テリー 冒険のその後 (ストイコピクシー)
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第1話 新たなる力

SF版ドラクエ6のデスタムーア討伐後のテリーの冒険のお話です。
私はRPGをじっくりと進めるタイプですので、デュラン戦後に仲間になったテリー(レベル23)と他のメンバー(レベル40以上)の差に愕然としたものです。
なので、テリーがずいぶん卑屈で後ろ向きなキャラとなっています。
20年以上前にプレイしたうろ覚えのゲームを思い出しながら書いておりますので、細かい設定の違いはご容赦下さい。



アークボルト付近の山奥の拓けた土地に一軒の山小屋があった。

デスタムーア討伐後、アークボルトの王より、その土地をもらった一人の青年がある呪文の訓練をしていた。

青年の名はテリー。

テリーが視線を集中させて10mほど先にある1本の木を見ると、テリーの体はその場から消え、木の手前に姿を現した。ふうっ、と息をついだ後、5m程離れた場所にある小さな岩へ視線を集中させると、テリーの体はまた消えて、一瞬でその岩の真上にテリーの姿があった。

移動距離により精度と消費魔力が異なるな、とテリーは思った。

使用者の目に見える限りがこの呪文の範囲で、それ以上はこの呪文は発動しないようだ。

目を閉じて、自分のイメージしている場所へ、この様に一瞬に行けないかと考えたが、それではただのルーラとなってしまった。

イメージを集中させ、体に魔力をまとい、体を宙(ちゅう)に浮かせ、空を飛び、目的の町や城まで移動し、飛行距離によって費やす時間が違うルーラと違い、目に見える範囲なら一瞬で移動する、瞬間移動やテレポートとも言えるこの呪文を、テリーは「レイルーラ」と名付けた。名付けたというより、頭の中にレイルーラというこの呪文の名が浮かんだ。他の呪文や特技を新たに覚えた時と同じ様に。

 

デスタムーアを倒した後、故郷へ帰っていく仲間たちと別れ、テリーは一人旅を続けていた。とある洞窟にて偶然見つけた「はぐれメタルのさとり」により、はぐれメタルに転職した彼が、すでに習得済みである「ルーラ」の呪文を得た際に、テリーの頭の中に「レイルーラ」という、この世界では未知の呪文を思い付いたのである。

転職により同じ呪文や特技が重複した際、ルーラがレイルーラとなった様に、別のものへと変わるのかと考えたがそうでは無い様である。「はぐれメタル」となり、最初に覚えた「アストロン」は、テリーの意思により、自分の体を鉄の塊にすることができる。ここまでは、レックが勇者の際に覚えたアストロンと変わらない。しかし、テリーが覚えているアストロンは自分の意思により解くことができるのである。レックのアストロンは使用者の意思で解くことはできなかった。数秒から数分の間、呪文の効果がなくなるまで鉄の塊として呪文が解けるのを待つしかなかった。アストロン自体は変わらないのだが、少なくとも自分にとってはより実用的なものとして進化していると感じた。

 

テリーは腹の中から出てくる笑いを堪え切れずにクツクツと音をたてた。すばやさとみのまわりは倍になる。しかしそれ以外の能力は絶望的に低下してしまう。特に、体力(HP)の低下は深刻だ。だが、それを補って余りある素晴らしい能力だ。レイルーラとアストロンだけでも素晴らしいのに、この「はぐれメタル」の職業はまだまだ先がある。「勇者」を超える呪文や特技を習得する力を持っている。そんな確信があった。だからこそ急がねばならない。魔王デスタムーア討伐後、魔物たちの数が少なくなってきている。魔王の魔力により力を得て、凶暴になっていた魔物は野生に戻ったり、地上より姿を消しつつあった。

今では森の奥深くや、洞窟、塔、迷宮でしか魔物とは遭遇しない。しかも、強い魔物ほど

少なくなってきているのだ。職業の熟練度は自分と同等、もしくは自分より強い魔物と戦わなければ上がらない。その強い魔物たちが消えてしまう前にはぐれメタルの職業を極め、

その後必要な各職業を極めていき勇者となる。それが、今のテリーの望みであった。

 

修行・研究により、レイルーラの発動時間を早めることができないか?消費魔力を下げることはできないかと考えていた時に空から一人の女性がルーラの呪文により着地した。知らない人間が見れば、天女が舞い降りたと思うであろうその美しき女性はテリーを見つけ、手を振った。姉のミレーユである。

 

テリー 現在の熟練度

戦士    ★★★★★★★★    バトルマスター ★★★★★★★★

武道家   ★★★★★★★★    パラディン   ★★★★★★★★

僧侶    ★★★★★★★★    はぐれメタル  ★★★★

魔法使い  ★★★★

魔物つかい ★★★★★

 

職歴 戦士→バトルマスター→僧侶→武道家→パラディン→魔法使い→はぐれメタル

 

一度も就いたことがない「魔物使い」の職業熟練度があることを不思議に思っている。

幼いころの記憶が一部欠けており、ミレーユもそのことについてはわからない。

 

「魔法使い」となり体力(HP)大幅に減ってしまったことにより、強い魔物がいない洞窟を探索中に「はぐれメタルのさとり」を発見

 

 




随分前から考えていたお話ですが、話は出来上がっていますので完結できるように頑張ります。


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第2話 姉の願いとテリーの想い

「ここにいるのは久しぶりじゃないかしら?テリー」

ミレーユは微笑みながらテリーへ言った。デスタムーア討伐後はスーパースターのマスター職のままとなっているミレーユは、弟であるテリーからみてもまぶしい程であった。

「占いで俺がどこにいるか位わかるんだろ、姉さん」

修行を邪魔されたことが迷惑だと言いたそうな態度でテリーは答えた。

「そうね。私があなたに会いたい時に、あなたが私のわかる場所に居てくれるといいのだけど。アークボルトの兵士長さんも、あなたに会いたいって言ってたわよ」

テリーはため息をついてミレーユの言葉に答えた。

「また、アークボルト直属の兵士にならないかという話か?断るよ。アークボルトの兵士達からは得るものがない」

「兵士じゃなくて剣術の教官よ」

「どっちでも同じだ。それに・・・」

アークボルトの兵士達が知っているのは、ドランゴを一人で倒したテリーだ。その後デュランの下僕となり、パーティーの足手まといとなったテリーを知らない。

「テリー、前を向きなさい。あなたは魔王デスタムーアを倒した勇者パーティーの一員。

それでいいじゃない。レックはレイドック王子に、ハッサンはサンマリーノで大工、チャモロは、たくさんの人を魔法で癒しているわ。アモスさんは、モンストルで結婚して子供が出来るって言ってたわ。バーバラはいなくなってしまったけど、もう一つの世界のどこかできっと幸せに暮らしているはず。あなたが山奥に連れて行ったドランゴも、また卵を産んで子育てをしてるんじゃないかしら。魔王討伐の旅は終わったのよ。あなたも次の行動に移っていいはずよ」

テリーは苛立たしげに答えた。

「姉さん、俺はまだ自分が許せないんだ。俺の旅はまだ終わっていないんだよ」

 

雷鳴の剣を手にいれ、この世界の魔王だと思っていたディランに挑み、敗れ、強くなりたいという欲望に負け、ディランの下僕となった。そのテリーを救ってくれたのは、アークボルト・マウントスノーの洞窟で出会い、弱くて群れることしか出来ないと思っていたレック達だった。パーティー加入直後は自分がこのメンバーの主力になると意気込んでいたが、すぐにレック達の戦闘力の高さに圧倒された。

伝説の武器・防具をまとい、勇者として雷をあやつる強力な呪文や特技により魔物を殲滅するレック。彼の放つギガスラッシュを見た時、雷鳴の剣の力を借りて放つ自分のいなずまが恥ずかしくなった。屈強で大柄な体格をしていながら、グランドクロスによるグループ攻撃や、回復呪文も使えるハッサン。ひらひらと攻撃をかわし、呪文や特技で魔物を翻弄するミレーユ。高度な回復、治療、蘇生呪文だけでなく、強力な攻撃呪文も使う事が出来るチャモロ。レックやハッサンのように前衛で戦う力を持ちながら、補助的な呪文を使い、仲間をサポートするアモス。圧倒的火力を持つ攻撃呪文を何発も打つことができる強大な魔力を持つバーバラ。

後にテリーを慕い仲間になったドランゴは強力な火炎・吹雪を習得していき、すぐにパーティーの主力となった。

それに比べて仲間になったばかりの自分はどうだ。数えきれる程の剣技しか持っていなかった。呪文も使えなかった。教会で教えられる冒険者としての力量、いわゆるレベルは

ドランゴ以外は皆自分の倍近くあるだろうということは容易に想像できた。

戦士をマスター職にした後、なぜかすぐに上級職のバトルマスターになることができた。だがバトルマスターになりたてのテリーはレック達のパーティーにおいて前衛で戦う力は持っていなかった。バトルマスターでいる間は、レックやハッサンといった前衛で戦う者が大きなダメージを受けた際に交代して戦闘に加わるバックアップ要員というのが役割だった。前衛として戦い続ける力はまだ持っていないというのが、パーティー内のテリーの評価だった。

バトルマスターをマスター職とした後は、回復呪文用の僧侶となり、後衛での支援担当となった。僧侶をマスター職とした後、パラディンもしくは賢者を目指すのか考えたが「狭間の世界」の強力な魔物と戦う場合、大きく体力(HP)を落とす魔法使いになっても役に立たないと考え、武道家になりパラディンを目指すこととなった。そうしている間にレック達はデスタムーアを倒し、魔王討伐の旅は終わった。テリーとしては何も手ごたえの残らない旅だった。後方で前線の者を援護しているだけで、最低でも戦う姿を見ているだけで、経験値と熟練度は身に付いた。だがこれは自分の力で得たものではない。結局最後まで、自分と他のメンバーの差を埋めることはできなかった。

一方でドランゴはパーティーの主力となった。「こごえるふぶき」を習得した頃にはパーティーの主力となり、魔力を消費せずに使う事が出来る吹雪や火炎の特技とハッサンを上回る攻撃力と体力でパーティーになくてはならない存在となった。デスタムーア戦はドランゴの「かがやくいき」がなければ、もっと長く厳しいものとなっただろう。おそろしいスピードで成長するドランゴを見て、それは自分の役目ではないかと思った。

旅の途中で酒に酔ったアモスから言われたことがある。テリーが加入する前にこのパーティーには「スラリン」「ピエール」というスライム族の仲間がいた。2匹ともアモスが「魔物つかい」の職についていた際に仲間にした魔物である。アモス達と同じようにダーマ神殿にて職業につき、同じように職をマスターしていった。穏やかで従順な性格の2匹はレック達からも可愛がられていたという。だが、テリーが加入した際、スラリンをモンスター預かり所へ送り、ドランゴが加入した際、ピエールをモンスター預かり所へ送った。「彼らがいたら、スライム格闘場を制覇できたかもしれないな」とアモスは言った。もちろんアモスは悪気なくただ話したかっただけだろう。もしくは2匹の分まで頑張ろうとかそういう意味だったのかもしれない。

だがその話は、テリーの心を少なからず傷付けた。戦力となっていた者が抜け、戦力にならない者が入ってきたと遠まわしに言われていると感じた。テリーは必死で努力をして他のメンバーに追いつこうと思ったが、同じように努力をし、戦い続ける者たちに追いつけることなどできるはずもなかった。

テリーは自分をスラリンかピエールと変えてもらおうと思った時あったが、狭間の世界で苦しい戦いを続ける仲間たちの前で情けないことは言いたくなかった。

 

「俺は自分が恥ずかしいんだ。弱い自分が嫌なんだよ。だから強くなる。強さの証である勇者となる。それのどこが悪い?」テリーは言った。

「あなたの気持ちはわからなくもないけど・・・」ミレーユはうなずきながら答えた。

テリーが強さを求める理由は子供のころ、自分(ミレーユ)がガンディーノ王への貢ぎ物にされたからなのだ。そして、テリーが伝説の武具をまとう勇者レックを羨望と嫉妬の眼差しで見ていたことも知っていた。

「でも、そのためにずっと魔物たちを倒し続けるの?」

「1人で剣や呪文の練習をしていたって、職業の熟練度は上がらない。魔物を倒さなくちゃいけないのは姉さんも知っているだろ?」

「魔物たちは自分から襲ってこないのに?」

「魔物による被害は時々聞くよ。無害ってわけじゃない」

「それは人間が山や森の奥、洞窟といった魔物達のテリトリーに入るからでしょう?魔王がいなくなって間もない今はきっと過渡期なのよ。人間はここまで、魔物はここまでっていうテリトリーを決める期間なのよ。共生はできないけど、人間の住みかと魔物の棲みかをきちんと分ければ争いは起こらないと思うわ。魔王のいない今、魔物達を倒し続けるあなたは・・・」

ミレーユはそこで口を閉じた。人間たちを蹂躙していた魔王と同じよ、と言ってしまうところだった。

テリーも、それに対しては何も言わなかった。また別の魔王が現れたら魔物たちは人間を襲うだろう。だったら、その危険を回避するために今のうちに魔物を倒しておくという、遅いか早いかだけの話じゃないか。などという詭弁をいう気にはなれなかった。ミレーユの言うことが正しいと理解しているからである。だが、

「姉さん、だったら、俺の気持はどうしたらいい?このみじめな気持ちはどうしたら無くなるんだ?他の奴らと違って俺は戦いしか知らないんだ。俺は自分が強くなることしか考えてなかったんだ」

「まだ見つかっていないだけよ。あなたの、戦い以外の生きる道が。アークボルトの兵士さんたちにあなたが持つ剣の技術を教える。それもあなたが選択できる素晴らしい人生のひとつじゃないの?ね、だから考えておいて。あなたの未来を」

テリーはとりあえず頷き、それに満足したようにミレーユはルーラで自分の帰る場所へ帰って行った。

 

姉さん、言いたいことはわかるよ。だけど俺は冒険者だ。世界中を旅している。どの酒場に行っても、昔は強かっただの、昔もっと修行しておけば良かっただの言う冒険者はいっぱいいる。そいつらは弱くてとても醜い。だけど、本当に怖いのは自分がそうなってしまうんじゃないかということだ。今の俺は自分の人生に、魔物を倒し戦い続け強くなっていく以外、よい選択肢があるとは思えない。テリーはそう考え、再びレイルーラの習練を行うこととした。

 



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第3話 1人旅での戦闘

ガンディーノの町の周辺で、熟練度と経験値を得るための戦闘を行う日々が続いていた。ガンディーノの町についてはいい思い出がない為、町の中に入ることはなかった。ただ、今のテリーのレベルで熟練度が得られる丁度いい魔物の狩り場がここなのである。ガンディーの町に入ってギンドロ組の者と会い、昔の事で軽口でもたたかれたら、そいつを殺してしまうかもしれない、そんな心配がテリーの中にあった。今はそれは簡単なことであるし、デスタムーア討伐パーティーの英雄の一人とされている自分はそれほど罪には問われないかもしれない。相手はヤクザ者でもあるし。しかし、それをしてしまえば、自分自身が損なわれるような気がする。育ての親の老夫婦にも会いたくなかった。育ててくれたことには感謝しているが、ミレーユが当時のガンディーノ王の所へ連れて行かれたことに関してはどうにかならなかったのかと責めたい気持ちもある。結局自分は、色々考えたくなくて逃げているだけなのだと思う。

