闇を照らす光 (れいたん)
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プロローグ

日本には様々な職業が存在するが、その中でも、特に裏社会に関わっている職業と言われると数は大幅に絞られる。

そして、今日もどこかで私達が生活する時、陰の中で静かに彼らは動いている。

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

「角谷君!第二テーブルお願いします!」

「はい!」

東京のとある所にあるバー『butterfly』。

そこで働いている色黒の男性、安室透――改め、降谷零は公安の仕事の一環で潜入捜査をしていた。

『降谷さん。そちらに何か変わったことはありましたか?』

耳に付けている小型通信機から聞こえる声の主は彼の部下である風見だ。

「いや、今のところは特に何もない。」

『分かりました。しかし、万が一のことを考えて行動してくださいよ。降谷さんはたまに考えるのを忘れてしまう時がありますからね。』

「分かった。気を付ける。」

「角谷君!早く注文の品出して!」

「あっ・・・はい!・・・・ということだから、僕はとりあえず捜査に戻る。そっちも何か分かったら報告をよろしくたのむぞ。」

『はい。』

通信を切ると、すぐさまワインを持って客のところへ運んでいく。

「お待たせしました。」

「あっ角谷君ありがとう。」

「いえいえ。」

角谷と言う名前はもちろん自分の正体を知られないようにするための偽名だ。

「あ~あ。このお店で飲むワインもこれで最後なのか・・・。」

さっきから話している相手は、一ヶ月前からこの店に訪れる常連客の二十代ぐらいの女性だ。

歳も近いため、よく話も弾む。

「その言い方だと、もしかして今日でここに来店するのは最後になるんですか?」

「まぁ・・・そんな所かな。」

「今までご来店してくださり、誠にありがとうございました。」

「そんなこと言わないでよ。悲しくなっちゃうじゃない。」

そう言って彼女はグラスに入っているワインを飲みほした。

「ずいぶんとすごい飲みっぷりですね。」

「この後仕事だからね。じゃっここに代金置いておくから。」

机に五千円札を置いて彼女は席から立ちあがった。

「ねぇ角谷君。」

「はい、何でしょうか?」

「私、角谷君に名前教えてなかったよね?」

「はっはい・・・。そうですけど・・・。」

そう答えると、店の出入り口に向かう途中で彼女は振り向いた。

「私の名前は紀伊由羽(きいゆうは)。いつか・・・また今度会えたら、一杯飲みましょ?」

彼女から匂う甘い甘いストロベリーの匂いが鼻を刺激する。

「はい。その時はゆっくり世間話でもしましょう。」

「えぇ。」

出入り口の扉のドアノブに彼女――――紀伊由羽が触れる。

「・・・・その時まで、バイバイ角谷君。」

「・・・さようなら紀伊さん。」

紀伊由羽が出ていった扉を降谷は一時(いっとき)その場から離れずにずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「角谷君!何してんの?もう今日は上がっていいよ?」

どのくらい時間が経っていたのか、気付いた時にはもう夜の九時を回っていた。

あの後はいきなり大人数が来店していたから、ばたばたしていて時間が何時間動いていたのかよく分からない。

「じゃあお疲れ様でした。」

「うん!お疲れー。」

すぐさま降谷は更衣室に入り、着替えを始める。

「やっぱり・・・人と別れるのは寂しいですね・・・。」

そう言いながら着替える彼の瞳はいつなのか覚えていない――過去の光景を映していた。

 

 

 

 

 

 

ドゴオオォォォォン――――

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼の気持ちを無視するかのように――――――――――『butterfly』がある地小さな地下施設が爆発した。

地上ではその爆発現場の近くに薄い茶髪の女性が一人月を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これじゃあ約束果たせないね、角谷君。」

そこの付近に甘い甘いストロベリーの匂いが漂っていた。



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第一話

「国木田君、私ちょっとお腹が痛いのだけど・・・。」

「そうか。なら、今すぐお前の腹を殴って楽にしてやろうか?」

「・・・・エンリョシマス。」

「それがいいですよ太宰さん。」

とある大通りを並んでいる三人組は、武装探偵社の社員の通称“自殺愛好家”、太宰治と、その太宰の世話役をする国木田独歩、そして、最近新しく入社した中島敦である。

彼らは、軍警から違法取引の差し押さえの依頼を受けてある地下施設に向かっていた。

その地下施設の存在を知るものは少なく、中にはバーなどの色々な娯楽店があるらしい。

その地下施設は知っている人達の間では、真夜中のネオンと言われている。

「えっと・・・・。賢治君の話によると、問題の地下施設はこのビルの地下にあるそうです。」

「随分と地味な建物だが本当にここで合っているのか?」

「多分・・・。」

「もう二人とも早く中に入ろうよ!」

「全く・・・。少しは落ち着けんのか貴様は。」

「あははは・・・・。」

この太宰治と言う人間はいつも頭の中で何を考えているのかは同じ職場にいる人間でも誰一人分かる者はいない。

分かってることは自殺が趣味なことと物凄く頭は冴えているということだけだ。

「じゃあ開けますね・・・。」

その時、扉のわずかな隙間から鼻を強く刺激するようなとてつもない臭いがした。

思わず敦も鼻を手で覆って臭いを遮断する。

「如何した敦?具合でも悪くしたか?」

「あっ、さては熱中症かい?なんなら私に移してくれても構わないよ。」

「貴様は馬鹿なのか?熱中症が人に感染する訳がないだろう。」

「其れ位は判ってるよ。例え話に決まってるじゃないか。」

「はぁ・・・。」

虎化の異能力を持っているせいなのか、普通の人には分からない臭いさえも分かってしまうのだろう。

「・・・何か、変な臭いがするんです。その・・・何か焦げ臭い感じの臭いが・・・。」

「焦げ臭いねぇ・・・。」

「取り敢えず中に入ろう。」

「はい。」

国木田に促され、地下施設へと繫がる扉を開けると───

 

 

 

 

 

壁から何までが黒ずんでいた。

 

 

 

 

 

「こっ此れは一体・・・。」

「若しかしたら、問題の彼の店にも何かあったかもしれない。」

「じゃあ急ぎましょう!!!」

急いで三人は灰が舞う施設の通路を駆け抜けて施設の一番奥、『butterfly』があるはずの場所へと向かった。

しかし、三人がそこに着いた時はそこに店があったのかさえ分からないぐらいに内装やら何やらが灰と化していた。

「そっそんな・・・!!!」

「敦君、諦めるのは未だ早いと思うよ。」

「太宰さん・・・。」

「太宰の云う通りだ。未だ此処に居た奴らが全員死んでいると断定はできんからな。手分けして探そう。」

「はい!」

三人は手分けして店の中を探した。

カウンターらしき所の中や厨房があったと思われる場所、探せる場所はくまなく探した。

だが、どこにも生存者は見当たらない。

あるのは人なのかどうなのかも分からない黒焦げの物体ばかりだ。

「糞・・・!」

「矢っ張り皆死んじゃったんじゃ・・・。」

「敦君、国木田君。此方に来てくれ給え。」

太宰に呼ばれて二人は太宰の声のする方へと行った。

太宰の声を辿って二人が着いたのは大きな鉄の扉の前だった。

扉に文字が書いてあって、灰のせいで霞んでいるが「従業員専用」と書いてある。

「此れかなり頑丈な扉でしょ?此の中に若しかしたら誰か居るかもしれないよ。」

「そうですね。」

「ってことで敦君!此れ開けちゃって!!」

「えっ。」

「はっ?」

「いやぁ試しにさっき開けようとしたんだけど、全然ビクともしないんだよねぇ。多分、爆風か何かの影響で扉が開きにくくなったんだと思う。」

「はぁ・・・。」

「だ・か・ら!頑張って敦君!」

「・・・仕方がない。」

「ええええぇ・・・。判りました・・・。」

渋々返事をした中島は一人扉の前に立つ。

「・・・異能力“月下獣”。」

その言葉を発したと同時に中島の腕は獣の様に醜い腕になり、指先の爪はいつ誰かの喉笛を掻き切るか分からないくらい鋭かった。

そして、虎化した腕で扉を無理矢理開き始める。

「うああああああ!!」

一つずつ留め具のねじも取れ、ついに限界を迎えた鉄の扉が引き剥がれ床に転がる。

「太宰さん!国木田さん!誰か倒れています!!」

「何っ。」

中にいたのは、およそ二十代ぐらいの男性だった。

「だっ大丈夫ですか!?」

「んっ・・・。」

幸い死んではいないようだ。

「敦、急いで探偵社に戻ろう。其奴の手当てをしなくてはな。」

「はっはい!」

男性を軽々と担いだ中島は太宰と国木田に続いてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・か・・・い。」

 

 

 

 

 

 

移動している時に男性がなにか呟いていたが、その声は中島達三人には届かなかった。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「じゃあねーコナン君!哀ちゃん!また明日ー!」

「じゃあなー!」

「また明日ー!」

「おう!またな!」

東京にある町、米花町に住んでいる江戸川コナンは今日も学校での一日を終え、家に帰宅していた。

「・・・工藤君。」

「えっ?あっ・・・どうした灰原?」

そして、一緒にいるのが灰原哀だ。

二人はアポトキシン4869を飲んで体が縮んでまった心は成人に近い小学生一年生なのだ。

「ポアロの人・・・心配なの?」

「あっ・・・あぁ・・・。」

ポアロで働いている毛利小五郎の弟子、安室透はいつもコナンと一緒に居候している毛利蘭が登校する時には店の前で必ず掃除をしているが、今日に限って同じ仕事仲間の梓が掃除をしていたのだ。

それに加えて、昨日から連絡がとれないと話を聞いたコナンは学校での授業にも全く集中ができずにいた。

「あんまり深く考えない方がいいんじゃない?そのうちひょっこり現れるかもしれないし。」

「そっそう・・・だよな。」

「じゃあ私帰るわ。またね工藤君。」

「あぁ・・・。」

灰原を見送りながらコナンは一人その場に佇んだまま動かなかった。

「江戸川コナン君だよね?」

「!・・・僕に一体何の用なの?」

突然声をかけてきた男は全身黒のスーツに身にまとい、黒のサングラスをしているため、見た感じは不審者にしか見えない。

「あぁ・・・別に怪しい者ではない。小さな探偵君に依頼をしにきたのだよ。」

「なっ何で僕なの?僕なんかより小五郎のおじさんに依頼をしたほうがいいよ。」

「いや、これは眠りの小五郎よりも君のほうが適しているのだよ。」

やけにおしてくる男にコナンは溜息を吐いた。

「分かったよ。」

「本当か?じゃあちょっとついてきてもらえないか?」

「?・・・うん。」

疑問に思いながらもコナンは歩き出す男の後を追いかけようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

が、突如別の男に手を掴まれた。

「!?」

「どうした江戸川君っ・・・!?」

「よお、生憎だが此奴は俺が先に予約してんだよ。」

「(いや、あんた予約とかしてないだろ。)」

目の前に現れたのは黒のコートを羽織り、黒い帽子を被ったどこかやばそうな雰囲気の男性だった。

「何のつもりなんだ。」

「あっ?其れをそっくり其の儘手前に返してやるぜ。」

落ち着いた対応をしていた男は一転して、冷や汗を流している。

それに何か余裕のない顔をしている。

「今直ぐに此処から失せろ。じゃねぇと、・・・・手前の骨がなくなるぐらいに潰してやる。」

「潰すって・・・・。一体何を言ってるのお兄さん?」

「嗚呼、手前が気にする事じゃねぇ。其れより、少し待ってろ。」

「うん・・・。」

コナンがぎこちなさそうに首を縦に振ると隣の男は静かに微笑んで、コナンの頭を撫でてから前に一歩進んだ。

「まさか、お前・・・。あの中原中也なのか・・・?」

サングラスをかけた男は何かを悟ったらしく、酷く顔が青ざめている。

「命があるうちに逃げた方がいいんじゃねぇか?」

「くっ・・・!!」

ついに諦めたのか、踵を返してどこかへと走り去ってしまった。

「はぁ・・・やっと行ったか。大丈夫かお前。」

「あっうん。ありがとうお兄さん。」

「よし、逃げるか。」

「えっ?逃げるってどういうこと?」

「見て判んだろ。手前は狙われてんだよ。何処の何奴かは知らねぇが。」

「でもっ・・・!」

「安心しろ。そんなに長い時間は逃げねぇから。犯人見つけてぶっ飛ばせば終わりだ。」

「ぶっ飛ばす!?」

「てなことで、行くぞ。」

コナンの返事すら待たずに男は歩き始めた。

「待って!お兄さんの名前は何ていうの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中原中也、ヨコハマでマフィアに入ってる。」

