提督は夜の街に行ってみたい。 (鉄仮面)
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艦娘の皆には、内緒だよ?

「性欲を持て余す」

 

 毎日濁流の様に襲いかかる激務をこなし、後は寝るだけとなった自分の口からそんな呟きが漏れた。

 

 疲れているのだろう。理性はそう囁いている。

 

 でも本当にそれだけなのか。本能は腕を組みながら唸っている。

 

 何が言いたいと理性が聞けば、フッと鼻で笑った本能がある問答を投げてきた。

 

 

 オナ禁して今日で何日目だったかな? と。

 

 

 エウレーカ! と叫んで全裸で飛び出したい衝動に駆られるのをグッと我慢する。そうだ。そうだった。本能の正鵠を射た意見に、理性はもはや、はわわと叫ぶばかりの存在へと成り果てる。

 

 モテたいからと家を飛び出し陸軍の門を叩くも、適正があると言われ無理矢理海軍へ押し込まれたあの日の慟哭を思い出す。

 まぁ、その数週間後に艦娘という美少女ばかりの部隊を指揮しろと言われ、万歳三唱を心の奥底であげて喜んだのけれども。

 

 だがそれは間違いだ。間違いだったのだ。

 着任当日から激務に次ぐ激務に、当時妄想した甘い日々は悠久の彼方へと遠ざかる。何故狙ったように攻勢が強まるのか。身内にスパイがいるんじゃないかという疑念に駆られるぐらいには忙しかった。

 

 あっという間に日々が過ぎてゆき、1週間、1ヶ月、そして半年。

 烏兎匆々の半年であった。

 だが、何の甘い展開もなかった涙そうそうの半年でもある。

 しかし、だからと言って、うら若き乙男がムラムラしなかったと、そんな事があるのだろうか。否、断じて否である。

 

 

 

 ―――むっちゃムラムラしてました。だって上から下までみんな可愛いし美人だし美少女なんだもん。お尻もオッパイもおっきいのもちっさいのも色とりどりなんだもん。無理だって。抗うのは無理だって。

 秘書艦と2人きりになった時、自然と手が豊かな、或いはささやかな胸に、お尻へと手が伸びてしまう。自制心は日々削られていくばかりであった。

 

 されど、あゝされど! 辛い日々を共に過ごした艦娘達我が仲間、我が部下達に、劣情を抱き続ける程自分は恥知らずでは無い。

 

 オナ禁しようと理性が提案してきたのは1ヶ月前の話だ。13人の円卓決議が始まり、過半数が賛同した。もうこっそり撮ったあんなのやこんなのに負けたりしない。半年かけて集めたピンナップを燃やす……のはちょっともったいなかったのでタンスの奥底へと封印した。多分魔王を封印する勇者も、こんな気持ちだったのかもしれない。

 

 

「でも、人間ってそんな風にできてないんだね」

 

 

 身体の主導権を握った本能が呟く。理性はまだ奇襲の混乱を立て直せずにいる。1ヶ月前に賛同した我が円卓共も全員一致でウンウンと頷いている。おのれブルータス。お前も、いやお前らもか。

 

 

「もう自分を虐めるのは止めよう」

 

 

 だが、オナ禁を止めても何も解決しない。艦娘達に襲いかからんばかりの欲求不満は高々自慰行為で解決できるものではない。

 

 目の前でバルンバルンと動く山脈に、フリフリと動く桃に、というかあの魅力的を通り越して、もはや性の権化と言える彼女達へ我慢をするのは(提督でありながら!)不可能だ。手を出すのは時間の問題だろう。理性が反逆の拳を振り上げながら、そう叫ぶ。

 

 本能は不敵に笑い、理性の拳を受け止める。

 

 そんなことは分かってる。本能は応える。

 

 私に良い考えがある。本能は拳を構える。

 

 

「風俗が、あるじゃないか―――」

 

 

 高らかに振り上げた光速の拳に理性が車田飛びをし、頭から思考の水面へ追突する。

 

 だが性病の問題が……と理性が反論する。フフフと本能は人差し指を理性へ向ける。

 

 

「既に、性病予防が万全な店は調べがついている」

 

 

 いつの間に! 本能はどうやらこっそりと我が体を操っていたと見える。だとすればこれは計画的な反逆―――。

 気付いた時にはもう遅い。ぐわぁああ! く、クロコダイーン! と理性が光速の貫指にボロボロと崩れていく。そこへ、本能はトドメを指す。

 

 

「それに―――初めては経験豊富な美人のお姉さんだと、誓ったろ?」

 

 

 天啓である。

 そうか。そうだった。先輩も、同期もみんなそう言っていた。オッパイが大っきくて、エロくて、優しいお姉さんが初めてがいい。と。何て、冒涜的。何て、下衆で低俗な発想。衆目の面前で呟こうものなら、あっという間にリンチされるも是非も無し。

 

 だがこれは真理だ。真理。圧倒的真理……ッ!