 

戦闘の際、単体の魔物と遭遇した場合は、レイルーラで魔物の背後にまわり、パラディンの際に覚えた「しんくうは」で攻撃。魔物が反撃をしてきたら、レイルーラでかわし、魔物が死ぬまでしんくうはを使った。複数の魔物たちと遭遇した際は、レイルーラで魔物たちの死角へ飛び、同じくしんくうはで魔物を攻撃。これを繰り返した。魔物たちを殺し、全滅させるまでレイルーラ・しんくうはを共に3~5回程使用した。

「はぐれメタル」の職業によって、体力が大幅に落ちている(8割減)ため、魔物たちの攻撃をくらうわけにはいかない。よって敵に接近できない。ましてや力も落ちている(4割減)ので、剣で攻撃したところでたいしたダメージは与えられない。今はこれしかできないという戦い方だった。やれやれ、剣の腕が落ちてしまうなと思い、腰につけた剣を握りしめた。デスタムーア討伐の旅の際は、レック達より譲り受けた剣を使っていたが、今テリーの腰にある剣は「雷鳴の剣」である。今現在、なぜこの剣を持っているのか?理由は簡単、好きだからである。振りかざすと勇者の使う「ライデイン」と同じいなずまを発するこの剣を持つと、自分は勇者になった気がする。この剣は自分の力で手に入れた誇りであり、現在の相棒なのだ。

1人で魔物たちと戦闘を行う日々は誰に気を使う訳でもないので気楽ではあったが、レック達とパーティーを組んでいたころよりも当然のことながら効率が悪かった。一回の戦闘に時間が掛かり過ぎるし、魔物たちの攻撃が集中するため、緊張を維持しなければならない。

ドランゴを仲間にするか?そんな考えが頭をよぎった。ドランゴのいる場所はわかる。自分が連れて行ったのだから。ドランゴは今、人里離れた山奥にいる。せっせと自分の卵を産み育てて、人間から攻撃を受けなければ、人を襲うこともないだろう。もちろん、テリー以外の他のメンバーもドランゴを目の届かない所に放してしまって大丈夫なのかという心配はあった。しかし、デスタムーア討伐の功労者の一員であるドランゴを、魔王を倒したからもう用無しと、処分するような発想を持つものはいなかった。なので、ドランゴやその子供たちが人を襲えば、自分たちがドランゴやその子供たちを倒しに来ると言っておいた。人語を理解するドランゴはうんうんと何度も頷いた。そんなことにはならないよなとテリーがドランゴの頭をなでるとドランゴは気持ち良さそうに目を細めた。

そのドランゴを仲間にすれば、戦闘は早く済むようになるだろう。ドランゴは今もドラゴンのマスター職のままだ。魔物たちの注意をテリーが引き付け、おとりとなり、ドランゴはただ「かがやくいき」を魔物たちに向けてはいてくれればいい。テリーの見立てでは「かがやくいき」は「しんくうは」の2倍ほどの威力だ。魔物たちを倒す時間は半分になるだろう。

そしてもう1人、そばにいてほしい人物がいる。バーバラである。バーバラはムドー城での戦いに参加していない。よって早い段階で他のメンバーとレベルの差がついてしまったため、なにより体力(HP)が少なかったため、早い段階で後方支援担当となった。まずは回復役として僧侶、次に本職ともいえる魔法使い、賢者となり持前の大いなる魔力(MP)により、呪文のエキスパートとなった。

そんなバーバラを変える出来事が起こる。「グリンガムのムチ」の入手である。これによりバーバラは当時のパーティートップクラスの物理攻撃力を手に入れる。しかもそれは単体ではない、複数の敵・グループ攻撃の出来る武器であったのだ。賢者をマスター職とした後、バーバラは「戦士」となりその物理攻撃力は大いに発揮された。前衛で物理攻撃により魔物たちをなぎ倒す役割を持った。「戦士」をマスター職にして「魔法戦士」となった。

だが、元々の体力の低さ、強力となっていく魔物たちの攻撃により、バーバラは再び元の後衛での攻撃・回復・支援呪文担当となった。メラゾーマ・イオナズン・マダンテといった強力な呪文や特技はいわゆるボス戦では重宝されたが、普段の旅の中での戦闘においては体力のある者が戦闘の前線に立った。

テリーはそんな、自分の力がまた必要とされなくなってきている、とバーバラが感じている時期に彼女に出会った。自己顕示欲が強いのに、実力が伴っておらず、悔しい思いをしているところは自分とそっくりだと思った。(実際のところバーバラは豊富な魔力によって後方での攻撃・回復・支援呪文担当という重要な役割を果たしていたのだが)

レックとバーバラが好きあっているということは、すぐに分かったため、テリーは自分からバーバラに話しかけるということはなかった。そうしている間にデスタムーア討伐の旅は終わった。

自分が前衛で敵をひきつけ戦い、少し後方でドランゴがブレス攻撃、後衛でバーバラが攻撃・回復・支援呪文。時には自分とドランゴが位置を交代してもいい。バーバラが前衛で戦いたいって言い出したら、自分が「かばう」で守りながら戦闘をしてもいい。などと色々な戦術を妄想してみる。

バカなことを、と思った。ドランゴを山奥から引きずり出して、こんな大義も何もない、ただ自分(テリー)の自己満足のために、本来ドランゴの仲間である魔物と戦わせるなどできないし、バーバラはもう、この世界にいない。いたとしてもこんな無益な戦いに参加させたくない。

仮にバーバラがこの世界にいたとしたら、レイドック王子の妻になっているのだろうか?そしてなにも持っていない自分は遠くからそれを見るしかないのだろう。もし、自分がレックより先にバーバラに会っていたのなら、バーバラは自分のことを好きになってくれたのだろうか?最初は格好良いなんて言ってくれてたからな。もしそうであったとしても、後からあらわれたレックが勇者となり、王となっていくのを見て、結局バーバラはレックのことを好きになるのではないか?そして自分はそれを止めることができないだろう。

考えると頭がぐちゃぐちゃしてきた。

戦うことを止められない、戦うことしか知らない。たくさんの人たちから認められたい。そしてそれを誇れる自分自身でありたい。勇者になりたい。自分の力で栄光をつかみたい。そう考えながら今日もテリーは魔物たちを狩っていった。

 



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第4話 マダンテ

魔物たちを狩る日々は続いた。

魔物たちと対峙すれば、レイルーラで安全な場所へ行き、しんくうはで攻撃をする。その繰り返し。それによってどれだけの魔物を殺したのだろう?ある時期になり、魔物たちにとどめをさそうとする際、いわゆる「魔獣(動物型の魔物)」たちの中には、テリーに対しておびえた目をするものが出てきた。ここで自分が憐れみを感じて、逃がしてしまえば手負いの魔物はかえって自分から人間を襲うようになるだろう。そう自分に言い聞かせて、テリーはおびえる魔物も、逃げようとする魔物もすべて殺した。

ある日、魔物たちを全滅させた後、頭の中に一つの言葉が浮かんだ。「マダンテ」。自分は「はぐれメタル」の職業の力により、マダンテという呪文を覚えた。そうテリーは確信した。この呪文は知っている。バーバラが使っていたものだ。自分の持っている魔法力のすべてを解き放ち、相手へのダメージとする攻撃呪文だ(呪文だが敵からのマホトーンが効かないためか特技に分類されるとバーバラは言っていた)。

テリーはバーバラがこの呪文を使った時のことをよく覚えていた。バーバラはいわゆるボス戦でこの呪文を使っていた。魔物や敵をある程度弱らせると、相手は捨て身のような思わぬ攻撃をしてくることが多い。そうなる前にとどめをさしてしまうのだ。幾度の戦いでそれがベストの戦い方だと皆知っていた。

デスタムーア戦では、デスタムーアの第3形態時に、レックのジゴスパーク、ドランゴのかがやくいき等でデスタムーアの右手・頭・左手をある程度弱らせた後に、マダンテは放たれた。デスタムーア自体を滅ぼすに至らなかったが、右手と左手を吹き飛ばした。これにより戦いはだいぶ楽になったと思う。

バーバラにとっても、レック達にとっても切り札ともいえるこの呪文は、今のテリーには必要なものとだは思えなかった。一人旅の戦闘において魔力が無くなるということは死に直結する。ルーラやリレミトが出来なくなるのだ(ルーラにはキメラの翼という代用品があるのだが)。それに自分はバーバラのような大量の魔力は持っていない。自分がマダンテを使ったところで、威力などたかが知れているだろう。自分にとってこの呪文は有用なものとは思えなかった。

アストロン、レイルーラは当たりだったが、マダンテは当たりとは言えないな。そう思った。カルベローナに伝わる大呪文、マダンテを習得できたのはすごいと思う。しかし「はぐれメタル」がこれで終わりとは思えなかった。

とりあえずこれで一区切りだ。「はぐれメタル」の次の力を手に入れるために、あとどれだけ戦わなければならないのか知っておこう。そう考えてある場所に行くことを決意した。ダーマ神殿である。

 



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第5話 ダーマ神殿

ルーラにより、テリーはダーマ神殿に降り立った。ダーマ神殿はすでに廃墟と化している。だがそれは、この世界での話だ。廃墟と化したダーマ神殿内の井戸をつかみ、強く念じると幻の大地のダーマ神殿に行くことができる。本来ならば、デスタムーア討伐後、無くなってしまった、夢の世界に行くことが出来るのだ。

これは自分(テリー)の想いの強さのためだと思う。自分はまだまだ強さを欲している。だから自分が必要としているダーマ神殿は在り続けるのだ。もし、自分が自分の力に満足してしまった時、夢の世界のダーマ神殿に行くことはできないのではないかと思う。

バーバラは本来、夢の世界の住人であるため、現実の世界から消えてしまった。だがテリーは思う。もしバーバラが現実の世界にずっと居たいと思えば、バーバラは消えることはなかったのではないか?バーバラは夢の世界でしなければならないことがあったから、夢の世界へ帰って行ったのだ。大好きなレックや仲間たちよりも大切な使命が。カルベローナの再興だろうか?消えゆく夢の世界を変えたり残すような大きな事だろうか?テリーにはわからない。レックでもわからないかもしれない。

あるいはレックはライフコッドの村のターニアとかいう娘に好かれていた。それを知っていたバーバラが身を引いたのではないかと考え、首を振った。どうして俺はこんな事ばっかり考えちまうんだ。ますます自分の事が嫌いになった。

ともあれ、夢の世界のダーマ神殿にて一人の老婆を訪ねた。この老婆は職業の熟練度を教えてくれるのだ。話を聞くと次の熟練度に達するまで、まだ100回近く魔物との戦闘を行わなければならないらしい。はああっ、とため息をついた。

レイルーラからマダンテを覚えるまで結構な数の戦闘をしてきたのだ。デスタムーア討伐後は、武道家をマスター職にしていた時だった。その後の旅でパラディンをマスター職にして、魔法使いをしているときに「はぐれメタルのさとり」を見つけ、はぐれメタルとなったのだ。一体、一人旅を始めて合計でどれほどの戦闘をしてきただろう。

さらに、はぐれメタルをマスターしても、勇者への道のりは遠い。スーパースター、レンジャーといった上級職をマスター職にするために、下級職をマスターしなければならない。

今更ながら、自分の目指す場所がどれほど遠いか思い知った。

そして、上級職(バトルマスター)を1つマスター職にしただけで「勇者」となったレックとの、選ばれし者と選ばれていない者との差を感じた。自分は世界に、神に選ばれなかった。改めてその現実を思い知らされた。テリーの心が折れかけていた時、ダーマ神殿内の冒険者たちの話声が聞こえてきた。

「祭壇の火がすべて灯ったらしいぞ」

 



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第6話 未知なる世界への誘い

途中から没ネタが入ります。
これを知ってから1か月くらい筆が止まりました。
続きはすでに考えておりますので、そのうち投稿したいと思います。
予定では、全話書いて一気に投稿する予定でしたが、その間に仮面ライダーで時間を止めるラスボスが出たり、脳を自分でいじってパワーアップする話を知ったりと、どんどん自分の構想が人様の構想とかぶるので早いうちに書いて投稿しようと思いました。



ダーマ神殿の地下に、火の灯る祭壇があることは知っていた。レック達と来た時は、祭壇の火がすべて灯っていたわけではなかった。いくつか灯っていない所もあった。だが、今見えるのはすべて火の灯った18の祭壇だった。

部屋に入り近づいていくと、どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。「あまたの わざを 身につけし者よ 今こそ なんじを むかえん! 封印されし うごめくものたちを なんじの ちからを もて たちきらん!」 部屋の奥の壁に黒い空間が出来ていた。この奥に封印された者がいる。自分はそこに入る資格を得たのだ。

18の祭壇の数により、これは職業の数であることは想像がついた。レック達のパーティーの一員として、はぐれメタルの熟練度をある程度上げた者として、自分はここに入ることができるのだ。

喜びを感じる以上に不安も大きかった。ここへ入って戻ってこられるのだろうか?テリーは黒い空間内に入った。岩場の洞窟のように広がった一本の道ができている。テリーはすぐに入口に戻ると、先ほどいたダーマ神殿内に出ることができた。念のためもう一度このダンジョン内に入り、リレミトの呪文を使った。するとダーマ神殿の外に出た。

よし、自分が今まで何度も入ってきた、洞窟・ダンジョンといわれるものとそう変わりはないだろう。戻れる。これがわかり安心した。「なんじの ちからを もて たちきらん」か。いいだろう。目標が出来た。テリーはダーマダンジョン(テリー名付け)の入口に入り、奥へ進んで行った。

 

 

痛恨の没ネタ

ダーマ神殿のダンジョンはすぐに強敵が現れるという記憶があったのですが、それはデスゴッドの井戸を降りてからだというのが、久々のプレイにて発覚し、結構な箇所を書き直すこととなりました。よって下の話は没ネタです。ネタバレをしますと、「ランプの魔王」が仲間になり、重要な役目を果たす予定でしたが、すべて無しに。構想からやり直しです。

曖昧な記憶で二次小説を作るものではありませんね。でも、せっかくなので、パソコンにまで書いたものまで出そうと思います。

 

 

未知なる世界への誘い(続き)

魔物たちはすぐに現れた。ボーンファイター2体とブルサベージ1体だった。テリーはいつものようにレイルーラを使い、魔物たちの背後にまわり、3体にむけてしんくうはを放った。3体ともダメージを受けたが、すぐに体勢を直してテリーの方へ向かってきた。テリーはレイルーラを使い、またも魔物たちの背後に回った。テリーが目の前から消えたと同時にボーンファイター2体は「やけつくいき」を吐いた。