 

 

 

 

 

 

 

「なっ何でそんな人が僕のところに・・・。」

「手前の名前、江戸川コナン・・・だったよな?」

いかなり自らの名前を呼ばれたので、コナンは思わず跳ね上がってしまった。

「うっうん・・・。」

すると、進めていた足を泊めてコナンのもとへと歩み寄っていった。

「俺は・・・江戸川コナンを・・・。いや、“工藤新一”を守ってほしいって依頼を受けたから此処に居る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷く目眩を感じた気がした。



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第二話

いつ判断を誤ったかなんて、その時にならないと誰にも分からない─────

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

ランドセルをからった少年は喫茶店ポアロの横を通り過ぎ、とあるビルの階段を駆け上がる。

その少年、江戸川コナンはある事情から『毛利探偵事務所』に居候をしているのだ。

「たっ・・・ただいま。」

「お帰りコナン君。」

コナンを明るく出迎えてくれたのは、帝丹高校に通っている毛利蘭。

そして、彼女はコナンの体が小さくなる前の元の姿、工藤新一の幼馴染でもある。

「今日はハンバーグ作るんだ!楽しみにしててねコナン君!」

「あっ・・・そのことなんだけどさ・・・。」

「?・・・どうしたのコナンくっ「そこだぁいけぇえ!!」

「もううるさいお父さん!!」

「お前らも静かにしろ!今いいトコなんだから!!」

いきなり大声を出したのはこの家の主的な感じ毛利小五郎である。

一応彼が探偵事務所を運営しているのだが、コナンから言わせてもらえば、彼に任された事件は迷宮入りするかもしれないぐらい毛利小五郎は探偵には向いてないのだ。(たまに探偵らしいことをする時もあるのだが)

「・・・で、どうしたの?」

「えっあ・・・実はね、しばらく親戚の家に泊まることになったんだ・・・。」

「えっ!!?どうして!!!?」

蘭の言葉に思わずコナンも声が出なくなった。

 

 

 

 

 

何故なのだろうか。

 

嘘はつき慣れているのに─────

 

この嘘をついた瞬間、自分は─────

 

もうここには戻って来れないんじゃないか、と不安がコナンの頭を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

「実は俺が頼まれたんですよ。暫くコナンの面倒を見る様にって。」

「あっ・・・。」

「えっ・・・?コナン君の知り合い・・・ですか?」

「はい。遊川洋輔と申します。コナンとは昔からの縁で此奴の両親とも結構親交深いんですよ。だから、今回は其の繫がりから頼まれたって訳です。」

コナンの頭を撫で回しながら淡々と嘘を話しているのは、今さっき知り合ったマフィア(?)の中原中也という人だった。

「(偽名を名乗るってことはやっぱり職業とかが関係しているのか・・・?)

「心配しないで下さい。少しの間だけ此奴の生活態度を見るだけですから。本当、親が過保護な物なんでね。」

「はっはぁ・・・。」

「じゃあコナンさっさと準備しろ。此方も色々としないといけないからな。ということなので、暫く預からせていただきます。」

「は・・・・はい。よろしくお願いします。」

「・・・・じゃあね蘭姉ちゃん。」

「うん。行ってらっしゃいコナン君。」

事前にまとめておいた荷物を持ってコナンと中原は毛利探偵事務所を後にした。

 

 

 

 

「帰れるんだよね・・・。」

 

 

 

 

コナンの一言を中原は聞いていたが、中原は聞いてないフリをした。

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

「身元が判る様な物は持ってませんね。」

「可笑しいな。普通身元が判る物を持つのは当たり前なんだが。」

ヨコハマに拠点を置いている武装探偵社では太宰、中島、国木田の三人が依頼で行った際に助けた男性の身元確認をしていた。

のだが、何一つそういう物を所持していないことに三人は困っていた。

「若しかしたら、身元がバレたらいけない様な事情でも在るんじゃないのかい?」

「確かに・・・そう考えた方が好いですね。」

改めて男性の外見を見てみると、整った顔にスラリとした高身長、抜群のスタイル。

色黒な肌が彼の魅力を引き立てているかの様だった。

「改めて見ると・・・凄く格好いいですよね、此の人。」

「そうかい?彼なんかよりよっぽど私の方が格好良く見えないかい?」

「貴様の場合は見た目詐欺だ。数々の女性が被害にあっているのを忘れるな。」

此の太宰治は国木田の言う通り、確かに見た目は文句なしなのだが、美人の女性を見つけては「私と心中してくれないかい?」とか、「私を絞め殺してくれ給え!」などと、アホみたいな言葉を連発しては数々の女性を困らせてきたのだった。

「(本当・・・見た目は問題無しなのになぁ・・・。)」

「何を三人で気難しい顔をしているんだい?若しかして、此の名探偵の出番?」

「らっ・・・乱歩さん!お帰りになってたんですか。」

自分のことを名探偵などとサラリと口にしながら三人に話しかけてきたのは、此の武装探偵社の看板社員、そして、数々の難事件を解決してきた、江戸川乱歩である。

「其の人の正体を知りたいなら、顔写真撮って特務課に身元割り出してもらえばいいんじゃないの?太宰ならそんなこと直ぐにできるでしょ?」

「まぁ確かに可能ですけど・・・。」

「可能なんですか!!!?」

「お前は顔が社長並みに広いな。」

「ありがとう、そう云われると何か嬉しいね。」

「五月蝿い。気持ち悪い。」

「いきなりそんなことを云うのは酷くないかい?」

ぶつぶつと文句を言いながら、太宰はスマホで写真を撮りだした。

「其れで・・・此の色黒君は如何いった経緯で?」

「違法取引の差し押さえの依頼を受けた際に出向いた現場で・・・。と云っても時既に遅し、現場は黒焦げで焼死体だらけだったんですけど。彼は其の中での・・・たった一人の生き残りです。」

「生き残りか・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乱歩さん。其の男性の身元が判りましたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

スマホを片手に自慢げな顔をしながら、太宰はその言葉を口にした。

「其の男性の名前は降谷零、公安の人間だよ。最近は喫茶店ポアロで『安室透』として働きながら探偵をしているそうです。」

「ふ~ん。」

「太宰さんより優秀な感じがします。」

「そうだな。」

「二人して私を馬鹿にしないでくれ給え。」

「ってことは、此の色黒君は何らかの潜入任務の際に巻き込まれた被害者、だよね。」

「大方そんな処でしょう。」

すると、太宰は先程までソファーに置いていたコートを羽織り始めた。

「太宰さん何処に行くんですか?」

 

 

 

 

「物凄く楽しい処だよ。」

 

 

 

 

そう言って笑った顔になぜか嫌な予感を感じた中島だった。

 

 

 

 

 

「さぁて帽子置場をからかいに行くか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

太宰達が武装探偵社にいる頃、時を同じくしてとある雑居ビルに数人の男女が集っていた。

「first様の言う限りではどうやら『butterfly』の店員が一人生き残ったそうですわ。」

「あの爆発から助かるなんてどれほどの強運の持ち主なんだろうか!」

「とりあえず、secondが殺し損ねたことに代わりはない。second、分かっているな。」

『second』と呼ばれた女性は長い髪をひるがえしながら出口へと向かう。

「分かってる。この・・・・“紀伊由羽”が必ず殺してみせる。」

「・・・・そうだ。それでこそ『feint』の幹部長だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑居ビルを出た女性、secondは一人空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「角谷君・・・・生きて・・・・るん・・・だよ・・・ね?」

震えながら呟く彼女の頬に一筋の涙がつたる。

「・・・・もし生きてるなら殺さなきゃいけないんだ、私。」

やがてその涙は止まらないほどに流れ出す。

「大好きなのに・・・・。殺したくなんか・・・・ないよ・・・!!」

彼女の悲痛の叫びは誰にも届くことがないまま、ただただ甘いストロベリーの香りが彼女を優しく包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きて。」



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第三話

「ねぇ中原さん。」

 

 

「んっ?如何したコナン。」

 

 

「これからどこに行くの?」

 

 

「安全な場所。」

 

 

「・・・・。」

 

 

江戸川コナンは今日出会ったポートマフィアの男、中原中也と一緒に米花町の町を歩いていた。

「具体的に言ってもらわないと安心できないんですけど。」

「そうか?」

「そうです!」

「俺の家。」

「えっ。」

言葉を詰まらせたコナンを見た中原は見下すかのような顔で見つめてきた。

「安心できないって手前が云うから答えてやったのに、何だよその反応はっ・・・。」

そして、腹を抱えて笑い始めた。

「だってっ「コナーン!何してんだー?」

「「!!」」

二人が声のした方を振り向くと、そこにはコナンの現在のクラスメイトである小林元太、円谷光彦、吉田歩美がいたのだ。

「荷物なんかまとめてどこに行くのコナン君?」

「おっお前らこそ何してんだよ。」

「僕達はこれから公園にサッカーをしにいこうと思ってたんですよ。」

「コナンも一緒に来るか?」

「おっオレは・・・これから行かなきゃいけないところがあるから・・・。」

「えっコナン君どこに行くの?」

「何だ?ウマいもん食いに行くのか?」

「元太君よだれたれてますよ・・・。」

コナンが困ってることに気付いたのか、中原は元太達と目線が合うくらいまでかがんで静かに微笑む。

「此奴は暫くの間俺が預かることになったから今から連れて行く処。」

「じゃあコナン学校来ねえのか?」

「そんなに長い間じゃないよ。少しの間だから。」

「そっか・・・。」

やはりコナンが言うよりも説得力はある。

「・・・心配すんなよ。すぐに戻る。」

「ホント・・・?」

歩美のコナンを見つめる瞳に、思わず本音が漏れそうになる。

「じゃあ時間もあれだし、そろそろ行くぞこなっ「あれれ~?其処に居るのはだっさい帽子置き場の中也君じゃないですかー?」

「なっ・・・!?」

さっきまで冷静に対応していた中原が突然態度を一変しはじめた。

不思議に思ったコナンは声のした方を見ると、そこに立っていたのは中原よりは身長も高く、雰囲気も大人っぽい感じなのだが、体の至るところに包帯を巻いている黒髪の男性だった。

その人は何が面白いのか、中原を見ては腹を抱えて笑っている。

「手前っ・・・何で此処に居るんだ!?」

「ちょっとした遠出ー。」

「・・・絶対ェ態とだろ・・・!!」

「え~?真っ坂~!」

「こっ此奴・・・殺す!!」

どうやらかなり因縁深い知り合いのようだ。

また男性を見てみようとコナンが視線を太宰に戻そうすると、偶然にもその男性と目が合ってしまった。

しかも、その男性はずかずかと迫ってくる。

何が何だか全く分からない。

そして、その男性はコナンの前に来たかと思うと先程見せた笑顔とは違う“別の笑顔”でコナンに微笑みかけた。

「・・・・!?」

コナンはその笑顔に今まで感じたことのない恐怖を感じた。

まるで黒の組織の一員に見つめられているかのような―――――。

「今から三人で仲良くお喋りしない?」

「・・・・えっ?」

「なっ何云ってんんだ手前。此方は此方で忙しいんだよ。そんなこと出来る訳ねぇだろ。」

言葉が出ないコナンの代わりに中原が断りを入れると、なぜなのかまた微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

「仲良くお喋りって云っても、其方と此方の情報交換をしたいだけなのだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナンは後に彼が赤井秀一や自分以上の策士だということを思い知らされることになる―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 

 

「ったく工藤君ったら・・・何で私のランドセルに自分のノート入れるのかしら・・・。

そんな風にぶつぶつ文句を言いながら一人歩く少女、灰原哀は片手にノートを持ちながらある場所へと向かっていた。

「わざわざ持っていく苦労を考えてほしいわね。」

灰原が足を止めたのは工藤・・・・―――――――現在は江戸川コナンなのだが、その彼が住んでいる場所、毛利探偵事務所のビルだった。

「ちゃっちゃと渡して早く帰りましょ・・・。」

ため息をついて探偵事務所へと繫がる階段を上がりながらふと笑みを浮かべた。

 

「こんな平和な日常を私は過ごしてもいいのかしら・・・・。」

彼女は体が縮んでしまう前は黒の組織の一員として、危険な薬剤などを開発していた。

簡単に言えばやってはいけない犯罪行為をしていたのだ。

今、彼女がここにいるのは自分の意志で組織から抜け出し、光の中へと飛び込んでいったからだ。

しかし、黒の組織は裏切り者は何があろうと抹殺をしてくるために灰原自身もそれに恐れ、やはり組織を裏切ったのは間違いだったのだろうか、と考える時期もあった。

でも、江戸川コナンはそんな灰原にずっと声をかけてくれた。

いつも彼に助けられた。

だから、いつか自らの手でコナンのピンチの時に助けてあげたい―――――――でも、、、

「そんなことできるはずないわよね・・・。」

ぽつりと呟くと灰原は探偵事務所の扉を開けた。

「あれっ?哀ちゃんじゃない。どうしたの?」

灰原に気付いて声をかけてきたのは、毛利探偵事務所を営む毛利小五郎の一人娘、毛利蘭。

「江戸川君の忘れ物を届けに来たの。」

「あっ・・・・そうなんだ。」

江戸川君と聞いて彼女の笑顔が歪んだのは気のせいだろうか。

「あのね哀ちゃん。コナン君はね・・・・しばらく帰って来ないかもしれないの。」

「えっ・・・・?」

灰原は蘭の言動に衝撃を受けて思わず声が出てしまった。

「何でなの?」

必死に冷静を保とうとするけれどそれでも動揺は隠せていない。

 

 

黒の組織に見つかったから?

