きゃすたー・おぶ・じ・あるとりあ (ヤトラ)
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きゃすたーとばーさーかー
A:私が描くとしたらこんな感じ。
7/22:誤字修正。報告ありがとうございました。
私は愚か者です。王でありながら苦しむ民を見捨てられなかった。王でありながら救える手立てを考えてしまった。
私は臆病者です。円卓の騎士に応えられなかった。モードレッドを愛したかった―――息子と呼びたかった。
私は卑怯者です。王としての責務を。王としての道を。王としての未来をモードレッドに全てを押し付けて、逃げた。
己を偽り、己を捨て、そんな己を受け入れ、そんな己を蔑んで、私は逃げ続けた。
苦しむ民を救いながら。食物を得ながら。薬学を学びながら。魔術を学びながら―――騎士王モードレッドを陰で支えながら。
国は滅べど、いつしか自分が夢見た【
―――
「問います、貴方が私のマスターですか?」
カルデアのマスター・ぐだ男こと藤丸立香は、目の前の召喚されしサーヴァントを見て頭を抱えた。
―――またアルトリア顔か……と。
しかも今度のアルトリア顔のサーヴァントは……これまでにない新種だった。
聖剣を抜きし騎士王でもなく、槍を携えし獅子王でもなく、薔薇の皇帝でも桜の新選組でも、絶対アルトリア顔殺すウーマンでも闇堕ち騎士王でもない。
バトルドレスをアレンジしたような青と白のローブ。宝石が埋め込まれた自分の背丈ほどもある樹の杖。程々に育った乳。
どこか憂いを帯びた表情で微笑み、申し訳なさそうに頭を下げるアホ毛の少女は。
「キャスター・アルトリア。全てから逃げ出した臆病者ですが、貴方の救いとなれれば幸いです」
―――
召喚を終えたカルデアメンバーの取った行動は、マシュと藤丸立香、そしてキャスターの三人での会話だった。
どうも落ち着きのない彼女を刺激させない為、他のサーヴァントを遠ざけ面談用の個室で話し合う事にした。
「えっと……つまり貴方は、騎士王を辞めて魔術師となったアルトリア・ペンドラゴン……でいいんですよね?」
マシュ=キリエライトは目の前のキャスターにそう問いかける。先ほど簡易的な自己紹介をしたのだ。
「一つだけ訂正を、マシュ=キリエライトさん……私は騎士王の責から
「あ、あのキャスターさん」
「キャスターと呼ばれるのも私には不相応です。適当にアルとでもトリアとでも……まぁ私如きに名など意味を成さないのです。『キャスター擬き』の方がまだ私らしいですね」
どよん、という効果音が似合う程に暗い笑みを浮かべるアルトリアに対し、マシュはどうすればいいのかと戸惑っている。
無理もないと隣で茶を啜る藤丸立香は思う。これまでカルデアに召喚されしアルトリア顔のサーヴァントとは対応が全然違うのだから。
王の威厳だとか覇気だとか高潔さとかカリスマとか、そういうのが一切ない。というか暗い。
顔を隠すようにローブを目深に被り俯いて話す彼女は気弱で、薄幸美人のような儚さを感じさせる。
それでも魔術師としての才の無い彼から見ても、彼女から発せられる魔力はかなりの量だと解る。
「あれが魔術師としての私か……弱いな。色々な意味で弱い。同じ私だと思いたくないな」
「くっ……ついにキャスターのクラスでも降臨してしまいましたか……闇討ちをするなら今か……っ!」
「落ち着きなさいアサシンの私。仮にも彼女はカルデアのサーヴァントとして召喚されたのです。闇討ちしては逆に怪しまれます。いっそレイシフト先で事故に見せかけて後ろから……」
「いえ、それもダメですからね騎士王の私」
「ですけどね獅子王の私」
半ドアの陰から顔を覗かせているアルトリアシリーズの皆さん、隠れているつもりでもしっかり見えているからね?
視界に収めなくても気配と声で解ってしまったマシュと藤丸は、アルトリアシリーズの皆をどう説得しようかと考え……ふと前を見る。
そこには対面するように座っていたはずのキャスターの姿がなかった。
アルトリアシリーズの殺気に当てられ霊体化したのかと思ったが、ふと部屋の隅を見ると……。
「ごめんなさいごめんなさい本来の私ごめんなさいこんな私になってしまってごめんなさい生まれてきてごめんなさいいっそ殺してくださぃぃぃ……」
部屋の隅でガタガタ震えて懺悔する
とりあえずアルトリアの皆さんにはお引き取り願おうと、立香は席を立つのだった。
さて、
ここで立香はキャスターに質問してみる―――どうして騎士王から魔術師になったのかと。
騎士王としてのアルトリアは、いずれも王としての何たるかを胸に抱いている。堕ちようが槍を持とうが、それだけは変わらない。アサシン?彼女の事は置いといてお願い。
「……私は苦しむ人々を捨て置けなかった」
ボソリと口を開いたキャスターの顔は、意を決したように真剣な眼差しを2人に向け、語り出す。
―――
切欠は、痩せこけた少女と、それを抱える少女よりも酷く痩せた母親を見た時だった。
キャスターはその親子が忘れられず、いつしか王としての自分が正しいのか悩むようになった。
国は救えど人は救えず。たった2人の親子ですら救えない自分はブリテンを救えるのだろうか?
人を意識し始めた騎士王は、様々な『人間』を深く知る事になった。ランスロットの事も。ギネヴィアの事も。モードレッドの事も。
彼女は人を愛したくなった。円卓の騎士に頼りたくなった。息子を愛したくなった。―――されど、王の立場がそれを許さない。
蛮族を討ち取り国を支えている間にも、死者は増え、円卓の騎士との間に亀裂が走っていく。―――王でいることが苦しくなった。
やがてモードレッドに全てを押し付けて逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。
自らの届く限りの命を救う為に。王としての自分から逃げる為に。国の滅びという事実から逃げる為に。
―――
「私は卑怯者です。モードレッドを認めておきながら、何も言わず全てを押し付け、民の救済という免罪を以て胸の罪悪感を消そうとした……ブリテンの為にならないと知っておきながら。何故このような並行世界の私を英雄の座に組み込んだのか意味が解りません……」
「そんな、自分を卑下しないでくださいアルトリアさん!いろんな人を救ってきたんじゃないですか!それは無駄ではないですよ!」
「ええ無駄ではなかった……しかし私はブリテンと円卓の騎士を捨てたのです……あぁ……
何故か死ぬこと前提で懺悔しているキャスターを必死に宥めるマシュ。カルデアには何名か円卓の騎士が居るのだが、このアルトリアに会わせたらダメかもしれない。
それにしても相当なネガティブキャラだなーと立香は困ったように頭を掻く。こういったネガティブ思考な英雄も居たが、ここまで露骨なのも珍しい。
ブーディカかエミヤに協力してもらうべきだろうかと考えている中、ドタドタと走る音が聞こえてくる。
「お兄ちゃーん!お兄ちゃーん!手伝ってー!」
慌てた様子で入室してきたのは、立香の双子の妹、藤丸立夏だった。オレンジ色の髪がチャームポイント。
彼女も兄同様生き延びたマスター候補の1人で、様々なサーヴァントのマスターとして活躍している。因みに口数の少ない兄に比べてよく喋る。
「バーサーカーが召喚されたんだけど、ネロを見た途端暴れ出しちゃって!皆に抑えて貰ってるけど聞く耳持たなくて!お兄ちゃん達も説得に協力して欲しいの!」
そういえば
シールダーとしても優秀なマシュが居れば説得も捗るだろう。マシュとキャスターに共に来てもらうよう願い、慌てて誘導する立夏に続く。
因みにどんなサーヴァントなのかと立夏に問いかければ、何故かキャスターを見て言う。
「モードレッドを名乗ったそっくりさんだけど……そこのキャスターさんの知り合い……だったりする?」
この言葉を聞いた途端、
―――
父上は愚か者だ―――優しすぎたんだ。国を、民を、そして円卓の騎士を常に想ってきた。それだけの行動力も知恵もあった―――度胸は無かったが。
父上は臆病者だ―――寛容すぎたんだ。自分の枷になると知りながら受け入れる程、父上は周りを気遣っていた。ランスロットの事もギネヴィアの事も―――俺の事も。
父上は卑怯者だ―――これだけは譲れない。俺を後継者と認めてくれた。俺に王の責務と恐怖を語った。円卓の騎士と語り合った―――なのに、俺の元から去っていった。
俺は怒り、悲しみ、憎み、父上の名を叫び続けた。父上を探し続けた。父上の代わりに戦い続けた。
腹いせに赤き竜をぶっ飛ばした。怒りに任せ蛮族をぶっ飛ばした。八つ当たりでマーリンをぶっ飛ばした。いつしか騎士王でなく勇猛王と呼ばれるようになった。
国の滅びこそ受け入れど、父上が夢見た【
―――
「ちぃぃぃぃちぃぃぃうぅぅぅえぇぇぇぇ!」
「余は其方の父上でないと言っておろうがぁぁぁ!」
これで何度目のやり取りだと、赤セイバーことローマ皇帝ネロ・クラウディウスは怒りを発する。
獣の咆哮の如き叫び声をあげているのは、モードレッドであった……ただしエミヤとクーフーリンの2人と共に取り押さえているのもモードレッドである。
バーサーカーのクラスで召喚されたこのモードレッドは、赤き竜を模したような刺々しい鎧を着込み、手には紅く染まったエクスカリバーらしき剣が握られている。
そんな凶悪極まりない得物を振り回さないよう、
「ダメですよネロさん下手に刺激しちゃチヘドッ」
「がぁぁぁぁぁ!なぁぁぁぐぅぅぅらぁぁぁせぇぇぇろぉぉぉぉ!」
血反吐を吐く沖田にも、その獣の咆哮の如き叫びと殺意を向ける
2人の英雄に体を、己と同じ存在である反逆の騎士に片腕を抑えられながら抵抗の意を示し、今にもアルトリア顔の2人を叩き潰さんと暴れ続けている。
その怒りと筋力はこの場に居るサーヴァントの肝を冷やすには十分であった。ていうか目がヤバい。完全に獣の目だこれ。
「2人ともさっさと離れろ!こいつ相当な馬鹿力だ!」
「あぁもう大人しくしろオレ!ていうかこんなオレをオレと認めたくねぇぇぇ!」
「つーかマスターとその兄貴はまだかよ!令呪でもないと止められねぇぞこりゃ!」
三者三様の叫びを耳にしても
「皆お待たせ!お兄ちゃん達呼んできたー!」
立夏の声が響き、これで最低限令呪で何とかなるだろうと安堵する5鯖―――だが現実は非常である。
何故ならアルトリア顔サーヴァントが5人も追加されたのだから。
「「増えたー!(チヘドッ)」」
アルトリア顔の皇帝と新選組が悲鳴に似た叫びを上げ。
「むぐがごげごがぎげぎがががががが!」
「「「女の子が言っちゃいけないような叫び上げちゃったよ――――!!!」」」」
本家アルトリア5人衆を前に
そのまま
―勝負は一瞬であった。
4人のアルトリアが武器を構えるよりも先に魔力放出で跳んだ
「父上の――――」
「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼女に微笑みを浮かべている
そして4秒が経過して―――
―――結果、10秒後に
呆然としているカルデアメンバーを他所に
それを見た立香はマシュを、立夏はランサーを傍らに連れていち早く駆け出す。このままでは
そのまま2人は見つめ合い、間に合わないかと焦りながらも4人が駆け付け――――。
「モードレッド!」
「父上!」
「「会いたかった!」」
ぎゅっと抱きしめ合う
遅れて走り出した他のサーヴァントも唖然とした表情を浮かべて止まり、特にブリテン組に至っては開いた口が塞がらない程に驚愕。
「ああ、モードレッド!本当にモードレッドなのですね!短命は克服できましたか?ちゃんと食べてましたか?円卓の皆さんは?民は?ブリテンは―――もうどうだっていいです!やっと、やっと会えました!」
「父上のバカヤロー!何が逃げ出しただ!ブリテン滅べど人は滅びず!円卓は瓦解せど父上への忠誠は変わらず!全て陰から父上が支えてくれたんだろそうだろう!父上なんかキラ―――いや嘘だ大好きだー!」
「ええ、陰ながら勇猛王たる貴女をずっと見守ってきました……私はどれだけ蔑まれてもいい、せめて息子と民を救いたいと願いながら……!」
「うわぁぁん父上ぇぇぇ!やっぱアレは……寿命で尽きかけたオレが見た父上の笑顔は、夢でも幻じゃなかったんだ!父上がオレを救ってくれた、だからオレは王として生涯を終えられたんだ!」
「モードレッド……」
「父上ぇ……」
先ほどまでの殺意が嘘のようにすすり泣く
親子と言っても差し支えなさそうな光景を目の当たりにして、
―アルトリア組(+モードレッド)に至っては顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのだが、この際無視しておく。
――
モードレッドの正体を知ったアルトリアがしたことは、対話だった。
もとより精神的に弱っていたアルトリアは、誰かに弱音を吐きたかった。その白羽の矢が
王としての責務の重さ。滅びゆく国をいかに救うか。弱っていく民を見て苦しむ自分。すれ違う騎士達。マーリンに胃を痛める日々。
酒の力もあって
そしてアルトリアが逃げ出し、選定の剣を託されたモードレッドがしたことは、間違いを正す事だった。
アルトリアは苦しむ民に出来る事をした。何を食せるか。魔術で出来る事は何か。少しでもブリテンに貢献できる事は何か。
モードレッドは父が逃げ出した怒りを燃料に、円卓の騎士に一喝してやった。特にランスロットに至ってはボッコボコにしてやったそうだ。
アルトリアは民と息子を想い陰ながらブリテンの支えとなり、モードレッドは父の苦悩を考慮し円卓の騎士が提案したアルトリア捜索を取りやめとした。
やがて時は経ち、国は衰えど人々の暮らしはまずまずの物となった。
アルトリアの自己犠牲による調理研究(という名の料理)により栄養面は改善。魔術師として成長した彼女は、モードレッドの寿命を延ばす事にも成功した。
モードレッドは円卓の騎士の亀裂を修正することで、一部を除けばほぼ円満と言えた。そして様々な障害をぶっ飛ばした実力故に「勇猛王」として名を広めた。
国は滅びに近づきつつある。けどブリテンという国を覚えている人々が生き残りつつある。
ブリテン親子は確かに
アルトリアとモードレッドが語り合った【
―――
「……というわけです」
「良い話じゃないですか!」
子供のように傍らに寄り添う
マシュの両側に座っていた藤丸ツインズも「イイハナシダナー」と目尻に浮かんだ涙を拭いながら呟く。
「けどよぉマシュ、民から聞いたんだが父上はしょっちゅう腹を下してたらしいぜ?」
「そ、そんな話まで耳に届いていたのですか……よく探そうと思いませんでしたね?」
「本当は殴りに行ってでも連れて帰りたかったさ!けど父上ったら隠れるの上手ぇからいっつも逃げられるんだ!」
「す、すみません……今更帰れない、帰りたくないと思っていたもので……陰での暮らしは美味sゲフゲフ」
「美味しいっつったか?美味しいっつったろ父上!香草焼きやら牛の煮込みとか、オレ達以上に美味いメシが民の間で流行ってたのには血涙ですら出たんだぞ!」
「すすすすみません」
ペコペコとモードレッドに頭を下げて謝るアルトリアの図。
気弱な母に強気な子という奇妙な光景ではあるが、間違いなく2人は親子なんだなぁと思い知らされる。
納得したように微笑んで頷く立夏だが、一方で兄の立香は困ったように別の方向を見つめている。
―海岸に打ち上げられた海月の如く床に倒れるアルトリア(+モードレッド)という奇妙な光景が広がっていた。
「父上が、父上が俺に優しいなんて……ガフッ」
「これが人としての情に芽生えた弱き私なのか……ゴフッ」
「円卓の騎士達よ、私は……私は……ゲフッ」
「できない……この
「……(返事がない。只の屍騎士王のようだ)」
まさにアルトリアの死屍累々である。よほど並行世界のブリテン親子が2人にとって眩しかったのだろう。
だが
2人の王が築き上げた結晶。救われし人々の忠誠。滅びた国の確かな栄光。征服王イスカンダルに似通った勇猛王モードレッドの宝具―――『
それを見た
それはブリテンの数多の命を救いし存在『魔術師アルトリア』の逸話が宝具として体現したもの。
滅びた後に生き残った人々が彼女への感謝と忠誠を忘れまいと綴った伝承は、奇しくも2人が語り合った夢を実現したものだった。
範囲内の味方の傷と病を癒し、数多の防護魔術を付与、更に高出力の結界を敷くという魔術師アルトリアの宝具―――『
並行世界のブリテンの栄光と魔術師アルトリアの救いの結果を目の当たりにしたアルトリア達は、心身共に死にかける事になる。
―――1つの波乱を生み出した
―終―
甘々のブリテン親子、イスカンダルの王の軍勢的な演説、ぼくのかんがえた並行世界のアルトリアとモードレッド、救いのあるブリテン。
これら書きたい物をコツコツハーメルン内で書き続けた結果がコレです。
アルトリアを根暗にしたのは……なんでだろ、魔術師になったらこうなるだろうなーと思ってただけなんですが(苦笑)
他にも色々と書きたい物はありました。ステータスとか設定とか宝具一覧とか泣いたアルトリアに変わり怒るモードレッドとか。
ですがこれで満足しちゃいました。必要とあらば追記します。
完全に思い付きの物を書こうと思ったので、続く事は無いと思います(汗)
こんな短編小説ですが、楽しんでいただけましたか?
