大量のレーションを取り出したりしていたことがあった。

 

 それなら料理道具を持っていても全くおかしくない。冷静に考えれば普通に思い当たるべきだった。

 

 しかし、問題はそれ以外にある。

 

「って、っていうか宮白兵夜……さん?」

 

「ああ、アンタが煌坂か。それでなんだ?」

 

 さっさとお椀を受け取ってほしいという感情を込めながらの兵夜の質問に、紗矢華は震える声で指を突き出す。

 

「なんでこんなところにラ・フォリア王女がいるのよぉおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、大体事情は分かった」

 

 頭痛を堪えながら、古城は兵夜達の説明をさらりと告げる。

 

「この島に放り出されてから、お前が使い魔で全方位探査したら救難ポッドを発見したんで、とりあえずそこに向かったら出くわしたと」

 

「ああ、フォリりんから事情を聞くのはとりあえず合流してからだと思い、とりあえず飯の準備をしておこうかと思ってな」

 

 極めて簡略的な説明を終えながら、兵夜達は夕食を開始した。

 

「っていうかフォリりんってなんだよ」

 

 一国の王女にそんな呼び方とかどうだよ、と言外ににおわせたツッコミだが、肝心のラ・フォリアは全く動じず笑みすら浮かべる。

 

「日本では私のような名前にはそういう愛称なのだと調べました。他国の文化を学ぶのも王族の責務です」

 

「安心してくれ。俺は自陣営の政治のトップを「たん」づけで呼んでも怒られない男だ。当人から許可をとっているのなら何の問題もない」

 

「セラフォルー様はむしろ人にレヴィアたんと呼ばせたがるから例外じゃないかしら」

 

 王族、成り上がり、貴族の三人の上流階級が揃って平然としているのを見ると、実は上流階級とはフレンドリーなのかもしれないと思い始めてくる古城だったりする。

 

 実際、吸血鬼の貴族であるディミトリエ・ヴァトラーもフランクだったなぁと思いながら、古城は磯鍋を口に運んだ。

 

 他にも森で見つけたハーブを使った魚の蒸し焼きや、樹液を煮詰めて作ったシロップを使ったフルーツポンチなど、あえてその辺りで取った材料で作った料理で割と豪勢な食事となっている。

 

「……さて、それじゃあそろそろ話を纏めよう」

 

 食事の手を止めながら、兵夜はラ・フォリアに視線を向ける。

 

「現在、そこの姫柊雪菜の同級生である叶瀬夏音が未登録魔族に近しい存在となっている。そして養父の職場に向かった俺と姫柊ちゃんはそこの煌坂と勘違いされてこんなところに投げ捨てられた」

 

 それに関しては不幸な行き違いもあるが、しかし問題はそれどころでないのはわかりきっている。

 

「煌坂はフォリりんの行方不明を受け、その目的であった叶瀬夏音に接触する為に連絡を入れた。そして、彼女とフォリりん達の顔立ちは非常に似通っており、彼女の養父は元アルディギアの宮廷魔術師」

 

 どう考えても関係があるとしか思えない。

 

「王女、事情を知っているのなら教えていただけないでしょうか?」

 

「個人的にもお願いするわ。ここまで来たなら少しぐらい知っておきたいわね」

 

 紗矢華とシルシの言葉を受けて、ラ・フォリアもまた食事の手を止める。

 

「そうですね。ではまず私と夏音の関係から話しましょう」

 

 そこからの話は、兵夜の推測がほぼ当たっていた。

 

 夏音はラ・フォリアの祖父である先代国王とアルディギアに住んでいた日本人との間に生まれた子供だった。

 

 つまり夏音は王位継承権はないが、傍流どころか直系の王族である。

 

 ちなみに、ぶっちゃけ不倫である。現在祖母である王太后は怒り心頭で夫を問い詰めていると同時に、その日本人とは友人だったらしくすごく気にしているらしい。

 

 そんな逆説的に情けない前国王の話を聞いて、シルシははあとため息をついた。

 

「あらあら、いっそのこと重婚を認める法律を作ればよかったのに。それなら兵夜さんは責任取って嫁にしてくれたでしょうに」

 

「当然だ。そもそも俺は不倫はしない」

 

「すいません。脱線してます」

 

 夫婦漫才にツッコミを入れた雪菜の言葉で話は戻し、そして続く。

 

 とにもかくにも、前国王の腹心が天寿を全うした時の遺言でそれが発覚し、今アルディギアは割と大騒ぎ。

 

 とりあえず放っておくわけにもいかないと、ラ=フォリアが代表として迎えに来たのだが、まさにそのタイミングで襲撃を受けたのである。

 

「叶瀬賢生やメイガスクラフトは、おそらく王族の霊媒体質。彼はあなた方も知っての通り宮廷魔導技師。おそらく実験台にする為に夏音を引き取ったのでしょう」

 

「その辺りはおおむね想定通りか。……それでフォリりん、叶瀬賢生がどんな術式をかけるつもりなのかについての心当たりは?」

 

 問題はそれだ。

 

 それが夏音を化け物へと変えた元凶なのはほぼ確実。

 

「メイガスクラフトはおそらくその術式の軍事転用を目論んでいる。藍羽が調べた情報から推測すれば、メイガスクラフトは割と経営不振な上、軍事的なものと思われる取引もほぼ失敗と見ていいだろう」

 

 ゆえに、叶瀬賢生の術式で一発逆転を目論んでいるのだろう。

 

 おそらく賢生の術式は金が掛かる為、彼もそれを受け入れたのだろう。

 

 古城は、その術式の影響で変質したと思われる夏音の姿を思い出して眉をしかめる。

 

「俺達が見たとき、叶瀬は怪物のような姿に変わっていて、同じような奴と殺し合ってた」

 

「そうですか。やはり賢生は模造天使(エンジェル・フォウ)を」

 

 それは、賢生がアルディギアで研究していた術式の名前。

 

 人為的な霊的進化を引き起こすことで、人間をより高次元の存在へと生まれ変わらせる術式だった。

 

「やれやれ。天使って意外と俗っぽい生き物なんだがねぇ」

 

「まあ、そちらの天使は割とクリーチャーだということで納得するしかないわね」

 

 そう言いながら、兵夜とシルシは立ち上がる。

 

 それが意味するところを察して、古城達も警戒心を強めた。

 

「……あれですね」

 

 雪菜が雪霞狼を展開しながら戦闘態勢をとる先、そこには一隻の船をバックに迫る、数隻の揚陸艇があった。

 

「私を確保しようとしたものは、メイガスクラフトの機械人形(オートマタ)だけでした。遠慮はいりません、暁古城。纏めて眷獣で―」

 

「駄目よ王女様。……中にあなたとそっくりの子がいる」

 

 ラ・フォリアの言葉を遮って、シルシが目を細める。

 

 彼女は世界を見通す一歩手前の高位の千里眼を保有する存在。その目が捉えたというのならばそれは確定事項。

 

 そして、こんなところに態々送り込んだということは―

 

「最終テストを俺達で行おうって腹か、外道が……っ」

 

 兵夜はそういうと、躊躇することなく赤い龍の鎧を展開する。

 

 暁古城の眷獣は、少なく見積もっても龍王や魔王クラスの火力を持つ。

 

 それをやすやす突破するような模造天使が相手となれば、防戦を中心にするにしても相当の準備が必要だった。

 

 決戦の、時は近い。

 




兵夜は四次元ポケット持ってるようなものですので、孤島に置き去りにされた程度では話手ようがないのです。







それはそれとして、フリーダムなトップに振り回されたせいでフリーダムな王女にもある程度対応ができているあたり、敬虔って大事。


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模造天使、舞う

 

 揚陸艇に対して警告も兼ねた威嚇射撃が放たれ、そして揚陸艇は離れた所に上陸。

 

 そして、機械人形(オートマタ)が、現れて分隊と戦闘する中、俺達は回り込んで強襲を仕掛ける。

 

 速攻で考える辺りではまあ普通の作戦だから、当然それも読まれていたようだ。

 

 そこにいたのは服装を変えて性格の悪さを堂々とさらけ出す格好になったベアトリス・バスラ―と、棺桶らしきものを抱えているロウ・キリシマ。そして、白衣の男だった。

 

 流れから考えればその正体は簡単に想定できる。

 

「久しぶりですね、賢生」

 

 フォリりんが鋭い視線でその男を見据える。

 

 ああ、やっぱりあいつが叶瀬賢生か。間違いないとは思ったよ。

 

「殿下におかれましてはご機嫌麗しく。……七年ぶりでございましょうか。お美しくなられた」

 

 恭しく胸に手を当てて一礼する賢生だが、しかし嫌味にしか見えないな。

 

 メイガスクラフトが態々襲ったってことは、質の悪いことを目論んでいただろうに。

 

 それ位のことは皆わかっているのか、全員表情が鋭い。

 

 特に護衛役だった煌坂は機嫌が悪く、躊躇なく持っていた剣の切っ先を突き付ける。

 

「よく言ってくれるわね。その王女を襲ったのはあなた達でしょう」

 

「それはメイガスクラフトの連中が勝手にやったこと。その件について私は一切関与していない」

 

「まあそれは認めるぜ。協力関係といったって、このオッサンも模造天使(エンジェル・フォウ)が爆弾代わりにしかならねえってことを言ってなかったしな」

 

 ロウ・キリシマがそう告げるが、しかしそれにしたって論外だ。

 

「どちらにせよ、実験台にしている少女の姪に対してやる態度じゃないとは思わないか? 叶瀬賢生」

 

「君が誰かは知らないが、私は夏音をないがしろにしたことはない。夏音は私にとっても姪だからな」

 

 ……なんだと?

 

「フォリりん、それ本当?」

 

「その通りです。夏音の母親は賢生の親族。それはすでに調べがついてます」

 

 シルシがすぐに聞いてくれたおかげでそれはわかったが、しかしそれにしたってこれはないだろう。

 

「善意とは押し付けるものという言葉があるし、それについて一理あるのは認めよう。だが非常時でもないのに当人の意志を確認せずの人体実験はいきすぎだ。……勝手に改造される人の気持ちを全く考えてない。背中に勝手にGを入れられたものの気持ちがお前にわかるか?」

 

「……なんか、勝手に改造されたことがあるような口ぶりなんだけど」

 

「いや、こいつは自発的に改造している奴のはずなんだが」

 

「二人とも、気持ちはわかりますが脱線してます」

 

 姫柊ちゃん、俺の所為で脱線してごめん。

 

 あと煌坂。お前はアザゼルの問題人っぷりを知らないから言えるんだ。それと暁、確かにそうだが今は余計だ。

 

 それはともかく!!

 

「一応言っておくが、既にメイガスクラフトの裏帳簿は善意の密告者があらゆるところにばらまいている。もうメイガスクラフトは終わりだと思うから投降しろ。今なら引き渡す前に美味い飯ぐらいは用意してやろう。弁護士代も払ってやるぞ?」

 

 ああ、これは一応本気だ。

 

 藍羽によってありとあらゆる情報をすっぱ抜かれたメイガスクラフトはもう終わりだ。幸運に恵まれようと事業の縮小は免れないだろう。

 

 使いっパシリはその恩恵には与れない。ここで切り捨てられるだけだ。

 

「このクソガキぃ……っ! 下手な攻魔師よりできる戦力をあっさり用意していたり、明らかに場慣れしてる雰囲気ってのはどういうことだよ! あんたみたいな奴がいるなんて聞いてないよ!!」

 

 バスラーは心底むかついているのは歯ぎしりしながらこっちを睨みつける。

 

 ああ、流石に想定外だろう俺達の存在は。そうでなければもうちょっと苦戦してたかもしれないな

 

「甘いわね。私の夫は第四真祖もびっくりの化け物達相手に死線を十は潜り抜けているの。たかが落ち目の会社相手にやられる人じゃないわ」

 

「ああ、シルシもっと褒めて。でも泣きたい」

 

 ホントなんで学生がそんなことしなけりゃならないんだよ。

 

 後半ほぼ神話の闘争だよ? なんで俺がそんな目に……っ。

 

 まあ、それはともかくこいつらは既に詰んでいる。

 

 しかし、ロウ・キリシマは余裕の表情を浮かべていた

 

「泣いてるところ悪いんだけどよ。そっちについてもあてがあるんで、模造天使(こいつ)さえ完成してりゃぁ逃げるあてはあるんだ。……ってわけで、最後のテストといこうや」

 

 チッ! つまりは真祖を相手にテストしようって腹か!

 

「なるほど。真祖を倒すだけの生体兵器の作り方さえあれば、様々な組織が拾ってくれるというわけですか。……賢生、つまり夏音を連れてきてますね」

 

「その通りです殿下。我々が用意した模造天使の素体は七人。夏音はこれらの内三人を自ら倒して霊的中枢を取り込みました」

 

 チッ! 例の戦闘とやらはそれが目的か!

 

「おい、つまりどういうことだよ?」

 

「簡単に言えば蟲毒の応用よ、暁古城」

 

 煌坂、たぶんそれだけだと暁はわからない。

 

 仕方ないので、俺はざっくり説明する。

 

「蟲毒っていうのは、毒を持った生物同士を殺し合わせると最後に生き残った生物が最も強い毒を持つという呪術の一つだ。この場合、戦わせる壺は絃神島だな」

 

「……模造天使を毒虫扱いされるのは心外だが、その説明で大体あっているといっておこう」

 

 賢生は静かにそれを認める。

 

「直接倒した三人と、それまでに敗北した三人を含めて六つの霊的中枢を夏音はその身に宿している。そして夏音本人が生まれ持つ七つの霊的中枢を合わせて合計十三。それらを結びつける小径(パス)は三十。それだけあれば、人間が持つ己の霊格を一段階引き上げるのには十分だ」

 

「その為に、叶瀬さんは自分の同類を……!」

 

 無感情に告げる賢生の言葉に、姫柊ちゃんには怒りの表情が浮かぶ。

 

 ああ、俺も人のことは言えないが外法といって差し支えないだろうな。

 

「まあいい。とりあえず無力化すればそれでいいだけの話だ」

 

 面倒だからすぐに終わらせよう。そして終わったら無人島でバカンスだ。後始末は絃神島の連中に任せる。

 

 ああ、夏音って子は何とかしないといけないな。最悪フォリりんに頼んで亡命させるか。

 

「だがなぜフォリりんを国際問題覚悟で狙う? 実験台は七人も確保してるんだから、そこからデータが取れるだろうに」

 

「そう言いたいんだけど、改造済みの叶瀬夏音からは細胞が抽出できないのよねぇ。そんなときにちょうど親族が来てくれたから、殺してでも持って帰って細胞を取り出したいってワケ」

 

「企業の走狗如きが、身の程をわきまえなさい」

 

 ふむ、流石は王族。なんていうかオーラが違う。

 

 だがバスラーも負ける気がないのか、歯を剥いて笑みを浮かべる。

 

「世間知らずな雌豚ねぇ。あとで死んだ方がマシってぐらい気持ちいい思いさせてあげる」

 

 その言葉に反応するかのように、賢生は端末を起動させる。

 

 そして、後ろのコンテナが開いた。

 

 そこにいたのは一人の少女。フォリりんそっくりのその少女の顔は、既に顔写真で確認している。

 

「叶瀬!!」

 

 古城の叫びに応えるかの様に、叶瀬夏音は目を覚ます。

 

 だが、その表情は明らかに無表情。

 

 これは、まずいな……。

 

「シルシ! 戦闘準備!! 取り押さえるぞ!!」

 

「仕方がないわね。やっぱりグランソードを連れてくるべきだったかしら」

 

 まさか最強の吸血鬼を実戦テストに使うとは。

 

 あほというか度胸があるというか。勝算はちゃんと考えてるとは思うけどな。

 

 とはいえ叶瀬夏音……否、模造天使は不揃いの化け物な翼を展開して、空を飛ぶ。

 

 ああ、これはマジで疲れる展開になりそうだ。

 

「貴女はそれでいいのですか、賢生」

 

 フォリりんの言葉に、賢生は何も答えない。

 

 ただ、端末を操作して戦闘開始の言葉を告げる。

 

「機動しろ、『XDA-7』。最期の儀式だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闘うしかない状況に対して、真っ先に動くのは宮白兵夜と煌坂紗矢華。

 

 戦闘経験がそこそこあるが故の即座の反応で、牽制も兼ねた攻撃を放つ。

 

 光の槍と呪術を纏う矢は躱そうと思えば簡単に躱せる程度の速度だが、しかし模造天使は一切動かない。

 

 動かないまま、しかし光を放ちあっさりと受け流した。

 

「……この波動、雪菜の神格振動波駆動術式と同じ!?」

 

「一緒にしてもらっては困るな」

 

 驚愕する紗矢華を不出来な生徒として扱うかのように、賢生は無表情で告げる。

 

「同じ人の手から作り出されたものでも、人間という不純物の一切を取り除いた模造天使が放つのは真の神の波動だ。神格振動波駆動術式とは格が違う」

 

「ならなおさら負けられないな」

 

 兵夜は更に追加で攻撃を放つ。

 

 展開するのは高密度の呪詛。死亡するような類ではないが、喰らえば当分は寝たきりになりそうな威力の呪術だ。

 

 神の権能すら使った呪術を前に、しかし模造天使は躊躇せず波動を高める。

 

 一瞬の拮抗の後に、呪術は霧散した。

 

「……殺さないように加減はしたが、まがい物の天使如きに弾かれるとは流石にショックだな」

 

「……一瞬だが模造天使の『余剰次元薄膜(EDM)』を突破するとは。確認されているどれとも違う異能といい、貴様はA案件の産物か」

 

 その言葉に、兵夜は眉をしかめる。

 

 よくわからないが、しかし推測はできた。

 

 そして、その推測を裏付けるように雪菜が走りながら声を飛ばす。

 

「獅子王機関がエイエヌ事変につけたコードネームです! ですが、異世界からの存在であることは最重要機密だったはずですが……」

 

 そう言いながら雪菜は賢生を狙う。

 

 一流の戦士達の攻撃すら通らないのなら、敵を制御する者達を抑えるだけ。

 

 だが、そんなことは向こうも承知の上だった。

 

「ま、賢生レベルの空間術式の使い手が見ればわかるってことよ。確かにそれなら納得だしねぇ!!」

 

 そう言いながら、バスラ―は一振りの槍を呼び出すと即座に雪菜に襲い掛かる。

 

 馬鹿正直にまっすぐ突き出された槍を雪菜はあっさりと弾き飛ばす。

 

 そしてその一瞬で雪菜は相手の力量を理解する。

 

 典型的なスペック便り。特に武術を習得しているわけではない。

 

 ならば雪菜が負ける道理がない相手であり、しかし相手もまた剣巫を相手にして勝てると自負する相手。

 

 弾き飛ばしたその隙を突いての一撃を前に、バスラ―は余裕の哄笑を上げる。

 

蛇紅羅(ジャグラ)!! 串刺しにしてやんな!!」

 

 次の瞬間、まるで蛇のように槍が勝手に動いた。

 

 槍が襲い掛かったのは雪菜の真後ろ。それは、真正面からバスラ―を相手にしている雪菜にとっての不意打ちだった。

 

 未来視ができるゆえにかろうじて回避できたが、しかしその在りえない光景に動きに乱れる。

 

「先輩と同じ、意志を持つ武器(インテリジェンス・ウェポン)!?」

 

「第四真祖も持ってるの? それは光栄だねぇ!!」

 

 バスラ―は哄笑を上げながら雪菜を攻め立てる。

 

 槍というにはあまりにも自由すぎるその軌道に、雪菜もまた苦戦していた。

 

「雪菜! あの年増よくも私の雪菜に!!」

 

「言ってる場合か、来た来た来た来た!!」

 

 そして兵夜達も大絶賛模造天使に苦戦中。

 

 しかし、実力が高いのか攻撃そのものは一切あたっていない。

 

 事実上の膠着状態に、バスラ―は雪菜を翻弄しながら舌打ちすると、こちらも端末を取り出した。

 

「まだるっこしいねぇ。だったらこいつも出してやるよ!!」

 

 その言葉と共に、遠く離れたところにある輸送船から高速で何かが飛来してくる。

 

 その姿を確認して、古城が目を剥いた。

 

「あいつらは、あの時の……っ!!」

 

 そこにあるのは、まぎれもなく模造天使。

 

 夏音に比べればその波動は大したことがないが、しかしこの状況はあまりにも危険だった。

 

「どういうことだ? 私が作ったのは七体だけだが」

 

「それじゃあ商品にならないのよ。そういうわけで、こっそりクローン使って作らせてもらったわけ」

 

 不満げな表情を浮かべる賢生にさらりと答えながら、バスラ―はにやりと酷薄な笑みを浮かべる。

 

「さて、これで詰みってところね」

 

 確かに状況はまさにその通り。

 

 既に古城も眷獣を出しているが、余剰次元薄膜を突破することができず焼け石に水。

 

 状況はまさに詰んでおり、それにラ・フォリアとシルシも苦戦していた。

 

「意外と早いわね、この男……っ!」

 

「まあな。これでも騎士団の連中は俺がぶち殺してるんだぜ?」

 

 銃撃とエストックを軽々とかわしながら、獣人としての本性を見せたロウ・キリシマもまた優位に立ている笑みを浮かべてた。

 

「お姫様の呪式弾も弾切れだろ? そろそろしまいにしようか!」

 

「ロウ! 殺すんじゃないよ!! 生かしておいた方が細胞取りやすいんだからね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな。そろそろおしまいにしよう」

 

 そして、そこで兵夜は笑みを浮かべる。

 

 それは、追い詰められたものが浮かべるヤケクソの笑みなどではない。

 

 明確に勝利を確信したものだけが浮かべる、圧倒的強者の笑み。

 

「大体今ので手札は知れた。そのクローンが切り札だというのならば、あとは全部潰すのみだ」

 

「……はぁ?」

 

 その言葉に、バスラ―は怪訝な表情を浮かべる。

 

 さっきから通用しない攻撃を放ち続けている兵夜のその言葉の裏付けが全く想定できていない。

 

 しかし、それに対して明確に警戒心を抱いた男が一人いた。

 

「……今すぐクローンの標的をその男に変えろ!!」

 

「おいおい賢生。そんなことしなくても頭がいかれただけ―」

 

「馬鹿者!!」

 

 ロウの言葉を、賢生は一蹴する。

 

「この手の輩は例え死ぬ直前でも冷静な思考をやめん! それが勝てると断言したならば、何かしらの手段を持っている!!」

 

「その通り」

 

 いうが早いが、兵夜は躊躇することなく二つの装備を取り出した。

 

 それは、赤い籠手と紫の指輪。

 

 指輪には弓の紋章が刻印されていて、更に莫大な魔力が込められているのが誰でもわかるほどの代物だった。

 

「早くしろ! あれが発動する前に押し切らねば、負け―」

 

「七式、起動」

 

 これにて蹂躙劇はひとまず閉幕。

 

 これより始まるのは、神喰いの神魔による逆転劇。

 

 恐れるがいい模造天使よ。

 

 たかが天使のまがい物如きが、神に喧嘩を売ることの恐ろしさを。

 




公式レギュレーションが存在するレーティングゲームはともかく、実践において兵夜が弱体化したままでいることなどありえない。

ついに出します、新たな切り札!!


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女王と英雄と実兄と

「……ああ、汝は神々に翻弄されし魔導の女王」

 

 それは、魔術を起動するパスコード。

 

「竜すら眠らす魔導の知識を、どうか愚かな魔術使いに与えたまえ」

 

 それは、特定条件における最強の切り札を呼ぶ至高の呪文。

 

 そして―

 

「―行くぜ相棒、お前の同類を、救ってくれ!!」

 

 彼にとっての最高の相棒の力を借りる、願いの言葉。

 

 そして、彼女はそれに応える。

 

「七式起動、モデル弓式!!」

 

 その言葉と共に展開されるのは、紫のローブとねじ曲がった短刀。

 

 そして同時に籠手から莫大な力が放出される。

 

「チッ! 人形ども!! 先にそいつをぶっ殺せ!!」

 

 流石にバスラ―もその危険性に気が付いたが、しかし一歩遅い。

 

破戒すべき(ルール)―」

 

 逆にそれで間合いがつまり、そして何より彼には赤い籠手がある。

 

『Penetrate!』

 

 天使が放つ余剰次元薄膜など、天龍が放つ透過の前には無力。

 

 そして何よりどんな術式であろうとも―

 

「―全ての符《ブレイカー》!!」

 

 彼女の前には、無力に等しい。

 

 そして次の瞬間、全ての術式を消滅されて人に堕ちた三人を、兵夜は軽やかに抱えると速やかに着地した。

 

「―夏音!!」

 

 思わず駆け寄るラ・フォリアに夏音を預けながら、兵夜は圧倒的勝者の笑みを浮かべて残る三人を見る。

 

「さて、おたくの術式は全部無に帰したわけだが、どうするつもりだ?」

 

「余剰次元薄膜を無視するどころか、神格振動波駆動術式に匹敵どころか上回る魔術無効化能力とは……っ」

 

 その優れた頭脳ゆえに、全てを理解した賢生が崩れ落ちる。

 

 自分の全てが無になったことで、完膚なきまでに敗北を認めてしまったのだ。

 

「な、嘘だろ……オイ!」

 

「賢生の術式をあっさり解除!?」

 

 狼狽するロウとバスラ―に兵夜は視線を向けると単刀直入に告げる。

 

「さて、非戦闘員にまで手をかけるような輩、この場で殺されても文句は言えないわけだが」

 

 しかし、兵夜としては懸念材料があるがゆえにどうしてもこの場で殺すことはためらわれる。

 

 ゆえに、さっさと問いただすことにした。

 

「アテってのはまさか、白髪でそっくりさんが大量にいる「……これが」が口癖の奴とか言わないだろうな」

 

 そう、それこそが兵夜の最大の懸念。

 

 今回簡単に圧勝できたが、それは見事なまでの相性差があったからのこと。

 

 模造天使の余剰次元薄膜は中級以下はもちろん、上級ですら勝ち目がない。少なくとも対抗装備の開発は難航するだろう。

 

 そして、フォンフ達ならば疑似赤龍帝と破戒すべき全ての符の組み合わせなら余裕で突破できることは即座に想定できる。こんな敗北で見切りをつけるとは思えない。

 

 ゆえに速攻で問いただして、できることなら技術を確保しておかねばならない。

 

 その判断は的確で、しかし全てが遅すぎた。

 

「五秒以内にYESorNOで答えろ。さもないとこのまま半殺しに―」

 

 さっさと聞き出そうと殺意を全力にして聞き出そうとした次の瞬間―

 

「―炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)

 

 ―炎を纏った矢の一撃が、兵夜を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮白!?」

 

 一瞬で起きたその光景に、古城は呆気に取られて反応できなかった

 

 どこからともなく放たれた超音速の一撃が、一瞬で兵夜を吹っ飛ばしたのだ。

 

「かまうな! シルシ、敵影を探せ!!」

 

「既に見つけたけど……嘘でしょう!?」

 

 致命傷を避けていた兵夜の命令を聞く前から実行していたシルシだが、その結果に唖然とする。

 

「キロメートル換算で10は離れてる! あんな距離から精密狙撃だなんてありえない!?」

 

「はぁ!? 見間違いとしか思えないんだけど!?」

 

 反撃体勢を整えていた紗矢華が唖然とする中、さらに遠距離から追撃が放たれる。

 

 威力は先ほどに比べれば低いが、それでも列車砲の砲撃と見間違うような攻撃が、遠慮なく連射で正確に打ち放たれた。

 

 そんなもの、基本が人間の雪菜達では耐えられない。

 

「……獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 とっさに古城は眷獣を召喚して迎撃する。

 

 莫大な雷光を放つ戦略兵器クラスの一撃は、しかし矢の連射を阻むので精一杯だった。

 

 その光景に、雪菜は目を見開いて愕然とする他ない。

 

 天災の具現化ともいえる真祖の眷獣。それを驚くべきことに一人で相手取っている敵がいきなり現れたのだ。当然の反応以外の何物でもない。

 

「先輩の眷獣でも迎撃に手間取るような敵がいたなんて!」

 

「どうするのよコレ! 海の上からあんなに離れてたら反撃できないんだけど!?」

 

「仕方ないわね。こうなったら不死の力を頼りに接近するしか……」

 

 このままでは手が出せない状況に焦る紗矢華に安心させるように微笑みながら、シルシは一歩前に出る。

 

 届くかどうかはギリギリだったが、しかしこうでもしなければジリ貧。こうなれば、アーティファクトを使用しての力押し以外に狙い目はなく―

 

「いいえ。それは無理よ」

 

―そして、それをさせない程度には敵も優秀だった。

 

「前衛も用意しているとは驚きでしたね。乱戦になれば狙撃は難易度が高くなるはずですが」

 

 呪式銃を構えたラ・フォリアの視線の先、そこにいたのは一人の少女。

 

 黒髪を短く切った鋭い視線の少女が、いつの間にか海岸に立っていた。

 

 少女は拳を構えてステップを踏みながら、口を開く。

 

「先に言っておくけど、私は宮白兵夜を殺すのが目的だから、それとそこの三人を引き渡してくれるなら見逃してもいいけれど」

 

「論外ですね」

 

 即答で、ラ・フォリアは拒否を示した。

 

 当然だ。彼女にしてみれば、賢生たち三人は叔母を実験台にした怨敵。

 

 ましてやバスラーとロウは飛行船を襲撃して自分の従者を何十人も殺した仇でもある。

 

 しかるべき裁きを下さずに、明らかに犯罪者と思われる相手に引き渡すなど選択肢としてあり得ない。

 

 そして、そんなことは少女も納得済みだった。

 

「ま、いうと思ったわ……よ!!」

 

 ステップから一気に加速すると、少女は真っ先に古城を狙う。

 

 遠距離砲撃を防いでいるのは古城の眷獣だ。それを殺せばすぐにでも戦いは終わるといってもいい。

 

 だが、そんなことをむざむざ許すほど甘い戦いなわけがなかった。

 

「雪霞狼!!」

 

 一瞬先の未来を読めるがゆえに不意打ちの通用しない雪菜が速攻で迎撃を行い、古城に向けて放たれる拳を弾き飛ばす。

 

 そして、そこから連携で紗矢華が剣で切りかかった。

 

 紗矢華が保有する煌華麟は、剣と弓の二つの形態を保有する複合武装。

 

 弓の形態で使えば鳴り鏑矢を応用した大規模魔術。それによる一瞬での高レベルの詠唱により時間のかかる術式を一瞬で放つ高い性能を発揮する装備。

 

 そして、剣の形態では疑似的な空間切断による攻防を行う。

 

 疑似的とはいえ空間ごと切断されれば、切れぬものなど存在しない。

 

 そう、存在しない……()()だった。

 

「甘いわね」

 

 その一撃は、少女の腕で止められた。

 

 そして、その腕は人間のそれではなくなっていた。

 

 甲殻類を思わせる外骨格に覆われたそれは、間違いなく強度の点で人間のそれを上回る。

 

 だが、それでも本来空間切断を止めることなど信じられない芸当だ。

 

 だがそんな奇跡の芸当を成し遂げながら、少女は何一つ動揺せずに冷静だった。

 

 不可能を可能とした高揚もなければ、想定外の奇跡に対する動揺もない。

 

 そこにあるのは、ただ当然の事実を受け止める冷静さだった。

 

「悪いけど、攻撃の余波で空間が裂けることぐらい、あの世界の最上級なら割とできるから」

 

「そうですか、それは実に興味深いですね」

 

 その言葉に答えながら、ラ・フォリアは至近距離で呪式銃を発射する。

 

 おそらくこれでも死なないと確信しているからこそできる容赦のない攻撃。

 

 そして、確かにその攻撃でも彼女は死ななかった。

 

 そもそも、当たってすらいなかった。

 

「……正直に言うと、宮白兵夜以外の相手は殺したくないんだけど」

 

 そうやれやれと首を振る少女は、既に十メートルは離れている。

 

 誰の目にも止まらない神速の移動。しかし、その正体を約二名は知っている。

 

「瞬動術!? やっぱり私達の世界の人間ね!?」

 

 千里眼で未来を疑似的に読んで先読みしていたシルシが、それに素早く追いついてエストックによる攻撃を連続で放つ。

 

 そしてそれを冷静にかわしながらカウンターのジャブを叩き込みつつ、少女は敵意を込めた目で兵夜を睨んだ。

 

「人の人生を台無しにしてくれた割には、自分の人生は幸福そうね。反吐が出るわ!」

 

「……逆恨み以外で、人から恨まれる覚えは、ないんだがな」

 

 よろよろと立ち上がりながら、兵夜はすぐに龍の鎧を展開すると遠方を睨む。

 

「精密狙撃でこの距離を当てるとは。やはり幻想兵装か」

 

 陣地の極限ともいえる英霊の技量。それぐらいなければこの奇跡の攻撃はあり得ない。

 

 そして、それはかなり危険な事態である。

 

「この距離からの狙撃。何とかするには攻撃をかいくぐって接近する以外に道はないんだが……」

 

 そう言いながら、兵夜はちらりを視線を少女に向ける。

 

「させると思う?」

 

「ですよね」

 

 ああ、これはかなり危険な状況だ。

 

 そして、更に危険な状況が増えてきた。

 

 海から出てくる人影が更に一人。

 

 日本刀を構えた一人の男。それも全く隙を見せない超一流の戦士としか思えない男が、更に追加で現れた。

 

 そして、それを見た兵夜は心から嫌そうな顔を浮かべてため息をつく。

 

「……おい、なんであんたがここにいる」

 

「決まっている。武の神髄を極めるには、生死の境を超えることが最も確実にして基本。つまりはそういうことだ」

 

 まっすぐに、躊躇いなく答えられたその言葉に兵夜は割とまっすぐに敵意を向けた。

 

 仲がいいなどとは口が裂けても言えないが、しかしこの再会だけはできれば嫌だと思っていた。

 

 それを平然と行う姿に、殺意すら生まれてくる。

 

「ふざけたことを言うなよ、()()

 

 そこにいる男の名前は宮白天騎。

 

 宮白兵夜の実の兄であった。

 




馬鹿兄貴登場。

いっそのことリインカーネイション編で出すことも考えてましたが、タイミングがずれてこんな時期に。

しかも兵夜の兄貴なので能力高めの強敵となる予定です。そして兵夜の実兄なので別の意味ですごいところがあります。









そして幻想兵装味方側バージョン登場。通称七式ですが、まだまだ未完成です。

とりあえず弓式は現在兵夜の専用武装。彼がアーチャーの内臓を大量に移植しているからこそできる芸当でもあります。


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金魚鉢での攻防戦

 

「はあ!? 宮白の、兄貴!?」

 

 ああ、暁マジですまん。

 

 なんで兄貴がフォンフ……と思われる連中の味方になって出てきてるんだ。

 

「あのさあ、マジでやめてくれない? お前の雇い主ってフォンフだよな? 正気かこの馬鹿」

 

「百も承知。しかし、平穏を望み死線を生み出すことを忌避する者達に属していれば、真の武の境地に到達することなど不可能だろう」

 

 このストイックブレードマスターが。マジで勘弁してくれ。

 

「剣以外に能のない男はこれだから。そんなだから彼女チーマーに寝取られるんだ」

 

「ふしだらな酒池肉林に興じる男に言われたくはない。器用貧乏が」

 

「あ、自分が不器用だからってそういうこと言う? 一点特化といえば聞こえがいいが、できることしかやらないだけだろう?」

 

「何でもできる男が何をやっても同じことだな。技を極めることができない男は哀れでならん」

 

 ………

 

「殺すぞ」

 

「やってみろ」

 

 本気で殺してやろうかこの馬鹿兄貴。

 

「いやいやいやちょっと待て! 兄貴ってどういうことだ!?」

 

 すまん暁。本当にすまん。

 

「紹介しよう。俺の糞兄貴の宮白天騎だ。数年前から武者修行の旅に出ていたんだが、まさかフォンフに与するとは……」

 

「己の力を飛躍させるには、極限状態に身を置くのが基礎にして絶対。俺にはこれしかできんのでな、極限を求めるのは当然だ」

 

 さいですか。だったら仕方がないな。

 

「なら神の試練を乗り越えるといい。シルシ、やるぞ」

 

「ええ、わかってるわ」

 

 容赦をする気は欠片もない。速攻で神格フルバーストで叩き潰してくれるわ!!

 

 そして俺は基本水属性でここは海。爆笑できるぐらいに相性が抜群だということを知るがいい。

 

「日本神話のバリエーションの広さを舐めるなよ!! 海の神オール発動!! そのまま津波にさらわれるといい!!」

 

 俺は遠慮を欠片もせず数万リットルの海水を動かした。

 

 下手をすれば溺れ死ぬどころか圧死するが、しかし遠慮をしてやる義理はない。

 

 俺達の業界で極みを目指すというのならば、これぐらいは突破してくれなければマジで話にならないしな!!

 

「なるほど、小手調べとして充分だ!!」

 

 言うが早いか、兄貴は刀を構えると呼吸を整える。

 

 そして次の瞬間。

 

「……極・雷光剣」

 

 雷撃を纏った一閃が津波を両断する。

 

 なるほど、神鳴流を習得していたか。確かにあれは剣技であるがゆえに、ある程度までは誰でも習得の余地がある。

 

 とはいえ、火力だけなら既に久遠以上とは恐れ入る……!

 

『兵夜さん、右!!』

 

 っと!

 

「悪いけど、すぐ死んでくれない? それもできるだけ早く」

 

「……悪い、顔が思い出せないんだが誰だアンタ?」

 

 逆恨みとはいえ人から恨まれることが多いから、結構前から人の顔は忘れないようにしたんだけどな。

 

 それにしても思い出せん。いつの昔の逆恨みだ?

 

『逆恨みって断言できる辺り、兵夜さんって大概よねぇ。そこは治さない?』

 

「いや、俺は基本堅気には手を出さないんだが」

 

 正当な恨みは受けないように努力してるつもりだぞ? うん。

 

 しかし初期の頃はまだ習熟してないしな。それが理由の可能性は非常に大きい。

 

 後で調べ直しておくとして―

 

「越智。手間をかけている余裕はない。あれを始めろ」

 

「はいはい。……あまり気乗りしないけど仕方ないわね」

 

 越智というのか。これは実に助かる内容だ。

 

 これで後で調べるのが楽になる!!

 

 だがそれよりも越智が何かしてくるということだ。

 

 やらせると思うか!

 

「させると思うか?」

 

 その時、俺の目の前に兄貴が現れる。

 

 瞬動術まで習得しているか!

 

 それで一瞬動きが止まり、そしてその瞬間越智が動く。

 

「……さて、第二ラウンドよ」

 

 その瞬間、模造天使が再び目を覚ました。

 

「……な!?」

 

 なんだと!? 術式は既に解除したはず。

 

 あいつの宝具が術式を無効化していないはずがない。つまり、これは再起動ではなく―

 

「時間逆行!?」

 

「近いわね。私のキーワードは過去よ」

 

 つまり超能力者(エスパー)か!

 

「まずい! 既に七式はオーバーヒートしてる……っ!」

 

「嘘だろ!?」

 

 近距離でやばいことになっている暁が絶叫するが、勘弁してくれ。

 

「まだ未完成なのを土壇場で仕上げたんだ! 他の七式は全部未完成で―」

 

 俺は手元の残り六つを見せるが、しかしその宝石に輝きは灯らない。

 

 まだ憑依させる英霊を取り込めてないのだ。このあたり、フォンフと俺の技量の差もろに出ている。

 

「よそ見をするとは余裕ね!!」

 

「うぉ!?」

 

 あ、ヤベ、一つ落とした!!

 

「何をやっているんですか宮白さん!!」

 

 おお、姫柊ちゃん回収ありがとう!!

 

「っていうかどうするの!? あなたがあれ使えないと、模造天使の防御を突破しても助けられないんだけど!?」

 

 うん、そうなんだよね煌坂!! どうしよう!!

 

「オーバーヒートが回復するまでにかかる時間は約二時間といったところだ。それまで何とかしのいでくれ!!」

 

『とはいえこの数はさすがに大変よねぇ』

 

 ああ、俺も神格フル発動がそこまで持つかわからんしな。

 

「KLilllllllllllllll!!!」

 

 模造天使と化した叶瀬夏音までもが更に攻撃を放ってくる。

 

 おい、これ流石にまずいんだけど!?

 

「夏音……っ!」

 

 まずい、抱きかかえていた都合上、フォリりんが割とやばい位置に!?

 

「だれかフォリりんをカバーしろ!! こっちは二人掛かりで手一杯だ!!」

 

 つってもこれは流石に……っ

 

「ラ・フォリア!!」

 

 あと少しで命中するところだった攻撃を、しかし暁が割って入って受け止める。

 

 あのバカ、心臓潰されたぐらいじゃ死なないからって根性あるな!!

 

 でもあいつ死にかけてるぞ? これカバーする相手が増えただけじゃね?

 

「困っているようだが安心しろ。身内の情けだ一撃で首をはねる!!」

 

「死になさい! すぐ死になさい!! 今すぐ死になさい!!」

 

 あ、ヤバイコレ!!

 

 こんなことならグランソードも連れてくるんだった!! ちょっと冗談抜きで状況がヤバイ!!

 

 更に後ろから機械人形《オートマタ》の部隊までやってきやがった。

 

 くそ! あいつらグランソードの舎弟だから戦闘能力高いんだぞ!? それが、やられただと!?

 

 まずいまずいマズイこのままだとマジマズイ!!

 

 そして機械人形は一斉に銃火器を放ち―

 

「む!?」

 

 そのまま兄貴達に銃弾が殺到する。

 

 なんだ? バクったのか?

 

「兵夜さん!!」

 

 と、そこには戦闘中だったグランソードの舎弟達が駆けつけてきた。

 

「どういう状況だ?」

 

「藍羽さんがやってくれました! 今、他の残りの機械人形もハッキングしている真っ最中です!!」

 

 藍羽スゲー!!

 

『ねえ、真剣に眷属悪魔としてスカウトしたら? 冗談抜きでそれだけの価値があるわよね』

 

「俺もすごい同感」

 

 真剣に買収を考慮するときが来たようだ。俺の財力でどこまでの待遇を引き出せるかがカギだな。

 

 だが、今はこれ以上考えている余裕がない。

 

「姫柊ちゃん! こっちで時間を稼ぐから、取り合えず暁とフォリりんを連れていったん下がれ!!」

 

「は、はい!!」

 

 さて、それでは後はどうしたものか。

 

「煌坂。悪いが付き合ってくれ。三時間凌げばもう一度七式が使える」

 

「それにかけるしかないってことね。いいわ、雪菜の為に乗ってあげる」

 

「こちらにも攻撃が来るのはどうにかしてほしいが、しかしいい状況だ」

 

「私は洗脳とかできないから我慢して。それに、数が減ったのは好都合ね」

 

 俺達は睨み合いながら、そして戦闘を再開した。

 



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七式、槍式

 

 そんなこんなで激戦ぶっつづけなわけだが―

 

「あと、一時間……!」

 

「ここからが長そうね……」

 

 いい加減こっちもへばってきたな。

 

 元々融合による神格発動は、拒絶反応を無理矢理即時再生させながら戦闘を行うという無茶苦茶な方法を力技で実行する代物だ。

 

 そんなもんを数時間もぶっ続きでやるのは、流石にきつい……!

 

「様子見に徹していたかいがあったようねぇ。ついでにあんたらのクローンを作ったらいろんな方面で売れそうじゃない?」

 

「おう怖い怖い。相当キレてるな、おまえ」

 

 ここにきてバスラ―とロウ・キリシマも参戦かよ!!

 

 さすがに状況はこっちに不利だな。舎弟たちは限界だし、機械人形も九割は破壊されている。

 

 だが、それさえ乗り越えれば俺達の勝ちなんだが―

 

「……悪い、待たせた」

 

 その時、後ろから待ち侘びた声が届いた。

 

「暁か!!」

 

「暁古城! 大丈夫な……の……」

 

 ん? なんだどうした煌坂。

 

『兵夜さん。姫柊ちゃんとフォリりんの服が、少し乱れてるわ』

 

 ああ、なるほど。

 

「つまり眷獣が増えたと! やったぜ!!」

 

「そっちでいいのか!?」

 

 すいません、発情して血を吸ってた人に言われたくないんですが。

 

「あ、あ、暁古城! あんたまさか雪菜はもちろん王女の血まで!? な、な、なんてことを!!」

 

「仕方ねえだろ!! 姫柊の血だけじゃ眷獣の制御が利かなかったんだから!!」

 

 なるほど、つまり二人分で漸く抑えられるような強力な眷獣だと。

 

 これは、強い予感がするぞ!!

 

「面白い……! やはり生死の境を彷徨うような境地こそが人を伸ばすものだ!!」

 

「いや、心底めんどくさい。私は宮白兵夜を殺せればいいんだけど」

 

「それに関しては同意してあげるわ。あぁかったりぃ。残業手当つくのかしら」

 

「雇われ魔族は辛いねぇ」

 

 それぞれが好き勝手に愚痴を返す中、しかし莫大な雷光がそれを黙らせる。

 

「黙れよお前ら」

 

 ……うん、かなりキレてるな。だろうね。

 

「修練だの殺すだの、挙句の果てに切り刻んでクローンやら天使にするとか、本当にいい加減にしろよ」

 

 ああ、こいつは意外と大物になるな。

 

「叶瀬もラ・フォリアも普通の女の子だろうが。異世界からやってきてまで勝手な都合で振り回しやがって、本当に頭に来てんだよ。しかも宮白まで巻き込ませて申し訳ないってのに……っ」

 

 ああ、これはマジでキレてるな。

 

「模造天使だのアルディギア王家だの、本当に知ったことか!! こっから先は―」

 

「話が長い!!」

 

 遮るように、兄貴が斬撃を飛ばして暁を狙う。

 

 俺は割って入ろうとするが、それより先に斬撃が()()()()

 

「……む?」

 

 警戒心を強める兄貴の視線の先、暁は赤く染まった吸血鬼の目で、敵を纏めて睨みつける。

 

「俺の戦争(ケンカ)だ!!」

 

「だったら纏めて死にやがれ!!」

 

 バスラーが眷獣を振るうが、しかしそれは姫柊ちゃんがあっさりと弾き飛ばす。

 

「いいえ先輩。私達の聖戦(ケンカ)です!」

 

 さて、これから反撃タイムと始めるか!!

 

「宮白、叶瀬はこっちで何とかする!! お前は外野を頼む!!」

 

「OK任せた!! こっちも割と限界なんで早めに頼む!!」

 

 だったらやるしかねえよなぁ!!

 

「シルシ! 決着をつけるぞ気合を入れろ!!」

 

『ええ! 全力で行くわよ、シンクロして!!』

 

 ああ、やるべきことは決まっている。

 

 不死の象徴足る炎の鳥であるフェニックスの傍流たるシルシを使うのならば、最も相性がいいのはこの能力!!

 

「火の象徴が不死ならば、不死もすなわち火の象徴!!」

 

 全身全霊で灼熱を生み出し、俺は周囲の連中に一斉に放つ。

 

「冥途の土産をくれてやる! 生き残れたのなら誇るがいい!!」

 

『これが、不死鳥と神の協奏曲!!』

 

 全長数百メートルの炎の翼を生み出し、俺は一気に薙ぎ払う。

 

「ちょ、嘘……あぁああああ!!!」

 

 まず真正面にいた越智を弾き飛ばし、そして一気に他の連中にも襲い掛かる。

 

「なめるな、愚弟!!」

 

 真正面から兄貴はそれを受け止めるが、しかしそれが致命的な隙だった。

 

「獅子の舞女たる高神の舞威姫が讃え奉る。極光の焔紅、煌華の麒麟。祖は天楽と轟雷を統べ、噴焔を纏いて妖霊冥鬼を射貫く者なり!!」

 

 直後、奴の顔面にたたきつけられるのは鳴り鏑矢。

 

 そしてその音によって瞬時に詠唱された超高度の呪術が一気に全身を焼く。

 

「ぬぅうぉおおおおお!?」

 

 その一撃をもろに受け、兄貴は弾き飛ばされた。

 

 そして残るはメイガスクラフトの小間使い!!

 

「……彼らは譲ってもらいます」

 

 そのまま突っ込むのはフォリりん!?

 

 あの、ちょっとお姫様ぁああああ!?

 

「おいおい王女様、突っ込んできたのなら人質にするまでだぜ?」

 

「都合がいいんだよこの腐れビッチ!! たかが呪式銃如きであたしらを倒せると―」

 

 うんうんそうだよねまずいよね。

 

 ……待てよ? この業界のお姫様ということは―

 

「我が身に宿れ、神々の娘」

 

 俺の推測は、見事に当たっていた。

 

 呪式銃に取り付けられた銃剣(バヨネット)

 

 それが、莫大な霊力とともに光を放つ。

 

「軍勢の守りて、剣の時代」

 

 そういえば、調べた最中に把握していたことがある。

 

 アルディギア王国にはヴェルンドシステムという技術がある。

 

 精霊炉を利用することで、所有する武装を疑似聖剣とする特殊装備。

 

 そして、フォリりんは霊媒体質。

 

「―まさか、自分に精霊を憑依させたのか!?」

 

「ええ。今は私が精霊炉です」

 

『オカルト業界のお姫様は、皆化け物揃いねぇ』

 

「お前も割とそっち側だがな」

 

 だが、これで決着はついた。

 

「ベアトリス・バスラ―。ロウ・キリシマ。騎士団のみならず非戦闘員すら手にかけた非道。我が一撃で裁かせていただきます!!」

 

 鎧袖一触。高位の精霊の力を借りた一撃が、小間使い二人を一気に殲滅する。

 

 よし! 後はフォンフと叶瀬夏音だけ!!

 

「……焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継し者。暁古城が汝の枷を解き放つ! 来やがれ、第三の眷獣! 龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!!」

 

 放たれるのは双頭の蛇。それは二人の霊媒を必要する以上、凶悪性も想定可能。

 

 その蛇は、一瞬で叶瀬の防御を突破した。

 

「……次元喰い(ディメンション・イーター)! 全ての次元ごと、空間を食ったのか!?」

 

 叶瀬賢生が目を見開いて驚愕するが、俺も流石にそれは凶悪だ。

 

 何それ。防御無効化とかいう次元じゃねえ!!

 

 しかし、人の周囲に展開している被膜だけを喰らうとは中々精密制御ができるようだ。これは意外と使いやすい部類か?

 

 そして、それだけでは模造天使は倒せない。

 

 模造天使は神気を放ち、暁を滅ぼそうと攻撃を叩き込む。

 

「おいどうする暁!! まだ七式はオーバーヒートしてるんだが―」

 

「それなら大丈夫だ。姫柊!!」

 

「はい、先輩!!」

 

 暁の言葉に堪えて、姫柊ちゃんが飛び上がる。

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」

 

 そうだそうだそうだった。

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼。鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!!」

 

 祝詞と共に放たれる神格振動波駆動術式が、今度こそ模造天使の術式を解呪する。

 

 同時に、瞬時に呪術で防壁を張り防御。これで再び過去に回帰して模造天使に再復活することもなくなった。

 

「……よし!」

 

「あとは残りを―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまさに同時、姫柊ちゃんの眼前に灼熱の矢が迫る。

 

 この乱戦時に、こんな精密な狙撃をぶちかましただと!?

 

 まずい、間にあわな―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全な不意打ちだった。

 

 激戦ゆえに未来視が間に合わなかったのもあるが、それ以上に模造天使の術式を解除した余波が目くらましになっていた。

 

 かわせない。それだけは確信できる。

 

 完膚なきまでに最高の一撃だ。これだけ優れた弓の攻撃など、獅子王機関ですら目にしたことがない。

 

 つまり、どうしようもないと、雪菜は理解した。

 

 理解したが、しかし納得などできるわけがない。

 

 ここで死んだら古城が悲しむ。ここで死んだら紗矢華が悲しむ。

 

 何よりこの状況下では夏音が巻き添えになる。

 

 それは、絶対にダメだ。

 

 しかし同時になすすべがないことも事実だった。

 

 一瞬の思考の隙を突いた不意打ち。それも完璧といってもいいタイミングで放たれた一射は、全員が反応できなかった。

 

 そして、もうこの時点で迎撃を行う余裕は欠片もない。

 

 つまりはやはり詰んでいる。

 

 唯一の勝機は雪菜が迎撃することだが、この一撃は雪菜の反応速度も動作速度も超えている。

 

 条件反射で雪霞狼を振るってはいるが、おそらく間に合わないだろう。

 

 つまりは、やはり詰んでいるということであり―

 

『………一つ聞こう。助けはいるか?』

 

 ―声が聞こえた。

 

『助けがいるなら今すぐ乞うといい。その時点で、俺は力を貸そう』

 

 それはいったい何故か。

 

『理由など単純だ。乞われたのなら応えることこそ俺の生き方。何より―』

 

 それは、圧倒的なまでの願望。

 

『このような形とはいえ、あの男とまた戦えるのは、少し高揚感というものを覚えている』

 




クロスオーバー二次創作の醍醐味とは、やはり組み合わせだと思うのですよ


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マハーラーバタ

 

 完璧に手遅れ。

 

 そんな状況が、一瞬で切り崩された。

 

「……はぁっ!!」

 

 今までとはあり得ない速度で、炎を撒き散らしながら姫柊ちゃんがその一撃を弾き飛ばした。

 

「………あれ? 姫柊ちゃんってそんな特殊能力持ってたっけ!?」

 

「そんなわけないんだけど! っていうかあれ、獅子王機関の技じゃないわよ!?」

 

 煌坂が俺の疑問にそう答えるが、だったらなんで―

 

 あ!

 

「そういえば、七式一つ落としたのを、姫柊ちゃんが拾ってたな」

 

「それがどうしたってんだ?」

 

 思った以上の驚きの展開の連続に呆けていた暁の疑問は、つまりこういうことだ。

 

「……この土壇場で英霊との契約を完了して、英霊を憑依させた」

 

 あり得ないが、それ以外に説明がつかない。

 

「……汝は、あらゆる不幸を枷と思わぬ、慈悲のあふれし施しの英雄」

 

 それは、契約の為の詠唱。

 

「……太陽神の鎧、雷神の槍を、そしてそれらが及びもつかぬ、至極の武威を今ここに」

 

 そして瞬時に展開されるのは、黄金の鎧。

 

 まるで太陽がそのまま鎧になったかのような輝きが、彼女のその身を包み込む。

 

 同時に髪は白くなり、更に神の気配すら放たれた。

 

「お力をお借りします! そして、あの戦いに真なる決着を!!」

 

 そこに、新たなる七式が完成する。

 

 髪は白く染まり、眼は赤く染まる。

 

 英霊の憑依の影響がより強く出ながらも、しかし英霊が我を強く見せていないのか人格の影響はほぼないと言ってもいい。

 

 そして、そこからが本番だった。

 

「……ク、クククッ!!」

 

 そんな嗤い声が聞こえた瞬間、嵐が真横から降ってきた。

 

 その雨粒は全て矢。そして雷鳴は灼熱。

 

 神話の軍勢すら一瞬で焼き尽くしかねない弓撃の嵐が、一斉に姫柊ちゃんに襲い掛かる。

 

「はぁっ!!」

 

 そして、その全てを姫柊ちゃんは弾き飛ばした。

 

 既に槍撃は目にも止まらず、神の動体視力をもってしても視認が追い付かない速度の攻撃が放たれる。

 

 文句なしに今まで見てきた中でも最高の槍捌きを見せながら、姫柊ちゃんはそれを迎撃する。

 

「……ってぼさっと突っ立ってる場合じゃない!!」

 

 ふと我に返り、俺は声を上げた。

 

 いかん、あの圧倒的な武芸に魅了されて我を忘れていた。

 

 七式は未だ発動時間が短いし、何より中学生に全部任せていいわけがない。

 

 すぐにでも冷静に対応しなければ―!!

 

 しかし、それより早く敵も動く。

 

「逃がすと思う? 宮白兵夜」

 

 俺の目の前に、焼けただれた越智が踏み込んだ。

 

 全身から肉と油の焼けるにおいを撒き散らしながら、しかしその闘志は微塵も揺るがない。

 

 そして彼女は踏み込んで、俺が反応できるぎりぎりの一戦でストレートを放つ。

 

「……っ!」

 

 くそ! これが半死半生の人間が放てる拳かよ!!

 

「殺す、お前は殺す。ここで殺す。必ず殺す」

 

 既に虫の息であるにも関わらず、越智は俺を見据えて睨みつける。

 

「私の全てを奪ったお前を、私は決して許さない!! ああ、許せるものか!!」

 

『兵夜さん! 本当に心当たりないの』

 

「いや、逆恨みであったとしても社会復帰できる余地はきちんと残しているはずなんだが……」

 

 どうしよう! ここまでくるとマジで心当たりがない!!

 

 っていうかこっちも消耗が激しすぎてそろそろ限界なんだけど!?

 

 と、そこに横合いから援護の手が。

 

「ああもう! 神様のくせしてなんで苦戦してるのよ!!」

 

「全くです兵夜。こういうのは捕らえて直接聞けばいいだけでしょう」

 

 煌坂の次元切断に、フォリりんの疑似聖剣。

 

 その同時攻撃がもろに越智に直撃する。

 

「……まだ、まだよ!!」

 

 それでも無理やり立ち上がろうとする越智だが、しかしそれを兄貴がかっさらった。

 

「残念だがここまでだ。……撤退命令が出た」

 

「野郎! 逃げる気か!!」

 

 暁が即座に眷獣を出して攻撃を叩き込もうとするが、しかしそれより早く飛び退る。

 

「そちらのハッカーの所為で模造天使のデータが破壊されてしまったそうだ。これ以上は時間の無駄と上から連絡が出てきたんでな」

 

 藍羽ぁああああ! 本当にお前はチートだよぉおおおおおお!!!

 

 これで模造天使の技術はフォンフに渡らずに済む! マジありがとう。後でなんか奢るぜ!!

 

 だが、兄貴はしかしそのまま逃げたりはしない。

 

「とはいえそれでは目的が達成できんのでな」

 

 走り去る方向はまっすぐ姫柊ちゃん! しかし、それは姫柊ちゃんを狙ったものではなく―

 

「模造天使の素体はもらっていく!!」

 

 野郎! 目的は叶瀬夏音か!!

 

 まずい! 遠距離射撃を捌くので姫柊ちゃんは精一杯!

 

 これは、取られ―

 

「させると思うか?」

 

 次の瞬間、兄貴は全く別の場所に転移していた。

 

「これは、空間制御!?」

 

 驚愕する煌坂の視線の先、叶瀬賢生がいつの間にか魔法陣を生成していた。

 

「叶瀬、賢生……っ!」

 

「その穢れた手で、夏音に触れるな……っ」

 

 兄貴の視線をそれよりも強い視線で睨み返し、賢生は更に術式を展開し始める。

 

「……潮時かっ!!」

 

 アニキは舌打ちすると同時に、こんどこそ距離をとった。

 

「今回はいい死合だった。次もまた高め合おう!!」

 

 そういい捨てると、兄貴は海上を走るという何気にすごい真似をしながら一気に距離をとる。

 

 ………とりあえず、これで何とか決着はついた、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっからが大変だった。

 

 なにせ、高速艇は戦闘の余波で大破。ラージホークはそのまま絃神島に向かうには目立ちすぎる。

 

 仕方ないので沿岸警備隊を呼んで拾ってもらったのだが、そこにはなんと暁達の担任教師である南宮那月の姿が!!

 

 暁達は勝手に動いていたし、俺もそれに乗っかった形だったので説教されました。

 

「……なんか、疲れたな」

 

「疲れてるところ悪いが、骨折った分働いてもらうぞ。次のアザゼル杯の試合には参加してもらう」

 

「勘弁してくれよ……」

 

 そこは譲らん。過度の無償奉仕は人を駄目にするからな。

 

「しかし、こっちにフォンフが来ているとは。おそらく遠距離狙撃をぶちかましたやつだな、うん」

 

「アイツって、殴り合いが専門じゃなかったか? なんかすごい派手なことになってんだが」

 

 少なくとも、超遠距離から狙撃をするようなタイプじゃなかったと思うのだが、と暁は首をかしげる。

 

 まあ、それに関しては言うまでもない。

 

「おそらく幻想兵装だろう。それで英霊を憑依させているといったところだ」

 

「マジかよ。そんなものがあったら何してくるかわからねえじゃねえか」

 

「だからこっちも開発してんだよ。最も、姫柊ちゃんの場合は流石に想定外だったが」

 

「ええ、まったくね」

 

 そこに、煌坂までもが現れて即座にため息をつく。

 

「あの指輪。霊的に密着してはがせなくなってるんだけど。どうしてくれるのよ宮白兵夜」

 

「責任取って専門医療チームを用意させていただきます。ついでに武闘派も送り込んどくから、必要な時は呼び出して使っていいぞ」

 

 なんというか、フォンフに目をつけられたのならばそれぐらいの護衛は必要だろう。

 

 それ位はしておかないとまずい。っていうかこれは想定外だ。

 

「それで? 煌坂はこれからどうするんだ?」

 

「私は王女の護衛よ。非公式のつもりだったけど派手なことになったから、いっそのこと公式訪問の形にするんだって」

 

 なるほど。確かにここまでの大騒ぎに関係したら、もうどうしようもないからな。

 

「そういうことです。まずは生存者のお見舞いに行かせていただきます」

 

 と、そこにフォリりんもやってきた。

 

「残念だったな、夏音のことは」

 

 暁が言ったのは夏音がここに残る気だということだ。

 

 アルディギア王国には行く気はないらしい。わりと絃神島のことを気に入っているのかもな。

 

「はい。ですが空隙の魔女が保護観察官になってくれるそうですし、そう悪いことにはならないでしょう。私達も騎士団を派遣するつもりですし」

 

 おいおい。どんどん人が増えていくな、この島。

 

「お別れは申しません。夏音が助けられたのは全てあなた方のおかげ。この縁は、きっとまた意味を持つときがありましょう」

 

 そう告げると、フォリりんは古城の前に出る。

 

 そして、そのまま古城の唇を奪った。

 

 ……ふむ、なるほど。

 

 ちなみに視線をちらりとむけると、離れたところに迎えに来た藍羽の姿が。

 

「あ、俺ちょっと避難してくる」

 

「あ、ちょっと待ちなさい宮白兵夜!! っていうか王女も何をしてるんですかぁあああああ!!!」

 

 全力で逃走を行いながら、俺は別の理由で頭を抱えたくなる。

 

 なかば癒着する形で発動した姫柊ちゃんの七式。

 

 だが、それにしても圧倒的に強力すぎるのが引けてしまった。

 

「インド神話の英雄。それも最強格のカルナを引き当てる要素があるとするならば……」

 

 マハーラーバタの英雄カルナ。最強と呼ばれるだけの力を保有しながら、しかし運命が全力で敵に回ったかの如く本領を発揮することができなかった不幸の男。

 

 ああ、これはほぼ確実であいつが引き当てた英霊の正体が判明した。

 

 そのマハーラーバタにおいて、カルナのライバルだった極大の英雄の1人。

 

 そして、神弓ガーンディーヴァを手にした授かりの英雄。

 

「……アルジュナって、正義の側の英霊だったはずなんだが、まさかあそこまでの再現度で卸すとはな。これは、流石に脅威度を上方修正するべきか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく。今回はあまり得がなかったなこれが」

 

 絃神島から遠く離れたところにある船の中で、フォンフの一人はため息をついた。

 

 その特性からくるあらゆるものを確保できる素質を見込まれ、そしてなぜ英雄中の英雄といってもいい男がフォンフに宿ることを了承したのかがわからない危険視からくる遠ざけも含め、このフォンフはS×Bの技術収拾の為にやってきていた。

 

 幸い、宿っている英霊の特性ゆえにすぐに近づいてきたLCOという組織を手を組んで技術交流を行っているが、それでも今回の件はあまり得がない。

 

 メイガスクラフトの技術は中々優秀だったが、しかし学園都市技術で大半が代用できるものだ。

 

 模造天使の力には期待してたが、データを破壊されたこともあり、当面は再現が不可能。技術者も最後の最後で娘を優先した為回収できなかった。

 

「こちらとしては問題はないが、それでこれからどうするのだ?」

 

 天騎がそう尋ねる中、フォンフは()()であるワインを飲みながら、にやりと笑う。

 

「当面は魔族を襲って死体を回収するだけで大丈夫だ。それだけでも十分すぎるほどリターンがある」

 

「できれば強い奴と死闘がしたいんだが」

 

「その辺についてはお前に任せる。ただし俺達のことは負けてもしゃべるなよ」

 

 機嫌よくフォンフはそう告げる。

 

 その様子に、天騎はいぶかしげな表情を浮かべた。

 

「何か、いいことでもあったのか?」

 

「ああ。なんでこいつが俺に宿ったのかの理由が分かった」

 

 そう告げるフォンフの肌は、黒かった。

 

「……それほどまでに、奴は戦いたい相手がいたんだよ。そいつは呼ばれれば俺の敵につくと確信したから、殺し合う為にこいつは()についたんだ」

 

 そう告げながら、フォンフは今日闘った少女を思い出す。

 

 少女とあの英霊との間に縁はない。ただ単に、力を望んだ彼女に英霊である彼が答えただけだ。

 

 乞われれば力を貸す。それがあの英霊の在り方。そして、その本質はどこまで行っても善であり、ゆえに善なる少女に手を貸した。

 

 そんな男の本質を理解していたからこそ、この男は万が一の可能性を欲してフォンフと契約したのだ。

 

 そして、あらゆるものを手に入れられる彼は、その機会を手に入れた。

 

「……さあ、来るがいい姫柊雪菜(カルナ)。お前はアルジュナ()が、今度こそ倒して見せる」

 

 その機会を待ち望みながら、フォンフは祝杯を勢いよく呷った。

 

 

 



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対ナツミ戦、準備中です!

久々に投稿します!


 

 

 

 

 

「恨むぞ、宮白」

 

「勘弁してくれ。修羅場となった女に関わるとロクな事にならないのは万国万世界共通だ」

 

 俺は暁とそう話し合いを続けながら、トレーニングをしていた。

 

 紆余曲折あったが何とか暁と姫柊ちゃんを冥界(こっち)に連れてくることもできた。これで今回の試合には万全の体勢をとることができたといってもいい。

 

 なにせ、一体だけでも魔王クラスの眷獣を用意できたのだ。さらに魔力を無効化する雪霞狼の使い手である姫柊ちゃんも連れてこれた。

 

 前衛後衛共にアザゼル杯でも上位に位置する実力者。これで戦力は大きく増えたといっても過言ではないだろう。

 

「あの後、姫柊や浅葱にどれだけ詰め寄られたと思ってるんだよ。お前爆弾投下しすぎなんだって自覚あるか?」

 

「すまん。俺も疲れてたからあそこでさらに介入する度胸はかけらもなかった」

 

 うん、無理。

 

「なんか苦労してるんだな。まあ、愚痴ぐらいなら時々付き合ってやるよ」

 

「そりゃ助かる。えっと、ノーヴェさんだっけか?」

 

「ノーヴェでいいよ」

 

 ふむ、暁もノーヴェもいいやつだし、すぐに打ち解けそうだ。

 

「言っとくが口説くなよ?」

 

「口説かねえよ! 俺はナンパなんてしたことないからな!!」

 

 いや、ナンパはしたことないだろうけど、フラグはよく立ててるじゃねえか。

 

 お前からはイッセーと似た匂いがするからな。油断してるとこっちでも女を作りかねない。

 

「それと、これは別に文句を言ってるわけじゃないんだが……」

 

「「ん?」」

 

 俺とノーヴェは揃って首をかしげる。

 

 それを見ながら、暁は息を吸い込んで―

 

「なんで俺はミット打ちしてんだよ!!」

 

「先輩、あまり騒がない方がいいと思いますよ?」

 

 姫柊ちゃんがたしなめる中、暁は何かが奥歯に挟まっているような表情を浮かべた。

 

「なあ、俺は眷獣を見込まれてスカウトされたんだよな? アザゼル杯の優勝を目的として連れてこられたんだよな?」

 

「ああ。お前がいれば優勝はともかく本選出場は夢じゃない。しかもセットで姫柊ちゃんまでついてくるというお得仕様」

 

「私はファミレスのおもちゃか何かですか?」

 

 あ、ちょっと言い方が悪かったか。

 

「ついでに言えば、あの被害を出せない環境でお前が安全に戦闘できるようにするためのトレーニングにもなる。その謳い文句は誓って嘘じゃないぞ?」

 

「だったら普通、眷獣をぶっ放して制御するトレーニングをするんじゃないのか? ここならできるだろ?」

 

 そういって暁はこのトレーニング空間を見渡す。

 

 五の動乱での活躍と、上級悪魔の昇格が重なり俺は専用のトレーニング空間を持っている。

 

 魔王クラスが全力でトレーニングできる頑丈な空間だ。必然的に、魔王クラスの眷獣ならばトレーニングできる。

 

 だが、あえてそれを俺は今してない。

 

 その理由は俺ではなくノーヴェは言ってくれた。

 

「あのな、暁。お前はこれからトラブルに巻き込まれまくるって聞いたぞ?」

 

「それは宮白の推測なんだが。……ああ、でもフォンフが絃神島に目をつけてるみたいだし、あり得そうなんだよな」

 

 ああ。あの野郎はおそらく異形社会の技術を取り込むために、一生懸命動いているはずだ。

 

 暁や姫柊ちゃんのせいでエイエヌ事変は失敗した節があるからな。間違いなく目をつけてくるだろう。

 

「お前の眷獣は威力の加減ができないんだってな。しかもオーバーSランクの魔導士もびっくりするような火力らしいじゃんか」

 

「ああ。だからいい機会だし制御できるようになった方が言って勧められたんだが」

 

 まあ、俺も最初はそのつもりだったんだ。

 

 ただ、ノーヴェから指摘を受けてな。少し考えを変えてみた。

 

「だったら、眷獣を慣らすのと同じぐらい、いや、それ以上にやってみる選択肢がある」

 

「それが、ミット打ちか?」

 

 正直よくわかってない感じの暁だったが、逆に姫柊ちゃんは得心したようだ。

 

「なるほど。そもそも眷獣を使わずに問題が解決できれば、少なくとも眷獣が暴走することは抑制できますね」

 

「そういうことだよ。わざわざ破壊力の高い眷獣ってのに頼るよりも、そっちの方が安全だろ?」

 

 ああ、俺もそれを言われて目から鱗だった。

 

 確かにバカでかい破壊力を持つ兵器を町中で手加減して運用するより、そっちの方が遥かに効率的で安全だ。

 

「せっかくただの人間より高い身体能力があるんだ。そっちの方がよっぽど安全に戦える」

 

「そっか。いろいろ考えてくれてんだな、アンタ」

 

 暁もすぐに納得してくれたのか、少し真剣度が向上している。

 

「ノーヴェはヴィヴィやハイディのコーチだからな。人に格闘技教えるのは得意なんだよ」

 

「そうか。そりゃすごく強くなれそうだ」

 

 ああ、其の辺りはやっぱり共通認識か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、ほかのメンバーの訓練風景も確認してみる。

 

「近平さんは、やっぱり槍に頼りすぎですね」

 

「う……っ」

 

 同じくマンツーマンで指導されている須澄が、姫柊ちゃんに指摘されていた。

 

「近平さんは戦闘訓練を受けているわけではありませんから、やはり技量が低いのが問題ですね」

 

「槍だよりで、槍に頼りすぎてごめんなさい……」

 

 外見年齢では大差ないが、実際のところ十歳近い差がある男が中学生に指摘されているのはいろいろと来るものがあるな。

 

「むしろ技量無しでそこまで戦えさせるだけの能力を持っている、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の性能が驚愕です。聖書の神とはそれほどまでに強大な存在なんですね」

 

「流石は神すら殺す神滅具最強の逸品だな」

 

 素直に感心するほかない。

 

 とはいえ、さすがにそれだけで勝てるほどアザゼル杯は甘くない。それほどまでに技量と性能を両立させている者たちが何人もいるのがこの大会だ。

 

 ましてや、この大会にはその聖槍の担い手である曹操がいる。

 

 聖槍の引き出しレベルならばその時点でも須澄以上。加えてあいつは技量という点において、間違いなくずば抜けている規格外の実力者だ。

 

 今後を考えるのなら、須澄は間違いなく技量を磨く必要がある。

 

 そして、そういう意味で一番有望なのは……。

 

「姫柊ちゃん。須澄のこと、頼むな」

 

「はい。チームメンバーですからある程度は」

 

「よろしく、よろしくお願いします」

 

 うん。まあこれぐらいでいいだろう。

 

「それと、七式との霊的癒着の検査があるから、一時間後に担当医師と面談な。……シルシをつけるから大丈夫だと思うが、医師が暴走したら容赦なくボコっていいから」

 

「あ、はい。お手数おかけします」

 

「いや、それに関しては俺の方が謝るところだし」

 

 まさか七式がこういう反応を示すとは。

 

 よほど相性が良かったのか、それともサーヴァントが積極的に協力しすぎているのか。七式が霊的に姫柊ちゃんと癒着して、はがれないという非常事態が勃発した。

 

 幸いなのは、サーヴァントが従順というか自己主張が少ないのか、人格が侵食されていないことだ。

 

 ここまで密接にサーヴァントと霊的に繋がっていると、下手したら人格の汚染が起こりかねないからな。

 

「しかし、インド神話の大英雄カルナか。……すごいの引いたね、姫柊ちゃん」

 

「はい。ですがフォンフの方も並び立つ英雄ですので、これで勝てるというわけでもないのですが」

 

 ……本当にすごいのが出てきたよ。

 

 問題は、フォンフの方が対をなす英雄であるアルジュナを取り込んでいる可能性があるということだ。

 

 実際ガーンディーヴァはアルジュナが持っていた弓だし、ほぼ確定と考えていいだろう。

 

 この調子だと、ほかにもすごいのを引き当てている可能性もある。

 

 ああ、七式の完成を急がないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、最終ミーティングを行う」

 

 訓練終了後、明日の試合のためのミーティングを行うこととなる。

 

「ここにきて、どうやら問題点が一つ発生したことを伝えておこう」

 

「問題点ですか? 渡された資料にミスでもありましたか」

 

 姫柊ちゃんの疑問はもっともだが、それ以上に厄介なことが発覚したのだ。

 

「聖姫工業が海外の落ち目のPMCを買収しているとが発覚した。おそらく、今後発生するであろう日本でのテロに対抗することを目的しているんだろう」

 

「……兵夜さん。確か日本って、PMCとかが活動しにくい国じゃなかったかしら?」

 

 シルシの意見ももっともだ。俺も、まさかそんなことをするとは思わなかった。

 

 正姫工業は海外進出するつもりでもあるのだろうか?

 

 だが、警戒はするべきだろう。

 

「PMCだってフィクションほど活動できるわけではないが、これでトレーニングに幅ができた可能性がある。おそらく脅威度は更に高くした方がよさそうだ」

 

 ああ、これは確かに警戒するべき状況だろう。

 

「それと、今回幸か不幸か、事前に報告されるタイプのルールで出てきてくれた」

 

 ああ、色々と根回しをした結果、アザゼル杯は二種類のパターンでルールの適用が行われる。

 

 一つは、エンターテイメント性を重視して、当日の試合開始直前にルールを決めるというもの。

 

 もう一つは、タクティクスを考慮して事前にルールを発表するというものだ。

 

 今回は後者だった。

 

「そして、今回のルールは『スカウティング・ビット』だ」

 

 スカウティング・ビットはレーティングゲームの特殊ルールの一つ。

 

 フィールドの中を移動する特殊なビットを確保するゲームだ。

 

 問題点は、このレーティングゲームでは撃破(テイク)されたものは一定時間で再度参戦できること。

 

 つまり、撃破が決定打にならないという点である。

 

 そして、ビットを破壊してしまった場合。破壊したチームの敗北が決定するということだ。

 

「呼んどいてなんだが、暁使いづらいな。龍王クラスの火力だと間違いなくビットが壊れる」

 

「本当になんだな! じゃあ俺はどうすればいいんだよ!!」

 

 ああ、なんかごめん。

 

「とはいえ暁さんは身体能力も高いですの。それなら十分一人ぐらいは足止めできませんの?」

 

「確かにそうですけど、相手は捕縛術などを習得しているんですよね。そうなると膂力任せになる先輩では不利ですね」

 

 雪侶の提案だが姫柊ちゃんの言う通りでもある。

 

 ああ、マジで面倒なことにそうなんだよなぁ。

 

 つまり、使いどころがかなり制限されるわけだ。

 

 もとよりこのルールでは暁の眷獣は威力が高すぎて制限される。

 

 一生懸命頑張って根回しして使い魔関連も緩くした。更に特殊能力や神器との境界線が曖昧なことも説明した。それでも使えるとすれば一体が限界。

 

 まあ、どれを出しても威力がでかすぎるので使うとするならば―

 

「―私がビットを発見してから、巻き込まないように注意しつつってことね」

 

 シルシのまとめが全てを示しているだろう。

 

「まあいいわ。今回のルール。逆に言えば無双し放題ってことでしょう?」

 

「うんうん。都合いい所見つけてアップちゃん興奮してるねっ」

 

 アップは良いよな。思う存分蹂躙出来て。

 

 でもトマリ。お前やっぱり止める気ないだろ。

 

 まあ、その辺は考慮するとして、しかし警戒するべきはシルシ対策だな。

 

「間違いなく、間違いなくシルシさん狙われるよね。一番重要だもん」

 

「失礼ね。私だってサーチャー使えるわよ?」

 

 アップが文句を言うが、しかしそれ初耳だからな。

 

 次元世界の魔法技術はまだあまり知られていないし、これは逆に逆手にとれるか?

 

「まあ、そういうわけで作戦を煮詰めていくぞ」

 

 ………待ってろよ、ナツミ。

 

 俺はお前の男として、情けない負け方だけは決してしない。

 

 いや、勝ってみせるからな!!

 




アザゼル杯のルール発表を一部変更したのは、古城が使い悪すぎるからです。

……ぶっちゃけ、眷獣中心のストブラの吸血鬼って、レーティングゲームのルールだとどこまでできるのかわかりずらい。


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VSナツミ! 第一ラウンド!

 

 そして、試合開始当日。

 

 でかいスタジアムで、俺達は準備万端だった。

 

「よし! 全員水分補給とトイレはきちんと済ましておくこと」

 

 俺はとりあえず先達としてその辺を説明する。

 

 ちなみに、制限時間までに決着がつかなかった場合は引き分けになる。

 

「長いですね。普通、競技試合となると数時間ぐらいだと思いましたが」

 

「レーティングゲームではよくあるのよ。元々実戦訓練も兼ねていたところがあるから、数日かけて行うゲームもあるのよ」

 

 レーティングゲームがよくわかってない姫柊ちゃんにシルシが説明するが、実際レーティングゲームは制限時間とかが幅あるからな。

 

 まあ、アザゼル杯は二日や三日かかるようなものは出てこないんだが。

 

 しかし、ここから聞こえてくるぐらい人が集まってるな。流石は俺こと神喰いの神魔といったところか。

 

 そういうのに慣れてない暁は、微妙に嫌そうな顔をし始めてきた。

 

「っていうかこれ、すごい人数に見られるんだよな。今更だけど恥ずかしくなってきたぞ」

 

「大丈夫、大丈夫だよ。僕はもう慣れた」

 

「慣れれば癖になりますのよ?」

 

 何度かやって慣れてきた須澄と雪侶がフォローを入れるし、実際慣れる。

 

「ま、こういうのは実戦慣れとはまた別のそれだからな。ヴィヴィオたちもDSAAじゃはしゃぎすぎたりしてたからなぁ」

 

「そうなのかノーヴェ? それはちょっと見てみたい気もしたな」

 

 ヴィヴィオ達は結構普通に対応しそうな感じだったんだが、まだまだ子供ってことか。

 

 さて、暁達はどんなことになることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁて始まりました!! 本日のアザゼル杯!! 今回は色々と興味深い対決になっており、観客の興味も集まってきてますよ!!』

 

 そんな実況の声と共に、俺達はついに入場する。

 

『まず登場してきたのは、皆様ご存知冥界の英雄! 神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)チーム!! 今回は、エイエヌ事変で発見されたもう一つの地球、S×Bの方々を連れて参戦だぁああああああ!!!』

 

 わぁああああああ!! と歓声が上がり、俺達は入場する。

 

 もちろん、もっとも注目されるのは暁と姫柊ちゃんだ。

 

「せ、先輩。緊張して恥ずかしいことしないでくださいにぇ!」

 

「噛んでるぞ、姫柊」

 

 ツッコミ入れてる暁も結構がちがちだ。ああ、こんな注目されたら仕方がないだろう。

 

 だが俺は冷静に手を挙げて対応するのだ。慣れたからな!!

 

 そして、相手方もついに登場する。

 

『続いて登場するのは、宮白兵夜選手にとって色々と縁深い方々が集まっている、斬撃猫一番チーム!!』

 

 ナツミ達が会場に入ってくるが、こちらは比較的歓声は控えめだった。

 

 ふむ、ナツミも結構大活躍してるんだが、やはりD×Dの中では知名度は低めということか。

 

『宮白兵夜選手の使い魔であるナツミ選手はもちろんのこと、所属メンバーの大半が宮白兵夜選手の父親が社長を務める正姫工業の保安部で固められているこのチーム。なんとお姉さんもいることで、中々興味深いカードとなっております!!』

 

 ああ、俺も姉貴とレーティングゲームで戦うことになるなんて思わなかったよ。

 

「まったくもって色々ツッコミどころが多いカードよね、これ」

 

「まったくだ」

 

 俺と姉貴はお互いに苦笑すると肩をすくめる。

 

 そして、ナツミと視線を交わし合った。

 

「負けないよ、ご主人」

 

「勝たせてもらうぜ、ナツミ」

 

 ああ、言葉はいらない。すべては試合で語るべきだ。

 

『さて、今回のルールは事前報告型の『スカウティング・ビット』! 戦闘能力が勝利に直結しないゲームになりますが、どうなると思いますか、解説のサーゼクス様』

 

 って今回サーゼクス様が解説かい!!

 

『そうだね。将来の義姉弟(きょうだい)となる者同士の戦いは複雑だが、ルールのみを考えるのであれば斬撃猫一番チームが若干有利だろう』

 

 サーゼクス様はにこやかに解説を行う。

 

『そうですか? 神喰いの神魔チームもシルシ選手の千里眼がありますし、こういう探索系は有利かと思われますが?』

 

 流石実況。観客の疑問をしっかりと代弁してくれる。

 

 だが、実際このルールだと厄介なんだよなぁ、ムラマサは。

 

『斬撃猫一番チームの(キング)であるムラマサ選手は、その超能力で大量の人員を用意できる。その数は魔剣創造(ソード・バース)の通常禁手をはるかに超えるので、こういう人海戦術が有効なゲームでは有利なんだよ』

 

『なるほど、スカウティング・ビットでは見通しの悪い地形がありますし、人員が多いのは視力が良いよりも遥かに有利ですね』

 

 そう、それこそがムラマサの厄介なところ。

 

 個人で人海戦術ができるってのが実に厄介だ。

 

 さて、どうやって切り抜けたらいいものか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして最悪なことに、試合のフィールドは森林だった。

 

「うへぇ」

 

「はいはい。そんなに嫌そうな顔をしないの」

 

 シルシに嗜められるが、しかしこれは厄介だろう。

 

 見通しが悪いから単純に数が多い方が有利になるわかりやすい展開だ。人数で差のあるこっちの方が不利だと言わざるを得ない。

 

「これは、これはもう頑張るしかないね。アップ、我慢してね」

 

「はいはい。今回は無双しないでサーチャーに専念するわよ。その分きちんと護衛してね?」

 

 ああ、今回は須澄とトマリはアップの護衛につけるべきだろう。

 

 サーチャーでビットを発見できるかが勝利のカギだ。

 

「さて、それじゃあ俺達は足止めするぞ!!」

 

 そして残りは発見するまでの間足止めに専念する。

 

 発見し次第、アップはソニックムーブで一気に取りに行く。これが今回の作戦だ。

 

 そういうわけで、俺達は巡航速度で相手がいるであろう地帯に向かって走り出す。

 

 おそらくムラマサ達は数に物を言わせて拡散しているはずだ。

 

 ならば、最も数を展開するムラマサを叩き潰す!!

 

 そうすれば時間稼ぎは何とかなるはずだ。

 

「兵夜さん! 来るわよ!!」

 

「そう来ると思った」

 

 だから、ムラマサに敵を近づけさせないのが最優先だろう。シルシが言うまでもなく覚悟は決めていた。

 

 問題は、出てきた連中の姿だった。

 

「見つけたわよ、兵夜!!」

 

「……はぁ!?」

 

 そこに出てきたのは、人型の小型ロボット。

 

 間違いない。アザゼルや小雪が技術提供し、流出した学園都市技術まで組み込んで作ったパワードスーツだ。

 

 それが、なんでここに!?

 

「おい! あれは流石に反則なんじゃねえか!?」

 

「戦闘用のパワードスーツ!? まさかここまで技術発展しているだなんて!!」

 

 暁と姫柊ちゃんが驚く中、パワードスーツの向こう側で姉貴がにやりと笑う。

 

「ふふふ。これが正姫工業の最新工業用パワードスーツ。その装甲強化仕様よ!! お値段は要相談だから、異形社会の非力な方々はぜひご相談を!!」

 

「ふざけんなぁあああああ!!! 日本は兵器輸出禁止だぞ!!」

 

 俺は極めて常識的なことを叫んだが、それに答えたのは親父だった。

 

『それは違う。これはいわゆるテクニカルとして運用される可能性を考慮した技術試験機だ。いっそのこと本格的な軍事運用をされるのならどういう部隊構成かを調べるために、十数機ほど生産しているだけでな』

 

「そういうこと。このデータをもとに軍事転用されにくいのを開発するのが真の目的よ」

 

 どんな屁理屈だ!!

 

 さてはこの日のためにあえて兵器としてのパワードスーツを開発してやがったな!

 

 そしてその技術をアピールし、来るべき異形社会の公表に先んじて商売をする腹か!

 

 おのれ親父! おのれ姉貴! おのれ正姫工業!! 流石は俺の肉親が運営する会社だ、黒い!!

 

『因みに、今回は武器扱いということで合法と見なされておりますので、ご了承ください』

 

 実況も把握済みだったか。フェアなのかこれは……いや、ありか。

 

「納得できるか! おい、宮白あれはありなのか!?」

 

「残念だが、武器の類は査定が緩い。そうじゃないと俺を含めてアウトになる輩が多いからな」

 

 エクスカリバーとかデュランダルとか、調達できるのならOKの方針だからな。

 

 つまりは手に入れられない奴が悪い。手に入れるのも実力の内という方針だ。

 

 まあ、それでもやられる時はやられるからなぁ。仕方がないといえば仕方がないか。

 

「そういうわけで覚悟しなさい兵夜! 人類最先端の科学がどこまで異形に対抗できるか、試させてもらうわ!!」

 

「なめるな姉貴! 俺はこれでも最上級に手が届いた男。倒すつもりなら一個大隊で挑んで来い!!」

 

 上等だこのアマ!! 返り討ちにしてくれるわぁああああああああ!!!

 




はい、それはもうちゃんとそれ相応の準備は整えております。

学園都市技術がばらまかれたのはご存知の通り。もちろん工学系の技術も急激に発展しております。

そしてこのゲームはうかつに大破壊ができない厄介なルール。実際古城は結構苦戦する類ですね。むろんイッセー達パワータイプの本領を発揮しにくいでしょう。

反面分身などの探索に有効な能力を持つものならば有利になりやすい特殊ルールです。


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VSナツミ! 第二ラウンド!!

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とレイヴェルは、宮白の試合を見るために会場にまで来ていた。

 

 すげええええええ!!! 正姫工業すげぇええええええ!!!

 

 俺達の目の前で、パワードスーツによる激戦が繰り広げられている。

 

 さらに、遅ればせながらナツミちゃんまで乱入してもう大変なことになってきたぞ!!

 

『ハッハーご主人! 覚悟しなぁ!!』

 

『いきなりサミーマモードかい!!』

 

 頑張れ宮白! 間違いなくナツミちゃんはお前が狙いだ!!

 

「人間の技術も、学園都市技術の流出で急激に発展しておりますものね。これは油断ができなくなってきましたわ」

 

 隣でレイヴェルが感心しながら試合を見ているけど、確かにこれはすごいことになってきた。

 

 正姫工業も本腰入れてアザゼル杯を狙ってるってことだよな、コレ。マジで大変なタイミングで戦うことになったんだなぁ、宮白。

 

「……あ、もしかして宮白と戦うことになるから引っ張り出してきたのか?」

 

「恐らくそうでしょう。宮白さまは間違いなく冥界の英雄の1人。そんな相手と戦った新兵器となれば、勝敗に関わらず注目されるものと思われます」

 

 なるほどなるほど。流石宮白の家族。抜け目がない。

 

 そして、その成果は間違いなく発揮されていた。

 

『これはすごい! 本当にすごい!! 斬撃猫一番チーム、あの神喰いの神魔チーム相手に大善戦!! 割とてこずっております!!』

 

 実況がそう告げるぐらいには中々混乱状態だ。

 

「なあ、レイヴェル。この試合どっちが勝つと思う?」

 

「下馬評通りなら宮白さまの方が有利だと思いましたが、こうなると数を大きく増やせるムラマサさまのいる斬撃猫一番チームの方が有利ですわね」

 

 レイヴェルは静かにそう言った。

 

 確かに、しっかり足止めされている以上、大量の人員を投入できるムラマサがいる分有利なのは間違いないよな。

 

「可能性があるとすれば、いまだ不明なことの多い異世界能力に有利なものがどれだけあるか……というところですわ」

 

 ああ、やっぱりそうだよな。

 

 宮白の奴、「今後の敵に情報はさらせないな」って言って俺たちにも結構黙ってるところあるからな。俺達も暁とか近平のことはよくわかってない。

 

 っていうか、年上の実弟ってなんだよ。なんで平行世界から悪落ちした宮白がやってくるんだよ。とどめにどんだけ大被害だしてんだよ!!

 

 ああ、この試合、まだまだそいつらのことがわからないから、わからないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なめてかかっていた! なめてかかっていた!!

 

 俺の親父と姉貴をなめてかかりすぎていた!!

 

 振るわれる両腕には破砕用のハンマーが設置されており、まともに喰らえば中級悪魔でも一発でアウトになりそうな破壊力を発揮してくれている。

 

 そんなパワードスーツの攻撃をかわしながら、そして警戒しなければならないのはエースのナツミ。

 

 バランスの優れているマルショキアスで軽快に攻め立てると思ったら、いつの間にかナフラになって豪快なパワーファイトへと変化する。

 

 加えて左腕は盾にするつもりで既にフェニクスにしており、攻撃をそれで防ぐという堅実な戦法を行っている。

 

 ええい! 流石は俺の愛するナツミだ!!

 

「強くなったなナツミ! 大好きだ!!」

 

「うん! 僕も兵夜大好き!!」

 

「そこ、いちゃつかない!!」

 

 うるさい姉貴! 今俺達は通じ合っている最中だ!!

 

「よそ見は厳禁だ!!」

 

 そして、その隙を突いてノーヴェが素早く蹴りを放つ。

 

 よし! これで一人足止め―

 

「―残念♪」

 

 ……効いてないだとぉ!?

 

 くそ、硬化系の能力を保有しているのか!? いや、それにしてもパワードスーツの方はへこんでもおかしくないはずだろ?

 

「私は、自分及び触れた者の強度を高めることができる能力でね!!」

 

 そのまま豪快にチェーンソーを振るって反撃を行うが、ノーヴェはやすやすと回避した。

 

「……仕方ないな。少しずつ削ってくか」

 

 とはいえノーヴェも冷静に対応して、すぐに持久戦へと切り替えた。

 

 切り替えたのは良いんだが、問題は―

 

「逃がすな! 追え!!」

 

「うぉおおおお!? ちょ、ちょっと待った!!」

 

 暁は身体能力が高いだけで、眷獣なしだとこの場合不利だな、オイ!!

 

「先輩! とにかく捕まらないでください。この膂力は直撃をもらうと動けなくなります!!」

 

「とにかく頑丈なうえに熱対策も万全なようね!!」

 

 姫柊ちゃんとシルシも、火力不足がたたって苦戦気味。

 

 そしてまともに渡り合えるはずの雪侶はというと―

 

「魔剣なんて反則ですの! 反則ですのよ!!」

 

「現地作成ですお嬢様!」

 

「そういうわけで我慢してください!!」

 

 ……対魔法用の魔剣をムラマサが作ってた所為で大苦戦!

 

 あっはっは。そうだよ、魔剣創造はこういうのができるんだよ!!

 

 おのれムラマサ!!

 

『神喰いの神魔チーム大苦戦! ノーヴェ・ナカジマ選手は堅実に戦闘をこなしていますが、新規参戦の暁古城選手と姫柊雪菜選手は意外とてこずっております!!』

 

 仕方ないじゃん、相性悪いんだから!!

 

 ええい! このままでは目的が達成できん!

 

 まだか! まだビットは発見できないのか!!

 

 俺たちが何とか頑張ってしのぎながら、その最重要の報告を待っていたその時だった。

 

『……発見したわ! Cの4!!』

 

「待っていたぁああああ!!! 姫柊ちゃんとシルシ、レッツゴー!!」

 

 俺はバックステップののちに援護射撃をしながら、二人を先行させる。

 

 しかし、今俺たちがいるのがCの2であることを考えるとかなり近いな。

 

「抜けられたぞ、追え!!」

 

「いや、ムラマサさんが既に人形を送ってる!!」

 

 ああ、そうだろう。

 

 ムラマサの能力を利用した、人海戦術はかなりの脅威だ。少なくとも、既に広範囲に展開して調べているのは分かっている。

 

 だからこそ、この作戦は効果的なんだ。

 

「シルシ! 軸線を合わせろ!!」

 

「ええ! 暁くんと姫柊ちゃん、そしてビットは一直線よ!!」

 

 良し! ならいける!!

 

「暁、撃て!!」

 

「くそ! マジでやんのかよ……」

 

 嫌そうなのは分かるが、しかしこれは必要なことだ。

 

 大丈夫大丈夫。それはお前がよくわかっているだろう。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)を継し者、暁古城が汝の枷を解き放つ―」

 

 これでようやく本領発揮。ああ、待ってたぜこの展開を!!

 

疾く在れ(来やがれ)、五番目の眷獣、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 そこから放たれるのは雷でできた巨大な獅子。

 

 暁が最初に掌握しただけあり、比較的制御ができる眷獣でもある。

 

 だが、今はあえて制御しない。

 

 躊躇はあっても遠慮はない全力の雷撃が、一気に放たれた。

 

「姫柊、防げよ!!」

 

「はい先輩!!」

 

 そして、この作戦の肝は姫柊ちゃんにある。

 

 なんたって、彼女の槍は魔力を無効化する特別製。

 

 そして対第四真祖用の装備である以上、第四真祖の攻撃を防ぐことも可能なわけで―

 

「獅子の巫女たる高神の剣巫が讃え奉る」

 

 必然的に!

 

「破魔の曙光。雪霞の神狼。鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせたまえ!!」

 

 放たれた攻撃を防ぐだけなら簡単なのさ!!

 

『ななななんとぉおおおおおおお!!! 暁選手の放った雷撃の獅子がムラマサ選手の魔剣の群れをたやすく粉砕!! しかし姫柊雪菜選手が槍を一振りしただけであっさりと無効化されましたぁあああああ!!! なんかものすごいことが二連続で行われています!! どう思いますが、ルシファー様!!』

 

『これはすごいね。単純な出力なら龍王や魔王クラス。それをあっさり無効化できるあの槍は、つまりそういうことに特化した武装なのだろう。伝説の聖剣や魔剣にも匹敵している』

 

 はっはっはっは! そうだろうそうだろう!

 

 とにかくこれで有象無象はごっそり減った。このチャンスは一切逃さない!!

 

「さあ行けシルシ、姫柊ちゃん!! そのままビットを確保してくるんだ!!」

 

「分かってるわ! さあ、行くわよ姫柊ちゃん!!」

 

「はい!」

 

 フハハハハ!! これで一気に状況は有利になった。

 

 今頃須澄たちも向かっているだろうし、ムラマサを抑えることも不可能ではないだろう。

 

 あとは俺達がナツミ達を足止めするのみ。そしてビットの場所が分かっている以上、こちらも遠慮をする必要はない!!

 

「暁!! それじゃあまずは五割から行ってみようか!!」

 

「あ、ああ!! ……そういうわけで半分ぐらいなー」

 

 ああ、ここでしっかりと暁の眷獣の訓練もしておかないとな。

 

「全員後退。巻き込まれるぞ!」

 

「え、ちょっと待ちなさい兵夜! いくらなんでもこれ魔王クラス―」

 

「ああ、だから制御のためにも練習相手になってくれ。マーケティングしてしてたんだからお相子だろ?」

 

「本当に性格悪いわねアンタぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 近平須澄は、発生した雷光を見て本当にやりやがった的な感慨を浮かべていた。

 

「流石、流石兄さんだ。本当に練習させてるよね」

 

「うんうんっ。全力の半分ぐらいかなっ?」

 

 半目の須澄に頷きながら、トマリは視線をアップに向ける。

 

「無双……したかった……っ」

 

「はいはいアップちゃん泣かないでっ。また次の試合で無双させてくれると思うよ?」

 

「そう、そうだよ! 僕からも頼んでみるからさ?」

 

 言いながら割と早いスピードで森の中を駆け抜ける。

 

 既に雷撃で破壊された森の残骸が見えてきており、この調子ならばビットの発見も時間の問題だろう。

 

 そして、すぐに味方と合流できた。

 

「雪菜ちゃんにシルシちゃんっ! 待ってたよっ!」

 

「トマリさん! ビットはこの先です!!」

 

「距離にして概算100メートル! だけど早いからすぐに走らないと追いつけなくなるわよ!!」

 

 シルシが言っているように、ビットは独自に行動する能力を与えられている。

 

 だからこそ、今回のゲームはなかなか大変であるわけだが、今回は相手が悪かった。

 

 なにせ、広範囲にサーチャーを展開できるアップや、大量の人員を疑似的に確保できるムラマサがいるのだ。必然的に勝負は短期決戦(ブリッツ)になる。

 

 必然的に、向こうもビットの存在を発見しているのだ。

 

「見つけたで、ビットには触れさせへんで!!」

 

「うわ、敵の(キング)っ!?」

 

 強襲を仕掛けてくるムラマサの攻撃を回避しながら、トマリが悲鳴を上げる。

 

 そしてそれを聞き流しながら、ムラマサは魔剣を生み出すと即座に切りかかった。

 

「させない、させないからね!!」

 

「ああもう! 無双したいけどトマリが最優先だし!!」

 

 それを同時に受け止めながら、須澄とアップが連携でムラマサを攻め立てる。

 

「お、中々やるやないかお二人さん! これはヴァーリも気に入りそうやな」

 

「それは、それはどう……も!!」

 

 出力だよりで強引に押し切りながら、須澄は一歩でもビットに近づこうと足を前に進める。

 

 だが、それでもムラマサの方が一歩速い。

 

「そんじゃまぁ、そろそろ禁手も見せようか!!」

 

 いうが早いか、ムラマサの魔剣達が一斉に集めると形状を変化させる。

 

 そこに生まれるのは巨大な鎧。それも、全てが魔剣で出来た鎧だった。

 

「これこそマイ禁手(バランス・ブレイカー)! 剣鎧創造(ソード・バース・ブレードメイル)!!」

 

 魔剣で出来た巨人が、さらに巨大な魔剣を生み出して須澄に切りかかる。

 

 もらえば一撃でアウトだと確信し、須澄はわき目も降らずにアップとトマリを掴むと走り出した。

 

「うわ、うわ、うわぁああああああ!?」

 

「お、落ち着いて須澄くんっ! 別にリタイアになっても死ぬわけじゃないんだしっ!!」

 

「……トマリ、どうしよう。逃げる時に真っ先に抱えてくれることが嬉しくて動けない」

 

「アップちゃんも照れてる場合じゃないからっ! あ、でもそう考えると嬉しくて吸血衝動が出てきちゃうかもっ?」

 

「発情してないで戦線に戻ってくれないかしら!?」

 

 こんなところでもいちゃつきを示してくる三人に鋭いツッコミを入れながら、シルシはしかしビットを見逃さない。

 

 一度発見さえしてしまえば、ビットの性能でシルシの千里眼から逃れることなど不可能だ。

 

 とはいえ、面制圧で探すムラマサも厄介であり、ムラマサの人形に気づかれれば逆転の目もありうる。

 

 上手く操作するムラマサを引き付けてくれるかどうかが勝利を分ける。

 

「さて、それじゃあ姫柊ちゃんも足止めをよろしくね」

 

「はい! でも、先輩達は大丈夫でしょうか?」

 

 雪菜の気がかりも当然といえるだろう。

 

 なにせ、相手は残りの斬撃猫一番チーム全員と、それ以上に厄介な実力者。

 

「ナツミちゃんを相手に、どこまで戦えるのかしら彼らは」

 

 




ようやく出せた、ムラマサの禁手の名称。

これそのものはキャラクターができたとのほぼ同時にできたのですが、なかなか詳細を言う機会がなくて残念でした。

こういったことができるのも、後日譚の魅力です。書いててよかった!!


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VSナツミ! 決着です!

ナツミとのレーティングゲーム、決着!


 

「にゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! いや、死なないけど!!」

 

 俺は全力で砲撃から逃れている。

 

 今、ナツミはグレゴリー状態で絨毯爆撃をぶちかましていた。

 

 ああ、これぞ制圧射撃ならぬ制圧砲撃。

 

 ここまで砲撃されるとこっちも回避に専念せざるを得ない。

 

「おい、これ本当に死なないんだろうな!?」

 

「お前はミンチにされても死なないだろうが!!」

 

「にしても俺を抱えながら走るなよ!? そんなことしなくても走れるぞ!?」

 

「お前は眷獣の攻撃に集中しろって意味だよ!!」

 

 暁と言い合いながら、俺は全力で砲撃から逃れる。

 

 神格化をフルに発動できない今の俺では、ナツミと撃ち合いなど不可能だ。

 

 かといって眷獣の扱いに慣れてない暁が、回避と制御を同時に行えるとも思えない。

 

 ゆえに暁を抱えて俺が移動するという真似が必要なのだ。

 

 ちなみに時々遠距離武装を構えて攻撃を仕掛けようとしてくるパワードスーツが出てくるが―

 

「させるか!!」

 

 このように、機動力の高いノーヴェコーチに撃破してもらってます。

 

 つまり俺は囮だ。

 

「カッハハハハハハ!! どうしたご主人! この程度かよ!?」

 

「ナントでもいうがいい! 己の低い実力を、コネに改造止めに武装で補うのが俺だ!! そういうわけで打ち返せ暁!!」

 

「俺は武器か!!」

 

 などとツッコミを入れる暁だが、しかししっかり反撃してくれている。

 

 だが、ナツミはその広範囲攻撃を器用に回避した。

 

「そんな適当ぶっぱで俺様を倒せるわけねえだろ!! うんうん、まだまだ素人なんだね、頑張れ!」

 

「なあ、あのナツミってのそんなに強いのか!?」

 

「どっかの国の最強魔導士十人衆に、将来はノミネートされるの確実とかなんとか言ってたな!!」

 

 ビッグマウスとは思えない実力ではある。少なくとも、D×D女性メンバーにおけるスペックなら総合的にトップクラスだろう。

 

 とはいえ、どちらかといえばナツミもパワータイプのはずなのだが、しかし中々戦い方が上手だ。

 

 軌道にフェイントをぶちかますことで、的確に攻撃をかわしやすい状態を維持している。これは中々厄介だ。

 

 そして、そのおかげで暁の攻撃も鋭く正確になっていく。

 

 あいつ、俺の目的を見抜いて手伝ってまでくれているということか。

 

「因みに! 大出力の攻撃はまず最大出力に慣れるといいよ!」

 

「お、おお。ありがとう」

 

 アドバイスまでしてくれているよ! え、今敵なのにマジでいいの!?

 

「実戦形式って強くなるからね! ボクは兵夜の使い魔だから、兵夜の役にもちゃんと立つもん!!」

 

「ありがとうナツミ! 愛してる!!」

 

 でも本当にそんなことしていいのか?

 

 だって、今試合中だからそんなことしてていいのか?

 

「あ、でも今はレーティングゲームの真っ最中だから―」

 

 そのとたん、発動するはサミーマモード。

 

 あ、ヤバイ―

 

「ぶっ倒すことには変わりねえけどなぁ!! 覚悟しやがれご主人!!」

 

「やっぱりねぇえええええええ!!!」

 

 うぉおおおおおおお!!! 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! いや、死なないけど!!

 

「そして私もここで参戦!!」

 

 と、そこにはパワードスーツを一部外しながら追いかける姉貴の姿が!!

 

 そしてその手には弓が構えられていた。

 

「いかん! 姉貴はアーチェリーで全国大会に出場したことのある腕前!!」

 

「「お前の家族はすごいの多いな!!」」

 

 うんそうだよね二人とも! 実際その通りなんだよ!! 俺が言うのも何なのかもしれないけど!!

 

 放たれる狙撃をかわすという難易度まで追加されながら、俺は全力で攻撃を回避していく。

 

「それと兵夜! ちょっと前に言っていた私の性癖の件なんだけど!?」

 

「姉貴これ全世界放送!!」

 

 なに!? こんなところでカミングアウトって正気か!!

 

「アンタの知り合いにドンピシャの相手がいるから後で紹介しなさい!!」

 

「いるの!? 俺のコネにそんなのがいるの!?」

 

 なんでだぁあああああああ!!! 俺のコネは一体どこまで広いんだ。

 

「お、オネエ系か!? それなら確かに俺のコネでは知り合いに多いが!!」

 

「なあ、お前は一体何を集めてるんだ?」

 

 意外とできるんだよ、オネエ系は。

 

 そんなことを考えながら俺は誰を必要としているのかを考える。

 

 ああ、俺のコネは確かに広範囲。それも一時期性的にはしゃいでたからエロ方面においても広範囲だ。

 

 さあ、誰が出る!?

 

「み、み、み……」

 

 誰だ、いったい誰だ!? み、ってどんなジャンルだ!? 巫女萌えとかか!? 朱乃さんはダメだぞイッセーのだから!!

 

「……ミルたんって人、紹介して欲しいの!!」

 

 …………。

 

 あ、ああ、あーあーあー! そういうこと!!

 

「イッセーのお得意様だから、イッセーに相談してくれ」

 

「え、そうなの? 分かった、じゃあ聞いてみる!!」

 

 姉貴、なんて難儀な性癖なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

「イッセーさま、どうなさいます?」

 

 うん、レイヴェル。

 

 いやね、紹介するのはやぶさかじゃないんだよ。

 

 だってミルたんはいい人だし、陽城さんもいい人だから大丈夫なんだけど……。

 

「俺の周り、本っ当に変な人多いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで俺達は未だに激戦を繰り広げている。

 

「うぉおおおおおお!!! 走る、俺は走るから暁お前はとにかく撃て!! あとノーヴェは有象無象を近づけさせないでくれ!!」

 

「分かってるけど大丈夫か? 顔真っ赤で汗だくだぞ?」

 

 ノーヴェ! 大丈夫大丈夫頑張るから!!

 

 とにかく、この攻撃をなんとしても潜り抜けなきゃ話にならない。

 

 ああ、リタイアしても復活できるとはいえ、そんないい加減な気持ちでナツミと相対するわけにはいかないからな。

 

 リタイアするときは何としても相手を道ずれにしてくれるわ!!

 

「カッハハハ! 一思いに道づれにする気が満々だぜ!! 全員近づくなよ!!」

 

 クソ! 流石はナツミだ、俺の性格を読んでいる!!

 

「っていうか、お前が道づれになったら俺は間違いなく一緒にやられるんだが」

 

「うっかりしてたな」

 

「またそれかよ!!」

 

 などと漫才を繰り広げながら、俺は一生懸命攻撃を避ける。

 

 そして、そんな中、ナツミは俺に声をかける。

 

「ねえ兵夜!!」

 

「ん? なんだ?」

 

「ボクは兵夜のこと大好きだよ!!」

 

「ああ知ってる!!」

 

 そんなことはわかっているとも!!

 

「うん、だからね?」

 

 そのあと、ナツミは顔を真っ赤にする。

 

 ああ、なんとなく想定できてしまったよ俺は。

 

「アザゼル杯が終わったら、ボクを、お嫁さんにしてください!!」

 

 ですよねぇえええええええ!!

 

『おぉっとぉおおおおおおおお!!! ここで宮白兵夜選手逆プロポーズだ!! さすがはラブシーン公開処刑の異名を持つ男、我々を予想外の方向に沸かせてくれます!!』

 

『全くです。これで私に新たな義妹が確定するということですね。いやぁめでたい目出たい』

 

 外野うるさい!!

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 もう今更だからあえて言おう。

 

 いや、そんなこと結論はとうに出ている。

 

 初めて出会って心を交わした転生者。

 

 そして、こんな俺についてきてくれた大事な使い魔。

 

 ああ、俺の答え何てたった一つだ!!

 

「当然だとも、大体、一緒に幸せになるって誓ってるだろ、ナツミ!!」

 

 攻撃を避けながらだけど我慢してくれ! それは痛いし暁を巻き込むから!!

 

 ……いや、やっぱりこの答え方はまずいか?

 

 そんな風に視線を向けて見たら。

 

「……うんっ!」

 

 満面の笑顔で喜んでくれていた。

 

 ああ、よかっ―

 

「兄上よけてですのぉおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュドォオオオオオンッ!!

 

「「ぐぁああああああああああああっ!!!」」

 

「兵夜、古城!?」

 

 砲撃は続行中だったのかぁああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、シルシ選手がビットを確保しました。この勝負、神喰いの神魔チームの勝利です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、死ぬかと思った。

 

「もう兵夜っ! それはそれとして戦闘をきちんとしなきゃだめだよ!」

 

「砲撃ぶちかましたお前が言うことか!」

 

 まさかあの笑顔で容赦なく砲撃ぶちかますとは思ってなかったよ!

 

 そんなこんなで、勝者チームと敗者チームで仲良く飲み会などぶちかましている。

 

「………好み、ドンピシャ……!」

 

 そして姉貴、眼の幅で涙流しながら感動するな。どんだけ性癖で困ってたんだよ。

 

 ミルたんの写真を見せただけでこれとは、もう驚く他ない。

 

 まあ、ミルたんは悪い奴じゃないし、酷いことにはならないだろう。

 

「それにしても、天騎の奴はいらんことばっかりしちゃってからに!! 兵夜、次あったら一瞬で半殺しにしなさい!!」

 

「言われなくても兄上なら、三分の二殺しぐらいはしてのけれますとも」

 

「安心するといいさ。四分の三殺しで終わらせてやるよ」

 

「物騒だな、オイ」

 

 おいおい暁、姉弟妹の仲のいい会話じゃないか。駄目アニキをどうにかしようという間違ったところが一つもない会話だぞ?

 

「それにしても、私達は初参加でしたけれど貢献できたでしょうか? 割といっぱいいっぱいで……」

 

「それは問題ないよ。本当に苦戦したから」

 

「こんな可愛い女の子なのに戦闘能力も高いなんて、やるじゃないか」

 

「ああ、俺の娘も君みたいに素直な女の子だったらなぁ・・・・・・」

 

 姫柊ちゃんは警備の連中にとっつかまってアイドルになってるし、ありゃ当分離れられんぞ。

 

「ノーヴェ、わたしの動きはどうだったかしら? 格闘技経験者としてのアドバイスがほしいのだけれど」

 

「ん? ああ、踏み込みとかは特に問題はないな。ただ、走る時がちょっと浅いっていうか―」

 

「ああ、確かに悪魔は飛べるからそういうの緩くなるよね―」

 

 シルシも、ノーヴェや須澄と一緒に今度の反省会などを行っている。

 

 

「で、暁。今後の予定は?」

 

「ん? ああ。じゃあ悪いけど来週は無しにしてくれ」

 

 と、俺達は今後の展開のために話し合いを続ける。

 

「来週? 来週は最初から入れてないが、何かあるのか?」

 

「ああ、波浪院フェスタっていう祭りが絃神島の方であってな。昔の友達が来るから道案内することになってて、ちょっと用事が埋まってたんだよ」

 

「へえ。そんなお祭りがあるのか」

 

 なるほど、それは良いこと聞いた。

 

 ……良いことを聞いたぞ!!

 




兵夜と彼女たちのレーティングゲーム。原作最終章の展開と合わせて、兵夜と彼女たちのある種の決着をつけようと思います。


そして次の戦闘はストブラ編。

さてさて、アザゼル編の説明をした時に出した案を回収するときがやってきたぜ!!


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波浪院フェスタのその裏で

試合が終了したことで、ストブラ編へとまた戻ってきます。










あと、監獄結界の囚人にオリジナルを追加します。

あのメンバーだけだと人数差的にすぐにケリがついてしまって面白くないと判断しました。


 

 

「と、いうわけでサプライズで参加してみようと思うんだけど、来る?」

 

「だからDSAAがあるって言ってんだろ」

 

 ノーヴェにバッサリと切られてしまった。

 

「すいません、試合とかぶってて行けそうにないです」

 

「その日はヴィヴィオさんやリオさんの応援に行きたいので、すいませんが辞退させていただきます」

 

 ふむ~ん。俺として今後の交流も兼ねてたんだが、しかしDSAAがあるとなれば仕方がないか。

 

「なるほど残念だ。あ、お土産は何がいいかな?」

 

「え、お土産買ってきてくれるんですか? それとすごい筋力ですね!」

 

 乗ってきた車を持ち上げて筋トレしてる最中だったので、同じく力自慢のリオに尊敬されている。

 

 うん。子供の純粋な尊敬は場合によっては心地いいな。

 

「まあ腐っても上級悪魔だし? 戦車にプロモーションして魔力も併用すればこれぐらいはねぇ?」

 

 調子に乗ってスクワットまでしながらやって見せるが、しかしこれは調子に乗りたくなるな、うん。

 

「しかしコロナちゃんは敗退か。ちょっと残念だね」

 

「はい。アインハルトさんは強かったです」

 

 なんでもハイディとコロナちゃんの同門対決だったそうだが、しかしそれは残念だった。

 

 複数名でノミネートしての試合だと、こういうこともあるということだろう。俺も独立している以上、イッセーとの試合はあるだろうし思うところはある。

 

「でも、コロナもすっごく頑張ったんですよ! ゴーレムが破壊されたのに自分の躰ですっごく綺麗に動いて!」

 

「言っとくがなヴィヴィオ。あれは今後の試合じゃ使わない方向で言ってるからな?」

 

 む? そんなに危険な技使ったのか?

 

「あんまり説得力ないけど、競技試合で命削るのはお勧めしないぜ? 俺も後でバッシングの種になったし」

 

「そういうのは教えるなよ? もっとこう、安全なのないのか?」

 

 ノーヴェの言うことはごくごく当たり前だが、しかし安全でパワーアップできる方法……ねえ?

 

「大将、瞬動術とかどうだよ? あれ、使えれば相当強くなれるだろ?」

 

 グランソードがそう言ってみた。

 

「ああ、あれか」

 

 確かに、あれは接近戦で使えるとすごく強力だ。間合いを詰めるのにも離すのにも効果的だからな。

 

 だが、俺達の中で使える奴っているか?

 

「確か兄上、非戦闘時なら少しぐらい使えませんでしたの? それを試してみたらよろしいのでは?」

 

 雪侶の言葉に、俺はふと考えた。

 

「瞬動術ってなんですか?」

 

 ヴィヴィも興味深そうにしているし、ここはちょっと実演してみるか。

 

「ああ、魔法世界(ムゥンドゥス・マギクス)式の戦闘技術の一つでな。加速するときに魔力か気を込めることで―」

 

 俺は軽くステップを踏んでから瞬動を発動。

 

 その瞬間、十メートルぐらい離れたところに普通に走るよりも何倍も速く移動していた。

 

「おお! すごぉい!!」

 

 リオが目を見開いて歓声を出す。

 

「とまぁ、いわゆる超高速ステップってやつだ。俺達センスないから戦闘中にはできなくてなぁ」

 

 とはいうが、非戦闘時の余裕のある状態なら結構出せるので、何度か連発する。

 

「ほっ! はっ! よっと!」

 

「うわぁ! 早いです!」

 

「すごいな。目で追うのも一苦労だ」

 

 コロナちゃんやノーヴェも感心しているが、しかしこれは少し恥ずかしいな。

 

「ま、練習の間の息抜きに試してみたらどうだ? あ、着地の時に注意しないとすごいスッ転ぶから気を付けてな?」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 うん、こういう可愛く元気のいい返事は、気分が良くなるな。

 

「ま、俺達は色々とやることがあるから毎日付き合うわけにはいかないけど、若い子が強くなるを手伝いのも先達の責務ってやつだ」

 

「たまにぐらいは手を貸すから、その時は面倒見てやるぜ?」

 

 俺とグランソードはそう言ってぽんぽんとヴィヴィ達の肩をたたく。

 

 うんうん。こういうのってやっぱりなんかいいなぁ。

 

「ああ、こんな調子で波浪院フェスタも楽しめたらいいんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兄上、なんでフラグを立てやがったんですの!!』

 

「俺の、俺の所為なのか!?」

 

 携帯を利用しての念話で、俺達は口論を続けていた。

 

 いや、ただの念話だとやっぱり周りに怪しまれるし。これなら電話という説得力がある分、周りにあまり怪しまれないんだよ

 

 それはともかく。

 

 ここは絃神島。大絶賛波浪院フェスタが行われている真っ最中だ。

 

 そして、俺がいるのはその市庁舎ともいえるキーストーンゲートの中。

 

 だが、そこに眷属はいない。あいつ等は全く別の場所にいる。

 

 その理由は単純。

 

 空港についた途端に転移した。

 

 ものすごく適当にまとめている所為でよくわからないかもしれないが、俺達だってわからない。

 

 バラバラにいきなり転移して混乱して、何とか合流しようとしたが結局また転移したりして全然合流できない。

 

 ようやく転移の連発が収まったと思ったら、窓から見えるのは撃墜されたヘリコプターやら救急車の群れ。

 

 なんだこれ。明らかにトラブルが発生してやがる。

 

『大将。トラブルに巻き込まれすぎだろ。今度お祓いしてもらったどうだ?』

 

「いや、そんなの俺に言われても困るって。俺はもっと平穏に生きたいんだけど?」

 

 グランソード。俺はむしろお祓いする側だと思う。あとお祓いされたら俺が浄化される。

 

 とはいえこの状況はどうしたもんか。

 

 普通に考えれば、またしても暁たちがトラブルに巻き込まれたんだろう。そして展開的にもう解決していると考えるべきだ。

 

 なにせ、トラブルの元である空間転移減少現象は落ち着いている。騒動の元がこれである以上、解決していなければ収まらないはずだ。

 

 しかしだからこそ今頃説教されているだろうし、暁達に連絡するのは気が引けるんだが……。

 

『あの、兵夜さん?』

 

 と、そこでシルシが声をかけてきた。

 

『どうしたよシルシ。何か見えたのか?』

 

『ええ、適当に辺りを見渡していたんだけど、明らかに不審な人工島を発見したわ、しかもよく見直したら暁くんや姫柊ちゃんも見つけたわ』

 

「……やっぱりあいつら巻き込まれてたか」

 

 だが、空間転移現象が収まった以上解決したと考えるべきで―

 

『しかも、なんか二人が敵対してる風に見えるんだけれど』

 

 前言撤回。どうやら本番とか第二弾とかのようだ。

 

 あいつも本当にトラブルに巻き込まれるな。一時期の俺達を思い出すトラブル遭遇率だ。

 

 っていうか、それにイッセー達をおいて俺の眷属達が巻き込まれている。

 

 あれ? これって俺が一番貧乏くじを引いているってことじゃないか?

 

「泣きたくなってきたんだが」

 

『はいはい。薄い胸でよければ後でいくらでも貸してあげるから今は頑張りなさい』

 

 うん、厳しいのか甘いのかよくわからないよ、シルシ。

 

 まあ、それはともかくどうやら緊急事態なようだ。

 

「シルシ、雪侶、グランソード。お前達は先に行っててくれ」

 

 チームメイトの窮地ならば動くしかない。ここで死なれても寝覚めが悪い。

 

 とりあえず、位置的にあの三人は俺より近いからすぐに行ける。ならば選択肢としては間違っていないだろう。

 

『大将は?』

 

「俺はとりあえず状況把握だ。それだけの事態ならアイランドガードも何か掴んでるだろうし、話を聞いてみる。死なない程度に頑張ってくれ」

 

 そういいながら、俺はアイランドガードの詰所へと向かう。

 

 混乱状態になっている可能性は大体予想できるが、しかしそれはそれとして話を聞いておきたい。

 

 なにせ、俺達はこの世界において外様以外に何物でもない。前もって話ぐらいは聞いておかないとややこしいことになってもおかしくない。

 

 できれば藍羽にも話を聞いておきたいが、さてさてあいつは今回どんな巻き込まれ方をしているのやら。

 

 などと思いながら道を間違えてホールに出たら、見知った人を見つけた。

 

「あ、フォリリンに煌坂」

 

「あら、兵夜ではないですか」

 

 あ、これはもっと手早く事情が聞けそうかな?

 




ヴィヴィオたちの強化フラグも立てました。

以前の活動報告で、ヴィヴィオたちの強化関係を要望されたので、それを考慮してパワーアップフラグを。

おそらくDSAA編はこれが終わったら始まりますが、果たして平和に終わることやら……


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状況確認、そして監獄崩壊

「……図書館?」

 

「はい。この世界の魔術師や魔女が集まった犯罪組織です」

 

 とりあえず、簡単な説明をフォリりんから俺は聞いた。

 

 今回の下手人は図書館ことLCOとかいう犯罪組織。

 

 なんでも、貴重な魔導書を集めて己の愉悦のために使いたがる危険思想の魔術関係者で構成された組織だそうだ。

 

 研究どころか利益のためでもなく、己の遊び半分のためだけに貴重な魔術的資産を使い潰す組織か。魔術師(メイガス)も大概キチガイだがある意味もっと酷いな。

 

 魔術師(メイガス)の爪の垢を煎じて飲めと言いたくなるような連中がまさか出てくるとは。流石多次元世界、悪い意味で広い。

 

 で、詳しいことはフォリりん達も分かってないようだが、分かっていることをまとめるとこうなる。

 

 例の突然現れた人工島は、監獄結界と呼ばれているらしい。

 

 なんでも、世界中から集められた質の悪い犯罪者を収監するための施設らしい。

 

 で、今回の下手人はその中にいるLCOのトップを救出することらしい。

 

 しかも、なぜか暁は美少女になってたとか。

 

「なんじゃそりゃ」

 

「それ、私がもう言ったんだけど」

 

 そういって煌坂がため息をつくが、しかし事態は結構深刻だな。

 

「しかもアルデアル公もスタンバってて、もし本当に解放されたら絃神島が滅んでもおかしくないのよ」

 

 アルデアル公っていうと、ディミトリエ・ヴァトラーとかいうやつだな。

 

 欧州アルデアル自治領を収める、真祖に最も近い吸血鬼といわれる男。

 

 長生きに飽いていることもあり、死ぬかもしれないレベルの戦闘をこよなく愛する危険人物。自分の長を狙うテロリストが、自分を殺せるかもしれないロストロギア級の超兵器を復活させるために協力したほど。一時期のヴァーリに匹敵する超危険人物でもある。

 

 しかも戦闘能力も非常に高い。少なくとも真祖に最も近いというだけあるのだから俺らの世界でいうなら魔王クラスはいくか。

 

 そして、監獄結界に収監されているらしい犯罪者も実力者が多いと踏んでいい。

 

 少なくとも、LCOのトップの戦闘能力は相当にあるだろう。

 

 そんな連中が絃神島で戦闘をしたらどうなるか。

 

 人工島であるがゆえに脆い側面のあるこの島が持ち堪えらえる可能性は結構低い。少なくとも一ブロックぐらいは灰燼と帰すだろう。

 

 これは結構緊急事態だ。

 

「今シルシ達が向かってるが、これは俺も急いだほうがよさそうだな」

 

「そうですね。では紗矢華を連れて行ってください」

 

 と、フォリリンがさらりと言った。

 

 あれ? 俺は煌坂はフォリりんの護衛って聞いたけど?

 

「私はこれからすぐに帰国します。どういうことかは分かりますね?」

 

 なるほど、そうなれば護衛任務は終了だから、すぐに動けるということか。

 

 流石に姫様を犯罪者にぶつけるわけにもいかないし、これは中々いい判断だ。

 

「出来るお姫様と出会えてうれしいよ」

 

「私も、察しのいい男は嫌いではありません」

 

 俺達はニヤリと笑い合うと、すぐに頷いた。

 

 さて、暁達は持ち堪えてくれてるといいんだが。

 

 頼むぜ、俺の頼れる眷属達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁古城は、朝から例のごとく動乱に巻き込まれていた。

 

 というより、先日から巻き込まれていたといってもいい。

 

 幼少期からの友達である仙都木優麻に絃神島を紹介していたら、担任教師である南宮那月が行方不明になった。

 

 その夜、風呂に入ろうとしたらなぜか隣の部屋の風呂に入る羽目になった。おかげで女子の裸を見て怒られた。理不尽だった。

 

 さらに、以前戦ったことのあるルードルフ・オイスタッハと出くわして、挙句の果てに初対面の印象で襲われるという羽目になる。

 

 そして部屋に戻ったら優麻に迫られキスされて、気づけば体が入れ替わっていた。

 

 ……なんでも、優麻は那月と同タイプの魔女であり、古城が第四真祖であることに気が付いて体のコントロールを入れ替えたらしい。

 

 助けを求めに雪菜の部屋に行ったら、勘違いされて着替えを目撃されて気づかれたと思ったら折檻された。理不尽を感じる。

 

 そんなこんなで体が何とか元通りになったかと思ったら、いきなり優麻の守護者が暴走を起こし、優麻を利用して那月を刺すという暴挙を行う。

 

 気づけば、今自分たちは外へと転移して、そして今敵と相対している。

 

 LCOと呼ばれる犯罪組織の長。別名図書館の支所長である優麻の母を名乗る仙都木阿夜。

 

 彼女は優麻から守護者のコントロールを奪いとっている。

 

 古城は詳しくは知らないが、魔女にとって守護者とは霊的につながった存在。

 

 このままいけば命にすらかかわる。というより、十中八九死んでもおかしくない。

 

「あんた、優麻の母親じゃなかったのかよ!」

 

「そうだ。この監獄結界から脱出するために我が単為生殖によって生み出したコピー。……すでに用済みだ」

 

 古城の非難をさらりと受け流す阿夜の目は、ある人物に似ていた。

 

 時折兵夜が見せ、そしてフォンフが常時見せる目の色。

 

 すなわち、倫理観が常人とは乖離している者の目だ。

 

 つまり、言葉は通じても話は通じないものの目だった。

 

「……上等だ……っ」

 

 ゆえに、古城は躊躇なく眷獣の発動を準備する。

 

 どちらにせよ、あの男(ヴァトラー)が興味を引くほどの相手なら、眷獣を使わなければ古城では戦いにもならない。

 

 圧倒的なまでの負の生命力を糧に現出する眷獣。それも真祖の眷獣をもってしてすら、たやすくは倒せない強敵が目の前にいた。

 

 ゆえに、躊躇する理由はかけらもない。

 

「俺の親友をこんな目に合わせて、言いたいことはそれだけか!!」

 

 躊躇はしない。

 

 遠慮はしない。

 

 そんな気になるような相手でもなければ、そんな加減をできるような敵であるはずもない。

 

 だが―

 

「……ぐっ!?」

 

 魔力は霧散し、体から力が抜ける。

 

 無理もない。簒奪された体の制御権を奪い返すために、古城は雪霞狼の一撃を受けている。

 

 ただでさえ対真祖用の兵器として雪菜に与えられたもの。加えていえば、この奪還方法は体の反動が大きいということで、優麻の体に使用することを避けていた方法だ。

 

 普通に考えればただで済んでいるはずがない。いかに胴体をミンチにされようと心臓を吹き飛ばされようと再生する真祖の再生能力でも、物には限度がある。

 

 だが、それでも無理をすれば一撃は放てるはず。

 

 一発勝負になると覚悟を決めたが、それより早く阿夜が言葉を紡ぐ。

 

「いいのか? 確かに真祖の眷獣ならば我を殺すことも容易だが、監獄結界もそれとつながっている那月も無事ではすまんぞ?」

 

「……!?」

 

 それでは意味がない。

 

 この世界においても圧倒的火力を持ち、神仏が争う兵夜たちの世界が相手でも神にすら太刀打ちできるであろう第四真祖の眷獣。

 

 だが、その最大の欠点があまりに高い火力だ。

 

 少なくとも今の古城では、阿夜だけを正確に狙って倒すなどという綺麗なまねはできない。

 

 それに気が付いて魔力をかき消すが、その瞬間に胸の痛みがより激しくなり膝をつく。

 

「先輩、下がってください!」

 

 雪菜が急いで割って入り、雪霞狼の切っ先を阿夜へとむける。

 

 魔力を無効化する雪霞狼もやり方次第では監獄結界に害があるが、それでも真祖の眷獣よりはまし。

 

 そう判断しての戦闘態勢だが、その槍をみた阿夜の表情には嫌悪と侮蔑が含まれた。

 

「ほう、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)の使い手を探し当てていたか。獅子王機関の古狸共も老獪よのぅ」

 

 そして、その表情は雪菜に対する哀れみへと変わる。

 

「吾が娘にしたことなど、連中の汝への扱いに比べればかわいいものではないか」

 

「……どういう、ことですか?」

 

 その言葉に、雪菜はけげんな表情を浮かべる。

 

 今の言い方は疑問が及ぶが、しかし何がそこまでひどいのかが見当もつかない。

 

 まさか、兵夜の推測通り雪菜の本来の目的が古城に対する妾だとでもいうのだろうか?

 

 否、たとえそうだとしても優麻に対する阿夜の扱いに比べればましなはず。

 

「―なんか長話してるとこ悪いけどよ、肝心の南宮那月はどこ行ったんだぁ?」

 

 その時、声が響いた。

 

 その声に視線を向け、古城も雪菜も戦慄が走る。

 

 そこには、何人も何十人もの人たちがいた。

 

 服装も年齢もまちまちだが、その在り方だけは間違いなくわかる。

 

 そもそも、監獄結界は通常の刑務所では封じきれない凶悪犯罪者を封じておくための代物。

 

 すなわち、危険人物のオールスターに他ならなかった。

 

書記(ノタリア)の魔女よ、あの忌々しい監獄結界をこじ開けてくれたことには、礼を言っておこうか」

 

 シルクハットの紳士が感謝の言葉を告げるが、しかしその表情は未だに忌々しげだった。

 

「汝たちだけか。監獄結界の囚人はもっといたはずだが?」

 

「てめえがしっかりと空隙の魔女をぶちのめさなかったのが原因だよ、総記《ジェネラル》さんよぉ」

 

 阿夜に文句を言うのは、小柄な若者。

 

 短く編み込んだドレッドヘアに、どこにでもいそうなストリートファッションだが、しかしその気配は明らかに常人のそれではない。

 

 何より、彼も含めた何人もの者たちがはめている鉛色のくすんだ手枷が、凶悪な人物であることの証明だった。

 

「見ろ!!」

 

 そういうと、若者は右腕を無造作に振り下ろす。

 

 同時に、その振り下ろした方向にいた何人かが飛び退った。

 

 そして次の瞬間、飛び退らなかった者たちが鮮血を巻き上げえて苦悶の声を漏らす。

 

「シュトラ・D!」

 

「貴様ぁ!!」

 

「ハッ! 耐えられねえ体をうらみなぁ!! くるぜぇ!!」

 

 絶叫にあざ笑うシュトラ・Dの声とともに、攻撃を喰らった者たちに鎖が巻き付いてくる。

 

 そして、そのまま空間の中へと溶け込むように囚人たちを引きずり込む。

 

「う、うわぁあああ!!!」

 

「やめろぉおおおお!!」

 

 悲鳴とともに消え去っていく囚人たちに視線すら向けず、煽情的な娼婦の服装をした女性が肩をすくめる。

 

「こんな風に、弱まったり力が足りないとすぐに監獄結界に引きずり込まれちゃうの。格下は全員出てくることもできないってわけ」

 

「そういうわけだ。我々はまだ完璧に自由にはなれんのだよ」

 

 ジャケットを着た壮年の巨漢が、鋭い視線を阿夜に向ける。

 

「……空隙の魔女の居場所を知っているのなら、さっさと教えてくれんかね?」

 

「同感ですな。我々としても、これ以上あんな所にはいたくないですしね」

 

 白衣を着た男が、眼鏡を動かしながら神経質そうに告げる。

 

 そして、スーツを着た中年も視線を向ける。

 

「居場所を知っているのなら教えてもらおう。下手な庇い立ては寿命を縮めるぞ?」

 

 その視線はほぼ全員が共通していた。

 

 彼らは基本一匹オオカミで自己中心的。仲間意識など欠片もない。

 

 役に立たないなら殺すまでと、その視線が告げていた。

 

「ふむ、居場所は知らんが、手を貸してやろう」

 

 そう告げると、阿夜は一冊の本を取り出す。

 

「ほう? No14……固有体積時間の魔導書ですか」

 

 眼鏡の青年が訳知り顔でうなづく。

 

 一部の者たちはよくわからなさそうにしている中、白衣の男性がにやりと笑った。

 

「わかりやすく言うならば、今の空隙の魔女は身も心も子供になっている……と推測するべきですかな?」

 

「そう……だ。十年かけ策謀を巡らせ、実の娘を囮にして、ようやく牙を届かせることができ……た。致命傷ではないが、空隙の魔女として体験してきた時間そのものを奪った今、奴は今魔術も守護者も使えん」

 

 空隙の魔女とまで称される南宮那月の恐ろしさは、敬虔と守護者も大きな比重を占める。

 

 魔女と悪魔と契約して力を得た存在。その結果として手に入る守護者があってこそ、その凶悪性は進化を発揮する。

 

 さらに何年もかけてきた戦闘経験がその老獪さに拍車をかけ、彼女は真祖すら評価する傑物と化した。

 

 だが、その時間は今奪われている。

 

 どれだけ奪われたかは不明だが、もし魔女としての時間全てを奪われていれば、彼女はただのか弱い女でしかない。

 

「完全に力を奪うことはできなかったようだな。まあ、それでも木っ端の魔女と同程度。それ位なら我々ならどうとでもできるな」

 

 つまり、雑魚を一人殺すだけで後は完璧に脱獄できる。

 

 その事実に、彼らの嗜虐心が燃え上がった。

 

 憎んでも憎み足りない空隙の魔女を、遊び半分で殺すことができるという事実に、彼らはみな歓喜した。

 

「そういうことなら手を貸してあげてもいいわよ。あの女を殺したいと思ってるのはみんな同じだし、早い者勝ちでいいかしら?」

 

 女が微笑みながら告げる言葉に、全員がにやりと笑う。

 

 それを微笑みながら受け入れた阿夜は、しかしけげんな表情を浮かべる。

 

「だが、それにしても結界は弱りすぎているな。汝らの言ったことが本当なら、出てこれるのはせいぜい十に足らんはずだが―」

 

「それは、俺たちが手を貸したからだよ、書記長」

 

 そんな言葉とともに、銀にも思える白髪の男が舞い降りる。

 

 口元に髭を生やした細身の男は、しかし髭さえ除けば古城も雪菜もよく覚えている。

 

 なにせ殺されかけたこともあるのだ、当然覚えていなくてはおかしい存在である。

 

「……まさか、ここでてめえが来るのかよ」

 

「……フォンフ……あなたが……っ!」

 

 その視線を満足げに受けながら、白髪の男がにやりと笑う。

 

「初めまして。俺の名前はフォンフ・ランサー。以後よろしく頼むよ」

 




フォンフシリーズもまだまだ登場。今度はランサー。

このランサー。非常に独特な設定で構成されており、二重の意味で絶対に原作Fateシリーズでは出てこないです。なので真名あてとかはしない方が得策です。

かなりの強敵となる予定なので、お楽しみください!


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大波乱の、予感です!

さて、バトル始まります


 

 フォンフ・ランサーは一礼を阿夜に返す。

 

 たったそれだけの行動で、阿夜は得心したようだ。

 

「ふむ。汝はよもやLCOと手を組んだのか?」

 

「ああ。研究データのやり取りをするついでに、監獄結界の破壊の手伝いを任されてね。もっとも、本命の貴女には必要なかったみたいだが」

 

 そう言いながら、フォンフは視線を監獄結界の囚人達に向ける。

 

 その視線は、値踏みに近いものだったが、すぐにため息をともに肩をすくめた。

 

「……やめておこう。どうやら、言うことを聞いてくれそうなのがほぼいない」

 

「あぁん!? なんで俺達がお前なんかの手伝いをしなきゃならねえんだよ?」

 

 さっきすら込めてシュトラ・Dが睨み付けるが、フォンフは涼しげに受け流す。

 

 シュトラ・Dも仮にも脱出に手を貸したものを即座に殺すつもりはないのか、攻撃はしてこなかった。

 

「……まあいい。空隙の魔女を殺せば、残りの連中も解放される。こういうのは質だけじゃなくて量も必要だし、何より監獄結界の囚人なら木っ端クラスでも充分禍の団の中堅どころぐらいは―」

 

「―待てよ。させると思ってるのか」

 

 古城は、立ち上がると魔力を込め始める。

 

 体調は万全には程遠いが、しかし引くわけにはいかない。

 

 そもそも、監獄結界を破るために自分の力が使用されたのだ。責任も多少は存在する。

 

 第一、自分の恩人にして担任教師をむざむざ死なせるつもりはかけらもなかった。

 

「てめえら全員ここで叩きのめす! 那月ちゃんのところにはいかせねえ」

 

「ったく。たかが真祖風情が、俺の邪魔をする気かぁ?」

 

 シュトラ・Dが腕を鳴らしながら、監獄結界から飛び降りる。

 

 彼は全くもって古城を恐れていなかった。

 

 言ったとおり、真祖風情にやられるような自分ではないという自信があったからだ。

 

「くたばりやがれ、第四真祖ぉ!」

 

 そしてそのまま腕を振り下ろし―

 

「―あら、そうはさせないわよ?」

 

 ―そのまま高出力の火炎とぶつかり合った。

 

 その出力は、下位の眷獣をしのぐ破壊力。

 

 間違いなく並の魔族なら一瞬で消し炭にする一撃が、しかしシュトラ・Dの小手調べの一撃に相殺される。

 

 だが、その光景に驚いたのは、何よりもシュトラ・Dだった。

 

「んだとぉ? 俺の轟嵐砕斧を見切っただと!?」

 

 警戒心を全力で出しながら構えるシュトラ・Dの前に現れるのは、青い髪を伸ばしたスレンダーな少女。

 

「……シルシさん!?」

 

「数日ぶりね暁くん。……助けに来たわよ」

 

 平然と長髪をなびかせながら、シルシが悠然と微笑んだ。

 

「はっ! 俺の轟嵐砕斧を見切るとはやるじゃねえか姉ちゃん! プライド傷ついちまったから本気出すか!」

 

 シュトラ・Dは驚いている古城と雪菜をよそに、遠慮なく追撃を放つ。

 

 口調から怒気が見え隠れするほど、自分の自信の一撃を出し切る前に止められたことが腹に据えかねているらしい。

 

 だが、その一撃は全くもって当たらない。

 

 誰が見ても分かるぐらい余裕をもって、シルシは一歩右にずれる。

 

 そして、破壊はそのまま素通りした。

 

「……不可視に頼りすぎで雑ね。悪いけど、眼は良いからこの程度簡単に見切れるの」

 

「んのアマ! よけてんじゃねえ!!」

 

 青筋を浮かべながら遠慮なく放たれる連続攻撃を、しかしシルシは涼しい顔でかわしていく。

 

 シルシ・ポイニクスの戦闘能力は、上級悪魔としては低い部類に相当する。

 

 フェニックス分家であるポイニクスに由来する再生の力は強大だが、それを踏まえてもフェニックス家の系列の部類では低いレベルでしかない。

 

 だが、一つだけ圧倒的に優れているのが目だ。

 

 シルシの右目は高レベルの千里眼。それも、状況次第では相手の心の内すら見通すほどの力を持つ。

 

 その前に、半端な不可視は意味をなさない。それによって発生する力すべてを完璧に見切る。

 

 その特性だよりの戦闘スタイルでは、圧倒的に相性が悪い。

 

「あらあら、私はこれでも弱い部類なんだけれど? この程度なら簡単に倒せるわよ?」

 

「んの小娘ぇ!! うざってぇんだよ!!」

 

 激昂するシュトラ・Dは広範囲に攻撃を放つが、しかしそれすらシルシはあっさりと回避する。

 

 既にシルシには相手に攻撃が大体読めていた。

 

 絡繰りはわからないが、放たれる攻撃は多数放たれることはあっても一つ一つの攻撃範囲はそこまで広くない。

 

 ならば、その攻撃の隙間を狙ってかいくぐれば何の問題もない。

 

 ましてや、自分は速度に優れた騎士の駒で転生した眷属悪魔。この眼と併用すれば、雑な攻撃などではやられはしない。

 

「とりあえず、一人消えてもらおうかし―」

 

「サガっていろ、おマエではムリだ」

 

 しかし、敵もまた何人もいる強敵達。

 

 鎧を身に纏った男が、大剣を振り下ろしながら降下する。

 

 シルシはそれを素早く避けるが、胸から炎が噴き出す。

 

 回避しきれずかすめたのだ、それも、それだけで常人なら即死するほどのダメージが刻まれた。

 

「ほぅ? 貴様も炎を使えるのか。なら儂とどちらが上か比べるか?」

 

 さらに、修行僧のような老人が炎を放つ。

 

 攻撃の余波でバランスを崩したシルシではそれを回避しきれない。

 

「……雪霞狼!!」

 

 だが、それは雪菜が振るう雪霞狼の一振りで霧散する。

 

 神格振動波駆動術式を保有する雪霞狼の一閃は、魔力による攻撃ならば問答無用でかき消せる。

 

 これもまた相性の問題。老人の能力では雪菜は倒せない。

 

「小娘……っ」

 

「うぜえんだよこのアマ共!!」

 

 老人とシュトラ・Dが睨み付ける中、既に回復を終えたシルシと雪菜が、同時に得物を構える。

 

「とりあえず暁くんはその子を連れて下がりなさい!」

 

「先輩の眷獣では火力が強すぎます! こんなところでは戦えません!」

 

「バカか! だからってお前らを置いていけるわけが―」

 

「―ヨソミをしているヨユウが、あるのか?」

 

 そこに、巨漢の男が剣を構えて突撃を仕掛ける。

 

 かすめただけで上級悪魔に重傷を与える一撃。それに耐えられるものなどこの場には―

 

「スーパー! 雪侶! キック!!」

 

 ―否、ここに何人もいる。

 

 氷雪を纏いながら飛び掛かる少女が、その一撃を蹴りで相殺する。

 

 一撃で爆発が起きたのかと錯覚するほどの破壊が起きるが、しかしその中心部にいる二人は無傷。

 

 そのままお互いに反作用で弾き飛ばされるが、片方は笑みを、片方は苛立ちを浮かべる。

 

「コムスメ……っ」

 

「ご無事ですのシルシ義姉様方! っていうか状況が読めませんのよ!?」

 

「雪侶さんまで!? なんでこんなところに!?」

 

 雪菜は戦闘態勢をとりながらも、しかし状況が全く読めない。

 

 そもそも、なぜこんなところにシルシと雪侶がいるのか。

 

 いや、増援としては非常にありがたいメンツなのだが、それはそれとして疑問だらけだ。

 

 そして、そんな時間を与えてくれるほど相手も甘くなかった。

 

「あら、そんな話し合いをしていていいのかしら?」

 

 美女の周囲から大量の巨大な蜂が現れ、一斉に五人を包囲する。

 

 それらは一体一体が半端な攻魔師を凌駕する化け物。眷獣だった。

 

 それすなわち、その女性の正体が吸血鬼であることの証明。

 

 しかも、この大量の数はすなわち高位の吸血鬼の証である。

 

 さらに、白衣の男が指を鳴らすと、大量の狗の眷獣が追加で現れる。

 

 溶岩でできた眷獣が、一斉に火炎弾を発射した。

 

「くそ! こうなったらイチかバチか―」

 

 古城は眷獣を使う覚悟を決める。

 

 この全方位攻撃。雪菜達ではカバーが追い付かず―

 

「おいおい、こんなところでんな大火力出すんじゃねえよ」

 

 しかし、それより早く全方位に大量の蠅が現れた。

 

 それも、圧倒的な密度の魔力で構成された、圧倒的な力の具現だった。

 

 それらが結界を生み出し眷獣を攻撃を防ぐ中、さらに攻撃を受け止めながら突貫するのは一人の青年。

 

 グランソード・ベルゼブブが、遠慮なく巨漢を殴り飛ばす。

 

「おらよっと!」

 

「ぬっ!?」

 

 巨漢はそれを剣で受け止めるが、衝撃を受け止め切れずに十メートルは弾き飛ばされた。

 

 そして、それだけの一撃を放ったグランソードは、感心するかのように殴りつけた手を見据える。

 

「カッカッカ! カウンターが決まりかけたぜ、やるじゃねえか!」

 

「グランソードまで!」

 

「な、なんでみなさんこんなところに!?」

 

 さらにとどめといわんばかりの増援に、古城も雪菜も唖然となる。

 

 もうこれでは、宮白兵夜眷属が総出ではないか。

 

 と、いうことは―

 

『あー暁に姫柊ちゃん! そして我が眷属達に告げる!』

 

 さらにスピーカーで拡大された声が、想定通りの人物の存在を告げた。

 

『とりあえずいったん仕切り直しだ! 全員すぐに乗り込む準備をしろ!!』

 

 装甲車から、兵夜の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、なんだこの状況は!