 

それとも、何か大きな事件に巻き込まれた?

 

 

「何かねしばらく親戚の人のお家に預けられることのなったの。」

“親戚”と聞いた灰原は全身から血の気が引いていくのを感じた。

「親戚って誰!?」

急に食いついてきた灰原に驚きながらも蘭はゆっくり話し出す。

「えっと・・・・確か遊川洋輔だったと思うよ。コナン君の両親と親交深いからその関係でこれからしばらくの間面倒見てほしいってお願いされたって言ってたわよ。」

考えが追いつくより先に体は勝手に動いていた。

「あっ哀ちゃん!?」

灰原は後ろから聞こえる蘭の声にあえて反応せずにその場を去っていった。

「工藤君・・・!!」

どういう理由でコナンがこうなったのかは灰原にもわかる訳がない。

―――――けど、これで・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとあなたを助けることができる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の大きな決意が動き出す――――。



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第四話

彼に出会った時点で俺達は彼の手の中で動かされていたんだ―――――。

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 

日差しが強い中、そんなことを気にしなくてもよいコナン達がいたのは、中原中也がたまに使うと言うセーフティハウスの一つだった。

「おい・・・俺は確かに話はすると云った。でも・・・・・ピッキングして無理矢理家に上がれとは一言も云ってねぇだろうが此の糞太宰!!!!」

「酷いなー。外で待つのが面倒だったから暇潰しに鍵を開けただけじゃないか。」

中原に罵られているのは、昔仕事で相棒だったという人間、太宰治だった。

・・・・・ここではあえてピッキングとかいう言葉は流すことにする。

「俺以外の奴にしてたら立派な犯罪行為だからな!!?」

「大丈夫。中也以外の人にはしないから。」

「手前・・・!!!」

さっきかららずっとこんな感じである。

「お兄さん達、そろそろ本題に入ろうよ。」

コナンの一声で太宰と中原は口論をやめた。

「そうだね。そろそろ下らない喧嘩は止めて本題に入ろう。」

「何時か手前を死なす。」

「楽しみにしてるよ。」

コナンから見た太宰治の印象は“普通じゃない人”。

笑っている彼を見てはその顔は作り笑いじゃないのかってつい口からこぼれそうになる。

「じゃあ早速だけど・・・・今、武装探偵社ではある男性を保護している。」

「えッ。」

「其れは本当なのか!?」

「うん。本当だよ。」

そう言ってまた彼は微笑んだ。

「その人の名前って分かる太宰さん?」

コナンは身を乗り出して太宰に近づく。

「・・・公安警察官、降谷零。最近は安室透と名乗って喫茶店ポアロで働いているらしいんだよね。」

「!!!」

太宰はコナンの“反応”を見過ごさなかった。

「何?コナン君って降谷君と知り合いなのかい?」

「えっ?」

「だって、降谷零って訊いて驚いていたじゃないか。」

「えっと・・・それは・・・・。」

しどろもどろになっているコナンを見た太宰は“何か”を確信したのか、微笑みながらコナンを見つめる。

「此の場ではお互い隠しごとはなしにしようじゃないか、“工藤新一”君。」

「っっ!!?」

コナンは驚いて次に発しようとした言葉を忘れてしまった。

それに気づいた中原は一人ため息をついた。

「相変わらず手前は其の情報を何処から仕入れてんだよ・・・。」

「ふふふっ・・・秘密。でも、私にかかれば此のくらい朝飯前だ。」

「・・・・。」

コナンは色々探られないようにしていたのに、それをあっさりと見破られたのをきっかけにさらにコナンの中で太宰が“普通じゃない人”になった。

「安室さんは確かに僕の知り合いだよ。でも・・・昨日から連絡がとれないってポアロで働く人に聞いたからすごく心配だったんだ。」

「ふ~ん。じゃあ爆発が起こったのは一昨日の晩ぐらいかな・・・?」

「ばっ爆発?何のことを云ってんだ?」

「嗚呼、実はね或る地下施設で爆発事件が起きたのだよ。其の場に居た者はほぼ死んだ。・・・・たった一人を除いてね。」

「もしかして、それが安室さんなの・・・?」

「大正解!」

コナン君の云う通りだよ!、と親指を立てながらウィンクをしてきた。

「其の地下施設に手前ら探偵社が行ったのは判った。だが、何で其の地下施設で爆発事件が起こったんだ?」

中原の言葉を聞いたコナンも同意するように太宰を見ながら首を縦に振る。

当の太宰は少しだけ真面目な顔で二人を見る。

「其の地下施設にある『butterfly』ってお店で違法取引が頻繁にされているから現場の差し押さえをしてほしいと軍警から依頼がきたから私と敦君と国木田君で行ったのだよ。・・・そしたら、中は酷い有様でね、軍警の調べで後から爆弾の部品が見つかったのだよ。・・・・まぁ肝心の爆発された理由は私には解らないけどね。」

「・・・安室さんはまだ目を覚ましてないの?」

「嗚呼。武装探偵社の専属医が治療を施したから一命は取り留めたけど・・・。」

「そうなんだ・・・。」

 

 

 

しばらくその場に沈黙が流れる―――。

 

 

 

 

 

ピルルルルルルッ

 

 

 

 

 

「あっ僕のだ。」

 

 

 

 

 

 

 

その場の沈黙を破ったのはコナンのスマホの着信音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナンは恐る恐るスマホを手に取り、電話にでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし・・・・・・・はっ服部!?」

 

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 

 

 

 

米花町を一人駆け抜ける少女、灰原哀は肩で息をしながら辺りを見渡していた。

 

 

 

 

 

「やっぱりもう遅かったのかしら・・・。」

 

 

 

 

 

江戸川コナン――――本当の正体は東の高校生探偵と言われる名探偵、工藤新一の彼に今、“親戚”と言える人物は誰一人としていない。

 

 

 

 

 

「何で工藤君はそんな嘘をついたの・・・?」

 

 

 

 

 

 

そう――――何故そんな嘘を彼がつかなくてはいけなかったのか―――。

 

 

 

 

 

正体を知っている灰原にさえ相談しないのだ。

よっぽどのことがあったに違いない。

 

 

 

 

違いないのだが―――

 

 

 

 

 

「今あなたはどこにいるの・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ?お前確か工藤とおんなじ学校に通っとる灰原か?」

 

 

 

 

 

 

―――聞き慣れた関西弁、工藤と口にする人物。

 

 

 

 

 

 

「服部さん。」

 

「何やっとるんじゃ?あっわいが今回米花町に来たのはな、工藤にサッカーの試合のチケット譲ろう思うたからや。電話で伝えよう思うたんやけど、驚かせよう思うたから直接会いに来たってワケや。」

 

 

服部平次――――西の高校生探偵で江戸川コナンの正体を知る数少ない人物の一人。

灰原のことはコナンから話をよく聞いているため服部の方は普通に接しているが灰原自身は服部のことが苦手なためあまり積極的に接しようとはしない。(服部と遠山のことになると話は別なのだが、、、)

 

「無理よ。今、工藤君はどこにいるかさえも分からないの。」

 

灰原が冷たく言い切ると服部は一瞬驚いた表情をしたがすぐに表情を元に戻した。

 

「工藤のやつ・・・また面倒ごとに巻き込まれたんやな。くっそーわいにも言ってくれればいいのに・・・。」

「はっ・・・?言ってる意味が分かってるの?」

「分かっとるで。どこにいるのか分からんのやったらわいらから探しにいけばええやないか。そんなんで引き下がってどないすんねん。」

「・・・・。」

「あいつが困っとるんやったらわいらが手を差し伸べに行くんや。ほら行くで。」

「えっ?」

「お前何か便利なもん持っとったやろ??・・・ほら眼鏡の・・・・。」

「あっ・・・!!そうだわ・・・ちょっと待ってて!すぐに持ってくるから!」

「おっおう・・・。」

 

服部にそこで待つようにと言い残し、灰原は一目散に走り去ってしまった。

 

 

その場に残った服部はそんな灰原の後ろ姿を見つめてはわずかに笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんだけ工藤のこと大事に思っとんねん。」

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

太宰がいなくなった武装探偵社では中島や国木田達がずっと降谷のことを見ながら爆発事件や違法取引との関係性について話していた。

 

「未だ目を覚ましませんね・・・。」

「嗚呼、そろそろ目を覚ましても可笑しくないのだが・・・。」

「目を覚ましてもらったら色々なことを訊きたいのにねぇ。」

「まぁ大体は此の超推理で中ててあげるけどね!!」

「あはは・・・。(其れって話訊く意味ないんじゃ・・・。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・か・・・い・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!くっ国木田さん!!」

 

 

 

―――――――――微かに降谷の口と右腕が動いた。

 

 

 

 

それを中島はちゃんと捉えていた。

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

 

中島が必死になって声をかける。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ここはどこだ?僕は・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

降谷が意識を完全に取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「国木田さん!降谷さんが意識の意識がっ・・・!!」

「落ち着け敦!」

「心拍に異常はないから如何やら体は大丈夫みたいだね。」

 

降谷は中島達の姿を見て早々顔色を一気に青色へと変えた。

恐らく本人もこの事態を想定していなかったのだろう。

 

「おっお前らは誰だ!?まさか爆発を起こした犯人グループか!?・・・・・っ・・・。」

 

降谷はすぐにベッドから起き上がり中島達を警戒したが、脇腹に痛みを感じたせいか上手く立てずにその場に倒れこみそうになったところを中島に支えられた。

 

「おっお前らは一体何者なんだ・・・?」

「・・・・僕達は武装探偵社です。軍警では手に負えない荒事の仕事などを引き受けたりする場所なんです。だから安心してください。僕達は貴方の味方です。」

「っ・・・・。」

「取り敢えず蒲団に戻りな。其の状態じゃあ自分で立つことすらままならないからねぇ。」

 

与謝野に促されながら、降谷は渋々ベッドへと戻った。

 

 

「・・・・僕はどのくらい気を失っていた?」

 

 

「推測で大体二日だ。爆風の衝撃が物凄かったんだろうな。無事だった方が奇跡としか思えない。」

「・・・・そうですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ『butterfly』で遭ったことについて詳しくお話を訊きたいんですけっ「その必要はない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武装探偵社の医務室の扉の前に立つ青いニット帽を被った男はまっすぐ降谷だけを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤井ッ・・・・!?」

 

 

「降谷君はこちらで引き取らせてもらう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男の名は―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――赤井秀一。



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第五話

「角谷君・・・・・待っててね。」

 

 

 

 

―――――長い髪をなびかせながら女性はぽそりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

それが誰にも届かないと分かっていながら―――。

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

「あっ貴方は誰なんですか!!?」

 

扉の前にいきなり現れた男に中島達は驚きながらも尋ねた。

 

「名前なんて名乗る程でもない。だが、強いて言うとするなら俺はFBIの人間だ。彼もそれに値するぐらいここにいてはいけない奴だ。だからこちらで彼を引き取らせてもらう。」

「ふっふざけるな!!大体何でお前なんかに俺が引き取られなくちゃいけないんだ!!?」

 

淡々と話す“赤井”の横で降谷はさきほどとはまた違った険しい顔で怒鳴っている。

中島の正直な気持ちを代弁するならば―――この場になぜ太宰がいないのか。

 

 

 

彼ならいつものマイペースな調子で周りを巻き込み、本来ならこの場のぎこちない空気も和ませることができたはずなのだ。

それなのに肝心の本人はどこかに行ってくると言い残し出て行ってしまったせいで、今は誰がこの状態をどうにかするのだろうかと頭を抱えなければいけない。

 

 

 

 

 