これを吸い込めば、体が痺れて動けなくなる。一人での戦闘でそれは即、死につながる。テリーは手で口を押さえ、いきをかわした。そのわずか一瞬でテリーの目の前に斧を振り回し襲ってくるブルサベージがいた。速い、避けきれん。「アストロン」によりテリー自身を鉄の塊とした。ブルサベージの横薙ぎの斧はテリーに当たり、テリーの鉄の体は壁に叩きつけられた。魔物3体は横になった鉄の塊のテリーに近づいてきた。テリーはアストロンを解き、すぐに立ち上がった。

まずは「やきつくいき」を使うボーンファイター倒す。出し惜しみはなしだ。一気に決める。テリーは胸の前で十字を切った。「グランドクロス」真空の刃が巨大な十字架となってボーンファイター2体を襲った。その間、攻撃を受けていないブルサベージが斧を振り上げて突進してきた。テリーはレイルーラで魔物達の死角へ移動し、またしんくうはを放った。しんくうはが倒れているボーンファイター2体とブルサベージを襲ったが、ブルサベージは倒れることなく、テリーに向かってある呪文を発した。

あの呪文は・・・?ブルサベージの声がよく聞き取れなかったが、自分の体の異変を確認している暇はない。テリーは腰につけた雷鳴の剣を抜き、構え、ブルサベージの振り下ろす斧をかわした。「はぐれメタル」により、すばやさが上がっていることにより避けることはできたが、避けざまに入れた「はやぶさぎり」はちからが落ちているためかブルサベージにほとんどダメージを与えられなかった。

ブルサベージは持っている斧をテリーへ向け振り回した。テリーはバックステップで避けブルサベージの攻撃が止まるのを待った。「しっぷうづき」によりブルサベージに近づき、ブルサベージの両目を切った。グゴオオッと声をあげブルサベージは片手で目を押さえた。一方でボーンファイター2体が立ち上がり、こちらへ向かってくるのがわかった。まだ生きているのか。テリーはそう思った。 テリーは後ろへ下がり、距離をとって雷鳴の剣を振り上げた。ダンジョンの天井からのいなずまが魔物3体へと落ちた。ボーンファイター2体は悲鳴をあげ倒れた。ブルサベージはまだ立ったままでいる。「死ねえっ」テリーは再び雷鳴の剣を振り上げ、いなずまを落とした。ボーンファイター2体は動かなくなり、ブルサベージは膝をついた。テリーは左手の手のひらをブルサベージに向けた。「かまいたち」風の刃がブルサベージの首を切りつけた。ブルサベージは倒れ動かなくなった。

テリーはその場で大きく息を吐いた。ダメージを受けなかったが、緊張感が尋常でなかった。一手間違えれば即死だったと思われる場面があった。

テリーの体が消え、別の場所へ移動していた。レイルーラが使えることを確認した。あの時ブルサベージが放った呪文はおそらくマホトーンだろうが、テリーの呪文が封じられたかどうか戦闘中気づくことはできなかった。マホトーンにかかったものとして戦闘を進めた。それは正解だったと思う。

たった一度の戦闘でこれか、そう思い、魔物の死体からゴールドを集めた。魔物はなぜかゴールドを持っているし、ゴールドは旅で必要だ。別の魔物たちが近づいてくる気配を感じた。ギリギリ過ぎる。作戦を立てよう。撤退しよう。そう思って テリーはリレミトを唱えた。

 




すいませんでした。
きちんとした続きを書いてまた投稿させてもらいます。


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第7話 強敵との遭遇

緑の粒子が空中に揺らぐ岩肌の洞窟。この世界においてはオーソドックスともいえるこの洞窟。最初からいきなり深入りするつもりはない。まだゴールは目指していない。まだ探りの段階だ。テリーはゆっくりと進んで行った。「トロルボンバー」1体と「ガーディアン」1体が現れた。デスタムーアの城と同じレベルの魔物が出るのか。まあ、仕方ない。テリーはまるで居合の構えのように、剣を抜くことなく柄を持ち構えた。もちろん剣で戦うつもりはない。剣で戦うと魔物たちに思わせるのである。接近戦を望むファイターだと思わせるのである。

トロルボンバーが棍棒を振り上げ近づいてきている。くらったらかなりの確率で痛恨の一撃となる。ガーディアンも盾を前に出しつつ近づいてきている。まだだ。ギリギリまで引き付ける。・・・今だ!レイルーラにより魔物たちの背後に回った。トロルボンバーはほんの一瞬前までテリーのいた場所に棍棒を叩きつけ、ガーディアンも戸惑ったように周りを見回している。その2体に「しんくうは」の刃がふりかかった。硬い鎧をまとうガーディアンの体に傷を付けることができたが、トロルボンバー共々、それほどダメージを受けている様子はない。

落ち着け。今までやってきたことの繰り返しだ。テリーは先ほどと同じように、剣の柄を持った。魔物たちはテリーの他に仲間がいるのかと周りを見回したが、気配がない為、本能的に目の前の敵であるテリーに襲いかかるしかなかった。

数ターン後、深呼吸をするテリーの前に鉄屑と化したガーディアンと体中傷だらけでだらりと棍棒を持っているトロルボンバーがいた。テリーは右手をトロルボンバーの右手に向け「かまいたち」を放った。トロルボンバーは叫び声を上げて棍棒を手放した。トロルボンバーはすでに目の光を失っていたが、それでも左手でテリーを捕まえようと腕を伸ばした。テリーの体は消え、トロルボンバーは首の後ろから血を流し倒れた。「かまいたち」は便利な技だなとテリーは思った。剣の腕がない者でも剣と同じ切れ味で魔物を切ることができる。

もう一度、深呼吸をした。精神の摩耗がひどい。広いフィールドで戦うよりも、狭いダンジョン内で戦う方が神経を使う。テリーはポケットの中から砂糖菓子を取り出し、口の中に入れた。

 

2回目の戦闘はすぐに始まった。「マッスルアニマル」3匹が現れた。1度目のレイルーラは虚を突き、しんくうはによるダメージを与えることができた。だが2度目のレイルーラは襲いかかってきた1匹以外の2匹はすぐにテリーの出現場所を突き止め、テリーに襲いかかってきた。強い魔獣ならではの嗅覚、そして勘。ここしばらくテリーが経験したことがないものだった。襲いかかってきたマッスルアニマルの一匹目の攻撃は剣でさばいた。2匹目のマッスルアニマルは大きく右手を振りかぶった。テリーは盾を構え、マッスルアニマルの攻撃に備えた。強烈な衝撃が盾からテリーの体に伝わり、テリーの体は後方へと突き飛ばされた。だが、それこそがテリーの狙いだった。これでマッスルアニマル達との距離が出来た。テリーは十字を切り今の自分の最強だと思える技を放った。「グランドクロス」しんくうの刃が巨大な十字架となってマッスルアニマル3匹を襲った。マッスルアニマル3匹がその技をくらっていることを目視にて確認できた。テリーは追撃をしようとしてクラリと目が回る感覚にとられた。回復をしたい気持ちを抑えしんくうはを放った。あの素早いマッスルアニマルよりも早く動くことのできた幸運に感謝しながら。

 

回復呪文を自分に施した後、マッスルアニマル3匹の死体を確認した。まだ戦える、そう思い前に進もうとした気持ちに理性がストップをかけた。デスタムーア城と同じ魔物が出るのだ。例えば「ブースカ」が3体出てきたとしよう。いくらレイルーラでその時に攻撃を避けたとしても広範囲にわたる魔法のイオナズンを使われれば、レイルーラ後、出現した際爆発に巻き込まれダメージをくらうだろう。何より魔物が強い為、緊張状態が続くのが辛い。たった2戦しかしていないが撤退しよう。レイルーラがつかえればなんとかなる。そう考えていた自分の甘さを恥じてテリーはリレミトを唱えた。

マッスルアニマルの攻撃を盾で受けるのではなく、アストロンをすれば無傷でいられたことに気づいたのはリレミトでダーマ神殿の外に出た時のことだった。ちょっとテンパるとこれだ。テリーは自分の未熟さを恥じた。

 



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第8話 魔物の仲間

ガンディーノ周辺でまた一人で魔物との戦闘を百回近く行い、新たなる技を身につける。時間がかかるし、何の技を覚えるかわからない。そもそも「はぐれメタル」のランクが上がるだけで何も覚えないかもしれない。

先程の戦闘中にはおもいつかなかったが即死系の呪文、ザキやザラキがあの魔物たちに効かないか?こればっかりは唱えてみないとわからないし、効かなかった場合行動を1つ無駄にするため強い魔物相手に無駄な行動はできない。第一、ああいった高位の魔物には即死系の呪文は効かないことが多い。この辺はチャモロがよくわかっていて、効く敵にしか即死系の呪文は使わなかった。

頼みのレイルーラもマホトーンをされては使えないし、魔物が強く速く攻撃を集中された場合には、出現位置を目視にて特定するというレイルーラの動作が間に合わない時が来るかもしれない。

魔物たちがさほど強くないガンディーノ周辺で戦い、時間さえ掛ければはぐれメタルをマスター職とし、賢者、スーパースター、レンジャーという上級職の後に勇者となれることはわかっている。だがテリーにはあのダーマダンジョンをあきらめる気にはなれなかった。あのダンジョンの奥に自分が求め、そして求められているものがある。そんな確信があった。もう一度あの場所に戻りたいが自分の力では無理だ。自分の力だけでは・・・。自分達の力ではとなるとどうか?おそらくデスタムーア討伐を果たしたレック達なら可能だろう。ならばそのメンバーを連れてくるか?無理だ。いまだに冒険者なんてやっているのは自分だけだ。(逆にハッサンに大工仕事を手伝ってくれと言われたらどうだろう?嫌だ。全く興味がない)

ならば、今現在冒険している他の冒険者を探せばいい。ダーマ神殿にはルイーダの酒場がある。そこで仲間を集めるのだ。しかし、あのダンジョンの魔物たちと戦うことのできる力を持つ者がこの世界に何人いるというのだ。少なくとも上級職を2つほどマスター職としている人間でなければあの魔物たちの攻撃に耐えることはできないだろう。そんな人間がデスタムーア討伐メンバー以外にいるとは思えなかった。実際にルイーダの酒場に行ってみたがこれという人間はいなかった。

一般の人間からすると、下級職を極めることすら難しいのだ。自分だってデュランと戦った時は戦士マスター職で、バトルマスター★だった。今思えばよくあれで自分を人間最強などと思ったものだ。雷鳴の剣の強さの影響もあったが。

一応、と思い魔物の登録者もいないか聞いてみた。魔王がいない今、ここに魔物がいるとは思えないが・・・。しかし登録されている魔物の名前を見て、驚くこととなった。「スラリン」と「ピエール」の名前があった。

「おい、このスライム族の2匹はいるのか?」テリーは受付の女性に聞いた。

「ああ、この子たちはここを寝床にしているからね。時々、冒険者に付いて行ったり、2匹で旅したりしているけど、一緒に行くかい?連れてこようか?」受付の女性は言った。

「頼む・・・」テリーは少し鼓動が早くなっていた。

受付の女性は奥へ行き、2匹の名前を呼んだ。

「あっ、君はテリーだね。テリー!テリー!久しぶりだね!」スラリンが飛び跳ねながら言った。

「お久しぶりです。テリー殿。お元気そうで何より」ピエールは礼儀正しく頭を下げた。

 



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第9話 スラリンとピエール

「テリー、すごいね。魔王を倒したんだってね。すごいね」スラリンは言った。

「あなた方のお力で世界に平和がおとずれた。うれしいことです」ピエールも続けて言った。

「お前ら・・・」人間の幸せを喜んでくれる魔物がいるのか、いや、かつての仲間の偉業を喜んでいるのだろう。

「テリー、僕たちに会いに来てくれたの?うれしいよ!うれしいよ!」

「スラリン、落ち着くのです。 テリー殿、その格好ですとまだ旅を続けておられるのですか?」

「ま、まあその辺で話そうぜ。おい、受付の姉さん、この2匹と一緒に旅をさせてくれ」

テリーは言った。

「ああ、契約とか諸々の話はその2匹とやっとくれ」ルイーダの酒場の受付の女性も微笑んで答えた。

テリーは2匹に、彼らがいなくなった後の、デスタムーア討伐の旅の話をしようとしたが、

スラリンからその話は一度来てくれたアモスから聞いたとの答えがあった。俺はあまり役に立ってなかったけどなと、テリーが言うと、そんなはずはない、テリー殿は素晴らしい剣技で、魔物たちを倒していたとアモスは言っていたとピエールは答えた。アモスなりに気を使っていたのだろう。テリーは苦笑した。

その後、自分は一人で旅をしている。「はぐれメタル」の職をマスターしようとしていることと、後に勇者になりたいこと、ダーマ神殿に新しいダンジョンが出来たことも話した。

「ふむ、封印されし蠢くものたちですか・・・。それはなかなか・・・」

「行きたいね。行きたいね。僕行きたい!」ピエールはそわそわしてるし、スラリンはさらに高くぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「俺はそこを攻略したいと思っている。だがそこは出てくる魔物たちも強い。デスタムーアの城の魔物と同じレベルだ。そして奥にはデスタムーアを超える力を持つ者がいる・・・かもしれない。何か強烈な予感がする。俺はそこへどうしても行ってみたい」

「テリー殿、我々2匹を仲間にして頂いたということは・・・」ピエールが尋ねた。

「ああ、俺一人じゃ無理だ。力を貸してくれ。けどその前に」

「我々の力が見たいという訳ですな」

「ピキー!じゃあ、テリーは僕たちと戦うの?戦うの?」

そんなことはしないよと、 テリーは言ってダーマ神官の元に行った。2匹の熟練度が見たいのである。

「レック殿達と離れた後は、強い敵と戦ってきた訳ではありませんが・・・」

ピエール 現在の熟練度

戦士    ★★★★★★★★    バトルマスター ★★★★★★★★

武道家   ★★★★★★★★    パラディン   ★★★★

僧侶    ★★★★★★★★    

 

職歴 戦士→武道家→バトルマスター→僧侶→パラディン

 

「バランスよく鍛えたいと思っております」とピエールは言った。パラディンをマスター職とした後は、魔法使いを経て賢者に成りたいそうである。

 

「僕はレンジャーになりたいんだよっ」

スラリン 現在の熟練度

 僧侶    ★★★★★★★★    賢者 ★★★★★★★★

 魔法使い  ★★★★★★★★   

 盗賊    ★★★★★★★★    

 商人    ★★★★★★★★

 魔物使い  ★★

 

「お恥ずかしい。職をマスターにした後はすぐにダーマ神殿に行き転職をしたかったのですが・・・」ピエールは申し訳なさそうに言った。

「ああ、そういうことってあるよな。俺もデスタムーアの城で武道家がマスター職になったっぽいけど、自分の熟練度のために引き返してくれとは言えないからな。黙っといたよ」

と、テリーはピエールに同意した。ちなみに俺は・・・と、自分の熟練度を見せた。2匹とも驚いていた。レック達について行っただけなんだけどなとテリーは言った。ともあれ2匹はテリーの仲間になることが決まった。

 