 

 ゴロゴロとやばそうな連中が大量に。それも一部は禍の団の幹部クラスがいるじゃないか。

 

 こんなの全員まとめて相手できるか。とりあえず仕切り直して増援を求めないとまずいな。

 

「煌坂! 制圧射撃頼む!」

 

「わかってるわ! 雪菜も暁古城も早くこっちに!!」

 

 煌坂に援護射撃を任せ、俺はすぐにドアを開ける。

 

「全員乗り込め! いったん逃げるぞ!!」

 

「おうよ大将! ほらよっと!」

 

「待て待て待て待て! 一人で乗れる!!」

 

 暁とぼろぼろの女の子をグランソードが抱えて乗り込み、さらにシルシ達がそれに続く。

 

 それと同時に、俺は即座にアクセルを踏み込んだ。

 

「撤収!!」

 

 遠慮なく加速し、俺はすぐに距離をとる。

 

 ……っていうか、なんだこの状況は!

 

「暁に姫柊ちゃん! 悪いんだけど詳しい説明よろしく!! 俺簡単にしか聞いてない!!」

 

「あ、ああ。実は……いて!!」

 

 地面がガクガクだから揺れまくってるな。

 

「……シートベルトつけろ。まずはそれからだ」

 

 そんなこんなで十分ぐらいかかって状況把握。

 

 どうやらこのぼろぼろの女の子仙都木優麻。彼女の正体は目的のために製造されたクローンらしい。

 

 なんでも、今回の下手人である仙都木阿夜が、脱獄のために用意した存在らしい。

 

 で、今は魂レベルでつながっている使い魔らしい守護者とかいうのを奪われて死にかけていると。

 

 しかも監獄結界という世界中から集められた実力派犯罪者が十人以上解き放たれたうえ、フォンフまで絡んでいると来たもんだ。

 

「……イッセー達を連れてくればよかった」

 

 マジで泣きたい。

 

 なんだこの緊急事態は! 遊びに来たらとんでもないことに巻き込まれたぞ。

 

 本当に一時期のイッセー達に匹敵するトラブル遭遇率。しかも友人が一枚かんでるとかどんな緊急事態だ

 

「お前一回お祓いに行ったらどうだ? 紹介するぞ、神を」

 

「縁起でもないこと言わないでくれ! ……そんなことより、優麻をどうにかできないか?」

 

 確かに、この世界の異形関係の専門家である姫柊ちゃんと煌坂がどっちも顔を青くしている辺り、かなりやばい事態だ。

 

 魂に癒着している存在を無理やり引きはがされれば、下手したら命に係わるのは俺でも理解できる。

 

 理解はできるが……。

 

「今の俺たちは無理だ。専門知識が足りなすぎるから、下手をすると状況が悪化する」

 

「だな。幽世の聖杯(セフィロト・グラール)があればどうにかなるかもしれねえが、交流が本格化してない世界で使えるようなもんじゃねえ」

 

「ですのね。あれ、使用のデメリットが酷過ぎてかなり厳重な封印のもと傷の回復ができる程度にまで制限されてますもの」

 

 グランソードと雪侶の言葉がすべてを物語っている。

 

 聖杯を使えば何とかなるだろうが、間違いなく正式な交流もスタートしてない現状では使用許可をとるのに時間がかかりすぎる。

 

 ましてや行って戻ってくるまでに手遅れになりかねないだろ、コレ。

 

「獅子王機関で学んだことでどうにかならないのかしら。一応応急処置ぐらいは学んでいるんじゃないの?」

 

「無茶言わないでよ。守護者との契約なんていくらなんでも専門外よ。それこそ高位の魔女か専門の魔導医師の力を借りないと無理だわ」

 

 シルシの意見もすげなく却下。まあ、巫女と魔女って真逆の方向性な印象あるからなぁ。

 

 となるとやはり聖杯か? つっても今から連れて行っても間に合うとは思えないし、そもそも許可が下りるのに何日かかることか……。

 

「宮白、そこ左だ」

 

 ん?

 

「なんだ? まさか心当たりがあるのか?」

 

 素早く左に曲がりながら、俺は質問する。

 

 そもそもこの先に何がある? 暁はそれが分かってるから指示したわけだが。

 

「家に帰ってないなら、たぶんあの人はこの先にあるMARの研究所にいるはずだ。……応急処置ぐらいはできるだろ」

 

「あの人? いったい誰のことよ?」

 

 煌坂の疑問ももっともだ。いったい誰なんだ?

 

「……暁深森。俺の母親だ」

 



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21話

 

 とりあえず、あまり大所帯で行くのも何なので、俺達はMAR研究所前で待機していた。

 

「さて、それでこれより俺達は対策をとるぞ!!」

 

「ええ、そういうと思ったわ」

 

「まあ、大将はお人よしだからなぁ」

 

「これで性格が悪くなければ最高ですのに」

 

 ハイそこ外野うるさい。

 

 確かに外様極まりない俺達がいちいち介入する必要はないのだろうが、しかしだからといって放っておいても寝覚めが悪い。

 

 何よりそんなことをしたらイッセーに胸を張れんからな。眷属には悪いが付き合ってもらう。

 

「グランソード。こっちに派遣してあるPMCに合流して、脱獄囚捕縛に動いてくれ」

 

「応、大将! そういうのが一番楽でいいぜ」

 

 この中でも最強のグランソードは戦闘優先。お前なら心配することなく任せられる。

 

「雪侶。お前は藍羽を探して合流してくれ。アイランドガードは色々と大変で手が回らないだろうし、藍羽には悪いが手伝ってもらう」

 

「藍羽さんも飛んだ貧乏くじですわね。兄上、後で何か奢ってあげなさい」

 

 むろんだとも我が妹よ。俺は金払いはいい男だ。

 

 まあ、藍羽なら暁が頼めばすぐに聞いてくれそうだがな。それでも前もって事情を説明した方がいいだろう。

 

「で、シルシはスマンが俺に付き合ってくれ。これからちょっとスーパー探すぞ。雪侶とグランソードは五千円渡すからそれで何とかしてくれ」

 

「スーパー? いったい何するのよ?」

 

 ん? そんなもの決まってるだろう。

 

「暁達の晩飯だ。……たぶん暁、そろそろ倒れてもおかしくないぞ」

 

 どうも空腹なのか貧血気味だったからな。顔見ればわかる。

 

 どうやら体を入れ替えている間、優麻とやらは飯もそこそこに動いてたらしい。

 

 そろそろぶっ倒れてもおかしくないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでスーパーを探して、チャーハンの材料を購入。そして俺達はゲストハウスまで歩いている。

 

「しっかし、本当にトラブルに巻き込まれすぎだな、あいつらも」

 

「一番巻き込まれてるのは兵夜さんじゃない? あなた、二年前から一年ほどすごい密度の戦闘を潜り抜けてきたじゃない」

 

 言わないでくれシルシ。俺も自分でいうのもなんだがそう思っている。

 

 一時期はイッセーが中心になってたからそっちが中心かと思ったんだが、どうやら俺の方がたいがいのようだ。

 

 いや、これはつまりトラブルを誘引する者との縁を結ぶ素質でもあるんじゃないか? そういう起源の可能性もある。一度、真剣に調べてみる価値はあるかもしれない。

 

「なあ、シルシ。……お前は良いのか?」

 

「なにが?」

 

「いや、つまり俺の側にいると必然的に神話戦闘級のトラブルに巻き込まれるというわけだぞ?」

 

 ああ、まったくもって否定ができない。

 

 レイナーレとのもめ事から始まり、俺の戦いはどんどんインフレが激しくなっている。

 

 期待のルーキーであるライザーから、堕天使幹部のコカビエルという異例のヒートアップ。さらにそこから禍の団の主要派閥とのもめ事が頻発。挙句の果てにクリフォトと戦い、そしてフィフス一派との最終決戦。

 

 それがすんでからも小規模なもめ事や残党との戦闘、暴走した能力者との戦いは割と参加してる。

 

 そして息抜きもかねて異世界探索に出てみれば、エイエヌとの世界の命運をかけた大激戦。終わってアザゼル杯に突入しても、暁がらみでまた結構なハイスペックバトルに巻き込まれている。

 

 ああ、なんていうか俺の人生、たぶん程度はともかく相当トラブルに巻き込まれることになるだろう。

 

 思えば、それまでに駒王の番人なんて称号を裏でつけられる程度にはトラブルの対処はやっている。

 

 極道の抗争。麻薬がらみの侵略に対する対抗。加えていえば、それがらみで縄張り内でも悪行三昧を叩き潰すために色々と行動してきたわけだ。

 

 ああ、女を食い物にする外道とかは容赦しなかった。ああ、それは容赦しないというかしてたまるかというか。

 

 ……え? イッセーの覗き? まあ警察に捕まったとしても無罪にはしないよ? 遠慮なく女子には通報してるしね!

 

 何ていうか、妻にして眷属であるシルシは必然的にそれに巻き込まれることになるわけで。

 

「眷属やめて家を守るってだけでも、だいぶましになると思う―」

 

「―そこまで」

 

 俺が続けようとする前に、シルシは人差し指を俺に押し付けた。

 

 む。やっぱりちょっと怒ってるか?

 

()()? 私は、貴方の力になりたいと思ってるから、眷属になってるの」

 

 ……そういえば、そうだったな。

 

 シルシは真剣な目で、俺の目を真正面から見つめる。

 

「足手まといなら仕方がないけど、そうでないならついて行きたいわ。少なくても、力になれる私でいたいと心から思ってるのよ」

 

 その目は、不満というより不安の色を宿していた。

 

 ああ、そうだな。

 

 そうだった。

 

「充分力になってるし、活躍してるよ。エイエヌ事変の時にもいっただろ?」

 

 俺は心から真実を告げる。

 

 シルシの千里眼は間違いなく優れた力で、俺にとっては大事な戦力だ。

 

 フェニックスの不死の力がなければ、俺は神格で長時間戦闘をとれないし、いてほしいと心から思ってる。

 

 それは誓って嘘じゃない。

 

「いてくれて助かると思ってる。心強いって心から思うさ」

 

「だったら、言う事はそうじゃないでしょう?」

 

 ほっと安心すると、シルシは俺をからかうような笑みを浮かべる。

 

「これから大変だから、力を貸してほしいって言いなさい。私はその言葉を望んでるんだから」

 

「………ああ。わかったよ」

 

 これは、俺の完敗か。

 

 ああ、力を借りないとまずいしな、うん、これから気を付けよう。

 

 そんなシルシが寄り添ってくれるのを受け入れて、俺は素直に感謝しながらインターホンをならす。

 

 そのとたん、ドタバタと音をたてながら、なぜかナース服の姫柊ちゃんが飛び出してきた。

 

「……宮白さんにシルシさん!? す、すいません、人を呼んできてください!!」

 

 なんだ? まさか敵襲?

 

「あ、暁先輩が真っ白な顔で倒れたんです!! 意識も失っていて―」

 

「ああ、やっぱり」

 

 俺は軽くため息をついた。

 

 やっぱり、空腹が限界だったか。

 

「兵夜さんの予測が見事に当たったわね」

 

「ああ。……慣れてないときついんだ、長時間の空腹は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら出来たぞー。どんどん喰えよ長丁場になるぞー」

 

 ああ、手早く作るためにサンドイッチにしてみたが、中々良い出来だ。

 

 我ながら本当に料理の腕はいいな。褒めて遣わすぞ、俺。

 

「本当に美味いなこれ。いや、本当に美味い!」

 

「それはおなかがすきすぎていたのも理由じゃないかしら?」

 

 暁、まさか朝から何も食べてなかったとは……。

 

 そりゃ倒れる。おそらく仙都木優麻は朝から色々とやっていたようだ。むしろ、今まで倒れなかったのかが不思議なぐらいだ。

 

 とはいえ、気があるお二人さんとしてはそれで納得できるわけでもないようで、そのお二人さんはまだ不機嫌だったが。

 

「倒れるなら倒れるって言いなさいよ。……死ねばいいのに」

 

「全くです。先輩はいつもそんな感じですね」

 

「仕方ねえだろ、優麻が俺の体で何も食べてないなんて知らなかったんだから。むしろ気づいた宮白がすごいだろ」

 

「舐めるな。相手の体調を把握してフォローするのは、人心掌握としてそこまで不思議なことではない。俺はその辺気を遣う男だ」

 

「よしよし。できる男は大好きよ」

 

 うん、もっと褒めるといいシルシ。

 

「まあ、それはともかくやるべきことは数多い」

 

 一通り作り終えたので、俺も食事に参加するべく席に着く。

 

 とりあえず一個食べてから、俺は話を先に勧める。

 

「仙都木優麻の完全治療には魔女の強力が必要不可欠だったな、姫柊ちゃん」

 

「はい。魔女と守護者の契約は、現代の技術でも解析できないので、これ以上の回復には高位の魔女の協力が必要不可欠だそうです」

 

「加えて、監獄結界を考慮することも考えれば、囚人達よりも先にその人を確保する必要があるのは必然ね」

 

 姫柊ちゃんに続けて発言するシルシの言う通りだ。

 

 俺達がやることはその仙都木優麻の回復と、監獄結界の復活。そのどちらにも必要不可欠なのが南宮那月だ。

 

 最早これは、俺達と囚人達による南宮那月争奪戦と化している。

 

 ここにフォンフも加わるのだから、飯を食ったらそろそろ動かないと出遅れも甚だしい。

 

「さて、アイランドガードと連絡を取って連携を取りたいが、それもまた難しい」

 

「でしょうね。まだLCOの残党と戦闘を続けているでしょうし、今のままだと難しいかも」

 

 煌坂の言う通りだ。

 

 そもそもこの一連の騒動はLCOのテロ活動に端を発する。おそらく奴らはまだ動いているはずだ。

 

 どうしたもんかと思いながらサンドイッチを食べていると、俺の携帯に電話が。

 

 とりあえず、全員通話モードにして繋げると、普通に雪侶だった。

 

「なんだ雪侶? 今嫌な報告とか聞きたくないんだが?」

 

『残念ながらそうですのよ。藍羽さんと合流できませんの。キーストーンゲートにも家の方には帰られてないようでして』

 

 マジか。ちょっとそれは不安だな。

 

 たしか、そのハッキング技術を買われてテロリストに誘拐されたりしたこともあると聞いている。もし脱獄囚がアイツの存在を知ったとしたらどうなるか。

 

「仕方がない。お前はキーストーンゲートの近くで待機していてくれ。藍羽は俺達が電話で呼び出す」

 

『最初からそうしてくださいまし。わりと本気でうっかりですわよ?』

 

 それもそうだったな。悪い雪侶。

 

 ふう。とりあえず呼び出すなら暁の携帯からにするのが一番か。

 

「なあ、暁……」

 

「……先輩、似てませんか、あの子」

 

 と、姫柊ちゃんがテレビ画面を指さす。

 

 そこには、なぜか一日着まわしてるような印象の恰好の藍羽と、なんていうか小さくて可愛らしいドレス姿の女の子がいた。

 

 なんだ、藍羽の奴あんな所にいたのかよ。

 

 一緒に連れてるのは親戚か何かか? なんだかんだで面倒見いいからな、あいつ。懐かれたんだろ。

 

 そんな風に少し微笑ましい表情を浮かべる俺だったが、事態はちょっと深刻だった。

 

「……ああ、那月ちゃんにそっくりだ」

 

 へ?

 

「そういえば、南宮那月は時間そのものを奪われたのよね? だったら身も心も子供になってもおかしくないんじゃ……」

 

「まって。この映像、絃神島のどこにでも中継配信されているはずよね?」

 

 な、なんかどんどん緊急事態になってきてる!! これ、マジでやばいぞ!!

 

 あんな人口密集地に、あの質の悪い連中が集まったりなんてしたら……っ!?

 

「……雪侶にグランソード!! 誰でもいい、人員をパレードやってる地区に集めろ!! 戦争になるぞ!!」

 

 クソッタレ! いくらなんでもこれはやばいだろうが!!

 




一端空気が和んだかと思ったら、やばい事態に。

冷静に考えると一歩間違えたら死人が山のように出ていたことでしょう。あと絃神島が基本的な舞台だから、民間人の被害の危険性がD×Dを超えるよな、ストブラ


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精霊使いと獣人と吸血鬼とあとチート

 

「そもそもなんで、那月ちゃんが浅葱と一緒にいるんだ!!」 

 

 ゲストハウスを飛び出しながら、暁がぼやく。

 

 ああ、割とトラブルに関わっていることも多い藍羽だが、それにしたってこれは変化球だ。

 

 想定できるかそんなもん!

 

 走りながら、暁はスマホの音声を皆にも聞こえるようにして藍羽を呼び出す。

 

「……浅葱! よし、まだ大丈夫だな!!」

 

『だ、大丈夫ってどうしたのよ古城。今パレード見てる最中だったんだけど―』

 

「それは見てる! あとで埋め合わせはするからとにかくその子を連れてキーストーンゲートまで逃げろ!! 雪侶とグランソードを送り込んだ!!」

 

 俺は暁からスマホをひったくると大声で怒鳴る。

 

 既にあいつらは先回しさせている。

 

 あの二人の戦闘能力なら、俺達が来るまでに十分間に合うはずだ。更にアイランドガードを護衛につけることもできるだろう。

 

 そこまであればそこそこ持ち堪えられる! それで済めばいいんだがな。

 

『宮白さんまで? えっと、つまりあなた達絡みのトラブルに巻き込まれたってことで……いい?』

 

「藍羽先輩。事情は後で詳しく伺いますので急いでください。藍羽先輩はともかく、隣にいる彼女を狙って一流の魔導犯罪者が大挙して押し寄せてくる可能性が!」

 

 そう、それが問題だ。

 

 藍羽は電脳では無敵に近いチート戦力だが、しかしあくまで素体はただの女子高生。

 

 あんなバケモノ集団に襲われて無事で済むはずがない!!

 

「……まずい!」

 

 シルシは舌打ちすると、俺からスマホを分捕ると大声を出す。

 

「貴方の後ろの老人! 彼が犯罪者の1人よ!! 密度だけなら下手な上級もびっくりの火力を放って攻撃してくるから、とにかく逃げて!!」

 

 うぉおおおおお最悪のタイミングがもろに出てきたぁ!!

 

「くそっ! 浅葱っ!!」

 

 暁がより速く走って、外に止めてある装甲車に辿り着いて―

 

「―ほう? 張っていたかいがあったようだな」

 

 ―その残骸を囲みながら、獣人が十名ぐらいたむろしていた。

 

 全員、獣人であることを差し引いてもしっかりと引き締まった体つき。加えて武術を習得していることを示す隙の無さ。

 

 そして、中心部に立っている男からくる気配はマジでやばい。

 

「……てめえも監獄結界の囚人か!!」

 

「おうよ! 混沌海域のほうでうぜえ吸血鬼(こうもり)をつぶそうとしてたら、空隙の魔女にとっつかまっちまってよぉ!! 部下が何人も助けにきたんだが、手も足も出ないみたいで困ったぜ!!」

 

 豪快に笑う獣人は、そこまで言うとさっきを出しながら牙を見せる。

 

「と、いうわけでてめえらがやべぇってことは空隙の魔女がやばいんだろ? 余計な邪魔が入らねえように足止めぐらいはしておかねえとなぁ?」

 

 チッ! 合理的な判断を!!

 

 だが、こいつを放っておくことができないのもまた事実。放っておけばいずれ俺達の脅威になる。

 

 だが、こいつの相手をしている時間的余裕もない。ここで立ち止まっている間にも、藍羽が死ぬかもしれないのだ。なんとしてすぐに行かなくてはならない。

 

 五秒で結論が出た。

 

「暁! 乗れ!!」

 

 俺はバイクを呼び出すと、暁をサイドカーに放り込んだ。

 

「シルシ! 足止めしながら藍羽の居場所をトレース……できるか!」

 

「……意地でも!!」

 

 ああ、きつい仕事だが頑張ってくれ!!

 

「いや待て宮白、シルシさんも! 流石に放っておけるわけが―」

 

「いいから行きなさい暁古城!!」

 

 抵抗する暁に、ぴしゃりと煌坂が剣を構えながら言い切った。

 

「まずは南宮那月の安全確保が第一! 大丈夫、これぐらいなら私と雪菜でどうとでもできるから!!」

 

「先輩達は藍羽先輩の安全確保に専念してください!! 最悪七式を使ってでも突破します」

 

 ああ、あれがあるなら大丈夫だろう!!

 

「増援は要請しておく。……死ぬなよ!!」

 

「……姫柊! 無事でいろよ!!」

 

 その言葉を最後に、俺達は即座にアクセルを踏むと加速する。

 

「逃がすな!!」

 

「はい!!」

 

 俺たちを逃がさないために対戦車ミサイルを構えてぶっ放す奴がいるが、しかしそんなものは通用しない。

 

「悪いけど見えてたわ」

 

「させません!」

 

 限定的な未来視のできる姫柊ちゃんとシルシの二重防御は鉄壁。いかに獣人といえどそう簡単には突破できない。

 

「ああもう! わたしの可愛い雪菜が火傷したらどうするのよ!!」

 

 そして、煌坂の魔弓は広範囲攻撃において真価を発揮する。

 

 本当に頼りになる連中だ。一時期のグレモリー眷属にも匹敵するぜ!!

 

 死ぬなよ、藍羽!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてトレースするシルシの言葉はいろんな意味で緊迫感を増した。

 

 なんでも、最初の方は撃退したらしい。

 

 ……アイツ本当に何者だよ。軍隊ですら手をこまねくレベルの実力者のはずだが?

 

 なんでも地下排水溝を逃げ回りながら海水で弾き飛ばしたら、アイランドガードが掻き集まっているところにまで誘い込んだそうだ。あいつネット無くてもチートなんだな。

 

 しかもラッキーなことに、アスタルテがそこにいたらしい。あの割とチート能力の持ち主がだ。

 

 おかげで老人ことキリカ=ギリカはそのままお縄に。あいつはたぶん上から数えた方が早いレベルだから、そんなのがとっ捕まったことはラッキーだ。

 

 だが、続けて女吸血鬼が来襲してきた。

 

 まずいまずいまずいマズイ!!

 

 なんか、アイランドガードが全員操られてるんだけど!?

 

 うぉおおおおおお! 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て―

 

「―待てこの年増ぁ!!!」

 

 間に合ったぁ!!

 

「浅葱ぶじグフッ!?」

 

 俺は暁を掴んでそのまま飛び降り、バイクを女吸血鬼に叩き付ける。

 

 女吸血鬼は鞭を振るってそれを弾き飛ばすが、しかし仕切り直しにはなった。

 

「藍羽、無事だな!?」

 

「古城! 宮白さんも!!」

 

 うわ、なんか無茶苦茶泥だらけになってるな。

 

「ゲホゲホッ! 首しまったぞこの野郎」

 

「悪い悪い。開幕速攻のつもりだったんだがなぁ」

 

 そんなわけで俺と暁は、女吸血鬼を睨み付ける。

 

「浅葱が世話になったようだな、この年増」

 

 暁が全身からびりびり電気を放ちながら、女吸血鬼に敵意をぶつける。

 

 暁古城は第四真祖。それはすなわち、単純なスペックなら吸血鬼全体でも最高峰だということの証明だ。本来なら上位四位を他の真祖と争うだろうし、いまだ使いこなせていないことを差し引いても、上から数えた方が圧倒的に強い立場だろう。

 

 だが、女吸血鬼は余裕の表情を浮かべている。それほどまでに自分の能力に自信があるということか。

 

「第三真祖の系譜としては、真祖と戦うのは避けるべきなんでしょうけど、これもまた仕方ないわねぇ」

 

 まさに余裕だなこの女。何か隠し玉でも持ってるのか?

 

「古城、気を付けて!! そいつクァルタス劇場の歌姫よ!!」

 

 藍羽が俺達に声をかけるが、しかし二つ名まで持ってるのか。

 

 ああ、これは禍の団の武闘派幹部クラスは想定した方がよさそうか。

 

「暁、そのカルタスってなんだ?」

 

「クァルタス劇場な。どっかの国の皇太子と交際してた高級娼婦が、口封じにされかけてブチギレて皇太子ごと王族が殺されたって事件だ」

 

 なるほど、それは確かに凶悪犯だ。

 

「補足します。更にジリオラ・ギラルティはそれ以前にも猟奇犯罪を犯しており、ヒスパニアの魔族収容所に収監されていたのですが……」

 

「そこのホムンクルスの言う通り。そこにいた人全員支配して楽しんでたら、空隙の魔女に見つかって監獄結界に送られたのよ。……こんな風にね!」

 

 ジリオラが指を鳴らすと、アイランドガードの警備員が、一斉に銃火器の照準を俺達に向けた。

 

「……精神干渉か この数を一気にとかできるな」

 

「気を付けてください宮白兵夜。ジリオラ・ギラルティの鞭は精神支配の眷獣です」

 

 サンキューアスタルテ。

 

 なるほど、これは逃げ込んだのが逆効果になっちまったってわけか。

 

 にしても、俺って毎回数の暴力に襲われてるよなぁ。一応今は体制側のはずなんだけどなぁ。敵はテロリストか犯罪者が殆どなんだけどなぁ。

 

「……ああ、ついてない」

 

 そうぼやくと同時に、一斉に砲火が放たれた。

 



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コーチは教える職業だから、たいてい意見はちゃんと聞いた方が役に立つ

 

 獣人たちとの攻防は、かなり一進一退となっていた。

 

「ああもう! これ、LCOと組んでたって言われてもおかしくないぐらいの数なんだけど!!」

 

「確かにそうね! 一個中隊ぐらいの戦力が集まってるわよ!!」

 

 銃撃やら爆弾やら接近戦やら、様々な攻撃を捌きながら、シルシ達はしかし善戦していた。

 

 獣人は人間よりはるかに高い身体能力を持っており、純粋な身体能力という意味では魔族の中でも高位に位置する。

 

 だが、雪菜も紗矢華もそんな魔族を倒すために訓練を積んできた実力者。加えて武装も非常に高性能であり、実戦経験も数はともかく高密度のものを積んでいる。

 

 そして、シルシ・ポイニクスは上級悪魔。

 

 上級悪魔としては及第点の実力。だが、その戦闘能力は単独では戦車や攻撃ヘリごとき遊び相手にもならないほどの圧倒的な力を秘めた存在。

 

 低く見積もっても、その戦闘能力は半端な魔族を倒すことができるほどの力を発揮するのだ。

 

 とはいえ、これだけの数が連携で攻めてこられればかなり面倒ではある。

 

 距離をとっての遠距離制圧射撃などで動きを止めながら、ロケットランチャーなどによる砲撃を叩き込んでくるのが実にいやらしい。

 

「フハハハハ! 獅子王機関の攻魔師といえど、お前たち小娘ではこの程度か! 我らの波状攻撃の前に吹き飛ぶがいい!!」

 

 囚人が勝利を確信したのか高笑いするが、しかしシルシは動じない。

 

 すでに、こちらにとって好都合なことが起きていることに気づいていたからだ。

 

「ああ、えっと、そこのあなた?」

 

「フェル・オルトロだ。それで?」

 

 律儀に名前を教えてくれることに感心しながら、シルシは少しだけ考える。

 

 そうだ。兵夜が教えてくれたとあるお笑いを参考に使用。

 

「志村ー、後ろ後ろー」

 

「は?」

 

 指をさして後ろを指示され、フェルはナイフを鏡にして後ろを念のため確認する。

 

 灼熱の鳥と溶岩の糸が襲い掛かっていた。

 

「ぬぉおおおおおお!?」

 

 獣人たちが炎に包まれる中、シルシはそれをなした者たちに視線を向ける。

 

「一応、お礼を言っておくべきかしら?」

 

「いらん。貴様らを助けたわけではない」

 

 にべもなく告げられる怜悧な声を放つのは、まるで刃物を連想させる風貌の重大に見える男。

 

 だが、おそらく見かけ通りの年齢ではない。

 

 先程の攻撃を放ったのは、吸血鬼の眷獣。それも貴族クラスの高レベルの代物だ。

 

 それを放つということは、すなわち年齢の方も百は越えているだろう。

 

 少し警戒するが、しかしその男にいた隣の吸血鬼は温和な笑みを浮かべる。

 

「お初にお目にかかります、姫柊雪菜様に煌坂紗矢華様。そちらの方は存じ上げませんが、獅子王機関の攻魔師の方ですか?」

 

「い、いえ。彼女はそれとは別の個人的な友人です」

 

 雪菜が戸惑いながらそういうが、シルシはそれに苦笑する。

 

 本来のことを話すとややこしいことになるのだから、相手に勘違いさせておいた方が楽といえば楽なのだ。

 

 とはいえ、深入りするつもりはないのか、その吸血鬼は残っている獣人たちを視線で牽制しながら告げる。

 

「ヴァトラー様から、「闘ってもつまらなさそうなのは間引いといてヨ」といわれておりますので、もしよろしければこちらで片づけておきましょうか?」

 

「……姫柊ちゃん。あなたも面倒なのに目をつけられてるのね」

 

「いえ、目をつけられてるのはあの変態真祖の方なんだけど」

 

 紗矢華がそう訂正するが、しかしあまり問題としては変わらないだろう。

 

 とはいえ、南宮那月の安全を確保するのが最優先の身としては、ここで戦力を分散させたままにしておくのも馬鹿らしい。

 

 しかも、簡単に話を聞いた限りではそのヴァトラーとかいうのが面白がって静観したせいでこの事態が起きた節もあるのだ。

 

 責任を取って少しぐらい相手をしてもらうのも当然といえば当然だろう。

 

「それじゃあ、お任せしようかしら。……いくわよ、二人とも!!」

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

「あ、シルシさん待ってください!!」

 

 シルシに引っ張られる形で雪菜と紗矢華も走っていき、すぐに曲がり角を曲がって見えなくなる。

 

 それを不機嫌そうに見ながら、眼付きの悪い吸血鬼―トビアス・ジャガンは舌打ちする。

 

「なんで俺たちがあんな奴らの尻ぬぐいをしなければならないんだ。キラ、貴様も余計なことを言うな」

 

「いいじゃないか。どちらにしても、僕らごときをどうにかできないような相手なら、ヴァトラー様の相手をする資格はない」

 

 そういい合いながら、吸血鬼二人は獣人部隊と向き合った。

 

 後ろからの強襲にいったんは混乱状態だった獣人部隊だったが、すでに冷静さを取り戻して戦闘態勢を取り直している。

 

「チッ! やってくれるな蝙蝠風情が!! そちらがそのつもりならこっちも容赦はしない!!」

 

 その言葉とともに、ただでさえ獣のそれと化したフェルの体がさらに変化する。

 

「……神獣化か。どうやら少しはできるようだ」

 

「流石は監獄結界の囚人ということですか。これは試してみる価値がありそうだ」

 

 次の瞬間、激戦が再開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、まあ集中砲火を喰らったわけなんだが……。

 

「流石に最上級悪魔候補が、サブマシンガンごときの弾丸を防げなかったら笑い話にもならないんでな」

 

 俺は即座に結界を展開して、その攻撃を無効化する。

 

 ふっふっふ。俺らの世界の悪魔を舐めてもらっては困る。

 

 暁の眷獣の攻撃にすら耐える奴が結構ごろごろいるのが我らが世界の業界。俺とて最上級悪魔に手が届いた男として、それなりの防御力は保有しているのだよ!!

 

「あらあら。せっかく手に入れた戦力なのにこれは残念ね」

 

 ジリオラはそういうが、口調は全くの余裕だった。

 

 まあ、この戦法の最大の利点は人質作戦にある。

 

 攻撃してくるにしても、相手は操られている被害者なので真っ当な価値観の奴なら攻撃を躊躇するだろう。少なくとも、殺すのを極力させる程度の行動はとるのが過半数だ。

 

 そんなのが抵抗までしてくるのなら、もはや厄介以外の何物でもない。

 

 だが、甘く見てみてもらっては困るな。

 

 俺は即座に機械的な杖を取り出すと、撃ってきている相手に狙いを定める。

 

「……バン」

 

 そして、一発でヘッドショットを決めた。

 

「「「………え?」」」

 

 ジリオラはもちろん、暁と藍羽も目が点になってる。

 

 ふむ、とりあえずはちゃんと使えるようだ。

 

「さて、堅実に一人ずつ減らしていくか」

 

 俺はこっちに攻撃が当たらないのをいいことに、一発ずつ正確に狙いをつけて敵を減らしていく。

 

 ヘッドショットは狙いがつけずらかったので、鳩尾に狙いを定める。これなら外しても高確率で体のどこかに命中するはずだ。

 

 よし、また当たった。まだテストもあまりしてないけど、なかなか使えるな、コレ。

 

「いや、ちょっと待ちなさい!! 彼らは私が操っているだけよ!!」

 

「お前ちょっと待て! いくら状況がやばいからって、それはないだろ!!」

 

 ジリオラと一緒に暁まで慌ててるが、何がどうしたというのだ。

 

 なんかよくわからず首をかしげると、アスタルテが眷獣で藍羽達をガードしながら、静かに倒れている人を観察した。

 

「質問。攻撃をもらったアイランドガードに負傷が見当たりません。おそらく誰も状況を理解できていないので、説明をお願いします」

 

 あ。

 

「いっけね。またうっかり」

 

「うっかりじゃねえ! 心臓に悪い!!」

 

「あの宮白さん? 本当にいい加減にしてくれない?」

 

 うわぁ怒られる!!

 

 と、とりあえず種だけ説明しないと!!

 

「ヴぃ、ヴィヴィ達の世界の魔法技術ってさ、純粋魔力攻撃設定ってのがあって、肉体的なダメージをほぼゼロにできる攻撃方法が存在するだよ。で、これは時空管理局のデバイスをツテでもらってきたんだ。だから大丈夫大丈夫死なない死なない」

 

「そういうことは先に言え!!」

 

 悪かった暁。ついうっかり。

 

「だ、だからって普通操られてる人たちを躊躇なく撃つ?」

 

「ごめんなさい。この人あなたたちとは別の意味で問題だらけなのよ」

 

 コラそこ藍羽。ジリオラと仲良くなるな。

 

 まあ、この調子でいけばアイランドガードは十分ぐらいで無力化できるな。

 

 さて、ジリオラの方は―

 

「暁、露払いは任せろ。……嫁をいじめたビッチをぶんなぐって来い」

 

「……いや、その発言はおかしい」

 

 ツッコミが飛んできたが、それはそれとして暁は結界から飛び出て突っ込んでいく。

 

「これを忘れてないかしら、毒針たち《アグイホン》!」

 

 ジリオラは当然蜂の眷獣をだして攻撃を行うが、しかし忘れているのはお前の方だ。

 

「スーパー雪侶ビーム!!」

 

「お前はいつもマイペースだなぁ」

 

 俺たちはほかにもいるのだよ!!

 

 かろうじて追いついた雪侶とグランソードの攻撃が、眷獣を弾き飛ばす。

 

 そして、暁は一気にジリオラへと接近する。

 

「覚悟しな。浅葱と那月ちゃんとアスタルテの礼はさせてもらう!!」

 

「できるのかしら? あなたの眷獣じゃあ、このあたり一帯が灰燼と帰すわよ?」

 

 そう。暁の眷獣は市街戦には涙が出るほど向いていない。

 

 例えるなら、人ひとり倒すのに爆撃機を投入するようなもの。確実性は高いが、余計な被害がでかすぎる。

 

 そんなものを自分の住んでいる街で平然と使えるほど、暁は非常識じゃない。

 

 それが読めているから、ジリオラはまだ余裕がある。

 

 精神支配の眷獣らしき鞭を振るい、隙をついて暁を制御しようとして―

 

「なめんな!!」

 

 アッパーが、ジリオラの顔面に叩き込まれた。

 

「なっ!?」

 

 そのまま浮き上がったジリオラの体に、暁は体を半回転させながら勢いよく蹴りを叩き込む。

 

 骨が折れる音が響いて、そのままジリオラはコンクリートにたたきつけられた。

 

 うん、死んだんじゃね?

 

「な、吸血鬼が、格闘……戦?」

 

 口から血を流しながら、ジリオラがそうつぶやいて気絶する。

 

 とたんに条件を満たしたのか、鎖がどこからともなく飛び出て、虚空にジリオラを吸い込んでいった。

 

「……サンキューな、ノーヴェ」

 

 暁がそう感謝の言葉を漏らす。

 

 ああ、ノーヴェ。お前やっぱりすごいよ。

 

 言ったとおりだ。まさにドンピシャ。

 




ヴァトラーの思惑もあり、いろいろと乱戦じみたことになってきた南宮那月争奪戦。

そして暁はストライクアーツを(すこし)習得した! 街中でもある程度戦闘ができるようになった!!

これで原作よりも少しだけ強化された暁。だがフォンフ・アーチャーもフォンフ・ランサーもむちゃくちゃ強いからこの程度じゃ焼け石に水だぜ(ヤケクソ

因みに、ネギまの設定を思い返していたら暁にふさわしいアーティファクトを思いついた。だけど―

兵夜がした場合:男同士のキスとか誰得だよ

久遠がした場合:兵夜が死ぬ!!

……どうしたもんか。


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だし抜いたと思ってる時、たいてい相手もそう思ってるから気をつけろ

さてさて、それでは皆様お待たせいたしました。

ついにあの戦闘狂の登場です!!


 

 とりあえず、ジリオラを倒すことができて一端は解決した。

 

 念のため使い魔を展開して確認するが、付近に怪しい人影はない。

 

 どうやら、今のでいったん打ち止めのようだ。

 

「雪侶、グランソード。良く間に合わせた」

 

「ふふん。もっと褒めるですの兄上」

 

「結構全速力で走ったんだぜ? あとでうまいもん食わせてくれや大将」

 

 眷属たちと軽口をたたきながら、俺はとりあえず周りを見渡す。

 

 うん、思わず全滅させてしまった。

 

 ついやりすぎてしまったんだが、どうしたもんだろうか。

 

「藍羽、とりあえず救急車を呼んでくれ。雪侶はちょっと彼らの護衛を頼む」

 

 このまま放っておくわけにもいかないだろう。というより、ちょっとこれは当分起きそうにないな。

 

 これでアイランドガードの被害は壊滅的。当分は戦力を貸せるような状態じゃない。

 

 ヤバイ、うっかりにしてもこれはひどい。ただでさえ人が足りないのを忘れてた。

 

 ……それはそれとして、後で見舞いの品を送っておこう。菓子折りと果物詰め合わせで事足りるだろうか。

 

「それよりここから移動するぞ。もっと人も物もいないところに移動しないと、監獄結界の脱獄囚たちとの戦闘で被害が甚大になる」

 

「あ、ああ。それなら廃棄されたサブフロートがあったはずだからそこにするか」

 

 流石に地元なだけあって詳しいな、暁。

 

 まあいい。とにかく―

 

「グランソードは藍羽についててくれ。南宮那月と一緒にいると、間違いなく直接戦闘に巻き込まれる」

 

「おうよ。ほら、立てるか嬢ちゃん」

 

「いや、ちょっと待ちなさいよ宮白さん」

 

 と、藍羽は南宮那月(らしきしょうじょ)を抱き寄せたまま、俺に詰め寄った。

 

「全く状況が把握できてないんだけど、どういうこと? それとサナちゃんが那月ちゃんって意味が分からないんだけど?」

 

「サナ?」

 

「名前を覚えてないからつけたのよ。幼い那月ちゃんでおサナちゃん」

 

 ああ、単純だけど普通に子供の名前としては無難な類になってるな。

 

 センスあるじゃないか、藍羽。

 

 とはいえこのまま連れて行くってわけにもいかないような気がするんだが。さてどうしたものか。

 

「いや、ちょっとまて浅葱。本当に今その子といるとやばいんだよ」

 

 暁もそういって止めようとするが、しかし藍羽はしっかりとサナちゃんを連れて離さない。

 

「今更放っておけるわけないでしょ。ママ扱いまでされてるんだから」

 

「ママっ」

 

 なんか感極まったのか、サナちゃんまで抱き着いている。

 

 まあ、どちらにしても協力してもらうつもりではあるんだが、どうしたものか。

 

「あの、兄上? お取込み中申し訳ありませんけど」

 

 ん? なに雪侶?

 

「どうやら、招かれざる客のようですの」

 

 今度は何だ。

 

 心底いやな気分で振り向くと、そこには一人の男が一人。

 

 金髪の品のいい身なりをした男。しかしその雰囲気は凶暴性が透けて見える。

 

 ああ、こいつも倫理観に問題があるタイプだ。人のことは言えんが、こいつたぶん俺と違って自重する気があまりないな。

 

「ヴァトラー!」

 

 暁が戦闘態勢を取りながら叫ぶ。

 

「やあ、古城。僕の獲物をあまりとらないでくれよ。せっかくLCOを見逃したのに退屈じゃないか」

 

 なるほど、こいつがディミトリエ・ヴァトラーか。

 

 もっとも真祖に近い男といわれる吸血鬼の貴族。それも、質の悪いタイプの戦闘狂。

 

 たしか、自分たちを狙う獣人のテロ組織を切り札ごと自分の船に入れて連れてきたとかいう一時期のヴァーリ並のことをやらかしている。

 

 ……まずいな。

 

 サナちゃんこと南宮那月を殺せば、今度こそ完璧に監獄結界は崩壊する。

 

 そうなれば、こいつとしては願ったりかなったりの状況に―

 

「……………ブッ!」

 

 なんか、急に笑い出したんだけど。

 

「み、見る影もないな、空隙の魔女!! あ、あははははは!! 駄目だ、笑いが止まらない!!」

 

「暁、こいつここで始末した方がいいか?」

 

 この隙だらけの状況を最大限に生かした方がいいと思うんだが。

 

「いや、あいつあれでも戦王領域の全権大使なんだ。そんなことすると戦争になるからやめてくれ」

 

 なんて奴だ。戦王領域とやらもこんな奴に権力与えるなよ。

 

「兄上。兄上にもブーメランなこと考えてません?」

 

 失礼な。俺は権力を悪用したりなんて……してないこともないな。

 

「安心しなよ。そんな状態の南宮那月と戦ったところで面白くないし、この状況で脱出もできない奴らにも用はないさ。勝てるとわかってる戦いはしない主義なんだ」

 

 なるほど、ヴァーリよりは糞兄貴に近いタイプの戦闘狂だな。

 

 とはいえ、今の段階では情報が少ない。

 

 よし、少し突っついてみるか。

 

「とりあえず挨拶からしておこう。初めまして、アルデアル公」

 

「初めまして。ああ、僕のことはもっと軽く読んでくれて構わないヨ」

 

「OKヴァトラー。じゃあ単刀直入に言おう」

 

 さて、エサをぶら下げるか。

 

「アンタ、俺に雇われないか?」

 

「はあ!?」

 

「兄上? 何を考えてますの!?」

 

 藍羽と雪侶に大声をあげられるが、しかしこれは序の口だ。

 

「へえ? 仮にも自治領のトップを雇おうだなんてすごいこと言うね?」

 

「いいじゃないか。言うまでもなことだが依頼は南宮那月の護衛。監獄結界の脱獄囚と戦うのは、お前も望むところだろう?」

 

 そう、これはむしろ好都合といっていいはずだ。

 

 南宮那月という生餌をもって、監獄結界の脱獄囚という大魚と釣る。

 

 もともとこいつは、それを目的としてLCOを見逃したんだ。渡りに船といってもいいはずだ。

 

「なるほど、僕みたいなタイプにはなれてるようだ。でも、雇うというからにはただでとは言わないよね?」

 

「真祖にも匹敵するだろう戦士との模擬戦を手配する」

 

 俺は速攻で報酬を提示する。

 

「俺たちの世界において、神すら殺すといわれる白龍皇。その歴代所有者の中でも過去現代はもとより、未来永劫にいたるまで最強の座に就くだろうといわれる男を紹介しよう。強者と戦いたいあまり、義理の父親を裏切ってテロリストに身をやつしたこともあるから、たぶん気が合うぜ?」

 

 さて、できる限りの餌の中でも、トップクラスのものを用意させてもらった。

 

 あの暇人の戦闘狂は割と自由な立ち位置だ。むちゃくちゃ強い奴と戦えると聞いたのならば、動かせる自信はある。

 

「流石に今は試合の予定が立て込んでるからすぐにとは言わないがな。それでも、模擬戦のフィールドも含めて一年もあれば手配できる。なんなら呪術的な契約をかけてくれてもいい」

 

 そう、一年もあれば準備も簡単だ。

 

 さすがにアザゼル杯からリタイアしろなんて言っても聞かないだろうが、そのあとなら動かせる。レーティングゲームのシステムを使えば死ぬ可能性も低い。

 

「何なら俺が今やってる試合に参加してみるか? リザーブ枠を募集してるんだが、文字通り神すら参加するビッグイベントだ」

 

 そういいながら、俺はアザゼル杯のパンフレットを渡してさらに追加する。

 

「くわえて、俺と組めば三十年待てば異世界の悪神たちと戦争をできるかもしれない。……まだ見ぬ新天地の強者たちと戦う機会は、お前にとっては最高の報酬じゃないか?」

 

 さらに来るべきE×Eの戦いに備えて戦力も確保できる。

 

 これは、間違いなく俺にとっても有利な条件だ。

 

 さて、双方ともにウィンウィンの契約だが、どう出る?

 

「……ふむ、確かにすごい連中が出てくるみたいだネ。でも異世界の存在だと強さの次元がわからないなぁ」

 

「暁の眷獣は一体一体が龍王及び魔王クラス。そして、今回の大会にはそれクラスが四人参加してようやく互角といわれている神が、直属の部下を率いて参戦している」

 

 俺はわかりやすく説明する。

 

 つまり、単純計算で暁が眷獣を四体同時使役してようやく戦えるだろう実力者がいるということだ。

 

 わかりやすく餌の出来を説明させてもらったが、さてどう出る?

 

 ヴァトラーは少しの間考えて、そして口元を吊り上げた。

 

「いいね。確かにそそりそうなやつらと戦ったうえで、今の古城より強い敵と戦える。……確かに、戦闘狂なら垂涎の戦いだね」

 

 そういうと、ヴァトラーはにっこりとうなづいた。

 

「いいヨ。君たちも一緒に僕の船に来るといい。その方がまだ安全だろう」

 

 よし! いけた!!

 

 確かこいつは超大型のメガヨットに住んでいる。港なら今の時間にはほとんど人がいないはずだ。

 

「お、おい。いいのかよ」

 

「大丈夫だ暁。……グランソード。舎弟たちを連れて港付近に待機。とりあえず適当に一人だけ逃がしたらあとはぶちのめせ」

 

「一応一人は相手させてやるんだな。大将も人がいいぜ」

 

 はっはっは。それぐらいしないと文句言われそうだからな。

 

 さて、とりあえずこれで何とかなるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一時間余り。オシアナス・グレイヴ2の寝室で、ヴァトラーは外を眺めながらワインを飲んでいた。

 

 ヴァトラーはもう一つのワイングラスにワインを入れると、それを白髪の男に差し出した。

 

「これでいいのかい、フォンフ・リーダー?」

 

「ああ、これである程度は情報がこっちにも流れてくるからな」

 

 ワインを受け取りながら、白髪の男―フォンフ・リーダーはそう笑みを浮かべる。

 

「しっかしエイエヌだっけ? 異世界からの接触を受けたときはすごく楽しみだったけど、彼死んじゃったんだ」

 

「ああ。そしてその遺物を使って、俺はこうして好き勝手してるということさ」

 

 フォンフはそう告げると、ワインを飲む。

 

「全てはあまねく巨乳を平坦にするため。無限に広がる世界に、貧乳の波を起こすのさ」

 

「……面白いね。巨乳好きの実力者たちが、目の色変えて襲い掛かってきそうだ」

 

 ヴァトラーは心底面白そうにくつくつと笑う。

 

 ある日、趣味の一環として行っている強者探しで、エイエヌに知り合ったのは僥倖だった。

 

 いくつも存在する次元世界。それも、真祖ですら勝てるかどうかわからない圧倒的な存在がひしめくもう一つの地球。そしてそれを守護する赤龍神帝。

 

 目的のために手段を択ばない精神性ゆえに、気が合った二人はお互いに酒を飲んだものだ。

 

 できれば彼とも全力で殺し合いたいと思ったが、死んでしまったのは心から残念だ。

 

 だが、その望みは決して消えたわけではない。

 

 宮白兵夜。平行世界のエイエヌは、この世界でも大物と化している。

 

 このままいけば地球の歴史に名を遺すであろう逸材。神々の最高峰すら打倒した、弱者である強者。

 

 ヴァトラーが好むのは、ただ戦闘能力が高い者だけではない。

 

 精神性もまた強さに必要な要素だ。

 

 単純な力ではかなわない相手に、絶望せずにどうすれば勝てるのか探る心。そういうものを持つものは、時として弱者でありながら強者を打ち倒す。

 

 そういう何が起きるかわからないというのが、戦いにおいて楽しさを増幅させるのだ。

 

 だが、何よりも死ぬかもしれないというスリルが大事だ。

 

 それが戦いを楽しみ一番の調味料。それがなければ、せっかくの強敵との戦いも味気ない。

 

 宮白兵夜はそこがわかってない。殺し合いとは、命がかかっているからこそ楽しいのだ。

 

 ゆえに、せいぜい利用させてもらおう。

 

 スパイみたいなマネは好みではないが、第四真祖を育て上げる彼には餌の一つでも挙げた方がいい。

 

 そして、フォンフは暁古城を磨き上げるのにふさわしい試金石だ。

 

 乗り越えて強くなってくれるならそれでよし、もし負けることがあっても、その時はフォンフたちを相手に殺し合いをすればいい。

 

 もしバレたとしても、その時は闘うことになるのは間違いない。それならそれで別に問題はないだろう。

 

「さて、先ずは囚人たちと相手に楽しみたいところだね。僕を楽しませてくれる手合いがいるといいんだけど」

 

「そして俺はその間に動かせてもらう。さて、宮白兵夜はいつになったら気づくことやら」

 

 二人はそういい合い、祝杯をあげた。

 




ヴァトラー、二枚舌外交(意味あってるかな?

兵夜からすれば、ヴァトラーは確実に釣れる条件がわかっているだけ交渉相手としては実に有効。なにせD×D、戦闘狂にはことか聞かないですからね。

……ですが、戦闘狂にも様々な種類があります。ヴァトラーはそういう意味では、レーティングゲームのような死なないたたかいはちょっと合わないタイプだと個人的に考えております。なのでフォンフの方を本命として、えっさほっさとどっちにもえさを与えて成長させようという思惑です。









そして、とりあえずエイエヌが悪い!

エイエヌの従僕はスパイとしても非常に有効なので、当然時空管理局やほかの世界にも情報戦用の従僕を送り込んでおります。場合によっては全く怪しまれる要素のない子供を従僕にして、政府機関に就職させるという気の長い真似すらやっております。

そんなわけでエイエヌはかなりハイレベルな諜報組織を持ち、しかも様々な世界の犯罪組織とコネクションを作っておりました。

その大半はエイエヌの死亡とともに崩壊し、加えてそういった担当のほとんども従僕であったため砕け散りレジスタンスも時空管理局も三大勢力も把握が困難です。

ですが、フォンフ・シリーズは敗色濃厚になった段階でそれらを早めに確保し、自分たちの組織力向上のために使っております。

あくまでコネがある程度ではありますが、フォンフ一派は禍の団を超える規模の犯罪者ネットワークを保有しているとお考えください。


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策謀渦巻く洋上の棺桶

 

「……さて、フォンフはおそらくヴァトラーにも接触しているだろうが、どう出るか」

 

『どう出るか……じゃないんだけど!』

 

 スマホから放たれる煌坂の大声に、俺は思わずスマホを耳から遠ざける。

 

 まったく。せっかくもてなしでもらったワインが不味くなるじゃないか。

 

 しかもこんな高級なチーズをつまみにする機会なんてそうないんだぞ。流石は一国の頭首だ、金持ってるな。

 

『あのねえ! フォンフっていったら今回の事件の元凶の1人でしょ! アルデアル公が繋がってるっていうの!?』

 

「俺がフォンフなら接触する。強者と戦うためなら手段を択ばないヴァトラーは、ぶっちゃけ餌で釣りやすいタイプだ」

 

 なにせ、D×Dには強者が山ほどいる。

 

 フォンフの最大の怨敵であるイッセーなんかまさに強者だ。繋がっておけば戦う機会が巡ってくるかもしれない。

 

 そして俺と繋がっておけば、それはそれとして強敵と巡り合うかもしれない。

 

 ちょっと援助する程度でそのチャンスを得やすくなるというのなら、ヴァトラーからすれば濡れ手で粟だろう。蝙蝠みたいなマネだが、そういう二重スパイじみたことも目的のためには必要なこともある。

 

 とはいえ、おそらく奴はヴァーリとはタイプが微妙に違う。

 

 そこから考えると、奴はフォンフに肩入れする可能性が高い。

 

「奴はおそらく、命がけに興奮するタイプだ。となると、俺の出した条件では煮え切らない返事になるはずだ」

 

 そう、俺が出した条件はあくまで模擬戦。

 

 つまり、死なないことを前提としているのだ。

 

 試合ではなく殺し合いに燃えるタイプだとするならば、おそらくこれは返事がつまらないものになっただろう。

 

 そうでないということは、俺を利用したい理由があるはずだ。

 

 あくまで推測だが、思考の隅には入れておくべきだ。

 

「さて、フォンフに情報が筒抜けになることを前提とすれば、ある程度行動に干渉できるはずだ。とはいえ他にも情報網があるはずだし、半端な嘘はつけないな」

 

『あなたねぇ。割と気が狂ってるって言われたことない?』

 

「よく言われる」

 

 自分でも正気度低いのは自覚してるからな。最早今更だ。

 

「それで? グランソード達は配置できたか?」

 

『それは大丈夫。というより、今戦闘が発生したようね』

 

 ふむ、やはり気づかれたか。

 

 どこから情報が漏れたのかわからない……などということはなくやはりフォンフとヴァトラーは繋がっていると考えた方が自然だろう。

 

 監獄結界崩壊に一枚かんでいるフォンフなら、囚人達に連絡を取るすべはあるはずだ。

 

 とはいえ、想定の範囲内とはいえどうやって接触したのかが問題だ。

 

 まあ、たぶんエイエヌが何かしたんだろう。あいつはS×Bの存在を知っていたし、従僕を利用して内通者を作る程度のことはできるだろう。それをフォンフが利用したということか。

 

 エイエヌは要職を殆ど従僕で構成させていたから、それが一気に壊滅したことで遺された情報を探すことが困難だ。

 

 ましてやフォンフシリーズは複数存在する上に、奴はエイエヌ側だった。必然的に先を読んで情報網を確報することは可能。ドタバタしていた俺達よりも、先手を打てる。

 

 その辺を考えると、たぶん時空管理局にもコネを持っているだろう。実際時空管理局の関係者に、突然倒れて崩壊した奴が何人も出ているそうだ。

 

 便利だな従僕。奴を倒せてよかった。

 

 あんなもん投入されたら、疑心暗鬼で組織が崩壊しかねないからな。よかったよかった。

 

『あの、宮白兵夜。ちょっと暁古城達のところ行ってくれない? なんかいちゃついてて腹立ってきたんだけど』

 

「それはお前が素直になれないのが悪い」

 

 俺はばっさり切り捨てた。

 

「あの手のタイプは変化球で攻めても意味がない。とにかく堂々とデレろ。もしくはストレートに告白しろ」

 

『いや、別に暁古城に好かれたいとかそんなこと思ってないんだけど』

 

「そういうのがダメだと言ってるんだ。いいか? 誰が見ても分かるそれ以外の解釈の余地のないドストレートが重要だからな」

 

『だから、別に暁古城に嫌われようがどうでもいいって言ってるんだけど!?』

 

 まったく。やっぱり教えてやった方がいいんだろうか?

 

 しかしこれ以上そんなことをすると、どっかで痛い目見そうで怖いしなぁ。

 

 と思ったら、いつの間にやら姫柊ちゃんが通信を奪取したらしい。

 

『話が進まないので切り替えますが、グランソードさんの話では残りは片手で数えられるそうです』

 

「流石はグランソード達。仕事が早いな」

 

 これで残りは数少ないな。そろそろ1人漏らした方がよさそうなんだが、どうしたもんか。

 

 こっちが警戒していることを勘付かれたら、本当に繋がっていた場合、本格的に寝返らえる可能性がある。

 

 その辺の駆け引きは必要不可欠だな。

 

 ………もし勘違いだった場合、ものすごく徒労に終わるけどな!

 

「じゃあ、とりあえず俺は暁達のところに行ってくるから。事態が解決したらなんか奢るから我慢してくれ」

 

『はい。先輩達のことをお願いします』

 

 そう言って、通信を切り、俺は暁達のところに行く事にする。

 

 とりあえず様子を見た方がいいだろう。何ていうか、暁は暁で大変だからな。

 

 まさか子供同伴でエロい展開にはならないと思うが、それはそれとしてフォローしておかないと。

 

 万が一にも暁の攻撃でオシアナス・グレイヴ2が沈むというオチだけは勘弁してもらいたいものだ。

 

 そんな事を考えながら俺は暁達のいる部屋をノックする。

 

「おーい。暁いるかー?」

 

「宮白か? ちょうどよかった!」

 

 と、暁は少し慌てながらドアを開ける。

 

「ちょうど相談したいところだったんだ。なんかやばいことになってる」

 

「……具体的には?」

 

 さっさと用件を聞こう。

 

 このもめ事が起こりまくっているタイミングで、さらにトラブルなんて勘弁してほしい。

 

「ああ、なんか那月ちゃんの人格のバックアップが覚醒したんだが」

 

 人格の、バックアップ?

 

「なるほど、それは便利な発想を聞いた」

 

「どこ喰いついてんだ。問題はそこじゃねえ」

 

 あ、ごめん。俺うっかりだからそういう保険に興味があってな。

 

 で、問題はどこなんだ?

 

「この調子だと、魔術が行使できないみたいなんだ。このままだと優麻が助けられない」

 

 なるほど、どうやら確保出来たらどうにかなるってもんでもないようだ。

 

 とはいえ確保できただけでも御の字。これに関しては想定の範囲内だからなまあいいだろう。対策もあるしな。

 

「その辺に関しては七式を使えばどうにかなるかもしれん。とにかく試して―」

 

「それどころでもないみたいよ」

 

 と、俺の言葉を遮って藍羽が告げる。

 

 その言葉に振り返ってみてみれば、テレビの画面になんか猫のぬいぐるみみたいな映像が浮かんでいる。

 

『ケケッ! お前さんが嬢ちゃんとその彼氏の恩人かい?』

 

「まあそんなところだ。……お前は?」

 

『俺はモグワイってんだ。まあ、嬢ちゃんの相棒ってところだな』

 

「誰が相棒よ。それより、さっき言ったことは本当なの?」

 

 む? なんだなんだ?

 

「なんかやばいことでも起こってるのか?」

 

『ああ、彩海学園ってところを中心に、あらゆる魔術反応が消えてるんだ。このまま範囲が広がると、絃神島が滅びちまうかもな』

 

 ………それ、やばすぎね?

 

「この非常時にさらになんてトラブルがやってくるんだ……っ」

 

 もう勘弁してくれ。

 

「どうする? とりあえず、ヴァトラーに頼んでこの船をいったん沖に出すか?」

 

「いや、それよりまず凪紗と母さんを―」

 

 俺たちがとりあえず身内の安全を最優先に確保しようとしたその時だった。

 

 ……あ、やべ。

 

「伏せろ!!」

 

 即座に俺は暁達を抱えて飛びのく。

 

 そして、いきなりヴァトラーが突っ込んできた。

 




ヴァトラーの危険性は兵夜もよく理解していたという話。

こういった策謀戦はイッセー達と一緒の時はしにくいですし、オリジナル展開になっているアザゼル杯戦だからこそできる内容です。


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港湾の激闘

 

「それで、兵夜さんはなんて?」

 

「いちゃついてる暁古城のとこに行くって。できれば首輪をつけてもらいたいんだけど」

 

 シルシは紗矢華の返しに苦笑する。

 

 あの手のタイプにツンデレは荷が重い。これではとても好意に勘付かれることもないだろう。

 

 割と普通にやきもちを焼く雪菜や、年季の長い浅葱ですら気づかれなかったのだ。どう考えても気づかれないだろう。

 

「好きなら好きってはっきり言った方がいいわよ。割と気を使える兵夜さんですら結構勘違いするんだから」

 

「だから! なんで私が暁古城が好きなことを前提としてるのよ!!」

 

「あの、それよりも今は気にするべきところが」

 

 からかい半分のシルシと、割とムキになっている紗矢華をなだめつつ、雪菜は雪霞狼を引き抜いた。

 

「それで、藍羽先輩と暁先輩の仲を無理やり取り持とうとしてるのは、貴方ですか?」

 

「……その方が面白そうだと思ったからね。おいしいご飯が食べたいなら、鳥に餌を運ぶぐらいはしないとさ」

 

 槍が向けられた先、霧が形を成しヴァトラーの姿をなす。

 

「あら、このままだんまりを決め込むと思ったのだけど、フットワークが軽いのね」

 

「気づいてたのか。あまりそそらないけど、目はいいんだね、キミ」

 

 シルシを微妙な表情で見ながら、しかしヴァトラーは少しだけ褒める。

 

 戦闘能力という点では、ヴァトラーの及第点にシルシは届かない。

 

 だが、その目の価値を軽視するほどヴァトラーも愚かではない。

 

 強力な戦闘能力を持つものと組めば、シルシの脅威度は大きく高まる。特に古城の夜摩の黒剣と併用すれば、相当離れた距離から正確に大火力砲撃を叩き込むこともできるだろう。

 

「キミ、僕の好みとは違うけど面白そうだね。気に入ったよ」

 

「それはどうも。だけど、あまり人の恋路に他人が介入しすぎるのもどうかと思うわよ」

 

 シルシは平然と対応するが、しかし問題点はそこではない。

 

「問題はそこではありません。第四真祖の覚醒を助けるなんて、貴方個人の趣味の問題で許されるような行動ではありません」

 

 雪菜が警戒するのはそこだ。

 

 第四真祖である暁古城は、世界のパワーバランスを一変させかねない存在だ。

 

 魔王クラスの破壊力をもつ力を十二体も保有する。そんな存在、単独で小国を滅ぼせるほどの存在だ。

 

 世界大国である夜の帝国を支配する第一真祖からしてみれば、つつかない方がいい爆弾であることは想定ができる。

 

 しかし、にもかかわらず第一真祖はヴァトラーの行動を見逃しているとしか思えない。彼を全権大使にしていることがその証明だ。

 

 それが気になっての発言だが、しかしヴァトラーはにやりと笑った。

 

「話は変わるけど、そもそもなんで君が古城の監視役になったのか気になったことはないかい?」

 

 その言葉に、真っ先に反応したのはシルシだった。

 

「ああ、やっぱり獅子王機関は監視役を送り込んだんじゃなくて嫁を送り込んだのね」

 

 苦笑交じりに、シルシは婚約者の慧眼を感心する。

 

 かつて、兵夜は雪菜だけが派遣された理由を、精神的な枷という意味の妾が本命だと判断していた。

 

 少なくとも、ヴァトラーもそう考えているらしい。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!? そんな話、私は聞いてないんだけど!?」

 

「……ちなみに、僕が獅子王機関に君もかいと尋ねたとき、静寂破り(ペーパーノイズ)は返答をにごしてたヨ」

 

 大慌てし始めた紗矢華に、ヴァトラーは爆弾を投下した。

 

 しかしそれが爆発するより早く、シルシは質問を返す。

 

「つまり、第四真祖を覚醒させることを目的としている……ということでいいのかしら?」

 

 少なくとも獅子王機関と戦王領域はそのつもりだということだ

 

「少なくとも、獅子王機関とうちの爺さんはそのつもりだろうね。そうじゃなきゃ、さすがに僕をここまで好き勝手にはさせないだろう?」

 

 暗に肯定するヴァトラーは、さらに言葉を重ねる。

 

「そもそも、三人しかいないはずの真祖の四人目とは、いったい何だろうね? 気になったことはないのかい?」

 

 ヴァトラーはそう聞くと、口元を喜悦にゆがめる。

 

「第四真祖が完全に覚醒すれば、それも分かるかもしれない。……その時になってから古城を喰うのも面白そうだ」

 

「「……っ」」

 

 その言葉に、雪菜も紗矢華も敵意をヴァトラーに向けることで返した。

 

 それもまた彼の思惑の内なのだろうが、しかしだからといって平然としていられることでもない。

 

 そして、それはシルシもそうだった。

 

「その時は、貴方たちと私達の全面戦争かしら? 知らないと思うけど、兵夜さんもまた領地を持つ貴族なのよ?」

 

 正真正銘戦争になるが、それでもいいのか。

 

 そう、暗に示すシルシだが、ヴァトラーは肩をすくめた。

 

「それも面白そうだけど、さすがにそれは爺さんも怒りそうだ。……それに、今夜のメインゲストは古城じゃないだろ?」

 

 そういって視線を向けた先には、二人の男がいた。

 

「………」

 

「おいおい、魔族特区じゃ攻魔師がナースやってのかぁ?」

 

 鎧を身にまとった巨躯と、小柄のドレッドヘア。

 

 間違いなく、監獄結界の囚人だった。

 

「グランソード? ……兵夜さんは一人見逃せって言ったけれど?」

 

『悪い! ちょっとこっちも面倒なことになってる!!』

 

 せめてもっと先に言えと暗に秘めた非難に、グランソードは焦り顔で答える。

 

「……どうしたの?」

 

『よく聞け! フォンフの野郎、思った以上に監獄結界にご執心だ!! ……エドワードンを量産して送り込みやがった!!』

 

 シルシはこの瞬間、絃神島の崩壊を幻視した。

 

「本当に、兵藤一誠を連れてくるべきだったわね!!」

 

 エドワードン。

 

 かつて、禍の団が開発した二足歩行の魔術礼装。

 

 宝具に匹敵する性能を秘めたそれは、まだ未熟だったとはいえグレモリー眷属とシトリー眷属を追い込んだ破格の兵器である。

 

 その戦闘能力はおそらく最上級悪魔とすら戦える。そんなものがこんなところで暴れれば、下手をすれば数ブロックが沈む。

 

 それほどまでに動いていることに、シルシは戦慄すら覚えた。

 

「いくらなんでもこれはひどいでしょうに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チッ! ヴァトラーの奴、使えない!!

 

 大口たたいておいて、何をあっさりやられてるんだこいつ。

 

 割と本気で頭が痛くなってくるが、とにもかくにも俺は外に出て敵を確認する。

 

 ……いた。

 

 軽装の鎧を身にまとった大男。手には大剣を持っている。

 

 立ち振る舞いに隙は無い。おそらく能力だけでなく技量も高いタイプだろう。それも、何度も修羅場をくぐった経験豊富な類だ。

 

「暁、アイツも監獄結界の囚人か?」

 

「だろうな。確かグランソードに殴られてたんだが、ぴんぴんしてるな」

 

 なるほど、どうやら囚人の中でも強敵のようだ。

 

 グランソード。確かに俺は一人抜けさせろと入ったけど、ヴァトラーより強い奴を送り込めとは言ってないぞ?

 

 それとも、グランソードを無理やり突破してきたのか?

 

 それはそれで面倒すぎるな。あいつ、今の俺より強いんだけど。

 

 っていうか情報が足りな過ぎて、どういうやつなのかさっぱりわからん。見るからに近接戦闘タイプではあるんだが……。

 

「ブルート・ダンブルグラフ。西欧教会に雇われていた元傭兵キュン」

 

 バックアッププログラムの緊張感がなさすぎるな。

 

「ミつけたぞ、クウゲキのマジョ」

 

 うん、やっぱり南宮那月が目的だよな。これはやるしかないか。

 

「暁、南宮那月と藍羽を連れて逃げろ。適当に足止めしたら俺は逃げる」

 

 流石に船の上で暁を暴れさせるわけにもいかない。確実に沈む。

 

 これは、俺が何とかするしかないか―

 

「いや、悪いんだけど僕の獲物を取らないでくれないかな?」

 

 そんな俺たちの後ろで、蛇が現れた。

 

 その蛇はブルートに切り払われるが、しかし奴の警戒心が大幅に上昇する。

 

「なんだ、生きてたのか」

 

 俺が振り返ると、そこにはぼろぼろになったヴァトラーが、瓦礫を押しのけてすごいいい笑顔を浮かべていた。

 

 本当に、ヴァーリに匹敵するレベルの戦闘狂だ。権力まで持ってるのが実にタチ悪い。

 

「そりゃもちろん。あんないい遊び相手を堪能せずに死んだりなんてしないサ!」

 

 言うが早いか、ヴァトラーはさらに眷獣を展開して攻撃を開始する。

 

 それをブルートはそのまま受け止めながらも、大剣で反撃する。

 

 なんだあの化け物。ストラーダ猊下やサイラオーグ・バアルと生身で殴りあいしてもいい線いくんじゃないか?

 

「奴は龍殺しの一族の末裔さ。何匹もの龍を殺し、頑丈な肉体を得た猛者。滅多に会えない強敵だ。……いいね! 最高だ!!」

 

 あ、これやばい。

 

「暁、藍羽、走れ!! ヴァトラーの奴周りが見えてないぞ!!」

 

 これ、この場にいると巻き込まれる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に面倒なことになったわね!!」

 

 一撃で吹き飛ばされたヴァトラーをしり目に、シルシはエストックを引き抜いた。

 

 とにもかくにも、シュトラ・Dはこちらで迎撃する必要がある。

 

 あの不可視の攻撃を楽に対応できるのは、自分しかいない。

 

 単純な戦闘能力なら宮白眷属最弱の自分が、唯一まともに勝機を狙えるであろう監獄結界の囚人。

 

 ならば、ここは自分が動くのが適任だ。

 

 そう判断し、シルシ・ポイニクスは接近戦を仕掛ける。

 

「姫柊ちゃん、煌坂さん! ここは私が!!」

 

「ちょうどいい、空隙の魔女より先にてめえと決着付けようかぁ!!」

 

 シルシはシュトラ・Dの攻撃をかわしながら、彼をオシアナス・グレイヴ2から引き離していく。

 

 その不可視の攻撃を見事に避けながら、的確に挑発の攻撃を繰り返して牽制を行っていた。

 

「シルシさん!」

 

「雪菜、いまは暁古城たちと合流することを優先しなさい」

 

 慌てて追いかけようとする雪菜を、紗矢華は手で制する。

 

 そして、その視線は別の方向に向けられていた。

 

「……それに、こっちもそんな余裕はないみたいだしね」

 

 その視線の方を向いた雪菜は、あり得ない光景に目を見開く。

 

 そこにいるのは、溶岩で構成された何十頭もの猟犬。

 

 間違いなくそれは眷獣。下位の吸血鬼の眷獣であろうが、その数は見事に脅威だ。

 

 あり得ない数の眷獣の群れ。その気になれば、この眷獣の持ち主は一人で絃神島を滅ぼせるだろう。

 

 そして、そんな元凶は堂々と姿を現していた。

 

「……やあやあ。空隙の魔女を殺しに来たよ」

 

「監獄結界の囚人! まさか三人も突破してくるなんて!! グランソードとかいうのは何してたのよ!!」

 

「気を付けてください紗矢華さん! 彼が突破を許すということは、相当の実力者です!!」

 

 雪菜からしてみれば悪夢に近い。

 

 グランソードは古城の眷獣であろうと一体位なら返り討ちにしかねないほどの力を秘めた悪魔だ。その気になればヴァトラーを抑え込むことも可能だろう。

 

 それほどの人物が、直属の部下を率いて動いているのにもかかわらずに三人も突破されている。

 

 必然的に監獄結界の囚人の中でも、最高位の実力者だということだ。

 

「お初にお目にかかる。私はサリファイと申すものだ。……悪いが、生贄になってくれないかね?」

 

 その言葉とともに、眷獣の群れが一斉に襲い掛かった。

 



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対囚人戦、決着

吹っ飛ばされたヴァトラーに対する兵夜の思考に対するツッコミを想定してたけど全然なかった。

皆、兵夜のことわかってるなぁ


 

 キラとかいう吸血鬼の協力をもって外に出たが、事態は思ったより最悪のようだ。

 

 港中が燃え盛っている。これ、俺が賠償金出した方がいいんだろうなぁ

 

「……まずい、流石の俺も懐が心配になってきそうだ」

 

「お前、実は意外と余裕あるだろ」

 

 ないよ。ないから慄いているんだろう。

 

 いくら超高級な霊地持ちの俺といえど、年間で稼げる金には限度がある。領地の規模だってそんなに大きいわけじゃないんだぞ?

 

 こ、こうなればアーチャーが残してくれた魔術特許の使用料を解禁するほかないか?

 

 できればアイツの稼いだ金は使いたくなかったが、この出費は世の為人の為の必要経費だし許してくれるよね、相棒!?

 

「ってちょっと待て。そういえば姫柊やシルシさん、ついでに煌坂が近くに来てるはずじゃなかったのか?」

 

「え? あの三人もいたの?」

 

「まあな。色々あって助けてもらってたんだが……」

 

 暁と藍羽が話し合ってる中、俺は即座に使い魔を出して周囲を観察する。

 

 ふむ、グランソードは雑魚と一緒にエドワードンをまとめて相手にしている。

 

 こっちはこの調子なら何とか犠牲者を出さずに鎮圧できるだろう。なら、今は急いで行動する必要はなさそうだ。

 

 シルシはドレッドヘアの小男と相手にしている。こっちも比較的有利に立ち回っている。不死すら使わずに対抗できているから、こっちも優先順位は低い。

 

 そして、問題は姫柊ちゃんと煌坂だ。

 

「おい、姫柊ちゃんと煌坂が結構やばいぞ。……なんかすごい数の眷獣に追い込まれてる」

 

「何だと!? くそ、急がねえと―」

 

 暁が慌てて走り出そうとしたその時だ。

 

 ヴァトラーの戦闘の余波で、港のガントリークレーンの一つがぶっ倒れてきた。

 

 おいおい勘弁してくれよ本当に!!。

 

「伏せろ藍羽! ぶち壊すが破片までは―」

 

 素早く光の槍を形成するが、そんなことをする間にガントリークレーンが爆発した。

 

 いや、厳密に言えば爆発物が着弾して軌道をそらした。

 

 どう考えても歩兵の装備の領域ではないが、しかし魔導や異能でもない。科学的な榴弾によるものだ。

 

 そして、その主は俺達から破片を庇う。

 

 ……なんていうか、昆虫のような印象を持つ、小さな戦車だった。

 

 いや、砲塔と本体が一体化している。これは厳密には自走砲の類か? っていうか無駄にハイテクだな。学園都市技術にも対抗できるレベルの出来だぞ。

 

 そして、その似非戦車から、小さな女の子が出てきた。

 

 なんか、水着みたいなピッチリした服装をした女の子だ。歳は小学生ぐらいか?

 

「いやはや、アブないところでござったな、女帝殿」

 

「…………あんた、まさか戦車乗り!?」

 

 おい、藍羽の知り合いか?

 

「えっと、とりあえず助かった」

 

「いやいや、気にしなくてもよいのでござる。……あ、拙者、戦車乗りことリディアーヌ・ディディエと申すもの。以後お見知りおきをでござる」

 

 ああ、そういえば胸に「でぃでぃえ」って書いてあるな。

 

「「………濃いな、お前の友達」」

 

「いや、友達じゃないし」

 

 思わず暁とシンクロしてしまった。

 

「っていうか、なんであんたが迎えに来るのよ戦車乗り。公社の問題何て、アンタ一人でどうにでも―」

 

「ところがそうもいかなくなったのでござる。……魔力消失が、かなり拡大しているのでござる」

 

 マジか。ただでさえLCOと囚人達で手一杯だというのに!!

 

 ただでさえ地方都市クラスの人口密集地。それも、観光客がごった返しているシーズン真っ盛り。とどめに海の上の人工島だから逃げ場がない。

 

 よりにもよってなんでこのタイミングで!!

 

「まさに十年前の事件と同様の反応なのでござる」

 

「……十年前? まさか、仙都木阿夜とかいう奴が関わってねえか!?」

 

 暁が何かに気づいたのか、ディディエに問いかける。

 

 阿夜ってあの時の元凶の一人だよな。あいつが今回の事件に関わってるのか?

 

「ご存じでござったか彼氏殿。さよう、闇誓書事件と呼ばれているでござる」

 

 なるほど、つまり仙都木阿夜の目的は、十年前の事件をやり直すことか。

 

 脱走してすることがそれな辺り、相当大事な目的らしいがどういうことだ?

 

「……行ってくれ、浅葱」

 

「え?」

 

 暁は、藍羽の方を振り向いてそう促した。

 

「サナはこっちで何とかする。お前は絃神島を頼む」

 

 こういうことを言うからフラグが立つのだ、お前は。

 

 まあ、そこまで言うなら付き合ってやるか。

 

「そもそもフォンフはこっちの案件だ、俺も責任はとる。……藍羽、お前はお前にしかできないことをやってくれ」

 

 バトル関連は俺や暁達で何とか対抗できるが、電脳関係は藍羽じゃないと無理だしな。

 

「行け、浅葱!!」

 

「……わかった、でも、これが終わったらお祭りに付き合ってよ」

 

 何ていうか通じ合ってるようで通じ合ってないな、コレ。

 

「一応言っとくが暁、それ、デートの誘いだからな?」

 

「え、そうなのか? 皆でとかじゃなくて!?」

 

 この馬鹿、一度死んだ方がいいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に戦闘は激しくなっていた。

 

 白衣の男ことサリファイは、純粋な人間である。

 

 生半可な魔女を凌駕するほどの魔術師ではあるが、無限の生命力を持っているわけではないし、吸血鬼の血の従者でもない。

 

 だが、同時に彼は単純な被害なら監獄結界の囚人の中でも群を抜く。

 

 サリファイの研究する魔術はすなわち契約。

 

 対価を与えることにより、眷獣を制御するという術式を研究していた。

 

 そして、それはまさに成功している。

 

 通常の吸血鬼が莫大な生命力を代償に眷獣を使うのよりも、彼は安全に眷獣を使用する。それも、後付けすることで半端な氏族を超えるほどの眷獣を使用することができるのだ。

 

 そして、そんなものを安全に使うということは、すなわち他者の命を奪うことで使うことに他ならない。

 

 その犠牲者、人間魔族合わせて合計37564人。

 

 生半可なテロリストですら数十年かかっても出せない被害者を出した、生粋の危険人物なのだ。

 

 ………だが、その脅威も圧倒的な猛威の前には形無しだった。

 

「ようやくエドワードンを片付けたと思ったら、なんだこの状況は」

 

 ため息を吐くグランソード・ベルゼブブは、慌てて先に行かせた姫柊雪菜と煌坂紗矢華を逃がしてから、総力を挙げて叩き潰した。

 

 ……叩き潰したはいいが、流石にやりすぎた。

 

 一体一体が溶岩で出来た自走砲とでもいうべき、サリファイの操る眷獣。その恐ろしさは数にこそある。

 

 師団規模の数で襲い掛かる彼を撃破するのに、グランソードも遠慮はできなかった。

 

 既に港湾地区は崩壊寸前であり、更地になっている。

 

 確かに、サリファイの眷獣は総力を挙げれば真祖の眷獣とすら戦えるだろう。それほどまでに脅威だった。

 

 だが、第四真祖の眷獣は龍王から魔王クラス。逆に言えばそれだけの戦力があればまともな火力でも勝負になるということだ。

 

 そして、グランソード・ベルゼブブは真なる魔王ベルゼブブの末裔。その才能を色濃く受け継いだ真なる後継者である。そのうえ努力も生半可な実力者をしのぐほどに積んでいる。

 

 その戦闘能力は、既に魔王クラスにも匹敵するほどなのだ。

 

 程なのだが―

 

「……大将に、給料何百年分ぐらい前借りすりゃ払えるのかねぇ、コレ」

 

 あまりに大きすぎる被害に、グランソードはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランソードが貫録勝ちをしている頃、逆にシルシは追い込まれていた。

 

 断言するが、シュトラ・Dとの相性は抜群に良い。其れどころか、監獄結界の囚人の中で、シルシが最も有利に立ち回れるのは間違いなくシュトラ・Dだ。

 

 サーヴァントの宝具にも匹敵する力を秘めた千里眼。ことみることにおいては規格外の目。それを保有するのがシルシ・ポイニクスだ。

 

 その目は不可視程度ではごまかされない。生半可な見えない攻撃など、彼女の前でははっきりと視界に収めることができる。

 

 シュトラ・Dの優位性は攻撃力もあるが、それ以上に不可視だという点がある。

 

 見えないということは回避も防御も困難だということだ。ましてや、それが上級悪魔すら殺しうる火力だというならばなおさらだろう。

 

 だが、逆に言えば見ることさえできれば難易度は大幅に下がる。

 

 戦闘能力ならば宮白兵夜眷属最弱のシルシでも、見えにくいという特性を持つ相手に限っていえば逆にいなしやすいのだ。

 

 ましてや彼女はフェニックスの系譜。たとえ頭を吹き飛ばされようと、炎と共に即座に再生するフェニックス。

 

 通常の千里眼ならば、相打ち覚悟で目を破壊すればまだ倒しようはあるだろう。

 

 だが、シルシにはそれが通用しない。破壊されても短時間で再生するのだから。

 

 それもあって、シュトラ・Dは南宮那月を相手にした時並に追い込まれていたのだ。

 

 ……それが、彼の本気を引き出してしまった。

 

「ハッハァー! どうした貧乳女! 防戦一方じゃねえか!!」

 

「流石に、調子に、乗りすぎたわね!!」

 

 六本の腕から放たれる念動力の刃とその余波の暴風が、シルシを追い込んでいく。

 

 最初は、間違いなくシルシが有利だったのだ。

 

 両腕から放たれる不可視の攻撃も、シルシは見切ることができるのだから回避しやすい。

 

 これが兵夜や雪侶なら、見えない攻撃に戸惑って戦闘は苦労していただろう。……グランソードは耐久力でごり押しできるので無理やし押し切って強引に倒せるが。

 

 だが、今のシュトラ・Dは厄介だ。

 

 背中から異能でできた腕を二対も生やした今のシュトラ・Dは、攻撃の数も範囲も単純に三倍になっている。

 

 攻撃そのものは見えているが、しかし反応速度も武器も追いつかない。

 

 今のシルシはその猛攻に、全身から再生の炎を巻き上げさせていた。

 

「ようやくてめえをぶち殺せるぜ! 俺は俺より背の高い女が大嫌いなんだよ!!」

 

「あなたが小柄なのは私の責任じゃないわよ!!」

 

 反撃で炎を放つが、シュトラ・Dは強引に弾き飛ばす。

 

 そして、ものすごい形相でプルプルと震えていた。

 

「てめえ! 俺が心底気にしていることを良くも言いやがったな!! 絶対に許さねえぞこの人間タワーが!!」

 

「……いや、私は確かに背が高くて細いけど、そんな規格外じゃないわよ」

 

「うるせえ!!」

 

 シルシの指摘も無視し、シュトラ・Dはさらに攻撃の密度を上げる。

 

 直撃が当たらなかろうと、数で強引にダメージを蓄積させればいい。

 

 そんな強引な理屈に基づいた連続攻撃は、しかしシルシにとっては面倒だった。

 

 一撃で殺されるほどの神クラスの火力はないが、しかしこれ以上何度も続けて喰らえば精神の方が疲弊する。

 

 間違いなく、この状況下では苦戦必須だった。

 

「そろそろ終わりにさせてもらおうかぁ! くたばりやがれ貧乳女!!」

 

「人が、気にしてることを―」

 

 シルシは何とか反撃しようとするが、間に合わない。

 

 そのままの勢いで攻撃が放たれようとして―

 

召喚(エゥオコー・ウォース)! シルシ・ポイニクス!!」

 

 そして、次の瞬間掻き消えた。

 

「なんだぁ!?」

 

 確実に当たると思った攻撃が避けられ、シュトラ・Dは唖然となる。

 

 そして、次の瞬間。

 

「……できればこれで死んでくれ」

 

 ……絨毯爆撃で、辺り一帯ごとシュトラ・Dは叩きのめされた。

 



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聖剣新生 そして聖槍の影三度

 まったく。人の女をボコるとはなんて奴だ。

 

 どうやら死なずに監獄結界に送り込まれたようだが、その程度で済んでよかったと思え。

 

「……悪い、砲撃のセットに時間がかかった」

 

「かまわないわよ。無意識に手に力が入るぐらい心配してくれたみたいだしね」

 

 と、シルシはからかうような笑顔を見せてくる。

 

 あれ、そう? それはまた恥ずかしいな。

 

 とはいえ、これで大体の連中は片付いたか。

 

「グランソード、そっちはどうだ?」

 

『カッカッカ! こっちも大体片付いたぜ。エドワードンの量産型も撃破したし、これであらかた終わっただろ』

 

 だといいがな。

 

 とはいえ調べた限りでは戻った監獄結界の囚人は15人。

 

 ぱっと見20はなかったし、そろそろ山場は終わったと判断していいだろう。

 

 とりあえず、そろそろ仙都木阿夜に注力してもいいころだろうな。

 

「そういえば、暁くんたちは大丈夫なの?」

 

「ああ、藍羽は迎えが来たからそっちに行った。暁は今頃姫柊たちと合流しているはずだ」

 

 とはいえ、肝心の仙都木阿夜が起こしている魔力無効化現象が厄介だ。

 

 あれが俺たちにも影響するのだとすれば、俺たちですら対応できないということになる。

 

 さて、どうやって対応したらいいものか―

 

 と、そんなことを考えているうちにスマホがなった。

 

 雪侶からだな。いったいどうした?

 

「どうした? お前にはキーストーンゲートに待機するように言ってたはずだが」

 

『それが、藍羽さんから緊急連絡ですの!!』

 

 なんだ? いったいこんどは何が起こったというんだ。

 

『今、監獄結界のある所に向かって、百キロ先から謎の未確認飛行物体が接近中ですの! それも、おそらく戦艦クラスはありますのよ!!』

 

 どうやら、俺たちの相手は決まったようだ。

 

「シルシ、悪いがもう少しひと頑張りしてもらうことになりそうだ。……グランソードも、悪いが舎弟と一緒に頑張ってくれ」

 

 俺は心底ため息をつきたくなった。

 

 おそらくフォンフ関係だろう。あいつ次元航行艦艇の技術も持ってたし、それに禍の団は魔法世界関係でその手の技術を流用していたはずだ。

 

 そこまでしてまで監獄結界を破壊したいか、あの野郎。

 

 ……いや、それにしては少し様子がおかしい。

 

 それならもっと近くに転移すれば俺たちが対応できないはずだ。あいつならそれぐらいできるはずだ。

 

『大将。たぶんあいつら、俺たちを使って何かの実験かテストをする気なんじゃねえか?』

 

 グランソード。お前やっぱり同僚だっただけあって思考読めるな。

 

 そういえば、あいつ襲撃のついでにテストの一つや二つは良くしてるな。新兵器良く投入していたし。

 

 と、いうことはこっから先が本番か。

 

 とはいえ、監獄結界を破壊されたら元も子もないし、これはやるしかないか。

 

 ええい、マジで面倒くさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで何とか間に合った!

 

 現在、絃神島から距離40kmの海上。

 

 その上空で、俺はその航空戦艦と対峙する。

 

『それで、兵夜さん? どうするのかしら?』

 

「決まってる。奴を撃破する!!」

 

 万が一にでも堅気の方々に迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 第一、いまは大規模な祭りの真っ最中で人口が一時的に上昇している。そんなときにこんなものが暴れれば、損被害はシャレにならない。

 

 その元凶がうちの世界の関係者だなんてバレたら、将来的な交流すら不可能になる。

 

 あらゆる意味で、こいつを止めなくてはいけない。

 

「行くぜシルシ! この場でこいつを撃沈する!!」

 

『ええ。暁くんたちにこれ以上負担をかけるわけにも行けないしね!!』

 

 いうが早いか、俺は即座に魔力魔法魔術光力のフルバーストを一斉射撃。

 

 戦艦は素早く対空砲火を放って迎撃し、さらに頑丈な装甲でそれを防いだ。

 

 なるほど、どうやら装甲強度は明らかに最上級にケンカ売れるレベルだ。

 

 これは、さすがに強敵か!!

 

 だがこれだけの兵器ならコストも莫大。少なくともアメリカ合衆国でも一年間に何隻も作れるような代物ではないはずだ。

 

 そんなものをこんなところで使い捨てにする必要が、いったいどこにあるってんだ?

 

『兵夜さん! 右から不可視攻撃! ミサイルよ!』

 

「チッ! 考えさせる時間は与えないってか!!」

 

 素早くイーヴィルバレトで迎撃して破壊するが、しかしこれはさすがに厄介だ。

 

 やはり現代の兵器の主力はミサイルか! しかも人間サイズの物体を正確に攻撃するような、超ハイテク武装!!

 

 ましてや、反物質でも仕込んでいるのか破壊力もシャレにならん。上級悪魔でもノーガードで喰らえば致命傷になりかねないな。

 

 そして、さらに戦艦は砲塔を稼働させると砲撃を放つ。

 

 拡散ビームが俺を狙うが、しかし一瞬先を見れるのなら安全地帯は発見しやすい。

 

 だが、ミサイルと機銃による対空網は容易には接近を許さない。

 

 そして、フォンフがどこにいるかもわからない以上、代行の赤龍帝も使えない。

 

 ……仕方がない。まだ調整がすんでないが、こうなったら切り札を切ろう。

 

「シルシ! 奥の手行くぞ!!」

 

『了解!!』

 

 いうが早いか、俺はすぐに一振りのショートソードを引き抜く。

 

 ……神々には、様々な属性がある。

 

 日本の神はことさら特異性においてシャレにならない。バリエーションの豊富さにおいてはギリシャすら上回るだろう。

 

 その中には、鍛冶の神の存在もある。むしろ、その手の類は神話の中でも比較的多い部類だろう。

 

 そう、鍛冶とは刀剣も含まれる。

 

 一年間だ。一年間の間、コツコツと一生懸命練習しては試してを繰り返した。

 

 神代の魔術すら使えるといっても、使い手が俺ではそれだけじゃ足りない。

 

 だから、一生懸命頑張って、それ以外の何かで補強した。

 

 ようやくだ。ようやく、ようやく俺はこいつを取り戻した。

 

 ああ、相棒。お前の作ってくれた俺の切り札は、今でも俺の切り札だ!!。

 

「抜刀! 偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)!! 発動!!」

 

 俺は新たなる偽聖剣を纏うと、一気に接近する。

 

 一斉に分身を生み出すことで攻撃の狙いを分散させ、その隙に全く違う場所に天閃で移動して接近する。

 

 狙いはエンジン部分。そこをついて一気に決める。

 

 戦艦も全速力で接近している以上、これ以上進ませるわけにはいかない。

 

「砕け散れ! 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)!!」

 

 俺は、エンジン部分を必殺の一撃でぶち壊す。

 

 さすがにエンジン部分は特に頑丈に設計しているようだが、しかしこれは主神クラスの一撃だ。

 

 想定どうり、一気にぶち抜かれて戦艦は航行を停止する。

 

 よし! あとはじっくり時間を変えて料理して―

 

 その瞬間、戦艦が霧に包まれる。

 

 俺はその色が黒であることを確認して、一気に距離を取った。

 

 馬鹿な、これは絶霧!?

 

『たぶん、量産型を転移に特化して組み込んでたのよ。……転移先はこの地球のアメリカ大陸ね』

 

 チッ! テストなだけあって回収する準備も万端か!!

 

 仕方がない。とりあえず、これで攻撃を防げただけでもよしとするか。

 

 転移した戦艦に関しては、獅子王機関に協力を仰ぐとしよう。今の俺たちでは、あまり広範囲の活動は不可能だからな。

 

『それと、いいお知らせがあるわ』

 

 ん? なんだシルシ。

 

『暁くんと姫柊ちゃん。勝ったみたいよ』

 

 ……そうか。それは良いお知らせだ。

 

 見れば、すでに朝日がさしている。

 

 ああ、これで、とりあえずは解決か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これでよかったのかい?」

 

「かまわないよ。宮白兵夜が偽聖剣を復活させたことも分かった」

 

 沖合に浮かぶオシアナス・グレイブ2の主賓室で、フォンフ・ランサーはヴァトラーの質問にそう答える。

 

 あの戦艦は確かに高性能だが、しかし最上級悪魔クラスを相手にすれば勝ち目がないのは明白だった。

 

 大艦巨砲主義は航空機の発達で時代遅れになった。大型兵器は機動力の高い小型兵器に手玉に取られるのが世の習いである。

 

 そもそもあれは、ほかの次元世界に売りつけるための設計品だ。最上級悪魔に届く兵夜に奥の手を切らせるほどの難易度なら、十分すぎるだろう。

 

 そして、こちらは手札をほとんど切ることなく偽聖剣の復活を知ることができた。これは僥倖だ。

 

 偽聖剣は、禍の団との戦いにおける宮白兵夜の主兵装。下級悪魔が英霊と真正面から戦えるようにすることを設計思想として開発された、間違いなく規格外の装備である。

 

 それの復活を知れただけでも値千金。むしろ善戦できただけましというものだ。

 

「喜ぶといい、ヴァトラー。あいつはなんだかんだで人がいいから、お前が趣味で暁古城を殺そうとすれば、全力で牙を向くぞ」

 

「それはいいネ。ああいうタイプは僕としても嫌いじゃない」

 

 ヴァトラーは、ただ強いだけの者と戦いのではない。

 

 勝つために文字通りすべてを使って挑む相手こそ、彼の望む相手だ。

 

 そういう意味ではブルートは残念だった。

 

 彼は、強大な力に溺れて知恵を失った。龍を殺した英雄たちが、ただの人間によって殺される負の運命をなぞったのだ。

 

 十分楽しめた相手だったが、しかし彼が知恵を絞ればもっと楽しめたはずだとも思う。

 

「弱っちぃ人間でも、知恵を絞ることで下位の吸血鬼ぐらいなら倒せるようになった。D×Dは僕を楽しませてくれるのかな?」

 

「安心しろ。弱っちいただの人間であることを認め、そのために知恵を振り絞って化け物を殺す手段を求めた男が一人いる。奴や宮白兵夜は、きっとお前の好みに値するだろう」

 

 あの聖槍の担い手を思い出して、フォンフ・ランサーは口元に喜悦の表情を浮かべる。

 

 そう、聖槍の担い手たちはヴァトラーの好みだろう。

 

 人間という弱い存在の中から、化け物を殺しうる英雄を目指した曹操。

 

 弱っちい人間のそのまた弱い存在であることを理解し、それゆえに強大な禁手を得た近平須澄。

 

 果たして、彼らはヴァトラーのお眼鏡にかなう戦士へと成れただろうか。そして―

 

「ああ、一人ぐらいは私も相手をしたいものだ。……私こそが、最強の聖遺物使いだと証明したいという気持ちはあるからね」

 

 そういいながら、フォンフ・ランサーは一振りの槍を呼び出す。

 

 そう。それこそが彼をランサーたらしめる宝具。

 

 そして、神が人に与えた神殺しの究極。

 

 それを見て、ヴァトラーは興味深そうにその槍を眺める。

 

「それが、最強の神滅具(ロンギヌス)かい?」

 

「ああ、これが神滅具、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)さ」

 

 正真正銘本物の聖槍を掲げ、フォンフ・ランサーは自慢げに笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫柊雪菜が生きてますように姫柊雪菜が生きてますように生きてますように!!」

 

「フォンフ。お前が神頼みをするならインドで祈れ」

 

 そのころ、暴走するから待機とフォンフ会議満場一致で言われていたフォンフ・アーチャーは、アメリカ大陸で戦艦を回収しながら神頼みしていた。

 

 天騎はとりあえずツッコミを入れるしかできなかった。

 




フォンフ・ランサーの真名が想定するのが困難な理由がお分かりいただけたでしょうか?

以前の九尾さんの「ケイオスワールドクロス原作のキャラを英霊で出したら」というアイディアを発展させて、「ケイオスワールドの歴史上の人物を英霊として出したら」というアイディアをひらめきました。

これなら出したいけど出しずらい「神滅具のオリ禁手」を乱発できるというメリットもあります。

フォンフ・ランサーをランサーたらしめるのはこの黄昏の聖槍です。……こいつ本当に何度も何度もテロリスト側で出てきやがるな、書いててなんだがちょっとゴメンねっ








あと、監獄結界偏が終わったらDSAA編に移る予定でしたが、その前に一試合アザゼル杯を挟ませてもらいます。

激突するのは乳乳帝チームVS雷光チーム。

大まかには原作通りの展開を兵夜視点で観戦しますが、最後に小雪が介入します。

超能力者VS兵藤一誠眷属。果たしてその戦いの行方は……!


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雷光VS乳乳帝! 第一ラウンド!!

そういうわけで、DSAA関係の前に一線始まります。


イッセーたちに相対するのは、雷光チーム! そしてその中には小雪の姿も……。

果たして、イッセー達は小雪をどうかいくぐるのか!



「……そんなことがあってなぁ。しかも、後始末で結局酒すら飲めなかった」

 

 俺は、そうまとめるとため息をついた。

 

 シルシも雪侶も暁も姫柊ちゃんも一斉に落ち込んでる。

 

 ああ、本当にトラブルに巻き込まれすぎだろう。

 

「災難、それ本当に災難だね」

 

 須澄がひきつった表情を浮かべるほど大変だった。

 

 ああ、祭りの日にトラブルに巻き込まれ続けるとか大変だろう。マジで迷惑だ。

 

「うっわぁっ! 何がどうしたらそんなことになるのかって展開だねっ!」

 

「まったくだな。……いや、ホント頑張れ」

 

「なんか……ごめん」

 

 上から順にトマリ、ノーヴェ、アップの感想だ。

 

 とはいえ、だからといってアザゼル杯が待ってくれるわけでもないわけで、俺達もこの後試合である。

 

 とはいえ、それは午後になってから。これからはイッセーの試合が始まるわけだ。

 

 敵は雷光(ライトニング)チーム。堕天使バラキエルが所属し、小雪がメンバーを務めているチームだ。

 

 うん、どっちを応援したらいいか結構迷った。

 

「それで兄上? どんな塩梅で応援してますの?」

 

「イッセー6、小雪4」

 

 俺は一週間ぐらい悩んで決めた応援比率を告げる。

 

 もしこの比率を破る時が来るとしたら、それは俺が俺で無くなる時だろう。その頃には小雪にも愛想をつかされているはずだ。

 

「まあ妥当な塩梅でしょう。小雪義姉様も結局は同類ですので、イッセーにいより応援されてたらと知ったら複雑な感情になるでしょうし」

 

「難儀な性格してるんだな」

 

 雪侶の俺達のこと分かり過ぎている評価に、ノーヴェがなんか呆れたような眼を俺に向けてくる。

 

 まあいい。狂人であることに疑いはないし、いい加減少しは自覚も足りてきている。

 

 それはもう、人生の味として楽しむしかないな。

 

「にしてもよぉ。本当にどんだけ火力があるんだよ暁は」

 

 そう言いながらノーヴェが見るのは、トレーニング施設の跡。

 

 破壊力を正確に測るため、レーティングゲームのシステムを利用してちょっとした都市の一角を再現してみた特別製だ。

 

 ……はい、見事に廃墟になっております。

 

「これが制御できないってんだから、確かに大変だよな。海上の人工都市出身だと、練習する場所にすら事欠くし」

 

「ああ。だからノーヴェの教えてくれたストライクアーツは助かった。本当に役に立ったぜ」

 

 監獄結界の囚人相手に効果を発揮したわけで、確かに成果はしっかりとあった。

 

 それに、今回のテストで少しは獅子の黄金《レグルス・アウルム》の制御も楽になった筈だ。

 

 まあ、ある程度制御できるようになったところでこの破壊力を町中で使えるわけがないんだが。

 

「LCOの連中には恨まれてるだろうし、自力であいつらから逃れる技量は必要だな。……と、いうことでノーヴェコーチ、暁任せる」

 

「ああ、ま、とりあえず形にしておいてやるよ」

 

「頼む。ジリオラを殴り飛ばして、本気でやる気になった」

 

 と、いうわけで我流が多い俺も含めて、ノーヴェコーチによる格闘戦講座をやっている中、他のメンバーも思い思いにトレーニングをやっている。

 

「一万回やったら……アップちゃんがメイドコス……! 二万回やったら……須澄くんが執事コス……っ!!」

 

「はいはい頑張って腕立て一万回やりなさい。あなた暁がいると役に立たないんだから頑張りなさい」

 

 魔法構成のプログラムの再構成を試みるアップを上に載せて、トマリは大絶賛腕立て伏せだ。

 

 一度死んで郷愁に取り込まれたことで、トマリは英霊の力を失っている。

 

 まあ、それでも氏族クラスの吸血鬼なわけで戦闘能力は破格なんだが、しかし暁の眷獣の方が強力なので、できればそちらを使う方向で持っていきたい。

 

 となるとトマリには別の形で役に立ってもらう必要があるわけで、其のため筋トレから始めているわけだ。

 

 そんでもって須澄と姫柊ちゃんは槍の鍛練。

 

 聖槍頼りで我流という割とあれなところがある須澄だが、俺の弟なだけあってやる気になったときの集中力は手放しでほめれる。

 

 そして、姫柊ちゃんは英才教育を受けた戦士。ある程度は物を教えることもできるだろう。

 

 とりあえず、トレーニングに関してはこれでいいだろうな。

 

「トレーニングしながら聞いてくれ。今から二時間後ぐらいに、雷光(ライトニング)チームと赤龍の乳乳帝チームのレーティングゲームが開かれる」

 

 俺はノーヴェに位置からフォームの調整をされながら、そう告げる。

 

 そう、アザゼル杯の中でも、割と注目の組み合わせ。

 

 堕天使代表ともいえるチームが、悪魔の英雄が率いるチームと戦う。それもこの調子でいけば義理の親子になるチームがだ。

 

 割と注目の試合だが、俺としてはイッセーの試合は全部見るぐらいの勢いなのでVIP席を取ってある。

 

 相当注目の試合だったので確保は難しかったが、姫様と合同で取ることで、何とかなった形だ。

 

「ついでに姫様に皆のことも紹介したいから、晩飯は観戦しながら食べるってことでどうだ?」

 

「私はいいぜ。他の人達の試合も見ないと、対策とか立て辛いしな」

 

 そうか、断られたらどうしようかと思ったから嬉しいぜノーヴェ。……あとすいません、首筋が見えてちょっと集中力が落ちてます俺。

 

「俺も別に構わないぞ。姫柊は?」

 

「もちろんついて行きます。私は先輩の監視役ですから」

 

 よし、暁と姫柊ちゃんもOKが出た。

 

 さて、須澄達はどうなるかな?

 

「あ、ゴメン。僕ちょっとパス」

 

 おや、意外な返事。

 

「ごめんねっ! 実は、三大勢力の方から、ちょうどその時間帯に呼び出されてるの」

 

「なんか、フォード連盟のレジスタンスから、数百人ぐらい呼ばれてるのよ」

 

 トマリとアップも当然不参加か。

 

 しかし、いったいなんだ?

 

 サーゼクスさまがイッセーの試合を観戦するより優先するとは、何を考えてる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことが気になるが、さてどう思います姫様?」

 

「そうねぇ。お兄様は職務自体はちゃんと取り組んでるから、観戦しながら話をしてるんじゃないかしら? ねえ朱乃」

 

「ごめんなさい、リアス。私は試合の展開が気になってとてもとても。……祐斗くんはどう思います?」

 

「今のところ、三大勢力はフォード連盟に加盟する方針ですし、それゆえに関係者を集めているのでは? あ、暁くんはなにか聞いてるかな?」

 

「いや、俺は何も。あ、そこの醤油取ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいな、世間話しながら料理の準備を整えてる」

 

「先輩、料理できたんですね」

 

 ノーヴェと姫柊ちゃんが感心する中、俺はその途中で作っておいた付きだしを渡しておく。

 

「姫様も朱乃さんも料理はプロ級だからな。お嬢様だからって何もできないのがいやだってさ」

 

 しかし俺から見てもすごい腕だ。あと暁も割と本気で上手だな。

 

「でも、実際どういう理由で人を集めているのかしら? 会議にしては、今の政府からは距離を取っている須澄くんまで入れるのはどうかとも思うし」

 

 シルシはその辺りが疑問のようだ。

 

 確かに、アップがエイエヌの直属だったこともあり、須澄達は今のフォード連盟の政治にはあまり関心を向けてない。

 

 そんなことより、今までばらばらだった時間を取り戻す。そんな日常を謳歌することを重視している気がする。

 

 つまり、アザゼル杯に参加して大暴れすることも日常の一つ。いや、俺と一緒に過ごすことが日常の一つと認識されてるわけか。ちょっと照れるな。

 

「……四大魔王様は、職務自体はきちんとこなされますけど、それ以外はフリーダムです。……フォード連盟の気持ちを盛り上げるために、ヒーロー番組を企画したいとかそんなことじゃないでしょうか」

 

 小猫ちゃん。それ当たりかも。

 

 確かに、今のフォード連盟にはそういった人の心を明るくする話題が足りない。

 

 なるほど、それらの大切さをよく知っているサーゼクス様達はそれを企画しているのか。

 

 ってことはつまり―

 

「主役は須澄か。あの人達ならそうなるな」

 

「おっぱいドラゴンみたいな形になるんでしょうか?」

 

 ギャスパーが久々に段ボール箱に籠りながらそう考える。

 

 うん、多分そうなるな。

 

 冷静に考えれば、因縁のある悪の親玉を打ち倒して、愛する者を取り戻した……なんていうヒーローその物みたいな活躍をしているのが須澄だ。

 

 何ていうか、王道物になりそうな感じがしてきたぞ?

 

「あの、それでこの試合、どちらが勝つか予想できますか?」

 

 と、試合の様子を見ながら、姫柊ちゃんが訪ねる。

 

 今回の試合は「オブジェクト・ブレイク」

 ゲームフィールドに用意されたオブジェクトを、制限時間内に多く破壊した方がいいというルールだ。

 

 オブジェクト配置はランダムで、しかも動かせるかどうかが試合ごとに変更される。ついでに言うと形状やサイズもまちまちだ。

 

「持ち運びができるっていうが、それってなんか意味あるのか? その間に相手に破壊されたらいやなだけだと思うんだが」

 

「そうでもないわよ。壊さず集めて、相手が最初に壊したすきにまとめて壊すことで相手を精神的に削るという戦法もとれるし、オブジェクトを破壊したエリアに敵の王は侵入できないから、これを利用して戦略的に戦闘をおこなうことも可能だもの」

 

 古城の質問にシルシが答えるが、まさにそれだ。

 

 どのタイミングでオブジェクトを壊すかも戦術的駆け引きの一つ。たったそれだけで精神的に相手を苦しめることができるのだから。

 

 場合によっては無視して王を倒して勝利ってのもいけるが、それを速攻でやれば勝っても人気は地に落ちる。

 

「単純な戦闘能力でいえば、最強は間違いなくイッセーくんですね。今の彼に総合的な性能で勝てる者は、おそらく堕天使陣営にはいないはずです」

 

 木場が参加しているメンバーを確認しながら告げる。

 

 ああ、乳乳帝にはなれないとはいえ、イッセーの戦闘能力は間違いなく凶悪の部類だ。

 

 既にあいつは性能だけなら冥界でもトップ争いをするレベルだろう。堕天使バラキエルといえど正面勝負では勝ち目が薄いはずだ。

 

「とはいえ次点は堕天使バラキエルで、三番目は堕天使アルマロスといったところ。二対一なら充分勝算はあるな」

 

 そう、今回戦闘能力が大体把握できるメンバーで次点を取るのはその二人だろう。

 

 なにせ聖書にしるされし堕天使の幹部だ。その戦闘能力は折り紙付き。むしろ一番強くないってのが問題なんだ。

 

「……小雪義姉様は兵士の駒で参戦しておりますのね。割と自由に動ける駒ですわね」

 

 雪侶が、俺が一番気になることを行ってくれる。

 

 そう、小雪は今回兵士の担当だ。

 

 駒価値は4。本来のレーティングゲームより駒価値の上限が上がっていることを考えれば、このレベルはかなり高いというべきだろう。

 

 小雪自身技量も高いし、立ち位置的には準エースといった具合だな。

 

「なあ、その青野さんって人、どれぐらい強いんだ?」

 

「かなり強いよ。堕天使そのものとしての性能は低い方だけど、大気操作系の特殊能力を持っているし、ある事情で十年近く暗殺者をやっていたから、不意打ちに持ち込めればかなり危険なはずだよ」

 

「確かにそうだな。動きが私たち戦闘用の動きじゃない。相手を叩きのめすことより、一瞬の隙をついて倒すタイプだ」

 

 暁や木場やノーヴェが議論を交わす中、俺は俺でチームメンバーの顔写真を見て首をかしげる。

 

「姫様、このビナー・レスザンって人に心当たりは?」

 

「……ないわ」

 

 そう、この戦いのダークホースとなりうる彼女の情報は全くなかった。

 

 戦闘能力はスペックだけ見ても乳乳帝チームでも最強格。三宝を使ってない状態なら、イッセーすら倒せるだろう。そして技量に関しては、立ち振る舞いから見る限りではチーム一番だろう。

 

 しかも、まだ底を見せてないどころか本気すら見せてない。

 

 確かにイッセーのこれまでの試合は中堅どころ以下で、ちゃんとルールを理解していれば今のイッセー達なら負けはない戦いだった。

 

 だが、膨大なレーティングゲームのルールをすべて把握するのは困難だ。実際イッセーは何度かミスをしてる。

 

 しかし、ビナー・レスザンだけは何のミスもなくゲームを進めていた。

 

 これは俺の推測だが、赤龍の乳乳帝チームの総当たり戦をした場合、一番勝率が高いのはイッセーではなく彼女ではないだろうか?

 

 そういう、なんていうか俺達若手では出せないような強さが彼女にはあった。

 

「あれほどの実力者が今まで無名ってのが驚きだな。……本当に情報はないんですね、姫様?」

 

「ええ。おそらく偽名でしょう」

 

 ふむ、この試合、もしかしたらキーマンとなるのはビナー・レスザンかもしれん。

 

 っていうか彼女、いったい何が目的なんだ?

 

 いや、乳語翻訳を持つイッセーを騙すだなんて、できるわけがないと思うが……。

 

「あ、試合が動き出しましたの!!」

 

 お、そろそろ本領発揮するか!!

 




一応ビナーさんはこの作品でも参戦。

その辺全く考えてなかったので、少しひねった理由にしております。


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雷光VS乳乳帝! 第二ラウンド!!

それでは本格的に戦闘開始です!


 その試合は、とても白熱していた。

 

 どこもかしこも戦いが頻発する中、有利に動いているのは雷光チーム。

 

 ことイッセーはその前にバラキエルの怒りを買っていたため、ものの見事に誘い出された。

 

「なんて奴だバラキエル! 朱乃さんがイッセーを応援すると聞いてぶち切れていたのは、まさかこのためのブラフ!」

 

「いや、たぶんそれはそれでマジギレだったんじゃないかしら」

 

「いや、試合のためにあえて飲み込んだのかもな。そのバラキエルさんって長生きなんだろ? だったら少しぐらい我慢強くたっておかしくない」

 

「いや、結構だだ漏れしてなかったか、本音?」

 

 ノーヴェと暁も割と真剣に試合を観戦している。

 

 とはいえ、現在破壊されたオブジェクトの数では雷光チームが上で、しかもここでイッセーを抑えられたのがいたい。

 

「でもこれは決定打にはなりませんね。レーティングゲームにはキャスリングがあるから、それでロスヴァイセさんと入れ替わればすぐに脱出できます」

 

 木場はそう冷静に言うが、しかしそう簡単にはいかないだろう。

 

「いや、おそらくイッセーを隔離したエリアの近くにはアルマロスか対魔法特化のメンバーがいるはずだ」

 

 俺ならたぶんそうする。

 

 堕天使アルマロスはアンチマジックの使い手。いや、見かけや性格は脳筋なんだが、実は論文を一回見せてもらったがかなりハイスペックだ。

 

 今回、ロスヴァイセさんはオブジェクトの解析と探索のメインどころをやっている。そんなときにそんな派手な動きを見せれば、すぐにでも撃破のために天敵を送り込むはずだ。

 

 やるならば、歩兵であるボーヴァ・タンニーンをプロモーションさせてやるべきだが―

 

『おぉーっと! 兵藤一誠選手がキャスリング!! 隔離された空間から脱出しました!』

 

 あのバカ、見事に策にはまってやがる!!

 

「やっぱりレイヴェル義姉様でも、年季の差には勝てませんのね」

 

「うぅう、レイヴェルちゃん苦戦してるよぉ」

 

 雪侶とギャスパーがそういってしまうのも無理はないだろう。

 

 なにせ、三大勢力の戦争を生き抜いてきた歴戦の実力者だ。当然作戦指揮にも一家言あるだろう。

 

 所詮はルーキーのレイヴェルでは、真正面から準備されれば苦戦することもあるはずだ。

 

「どう見ますか、宮白さん。この勝負、その……兵藤さんのチームが不利のようですが」

 

 ふむ、確かに姫柊ちゃんの言う通りだ。

 

 そもそも、乳乳帝チームは割とルール関係に苦しめられている。

 

 相手もまだまだ不慣れであることを考慮したからこその戦いだが、今回は経験こそ少ないが知識としては熟知しているだろう雷光チーム。それも、歴戦のメンバーがそろっている。

 

 普通にみればこのままだと負けなんだろうが―

 

「いや、まだ勝負はわからないぜ?」

 

 俺は、なんとなくわかっている。

 

「そうです。レイヴェルもイッセー先輩もこのままでは終わりません」

 

 小猫ちゃんも、笑顔を浮かべてそう告げた。

 

「宮白先輩。レイヴェルの思考傾向から言って……そろそろ仕掛けてきますよね」

 

「だろうな。おそらくタイミングを計っていたはずだ」

 

 俺と小猫ちゃんは大体予想ができていた。

 

「何がですか? この状態で、オブジェクトの撃破数でしのぐのは困難では?」

 

「確かにな。もとから数で苦戦してたし、なんていうか空気が完全に雷光チームに傾いてる」

 

 姫柊ちゃんとノーヴェがそういうのも無理はない。

 

 この状況下、普通の格闘戦とかの競技ならどう負けるかを考慮するレベルの状況だろう。

 

 だが―

 

「二人とも、失念していることがある」

 

 そう、この二人はある点を失念している。

 

「これはレーティングゲーム。割と何でもありの戦争練習のエンターテイメントだ」

 

 そう、レーティングゲームは競技だが、格闘競技ではない。

 

 チームで、様々な状況で、特種能力や武器まで使って行う戦いだ。

 

 そして、それはもともと異形の戦争の練習としての側面もある。

 

「そろそろ、あいつらはごっそりオブジェクトを破壊するぜ?」

 

 そして、俺の視線の先でイッセーが桃色に輝いた。

 

「我、目覚めるは乳の神秘に魅了されし赤龍帝なり!!」

 

 そして、同時にフィールドのあちこちで桃色の輝きが放たれる。

 

 アーシアちゃん、レイヴェル、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん。

 

 イッセーを愛する女性たちの胸から、強大な桃色のオーラが放たれる。

 

「無限に続く夢幻の煩悩とともに、王道を行く」

 

 そして、そのオーラはイッセーへと飛んでいくと、一斉に集まる。

 

 輝きを浴びて、鎧はより有機的に変形していく。

 

「我、赤き乳の帝王となりて―」

 

 そう、それこそが兵藤一誠の奥の手。

 

「モード乳乳帝! ここに見参!!」

 

 モード、乳乳帝!!

 

「「「……………」」」

 

 ああ、ノーヴェも暁も姫柊ちゃんも目が点になってる。

 

 うん、うんうん。

 

「姫様、あれがイッセーがおっぱい使ってきた場合の、普通の人の反応です」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

 姫様から冷たい視線が飛んでくるが、俺はスルー。

 

「いやっほぉおおおおおおう!! 最高ですのよイッセーにぃ!!」

 

 雪侶はテンションが天元突破しているが、これは特に駄目な部類だ。

 

「……ついに公衆の面前で乳乳帝に」

 

 小猫ちゃんも最近は染まってたけど、これはさすがにきついよね!!

 

 だが、そんなことはどうでもいいといわんばかりに、イッセーは全身からキャノン砲を展開する。

 

 そしてそこから集まっていく魔力は、一瞬で魔王クラスを超える。

 

 ……わずか数人分でここまで来るか!

 

「な、なんですか、あの魔力量? 先輩の眷獣でも一体では太刀打ちできませんよ!?」

 

 ああ、狼狽する気持ちはよくわかるよ、姫柊ちゃん。

 

「いろいろと反応できないのはわかる。だけど、これがイッセー君なんだ。気を確かに持ってくれ」

 

「あ、ああ。にしてもすごいな、アレ」

 

 すごくあれな展開に、木場からフォローを受けるノーヴェ。

 

 だが、その目はそこから放たれる光景に釘付けになっていた。

 

 放たれた砲撃によって、フィールドの半分近くが吹き飛んだ。

 

 そしてそこは、イッセー達のチームが捜索してなかったエリア。

 

「なるほどね。つまり、最初からフィールドの半分ごとオブジェクトを吹き飛ばすのが作戦だったのね」

 

 姫様はうなづきながら感心する。

 

 それならオブジェクトの捜索は範囲を狭められる分楽に済むし、この方法なら相手チームのメンバーもその多くをまとめて撃破できる。運よく敵の王を倒すことができれば万々歳だ。

 

 何より―

 

「これで、今までイッセーを酷評していた人たちも考えを改めることになるわね」

 

 姫様はそう嬉しそうに告げる。

 

 乳乳帝チームは、割と今回酷評されていた。

 

 しょせん、ルールのある環境では本領を発揮できない力押しのチームだと。実戦で鍛えられているから、レーティングゲームでは苦戦すると。何より策の前には生半可なパワーなど通用しないと。

 

 だが、これを見て生半可なパワーだといえるものは決していないだろう。

 

「あの出力、魔王クラスをはるかに凌駕しているわ。……神クラスでも、一発の威力ならば出せるものなど数えるほどしかないはず」

 

「いや、個人で出せる奴が何人もいるのかよ!?」

 

 姫様の言葉にノーヴェが狼狽するが、しかしまあ当然といえば当然だ。

 

 なにせ放つのは人間ではなく、神々やそれに準ずるものだからな。そりゃ地形位変える。

 

 むろん、そんなものを出せるのは多く見積もっても三桁に届かないだろうが、しかし出せる連中はいるのさ。

 

「真祖の眷獣でも単純な破壊力であれに匹敵するものはそうはないはずです。先輩の夜摩の黒剣(キファ・アーテル)位じゃないととても……っ」

 

 あまりの光景に、姫柊ちゃんも唖然としている。

 

 ああ、確かに暁の眷獣でも、あれだけの威力を出すのは困難だろう。

 

 すでに、単純な威力なら全盛期の二天龍すら超えているかもしれない。そんな化け物がそこにいた。

 

「ああ、それでこそだ」

 

 俺は、こころから歓喜に震える。

 

 俺の親友は、俺が一生懸命頑張ってる間も頑張っていた。

 

 偽聖剣を復活させたら、お前は乳乳帝を再現しやがった。

 

 ああ、やっぱりお前はお馬鹿で素晴らしい!!

 

『『『『『『おっぱいドラゴン! おっぱいドラゴン!!』』』』』

 

『ぽちっとぽちっと!』

 

『『『『『ずむずむいやーん!!』』』』』

 

 観客も大盛り上がりの激戦は、さらに白熱して戦い始める。

 

 すでにムードはクライマックス。イッセーはそのまま本丸であるバラキエルに向かい合い、激突を再開する。

 

『イッセーくん! 君は、リアス・グレモリーのことが好きなのだろう!?』

 

『はいそうです! 俺は、リアスのことを愛しています!』

 

 イッセーの返答に、部屋中の視線が姫様に集まる。

 

「ええ、私も大好きよ」

 

 もうこの人全く動じてないな。完璧に第一夫人の貫禄だ。

 

『では朱乃はどうなる? もしリアス・グレモリーと朱乃のどちらかを選ばねばならなくなった時、君はどうするのだ!!』

 

 戦闘そのものは、イッセーの方が優勢だった。

 

 乳乳帝そのものはすでに解除されているが、しかし赤龍帝の力を引き出しているイッセーは、すでに魔王クラスですら正面戦闘は避けるべきレベルだ。

 

 ましてや、雷光チームはさっきの砲撃で気勢をそがれている。それが勢いとなって、イッセー達に力となっていた。

 

 しかし、それでもバラキエルは食い下がる。

 

 それは―

 

『もしそうなるのならば、いっそ別れてしまった方が朱乃にとってもいいことだとすら思う!! あの子は私の生きる希望だ、傷つけることなどあってはならないし許さない!!』

 

 ―朱乃さんのことを、愛しているから。

 

 しかし、バラキエル。

 

 それは、イッセーを舐めてかかってるぜ!?

 

『なら、俺は朱乃さんを愛します!!』

 

 真正面から、想いとともにイッセーは拳をたたきつける。

 

『俺は朱乃さんのことも大好きです!! 愛してます!! ずっと一緒にいたいです!!』

 

 反撃を耐えしのぎながら、イッセーは全力で拳をたたきつける。

 

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。

 

『朱乃さんに危害を加える奴は俺が叩きのめすし、朱乃さんに襲い掛かる災厄は俺が防ぐ!! だいたいアンタ大切なこと忘れてるぜ!!』

 

『何をだ!』

 

 至近距離でクロスカウンターが決まる。

 

 そしてその競り合いを制したのはイッセーだった。

 

『俺はハーレム王になるって決めてんだよ!! 好きになった女全員幸せにするぐらいの気概がなくて、そんなことできるわけがねえだろうがぁあああああ!!』

 

 その渾身の叫びとともに、莫大な出力の魔力がバラキエルを包み込む。

 

 バラキエルもそれを雷光で防ぐが、しかし破壊力ならイッセーの方が大きい。

 

『これが、貴方に対する答えで、朱乃さんに対する告白だ!! 朱乃は、俺が、幸せにしまぁあああああああす!!!!』

 

 そして、出力は思いっきり増大化した。

 

『朱璃よ、朱乃は、いい男に見初められた……』

 

 そして、莫大な破壊力がバラキエルを包み込み―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい答えだ。いい覚悟だ。だがファックなまでに実績が足りねえ』

 

 超高密度のプラズマの奔流が、その一撃を相殺した。

 




乳乳帝、実は常時発動可能。

乳技の延長線上の部分があったので、少人数で発動する分なら何の問題もないわけです。

とはいえ、乳乳帝チームの乳だけで発動する場合その時間は短く出力も低め。ヴァーリの極覇龍と戦った場合、長期戦ならイッセー有利ですが、短期決戦ならヴァーリが有利です。

具体的な能力値でいうのなら、乳乳>魔王=龍神>偽龍神>偽乳乳=極覇龍 ですね。

今回の偽乳乳の一撃は、たまった燃料を全部ぶっ放している砲撃です。反面極覇龍派数発は打てるので、総裁は可能。その上の持久力で返り討ちにあいます。

反面乳乳帝を防戦に回して勝負をおこなえば、供給源が複数あることからインターバルでは極覇龍を超えます。ゆえに持久戦では偽乳乳有利です。

ちなみに、乳乳の恐ろしさは供給源が多ければ多いほど上昇することにありあります。最終決戦仕様はさすがに出せませんが、出せた場合の戦闘能力はトリプルシックスと覇鬼を同時にあいてしてまともに渡り合えた=無限及び夢幻と勝負になるレベルです。圧倒的物量により魔王及び龍神を出力持久力安全性全てにおいて圧倒しています。最終決戦の主人公能力なのでとにかく盛りました。










そして小雪、本格戦闘。

一応言っておきますと、小雪も小雪でパワーアップしておりますのでお楽しみに!


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雷光VS乳乳帝! 第三ラウンド! 風神乱舞

イッセーSide

 

 何だって!?

 

 乳乳帝状態じゃないとはいえ、それでも全力の砲撃を叩き込んだはずだ。

 

 これを相殺できる余力は、バラキエルさんにはなかったはず。

 

 なのに、どうして―

 

 いや違う!!

 

 あの特徴的な口癖を忘れるわけがない。俺は彼女をよく知っている。

 

 そして、魔力の余波が流れ去っていく中、彼女は姿を現した。

 

「……待たせたな、イッセー」

 

 ボディスーツに身を包んだ青野さんが、バラキエルさんを庇ってそこに立っていた。

 

『お、お、おおおお!!! 兵藤一誠選手の一撃で決着がついたかと思われたその時、青野小雪選手が間一髪バラキエル選手を救い出したぁあああああ!!!』

 

 実況が状況を伝える中、青野さんはバラキエルさんに一つの物体を渡す。

 

 あ、あれは残っていたオブジェクト!! あの人探し出してたのか!!

 

 ま、まずい! あれを破壊されたら、問答無用で俺達の負けが―

 

「バラキエル。あとは、任せてくれ」

 

「……ああ、そうだったな」

 

 あれ? バラキエルさんも青野さんも、オブジェクトを破壊しようとしてないぞ?

 

 なんでだ? あれを破壊すればその時点で俺達を負かす事ができるはずなのに。

 

 この状況で勝ちたいのなら、他にやることは何もない。これは最後のチャンスのはずだ。

 

 それなのにしないということは、つまり答えはただ一つ。

 

 ……この試合を、青野さんは捨てている。

 

 そして、その理由も何となく想像がついた。

 

 青野さんは、朱乃さんのことが大好きだ。

 

 宮白にとっての俺ほどじゃないけど、それでもすごいレベルで青野さんは朱乃さんのことが大好きだ。

 

 宮白風に言うのなら心の柱。それが、青野さんにとっては朱乃さんやバラキエルさんなんだ。

 

 つまり、青野さんがしたいのは―

 

「―兵藤一誠眷属。あたしと勝負しろ」

 

 青野さんは、まっすぐに俺達を見つめてそう告げる。

 

 ああ、つまりそういうことだ。

 

 この人も、朱乃さんのことが心配で堪らないんだ。

 

「どういうこと青野さん! イッセーくんはこれ以上にないぐらいしっかりと答えを返したわよ!?」

 

 イリナがそう言ってオートクレールを突き付けるが、青野さんは静かに首を振る。

 

「足りねえな。覚悟があればいいってもんじゃねーよ。必要な能力もない覚悟何て、薄っぺらいもんに興味はねーな」

 

 青野さんはそういうと、静かに俺をまっすぐ見る。

 

「……イッセー。時空管理局やフォード連盟、そしてS×Bとの交流は、何のためのものか分かってるな」

 

 ……ああ、分かってる。

 

 エヴィー・エトルデ。乳神のいる異世界。

 

 善神と悪神の二つの勢力が争い合っている世界に、リゼヴィムは挑発行為を何度も繰り返したうえ、こっちの世界の行き方を教えたという。

 

 そして、彼らが来るまでの時間は三十年。

 

 もしかしたら、彼らと戦争になる可能性もある。

 

 その悪神の戦闘能力は、もしかしたらグレートレッドにも匹敵するかもしれない。少なくとも考えておいた方がいい相手だ。

 

 青野さんはこう言ってるんだ。

 

 ……お前に、そいつらから朱乃を守り通すことができるのか、と。

 

「守ります! ……だなんて言っても納得しないですよね」

 

「たりめーだ。説得力ってのは、実績があって初めて生まれるファックなもんだ」

 

 そういうと、青野さんは俺に向かって一歩一歩接近する。

 

「……少なくとも、あたし一人倒せねーなら意味はない。試させてもらうぜ、兵藤一誠眷属!!」

 

 その言葉と共に、青野さんは加速する。

 

 確か、指定したポイントから大気を噴出する能力!

 

 だが、青野さんの能力は知っている。

 

 通常時はあれしか使えないし、禁手を使ったとしても能力は一種類ずつしか使えない!!

 

 なら、真正面からカウンターで―

 

「甘いぜイッセー!!」

 

 その途端、俺の全身を竜巻が包み込んだ。

 

 うぉおおおおお!? 動きずらい!?

 

 そして、その隙に青野さんは俺の腕に組み付くと、一瞬で俺の関節を外した。

 

 な、なんて早業!! そして痛い!!

 

 クソッ! 関節の戻し方なんて流石にまだやってねえぞ!! しかも外されてるからアーシアの癒しの力でも治せるかどうか分からないし、何より一対一だから手が出せない!!

 

「……ファック」

 

 青野さんはなぜか不機嫌そうにそういうと、さらに攻撃を開始する。

 

 大気を圧縮した槍が一斉に放たれる中、さらにいくつも竜巻が現れて俺の動きを封じてくる。

 

 最初から竜巻が来るとわかっていれば強引に動いて対応できるけど、それでも躱しずらくて攻撃が何発か当たる。

 

 こっちもドラゴンショットで反撃するけど、直撃コースのはずなのに攻撃があたらない!!

 

 な、なんでだ!? っていうかそもそも、なんで青野さんは複数の能力を使いこなせるんだ!?

 

「何を寝ぼけたこと考えてる? お前の三宝も乳乳帝も、本来のレーティングゲームならアウトのルールだ」

 

 う! 確かに、三宝や乳乳帝は正式なレーティングゲームだと制限されそうなものだけど……。

 

 ってまてよ? ってことはつまり青野さんも!?

 

「それに比べりゃ―な、禁手を変化させるなんて何の問題もねーとは思わねーか!!」

 

 首の付け根を狙って抜き手が襲い掛かる。

 

 あぶねえ!! これ、殺すつもりでやってないか!?

 

「これがあたしの新たな禁手(バランス・ブレイカー)只人と風神の契約(レベルアネモイ・エアロマスター)だ!!」

 

 連続攻撃を捌きながら、俺はどういうことかを考える。

 

 普通に禁手になった時は、能力を契約で変化させる形で使用してた。

 

 禁手ってことは出力そのものは変わってないはず。それなのに同時に複数の能力を展開するってことは―

 

「堕天使の体の方に干渉してるのか!!」

 

「ああ。今のあたしはただの人間だ」

 

 確かに、飛行する時も能力を使ったジェット推進で飛行してる辺り徹底している。

 

 今の青野さんは正真正銘人間だ。堕天使の特性を何一つ使えない。

 

 だけど、今までよりも強敵だ!!

 

「覚悟しな、赤龍帝! 今のあたしは一軍匹敵(レベル5)だ」

 

 うぉおおおお! 力比べでも渡り合ってる!!

 

 あ、俺の目の前にプラズマが。

 

「一人で勝てるとかなめたこと言ってんじゃねーぞ!!」

 

 うぉおおおおお!!! 大ピンチだぁあああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out 

 

 これは、思った以上にすごい展開になってきたな。

 

『青野小雪選手! おっぱいドラゴン相手に大激戦!! 様々な風の能力を駆使して、徹底的に追い込んでいますぅうううう!!!!』

 

 実況が大興奮する中、小雪とイッセーの激戦は白熱している。

 

 特に最初の戦闘で関節を外されたのが痛い。

 

 接近戦を挑む限り、イッセーは片腕で対応しなければならない。

 

 確かにイッセーも体術を得意としているが、しかし積み重ねが決定的に少ない。

 

 反面小雪は暗殺用だが、しっかりと体術を仕込まれている。

 

 これは、イッセーが不利だな。

 

「っていうか、眷獣クラスの攻撃が発生していることに驚きなのですが」

 

「闘うことになったら姫柊ちゃんは気をつけろよ? あれは科学的な力だから、多分雪霞狼じゃ無効化できない」

 

 姫柊ちゃんにそう言いながら、俺はその戦闘を観察する。

 

 竜巻、大気圧縮によるプラズマ、超高速の気流。

 

 さっきから攻撃がずれているのは、大気に干渉してレンズを作って光を屈折させているんだろう。おそらくレンズを作っての熱攻撃もできるはずだ。

 

 あ、イッセーの攻撃ががくんと方向を変えた。

 

「あれは何だよ? 攻撃が当たったみたいには見えなかったけど」

 

「何かしら? 青野さんが他に神器を持っているなんて話は聞いてなかったけれど」

 

「おそらくですけど、攻撃時に気流の噴射点を設定していたのでは? 任意のタイミングで発動させることで、攻撃をそらすことができますし」

 

 ノーヴェや姫様が首をかしげる中、木場がそう推測する。

 

 なるほど、あいつ能力を完全に使いこなしてやがるな。

 

「これは、雷光チームと当たった時は面倒なことになるな」

 

「まったくだ。っていうか、あれ本当に貴族の眷獣クラスはあるぞ」

 

 暁が俺に応えながら、もう半ば呆れる感じでそうため息をつく。

 

 ああ、あれだけの能力を自由に発動させるとなると、あいつ相当鍛えてやがったな。

 

「たしか深淵面(アビスサイド)……だったか? その領域にまで神器を進化させてるな」

 

 禁手を後天的に変化させるというのは、ごくまれだが聞いている。

 

 同じ神の子を見張るもの陣営でいうならば、幾瀬とか言ったやつがそうだったらしいな。

 

 これは、これまで戦ってきた禁手の使い手も新たな力を手にする可能性があると言っていいだろう。

 

 しかし、それにしてもイッセーは不甲斐ない。

 

「まったく。これに関しては小雪の側に立たせてもらう。イッセーの奴何も分かってない」

 

 ああ、これは小雪の奴も怒っているだろうなぁ。

 

 あいつ、機転は利くけどわりとお馬鹿だからなぁ。

 

「何も分かってないって? いや、想いを汲んで一対一で正々堂々と挑んでいるじゃないか」

 

 木場はそう反論するが、そういう意味じゃないんだよ。

 

 そりゃぁ、生粋の騎士であるお前からすればそうなんだろうがな?

 

「小雪は、何かあった時に朱乃さんを絶対に守り切れるという確証……とまではいかなくても、こいつになら任せられるという安心が欲しいんだよ」

 

 そう、それが小雪が挑んでいる理由だ。

 

 ようは、自分が対応できないことにすら対応できる奴でなければ、朱乃を任せられないということだろう。

 

 普通は父親の役目だと思うが、割と面倒見がいいからなぁ、あいつ。

 

 そして、その本質にイッセーは多分気づいていない。

 

「アイツは騎士でも武人でもなく、暗殺者で魔術師だ。あいつは男の心意気とかそんなものを見たいんじゃない。……そもそもそれはバラキエルとの戦いで見せたしな」

 

 そう。それに関してはバラキエルとの戦いですべて見切っただろう。

 

 そこに関しては、もはや納得しているはずだ。そもそもイッセーならそう答えると分かるぐらいには付き合いもあるしな。

 

 だから、問題はそこじゃない。

 

 そう、これは果たし合いなんかじゃないんだよ、イッセー。

 

「それが分からなきゃ、例え勝っても小雪は認めてくれないぜ。……なんだかんだで頭は良いんだから、さっさと気付け」

 

 出なけりゃいつまで経っても意味ないぜ?

 

 俺達が戦っているのは、高潔な騎士様でも何でもないんだからよ。

 




小雪は小雪でパワーアップしているのです。

小雪のパワーアップ方法は禁手のアップデート。原作でも何人か禁手をアップデートしているので、問題ないと判断しました。

この状態は小雪は人間に固定化されるため本体のスペックが低下するという欠点がありますが、もとより小雪は肉体スペックではなく能力やスキルで勝負するタイプなので問題なし。むしろ攻撃の汎用性が上昇したことで、より戦闘能力は高くなっております。


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雷光VS乳乳帝 最終ラウンド   ~清濁併せ呑んでこそ

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! ここまで強いとか思わなかった。

 

 これが、疑似的にとはいえ超能力者(レベル5)に到達した人の戦闘能力!! マジで強い!!

 

 すでにこっちはぼろぼろだ。左腕は外れてるし、あばらにもひびが入っている。

 

「イッセーさん!」

 

「イッセーくん!!」

 

 アーシアとイリナが叫ぶが、しかし二人とも想いを汲んで手を出さない。

 

 ああ、そうだ。

 

 これは青野さんと俺の一騎打ちだ。

 

 ここで数の暴力で押し切ったところで、そんなことじゃあ青野さんは俺たちのことを認めてくれないだろう。

 

 男として、一騎打ちで勝たなきゃ意味がない!!

 

「ファックが! いい加減にしろよこの変態が!!」

 

 青野さんは苛立たし気に連続攻撃を叩き込む。

 

 くそ! 気を抜いたら一撃でアウトになりそうな位置ばかり攻撃してくれ右から、かわすのが難しい!!

 

 しかも気圧も操作してるのか息が苦しい!! ああもう! これがチーム戦なら後退してインターバルを挟めるのに!!

 

 だけど、だけど、だけど!!

 

「負けられないさ、この一騎打ち!!」

 

「だから、お前らは不安なんだよ、兵藤眷属!!」

 

 さらにイライラしながら、青野さんはプラズマを生成する。

 

 まだだ、こんなところで負けられない。

 

 この一騎打ち、なんとしても俺が―

 

「……イッセーさま!! それは違いますわ!!」

 

 へ? レイヴェルなんて?

 

 あ、一瞬気を取られたからかわすのがまにあわ―

 

支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)!!」

 

 その声とともに、プラズマが方向をそれて上に向かって飛んでく。

 

 ゼノヴィアの支配の聖剣の力だ。あいつ、結構使いこなせてるな。

 

 って違う!! そうじゃなくて!!

 

「待ってくれゼノヴィア!! これは俺が一人で勝たないといけない勝負で―」

 

「違うぞイッセー! 青野はそんなことなど望んでいない!!」

 

 え?

 

 いや、俺が朱乃さんを守れるかの戦いなんだから、一対一で勝たなきゃ認めてくれるわけがないじゃないか。

 

 だけど、ゼノヴィアは首を振った。

 

「青野は最初から兵藤眷属と呼び掛けている。……おそらく、最初から私たち全員を相手にするつもりなんだ」

 

 へ? いやいや、いくらなんでもそんなわけないだろ。

 

 さすがに全員で挑めば青野さんも確実倒せる。青野さんはゼノヴィアたちと同レベルの戦闘能力だから、数で挑めば勝てるだろう。

 

 だけど、そんな卑怯なやり方をしたって青野さんが認めてくれるわけがないじゃないか。

 

 だけど、こんどはレイヴェルが首を振った。

 

「お忘れですかイッセーさま。青野さんは元暗殺者ですわ」

 

 うん、それは知ってる。

 

 けど、なんで?

 

「青野さんは目的のためなら手段を選ばない戦い方を前提とする職業です。そして青野さんの目的は「兵藤一誠が姫島朱乃を守れるか」ですわ」

 

 そうだよ。だからこの戦いは俺が勝たなきゃいけな……い………。

 

 ん? 待てよ?

 

 もしかして―

 

「……守れるなら、手段は問わなくてOK?」

 

「気づくのが遅いぞファック。-50点」

 

 え、ええええええええええ!?

 

「あんたそれでいいの!? 男が女守るのに人の力借りていいの!?」

 

「いいに決まってんだろファックが。あのな? あたしは正々堂々朱乃を守れなんて言ってんじゃねーよ。朱乃を守れるかどうかが重要なんだよ」

 

 何言ってんだこの馬鹿はと顔で言ってる。

 

「何言ってんだこのファックは」

 

 ほとんど同じこと言ったよ!!

 

「いいか? 物事には優先順位ってのがある。あたしがお前に求めてるのは、朱乃をなんとしても守り通すこと一点。綺麗にできるならそれでいいし、あんまり外道なことして朱乃の心を守らねーなんて論外だが、手段選びすぎて守れねーようなら落第点だ」

 

 ………そうだった。

 

 青野さんは、俺より宮白を選ぶタイプだった。

 

 そんな青野さんが、手段のいい悪いを深く考えるわけがない。

 

「第一、テメーは(キング)だろうが。王は人を使う職業だぞ? それなのに部下も動かさずに一人で全部やろうとか馬鹿じゃねえのか? 疲労困憊の相手を狙ってくる外道なんてのは、袋にすりゃいいんだよファックが」

 

 ひ、ひどい!! そこまで言わなくていいじゃないか!!

 

 し、しかし確かに何よりリアスや朱乃さんたちを守るのが俺の目的。一対一にこだわって青野さん(刺客)に翻弄されてるようじゃ言われた通りだ。

 

「いいか? あたしが知りたいのは朱乃を幸せにするだなんて決意じゃねえ。朱乃を守ることができるかどうかだ。……王《リーダー》の資質は、部下も含めて考えるもんだろーが」

 

 ………。

 

 な、なるほど。

 

 つまり―

 

「―バカやって失敗するような奴に、用はないってことですね」

 

「いざという時それができる奴じゃなきゃ、朱乃は任せられねーな。バカ騒ぎは自分で責任が取れる範囲内でするもんだ」

 

 そう、か。

 

 そういえば、青野さんはこのゲームで全然動きを見せなかった。

 

 これはつまり、相手が疲労するところを狙ってくる卑怯者との戦いを前提にしてるんだ。

 

 まったく。さすがは宮白の彼女の1人だよ。

 

 あなたも十分黒いです。

 

「………アーシア。悪いけど、回復してくれない?」

 

「あ、はい。わかりました!!」

 

 ハラハラしていたアーシアが、ほっとした顔で俺を回復する。

 

 ああ、ごめんなアーシア。心配かけちまった。

 

「ゼノヴィア、イリナ、ボーヴァ。……悪いけど、俺が回復するまで青野さんの相手を頼む」

 

「ああ!」

 

「もちろん!」

 

「承知いたしました、我が主!!」

 

 三人が、俺をかばうように青野さんの前に立つ。

 

 その光景をみて、ようやく青野さんは表情を変えた。

 

「……合格だ。あとは実際にできるかどうかだな、ファックども」

 

 心から、この戦いを楽しんでないとできない笑顔だった。

 

 ああ、これは宮白惚れるわ。マジで綺麗だ。

 

 ああ、そして戦う姿もマジですごい。

 

 ゼノヴィアもイリナもすごい奴だ。そして、短い付き合いだけどボーヴァも並の上級悪魔じゃ太刀打ちできない戦闘能力を持っている。

 

 にもかかわらず、青野さんは一人でそれを相手していた。

 

 そう簡単には負けられない。この程度も潜り抜けられない程度のことで、朱乃を守るだなんてほざくんじゃない。

 

 ああ、わかったよ青野さん!!

 

「俺は、兵藤一誠は!! 姫島朱乃を幸せにして見せる!! いや、リアスも朱乃さんも、みんな幸せにするハーレム王になってやる!!」

 

 だから、勝つぜ青野さん!!

 

 あんたを超えて、一軍匹敵(レベル5)を超えて、俺が朱乃さんを守るに足る強さを持っているって証明して見せる!!