 

 男の、じゃない……。

 

 自分……ッ!

 

 自分の……真理……ッ!

 

 本能と理性が手を取り合っている。この小さな、ポケットの中の戦争は恒久的な平和を享受せんと平和条約が締結されたのだ。涙無しでは語れない。戦争は終わったよ、バー○ィ……。

 

 壁にかけられた外套を羽織り、部屋を後にした。軋む木造廊下の床をゆっくりと踏み出した。これは、私にとっては小さな一歩だが、この鎮守府にとっては大きな一歩となるだろう――。

 

 

 

 

 

 

 

「今から外出したいとか貴様馬鹿か? 糞して寝てろ」

 

「くぅーん」



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こんなのってないよ。あんまりだよ。

 憲兵さんに怒られて早2日。やはり夜中の外出というのは難しいらしい。だが自分は諦めなかった。

 

(それなら外泊すればいいじゃん)

 

 天才的発想に閃いたならば、後は準備だ。艦娘達に感づかれないように表情・態度共にいつも通りを装いながら必要な書類を考える。

 

 まず、休暇届と外出届は必須だ。自分の代わりとして監督する艦娘への提督代理任命書も必要。

 そんな事を考えれば、当然受け取る側の事を考えねばならない。大本営より派遣された事務官もとい事務艦の大淀だ。……この名称を考えた奴は絶対決めた時ドヤ顔してたんだろうなぁ。なんて下らない事を想う。

 事務艦である大淀には嘘を付いて許可を貰ってもいいかもしれないが、それだと何かあった時自分一人で解決せねばならなくなる。少なくとも艦娘側に全容を把握している共犯者は必要だ。

 面倒だがこれも健全な風俗デビューのため。秘書艦に大淀の居場所を聞き、内密な話をしたいからと彼女の部屋へと足を運んだ。

 

 

 

「変にテンションが高いと思えば、風俗ですか」

 

「いやぁ、先輩方から色々聞いているとやっぱり興味があるし、流石に最近ちょっと、ムラムラして……えへへ」

 

 そんな正直者の鏡と言うべき自分の告白を受けて汚物を見るような目で見てくる大淀。引いているのではない。アレは『汚いから掃除しよう』と思っているかなり事務的な目だ。今の俺には分かる。

 是非も無し。自分でもそう思う。しかしながらそんなことは重要ではない。

 

 問題はその視線すら、ちょっと快感を覚えるようになってきている事だ。もう駄目かもしれん。

 

 今や自分の性的興奮は思春期の敏感さとオッサンの広角さを両立した変態のそれになりかけている。

 やっぱりオナ禁ってするもんじゃないな。目覚めちゃいけない何かを目覚めさせているのは確定的に明らか。

 故に、風俗で行う性的上下運動によるムラムラの解消は極めて合理的。そうだと思わないか大淀よ。期待と信頼を込めて視線を送れば、大淀は眼鏡をクイッと正して答える。

 

「提督の言い分は分かりました。風俗に行きたいという理由も一応理解できます」

 

「流石大淀。いやー、優秀な部下は話が早い。飴ちゃんをあげちゃる」

 

「ですが、風俗に行くと言うなら外出申請は却下です」

 

「何故ぇ!?」

 

 事務艦突然の暴挙である。乱心したか、大淀!

 脳内幕臣一同が鯉口を切り、口々に叫んでいる。ええい出会え出会え。大淀が乱心しおった。畜生。飴ちゃんは無しだ。

 そんな自分の動揺を他所に、大淀はさらに表情一つ変えず言葉を続ける。

 

「これは詳細を省きますが、結論だけ言うと提督は死にます」

 

「え!? あ、性病? それぐらい気を付けるし、予防も避妊具も着けるつもりだし、そもそも今の御時世即死ってわけじゃ」

 

「爆発によるショック死、あるいは刺傷による失血死です」

 

「まさかの外的要因」

 

 くそぅ。何だよ何だよ。馬鹿にしおって。俺が性的経験が限りなく少ないというからデタラメなことを言いおる。

 え? いや、自分は性的経験皆無じゃねーし。

 確かに今の自分は性的経験皆無だが、ほら、今度巨乳の綺麗なお姉さんに捧げるから性的経験皆無じゃなくなるし。嘘じゃないし。これは規定事項だし。

 そんな自分から見ても阿保な事を考えているところへ、大淀は眼鏡を光らせながら驚くような事を口にした。

 

「他にも諸々理由はありますが、何より一番の理由は『海軍規範』にあります」

  

「……は?」

 

 その一言に、一瞬何を言われたか分からなかった。

 何故ここで海軍規範が出てくるのか。

 『海軍規範』とは読んで字の如く海軍軍人の心得であり、またそれを大本営が定め、一冊の本にした心得帳のようなものを指す。

 ほんの十数年前まで、艦娘という前例の無い存在に対するその運用は、いわゆる無法地帯だったという。それを憂いた当時の海相はモラル向上闘魂注入のため海軍軍人、特に艦娘を指揮する“提督”一同の日常生活のあるべき姿勢を記し、発布された。