「じゃあ、報酬みたいなのは・・・」とテリーが言いかけたところで2匹の声はそろった。

「「スライム格闘場!!」」どうしてもそこでチャンピョンになりたいそうである。だがそこは人間の連れなしには入れないそうだ。そんなんでいいのかよとテリーは思ったが了承した。そうだよな、強くなって、その証明が欲しいよな。テリーは思った。それにしても久しぶりに会話をした。結構長く。人間とだってこんなに長く会話をしない。ミレーユ姉さんとだって。

「よし、いきなりダーマダンジョンは無理だ。まずはお前らにいい装備をつけてやるよ。その後、適当な所で鍛えようぜ。それから、フォーメーションも・・・」

「テリー殿、ひとつ提案があります」

ピエールがテリーの言葉をさえぎって言った。

「ドランゴを仲間にしましょう」

 

 



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第10話 ピエールの提案

ドランゴかぁ・・・、テリーは渋い顔になった。

「テリー殿やアモス殿のお話により、ドランゴはかなりの強者であることがうかがえます。私も姿だけは見たことがありますがね。竜族であるが故の強大な体力と力、そしてブレス攻撃。ドランゴがこのパーティーに加われば、ダーマダンジョンの攻略も楽になりましょう」ピエールは続けて言った。

「僕もドランゴに会いたい!会いたい!」スラリンも同意した。

「うーん、でもアイツ、自分の卵や子供を育てるのに忙しいだろうからなあ。一緒に来てくれないと思うんだよ」テリーは言った。

「私もスラリンもアークボルトでのドランゴ討伐の任に就いた時は、レック殿達と一緒に居りましたので、テリー殿のおっしゃりたいことはわかるのですが・・・。魔物は人間のように自分の子供が成人となるまで面倒を見るわけではありません。エサを自分で採るようになれば後は放っておきます。我々魔物は本能として子孫を残すよりも、自分自身を強くすることを望む者が多いのです。テリー殿に自分の卵を潰され、自分自身も倒されたのに、テリー殿を慕って魔王討伐の旅についてきたドランゴはまさにその典型的な例だと思いますが」ピエールは言った。

ムチャクチャ言うなコイツとテリーは思った。

しかしそうかもしれない。人間の常識と魔物の常識は違うのだろう。ドランゴが喜んでついてくる姿が想像できた。自分が考え過ぎていたのかもしれない。

「では、こういうことでどうでしょう?私がテリー殿に魔王討伐の英雄に会わせてくれと頼んだ。テリー殿は私達をドランゴの所に連れて行った。そこで私がダーマダンジョンの話をします。一般的な魔物であれば、ドランゴ程の強者であれば尚更、自分からついて行くと言うでしょう。ドランゴが何も言わなければ今の生活に満足しているということで、我々は戻りましょう。いかがですか?」

お前、魔物なのに口うまいなあとテリーは感心した。ピエールはナイトですからとニヤリと笑った。顔に鎧を付けているからわからないがそんな気がした。

そうだ、これは言わば、ドランゴの顔を見に行くのだ。デスタムーアを倒してから数か月が経っている。かつての仲間が元気にしているのかどうか、気楽に尋ねるのもいいかもしれない。

「よし、久しぶりにドランゴに会いに行くか!ただし、ドランゴには俺から話す。ドランゴはよく知らないピエールから話しかけられたら、いきなりピエールを攻撃するかもしれないからな」

はは・・・、それは、それはとピエールが顔を引きつらせてこたえた。

「ピキー!難しい話は終わった?早くドランゴに会いに行こうよ!行こうよ!」スラリンは言った。

 

よくわからんが、こういう時には何かおみやげ的な物を持って行った方がいいのだろうか?ドランゴが喜びそうなもの・・・。強力な武器とか、あるいは食べ物がいいならその辺の農家から牛を一頭買って、食糧として差し出すか。いや、変に家畜の味を覚えて人間の家畜を襲うようになったら、レック達に害獣として駆除されそうだ。だったら、薬草の類はどうか。ドランゴは「ドラゴン」をマスター職にしてからそのままのはずだ。回復の呪文や特技を一切覚えていない。なのになぜかザオリクを使える。自分で自分にザオリクをかけたから生き返ったのか?その辺は、ドランゴ自身もよくわからないと言っていたが。

「テリー、早く行こうよ、行こうよ」

「テリー殿は考え込む癖がありますな。さあ、行きましょう」

まあ、手ぶらでいいかと思い、ドランゴに会いに行くことにした。魔物にお土産という文化があるのかどうかもわからない。ドランゴは当然、現実の世界で生きているので、現在夢の世界で生きているスラリンとピエールは現実の世界では見えなくなるのではないかと思ったが、そんなことはなかった。考えてみれば2匹ともレック達の仲間だった時にどちらの世界を何度も行き来しているのだ。

現実の世界のダーマ神殿の外に出た。

「よし、行くぞ」テリーはスラリン・ピエールの2匹をさわって目をつむり、ドランゴが居る山奥近くにあるルーラの着地ポイントとしている祠をイメージした。「ルーラ」一人と一匹は光に包まれ空へ飛んで行った。

 

 



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第11話 ドランゴの気持ち

ルーラにより、無事に着地ポイントである祠に着いた。少しでもイメージと違うとルーラは発動しない為安心した。そこから山の奥に歩いて行った。道中何度か魔物に出会ったがスラリンのイオナズンにより撃退した。正直、イオラでも十分な相手であったが、得意そうにテリーを見るスラリンを見て苦笑するしかなかった。ノリで「ガンガンいこうぜ」とか言うと本当に相手が弱小な魔物でも最大火力で倒そうとするから困る。この辺りなら「呪文つかうな」でもいいだろう。そもそもここらへんでは、自分にもスラリンにもピエールにも熟練度が入らないのではないか。

1時間ほど歩いてようやくドランゴと別れた場所に着いた。どっかに巣みたいなものを作ってないかなあと近くを探していたら、木の枝を積み上げ、中をくり抜いた様な巣があった。たぶんここがそうなのだろう。

おーい、ドランゴと呼ぼうとして気配に気づいた。囲まれている。十数体の魔物に。「テリー殿・・・」ピエールが警戒しながら言った。ギリギリまで攻撃しないでくれよとテリーは言った。ドランゴの子供でないならとっくにこちらから攻撃している。だからと言って攻撃をくらうわけにはいかない。襲ってくるならやむを得ない。撃退するしかない。そう考えていた時、「グオオオッ!!」大気が震えるようなおたけびがあった。

テリーでさえ気が抜けばショックを受けて腰が抜けそうだった。テリーたちを囲んでいたもの達の殺気が消えた。

「ニンゲン・・・、オソウ、ダメ」

のしのしと二足歩行の竜族のバトルレックスが出てきた。スラリンやピエール、ドランゴの子供たちがいなければこちらから抱きしめていただろう。そんなテリーの我慢を尻目にドランゴはダッシュでテリーに近づいてきた。

「テリー!テリー!ウレシイ!ウレシイ!」そう言ってドランゴはテリーに頬ずりをした。

「ドランゴ!元気だったか?俺も嬉しいよ!」そう言ってテリーはドランゴの頭を撫で回した。周りからはドランゴの子供たちと思われるヘルバイパーの様な魔物たちが出てきた。

なんでドラゴンの子供がヘビなんだと思っていたが今も変わらないらしい。

「ドランゴ、お久しぶりです。ピエールです」

「僕はスラリンっていうんだよ。はじめましてだね」

「オマエタチ・・・、ダレ?テリーノ、ナカマ?」

少なくとも、ピエールには少しは会ったことがあるはずなのにドランゴはピエールをすっかり忘れている様子だった。ピエールは少しガッカリしていた。ドランゴの周りにドランゴの子供たちが集まってきた。

「オマエタチ、アソンデ、オイデ。ワタシ、テリート、ハナシ、スル」

「キェー」「キー」「キキッ、キー」「キキー」とドランゴの子供たちは声を上げた。中には聞こえ様によっては「テリー」と言っているものもいた。子供たちは2、3匹でグループを作ったり、1匹であったりしてこの場を離れて行った。

「もうすっかりお母さんだな。ドランゴ」テリーは言った。

「ワタシ、コドモタチ、マモル」ドランゴは言った。

ああ、そういや、俺がアークボルト付近に巣を作っていたドランゴの卵を潰しまくったんだっけ。今考えりゃ、悪いことをしたなあ。だがこれは何度もドランゴと話し合い、人間を襲っていた当時のドランゴとお互い様ということになっていた。

「今のドランゴなら子供たちを守れるよ。ドランゴは強いからな」

「ワタシ、テリーノ、タメニ、ガンバッタ」

「すまなかったな。俺がお前や皆を守ってやると言っていたのに。俺がお前や皆に守られちまった」

「テリー、ヨワイ、チガウ。テリー、イル、ワタシ、ガンバル」

ドランゴの言葉にテリーは下を向いてしまった。

「テリー、レック、ナカマ、ミンナ、ヤサシカッタ。ワタシ、マモノ、デモ、ヤサシ、カッタ」

ドランゴはたどたどしくも想いを伝えた。

「ワタシ、マモノ、ニンゲン、ナカヨク、デキル、オモウ。コドモタチニ、オシエテイル。

マモノ、ニンゲン、ナカヨク」

テリーは下を向きながらうんうんと頷いていた。

「テリー、イマ、ナニ、シテイル?」

テリーは何も言えなかった。ドランゴの前で自分が強くなるために魔物を狩っているとは言えなかった。

「テリー殿は今、私達魔物を仲間にして下さり、旅をしています」

見かねたのか、ピエールが口を出してきた。

「残念ながら、世界にはまだ人間に害をなす魔物がいるのです。テリー殿はそんな魔物達を倒し、世界を平和にしようと励んでおられるのです」

「テリー、ワタシノ、ユウシャ」

デスタムーア討伐パーティーでの勇者は職業としてもリーダーとしてもレックであることは間違いない。だが、ドランゴにとっては、自分の世界を救ってくれた勇者はテリーなのだ。

「・・・ドランゴ。俺は勇者じゃない」テリーは言った。

「チガウ、テリー、ワタシノ、ユウシャ」ドランゴは譲らなかった。

「そろそろ日も暮れてきたようですね。ドランゴも子供たちを集めねばならないでしょうし、我々もそろそろおいとましましょう」ピエールの言葉にテリーも頷いた。

「テリー、キテクレテ、ウレシカッタ」

ドランゴの言葉に、テリーはうんと頷いた。

 

ドランゴの巣から離れていくテリーたち一行に、ドランゴは短い手を振っていた。しばらくするとウオオッというドランゴの声が聞こえてきた。多分自分の子供たちを呼んでいるのだろう。

「申し訳ありません、テリー殿。私が余計な提案をしなければ・・・」

ドランゴが見えなくなるとピエールが深々と頭を下げた。

「行くと決めたのは俺だ。そしてドランゴが元気でやっているとわかった。それだけだよ。さて、本当に暗くなってきたから宿に行こうぜ。今からまた夢の世界に行くのもなんだから、この世界の金出しゃ、魔物でも泊めてくれる所に行こう。メシもうまいし、フロもあるんだよ」

「ありがとうございます。テリー殿」ピエールは言った。

「こっちの世界の宿に行くのは久しぶりだね。楽しみだね。楽しみだね」スラリンも喜んでいるようだった。

「ああ、それからな、ピエール。もう俺のことはテリー殿じゃなくてテリーって呼んでくれ。俺はお前たちに戦闘で力を借りる。お前たちは俺にスライム格闘場に連れてってもらう。対等だろう?」テリーは言った。

「・・・わかりました。テリー。しかしこの口調は変えませんよ。いわゆる礼儀というやつです。騎士のたしなみです。私はナイトですからね」

テリーはピエールがまた、鎧の奥でニヤリと笑っている気がした。

 

 



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第12話 クリアベールの町にて

テリーのルーラにより、一行はクリアベールの町に到着した。

「ここ知ってるよ!ジョンがいて、ベッドが空を飛ぶんだよ!」スラリンは言った。

「スラリン、それは上の世界の話では・・・、あれ、どちらでしたっけ?上と下の世界を行ったり来たりしていたのでよくわからなくなりますな」ピエールは戸惑っていた。

「なんだ、お前ら、この町知っていたのか」テリーは少しがっかりした。勝手に自分が穴場だと思っていたのだ。なぜかこの町のベッドは寝心地が良く、深く眠ることができた。テリーは門番の兵士に事情を話し町に入り、宿屋では少し多めにゴールドを払っていた。ピエールはテリーが自分とスラリンに気を使わせないようにしているのだろうと思った。一行は宿屋の一室を借りた。テリー装備品を脱ぎながら話した。

「ピエール、スラリン。メシとお湯は用意するように頼んだからさ、お前らは先に寝ててくれ。共同風呂があるんだけど、魔物は勘弁してくれだってさ。ヒデーよな。俺は久しぶりに町に出て酒でも飲んでくる。メシもそこで済ませるよ。本当に先に寝てていいからな。明日からガンガン鍛えるからな!よく寝とくんだぞ」

「テリー、僕も行きたい!行きたい!」そう言うスラリンをピエールは注意した。

「おとなしくしなさい、スラリン。お前は今日けっこう呪文を使っています。きちんと睡眠を取り、魔力を回復させるのです」

「ピキ~。わかったよ。わかったよ」スラリンも納得した様子だった。

「へへっ、子供はもう寝る時間だよ、スラリン。じゃあ、大人の俺は出ていくよ。洗濯は帰って来てから頼むからな」テリーはそう言って宿屋から出て行った。

 

わかりやすい人だとピエールは思った。きっと今日のドランゴとのやり取りで落ち込んでいるのだろう。まっすぐだったレックと違い、テリーは影や迷いがある。だからといってレックよりもテリーが魅力がないわけではない。テリーはドランゴの前で自分は弱いと言っていた。そうかもしれないとピエールは思っていた。ピエールの知っているテリーはバトルマスターなりたてだったのだ。あの時は正直、テリーよりも自分の方が強いという自信があった。それがこの数ヶ月ですっかり追い抜かれてしまった。おそらくずっと一人旅をしながら、相当の鍛錬と戦闘をしてきたのだろう。そして、さらに強さを求めている。もう充分に強いと思われる彼を動かすものは何だろうか?