ではでは。
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きゃすたーとえんたくのきし
今回のお相手は円卓の騎士の皆さんです。
初日に(アルトリア組にとって)凄まじい出来事を起こした2人だが、マスターを始めカルデアのメンバーや大勢のサーヴァントとも馴染みつつあった。
気の合うサーヴァントやクラス組に親しくなった者、
兎にも角にも2人はカルデアに溶け込みつつあった。宝具も確認でき、戦力としても申し分ない。
頃合いだと感じるようになった藤丸兄妹は、ダ・ヴィンチちゃんとマシュの相談の下、危ない橋を渡る決意をする。
―彼女達にとって、最も因縁深い相手と対面しなければならないのだから。
――
カルデアには様々なサーヴァントが居る。強力な英霊や名高き英霊、反英雄や黒化英霊などなど、画面の向こう側にいる皆さんから見たら羨ましがる程に多く揃っている。
これだけ大勢サーヴァントが集まっていれば関連性を持つ組み合わせが多くなるのも必然だろう。牛若丸と弁慶とか、セプテム組とか、暗殺教団とか、酒気帯びると意気投合するYARIOとか。
中でも闇の深い関連性を持つサーヴァントといえば、アルトリア・ペンドラゴンことアーサー王伝説で有名な「円卓の騎士」だろう。全員ではないがそれなりの人数が居る。
その円卓の騎士の皆さんに、並行世界のアルトリアとモードレッドを会わせるのだ。バッタリ会って混乱を起こさない為にも。
ただし、一度
「……この先におられるのですか?その……
個室の扉を前にしたセイバー版ランスロットが呟き、それに応えるようにぐだ男こと藤丸立香が頷く。
彼の他にトリスタン・ガヴェイン・ベディヴィエールも待機している。この場に居る、カルデアに召喚された円卓の騎士は(隔離中の
「黒王に獅子王と驚かされてきましたが、まさか新たな並行世界の王が召喚されるとは……王の可能性、ひいてはブリテンの可能性は多々あるということですか」
自嘲するように薄ら笑いを零すはトリスタン。アサシン?彼女は置いといてあげて。
尚、彼らは本来の歴史(いや人類が知るアーサー王とは別物だが……)に存在する
「既に
「何にしてもマスター、我々へのご配慮、感謝します」
何故か死んだ魚のような目で「強く生きろ」と言われた事を思い出しつつ、ようやく対面の機会を与えてくれたマスター2人に感謝するベディヴィエールとガヴェイン。
因みに円卓の騎士は
そんな藤丸兄妹からは「まぁ頑張って」と言わんばかりに肩を叩かれるが……一体どんな騎士王なのだろうと今から不安になる騎士達。
そんな不安を払拭するように、先陣を切ったランスロットの目の前で個室のドアが開かれる。
―並行世界の騎士王
「……(おどおど)」
((((え、何これかわいい))))
―小動物のように部屋の中央で怯えている
―――
「ランスロット、トリスタン、ガヴェイン、ベディヴィエール……」
―ドバァ。
円卓の騎士をマジマジと見た後、突如として滝のように涙を零し始めた
そんなキャストリアの涙を見た3名は数秒間硬直してしまう程に衝撃的で、我に返った頃に彼らが見たのは女性らしい嗚咽を漏らすキャストリアの姿だった。
「すみません……並行世界とはいえ、貴方達の姿を久方ぶりに見たもので……色々な感情が……」
慌てて何か言おうとした円卓の騎士らよりも先にキャストリアが手で制し謝るが、すぐさまドヨ~ンと暗いオーラのような物が溢れ出る。
このような対応はこれまでのアルトリアシリーズとの対面を考えても初めてで、円卓の騎士は戸惑うばかり。アサシンはアサシンで独特だったが。
「王よ、どうか落ち着いてください……一体何があったというのです?」
元々女性を敬うランスロットは、自身に不貞や裏切りの罪があったとしても放っておけず、キャストリアを落ち着かせようと問いかけてみる。
とはいえ、他の三人もキャストリアの落ち込み具合を見て大体の事は予想している。何せ生前は数えきれないほどの不義理を犯したのだから。
しかし彼らの予想に反し、キャストリアの応えは―――。
「
「……はい?」
「
―――
そこからはキャストリアの懺悔だった。並行世界の存在故に意味はないのだがキャストリアは話したいと望み、円卓の騎士も了承したのだ。
弱き民を間近で見て人を知ったキャストリアは、円卓の騎士の亀裂を察知し、それを受け入れていた。
ギネヴィアを幸せにできない後悔は、ランスロットが代わりに幸せにしてくれるだろうと押し付け、そんなランスロットを許せないガヴェインの気持ちを察しておきながら、しかしランスロットとギネヴィアの為にと心を閉ざした。
トリスタンの「人の心が解らない」という言葉も「ああ、まさしくその通りだ」と彼らの知らぬ陰で泣いて、それをモードレッドが理解してくれた。ただ一人の人間としてみようとしていたベディヴィエールにも、人としての自分を見せる事ができず後悔した。
彼らの全てを受け入れたからこそ、キャストリアは全てを明かすという選択を避け、皆の前から姿を消す決意をした。自分が居なくなり王の座を
そしてそれは単なる自分の逃げ道でしかなかったのだとキャストリアは後悔で涙を濡らし、そしてこうして並行世界の存在とはいえ顔を見る事ができて幸せだと嬉し涙を零した。
子供のように嗚咽を零しながら語るキャストリアを前に、円卓の騎士達は黙ってそれを聞いていた。
そして一つ理解した事がある―――
この話は並行世界……それも互いに別世界の存在だ。話しても聞いても意味はないし、有り得るだろう未来と過去を思い描いても仕方がない。
それでも「人としての王と解り合えた世界」という可能性を見出した騎士達は、一筋だけ涙を零すのだった。
―――
そわそわ。そわそわ。そわそわったらそわそわ。
「あの……先輩方、少し落ち着かれては……」
「そういうマシュちゃんだってそわそわしているじゃない」
そわそわしているマシュをじっと見ながら言う立夏に対し、兄の立香はその通りだと頷く。
二人のマスターと一人のサーヴァントは、円卓の騎士をキャストリアの待つ部屋に通した後、ずーっと扉の横で待ち続けていた。
円卓の騎士はともかく陰気なキャストリアに問題があるのだ。もしかしたらパニックを起こして彼女の宝具・
すると扉の開く音が聞こえ、三人がビクリと反応する。
心配そうな顔で開いたドアから何が出るかと待っていると―――。
「凄い話でした……」
「私も驚きを隠せません。今なら黒髭の気持ちが解ら……なくてもいいですね」
「王とベディヴィエールを此処まで狼狽させるとは……恐るべしランスロット卿」
「いえ、私は単にギネヴィアの良さを語っただけなのですが」
「禁断の恋を得たリア充の話は
顔を真っ赤にするキャストリアを筆頭に和気藹々としている円卓の騎士の図。さながら猥談を終えたアラサー集団の如く。
てっきりアルトリアズのように円卓の騎士の心をへし折られるのかと思っていたぐだーずとマシュは予想外な展開に首を傾げる。
とりあえず立香が円卓の騎士にキャストリアと対面してどうかと聞いた所、キャストリアの顔を見た後……。
「「「「凄く話しやすかったです」」」」
全ての罪や後悔を吐き終えた彼女と彼らは、清々しい微笑みを浮かべていた。
キャスター・アルトリア。王から逃げ出し魔術師としての人生を歩いた
それは円卓の騎士にとって理想の王とは言えぬが、
「お前ら」
朗らかな空気を瞬時にして張り詰めた空気に変える一言が背後より伝わる。
円卓の騎士4名は瞬時に感じ取り悟った―――この気配はモードレッドであり、モードレッドでない。
矛盾しているかもしれないが事実だ。彼らの感じ取った気配は良く知るモードレッドの物だが、気配の気質そのものが違っている。
それは騎士王の持つ凛々しさでも、獅子王の持つ神々しさでも、黒王の持つ暴君の気配でもない……まるで頂点に立つのが当然と言わんばかりに佇む竜の如き威圧感。
ゆっくりと振り向けば、竜を模した赤い鎧を身に纏った
「
問いかけた先は円卓の騎士ではなく立香。彼らが部屋を出たということはそういう事なのだろうと、立香は短時間で考え抜き有無を言わず頷く。
「父上、並行世界故に意味はないだろうが……話したいことは話したか?」
「ええ。私が話したい事は全て話し終えました……意義のある時間でした」
少し陰りのある笑顔を
そんな二人を見て色々な意味で驚愕している円卓の騎士を他所に、モードレッドは緩ませた頬を正し、鉄面皮で彼らに振り向く。
「ガヴェイン、ランスロット、トリスタン、ベディヴィエール……来い」
有無を言わさぬ王の言葉。それを聞いた円卓の騎士は、相手がモードレッドだという事を忘れて背を伸ばし、彼女の後に続いて部屋に入る。
「これが
藤丸兄妹も並行世界のモードレッドのカリスマ性に感服しているようで、少し呆然としていた。勇猛・カリスマ・戦闘続行の複合スキルは伊達ではない。
この場で動けるのは只一人……円卓の騎士達を案じオロオロとしているキャストリアだけだった。
その数十分後に罵声合戦、さらにその数分後には殴り合い、そして最終的には泣いて笑って大騒ぎのドンチャン騒ぎになっていた事をココに記す。
お酒の飲みすぎ、ダメ、絶対―――藤丸立香
―終―
●
ランク:A
種別:対城宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:100人
背丈ほどもある杖の先端に埋め込まれた宝石に魔力を集中、極太ビームを放つ。
キャストリアが唯一覚えた攻撃系魔術。黒髭ぐらいなら軽く消し飛ぶ。
「エクスカリバーぶっぱできない日々が続いたら禁断症状が出たもので……」
~おまけ1「黒髭危機2発」~
黒髭「デュフフフフwww凛々しい女騎士が気弱系になっちゃうご都合主義展開キタコレですぞwwwこれは襲い掛かる案件ですなぁキャーキャー言いながら抗いもできずセクハラされまくっちゃってイヤンアハンな事になんて」
狂化モードレッド「むがぁぁぁぁぁ!」
キャストリア「
黒髭「アーッ」
~おまけ2「恋とはなんぞや」~
キャストリア「ふう……すみません皆さん、私だけ話してばかりで……どうかしましたか?」
ガヴェイン「いえ、なんでもありません……私達にとっても有意義な時間でした」
キャストリア「そうだったらいいのですが……そういえばランスロット、一つ聞きたい事が」
ランスロット「なんでしょうか?」
キャストリア「その……ギネヴィアとはどういったお付き合いをしていたのでしょうか?(もじもじ)」
ランスロ「え゛」
キャストリア「あの頃の私は彼女を幸せにできなかったですし、恋の1つも知らなかったので……どんな物なのかなぁと(もじもじ)」
ガヴェ・トリス・ベティ(こ、これが人を知った王……ですが聞く相手が悪すぎです!)