 ちなみに強制力はかなり強い。噂によれば破った奴は全身タイツで拘束の上、首輪を付けられて自分の部下である艦娘に鎮守府周辺を散歩させられるとか。本当だとしたら、それこそモラルはどこにいったのか。

 

 閑話休題。

 さて、海軍規範はその名の通り公としての側面に対するモノだ。私生活までに及ぶほど鬼畜では、いや、待て。何故そのような考えを自分はするのか。

 悍ましい思考が過る。

 確かに、海軍規範の序章にも記載されている。入隊直前の説明会で実際の海軍規範を説明係である下士官が読み上げながら―――

 

『えー、ここに記載された通りあー、基本的には公人としての在り方について述べられているため』

 

 あの時の、下士官の言葉が反復する。

 “基本的には”。

 基本的には?

 思考が再開すると同時に嫌な予想が頭を稲妻の如く駆け巡る。

 

「呼びました?」「呼んでない」

 

 退出する第6駆を他所に、震え手を何とか操り入隊時に渡された海軍規範の書かれた辞典の様な本を取り出し、打ち込む様にページを捲っていく。

 

 ―――まさか、まさかッ!

 

 それは、禁止事項の項目に、確かにあった。

 

『艦娘ヲ指揮スル所謂“提督”各員ハ、艦娘況ヤ婦女子ニ対シ模範的軍人ノ堂々タル姿勢ヲ示スベク、又道徳上ノ理由ニ基ヅキ以下ヲ定メル。

 大本営、又ハ彼ノ指揮下ニアル艦娘ノ自由意志ニ依リ認メル場合ヲ除キ、

 

 

 

 先ノ理由ニ則リ“特例トシテ”公私ニ関ワラズ、性行為及ビ其ニ準ジル行為一切ノ之ヲ禁ズ。』

 

 ガラガラと音を立てながら未来が崩れる。

 落としたガラスの様に希望が砕ける。

 こんな事があっていいのか。

 こんな事が許されていいのか。

 人を人とも思わない悪魔の様な奴らは、戦う為だけの機械になれと俺達を地獄へ押し込める。

 

 優しく迎えてくれるのは、海鳥達だけなのか?

 

 

「こんなものぉ!」

 

 海軍規範の書かれた分厚い本を壁へと叩きつける。整理整頓されたキャビンを倒し、山のような書類が辺りに散らばる。

 あちゃーという額に手を当てた大淀の姿や大きな音に反応した艦娘のバタバタと廊下を走る音が聞こえるが、今となってはどうでも良かった。

 

 あゝ故郷の友よ。届いた絵葉書に記された『彼女ができました』という文字に、何度私が怒りの炎に焼かれたかご存知でしょうか。

 コミュニケーションツールとしてメールですら廃れ始めたこの時代に、ハイカラな水彩画と共に送られた懐かしく踊る様な喜びを表した字体に、何度私が殺意を覚えたかご存知でしょうか。

 知らないならば今度教えに行きませう。きつと気に入つてくれると思います。

 溢れる涙を拭い去り、部屋になだれ込んでくるだろう艦娘に釈明するためにも、乱れた軍服を正す。

 

 

 

 未来は無いのかもしれない。絶望に飲み込まれているのかもしれない。

 だが、それでも我々は歩み続けていくしかない。

 それだけが、我々に許された最後の縁なのだから―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ。ホラ、ここに『又ハ彼ノ指揮下ニアル艦娘ノ自由意志ニ依リ認メル場合』とありますよね? だから彼女達が提督に心を許せば、執務室で2人きりの夜戦も出来るかもしれませんよ!」

 

「は? アイツらに肉体関係迫れとか、フザケた妄想はテメェが後生大事にしてる薄い本の中だけにしとけよムッツリ眼鏡痴「おっと、精神注入棒が滑った」女ぉおおおおがあぁああああああああああ!?」

 

「失礼します! 今の大きな音は一体何ですぴゃあああああああああ!?」

 



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古鷹山登レ 前編

 

 悍ましい真実を知ってから一週間。精神注入棒の傷が癒えてから4日。ケツが破けたトラウザーズの代わりが届いてから2日。

 その間何とか風俗に行けないか色々考えたがド直球の禁止令は流石に穴がなく、もはやここに至りルビコン川を渡るしかなくなった。

 

「艦娘から、許可を貰うしかない」

 

 しかし、その策は大淀によってストップをかけられてもいる。

 

「WW2のドーバー海峡でどんちゃん騒ぎをするより危険なので止めて下さい」

 