テリーがどう思っているのかわからないが、テリーはナイトである自分にとっての主(あるじ)だ。魔物である自分たちを人間の町に入ることが出来るように手配し、一緒の部屋で寝てくれる。これだけでも自分は彼を尊敬する理由となる。彼の力になれる様にしっかりと役目を果たさなければ。ピエールはそう思った。

 

宿を出たテリーは門番に声をかけて町の外に出た。あまり遅くならないで下さいよと言う門番にテリーは手を挙げた。あの青年は本当に顔に出るなと門番は思った。あの恰好はまだ冒険をしていて、あの表情は何か落ち込むことがあったのだろうと門番は思った。世界を救った英雄の一人でありながらあのルックスだ。俺なら貴族や金持の商人の娘の婿になる。もしくはどっかの城の宮廷剣士とかでもいいなあ。こんな事を考える俗な俺だからしがない一般兵で、魔王がいなくなっても鍛えているからテリーは英雄なのだろう。門番はそう結論付けた。テリーに遅くならないように言ったが、今の平和な時代をつくってくれた彼が少し遅くなったからといって門を閉めたりするつもりはなかった。

 

テリーは森の中に入り、木に寄りかかって座った。目からポロポロと涙が出てきた。今日ほど自分で自分が嫌いになった日はない。ピエールの提案を受けたからといって、またドランゴを戦いの日々に戻してしまうところだった。魔物と人間が争わない世界とするために魔王を倒したはずだ。だが、今自分がやっていることは何だ?魔王がいる時代と変わらない、いや、魔物が積極的に襲ってこない分、魔王がいる時よりもたちが悪いことをやっているじゃないか。ミレーユ姉さんの言う通りだ。俺だけ前に進んでいない。俺だけ自分のプライドを、「我」を守るためだけに同じ所にいる。

それでも、自分の中で答えは出ている。俺は戦い続ける。俺は強くなり、あのダーマダンジョンをクリアし、「勇者」となる。そうすれば、俺はきっと変われるはずだ。堂々とドランゴの前でも、ミレーユ姉さんの前でも自分が勇者だと言える。デスタムーア討伐の旅で味わった屈辱もきっと晴れる。今は自分の信じる道を進むんだ。前に・・・。

 

門番は空から流星のように光る人間が下りてくるのを見ていた。テリーがルーラによりクリアベールの町に帰ってきた。

「ギリギリセーフだろ?」テリーが門番言った。

「ギリギリアウトですよ、テリーさん。もう、門を閉めますからね」門番が答えた。

「テリーさん達のおかげで人を襲う魔物が減ってきてるのは良いんですがね。私ら兵士は仕事が無くなりますよ」でも、まあと門番は笑いながら続けた。

「なんか昔話とかおとぎ話とかで聞いたんですけどね。テリーさん。魔王だか竜王だかいなくなって、魔物が少なくなってきたんですって。勇者様が魔王だか竜王だか倒したから。そしたら世界はどうなったと思います?」

「は?いや、平和な時代になったんじゃねーの?」テリーも少し興味をひかれる話だった。

「人間の神官が魔物の軍つくって、人間を襲わせたって話ですよ。最後はその神官が自分を生け贄にして邪神をよびだしたんですって。結局その邪神もその時代の勇者様に倒されたって話ですけどね」この時代の英雄の知らない話を自分が知っているという優越感なのか門番は得意げに言った。

「なんだそりゃ。その神官は何がしたかったんだ?」テリーは呆れて言った。

「私が思いますにね、テリーさん。この話の教訓は人間の敵は魔物だけじゃないって事だと思うんですよね。魔物がいるから私ら人間の敵は魔物だって思っているけど、その魔物がいなくなっちまったら、敵がいなくなる訳で。そしたら無理矢理でも敵を作らなきゃいけなくなる訳ですよ。人間ってのは。平和になっちまったら、飽きてしまうんですよ。人間は」門番はそう言って町の門を閉めた。

 

テリーが町の中に入っていくのを確認した後、門番はマウントスノーに赴任している兵士仲間から聞いた話を思い出した。マウントスノーからさらに北にある洞窟に邪神を崇拝するシドー教と名乗る教団が住み着いたらしい。そいつらはその極寒の地を聖地ロンダルキアとよんでおり、死者を生き返らせる呪文の研究をしているとかで気味悪くて仕方ないと仲間の兵士は言っていた。

バカバカしい話だ。邪神崇拝とか言っている奴らに限っていざ魔物が目の前に現れたら必死で命乞いをするに決まっているのだ。どうせ社会に順応できない奴らの集まりだろうと思い、この話をテリーにしなかった。

 

もしこの門番がこの時、この話をテリーに報告し、テリーたちがすぐに調査に赴けばシドー教が力を付ける前に壊滅させていただろう。だがそうはならなかった。

こうして因果の糸は切れることなく紡がれていくのである。

 




門番の与太話として適当に考えたのですが、マウントスノーの村人の時間を50年とめていた(たぶんそうだったかなと)雪の女王の能力を、うまくのちの設定に絡ませることができないかと、話を継ぎ足しました。
短編なら、この門番の話で完でもいいのですが、色々考えているのでまだまだ続きます。
多分・・・。


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第13話 戦闘訓練開始

「おはようございます。テリー」ピエールは朝から礼儀正しかった。

「テリー!テリー!朝だよ!おきてよ!おきてよ!」スラリンはまだ眠っているテリーの上に乗りぴょんぴょんと跳ねた。

「ああ、だいじょうぶ。起きるよ」テリーはガシガシと頭を掻きながら起き上った。酒も少ししか飲んでいない。久しぶりの酒場で若い娘に声をかけられたが連れがいるからと断った。一人旅をしていた頃には結構羽目を外していたからなと思った。

「まず、飯を食おうぜ。洗濯ものは乾いて・・・ねーよな。いいや。持ってるやつ使おう」

この世界の人間はなぜか気に入ったら同じ服を着続ける。だからこそ「ベストドレッサ-コンテスト」などというものが珍しくてもてはやされているのかもしれないが。一行は食事をとり、携帯食や保存食を買った後宿を出た。

「よし、まずは俺の家行こうぜ」テリーは言った。

「装備をそろえるのではないのですか?」ピエールは尋ねた。

「まあまあ、行けばわかるって」テリーはそう言い、一行はルーラでアークボルト近くのテリーの家に行った。

 

テリーの家は二部屋だけだった。一部屋はベッドがあるだけで、もう一部屋は物置となっていた。

「俺も修行僧じゃねーから、仮眠する以外は町のキレイな宿屋で寝たいんだよね」テリーはてれた様子で言った。その物置のカギを開けると、スラリンとピエールはおおっと声を上げた。2匹が見たこともない様な武器や防具があった。

「デスタムーア倒した後、持っててもしょうがないからって、他のメンバーたちの装備品預かってるんだ。なかなかのものだろ?」

スラリンやピエールが見たこともない狭間の世界や数が足りなくてあきらめたメダル王の城でもらえる装備品やカジノの景品があった。

「俺が思うんだけど、装備品ってのは単純に数値が上がるのを選ぶんじゃなくて、自分が好きな物を選ぶ方がテンションが上がって強さが増すと思うんだよな。だからお前らが好きなもの装備しろよ。俺何もいわねーから」

スラリンとピエールはごそごそと武器や防具を選び始めた。ちなみにテリーは軽装備だ。どうせ今の、はぐれメタル職の体力(HP)なら、レイルーラありきの避けやすい、動きやすい装備がいい。

ピエールはきせきの剣、メタルキングのよろい、みかがみのたて、メタルキングヘルム、はやてのリングを装備した。

「テリー様、本当に私の様な者がこのような高級なものを装備してよろしいのでしょうか?」ピエールは聞いた。

「急にへりくだってんじゃねーよ。いいって、気にしなくて。ああ、メタルキングの剣はハッサンが自分で持っときたいって言ったからここにはないんだ。そういや、メタルキングのたてはあるんだろうけど、どこにあるのかなあ?見たことないなあ」テリーは言った。

スラリンはほのおのブーメラン、スライムアーマー、シルバートレイ、スライムメット、おしゃれなバンダナを装備していた。

「僕はこれっ!これっ!」スラリンはぴょんぴょん跳ねながら言った。

「いいよな、ブーメラン。俺なんでか装備できないんだよな」テリーは言った。

 

テリーは薬草、アモールの水等が揃っていることを確認した。

「よし、武器も道具も揃ったな。作戦はとりあえず(じゅもんつかうな)だ。魔物に出会ったら俺はしんくうは、ピエールもしんくうは、スラリンはほのおのブーメランで攻撃だ。で、敵が近づいてきたら俺はレイルーラで回り込んで剣で攻撃、ピエールは正面から剣で攻撃、スラリンはまじゅうのキバに装備変更して攻撃だ!」テリーは言った。

「およそ作戦とよべるものではありませんな・・・」ピエールは呆れて言った。

「いいんだよ。臨機応変ってやつだ。ダメージくらったら回復だぞ。レベルや熟練度上げは戦闘回数をこなすことが重要だからな。魔力の無駄使いはダメだぞ。よし、行くぞ!」

テリーはガンディーノの町をイメージしてルーラを唱えた。

 

目的地に着いた。しつこいようだがと、テリーは一息入れて言った。

「俺ははぐれメタルの職業だ。体力(HP)が低いから魔物から攻撃をくらえば瀕死になるだろう。死ぬかもしれない。だから攻撃を受けそうならレイルーラを使う。俺はレベルはお前らより高いかもしれないが、お前らを守ってやる力は無いからな」

「わかっております。自分のことは自分で守ります」

「ピキ~、だいじょうぶだよ。だいじょうぶだよ」

2匹はまるで自分に言い聞かせるように言った。一行は森の中に足を踏み入れた。

 

魔物がテリー達の前にあらわれた。キングイーター3体である。動きはのろいが攻撃力はある。

「レイルーラでキングイーター3体を撹乱する。キングイーターが俺を見失っている間に攻撃してくれ」テリーはスラリンとピエールにそう言ってキングイーターの元へ走って行った。キングイーター達は標的をテリーと定めた。キングイーター達の直接攻撃が届くギリギリの場所でテリーの体が消え、すぐにキングイーター達の背後に現れた。「ええっ!?」スラリンとピエールは驚いた。

「おい、何してんだよ!早く攻撃しろ!」テリーはどなった。

「おっとと、しんくうは!」「いけー、ブーメラン!」2匹の攻撃がキングイーター達に直撃した。キングイーター達の視線がスラリンとピエールに向いた。「しんくうは」テリーのしんくうはが背後からキングイーターに当たり、キングイーター達は倒れ、その後ピエールのさみだれけんでとどめをさされた。

「こらー!お前ら、戦いの最中にボーッとするなよ!」テリーは言った。

「いやいや、まさか本当に瞬間移動するとは・・・」ピエールはまだ信じられないものを見たという表情だった。

「だから言ったじゃん、レイルーラって呪文が使えるようになったって」

「テリー自身が高速で移動する技のことをレイルーラと名付けていると思っていました」

「いやいや、どんだけイタいやつなんだよ。そんな恥ずかしいこと言う訳ないじゃん」

「だって、ねえ、ピエール・・・」スラリンはちらりとピエールを見た。

「こら、よしなさい、スラリン・・・」ピエールはスラリンを注意した。

「テリーってさ、その、青い・・・プププッ・・・」スラリンは笑いを堪えていた。

「スラリン・・・、いけません、クククッ・・・」ピエールも同様だった。

「何だよ。言いたいことあるなら言えよ」テリーは何となく気付いていた。

「テリーって青い閃光って言われてたんでしょ!?センコーだって!センコー!!お盆になったら仏壇にあげたりするの?」

「テリーが先生になったらその生徒達はテリーを青い先公と呼ぶんでしょうな」

スラリンとピエールはそう言って笑い転げた。

「お・ま・え・ら~」

青い閃光というのはテリーがレック達と会う前に一人旅をしていた時の通り名で、おそらくドランゴ討伐の任務の際、ドランゴと戦う様を見たアークボルトの兵士達が付けた名だろう。そこまではいい。だが、それを聞いて調子にのったテリー自身が行く先々で名前を聞かれるたびに「俺はテリー、巷じゃ青い閃光と呼ばれている」と言っていた。さらに調子に乗って「俺はテリー(右手の人差し指を上げる)、巷じゃ青い閃光と呼ばれている(左手を伸ばし、左手の人差し指を名前を聞いた相手に向ける)」とポーズまでつけていた。2~3年前のことだが恥ずかしい。あの時は若かった。いや、今もまだ10代なのだが。

「お前ら今日はメシ抜きだ。まもののエサの匂いでも嗅いで、その辺のペンペン草食ってろ」テリーは言った。

「ゴメーン、もう言わないよ。言わないよ」

「どうかお情けを、テリー様。でなければ仲間の魔物虐待としてルイーダの酒場に正式に抗議文書を送り、最悪の場合、最高裁まで争うことに・・・」

すっかり人間の食べ物に餌付けされている2匹であった。

 

「いやー、良かった、良かった。今日1日で戦闘回数30回以上だもんな。ダメージもあんまり受けなかったし」

本日の戦闘を終えて、クリアベールの宿屋で休んでいる一行の中で、テリーはひたすら上機嫌だった。

「おめーら、結構強いじゃん。レベル30代前半とは思えねーな」

テリーに言われてスラリンとピエールは困惑していた。そうだ、自分たちはこんなに強いはずがないのだ。自分の実力以上の装備をしているからかと思ったがそうではない。身体の内側からあふれるエネルギーが、かつてない程に湧いてくるのである。

「なんていうかその・・・、テリーと一緒に戦っていると、力が溢れてくるのです」ピエールは言った。

「・・・テンションが上がるんだよね」スラリンも言った。

「おめーら、気を使わなくていいって」テリーは恥ずかしそうに言った。

「レック殿達と旅をしていた時はこんなことはありませんでした。アモス殿がまもの使いの職業についていたのですが、だからといって私とスラリンが強くなるということはなかった。考えられる理由は2つ。ひとつはテリーの現在の職であるはぐれメタルの職が一緒に戦う魔物を強くする特性を持っているのか。もうひとつはテリー自身が一緒に戦う魔物を強くするという特性の持ち主なのか・・・。私は後者だと思いますがね。であればバトルレックスにすぎないドランゴがあれほど強大な力を有していたということも納得できます。竜族の中でもバトルレックスはそれほど上位という訳ではありませんからね」ピエールは言った。

「いやいや、俺にそんな力はねーよ」自分が強くなることしか考えていなかったからな、とまではテリーは言わなかった。

「テリーはモンスターマスターかもしれません」ピエールは言った。

「そうだよ。テリーはモンスターマスターだよ!モンスターマスターだよ!」

「え?何?モンスターマスターって?」

「モンスターマスターとは魔物と一緒に仲間を集め、戦い、冒険する魔物の導き手です。モンスターマスターがいれば、そのパーティーの魔物は実力以上の力が出せると言われています」

「ふーん・・・」俺は勇者になりたいんだけどなとテリーは思った。一人になっても戦い抜ける力が欲しいのだ。もちろん仲間も大切だが、デスタムーア討伐の旅の時のように仲間に助けられるだけの者になりたくない。

「テリー、ドランゴの勧誘は失敗しましたが、魔物の仲間を作りましょう。私とスラリンはスライム族であるがゆえに体力(HP)は低い。ハッサン殿のような敵の攻撃を受けきれる仲間が必要です。いずれは8人編成の部隊を作りダーマダンジョンを目指しましょう。

それから、それから・・・」

「もー!今日は寝ようぜ。話し合いは明日の朝。今日はみんなすごーく頑張ったから考えるは明日!おやすみ」

テリーはベッドにもぐり、眠りについた。

テリーは夢を見ていた。幼い自分が魔物達を率いて様々な旅の扉に入り、大事な何かを探している旅・・・。目を覚ますといつも忘れてしまう夢。しかしその夢を見ると、辛いだけだと思っていた自分の子供時代の中にも、幸せな時があったと思えるのである。

 

 