 

「兵藤一誠眷属とその配下を舐めんじゃねえぞ!! 軍隊の一つや二つ返り討ちにしてやらぁ!!」

 

「よく言った!! ならまがい物のレベル5ぐらい超えてみやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了ぅうううううううう!! 激闘の末青野小雪を下した赤龍の乳乳帝チームに対して、バラキエル氏が投了(リザイン)を宣言!! 決着がつきましたぁあああああ!!!』

 

 実況が大歓声をあげるなか、俺は涙が止まらなかった。

 

「うぅ……っ。イッセーも小雪も立派になって……っ!」

 

「兄上、父親か何かですの?」

 

 黙っていろ雪侶。俺は猛烈に感動している。

 

「はいはい。まずは鼻をかみましょうね」

 

 あ、シルシありがとう。

 

「しっかし、なんかすごかったよな、あいつら」

 

 試合の様子に飲まれたのか、ちょっとぼんやりした感じで暁がぽつんとつぶやく。

 

 ああ、この試合、これまでの大会でもいろいろな意味で高水準だろう。

 

 激突の激しさでも、選手の質の高さでも、アザゼル杯予選の試合ではかなり上位に来る試合になることは間違いなしだ。

 

『しかし、兵藤一誠選手は姫島朱乃さんに告白をしたようなものですが、リアス様を差し置いての展開になりますけどよろしいのでしょうか、グレモリー卿』

 

 おい、そこ余計なこと言うな。

 

 今度はジオティクス様とイッセーとの間で激闘が始まることに―

 

『ぅう。我が義息子がこれほどまでに器の大きさを見せるとは。グレモリー家の将来は明るい……っ』

 

 そんなことはなかった。

 

 うん、確かにイッセーは姫様には告白してるから問題ないか。

 

「とはいえこれは、イッセーもさらにモテるでしょうねぇ、姫様?」

 

「仕方がないわ。イッセーは素晴らしい男なんだから」

 

 あら、さらりと流された。

 

 姫様も成長したということか。正妻の貫禄が出てきたもんだ。

 

「リアス様は余裕ですね。もしかして、もう子供も出来たりしてるのですか?」

 

「それは違いますのシルシ義姉様。まだイッセーにぃは童貞ですのよ」

 

 雪侶、シルシに余計なことを言わなくてよろしい。

 

 とはいえ、いつになったら童貞卒業するのかは確かに気になる。

 

 姫様たちは基本処女なんだし、童貞と処女のエロスって失敗する確率がひどそうだよなぁ。

 

「いっそのこと経験豊富なお姉さんでも落とした方がいいんじゃないか、あいつ?」

 

「宮白さん! あまりいやらしいことを言わないでください」

 

 ゴメンゴメン姫柊ちゃん。割と本気で言ったけど勘弁してくれ。

 

 あと姫様たちは殺意を向けないでください。消滅の魔星の準備はやめてお願い。

 

 今は試合の様子がダイジェストで放送される中、しかしノーヴェも暁も姫柊ちゃんも、結構その様子を食い入るように見つめていた。

 

「どっちの地球もすごいな。火力だけならSSSランク以上あるんじゃねえか」

 

「流石にあのレベルはそうはいませんけどね。イッセーくんはパワータイプの筆頭ですから」

 

 ノーヴェに木場がそういうが、しかしそういう問題でもないと思うぞ?

 

「それにしたって、軍艦でも出せないような火力をポンと出せるってすごいことじゃん。この世界はそんなのが何人もいるんだろ?」

 

「僕たちとしては、主神クラスの火力を用意できる時空管理局の船の方が脅威ですよ。アルカンシェルとかいうのは恐ろしいですから」

 

 と、ノーヴェは木場と会話を弾ませる。

 

 しかしまあ、確かにあの火力は驚きだ。

 

 アザゼル杯に向けて隠し玉の一つぐらいは用意すると思っていたが、ついにどでかくぶちかましやがった。

 

 半端に酷評されてたから、このインパクトはかなりすごい。

 

 これ、次から試合する連中は大半がビビるぞぉ。

 

「だけど、すごいなアイツ」

 

 と、暁の言葉が耳に入った。

 

「ああ、すごいだろ?」

 

「確かに、先輩が目じゃないぐらいいやらしい人ですけど、女性が集まる理由がわかる気がします」

 

 姫柊ちゃんも、好印象というわけではないが評価は高い。

 

 ああ、確かにあいつはいやらしい。

 

 覗きの常習犯とかその時点で女の敵。そこに関して否定はしない。

 

 性欲を発散するようになれば落ち着くと思って女を紹介しても、「愛がないからいらん!」とか言い出すし。無理だろオイ。

 

 とはいえ、今でもどさくさに紛れて敵を裸にしたがる癖は治らないんだが。

 

 ……そういえばアザゼル杯って洋服崩壊使用禁止になってたよな? あとで確認しておかないと作戦の組み立てに支障が出る。

 

 まあ、それはともかく、あいつはダメな奴だがいい奴でもあるわけだ。

 

()を見せてたろ? もてる奴はもてるだけの理由があるが、あいつはそれだけのものを持ってるんだよ」

 

 ああ、スケベなのはどうしようもない欠点だが、それさえ除けば人格者といって過言じゃない。

 

 だからこそ、姫様たちもアイツを愛しているのさ。

 

「名前の通り誠実なんだよ。だからスケベに寛容な奴はあいつのことを愛するのさ。それにエロ以外は常識人なんだぜ?」

 

「そうですか。……平行世界の赤龍帝さんも悪いと思ったらすぐに謝りましたし、いやらしいけどいい人なんですね」

 

「当然だ。俺が善玉側についてる最大の理由だからな!」

 

「いや、そこは偉そうに言うなよ」

 

 そんな風にだべりながら、俺はふらふらしながらも会場を後にする小雪を見る。

 

 ……まだ会わない。それは、向こうから言ったことだ。

 

 会うとするなら、仕事でたまたまブッキングした時か、俺たちの試合が終了した時だ。

 

 だけど、これだけは思ってる。

 

 ……愛してるぜ、小雪。

 

「……そう言えば、朱乃義姉様は黙ったままですわね」

 

 と、雪侶がそんなことを言いながら朱乃さんの方に視線を向けるが……。

 

「……もぅ、イッセーも小雪も父様も、バカなんだから………っ」

 

 感動のあまりすごい号泣してた。

 

 うわぁ、これ、明日からイッセーすごいことになりそうだな、オイ。

 

「どうします、姫様。これ、明日からの地獄のイッセー争奪戦がすごいことになりますぜ?」

 

「だ、大丈夫よ! だってイッセーの一番は私だもの! 違うにしてもアーシアだもの!!」

 

 その割には焦ってませんか、姫様?

 

「ええ、決めましたわ」

 

 と、朱乃さんは立ち上がる。

 

「私はイッセーの子を一番に孕むわ! いえ、そうなるという確信があるの!!」

 

「な、なにをいやらしいことをいきなり言っているんですか!!」

 

 姫柊ちゃんが顔を真っ赤にしてたしなめるが、しかし朱乃さんは止まらない。

 

「あらあら。子供を産みたいというのは女の子なら当然の欲求ですわ。雪菜ちゃんも、暁くんと」

 

「な……っ」

 

 いかん! いきなりドSモードに入っているぞ! からかい半分本気半分だ!

 

「な、ないないない!! 姫柊はあくまで監視役だから!!」

 

「暁死ねよお前」

 

 お前、いつか本当に刺されるぞ!!

 

「……そうですか、ただの監視役ですか」

 

「ひ、姫柊?」

 

 あ~もう姫柊ちゃん機嫌が悪くなったし。

 

 ノーヴェがなだめに入ってる間、オカルト研究部の視線が集まり、一つの感情を形成する。

 

 ああ、イッセーと同じタイプだ。

 

 ……うん、そうだね。

 

 しかも恋愛関係におけるトラウマがないことを考えると、むしろもっとひどいともいえる。

 

 まあ、心臓を刺されただけならこいつ死なないし、適度にフォローしながらゆっくり見守っていくか。

 

 それはともかく、何はともあれ。

 

 かっこよかったぜ、二人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに、次の試合に遅刻しかけるというミスがあったが何とか試合そのものに勝ったよ?

 




試合終了。小雪の試験も何とか突破しました。

小雪がイッセーに求めたのは、きれいすぎる生き方をしないこと。其れよりも朱乃を優先してくれるかどうかということ。

なんだかんだでイッセーは、ここぞというところでは一騎打ちを選ぶ男です。それが悪いとは言いませんが、数に任せて叩き潰せばもっと楽に勝てるときも何度もありました。其れどころか、一対一では負ける可能性の方が大きい相手にそれを挑んだこともしばしば。

小雪はそれが心配でした。このバカ朱乃泣かせてでも一騎打ち狙うんじゃねえの? と。

別に、卑怯卑劣な手段は手の込んだ策略まで城とは言いません。それは小雪や兵夜(自分たち)の領域です。

ですが、何を優先するべきか。それだけははっきりさせてほしい。そして、それは大切な人たちであってほしい。

少なくとも、人でなしを相手に己の身を犠牲にしてまで一騎打ちにこだわらないでほしい。

小雪はその程度の清濁ぐらいは併せ呑んでほしかったのです。


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DSAA、見に行きます!!

DSAA編に突入します!

さて、一皮むけてるアインハルトは、どこまでチャンピオンに肉薄することができるのかな?


「……そっか、ヴィヴィとリオも負けたのかぁ」

 

 それは残念だ。

 

 いや、これで遠慮なくアザゼル杯にスカウトできるからそういう意味では朗報なんだが。

 

 だからといって本気で挑んだ試合に負けたのは残念だ。ヴィヴィ達も結構ショックを受けてるだろうな。

 

『ああ。善戦した方だと思うけど、コーチとして結構思うところがあってなぁ』

 

 通信越しで、ノーヴェもいろいろと複雑な感情なようだ。

 

 まあ、コーチ業の素質はあるみたいだが、セコンドとかは初めての経験だろうしな。連続で敗戦してるのを見せられたら、複雑な感情にもなるだろう。

 

「だけど、あんまり気負いすぎるなよ。俺が言うのもなんだが、お前はよくやっているよ。……変に自虐しすぎるなよ」

 

『友達にも言われたよ、似たようなこと』

 

 ノーヴェが苦笑するのがわかる。

 

 しかし、まさか三人とも意外と早く敗退したな。

 

 十九歳まで参加できる大会。十九歳なんて肉体的にも技量的にも成長し続ける年齢だ。十歳児が優勝できるとはさすがに思っていなかったが、まさかこうも早期に敗退するとは。

 

「同門対決だったコロナちゃんはともかく、ヴィヴィとリオちゃんを負かすとは相手も恐ろしいな」

 

 ああ、心から感心する。

 

 ヴィヴィもリオちゃんも、悪魔の中級昇格試験を突破できると断言できるほどの実力者だ。

 

 得意な戦い方に持ち込めば、上級悪魔とだって勝負になる。それほどまでに優秀な実力者だ。

 

 それが、地方予選の三回戦で敗退とかちょっと驚きだな。

 

『まあ、リオの相手は都市本選の常連だし、ヴィヴィオのほうも同じく常連のミカヤちゃんも1ラウンドで倒した猛者だからな。相手が悪かった』

 

「そりゃすごい。勝負は時の運とはよく言ったもんだ」

 

 民間の競技選手でもそのレベルとは、時空管理局も優れたやつらが多いな。

 

 大会の上位常連なら、最上級悪魔とも勝負になるんじゃないだろうか。実際、局のエースであるヴィヴィの母親なんか、アザゼルと肩を並べられるほどの実力者だからなぁ。

 

『つっても、そっちの世界の化け物に比べれば見劣りするさ。あんなのナンバーズが総出になっても勝てるかどうか……』

 

「いや、あのレベルは本当に規格外でほんのわずかな超少数だから気にしなくていい」

 

 そもそも神クラスだ。ただの人間が一人で挑むような次元じゃない。

 

 三大勢力を喧嘩のついでに蹂躙するような二天龍の片割れなんだ。ましてや、歴代最優といわれるイッセーが対象。それも乳技使ってる時だ。

 

 英雄と呼ばれるような連中でも、策を使って倒すのが基本というようなレベルだ。比較対象としては間違っている。

 

「流石に人間レベルならあの領域は……片手の指が余るだろ。それもほぼ全員ロストロギア級の装備を持っての上だから、気にするな」

 

『ロストロギア級の代物がゴロゴロあるってのが問題なんだよ』

 

 それもそうだな。

 

 実際あのイッセーに対抗できる人間なんて、曹操とかストラーダ猊下ぐらいだろう。

 

 あれは個人が相手にするような存在じゃない。それだけは断言できる。

 

「まあ、試合で当たる時は俺と須澄と暁の三人がかりで袋叩きにするから気にするな。……あいつを女にぶつけるわけにはいかない」

 

『ああ、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)乳語翻訳(パイリンガル)だっけ? ……言いたいことはいろいろあるけど、相手にしたくないね』

 

「だろ? 一応ルール上は使用禁止になっているが、相手側がOK出せばすぐに使えるし、何より新技開発されてたら初回はルール上何の問題もないしなぁ」

 

 緩いというか甘いというかいい加減というか。トップがそうだからかなりフリーダムだよな、異形社会。

 

 人間世界と交流することを考えると、もうちょっと厳しめに法を改正した方がいいと思うな。

 

「……そういえば、ヴィヴィはなんて?」

 

 俺は少し話を変える。

 

 ヴィヴィにはアザゼル杯に出てほしいという旨は伝えてある。

 

 DSAAを優先するからアウトということは、DSAAがどうにかなったら考えるということだ。

 

 ぶっちゃけ、本大会に参戦している選手を全員でランキング付けしても、どっちかといえば上位側に入るだけの実力はある。

 

 時空管理局を舐められないようにするためにも、時空管理局の選手層は厚くしておきたいところだ。

 

 それに、黒い発言だがDSAAでの成績もこの際有効だ。

 

 たかが地方予選の序盤で敗退するレベルの実力。そんな十歳の女の子がアザゼル杯で善戦すれば、否応なく異形社会も時空管理局を見直すだろう。

 

 そういう意味でもヴィヴィにはぜひ参加してほしいのだが……。

 

『お前、いま腹黒いこと考えてるだろ?』

 

「否定はしない」

 

 グレーゾーンも通らずに、成功できるほど俺は卓越した能力はないのだ。

 

 とはいえ、ノーヴェも俺の性格がだいぶ読めてきたのかすぐに話を戻してくれた。

 

『ヴィヴィオは乗り気だよ。アルサムさんもリオとコロナをスカウトしてるし、いい経験になるんじゃないかとは思ってる』

 

「それはありがたい。ファイトマネーは弾むと伝えてくれ」

 

 十歳児とはいえ、あの子たちは優秀な競技選手だ。

 

 アザゼル杯の裏の目的は強者の育成だし、ぜひ揉まれても折れずに強くなってほしい。

 

『ま、その前にアインハルトの試合だけどな』

 

「ああ、確か優勝候補との試合なんだって?」

 

 俺はあまり情報をつかめていないが、何でもおととしの優勝者だとか。

 

『ジークリンデ・エレミア。途中棄権以外でDSAAで敗退したことはない、正真正銘最強の十代女子競技選手だ』

 

「競技選手とはいえ十代最強か。……どれほどの実力者なのか興味はあるな」

 

 流石にイッセーより強いということはないだろうが、英雄派の幹部となら戦えるか?

 

 時空管理局の底力の確認にもなる。これはぜひ見てみたい。

 

 それに……。

 

「ノーヴェ。もしかしたら聞いているかもしれないが、三大勢力の使者が時空管理局と接触する」

 

『え? そうなの?』

 

 おや、聞いていなかったか。

 

 とはいえオフレコだし、知らなくてもおかしくないな。

 

「派遣団の形になっていて、若手からも何人か来る。時間があれば、ハイディの応援に行けるかもしれないな」

 

『そっか。その時は応援頼むよ』

 

「ああ、アルサムも誘ってみる」

 

 だから、いい試合を見せてくれよ、ハイディ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とはいえギリギリになったが!」

 

「まったく、忙しいのも考え物だな!!」

 

「アルサム様、試合開始まであと五分もありません」

 

「道筋はトレースしてるから、私が先導するわ」

 

 よりにもよって試合の当日に説明会とはついてないな。

 

 俺とシルシは、アルサムとシェンを連れて急いで会場に入った。

 

 おお、いくつもの次元世界を統合しているだけあって、すごい人数だ。

 

 これ、席を探すのも大変だぞ。

 

「それで、宮白兵夜。席は何番だ?」

 

「ちょっと待て。…Dの16から四連続だ」

 

 さて、どこだ?

 

「Dの16」

 

「Dの16……」

 

 きょろきょろと声に出しながら探していると、席の片隅から手が上がった。

 

「それならこっちだぜ。ほら、オレの近く!」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

 ……ほう、この子とその隣の子、できるな。

 

「DSAAの観戦は初めてでね。少し迷ってたんだ」

 

「というよりかは、ミッドチルダが初めてなので不慣れでな、礼を言う」

 

 俺たちはその子に礼を言いながら、席に座る。

 

 さて、あと数分で試合が始まるわけだ。

 

「それで、アインハルトの対戦相手は前々回の優勝者だったか」

 

「ああ、ジークリンデ・エレミアっていうらしい。……ジークかぁ」

 

 ジークはジークでもジークフリートを思い出す。

 

 ああ、俺はろくに戦ってないが実に強敵だった。というより伝説クラスの魔剣五本も持つとか反則だろ。

 

 それを圧倒した久遠がすごい。あいつ本当にハイスペックだ。

 

「ハイディちゃん勝てるかしら?」

 

「並大抵の相手なら歯牙にもかけんだろうが、しかし相手が元チャンプでは、少なくとも苦戦するだろうな」

 

 首をかしげるシルシに、アルサムはそう言い切った。

 

 だが、その目は冷たさに満ちてはいない。

 

「しかし、彼女もまた覇王を名乗ったものだ。ましてや一皮むけている以上、隙を見せれば喉元を喰い敗れるだろう」

 

「……何気にハイディ評価してるよな、お前」

 

 最初に会話した時は、かなり酷評だったと聞いているんだが。

 

「アルサム様は成長はきちんと評価なさる方ですので。きちんと成長している者の、それを評価しない方ではありません」

 

 しれっとシェンにそういわれるが、しかし問題は―

 

「隙を見せてくれるか、どうかだな」

 

「だろうな。……初参戦だというところで無意識に驕ってくれればいいのだが」

 

 そう、相手は紛れもなくこの大量の世界の連合での、全世界大会チャンピオン。

 

 そんな相手が、そんな隙を見せてくれるかどうかが問題だ。

 

 とはいえ、相手もまだ十代。精神的な未成熟はあってもいいと思うんだが―

 

「いや、それはねえよ」

 

 と、さっき席を紹介してくれた少女がはっきりと告げる。

 

「アイツはそんな油断なんて絶対しねえ。そんな舐めた試合は絶対しねえよ」

 

 かなり真剣に、想いのこもった言葉だった。

 

「ちゃんと試合を見れば絶対にわかる。ジークはそんな腑抜けたやつじゃねえからよ」

 

「なるほど、それは彼女も苦労しそうだ」

 

 その言葉に微笑を浮かべながら、アルサムはまっすぐに試合会場を見る。

 

「だが、それはアインハルト・ストラトスも同じことだ」

 

 そう、彼女もまたただものではない。

 

「仮にも覇王を自称した彼女もまた、一流の戦士だ。その拳は世界最強にすら届くだろうさ」

 

「お、おう……」

 

 なんかものすごい貫禄があったので、その少女も思わずたじろいだ。

 

 ああ、やっぱりこいつは魔王剣に選ばれたこともある。

 

「貴女ねぇ、気持ちはわかるけど初対面の年上の人にさすがに失礼よ」

 

 と、隣にいたお嬢様風に女性がその少女をたしなめた。

 

「申し訳ありません。この子、少しガサツなところがありまして」

 

「かまわんさ。気に入っている人物に対して根拠のない悪評を聞かされれば腹も立つだろう。こちらも知らぬとはいえ失礼な評価をしたのだ、非礼はこちらにもあるから気にするな」

 

「そう言ってくださると助かります」

 

 おお、上流階級同士の会話っぽい。

 

 お、試合が始まったみたいだ。

 

「さて、どちらにせよ、全てはこの試合ですぐにわかる」

 

 ああ、それは完璧に同意だな。

 

「格闘家は拳で語る生き物だと思うのでな、全ては戦いぶりで見させてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DSAA四回戦、ハイディとチャンピオンの対決。

 

 その試合は、チャンピオンに対する歓声とともに幕を上げる。

 

 ああ、これはまたすごい歓声だ。流石は元チャンプ。

 

 だが、アインハルトにも立派な声援が出てくるさ。

 

「「「「アインハルトさぁーん! ファイトー!!」」」」

 

 ヴィヴィたちはあんな所にいたのか。あとであいさつに向かった方がいいな。

 

 さて、それでチャンピオンはどう出るか? そしてハイディはどう立ち向かうか?

 

 実に気になる戦いだ。さあ、どうなることか。

 

 そして、試合が始まった瞬間。ハイディは速攻で動いた。

 

 放つのは彼女の十八番、覇王断空拳。

 

 その一撃の威力が上級悪魔にすら届く。それも分家の当主クラスにだ。

 

 そんなシャレにならない一撃を、しかしチャンピオンは素早く対処する。そして即座に反撃の拳が放たれる。

 

 だが、それをハイディは最小限の動きでかわすと、反撃の拳を放った。

 

 速い。それも高レベルの攻防だ。

 

 こんなもの、レーティングゲームでもそうそうみられないハイスペックな戦いだ。

 

「やるじゃねえか。ジーク相手に打撃戦であそこまで戦えるなんてよ!」

 

「ええ。純格闘戦であれほどの実力者、DSAAでもそうはいませんわ」

 

 さっきのお嬢さん二人が感心する中、俺も結構感心している。

 

 ハイディ、ちょっと見ない間にかなり腕を上げているな。

 

「流石だ、覇王。やはり子供は伸びるのが速い」

 

「貴方も私もまだまだ若輩者でしょうに」

 

「違いない」

 

 軽口をたたき合いながら、アルサムとシルシも試合に見入る。

 

 全体的にチャンピオンが優勢だが、ハイディもきちんと食いついている。

 

『これは! アインハルト選手の攻撃が、着実にチャンピオンのライフを削っていきます! チャンピオン、これは思わぬ苦戦かぁ!?』

 

 実況も驚くこの善戦。だが、俺たちからしてみればそこまで驚くほどではない。

 

 俺とアルサムはその理由がよくわかる。

 

「従僕との戦闘経験などが生きているな」

 

「ああ、過去の残影とはいえ、我らの世界の若手の規格外たちとの戦いが生きている。流石にサイラオーグ・バアルの動きに慣れていれば、あれほどの動きとは言え目で追えぬことはないだろうからな」

 

 ああ、これはまたハイスペックの激戦だ。

 

 ジークリンデ・エレミア。俺が今まで見てきた中でも、十代であれほどの戦闘技術を習得しているとは驚きというほかない。

 

 まだ底が見えていないが、乳技さえ使われなければイッセーでも通常状態の禁手ではそう簡単には倒せないだろう。油断すれば返り討ちだ。

 

 だが、そんな化け物たちとの戦いにハイディは関わって生き残った。

 

 歴史に名を残しかねない規格外たちの戦いをその目にしたことで、彼女は確かに伸びている。

 

 ああ、これはまだ勝敗はわからない―

 

 そう思った次の瞬間、チャンピオンがハイディの拳を避けると同時に、一気に関節を極めた。

 

「関節技!?」

 

 シェンが驚く中、さらにそれで生まれた隙をついて、ハイディは地面にたたきつけられる。

 

「さらに投げ技か! チャンピオンは打撃系かと思ったのだが……」

 

「初めて見るなら、驚くかもしれませんわね」

 

 お嬢様風の少女が、真剣な瞳をリングにへとむける。

 

「ジークは格闘戦から投げ技関節技、そして魔法による砲撃戦まですべてが高水準。正真正銘のオールラウンダーです」

 

「ここまで全方位対応型とは。女王(クイーン)といって過言ではないな」

 

 同感だ、アルサム。

 

 高速戦闘も魔法戦闘も、そして攻撃力も完備

 

 彼女が女王の駒で転生悪魔になったら、彼女の主はその時点でレーティングゲームで一気に名前を広めるだろう。

 

 少なくとも、若手で彼女とまともに戦えるのは、若手四王クラスの眷属のそのまたエース格だろう。というか、俺たちでも神器抜きで勝てる相手ではない。

 

 あの激闘の一年を潜り抜けたグレモリー眷属でも、本腰を入れてそれでも倒されかねない実力者。

 

 時空管理局、ここまでの者かっ!

 

 さらにチャンピオンは魔法砲撃戦に移るが、こちらに関してはハイディはあっさりと対応する。

 

 旋衝波。魔力弾を投げ返すあの技は遠距離戦には有効だろう。

 

 とはいえ、打撃戦中心かと思ったらまさかの格闘系はおろか遠距離まで完備のあの実力。

 

 これは、アルサムでも魔王剣なしでは苦戦は必須か。

 

「勝てるか、アルサム?」

 

「断言はできんな。人間で神器や伝説級の装備もなしにあのレベル、真の悪魔とまで呼ばれたヴァスコ・ストラーダですら、デュランダル抜きでは苦戦するだろう」

 

 ああ、ちょっと俺たちは時空管理局を舐めてたな。

 

 人間、やっぱりすげえ。

 

 そして、リングでは少しチャンピオンとハイディが言葉を交わしている。

 

 そして、次の瞬間チャンピオンは両腕に手甲を展開した。

 

「……どうやら、ハイディちゃんはチャンピオンに本気の価値ありと認められたようね」

 

 わずかに戦慄しながら、シルシは目を細める。

 

 ああ、俺も少し戦慄している。

 

 チャンピオン、まだこの上で底があるのかよ!

 

 そして、その手甲を見た瞬間、ハイディの動きが一瞬止まる。

 

 ………む? なんか嫌な予感がするんだけど?

 




vividのキャラもちょい役ですが登場。ちなみにvivid編でもあるここからは、次元書庫探索編までやる予定です。

とはいえ、原作其のままというわけにもいきませんというかそこははしょって、いろいろと動いていく世界情勢……主にフォンフが何やらかすかに注目してください。







PS:フォンフシリーズと七式の追加がこの章であります。驚きのあのサーヴァントや懐かしいあのサーヴァントが出てきますよ?


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覇王の後継 その兆し

一応ちょっと前に伏線は張っておきました。

クロスオーバーとはどういうものかの、ちょっとした実験作とも言えます。


 

 Other Side

 

 その手甲を見た瞬間、アインハルトの中で何かが燃えるのがわかった。

 

 ジークリンデ・エレミア。その名前を知った時に気が付くべきだった。

 

 そう、彼女はエレミアの末裔なのだ。

 

 アインハルト(クラウス)の中で激情が巻き起こり、しかしすぐにその炎は沈静化されていく。

 

 昔の自分だったなら、激情に任せて感情のままに殴りかかっていたかもしれない。

 

 だが、あの戦いでの言葉が自分を押し止める。

 

 そうだ。自分はクラウスの記憶を継承しているが、クラウスではない。

 

 そして、彼女も自分が知るエレミアではない。

 

 少なくとも、今のアインハルト・ストラトスならそれを理解できる。

 

 ゆえに、アインハルトは動揺こそしたが冷静だった。

 

「……もしよろしければ、このあとお話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「ん? よくわからへんけど、別にいいよ?」

 

 ジークリンデはあっさり了承すると、そして一気に殴り掛かった。

 

「でも、先ずは試合をしてからな?」

 

「わかっています」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、どうやら心配は無用だったか」

 

 思わず立ち上がりかけたアルサムが、すぐに席に戻る。

 

「っていうか、ハイディどうしたんだ? なんか一瞬様子がおかしかったんだが」

 

 本当に一体何があった?

 

 チャンピオンと面識があるなんて話は聞いてないが……。

 

「先程から話を聞いていて気になってましたが……」

 

 と、そこでお嬢様風の少女が俺たちに視線を向ける。

 

「もしかしてアインハルト選手は、ベルカ王族の末裔か何かでしょうか?」

 

「……たしか、覇王イングヴァルドの記憶継承者と伺っております」

 

 シェンが躊躇い君にそう答えると、何人かが何かに気づいたようだ。

 

「あれ? ってことはあいつが噂の覇王か?」

 

「知ってるの?」

 

「いや、何か月か前に、格闘競技の実力者に勝負を吹っ掛ける覇王を名乗ってる女がいたって話があったんだよ」

 

 ……ハイディ、何してんの。

 

「そ、その覇王が当人かはともかくとして、彼女がベルカ王族の記憶継承者なのは本人から聞いてるが、それが?」

 

 俺はとりあえず話を変えるために会話を変えるが、しかしこれはまた不思議な話だ。

 

「……古代ベルカの流派などは、元を正すとかなり近しい関係にあることが多いのです」

 

 と、答えるのはお嬢様風の女の子の方だった。

 

「ジークの流派はエレミア。黒のエレミアと呼ばれた彼女は、聖王家とも関わりがあったと聞いています」

 

 ほほう。これは歴史の深いところを聞いてる気がしてきたぞ。

 

「どこも世界は広いのか狭いのかわからないわね。というより、初代覇王はエレミアに嫌な目にでも遭わされたのかしら」

 

「とはいえ、それは過去の怨恨だろう。当代同士が恨みつらみをぶつける必要もないはずだな」

 

 シルシの感想に、アルサムは超正論を叩き付ける。

 

 まあ、それに関しては全面的に同意だがな。

 

 だが、それだけで終わるほどアルサムもどうしようもない男ではない。

 

「……何より、過去(クラウス)(ハイディ)の区別をつけている以上、それに呑まれるほど彼女も愚かではないさ」

 

 そして、その言葉を裏付けるように、ハイディは初のクリーンヒットをチャンピオンに叩き付ける。

 

 ……攻撃を読み切ったうえでのカウンター。どうやら、ヴィヴィ達が全面協力した上での結果のようだな。

 

 やるじゃないか、ハイディ。お前、やっぱり強いよ。

 

「……まずいな」

 

「ええ、まずいですわね……」

 

 が、隣の少女たちは何故かすごくヤバ気な表情を浮かべていた。

 

「ど、どうしたんスかリーダー?」

 

「何がまずいんですか?」

 

 と、取り巻きっぽい女の子達が戸惑う中、俺達はその理由を速攻で理解した。

 

 チャンピオンの、ジークリンデ・エレミアの気配が明らかに変わった。

 

 今までの試合を楽しんでいたような気配から、俺達が良く知っている気配に代わる。

 

 相手を殺すことを前提としているといっても過言ではない、殺し合いの空気。

 

 おい、これは競技試合で出していい気配じゃないだろう。

 

「……そこの二人! どういうことだこれは!!」

 

「エレミアの神髄です」

 

 お嬢様が、俺の質問を通り越した詰問に対して警戒心を強めながら言葉を紡ぐ。

 

「アインハルト選手と同じく、ジークもまた記憶継承者です」

 

 なに? 記憶継承者って意外と多いのか?

 

 だが、その問題はそこではなかった。

 

「ジークの場合は、過去のエレミアの戦闘経験のみを500年分継承しています。……そして、それによる本能的な戦闘状態がエレミアの神髄」

 

 ……500年だと?

 

 それほどまでの戦闘経験。確かに強いわけだ。

 

 だがちょっと待て。そんな本能的な戦闘状態ってことは、実戦前提だよな、オイ。

 

 それも、おそらく殺し合いの……っ!?

 

「まずいわよ、兵夜さん!!」

 

 シルシが叫ぶ中、試合は一方的な展開になっていた。

 

 これまでとは全く違う容赦のない動きに、ハイディはあっさりと連続攻撃を喰らって動きを止める。

 

 まずい、あれじゃあ動けてもすぐにはまともな戦闘なんて―

 

「あのバカ! 動けない相手にあんなの喰らわせたらっ!?」

 

 オイちょっと待て、流石にあれマズイ!!

 

「………手間のかかる奴だ」

 

 その時、ものすごい殺気が一瞬で放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その莫大な殺気は、わかるものならわかる絶妙なレベルで放たれた。

 

 一般人と競技選手が大半を占めるDSAAの会場ではわかるものは少なかったが、ごく一部のわかるものは明確に反応した。

 

 こと、その向けられた先であるジークリンデと、その直近にいたアインハルトは心臓が止まるほどの衝撃だった。

 

 それに対してかろうじて反応できたのは、アインハルトの方が先だった。

 

 本能的に動いていた上に、殺気の対象者であるジークリンデは攻撃の矛先をとっさに殺気を差し向けた相手であるアルサムへと一瞬向けたのも大きい。

 

 ごく僅かとはいえ、その肉体に味わう形で殺気に慣れていたアインハルトにとって、その決定的な隙は好機でしかなかった。

 

 だが、どうする?

 

 既に肉体のダメージはかなり大きく、ティオのサポートにも限度がある。

 

 おそらく、本当に攻撃する気がないアルサムの殺気の本意に気づいて、ジークリンデが攻撃の矛先を戻すのも一瞬。

 

 その一瞬で、相手を倒さなければただでは済まない。

 

 そして、自身の最大の奥義である覇王断空拳をもってしてもそれをなせる可能性はおそらく低い。

 

 絶望的な状況にはいまだ変わらず、しかしならばと覚悟を決める。

 

 走馬灯がよぎる中、思い出すのはほんの僅かに練習したあの妙技。

 

 あれを最大限に利用できれば、あるいは。

 

 その可能性は低く、しかしそれ以外に勝ち目はない。

 

 その一瞬で、アインハルトは覚悟を決めた。

 

 発動方法は単純。踏み込みと同時に魔力操作を行うというただ一点。

 

 その一点の踏み込みをもって、我が奥義を極限まで進化させるのみ。

 

「覇王―」

 

 成功できるのか、などということはもう考えない。

 

「―断空拳―」

 

 なぜならば、自分はクラウスではなくその後継者。

 

 ならば、

 

「―改っ!」

 

 彼を超えなければ彼に向けれる顔がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その一撃はリングを大破させた。

 




覇王、異世界技術で進化するの巻。

瞬動術って、運用次第では踏み込みの強化に使えるのではないかと思ったのが今回の発端。そこから最もそれを利用した技を持っているアインハルトの強化に使いました。

クロスオーバー作品で、ほかの作品の技術を使って別の作品の技を強化するってあまり見かけないような気がしたのでやってみました。


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反省会をするまでが試合です

 

 う、うわぁ。

 

「アルサム、お前、殺気を物理的に放つすべでも覚えたのか?」

 

「そんなわけがないだろう。あれはアインハルトの踏み込みだ」

 

 わかってるわかってる。冗談だって。

 

 とはいえ、そんなことを言いたくなる俺の気持ちもわかってくれ。

 

 今、俺達の目の前でリングが崩壊した。

 

 それも、打撃の踏み込みでという離れ業だ。

 

 リングとなる舞台の半分がそれで完全に砕け散り、ハイディがいた側に関してはそれ以外の場所も大幅に崩壊している。

 

 っていうかノーヴェ達セコンドは無事だろうか? 想定外すぎて俺だったら巻き込まれてる自身があるぞ。

 

「………これは、驚いたわ」

 

「マジかよ……っ」

 

 あ、お隣さんも流石に驚愕してる。

 

「流石に、これは滅多に起きないことのようね」

 

「修復がいまだに行われていない以上、それだけの破壊力ということです。……これだけの被害、今までDSAAで起きたことなんて無いわ」

 

 お嬢様が唖然とするほどの大破壊。

 

 しかも打撃を生む為の踏み込みでこうなったというのは、そりゃもう驚きだろう。

 

 ああ、俺も流石に驚いてる。

 

「魔力付与とはいえ打撃でこれほどの破壊ですか。我々の業界でも例がありませんね」

 

「でしょうね。っていうか、ノーヴェ達大丈夫かしら」

 

 シェンとシルシも完璧に驚いてる。

 

 いまだに実況が何も言っていないのがその驚愕の証拠だ。事態がすごすぎて誰も何も言えない。

 

 そして、土煙が晴れる中、そこには明確な戦いの結果が生まれていた。

 

 何が起きたのかよくわかってない顔で、しかしガードに使ったらしい腕を抑えてうずくまっているチャンピオン。

 

 そして、倒れているハイディだ。

 

 ……あの一撃を捌いたのか。なんて奴だ。

 

 だが、そこから反撃をするまでもなく勝敗は決している。

 

『い、今反応が出ました。……アインハルト選手は左足が粉砕骨折。エミュレートではなく物理的に粉砕骨折を起こしている為、試合続行は不可能です』

 

 実況がいまだ冷静さを取り戻せていないながらも、しかしかろうじて状況を理解して話を進める。

 

『終わってみればジークリンデ選手が圧倒的にライフを残していますが、この戦いをジークリンデ選手の圧勝といえるものは一人もいないでしょう。それほどまでの最後の一撃。正直、ジークリンデ選手のライフが残っていることが信じられません……』

 

 だろうな。とはいえ、これは急がないとまずいか。

 

「半端に瞬動術を教えるんじゃなかった。使うなって言ったのに、あの馬鹿は……っ」

 

「まあまあ。当人も咄嗟に出しちゃったみたいだし、あまり怒らないであげなさいな」

 

 シルシにはそう言われるが、しかしやっぱり説教はしておくべきだろう。

 

 とはいえ今は急がないとな。粉砕骨折何てすぐに処置しないと悪影響が残りかねない。

 

「アルサム。悪いがそっち任せる。俺は今すぐアーシアちゃんを呼んでくる」

 

「ああ、任せる。……そちらの二人にはこちらから説明させてもらおう」

 

 そう苦笑するアルサムの視線の先、さっきのお嬢様方がなにやら警戒の色が籠った視線を俺達に向けていた。

 

「あんたら、いったい何もんだ?」

 

「先程の気配といい、ただものではないようですが……」

 

「あ、えっと色々あるんだけどね?」

 

 俺は素早く後退しながら、苦笑を浮かべる。

 

「後でまとめて話してあげるから、とりあえず今は急がせてくれない? 急いで救護班を呼んでおかないと大騒ぎになりそうだから……さ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインハルトが目を覚ました時、そこには思った以上の人が集まっていた。

 

「……起きたようだな」

 

 真っ先に気が付いたのは、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス。

 

 彼にはエイエヌ事変のおいて色々と教えられた。

 

 王の在り方。王とは何か。

 

 ただクラウスの無念に引きずられて覇王を名乗っていた自分にとって、彼の叱咤はとても身に染みた者だ。

 

「大丈夫か、アインハルト」

 

「足は知り合いが治しといた。あとでお礼を言っとけよ」

 

 コーチであるノーヴェや、恩人の一人である兵夜も気づかわし気な表情ですぐに近づいてくる。

 

 その表情を見て、アインハルトは大体どういうことを理解した。

 

「そうですか。……負けたんですね」

 

「っていうかドクターストップだ。足の骨がいくつも粉砕骨折してたからな。アーシアちゃんがいなければ、選手生命すら怪しいレベルの大怪我だったんだからな」

 

 ため息交じりに兵夜はそういうと、アインハルトの頭に軽くチョップを入れる。

 

「あうっ」

 

「瞬動は慣れるまで使うなって言っただろうに。しかも断空拳と併用しやがって。……砕けた足がクッションになって、むしろチャンピオンの方がダメージ少ないってどういうことだよまったく」

 

 やれやれといわんばかりに首を横に振った兵夜だが、しかしすぐにその表情は苦笑に変わる。

 

「とはいえ、最後の一撃はチャンピオンも度肝に抜かれただろう。……ナイスファイトと言っとくか」

 

「いえ、そんな事はないです……」

 

 だが、アインハルトはそれでも元気にはなれない。

 

 どう言い繕うと、結局負けたわけだ。

 

 ましてや、無茶な戦闘方法を行って選手生命に関わりかねない怪我までしている。

 

 今頃ヴィヴィオ達も心配していることだろう。これでは誰にも見せる顔がない。

 

「……チャンピオン(彼女)がエレミアの末裔だと気づいた時、頭に血が上っていました」

 

 エレミア。その名はアインハルトにとってそれ相応に重要な意味を持つ。

 

 ヴィルフリッド・エレミア。クラウス・G・S・イングヴァルドと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの友人。

 

 そして、オリヴィエがゆりかごの聖王となる時に姿を消した者。

 

 クラウスは決して恨んでいたわけではない。何か事情があって関われなかったのだと、それだけは確信をもって信じている。

 

 だが、それでもやるせない思いはあった。一発殴ってやろうという感情だけはあった。

 

 それはアルサムや古城の言葉で振り切れた。振り切った……つもりだった。

 

 だが、果たして本当に振り切れていたのだろうか?

 

「あの時、一瞬だけ、本当にクラウスの無念のままに一発殴ることだけ考えていたのではないかと思ってしまうんです」

 

 少しだけ、少しだけ声を震わせながら、アインハルトは俯いた。

 

「ヴィヴィオさんに、ノーヴェさんに、リオさんやコロナさんに託された想いを、あの時忘れて気がして……」

 

「言うな、アインハルト」

 

 ノーヴェはそれ以上言わせず、アインハルトを抱き寄せる。

 

「選手に危険な技を使わせないように指導し損ねた私の責任だ。それに、正直に言えば私も成長し続けるお前に甘えてた」

 

「そうそう。第一それを言ったら瞬動を半端に教えた俺にも責任はある。反省するのは良いが、後悔までされると俺が心もとない」

 

 兵夜もそう言って慰める中、アルサムは立ち上がるとアインハルトに視線を合わせる。

 

「少なくとも、お前は振り切ろうとしたのだろう?」

 

「え、はい。ですが……」

 

「ならいいさ」

 

 アルサムは、そういうとアインハルトの頭を撫でる。

 

「間違いなくお前は成長している。まずはそれを誇るといい。きっと先代覇王も褒めてくれるさ」

 

 そういうと、アルサムはわずかに微笑を浮かべた。

 

「アルサムさん……」

 

「まずは一歩前進だ。なに、あそこまで大口の叩いたのだ。俺もできるだけ手伝おう」

 

 そういうと、アルサムは立ち上がると手を伸ばした。

 

「さあ、今代のエレミアと話すのだろう? ならばまずはそれが先ではないか」

 

「……はいっ」

 

 アインハルトは、おずおずと手を伸ばして、そしてそれを掴むと立ち上がった。

 

「まあ、これに関しては俺も失敗だったな。半端にものを教えすぎた」

 

「いや、さっきも言ったけどあたしが一番悪いよ。アインハルトのコーチとして、やることをやれてなかった」

 

 それを見ながら、兵夜とノーヴェは苦笑を交わし合う。

 

「ま、幸い今回は取り返しがついたんだから良しとしようや。俺達が暗い顔してると、ヴィヴィ達が落ち込むぜ?」

 

「だよなぁ。ああ、コーチって結構大変だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「97管理外世界で異なる技術が大量に流れ出たというのは聞いていましたが、まさかそちらの出身だったとは思いませんでしたわ」

 

「っていうか人間じゃねえのかよ!? え、全然そんな風に見えねえけどな」

 

「大体異種族って人間と似てるのよ。天使にしろ堕天使にしろ半神しろ、ね」

 

「とはいえ異形なものはかなり異形なこともありますが。悪魔も血統によっては角が生えていたりすることはよくあります」

 

 シルシとシェンは、たまたま隣にいた観客……にしてDSAAの選手でもあるヴィクトーリア・ダールグリュンとハリー・トライベッカに付き添って会場の中を歩いていた。

 

 なにせ、アルサムが割と本気で殺気をぶちかました挙句、殺気をぶつけたジークに会う可能性があるのだ。

 

 当然ジークリンデの友人である二人としては黙って見ていられはしないだろう。

 

 と、いうわけで個人の裁量の許す限りで話しているわけだ。

 

「あの事件、地球出身の局員の技術流出すら疑われていましたが、地元の物だと知られたときはそれなりにニュースになりましたわ」

 

「不用意に技術を流出させれば人間社会が混乱すると考えていたのですが、テロリストが遠慮なくばらまいたので、いずれ存在を公表する予定ではあります」

 

 ため息をつきながら、シェンは説明を続ける。

 

 あえて説明すればするほど、事態がとんでもない方向に行っていることを痛恨する。

 

 リゼヴィム・リヴァン・ルシファーとフィフス・エリクシル。

 

 この二人の所業によって、地球及び周辺神話世界は本当に追い込まれているといってもいい。

 

 そんな中、フォード連盟と時空管理局の二つの超次元組織と出会ったのは僥倖という他ない。

 

 これだけの大規模組織の協力があれば、場合によっては逆にE×Eに出会うことも可能だろう。

 

 そういうこともあり、シルシとしてはこれからのことを考えていた。

 

「まあ、そういうわけで冥界は若い実力者をどんどん募集してるわ。興味があるならぜひ連絡して、大丈夫そうなのを紹介するわよ?」

 

「いや、俺は局員志望だからパスしとくわ。お嬢様はどうすんだ?」

 

「ダールグリュン家を放っておくわけにはいかないもの。流石にお断りさせてもらうわ」

 

「あら残念」

 

 アッサリと断られたが、シルシとしても話のタネだったので特に気にしていない。

 

 それに、今の段階で管理世界から引き抜きを行えば社会問題一歩手前だろう。

 

 これは、あくまで冗談である。今のところは。

 

「ですが、ハリー様がリオ様を下していたのですか。彼女はあの年ではありえないほどの力量ですので、正直驚きました」

 

「おいおい。俺だって都市本選出場経験者だぜ? 出たばかりのルーキーに負けるわけにはいかねえよ」

 

「あら? わたし対策を使ってようやく勝ったのは誰だったかしら?」

 

「こらこら、ケンカしない」

 

 ライバル同士の火花の散り合いが勃発しそうだったので、シルシが苦笑交じりで止めに入る。

 

 とはいえ、確かに自分も驚いたのは事実だ。

 

 リオの実力は本物だ。あの年であれほどの戦闘能力を発揮するものなど、異形社会でも非常に珍しい。

 

 それほどまでの実力者を下すとは、時空管理局も実力者が多いということだろう。

 

 おそらく、上級悪魔相当の実力者の数ならば圧倒的に時空管理局が上のはずだ。

 

 流石に神クラスのものは基本が人間である以上いないだろうが、戦争とは古来より質より量が基本である。

 

 上級悪魔相当の実力者が何十人もいれば、神クラスといえど苦戦は必須だろう。少なくとも、半端な神クラスはこれで倒せる。

 

 そしてそのうえで時空管理局の切り札ともいえるアルカンシェルがあれば、主神クラスでも危険のはずだ。

 

 全面戦争になれば、敗北するのはほぼ確実に地球側。それぐらいは流石にわかっている。

 

「本当に、この業界も若手の実力者が豊富よねぇ」

 

「そうなのかよ? そっちも結構多いって言ってなかったっけか?」

 

「単純な分母の数が桁違いだもの。確かに若手悪魔でもサイラオーグ様とかは強すぎるけれど、奥の手抜きならチャンピオンなら勝てるわよ」

 

「そうですね。獅子王の戦斧は時空管理局の定義でいうならばロストロギアクラス。あれは基準に入れない方がいいでしょう」

 

 シェンもお茶を飲みながら同意するが、そうい意味では割と気が狂っているのはこちら側なのかもしれない。

 

「そういえば、ハイディちゃんとチャンピオンはこれから話し合いをするそうよ? そちらはどうするのかしら?」

 

「ジークが参加するなら、私も参加しますわ。それにあの子意外と人見知りするからちょっと心配で」

 

 ヴィクトーリアは即答する。

 

 かなり親身になってジークリンデのことを考えていたし、おそらく相当に親しい間柄なのだろう。

 

「アルサム様もチャンピオンに殺気をぶつけた謝罪をすることもあり参加しますので、私も同席いたします」

 

「流れ的に私と兵夜さんも参加するけど、ハリーちゃんは?」

 

 ある意味一番関係がないハリーにシルシは話を振るが、ハリーは面白そうな表情を浮かべて即答した。

 

「俺も参加するぜ? だって気になるじゃねえか」

 

「え?」

 

 ヴィクトーリアはきょとんとするが、シルシはなんとなく予想ができていたのでクスリと笑う。

 

「これは、晩御飯は多めに用意しておいた方がいいかしらね」

 




覇王断空拳改 未完成。

 現時点においては何かしらの方法で足を強化しなければ、自分の足が砕けるはそれがクッションになって威力低下するわといいとこ内です。もっとも、それでも今までのアインハルトの技で最も威力がある技でもあるのですが。


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話、聞いてみます!

 

 

 そして、ホテルの最上階という非常に豪勢な場所で行われた。

 

 そして、もちろんケータリングも豪勢だった。

 

「あの、八神さんでしたっけ? いいんですか、こんなに豪勢で」

 

 流石に財布関係が不安になり、兵夜はそれとなく聞いていみる。

 

 だが、八神はやてはなぜか困り顔で笑うと、片手を横に振った。

 

「かまわへんよ。それに、いつの間にかアルサムさんが全部払っとったし」

 

「え、マジで!?」

 

 既に食べ始めていたハリーが驚いて視線を向ける中、アルサムは優雅にカナッペを食べながら軽く片手をあげた。

 

「今回の殺気の詫びのようなものだ。それにカークリノラース家の財力なら、この程度ははした金にもならん。気にせず食べるといい」

 

「「確かに」」

 

 兵夜もシルシも納得すると、遠慮なく食べ始める。

 

 実際、一国に匹敵する領土を持つグラシャラボラス家の次期当主として迎え入れられたアルサムならば、高級ホテルでケータリングを用意することぐらい朝飯前だ。文字通りはした金に等しい。

 

 そんなものを気にしていても意味がない。ここは率先して食べて心理的ハードルを下げるべきだと判断した。

 

「いつもありがとうございます、アルサムさん!」

 

「気にするな。それより子どもは体が資本だぞ? 早く食べるといい」

 

 笑顔でお礼を言うリオにそう促しながら、アルサムもまた食事を再開する。

 

「え、ええんやろか? こんなにおいしそうなもん、見ず知らずの人に恵んでもろて」

 

「お気になさらず。それに、これは極大の殺気を貴方に不意打ちで叩き付けたお詫びのようなものです。さあ、こちらが地球の高級食材、トリュフでございます」

 

 戸惑いがちなジークリンデに、シェンが料理を取り分ける。

 

 そんなこんなで食事を始めながら、兵夜はアインハルトに近づいた。

 

「それで、足はどうだ?」

 

「はい。おかげさまで痛みもありません。その、後でお礼を言いたいのですが……」

 

「ああ、まだ日程は空いてるから、機会があれば紹介するよ。ほら、今のうちにたっぷり食べとけ」

 

 兵夜もそういってアインハルトに食事を勧める。

 

 ことジークリンデとアインハルトは試合をしてからまだ食べていないのだ。

 

 消耗したエネルギーの分、食べるのも必要だろう。

 

「その通りだ、アインハルト」

 

 アルサムも、何気にさらに食べ物を乗せてアインハルトに食事を促した。

 

「まだ子供なのだから、しっかり食べておかなければ特訓をする分のエネルギーも確保できん。強さを目指すのならば食生活も気をつけねばならんのはわかるだろう?」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 差し出された料理を食べるアインハルトを見て、アルサムは微笑を浮かべる。

 

 それを見て、兵夜はにやりと笑みを浮かべた。

 

「なんだかんだで、ハイディのことを目にかけているじゃないか」

 

「ふむ、形は違えど王を目指す者同士、思うところはあるといっておこうか」

 

 そういうと、兵夜とアルサムはにやりと笑う。

 

 同盟者同士の気心の知れた関係が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それで色々とハイディの話を聞いてみたが、これはまた驚きだ。

 

 なんでも歴史研究においてはオリヴィエとクラウスが本当に友人関係だったのかさえ分かっていないのだが、そこは記憶継承者。

 

 本当に二人は関係があったとのことで、かなり仲が良かったそうだ。

 

 そして、二人の共通の友人が、ジークリンデの先祖であるヴィルフリッド・エレミア。

 

 なんでも半年近くふらりとしている時もあったそうだが、しかし良き友人だったらしい。

 

 だが、そんなヴィルフリッドはオリヴィエが揺り籠の聖王となる時から行方知れずになる。

 

 それからクラウスが死ぬまで、ヴィルフリッドは姿を現さなかったそうだ。

 

 ……何かあったのは間違いないよな。だけど、いったい何があったのかはわからない。

 

「それで、もしかしたら何か知っているのかもしれないと思ったのですが……」

 

 ハイディは割と本気で懇願しているのだが、しかし対面するジークリンデとヴィクトーリアの表情は暗い。

 

「悪いけど、(ウチ)の記憶継承は戦闘技術だけで、個人の記憶は殆ど残ってないから……」

 

「ジークの実家にも、記録は殆ど残ってないのよ」

 

「……手詰まり、か」

 

 アルサムが目を伏せる。

 

 ああ、これは確かに無理があるな。

 

 なにせ数百年以上昔の出来事だ。それも数多くの戦乱で記録が殆ど残っていないと来ている。

 

 これが悪魔とかなら簡単なんだよなぁ。だって生きてる人いるから直接聞けばいい。

 

 だけど、人間の寿命はわずか数十年。長くてせいぜい百年ちょっとだ。少なくとも二百年とか生きれるものはいない。

 

 だから、もうこうなったらどうしようもない。

 

「……いっそのこと、聖杯でも使えればいいのだが」

 

「流石にその為に殺し合いとか了承できん。大体上は禁止の方向だろ」

 

「分かっている。言ってみただけだ」

 

 俺にツッコミを入れられて、アルサムは肩をすくめる。

 

 しかしこれは本当にどうしようもない。これでは探しようがない。

 

 ちょっと可哀想だが、これは諦めるしかないよなぁ……。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 と、そこでヴィヴィが声を上げる。

 

「どうした、ヴィヴィ?」

 

「あの、実は私、以前無限書庫でエレミアの名前を見たことがあるんです」

 

 ………なにぃ?

 

「あるの、記録!?」

 

 思わず全力で突っ込んだ。

 

 いやいや、あるんだったら調べろよ歴史研究家!!

 

「なるほどなぁ。無限書庫は本の量が莫大すぎて、まだ完全に整理もされてないから、手付かずなところがあるのは当然やしなぁ」

 

「と、いうより、あそこは確か民間人は立ち入り禁止のはずでは?」

 

「社会科見学か何かじゃねえのか?」

 

 と、外野が色々と推測するが、ん? つまりは―

 

「ああ、やっぱり十歳で司書資格はさすがの時空管理局でもレアなのか」

 

 俺は知ってるから別の意味でちょっと驚いた。

 

 やはり実力者でなければ時空管理局でも資格はとれないよな。そこは魔法世界と同じか。

 

「因みに、私達も立ち入りパスはもらってます!」

 

 と、リオが立ち入り許可証を見せてくるので、とりあえず頭をなでておいた。

 

「うん、すごいすごい」

 

「えへへー」

 

 しかしまあ、それならかなり簡単だな。

 

「司書資格持ちがいるなら、直接調べてくればいいんじゃないか?」

 

「そうね。当時の本かどうかはさておいて、調べてみて損はないでしょう」

 

 俺の意見にシルシも同意する。

 

 ああ、このまま何もしないよりはいいだろう。

 

 それに、言い方は悪いがヴィヴィ達は既に敗退してるから、時間もあるしな。

 

「そういうわけで、私達が行って調べてきます!」

 

「任せてください!」

 

「一日もあればわかります!」

 

 と、ヴィヴィ達は元気よく言うが、しかしなぁ。

 

 十歳の女の子に任せっぱなしってのも、流石にあれだな。

 

「あの、それなら私も行きます」

 

(ウチ)も……」

 

 当然当事者というか言い出しっぺのハイディはそういうし、エレミアの末裔であるジークリンデも立ち上がる。

 

「アインハルトさんは休んでてください。右足が砕けてたんですよ!」

 

「チャンピオンも、次の試合があるんですから……」

 

 ヴィヴィオやコロナが慌てて止めに入るが、しかし俺としてもなぁ。

 

 とはいえ、俺達完璧に部外者だし、ちょっと言い出しにくいといえば言い出しにくいしなぁ。

 

 ……いや、やっぱりそういうわけにもいかないな。

 

「なあ、それ、オレ達も参加できねえか?」

 

「私も行かせてもらえないかしら」

 

 と、ハリーとヴィクトーリアも手を上げる。

 

「やっぱり(ウチ)もや」

 

 と、ジークリンデもやっぱり立ち上がった。

 

「え、でも……」

 

「いいではないか。私も参加しよう」

 

 と、止めようとしたコロナを遮ってアルサムも参加を表明する。

 

「ずるいぞお前。俺が先に言うつもりだったんだが」

 

「ならお前も参加すればいいだけだろう?」

 

「いやいや! アルサムさんや兵夜さんまで巻き込むわけにはいきませんって!」

 

 リオに止められるが、しかしそういうわけにもいかない。

 

「いや、俺達は仕事の方が終わって暇でな。ぶっちゃけやることなかったからちょうどいいよ」

 

「流石に言い方が悪いがそういうことだ。そんなときに子供が無茶をするとなれば放ってはおけん」

 

 俺とアルサムはそういって視線を交わす。

 

 ああ、アルサムも警戒してるんだろうな。

 

「そうですわ。子供達にばかりこんなことをさせるわけにはいきませんもの」

 

「そうや。それに、(ウチ)にいたってはご先祖様のことなんやし」

 

 うん、ヴィクトーリアもジークリンデもすごいまともなこと言ってる。

 

 この子達常識人だ。偉いね!

 

「それに、試合があるからってトレーニングばっかりしてるわけじゃないんだぜ?」

 

 と、ハリーはヴィヴィオの頭をなでながらそう笑う。

 

「トレーニングばかりしてたら気が滅入るし、筋肉は適度に休ませないと脆くなるからな。書庫探索なんていい気晴らしだろう」

 

 俺もそこにフォローを入れておいて、さらに視線を周りに向ける。

 

「それで、他の方々はどうするのかな?」

 

 できれば全員来てくれると嬉しかったり知るんだが……。

 

「敗戦組は気兼ねなく付き合えるね」

 

「ですね。それに私はチャンピオンのセコンドですから」

 

「あ、だったら僕も行きます!!」

 

 うむ、決まりだな。

 

「流石にあまりたくさんいると迷惑ね。私は今回パスしておこうかしら?」

 

「そうですね。では、お二人が冥界に帰還された後の仕事の準備にでも取り掛かっておきましょう」

 

 シルシとシェンの秘書組は辞退するが、それでも十分集まっただろう。

 

 それに、一応念のための後詰も必要だしな。

 

 さて、無限書庫……だったか?

 

 どんな本があるのか、ちょっとワクワクしてきたぞ、これは。

 



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本局、お邪魔します!

今回、だいぶ長めです


 

 時空管理局本局は、結構なんていうか過ごしやすそうなところだった。

 

「へえ。流石は多次元連盟組織の本部。中々いい感じじゃないか」

 

「そうだな、冥界と比べて近代的だ。冥界も参考にした方がいいのかもしれんな」

 

 俺とアルサムはそう言いながら、ヴィヴィ達と少し離れて、しかし離れすぎないように進んでいく。

 

「しかし、早朝トレーニングをこんな可愛い女の子達と一緒にできるだなんて、思わぬラッキーだな」

 

「お前は本妻も側室もいる身だろうが」

 

「男同士の会話ってやつだよ、お前は興味ないのか?」

 

 軽く馬鹿話に付き合えるかどうかの確認もかねて聞いてみるが、アルサムは静かに首を振った。

 

「仮にも未来の魔王となる身だからな。愛情だけで相手を選ぶわけにはいくまいて」

 

「硬いな」

 

 少しぐらい我儘言ってもいい年だと思うが。

 

「そうではない。魔王の道とはそれ相応に険しいだろう。私が愛しているというだけのわがままで、それに付き合わせるわけにはいかないだろう? その険しい道のりを、私とサポートし合いながらとはいえ歩いていけるものでなければ、苦しめるだけだ」

 

 ……ふむ、やはりこいつは真面目だな。

 

 恋愛に対しても、魔王を目指す道に対しても真面目だ。

 

 時々大ボケぶちかますとは言え、やはりこいつは立派な奴だ。

 

 是非魔王になってほしいと心から思うが、しかし嫁さんは本当にどうしたものか……。

 

「そういえば、シェンとかどうなんだ? 付き合いが長そうだが」

 

 ふと気になっていたことがある。

 

 シェンの戦闘能力は、憑依させた英霊の能力で持っているようなものだ。

 

 フォード連盟の復興に充てる傍ら、聖杯の力で英霊の憑依を永続化させているが、それ以外の戦闘能力はそこまで高い方ではない。

 

 ぶっちゃけ、素の戦闘能力なら右腕四天王の方が強いだろう。

 

 それなのに、彼女はアルサムの女王をやっている。これはどういうことなのか。

 

 もしかし、アルサムはシェンのことを―

 

「ふむ、シェンは、親父殿が連れてきた者だ」

 

 と、アルサムは告げる。

 

 ん? 連れてきた?

 

孤児(みなしご)ではあるが善意で拾ったのではない。教育の力をある程度は理解していた親父殿は、幼少期から英才教育を施せば、下級悪魔でもそれなりに役に立つ者を用意できるのではないかと考えた。忠誠心を植え付ける教育を与えれば尚更だとな」

 

 なるほど、独裁国家がそういうのたまにやるよな。

 

 ストリートチルドレンを集めて、閉鎖された場所で洗脳じみた教育を施して忠誠心の強い駒を集めるという手法。

 

「彼女は俺の付き人ととして及第点の人物を探すより、一から忠実に育成した方が確実との理由でそういった教育を受けたものだ。……まったく、実の親とはいえ一部の貴族の腐敗ぶりには頭を痛める」

 

 ああ、それに関しては俺も苦労している。

 

 かといってサーゼクス様クラスのフリーダムな人がメインになったらそれはそれで困るしなぁ。

 

「その洗脳じみた教育から引き離す為には、私個人の権力で庇うのが最も明白。それも、全能力があげられる女王の駒ならば護身能力も高まるだろう」

 

 そんな理由があったのか。

 

 アルサム、やっぱりお前は立派な奴だよ。

 

「ああ、やはりお前は人の上に立つ資格があるな」

 

「どうしてそういう話になる。……そういうわけで、もし彼女が望むのなら、彼女が望む相手にトレードするのもやぶさかではないのだが、シェン自身はそんな意志を見せていなくてな」

 

「そりゃそうだ」

 

 お前以上の好物件、そう簡単にはお目にかかれないって。

 

 そんな主の元で育っているのなら、一生仕えていきたいって思うのも不思議ではないが。

 

「私が彼女の忠誠を捧げられるに相応しい相手ならいいし、そうであろうともしているが、しかし本当にそこまでできているのかとなるとどうしても気になってしまうものだ」

 

「まあ、そういう不安は出てきちゃうよなぁ」

 

 ああ、俺に似たような不安を感じたことはある。

 

 感じたことはあるから、アドバイスだ。

 

「一度、腹を割って話し合うのをお勧めする。意外と馬鹿な考えだったりすることがあるからな」

 

「ふむ、お前が教会との模擬戦でやらかしたようにか。……あり得るな」

 

「そこでそれいうか!!」

 

「何がですか?」

 

 と、思わず大声を出してしまったせいでヴィヴィに介入の隙を与えてしまった。

 

「なに、この男は彼女が自分と主の為に鍛え上げる為、師とみなした相手と一緒に訓練をしているのを、その師とみなした相手に心変わりしたのではないかと勘違いして、もしそうならそうとはっきり言ってくれとか言ってしまってな。マウントポジションで殴られたそうだ」

 

「全面的に事実だがここでいうな……」

 

 お前をマウントポジションで殴ってやろうか。

 

「ん? 確かその人の嫁さんって、昨日いたシルシって人だろ? そんな風にする人には見えなかったけどな」

 

 ハリーがそう言って首をかしげるが、いや、確かに別人です。

 

 別人ですけど果たして言っていいものか。

 

「あ、確か冥界って何人とでも結婚できるんでしたよね、アルサムさん」

 

「少し語弊はあるが、おおむね間違ってはいないな。宮白兵夜ほどの実力者ともなれば、妻を複数娶ることも認められる」

 

 リオちゃんもアルサムもそんな会話はここでしないでくれないかな!?

 

「す、進んだ文化ですのね……」

 

「冥界すげぇ……」

 

「私も、最初に聞いた時は驚きました」

 

 ハイそこの金髪三人! これ以上話をそっちに進めないでね!!

 

 俺がどうにかして話を帰れないか頭を回転させたその時だった。

 

「……おや、兵夜くんにアルサムくんじゃないか」

 

 その良く通る声に、俺達は視線を一斉に向けた。

 

 あ、サーゼクス様。

 

「そういえば、サーゼクス様はこれから管理局と会談でしたね」

 

「ああ、これからの冥界の未来の為にも、いい会談にしようと思っているよ」

 

 そういって朗らかに笑うサーゼクス様は、ヴィヴィ達に顔を向けると軽く一礼した。

 

「兵夜くんのお友達かな? 私はサーゼクス・ルシファー。一応冥界の魔王をやっているよ」

 

「ま、魔王!? 魔王って、つまり一番偉い人かよ!」

 

「し、失礼ですよハリー選手! もうちょっとかしこまって!」

 

 思わず指差ししたハリーの手を下げながら、たしかエルスって名前の子が慌てて一礼する。

 

 それを見ながら、サーゼクスさまは軽く笑って手を振った。

 

「気にしなくていい。今は私の個人的な部下しか近くにいないからね」

 

「そうだぜ嬢ちゃん! 俺たちはあんま堅苦しいのが好きじゃねえからよ、何ならタメ口でもいいぜ!」

 

「駄目ですよセカンド。流石にそれでは魔王としての示しがつきません」

 

 と、スルト・セカンドさんとマグレガー・メイガースさんがしゃべる中、俺はどうしたものかと思った。

 

「それでサーゼクス様、会談の方は良いんですか?」

 

「そろそろ始まるところだよ。シェムハザ殿とミカエル殿もそろそろ着いている頃だろう」

 

「そういうわけなんでな! 俺達はちょっと急いでるんで失礼するぜ!!」

 

「いえいえ、お気になさらずー」

 

 と、結構平然と八神さんは受け止めて、サーゼクス様達は去ろうとする。

 

 が、その前にサーゼクス様達は足を止めた。

 

「そういえば、兵夜くん達が一緒にいるということは、もしかして高町ヴィヴィオくん達もいるのかね?」

 

「あ、はい。私がヴィヴィオです」

 

 と、ヴィヴィオ達が手を上げる。

 

 それを見て、サーゼクス様は振り返ると、ちょっと周りを確認してから深く一礼した。

 

「……ありがとう。君達のおかげで、冥界の民に新たな悲劇が生まれることを阻止することができた。そして、君達のような子供に一世界の命運を預けてしまってすまなかった」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

 四人揃って思いっきり驚いている。

 

 まあ、一世界のトップが自分に対して深くお礼とお詫びを入れてきたら、流石に驚くよなぁ。

 

 それに苦笑しながら、サーゼクス様は顔を上げると微笑んだ。

 

「できれば、兵夜くんとは仲良くしてやってほしい。それと、悪魔がらみで問題が起きたらぜひ相談してくれ。職権乱用にならない範囲で力を貸すよ」

 

 まったく。

 

 ウチの義兄はお人好し過ぎだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無限書庫の該当区域の入り口付近で、俺たちは待機してる。

 

 子供達のレクリエーションというか交流会も兼ねてという感じだった。あと俺もアルサムもベルカ語はわからないからな。

 

「何ていうか、気持ちのええ人やったね」

 

「民の望む理想の王がそのままやってきたようなものだからな。民からの支持も厚い良い王だろう」

 

「とはいえリベラルすぎるところがあるからなぁ。俺としてはもうちょっと堅い方が好みだったりするわけですけど」

 

 八神さんとサーゼクス様達について話しながら、俺達はヴィヴィが本を見つけるのを待っている。

 

「そうなんか。まあ、色々裏技とか使わへんと上手くいかない時とかあるからなぁ。私もそれで苦労したわ」

 

「できれば正道で行きたいものではあるがな。しかし政治とは清濁併せ呑む精神でなければいかんものなのは理解している」

 

 政治的な話はアルサムに任せて、俺は無限書庫の中を見渡しながら色々考える。

 

 何でも無限書庫は、時空管理局があるよりも前から存在していたらしい。

 

 その上で、数多くの世界の本がどんどん詰め込まれていくから、中々解析が進んでないそうだ。

 

 十数年前まではもっと酷かったらしいし、色々時空管理局も大変だということか。

 

「そういえば、兵夜」

 

「どうした、ノーヴェ」

 

 ふむ、考えてみるに次の試合のことだろうな。

 

「次の試合、シュトリズセイバーチームだったか? 強いんだろ」

 

「まあ、な。向こうも結構出し惜しみしてるからなかなか難易度が高い」

 

 シュトリズセイバー。久遠がリーダーを務めるチームだ。

 

 シトリーの剣(シュトリズセイバー)か。あいつらしいネーミングだ。

 

「最強戦力は間違いなく久遠。そして次点として松田だろうな。あいつらの戦闘能力は高い」

 

 久遠の戦闘能力は痛いほど知っている。

 

 攻撃が大味気味の暁や須澄ではカモにされるだろう。相手をするのならば、俺か―

 

「ノーヴェ。悪いんだが、場合によっては久遠の足止めを頼んでいいか?」

 

「いいけどいいのか? お前の彼女の……一人、なんだろ?」

 

 ちょっと言いにくそうにしながら、ノーヴェは聞いてくる。

 

 まあ、できることなら俺が決着をつけるのが一番ではあるのだろう。

 

 だけど―

 

「俺がそんな素直なタイプじゃないのは知ってるだろ? あいつももちろん知ってるから気にするな」

 

 ああ、俺はそれより勝つことを狙うタイプだ。久遠もそんなことはわかってる。

 

 それで勝ち目が五割以上あるなら十分やるが、それよりもやるべきことがあるのならそっちを選ぶのが俺だ。

 

「まずは松田と元浜を始末することから始めないといけないしな。そっちに注力するとなると、おそらくお前が一番久遠と戦える。あいつの強さはいわば経験に裏打ちされた強さだからな」

 

「確かに経験じゃああたしが一番多い方だけどな。……で、なんでそんなに松田と元浜ってを気にかけるんだ?」

 

 まあ、そうだろう。

 

 シュトリズセイバーチームは、その大半が実戦経験こそないが久遠の教導を受けている剣士達で構成されている。

 

 そんな中、大会に出れるだけの実力があり、なおかつ出ようと思うだけの度胸がある奴だけが選ばれているわけだ。

 

 その上で、足りない数を松田と元浜を足すことで補っているチーム。そういう意味では、松田と元浜が人数合わせと思われても仕方がない。

 

 だがしかし。

 

「あいつらのスケベ根性なら、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を習得している可能性が高い。それがある以上気を付けないといけないからな」

 

「……ルール上は禁止されてるんじゃなかったっけ?」

 

 確かにその通りだ。

 

 洋服崩壊や乳語翻訳は、一応今回のルールでは使用できないようになっている。

 

 いかに中継では全裸になったら流石に加工されるとはいえ、試合している連中はガン見できるからな。その辺を考えればプライバシーにちゃんと配慮できてるかというと難点だ。

 

 そして。

 

「ノーヴェ。はっきり言うとお前も含めてウチのチームの女性陣は皆美少女揃いだ」

 

「お、おぅ。それが?」

 

 照れてるところ悪いが、これはかなり真面目な話だ。

 

「あいつらが我慢できずに暴走して洋服崩壊を発動する可能性がある。十中八九習得しているだろうしな」

 

「……どんだけ女の裸を見たいんだよ」

 

 頭痛を感じているのがよくわかるぞ。俺も時々頭痛い。

 

 とはいえ、それだけの魅力あふれる美少女達である以上仕方がない。

 

「ヴィヴィもハイディも変身前後ともにそこらのアイドルが裸足で逃げ出す可愛さをもち、姫柊ちゃんも名前の通りお姫様できそうな美少女。そこにボーイッシュ属性をフォローするノーヴェ(お前)がいて、お嬢様属性のシルシが追加。挙句にアホの子属性のトマリに、悪落ちアップとウチはバリエーションが豊富だ。ぶっちゃけ俺はテンションバク上がりだ」

 

「正直だな。いや、褒められて悪い気はしないけどよ」

 

「まあな。まあ、そういうわけであいつらが暴走しないかどうかと言われるとちょっと自信ない」

 

 そして……。

 

「ぶっちゃけ新技開発されたら初回はノーマークだ。あいつらの場合それも警戒しないといけないからな」

 

「なあ、そもそもルール改正した方がいいんじゃないか?」

 

 ごめんね、いい加減で!!

 

 何ていうか頂上存在だらけだからフリーダムなんだよ、ホント。

 

「アルサムが魔王になったら、ぜひ考えて欲しいところだ」

 

「魔王が代変わりしなけりゃ無理なのかよ」

 

 ああいうの面白がりそうな人達ばかりなんだよ、魔王って。

 

「とはいえ、ノーヴェ姉様が競技試合に参加できるのは何よりですね」

 

「そうだね。ノーヴェは真面目にストライクアーツを練習してたし、それを見せれるのは良いことだよ」

 

「うるせえよ双子。……ま、まあ応援してくれるのはありがたいけど」

 

 おお、姉妹同士で仲睦まじいことで。

 

「さて、それにしても、何もなければいいんだが」

 

 ああ、そこが不安だ。

 

「そんなに不安にならなくてもええよ。ここは一応本局の中やからね」

 

「そうもいかない。エイエヌがくたばって従僕が壊滅したことで、エイエヌが時空管理局にどこまで手をまわしていたのかが分からないからな」

 

 ああ、俺もできれば安心したいんだがそうもいかない。

 

「確かにな。それに絶霧の量産型のことがある。あれの対策術式は貴重ゆえに、まだ時空管理局にはサンプルを渡していないからな」

 

 アルサムの懸念も当然だ。

 

 絶霧の神出鬼没さには色々と苦戦した。今でも完全な意味での対抗術式はできていないし、量産型も存在するのが厄介だ。

 

 あれで転移されたら、時空管理局でも追跡や察知は困難だろう。下手をすればそれによってすでに何人か入っていることを考慮するべきだ。

 

 今回の会談、それを含めた各種危険技術の情報を教えるのが本命だったはずだ。少なくとも魔獣創造と絶霧のデータは渡す予定だ。

 

「……そんなに厄介なんか、絶霧っちゅうんは」

 

「ああ。聖書の神が作り上げし、神すら殺す究極の十三の兵器だからな。そちらでいうロストロギアにも匹敵するものと考えてくれていい」

 

 まったく。聖書の神も面倒なものを残してくれた。

 

 まあ、こちらも有効利用させてもらっているから仕方ないんだが、安全装置をシステムに組み込むぐらいはしてもいいんじゃないだろうか?

 

「ついでに言うと、割とイベントごとと重なる形で奴らとは揉めたんでな。今回の会談でも、ちょっかいかけてこないかどうかが不安なんだ」

 

「とはいえまだ交流が進んでいない組織との会談なので数も割けなくてな。そのため本来なら外務担当に任すべき事案だが、戦闘能力を重視した編成にしてあるのだ」

 

 そう裏事情を説明して、アルサムはため息をついた。

 

 ああ、俺たちも対テロ関係での実績がなければ、参加できなかったからなぁ。

 

 それでも全員が来れたわけではないし、色々大変だよ。

 

 ほんと、ちょっと迷惑がられてもおかしくないな。

 

 非難の目とか向けられてもおかしくないんだが……

 

「ふふっ」

 

 ん? なんで笑ってんですか?

 

「いや、笑い事じゃないんですけど」

 

「そっちじゃあらへん。……つまり、兵夜さんもアルサムさんも、ヴィヴィオ達の護衛の為に参加してくれてるってことやろ」

 

 ………

 

「ふむ、さすがは二十代で司令につくだけのことはある。慧眼の持ち主と称賛させてもらおう」

 

 ちょっと顔を赤くしながら、しかしアルサムは否定しない。

 

 まあ、俺も事実なので何も言えないんだが。

 

「フィフスは結構フットワークが軽かったからなぁ。その後継のフォンフも自分から来かねないし、だったらいっそのこと慣れてる俺自身が動くのが適任かと思いましてね」

 

 苦笑いしながら、俺はそう告げる。もう隠しても意味ないしね。

 

 まあ、本当に襲撃されたとしても、奥の奥であるこんなところまで入ってこられるとは流石に思えないんだが―

 

「あれ? おかしいな」

 

 と、そこでオットーとかいうノーヴェの妹が首を傾げた。

 

「どうかしたのか?」

 

 アルサムが聞きながらオットーが開く画面をのぞき込むと、すぐに警戒の色が浮かぶ。

 

「宮白兵夜。どうも通信妨害をされているようだぞ?」

 

 ………あの野郎。まさかヴィヴィ達を最初に潰すつもりか!!。

 

 くそ、急がないと!! 待ってろ、ヴィヴィ、ハイディ!!

 




一応地球もフォンフのことは警戒しているのです。

最優先は自分側とはいえ、お人よしがトップなので時空管理局のことも気にかけています。それでもいろいろ遅くなりましたが。

そして、これまでの経験からこのタイミングで仕掛けてくる可能性は十分にあるわけです。これまでの禍の団との経験則からある程度のタイミングは読んでいます。とはいえそんなカントともいえるようなもので時空管理局に警戒厳重にしろとは言えるわけもなし。

そんなわけなので、兵夜もアルサムもヴィヴィオたちが心配なのです。極秘会談とはいえ、フィフスの恐喝網はかなり広いですから。壁に耳あり障子に目ありです。


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潜入、されてました!

さてさて、突然の緊急事態の行方は―


 

 フォンフかと思ったら別件でした。

 

 なんでも、クロゼルグとかいうオリヴィエの友達の末裔が、先祖の恨みとかで襲い掛かってきたらしい。

 

 八つ当たりは絶対許さない俺としては一発度突き倒してもいい案件だが、しっかり補導された以上まあ今回は見逃してやろう。俺が先に辿り着いていればお尻ぺんぺんでは済まなかったぞ。

 

 それはそれとして、競技選手としては破格の戦闘能力を持つあの子達を相手に、単独で大半を無力化したのは驚くべき能力だ。

 

 能力なのだが……

 

「そろそろ着替えたー?」

 

「あ、もうちょっと待ってくださーい!」

 

 ヴィヴィの声を聴いて、俺は目を閉じる。

 

 なぜか小さくして瓶に詰めるという無力化の仕方をした為、全員全裸になるという弊害が勃発した。

 

 その為俺達は全く介入できず、今も目隠しをして無重力空間でぷかぷか浮いているというわけだ。

 

「……アルサム。俺、なんか無性に涙が出てきそうなんだが」

 

「諦めろ。こういう時もあるだろう」

 

 うん、そうだね。

 

 しかし、曲がり角一枚超えた向こうに、裸の美少女達がお着替えタイムか。

 

「すいませーん! 男の劣情がすごく張り裂けるほどエレクトするんで、早く着替え終わってくれませんかー!」

 

「それはセクハラだぞ馬鹿!!」

 

 ノーヴェに怒られた。

 

 だがしかし、この状況は何というかイッセーなら耐え切れずに覗きに行くレベルだと思うんだ。

 

「とりあえずイッセーは連れてこなくて正解だったな。あいつ居たら絶対覗いてる」

 

「だろうな。赤龍の乳乳帝を食い止めるのは、こちらとしても骨が折れる」

 

 うん、あいつはあいつで別件で待機しててよかった。

 

 しかしまあ。

 

「流石にちょっと考えすぎだったか。フォンフ達もここまでは入ってこれないようだな」

 

「その様だ。まあ、無事で済んだのならそれでいいだろう」

 

 俺達はとりあえず安心する。

 

 さて、本部の方は無事だといいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、想定外の形でトラブルが発生したわけだが、しかし本来の目的の収穫もきちんとあった。

 

 リオがヴィルフリッド・エレミアの手記を発見したのだ。

 

 細かいところはvivid読んでねと露骨なマーケティングをするが、とりあえずポイントを要約すると。

 

 1 クラウス王子はある意味鈍感

 

 2 オリヴィエさんやせがまん

 

 3 ヴィルフリッドさん苦労人

 

 ということになるだろう。

 

 かなり軽く書いたが、しかし結構重い話でも合った。

 

「……これは、一番いたたまれないのはヴィルフリッドなのだろうな」

 

 アルサムがそう言って天を仰ぐ。

 

「幾度となく説得してもオリヴィエを止めることができず、そしてクラウスとは悲しみを分かち合うことすらできずに死別する。……それで手記が終わらせねばならないなど、無念以外の何物でもあるまいて」

 

 まったくだ。歴史の悲劇としか言いようがない。

 

 そして、そんな悲劇を自分の記憶として持っているハイディの気持ちはどうなのだろうか。

 

 それに、ヴィヴィもヴィヴィで大丈夫だろうか。

 

 仮にもオリジナルのそんな悲劇を聞いて、複雑な感情を抱かない方が変だとは思う。

 

「ヴィヴィ、大丈夫?」

 

 ヴィクトーリアもそう思ったのか、気づかわし気に声をかける。

 

「はい、大丈夫です」

 

 ……うん、どうやら本当に大丈夫そうだ。

 

 やっぱり心が強いな、ヴィヴィは。

 

 とはいえ、それに頼ってばかりでもいられない。ここは率先して切り替えるとするか。

 

「とりあえず、これで目的は終わったようなものだ。……本局に戻ってお茶にしよう。お兄さんが奢るよ」

 

「そうだな、少し気分を切り替えた方がいいだろう」

 

 アルサムがそう言いながら、魔方陣を展開して通信を繋げる。

 

「シェン。そろそろ戻るので、スマンが喫茶室に行って人数分の席を開けてもらうように言っておいてくれ。もちろん、お前の分もだ」

 

 さらりと気遣いができるいい男だ、アルサム。

 

 だが、返事は返ってこなかった。

 

「む? 転移の影響か?」

 

「ああ、だったら局の方の通信で聞けばいいんじゃないか?」

 

 俺はそう言ってヴィヴィ達の誰かに頼もうとするが―

 

「………あ!?」

 

 その声に、俺達は振り向いた。

 

 そこには管理局の局員が二人ほど、ぎょっとした顔で立ち尽くしている。

 

「あら、この区画にいるのは私達だけだと思っていたのですが」

 

「え、ええと、その……」

 

 ヴィクトーリアの言葉に局員達はしどろもどろになるが、すぐに我に返ったのか真剣な表情を浮かべる。

 

「た、高町一等空尉の指示で護衛に来ました! 今、本局が襲撃を受けております!!」

 

「何?」

 

 糞が、本当に来やがった!!

 

「しゅ、襲撃だぁ!?」

 

「テロですか!? それも本局に!?」

 

 ハリーとエルスが真っ先に声を上げ、そしてその混乱は伝播しかかる。

 

「静まれ! ……それで局員、敵の装備と人数はわかるか?」

 

「はい! 人数は数百人ほどですが、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)式の気の運用術や、学園都市式の科学武装を運用しているとのことです」

 

 一喝したアルサムに問いただされ、局員は戸惑いながらもすらすらと答える。

 

 そうか、なるほど。

 

「それで、お前達はなんでこんなところに?」

 

「はい。高町一等空尉の指示で皆さんの護衛をまかされました。申し訳ありませんが、ここで待機してくださいとのことです」

 

 なるほど、筋は通ってるな。

 

「た、確かに私達は競技選手ですし、実戦に参加させないようにするのは当然ですね……」

 

「でもいいんちょ、黙ってるのは(ウチ)としては心苦しいんよ。なんか手伝えることはないですか?」

 

「と、言われましても、我々の権限ではとても……」

 

 エルスに反論するジークリンデに、その局員はしどろもどろに戸惑う。

 

「とにかく、上に連絡を取りに行きますので皆さまは待機していてください。了承が取れたのなら、皆さんをお連れしますので」

 

 といって、局員の一人が連絡を取る為に離れようとするが、その必要はない。

 

「……にしては、俺達を見つけた時に狼狽してたな」

 

 俺は、その言葉をその二人に突き付ける。

 

「え? いや、聞いてたより人数が多かったので戸惑って―」

 

「いや、あれはそんなレベルの驚きじゃない。なんでこいつらがここにいるんだよ的な驚き方だったな」

 

 馬鹿馬鹿しい。あの驚き方で俺をごまかせるとでも思ってるのか?

 

 第一―

 

「そもそも、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)や学園都市などの詳細は、今日の会談で告げられる情報。現場の連中に伝わるのはまだ先だぞ、……フォンフ!!」

 

 躊躇なく偽聖剣を展開すると、俺は遠慮なく首を蹴り落としにかかる。

 

 そんな遠慮のない攻撃を、その局員は素手で防いだ。

 

 ただの局員ではありえないことだ。上級悪魔の放つ、主神クラスの神々を材料に使った、殺しに来ている蹴りを防ぐことなど。

 

 それだけで、こいつがただものでないことの証明だ。

 

「……やれやれ。何とかなると思ったんだがな、これが」

 

「お前ちょっとアドリブ下手すぎだろ。それで潜入特化とか欠陥品じゃねえか」

 

 局員二人はそういうと、その姿を変じさせる。

 

 まったく同じと言っても過言ではない、その二人の男。

 

 ああ、やっぱりと思ったら本当にやっぱりか。

 

「やはり貴様か、フォンフシリーズ!!」

 

 アルサムがルレアベを構えながら、ヴィヴィ達を庇う為に一歩前に出る。

 

「ふぉ、フォンフ!?」

 

「ここで来ますか!!」

 

 リオやハイディも戦闘態勢を取る中、俺はフォンフ二人と睨み合う。

 

「……お前がここにいるということは、本局を襲撃しているというのは本当か」

 

「ああ、ちょっとこちらの技術のデモンストレーションにな。映像は大絶賛全世界配信中だっ!」

 

 放たれる炎を纏った拳を、俺はかわして後ろに飛びのく。

 

 奴は滅龍魔法の使い手。龍属性を得てしまった俺では相手が悪い。

 

 とはいえ、これはかなりやばい展開だな。

 

「目的はデモンストレーション。つまり、犯罪組織に技術を売ることが目的か」

 

「売るのが目的じゃない。簡単なのをあげるのが目的だよこれが」

 

 アルサムの問いに、フォンフの片割れがそう答える。

 

「時空管理局の方針は、反発勢力の発生を止めることができない欠点を持つ。そいつらに、リンカーコアがなくても魔導士と戦えるようになる技術を教えたらどうなると思う?」

 

「当然反抗勢力の多くがそれに飛びつく。そして時空管理局の治安は間違いなく悪化するのさこれが」

 

 悪そうな笑みを浮かべるフォンフ二人の言葉に、後ろで息をのむ気配が伝わってくる。

 

 この野郎、つまりは……。

 

「時空管理局の干渉を少しでも減らすのが目的か!!」

 

「その通りだ! そのついでに歴史のある物体をくすねようと思って潜入したんだが、まさかお前らが来てるとはなぁ」

 

 ため息をつくフォンフの片割れは、しかしヴィヴィ達を見るとにやりと笑みを浮かべる。

 

「だが、エイエヌ事変の礼とプロトの仇討をするにはいい機会か。……将来性のある敵の若い芽は、早めに摘んでおいた方が得策だなこれが」

 

 そして放たれるのは正真正銘の殺気。

 

 密度の濃いそれに、競技選手たちが一瞬息をのむ。

 

 しかし、そんなものは慣れれば意外と何とかなるものだ。

 

 俺もアルサムも、遠慮することなく全力で攻撃を叩き込む。

 

「させると思うか!!」

 

「お前本当に死ねよ!!」

 

 遠慮なく叩き込んだ攻撃を、しかしフォンフ達も炎を纏って受け止める。

 

 そして、フォンフの片割れの姿が変貌する。

 

 化物と人間をマーブル模様で混ぜ合わせたかのようなその姿は、まるでお伽噺に出てくる悪魔の様だ。

 

 これは、どうやらかなり厄介な相手だと見て間違いない。

 

「それでは改めて名乗ろうか。俺は、フォンフシリーズ基礎モデル、フォンフ・バーサーカー」

 

「そして俺は潜入特化型フォンフシリーズ、フォンフ・シノビコームだ!!」

 

「ネーミングセンスが単純なんだよ!!」

 

 もう少し捻れ、この馬鹿どもが!!

 




―遂に本格登場にして本格戦闘のフォンフシリーズ。

シノビコームは本当に潜入特化なのでプロトに毛が生えた程度ですが、バーサーカーは非常に強敵。特に今回の状況ではアルサム以外ならだれが相手になっても相性がいいという反則仕様です。……はい、これだけでバーサーカーのほうの正体は推測できます。原作サーヴァントから出しました。









なにげに管理局アンチがおおいリリカルなのは。やはりその理由の一つは管理局の方針になると思います。

まあ、日本における銃刀法違反とそう変わらないとは思いますし、個人的には一理ある方針だとも思いますが、人によっては受け付けないのもいるんでしょうね、この方針。


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バーサーカー、乱舞

 

Other Side

 

 一方その頃、本局でも戦闘が勃発していた。

 

 時空管理局の、ある種後方ともいえる本局がいきなり襲撃される緊急事態。即応で対応ができているのは、かなり僥倖だった。

 

 だが、その戦闘は想定以上に激戦となっている。

 

 その最大の問題点は、その技術にあった。

 

 時空管理局が把握している技術とはまったく異なる技術体系による襲撃。

 

 このノウハウのない中、負傷者こそいても戦死者を出さずに済ませている辺り、大規模次元間組織の時空管理局の、そのまた本局を防衛する精鋭達のたまものである。

 

 そして、彼らが防衛線を展開する間に矛となるのは三大勢力。

 

 攻撃に運用されている技術から、既に彼らは襲撃者が禍の団の残党に関与していることを見抜いていた。

 

 ならばこれはこちらの不手際。禍の団を未だ根絶できていない自分達の責任だ。

 

 ゆえに、彼らを援護するのは当然のこと。

 

 何より、彼らはそのために派遣されたのだ。

 

 今回の会談においては、エイエヌ事変の関係者であるアルサム及び兵夜はいくつかの会議に参加が決定。及びある意味関係している赤龍帝兵藤一誠の参加も決定された。

 

 だが、兵藤一誠及び宮白兵夜は、大きなイベントごとに連鎖もしくは直撃する形で大きなもめ事に関わる事が意外と多い。

 

 ゲン担ぎの逆転現象というべき警戒で、参加者は極力戦闘能力の高いもので選ばれていた。

 

 セラフォルー・レヴィアタンと共にサーゼクス・ルシファー。

 

 ミカエルの護衛にヴァスコ・ストラーダ。

 

 堕天使側からも、忙しいアザゼル杯のゲームを推して堕天使バラキエルが参加している。

 

 そんな準備が功を奏し、彼らは激戦を潜り抜けていた。

 

 だが、そんな彼らでも取りこぼしはある。

 

 問題は、寄りにもよってそれが獣鬼をベースにして開発されたフォンフ・シリーズだということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォンフ達はいったん距離をとると、それぞれ床や天井に着地する。

 

 そしてその瞬間、影が広がり中から大量のモンスターが出現する。

 

「ええい! 魔獣創造の魔獣精製能力は健在ということか!」

 

「だがエイエヌ事変では出してこなかった筈だぞ!!」

 

 俺とアルサムは全力で前に出ながら叫ぶ。

 

 競技選手であるヴィヴィ達に、エイエヌの相手は荷が重すぎる。

 

 とはいえ、プロトの時はそんな芸当してこなかったぞ!

 

「バカが! 試作型より弱い正式生産仕様など、フィクションにしか存在しない!!」

 

「試作型で発覚した問題点を修正してこその正式仕様なんだよ!!」

 

 フォンフ達が超正論を叩きつけてくる。

 

 だよね! 量産型は試作型より優れてなきゃいけないよね!!

 

「完全なワンオフなど非現実的ぃ!」

 

「量産できてこそ完成品だこれが!」

 

 それは俺の偽聖剣に対する嫌味か!!

 

 とはいえ、そのまま焔を纏いながら、連続攻撃を俺に向かって叩き込もうとしてくる。

 

 ええい、滅龍魔法を運用して俺から潰す腹か!!

 

 しかも気づけば魔獣達も炎を纏っている。

 

 あ、これ滅龍魔法使えるタイプだ。

 

「死ねやぁ!!」

 

 待て待て待て待て数が多い!!

 

 ええい! こうなれば速攻で切り札を―

 

「させませんわ!」

 

 と、そこに雷を纏った斧の一撃が魔獣を薙ぎ払った。

 

「ヴィクトーリア?」

 

 見れば、既にヴィヴィ達はバリアジャケットを身に纏い戦闘態勢万全だった。

 

「事情は把握できませんが、彼が危険なのは分かりましたわ」

 

「そうだね。競技選手とはいえ、襲い掛かってくる相手を迎撃するぐらいはできないといけない」

 

「というより、管理局志望としては実戦も潜り抜けられないと話になりません」

 

「げ、お前もかよ。……ま、水差してくれた奴らにはお礼してやらねえとな」

 

 既に全員臨戦態勢。しかも構えに隙はない。

 

 フォンフ二人も、その構えに警戒したのかいったん距離をとると魔獣の生成に専念する。

 

「……所詮ルールに縛られた素人かと思ったが」

 

「―どうやら、少しなめすぎてたみたいだなこれが」

 

 警戒度合いを数段跳ね上げながら、フォンフ達は腰を落として構えを見せる。

 

「どうやら、無理をして庇う必要はなさそうだ」

 

「ああ、全員立派な子で俺はなんか感動してる」

 

 ああ、これなら心配は無用なようだ。

 

 だったらこっちも気兼ねはいらない。

 

「雑魚は素通りさせる! 死ぬなよ!!」

 

 実は、フォンフ相手じゃ俺達も欠片も余裕がなかったんで助かった!!

 

 俺達は魔獣達をガン無視して、それを生み出すフォンフへと攻撃を仕掛ける。

 

 幸い偽聖剣は既に修復済み。蒼穹剣を出せれば押し切れる!!

 

 問題は―

 

「後遺症だらけの今のお前が、俺を相手にしのげるものかよ!! オラオラオラオラぁ!!」

 

 そこまで持てるのかということだけだ!!

 

 ええい、シルシがいないのが完全にヤバイ!!

 

 ……だが、俺もこれまでの俺じゃない!!

 

 この激動の二年間、俺だって地獄のような激戦と、過酷なトレーニングを潜り抜けてきた。

 

 内臓や相棒やら失ってきたものも重く多いが、得ていたものも数多い。

 

 そう簡単に、やられるかよ!!

 

「その程度か、フォンフ・バーサーカー!!」

 

「はっ! まだまだ!!」

 

 アルサムとフォンフ・バーサーカーの方も激戦だ。

 

 だが、あいつはむしろ安心できる。

 

 魔剣込みならこの場の味方で文句なしに最強の戦士。それが、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス。

 

 あいつなら、抑え込むだけなら何とかなる!!

 

 俺がシノビコームの方を始末するまで持ち堪えろよ!!

 

 そして、何とか今の調子なら発動まで抑え込めるか!!

 

「中々やるじゃねえか、なら本気出すかぁ!!」

 

 その瞬間、フォンフの姿が急激に縮んだ。

 

 その急激な変化に、俺の攻撃は空を切る。

 

 そして次の瞬間、その場にいたのは二メートルの巨漢。

 

 な、んだとぉ!?

 

「これが俺が宿した幻霊、ドッペルゲンガーの力だこれが!!」

 

 そのまま攻撃範囲が広くなったタックルを喰らって、俺は弾き飛ばされた。

 

 なんて奴だ! 体格まで一瞬で変化しやがった!

 

「ソラソラソラソラぁ!!」

 

 フォンフ・シノビコームは一瞬で体格を様々に変化させながら、滅龍魔法を叩き込む。

 

 糞が! 連続してくらうと体の方が持たない!

 

「オリジナルの無念を晴らすとしようか! くたばれ宮白兵夜ぁ!!」

 

 ええい! ここまで弱体化してたのか―

 

「―ガイスト・クヴァール」

 

 その瞬間、シノビコームの横っ面に打撃が入った。

 

 見れば、ジークリンデがいつの間にか接近していた。

 

 していたが―

 

「神髄モード!?」

 

 おい、いつの間にクリーンヒットをもらった!?

 

「ジークリンデ!? いつの間に!?」

 

「まだ一撃ももらってないはずです! まさかフォンフの殺気で発動を!?」

 

 ハイディそれたぶん正解!

 

 そりゃこいつの殺気を喰らえば、本能的に危機感抱くよな! 難儀な体質!!

 

 そのままジークリンデはフォンフと打撃の応酬を交わす。

 

 シノビコームの姿形を変える能力に対して、ジークリンデは慌てることなく見事に対応してのける。

 

 なんて奴だ、あれ対応するのかよ。

 

「チッ! 何て経験則だ、お前本当に人間か!!」

 

 フォンフも驚く戦闘能力! 流石は十代女子最強の競技選手!!

 

 フォンフもこれには流石に驚いたのか、何発か攻撃をもらう。

 

 だが―

 

「ぬるいなこれがぁ!!」

 

 流石に素体が獣鬼なだけあってぴんぴんしてやがる。

 

 ええい、あの化け物しぶとい!!

 

 しかも、いつの間にか全部の攻撃をギリギリとはいえガードしてやがる。

 

「慣れてみれば意外と隙があるな! お前、本能を飼いならせてないなこれが!!」

 

 チッ! 既に気が付いたか!

 

 ぶっちゃけあの状態、いわば経験による条件反射に体のコントロールをすべて投げ渡しているようなものだからな。

 

 人によってはそっちの方が強い奴もいるだろうが、真の使い手同士では隙になるということか。

 

 フィフスの後継なだけあって、やはり技術の面でも化物か!

 

 とはいえ、おかげで少し休憩できた。

 

「そろそろこっちもペース上げるぞ!!」

 

 はっはっは。フォンフさんや?

 

 あまり俺を舐めてもらっても困るぞ?

 

「どうせ龍属性があるのなら、開き直った方がいいよなぁ!!」

 

 他にも対策はあるが、先ずは力押しで行かせてもらおう。

 

 即座に代行の赤龍帝を展開すると、俺は全力でフォンフに殴りかかる。

 

 ついでに、ジークリンデに精神干渉を行って正気に戻す。今のままでは連携がとりずらい。

 

「あ、あれ?」

 

「とりあえず落ち着け! 本能任せで倒されてくれるほど、こいつの技量はちゃちじゃない!!」

 

 なにせこいつも才能を百年かけて磨き上げてきているからな。

 

 しかも基本性能ではこの場でツートップのフォンフシリーズだ。生半可な戦法では倒されてくれない。

 

 そう、ならば―

 

「こちらもそれ相応の奥の手を切らないとまずいだろう!!」

 

 と、いうことで追加機能展開!!

 

『Divide!』

 

 合成音声が鳴り響き、フォンフの炎に陰りが生じる。

 

 ふむ、ダメもとだったが少しは減らせるか。

 

「てめえ! 白龍皇の能力まで出せるだと!?」

 

「アップデートは基本中の基本だ。大体イッセーの模造品なんだから白龍皇もできないとなぁ!!」

 

 ふはははは! これを獲得するために、俺がどれだけ苦労したと思っている。

 

 そもそも俺の性格なら、半減と奪取(弱い者いじめ)の方が向いていることぐらいは自覚しているのさ!!

 

「所詮お前と俺とでは悪役としての適性に差があるのさ! 根が求道タイプのお前では、下手をすると数十億人殺しかねない俺には勝てん! 勝てないんだよこの野郎がぁ!!」

 

 うん、泣きたい!

 

 何が泣きたいって本当にやってるから否定が全くできないことだよね!

 

「それはお前の平行世界だこれがぁ!!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が発生する。

 

 だが、もう既に状況は終了した。

 

「名残惜しいがこれで終わりだ! お久しぶりねの神魔の蒼穹剣(イーヴィル・シントー・カレドヴルッフ)!! さあ、貴様の処刑用BGMを慣らすといい!!」

 

 そしてもちろんターゲットは―

 

「終わりだ、フォンフ・シノビコーム!! 弱い奴から確実に始末する、それが集団戦の基本だ!!」

 

 数を減らしていく事で、より有効な戦闘を行う事ができる。

 

 何より、味方がやられるというのは士気を下げるのに非常に有効。

 

 さあ、覚悟するがいいフォンフ!!

 

「お前本当に悪党だよなこれが!!」

 

「自覚はしている! っていうか見せつけられた!!」

 

 もはや開き直る他ない!

 

 何より今日はお前らなんだから、狡い手の一つも使わないと勝てないんだよ!!

 

 だがしかし、この状況下ならフォンフ・バーサーカーの方はアルサムが抑え込んでいるから確実に始末できる。

 

 何より能力がわからないんだ。ここでこれ以上時間をかけるわけにもいかない!!

 

 ゆえに何の遠慮も最初からないが吹っ飛ばして俺はケリを放ち。

 

「―いや、そういうわけにはいかないな、これが」

 

 そのケリが、新たに表れた三人目のフォンフに受け止められた。

 

「伏兵!?」

 

 ……まずい。

 

 蒼穹剣は元より多対一もしくは一対一を想定し、規格外の化け物を倒すために用意した能力だ。

 

 その為最も有効な対策は、他の奴がカバーに入るという単純なもの。

 

 ここで伏兵が出てくるとか、流石にまずい!!

 

 が、しかしそのフォンフは一瞬で魔力の粒子になりながら消滅する。

 

 だが、それだけあれば十分だった。

 

「火龍の翼撃!!」

 

「ぬぅ!?」

 

 その隙をついて、フォンフ・シノビコームはアルサムを横から攻撃する。

 

 発生した時間は一瞬。そしてその一瞬でフォンフ・バーサーカーは相手を後退することに成功する。

 

 ええい! つまりこれは仕切り直し。

 

「―悪夢は倫敦の暁ととも滅び逝きて(フロム・ヘル)

 

 その瞬間、フォンフの姿が変化する。

 

 まるでキメラのようなその姿は、見るだけで悍ましさを見せつける。

 

 さらに深い霧が周囲を立ち込める中、フォンフ・バーサーカーは一瞬だけ体を揺り動かす。

 

 そして、次の瞬間―

 

「な―っ!?」

 

 アルサム以外が壁や床や天井に叩きつけられた。

 




はい、こいつがバーサーカーとして選ばれました。初代しゃべるバーサーカー!


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常識的に考えればこう思うだろう。………イッセーだけずるいって!!

 

 なんだ、これは―!

 

 一瞬とはいえ覇輝に次ぐレベルの強さを発揮しやがったぞ、あの野郎!

 

 このレベル、主神クラスでも苦戦する……っ!

 

「さて、俺が本気を出せば、人間なんてこんなもんだ」

 

 フォンフ・バーサーカーはそういうと、静かに近くにいたヴィヴィを見下ろした。

 

「や、やっぱり、強い……っ」

 

「まあな。そしてお前もいずれ強くなる。そういう目をしている」

 

 フォンフは拳を振り上げる。

 

 そして、その腕が炎に包まれた。

 

「だから今のうちに摘んでおこう。万が一にでも誰かの眷属悪魔になったら、厄介すぎる」

 

 やばい本気だ!

 

 くそ、この距離だと間に合わない。アルサムもシノビコームの方に抑え込まれてる。

 

 そして今の俺でもこのダメージ。他の奴らは生きているかどうかも―

 

「させるかぁ!!」

 

 その後ろに、ノーヴェが蹴りを放つ。

 

 むろんフォンフはそれをかわすが、しかしその攻撃に対して完璧なタイミングで砲撃と斬撃が放たれた。

 

「チッ! 連携が完璧すぎるだろこれが!!」

 

「そういう風に作られましたので!」

 

「陛下、ご無事ですか!?」

 

 すかさず双子がヴィヴィを連れて離れるが、しかし状況はこちらが不利。

 

 あの野郎、なんでか知らないが化け物じみた戦闘能力を発揮しやがった。

 

 おそらく宝具。となればその由来を探らなければ仕組みが分からない。

 

 宝具というのは伝承の具現化。時としてそれは、原理の域を超えて権能の如き権利へと姿を変える。

 

 もしその類だとすれば、場当たり的な対応以外に対抗策なんて存在しない!

 

 だが、いったいどんな由来があればあんな急激なパワーアップが―

 

「ええいさせるか!!」

 

 そこに、シノビコームの攻撃を無理やり無視してアルサムが切りかかる。

 

 フォンフ・バーサーカーもカウンターを叩き込むが、しかしアルサムはそれを意地で無視して攻撃を叩き込んだ。

 

 しかし浅い。もとよりフォンフシリーズの耐久力は獣鬼と同じ。個人戦力でどうにかするのは困難だ。

 

 ええい、このままだとこっちが削り殺される!

 

 ……ん? 待てよ。

 

 そういえば、なんでアルサムは攻撃を受けてぴんぴんしてるんだ?

 

 ついでに言えば、ノーヴェ達のダメージが軽いのはどういうことだ?

 

 そういえば、俺も思ったよりダメージが少ないような。

 

 あ、そうだ。

 

 ノーヴェ達は人工的に作られたサイボーグ。アルサムは純血悪魔。そんでもって俺も悪魔に神に龍が混ざり合ってるから人間度は低い。

 

 ってことは。もしかして!

 

「試す価値はありか!!」

 

 物的証拠を得る為に、俺は即座にフォンフに特攻する。

 

 発動するのは冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)

 

 この威力なら、当然の如くフォンフも警戒するしかない。

 

 そんでもって、俺はさらに特殊兵器を切る。

 

「―禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 ほらほらほらほら、こんなもん気にするしかないだろう。

 

 そして!

 

「阿呆が隙だらけだ!!」

 

 当然お前はカウンターを叩き込む。

 

 そのカウンターを俺は一切かわさずその身に喰らう。

 

 そしてその瞬間、フォンフは己の失敗を悟った。

 

「………なんだと!?」

 

「なるほど、そういうことか」

 

 おかげでダメージはでかいが、しかしよく理解できた。

 

 ……威力がさっきより落ちている。渾身の一撃であるのにも関わらずだ。

 

 そして、その理由をフォンフ・バーサーカーは既に理解している。

 

「お前、堕天使になりやがったのか!」

 

「正解だ!」

 

 馬鹿め、この俺がいつまでも弱点攻撃対策をしてこないと思っていたのか。

 

 悪魔に神にそのまた龍。どれも強大な存在だが、しかし特攻兵器も存在する諸刃の剣。

 

 ダブルアタックする聖槍やアスカロンなどを喰らえば、致命傷になりかねない。

 

 ゆえに、対策はきちんと立ててきた。

 

天使の鎧(エンジェル・アームズ)の亜種禁手、完全足る堕天使への覚醒(フォーリン・エンジェル・プロモーション)!! 俺は三十分だけ純粋堕天使へと肉体を変質化させれる!!」

 

「嘘つけ! お前の禁手は別物だろうが!! いくらなんでも変化させすぎだろう!!」

 

 シノビコームの方から指摘が入るが、しかし甘く見てもらっては困るな。

 

「阿呆が! イッセーだって禁手に覚醒してから三宝に目覚めただろうが! 具体的には悪魔の駒をいじってな!」

 

「バカな! あれは痴漢を生み出してたからではないのか!!」

 

「あれに関してイッセーの悪意は欠片もない!!」

 

「痴漢こそが人類の幸福だとでもいうつもりかこれが!!」

 

「そうじゃねえ!!」

 

 ええい軌道がずれすぎた。修正するぞ。

 

「とにかく! 悪魔の駒のリミッター解除による神器の拡張ができると分かっていて、自己改造上等の俺がしないと思ったか、馬鹿め!!」

 

 来るべきE×Eや、そもそもお前らとの戦いの為に戦力向上は必要なんだ。

 

 実戦優先でレーティングゲームのレギュレーション中の兵器用意しまくりの俺が、イッセーがやったことをまねしないと思ったか!!

 

 その応用で、神器の拡張発展は当然のごとく研究していた。

 

 そして、俺は素体が弱っちいくせしてどんどん弱点増やし続けている所為で、曹操より酷い事になってたからな。

 

 反省はしているのに、想定外のミスでどんどん増えている。正直ちょっと泣きたくなってきた。

 

 だから作ったのさ! それを何とかする為の方法を!!

 

「スペックは落ちるし蒼穹剣も使えないが、神龍悪魔特攻装備持ち相手なら、場合によってはマイナスを取り除く方がプラス得るよりいい時もあるからな!!」

 

 うっかり癖の持ち主である俺は、ただでさえ足元掬われやすい。

 

 それに何より―

 

「俺は本来バランスタイプだ! 穴のない構成こそ俺の基本形!」

 

「器用貧乏も言いようだな!!」

 

 拳と拳がぶつかり合う中、しかし俺はそれだけで勝とうとは思っていない。

 

 というより、このままだと勝ち目が薄い。

 

 何故ならば―

 

「お前の能力は対人特化ということでいいだろう!」

 

「どういうことだ? 個人戦どころか集団相手に圧倒しているはずだが!!」

 

 シノビコームの猛攻を捌きながら、アルサムが疑問を口にする。

 

 ああ、ちょっと言い方を間違えた。

 

「厳密に言うなら対人間特化だ。おそらく人間相手に問答無用で有利になれるという宝具だろうな」

 

 だから、完全に堕天使となっている今の俺ならば対抗できるというわけだ。

 

「そんな、ことが、可能、なのか!!」

 

「半英雄なら、殺人鬼とか、できるかも、な!!」

 

 攻撃が苛烈になってきたが、しかし情報共有はちゃんと行う。

 

「純血悪魔のお前は言うに及ばす、サイボーグのノーヴェ達や色々混ざって人間度減ってる俺もダメージは比較的薄かった! おそらくそういうことで間違いない!!」

 

「なら、やはり私が相手をするべきで―」

 

「させると思うかぁ!!」

 

 流石にフォンフ達も遠慮はしないようだ。

 

 第一、蒼穹剣を発動させている俺はシノビコーム相手に特攻が入る。

 

 この相手が変わった状態は、フォンフにとっても維持したい状況だ。

 

「でもどうする! あたしたちもさすがに雑魚で手一杯だ!!」

 

 だよね! ヴィヴィたち戦闘不能だもんね!!

 

 どうしたもんかと思う中、アルサムが叫ぶ。

 

「おい宮白兵夜! フェニックスの涙は!」

 

「………あ、溜め込んでたの忘れてた」

 

「その失念癖を何とかしろ!!」

 

 ごめんなさい!!

 

「させると思うか! 援護になど行かせるかよ!!」

 

 フォンフ・バーサーカーは遠慮なく攻撃を連発する。

 

 ええい、これでは渡せてせいぜい一回だけ!

 

 誰に、誰に使う?

 

 っていうか、使ったとこで人間だらけのこの状況下、誰に渡しても大して効果は見込めないし―

 

「……アルサムさん!」

 

 と、そこで突撃する影が一人。

 

 ハイディ!?

 

「チッ! 数が多すぎて浅いのがいたか!」

 

 フォンフ・バーサーカーが仕損じたか!

 

 そしてハイディの狙いはフォンフ・シノビコーム。

 

 だが、いくらハイディでもあいつの相手を一人でできるわけがない。

 

 どうする?

 

 どうする?

 

 どうする!?

 

「下がれアインハルト! 今のお前ではこいつの相手は荷が重い!!」

 

「出来ません!」

 

 ダメージだって相当に入っているだろうに、しかしハイディは諦めない。

 

「貴方は私の思い違いを正してくれました。宮白さんは私のことを気遣ってくれました。それにヴィヴィオさん達は私の大切なお友達です」

 

 だから―

 

「―ここで、助けるの当たり前です!!」

 

 ハイディ。本当にいい子だよなもう。

 

 だったら、やるしかないか。

 

「ハイディ! 使え!!」

 

 俺は、即座に二回ハイディに向かって投げつける。

 

 それを見て、フォンフは即座に裏拳でフェニックスの涙を破壊した。

 

「ぬるいなこれが! その程度で」

 

「かかったな!」

 

 馬鹿め! 俺が何を装備しているか忘れたか。

 

 フォンフの間合いが離れたところで、俺は透明の聖剣を解除して、ハイディの視界に指輪を見せる。

 

 そして、ハイディはそれを受け取った。

 

「使えハイディ! 癖は強いが今なら効果は莫大だ!!」

 

「……はい!」

 

 この状況下で、フォンフにハイディが指輪をつけるのを妨害する余裕はないし流石にさせない。

 

 そして、その指輪は特注品だ。

 

「しまった!」

 

「それは、サーヴァントを宿す―」

 

「そう、七式だ!!」

 

 これが逆転の切り札。

 

 霊的癒着の可能性があるのが問題だが、この際仕方がない。

 

 使えハイディ。今ならそれでも十分使える!

 

「……汝は剣の担い手、斬撃の意志」

 

 起動のパスコードをハイディが認識する。

 

 ぶっちゃけ、この英霊はそんなに強くない。普通の聖杯戦争なら確実に負ける。

 

「剣士の意志を宿す者達。その結晶を今ここに」

 

 だが、今は結構使える環境だ!!

 

「―覇王の力は拳だけにあらず!!」

 

 なにせ俺とアルサムがいるからな!!

 

「七式起動、モデル剣式!!」

 

 次の瞬間、しかし変化は一切訪れない。

 

 そして、フォンフたちはその英霊の存在を理解した。

 

 なにせ、元々あいつら側の英霊なんだからな。

 

「……剣士だと!?」

 

「アホか? 格闘家に奴を憑依させても真価は発揮できないだろう!?」

 

 フォンフ達は怪訝な表情になるが、しかし甘い。

 

「仕方がないだろう。元々それはD×D(俺達)との連携用だ」

 

 なにせ、こっちにはシャレにならない剣が多い。

 

 グラムに始まる北欧の魔剣勢揃い。アスカロンに始まり、エクスカリバーにオートクレールにデュランダルという聖剣オンパレード。ヴァーリチームを含めれば、そこに聖王剣コールブランドまで追加される。

 

 それをもう一本増やせるというのは、どう考えても超有利。連携ようとして考えれば規格外だろう。

 

 むろん、木場達はここにはいない。

 

 そしてハイディは格闘家だ。フォンフ達の言う通り、剣士の英霊とは相性が悪い……と思ったか?

 

「フォンフ、俺を見ろ」

 

「あ? 今更どうし……た………」

 

 俺を見て、フォンフは大事なことに気が付いた。

 

 そう、偽聖剣(これ)は鎧として使うことを前提に開発されてるけど、剣です。

 

「真名開放―」

 

「あ、やべ」

 

 バーサーカーの方が思わず漏らすがもう遅い。

 

剣の英霊(ザ・セイバー)!!」

 

 その瞬間、ここに偽聖剣がもう一つ追加された。

 




兵夜が神器の拡張というすでに前例のある手段を取らないわけないと思いませんか?

そして、アインハルトに七式使用。

本来はD×Dメンバーとの連携を主眼として設計された七式です。だって考えてもみてくださいよ。あいつはD×Dで呼び出された方が本領を発揮できる英霊だと思いませんか?


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覇剣抜刀

 

 偽聖剣。それは、俺がアーチャーとアザゼルに創ってもらった超高性能の装備。

 

 サーヴァントとの接近戦を単独でこなすことを目的とするという、むちゃくちゃなオーダーを可能とした代物。

 

 ぶっちゃけむちゃくちゃ問題がある。

 

 エクスカリバーの残骸を中心とする、希少性の高すぎる材料。

 

 アザゼルとアーチャーという一流の技術者による超職人芸。アーチャー亡き今、修復には鍛冶の神の力が必要だった。

 

 悪魔の駒のベースマテリアルを中心とする、レーティングゲームでは本来使えない違法技術の数々。

 

 そして俺自身も偽聖剣を使うための改造を何度も行った、人剣一体の特注品。

 

 当然量産など現状不可能の代物だ。少なくとも、俺が使わなければ性能を発揮することなどできない。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 あらゆる剣の性能を引き出すことこそが能力である英霊剣士なら、その能力を発動させることが可能。

 

 この土壇場において、それにすべてをかける!!

 

「覇王―」

 

 そして一気にハイディはフォンフの懐にもぐりこむ。

 

 ああ、才能なら俺より上なんだから、使いこなせれば俺より強くなることも十分あり得るさ。

 

「―断空拳!!」

 

 その拳が、フォンフ・シノビコームにめり込んだ。

 

「クソが!」

 

 もろに喰らいながら、フォンフ・シノビコームはそれに耐える。

 

 ええい、これでも押し切れんか!

 

「それでいい。アインハルト、一分ほど時間を稼いでくれ」

 

 だが、アルサムには別のものが見えていた。

 

 正眼にルレアベを構えると、アルサムは呼吸を整えて魔力を込める。

 

「地獄にて目覚めよ、魔の王よ。冥府の大地を照らすのだ」

 

 その瞬間、ルレアベから魔力が増大化されて放出される。

 

「我こそは大罪を担いし終末の獣の後継。天すら汚すその猛威、今こそここに見せつけよう」

 

 その魔力はアルサムにまとわりつき、そしてアルサム自身を強化する。

 

「我が手に宿れ軍勢の主。今こそその威を見せつけよ!」

 

 それは、あえて言うのならば―

 

覇剣抜刀(フルスロットル・ブレイド・エンペラー)!」

 

 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)とよく似ていた。

 

「馬鹿な!? そんな機能はルレアベにあるはずが―」

 

「抜かせ! 私はルレアベの新たなる担い手だぞ?」

 

 一瞬の動揺を振り切りながら放たれるシノビコームの一撃を、アルサムは今までではありえないような速度でかわし―

 

「―先代を超えることこそ後代の務めと知れ!!」

 

 一振りで、その腕をぶった切った。

 

 速い! この戦闘能力の上昇率、ヴァーリの極覇龍にすら匹敵するぞ!

 

 マジでこれは覇の領域だ。あの野郎、こんな奥の手を編み出していたのか!

 

「この出力、マジで覇の領域に―」

 

「遅い!」

 

 そして体勢を整えさせる隙を一切与えず、アルサムはシノビコームを滅多切りにした。

 

「バカな、俺は、業獣鬼(バンダースナッチ)をベースに―」

 

「罪もなき民草を傷つけた報い、魂魄にまで刻むがいい!!」

 

 断末魔の叫びすら言わせることなく、アルサムはフォンフ・シノビコームの首を跳ね飛ばした。

 

「……我らだけならばまだしも、時空管理局にまで牙をむいた罪、その程度ですまされたことを光栄に思うがいい」

 

 言い放つと同時、シノビコームは跡形も残さず爆発する。

 

 その爆風にあおられて、アルサムは壁にたたきつけられた。

 

 あ、さすがに消耗が激しいらしい。

 

「少し休む。それまで何とかしのいでくれ」

 

「……ああ、任せろ!!」

 

 アルサム、お前はよくやってくれた。

 

 俺も格好位付けないとな!

 

「させるか! ここで貴様だけでも殺しておいて―」

 

「いや、ここまでだよ」

 

 すでに対抗策は思いついた。

 

 今の戦闘の最中も、頭を回転させてもらった。

 

 ああ、考えてみれば簡単なことだ。

 

 ……人間に特攻なら、人間でなくなればいい。

 

「ハイディ、五秒かせげ!! それで終わらせる!!」

 

「わかりました!!」

 

「そんな短時間で何ができる!!」

 

 フォンフ・バーサーカーはそう言い放ちながら攻撃を行うが、しかしハイディはしっかり五秒持ちこたえる。

 

 いかに人間特攻とはいえど、今のハイディは英霊の力を宿している。

 

 数秒ぐらいなら確実に持ちこたえる。

 

 しかし、フォンフ・バーサーカーは殺人鬼の英霊を宿すもの。

 

 人間を殺す存在である以上、相手が人間ならば圧倒的に有利。

 

 ましてや、まだハイディは七式に慣れていない。

 

 ゆえに、五秒を過ぎたあたりでフォンフはその一撃をハイディに届かせ―

 

「え?」

 

「は?」

 

 条件反射レベルで放たれたカウンターの拳をもろに喰らった。

 

 フォンフが驚くのも無理はない。

 

 人間特攻であるフォンフの攻撃は、純粋な人間であるハイディには一撃が致命傷。一撃クリーンヒットを当てればそれで勝負はつく。

 

 にもかかわらず、ハイディは反撃を余裕で行える程度のダメージしか入っていない。これは普通に考えておかしい。

 

 では、なぜか。

 

 その答えに、フォンフはすぐに思い至った。

 

「宮白兵夜、お前神器のドーピングを―」

 

「―したともさ!」

 

 注射器を投げ捨てながら、俺は即座に反撃を開始する。

 

 俺の新たなる禁手は、己を堕天使へと変化させること。

 

 では、それを強化拡張するドーピングをおこなえばどうなるか。

 

 それはすなわち―

 

「アインハルト・ストラトスを堕天使化させたのか!」

 

「一時的だがな!!」

 

 これで状況はひっくり返る。

 

 人間特攻であるフォンフ・バーサーカーは人間以外にはその利点を生かしきれない。

 

 すなわち、この状況は大きく不利なのだ。

 

 そして、この五秒はそれだけでは済まない。

 

 俺も指摘されるまですっかり忘れていたが、フェニックスの涙の備蓄を用意してきていた。

 

 なにせ前回それで失敗したからな。金に物を言わせてたくさん集めたとも。

 

 それはすなわちどういうことかというと。

 

「……体が力強すぎるのは問題ですが、おかげで何とかなりそうですわね」

 

「あ、やべ」

 

 真っ先に回復したヴィクトーリアを筆頭に、お礼参りといわんばかりに連続で攻撃がフォンフに叩き込まれる。

 

 そして、とどめはもちろん俺の決め技。

 

「砕け散れ。冥府へ誘い死の一撃(ハーイデース・ストライク)!!」

 

 どてっぱらに、遠慮なく殺すつもりで大技を叩き込んだ。

 

 

 




徹頭徹尾量産できる条件をそぎ落とした装備、偽聖剣。文字通りのオンリーワンな装備である。

ですが中二バトル作品恒例、例外! 剣士の英霊はその特性上、このオンリーワンな特性をガン無視できるのです!

これが本来の聖杯戦争なら、こいつは間違いなく三流サーヴァントで勝利は困難。ですがこの世界なら話は別です。









そして覇剣抜刀。アルサムの新技です。

新たなる使い手として先代を超えたアルサム。ついに覇の領域を独自に編み出しました。これにはフォンフも唖然。


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撃退できても禍根は残り……

 

 

 

 

 吹っ飛ばされたフォンフは、其のまま壁を突き破る。

 

 連続して音が響き渡ったから、おそらく何枚も壁を突き破ったんだろう。それぐらいの威力は叩き出した。

 

「……やったか?」

 

 回復したのか、アルサムが俺の隣に立って構えながら訪ねる。

 

 とはいえ、その質問は答えるまでもないことではある。

 

「たぶんまだ動ける。奴の素体は業獣鬼だろうしな」

 

 蒼穹剣抜きでは、冥府へ誘い死の一撃であったとしても殺し切れるとは思えない。それほどまでに獣鬼というのは恐ろしい存在なのだ。

 

 なにせ、シャルバ・ベルゼブブが冥界を滅ぼす為に放ち、実際冥界を恐怖に叩き込んだ奥の手だ。

 

 個人で対抗するような相手ではない。マジで神レベルでもてこずる存在だ。

 

「全員警戒を怠るな。たぶんまだ来るぞ!」

 

 正直結構疲れてるが、しかしそんなことを気にしている暇はない。

 

 さあ、かかってくるがいい。

 

 そして一分が経ち、二分が経つ。

 

 そ、そろそろ来るかと思うんだが―

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 そして、右側から大声が響いた。

 

「回り込んだか!」

 

 アルサムが即座にルレアベを向けるが、しかしあれは違う。

 

「いや、この声は―」

 

「―宮白、無事か!!」

 

 と、そこに現れたのは赤を中心として桃色のカラーの赤龍帝の鎧。

 

「イッセー! 来てくれたのか!」

 

「全然連絡が着かねえから飛んできたんだよ! 後でいろんな人に謝らないと」

 

 そんなことを言いながら、イッセーは周りを見渡した。

 

 かなり破壊されている一帯と、ボロボロの女の子達を見て、大体納得したようだ。

 

「……こんな可愛い女子達をボロボロにするとは、許せねえ! 俺がぶっ飛ばしてやる!!」

 

「気持ちはわかるが相手はフォンフだ。落ち着け」

 

 お前じゃ不利だ。だから深呼吸しような。

 

「イッセー速いぞ! 青野から一人で戦うなと怒られたばかりだろう!!」

 

「い、イッセーさん待ってください!」

 

 と、さらにゼノヴィアとアーシアちゃんも駆けつけてきた。

 

「まったくもう。時空管理局の方々を引き離してどうするんですか、イッセーくん!」

 

 と、ロスヴァイセさんまで到着した。

 

 おお、兵藤一誠眷属勢ぞろい。

 

「助かるが気をつけろ。今回のフォンフは、人間の要素持ちに特攻がはいるぞ」

 

「え、マジで!? リアスを呼んだ方がいいのかよ!?」

 

 アルサムの説明にイッセーは少しビビルが、しかしすぐに頭を振るとまっすぐにフォンフがいる方向を見つめる。

 

「だけど逃げるわけにはいかねえよな! 普通の人達がこんなになるまで頑張ってるのに、俺達がビビってるわけにはいかねえだろ!」

 

「へっ! あんたカッコいいじゃねえか」

 

「そりゃもう。変人中心とはいえもててるわけじゃないんだよ」

 

 はっはっは。わかってるなハリー。そうさこいつは格好いいのだ。

 

「まあ、基本女の敵なんだが」

 

「お前持ち上げといて落とすのやめろよ!!」

 

 だってお前覗き魔じゃん。

 

 とはいえ、少しわかったことがある。

 

「どうやら、フォンフは逃げたようだ」

 

 ああ、これは確実に逃げたな。

 

「なんでわかるんだよ」

 

「だってここにイッセーがいるんだぞ? しかも乳乳帝で」

 

『乳乳帝?』

 

 結構な人数が聞き返してきたが、とりあえず説明は後で。

 

「フォンフなら確実に暴走する。少なくともリアクションが返ってくるはずだ」

 

 それがないということは。

 

「吹っ飛ばされたのを良い事に、逃げたなアイツ」

 

 どうやら、思った以上にフォンフも慎重らしい。

 

 そう思った瞬間だった。

 

「悪いな。俺はフォンフ・シリーズでも冷静な方なんだ、これが」

 

 その言葉と共に、灼熱の息吹が放たれる。

 

 それは間違いなく上級悪魔クラス。否、それ以上の攻撃だ。

 

 だが、ここにいるのは実力だけなら神クラスの天龍を超える者。

 

『Divid!』

 

 一瞬で展開された白龍皇(ディバイディング)の妖精達(ワイバーン・フェアリー)の半減によって炎が弱体化する。

 

 しかし、その一瞬があれば十分といわんばかりに、フォンフ・バーサーカーは魔力を開放させた。

 

祖は惨劇の終焉に値せず(ナチュラルボーン・キラーズ)

 

 その言葉と共に、フォンフ・バーサーカーが分身した。

 

「オリジナルに比べれば劣化も激しいが」

 

「できれば殺せる足止めとか便利だろう?」

 

「そういうわけであとは任せるぜ、これが」

 

 三人に分身したフォンフ・バーサーカーのうち、ダメージが残っている本体らしきバーサーカーが即座に撤退。

 

 それと同時に、残り二人の分身が一気に襲い掛かってきた。

 

 なるほど、大体読めてきたぞ?

 

「宮白! あいつの能力の種は?」

 

「推測でいいならわかる!」

 

 俺達は同時にフォンフを迎撃しながら、言葉を交わし合う。

 

「人間に対する特攻。フロムヘルという真名を持つ宝具。そしてこの分身能力。……該当するのは俺が知る限りで一人」

 

「言わせると思うかぁ!?」

 

 フォンフは俺の口を塞ごうと、一気に連携で俺に襲い掛かるが、しかし甘い。

 

「させません!」

 

「こちらも動けるのを忘れるな!」

 

 いまだハイディは七式を起動中であり、アルサムもまたダメージを回復している。

 

「人間を殺す存在である殺人鬼であり、フロムヘルという言葉をスコットランドヤードに送り、そして正体不明のまま終わったがゆえに悪魔そのものとも複数人とも言われる地球で最も有名な連続殺人鬼」

 

 そう、いくら殺人鬼を反英霊として召喚するにしたって、そんなもん知名度が低いに決まっている。

 

 そんな中、例外ともいえる世界的知名度を持つ殺人鬼などそうはいない。

 

 そう、奴こそ世界でもっとも有名な連続殺人犯。

 

「ジャック・ザ・リッパー! それがお前の正体だ!!」

 

「確かに当たりだよ、これが!」

 

 正体を知られ、しかしフォンフ達は余裕を残す。

 

「だが、わかったからといってどこまで対応できる? 悪魔の駒の生産量には限りがあるし、お前だって常時時空管理局全てをカバーできるわけでもないだろうこれが!」

 

「だったら口封じするな!」

 

 俺は反撃で光の槍を叩き込みながら反論する。

 

 よし、この分身性能が落ちてる。これなら押し切れる!

 

「押し切れると思ってるだろう! だが甘い!」

 

「こっちはインターバルさえあれば再使用も簡単! だから―」

 

 いうが早いか、フォンフは躊躇なく俺に攻撃を集中させる。

 

「「とりあえずお前から殺す!」」

 

 ええい、この野郎!

 

 オリジナルを始末したの根に持ってるな! まあ当然だよな!

 

 とはいえ俺とて雑魚ではない!!

 

「返り討ちにしてくれるわ! 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)!」

 

 カウンターを自分で見事といってもいい具合に決めることができた。

 

 あと一人―

 

「かかったな?」

 

 しかし、喰らった方が俺の両足を掴むと同時に、全方位に炎を放つ。

 

 まさに自爆といってもいい攻撃だが、その所為でこっちは動きを封じられる。

 

「もらったくたばれぇ!!」

 

 あ、これやばいな。

 

 よし、仕方ないからここは左足を捨て駒にして防ぐしかない!

 

 そう覚悟完了したが、しかし何故か攻撃が当たらなかった。

 

 あれ?

 

「人のことを忘れてもらっては困りますね!」

 

「俺ら全員に喧嘩売ったの、忘れてねえかオイ!」

 

 見れば、ハリーとエルスがバインド使ってフォンフの動きを封じていた。

 

「……管理世界も粒揃いじゃねえか!」

 

 フォンフはそう褒めながらも、瞬時にそのバインドを力任せに弾き飛ばし―

 

「ガイスト・クヴァール」

 

 顔面にジークリンデの拳が叩き込まれた。

 

「……やるじゃねえか、チャンピオン!」

 

 それでもフォンフは倒れないが、しかし既にその隙は致命的。

 

「……こちらを忘れてもらっては困るな」

 

 そう、こっちには何人もの味方がゴロゴロいるのだ。

 

「クロス・クライシス!!」

 

 ゼノヴィアの渾身の二刀流攻撃がフォンフを背中からぶった切る。

 

 ああ、これは確実に致命傷。

 

「……ちっ! やはり足止めが限界か」

 

 その言葉と共に、フォンフは二体とも爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃してきた賊は、その大半が捕縛された。

 

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)式の魔法及び気の運用方法、および学園都市式の能力者による襲撃は、後方とはいえ本部であるがゆえに相応に実力者のいる時空管理局の武装隊と戦いにはなった。

 

 だが、しょせんそれが限界。

 

 殆どがチンピラで構成されていた敵陣営では、負傷者を出すことこそあれ戦死者を出すことなく戦闘は終了した。

 

 ほぼ固有能力と言ってもいい能力者はともかく、魔法世界式の戦闘能力に関しては対抗ノウハウが多少はできている三大勢力の支援があったことも大きく、時間こそ掛かったが一部を除いて手間取ることなく戦闘は終了した。

 

 だが、フォンフからしてみればそれで十分だったのだろう。

 

 時空管理局は、その成立までの間に質量兵器による被害が大きかったゆえに質量兵器の所有禁止を原則としている。

 

 それはスイッチ一つで誰でも簡単に使える上に、環境汚染の酷い質量兵器に対するトラウマ故。使用者が限られ比較的クリーンである魔導士を中心とした方針への変換は一理あるし、変な方向にぶっ飛んでいるわけでもない。

 

 だが、魔導士になりえない者も数多いがゆえに、それは必然的に潜在的な反発意識を持つ者を産んでしまう。

 

 それを知っていたからこそ、三大勢力は警戒の為に誰でも使える上に魔導士とも渡り合えるであろう技術関係を今回の会談で説明し、それの対策準備を行わせるつもりだった。

 

 が、まさにそのタイミングでフォンフはそれを公開したのだ。

 

 それは偶然だろう。だが、絶妙なタイミングで成功してしまったともいえる。

 

 既にフォンフによってネットを利用して全世界レベルでばらまかれているこの技術。否応なく今後はこれを利用した犯罪が勃発するだろう。

 

 誰でも習得できる魔法世界由来技術に、覚醒方法が麻薬であるがゆえに時空管理局では習得困難な能力者技術。

 

 この双方による隙の無い包囲陣により、時空管理局の治安は悪化する可能性が非常に高くなった。

 

 元より将来的にこの技術による治安悪化を想定していたがゆえに、三大勢力がもたらした情報は大きな助けになったが、フォード連盟との睨み合いが解決された状況での不意打ちに、時空管理局は苦労を強いられることになる。

 

 そして当然、D×Dもこれの対処に協力する。

 

 しかし、アザゼル杯をいまさら中止などできない。

 

 数多くの事件によって民衆の心はかなり落ち込んでおり、このハレを中止にすればどれだけの負担になるかがわからない。

 

 間接的なものも含めて、この大会で動いている金銭の流れも莫大であり、今更中止した場合、異形社会は大恐慌を起こしかねない。

 

 そもそも規模が巨大すぎる為、中止にするのも時間が掛かるし負担も大きい。

 

 これに関しては時空管理局も理解しているが、しかしだからといって対応をしないという判断も信条的にとれないお人好しなのが異形社会。

 

 数多くの事件により後代に後を任せ始めていた神々や、大会に参加していない者達を中心に対策部隊を編成することになるが、しかしだからといっても簡単にはいかなかった。

 

 この対応が整えられるまでの間、異形社会はどうしても対応の為に人手を割かねばならない。そして時空管理局も自分の対応を優先するのは当然である為、地球側への対応が後手に回るのは必然。

 

 結果として、フォンフの本命である地球に関しては、手薄になるしかない状況が発生していた。




いまさらアザゼル杯を中止にはできない問題。現実にもありますよね、金が動きすぎてるからやめたくてもやめられないことって。





それはともかく、フォンフ・バーサーカーはかなり不完全な再現度な素体でもあります。

……というより、祖は惨劇の終焉に値せずがむちゃくちゃすぎて再現できない。これができたら始末に負えない最悪の業獣鬼が誕生しているところでした。


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事後報告は簡潔に

 

「……というのが、今回の目的だと判断できます」

 

 俺は、時空管理局が用意してくれたブースでサーゼクス様と手短に会議を交わしていた。

 

「何とか先手を打って対策を準備するつもりが、先手を打たれたということか」

 

「流石に偶然だとは思いますがね。今回に関しては本当に極秘会談だから情報も漏れにくいはずですし」

 

 まったく、やってくれるなフォンフ達も。

 

 とはいえ、こっちに関しても何の利益もなかったかというとそうでもない。

 

「これで時空管理局はフォンフの危険性を認識しましたし、何より一体倒せたのは僥倖でしょうね」

 

「ああ。アルサム君のおかげで助かったよ。……とはいえ、代役が立てられそうなものしか倒せなかったのは残念だが」

 

 確かに。

 

 性能的にも能力的にも、シノビコームはおそらくバーサーカーより先に創られた個体だろう。能力が被ってるしな。

 

 おそらくバーサーカーは、時空管理局を想定した対人間特化仕様を狙って作られた仕様のはずだ。あんな変身能力や分裂能力まで狙っているとは思いつかない。だって近代の反英霊だし。

 

 あの野郎意外と引きが強いな。そういうのって意外と厄介なんだよなぁ。身内で痛いほど理解してるさ。

 

「とはいえ、フォンフシリーズは流石に禍の団の全盛期ほどの力は発揮できないと考えるべきだろう」

 

「ですね。とはいえ、それもいつまで保つかとは思いますが」

 

 なにせ今回の一件で、フォンフの価値は犯罪組織にとって莫大に上昇したはずだ。

 

 もとより、テロリストの寄り合い所帯である禍の団の首魁にまで上り詰めた男。その経験は今後において役に立つだろう。

 

 あまり時間を掛けていたら、反時空管理局組織を束ねて超巨大な犯罪ネットワークを作り俺達に対抗……だなんて笑えない展開にもなりうる。

 

「サーゼクス様。時空管理局に対フォンフ部隊の設立を要請してください。今回の襲撃の主犯である以上、それもできるはずです」

 

「わかっている。エイエヌ事変での活動から警戒していたようだが、もはやフォンフは我々地球側の問題では済まない領域だ」

 

 なんかマジすいません時空管理局。とんでもないのが地球からその手を伸ばしてしまいまして。

 

「それに、エイエヌ事変での追跡調査から判明したが、フォンフはフォード連盟の旧体制派の残党ともパイプが繋がっている可能性が高い。このままいけば、彼によって次元世界全体が混乱に包まれる恐れすらある。……フォード連盟新政府及び、時空管理局と共同での対策はほぼ確定だ」

 

 マジですか、サーゼクス様。

 

 オイオイオイオイ。思ってたより状況はやばくないかコレ?

 

 フォード連盟の後始末に関しては、負担減らしたいのと花を持たせるのが共存して、他の人達に結構任せてたからそこまで気づかなかった。

 

 ってそんなこと考えている場合じゃないな。俺も急いで会議の準備をしないと―

 

「ああ、兵夜君はもう帰っていいよ」

 

「えぇ!?」

 

 いやいや、今まさに俺が動かねばならないような気がするんですが!?

 

 だが、サーゼクス様は俺の肩に手を置くと、笑って見せた。

 

「襲撃の所為でより大変なことになったが、大まかな概要はその前と変わりない。それに君は激戦で疲労しているだろう? そろそろ休んだ方がいい」

 

 う。

 

 確かに、ドーピングとかした上に戦闘が激しかったので、ダメージは大きい。できれば酒でも飲んで休みたい。

 

 だが、フォンフとの付き合いが一番長いのはたぶんオレなんだけど。

 

「兵夜君。……君は普段から働きすぎだ。普段負担をかけている分、こういう面倒くさい裏方仕事ぐらい、大人に任せてくれ」

 

「そ、そこつかれると確かにそうですね……」

 

 だけど、貴方も大概若手で働きすぎでしょうに。

 

「既にアザゼルが対策会議のまとめにも入っている。それに、言い方は悪いが君達に頼みたいことがあったのだよ」

 

 む? 頼みたいこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、魔王サーゼクス様(ウチの上司)がお詫びを兼ねた慰労会を用意してくれました! 昨夜のケータリングよりすごいのだらけだから今のうちに喰いだめしとけお嬢さん達!!」

 

 そういうわけで、巻き込んでしまった一般人の方々にお詫びの御馳走をふるまうのを頼まれたよ!

 

 絶対これ、俺達にも喰わせること前提のだよ! 本当うちの義兄はお人好しだなぁ。

 

「え、これマジで全部喰っていいのか? 昨日のよりたくさんあるぜ?」

 

「その辺については心配ない。金はうちのトップが私費で出したものだ。……もったいないから全部喰っていいぞ」

 

 そういうわけだからすぐ食べろハリー。特にそこのスフレオムレツは冷めるとだめだ。

 

「宮白! 俺も食べていいのかな?」

 

「食べていいから。冷める前に食っちまえイッセー」

 

 っていうかお前もこっち側か。

 

「とはいえ、奴を相手に生き残れるとは見事という他ない。それだけの苦難を乗り越えたのだから、この程度の対価は得て当然だ。……さて、私も食べるか」

 

 アルサム、お前もこっち側か。本当にコレ、俺達も含めてねぎらう為の食事会だな。

 

「ですが、私達はあまりお役に立てなかった気がしますわ。それでもいいのかしら?」

 

「それは大丈夫だろう。奴が生み出した魔獣もまた、中級クラス以上でなければまともに戦うこともできない化け物だからな」

 

「ゼノヴィアさんの言う通りです。それが大量に出てくる中、抑えてくれたあなた達は本当に実力者だとしか言えません」

 

 少し控えめな反応をするヴィクトーリアに、ゼノヴィアとロスヴァイセさんがそういう。

 

 っていうかゼノヴィア。一応俺たちホストなんだからゲストのヴィクトーリア達よりたくさん食べるな。

 

「それにしても、あの魔獣というのは本当に手強かったわ。DSAAの参加者でも、エリートクラス以降の実力者でなければ対応できないでしょう。本局の武装隊でもBランクまででは対応できないはずです」

 

「まあ、冥界を滅ぼす為に生み出され、実際にそれが不可能じゃない化け物を素体にしているからな。生み出されるザコも、こちらの中級相当でなければ対応できない化け物だ。よく頑張ってくれた、ヴィクトーリア」

 

 ああ、真面目な話獣鬼の危険性がよくわかった。

 

 それを、劣化型とはいえど量産してるんだよなぁ、あいつ。

 

 たぶん状況に応じた局地戦仕様も開発されてるだろうし、これは本当に面倒なことになってきそうだな。

 

「皆も本当によく戦った。奴の魔獣を相手に大した怪我もせず戦える奴なんて、冥界でもそう多くない。少なくとも一般兵じゃ複数人が連携を取って事に当たる部類だ」

 

 ああ、インフレが激しいとはいえ、下級悪魔クラスではとても一人じゃ倒せないような存在だ。

 

 レーティングゲームの上位ランカー達が眷属層で担って足止めするのも困難な化け物。それを相手に俺達がいたとはいえよく頑張った。

 

「本当に迷惑をかけた。オレからも個人的にお詫びをしたいから、何かあったら相談してくれ。できる範囲内で手をまわそう」

 

「サラリとできる範囲内でって予防線張ってるのが宮白らしいや」

 

「こういう予防線を自然体で張れるのは一種の才能だな」

 

 そこ、イッセーとアルサムうるさい。

 

 とはいえできないことをするっていうわけにもいかんだろう。きちんとやれなきゃお礼にならん。

 

 そんなことを思っていたら、ハリーが勢いよく手をあげた。

 

「あ! だったらそのアザゼル杯っての? 俺も見てみたい!」

 

「え? そんなんでいいのか? 録画映像でいいなら余裕でできるぞ?」

 

 あら簡単。そんなのでいいのか?

 

「もっと上を狙っていいぞ? なんなら温泉旅館とか、超高級食材詰め合わせとか、他にも色々あるぞ?」

 

「宮白、態々高くすることないんじゃねえか?」

 

 うるさいぞイッセー。

 

 物事にはしかるべき対価ってものが必要だ。安いままでいいわけがない。

 

 今回の件、代償はもっと高くても何の問題もないというか高くなくてはいけないというかだな?

 

「まあ、其の辺りは後々まで取っておけばいいだろう。こちらの技術発展でできるようになることも多いだろうしな」

 

「ああ、その手があったか」

 

 流石だアルサム。その手があったか。

 

「り、律儀ですね……」

 

「兵夜さんはそういう人なんです。すっごく人がいいんですよ」

 

 ヴィヴィがエルスにそう説明するが、少し照れるな。

 

 等価交換は魔術師の原則だし、物事にはそれに見合った対価があってしかるべきだ。

 

 余裕を持つ俺がそれを実践しなくてはどうするかって感じなんだが。実際俺、金持ちだし。

 

「ま、そういうのだったら俺たちも用意できるから、いつでも言ってくれよ」

 

「そうだな。そもそもアザゼル杯の映像など、録画でいいなら我らの世界の者なら誰でも手に入る。その程度なら知人の頼みとして無償で行える程度のものだ」

 

 ああ、イッセーもアルサムも普通に乗り気だな。

 

 さて、だったらどの試合の録画を最初に回すのがいいか。

 

 俺はふとそれを考える。

 

 なにせ参加チームが膨大だからな。

 

 千を超える参加チームが戦うわけだから、必然的に全試合数も膨大になる。全部見るのは不可能といってもいいだろう。

 

 さて、どの試合を持ってくるのが一番か……。

 

「まあ、一番最初のものは決まっているだろう」

 

「……ああ、確かに」

 

 と、アルサムとイッセーの視線が、俺とヴィヴィとハイディを交互に行き来する。

 

 ん?