「まぁまぁお二人さんとも、そんなにピリピリしないでください!」

 

 

 

 

 

 

唯一この場にいる賢治だけが場を和ませようとしてくれるのはありがたいことだ。(ただたんに賢治が天然なだけである。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!僕はあなたに引き取られなくとも自分の足で帰りますよ!・・・・すみません皆さん。助けて頂いたのは大変感謝していますがこちらにも守秘義務というものがありますので失礼させていただきます。」

 

そう言ってから、降谷は最低限の身だしなみを整えて部屋を出て行ってしまった。

 

「国木田さん拙いですよ。」

 

「嗚呼、彼の爆発の原因なども一切判ってない中で唯一の手掛かりを野放しにするのは余りにも危険すぎる。」

 

 

降谷に続いて部屋を出た中島達は探偵社を今まさに出ようとしている彼を必死に引き留めようとした。

 

 

 

「待ってください降谷さん!今外に出るのは危険すぎます!」

 

「僕をその名前で呼ばないでください!何と言われようが僕は帰りますからね!」

 

 

 

 

中島達の話すら聞かずに降谷はドアノブを回し扉を開けた――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは角谷君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けた先に立っていたのは、淡いピンク色の長いロングヘアーで体型も綺麗な女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀伊さん・・・・?」

 

 

降谷の驚きの顔から見るに恐らく『butterfly』の潜入の時に知り合った人間なのだろう。

 

 

「何日ぶりかしらね・・・貴方に会うのは。」

 

「四日か五日ぐらいじゃないですかね。」

 

「もうそんなに時間が経ってるの?昨日のことのように思えてくる。」

 

「えぇ、僕もですよ。・・・・ところで、何で紀伊さんがここにいるんですか?」

 

「えっ?そんなのあなたにはすぐに分かるでしょ?―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――あなたを殺すために決まってるじゃない。」

 

 

 

 

 

「降谷君っ!!!」

 

「降谷さん!!」

 

 

 

二人の会話に気を取られ過ぎて“紀伊”が懐からナイフを出したのを確認するのが遅れた中島達は慌てて降谷と彼女の間に割って入ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――なっ何で君が・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降谷には幸い怪我はなかった―――――が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ降谷さんが無事で好かった・・・・・。」

 

「おいっ敦!!」

 

中島は降谷をかばい、紀伊が向けてきた刃物が彼の腹に突き刺さった。

 

それを物語るかのように中島の腹からは鮮やかな鮮血が流れ出していた。

 

 

 

「なっ・・・・何で?」

 

紀伊自身もこの事態は予測していなかったのか、顔から冷や汗が流れている。

 

「敦しっかりしろ!敦!」

 

「あまり近づくんじゃないよ国木田!」

 

 

 

中島に駆け寄ろうとする国木田を牽制した与謝野は慎重に中島の傷口と側に落ちている刃物を確認する。

 

 

 

 

 

「不味い・・・・。刃物の表面に毒物が塗られているね。早く治療しないと命が危ない。」

 

「・・・っ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんなことをあなたがするんですか!?紀伊さん!!」

 

降谷の言葉に紀伊の表情は一瞬曇ったが、すぐに表情を切り換えまるで何人の人々を殺した殺人鬼のように冷酷な顔で降谷達を見た。

 

 

 

「そんなに知りたいなら・・・・私のことを調べたら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――公安の降谷零さん。」

 

彼女はそう言い残し、武装探偵社から逃げるように出ていった。

 

 

「糞っ!今直ぐに追いかけっ」

 

「そんなことしなくていい!!」

 

「はっ!?」

 

後を追おうとした国木田を降谷は大声で呼びとめた。

 

「僕が・・・・彼女を捕まえます。」

 

「巫山戯るな!!此方の社員に怪我人が居るんだぞ!?お前一人なんかに任せてられるか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「国木田!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「らっ乱歩さん・・・・?」

 

国木田と降谷の間に割って入った乱歩は二人の顔を真剣に見つめた。

 

 

 

「二人とも冷静さが欠けている。一回落ち着いた方が善い。社長と太宰には僕から連絡を入れておく。国木田は与謝野さんと一緒に敦の怪我の措置をしろ。谷崎君と賢治君は周辺に怪しい女性が居なかったかどうかの聞き込みに行ってくれ。」

 

「・・・俺にも何か出来ることはあるか?」

 

 

赤井に話しかけられた乱歩はすぐに赤井の方を向いた。

 

「君には・・・・其処の色黒君から今回のい爆発事故や先程の淑女について訊いてほしい。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕のせいだ・・・。」

 

降谷は下を向いて静かに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを隠すように赤井は降谷を部屋の外へと連れ出した。



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第六話

――――――――――――偶然とは実に不思議なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 

「――――ごめんなさい!探すのに手間を取っちゃって・・・。」

 

「全然構へんよ。」

 

 

米花町の通りで佇む――――服部と灰原はコナンを探すために協力していた。

 

 

 

 

 

 

――――そして、今灰原が持ってきたのはコナンが普段つけている普通とは違うGPS機能付きのメガネだった。

 

 

 

 

「おっでかした!」

 

「予備ぐらい、いくらでもあるわ。」

 

「じゃあさっそく工藤がどこにおんのか調べてや!」

 

「分かってるわよ。」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

 

 

 

 

「なっ何か分かったんか?」

 

「工藤君が今いる場所は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ヨコハマ。」

 

 

 

「ヨコハマ?・・・何か聞いたことあるような・・・。」

 

「よく分からないけど、とにかく工藤君は今そこにいるわ。早く行きましょう。」

 

「おっおうそうやな!!」

 

 

じゃあ、と服部が歩き出そうしたら――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!!」

 

 

「「!」」

 

 

突然金髪の小さな少女に話しかけられた。

 

外国人の様に見えるが日本語はペラペラみたいだ。

 

 

「リンタロウ見なかった?背がおっきい変態オジサンなんだけど!」

 

「いや・・・・見てへんで。」

 

 

見てないとか言う前以前に背が大きい変態オジサンって世の中にたくさんいるんじゃないか?と服部は頭の中で考えてしまったがすぐにその考えは頭から追い払った。

 

・・・・ただ身近にそういう人がいるのを思い当ってしまったからである。(ここではあえて伏せておく)

 

 

「そう・・・・じゃあヨコハマが何処か解る!?」

 

二人はすぐさま少女の発した言葉に食いついた。

 

 

「あなた・・・・ヨコハマに住んでるの?」

 

「うん!お兄さん達もそこに用があるの?」

 

「用っちゅうか・・・・人探しや。」

 

「人探し・・・・?」

 

 

服部の言葉を聞いてしばらく黙っていたが何か閃いたのか、顔色を明るくして服部のズボンの裾を掴んだ。

 

 

 

「なっ何や・・・?」

 

「ねぇ!!」

 

「だから何なんや!!」

 

「私にもその人探し手伝わせて!」

 

「「え!?」」

 

「二人はヨコハマに行ったことないんでしょ?私が案内してあげるから其の代わりに人探し手伝わせて!!」

 

 

 

少女の提案に二人は一瞬ためらった。

 

 

何の関係もない一般人―――ましてや灰原よりも小さい少女を自分達の私情に巻き込んで危険にあわせてしまうんじゃないかと思ったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角エリスちゃんがお願いしてるのに其れを断ろうと云うのなら幾ら一般人であっても此の私が許さないよ。」

 

「りっリンタロウ!?」

 

 

 

恐らく少女の保護者なのだろう漆黒のスーツに身を包んだ男、森鴎外によって服部と灰原は人探しを“手伝わせることになる”ことをまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 

 

 

東京の誰も目がつかない路地裏――――。

 

 

そこは裏社会で生きる者からしてみれば、“居場所”と言うべきなのか。

 

 

その中で一際目立っていたのが黒塗りの車二台だった。

 

 

 

――――やがて一台の車からはスタイル抜群の金髪のブロンドヘアーの女性がもう一台の車からは少し年を重ねた一つ結びの男が降りてきた。

 

 

 

 

「今回は君が我がポートマフィアに依頼に来たのかね?」

 

 

ポートマフィア。

 

 

ヨコハマで二大異能力組織と呼ばれる一方に入るマフィアである。

 

そして、今女性に向き合っている男、森鴎外はその組織のトップに君臨する人物なのである。

 

 

「えぇ。あなた達になら依頼できると思ってね。」

 

 

依頼人の女の名はベルモット。

 

 

彼女もまた、裏社会では結構有名らしい。

 

最も、その実績を知る人物は数少ないらしいのだが。

 

 

 

「依頼はすごく簡単よ。」

 

「ほぉ・・・如何いった物なのかな?」

 

「・・・・・少年の保護及び監視。簡単に言えば護衛ってところかしら。」

 

 

それを聞いた森の顔は一瞬曇ったがすぐに笑顔に切り替えた。

 

 

「其の少年の名前は?」

 

「江戸川コナン。聞いたことない?世ではキッドキラーと呼ばれてるのよ?」

 

「うーん・・・・訊いたことが有る気はするけど具体的には・・・。」

 

「じゃあ・・・・工藤新一は?」

 

「・・・・其れなら訊いたことが有る。東の高校生探偵と称されている青年のことだろう。」

 

「そうよ。」

 

「だが・・・其れとその少年が何の関係が有る?」

 

 

すると、ベルモットはその質問を待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑った。

 

 

 

「その彼―――工藤新一は実は今、江戸川コナンとして暮らしているのよ。」

 

「・・・・え?」

 

 

 

森は彼女の言葉が理解できなかった。

 

 

 

「其れはつまり・・・如何いうことだ?」

 

「工藤新一君は組織の大事な取引を見られちゃったからうちの組織の構成員の一人がある人物が開発した特殊な薬を口封じとして飲ませたたんだけど・・・運が良かったのか彼は幼児化した。」

 

「素晴らしい・・・。そんな物が有るなんて。」

 

「そして彼は自分が元の姿に戻るために“江戸川コナン”として生活しながらその薬の解毒剤の在りかを探っているってわけ。」

 

 

森は思わず言葉を失った。

 

 

高校生ぐらいの人間を小学生並の姿にすることが出来る薬を作ることが出来る逸材がいるということに。

 

 

 

「これが今回護衛してほしい子に関しての説明。問題は何故護衛なんかをあなた達に頼んだのか。」

 

 

 

 

彼女はそう言いながら森に何枚かの紙を渡した。

 

 

「此れは・・・・『feintに関する資料』?此れが理由なのかい?」

 

「えぇそうよ。その組織が最近になって私達がそういう幼児化の薬とかの開発をしていることを知ったらしくてね。」

 

「・・・・其れを横取りしようと考えている。」

 

「さすがね。話が早いわ。・・・それで彼らは考えたの。どうやったら横取りできるか。」

 

「真坂・・・・・。」

 

 

何かを察したのか、顔色が少しだけ青ざめていく。

 

 

「そう、その被験者である江戸川コナンからサンプルを取り出そうって考えに辿り着いたのよ。まぁ被験者は彼も含めて二人いるんだけど。」

 

「然し、そうだとしても何故江戸川君達が被験者ってことが解ったのかい?」

 

「それは・・・・私の側近の部下の裏切りよ。」

 

 

ベルモットは悔しいそうに言った。

 

 

「向こうの誘いにまんまと引っかかって・・・ね。」

 

 

 

その後は分かるでしょと皮肉さを込めているのか冷たく言い放った。

 

 

 

 

「其の所為で彼らは江戸川君達の存在を知り、追いかけることになったということか。」

 

「残念だけど組織内には協力者がいないのよ。彼らが生きていることを知ってるのは私と数少ない側近の部下だけだから。知られたら私が始末される。」

 

「大変だねぇ君も。」

 

「そっそれは置いといて。」

 

「はいはい。是非とも其の依頼を受けさせてもらうよ。全力を尽くさせてもらう。」

 

「・・・・報酬は何をお望み?」

 

 

森は少し考えてから口を開いた。

 

 

「今度部下に変装の技術を教えてくれないかい?」

 

「えっ?」

 

「君は『千の顔を持つ魔女』と訊いている。変装は裏社会の仕事をこなす際には必要だから其の技術を少しでもいいから教えてもらえないかな?」

 

 

彼女は唖然をしていた。

 

 

「普通なら金かと思ったのに・・・意外ね。それに私のことをそこまで調べるなんて。」

 

「調べてはいないよ。ただ耳に入れただけ。」

 

「本当かしら。」

 

 

 

 

 

「首領!!」

 

 

森が乗ってきた車からサングラスをかけた男が降りてきた。

 

「何だい?」

 

「エリスお嬢様が・・・・東京の景色を堪能してからヨコハマに帰りたいと・・・。」

 