~おまけ3「酒のパワーは偉大なり」~
狂化モードレッド「だからぁ!父上は人の心以前に国を大事に考えるしかなかったんだって!酒の1つもなけりゃ語る事もできねぇよ!解るか!?俺に泣く泣く語った父上の苦悩が!人間関係が!おうこら飲め飲め!王たる俺の注ぐ酒が飲めねぇってのか、あぁん!?」
円卓の騎士ズ(色々な意味で逆らえない……)
今後は一話完結式に更新していきます。思い付きでババっと書きます(ぇ)
次回はキャストリアと一部サーヴァントの交流を描く予定。
誤字報告・感想・ご意見・リクエスト等お待ちしております。
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きゃすたーとさーばんと
割とグダグダしていたので誤字や脱字、違和感など大きく目立つかもしれませんがご了承ください(汗)
自己嫌悪と陰気ばかりが目立つ彼女だが、根は優しくて感情の起伏が激しい。悲しくとも嬉しくとも泣くし、大いに驚き、喜ぶ時は惜しむ事無く笑顔を浮かべる。落ち込む時は暗黒空間を生み出すのが難点。
そして国の滅びを避ける定めを背負った騎士王から逃げ出す程までに「人」という物を知りたがる探求心、その人の悩みや苦悩を少しでも知り僅かでも救済の道を導こうとする救済の心を持つ。
そんな彼女の交友関係のモットーは「広く浅く」。言葉を交わし視野を広げ、幅広い知識と感性を得る事を良しとする。苦手な相手や怖い相手はソソクサ逃げます。黒髭など即・退・散。
円卓の騎士と会談……正確には
―――
●エミヤの場合
唐突だが、人理継続保障機関カルデアに召喚された英霊には聖杯戦争の記憶を持つ者も居る。
英霊とは聖杯の座より召喚される故、聖杯戦争が始まれば召喚されるのは当然の事だろう。その為かカルデアでは聖杯戦争で戦い合った者同士が集まる事もあり、時に再会を喜び時に気まずい雰囲気を味わう事もある。
そんな中でも複雑な英霊関係(?)を持つ英霊を1人挙げるなら、アーチャーことエミヤが妥当だろう。
エミヤと騎士王アルトリアは同じ聖杯戦争を生き抜いた仲で互いの信頼は厚い。一部サーヴァントからリア充と言われるほどには熱い(誤字じゃないよ)。
当然ながら別世界のアルトリア……黒王や獅子王と言ったサーヴァントは別物と考えてはいるものの、アルトリアの有り得た未来という側面もあって放っておけず、主に食事方面で世話をすることが多い。アサシン?彼女はもっと複雑だから触れないであげてお願い。
そして最近になって追加された
「ふむ……」
エミヤは顎に手を添えて、2人の少女を見比べていた。
片方は、どこか気まずそうに視線を横に向けている
片方は、どう見ても気まずそうに視線を横に向けている
「オルタやランサーと違って、こうも大きな違いがあるとはな」
互いにけん制し合っているアルトリア2人を見てエミヤがポツリと呟く。
元々服装の時点で比較は容易いのだが、表情と姿勢に大きな違いがある。前者が背筋がピンとしていて気難しそうで、後者が背筋が猫背気味でオドオドしている。
黒王や獅子王も背筋をピンとしていて少し堅い所はあったが、キャストリアは非常に表情や動作に感情が出やすいようにエミヤは感じていた。特に思う処は……。
「狼狽えているセイバーは何度か見たがこう露骨だとありがたみが「シロウ貴方何を言っているんですか!?」」
唐突に叫び出すアルトリアにビビるキャストリア。しかしエミヤは気にしていないのか涼しい表情を浮かべたままだ。
「言った通りの意味だ。知っていたか?君は感情に揺らぎがあるとまずアホ毛から変化が生じ、そこから表情に僅かな変化を起こすんだ」
「嘘ですよねシロウ嘘と言いなさい私は決してそんなことは」
「そんなに私を疑うのなら鏡を見るがいい。所詮長い付き合いから生じる経験談でしかないからな」
「嘘だとは断言してくれないのですね……」
いつの間にかキャストリアを差し置いて話を弾ませる2人。エミヤがペースを握っているのは確定的に明らか。
黙ってみていたキャストリアは、なんとなく2人の仲を察知したらしく、くすりと笑みを浮かべて話に割り込む。
「あの、失礼ですが2人はどういった関係でしょうか?」
「ああ、私と彼女は同じ聖杯戦争に参戦した英霊同士で……どうしたセイバー、そのような目をして私を見るな」
「シロウ……いえ、アーチャーの気のせいでしょう。ええそうです、英霊として通じたのですよね私達は」
同じアホ毛を持つ
そんな
「すまないセイバー、そう拗ねるな」
「拗ねてなどいません」
「……私は近代の英霊なのだが、英霊になる以前の私はココにいるセイバーのマスターでもあったんだ。共に聖杯戦争を生き抜いてきた。今も昔も、セイバーは私が最も信頼している英霊だよ……女性としてもね」
そう言ってエミヤは優しく
「羨ましいですね……」
そんな2人を心底羨ましいと思うキャストリア。英霊となった今でも、生前に出来なかった事の1つである「恋」に憧れているのだ。
(何でしょうか……この優越感は……)
羨望の眼差しを向けるキャストリアに対し、
一部を除いた英霊に完璧な存在など無い。キャストリアには無い物を
「「「グギギギギ……」」」
その優越感のあまり、物陰から2人のサーヴァントの仲を睨みつける
―――
●メディアの場合
メディアと言うサーヴァントは魔術師の鏡とも言える。目的の為には手段を選ばない、魔女の中の魔女と言える存在なのだから。
しかし彼女は根っこから悪人というわけではない。不要な犠牲や裏切りを由としない最低限の節度はあるし、人理救済の為に手を貸してくれる良識もある。
装飾や制作といった手先の器用さを活かした趣味を持ち、理想の男性を語る純真さ、可愛い女の子を着せ替えしたくなるなど、魔女としての彼女とは別の一面も浮き出てくる。
そんなメディアに、千載一遇の好機が訪れた―――キャストリアである。
彼女は魔術師としての人生を歩んだ別世界のアルトリアであり、その容姿はメディアにビビっときた。性格は大人しく少し暗いがストライクゾーン内であり、騎士王と獅子王の中間ともいえるスタイルも中々に良い。
極めつけはその根暗な性格。言って悲しくなるが
是非とも手中に収めるべく奸計を案じるメディアだが―――その苦労は無駄に終わる。何故なら……。
「メディアさん、貴女は
もしよろしければ未熟者である私に、魔術とは何かを教えていただけますか?払えるだけの対価を払う覚悟です」
キャストリア自身がそう尋ねてきたのである。しかも「払えるだけの対価を払う覚悟」と自ら約束した。
まさに好機!海老で鯛を釣るどころか、鮟鱇の口に獲物が自ら入り込むが如く!
「いいわアルトリア。今の私は機嫌がいいの……その身にたっぷりと教えてあげる」
顎を軽く掴む事で怯えるキャストリアだが、気にせずメディアは内側から漏れだす嬉しさで口角を吊り上げる。
機嫌を損ねたら教えてくれないかもしれないと判断したキャストリアは意を決したように表情を硬め、メディアの導きがままに歩み出す。
数十分後、キャストリアにメディアの事を話しておきながら気になった藤丸立香が、メディアが使用する個室にお邪魔した所……。
「良いわぁ凄く良い!一度
「そ、そうでしょうか……?」
自分が装飾した衣装を着たキャストリアをハイテンションに眺めるメディアと、満更でもなさそうに頬を染めるキャストリアの図。
黒と白のゴシックドレスを着た、恥ずかしげに己の姿を見るキャストリアを見て、不意にもキュンとしてしまった藤丸立香であった。
「あらマスター、いらっしゃい。どう?可愛らしいでしょう、ゴシックドレスのキャストリアちゃん!いつかセイバーに着せてみたいと思っていたよ~!」
黒王・獅子王・ヒロインXも居るがメディアにとってドツボなのは騎士王とキャストリアらしく、小さな(?)夢が叶ったメディアのテンションは高かった。(因みにセイバー・リリィは未だカルデアに召喚されていない)
しかしメディアの着せ替え人形状態になっているキャストリアに、それでいいのかと立香はキャストリアに問いかけるが……。
「いえ、これも魔術の教えを乞う為の対価です。
いつも弱弱しいキャストリアが真面目な表情を浮かべているが、それはすぐに緩んで恥ずかしそうに視線を逸らし……。
「……恥ずかしながら、癖になりそうです」
お洒落な服装に身を包むサーヴァント達に影響されたのか、恋だけでなくお洒落にも関心を抱いたキャストリアにとって、今回の対価は渡りに船だったらしい。
恥ずかしそうに俯いて白状するキャストリアに対し、メディアは「キャー★」と喜び、藤丸立香は「だめだこりゃ」と言わんばかりに肩を竦めるのだった。
なお、この事はメディアとキャストリアだけの秘密にするという約束の元、たまーに魔術の勉強がてら着せ替えさせられることになるのだが、それは別の話。
―後日、どこで嗅ぎつけたのかメディア作ゴシックドレスを着込んだ
―――
●ブーディカの場合
ライダー・ブーディカ。古代ブリタニアにおける「勝利の女王」の伝説を持つサーヴァント。
故郷を想いブリタニアの為に戦い続けた母の力はカルデアに召喚された後も健在で、マスターである藤丸立香やマシュを我が子のように可愛がり、カルデア食堂を支える第二のオカンとして君臨している。第一のオカンは勿論エミヤ。
ブーディカにとって、後世のブリタニアを支える騎士王アルトリアを始めとしたブリテン出身の英霊も、マスター同様に慈しむ対象である。どの世界のアルトリアも、彼女にとっては可愛らしい妹も当然なのだ。
そして最近になって表れた新たなアルトリアことキャストリア。性格は弱弱しく感情表現豊か、基本は暗く自己嫌悪も割と激しい。
なんというかこう、見ているだけで放っておけないオーラが陰気オーラと共に溢れ出る、母性本能を刺激してならない珍しいサーヴァントであった。
「あの……」
このように困ったように自分を見上げる姿とか、
「あのですね……」
それにしても柔らかな髪質だ。生前は魔術師としてブリテンの民を救済するべく四苦八苦していたらしいのでボサボサだったが、シャンプーとリンスで洗ってやったのは正解だったと思う。
「ブーディカさん?」
「なに?」
「いつまで頭を撫でているのでしょうか……」
「もう少し!もう少しだけ!」
「先ほども同じ事を言っていたような気がするんですが……」
ああもう、この困り顔ですら可愛らしい!今なら頼光の気持ちが少しだけ解る気がする。愛おしくて愛おしくて仕方ない!今度美味しい物でも食べさせてやりたいなー。
ひたすら幸せそうな顔でキャストリアの頭を撫で続けるブーディカ姉さんであった。
「……で、私に用があるんだっけ?何かな?」
撫で続けて20分後、ほくほく顔のブーディカはようやくキャストリアを解放した。元々はキャストリアがブーディカに話しかけたのだ。
「実はですね、アーチャー・エミヤから聞いたのですが……」
キャストリアの頼み事。それはブーディカを喜びの意味で驚かせるのに十分な内容であった。
―数十分後。
(バカな……ありえません……!)
その凛々しき顔は絶望で歪み、体は恐怖で震え、目の前の真実を拒絶するように先の言葉を口走ってしまった。
「そうなんだ……貴女の世界でのブリテンは……」
「はい、お恥ずかしながら国は救えず、しかし民に出来る事をしてきました。
そこには勝利の女王ブーディカとブリテンの魔術師キャストリアが並び、キャストリアの過去を話していたのか神妙な空気が漂っていた―――別の物も含めて。
ここはカルデアの食堂。サーヴァントも(食べる意味でも作る意味でも)利用するある意味の聖地。2人はそこの厨房に立っていた。
2人の前にはコンロの火で暖められクツクツと煮込まれた牛の煮物があった。洋風テイストで香りも良い。
だが問題はそこではない。その料理を作っている人物にあった。
(
食堂の陰から2人を覗き込んでいた
ブーディカから作り方を教わっているし調理の腕も拙いが、間違いなく包丁で肉を切り、香辛料などで味を調え、味見をしていた。驚くべき事実だった。
話によるとキャストリアはブリテンの民を救うべく、まずは食の道を探求していた。自らの腹を何度も壊してでも、火で焼いたり沸騰した水で煮たりと、今までにない調理方法を編み出そうとした。
その結果「とりあえず程々に煮ればなんとかなる」という偏った思考こそあれど、キャストリアは僅かでもブリテンの食文化に変化を与えたのだ。
故にキャストリアは腕こそ自慢できないが料理好きだ。
食堂のオカンことエミヤやブーディカの料理の腕前に感銘を受け、是非とも学びたいと志願したのだ。因みにエミヤがブーディカを推したのは同性だからだという。
「けど良い事よ。栄養価を捨てないってことが大事だったものね」
「結局は自分のお腹を満たしたいが故に編み出したんですけどね……」
恥ずかしそうにキャストリアは言う。王を捨て魔術師になっても食いしん坊なのは変わらないらしい。
楽しそうに話しながら煮物を作る2人の女を他所に、
―――
●イスカンダルの場合
先にも記載したが、キャストリアは王という立場から逃げ出したことを恥じている。その結果ブリテンの未来に変化が生じたとしても、彼女自身が未だに許せない事実だ。
というわけで、キャストリアは勇猛王を除く王という存在そのものが苦手だったりする。
並行世界とはいえ同一の存在であるアルトリアシリーズならまだしも、キャストリアにとって王の気質を持つサーヴァントは目を背けたくなる程に眩しい相手なのだ。
特に英雄王と太陽王といった『完璧な王』はキャストリアの天敵ともいえる為、僅かな気配ですら察知し脱兎のごとく逃げ出してしまう。この時だけは
そして今日、不運にもある王様サーヴァントに捕まってしまった。
「ふぅむ……これが
顎に手を添え不思議な物を見るような目でキャストリアを見下ろすのは、征服王ことライダー・イスカンダルである。
話をマスターである藤丸立夏(妹の方)から聞き、面白そうだからと探したが中々見つからず、持ち前の勘を活かしようやく捕まえる事に成功したのだ。
そんな巨漢で王様で筋肉モリモリマッチョマンに見下ろされるキャストリアは全身から冷や汗が止まらなかった。正直怖くてたまらない。
「なんというかこう……」
身を屈ませマジマジとキャストリアを見るイスカンダル。距離が縮まって更に怯えるキャストリア。
逃げたくても逃げれないのかカタカタと震え涙目でイスカンダルを見上げるキャストリアに対し、イスカンダルは「ふむ」と頷いてから。
「暗いな!実に暗い!ここまで暗い奴を見たのは余ですら初めてかもしれん!」
ドストレートな感想をぶっ放し、自身でも解っているとはいえストライクな感想に陰気オーラ全開にするキャストリアであった。
どよ~んと暗いオーラを醸し出すキャストリアを見て「あちゃー」と頭をガシガシ掻きながらイスカンダルは続ける。
「黒王や獅子王にも驚かされたが貴様は格別だな。王の座から降りた者とはこうも変わるものとは……」
「あの……貴方様は他のアルトリアをご存じなのですか?」
「む?……おお、そういえば言っておらなんだな!余と騎士王は以前聖杯戦争で戦いあった者同士でな!剣を交え、王とは何ぞやと酒で語り合ったものよ!」
思い出したように自分と
「それでな、
イスカンダルは何が面白いのか笑いながらキャストリアの背を叩き、キャストリアは吹っ飛びそうになったが足を踏ん張って堪えたようだ。
そんなキャストリアの踏ん張る姿ですら、イスカンダルは懐かしい物を見るような目をしている。痛そうに背を擦りながら、その視線に気づいたキャストリアは思い切って聞いてみた。
「あの、何がおかしいのです?」
「いやなに、ナヨナヨしい癖に簡単に倒れぬ貴様を見ているとアヤツを思い出すのでな……つい重ねてもうたわ」
「アヤツ……といいますと?」
「未熟で脆弱ながら決して折れる事のない、余のマスターにして臣下よ」
「お前さんのようなな」と、先程の力強さとは打って変わって優しくキャストリアの頭を撫でる。大きく力強い、しかし全くの威圧感を感じさせない掌だった。
「キャスター、王から逃げた貴様には酷な事であることは重々承知している。だが余は貴様に聞かねばならん事がある」
不意に真面目な顔を浮かべたのでキャスターも黙って耳を傾ける。
「キャスターよ……王とはなんぞや?
それは第四次聖杯戦争から始まり、カルデアに召喚されてから王たる英霊に問いかけ続けた、イスカンダルが尚も知りたがる聖杯問答。
本来なら酒の席を設けて語り合いたい処だが、王から逃げ出したと自ら語るこのキャストリアには不要だろう。彼女に期待できぬが故に。
「……それは私如きでは語れません」
申し訳なさそうに首を垂れて言うキャストリア。
それをイスカンダルは責めはしない。「やはりなぁ」と少し残念そうに溜息を零すだけだ。
―しかし。
「それを語るべきは私ではなく
イスカンダルを見上げるキャストリアの顔は、慈愛に満ちていた。その表情には先程までの陰りは無い。
「ほぉ、勇猛王とな?」
「ええ。バーサーカーのクラスで召喚されたモードレッドが居ます……私の正当な後継者、私が支えしブリテンの王です」
「なるほどな……興味深い!」
人任せと言えばそこまでだろうが、気弱なキャストリアが王道を語るに相応しいと暗に言い切ったのだ。征服王イスカンダルの興味を惹くには十分だった。
勇猛王モードレッドとは顔合わせしたことがある。反逆の騎士に王の気質が備わったような英霊で、一度ゆっくりと話してみたいと思っていた所だ。
王の座から逃げ出したキャストリアが滅びゆくブリテンの未来を託し、生涯を賭けて信頼して来た後継者。
その者と他の王たる英霊を引き連れ、聖杯問答という名の王の宴を開いた話は……また後日に語るとしよう。
楽しみが増えた事に心躍るイスカンダルの隙を突き、キャストリアは颯爽と逃げ出すのだった。
―――
●ジャック・ザ・リッパーの場合
前述ではキャストリアの苦手なものは王と述べたが、逆に彼女の好きなものは何かといえば……子供である。
彼女が魔術師になった理由も、飢えた親子を見たことが原因であった。人を知ったキャストリアにとって、子は人の未来ともいえる存在故に放ってはおけなかった。
単に女を自覚し、モードレッドという愛したくても愛せなかった子が居たから親としての母性を持て余しているだけともいえるが……ブーディカや頼光程でないにしろ、見かけたら可愛がりたいぐらいに子供好きである。
ある日、藤丸立香がキャストリアが使っている個室にお邪魔すると……。
「しー」
入室したマスターに向け、人差し指を口に添えて静かにするよう促すキャストリア。
キャストリアはベッドに腰掛けており、何故か大きく膨れたお腹の上に大きな毛布を被せていた。何をしているのだろう?