 彼女はその理由を尋ねてもチベットスナキツネのような目でこちらを見るばかり。その間にも風俗への性的好奇心は高まるばかり。

 もはや猶予はない。封印されたピンナップに手を伸ばしかけ、どんな内容だったかの記憶をこじ開け始め、艦娘の香りにムラムラしている現状に、消極的判断を取れというのは無理があった。火中の栗を拾うしか手はないのだ。

 

 だが当然、一つの疑問を生む。

 

 【誰に打ち明けるか?】

 

 艦娘は自分にとって大事な部下だ。それは『家族の様な〜』という使い古された表現を拒否する程の特別な関係であると、ハッキリと断じよう。

 彼女達は自分の指揮によって死地に赴き、深海棲艦と一進一退の攻防を成す。時には勝ち、時には負ける。勝敗は兵家の常なれば、如何なる結果にも真摯に応える。

 短いながらも過ごした激闘の日々によって自分達は、お釈迦様の蜘蛛の糸とは比べにもならない強い絆で結ばれていると確信している。

 

 そんな彼女達に『ちょっと風俗行きたいから許可チョーダイ☆』何て言えるのか? 

 

 

 

 ―――自分は風俗に行きたいので言います。

 

 世の男共よ。畜生と言えばいい、外道と蔑めばいい、悪魔と罵るがいい。もはや彼女達を襲わんとする獣性を抑える為という大義名分すら虚構と化した。

 

 風俗に行きたい。

 綺麗な巨乳のお姉さんと乳繰り合いたい。

 女性の甘い香りを胸一杯にしたい。

 ……これで艦娘達からの評価が地に落ちようとも知ったことか。

 思い起こすが忌々しくも、一昨日の早朝に自分のパンツの洗濯をしなければならない事態に陥ったのだ。自尊心を始めとした理性による抑制は限界を優に超えている。

 

 

 自分は、いや俺は悪魔に魂ですら売ってでも、風俗に行きたい。

 ……多分こうやって人は道を踏み外すのだろう。短い天国であった。

 同胞よ。我此処に、地獄の淵を見つけたり。

 

 さて、だからと言っておいそれとそこらへんの艦娘捕まえても逃げられるばかりだろうし色々と問題だ。

 書類に署名して貰わなくてはいけないのだ。説明しないでサインさせてもいいかもしれないと素人ならば思うかもしれない。だがそれは下手すれば詐欺や恐喝、果ては公文書偽造になってしまう。流石にまだ臭い飯は食いたくはない。

 何ゝ? セクハラは留置所行きにならないのかだって? フフフ。これは重要機密なのだが、艦娘相手なら初犯の場合のみ警告で済む。おぉまさに悪魔の頭脳。自分が恐ろしい。

 女性の人権を! と高らかに掲げる諸氏が知れば憤死しかねん内容だが艦娘と海軍上層部で取り決めた密約なので無問題なのだよ。ホホホ。

 とは言え、このような阿呆な事を相談できるのは前提条件として、信頼かつ信用のある艦娘。サインしてくれるのはそんな人物であり、自ずと彼女の姿を思い浮かぶ。でなければ艦娘によっては防犯ブザーを鳴らされて3日は憲兵さんのお世話になるだろう。

 あえて例を言えば霰とか霞とか。まぁ霞の場合は防犯ブザーではなく防犯スタンロッドだと思うが。何で持ってんの? と質問は俺が聞きたい。誰だ持たせたの。

 ともあれ、丁度と言うか、だからこそと言うべきか。かの条件に該当するであろう、そんな素敵な彼女は今日の担当秘書艦。内緒話をするのにはうってつけであった。

   

「失礼します。重巡古鷹、今日も頑張ります!」

 

 元気一杯にまるで入学したての後輩のように入室した彼女こそ、自分が最も信頼していると断言している古鷹型重巡洋艦の艦娘『古鷹』である。

 

 無論、皆自分の指揮に能く従い能く動く良き兵達であるのは疑いようは無い。しかし、それ故一癖二癖ある者が大半を占める。

 そんな中、確かな判断力を持ちながら真っ直ぐ真面目かつ責任感のある彼女は自分の言いたい事をしっかりと捉え、それを分かりやすく周囲に伝える事に長けていた。

 自分が最初に現場裁量権を与え、彼女が率いる第二機動部隊が当鎮守府で最も高い戦績を収めていることこそ、自分の判断が間違っていない何よりの証左であろう。

 その分、当然ながら責任も業務量も多大であるが、彼女は嫌な顔をせず軍務をこなしている。天使かな。

 

 まぁ、その信頼を水底へと沈めようとしているのだがね。ふへへ。それさえも快楽に感じ始めているのは本当にもう駄目だねこれは。

 早いとこ自分へと引導を渡さねばならん。

 

「古鷹、執務の前に少し頼みがある」

 

「? 何でしょうか提督。私に出来る事ならお任せ下さい!」

 

 