 

「あの、どうしました?」

 

「どうしたもこうしたもないだろう。おそらく、この後最も早くこの場で試合に参加するのはお前達だろうに」

 

 え?

 

「忘れたのかよ宮白。今週末は宮白と桜花さんのチームの試合だろ?」

 

 ……あ! それもそうだ!

 

「ちょうどいい。本格的に誘いをかけるか」

 

 ああ、それもそうだ。

 

 もとより、できれば彼女達には来てほしかった。

 

「……ヴィヴィ、ハイディ」

 

 俺は、この試合に求めるチームメンバー候補に、今度こそ本気で誘いをかける。

 

「かなり黒い理由もあるが 、それでも実力を買ってのことだ。……空いているなら、ぜひ次からのアザゼル杯に俺のチームメンバーとして参加してほしい」

 

 ああ、俺としてはぜひ彼女達に参加してほしい。

 

 予選三回戦敗退と、予選四回戦敗退。その成績の者達が、果たしてアザゼル杯で成果を残せばどうなるか。

 

 そういう黒い欲望もあるが、しかし何より本気で思う。

 

 ……彼女達がそんな成績で終わるのは、単純にもったいない。

 

「俺は、君達二人の実力を、いろんな意味で世界に見せつけてやりたいと心から思っている」

 

 ああ、そうだ。

 

 あの戦いを潜り抜けた、高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトス。

 

 彼女たちの雄姿を、ぜひ世界中に見せつけてやりたい。

 

 これもまた、俺の心からの本心だ。

 

「……え、えっと、いいんですか?」

 

「あの、正直名前負けすると思うんですが」

 

「それは相手が悪かっただけだ。むしろそれぐらいの順位の方が、目的的には好都合さ」

 

 ちょっとためらい気味の二人に、俺は軽く茶化すように笑みを浮かべながら手を伸ばす。

 

「君達の実力はそんなもんじゃない。だから、それを見せつけに行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに子供口説いてんだよ宮白。お前、まさかナツミちゃんより下のロリを網羅するつもりじゃねえのか!?」

 

「巨乳だらけのハーレム王である兵藤一誠に対抗するためにインモラルに行くのはどうかと思うが」

 

「イッセーにゼノヴィア。喧嘩売ってるだろお前ら」

 

 まったくもって失礼だ。第一ナツミは合法ロリだ。あと勘違いされるからやめろお前ら!! 確かに俺はロリもいけるがそれは性的に合法であるからこそ意味があるのであり、むしろこの二人の将来性は抜群だからその場合はむしろ意味がないし、第一俺は胸のでかさに貴賤はない主義だこの野郎!!」

 

「兵夜さん、ナツミはから全部口で言ってる」

 

 ぬぉおおおおおしまったぁあああああああああ!!!! もっと早く言ってくれシルシぃいいいいいいい!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の評価が結構下がったのは、もはや語るまでもないことだろう。

 




ヴィヴィオとハイディ、次回から参戦。


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兵夜「正直匙に同情した」

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白の奴、自爆癖がついてるんじゃないだろうか?

 

「イッセーさま。たぶん今、宮白様が聞いたら怒りそうなことを考えておられませんか?」

 

「ぎくっ」

 

 鋭いなレイヴェル! っていうか、まさか小猫ちゃんから俺の心を読む能力を会得したというのか!

 

 いや、まさかそんなことないよね? 考えすぎだよね?

 

「あらイッセー。兵夜と仲が良いのは分かるけど、親しき仲にも礼儀ありよ」

 

「分かってるさ、リアス」

 

 ああ、リアスの言う通り、ちょっと失礼なことを考えすぎるのはやめとかないとな。

 

「それで、宮白君が新しくスカウトした子達だけど……大丈夫なのかい?」

 

 木場が心配そうにそう言って会場を見る。

 

 ああ、確かに気になるよなぁ。

 

 なにせ、ヴィヴィオとアインハルトは二人ともすっごい子供だ。

 

 いや、俺達もまだ大学生と高校生だけど、二人はまだ小学生ぐらいの歳だしなぁ。

 

「正直宮白くんが何を考えているのか分からないよ。あの歳の子供にアザゼル杯は荷が重すぎる」

 

「確かにそうですわね。いざ闘うとなると、いくらレーティングゲームでも気が滅入りますわ」

 

 木場の意見に朱乃さんも同調する。

 

 ドSの朱乃さんも相手は選ぶ。少なくとも痛めつけていい相手とそうでない相手はきちんと判別できる。

 

 だから、十歳と十二歳の子供を相手にするなんて気が引けるのは分かるけど……。

 

「いや、木場達の意見は考えすぎだろう」

 

 ゼノヴィアが、同じく会場を見ながらそう断言する。

 

「マスターリアスも加減の仕方を間違えない方がいい。特にアインハルトの方は、油断するとこちらが死にかけると断言できる」

 

 ああ、確かに。

 

 ゼノヴィアの言う通りなんだよなぁ。

 

「お言葉ですがゼノヴィア殿。人間の、それも小学生程度の子供にそれほどの力があるというのですか?」

 

 俺の臣下になったタンニーンのおっさんの息子であるボーヴァが首を捻るけど、しかしそれはちょっと甘い。

 

「いえ、ゼノヴィアさんの言う通りでしょう」

 

 ロスヴァイセさんもそう断言する。

 

「宮白君の人事選球眼を舐めてはいけません。あの子達は、既に下級悪魔程度なら余裕で返り討ちにできる実力者です」

 

 ああ、そうなんだ。

 

 フォンフの襲撃を助けに行った俺達は、その戦いぶりをよく見ている。

 

 ヴィヴィオもアインハルトも、魔獣創造で作り出されたモンスターを相手に一歩も引かない戦いをしていた。

 

 はっきり言って、修学旅行で英雄派と戦った時の俺達ならまともに戦えるだろう。

 

 戦力として考えるなら、十分すぎる程に強いのがあの子達だ。

 

「リアスも木場も、手加減はしない方がいい。油断してると、本当に返り討ちに合うからさ」

 

「貴方が言うのなら、それは本当に恐るべき相手なのでしょうね」

 

 リアスは俺の言葉に苦笑を浮かべる。

 

 そして、立ち上がると会場を直接見下ろした。

 

「まあ、それもこの試合を見ればはっきりするのでしょうけれど」

 

 そういって、リアスは面白そうな笑顔を浮かべた。

 

「兵夜の集めたフルメンバー。その本領を見せてもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 さて、そういうわけで俺達は遂に会場入りする。

 

『レディース&ジェントルメーン! アザゼル杯も盛り上がり続けておりますが、本日もまた注目の一戦です!!』

 

 実況がテンションを上げて声を飛ばす中、俺達は相手チームと一緒にリングへと上がる。

 

 そこにいるのは、黒い髪をなびかせて戦闘を歩く久遠の姿。

 

『チームD×Dに参加した、リアス様とソーナ様のエース戦力の1人ずつが、チームを率いて参戦します!!』

 

 そう、俺達はそれぞれ独立してチームを率いて参戦した。

 

 まあ、俺は独立した以上そっちのが筋だし、久遠に関しては駒価値の評価が色々変化された為、自発的に抜けたのが近い。

 

 久遠の奴、駒価値四だったそうだ。禁手に目覚めていることが原因だな。

 

 まあ、それはそれとして若手の育成とかも考えてのことなんだけどな。

 

 お互い、色々と考えて苦労しているもんだ。

 

 そんな気持ちのまま見つめたら、久遠も同感だったのか苦笑を返す。

 

 ああ、それはそれとして試合は本気で挑もうか。

 

『さて、宮白兵夜選手と桜花久遠選手のレーティングゲームといえば、一昨年の一戦が思い浮かぶものも多いでしょう!! そう、桜花選手が見事に愛人枠を勝ち取ったあの一戦です!!』

 

 その実況の言葉に、俺は盛大にずっこけた。

 

「兵夜さん! 大丈夫ですか!?」

 

「あ、ああ。ちょっと驚いただけだから……」

 

 ヴィヴィが慌てて手を貸してくれるのが実に嬉しい。

 

 ああ、人間って、とっさの時の優しさに目が染みる生き物だよなぁ。俺、悪魔だけど。

 

 っていうか、子供も見てるのに何を言ってるんだこの実況は!

 

 冥界というか異形社会は、もうちょっとあり方を考え直した方がいいと思うんだ。俺やイッセーみたいなのが基準値なのは間違ってる!

 

『あの戦いは、リアスさまがソーナさまを下したことで決着がついてしまい、二人の戦いは流れてしまった印象があります。さて、今回の戦いでその決着を見せてくれるのか!!』

 

 ふむ、確かにその通りといえばその通りだ。

 

 あのまま行っていたら勝てるかどうかは分からない。そして、今の段階では間違いなく勝ち目がない。

 

 だが、この戦いは俺達が大将となっての集団戦だ。これは一味違う。

 

「兵夜君ー。遠慮はしないから遠慮しないでねー。ま、その辺は安心してるけどねー」

 

「当たり前だ。お前相手に遠慮何てしてる余裕は欠片もないしな」

 

 お互いに笑みを浮かべて、俺達は握手を交わす。

 

「ふっふっふー。私は負けないからねー。ダメもとだけど、やりたいことがあるからねー」

 

 と、割とやる気に満ち溢れた言葉を久遠は紡ぐ。

 

 ふむ、若手の育成を目的としているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「一応聞いてもいいか? ……何が目的だ?」

 

 なんだろう。すごい嫌な予感がするぞ?

 

 そして、久遠はすごくきれいな笑みを浮かべる。

 

 思わず見惚れたその瞬間―

 

「元ちゃんに、彼女をあと二人作ることだよー!」

 

 大声で、はっきりとそんなことを言った。

 

 俺はもう一回ずっこけた。受け身が取れなかったので頭が痛い。

 

「……あの、久遠さん? それってどういう……?」

 

 シルシが俺を気遣って代わりに聞いてくれる。

 

 ああ。俺が聞くのもいいけど、なんていうかすごい頭痛がするからできれば休みたかったんだ。

 

 ありがとう。俺は良い嫁さんを持った。

 

 だが、久遠は不思議なことを言われているとは欠片も思っていないのかきょとんと首をかしげる?

 

「え? だって次のデートをする時シルシさん達が困るでしょー? だけど人数に偏りがあると、元ちゃんに悪いかと思って―」

 

「ダブルデート前提かお前は!!」

 

 しかも全員!? 何考えてるのお前!!

 

「宮白、なんていうか……お前の彼女らしいな」

 

「どういう意味だ暁!!」

 

 言いたい事はなんとなく分かるが、それにしたって色々と問題あるわ!!

 

 あ、なんか実況側が騒がしくなってきた。

 

『あ、お待ちください匙選手!! 勝手にマイク取らないで―』

 

『宮白ぉおおおおおお!!! 桜花の優勝だけは絶対阻止しろ!! 絶対だぞ!?』

 

「ああ分かってる!! ていうかソーナ先輩が説教すればいいだけじゃね?」

 

『顔真っ赤にして黙り込んじまったよ!!』

 

「そんなに照れなくてもいいのにー」

 

「『恥ずかしがってんだ、バカ!!』」

 

 ああもう! なんていうかグダグダにも程があるだろうが!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……駄目よ。ソーナちゃんのお婿さんは最低でもサーゼクスちゃんを倒せるレベルじゃないと』

 

 なんか魔王少女がすごいこと言ってきた。

 

「……匙、必要とあらば共闘するぞ? 流石にそれはハードル高すぎだ」

 

「誰かの力を借りれることも立派な素質だからねー。全力でサポートするよー」

 

『ありがとう、ありがとう……!』

 

『そんな!? 兵夜くんはともかく久遠ちゃんが裏切るなんて!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合開始前から、胃が痛い」

 

「まあ、何ていうか個性的だな」

 

 ノーヴェ。変人ってはっきり言っていいぞ?

 

『さて! それでは気を取り直して今回のルールを発表いたします!!』

 

 その言葉と共に、今回のルールが発表される。

 

 そこに映った文字は、ランペイジ・ボール。

 

 なるほど、これが出たか。

 

『出ました! 今回の競技はランペイジ・ボールです!!』

 

「ランペイジ・ボールって、球技でしたっけ?」

 

「ああ、そうだ。……より厳密に言えば、ファール行為前提の球技だよ」

 

 ヴィヴィにそう告げ、俺は作戦を即座に考える。

 

 このランペイジ・ボール。簡単に言えば球技だ。

 

 そして、戦闘でもある。

 

 簡単に言えば、あらゆる妨害行為を行いながら、ボールをゴールに入れる競技だ。

 

 ポイントは入れた人の駒価値だけ手に入り、王は一律10ポイント。

 

 そして、このゲームの最大のポイントは―

 

『このゲームにおいて、リタイアした選手は一定時間を経過すれば、すぐに復活することができます! 事実上、体力が尽きるまで試合に参加し続けることができるのです!!』

 

 そう、倒すことが戦力低下に直結しない。

 

 時間制限の間の体力だけが問題なのだ。

 

 さて、これは色々と面白い試合運びになりそうだぞ?

 




思わぬレベルでセラフォルーの妹婿に対するハードルが高すぎたので、直前で修正しました(苦笑

それはともかくランペイジ・ボール。

………うすうす想定していると思いますが、今回も兵夜がやらかします



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VS久遠 第一ラウンド!!

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のゲームのルールはランペイジ・ボールかぁ。

 

「これは、宮白君たちの方が不利ですね、リアス姉さん」

 

「でしょうね。ルールとしてはかなり変則的ですもの」

 

 木場とリアスがそう言葉を交わすのも当然だ。

 

 レーティングゲームは基本戦闘な中、これは根っこは球技だもん。

 

 格闘技とスポーツは同一かとかはいろんな論議があるけど、スポーツとしての種類が違うからな。

 

 ヴィヴィオとアインハルトは格闘家だし、残りの人達も戦闘経験はあっても球技の経験はあまりないだろう。

 

 反面、桜花さんのチームメンバーの大半は、レーティングゲームを何度も見てきている人達だ。経験はともかく、知識としては知ってるはず。

 

 当然、戸惑いの方は遥かに少ないはず。

 

「宮白先輩はどうやって戦うんでしょうか? これ、特殊すぎるからたぶん練習とかあまりやってないですよね?」

 

「そうです。これは宮白さん、苦戦するんじゃないでしょうか?」

 

 ギャスパーとアーシアが心配そうにするけど、だけどどうしようもない。

 

 そもそもアザゼル杯では俺達敵同士だもんな。そうじゃなければ桜花さんも仲間だし。

 

 だから、ここは結構楽しんで観てる方がいいけど……。

 

「たぶん、最初は桜花さん達全力疾走すると思うぜ?」

 

「全力疾走とは?」

 

 ボーヴァが首をかしげるけど、他の皆は一斉になんか納得した。

 

 ああ、だって俺達、いい加減宮白との付き合い長いもんな。

 

 それに俺にいたっては幼馴染と言ってもいいし―

 

『さあ、試合開始のブザーがなりまし―』

 

『全員全力疾走で散開だよー!!』

 

 実況の言葉を遮って、桜花さんが声を張り上げながら奪取した。

 

 それと同時に松田と元浜も一斉に走り出すけど、残りのメンバーは少し出遅れてる。

 

 ああ、たぶん一応言われてはいただろうけど、それでも慣れてないからなぁ。

 

 それでも訓練が行き届いているのかすぐに走り出すけど、だけど遅い。

 

 ああ、この遅さはまずいなぁ。

 

 と、思った瞬間にすごい音が響いて、桜花さん達がいた辺りが吹っ飛んだ。

 

『うぉおおおおおおお!!!』

 

『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!!』

 

『予想通りだよ兵夜君ー!!』

 

 三者三葉の悲鳴を上げながら、桜花さん達は全力で破壊から逃げる。

 

 そして、試合会場はというと―

 

『こ、これはぁあああああ!!! 巨大な剣がフィールドに突き刺さり、数百メートルがクレーターにぃいいいい!!!』

 

 実況の言う通りだ。

 

 でかいクレーターが誕生していて、その中心には無茶苦茶でっかい剣があった。

 

 すぐにリプレイ映像が出るけど、試合開始後すぐに墜落地点の真上にその剣が出てきた。

 

 フィールドの高さギリギリにあるその剣は、普通に落ちているとは思えない速度で落下すると、勢いよく地面に突き立って、でかいクレーターを生み出した。

 

 まさに巨大隕石の墜落。シャレになんねえな、オイ。

 

『……やっぱり威力が低いわね。試合開始直後の真上からの強襲は効果的なんだけれど、三人逃がしたわ』

 

『降下距離が足りないか。レーティングゲームだと夜摩の黒剣(キファ・アーテル)は使いずらいな』

 

『チッ! 本陣から打つとすぐに気づかれてかわされると思ったが、同時攻撃にしておくべきだったか』

 

 シルシさんが確認して、暁と宮白がちょっと残念そうにする。

 

 ああ、やっぱり宮白の作戦だったか。

 

「あの、主殿、これは一体?」

 

「ああ、お前は宮白がよく分かってなかったよな」

 

 唖然とするボーヴァに、俺は宮白がどういう奴かを簡単に教えることにする。

 

「宮白は今回のルールをこう考えるんだよ「一定時間後に復帰するってことは、一定時間は完全に気にしないでいられる」ってな」

 

「そうですわ。例え一定時間が経過して復帰されるにしても、その一定時間の間は人数が減ることに変わりはない。宮白さまはそこに価値を見出す人物ですわ」

 

 レイヴェルもすぐにそう続ける。

 

 そう、確かにこのゲームは撃破が勝利に直結しない。

 

 だけど、間接的に繋げることはできる。宮白はそう考える。

 

「全員潰せれば体力を浪費しない走りで悠々と先制点を取れる。よしんば全滅できなくても、人数が減る分数で負けている兵夜のチームは有利になるわ」

 

 リアスがそう言いながら、楽しそうに笑う。

 

「そして、いきなりあんな攻撃を叩き込まれた桜花さんのチームメンバーは、恐怖を刻み込まれても不思議じゃないし、どうしてもあの攻撃を気にしてしまう。……出ばなを挫くにはいい作戦だわ」

 

 うん。リアスも宮白のこと良く分かってる。

 

 この試合、戦闘能力の差が敗北に直結しないから数が素直に有利になる。

 

 だから、出ばなを挫いて試合の流れをいきなり一気に傾けたわけだ。

 

 でも、そう簡単にはいかなかったな。

 

 なにせ松田と元浜は俺の次ぐらいに付き合いが長いし、桜花さんは宮白をしっかり見てるはずだ。

 

 当然、このルールになったら先制攻撃を叩き込むことは予想していたはず。

 

 だって、このルールだとどうしてもいきなり大技が出てくる可能性は低いから油断するからな。

 

 一応言ってはいただろうけど、宮白に対する理解の差で追いつけなかったってところか。

 

 これは、桜花さんのチームメイトにはいい経験になったはずだ。

 

「きっと、これもまたお兄様やアザゼルがアザゼル杯で考えている目的の一つだわ。……実戦では死んでしまうような失態も、レーティングゲームならちゃんと経験として持ち越せる」

 

 リアスはそういうと、さらに微笑を深くした。

 

「桜花さんは兵夜に感謝しなくちゃ。愛弟子達にいい経験を与えてくれたんだもの」

 

 ああ、これがこの大会の神髄なのかもしれない。

 

 本当なら代償として命が奪われるような経験も、この大会なら痛い目を見るだけで済む。

 

 この大会、本当に色々と考えられてるよなぁ。

 

 と、大混乱があったけど、すぐに桜花さん達も持ち直してすぐにゴールとボールの近くへと辿り着く。

 

 そして、宮白達もすぐに辿り着いた。

 

『先制点はこちらがもらう!! 暁! 俺達が足止めするからお前が決めろ!!』

 

『それを聞いて許すとでもー? 二人とも行くよー!!』

 

『『うっす!!』』

 

 それぞれ全力疾走で三人が宮白達に割って入ろうとする。

 

 そしてその瞬間―

 

『プランB発動!! 須澄!!』

 

『OK! 分かってるよ兄さん!!』

 

 宮白と、その弟の近平がそれぞれ松田と元浜に全力で突撃をかけた。

 

 義足と聖槍がそれぞれ大出力で唸りをあげて―

 

『『死ね変態!!』』

 

『『うぁああああああああ!?』』

 

 

 殺す気満々の攻撃が放たれたぁああああ!?

 

『なにしやがんだ宮白!! お前、今股間に狙いつけただろ!!』

 

『いや、鳩尾辺りを狙ったつもりなんだが、狙いが狂った。マジマジ』

 

 バックステップでかわした松田の文句に、宮白は本当に狙いが狂っただけなのか素直に謝った。

 

 謝ったけど、すぐに鋭い視線を向ける。

 

『それはともかく松田。……お前の担当は俺だ』

 

『そして、そしてあなたの担当は僕だよ、元浜くん』

 

 兄弟揃ってかなり血走った目で、宮白と近平は構えをとる。

 

 ここは死んでも通さない。何が何でもその命を奪う。……って思っても全然おかしくないような、マジですごい目だ。

 

 あの、これレーティングゲームだって分かってる? 殺し合いじゃないよ、競技だよ?

 

 そんなやばそうな雰囲気の中、しかし桜花さんは冷静だった。

 

 今ボールを持ってるのは、暁だ。

 

 なんでも実戦経験もあまりなくて、一昔前の俺たちみたいにトラブルに巻き込まれてるらしい。しかも能力が大火力な上に島暮らしなせいで、特訓する場所にも苦労するそうだってさ。

 

 その辺の戦闘訓練もかねて宮白は誘ったらしいんだけど、桜花さんの相手は厳しくないか?

 

 なんでも種族特性を活かして戦うと、加減がきかなくて島が沈むとかいうレベルだそうだ。この乱戦じゃ味方ごと巻き込んで吹っ飛ばしちゃうよな。

 

「桜花さまと暁さまの相性は最悪に近いですわ。なにせ大火力が使えない格闘技の初心者が、武術の達人である桜花さまを出し抜けるとは思えない」

 

「すぐにでもパスを出したいが、自分のポイントの高さを思えば躊躇するはずだ。その隙をつかれてボールが取られるといったところか」

 

 レイヴェルとゼノヴィアがそう予想するけど、俺もそう思う。

 

 ぶっちゃけ桜花さんって戦闘関係では隙があまりないからな。D×Dのメンバーの中でも、戦闘経験の多いベテラン勢だし。

 

 そんな桜花さんなら、慣れてないゲームに参加してる素人相手にボールを取るぐらい簡単だろう。

 

『先制点はもらうよー!』

 

 と、いうが早いか桜花さんは一瞬で暁の隣をすり抜ける。

 

 あ、これは確実にボール取られて―

 

『あれー? ボールはー?』

 

 ―いなかった!?

 

 え? あれ? ボールはどこに?

 

 その瞬間、いきなりブザーが鳴り響いた。

 

『ゴォオオオオオルゥウウウウウ!!! 桜花選手が暁選手からボールを奪ったかと思ったその瞬間、何故かポイントは暁選手による9ポイントです!! 何があったぁ!?』

 

 実況の人も驚く中、さっきの映像がスローでリプレイされる。

 

 桜花さんが踏み込んで素手の間合いに入る頃には、暁は何ともうボールを投げていた。

 

 そしてそのボールはまっすぐゴールの中心に入って、そして一気に9ポイント。

 

 え? ウソ、何事?

 

『ああ、そういえば言ってなかったな』

 

 松田を倒そうと攻撃を撃ちまくりながら、宮白がにやりと笑う。

 

『暁、元バスケ部で大会のMVPに選ばれたことがあるから。今回の役割は得点確保な』

 

 な、な、な、なんだって?

 

 大会でMVPって、半端なプロにも匹敵するよな?

 

 それが9点とれる女王枠って………

 

「何気に兵夜も引きが強いのよねぇ」

 

 リアスが苦笑するけど、本当にあいついい拾い物したよ!!

 

 そしてゴールを潜り抜けたボールを、ヴィヴィオからもらった暁は、其のまま走り出す。

 

 桜花さんは慌てて取ろうとするけど、その瞬間にはすぐにノーヴェさんにパスしていた。

 

『悪いな。戦争(ケンカ)は慣れてなくても競技(しあい)は得意なんだよ』

 

 あ、暁の奴、同性なのにかっこいい!

 

 こ、この試合展開が分からなくなってきたぞぉ!?




はい、兵夜がやらかしました。………いつもとは別の意味で。

一定時間『しか』リタイアしないのではなく、一定時間『まで』参加させずに済むと考えた兵夜。初手から大技をぶちかまして先制点をゆっくりとる作戦に行きました。

さらに、自分は徹底的に松田と元浜の足止め。自分の嫁のシルシはもちろん、自らスカウトした女性陣にセクハラをさせないと全力です。

そして案が忘れられてる設定だとは思いますが、暁古城はバスケ部のエースでした。なので、今回眷獣と違う理由で切り札たりえます。


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VS久遠 第二ラウンド!!

 さて、ポイントゲットは暁に任せて、俺達は冷静に試合を進めるとしよう。

 

 そう。俺達がやることは極めて簡単。

 

「死ねや松田ぁ!!」

 

「お前今死ねって言ったよな!?」

 

 渾身の蹴りをあっさり躱しやがって。おのれ、これがふんどしの薫陶だということか。

 

 禍の団の中でも指折りの戦力であるふんどし。

 

 純粋な人間として生まれ変わり、転生悪魔にも転生天使にもならなかったくせして、神器を最終決戦まで使わずに若手の化け物だらけのグレモリー眷属と渡り合った真の化物。

 

 覇を発動させたサイラオーグ・バアルとすらまともに打ち合いむしろ優勢だったらしいあの超人。本当に人間か、オイ。

 

 とにかく、そんな化け物の薫陶を受けた久遠がシトリー眷属二強……というか最優であることからわかる通り、間違いなく教えを受けた松田もまた強敵だ。

 

 実戦経験の少なさを踏まえても、久遠の次に危険な敵でもある。

 

 そして何より―

 

「お前に! うちの! 女性陣の! 裸は見させん!!」

 

「いやそこまでしねえよ! 戦闘中に色っぽい角度になったらカメラ取るだけだよ!!」

 

「まずカメラを壊す!!」

 

 この野郎、そんなんだからモテないんだよ!!

 

「お前は! イッセーみたいに変人ばかり集まる縁はないんだからやめろと何度言ったらわかる!!」

 

「お前リアスさんや朱乃さんに殺されるぞ!?」

 

 あ、いけね!

 

「そ、そそそそそれはそれだ!!」

 

 ガトリングガン二丁持ちで撃ちまくりながら、俺はとりあえず戦闘に集中する。

 

 とにもかくにも、なんとしても今回オレは松田を抑え込む!!

 

 ただでさえ男の一人である暁をポイントゲッターとして残しておく必要があるんだ。その負担は間違いなく莫大で、だから俺達も負担を上げる必要がある。

 

 何があっても邪魔はさせん!!

 

「この野郎! 俺はお前と違ってモテないんだよ!! 大学生にもなって童貞なんだよ!!」

 

「やかましい! イッセーも童貞だから受け入れろ!!」

 

 とにかく足止めに徹して牽制しながら、俺はとにかく松田を足止めする。

 

 俺はあいつらを雇い入れたクライアントとして、あいつらに対する性的なセクハラから守る義務がある。

 

「やはり警察に通報して少年院に送るべきだったか。……むしろエロ友に頼んで強制的に童貞を奪っておくのもありだったかもしれん」

 

「嫌だ! 俺はもっといい童貞卒業をするんだぁあああああ!!!」

 

 ええい! イッセーがいつ童貞卒業してもおかしくない状況になってるから、「そんなんだから童貞なんだ」と言えない!

 

 あの野郎マジで面倒なことをしやがったな今畜生が!!

 

 そして俺の近くでは須澄が既に元浜を追い詰めていた。

 

「ふふふ、ふふふふ。これで終わりだよ。まずは目を潰そうか」

 

「お、おい! これはレーティングゲームだってわかってるよな!?」

 

 目を血走らせて元浜の眼球に槍の穂先を突き付けるのは須澄。

 

 ……いや、流石にこれは止めた方がいいような気がしてきたぞ?

 

「二人の、アップとトマリの素肌は僕だけのものだからね。……殺してでも、守り抜く………っ」

 

「だ、誰か助けてくれぇえええええええええ!!!」

 

 重い! 愛が重い!!

 

「そ、そんなに見たい……?」

 

「きゃぁーっ。須澄くんこんなところでなんてちょっと恥ずかしいよっ」

 

 はいそこ。ここはちょっと引くところです!

 

 まあ、これなら元浜は終わりだろう。

 

 元浜は自分が浮く程度の力しか持っていない能力者だ。エロ根性で動くにも限度があるはず。

 

 実際今回の戦闘でも、攻撃を死に物狂いでかわすのが精いっぱい。どう考えても戦闘能力では、今この場にいる連中の中で一番弱い。

 

 むしろなんで須澄の攻撃を今までしのげていたのか奇跡なレベルだ。須澄、小手先の技術は未発達だが攻撃の速さとかでいうのなら聖槍の加護ありとはいえ英霊級だぞ。

 

「ま、まて! 俺は、童貞を卒業するまで死にたくない!!」

 

「じゃあ卒業できないように切り落としてあげるよ!!」

 

 まて! それは流石にちょっと可哀想!!

 

「ひ、ひぃいいいいいいい!!! こ、ここここうなったら―」

 

 完璧に追い詰められている。そんな状況で―

 

「―本気出すか」

 

 元浜は、にやりと笑った。

 

 なんだ? いったい何をする?

 

 そう思った次の瞬間、須澄が真上に跳ね上がった。

 

 なんだ!? 何があった!?

 

 そう思ったのも束の間、さらに異変は続く。

 

「わ、わわ!?」

 

「これは!?」

 

 気づけば俺も含めて全員が浮き上がり、しかも飛行能力を利用しても中々地面に降りれない。

 

 な、なんだこれは!?

 

「残念だったな、宮白。……お前に手のうち全部見せるほど、俺も馬鹿じゃない」

 

 そう言いながら、元浜はなぜか見上げてガン見する。

 

 その視線は、ハイディのスカートの内側にガン見されていた。

 

「……言っとくが、ハイディのインナーはレオタードだぞ?」

 

「………よし、じゃあそっちの槍持ちの子を」

 

「アンスコ履かせてるからな」

 

 俺がスカート捲り程度の対策もしてないわけないだろう。馬鹿なのか。

 

「てめえ宮白!! 男のロマンを何だと思ってやがる!!」

 

「許さねえ! 本気で許さねえぞ!! 桜花さん! ちょっと武装解除(エクサルマティオー)の準備を―」

 

「したら絶交だからな久遠!!」

 

 血涙流さん勢いの松田と元浜の声を遮って、俺は久遠に警告を行う。

 

 武装解除魔法(エクサルマティオー)の本来の目的を考えれば使ってもおかしくないが、流石にそれは看過できん。

 

「うわ酷いー! そこまで脅しかけることないじゃんかー!!」

 

「だってお前、その辺緩いし……」

 

 脱がし合いで色々恥じらいが薄れてるところあるからなぁ。

 

 まあ、それはともかくだ。

 

「元浜、お前何しやがった! お前の能力は浮遊能力じゃなかったのか!?」

 

「ああ、俺も最近になってようやくこいつの能力が理解できた」

 

 そう言いながら、元浜はふっふっふと笑う。

 

「俺の能力は浮力操作。半径500メートルの範囲内の浮力を自由に操作するのさ!」

 

 な、なるほど。つまり俺達は浮力が操作された結果上に浮かんでしまっていると。

 

 持ち上げ限定の疑似的な怪力にもなるし、これは中々使える能力だな。

 

 もはやこの出力は超能力(レベル5)クラスだろう。シャレにならん。

 

「その気になりゃ、打ち上げて地面に叩き付けるってやり方もできるけど飛べる奴多そうだしな。そういうわけでそのまま俺達がポイント稼ぐのを黙って」

 

「ご苦労。其れさえ分かれば十分だ」

 

 元浜がそれ以上言うより早く。俺はショットガンを引き抜くと一発ぶち込んだ。

 

「……ぐぅ」

 

 そして元浜はそのまま地面に倒れた。

 

 それと同時に能力が解除されたのか、俺達は地面に墜落する。

 

「ぐぉ!?」

 

「先輩!? 大丈夫ですか?」

 

 一人暁が受け身を取り損ねたが、しかしこれで問題点はクリアーできた。

 

「残念だが特注品の睡眠薬だ。もろに喰らった以上数時間は起きたくても起きれないぜ?」

 

「汚い! 流石宮白汚い!」

 

 松田が無茶苦茶警戒しながら俺を非難するが、しかしそれがどうしたというのだ。

 

 これぐらいの装備は当然用意している。喰らう方が悪いわ。

 

「というわけで次はお前だ松田ぁ!! 行くぜ須澄!!」

 

「もちろん、もちろんだよ兄さん! 変態覚悟!!」

 

「させるか! 俺は絶対にどさくさに紛れておっぱいタッチを成功させて見せる!! 特にあのトマリさんって人は良いな、シルシさんのちっぱいも興味があるぜ!!」

 

「「………死ねぇ!!」」

 

 かなり頭に血が上ってきたぜ松田ぁ!

 

 そろそろブチギレテーマソングを流すことすら考慮しているが覚悟は良いな?

 

 お前は股間に冥府へ誘い死の一撃(ハーイデース・ストライク)の刑だこの野郎!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわぁ、すごい戦いになってきた。

 

 既に最初の一撃でリタイアしたメンバーも復活。ボールの奪い合いは乱戦になってる。

 

 宮白は作戦通り暁をメインにポイントを稼いでいるけど、それがわかってるからシュトリズセイバーチームも暁を囲むように戦闘してる。

 

 時々シルシさん達の妨害で崩れることはあるけど、瞬動術ですぐに復活してくるから簡単にはいかない。

 

「瞬発力ではシュトリズセイバーチームが一番ですわね。やはり桜花さんの指導力は見事ですわ」

 

「そうね。兵夜と近平くんも、松田君に集中してるし、そう簡単にはいかないようね」

 

 レイヴェルとリアスがそう評価する中、松田はマジで頑張ってる。

 

 仮にも神さまの宮白と、神滅具保有者の近平を同時に相手して、だけど一回もリタイアしてないからだ。

 

 元浜が麻酔薬で試合復帰不可能になってるけど、松田は身体能力がシャレにならないからしのいでいる。これはマジでやばい。

 

「っていうかコレ、もしかして桜花さんの作戦じゃないか?」

 

 なんか、そんな気になってきた。

 

「どうしてそう思うんだい、イッセーくん」

 

「考えてみろよ、木場。……宮白なら、真っ先にメンバーが洋服崩壊系の技で裸にされること警戒するだろ? 松田や元浜なら使えるようになってもおかしくないし」

 

 一応ゲームでは相手が許可しない限り使用禁止になってるけど、同系統の新技を開発すればそれは一回だけなら使えるはずだ。

 

 俺も一つ隠し玉があるけど、絶対宮白は男連中でタコ殴りする作戦するんだろうなぁ。

 

 だけど、それはつまり誰が誰に仕掛けてくるかが前もってわかりやすいってことだ。

 

 桜花さんは宮白の愛人なんだし、ある程度は思考も読めるはず。

 

 つまり、松田の役目は男達に対する囮作戦。実際それに集中してるのか、作戦指揮もとってないしいい感じにはまってるかもしれない。

 

 いや、宮白もそれを読んで、あえて最初っからこのゲームの時は暁を中心にする作戦だったのかもな。

 

「桜花先輩流石ですぅ。宮白先輩を手玉に取ってます!」

 

「宮白さんは大丈夫でしょうか。前回のレーティングゲームみたいなことにならないといいんですけど」

 

 ギャスパーもアーシアも、形は違えど大体そんな感想みたいだ。

 

 宮白、これ、お前マジで大変なんじゃないか?

 




元浜が超能力者だとはだれも思わなかったでしょう。

何気に凶悪な能力です。周囲の浮力を一気に上げれば、戦車の大部隊すら無力化可能ですから。ちゃんとレベル5なだけあって一軍匹敵なのですよ。

しかし即退場。兵夜の作戦「時間が過ぎても動けなければ意味がない」発動。









 何気に今回の駆け引きの要となっている松田と元浜。久遠はこれで兵夜の作戦指揮をある程度制御できますし、兵夜もそれを想定して最初から作戦指揮を分投げるというスタンスを取りました。しかしそれでも兵夜は策士として優秀な部類(うっかりのぞく)なので、いろいろ大変ではある。

 何気に玄人が好みそうなところもある試合出した♪


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VS久遠 最終ラウンド!!

 

 うぉおおおおおお!!!

 

 変態潰す! 変態の玉潰す!

 

 俺の女の胸を、お前になんか触らせねえぞ松田ぁ!!

 

「須澄! 俺が正面から引き付ける。お前は後ろから俺ごと突き刺せ!!」

 

「OK! OKだよ兄さん!」

 

 今、俺たち兄弟の心は一つになっている。

 

 すべては、愛する女にセクハラの魔の手を伸ばさせない為。特におっぱいを揉ませない為。

 

 戦闘中? 偶発的? はっはっは。例えそうであろうと、それを目的の一環に入れている下心満載の輩にやすやす触れさせると思うな。

 

 神格と神殺し。本来相容れぬこの二つの共演をご覧あれ。いかなるものすら脅威とみなし、恐れおののくこのコンビ。二重奏の殺意が、変態倒せと轟叫ぶ。

 

「「覚悟!!」」

 

「させるかぁ!! こんなに女の子だらけのレーティングゲームで、一回も触れないとかそんなことしてたまるものかよ!!」

 

 だが松田はしつこく、まったくもって俺達の攻撃は当たらない。

 

「触ってやる!! 触ってやるぞ!! 俺は、女体に、触れるんだ!!」

 

『松田選手! 燃えています! やはり男としては、あれだけの魅力的な少女の肢体に触れたいと思うのは当然といえば当然です』

 

「暗殺してやろうか実況!! 気持ちはわかるがここでいうな!!」

 

 冥界規律が緩すぎだろう!! 優勝したら綱紀粛正してやろうか!!

 

 いや、そんなことを気にしている暇はない。

 

 一瞬ツッコミに回った瞬間、即座に松田がすり抜けようとしてくる。

 

「ええいしつこい!! いい加減一回リタイアしろ!!」

 

「断る!! 俺は、ここでおっぱいを揉む!!」

 

「やらせない、させるわけないだろう!? 特にアップとトマリの胸は揉ませない!!」

 

 既に映像で見せていいのかといわんばかりのオリジナル笑顔をぶちかましながら、須澄が気合と根性と聖槍で抑え込む。

 

 だがしかし、その攻撃はすべて苦労はしてるがかわされてしまう。

 

「舐めんじゃねえよ! 動きは速いが単純だな! こんなもん師匠の薫陶を受けた俺達なら楽に躱せるぜ?」

 

「人が気にしてることを!! どうせ僕は要修行だよ!!」

 

 いや、あのふんどしがシャレにならないだけだから気にしなくていいぞ?

 

 それはともかく、試合運びは中々に接戦となっている。

 

「くそ! とにかく相手のリーダーを抑えてくれ! さっきから動きが読まれてる!」

 

「だいぶ慣れてきたよー! ボール投げられる前に分捕る感じで行くからねー?」

 

 何とか今は暁が稼いだポイントでこっちが有利だが、いい加減久遠も動きに慣れてきたのかだいぶ防げるようになってきている。

 

 そして、球技であるゆえに人数の差がどうしても響く。こっちの方が人数が少ないのがここにきて苦戦だ。

 

 だが、ここで松田を取り逃がせば、執念でオパーイタッチが実現してしまう!

 

 それが最初からわかっているから、久遠は俺を警戒対象に入れてない。

 

 この試合。久遠は俺が松田と元浜に集中することを前提に入れていた。

 

 こっちも読まれていることはわかっていたので暁に分投げるという策を取ったが、やはりレーティングゲームの経験が浅いのが裏目に出たか。

 

 しかし、ここで俺が指揮に集中すれば、松田に抜かれるのは間違いない。

 

 それは、それは、それだけは……っ!

 

「世の中には、勝利より価値のある敗北がある!」

 

「そこまで言うか!?」

 

 ホストとしてゲストのおっぱいを揉ませるわけにはいかんのだ!!

 

 ああ、だからこそ、俺の役目は松田の足止めだ。

 

 そもそも妨害ありとはいえ球技なら、暁の方が慣れている!

 

「皆! なんとしてもセクハラはさせない! だからそっちは任せるぞ!!」

 

「どんだけ俺のこと警戒してるんだ宮白!」

 

「最重要警戒対象だ!!」

 

 やらせるわけないだろうが、この野郎!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 松田、あそこまで妨害されるなんて!

 

「負けるな、松田! 元浜の分も頑張れぇええええ!!」

 

「応援する相手を間違いないでください、セクハラ先輩」

 

 グハァ! 脇腹にストレートはやめて小猫ちゃん!

 

 そ、それはそれとしてやっぱり桜花さんのチームは経験が浅い人だらけなのに動きがいいなぁ。

 

「B9ー!」

 

「はい!」

 

 簡単な符丁ですぐに動きを変えるメンバー。あれ、徹底的に仕込まれてるぞ?

 

「流石に桜花はできるわね。あれなら聞かれる位置で戦闘していても、すぐには対応されないわ」

 

「そうですわ。私達のチームでも取り入れたいですけど、すぐに馴染めるかどうか……」

 

 リアスとレイヴェルがそう会話するけど、確かにすぐに全部覚えられるかっていうと、大変だよなぁ。

 

 それをちゃんとできるようにしてる辺り、やっぱり桜花さんはそういうのが得意だよ。

 

 こりゃ、ソーナ先輩の将来の戦力はすごいことになるぞ。レーティングゲームとは別の方面で、すごい戦力の誕生だ。

 

 だけど、それでも未だに点差を逆転されていない。

 

 暁ってやつ、本当にバスケがうまいんだな。バスケットボールの動きで桜花さんから何とか逃げてる。

 

 それを見ているのか、ゼノヴィアもイリナも興味深そうにその動きを見ていた。

 

「しかし、あの暁というのはできるな。桜花も慣れているはずなのに、未だに得点を伸ばしている」

 

「そうね。これからは、ランペイジ・ボール対策に球技慣れしたリザーブ枠を確保する人が増えてきそうだわ」

 

「確かに。アザゼル杯はリザーブメンバーを何人用意してもいいからね。こういう特殊ルールに特化したメンバーを別途で用意するのも問題ない。ただのレーティングゲームとはまた違った要素が出てきてるね」

 

 木場の言う通りだ。まあ、暁は神魔チームのレギュラーなんだけど。

 

 だけどこれはすごいな。ホントに俺達も考えないと。

 

「ああもうー! 私一人じゃ流石にしんどいよー!」

 

 桜花さんもこれは想定外だったのか、結構苛立たしげな声を出す。

 

 あの桜花さんにここまで言わせるなんて、暁って奴本当にすごいな。

 

「ボールの取り合いじゃぁ時間がかかるし、何より他の人の妨害も酷いしー。こうなったら……」

 

 そうため息をついて、桜花さんは暁から距離を取った。

 

 そして首を横に振って―

 

「―いったん減らすかー」

 

 次の瞬間、シルシさんの前に立っていた。

 

 瞬動術なのは間違いない。だけど、それにしたって早すぎだろ!!

 

 だけど、その瞬間にはシルシさんはエストックを突き出していた。

 

 そういえばあの人未来視できたっけ。だったら瞬動術も大して意味はない。

 

「甘いわよ!」

 

「そっちこそー!」

 

 だけど桜花さんはその突きをあっさり躱すと―

 

「せいや!」

 

 次の瞬間には、シルシさんの頭が揺れた。

 

「……見えて、いたのに―っ」

 

「そうだよねー。だから読まれても躱せないぐらい全力だしたよー」

 

 見れば、桜花さんの体には傷ができていた。

 

 あれは、気と魔力を合成させて超パワーアップする桜花さんの技法!

 

 アーティファクト抜きではまだ反動がでかいけど、それを逆手にとって不意打ちにしやがったのか!

 

 あの状態の桜花さんは、禁手状態の匙とスペックで渡り合える。上級悪魔として及第点のシルシさんでは荷が重いか。

 

 っていうか桜花さん、フェニックスのシルシさんを倒すんじゃなくて、行動不能にするだけにしやがった。

 

 これ、レイヴェルがやられたら大打撃だ。俺が戦うことになったら意地でも彼女を守らないと。

 

「とりあえず五分は脳震盪で動けないよねー。その間に―」

 

 そして、即座に振り返って桜花さんは次の狙いを定める。

 

「させるか!」

 

「甘いよー!」

 

 すぐにナカジマさんが殴り掛かるけど、桜花さんは長距離を一瞬で移動して距離を取る。

 

 瞬動術ってあんなところまで行けるのかよ! あれじゃあ近接戦闘だと苦戦する!

 

 そして、つまり次の狙いは―

 

「悪いけど、弱い順から狙ってくよー!」

 

 ―ヴィヴィオちゃん!

 

 た、確かにあの子は十歳だし、冷静に考えると一番弱くなきゃおかしい。

 

 とはいえ、やばくなるとその辺容赦ない辺り、桜花さん割とドライ! 流石元傭兵!

 

 とはいえ、このままだと確実にヴィヴィオちゃんが―

 

「うわっ!?」

 

 と思ったら躱した!?

 

「……動体視力と反射神経は良いねー」

 

 桜花さんはちょっときょとんとしながら自分の野太刀を見て、そして軽くステップを踏む。

 

「だけどそれ以外は低めだから―」

 

 そして次の瞬間から、攻撃スタイルが一気に変化した!

 

 今までの瞬動を中心とした高速戦闘じゃなく、格闘戦による強引な割込み。

 

 そして、一気にヴィヴィオちゃんは追い込まれる。

 

「―ごり押しで押し切れるよー!」

 

 あの一瞬でそこまで見切ったのかよ!?

 

「やはり指導者としての素質も高い。相手の得意不得意を瞬時に見極めている」

 

「そして、それを戦闘に活かせば相手の弱点を突けるわけですね」

 

 木場と小猫ちゃんが目を見開く中、桜花さんはあっという間にヴィヴィオは掴まれて投げ飛ばされる。

 

「そして空中戦も慣れてなさそうだよねー!」

 

 再び野太刀を構えて切りかかる。

 

「うわっ! やっぱり早い!」

 

 あ、これマジでまず―

 

「させるか!」

 

「はうんっ!?」

 

 と思ったら、桜花さんが壁に激突した!?

 

 何アレ? 魔力系統っぽいけど―

 

「結界ー!?」

 

「―道だ!!」

 

 そして、ローラースケートでその壁……じゃなくて道を駆け上がってナカジマが追い付いた!

 

 桜花さんも即座に反撃を行うけど、それをナカジマは間一髪でかわす。

 

 やっぱり、技量だけでいうならあの人が神魔チームでもかなりすごい!

 

 そして、反撃の打撃そのものは桜花さんはガードするけど、そこからさらに光が出る。

 

 それは帯となって、桜花さんを拘束した!

 

「あ、拘束系(バインド)魔法ー!?」

 

「アンタの身体能力は聞かされてる。これで当分は動けないだろ!!」

 

 おお! あの一瞬で見事に動きを封じ込めた。

 

「あまいよー! 魔法の矢、風の11矢!!」

 

 だけど桜花さんもただではやられない。即座に魔法世界の捕縛魔法でナカジマとヴィヴィオを同時に封じ込めようとして―

 

「させません! 雪霞狼!!」

 

 姫柊ちゃんがそれを槍でかき消した!!

 

「それも聞かされています!」

 

 おお、見事に桜花さんを封じ込めたぞ!

 

「あ、ヤベ! 桜花さんが封じられた!?」

 

「嘘だろ、オイ!?」

 

 そして桜花さんが止められたことで、シュトリズセイバーチームは思いっきり動揺する。

 

「今だ! 一気にポイントを稼げ!!」

 

 宮白が指示を出しながらガトリングガンで松田をけん制する。

 

 そして、そのままポイントの獲得数が一気に引き離される。

 

 桜花さんは短時間で束縛から脱出したけど、一気にポイントを引き離されたことで士気は低下して追いかけきれず―

 

『試合終了! 神魔の蒼穹剣チームの勝利です!!』

 

 ―其のまま、宮白達は逃げ切った。

 

「お、おっぱいぃいいいいいい!!!」

 

 松田の嘆きの絶叫は、心にしみた。

 




ちなみにこの試合で戦士としての強者ランキングを作る場合、ナンバーワンは久遠になります。こと実戦経験においては正真正銘の重大だらけのこの試合では太刀打ち困難。

ヴィヴィオの戦闘スタイル上の欠点を一試合で見抜く眼力。そしてそれを実際に実行できる手数。単純なスペックならしのぐものは何人もいますが、戦士としての完成度では誰にも負けません。

とはいえ、地獄のエイエヌ事変を潜り抜けた神魔剣チームもなめた者ではなかったということです。


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押してもだめなら引いてみます!!

 

 試合終了し、そして何とか女性陣の体を守ることはできた。

 

「では、女性陣が無事だったことを祝して乾杯!!」

 

「「じゃねえ!!」」

 

 後ろから松田と元浜に飛び蹴りを叩き込まれた。

 

 そしてそのまま吹っ飛ぶが、すぐに桜花がキャッチしてくれる。

 

「わーいー! 兵夜くんゲットー!!」

 

「そのまましめ落してください。こいつもうちょっとボコられるべきだ」

 

「試合に勝つより俺達に女子触れさせない方が重要ってどういうこった、あぁん?」

 

 目を血走らせて詰め寄る松田と元浜だが、しかしそれは当然だ。

 

「当たり前だこの野郎が。俺にはホストとしての義務があるんだよ、コラ」

 

「くそ! 同類のはずのイッセーなんてリアス先輩を始めとしたバリエーション豊かな女の子達に囲まれてるのに!! なんで俺はこうなんだ!!」

 

「なんでだ! 俺達とイッセーと何が違う!?」

 

 絶望すら漂わせて二人は落ち込むが、しかしそれに関しては―

 

「潜ってきた修羅場だな」

 

 ―即答できる。

 

「だよねー」

 

 久遠が思わず苦笑するほどだ。

 

 だって冷静に考えてみろよ。

 

 レイナーレはまだ中級堕天使だからいい。ライザーもレーティングゲームだからいい。

 

 だが、そっから先がどう考えてもインフレ激しい。

 

 堕天使幹部に魔王末裔に最強の神滅具保有者に悪魔の超越者と滅ぼされたはずの邪龍軍団。……伝説に名を残す規格外だらけだ。

 

 それが一年足らずの間につるべ打ち。なんで生きてるんだとドンビキされるレベルだろう。

 

 それだけの修羅場を潜り抜けたのだ。そりゃ相応のがあってしかるべきだろう。

 

「……そ、それは流石に躊躇するな」

 

「ああ、俺達死んでる自信がある」

 

 松田も元浜も話に聞いたそれを思い出したのか、がくがくブルブルと震えている。

 

 うん、だよなぁ。

 

「それに、イッセーは悩み事に寄り添ったりぶつかったり、まっすぐに向かっていったからな。……ど変態という欠点以外は、割といい物件だ」

 

 それは客観視して理解できている。

 

 欠点が致命的なのはどうしようもないが、逆に言えばそれ位しか美徳と言えないところはないんだ。

 

 さらにトラブルの頻発でその長所が目立つ時が多かった。これも大きな幸運だろう。

 

「ま、お前らも頑張って成果を上げてれば、女の一人ぐらいできるって。イッセーほどじゃないだろうがな」

 

「な、なんでだよ!?」

 

 松田に掴み掛られそうになるが、今の俺は久遠に抱き抱えられているからカバーされている。

 

 ああ、これが絶対安全圏か。癖になるな。

 

「………やっほー! 久遠ちゃんに兵夜くん♪ 近くに来たから遊びに来たわよん♪」

 

 と、その声に振り向いてみれば、そこにいたのはセラフォルー様。

 

「あ、セラさまー。お久しぶりですー」

 

「おひさー♪ 今日の試合はすっごく楽しめたわ!」

 

 そう言ってハイタッチする久遠とセラフォルー様。

 

 そして、視線が一気に集まった。

 

「せ、セラフォルー様だ!」

 

「ご、ご尊顔を拝謁できてありがたく思います!!」

 

 慌てて傅く悪魔達を見て、暁達が怪訝な表情をした。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 今のセラフォルー様は、いつもの魔法少女ファッションだった。

 

「……なあ、宮白。この子、そんなにすごい奴なのか?」

 

 と、暁が首を傾げながら聞いてくる。

 

 ………ああ、まあそうだろうな。放送だと映像は俺達には見えなかったから分からないだろうし。

 

「紹介しよう。彼女は今代の魔王レヴィアタンを拝命する、セラフォルー・レヴィアタンだ」

 

 その言葉に、暁は一回ゆっくりと首を動かしてセラフォルー様を見る。

 

 そして一回俺に視線を向けてから、勢いよくもう一回セラフォルー様を見た。

 

「魔王!? あれがか!?」

 

 ああ、そうなんだ。

 

「気持ちは分かる。俺も時々どうかと思うが、あれで中々人気が莫大なんだ」

 

「どう考えても特殊な趣味だろうがっ」

 

 流石に大声でいうのはまずいと思い、俺の耳元に顔を寄せて小声でツッコミを入れた。

 

 うん。確かに色々と思うところは俺もある。

 

 俺もあるが、真実だ。

 

「生粋の魔法少女ファンでな。オフの時は基本的にあの格好なんだ。しかも魔法少女特撮を自分を主役に創ってるが、非常に人気が高いというすごいことなんだ」

 

「………お前も大変だな」

 

 心底同情されたよ。まあそうだろうけど。

 

「まあそう言うな。確かに相当ルナティックではあるが、民衆からの支持は現四大魔王は全員かなり高い。リベラルすぎるのは難点だが……それでも良い王なのは間違いないさ」

 

 ああ、その辺に関しては間違いなく断言できるからな。

 

「兵夜くんに言われると照れるわね。でも、それもそんなに長くは続かないだろうけど」

 

 ん? なんで?

 

「それはないでしょう。皇帝の告発もあって、うるさい旧家の発言力はだいぶ低下している。言っては何ですけどこれからの方がそっちにとっては楽では?」

 

 むしろ、勢い余ってリベラルに傾きすぎないか心配なぐらいなんだが。

 

 悪魔は血統による能力差が大きいから、血統主義はある程度残らないとまずいんだが。

 

 だが、セラフォルー様は首を振った。

 

「これはそろそろ言うからもう言っちゃうけど、現四大魔王はE×Eが接触するより先に引退する予定なのよん。ほら、理由は何であれ王の駒の不正使用を黙認してたもの」

 

 その言葉に、その場にいた者達が唖然となった。

 

 おいおい、それマジかよ。

 

 アレに関しては、むしろよく頑張った方だと思うのだが。

 

「これを機に、魔王制度も大幅に変える予定なのよ。七つの大罪に倣って、いっそのこと七大魔王制度に変えようとかという話もあるの? たぶんサーゼクスちゃんから兵夜くんに話があると思うわ」

 

 いや、俺に話通す必要あるのか? そこ。

 

 いや待て。この様子だと―

 

「―まさかイッセーを七大魔王に据えるなんて言うんじゃないでしょうね」

 

「何言ってるのん? ……反対派の方が少ないわよ」

 

 マジかぁああああああああ!!!

 

 いかん、大王派の発言力が低下した所為で、今度は別の意味で厄介なことになってる!!

 

「おお! 乳乳帝が魔王様になるのか!!」

 

「そりゃあいい。冥界の未来は明るいな!!」

 

 いかん! 久遠の弟子達もそっち側だ!!

 

 いや、確かにイッセーは有用物件ですけどね?

 

 あいつまだ十代だぞ!!

 

「でもイッセーくんは今の魔王のポジションに向いてなくてねぇん。……いっそのことサーゼクスちゃんは八大魔王にしてしまおうかとか言ってるのよ」

 

 そこまでするレベルか!! そこまでして魔王にしたいか!!

 

 いかん、思った以上に展開が早すぎる。七大魔王制度はこちらも知ってはいたが、まさか魔王の座をイッセーを据えるためだけに増やすとか想定外だ!!

 

 流石にそれはリベラルすぎだろう! ええい、だが悪魔全体がそっち側に傾いている以上このままでは……!

 

 ……は! そうだ良い事を思いついた。

 

「待った! だったらいい提案があります!!」

 

 こうなれば、流れに乗った上でより状況を変える!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元々、七つの大罪は八つだったという話はご存知ですか?」

 

 俺は、次の日四大魔王を読んで会談を開いた。

 

「ああ、元々は嫉妬の罪がなく、虚飾と憂鬱が存在していたということだろう?」

 

 サーゼクス様が即座に反応する。

 

 そう、元々七つの大罪に嫉妬はなかった。

 

 そして、傲慢の罪に吸収される形になったが虚飾があり、怠惰の罪に吸収される形で憂鬱があった。

 

 そう、つまり―

 

「大罪は本当は九つあるという考え方もあります。そうでしょう?」

 

「……なるほど、七大魔王ならぬ九大罪王か。面白い提案をするね」

 

 よし、食いついた!!

 

「面白い。世論が自分の反対するイッセーくんの魔王を望むのならば、いっそのことさらに増やしてしまおうということか」

 

「そういうことですアジュカ様。……転生悪魔を魔王に据えることは、個人的に反対です」

 

 いうなれば、帰化したとはいえ外国人を政治の要職に就けるようなものだ。

 

 正直言ってリベラルすぎる。ついて行けるものも少ないだろう。

 

「それに、今後を考えるのならばイッセーを悪魔のトップに据えるのは大きな問題があることは分かっていますか?」

 

「そんなになの? イッセーくん良い子じゃない」

 

 セラフォルー様はそう言うが、しかしイッセーはあまりに問題だ。

 

「あのですねセラフォルー様? イッセーは確かに良いやつですが覗きの常習犯ですよ? 人間世界で、どれだけの著名人が性犯罪を起こしたことで社会的に失墜したかご存知ですか?」

 

 売春、痴漢、セクシャルハラスメント。現代社会において、性的なスキャンダルはあまりに致命的だ。

 

 変な性癖があると知られるだけで、社会的な地位が剥奪されることも珍しくない。

 

 そんな人間世界に存在を公表するというのに、覗き魔をトップに据えていると知られればどうなるか。

 

 ……かけてもいい。足並みが乱れる。

 

 だが、残念なことに多くの異形達はイッセーを称賛している。

 

 あいつを魔王に据えたい者は、もはや悪魔だけに留まらない。

 

 天使も、妖怪も、神々すらも。兵藤一誠という男を英雄として見て、魔王となるに相応しいと見ている。

 

 この認識のずれは致命的だ。いつか必ず大きなもめ事を産んでしまう。

 

 それをどうにかする方法はあるか。……一つ、ある。

 

 イッセーがサマエルの毒に対抗したのと同様の方法だ。

 

 ……絶対数を増やして薄めればいい。

 

「……実は、ぜひ将来的に魔王の座に加えたい人物がいるのですよ」

 

 すまん、お前をある意味で売るぞ、アルサム!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ある意味で既に手遅れだということを俺が知るのは、もっと後になってからだった。

 

 

 

 

 




原作最新刊における、イッセーの魔王推しにさすがに苦笑しました。……早いよ君ら。

そんなわけで、本来予定しているよりもさらに一ひねり加えることにしました。詳しくは次回で。


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神と人の契約、そして集う来訪者

今回ちょっと長めです。


















兵夜は確かに慧眼だった。

だが、同時にうっかりだった。

すでに事態は動き始めており、彼もまたその標的の一人なのだ


 

 

 

 そのころ、ある場所で多くの者達が集まっていた。

 

「ファファファ。まさか我らを信仰せぬ者たちが、こうまでここに集まってくれるとはな」

 

 そうあきれ半分で感心するのは、オリュンポスの神ハーデス。

 

 そう、ここは冥府。死の世界の一つ。

 

 その冥府に、本来あってはならない者達が集まっていた。

 

「それは仕方がありません。なにせ、貴方方だけでは彼らを倒すことなどできないのですから」

 

 そう告げるのは、人間だった。

 

 それも、死者ではなく生者だった。

 

 本来、死者の世界である冥府に生者が来ることなどめったにない。

 

 しかも、その数は数十人を超えていた。

 

「それは少し違うでしょう。それ以上に私達だけでも倒すことはできないでしょう」

 

「その通りです。だからこそ、こうして頭を下げに来たのですから」

 

 最初の男の発言を嗜める声も、しかし剣呑な響きを宿している。

 

 そこにいる人間達は、人種も性別もばらばらだが、共通点が二つある。

 

 一つは年齢。成人を超え、若くて中年、老年に到達している者も数多い。

 

 一つは職業。彼らは、いわゆる政治家と呼ばれる者か軍人と呼ばれる者達だった。

 

 その中の1人、日本人である男が一歩前に出る。

 

「ハーデス神。兵藤一誠が次期魔王の後継というのは本当ですかな?」

 

「残念ながら本当だ。悪魔側のスパイが掴んだ情報によれば、今の四大魔王はそれを望んでいるというそうだ。……大王派は今の発言力ではそれを阻止しきれんし、むしろ奨励している者もいる始末だ」

 

 その言葉に、全員が一斉に苦い顔をした。

 

 特に酷いのは、日本人だ。

 

「あんな我が国の恥が、よりにもよって異形達の代表だと……!?」

 

「五大宗家も役に立たん。何故あんな人間の屑を奨励するというのだ!!」

 

 ドン! ……と強く壁を叩くものまでいる中、その日本人達に憐憫の視線が集まっていく。

 

 そう、それこそが三つ目の共通点。

 

 彼らは、兵藤一誠という男を蔑んでいるということだ。

 

「まったく。日本も苦労しているな」

 

「同感だな。あんな輩が世界の主導権にかかわるなど、あってはならないことだ」

 

 そういう人間達も、しかし残念そうにため息をついた。

 

 基本的に、兵藤一誠は性犯罪の常習犯だ。

 

 人間世界においてそんな人物が唾棄されるのはおかしなことでも何でもない。

 

 例え英雄といえど、そんなものはある程度距離を置くなり隔離するなり、とにかく国政やかじ取りからある程度離れたところに置くのが基本だ。

 

 それが、一大勢力のトップの1人になろうとしている。

 

 黙ってみていられるようなことではない。

 

 だが、しかし頭を抱えるしかない問題がある。

 

「だが、今の我々には力が足りない」

 

 そう、全くもって力が足りない。

 

 異形達の力に、そして異世界の力に人間は未だ対抗できない。それは第三次世界大戦でいやというほど理解した。

 

 フィフス・エリクシルの暗躍により技術は大量に流出しているが、それでも足りない。何より彼の所為でどの国も国力は低下している。

 

 異形達との全面戦争を起こすには、彼らの力は足りなかった。

 

 ゆえに、彼らは考えた。

 

 ならば、自分達も異形達の力を借りよう。

 

「ハーデス神。我々はあなた方に協力します」

 

「ですから、あの人間世界(我々)の恥をなんとしても滅ぼしていただきたい」

 

「其の為なら、我々もできる限りの協力をさせてもらいます」

 

 そう告げる人間たちに鷹揚に頷きながら、ハーデスもまた決意を新たにする。

 

 そして、同時に兵藤一誠達を嘲笑する。

 

 元々ただの人間でありながら、冥界の……多くの異形達にとっての希望の光となった兵藤一誠。

 

 奇しくも、それを最も望まない者は彼と同じただの人間なのだから。

 

「ファファファ。なら、素直にその助力を受けるとしようか。それで、先ずはどうする?」

 

「まずは、彼らを使いましょうか」

 

 そういうと同時に、一人の男がファイルを取り出す。

 

 そこに乗っているのは、何人もの人間だった。

 

「まずは我々の手で兵藤一誠の暗殺を試しましょう。……悪魔の協力者と話は済んでいます」

 

 東洋人の政治家の一人がそう告げる。

 

 それに対して、西洋人の政治かは少し不満げな表情を浮かべた。

 

「悪魔と共闘とは、いささか不愉快ですな」

 

「まあよろしいではありませんか。既に天使達は融和などということをしているのです。こちらも利用ぐらいしなければ戦えません」

 

「そうですな。天の国が協力するというのならば、我々が利用し合うことを否定されるいわれはないでしょう」

 

 そうフォローする者達も、不快な表情を浮かべている。

 

 だが、彼らが不快なのはむしろ教会側である。

 

 討伐し迫害し討ち滅ぼすべき悪魔と仲良くするなど、信徒に対する裏切りにも等しい。

 

 むろん、そのおかげで有利になっている一面はあるが、対抗する為とはいえ悪魔やその契約者と組むのは不快なところもあった。

 

「……まあ仕方がないだろうがこれが。それぐらいしないと勝ち目はないだろう?」

 

 そして、そんな中声が響いた。

 

 全員が苛立たし気な視線を向けるその男は、フォンフシリーズ。

 

 だが、その存在は他のフォンフとは一線を画している。

 

 その理由を心底理解しているハーデスは、一人だけ愉快そうな声を上げた。

 

『ファファファ。上手くいったようじゃな』

 

「ああ、俺の技術でリリスはだいぶ長持ちした。まあ、一年かけてゆっくり生産していたんだから当然だがな」

 

 そういうフォンフの体は、悪魔だった。

 

 神滅具を利用して生み出された獣鬼を使用しているはずのフォンフが、何故か悪魔の体を持っている。

 

 それも、そこからにじみ出る力は最上級悪魔などで収まるレベルではない。

 

 その理由を、ハーデスは心から理解していた。

 

『フォンフ・リリンと名付けよう。量産型のリゼヴィムはどれぐらい生産できた?』

 

「要望通りに100体。まあ、戦闘能力はその分低めだが最上級悪魔クラスも用意できた。あと、一体だけ魔王クラス以上の存在を用意できたが、それは約束通り素体として使わせてもらったぜこれが」

 

 そう告げるフォンフの言葉に、その場にいた全員が少しだけ喜ばしい表情を浮かべる。

 

 自分達の国に大打撃を与えたフィフスの後継たるフォンフの力を借りるのは心外だ。国民が知れば間違いなく時の政権が斃れるのは確実だろう。

 

 しかし、だからこそ彼の協力は必要だった。

 

 彼でなければ、リリスの無茶な運用を続けることは困難だ。少なくとも、一年以上の時間をかけたとはいえ二十万体の悪魔の生産は不可能だった。

 

 そして、これからも少しずつではあるが新たなる悪魔を生み出し続けることも可能なのは、一重に彼の功績によるものだった。

 

 更に、人類の縁者でありながら自分達の敵になるであろう神滅具に対するにあたって、リゼヴィムの神器無効化能力は垂涎物だ。

 

 それを生み出すには、リゼヴィムの死体を保有するフォンフの協力が必要不可欠だった。

 

 しかし、フォンフ・シリーズはほぼ全員が神器の力を母体として作られている。素直に首を縦に振るはずがない。

 

 ゆえに、こちらもそれ相応の代価を払うしかないのだ。

 

「契約通り、兵藤一誠を滅ぼすまでは俺達は不可侵条約だ。文句はないな?」

 

「かまわん。しかしそちらも三大勢力及びその同盟者以外に対する攻撃は控えてもらうぞ」

 

「異世界とやらで行う事業で忙しいのだろう? 文句はあるまい」

 

 鋭い視線で政治家達の警告が飛ぶ。

 

 そして、それに応えるのはフォンフ・リリンではない。

 

「ああ。まずは異世界から貧乳にする。地球の女を貧乳にするのはそこからさ」

 

「……そうだな。だがそれ以外に関しては好きにさせてもらう。そっちも文句はないな」

 

 そういいながら現れるのは、新たなフォンフが二人

 

 そして、彼もまた悪魔の体を保有していた。

 

 それが、フォンフが出した条件。

 

 量産型のリゼヴィムを生み出すという、ある意味で自分達にとっての危険分子を了承させる為に、人類は大きな譲歩をした。

 

 すなわち、量産型のリゼヴィムに対抗できる悪魔を生み出し、それを素体にすること。

 

 その結果生まれたのは、1人の超越者を含む三人の悪魔型フォンフ。

 

 リゼヴィムと同じく神器無効化能力を持つ、最強の量産型リゼヴィム。名をフォンフ・リリン。

 

「そうだなこれが。じゃあ、俺は旧魔王派の残党を集めてくるか」

 

 ある特例によって生まれし、強欲の悪魔。フォンフ・イーヴィル。

 

「まあ、とりあえずはお互いにチキンレースと行こうか。最初に全力出した方が不利だろうしな」

 

 悪魔を滅ぼす悪魔。フォンフ・ダーク

 

 三人の強大な悪魔が、更にこの混迷の時代を悪化させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォンフ達が退席したのを見て、政治家の一人がため息をついた。

 

「……勝っても負けても、私達は政治家生命が終わりですな」

 

 そう、この行動は世論が許しはしないだろう。

 

 異形勢力との抗争を行うことそのものは問題ではない。

 

 異形たちの性質は人間の常識と外れている。そんな存在がいきなり堂々と現れて行動するようになれば、人間はどちらにしても抵抗感を見せるだろう。

 

 未だ、肌の色や国籍の違いで差別することをやめられないものが多い人間が、人間ですらない存在との交流で問題を起こさないわけがないのだ。

 

 間違いなくE×Eが来る前に何度か紛争レベルの騒動は起きる。否、大戦レベルの争いが起きるだろう。

 

 なら、敵が盤石な体制を整える前に仕掛けて自分達の力を見せつけるのは理に適っている。少なくとも、冥府の神々との連合がすめば、これが原因で地獄に落とされることはないだろう。

 

 だが、それでも第三次世界大戦の元凶であるフィフスの後継と繋がった事実は消えはしない。何らかの形で咎を受ける必要がある。

 

 だが、それでも納得できないのだ。

 

 兵藤一誠。宮白兵夜。

 

 人間の屑と言ってもいい二人が、今後の人類の未来にいちいち口出ししてくることなど納得できるわけがない。

 

 あの手の輩は適当に持ち上げ、お飾りの地位につけるぐらいが落としどころだろうに、異形達は少なくとも兵藤一誠を正真正銘の特権階級にしようというのだ。

 

 ふざけるな。それは断じて認められない。

 

 あんな人類の恥部を、人間の代表として扱われてたまるものか。

 

 それが、火薬庫に投げ込まれる火種となった。

 

 もとより、人間世界の識者達は今の状況に不満を抱いていたのである。

 

 魔法や陰陽術などの術式を使えば、人類はより発展する。にもかかわらず、魔法使いたちは異形たちと共謀して存在を秘匿する方向で行っている。自分たちに協力してもくれない。

 

 神器使いを確保して有効利用できれば、国力増大に使える。にも関わらずその存在は秘匿され、差別の対象にすらなっている。

 

 異形の力を人類に広めれば、暴走を引き起こす。

 

 ……そんな大義名分のもと、人類の発展は押さえつけられてきたのだ。

 

 その存在を知る一般人の不満は、ここにきて限界に達していた。

 

 それが第三次世界大戦の大敗で一気に高まったのも大きい。

 

 各国家が保有する異形戦力を使えば、少なくともまともに戦うことができたはずだ。

 

 しかし、異形達の監視の所為でそれを表立って使うことができなかった。

 

 その不満もまた、彼らのストレスの元となっていたのだ。

 

「ファファファ。まあ、利用できるものは利用すればいいだろう。儂と貴様らがお互いに利用し合うようにな」

 

 ハーデスはそれを見抜いて、眼球のない眼孔で皆を見渡す。

 

 そう、ハーデスはしっかりと見抜いている。

 

 禍の団に内通して、フィフスに強大な力を提供してしまったハーデスに対しても、人類は不信感がないわけではないということを。

 

 だが、それでもハーデスはまだましな部類だと人類は判断したのだ。

 

 ならばそれを利用しよう。ハーデス個人としては、人間に危害を加えるつもりはないのだ。

 

 それよりも兵藤一誠達を滅ぼす事の方が重要だ。

 

 勝つにしろ負けるにしろ、できるだけ早く動いて決着をつけねばならない。

 

 戦って決着がついたとして、そのダメージを回復できなければE×Eに漁夫の利を取られてしまうのだ。当然警戒をするべきだろう。

 

「さて、それでそちらの方の戦力はどうなのだ?」

 

 ゆえに話を進めるべく、ハーデスは疑問を投げかけた。

 

 人類の力を借りるのはいい。だが、借りるに値するかどうかを調べなければ意味がない。

 

 それゆえに当然の質問。

 

 そして、その直後にハーデスは力を放った。

 

 並の上級悪魔なら、塵も残さない一撃。

 

 オリュンポスの神々の中でも最高峰のハーデスだからこそできる抜き打ちでの攻撃。

 

 しかも放たれたのは合計三つ。

 

 戦略爆撃機による爆撃すら圧倒する火力。抜き打ちで、しかも手加減したうえでこれだけの火力を放てるものなど、神クラスでもそうはいない。

 

 しかし、それらは一瞬で弾き飛ばされる。

 

 それをなしたのは、ただの人間。

 

 一人は槌を、一人は剣を、そして最後の一人は十字架を持っていた。

 

 そして、それを目にした瞬間ハーデスは自らの目を疑った。

 

 それは、この場にあるわけがない存在なのだ。あってはならないと言ってもいい。

 

 そして、すぐにハーデスはその来歴に思い至る。

 

「ファファファファファファファファファ!! なるほど、想像以上に戦力を確保しているとは思ったが、そういうことか!! 納得したわ!!」

 

「ホントに納得できたのぉ? それならそれでいいんだけどぉ?」

 

 十字架を持つ女性が、不満げな表情を浮かべる。

 

「ああ。これは中々愉快なことだ。異世界に対抗する為の戦いの下準備に、まさかこんなことが起きるとはな」

 

 一周回ってあきれの感情すら示すハーデスに、十字架を持つ女性はため息をつく。

 

「……言っとくけど、私達は異形を公開することを前提として同盟を組んでるのよぉ。……あの大戦で内乱を起こした貴方は、信用はできるけど信頼できないのよぉ」

 

 敵意……というよりは嫌気を現すその視線を向けられながら、しかしハーデスはかまわない。

 

 信頼はしなくても信用してくれるのなら十分だ。そして、彼女達がいるのならば勝算は十分にある。

 

 それにしても、これはまた極大のイレギュラーだと断言できる。

 

 しかし、だからこそ勝ちの目は大きくなった。

 

 ハーデスは、来るべき決着の時を見定め、この戦力をどう活用するべきか考慮を始めた




 最初はハーデス達だけを出す予定だったのですが、原作におけるイッセーとヴァーリの魔王就任における動きを見て、一ひねり加えました。……今下手に激戦が起きれば、ハーデスは時空管理局も敵に回すから強化したいというのもありました。

 原作9巻のあとがきで、三大勢力の和平を一番脅威に思うのは実は人間ではないか……というものがありました。また、宗教問題や差別問題をいまだに解決できていない人類が、この急激な変化に対応しきれるかというのも疑問でした。

 と、言うわけでやってみましたよ皆さん!! 宮白兵夜と兵藤一誠に立ちふさがる新たなる敵は正真正銘の人間です。

 英雄派のような英雄ではなく、正真正銘人間たちが、異形社会に牙をむきます。そしてその理由は……まあ、一理ある。

 急激な変化は本来流血を伴うもの。神々の出現、それもありとあらゆる神話と宗教がその頂上存在を大衆に見せるともなれば、必然的にそこからくる衝撃は大きい。兵夜が推測していましたが、何らかの形で人類と異形の争いが起きることは必然。それも、人類の歴史の流れからしてみれば数十年で起きるでしょう。

 しかし、時空管理局との交流も行っている以上、時間をかけて起きれば完敗は必須。それに下手に遅くなったり長引いたりすればE×Eに蹂躙されることは間違いなし。

 なら、E×Eが来る前にさっさと済ます。それが偉業を知る一般の人類の判断です。ハーデスも時空管理局を警戒して、それに乗っかった形になります。

 +フォンフとの裏取引。知られれば政治家生命存続など民意が許しませんが、質の悪いことに覚悟完了済み。ここの政治家たちは全員個人の欲望よりも志を優先してしまいました。フォンフもフォンフで新型を調達して戦力増強完了。加えて共通の怨敵を倒すまでの不可侵を結んだうえにお互いに行動を予見して連携することもあるでしょう。

 ちなみに、量産型リゼヴィムはリリスの情報がわかった時点でやるつもりでした。原作よりも一念時間が空いているのなら、それ位はやってのけないとだめでしょう。


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ブートキャンプ、開始します!

思った以上に批判が大きいので、一応補足を。





第三次世界大戦は腐っても科学のみを使用していたこともあり、強引な強行突入という手段しかとることができませんでした。この辺もフィフスは考えて行動しています。

それに異形の公表を決定したのも、フィフスがばらまきすぎてどうしようもなくなったことで、それなら堂々と動いて監視体制を取った方がまだ安全という判断です。内心では苦肉の策で苦渋の決断です。

本音を言えば、公表するリスクは確かにあるが、堂々と動けないことで発生するリスクの方が高いからということになります。実際に、異能が広まれば個人での戦闘能力が大幅に向上し、かなり荒れた世界観になるでしょう。

いわば本当に苦肉の策。骨を断たれないように肉を切り裂く乱暴な対処方法なのです。そこのところはご了承ください。








……そもそも各国の政府直属異能組織は異形社会にこっそり隠している、事実上の対異形組織ですから。堂々と姿をさらす時は異形社会と戦争を起こす時でしかありえません。

そりゃそんなもん異形が見ているところで使えねぇよ。そもそも事実上の非合法組織なんだから、表の戦争で使えるわけねえよ。


 悪魔の未来をよりよくすることは、後天的にとはいえ悪魔になったものとして当然の義務である。

 

 そして、そのためには転生悪魔に頼らない世界を作ることが必要だ。

 

 誤解無きように言っておこう。俺は、転生悪魔(自分たち)が純粋な悪魔の奴隷になるべきだと言いたいわけではない。

 

 むしろ転生悪魔の権利関係は大きな改善を行う必要があると心から考えている。奴隷扱いしている連中は粛清されてしかるべきだと思うし、昇格制度も改善するべきだ。そしてそれはどんどん進んでいる。

 

 だが、同時に純血悪魔の強化というか、あり方の改善も必要だと思っている。

 

 だってそうだろう? どこの世界に、助っ人外国人だけを一軍にする野球チームが存在する。オリンピックとかでも、外国人を用意する国はいないだろう。普通に自国の代表は自国民にするにきまっている。

 

 悪魔の未来をよりよくしたいのならば、本来の悪魔をよりよくする必要がある。転生悪魔(助っ人外国人)だけに頼っているようでは悪魔の未来は暗い。

 

 かといって、ドーピングに頼っているわけにもいかない。

 

 いや、俺も強化改造は大量にしているから人のことは言えんのだが、それにしても限度がある。

 

 また、競技試合でドーピングや強化改造を使うのはさすがに問題だろう。ああいうのはそういうのをしていない人たちが結果を出すからいいのだ。改造ありでいいのなら、それはただの技術展覧会だ。

 

 いや、いずれ時代が進めば、人間世界でも強化兵士は出てくるだろう。というか、学園都市式の能力者は程度はともかく改造人間だ。将来的に軍事登用されることも考えれば、間違いなく発生する。

 

 だが、それだけというわけにもいかないだろう。

 

 ゆえに、俺たちがやるべきことは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらお前ら走れ!! また十キロだぞおらぁ!!」

 

「な、なんでだぁ。俺は、誇り高き上級悪魔だぞ……」

 

「くそぉ。なんで72柱の分家であるこの俺が……っ」

 

 汗を流してひーこらひーこら言っている上級悪魔の子息たち。

 

 なにせ今回は魔力を使わずという条件を課しているので、こうなることは当然といえば当然だろう。

 

 しかし、中にはヘタレながらも気合を入れている者たちも多かった。

 

「ぜぇぜぇ……だがみろ、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス様とライザー・フェニックス様を」

 

「あ、あの方々は平然と走っておられる!」

 

「なら……俺たちも……走らないと……っ」

 

 そう言って気合を入れている者たちを追い抜いて、俺は二人に並んだ。

 

「連れてきて正解だった。二人もまじめにやっている同類がいれば、少しは気合を入れる輩も多いだろうからな」

 

「まああいつらの気持ちもよくわかる。根性とか努力とか泥臭いもの、貴族なら避けたがるだろうしな」

 

「そんなことだから転生悪魔に遅れをとるのだ。貴族の誇りがあるのなら、その誇りに見合うべく精進するべきだろうに」

 

 同情するライザーと酷評するアルサム。

 

 対称的な二人だが、しかし文句を言わずにすでに三組目であるのにもかかわらず、きちんと走れる当たりなかなかだ。

 

 いま、俺たちは72柱の系譜を中心とする純血悪魔を連れて来ている。

 

 目的は単純。純血悪魔の強化特訓だ。

 

 ……今現在、アザゼル杯では純血悪魔の敗北が相次いでいる。

 

 逆に勝利が目立つのは、イッセーのような転生悪魔や、ヴァーリのような混血悪魔だ。

 

 レーティングゲームの本場であるにもかかわらずこの体たらく。悪魔以外の勢力の報道関係では、酷評すらされていることだろう。

 

 むろん、相手が神クラスであることなどもあるし、仕方ない側面もある。

 

 だが、それでも意地というものがあるだろう。少なくとも悪魔の面目は保てない。

 

 そういうわけで、その中でも例外であるアルサムが提唱したのだ。

 

 ………純血悪魔の若手を対象とする強化合宿だ。

 

 ちなみに、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス率いる魔王剣チーム。フルメンバーでもないのにかかわらず連戦連勝だったりする。悪魔側での数少ない本選出場候補とも言われている。

 

 そんな男が「自分が強くなったのと同種の方法を執り行う」などといえば食いつくのが人の性。いや、悪魔だが。

 

 そして、レーティングゲームでプロ悪魔の中では比較的勝率の大きいライザーまでもが参加するとなっては飛びつく者たちは多いだろう。

 

 そして参加した結果が。

 

「……まずは魔力を使わずフルマラソンを走れるようになることだ」

 

 ……ちなみに、開催一週間にして十分の一がリタイアした。

 

 期間はお試しということで二週間であることを考慮すれば、結構なダメージだろう。

 

「これでも、一応手は抜いているのだがな」

 

「仕方がないだろう。いつでも逃げれる環境なら、そりゃこんなの逃げたくもなる」

 

「まあ、努力できるのも立派な才能だというからなぁ」

 

 アルサムの嘆息に、ライザーと俺はまあまあといわんばかりの意見を告げる。

 

 今までぬるま湯につかっていた者たちを、いきなり極寒の環境に入れるわけにはいかない。

 

 とはいえ、アルサムは幼少期から厳しい鍛錬を積んできた努力家。しかもそれを確実に成果にできる才能すら持っている。今まで努力をした経験が薄いものに比べれば、努力の負担を気にしないだろう。

 

 なにせ、今回の連中は甘ちゃんが多いのだ。其のあたりを理解できるライザーがいなければ話が難しくなる。

 

「まあ、これが続けば純血悪魔もより強くなるだろう。今まで才能だよりでやってきたんだ。努力でそれを磨けばより輝くのは自明の理」

 

「まったくだな。俺も中堅レベルでしかないが若手では有数の成果を上げている。下賤な努力もなめたもんじゃないってことだ」

 

 俺の意見にライザーは同調する。

 

 ああ、ライザーもなかなか成果を上げている。優勝候補には程遠いだろうが、情けない姿をさらすわけではなく、善戦しているのだ。

 

 またレーティングゲームに慣れていることもあって、マスコミでも割と高評価をされている。最上級悪魔が醜態をさらして酷評されることもあることを考えれば、破格の成果といってもいいだろう。

 

「まあ、うちの姫様の方が大活躍しているのだが」

 

「それを言うな!! ……くそ、どこでこんなに差がついた」

 

 まあ、姫様眷属の引きが良すぎるからなぁ。

 

 眷属以外のメンバーでも、神滅具持ちのヴァレリーやリント・セルゼンがいるから、地力なら間違いなく悪魔側の参加者でも最高峰だろう。

 

 しかも、まだ兵士担当のミスター・ブラックが参加していない。そして戦車枠も一つ空席だ。それで全戦全勝なら、かなり評価できるだろう。

 

「気にするな。私が言うことでもないが、若手の中ではかなり優秀な部類だろう。龍王を保有するシトリー家や、神滅具を保有するバアルとグレモリーが異常なのだ。アガレスに次ぐ成果を上げている貴殿なら、フェニックス本家の直系として誇れるだろう」

 

「アンタに言われても嫌味に聞こえるんだけどなぁ!?」

 

 アルサムの慰めは慰めになってない。

 

 さっきも言ったが、アルサムのチームはフルメンバーでないにもかかわらず全戦全勝。しかも覇剣抜刀を使ってない。

 

 つまりまだ奥の手を使っていないのにもかかわらず全戦全勝だ。

 

 さすがに神クラスには当たっていないが、現役の最上級悪魔クラスを相手にしてこの成果。見事というほかない。

 

 まあ、次期魔王候補として推薦する以上、覇剣抜刀抜きでそれぐらいできてくれないと困るのだが。

 

「とはいえ私もまだ若手。魔王剣の力がなくては最上級クラス相手では厳しい。……いずれは魔王クラスをルレアベ抜きで相対できるようにならねば、あの話を受けることはできんだろう」

 

「あの話?」

 

 アルサムの言葉に、ライザーが怪訝な表情を浮かべる。

 

 ああ、そういえば知らなかったが。

 

「今のアンタなら信用できるなら言うが、アルサム、次期魔王候補の一人に選ばれてるんだ」

 

「マジか!?」

 

 俺の説明に、ライザーは目を見開いた。ついでに転びそうになった。

 

 まあ、俺が提唱した九大罪王の候補でしかないんだがな。

 

 候補にねじ込むの苦労したが、必要な制度ではある。

 

 なにせ、イッセー(転生悪魔)を魔王にねじ込むのだ。そんなことになれば魔王を飾りと認識しているゼクラム・バアルはともかく、それ以外のバアル本家及びその派閥の不満は莫大なものになるだろう。

 

 ただでさえ現四大魔王はリベラル派。そんな四大魔王の選んだ候補は、どいつもこいつもリベラル側だろう。

 

 それでは、その不満をフォンフシリーズやハーデスに付け込まれかねない。

 

 そのはけ口として、大王派よりであるアルサムを九大罪王に据えるべきだと進言したのだ。

 

 もとより魔王剣の保有者ということで、その発言力は莫大になっている。次期魔王候補ではあるのだ。

 

 それを、魔王の首輪ともいえる俺が推す。下級中級上級問わず、割と了承されるものだと踏んでいる。

 

 とはいえ、それに見合う程度の実力は示さないと話にならない。

 

 そういうわけでアルサムも気合を入れているのだ。

 

「そういえば、次の試合でリオとコロナを出すんだろう? ……大変だろうが頑張れよ」

 

「ああ、確かにアイツ相手は大変だな」

 

「言うな。……できれば束縛無しでしたいのだが、さすがに彼女達を巻き込むわけにはいかないのだ」

 

 そうだ。次の試合でアルサムはリオとコロナを参加させる。

 

 兵士枠の右腕四天王を僧侶と騎士に据え、兵士は本来女王であるシェンが二枠分。そしてフォード連盟からの参加者が六名参加。リオとコロナは万が一の極大ダメージを考慮して戦車枠だ。

 

 そして、女王枠として「サムライブレード」とかいう偽名の男が参加した。

 

 これで本格的にフルメンバー。まだイッセーのところが兵士が三枠で戦車が1人空いていることを考えると、ここで負けたら魔王候補から外されることすら考慮しなくてはいけない部類だろう

 

「とはいえイッセーは強いぜ? 変態技抜きでも、乳乳帝はOK出てるしな」

 

「むろんだ。ゆえにこちらも伏せ札を開帳しよう」

 

 俺の言葉に、アルサムはにやりと笑う。

 

 おいおいマジかよ。覇剣抜刀以外に切り札があると?

 

「今はまだ調整中だが、次の試合までにはきちんと仕上げて見せるさ」

 

「……なあ、こいついったい何者だ?」

 

「先代四大魔王に認められた男だぞ? そりゃぁむちゃくちゃ強いに決まってるだろ」

 

 ライザーに俺ははっきりと断言する。

 

 ああ、これなら何とかなりそうだ。

 

 そんなことを言いながらゴール地点まで来ると、そこには見知った姿があった。

 

「……おーい! 宮白ぉ!!」

 

 おいおい、なんでイッセーがここにいるんだよ?

 



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謀略準備 ~かつての世界最強

ホワイトハウスの一室で、アメリカ合衆国大統領はため息をついていた。

 

「……冥界は、ある意味でフロンティアだと思わないかね?」

 

 彼が見ているのは、悪魔と堕天使が住まう冥界の土地についての情報。

 

 そこからわかるのは、その土地の大半が手つかずだという事実。

 

 神秘的な力を重視し、かつ絶対的な人口が圧倒的に少ない悪魔と堕天使は、地下資源などをあまり集めていないという事実がある。

 

 資源の残量が危ぶまれる時代において、冥界及び異形の存在はあまりにも甘美な果実すぎる。

 

「いずれ存在が知れれば、人類と異形の間で大規模な争いがおこることは間違いないだろう。そして、それが遅くなれば遅くなるほど、異世界に漁夫の利を取られる可能性がある」

 

「ならば迅速に行動すべき。それに関しては理解しております」

 

 秘書官はそう返答する。

 

 それは決しておだてているわけでも立場上同意するほかないというわけでもない。

 

 彼もまた、米国の未来を憂いているのである。

 

「こと第三次世界大戦の大敗による心象と、フィフス・エリクシルの核攻撃による実情での大打撃は、今後の世界の命運すら左右します。我ら米国が最強の国であり続けることが世界の安定を生むというのに、余計なことをしてくれたものです」

 

 人間界最強の国家の地位を百年近くにわたって守ってきたアメリカは、いまあまりに大打撃を受けていた。

 

 先制攻撃でアフリカ担当の艦隊がまず壊滅。その後世界各国の軍隊とともに派遣した多数の艦隊も大打撃。

 

 第三世界の国家連合という弱小な集まりと高をくくった結果がこれだ。この時点で米国の威信は地に落ちた。

 

 そこに、さらにやってきたのがフィフス・エリクシルによる連続攻撃。

 

 まずは自国の核兵器をあっさりハッキングされて発射されたというのが痛い。

 

 それが直接攻撃で使われなかったことは幸いだが、しかしEMPによる大打撃はあまりにひどかった。

 

 まがいなりにも対策を施してある軍事施設すら大打撃を受けている。これはまだいい。

 

 だが、対策すら行っていない都市インフラは耐えられない。

 

 一度真剣に考えればすぐに気づくだろうが、現代の人間たちの生活は個人から都市にいたるまで、電子機器が当たり前の存在と化している。

 

 それが、いきなりなくなればどうなるかなど一瞬でも思考することすら恐怖することが起きたのだ。

 

 これにより、いまだ大都市の数々は文明レベルが大きく衰退。どこの大都市でもいまだ犯罪発生率は十倍以上に跳ね上がっている。挙句の果てに、その犯罪者の何割かはマーベ○かとツッコミを入れたくなるような特殊能力者であり、警察の殉職率にいたっては数十倍に跳ね上がっている。

 

 世界の警察であるアメリカがその機能を完全に停止させたことは、世界中の国々の暴走を引き起こしかねない。少なくとも大統領と秘書官はそう思っている。

 

 幸いなのは、どこの国も似たようなことになっており、戦争をしている余裕があまりないということだ。

 

 とはいえあまりに大打撃というほかない。怒りに任せて残りの核兵器を全投入したいところだったが、そんなことをすれば後が怖く、しかも発射したミサイルがすべて自国に向かいかねないためそれもできない。

 

 さらにトリプルシックスという虎の子がある以上、残りの艦隊を総動員しても一蹴されるのがオチだ。どうあがいてもクージョー連盟を放置するしかなかった。

 

 幸い、異形たちのしりぬぐいによってクージョー連盟は空中分裂を起こしているが、それでもその爪痕は大きすぎる。

 

 世界大国のほとんどは異能力者による犯罪が多発して国力が低下。クージョー連盟は結局フィフスたちが無理やり従えていたようなものなため大紛争地帯と化しているが、技術力が急激に高くなっていることに変わりはない。ほかの第三世界も、アメリカという抑えがなくなったことで紛争はより増大している。

 

 そんな中、米国にとって幸運だったのは日本がほぼ無傷であったことだ。

 

 日本はアメリカの友好国だ。それも、属国と揶揄されてもおかしくないほどの付き合いである。

 

 さらに国民性ゆえか、他の先進国同様に異能力者が大量発生しているのにもかかわらず犯罪に走るものが大幅に少ない。むしろ平和ボケが核アレルギーによって相殺されたのか、自衛隊や警察の志願数が大幅に増えたという。

 

 かつて艦隊を派遣して護衛していた日本に、逆に増援の警察官が助けにいくほどだ。

 

 数千人規模で生まれた高レベルの能力者たちの存在は、今やアメリカにとっても希望である。

 

 だが、それではいけない。

 

 世界の治安を守る秩序の守護者たるアメリカ合衆国の弱体化は、必然的に世界の混乱を悪化させる。少なくともこの場の者たちはそう信じていた。

 

「今世界に必要なのは、一刻も早く我が国を復活させること。そのためには、冥界の資源は必要不可欠です」

 

「そうだ。しかもだよ補佐官。そのフィフスを始末して英雄扱いされている奴の情報をもう一度見てみたまえ」

 

 そういって投げ捨てるようにデスクに広げられたのは、フィフス・エリクシルと直接退治した四人の少年少女。

 

 日本政府の協力とCIAの意地によって調べ上げられた情報は、できれば信じたくないものだった。

 

広域指定暴力団(ジャパニーズマフィア)の若すぎる幹部と性犯罪者。そしてあのフィフスが所属していたテロリストの幹部だと!? こんな奴らを英雄として讃えるなど、ヴァチカンは気でも狂ったのか!?」

 

「正直、私はキリスト教徒であることを生まれて初めて恥じております、大統領閣下」

 

 お互いに嫌な顔を浮かべている。

 

 テロリストのメンバーとご当地マフィアの幹部待遇。こんなものに超がつくほどの好待遇を与えるなど正気の沙汰ではない。

 

 比較的ましな兵藤一誠も覗きの常習犯。そんなことが知られれば、アメリカの歴史ならよほどのカルトでない限り見切りをつけるレベルだ。

 

 さらに唯一それらの黒い来歴がないリアス・グレモリーにしても、その兵藤一誠を愛しているというし、まったくもって期待ができない。

 

「こんな奴らを、将来我が国を救った英雄としてもてなせと? 我々政治家がそういうスキャンダルを出さないようにどれだけ苦労していると思っている!!」

 

「私も腹立たしいです。年頃の娘を持つ親としては、兵藤一誠という存在には吐き気がしますね」

 

 人間世界でなら信じられないことだ。

 

 犯罪者三人を英雄として祭り上げるなど、正気の沙汰ではない。

 

「先程も言ったが、こんな奴らを英雄とする狂人どもといずれ揉めるのは確実だ。なら、比較的まともなハーデスたち冥府の神々と同盟を結んで立ち向かうのは当然だろう」

 

 大統領はそう結論付ける。

 

 こんな者たちと仲良くやれなどと、この精神的に不安定な状況下で言われれば、間違いなく暴動が百は起きる。

 

 民意で動かされている大半の先進国、その中でも宗教色の比較的薄いこの国なら、間違いなく異形たちとの敵対を決定することになるだろう。

 

 だが、それ以上に危険なのは―

 

「そして、三大勢力の最重要禁則事項とやらの裏はとれたかね?」

 

「……はい。どうやら、主がご崩御されているというのは、ハーデス神の虚言ではなく事実のようです」

 

 そういうと、補佐官はため息をついた。

 

 それに関しては大統領も同意見だ。心から同情する。

 

 つい先ほどキリスト教徒であることを恥じたといった補佐官だが、それでもすぐに信仰を捨てれるわけではない。

 

 一神教において神がすでに死んでいるなど、ショック以外の何物でもない。

 

 これを速攻でばらして天使と悪魔の和平の事実を告げれば、間違いなく人類は三大勢力を敵視する。

 

 神の遺志を無視し、人類の敵と仲良くする裏切り者と糾弾できる。

 

 だが、それも困難なのだ。

 

 いかに宗教色が比較的薄いとはいえ、アメリカ合衆国はキリスト教徒の国といっても過言ではない。

 

 こんな事実が知られれば、この国は確実に終わるのだ。

 

「……ゆえに、戦力は最小限で行くしかない。補佐官。例の件はどうなっている?」

 

「は! すでに元クージョー連盟の技術者は確保しております」

 

 そう告げる補佐官は、すぐに資料を大統領に提示する。

 

 半年もたたずに崩壊したクージョー連盟の本拠地であるアフリカでは、紛争がいくつも生まれていた。

 

 もとよりフィフスに恐喝されていたことが大きな原因のクージョー連盟。それがなくなったことで、アフリカは戦国時代ともいえる状態になっていた。

 

 アメリカという抑え役がいなくなったことにより、紛争は激化。さらにそのストレスで能力者が暴走しクーデターを起こすは、テロ組織になるわと大わらわ。

 

 そして、米国はただ力業だけで挑んだわけではない。

 

 その隙をついてCIAという諜報組織はクージョー連盟の技術者を買収できないかどうか行動を準備していた。

 

 そしてクージョー連盟の崩壊に伴い、より優れた技術を手に入れることにも成功している。

 

 その協力により、多くの兵士が生まれている。

 

 ………彼らを投入するべきだろう。

 

 少なくとも、英雄もどきの犯罪者には消えてもらう。

 

 あんな世界の恥部をのさばらせるなど、アメリカのプライドにかけてできない。

 

「補佐官、兵藤一誠の場所はわかっているな」

 

「はい。現在はグラシャラボラスが購入している島にいるそうです。なんでも上級悪魔の訓練だとか」

 

「好都合だ。サイエンスフォースの準備をしろ」

 

「はっ!」

 

 まずは斥候を派遣し、自分たちの体に彼らの脅威を刻み込もう。

 

 運よく貴族を数人でも殺すことができれば万々歳だ。ハーデスに恩が売れるのだから。

 

「しかし、兵藤一誠も自業自得だな。自国の恥は自国が注ぐのが当然なのだから」

 

「同感ですな、閣下」

 

 

 

 




実は俗っぽい裏の理由もきちんとある人類側。

海が存在しない=陸地が多い=資源を採掘しやすい……という図式により、さらに人口が少ないことによる消費量の少なさも合わさり、うまくすれば国力増大に使えるという皮算用があります。


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謀略準備 ~今の世界最優

謀略してるのは、もちろんアメリカだけではありません。

スラッシュドッグは好都合でしたね!!


 

 一方そのころ、日本でも対異形の準備が進められていた。

 

 しかも、その本気度はある意味でアメリカを超える。

 

 なにせ、問題とされているフィフス討伐の英雄の内、二人は純日本人なのだ。

 

 ある意味で自国の恥ともいえるあの二人を抹殺するのは、自分たちの責任ともいえる。

 

 とはいえ、全面的に動けるかというとそうでもない。

 

 今回の行動は一部の者たちが動いている結果であり、厳密に言えば国本来の動きではない。

 

 だがしかし、政府側もその過半数が知っていて黙認しているようなものだった。

 

「……五大宗家の動きはどうなっている?」

 

 その動きを見せるトップである政治家は、秘書に状況を調べている。

 

「はい。幸い今のところ動きは見られません。どうやらまだ気づいていないようです」

 

「そうか。最悪の場合は米国に亡命する必要もある。船の準備はしておいてくれ」

 

 そう告げ、その政治家は歩き出すが、しかしそうしたくないというのが実情だった。

 

 なぜなら、五大宗家たちの保有する術式は宝の山だからだ。

 

 その秘術をもってすれば、資源の絶対量が少ないという、この国の発言権を下げる問題点を解決することも不可能ではなかったはずだ。

 

 こと宗教面で異端ともいえるこの国のありかたならば、五大宗家たちの排他的な真似さえなければ、ある意味で異能大国としてアメリカすら超える力を発揮することもできていたはずだ。

 

 にもかかわらず、五大宗家も日本にかかわる異形たちも、その技術を広めようとしなかった。

 

 それに対する不満は強く、自分たちのような軍事的反発組織ができていたほどだ。

 

 それでも、真正面から挑めば返り討ちに合うことを考慮して、今までは静観していた。

 

 だが、それも今日までだ。

 

「……大臣、よろしいでしょうか?」

 

 その言葉を聞いて、大臣は声を放ったものに振り返る。

 

「百鬼君か」

 

「はっ! 特務自衛隊第一師団所属、百鬼天竜一尉であります!!」

 

 敬礼する大尉に鷹揚に頷き、大臣は大事なことを告げる。

 

「……いいのかね? 追放された身とはいえ、キミは五大宗家の出身だろう」

 

「それに関しては、すでに覚悟は決まっております」

 

 それは大臣の良心からくる発言だったが、天竜はそう告げる。

 

「五大宗家は日本を勝手に動かしすぎました。民に選ばれたものが動かす民主主義国家に、彼らのような存在を許しておくわけにはいかないでしょう。これは、好機です」

 

 それはまっすぐな目であり、間違いなく本音であった。

 

 そして、さらに隠された理由もあっさりと天竜は告げる。

 

「そもそも、我が国の性犯罪者と犯罪組織の者を褒め讃えるなど国の威信にかかわります。そんな者を褒め称える今の五大宗家に、かつての威信はありません」

 

 はっきりと、嫌悪の感情を浮かべていた。

 

「特に今代の黄龍は、兵藤一誠を慕っているというではありませんか。……もはや一刻の猶予もありません。五代宗家は切り捨てるべきです」

 

 それに関しては大臣も同意見だった。

 

 自国の性犯罪者を英雄として祭り上げる悪魔たち。

 

 最早これだけでいろんな意味で最悪だろう。

 

 だが、しかしそうも言ってられない。

 

 今回の件はあくまで一部の独断によるものでなくてはならない。

 

 少なくとも、本格的な戦闘が勃発した時に勝てなければ、トカゲのしっぽ切りで切り捨てられることは確実だ。その準備には自分も参加している。

 

 ゆえに、自分たちが生き残るためには作戦を成功させるしかないのだ。

 

 少なくとも異形たちの主要人物の首を打ち取ることができれば、それだけで大きな成果になる。それをもってして、自分たちは勝利を手にしよう。

 

「……話を戻そう。百鬼君、すでに量産は行われているのだね?」

 

 そのための切り札を、自分達は手にしなくてはならない。

 

 そして、その答えは満足のいくものだった。

 

「むろんです大臣。……こちらへどうぞ」

 

 そして百鬼に連れられ、大臣が目にしたのは壮観な光景だった。

 

 強い意志を秘めた数千人の自衛隊員たち。

 

 彼らはみな、将来異形が存在を公表されるその時まで、存在を秘匿された状態で訓練をし続けねばならない。

 

 むろん、それは五大宗家にもだ。なによりも五大宗家などの民主主義に沿わない者たちに対するカウンターとして、この師団は存在するのだから。

 

 だが、そんな中彼らは腐らずにここまで頑張ってくれた。それが誇らしい。

 

 そして、同じぐらい感動するのは彼らの装備だ。

 

 彼らの半分近くは歩兵だった。

 

 現代においても歩兵は戦争における主力。これをおろそかにする者は戦争に負け、国を蹂躙されるだろう。

 

 その彼らが保有するのは、まるで銃に見える杖だった。

 

 ……かつて、空蝉機関という存在がいた。

 

 五代宗家の当時の方針ゆえにはじき出された者たちが、逆襲のために集まった勢力だ。

 

 彼らは、神の子を見張るもの(グリゴリ)の裏切り者と、魔法使いの組織の力を借りて人造神器のデッドコピーを生産した。

 

 しかし神滅具の一つの持ち主がいる学校の生徒を実験台に使ったことがきっかけとなり、その計画は露と消えた。

 

 だがしかし、五大宗家から追放されたものは全員が空蝉機関に参加したわけではない。

 

 いずれ、異形の力を国家の繁栄のために使うために。正真正銘政府機関が、異形たちとの国防も行うために。そして何よりあまりに古いがゆえに民主主義であるこの国と相いれない要素を持つ五大宗家をはじめとする異能組織から日本が脱却するために。

 

 政府は、五大宗家の在り方を利用し、そのはぐれ物たちを何人も集めていた。

 

 そして彼らによって異形との戦い方を習得した者たちで編成された自衛隊の特殊部隊。それこそが特務自衛隊。異形たちに対する国家の刃。

 

 同様の組織はアメリカなど一部の国でも保有されている。それは異形たちには秘匿されており、まさに異形たちに対抗するための組織なのだ。

 

 ゆえに表の軍隊よりもはるかに強大な力を保有しながら、しかし第三次世界大戦ではそれゆえに参加することができなかった。

 

 なにせ表の戦争だと思っていたし、大規模に動かせば異形たちに存在を公表するのと同義なのだ。それはあまりに危険だった。

 

 まだ実験段階だったこの組織は、戦力が異形たちと戦うには全く持って足りていないと判断されていたからだ。

 

 だが、その第三次世界大戦がそれを変えた。

 

 そこから漏れた大量の異世界技術。これを最も活かせたのは、その異形たちの対抗戦力を独自に作り出していた国々なのだ。

 

 一気に大量のデータが手に入ったことで、急激な戦力上昇が行われた。

 

 そして、その技術によってついに完成したのだ。

 

「魔導兵器の開発こそ米国の協力を受けたが、しかしおかげで戦力は大幅に確保出来たな」

 

「その分ウツセミの技術を持っていかれましたがね。これ、米国との共同開発といってごまかしましたが、堕天使あたりには間違いなくつつかれるのでは?」

 

「気にすることはないでしょう。ほとんどこちらで開発しましたが、共同開発していたことには間違いないのですから」

 

 大臣と秘書官と天竜はため息をつくが、しかしアメリカの協力は必要だった。

 

 なにせ異形たちの戦闘能力は莫大なのだ。それに対抗するためにはウツセミではそれを動かす本体側の戦闘能力があまり上がらないという欠点がある。

 

 だが、米国が研究していた人造神器のデットコピーである魔導兵装があれば話は別だ。

 

 そして、その成果を見せることもできる。

 

「総員! ウツセミ展開!!」

 

 その声とともに、空蝉が展開される。

 

 その言葉とともに、隊員たちはいっせいに腕輪を掲げると意識を集中させる。

 

 そして現れる異形たちの姿を見て、大臣は満足げにうなづいた。

 

「素晴らしい。すでにほかのウツセミも生産体制に入っているのだろう? これは素晴らしいというほかない。」

 

 そして、その声に返答したのは、新たなる存在だった。

 

「それはナイスだね! できれば私達にももっと技術を提供してほしいけど、それが難しいのがバッドだよ!!」

 

 その言葉とともに姿を現すのは、金のメッシュを雷のような形に入れた茶髪の女性。

 

 その女性を姿を見て、百鬼は少しだけ目を開いた。

 

「来ていたのか、ウッドフィールド博士」

 

「もちろん! 日本の対異形技術の最先端を、ぜひ本場で見てみたかったからね!!」

 

 そう答えるウッドフィールドと呼ばれた女性は、USBメモリを投げて渡す。

 

「いいものを見せてもらったからお返しだよ。それが、能力者開発のためのアプローチ方法だ。もちろん、第三次世界大戦で流出したのとは全く別のアプローチで、それで効果を発揮する可能性が高い人間を選別する調査技術も込みでプレゼントだよ」

 

 その言葉に、大臣は目を見開いた。

 

「そ、それは良いのかね!? 合衆国にあとで文句を言われたら困るのだが!?」

 

 うれしい半分恐ろしいともいえる。

 

 高位能力者。……それも超能力の域になった者は神滅具とも真正面から戦える。それは事情を知るどの国もが欲するものだ。

 

 なにせ、神器との併用で疑似的に到達したものが、ルール上いくつかの手札を封印していたとはいえ歴代最優とまで称された兵藤一誠を一対一で押していたのだ。

 

 そして、同時に、低レベルの能力者の存在はあまり役に立たないといってもいい。

 

 由来する異世界の魔術に対する拒否反応が出てくることが最大の理由だ。それらもまた効果があることを考えると、莫大なコストをかけたうえで成果が出ませんでしたなどという悪夢になりかねない。

 

 ……それを、確実にとは言わないがある程度あたりをつけることができる。

 

 そんな技術を不用意に渡せば、もらった自分たちはアメリカの怒りを買うことになりかねない。

 

 ……だが、ウッドフィールドはからからと笑うと大臣の肩をたたいた。

 

「心配する必要はナッシングだよ! それはあくまで一つのアプローチだからね。能力者開発の方法はかなり多岐にわたるし、私が知っている範囲内である他の方法は本国にプレゼントしているさ!!」

 

 なら、まあいいのだろう。

 

 自分たち日本は、属国に近い友好国だ。第三次世界大戦及び五の動乱における影響の差からパワーバランスはだいぶ対等になっているが、だからといって自衛隊とアメリカ軍で戦争を起こしたくはない。

 

 もとより、日本という国の特異性をもってすれば異能技術は大量に手に入りやすいのだ。ならばアメリカの機嫌を損ねてまで、能力者を大量生産する必要はない。

 

 必要はない……が。

 

「しかし、これはいい戦力を獲得できた。礼を言おう」

 

「お構いなく! 能力者開発競争が生まれてくれた方が、こっちとしても研究費用を引っ張り込めるからね!!」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 そう言われれば、苦笑はするが納得するほかない。

 

 なにせ、こういうのは競争原理が働いた方が発展するものなのだから。

 

「……まあいいが。君は一体何を考えてるんだ?」

 

 それが知りたい。

 

 目を見た瞬間に、天竜は察した。

 

 彼女は、別にアメリカの未来など考えていない。

 

 それなら、もっと平和的に三大勢力と協力した方が研究が進むのではないだろうか?

 

 その質問に対して、ウッドフィールドは笑みを浮かべた。

 

 その笑みをみて、天竜も大臣も秘書官も戦慄する。

 

「いや、彼らはたぶん積極的に研究しないと思ってね」

 

 それは、科学者の笑みだった。

 

「今の世界で、一番能力者開発の研究に金を出したがるのは、アメリカ合衆国だと思っただけだよ」

 

 それは、宮白兵夜が見たらこう評価することだろう。

 

「……目的のために手段を選ばない。それが木原(ウッドフィールド)の在り方だからね」

 

 魔術師(メイガス)の表情だと。

 




スラッシュドッグによってわかる日本がらみの設定は、今回の特殊自衛隊を作るにあたって非常に好都合でした。

事日本の戦力としてウツセミを用意できたのは、独自色を強くすることができて万々歳です。これは非常に都合がよかった。




それはそれとして能力者研究を行うウッドフィールド……まあ、こいつが誰かなんて禁書知ってる人ならすぐにわかるか。


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夜間の襲撃

 

 

 

 

 

「宮白さんの応援に来たんです。頑張ってるなら差し入れでも持ってこようかと思いまして」

 

 そういってアーシアちゃんが差し出してくるお茶を、俺は受け取った。

 

 なるほど、確かにイッセーらしい。

 

「そういうことですわ。お兄様が迷惑をかけていないか不安でしたので」

 

「うるさいぞレイヴェル。誇り高きフェニックス家の三男である俺が、そんなことをするわけがないだろう」

 

 憎まれ口をたたくレイヴェルにライザーは文句をつけるが、しかしその表情はお互いに笑顔だ。

 

「ふむ、そういえば深く挨拶をしていなかったな。アルサムだ」

 

「兵藤一誠です。イッセーて呼んでください」

 

 そういって、アルサムとイッセーは握手を交わす。

 

「……そういえば、新たな乳技を開発したと聞いたが本当か?」

 

「え? い、いや、何のことだか!!」

 

 ……そしていきなりアルサムの駆け引きに引っかかった。

 

 この馬鹿。もうちょっと駆け引きに聡くなってくれよ。

 

「……一応言っておこう。こちらも奥の手を一つ封印するので、できれば使わないでほしいのだが」

 

「………レイヴェル。俺は、どうしたらいい?」

 

 お前、そこは悩むところなのか?

 

「一応言っておくがイッセー。アルサムのところの新規メンバーはリオとコロナだ。……乳技使ったら〆るぞ」

 

「オマエどっちの味方だよ!!」

 

 イッセーには怒られるが、しかし十歳児に乳技使ったらさすがの俺も激おこだぞ。

 

「まったく。いろいろ頑張ってる宮白を応援しようかと思ったら、この親友ほんとひどいな」

 

「オマエも別ベクトルでひどいだろうが」

 

 そういい合いながら、俺とイッセーは笑みを浮かべる。

 

 まったく。お互いとんでもない親友を持ったもんだ。あきれるぜ。

 

「言っときますけど、俺は乳乳帝は使いますからね?」

 

「それはかまわんさ。こちらも覇剣は使わせてもらうしな」

 

 イッセーの言葉に、アルサムも平然と答える。

 

「勘違いしないでほしい。私は別に手を抜いてほしいといっているのではないのだ」

 

 そう。アルサムはそういうものではない。

 

「これは常識の問題だ。年端もない少女を辱めるようなことをしないでほしいというだけのことだよ」

 

「そ、そこまで俺は落ちぶれてないですよ!?」

 

 イッセーは心外だといわんばかりにアルサムに食って掛かる。

 

 だがなイッセーよ。お前反論できないだろう。

 

「おまえ、俺のところのイルとネルに洋服崩壊(ドレス・ブレイク)をしただろうが」

 

 半目でライザーからツッコミが飛んできた。

 

 確かに、自分の女を裸に剥かれたとなればライザーも思うところはあるだろう。

 

 だがライザー・フェニックス。お前も人のこと言えないだろう。

 

「ドラゴン恐怖症をリアスの裸見たさに克服したお前に言われたくねえよ!!」

 

「ああ!? リアスの裸が見れるなら押し切れるにきまってるだろうが!?」

 

 言うなり速攻でにらみ合う二人をスルーして、俺はアルサムに向き直る。

 

 そしてその後ろには疲労困憊の上級悪魔たちがいた。

 

「流石に、魔力がないとばててるやつらだらけだな」

 

「ふむ、最初からではこれでも重労働か。最初から厳しすぎるのは忌避感情を生む以上、もう少し加減するべきかもしれんな」

 

 なかなか困ったものだといわんばかりに、アルサムはうなる。

 

 だが、しかしこれは間違いなく身になるだろう。

 

 努力はかみ合えばきちんと結果を残す。ましてや才能を保有している上級悪魔ならなおさらだろう。

 

 彼らがきちんと努力を行って自分を高めることができれば、悪魔の未来はよりよくなるはずだ。

 

「そういえば、ゼクラム様に進言したのはお前だったな。礼を言おう」

 

「気にするな。俺は貴族の権威を維持する方法を考えたに過ぎない」

 

 説得も思った以上に楽に済んだからな。

 

 なにせ、似たようなことは下級悪魔でも行って成果が上がるということをテスト済みだ。

 

 俺はその成果を基にこう告げたに過ぎない。

 

―下級悪魔風情で効果が発揮するのです。真に優良種たる上級悪魔が行えば、それ以上の成果が生まれるのは自明の理ではありませんか。

 

 そうなれば、ただでさえ王の駒の不正使用でいろいろと権力削減されている大王派は巻き返しのために乗っかるものが多発する。

 

 なにせこの発言。真に上級悪魔にふさわしいのなら成果が出なければおかしいといっているようなものなのだ。

 

 否でも成果が出るまで頑張らせるにきまっている。

 

 まあ、完全文系で体育会系に向いてない輩もいるから、その辺のフォローを用意する必要があるけどな。

 

 ああ、だからこのままいけば、貴族連中の復権も見えてくるんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ!! なんなんだ一体!!」

 

 一人の貴族が、水を飲むのに使用していたコップを地面にたたきつけた。

 

 ガラスだったので勢い良く割れるが、しかしそれを気にするものはいない。

 

「なんで俺たち強大な魔力を保有する悪魔が、こんなこととしないといけないんだ!!」

 

「同感だ。我々の進化にこのような下賤なまねをする必要があるのか?」

 

 相当不満がたまっていたのか、その怒りに同調する者たちが何人もいる。

 

「というより、悪魔が魔力を使わずに強くなって、何の意味があるのだ? それは転生悪魔のやることだろう」

 

「同感だ。真なる悪魔の誇りたる、魔力の強化こそが必要ではないだろうか?」

 

「まさか、アルサム様は宮白兵夜と共謀して、我々を無意味に疲弊させてさらに力をそごうというのか?」

 

 疲れているあまり、さすがにそれはないだろうといえるような推測まで飛び出してくる始末。

 

 それは裏を返せば、彼らが鍛錬を積んでこなかったことの証明だろう。

 

 それほどまでに、彼らは自然に成長する力だけでやってこれたのだ。

 

 だが、それがこの場において裏目に出ている。

 

「いや、しかしあの魔王の首輪の策だぞ? 転生悪魔でありながら、いまだ我らの再起を手助けしてくれるのだ。ならば何の効果もないわけが……」

 

「だが奴はルシファー様の義弟ともいえる立場だぞ? あの八方美人を信用しきっていいものか!!」

 

「公共電波で魔王を正座させた男に限ってそれはないだろう。馬鹿か貴様は」

 

「何だと!?」

 

 ストレスが限界に達しているのか、いい加減喧嘩が勃発しかねない勢いになっていた。

 

 だが、腐っても上級悪魔同士の喧嘩である。そうなればいったいどれだけの被害が出てくるかわかったものではない。

 

「おい、落ち着け!!」

 

「そんなことをすればアルサム様から雷が落ちるぞ!!」

 

 慌てて止めに入るものもいるが、しかしそれ以上に喧嘩腰になっている者たちも数多い。

 

「……いいだろう。この鍛錬の成果が出たのかどうか、貴様で試してやる!!」

 

「文句ばかり言っている者たちに何ができる!! アルサム様に続かんとした私の方が成長していることを見せてやろうか!!」

 

 そして、其のままストレスが戦闘という形で爆発しようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか騒がしいことになってるから、とりあえず様子を見に行くか。

 

 どっかのブートキャンプ並みにハードだからな。さすがに初めての本格的な特訓がこれでは精神的な限界を超える連中が出始めてもおかしくない。愚痴ぐらいは聞いてやらないと。

 

 だが、できることならこれで努力の価値を知ってほしい。

 

 努力は、決して無駄なモノなんかじゃない。

 

 そりゃぁ、かみ合わなければどれだけ努力をしても意味がない。それは仕方がないことだ。努力も万能ではない。

 

 だが、努力はかみ合えば成果を出してくれるものなんだ。かみ合いさえすれば、無駄になることだけは決してない。個人差はあるがきちんと対価を払ってくれる。

 

 だから、その価値を知ってほしいと本心から願う。

 

 上級悪魔は間違いなく存在そのものが才能を持っているんだ。身体能力は人間をはるかに上回っているし、魔力という明確なアドバンテージだってある。

 

 彼らが努力することの価値を知ってくれれば、きっと彼らはもっと成長することができるはずだ。

 

 そうなれば、今の転生悪魔に傾いている流れも取り戻すことだってできるはずなんだが―

 

 と、思っていたら廊下に人影があった。

 

「……アルサム?」

 

「ああ、宮白兵夜か」

 

 そこにいたアルサムは、どこか疲れた感じがした。

 

 なんか、意外だな。

 

「どうしたよ。お前は基本裏打ちされた自身に満ちている男だろうが」

 

 才能は間違いなくウチの姫様以上。さらにサイラオーグでも認めるほどの過酷な特訓を積み、親が教育の重要性を比較的理解していることもあり、環境だってよかった。

 

 人を成長させる三つの要素を持っているのだ。こいつがすごい奴になるのは確定といっても過言ではない。

 

 そして、それをもってしてノブレス・オブリージュを果たさんという強い意志を持つ。

 

 王侯貴族は奉仕対象なのだから、奉仕したいと思わせる存在でなければならない。なんであれ民に選ばれた存在であるのならば、それを証明することが義務。

 

 一理ある考え方だし、少なくともアルサムはそうであろうとして成果を出している。

 

 今回の件だってアルサムや俺が動けば成果は出ると思われてのことでもあるんだし、もっと自信に満ちていてもいいと思うんだが。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、少し思うところがあってな」

 

 そういうアルサムは、窓の外から空を見上げる。

 

「私は、私の王道を全うすることこそが私に仕える者たち対する礼儀だと考えている。そこは微塵も揺らいではいない」

 

 だが、とアルサムは続ける。

 

「皆が、私のように努力を成果につなげられるわけではない。そして、低い成果のものはそれを誇れるとは限らないだろう」

 

 その目に映るのは、いったい何なのだろうか。

 

「私は自分の道を誇っているし、なにより誇らしい存在であるのならそうであるべく自分を磨く必要があると思っている。それに関して異論はない」

 

 そうはっきりと言い切るが、しかし同時に少しだけ迷いがあった。

 

 ……実際、すでに何人かが離脱している。

 

 努力に意味を見出せない。

 

 つらく苦しいことをしたくない。

 

 自然に成長するだけでちょっとした軍事部隊を壊滅させれるほどの力を手にできるから、貴族の悪魔は努力に価値を見出さない。

 

 戦力が必要ならば、権力を使って集めればいいと思っている。そんなことをしてもしなくても、自分は自分に見合った強さが手に入ると思っている。

 

 むろん、努力を積んだものに敗北すれば、努力というものにある程度の意味を見出せるかもしれない。

 

 だが、それはゼファードルのような奴を産むこともある諸刃の剣だ。

 

 いまだに、ゼファードル・グラシャラボラスは家にこもりっきりだという。

 

 魔力をかけらたりとも持たない、悪魔として欠陥品のサイラオーグ・バアルにやられたことが奴の心を完膚なきまでに砕いてしまった。

 

 過酷な訓練や鍛錬は、人の心に負担をかける。

 

 正しいことは痛いのだ。悪いことは楽なのだ。

 

 ……カツ

 

 今までぬるま湯しか知らなかったものが、果たしていきなり熱湯に叩き込まれて心が折れずにいられるだろうか?

 

 つまり、簡単にまとめるならば―

 

「オマエ、今更これが過酷すぎることに気が付いたのか?」

 

 てっきり覚悟の上かと思ったぞ。

 

「……貴族の産まれた者として、己を崇拝されるに足るものとすることは義務だと思う。ゆえにそれができぬものは落伍すればいいとも思う。だが、できる可能性があるものをむやみやたらに振り落とすのは危険ではないかと思い直してしまってな」

 

 ……カツ……カツ

 

「まあ、確かにいきなりハードすぎたとは思うがな。だが、最初にハードすぎることを経験させて、次で少しハードルを下げると感覚がマヒして簡単だと思い込んでやってしまうというやり方もある。心が折れてなければやりようはあるだろう」

 

「それは詐欺の手法な気がするのだが、まあ、確かにな」

 

 俺としては素直にフォローしたつもりなのだが、なんでそんな結論になる。

 

 だが、少しだけだがアルサムはいつもの調子を取り戻したようだ。

 

 ああ、それは何よりだ。

 

 そういうわけで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「取り込み中だ。失せろ」」

 

 俺とアルサムは背後に迫った化け物を得物で一刀両断した。




イッセーは素直に応援でした。ですが、これによりトラブルに巻き込まれることが確定しました。









努力慣れしていないところにいきなりブートキャンプで、ストレスがむちゃくちゃ給っている上級悪魔。アルサムも、いきなりこれはやりすぎたと反省しております。


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人類の暗躍

 

 まったく。なんだこいつらは。

 

 バイオのハンターをデフォルメしたような外見をした、なんというか戯画的なモンスターを、俺は見下ろした。

 

 手ごたえ的には下級悪魔の上といったところか。戦闘職でなければ有利に戦うのは困難だろう。

 

「アルサム、今回の件、誰と誰に話した?」

 

「そもそも公募したのだ。ある程度の情報は上級悪魔のものならば誰もが把握することができる。場所も調べようと思えば簡単にできるだろう」

 

「だったらもっと警備を厳重にしてほしかったな」

 

 確かに俺とお前がいれば並大抵の敵は返り討ちにできるだろうが、貴族の子息を相当数集めてるんだぞ?

 

 万が一にも神クラスが襲撃して殺されれば、責任問題でとんでもないことになるはずなんだが。

 

「これでも結界は多重に張っていたのだ。感知に特化しているから、侵入されればすぐに気づくはずなのだがな」

 

「つまり、結界を張った連中の中に内通者がいたということか」

 

 誰だか知らんがあとで覚えてろ。

 

 一族郎党とは言わんが、獄中で余生を過ごすことも覚悟しておくといい。

 

「……俺は眷属を今回連れてきてないんだ。そっちは?」

 

「シェンたちは別の棟にいる。すぐに呼び戻そう」

 

 今回、上級悪魔の鍛えなおしが目的だということもあって俺たちは眷属悪魔を別の場所のおいてある。

 

 俺の場合はそれを前もって知っていたので、全員連れて来なかった。

 

 ……さすがに油断しすぎたか。一応グランソードの舎弟を数百人ほど別の場所に待機させてあるんだがな。

 

「一応少し離れたところに、緊急用の軍勢を用意している。彼らを呼ぶか」

 

「それは俺がやる。お前は貴族の子息を避難させろ。こういう時にかっこつけておけば、心象がよくなるからな」

 

 こいつには今回の件で嫌われ役をやってもらうわけにはいかないんだよ。

 

 ここは俺がしっかりと行動しておかないとな。

 

「わかった。すまんな、面倒ごとを押し付ける」

 

「恩返ししたいなら早く行け。嫌われ役は俺が引き受ける」

 

「礼を言うぞ!!」

 

 アルサムが駆け出すのを見送りながら、俺は即座に外部の部隊に連絡を取る。

 

「アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス様の代理のものだ! こちらに敵襲があった、すぐに来てくれ!!」

 

 魔方陣を展開して簡潔に内容を伝えるが、しかしすぐには返信がやってこない。

 

 なんだ? いったい何が―

 

『―こ、こちら緊急即応部隊!! 申し訳ありません、少し時間がかかります!!』

 

「―どうした? これが躓くとアルサム様の未来に陰りが生まれるのはわかっているだろう?」

 

 ああ、アルサムの用意した連中に限って、「実は寝てましたすぐに起きれませーん」なんてことはあり得ない。

 

 つまり、逆説的に考えて向こうも襲撃を受けているということか―

 

『……沿岸警備隊に職務質問を受けております。どうも人間世界での活動のための資料提出に不備があったみたいで』

 

「何やってんだあの馬鹿!」

 

 どういううかつな失敗をしてるんだよ!!

 

 おい、沿岸警備隊って悪魔の群れすら足止めできるのか!?

 

 公権力すごいなぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、今のところどうだね?」

 

 大統領は、ホワイトハウスの職務室から夜空を見上げて秘書に質問する。

 

「ご安心ください。グラシャラボラスが提出した許可を求める資料ですが、不幸な行き違いで受理されなかったようです。沿岸警備隊が現在、護衛用の武装隊の船を臨検中ですので、三十分はかかると思われます」

 

 わざとらしい声で返ってきた秘書官の答えに、大統領は満足げな顔を浮かべた。

 

 まあ、今回の襲撃犯が成功する可能性は低いだろう。

 

 今回の目的はあくまで実戦データの収集だ。これで倒せると思うほど、自分たちも耄碌していない。

 

 正真正銘自殺といってもいい命令に、部隊の面々はよく頷いてくれたといっていい。彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない。

 

 人類が正しい意味で地球の未来をかじ取りする存在となるためには、悪魔たちと真正面から渡り合う力を手にする必要がある。

 

 これ以上、腐敗した天使たちに頭を押さえられる状況など御免なのだ。

 

 人類の未来は人類が決める。これ以上、化け物共の好きにはさせない。

 

 いずれハーデスとも配下ではなく同等の関係に至らねばなるまい。しかし、先ずはあまりにも奇天烈な三大勢力だ。

 

「変質者とテロリストを英雄としてあがめるほど、我々は非常識ではないぞ、三大勢力……っ!」

 

 これはその決別のための第一歩だと知るがいい。

 

 そう言外につげ、大統領は報告を待つまで眠らないことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舐めるな雑魚どもがぁ!」

 

 その場にいる上級悪魔は、数十人を超える。

 

 そんな彼らを相手にするには、目の前の敵はあまりにも弱かった。

 

 上級悪魔の山肌すら削り取る一撃の前に、襲い掛かる怪物たちは一瞬で吹き飛ばされる。

 

 吹き飛ばされる……のだが。

 

「ええい、まだ終わらんのか!?」

 

 何度撃破しても、いまだに数が減る気配がない。

 

 同時に出てくる数は百体もあれば多い方なのだが、倒しても少しするとすぐに現れるのだ。

 

 しかも広範囲から襲い掛かってくるため、一回の攻撃で吹き飛ばせるのは、十体にも届かない。

 

 しかもある程度距離を取りながら、弾幕を張ってチクチク削っていく戦法のせいで、ストレスも大幅にたまっていた。

 

 だが、これならこちらも負けることはない。

 

 そう確信しているからこそ、イラついてはいるがしかし余裕はあった。

 

 そしてそうやって反撃をしようとしたその瞬間―

 

 地表で、爆発が起きた。

 

「ぬぉぉお!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 爆発が連続して起きるなか、上級悪魔たちは混乱する。

 

 それがあまりにも致命的な隙だった。

 

 今放たれたのは、80mmの迫撃砲だった。

 

 必然的に簡単な火力では、上級悪魔を倒せるようなものではない。無視するという選択肢もしっかりと会ったのだ。

 

 だが、上級悪魔たちは不意に起きたせいで明確に混乱状態に突入した。

 

 それが、あまりにも致命的な隙だった。

 

「いまだ! 一斉射撃!!」

 

 その瞬間を狙って、森の片隅から姿を現す人影があった。

 

 総数三十名弱。歩兵一個小隊ほどの部隊が、一斉に銃らしきものを構えて、上級悪魔の一人に狙いを定める。

 

 放たれる弾丸は物質ではなくエネルギーで構成されたもの。まるで神器を思わせる其れは、一発一発の火力が中級クラスにも匹敵していた。

 

 距離は数十メートル。正確に狙いをつけている状況下。そして相手は棒立ち。

 

 間違いなく、大半が直撃する。

 

 いかに中級クラスに届くレベルとはいえ、その火力は先程の迫撃砲よりはるかに強力。まず間違いなく同時にいくつも当たれば上級悪魔といえど若手ならば命に係わる。

 

 その瞬間、その上級悪魔は死の気配というものを自覚した。

 

 完膚なきまでの不意打ちに、彼は動きを完全に止めてしまった。

 

 そしてその瞬間に産まれるのは、自分がこんな簡単に死ぬ程度の存在だという絶望。

 

 上級悪魔でありながら、たかが雑魚の群れに襲われて死ぬ程度の実力しかないという事実にこそ、彼は絶望していた。

 

 いやだ。

 

 嫌だ。

 

 死にたくない。

 

 こんな死に方は嫌だ。

 

 こんな、雑魚の群れにやられるようなあっけない最期を迎えてしまえば、一族のものに死後嘲笑されるのは目に見えている。

 

 そんなのは―

 

「嫌だぁあああああああああ!?」

 

「なら防御ぐらいしないか戯けが!!」

 

 その瞬間、放たれた攻撃がすべて弾き飛ばされた。

 




これでジャブですらないとか人類恐るべし。

兵器のメリットの一つは資材さえあれば量産できること。それを最大限に生かした戦法を取りました。

さらに現代兵器も相手の虚を突くことはできる。とどめにウツセミを陽動とした歩兵部隊の一斉射撃。アルサムがいなければ1人確実に仕留められました。




さらに地味なファインプレーである資料関係のトラブル。これに関しては兵夜たちも人類が今牙をむく余裕があるとは思ってないこともあり、不幸な行き違いで終わる予定です。ちょっと思考が異形側によってますね、兵夜も。


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冥界の光は夜にも輝く。

 

 展開されるのは魔力による障壁。だが、その出力が桁違いだった。

 

 まず間違いなくレーティングゲームのトップランカー。それも魔力に長けた者でなければ出せないようなほどの頑健な魔力障壁が、全ての攻撃を防いでいた。

 

「え、これは……」

 

「理解したな。そう、貴殿はまだ弱い」

 

 そして、その悪魔を庇える位置に、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスが飛んでいた。

 

「だが、貴殿はまだ強くなれる。それだけの資質を持っている」

 

 そういたわるように、アルサムは告げる。

 

「だが、それも輝く前に砕けてしまえば……ただの塵屑へと消えるのだ」

 

 そう告げ、そしてアルサムは銃撃を放った集団に視線を向ける。

 

「そうはいかん。そうはさせん。それは認めん」

 

 そこにあるのは、正真正銘の殺意。

 

「彼らは磨くことでより輝き、貴族に相応しい存在へと近づける。それを選ばんのは勝手だろうが、しかし機会を与えられる前に死なせるわけにはいかんのだ」

 

 そして、切っ先をまっすぐに突き付けた。

 

「……何が目的かは知らんが、若い芽を摘むというのならば覚悟するがいい」

 

 その怒りは、浴びせられるわけではない悪魔達が恐怖するほどのものだった。

 

 そして、それを受けてなお、賊達は平然としていた。

 

 恐怖を感じていないわけではない。それを飲み込んで冷静さを保っているのだ。

 

「……相当の修羅場をくぐっているようだな。禍の団の残党か何かだろうが、吐いてもらうぞ!!」

 

 そして、アルサムは一気に剣を構えて突撃し―

 

「……伏せろ!!」

 

 ―かけ、とっさに庇っていた悪魔を地面に叩き付けた。

 

 そしてそれと同時進行でルレアベをあらぬ方向へと構える。

 

 次の瞬間、大出力の白い輝きがアルサムに直撃した。

 

 それも、一つではなく三つ。

 

 一つはルレアベで防げたが、しかしまだ二つが残っている。

 

 もう一つは魔力障壁で防いだが、しかし一つが残っている。

 

 そして、その一つが直撃した。

 

「あ、アルサムさまぁ!!」

 

 悲鳴を上げ、直撃を受けたアルサムに駆け寄ろうとした悪魔がいた。

 

 そして、焼け焦げたアルサムは即座に彼に突進する。

 

「うかつだ!!」

 

 そしてアルサムが体当たりで弾き飛ばした瞬間、四方八方から攻撃が降り注ぐ。

 

 現れた化け物と兵士達が、隙を逃さず突出した者達に攻撃を放ったのだ。

 

 少人数のはぐれ悪魔の討伐程度しか経験のない貴族達では察知ができず、しかし幾度となく質の高い戦闘経験を積んでいたアルサムはその戦法を察知していた。

 

 しかし、上級悪魔すら殺しうる火力を受けた直後では、対応に遅れが生じていた。

 

「チィッ!」

 

 とっさに迎撃するも、全弾防ぐことはかなわず何発も突き刺さる。

 

 さらに、先ほどの砲撃を放った存在がその巨体をあらわにした。

 

「あ、あれは禍の団の!?」

 

「巨大兵器だと!?」

 

 かつて、禍の団は大型兵器をいくつも開発していた。

 

 その中に、あの乳乳帝と呼ばれる前の赤龍帝と、神喰いの神魔と呼ばれる前の魔王の首輪を相手にして無事だった機体も存在する。

 

 その名を、エドワードン。

 

 あのキャスターが作り上げた、科学と神秘の融合した兵器である。

 

「……厳密に言えば、この世界で手に入る技術だけで作った劣化コピーだがな」

 

「黙っていろ。情報を漏らす必要はない」

 

 ぽつりと呟いて嗜められたその声を、アルサムは決して聞き逃さなかった。

 

「なるほど、高位の魔術師(メイガス)を擁しているわけではないようだな……っ」

 

「アルサム様!? う、動いてはいけません!!」

 

 慌てて悪魔の一人が介抱しようとするが、しかしアルサムはその手を跳ね除ける。

 

「そんなことをしている場合ではない。……呆けるな、今が好機だ!」

 

 アルサムは立ち上がると、ルレアベを構えてその切っ先を突き付ける。

 

「先程の砲撃から逆算して、敵の主力はこれで打ち止めだ! すぐに囲いを突破して距離を取れ。それまで時間を稼ぐ」

 

「駄目ですアルサム様!! そのお怪我では―」

 

「戯けが! ここは戦場だぞ!!」

 

 押しとどめようとする悪魔を一喝すると同時に、アルサムはルレアベを振るい放たれる攻撃を弾き飛ばす。

 

「覚えておくがいい。これが本当の意味で命のかかった戦場というものだ」

 

 言うが早いか、アルサムは小規模な魔力砲撃を乱れ撃ちながら、エドワードン相手に戦闘を試みる。

 

 連携を取りながら少しずつ削っていく戦法に移行したエドワードンを相手に、負傷しながらもアルサムは一歩も引かなかった。

 

「だが、この経験をもって生き残ることができれば、お前達は必ず成長する」

 

 そう、それこそが経験を積むということ。

 

 失敗を知り、それに対する術を理解する。これだけは、ただ生きていくだけでは手に入らない力の一つだ。

 

 それを経験した彼らは、必ず一歩先を行くことだろう。

 

 それは、きっと冥界の悪魔達をより良くする。

 

「ゆえに生き延びろ! 私も必ず追いつく!!」

 

「させるな! 一人残らず始末しろ!!」

 

 即座に賊達が狙いを上級悪魔達に向けるが、しかしアルサムはエドワードンを相手にしながら砲撃を行い狙いをつけさせない。

 

「急げ!! お前達の成長こそ、冥界の未来を担うのだと知るがいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、お前の存在も冥界の未来には必要だ」

 

 その瞬間、行動していた怪物達が一斉に崩れ落ちた。

 

 同時に、森の向こうで爆発が起きた。

 

「……エクソシストが全滅!?」

 

「チッ! ついに来たか!!」

 

 破壊された方向に視線を向ければ、そこには赤い龍の鎧と青い剣の鎧が存在した。

 

「おいおい、そんなボロボロじゃあイッセー倒すのは不可能だぞ? さっさと終わらせて傷をいやしとけ」

 

「大丈夫ですか? 俺達が来たからには、もう安心していいですよ!」

 

 そこにあるのは、冥界の未来を救った二人の英雄。

 

 否。

 

 世界の命運をかけた戦いに勝利した、二人の英雄が立っていた。

 

「来たか、宮白兵夜に兵藤一誠……っ!!」

 

 そして、賊たちの視線が一斉に鋭くなる。

 

 それは、明確な憎悪といえる感情だった。

 

「……流石に、この状況では勝てんか」

 

 しかし、彼らの行動は明らかにそれとは真逆のものだった。

 

「総員撤収! 引くぞ!」

 

『『『『『ハッ!!』』』』』

 

 その言葉とともに、一斉に彼らはグレネードを投げつける

 

 投げつけられたグレネードは、一斉に煙を噴き上げると視界を隠す。

 

「煙幕とは古典的な手段を使ってくるな」

 

「宮白! 言ってる場合かよ!?」

 

 冷静極まりない兵夜のセリフに、兵藤一誠は文句を言う。

 

 何故なら、ここで敵を取り逃がすのは危険だということは誰もが理解していたからだ。

 

 だがしかし、兵夜はどこまでも冷静だった。

 

「安心しろイッセー。既に米国にも事情は通っている。即興で作り直したにしては包囲網は優秀だ」

 

 兵夜は既にこの戦闘に対する警戒網を厳重にしていた。

 

 既に米国との間の誤解は解け、それを利用して警戒網を厳重にしている。

 

 むろん、上級悪魔と渡り合う謎の勢力に対して沿岸警備隊の武装で対抗できるとは考えていない。

 

 だが、相手の逃走方向さえ把握することができるのなら、追撃は大幅に楽になる。

 

 一気に狭まった包囲網から逃げられる可能性もあるが、それはそれだ。

 

 重要なのは貴族の子息達の無事の確保。最低でも最優先するべきことは行えた。

 

「別棟の方のライザーは?」

 

「大丈夫だ。そっちには眷属を送っている」

 

 アルサムにそう答えながら、兵夜は怪物を送り込んできた者達の方向に視線を向ける。

 

 襲撃を仕掛けてきたのは、いわゆる歩兵戦闘車と呼ばれる類だった。

 

 大口径の機関砲などで武装し、歩兵を輸送する装甲車。

 

 通常の装甲車との最大の違いは、より戦闘に特化しているといったところだ。

 

 今回投入されたのは、迫撃砲を搭載したモデルだった。

 

 それによる遠距離支援砲撃を中心とするモデルだが、問題はそこではない。

 

 問題は、あれが神器と同等の能力を保有しているという点だ。

 

「十体前後の魔獣を生成し、それをある程度操作する戦闘装甲車両。大型化した人造神器といったところか」

 

 そんなもの、相当の技術力がなければ生産できない。

 

 開発したのはおそらく禍の団の残党だろうが、これはかなり厄介な部類だろう。

 

 状況が状況ゆえに破壊するしかなかったが、しかし分散していた為何両か取り逃がしたと思われる。

 

 これで実戦データが採られてしまった。今後はより改良発展したものが用意される可能性がある。

 

 ようやく禍の団との戦いも終わり、ある程度は治安も回復した。本来なら、あとはどの勢力も戦力回復に努めたい時期なのだ。

 

 頼みの綱はフォード連盟と時空管理局。しかしどちらもそれぞれ問題を抱えており、当初の想定よりも協力度合いは低くならざるおえない。

 

 これは、かなり問題が発生していると考えるべきだろう。

 

「アルサム。悪いが計画は中止だ。……努力とは大変なものだという事実だけを教える結果になっただろうが、今は安全を確保することが優先だろう」

 

「だろうな。まったく、私の計画はどれも上手くいかないのか」

 

「現実なんてそんなもんだ。それともこれで諦めるのか?」

 

 兵夜は揶揄するが、しかしアルサムは首を振る。

 

「まさか。トライ&エラーは物事の常識。この失敗をバネに、今度こそ私の成功方法を人に伝えて見せるとも」

 

 そう挑戦的な笑みすら浮かべるアルサムに、兵夜もまた笑みを浮かべた。

 

「ああ、それでこそだ」

 




人類側、即座に撤退。

流石に赤龍帝と神魔、さらに魔王剣の三人を同時に相手する気はありませんでした。







ちなみに、あのエドワードンは第三次世界大戦及び五の動乱のどさくさに手に入れたエドワードンの劣化コピーです。キャスターがいないため魔術的な部分の手が足りてないのが現状なので、一対一の近距離戦になったら一蹴されます。即座に撤退したのも、三対三の状況に持ち込まれたら勝ち目がないからです。


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戦いで得た者

 

 

 ホワイトハウスで、大統領は微妙な表情を浮かべた。

 

 とはいえ、作戦の結果は想定の範囲内だ。

 

 もとより今回の作戦は、実戦経験を保有したものを確保して、今後の対異形要員育成の為のノウハウを手に入れる事。作戦の成功に関しては、実はそこまで重要視されていない。

 

 ましてや兵藤一誠は乳乳帝を発動させれば生半可な神クラスを凌駕する力を持つのだ。宮白兵夜は弱体化しているものの偽聖剣を取り戻し、最上級悪魔に任命されかけた程の功績を持つ。

 

 どちらも、間違いなく個人戦力として一級品なのだ。そのうえで優れた眷属悪魔を保有し、さらに上級悪魔が何十人もいる。とどめに同じく最上級悪魔クラスのアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスまでいる始末。

 

 どう考えても難易度が高い。普通に考えれば、未だ対異形戦闘は素人の自分達では勝ち目がないと断言できるレベルだ。

 

 ゆえに、その最上級の脅威度を肌で感じた者を生き残らせ、そんな彼らの教導によって戦力の質を上げる事が目的だった。

 

 だが、こちらに犠牲者が出ていながら一人も殺せていないのは、流石に残念だった。

 

 こんな事なら全部特殊自衛隊に任せるという案もあったが、しかし世界の警察として戦闘経験を保有していないという事実は、のちの将来において対異形戦術において後れを取る。

 

 選択肢としては、これしかなかったのだ。

 

「もう少し兵力を多く用意するべきだったか。彼らには悪い事をしたな」

 

「お言葉ですが大統領閣下。彼らもまた覚悟の上参加したのです」

 

 秘書官はそう言ってたしなめる。

 

 そう、彼らは逃走できないと自己判断すれば、その場で自決する事も覚悟した者達だけで編成されている。

 

 そもそも、有事の為にあの手この手で来歴を抹消した、いざという時の為の汚れ仕事担当の兵士達だ。

 

 今の発言は、その彼らの覚悟に泥を塗りかねない。

 

 だが、大統領は静かに首を振った。

 

「いや、そういう彼らだからこそ、できる限り大事に使うべきなのだよ。これだけの覚悟を示した者達は、我が合衆国の暗部を担う貴重な人材なのだから」

 

 まだまだ数には困ってないとはいえ、犠牲は犠牲だ。

 

 せめてその死を悼む事だけはしておきたい。

 

 それが、大統領の考えだった。

 

「……この犠牲には報いねばならない。少なくとも兵藤一誠と宮白兵夜という悪魔が、我々の政治に関与することだけは阻害しなければならないだろう」

 

「当然です閣下。今こそ、その為の準備も急がなければなりません」

 

 そう答える秘書官は、新たな資料に手を伸ばす。

 

「既にウッドフィールド大佐相当官の研究は大詰めを迎えております。あとは臨床試験さえ行えば、我々は大能力者を量産する事が可能です。今回のテストも成功した以上、有効な戦力として活用できるかと」

 

「そうか、それは素晴らしい」

 

 大統領は、その結果に手放しで賞賛する。

 

 今後の世界の情勢に、能力者の存在は必要不可欠だといえるだろう。

 

 なにせ、最高峰の能力者のポテンシャルは、高位神器の禁手にも匹敵する。彼らが戦場に出てくることになれば、今後の軍事戦術や戦略は大幅に変更される事になるだろう。

 

 むろん、問題点はある。

 

 それは、能力者は精神的資質や肉体的資質に左右される為、思った通りの能力を思ったように生産する事は困難だということだ。

 

 だが、それも人造神器計画で解決の兆しが見えている。

 

 既にそのテストも完了した。

 

 エドワードンのレプリカを使用して、そのテストも完了した。結果は成功といっていいだろう。

 

 エドワードンクラスの兵器を運用する為には、相当の動力源を確保する必要がある。

 

 その代用を成功させた人造能力者のテストは完了。あとは生産ラインを拡大させるだけだ。

 

「話による、能力者のパーセンテージはどうなる?」

 

「はっ。ウッドフィールドの開発した素養格付(パロメーターリスト)による兵士達の検査結果から逆算しまして、こちらで安定して用意できる人材は500人が限界かと」

 

 それは、言葉でいうのならば少ないというしかないだろう。

 

 また、強能力者(レベル3)といわれる存在は、兵士としても有用ではあるがあくまでそこどまり。

 

 本格的に異形達との戦闘を考慮するならば、できれば大能力者(レベル4)がいる事が望ましい。

 

 ……だが、これまで手に入れた技術を最大限に使用すれば、強能力者で十分なのだ。

 

「ああ、ウッドフィールドの能力を発動できるように調整する人造神器。ウツセミの技術提供があったとはいえ、生産できたのは僥倖だ」

 

「閣下。あくまでウツセミは日本と我が米国の共同開発です。それをお忘れなきよう」

 

 秘書官が苦笑交じりに告げるが、まあ実体は技術提供といっていい。

 

 なにせ、九割は日本が開発したようなものなのだ。どう考えても日本が主導である。

 

 とはいえそんなものがばれれば、日本の現政権が終わるだろう。それの考慮ぐらいはしてやらないといけない。

 

 しかし、このデータだけでも値千金。のちの異形達との戦いで、間違いなく役に立ってくれるだろう。

 

「……勝つぞ。少なくとも、譲歩だけは引き出して見せる」

 

「承知しました。我が国に未来を」

 

 アメリカ合衆国。その最強国家としての威信は、クージョー連盟によって地に落ちた。

 

 こと集中攻撃を喰らった事が原因で、どうしても一強の地位からは下がらざる得ないだろう。

 

 だが、それでも人類の大きな戦力であるという事実に変わりはない。

 

 ゆえに負けるわけにはいかない。

 

 兵藤一誠と宮白兵夜に一大勢力のかじ取りをさせるわけにはいかない。

 

 その為に、全力を尽くす必要があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、大変な事になったよなぁ」

 

「お前とアルサムの試合前に、いらんケチが付いたな」

 

 俺は心底イッセーに同情した。

 

 悪魔側で大人気のイッセーとアルサム。そのチームのレーティングゲームがそろそろ開かれる。

 

 その前にこの事件は、色々と評判が悪くなりそうだ。

 

 とはいえ、怪我人こそ出たが死人が一人も出ていないのは僥倖だろう。

 

 それにアルサムが提出した資料にも不備はなく、あくまで沿岸警備隊が護衛部隊と揉めたのはアメリカ側の落ち度であることも発覚した。

 

 まあ、これなら比較的ダメージは少ないか。

 

「すまなかったな。手間をかけたようだ」

 

 と、アルサムがライザーと一緒に俺達のいたところに近づいてきた。

 

「よお、赤龍帝に宮白兵夜。昨日は大変だったみたいだな」

 

「やあ、ライザー・フェニックス。今回は手間をかけさせたようですまなかったな」

 

「まったくだ。フェニックス本家の出身である俺を、よくもまあ雑用に駆り出してくれたな」

 

 口ではそんな文句を言うが、しかしライザーも達成感はあるようだ。

 

「結局一週間そこらで終わったが、この特訓で得た物がある奴も多いだろう。少なくとも、努力の価値を知った奴らなら、今後のレーティングゲームで活躍するだろうさ」

 

「ああ、だろうな」

 

 努力というものは、かみ合いさえすれば程度はともかく結果を残す。

 

 むろん、努力でどれだけ伸びるかについても個人差はある。どちらにしろ才能というものは結構重要だ。

 

 だが、それでも努力に価値がないわけじゃあない。

 

 今回の特訓で、それについて少しでも理解してくれればいいんだがなぁ。

 

「まあ、今回で理解しろというのは大変だろうな」

 

 アルサムは、そう苦笑しながら言い切った。

 

 まあ、一週間かそこらのブートキャンプじゃあ、「努力はつらい」の方が理解度としては強いかもしれないな。

 

「だ、大丈夫ですって! だって、アルサムさん一生懸命頑張ってきたじゃないですか! きっと分かってくれる人はいますって!!」

 

 イッセーはそういうが、しかし悪魔がどいつもこいつも根性あるわけじゃない。

 

 むしろ、今回の件で心が折れた連中がいたって不思議じゃないからなぁ。

 

 アルサムもそれを理解しているのか、静かに首を振る。

 

 だが、それでもその目には諦めの色は浮かんでいなかった。

 

「だが諦めんさ。まずは努力に効果があることを理解してもらうところから始めるべきだった。そこから少しずつ、努力できる環境を作っていくさ」

 

「まあ、及ばずながら力を貸そう」

 

 ああ、それは間違いなく必要な事だ。

 

 努力し続けるというのは、きっとつらい環境だ。

 

 だが、努力を怠れば人は先に進む事ができなくなる。

 

 だから、努力しやすい環境を整えるというのは必要だろう。

 

 努力に価値がある事を知り、よりよい努力を行なえ、そして努力に疲れた時はちゃんと休憩できる。

 

 そんな環境ができれば、人はきっと、少しずつ努力を続ける事ができるようになるはずだ。

 

 そうすれば、優れた素質を持っている上級悪魔もその地位に見合うだけの戦闘能力を今後も確保できる。下級悪魔や中級悪魔の中からも、優れた素質を持つ者が居れば引き立てられるだろう。

 

 魔王派にしてみても大王派にしてみても良い事だ。そうすれば血統主義の強い魔術師も制御できる。

 

 いや、そもそも魔術師(メイガス)は己の研究をしっかりと続ける生き物なのだから、必要な努力はきちんとしているはずなのだ。

 

 それをきちんとしている貴族と同盟を組んだ方が、心情的には好感が持てるだろう。

 

 なにせ魔術師(メイガス)という生き物は非人間的な側面があるから、必然的に善良すぎる四大魔王とはそりが合わない。

 

 将来的な九大罪王も、その大半は四大魔王が見据えた人物になるだろうし、そこも考えればあいつらが離反して野に下る可能性は大きい。

 

 ……それは何としても避けたい。

 

 元々魔術師何ていう連中は秘匿を前提としているのだ。一度隠れられると探すのが大変で、しかもパトロンがいない分外道な手段に走る可能性も上がっていく。

 

 それを防ぐ為にも、大王派には一定の権力を持ってもらわなければならないのだ。

 

 第一、こういう政治体制において勝とうと思えば確実に勝てる程度の厄介な敵は残っておいた方がよく回るものなのだから、必要といえば必要だろう。

 

 ……変化は必要だ。だが、その速度は急激すぎると反動がでかい。

 

 その為のブレーキ役は、どうしても必要なのだよ。

 

 ゆえに九大罪王にアルサムは入ってほしい。

 

 能力のある貴族ならきちんと厚遇し、彼らの復権の為に動いているアルサムなら、大王派の受けもいい。そのうえで貴族を復権させる為の方法として努力を植え付け、少しずつましな方向に発展させていけばいい。

 

 どうせ悪魔という生き物は血統間の素質の差をひっくり返せないのだ。四大魔王はその辺の配慮が足りてないから、俺が頑張るしかないのだよ。

 

 とはいえ、今回の件は失敗に終わりそうに……。

 

「……アルサム様、少しよろしいでしょうか」

 

 と、そこに声が届いた。

 

 振り返れば、そこにいたのは今回参加した悪魔達の半分以上。

 

 なんだ? 文句でもいいに来たのか?