「全部かい?」

 

「はっ・・・はい。」

 

「・・・・・ベルモット君。」

 

 

 

さっきとは打って変わって何か急いでいるような表情に変わった。

 

 

「何。」

 

「私はエリスちゃんと東京観光するから此れで失礼させてもらうよ。事が終わり次第直ぐに連絡を入れよう。」

 

「分かったわ。」

 

「・・・・さぁエリスちゃん!!」

 

「いや!!何かリンタロウ何時もより気持ち悪い!!」

 

 

 

 

森と小さな少女の声を聞きながらベルモットは静かにそこを立ち去った。

 

 

 

 

 

――――これは、コナンと中原が出会う二日前の話。



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第七話

―――自分がやれることを尽くしても、結果は変わらなかったのだろうか。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

「こんなたいそう豪華な車なんかにわいらも乗って良かったん?」

 

「別にいいわよ!!ねっリンタロウ?」

 

「エリスちゃんの頼みなら何でもするからね!」

 

「「・・・。」」

 

 

服部と灰原は現在、森とエリスと共に車でヨコハマに向かっている。

 

なぜ結局こうなったかと言うと―――。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 

数時間前___

 

 

 

 

服部と灰原の前に突然現れた金髪の幼女の保護者はとても冷静な感じの男性だった。

 

 

ただ、その幼女とは違ってその保護者らしき男性は見た限りでは服部達と同じ日本人のようだった。

 

 

しかも、その男が「人探しの手伝いをさせろ」と言う始末。

 

 

「わいらも忙しいんや。気持ちはありがたいんやが・・・。」

 

「えー?駄目なの?」

 

「ごめんね。私とお兄さんにとってこれは誰も巻き込んじゃいけないものだから。」

 

 

普段少年探偵団の連中の面倒で子供の扱いに慣れている二人は何とか諦めてもらおうとなだめる。

 

 

 

「何だい?未だ駄目の一点張りに拘るのかい君達は?」

 

だいたい保護者なのにワガママさせすぎてるんじゃないのか、と少し痺れを切らした服部はそんなことを考えながら男を睨みつける。

 

それに気付いているのか、男は服部にうっすらと笑ってみせた。

 

 

「っ・・・。」

 

 

服部はその顔を見た途端に体中に鳥肌が立った。

 

 

 

・・・・服部から言わせてもらえば、きっとその顔は笑っているんじゃなくて“嗤っている”ように見えたのだろう。

 

 

 

 

「・・・・其処まで君達が粘り強いのなら仕方が無い。」

 

「はっ・・・?」

 

「えっ?」

 

「此方も最終手段に行くとしよう。」

 

 

早くこっちはコナンを見つけなくてはいけないのにこんなところで時間を潰すわけにはいかないが、男の言う最終手段とは一体何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「君達が探しているのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ――――江戸川コナン、否、“工藤新一”だろう?」

 

 

「!!?」

 

「なっ何であなたがそんなことをッ」

 

「其れに加えて、其処に居る少女は宮野志保。・・・・今は“灰原哀”と呼んだ方が好かったかな?」

 

「・・・。」

 

 

何で見ず知らずの男が誰も知らないはずのことを知っている。

 

 

 

灰原も服部も頭の中での情報処理でパンク寸前だった。

 

 

 

 

「嗚呼、すまない。混乱させる心算は無かったんだが。」

 

「・・・・や。」

 

「えっ?」

 

「何が目的なんや?!」

 

「ちょっと・・・!」

 

「工藤拉致して何がしたいんやお前らは!?」

 

「・・・・。」

 

 

服部はここが街中だということも忘れて大声で怒鳴ってしまった。

 

 

――――いや、彼にとっては今は街中とか人に見られているとかいうことは一切どうでもいいのかもしれない。

 

 

 

さすがの男も焦っているのかもしれないと灰原は内心思っていたがそんな考えは甘かった。

 

 

 

「ふっ・・・ふははは!」

 

「なっ何がおかしいんや!?」

 

男は突然笑い出した。

 

 

「いやぁ・・・君達は何か勘違いをしているんじゃないか?」

 

「はぁ?何を?」

 

「私は彼を攫ってなどしていない。只、彼が狙われているから安全な所へと連れて行っただけだ。」

 

「・・・・・狙われている?」

 

「そうだよ。彼は謎に包まれた『feint』と呼ばれる組織に狙われているのだよ。詳しいことはあまり話せないんだけどね。」

 

「何それ・・・・。何でそんなことにッ」

 

「此れ以上立ち話するのも時間が勿体無いね。近くに車をとめてあるから一緒に来給え。詳しいことは移動しながら話すことにしよう。」

 

 

肝心な話を後にしてその男は先に歩き出してしまった。

 

 

「私早く帰ってチュウヤと遊びたい!!」

 

「その中也君が現在お出掛け中だから遊べないのだよ。」

 

「えぇそうなの・・・。じゃあ一人で遊ぶ。」

 

「遠慮しないでいいのだよ。」

 

「気持ち悪い。」

 

「ぐはっ」

 

 

 

 

「わいらこれからどうなるんやろうな・・・・。」

 

「私にそんなこと聞かないで。」

 

 

 

 

 

 

――――こんな感じで今に至るのであった。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「自己紹介を忘れていたね。私は森鴎外。ヨコハマでポートマフィアという組織の長を務めている。」

 

「ぽっ・・・・!?」

 

 

いきなり聞かされた正体に思わず息が止まりそうになった。

 

 

「ポートマフィア・・・・かなり有名な非合法組織。」

 

「おぉ知ってくれているんだね。何だか有名人の気分だ。」

 

「・・・・アンタ頭大丈夫なんか?」

 

「至って良好だよ?」

 

 

この男は本当に少し頭がおかしいんじゃないかと服部は苦笑いを浮かべながら考える。

 

 

 

 

「私はエリス!宜しくね!!」

 

「おっおぉ・・・・よろしゅうな。」

 

「貴方の話し方面白いわね!何人?」

 

「日本人に決まっとるやろ!」

 

「そうなの?」

 

「・・・・。」

 

 

この少女は・・・・・とてつもない天然なのだろう。

 

 

 

「・・・・あの。」

 

「解ってるよ。今何処に向かっているか知りたいんだろう?」

 

「えぇ・・・。」

 

「此れから一度ヨコハマに有るポートマフィアの拠点へと向かっているよ。其の後、ちゃんと工藤君の元へ連れて行ってあげるからね。」

 

「そっそうなんか・・・。」

 

 

服部と灰原は完全にこの男を信じたという訳ではない。

 

実際、この男本人がコナンを狙っている組織とグルになっている可能性だってあるんだし、そもそもこの男、森鴎外に関する情報が“少なすぎる”。

 

 

作り笑いの様な顔で服部達を見つめるこの男の裏は一体どれほどの闇で溢れかえっているのだろうか。

 

 

 

「・・・ねぇヘイジ!」

 

「何や。」

 

 

そんな風に心の中で葛藤しているのを露ほども知らないエリスは車内の中に流れる沈黙をあっさりと破った。

 

 

「私ずっと思ってたんだけど、電話したらいいんじゃないの?」

 

「それならこのちっこい姉ちゃんがとっくの昔にしとるわ。」

 

「でも、もしかしたら出るかもしれないじゃない!」

 

「んなことあるわけ・・・。」

 

「確かにエリスちゃんの云う通りだ。もう一度電話をかけてみたら如何だい?」

 

「はぁ・・・しゃあないのう。」

 

 

――――繋がる訳がない。

 

 

 

服部は一人そう考えながらズボンのポケットからスマホを取り出し、電話帳を開く。

 

 

「ほんまに繋がるんか・・・・・?」

 

 

半分だめもとで通話ボタンを押し、耳にスマホを押し当てる。

 

 

スマホから流れてくるのはコール音。

 

 

 

「やっぱり・・・・。」

 

 

 

―――ダメなのか。

 

 

 

 

 

『もしもし?』

 

 

 

 

 

「はっ・・・・くっ工藤!!?」

 

 

 

 

『服部・・・!!?』

 

 

 

 

 

ウソだ。

 

 

 

 

まさか、本当に電話が繋がるなんて・・・・。

 

 

 

 

「ねっ云っただろう?」

 

 

 

 

その時、森が服部に見せた顔はなぜか“素の顔”の様な気がしたのは服部だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

一方、紀伊が訪れた後の武装探偵社の雰囲気は最悪と言わざるをえないくらい気まずさが漂っていた。

 

 

 

「・・・敦は未だ目を覚まさないのか。」

 

 

 

国木田は医務室にあるベッドの上で今も意識が戻らない敦を見ながら弱々しい声で呟く。

 

 

「最善を尽くして何とか大事には至らなかったけど・・・・何時目を覚ますかは妾にも解らないね。」

 

 

探偵社の専属医、与謝野の言葉に国木田は苦虫を潰した様な顔をする。

 

 

「アンタが悪い訳じゃないんだからそう責めるんじゃないよ。」

 

「与謝野さん・・・。然し、俺は・・・。」

 

「国木田。」

 

 

自分の名前を呼ばれた国木田は与謝野の方を見た。

 

 

与謝野の目は真剣そのものだった。

 

 

「アンタがうじうじしてる暇なんて無い。乱歩さんが太宰にも伝えてくれるって云ってたから多分直に太宰も戻ってくる。・・・・全てが終わるまで、此の一件が終わるまで一言も弱音を吐くんじゃないよ。吐いたら其の体を妾が解剖する。いいね?」

 

「・・・・。」

 

「返事は?」

 

「・・・判りました。」

 

「よし、其れでこそ“探偵社”の国木田だ。」

 

 

そう言って与謝野は優しく微笑んだ。

 

 

「とっ兎に角、俺は彼の木偶の坊を連れ戻してくる。」

 

「戻ってくるかもしれないのに?」

 

「待ってる暇なんて無いからな。」

 

 

さっきまでとは一変して凛とした構えで与謝野に向く姿に彼女は内心驚いていた。

 

 

 

「(矢っ張り男は凄いモンなんだねぇ・・・否、国木田限定?)」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「其の必要は無い。」

 

「乱歩さん!」

 

国木田達の話を聞いていた乱歩は落ち着いた様子で医務室へと足を踏み入れる。

 

 

「国木田には此れから“或る場所”へと行ってもらう。」

 

「或る場所・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此れからポートマフィアの拠点に行って『服部平次』と『灰原哀』に接触してくるんだ。」

 

「だっ誰ですか其の二人は?」

 

「行けば解る。時間も勿体無いから早く行ってきて。」

 

「はっはぁ・・・・。」

 

 

乱歩に言われ、国木田は渋々医務室から出ようとした。

 

 

「あっそうだ。」

 

「?」

 

「此の一件は・・・・一筋縄じゃいかないからね。」

 

「っ・・・・判っています。」

 

 

乱歩の気迫に押されながらも国木田は冷静に言葉を返し、医務室から出ていった。

 

 

 

 

「そんなに面倒なのかい?」

 

「嗚呼。・・・・少なくとも僕の考える限りでは相当大きな何かが裏で動いている。」

 

「其れは又随分と面倒だねぇ。」

 

「きっと太宰なら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ――――楽しくなりそうだ、とか云いそうだよね。」

 

 

「・・・・そうですね。」

 

 

 

 

 

――――そう言いながらも、与謝野は乱歩の方が案外楽しみで仕方が無いんじゃないかと一人考えていた。



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第八話

ついに出来ました……。

長らくお待たせしてすいません。


これからも頑張って更新していくのでよろしくお願いします。


段々と近づくのは、死への道。

 

 

 

誰がそこへと(いざな)うのか─────

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

突然かかってきた大阪にいるはずの服部からの電話に戸惑いを隠しきれないコナン。

 

 

 

 

「服部・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

「何だい?誰からの電話なんだい?」

 

 

 

そんなことも知らない太宰は興味津々な顔でコナンの顔を覗き込んでくる。

 

 

 

『何や工藤、そこに誰かおるんか?』

 

 

 

「あっいやっそれはだなそのっ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

いくらあろうと服部を今回の件に巻き込む訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

『服部君、私に代わり給え。』

 

 

 

すると、知らない男の声が耳に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ服部、今のは一体っ……。」

 

『やぁ、君が江戸川コナン君で間違いないかな?」

 

「うっうん、間違いないけど…おじさん誰?」

 

 

自分の名前を知っている電話の向こうの男にコナンは警戒心を持った。

 

 

 

『嗚呼、怖がらないでくれ給え。私は森鴎外。今、君の傍に居る中原中也君が所属する組織の長だ。』

 

「なっ……!何で平次兄ちゃんと一緒にいるの!?」

 

『何でって訊かれても…偶々だったとしか説明できないねぇ。其れなら君だって、如何してそんな話し方をするんだい“工藤新一”君?』

 

「っ……!!」

 

 

 

当然のことだとは思っていたが、やはりこの男もコナンの正体を知っていた。

 

 

一体どうやったらそのような情報が手に入るのだろうか。

 

 

 

 

そもそも、どうしてそんな奴が服部と一緒にいるのだ?