とりあえず立香は足音を立てずにキャストリアに近づき、これは何かと膨れたキャストリアの腹を指さして問いかける。
するとキャストリアはそっと毛布を剥がすと、そこには丸まって眠る少女……ジャック・ザ・リッパーの姿が。
とても幸せそうな寝顔で、安心しきっているのかキャストリアの腹に全身を委ねている。とても微笑ましい光景だった。
キャストリアの話によると、英霊ジャック・ザ・リッパー誕生の秘話を聞いて涙したキャストリアが思い付きでやってみた所、すぐに眠ってしまったらしい。
このジャック・ザ・リッパーは生まれる前に堕胎された存在。魔術師アルトリアにとっては、互いに英霊となった身だとしても、少しでも救済の手を差し伸べたい相手だ。
腹の上に乗せ布を被せる程度の戯れ事だが、母親の胎内を疑似的にでも再現できればと思ってやっみた所、ジャックは大層気に入ってくれたらしい。
嬉しそうに己の腹の上で甘えるジャックの姿を思い出すキャストリアの顔は、まさにお腹の子を案じる母のごとし。
ブーディカとも頼光とも違う母性溢れる姿を目の当たりにして、藤丸立香は静かに微笑んで部屋を後にする。
暖かな気持ちで退室した立香だが、そこに居たのは……。
「グギギギギギ……!」
血涙を零し、目が赤く染まる程にジャック・ザ・リッパーに嫉妬している勇モー王の姿が。
清姫とは違った恐ろしい嫉妬を体感しました―――藤丸立香
―終―
●キャストリア(プロフィール)
・性別:女性
・属性:中立・善
・イメージカラー:水色
・特技:料理、治療
・好きなもの:子供、救済が届いた瞬間
・嫌いなもの:自分、王という存在
・天敵:英雄王
~おまけ1「ジャックと勇モー王」~
勇モー「おい」
ジャック「なーに?」
勇モー「その……父上、いや、キャストリアの腹に包まれたんだよな?」
ジャック「うん!すっごくあったかかった!解体しちゃいたいぐらい!」
勇モー「あったかいのか……もっと他にないか?柔らかかったとかなんとか……」
藤丸立夏(なにあのモードレッド可愛い)
~おまけ2「しょかつこーめー」~
物陰に隠れイスカンダルとキャストリアの会話を聞く人物が2人……。
立香「……」
孔明らしき少年「……はぁ?マスターも人が悪すぎだろ……今出たら恥ずかしくて死ねる」
立香「……」
孔明らしき少年「どこが似てるっていうんだ、あの根暗キャスターと僕が!」
立香「……」
孔明らしき少年「……芯が意外と太い所?なんだそりゃ?」
書きたいサーヴァントの交流の光景を書いた話でした。詰め込むと纏まらないものですねぇ(汗)
次回は勇モー王とイスカンダル+αがカルデアで聖杯問答をする予定。最初に言っておきますがローマは除外。
誤字報告・感想・ご意見・リクエスト等お待ちしております。
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せーはいもんどー・いん・ばーさーかー(ぜんぺん)
一度書いてみたかったんです聖杯問答。参加英霊のセレクトは私の好みで、それ以外は別の日にやったという設定です。
8/13:アドバイスにより「!」や「?」の後に全角空欄を入れてみました。
征服王イスカンダルは横暴・強引・豪快の三つが最も似あう英霊であろう。英雄王?彼は全てが規格外です。
何せ生前は征服王の二つ名の通り、
それは英霊となった今でも変わらず、王者のカリスマと持ち前の出鱈目な性格で多くの者を唖然とさせた。因みに仲の良い英霊はゴールデン・叔父貴・ドレイクなど。
そして今宵、征服王はカルデアにて略奪を開始する。
「すまぬが酒をもらうぞ!」
そういって一番デカい、イスカンダルのような巨漢でないと持ち上げられないような酒樽を悠々と持ち抱え。
「酒を持って行く理由だと? 宴を開くからに決まっておろう! 此度の宴は人数を揃えているのでな!酒は多い程良い! 主に余が飲むのだがな!」
持ってかないでと頼んでもそう言って厨房から遠慮なく出て行こうとし。
「なぁに、次のレイシフト先で新たに調達すればよかろう! その時は余を呼べ!存分に働いてやろう! というわけで引っ込んでおれ」
ここを通りたければ私を倒していけと道を塞ぐ褐色肌のオカンをメチャ痛いデコピンで突き飛ばす。これぞ王様の暴力略してオウボウである。
かくしてイスカンダルは、厨房を征服し酒を略奪、颯爽と去っていくのであった。後に残るのは指先1つでダウンしたアーチャーのみ……。
「シロウ……ヤムチャしてしまって……」
「勝手に殺さないでくれセイバー」
というか、居たのならエミヤと一緒にイスカンダルを止めてやれよ
―――
「確かココだったな……征服王の奴が言っていた集合場所」
並行世界にてアーサー王に継ぐブリテンの王として降臨した
カルデアは広い。広いということは個室も多く、広さや利用目的も様々なので目的の部屋を探そうとすると意外にも大変だ。間違っても入ってはいけない部屋のドアには注意事項を記すのがお約束。
勇モー王はカルデアに召喚されて日は浅いが、シミュレーター室や会議室、食堂など大まかな施設は把握している。バーサーカーなのに賢いってどういう事なの。
現在の彼女は、いつも着込んでいる竜の如き赤い鎧を排し、何故か紅いスーツを着込んでいる。プレゼンは何故か気が合ったヴラド三世。
傍から見れば男装の麗人にも見える気品さも併せ持っているが、そんな恰好をしている勇モー王の目的はイスカンダルの言う「宴」にあった。
『勇猛王よ、今から言う部屋に貴様も来い!余と他の英霊を交え、王道とは何たるかを語らおうではないか!』
勇モー王は少し前の征服王の誘いを思い出す。両腕で抱きかかえる酒樽をこれ見よがしに見せびらかしながら、待っているぞと言って立ち去って行った後姿も。
イスカンダルとの対面は今回が初めてではない。出会った当初から似通った何かを感じ取り、度々話しかけられては軽く雑談をし、時には共闘してきた。
しかしそれだけの間柄であり、イスカンダルから語らおうと持ちかけられたのは今回が初めてだ。しかもあの酒樽からは美味そうな匂いがする。飲まずにはいられない。
「征服王イスカンダルとの語らいか……おもしれぇ」
ニヤリと歯を剝き出しにして笑う。その横顔は獲物を見定めた竜の如し。女の子要素Zeroである。
並行世界ではキャストリアの後を継いで騎士王となったのだが、元来の
目の前の障害は斬って殴って一喝する武闘派。それでいてキャストリアと(酒の席とはいえ)王の何たるかを学んで王としても機能していたというトンデモ王でもある。
そんな勇猛王は名高き征服王との語らいを楽しみにしていた。湧き上がる衝動を抑え込み凛とした佇まいに直し、個室のドアを開く。
―勇猛王、降臨。
「じゃーかーらー、清酒というものは甘辛いもんをツマミに出すのがベスト、つまり最優なのだ! テリヤキを持ってこいテリヤキ! とびっきり濃い目で!」
「ええいやかましいわ第六天魔王とやら! 今宵の酒のツマミは語らいだと言って……しかしテリヤキとはどういった食い物なのだ? 肉か? 魚か? 美味いのか?」
「けど信長さんってお酒得意じゃなかったような……じゃなくて! まずはファラオたる私に頭を垂れなさいと言っているのです! 不敬ですよ不敬、って聞いてくださいよもぉー!」
黒い軍服みたいなのを着込む赤目の英霊(女の子)と矢鱈ボリュームのある髪を持つ褐色肌の英霊(女の子)に板挟みされている征服王の図。
(帰ろうかな……)
一見するとハーレムの如く女に囲まれたイスカンダルにムカっとしたから帰りたくなる勇モー王さんであった。
―――
結局ブーディカ姐さん手製の照り焼きチキン(勇モー王が頼んだら快く引き受けてくれました)を用意し、ドンとデカい酒樽を脇に置く。
勇猛王モードレッド。エジプトの女王ニトクリス。第六天魔王織田信長。そして主催者である征服王イスカンダルの4名が揃った。
「あ~……ごほん。よくぞこのイスカンダルの下に集まってくれた、東西南北に君臨せし王の英霊よ!」
「さっきまでグダグダだったじゃねぇか」
「まぁ信長様が居ますから」
「酷くね? 儂ディスられてね? ていうか儂とニトクリスって接点ないよネなんで知った顔なの? ……まぁ是非もないよネ!」
しかし征服王イスカンダルの覇気ある掛け声も、先程のグダグダっぷりを考えれば仕切り直しにしか見えない。正直今更感(大体ノッブのせい)。
これ以上グダグダにされては困ると流石のイスカンダルも案じたのか、強引に進めようと持参した杯を各々に配り、自分は一番大きな杯を手に取って酒を注ぐ。
「貴様らを呼んだのは、言ってしまえば余の娯楽だ。聞こえは悪かろうが、此度の語らいは各々にとっても悪い話でないと余は思っておる―――何せ各々の覇道を語り合うのだからな」
ニヤリと不敵に笑うイスカンダルに対し、女にして王たる三人は怒りも呆れもせず只頷いた。イスカンダルの言う『語らい』の内容を知っているが故に。
聖杯問答―――それはカルデアで密かに噂となっている王達の供宴。
かつて征服王イスカンダルは、王の格を語り競いて聖杯を会得すべしと、無謀にも聖杯戦争真っ只中でライバルたる他の英霊を宴に誘った事がある。
生前の軌跡と聖杯への願いを語り、時代も場所も違う英霊達が指摘する。その語らいは確固たる信念によるぶつかり合いにもなれば、反省点と改善点を重ね合う談義にもなる。
生前の軌跡を語りアレコレいう事に意味はないだろうが、これが存外に価値があり面白い物だと一部の王様サーヴァントが語っている(動けるDEBU及びスパルタ談)。
聖杯問答に呼ばれるとは、即ちカルデアにおける王様サーヴァントの気品比べ……俗にいえば自慢話大会みたいなものである。
「私はオジマンディアス様の薦めもあって参加しました。『ファラオたるもの、征服王の問答に堂々と応えよ!』とのことで……」
「儂は王じゃなくて正確には大名なんじゃが、これでも第六天魔王と呼ばれた身ですし? 天下布武を敷いた天下人ですし? 儂が参加せんとか有り得んじゃろ普通! 是非もないんだよ!」
「当初はこのニトクリスと
「ココでソレ言っちゃうカナー? 黙っておけば恰好よかったのにナー!」
「否定しないのかよ……」
ニトクリスはともかくノッブは色々な意味でグダグダだった。顔合わせ程度とはいえ信長のぐだっぷりに勇モー王も呆れるしかなかった。
「まぁそれはともかくとして」とイスカンダルは(何度目かになる)仕切り直しに杯を持って掲げる。
「これより聖杯問答を開始する! 今宵は存分に語ろうぞ!」
遅れて3人の女王が杯を掲げ、ゆっくりと飲み干す。信長は酒は苦手な方だが、ここは飲むのが礼儀というもの。
「ではまず……その強引さを持って此度の宴に割り込んだ第六天魔王に問おう! 貴様の王道とはなんぞや?」
「先端を征く事」
即答。是非も無しと言わんばかりの獰猛な笑みを浮かべ、第六天魔王・織田信長は応えて語り出す。
「新技術及び新兵器の導入。楽座楽市による新しい物価の流れ。南蛮渡来による新しい価値観の会得。いかに戦に勝つかでなく、勝つ為の状況をいかに作るかという思考。
政治・戦術・軍略・宗教……儂は常に新しき物を求め、天下に轟かせてきた。特に火縄銃は新時代の始まりを感じたわ……引き金一つ・鉛玉一つで人を殺せる、これがいかに戦において重要か貴様らに解るか?」
語らう様は、まるで人の姿をした魔物のよう。若き女性という見た目を除いても鬼気迫る物を感じさせ、聞く者を引きずり込むような魔性の声色を放つ。
先ほどのぐだっぷりがウソのような変貌―――否、これが第六天魔王たる彼女の本性なのだろうか?勇猛王は軽く戦慄を覚え、ニトリクスは思わず唾を飲んだ。
「……弱き民であろうとも熟練の戦士を容易く殺せる。数を増やせば増やす程、殺せる数が増え、敵が減る。そういう事だな? 第六天魔王」
「その通り」
生まれた時代も場所も違い、あまつさえ主力武器が全く違うというのに、イスカンダルは答えてみせた。それが嬉しくて信長の口角がさらに吊り上がる。
不意に静かに目を閉じたかと思えば、清酒をゆっくりと飲み、杯から口を話す―――動作一つ一つに優雅さのようなものを感じさせた。
「人間五十年、下天の内を較ぶれば、夢幻の如く也。一度生を稟け、滅せぬ物の有る可き乎―――」
目を閉じたまま、静かに唄う信長。舞は死亡フラグになるから踊らなくなったらしい。
「……天下は常に流れゆくものぞ。余生50年程の人間などあっという間じゃ。常に先を見越し、邪魔する者を手早く潰さずして天下人、いやこの場で言うなら王が務まろうか」
突如として魔性の気が薄れ、普段通りに緩めの口調で語る信長。酔いが回った事もあってか気分良さげだ。
しかし周囲の空気は未だ重めである。先の信長の語りに何か思う処があるのだろう。少し黙っている。
「……なるほどのぉ。余も仮に征服王と呼ばれし者故、戦の重要性、先見やる必要性は解る。勝てば正義などと言えば極論だろうが、成功すれば全て治められるのが世の性といえよう」
先陣を切るはイスカンダル。ぐいと清酒を飲み干し、トンと杯を床に置いて織田信長を見やる。彼女は少しフラついてはいるが、目つきは魔性の物だ。
「余も
―信長の目が細まり、イスカンダルを見やった。
「最果てを目指す。果てしない先にあるものを見やる為の征服にして遠征。単純明快にして下らぬ理由である―――だが余の臣下はついてきてくれた。共に果てを見ようと、余と同じ夢を抱いて進んだのだ。
第六天魔王よ、貴様の王道は多岐に渡り、常に新世代を切り開いてきた。そこは賞賛しよう。だが問おう。貴様の後に続いた臣下はどれほどいた?」
「さぁのぉ。印象に残っとるのは猿ぐらいで、後はおぼろげじゃ。酒のせいかもしれぬ」
「おいおい、呆気ないにも程があろう?……それだけ、貴様の覇道について来れぬ者が多かったということか」
あっけらかんと言い放つ信長だったが、イスカンダルはその呆気ない言葉の意味を悟った。
「新たな道を進むということは未知に挑むのと同意。そして人は未知を恐れる者ぞ。……貴様の言う新たな道は広すぎる。戦だけでなく政治に宗教と広がりすぎた。故に取り残される者もおったろう……第六天魔王、貴様はその者達をどうしたのだ?」
「切り捨てたわ。儂の覇道に後れを取る者など不要ぞ」
親指で自らの首を斬る動作をとって笑みを浮かべる信長―――直後、イスカンダルは床を叩き割る勢いで杯を握る手ごと叩きつけた。ニトクリスはビビるが、勇猛王は不動の姿勢を敷いている。
「たわけぇ! 王とは全ての臣下の道標として先陣を征く者! 後に続けぬから捨て置くなど、それでは臣下とは呼べぬ! ただの駒ではないか!」
「
怒りを露わにするイスカンダルに対し平然と返す信長。体格差のある2人だが、その気配と佇まいは全くの同格といっても過言ではない。
「征服王、俺にも話をさせろ」
しばし両者の無言の睨み合いが続く中、勇猛王モードレッドが初めて口を開く。隣のニトクリスは傍観を決め込んだらしい。
モードレッドの発言にイスカンダルと信長の視線が移る。それだけで何も言わないのは、発言に問題がないから。
「俺は信長の案には同感を覚える。所詮は人だ。先を見ようとしない者に未来はないし、改革なくして現状は打破できない」