青い閃光というのは私が幼少時代に愛読していた「ドラゴンクエスト6 幻の大地」の漫画の中に出てきたテリーの通り名で、私はこの漫画に出てくるテリーが格好良くて大好きでした。(キャラデザは少しDBのトランクスを意識してあった様に思えますが)
当初、私はこの漫画のようなムチャクチャ強いテリー(アクバーを一撃で倒します)を主人公にしようと思っていましたが、文章となると全く深みが出ない為、この様な後ろ向きなテリーとなりました。一応強キャラの場合も考えていて、無双をするテリーを敵幹部が「あいつは伝説の魔物を食う魔神、ダークドレアムではないのか!?」と驚くセリフも考えていました。
この漫画は本当に面白く、主人公のボッツのキャラや口調がコロコロ変わることや、呪文の威力がいろいろおかしいことや、幸せの国に行った人が「普通」を考えた際、「母ちゃんの作ったシチューを食う」というセリフで、それって結構幸せなことじゃないかと子供ながらにつっこんだものです。漫画表現が難しそうな場面はダイジェストになりましたし。
まあ、何が言いたいのかというと、この漫画が好きな同志の方、ネタにして本当にすいませんでした。


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第14話 滅びの村のザンテ

ゲント族の族長チャムは、チャモロのおじいちゃんの名前です。公式の名前がわからなかったので、オリジナルの名前としました。公式の小説版とか読んどけばよかったです。
今回からシドー教がらみの話です。うまいこと元々考えていた話につながってくれると良いですが。



ムドーのレイドック領への侵攻が始まりだした頃、とある村が人間の盗賊たちの襲撃により壊滅させられた。その報を聞いたゲント族の族長チャムは数人の部下を引き連れてその村へ向かった。殺された人間をきちんと弔わなければ恨みを持ったまま天に帰ることもできず、ゾンビや死霊の様な魔物となり、この世をさまよい続けると信じられていたからである。

チャム達がその村に着いたのは夕方であったが、破壊された建物には火の粉が残り、町の中を明るくしていた。チャムやその他のゲント族の者たちは消火活動や死者の弔いをしていたが、とある崩壊した民家の前で宙(ちゅう)を見上げる生き残りだと思われる少年を発見した。

「少年、死んだ両親の霊魂を見ているのか?」

チャムが少年に話を聞くと周りのゲント族の者たちはギョッとした目でチャムと少年を見つめた。

「へえ・・・、あんたにもこれが見えるの?大きいのが父さんでもうひとつが母さん。育ての親だけどね。捨て子だった俺を拾ってくれたんだ」少年は答えた。

「両親と話をしていたのか?」チャムは聞いた。

「うん、何十人もの馬に乗った男たちが襲って来て、すごく怖かったって。俺が隣の家のベンおじさんと一緒にちょっと離れた森に薬草採りに行っている間に襲われたみたい。ベンおじさんはまだ薬草探すっていうから俺一人で村に帰ってきたけど、もうその頃には村の人たちは誰も生き残っていなかった。何日か前にベンおじさんの娘のアンナが行方不明になってたから、その盗賊たちにさらわれて人質になってたんじゃないかなあ・・・。で、俺を遠ざけてる間に盗賊たちは村を襲ったの。村の人たちをみーんな殺して、色々奪ったんだって」

「・・・どういう事だ?なぜお前を村から離しておく必要がある?」

「ああ・・・、俺はね、周りの人から見ると不思議な力を持ってるの。俺は当たり前の事だと思うけどね。俺が思ってることがそのまま、そのとおりになるって事が」

いまいち、少年の言葉の意味がわからず、ゲントの民たちは黙っていた。

「ベンおじさんは炎に包まれて苦しんで死んだよ。アンナに罪はないからね。生かしておいた。この村を襲った奴らはそのうち捕まえて全員焼き殺す。そいつらにそいつらの家族の場所を吐かせてその家族も殺す。同じ思いをさせないとね。俺はね、相手の顔がわからないと力の出しようがないの。だからその盗賊たちを早く追いかけないと。父さんと母さんに別れを言い終えたらすぐに行くんだ」

「ちょっと待て、お前の言うベンおじさんとやらはこの村が襲われたあと会っていないんだろう?どうやって殺したんだ?」

チャムは恐る恐るこの少年を刺激しないように聞いた。

「俺が望むとね、叶うの。俺はベンおじさんに炎に焼かれて苦しんで死んでほしいと強く願った。だからベンおじさんはそうなった。それだけだよ」

ぞくりとゲントの民たちに悪寒がはしった。嘘を言っていないことはこの少年の目と雰囲気でわかる。ゲントの民たちは思った。この子は「魔族の落とし子」だ。戯れに人間の女を犯し、子を孕ませた上級の魔族がその種に大量の魔力を与える。大概死産となり母親共々死ぬことが多いのだが、まれにこの子のように生き残り成長していくことがある。そうなった場合も、幼児の段階で報告され近隣の国の兵隊や教会の者たちに「殺処分」される。しかしこの村はこの子を村ぐるみで隠しておいたのだろう。今となっては理由はわからないが。

「ああ、俺の力がわからない人たちか?見せようか?」

そう言ってその少年は一軒の家を指差した。「爆発しろ」少年がそう言うとその家の上部にできた球体に粒子が集まっている様子が見てとれた。

「いかんっ、伏せろ!」チャムがそう言うとゲントの者たちは頭に手を当てて地面に伏せた。ドゴオオオンッ!!と巨大な音をたてて爆発が起こった。

「あっ、あああ・・・」ゲントの民の一人が腰を抜かして座り込んだ。かつて家のあった場所は無くなり、地面が少し窪んでいた。

「大丈夫だって。あんたたちに被害が出ないように力を調整したからさ」

少年は何事も無かったかのように言った。

チャムは服についた土や埃を払いながら言った。

「私はゲント族の族長チャムという。少年、名前は?」

「ザンテだよ」

「ザンテ、お前の力で殺された村の人たちを生き返らせてやることはできないのか?」

「無理だよ。皆もう切り刻まれて体はボロボロだし、天国があるならそこに行きたいってさ。生き返りたくない人たちを生き返らせるのは無理なんだ。魔物がいたら魔物に殺されて、魔物が出ない所じゃ、悪い人間や偉い人間に殺される。生きてるのが嫌なんだってさ」

「ザンテ、お前はこれからどうする気だ?」

「さっき言ったよね。盗賊たちを皆殺しにするって」

「その後は?」

「考えていない。金持の人間を襲って、金もらって生きてくかも」

「それではこの村を襲った盗賊たちと変わらないだろう?」

チャムがそう言った瞬間、ザンテの体から殺気が上がるのが周りのゲントの民たちにも分かった。

「私と一緒に来ないか?ザンテ」

チャムの言葉にゲントの民たちは絶望感が増した。この魔族の落とし子を神の使いと言われるゲントの民の中に入れるつもりか?

「世界を救えるかどうかわからん。しかし世界に光を与えることはできる。我々ゲントの民は傷ついた者たちに癒しを与える存在だ。力というのは本来、強者が弱者に与えるものであるのだ。お前には魔法の才能がある。その才能を正しき方向へ導きたいと思う私の心は間違っているか?」

「わかんねえよ。でもさ、色々わかりたいと思っている。・・・俺さ、本とか読みてえな。この世界は俺の知らねえことばっかりだ。なんで俺はこんな力持ってんだ?俺はこの力を持て余してしょうがねえ。あんたの言う通りだ。父さんと母さんがいなくなったんだ。もう俺を怒る人間はいなくなったから、それこそ、俺はムカついたらムカつかせた奴を殺すだけの人間になるんだろうなって思ってた」

ザンテの言葉をチャムは黙って聞いていた。

「そしてベンおじさんの苦しんでる顔、アンナの悲鳴、すげえ怖かった。でもさ、どうしろっていうんだよ?そりゃ、盗賊たちが一番悪いのはわかってるよ。おじさんは脅されただけだってわかってるよ。でも、俺の気持はどうすりゃいいんだよ?」

「その答えを私と一緒に探さないか?」

「・・・行くよ。腹も減ったし。飯は食わせてくれるんだろ?」

「食事はきちんと出してやる。本についても心配するな。人間や魔物の歴史から魔法や神々についての考察、人体の破壊から治療まで一通り揃っている。読み書きはできるんだろうな?」

「あー・・・」そう言ってザンテは頭を掻いた。

「まあ、まずはゲントの民としての仕事だ。この村で亡くなった者たちを丁重に葬ってやらんといかん。その前に両親や村の者たちに、お前の勤め先が決まったと報告しろ。盗賊たちの捜索についてはレイドック王国に私から話しておく」

「わかったよ。チャム・・・さん」

「こっ、これ!ザンテ。チャム様と言わぬか!」

あわててそう言う部下をチャムは笑ってとめた。

 

チャムは安堵した。自分を含むゲントの民が魔族の落とし子にこの場で皆殺しにされるという最悪の事態を避けることはできた。だが自分には大いなる仕事ができてしまった。この魔族の落とし子を正しく矯正せねばならぬのだ。多少なりともザンテに「他人の話を聞く」ということを教育した育ての親には感謝しなければならないだろう。あとは自分が引き継ぐ番だ。ザンテの「魔」を少しずつ削っていくのだ。

 



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第15話 仲間は誰にしよう?

「ほらー、もう宿出る時間だぞー!起きろー!」

テリーはそう言ってスラリンとピエールを起こした。魔物の2匹は夜行性なのか朝弱い為、目をしぱしぱさせていた。

「歯を磨いて、顔洗ったら部屋出るからな。忘れ物するなよ。少しでも部屋から出るのが遅くなったら(もう一泊されると思っていたので、別のお客様の宿泊を断りましたから)とかなんとか言って追加料金取ろうとするからな、この宿は。さっさと出るぞ」

テリーは2匹を急がせた。

「1階の食堂で朝飯食いながら昨日の話の続きをしようぜ。どんな魔物を仲間にするか決めよう」

そう言って、テリーは食堂のテーブルの椅子に座り、スラリンとピエールもそれに続いた。

「話し合いをする前に1つ言っておかなければならないことがある」

テリーがそう言うと、スラリンとピエールも目が覚めたように気を引き締めた。昨日の戦闘の反省点か?これからの未来への展望か?

「この食堂は回転率を上げるためか何かわからんが、こっちが飯を食い終わると、まだもう少しゆっくりしたいなーとか思っててもすぐに皿を引いて、テーブルを拭き始めて早く店から出て行けオーラを出しやがるんだ。食事を持ってくる時はごゆっくりどうぞとか言ってるくせに。それは客が多い時でも、客が俺一人しかいない時でも変わらない。だから飯はゆっくり食うんだ。3分の1位残してゆっくりしてると皿を引こうとするからその時はまだ残ってるんでってはっきり言うように。飯を全部食ってしまったら水でねばれ。ここは高級なとこや健康指向のとこみたいにアモールの水を使ってる訳じゃなくてその辺の井戸水をだしてるだけだから水はタダだ。ただし、コップの水を一気に飲み干すと目を離しているスキにコップを持っていかれておかわりの水を頼もうとすると有料のお茶を勧めてくるから水のおかわりはコップの水が半分になったらすぐにおかわりをするのがベストだと思う。あとデザートは割高だから注文しちゃダメだぞ。あんなもん、道中に咲いている果実を切って、ヒャドで冷やして剣で切って食えば良いだけだからな。それを定食と同じ値段で出してくるんだからな。それから夜ここで飯を食うとお通しとか言って小さな皿にちょっとの料理出してくるんで、サービス良いなと思ったらなんと金取りやがる。頼んでねーし、ビミョーに高いからここで夜飯食う時は席について店員がメニュー持ってくる前にお通し要らないっていうんだ。それから100%フレッシュ林檎ジュースっていうから、林檎の果実を専用器具で搾ったものかと思ったら市販のリンゴジュースをそのままコップに移してるだけで・・・」

テリーの話を食堂の大将と女将は頬をピクピクさせながら聞いていた。この食堂としてもほかの客に、うちの店は世界を救った英雄、青い閃光テリーがよく来て料理を絶賛してるんですよとかここの料理を食べたから魔王を倒せたとか言ってますとかテキトーなこと言ってるからあまり文句は言えなかった。魔物と戦い、毎日数千ゴールド稼いでいるから数ゴールドの金は気にしないだろうと思っていた。こんなことなら宿と飯はタダにするから世界中でクリアベールの食堂を宣伝してくださいとか、装備品のよく見える場所に(食べたらレベルアップ!クリアベール食堂の日替わり定食)とか書いてもらえば良かったと2人は思った。

スラリンとピエールは目のあった他の客にどうもすいませんね、こういう人なんですよと目でメッセージを送り頭を下げていた。

「テリー、大変参考になりました。さあ、本題である仲間の魔物を誰にするか話し合いましょう」ピエールは言った。

「今からこの店のメニューの原価と利益率とそれによって導かれる損益分岐点の話をするつもりだったのに・・・。まあ、いいや」テリーはしぶしぶ納得した。

 

「テリーはどんな魔物を仲間にしたいの?」スラリンは聞いた。

「そうだな、俺は今からはぐれメタル、賢者、スーパースター、レンジャーと武器を使った直接攻撃が得意でない職業を極めていかなきゃならないから、単純に物理攻撃が強い奴が欲しいよ」

「レイルーラありきの今の戦術はダーマダンジョンに入った時は使いづらい、いや、使えませんからね」ピエールが言った。

「何で?」テリーがたずねた。

「ダンジョンというのは奥にいるボスを頂点とした組織になっていることが多いからです。今までのようにフィールドでの戦闘ならそこで完結しますが、ダンジョン内でテリーがレイルーラを使えば、レイルーラという呪文を使うということがそのダンジョンのボスに伝わり対策をとられてしまうことがあります」

「レイルーラの対策っていうとやっぱり・・・」テリーは聞いた。

「一番簡単なのはテリーが消えた瞬間、防御することでしょうね。攻撃が来ることがわかっていますから。もしくは体全体から魔力を放出させることが出来る魔物であれば、テリーがレイルーラで消え姿を消した際に魔力を放出させれば、出現したテリーを吹き飛ばすことができるのではないでしょうか」ピエールは言った。

「それにね、僕、後ろから見てたからわかったんだけど、テリーってレイルーラ使ったら大体敵の真後ろに現れるでしょう?敵が複数の時は敵の死角に隠れるってのもあるけど、出現する場所のバリエーションやパターンが少ないからカンの良い魔物が相手なら、戦っているうちに、テリーの出現場所がわかってくるんじゃないかなあ?僕、昨日の戦闘の途中で予想できるようになったもん」スラリンは言った。

「ぐぬぬ・・・」テリーは歯噛みした。便利な技だが単純な技でもあるため、少し観察されただけで弱点が解析されてしまった。

「今までのテリーのレイルーラで敵を攪乱して攻撃という変則的な戦術からオーソドックスな前衛・中衛・後衛といった役割を決めたフォーメーションに移行していきましょう。

それから戦闘スタイル、バリエーションを増やしていくのです。テリーの言う通り、今のところ我々には直接攻撃の強い者がいない。まず、重い武器の持てる力を持ち、体力(HP)の高い魔物を仲間にするというのはいいアイデアでしょうね」ピエールは言った。