 

 

 

『中也君から話は訊いたかい?』

 

「いや…誰かに狙われてるってことしか……。」

 

『じゃあ私が話そうじゃないか。中也君や“太宰君”にも訊こえるようにスピーカーにできるかい?』

 

「はっはい………。」

 

 

コナンは森に言われるがままスピーカーにした。

 

 

 

『やぁ太宰君、久し振りだねぇ。』

 

「矢張り私が此処に来ると解っていたんですね。」

 

 

 

如何やら森は太宰と知り合いらしい。

 

如何いう関係の知り合いかは知らないが只ならぬ因縁がありそうな気がする。

 

 

 

『其れについてはとっくの昔から予測していたからねぇ。君なら必ず中也君に接触すると思っていたよ。』

 

 

「流石首領ですね。では、早速話を訊かせてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『江戸川君─────否、工藤新一君を狙っている組織の名前は、“feint”と云う裏社会で最近よく耳にする非合法組織だ。彼らは主に暗殺、拷問、密輸入の仲介人等…様々な犯罪に手を染めている。』

 

 

 

 

いきなり口にされた言葉を聞いてコナンは息を呑んだ。

 

 

黒の組織も散々なことをやってきたと思っていたが、それ以上のことをそのfeintと呼ばれる組織はするのか。

 

─────犯罪に容易く手を染める彼らには果たして“情”があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『今回君が狙われている理由は…君を幼児化させる切っ掛けにもなった“アポトキシン4869”にある。』

 

 

 

 

 

「えっ……?どうしてその薬の情報が渡ってるんだ?」

 

 

 

動揺を隠しきれず、思わず“新一”の方の喋り方になってしまったが、今はそんなことどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

『如何やら…その薬を作っている組織の誰かが情報を横流ししたみたいなんだよ。金を交換条件に。』

 

 

 

 

今度は息が止まりそうになった。

 

 

 

 

─────アポトキシン4869を作っている組織なんてコナンの中では一つしか浮かんでこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒の組織………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでコナンは理解した。

 

 

 

 

森鴎外に─────ポートマフィアに自分の警護を依頼したのは、“ベルモット”だと。

 

 

 

 

 

 

あいつが態々こんなことをするのだから、恐らくfeintに情報を売ったのはベルモットの直属の部下。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────あいつも困った部下を持ったようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かコナン?」

 

「えっ……あぁ大丈夫。」

 

「中也、今の彼は“工藤新一”君なのだから其の名前で呼ぶのは失礼だよ。」

 

「そっ然うか?」

 

「いっいやっ大丈夫!」

 

 

 

 

 

……一人でつい考え込んでしまった。

 

 

 

 

 

「ねぇ…森さん。」

 

『何だい?』

 

「feintの奴らはアポトキシン4869を使って、一体何をしようとしてるの?」

 

『……此れはあくまで私の推測なのだが、彼らは其れを主に暗殺の任務等で使おうとしていると思う。』

 

「何でそう思うの?」

 

『……中也君。』

 

「はい。」

 

 

 

中原の名前を呼んで少し間を置いた後、森はこう言った。

 

 

 

 

 

『中也君は組織の殲滅や或る特定の人物の暗殺の任務の時、見られてはいけない誰かに見られたりしたら如何する?』

 

 

 

 

それを聞いたコナンは少し驚いた。

 

 

中原さんも“そういう仕事”をしているんだ、と─────。

 

 

 

 

 

中原は迷いのない透き通った青い瞳で言った。

 

 

 

 

 

 

「俺は……其奴が餓鬼だったら保護します。」

 

「じゃあ“大人”だったら?」

 

「手前…大概屑だな。」

 

「お褒めに預かり光栄だね。」

 

「褒めてねぇ!!」

 

 

 

太宰が中原をおちょくるということは────大方太宰は中原の考えてることが分かっているんだろう。

 

 

 

 

 

そして、中原は渋りながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人だったら────迷わず殺します。」

 

 

『流石中也君。其れでこそ五大幹部の一角を担う人間だ。』

 

「もう首領ったら中也に対するお世辞なんて如何でもいいからさ、早く話を進めてよ。」

 

『…太宰君の云う通りだね。話を進めようか。』

 

「ホント手前はムカつく野郎だなあ。」

 

「なぁに中也?真坂首領にお世辞云われて嬉しかったの?残念な帽子置き場だねぇ。」

 

「五月蝿ぇ余計なお世話だ。」

 

 

 

やはり、この二人の喧嘩はどこか子供じみた感じに見えてしまう。

 

 

……まぁ、簡単に言えばしょうもないってことなんだが。

 

 

 

 

 

『今、中也君が云った通り任務に支障を来す者は殺すのだが、彼らは其の殺しを“手短か”に済ませようとしているのだよ。』

 

 

「手短かに……?」

 

『嗚呼。アポトキシン4869を使えば其の人間の存在はなかったことになるし、最悪の場合は死んでくれるんだからね。彼らにとっては無駄に人殺しをしなくて済む訳だ。』

 

「ッ……!」

 

「feintのボスも随分と酷い奴だねぇ。手を煩わせない為にそんな手段を使おうとするなんて。」

 

 

 

太宰の言う通りだ。

 

 

そんな奴らに自分は狙われているのか。

 

 

 

 

 

『取り敢えず君達は探偵社に行くといいよ。私の方にいる“二人”も直ぐに連れて行くから。』

 

 

「ふっ二人…?」

 

 

 

『私のことよ、工藤君。』

 

「はっ灰原!?お前までどうして……。」

 

『どうしてって……貴方のせいなのよ。忘れ物を届けに行ったら親戚にしばらく預けられるって言われて心臓が止まりそうになったんだからね。』

 

 

 

親戚………。

 

 

その“親戚”は恐らく中原のことを指しているのだろう。

 

 

 

 

「悪いな灰原………心配かけて。」

 

『別に………死んでないだけ良かったわ。』

 

「そんな縁起でもないことを言うんじゃねえ!」

 

 

 

 

盛大に言い返すと、電話の向こう側から笑い声が聞こえてきた。

 

 

笑い方的に多分服部であろう。

 

 

 

コナンは密かに服部に苛立ちを募らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「然し、善いのですか首領。探偵社に連れて行ったりなんかして。」

 

『大丈夫だよ中也君。私が云わなくてもどうせ探偵社には行かなきゃいけなくなるんだから。』

 

 

 

ねぇ太宰君、と付け足した森の心の内がコナンにはさっぱり分からなかった。

 

 

「まぁ…仰る通りです。私は何方にしろ“安室透”からも詳しく話を聞かなくちゃいけないから。」

 

 

 

 

────その名前を聞いてハッとした。

 

 

 

 

 

安室は無事なのか。

 

 

 

彼は一体何に巻き込まれているんだ。

 

 

 

 

 

「おいおい……本当に行く気なのか?」

 

「私は冗談半分でこんなことを云うと思っているのかい中也?」

 

「………ねぇな。」

 

「でしょ?其れじゃあ話は早い。今直ぐに探偵社に行こう。」

 

「はぁあ!?手前何処までマイペースなんだよッ!」

 

「あー声が訊こえた気がしたのだけど、視界に何も入ってこないなー幽霊かなー?」

 

「態と上を見ながら云うんじゃねえ!!」

 

 

 

 

いつのまにか中原が太宰に拳を振りかざしていた。

 

 

当の太宰は軽やかに避けているのだが。

 

 

 

 

 

────それよりそろそろ止めなければ時間が勿体無い。

 

 

 

今、この瞬間にも“feint”の奴等の手がこちらに近づいているかもしれないのだから。

 

 

 

 

「はっ早く探偵社に行こうよ!」

 

 

 

コナンの鶴の一声で太宰と中原は口論をやめた。

 

 

 

「…矢っ張り違和感がある。………“新一”君、変な喋り方はやめ給え。」

 

「……………悪かったな変な喋り方で。慣れちまったんだからしょうがねえだろ。」

 

「ふーん。其れが君本来の喋り方なんかい。其方の方が未だ善い。」

 

 

 

 

半ばやけくそで“工藤新一”の口調にしたコナンは立ち上がり部屋の外へと行こうとした。

 

 

 

「……ということで、私達は先に探偵社に行くから此れで失礼するよ森さん。」

 

 

太宰が通話終了ボタンを押そうしたら────

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっちょい待ち!』

 

 

 

 

服部がそれを阻んだ。

 

 

 

 

 

『工藤!』

 

 

 

 

そして、コナンもまた足を止め、服部の声がするスマホを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に死ぬなよ。』

 

 

 

「……………死なねぇよ。そんな当たり前なこと言わせんな、バーロー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────そうして、コナンは電話を静かに切った。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ行こうじゃないか、武装探偵社へ。」

 

 

 

 

 

三人は目的のため、外へと一歩を踏み出した─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───が。

 

 

 

ピルルルルルルルルルッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何やら私の様だね。」

 

 

 

 

太宰の電話の着信音が鳴り響いた。

 

 

 

太宰は通話ボタンを押し耳に当てる。

 

 

 

 

 

「乱歩さん……一体如何されたんですか?」

 

 

 

 

“乱歩さん”───。

 

 

恐らくその人物も探偵社の社員なのだろう。

 

 

 

 

仕事関係の依頼かと思っていたら段々とその顔から笑みが消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………敦君が?」

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 

──────雑居ビルの質素な会議室。

 

 

 

そこに集まるのは一般人とはかけ離れた力………“異能力”を持った六人の人間だ。

 

 

 

 

 

「今回集めたのは他でもない……“工藤新一”の捕獲についてだ。」

 

 

 

一番偉そうに鎮座し、他の面々に話しているのが、feintを束ねる長、通称『first』、河末(かわすえ)六朗(ろくろう)

 

異能力───“我の虚”。

 

 

 

 

「やっと其の話に移ることが出来て善かった。私の所為で足を引っ張ると思っていたから。」

 

「否、大丈夫だ。secondのお陰で敵に我らの存在を知らしめれたからな。」

 

 

 

今喋ったのが、feintの幹部を統べる幹部長、通称『second』、紀伊由羽。

 

 

 

異能力───“今宵も踊り狂う”。

 

 

 

 

 

 

「first様、彼の程度のことで我々の存在を彼らに知らしめることは不可能です。もっと確実に奴らを痛ぶり、絶望の淵に立たされた時、彼らは初めて我々が何れだけ非情の集まりなのかを知るのです。」

 

「貴方も随分と残酷な考えを持っているのね。」

 

「我の此の程度の考えなんかより、first様の考えの方がよっぽど残酷ではないのか?」

 

 

 

 

 

黒いフード付きのマントを羽織る老人は、feintの幹部の一人、通称『third』、レジェース・アストル。

 

 

 

 

異能力───“天と地”。

 

 

 

 

 

 

「もう皆!そんなことより早く話を進めようよ!何人人を殺せるのか、僕、わくわくして堪らないんだよッ!!」

 

「落ち着かんかfifth。其の溢れ出る狂気じみた殺気を抑えろ。」

 

「そんなに出てた?」

 

「嗚呼、出てた。」

 

「ありゃりゃ此れはうっかり失礼しちゃったね!」

 

 

 

 

どこか可愛げのある青年は、其の見た目と巧みな話術で敵を油断させて容赦無く殺す、feintの幹部の一人、通称『fifth』、斐賀原(いがわら)嘩栄(かえ)

 

 

 

 

異能力───“哀れな道化人”。

 

 

 

 

「fifthが死体の山を作ろうが作るまいかそんなの私達の知ったところじゃないですわ。死者から流れ出る赤い血も亦、美しい……。」

 

「はっ……僕なんかよりsixthの方が狂気じみてると思うけどなぁ。」

 

 

 

淡い水色のドレスに身を包んだ女性は、最近幹部になったばかりの新参者、通称『sixth』、ラソーナ・ティラサー。

 

 

 

異能力───“桜花爛漫”。

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ皆さん落ち着いて。………first様、今回も此の私めが作戦提案しても宜しいでしょうか?」

 

「嗚呼……構わない。seventhは此の組織の“脳”だからな。」

 

「……有難う御座います。」

 

 

 

席から立ち上がりfirstと話しているのが、feintの幹部であり、作戦参謀の通称『seventh』、ノスカ・ファーリッド。

 