「……それは並行世界のブリテンの経緯から来る経験談か、勇猛王よ」
イスカンダルの問いに「ああ」と答えるモードレッド。キャストリアと勇モー王が居る世界の話は、多少だが事前に聞いた事がある。アルトリアが騎士王の座から降り、ブリテンの新たな道を切り開いた世界の話を。
イスカンダルはともかく事情を知らぬニトクリスと信長は無言ながらも首を傾げている。己の王道や経緯は後に語らうが、2人の為にモードレッドは解説する。
「第六天魔王、そしてファラオ。詳しい話は後にするが、俺と
俺が力を以て反感を覚えた円卓の騎士に一喝し、父上が様々なやり方で民達を救ってきた。不明確な明日を、力と改革で生き抜いてきた。そういう意味では、俺と信長の王道は少なからず似通っているかもしれない」
現状維持では国は救えぬ。滅びの未来と国の責任から逃げ、結果的に別の形で救済された。騎士王のままでは救えぬと解ったが故に。
「だけどな信長、それでもお前にはいたんじゃないのか? 天下云々より大事にしたいものが。自分を誰よりも認めてくれる人が。魔王だウツケだと言われながら、それでも信頼を置きたかった相手が」
―姉上
勇猛王の問いかけを耳にした信長の脳裏に浮かんだのは、自分を愛してくれた弟の笑顔。その笑顔はとても鮮明に描かれている。
我に返って信長は言い返そうとして淀み……それを流し込むように酒を呷った。ぷはぁ、と息をしてから杯を床に置き、しばし床を見つめ……。
「いかんな、酔いが回りすぎた……儂らしくない。ああそうじゃ、こんな虚けでも大事にしていた者は確かにおったよ」
「……それを救おうとは思わなかったんですか?」
珍しく弱音を吐く信長に、これまで傍観していたニトクリスの口が開いた。三者の視線が向けられて少し怯むが、ニトクリスは構わず話すことにした。
「私は謀殺された兄弟達を今も想い続け、未だに殺した者達を許せません。ファラオとして情に厚いのは致命傷だと解っていますが、私にとっては大事な……それこそ聖杯に願ってでも取り戻したい兄弟なんです。
信長様、貴方が王として情に流されず覇道を歩み続けた事は尊敬します。ですが想う人々がいるなら、それを救いたい、報いたいとは考えませんか? 聖杯があれば、それですらも可能かもしれません」
感情的なニトクリスを、そして聖杯を使ってでも兄弟を取り戻したいと願う彼女を責める者はこの場にはいない。その願いは尊く、そして人間じみているが故に。
魔王と呼ばれし信長とて、親族に甘い節がある以上、ニトクリスを「虚け」と言えはしない。彼女の真摯な眼差しを受け止め……。
「ニトクリスよ、儂は所詮虚けじゃ。既に亡き者を想い続けられるほど、儂は出来た人間ではない」
「思い出しはするがな」と自嘲気味に笑ってから、信長は再び酒を呷る。こうも酒に酔いたいと思ったことは、中々に貴重な経験だと思いながら。
「……何が不要か。真に不要とあらば心の奥に臣下の面影などなかろう……とはいえ余も過ぎた事を言うてもうた。許せ」
「是非も無し。儂のは自慢と愚痴じゃ。聖杯の願いも特にないし、後は適当に聞き流す故、好きにせぇ」
胡坐を搔きつつも頭を垂れるイスカンダルだが、気にするなと信長は手を振る。
だいぶ酔いが回っているらしく、日頃のぐだっぷりも先程も魔性も感じさせぬ、眠気を帯びた小童の如きただ住まいだ。
「では征服王、次は俺に語らせてもらおう」
●モードレッド(プロフィール)
・性別:女性
・属性:中立・善
・イメージカラー:真紅
・特技:鉄拳制裁
・好きなもの:父上、実力、酒
・嫌いなもの:父上、停滞、病
・天敵:父上を害すもの(筆頭は黒髭)
~おまけ1「ばーさーかー×2」
勇モー王「マスターに鎧脱げって言われちまったけど……服どうすっかなぁ、碌なのがねーぞ」
串刺し公「話は聞かせてもらった」
勇モー王「おう、ヴラド公か。何の用だ?」
串刺し公「せっかくだ、趣味の刺繍ついでに貴殿の着る物を取り繕ってやるとしよう」
勇モー王「貴公なら任せられるな。頼むぜ」
メディア「アルトリア似の女の子を着せ替えすると聞いて」
キャストリア「息子を着せ替えすると聞いて」
モー王&串公「「帰れ」」
~おまけ2「せいはいもんどー・ばんがいへん」~
勇モー王「そういやさ、俺達の他にも王様サーヴァントって大勢いるよな?聖杯問答したのか?」
征服王「無論、誘える者は誘ったぞ!バーサーカーは大半が狂っているので無理だったが」
勇モー王「じゃあさ、征服王が一番すげぇって思った王様っているか?」
ノッブ「おお、儂も聞きたい聞きたい!是非もないかな!?」
ニト「オジマンディアス様が一番ですとも!」
征服王「ローマの神祖」
三者「「「ああ……それは仕方ない(遠い目)」」」
太陽王英雄王と英傑はいますが、王様英霊最強はロムルス様だと信じたい。
にしてもなんでだろう、書いていたらノッブが目立つ回になってもうた。
そしてシリアスなノッブを書こうとしたら漂流者な信長様と重ねてしまった。
だが後悔はしない。ノッブ様大好き(キリッ)
後半に続く。
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せーはいもんどー・いん・ばーさーかー(こうへん)
なんかさ、私的並行世界ブリテンの王道を考えて書きたかっただけなのに、ぜんぜん纏まらなかったんです……。まぁザックリとしかFate知識+アーサー王伝説を知ろうとしなかったから、こうなったんですが(汗)
こんな雑なFate小説でも楽しんでもらえれば幸いです。
余談ですが、前編のオマケにチラリと書いただけなのに、感想で凄い言われました。
神祖様やべぇ。
「次は貴様の番か。……ファラオ・ニトクリスよ、貴様はそれで構わんか?」
織田信長の問答は終わり、次は自分が問答をすると言い出した勇猛王モードレッドだが、イスカンダルは珍しく順序の確認をニトクリスに取る。
ニトクリスは堂々と佇む紅いスーツ姿のモードレッドを難しい顔で見る。見るだけですぐには口に出さず、少し考えてからイスカンダルに答える。
「ファラオである私を出し抜くとは不敬ですが……私はまだ整理ができていません。先は譲るとしましょう」
心の整理が出来ていないというのは本当だ。決してシリアスな信長に圧されたり怒鳴ったイスカンダルにビビったりして後れを取ったということはない。断じてない。
頭の耳っぽいモノがピンとしているのを見ていた勇モー王だったが、気にしないで行こうと視線を戻し、盃の酒を呷る。イスカンダルから見ても良い飲みっぷりだった。
「俺の王道を語る前に、2人に伝えておく。これは俺の……俺と
勇猛王に酔う気配はなく、静かに語り出す。
王として完璧であろうとした騎士王アーサー・ペンドラゴンが、痩せこけた親子を見たのを切欠に人を意識するようになった事。
それが原因で精神的に弱くなった騎士王は円卓の騎士との亀裂やブリテンの崩壊に気づき、モードレッドに心の弱さを明かし、後継者として剣を託した後に王の立場から逃げ出した事。
そうした事で、騎士王は魔術師として民を救い、モードレッドは騎士王の後継者として円卓の騎士を鉄拳制裁で正し、国は滅べど国を覚えし多くの人々が生き残った事。
「随分とメンタル激弱な騎士王もおったものじゃのぉ」
並行世界のブリテンの経緯を聞いた後、くっちゃくっちゃとテリヤキを頬張りながらノッブが一言。寝転んでいるし完全にぐだぐだモードである。
「しかし無理もないかと……ブリテンは土地が枯れ果て蛮族という敵もいる為、かなり過酷な環境だったと聞きました。心が折れてしまっても無理からぬ事ですよ」
ニトクリスはファラオとしては人寄りの感情と感性を抱いている為、ブリテンの過酷さを考えれば王が精神的に弱っていても仕方ないと言う。これがオジマンディアスなら一喝するだろうが、まぁ彼は英雄王並に偉大な王だから……この場に彼は居ないし、少しぐらいニトクリスとしての地が出てもいいだろう。
「まぁ、信長の言う事もニトクリスの言う事も否定はできない。どの世界のブリテンも厳しいには違いないが、切欠さえあれば、人は驚くほど変わっちまうものさ……
再び杯に注いだ酒を飲み干した勇猛王モードレッドは苦笑いを浮かべる。どの世界のブリテンも厳しかったには違いないのでアルトリアの精神への負担は大きかったろうが、勇猛王の世界のアルトリアは特に弱気だったらしい。
だからといって他のアルトリアより弱気なだけなら、義姉に造られしホムンクルスたる自分に打ち明け、王の座から逃げる事は無かったろう―――民を間近で見たことも含めて「変わった切欠」なのだ。
キャストリアの暗さを自らの目で見たイスカンダルは、あの暗さが本質でもあり経緯の結果でもあることを理解した故に、どことなく難しそうな顔だ。剛毅・豪快を征く王様イスカンダルには腑に落ちないらしい。
「ううむ……確かに大きな変化ではあるな。然らば勇猛王よ、国を捨て人を生かした騎士王の後継者よ……貴様の王道とは?」
酒をグビリと飲んでから、イスカンダルは勇猛王に問い掛ける。勇猛王は暫し瞑想のように目を閉じ静まった後、杯の酒を飲み干して目を開く―――その視界の先は、誰の姿も映らぬ虚空。
「―――人だ」
勇猛王の静かな答えに、信長とニトクリスは「何を言っているんだ」と言っているように首を傾げる。イスカンダルだけは、腕を組んだまま黙っている。
「王も人だ。騎士も人だ。民も人だ。そして国は人が集まる場所だ―――俺と
空になった杯を憂いを帯びた目で見つめるモードレッド。そこへイスカンダルが割り込んで、黙ってモードレッドの杯に酒を注ぐ。モードレッドはイスカンダルに会釈してから、注がれた酒を一口だけ含んで喉に流す。
「俺と
「つまり貴様の王道は、キャストリアあってこその王道だとでも?」
「その通りだ征服王。父上と俺は、王と騎士としてではなく、人同士として解り合えた。だから今の俺がいるし、今の父上がいる」
勇猛王としてのモードレッドは、キャストリアが胸の内に秘めていた想いを明かし、それを共感できたからこそ王として近づけた。
魔術師としてのアルトリアは、モードレッドと分かち合い解り合えたからこそ彼女に王の座を託し、ブリテンの未来を共に築こうと陰ながら応援してきた。
1人背負うには重すぎた荷を2人で分かち合い、多くの人を救える未来を歩んできた。それこそ、祖国の救済を捨ててでも。その罪と罰ですら2人で分かち合った。
「征服王、信長、ニトクリス……俺
だからこそ自分の想いを……他の王と比べられるような王道ではないのだと、
征服王は根っからの英雄資質故に、多くの臣下を引き入れ最果ての海を目指した。
第六天魔王は最新技術を日ノ本に齎した天下人故に、日ノ本の明日を強引に切り開いた。
エジプトの女王は現人神としての誇りを宿す身故に、今もなお偉大なるファラオを見習っている。
3人の王には多くを背負う器があった。
救うべき民と変わらぬ人間だから、騎士王は「完璧な王」を目指す事が出来なくなった。例えホムンクルスだとしても、騎士王と想いを打ち明けたモードレッドは、同じ人間なのだと気付かされた。
―――だからこそ願った。人に救いを。少しでも多くの民を救える道を。
「俺達の王道は民を、騎士を、そして俺と父上を救う為の道―――
それは、逃げ続けたキャストリアと父への怒りで盲目だったモードレッドが唯一、お互いに抱き続けてきた夢。
人を救い未来へ生かす理想郷。国を捨ててでも生き抜いて欲しいと願い続ける事。無理難題だと解っていても抱き続けてきた夢―――それが
その夢を笑う事は許されない。その夢を諦める事は許さない。それが例え父上でも。それが例え自分でも。
「はっ、随分と壮大な夢じゃのぉ」
鼻で笑う信長を殺意を込めた眼で睨むモードレッド。狂化の兆しか彼女の眼が赤く染まるが、信長は平然と笑いを漏らしている。
しかし声は笑っているが目は笑っていない。笑いが止まると信長は「どっこいショウイチ」と起き上がって胡坐を掻く。
「全てを救いし理想郷、と書いてアヴァロンとな。それは聖杯への願いと直結しとるのか?」
信長のモードレッドを見る視線は鋭い。品定めするような、そんな目つきだった。イスカンダルもニトクリスも、自然とモードレッドを見やる。
聖杯は万能ではない。その理想郷を願おう物なら、過程をすっ飛ばしてどんなことが起こるか想像もつかない。
そんな信長と視線を交わしていたモードレッドは、紅い眼を静かに閉じ……いつもの眼に戻して口を開く。
「まさか。理想郷は自分達で築いてこそ理想郷だ。しかも死ぬ間際に、その一歩を踏み出せたって自負できたからな。後悔なんてないさ」
「……では勇猛王、貴女の聖杯への願いは?」
「もう叶ったよ」
疑問に思ったニトクリスの答えにモードレッドは笑って答えた。先程の真剣な眼差しが噓のように軽い。
「ほぉ? では貴様の聖杯の願いはなんだ?」
「
イスカンダルに、ギュッと握りしめた拳を突き出す。その正拳突きの速さ足るや、風圧が生じたほどだ。
拳から生じる風圧を顔面に感じ取ったイスカンダルは目を見開くが、直後には白い歯を剥き出しにして笑い出す。
「ぬはははは! 王道を築いた貢献者たる、己の父を殴ってやったというか!」
「俺に黙って逃げた罪だけは絶対に許せなかった、それだけだ」
豪快に笑う征服王を横目に、両の拳をぶつけ合って怒りを露わにする勇猛王。拳同士の衝撃波でニトクリスちょっとビビる。
「確かに貴様ら2人は弱かったろうが、それで救える命があったのなら良し! 迷いのない良い目をしておるわ」
「感謝する征服王」
そう言って、征服王と勇猛王は互いの拳をコツンとぶつけ合う。信長もニトクリスも置いてけぼりだが、自然と微笑みを浮かべていた。
「さて次に「待った征服王」……なんだなんだ勇猛王よ」
「そうですよ勇猛王! 次は私の番だというのに割り込まないでください! 不敬ですよ不敬!」
「ニトクリス……お前まだ悩んでるだろ?」
「うぐっ……」
唐突に割り込んできたモードレッドの一言に、ニトクリスは気まずそうに後退る。彼女は未だに、己の王道をどのように誇らしく語るか悩んでいたのだ。
どう言い返すか悩むニトクリスを他所に、モードレッドはイスカンダルの傍に―正確にはイスカンダルの脇に置かれた樽―に座り込む。
「なぁ征服王、俺達の居たブリテンではな……酒は偉大なんだよ」
「……ぬ?」
バンと酒樽を叩くモードレッドを見たイスカンダルは、嫌な予感を感じたのか眉間に皺を寄せる。
「『酒は王を人に変える』って言葉が俺達のブリテンにはあってな、酒を飲めば皆平等になって気持ちを露わにできるんだよ。悩みも苦労も、みーんな吐き出しちまう。だから……」
ニヤリと笑うモードレッドを見てイスカンダルは確信した。彼女が起こす行動を……そしてその予感は的中することを……!
―ごっごっごっごっごっごっ……!
「ぬあぁぁぁ余の酒がぁぁぁ!」
「いやお主の酒じゃねーし」
絶叫するイスカンダル、冷静に突っ込む信長、目を丸くして唖然としているニトクリス。
モードレッドは、イスカンダルが抱えなければ運べない程に大きな酒樽を持ち上げ、流れ出る酒を次々と飲み干していく!