 

「すまなかったな。警備体制を甘く見積もりすぎていた。あとで正式に詫びの品を送らせてもら―」

 

「我々も、努力をすればアルサム様のようになれますか?」

 

 アルサムの声をさえぎって、そんな質問が飛んできた。

 




実戦で得た生きたデータは、軍事関係においては非常に貴重。これだけでも米国にとても日本にとっても値千金です。

一人でも重要人物を暗殺できれば文句はありませんが、実戦経験を獲得できただけでも非常に莫大な利益であります。この失態は将来的に非常に大きく響くことでしょう。









ですが、冥界もまた大きな影響を受けております。

はたして、これは人類にとって大きな打撃を受けるかどうか……?


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虚飾の大罪

魔を司ることを超え、大罪を司る新たな魔の王。




今、いずれそうなる男の決意表明が始まる。


 

 俺達はちょっとよくわからなくて顔を見合わせるが、アルサムは真正面から見据えてそれに答える。

 

「必ずしもとは断言できん。なぜなら、努力とは才能を磨くためのものであり、10の努力で得られる結果が1の場合も100の場合もあるからだ」

 

 そう、それが努力の残念なところ。

 

 同じ対価で同じ恩恵が出るわけではない。どうしてもそうなってしまうのだ。

 

「サイラオーグ・バアルが魔力を持たずに大王家当主の座を実力で得たのは、彼に格闘技の才能があったからだ。しかもそれを文字通り血を吐くほどの努力で磨き上げた。あれは、誰にでもできるようなものではない」

 

 そう、あれに関してはあらゆるものが上手くかみ合ったからこその結果だろう。

 

 努力とは宝石の原石を磨く作業だ。元々磨いても光らない奴は努力しても大して結果が出ない。

 

 また、その努力というのは基本的に辛く苦しいものだ。ゆえに、すごい努力を常時続けられるのは一種の才能だ。どうしても個人差が出てしまう。

 

 さらに、努力に耐えらえる体かどうかもまた個人差がある。常人がサイラオーグの努力をしても、おそらく体の方がついて行かない場合がある。

 

 そう、だからこそ、自然に才能が伸びて強大な力を手に入れられる悪魔にとって、努力は根付き難いものだ。

 

 それを懇切丁寧にアルサムはあえて説明した。

 

「……すまん。私も実感で理解したのはつい最近だ。ゆえに慣れていない君達にとっては苦しいだけの―」

 

「では、質問を変えていいですか?」

 

 別の悪魔が、真剣な表情を浮かべていた。

 

「努力をすることで、我々は強くなることができますか?」

 

「できる。適切な努力を十分な量行なえば、人は必ず成長できる」

 

 そう言ったのは、ライザーだ。

 

「赤龍帝や神喰いがここまでこれたのも、ひとえに適切な努力を積んできたからだ。努力ってのはばかにならない。それは俺が保証するぜ」

 

 そう、ライザーははっきりといった。

 

 おお、お前がそんなことを言えるようになるとは思わなかったぞ。

 

「苦行ってのは、慣れるともっとできるようになるもんだ。そしてそれは窮地に陥ったときに必ず役に立つ」

 

「ではライザー様。もし我々貴族が常に己を磨き続けていれば―」

 

 さらに新たな者が、質問を続ける。

 

「―我々は、転生悪魔に負けませんか?」

 

 それは、ある意味で俺やイッセーに喧嘩を売るような発言だろう。

 

 ゆえに、少しだけその悪魔も躊躇った。

 

 だが、彼ははっきりと尋ねたのだ。

 

 その根性は褒めてやる。

 

「―少なくとも、今よりもっと渡り合えるようになるさ」

 

 だから、俺は褒めてやる。

 

「いい質問だ。そう、とてもいい質問だ。そしてそれは正解だと褒めるとも」

 

 俺は笑みを浮かべると、その貴族の肩に手を置いた。

 

「そうだ。今の上級悪魔に足りないのは、自分や眷属を磨き上げようとする意志だ。基本的にあんた達は下級中級を凌駕する才能があるのに、磨き上げないからそうやって追い抜かれる」

 

 そう、それはとても残念な事だ。

 

 ぽかんとするその貴族達を見渡しながら、俺ははっきりと断言した。

 

「なああんた等! あんたらは俺達まがい物なんかに最上級の座を取られそうになっていて、本当にそれでいいと思ってるのか!? 本物が偽物に格下扱いされて平気だと?」

 

 あえて挑発的なをさせてもらう。

 

「卑怯なんて言葉は敗者の負け惜しみなんて言葉があるが、それは違う。真の強者は正々堂々(縛りプレイ)でやっても勝てるんだよ。卑怯な手段を使うのは、手段を選ばなければ俺は貴方には勝てない弱者ですって認めるようなもんだ」

 

 心底馬鹿にした表情で、俺は全員を見渡した。

 

「72柱やそれに並ぶ高尚な一族様が、そんな雑魚の手段を使って偉そうにしてて恥ずかしくないのか? 高貴たるもの、高貴たる方法をもってして勝ってこそだと思わねえか?」

 

「……貴様、少し黙ってもらおうか!!」

 

「そんなこと、したいに決まっているだろう!?」

 

「下劣な手段で勝つより、真正面から打倒した方が素晴らしいに決まっているだろうが!!」

 

「この無礼者が!!」

 

 相当イラついたのか、その悪魔達から殺気すら出てくる。

 

「お、オイ宮白、ちょっと言いすぎだって―」

 

「オマエ、本当に首をはねられる―」

 

 イッセーとライザーが止めに入ろうとするが、ちょっと黙っていてくれ。

 

 ここからが本番なんだから。

 

まがい物(お前たち)だけじゃない! 下級中級の連中に追い抜かれることだって、むかついているに決まって―」

 

「だったら少しは己を磨け!!」

 

 はっきりと、俺は一喝した。

 

 その言葉に、全員が押し黙る。

 

「はっきり言おう。現在の貴族達の利権削減は、身から出た錆だ。怠慢のツケだ」

 

 そう、彼らは本来才能に優れているのだ。

 

 少なくとも、下級悪魔や中級悪魔より素質においては優れている。

 

 人間にしてもそうだ。並の神器の使い手程度、返り討ちにできるだけの潜在能力をこいつらは持っている。

 

 にも関わらず、その権利は大幅に削減されて言っている。

 

 それは何故か。

 

「……貴族とは、本来民に選ばれた者だ」

 

 アルサムが、俺が何か言うよりも早く言葉を紡いだ。

 

「ゆえに我々は、選ばれた者である事を証明する為にもそれだけの存在である事をしっかりと示さねばらない。同じ数の下民よりも、貴族の方が優れているという事を示さずに、どうして民が忠誠を誓うというのだ?」

 

 アルサムは、懇願するように皆に声を届ける。

 

 それは、アルサムの王道がそれを必要としているからだ。

 

 王とは奉仕対象。民が指導者として祭り上げた者が王なのだから、当然民は指導者に使えるのが基本。

 

 ゆえに、王侯貴族はそれに見合う存在である事を証明する。そうであってこそ、存在の価値に差がある事を民は認めるのだから。

 

 そして、それを認め傅き奉仕する者達に恩賞を与える。その御恩と奉公の関係ゆえに必要とされるものが高貴たる者の責務(ノブレス・オブリージュ)

 

「民が忠誠を誓うに足る存在でい続ける。それが貴族たる者の義務であろう。それを示せないのならば、貴族が零落するのは当然の結末だ」

 

 だが、貴族達はやり方を間違えた。

 

 己を磨き上げる努力を放棄して、血統だけで選ぶ。挙句の果てに実力が必要だと思ったら、八百長試合で偽りの実績を重ねる。それでも足りないのならば、何の鍛練もせずにドーピングに手を出す。

 

 強化改造をしてでも必要な力を手に入れる事に否はない。将来技術が発展すれば、いずれ戦闘要員に強化改造が施される事もあるだろう。スポーツの試合も、強化改造が前提となるかもしれない。

 

 だが、それだけでは駄目なのだ。

 

 そんな安易に改造すればいいだなんてあり方では、誰もついて行きはしない。

 

 そして、どれだけ改造してもそれを使いこなせなければ、本当の意味で力になっているとは言い難い。

 

「だから、どうか貴族であるから貴族なのではなく、貴族足らんとするからこそ貴族である事を前提としてほしい」

 

 アルサムは、頭を下げた。

 

「頼む。……己を磨き上げるという行動を、どうか怠らないでほしい」

 

 必要とあらば、自ら頭を下げる事をいとわない。

 

 72柱の次期当主に選ばれ、魔王剣ルレアベに選ばれた者。

 

 そんな立場の者が、下の者に頭を下げるのは屈辱だと言ってもいいだろう。

 

 だけどアルサムはそんな事を思ってもいない。

 

 頭を下げる必要があるのなら、頭を下げるのが貴族としての、王としての責務だと本気で思っているのだ。

 

 なあ、お前らはどう思うよ?

 

 俺は、視線を貴族達に向け―

 

「お顔を上げてください、アルサム様」

 

 ―彼らが笑っているのを見て、目を見開いた。

 

 それは嘲笑でも憐憫でもない。

 

 素晴らしいものを見たという、感動の笑みだった。

 

「我々分家の末席に連なる者達に頭を下げないでください。むしろ、我々が頭を下げる方です」

 

「だが、私は今回見積もりの甘さで貴殿らを窮地に―」

 

 アルサムはそこを気にしているみたいだが、しかし貴族達は一斉に首を横に振った。

 

「いえ、本来ならあの程度たやすくしのげてこその貴族というもの」

 

「人間達とは違い、我々は明確に力を持っているのです。出来なかった事を恥と思うべきでしょう」

 

「鍛錬や訓練を積んでいれば、もう少し抵抗が出来ていたであろう事は、我々でも想像できます」

 

 な、なんだなんだ?

 

「み、宮白? これ、もしかして―」

 

 イッセーが戸惑いの声を上げる中、貴族達は一斉にある行動を行った。

 

 片膝をついて跪き、そして首を垂れる。

 

 誰が見ても分かる、忠誠の証だ。

 

「アルサム様。我々は目が覚めました」

 

「あの窮地の中、我々を助けるべくその身命を賭した御姿。まことに感服いたしました」

 

「真なる四大魔王様の遺骸に選ばれたのは、偶然でも戯れでもない」

 

「貴方は、真なる四大魔王様が王として認めたお方なのでしょう」

 

「いや、例えそれが間違いであったとしても問題ではありません」

 

 次々に忠誠の証を示す中、先頭の貴族がまっすぐにアルサムを見上げる。

 

「真に悪魔の王を目指し、自らその規範を示すその姿に、我々は魔王を見させていただきました」

 

 そして、腰につけていた飾りの宝剣を取り出すと、それをアルサムに差し出した。

 

「我々は皆、アルサム様の配下になりとうございます。其の在り方に、心より敬服いたしました」

 

「………な、なんだと?」

 

 あ、流石に戸惑ってる。

 

「我々がアルサム様のようになれるとは思いません」

 

「ですが、アルサム様に恥じぬ貴族になりたいのです」

 

「どうか、お願いします」

 

 一斉に、彼らは立ち上がると頭を下げた。

 

 これだけの貴族が一斉に、次期当主候補如きに頭を下げるなど、大きな騒ぎになるだろう。そんなことは誰もがわかっている。

 

 だが、それでも彼らはそうする事を選んだのだ。

 

「我々に、真に貴族にふさわしき悪魔を目指す機会をお与えください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは違うぞ、お前達」

 

 その言葉に、全員の視線がアルサムに集まった。

 

「貴族に生まれた時点で、それに相応しいものであらんとするのは義務だ。私に与えらえるまでもなく、それは貴殿らがしなければならん事だ」

 

 そう、アルサムは言い切った。

 

 そうだ。アルサムの王道にとって、王侯貴族が民にとって使えるに足る存在になる事は当然の義務。

 

 ゆえに、アルサムはそんな機会を与えない。

 

 与えるのは―

 

「だが、安心するがいい」

 

 アルサムは、ルレアベを引き抜くとそれを地面に突き立てる。

 

 そして、その場にいる貴族達を見渡し、アルサムは告げた。

 

「お前達が高貴たる者の責務を果たさんとする限り! 私もまた、その契機となるに相応しい存在であり続ける事をここに誓う!!」

 

 それは、アルサムの新たな決意表明。

 

「私は誓おう。現四大魔王が推し進める七代魔王改め九大罪王制度。……その末席に私も必ず連なる事を!!」

 

 まっすぐに、全員に、嘘偽りなく、はっきりと言い切った。

 

「ゆえに貴殿らも誓ってくれ。72柱に代表される上級悪魔……その血筋に生まれた者に相応しい者を目指し続ける事を!!」

 

 それは、命令であると同時に懇願だった。

 

「其の為ならば、私もまたそうであろうとする者がそうあり続ける為の環境を整え続ける事を誓って見せる!!」

 

 そう、アルサムは貴族に生まれた事をイコールで貴族とはしない。

 

 貴族に生まれた者として、それに相応しい存在でい続ようとする者達を貴族としているのだから。

 

 その言葉の意味を、彼等もまた理解したのだろう。

 

『『『『『我らの命、アルサム様と共に!!』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに、のちに九大罪王の一人となる若き上級悪魔、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスとその臣下の第一勢が誕生した。

 

 彼らは貴族足る存在になるべく不断の努力を行い、またそうなる為に必要な技術を持つ者を迎え入れる為に礼を失さぬ者達として、多くの下級中級そして転生の悪魔達から敬意を持たれる存在となる。

 

 彼は貴族悪魔達の軌範であらんとして、あえて皮肉な一つの大罪を選び、そして他の大罪王の座に移る事を良しとしなかった。

 

 それは、自分を飾り立てるもの。自らをそれ以上の存在にせんとする死に至る罪。

 

 それを宝飾ではなく鍛錬と研究でなさんした、学問を司る九大罪王。

 

 虚飾の九大罪王、アルサム・イリテュムの真なる始まりをここと見定める評論家は、数多かった。

 




アルサム、シンパ多数獲得!

目の前で命張ってまで経験を積ませようとするアルサムの姿に、男惚れした者たちが続出。

今後彼らはまず間違いなく努力を欠かさないでしょう。アルサムの背中を見て、そんなアルサムに恥じない存在になりたいのですから


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魔術研究都市メーデイア

皆様お忘れかもしれませんが、兵夜は一応領地持ちで、そこに魔術師たちを集めております。

そして魔術師たちの利権拡大なども兼ね、魔術による金銭獲得を割と真剣に考慮しておりました。

そして、兵夜は福利厚生をきちんと考慮する男。さらにはゼクラム・バアルから支援を約束してもらった男でもあります。









………どうなるかは、もうお分かりですね?


 さて、まあなんというか、いろいろとあったもんだ。

 

 二年ほど前は本当に大変だった。限界にさらに向こう側に安全圏がある死線を潜り抜けろと言われるような激戦の数々だ。

 

 少し前も大変だった。

 

 破壊規模だけでいうなら、その死線を圧倒するほどの世界の命運をかけた戦いだった。

 

 そして今も大変といえば大変だ。

 

 そんな死線を潜り抜けた仲間との激突。ある意味一番きつい。

 

 そんな中、俺たちには何が必要だろう。

 

 まずは休息だ。

 

 過酷な環境において、休息を得ることができるのは望外の幸運としか言えないだろう。

 

 休めるときに休む。これを怠るわけにはいかない。

 

 そして、もう一つ必要なものは何か。

 

 それは単純な報奨というものだ。

 

 この激戦を共に潜り抜ける者たちに、恩返しをすることは必要不可欠。当然行うべき当たり前のことである。

 

 これは当然の礼儀や仁義の話だ。相手が気心の知れた気の置けない関係とはいえ、心の底から忘れるようでは張り倒されてしかるべきだろう。

 

 そういうわけで―

 

「来たぞ、湖!!」

 

 慰労会も兼ねた旅行だ!!

 

「本当にいいんですか、兵夜さん?」

 

「そうですよ。こんなことまでしていただくのは……」

 

 と、聞いてくるのは本日のゲストのヴィヴィとハイディ。

 

 ふっふっふ。だが安心しろ。

 

「気にするな。莫大な財源を確保している俺は必然的に金持ちだ。たまには贅沢しないと、下の連中が委縮してしまうからな。貯蓄は基本だが適度に豪遊するのが金持ちの義務と知るがいい」

 

 そう、仮にも領地を持つものとして、それ相応の執政をする必要があるのだよ。

 

 金持ちだからって金を使わなければならないという法律はない。むしろ金持ちとは不用意に金を使わない生き物だ。

 

 かつての俺がいい例だろう。その気になれば数千万の貯金を作れるのにもかかわらず、福利厚生を充実させるために金を使いまくり、あった貯金は百万ちょっとだ。

 

 だが、大金持ちになった今は違う。

 

 最上級一歩手前に位置する俺が質素倹約な生活を送っていれば、下の連中が「上が質素倹約なのに俺がお金使うのはまずい気がする!!」と委縮してしまう。

 

 ゆえに、ため込むのは基本として俺は適度に豪華な生活を送る必要がある。

 

 金持ちになるには金を使わなければいいだけだが、豊かにするには金を天下に回る物にしなければならないからな。

 

 今後悪魔の業界はどんどん発展していかなければならない。そう、ならなければならないのだ。

 

 迫りくるE×Eの脅威に対抗するためにも、悪魔という業界はより強くなる必要がある。

 

 そういう意味でもアルサムの活動は本来の悪魔の強化には必要不可欠。むろん、イッセーのように転生悪魔を迎え入れることも必要だが、これは全体の強化にはならない。

 

 事実上の国家ともいえる悪魔全体の士気を上げるには、悪魔全体が活気づくことも必要なわけだ。

 

 そういうわけで―

 

「全員まとめて今日は遊んでくれ。そっちの方が都合がいい」

 

「いや、アンタがそれでいいってならいいんだけどさ……」

 

 ノーヴェが周りを見渡しながら、首をかしげる。

 

「古城と雪菜はどうしたんだよ?」

 

「暁が補習でつぶれた」

 

 あいつ、本当に勉強大変なんだな。

 

 今度家庭教師でも送り込んでやろうか。歴史とかはともかく、数学ぐらいなら何とか支援できると思うんだが。

 

「にしても、この街すごいな。できたの最近なんだろ?」

 

「ああ、外周部の城壁を作ることに集中してたからな。まあ、こっちの区画は湖を挟んでるから比較的楽なんだが」

 

 なにせ、対岸まで三十キロは離れてるからな。安全と言い切れるレベルだ。

 

 そして、そんな湖の岸から半円状に城壁と堀を何重にも作ったこの学術都市は、ゼクラム・バアルが送り込んだ精鋭部隊もいることから、かなりの迎撃能力を誇る。

 

 学術研究都市ではあるが、そんな研究による疲れをすぐにでも発散できるように歓楽街も完備。さらに小規模ではあるが海水浴ならぬ湖水浴ができる場所も用意されており、遊びには苦労しない環境だ。

 

 名産品として研究中なのはワインとブランデー。また、各種薬草類なども品種改良が積極的に行われている。

 

 その名は、俺の相棒の名をとってメーデイア。

 

 この世界に流れ着いた魔術師たちの住まう場所。冥界に存在する魔術師たちの最大研究地区。

 

 そう、そして―

 

「兵夜、アンタこんな都市を領地に持ってるんだな。どんだけ金持ちだよ」

 

「ふふふ。最上級悪魔に届いたことのある転生悪魔を舐めるなよ?」

 

 俺の領地でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここまで読んでくれている人たちなら当然知っているだろうが、俺は領地持ちだ。

 

 なにせ、グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの眷属悪魔だ。下級とはいえ土地を下賜されたのだ。

 

 その時はアーチャーもいたため、彼女の協力の元グレモリー領でも最高峰の霊地を領地として確保。その際に時計塔ほどではないが学術研究都市をつくるひな形はできていた。

 

 我が義兄(候補)サーゼクス・ルシファーや恩師アザゼルの協力の元探し当てた魔術師たちに、この霊地という極上の環境を餌に寄せ集めを行い、それと同時に研究施設として砦を建設。ここまではうまくいった。

 

 その後、思想上魔術師と相性のいい大王派の裏のトップであるゼクラム・バアルの協力を取り付け、本格的に都市建設計画はスタート。

 

 娯楽施設となる歓楽街の建設なども行いつつ、悪魔の駒の技術とアーチャーの手腕によって開発された、小間使いとしての人造魔術師たちも用意して、積極的に都市開発計画は行われた。

 

 むろん、俺は魔術を利用した技術発展も行っている。魔術礼装の技術を流用した人造神器。魔術によって品種改良を行った植物類。それらを研究費用の捻出のためと説得し、大規模農園として運用可能にする。

 

 それらを流通させる会社などを誘致し、魔術回路の力によって己を発展させようとした魔法使いなども集めた。その結果、人口数万人の地方都市が完成したのだ。

 

 それが冥界最新の都市、魔術研究都市メーデイア。

 

 俺の領地だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかしまあ、我ながらよくここまでのものを作れたものだと驚いてる」

 

 結果として中止になったが、俺が最上級に手が届いたというのも街を大きくした要因だろう。

 

 このメーデイア。割と冥界では活気のある方だ。

 

「兵夜さんって、すごい仕事してるんですね」

 

「すげえだろう、ヴィヴィ。大将の奴、所用で次元世界に行ってるとき以外は、常にメーデイアの事気にかけてるからな」

 

 はっはっは。俺はこれでもすごい奴なんだよ、ヴィヴィ。

 

 そしてグランソード。ヴィヴィ達が気を使いかねないからそれは言うな。

 

「まあ、上位の悪魔となればいくつもの仕事を兼業して当たり前の風潮があるもの。サーゼクス様なんていくつもの企業を兼業してるし、異形社会じゃ二足の草鞋なんで珍しくもないわよ」

 

 そうさらりと返すのは我が嫁シルシ。

 

 うん、さすがに悪魔側の出身なだけあってその辺はさらりと言ってくれるな。

 

 でも、大変なんだぞ? 言うほど楽じゃないんだぞ?

 

 だから俺はこれ以上の責任なんてしょい込みたくないです。

 

 人からワーカーホリックとは言われている。だが、これでもゆとりと余裕を持ちたいとは心から思っているのだ。

 

 万年生きれる悪魔になったというのに、数百年で過労死とか笑えない。長生きに興味はないが、悪魔として人並みに寿命ぐらいは持ちたいんだよ。

 

 そんな風にだべりながら、到着するのは食堂だ。

 

「お待ちしておりました、兵夜様」

 

 そういって傅くコックの後ろには、作られたばかりの料理の数々が。

 

「ああ、ご苦労様。あとは良いから少し休んでくれ」

 

「お心遣い、感謝いたします」

 

 ああ、しかし注文してみるもんだな。

 

 ……フライドポテトを高級料理店で作るとこうなるのか。うわ上品。

 

「なんかすごくうまくできてるから、冷めないうちに食べな」

 

「はい! いつもありがとうございます!!」

 

 そんなにお礼を言われることじゃないんだがな。

 

「いいっていいって。俺としても君たちには世話になってるんだから。食事をご馳走するぐらいでそんなにお礼言われたらこっちが困るよ」

 

「そうですの。兄上は問題行動も多いのですから、こういう時ぐらい問題のない行動をとってもらわないと困りますの」

 

 雪侶うるさい。

 

 まあ、それにただもてなすだけってわけでもないしな。

 

「……じゃ、そろそろ時間だな」

 

 ノーヴェが時計を確認してそう告げる。

 

 ああ、そろそろ時間だ。

 

「アルサムさまとイッセーくんの試合、そろそろよね」

 

 ああ、その通りだシルシ。

 

 この時間から、イッセーとアルサムの試合が始まる。

 

 今回呼んだのは其のためでもある。

 

 注目度が高いせいでVIP席を取れなかったんでな、いっそのこと城で見た方が手っ取り早いと判断したんだ。

 

 できれば暁と姫柊ちゃんも来てほしかったが、補習では仕方がない。学業優先なのは契約だし仕方がない。

 

「……さて、俺としてはどっちに勝ってほしいかというのは難しい問題なんだよなぁ」

 

 個人的にはイッセーに勝ってほしいと思うけど、アルサムに負けてほしくもないんだよなぁ。

 

「リオとコロナ、大丈夫かなぁ。アルサムさん、どうなんでしょう?」

 

「難しい話だろうな。……乳乳帝と覇剣抜刀なら、いい勝負にはなると思うが……」

 

 とはいえ、外部供給であることを考慮すれば、間違いなくイッセーの方が長期戦が可能だ。

 

 あれは消費が激しすぎる。さらに時空管理局でのテロ騒ぎで、イッセーに知られてしまったことも大きい。

 

 数の上では確かに勝っているが、しかし乳乳帝チームは修羅場を潜り抜けてきた若手の化け物ぞろい。

 

 すなわち―

 

「―はっきり言おう。アルサムが不利だな」

 

「そうですか……」

 

 ハイディも少し不安げな顔をする。

 

 ああ、それに関しては仕方がない。

 

 だが、しかし圧倒的な差というわけではない。

 

「……隠し玉とかがある可能性があるが、それ抜きで考えれば3対7でイッセーが勝つな」

 

 むろん、アルサムが3である。

 

「それほどまでにお強いのですか、その、兵藤さんとそのチームメイトの人たちは」

 

「まあなぁ。エイエヌとの最終決戦クラスの修羅場を、何度も潜り抜けてきた正真正銘の化け物共だからなぁ」

 

「若手悪魔の水準でいえば、文句なしに冥界最強格ですの。というより、努力も才能も環境も抜群ですので、勝とうと思う方がルナティックですの」

 

 ハイディの質問に、グランソードと雪侶が答えた。

 

 ああ、なにせどいつもこいつも規格外だからな。

 

 聖剣デュランダルの持ち主にして、完全復活したエクスカリバーすら装備した転生悪魔ゼノヴィア・クァルタ。

 

 天使長ミカエルのAにして、聖剣オートクレールを保有する転生天使紫藤イリナ。

 

 かつてアースガルズの主神オーディンの側近を務め。トライヘキサの封印術式すら手を届かせた戦乙女ロスヴァイセ。

 

 かの龍王の血を継ぐ存在にして、その中でも最強と称されるボーヴァ・タンニーン

 

 それに比べれば数段劣るが、レイヴェルとアーシアちゃんもまた、割とチート側の特性を持っている。

 

 さらに魔王クラスの戦闘能力を持つ、謎の女悪魔ビナー・レスザン。……まあ、俺は正体を知っているがそれは内緒で。

 

 そして、それを率いるのは規格外。乳の力で覇すら凌駕した、歴代最優の赤龍帝にして、赤龍の乳乳帝、兵藤一誠。

 

 どいつもこいつも時代が時代なら歴史に名を遺す存在になっていただろう規格外。冗談抜きで将来的に英霊の座に迎え入れられそうだ。

 

 単体でいうならアルサムも座に存在を刻むような規格外だが、しかし残念なことに個人でだ。

 

 女王枠のサムライブレードなら対応できるだろうが、どうしても質においては大きく劣っているというほかない。

 

 そう、ゆえに勝てるとするならば―

 

「アルサムが、隠し玉をどう使うかが勝敗を分けるだろうな」

 

 そこが、最大の分かれ目なのだろう。

 




はい、領地がすごいことになっております。

魔術師たちの福利厚生や技術のフィードバックのために企業も誘致しており、転生悪魔の領地としてはかなりすごいことになっております。









そしてイッセーVSアルサムのゲームもスタート。

人数においてはアルサムの方が有利ですが、なにせ相手は若手の化け物兵藤一誠とその眷属及び臣下。全員が本来若手のレベルでいていい存在じゃない規格外。

相対的に見ればアルサムの方が不利ですが、果たして勝敗はどう転ぶのかご期待ください。


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魔王剣VS乳乳帝!! 第一ラウンド!

 

 そして、試合開始まであと少しという段階になって、実況が声を張り上げる。

 

『さあ、皆さんお待たせいたしました!! 今回もまた注目の一戦です!!』

 

 わぁああああ! と歓声が上がる中、実況は負けじと大きな声を上げた。

 

『今回の一戦は、将来の魔王候補と噂される者同士の注目の試合!! 本選出場も夢ではない冥界の若き代表たち、ついにお互いに激突する!!』

 

 そして、それぞれの入り口から出場者が姿を現した。

 

『まずは!! 異世界の大規模連盟フォード連盟を救済した立役者の一人!! 魔王剣ルレアベに選ばれしグラシャラボラス家の救世主!! アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス率いる魔王剣チーム!!』

 

 そして姿を現すのは、十五人の選手たち。

 

 アルサムを戦闘に、リオとコロナの姿も見えた。

 

「あ、リオとコロナ!!」

 

「やっぱり、すこしはしゃいでるな」

 

 ヴィヴィとノーヴェが気づいた先には、少し場の空気にあてられているのか、視線があっちこっちに向いているリオの姿が。

 

 コロナのほうは結構平然としているが、よく見ると視線が少しきょろきょろしている。

 

「DSAAの時はだいぶ落ち着いてたんだけどな、コロナは。やっぱり人数が違うか」

 

「あまねく異形たちが観戦するために金出してるからなぁ」

 

 俺とノーヴェは、顔を見合わせると苦笑する。

 

 みれば、フォード連盟の人たちもまだ緊張しているのか上がっている節がある。

 

 まあ、この人数に注目されるのは結構きついだろう。注目の一戦だからなぁ。

 

 しかし、それ以上に気になる点が一つあった。

 

「……大将、アルサムの奴、マジみたいだな」

 

「そうですのね。まさか、試合開始前からルレアベの分身を携帯させているとは思いませんでしたの」

 

 グランソードと雪侶が言う通りだ。

 

 今回、全メンバーの腰にはルレアベの分身が下げられている。

 

 ルレアベの特殊能力の一つ。特殊能力を持たない分身の生成。

 

 それは、特殊能力など一切ない。疑似宝具であるがゆえに、持っている真名開放も使えない。

 

 だが、それでもそれが持っているというそれだけで最上級悪魔すら殺しうる能力を持っていることの証である。

 

 さらに、リオとコロナ以外の全員が、ネックレスらしきものを装備している。

 

 おそらくはデバイスだろう。何を考えているのかは知らないが、どうやら割と本気で戦闘準備を整えたらしい。

 

 これは、かなりマジだろうな。

 

「……おまたせっ! ちょっと観光してたら遅くなっちゃったよっ!!」

 

「それで、それで試合はどうなの!?」

 

「落ち着きなさいよ。この時間ならまだ試合そのものは始まってないだろうから」

 

 と、トマリと須澄をなだめながら、アップもまた席に着いた。

 

「デートは楽しかったか?」

 

「それはもう。観光名所にしてもいけそうな、いいところじゃない」

 

「本当にありがとうねっ! おかげでとっても楽しめたよっ」

 

 俺の茶化し半分の質問に、アップもトマリの笑みを浮かべて返してくる。

 

 ああ、余計な邪魔はせずに素直にデートさせたのだが、しかしここまで楽しんでもらえたのならそれはよかった。

 

「ホント、本当にありがとう兄さん。おかげでだいぶ楽しめたよ」

 

「別にいいだろ。大将は金持ってるんだからよ。第一領地なんだし弟招待したところで何か言われるもんでもねえよ」

 

「その通り。そういうわけだから、これからも楽しんでいっていいわよ、須澄くん」

 

 心底嬉しそうにお礼を言う須澄に、俺より先にグランソードとシルシが返答する。

 

 まあ、俺も同意見なわけだ。

 

 平行世界の俺のせいで、いろいろと翻弄された三人だからこそ、せめてこういう時ぐらい幸せな時を過ごしてほしい。

 

 悪行に加担したアップにはいろいろあるだろうが、たまにはいいだろう、たまには。

 

「感謝してくれるなら、イッセーの応援をしてくれるといいんだけどな」

 

「それは無理。絶対無理。だって変態なんでしょ?」

 

 あまりにバッサリと須澄は断ち切った。

 

 ああ、松田と元浜の同類だからなぁ。たぶん新技開発してるだろうし、警戒心が先に立つか。

 

 まあ、これに関してはイッセーの自業自得なので今更か。アイツ、周りが受け入れてくれる人が多すぎるせいで治すの忘れてないだろうか?

 

 まあ、それは置いといて。

 

『冥界の未来を担うであろう、若き英雄たちの対峙!! この時点で手に汗握ってしまいます!!』

 

 実況が割とテンション高めで実況する中、イッセーもアルサムも静かに視線を交わす。

 

 そして、すぐに今回のルールが発表される。

 

『出ました!! 今回のルールは……スプレッド・フィールドです!!』

 

 ほう、スプレッド・フィールドか。

 

 スプレッド・フィールド。基本ルールは2時間の短期決戦(ブリッツ)

 

 ルールは王の敗北またはチームの全滅、もしくは制限時間終了時の残った駒価値分のポイントで勝敗が決するタイプだが、最大の特徴がある。

 

 それは、チームメンバーを大きく分散することだ。

 

 試合開始と同時に、全参戦メンバーはフィールド上にランダムに転送される。そして、通信に関しても妨害されてしまうため、ある程度近づかないと通信ができない。場合によっては目と鼻の先に敵がいるということもある状況だ。

 

 そんな状況でのチーム戦の戦いなので、純サポートタイプは苦戦を強いられる。今回の場合、アーシアちゃんが危険だ。

 

 また、通信をつなげるのが困難である都合上戦略的な動きを取りにくい。そのため軍師タイプは本領を発揮する前にリタイアする場合もある。

 

 個人の戦闘能力と、運が試されるがこの試合だ。

 

「……アーシアの嬢ちゃん、やばくねえか?」

 

「ヤバイな。この試合、どちらのチームが先にアーシアちゃんを見つけるかがカギとなるといってもいい」

 

 グランソードの懸念に俺も同意する。

 

 言っては何だが、アーシアちゃんは純粋なサポートタイプだ。個人戦闘能力は低い。

 

 それを補うために使い魔を持っているが、しかしレーティングゲームは使い魔の使用に制限が入るのが基本。ファーブニルはごく短い時間しか使用できないだろう。ほかの邪龍たちも、一対一で勝てるのは駒価値1のフォード連盟の者たちぐらいだろう。

 

 しかし、レーティングゲームにおいてアーシアちゃんの回復力は驚異的。あの回復力を超える回復系統は、時空管理局などを含めてもそうないだろう。

 

 この試合、先にアーシアちゃんを発見した方が……試合の流れを傾けるな。

 

 それを察して全員が押し黙る中、画面の中でアルサムは一歩前に出た。

 

『兵藤一誠、折り入って告げることがある』

 

『へ?』

 

 イッセーがきょとんとする中、アルサムはまっすぐにイッセーを見つめる。

 

『この試合。私はどこに転送されたとしてもフィールド中央部にむかって進撃する』

 

 そう、アルサムははっきりといった。

 

 そして、ルレアベを引き抜き掲げると、さらに続ける。

 

『そこで、一対一の勝負を申し込む』

 

 その言葉に、会場中がどよめきに包まれる。

 

『あ、アルサム選手、まさかの一騎打ち宣言です!! これはすごいことになってきたぁああああ!!! どうでしょうか、解説の青野選手』

 

 ……ちなみに、今回の解説には小雪がバイトで参加している。

 

 アイツ、俺と似て人がいいな。断っても罰は当たらんだろうに。

 

『……個人的には前の試合で言ったことがある手前、断れと言いたいところ何だけどな。……ファックだがこれは試合だし、まあ別にいいんじゃねえか?』

 

『とのことです! さあ、我らがおっぱいドラゴンはどう返答する!?』

 

 さて、小雪からの許可は下りたようなもんだ。それでどうする?

 

「……あれも作戦の内か?」

 

「さて、どうでしょうか。イッセーにぃなら受け入れてお不思議ではありませんですが、やはり乳技封じですの?」

 

 ノーヴェと雪侶が首をかしげる中、イッセーも同様だった。

 

 ちょっとよくわからないといった顔で、イッセーは首をかしげる。

 

『それ、もしかして俺がリオちゃんとコロナちゃんにおっぱい技使うかもしれないから?』

 

『それもある。だが、ほかにもある』

 

 アルサムは否定せずに、しかしさらに続ける。

 

『魔王を目指すものとして、乗り越えねばならないものがある』

 

 アルサムは、まっすぐにルレアベの切っ先をイッセーに突き付ける。

 

 それは、正真正銘の宣戦布告。

 

『悪魔の統率者である魔王……その新たなる領域へと至るのならば、ルレアベというハンデがあるうえでならばどのような悪魔が相手あろうと渡り合えねばならないだろう』

 

 確かに、そうだ。

 

 二足三足の草鞋を履くことが当然ともいえる悪魔業界。必然的に悪魔の統率者として前線に出てくるときもある。

 

 ゆえに、魔王にいたるものは戦闘能力も必須項目。魔王……そしてその後継たる九大罪王になるというのならば、悪魔の中でも最高峰の力を持たねばならない。

 

 そして、イッセーもまた九大罪王候補。そしてその戦闘能力は必然的に悪魔全体で見ても最強候補だろう。

 

 そのイッセーと並び立つ九大罪王になるのなら、イッセーが背中を預けられるぐらいの戦闘能力がなければならない。

 

 その決意を胸に秘め、アルサムは真正面から声を上げる。

 

『たかだかレーティングゲームの地平で、ごくわずかな仲間の乳しか借りれない赤龍帝。……そんな不完全な乳乳帝と真正面から渡り合えずして、魔王の後継の末席に連なるなど笑止千万。これは……必要事項だ』

 

 その言葉に、会場中がどよめきに包まれる。

 

 ああ、そうだろう。

 

 アルサムは今こう言ったのだ。

 

 自分が魔王の後継になると、そう堂々と告げたのだから。

 

『はっ! ファックなまでに大口たたいたじゃねーか。兵夜が見込んだだけあって、すげーこと言うな』

 

 唖然とする実況に代わって、小雪は面白そうに声を出す。

 

 そして、小雪はまっすぐにアルサムを見据えた。

 

『それで? それは何かに誓えるのか?』

 

『……無論だ』

 

 アルサムはそういうと、ルレアベを地面に突き立て、声を張り上げる。

 

『我が始祖たる初代グラシャラボラス。ルレアベに捧げられし初代四大魔王。そして今の悪魔をけん引する現四大魔王。そして……』

 

 一瞬だけアルサムは言葉を切り、そしてなぜかカメラの一つに視線を向けた。

 

 それは偶然にも、今俺たちが見ているテレビカメラだった。

 

『この試合を見ている、兵藤一誠の盟友にして私の後援者、宮白兵夜に誓おう』

 

「………っ」

 

 い、いやいやいやいや。

 

 俺、そういうのに使われるような人格者じゃないですけど!?

 

「これは、イッセーの奴も断れねえな」

 

「だよね、そうだよね」

 

 グランソードも須澄も、何で納得してんの!?

 

『……こりゃ、さすがに断れなんて言えねーな』

 

 小雪も納得!?

 

 あ、あれぇ? あれぇ?

 

 なんか俺がちんぷんかんぷん状態になっている中、イッセーは苦笑するとレイヴェルちゃんに振り向いた。

 

『悪ぃレイヴェル。これ、断れねえわ』

 

 その言葉に、レイヴェルはしかし静かに首を振った。

 

『いいえ。どちらにせよ、魔王剣を保有するアルサム様に対抗するにはこちらもビナー様かイッセー様でなければなりません。存分に戦いなさってください』

 

 そういってほほ笑むレイヴェルに、イッセーは静かにうなづいた。

 

『こ、これは面白いことになってまいりましたぁああああ!!! 今回のスプレッド・フィールド、同時進行でアルサム選手とイッセー選手の一騎打ちだぁあああああ!!!』

 

 その実況の言葉とともに、大音量で歓声が鳴り響く。

 

 オイオイオイオイ。これ、さすがにとんでもないことになってねえか、オイ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕、木場祐斗は主であるリアス姉さんたちとともに、イッセーくんとアルサム様の試合を観戦しに来ていた。

 

 珍しいことにクロウ・クルワッハも来ている。

 

 普段は全く試合に興味を示さないのに、彼は今回だけはあえて一緒に来ていた。

 

 それほどまでに、イッセーくんの試合に興味があるということだろうか?

 

「でも、珍しいこともあるものね。そんなにイッセーの試合が興味あるの?」

 

「赤龍帝の試合がではない。今代の赤龍帝と魔王剣の担い手の激突に興味がある」

 

 あのクロウ・クルワッハがそういうほどのものか、アルサム様は。

 

 いや、確かに彼の言う通りだ。

 

 宮白君が次期魔王に推す人物だ。彼ほど冥界の政治に精通している若手悪魔はいないし、それだけの人物だということなのだろう。

 

 エイエヌ事変においても敵に与していたコカビエルの首級を上げるという活躍をし、さらにその後政権奪取を果たしたレジスタンスと懇意にしていたことでフォード連盟との交流へとつなげた大戦果を挙げた人物。

 

 その際、禍の団の誘いにのって聖杯戦争に参戦したことは問題だけど、しかしそれを補って余りあるほどに成果を上げている。

 

 本人の戦闘能力もすでに最上級悪魔クラスとも戦えるとも言われ、魔王剣を含めれば魔王クラスだろう。

 

 なにせ、量産型の絶霧などを装備したあのコカビエルを倒したのだ。ルレアベの力あってのこととはいえ、それはもはや畏怖の念を感じるほかない。

 

 戦闘データを見たヴァーリも「あの状態のコカビエルなら楽しめそうだった」といっていたのだ。戦闘能力の高さはもはや評価する以外にないだろう。

 

「でも、勝つのはイッセー先輩ですよね!!」

 

「あらあら。ギャスパーはイッセー君のことが本当に大好きね」

 

 と、ギャスパーくんがヴァレリーさんにほほえましく見られている中、試合がついに始まった。

 

 スプレッド・フィールドはその特性上、完全ランダムに全参加者が転送される。

 

 この試合の流れを決めるのはおそらくアーシアさんだ。

 

 彼女は直接戦闘能力は非常に低い。反面その回復能力は異能技術が流通している今においても最高峰の回復能力だ。

 

 彼女をどちらのチームが先に発見するかで、勝負の流れは大きく変わる。それだけは間違いない。

 

「さて、アルサムはどう動くのかしら?」

 

 興味深そうにリアス姉さんが画面に目を向けた。

 

 ―その時、フィールドの上空で閃光が放たれる。

 

『おぉっとぉ! 試合開始からわずかな時間で、いきなり謎の発光現象だ!』

 

『ばか、ただの発光弾だ。……しかし誰がこんなファックなまねしやがった?』

 

 青野さんが実況に痛烈な言葉をかけて、しかしすぐに首をかしげる。

 

 ちなみにいうと、この実況と解説の言葉、フィールドにいる選手たちには聞こえないようになっている。

 

 味方との合流なども考慮する必要のあるルールだからだ。実況と解説の言葉で、その場所を把握されてしまう可能性もあるための公平性に配慮した対策だよ。

 

『リスク度外視で味方を集合させるための作戦か? ……危険度は高いが、合流されてから各個撃破されるわけにもいかんか』

 

『おそらくゼノヴィア殿なら向かうはず。待っていてくだされ、このボーヴァもお供しますぞ!!』

 

『潔い相手ね! いいわ、このミカエル様のAであるこの私が相手をしてあげる!!』

 

 オフェンス側のゼノヴィア、ボーヴァ、イリナの三人がすぐにその光の下へと向かう。

 

 どうやら信号弾はイッセー君たちの作戦ではないようだ。

 

 そして、少しの間考えていたレイヴェルさんやロスヴァイセさんも同じように動き始めた。

 

『まずいです。おそらく何人かは間違いなくあの光の下に来るはずですわ』

 

『危険度は高いですが、逆にこちら側も何人も集まるはず。……毒を喰らわば皿までです!!』

 

 二人は警戒していたけど、しかしほかのメンバーが動くことも考えて、あえて火中へと飛び込んでいく。

 

 だが、僕たちがこれがもうひとひねり加えられた作戦であることに気づいたのは、すぐだった。

 

「これは……っ!」

 

「あらあら。そう来ますのね?」

 

「……ほぅ」

 

 リアスねえさんも朱乃さんもクロウ・クルワッハも反応を見せる中、僕たちの見ている映像には信号弾を放った男の姿が映し出される。

 

 ま、まさか彼がなぜこんなことを!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




戦闘能力も考慮される悪魔の長を目指すものとして、不完全なイッセーぐらいは相手できないとまずい。アルサムはそう考えました。

そして開幕速攻の発光信号。普通に考えれば、敵にも位置がもろバレなのでうかつにできない方法です。

果たして誰がそんなことをしたのやら―


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魔王剣VS乳乳帝!! 第二ラウンド!!

 

 そして、俺たちの目の前でボーヴァ達が目を見開いていた。

 

『どういうつもりだ、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!!』

 

 怒りの感情すら見せてにらみつけるボーヴァの視線の先、アルサムはルレアベをまだ鞘から抜かずに毅然とした表情で立っていた。

 

 誘いとも、味方の誘導とも思われる発光信号。

 

 合流を阻止せんと動いたボーヴァたちの前に、その信号弾を撃った者がいたのは何もおかしなことではない。

 

 問題は、それがアルサムだということだ。

 

「……なんで、なんであんなこと言ったのにこんなことを?」

 

「そんな、アルサムさんがそんなだまし討ちみたいなことをするわけが……」

 

 アルサムをある程度は知っている須澄とハイディが首をかしげる。

 

 ことハイディにしてみれば、人生の指標を指示した者の一人だ。其の影響力はそこそこあるだろう。

 

 それが、イッセーと一騎打ちするといっておきながら、敵を陽動して待ち受けている。

 

 反則一歩手前の行為……だが、

 

「安心しろ、ハイディ。アルサムは別に約束を破るつもりはないさ」

 

 それに関しては安心していいだろう。

 

「だろうな。仮にも魔王を目指すと堂々と公言してるやつだ。そんなことをすればどうなるか……なんてわかりきってやがる」

 

「そうね。策はあるんでしょうけど、自分からした約束を反故にしてまで敵を陽動して各個撃破……なんて真似、するわけがないわ」

 

 悪魔の社会に精通しているグランソードとシルシも同意見だ。

 

 それに安心したのか、大なり小なりアルサムに恩のある皆はほっと息をつく。

 

 そして、それは向こうも理解しているはずだ。

 

『落ち着けボーヴァ。仮にも魔王を目指すと公言しておきながら、そんな卑劣なことをするわけがないだろう』

 

『む、た、確かにそうですが……』

 

 ゼノヴィアの奴、意外と頭が回るよなぁ。

 

 とはいえ、何のつもりなのかは俺たちもよくわかってないわけだが。

 

『アルサムさんだっけ? それで、どういうつもりなのかしら?』

 

 イリナが首をかしげる中、アルサムはまっすぐにイリナ達に視線を向けた。

 

『案ずるな。私はこれから兵藤一誠と一騎打ちを行うために進撃する。これはそのための下準備だ』

 

 そう告げるアルサムは、三人の後ろを指さした。

 

『今の発光信号の内容はこうだ。「フィールド中央部を中心点として、ちょうど発光信号弾の真逆の位置に集合」だ』

 

『『『!?』』』

 

 ……なるほど、つまり奴がやりたかったのは―

 

『これでこちらは全員集めることができるだろう。そちらもここにとどまっていれば、全員集まることができるのではないか?』

 

『……やられた。発光信号の色とその位置の二つを利用した合流ポイントの指定だったのか!』

 

 ゼノヴィアが納得して瞠目する中、アルサムはそのまま歩き出す。

 

『こちらは兵藤一誠との約束を果たさねばならない。そちらも、私に誘導されてある程度は合流できるだろう。……これは総力戦のための下準備だよ』

 

『でもいいの? 言っちゃなんだけど、個人の質なら私たちの方が上よ? 合流させたら大変じゃない?』

 

 イリナさんが無自覚に少し失礼なことを行ってくるけど、しかし事実だ。

 

 ここの戦闘能力なら、乳乳帝チームの方が上回る。合流されて困るのは、向こうの方のはずだ。

 

 だけど、アルサムさんはそれに対して笑みを浮かべた。

 

 いや、それは笑みであって笑みじゃない。

 

 ……敵意を向けた挑発の感情だった。

 

『舐めてくれるな乳乳帝眷属。私が集めた我がチームメンバー。そのような傲慢で打ち砕けるほど甘くはないと知るがいい』

 

『『『……っ』』』

 

 三人とも後退し警戒する中、アルサムはその間を通って堂々とフィールド中央部に向かって進んでいく。

 

『ああ、アーシア・アルジェントを探しに行ってもいいぞ? ……いても大丈夫だからな』

 

 そう言い残すと、ついに翼を広げて空を飛んでいく。

 

 そして、本格的な試合は始まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見事な作戦だった。

 

 嘘偽りなど欠片もなく、アルサム様は堂々と一対一でイッセー君と一騎打ちを行う。

 

 そして、同時に自ら集中攻撃を受けるリスクを背負って仲間たちの合流を支援した。

 

 イッセーのチームが高潔だからこそできる、有効な作戦だった。

 

『皆さん! 大丈夫ですか!?』

 

『……まだ魔王剣チームが一人もいない? ……しまった、はめられましたわ!!』

 

 ロスヴァイセさんとレイヴェルさんがすぐに来るが、事情をある程度察して絶句する。

 

『見事というほかない。嘘を何一つ言うことなく、彼はさらにより優れた方法をとってのけたのだから』

 

 ゼノヴィアも感心する中、しかしすぐに全員が動きを開始する。

 

『まずはアーシアさまを探しますわ! アーシア様には色のついた石を渡しておりますので、それが置かれている場所のすぐ近くに隠れてもらっております!!』

 

「なるほどね。自分たちにだけわかる目印を置いて、その近くに隠れておけばそう簡単には見つからないわ」

 

 リアス姉さんが感心する中、すぐにレイヴェルさんたちは動き始めようとして―

 

『伏せなさい!!』

 

 そのビナー氏の言葉に全員が伏せた。

 

 それと同時に、ビナー氏が駆けつけて、大出力の魔力障壁を張る。

 

 そして、その障壁に灼熱の砲撃が直撃した。

 

『……くうっ!』

 

 何とか防ぎ切ったが、余波でビナー氏の仮面が砕け散る。

 

 そこにあったのは、どこかで見たような気がする美しい少女の姿だった。

 

『おぉっとぉ!! 謎に包まれていたビナー選手の素顔が遂に判明! 特に隠すような顔には見えないが、これは一体どういうことだぁ?』

 

 実況が首をかしげる中、ビナー氏はすぐに予備の仮面を取り出すと、それをかぶる。

 

 しかし、敵の攻撃は即座に続けられた。

 

 その後現れるのは、全身が光に包まれた男を先頭にしての、氷でできた兵士たち。

 

 間違いない、あれは禁手(バランス・ブレイカー)だ!!

 

 そして、彼らの後ろに続くように時空管理局やフォード連盟の参加者たちが接近してくる。

 

 そしてそう思った次の瞬間、さらにもう一度砲撃が放たれた。

 

『甘い!!』

 

 それを迎撃するのはゼノヴィア。

 

 エクスカリバーを鎧ではなく剣として展開し、デュランダルと共に構える。

 

 そして、斬撃とともに放たれたオーラは十字となってその砲撃を切り裂いた!!

 

『これが私のクロス・クライシスだ!!』

 

 相変わらず火力だけならゼノヴィアはイッセー君に次ぐレベルだ。

 

 しかし、その後ろにいきなり男が姿を現した。

 

「油断大敵だ!!」

 

 彼は、雷撃をまとった右腕でゼノヴィアに殴り掛かる。

 

 だが、殴り飛ばされるかと思ったゼノヴィアは拳を素通りさせて、そして掻き消えた。

 

 あれは、幻覚!! 夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)か!

 

 そして、虚を突かれた男の眼前に、ゼノヴィアの姿が映る。

 

 今度は透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)! ゼノヴィアはエクスカリバーをそこまで使いこなしているのか!!

 

『いつまでもパワーだけだと思われては困る!!』

 

 そして一気にデュランダルが振るわれるけど、相手もなかなかできる相手だった。

 

 一瞬、まるで全身が稲光のようになると、一瞬で数百メートルを移動する。

 

 あれは瞬動? いや、と、言うより……。

 

『あれは、速き雷鳴の戦士(ウォーリア・オブ・サンダーボルト)だな。となるとあいつの神器は青き雷の腕(アーム・サンダー)か』

 

『それは神器ですか? 青野さん』

 

 青野さんがそれだけで相手の神器を看破したらしい。

 

『神器そのものは右腕に雷撃を纏うだけの簡単なモノ。ただし、あの禁手は一瞬だけだが物理攻撃透過と雷速での機動力を発揮する。瞬間的な攻撃回避にはファックなまでにうってつけだ』

 

『なるほど。さすがは将来の魔王候補の眷属。神器を禁手にいたらせる程度のことはできて当然ということですか』

 

 実況と青野さんがそう会話を続ける中、戦闘はさらに白熱する。

 

 右腕四天王は全員戦場に姿を現し、激戦を繰り広げていた。

 

 それぞれが右腕に属性攻撃を纏うタイプらしく、それによる接近戦闘を中心に、時おり禁手による能力で翻弄する。

 

 とくに氷雪系の使い手の禁手が厄介だ。氷の兵士を大量に作り出す能力らしく、それによる包囲戦術でゼノヴィア達を翻弄している。

 

 むろん、ゼノヴィア達の火力ならまとめて大半を吹き飛ばすことができるが、この乱戦状態ではあまりの大火力は逆に困難になる。

 

 これは、なかなか面白いことになってきたね。

 

 イッセーくん。早く決着をつけないと、チームメンバーが全滅する可能性を考慮しなければいけないよ……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




発光信号は発射された位置ではなく色で情報を伝えるものです。









今回のルール上、個別戦に持ち込まれた場合乳乳帝チームの方が圧倒的に有利なのはわかっていたので、魔王剣チームは何が何でも味方同士で合流する必要に迫られてました。

ゆえに魔力的な通信によらない連絡手段である程度の情報共有を図るという作戦を立てていました。そうなると最も発見されやすいその役目をはたすのはアルサムがある意味適任。

……ちなみに、アルサムチームはアーシアをあまり警戒していません。理由はまた別の話で。


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魔王剣VS乳乳帝!! 第三ラウンド!!!

遂に本格的に激突した乳乳帝チームVS魔王剣チーム!

ここから激突が始まりますぜ、旦那!!










そして、何年もお付き合いいただいてありがとうございます。

皆様の応援のおかげで、一作は完結することができました。

この作品も完結できるよう頑張りますので、ご声援してくださるとありがたいです。


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遅いなー、アルサムさん。

 

 しかも、なんか一か所で戦闘が勃発してるし。

 

 あれ、確かなんか光ったものが飛んできた方向だよな。

 

 俺たちの作戦にあんなのはなかったから、たぶんアルサムさん所の作戦なんだろう。でもあれなら俺の仲間も分かるよな。

 

 たぶん結構集まっての乱戦になるんだろうけど、皆大丈夫かな?

 

 ……いやいや。俺の仲間たちはみんな実力者だ。

 

 ゼノヴィアもイリナもアーシアもあの激戦を何度も潜り抜けてきた。ビナー氏は俺でもまともにやり合ったら結構な確率で負けそうな人だから心配ない。ボーヴァもタンニーンのおっさんの息子なだけあって、むちゃくちゃ強い。レイヴェルもライザーの妹に恥じない実力を持っている。

 

 アルサムさん所の眷属やチームメンバーも頑張ってるけど、真っ向勝負なら遅れはとらないはずだ。

 

 だから、俺は俺の勝負で勝ってくるだけだ。

 

 そうだろ、ドライグ。

 

『そうだな相棒。相手が一騎打ちを望んでいるのなら、それにこたえるのが赤龍帝というものだ。青野小雪には悪いが、龍として誇りを捨て去るよりは、誇りを貫いて勝ってこそだろう』

 

 だよなぁ。

 

 いや、確かに俺は守りたいものを守る強さがほしいから、守れないのはあれなんだけどね。それでも、真っ向から挑んでくる相手には真っ向から応えてやりたいよ。

 

 もちろん、卑怯な真似をしてくるやつらが相手なら俺も仲間の力を借りる程度のことはやるけどね! だってリアスやアーシアちゃんの泣き顔を見るのは嫌だしさ!

 

 だから、俺はそう簡単にはやられないぜアルサムさん。

 

 そう、だって俺は―

 

「俺たちは、神や魔王すら滅ぼせる赤龍帝だからな!!」

 

「……そうだ、それでこそ私が相対する相手にふさわしい」

 

 俺の独り言に、返答があった。

 

 そして、アルサムさんが姿を現す。

 

「遅れてすまんな。各個撃破の乱戦になってはこちらが不利故、少しそちらのメンバーをおびき寄せさせてもらった」

 

『なるほど。あの光は相棒の仲間たちをおびき寄せるためか。おそらく、光に色によって味方の集合地点が変わるようにしているのだろう』

 

 ああ、あの光って其のためか!!

 

 堂々と実力勝負に持ち込む気かと思ったけど、こういう策もできるんだ!!

 

「仮にも悪魔の王を目指すのだ。この程度の腹芸もできなければ片手落ちだろう」

 

 そうドライグに応えるアルサムさんは、しかしすぐに穏やかな気配をかき消した。

 

 次に放たれるのは、サイラオーグさんにも引けを取らない明確な戦意。

 

 レーティングゲームでこのレベルの戦意を浴びるのは、雷光チームとの戦い以来だな。

 

 ああ、この人は本気で挑みに来ている。

 

 俺を、好敵手として真剣に見ているんだ。

 

「アンタと同じような戦意を見せてるやつは何人も見てきた。……例外なく強敵なんでな、こっちも本気で行くぜ!!」

 

「無論だ。全力の転生悪魔と渡り合えずして、なぜ魔王を名乗ることができようか!」

 

 次の瞬間、アルサムさんはルレアベのオーラを開放する。

 

 そして、周囲の建物や障害物がすべて吹き飛んだ。

 

 なんつーオーラだ! さすが魔王剣だ!

 

 先代の四大魔王四人の遺体をベースに作られた魔剣。文字通り、四大魔王の力があれに込められている!!

 

『気をつけろよ相棒! あれはまさしく魔王剣―悪魔の王の剣だ!! 全盛期の俺でも気を抜けばただではすまん!!』

 

 ドライグがそこまで言うほどか。

 

 いいね! それでこそだ!!

 

「我が名はアルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!! いずれ悪魔の長の一人になるものだ!! ……いざ、尋常に勝負!!」

 

「もちろんですとも!!」

 

 俺は答えるなり、真正面から相手をするべく本気を出す。

 

「我、目覚めるは、乳の神秘に魅了されし赤龍帝なり!!」

 

 だったらこっちも出し惜しみなしだ!!

 

「無限に続く夢幻の煩悩とともに、王道を行く!」

 

 相手が魔王なら、こっちは乳乳帝の本領で行く!!

 

「我、赤き乳の帝王となりて―」

 

 手加減なんて考えない、できる相手じゃありえない。

 

 だから、本気で行きますよ!!

 

「―汝に乳房のように輝く天道を魅せつけよう!!」

 

 乳乳帝を発動させると同時、俺は真正面から殴りかかる。

 

 青野さんには悪いけど、ここまで堂々と挑まれた以上、俺も応えないわけにはいかない。

 

 それが、いまも戦っている皆に対する礼儀ってやつだ。

 

 そういうわけでまずは一発!!

 

「うぉおおおおお!!!」

 

「……むん!!」

 

 真正面からのストレートに対して、アルサムさんは同じく正面から切りかかる。

 

 乳乳帝の拳と魔王剣の刃がぶつかって、火花が散った。

 

 そして一気に攻防が始まる。

 

 真正面から放たれるアルサムさんの斬撃を、俺は籠手で受け流しながら反撃する。

 

 それをアルサムさんも迎撃するけど、しかし両手で別々に攻撃できる分、こっちの方がわずかに有利!!

 

 だけど手加減はしない。この手のタイプはそんなことされたら絶対に怒るから。

 

 だから、全力で倒すことで礼儀とさせてもらいます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、激戦だな。

 

「あ、アルサムさんが押されてる……っ!」

 

「やっぱりいつみてもすごいな、あの能力は……」

 

 ヴィヴィとノーヴェが息をのむ中、イッセーは猛攻を続けていく。

 

 アルサムもその攻撃を捌いていくが、しかし完全に防戦へと追い込まれている。

 

 アルサムとルレアベの組み合わせも、魔王クラス相手でもまともにやり合える化け物なのだが、乳乳帝はさらにその上を行くか!

 

『イッセー選手ラッシュラッシュラッシュぅううう!!! 正真正銘の猛攻に、アルサム選手防戦一方だぁああああ!!!』

 

『単純な一撃の威力だけなら魔王剣の方が上だが、総合的なスペックなら乳乳帝の方がファックに上だからな。攻撃の手数が多いこともあって、そのまま押し切る作戦なんだろーよ』

 

 小雪の解説が続く中、イッセーはアルサムに猛攻を加えていく。

 

 なにせ、乳乳帝はイッセーだけの力じゃないからな。アルサムも四大魔王の力を借りているようなものだが、しかしドライグのサポートがあることもあって、優勢に動いている。

 

 これは、アルサムはまずいか。

 

 だが、それでもチームは善戦を続けている。

 

 と、言うより―

 

『……やはり、貴女を敵に回すのは恐ろしい』

 

『よく言うわね。それはこちらのセリフよ』

 

 一か所だけ、激戦のレベルが数段違うのがあるんだけど。

 

『一方こちらは集団戦! しかしビナー選手とサムライブレード選手の戦闘が激しすぎて、ほかの選手が近づけないぃいいいい!!!』

 

 なんか、あそこだけイッセーVSアルサムとは違う意味で質の違う戦闘が行われている。

 

 ……あの二人の裏事情についてはすでに把握しているが、しかし本当にシャレにならん。

 

「あの、あの二人っていったい何者? あれが無名だったなんて信じられないんだけど?」

 

「まあ、悪魔って姿を変えることができるからなぁ。たぶんだが、どっかの実力者が正体隠して参戦してるんじゃねえか?」

 

 唖然とする須澄に、グランソードは訳知り顔で補足する。

 

 うん、それ正解。

 

 そして、そこ以外でも激戦は繰り広げられている。

 

『うかつに相手の射程に近づくな!! 一発一発確実に当てていけばいい!!』

 

『わかってる! この女、魔力だけならSランククラスだ!』

 

 フォード連盟の六人は、フォーメーションを組んでレイヴェルちゃんを足止めしている。

 

 なるほど、軍師を足止めして作戦指揮をさせない作戦ということか。

 

 そして、ある意味注目株のリオとコロナは―

 

「リオさん、一撃入れましたね」

 

「こ、コロナ! そこ、そこ!!」

 

 ハイディとヴィヴィが興奮している中、ボーヴァ・タンニーンと戦っていた。

 

『なんと! 十歳の小娘がこの俺とここまで渡り合うとは!!』

 

 巨大な岩の塊と殴り合いながら、ボーヴァが驚愕の声を上げる。

 

 だが、それはあまりにも致命的な隙。

 

 其のままその巨大な岩の塊を駆け上がったリオが、莫大な魔力砲撃を叩き込んだ。

 

『リオ選手とコロナ選手! 十歳児とは思えない動きであの破壊のボーヴァと渡り合っております!! なんという戦闘能力でしょうか!!』

 

 実況が褒め称える中、リオとコロナはボーヴァの反撃の炎を回避する。

 

 でかい岩は躱しきれずに破壊されるが、しかし二人とも慌てない。

 

『コロナ! 私が時間を稼ぐから―』

 

『わかってる! 直ぐに直すからね!!』

 

 そして、リオは真正面からボーヴァと対峙する。

 

『俺の姿を見て一切臆しないとは、なかなかやるな娘よ!!』

 

『悪いけど、おっきいドラゴンは前にキャロさんに見せてもらってるし、ヴォルテールの方が大きかったから―』

 

 振り下ろされる拳を前に、リオは一切躱す様子を見せず―

 

『―そんなんじゃ驚きません!!』

 

 真っ向から打ち下ろしを受け止めた。

 

 そして、それは受け止めるだけに止まらない。

 

『……えぇええええい!!』

 

 そのまま全身に力を籠める。

 

 そして数秒後、ボーヴァの足が浮いた。

 

『な、貴様……俺を持ち上げるだと!!』

 

『パワーだけならアインハルトさんよりありますから!』

 

 ボーヴァは飛ぶなり振り払うなり対処の方法があったが、小柄な女の子に膂力で負けたショックで反応が遅れた。

 

 そしてそのまま地面にたたきつけられる。

 

 むろん、その衝撃で我に返ったボーヴァはすぐに振り払って立ち上がるが、しかし状況は一気に変化していた。

 

『いまだよ、コロナ!!』

 

『しまった!?』

 

 後ろに立つ巨人の陰にボーヴァは振り返るが、しかし遅い。

 

 顔面に岩でできたこぶしが叩き込まれて、さらに思いっきり吹っ飛ぶ。

 

 そのまま建物の一つを粉砕して、そして埋もれるボーヴァ。

 

『やったね、リオ!』

 

『うん、コロナ!』

 

 そのままハイタッチを交わす二人だが、しかしすぐに表情が引き締まる。

 

 瓦礫を勢い良く吹き飛ばしながら、ボーヴァが起き上がったからだ。

 

 その全身はプルプルと震えている。

 

 感情の名は怒りだろう。だが、其れはリオとコロナに向けられたものではない。

 

 小娘二人にいいようにされていることは確かに屈辱だろう。だが、それ以上にそんないいようにされてしまう自分のふがいなさに怒り狂っているのだ。

 

『……いいだろう。大人げないが仕方がない。お前たちを強敵と認め、全力で叩き潰す!!』

 

 そして、ボーヴァは一気に突進して攻撃を開始した。

 

『ボーヴァ・タンニーン選手、全力です!! 元龍王のタンニーンさまの息子の中で最強と言われるボーヴァ選手を本気にさせるとは、あのちびっこコンビすごい、すごすぎる!!』

 

『あの兵夜が評価するんだからできる奴らだとは思ってたが、まさかここまでとはな。ファックにやるじゃねえか』

 

 実況と小雪が感心するなら、さらに戦闘は白熱する。

 

『連携戦闘で畳みかけろ! 我らが押し切れるかどうかが勝利のカギだ!!』

 

『『『おう!!』』』

 

『舐めるなよ。連携戦闘なら私とイリナはかなりできるぞ?』

 

『どれだけ一緒に修羅場を潜り抜けてきたと思っているのかしら? さあ、アーメン!!』

 

 一方右腕四天王は、イリナとゼノヴィアのコンビを相手に戦っている。

 

 四天王などと名乗るだけあって連携はうまいが、ゼノヴィアとイリナもツーマンセルで任務を成功させてきた実力者だ。そう簡単にはやられない。

 

 なにせデュランダルとオートクレールだ。聖剣の中でも高ランクのこの二振りに、エクスカリバーまで揃っているようでは禁手四人組とはいえ苦戦は必須だろう。

 

 そして、最後の一人は―

 

『ここで倒させてもらいます!』

 

『そうはいきません。私も、アルサム様の眷属なのですから!!』

 

 シェンはシェンで、ロスヴァイセさん相手に何とか食いついていた。

 

 ドーピング技術の一環であった幻想兵装を、シェンは聖杯の余りを使って完全に肉体に適合させた。

 

 これにより切っ先に触れた魔力を消滅させる雪霞狼見たいな能力を持つ破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を自由に扱えるようになったのだが、しかしそれでもロスヴァイセさんは強かった。

 

 魔法のフルバーストを散弾状にすることによって、あくまで穂先にしか効果のない紅薔薇に対応している。

 

 シェンもまた魔力すら使って善戦しているが、彼女が一番苦戦しているだろう。

 

 この調子でいけば、シェンがやられて形勢がイッセー側に傾き始める。

 

 そう、誰もが予想したその時―

 




アルサム眷属善戦。

感想の返信でも書きましたが、一対一では若手の領域を圧倒している規格外だらけの乳乳帝チームには劣ります。ですが、アルサムも馬鹿ではありません。

右腕四天王は連携できますし、フォード連盟からもチーム単位で呼び寄せております。リオとコロナもトレーニング仲間なので当然連携可能。それらチーム単位での連携を視野に入れたうえで、乳乳帝眷属と戦っております。シェンに関しては一対一という難易度ですが、彼女の技量と英霊の力を宿していることを踏まえて足止めは可能と判断しての采配です。

そして、アルサムの初見殺しは明確に突き立ちます。これは彼女はおろかその血族の将来的にも大打撃となるでしょう。









それでは、今年も一年ありがとうございました。

できれば、来年も感想と応援をいただけると幸いです。


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魔王剣VS乳乳帝!! 第四ラウンド!!!!

あけましておめでとうございます!!

今年も、ケイオスワールドをお楽しみください!!










それはそれとして、不思議に思ったことはないでしょうか?

なぜ、覇剣ではなく覇剣「抜刀」なのか? ……と

その答えを、今回の話で教えさせていただきます


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

『―兵藤一誠さまの僧侶、一名戦闘不能』

 

 その言葉に、俺は一瞬だけ動きが乱れた。

 

 そして、その瞬間アルサムさんの反撃が始まった。

 

「待ちくたびれたぞ!!」

 

 真正面からの拳が、俺の顔面に突き立つ。

 

 魔力を大量に込めて放たれたその拳は、威力だけならサイラオーグさんのパンチにも匹敵する。

 

 轟音が鳴り響いて、その衝撃だけで俺は鼻血が出てきた。

 

 そして、そこから一気にアルサムさんは懐にもぐりこむと反撃を開始する。

 

 今までルレアベだけを使っていた戦法を変え、ルレアベを逆手にもって連続で拳をたたきつける。

 

 何この人? 戦闘スタイルが剣士だとばかり思ってたけど、徒手空拳もできるじゃねえか!!

 

 いや、意外と素人くさいところもあるけど、しかししっかり努力を重ねて作られているのがわかる。

 

 この人格闘技の才能まであるのかよ! ちょっとうらやましい!!

 

「アンタ殴り合いもできるのかよ!!」

 

「世界間交流の一環として、時空管理局の格闘技(ストライクアーツ)の心得がある程度だがな! しかし!」

 

 そこで素早くルレアベを準手に持ちかえると、一気に切りかかる。

 

 俺はそれを両手にオーラを収束させて受け止めるが、しかしその顔面にケリが叩き込まれた。

 

「……予備兵装としてはなかなかだろう?」

 

 確かに、結構効いたぜ!!

 

 だけど、何とか流れは持ち直した!!

 

 でも誰だ? まさかアーシア―

 

「戦闘不能になったのは、レイヴェル・フェニックスだ」

 

 アルサムさんはそう断言する。

 

 え? でもレイヴェルはフェニックスだ。ダメージをおっても、炎とともに再生する。単純な耐久力なら、俺に次ぐレベルだろう。

 

 防戦に徹していれば、アルサムさんの眷属で倒せるのなんて―

 

「時空管理局及びフォード連盟を、甘く見ない方がいい」

 

 ルレアベを乳乳帝の鎧が軋みを上げて受け止める中、アルサムさんは告げる。

 

「時空管理局やフォード連盟の魔導士はその戦闘技法に、魔力ダメージというものがある」

 

 ま、魔力ダメージ?

 

「魔力などの神秘的エネルギーそのものに干渉することにより、肉体的損傷を最小限に抑えながら相手を戦闘不能にする。これが、どういうことかわかるか?」

 

 な、なんだそりゃ!? 時空管理局ってそんな技術まであるのかよ!

 

 そんなのつまり不殺攻撃。マジですげえ!

 

 ……ん? まてよ? 「肉体的損傷を与えないで戦闘不能にできる」?

 

 それってつまり―

 

「フェニックスの不死を突破できるってことか!?」

 

「すでに、私の賛同者のフェニックス由来の者の協力で確定した。フェニックスの不死は魔力ダメージには対応できない」

 

 そういいながら、アルサムさんはにやりと笑う。

 

 マジかよ。時空管理局は不死封じを無自覚にやってのけてたのか。

 

 殺せないどころか殺さない。不殺攻撃ゆえに不死を突破できるのか!

 

 っていうか肉体的ダメージじゃないなら、アーシアの神器も無効化できるじゃねえか!!

 

 あ、ヤバイ。うちの僧侶二人完封されてるよ!!

 

「見ているか冥界の者たちよ!! フォード連盟及び時空管理局がもたらす新たな魔力運用方法は、近い将来レーティングゲームの未来すら変えるだろう!!」

 

 そういいながら、アルサムさんはルレアベと体術を織り交ぜた攻撃で俺と戦う。

 

 今までのルレアベだけに頼っていた時よりも、明らかに攻撃の頻度が上昇していた。

 

 うぉおおおお、マジでやばい!! 

 

 天才がたゆまぬ鍛錬をするとこうなるのかよ! さすがに努力はサイラオーグさんほどじゃないと思うけど、才能があるからかなりやばい!!

 

 しかも異世界関係は情報がまだまだだから、俺たちでも知らないことはたくさんある。いや、俺は知らないこといっぱいあるけどね?

 

「ゆえに、私はその未来をつかんで見せる!! そして、その恩恵を冥界にもたらす!!」

 

 そして、出力同士の拮抗に持ち込まれる。

 

 いや、これなら俺の乳乳帝の方が総合的に上回っている分勝ち目はあるけど―

 

「ゆえに負けんぞ私は勝つ!! なぜならば―」

 

 だけど、いつの間にか少しずつ押し込まれている。

 

 ……まずい、これは―

 

「ごく短時間しか使えない、転生悪魔の切り札に負けるようで、純血悪魔の代表を名乗れるわけがないのだから!!」

 

 ―時間切れ!?

 

 そして、勢い良く弾き飛ばされると、アルサムさんは一気に反撃の体勢を取る。

 

「冥界の、悪魔の未来を切り開く! その担い手の中に真なる悪魔がおらずして、どうしてそれを誇れようか!! 転生悪魔に頼るだけで、悪魔の未来が切り開かれたなど言えるわけがない!!」

 

 やられた! 最初から、アルサムさんの狙いは持久戦による時間切れだったんだ。

 

 乳乳帝をしのいでから、そのあと一気に押しかかる。

 

 乳乳帝はインターバルさえあれば何度もできるけど、しかしそのインターバル中に倒せるのなら十分に狙える。

 

 そして、アルサムさんはそれができる。それだけの実力者だ。

 

「だから見てくれ転生悪魔よ! 純血悪魔は、お前たちを支配するに足る存在なのだと、私が証明して見せる!!」

 

 そして、其のまま押し切ろうとして―

 

「―そして、それは純血悪魔が一方的に転生悪魔を搾取するということではないことも証明しよう!!」

 

 いったん、アルサムさんは俺から距離を取った。

 

 なんだ? この好機を逃してまで、いったい何をするつもりなんだ?

 

「―兵藤一誠。乳技の封印とともに奥の手の一つをこちらも封印するという話をしたことを覚えているか?」

 

「え、あ、はい」

 

 俺の返答に、アルサムさんはうなづいた。

 

「無論我が切り札とは覇剣だ。だが、私は覇剣は使わせてもらうと言っただろう?」

 

 そういえばそうだな?

 

 でも、切り札をいくつも持っている奴って別に珍しくないような―

 

 その瞬間、ルレアベから莫大なオーラが放たれた。

 

「その理由を、ここでお教えしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場にいる者、映像を見る者。彼らはみな一様に、その姿を目の当たりにした。

 

「地獄にて目覚めよ、魔の王よ。冥府の大地を照らすのだ」

 

 莫大な魔力がルレアベから放たれ、しかしそれはアルサムを強化しない。

 

 そして、同時にフィールドの一か所で現象が巻き起こる。

 

「……来たぞ、アルサム様が遂にあれを開帳なさる!!」

 

「ここが勝負どころだ!! 一気に決めろ!!」

 

 右腕四天王が吠え、そしてシェンが微笑んだ。

 

「アルサム様。今こそ、その御恩を我らにお与えください!!」

 

 そして、変化は訪れる。

 

「我ら《●》こそ大罪を担いし魔の軍勢。天すら侵すその兵《●》団《●》、その威をここに見せつけよう」

 

 その言葉とともに、フィールド中のルレアベが光り輝く。

 

 その輝きに照らされる者たちは、一斉に勝機をつかんだ者たちの目をしていた。

 

 そして、それは本来あり得ないこと。

 

 ルレアベは確かに分裂能力を持つが、それは誰もが使える代わりに特殊能力も莫大なオーラもない。

 

 刀身は砕けたら再生しないし、莫大な斬撃を放つこともない。新たにそれから分裂することはないし、魔力を供給することもない。

 

 そう、ただの性能の高い剣でしかないのだ。

 

 だが、今目の前でその認識は覆る。

 

 まがい物のルレアベたちは光り輝き、そしてその輝きに照らされた持ち主たちもまた、力を増す。

 

 そして、その輝きはまさしく見たことがある者たちならこういうだろう。

 

「これは……っ」

 

 この場にいる者の中で唯一、旧魔王派との決戦で兵藤一誠とともにいたゼノヴィアが、その現象を理解する。

 

 あり得ない。そんな馬鹿な。どういうことだ?

 

 そんな疑念に支配される中、しかしゼノヴィアはその現象の名を口にした。

 

「覇を……なぜ、これだけの者たちが使うことができる!?」

 

 狼狽のあまり悲鳴じみた声すら上げるゼノヴィアの視線の先、その力はあふれていく。

 

「我ら《●》に宿れ王の威光。今こそその威を見せつけよ!!」

 

 そのアルサムの号令とともに、最後の言葉を全員が告げた。

 

「「「「「「「「「「「「「「「覇剣贈刀(フルスロットル・ブレイド・センチネル)!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 その瞬間、戦闘の趨勢は一瞬で決した。

 




理由「バリエーションがあるから」

細かい説明に関しては次の話でアルサム自身に語ってもらうとして、今回の戦闘の補足を。



リリカルなのはシリーズを知っている皆様ならご存知ですし兵夜も運用しましたが、時空管理局の魔導士技術は魔力ダメージという運用方法が可能です。

これももちろん完ぺきというわけではありませんが、しかし不殺攻撃が可能。肉体的なダメージを主眼といていないので当然ですが。

なら、肉体的なダメージを回復する類の能力をほぼ無効化できるのではないか……というのがアルサムのアプローチです。そしてそれは成功しました。

逆に言えば、時空管理局は実戦においてもレーティングゲームにおいてもフェニックス相手にアドバンテージを保有しているということです。技術的にはちかいフォード連盟もまたしかり。

ぶっちゃけ初手から贈刀を使っていればもっと早く決着がつきましたが、これを注目度の高いこの試合で知らしめることも考慮してあえて待っていました。


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魔王剣VS乳乳帝!! 最終ラウンド!!!!!

感想でアルサムの主張がよくわからないといわれたので、極力簡略化して説明します。









「純血悪魔も頑張るし、奴隷扱い何てさせないよ」という決意表明です。









アルサムは転生悪魔に過度に権利を与えることに思うところはありますが、それは純血悪魔の怠慢による実力不足が一番悪い原因だとも考えております。

また、わざわざ悪魔にした者たちなのだから、待遇そのものは一定以上であるべきだと思っており、一部の扱いの悪い上級悪魔にも憤慨しています。

ゆえに、悪魔も頑張れば転生悪魔にも負けないから、その指標となって強くなるよという意思表示と、純血悪魔として転生悪魔のこともきっちりサポートするよという意思表示を示してみたということです。


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兵藤一誠さまの兵士一名、騎士二名、戦車一名、リタイア』

 

 な、なんだって?

 

 どういうことだ? いったい何が起こった?

 

 アルサムさんがいきなり覇剣を発動させた。

 

 だけど、まったくアルサムさんの戦闘能力は増してない。

 

 それを不思議に思いながら戦闘を続けていたら、いきなり今のアナウンスだ。

 

 もう俺とビナー氏以外の全員がやられたってのか? 嘘だろ!?

 

「驚くことではない。これが、()()の切り札だ」

 

 アルサムさんはそう告げ、戦場だった後ろを見る。

 

 そこに誇らしげなものを浮かべ、アルサムさんはルレアベを正眼に構える。

 

「ルレアベの分身と共振することにより、疑似的に覇剣抜刀を共有することこそ覇剣贈刀の能力。劣化再現のルレアベでは覇剣抜刀ほどの能力は見込めんが、それゆえに私が魔力を供給すれば、彼らの寿命を削ることはないし、燃費も格段にいいのだ」

 

 なんてこった。この人マジで魔王になれるよ。

 

 ヴァーリの極覇龍とは別のアプローチで、覇を安全に使用する技術を確立させやがった!!

 

 なんて人だ、この人シャレにならない!!

 

「さあ、我が仲間たちは勝利を手にした」

 

 アルサムさんは、そういうなり一気に踏み込む。

 

「―ならば私の番だ!!」

 

 そのまま一気にルレアベを振り下ろす。

 

 俺はそれを両手を交差させて防ぐけど、あまりの出力に地面に押し付けられる。

 

 まずい。これ、乳乳帝じゃないと防げねえ!!

 

「おそらく、再戦するときには貴殿はメンバーをよりそろえているだろう。そうなれば戦いの結末は逆転しかねん」

 

 アルサムさんはそういうが、しかしその目の力に陰りはない。

 

 いや、次に戦う時が来たら負ける可能性が大きい以上―

 

「だが、今回勝つのは私の方だ!!」

 

 ―負ける気が、ない!!

 

 何度も放たれる攻撃をガードしていくけど、しかし反対側からケリが放たれてガードがかちあげられる。

 

 そして、ルレアベの出力が上昇した。

 

 やべえ、コレ、きめに行く気だ!!

 

「この戦い、もらったぞ!!」

 

 くそ、ここまで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふにょんっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎧越しでもわかる、ちょっと控えめだけど柔らかい感触。

 

 あ、おっぱい!!

 

「イッセーさん! 私のおっぱいを使ってください!!」

 

 ああ、この感触でやはりと思ったけどやっぱりアーシア!!

 

 隠れてろって言ったのに、見ていられずに助けに来てくれたのか。もう、いじらしいんだから!!

 

 だけど、幸いおっぱいもすでに回復済みだ。

 

 なら、行ける!!

 

「我……以下略!! 乳乳帝発動!!」

 

 俺は速攻で乳乳帝を発動させる。

 

 アーシアちゃんのおっぱいだけでは短時間しか発動できない。ゆえにこの一撃ですべてを決める。

 

「全力全開、いくぜ、アルサムさん!!」

 

「ぬかった、伏兵か!!」

 

 アルサムさんも出力増大だけでなく真名開放で対応しようとする。

 

 ああ、これで決着をつける。

 

 ああ、アンタにだって誇らしい仲間たちがいるんだろう。

 

 だけど、俺にだっているんだよ!!

 

 だから、負けられるかぁあああああ!!!

 

 残るすべての力を振り絞って、俺は全力の砲撃を叩き込む。

 

 アルサムさんも全力で抵抗するけど、しかし今は確実に俺が上回っている。

 

 ああ、この戦い、ある意味であんたの勝利だよ。

 

 だけど、試合の勝利は俺がもらう!!

 

「行っけぇえええええええええええ!!!」

 

 あと少し、あと少しだ。

 

 持ってくれ、アーシアのおっぱい!!

 

 あとちょっとで、押し通れるから!!

 

「……アルサム様!!」

 

 その時、向こう側から声が聞こえた。

 

 あれは、確かシェンさん!?

 

 まずい、あの人の槍は魔力をかき消す。

 

 魔力砲撃の俺じゃあ、一瞬でかき消されるのがオチ―

 

「させません!!」

 

 だけど、それより早くアーシアちゃんが駆け出していた。

 

 シェンさんも反応するけど、しかしそれまでのダメージが大きかったのか対応しきれない。

 

 結果、アーシアのタックルを受けて地面に倒れこむ。

 

 アーシア、成長したな!

 

「アルサムさん!」

 

「アルサム殿!!」

 

 さらに後ろからリオちゃんたちが駆けつけてくるけど、この調子ならギリギリ間に合う。

 

 だから、ここで押し切れば俺の勝ち―

 

 そんな中、アーシアに組み付かれて動きを封じられているシェンさんが叫ぶ。

 

「アルサムさま……負けないで!!」

 

 渾身の、心からの声。

 

 その声に―

 

「ああ、負けんさ」

 

 アルサムさんは、答えた。

 

「皆がいる。私に手を貸してくれる、全力をかけてくれたものがいる。そして成果を上げてくれた」

 

 まだ保つ圧倒的な魔力の奔流のなか、アルサムさんはそれでもルレアベを手放さない。

 

 ああ、あの人は、この状況下でも―

 

「―ならば今度は私の番だ!!」

 

 ―あきらめてない。

 

「勝つのは……私達だ!!」

 

 その瞬間、ルレアベが輝いた。

 

 アルサムさんの持つものだけじゃない。魔王剣チームの皆が持っている、分身すら輝いていた。

 

 そして、その瞬間ルレアベの力が増した。

 

 なんとなくじゃない。

 

 今までこっちが優勢だった力比べが、間違いなくどんどんアルサムさんの方に傾いていく。

 

 ……ああ、そういうことか。

 

 ルレアベも……否、ルレアベ達も、まだまだ成長期なんだ。

 

「……うぉおおおおおおお!!!」

 

 そして、ルレアベは俺の砲撃を切り裂いた。

 

 今のルレアベは、正真正銘仲間たちの想いを受けている。

 

 合計十五人の仲間たちが、アルサムさんの勝利を願った。

 

 それは、正真正銘想いが一瞬でも一つになったんだ。

 

 それに、ルレアベが答えてくれた。

 

 そう、それは覇剣贈刀の逆。

 

 全員がアルサムさんの負担を肩代わりして発動する、新たな覇剣。

 

 まるで、俺の乳乳帝みたいだ。

 

 いや、違う。

 

 今のこの場では、男女問わず力を借りるルレアベの方が―

 

魔の遺志宿す(ルレ)―」

 

 認めたくないけど―

 

絶世の剣(アベ)!!」

 

 ―この試合じゃ、上を行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 その決着を、俺たちは無言で見届けていた。

 

 静かに、イッセーの後ろでアルサムが膝をつく。

 

 正真正銘全てを出し切った後だ。動けと言われてもすぐには動けないだろう。

 

『……まったく。一騎打ちを挑んでおいて、仲間の力を借りるとは情けない話だ』

 

 アルサムは、自虐の笑みを浮かべるが、それを否定するのはイッセーだった。

 

『何言ってんですか。俺の乳乳帝は、自分の女の力借りなきゃなれないんですよ? お互い様ですって』

 

 その言葉に、アルサムは苦笑した。

 

 ああ、つまりこの戦いは一騎打ちでも何でもない。

 

 正真正銘の総力戦。乳乳帝チームと魔王剣チームの全員が全力をかけて戦う争いだったというだけだ。

 

 ならば、フルメンバーをそろえておらず、挙句の果てに女の力しか借りれないイッセーと、駒を全部埋めて、そのうえで全員の力を借りれるアルサム。

 

 そのどちらに軍配が上がると言われれば―

 

『次は、負けません』

 

『いや、次も勝つさ』

 

 そうイッセーに応え、アルサムは立ち上がる。

 

 我慢できずにリオ達が駆け寄る中、アルサムはゆっくりと、しかし渾身の力を込めて、右腕を天へと突き出し―

 

『いやいや、そう簡単には負けれませんって』

 

 ―イッセーは、地に沈んだ。

 

『―乳乳帝チームの王、戦闘不能』

 

 そして、無機質にアナウンスが鳴り響く中、アルサムはリオたちの抱き着きにバランスを崩して倒れこんだ。

 

『試合、終了っ!! 未来の悪魔の担い手たちの一戦は、アルサム選手の魔王剣チームの勝利ですっ!!』

 

 その言葉とともに、会場中が拍手で包まれる。

 

 イッセーのファンである人たちも拍手を出すほどまでに、この戦いは熾烈を極めた戦いだった。

 

 それも、最初から中盤までアルサムの手の内であり、最後の最後もその状況があったからこその勝利。

 

 乳乳帝チームはビナー・レスザンを除けば、戦闘にほぼ関わらなかったアーシア・アルジェントが残り、魔王剣チームは全員が残存している。

 

 試合全体の流れでいえば、激戦ではあるがアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスの完全勝利。

 

『これは、純血悪魔の意地を見せつけた試合ということになるのでしょうか?』

 

『いや、これは文字通りの総力戦だ。純血悪魔の貴族と、それに力を貸す者たちの勝利だよ』

 

 解説の小雪がそう表すほどの、まごうことなき名勝負だった。

 




結果的にアルサム完勝。

勝敗の差は極論すれば「数の差を生かした」ですね。

数が多いから、質の差をチームワークで抑えることができた。

数が多いから覇剣贈刀によるブーストを最大限に利用できた。

数が多いから最後の新覇剣の効果も大きかった。

ゆえに、イッセーのチームが駒価値を全部埋めたフルメンバーで挑めば、アルサム自身が言ったけど勝負はわからなくなります。少なくとも、今回のような事実上の完全勝利はなくなるでしょう。


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試合終了、問題発生

試合終了後のエピローグ


 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕、木場祐斗は、主であるリアス姉さんと一緒に会場内の通路を歩いていた。

 

 リアス姉さんはリアス姉さんで会いたい人がいると言っていたが、僕もそうだ。

 

 ただ、僕とリアス姉さんでは会いたい人が違う。

 

 しかし、幸いなのかどうなのか、その二人は同じ場所にいた。

 

「あら、リアス・グレモリーじゃない」

 

「これはこれはリアス様。ご機嫌麗しゅうございます」

 

 そこにいるのは、今回のレーティングゲームでも優れた動きをみせ、最後まで生き残った実力者。

 

 赤龍の乳乳帝チームの女王。覇剣贈刀の猛威を生き残って見せたビナー・レスザン。

 

 魔王剣チームの女王。そのビナー・レスザンと互角に渡り合って見せた、サムライブレード。

 

 ……まったく。サムライブレードとはわかる人ならすぐに察せれる名前を付けてくれたものですよ。

 

「お姉様、お話があります」

 

 リアス姉さんが、ビナー・レスザンにそう告げる。

 

 なるほど、そういうことだったのか。

 

 なら僕もすぐに切り込むとしようか。

 

「僕もお話があります。師匠」

 

 そう、侍の刃(サムライブレード)なんて名乗りを上げてもいいような悪魔なんて、僕はそう知らない。

 

 しかし、その筆頭となるべきものは僕の中ではただ一人だ。

 

 新選組一番隊隊長。最強の騎士と称される沖田総司。サムライブレードの正体は、確実に彼だ。

 

 そして、二人は仮面を取った。

 

 サムライブレードの顔もビナー・レスザンの顔も若い姿だったが、しかし言われてみれば納得だ。

 

 正真正銘、グレイフィア様と師匠だった。

 

「流石に、剣筋でわかりますか。それだけでわかるとは腕を上げましたね」

 

「私も顔を見られたのは失敗でした。今代のグラシャラボラスの眷属を甘く見てたわ」

 

 苦笑を浮かべるお二人だが、しかし解せないことがある。

 

 現ルシファーの眷属であるお二人がそれぞれ別のチームに参加することは違法でも不正でもない。他のチームに参加していない限り、罰せられることもペナルティを受けることもないだろう。

 

 だが、サーゼクス様に忠誠を誓っているお二人が参加しているということは、サーゼクス様の意志が介入していると判断するものも多いだろう。

 

 運営側に属しているサーゼクス様が個々のチームに過度に肩入れをしているのは、サーゼクス様の立場に多少の影響があるはずだ。

 

 それが、いったいなんで―

 

「―説明は、私がしよう」

 

 問いただそうとしたその時、廊下の向こうから声が聞こえる。

 

 そこにいたのは、サーゼクス様だった。

 

「サーゼクス。来てたのね?」

 

「君と総司が戦うんだ。そんなものを見れる機会は中々ないからね。それに、イッセーくんとアルサム君の試合を見るのは当然だろう」

 

 そう答えるサーゼクス様は、グレイフィア様と師匠に微笑んだ。

 

「君たちのチームリーダーが待っているだろう。ここは私に任せて先に行きたまえ」

 

「そうさせていただきます。祐斗、詳しい話はまた後程させていただきますよ」

 

 そういって、師匠もグレイフィア様もチームの治療室に向かっていく。

 

 それを見送ってから、サーゼクス様は僕達に向き直った。

 

「さて、聞きたいことは一つだろう? ……どうして、そのようなことをしているのかと」

 

「そうです。なぜ、お兄様に忠誠を誓っているはずの二人がこのような真似を?」

 

「簡単だよ。私達が指示したんだ」

 

 アッサリと、リアス姉さんの質問に割と驚ける答えを返してきた。

 

 運営側のサーゼクス様の眷属を、サーゼクス様の意志で参加するチームに入れる。

 

 これは、肩入れとも取れる行為だ。場合によってはマスコミなどが批判する可能性もあるだろう。

 

「なぜ、そんなことをしたのですか?」

 

 僕は疑問を抑えきれず思わず尋ねる。

 

 それに対して、サーゼクス様は静かに肩をすくめた。

 

「なに、私の立場を気にしているのなら気にしなくていい。宮白くんにはセラフォルーが伝えているが、私達現四大魔王はE×Eが来るより早く引退する」

 

 引退? サーゼクス様達が?

 

 確かに王の駒の不正使用に関しては、サーゼクス様達も事実上の黙認をしていた。結果として汚点がある以上、責任を取って引退というのも十分あり得る話だろう。

 

 だけど、それと今回のケースに何の関係があるのだろうか?

 

「……それに伴い、我々は魔王制度そのものを改革、最初は七大罪にあつらえて七大魔王にしようとしたが、今では本来の枢要罪と追加で加えられた嫉妬の罪を合わせて、九大罪王制度とする予定だ」

 

 九大罪王……っ

 

 それは大きな改革だろう。良いか悪いかはともかく、大きな変化を悪魔の未来に与えることになるかもしれない。

 

 そして、サーゼクス様はさらに付け加える。

 

「イッセーくんとアルサムくんは、その九大罪王候補なんだよ」

 

「い、イッセーが!?」

 

 流石のリアス姉さんも、其れには驚きだったのだろう。

 

 確かに、イッセーくんは冥界を代表する英雄だ。今後の悪魔の未来を担う存在だろう。

 

 だけど、転生悪魔が魔王の後継とは思い切った改革だ。流石のリアス姉さんも驚くだろう。

 

 正直に言えば僕も驚いている。

 

 冥界の改革は大きく進んでいたけれど、まさか転生悪魔を魔王に据えるほど進んでいるとは思わなかった。

 

「最初はイッセーくんの席を入れて八大魔王にするという案もあったのだけどね。宮白君が「それをすると情報を公開する人類側から反発がある」と言われて、王の座を増やすことで反発感情を薄めるべきだと言ってきたのだよ」

 

 ああ、確かに宮白君らしい意見だ。

 

「それで、なぜお姉様と総司を二人のチームに?」

 

「その二人だけではない」

 

 サーゼクス様はリアス姉さんの質問にそう答える。

 

 ……そういえば、正体を隠していると思わしき悪魔が他にも何人かいたような。

 

 立場や都合などもあってそうしているのだと思ったけど、その中にもサーゼクス様の眷属が?

 

「私の眷属だけでなく、アジュカ達の眷属からも九大罪王最有力候補や準候補の下に送っている。ヴァーリ・ルシファーなど一部の者には断られたけどね」

 

 そ、そうだったのか……。

 

 というより、ヴァーリ・ルシファーも九大罪王候補だったのか。

 

 いや、リゼヴィムの一件で少し考え直したところのある今のヴァーリは、一部ではルシファーの後継に相応しい存在という意見もある。

 

 真なるルシファーの後継者たる彼が、魔王の後継たる九大罪王にノミネートされるのは当然のことだろう。

 

「このアザゼル杯を利用した見極めを行っているんだ。特にグレイフィアは、イッセーくんを九大罪王にするのには賛成していてね」

 

 そ、そういうことだったのか……。

 

 しかし、それほどまでに引退を強く希望しているということなのだろうか?

 

「お兄様。なにもお兄様が引退なさることはないのではないのですか?」

 

 リアス姉さんはそういうが、サーゼクス様は首を振る。

 

「いや、前から思っていたのだよ。私達のような、個の力の時代はもう終わった。これからはイッセー君のように手を取り合って困難を乗り越える輪の時代だとね」

 

 サーゼクス様はそういうと、近くにあるモニターに視線を移す。

 

 そこでは、先ほどまでの試合の内容がダイジェストで放送されていた。

 

「彼らのような心強い若手が何人もいる。冥界の未来は明るいと思わないかね?」

 

 それは、未来を託す者達に恵まれた者の目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、マジで負けたぁ……。

 

 最後の最後で完璧に上をいかれたよ。

 

 ルレアベのコピーを持っていれば男女問わないって、ある意味乳乳帝の上位互換じゃねえか。いや、これはマジで負けた。

 

 ああ、でもやっぱり負けるの悔しいなぁ。マジで色々キツイ。

 

「……なんという力だ。あれが、魔王剣ルレアベだというのか」

 

 項垂れながら、ゼノヴィアは畏怖を感じさせる声で呟く。

 

 ああ、確かに俺達全員ルレアベの力に負けたといっても過言じゃない。

 

 アルサムさん個人を強化する、覇の基本形である覇剣抜刀。

 

 不完全なのを逆手に取り、味方を安全に強化する覇剣贈刀。

 

 そして、さらにその上の存在。逆に仲間達の力を借りてより強大な力を発揮する覇剣のもう一つの姿。

 

 そんなルレアベに選ばれたアルサムさんもまた、強かった。

 

 ルレアベの力を頼らなくても乳乳帝状態の俺と戦闘を可能とするあの力。才能のあるサイラオーグさんとでもいうべき力だった。

 

 優れた才能を持ち、それをサイラオーグさんのように鍛え上げ、さらには天龍とも戦える存在の力を借りた存在。まるでヴァーリだ。

 

 いや、もしかしたらヴァーリだって倒せるかもしれない。もちろん一対一だとヴァーリの方が強いかもしれないけど、仲間達の力を借りれば極覇龍すら突破できるはずだ。最低でもいい勝負ができるだろう。

 

 そして、それはルレアベだけの力じゃない。

 

「……いいえ、ルレアベに囚われるのは間違いでしょう」

 

 ロスヴァイセさんが、静かにそういった。

 

「あのシェンという人は、少なくともそうでした。英霊の力だけに頼っていない。彼女の動きは間違いなく努力に裏打ちされたものです」

 

「ロスヴァイセ殿の言う通りです。あの娘達、上級悪魔といえど楽には勝たせてくれない実力を秘めている。よく鍛錬されたいい動きでした」

 

 ボーヴァもそれに同意し、そしてそれに、ゼノヴィアとイリナも頷いた。

 

「確かに、右腕四天王は誰もが優秀だったな」

 

「ええ。オートクレールが無かったら覇剣贈刀まで持ち堪えられていたかどうかも分からなかったかも」

 

 つまるところ、彼らの勝利は間違いなく彼らのものだ。

 

 それだけの力を持っていたからこそ、覇剣はアルサムさん達に力を貸してくれたのだろう。

 

 決してルレアベ任せの勝利なんかじゃない。それほどまでにみんなが努力を重ねていたからこその戦いだったんだ。

 

「……申し訳ありません、イッセーさま」

 

 沈んだ表情で、レイヴェルが頭を下げる。

 

「私が、真っ先に倒されていなければもう少しやりようはあったのかもしれませんわ」

 

「いや、それは違うさレイヴェル」

 

 俺はレイヴェルに静かに首を振った。

 

 確かに、魔導士の魔力ダメージを考慮していなかったことはミスだろう。

 

 だけど、それに関しては俺達全員の失敗だ。

 

 特に俺なんか時空管理局に行ったことがあるんだから、気づいてもよかったんだ。

 

 異文化交流を積極的に行っていたアルサムさんに対して、俺達はまだ甘かった。

 

「これは、俺達全員の敗北だよ。……だから、次は勝とう」

 

 ああ、負けるのはやっぱり悔しい。

 

 だけど、どこかスッキリしているところもあるんだ。

 

 負けても何も失わない戦いだからかもしれない。

 

 そして、文字通り全力を出し切った上での戦いだからかもしれない。

 

 だけど、何度も負けてばっかりじゃいられない。

 

 次は必ず勝ちますからね、アルサムさん!!

 

 そう俺が気合を入れたその時だった。

 

「い、イッセー様!! 大変です!!」

 

 顔色が真っ青な悪魔の人が、俺達の控室に飛び込んできた。

 

 其のままその人はスッ転んで、顔面から床に激突する。

 

 おいおい、大丈夫かよ?

 

「どうしましたの? 落ち着いてくださいまし」

 

 レイヴェルが駆け寄って落ち着かせようとするが、しかしその人は全く落ち着かなかった。

 

 汗だくになって息も絶え絶えなのに、だけどそんなことどうでもいいって感じで顔を上げる。

 

「め、メーデイアが正体不明の勢力に襲撃を受けております!! 宮白兵夜様達がメーデイアにいるこの状況下にです!!」

 

 ………なんだって!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




と見せかけてトラブル発生。さて襲撃してきたのは何処のどいつか。









九大罪王制度には意欲的なサーゼクスたち。そのためのいわゆる見極めも行っているのです。

ビナー・レスザンに関しては時期悪魔の盟主にイッセーを選ぶための、より精密な審査的なあれにすることに決めてたので、ならばアルサムもと思いました。現状わかっている魔王眷属で、戦闘スタイルが少しでも把握できるのが彼だったので沖田総司を起用させていただきました。まあ、サムライブレードなんてまんまな名前なので原作キャラだとしたら彼じゃないかと思った人は多いのではないでしょうか?


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魔術と科学はとっくの昔に交差しているけど、物語はそこまで加速しない

 

『今回の試合、冥界の未来を担う若者達の全力を賭けたぶつかり合いでしたね。実に良い試合だったと思います』

 

『ええ。転生悪魔の期待の星である兵藤一誠選手と、純血悪魔の新たな可能性であるアルサム・カークリノラース・グラシャラボラス選手。彼らがまだ成長途上でありながら、半端な神クラスなら返り討ちにできる力を持っているというのは、悪魔にまだ可能性があるということの証明でしょう……』

 

 試合のテレビ中継が終わり、スタジオで感想が話されている中、俺はワインを一口飲んでみた。

 

 ……うん。酒は気分が良い時に飲むと味わい深い。

 

「良い酒が飲める良い試合だった。まあ、俺達があんなのと戦う可能性があるという視点で見るとちょっとぞっとするが」

 

「いやぁ。俺様は戦わねえから残念だけどな」

 

 そうだねグランソード。できれば今からでもリザーブ入ってくれないか?

 

 とはいえ、かなりハイレベルな激戦だった。

 

 王が悪魔同士の試合でいうのならば、これほどのものは今のところなかったはずだ。少なくとも俺は見ていない。

 

 乳乳帝のイッセーと、魔王剣のアルサム。この二人の戦いは、ある意味で若手悪魔の頂上決戦だろう。

 

 こと、アルサムのもう一つの覇剣と新たな覇剣の可能性を見ることができたのは収穫だった。

 

 さらに魔導士の能力も脅威度を修正するべきだろう。

 

 フェニックスの不死を事実上無効化するあれは、シルシのいる俺たちにとっても脅威的だ。ある意味俺たちの生命線ともいえる索敵要員をあっさり無力化される可能性があった。先にアルサムと当たっていれば、同じ戦法でやられていただろう。

 

 反面、この戦法はヴィヴィ達のいる俺達も使えるのも効果的だ。イッセーやライザーとやり合う時は、ぜひヴィヴィ達に活躍してもらおう。

 

「俺としてはイッセーが負けたのはちょっと残念だったけど、ヴィヴィ達からしてみればリオちゃんやコロナちゃんが初参加の試合で勝てたのは嬉しい事かな?」

 

 俺がそう言うと、ヴィヴィもハイディも割と嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。

 

「はい! 二人とも頑張ってたし、やっぱり勝ったのは嬉しいです」

 

「親友が負けられた兵夜さんには悪いですが、お二人の初戦が勝利で本当に良かったです」

 

 うんうん。ま、そうだよなぁ。

 

「かまわないって。第一俺たちもぶつかったら強敵なんだし。厄介な優勝候補が躓いたのは好都合だしな?」

 

「アンタ、やっぱり黒いよ」

 

「すいません。ごめんね兄さんが黒くて」

 

 ノーヴェと須澄には少し引かれたが、もうこの際性分だから諦めてもらおう。

 

 とはいえ、今回のレーティングゲームはいろんな意味で俺達の今後にいい影響を与えるだろう。

 

 イッセーには悪いが、アルサムがイッセーに勝利したことは、純血悪魔の評価向上に繋がるかもしれない。

 

 転生悪魔の中でも、ポテンシャルだけならおそらくトップであろう兵藤一誠。天龍をその身に宿すアイツを倒すのは、純血悪魔では困難だ。

 

 もとより龍種の中でも準最強に位置する天龍だ。しかもイッセーの場合はそれを昇華させている節がある。魔王すら殺すといわれる天龍を昇華させたものを倒せる純血悪魔など、それこそ超越者だけだろう。

 

 だが、それをアルサムは乗り越えた。

 

 同年代の純血悪魔でアイツに対抗できるのはサイラオーグ・バアルぐらいだ。

 

 しかし、サイラオーグはいろんな意味で参考にならない。とてもまともな悪魔のやり方とは言えないだろう。

 

 だから、本当の意味で悪魔であるアルサムがイッセーを下したのは、悪魔の意識改革にもなる。

 

 そのアルサムが自分が強くなったやり方なら、多くの悪魔がそれを参考にしようと思うだろう。

 

 あとはアルサムが上手く手加減して努力の価値を教えられるかどうかだ。まあ、前回の失敗で多少は手加減の必要性を覚えただろうし行けるだろう。今度は俺も最初の段階から調整させてもらう。

 

「でも、どっちもシャレにならない戦力よね? 戦った時、勝てるのかしら?」

 

「アップちゃん。義理のお兄さんにドS発揮するのは酷いと思うよっ」

 

 アップがニヤニヤしながらそんなことを言ってきて、トマリにたしなめられる。

 

 ふむ、確かにあいつら全員脅威だが……。

 

「勝ち目はあるだろ」

 

「あら、なんでよ?」

 

 そのアップからの疑問に、俺は何を言ってるんだとすら思う。

 

 おいおい、確かにイッセーは強敵だ。それを下したアルサムも強敵だ。

 

 だが……。

 

「俺は兵藤一誠に並び立つ者。その為に血のにじむような努力をしてきたし、様々なものを取り込んできた。コネクション形成もその一環だ」

 

 そう、俺個人にできることなど限りがある。

 

 人間には限界がある。少なくとも、俺はそんなものを突破できるようなイレギュラーなつもりはない。

 

 自分の分はわきまえている。そのうえで、それではどうしようもないものをどうにかするためにできる限りのことはやってきた。

 

 その答えこそが後ろ盾。自らを売り込み、人材を斡旋し、そしてその恩恵により味方を得る。

 

 そして、それに関していえば俺は中々な物だ。

 

 足りないものはよそから持ってくる。魔術師の基本に則ったこの手腕。今でも忘れたことはない。

 

 そう、つまりは―

 

「お前らがいる。なら、太刀打ちできない道理はないだろうさ」

 

「……流石、須澄のお兄さんね。須澄がいなければ惚れてたかも」

 

 ……あれぇ? 俺、別に口説いてないよ!?

 

「し、姉妹丼ならぬ兄弟丼!? はわわっ! アップちゃん進んで……痛い痛い痛いからかってないです本気ですぅっ!!」

 

「「もっと酷い!!」」

 

 トマリがいらんこと言って両腕をひねりあげられているが、まあ吸血鬼だし治るだろうから放置。

 

 っていうか、NTR耐性のない俺が、なぜ人の女をNTRしようというのだ。失礼千万極まりないからもっとやってくれ。

 

 あと、ヴィヴィとハイディにNTRはまだ早いからその分もお願いします。

 

「兄弟丼って、親子丼の親戚ですか? 親子丼はママが作ってくれたことありますけど」

 

「……あと5,6年ぐらいしてから教えてやるよ」

 

 グランソード。すまん。

 

「……なあ、私はこいつらと組んでていいのか不安になってきたんだけど」

 

「あ、兄上はその辺の線引きはきちんとできますのよ? 自分のことになるととんといい加減ですけど」

 

 俺の将来の義妹……いや義姉がすまん、ノーヴェ。あと雪侶は俺の関係者なんだから他人事じゃないぞ?

 

 ま、まあ気を取り直してだ。

 

「ま、まだ晩飯も残ってるし、ここは雑談レベルでイッセーやアルサムのチームと当たったらどうするか考えよう。とりあえずイッセーは俺と須澄と暁の三人がかりで潰すということで」

 

「徹底的ね。男衆全員総出とかやりすぎじゃない?」

 

 シルシが苦笑するが、しかしそうもいかない。

 

「乳乳帝となったイッセーの戦闘能力は、マツダの非じゃない。真面目な話、グレモリー眷属と禍の団の争いは、イッセーがエロ絡めて逆転してきたようなものだからな」

 

 まったくもってそれでも安心できない。

 

 なにせ、乳乳帝状態のあの砲撃に対抗するには、暁の眷獣ですらなお不安視するレベルだ。

 

 天龍を乳で昇華させたあれは、単純な一撃の破壊力ならこのアザゼル杯に参加しているものの中でも正真正銘のトップクラスだ。

 

 っていうか、単独戦力としては低めに見積もってもトップ10を狙えるだろう。ぶっちゃけ俺達のチームで一対一で対抗できる奴がいない。

 

 俺ならカウンター狙いで行動をほぼ読み切れるが、基礎スペックが違いすぎるから俺を相手にしないという戦法を取られたらやばいからな。

 

 暁が眷獣を全力で使えば打ち合いでも渡り合えるが、暁には戦闘経験と技量が足りてない。

 

 神器の性能ならば須澄も大概だが、こちらも戦闘技術などで後れを取られているため、苦戦だ。

 

 はっきり言って三人がかりで挑んでも、機動力で距離を取られたら抜けられる可能性がある。

 

 隠し玉のスケベ技を使われたら、間違いなく初回の場合喰らってしまうのだ。

 

「……やはり、機動力特化の新兵器が必要か。ノーヴェ、魔導士関係で何かないか?」

 

 うーん。なんとしてもイッセーを取り押さえる必要があるんだけどなぁ。

 

 仕方がない。こうなればマジで瞬動術を習得する為の練習をするべきだな。

 

 さて、まあ次は乳乳帝チームのもう一つの要であるアーシアちゃん対策としてデバイスの練習を―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「……っ」」」」」」」」」」

 

 エイエヌ事変という修羅場を潜っているだけあって、その辺に関しては全員まとめて速攻で反応できた。

 

 全員がすぐに戦闘態勢を取る中、俺とシルシはさらに行動を開始。

 

「……ビーチの方よ」

 

「わかった。……警備隊、すぐに部隊をいくつかビーチに送れ。同時に湖周辺に使い魔を放って敵影を確認しろ。それとシェルターを開放して、市民を避難させる準備を急げ!」

 

 シルシの索敵で即座に爆発の位置を把握しながら、俺達はすぐに動き始める。

 

「いいか、市街警備隊は市民の安全を最優先に! 同時に俺達が出たら城に結界を張って事態が解決するか増援が来るまで意地でも開けるな!!」

 

 チッ! この情勢で比較的小規模とはいえ街にテロ活動をするとか、いったいどこの馬鹿野郎だ?

 

 とにかく、早急に事態を解決する必要があるな。

 

 防衛部隊はゼクラム・バアルから用意してもらった大王派の最上級悪魔。加えて研究施設はアーチャーによって工房通り越して神殿となっている。

 

 さらに技術奪取を狙ったテロ組織に対抗する為に、シェルターも完備。そして前にも言ったが三層構造の城壁もある為陸戦勢力では突入困難。

 

 有力貴族の城下町に匹敵する防衛網を持つこのメーデイアに仕掛けてきた阿呆には、高い罰金を支払わせてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思ったのだが、この戦いが、のちに起こる五の動乱すら超える大規模戦乱の前哨戦の一つであることを知るのは、まだ先の話である。

 







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五の槍兵、襲来

 

 廊下を足早に進みながら、俺は必要な手配を即座に終える。

 

 周囲の街や施設、そしてグレモリー本家に救援要請は必要不可欠。

 

 同時に魔術師を奪取されないようにするための警戒網の増大。

 

 加えて民間人の被害を最小限に抑えることも必要だ。

 

 やることが多いが、しかしやるしかない。

 

 さて、それではまず真っ先にすることがある。

 

「ノーヴェ、悪いがヴィヴィとハイディを連れて避難誘導の手伝いを頼みたい」

 

「大将、いいのか?」

 

 真っ先にグランソードがそう言うが、しかしこれは当然の行動だ。

 

 まあ、普通なら真っ先に避難させるか安全な場所にいてもらうのが筋なんだが……。

 

「どうせ、駄目といっても君たち手伝いたがるだろう? だったら最初からお願いしておくさ」

 

「……一応言っとくけどな、実戦はできるだけ避けろよ?」

 

「「は、はい」」

 

 二人係りで言い含められて、ヴィヴィとハイディはかしこまる。

 

 視線が合って、俺とノーヴェは苦笑した。

 

 この子たちいい子なんだけど、だからこそこういう時気にしちゃいそうだからなぁ。

 

 完全に隔離するとモヤモヤするだろうし、何よりこっちも緊急事態。戦力として活用できる人材は実に助かる。

 

 敵影すら確認できていないうえ、これが陽動である可能性もある以上、避難誘導は戦闘能力の低い下級の兵士が行うことになるだろう。

 

 ヴィヴィ達なら、万が一強敵が出てきても時間稼ぎはできる。積極的な危険に巻き込むわけでもないから体裁も整えられる。加えて、何かしているという意識が暴走を産ませにくい。

 

 そういうわけで、お手伝いしてもらうことにする。

 

「……ノーヴェ。いざという時は無理やりでも止めろよ?」

 

「わかってるって。保護者として当然のことをするさ」

 

 よし、こっちはこれでいい。

 

 さて次は―

 

「須澄たちは悪いが手薄な方向の警戒を頼んでしていいか? 陽動の可能性があるから、本命の警戒をしたい」

 

「うん、わかってるよ兄さん」

 

「できれば雑魚の方が来てほしいわね。……最近弱い者いじめしてなくて寝つきが悪いのよ」

 

「まっかせてお義兄さん! いや、義弟(おとうと)君って呼んだ方がいいのかな?」

 

 さすがは腐敗していた当時のフォード連盟で聖杯戦争にかかわった猛者。平然としてるな。

 

 まあ、これに関しても念のための警戒。

 

 一番危険であることに関しては無論のこと―

 

「……そして我が眷属! 俺たちはすぐにビーチに向かう!!」

 

 ―領主とその眷属の仕事だ。

 

「我が主リアス・グレモリーより賜りし領地を荒らす狼藉物に、この地の観光代が高いことを教えてやれ!」

 

「「「イエス、マイロード!!」」」

 

 さて、それじゃあそろそろ本気で行くか。

 

 覚悟してもらおうか、狼藉者どもが!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺たちはビーチに到着する。

 

 すでに爆発はさらに追加で発生しているらしく、警備の兵士がいつでも結界を展開できるように準備しながら警戒していた。

 

「兵夜様!!」

 

 俺の姿に気づいた兵士たちは、略式の敬礼を即座の行い、しかし視線は爆発の起きた方向に向けている。

 

 さすがはゼクラム・バアルが直接派遣した兵士だ。よく訓練されている。

 

「状況を報告しろ!! 爆発の正体は把握できたか!!」

 

「はっ!! 詳細はまだ不明ですが、魔力などの反応がないことから、爆薬によるものと思われます!!」

 

 爆薬だと? この冥界で?

 

 確かに状況によっては爆薬が冥界で使用されることもあるが、しかし攻撃に爆薬を使うだと?

 

 戦闘職ならば相当の使い手だっているだろうし、それなのに爆薬を使うとはどういうことだ?

 

 とはいえ、事前に設置されたものではないというのなら手段もだいぶ想定できる。

 

 つまりは、ロケットもしくはミサイル。または実弾砲。

 

 ……フォード連盟旧政府か、クージョー連盟関係者の報復か何かか?

 

 どっちにしてもフォンフが関わっているから、絶霧の量産型があるから転移そのものは不可能ではないだろう。

 

 とはいえ、実弾兵器をこんなところで使ってくるとはどういうことだ?

 

「……どう思う、お前ら?」

 

「旧式の兵器の処分を兼ねた嫌がらせとかではありませんの?」

 

「いや、それならリサイクルするだろフィフスなら」

 

「でも、フォンフはフィフスの後継であってそのものではないのでしょう?」

 

 俺たちは顔を見合わせて相談するが、しかしすぐにはわからない。

 

 まあ、実弾兵器は信頼性があるからフォンフなら用意してもおかしくないが、いっそのこと核弾頭でも使った方が楽じゃねえか?

 

 と、思った瞬間空気を切り裂く音が聞こえてきた。

 

 あ、これ実弾砲だ。

 

「総員障壁を張れぇえええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、兄さん大丈夫かな?」

 

 どんどん間隔が短くなってきた爆発音に、須澄はちょっと不安になって後ろ振り返った。

 

 あのエイエヌ事変を生き残った猛者の一人である兵夜なら大丈夫だとは思うが、しかし敵の正体も不明なのである。

 

 そもそもこのメーデイアが兵夜の領地なのは、異形社会の出身なら大半のものが知っているところだ。そして冥界は異形の世界。当然異形の存在達しか存在しない。

 

 つまり、この襲撃は兵夜を敵に回すことを前提として行われているのだ。

 

 仮にも最上級に手が届いた転生悪魔。必然的に、相手をするというのなら、相当の戦力を用意しているはずである。

 

 グランソードがいる以上、生半可な相手に後れを取るとは思わないが、少し心配にもなってしまう。

 

「まあ大丈夫でしょう。仮にもあのエイエヌ様の平行存在よ? 不利だと判断したらすぐにこっちに救援を求めてくるでしょ」

 

 アップはそういうが、こういうのは理屈でないから困ったものである。

 

 そんなこともあり少し落ち着いていない須澄に、アップはすこし寄り添った。

 

「……アップ?」

 

「大丈夫よ、須澄」

 

 そういいながら、アップは須澄の手を取る。

 

「あなたと一緒に、エイエヌ様を倒した彼がそう簡単にやられるわけがないでしょう? いざとなったら、私がソニックムーブを使ってすぐに助けに行ってあげるわよ」

 

 そう告げ、そしてアップは微笑んだ。

 

「安心しなさい。私がどれだけあなたを追い詰めたと思ってるのよ。少しは能力を信用してよね?」

 

「……うん。ありがとう」

 

 少しだけだが、確かに須澄はほっとする。

 

 それでもどうしても取れない不安を取り除くため、須澄はアップにすり寄った。

 

「~~~っ!?」

 

「ちょっとだけ、こうしてもいいかな?」

 

「………うん。かまわないわよ」

 

 そんな暖かい光景を、後ろからトマリは見ていた。

 

 ……だらだらと鼻血を垂れ流しながら。

 

 一言言おう。台無しである。

 

「はぁはぁ……。うう、二人とも初々しくて可愛いよぅ。今すぐいって抱きしめたいけど、もうちょっとあの光景を見続けたいようぅっ!?」

 

「なにやってんの?」

 

 視線を感じて慌てて振り返れば、ノーヴェがものすごい半目でトマリに視線を向けていた。

 

「あのさあ。ヴィヴィオ達の情操教育に悪いから、そういうのやめてくれない?」

 

「ご、ごめんごめん! ちょっと我を失ってたよ!!」

 

 それもそうだと思い、慌ててトマリは鼻血をぬぐった。

 

 確かに、今の光景は子供の情操教育に悪いだろう。それはわかる。

 

 わかるのだが。

 

「あんな光景、もう二度と見れないと思ってたんだもん。ちょっとぐらいテンション上げてもいいじゃないっ」

 

「……ああ~」

 

 そこを言われると返す言葉もない。

 

 なにせ、エイエヌによって今まで全く見てもいなかった自分の悪性を自覚してしまったアップははっちゃけてしまった。

 

 当時の現政権を支配していたエイエヌの使いっパシリとして、聖杯戦争における執行者として動きながら、イレギュラーなどを弱い者いじめして楽しみながら行動していた。

 

 だから、須澄はもう終わらせるしかないと思っていたし、実際そうしたのだ。

 

 それが何の奇跡か神器が内心の苦しみに応えていたことで三人一緒にいることができたが、しかしそれは本当に多くの偶然があったからだ。

 

 殺し合って終わるしかないと思っていた二人が和解できたことに、年長者であるトマリは感動するほかない。

 

 それは、ノーヴェも分かっている。

 

 わかっているが……。

 

「だったら鼻血ながすなよ」

 

「だって、だって萌えるんだもんっ!!」

 

 どうも神喰いの神魔チームのメンバーは、癖が強すぎるのが多すぎる。

 

 リーダーの宮白兵夜は言うに及ばず、その妹の雪侶もかなり濃い。

 

 トマリはもちろん異常性癖一歩手前のアップも冷静に考えると問題だし、愛が重くてヤンデレ気味の須澄にいたっては、兵夜の血のつながらない年上の実弟というわけのわからない関係性だ。

 

 ああ、そういえばアインハルトもいろいろと抱え込んで妙な方向に突っ走っていた。自分も一時期はかなりぐれていた……というレベルではないし、人に歴史ありというべきか。

 

 まあ、奇跡的にも善良だったり一応は常識をわきまえているかのどちらかなのは不幸中の幸いだが、もっと自分が子供二人と彼等の間に立った方がいいかもしれない。

 

 などと保護者じみたことを考えていると、ヴィヴィオとアインハルトが走ってきていた。

 

「あ、ノーヴェ! こっちは避難誘導終わったよ!!」

 

「もうこの周辺に人はいないはずです」

 

「よし! それじゃあ私達も避難するぞ!! これ以上兵夜たちに迷惑かけるわけにもいかないからな!!」

 

 ヴィヴィオたちはあくまで民間人だ。それも、まだ本格的に交流していない時空管理局の出身でもある。

 

 兵夜の立場からしてみても、エイエヌ事変のような緊急時でもないのに鉄火場に巻き込むわけにはいかないはずだ。

 

 だから、このまま自分たちもシェルターに移動しようとして―

 

「……畜生っ」

 

 その耳が、音を聞いた。

 

 戦闘機人として生み出されたノーヴェは、通常の人間より性能が高く設計されている。

 

 当然五感なども常人の平均値よりは上だ。多少の隠密活動程度ではごまかされない。というより、センサー類などの上乗せもしていなければ正式採用型の戦闘機人とは言えないだろう。

 

 それが、間違いなく潜入者を知覚した。

 

「……下だ、須澄、アップ!!」

 

「「!?」」

 

 その言葉に、荒事に慣れていた二人はすぐに反応できた。

 

 即座の城壁から飛びのいた次の瞬間、莫大な紫の炎が城壁を焼き尽くした。

 

 あり得ないことだ。この城壁はかの堕天使元総督アザゼルが技術の粋を集めて作り上げた特注品。その強度はかのヴァーリ・ルシファーですら一発で破壊するのは困難な代物である。乾坤一擲の策に対するゼクラム・バアルの影響力もあって最大級の代物となっている。

 

 それを成し遂げるということは、すなわち低く見積もっても神滅具級ということである。

 

「なに!? なんなの!? 誰が来たの!?」

 

「どうやらただのトチ狂った馬鹿じゃないようね!!」

 

 半ばパニック寸前になりながらも須澄は聖槍を構え、そしてアップは冷静に敵の脅威を認識しながらグラムを構える。

 

 そして、その時点ですでにトマリ達も戦闘準備を万全にしていた。

 

 その警戒の視線が向かう先。城壁を焼き尽くす紫の炎の中から、人影が出た。

 

 白とも銀ともつかぬ髪をもつ男。その男を、この場にいる誰もが知っていた。

 

「……フォンフ、シリーズ!!」

 

 須澄はそれに対する警戒心を心から強くする。

 

 当然だ。フォンフシリーズは全員が神滅具の禁手を母体として生成されている。

 

 その戦闘能力は文字通り神すら殺せる。一騎当千の人間サイズの戦略兵器がそこにあった。

 

「やれやれ。気分転換に冥界に来てみれば、面白いことになっているようだね」

 

 フォンフシリーズの一体、フォンフ・ランサーは金属製の槍を構えて面白そうに笑う。

 

「さて、これも一興。少しぐらいは運動した方がよさそうだね、これが」

 




ひょうや、盛大にうらめる。

来客に無理をさせるわけにもいかないが、しかし気にすると判断したので比較的安全そうな仕事や保険をさせたのですが、底いフォンフ襲来。

そしてそれが原因でもちろん大本がフォンフだと勘違いすることになります。このニアミス、致命的。


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勘違いって一度するとずぶずぶとしてしまうことがある。

 

 湖の上を部隊を率いて移動していた俺は、とんでもない報告に目を見開いた。

 

「……フォンフが出ただとぉ!?」

 

『はい、現在現場にいた須澄様達が交戦中です!!』

 

「そんなことはわかってる! だが、寄りにもよってヴィヴィたちが巻き込まれてるだと!?」

 

 ええいとんでもないことになってきた!

 

 そんなことを避けるために避難誘導を手伝わせたのに、どういう展開だこれは!!

 

 どうする? 俺たちは今、砲撃を行っている連中をどうにかするために移動している。

 

 水平線の向こうから砲撃をぶちかまされている以上、戦闘を行うにはどうしてもある程度距離を縮める必要がある。

 

 しかしまあ、陽動作戦の可能性は考慮していたが、フォンフまで出てくるとはさすがにきついな!!

 

「……どちらにしても砲撃は何とかしなければいけないか」

 

 砲撃の射程距離がどこまでかわからない以上、市街地に撃たれる可能性も考慮しなければならない。

 

 それは、まずいな。

 

 ゆえに、やることは決まっている。

 

「グランソードと雪侶はUターンしてヴィヴィ達の保護を頼む!! 砲撃の方は俺とシルシでどうにかする!!」

 

「了解だ大将!!」

 

「こんなところで死なないでくださいましね、兄上!!」

 

 即座に二人がUターンする中、俺とシルシは敵の元凶を見つける。

 

 ……三胴型の駆逐艦だな。この科学っぷり、やはりフォンフか。

 

 大方クージョー連盟でまだ息のかかった連中がいるんだろう。そこから提供してもらったということか。

 

「それで、どうやって倒すの兵夜さん?」

 

 シルシがそう聞くが、お前も分かっているだろう

 

 ただでさえフォンフがヴィヴィ達と交戦中。できればさっさと終わらせる必要がある。

 

 ゆえに……。

 

「初手から合体だ。短期決戦でぶっ飛ばすぞ!!」

 

「そういうと思ったわ!」

 

 理解が速くて助かるさ!!

 

 シルシは即座にアーティファクトを展開して俺と融合。そして俺は即座に接近戦を仕掛ける。

 

 駆逐艦はCIWSを起動して対空防御を仕掛けるが、今回は時間がないので無理やり再生能力を頼りに突貫。

 

 弾丸の雨を無理やり突っ切って艦尾に回り込み、俺は即座に全力の光魔力の槍を十数本展開してぶっ放す。

 

 悪いがデータは残骸からとらせてもらう!!

 

 そして遠慮なくぶっ放したその瞬間―

 

「はっはっは! その攻撃、バッドだね!!」

 

 発生したエネルギーの膜によって、俺の攻撃はすべて防がれた。

 

 ……魔力でも光力でもない。まさか純正科学!?

 

 チッ! あの野郎今度は何を開発した!!

 

「全員後退!!」

 

 どうやら短期決戦は困難のようだ。

 

 俺は即座に部隊を下がらせると、迎撃のためにそれを見据える。

 

 ……人型ロボットだった。

 

 もう一度言おう。

 

 人型ロボットだった。

 

「……なんというロマン兵器を!!」

 

 アザゼルかもしくはシーグヴァイラ様の関係者か?

 

 いや、エイエヌがらみの一件でも見たな。水陸両用型っぽいタイプのが。

 

 だが、今回はアザゼルが関わったかのように完璧な人型だ。指も五本ある。

 

 しかも、大型のシールドを保持している。どうやらあれでこちらの攻撃を防いだようだ。

 

「これはグッドだね!! 小型で高性能を再現できないなら大型化すればいいと思ったけど、高出力で無理やり起動すればここまでのものができるのか!!」

 

 などと堂々とのたまう女の声が聞こえるが、いったい何者だ?

 

「初めまして諸君! 私はピレオ・ウッドフィールド!! 君たちに通りのいい言葉でいうなら、木原といっておこうか!!」

 

 木原? 木原というと学園都市のハイスペックマッドサイエンティストが名乗ることの多い苗字だ。

 

 と、言うことは―

 

「貴様、転生者か!!」

 

「その答えはYESだよ!! マリンスノーから聞いてないかい?」

 

 マリンスノーということは、小雪の関係者か何かか?

 

 ええい、マジで面倒くさいことになってきた!!

 

「……では、そろそろ撤退するとしようか!!」

 

 と、思ったら即座に撤退体勢に入りやがった!?

 

「……お前、何しに来たんだ!!」

 

「それはもう、クージョー連盟から回収した技術のテストと君への嫌がらせだよ!! ……上は君たちのことが大嫌いなんだ」

 

 確かに、フォンフのオリジナルであるフィフスを殺したのは俺だからな。逆転の決め手をほぼおっぱいでやったイッセーに次ぐレベルで忌み嫌われているだろう。

 

 だが―

 

「……お前らの逆恨みで、この街に住む無関係な悪魔たちまで恐怖に陥れて、ただで済むと思っているのか?」

 

 いや、そんなことは気にしないだろう。

 

 木原とは魔術師(メイガス)に近い精神構造をしている。

 

 すなわち、研究のためならば手段を選ばない。倫理観の欠如したサイコパスが基本形。そんな連中に人の通りを解いたところで、理解を示すとは思えない。

 

 しかし、ウッドフィールドはそれに対して皮肉気な笑みを浮かべた。

 

「はっはっは。君たちにそれを言う権利はないだろう? 私のような人種にもないけどね」

 

 失礼な。俺は基本的に堅気には危害は加えないぞ?

 

 しかし、ウッドフィールドは全く持って意に介さない。

 

「さあ、それでは足止めを受けてもらうとしようか!!」

 

 言うが早いか、駆逐艦のハッチが開き、数百体の魔獣が姿を現す。

 

 両足が肥大化した鳥のような姿をした魔獣は、一斉にこちらに襲い掛かってきた。

 

 チッ! 思った以上に数が多い。

 

 高い砲戦能力と大量の兵員輸送能力だと? お前はロボット物の母艦か何かか!! 非現実的な!!

 

 ええい、これはメーデイアの戦力では対応しきれない! 逃がすしかないか!

 

「シルシ! 須澄達の方は大丈夫なのか!?」

 

 もうそっちのことを気にした方が早いようだ。

 

 せめてあいつらの無事だけは確保しないと、完膚なきまでに負けっぱなしじゃねえか!!

 

―待ってて! 今そっちを見るから!!