 

 

 

異能力───“孤高の神”。

 

 

 

 

此の七人がfeintを此処まで強くした“逸材”である。

 

 

 

 

そして、ノスカはまた口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の『工藤新一捕獲作戦』………『K』に参加してもらうのはthird君とfifth君だ。」

 

「えッ!?本当に!!?ヤッター!!!」

 

「其れは誠か……せふよ。」

 

「はい。」

 

 

 

名前を呼ばれた斐賀原は席から立ち上がり、飛び上がっているのに対し、レジェースは眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。

 

 

 

「君達二人なら必ず彼を捕まえることが出来る筈です。ですが、二つ程云っておくことが………。」

 

「何々!?」

 

 

 

 

斐賀原が興奮気味の様子でノスカに詰め寄ると、彼は懐から二枚の写真を出した。

 

 

 

その写真には……一方は包帯を至る所に巻いている顔立ちが良い黒髪の蓬髪の男性、もう一方は少し小柄で洒落た帽子を被った赤毛の男だった。

 

 

 

「seventh………此奴(こやつ)らは……?」

 

 

 

レジェースの問いにノスカは微笑みながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「其の二人は黒髪の方が太宰治で赤毛の方が中原中也と云うのだけれどね。……昔、一夜にして一つの組織を滅ぼした黒社会最悪最恐のコンビ、“双黒”なんだよ。」

 

「へぇ……此の二人が。」

 

 

 

これには河末も興味を持ったようでノスカの話に耳を傾ける。

 

 

 

「とてもそんなのには見えないけど……本当なの?」

 

「嗚呼………彼らのコンビネーションは正しく“最強”と呼ぶに相応しい。」

 

「そう……ノスカがそう云うのなら本当なんでしょうね。でも………此の二人が『K』と如何関係してくるの?」

 

 

 

その場の誰もが思った疑問を紀伊は投げかけた。

 

 

 

 

「よく訊いてくれたねsecond君。実を云うと、今工藤新一の傍には此の二人が居るのだよ。」

 

「そうなのッ!?うわぁ滅茶滅茶会いたい!!」

 

「向こうも随分と面倒な護衛を置きましたことですわ。seventh、要は此の二人を突破しなければ工藤新一は捕まえられない……そう云いたいのでしょう?」

 

「流石sixth、話が早い。でも、其処でもう一つ。」

 

 

 

 

 

全員がノスカの言葉に耳を傾けているのを確認してから、ノスカは云った。

 

 

 

 

 

 

「……工藤新一だけではなく、中原中也も確保してほしいのだよ。」

 

「……ナカハラチューヤも、って何で?」

 

「“実験台”になってもらうんですよ。私が作る試作品の。」

 

「………そういうことか。然し、其れなら別に太宰治でも善いではないのか?」

 

「否、太宰治では駄目なのだよ。……second君が如何してなのか一番理解しているのだろう?」

 

 

 

ねぇ、と紀伊に笑いながら視線をやったノスカに対して、紀伊は至って冷静な顔で答える。

 

 

 

 

「太宰治の異能力は全ての異能を無効化する異能力。其れにかなりの策士と有名だから一筋縄で捕まるとは思わない………からでしょ?」

 

「全く其の通りだ。君は私達とは“別行動”をしていたからね。判ってくれると思っていたよ。」

 

「じゃあ……ダザイオサムは殺しても構わないってこと!?」

 

 

 

 

斐賀原の期待の眼差しに応えるようにノスカはまた微笑んだ。

 

 

 

 

 

「嗚呼……太宰治だけなら殺しても構わない。」

 

「やったー!!そうと決まれば早く行こうよthird!!!」

 

「……老人を無理に引っ張ろうとするな。」

 

 

 

 

会議室を後にして出ようとする二人にノスカは云った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………彼らはsecond君の蒔いた種のお陰もあると思いますが、必ず武装探偵社に行く筈です。其処を一網打尽にしてくださいね。」

 

「………期待しているぞ、『嘩栄』、『レジェース』。」

 

 

 

 

 

河末の言葉に目を見開いて驚きながらも二人は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「「はい、『河末』様。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────その場にいる誰もがfeintの完全勝利を信じている中で、紀伊だけはやりきれない顔をしていた。



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第九話

待たせすぎました・・・ごめんなさい。


これからもよろしくお願いします・・・


横浜の風を身に受けながら、喫茶うずまきに色黒の男とニット帽を被った男が来店した。

 

然し、其の二人は何処か近寄りがたいとういうか、二人の間に漂う空気があまり良いものではなかった。

 

「ほら、ルーシーちゃん。お客さんを案内してあげなさい。」

 

「わっ判りました。」

 

店長に云われ、最近働き始めた給仕の新人、ルーシー・モード・モンゴメリが店に入ってきた二人組の元へ行く。

 

「此方へどうぞ。」

 

ルーシーに案内され、二人組は窓際の席へと案内される。

 

「ご注文がお決まりになられましたらお呼びください。」

 

丁寧にお辞儀をしてからルーシーは其の場から退散した。

 

ルーシーが去った後も尚気まずい空気が二人の間に流れている。

 

 

 

「彼の二人組……如何したんですかね。」

 

「私に訊くな。彼処の二人組は此処に来る事自体が初めてなんだから理由なんて知らない。」

 

「……ですよね。」

 

ルーシーは店長の返しに相槌を打ってから亦彼の二人組を見た。

 

 

すると、何やら其の二人が会話をしていることに気付いた。

 

「此処で大丈夫なのか。ふるっ」

 

「其の名前で僕を呼ぶなと何度云えば判るんですかFBI!!」

 

「君も其れを大きな声で云ってもらうと困る。」

 

「ふんっお互い様ですよ。」

 

FBI……と云えば、米国にある警察機関のことだが何故其の言葉が出てくる?

 

…彼の二人は一体どんな関係なんだ?

 

「全く……あっすみません。」

 

「はっはい。」

 

「珈琲ニ杯お願いできますか?」

 

「畏まりました。」

 

段々雰囲気も和らいできたように見えたルーシーは店長の処に行き、注文を伝える。

 

「ヨコハマにも随分と洒落た店があるんだな。」

 

「…貴方は一体ヨコハマにどういうイメージを抱いていたんですか…。」

 

思わず笑いを零したルーシーは店長に「笑うと可愛いね。」と茶化されてから注文を届けに行った。

 

 

「お待たせしました、珈琲二つです。」

 

「嗚呼、ありがとう。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

珈琲をテーブルに置くと二人組の男は優しく微笑んでからルーシーに軽くお辞儀をした。

 

 

「ごっ……ごゆっくりしていってくださいね。」

 

 

其れに応えるようにルーシーも軽く会釈をしてからその場を去っていった。

 

 

 

「ああいう結構顔が良い人が常連になってくれるとこっちも商売上がったりなんだけどねぇ…。」

 

「あははは…。」

 

 

 

店長の戯言を軽く流しながらルーシーは席に座る二人組を只々見つめていた。

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

「あー何でマフィアの送りで探偵社まで行かなきゃいけないのー。私厭なんだけどー。」

 

「じゃあ今すぐ降りろ。手前が居なくなった方が俺も楽になる。」

 

狭い車内の中でくだらない口喧嘩をする太宰と中原にコナンはため息を吐きながら云った。

 

「…後、どのくらいで着くの?」

 

「ん、あぁ……大体十分ぐらいだな。」

 

「そんなに待たなきゃいけないのー?ねぇ、もっと早くできないわけー?」

 

「すっすいません、太宰様……。」

 

運転手を急かす太宰に中原は呆れ顔で云う。

 

「・・・もうちょっと優しく接しろよ手前は・・・。」

 

「私は何時も優しく接しているよ?」

 

「どの口が云いやがるンだよ。」

 

如何やらポートマフィアと太宰さんには何らしかの繋がりがあるみたいだ。

 

じゃなければ、普通はポートマフィアの構成員に偉そうな態度を取れるはずがない。

 

其れに加えて、「太宰様」、と呼ばれるんだ。

 

「・・・・・・太宰さん。」

 

「何だい・・・工藤君?」

 

「・・・太宰さんって武装探偵社に入る前は何してたの?」

 

「・・・・・・ポートマフィア。」

 

「えっ」

 

「ポートマフィアの幹部だったよ。」

 

「・・・・・・・・・えぇぇぇえぇぇえ!!!?」

 

こんな飄々としてる人が非合法組織の一員で、しかも、トップに近い地位??

 

コナンは余りにも吃驚しすぎてしまい、思わず大声を出してしまった。

 

「判るぜお前の気持ち・・・。何でこんな自殺嗜好の男が幹部だったのか、俺にも理解出来ねぇ。」

 

只者ではないと薄々思ってはいたが、真逆元マフィアだったとは・・・。

 

「其れよりも・・・手前の部下は大丈夫なのか?女に殺られそうになったって云ってたが。」

 

「嗚呼、敦君のこと?彼なら大丈夫だよ。与謝野さんもついてるんだし。」

 

「・・・。」

 

────────武装探偵社に向けて出発する直前、太宰の元に同じ職場の“乱歩”から電話がきた。

 

 

 

 

其処で探偵社に謎の女性が来て、降谷零が殺されそうになった処を社員の“中島敦”が庇い、現在意識不明の状態らしい。

 

 

 

幸い命に別状にないらしいが、何時目を覚ますのかは解らないとのこと。

 

「幾ら人虎とはいえ・・・・・・。」

 

「中也敦君のこと心配してるの?うわー蛞蝓の癖に気持ち悪~。」

 

「うっ五月蝿ェ!!!!部下のことを心配するのは普通だろ!!」

 

「はいはい。」

 

「流すんじゃねぇ!!!」

 

「あはは・・・・・・。」

 

────────そうこうしているうちに、ヨコハマの地に車は入っていた。

 

「もう直ぐ探偵社に着きます。」

 

「そうか。」

 

米花町とはまた違った風景にコナンは目を奪われた。

 

 

 

 

────────もし、また此処に来る機会があれば、その時はちゃんと観光してぇな。

 

 

 

 

「・・・太宰。」

 

「なぁに?」

 

「今回の件、面倒か?」

 

「・・・面倒に決まってるじゃないか。」

 

「・・・・・・手前が云うんだから其の通りなんだろうなぁ。」

 

「特に今回は・・・。」

 

太宰はそう云いながら、コナンの方に目を向ける。

 

「・・・・・・?」

 

「・・・・すっごく面倒な探偵君も居るからね。」

 

「・・・はっ・・・はぁ!?おい、其れって如何いうっ」

 

 

 

 

 

 

 

「御三方!!!!危険です!!!!!!!!」

 

 

 

 

「「「え」」」

 

 

 

 

運転手がそう叫んだ途端、車体が突如浮いたのだ。

 

 

 

 

 

否、突如浮いたというよりは車体を“何かが貫いて其の儘浮いた”と云った方がいいだろう。

 

 

 

「糞っっ!!!!捕まれ工藤!!!!」

 

「おっおう!!」

 

此の儘じゃ危ういと思った中原は慌ててコナンの腕を掴み車から飛び出した。

 

其れに続いて、太宰も飛び出す。

 

「うっ運転手は!?」

 

「彼なら既に死んでいた。全く残忍な手口だね。」

 

「・・・・・・死んだ?」

 

「残念ながらね。」

 

 

 

 

 

 

さっきまで一緒に居た人間が、彼の一瞬で死んだというのか。

 

 

 

 

「あーあ。遣り損ねちゃった。だからもうちょっと深くいけって云ったのに。」

 

「其れだったら全員殺すことになるじゃないか。お前はseventhが云っていたことを忘れたのか?」

 

「忘れてまーせーん。」

 

車から脱出したコナン達(たち)の目の前に現れたのは黒いマントを纏った老人と可愛らしい姿の青年だった。

 

「まー結果オーライってことでいっか。」

 

「・・・・・・矢張りお前と来るべきじゃなかった。」

 

彼らが森が云っていたfeintの一員なのか。

 

「手前らが・・・feintの奴らか。」

 

「えっ・・・そうだよ!!僕達がfeintの幹部だよ!!!因みに僕はfifth!」

 

緊張が走る場面でも顔色一つ変えない青年は陽気に告げる。

 

「嗚呼、そんなこと如何でもよかった!………ねぇ、酷いことしないからさぁ…“クドウシンイチ”を此方に寄越してよ。」

 

体が強張った。

 

「(…此奴らの狙いは矢張り俺…。)」

 

コナンを庇う様に前に出た太宰と中原は目の前に居る二人を睨みつける。

 

「君達みたいな連中に渡すと云う輩が居るとでも思ってるのかい?」

 