 説明を始める際、古鷹の汚れを知らぬ朗らかな笑顔に良心がチクリと傷んだが、許せ。これもいわゆるコラテラルダメージに過ぎない。大事の為の致し方ない犠牲だ。

 まぁ、古鷹だから笑って許してくれるだろうから気楽なものだ。

 信頼って大事。はっきり分かんだね。

 



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古鷹山登レ 後編

「……慰安のため、風俗に、売春宿へ行きたい、ですか」

 

 先程までの元気はどこへやら、向かいのソファーに机を挟んで座る古鷹の鈴虫のような小さい声が、それでも自分達以外誰もいない執務室では確かに聞こえる。

 想定では羞恥から顔色は赤く染まると思っていたが、そんなことはなかった。流石古鷹。これしきの事じゃ少しも動揺しないらしい。

 これはシミュレーション以上の効果があるやもしれない。いけどんいけどん押せや押せ。今が好機ですと俺の中の軍師が太鼓判を押す。多分技能は太鼓持ち。それって軍師って言わない気がするがそれはそれ。これはこれ。

  

「だから古鷹、ちょっとこの書類にサイン「駄目です」

 

 ……あるぇー? オカシイ。シミュレートではここで「しょうがないですね、提督は」とか言って呆れながらサインもらうハズだが。心の中で首をひねり再シミュレートする。……うん。いける。後4手でいける。おぉ自分の頭脳が恐ろしい。太鼓持ちの軍師もイケますぞとゴマをする。万が一悪手を指したとしても、その時は甘んじてお叱りを受ければいい。

 神の視点たる誰かから見れば、そんな思考がまさに悪手であることに気付いただろう。端的に言えば油断をしていたのだから。

 腹心、重臣、右腕。おおよそ考えられる信頼を意味する言葉だろうと自分と彼女の関係は相応しくない。それが古鷹に対する我が方の評価である。

 叱られても命の危険から最も遠い彼女に何の警戒心が必要なのか。

 そんな慢心が災いする。しんと静まった執務室に氷のような声がした。

 

「提督は、風俗なんかに行っちゃ駄目です」

 

 初めてのようでいて、聞き慣れた声だった。信じられないが、目の前の彼女、古鷹の声だ。

 あまりの事に何も言えない。不知火や初月が言っているならまだ分かるが、古鷹がこんな抑揚のない声を出せるとは想像も付かなかった。

 呆然とする自分に古鷹は更に続ける。

  

「誰ですか?」

 

 ポツリと、しかし静まり返った執務室に響く声で古鷹は尋ねてきた。

 

「誰が、提督を風俗なんかに誘ったんですか?」

 

 いっそ、机を叩くと言ったわかりやすい行動の方が嬉しかったかもしれない。

 古鷹は先程からぴくりとも動かず、上官の自分を今にも絞め殺さんばかりに睨みつけている。春の陽気さを感じる茶色の御髪から絶対零度を覚える瞳が覗く。

 いつもならばホニャホニャした丸い瞳で見つめてくる古鷹が、鉄板すらも貫かんばかりの鋭い眼光、視線そのもので問い掛けてきている。

 あな恐ろしや。最も注意すべきは古鷹が自分を睨みつけていることでは無い。左眼の探照灯に光が灯っていないことである。

 古鷹は興奮すると探照灯の名残なのか左眼が光ったり、電流が走ったりする。まるで犬の尻尾の様でこれはこれで非常に可愛らしいのだが、その左眼は今、電流どころか一粒の光すら漏らさず沈黙している。

 ハイライトがオフどころじゃない。眼光の反射すらない。物理法則に反している。感情を露わにしながらも、凪の海面の如く感情であるという矛盾の境地。もしやこれが、風の便りで聞いた無念夢想の極みだろうか。そんな無意味な思考を目の前の脅威から目を逸らそうとするのは、況や生存本能と思ふ。

 

 つまり、その、一言で表せば危険じゃな?

 

「……提督も男の人です。そういうのに興味があるのは仕方ないと思ってます」

 

 古鷹は一歩も動かず、机を隔てたソファーへ腰を下ろし、腕も膝の上に手を合わせてピクリともせず尋ねてくる。

 

「でも、だからと言って不特定多数の男性と関係を持った女性と性行為を行うのは、秘書艦として看過できません」

 

 有無を言わさぬ不許可の言葉に、怒気は感じられず、失望も感じられず、普段の彼女から思っても見ない感情―――殺意を表していた。

 

「許可は、出しません。貴方を誘ったのは誰ですか。教えて下さい」

 

 悪魔に魂を売った本能と理性が目の前の堕天使、いや魔王に手を取り合って怯えている。制御不能な奴らが子犬のように震えてる。まぁかく言う俺も、古鷹の琥珀のような瞳に映る己が顔に死相が見えているのだがね。

 