 

 ああ全く。頼むから間に合ってくれよグランソード!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、須澄達は激戦を繰り広げていた。

 

 そして、その戦いはフォンフが優勢だった。

 

「この!!」

 

「喰らいなさい!!」

 

 接近して聖槍を突き出す須澄と、ヒット&アウェイで魔剣を振るうアップ。

 

 連携戦闘訓練こそまだ少ないものの、幼馴染としての付き合いの長さがなかなかの連携を生み出して、フォンフ・ランサーを襲う。

 

 だが、それをフォンフ・ランサーはやすやすと回避する。

 

 もともとフォンフシリーズのオリジナルであるフィフスの戦闘能力は高位の英霊にも匹敵する。

 

 それを高水準で受け継いだフォンフの技量は、間違いなく並の英霊なら十分に倒せるほどのものだった。

 

 くわえて、獣鬼を素体としているフォンフはその身体能力からして圧倒的だ。

 

 さらにその上、英霊の力すら憑依させているフォンフは、間違いなくこの世界でも有数の戦力なのだ。

 

 それを相手にするには、聖槍ロンギヌスと魔帝剣グラムという最高峰の装備二つをもってしても足りない。

 

 加えて、使い手の技量の差も大きい。

 

 須澄は確かに攻撃速度こそ一流だが、聖槍に頼り気味の一面があり小手先の技術や兵法では劣る。

 

 アップも弱い者いじめを根幹に置いた戦法を中心とするため、得意なのは殲滅戦と防御戦法だ。主に格下を蹂躙し格下に逆襲されない強さを求めてきたため、格上との戦闘ではどうしても一歩下を行く。

 

 ……そもそも、アップはグラムの使い手としては歴代でも下位に属する。

 

 エイエヌのエージェントとして選ばれたアップは、基本的に弱い者いじめを欲している。ゆえに必然的に魔導士としての技量は弱い者いじめに特化している。

 

 弱い者いじめの前提条件。それは極めて単純だ。

 

 自分が格下に負けないこと。

 

 自分より弱い相手を、相手より強い自分が蹂躙する。その過程において敗北があってはならないし、その条件を無視することがあってはならない。

 

 ゆえに彼女の魔導士としての方向性は大きく分けて三つに特化している。

 

 相手の反撃を余裕でしのぐ防御力・自分より格上から逃走する機動力・そしてより蹂躙するための攻撃方法。

 

 その点で考えるのなら、強者相手に勝率を上げるための切り札ともいえるグラムは、彼女の適性からは離れている。

 

 それは偏に、強者と戦闘することになったときのための保険に他ならない。そういう状況でも戦力として活用するためにエイエヌが従僕の技術を応用して用意した保険なのだ。

 

 ゆえに、アップは格上との戦闘に向いていないのだ。

 

 加えて、フォンフ自体の立ち回りもうまい。

 

 ステップをうまく組み合わせ、残りの四人の介入を阻害する立ち回りで戦闘をおこなっていた。

 

 そのせいで、六対一にも関わらず、事実上の二対一で立ち回られている。

 

 市街地でのあまり開けていない戦闘であることもあり、フォンフ・ランサーは戦闘の趨勢を支配していた。

 

「あ~もうっ! これじゃ援護できないよっ!!」

 

「流石はフォンフ。立ち回りがうまいです……っ」

 

 戦闘に介入できず歯噛みするトマリとアインハルトの視線の先で、すでに何回目かになる負傷による鮮血が舞う。

 

 今回傷を負ったのは須澄。だが、アップもまた何か所にも傷ができていた。

 

 このままでは、じわじわとなぶり殺しにされるのみ。

 

 そんな嫌な予感を二人が感じている中―

 

「―あれ? ノーヴェは?」

 

 その時、ヴィヴィオはその視野の広さから自分のコーチの姿が消えていることに気づいた。

 

 そして、その瞬間事態は動く。

 

「……下ががら空きだ!!」

 

 道路が破壊され、そして同時に道がそこから空中へとできる。

 

 そして、その軸線上にいたフォンフ・ランサーは蹴りを受けて打ち上げられた。

 

「流石は戦闘用! どこかに隠れていたのには気づいていたが、下水道から回り込んでいたとはね」

 

「一応戦闘用なんでね。その辺は気にしねえよ!!」

 

 フォンフはあえてブレイクライナーを駆け上がり距離を取ろうとするが、ノーヴェの速度はその上を行く。

 

 ジェットエッジを利用した陸上高速移動。さらに空中に道を作り上げるその固有能力により、ノーヴェの機動力はかなり高い。

 

 さらにそれが障害物となることでフォンフの軌道にある程度の妨害をうみ、それがさらにノーヴェに有利に働く。

 

 そしてノーヴェはその加速力で一気に迫り―

 

「だがあまい」

 

 次の瞬間、ノーヴェの斜め後方にフォンフは移動していた。

 

 瞬動術。足に魔力もしくは気を展開することにより、瞬間的に超高速で移動することを可能とする高速移動技術。

 

 魔法世界のその技術を、フォンフもまた習得していた。

 

 むろん、その技量は使い手中の使い手ともいえる桜花久遠に比べれば明確に劣るだろう。

 

 だが、戦闘の駆け引きの一つとして習得する分には何の問題もない。

 

「まずは一人!!」

 

 そして、何の躊躇もなく槍が突き出され。

 

「―舐めるな!!」

 

 次の瞬間、まったく別の場所にノーヴェの姿が現れていた。

 

 さらに道を展開して即座に距離を取られる。

 

 その正体を、フォンフは即座に把握する。

 

 それは、瞬動術だった。

 

「この短期間に習得するとは、できるな」

 

 素直に感心しながら追撃戦を行おうとして、しかしフォンフは己の失態に気が付く。

 

 すでに自身は建物をはるか下に見下ろせる高度にまで上昇していた。

 

 すなわち、下から撃ち落とす分には何の問題もないということ。

 

「……最初からこれが狙いか!!」

 

「いまだ、撃て!!」

 

 フォンフとノーヴェの声が重なったその瞬間―

 

「お久しぶりだよ、ザ・スマッシャー!!」

 

 その後、多頭龍の砲撃がフォンフ・ランサーを包み込んだ。

 




どんどん進んでいく勘違い。ピレオも兵夜の勘違いをわかったうえで助長している節があります。








そして強者感あふれるフォンフ・ランサー。これで目的が全人類貧乳化計画でなければすごくシリアスになれました。

腐っても百年近く鍛錬を積んだフィフスの能力を大幅に引き継いでいるフォンフは、戦闘経験にかける相手では苦戦必須。努力と積み重ねで強くなっているフィフスの強さに、獣鬼の性能がかけ合わさっているためかなりの強者です。

くわえて、このフォンフ・ランサーはものすごいチート存在として設定されているので、その戦闘能力はフォンフ・シリーズでも最高レベル。まともにやり合うとエイエヌでもかなり苦戦する超絶戦闘能力を保有しております。


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紫炎に映る影

 

「すごいノーヴェ! いつの間に瞬動術習得してたの?」

 

「今のすっごいねっ! 何々? どうやったのっ?」

 

「いや、アインハルトを指導するなら、習得しといた方がいいと思って……その……」

 

 はしゃぎながら賞賛するヴィヴィオとトマリに、ノーヴェは少し照れながらしどろもどろになるがすぐに我に返る。

 

 あのフォンフがこの程度で終わるわけがない。少なくともとどめはさせてないはずだ。

 

 瞬動術を利用した見事な反撃に思わずテンションが上がっていたが、そんなことをしている場合ではなかった。

 

 直ぐに全員が我に返って迎撃態勢を整える中、砲撃によって発生した煙が張れる。

 

 ……そこにいたフォンフ・ランサーは盾を持っていた。

 

 そして、その盾はあまりに特殊だった。

 

 基本は十字架。そしてその周りをプラズマと化した炎が流線形の形をとって楯となしている。

 

 そして、その盾はザ・スマッシャーの一斉砲撃を難なく防ぐほどの楯だということだ。

 

 その事実に全員がさらに警戒する中、しかしフォンフ・ランサーは肩をすくめると踵を返す。

 

「今日のところは退くとしよう」

 

「……どういうつもりだよ?」

 

 ノーヴェはいつでも飛びかかれるようにしながら、そう尋ねる。

 

 現状は未だフォンフの方が優勢だ。にもかかわらず撤退しようという。

 

 ここで自分たちを殺せば、少なくとも兵夜に対する意趣返しにはなるだろう。にもかかわらずそれをしないとはどういうことか?

 

 それに対して、フォンフは肩をすくめた。

 

「宮白兵夜なら増援を差し向けるだろう。それに、この都市は兵藤一誠とアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスの会場とも近い。これ以上の戦闘は集中攻撃を受けるだろうからね」

 

 その言葉とともに、フォンフは黒い霧に包まれる。

 

 それが転移用の装備であることは全員が知っていた。ゆえにこの撤退が本気であることも理解する。

 

「まあ、結果としては好都合なこともあったのだよ。君たちがそれを理解するころには、手遅れだろうけどね」

 

 その言葉とともに、フォンフ・ランサーは転移を完了させた。

 

「……ノーヴェ。あの人何がしたかったんだろう?」

 

 ヴィヴィオの疑問ももっともだ。

 

 だが、それを答えらえる者はいない。

 

「兵夜に対する嫌がらせ……ってのも妙な話だな。よくは知らないけど、話を聞く限りあいつはもっと慎重に動けるはずだ」

 

「だよね、そうだよね。オリジナルのフィフスも活動的だけど、いろいろ考えて動いてたっていうし」

 

 ノーヴェも須澄もそれはわかる。全員それは聞いている。

 

 だが、だからこそわからなかった。

 

 あの男が、ただの嫌がらせでそんなことをするというのだろうか?

 

 少なくとも兵夜から聞いたオリジナルのフォンフは、明確な勝算か何らかの下準備のために動く男だった。

 

 ……なにか、無性に嫌な予感を感じてしまう。

 

 そんな不安な感覚が、全員の間で感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は本当に申し訳なかった!」

 

 とりあえず休息をとって次の日の朝、俺は速攻で謝りたおす。

 

 いや、本当に申し訳ない。なんかマジでごめん。

 

 念のための警戒のつもりが、マジで一番厄介なポジションに送り込んでしまった。

 

 とりあえず、あのウッドフィールドは速攻で指名手配している。

 

 とはいえ、今回完璧にフォンフ一派におちょくられた形だ。マジで面目ない。

 

 ことオリジナルのフィフスを討ち取った俺がフォンフにおちょくられたというのは、間違いなく今後の心象にダメージが入る。

 

 結果としてノーヴェたちが撃退した形になったのは感謝するほかない。何かしらお礼をしなければいけない立場だ。

 

「どんな形とはいえフォンフ・ランサーを追い返してくれた助かった。あとでお礼をさせてくれ」

 

「いや、いいっていいって。あんたにはエイエヌ事変でヴィヴィオやアインハルトが世話になってるしよ」

 

 しかし、このメーデイアの危機を救ってくれた以上、何かしらのお礼はしておかないと―

 

「気にしないでください、兵夜さん」

 

 ヴィヴィも視線を俺に合わせてそういってくる。

 

「友達を助けるのは当たり前のことじゃないですか」

 

 ………。

 

「みんな。俺は、自分の汚れっぷりが時々情けなくなる」

 

「いや、これは確かにきついな。大将みたいな汚れキャラには、この純粋さは時として猛毒だよな」

 

 うん、わかってるなグランソード。それはそれとしてお前間に合っとけよ。

 

 いや、ほんとお客様にご迷惑をかけて申しわけない。今後に備えて防衛戦力をより強化する所存であります。

 

 まあ、今回は本当にただの嫌がらせっぽいんだがな。

 

「しかし、フォンフの推定戦力からしてみれば数が少なかったですの。フォンフなら魔獣の量産能力がありますし、もうちょっと本気で殺しにこれたのではありませんの?」

 

 物騒だが、雪侶の意見ももっともだ。

 

 あのフォンフが、こんな完璧な様子見で動くか?

 

 あいつ、こんな手抜きな戦法を取ってくるような奴じゃないんだが……。

 

「少し警戒をするべきだな。……アザゼルに頼んで手すきの戦力を動かしてもらうか」

 

 もしかしたら、フォンフは俺たちの想像よりはるかに何かをしているのかもしれない。

 

 今回の襲撃はそのための陽動が本命かもな。

 

「……これは、僕たちも覚悟決めないといけないかな」

 

 と、須澄が何かの決意を決めた表情でそうぽつりとつぶやく。

 

 その言葉に俺たちは不思議だったが、アップとトマリは笑みすら浮かべて頷いていた。

 

「好きにしなさい。私たちは貴方のものなんだから」

 

「そうそう。須澄君が決意したなら、一緒について行くよっ」

 

「……そういえば、前に魔王様に呼び出されたことがあったな。それ関係か?」

 

 そういえばあれ何なんだ?

 

 不思議に思って聞いてみるが、須澄は苦笑するとあるものを取り出した。

 

 それは―

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ね。それも特注品のようだけれど」

 

 シルシがその目で一目で見抜くが、それはどういうことだ?

 

「うん、うんそうだよ、食客の駒って言うんだよ」

 

 聞いたことがないな。新しく作ったやつか?

 

「なんでも、E×Eに対抗するために、眷属悪魔制度とは別の形で転生悪魔を用意するって話が出てるのよ」

 

「そして、なんと須澄くんはその第一陣の候補としてスカウトされてるんだよっ!」

 

 補足説明ありがとう、アップにトマリ。

 

 ……ん?

 

「うちの、フォード連盟関係者が悪魔と関わるなら、寿命が長い人がいた方がやりやすくなるってことで何人か話が合ってね。僕はフォード連盟の政府とは関係がないから保留してたんだけどね」

 

 そういって苦笑する須澄は、しかし頭を振ると決意に満ちた目をした。

 

「だけど、これからを考えると強くなれるチャンスは逃せないよ。アザゼル杯にしても、フォンフにしてもね」

 

 ………なるほど、な。

 

 悪魔の駒は使用者の能力を上昇させる効果がある。それを使った強化を考えているんだろう。

 

「安易なドーピングはお勧めしないぞ? 強くなるなら自力で頑張った方がいいに決まっている」

 

「もちろん、もちろん僕も特訓するよ? だけど、それだけじゃない」

 

 須澄は不敵な笑みを浮かべる。

 

「食客の駒の転生悪魔は、戦果次第で普通の転生悪魔のように上級に昇格できる予定なんだ。そしたら、僕も眷属悪魔が持てるんだ」

 

「それで? お前も俺のライバルになるのか?」

 

「……ううん。其れよりもやりたいことがある」

 

 ああ、それは何だ?

 

「……独立して次のアザゼル杯に出て、僕は願いをかなえたい。できればでいいけど、やってみたいことがあるからね。……あ、それはまだ内緒だよ?」

 

 そういうと、須澄は一瞬アップとトマリをみた。

 

 ふむ。なるほど。

 

 ……そういうことか。

 

「そのためにも、今回のアザゼル杯は頑張るよ。経験は積んでおかないとね?」

 

「OK。そういうのも大歓迎だ。ただし、今回は俺のチームとして頑張ってくれよ?」

 

 なるほど、俺の弟はいろいろ考えているらしい。

 

 ちゃんと頑張れる弟をもって、俺も幸せもんだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンクスだよフォンフシリーズ。おかげで勘違いしてくれたみたいだよ」

 

「気にしないでくれたまえウッドフィールド。俺としても、兵藤一誠を倒したい敵は多い方がいいからね」

 

「でも、これで必要なデータはとれたよ。それにグッドなものも見れたしね」

 

「はっはっは。どうせ知られても構わない代物だ。陽動もかねて一つぐらい見せた方がいいかと思ってね」

 

「イグザグトリィだよ! 確かに、これはなかなかいい衝撃的事実だよね。こちら側に対する怪しいところなんて気にならないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫炎祭主の磔台(インシネート・アンセム)が二つあるとか、衝撃的にもほどがあるよ!」



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荒事前にほっと一息

 

 フォンフシリーズが動きを見せている中、俺達もまた苦労することが多い。

 

 何故なら、この混沌とした世界情勢で暗躍している禍の団の残党は多いからだ。

 

 なにせ、人間世界は第三次世界大戦及び五の動乱で大きく混沌とした状況になっている。

 

 流石に終戦直後の犯罪発生率十倍上の暗黒時代は過ぎた。それでも犯罪発生率は平均して数倍に向上している。

 

 これは能力者の安易な生産方法や気や魔法などの戦闘技術が大きく広まってしまったことが大きい。

 

 これまで世界がまがいなりにもパワーバランスが整っていたのは、兵器が主力だったからだ。

 

 兵器は金と資材があればいくらでも生産できる。これは裏を返せば、生産する為の金と資材がなければ用意することができないということだ。

 

 それは、必然的に国家の経済力と戦闘能力が比例することを意味している。

 

 個人の戦闘技術が兵器を前提とするものな限り、どれだけ個人が鍛え上げても大きな争いなんて起こせないからだ。

 

 だが、異形技術は違う。

 

 個人の才能や努力で、兵器を超える戦闘能力を生身の人間が保有できる。これがどれほど恐ろしいことか世界は痛感しているだろう。

 

『本日日本時間午前5時にアメリカで起きた無差別通り魔事件ですが、死傷者百人を超える被害を出したうえ、ビルを一つ倒壊させるという大惨事でしたね』

 

『被害もそうですけど、何より酷いのはこれを起こしたのが生身の麻薬中毒者だってことですよ』

 

 アナウンサーの言葉に、解説の識者がコメントを述べる。

 

 その表情は引きつっており、冷や汗すらにじんでいた。

 

『高熱のプラズマ火球を生成して投げつける能力なんて、個人の自由で持っていい能力じゃありません。一発の破壊力がRPGと同程度ですよ? こんな連中が第三世界のキッチンで作れる麻薬で生まれるかもしれないなんて、世界の終わりですよ』

 

『死傷者の内三割は、鎮圧にあたった警察や陸軍の人達だそうですしね。戦車が一両破壊されたとか、最悪でしょう』

 

 ……今でもこんな事件が月に三回ぐらい起きるんだから、世も末だ。

 

 俺はスタバでコーヒーを飲みながら、ため息をついた。

 

『しかも能力者ってのは、能力がすごい奴ほど変な性格の可能性が高いっていうんでしょう? 気の概念を使った兵員育成はどうなっているんですか?』

 

『それも難しいですね。現在育成は進んでいますが、鍛錬や研究で磨かれる気や魔法は、どうしても育成に時間がかかります』

 

『ムラがあるとはいえ、才能があればすぐに強力な力を使えるとか反則でしょう。突然こんな力に目覚めたら、暴走する奴がいてもおかしくないですって』

 

 テレビではそういう議論が巻き起こっている。

 

 まったく、本当に嫌な世の中になったもんだ。

 

「人間世界も大変よね。……異形社会がフィフスをどうにかできなかったのが原因である以上、将来的に相当の支援をする必要はあるのよね」

 

 憂鬱そうにシルシもため息をついた。

 

 ああ、まったくもってその通りだ。

 

 まさにこう言った暴走する連中が出てくることを警戒したがゆえに、異形社会は人間世界に異能を知らしめることを避けていた。

 

 まさに、その嫌な予感が的中してしまったわけだ。

 

 しかも公開したら公開したで更に混乱が生まれるから、即座に存在を公表するのも難しいと来ている。

 

 それを考えると、本当に警戒しないといけないわけなんだが―

 

「とはいえ、必要なことだよな」

 

 俺は、朝食として注文したサンドイッチをぱくつきながらそうぼやく。

 

 ああ、フィフスの奴が大量にばらまいてしまった以上、こちらも公開する他ない。

 

 そうしなければ対応しきれない。そしていらん被害が大量に生まれてしまう。

 

 そしてそれが人類の異形に対する反発感情を招き、紛争を生み出しかねない。

 

 そしてその戦乱で疲弊したところをE×Eに仕掛けられるというオチすら見える。

 

 しかもフォンフの奴、紫炎祭主の磔台を保有している可能性がある。

 

 おそらくはエイエヌが持ってきたものだろうが、しかしなんでランサーに持たせてるのか。

 

 まあ、それはそれとして脅威度が非常に高いので倒すのだが。

 

 とはいえ、とにもかくにもこの異形に対する不快な感情を抑えるための策も必要不可欠だ。

 

 その為、こっちも色々と動く必要がある。

 

 そのうちの一つといて、あるプランも出てきていた。

 

 具体的には「今のうちに異形よりのテロ組織を潰しておいて、それも公表してイメージアップしたらよくね?」的な作戦だ。

 

 幸か不幸か、この混乱に乗じてはぐれ悪魔や禍の団の残党などが犯罪組織やテロ組織に協力して小銭を稼いでいることが発覚した。

 

 このちょうど中間点にいる連中を今のうちに積極的に狩る。そして人類に存在を公表する時に「できるだけ頑張ってケツ拭きました!」とアピールすることで心証を上げるという作戦だ。

 

 無論、俺達も消耗が大きいので中々できることではない。

 

 しかしフォード連盟や時空管理局との交流によりE×Eに対抗するあてができたこともあり、こちらに戦力が少しずつ回されるようになった。

 

 もちろん時空管理局やフォード連盟も同様のことが起きる可能性がある以上避ける戦力はそこまで多くないが、しかしこういう小規模なものなら対応できる。

 

 そして、俺としても魔術師の暴走を防ぐ為にも治安の良化は必須なので、少しは協力しておきたい。

 

 と、言うわけで―

 

「よ、宮白」

 

「待たせたわね、兵夜」

 

 そこに、イッセーと姫様が姿を現す。

 

 そう、今回の作戦には、イッセーと姫様も参加するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団は、大きな被害を受けて散り散りになった。

 

 なにせ、一年足らずででかい勢力はどいつもこいつも頭を失って崩壊するというありさまだ。挙句とオーフィスとリリスにいたってはこちらのマスコットと化している。端的に言って残った勢力の大半が崩壊しているだろう。

 

 アザゼルは本格的な開戦そのものが何年も先になると思っていたが、どこもかしこもアホが多かったというかなんというか。

 

 そして、それによって散り散りになった勢力は元の目的を忘れ犯罪による金稼ぎを行っている。

 

 それを助長するのが、フィフスによってばらまかれた様々な異能技術。

 

 それらのアドバイザーとして禍の団の残党は犯罪組織と根付き、技術提供などを行っている。

 

 ぶっちゃけできる限り潰しておきたい案件でしかない。

 

 それによって犯罪組織の戦闘能力が強化されれば治安はまたどんどん悪化していく。こと国家とかの大組織ではなく小規模のテロ・犯罪組織が増えると、どうしても政府側は対応が後手に回る。

 

 治安維持組織というのは、基本的に発生した事件の解決が仕事。そしてその結果をもって犯罪を抑止することが基本なのだ。ぶっちゃけ所属人数と対応する範囲的に発生を事前に予期して殲滅なんてそう簡単にはできない。

 

 こと異形が人間世界で活動する時が大きいだろう。

 

 少し考えればわかるだろう。人類に比べて圧倒的に少ない異形達が、更に地球より陸地が広大な冥界などに住んだ上で、派遣された者達だけで担当区域を完全にカバーなどできるわけがない。

 

 世界的に優秀といわれる日本の警察ですら困難なのだ。数が足りていない異形達でそんなことができるわけがない。

 

 ゆえに、テロ組織との世界的ゲリラ戦は非常に難易度が高いのだ。少なくとも、そんな戦法を取られたら後手に回るほかない。

 

 ……ゆえに、今のうちに芽を詰んでおきたい。

 

 今はある意味でチャンスなのだ。どこの世界も混乱していて、人間側は異能に対するノウハウも少ない。この時期ならば割と狩りやすい。

 

 その為、禍の団との戦績がいいグレモリー眷属はアドバイザーとして引く手数多だ。

 

 四大魔王様やアザゼル達の意向としては、まだ二十歳になるかならないかの俺達若手を後始末に借り出すことは本意ではないだろうが、俺としては今後のもめ事を避ける為にも協力はしておきたい。

 

 ゆえに、大事になりそうな時は自分から嗅ぎつけて参加することにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで久しぶりに人間界に顔を出して、俺はイッセーと姫様に合流したわけだ。

 

 今回の仕事は、元から日本である程度の犯罪ネットワークを敷いていた連中の排除。

 

 元から五大宗家のはぐれ者や、妖怪と接触があったらしいが、五の動乱の混乱で更に技術を手に入れて少し混乱状態にあるらしい。

 

 それが理由で拠点の多くが把握できたので、この機に殲滅して人間世界に恩を売っておこうってわけだ。

 

 こと日本は治安や被害の観点から言って地位を高くしている。その日本の後ろ盾が得られれば存在を公表する時にも有利のはずだしな。

 

 で、俺たちグレモリー眷属はそのオブザーバーとして参加。仕掛ける施設は発見した施設を同時に始末する予定。俺たちも各施設に分散して事に当たる。

 

 そういうわけで、俺はシルシを連れてイッセー及び姫様と合流したわけだ。

 

 俺達が担当する箇所が一番でかい。しかもそれなりの船を異形技術で戦闘艦に改装している施設らしく、難易度も高い。

 

 ゆえに、グレモリー眷属最強戦力であるイッセーが派遣されたわけだ。そこに、士気向上もかねて姫様が参加し、潜入工作に長けている俺も参加ということになる。

 

 そんなわけで、俺達は作戦前に朝食を食べているわけだが、そこで姫様が口を開いた。

 

「……それにしても、最近貴方人間界に来てないじゃない。普通なら大学に行っている歳でしょうに」

 

「しゃーないでしょう姫様。今はメーデイアと魔術師組合が優先。そのうえでS×Bやアザゼル杯まであるんだから、大学行ってる余裕なんてないですって」

 

 姫様の非難めいた視線に、俺は片手を振って応じる。

 

 いや、俺割と多忙だからね? 大学とか追加は勘弁してほしいからね?

 

 なにもいかないとは言ってない。メーデイアと魔術師組合もあと一年あれば機能は安定する。そのころにはアザゼル杯も終わってインターバルだ。

 

 大学に行くのはその時だ。その頃には少しは落ち着いているだろうし、ゆっくりキャンパスライフを満喫するさ。

 

「できれば悪魔としての業務もこなしてほしいのよ? アザゼルもその為の事務所を用意しようとしてたのに、冥界に篭りっきりなんてもったいないわ」

 

「まあまあリアスさま。夫は色々と業務が多いので、手心を加えてください」

 

 シルシがそうフォローを入れるが、しかし姫様も冗談半分だろう。

 

 いや、何足も草鞋を履いてこその異形社会出身の姫様なら半分ぐらいは本気だろう。だが、無理強いする気はないはずだ。

 

「まあいいじゃんか、リアス。宮白は禍の団との戦いでも忙しかったんだし、当分は冥界の担当ってことで」

 

「イッセーが言うなら仕方ないわね。でも、落ち着いたらちゃんとやるのよ?」

 

「了解、姫様」

 

 うっへー。冥界は仕事が多すぎるなオイ。

 

 まあ、今のうちに下地を気づいておけば後々楽か。

 

 俺の将来の安定の為にも、余裕を持った生活を送るとしますか。

 




割とフィフスの遺した人間社会の悪影響はシャレになってない件。









学園都市式の能力者はその特性上素質が高い≒人格的に癖が強いですので、こういうことにもなるでしょう。それもいきなりとなれば被害密度はさらにでかくなります。


そして、それに目をつけるのが発足一年足らずで壊滅寸前にまでなった禍の団。起死回生というかなんというか、残党が犯罪組織と癒着するのも当然の流れといえます。








そして実は人間世界にはあまり言ってなかった兵夜。このあたりも性格が出てきますね。


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休息は過ぎゆき波乱は生まれ

 

「それで? イッセーはここ最近どうなんだよ」

 

 俺は久しぶりにイッセーとこうしてだべる機会に恵まれたので、近況を聞いてみる。

 

 なにせ、俺は冥界での業務が多いので中々会えない。

 

 イッセーもおっぱいドラゴンが大人気で、あらゆるところにイベントで引っ張りだこだ。

 

 こりゃ、将来的にイッセーが多忙すぎて中々会えなくなるだろうと予測している。

 

 ま、それに関しては仕方がない。

 

 もとよりガキの頃の友達なんてそんなもんだ。社会人になったら直接顔を合わせる機会なんてごっそり減るもんだ。無二の親友が十年周期の同窓会でしか会わなくなるなんてこともある。

 

 それもまた成長だろう。それは仕方がない。

 

 だからこそ、こうしてゆっくりだべる機会は逃すわけにはいかないからな。

 

「ま、俺は大学生活を満喫してるよ。人間相手には全然モテないけど」

 

 トホホといわんばかりのがっくり具合だが、それは仕方がないだろう。

 

「当然だ。一般的な日本人は覗きの常習犯を毛嫌いするもんだからな」

 

「ひでえ!」

 

 心底ショックを受けるイッセーだが、それは自業自得だ。

 

 いい加減それを理解しろ。いや、真面目な話してください。

 

「人間世界との交流が進めば、覗きの常習犯であるお前に対するバッシングは広まる。それが原因で異形と人間との間で紛争が起きたらどうするんだ、ああ?」

 

「そ、そんなことまで警戒しなけりゃいけないのかよ!?」

 

 いや、俺もまさかそこまででかいことが起こるとは思ってないけどな?

 

 それでもデモの一つや二つは起きるだろう。それが原因で武装隊との衝突が起きて死者が出たら目も当てられん。

 

「別にいいじゃない。そりゃぁ褒められたことじゃないかもしれないけど、そこまで警戒すること?」

 

「異形の常識、人間の非常識。異文化交流は慎重に行なった方がいいでしょう、姫様」

 

 姫様がそうやって甘やかすから、イッセーがいつまで経っても性犯罪をやめられないんですよ。

 

 いや、俺も矯正はできなかったけど。

 

 でも、今は状況違うだろう。イッセーお前、女に不自由してないだろう。姫様含めて十人以上にフラグ立ててるじゃねえか。

 

 その気になれば大奥もびっくりの人数嫁にできるだろうに、何でいまだに覗きをやめれないのか。

 

「……お前の覗き癖は人間側から絶対受けが悪いんだから、いい加減矯正しろ。いいな、九大罪王候補様?」

 

 割と本気でそうしてもらいたい。

 

 なにせ、イッセーは次期九大罪王候補なのだ。それも、現四大魔王や神話体系のトップ陣からは最有力候補として認定されている。

 

 つまり、人類との交流に関してはイッセーが矢面に立つ可能性もあるのだ。

 

 そんな奴が性犯罪の常習犯などと知られれば、間違いなく揉める。絶対に揉める。

 

 政治的権力はあくまで魔術師組合の長としてのつもりの俺ならともかく、魔王がそれなのは流石にまずい。

 

 せめて、過去にそういうことを繰り返していたという範囲内で納めてくれないと余計なもめ事を産みかねないのだ。

 

「俺、魔王の後継なんてなれる自信がないんだけどなぁ」

 

 イッセーはそういうが、しかし周りが乗り気なのがまずい。

 

「確かに、お義姉様すらそうしたいと思っていることが厄介だわ。……冥界の民の多くもイッセーが九大罪王の候補だとわかれば大半がもろ手を挙げて歓迎するでしょうし」

 

 姫様も、流石に思うところがあるようだ。少しだけ表情が曇っている。

 

 まったく。異形社会はフリーダムな連中が多すぎる。

 

 人間世界との交流で、それが余計な火種とならないかが非常に不安だ。

 

「まあいいじゃない。どうせ、もめ事が起きないなんてことはないでしょう?」

 

 と、苦笑を浮かべてシルシが話を勧めた。

 

「人間は、いまだ肌の色での差別すら治せてないのよ? いきなり悪魔や妖怪の存在を知らしめられても、先ずは心理的抵抗が先に来るはずだわ」

 

「さらに不安になるだけなんだけど、それ」

 

 イッセーがツッコミを入れるが、しかし冷静に考えるとそれはそうだ。

 

 しかも天使は悪魔や堕天使と和平を結ぶどころか、他の神話体系の神と交流を結んでいる。

 

 一神教としてそれどうよというツッコミが来るだろうし、これ、前途多難すぎるだろう。

 

 E×Eが来る前に最低限の足並みだけは揃えておきたいんだが、大丈夫なのか?

 

 い、いっそのことE×Eが解決してから存在を公表するというプランに変えるのもありな気がしてきた。

 

「別に、悪い意味で言ってるんじゃないわよ、兵藤さん」

 

 しかし、シルシの言うことはどこか違った。

 

「そうじゃなくて、そんな有様なのに繁栄している人間のバイタリティはすごいなって話よ。手放しで褒めれることでもないけれど、ある意味評価できることじゃないかしら?」

 

 ………な、なるほど。

 

 そういう取り方もあるのか。少し意外だった。

 

「私は人間との交流は賛成だわ。人間の技術を利用すれば、私もより強くなれるかもしれないもの」

 

 そういいながら、シルシはストローをくるくる回すと虚空に突き出す。

 

「剣術だって人間が生み出した物でしょ? なかなか舐めたものじゃないじゃない」

 

「確かに、弱いがゆえに人間の発想力は参考になるところがあるわね」

 

 姫様もそういうと、俺とイッセーに視線を送る。

 

「二人とも人間ベースの転生悪魔なんだから、もうちょっと人間のことを評価した方がいいと思うわよ?」

 

「「は、はい!」」

 

 おぉっと。流石の俺も異形側に思考が傾いていたようだ。反省反省。

 

 確かに、人間がすごいからこそ異形技術の流入が危険視されているんだし、もっと人間のことは評価した方がいいな。

 

 ……最も、それが良いことかどうかはまた違うことなんだが、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、作戦はスタートした。

 

 最も、俺達はいざという時の用心棒とアドバイザーであり、仕事をするのは他の者達だ。

 

 今回は日本を仕事場としている三大勢力の者達を中心に動いている。むろん、妖怪や五大宗家からも参加者はいるが、こういう時は陣営を統一した方が足並みが揃うということでメインどころは三大勢力だ。

 

 既に作戦開始から三十分が経過。掃討作戦は順調だ。

 

「来てなんだが、これは俺達必要なかったか?」

 

 いや、奥の手である俺達が仕事しないで済むのはあらゆる意味で良い事なんだが、しかし俺達もスケジュールを苦労して開けてきているわけだ。

 

 イッセーはおっぱいドラゴンのイベントがいくつもあるし、俺もメーデイアの修復作業や警備強化などの労働が多い。ぶっちゃけ多忙だ。

 

 だから、やることがないのに出向くのはそれはそれで嫌な気分になってしまう。

 

「ま、いいじゃねえか。俺達がやることないぐらい順調に進むのなら、それは良いことだろ?」

 

「そうね。彼等だけで解決できるようになったのなら、それは冥界が成長しているということだわ」

 

 イッセーも姫様もそういうが、あんたらはまだキャンパスライフを満喫できるぐらいの余裕があるからいいですよねぇ。

 

 俺は割と忙しい時は忙しいんですよ。特にここ最近はフォンフの所為でさらに忙しいし。

 

 そろそろ一回暁の様子見をする必要があるし、さてどうしたもんか。

 

「まあ、何が起こるかわからないし、そういう意味だと余剰戦力を用意するのは当然なんだが」

 

「俺達もそんな扱いされるようになってきたんだなぁ」

 

 俺のボヤキに、イッセーは感慨深くそういう。

 

 確かに、なんだかんだで俺達はトラブルに巻き込まれて強制的に前線で戦闘することが多かったからなぁ。

 

 こういう、参加するけど最初は待機とかいうパターンはあまりなかった気がする。教会の悪魔祓いとの大規模模擬戦とかぐらいか。これもまた組織の成長か何かかねぇ。

 

 ……ちょっと感慨深いが、将来的にどんどんそうなっていくんだろうな。

 

 なにせ、俺達は冥界でも有数の戦力だ。あくまで若手だったあの頃とは別の意味で温存しておくべき存在だし、こういう仕事はもっと下の連中がすることになるんだろう。

 

 俺はもっとアクティブに動くのが性に合っているが、ここまで偉くなってしまったのなら仕方がないということか。

 

 なら、その練習と考えるべきだろう。今回の作戦では待機という言葉を本格的に覚えるとする―

 

『作戦司令部! 緊急連絡です!!』

 

 その瞬間、緊張感に包まれ悲鳴交じりの声が響いた。

 

「どうした! 何があった?」

 

『襲撃です! 敵が攻めてきました!!』

 

 敵? どういうことだ? 今戦っているだろうに。

 

 疑問符が浮かぶ中、通信機からたくさんの悲鳴が聞こえてくる。

 

『何だこいつは!? 硬い上に早い!!』

 

『何だこいつは、く、来るなっ!?』

 

「どうした!? 敵襲とは何だ、報告しろ!!」

 

 ええい、なんだ? 何があった!?

 

「なんだ? 敵の新兵器か何かか!?」

 

「ちょっと待ちなさい。すぐに見るわ!!」

 

 すぐにでも飛び出そうとするイッセーを制して、シルシが千里眼で様子を確認する。

 

 そして、一瞬だけ呆けた?

 

「どうしたの? 何があったの?」

 

 その肩に姫様が手を置いて、シルシははっと我に返る。

 

 そして、ちらりと視線を向けると、微妙な表情を浮かべた。

 

「デフォルメされた蠍のような物体が、犯罪組織と私達の部隊を同時に襲ってるわ」

 

 ………。

 

「なにそれ」

 

 デフォルメってなんだよデフォルメって。

 

「私だって見ただけなんだからわからないわよ」

 

「まあ、そうだよなぁ」

 

 な、なんかシュールな光景が繰り広げられていることだけは理解できた。

 

 し、しかし一体どういうことだ?

 

 そんな疑問を浮かべかけたが、しかしすぐにイッセーが大声を上げた。

 

「んなこと言ってる場合かよ!? とにかくすぐに助けに行かないと!!」

 

 それもそうだな。流石はイッセーぶれない。

 

 まったく。これはすぐにでも行かないとな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁ!!」

 

 赤龍帝の鎧を展開したイッセーが、サソリ擬きをぶん殴る。

 

 一撃で装甲がひしゃげるが、しかし当たり所がよかったのか、すぐに体勢を整えると腕を振り上げる。

 

 しかし、その腕が振り下ろされるより先に消滅の魔力がひしゃげた装甲から内部を蹂躙した。

 

「イッセーの拳ですら、当たり所次第じゃ耐えるだなんて!」

 

「しかも早い! リアス、気を付けてくれ!!」

 

 イッセーと姫様が背中を合わせながら戦闘を行う中、俺たちもすぐに動く。

 

 確かに、ゴキブリの如く俊敏に動くこの軌道は厄介だ。

 

 しかも屋内だから魔力攻撃はできる限り避けないといけない。これも向こうに好都合。

 

 そのくせ、このデカブツの能力なのかこいつ天井すら移動する。まるで蜘蛛やらトカゲのように垂直に登ったりするのは厄介だ。

 

 しかし、俺()には通用しない。

 

『兵夜さん、右!!』

 

「ああ、お前のおかげで見えている!!」

 

 シルシと融合した俺は、即座に未来視でその軌道を見切る。

 

 そして、堅実にぶちのめす!!

 

 確かに硬いが、しかしセンサー部分などを狙えば一撃でぶち抜ける。

 

 しかもこちらは怪力の神を使用中。力比べでも負ける余地はない。

 

「悪いが、こちらもD×Dのメンバー何でな!」

 

 そういうわけで確実に一体一体倒していく。

 

 しかし、中々に性能が高いな。

 

 量産型の邪龍に匹敵する性能だ。空中戦闘能力がない分、装甲強度と膂力では上か。

 

 しかも、数もそこそこある。

 

 禍の団の残党がこれだけの兵器を大量生産する能力があるとは思えない。とはいえフォンフ達にしてはあっさりと発見されるとも思えない。

 

 まさか、コイツは今回の犯罪組織とは別口か!!

 

「シルシ! こいつらがどこから来てるか確認してくれ!!」

 

『わかったわ! ……これは!』

 

 どうした、何があった?

 

『武装船を係留しているドッグの海面から出てきてるわ! やっぱりこいつらは別口よ!!』

 

 ちぃ! やはり第三勢力か!!

 

「第三勢力? この情勢下でどこの勢力がそんなことを―」

 

 姫様が怪訝な表情を浮かべるが、しかしそんなことをしている場合でもない。

 

 とにかく、今はこいつらを切り抜けるのが先決だろう。さっさとケリをつけないと―

 

『全員、上よ!!』

 

 シルシの声で、俺は我に返る。

 

 そして、俺達全員がすぐに飛び退った。

 

 直後、隕石の墜落を思わせる衝撃が響き渡った。

 



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六天が一人、襲来。

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉおおおお!? な、なんだいきなり!!

 

 シルシさんの声に反応してかわしたけど、これ、直撃してたら大怪我してたぞ!!

 

 まるで隕石の衝突だ。なんて破壊力なんだよ。

 

「……チッ! 外したか」

 

 そして、そのクレーターの中心部に一人の男がいた。

 

 くすんだ金髪の二十代ぐらいの男が、心底残念そうな表情で俺を見ていた。

 

 どう考えてもこいつがさっきの攻撃の犯人だろ。見たことないけど、なんて奴だ!!

 

「……お前! 何者だ!!」

 

 俺は指を突き付けて問いただす。

 

 今回の犯罪組織の関係者にしても、第三勢力の連中にしても、こんなことができる勢力なんて禍の団の可能性がでかい。

 

 ハーデスあたりも怪しいけど、あいつはもっと裏で手をまわしてから動くようなイメージがある。

 

 フォンフ以外の禍の団の残党にも、まだこんな強敵が残っているとは思わなかった。いったい何者だ?

 

 だけど、その男は心底蔑んだ表情を浮かべると鼻で笑う。

 

「……敵に素性をしゃべるわけがないだろう? さすがはカビの生えた異形共の尖兵だ、今時戦場での名乗りとか馬鹿なのか?」

 

 せ、正論だけどマジむかつく!!

 

 くそ、今まではこっちから聞くまでもなく名乗る連中だらけだから、こういうの、なんか新鮮だな!!

 

 だけど、つまりは―

 

「お前、禍の団の連中じゃなさそうだな」

 

 禍の団の連中は、どいつもこいつも割と名乗り上げをしていた。テロリストのくせしてそういうところがあった。

 

 だけど、こいつはなんか違う。

 

 何ていうか、軍人みたいな―

 

「―まあいい。どうせお前はここで死ぬ」

 

 一瞬思考がそれた瞬間、そいつは目の前に現れていた。

 

 早い! 瞬動術とかそういうのじゃなくて、単純に移動速度が速い!!

 

 そして、拳の速度も速い!!

 

 チッ! 何とか受け止められたけど、結構来るな。

 

 生身のサイラオーグさんに匹敵する! これは俺も通常の鎧じゃ苦戦するか!

 

 なら、こっちも本気でいくぜ!!

 

「我は万物と渡り合う龍の豪傑なり!!」

 

 即座に戦車の力を展開させて、殴り掛かる。

 

 だけど、そいつはすぐに身をひるがえすと距離を取った。

 

 いつの間にか手に持っているのはライフル銃。たしか、アルサムさん所の合宿で襲撃を仕掛けてきたやつが持っていたのと同じものだ。

 

 つまり、あいつらは裏でつながっていたということか!!

 

 そして、エドワードンを持っているということは―

 

「―やっぱり禍の団の技術を使ってるのか!?」

 

「そういうことにしておくか!!」

 

 敵は魔力弾を撃ってくるけど、その程度じゃ俺は倒せない。

 

 直ぐに騎士に変化すると、俺は一気に距離を詰めた。

 

「逃がさねえぞ、この野郎!!」

 

「流石に早いか! こんな屑がここまで強いとか世も末だな!!」

 

 素早くかわして反撃の拳を叩き込んでくるけど、あいにく俺もだいぶ修羅場をくぐってるんだよ!!

 

 それに、俺は一人じゃない!!

 

「リアス! 宮白!!」

 

「わかっているわ!!」

 

「任せとけ!!」

 

 俺が伏せると、すぐに消滅の魔力と光魔力の攻撃がその上を通る。

 

 敵はそれを素早くいなすけど、あまりの威力に皮膚が少し焼ける。

 

 そして、その隙をついて一発ケリを叩き込んだ!!

 

 よっしゃ! 有効だいただき!!

 

「……屑が!! 俺に傷をつけるか!!」

 

 すっげえ苛立たし気にその男がぎろりとにらみつける。

 

 こ、この野郎! さっきから人のことを屑とか失礼な!!

 

「そこまで言われるようなことを……」

 

「―俺はやってねえ!!」

 

 全力で、戦車の拳をたたきつける。

 

 あいつはそれを腕でガードしたけど、骨が折れる音が響いた。

 

 よし! これで少しは戦闘能力も低下するはず―

 

「―やって、ない?」

 

 ―殺意。

 

 それも、さっきまでとは比べ物にならないほどの大きな殺意が沸き上がっていた。

 

 これは、目の前の男から放たれてる!!

 

「―自覚もないとは最悪だ。もうてめえは良いから死にやがれ!!」

 

 俺はいったん距離を置こうとするけど、しかし腕をつかまれて引き寄せられる。

 

 ……この野郎! 折れた腕でつかみやがった!?

 

 そして、もう片方の手をあいつは握り締める。

 

 そしてそのまま、強引に顔面にたたきつけられた。

 

 あいつの手の骨も折れる音がするけど、しかし俺の鎧も砕かれた。

 

 なんて力だ。こいつ、本当に強い!!

 

「イッセー!」

 

「くっ! させないわ!!」

 

 宮白とリアスもすぐに反応するけど、それに男は舌打ちする。

 

「……邪魔だ!!」

 

 その声とともに、急に体が重くなった。

 

 なんだ? 全身が、まるで鉛をつけられたみたいに重い!!

 

「くそっ!! なんだこれは!?」

 

「か、体が……潰れるっ!?」

 

 見れば、リアスたちは何とか耐えてるけど、三大勢力も犯罪組織も全員が地面に押し付けられてる。

 

 しかし敵のサソリもどきは動きが制限されてるけど、あまり問題にしてないように動いていた。

 

 まずい! このままだとあの人たちが!!

 

「クソッ!! シルシ、気張るぞ!!」

 

『了解!』

 

 宮白はすぐに判断して、蠍の方の駆除に向かう。

 

「イッセー! 俺が片付けるまでやられるなよ!!」

 

「わかってるよ!!」

 

 確かにこの重力はキツいけど、だけど動けないわけじゃない。

 

 俺だってD×Dのメンバーだ。この程度の修羅場は何度も潜り抜けてきた。

 

 まさか―

 

「この程度で俺を倒せると思ってんじゃねえぞ!!」

 

「ああそうかい!!」

 

 奴はそういうと、しかしにやりと笑った。

 

「なら、これならどうだ?」

 

 その瞬間、そいつは禍々しい色のナイフを取り出した。

 

 ………俺は、一瞬で飛びのいた。

 

 なんだ、あれ。間違いなくやばい。

 

 それも、観た瞬間に寒気が走った。

 

 間違いない、あれは、ヤバい奴だ!!

 

「……ヴァナルガンドの危険性に気が付くか。さすがにできるな」

 

 ヴァナルガンド。なんかどっかで聞いことがあるような気がする。

 

『宮白に使われたフローズヴィトニルと同じ、フェンリルの別称の一つだ』

 

 サンキュー、ドライグ。

 

 つまり、あのナイフはフェンリルに由来がある装備だってことか。

 

 ……そういえば、フィフスはフェンリルの量産型を作ってたな。おそらくそれに由来する装備ってことか。

 

 やっぱりフィフス関係ってことか!!

 

 っていうか折れてた腕がもう治ってる!? いったい何なんだこいつ!!

 

「ちなみにサマエルの毒もある。龍であるお前には効くだろう」

 

 そういいながら、男は拳銃をちらつかせる。

 

 なるほど。そっちの弾丸にサマエルの毒が仕込まれてるってことか。

 

「さあ、どっちを避ける? どちらかは喰らってもらうがな!!」

 

 そう言い放ち、男は俺に攻撃を仕掛ける。

 

 ああ、どっちのヤバイ武器だ。しかも、こいつ結構訓練してるのかなかなかできる。

 

 っていうか、腕の骨が折れているはずなのに、もう平然と動かしてる。神器か何かで再生能力が強化されてるんだろう。見かけ以上にタフな奴ってことだ。

 

 ああ、これは確かにキツイ。一対一で戦ったら苦戦は必須だろう。

 

 だけど―

 

「―待ちなさい」

 

 その後ろに、莫大な魔力の塊が形成される。

 

 ああ、お前なにアホなことしてんの?

 

「私を無視するとは、いい度胸ね!!」

 

 ここには、リアスだっているんだぜ!

 

「……邪魔だ!!」

 

 ナイフで消滅の魔力を切り裂くけど、しかし消滅の魔力は軌道を変えながら襲い掛かる。

 

 迎撃だけではさばき切れないから飛び跳ねるけど、、俺に攻撃を仕掛けている余裕がない。

 

「変態にすり寄るしか能のない雌犬が!! 貴様のような連中が世界を腐らせる!!」

 

「耳が痛いわね。確かに、私はいつもイッセーがいなければ生き残れなかった」

 

 男の罵声を、リアスは否定しない。

 

 そして、受け止めたうえでリアスは真正面から奴を見据える。

 

「だから、そうならないために力をつけてきたわ。私はいつまでも彼におんぶにだっこではいられないもの!!」

 

 その言葉とともに、魔力の塊がどんどん高密度で膨れ上がっている。

 

 そう、リアスも日々成長している。

 

 今まではチャージ中は一切行動できなかった消滅の魔星も、今では攻撃ぐらいはしながらでもできるようになってるんだ!!

 

 そして何より!!

 

「俺のことを忘れてもらっちゃぁ困るぜ!!」

 

 意識がそれてるのをいいことに、俺はこの野郎の顔面に一発喰らわせた。

 

「グッ!? この、屑がぁ!!」

 

「いいのかよ? もう、こっちは準備できてるぜ?」

 

 追いすがる奴を蹴り飛ばし、俺は安全圏まで退避する。

 

 そう、もうすでに時間は完了だ。

 

「……さっきから、人の大切な男を屑屑とうるさいのよ」

 

 あ、割と怒ってたんだねリアス。

 

 俺のために怒ってくれてうれしいけど、怖いのでもっと落ち着いてくれると嬉しいです!!。

 

「貴方が塵屑になり果てなさい!!」

 

 そして、消滅の魔星は発射される。

 

 移動速度はやっぱり低いままだけど、その吸引力はその男を明確に引き寄せる。

 

「ぬ、ぐ、ぐぉおおおおお!!!」

 

 ああ、お前はかなり強かったよ。たぶんグレンデルとかともまともに渡り合えるぐらい強かった。

 

 だけど、そのグレンデルすら倒したこの一撃は防げない!!

 

「クソクソクソクソクソクソがぁ!! 俺が、こんな屑どもに……負けるなんて認められるかぁ!!」

 

 奴は、全身を闘気で覆って消滅の魔聖を防ごうとするけど、しかしそれも限界がある。

 

 これなら勝てる。まず間違いなく。

 

 なのに、なんでだ?

 

「認められるか納得できるか!! この俺が、屑とそれに言い寄る売女なんぞにぃいいいいいいいいい!!」

 

 ……こいつが、まだ持ちこたえていることが恐ろしい。

 

「何者なの、あの男」

 

 リアスも気圧されているのか、思わず一歩後ずさっていた。

 

 ああ、さっきは戦闘能力からグレンデルを引き合いに出したけど、だけどグレンデルとは何かが違う。

 

 あれは、もっとこう悍ましい執念を感じる。

 

 だけど、闘気の防御も追いつかなくなり、すでに魔星は皮膚を削っている。

 

 そう、勝てるはずなのに―

 

「貴様らはいつだってそうだ。まともな連中を苦しめ、踏みにじっているくせにのうのうと幸せそうに過ごしてやがる。そんな資格のない屑だというのにのうのうと!!」

 

 全身削られながら、しかし奴の目は屈していない。

 

 今からでも逆転できるのならすぐにでも逆転してやる。そういう執念の炎が燃え盛っていた。

 

 あの執念。あれはまるで―

 

「だから俺は、屑共(お前ら)を―」

 

 あの時の―

 

「―目につく奴からかたっぱしに蹂躙してやるって決めてんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ―フィフスのような眼をしてるんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、だったら独断専行はやめようねー」

 

 そして次の瞬間、魔星が切り裂かれた。

 

「なっ!?」

 

 魔星を切り裂いたのは、フルフェイスヘルメットをかぶったアーミールックの女性だった。

 

 マジかよ! ここにきてめちゃくちゃ強い増援!?

 

「……タイム。なぜここに?」

 

「隊長から「奴は暴走しやすいから目を光らせておけ」といわれて来てみればー……。神器もなしに赤龍帝と滅殺姫の二人は無理だってー」

 

 そういいながら、その女性は野太刀の切っ先を突き付けながら、男を抱え上げる。

 

「ほら、帰るよアンドレイー。ジグネズの試験は終わったでしょー?」

 

「……できれば、ここで奴らを殺しておきたかったんだがな」

 

 悔しそうにアンドレイと呼ばれた男が言葉を漏らすけど、タイムと呼ばれた人は肩をすくめた。

 

「無理だよー。私達じゃあ、兵器がなければ化け物とは戦えないよー。隊長じゃあるまいしー」

 

 隊長? その隊長ってのはこいつらより強いのかよ。

 

 だったらなおさら逃がせられない。この場で捕まえないと!!

 

「逃がすと思ってんのか!!」

 

「まったくね。あなたたち、いったい何者!?」

 

 俺とリアスは追いかけようとするが、それより早くタイムは手に持っていた剣を一閃する。

 

 ―瞬間、俺とリアスはとっさに防御した。

 

 直後、防御した部分に衝撃が走る。

 

 なんだこれ? 斬撃が、とんだ!?

 

 しかも飛んできた斬撃には聖なるオーラがこもっている。

 

 ……いま、気が付いた。

 

 あの剣、むちゃくちゃ強力な聖剣だ!!

 

「やめときなよー。ここでこれ以上やり合うっていうのならー―最低でもどっちかの首はもらってくよー?」

 

 その言葉はどこか気が抜けているけど、真剣な響きがあった。

 

 間違いない。ここで俺たちが追いすがろうとすれば、あの女は相打ち覚悟で俺たちの首を刎ねる。

 

 くそ、ここで逃がすしかないってのかよ!!

 

「イッセー、姫様!!」

 

 そこに、宮白が姿を現す。

 

 さっきのジグネズとか言うのは全滅できたってことか! さすが宮白、やるじゃねえか!!

 

 さ、三対二なら何とかなるか!?

 

 そう思ったその瞬間、タイムと呼ばれた人が一瞬だけ動きを止める。

 

「……ぃ……ぅ」

 

 ……その時の気配に、俺とリアスはもちろん、宮白とアンドレイも一瞬だけ硬直した。

 

 まるで、何年間も煮詰められたかのような憎しみと、ちょっとだけの悲しさがにじんだその声は、この人もいろんなものを背負っているんだと理解できた。

 

 いったい、彼らは何者なんだ?

 

 そんなことを一瞬考えるけど、それより早くタイムは首を振った。

 

「悪いけどぉ、もう逃げさせてもらうねー」

 

「させると思うか!!」

 

 宮白はすぐにでも止めようとするけど、それより早く声が響いた。

 

『兵夜さん! 海から砲撃八つ!! 直撃したらこの辺一帯吹き飛ぶわよ!!』

 

 なんだって!?

 

 まずい、ここには戦闘不能になっている人たちが何人もいる。

 

 防がないと何十人も死んじまう!!

 

「リアス、宮白!!」

 

「わかってるわ!!」

 

「クソッ!!」

 

 とっさに俺たちは砲撃を防ぐ。

 

 なんだこの威力。下手したらタンニーンのオッサンのブレスに匹敵するぞ!!

 

 こんなもんが連射で来られたら、この施設が一瞬で消滅する。

 

 幸い、人里離れた場所にあるから市民の被害はない。だけど、ここにいる人たちはほとんどが動けないから巻き込まれる。

 

 俺達は全力でそれを防ぐが。だけど防ぐので手いっぱいだ。

 

 ……そして、砲撃が止む頃にはアンドレイもタイムも姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、俺たちが冥界でハーデスとともに戦うことになる、神すら殺しうる()()たちとの、本格的な戦闘の一回目だった。

 

 この時は、俺はまだ何もわかっちゃいなかったんだ。

 

 俺は、今でも人間世界では嫌われ者なんだってことの、本当の意味を―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちはわかるけど、交戦許可のない戦闘は厳禁よ、アーバレスト少尉」

 

「悪かったな百目鬼三尉。俺は軍学校出身じゃないからそんなことわからねえんだよ」

 

「まーまー。これに懲りたら少しは抑えてねー」

 

「了解よ、タイム准尉。それで? アイツはあたしとアンタの部隊で確実につぶすってことになってたのに先走ったんだもの。次に機会があったら譲りなさい」

 

「チッ。仕方がない」

 

「まあ、こっちも六天魔装がないのに勝てるとは思ってないけどね。禁手だけじゃ流石に神滅具はキツイし、あのふざけた殺意しか生まない技はさすがに………ね」

 

「弥生ちゃんでも無理なのー? 乳技は無効化して見せるって言ってたじゃんかー」

 

「タイム准尉には悪いけど、最後のあれがまずいわ。あれを冥界全土の力でやられたら、六天魔軍の誰もかなわない。……トライディーかツーワンシックス数隻が必要ね」

 

「そして、あれは個人を相手にする奴は兵器じゃないしな。……チッ! あの屑め、どこまでも厄介な」

 

「できればマジで殺したいわね。……このままいけば殺し合いには持ち込めるし、あたしたちが担当だから別に問題ないけど。ツーワンシックスぐらいは貸してもらいたいわ」

 

「あははー。まあ、止めないけどねー。それに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイエヌの平行存在がお熱の相手ってだけで、こっちも結構イラつくからさー。………いろんな意味ですごく複雑だけどー」

 

「「………がんばれ」」

 




イッセーはアンチがどうしても生まれかねないキャラ設計。

昔はこういうの基本だったんですけどねぇ。これも時代か……。




ちなみに増援の正体は結構わかりやすいかと。それで今回の武装の出どころも理解できるはずです。


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雷・鎚・降・臨

 

 まったく。先日はひどい目にあった。

 

 フォンフの関係者と思われる謎の勢力による襲撃は、いまだ世界が禍の団の脅威に晒されているということに他ならない。

 

 禍の団の主要派閥は壊滅し、そしてその影響で散り散りになっているが、それゆえに世界中に分散して問題を起こしている。

 

 異形社会はまさに正真正銘の対テロ戦争時代。これまで以上にはるかに事件が頻発することだろう。

 

 なまじ集まって巨大な勢力として戦争を挑んでいたころの方がある意味で楽だったろう。これからは負けることはまずないだろうが、犠牲者が細く長く頻発することになるはずだ。

 

 あげく、E×Eの尖兵となる可能性も否定できない。クリフォトの行動の真逆だが、しかしこの状況下では充分にあり得る。

 

 ゆえに、俺たちは倒せるうちに倒しておかないといけないのだが……。

 

「まさか、今更教会で騒ぎが起きるとはな」

 

 はあ、とため息をついた俺は悪くない。

 

 教会でのクーデターはエルトリアの暴走で大きな被害と引き換えに未然に防がれた。

 

 そしてその火種も、大規模演習によって大幅にガス抜きができた。

 

 しかし、俺はうっかりしていた。

 

 ……別に、教会の人は悪魔祓いだけじゃないよね!!

 

 普通の神父とかシスターとか事務員とか、そう言った教会の非戦闘員の不満の方のガス抜きを忘れていた。そして誰が手引きしたのか一斉に集まって数万人単位で引きこもり。

 

 ……運悪く、俺はその時ちょうど別件でその近くに来ていたのだ。

 

 対テロ組織D×Dの出身であることから、俺に協力してほしいという使者が来てしまった。ぶっちゃけ一瞬断りたいと思ったが、そうもいかない。

 

「……で? どうするよグランソード」

 

「どうしようもねえだろ大将。俺たちこういうのはやったことねえだろ?」

 

 俺は、連れてきたグランソードとうなづき合うとため息をついた。

 

 なぜグランソードがいるかというと、極めて単純。

 

 今回、俺がここに来たのはグランソードを使うためだ。

 

 三大勢力の交流を進めるために、教会に関係する場所で、悪魔があえて動くことで心象緩和を狙ったのだ。

 

 いかにガス抜きを行ったとはいえ、これまで殺し合ってきた者たちの関係なのだ。そういういがみ合いを阻止するためにも、下の連中も交流するのがいいに決まっているのはわかっていた。

 

 と、言うわけで罪人集団でもあるグランソードの舎弟たちに教会の雑務を行わせることで、教会の人間の悪魔に対する心象を緩和させようとしたのだ。

 

 グランソードの舎弟はこの場合適任だ。もともと罪人だから、教会の連中が暴走しかねない少し危険な場所でも一般市民よりは送っても心が痛まない。さらに人格はグランソードの舎弟名だけあって多くが個人的には善良なので慣れれば受けいられやすい。挙句武闘派なのでもし襲われても自力で切り抜けやすい。

 

 そして冥界側もグランソード一派の罪状緩和政策は積極的に行いたいらしい。正統ベルゼブブ末裔たるグランソードには、将来的にそこそこの地位についてもらいたいようだ。どうも九大罪王の準候補とのこと。

 

 まあ、グランソード本人が要職に就くことを固辞しているからあくまでほかの候補がダメだった時の保険程度ではあるがな。少なくともアルサムの方が優先順位は上だ。

 

 しかしまあ、グランソード本人はいいやつだ。そして能力も優秀だ。ならそこそこいい立場いいた方がいいだろう。それに関しては俺も同意見ではある。

 

 ま、そういうわけで俺はグランソードを売り込むべく教会の施設に営業に来ていたわけだが……。

 

「まさか教会の連中の爆発が今更起きるとはな。大将も流石に予想できなかったか」

 

「情けないことにな。悪魔祓いのガス抜きでもう終わったもんだと思っていたところはある」

 

 うかつだった。悪魔祓いだけ何とかしてもそれは不満の封じ込めにしかならないだろうに。

 

 戦闘能力がないなら、クーデターは起こさないと思い込んでいた!! 迂闊だった!!

 

 だが、実際戦闘能力がない以上勝算がないだろうに。加えていえば時期を大いに逃している。どう考えてもこれは成功しないだろう。

 

 それともフォンフに唆されたか? エイエヌの技術すら取り込んでいるあいつなら、|死肉より創造されよ我が従僕《アナイアレイション・メーカー・フランケンシュタン》の応用で戦闘技術を付加するとかやってのけそうで怖いんだが。

 

 いや、エイエヌはくたばったわけだし、さすがにそれはない……と言い切れないのが怖い。いや、レイヴンはこっちが確保してるんだし可能性は低めで見積もってもいいだろう。

 

「大将? あんた考えすぎて煮詰まってねえか?」

 

「あ、悪いグランソード。我に返れた」

 

 ふう。ちょっと考えすぎたな。

 

 とにかく。今考えるべきことはこの現状でどうにかできる手段があるかどうかだ。

 

 今更巻き返しができないことを理解できていない連中なら、今更恐れることはない。少なくとも返り討ちにできることは確実だ。

 

 問題は、巻き返しができる方法を向こうが持っている場合だ。これは厄介だ。

 

 もしそうだとするならば、対テロ戦争どころか再び大戦争が起きる可能性がある。それはできれば避けたい。

 

 それをどうにかするためにも、なんとしても安全に事を運びたいところだ。

 

「……それで、立てこもっている連中は何か要求をしているか?」

 

「いえ。それが立てこもった上で不可侵を要求しているだけです。それ以外に要求は起こしておりません」

 

 妙だな。そんな要求をしても、どうしようもないだろうに。

 

 不可侵をするにしても、建物の内部で行っても意味がないことはわかるだろう。ライフラインの確保などができない以上、迂遠は自殺にしかならない。

 

 まあ、今更和平の撤回などを要求しても呑めるわけがないんだが。それを要求しないだけ馬鹿ではないということか。

 

 だが、それならこんな要求をするわけもない。

 

 ……これは、少し行動した方がいいな。

 

「……現地担当官。これはやはり―」

 

「―わかっています。おそらくこれは時間稼ぎでしょう」

 

 ああ、そうとしか考えられない。

 

 もしかしての可能性もあるが、これはおそらく時間稼ぎだ。

 

 何か他の行動を同時進行でおこなっているのだろう。それが陽動なのか不意打ちなのかはわからないが、何か考えている。

 

「グランソード。奴らは人質を取っているわけじゃない。……強行突入の準備をするぞ」

 

「OK大将。それぐらい荒っぽい方がこっちもやりやすいぜ」

 

 悪いが、こちらもいろいろ忙しいので時間をかけているわけにはいかない。

 

 ゆえに、多少の流血は覚悟のうえで早期決着を―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、建物は極光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―なんだと!?」

 

 それを叫んだのは、俺かグランソードかはたまた別の誰かか。

 

 正し一つだけ言えるのは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、地図から巨大な建物が一つだけ完全消滅したということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……新兵器か何かか? どうやら教会も面白いものを作っているようだな」

 

「なんでいんだよヴァーリ」

 

 ツッコミありがとうグランソード。

 

 ああ、俺もまさかお前がいるとは思わなかったぞヴァーリ。

 

「いやなに。主神オーディンの養子という立場がどこまで通用するか暇つぶしに試してみれば、教会の非戦闘員が立てこもりを起こしたというじゃないか。強行突入に対抗する手段の一つぐらい用意しているだろうと思って、こうして様子を見ていたのさ」

 

 何食わぬ顔でヴァーリはそう言い切るが、しかしまあこいつも暇人なもんだ。

 

 一応魔王直系の数少ない生き残りという自覚はあるんだろうか。しかも白龍皇だというのに。止めに元テロリスト。

 

 そんなのがフリーダムにウロチョロされると、される側は落ち着かないというか心臓に悪いんだが。

 

 ……まあ、養父二人もフリーダムだから移ったんだろう。さすがに全部こいつが悪いということにはできまい。

 

 それに俺も魔王の末裔を連れてきているからな。グランソードが近くにいる以上文句が言えん。なにせ三つ中ふたつが当てはまってるからな。しかもどっちもシャレにならんぐらい強い。

 

 まあ、それはそれとして都合がいいということでいいだろう。

 

「……様子を見に行くぞ、付き合え」

 

 あの様子では生存者は絶望的というかいると考える方がどうかしてるが、できる限り早いうちに情報を入手しておきたい。

 

 幸い放射能は確認されてないからな。このメンツなら様子見はできるだろう。

 

「躊躇なく俺を労働に使うな、君は」

 

「そりゃ俺たち元テロリストだしよ。こういう時にポイント稼いどかねえと駄目だろ」

 

 グランソード説得ありがとう。

 

 うん。単純に戦力として考えると、ヴァーリがこの場にいる奴では最強なのは間違いないんだ。

 

 で、あるならば。連れてこれるのなら連れて行きたい。

 

 もしこれが、爆発ではなく能力によるものだとするならば危険だ。これを為せる連中が近くにいる可能性がある。

 

「運が良ければ手練れと戦えるぞ? その時は最初の内は一騎打ちさせてやる」

 

「なるほど。それは面白い」

 

 よし、これで説得は完了だ。

 

「……現場の連中はその場で待機! 様子は俺たちが身に行ってくる!」

 

「おお、魔王ルシファーの末裔と魔王ベルゼブブの末裔が行ってくれるのか」

 

「信徒としては微妙だが、しかしこれなら安心はできるぞ!!」

 

 対応に当たっていた信徒たちからも反対の声は出ない。

 

 まあ、俺たちはあのフィフスを打ち倒した英雄だ。ことヴァーリと俺はとどめを刺した四人の戦士の1人。其れなりに評価もあるだろう。

 

 そんなことを考えながら、クレーターと化した建物跡地へと踏み入っていく。

 

 綺麗にすり鉢状になっているうえに、表面がガラスみたいになっている。

 

 高熱で溶けたようなものか。どうやらあれは炎のようなものらしい。

 

「二人とも、どう思う?」

 

「これが個人の能力だというなら龍王クラスはありそうだ。楽しめそうで何よりだな」

 

「確かにな。これだけのことができる連中は、最上級クラスに手が届いてやがる」

 

 だよなぁ。とはいえ一体何をしたらそんなことができるのやら。

 

 などと考えながら、俺は土煙や湯気やら何やらで見えにくくなっていた中心部に視界を向ける。

 

 ………そこに、一つのメイスをもった男がいた。

 

「来たな、ヴァーリ・ルシファー……っ!!」

 

 ヴァーリに対して憎悪の視線を向ける、一人の小柄な男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったくもって情けない話だが、俺たちはこの時点ではおろか事が起こるその時まで甘く見ていた。

 

 エイエヌの遺した爪痕は、思った以上に根深かったことを。

 



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雷鎚と白龍

 

 その男は小柄だと俺は言った。

 

 だが、少年だとは言っていない。

 

 割と髭が濃いので、成人を超えていることはわかる。しかし高齢ではなさそうだ。

 

 とはいえ異形なら年齢と若さが全く比例していないことも珍しくも何ともないのでそこのところは断言できない。

 

 なによりも、その雰囲気が子供という表現を捨て去るほかない。

 

 まるでこの世の地獄を何度も見てきたかのようなその目は、むしろどんよりとした老人のようなものを感じさせる。

 

 ………断言できる。こいつは、修羅場を何度もくぐったやつだ。

 

 自然体に見えるが、しかし隙が無い。

 

 俺達が戦闘行動に移ったその瞬間に、奴は俺たちに攻撃を加えられるだろう。

 

 そんな絶妙な力加減を、奴は常態で維持している。

 

「……これをしたのは、お前か?」

 

 俺は、わかりきっている質問をあえて尋ねる。

 

 馬鹿馬鹿しい質問だといわれてもおかしくない。

 

 これだけの破壊のなか、無傷で平然と立っている男。

 

 そんなもの、十中八九どころか百中九十九ぐらいで確定だろう。

 

 だが、念のために聞いておかなければならない。

 

 これで実は違いましただといろいろ問題になりそうだ。

 

 そして、その返答は気配で来た。

 

 ……明確な戦意だった。

 

「行くぞ、ヴァーリ・ルシファー!!」

 

 その男はメイスを構えると、速攻でヴァーリの懐へと飛び込んだ。

 

 そして何の躊躇も遠慮もなく一気に振るう。

 

 できる! 速度もタイミングも動きのブレのなさもすべてが高水準だ。

 

 ゆえに、完膚なきまでに顔面にメイスが激突した。

 

 顔面にぶつかったとは思えないような轟音が鳴り響く。

 

 俺とグランソードは、それを冷静に見ていた。

 

「なあ、これが名無しってことあり得るのか?」

 

「見た感じ人間っぽいな。転生者って可能性も考えた方がいいんじゃねえか?」

 

 俺の疑問にはグランソードも同感らしい。

 

 うん、前回の犯罪組織壊滅作戦で出てきた奴もそうだが、なんか最近無銘なのに強い連中が結構出てきてるよな。

 

 いまだにアイツの素性がつかめないんだよ。これ、一体どういうことだ?

 

 などと考えながら俺はヴァーリに視線を向ける。

 

「……で? 楽しめそうか?」

 

「ああ、暇つぶしにはちょうどよさそうだ」

 

 すでに、ヴァーリは白龍皇の鎧を展開し終えていた。

 

 流石に、これで殺せるなら俺がヴァーリを殺している。

 

 真正面から怪しさ満々の奴が、瞬動もなしにこいつを不意打ちできると考えない方がいい。

 

 ゆえに普通のメイスの一撃などこいつには効くわけが―

 

「唸りを上げろ、ノイエミョルニール」

 

 その瞬間、俺はグランソードにラリアットを喰らわされていた。

 

 厳密には首に負担がかかるような抱きかかえられ方で移動させられたのだが、神格による防御準備は万端だったが偽聖剣は発動してなかったので首がGで激痛だ。

 

「なにを―」

 

「大将伏せろ!!」

 

 その瞬間、さっきと同レベルのプラズマが放出された。

 

 ……プラズマと電気は結構似ているものだ。

 

 そう、ゆえにミョルニル何て名前を付けられているあのメイスがそんな芸当をおこなえるのは驚くほどではないのだが―

 

「あの出力、イッセーがミョルニルを使った時と同等だと!?」

 

 っていうか凌いでないか!? 一撃で神クラスすらKOできるレベルだぞ!! それ凌ぐとかどういうことだ!!

 

「……奴もエイエヌ関係か!!」

 

 そうとしか考えられない。っていうか、これヴァーリ死んだんじゃないか?

 

 いや、個人的には死んでもそこまで心が痛むような奴じゃないんだが、しかし死なれるとルシファーの血統が絶えるという、冥界的にかなりショッキングなニュースが流れることに―

 

「―安心してもらおうか、宮白兵夜」

 

 だが、ヴァーリは耐えていた。

 

 あれは、極覇龍!!

 

「言っておくが、まだ一対一をさせてもらうからな? 白銀の天龍相手にどこまで戦えるか、見せてもらおうか?」

 

 そう兜のしたで微笑んでいるであろうヴァーリは、無言のままのメイス使いに殴り掛かった。

 

 そして次の瞬間、その小柄な男は歯を食いしばってそれを受けきる。

 

 もろに顔面に叩き込まれるが、しかしそれを耐えきった。

 

「……な…めるな屑が!!」

 

 そして、そのまま腕をつかむと上空に分投げる。

 

「これはいい! 少なくともプルートよりは楽しめそうだ!!」

 

 心底楽しそうにヴァーリは吠えると、其のまま真下に魔力弾をぶちかます。

 

 全部かなりの密度を持っている大火力だ。一発一発が並の上級悪魔ではフルチャージしても一蹴される程度の火力を込められている。

 

 ……これが、史上最強の白龍皇。

 

 現在。過去。未来。それらすべてにおいて最強になるといわれし白龍皇。

 

 正当たるルシファーの末裔。明けの明星を継ぐもの。

 

 これが、明星の白龍皇か!!

 

 しかし、その次の瞬間にその驚愕はそれに匹敵する驚愕によって塗りつぶされる。

 

「舐めるなぁ!!」

 

 メイスを構えたその男は、まるで多砲身機関砲のように荷電粒子砲をぶっ放した。

 

 その弾幕は、極覇龍の魔力砲撃すら相殺する。

 

 さらに撃ちまくりながら男は移動し、ヴァーリもそれに合わせて移動する。

 

 ……はっきり言おう。俺の目の前で神話の闘争が繰り広げられている。

 

 神々の中でもマイナークラスではこの戦闘に割って入っただけで余波により死亡するだろう。

 

「グランソード。勝てるか?」

 

「大将、俺はまだ魔王クラスには到達してないぜ?」

 

 だよなぁ。

 

 ああ、ヴァーリが強大な存在なのは知っていたが、まさかここまでとは。ちょっとシャレになってないぞ。

 

 こんなもん、個人戦になったら俺のチームじゃ誰もかなわない。

 

 間違いなくこの時点で戦闘能力なら主神クラス。しかも戦闘継続時間が格段に上昇している。

 

 対城宝具の真名開放にも匹敵する能力を、こうも長時間発動し続けるとかどっちも化け物か!!

 

「……死ぬがいい、北欧の飼い犬!!」

 

 その言葉とともに、小柄な男がメイスを振るう。

 

 そして、その言葉とともに地面がめくれ上がった。

 

 いや、厳密に言えば地面から大量の砂鉄が引きはがされて集まっていく。

 

 それは雷撃による光熱で溶解し、さらに魔法によって弾丸として固体化。

 

 そしてそれを電磁投射砲としてぶっ放した。

 

 ちなみに、放たれたのは直径一メートルはあるであろうスーパーサイズ。

 

 ……地形変わるぞ。なんでオカルトの極致でSF兵器ぶちかましてるんだ。

 

「面白いが、それではな」

 

 次の瞬間、ヴァーリもまた本気を出した。

 

 悪魔の翼が展開され、それを全力で受け止める。

 

 そして衝撃波が俺たちにたたきつけられ、俺は割と痛かった。

 

 そして、受け止め切ったヴァーリは残骸を投げつける。

 

 普通に音速を超過してぶっ放された鋼鉄の塊を、これまた小柄な男は即座にメイスで跳ね飛ばす。

 

 ……俺の方に。

 

「あぶねえな」

 

 グランソードが割って入り、右手で止める。

 

 グランソードの学園都市式の能力は右掌で止めた物体を問答無用で止めるというもの。

 

 この能力の前に、移動速度によって攻撃を行うものは何の意味も持たない。平行世界とは言え赤龍帝兵藤一誠の砲撃すら受け止めた力なのだから。

 

「チッ! フォンフの奴が言っていた通りか!!」

 

 そいつはそう吐き捨てると、しかし一瞬動きを止める。

 

「……残念だが、時間稼ぎは終了だ。これでもうお前たちは探せない」

 

 探せない?

 

 何をだ?

 

 疑問に思う俺たちだが、しかし誰一人としてそれを問いただす者はいなかった。

 

 いや、これは語弊がある。

 

 問いただす暇はなかったというのが正しい。

 

 一瞬だけ、一瞬だけ影が差した。

 

 その瞬間、男は飛び乗りワイヤーをつかむ。

 

「……できれば殺したかったが、それはまた後の機会だ!!」

 

 そして、その後に音が響いた。

 

「……航空機だと!?」

 

 そのまま高速で離脱する小柄な男に、俺たちは即座に砲撃を放とうとする。

 

 だが、その航空機は一瞬で大量のミサイルを展開すると、一斉に爆発させた。

 

 ……これは、もうどうしようもないな。

 

 あまり派手に動けば、それこそ人類に俺たちの存在が知れ渡る。

 

 いや、知れ渡っても別にいいが、しかしタイミングを計っている段階でこれはまずい。

 

 まだ混乱を全部抜けたわけではない以上、できれば人類に存在を公表するのは待っておきたいんだ。

 

 ……しかし、まさか高速飛行可能な航空機に引っ張られてもらって脱出するとはとんでもない方法を取ったもんだ。

 

 これじゃあ転移魔法などの残滓で場所を索敵するのも困難だ。そして奴との戦闘で時間を稼がれて、さらにこっちはこっちで逃げられたようなもんだ。

 

 最初から、残滓を感知させられないようにするための時間稼ぎか。

 

 ……なるほど、つまり―

 

「―どうやら、フォンフは再びこの世界に禍の団を作り上げることも考えているようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるところで、総理大臣と大統領の2人が密談を交わしていた。

 

 別件での会合に合わせての会話であるがゆえに、異形たちは一切それを想定していなかった。

 

「……と、今頃思っていることだろう、総理」

 

「でしょうな、大統領。フォンフたちの存在は割と何でもありなので、におわせるだけでフォンフが主軸だと勘違いしてくれる」

 

「我々にフォンフとのつながりがあるのは事実だが、しかしもうすでにお互いに停戦条約を結んでいるようなものだからね。あとはお互い示し合わせて、共通の敵に仕掛けるだけだよ」

 

「メーデイアの件で完全に勘違いしているようですからね。これならどうとでもできるでしょう。……それで、匿った信徒たちに事情は説明しましたか?」

 

「ああ。さすがにまだ信じているものはほとんどいないが、オリュンポスに三大勢力が伝えた情報があるからな。信じるのは時間の問題だろう」

 

「まあ、中には枢機卿候補クラスのものもいたようですからな。彼らクラスなら熾天使ミカエルと会ったこともあるでしょうし、彼らから順に信じるでしょう」

 

「そして、その事実を知った衝撃を怒りの方向に誘導すれば―」

 

「頭数は増えますな。あとはウッドフィールド博士達の提唱した学習装置(テスタメント)さえ完成されれば―」

 

「―技術や知識、経験をある程度なら習得可能とのことだ。技術大国日本の意地を見せてもらうよ?」

 

「世界超大国のアメリカの技術力あってのことですよ。しかし臨床試験がまだなのですが、大丈夫ですか?」

 

「だからこそ、異能の知識をもつ彼ら信徒たちが必要なのだよ。そして、彼らは信仰を裏切られた怒りをぶつけたいだろうが、非戦闘員の研究者である彼等では戦闘能力の技量を手にすることができない。暴走して自らの体で実験する者がいるかもしれないな」

 

「それは残酷な話ですな。我々も暴走しないように監視する必要がありますが、しかし手が足りずに手を染めてしまうものも多いかもしれません」

 

「それは仕方がない。ならば我々にできることは、その犠牲を基に二度とそんな失敗を起こさないことだけでしょう。そして、それらすべてが明るみに出れば我々の失職は免れない」

 

「そうだ。だが、それでもやらねばならないことはある」

 

「……あの第三次世界大戦で、どこの国も目が覚めたでしょう。……我々はいがみ合っている場合ではない。パイの取り合いをすることは必要ですが、それは人類が真の意味で自立してこそです」

 

「その通りだ。もっとも技術を総取りするべきは我らがアメリカだが、あいつ等にもおこぼれなどというようなちゃちな量しか与えないなんて意地はない。そんなことでは人類は自立できない」

 

 2人の表情には、死すら覚悟する者たち特有の決意があった。

 

 奇しくも、彼らは政治家として第三次世界大戦及び五の動乱により成長していた。

 

 すなわち、人間の政治家として人間が正しい意味で自治をなすこと。その方法として異形たちに対抗することができるようになること。

 

 むろん、そのうえで国力を増大させることはきちんと考えている。できれば利益という名のパイを多く取り分けたいという欲もある。

 

 落としどころとなる次善(ベター)は見えており、そして狙っておきたい最高(ベスト)もまた見えている。

 

 彼らは成長しているのだ。

 

 そして、それゆえに彼らは異形たちと対立することをいとわない。

 

 何より、それゆえにその栄光を投げ捨てるような真似をしてでも行うべきことを行うための清濁併せ呑む覚悟を手にしてしまった。

 

 その決戦の日は、間違いなく近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……同時期に同様の事件がいくつも出ていただと?」

 

 事態終了後、俺たちは一息入れながらその情報を耳にする。

 

「はい。非戦闘員による立てこもり事件が発生。その後手段や状況は異なりますが、全員が姿を消すということだけは共通している事態が、今日この日に同時に何十件も起きております」

 

 その情報をうけとったその神父は、冷や汗を流しながらそう告げる。

 

「……そんで? ハーデスのジジイが動いた可能性はあるか?」

 

「あいまいです。一応のアリバイはあるのですが、しかし偽造が不可能かといわれるとそうでないレベルです」

 

 グランソードの質問に、神父はそう答える。

 

 ハーデスのジジイがかかわっている可能性は十分にあったが、しかし今回に関しては直接の関与はしてなさそうだな。

 

 アリバイが完璧でないところが逆に安心できる。あのジジイならこの速攻で疑いの余地が出るような工作はしないだろう。

 

 ゆえに逆に安牌。協力者が動いている可能性はあるが、死神勢力が直接動いた可能性はないな。

 

「逃亡した奴の足取りは?」

 

「それも困難です。すでに航空機の残骸が発見されていますが、転移の痕跡も追跡困難なほどにしか残っていませんでした」

 

 再戦したくてたまらないヴァーリが聞いてくるが、これに関してもそうはいかなかった。

 

 なるほど、あれは逃げるためではなく逃げる時間を稼ぐための手段か。

 

「あれだけの航空機が接近していたのに、この国の連中は気づかなかったのか?」

 

「はい。どうやら電子戦を仕掛けていたらしく、多少の混乱があるようです」

 

 ……やはりフォンフか。

 

 学園都市技術を多数確保しているフォンフでなければできないだろう。

 

 奴自身フォンフとのかかわりを白状している。おそらくフォンフに縁のある連中なんだろう。

 

 さらに、大量の反時空管理局組織に大量の技術を提供しているフォンフなら、その見返りとして相当の資金提供を受けているはず。

 

 この国の連中も大変だな。あとで菓子折りでも送っておくとしようか。

 

「しかし不完全燃焼だ。まだ向こうも本気を出していないだろうし、残念だ」

 

 ヴァーリは心底残念そうにしていた。

 

 まあ、確かに向こうも残念そうにしていたがすぐに離脱したからな。

 

 ただの戦闘狂でも戦士でもない。奴はまるで仕事人のような動きだった。

 

 こりゃ、禍の団の幹部連中よりも強敵だと判断した方がよさそうだぞ。

 

「……この不完全燃焼を燃やしたいが、どうしたものか。アザゼル杯の試合は当分先なんだけどね」

 

 そうため息をつくヴァーリ。

 

 ふむ、とはいえ俺は模擬戦したくないんだが。敵に手札をあまり見せたくない。

 

 しかし、少しぐらい恩を売っておいた方が後々楽だからな。何かしらの手を打っておいた方がいいような気もするが―

 

「……そうだ、いいことを思いついた」

 

 どうせなら、顔合わせぐらいさせてやってもいいだろう。

 




ちなみに全開の重力使いと同じく、この男も全力は出しても本気は出してないです。


人類、黒い。

何が黒いかって、自分たちから人体実験に協力してくれなんて言ってないところが黒い。あくまで勝手に暴走した信徒が自主的に人体実験を行った形に持って行ってるところが黒い。

さて、オリジナル展開もいったん終わって、次からはストブラに戻っていきます。

………そのあとはVSヴァーリチームです。 勝てるか、兵夜!?


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戦闘狂にもいろんな種類がいる。

 

 

『手合わせかい?』

 

 通信越しに、ディミトリエ・ヴァトラーがそう聞き返した。

 

「ああ、前に言っていた超強い男が不完全燃焼でな。ガス抜きもかねてちょっとぐらい模擬戦をした方がいいと思ったんだよ」

 

 ヴァーリとヴァトラーは割と同種類の戦闘狂だ。厳密には()()()

 

 かつてヴァーリは三大勢力の和平会談を台無しにするというテロを、アースガルズと戦ってみるという目的のために引き起こして禍の団に参加した。

 

 ヴァトラーも、自分を殺しうるものとの戦いを行うために、自分のところのトップを狙うテロリストが確保した超兵器を自分の船に乗せ、外交官特権を逆手にとってかくまっていた。

 

 どちらも非常に危険人物だ。ヴァーリはあれで人格的に善良な側面もあるが、ヴァトラーはあまり安心できない。っていうか利用はしても信頼はしない方向でいっている。

 

 ……ゆえに、ヴァトラーのターゲットである暁や姫柊ちゃんの安全を図る意味でも、俺は割と気を使っている。

 

 獅子王機関の協力の元、PMCをはじめとするいくつかの企業をでっちあげて絃神島に誘致。それにより、火急の事態が起きたときには動けるように準備は整えている。格納庫の中に次元航行艦艇を用意し、事前にサーゼクス様達にも話は通しているのでいざとなれば亡命も可能。さすがにこの規模の外交問題に発展すれば戦王領域とやらもストップを入れるだろう。

 

 さらにフォリりんの協力の元、獅子王機関にも伝えていない戦力を送り込んでいる。念には念を入れているから動かない限り発覚する恐れはないだろう。

 

 加えてメンバーは全員まとめてグランソードの舎弟で構成されている。信用に値する人物たちだ。

 

 そして、それ以外にも様々な対策を取っている。

 

 なにせ、暁の戦闘は基本が眷獣中心。ノーヴェからストライクアーツを教わってはいるが、それだってまだまだ素人に毛が生えた程度。本気で戦うとなれば、どうしても眷獣が必要になる。

 

 ……ちょっと暴発しただけで魔王クラスがキレたかのような大被害を生み出すようなものをだ。

 

 其のため、万が一に備えた準備はいくつも用意している。

 

 そのうちの一つは―

 

「―絃神島の近くの無人島の一つを買っておいた。もしよければ、そこで手合わせをしてもらおうかと思ってな」

 

「ちなみに、俺がヴァーリ・ルシファーだ。よろしく頼む」

 

 そういってヴァーリが顔を出すなか、通信越しのヴァトラーは面白そうな表情を浮かべた。

 

『……いいね。見ただけでわかる。これは楽しめそうだ』

 

「ああ、強者でなければ放てないものを放っている。俺が禍の団にいた時なら、躊躇なく先制攻撃を仕掛けていただろう」

 

 ものすごい楽しそうな表情を浮かべる二人を見て、俺はやっぱり戦闘狂同士は話が合うのだと思い知った。

 

 まあ、それはともかくだ。

 

「あくまで手合わせだ。それと、問題が発生しないようにする結界の準備もあるから、すぐに戦闘開始したりしないように」

 

『わかってるよ。君を怒らせて古城たちと決着をつけるのも面白そうだけど、それをするには時期尚早だしネ』

 

 わかっているならいいが、こいつの場合下手すると本気で俺たちと戦争しかねないところがあるからな。

 

 そういう意味でもヴァーリに近い。

 

 ……だが。

 

「一応断っておくぞ。……もしお前とヴァーリが本気でもめたときは、俺は躊躇なくヴァーリの側に立つ」

 

 そう。それは断言できる。

 

 確かにヴァーリは危険な男だが、少なくとも今の段階はだいぶ丸くなっている。

 

 そしてヴァトラーは、以前の危険な段階のヴァーリよりもやばい。

 

 ……揉めたらどっちを選ぶのかは自明の理だ。

 

『それはそれで面白いといいたいけど、辞めておくよ。今そんなことをしたら、さすがのあの爺さんに怒られそうだ』

 

「わかってくれるならいい。……ああ、一応リザーブ枠で登録しておいたから、暇なときがあったら伝えてくれ。暁と入れ替える」

 

『わかったよ。じゃ、僕もたまには仕事をしないといけないから、これで』

 

 そういって通信が切れ、俺はため息をついた。

 

 暁も面倒な奴に目をつけられたもんだ。もしかしたらイッセーと気が合うかもしれん。

 

「確かに危険な男のようだな。かつての曹操のような手段の選ばなさがある」

 

「まったくだ」

 

 ヴァーリにすら言われるとは危険な連中だ。

 

「しかし異形の存在を人類がすでに知っているどころか共存しているとは、なかなか面白い世界のようだね」

 

「まあ、実際のところはそう簡単な話ではないようだがな」

 

 本格的な意味で魔族と人類が共存しているような国は夜の帝国を含めたごく一部。

 

 聖域条約加盟国は基本的に魔族との共存を認めているが、それでも魔族特区など一部に限られている。非加盟国の多くは魔族を敵と認識しているほどだ。

 

 だが、それでも存在が公になっていて、共存することができているというのは大きいだろう。

 

「俺としては、この魔族特区制度と似たようなものを実施するのがいいと思ってるんだ」

 

「情報公開そのものは一斉にやる。しかし、交流そのものは限定的に行うというわけか」

 

 ヴァーリは頭もいいから理解が速くて助かる。

 

 そう、間違いなく人類に異形の存在を公開すれば揉めることが確定だ。まず間違いなく紛争レベルの激突が何度か起きるだろう。

 

 それを最小限にするためには、ゆっくりと少しずつ交流していくことが必要不可欠だ。

 

 この魔族特区制度を応用するのは有効だろう。明確に成果が出ている制度を参考にすれば、かなり有効だ。

 

 それによって異形になれた人々が特区の外に出て情報を広めれば、さらに理解は進むはず。少なくともE×Eとの遭遇するときに内輪もめを起こす可能性は低いはずだ。

 

 しかし、それを提唱するのは俺ではだめだ。

 

 それでは俺の名を上げる結果にしかならない。そしてそうなれば俺の権力はどんどん跳ね上がり、忙しくなってしまう。

 

 ワーカーホリックといわれることはあるが、それにしたって限度がある。俺は将来的に魔術師の監視と聖杯戦争の阻止に集中したい。

 

 ゆえに、これを提唱して評価されるのは俺じゃない。

 

「……そういうわけで、ぜひ見ていってくれ、アルサム」

 

「暇を作ってくれと言っていたのはそういうことか。……まあ、確かにある程度政治的に貢献するのは九大罪王になるには必要だが」

 

 この小型艇において、客といわれるほどのものは二人しかいない。

 

 ヴァーリとアルサムだ。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだな。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

「真なる明の明星の末裔か。グラシャラボラスを暫定的にまとめている、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスだ」

 

 そういって握手を交わす二人は、視線を交わすとにやりと笑う。

 

「スマンが、先に赤龍帝との戦いをしてしまった。とはいえ恨むのなら運営を恨んでほしいものだが」

 

「気にしていないさ。兵藤一誠ならあの敗北をばねにより強くなってくれるだろう。むしろ感謝しないとな」

 

 そう言葉を交わし合う二人は、しかしお互いの実力を肌で感じている。

 

 歴代最強の白龍皇になるとアザゼルに断言されるヴァーリと、初代四大魔王で作られた魔王剣ルレアベの今代の持ち主であるアルサム。

 

 間違いなく若手悪魔の中でも最高峰。それも、お互いに覇を制御する猛者だ。

 

 片や、覇をこえた極覇の領域へと高めた者。

 

 片や、覇を分け与える奇跡を生み出した者。

 

 お互いに、覇に到達するという最高峰に到達するどころか、それを発展させるという前人未到の領域へと至った存在。

 

 断言しよう。将来の悪魔において、俺の目の前にいる二人は間違いなく最強の一角に選ばれる。

 

 そんな奴らの会話。非常に気になるだろう。

 

 実はこっそり録音して、小遣い稼ぎに利用するつもりだ。なので政治的な話とかは避けてください。

 

「覇を安全に分け与え、共有するとは思ってもみなかったアプローチだ。しかも、今後キミと戦う機会が出たときは間違いなくその上を見せてくれると来たものだ」

 

「いや、私としては一人で覇を凌駕したその力を素直に評価しよう。禍の団に所属していたことに関しては不満があるが、一介の戦士としてはすでに極みの域に達しているだろう」

 

「そんなことはない。なにせ、俺もまだ伏札は隠しているからな」

 

「そうか。ならこちらも新たな手札の使い方を覚えておかなくては」

 

 ……まず間違いなくすごすぎる会話を聞いている。

 

 かたや、テロリストの一員となりテロの手引きをしたという汚点こそあれど、正当な魔王の後継者にして北欧の主神の養子。

 

 かたや、テロリストが参加している禁止予定の儀式に参加したとはいえ、ある意味初代四大魔王に認められ、そして多世界連盟の共同体の支援を取り付けた破格の存在。

 

 九大罪王候補同士の会話とは、本来こうでなくてはならないだろう。

 

「……しかし、暁古城とは話がしてみたかったんだ。史上最強の吸血鬼とはどんなものなのか」

 

 と、ヴァーリは話を変える。

 

 まあ、最強と言われるだけの存在をみて、ヴァーリが気にならないわけがないか。

 

「胆力はある。火力もある。そして未熟であるがゆえに将来性もある。できればついたら話をしてみたいところだ」

 

「気持ちはわかるが、それは気にしすぎだ。彼は人より少しだけ強い心を持った、ただの普通の人間でいたい男だよ。あまり負担をかけさせないでくれ」

 

 興味津々のヴァーリに、アルサムは苦笑交じりにくぎを刺す。

 

 まあ、確かにそうなんだよなぁ。

 

 ………なんだろう。俺はいますごくうっかりをしている気になってきたぞ?

 

 あ、そういえばまだ暁に話してなかったな。

 

 今回は暁には関係ないことだが、最近アイツが補習であってなかったし、余裕があったら茶でも奢るか。

 

 と、言うわけで暁にも通信をつなぐ。

 

『……宮白か!? ちょうどよかった!!』

 

 と、なんかすごくうれしそうというか、窮地に追い込まれて苦労しているときに予想外の増援を見つけた人の顔が映った。

 

 ああ、そういえば言ってなかった。

 

「ヴァーリ。実は暁はイッセーとよく似ているところがいくつかあるが、そのうちの一つは何だと思う?」

 

「産まれも含めて平凡な高校生が、最強格の力を手にしたことか?」

 

 残念だが違う。

 

 っていうか、少なくとも暁の母親は間違いなくただものじゃない。

 

「正しい意味での悪運が強いんだ。そう、赤龍帝の力に目覚めたときのイッセーのごときトラブル遭遇率と強者遭遇率だ」

 

 そりゃもう本気で重ねてみてしまうほど大変だ。

 

 火力だけなら最初からインフレ上げまくり側だからか、割と本気でコカビエルクラスの強敵と何度も激突してるんだよなぁ。

 

「……何があった暁。今度は誰が敵だ?」

 

『錬金術師だとよ』

 

 ……フォンフがちょっかいでもかけに来たのか?

 




アルサムを盛り立てるついでに今後の布石も打っておく男、宮白兵夜。

実際いろいろとややこしいところのあるストブラの世界観ですが、魔族特区制度は今の段階のD×D世界では有効だと判断しました。

存在を公表したうえで全面的に交流すれば揉めますが、徐々に開放する方向で限定的にすればまだまし。人員が圧倒的に少ないので不意打ちのトラブルに対応しきれないのが異形たちの難点ですが、規模を縮小すれば人員のフォローが間に合うので有効だと思うのですよ。




そういうわけでストライク・ザ・ブラッドの錬金術師の遺産編スタート。


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賢者の霊血

 

 暁はなぜか姫柊ちゃんに黙っていてほしいといってきたので、俺たちはとりあえず絃神島における拠点であるPMCの事務所として運用している輸送船に移動していた。

 

 ちなみにこの輸送船。割と異形技術を投入しており、そこにS×Bを今後の交流のモデルケースとして見ている義兄たちの協力を得ていることからかなりの金が投入されている。

 

 いざとなれば飛んで逃げることもできる特注品だ。しかも所属メンバーはグランソードの舎弟たちという、間違いなく異形たちの戦闘能力の平均値を引き上げる側の存在。

 

 絃神島の上に待機させていた場合、いざという時の暁の隔離先に使うと絃神島が結局滅びかねないという失態を反省して、フォリりんの協力の元突貫工事で完成させた特注品だ。

 

 おかげでこちら側の技術をだいぶ取られたが、まあ国家の規模が小規模であることを覗いても許容範囲内だろう。

 

 さて、それはともかく。

 

「……で? それで何がどうしたんだ?」

 

『ああ、何処から話したらいいのかわからないんだが―』

 

 そう言いかけた暁のスマホが何者かに分捕られたらしい。

 

『細かいことは(ワシ)が話した方がいいだろう。……お主が第四真祖の言っていた異世界のものじゃな?』

 

 この声は藍羽か。……だが―

 

「……つまり、藍羽の体にとりついているその亡霊か何かを除霊すればいいのか? それならそれこそ姫柊ちゃんの出番な気が―」

 

『人を亡霊扱いするでない。確かに(ワシ)ははるか昔の人間だが、別に幽霊というわけではないぞ?』

 

 む? 違うのか? てっきり何かにとりつかれたか何かだと思ったんだが。

 

 とりあえずよくわからなかったので状況を把握すると、なんともややこしいことになっていた。

 

「話を整理しよう。暁たちの通っている私立彩海学園中等部三年生は、修学旅行と似て異なる何かに参加することとなり、そのための買い物に付き合っていたお前は、叶瀬夏音という少女を狙う錬金術師と自称する男に襲われた」

 

 そう、アルサムがかみ砕いた内容を口に出す。

 

 こういうのは割と重要だ。いろいろと思い違いを補足することができるからな。

 

「この世界の錬金術師は個人戦力としても強力だな。フィフスは戦闘向きじゃないといっていたが、瞬間的に生物を金属に作り替える原子変換など、必殺の攻撃といってもいいだろうに」

 

「まあ、それはセンスの問題もあるということだろう」

 

 ヴァーリによりこの世界の錬金術師の戦闘技術方面に脱線しかけたが、すぐにアルサムが方向を修正する。

 

「その輩は叶瀬夏音がいた修道院を襲撃した犯人と同一人物であり、叶瀬夏音の安全を確認するためにも、彼女がその修道院跡地に猫を再びおいていないか確認するために行ってみたら、藍羽浅葱がついてきて南宮那月に説教されて補習を受けた」

 

『三倍はひどいと思わねえか?』

 

 俺の言葉に、暁がため息交じりにここにはいない女に文句を言った。

 

 確かにひどいが、ちょっと今回は考えなしだったな。

 

 そのせいで大変なことになってるんだから。

 

「……話を戻すが、その後姫柊とともに調整のために雪霞狼を預けに行っている間に、その修道院跡地にいた警備隊を皆殺しにした錬金術師がそこにいるニーナ・アデラードを暴走させ、その結果藍羽浅葱が致命傷を負ったが、正気に戻ったニーナ・アデラードが無断で体を借りる手間賃もかねて治療した。……そして、(くだん)の錬金術師はまだ生きているということだな?」

 

『かいつまんで纏めるとそうなるな』

 

 藍羽の体を借りたニーナ・アデラードがそう言った。

 

 しかも残念なことに、肝心のニーナも長い間眠っていたり無理やり起こされたせいで記憶があいまい。その錬金術師である天塚の目的はわからない。

 

 ……しかもどうやら南宮那月との連絡も取れてないと来ている。ややこしいな。

 

『正直宮白が来てくれて助かった。できれば姫柊には宿泊研修を楽しんでもらいたくて、言い出せなかったんだよ』

 

「確かに、雪霞狼が使えない以上姫柊ちゃんの戦闘能力も大幅に落ちているからな。それにまあ、あの子はまだ中学生だしなぁ」

 

 いかに七式があるとはいえ、あれには制限時間もある。

 

 そういうことを考えれば、暁の言うことも一理以上ある。

 

 あるのだが……。

 

「知ったら絶対後で怒られるな」

 

『そ、それはそれだろ!! だいたいアイツは今監視役の仕事解かれてるんだから、俺のことを気にかけてるよりも友達の渚や叶瀬と一緒にいた方がいいだろうが!!』

 

 暁はそうおれの言葉に反論するが、しかし姫柊ちゃんだぞ、相手は?

 

「暁、これは俺の経験論だが、一つ言っておく」

 

『何だよ?』

 

 ふむ、まあこれは男ならやってしまいやすいことではある。

 

 そしてある程度はやっておかないとそれはそれで女に愛想をつかされることでもある。

 

 だからややこしいんだが、それでも一応言っておこう。

 

「女の側からしてみると、男の意地で無理して男が死にかける方がたまったもんじゃないって意見は結構ある。適度な頼りどころを探っておいた方が後でもめなくて得だぞ」

 

『そ、そうか? 姫柊としちゃ、俺の監視何て面倒なまねしなくて楽できると思うんだが……』

 

「「……はあ」」

 

 俺とアルサムは同時にため息をついた。

 

 だめだ。下手なトラウマがない分イッセーよりはるかに質が悪い。

 

「ふむ、しかし自分にできないところを人に頼るのは当然だ。できることとできないことをしっかり把握しておかなければ、本当の意味で強くはなれないぞ、暁古城」

 

『うっせえよ。俺は普通に高校生ができればそれでいいんだよ。っていうか宮白とアルサムさんはわかるけど、あんた、誰だ?』

 

「白龍皇ヴァーリ・ルシファー。くしくも君の名と縁がある。よろしく頼むよ」

 

 と、ヴァーリと暁で会話が進んでいくが今はそんなことはどうでもいい。

 

「……ニーナ・アデラード。それで天塚何某を探す当てはあるのか?」

 

『うむ。探知の術を張っておけば、奴が行動を起こしさえすれば場所はわかる。問題はいつどこで何をするかがまったくわからんことだがな』

 

 なるほど、アクティブに探知することは無理でも、パッシブに探知することは可能だということか。

 

 となれば、先ずは宿泊研修に行くまでの間の叶瀬夏音の安全確保が第一。

 

 この絃神島でも最高クラスの戦力である南宮那月がいる以上、その辺に関しては外周部に戦力をある程度用意する程度で十分だろう。

 

 その間に天塚が業を煮やして行動を起こせばしめたもの。発見次第暁の眷獣で跡形もなく消滅させるか、くだんの賢者の霊血を原初の塵に戻して終わらせればいい。

 

 そういう意味では暁の眷獣ってチートの極みすぎる。全部対処できる奴って、ゲオルグが全部見たうえで時間をかけて結界装置の開発を行うぐらいしないと無理ではないだろうか。

 

 上位神滅具の禁手ですら重労働ってどんな代物だよ。割と本気でチートだろう。

 

「まあいい。どうせその調子ではぼろが出るだろう? ニーナ・アデラードは俺が預かっておくから、お前は有事に備えて早めに寝とけ」

 

『いいのか? 正直助かるが―』

 

 まあ、俺たちの世界には何の関係もない事柄だから、暁が気にするのも分かる。

 

 だが、ここまで来て見捨てるのも後味が悪い。

 

 何より―

 

「ここで絃神島(ここ)を見捨てたら、イッセーに胸を張れない。それは俺にとって何より避けるべき事柄だからな」

 

「まったく、ブレないな、君は」

 

「ある意味わかりやすい男だ」

 

 後ろのヴァーリとアルサムはうるさい。

 

「それにただ働きにするつもりはない。もしアザゼル杯が今後も続くようならば、お前は今後も参加してもらうからそのつもりで」

 

『ちゃっかりしてるよな、あんたは!!』

 

 それ位の役得はあっていいと思うぞ暁。

 

 第一お前レベルの戦力に対するファイトマネーを払う俺の身にもなれ。金かかりまくりなんだよこれでも。

 

「お前レベルの逸材に対するファイトマネーがいくらすると思ってるんだ。いかに俺が金持ちとはいえ、金には限りがあるんだから文句は言わせんぞ」

 

『……ただ働きじゃないのかよ。それってなんか意味あんのか?』

 

 暁が不思議そうに聞き返すが、お前は何を言ってるのやら。

 

「いや、アザゼル杯はチームの二重登録は禁止ゆえに、これだけでもだいぶ変わる。なにより、あれだけの戦闘能力をもった眷獣を一体でも確保できると考えれば値千金だな」

 

「俺と戦う時は、使い魔の制限がないルールであることを切に願うよ」

 

 後ろでアルサムとヴァーリがうんうんとうなづいている。

 

「とにかく、今のうちに「絃神島にハッキングを仕掛けた馬鹿がいるから藍羽の力を借りに来た」とか言って使いを送るから、お前は何とかごまかしてニーナを送り出せ。あとは俺たちが基本的に何とかする」

 

『わかった。マジで恩に着る』

 

 そして通信が切れて、俺たちはため息をついた。

 

「……話に聞いているディミトリエ・ヴァトラーが動く可能性はあるか?」

 

「どうだろうな。単純な戦闘能力では暁がかかわった連中の中では下位の部類だからな。……戦闘狂としての意見を聞きたい」

 

 アルサムの疑念は俺も同感なので、個々は比較的同類の意見を求めてみよう。

 

「おそらく大丈夫だろう。俺たちのような輩は、ただサンドバッグをたたきつけるのに満足はしない。そのディミトリエ・ヴァトラーが真に戦いを楽しむものならば、ただ死ににくいだけの雑魚をわざわざ相手にする気にはならないだろう」

 

 なるほど、それは確かに。

 

 ……となれば、警戒するべきは―

 

「―フォンフが、最大のネックだよなぁ」

 

 さて、あいつ今回動きそうだよなぁ。

 

 不死を実現する賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)とか、真面目な話相当価値がありそうだ。

 

「とはいえフォンフも即座に動くとは思えんぞ? 話に聞く限り、費用対効果が悪すぎるし、単純に寿命を延ばすだけなら悪魔の駒のベースマテリアルを生成する方が何十倍も楽だろう」

 

 アルサムの意見ももっともだ。俺もそっちを選択するだろう。

 

 だが、フォンフは俺達とはまた別の価値観で動いているからな。

 

 なにか別の思惑を持って動いていたとすれば、ちょっと厄介だ。

 

「……仕方がない。こうなれば最終手段を取ろう」

 

 俺は、携帯を取り出した。

 

 

 

 




兵夜「ファイトマネー? そりゃ払うにきまってんだろ」

やはり兵夜は人がよろしい。 必要とあれば遠慮なくこき使うので性格は悪いが。


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夜明けが来りて騒動始まり

 

 

 

 

 獅子王機関三聖が一人、静寂破り(ペーパーノイズ)と呼ばれる少女は、その通信を聞いて眉をしかめた。

 

 その通信は、この世界においてA案件と呼ばれる事件においてつながりを持ったある異世界の組織によるものだからだ。

 

 ……複数の異世界の連盟がいくつもあるというスケールの違い過ぎる事実に思うところはある。まともに戦争をすることになれば、一つの世界というパイすら取り合っているいまの地球に勝ち目はない。

 

 そして何より、その通信は絃神島から発信されているからだ。

 

 絃神島には自分の彼氏がいるのだ。そして、彼からややこしいことが発生していることも聞いている。

 

 かの賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)をめぐる戦いが勃発しそうだというのはさすがに目に余る。しかも、第四真祖が関わってしまっているのは困っているとしか言いようがない。

 

 ガモリーズセキュリティという社名をもつそのダミー企業は、表向きには登録魔族を中心とした警備企業という名目で通っている。そんな金のかかるものをあっさりと準備する当たりもめ事を起こす気はないのだろうが、しかしそれはそれとして困ったものだ。その設立のためにいろいろと仕事が増やされたこともあれば、なおさらだろう。

 

 挙句の果てに獅子王機関が雪菜を送り込んだ裏の目的すらあっさりと見透かされている以上厄介な相手だ。さすがに真の監視役の正体までは、暁古城の記憶がなくなっていることもあり気づかれてはいないが、それでも危険ではあるだろう。……気づかれたら彼がさらに危険になるかもしれないと思うと気が気でない。

 

 すでに彼らの世界群から、………女性の胸を平たんにするという目的でテロリストが侵入しているのだから、対テロを目的としている獅子王機関としては思うところしかない。

 

 第一、ただでさえ危険な目にあいやすい立場である自分の彼氏が巻き込まれたらどうする気なのだ。

 

 などと、時々年齢相応のことを考えながら、彼女は通信の内容を確認した。

 

 差出人は、ガモリーズセキュリティの代表取締役として名義が出されている宮白兵夜。

 

 彼は、暁古城と姫柊雪菜の裏についてもある程度把握する可能性がある。しかしそこについて深入りしてこようとはしていない。

 

 下手に深入りすればこちらが自分を消しに来る可能性があることをきちんと了承しているからだ。其のあたり頭の回転が速い上に、この世界にとっての外様としての礼儀をわきまえてくれているのはいろいろと助かっている。

 

 ゆえに、今回の彼の提案に関してもこちらのことをある程度慮ってくれていた。

 

 彼が要求してきたのは、獅子王機関が直接的に負担をかけるようなことではない。

 

 一つは、姫柊雪菜たちが宿泊研修で乗船する船のチケットと絃神島からの出島許可証の捏造。それと人間としての住民届けの偽造だ。

 

 これに関してはいつか来ると想定していたため、すぐにでも可能。向こうも一人や二人ならできると踏んでいただろうから示し合わせているようなものだ。

 

 そして、もう一つはこちらにいる彼らの世界のものに、サポートを要求するというもの。

 

 対エイエヌの観点から、一部のものが交流を兼ねて派遣されている。その中から、念には念を入れて武闘派を送ってきてほしいというものだ。

 

 これも、こちらがパイプにされているだけで結局は彼らの問題なのだから問題がない。

 

「……ということですが、誰が行きますか?」

 

「ならば私が出よう。幸い、万一の護衛であるゆえに私自身の仕事は特になかったのでな」

 

 そう答える老人に、彼女はため息をつきたくなる。

 

 何が仕事は特にないだ。

 

 獅子王機関の中でも異世界からの者たちを警戒するものは多い。中には過激な思想を持っているものも少なからずいた。

 

 それが、彼が来たことで二重の意味で警戒を解いてしまった。

 

 一つは、その人柄が敵意を生み出しにくいこと。一つの宗教の要職についているだけあって素晴らしい人格者だ。

 

 そして、もう一つは大半の者たちが「勝てない」と悟ってしまったこと。

 

 人間的にではない。それ以上な単体での戦闘能力で、彼は自分達三聖クラスと同等、もしくはそれ以上の化け物だった。

 

 おそらく、愛用の武器を含めた単純な攻撃力ならば第四真祖の眷獣ですら切り裂けるだろう。

 

 あの戦闘狂の蛇使いに彼の存在を知られれば、果たしてどんなややこしいことになるか。いろんな意味で気が重い。

 

 これが、現役を本来なら引いている人間だというのだから、もう一つの地球は恐ろしい。

 

 そして、その地球及び周辺世界の強者たちにもまれている第四真祖は、このままいけばどんな怪物になることか。

 

 一応は獅子王機関の長である身として、心底心から頭を抱えたくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先に寝させてもらって悪かったな。あとは俺が引き受ける」

 

「そうか、まだ二時間だがもういいのか?」

 

 早朝、シャワーを浴びてから起きてきた俺に、アルサムが首をかしげる。

 

 その二時間とちょっと前まで、ニーナに付き添って捜索を行っていたことを聞いているのだろうが、そこに関しては問題がない。

 

 なにせ肉体的な疲労はそこまでないからな。精神的に結構疲れたが、それは魔術で済ませた。

 

 ゆえにここからこそ俺の出番だ。すでに獅子王機関には話を通してあるし、これで何とかなるだろう。

 

「幸い、こちら側から獅子王機関に使者が送られていたから、そこから増援を引き出す要請をしていたおいた。彼らと協力してローラー作戦で一気に叩き潰す。だから今のうちに休んでおけ」

 

「誰が送られているのか楽しみだ。それに、この後のヴァトラーとの模擬戦も面白そうだ」

 

 ヴァーリの奴はむしろ興奮して寝られなさそうだ。お前いつも楽しそうでいいなおい。

 

 まあいい。さて、それではニーナのようすを見てみようか。

 

 ……そろそろ姫柊ちゃんは船に乗ったころだろうな。このまま離れてくれればこちらとしても心配する要素が減って何とかなるだろう。

 

 ……それに、念のために一人護衛をつけておいた。

 

 上級悪魔クラスの実力者を一名、獅子王機関に戸籍まで偽造させて船に一人分開けておいた。何かあれば彼が連絡してくれる手はずになっている。

 

 さて、それではどうするもんか。

 

 そして扉を開けた瞬間―

 

「―あ」

 

 視線があった。

 

 そして、その瞬間に気が付いた。

 

 こいつ藍羽だ。

 

 ………念のためにジャージを着せておいて助かった。これで乱れた服だったりしたら確実に厄介なことになる。

 

 念には念を入れて女性悪魔にようすを見に行かせたりしてよかった。今もいるし。

 

「宮白さん、やっぱり来てたんだ」

 

「ああ、事情は何処まで?」

 

 其のあたりがどこまで説明されているかで、国家らのややこしい度が大きく変わるんだが。

 

「安心してください大将。とりあえず、大まかなところはちゃんと説明しました!!」

 

「無断で体を使われてるのは気になるけど、ホントに危なかったところを助けてくれてたんだしそこは感謝かな?」

 

 なるほど、どうやら説明は大体必要ない……と。

 

「そういうわけだ。一応代理になる義体の準備はしているが、しかしそれでも当分時間がかかる。悪いが、いやでも付き合ってもらう。……どうも放っておくのもまずい代物らしくてな」

 

「わかってるわよ。それに宮白さんなら悪いことにならないように一生懸命頑張ってくれそうだしね」

 

 この信頼は裏切れんな。

 

 さて、それにしてもいつになったら天塚は行動を起こすのやら。

 

 こちらとしてはそれなりに準備をしているようだが―

 

「大将、大変でさぁ!!」

 

 と、小走りでグランソードの舎弟が俺のところに駆けつける。

 

「どうした? まさかもう船に乗ったやつが緊急連絡を?」

 

「いえ、どうも都市警備隊(アイランド・ガード)が暴走してるみたいですぜ」

 

 そう言われながら見てみた俺は、その暴走とやらの内容を把握する。

 

 ……俗物的としか思えない輩に何人も殺されていることで、我慢できなくなった都市警備隊が独自に賢者の霊血をどうにかする作戦を立てていたようだ。

 

 その根幹は冷却。液体窒素と呪術を併用することで、とにもかくにもカチンコチンに固めてやろうという作戦だ。

 

 確かに、この戦法なら対処の余地はあるんだろうが……。

 

「誰か見物に行ってるやつはいるのか?」

 

「はい! アルサム様が「自分なら顔が効く」とのことで様子を見に行っています」

 

 なるほど、確かにあいつならそうするか。

 

 なにせ都市警備隊の大半を救助した経験があるからな。気にはなるだろう。

 

 なら万が一が起こっても対処の余地は十分にある。

 

 この世界の錬金術師の凶悪性は、触れたらアウトな初見殺し。そこさえ分かっていれば離れたところから遠距離攻撃を中心に動くだけで充分防げる。

 

 腐っても魔王の後継を目指す男が、そんな悪魔の基本ともいえる能力をおろそかにしているわけがないだろうし、大丈夫といえば大丈夫だろう。

 

 さて、それじゃあ俺たちも暁と合流してからそこを目指すか。

 

 不滅の賢者の霊血も、暁の眷獣なら対処可能な奴が二つある。

 

 不死殺しだなあれは。よし、さっさと終わらせよう。

 

「……始まったようだの」

 

「ニーナか。まあ、確かに始まったようだ」

 

 賢者の霊血に反応したのか、ニーナが意識を取り戻したようだ。

 

 これ、やられる側は結構きついだろうなぁ。などと他人事なので余裕をもって考えられてしまう。

 

 さて、それじゃあ急ぎ足で様子を確認に行くとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、ガモリーズセキュリティから派遣されていた一人の悪魔は、船室ではなくレストランで軽食を取りながら使い魔に周囲を探査させていた。

 

 あえて船室にはいかない。

 

 剣巫である姫柊雪菜は年齢に不釣り合いなほどの優れた素質を持っている逸材だ。こと前衛戦闘においては上級悪魔クラスであろうと接近戦なら一蹴しかねないと主の主である兵夜から太鼓判が押されている。

 

 今回の自分の仕事はあくまで保険。万が一に天塚が分身を叶瀬夏音を殺すために送り込んでいた場合に備えての、防衛戦力だ。

 

 こと暁は、今回の宿泊研修を楽しみにしている姫柊雪菜には気づかれないようにしてほしいとの旨を伝えていた。それに関しては同意できる。

 

 基本的にグランソードの舎弟はみな人物としてはアウトロー気味ではあるが善良なのだ。

 

 旧魔王派の生まれである悪魔ということと、何よりグランソードの生きざまに惚れていることから禍の団の一員となったが、好んで残虐非道なまねをして悦に浸る趣味などない。むしろ表側で善行を仮にも行っている今の方が気分がいい。

 

 ゆえに、自分は使い魔を使って周囲を探索することに集中する。

 

 絃神島に派遣されているメンバーの中でも、こと小規模の結界に長けている自分が選ばれたのは、偏に言えば天塚対策だ。

 

 奴が分身をいくつ用意できるのかはわからないが、当人にとっても好んで行いたがるようなものでもないようだ。ゆえに送り込むにしても一人か二人だろう。

 

 なら、自分が結界で動きを封じてしまえば問題は全くない。

 

 ゆえに、彼は主に人がこっそり密航するのに使いそうな場所を中心に動いていた。

 

 ………その後、スマホが鳴ったので彼はそれに出る。

 

「俺だ。どうした?」

 

『朗報だ。今、賢者の霊血と都市警備隊が戦闘に入った。カチンコチンに凍ってるから、もう―』

 

 大丈夫と、そう言いかけた監視役の声が止まった。

 

「おい、どうした?」

 

『天塚だ! 話に聞いている売れない芸人みたいなやつが現れた!! 都市警備隊の連中マジギレで一斉射撃をぶちかましたぞ!!』

 

 それが果たして有効策なのかどうかがよくわからない。

 

 なにせ、天塚は分裂する。

 

 本体でない天塚を破壊したところで、そのダメージがどれくらいかどうかなど判断できない。

 

 いや、それにしても無意味に挑発するためだけにそんなことをするとは―

 

「とにかくいったん離れろ。もしかしたら都市警備隊を壊滅させるためのトラップでも仕掛けてるかもしれねえぞ!!」

 

『だったらなおさらだろうが!! アルサム様の使いだっていえば少し……うぉ!?』

 

 反論した同僚の悲鳴が聞こえて、通信が途絶される。

 

「おい! どうした!! ……クソっ!!」

 

 どうやら状況は大きく動きを示しているようだ。

 

 そして、その瞬間使い魔が悲鳴を感知した。

 

 ……いやがおうにも、事態は大きく動き出す。




……いろんな人たちを貧乳にするために危害を加えるエイエヌ対策は急務なのです。



そして朝が来ると同時に本格的に事態が動き出す。さて、今回のエイエヌの行動はどうなるのかなぁ?


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”賢者”とはすなわち何なのか

 

 ……急いで暁と合流してきてみれば、なんだこの大惨事は。

 

 港湾区画は壊滅状態。まるで戦略爆撃機が集中爆撃を起こしたかのような地獄絵図だ。

 

 これによる被害額は億じゃ効かないだろう。下手をすれば、この経済損失でどっかの会社が三つか四つはつぶれるだろう。

 

 そんな大被害を間接的にとはいえ引き起こした都市警備隊は大目玉だろうな。しかも事実上の暴走ともいえる事態である以上、これは指揮官レベルの連中の首が飛ぶだろう。

 

「で? これは何の錬金術だよ。焔か紅蓮の錬金術か? 反物質でも錬成したのか?」

 

 俺は眉をしかめながら、この破壊跡を見渡す。

 

 大規模被害により火災なども生まれているが、その本質は切断とか熔解が近い。

 

 熱線とかでも放出されたのか?

 

「……何を言うておるのかわからんが、これはおそらく重金属粒子砲じゃな」

 

「なんだそれは? 科学的なモノなのはわかるのだが」

 

 ニーナ・アデラードの言葉にヴァーリが首をかしげる。

 

 まあ、そんなもん知ってるのはアニオタとか研究者ぐらいだろう。

 

「いわゆるビーム兵器だ。まあ錬金術は科学の前身ともいえるし、できてもおかしくない……フォンフが使ったら手が付けられんな」

 

「ビーム兵器ってマジかよ!?」

 

 俺が補足説明すると、暁が驚愕する。

 

 ……ああ、ヴァーリはロボットアニメの類にはあまり興味がなさそうだな。説明が間違ってたか。

 

「……木原エデンが禍の団に提供した、マウンテンイレイザーのあれをイメージしろ。厳密には全然違うが、まあぱっと見にてる」

 

「そうか。だとすると意外と大したことがなさそうだな」

 

 ヴァーリは破壊跡を見てそう言い切った。

 

 いや、これ普通に大被害なんだけどね? お前ちょっとインフレ激しすぎて感覚が狂ってるぞ?

 

 まあ、港湾地区位消滅させるぐらいでなければこいつは殺せないから当然だが。

 

「何処がだ!!」

 

「そう驚かんでもよい。大気圏内ではせいぜい半径数キロ以内で直撃したものを原子単位で粉砕するのが関の山じゃ」

 

 暁のツッコミにニーナがフォローを入れるが、それは充分シャレにならんからな?

 

 インフレが加速しすぎているが、普通に超能力(レベル5)クラスだろう。

 

「史上最強の白龍皇にとっては大したことがなくとも、常人にとっては天災と同様の災害だ。……少なくとも、都市警備隊の戦力では対抗しきれんよ」

 

 その言葉とともに現れるのは、負傷したアルサムだった。

 

 天塚との戦闘で負傷したのか。意外とできる奴のようだな。ヴァトラーが興味を示しそうだ。

 

「アルサムさん。大丈夫か?」

 

「直撃したら危険だったがな。都市警備隊を避難させるときにかすり傷を負っただけだ。……現状重体の者はいるが今死んでいる者はいない」

 

 お前、本当に仕事するよな。

 

「それは重畳。”賢者”(ワイズマン)の手で死人が増えることは看過できんからな。礼を言うぞ、アルサム」

 

 そのニーナの感謝の言葉に、俺たちは違和感を覚えた。

 

「わいずまん? それ、天塚のあだ名か何かか?」

 

 暁が速攻で連想した名前を言うが、しかしニーナは首を振る。

 

「主らは奇妙に思わんかったのか?」

 

 奇妙? いったい何が―

 

 その瞬間、俺は脳裏に閃いたものがあった。

 

賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)……! まさか文字通り血液だったのか、その”賢者”《ワイズマン》とかいうやつの!!」

 

 確かに、名前には由来というものが存在する。

 

 つまり、ワイズマン”ズ”ブラッドなんてつけられているならば、その本体であるワイズマンと称される奴がいるということだ。

 

 そして、この世界の錬金術の目的は完全な存在としての”神”の創造。

 

 つまり、その”賢者”こそが―

 

「錬金術師にとっての神。その肉体の一部が賢者の霊血なのか!!」

 

「そうだ。錬金術の究極目的、神に迫る存在として生み出された完璧な存在。……そして、奴は完璧すぎた」

 

 ニーナは頭痛をこらえるかのようにそう漏らす。

 

 ん? どういうことだ?

 

「よくわからんが、完璧すぎると何かまずいのか?」

 

「簡単なことだ。完璧とは個として足りないものがないということ。ゆえに、他《●》者《●》の《●》存《●》在《●》を《●》必《●》要《●》と《●》し《●》な《●》い《●》」

 

 すさまじい皮肉な欠点があったってことだな。

 

 つまり、その”賢者”は―

 

「そいつの目的は、人類滅亡だとでもいうのか?」

 

「人類どころかあらゆる生命体の滅亡をもくろんでおる。奴にとって唯一恐れるのは、自分以上の完璧な存在が誕生することだからな」

 

 俺の質問に、そのはるか上を行く最悪な事実をニーナは告げた。

 

 なるほど、個体で完膚なきまでに完結している存在は、ほかの存在など余分でしかないのだろう。

 

 そして万が一にでも自分より上の存在が出てくれば不快だから殺す。なんてもんを作ってくれたんだよ錬金術師共は!!

 

「最悪なことに完璧であるがゆえに殺すことができなくてな。霊血を抜き取って封印。そして監視役として(ワシ)が意識を移して監視しておったのだが、五年前に天塚が持ってきた偽核(ダミーコア)に誘惑されたせいでこの様だ」

 

 ………人の潜在的な欲求に付け込んで、やってくれる。

 

 人間をやめるということに生理的嫌悪感などのストレスを感じる者は多い。ニーナにとっても相当の精神的負担があったのだろう。

 

 ”賢者”はそこに付け込み、偽核という毒入りの餌を用意し、復活しようとしたってことか。

 

 とはいえ、天塚とやらの行動には何か違和感があったがそれなら納得だ。

 

 ”賢者”の都合で無理やり動かされているというのなら、違和感もあるだろう。

 

 何が完璧な人間だ。そんな邪悪が人間の完璧な姿だというのなら、不完全な方がいいに決まっている。

 

 俺たちは周囲を確認しながらあたりを移動するが、その視界に大量の白骨を見つける。

 

 一人の男性を除いて、全員が結構年月を過ぎているな。

 

「劣化具合から見て、五年ぐらいか」

 

「おそらくは。修道院にいたシスターや子供たちだ。(ワシ)が面倒を見ていたが、霊血の暴走に巻き込まれて命を落としたのだ」

 

 白骨を見て、ニーナがさらに沈むように表情を曇らせる。

 

「なあ、なんでアンタは修道院何て立てたんだ? 別にそれは賢者の霊血の監視には不必要だろう?」

 

「阿呆な錬金術師どもに贄にされる子供たちは何人も見てきたからな。……そ奴らから守るのにも都合がよかったのだ」

 

 ……人のいい女性だ。もっと世間をうらんでもおかしくない境遇だろうに。

 

 あるいは、そんな人物だということもまた監視役に選ばれた理由なのかもしれない。

 

 だが、そんな善意すら”賢者”は踏みにじったということか。

 

「結局、(ワシ)は何もできんかった。どうにかしたのはその修道院にいた夏音と、陰ながら夏音を見守った叶瀬賢生だ」

 

「それで、天塚は真っ先に叶瀬と叶瀬の親父を狙ったのか……!」

 

 大体すべてはつながった。とりあえず、後ですることは一つだけだ。

 

「暁、眷獣の準備をしろ。お前の今使える奴の中に、前にも言ったが二つも不死すら滅する奴がいるだろう。……俺たちで終わらせるぞ」

 

「ああ、わかってる!! だからまず探さねえとな!!」

 

 ついてなかったな”賢者”《ワイズマン》。貴様は確かに不死かもしれないが、対抗策はゴロゴロある。

 

 殺せないなら殺さずに無力化すればいい。殺しても復活する連中対策に迫られていた俺たちは、必然的にその方法を保有している。

 

 また、暁の眷獣なら、殺せない存在だろうと消滅させれるし、産まれる前があるならそこまで戻すこともできる。

 

 お前の不運はこの絃神島に封印されていたことだ。寄りにもよって天敵が存在するこの島にいる以上、お前は伏して黙するほかなかった。

 

 第四真祖の存在を計算に入れてなかったのがお前の敗因だ。コアだけえぐり取って霊血は研究材料にしてくれるわ!!

 

 そういうわけで気合もさらには言ったので、俺はニーナに視線を向ける。

 

「ニーナ・アデラード!! ”賢者”の場所を探して―」

 

 その時、ちょうどニーナ・アデラードは服をはだけていた。

 

 ………沈黙は五秒ほど続いた。

 

「まて、藍羽の裸はノンケの同性か暁だけに見せろ!!」

 

「余計な気をまわさなくていい!! っていうかニーナもなんで脱いでんだ!!」

 

 慌てる俺に、暁の渾身のツッコミが響き渡った。

 



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聖人登場!

はい、事態はそろそろ戦闘シーンに移行します!!


 

 藍羽浅葱が目を覚ました時、色々と面倒なことが起きているということを痛感させられた。

 

 なにせ、起きた瞬間に目にした者が燃え盛っている港湾と古びた白骨の山だ。正直引いた。

 

 そして、なぜか自分よりも胸が大きく肌の色が濃い自分が目の前にいた。

 

「……なにこの人」

 

「グランソードの舎弟が説明してなかったか? 錬金術師ニーナ・アデラードが、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)を確保したんで体を作ったんだよ」

 

 半目で兵夜が返答するなか、浅葱は近くにいた古城と顔を見合わせて、とりあえず一言告げた。

 

「「なんでその体?」」

 

「いきなり体格を変えると感覚が狂うからな。それに私本来の放漫なボディを再現するには血が足りぬ」

 

「……その胸部の肥大化はどういうつもりだ?」

 

 アルサムが一番言いたいことを代弁してくれたが、ニーナは自慢げににやりと笑う。

 

「妾用にアレンジしたのだ。かつての(ワシ)ほどではないが、中々のものだろう?」

 

「まあ確かに、藍羽より胸がでかいならすごいというか……まさか錬金術師の時代に豊胸手術が存在していたとかぬぉわぁ!?」

 

 兵夜がよけいなジョークを言って荷電粒子砲を掠めさせられるが、それはいい。

 

「それで? 状況はどうなってるのよ?」

 

「単純に言うと、質の悪い化け物が目を覚ました。しかも今は発見できてないと来ている」

 

 見慣れない男がそう答えるが、つまりそれは自分の役目ということだろう。

 

「わかったわよ。今から島の監視システムをハッキングして、怪しい化け物を片っ端から調べてあげるから―」

 

「―意味がないことはしなくていい」

 

 すぐにでも兵夜にパソコンを取り出してもらおうとした浅葱の耳に、聞き覚えのある舌足らずな声が飛んできた。

 

「「那月ちゃん!?」」

 

「担任教師をちゃんづけで呼ぶな」

 

 速攻で絶対零度の視線が返ってきたが、しかしすぐに那月は視線を兵夜達に向ける。

 

「そこの藍羽の顔をした偽乳がニーナ・アデラードだな? そしてその見慣れない餓鬼共はいったいなんだ、宮白兵夜」

 

「真祖にケンカ売れるような化け物共だ。ついさっき復活した神擬きを相手するにはうってつけの連中だ」

 

 サラリと答え、そしてすぐに兵夜が説明を続けようとする。

 

 だが、那月はすぐに首を振った。

 

「おおよその事情は意識が回復した叶瀬賢生とアルディギアの騎士団から把握している。天塚汞の正体と、お前の素性についてもだ、ニーナ・アデラード」

 

「分かっているなら話は早いな。それで意味がないとはどういうことだ?」

 

 兵夜が話を先に勧めようと催促する。

 

 相手は神を僭称する不死の荷電粒子砲。この絃神島を滅ぼすことも不可能ではない化け物だ。

 

 ましてや生粋の外道といっても過言ではない。この場にいる誰もがそれを野放しにする気などないのは明白である。

 

 ゆえに、すぐにでも居場所を調べなければならないのだ。

 

 そして、それについても薄々分かっている者は何人もいた。

 

 ……居場所を探す必要がないのは、既に居場所の検討がついているからだ。

 

「その件については、宮白兵夜には礼を言うぞ。貴様の使いっ走りのおかげで、フェリーの通信設備と貴重な腕利きの攻魔官の命は救われた」

 

 その言葉で、誰もが天塚の居場所を理解した。

 

 兵夜が行った行動でフェリーが関わるのは一つしかない。

 

 午前7時発の東京行き。彩海学園の宿泊研修性を乗せた定期便に、万が一の為の叶瀬夏音の護衛として送り込んだグランソードの舎弟がいるフェリーだ。

 

 ……つまり、船の上という海上の密室に天塚がいるということだ。

 

「嘘……でしょ!?」

 

「凪紗……姫柊!?」

 

 血の気の引いた顔で二人が海の方を見る中、那月はやれやれとため息をついた。

 

「いかに物体の組成を自由に操る錬金術師といえど、結界で接触を阻害されれば対応しきれん。天塚の分身は航行設備を破壊するに留まった。……とはいえ、都市警備隊は反乱対策でまともな航空兵器を持てなくてな。私の転移は移動時間をゼロにするだけだから距離が遠すぎると転移できん」

 

「いかんな。”賢者”(ワイズマン)を生み出す時に使われたのは、大量の貴金属と生贄となる霊能力者。復活直後の奴が力を取り戻す為に、それと同じものを欲してもおかしくない」

 

 那月が更に緊急度を上げ、更にニーナが確証すら与えてくる。

 

 あの船には、代々霊媒として高い適性を持つ夏音と、剣巫である雪菜がいる。贄としては十分だろう。

 

 しかも、単純な物理衝撃の通用しない天塚を雪菜が倒すには、雪霞狼が必要と言ってもいい。

 

 一言言おう、詰んでいる。

 

 古城と浅葱の視界が暗くなり始め、そして強力な光によってすぐに明るくなった。

 

「先行する。お前達は暁古城とニーナ・アデラードを抱えて追いかけろ。……早くしないと、俺がサンドバッグをたたき飽きてから封印してしまうぞ?」

 

『まあ俺達だけでも大丈夫だろう。人間風情が作り出した紛い物の神如き、明星の白龍皇の敵ではないことを証明してやるさ』

 

 そう挑発的な言葉と共に、白銀の鎧を纏ったヴァーリが一瞬で水平線の向こうへと飛んでいく。

 

 あの速度なら短時間で到達するだろう。そして、天塚程度では一瞬で蹴散らされるのが落ちでもある。

 

 問題は”賢者”(ワイズマン)だが、あの荷電粒子砲の威力が最高なら、かなり余裕を持てるだろう。

 

 更に向上心の強い天才であるヴァーリは聖杯対策での封印術式にもある程度心当たりがあり、それに使う宝玉も自前でいくらでも用意できる。無力化は比較的容易だろう。

 

「……これで敵にフォンフがいなければ問題はないか」

 

「とはいえ、イレギュラーは警戒した方がいい。待っていろ。今ラージホークを用意する」

 

 アルサムも兵夜もフォンフを警戒して次の行動に移ろうとするが、それを那月が手で制す。

 

「必要ない。民間からモノ好きがすぐに使える航空機を手配してくれた。暁ぐらいしか耐えられそうにないから探していたが、更に三人も増えたのなら問題あるまい」

 

 ……その言葉に、割と本気で嫌な予感を感じながら、全員まとめて転移に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで俺達は転移に巻き込まれたが、しかしなんというか凄い物を見た。

 

 ラージホークより大きいかもしれない、巨大な飛行艇。

 

 防水型の気嚢で構成された巨大な飛行艇が、巨大浮遊式構造物(メガフロート)で出来た空港に鎮座している。

 

 っていうかこれ、明らかに飛行戦艦というか飛行巡洋艦というか。どう考えても戦闘用なんだがなんでこんなところにあるんだよ。

 

 そんなことを一瞬で思う中、暁は飛行艇に刻まれている紋章を見て目を剥いた。

 

「この船、アルディギアの船か!!」

 

『その通り。我らがアルディギア王国の誇る装甲飛行船「べズヴィルド」です』

 

 飛行船に吊り下げられているモニターから、フォリりんが映し出される。

 

 流石一国の女王、マジで頼りになる。

 

「……初対面の私が聞くのもあれだが、これで追撃するのか?」

 

『いえ。べズヴィルドの航行速度はそれ相応のものですが、今は時間が惜しいです。もっと早い物を用意しています。……あれをご覧ください』

 

 アルサムに応えるフォリりんの言葉と共に、べズヴィルドの格納庫が開かれる。

 

 ……そこにあったのは、なんか弾道ミサイルっぽい飛行機だった。

 

「「ミサイルじゃねえか!!」」

 

『失礼ですね、古城に兵夜。これは試作型の無人偵察機です。偵察用の機材を取り除いて、人を格納できるようにしています』

 

「そこはせめて、搭乗と言って欲しかったな」

 

 俺と暁のツッコミに面白そうに返してきたフォリりんの言葉に、アルサムは何かに耐える表情で目を瞑る。

 

 ま、まあ似たような経験はあるし、どうにかなるだろう。

 

「と、とにかく行くぞ。マッハ3ぐらいなら俺はかろうじて耐えられる。経験したから大丈夫……時間かかると吐くけど」

 

「お前、どんな修羅場を潜ってきたんだ?」

 

 仕方がないんだ。艦隊戦のど真ん中を強行突入するには、それぐらいしないとまずい。

 

 まあともかく、俺は咳払いでごまかすと気合を入れ直して乗り込もうとする。

 

「とにかく急ぐぞ。ヴァーリはバトルジャンキーだからな。つい興が乗ってフェリーに沈没級のダメージが出る可能性が少なからずある。そうなれば金銭的賠償で俺が痛い」

 

「あの、もう”賢者”とか言うのがそのヴァーリって人に倒されることが前提になってるのはどうなの?」

 

 藍羽、お前はヴァーリの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだ。

 

「……アイツが本気を出せば、エイエヌすら一対一(サシ)で殺せるかもしれない。歴代でも最強クラスの神殺しの持ち主がまがい物ごときにやられるとでも?」

 

「少なくとも、足止めはきちんとしてくれるだろう。はっきり言って飛行船で行っても間に合うのではないか?」

 

 俺やアルサムも、万が一の危険は考慮しているが割とおっとりできる。

 

 それほどまでに、ヴァーリ・ルシファーは強いのだ。

 

 とはいえやはり念の為だし、漫才せずにさっさと行くか。

 

「……お待ち、第四真祖」

 

 と、その声に俺達が振り向けば、そこには猫と煌坂の姿が。

 

 あれが暁の言っていたニャンコ先生か。そして煌坂の姿をしているのは使い魔……いや、あれは。

 

「まさかあんたがメイド服を着る羽目になるとはな」

 

「……切るわよ、宮白兵夜」

 

 今のは別にセクハラでも何でもないだろうに。

 

「お前、本物か!!」

 

「本物で悪いか!!」

 

 暁との間で漫才が始まりそうだったが、しかしそんなことをしている場合でもない。

 

 まあヴァーリもそろそろ着いている頃だろうし大丈夫だろうが、さてさてどうしたもんか。

 

「まあいい。藍羽、念の為フェリーの位置情報を確認してくれ。万が一にでもずれてたらややこしい」

 

「分かったわよ。すぐに終わらせるわ」

 

 ああ、そしてすぐに決着を付けよう。

 

 これが終わったらヴァトラーとヴァーリの模擬戦があるのだ。精々神殺しを成し遂げた話を聞かせて悔しがらせてやろう。

 

 そしてすぐに暁も戻ってくる。

 

 その手には雪霞狼の姿もあり、これはどうやら確実に勝てそうだ。

 

 待っているがいいクソ野郎ども。

 

 毎回毎回ここに来た時にトラブル続きで腹立ってるんだ。八つ当たりはしない主義だが、今回のトラブル分はしっかり請求させてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして振り向いた瞬間、爆発が三連続で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 直撃したのは試作型航空機と南宮那月とニーナ・アデラード。

 

 ぶっちゃけ南宮那月の方は本体が別の場所にあるので不安はない。ここはいい。ニーナもコアは外れているようだからこっちも即座に死ぬことはないだろう。

 

 だが、頼みの綱の試作型航空機が破壊されたのはマジでやばい。

 

 そして、それをなしたものの正体もすぐに分かっている。

 

 なにせこの攻撃、少し前に洗礼を受けたばかりなのだから―

 

「何をしやがる、フォンフ・アーチャー!!」

 

 振り返りざまに光魔力の槍をぶっ放すが、しかしそれはすぐに撃ち落とされる。

 

 そこにいたのは、三人のフォンフ。

 

 一人は色黒になっているフォンフ。想像通りのフォンフ・アーチャー。

 

 一人はちょび髭をはやしたフォンフ。おそらく須澄達と交戦したフォンフ・ランサー。

 

 そして最後の相手だが、これが一番やばかった。

 

 その両手には、まったく同じ剣を二つ持っていた。

 

 一段目にやばいのは、それが聖剣だということ。

 

 二つ目にやばいのは、それが超強力だということ。

 

 三つ目にやばいのは、それが二本あることがイレギュラーだということ。

 

「……デュランダル!?」

 

「ああそうだぜ? 俺がフォンフ・セイバーだ」

 

 そう自慢げに告げるフォンフ・セイバーは、二振りのデュランダルを構えると俺達を睨み付ける。

 

「でぇ? 俺は誰を斬ればいいんだよ、フォンフ・アーチャー」

 

「誰でもいい。必要なのは、カルナを動かさせないようにするやつらを足止めすることだ」

 

 フォンフ・セイバーの質問にそっけなく答えるフォンフ・アーチャーの言葉で、俺は全てを理解した。

 

 ああ、こいつらの目的は賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)ではない。

 

 こいつらの目的は―

 

「貴様ら、目的は姫柊ちゃんか!!」

 

「姫柊が目的? どういうことだ!?」

 

「ゆ、雪菜が欲しいですって!? だったらなおさら邪魔しないでよ!!」

 

 疑問符を浮かべる暁と、何か勘違いしている煌坂。

 

 うん、それ違う。

 

『紗矢華。たぶん、貴女は勘違いをしています』

 

「……え、でも雪菜はすっごく可愛いし良い子だし!?」

 

「そっちじゃない。姫柊ちゃんが持っている()()の方だ」

 

 フォリりんのツッコミに動揺を隠せていない煌坂に、俺は説明をする。

 

「インド神話の英雄、カルナとアルジュナはライバル関係だ。だが、最終決戦でカルナはあらゆる邪魔が入り、アルジュナはそれをつくのを躊躇するが、しかし同胞であるクリシュナに諭されて結局はまともに戦えないカルナを射殺した」

 

 そう、俺はウィキ程度の知識しかないが、そんな感じだ。

 

 その後、アルジュナは晩年を一人で過ごしたという。

 

 ………高潔な英雄として有名なアルジュナを、フォンフとここまで高水準の融合を行わせる渇望。

 

 召喚に応じる英霊は、基本的に聖杯に願望があって召喚される。

 

 聖杯がない召喚で来る以上、それは聖杯を使わなくても叶えらえる可能性がある願い。……いや、違う。

 

 フィフスと密度の濃い付き合いの俺だからこそ分かる。

 

 あのフォンフ、かなり塗り替えられている。

 

「……姫柊ちゃんにカルナの力を使わせる、もとい慣れさせることが目的だな、アルジュナ」

 

「……その通りだ」

 

 透明さすらにじませる声で、フォンフ・アーチャーは答えた。

 

「俺は、このチャンスだけを望んで憑霊に応じた。フォンフという巨悪に対抗する存在が召喚されるのなら、あの男は必ずフォンフの敵となるだろう。……そして、それは事実だった」

 

 遠い目で、フォンフ・アーチャーは語る。

 

 それは、叶うはずのない念願が叶った事を感じる者の目。感情の名は間違いなく歓喜だ。

 

 だが、その表情はどこか陰りを宿していた。

 

「だが、この依代は強大過ぎる。その拳と肉体で、私やカルナすら屠りかねないほどに」

 

 それが陰りの原因か。

 

 神すら殺す神滅具。その瞬間的価値暴走レベルの禁手で生まれた獣鬼の一体を宿し、フィフスの能力を高水準で受け継いだフォンフシリーズ。それもサーヴァントを宿すのなら高性能のものだろう。

 

 念願を叶えるのならば、カルナにもまたそれ相応の依代が求められる。

 

「幸いにも、彼女には素質がある。かつての私がいた神代でも、彼女ほどの女傑となる資質を持つものはいそうはなかっただろう」

 

 想像以上にべた褒めである。流石に驚いた。

 

 しかし、それは決して好意的に受け取っていいものではない。

 

 フォンフ・アーチャー(アルジュナ)の目的は、フェアな条件による姫柊雪菜(カルナ)との決戦。それはこの会話でよく分かった。

 

 だが、なんという不幸なことか、授かりの英雄とすら呼ばれたアルジュナは、今回の憑霊の時点で圧倒的なアドバンテージを保有していた。

 

 魔獣創造によって生み出された、文字通り最高レベルの肉体と、異形社会でも最高峰の格闘戦闘技術。その二つを保有しているフォンフは、その時点で生半可な英霊なら返り討ちにできる圧倒的な戦闘能力を保有する。結局、俺こと宮白兵夜は、一対一ではまともに勝ったことなどありえなかった。アースガルズのロキとオリュンポスのハーデスを半殺しにした、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)と呼ばれる俺がである。

 

 それに対して、いかに優秀な成績を残したとはいえ中学三年生の少女がどこまで対抗できるかなど、考えるまでもない。あの子は確かに俺達の世界(D×D)でも歳と不釣り合いに優秀だが、それでも歳と不釣り合いなレベルの範囲内だ。

 

 もし今の状態でフォンフ・アーチャー(アルジュナ)姫柊雪菜(カルナ)が激突すればどうなるか。

 

 ……一対一ではどうなるかなど言うまでもない。フォンフ・アーチャーの懸念はそこにある。

 

 アルジュナが授かったフォンフ・アーチャーという肉体。その圧倒的なアドバンテージに対抗できる存在。カルナを宿す姫柊ちゃんにアルジュナが求めているのはまさにそれだ。

 

 そう、ゆえに―

 

”賢者”(まがい物の神)如き倒してくれなければ困るのだ。余計な茶茶など必要ないとは思わないか?」

 

 そう、フォンフ・アーチャーは理解を求めた。

 

 目を見れば分かる。これはマジだ。

 

 フォンフ・ランサーとフォンフ・セイバーはそのおもりだ。フォンフ・アーチャーだけ先行させて俺達に倒されても困るということで、護衛の為についてくる羽目になったに違いない。

 

 な、ななななんということだ。

 

「……ふざけんな!! お前のそんな勝手な都合に、姫柊を巻き込むんじゃねえ!!」

 

 当然暁はブチギレる。

 

 いや、俺も同感だ。流石に勝手が過ぎるだろう。

 

 いかにフォンフが混ざっているとはいえ、まさかこれが一つの神話における屈指の英雄であるアルジュナだとは思わなかった。

 

 英雄も、所詮は人々の勝手な幻想によって彩られた存在だということか。一皮むいて本質を見れば、意外と人間臭いというかなんというか。

 

「……なるほど、死後も縛る苦痛とは、こうも非道を行うことを許すほどに苦しいものなのか。……後悔ない人生を送れと人は言うが真実だな」

 

 アルサムもまた、呆れ半分で頭を振りながらルレアベを抜く。

 

 怒ればいいのか呆れればいいのか分からないといった表情だが、まあ今は全力で戦闘準備をしなければならないということだ。

 

 なにせ、相手はあのフォンフ三人。

 

 天龍クラスの覇を持ちいらねば圧倒することなどできない存在。それが戦闘向けの英霊を宿した状態で三人。

 

 宿しているのはまず間違いなく正真正銘のサーヴァント。それも、三騎士クラス。

 

 断言しよう。間違いなく強敵だと。

 

 ゆえに、俺は一気に前に出ようとしたその瞬間―

 

「―あなたの相手は私よ」

 

 後ろから迫りくる越智を相手に、義足で迎撃した。

 

 そのまま衝撃で十メートルはずれるが、しかし何とかギリギリで防げた。

 

「……越智だったか。悪いが、今は欠片も余裕がない」

 

「それが? そういう正論を受け入れられるのなら、こっちは最初っから復讐なんてする気はないのよ!!」

 

 放たれる連続攻撃を裁きながら、俺はとにかく情報を収集する。

 

 年齢は二十代前半。性別はどう見ても女。髪は黒のショートで目は釣り目気味の黒。

 

 ボクシングというよりかは拳闘というべき戦闘スタイル。加えて小刻みに動きを入れてくる辺り、機動力でかく乱するスタイル。

 

 そして展開されているのは外骨格。おそらくは幻想兵装だが、英霊にはかなりバリエーションがるのでこれだけでは想定は不可能。

 

 そして、何より警戒するべきは―

 

「―ッ!」

 

 交わした拳から生えてきた骨の刃を、俺は魔力を収束させて防ぐ。

 

 そう、この外骨格の形状があまりにも自由に変化できるということだ。

 

 これではギリギリの回避は逆に危険。やるとするならば大きくかわさなければならないな。

 

 これは、まずい。

 

「宮白!!」

 

「下がれ暁!! ……奴に気を向けている余裕はないぞ!!」

 

 とっさに前に出ようとする暁の肩をアルサムが掴む。

 

 当然だ。既にフォンフシリーズは全員が魔獣を生み出している。

 

 ……このままだと、確実にやばいことになるな。

 

 べズヴィルドからも騎士団やら魔導兵器が出てくるが、しかしそれでもこれはキツイ。

 

 せめてもう一人、それもサーヴァントクラスの戦力がいてくれれば……!!