人間としてはありえない程の酒を飲んだ後、酒樽を轟音と共に床に置き、「ぶっはぁー!」と酒臭い息を盛大に吐き出す。その盛大さたるや竜の息吹の如く。
「そらお前も飲め飲め! 酔って素面になれ! 色々なもん吐き出せ吐き出せ!」
「んぶぉーっ!?」
まだ酒樽に残っている酒を杯に注いですぐさま無理やり開いたニトクリスの口に流し込む勇猛王、いや横暴王!アルコール度数は割と高いぞ!
「ええい、余にも寄越さんか!」
「おー、飲め飲め! ニトクリスの為に飲め! そしてニトクリスの苦悩を聞いてやれ!」
「ふきぇいでふよ、ゆーもーおー! ふきぇーーーい! もっとよこしぇー!」
「なんじゃこのぐだぐだっぷり」
残り少ない酒を逃してなるものかとイスカンダルもモードレッドとニトクリスの酒飲みに混ざろうと必死になる。ぐだぐだに定評のあるノッブですら、そんな3人の様子を見てぐだぐだであると認識してしまう程。
後日、ニトクリスは暫くの間、アサシン仕様のメシェド様フードを被って過ごしたという。マスター兄妹ことぐだーずが聞いても「ナニモ キクナ」の一点張り。事情を知っているらしいオジマンディアスに聞くと「悪くない問答だった」と笑って答えたそうな。
さらに酔っぱらって通常の三倍の横暴さを用いて厨房に殴り込み酒という酒を略奪しようとした勇猛王・征服王をジャンヌ・マルタ・四郎のルーラートリオによって取り押さえられ、2人の王に禁酒一週間の判決を下したとか。
ちなみに此度の聖杯問答の勝者は、被害も無く立派に問答したノッブであったとさ―――藤丸立香
―終―
勇猛王モードレッドとキャストリアは酒を飲ますとすんごいんです。
~おまけ1「もしアルトリアズが聞き耳を立てていたら」~
マシュ「た、大変です先輩! 廊下でアルトリアの皆さんが死んだ魚のような目をして並んでます!」
術アル「マシュさん、そっとしておいてあげてください……しかし立派になりましたねモードレッド……(ホロリ」
立香「……!」
立夏「うわわ、なんかビクンビクンしてる! これヤバい奴だよ絶対!」
~おまけ2「ごじつだん・しゅごうおう」~
せーふく王「しかしアレだな、貴様かなりの酒飲みだのぉ」
勇モー王「俺なんかより
せーふく王「……聞き間違いと思ったが、本当なのか? あれほど飲んだ貴様以上にキャストリアは飲むと?」
勇モー王「すげーぞ(ブルブルブルブル」
せーふく王「ど、どうした勇猛王!? 顔を真っ青にして何を思い出しとるのだ!」
勇モー王「すげーぞ(ガタガタガタガタ」
せーふく王「誰か! 誰かおらぬか!? 具体的にはデバフを解除できる奴を呼んでくれ!」
本編がぐだぐだになってもおまけはしっかりと書きたいというね(ぇ)
次回はもう書きたくて書きたくて仕方ない、なんちゃってデットヒートサマーレース一発物。ゲームやってないのでチーム結成する話とマシン紹介のみの予定。
次回、水着キャストリア(妄想)をお楽しみに!(自分でハードモードにしちゃう)
誤字報告・感想・ご意見・リクエスト等お待ちしております。
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きゃすたー・いん・さまーれーす
とっくに夏は過ぎましたが、キャストリアが夏イベントに参加する話です。今回もグダフダですゴメンナサイ(汗)
~チーム結成 熱中症を対策せよ!~
この日、キャスター・メディアは歓喜に震えていた。
「完成したわ……」
震える指先と声を抑える事無くメディアは1人呟く。それほどの達成感を胸に秘め、溢れんばかりの歓喜に変換していた。
これを創り上げるのにどれだけの時間と手間暇を浪費したか。カルデアとレイシフト先で素材を掻き集めてきたことか。他の英霊の手助けなく、1人で黙々と続けてきたことか。
だがメディアの祈願は達成した。薄暗い個室の中でありながら、後光ですら差し込んでいるように見えてしまう目の前の完成品を暫し眺め、次の工程に移る。
「さぁ、仕上げよキャストリア」
「はい、メディアさん」
メディアは背後に佇んでいたキャストリアに声をかけ、彼女はメディアの横を通って前に出る。2人とも、ここからが正念場だと言わんばかりに真剣な面持ちをしていた。
そしてキャストリアは完成品を手に持ち、個室の隅に置かれている仕切り用のカーテンの奥へと姿を消す。メディアは動かず、姿を隠すカーテンを凝視していた。
(もうすぐよ……もうすぐで私の祈願が……!)
2人を分かつカーテンの奥に居るキャストリアと完成した品が合わさる事で、メディアが望む真の完成品と成る。直にでも覗きたい(意味深)衝動が湧き上がるも、半端な結果に意味は無いと頭の中で誤魔化す。
フードも被ってバッチシ魔女って感じなのに女の子のようにソワソワしながら待っていると、ついにカーテンが開かれ、メディアとキャストリアが生み出した
「ど、どうでしょうか……?」
――水着キャストリア、降・臨!
「キャー! 似合うわよキャストリアちゃん!」
顔を紅潮したキャストリアの問いに、メディアは黄色いエールでイエスを唱える。両極端な対応の2人だが、いずれも喜びに充ちているようだ。なによりである。
青と白のローブを脱いで新たな衣装に着替えたキャストリアの外見は、ずばり「
黒髭やメルトリリスと共有したことで増えた無駄な装飾知識を用いてメディアが作成した水着は、あえてエロエロ方面でなく、動きやすく露出度高めな恰好をチョイスした。その方が可愛いけど地味めなキャストリアに似合うと信じて!
「しかしメディアさん、水着と言っていた割にはなんでセーラー服を?」
頭に被っている水兵帽の位置を直しながらキャストリアはメディアに尋ねる。普段フードを被って顔を隠しているキャストリアには気になるようだ。
露出度高めとはいうが、スカートは簡単には捲れない程に丈は長いし、白のストッキングも穿いている。正直フリルの付いた際どい水着を着せられると思っていた分かなりマシに思えたので、キャストリアはこの服装を気に入っている。
「水着だからといってイケイケに攻めるのはどうかと思うの。キャストリアちゃんにそういう水着は似合わないでしょうし。何よりこの格好の方が似合うし、意外なチョイスで注目が集まるはずだわ!」
自慢の衣装と、それを着込んだ可愛らしいセーラーキャストリアを見せびらかしたいという欲望の詰まったメディアは、衣装の可愛さだけでなく、その恰好をいかに周囲に見せつけるかを説いた。
だが残念!既に出場を決めたアルトリア・オルタがメイド服というナゾチョイスの恰好を選んでいた事にメディアは気づいていない!
「じゃあせっかくだし、写真撮らせてもらうわね!(後で勇猛王に渡してあげないと)」
テンションアゲアゲなメディアは、キャストリア限定とはいえ装飾を褒めてくれる勇猛王の為に、水兵服を着たキャストリアの写真を次々と撮影していくのだった。
なお、写真を受け取った勇猛王は無言でサムズアップし、数万近いQPをメディアに捧げたとか。
―――
「……というわけで、このような恰好になりました」
「うわー、可愛い! 確かにキャストリアなら水着じゃなくてコッチの方が似合ってるね!」
メディアに一通り撮影された後、気分をよくして明るくなったキャストリアはマシュと藤丸兄妹に自らの恰好を見せにいった。道中も色々なサーヴァントやカルデア職員から視線を集めていたからか、恥ずかしそうに頬を染めるも嬉しそうだ。
反応は上々、兄の立香は親指を突きたててグッドサインを示し、妹の立夏はキャイキャイ言いながら楽しそうにキャストリアを見やる。
「頼光さんと似てますが、これが
マシュも、普段の青を基調とした顔や腕などを隠すローブ姿ではなく、白を基調とした軽やかな服装を着こなすキャストリアをマジマジと見つめて感想を述べる。
マシュの指摘に「確かに」と頷き合う藤丸兄妹。確かに普段は俯き気味でドンヨリとしたオーラを醸し出しているが、今のキャストリアは背筋も伸びていて明るい。相変わらずの困り顔だが、明るさが強調されると可愛く見える。地味っ子がオシャレしてキャラが一転する感じか。
「それにしても流石はメディアさんにキャストリアさん。まさかキャストリアさんをルーラーのクラスに変貌させるなんて、驚きです」
「これじゃキャストリアじゃなくてアルーラリアだね」
誰が上手いこと言えと、と兄の立香は笑いで噴き出した。
聞いた時はキャストリアとメディアの正気を疑うレベル……というわけでもなかった。着替えるとサーヴァントのクラスが変貌する事変はカルデアあるあるなので。
片やブリテンの民を救い続けた
此度のサマーイベントに向けてせっせと素材を集め衣装を繕った結果、キャストリアが着る前提で作った水兵服は、着服者の霊基を変貌させるまでに至ってしまったのだ。
因みにルーラーになったのは、並行世界のブリテンに伝わる救済の魔術師「魔術師アルトリア」の所業が原因ではないかとダ・ヴィンチちゃんは推測する。
「けどおかげで、今度のイベントでルーラートリオの手伝いをすることになったんでしょ?」
「はい、此度の
何せ此度のレイシフト先でやるのはイベントだ。イベントとなれば、普段は自嘲している某髯を筆頭とした享楽家サーヴァントが暴走する可能性が物凄く高くなる。イベント参加者の特殊礼装サーヴァントは勿論の事、主催者は
成り立てとはいえルーラーが1人でも増えてくれれば心強い。他者を思いやる心が強いキャストリアならば抑え役としても機能するだろうと3人は判断した。ジャンヌとマルタから見てもキャストリアは良い子だし、四郎とは気が合うし。
「このような私でも、皆の救いに力を貸せるのであれば本望です。精一杯務めさせてもらいます」
そう笑顔で敬礼するキャストリアちゃんカワユイ。先輩二人と後輩の心が一致した瞬間である。
「ここに居ましたか」
「婦長」
唐突に開かれるドア。そして有無を言わずドカドカと無遠慮に入ってくる人物。カルデアの英霊が1人、バーサーカー・ナイチンゲールであった。マスターは妹の立夏。
その英霊の登場にキャストリアは、ぱぁっと表情が明るくなった。
ナイチンゲールは苛烈にしてアグレッシブ。人の話を聞かず自分の意見のみを通そうとする鋼の精神の持ち主であり、
そんなナイチンゲールと、弱気で根暗なキャストリアとは相性が悪いように思えるが……意外にも性質的にも性格的にも相性は良い。
最初はキャストリアからナイチンゲールより医学と医療を学ぼうとし、許可こそ得られたものの教育の度にナイチンゲールから強烈な指導と叱咤を受けている。
だがナイチンゲールの押せ押せな姿勢は後ろ向きに成りがちなアルーラリアを引っ張り、キャストリア自身も容赦なく堅実な指導と叱咤を受け入れ、落ち込む所か逆にやる気を出すようになった。
その結果、ナイチンゲールとキャストリアは子弟のような関係となった。勇モー王も認める凸凹コンビである。
「どうなさいました?」
「来なさい」
「あ、あの?」
即答。ツカツカと歩くナイチンゲールはキャストリアを腹から担ぎ、肩に彼女を背負って180度回転、そのままツカツカと部屋を出て行った。
その堂々として素早い拉致を前にして、藤丸兄妹とマシュは思わず固まってしまい、意識を取り戻した頃にはドアは閉まり切っていた。
「いつもの婦長だね」
「いつもの婦長ですね」
いつもの婦長だな、と藤丸立香も同意するように頷いた。
それもナイチンゲールの所業を考えれば「いつも通り」として受け取ってしまう。それが今のカルデアであった。
―――
「い、いきなりどうしたんですか?」
「レースに参加しますよ」
「相変わらず唐突ですね!?」
ツカツカとカルデアの廊下を歩むナイチンゲールの足取りは確固たるもので、そんな彼女の歩みについていこうとするキャストリアは戸惑い気味だ。婦長に慣れていても戸惑いは常に絶えないのである。
「レースでは数多くのサーヴァントが参加し、過酷な地を走ると耳にしました……つまり」
「つ、つまり?」
歩みを止めることなく淡々と言葉を紡ぎ、唐突に溜めだしたナイチンゲールに、ゴクリと唾を飲むキャストリア。
「熱中症に陥る可能性が高いです」
熱中症……夏を代表する風物詩(?)の1つであり病名の1つ。その病は決してバカにはできず、毎年夏には少ない数の死者が出る程だ。
ナイチンゲールは危惧している。炎天下の中で行われるイベントの参加者が、碌に日射対策をしていないが故に熱中症に陥る事を。
「あの、私達はサーヴァントなので熱中症とは無関係と思われますが……」
「指導っ!」「はべしっ」
時に宝具の炎を浴び、時に砂漠の中に佇む軍勢を呼ぶ固有結界を発動する事もある英霊に、熱中症程度で倒れるような者がいるのかというキャストリアの小さな疑問。それですらナイチンゲールは手刀によって断絶する。
「熱中症の対策は、適度な塩分及び水分補給・冷却・直射日光の遮光。これだけでも機能しますが、英霊であるから、レーサーであるからと怠る者が出ます。我々はその対策として、レーサーとして参加しつつ、前記の対策を施します」
確かに夏の英霊は、時に大胆な恰好をする為に肌を露出する者も多い。それでいて露出度の高い衣装のまま平然と戦闘をこなす英霊だっている。
キャストリアも近日行われるイベントに向けてか、矢鱈と露出度の高い恰好をする英霊を見かけている。特にローマの皇帝とか見てて此方が真っ赤になるレベルの際どさだ。
「具体的には……?」
「いつでも事故や熱中症を引き起こして良いように万全の対策を。そして定期的に放水しサーヴァントを冷やします」
「物理的にですね解りました!」
要はレースに参加しつつ、不慮の事故が起これば即治療。ナイチンゲールらしい有言実行っぷりにキャストリアは尊敬の眼差しを向けて敬礼する。それでいいのかアルーラリア。
何にしてもナイチンゲールは、病や怪我に関して常に全力にして本気。一度思い込めば止まらず、何故レースに参加するに至るかという疑問ですら素っ飛ばすのが彼女だ。
キャストリアもナイチンゲールの性格を理解しているが故にノっているのだ。衣装と共に霊基が変わったからか、普段の後ろ向き姿勢も自粛気味である。
「ではマシンについては……あら?」
張り切っているキャストリアは、ふと視線を感じたので振り向いてみる。
視線の先には曲がり角の陰からコッソリと顔を出す、勇猛王モードレッドの姿が。写真では物足りず実物を見ようと探していたらしい。
「人材確保」
「な、何するんだ!」
脱兎のごとく瞬間移動で勇猛王モードレッドを確保するナイチンゲールマジ婦長。筋力は勇猛王が勝っているのにナイチンゲールの迫力で振り切れないでいた。
「人材は多ければ多いほど良い。貴女もレースに参加し、熱中症対策に手を貸しなさい」
もはや無差別である。
「ちょ、俺がなんでこんな事を「モードレッド」……父上?」
断ろうとしたモードレッドだが、水兵隊衣装のキャストリアが近づいた事で心音がドキンと鳴る。実物は写真に勝る可愛さだった。
「モードレッド、よければ私達に力を貸してはくれませんか? ……共に大地を駆け巡りましょう」
そう言ってキャストリアは、勇猛王モードレッドに手を差し出して微笑む。その瞳は何かを求めているかのように、モードレッドの目を見据えていた。
―衣装をチェンジし気持ちが切り替わったキャストリアは、親子揃ってイベントに参加したいと願い、それを実行するに至る事が出来た。
―そんな
「(レースに)勝とう父上。俺達2人ならやれる!」
「はい! 共に(熱中症に)勝ちを狙いましょう!」
2人は手を握り合い親子の絆を確かめ合う―――全ては(すれ違った)勝利の為に!