「うーん、だったら体のでかい奴かな。そうだ、お前らスライム族にキングスライムっているじゃん。あれでいいんじゃね」テリーは言った。

「ああ、キングスライムね・・・。あれね・・・」スラリンとピエールは暗い顔になった。

「あいつら自分たちがキングスライムって名前だから、なーんか他のスライム族を下に見ててイヤなんだよね」

「そもそも、あいつらはスライムの合体したものというのが始まりだそうですので、スライムの亜種である私やホイミスライムと変わらないはずなんですけどね。キングスライムなんて自分で言い出した名前ですし、大して賢い訳でもないのに一人称が我輩(わがはい)なのもイラッとくるポイントです。しかしテリーがどうしてもと言うのなら私は血の涙を流し受け入れるつもりです」

「僕も前世でお地蔵さんをいっぱい倒した罰を今世で受けると思って耐え抜くよ・・・」

「いーよ!わかったよ!キングスライムいらねーよ!つーかお前らあいつ嫌いってはっきり言えよ!」

テリーがそう言うと2匹の顔色が元に戻った。リーダーの言うことに従います、テリーがそう言うなら仕方ないよねと2匹は明るい声で言った。

 

「いや、直接攻撃が強い奴が欲しいって言ったのは思いつきで即戦力になってくれるなら戦闘スタイルはそこまで求めないんだよね。例えば素早さが高くて攻撃をくらわないとか、一番最初に攻撃が出来るとか、防御力が高くて敵の攻撃を受けても大丈夫とか。まあ、一芸に秀でてくれればそれで良いんだよね」

「「ああっ!!」」テリーがそう言うとスラリンとピエールは声を揃えて叫んだ。

「あいつがいたね・・・」スラリンは言った。

「確かに。どこかに人間のパーティーに加わった記録が有るとか無いとか・・・」ピエールは言った。

何だよあいつって、とテリーが言う前にピエールがテリーを指差した。

「テリーの今の職業と同じです。はぐれメタルですよ」

 



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第16話 魔族の落とし子指導計画

チャム達とゲントの村へ来たザンテは建物の整然とした造りに驚いた。

「キレーな家ばっかだな。それに家と家の感覚もほとんど同じっつーか・・・」

「数学と建築学の知識があればそう難しいことではない。ザンテ、お前は将来大工か建築家になりたいのか?」

ザンテの言葉にチャムがこたえるとザンテはいやそういう訳じゃないんだけどさとプイッと横を向いた。ザンテの住んでいた村と違い過ぎて驚いたのだ。同じ「村」だからこれほど差があるとは思わなかった。

「ザンテ、お前の知りたい答えを探す手伝いはしてやる。私が今回のように任務で外に出る時はお前もついてくるんだ。この村にケガ人や病人が来た時は私が診るからお前も一緒にいろ。そうでない時は午前中は村の農作業の手伝い、午後は自分で勉強をするなり本を読むなりしろ。夕方に私が時間が空いていたら私がお前に世界の話や呪文の稽古をしてやる」

「うん。わかった」チャムの言葉に当たり前の様に頷くザンテの周りでゲント族の者たちは驚いていた。たった一人の孤児をゲント族の族長がつきっきりで面倒をみるなどなかったからである。だが仕方ないという想いもあった。「魔族の落とし子」の面倒など誰もみたくない。

 

「ザンテ、ここがゲント族の誇る書物倉庫だ」

チャムがザンテを招き入れたその部屋には何千冊もの本があった。チャムの命令でチャムには護衛を付けず、チャムとザンテの2人きりとなっていた。

「神の使いとされるゲント族という我々の立場上、歴史・宗教・魔法の類の本が多い。そうだ、お前の村には教会が無かったと言っていたな」

「うん・・・。大地の精霊ルビス様に食べ物の感謝のお祈りをするくらいだった。教会から派遣されたって人は時々来てたけど、村の人たちが追い出してた。教会を邪教とか言ってた・・・」

土着の信仰である精霊崇拝の人々からすると唯一の神は教会の神であるとする教会の考えはなかなか受け入れにくい。だがそれでも世界中に教会があることを考えると教会の宣教活動はうまくいっているのだろう。

「我々ゲント族にも癒しの精霊とも生と死を司る精霊とも言われるゲント様を崇拝しつつ教会の教えも取り入れている。世界には色々な考え方を持つ者がいるのだ。拒否するだけでなく、理解し、場合によっては受け入れなければならん」

「その精霊と教会ってそんなに違うの?」

「一番わかりやすいのは魔法に対する考え方だな。ルビス様をはじめとする精霊崇拝は魔法はこの世界に漂う精霊の力を借りて行うものだとしている。例えばメラなら火の精霊、ヒャドなら水の精霊だな。精霊に力をかしてもらうために清き心と体でおらねばならぬという訳だ。教会は魔法は魔法陣の構築、つまり魔法の使用者である人の力で行うものとしている。様々な計算式により魔法陣を作り出し、その魔法を放つ。魔法使いや僧侶、さらに賢者と言われる者がかしこさが高いのはそのためだと言われている。なぜこのような違いが出来たのかというとその宗教のおこった土地柄の違いの為だと思われる。穏やかで豊かな自然により恵みを受けてきた人々は自然に感謝し、自然の力を借りて魔法を生み発達させた。逆に暑さ、寒さがはっきりしていて雨も不定期にしか降らないような厳しい自然の元で生まれた宗教は自然に頼らず、自然の力に対抗するために自らの力で作り出した魔法が生まれたと言われている。

興味深いのは歴史だ。かつてアレフガルドと言われていた世界がありそこは精霊ルビス様を信仰する世界だった。しかし、ガイアと言われる上の世界の教会の神を信仰する人々が時々下の世界に落ちてくるようになった。精霊崇拝に教会の教えが入りアレフガルドはどうなったか?答えは出ていない。一説には、ガイアの教会より伝わった魔法の力でアレフガルドの人々は王族や選ばれた人間しか使えなかった魔法が一般の人まで使えるようになったと言われているが、別の説では余計なものが混ざりアレフガルドの魔法は退化し弱くなっていったと言われている。

歴史家の間では今我々の住む地はガイアかアレフガルドかという論争がある。アレフガルドではルビス様は大地の精霊でなく創造神ルビス様と言われていたという歴史書もある。世界を造る程の神であったのだ。そのアレフガルドは大陸が数百年の間形を変えることがなかったという。しかし我々の住む世界はどうだ?地殻変動がよく起こり大陸は形を変え続けている。数百年後には世界の形が全く変わっているだろうという者もいる。ルビス様の力が及ばない、及びにくい世界であるためこうなっているのだ。よって私はこの世界がガイアが地殻変動で形を変えた世界であると思う。

この論争とは別に、ルビス様がこの世界におられるという説もある。サンマリーノより西の海での航海中に「これより北上すると邪悪なもの棲む島に行く」との旨の女性の声での警告を聞いた船乗り達の証言が多くあるのだ。その声を無視して北上もしくは接近し上陸した船が邪悪な者の棲む島にある難破船らしい。レイドック軍の船かもしれんとのことだ。この話が真実であるなら、ルビス様はどこにおられるのか・・・天空か、海底に神殿を作っておられるのか?これにも様々な・・・」

そこまで言ってチャムはザンテがキラキラとした目で自分を見つめている事に気付いた。

「なんだよ、チャム様。その続きは?早く話してくれよ・・・」ザンテは言った。

「・・・今の話、面白かったか?」

チャムは自分が調子にのって話し過ぎたことを恥じながら言った。

「「スゲー面白えよ!そんな話してくれる人いなかった。俺ってそんな広い世界にすんでいたのか!」

「ここから先は本で読め。ああ、それから今私が話した事はすべてが真実とは限らんぞ。本の内容が全部本当の事が書いてあるかどうかわからん。作者の憶測であるかもしれんしな。その中で自分で真実であるという事を探すのだ」

「わかった。ああ・・・、けど字が・・・」

「幼児向けで字を教えているクラスがある。そこに入って学ぶんだな」

「俺、結構いい年なのに。恥ずかしい・・・」

この世界の識字率などしれている。育ての親や村の者でも読み書きが充分ではなかったのだから恥じることはないとチャムは言った。

 

「ザンテ、お前には精霊の力を借りる魔法も魔法陣を使う教会の魔法もすべて覚えてもらうぞ。同じ呪文でもどちらのやり方もできるようにな」チャムは言った。

「うう・・・、俺そんなことをしなくても頭の中で願うだけで・・・」

そう言うザンテの頭にチャムは手をのせホイミと言った。

「どうだ?頭はスッキリしたか?」

「え?う、うん。なんか頭の中のモヤモヤが取れたような・・・」

「ハハハ!私はただお前の頭の上に手をのせただけだ。何の呪文も使っとらんよ。ただ、お前は頭の中のモヤモヤが取れたと言った。暗示というやつだ。ホイッと身を治すからホイミという呪文になったという説もある。言霊の力もバカにできんだろう?」

チャムは続けていった。

「ザンテ、これは願えば叶うというお前の力を制御するための修行だと思え。世界がお前に合わせるのでなく、お前が世界に合わせるのだ」

ザンテはうんうんといった感じでとりあえず納得した様子だった。

 

そうだ。人間の世界の常識を身につける度に、お前の非常識な魔の力は削がれていく。後はタイミングだ。それまでお前の望んだこの恵まれた環境でストレスやフラストレーションを溜めることなくおとなしくしておいてくれよとチャムは思った。

 

 



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第17話 メタル狩りの準備

「はぐれメタルって仲間になんの!?」テリーは驚いて聞いた。

「いや、まあ、私もスラリンもそういう話を聞いたことがあるというだけです。実際に、はぐれメタルを連れた人間のパーティーを見たことはありません」ピエールは答えた。

ふうん、とテリーは考えてみた。はぐれメタルがパーティーの一員となる。物理攻撃は期待できない。攻撃呪文はギラを使えるくらいか。これでは即戦力とは言い難い。が、あの「みのまもり」と「すばやさ」、そしてほとんどの呪文、とくぎが効かないという特性は捨てがたい。戦闘となればはぐれメタルが動き回って敵の注意を引いている間に自分達が敵を攻撃するのだ。はぐれメタルなら敵の中に紛れている時に、こちらの攻撃呪文やとくぎを敵に放っても無傷だろう。それに「はぐれメタル」だ。ドランゴが「ドラゴン」の職業であったように、「はぐれメタル」の職業についているなら、自分のようにレイルーラを覚えるかもしれない。うん。良い!

「よーし、はぐれメタルを仲間にしようぜ!」テリーは言った。

「いやいや、仲間になるかどうかわからないんですって」

「はぐれメタルってメタルスライムが硬度を保ったまま突然変異をおこしたとか、液体金属が生命を得て形を維持できないでバブルスライムみたいな形になったとか、はたまたオリハルコンが神か魔王から生命をもらったとかいろんな説があって、言葉もしゃべれないから同じスライム族の僕らでもわからないんだよ」

「正確には、液体金属がたまたまスライム族の形に似たものに変化した場合もあり得る為、スライム系でなく物質系である可能性もあるのです。物質系の魔物は言葉を持たない者が多い為、そうであったとしても納得できます」

 

スラリンとピエールの話がテリーの好奇心を刺激して、テリーの心がうずうずしてきた。そんな未知の生物だったのか。知りたい。こりゃ仲間にして、直接話を聞かなきゃな。

「よーし、絶対はぐれメタルを仲間するぞ!」テリーが右手をあげて叫んだ。

「・・・我々の話聞いてました?」ピエールが言った。

「まあまあ、聞けって。はぐれメタル倒せばすっごい経験値が入るじゃん。レベル上げのついでだよ」

「でもさー、レベル上げ過ぎると今度は熟練度が入りにくくなるよ。ムドー倒した後、レベル上がり過ぎてたせいで、ハッサンだけ職業の成長が遅かったって嘆いていたもん。逆にムドー城に入らなかったバーバラがどんどん熟練度入っていって、一番最初に上級職になったのはバーバラなんだよ」

比較的早い段階でレック達パーティーの仲間になったスラリンが言った。

「大丈夫だって。魔物が強い場所は大体レベル99まで熟練度入るんだから。ガンガンはぐれメタル倒して強くなろうぜ。そんで運が良けりゃはぐれメタルも仲間になると」

テリーは笑って言った。

「スラリン、今の魔物使いの熟練度は?」ピエールが聞いた。

「ひゃくれつなめを覚えたばかりだからまだ4だよ」スラリンは答えた。

「ふむ、位階が高いであろうはぐれメタルを仲間にするにはまだランクが低い気がしますな。最低でも6は欲しいところです」ピエールは言った。

「あー、どうせメタル狩りをするなら弱くてもいいから、まずは他の魔物を仲間にしないか?はぐれメタル1匹倒したら、レベル1の奴なんて一気にレベル10位までいくんじゃね?」テリーは言った。

「良いアイデアですね。どのみち仲間は入れなければいけないのです。即戦力でなくても育成枠として2匹位仲間にしてホイミタンクとして使いましょう」

「まーた、そんなこと言う。仲間になってくれるなら好きな職業にさせてあげて、強くして喜んでくれるならそれで良いじゃん」

「いやいや、テリーは魔物の事がわかっていない。仲間になった魔物はリーダーである人間の望みを叶えることが最大の喜びですから。リーダーがこの職業につけと言えば喜んでその職業につきます」

「んじゃ、お前今から遊び人に転職しろよ。そしたらくちぶえ担当にするから」

「絶対に嫌です」

「言ってること違うじゃねーか」

 

「おいおいスラリン、ピーナツは一気に食うもんじゃない。一粒、一粒味わって食うんだ」テリーは言った。

「だって僕水ばかり飲んで飽きちゃったもん」

「だからこのやたら塩気の多い(おつまみセット)を頼んだんだろーが。いいか、ピーナツは一人10粒、アーモンドは一人3粒、ナッツは一人2粒までだ。ペース配分を考えながら食べるんだぞ」

なんだかんだで朝食をさっさと食べてしまい、水ばかり注文することに耐えられなかったため、仕方なく全員分として(おつまみセット)を注文したスラリンに対してテリーが注意した。まだまだ会議は続くからなとテリーは言って話を馬車のことに移した。

「育成枠の魔物を入れるなら馬車が必要だな。まずは育成枠の魔物は安全な馬車に入ってもらってて、俺達の戦いを見ながらレベルと熟練度を上げてもらおうぜ」テリーは言った。

「育成枠の魔物を誰にするかはひとまず置いといて、馬車を作ってもらうのはハッサン殿でいいですか?ついでに馬も手配してもらいましょう」

「僕、ハッサンに会いたい、会いたい」

かつての仲間との再会を楽しみにする2匹をよそに、テリーはテンションが上がらなかった。実家の大工を継いだハッサンからすると、いまだに冒険者をしているテリーはモラトリアムに見えなくもないだろうから、まじめに働け、就職しろ、将来云々の話をされる予感がした。とはいえ冒険者というのはこの世界では十分稼ぐことのできる職業の一つであるし、ゴールド銀行にはそこそこの額が預金してあるので、何か言われた時のためにゴールド銀行から預金額の書いてある紙を発行してもらおうかなあと考えているテリーだった。