 

「よそ見は厳禁よ!!」

 

 っと!! これはまずいか―

 

「それはこちらのセリフだ」

 

 ―その瞬間、分厚い筋肉の塊が割って入った。

 

 外骨格を纏った越智の拳は凶器としてもトップクラス。生中な聖剣など歯牙にもかけない。

 

 それを、あろうことか素手で受け止めている存在がいた。

 

「……なんだ、あの爺さん!!」

 

「……よもや、彼がこの場に出てくるとは!!」

 

 暁とアルサムが、それぞれ意味の違う驚愕の声を出す。

 

 そして、何よりもフォンフ達が警戒心を強めていた。

 

 特に警戒の色が濃いのが、フォンフ・セイバー。

 

 敵意の色をより濃くしながら、静かに腰を落とすとデュランダルを構える。

 

「チッ! いずれ斬るつもりだったがここで来るか!!」

 

 その言葉と共に駆け出す中、その人物が悠然と振り返る。

 

 御年80を超えた人間でありながらも、おそらくこの場で最強格であろうその人物。

 

 威厳とカリスマを垂れ流し、全員の視線を釘付けにするそのお方は、一振りの剣をあらわにした。

 

 それは、教会が開発したレプリカのデュランダル。

 

 だが、彼が使えば生中な使い手が使う真のデュランダルすら凌駕する。

 

「無事であったな、宮白兵夜よ。この老骨、微力ながらはせ参じた」

 

 その頼りになりまくる言葉と共に、元司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ猊下がデュランダルを迎撃した。

 




フォンフ・アーチャー「嘘、俺の宿敵……新米すぎ?」

おそらく誰にとっても予想の斜め上を飛んでいったであろうフォンフの行動。ぶっちゃけセイバーもランサーもアーチャーに振り回された形です。

アルジュナの無念に強く引きずられているフォンフ・アーチャーにとって、カルナとの決着は全人類貧乳化よりも優先されるべき事柄。しかし最悪なことにここでも授かりが足を引っ張る。

世界的に見ても超優秀な人型兵器であるフォンフ・シリーズを依代としてしまったアルジュナと、間違いなく優秀とはいえ実戦経験も少ない見習いの雪菜とでは素体の戦闘能力に天と地の開きがあります。フォンフ・シリーズは素体が豪獣鬼であることを考えればムリゲー一歩手前でしょう。

そんな時に現れた”賢者”。死ににくさはともかく火力ならフォンフ・シリーズを大幅に下回っています。

……よし、当て馬にしよう!! 少なくともカルナに慣れてもらおう!! と、考えたのがフォンフ・アーチャーです。









バカって言っていいのよ?


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……事件が解決すると後始末のことをうっかり忘れてしまうことがある

エイエヌ事変の裏でやらかしていた事実が明らかになります。


 

 絃神島の空港で、空港を軽く百は壊滅させれるであろう戦力の激突が行われているころ、姫柊雪菜は人生でも有数の危機を迎えていた。

 

 最大の問題は雪霞狼を保有していないことだ。

 

 真祖すら滅ぼす其の力は間違いなく人類が現状保有できる最強格の力だ。それを使うことができる雪菜も、実戦経験こそ少ないが間違いなく年齢不相応の戦闘能力を持った精鋭であることに嘘偽りはない。

 

 しかし、それでも雪菜は中学三年生。本来ならまだ見習いなのだ。

 

 その彼女がこれまでの激戦を潜り抜けられたのは、雪霞狼の力があったことが大きい。

 

 真祖すら殺しうる兵器というのは、それだけの力を保有しているのだ。

 

 その雪霞狼がない状況下で、高い実力を保有した魔導犯罪者を相手にするのは、雪菜の実力では難しいといってもいい。

 

 しかも相手の錬金術師天塚は物質変成により生命体を瞬時に金属へと変性させることができる。さらには理屈は不明だが、自身の体も液状にすることができる。

 

 これに対抗するには、こちらもそれ相応の装備が必要。まともに戦うにはやはり雪霞狼が必要だ。

 

 ……そして、この船上に天塚がいる可能性が非常に大きい。

 

 単純に言って窮地である。

 

 護身用に持ち込んでいたナイフだけでは心もとないが、攻魔師としての資格を持っているものとして黙ってみていることはできない。

 

 ゆえに、凪紗を適当にごまかして真っ先に雪菜はブリッジへと向かい―

 

「……おや、あの時の剣巫じゃないか」

 

 そこに、ぼろぼろの天塚と遭遇した。

 

「……死んでいなかったんですね」

 

「まあね。あそこにいたのは分身だよ。そして僕もね」

 

 そう言い放つ天塚は、しかしその負傷を隠しきれていなかった。

 

「民間の攻魔師もなめたもんじゃないね。何とか航行装置は破壊できたけど、通信設備は死守された―」

 

「逃がすかこの野郎!!」

 

 天塚の言葉をさえぎって、人影が姿を現す。

 

 一見すると人間だが、魔族登録証をつけているうえに、彼らの気配には覚えがあった。

 

 D×Dの悪魔、それもグランソードと同じ純血悪魔だ。

 

「……先輩、宮白さんに頭を下げましたね」

 

 一瞬で事情を理解して、雪菜はため息をつきたくなった。

 

 どうやら自分の監視対象は、天塚が生きていることをどこかで知っていたらしい。

 

 それで、兵夜が念のために用意してくれていたガモリーズセキュリティから人員を借りたのだろう。もともとそのための人材なのだから、それ位はするだろう。

 

 しかし暁古城に大して雪菜は腹を立てる。

 

 監視役である自分に話をせず、厳密に言えば外様である兵夜達のほうを頼るとはどういう了見だろう。

 

 しかも、こうしてガモリーズセキュリティの悪魔がいるということは、自分の護衛までされているということだ。それも自分に無断で。

 

 おそらくこれは兵夜が気をまわしたのだろう。二人そろって宿泊研修に専念してもらいたいとでも思っているのだろうが、文句の一つも言ってやらなければならないだろう。

 

 どんなときであろうと、監視役である自分が暁古城のことを気にしないわけがないのだ。蚊帳の外に置かれている方がむしろ不機嫌になる。

 

 戻ったらあとでしっかりとお説教ですね。と考えながら、雪菜はその悪魔と挟み撃ちにする形で、天塚と向き合う。

 

 隕鉄に術式付与したナイフなら、少しぐらいは天塚の物質変成にも耐えられるだろう。少なくとも足止めはできる。

 

 そして、抜けているところはあるが相手に合わせて戦う兵夜が用意した人材ならば、彼は天塚相手に相性がいい人物のはず。

 

 一瞬でも足止めをすれば、その時点で決着はつく。

 

 そう思った瞬間、天塚はにやりと笑った。

 

「いいのかな? いま、供物に使えそうなやつを見つけたけど」

 

「……っ!」

 

 瞬間、雪菜の脳裏に浮かんだのは夏音の姿。

 

 その焦りをついて天塚が仕掛けようとするが、しかしそれより早く動くものがいた。

 

「こっちはいい!! そいつ分裂するからカバーしきれねえ!!」

 

 一瞬で結界が雪菜と天塚の間に張られ、天塚の接近を阻害する。

 

「しつこいんだよ!!」

 

「そういうわけにはいかねえなぁ!! ……ほら、こっちは良いから先に行け!!」

 

「……はい!!」

 

 判断は一瞬。

 

 仮にも荒事担当の人物よりも、特殊技能を持っているとはいえ民間人の保護を優先するのは攻魔師として当然。

 

 何より、そんな言い訳がある状況下で友人を優先しない程自分は冷徹非情にはできていない。

 

 背中を押してくれた悪魔に感謝しながら、雪菜は急いで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして空港においても戦闘は継続……していなかった。

 

 天塚を追撃しようとしていた古城や兵夜と、天塚を雪菜の当て馬にしたいフォンフ達の激突は、一人の人物の出現で一時中断していた。

 

「久しぶりだ少年。そして、君が第四真祖か」

 

「え、えっと……。爺さん、誰だ?」

 

 見たことがない人物なので当然といえば当然の反応を古城はするが、しかしそれは人によっては激怒案件だ。

 

 幸い、この場には激怒するような人物がいなかったのでよかったが、下手をするとややこしいことになっていた。

 

 それに対してほっとしながら、兵夜は暁に視線を向ける。

 

「暁、こちらの方は俺たちの世界での宗教的準指導者クラス、司祭枢機卿を務めていたヴァスコ・ストラーダ猊下だ」

 

「枢機卿……っていうとすごいお偉いさんじゃねえかよ!! しかも爺さんなんだろ!?」

 

 ある程度来歴を飲み込めたが、ゆえに暁は慌てざるを得ない。

 

 そんな結構重要そうな人物にもしものことがあれば一大事だ。少なくとも間違いなく揉める。

 

 確かにガタイは老人には全く見えないぐらい頑丈そうだが、しかしそんなデスクワークのような人物がフォンフ数体がいる戦場に出てきて無事で済むとも思えない。

 

 だが、そんな暁の心中を察したのか、兵夜は静かに首を振った。

 

「安心していい。……この人、超強い」

 

「え、そうなのか?」

 

「その通りだ。悪魔祓いから枢機卿の地位に上り詰めた数少ない人物。こと聖剣デュランダルの扱いにおいては、初代の使い手である聖騎士ローランに並ぶとも超えたともいわれる存在だ」

 

 兵夜の単純極まりない説明に唖然とする古城に、アルサムがさらに説明する。

 

「悪魔からは真の悪魔とも教会の暴力装置とも言われた逸材。現時点においても人間という種族においては最強候補だろう。低く見積もっても人間内ならば上位一けた台に入る古強者。まさかこのような場でお目にかかれる機会があろうとは」

 

 賞賛だらけのその言葉に、古城もすぐに味方として頼りになると判断する。

 

 実際、数こそ少ないとはいえ相当のつわものたちとやり合う羽目になっている古城もまた、彼がただものでないことは勘付いていた。

 

 ましてや今回は非常事態。冗談抜きで猫の手を借りたかった。それが猫どころか獅子ならなおさらだ。

 

 事実、三人のフォンフはみな一様に警戒の色を強めている。

 

「まずいな、できれば時間を稼ぎたいところだが……」

 

「ああ、彼の恐ろしさはよく知っている」

 

 フォンフ・アーチャーもフォンフ・ランサーも警戒心が強くなりすぎて先手を打てない。

 

 それこそが、バチカンのイーヴィルキラーと恐れられた伝説の存在であるヴァスコ・ストラーダの存在。その抑止力。

 

 だが、そこに一つだけ例外が存在する。

 

「……面白い。なら俺がもらうぜ、これが」

 

 フォンフ・セイバーがデュランダルのうち片方を消し、一振りのデュランダルを構えて静かににらみつける。

 

 その視線を真っ向から受け止め、ヴァスコ・ストラーダもまたデュランダルのレプリカを正眼に構える。

 

「……なるほど、確かに、三大勢力の和平は耐えられない英雄も多いでしょうな」

 

「わかっているなら言わなくていい。そも、俺達を超えれぬようで後代を名乗る資格はないと知れ」

 

 その会話と同時に、一瞬で距離を詰めた二人はデュランダルをぶつけ合い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―瞬間、滑走路に真横に断絶が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりすぎ! やりすぎです猊下!!」

 

 あまりの展開に、俺は思わず突っ込んだ。

 

 ちなみに越智の攻撃を死に物狂いで回避しながら出るため悲鳴を上げたいレベルだ。

 

 だが、しかしこれは後でこっちの出費になりかねない。っていうか折半はしないとまずいだろう。

 

 すいませんもうちょっと加減してもらえませんか!?

 

「これはすまない。フォンフ・セイバーが憑霊させているものが私の想定通りなら、当然手を抜くことなどできぬし許されぬのでな。レプリカでは手を抜かれていてちょうどいい塩梅なのだ」

 

 そう言い放つ猊下は、しかしまったくもって油断をしていなかった。

 

 それどころか、むしろ全力で警戒心を強めているといってもいいだろう。

 

 どういうことだ? 猊下が知っている相手?

 

「どういうことだよ爺さん!! そいつの正体知ってるのか!?」

 

 魔獣達を殴り飛ばしながら、古城が訪ねるのも当然だろう。

 

 なにせ英霊とはあくまであちら側の存在。必然的にこちら側のものが詳細を知るわけがないのだ。

 

 それも、デュランダルをコピーするような存在などいったいどこにいるというのだ。

 

 疑問符を浮かべる俺だったが、しかし猊下は何を言っているのかわからないふうに首をかしげる。

 

「固定観念にとらわれてはいかんぞ、宮白兵夜よ。現実にそこにデュランダルを使いこなしている以上、答えなど明白だろうに」

 

 め、明白?

 

「歴史に名を遺す存在で、デュランダルの使い手といえるようなものなど一人しかいないであろう? ならば答えなど明白」

 

 そう続け、猊下はデュランダルの切っ先をフォンフ・セイバーに突き付けた。

 

「すでにこちら側の英霊まで呼べるようになっていたか。フォンフ・セイバーよ、我らが聖騎士ローランをテロに加担させた罪、重大だと知るがよい」

 

 ………………

 

 あ、そういうこと。

 

 あの野郎、俺たちが幻想兵装の技術を流用しようとしている最中に、すでに応用発展に成功していたと。

 

 確かに、根源に近いものがこの世界にもあると仮定するならば、必然的に英霊の座に近いものがあってもおかしくないわな。

 

 いや、しかしデュランダル二刀流はどう説明すると?

 

 そこまで考えて、俺はあることに気が付いた。

 

 そういえばエイエヌ事変の時は、決着がついた直後に次元震が発生しかけたのですぐに赤龍帝たちは戻っていったんだった。

 

 つまり、それは―

 

「お前ら、どさくさに紛れて落し物回収してたな!?」

 

「今まで気づいていなかったのかね?」

 

 心底あきれた視線をフォンフ・ランサーに向けられてしまった。

 

 くそう! いろいろと恨みつらみ混じった攻撃を喰らっている中でこれはキツイ!!

 

 な、なんという致命的なミスを!! これは明らかにこちらの不手際だ!!

 

 おれ、最上級悪魔になるどころか降格処分を受けるんじゃないだろうか!

 




本日もとい数か月前のうっかり:だれも従僕の持っている剣のことに気が回らなかった。

従僕が塵になったことと直後に大騒ぎが起きたことにより、誰もがうっかりデュランダルや魔剣群などのことを度忘れしていたという痛恨のミス。一人忘れてなかったフォンフが全部回収しています。









そして、フォンフ・セイバーはD×D世界のローラン。

異教徒相手に侵攻を広めるために戦っていたのに、異教徒通り越して悪魔と和平を結んだことで発生している不満を突かれた形となります。んなふざけたことするなら、まず俺を宿したこいつを倒してみんか、ワレェ!! ってな感じで。

ちなみにフォンフ・セイバーは手を抜いています。っていうかフォンフ・アーチャーの暴走に付き合わされている形なので、ぶっちゃけやる気出てません。


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史上最強の白龍皇とあり得ざる偽聖剣

 

 ヴァーリ・ルシファーは音速を超える速度で海上を進んでいた。

 

 彼が思考することは大きく分けて二つ。

 

 一つは|”賢者”の戦闘能力。

 

 荷電粒子砲の火力は、正直言って自分なら耐えられるレベルだ。不死というのは興味があるが、しかしそれもこちらを倒せる能力がなければただのサンドバッグだ。

 

 組成を変換する能力は脅威といえるが、しかしそれでも魔法による結界で直接接触を防げばそれで十分しのげる。はっきりいって攻略法が分かり易い。

 

 とはいえ、もう一つの考えていることがある以上、のんびりというわけにもいかないだろう。

 

 そう、一般人の被害である。

 

 兵夜辺りがそれを知れば「和平会談妨害しておいて何を今更」と鼻で笑うのだろうが、気になってしまったものは仕方がない。

 

 どうも兵夜達はフォンフの妨害を受けているようだし、こうなれば選択肢はそう多くない。

 

 さっさと行って片付けるのもありだろう。そう認識すると同時に、視界にフェリーが映った。

 

 そして、思ったよりも状況が悪いことを把握する。

 

 道化師のような風貌をした、くだんの天塚と思しき者と、それとよく似た体形をした、金属質の物体が少女二人を追い詰めている。

 

 色々と大変なようだ。これは即座に行動するべきだろう。

 

「アルビオン。すぐに終わらせるぞ」

 

『そうだな。間接的に宮白兵夜に恩も売っておくことにしよう。仕掛けるぞ』

 

 その両者の言葉と共に、ヴァーリは攻撃を開始する。

 

 魔王の直系と白龍皇の魂に由来する圧倒的出力を、学習した様々な系統の魔法により精密に制御。必要最小限の火力と速度で斉射。

 

 狙いは違わず、遠慮なく天塚本人を除いて貫いた。

 

「……思ったよりも遥かに簡単にカタが付いたな。これは肩透かしか?」

 

「あ、貴方はいったい!?」

 

 突然現れた謎の存在に、雪菜は呆気にとられる。

 

 当然といえば当然だろう。いきなり空から見知らぬ存在が出てきたのだ。第三勢力を疑ったとしてもおかしくない。

 

「安心しろ。俺は宮白兵夜に連れられてここに来た」

 

「宮白さんのお友達ですか?」

 

『ただの知り合いだ。あの男、いまだに我々に対して警戒心を持っているからな』

 

 ため息交じりアルビオンが漏らすが、まあ警戒されてもおかしくはないだろう。

 

 一人や二人そういう手合いがいてもいい。第一その程度のことを気にするようなら、テロリストになどなっていない。

 

 そして、それだけのことをしたのは良いが中々についていない状況ではあった。

 

「さて、偽核(ダミーコア)とやらはもう品切れか? それならそれでつまらないんだが」

 

「なんだ、何なんだ貴様は!!」

 

 天塚は明らかに危険度の高いその存在に警戒していた。

 

 火力は第四真祖の眷獣以上、更にはそれを正確に使用できるという反則技。難易度は遥かに高い強敵といえるだろう。

 

「くそ! 僕は、人間に戻りたいだけなのに……っ!なんでどいつもこいつも邪魔ばかり!!」

 

「悪いが、俺はそういうのに興味がないんでな。君には悪いがどうでもいい」

 

 ヴァーリとしてはあまりそこは気にするところではない。

 

 相手にも事情はあるのだろうが、それはそれ。殺さない程度に手加減をしておけばそれでいい。

 

 それよりも気にするべきは―

 

”賢者”(ワイズマン)は何処にいる? できれば、ただのサンドバックで終わってほしくはないんだけどね?」

 

「ワイズマン?」

 

 事情を把握していない雪菜が尋ねるが、それより早く動くものがいた。

 

『カカカカカッ! 不完全なモノが完全たる我を遊具扱いするか!』

 

 その声は、天塚の持っていた杖から響く、

 

 ヴァーリは一瞬それが”賢者”だと思ったが、すぐに違うと判断した。

 

 理由は単純だ。

 

 それよりもっと強大な気配が、海から近づいてきているからだ。

 

「……そういえば聞いたことがあるな。海水には貴金属が大量に溶け込んでいると」

 

『なるほど、それを力技で無理やりかき集めたということか』

 

 それを裏付けるように、それは会場から現れた。

 

 液体とも個体ともつかぬ金属でできたスライムとでも形容するべき巨体。

 

 黄金を思わせる輝きを放つそれは、ある種の神の気配を宿していると思わせた。

 

『カカカッ! 不完全なモノよ、完全足る我の贄となるがいい!!』

 

「……なるほど、これが”賢者”(ワイズマン)か」

 

 その威容を目にしながら、ヴァーリは多少評価を修正した。

 

 完全な存在と名乗るだけあり、流石に自分でも殺すのはてこずりそうだ。

 

「……姫柊雪菜とか言われてたな。君は後ろの子を連れて離れていろ。コイツは俺がやろう」

 

「大丈夫ですか? あの気配、真祖の眷獣クラスにも匹敵しますが」

 

 それに関しては否定はしない。

 

 もとより相手が不滅の存在であることは聞いている。壊れないサンドバッグ程度の認識はしていた。

 

 とはいえ流石にそれは認識が甘かったと判断する他ない。奇跡的なことに、目の前の存在は自分を殺しうる牙を持っている。

 

 おそらく港湾地区での戦闘は羽虫を追い払う程度の感覚で行っていたのだろう。少なくとも火力には上がある。

 

 下等な存在相手に本気を出すまでもないという判断だったのだろう。少なくとも、龍王クラスの火力を放つことはできそうだ。

 

 だがしかし。

 

「気にするほどのことではない。しょせんはまがい物の神。真なる神滅具の担い手を相手にするには―」

 

『―不足にもほどがある』

 

 次の瞬間、白龍皇の神髄が顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宮白兵夜、聞こえているか』

 

 余人には手が出せない規模の剣戟が繰り広げられている中、ヴァーリから通信が来た。

 

「………あれ? もう倒した?」

 

『流石に殺すのは骨が折れたので封印した。それで、まだ時間はかかるのならこちらから向かうが?』

 

 俺はとりあえず、フォンフに視線を向ける。

 

「だ、そうだが?」

 

「なんでヴァーリまで連れてきてんだ、これが」

 

 フォンフ・セイバーが心底嫌そうな顔をしながら告げるが、そんなこと言われてもな。

 

「そもそもヴァーリをヴァトラーと模擬戦させるのが目的だったからな。結果トラブルに巻き込まれたが」

 

「そっちが目的か。……聞いてねえぞあの野郎」

 

 後半よく聞こえなかったが、しかしまあ大体予測はつく。

 

 ここで把握されていたら内通してるのばれると踏んだな、ヴァトラーの奴。まあいい。奴は後でじっくりゆっくり調べ尽くしてやる。

 

「で。とりあえずそちらの目的はご破算なわけだが……続きするか?」

 

 とりあえずヴァーリが”賢者”(ワイズマン)をどうにかしてしまった以上、これ以上フォンフの目的は達成しようがないと思おうんだが。

 

 とはいえ、フォンフはこちらの動きを少しは読んだうえで戦力を送り込んでいるはず。

 

 つまりは―

 

「―仕方がない。だったらここで邪魔な奴の首を一つぐらい取っておくか!! 野郎ども、本気で動け!!」

 

 だろうな!!

 

 その声と同時に、越智が正面から俺に突っ込んでくる。

 

 この女、遠慮が欠片も見えないなほんと!!

 

「なあ! 本当になんで恨んでるのか教えてくれないか!?」

 

「分かってないのが余計に腹立たしいのよ!! 逆恨みと断言してくれた方が、まだましだってのに!!」

 

 そんなこと言われても分からないんだから仕方がないだろう!!

 

 いや、正当性があると判断したなら半殺し位なら黙して受けるぞ? 全殺しはあいつらに悪いので流石にパスだが、それにしたって金持ってるから賠償金だって払う。

 

 しかし、それが逆恨みなら話は別だ。俺は正当性のない報復には不寛容だ。

 

 しかし、その判断も恨んでいる理由が分からなければどうしようもない。

 

 俺に対して逆恨み含めて恨みを持ってそうな輩は全部調べたと言ってもいい。あとは本当に些細なことが原因の取りこぼしぐらいだ。

 

 だが、そんなことが理由でここまでするか、普通?

 

 放たれる拳を何とか迎撃しながら、俺は本気で思考する。

 

 全く想定していない逆恨みなのか、それとも俺の認識が違うだけで正当性のある恨み言なのか。

 

 それが分からなければ、どう対処していいのか分からない。

 

 いや、十中八九逆恨みな自信はあるんだよ? 俺、堅気に迷惑かけないようにしてるし。

 

 とはいえ俺はうっかり癖があるから、万が一の可能性は充分ある。そこはきちんと考慮しないといけない。

 

 ゆえに、半殺しと金銭的賠償までなら了承する覚悟はある。ホントだぞ?

 

 だからきちんと説明してくれれば、少しぐらい痛い目見たって文句は言わないんだが!?

 

 それで言わないってことは、当人の八つ当たりの自覚はあるということか? ならこちらも遠慮はしないんだが―

 

 仕方がない。とりあえず半殺しにして確保してからゆっくりイッセーに乳語翻訳(尋問)してもらえばそれでいい。

 

 とにかく、さっさとことを終わらせる。

 

「話す気がないなら強引に調べるのみだ!!」

 

 俺は遠慮なく距離を詰めると、義足の出力を上昇させる。

 

 心当たりのないことで襲われている以上、両足が吹き飛ぶ程度の怪我は覚悟してもらう。万一俺に原因があったらその時は義足ぐらいは用意しよう。

 

 詳しく教えないそっちの落ち度だ。悪いが痛い目を見てもらう!!

 

「いい加減にしてもらおうか!!」

 

 反撃の為に一歩を踏み込んだその瞬間―

 

「―甘いわよ」

 

 その瞬間、莫大な雷撃が俺に襲い掛かった。

 

「危っ!?」

 

 とっさに雷撃誘導用の礼装を展開してそらすが、出力が絶大すぎて何割かこっちに来た。

 

 偽聖剣を展開してなければ戦闘不能すらあり得る火力。これは間違いなく龍王クラスの攻撃力。いや、暁の眷獣のあれだ。

 

「忘れてない? さっきそこには第四真祖が攻撃を加えていた。そして私は過去を再現できる」

 

「異能力の類なら可能ってわけか……っ」

 

 チッ! そういえば模造天使(エンゼル・フォウ)の時も復活させてたな。

 

 ……って待て? いま、声が後ろから聞こえて―

 

「これで、終わりよ」

 

 あ、ヤバイ。

 

 振り返らずに全力で後ろに向かって光魔力の槍を乱射。これしかない。

 

 間に合うか―

 

「―それはさっせるかぁああああああああ!!!!!」

 

 その時、越智を真横から殴りつける姿があった。

 

 それをなしたのは一人の少女。俺より少し年上に見えるその姿は、どこか越智に似ていた。

 

 そして、その身に纏うのは聖魔剣の鎧。

 

 まるで俺の偽聖剣のように全身鎧として身に纏っている鎧は、間違いなく剣の類で構成されていた。

 

 そして、その身から放たれるのはまごうことなき神気。

 

 間違いない。この女、神だ。

 

「……想定外のイレギュラーか。これ以上の戦闘は危険だな」

 

 フォンフ・ランサーが忌々し気に舌打ちをしながら、後ろに飛び退る。

 

 それと同時に他のメンバーも後退しながら黒い霧を展開し始める。

 

 どうやら、想定外のイレギュラーを警戒しているということだろう。

 

 ああ、確かにこれは度肝を抜かれる。

 

 擬態の聖剣と同様の能力を持つ聖魔剣が開発されたなんて話、俺は聞いてないぞ?

 

 そして、それをなした少女は鋭い視線をフォンフたちに向けると同時、悲しげな表情を後退する越智へとむける。

 

「……ま………」

 

 その言葉は小さくてよく聞こえなかったが、しかし相当に強い感情が篭っていた。

 

「今日のところはいったん退こう。なに、決着はいずれ付けるさ」

 

「姫柊雪菜に伝えておいてくれ。もっとカルナを使うようにとな」

 

「歴代最強とも言われたデュランダル使いとの切り合いは堪能できた。次やる時は本気を出そうか」

 

「……次は殺すわよ、宮白兵夜」

 

 思い思いに言葉を告げながら四人が撤退する中、俺達はあえて追撃しない。

 

 ここで万が一にでも転移に巻き込まれれば、おそらく出てくるのはフォンフ達の本拠地だ。

 

 そんなことになれば間違いなく死ぬ。おそらくフォンフも相当規模の戦力を確保しているはずなのだから。

 

 しかし、俺を助けた少女だけは違った。

 

「逃がさない。……ビエカルとその人についてだけは、全部吐いてもらうんだから!!」

 

 鋭い敵意を向けながら、その少女は全力で追撃する。

 

「あ、オイ待て!!」

 

 思わず止めようとするが、しかし聖魔剣の鎧の能力が高いのか追いつくことができず―

 

「漸く掴んだ手掛かりなんだから、逃がさないんだからね!!」

 

 その怒りにまみれた言葉と共に、その女は姿を消していった。

 




”賢者”、一蹴。

いや、今の状態のヴァーリの戦闘能力で、あれに苦戦する姿が予想できんかったんや。すまんな自称完全。







それはそれとして新キャラ登場、および別の新キャラの名前も登場。

双方ともに装備込みでなら割と強キャラなので、今後の展開をぜひお楽しみください。


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兵夜「いつか当たるとは思ってたが今あたるかぁ……」

錬金術師の遺産編も今回で解決。


 その後、事態はとんとん拍子に収まった。

 

 ヴァーリによって蹂躙された”賢者”(ワイズマン)が収まった宝玉は、後でしっかり暁が眷獣を使って消滅させた。

 

 何百年と続いた錬金術師の大いなる失態は、ここに完全に終結したのだ。

 

 そして俺達が何をしているのかというと―

 

「………それで、申し開きはありますか、皆さん?」

 

「俺は暁に報酬を後払いで確定させたうえで同意したので、文句は全部暁にお願いします。一応苦言は呈しましたし」

 

「宮白お前!? 全部俺に押し付ける気かよ!?」

 

「先輩は黙っていてください」

 

 見ての通り、全力で姫柊ちゃんに説教されていました。

 

 当然天塚の事を黙っていた事について説教ですとも。うん、これはかなりきつい。

 

 ちなみにヴァーリとアルサムは安全圏で茶をすすっていた。

 

 ヴァーリはともかくアルサムは共犯でいいと思うのだが、解せぬ。

 

「まったくもう。先輩は目を離すと自分からトラブルに巻き込まれに行くんですね。これは監視役として今後片時も離れられません」

 

「いや、お前今は監視役休んでるんだよな?」

 

「………なにか言いましたか?」

 

「暁。今は何も反論しない方がいい」

 

 俺は一応警告したよな?

 

 まあ、暁の気持ちも分かるから協力したが、一応言ったからな?

 

 どうせ姫柊ちゃんは常に暁の事考えて心配してるだろうしなぁ。

 

 まあ、休暇中だったんだからあえて巻き込まないというのもましな選択肢ではあるんだが。

 

「その辺りにしておくといい。年下、それも義務教育の中学生が命がけの仕事をしているなどと知れば、まともな感性なら気にもするだろう。せっかくの休暇をゆっくりと楽しんで欲しいと言う事そのものは間違ってはないはずだ」

 

 と、アルサムが遂に助け船を出してくれた。

 

「その意志に感じ入るものがあったからこそ、宮白兵夜も協力したのだ。結果的に裏目に出た節はあるが、少しぐらいは汲んでやるべき」

 

「そ、それはそうですが……」

 

 よし、アルサムの意見なら流石に聞いてくれるようだ。第三者ポジションに収まってやがったのが功を奏した。

 

「そ、そう―」

 

「お前は逆効果だから黙ってろ」

 

 暁が何か言いそうになるが、それに関しては俺が取り押さえて黙らせる。

 

「それはそれとして、依代を復旧させた南宮那月から連絡があった」

 

 と、更にアルサムは話まで変えてくれる。

 

 第三者ポジションにさらりと逃げ込んだ時は少し恨んだが、ここは素直に感謝しておくことにしよう。

 

「……こちら側を援護した女についてだ。どうやら非合法で賞金稼ぎをしている身元不明の女だそうだ」

 

「非合法の賞金稼ぎ?」

 

 暁が首を傾げるが、しかしそういうことはあるだろう。

 

「そう珍しい話ではないだろう。こういう実力者がゴロゴロいるのなら、賞金がかけられている者もいるだろう。そういう手合いを生きたまま半殺しにとどめて突き出すことで生計を立てていたようだが、なぜか名を上げる前までの来歴が不明で、その筋では有名だったらしい」

 

「なかなか面白そうなものと関わっているようだね。俺もぜひ目にしたかった」

 

 ヴァーリが実に残念そうにしているが、問題点はそこじゃない。

 

「……だが、あいつは聖魔剣を使ってたぞ? 俺達の世界の物体で、それも最近できたものをなんで奴が持ってるんだ?」

 

「そこまでは不明だ。調査のための人員を派遣する必要もあるだろう」

 

 なんか訳ありっぽいな。

 

 それに、他に気になることもある。

 

「奴の言っていたビエカルとかいうのは―」

 

「それについても既に調べがついている。コカビエルについて離反した堕天使の1人で、エイエヌ事変で戦死が確認された」

 

 ……そうか。

 

 コカビエルに与したということは戦争推進派だったのだろう。結果的には好都合ということか。

 

 しかし、あの女はそのビエカルというやつのことが相当お気に召さなかったらしいな。無理して追撃したぐらいなんだし。

 

 それに、他にも気になることがある。

 

 越智のことだ。どうもそのビエカルとかいうのが関わっているらしい。

 

 さらにあの女が越智のことを知っているっぽかったことから考えても、何かしらのつながりはあると思うんだが……。

 

 そこまで考えて、俺はある事に気が付いた。

 

「そういえばアルサム、その女の名前……知ってるか?」

 

 そういえば、全然聞いていなかった。

 

 アルサムも言われて気が付いたのか、はたと手を打つと資料を取り出して確認する。

 

「……マコト、だそうだ。偽名の可能性が大きいがな」

 

 マコト……か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。ヴァーリの所為で姫柊雪菜の強化に失敗してしまった。あの男、禍の団の時から余計な事しかしてないんじゃないか?」

 

 フォンフ・アーチャーは舌打ちし、そして視線を前へと向ける。

 

 そこには、いくらかの負傷を見せながらも力強くこちらを睨み付けるマコトの姿があった。

 

 結果的に振り回すだけに終わった責任を取って迎撃を命じられたが、しかしこの女は面倒だ。

 

 正体と知識はどうでもいい。それがある意味で役に立たないのは知っている。それは()から教えられている。

 

 前提条件が大きく異なっているこの世界では、彼女の知識はあまりにも役に立たない。そして、当人も積極的に公開するつもりはないのだろう。

 

 だが、()には恩がある以上、ここで彼女と殺し合わせるわけにはいかなかった。

 

 今後の展開にかなりの影響を与えてくれた彼に対する恩義は返しておくべきだろう。利害も一致している以上、ある程度の便宜は図る。

 

「さっさとアイツを出しなさい!! なんで、なんであの人を巻き込んだの!!」

 

「それは彼の発案だ。分かっているだろうに、越智は当て馬としてこの上なく宮白兵夜の相手にしやすい」

 

 さらりと返答すれば、マコトの表情は怒りに燃え上がる。

 

 顔も分かり易く真っ赤になるほど怒っている。これほど分かり易い怒り方もそうはない。

 

 それが事実としてそうだとわかっているがゆえに、マコトの怒りはより強く燃え上がっている。

 

 だが、それでもマコトは冷静だった。

 

 その冷静さは父親似とでも言えばいいのか、マコトはこれ以上の追撃を良しとしなかった。

 

「覚えてなさい!! 絶対こんな事した落とし前はつけてもらうんだから!!」

 

 その言葉と共に、彼女は飛び退ると撤退を開始する。

 

 聖魔剣の能力で幻影と透明化を同時に行いながらの離脱に、フォンフ・アーチャーは追撃を行わなかった。

 

 ……技術提供を行っている国の都市の方に逃亡を行っているからだ。

 

 今ここで攻撃を行なえば、ついうっかり街に被害を出しかねない。

 

 せっかく苦労して手に入れたスポンサーの機嫌を、こんなところで失うわけにはいかなかった。

 

「……裏で行動している方が楽ではあるが、こういう時は縛られるな」

 

 そう言いながら弓を卸し、フォンフ・アーチャーはため息をつく。

 

 彼からこの可能性については聞いていたが、まさか本当に起きてしまうとは困った事だ。

 

 しかも、今回の件で時空間移動技術についての辺りを与えてしまった可能性が高い。

 

 ……今後の作戦をある程度変更する必要に迫られ、フォンフ・アーチャーは舌打ちを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は舌打ちをする他なかった。

 

 暁はものの見事に授業をサボった為補習が確定。

 

 そして次の試合も確定した。

 

 よりにもよって今回の相手は明星の白龍皇チーム。……ヴァーリと試合をする羽目になった。

 

 間違いなく最強クラスのチームの1人。少なくとも、若年層のチームならば総合力で最強だろう。

 

 西遊記に登場する孫悟空・沙悟浄・猪八戒の末裔。元SSランクのはぐれ悪魔。アーサー王の血を引く末裔二人。更に神喰いの魔獣フェンリルやら古の古代兵器という超絶集団。そしてそれを率いるは歴代最強の白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

 

 そして今回発表された戦闘ルールはライトニング・ファスト。バージョンノンリミット。

 

 制限時間一時間で、どれだけ倒せるか、もしくは王を倒せるかで決着がつく非常に分かり易いルールだ。

 

 ……一言言おう、相性が最悪だ。

 

 幸い今回は使い魔のルール制限などが解除される特別仕様な為、暁が眷獣をフル仕様すれば勝ち目はあった。

 

 あったのに補習で潰れた。

 

 こうなれば、俺も遠慮はしない。

 

「……ヴァトラー!! レーティングゲームに参加してもらうぞ!!」

 

「あれ? 今回は模擬戦って話じゃなかったっけ?」

 

「あれは無しだ!! それより周囲の被害を比較的無視できるレーティングゲームの方がいいだろう?」

 

 俺は速攻で商談を進めていく。

 

 なにせ、今回のレーティングゲームでは切り札の一つともいえる暁が使えない。

 

 となれば、別の形でそれを補填する必要がある。

 

 そして、ヴァトラーは真祖に最も近い吸血鬼と呼ばれている。

 

 この条件が揃っている状態で、この選択肢しかないだろう。

 

 俺も、できることなら避けておきたかった。

 

 まず間違いなく危険人物であるヴァトラーは、かなり警戒するべき相手なのだ。っていうか警戒する以外の選択肢が存在しない。

 

 しかし、だからこそメリットもある。

 

 それは単純にヴァトラーの戦闘能力が知れるという事。

 

 実はヴァトラーの眷獣、合体眷獣を抜きにしても、一体詳細が知られていないものが存在する。

 

 もし、それを知ることができれば今後の戦闘能力の把握において非常に有効になるだろう。

 

 そういう意味ではヴァーリチームは当て馬にもってこいだった。

 

 なにせ、元がテロリストだから少しぐらい痛い目を見ても心が痛まない。いや、まったくもって痛まないなうん。

 

 ちなみに、日程は既に調べておいてある程度融通が利く時期である事は既に調べがついている。

 

 ………さて、ヴァトラーはどう出る?

 

「………一つ聞くけど、そのレーティングゲームでどう動けばいいのかな?」

 

「二強のうちどちらかを全力で叩き潰せ。それ以外の些末事は全部こちらで引き受ける」

 

 その言葉にヴァトラーは少しだけ考えるそぶりをし―

 

「―いいネ。それなら暇潰し位にはなりそうだ」

 

 ―その口角を、釣り上げた。

 




超強い戦闘狂と超強い戦闘狂が交差するとき、物語という名の激戦は始まる。








それはともかくとして、名前と姿が出てきたキャラの補足情報という名の謎を深めるキーワード。

まあ、マコトの正体に関してはこの名前だけで察することは不可能ではありません。訓練されたD×Dファンにとっては既出ネタですしね(^^♪







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VSヴァーリ 第一ラウンド!!

マコトに勘しては感想で思ってもいないミスをしている方たちだけなのにビックリ。

ひねる方向が間違ってます。ヒントは「ああ、あいつならこうするな」的な発想です。



イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は試合会場に集まって、その試合に注目していた。

 

 タイミングが悪いことに次期当主としての仕事で行けなかったリアスが心底悔しそうにしてたのが印象に残ってる。

 

 気持ちはすっごくよくわかる。

 

 なんてったって、あの宮白とヴァーリの試合だ。

 

 すでに解説番組でも何かしらの動きが出てくることは確実といわれているし、それにしても注目されているのは今回のルールの特性。

 

 ……使い魔制限の完全開放。これはマジですごいことなるだろう。

 

 なにせ、宮白のチームで女王を担当してる暁ってやつはかなり注目されている。

 

 火力だけなら龍王クラス。その破壊力で試合のフィールドをごっそり破壊したことだって何度もある。

 

 だけど、それでも暁は全力じゃない。

 

 本人が戦い慣れてないこともあるけど、それ以上にイレギュラーゆえにルールにおいての扱いが困っているのが現状だ。

 

 S×Bの眷獣は独立具現型神器と同じ扱いにするべきか、それとも使い魔と同じ扱いにするべきかで難航してるからだ。

 

 だから、今回のアザゼル杯のルールでは眷獣は一対だけ使用するってことになっている。

 

 ……それが、解禁される。

 

 つまり、暁古城の正真正銘の本気が見れるってことだ。

 

「イッセーさま。おそらく今回の試合は誰もが注目する一戦になりますわ」

 

 レイヴェルが会場に視線を集中させるのも当然だ。

 

 なにせ、相手はあのヴァーリ。

 

 ……一つの世界において最強の吸血鬼と呼ばれる、第四真祖暁古城。

 

 現在過去未来全てにおいて最強と呼ばれる、史上最強の白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

 

 その闘い、間違いなくフィールドの何割かが吹っ飛ぶだろう。

 

 そう固唾をのんで見守っている中、ついに司会のアナウンスが始まり―

 

『えー、今回の試合ですが、暁古城選手は補習のため欠席とのことです』

 

 ―俺たちはいっせいにずっこけた。

 

 いや、そりゃこけるよ!!

 

 え、このタイミングで補習!? よりにもよって全力で暴れられるこのタイミングで補習!?

 

 あんた何やってんの!? 授業はちゃんと受けようよ!!

 

『今回、暁古城選手の完全開放が見られると思った方には非常に残念な結果となりましたね、解説のサーゼクス様』

 

『私も非常に残念に思っている。今頃この試合に注目していたVIP席では、ブーイングの嵐が巻き起こってるだろうね』

 

 解説のサーゼクスさまも苦笑してるよ。うん、ブーイング起こりそうだね!!

 

「そういえば、学業優先とはっきりメンバー表に書かれていたな。成績悪いのか、その暁というのは」

 

「完全夜型の吸血鬼であることを隠して、昼型生活を送っているため遅刻と居眠りの常習犯だと伺ったことがありますわ」

 

 いち早く持ち直したゼノヴィアとレイヴェルの話を聞き流しながら、俺たちは視線を会場に向ける。

 

 たしか、姫柊ちゃんって子は暁の監視役ってことで、一緒に参加してるから今回は参加してないんだっけ。

 

 ってことは、もしかして宮白すごく不利?

 

『しかし、あの宮白君のことだから代役も相応の人物だろう。正直期待しているのだが、そのあたりはどうなのかね?』

 

『あ、はい。渡された資料によりますと、今回女王のリザーブ枠で参加されているのは、ディミトリエ・ヴァトラー選手ですね』

 

 そ、その人をわざわざ女王枠にするってことは、かなり強いんだろうか?

 

「あの宮白君のことだから、きっとその人もすごい人なのよね?」

 

「でも、その男もヴァーリとレーティングゲームが最初だなんて運が悪いな」

 

 イリナとゼノヴィアがため息をつくが、しかしビナー氏は首を振った。

 

「気にすることはないわ。独自のパイプでつかんだ情報だけど、かつてのヴァーリ・ルシファーに凌ぐぐらい質が悪い戦闘狂だそうだから、むしろ喜んでるでしょうね」

 

 ビナー氏。それ、間違いなく宮白から直接聞きましたよね。

 

 でもまあ、ヴァーリと同タイプの戦闘狂なら、きっとむちゃくちゃ強いんだろうなぁ。

 

『なんでもこのディミトリエ・ヴァトラー選手、S×Bでは「真祖に最も近い男」と呼ばれているそうです。これはこれで期待できますね』

 

 むちゃくちゃ強かったよ!!

 

 なに、その「世界で五番目に強い吸血鬼」的な異名!!

 

 確か暁って吸血鬼としてはまだまだ戦闘慣れしてないんだよな? ってことは今のところ、暁より強いってことでいいのかよ!?

 

 こ、これはすごいことになってきたぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺たちは試合会場でヴァーリと向き合う。

 

「ふふふ。この機会を待っていたよ。俺はこういうことがしたくてこの大会に参加したんだ」

 

 そう、堂々と楽しそうにするヴァーリをみて、俺はどうしたものかと思う。

 

 こいつ心から楽しそうだな。なんというか困ったもんだが。

 

「そこまで愉しみな試合か?」

 

「もちろんだとも」

 

 俺の言葉に、ヴァーリは即答する。

 

「数人がかりとはいえ超能力者(レベル5)を打倒した高町ヴィヴィオと、その師匠であるノーヴェ・ナカジマ。さらにはその彼女たちに勝ち越しているアインハルト・ストラトス。この時点でまず楽しめそうな相手がそろっている」

 

 さらに視線が横にずれていく。

 

「さらに神滅具(ロンギヌス)保有者が参加し、その彼と一体化する形で魔帝剣グラムの保有者が参加」

 

 そしてさらに視線は移動し、俺に向いた。

 

 ……心の底から楽しそうな顔をしやがったよ、こいつ。

 

「さらには君だ。神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)。もう何もかもが楽しみで仕方がない」

 

「だよねぇ。誰も彼もが優秀なら、もうより取り見取りで選びたい放題だ」

 

 うんうんとうなづきながら、ヴァトラーが一歩前に出る。

 

「でも、お流れになったボクとの模擬戦のことも忘れてもらっちゃ困るよ? ……存分に喰らい合おうじゃないか」

 

「そうだった。それに、宮白兵夜の相手は他にいる」

 

 心底楽しそうにする戦闘狂(バカ)二人から視線を逸らせば、そこには強い戦意を込めた視線を向けてくるやつが一匹。

 

「………」

 

 フェンリルさんが殺気すら見せてこっち観てきてるよ。

 

 あ、これアーチャーとの連携で爪へし折ったの根に持ってるな? やられた分しっかり借りを返したいと思っているな?

 

「……ヴァトラー。意地でも試合終了までヴァーリを抑えるか倒すかしてくれ。……俺、一時間持ちこたえられる自信がない」

 

 うん、これ実戦だったら俺死んでるな。

 

 成果を上げるって、つらいね。

 

 フェンリルさんや。ここにはアーチャーもナツミもいないから手加減してくださいな。

 

 そんな諦観を抱く俺の肩に、シルシがぽんと手を置いた。

 

「大丈夫よ兵夜さん。私がいるわ」

 

「シルシ……っ」

 

 俺は、ぶわっと涙を流した。

 

 こ、心強すぎる!!

 

「……っていうか、私今回評価低い組ですのね」

 

「私もなにげにスルーされたよっ!?」

 

 あ、雪侶とトマリはとりあえず頑張れ。

 




何気に残念な扱いを受けている雪侶とトマリ。

ですが、この作品のオリキャラにただのカマセキャラはあまりいないのでご安心ください。

ちゃんと、パワーアップフラグも活躍チャンスも作っております!!


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VSヴァーリ! 第二ラウンド!!

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

『それでは試合開始!!』

 

 実況の声と共に、戦闘が開始される。

 

 今回のゲームは文字通りの短期決戦。すぐに決着がつくだろう。

 

 しかもヴァーリはノリノリ。これ、すぐにでも決着がつきそうな気がするなぁ。

 

 基本的にヴァーリチームは個人主義が多いこともあってか、戦術はシンプルにヴァーリを中心にフィールド中央に進撃するというスタイルだ。

 

 全員が相当に強いから隙が無い。そういう意味では宮白にとっては苦手なタイプだろうか。

 

 さて、宮白はどう動くか―

 

 と、思った次の瞬間、蛇が現れた。

 

 魔力でできた巨大な蛇。いや、東洋の龍にも見える。

 

 そして、それを引き連れるのは金髪の吸血鬼。

 

 今回のリザーブ枠、ディミトリエ・ヴァトラーが楽しそうに笑いながら先頭を歩いていた。

 

 そして、同じく先頭を進むのはヴァーリだ。

 

「……戦いたかったよ、ヴァーリ・ルシファー。なんでも”賢者”(ワイズマン)を一蹴したんだっけ?」

 

「多少は歯応えがあったが、根本的にはサンドバッグだった。暇つぶし程度にしかならなかったよ」

 

 そんな会話をする二人は、しかし隙が感じ取れない。

 

 一瞬でも隙があれば、即座に全力の一撃を叩き込もうという意志が感じられる。

 

 あのヴァトラーって人、なんというかヴァーリを数段やばくした感じがする。

 

 何ていうか、今までの経験が告げている。

 

 ヤバイ奴だ、あの人。

 

 そんな感覚に思わずつばを飲み込んだ時、フィールドの一部で爆発が起きた。

 

 その瞬間、蛇の眷獣が攻撃を放ち、それをヴァーリが受け止める。

 

 完全には受け止め切れなかったのか後ろに下がる中、ヴァトラーは笑みをより深くした。

 

「いいね。今のを止めるのなら楽しめそうだ」

 

「俺もだ。ようやく歯応えのある相手と戦えるようだ」

 

 ヴァーリも、同じ様に笑みを深くしている。

 

「さあ、勝負しようか」

 

「いいとも。さあ、来てくれ愛しの白龍皇よ!!」

 

 その瞬間、映像が途切れた。

 

『……あ、戦闘の余波で監視用の術式が吹き飛びましたね』

 

『ある意味当然の結果か。今後は術式の再構成が必要になるだろうね』

 

 えぇええええええ!? ちょっと勘弁してくれよ!!

 

 遠方に設置された術式で流れる映像からは、フィールドがポンポン吹き飛んでいく光景が映っていた。

 

 おいおい、どんだけだよ。シャレにならない火力がすごい密度と数で放たれてるじゃん。

 

 ドライグ、俺、あいつらに勝てるかな?

 

『一発勝負なら、乳乳帝を瞬間的に放てば行けるだろう。長期戦でも、乳を順次補給すれば対抗できる。だが―』

 

 その間だとヤバイってことか。俺の周りは強い奴が多くて困るぜ。

 

 とはいえ、他にも戦闘が勃発しているはずだ。

 

 そっちを移す方向に行くつもりなのか、映像が切り替わる。

 

 その瞬間、俺達は目を見開いた。

 

『ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! いい、いいですお嬢様ぁあああああああああああああああああああああああ!!!』

 

『さあ泣きなさい!! 泣いて懇願しなさいこの子ブタ!!』

 

『この卑しい豚にお慈悲ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 魔力でできたロープに雁字搦めになった現猪八戒が、アップさんに振り回されて壁に叩き付けられている。

 

 現猪八戒はすごいMだ。それは知ってた。

 

 アップさんは弱い者いじめが大好きだ。これも聞いてた。そしてそれはつまりSっ気が強いってことだ。

 

 SとMが戦場で会った。つまりそういうことだ。

 

『……映す映像を間違えました。すぐに切り替えます』

 

 実況がすまなそうにそういうと、映像が切り替わった。

 

 そこでは、雪侶ちゃんが現沙悟浄と激突していた……んだよな?

 

『な、なんですか、それは!!』

 

 可愛い女の子な沙悟浄は、明らかに慌てていた。

 

 そりゃそうだろう。俺も驚いている。

 

 そこにいたのは、一体のドラゴンだった。

 

『……滅龍魔法はステージがありますが、その根幹は龍の特性を付加することではないのかという説が研究者の間ではありましたの』

 

 そのドラゴンは、間違いなく雪侶ちゃんだ。

 

『ゆえに、発動形式を古くした場合、滅龍魔法の使い手は最終的に龍そのものになってしまうのではないかという推測がなされましたわ』

 

 そう告げる雪侶ちゃんだったドラゴンは、にやりと笑った。

 

『それを逆手に取ったのが疑似滅龍魔法の極点。龍への変身能力!! 赤龍帝の愛人の一人として、これほど相応しい能力はないでしょう?』

 

 そのドラゴンは、氷のブレスを吐いて現沙悟浄を圧倒する。

 

『少なくとも、河童如きに負ける木っ端ドラゴンではありませんのよ!!』

 

 だけど、雪侶ちゃんは調子に乗りすぎた。

 

 それ禁句!! 禁句だよ雪侶ちゃん!!

 

 その瞬間、慌てていた沙悟浄はプルプルと震え出した。

 

 そして、周囲の水が大量に浮き上がる。

 

『河童じゃありません!! 私は立派な妖仙です!!』

 

 現沙悟浄のその子は、河童扱いされると激怒するんだよ雪侶ちゃん!!

 

『……あら? もしかして雪侶、余計なこと言いましたの?』

 

 圧倒していた戦況が均衡にまでもつれて、雪侶ちゃんは小首を傾げた。

 

 うん、これはまずい。

 

 頑張ってね、雪侶ちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が勃発し始める中、俺は見事に外れを引いた。

 

 目の前に現れるのは神喰狼フェンリル。……俺が一度はめて爪をへし折った化け物だ。

 

 どうやらその所為でロックオンされたらしい。

 

 雪辱戦のつもりなのか、ただ単純に興味を惹かれたのか。

 

 ……俺、ここで死ぬかもしれない。

 

「そんな不安な感情を浮かべないでよ、兵夜さん」

 

 と、そこで肩に手を置きながらシルシが微笑む。

 

「あなたと私が一緒なのよ? 勝てるに決まってるじゃない」

 

 ……俺、いい妻を持ったなぁ。

 

「じゃあ、やるか」

 

「やりますか」

 

 その言葉と共に、俺は偽聖剣を展開すると同時にシルシと一体化する。

 

 さあて、それじゃあやるか!!

 

 その瞬間、叩き込まれた爪の一撃を俺は無視する。

 

 フェニックスの再生能力がある限り、この程度で即死することはない。それは想定内だ。

 

 その程度のことも覚悟しないで、この化け物を倒すことなどできるわけがない。

 

 そもそも、そんなものは見えている。

 

 見えているから対処も比較的難易度が下がる。今の俺なら迎撃も不可能ではなかっただろう。

 

 だが、それはあえてしない。

 

 することはただ一つ。

 

「このまま捕まえる!!」

 

 神々の権能をフルに使い、無理やり動きを止める。

 

 フェンリルは爪と牙の攻撃力と、機動力の二つが驚異的だ。

 

 裏を返せば、単純な怪力なら流石にそこまでではない。

 

 怪力の神の力を利用すれば、時間稼ぎ程度はそこそこできるはずと考えた。

 

 そして、それは何とか予想通り。

 

 このまま抑えきれるか―

 

 と思った次の瞬間、敵の増援がやってくる。

 

「おや、これはいわゆるスモウレスリングですか?」

 

「おお! ジャパニーズスモウってやつか!! でもフェンリル相手にそれはどんな感じなんだよ」

 

 アーサーと美侯!! こんなところで!!

 

 え、あれ? これってやばくね!?

 

 ここで王の俺がやられたら、ヴァトラー機嫌悪くなるんじゃね?

 

 そして暁で発散とかするんじゃね!?

 

 おおおそれはまずい色んな意味でマズイ!!

 

 だ、誰か助けてくれ!!

 

「……レッツゴー! ザ・クラッシャー!!」

 

 そして助けは来た。

 

 巨人が勢いよく降り立ち、地面が揺れる。

 

「ついに! ついに戦えるよっ! 今まで暁くんに眷獣を使われてたから全然役に立たなくて大変だったんだよっ!!」

 

 涙すら浮かべながら、トマリが凄い嬉しそうな表情で辺りを見渡す。

 

 ……眷獣の扱いに困り果てていた為、これまでのゲームでは暁にばかり眷獣を使わせていた。

 

 暁が眷獣の扱いに慣れる機会を与えることも理由の一つだったので当然ではある。しかしそれにより、吸血鬼の基本形に忠実で眷獣を使うことが基本のトマリはあまり役に立てなかったことは否めない。

 

 ……今回のルールで一番喜んでいるのは、間違いなくトマリだろう。

 

「やっとだよやっとだよやっとだよっ! 覚悟はいいかな?」

 

 と、嗜虐的な視線がアーサーと美侯に突き刺さる。

 

 ああ、これは完全にターゲットにされたな。

 

「お、今まで目立ってなかった姉ちゃんじゃねえか! こんな隠し玉があったとは驚きだぜい!!」

 

「これは楽しめそうですが、しかしこういう時は適任がいますよ、美侯」

 

 乗り気で挑もうとする猿に、アーサーがストップを入れる。

 

 ん? 適任?

 

 いったい誰のことだと思った瞬間、ジェット推進のような音が響き渡る。

 

 見れば、そこにはゴグマゴグの姿が!!

 

 あいつ飛べるのかよ!!

 

「おお!! これはピッタリな相手が出たよ……とは言わないよ?」

 

 と、にやりと笑たった瞬間、新たな眷獣が召喚される。

 

「撃ち落としてっ! ザ・スマッシャー!!」

 

 言うが早いか多頭龍の眷獣が一斉砲撃をぶちかます。

 

 巨大ロボットによる板野サーカスが繰り広げられる中、さらにザ・クラッシャーが腕を振り上げてアーサーを狙う。

 

「おっと。危ない危ない」

 

 バックステップで回避しながら、アーサーはコールブランドを引き抜く。

 

 ふむ、流石にこれは苦戦するか?

 

 ……と言いたいところだが。

 

 これは、チーム戦だ。

 

「大丈夫ですか宮白さん!!」

 

「援護します!!」

 

 ヴィヴィとハイディも現場に到着。

 

 更に巨大な光の刃が俺達を分けるように地面に切り傷をつける。

 

「無事? 大丈夫、兄さん?」

 

 須澄も来てくれたか!!

 

 よし、これなら反撃のチャンスはいくらでもある。

 

 さあ、勝負はここからだ!!

 




一つの世界で最強クラスを誇る戦闘狂同士の激突。それは余波で観測機器を破壊するほどの大激突。

いや、冗談抜きでフィールドが先に崩壊しそうと思った人もいるのではないでしょうか?







SとMが交わる時、プレイが始まる。……これ、一種の不倫だろうか?







それはそれとして、これまであまり活躍できなかった雪侶とトマリにも見せ場を用意しました。

雪侶の方は即席で考えたのですが、デットコピーゆえに完全に龍化しないため悪影響が少ないというのは我ながらナイスアイディアだと思います。イメージとしては最弱無敵の鬼械神であるデモンベインですね。

そしてトマリもヴァーリチーム三人を相手に大立ち回り。なんだかんだでストブラ世界で最強の魔族である吸血鬼の、そのまた高位クラスなのです。弱いわけがないのです。

なんだかんだでいいとこ少ないトマリですが、この人も須澄やアップとチーム組んでるわけじゃないのです。


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VSヴァーリ 第3ラウンド!!

 

 一方その頃、ノーヴェ・ナカジマは一人優勢な戦闘を行っていた。

 

「ちょ、ちょっと待つニャン!! なんで効いてないのよ!!」

 

 仙術で木々を操りこちらを足止めしようとする黒歌だが、しかしそうはいかない。

 

 なにせ、こちらは高機動陸戦仕様の戦闘機人。

 

 不整地走破性能は抜群に高く、疑似的な空戦もこなせるのだから、こういったものは非常に相性がいい。

 

 ヴァーリチームは必要に迫られない限りチームでの戦略よりも個人戦闘を重視した戦いを行う。

 

 根がはぐれ者同士のチームであるがゆえのスタイルで、またそれが基本的に一番いいスタイルであるが、しかしこういう時に不利になる。

 

 具体的には、認識していない圧倒的相性差がある場合だ。

 

 ノーヴェ・ナカジマは戦闘機人である。

 

 すなわちサイボーグ。それも、肉体そのものを最初からそうする為に調整したものとして生み出された以上、広義の意味でのアンドロイドといっても過言ではない存在だ。

 

 探知関係の機器なども組み込まれており、なおかつ半分は機械。

 

 生命の力を感知し干渉する仙術では、彼女と相性が悪い。

 

「……悪いけど、こっちも負ける為に参加したわけじゃないんでな」

 

 熱源感知で冷静に場所を把握しながら、詰め将棋の如く黒歌を追い込みつつノーヴェは静かに告げる。

 

 この試合、兵夜から受けたオーダーは何としても相性差を利用して黒歌を倒せということのみ。

 

 なにせ、半分機械である自分は生命に干渉する仙術の影響を受け難く、更にセンサーゆえに幻術にもある程度の対処が可能。

 

 テロリストとして活動していた時に姉の相方に対策を練られていた時に比べれば、圧倒的に楽という他ない。

 

 ならば、警戒するべきは―

 

「―黒歌さん!!」

 

「ルフェイ! 助かったにゃん!!」

 

 ―相手の増援のみ。

 

「チッ! ここまで予想通りか!!」

 

 今回の試合、不利なのはこちら側であると兵夜は断言した。

 

『はっきり言おう。おそらく若手のチームでなら、あいつらが最も最強候補だ。冗談抜きで優勝する可能性も考慮に入れるべきだろう』

 

 ゆえに、勝率は低いと。

 

 少なくとも、個々の戦闘能力の平均値なら間違いなく相手が上だ。

 

 実戦経験の少ない古城と雪菜、そして実力は年齢不相応だがまだ子供のヴィヴィオとアインハルト。

 

 それに反して、堂々とテロ活動を行い、禍の団の精鋭部隊であったヴァーリチームは実戦経験でも練度でも上を行く。

 

 ゆえに―

 

『お前がカギだ、ノーヴェ』

 

 戦闘用である自分が肝だと、兵夜は言い切った。

 

 素質と練度、更に相性も含めて自分が一番だと、兵夜は断言した。

 

 そこまで言われてはやるしかない。

 

 ……出れないのは仕方ないと思っていた競技試合。変則的な形だが、それに参加させてくれたことはありがたい。

 

 かなり積極的に酷使していたみたいだが、エイエヌ事変でヴィヴィオとアインハルトを助けてくれた恩もある。

 

 ゆえに―

 

「―押し切る!!」

 

 ―勝利に貢献することで、その恩に報いらせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に激戦がヒートアップする中、兵夜はというと。

 

「―うぉおおおおおおお!?」

 

 ―端的に言えば、酷い目に遭っていた。

 

 このまま押し切れるかと思ったが、しかし現実は甘くない。

 

 フェンリルは突如全盛期のように大型化し、そのまま超高速で腕を振るう。

 

 振り払ってから本格的に攻撃を行う腹積もりだろうが、それだけは断固阻止しなくてはならない。

 

 蒼穹剣最大の欠点である速度向上がないという欠点を考慮すれば、そんなことになればそれこそ時間までしのぐことすらできない。

 

 それが分かっているからこそ、なんとしても喰らいつかれたままでなければならない。

 

 兵夜は死に物狂いでしがみついていた。

 

『頑張って兵夜さん! 次は爪で頭を狙ってくるわ』

 

「ありがとうシルシ!!」

 

 千里眼を全力で開放させ、未来を先読みするシルシの強力を得ながら、兵夜は必死に食らいついていた。

 

 その理由は大きく分けて二つ。

 

 態々無理を言って協力してもらっているヴィヴィオ達に対する礼儀が一つ。

 

 もとより優勝できるかどうかなど望み薄で参戦しているが、しかし協力してくれている子供達に対して礼儀がある。その為勝てる勝てないはともかく、勝ちを狙いに行く方向で行動していた。

 

 そしてもう一つはヴァーリとヴァトラーの戦いを長引かせることである。

 

 既にヴァトラーに「些末事はこちらで片づける」と告げている以上、ここで自分がフェンリルに倒されるという事態だけは防がねばならない。

 

 それに、ヴァトラーが全力を持って戦闘する機会はそう作れない。

 

 絃神島でヴァトラーが大暴れするのは避けねばならないし、彼は仮にも重要な立場なので、中々レーティングゲームに参加させられない。

 

 このチャンスを逃せない。この機会を逃せば、ヴァトラーの底に迫る機会がなくなる恐れすらある。

 

 ……その場合、高確率で暁古城は大変な目に遭うだろう。

 

 ヴァトラーは間違いなくいずれ暁古城と戦うはずだ。そして、その時は情報戦で大きく後れを取ることになるだろう。

 

 古城としても割と周囲の被害を気にしないヴァトラーに戦わせることは避けるだろうし、そうなればヴァトラーは古城の眷獣の能力を把握できるあろう。

 

 それどころか、どうもヴァトラーは第四真祖の底を知っている節がある。少なくとも暁以上に詳しく一部の眷獣について知っている可能性がある。

 

 ……それは、明らかに事前の段階で不利ということだろう。

 

 せめて条件をある程度近づけておくべきだ。

 

 もし、それをしなければ―

 

「イッセーに胸張れないもんな、ホント!!」

 

『本当に、貴方はそういう人なんだから』

 

 シルシに苦笑されるが、しかし兵夜はそういう者になりたいので仕方がない。

 

 ゆえに、ここは踏ん張りどころなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦闘は更に激しくなる。

 

「なるほど、聖槍の出力は相応に引き出せているようですね。……ですが甘い」

 

「これは、流石に、すごい!」

 

 コールブランドを何とか捌く須澄だが、しかしアーサーの剣術の前に一方的に攻め立てられていた。

 

 コールブランドの能力を最大限に発揮して、刀身を別の場所から突き出していればその時点で倒されていただろう。

 

 しかし、それがされない理由は極めて単純。

 

「今まで結果的に伏札にする他なかった彼女がここまで脅威だとは、少し油断していましたね」

 

 放たれる砲撃を防ぐのに手が埋まっていたからだ。

 

「ふっふーんっ!! アップちゃんがいない今、私が須澄君を守るんだからねっ!!」

 

 二体の眷獣の同時使役。

 

 氏族クラスの吸血鬼として、それを成し遂げながらトマリはゴグマゴグの砲撃を交わしてザ・クラッシャーに迎撃させる。

 

 今まで特に活躍していなかったトマリ・カプチーノの存在が、ここにきて戦いの流れを大きく支えていた。

 

 アザゼル杯のルールと、暁の強化を優先する都合の二つが重なり、眷獣の使い手であるトマリは本領を今まで発揮できなかった。

 

 しかし、今回だけは話が別だ。

 

 なにせ今回のノンリミットは、それらの制限を取っ払う特別ルール。必然的にこれまででは使えなかった戦術をとることができる。

 

 第四真祖という圧倒的格上にして、訓練の機会が必須の古城を優先して眷獣の発動を抑えねばならなかった今までとは違うのだ。

 

 文字通りこの中では年季が違うトマリの能力が、今まさに最大限に発揮されていた。

 

 ちなみに何気に攻撃もすべて躱しているあたり、彼女ものただものではなかったということだろう。

 

 はっきり言って、ヴァーリチームはおろか兵夜達すら内心で戦慄していた。

 

 フェンリルに振り回されている兵夜も、このうれしい誤算に戸惑っていた。

 

「てっきり眷獣だよりだとばっかり思ってたけど、意外とやるなおい!!」

 

「だって寿命が長いと暇も多いんだもんっ。結構色々試してるんだよっ」

 

「そういえば、私がアップさんに切りかかられたときも唯一反応できてましたね」

 

 美候の攻撃をかわしながら、アインハルトは冷静に考えると実力を推しはかるべきことがあったことに今更気が付いた。

 

 そこに気づかせないのがトマリがトマリたるゆえんなのだろう。

 

 しかも、深く考え込んでいる暇を作らせてくれるほど美候は甘い相手ではない。

 

「すばしっこいね嬢ちゃん達!! こりゃ楽しめそうだぜぃ!!」

 

 如意棒を素早くふるって二対一の状態を維持しながら、美候はテンションを上げていく。

 

「だがこの調子ならこっちが押し切れるぜい? なにせ、ヴァーリもそろそろ秘密兵器をお披露目するつもりなんだからよ!!」

 

 そう、それがヴァーリチームの余裕の源。

 

 史上最強の白龍皇の名を、予定ではなく確実に手にした今のヴァーリ・ルシファーは、間違いなく優勝に手が届くレベルの強者だ。

 

 その強者が持つ新たなる切り札。その強大さをヴァーリチームはよく知っている。

 

 それを開帳するというのなら、もはや負けなどありえない。

 

 そして、それが今まさに解放されようとしていた。

 

『おぉーっとぉ!! ヴァーリ選手劣勢!! ついに膝をつきましたぁ!!』

 

 ……追い込まれたがゆえに反撃手段という、ヴァーリチームの誰もが予想だにしなかった展開によって。

 




ノーヴェ、割と重要ポジション。

冗談抜きでサイボーグというのは仙術の天敵ではないのかと思うのですよ。幻術に関しても、機械的なサーチは想定外の部分が多いでしょうし。型月世界で魔術が科学に追いつかれ一部では追い抜かれていることと同じです。このあたりの対策が必要不可欠。



一方、フェンリルに基本圧倒される兵夜。このあたり、兵夜のポテンシャルが決して化け物ではないことの証明です。

あくまで初戦の大金星は、アーチャーとナツミが協力して、次につなげるための戦闘だったからゆえに大金星。真っ向勝負で天龍クラスと戦うには一歩劣るポテンシャルなのです。そこをあの手この手で他力も借りて勝利をつかむのが恐ろしいのですが。








そしてヴァーリ痛恨のダメージ。これにはある理由がかかわってきますが、お互いに不幸といえば不幸でしょう。

この隙をつけるかどうかで勝負の分かれ目。ちなみに制限時間もそろそろギリギリです。


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VSヴァーリ 最終ラウンド!!

調子がよかったので連投


 

 その言葉に、ヴァーリチームの全員が虚を突かれた。

 

 敵が強大であることはきちんと知っている。

 

 なにせ、第四真祖である暁古城の眷獣の強大さは嫌というほど見せつけられた。

 

 単体で龍王クラスの火力を発揮するその圧倒的な力は、神滅具の担い手にすら匹敵する。それを開放できていないのも除けば12体も保有しているなど、半端な強者ならショックで笑うしかない状況だ。

 

 その真祖に最も近いもの、それも実戦経験が豊富となれば、必然的に相当の実力者だと予想していた。

 

 だが、それでもヴァーリならという期待が心のどこかにあった。

 

 それほどまでに明星の白龍皇は強大だったのだ。

 

 その慢心が、ここにきて致命傷となる。

 

「………吠えなさい、グラム」

 

 まず真っ先にターゲットにされたのは、アーサー・ペンドラゴン。

 

 空間を割くコールブランドは、あり得ないが逃げに徹されると厄介極まりない。

 

 ましてや使い手であるアーサーは人間の中でなら最強格。できれば早めに倒したいタイプの一人だった。

 

 むろん、アーサーは最強格なだけあって強大だ。少なくともそう簡単に隙を見せてくれるような類ではない。

 

 しかし、ゆえにその一瞬の隙が致命傷だった。

 

 なにせ、その言葉を発したのは今この地域にいる者ではない。

 

 彼女は今、猪八戒相手に性癖を満たしているはずで―

 

「―遅い」

 

「―っ!?」

 

 その交錯は、一瞬だった。

 

 超音速でターゲットを切り替えて強襲攻撃を仕掛けたアップの攻撃に、アーサーはかろうじて反応して迎撃を行う。

 

 しかし、アップ・ジムニーはその上を行った。

 

「―()に弱い者いじめを行うには、絶対的な条件が必要なの。……わからないでしょうから教えてあげる」

 

 二連続の驚愕ゆえにどうしても遅れたその反撃をたやすく防ぎ、アップは同時にバインドを多重に仕掛ける。

 

「それは相手の反撃をいなせること。……殴りに行くのに殴られないなんて高をくくるようなド三流と違い、一流の弱い者いじめには弱者の逆襲を乗り越える能力が必要なのよ」

 

 かっこいいのかかっこ悪いのかわからない、ある意味で兵夜の義理の姉妹らしい言葉を告げ、アップは再び猪八戒をいじめに戻ろうとする。

 

 そして、その超高速のヒット&アウェイが戦局を動かした。

 

「やっちゃえっ! ザ・クラッシャー!!」

 

「うぉおおおおお!?」

 

 振り下ろされた巨人の拳を、美猴はギリギリで割って入って受け止める。

 

 それは当然の行動であり、そして美猴の実力ならば確実にできたことだろう。

 

 しかし、全力で反応しすぎた。

 

 ヴァーリの苦戦、いないはずのアップの強襲、アーサーの捕縛。

 

 想定外の事態の連発という名の毒は、致命的な隙を生んでいた。

 

「―かかったねっ?」

 

 その言葉を告げるトマリの表情は、すさまじく恐怖を感じさせる。

 

 そしてその瞬間、美猴は自分の失敗を悟った。

 

 巨人の一撃を全力で受け止めるのは致命的だ。いなせばいいのについ弾き飛ばそうとしたのがいけなかった。

 

 これでは、アーサーはもちろん自分も隙ができてしまっている。

 

 むろん、アーサーはすでにバインドをコールブランドを使って切る寸前であり、自身もすぐに対応しようとしている。

 

 ………しかし、競技選手とはいえその一瞬の隙を逃すほど彼女たちは未熟ではなかった。

 

「覇王―」

 

 激戦の記憶を継ぐ、覇王の拳は美猴の眼前で振りかぶられる。

 

「アクセル―」

 

 歴戦の勇士の子である、聖王の拳はアーサーの急所に正確に狙いをつけ―

 

「―断空拳!!」

 

「―スマッシュ!!」

 

 それぞれ、その致命の一瞬を逃すことなく刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴァーリチームの歩兵と騎士、それぞれ一名痛恨のダメージぃいいいいい!! これはもう動けないかぁ!?』

 

「お兄様!?」

 

「美猴!?」

 

 そしてその一撃は、さらに致命の隙を伝播させる。

 

 もちろん、彼女達もまた歴戦の戦士でありその隙は隙というのもおこがましいものだった。

 

 しかし、目の前にいる天敵には、それで十分だった。

 

 ノーヴェ・ナカジマはそれをなしたのが自分の教え子であることをよく理解した。

 

 理解したから逃さない。

 

 狙ったわけではないといえ、最高の好機を二人は作ったのだ。

 

 なら、ここで其のバトンを受け取るのは、コーチである自分の責務。

 

 故に、全力で接近する。

 

 

 加えてノーヴェは陸戦特化の速度重視。

 

 IS、ブレイクライナーと名付けられたその固有能力は伊達ではない。

 

「……うそ、速い―」

 

「もらったぁ!!」

 

 ………自分の教え子たちは、それぞれ強みを明確に持っている。

 

 ことアインハルトとヴィヴィオはそれぞれ極みに達せれる可能性があった。

 

 断空という圧倒的な破壊力を秘めたアインハルト。

 

 その目と拳で正確に急所を撃ち抜くヴィヴィオ。

 

 そして、必然的にその二人を指導するノーヴェにはそれらを見極める技量があり、そして正確に教え込めるだけの能力がある。

 

 故に、そうした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―ヴァーリチームの僧侶、一名リタイア』

 

『―ヴァーリチームの騎士、一名リタイア』

 

『―ヴァーリチームの兵士、一名リタイア』

 

『やった! やって見せました神喰いの神魔チーム!! 一瞬の隙をついて、見事あのヴァーリチームを三人も撃破ぁあああああ!!』

 

 実況の声が響く中、ヴァーリは思わず膝をついていた。

 

 実力者であることは最初からわかっていた。

 

 強者特有のすごみを見せていたし、修羅場を何度もくぐってきたもの特有の気配も漂っていた。

 

 何より、強者との戦いに飢える者特有の飢餓感を感じさせる。

 

 ……しかし、ヴァーリが苦戦した最大の理由は一つだ。

 

 理由は単純、()()()()()()

 

「……つまらないかい、この戦いは?」

 

 全身を蝕む瘴気による激痛に耐えながら、ヴァーリはそう尋ねる。

 

 間違いなくお互いは強敵で、かなりギリギリのところのハイレベルな戦いができるであろう存在だ。

 

 合体眷獣を使うヴァトラーは間違いなくこれまで戦ってきた中でも高位の実力者で、ゆえにヴァーリも極覇龍を使ったほどだ。

 

 しかし、相対するヴァトラーは何処か冷めた目でこの戦いを見ていた。

 

「……いや、君は素晴らしい強敵だヨ。あの爺さんでもかなりてこずるだろう。少なくとも、監獄結界の囚人よりは楽しめそう……だったよ」

 

 そう過去形で告げながら、ヴァトラーは嘆息する。

 

 それは決してヴァーリが弱いということではない。

 

 問題は、この戦い方だ。

 

「やっぱりだめだね。死なないってわかっている戦いだと、どうしても乗り切れない」

 

 そう残念そうにつぶやくヴァトラーの気持ちも、まあわからなくはない。

 

 強者としのぎを削って戦うのはとても楽しい。そして勝利した喜びはさらに素晴らしいだろう。

 

 だが、死ぬかもしれないスリルをこのレーティングゲームで味わうのは非常に困難だ。それも、ヴァーリ(相手)に殺す気がないのならなおさらだ。

 

 それが、ヴァトラーの熱を冷まさせている原因だった。

 

「君は得難い難敵だ。だけど、死ぬかもしれないとは思えない。それがどうしても残念だ」

 

 そう告げるヴァトラーの後ろに控えるのは、巨大な樹木。

 

 それは、蛇でできた巨大な大樹だった。

 

 そこから生まれる瘴気は、まさに天にすら届くだろう。

 

 彼が真祖に最も近いといわれるのも納得だ。少なくともこの眷獣は、映像で見た第四真祖の獣すら凌ぐ力を感じさせる。

 

 使い手である暁古城が未熟であることを考慮に入れても、これは非常に強大な存在だった。

 

 そして、この戦いでヴァーリは痛いほど理解した。

 

 ディミトリエ・ヴァトラーと自分には決定的な差がある。

 

 それは一言で言える。年齢だ。

 

 単純に引き出しや経験値が多いというだけではない。ヴァトラーは外見こそ若いが若さが足りなかった。

 

「……やっぱり最高なのは殺し合いだよ。死ぬかもしれないというスパイスがないと、どうしても乗り切れない。………残念だ。君と殺し合いができれば、きっと僕の長い生でも最高のひと時を味わえただろうに」

 

 そう告げるヴァトラーだが、しかし決して手は抜かない。

 

 この得難い難敵に対する礼儀を心得ているからだ。戦闘狂には戦闘狂にしかわからない礼儀作法というものがある。

 

 そう、ゆえに―

 

「そうか、なら、恐怖を教えてやろう」

 

 ―死なないとわかっていても死ぬかもしれないと思わせるそれを見せなければならない。ヴァーリはそう決意した。

 

 そうだ。自分だってそういうスリルは理解できる。

 

 なくても楽しめる自分と違い、それが必要なヴァトラーの苦しみは大変だろう。

 

 自分もかつては刺激を求めてテロに走った存在だ。少しぐらいは斟酌してやらねばならない。

 

 なにより、自分との戦いをつまらないなどといわれては、さすがに少しイラっと来る。

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理をも降せ」

 

『我に宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ』

 

 静かに、ヴァーリはアルビオンと共鳴する。

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

 それは、(オーフィス)との共鳴が生んだ真なる魔王の輝き。

 

『玄玄たる悪魔の父よ』

 

 それは、明星(ルシファー)の血が生んだ白龍皇の新たな地平。

 

「………へぇ」

 

 その波動を感じて、ヴァトラーは冷めていた感情をしかし熱くさせる。

 

 まだ足りない。自分をこの空間(レーティングゲーム)で殺すにはまだ足りない。

 

 だが―

 

「『究極を超克する我らが誡を受け入れよ』」

 

 ―間違いなく、自分が戦ってきたものの中でも最高峰だ。

 

「『汝、玲瓏のごとく我らが燿にて跪拝せよ』」

 

 そう、之こそが明星の白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの到達点。

 

 その名を―

 

『見るがいい、ディミトリエ・ヴァトラー。これがアルビオン・グヴィバーとヴァーリ・ルシファーの生み出す白龍皇の究極』

 

「その名を、『D×D』(ディアボロス・ドラゴン)(ルシファー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、フィールドの半分以上が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『兵夜チームの女王、リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

『制限時間超過により、試合終了。ポイント数の差で、神喰いの神魔チームの勝利です!!』

 




神喰いの神魔チーム。大番狂わせ。

最大の要因はヴァーリとヴァトラーがかみ合わなかったことですね。これが原因でヴァーリが追い詰められ、その隙を見事に突かれて一気に瓦解した形になります。

あと弱い者いじめという意識の低いことに対して意識高いアップにはツッコミ入れていいです。兵夜も恐喝に対してなんかプロ意識じみたもの持っているので、こいつら地でも繋がってんのかって感じですね。





それはともかくとして、ヴァーリの現段階最終形態である魔王化はやっぱりきちんと覚醒してます。インフレここに極まれるの白龍皇の究極はきちんと出します。

そうなると、イッセーの龍神化に相当する形態もだすべきだと考えております。

……え? 約35憶人の力を借りた最大出力乳乳帝より上は無理だろって?

まあそうですが、今後の展開であれを出せるわけがないのでそれ相応の代役というものが必要なのです。


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試合終了後の一杯

 

「……辛勝だった。ギリギリだった」

 

「お疲れさん」

 

 珍しく、イッセーと空いた時間がかぶったので一緒に飯を食う中、俺は心底疲れた声を出した。

 

 なにせ一時間フェンリルに弄ばれ続ける戦いだった。良く持ちこたえたと褒めてやりたい。

 

 まあ、ヴァトラーの底が見えたのはいい収穫だったと思う。おそらくあれが奴の最強クラスの手札だろう。

 

 とはいえ、それを引き出すためにここまでひどい目に遭うとは思わなかった。

 

 まったく。ひどい目にあった。

 

「しっかし宮白も粘ったな。なんだかんだで時間終了まであのフェンリルに持ちこたえたんだぜ?」

 

「だよなぁ。俺も俺を褒めるぜ、これは」

 

 ああ、なにせかつては赤龍帝の鎧を身に纏ったイッセーが一撃で死にかけたからな。

 

 それをよくもまあ、噛み付かれたまま凌ぎ切った。

 

「俺の親友もどんどん強くなってるんだなって実感したからな、マジで」

 

「そりゃ改造しまくってるからな。お前には負けるさ」

 

 おっぱい一つで化ける乳乳帝とは比べようがないだろう。

 

 ……いや、言われてみればこいつも悪魔の駒のリミッター解除とかいろいろ弄ってるけどな。しかしそれにしたって急成長だ。

 

 おっぱい一つでどこまで化ける気だ、オイ。

 

「っかしこれでヴァーリの奴一敗か、決勝トーナメントに出れるか心配になってきたな」

 

「まあ、この大神クラスが何チームも出てるからなぁ。帝釈天とか遠慮がなさすぎるだろ」

 

 これ、絶対次からチームの戦力関係にしても制限が入るぞ。

 

 特に帝釈天は大人げが無さすぎる。さらにアースガルズとオリュンポスの次期主神がタッグ組むとか反則だ。

 

 どいつもこいつももうちょっとパワーバランスを考えろというか遠慮しろというか………。

 

「あの神共、何かあったら第四真祖と聖槍のコンボ叩き込んでやる」

 

「宮白のチームも割と遠慮がないと思うぞ」

 

 失礼な!! 若手の未熟な戦士たち中心なので問題ないです!!

 

「……そういえば、姫様のチームも連戦連勝だよな」

 

「確かに。リント・セルゼン……だっけ。かなり強いよな、あの子」

 

 うん、セルゼン……ねぇ?

 

「嫌でもフリードの奴を思い出すな」

 

「そういや、宮白って再戦したんだっけ?」

 

 ああ、あの野郎むちゃくちゃパワーアップしてやがったからな。

 

 異世界技術の改造恐るべし。糞耐久力が上昇している超能力と、古きを蹂躙する英霊の合わせ技は大変だった。

 

 あいつ自身のセンスも高いから、最終決戦の時は想定外だったしな。ヴィヴィに任せたのは失礼だったか。

 

「まあ、リアスがスカウトしたんなら性格とかは問題ねえだろ。その辺は大丈夫だと思うけどな」

 

「そこは同感。あれで姫様の人を見る目は確かだしな」

 

 まあ、兄弟があれだから反面教師にするというのは珍しくもない話だしなぁ。そういう方向で期待しよう。

 

「そういえば、暁だっけ? なんか補習で今回駄目になったって話だけど」

 

「ああ。学業優先で契約してるからな。……吸血鬼になったのを家族に隠してるせいで、いろいろと難儀な奴でなぁ」

 

「ああ、俺も隠してたからちょっと気持ちわかるなぁ」

 

 ああ、イッセーも俺も、最初は家族に事情隠してたからな。

 

 ……最も、俺の場合は隠す必要があまりなかったわけだが。

 

 妹がそもそも異能側ってどういうこっちゃねん。

 

「でも、なんだかんだで家族だったら受け入れてくれるんじゃないか? 特にそっちの世界、魔族とかが当然の存在として認識されてんだろ? 共存してる町なんだろ?」

 

 まあ、当然そういう発想には至るだろう。

 

 なにせ存在を秘匿してるこっちとは違い、向こうはまがいなりにも存在が公表されてるのだ。

 

 それに伴う問題も頻発しているが、それでも共存している場所はいくつもある。

 

 だが、暁の場合は問題がある。

 

「……それが、暁の妹は魔族恐怖症らしいんだよ。それも相当ひどいPTSDみたいでな」

 

「マジかよ。其れじゃあもし知ったら―」

 

「一緒にいるのは難しいだろうな。こういうのはショック療法は避けるべきだし」

 

 妹さんがそんな症状では、事情を話すわけにはいかないだろう。

 

 基本的にそれ以外の存在が正しい意味で吸血鬼になるなんてことはないらしい。そういう意味でも悪い意味でインパクトがでかすぎる。

 

 なので隠さなければならないわけだが、そのせいで体質的な都合で学業が大変だというわけだ。

 

 しかも―

 

「俺たちが悪魔になった初年度に匹敵するトラブル遭遇率。……俺たちがいかに学業において優秀だったかわかる状況だ」

 

「俺達、勉強できたんだなぁ」

 

 しみじみとうなづいてしまう。

 

 トラブルに巻き込まれる頻度が後半戦並みである上に、完全夜型と化しているのに昼型生活を送っている暁の方が大変なのは事実だが、しかし駒王学園が名門校であることを考慮すれば、イーブンといっても差し支えないだろう。

 

 そんな状況で補習とは無縁だった俺たちは優秀だということか。

 

「……だけど、俺たちは基本的に禍の団との連戦だったけど、暁って敵組織に喧嘩売られたりとかしてるの?」

 

「それが基本的に別々の組織でな。禍の団の派閥違いとかそういうの通り越して、完璧に別々の犯罪組織が絃神島に狙いを定めてんだよ」

 

「……俺達より不幸じゃね?」

 

 うん、おれもそう思う。

 

「これは俺の予想何だが、そもそも絃神島は設計段階から黒いからな。……何かしらの陰謀のために作られたといわれても驚かんぞ」

 

「怖いよ!! なんだよそのヤバイ予想は!! いや、悪魔の業界もちょっと前まで真っ黒だったけど!!」

 

 いや、競技の八百長何てまれにあるだろ。

 

 そんなもんじゃないと俺は踏んでいる。

 

 なにせ、それなりに規模のでかい宗教の聖人の遺体を、教義的に敵と定めている連中が暮らす人工島の要として強奪して使用するという質の悪い展開だ。

 

 組織的でなく個人で奪還に動いただけというのが奇跡的だろう。いや、普通に島が沈みかけたが。

 

 そんなことをしでかしたことを考えると、絃神島にはさらに黒い真実が秘められていることも考えられる。

 

 そして、ヴァトラーたちはそれについてうすうす知っているんじゃないだろうか?

 

「……はあ、ようやく人心地つけるかと思ったら、気になるポイントが増えてしまう。これだから俺はワーカーホリックとか言われるんだ」

 

「だよなぁ。お前、なんだかんだで人が良すぎだろ」

 

 ついぼやいたら、イッセーにそんなことを言われた。

 

 ……反論できんが、お前に胸張れる自分でいるには見捨てるわけにもいかんからな。

 

「まあ、一つの世界の最強の吸血鬼といわれる第四真祖と友誼を交わすことができれば、生来的には値千金だ。最低でもファイトマネーさえ用意できれば常時チームに引き入れられるのは得だろう? ただ働きはしてないぞ」

 

「そこでファイトマネーをケチらないのが人がいい証拠だって」

 

 ふむ、等価交換という魔術師の基本にのっとっているだけなんだがな。

 

 まあ、正しい意味での等価交換は客観的な視点が必要不可欠だから厳密には難しいんだろうが。

 

 まあ、それはそれとしてだ。

 

「一応言っとくが、暁と話す時は気をつけろよ? あいつシスコンの気があるから、覗き魔(女の敵)にはあたりキツイぞ?」

 

「だって、そこに女の裸があるんだもん」

 

 駄目だこりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで飯が出てきたので喰いながら世間話をしていると、さらに新しい客が出てきた。

 

「おや、兵藤一誠に宮白兵夜じゃないか」

 

「よう、ヴァーリ。今回は残念だったな」

 

 イッセーがなんか気安げにあいさつするが、お前ら一応宿敵だよな?

 

 まあ、今回に関しては俺が勝たせてもらった。

 

 とはいえヴァーリが追い込まれるというサプライズがあったからこその勝利であり、そうでなければ押し切られていたかもしれんがな。

 

「それで、ヴァトラーとのケンカは楽しめたか? 向こうは不完全燃焼みたいだったが」

 

「残念だが振られたよ。命がけじゃない戦いでは燃え切れないらしい」

 

 俺の質問に、そう肩をすくめるヴァーリだが仕方がない。

 

 やはり戦闘狂としてのタイプが違ったということだろう。想定の範囲内だが、これでは今後奴を呼ぶことは難しいな。

 

 だが、これでこちらも行動の指針を確立できる。

 

「今後、ガモリーズセキュリティには金をまわしておこう。……来るべき真祖に最も近い男と史上最強の吸血鬼の決戦に備えてな」

 

「面白い。チャンスがあれば俺も一枚かませてもらおう」

 

 速攻でヴァトラーとの再戦を望むあたり、こいつもやはり戦闘狂だ。

 

「それ、避けれそうにないのか? そのヴァトラーってのにも上司がいるんだろ?」

 

 イッセーの意見ももっともだが、あいにくそれもどこまで行けるかどうか。

 

「望み薄だ。ヴァトラーの奴、自分とこのボス殺すための兵器のテストに協力してるからな。最悪なことに外交官特権でのらりくらりとかわしてるから追求しきれんが」

 

「……耳が痛いな」

 

 うん、お前は反省しろ、ヴァーリ。

 

「しかも、どうもヴァトラーは俺たち以上に第四真祖の事情に詳しい節がある。おまけに第四真祖の覚醒に関してはその国のトップから支援を受けている可能性もあってな」

 

 そこが厄介だ。

 

 いったい何を考えている、第一真祖は。

 

 それに、どうも獅子王機関も何か隠している節がある。おそらく絃神島と第四真祖の両方でだ。

 

 まったく。外様はこういう時深入りできないから困る。

 

 暁? お前、マジで大変だけど俺がいないときにまでトラブルに巻き込まれるなよな?

 



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敵だって勝つために準備するから油断するな

 

 E×Eという壮絶な問題に対応する為には、俺たちは準備が必要だ。

 

 時空管理局やフォード連盟という壮絶な後ろ盾が手に入ったとはいえ、念には念を入れておくということも必要だろう。

 

 なにせ、フォンフたちが裏で暗躍し続けながら戦力を大きく拡大させているのだから。

 

 挑発した側の組織の後継であるフォンフとE×Eが手を組む可能性は低いが、しかし混乱に乗じて動く可能性はある。

 

 ……第一、そのE×Eの勢力が挑発にのってケンカを仕掛けてくると決まったわけではないのだから。

 

 ただ単に興味を持った悪党が、悪意をぶつけるために動きに来る可能性も十分にある。

 

 そうなれば、次元世界は未曽有の大戦争に発展する可能性もあるのだ。

 

 そんな非常時に対抗するためにも、俺たちも動かなければならない。

 

 故に、俺たちは忙しい中いろいろと動きを見せているのだ。

 

 故に、いま三大勢力では大規模な軍事演習が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、俺たちはあくまで見学なのだが」

 

「俺たち参加しなくていいのかよ」

 

 と、ゲストとして招かれた俺たちはぼやいていた。

 

「でもまあ、私達は一種の特殊部隊としての動きに慣れすぎてるもの。こういう組織行動には向いてない節はあるわね」

 

 姫様いいこと言いますね。

 

 俺達、こういった大規模軍事演習とかめったにないからなぁ。

 

 基本的に敵が大規模だったことはあっても、味方が大人数だったことはごくわずかだ。

 

 そういう意味では参加した方がいいかもしれないが、しかしそうもいかない。

 

「なにせ俺達アザゼル杯に参加してますからね。あまりこういうところで手札を見せたら見せすぎでしょう」

 

「そこがレーティングゲームの欠点ではあるわね。公共放送だから映像は入手しやすいし、手の内がフォンフにさらされるのは警戒するべきところかしら」

 

 そう、それこそがレーティングゲームの最大の欠点。

 

 こっちの手札が楽に入手出来てしまうのだ。

 

 様々な状況を想定した戦闘訓練を行い、さらに致命的な失敗を致命じゃない失敗へと変えることで経験を積ませてくれるレーティングゲームだが、こういうところでデメリットがある。

 

 無論、その情報を入手できるのはなにもフォンフたちばかりではない。

 

 場合によっては他のチームに知られることもある。っていうか俺はアザゼル杯に参加しているチームのそれを見ることが目的で見学している。

 

 イッセーや姫様に参加しないように言ったのもそれが理由だ。下手に手の内を知られるのは、できるだけ避けるべきだからだ。

 

「「相変わらず黒い」」

 

「ひどいなこの夫婦は」

 

 反論の余地はかけらもないが、しかし当人の前でいうかオイ。

 

「まったく。こうなったらやけ食いだこの毒舌夫婦が」

 

「お前に口の悪さで勝てるわけねえだろ。あ、ついでにポテチ出してくれよ」

 

「貴方たちすっかり観戦ムードねぇ」

 

 などとだべるが、しかしこれはこれで見所がある。

 

 なにせ、こういうのもある意味で平和っていうかなんて言うか。

 

 うん、こういう時間を過ごせるのも、俺たちが一生懸命頑張っているあかしだよなぁ。

 

 そんなことを思いながら視線を別の場所に向けると、そこには悪魔祓いの一団があつまっていた。

 

 あの大規模模擬戦が功を奏して、我慢しきれなかった悪魔祓いの不満もだいぶ沈静化した。

 

 縮小傾向だった悪魔祓いもどんどん活動を続けるフォンフ対策として残されていることも理由だろう。

 

 おかげでこっちの方はだいぶましだ。

 

 とはいえ、後方の人物たちに関してはないがしろにしすぎていたがゆえにあの事件が起こってしまったわけだが。

 

 行方不明になった信徒たちの足取りはつかめていない。

 

 豪快に吹き飛ばすという荒業でやってのけられたせいで、どうにも突破できないという難関だ。

 

 単純ゆえに隙が無いというかなんというか。どうしろというのだ。まったく。

 

 跡形もないせいで残滓を探すことが不可能。もしかすれば爆発直後なら転移魔法か何かの残滓を把握できたのかもしれないが、大激戦でそれも不可能ときたもんだ。

 

 人類側にも協力してもらって調べているが、航空機の残骸ぐらいしか発見できていないのが実情。これは非常に困ったもんだ。

 

 ま、まあ。さすがにこんな大量に戦闘要員がいるところで襲撃を仕掛けてくるほど、フォンフの奴も馬鹿じゃないだろう。………ないよな?

 

「イッセー。俺、なんか今日も忙しくなりそうな気がしてきたんだが」

 

「宮白、疲れてるんだよ」

 

「そうよ兵夜。どこの世の中に、戦力が大量に集まっているところにわざわざ仕掛けてくる馬鹿がいるのよ」

 

 いや、二人の言う通りではあるのだが。

 

「禍の団が壊滅的打撃を受けたこともあって、フォンフもそう簡単に戦力を拡充出来てはいないわ。それに、先手を打ったといえば聞こえはいいけど、そのせいで時空管理局もフォンフを敵視している。……うかつに攻撃ができないのはフォンフも同じよ」

 

 うん、確かに姫様の言う通りだ。

 

「ですよね姫様。そんな簡単に桁違いの兵力を用意できるわけがないですよね」

 

「そういうこと。これまでは戦力が少なかったり襲撃する必要があったけれど、時空管理局も地球周辺の警戒網は大きくしているし、投入できる数には限度があるわ」

 

 さすがは姫様だ。立派になられた。

 

 戦略眼を見事に鍛えておられる。これは、俺の仕事も減ったかな?

 

「もしこの情勢下でこんな規模の演習に襲撃を仕掛けてくるのなら、それは地球にかつての禍の団に匹敵する規模の戦力が集まっていることだもの。それはないわよ」

 

 なるほど、姫様もより深く考えられるようになったもんだ。王者の風格というものが出てきたな。

 

 そして、実際問題演習そのものは何の問題もなく終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵もまた、その裏で準備をしていることを、俺は本当の意味でよくはわかっていなかったが。

 



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酒を飲んだ帰りに襲われるのは定番だから気をつけろ

 

 ことが終わった夜、俺はイッセーや姫様と別れて、久しぶりに1人酒を飲むことにした。

 

 たまにはこういう時間がほしいと思ったんだ。家で飲むんじゃなくて店で飲む。それも一人で。

 

 あ? まだお前19歳? 安心しろ、今回の演習場所は飲酒年齢が18歳以上の国だ。

 

 大丈夫だ、問題ない!! ドヤァ!!

 

 などと思いながら夜風で涼みながら転移魔方陣を展開できる場所まで移動したその時に―

 

「―ああ、今回は時間差攻撃か」

 

 ―敵意を感じて、俺は振り返った。

 

 そこには、何人かの男女がいた。

 

「サインならサイン会の時にしてくれないか?」

 

「油断だな。度の過ぎた余裕は油断以外の何物でもないだろう?」

 

 そう告げる男は、しかしため息をついた。

 

「……悪魔の若者なだけあって、深夜になってからが本番か。こちらも仕事があるというのに、どうしてくれる」

 

 そうため息をついた男は中年に差し掛かっている。

 

 なんだ? 今回の件は想定外のトラブルか何かか?

 

 しかし、それ以外の男女たちは意外にも好戦的だった。

 

 むしろ、いいタイミングを見つけることができたといった感じである。

 

「隊長。できれば、今の私がどこまでできるか試させてくれません?」

 

「……明確なチャンスがあれば暗殺も許可されているから仕方がないな。引き際は見誤るなよ?」

 

 そう中年の男が釘をさすと、一人の女が一歩前に出る。

 

 同時に、三人の男女がそれに従って前に出た。

 

 逆に中年に引きつられて三人の男女が後方へと下がるのを見て、俺は大体事情を把握した。

 

 なるほど、こいつらは分隊単位で行動していたらしい。

 

 しかし、一体何を考えている?

 

「―念話は妨害されているか」

 

 まあ、それ位の対応はするだろう。

 

「一つ聞くぞ? お前、フォンフの部下か?」

 

「ノーコメント。っていうか、敵に素直に情報を吐くと思う?」

 

 なるほど真理だ。

 

 だが、コメントを差し控えた時点でフォンフと何かしらの関係があることはわかっている。

 

 まあ、俺が神喰いの悪魔だとわかって仕掛けてくるようなら、十中八九関係者だしな。

 

 まあ、とにもかくにも―

 

「偽聖剣、起動」

 

 俺は速攻で偽聖剣を展開すると、即座に戦闘態勢に突入する。

 

 そして、それと同時に向こうも動きを見せていた。

 

「着装」

 

 腰にベルトを取り付けると同時に、さっきからメインでしゃべっていた女が接近する。

 

 そして、その速度は今の俺より早かった。

 

 ………ふむ。俺の武勇伝と偽聖剣の暴れっぷりを知って仕掛けてくるだけあって、最低でも禁手クラスの戦闘手段を持っていることはわかっていた。

 

 上方修正しよう。神滅具とすら渡り合えるレベルだ。

 

 ガードはギリギリ間に合ったことを伝えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな緊急事態のなか、すでに敵襲の報告はその街の異形たちの間を駆け巡っていた。

 

 理由は単純、念話の類が遮断されていたからだ。

 

 念話の類が封じられている以上、外部が何かあったと勘付くことは本来不可能に近い。

 

 しかし、何事にも例外はある。そして宮白兵夜という男は、その手の奇策をよく多用する男なのだ。

 

 種は極めて単純。彼は異能による発信機を持っていたというそれだけのことである。

 

 それが妨害を受けたことで途絶えたので、何かあったとグランソード達が判断したのだ。

 

 当然、すぐ近くまで一緒にいたイッセーとリアスがその報告を通常の携帯電話で受け取るのは当たり前。

 

 すでに根回しも行っており、この街に存在する異形の三割がすでに警戒態勢を取っていた。

 

「リアス!! 宮白を真っ先にターゲットにするやつって、あの越智とかいう人かな、やっぱり?」

 

「どうかしら? 言っては何だけれど兵夜にしろ私にしろあなたにしろ、禍の団の関係者からは恨まれていて当然でしょう?」

 

 リアスの言うとおりである。

 

 本格的な活動開始から、わずか一年足らずで壊滅的打撃を受けて事実上の無力化された禍の団。

 

 その要因ともいえる主要派閥の壊滅に、グレモリー眷属は嫌というほどかかわっている。むしろ、原因といっても過言ではない。

 

 その裏のエースである兵夜に暗殺者が出てくることは極めて当然。下手をすれば―

 

「私達を狙って動く暗殺者もいるかもしれないわ。イッセー、兵夜のことを心配するのもいいけれど、周囲を警戒することを忘れないようにね?」

 

 そういいながら、リアスが外套を纏いつつ警戒態勢を取る。

 

 この状態のリアスは未来視を使うことができる。これは不意打ち対策としては十分すぎるだろう。

 

 だが、それにおんぶにだっこでいるわけにはいかない。故にイッセーも即座に周囲に気を配ろうとし―

 

「―イッセー、上からくるわ!!」

 

 その言葉に、イッセーはすぐに軌道を急激に変える。

 

 その瞬間、即座に攻撃がイッセーの鎧をかすめ、そして鎧をわずかに欠けさせる。

 

 その事実に、イッセーもリアスも敵の脅威度の高さを理解する。

 

 いかに欠けただけとはいえ、赤龍帝の鎧をかすめただけで損傷させるなど、それだけで相当の実力者であることのあかしだ。

 

 それほどまでに、赤龍の乳乳帝として覚醒した今の兵藤一誠は強大な存在なのだ。

 

 そして、それをなしたものは即座に攻撃を開始する。

 

「隊長がことを終えるまでしのぐぞ!!」

 

「おう!!」

 

 と、即座に迎撃を放つ男二人組。

 

 さらに女性がバックステップで後方に移動しながら、即座に迎撃のためにその手から闘気の玉を放つ。

 

 乳語翻訳を警戒しての距離を取っての迎撃。さらに女性は援護射撃をしながらも逃走をためらわない。

 

「あ、こら!!」

 

「近づけさせると―」

 

「―思ってんのか!!」

 

 追随しようとするも、男たちの連携が邪魔でそれもできない。

 

 どうすればいいかと思った瞬間、しかし状況はさらに動く。

 

「……イッセー伏せろ!!」

 

 その言葉とともに、兵夜がイッセーの目の前にいる男に飛び蹴りを繰り出した。

 

「うわっ!? 宮白、危ねえだろ!!」

 

 助けに来た相手の攻撃が直撃しかけるという理不尽に思わず文句を言うが、しかしそのために振り返ったイッセーの視界に、また飛び蹴りが飛んできた。

 

「死ね変態がぁ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 慌ててもう一回回避する。

 

 そこにいたのは、割と巨乳な茶髪の女性。

 

 ロングヘア―のその茶髪をなびかせながら、女性は心底嫌悪の視線をイッセーに向ける。

 

「……死んでくれない? できるだけ苦しい死に方してくれない?」

 

「今即死させる気だったよな?」

 

 兵夜がツッコミを入れつつ再び蹴りを放つが、相手は視線を向けることなくそれを躱す。

 

 その攻防で、相手はスペックだけでなく技量も含めて高水準だと嫌というほど理解した。

 

 ……どうやら、まだまだ世界に強者は隠されているものらしい。

 




思わぬエンゲージを利用して、兵夜を殺そうとする人類勢力。

そして人類側のエースはイッセーに即座に狙いを変えるほど。












彼女がイッセーを嫌う理由は、まあ想定できてしかるべき。

イッセーはどうしてもアンチが発生するタイプですからねぇ(苦笑


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強襲とともに不安は生まれて

 

 

 俺は今、目の前にいる厄介な女を前にして、どうしたものかと真剣に頭を悩ませた。

 

 他の班の連中を、あくまで派手な逃亡を許さないようなカバーに回らせ、自分一人で偽聖剣を相手にこの大立ち回り。

 

 身体能力は莫大。肉体強度も最上級悪魔クラス。

 

 加えて、纏っている外装が厄介だ。

 

 まず間違いなく神滅具級の高位封印系神器の全身鎧型禁手に匹敵する出力。それによる補正が加わり、その戦闘能力は魔王クラスにすら匹敵する。

 

 おそらくこの女がチームの中でも有数の実力者なのは想定できる。

 

 想定できるが、これはヤバイ。

 

「イッセー、姫様!! これ、さすがにマジでやばい!!」

 

「でしょうね。……セラフォルー様やお姉さまでもてこずるわ。加えて、目の前の女は間違いなく苦戦必須」

 

「うっわぁ。なんでそんな強い奴がこんなところにいるんだよ」

 

 俺にしろ姫様にしろイッセーにしろ、勘弁してほしいという感情が出てくるのは仕方がない。

 

 基本的に火の粉を振り払ったりするのが俺たちの基本パターンだったからな。勘弁してほしいと思ったことは何度もある。

 

 まったく。俺たちは不用意に世界に混乱を巻き起こすような真似をする気がないんだがな。

 

「言っとくけど、私はこの中で一番強いけど、仲間たちもなかなかできるわよ?」

 

「だろうな!!」

 

 俺は女の言葉にうなづきながら、反撃を仕掛ける。

 

 展開するのはイーヴィルバレトではなく、時空管理局に用立ててもらったデバイス。

 

 この街中でどでかい破壊を生むわけにはいかない。できれば結界を張りたいところだが、それも難しい。

 

 ……相手がすでに阻害を行っているからだ。

 

 どうやら、思った以上に時空管理局の技術も漏れているらしい。

 

 こりゃフォンフの奴、管理局の連中にもコネクションをつなげてるな。

 

「お前らには聞きたいことが山ほどある。死なない程度に痛い目を見な!!」

 

「冗談! それに、私の本命は貴方じゃない!!」

 

 いうが早いか、女は俺の攻撃をかわすと本命を狙う。

 

 その本命は……イッセー!?

 

 馬鹿かこいつ!? イッセー相手に女が挑むなど自殺行為だ。

 

 衣服はもちろん拘束具すら破壊し、さらにはかけられている術式すら破るバージョンにまで至った洋服崩壊(ドレス・ブレイク)

 

 対象の胸の内を自由に聞き出し、頭おかしいアプローチゆえに対抗策をとるのも簡単ではない乳語翻訳(パイリンガル)

 

 この二つを保有する兵藤一誠という男は、女相手に無類の相性を発揮する。

 

 そして、今回もそうした。

 

「広がれ、俺の夢空間!!」

 

 その煩悩とともに乳語翻訳のフィールドが形成され―

 

「―黙ってなさい、変態!!」

 

 ―女の一喝とともに放たれたオーラがそれを消滅させた。

 

 消滅させた。

 

 消滅させた………

 

 ……え?

 

「嘘、でしょ?」

 

 あり得ない光景に姫様も絶句する。

 

 俺ももちろん驚いている。っていうか絶句した。

 

 あ、あの女、まさか!?

 

「お、俺の乳語翻訳のフィールドを消滅させた!? そんな馬鹿な!?」

 

「寝ぼけるんじゃないわよ!!」

 

 驚愕の隙をついて、女の膝蹴りがイッセーに襲い掛かる。

 

 それをとっさにガードしたイッセーは、即座に洋服崩壊を発動する。

 

「こっちはどうだ!?」

 

「ぬるいわよ!!」

 

 そしてこちらも不発。

 

 馬鹿な!? あのイッセーの乳技を完全無効化だと!?

 

 あ、透過抜きなら防げる奴もいるのか。

 

「そんな!? 透過もきちんと使ったのに!?」

 

 あ、使ったのか。

 

 ……なおさらなぜだ!?

 

「な、なにしやがった!?」

 

「答える馬鹿がどこにいるのかしら!?」

 

 クソ! ド正論!!

 

 以前の連中は結構教えてくれたんだが、最近教えない連中が多いな、オイ。

 

 っていうかこれってまさか―

 

「お前ら、以前テロリストの討伐作戦で横やり入れてきたやつの仲間だな?」

 

「悪いわね。あの時はアレのテストも兼ねた漁夫の利狙いなんだけど、お馬鹿さんが暴走したのよ」

 

 こっちはさらりと答えるんだな。

 

 いや、それだけじゃないな。

 

 俺は反転して攻撃を叩き込みながらさらに詰問する。

 

「アルサムのブートキャンプに襲撃した連中も仲間か!?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定とみなす!!」

 

 回し蹴りを叩き込みながら、俺は警戒度をさらに跳ね上げる。

 

 まずい。どうやら俺が思っていた以上に裏で動いている勢力がいるようだ。

 

「イッセー!! こいつらのうち一人はここでとらえる!!」

 

「おう!!」

 

 乳技無効化の動揺から回復したイッセーとともに、俺は即座に挟み撃ちで取り押さえにかかる。

 

 この女たちは危険だ。なんとしてもここで捕まえる。

 

 むろん、合計六人の取り巻きも警戒に値するが、こちらに関しては俺達に手が出せない。

 

 理由は単純。

 

「悪いけど、露払いぐらいはさせてもらうわ!!」

 

「この女、強い!!」

 

「グレモリーの次期当主は、眷属よりも弱いって話だったけど!?」

 

 姫様が礼装を利用した未来視で牽制しているからだ。

 

 流れ弾を当てないようにするため動きはとりずらいが、しかしそれも十分。

 

 目立たないように路地裏で戦闘しているから、向こうも動きずらいのだ。

 

 この状況なら、少人数の俺たちに利がある!!

 

 イッセーの乳技をこれ以上ないほど完封したこの女はできれば捕まえる!!

 

「ああもう!! さすがに今の装備で二対一はキツイ!!」

 

「だったらここで捕まえる!!」

 

 場合によっては義足の開放も覚悟する。

 

 とにかく、ここで奴を捕まえて。

 

「―熱くなりすぎだ」

 

「―兵夜、後ろ!!」

 

 ―なんだと?

 

 急に後ろから気配が出たと思った次の瞬間、俺は攻撃を叩き込まれた。

 

 姫様が声を飛ばしてくれたこともあり、すぐに受け身を取って地面に着地するが、その攻撃を放った指揮官らしい中年は、即座に打撃を放ってイッセーを弾き飛ばす。

 

 こいつ、体術が優れているってレベルじゃない。ゲン・コーメイと渡り合えるかもしれないレベルで完成されているぞ!!

 

「―いってぇな!! あんたらいったい何なんだよ!!」

 

「言う義理はないな」

 

 そうさらりとイッセーの追及をスルーした男は、視線を部下に投げかける。

 

「全員落ち着け。これ以上の戦闘には意味がない。……撤退するぞ」

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

 即座にスイッチを切り替えたかのように返答した連中はわき目も降らずに空を飛ぶ。

 

「追撃したければするがいい。しかし、その時はこちらも目立つ真似をさせてもらうがな」

 

「……この、野郎!!」

 

 今この場で派手に空中戦をおこなえば、人類社会に異形の姿を知らしめることになる。

 

 さすがにそれはまだ早い。つまりこれ以上は動けない。

 

 それに、あのオッサンは別格だ。

 

 ……挑むなら、こちらもグレモリー眷属総動員で挑まなければ、あの連中と戦ったら死人が出る。

 

 ソーナ会長改めソーナ先輩とのレーティングゲームと同じだ。

 

 神クラスにも匹敵する大火力を保有する俺達グレモリー眷属は、周囲を破壊しすぎてしまう上に目立ちすぎる。

 

 市民もいる市街戦において、俺たちはめっぽう不利だった。

 

 この戦い、事実上の完敗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、俺たちはこの街の異形たちの集会場みたいなところでいったん待機していた。

 

 万が一にもいきなりUターンして攻撃してくる可能性を考慮して、重要人物を集めて護衛する目的のようだ。

 

 しかし、一人として捕まえることなく逃げられたのは痛いな、これは。

 

「悔しいけど逃がすほかないわね。これ以上の戦闘はリスクが大きいわ」

 

「くっそぉ!! 俺の技がここまで完封されるなんて初めてだ!!」

 

 姫様もイッセーも悔しそうだ。

 

 当然だろう。敵の情報はほぼ獲得されてないうえに、これまで勝利の決め手になってきたこともあるイッセーの乳技まで完封されたのだ。

 

 それも、女を入れないという消極的な対策ではない。

 

 レイナーレのように、かけられても対応できるような妥協案でもない。

 

 出させたうえでそれを完全に無力化する。そんな圧倒的な完封で上回れた。

 

 これ、冗談抜きで脅威だな。

 

「宮白、宮白!! なんで無効化できたのか理屈で説明できないか?」

 

「お前の乳技に理屈もクソもないだろうが」

 

 むちゃくちゃ言わないでくれ、イッセー。

 

 お前の乳技自体が理屈とか考えるのが面倒になる代物なんだぞ? そんな技を対処療法ではなく完封する理屈何て俺にわかるか。

 

 だが、これは思った以上にややこしいことになってきた。

 

 ここ最近頻発している、フォンフの関係者と思しき謎の事件。

 

 アルサムの起こした上級悪魔子息の特訓を襲撃した兵士集団。

 

 犯罪組織をつぶす時に、もろとも潰さんとしたあの男。

 

 教会の反乱者を逃亡させた思わしき謎のメイス使い。

 

 そして、この街で暗殺未遂事件を起こした実力者集団。

 

 間違いない。こいつらは全部つながっている。しかもおそらく純地球関係者だ。

 

「姫様。あとでサーゼクス様に連絡をお願いします。……この地球(世界)は、ハーデス以上に危険な奴らがいるかもしれない」

 

「貴方が言うならその可能性は大きいわね。……ええ、これはきっと、忙しくなると思うわ」

 

「ロキみたいな神様もいっぱいいるってことか。ホント、俺たちは大変だよなぁ」

 

 姫様もイッセーも、異形社会の想定以上の脅威に警戒心を強めていく。

 

 どうやらこのアザゼル杯、平穏無事に終わるかどうかすら怪しくなってきたな。

 




ついに登場する完璧な乳技封じ。

まあ、種がばれればすぐにわかる方法なのですが。たぶん皆様納得してくれること請け合いだというぐらいシンプルな方法です。


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空蝉の残滓

 

 最近感じていた嫌な予感がひしひしと強化される。

 

 まず間違いなく、フォンフ達は地球に新たな協力者を獲得している。

 

 彼らは俺達が知らない技術を手にして、そして新たな力を手に入れた。

 

 その戦闘能力は、本来の装備じゃないと言っていたあの女ですらフル装備の俺やイッセーとまともに戦えるほど。

 

 加えて、これ以上ないほど完璧な乳技封じをなしとげたという事実が、各勢力の警戒心を煽っている。

 

 兵藤一誠の代名詞といえ、これまで幾度となく対策を素通りしてきた洋服崩壊(ドレス・ブレイク)乳語翻訳(パイリンガル)。これによって覆された戦いもいくつかある。

 

 それが、完膚なきまで無効化された。

 

 これだけでも、まず間違いなく強敵であることの証明だ。そうなってしまうのが涙出てくるが。

 

 故に、本格的な対策チームが作られることとなったのは言うまでもない。

 

「……とりあえず、敵の能力の出所の一つは判明した」

 

 その言葉に、俺は僅かに目を開いた。

 

 グリゴリの研究所に呼び出された俺達は、アザゼルからその説明を受けた。

 

「アザゼル先生。出所がわかったってことは、これから叩き潰しに行くんですか?」

 

 先のリベンジをせんと息巻いているイッセーだったが、しかしアザゼルは静かに首を横に振った。

 

「残念だが無理だ。これは、俺達(グリゴリ)からだいぶ前に流出した技術が元になっている」

 

「ここから漏れ出たのですか?」

 

 朱乃さんがそう怪訝な表情を浮かべるなか、アザゼルは画像を展開する。

 

 そこには、数年ほど年齢を若くしたかのようなヴァーリや幾瀬鳶雄の姿があり、そしていくつかの化け物があった。

 

 目の前の残骸と比べるとより生物っぽいが、同時に首が二つあったりする者があるなど化け物っぷりもでかい。

 

「今映っている化け物の名はウツセミ。……かつて神の子を見張る者(ウチ)から離反した奴が持ち出した人造神器の技術を流用して、五代宗家のはぐれ者である虚蝉機関って連中が開発した、本家を倒す為の切り札ってやつだ」

 

 その言葉に、俺達は少なからず動揺する。

 

 幾瀬鳶雄が何故堕天使に与していたのかは気になっていたが、そんなことが起きていたのか。

 

「当時奴らがその実験体に選んだのが、鳶雄の通っていた高校の生徒たち。鳶雄の持つ黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)は独立具現型の神器を引き寄せる性質があってな。その所為で適性のある子供が集まっていた」

 

 神滅具って本当にいろんな能力があるな。どっから突っ込んでいいのかわからねえよ。

 

「……で、虚蝉機関の連中は、その学校の生徒が修学旅行で乗り込んでいたフェリーを沈没させて死んだことにし、実験体として運用。運良く逃れたごく僅かな神器を持っているメンバーと、ヴァーリ含めたごく少数がメインになったが一応事件は解決した。あの時はコカビエルも動かしたんだよなぁ」

 

 なるほど、事件そのものは解決されているということか。

 

「アザゼル? 人造神器のデッドコピーということは、性能はそれほどでもないはずじゃないのかしら? 割と強力だったわよ?」

 

 姫様が当然の疑問を放つ。

 

 確かに、当時未発達だった人造神器の技術をさらにデットコピーしたものでは、出せる性能なんて大したことがないはずだ。

 

 しかも事件発生が禍の団がことを起こす何年も前なら、流石にキャスターが召喚されていたことも考えにくい。

 

 それがどうしてあんな高性能に?

 

「……あの残骸から採集したデータを見る限り、ウツセミ機関が研究していた頃よりはるかに洗練されている。それも―」

 

 その言葉とともにアザゼルが見せたのは、解体されているウツセミから摘出られる、何かしらの機械的物質だった。

 

「何だあれは? モーターのように見えるが……」

 

「どちらかといえば発電機だね。……あれが一体?」

 

 ゼノヴィアと木場が怪訝な表情を浮かべる中、アザゼルは静かに告げる。

 

「発電機ってのは言いえて妙だが、そんなちゃちな代物じゃねえ」

 

 アザゼルは、なんか凄くマジな表情をしていた。

 

「あの機械は、電力と演算装置で疑似的に魔法を発動させていた。……奴らは、機械的に魔法を発動させてウツセミを強化してたんだよ」

 

 その言葉に、俺達全員が目を見開く

 

 魔法を科学で再現するのではなく、科学で魔法を発動させる。

 

 これは中々斬新な発想だ。

 

 この中で最も魔法に詳しいロスヴァイセさんに視線が集まり、イリナが代表して質問する。

 

「ロスヴァイセさん、そんな事ってできるのかしら?」

 

「……理屈の上では不可能ではありません。魔法とはすなわち計算によって発動するものですから、言われてみればそういう発想は確かにありです」

 

 だが、これはまた非常に厄介なことでもある。

 

 そのことに気づいている者もいるだろう。

 

 これはすなわち、研究が進めば高水準の魔法を使うことが金と資材があればだれでもできるようになるということだ。

 

 また一つ、科学は鍛錬という時間を削除することに成功した。

 

 ……そして、もしウツセミの開発技術を持っていると思われるフォンフが大金持ちのスポンサーを得ることができれば―

 

「……アザゼル先生。これ、俺達も研究しとかないとまずいんじゃないですか?」

 

 イッセーが冷や汗をかきながらそういうのも当然だ。

 

 学園都市技術によって、人類の戦闘能力は大幅に向上することだろう。

 

 さらに魔法理論の武装化など、この戦闘能力差を大幅に埋めることとなるはずだ。

 

 まずい、まずすぎる。

 

 下手をすれば、このウツセミが軍事兵器の主力を担うことがあるかもしれない。

 

 俺はその可能性をひしひしと感じて、状況がまた混沌に近づいていることを切に痛感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺達がいないうちに暁は暁で問題が発生していたらしい。

 

「……絃神島にきた理由からして、偽造されていたものだった?」

 

『はい。詳細はわからないのですが、どうも先輩はその頃から第四真祖に関わっていた可能性がありまして』

 

 そう告げる姫柊ちゃんの表情は、困惑の色が強かった。

 

「まあ、俺も獅子王機関に睨まれたくないからこれ以上の深入りは避けた方がいいんだが……。とりあえず、MARや獅子王機関は、何かをお前達に隠してるわけだな?」

 

 まあ、当然といえば当然のことだろう。

 

 現場で動くレベルでしかないうえに、基本的には新米を通り越して見習いである姫柊ちゃんに深いところまで情報を教えるわけがない。

 

 そもそも俺は外様の極みだ。情報を伝えられてないからって文句が言える立場でもない。

 

 だがまあ、警戒するべきは―

 

「その凪紗ちゃんのこと、気にするべきはそれだな」

 

『はい。先輩に伝えることも考えたんですが、なんていうか機を逸してしまいまして』

 

 ああ、これまでの情報を調べた結果、大体把握できた。

 

 ……暁の妹さん、何かに憑かれてるな。

 

 いや、意図的に憑霊させているといった方が近いようだ。

 

 おそらく件の数年前の事故……ということにした一件が関わっているとするべきだろう。

 

 そして、そう考えるのなら―

 

「話は分かった。俺も気にさせてもらう」

 

『ありがとうございます。では、私は先輩のテスト勉強を見張りに行きますので』

 

「できれば赤点だけは阻止してくれ」

 

 そういって通信を切り、俺はため息をついた。

 

 ……間違いない、俺のかつての予想は正しかった。

 

 姫柊ちゃんは監視役としては間違いなく囮だ。マジで妾の可能性があるし、そうでないにしても護衛といった方が近いだろう。

 

 おそらく獅子王機関はその一件があったときから暁に目をつけていたはずだ。監視役がいるのなら、その頃からだろう。

 

 それを姫柊ちゃんにも隠している以上、隠密能力に非常に長けているか、姫柊ちゃんの能力では感知できないような特殊技能もしくは能力の持ち主。

 

 ……俺も少し警戒心を強めた方がいいか。

 

 獅子王機関は決して完全な味方じゃない。あくまで国益を考慮して俺達と交流してるのだ。手を切った方が得だと判断されたら、容赦なく動いてくるはず。

 

 さて、これはどうしたものかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけでさぁ、俺としてはマジで苦労してるわけなんだよ」

 

「そりゃ、大変だな」

 

 ヴィヴィ達の今後の予定を組む為にミッドチルダに来た時、俺は思わずそう愚痴をこぼしてしまった。

 

「悪魔になってからの一年は死に物狂いの激戦続き。その後の一年は戦後処理に奔走。落ち着いたと思ったらアザゼル杯を潜り抜けながらこれだ。……俺、過労死するかも」

 

 まだメニューが来てないことをいいことに、俺はテーブルに突っ伏した。

 

「わ、ワーカーホリックの気がある兄上がここまで突っ伏すとは!?」

 

「いや、兵夜さん何気に休息はきちんと取ってるわよ?」

 

 雪侶にシルシがツッコミを入れるが、それに返答するのもなんかおっくうになってきた。

 

「でも、そんなに不満を持ってる人がいるんですか?」

 

 ヴィヴィがそう首を傾げるが、しかしそれは当然ともいえる。

 

「そりゃぁ、これまで事実上の冷戦状態だったのが、いきなり和平だからな。急激すぎる方針転換について行けない連中は数多い。……上はともかく、下や中堅どころは今でも他の勢力を出し抜いて自分達が異形達のトップに立ちたいと考えているものは多いだろうからな」

 

 そう、それが現実だ。

 

 幸か不幸か上がどいつもこいつもリベラル路線で行ってくれるから安全だが、それはあくまで上がリベラルなだけだ。

 

 ハーデスはおそらく氷山の一角。不満分子は大量に存在するはずだ。

 

 おそらくE×Eが来るまでの30年間は、そう言った事を処理しながら準備を進める事になるのだろう。

 

 ……もしくは、どでかい戦乱と引き換えに早期決着がなされるか。

 

 どちらに転んでも頭が痛い。流石に注目が集まりすぎて民衆の人気を高めているアザゼル杯のど真ん中でやったりはしないだろうが、しかし終わった後が危険だ。

 

「……ヴィヴィもハイディも、アザゼル杯が終わったら、当分地球には近づかない方がいい。たぶん、その辺りの隙を狙って仕掛けてくるはずだ」

 

「でも、今は三大勢力は時空管理局とも交流を行っているんですよね? 規模で圧倒的に劣っているのに、そう簡単に動こうとするんですか?」

 

 ヴィヴィの意見は確かにその通りだ。

 

 だがしかし、だからこそなのだ。

 

「だからだ。だからこそ、本格的にフォード連盟や時空管理局との条約締結がされる前に動かなければならない。それならこれはあくまで管理外世界の内乱だと言い張れるから、時空管理局も動きずらい。……ハーデスのジジイなら間違いなく考えるな」

 

 流石に展開が展開だから、交流そのものの規模はそこまででかくないんだよなぁ。

 

 巻き返しを図るには、むしろそれが本格的になる前に動かなければならない。

 

 最悪の場合、ハーデスは本格的にフォンフと組むことすら考えられる。

 

 ……そういう時の為の、準備もきちんと考えないとな。

 

「ま、流石にまだ先の話さ。そういう可能性があると心にとめておいてくれればそれでいい」

 

 俺はそう安心させるように告げる。

 

「万が一の場合、それでも君達の安全は可能な限り考慮する。それがアザゼル杯に参加を打診した俺の責務だ」

 

 そう、だからこそ、安全をこれからは考慮しなければならない。

 

 できる限り腕利きの防衛戦力がいるところだけに関わらせる。そして、今後は護衛戦力もある程度引き連れて行動しよう。

 

 俺はその辺をしっかり決意して、ヴィヴィの頭をなでる。

 

「安心しろとは言わないが、それでもそこはきちんと気を遣うよ」

 

「……でも、力になれる時は言ってくださいね?」

 

 ふぅ。この子はやっぱりいい子だよ。

 

 良い子過ぎて自分の汚れっぷりが自覚できてしまって心が痛む。

 

 さて、湿っぽい話もここまでだ。

 

「さて、それではそろそろ本題に行こう」

 

「なんだよ。これが本題じゃなかったのか?」

 

 ノーヴェにはそう言われるが、しかし勘違いしてもらっては困る。

 

「こんな湿っぽい話の後で食事をしたって美味しく感じませんもの。兄上はその辺り気を使いますのよ」

 

「それはすいません。気を使っていただいて」

 

「子どもが謙遜しない。周りが積極的に守ってくれる立場は得なんだから、少しぐらい味わっておきなさい」

 

 そんな会話を聞きながら、俺はカバンからチケットを取り出した。

 

「ガモリーズセキュリティを経由して、絃神島のアミューズメント施設のチケットを手に入れることに成功したんだ。どうも暁達も行くみたいだし、サプライズで行って一緒にはしゃごうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は裏でこっそり獅子王機関が手をまわしていたことに気づくのはこの数日後。

 

 後悔するのはそれに気づいた数日前である。

 

 俺は、俺自身やイッセーに匹敵する暁のトラブル遭遇率を舐めていた。

 




流石にアザゼルたちは深くかかわっているのでウツセミについては理解しました。もっとも誰がそこまで発展させたのかまではわかっていませんが。

機械を媒介にする魔法運用。これに関しては発展形も計画しております。……おのれ新型神滅具め、貴様のせいでいろいろ面倒なことになったではないか。



そんでもって次回からは黒の剣巫編に突入します。

活動報告でもすでに連絡していますが、新型神滅具がこちらの人類側の戦力に致命的な特攻作用を持っている可能性が激高などの理由により、真D×Dがでるまでは、黒の剣巫編までで更新をストップする予定です。

エイプリルフールに出したから嘘だと思った? 残念、事実だよ!!


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兵夜「……さすがにこれは不憫だと思いました、まる」

 ブルーエリジウム。通称ブルエリ。

 

 絃神島に新しくできたフロートの一つで、人工島であるがゆえに絃神島ではそう行くことのできない大規模レジャー施設である。

 

 なんでも魔獣の研究などもしているらしい。ちょっと危ない気もするが、いいのだろうか?

 

 しかし、半径600メートル足らずとはいえ、総合レジャー施設なのは伊達ではない。

 

 プールはある、遊園地はある。さっきも言ったが魔獣を見ることができる博物館もある。ホテルもある。

 

 そういうわけで、俺達は割と本気で色々と楽しもう……と、思ったんだよ。

 

「お前ら、何やってんだ?」

 

「矢瀬の奴に騙されたんだよ!! あの野郎、何がバカンスだ!!」

 

 そう文句を垂れるのは暁だった。

 

 なんでも、レジャーというのは名目で、本命はこっちだったらしい。

 

 つまり労働力確保。……一言言おう、悪魔だ。

 

 実際の悪魔に悪魔言われる機会なんてそうないし言ってやろうかと思ったが、しかしこれはあれだ。

 

 毎度毎度絃神島を破壊せんばかりの勢いでやってくる殲教師やらテロリストやら犯罪組織やらと戦っておきながら、さらにこんな目にも合うのか。

 

 一言言おう。不憫だ。

 

「……藍羽、飲み物と食い物で一番高いの十人前持ってきてくれ。釣りはチップでいい」

 

 俺は接客担当をしている藍羽に、財布からお札を適当に出して強引に持たせる。

 

 ここで俺が手伝うというのは逆に色々と言われるかもしれんし、ここは別の形で貢献する他ないだろう。

 

「万札が何枚も!? え、いいの?」

 

「大金持ちの俺からすればはした金だ。それで荒稼ぎしてボーナスでも貰ってこい」

 

「やだ、この人いい人すぎ……っ」

 

「……あれ、目から汗が……っ」

 

 うん、これが終わったら待っていろ。

 

 美味い物、奢ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、すごく大変そうだった。あと姫柊ちゃんは暁の妹さんと仲良く遊んでるそうだ」

 

「そうか。暁の奴、不憫だな」

 

「古城くん、不憫すぎる……っ」

 

 俺とグランソードと須澄は、俺が買ってきた昼飯を食いながら、塩味のきつさに悶えていた。

 

 なんでだろう、これ、塩味が強い。

 

「ま、まあ。これも平和な証拠だよっ。そうじゃなければこんなイベントに参加することもできないんだもんっ」

 

「いえ、これは参加しているという発想でよろしいのですの?」

 

 雪侶、折角トマリが珍しく良い事言ったんだから、余計な茶茶を入れない。

 

 しかしまあ、暁達も災難だ。

 

 ……素直に報酬出すからバイトしてくれって言えばいいだろうに、その矢瀬とか言うのも。

 

「そういえば、その矢瀬ってのは一体どこに行ってるんだよ? もちろん手伝ってるんだろ?」

 

「そういえばそうだな。少なくとも屋台にはいなかったはずだが」

 

 ノーヴェの言葉に俺は首を傾げる。

 

 ……まさか自分だけさぼりやがったか? 要領のいいやつだ。

 

「でも、その矢瀬さんって人はすごい人なんですか? ここ、そう簡単にチケットが手に入らないって聞きましたけど」

 

「そういえばそうね。その矢瀬って奴、そんな偉いの?」

 

「あぁ、確か魔族特区設立に関わった大財閥の関係者がそんな苗字だったはずだぜ?」

 

 ヴィヴィとアップが首を傾げる中、グランソードはそう言って再び昼飯をつまむ。

 

 そんなだべりまくりの中、俺はふと嫌な予感を感じた。

 

 ……この魔族特区設立に関わった、大財閥。

 

 そんな連中が、果たして絃神島の要石のことを全く知らなかったというのか?