「ではダ・ヴィンチに相談(一方的)しましょう。必要な機材や構図は考えてあります」
握り合ったままのブリテン親子の首根っこを掴んでズルズルと引きずりながら、ナイチンゲールは今日も行く。
―チーム「熱中症対策支隊」参戦!
―続かない―
●チーム名:熱中症対策支隊
キャストリア(ルーラー)・ナイチンゲール・モードレッド(バーサーカー)の三名。
●マシン名:キューキューサイクリング
デカい放水タンクを備えた人力三輪車。ペダルを漕ぐモードレッドが動力、残り二名は放水ポンプの操作と待機(つまり大したことはしない)。
●キャストリア(ルーラー)
・人物
メディアの計らいにより、どこかのアイランドウィンドのような水兵隊に着替えさせられたキャストリア! 顔を隠すフードが無くなった事もあって性格は少し明るくなった。
他者を思いやる心は常に忘れず、冷たい飲み物や秘薬(キャストリア印)が入ったクーラーボックスは欠かせない。攻撃時は先端に宝石が埋め込まれたライフルで魔法射撃を行うぞ!
~おまけ1・アルトリア達の危機感~
青王「―――っ!」
獅子王「その様子ですと貴女も感じたようですね、騎士王の私」
青王「なんということでしょう…ただでさえ黒王の私がライダーとなったのに、よもや新たな私が別に誕生してしまうとは……!」
獅子王「小耳に挟んだのですが、どうやら魔術師の私がルーラーとして顕現したようです」
青王「る、ルーラーですって!? こうなったら暗殺者の私に折り入って……獅子王の私よ、何故ロンゴミニアトを構えるのです?」
獅子王「今の貴女の恰好、アーチャーとしての私ですよね? 黒王はライダーとバリエーションが増えて、暗殺者の私はイベントに参加しているというのに……私は……!」
青王「落ち着きなさい獅子王の私! それを言うなら貴女こそ特異点で目立ちに目立ちまくったではないですか! しかも噂によれば黒化の貴女も居ると聞きました! なんですか両者ともだらしない脂肪垂れ下げて!」
獅子王「誰がだらしない脂肪かー!」
青王「私に対する当てつてかー!」
エミヤ「マスター、マスターを呼べ! いきなり獅子王とアルトリアがガチバトルを繰り出したぞ!」
~おまけ2・キャストリア(ルーラー)の宝具~
マシュ「……そういえば今更ですがキャストアさん、その私の盾のようなホイッスルはなんですか?」
裁アル「メディアさんが折角だからと作った私の宝具らしいです。名は『
立夏「なら使ってみようよ! もうレイシフト先に着いたんだし、だたっ広い場所だから大丈夫だよ!」
立香「(コクコク)」
裁アル「マスター達の頼みならば……」
―これは有り得し我が理想。見えぬ未来は果てしなく広がる青の如し。大海より先にありし希望を目指せ……!
―
ナイツ・オブ・マリーンズ『お会いしたかったです先代騎士お』
立夏「ああ、どこかで見たような航海士4名が召喚されたのに消えちゃった!」
術アル「ごめんないごめんなさい円卓の騎士よ卑怯者たる私を許して……!」
マシュ「ああ、キャストリアさんの服装どころか霊基までもが
立香「……(唖然としている)」
●宝具名:
●ランク:B
●種別:対軍宝具
円卓を模したホイッスルを吹く事で航海士姿となった並行世界のベディヴィエール・ガヴェイン・ランスロット・トリスタンを、全てのステータスがワンランクダウンした状態で召喚する。
並行世界の円卓の騎士達はキャストリアに会いたがっているが、一度使って消した以降、キャストリアは使う予定は無いらしい。
水兵服も一応水着ってことでいいんですよね? え、違う? 敢えて際どい水着じゃなくてセーラー服の方が良いと思って……。
そんなわけで皆さん、遅れた事も含め期待外れでゴメンナサイ(汗)ルーラー仕様の宝具も思いつきです(ぇ)
誤字報告・感想・ご意見・リクエスト等お待ちしております。
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きゃすたー・いん・あぽくりふぁ
黒のキャスターがキャストリアに、赤のセイバーが勇モー王になったIFの話。
注意:アポクリファはアニメをちょっと見た程度の完全ニワカなので続きません。
それは、突如としてブリテンの君主・アーサー王が失踪した事から始まった。
選定の剣を抜いて王となったアーサー王は、「完璧な王」としてブリテンを治め、ブリテンの敵を悉く倒していった騎士の王である。
しかし、彼を支えるはずの円卓の騎士との間には多くの不和があった。その中でも、ランスロットとギネヴィアとの逢引、そして異父姉モルガンの子・モードレッドとの会食は大きいだろう。
『モードレッドとの会食』―――説では酒で酔った所をモードレッドに襲われ、命乞いをしたアーサー王が王位をモードレッドに譲ると約束したとされるが……未だ真実は明らかになっていない。
解っているのはアーサー王が忽然と姿を消した翌日、折れし選定の剣とアーサー王の聖剣がモードレッドに託された事で、モードレッドが新たなブリテンの王になったという事実だ。
これだけなら醜い話とも酷い話だとも思うだろう……しかし、この決断はブリテンの未来を大きく変えた。
モードレッド(が)王となったことでアーサー王に対する円卓の騎士との不和は解消し、モードレッドは今までとこれからの不和を帳消しにすべく、円卓の騎士やモルガンに様々な罰や改善を施した。
その多くの内容にも様々な憶測や説があるが、此処では省略させていただく。1つだけ記すとすればランスロットとギネヴィアを国外に追い出した事か。
そしてモードレッド王はアーサー王に匹敵、いやそれ以上の快進撃を続けた。政治に関する良い話は聞かないが、戦と争いに関しては無敗と言っても過言ではない。
快進撃に合わせるように苦しんでいた民達は息を吹き返し、モードレッド王の雄姿を目の当たりにしてきた。その記録は多く残されており、貧しいながらも未来に生きた当時の日々が伺える。
ブリテンが滅びた後も、生き延びた人々はモードレッド王の事をこう呼ぶ―――勇猛王モードレッドと
一方でブリテンでは「魔術師アルトリア」という古い伝説が残っている。
こちらは前述した「勇猛王伝説」とは打って変わり、記した者の殆どが平民という御伽噺のような曖昧な物となっている。
民を救えなかった事に嘆いたアーサー王が魔術師として生まれ変わり、ブリテンの人々を救い続け、最期は勇猛王と共にカムランの丘に向かったという短い物語だ。
数多く残っている伝承を解析したところ、当時最悪とも言えたブリテンの食糧問題を改善し、現代における薬剤学や治療術を編み出したとされる。
中には衰弱した勇猛王が完全復帰を遂げたのは、不義の子とはいえ息子の病を嘆いた魔術師アルトリアが治したからだと書かれているが……これも定かではない。
この「魔術師アルトリア」の存在は平民が生み出した空想上の人物と思われていたが、かつてカムランの丘と呼ばれた場所にて
―ユグドミレニア一族が、遥か地中に眠っていた『
ルーマニアのとある地……ユグドミレニア一族が支配する城砦にて、ある模擬戦闘が行われていた。ホムンクルスの定期的な練習試合のようなものである。
勿論、ただの戦闘訓練ではない。魔術が飛び交い、武器を交わし、様々な戦略や人海戦術を当主に披露し「使える」事をアピールする為の大事な物だ。
とはいえ、戦うのは全てホムンクルス……量産こそされるが短命とされる彼らの戦闘能力は、魔術師や
それは凄まじい戦闘だった。
ただの槍でも振えば岩が裂け、ただの弓でも矢を放てば弾速を超え、一般的な魔術を放てば高火力となって地面にクレーターを作る。
拳を振えば音を置き去りにし、大地を蹴れば土を抉り、駆ければチーターを思わす速度を出す。体術・剣術・槍術といった武術は全て達人のソレだ。
そんな身体能力を持ちながら頭脳も優れており、様々な陣形や乱戦、時には1対100の劣勢ですら熟している。皆真剣で、知恵を絞り、模擬でも決死の覚悟で戦う。
こんな、魔術師にとって一般的な「ホムンクルスの常識」を覆す大戦闘が行われているなど、誰が想像できよう。
「……素晴らしい光景ではないか、ダーニック」
そんなホムンクルス達の模擬戦を高所から見下ろしている男が居た。黒い貴族服を着込んだ彼は、数十名の激しい戦闘を眺めながら感嘆の溜息を零す。
一方で、そんな彼の隣に立つ若い男は対照的だった。額には冷や汗が滲んでおり、笑顔は引きつっている。幸いにも隣人は眼下の光景に夢中だったので、こっそりとハンカチで汗を拭う。
後者は、ここミレミア城砦の支配者にしてユグドミレミア一族の長・ダーニック=プレストーン=ユグドミレミア。見た目は若い(※年若い=年齢が若い)が齢百歳前後の高齢にして腹黒い男だ。
前者は、そんなダーニックによって召喚された英霊……ここルーマニアのかつての支配者であるヴラド3世である。クラスはランサー。
「生前の余に恵まれなかったもの……それは数多あるが、1つは彼らのような精鋭だ。1人1人が屈強にして賢人、何より余への忠誠と敬意を示している……良き兵達よ」
「そのようですな……まさかこれ程の物とは思いませんでした」
冷や汗を拭いながらヴラド3世の言葉に頷くダーニック。長年生きて来た彼だからこそ、眼下に広がる有り得ない戦闘力を受け入れるのに苦労しているようだ。
だがこれはダーニックにとって良い兆候だ。ヴラド3世ら英霊には及ばないとはいえ、量産可能なホムンクルスがこれほどまでの戦闘能力を持つとなれば間違いなく害を為せる。
彼らに上等な装備を与えれば更に戦闘力は増すだろうと、ダーニックは脳内で武器の輸入や精製のプランを考慮する。
ダーニックにとって、此度の
「これも貴様の成果の1つか、キャスターよ」
そんなダーニックを他所に、笑みを深めるヴラド3世は後ろを振り向いた。
そこに居たのは若い女性だった。青を基調として白の装飾が施されたローブを纏っており、フードを目深に被っている。
先端に赤い宝石が埋め込まれた木の杖を両手で握り、女性は俯き気味だった顔を上げてヴラドを見据える。その瞳は若干の恐怖こそ滲んでいるものの、穏やかな笑みを彼に向けていた。
「ええ、我が王。私の持ちえる全ての知恵を、彼らの為に……ひいては王の為に働かせました」
「ダーニックは貴様を『治療と防御に秀でているキャスター』とは言っていたが、まさかホムンクルスの強化まで施せるとは。大儀である」
「ありがたきお言葉です」
かつて自国の将に「串刺し公」と恐れられ裏切られたヴラド3世にとって、キャスターと呼びし女性の小さな恐怖など気にしない。
遠慮なく彼女を評価し、彼女も嬉しそうに微笑んで頭を垂れる。ダーニックも今更になって彼女の類まれなる才能を認め、同時に警戒を強める。
彼と彼女は特例によって召喚された英霊だ。特にキャスターは、ミレミア城砦の防御力強化の為に早々から召喚し、こうしてホムンクルスの強化に宛がっている。
正直に言えばダーニックはキャスターの持つ宝具と魔術に目が行っていた。何故ならキャスターはそれほどまでの知名度と伝説を持つ存在―――『魔術師アルトリア』なのだから。
「キャスター、貴女の要望には応えてきましたが、我々はより高い成果を求めています。此度の聖杯大戦、負けるわけには行かないのです」
「ええ、承知しておりますダーニック氏。かつては私も、弱いとはいえ国を救うべく魔術師となってでも立ち上がった身。護国の助けになるとなれば、全力を尽くします」
何故かビクっとダーニックに怯えつつも、力強く答えるキャスターこと
彼女の要望……それはマスターに変わる英霊への魔力供給の手段として、ただ無為に生み出す為のホムンクルス達に救いを与える事だった。
幸いにもキャスターはホムンクルスを強化・改善する術を心得ており、数多のホムンクルス全てに延命や身体強化を施し、培養液漬けの日々から解放させることに成功。
誕生こそ培養液からだが、魔力供給は彼女が編み出した宝具……
「『
「強く出ますね……相手は我々と同じ7騎のサーヴァントです。何が出るか解らないのですよ?」
「解らないからこそ……私のような未熟者には、それぐらいの意気込みが無いとやっていけないのです」
どよん、と暗くなるキャスター。通常の聖杯戦争でも生き残れる自信が無いのに、
キャスター……かつてアーサー王と呼ばれし魔術師を黒の陣営として召喚できた事を喜んでいたが、こんな弱気で大丈夫なのかと眉間に指を添える。
「やっぱりここにいた! せんせーい!」
無邪気な声が遠くから聞こえてくる。キャスターのマスターである少年……人形工学に精通している魔術師ロシェ=フレイン=ユグドミレミアである。
子供好きであるキャスターの表情が少し明るくなり、駆け付けて来たロシェに振り向く。
「マスター、如何なさいましたか?」
「如何も何も、ゴーレムの作り方を教えてーっていうから時間空けたのに、先生ったらちっとも来ないんですから!」
「そうでした、ほったらかしにして申し訳ありません。では王よ、席を外しても?」
魔術師としてゴーレム作成に関心を持ったキャスターはロシェに知恵を学び、同時にロシェはキャスターの斬新な発想と工夫に興味を持った。
オマケにロシェは幼い頃からの養育をゴーレムに任された為、キャスターの「頼りないけど暖かい感じ」を大層気に入り、彼女を「先生」と呼んで慕っている。
そんなロシェとの触れ合いを大事にしたいキャスターは、念のためにヴラド3世に確認を取る。
「良い。これからも励むが良い」
「……王の為にも」
深々と頭を下げ、ロシェと共に歩き出す。護国の将としての自分を見てくれるキャスターの背を見送ってから、再びホムンクルス達の模擬戦を眺める。
嬉しそうに先頭を歩くロシェの後姿を追いながらキャスターは思案する。ユグドミレミア一族。ヴラド3世の過去。フィオレの足。ホムンクルス達。ダーニックへの警戒。そして……。
(1つだけ他とは違う兆しが見えたホムンクルス……確かな結果が出るまで待つのが賢明でしょうね)
多くのカプセルの中で眠る造られたばかりのホムンクルス達……その中に僅かな、しかし確かな違いを示すホムンクルスが一体だけいる。
(ですが
手に持つ樹の杖……宝具にまで昇華した『アルトリアの宝杖』を握る手に力が籠る。この杖の宝具としての力を大きく引き出す可能性を、あのホムンクルスは実現しようとしているから。
「先生、なにボーッとしているんですか? 新しいゴーレムのアイディアでも浮かびました?」
くるり、と翻って後ろ歩きでキャスターを見やるロシェ。対人関係に疎い彼だが、そこそこの付き合いだからかキャスターの顔色を伺うぐらいはできるようだ。
声を掛けられて咄嗟に「なんでもありませんよ」と言ってロシェに前を向かせ、横に並んで歩く。何気なくロシェはキャスターの手を握り、ルンルン気分で歩き出す。
(……今はいいにしましょう。まだ聖杯大戦も始まっていませんし……せめて彼の為にも、頑張りませんと)
―いつか来る大戦の為に、キャスターことアルトリアが出来る事は多い。ロシェの笑顔をみて微笑みながら、彼女は心の中で決意するのだった。
―――
フリーランスの傭兵にして死霊魔術師、獅子劫界離の英霊召喚は成功した―――はずだった。
魔術協会から受け取った「円卓の破片」を触媒にセイバーとして円卓の騎士を召喚する―――そのはずだった。
獅子劫界離の眼前には、巨大な赤い竜が佇んでいた。陽炎のように揺らめく竜は胸を張って彼を見下し、得物を見定める捕食者のような威圧感を放っている。
冷や汗が止まらない。喉が渇く。眼前の威圧感に圧倒されている獅子劫の脳は停止状態に近かったが、辛うじて意識を保っている。
不意に竜が消えた。赤い陽炎が大きく揺らいだかと思えば瞬時に威圧感と姿を消す。竜から解放された獅子劫は安堵の溜息を盛らすよりも先に、見上げていた視線を下に移し、召喚陣を見やる。
―そこに立っていたのは、赤を基調とし金の装飾が施された、竜をモチーフにしたような鎧を纏う騎士だった。
「お前……」
獅子劫は思わずと言わんばかりに声を漏らす。先程の竜の気配はお前が発したのか。お前は何者なのだと様々な疑問が頭をよぎる。
騎士は何も言わないし何もしない。しかしフルフェイスの兜が独りでに動き出し、獅子劫の警戒心を若干強める。
竜の頭のようなフルフェイスは蒸気のように魔力を吹き出しながら大きく開口。下顎は宝石が埋め込まれた先端を胸当てに押し付け、刺々しい首飾りになる。
上顎は大きくスライドして背面に固定。後ろ向きに伸びる角も合ってブースターのように見え、実際にブースターの役割でもあるのか魔力の炎が小さく噴出した。
そんなギミックを獅子劫が見やる事は無い。彼の視線は騎士の素顔……金色の髪に翠の眼を持つ少女に釘付けだったのだから。
可憐さに惚れたわけでもない。女だった事実に驚いたわけでもない。彼は少女から放たれる、王気ともいえる威圧感に息を飲んでいたのだから。
少女は何も言わずに腰の両端に吊るされた剣……
獅子劫は二振りの剣を見て今度こそ驚愕した。その二振りの剣は歴史に詳しいわけでもない獅子劫から見ても解る……解ってしまう程に有名な
「我が名はモードレッド=ペンドラゴン」
少女は竜の如き威圧感を多少緩め、しかし凛とした声で告げる。
「騎士王アーサー=ペンドラゴンの、唯一にして正当な後継者」
左にクラレント。右にエクスカリバー。2本の剣を杖代わりに手を添えて見せつける……「自分こそ王である」と。
「故にブリテンの民はこう呼ぶ―――勇猛王モードレッドと」
『勇猛王伝説』の御本人様かよ……獅子劫界離は己の幸運と悪運を、この時ばかりは盛大に喜んだ。
「問うぞ。お前がオレのマスターか」
―この聖杯大戦は、俺
並行世界の騎士王と反逆の騎士の
●黒のキャスター:アルトリア(キャストリア)
触媒はアルトリアの宝杖。黒の陣営ではチート化。
宝具と魔術で防衛は完璧だしゴーレムとホムンクルスを強化したりフィオレの足を黒のアーチャーのアドバイスで治すかもしれないしジークを強化した上で逃がしたり黒のランサーの吸血鬼化を止めたり赤のアサシンの城にホムンクルス数十人分の魔力を乗せたエクスカリバービームぶっぱしたり赤のセイバーと和解したりと大活躍(かもしれない)
天敵は赤のキャスター。宝具使われたら過去のトラウマでSan値直葬まっしぐら。
●赤のセイバー:モードレッド(勇モー王)
触媒は円卓の破片(騎士時代の名残)。赤の陣営ではチート化。
素のステータスが滅茶苦茶高いしエクスカリバーとクラレントの二刀流にキャストリアの強化で周囲の魔力を吸収して燃費が良く獅子劫とも相性が良くキャストリアが敵陣営に居ると直感で察知しやる気も上々で黒のアサシン戦も圧勝(かもしれない)
天敵は勿論黒のキャスター。涙見せられたら戦えないし和解もしちゃう。
因みに『モードレッドの会食』とは只の酒の席で、アルトリアとモードレッドが酒の勢いで色々とぶちまけた話。
獅子劫と酒を飲みかわす際にその話を振られてブチ切れたりする。自分は父上を闇討ちする気などないと。
そんな妄想とニワカ交じりのアポクリファでした。
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きゃすたーがふぉーりなー
Q:並行世界のブリテンがより歪んでしまったら?