 息をするのも許されぬ一瞬が、五月雨のごとく過ぎていく。鉛よりも重い空気の中、顔には脂汗とも冷汗ともつかぬ何かがしたり落ちながら、何とか生きるための、生き延びるための言葉絞り出して答えた。

 

 

 

「……じょ」

 

「……じょ?」

 

「冗、談だっぞ〜ぉ? はは、ハハハ、ヤダなぁ古鷹。俺がそんな場所に行くはずないだろぉ〜? ハハハ、ハハハ……」

 

 ―――終わった。

 

 絞り出して出た答えがコレとはお釈迦様でも頭を振るだろう。実際気の早い魂はoh my godと呟くTシャツジーパンスタイルが仏陀の姿を空見した。

 浮気した男の常套句だと誰もが思うだろう。何故なら、誰よりも俺がそう感じるのだから。

 哀れ也、青二才。されども指揮棒一本で成り上がりの自分には、こんな言い訳しか思いつかぬ。

 スマヌ、すまぬ。同期の友らよ。私は一足先に地獄へと落ちてゆく。

 故郷の友よ。どうか、どうかパソコンのHDDを我と共に焼いてくれ給え。

 氷の視線が天を仰ぐことすら許さない。ふふふ。まさか死因が信頼した部下の後ろならぬ表弾とは知略に名高き今孔明でも思いつかぬだろう。

 駆け足で流れ始めた走馬灯の一つが訴えるように脳内でリフレインを始めた。

 

『爆発によるショック死、あるいは刺傷による失血死です』

 

 大淀。今ならその言葉理解できる。それって後ろ弾ってことね。すげぇよ大淀は。この場にいない彼女へ最敬礼し、たった二人の軍事法廷の絶対的存在である彼女が今、その裁決を下し――

 

「なーんだ!」

「ヱ?」

「古鷹の早とちりだったんですね。良かったぁ!」

 

 ―――夢を見ているんじゃなかろうか。こんな漫画のようなご都合主義がありえるのだろうか。え、まさか。ひょっとして、もしかして。

 

「もう駄目ですよ? あんなデリカシーの無い冗談は」

 

 もしかして。

 

「提督も日々の疲れでストレスが溜まってるのは分かりますけど、こんな事一般的にセクハラって言うんですよ?」

 

 もしかしてこれって!

 

「もぅ! 聞いているんですか、提督! こんな冗談は私はともかく他の娘には止めてくださいね!」

 

「い、いや〜! すまんなぁ! つい学生時代を思い出して下品な冗談を言ってしまった。アッハッハ! 許せ許せ! アッハッハッハッハ! アッーハッハハッハッハハッハッハ!(生き延びてるぅー!! やっふぅーーぃ!↑↑↑)」

 

 生の実感を全身で味わいながら、腹の奥底からの大笑い。これにはお釈迦様も生きてて良かったねとニッコリスマイル。気の早い魂はもう体に戻っているのか仏陀の姿も見えなくなったが万事OK塞翁が馬。今までどこにいたと問い質すのも今は置いておこう。

 ありがとう仏様。

 ありがとう神様。

 そして何よりありがとう古鷹様。おぉ、生きてるって素晴らしい!

 

 

 

 唯一無二の史上最も価値ある生命。

 されど、それを斬って捨てるが武人の宿業。

 「あゝされど」

 「だがしかし」

 「だからこそ」

 我らは生命の儚さを、生命の暖かみを、生命の尊さを誰よりも知る。

 生命を惜しまず、名を惜しむのが帝国軍人の誉れと言えど、今を丈夫に生き行く我が生命に、感謝をせぬのは道理が通らず。

 

 願わくばこの生命、彼女達とともに歩めることを祈るばかりである。

 

 

 

「そ、それに、ですね」

 

「あっはっは! んー、何だ古鷹? 遠慮せずに言ってくれ。そうしてくれた方が馬鹿なことを言った俺としても気が楽だ」

 

「いえ! その、もし必要になっても提督の慰安なら、その、不肖ながら、私が……ご奉仕、させて頂きますし……ね?」

 

「は? いや、そんな部下と懇ろなんて常識的に考えて、駄目に決まって「撃て」んだろぉああああああああああなぁんでぇええええええええええええええ!?」

 



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夢も希望もあるんだよ

 

 

 

「脱柵だっ!!」

 

 響くサイレン。空を照らす探照灯。道なき道を駆け上る足音。捕まれば命は無いだろう。なのに何故、自分は走っているのか。足を止めないのか。

 

 決まっている。行かねばならぬ。風俗へ。

 

 決意を新たにした瞬間、目の前で疾走る閃光と爆音。閃光手榴弾だと気付いた時には、時既に時間切れ。目を開けば、あっという間に縛られた己の手足と光を背にした憲兵隊。

 暗がりの中でもハッキリと見える能面のような顔の憲兵隊は、養豚場行きの豚を見るような目で見下していた。

 

「愚かなことをしたな」

 

「黙れッ! アレは最早拷問だ。真綿で首を締めるようなものだぞ!」

 

「軟弱者の言葉だ。オイ、お前ら抑えろ。『躾』を始める」

 

 その言葉で途端に血の気が引いていく。かつてのトラウマが荒波の様に押し寄せた。

 無表情で抑える憲兵隊。

 固定されるケツ。

 振りかぶって構えられる精神注入棒。

 そして、そして。そして!