 

 いや、くだんの矢瀬は知らなくてもおかしくないだろう。どうも傍流らしいし、そこまで深入りしている可能性は低い。

 

 しかし、傍流であるからこそ使いっパシリとして使われている可能性もある。

 

 それに、先日何かしら暁にトラブルがまたしても発生した時に、暁はそもそも絃神島に来る前から何かしらあったらしい。

 

 なんでも、あいつが絃神島に来る理由の事件が、時差の都合でどう考えてもあり得なかったとか。

 

 ……これは推測だが、おそらく獅子王機関はその時から暁周りで動いていた可能性も考慮するべきだ。

 

 深入りして動かれてはこちらがやばいのであえてそれ以上は踏み込まなかったが、これはもしかするとかなりやばいかもしれないな。

 

 少なくとも、本命の監視役は別にいると考えるべきだ。

 

 しかも、それを知らされていない姫柊ちゃんが勘付けば余計なトラブルになることは必須。おそらくは姫柊ちゃんが勘付けないような特殊能力関係で監視を行っているとみるべきだ。

 

 ……下手に動いて勘付かれると後が怖いな。俺達はあくまで外様だから、獅子王機関を敵に回すとこっちで動けなくなる。

 

 とりあえず、ガモリーズセキュリティの人員を増やすことで対応しよう。最近はごたごたが多いから、そういった方面での需要もあるので動きやすい。

 

「「……なあ」」

 

 と、そこでノーヴェとグランソードが同時に小声で俺に声をかける。

 

 ふむ、言いたいことはよくわかる。

 

「実を言おう。……俺もなぜぽっと出の新興企業であるガモリーズセキュリティに、たまたま暁と姫柊ちゃんを覗いた神喰いの神魔チームが全員集合できるだけの招待チケットが出てきたのか不思議だった」

 

「済まねえノーヴェ。まぁた大将のうっかりだ」

 

「あんたも大変だな、グランソード」

 

 うん、ゴメンなさい。

 

 これ、間違いなく荒事に巻き込まれるタイプだ。

 

 おのれ獅子王機関!! 引き出される利権はこれまでの比じゃないと思え!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、暁古城はどうしたものかとなんとなく考える。

 

 煌坂紗矢華が連れ出した江口結瞳(えぐちゆめ)という少女をとりあえず自分のところに連れてきたは良いものの、さてどうしたものかという話になっている。

 

 今のんきにバーベキューを食べている場合じゃないかもしれない。

 

 しかも、自分は浅葱に指摘されるまで、獅子王機関に対する考え方が甘かったことに気が付いた。

 

 獅子王機関はあくまで国家の治安を守る組織なのであって、正義の味方ではない。あくまでお役所なのだ。

 

 国の運営は大義は必要でも正義が必要であるとは限らない。歴史の中で悪行を繰り広げた国家など腐るほど存在している。

 

 加えていえば、こういう組織が国益の為に非道な行為を働くことも珍しくないはずだ。

 

 その認識の改めが、たまたま来ていた兵夜達に助けを求めることも躊躇させていた。

 

 彼らは異世界の出身だ。兵夜は悪魔の王である魔王に仕えるというのが立場的なものだし、ヴィヴィオ達がいる時空管理局は、次元航行手段を持たない世界に対しては基本干渉しない方針を取っている。

 

 個人としては間違いなく信用できるし、ヴィヴィオやアインハルト達は信頼もできるが、しかし何でもかんでも任せられるわけではないのだ。

 

 そこを考えると、獅子王機関がブルエリから連れ出した理由がはっきりしない限り任せるわけにはいかないだろう。

 

 そして目下の問題は。

 

「俺、一口も食ってないぞ」

 

 バーベキューを焼いていたのは自分なのに、肉をろくに食べれてないことである。

 

 特売の安肉とはいえ、バーベキューで肉をろくに食べれてないのは残念という他ない。

 

 というより、野菜すら殆どない。あの重労働の末に夕食抜きとか普通に死ねる。

 

「ちくしょー。焼いたの俺だぞ。肉くれよ、肉」

 

「……予想は的中ってわけか」

 

 と、そんな言葉とともにパック入りの肉が突き出された。

 

 それも、矢瀬が持ってきた半額のシールのついた安物などでは断じてない。

 

 完膚なきまでの国産。それも和牛とかつくような高級肉が何パックも詰められていた。

 

 それに驚愕しながら視線を向けると、そこには見知った赤髪の少女の姿があった。

 

「の、ノーヴェ……」

 

兵夜(チームリーダー)の差し入れだよ。美味い昼飯を作ってくれたお礼だってさ」

 

 そう言って笑みを浮かべるノーヴェが天使に見えた。

 

 ついでにその肉を用意したであろう兵夜が神に見えた。いや、確かに兵夜は神様なのだが。

 

「嘘、ここで高級肉!? 流石に腹七分目なんだけど」

 

「まだ食えるのかよ!?」

 

 浅葱の声に思わずツッコミが飛ぶ。

 

 藍羽浅葱。出るところが出ているとはいえ全体的に細身の体系であるのにも関わらず、彼女は健啖家なのであった。

 

 しかし、食べる食べないは別にしてもこの来客に関して色々と驚きの感情が出てくるのは当たり前ではある。

 

「おい古城? この美人は一体誰だよ? しかも……」

 

 そういう矢瀬の視線の先には、ノーヴェに連れられてきたヴィヴィオとアインハルト。

 

 その視線は、明らかに邪推だった。

 

「お前、やっぱりロリコ―」

 

「違うわ!!」

 

 渾身のツッコミだった。

 

「だ、誰が美人だよ……」

 

「ノーヴェ、悪いが今はそこ以外にツッコミ入れてくれ……」

 

 古城は心底そうもらすが、しかしこれはまた幸運だと思い涙すら浮かべそうになる。

 

「うわっ! すっごい美人さんに可愛い子が二人も!? 古城くん、一体どういうこと!?」

 

 当然凪紗も食いついてくるが、果たしてどう説明したらいいものか。

 

 そう古城が一瞬躊躇している間に、ノーヴェがさらりと会話を進めてくる。

 

「ほら、夏休みが終わった直後に起きた事件があるだろ? その時この子達があんたのお兄さんと一緒に巻き込まれてさ」

 

 なるほど、そういうカバーストーリーがもう既に作られているということかと、古城はすぐに納得して、あえて何も言わずに黙っておくことにする。

 

 おそらく考えたのは兵夜だろう。その辺り得意そうなイメージがある。

 

「それで、職場の上司が同じく巻き込まれてたから面倒見てたんだよ。あ、アタシはこういうんだ」

 

 そう言ってノーヴェが差し出した名刺は、かなり高級そうだった。

 

 PSCガモリーズセキュリティ実働班。ノーヴェ・ナカジマ

 

 カバーストーリーに本気を出しすぎたと古城は思った。

 

「……藍羽先輩。これ、かなり高級な名刺な気がするのですが」

 

「ま、まあお金持ちだしいいんじゃない?」

 

 と、ギリギリ凪紗達に聞こえない音量で雪菜と浅葱が相談するが、気持ちはよくわかる。

 

 金持ちはある程度金を使うべきだとかなんとか言っていた気がするが、ここですることはないだろうと思った。

 

「あ、古城くんたちが変なところに迷い込んだっていうあの事件ですか? この子達も巻き込まれてたんだ。大変だったねぇ。古城くんは色々駄目なところが多いから迷惑掛けられたでしょ? この前何て私のとっといたアイス勝手に食べたんだもん。信じられる? 期間限定で売ってるコンビニも限られてるんだよ? ホントダメダメだよね?」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

 速やかに兄をディスる凪紗に古城が文句を言うよりも早く、アインハルトは首を振った。

 

「……暁さんがいなければ、私はずっと迷っていたと思います。大事な、恩人です」

 

「え? そうなの? いや、古城くん駄目なところいっぱいあるけどかっこいいところも確かにあるけど……」

 

 あまりにストレートにそんなことを言われて、凪紗が戸惑っていた。

 

 ちなみに古城も戸惑っていた。

 

 確かに迷走していたアインハルトに説教したのは認めるが、しかしそこまで言われるようなことはしていない。

 

 おそらく兵夜やシルシでも似たようなことは言えただろう。たまたまだと思う。

 

 思うのだが、なぜか雪菜と浅葱の視線が痛い。

 

「先輩?」

 

「古城?」

 

「いや待て。俺、そのことに関して怒られることはしてないよな?」

 

 普通に良い事したはずなのに、なぜか責められる理不尽を感じていた。

 

 そんな中、結芽が古城の服を軽く引っ張った。

 

「……古城さん」

 

「な、なんだ?」

 

 小学生に助けられるのは情けないが、それはともかくとしてとにかくとっかかりがほしい。

 

 そう思い視線を向けると、そこには憐憫の視線が合った。

 

「大丈夫です。年の離れた夫婦は何人もいます」

 

「そういうことじゃねえよ!?」

 

 渾身のツッコミが出たと思う。

 

 この後肉を焼くことを考えると、どんどん体力が削れて言っている気がする。

 

 しかもそのうえで、いつの間にやらヴィヴィオの視線が古城を貫いていた。

 

「……それで、今度は何があったんですか?」

 

 この子は子供のはずなのに本当にすごい。

 

 どうやら、結局今回も兵夜に頼ることになるらしい。




カバーストーリーに本気を出す男、宮白兵夜。

それはともかくとして、いったん一区切りすることもあって、黒の剣巫編は割と派手に行きます。

具体的には、七式をさらに出したりフォンフシリーズの新メンバーを出したり、フォンフ直属の部下を複数だしたりする予定です。


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何事も過激すぎると反発が強いから気を付けよう

本格的に行動開始。さて、これからどうなることやら。


 

 その夜、俺はブルーエリジウムを調べていた。

 

 もとより、このブルーエリジウムはただのアミューズメント施設ではない。

 

 同時にこのメガフロートは魔獣の研究施設でもあるのだ。

 

 クスキエリゼという魔獣で飯を食っている企業がスポンサーなだけあって、魔獣の研究など色々な事を行っている。

 

 ……魔族と魔獣の違いは、意思疎通ができるかどうかで判断すればいいだろう。

 

 聖域条約が締結したのは、魔族と人間との間に意思疎通が可能だったというのが非常に大きい。と、いうより前提だというべきだろう。

 

 だが魔獣は違う。強力な野生動物である魔獣は、意思疎通ができないがゆえに聖域条約を締結した国家ですら危険視している。

 

 その所為で密漁や虐殺などが絶えないというのが実情で、それを克服する為にもこういった施設は必要ではある。

 

 あるのだが―

 

「……で? D×D(こっち)のシーシェ〇ードみたいな過激派に出資してるって? そのクスキエリゼのトップが?」

 

 念話でシルシが調べてくれた情報を聞いて、俺はため息をつきたくなった。

 

 またか。またトラブルか。

 

 しかもヴィヴィやハイディを連れてきている状況で裏がある施設に関わるとか、できるだけ避けたい状況だった。

 

 が、調べてみればこの有様だ。泣きたい。

 

『ええ。それでなんだけど、どうも色々と動いているみたいよ? 例の如くフォンフが関わっている可能性も考慮した方がいいわね』

 

「だとしたらフットワーク軽すぎだろ」

 

 何処までフットワークを軽く動かしていたら気が済むんだ? いい加減にしてほしい。

 

 しかも、どうやらその過激派はここに女の子を拉致監禁していたらしい。しかもその女の子を

 

『大将、ビンゴだ。ブルエリの連中、過激派連中を抱きかかえてやがる』

 

 さらにグランソードが追加情報を展開。

 

 どうやら、これは本当にややこしいことになりそうだった。

 

 とはいえ即座に行動を起せるかといえばそうでもない。

 

 なにせ俺達はPSC。依頼を受けていないのに独断で戦闘行動をとるのには色々と難しいところがある。

 

 先に問題が起きている状況下でボランティアで民間人の安全確保を行うという名目で動かすこともできるが、それにしたって後手に回る。

 

 奴らが動いた瞬間に行動を起こすにしても、なんでそれを発見できたのかという言い訳が必要だ。

 

 だからこそ、獅子王機関という後ろ盾が必要なのだが、今回の件に関しては動きずらい。

 

 なにせ、江口結瞳に関しては詳細が分かっていないのだ。

 

 うかつに突っついて、獅子王機関の汚れ仕事にまで関わるのはよろしくない。

 

「……とりあえず警戒だけしておくか。それで、ヴィヴィとハイディは?」

 

『疲れて寝てるよ。アタシは今から合流する』

 

『その分護衛はこっちでするよっ! ほら、私なら吸血鬼だから比較的暴れてもいいわけ効くしっ?』

 

 と、ノーヴェとトマリで役割分担は完了。

 

 さて、それじゃあとりあえず―

 

「今日のところは様子見だ。相手側のアプローチを見てから、場合によっては獅子王機関に問いただしを―」

 

 そう言いかけた瞬間、俺は身を翻して防御障壁を展開する。

 

 直後、拳が勢いよく叩き付けられた。

 

「……後ろからの強襲すら反応するってどういうことよ」

 

「悪いな、生体レーダーを汲みこんでるんだよ、越智」

 

 またか、またお前か。

 

 もういい加減、この腐れ縁も断ち切りたいな。

 

「なあ、本当に俺が恨んでいる理由を説明してくれないか? 納得できる理由なら、金銭的賠償ぐらいはするんだが」

 

「ああ。たぶん納得できないだろうから気にしなくていいわよ? 死んでくれればそれでいいから!!」

 

 そうかい、だったらこっちも遠慮はしない。

 

 つまり八つ当たり同然だって自分で言ったんだな? ならこちらも加減をする必要はないわけだ。

 

 八つ当たりには罰が当たるべし慈悲はない。

 

 ………覚悟しろ。

 

 次の瞬間、俺は偽聖剣を展開して全力で殴り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、古城達は古城達で緊急事態に巻き込まれていた。

 

 ノーヴェとトマリが入れ替わるタイミングで起きた不意打ちだったが、しかしこれでノーヴェを責めるのは筋違いだろう。

 

 間違いなく、ノーヴェでもトマリでも対応できない事態なのだから。

 

「あれっ? なにこれ!? どういうこと!?」

 

 交代タイミングで戦闘が勃発しているという事実に慌てたトマリが駆けつけた時には、既に暁が敵と向かい合っていた。

 

 問題は、その敵が写真でとはいえ見たことのある人物だということだ。

 

「トマリさんか! ちょうどいいところに!!」

 

 古城が攻撃を一生懸命回避しながら、増援の姿に歓喜する。

 

 それをカバーするように動きながら、トマリは古城を襲っている相手の姿を確認する。

 

「確か……雪菜ちゃんのお友達の煌坂ちゃんだっけっ? なんで襲ってきてるの? 修羅場っ?」

 

「違うわ!! どうも精神干渉されてるみたいでな。……俺はあいつに嫌われてるからなおさら遠慮がないんだよ」

 

 その言葉に、トマリは何故か半目を向けたくなったがすぐに気持ちを切り替える。

 

 とりあえず、精神干渉なら吸血鬼の出番だ。

 

 なにせ、この世界の魔術はその殆どが高位の吸血鬼の前には無力と言ってもいい。

 

 如何に高位の精神干渉を受けていようと、氏族クラス以上の吸血鬼が血を吸って干渉すれば解ける可能性は十分にある。

 

 トマリはギリギリ行けるレベル。そして古城に至っては真祖だ。確実に行ける。

 

「囮になるから後ろからガブっといっちゃえば? あんな格好なら吸血衝動もちょっとぐらい出てるでしょっ?」

 

「無茶言うな!!」

 

 古城の渾身のツッコミが出る。

 

 なにせこの世界の吸血鬼の吸血衝動は食欲ではなく性欲だ。

 

 殺されかけている状態で性的に興奮しろとかどんな趣味だとツッコミを入れたい古城の気持ちもわからないではない。

 

 だが、そんな漫才をしている余裕は欠片もなかった。

 

「纏めて倒してあげるわ」

 

 明らかに操られていると理解できる目で切りかかる紗矢華の攻撃をかわすが、遠慮なく煌華麟の能力が発揮される。

 

 その能力は二種類。

 

 一つは弓としての運用。鳴鏑矢を利用した人間では不可能な詠唱による、高位の眷獣に匹敵する瞬間高出力呪術の発動。

 

 一つは剣としての運用。疑似的な空間切断の再現による、桁違いの威力と防御力の発現。

 

 遠近両用の優れた装備出あり、はっきり言って戦闘技量に乏しい暁や、氏族クラスでしかないトマリでは一対一だと苦戦必須の実力者だ。

 

 なにせ、彼女はあのディミトリエ・ヴァトラーの監視役に迄任じられたもの。……万が一の為のセーフティになるほどの技量があると見込まれていたに等しい。

 

 加えて動きにも隙が無い上、どうも全身に呪術を仕込んでいる。

 

 下手に触れたらその時点で死にかけ、さらにそれを行うのが困難だ。

 

 となれば、より生命力と対呪術能力の高い古城をメインに運用するのが得策である。

 

 そこまでしっかりと判断して、トマリはとりあえず自分から接近した。

 

 しっかり眷獣を出して相手の視界から古城を隠しつつ、囮らしくあからさまに体当たりを仕掛けようとする。

 

「あ、バカ下がれ!! そいつ姫柊でも五回に一回しか勝てないとか」

 

「うえぇええええ!?」

 

 慌ててバックステップした瞬間、空間切断の刃が人薙ぎされた。

 

 頬に切り傷をつけながら、トマリはかろうじてそれを回避した。

 

 回避したが、これはまずい。

 

 ……この女、全身を呪術で強化している。

 

 その気になれば下手な獣人を超える身体能力を発揮できるだろう。

 

 しかし、そんなものを行うなど正気の沙汰ではない。

 

 自殺行為といっても過言ではない。並みに術者なら暴発して自滅する。

 

 しかし、紗矢華の動きにためらいはない。

 

 これは操られているという次元ではない。間違いなく、彼女はこれをもとから行使できる。

 

「うっわぁっ! ちょ、この子すごいねっ!!」

 

「……まさかこんなに強かったとは思わなかった」

 

 唖然とする古城の方に一瞬だけ視線を向けたトマリだが、その視界がやばいものを映した。

 

 あ、これやばい。

 

 思ったその瞬間にはタックルをぶちかまして古城を弾き飛ばす。

 

「ザ・クラッシャー!!」

 

 そして眷獣を出して盾にして、その攻撃を受け止めた。

 

 そして、斬撃が轟音を放ってザ・クラッシャーに大きな裂傷を刻み込む。

 

「眷獣だと!?」

 

「伏兵だねっ!!」

 

 その言葉と共に、さらに新たな人影が現れる。

 

「……スポンサーに些事を報告するわけにはいかないが、しかし手を抜いたな、妃埼め」

 

 舌打ちしながら現れたのは、意志を持つ武器(インテリジェンス・ウェポン)の剣を持った吸血鬼。

 

 こちらもまた、古き世代と思わしき者達だった。

 

 それも、武装した獣人と思わしき兵士達が何人も付いて来ている。

 

「吸血鬼と獣人が共闘っ? あれ? これってもしかして夜の帝国とか本腰入れて動いてるっ?」

 

「思った以上に大ごとってことかよ!?」

 

 流石にこれは想定外だ。

 

 とはいえ、向こうから友人に仕掛けてきている以上緊急避難は適用されるはず。

 

 そこまで考えて、トマリはすぐに状況を変えることを考慮した。

 

「……古城くんは煌坂ちゃんのことお願い。……向こうはこっちで何とかするよっ」

 

「え? いいのか?」

 

 古城が一瞬躊躇の感情を浮かべるが、その鼻先に指を押し当てると、トマリはニコリと笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫っ! トマリお姉さんはこれでもすっごく強いからねっ!! ……優先順位を間違えちゃ駄目だよっ!!」

 

 いうが早いか、ザ・クラッシャーが地面を削り、トマリと古城の間に断絶を作る。

 

 獣人でも楽には飛び越えられない規模の断絶を壁として、トマリはいつもとは違う微笑を浮かべる。

 

 それは、いつも浮かべているニコニコとした笑顔ではなく、弱者に対して向ける冷笑だった。

 

「……じゃあ、久しぶりに吸血鬼(化物)らしく暴れようかなっ?」

 

 その瞬間、地獄が顕現した。

 




なぜか戦力が万端になっているブルーエリジウム。

……まあ、絃神島で起こるトラブルに奴が動いていないわけがないのですが。


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突然視界にとんでもない光景が出てきたらふつう驚くよね

 

 一方その頃、シルシ達も全力で動いていた。

 

 既に散発的かつ小規模だが、ブルーエリジウムでは戦闘が勃発している。

 

 挙句の果てに、兵夜がまたしても越智と激突する羽目になった。

 

 故に、ガモリーズセキュリティは準備をしていたこともあって行動を開始。

 

 表向きには代表取締役である兵夜の救出ということで動いており、人工島管理公社からもついでにブルーエリジウムにいる民間人の安全確保を依頼されている。

 

 どうやら、ブルーエリジウムのチケットは獅子王機関が裏で手を回していたらしい。

 

「後で文句を一つぐらい言っても罰は当たらないわね!!」

 

 シルシはまず真っ先にヴィヴィオ達と合流するべくコテージへと向かう。

 

 こういう時は身内は後回しにするというのが基本だが、しかし少しぐらい手心を加えてもいいだろう。

 

 それに、どう考えても緊急事態である今の状況下だ。浅葱の力を借りるのは理に適っている。

 

「……あ、シルシさん!!」

 

 と、そこにヴィヴィオとアインハルトが飛び出してきた。

 

「二人とも! ……ごめんなさい。またトラブルに巻き込んでしまって」

 

「それは大丈夫です! それより、古城さん達がいないんです」

 

「雪菜さんは監視役として動いているのだと思いますが、浅葱さんの姿も見えなくて」

 

「トマリさんは何やってるのよ! 報告・連絡・相談!!」

 

 二人の言葉に、シルシは即座に千里眼を起動させる。

 

 そして、次の瞬間とんでもないものが目に入ってきた。

 

 具体的には、噛み付き攻撃を実行しているトマリである。

 

「―本当に何やってるのよ!!」

 

 思わず全力で走り出した。

 

『あ、シルシさん? 今こっちは仕掛けてきた人達返り討ちに……というか、アップが久しぶりに「虐めていいのね!!」って感じなんだけど―』

 

「直ぐ切り上げなさい!! トマリさんが大変よ!!」

 

『……もう終わらせたわ!!』

 

 自分の趣味より幼馴染を大事にする当たり、アップは悪人に成り切れない人物だ。

 

 そしてすぐに急行してきてみれば、そこには割とボロボロというか血塗れのトマリがいた。

 

 全員が血の気を僅かながらにも引かせて駆け寄ろうとするが、トマリは苦笑を浮かべながらサムズアップした。

 

「……全員返り討ちだよっ! まあ、一人ちょっと遠慮できなかったけどね」

 

 そう言いながら少しだけ後ろに下がるのは後ろめたさか。

 

 子供が近くにいると分かっていて、殺しという手段を取ったことに対して気が引けているのだろう。

 

 だが、それに対して真っ先に駆け寄って肩を貸したのはヴィヴィオだった。

 

「大丈夫です」

 

「ヴィヴィオちゃん? あの、ちょっと血がついてるから―」

 

「大丈夫です。トマリさんは悪い人じゃないって、知ってますから」

 

 ……本当に人間ができていると、シルシは戦慄すら感じた。

 

 自分の周囲の親しい人物の中で最も人間ができているのが一番最年少だというのはどうかと思う。

 

「そういえば、古城さんはどちらに?」

 

「そ、そうね。噛みつき攻撃何て見たからそっちのことを忘れてたわ」

 

 と、すぐに千里眼を起動して探索を行う。

 

 ―今まさに腹を剣で貫かれている古城の姿をその目に移した。

 

「だからどうなってるのよ!!」

 

「トマリ! トマリ大丈夫!?」

 

「ちょっとトマリ!! あなた治る怪我で済んでるのよね!?」

 

 ツッコミに被せる形で、須澄を抱きかかえて飛行したアップがちょうど駆けつけてきた。

 

 ……ここからが、ややこしいことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、グランソードと雪侶は一仕事を終えて合流していた。

 

「ったく! とりあえずの避難誘導及び警護体制はきちんとできたけどよ!!」

 

「そろそろ(あにうえ)を優先させてもらいますのよ!!」

 

 普通に考えれば、宮白兵夜の眷属悪魔である二人は兵夜を優先するのが基本なのだ。

 

 そこを主命令とはいえど、先ず一般人の安全を優先したのだから、これ以上の我が儘は聞かない。

 

「っていうかよ雪侶。そもそも大将があんなに恨まれてる理由に心当たり本当にねえのか?」

 

「と、言われましても。一から本気で恨まれている可能性のある人物を調べたというのなら、兄上も流石に漏れはないと思いますの」

 

 二人としてはそこが気になる。

 

 確かに敵を確実に作るような生き方をしている男だが、それにしてもあそこまで恨まれることはそうはないだろう。

 

 間違いなく、大抵の相手に関してはそんな気も起きないような目に遭わせていると確信している。

 

 しかしどうも禍の団の関係者というわけでもないようだ。

 

 しかも、かなり個人的に因縁がある輩をセレクトしていると思わしき発言もあった。

 

 なら、兵夜なら気づいてもおかしくないはずなのだ。

 

「つってもフォンフの話が正しけりゃ、間違いなく関係あるだろ? 例の如くうっかりしてるとしか思えねえんだが?」

 

 グランソードの懸念ももっともである。

 

 主を信用しているし信頼できるところもあるが、しかしうっかりがある。

 

 何か失態があるとしか思えない。

 

「ふむ、ではやっぱり事情をしっかり聞き出すしかありませんの。兄上に正しく責があるのなら、一定の賠償は当然の義務ですし」

 

「だな」

 

「ですの」

 

 と、言うことで結論は出た。

 

 故にそうする。

 

「「ハイそこまで!!」」

 

「なっ!?」

 

「あ、お前ら!!」

 

 駆けつけると同時にダブルキックを越智に向かって放つ。

 

 そしてそれをもろに喰らってもんどりうって倒れる越智から庇うように、雪侶とグランソードは兵夜をカバーする体制に入った。

 

「事情も説明せずにこれ以上の狼藉!! 流石に眷属としても妹としても見過ごせませんの!!」

 

「説明できないってこたぁ、一般人から見て納得できない理由ってことなんだろ? そんなもんでうちの大将やらせるわけにはいかねえなぁ!!」

 

「……いや、ありがたいんだけどね? お前ら民間人の保護どうした?」

 

「「手回しは万全!!」」

 

 微妙に漫才に成り掛けていたが、しかし越智は冷静だった。

 

「流石に三対一は無理があるわね。……今日のところは引くわ」

 

 いうが早いか、素早く反転すると、わき目も降らずに逃走を開始する。

 

 むろん逃がさんとばかりに攻撃を放つが、狙いをずらす為にランダムに左右にずれており、さらに外骨格で一発や二発を無視している為対処ができなかった。

 

「いい加減、因縁を清算したかったんだがな」

 

 追撃は困難と判断して、兵夜は首を振ってため息をつく。

 

 それについては同感なので、グランソードも雪侶もため息をついた。

 

「どうすんだよ大将。理由説明しないってことは、向こうも八つ当たりの自覚はあるんじゃねえの?」

 

「兄上的にはガンスルー展開ですのね。今度は包囲戦術で突破できないようにするべきですわね」

 

 だよなぁ。と、兵夜も頷いた。

 

 これに関してはもう看過できない領域に到達しかけている。

 

 近年地球ですらきな臭い動きが増えている以上、よそでも面倒に巻き込まれるのは正直避けたい。

 

 それが、フォンフ絡みなら確実にだ。

 

 ……次は、本当に殺す気で行く他ない。

 

 そう、兵夜は判断した。

 

『おい、兵夜。聞こえるか?』

 

 と、そこに本来合流予定だったノーヴェからの通信が届く。

 

「ノーヴェ。そっちは大丈夫か?」

 

『武装した種族問わずの連中に襲われたけど、返り討ちにしたよ。一応これでも戦闘用だからな』

 

「……なんか、マジすまん」

 

 観光目的で誘ってみれば、まさか襲撃されるとは思わなかった。

 

 ゲストまで思いっきり巻き込んでいることも考えると、本気で土下座案件だろう。賠償金で当分遊んで過ごせるぐらいの金を動かすべきか。

 

『いや、そっちも知らなかったんだから気にしなくていいって。其れよりすぐ戻れるか?』

 

 と、ノーヴェの口調には苦いものがあった。

 

『今回の件の情報が掴めた。煌坂って人が見つかったんだよ』

 

 ……どうやら、ここからが本格的に動くべきところらしい。

 




喰ったらその分強くなる。ストブラ世界の吸血鬼ってある意味便利です。パワーアップさせやすい。

そしてそろそろ遠慮がなくなっている兵夜。

いつまでたってもなんで恨んでいるのか放してないのが原因です。兵夜は割と律儀なので、正当性のある恨み言ならきちんと賠償ぐらいはします。

そう何度も言っているのに説明しないので、八つ当たり同然の逆恨みの類だと判断してきています。すなわちかつてのハーデスと同様の行為を働いていると。









…………この二人の最終決戦。派手なことになるでしょう。


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錬金術師再び

はい、こっから黒の剣巫編は一気にオリジナル度を増してきますぜ!!


 

 世界最強の魔獣、レヴィアタン。

 

 そんなものがこの世界には存在するらしい。

 

 レヴィアタンか。実に強そうだ。レヴィアタンだしな。リリカルマジカルと色々強引に解決しそう。

 

 世界最強の夢魔、リリス。

 

 そんなものもまた、この世界には存在するらしい。

 

 なんか可愛らしい名前だが、実際のところかなり凶悪な能力らしい。

 

「まあ、まあ世界最強の吸血鬼がここにいるからね」

 

 とばっさり須澄が答えられるのがあまりにも悲しい事実だったが。

 

 おそらく世界最強の獣人や、世界最強の妖精や、世界最強の巨人なども存在してもおかしくないだろう。一人ぐらいは本当に居ていいはずだ。

 

 それはともかく、どうにもこうにもこちら側が襲撃されたのが気にかかる。

 

 結局、須澄もアップも襲撃されたらしい。そして当然返り討ちにした。

 

 なんというか敵の戦力が足りてないと言ってもいい。にも関わらず襲撃する必要があったといった感じもする。

 

「……情報で危険因子には気づいていたが、戦力がどれほどまでについては半信半疑……といったところか」

 

 問題は、誰が情報を提供していたのかだが、これはわからないのでいったん置いておく。

 

 そして、視線をパソコンに移されている海底図に向ける。

 

「……範囲がでかすぎて場所がわからないんだが。もう少し拡大してくれないか、藍羽」

 

 こんな数Km四方の海図を出されても、判別が難しい。

 

 だが、返答は驚くべきものだった。

 

「いや、だからこれがレヴィアタンよ」

 

 ……ん?

 

「この図のここからここまでが眠っているレヴィアタン。流石は史上最強の魔獣ね、スケールが桁違いだわ」

 

 そうか。この海底山脈みたいなのがレヴィアタンか。

 

「お、おっきいですね」

 

「これ本当に生き物かよ。ミドガルズオルムだってここまでじゃねえぞ」

 

 ヴィヴィとグランソードがそれぞれインパクトに押されてる中、しかしそれはともかくとして俺達はどうしたものかと考える。

 

 江口結瞳は最強の夢魔、リリスである。

 

 夢魔そのものは夢を利用することで何とか干渉することができる程度の弱い存在が殆どだ。加えて、人間と交じりすぎていて純血種となると絶滅危惧種レベルでもある。

 

 しかも、リリスは最強の夢魔なのだが、これが力を受け継ぐという形でなってしまうものらしい。

 

 今代のリリスになってしまった江口結瞳は、その所為で両親からも迫害されたという。

 

 そして、その彼女を保護したのがクスキエリゼだった。

 

「……クスキエリゼは、最初から知っていて利用してたのでしょうか?」

 

「それはないでしょうね。迫害されている魔族を保護するっていう慈善活動は色んな企業でやってるもの」

 

 データを調べ上げながら、藍羽は不安なことを考えていたハイディの言葉を否定する。

 

「せいぜい、将来成長したら魔獣庭園のスタッフとして迎えようって程度でしょ。夢魔はそういうのに向いている魔族だからさ」

 

「それはそれでまともなことに聞こえるな」

 

「ちゃんと利益も得られる慈善活動。営利団体としては妥当な塩梅だろう。少なくともことさらに責めることではないな」

 

 暁に俺も同意するが、しかしここからだ。

 

「だが厄介なことにクスキエリゼのトップは、魔獣保護を目的とするエコテロリストのスポンサーをやっている。十中八九今の結瞳ちゃんはまともなことに扱われていない」

 

 それが問題だ。

 

 いや、絶滅危惧種を利益の為に滅ぼす密漁などは、人間の傲慢故に阻止してしかるべきだ。

 

 しかしこの手のテロリストは害獣となっている魔獣の駆除や、安全確保の為の柵の設置にすら抗議してくるから厄介なのだ。

 

 あくまで魔獣保護は人間の都合も含めてのこと。人間や魔族の都合が優先されるものだ

 

 そこをはき違えてはいけないと思うのだが、この手の輩にとってはそこらに腐るほどいる人間の方がよっぽど低く扱われるらしい。

 

「っていうか、魔獣を売り買いしているクスキエリゼがそんなところに出資するって矛盾してないか?」

 

「当人達はそんなこと気にしないわよ。自分達が正義だってところで思考停止してるんだから、小さな矛盾何て気にしないって」

 

「むしろ動物園経営者が動物愛護活動やってるノリなんだろ。当人としては魔獣と人間の共存の推進を担うものとして当然の行動……とか理論武装してるんじゃないのか?」

 

 暁や藍羽の発言に、俺も俺なりの意見を言ってみる。

 

 実際そういう風に考えれば、おかしくも何もないとは思うしな。

 

 とはいえ、この流れで来る内容から考えれば、少々暴走しているといっても過言ではないが。

 

「おそらく久須木会長の目的は、リリスによるレヴィアタンの制御ですわね。……それで魔獣を排斥している国家に戦争でも吹っ掛けるつもりなのでは?」

 

「ああ、魔獣の独立戦争とかそういうノリ?」

 

 雪侶の考えで大体当たりだろう。

 

 いや、魔獣愛護精神が強いのは良いんだが、魔獣を精神操作して戦争するというのは如何なモノだろうか?

 

「まあ、とにかく阻止の方向で動いて獅子王機関に借りを作っておくか。……それで、どうする?」

 

「そのLYLってのをハッキングすればいいんじゃねえの? 藍羽の嬢ちゃんならできんだろ」

 

 うん、それは簡単にできそうだ。

 

 そして、フォンフがいるならいい加減それ位の警戒はしてくるはずだ。

 

「……グランソード。周辺警戒を厳重にしろ。俺は暁達と一緒に久須木を追いかける」

 

「あいよ。んじゃ、嬢ちゃん達も手伝ってくれや」

 

「は、はい!!」

 

「わかりました」

 

 さて、それではさっさと行動を開始するか。

 

 ……と、その前に。

 

「あ、ヴィヴィ。そういえば忘れてたことがあった」

 

 俺は指輪を転送すると、それをヴィヴィに手渡した。

 

「あれ? これ、七式ですよね? アインハルトさんと同じ奴では?」

 

「ああ、最近色々ときな臭いからな。護身用だ」

 

 なにせ十歳児だからなぁ。

 

 万が一試合中にテロでも起きた場合、色々と考慮しなければならない。

 

 まあ、それにしても限度というものがあるので、色々と対策を組み込んでおいた。

 

「ただでさえ試作型なのを、フォンフ達の新型を考慮して研究開発した特注品だ。おそらくヴィヴィが一番相性良いはずだからな」

 

「そ、そんなものを貰っていいんですか!?」

 

 驚愕してもらって悪いが、実際必要不可欠だからなぁ。

 

「今回みたいなことがいつ起こるかわからないからな。ハイディも、やばくなったらいつでも七式使っていいからな」

 

「あ、わかりました。……あ、でも―」

 

 ああ、みなまで言わなくても分かってる。

 

 ハイディの場合は剣がないとまずいもんな。その辺もきちんと考慮してる。

 

「……実は、偽聖剣に予備を作るプロジェクトがあった」

 

 そう言いながら、俺は偽聖剣とそっくりなショートソードを取り出した。

 

「ただ、原材料の中でも最重要だったエクスカリバーの上澄みを用意できなかった為、莫大なコストで十分使えれば奇跡の使い捨てというコストパフォーマンス激悪のものになってとん挫したんだ。……だが、君の七式なら連続使用ができるはず」

 

 念には念を入れておいて正解だった。

 

 今回はバカンスの終わりにサプライズプレゼントで渡す予定だったんだが、しかしこうなってしまっては仕方がない。

 

「寝てる暁の友達や妹さんのこと、頼むぞ? ……こうなったらやけだ。追加メンバーを加えたうえで、エイエヌ事変を解決した俺たちがこの大規模魔獣事件を解決に導いてやろう!!」

 

 さて、それじゃあそろそろ反撃開始と行きますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして移動中に暁と煌坂がいちゃついて姫柊ちゃんがヤンデレ入ったり、暴れ出している魔獣を何とかする為に暁が眷獣を使った所為で割と物理的被害が発生したりしたが、クスキエリゼの研究施設に到着した。

 

 さて、それじゃあさっさと本体のコンピュータを壊すべきなんだが―

 

「―遅かったわね。ええ、本当に遅かったわね」

 

 そこにいたのは、学生服を纏った女性が一人。

 

 おそらく敵なのだろうが、しかし何故かものすごく敗北感を身に纏っている。

 

「……妃埼! そこを通してもらうぜ!!」

 

「ええ、どうぞ」

 

 と、あっさりと返答が出てきた。

 

 ……んん?

 

「どういうつもりですか? 久須木会長と共にレヴィアタンを使うつもりなら、ここでLYLを破壊されることはそちらにとっても問題では?」

 

 戦闘態勢を全く取ろうとしない妃埼に、姫柊ちゃんが怪訝な表情を向ける。

 

 それに対して、妃埼は苦笑を浮かべた。

 

「厳密に言えば、私達は久須木会長をそそのかして必要な行動を全部させるつもりだったのよ。彼は魔獣保護活動の一環として戦争を吹っ掛けるつもりだったけれど、私達はそれを利用するだけ。……江口結瞳の場合は、その過程が終わった後で自分ごとリリスを封印するつもりだったようだけれど」

 

「それは何だよ? 絃神島でも破壊するつもりだったのか?」

 

 この島の来歴を考えると、それも十分あり得たが。

 

「いい線ついてるわ。もっとも、それは目的の為に必要なことなだけだけれどね」

 

「……」

 

 深くは聞かない方がいいだろう。それを聞くと、獅子王機関と揉める可能性が出てきそうだ。

 

 少なくとも、今はまだその場合じゃない。

 

「もっとも、好都合な事態が起こって破壊するのはこのブルーエリジウムだけで良かったのだけれど」

 

「その為に久須木の野望を利用したってわけか」

 

「ええ。少しは哀れに思うけど、やろうとしていることを考えれば同情する必要はない……のだけれどね」

 

 暁にそう答えながら、妃埼は苦笑いを浮かべる。

 

「……出し抜かれたのは完膚なきまでにこちらの方だったわ」

 

 ……凄い、嫌な予感がしてるんだが。

 

『……そこ☆から☆先は☆!! 俺が答えよう』

 

 そんなアナウンスが聞こえて、俺はもう既に何が起こったのか理解した。

 

「今度はパラケか、フォンフ!!」

 

 ええいそりゃそうか。

 

 禍の団を支えた屋台骨の一つであるキャスター。

 

 奴を呼び出さない理由なんてどこにもないよな、畜生!!

 

 なるほど大体読めてきた。

 

「またお前か! また姫柊ちゃんのかませか!!」

 

『YES!! 今度はレヴィアタンをカマセにする為にこっそり潜入してたZE♪』

 

 ええい、つまり―

 

「久須木にいったい何をした!!」

 

『君もよく知っているランサーを宿させたのさ!!』

 

 ……っ!!

 

「兄上がよく知るランサー?」

 

「それって、禍の団が運用したサーヴァントのことよね? 弱いって聞いたけど」

 

 奴のやばさをよく知らない雪侶とシルシが首をかしげるが、これはもうそんなレベルではない。

 

 最悪だ。寄りにもよってあのランサーを久須木が宿しただと!?

 

 それは、つまり―

 

「コンピュータで制御することなく、直接江口結瞳を制御化に置くということか!!」

 

「ど、どういうことだ!? そのランサーはどんな能力持ってるんだよ!!」

 

 暁が状況を飲み込み始める。

 

 だが、おそらく真の意味での危険度はまだ理解できてないはずだ。

 

「……ランサーのサーヴァントの戦闘能力自体は大したことはない。奴は現代の吸血鬼と呼ばれた程度のただの魔術師上がりの殺人鬼で、ぶっちゃけ弱い。だが―」

 

 そう、戦闘能力では奴は弱いのだ。

 

 陣営として所属していた英雄派の幹部連中の中でも最弱候補。そういう意味ではサーヴァントとして最低だ。

 

 だがしかし、問題は奴の能力。

 

「奴は、噛み付いて吸血した相手を自分の思い通りに動かすことができる!!」

 

「それって、兄上がベル義姉さまを殺し掛けたときの―っ!!」

 

 雪侶がすぐに気づいてくれて助かった。

 

 まずい、まずすぎる。

 

 完膚なきまでに上下関係を成立させるそれを受けてしまえば、もはや江口結瞳が自力でどうにかするなど不可能だ。

 

 コンピュータによる精神制御など無意味だ。それ位の強制力があってこその宝具である。

 

 ……んの野郎!! 何てことしてくれやがった!!

 

『ちなみにレヴィアタンは時速5ノットで移動中。最初はこの日本で大暴れする予定だぜい!!』

 

 フォンフ・キャスターがパラケを思い出させる口調でノリノリで答える。

 

 あまりに遅いその速度。しかしその理由は良く分かる。

 

 今回の目的は色々あるだろうが、そのうちの一つは間違いなく姫柊ちゃんに対するカマセ犬の用意だ。

 

 おそらくは、犬の名前は久須木だろう。

 

 ……魔改造した久須木をカマセ犬にして、俺達を暴れさせるつもりだ!!

 

『そういうわけで、邪魔者は間引くとしようかな? さあ、先生お願いします!!』

 

「あーいさー。其れじゃあ俺っちも仕事するかねっと」

 

 その言葉と共に現れるのは、黒い翼を生やした一人の青年。

 

 そして、俺はそいつに見覚えがあった。

 

 あ、あ、あ、あいつは!!

 

「あ、兄貴の彼女を寝取ったチーマー!!」

 

「やっほーい! 初めまして宮白兵夜くん。俺っちはビエカルっていうよーん!!」

 

 こいつがビエカルだとぉおおおおおお!?

 




フォンフ・キャスターはパラケです。大体こいつがいればたいていの不可能はどうにでもできるから便利です。我ながらいいキャラ出したもんだぜ。


そしてお久しぶりねの旧幻想兵装。ランサー出しましたぜ。

これにより結瞳を完全制御下に置いた久須木を今回のカマセ犬にするのがフォンフシリーズの今回の目的。まあ、厳密に言えばフォンフ・アーチャーを納得させるための目的なのでほかにもたくらんでいることはあるのですが。



そしてにおわせていたビエカル登場。まあ、死んでいるはずの奴が出てきたのには裏があります。

そして余計な因縁及び謎が出現。

なぜ天騎は自分の彼女を寝取った男とともにフォンフと組んでいるのか……? とりあえず兵夜たちを見ていればもしかしたら気が付く可能性が微レ存。


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でかいのは力だ

 

 マコトが執着していたビエカルという堕天使。

 

 奴がエイエヌ事変で死亡していることは既に調べがついているはずだが、しかしなぜか生きてここにいる。

 

 しかも、そいつは俺の兄貴である宮白天騎から彼女を寝取ったチーマーだった。

 

 どっから反応していいのかわからんが、しかしわかることがある。

 

「兄上!! 暁さんと姫柊さんを連れて先に行ってくださいまし!! あとシルシ義姉様も!!」

 

「だな。ここはアタシ達は抑えるしかねえだろ」

 

 雪侶とノーヴェが一歩前に出て、武器を構える。

 

「確かに、相手がフォンフなら付き合いの長い兄さんが適任だね」

 

「露払いは任せなさい、義兄さん」

 

「ふっふーんっ。トマリちゃんも新技引っ提げて参戦させてもらうのですよっ」

 

 俺の家族はみな頼りになる。

 

「いきなさい、雪菜!!」

 

 さらにどんどん量産型の魔獣創造で敵が現れる中、煌坂も煌華麟を構えて戦闘準備は万全。

 

「走るぞ暁、姫柊ちゃん!!」

 

 俺は即決で判断する。

 

 あいつらを野放しにしていたら、それこそ本当に都市の一つぐらい焼け野原にしかねない!!

 

「ああくそ!! 死ぬなよお前ら!!」

 

「ここはお願いしました!!」

 

 俺達は一斉に駆け出すと、港まで出る。

 

 こっから先は全力で移動するのみ。

 

「来い、ラージホーク!!」

 

 素早くラージホークを展開すると、俺は二人を抱えて飛び乗った。

 

 目立つがさすがに仕方がない。

 

 どうせ獅子王機関はこれを見越して俺達を呼びつけたんだろうし、こうなれば後始末は全部あいつらに押し付ける!!

 

「飛ばすぞ!! しっかりつかまってろ!!」

 

 最大船速でぶっ飛ばせば、すぐに巨体が見えてくる。

 

 あれがレヴィアタン!! ええい、でかすぎだろう!!

 

 うちの魔王レヴィアタンはどっちかというと小柄だぞ!! もう少し見習え!!

 

 と、思った瞬間奴の背中から何かが大量に飛び出てきた。

 

 ………ふむ。生体ミサイルといったところか。

 

「暁撃ち落とせ!!」

 

「わかってる!! 疾く在れ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)

 

 放たれた雷撃が生体ミサイルを一瞬で破壊し、さらにレヴィアタンに激突する。

 

 ……あ、江口結瞳がいるけど大丈夫か!?

 

 と、思ったがレヴィアタンは焦げ目ができた程度でぴんぴんしていた。

 

 さすがは世界最強とか付けられる魔獣だ。何ともないぜ!!

 

 ……などといっている場合じゃない!!

 

 今度は顔を向けると、なんか莫大なエネルギーが込められてるぞ!!

 

「姫柊ちゃん!! 雪霞狼!!」

 

「わかりました!!」

 

 こっちは純粋な魔力だったのでかろうじて相殺に成功。

 

 だが、これ以上時間を掛けているわけにもいかない。

 

「宮白!! 俺が穴を開けるから、そこから俺達を連れて飛び込んでくれ!!」

 

「なるほど。確かに数人分のサイズならあれが役に立つか!!」

 

「……こ、こちらのことは気にせずやってください」

 

 そういえば姫柊ちゃんは空飛ぶの苦手だったね。

 

 だが気にしてられないので俺は二人を抱えると、ラージホークを召還して突貫する。

 

疾く在れ(きやがれ)龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!!」

 

 双頭の蛇が次元ごとレヴィアタンの腹に穴を開ける。

 

「行くぞシルシ!! 姫柊ちゃんを放すなよ?」

 

「それ位の腕力はあるわ! 行くわよ兵夜さん!!」

 

 そして、俺達はその中に勢いよく飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、残った雪侶達もまた、敵に苦戦を強いられていた。

 

「この男、まさか例のダイスで強化をしてますのね!?」

 

「そりゃまぁ、俺っち達は悪の組織だしぃ?」

 

 超高出力で振るわれる光の刃を避けながら、雪侶は素早く反撃の飛び蹴りを叩き込む。

 

 さらに、事前に低速で発射していた冷気の弾丸が時間差で襲い掛かるが、ビエカルはそれを翼ではじき落とす。

 

 そこに、大量の光の槍が展開された。

 

「あ、やば!」

 

「蝙蝠がハリネズミになっちゃうねぇ!!」

 

 質より量を体現する、低威力ながら圧倒的多数の光の槍。

 

 迎撃出来て精々四割だが、三割も喰らえば命に係わる量。

 

 切り札の龍化を使うにしても、屋内では無用な被害が出る可能性もある。

 

 クスキエリゼの中にも事情を知らないものは多いだろうという事実が、一瞬の躊躇を雪侶に生んだ。

 

「グッバイ!!」

 

「させないわよ!!」

 

 その瞬間、全方位をカバーするように防御フィールドが展開される。

 

「オーラを貸しなさい、グラム!!」

 

 魔剣のオーラを纏った広範囲防御フィールドが、光の槍の群れを全て受け止め防ぎ切った。

 

 そして、その攻撃を目くらましに、須澄が懐へと潜り込む。

 

「もらった!!」

 

「うおっとぉ!!」

 

 聖槍はわずかにビエカルに傷を作らせるが、しかし堕天使である彼には致命傷には全くならない。

 

 しかし、それで崩れたバランスを見逃さずに今度はトマリが仕掛ける。

 

「甘いよ嬢ちゃん!! あんたの能力はパワーがありすぎて屋内じゃぁ―」

 

「じゃあ新技いくよっ」

 

 その言葉と共に、トマリの右腕に蛇の尾のようなものが絡みつく。

 

 そして、その蛇は頭部に剣を伸ばしていた。

 

「切り裂け、ザ・スラッシャー!!」

 

 その言葉と共に、眷獣が襲い掛かる。

 

 自由自在に動くザ・スラッシャーが、ビエカルに翼を用いた迎撃を必須とさせた。

 

「これは、トゥルー・アークの吸血鬼が持ってた眷獣! なんで持ってんの!?」

 

「被害を気にして戦うしかなかったからねっ! しっかり食べさせてもらいましたよ!!」

 

 吸血鬼には、同族食いという能力がある。

 

 文字通り同族を喰らうことによって、其の力を奪うものだ。

 

 相手も古き世代であったがゆえに難儀だったが、大火力重視の眷獣を使うトマリが周囲を考慮しながら旧き世代の吸血鬼を倒すには、あれが最も効果的だった。

 

 そして、其の力をもってして残りの戦力を殲滅。それがあの戦いの真実である。

 

 むろん、同族食いは言うほど簡単なものではない。

 

 相手の格も相応にあった為困難だったが、それだけの成果はきちんとあった。

 

「これで接近戦でもだいぶ役に立つよっ」

 

「それは―」

 

「―なにより!!」

 

 さらに左右からカバーするように須澄とアップが切りかかる。

 

 これでビエカルは動けない。

 

 ならば、優先するべきは動きを封じるように回り込んでいる量産型の魔獣であり―

 

「苦戦しているようだな、ビエカル」

 

 ―伏兵の登場に意識を切り替え直した。

 

「新手!!」

 

 振り返る視線の先に、一人いる。

 

 それは、監獄結界の囚人だった。

 

「そういえば、二人ほど逃げ切ったと聞きましたの」

 

「ああ、デイライト・オールドキャッスルというものだよ。短い付き合いになるだろうが、よろしく頼む」

 

 雪侶の言葉ににこやかに返し、デイライトと名乗った男は周りを見渡して―

 

「―本当に短い付き合いになるだろうが」

 

 一瞬で、徒手空拳の間合いにアップを捕らえた。

 

「!」

 

 とっさに、アップはグラムではなく魔力付加打撃で迎撃を試みる。

 

 当然といえば当然だ。既に素手の間合いに踏み込まれている以上、グラムでは迎撃が間に合わない。

 

 それを瞬時に判断する能力の高さは、彼女が弱い者虐めを行う為にこそ、より強い存在であろうとする向上心の表れであり、彼女がただ単に弱者を虐げて越に浸るだけの小物でないことの証明だった。

 

 だがしかし、相手の方が一歩先を行く。

 

「……双破!!」

 

 ほんの僅かにぶれたような衝撃音がした。

 

 そして、デイライトとアップの拳が同時に砕ける。

 

「……っ!!」

 

 激痛に悶えながらも、しかし初手を凌いだ時間で短距離加速を行い、アップは後退する。

 

 同時に、アップの負傷にどうしても隙を見せてしまった須澄とトマリからビエカルも距離を取った。

 

「……衝撃をほんのごく僅かにずらすことで一種の共鳴現象を起こして粉砕したのね」

 

「しかも自分は回復力高いのをいいことに、確実に相手の骨を砕ける技。……吸血鬼ならではね」

 

 妃埼と紗矢華が警戒心を強める中、二人は辺りを見渡すと納得したかのように頷いた。

 

「んじゃ撤収ー」

 

「だな」

 

「ちょっと待ちなさい!! ここまでしといて逃げる気!?」

 

 思わず渾身のツッコミがアップから飛ぶが、二人は平然としていた。

 

「いやー、俺達だけでこの数は無理っしょ? まだ奥の手も用意できてないしー? あと姫柊雪菜はレヴィアタンに入ったから帰っていいって言われたしー?」

 

「そういうわけでね。悪いが専用装備が手に入るまでは我慢してもらうよ」

 

 その言葉と共に、黒い霧が二人を包み込んだ。

 

「あれに巻き込まれてはダメですの!! 下手をすると敵の本拠地に飛ばされますのよ!!」

 

 敵がどれだけの人員を確保しているのかはわからないが、フォンフ・キャスターがパラケ・ラススを宿している以上、その技術力は脅威という他ない。

 

 うかつに巻き込まれれば、高確率で殺されるのが目に見えている。

 

「こりゃ、あとは兄さん達に任せるしかないみたいだね」

 

「そうだねっ。……アップちゃん大丈夫?」

 

「ちょっと手の骨が折れただけよ。相手いたぶって楽しむ私が、いたぶられた程度のことでへこたれるわけないでしょ?」

 

 消えていく霧を睨み付けながら、アップは視線を海の向こうへとむける。

 

「さて、それじゃあどうしたものかしらね……」

 




ストブラ世界側からもオリキャラを何人か出したいなーっと思っていたのでとりあえず一人。

なんだかんだで強い人が多いから監獄結界の囚人は役に立つ設定だぜ!!


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かっこいいこと言うとフラグが立つから気をつけろ

とりあえず黒の剣巫へんは書き終えました。あとは順次投稿するだけです。


 

 レヴィアタンの内部は、生物というより有機的な宇宙船とでもいうような環境だった。

 

 そして、護衛用なのか無人兵器が山のようにいた。

 

 大火力でレヴィアタンの攻撃用の生態火薬を爆発させるわけにもいかない暁や、戦闘スタイルの都合上大量の敵をまとめて倒せない姫柊ちゃんに代わり、俺が一生懸命道を切り開いている。

 

「シルシまだか!?」

 

「あと100メートル!! そろそろ見えるわよ!!」

 

 よし、あとそろそろか!!

 

「暁、姫柊ちゃん!! 出くわしたらあとは作戦通りに動けよ!!」

 

「わかってる!!」

 

「はい!!」

 

 よし、いい返事だ!!

 

 そして、有象無象を薙ぎ払いながら、俺は目の前の白髪に怒声を浴びせる。

 

「……フォンフぅ!! 手前は、ヴィヴィと対して歳の変わらん子供相手によくもやってくれるな、ああ!?」

 

 さすがに俺もむかっ腹が立ってきたぜ。冗談抜きで殺意がわく。

 

 それを真っ向から受け止めて、フォンフ・キャスターは笑みを浮かべた。

 

「ハッ! オーフィスシンパになれば笑顔で赤ん坊すら従僕にできる男に言われたくないな、これが」

 

 痛いところをついてきやがるな、こいつは!!

 

「……あんたが久須木か、結瞳は返してもらうぜ」

 

 暁は全身から眷獣の雷撃を抑えきれてない状態で、真剣に久須木をにらむ。

 

 それに対して、久須木もまたランサーの影響で手にした槍を構えながら毅然とした態度で返す。

 

「そう怖い顔をしないでくれないかね? 私としても、幼子をこのような形で利用するのは心苦しいが、これも魔獣達の権利確保のためだ」

 

「ふざけんなよ。それで大勢の人間を殺そうとしておいて、何が魔獣の権利だ!!」

 

「権利とは時に血を流してでも勝ち取るものだよ。それは歴史が証明しているし、聖域条約もまたそうして手に入れたものだろう?」

 

 なるほど、確かに自分に酔っている節があるな。

 

 この手のタイプはよほどのことがないと考え方曲げないからな。ここで説得するのはあきらめた方がよさそうだ。

 

「第一、フォンフ・キャスターが協力してくれなければ、彼女は自分ごとレヴィアタンを海の底に沈めるつもりだったのだよ? それも、絃神島を粉砕するという過程をもってしてね」

 

 ……なんだと?

 

 けげんな表情を浮かべる俺たちに、フォンフ・キャスターは苦笑を浮かべながら両手を広げると解説に入る。

 

「なに、よくあるありきたりな自己犠牲だよこれが。……彼女は自分の代でリリスを終焉させようとして、久須木を利用する太史局に乗ったのさ」

 

 そういえば、正気に戻った江口結瞳は、自分の遺志で妃崎について行ったといってたな。

 

「筋書きはこうだ。あるところに、魔獣達に権利を与えるための戦いを望んでいた大金持ちと、突発的故に暴走がつきもののリリスによる悲劇を抑えたい夢魔と、ある目的のための手段として絃神島を破壊したいと考えている政府機関がいました。そんな時、政府機関は史上最強の魔獣であるレヴィアタンと、それを制御しうる史上最強の夢魔がセットで運用できる状況が生まれていることに気がついたのです。それも、必要なものを全部用意できる大金持ちまでついていました」

 

 ……ふむ。

 

「つまり、太史局は私の崇高な理想を利用して、この島を破壊しようとしたのだよ。それに比べれば、私のやっていることの方が大義があるだけまだ穏健だとは思わないかね?」

 

「いや、それはどうだろう?」

 

 いや、戦争を起こさないことは必ずしも犠牲者を生まないとはイコールではないとどっかのラノベで呼んだが、それはそれとしてこれはどうよ? 過激すぎね?

 

「……よくわからんが、結瞳の奴は、リリスの被害者を生まないために、レヴィアタンの中に自分を封印させようっていうことでいいんだな?」

 

 暁が、フォンフに確認するようにそう聞いた。

 

「ああ。太史局が本来予定していた通りなら、絃神島を破壊した後にレヴィアタンは眠りにつく。そしてその魔力障壁に邪魔されて、江口結瞳が死のうともリリスは障壁を出られないから、転生できないというわけだ」

 

 なるほど。小学生が考えたにしてはなかなか上出来な作戦だ。

 

 何らかの形でリリスの力を封印することで、リリスの影響で生まれる犠牲を阻止しようとしたってわけか。

 

 ……相当嫌な思いをしただろうに。いい子過ぎるだろう。

 

 俺がそう思ったその時、暁は一歩前に踏み出した。

 

「……結瞳。聞こえてないだろうが、言っておくことがある」

 

 暁は、まっすぐ江口結瞳を見る。

 

「すこし前に、お前のような奴を失ったよ。そいつもお前と同じただの女の子だったのに、第四真祖の眷獣の器なんていうわけのわからないものを押し付けられて、自分を犠牲にして世界を救いやがった。……ふざけた話だよな」

 

 件の、第四真祖になったときの話だろうか。

 

 たしか記憶の復帰を試みて、想定外のトラブルが発生したとか聞いていたが。

 

「わけのわかんねえもん押し付けられたのは自分達だってのに、そいつらは自分より他人のこと優先しちまうんだ。……俺はもう、そんなもんはごめんだ」

 

 静かに、しかし確実に何かが揺れる。

 

 第四真祖の振動を司る眷獣が、何かしらの同調を見せているのか。

 

「ああ、これは俺の自己満足だ。同じことを繰り返させないことで、俺が自分を満足させたいだけだ。……だが、少なくともはっきり言えることがある」

 

 まっすぐに、暁は怒りの視線を向けた。

 

 それはフォンフ・キャスターにも久須木にも向けられていない。

 

 まっすぐに、まっすぐに怒りの視線を、暁は江口結瞳に向けていた。

 

「……アヴローラも、お前も!! まだ死んでもいいってぐらい幸せになってねえくせに勝手に死のうとしてんじゃねえぞ!!」

 

 渾身の、怒声だった。

 

「姫柊の当て馬だか、世界最強の魔獣だか、魔獣の権利確保だか何だろうと知ったことか!! 其のためにお前みたいな子供を巻き込もうっていうなら、全部まとめて俺が叩き潰す!!」

 

 そこまで言い切ってから、暁は視線をフォンフと久須木に向ける。

 

「覚悟はいいかお前ら。結瞳はこれから誰が何と言おうと幸せな一生を過ごさせる。その邪魔をするっていうなら―」

 

 フォンフと久須木が戦闘態勢を取るのを全く気にせず、暁ははっきりと宣言した。

 

「ここから先は、俺の戦争(ケンカ)だ!!」

 

 ………暁。

 

「お前、それもう告白といって過言じゃないぞ? もう少し考えてしゃべれ」

 

「お前も空気読めよ!?」

 

 いや、そこより先に告白を否定しろ。

 

「江口結瞳をよく見ろ。感動のあまりあの状態ですら涙流してるぞ? 堕ちたぞ完璧に」

 

「……先輩。先輩は本当にやらしい人ですね。ヴィヴィオちゃんたちとそう変わらない年齢の子にまでそんな嫌らしいことを言うなんて」

 

 俺と姫柊ちゃんは同時にため息をついた。

 

 本当に、こいつはバカなんだから。

 

「第一リリスの継承はどうするんだ? なに、お前どうにかできるの?」

 

「うぐっ!! そ、そこはほら、那月ちゃんの力を借りて……」

 

「先輩、南宮先生も仕事があるので、なんでもかんでも頼むのは失礼だと思います。あとそれでどうにかできるならもっと穏便な方法をとっていると思います」

 

 ボロが出すぎてるぞ、ボロが。

 

 はあ。仕方がない。

 

「……聖遺物を使えば幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の制御はできる。こんど曹操と帝釈天を何とか買収するか。輪廻転生系の神々とも要交渉だな」

 

「宮白!! すまん、恩に着る!!」

 

 俺も人がいいな、ホント。

 

 あと誰がタダだといった。アザゼル杯では酷使するから覚悟しろ。

 

 まあいい。うまくリリスの力のみを取り出して封印することができれば、大規模な精神干渉礼装として運用することも可能だろう。そういう方向で前向きにいこう。わぁい、初の人造神滅具が作れそうだぞ!!」

 

「宮白さん、力のみから口に出てます」

 

「やっぱりお前、邪悪だな」

 

 うるっさいなこの夫婦は!!

 

「まったくもう。先輩は小学生相手にも嫌らしいし、宮白さんは宮白さんで邪悪です。困った年上です」

 

 姫柊ちゃんはため息をつくと、しかし苦笑に変えて雪霞狼を構える。

 

「そもそも、これは私達の聖戦(ケンカ)です。一人で勝手に先走らないでください、先輩!!」

 

 ……こいつら結婚しろ。

 

「まあ、フォンフ関していえばもともと俺ん所の大戦(ケンカ)だからな。その分の責任はきちんととっとかないと」

 

 そういうわけだ。

 

「覚悟してもらおうか、久須木会長。あんたの身柄は半殺しの上で拘束させてもらう。カマセ用に戦闘能力を付加されたことを後悔して悶絶するといい!!」

 

 魔獣保護と権利獲得はご立派だが、度の越えた愛護活動はノーサンキューだ。

 

 そして―

 

「フォンフシリーズの好きにさせる気もない。……ここでつぶす」

 

「面白い。やってみろ、これが」

 

 その瞬間、戦闘の火ぶたが切って落とされた。



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試練は超えるのが難しいぐらいでちょうどいい

 

「宮白!! 結瞳をどうにかする方法はあるのか!?」

 

 暁がある意味当然の疑問を口にする。

 

 そう、そこが一番問題だ。

 

 下手をすれば久須木を無力化した後ですらレヴィアタンを制御して戦争を起こしかねない以上、対策は必要不可欠。

 

「奴の宝具を突破する方法は、俺が知っている限りでたった一つ」

 

 そう、それが見つからなければ俺はベルを殺していただろう。

 

 それほどまでに限定特化した宝具というのは厄介であり、単純な強い弱いといった次元を超えている。

 

 そして、その方法はたった一つ。

 

「種族ごと変化させるクラスの契約の上書きだ。……暁、とりあえずまずお前が血を吸ってどうにかしてみろ。第四真祖なら並の英霊より上だろうから勝算は高いぞ」

 

「この状況でかよ!?」

 

 まあ、こんな状況で小学生相手に発情しろとか問題行動にもほどがあるのはわかる。

 

 わかるが、それぐらいしないとどうしようもないことは確かだ。

 

 普通に考えれば血の従者にするのが一番確実性が高いのだが、まあ無理なら無理でほかに方法もある。

 

「まあ、一応あれの対策は念のため研究中なんだが、確実にわかっている方法を試すのが一番手っ取り早いだろ?」

 

「他に可能性があるならそっちを先にしてくれ。……小学生相手に興奮できるか」

 

 ふむ、テストしたくてもできなかったから確実性に欠けるのだが、仕方がないか。

 

「いや、させると思うか?」

 

 そして当然それを理解しているので、フォンフも速攻で迎撃を行う。

 

 一瞬で距離を詰めると、そのまま俺と暁を一瞬で弾き飛ばす。

 

 チッ! キャスターは後方支援特化型だが、さすがにベースがフォンフではシャレにならんか!!

 

「それじゃあこっちも本気で行こうか!!」

 

 吹っ飛ばした俺達相手に一瞬で距離を詰めると、さらに連撃。

 

 空中戦闘が可能な俺はともかく、暁は踏ん張りがきかないこともあってそのまま弾き飛ばされる。

 

「ぐぉ!?」

 

「先輩!?」

 

「よそ見をしていていいのかね?」

 

 カバーに入りたがっている姫柊ちゃんだが、久須木の攻撃が邪魔で動けそうにない。

 

 ええい、最弱クラスの英霊であるランサーを宿しただけなのに、なんだあの強さは!!

 

「はっはっは!! 王の駒を参考にした人体強化施術は完了済みだ!! カマセにするにしてもそれなりの実力ってものがいるだろう?」

 

 そう告げると、フォンフはガ・ボルグを出して俺を連続攻撃で攻め立てる。

 

 加えて再び動こうとする暁に対しても、光力の槍で牽制を仕掛けて動かせない。

 

 あれぇ? 今まででも有数の戦闘能力発揮してないか、コレ?

 

「くそ! これじゃあ結瞳のところに近づくこともできやしねえ!!」

 

「そりゃぁ、お前を近づかせたらさすがに危険だからな、これが」

 

 くそ、冷静に行動しすぎてやがる。

 

 加えて、暁は眷獣が使いにくい状況だというのも危険度が高い。

 

 なにせ、あんな爆発する攻撃を乱発するレヴィアタンだ。何がきっかけで暴発するか知れたものじゃない。

 

 下手な攻撃をすれば、その時点で大爆発だ。これではうかつに攻撃できない。

 

 つまり、俺がやるしかないわけだ。

 

「七式起動!!」

 

 速攻でアーチャーの力を借りて、広範囲に捕縛結界を形成。動きに干渉を行う。

 

 その瞬間、レヴィアタンの外壁が輝き陣が展開されて無力化された。

 

「それは読んでるんだな、これが!!」

 

 くそ、さすがにキャスターは強敵か!!

 

 作成という観点でいえばアーチャーで召喚されていた相棒すら超える域に達し、挙句の果てに事前準備もしっかりとしている。

 

 ならば凍結で動きを封じる!!

 

「凍えろ!!」

 

「それも読んでいる!!」

 

 次の瞬間さらに魔方陣が展開され、凍結魔獣が無効化される。

 

 くそ、下準備が万全すぎる!!

 

 こいつだってレヴィアタンの中に入ったのは少し前ぐらいだろうに!! なんだこの準備速度は!!

 

「ここまでは想定の範囲内だ!! そして、ここに乳乳帝はいない!!」

 

 連続攻撃で俺のガードを崩そうとしながら、フォンフ・キャスターはにやりと笑う。

 

「さあ、どうやって逆転する?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、雪菜もまた追い詰められていた。

 

 強化施術と英霊の憑依で戦闘能力を大幅に向上させていた久須木は、厄介極まりない存在だった。

 

 とはいえ、それはただ単に倒しにくいというわけではない。

 

 戦闘技量の向上? 幸い英霊が英霊なので自分の方が上だ。

 

 動きの速さ? 霊視による未来予知と対魔族戦闘技術の二つがあれば自分なら対抗できる。

 

 では、何が問題なのかといえば―

 

「雪霞狼!!」

 

「……こんなものかね?」

 

 攻撃が、通らないという点と攻撃を受けてはならないという点の二つ。

 

 この二つが、圧倒的なまでに状況を久須木優位に持ち込んでいた。

 

「絶滅危惧種や乱獲される魔獣を保護するためとはいえ、あんな小さな子供を巻き込むだなんて間違っています」

 

「古今東西、結果的に悪行に近しいとはいえ、それが世の為となることはいくらでもある。私の行動には確固たる大義がある以上、恥じる気はあっても停める気はないさ」

 

 槍を振るい合いながら、久須木の攻撃を雪菜はギリギリで回避し続ける。

 

 如何に攻撃がどう来るかが読めているとはいえ、今の久須木の攻撃速度は尋常ではない。常に全力でなければ回避しきれない。

 

 そして久須木の槍は物体の強度を無効化できる。一発でも受け止めれば雪霞狼とはいえただでは済まないだろう。

 

 故に、攻撃のすべてを回避に専念している雪菜は大きな苦戦を強いられていた。

 

「貴方もフォンフから話は聞いているはずです。私のカマセ犬にされておきながら、うまくいくと思っているのですか!!」

 

「しかし彼の協力がなければ太史局に出し抜かれていたことも事実。要は勝てばいいのだよ」

 

 雪菜の反論を一蹴しつつ、久須木は執拗に攻撃を繰り返す。

 

「子どもを殺すのは心苦しいが、これもまた魔獣の権利確保のため。さあ、覚悟してもらおうか!!」

 

 雪菜はその攻撃をかわしつつ、一つだけ確信した。

 

 ……フォンフはかなりの度合いで雪菜を殺すつもりで久須木を強化している。

 

 この程度の殺意も潜り抜けれないようでは、アルジュナとフォンフの組み合わせに対抗できる戦力になどなれるわけがないという確信があるからこそ、あえてそうしている。

 

 そしてできることなら確実に殺してフォンフ・アーチャーの暴走を抑えたいという願望もある。

 

 久須木もそのあたりの事情を知っているのだろう。故に勝ち目がある勝負だという判断を彼は下していた。

 

 そう、このままでは雪菜は確実に勝てない。

 

 故に、使うしかない。

 

「七式、起動!!」

 

 フォンフ・アーチャーの精神の侵食具合を考慮すると警戒心はあるし、思い通りに動かされているのは思うところはあるが、使うしかなかった。

 

 そして、その瞬間久須木は嗤った。

 

「それではこちらも切り札を切るとしようか」

 

 その瞬間、久須木の攻撃速度が大幅に向上した。

 

 さらに、槍が二本に増えた。

 

 それによって発生する攻撃速度が、カルナの力を宿したはずの雪菜の対処範囲を超え始める。

 

 幸い展開された鎧によって攻撃のほとんどは防げているが、しかし捌けていないことは変わらない。

 

「な……っ!?」

 

「何を驚いているのかね? 私は()()()()()()だ。なら、カルナでも楽には勝てない状態に持っていかなければ話になるまい?」

 

 雪菜は自身のうかつさを後悔した。

 

 あのフォンフが楽な当て馬を用意するわけがない。

 

 フォンフ・アーチャーの暴走を何とかするには、二つの方法がある。

 

 一つは雪菜が正真正銘フォンフ・アーチャーと同格に迄実力を高めること。

 

 もう一つは、雪菜がカルナを宿すにはあまりに弱すぎたと証明すること。こちらは雪菜が戦死すればいいだけの話だ。

 

 当て馬として相応しく、運が良ければそのまま雪菜(カルナ)を殺せるだけの戦闘能力を用意するのは当然だった。

 

 そして、ダメージはごくわずかであるにも関わらず、雪菜の体は急速に動かしにくくなっていく。

 

「人工リンカーコア。リンカードライブ搭載型デバイス……とか言っていたか。高速起動用に調整した特注品で、もらったものであることから、現状では量産は不可能に近いそうだが、未来視を可能とする君に対抗するには的確な一品だったようだ」

 

 たぶんとんでもないことを言っている自覚はないだろう。だが、それを踏まえてもあらゆる意味でフォンフが強敵であることは間違いなかった。

 

 リンカーコアといえば、魔導師が魔導師足るために必要な能力だったはず。それも先天的才能だ。

 

 それを人造するだけでも面倒なのに、さらに量産度外視とはいえ未来視に対抗できる能力を用意したのは危険すぎる。

 

 いかに先読みができていようと、其れで反応できない速度で行動されていれば意味がない。

 

 超高速で、久須木は雪菜に切りかかった。

 




フォンフ・キャスター大暴れ。

一瞬で陣地を用意したことで、弓式による魔術攻撃に対して圧倒的優勢を獲得。加えて場所柄古城が眷獣を使えないため圧倒的有利。


くわえて久須木も大幅強化。間違いなくこの作品だけだろうな。この男をここまで魔改造して難敵にしたのは。

フォンフ+アルジュナの超絶融合に相対するにはそれ相応の難易度の試練をくぐらせなければいけないてきな理屈でフォンフ・アーチャーを納得させました。これで雪菜が死ねばしょせんそれ迄だったということでアーチャーをあきらめさせようという腹でもあります。


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……魔獣激昂

 

「藍羽さん!! LYLを使って外側から干渉できませんの!?」

 

 ブルーエリジウムで、雪侶は浅葱に支援ができないかどうか打診していた。

 

 なにせ既にレヴィアタンはだいぶ距離を取っている上に、其の力の一端を見せつけていた。

 

 今から下手に雪侶やシルシが近づいても、その圧倒的な戦闘能力で叩き潰されるのがオチだろう。フォンフも余計な要素を加えたがるとは思えない。

 

 つまり、ビエカル達の足止めが成功してしまった以上、レヴィアタンの制御に干渉できなければ対処の余地がないのである。

 

 とはいえ幻想兵装もフォンフも一筋縄ではいかない強敵。何もしないのはそれはそれでもどかしい。

 

「雪菜雪菜雪菜雪菜あと暁古城!! ああもう!! 何もできないのがこんなにもどかしいだなんて!!」

 

「とりあえず落ち着けよ」

 

「うん、そうそう。兄さん達ならそう簡単には殺されないって」

 

 正気を失いかけている紗矢華をノーヴェと須澄がなだめている中、雪侶はどうしたものかと真剣に考えている。

 

 世界最強の魔獣というだけあって、その戦闘能力は超獣鬼とすら渡り合えるだろう。下手な最上級悪魔なら眷属ごとたやすく殲滅されるだろう。

 

 如何に兵夜と自分達眷属が優れていようと、其れでも若手なのだ。まともに接近すれば対空攻撃で返り討ちに遭う事は間違いない。

 

 しかもその戦闘の余波でブルーエリジウムに大被害が発生する可能性もある。うかつな手出しは厳禁だった。

 

『……無理ね。完全にLYLの制御を外れている以上、LYLではどうしようもないわ』

 

『つまり、大将達に任せるしかないってわけか。……こっちは避難誘導と安全確保の念押しに回る。嬢ちゃん達は藍羽の姉ちゃんの護衛に専念しときな』

 

 浅葱が完全に匙を投げ、グランソードも状況の悪化を懸念して行動を開始する中、どうしたものかと雪侶は頭を抱える。

 

 なにせ、中で行動しているのは自分の兄である兵夜なのだ。

 

 その能力の高さを一番理解しているのも雪侶なら、その致命的な問題点を一番理解しているのもまた雪侶だった。

 

 あのうっかり男が、致命的な凡ミスをしていない可能性の方が低い。そして経験不足のシルシ達ではそれを指摘できる可能性が低い。

 

「グランソード。禍の団の一員として活動していた経験の多さに期待して聞きますのよ」

 

『おう、なんだ雪侶』

 

 雪侶は、端的に聞くことにする。

 

「ここで私達が気を付けるべき、兄上がぶちかましそうなうっかりは何ですの?」

 

 そう、自分達眷属が主の力となるのならば、今はせ参じることができない自分達がやるべきことは一つ。

 

 発生するであろううっかりに対するカバー準備を整える。この一点であった。

 

「そういえば、今回はうっかりっていうようなうっかりしてないよねっ。お義兄さんっ」

 

「……エイエヌさまも時々ポカするし、確かに警戒してしかるべきね」

 

 トマリとアップすらその辺りの理解ができているのは泣くべきか否か。

 

 いや、アップは平行世界の兵夜たるエイエヌの側近だったのだ。こちらに関してはむしろ当然と判断するべきだろう。

 

 そしてそんな妙な緊張感の中、グランソードは少しだけ通信越しで考えていたが、やがて声を出した。

 

『……こいつぁフォンフや久須木って奴にも当てはまるんだが―』

 

 そして、グランソードは言葉を続ける。

 

『……そもそも世界最強って意味じゃあ同格だろうリリスとレヴィアタンで、一方的な完封がずっとできるのかが気になってきたな』

 

 その瞬間、まさに的中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分程前、戦闘は大きく動いた。

 

 放たれる久須木の攻撃が雪菜の体力を削りきらんとするまさにその瞬間。

 

 まさにその一瞬の間隙をついて、反撃の楔が叩き込まれる。

 

「……意外と隙が無くて、仕掛けるのに苦労したわ」

 

「ぐああああああああああ!?」

 

 突如姿を現したエストックが、攻撃態勢に入っていた久須木の腕を貫く。

 

 戦闘技術を疑似的に叩き込まれたとはいえ戦闘経験があるわけではない久須木は、必然的に激痛に対する耐性が薄い。

 

 腕を貫かれたというショックとともに走る激痛が、久須木の動きを完璧に止める。

 

 そして、その一瞬の隙を見逃さない程度には、雪菜は戦闘を潜り抜けていた。

 

「揺らぎよ!!」

 

 渾身の攻撃が久須木の鳩尾に叩き込まれ、久須木は悲鳴すら上げることができずに意識を喪失する。

 

 如何に久須木が戦闘技術を叩き込まれようと、彼は所詮経営者に過ぎない。

 

 それまで戦闘経験を持っていない久須木に、完璧な形で戦闘を行わせる事は不可能だ。

 

 伏兵という戦闘の基本と、痛みに耐える修羅場や試練を潜り抜ける事によって育まれる地力。

 

 この差が、決定的な差となった。

 

「シルシ・ポイニクス!? いつの間に幻術で潜んでやがった!!」

 

「よし!! 何とかなったか!!」

 

 狼狽するフォンフに攻撃こそかわされながら、しかし兵夜は勝利を確信する。

 

 戦闘のどさくさに紛れて、伏兵を仕込ませておくのはそんなに珍しいことではない。幻術自体もシルシができるのは基礎レベルだ。

 

 それがどこまで読まれているかが問題だったが、しかしフォンフはどうやらそこまで警戒していなかったようだ。

 

「残念だったなフォンフ。パラケを宿した所為で経験則が薄まったんじゃないか?」

 

「んの……野郎!!」

 

 兵夜は勝利を確信する。

 

 如何にフォンフが圧倒的な戦闘能力を保有していようと、四人がかりなら無理やり突破することは不可能ではない。

 

 少なくとも結瞳を開放するぐらいなら何とかなる。

 

「暁!! 無理やり突破しろ!! 残りはフォンフの足止めだ!!」

 

「もちろん! 本妻としていいとこ見せるわよ!!」

 

「先輩、今です!!」

 

 オリジナルとの付き合いの深い俺がメインで動き、先読みできるシルシと姫柊ちゃんでカバーに回る。

 

 ごく僅かな時間足止めするならば十分すぎる。

 

 そして、多少の牽制射撃なら暁は強引に突破できる。

 

「結瞳ぇえええええええええ!!!」

 

 その手に握るのは、一瞬の隙をついて渡しておいた試作型の中和剤。

 

 肝心のランサーがいないので試しようがなかったのが不安だが、まあ最悪の場合は暁の血の従者にするという手がある。

 

 できればそれは最後に取っておきたいのでこれで成功してくれると嬉しいんだが……。

 

「チッ!! あわよくばレヴィアタンをかすめ取りたかったんだが……っ!!」

 

 フォンフの野郎、そっちが本命か!!

 

 久須木と俺達の共倒れと、そのついでの戦力確保が本命か!!

 

 だが、肝心の江口結瞳(制御装置)がこっちの手に渡れば―

 

「……ぁ」

 

 その瞬間だった。

 

 暁が中和剤を投入する一瞬前。

 

 しかし、その変化は俺達に質の悪い展開を想定させるのに十分すぎた。

 

「……ぁあああああああああっ!?」

 

 突如、江口結瞳がもだえ苦しむ。

 

「結瞳!? フォンフ、お前何を!?」

 

「……いや、これは違うぞ! 俺も想定外だこれが!!」

 

 フォンフの仕込みじゃない?

 

 ってことは……あ。

 

「まずい!! 暁、これはランサーの宝具の解除とかじゃないからとりあえず中和剤を叩き込め!!」

 

 しまった。またうっかりを!!

 

「フォンフ。どうやら俺達はお互いに奴を舐めていたらしいな」

 

「奴って誰だよ? ……ん?」

 

 俺の言葉にフォンフは首を傾げるが、しかしすぐに気が付いたようだ。

 

 気が付けば、俺達の周りには防衛装置が大量に表れて取り囲んでいた。

 

 それはまるで、病原菌を排除する白血球のような感じだった。

 

 ……そう、これは最悪の事態だ。

 

 俺達は史上最強の肩書に惑わされて、夢魔という種族が基本的に弱いということを忘れていた。

 

 レヴィアタンが、リリスの制御を自力で振り切りやがった!!

 




古城の要望もあり、一応の対応策投入。

そりゃあんな危険なものの対策は必要ですからね。幻想兵装で持ってくる可能性は考慮されておりました。







まあ、そんなもの使うまでもなくレヴィアタンは自力で復活したのですが。


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ゆりかご、再浮上

はい、ついに七式がさらに出てきます。

……まあ、この題名でわかる人はもうわかってると思いますがね。


 

「……レヴィアタンが自発的に攻撃仕掛けるだとぉ!?」

 

 あまりの展開に、グランソードは目を見開いた。

 

『ええ、完璧にやばいわね。流石は世界最強の魔獣といったところかしら。……予想が大当たりね』

 

「嬉しくねえよ嬢ちゃん!!」

 

 通信越しの浅葱も、おそらく頬が引きつっていることだろう。

 

 レヴィアタンは、リリスの精神支配を自力で突破したのだ。

 

 そして強制的に支配されていた怒りをぶつけたくてたまらないのだろう。下手をすると、第一段階であったクスキエリゼをブルーエリジウムごと吹き飛ばしかねない。

 

 てっきりそのまま海に沈むのではないかと考えていた自分が恨めしい。少々日和っていたかと反省するが、しかしグランソードはすぐに頭を切り替える。

 

 そして、切り替えたその場でさらに事態は悪化する。

 

『っていうか生体ミサイルが発射されたわ!! 逃げて!!』

 

「できるわきゃねぇだろ!! 堅気の連中が何人残ってると思ってんだ!! 脛に傷持つ俺らが優先されてたまるかよ!!」

 

 ごたごたが起きたことをいいことに避難活動は行っているが、それでもまだかなりの人数が残っている。

 

 下手にこのメガフロートが破壊されれば、本気で絃神島史上最大の死傷者が出ることになるだろう。

 

 そもそも自分の主がその肝心なレヴィアタンの中に残っているのだ。面子的にも心情的にも逃げるなどという選択肢はあり得ない。

 

「クソが! 間に合うか……!」

 

 避難活動の方に回っていたグランソードでは、とても全体をカバーできるわけがない。

 

 しかし、ここに残っているのはグランソードだけではなかった。

 

 空中に陣が展開されると同時、大規模な呪術が一斉に放たれ、ミサイルの大半を撃ち落とす。

 

 さらに多頭龍の眷獣とスフィアが弾幕を張り、残りを一斉に破壊した。

 

「グランソードさん、グランソードさん!! こっちはこっちで何とかするから、避難誘導の方に回ってって雪侶ちゃんが!!」

 

「須澄か! お前なんでこんなところに?」

 

 全速力で走りながら声をかけてきた須澄に尋ねると、心から落ち込んでいる様子で視線を逸らした。

 

「……対空弾幕にはあまり関われないから、最終手段の方のギャンブル的サポートに回るように言われたんだ」

 

「最終手段?」

 

 おそらく覇輝(トゥルース・イデア)のことだろう。

 

 何が起こるかわからないパルプンテ的な要素ではあるが、しかし無辜の民を守る為なら力の一つぐらい貸してくれるだろう。賭けるには十分な手段である。

 

 しかし、それならレヴィアタンの近くで行うべきな気がする。

 

「それで、誰に向かってやるつもりなんだよ」

 

「うん、雪侶ちゃんに言われたんだけど……」

 

 須澄もよくわかっていないのか、微妙な顔をした。

 

「……七式の持続時間延長に賭けて、ヴィヴィオちゃんに使うようにって」

 

 グランソードは七式の詳細を聴くのをすっかり忘れてたことを理解した。

 

 ああ、そういや雪侶は開発の手伝いしてたっけなと、なんとなく思いながら、嫌な予感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走れ走れ走れ走れ!! 止まったら死ぬぞぉおおおお!!!」

 

「だからって俺を荷物持ちに使うか普通!! 重いわ!!」

 

 いや、お前が久須木まで連れてくっていったんだろうが。責任もって自分で運べ。

 

 とにかくイーヴィルバレトをばらまいて生体兵器を薙ぎ払いながら、俺は後詰として戦闘を行っている。

 

 とにかく外にさえ出れば、ラージホークで脱出できる。その為にもとにかく俺達が開けた穴に迄辿り着かなければならない。

 

 あとフォンフは置いてけぼりにしよう。その方が囮に―

 

「残☆念! そうはいかないよ!!」

 

 あの野郎通り過ぎやがった。

 

 しかもよく見ればその手には大量の肉の塊が!!

 

「保険としてこっそり削っといたレヴィアタンの肉は頂いた!! これを培養して量産型レヴィアタンを作ってやるぜぃ!!」

 

「お前それがサブプランか!?」

 

「Y★E★S♪ じゃ、そういうことで!」

 

 ぬかった!! あの野郎神の御業に挑戦するつもりか!!

 

 流石にデッドコピーになるだろうが、これはまた厄介な火種を持ってかれてしまったわけだ。

 

 HAHAHA♪ ストレスが溜まってきたZE♪

 

「兵夜さん!? 色々とストレスで変なことになってきてない!?」

 

 シルシ、そこはスルーしてほしいです。

 

「だがどうすんだ!? なんか外でも大暴れしてるっぽいんだが?」

 

「そうですね。紗矢華さん達ならある程度は持ち堪えるとは思いますが、それでもブルーエリジウムをカバーしきれるかというと……」

 

 いっそ眷獣を出そうとか思案し始めている暁と、七式を起動させたままでごっそりと生体兵器相手に無双ゲーム始めている姫柊ちゃんの懸念ももっともだが、しかしそこは何とかなるだろう。

 

「できれば使いたくない手段だったが、この状況下なら雪侶はあれを使うことを決定しているはずだ。それに賭ける」

 

 あれなら俺達が脱出するまでの時間は稼げるだろう。そのはずだ。

 

「……何を使うつもりなんだ?」

 

 暁が嫌な予感を感じているようだが、それは正解だ。

 

「ヴィヴィの七式、あれ、デカブツに対抗するにはうってつけの代物なんだよ」

 

 とはいえ成功するかどうかは半々といったところか。

 

 あと、使ったら絶対に面倒なことになる。

 

 ………後始末は獅子王機関に押し付けよう。俺達や暁をいいように利用しているみたいだし、当然の仕返しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、貴女は国を救いし救国の聖王」

 

 起動コードと唱えながら、ヴィヴィオは運命のようなものを感じていた。

 

 確かに、これは自分が一番使いこなせる七式だろう。むしろ適任は自分しかいない。

 

「聖王の威光を再びここに。揺り籠は民を救う為に」

 

 悲劇で終わった彼女の力を、あえて自分はここに借りよう。

 

 このメガフロートにいる人達の人生を、悲劇で終わらせない為に。

 

「―お願いします、力を、貸して!!」

 

 ゆえに、後継者(自分)こそが適任だ。

 

 そして、その願いに彼女は答えた。

 

「七式、騎式、起動!!」

 

 その言葉と共に、戦闘状態に入っていたヴィヴィオの全身に装具が装着される。

 

 ドレスと戦装飾を融合させたようなその豪奢な姿は、見るからに高貴な立場のものを思わせる。

 

 同時に、ただでさえ優れていたヴィヴィオの気配がさらに鋭くなる。

 

 これこそが、聖王核の力と天性の素質の融合によって生まれる、長きに渡る戦いを終わらせた揺り籠の聖王。

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。ヴィヴィオの遺伝子上のオリジナルである。

 

 元々研究段階で、どの英霊を発動可能にするかも考えてないものが多々あった七式の中で、騎式をこれにすることを兵夜が決めたのは偏にヴィヴィオの安全確保だ。

 

 近年きな臭い現状を警戒して、自分達から引き離すという選択肢もあったが、それもリスクが大きい。

 

 なにせ、既にエイエヌ事変解決に貢献しているヴィヴィオはフォンフも注目している。

 

 若き天才と称されたフリードを、一対一で足止めして誘導することができる時点で、そのポテンシャルは計り知れない。

 

 フォンフなら何らかの形でどちらにしてもちょっかいをかけてくる可能性があった。

 

 故にあえて目のつくところにおいてカバーできるようにするという方針を兵夜はとることにした。

 

 この場合なら、何かあっても即座に把握して対応する余地が出てくるからだ。最悪の場合優先順位の高い自分が囮になるという戦術もとれる。

 

 とはいえそれだけでは危険なので、それ相応の護身装備が必要。

 

 どうせならアインハルトと合わせて七式にするというところまで思いつき、兵夜は速攻である事実に思い至る。

 

 それが、フォンフ・シリーズのメンバーであるD×Dのローランだ。

 

 この次元世界の英霊がサーヴァントとして召喚する余地があるのなら、ミッドチルダやベルカの英霊も召喚できるのではないか。

 

 そしてその中でヴィヴィオと相性が良く、かつ優れた能力を持っていることがわかるのは誰か。

 

 ……必然的に彼女がテストケースとして選ばれる為に必要な条件はこれでクリアされた。

 

「……真名、解放!」

 

 そして、其れこそが上の人員に文句どころか絶賛すらさせるほどの切り札ともいえる宝具。

 

 もとより騎式はライダーの七式。騎乗物こそが真骨頂。

 

 それは、かつての戦乱を終結に導いた戦船。

 

 時空管理局においても、極めて危険と認識されるロストロギア。

 

 条件さえ揃えば衛星軌道上からの対地・対艦攻撃を可能とする重装備を保有し、ブルーエリジウムを大きく上回る巨体を保有。

 

 大気圏内・宇宙空間・次元空間でも航行及び戦闘を可能とする圧倒的な飛行戦闘艦艇。

 

 加えてヴィヴィオ自身が制御コアとして行動していたことから、かのマッドサイエンティストであるスカリエッティが開発し、さらに元々存在していた多数のガジェットドローンを運用可能という機能拡張迄保有。

 

 単体でレヴィアタンと真正面から戦闘を可能とし、ブルーエリジウムを守る盾にもなる。

 

 その宝具の名は―

 

聖王のゆりかご(クレイドル・オブ・セイントキング)!!」

 




と、いうわけで騎式の七式はオリヴィエでした。


そりゃヴィヴィオなら相性抜群以外の何物でもないでしょう。ある意味オリジナルなんだから。









ちなみに、聖王のゆりかごの全長はすうkm。たぶんブルーエリジウムよりでかい。

……雪侶達はそのへんの後始末を獅子王機関と太史局に押し付けるつもりです。散々振り回された意趣返しとはいえ鬼だあいつ等。


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暴走している人は一発殴ってから話し合いを持ちかけよう。

超巨大兵器VS超巨大怪獣。

夢のバトルが遂にスタート!!



 

 その巨体は、突如として現れた。

 

 そして圧倒的な巨体に由来する防御力により、生体ミサイルを全身で受け止めながら完全に防ぎきる。

 

 その事実に、レヴィアタンは警戒心を強めつつ、全力で排除するべき敵と認識した。

 

 これまでのただ単にふざけた真似をするものを倒す為のミサイルではなく、本気で倒すべき敵と判断したがゆえに大量のミサイルを一斉に放ち、さらにブルーエリジウムを破壊することも忘れずに、生体魚雷を一斉射撃。

 

 そして、其れに対してゆりかごもまた対応する。

 

「行って!!」

 

 かつての主を宿した最後の主に従い、聖王のゆりかごは攻撃を開始、

 

 五十を超える砲門から放たれる砲撃と、大量に射出されたガジェットドローンが、全てのミサイルと魚雷を撃ち落とす。

 

 しかしレヴィアタンもまたさる者。既に本命の攻撃である魔力砲撃を放っていた。

 

 だが、それをゆりかごは真正面から受け止める。

 

 魔力結合及び魔力効果発生を無効化するAMFを高密度に展開して、その砲撃を真正面から防ぎ切った。

 

 この時点でゆりかごの損傷は軽微。そしてレヴィアタンもまた無傷だった。

 

「……す、すごいんだけど。なにこれ、怪獣映画? それともSF?」

 

「どっちも超獣鬼(ジャバウォック)とまともに渡り合えそうですのね……」

 

 思った以上に派手なことになっている事実に、紗矢華と雪侶は唖然となる。

 

 と、言うよりこれは目立ちすぎた。

 

 あとでどうごまかすべきかと考えるが、しかしまあかまわないと雪侶は思い直した。

 

「まあ、こんな時こそ獅子王機関の役目ですの。こっちは無辜の民を守る為に全力を出して被害を最小限に抑えるという仕事を立派にこなしましたので、あとは上層部に丸投げするといいですのよ?」

 

「いや無理でしょ!! これ、どうやってごまかせばいいのよ!?」

 

 渾身のツッコミが飛んだ。

 

 当然だ。ちょっとしたメガフロートを上回る大型浮遊物体など、この世界にはない。

 

 アルディギア公国の装甲飛行船でも全く足りてない。しかも性能も段違いだ。

 

 しかもブルーエリジウムにはまだ数千人を超えるであろう人達がいる。目撃者が多すぎてどうしようもない。

 

「ちょっとどうするのよ!? あなた言い出しっぺなんだから少しぐらい何とかしなさいよ!!」

 

「……てへ?」

 

「可愛くいってごまかしても無駄なんだけど!!」

 

 そんな漫才が繰り広げられている中、戦闘は膠着状態になっていた。

 

 レヴィアタンとゆりかごは膠着状態になっているが、長期戦になれば不利なのはゆりかごの方である。

 

 もとより継戦能力に難のある実験武装である七式。素の魔力量も決して多いとは言えないヴィヴィオでは、長時間の運用は困難だ。

 

 中に動力源がある為、ゆりかごの維持は比較的楽であるとはいえ、この規模である為それでも甚大な消耗を生み出す。覇輝で稼いだ分が尽きればそれまでだ。

 

 覇輝が上手く効果を発揮して持続しているが、この巨大さだとそれもいつまで持つものかわからない。

 

 何とか足止めが成功しているうちに次の手を打たなければならない。

 

 ……そして、其れは来た。

 

「……来たわよ本命!!」

 

「よしっ! こっから本番っ!」

 

 アップとトマリがそれを認識して、ガッツポーズを入れる。

 

 そう、レヴィアタンの体に小さく空いた穴から、飛び出てくる人影があった。

 

 それは砲撃の合間を縫ってガジェットドローンⅡ型に飛び乗り、ゆりかごの上部へと舞い降りる。

 

 それを駆けつけて見据えながら、須澄は声を張り上げる。

 

「後は、後は頼むよ、第四真祖!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良く持ち堪えてくれた、ヴィヴィ!!」

 

 何とか脱出に成功した俺は、レヴィアタンを押しとどめてくれたヴィヴィに礼を言う。

 

 ヴィヴィの七式が想定通りに起動すれば防戦は可能だと踏んでいたが、期待以上だ。褒めるほかない。

 

 ブルーエリジウムの被害はほぼゼロ。民間人の犠牲者はまずないだろう。

 

 あとは、このレヴィアタンを黙らせればすべてが終わる。

 

「……考えてみれば、レヴィアタン(アイツ)が一番の犠牲者だよな」

 

 心底同情の視線を向けて、暁がそう呟いた。

 

「まあ、そうね。ただ眠っていたら決戦兵器として使われたり、中で肉を抉られたりしたもの。訴えたら勝訴確定ね」

 

 シルシも心底同意する中、暁は一歩前に出る。

 

「お前が怒るのも当然だ。だが、恨むならフォンフと俺を恨めよ……!」

 

 その言葉と共に、暁から魔力がほとばしる。

 

 何とか脱出に成功した以上、あとはレヴィアタンをどうにかすればことは終わる。

 

 幸い相手は野生の獣と言っていい。知的生命体みたいに、恨みつらみの為に命まで捨てる可能性は低いだろう。

 

 故に、こちらの最大火力をもってして死なない程度にボコる。

 

「ヴィヴィ!! 揺り籠を着水させてくれ!! 防波堤に使う!!」

 

『はい!! あと、そろそろ限界だから早めにお願いします……っ』

 

 わかってる。どっちにしても一撃で決まらなければ長丁場だ。

 

 そんなことになれば、周辺被害は甚大なものになるのは確定的に明らか。

 

 俺らが総力を挙げれば潰すことはできるだろうが、それでは殆ど意味がない。

 

 つまり、これで決着をつけないと事実上詰みになるわけで―

 

「決めろ、暁!!」

 

「わかってる!!」

 

 さて、あとはこの一撃で勝負が決まるかどうか……!

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ……っ」

 

 それは、暁古城が保有する眷獣の中でも火力だけなら最強の一品。

 

 下手すると絃神島が一発で沈みかねないし、レーティングゲームでも使い勝手が悪すぎてあまり使えなかった代物。

 

 だが、火力勝負ならこれの右に出る者は俺もそうは知らない究極クラスの一振り。

 

 現れるのは、全長数百メートルにも及ぶ巨大な剣。

 

 重力制御により超高速で落下するそれは、もろに喰らえば主神クラスでもただでは済まないとんでもない代物。

 

 その名を―

 

疾く有れ(きやがれ)、七番目の眷獣、夜摩の黒剣(キファ・アーテル)ッ!!」

 

 その超加速の一撃は、レヴィアタンをもろにぶち抜いた。

 

 そして発生するソニックブームと津波だが、レヴィアタンがクッションになったこともあって何とか防ぐことができた。

 

 だがそれが限界だったのか、流石にゆりかごの顕現が解ける。

 

「シルシ! ヴィヴィのカバーを!!」

 

「言われなくても!!」

 

 ヴィヴィのカバーはシルシに任せ、俺はラージホークを展開して暁達をカバーする。

 

 ………さて、レヴィアタンの方はどうなった?

 

 レヴィアタンはかなりのダメージを負っている。流石は第四真祖の最大火力だ。

 

 だが、その目には間違いなく敵意と怒りが残っていた。

 

「……チッ! まだやる気か!!」

 

「どうしますか? ゆりかごなしではブルーエリジウムはおろか後ろの絃神島も……っ!」

 

 だよなぁ。流石にヴィヴィも限界だろうし、こっから先が大変だぞ。

 

 だが、レヴィアタンを放っておいたらどっちにしても島が大打撃だし……!

 

 どっちにしても大被害が生まれかねない二者択一に迫られたその時だった。

 

 後ろから、歌が聞こえてきた。

 

 とっさに視線を後ろに向ければ、既に結瞳ちゃんが起きて、夢魔としての翼を広げていた。

 

「結瞳! 下がれ! もうレヴィアタンにリリスの精神干渉は効かない!!」

 

 ああ、既に耐性を獲得している以上、よしんば効いても狙いをそらす程度が限界だろう。

 

 そんなことになればブルエリのさらに向こう側にある絃神島にまで大規模な被害が出る。

 

 そんなことになればどれだけの死傷者が生まれるかなんて、考えたくもない……!

 

「待ってください! レヴィアタンの様子が……っ」

 

 姫柊ちゃんの言葉に振り返ってみれば、レヴィアタンの敵意が明らかに薄れている。

 

 そして、その動きに合わせて結瞳ちゃんもまた前に出て、翼を広げて空に飛ぶ。

 

 そうか、これは精神干渉じゃない。

 

 これは、歌だ。

 

「まさか、レヴィアタンを説得しているのか?」

 

「なるほど。強制的な干渉ではなく、あくまで対話なら強制力がない以上理屈の上では可能だな」

 

 その結瞳ちゃんの歌に、レヴィアタンは動きを沈めていく。

 

 そして、背を向けるとそのまま海に沈んでいった。

 

 おお、成功したよ。

 

「ははっ。なあ、宮白、見てみろよ」

 

 いつの間にやら朝日が昇り始める中、結瞳ちゃんは力尽きたのか海に落ちていく。

 

 慌てて姫柊ちゃんが駆け出す中、暁は尊いものを見つけたかのように笑顔だった。

 

「何が最強の夢魔だ。むしろ天使じゃねえか」

 

 確かに、まさに天使だな。

 



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年齢差が大したことなくても、小学生の三文字は犯罪的

黒の剣巫編のエピローグです。

原作では出てたけど本作では影も形も出なかった彼女に悲劇が……っ!


 

 クスキエリゼの施設のうちいくつかは、流石に戦闘の余波で崩れ落ちていた。

 

 その残骸を弾き飛ばしながら、一台の小型の戦車が姿を現す。

 

 今では珍しい丸い車体に、四方向から生える脚部。真ん中には榴弾砲が搭載されていた。

 

 とある国で研究されている、対魔族用の多脚式戦車だった。

 

「むむむ。まさかこのような展開になるとは想定外でござった」

 

 残念そうに唇をへの字に曲げ、その操縦者である少女、リディアーヌ・ディディエはへこんでいた。

 

 諸事情あって太史局の依頼でLYLの制御などのプログラミング関係を手伝っていたのだが、いろんな意味で大損したといえるだろう。

 

「女帝殿と一戦交える気でござったが、そのまえにLYLが用済みになってはどうしようもないでござる。まあ、無用な犠牲が生まれなかったのはようござったが……」

 

 いろんな意味でこんな展開は想定外だ。

 

「……はぁ。これはいろんな意味で大損でござるよ。ディディエ重工にも何か言われそうで―」

 

「―具体的には何を言われるのかな?」

 

 後ろから投げかけられたその言葉に、リディアーヌはビクリと肩を震わせた。

 

 恐る恐る振り返ると、そこには赤茶色の髪をした少女と見まごうばかりの少年の姿があった。

 

「じょ、女帝殿の御友人の……」

 

「宮白兵夜だ。いやいや、あれだけのシステム、制御に相当の使い手が必要だと思って藍羽に調べてもらったが、まさかあんただとはなぁ?」

 

 全身から怒気を漏らしながら、兵夜はにやりと笑顔を浮かべる。

 

「さて、これだけの大騒ぎの原因なんだ。いくら小学生とはいえただで済ますわけにはいかないと思わないか?」

 

「……しからば御免!!」

 

 判断は一瞬だった。

 

 即座に戦車に乗り込みなおすと、全速力で逃げの一手を打つ。

 

 そしてその瞬間、脚部が凍り付いて動きが完全に固まってしまった。

 

「なんと!?」

 

「逃がしませんのよ~? こっから色々と大変ですから」

 

 同じくビキビキと女の子が浮かべていいものではないものを浮かべながら、雪侶もまた回り込んでいた。

 

 忘れてはならない。この兄妹は双方ともに後天的に龍に連なるもの。

 

 対魔族用とはいえ、試作型の戦車如きでどうにかなるような代物ではないのだ。

 

「安心するといいですのよ? 別にとって食べようというわけではありませんの?」

 

「ゆりかごのもみ消しが大変だが、これ以上藍羽を巻き込むのも億劫だったんでな。いやぁ、あれだけの騒ぎに一枚かんでた輩なら、酷使しても心が痛まないから安心安心」

 

 サディズムが浮かぶ表情で、二人は戦車からリディアーヌを引きずり出しにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ござるぅうううううううううううううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

「なんでこんなことになったのかしら……」

 

 レヴィアタンも深海へと戻ってから、古城と紗矢華はため息をついた。

 

 想像以上の激戦だったというほかない。古城としては、エイエヌとの決戦に匹敵するほど疲れた気がするほどの戦いだった。

 

 なにせ、下手をすれば絃神島が崩壊していた事だろう。それほどまでにレヴィアタンは強大だったのだ。

 

 リゾートに来たと思ったらバイトに駆り出されて、挙句の果てに世界最強の魔獣と一戦交える事となるとはどんな事態だ。

 

 古城は世の中の不条理を心から呪った。

 

 自分はこの絃神島で普通の高校生として暮らしたいだけなのに、なぜトラブルはこの絃神島に集中して起こっているのだろうか?

 

 人生の不条理を心から嘆きながら、古城は心底疲れた足取りでコテージまで歩いていた。

 

 驚くべきは、まだ島外には出ていなかった観光客が全員観光する気満々だということだ。

 

 流石は魔族特区。その根性には敬服するしかないなどと兵夜が言っていたような気がする。

 

「今日はもうさっさと休む。観光なんて気分じゃないし、っていうかもう起きてるのも限界だ」

 

「私も限界。ベッド余ってたら貸してほしいんだけど。始末書は仮眠取ってから書くわ」

 

 げんなりしながら古城と紗矢華はコテージへと向かう。

 

 既に二人の体力は限界に近い。それほどまでの大ごとだったのだから当然といえば当然だ。

 

「カッカッカ。流石にこれはきつかったしな。当然っちゃぁ当然か」

 

「同感。さっさと観光に行った須澄達がすごいな」

 

 流石に子どもゆえに限界がきて眠っているヴィヴィオとアインハルトを背負いながら、グランソードとノーヴェも苦笑する。

 

 既に須澄達は、トラブルに巻き込まれた部分を挽回しようと満喫し始めていた。

 

 あのバイタリティは見習うべきかそうでないべきかなどとグランソードは考えるが、まあそれはいいだろう。

 

 何十万人の命すら関わるほどの激戦を潜り抜けたのだ。今はゆっくりと休んでも罰は当たるまい。

 

 そんな中、雪菜はふと不安げな表情を浮かべた。

 

「あの、でもいいんですか? たぶん―」

 

 その言葉に全員が視線を向けたその時、コテージが何やら騒がしくなっていた。

 

「あぁん? なんだ?」

 

 グランソードが怪訝な表情を浮かべる中、古城の姿を見つけた浅葱が顔を青くしてかけてくる。

 

「こ、古城!! ヤバイ!!」

 

「浅葱? なんだよヤバイ……って?」

 

 視線を前に向けた古城の視界には、カートがあった。

 

 そして、自分が昨日担当した屋台を担当するスタッフのお姉さんもだ。

 

「やあ待っていたよ。さ、仕事の時間だよ?」

 

 ……その時、古城は思い出した。

 

 自分達は観光の名目で誘い出されていたが、実際のところはバイトなのだという事実に。

 

「や、矢瀬!!」

 

 助けを求めて思わず友人に詰め寄るが、リリスによる精神干渉を受けてぐっすり眠っていた矢瀬は何もわかっていない。

 

「な、なんだよ? 言っとくが、今回の費用はお前らのバイト代から出てるから、休めねえぞ?」

 

 言いたいことはわかる。確かに、そういうことになっていたのは仕方がないから理解した。

 

 実際凪紗と雪菜が遊べるだけでも御の字ではある。

 

 だが、世界最強の魔獣やら多次元世界を股にかけるテロリストやら、魔族保護をもくろむエコテロリストと戦いを繰り広げた報酬がこれはひどいだろう。

 

「ま、待ったお姉さん。そいつらはちょっとこっちの不手際でひと悶着あってロクに寝てなくてだな……」

 

 見かねたグランソードが割って入ろうとするのが、神の福音に見えて涙が出てきそうだった。

 

 古城も浅葱も救いの神に最後の希望を見たとき―

 

「―ダメです!!」

 

 いつの間にか起きていた結瞳が割って入った。

 

 まさか小学生に妨害されるとは思わず、チーフも矢瀬も面食らう。

 

 こ、これはいけるか? などという情けない期待が二人に満ちたその時、爆弾発言が飛び出した。

 

「古城さんはこれから私と遊園地で遊ぶんです!! だから邪魔しないでください!!」

 

 …………あれ?

 

 古城の感想を一言で言うなら、これに尽きるだろう。

 

「ま、まて、結瞳? 何がどうしてそうなった?」

 

 何が何だかわからない古城が聞くが、結瞳はまったく聞いてない。

 

「古城さん、私のことを一生幸せにしてくれるって言いましたから。今日からでも幸せにしてもらいますから」

 

「………先輩。宮白さんが言った通りのことになりましたね」

 

 ジト目で残酷なことを雪菜が言い放ってきた。

 

 ああ、確かに告白ものだと宮白が揶揄してたなぁと、古城はついさっきにことを思い出す。

 

 だが、それにしてもこれは行き過ぎではないだろうか?

 

「……あぁ~。とりあえず俺、こんなもんです」

 

「ん? なになに? ガモリーズセキュリティ……?」

 

「ちょっと夜に起きた騒動でそちらさんの2人巻き込んじまってね? 朝まで眠らずに頑張ってくれたんだよ、お二人さん。ウチからテキ屋でバイトしてた奴ただで送るから、ちょっと今日は休ませてくんねえか?」

 

 グランソードがどさくさに紛れて交渉してくれているのが心から嬉しいが、しかしどちらにしても自分は休めそうにないかもしれない。

 

「待っていてくださいね古城さん。まだまだ子供ですけど、五年もすれば古城さんに釣り合う立派な女性に成長してるはずですから」

 

 などと照れ顔で行ってくる結瞳に、自分は何を言えばいいのだろうか?

 

「先輩……」

 

「古城……」

 

 そして後ろから突き刺さる二人の冷たい視線もまた、疲労を加速させる。

 

「い、一生幸せに!? 古城君まさかのプロポーズなの? いつの間に!? っていうか古城くんやっぱりロリコンだったの!? そんな、だったら私も……いやいやなに変なこと考えてるの私!!」

 

 妹は妹で暴走している。

 

 古城は、どちらにしても休息からは程遠いであろう今日一日を思って、空を見上げた。

 

 清々しいほどに晴れ渡っている空が恨めしい。

 

「勘弁してくれ……」

 

 第四真祖、暁古城。

 

 平穏を愛する彼に、しかし平穏は彼にそう簡単に訪れてくれないものなのであった。

 




とりあえず、一旦更新は停止しようと思います。






このままのペースで更新していると、原作のペースに間に合いませんから、後々ややこしいことになり可能性がありますので。







とはいえ、ケイオスワールドには自分も強い愛着がありますので、できれば続編であるこの話も完結まで持っていきたいところです。


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更新しないって言ったけど、ついつい書き溜めちゃうことってよくあるよね(汗

今回の題名、完璧に制作側の言葉です


 

 思い返せば数日前のあの騒ぎは、本当に大変だったが、しかし人生最大級というほどでもない。

 

 なにせこちらは世界大戦や異世界間侵略の危機などを潜り抜けてきた猛者だからな。感覚がマヒしてもおかしくないレベルでスケールが違う。

 

 とはいえ、数十万人の命がかかった危機を乗り切ったのだから、報酬はあってしかるべきだと思う。

 

 おのれ獅子王機関。そろそろ嫌がらせの一つでもやってやろうか此畜生が」

 

「神魔殿。お言葉でござるがあれだけの大型浮遊物体の言い訳をさせられたのなら、獅子王機関も痛み分けぐらいには思っていると思うでござる」

 

 リディアーヌ、うるさい。

 

「まあ正論だわな。とはいえ思惑通りに被害を最小限に抑えたんだから、俺らが責められる筋合いはねえけどな」

 

「同感ね。古城くんや雪菜ちゃんをいいように使っている節があるし、それ位の嫌がらせはしても罰は当たらないでしょ」

 

「実際は嫌がらせどころか、其れしか手がなかっただけですけれどね……」

 

 と、俺の眷属達が一斉にうんうんと頷いていた。

 

 ちなみにここは冥界の病院だ。それも最先端医療を行う医大でもある。

 

 そんなところにリディアーヌを連れている事実は大したことではない。

 

 いかに絃神島が滅びるような危機に一枚噛んだとはいえ、それも国家機関が動いたことだ。それも俺達と接点のある国家のやらかしたこと。

 

 下手につつけば貴重な特殊能力やら異能の宝庫である世界とのコンタクトが取りづらくなる。それも暁及び姫柊ちゃんという貴重なチームメンバーを連れてくることも困難になるかもしれない。

 

 故にリディアーヌを利用して堂々と告発するなんて真似は流石にできなかった。

 

 しかしこの小娘が色々手を貸した所為でこっちが面倒なことに巻き込まれたのは事実。無罪放免というわけにもいかない。

 

 と、言うわけで―

 

「で? 肝心のロボットタンクのライセンスはくれるんだろうな?」

 

「うぅ……。足元を見すぎでござる。このライセンス料は流石に赤字一歩手前でござるよ」

 

「やかましい。ディディエ重工に最小限とはいえ儲けをもたらしたのだから感謝しろとは言わんが文句は言うな」

 

 親父の会社にディディエ重工の開発した技術の数々を提供させてもらった。

 

 コラ。そこ鬼とか言わない。足元見て買い叩いたが、儲けが出る程度のライセンス料は支払っている。……正姫工業が。

 

 いやそこ文句は言わないでくれ。異世界の独自技術をもたらす商談を持ってきたんだから、それだけでも十分すぎるほど親孝行してるだろう。俺も暁の損失補填の肩代わりで、ポケットマネーは流石に減りが激しくて損失を抑えたくなっているんだ。

 

 それはともかく。

 

「大体そっちも中々抜け目ないじゃねえか? 未だ姫柊ちゃんや暁しか直に目にしたことのない、この異世界の地球を見てみたいなんて」

 

「はっはっは。拙者も興味があったのでござるよ。しかもリアルサムライが見れるとなれば、このチャンスは見逃せないのでござる」

 

 そうリディアーヌが言うのも当然だろう。

 

 ……今回のアザゼル杯の試合は、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスと、サイラオーグ・バアルの試合である。

 

 アルサムのチームに正体を隠して沖田総司がいることは知っての通り。新選組一番隊隊長ともなれば、まさに歴史の生き証人であるリアルサムライ。

 

 後始末の情報操作に協力させているうちに世間話で漏らしたのを覚えられていたらしく、ライセンス料を値切る代わりに要求が出てきてしまった。

 

 そんなわけで試合観戦の為に連れてきたわけだが、それだけでこんなところには来ない。

 

 連れてくるのに南宮那月の協力が必要になったが、こんなところまで来る羽目になった理由は……だ。

 

「……ふぅ。なんでこんなところまで検査の為に来なくてはいけないんですか」

 

 ……結瞳ちゃんの検査の為だ。

 

 ランサーの宝具に対抗する為に使った中和剤。あれはランサーが幻想兵装で出される可能性などを考慮した結果、念の為に開発したものだ。

 

 しかし、ランサーの宝具の中和剤である以上、テストの為にはランサーの宝具を喰らった者が出てこなくては臨床試験のしようがない。

 

 しかし態々召喚するとか馬鹿でしかない。と、いうわけで必然的に使った後の悪影響や、本当に上手く行っているのかどうかも分からない。

 

 其の為検査は必要だったので、連れてくる必要があったわけだ。

 

「いっそのこと古城さんが血の従者にしてくれたらよかったんですけど。……そうすれば名実ともに私は古城さんのお嫁さんということに!」

 

「はいはい落ち着け。もとをただせば君が変なことを考えたのも原因の一つなんだからな」

 

 妄想を始める夢魔の後頭部にチョップを叩き込みながら、俺は今回の試合について考える。

 

 なにせ、この試合は若手悪魔の中でも最高峰の悪魔同士の戦いだ。

 

 グラシャラボラス家次期当主……を通り越して九大罪王候補であるアルサム・カークリノラース・グラシャラボラス。

 

 バアル家次期当主であり、かつアルサムほどではないが九大罪王の純候補位の位置には立っているであろうサイラオーグ・バアル。

 

 ともに若手純血悪魔の中では最強レベルの実力者。加えてどちらも追加武装込みなら魔王クラスだ。乳乳帝を発動させたイッセーを打倒することが可能な数少ない純血悪魔でもある。

 

 その二人の試合ともなれば、もはや注目度は極めて高い。

 

「間違いなく恐ろしいレベルの激戦になるな。リオちゃんとコロナちゃん大丈夫だろうか?」

 

「案外大丈夫なんじゃねえか? まあ、サイラオーグ・バアルの試合に臨む姿勢は怖がりそうだが」

 

 だよなぁ。

 

 相手の精神を砕く勢いで試合に挑むサイラオーグ・バアル。

 

 あの男は、試合ですら実戦と同じ意気込みで挑んでいる。

 

 それぐらいしなければ隙を見て上役が何かしてきかねないのもあるだろう。それほどまでに彼の立ち位置は苦労する。

 

 だが、このアザゼル杯で好成績を残せばそれも変わらざるを得ない。

 

 異形社会において極めて高い注目度を持つこのアザゼル杯。これで成果を上げた者にそれ相応の待遇をあたえなければ、異形社会で干される可能性がでかいからだ。

 

 王の駒の不正使用の連発がばれて大打撃を受けている、今の大王派にとってそれは致命傷だろう。俺も口を酸っぱくして言っているので大丈夫だと思う。

 

 それに、次期九大罪王準候補なのは間違いないのだ。そのサイラオーグ・バアルがアザゼル杯で上位入賞すれば大王すっ飛ばして九大罪王につけることも不可能ではない。そうすれば大王にする必要もないのだ。

 

 故にむしろ不正にならない範囲でサポートするように念押ししているが、さてどうなるか。

 

「自分の試合じゃないのに難しい顔してるんですか? 大人って余計なことを考えるんですね」

 

「周りが考えてると、こっちも考えないといけないんだ。大人の社会は面倒なしがらみが多くて難しいのさ」

 

 結瞳ちゃんにそう答え、俺は立ち上がる。

 

 検査結果は良好。この調子なら問題はないだろう。

 

 ……さて、それでは試合を見るとするか。

 

「あ、兄上。試合の開始時刻が間違ってましたわ。もう始まってますの」

 

 もっと早く言って雪侶!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に戦闘も中盤になっているが、何とか試合会場には間に合った。

 

「遅かったな、もう盛り上がってるぞ?」

 

「わ、悪い。時間間違えた」

 

 暁にそう返すと、俺はすぐに仕合の様子を確認する。

 

 ……ビルがポンポン切り飛ばされたり粉砕されたりしていた。

 

 そしてその破壊を巻き起こすのはアルサムとサイラオーグ。

 

 二人の戦闘スタイルは基本近接戦闘。斬撃と打撃という違いはあれ、飛び道具はあまり使わない。

 

 それであれである。色々とおかしい。

 

「彼氏殿彼氏殿! 件のサムライブレード選手は何処でござるか? リアルサムライは何処に!!」

 

「え? ああ、あっちで大暴れしてるぞ」

 

 と、リディアーヌの問いに暁が答える先、そこではサムライブレードこと沖田総司が、サイラオーグのチームメイトを相手に無双ぶちかましていた。

 

 サイラオーグ・バアルの眷属は決して弱くはない。

 

 マグダレン・バアルの眷属もまた、バアル家次期当主だった男の眷属なだけあって、若手悪魔の中ではかなり強い部類だ。

 

 しかし、それが相手になってない。

 

 これはサイラオーグがアルサムを倒せなければ、紫金の獅子王チームの敗北は免れない。

 

 流石はルシファー眷属。シャレにならん。

 

「……なあ、兵夜。ちょっといいか?」

 

 と、試合を見ていたノーヴェが視線をサイラオーグに向けていた。

 

 心なしか、その表情は険しい。

 

「どうした? なにか気になることでも?」

 

「あの、サイラオーグとかいう人のことだけどさ。戦い方に問題ないか?」

 

 ふむ。

 

「確かにそうですね。有効打はお互いにもらっていないのに、なぜか口から血が流れています」

 

「僕らが見えない、見えない速度で一発もらったとか?」

 

 姫柊ちゃんと須澄が首をかしげるが、別にそういうわけじゃない。

 

「……どちらかというと自壊じゃない? 肉体の限界を超える速度で動いて内蔵が傷ついたとか」

 

 アップ、いい線ついてる。

 

「まあ近いな。そもそも二人はお互いに覇を使っている。アルサムがそうなってないのがおかしいんだ」

 

 本来、覇とはそういう物だ。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)にしろ覇獣(ブレイクダウン・ビースト)にしろ、覇というのは本来自らの生命力を代償として捧げて発動する力。文字通り圧倒的な力を手にすることができるとはいえ、その反動は特別でかい」

 

 そう、それこそが覇が不用意に使用できない理由だ。

 

「普通なら寿命がごっそり削られる、文字通り最終兵器ですの。莫大な魔力でそれを制御できるヴァーリ・ルシファーやアルサムさんがおかしいのですわ」

 

 雪侶の言葉に、全員が振り向いてからもう一度サイラオーグ・バアルを見る。

 

 そう、サイラオーグ・バアルの獅子王の(レグルス・レイ・レザー・レックス)紫金剛皮(インペリアル・パーピュア)・覇獣式は変則的だが覇獣そのものだ。必然的にごっそり生命力を消耗する。

 

「サイラオーグは無能ゆえにアルサムやヴァーリのような手段が取れなくてな。それでも肉体の負担が非常に大きい程度で済むことが、あれが別の意味で化け物なことの証明なんだが……」

 

 とはいえ、そうでもしなければ覇剣を抜いたアルサムに対抗することはできまい。

 

 イッセー達相手にほぼ完勝したこともあり、アルサムは悪魔からの参加チームの中では現時点で最強候補とすら言われている。

 

 既に奴は神クラスすら倒してる。それもイッセー達と戦った時より落ち着いてでだ。

 

 調子ぶっこいて出てきた神クラスの大半は、アルサムに戦慄しているという話すら聞く。

 

 それほどまでに魔王剣の力は恐ろしい……というわけでもない。

 

 ルレアベさえ封じれば勝てると、複数の神クラスが参加しているチームが総力を挙げてルレアベに封印をかけるという戦術を取った。

 

 そしてその隙をついて相手チームの主力戦闘要員がアルサムに殴り掛かり―

 

 ―五分後、全身を殴打されてリタイアした。

 

 それと神クラスの一人はアルサムの魔力砲撃で滅多打ちにされた。

 

 最終的に判定勝負になったが、その神クラスチームはアザゼル杯を辞退したという。

 

 アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスは魔王剣を使うから強いのではない。強いからこそ魔王剣に選ばれたのだと、この時点で誰もがいやというほど実感した。

 

 実際、俺は見ていないがこの試合でのアルサムとサイラオーグは、最初は生身での戦闘を繰り広げていたらしい。

 

 魔力による中遠距離戦というオーソドックスな戦法で、アルサムはサイラオーグ・バアル相手に真正面から渡り合って見せた。

 

 そしてついに魔王剣ルレアベと獅子王の戦斧を抜いて本番という流れだった。

 

「……ただの試合においても、相手の精神を殺す勢いで勝利をつかむ。それほどの執念があったからこそ、サイラオーグ・バアルは悪魔として非才を通り越して無能でありながら、若手最強とまで称されるようになった。その執念、読み間違えると心が死ぬぞ」

 

 いや、冗談抜きでやばいからな。

 

 純血若手悪魔なら、あの二人に並べる者はいないんじゃないか?

 

「……あの旦那にもいろいろあるってことか」

 

 ノーヴェはその試合を見ながら、そう呟いた。

 

 

 



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……金持ちが奢ってくれると聞いたら、ついつい高いものを頼んじゃいたくなるのが人間という者

ちょっと書き溜めすぎたので一話更新!


 

 

 

 そして、その試合もまた判定勝負となり、アルサムが辛勝した。

 

 マジですさまじい戦いだった。どっちが勝ってもおかしくない熾烈な争いだった。

 

 さて、とはいえ今回はまだ夜まで時間がある。

 

 ……ちょっと時間が空いたし、飯でも食うかと外に繰り出したら―

 

「お? 神喰いの神魔じゃねえか」

 

「これは奇遇だな」

 

 帝釈天と曹操が並んでこんなところに居やがった。

 

「……知り合いか、宮白?」

 

 暁がそう聞くが、まあ知り合いというかなんというか。

 

 そういえば、暁たちは開会式にもいなかったし、試合見てなかったな。

 

「古城さん。あの人、神様です」

 

「……え゛」

 

 ヴィヴィオが耳打ちして、暁が唖然となる。

 

 まあ、こんなところで出てくるとは思わないよなぁ。

 

「……紹介しよう。あちら、中国神話体系「須弥山」の長を務めている、インドラこと帝釈天だ。……俺も直接言葉を交わすのは初めてだが」

 

「HAHAHA!! 初めましてだな第四真祖!! お前さんとは一度会ってみたかったZE!」

 

 快活に笑う帝釈天を俺はスルーして、もう一人の方も紹介する。

 

「で、その隣にいるのは英雄症候群をこじらせた元テロリスト、禍の団(カオス・ブリゲード)の二代目首魁、英雄派の曹操だ」

 

「これは手厳しいな」

 

「事実だろうが」

 

 苦笑まじりの返答に、俺はため息交じりに肩をすくめる。

 

「……宮白。そういえば禍の団って国際テロリストだよな? いいのか?」

 

「これが意外なことに人気が出ていてな。異形社会はフリーダムすぎてついてけないときがある」

 

 暁にそう返答するが、しかしまあそりゃそうだろう。

 

 お前らもうちょっと自粛しろよ。グランソードの爪の垢を飲め。

 

 そう思うが、しかし運営が許可をしている以上これ以上は文句も言えない。

 

「まあ、俺としてもあっさりOKが出たことには驚きだ。異形の世界は人間とはずれているようだ」

 

「じゃあ略取監禁洗脳調教人体実験の処罰は人類に任せよう。よかったな。間違いなく正当な裁きとして極刑も出てくるぞ」

 

「おっとそりゃ困る。聖槍の坊主は今やうちの貴重な尖兵だぜ? 各勢力に話も通してんだし、今更そんなこと言われても困るんだがよ?」

 

 痛烈に嫌味を返したら、帝釈天が余計なことを言ってきた。

 

 とはいえ、それを決めるのは俺ではない。

 

「お言葉ですが、それに関して略取された関係者に話は通していないでしょう? 人間世界をあまりないがしろにしてしっぺ返しを食らっても、俺は関知するつもりはありませんので」

 

「HAHAHA。手厳しいぜ!!」

 

 この野郎……っ。

 

「ま、まあ確かに犯罪はよくないよな」

 

「そ、そうですね。辻試合とかはいけないですね」

 

 後ろで約二名がどもっているが、後でなんか奢ろう。

 

 とはいえ、別に俺は彼らと親密な関係というわけでもない。

 

 そろそろお暇しようと思ったんだが―

 

「ちょうどいい。昼飯まだだろ? 奢るぜ?」

 

 といって帝釈天が、隣にある飯屋を指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん。とりあえずビールと枝豆とから揚げとフライドポテトください」

 

 ビタミン、たんぱく質、炭水化物を全部コンプリートと。

 

「お前さん、容赦ねえな」

 

 やかましい。こうなったらやけなので目一杯食ってやる。

 

「まあいいぜ。なにせ須弥山のトップやってっから金は腐るほどあるしな。飯屋のメニュー程度で破産するほど貧乏じゃねえからどんどん喰いな」

 

「では俺も遠慮なく食べさせてもらいますよ」

 

 曹操もためらうことなく高いものを注文し始めた。

 

 さて、とりあえずメニューも注文したし、ビールも来たしだべるか。

 

 しかし何についてだべったらいいものか。できればここで交渉したいところなんだが……。

 

「……神様っていう割には、なんていうか神聖さがないんですね」

 

「聞こえてるぜぇちっこいの。ま、そいつは正論だがな」

 

 結瞳ちゃんの小声を耳ざとく聞きつけた帝釈天だが、しかしまったく気にしていないようだ。

 

「神様っつっても所詮は生き物だ。俗っぽい連中もいれば器の小さい奴だってゴロゴロいる。……ぶっちゃけ大半の神共は「和平とかマジむかつくぜ。他の神話体系とか滅べバーカ」って思ってるはずだしな」

 

「……そういうの、こういうところでいうのやめてくれません?」

 

 問題発言をこんなところでぶちかますな、このクソ神。

 

 とはいえ、確かに和平に不満を内心で持っている奴がいまだ多いのは想定の範囲内だが。

 

「そんな状態だってのに国際大会って、大丈夫なのか?」

 

「逆だ、第四真祖。そんな状況だからこそ、堂々と殴り合いができるこの機会が生きるのさ。全力で殴り合ってガス抜きすりゃぁ、少しはストレスも発散して馬鹿なこと考えねえだろうとか、アザ坊は考えてたんだろ」

 

 暁にそう答えながら、帝釈天はため息をつく。

 

「……こっちとしちゃぁあきれ半分だが、鼻っ柱へし折れたそいつらは、当分はおとなしくしてるだろうしな」

 

 ……あきれ半分、か。

 

 まあ、どういうことかは俺も推測し始めている。

 

「……お言葉ですが帝釈天様。神クラスは現時点でも勝率は高い方だと思いますが?」

 

「そうですね。全部知っているわけではありませんが、神が在籍しているチームの多くはランキングも上位だと伺ってますが」

 

 姫柊ちゃんとハイディが首をかしげるのも当然だろう。

 

 神クラスは、どこのチームも基本的には高い勝率とレートを持っている。腐っても神々は異形でも上位存在だからな。

 

 だが―

 

「そう、高い勝率を持っている連中が大半だ。……だが、トップ陣営ってわけじゃねえ」

 

 そう、そうなんだ。

 

「このレーティングゲームで全勝してる連中なんてのは、神クラスでもそうはねえ。むしろお前さんたちや神喰いの主のような若手の悪魔とかが多いってわかってるか?」

 

 帝釈天はそういうとビールを飲んで一息つく。

 

 そして、盛大にため息をついた。

 

「マッチングの運ってのもあるんだろうがな。若手の化け物共に負けてる神クラスも割と多い。それで鼻っ柱が折れてんのさ、木っ端の神々はな」

 

「……意外と根性ねえんだな」

 

 グランソードが微妙にあきれるが、しかし帝釈天はむしろ当然といった表情だった。

 

「まあ、大半の神チームはこう思ってたんだろうよ。「神である俺たちが胸を貸してやろう」とか、「身の程知らずの下等種族共に神の力を見せつけてやろう」って感じでよ」

 

 そう言いながら、帝釈天は店に備え付けのテレビに視線を向ける。

 

 そこには、かつての雷光チームとイッセーたちの戦いの映像が映っている。

 

 ちょうど、乳乳帝を発動させてフィールドを吹きとばしている光景だ。

 

「ところがどっこい。神喰いのダチの赤龍帝の坊主やら白龍皇たち若手が大暴れ。さらには異世界出身の第四真祖《おたく》や、ヴァトなんとかが神クラスでもそうはできねえような破壊を巻き起こしてやがる」

 

 さらにテレビの映像は、ほかのチームの戦闘も見せている。

 

 その中には、剣と小銃をもった人間の男が、フィールドをぽんぽん吹っ飛ばしている。

 

「挙句、曹操みてえな有名人ならともかく、今映ってるガキみてえな無名がさらに大暴れだ。俺は大笑いしてるが、笑えなくなってる馬鹿どもも多いのさ」

 

 そういう帝釈天は、思ってなかった展開にぽかんとしている暁たちに視線を向ける。

 

「実際のところ、神っつっても戦闘系ばかりじゃねえからな。今回の大会に意気揚々と名乗りを上げたのは、芸能関係とかの非戦闘系が多いの。戦闘系の大御所は、今回運営をやってる連中も多いからな」

 

「それでも勝率はまだ悪くない。……だが、望んだ結果でないものも事実といったところなのさ、神々は」

 

 曹操がそういうと、ため息をついた。

 

「俺と天帝の予測では、おそらく神クラスを含めて何割かのチームがこのアザゼル杯から降りるはずだ」

 

「雑魚神と同様に、根性のねえ糞雑魚のチームもそろそろ逃げ腰になるはずだZE? 優勝賞品に目がくらんで、身の程わきまえてなかっただけの奴らがな」

 

 その推測はおそらくあたりだろう。

 

 まあ、まさにスケールがシャレにならんからな。ビビッてリタイアするチームはそこそこ出るとは思っていた。

 

「まあ、イッセーにぃの本気の攻撃とか喰らいたがる手合いはそうはいないでしょうし、仕方がないことかもしれませんけれども」

 

「参加することに意義があるとか、強者に胸を借りるとかいう発想じゃねえってわけか」

 

 雪侶とグランソードがそう漏らすが、まあ確かにな。

 

 その視線に苦笑を浮かべながら、帝釈天はこっちを見渡した。

 

「そういう意味じゃぁ、俺はお前さんたちには期待してるんだぜ?」

 

「……それは、光栄に思うべきなんですかねぇ」

 

 俺はそっけなく返すが、帝釈天はまったく気にしない。

 

「HAHAHA! 何言ってんだ神喰いの神魔《フローズヴィトニル・ダビデ》!! ロキとハーデスをあの手この手でボコボコにした奴が、本戦出場もしねえとは思ってねえよ」

 

 確かに、そういわれると困るところもあるが。

 

 とはいえ、こちらも優勝を目指しているが。

 

「まあ優勝はしたいな。……そろそろ出費が許容値を超えかけている」

 

「……なんか、悪い」

 

 うん、暁よ。優勝賞品のお前の取り分は損失補填にあてさせてもらうからな。

 

「HAHAHA! 天下の出世頭の神喰いの神魔が、まさか金を願うとはな!! そんなに金かかってんのかよ、第四真祖は?」

 

「トラブルが頻発で被害も頻発で、損失補填がそろそろ日本円にして千億の大台に届きそうで……」

 

 ちょっと世界を救った英雄を助けてくれませんかと、魔王様に頭下げることも考えた方がいいだろうか?

 

「……なるほど、金は確かに大事だ。確保できるときに確保した方がいいな」

 

「……英雄英雄言ってるお前が金にこだわるとはな。そんなに賠償金苦労してるのか」

 

 曹操さんや。おたくそんなに金にこだわるイメージなかったんだがな。

 

「いや、金の力というものは英雄派を組織する前からよく知っている。特に、貧乏暮らしの者にとって金の魔力はすべてを狂わせるに足るものだからな。あまりなめてかからない方がいい」

 

 なんか、すごく実感籠った言い方してるな。

 

「何だよお前。金に困って内臓でも売り飛ばした知り合いでもいるの?」

 

「金に惑わされて子供を怪しい施設に預けようとした者たちなら知っている」

 

 曹操はそういうと、俺達に視線を向けた。

 

「金の力と金の使い方はよく知っておいた方がいい。金で人生を翻弄しているものからの忠告だ」

 

 俺はその言葉に、帝釈天に視線を向けた。

 

「曹操の存在を秘匿していたのはアザゼルから聞いてましたけど、金で買収してたんですか?」

 

「いやいや違うZE? 金で解決しようとしたのは別の連中だ」

 

 ふむ、まあ深入りするのはやめておくか。

 

「とはいえ、あれだけの強者と平和的に戦う機会などこれまでにないだろうに、もったいない連中が多いのがアレだな」

 

「あ、確かにそうですね。無差別級であんなすごい人たちと競い合える機会なんて、そうないですし」

 

「ヴィヴィオさんの言う通りです。宮白さんと仲のいい桜花さんみたいに、お強い方が何人も参加しているこの大会に参戦できるのは、すごい名誉なことだと思います」

 

 曹操のボヤきに、ヴィヴィオとアインハルトがそう答える。

 

 その純粋な言葉に、曹操は思いっきり苦笑した。

 

「……その通りだ。まあ、俺としてはさっきとは別の意味で肩透かしを食らってはいるのだが」

 

「そんなに? そんなに弱い人とばかりあたってるの?」

 

「マッチングの運が悪いんだねっ」

 

 須澄とトマリがそう聞くが、そういう意味じゃない。

 

「……代わってほしいわね」

 

 そういう意味じゃないからアップはうらやましそうな表情を浮かべるな。

 

「……いや、強者と戦うためにテロまで起こしたのに、起こしてから一年たたずに堂々と参加できる機会に恵まれると、我ながら不条理に近いものを感じてな」

 

「散々テロっておきながら参加できることを感謝しろや」

 

 グランソード。もっと言ってやれ。自嘲しろと。

 

「第一、てめえら所詮禁手どまりじゃねえか。案外予選落ちするんじゃねえの? 禁手を昇華させてる赤龍帝や、覇を昇華させてる白龍皇には届かねえだろ」

 

「言ってくれるじゃないか。こちらもドーピングとはいえ、神器そのものを強化したことがあるんだけどね」

 

「いやいや。赤龍帝を参考に禁手を拡張させた大将ほどじゃねえよ。第一ドーピングなら俺がいるから大将もできるしな」

 

「はっはっは。その禁手の拡張も悪魔の駒だよりだろう? 俺たちは人間だからな」

 

 曹操とグランソードで言い合いが始まり火花が散るが、君たち飯がまずくなるからケンカしない。

 

 まあ、それはともかく―

 

「その禁手の拡張だが、一枚かまないか?」

 

 俺はそう告げた。

 

 さて、そろそろ商談と行こうか。

 




味方もごっそり残っているけど、敵もごっそり出てきそうなのでてこ入れ中。

こと神器の拡張を兵夜が実行したので、神器保有者だらけの英雄派はてこ入れしやすいです!!


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神が神を利用して神を見定めるというのがないようだけどややこしい

とりあえず、ちょっとだけある書き溜めを全部出すことにします。


 

 その言葉に、帝釈天と曹操は目の色を僅かに変える。

 

 現状、須弥山はある程度の警戒を受けていると言ってもいい。

 

 曹操を秘匿していた帝釈天も、そもそも禍の団の二代目首魁である曹操も、現政権側からすれば警戒の対象だ。

 

 更に英雄派に苦しめられた兵夜からすれば、その警戒度合いは更に高まるはず。

 

 そこに、思わぬ商談が舞い込んだ。

 

 これは興味が惹かれる。

 

「ほぅ。具体的には?」

 

「いや? 既に禁手の拡張に関してはイッセーと俺とでデータは出てるからな。ついでに木場のパターンもいい参考資料になった」

 

 そういうと、兵夜はしかしわざとらしく肩をすくめる。

 

「だが残念な事に、この拡張の臨床データが不足していて、実際に他の神器保有者で試そうにもまずは試験が必要だ。神器保有者は人間もしくはそれに連なるものだから、軽々しく実験するわけにもいかない」

 

 そういうと、更に兵夜はそっぽを向いて棒読みを始める。

 

「あー。どこかに実験体にしても心が痛まないテロリストみたいな連中とかいないかなー」

 

「HAHAHA! 腹の探り合いはやめようぜ? ……どうせお前さんのことだ、すでにある程度の安全は確保できてんだろう? でなけりゃお前さんは自分の体で試さねえよ」

 

 棒読みを遮る帝釈天の言葉に、兵夜はにやりと笑った。

 

「対価は簡単。……輪廻転生に大きく関わるインド神話と仏教の技術を借りたい。あと聖槍の力も借りたい」

 

 その言葉に、曹操は少し疑念の色をのぞかせた。

 

「聖槍ならあるだろう。そこに平行世界のが」

 

「ヴァレリーのことを考えれば、聖遺物はいくつあっても足りないだろう?」

 

 兵夜の返答に、曹操はどういうことかをすぐに察した。

 

「……聖杯を何に使う気だ?」

 

 聖遺物に連なる神滅具、幽世の聖杯は精神を汚染する。

 

 それを抑制するのに聖遺物が有効である事は既に分かっている。

 

 だがそれでも聖杯は危険度が高く、このアザゼル杯でもその真価は一切発揮されていない。

 

 確かに、そんなものを使うのならば制御の為の聖遺物はいくつあっても足りないだろう。

 

「ちょっと困った事があってな。生命の理に干渉する聖杯や、輪廻転生の技術を流用する事でアプローチをかけたい。アザゼル杯の優勝商品でどうにかする余地もあるが」

 

「言うじゃねえか。そのためなら、シヴァとやり合う予定の俺の戦力の曹操を強化するってか? アザ坊から何か言われるんじゃねえか?」

 

 帝釈天の言葉は当然だろう。

 

 三大勢力は基本的に帝釈天を警戒している。

 

 かつての四大魔王が全員でかからなければ渡り合えない、神クラスの中でも最高峰の武闘派。しかも曹操を隠しており、シヴァとの決着を目論んでいる節がある。

 

 今の情勢において危険因子なのは間違いない。

 

 しかし、兵夜は肩をすくめた。

 

「……単刀直入に言おう。俺はシヴァ神をそこまで信用してない」

 

 はっきりと、兵夜は言い切った。

 

「シヴァ神はそもそも世界を破壊することが役目の存在だ。アザゼルはトライヘキサに対するカウンターとして協力を取り付けていたようだが、アジュカ様はそれを利用して異世界に破壊をもたらしに行くのではないかという懸念を抱いていた。……ああいう目的や掴みどころがわかりきってない相手は、全面的には信用できないだろう?」

 

 つまり、兵夜はこう言いたいのだ。

 

 目的が分かっている帝釈天の方が、まだ交渉相手として安心できる。

 

 その意図を明確に理解して、帝釈天は笑みを深くした。

 

「HAHAHAHAHA!!! お前さん、頭のねじぶっ飛んでんじゃねえか? じゃあ何か? 俺が条件として「お前の優勝賞品でシヴァとやらせろ」って言ったらくれんのかよ」

 

「流石にそれは客観的に見て等価じゃないでしょう? もっとも、須弥山が俺の暁絡みの損失及び、現時点の予定に必要なピースを全部用意してくれるっていうなら……俺の取り分ぐらいはOKですがね」

 

 ヴィヴィオたちの分を引いた上でではあるが、と兵夜は告げるが正気とは思えない。

 

 しかし、あまり迷いなく返されれば、帝釈天としても感心する他ない。

 

 間違いない。この男、頭のねじが十本は吹っ飛んでいる。

 

「まあ、目的達成の過程において神滅具級の人造神器が手に入るでしょう。シヴァ神を相手に実戦テストしてくれるってのはありですねぇ」

 

 周りのチームメンバーを微妙にドン引きさせる中、兵夜はにやりと笑う。

 

 そして、帝釈天と曹操はにやりと笑う。

 

「赤龍帝も驚かせてくれるが、お前さんもまた驚かせてくれるな」

 

 帝釈天は、今目の前にいる男を更に認めた。

 

「赤龍帝の奴は普段も本気もB級だが、肝心なところでSSSを叩き出すようなイレギュラーだ。だが、てめえはある意味もっととんでもねえ」

 

 そう、この男はある意味もっととんでもない。

 

「根っこはC級なのに無理やりA級まで押し上げて、挙句の果てに必要な時はあの手この手でSSSまで引き上げやがる。赤龍帝も常識外れだが、お前さんもぶっ飛んでるZE!」

 

「それはどうも。頭のねじが外れてるのは自覚済みです」

 

「外れ方の自覚は足りないだろうけどね。あったらこんなところで話したりはしないだろう」

 

 サラリと帝釈天の言葉に笑みを深める兵夜に曹操は微妙に引いていた。

 

 少なくとも小学生前後の年齢の子供が四人もいるところでいう話ではない。

 

「別にばれたらばれたでやりようはあるからな。アザゼル杯の公式ルールの範囲内だし、第一、アザゼル杯の優勝賞品は世界に混乱を生まない程度の願いしか叶えられないんだから、シヴァ神と帝釈天の戦いが世界の混乱を生まないと判断されるのなら問題ない。……ついでに言えば―」

 

 一旦言葉を切り、兵夜はにやりと笑った。

 

信用しきれない相手(シヴァ神)の手の内が見れるなら、それはそれで俺にとっても得だしな」

 

 その言葉に、ほぼ全員が更にちょっと引いた。

 

 つまりこの男はこう言っているのだ。

 

 帝釈天を利用して、シヴァ神の底を図るのも一興だと。

 

 そんなことを堂々とこんなところでいう神経もシャレにならないが、一神話体系のトップを餌に一神話体系最強の神を丸裸にしようという精神もまたぶっ飛んでいる。

 

「一周回って感心したんだけど」

 

「同感だノーヴェ。俺達、とんでもないのと仲良くなったんじゃねえか?」

 

 ノーヴェと古城の感想が切っ掛けとなったのか、帝釈天は豪快に大笑いした。

 

「ははははははははははっ!!! 俺を目の前で俺をダシにする言い切るとか、お前さんちょっと面白すぎるZE!!」

 

 目に涙すら浮かべて大笑いをしてから、帝釈天は早々に視線を向ける。

 

「どうすんだ? 俺は許可だすぜ、お前さんの強化によぉ?」

 

「貴方のお許しが出たというのなら、俺としては断る理由はありませんね」

 

 曹操もまた、表情を笑みへと変える。

 

「人間がどこまで超常の存在に立ち向かえるかを試すのが英雄派の理念。人間の力である神器を高める研究は、俺にとっても望むところだ」

 

 その言葉に、兵夜は満足げな表情で頷いた。

 

「商談成立! んじゃぁ、これからすぐにでも始めるか? ……どうやら身をもってその成果を楽しめそうだからな」

 

 その言葉とともに、兵夜は視線をテレビへと向けた。

 

 見ればテレビは次の試合のマッチングを現していた。

 

 そして、今まさに次の試合のマッチングが出ていた。

 

 神喰いの神魔チームVS天帝の槍チーム

 

 黄昏の聖槍同士の戦いという、本来あり得ない戦いの狼煙が上がろうとしていた。

 




シヴァ神を信用しきれない兵夜。割とわかりやすい帝釈天を使い、そこを見定めるのも一興と考えてます。頭のねじがぶっ飛んでますね。




……それと、交渉次第で古城がぶっ壊した分の修繕費を立て替えてもらえるかもしれないという算段もあります。相変わらず黒い。


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なんかこの辺の動機を勘違いされてるんだよなぁと、愚痴を言ってみる

ケイオスワールド2において緊急事態が勃発したので、活動報告に書いてみました。

それに伴い書き溜めの消化も必要なので、連絡もかねて投稿いたします。


 

「……で?」

 

「どうするんだよ?」

 

「何がだよ」

 

 俺は暁とノーヴェの視線に返答した。

 

 今回の試合までに曹操達の強化をある程度成功させる必要もあり、割と忙しいんだが。

 

「忙しいんだがじゃないですの!! 正気ですの!?」

 

 雪侶までなんで心を読んでツッコミ入れるんだよ。

 

 まあ、言いたいことはわかる。

 

 なんで敵に塩を送るんだってとこだろうな。

 

「とはいえ、必要なことではある」

 

 ああ、これは必要なんだ。

 

「そもそもこの戦いは、来るべきE×Eとのもめ事に対処するための強者育成も多分に含んでいる。……その際当事者となるのは、初老の年代となった曹操達だ」

 

 そう、神滅具保有者は基本的に一世代に一人。

 

 つまり、40~50代の曹操達が、E×Eと揉めるときの尖兵となるのだ。

 

 老いに関しては魔術師(メイガス)の技術を提供すれば十年ぐらいは何とかなるだろうが、それにしたって限度がある。

 

 ならば、イッセーがいたり木場が変則的な形で見せて、俺が形にした神器の拡張発展。

 

 これは、ぜひ開発体制を確立させたい。

 

「それに、結夢ちゃんのリリスをどうにかするにもある程度の礼儀ってものが必要だ。魔術の基本は等価交換である以上、対価もなしに技術を貸してもらうのも気が引けるしな」

 

「あ、技術提供ってリリスをどうにかする為だったですね」

 

 なんだと思ってたんだ、姫柊ちゃんや。

 

 とはいえ、暁の文句ももっともだ。

 

 なにせ敵は最強の神滅具のそのまた超優れた使い手である曹操だ。

 

 人間主体のチームでは現状最強候補。本戦出場も確実視されている。

 

 それがさらに強化されれば、確かに危険視する者もいるだろう。

 

 だが、それでもこれは必要だ。

 

「ぶっちゃけ、曹操は本戦出場候補であっても優勝候補じゃないからな。優勝候補に迄強くしたうえで勝てないと、俺達の優勝確率はごっそり減るんだよ」

 

 俺はうんざりしながらそう告げる。

 

 なにせ、ほかのチームにやばいのが多すぎる。

 

 帝釈天のチームは直下の四天王を全投入。

 

 闘戦勝仏こと初代孫悟空のチームもかつての同僚全員投入。

 

 北欧神話のスルトのチームも大暴れ。

 

 さらに次期主神二人がタッグを組んだ巨人たちの戯れチーム。

 

 うちの姫様に至っては、神器神滅具最有力候補ギャスパーも含めて、神滅具が三つ。それも駒価値八のミスターブラックをまだ投入してない。ついでに言うと戦車の駒分が開いている。

 

 彼等に比べれば神滅具をリーダーにしているとはいえ、神器を禁手にした程度のメンバーなどたかが知れている。

 

「……おたくの結瞳ちゃんのことをどうにかするには優勝賞品がほしいところだ。あと俺が破産しないためにも」

 

「いや、本当にすまん……」

 

「そこをつかれると弱いですね……」

 

 暁と姫柊ちゃんが同時に視線を逸らす。

 

 うん、出費が甚大だからね。ホント。

 

 俺、破産しないだろうか……。

 

 微妙に暗くなってきた雰囲気をどうかするためか、ノーヴェは咳払いをすると話を元に戻そうと机をたたいた。

 

「それはともかく! 勝ち目あるのかよ、そんな状態で」

 

「勝たなきゃ優勝は難しいな。まあ、其のままの状態でも楽に勝てる相手ではないんだが」

 

 実際大変だからな、曹操は。

 

「こと曹操の通常禁手が厄介だ。あれ、状況対応能力なら神滅具の中でも随一だからな」

 

 そう、非常に実に厄介だ。

 

 七宝による状況対応能力は極めて絶大。

 

 最強の人間候補は伊達ではない。

 

「最大の問題は、女性無力化能力だ。女性陣の多い俺らでは完封されかねない。加えて男どもで挑むにしてもこれまた単独では不可能ときたもんだ」

 

「確かに。女宝を突破するのは単独で曹操と闘えるぐらいの土俵にないと無理ですものね……」

 

 雪侶がため息つく通り。

 

 少なくとも、英雄派と渡り合った頃のグレモリー眷属女性陣では不可能。まともに戦えたのは駒王学園関係者では久遠1人だった。

 

 かといって一対一で久遠と同格の戦闘能力を持っている奴がいるかとなると、ノーヴェがギリギリといったところか。

 

 しかし曹操も腕を上げているからこれも不安。

 

 と、言うわけで俺か須澄か暁で挑むのが無難なんだ……といいたいが。

 

「ぶっちゃけ、三者三葉で不利だからな、野郎どもも」

 

 グランソードさんや。わかってるなら今からでもリザーブに参加してくださいな。

 

 実際曹操はうちのチームにとって鬼門だ。

 

 女性陣は女宝で壊滅の可能性が甚大。かといって男どももそれぞれ別の意味で相性が悪い。

 

「まず俺だ。……ぶっちゃけ神格兼悪魔の俺は本気の奴に近づくだけで死ねる」

 

 うん、絶望的に不利。

 

 いぜんカモとまで言われたが、実際カモだ。

 

 拡張させた禁手を使えば、神殺しの聖槍であるあれは俺にとって致命的なまでに効いてしまう。

 

 まあ、そこは俺も拡張した禁手で対応可能だからまだましな部類だ。

 

「で、須澄は単純に相手が格上。っていうか禁手の方向性」

 

「うぐ、ぐぅ……。確かに一対一だと勝てる気がしないね」

 

 ああ、禁手の方向性がこの場合相性を大幅に傾ける。

 

 曹操の禁手は、ヴァーリ曰く自分一人でも神々と戦争することを考慮した禁手。故に個人での状況対応能力をここぞとばかりに挙げている。

 

 反面須澄の禁手は一人でいたくないから生まれた禁手。使者を取り込み戦力を増やすため拡張性ならはるかにしのぐが、当人が増やす気がないのでこれは意味がない。しかもアップもトマリも女宝を喰らうとまずい。

 

 そして須澄と曹操が一対一で戦ってどっちが強いかとなると……もうあれだ。

 

「バカな方の兄さんは、エイエヌはどうやってそんなのから聖槍奪ったの?」

 

「アイツ意外とうっかりしてるから、毒でも盛られたんじゃないか?」

 

 須澄、現実逃避はやめよう。

 

「じゃあ、古城さんはどうなるんですか?」

 

 と、ヴィヴィオが最後に残った暁の相性の悪さを指摘する。

 

 まあ、これに関しては簡単だ。

 

「曹操は基本的に、大火力砲撃をまともに喰らわないからだ」

 

 七宝の能力はその名の通り七つ。

 

 女性の力の封印。

 

 武器の破壊。

 

 転移能力。

 

 攻撃を受け流す。

 

 飛行能力。

 

 分身の生成。

 

 そして大火力の一撃。

 

 これら七つの機能を使うことで、曹操はあらゆる状況に対応する。

 

 そして、大火力攻撃に対しては大きく分けて三つ対応できる。

 

 転移して交わすなり、迎撃するなり、もしくは受け流してぶつけるなり。

 

「ぶっちゃけ一定以上の技量がなければパワータイプは奴のカモだ」

 

 さて、どうしたものかと俺は考え、そして同時にメールに気づく。

 

「……お、グリゴリから通販のメールが来た」

 

 こうなったら素直に頼るか。

 

「なんだ? なんかいろいろ映ってるが」

 

「デバイスか何かか?」

 

 暁とノーヴェがのぞき込む中、俺は真剣に目を通しながら告げる。

 

「グリゴリの作った人造神器のチラシだよ。これぞいい機会だということで、テスターを募集したり売りつけたりしてるんだ」

 

 ふむ、何かいいものないかねぇ。

 

 俺はそれを見ながら何かないか考え―

 

「……あ、いいこと考えた」

 

 ぽんと、手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てなものないか? 金はこれだけ出す」

 

『お前、相変わらずすごい発想で仕掛けてくるな』

 

「あれのデータを取るなんて、普通の方法じゃ不可能だろ? これもまたいい経験だと思わねえか?」

 

『ま、そういうことなら別にいいか。……なお、実験に失敗しても当方は一切関知しません』

 

「へいへい了解。だが、これができれば暁の問題も大幅に解決しそうだ」

 

『だろうな。だが、確かに発想としちゃありだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、注文の品はさっさと送ってくれ、アザゼル」

 

『わかってるよ。んじゃ、勝って見せろや、宮白』

 



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