A:神頼みならぬ邪神頼み
殴り書きな上に設定が曖昧、さらにクトゥルフはpixiv百科事典頼りです。注意。
―それは雷鳴轟く豪雨の中で起こった出来事だ。
いあ! いあ! はすたあ!
―扉を強く叩く。扉越しに男の声が響く。
「王! 王よ! 私です、ベディヴィエールです! 返事をしてください!」
はすたあ くふあやく
―さらに扉を強く叩く。扉の向こうの男は我慢の限界だった。
「王……っ! 扉を破ります! 無礼をお許しください!」
ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ
―扉は一閃によって切り開かれ、銀腕の騎士が駆け付ける。
「王-っ!」
あい! あい! はすたあ!
円卓の騎士ベディヴィエールが最後に目撃したのは、黄のローブを来た女性を背に乗せた、蜂のような不気味な翼竜であったという。
最も……その姿は瞬く間に消え去ってしまったのだが。
―――
藤丸立香は夢を見る。彼は昨年にも、天下一の剣豪との旅路という奇妙な夢も見て、夢に出た剣豪……宮本武蔵をカルデアに招き入れた事があった。
今年は邪神をも屈させる画工と出会う夢を見て、その画工を降臨者という意味合いのクラスを持った英霊として呼び出した。
しかし画工を召喚した夜には、解り易いまでの悪夢を見てしまった。
場所は黄昏に染まり真っ黒な影が幾多も伸びる何処かの城。いずれも寂れており、人の気配が全くと言っていい程に感じさせない。
「忘れるものか。忘れるはずがない……ここは
傍らに立つはモードレッド。ただし彼女はバーサーカーとしての……アーサー王の正当な後継者であるモードレッド・ペンドラゴンの方だった。
何故そう思うのかを問えば、彼女は無言で指さす。その先には、やはり黄昏色に染まっている庭園があり、その中央に置かれた枯れた噴水。
目を凝らして見て見れば、その噴水の中央には、何かの鞘が刺さっている。その鞘は、赤と黒に染まった空間の中で存在を主張するように輝いている。
「あれは
不敬かもしれないだろうが、確かに煌びやかに輝く鞘があのような場所に飾られていれば、騎士だろうが兵士だろうが目に焼き付くだろう。忘れ形見、という奴か。
ということは、ここは間違いなくブリテンの城であり、
しかし何なのだろう、この不気味なまでの静けさは。
「此処がオレの居たブリテンなのは確かだが……マスターも感じているか? ここは静かだ……静かすぎる……」
狂化(といってもキャストリア絡みだが)されてなお理性を保つ勇モー王ですら、立香と同様の感覚を味わっているようだ。
味わったことは無いが、まるで深海にでもいるようだ。自らが発する僅かな足音ですら安心感を得られる程、静寂と重圧が心身共に浸食していくようで。
しかしながら、それは杞憂に終わった…… 黄昏の城にて立香と勇猛王を待っていたは、狂った6人の円卓の騎士であった。
「愛している愛している愛あいアい哀あイ藍あいいあ、いあ。いあ! いあ!」
狂愛のランスロット。愛によって狂った彼は、王の妻を、王を、円卓を、そして己の罪ですら愛する道化と化した。
「おおおおぉぉぉぉぉ! ランスロットォォォ! 何故ぇぇ! 何故に王は奴をぉぉぉ!?」
憎悪のガヴェイン。兄弟を、そして王の妻を奪われた彼は、復讐と憎悪と拒絶で燃え続ける黒い太陽と化した。
「王は心が解らぬのか!? 王はよもや人の皮を被った魔物ではないのか!? ああ、私は恐ろしい、恐ろしい。解っていながら解ろうともせぬ王が恐ろしい!」
侮蔑のトリスタン。王の人柄を嘆き、王の心を悲しみ、その果てに王を化物と罵る狂気と化した。
「あい! あい! はすたあ! あい! あい! はすたあ! 黄衣の王よ、王をどうか! どうか!」
狂乱のベディヴィエール。普段の彼を知れば考えられぬ程に発狂し、何かに向けて何かを願い続ける宣教師となった。
「……」
無心のアグラヴェイン。虚ろな目で、しかし精密な動きを持ってブリテンに侵入せし敵を排除する機械となった。
そして。
「ぎぎ、いぎ、あー、さぁ。民を、捧げ、よぉ。捧げろぉ。捧げるぞぉぉぉ」
「オレかよ……」
生贄のモードレッド。追い求め続けた王が居なくなった。なら誘き寄せればいいとブリテンの民を殺し続ける殺戮者となった。
いずれも、元来のアーサー王伝説にも並行世界の勇猛王伝説にも記された、円卓の不和が悪化したかのような現象だ。
城の外を見れば血肉と異形の死骸が広がる地獄絵図となっていた。これは余りにも酷い光景だ。強靭なメンタルを誇る立香ですら吐き気を覚える。
「なんなんだよ……なんなんだよ、ここは!?」
霊基を貫かれながらも凶悪な笑顔を浮かべて消えるモードレッドを見送った後、勇モー王は悲痛の叫びを上げる。勇猛の王と呼ばれし彼女ですら、この異端なブリテンに恐怖していた。
城下町は腐蝕と黒血で満ち溢れ、城は狂った騎士達で満ち溢れている。無心のアグラヴェインを除いた全ての騎士は、死に際が訪れようとも怪しげな呪文を唱え続けていた。
―ここで藤丸立香は思いつく……自分は似たような呪文を聞いた事がある……?
「ここは、私の夢です。外の世界へ逃げ出した、私の」
コツコツと静かな足音と声がした。藤丸立香は咄嗟に振り向き、勇猛王は剣を向けて身構えた。
「私は確かに外なる神に逃げたいと願いました。そして閉じ籠ろうとした私を鍵として並行世界を乗っ取る算段だったのでしょうが……あのような神、信頼していた円卓の醜い部分を見て来た私にとっては、恐れも蝕みもありません。
闇のように黒い影から現れ、黄昏の光に照らされて現れたのは奇妙な騎士だった。
白を基調とし黄の装飾が施されたバトルドレス。顔を隠し全身を覆う黄の外套。手に持つ剣は蜂をそのまま剣に変えたような不気味な獲物で、死にかけの昆虫のように時節蠢いている。
何よりも恐ろしいのは彼又は彼女の背から伸びる翼……らしきナニカだ。竜の翼のようにも見えるが、皮膜は昆虫の羽を束ねており、それら1枚1枚が七色の光沢を放つ。
「外なる神は、本来のブリテンの並行世界……私が逃げ出したブリテンの、さらに並行世界のブリテンに目を定めました。並行世界の並行世界という遠く細い回り道を辿りながら、貴方と
つまり、あの円卓の騎士は全て、この者の夢が生み出した想像の産物ということか。あのような悍ましい物を見て、それを夢という形に昇華させたのがあの騎士だというのなら、アレは……。
「嘘だろ……?」
「お久しぶりです。モードレッド」
驚愕し硬直する勇猛王を前に、騎士は黄衣のフードを脱いで姿を晒す。
彼女こそは
「ウガアアァァァァ!」
勇猛王が吠える。彼女はカルデアという別世界で
それは騎士王としての父を超えるという無念であり、騎士王としての父に認められず、騎士王としての父に逃げられた……並行世界の
故に……勇猛王を最大限に狂化させるには十分すぎた!
「カルデアのマスターよ……私を全力で止めてください。この身に宿す神の力は、あと少しの力が加われば収まります」
魔力放出を持って高速で突撃する勇猛王だが、いつしかアルトリアは当たり前のように藤丸立香の眼前に立っていた。
吹き荒れるのは魔力放出が起こした風だけ。物理法則を無視した、しかしテレポートですら感じさせない何かを、眼前のアルトリアから感じさせる。
「
モードレッドが反転、真っ赤に染まる目でアルトリアを睨み、今度は跳躍だけで肉薄する。
アルトリアは視線を立香に向けたまま、片手で剣を振う……それだけで肉薄したはずのモードレッドは吹き飛ばされた。
振り上げた剣はまるで生き物のように……それこそ蝉のように刃そのものが振動し、蜂の羽を象った剣格が羽ばたいている。
「どうか、私に救いを。どうか、貴方の世界に救いを。
遥か彼方から激突音が響く。目の前のアルトリアに敵意が湧き出てくる。目の前のアルトリア
それでも藤丸立香の心は折れない。アルトリアの意志と
―令呪を持って命ずる! 戻って来い、バーサーカー!
令呪が刻まれた手を翳し、敢えてクラス名を叫ぶ。藤丸立香とアルトリアの合間に勇猛王が瞬時に現れ、牙を向ける。
アルトリアはそんな僅かな瞬間に微笑み、
背より生えし、蜂の羽を皮膜代わりとした竜の翼が羽ばたく。両手で握られし、蜂のような竜のような異形の剣が奇怪な叫びを上げる。
その騎士に宿りし異形の名は……ビヤーキー。外なる神の化身たる黄衣の王の下僕。
その異形を見に宿した騎士は……本来の力にビヤーキーの力を掛け合わせた、異端の英霊。
「
悪夢を乗り越えろ、カルデアのマスター。
この後、なんとか悪夢を脱して外なる神の野望を阻止した藤丸立香。アルトリアは扉の番人と会合した後、再び異次元に引き籠り続けた。
もし立香が召喚を行えば、もしかすると現れし英霊は……出会えるかは彼の運次第だが、出会えば間違いなく彼女は力を貸すだろう。
●イベントクエスト「黄衣の騎士王」
全7クエスト。作中の騎士6名+
別名「キャメロットの悪夢再び」。第六特異点程ではないが凶悪なギフトを持ったバーサーカー6名を倒さなければならない鬼畜クエ。
難しいのは道中だけで、ラスボスである
●アルトリア=ペンドラゴン(フォーリナー)
・性別:女性
・属性:混沌・善
・イメージカラー:白と黄
・特技:超高速の逃走
・好きなもの:スッキリしたもの
・嫌いなもの:ドロドロしたもの
・天敵:ジル・ド・レェ
●所有スキル
・領域外の生命EX
・神性B
・騎乗B
・狂化B
・魔力放出(邪)A:自身のBusterカード性能をアップ+自身のNPを増やす
・カリスマ(邪)A:味方全体の攻撃力をアップ+相手全体の防御力をダウン
・黄衣王の嘲笑A:敵全体のチャージを高確率で減らす+自身のNPを増やす
●解説
見た目はキャストリアにセイバーの恰好をさせ、蜂と竜を掛け合わせた翼と剣を持たせ、黄色の衣を被せた感じ。モチーフはまんま「黄衣の王」。
円卓の騎士との不和が最高潮に達した、並行世界の更に並行世界より降臨したアルトリア=ペンドラゴン。異次元に引き籠っていた。
モルガンの入れ知恵で魔導書を手にしてしまい、全てから逃げ出したい一心で外の世界の神の僕を呼び出してしまった。
邪神の顔を見てしまったにも関わらず「滅びゆく未来と自分の醜い心に比べればマシ」とネガティブに走り邪神に屈しなかった、ある意味で究極の頑固者。
光を超す速度で飛行するビヤーキーと一体化した事で自らを宝具化し、超高速と異次元を渡る術を手に入れた。
●宝具
・
対軍宝具。呪文を唱えて光を超す速度で抜刀、次元をも走る真空波があらゆる障害物を切り裂き、特に騎士には拒絶の意志を込めて次元ごと切り裂く。
カード性能はBuster。全体に強力な攻撃+防御力をダウン+「騎士」に対し特攻効果(オーバーチャージで効果アップ)
「ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん……ぶるぐとむ! 風来せし黄衣の王よ、この一撃を持って御身に供物を捧げ奉らん……
以上、設定ガバガバな自分勝手な
それだけ北斎が来てくれたのが嬉しかったねん。いいよね江戸っ娘(笑)
いっそのこと
少しでも楽しんで貰えれば幸いです。また変なのが浮かんだら書くと思います。ではでは。
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