 

「や、やめろ!」

 

「お前の同僚は半刻も経たずに堕ちたが……お前はどうかな?」

 

「やめろ! やめろッ! やめて! あ、あぁあ……あぁああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

「あ……?」

 

 襲いかかる痛みが来ず、恐る恐る目を開ければ、灯りの落ちた自室の天井。そんなある日の夜中過ぎ。

 2、3度瞬きをして、縛られたはずの右手をペタペタと目鼻が付いているかなど意味も理由も分からない確認をする。そこでようやく確信を持ち、安堵のため息を吐く。

 

「夢……」

 

 時刻を見れば丑三つ時。偶然だろうか。いやこれは悪霊の仕業だな。いるはずも無い悪霊へ殺気を持って睨みつける。おのれゴルゴム、許さん。

 

 そんな取り留めのないことを考えているとふと、思い浮かぶことがある。

 

結婚した同郷の友人のことだ。こんな時、アイツみたいに恋人や妻でもいれば、この寂しさは埋まるのだろうか。愛する人と共にいれば例え薄手の毛布一枚だろうと暖かいのだろうか。

 

 そんな柄でもない弱音が最近、よく脳内を掠めている。多分、大人としてだとか男らしさといったもので適当に積み上げられた天然ダムから、越流水のように弱音が漏れてくるのだろう。

 今にも決壊しそうなこの構造的に貧弱なダムを見て、本能でも理性でもない何者かが、そんな呟きを嘲笑ってる。ニタリニタリと下卑た笑みをしながら囁いてくる。

 

 

 

 自分は、モテたくて軍の門を叩いたのではないか。と。

 

 

 

 あぁ、そうだ。そうだとも。

 軍人はモテるぞと親戚のオジサンに言われたあの日から。

 学校生活、ただひたすらに勉学に励んでいたあの日も。

 なぜ陸軍に? と聞かれたから、女の子にモテるためです。と正直に言ったあの日も。

 海軍の方がモテるよと言われ、吐血するほど勉強して、押し込み強盗の如く高級士官の門を叩いたあの日も。

 同郷唯一の友人からの結婚を知らせると絵葉書が届いたあの日も。

 常に、抱き続けた、夢。

 

 そう、自分には夢がある。

 

 キレイなお姉さんと仲良くなって、エッチな日常生活に融けて、爛れた日々を送るという、ささやかながらしかし、決して譲れぬとジークフリート線以上の強固さであると謳った夢がある。

 

 

 その、一念。雨垂れ石を穿つが如く、煩悩は海大を卒業させる。ピンクサイドはいいぞ。

 他の真面目な学生は怒りたければ怒っていい。だが嘘偽りなく、自分はそのエネルギーで、ここまで昇ってきた。つまり、他の奴らは煩悩が足りん。熱意が足りん。理念頭脳気品優雅さ勤勉さが圧倒的に足りん。豊臣秀吉の小田原征伐の如く、節操無く集めるのがコツ。

 

 しかし、現実はどうだ。芸者を侍らし夜の街に消えていくなぞ絵空事。豊臣秀吉の朝鮮出兵とこれまた一緒。明智光秀を笑えない。

 

 無論、描いた未来とあまりに違う現実に辞職願を叩きつけようか迷ったりもした。

 地味で冴えない仕事であるし、なのに世間様からの目は異様に厳しく、恋文は一通たりとも届かないが抗議文ならキロ単位で届く。それ故本名の公表どころか家族にさえ言えない。国防担う軍人なんだから優しくして。そんな愚痴の1つや2つちょっと緩めるとすぐ漏れるぐらいには、不平不満はある。

 

 しかし、この鎮守府で最も頼りにならない我が両腕には、世界で一番大切な我が部下達の幸せな日々という宝物を守る、ペンと判子が握られている。

 故に、大本営と現場を繋ぐ中間管理職たる自分に遊ぶ暇はない。

 

 

 そう、例えば毎日朝早く起きて艦娘達のスケジュール管理表とにらめっこして。

 

 毎日欠かさず演習や実戦結果を基に訓練内容の精査や反復練習の監督をして。

 

 毎日汗だくや煤だらけになる艦娘達からフワッとした彼女達を包む、本能を揺さぶるすっごいいい香りを無意識に嗅いでしまったり。

 

 毎日何が嬉しいのか我先にと自分の近くに座る艦娘達と食事を一緒に取りながら、昨日見たテレビやマンガ、ゲームの話をして。

 