太宰の纏っている雰囲気が先程とは一変して、思わず鳥肌が立ちそうになった。

 

「……だよねー!そんな簡単に渡してくれるわけないよねー!!」

 

然し、青年は笑いながら其の言葉を受け止める。

 

「……。」

 

此の男は一体何を考えているのかコナンには理解が出来なかった。

 

 

 

 

何でそんなに笑っているのか、何でそんなに余裕な顔をしていられるのか。

 

 

 

 

「ならば此方も強硬手段でいかせてもらう。」

 

そう云うと老人は右手を上に上げた。

 

 

 

 

 

 

「“地”に落ちよ。」

 

 

 

 

 

 

────────────そしたら、突然先程まで頭上にあった車が落ちてきた・・・・・。

 

 

 

「……っ糞!!」

 

 

 

 

間一髪の処で全員避けたので誰も怪我はしなかったが、若し車の下敷きになっていたら……────

 

 

 

「…工藤、下がってろ。太宰、手前はちゃんとそいつを守ってろよ。」

 

「中也に指図されるのは気に食わないけど…判ったよ、“相棒”。」

 

「けっ‥‥都合のいい時だけ云いやがって…。」

 

太宰とコナンが離れると、中原は長外套を脱ぎ捨てて一人敵陣へと歩んでいく。

 

「だっ太宰さん!」

 

「何だい工藤君?」

 

「あんなのに一人で挑むなんて無茶だ!!」

 

相手は拳銃や剣じゃない…力・を持った人間だ。

 

普通の人間が立ち向かったら間違いなく即死だろう。

 

「……工藤君。」

 

…でも、太宰は一切焦っていない。

 

「中也の力・を甘く見てもらったら困るよ。…あんな蛞蝓だけど、実力はポートマフィアの中でも随一を誇るんだよ?」

 

逆に余裕に満ち溢れた顔をしている。

 

其れはまるで彼を心から信頼しているかのような──────

 

「我の異能の前に散れ。」

 

突然老人はマントを翻し、右手を突きだす。

 

 

 

其れにつられるかのように、地面がうねって中原に襲い掛かる。

 

「あんなのくらったら…死んじまう。」

 

「まあまあ工藤君。見てたら解るよ、私の云っていることの意味が。」

 

 

対して中原は至って冷静な顔で立っている。

 

 

「……“重力操作”。」

 

 

 

 

微かにそう呟いた中原は次の瞬間、思いっきり“尖った動く地面”を殴った。

 

 

 

 

 

 

 

──────────すると、一瞬で“地面が砕け散った。”

 

「……っ!!?」

 

 

 

此れには敵も驚いたらしく、瞳孔が開いている。

 

 

 

「だから云っただろ工藤君。中也を甘く見てもらったら困るって。」

 

「中原さんも異能力者だったの?」

 

「嗚呼そうだよ。私もだけど。」

 

 

 

場慣れした雰囲気に、さっきの“異能力”─────

 

 

 

「すごい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「此れだけで終わりか?…なら此方もいかせてもらうぜ!!」

 

 

 

中原さんの言葉を合図に二人組の周りがミシミシと音を立て始めた。

 

 

 

 

 

「此れが……重力使いの異能力者の力か。」

 

「おっ……重いぃぃぃ…。」

 

 

 

 

流石に此れには耐え切れないみたいだ。

 

 

 

 

 

「さぁ、手前らを如何してやろうか…。」

 

 

 

一気に形勢逆転した。

 

 

流石、一角の組織の幹部を担う男といった処だろうか。

 

 

 

 

 

「此の儘いけば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふっふふ。あはははは!!」

 

 

 

 

 

 

後少しという処で青年は突然笑い出した。

 

 

 

「なっ何が可笑しいんだ!!」

 

「いやぁ、此れから君が『大事な“相棒”に殺されかける』と思うと面白くてつい……!!」

 

「手前……一体何を云って…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから……“其の儘”の通りだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────何でだ。

 

 

 

 

 

 

 

何でこうなっているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────如何して、如何して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっ……だざっ…い……てめ…え…!!」

 

「すまない……中也……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────誰か、嘘だと云ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

「っ……中原さん!太宰さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────“太宰さんが、中原さんを刺しているなんて。”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……。」

 

 

 

 

 

コナンは動けずに其れを見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の異能力に勝てる奴なんていないんだよ。」



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11話

その時にならなきゃ伝わらない事もある。

 

ただ“その時”がいつ来るかなんて誰にも分からない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

目の前が真っ暗になりそうだった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がこんな姿だから、二人に迷惑をかけているというのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で大変な事が起こってるのに、足がすくんで動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはは!どう!?信用していた奴に裏切られる気分は!?」

 

 

 

fifthはそんな光景を楽しでいるのか、さっきよりも笑顔で俺達を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太宰さんは言葉も発さずに中原さんに刺していたサバイバルナイフをゆっくりと引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・くそっ太宰がぁ・・・。」

 

 

 

 

 

 

立っていられる状態じゃない中原さんはその場に倒れ込んで太宰さんをこれでもかと睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、太宰さんは一向に口を開こうとしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった!じゃあねぇ・・・・・・今度は“自分の腹に刺してよ、そのナイフ”。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔぁ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太宰さんっ!」

 

「太宰っ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は、太宰さんが“自分の腹にナイフを刺した”。

 

 

 

 

綺麗な血が鮮やかに飛び散る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっとぉー・・・seventhは“コイツ”は殺してもいいって云ってたよね、third?」

 

「・・・・・・嗚呼、そう云っていた。」

 

「じゃあ・・・殺しちゃおっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不味い不味い不味い不味い

 

 

 

 

 

 

此の儘では確実に太宰さんは殺されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に、俺に出来る事は───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ンな処でくたばんじゃねぇ糞太宰っ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟にナイフを蹴り落とした中原さんは太宰さんをこれでもかという程の力でぶん殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中也・・・・・・。」

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな場面でも中原さんは太宰さんのために・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してくれてるの!?もうー!!」

 

 

 

 

 

 

 

向こうも中原さんの行動に驚かされてるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か・・・太宰さんだけでも助かる方法を・・・・・・・・・・・・あ!」

 

 

 

 

 

 

 

よく見たら敵の後方に沢山積み重なった木材がある。

 

 

あれを崩せたらかなり時間稼ぎになる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射出ベルトに手をかけた瞬間、自分は如何するのかという疑問が浮かんだが、そんな事より“目の前で困ってる人を助ける”のが最優先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・いっけえええぇええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!!?何何ちょっうぁああああ!!!!?」

 

「くっ・・・・・・・・・!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事ボールは命中して敵に木材が降りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太宰さん!」

 

「・・・工藤君。」

 

「俺と中原さんの事はいいから今は逃げて!!」

 

「なっ・・・・・・何を云ってるんだ?私だけが逃げても君と中也が・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かってる。

 

 

分かってるよそんな事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今逃げても捕まるのがオチなら手前が逃げて応援頼んだ方が手っ取り早いンだよ!!!ぐだぐた云わねぇでさっさと逃げやがれこの包帯男!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪我してるのによく喋れるな中原さん・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・工藤君、中也。」

 

 

 

 

 

 

 

 

太宰さんは傷口を抑えながら立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・私より先に死んだら許さないからね。」

 

 

 

 

 

 

 

その顔はひどく切なそうで、でも、どこか安心しているような顔で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・もちろん。」」

 

「手前より先に死ぬなんて有り得ねぇからな。」

 

「ふっ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と中原さんの返事を聞いてから太宰さんは重い足取りで其の場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事に向こうまで着いたらいいけど・・・・・・っうぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小童が・・・・・・侮れんな。」

 

「君のせいで逃がしちゃったジャーン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足には巻きついた“地面”。

 

 

 

thirdって呼ばれてた男の異能力だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・中原さんは?」

 

 

 

 

「流石に限界みたいだね。気絶してるよ。」

 

「・・・限界に近い状態で元相棒を助けるなんて・・・我には理解し兼ねる。」

 

「そんなん僕も理解できないから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと二人が近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構痛かったんだよー?」

 

「・・・取り敢えず任務完了だな。」

 

 

 

 

 

俺はその言葉を最後に目の前が真っ暗になった────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

「・・・此れはどんな状況なの?」

 

「ンなもん俺に聞かれても困るわ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリスちゃん!折角の贈り物を無下には出来ないだろう!?さぁ着るんだ!」

 

「厭だ!!助けてアイ、ハットリ!!!!リンタロウが気持ち悪い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今、灰原と服部は森鴎外によってポートマフィア本部の首領の部屋に連れてこられた訳だが、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

「何で来て早々オッサンと子供の追いかけっこ見なあかんのや・・・。」

 

「そんなもんあの二人が特殊って事でいいじゃない。」

 

「それで終わらせてええ話じゃない気がするけどなぁ・・・。」

 

 

 

 

 

かれこれ三十分、二人はその光景を見させられている。

 

 

 

 

 

 

 

「だから助けてって云ってるでしょ!?」

 

「あー・・・はいはい。森さん、ええ加減にしてそろそろ話を・・・。」

 

「・・・・・・そうだね。エリスちゃん!此の服を着るのはまたの機会にしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・諦めてはないのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・さてと、話はあの会話を聞いて大体理解してくれたかな?」

 

 

 

すっかり仕事モードに切り替えた森に服部と灰原は感心しながらも会話を続ける。

 

 

 

「・・・えぇ。まさかアポトキシン4869の情報が他の組織に渡っているなんて考えもしなかったわ。」

 

「まぁ、弱い人間は金に釣られやすいからねぇ。」

 

「情報敵に回した兄ちゃんがどうなっとるかが一番気になるわ・・・。」

 

「・・・・・恐らくもう消されてるんじゃない。」

 

「えっ・・・。」

 

 

 

 

そんな事簡単にやってのける組織だから、と呑気に珈琲を飲む灰原に服部は内心驚いていた。

 

 

 

 

どんだけ非常識な組織なんだ!・・・と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、処で何時になったらその・・・“武装探偵社”ってとこに行くんか?其処に俺ら行かなあかんのちゃうか?」

 

「嗚呼、其の事ならもう少し待ってくれれば・・・。」

 

「・・・???」

 

 

 

 

 

何を云っているのか理解出来ないでいると、扉の向こうから声が聞こえた。

 

 

 

 

「・・・・・・芥川です。客人を連れて参りました。」

 

「入っていいよ、芥川君。」

 

 

 

 

扉が開くと黒い外套を羽織った青年が眼鏡をかけた顔立ちのいい男を中に連れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたよ。・・・・・・“武装探偵社”の国木田独歩君。」

 

「・・・・・・本日此処に来たのは此方に“灰原哀”と“服部平次”が居るとの情報を受けたので来ました。・・・二人は何処に?」

 

 

 

 

国木田と名乗った男と森の間に緊張感が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が灰原哀で、こっちの方が服部平次よ。」

 

「むっ・・・・・・そうだったのか。」

 

「・・・・・・メンタル強すぎやろ・・・。」

 

 

 

 

余りにも呆気なく正体をバラした灰原に焦る服部だったが、自分達に危害を加えるような訳でもないので、服部は密かに安堵する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・国木田君。私は今から“武装探偵社”に向かうつもりだが構わないかね?」

 

「別に構いませんが・・・・・・・・・はぁ!!?今なんと・・・?」

 

「だから、私も二人と一緒に武装探偵社に行くつもりなんだが、構わないかい?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

突然の発言にド肝を抜かれている国木田。

 

 

・・・一組織のトップがそんな事を笑顔で話す訳がないから仕方ない。

 

 

 

 

 

「・・・社長が何と云うか・・・。」

 

「社長が何か云う前にマフィアが妙な事をするなら“名探偵”が黙っていないのでは?」

 

「・・・確かに・・・・・って、まさか乱歩さんはこうなることを予測して・・・!?」

 

「相変わらず底が知れないねぇ。」

 

 

どんどん話がまとまっているような気がしなくもないこの雰囲気に服部は灰原に耳打ちする。

 

 

 

 

 

「なぁ・・・・・・此れって若しかしなくても・・・・・・。」

 

「此の展開は誰でも予想できるんじゃないの・・・。」

 

 

 

 

 

服部と灰原を差し置いて話していた森と国木田は話が纏まったようで、森が笑顔で二人を見た。

 

 

 

 

 

 

 

──────そう、今日一番とも言えるような笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から私と国木田君、芥川君、服部君、灰原君の五人で“武装探偵社”に行くよ。」

 

「・・・・・・・・・矢っ張りそうなるんかい!」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────何も知らない五人は武装探偵社に向けて出発するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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