 毎日露出過多な衣装に目を奪われないと格闘する自分を嘲笑うように、目の前で艦娘達が谷間や山脈を縦に横にと揺れる地殻変動を起こし。

 

 毎日仕事の終わりに見慣れたがそれでも見惚れる夜景をバックに、それ以上の美しさをした艦娘達と酒やジュースをつまみ片手にお喋りをして。

 

 毎日夜眠れない艦娘達を寝かしつけるため、パジャマ姿の彼女達へ子守唄や思い出話をしたり、時々夜の鎮守府をこっそり二人きりでデートをし。

 

 時には人肌恋しい艦娘を安心させるため、1つのベッドにお互い薄い寝間着と下着のみで腕を背に、足を絡め合う、いわゆる抱きしめ合いながら心音を子守唄とし、眠れぬ夜を過ごしたりする。

 

 

 

 ……うん。よく考えれば女性との触れ合いに関しては、なんの不満もないね。ごめん。さっきの戯言取り消しておいて。

 

 いや、でもなー。贅沢言わないから、せめてオッパイは揉みたい。悲しいことに提督は男の子なのだ。

 そして贅沢言うならセックスしたい。そう、セックス。やましい事に男の子は欲張りなのだ。

 

 男らしいって昨今のジェンダー問題的にどうなの? 女の子だってオッパイは好きなんだよ? なんて疑問は捨ててしまえ。

 少なくとも自分の経験上、初めて『オッパイってエッチだよね』と言った奴は男だった。その次も男だったし、次の次も男だった。だからオッパイが好きなのは男らしいのだ。Q.E.D。証明完了。

 

 はてさてセックスはともかくとして、オッパイを揉むにはどうしたらいいのか。金はある。時間も書類があれば作れる。後は艦娘の許可があれば、可能なアレ。

 

 そう、答えは風俗! 正解者には提督バッチをプレゼンツ! 3つ集めてメロンパン入れと交換だ。

 

 うーん、まさに黄金立方体のような完璧なロジック。我ながら惚れ惚れするネ。

 艦娘達からの評価はこの際気にしない。モーマンタイ。モーマンタイ。なんとかなるさ。ならなきゃ海の藻屑になるだけさ! HAHAHA!

 しかもお金は口座にたくさんあるからちょっと上乗せすればセックスだって可能! いやっほぅ! へへへ、見ろよ。金銭感覚がアヘ顔タブルピースしてやがるぜ! Oh,Yeah!

 

 三寸劇からの二人羽織、一人漫才と演じ、決意を背中に希望は胸に。時計を見れば目が覚めてからもう30分は経っていた。あらやだわ。明日もとい今日も朝早いのに。

 まぁ、気分転換が上手く行ったと考えよう。切り替え重点とても大事。後1時間寝れるかどうかだが目を閉じてキレイなお姉さんとの妄想を瞼の裏に思い描くとしようか。

 

 あ、提督になる良い子の皆。綺麗なお姉さん像であーんな事やこーんな事をムラムラもにょもにょさせていく時には、適当なビラ本を艦娘達には見つからない場所かつ手の取りやすい場所を新世界の神になったつもりで必ず用意しよう。

 何故なら、ちょっっっと気を緩めただけで綺麗なお姉さんが古鷹とかに変わってしまうのだ。エッチな古鷹なんて大変好みでドストライクだが、罪悪感と背徳感がベトコントラップよろしく唐突に襲い掛かかる。これに嵌って抜け出せなくなった挙句、憲兵どころか特高に捕まった阿呆を自分は知っている。無論、その末路も。

 

 まぁ、艦娘達ほど綺麗な女性はいないからね。少なくとも自分は知らない。仕方ないね。

 

 とは言え、どんな夢でも思い描くのはメンタル的な健康にいい。ホントホント。提督嘘つかない。良い子の皆もお母さんの目の届かないところでやって、悪い子になってみよう。

 でも悪い子になっても風俗は社会人になってから! お兄さんとの約束だ。怖いオジさんに捕まっても知らないゾ。それでは夢世界へご機嫌よう―――

 

 

 

 

「提督はそんなに、綺麗なお姉さんがいいんですか?」

 

 ―――耳元で、聞き慣れた彼女の声がする。

 自分は努めて平静に、彼女の問いに応えた。

 

「そりゃあ、モチのロンで男なら誰でも思い描くんだぜハリー? ところで質問していい?」

 

「ハイ。提督、私が答えられることであれば」

 

「いつからここに?」

 

「提督が寝てしまったすぐ後です。私からもいいですか?」

 

「どうぞ、古鷹」

 

「提督は、オッパイを揉んでみたいんですか」

 

 良い子のみんな。もう一つ、これだけは絶対に約束して欲しい。妄想する時は小声であっても決して口に出さない。綺麗な艦娘に捕まっても、お兄さん助けられないゾ。寧ろ助けて、誰か。

 

 誰か。

 



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