「テリー、大丈夫ですって。ハッサン殿には私が交渉しますから」

「いーよ!交渉事を魔物に任せましたなんてやったら、本物のダメ人間だよ!ちゃんと自分でやるよ!」テリーはピエールに言った。

 

「その後、アモっさんの所に行こうよ。魔物使いやってたから、どの魔物を仲間にしたらいいか教えてくれるよ」

「おおっ、素晴らしいアイデアだなスラリン」ピエールはスラリンを褒め称えた。

「そんなもん、大体わかるからわざわざ聞きに行くほどのことでもないだろ。おめーらただアモっさんに会いたいだけだろ」

ますます盛り上がる2匹にテリーはつっこんだ。

ちなみにアモっさんというのはアモスのパーティー内での愛称だ。10代のレック、バーバラ、チャモロ、テリー、20代前半のミレーユ、ハッサンはお互い呼び捨てだったが、年齢非公表でどうみてもアラサーのアモスは呼び捨てにしてはいけない雰囲気だったので皆気を使って、アモっさんとビミョーに敬称をつけて呼んでいたのである。

「あのおっさん、結婚して子どもが産まれるとかミレーユ姉さんが言ってたよ」

「それはめでたい。お祝いの品は何にしましょうか?」

「ハッサンのいるサンマリーノで何か買えばいいんんじゃねーの?クリアベールの名物の寝具でも良いけど、新婚の人に寝具渡すのもなーんかやらしくて嫌だよな」

「じゃあ、まずサンマリーノだね。ああっ、もうお昼近いよ。ここでお昼ごはん食べてく?」

「いやいやいや、そりゃサンマリーノで海鮮料理食う方が良いだろ。くあーっ!サンマリーノに行くってわかっているなら(おつまみセット)注文しなきゃよかった。いや、違うな。朝食抜いてサンマリーノで食べ放題のランチ頼めば良かったんだ。ちくしょう・・・、昨日の晩きちんと計画立てていれば・・・」

「私は昨晩今後について話そうとしましたからね!」ピエールはテリーを責めた。

「まあ、やっちまったもんは仕方がない。お前らサンマリーノは魚介類が旨いから値段気にせず好きなもん食っていいからな」

テリー一行はそんなことを言いながら食堂の支払いに行った。

 

「3名で4ゴールドです」食堂の女将は頬をひくひくさせながら言った。

これでも十分にサービスしているつもりだったが、店を出たばかりのテリーの口から4ゴールドあればエビ1匹丸ごと焼いたやつ食えるんだけどなと聞こえた時は、やはりスポンサー契約にしておけば良かったと痛感していた。でも夜の宿はまたここにしようなとの声も聞こえてきたのであの子ったらと頬を染め、機嫌が直る女将だった。

 



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第18話 ゲント族の医療

「ザンテ様、患者が運ばれてきました。50代の男性、山道を歩いていたところを足を滑らせて転落。後から来た登山者に発見され、キメラの翼を使いここまで来たようです」

看護師としての仕事もしている教会のシスターが書庫にいるザンテに言った。

「わかりました。すぐに教会の治療室に向かいます」

ザンテは本を机に置き、病院の役割も果たしている教会の一室へ行った。

意識はあるようだから外傷のみか、骨折はどの程度か、事故からどれくらいの時間が経っているのか等を考えながら。

そんなザンテの姿を見て、自身の集中力を切らさないようにシスターは自分の頬をポンポンと叩いた。

 

ゲント村に来て3年の間にザンテは美しい青年に成長していた。細長く見える身体にはぎっしりと筋肉が詰まっており、無駄な贅肉は1つも無い。ゲント僧の身の上であるが故に髪を剃っているがおそらく銀色の髪をしていることは見てとれた。少し赤みがかった瞳の彼が憂いを帯びた目をすると女性だけでなく男性も見とれてしまうことがあった。

魔族の落とし子は上級魔族によって犯され孕まされた人間の女性の子供であるということが人間の説であるが、本当は時折エルフと間違われる上級魔族の美しい容姿に心を奪われた人間の女性が自ら自身の身を捧げているのかもしれない。シスターはそう考えてしまった。

 

患者の男性はザンテの想像以上にひどい怪我だった。転落の際かろうじて両手で頭部を守っていたようだが、岩場に頭をぶつけたせいか左手前腕の骨折がみられる。一般人なので装備などしている訳がなく、薄着であるため他にも骨折やヒビが入ったところがあるのだろう。左半身は血で真っ赤に染まっているし、呼吸も浅い。

「まずは消毒液で傷口を洗って下さい。私はその間、回復呪文で患者の内部より体力を回復させます」

ザンテはそう言い、ゲントの精霊に対して祈りを捧げた。

「大いなるゲントの精霊よ、この者に癒しの力を・・・。べホマ」

ザンテがそう言って自らの手を患者に当てると緑色の光が患者の体内に入っていった。

これで体力は戻ったはず。後は体を怪我をする前の状態に戻る様に傷口より体内に侵入した砂等の異物の除去、切れてしまった血管や神経を元に戻す必要がある。

痛みが強くなるため、患者にしばらく意識を失ってもらわなければならない。ザンテの右手の掌に魔法陣が現れ、左手の人差し指を患者の頭に付けた。「ラリホー」患者は苦痛から解放されたかのように穏やかな顔となり眠りについた。

「ではこれより傷口の治療を始めます。この方が痛そうな顔をしたら私がまた回復と眠りの呪文を使いますので教えて下さい」ザンテは看護士のシスターにそう言った。

 

2時間後、疲れ果てた顔になったザンテは教会の治療室より出てきた。これで大丈夫だ。神経もうまくつながった。血管もそのうちつながり、皮膚も出来てくるだろう。患者は50代だ。一気に治して薄い皮膚が出来て、その皮膚が何度も破れたり傷が付いたりするより、少しずつ皮膚や血管を再生させた方が良い。

それにしても欠損部分がなくて良かった。回復呪文では無くなってしまった手足、指をよみがえらせることはできない。そしてゲント村で良かったと思う。教会の教えが強い地域では人体に刃を入れることを禁止しているところが多い。回復呪文の使用しか許していないのだ。人間は神のつくったものであるから、神でなき人間は魔法以外で人体への干渉が出来ないとしている。本来禁忌であるはずの人体への回復呪文以外の干渉が許されるのはゲント精霊崇拝の形もとっているからだ。以前は教会の者が時々来て、ゲント村の治療方法に神への冒涜などと言う事があったが、そこはチャム様が上手くやってくれたのだろう。最近は何も言わなくなったし、ゲント村の教会の者もこうして協力してくれる。

後は人工的に「血」を造る方法はないのだろうか?怪我や事故で大量出血をしてしまった患者は経口により食べ物を摂取しそれが栄養となって血ができるまで待たねばならない。老人や幼児はそれに時間がかかるし、そうなる前に亡くなることが多い。

いわゆる患者はザオリクで生き返らせることは禁止であるし、そもそも二度と苦痛を味わいたくないと生き返らない場合が多いらしい。

 

悩みは尽きないな。ゲントの村に来て3年になる。チャム様のお手伝いをさせてもらっていた為、医療については大体わかった。今では一人前の医師として患者を診ることが出来る立場となった。「願えば叶う」という力はこの村に来てから使っていない。瀕死の子供を抱えてきた母親を見てその力を使おうと思ったが「この力を使う者がいるとわかったら世界のバランスが崩れる」というチャム様の言葉を思い出し、力を頭の中で押さえつけた。結局その子は死んでしまった。自分を守るためにその子を犠牲にしたようで本当に心苦しかったが、それにより自分の心にスイッチが入り、必死で医療と魔法の勉強をした。あの子への償いのためにもこれから多くの人々を救わなければならない。

そしてチャム様の言うことも理解できた。この世界はいわゆる肥沃な土地と言うものが少ない。作物が育ちにくいのだ。この広い世界で人間の数はもっと増えてもいいはずなのに、町や村は広い世界に対して(点在する)といった感じだ。これは食糧の問題が大きい。限られた耕作可能な土地で限られた量の作物しかできないからだという。よって私の「願えば叶う」という力で本来死ぬ運命の人間を生き永らえさせると最悪食糧難となり、結果的に死ななくていい人間(生産性が無く弱い立場でありながら栄養を多く必要とする妊婦、乳児、幼児等)が死ぬ可能性があるという。わからないでもない為、一応は納得した。

 

皆口には出さないが、私は魔族の落とし子だ。それ位は本で読んで知っている。変に目立って迫害されるよりはいいかもしれない。チャム様の言われる様に私が世界に合わせ、私に出来ることをやるのだ。チャム様が私を救ってくれたように、私はたくさんの人々の命を救う。人体への干渉を回復呪文のみとしている教会の教えのみならず、人体を切り開くことも厭わないゲント族の教えを世界に広め、病気やけがで苦しむ人々を救うのだ。そのためにゲント族の次の族長を目指そう。それがチャム様への恩返しとなる。

 

その日の晩、チャムは教会のシスターより提出された報告書を読んでいた。今日の患者の怪我はひどいものだったが、ザンテは「強く願えばそのとおりになる」という魔族の落とし子の力は使っていない。自分の目の届く範囲なら、ザンテの言葉を信じるなら、ザンテは魔の力を3年間使っていないということになる。

そろそろ頃合いかとチャムは考えた。ザンテは今まで何人もの人々の怪我を治し、時には命を救ったこともある。ゲント村の村人からの信頼も厚い。皆一時的に辛い思いをするだろうが計画は実行せねばならない。

ザンテ、お前が悪いのではない。だがお前に子供が出来てその子が魔王になったら・・・、

もしそうでなくても、その子のさらにその子が魔王となってしまったら・・・、そう考えるとやるしかない。

 

精霊ルビス様の神託を集めた本に今の状況をあらわすような言葉がある。

「因果の糸を切る」のだ。

 

 

 

 



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第19話 ハッサンに会いに行く

テリー一行はルーラにてサンマリーノの町に到着した。

「なあ、本当にハッサンに馬車造ってもらうの?馬車はその辺の森にいるホビットとか、きこりにでも造ってもらえばいいんじゃね?馬は魔物のユニコーンとかレジェンドホーンをなつかせて・・・」

「全く、ここまで来て。ハッサン殿に頼むのが時間やコスパを考えると一番良いのは説明したはずです」テリーの今更な意見に対してピエールが言った。

うー、なんか、知った人間に会いたくねーんだよなあとテリーは思いながらサンマリーノの町に入った。町の北にあるハッサンの家に着いた。家はいつの間にやら三階建てとなっており、表の看板にデカデカと「レイドック国指定店 ハッサン工務店」と書いてあった。

「よくわからないけど、国の名前を堂々と書いてあるあたりが権威がありますって事をあいまいにうっすらと表現しているのかな?」

「レイドック国の公共工事を入札なしで全てやってるんじゃないかととられかねない名前ですな」

「あいつ自分じゃ武道家だとか言ってたけど商人だよな」

一行はそれぞれの感想を言った。

 

「ごめん下さーい」テリーはドアを開けて店の中に入った。

「いらっしゃいませ。おや、あなたは・・・。ああ、ミレーユ様に似てらっしゃる。ということは専務に会いに来られたのですね」男性の従業員はそう言って頭を下げた。

「失礼しました。私はジョセフといいます。今ハッサンさんのところで働かせてもらっている者です。今、ハッサンさん・・・、専務を呼んでまいります」

聞いてもいないのに自己紹介をしたジョセフは受付から奥の部屋へ入っていった。

「ああ、わかった。多分町長の息子さんだね。レック達から話を聞いたことがあるよ」

「へー、はじめて聞いたよ。どんな話だったんだ?」テリーがスラリンに聞いた。

「ジョセフとメイドのサンディの恋に横恋慕したアマンダがジョセフの家の犬の餌に毒を入れてサンディのせいにしようとしたんだよ」

「懲役レベルじゃん!イタズラや嫌がらせを超えてるぞ!抒情酌量の余地ねーぞ!動物愛護の精神ねーのかよ、そのアマンダって女は!」

「当時、透明状態だったレック殿達が聞いたというアマンダの独り言だけでは決定的な証拠にはならない為、アマンダが自白しなければ罪には問われませんしね。アマンダがNoと言えばそれで終わりです」

そんな話をしていると作業着を身につけたハッサンが出てきた。

「なんだ、やっぱテリーじゃねえか。いくらこの超優良企業に入りたいつっても、すぐに雇えねーぞ。まず履歴書を送ってそれから面接を・・・」

「ちげーよ!仕事の依頼だよ!」

 

応接室という名のテーブルとイスだけある部屋に案内された。面会部屋だなと突っ込みそうになった。

「なるほど、魔物の仲間を増やしたいから馬車を造ってほしいと。ついでに馬も用意してくれと」ハッサンは言った。

「ああ、サイズは以前パーティーで使っていた馬車よりちょっと大きい位がいい。ただし頑丈に頼む。食料を入れておく箱とスペースも欲しい。イスは変形させればベッドになるようなのがいいな・・・」

テリーは適当な紙に簡単な図面を書きながら説明していった。

「よーし、大体わかった。期限は、まあ、3日みといてくれ。すぐ取り掛かりたいんだけど、仕事が詰まっててな。つらいわー、青年実業家はつらいわー」

はいはい、ご立派、ご立派。じゃあ、3日後取りに来るからなと出て行こうとしたらジョセフが4人分のお茶を持って入ってきた。来客用のお茶って普通来たらすぐ出てくるもんじゃないかと思ったが仕方なく座りなおした。

「伝説の剣士テリー様と会えるなんて光栄ですよ。まだ冒険を続けておられるのですね」

あー、どうも、そうなんですよとジョセフの言葉に適当にあいずちをうってお茶に口を付けた。

「ミレーユ様の弟としては専務がテリー様の義理の兄となるのは嬉しいことでしょう?」

ブーッとテリー、スラリン、ピエールはお茶を吹き出しハッサンの顔にかかった。

「専務は私とサンディとの恋愛相談によくのって頂きました。男はガンガンアタックしろとか男は黙って待てとか言うことはその日によって変わっていましたが・・・。きっと恋愛経験豊富なのだろうと聞いてみましたところ、魔王討伐の冒険中もずっとミレーユ様と恋愛中だったとのこと。しかも大魔道士バーバラ様からもアプローチされており、悩んだ末ミレーユ様を選ばれたとのこと。冒険中でも愛を忘れぬ姿勢こそが男の生きる道と言ってらっしゃいました」

ハッサンは死んだかのようにうつむいてテーブルに伏していた。

なに盛大な妄想ぶちかましてやがる。お前そもそも女性と目を合わせて話すことができず、顔赤くして下向いてブツブツ言ってるだけだったから、バーバラからしょっちゅうキモイキモイって言われてたじゃねーかとつっこみたくなったが、そりゃリア充の部下が色気ある生活送ってたら妄想でもして現実逃避しなきゃ精神が保てなかったんだろうなと思った。

「私も途中まで冒険に同行させてもらっていたのですが、ハッサン殿とミレーユ殿のアツアツぶりはほとほと目のやり場に困っていました。しかし、もうすぐ結婚とは・・・。どうでしょう、町長の御子息であるジョセフ殿のお力でサンマリーノの町をあげて盛大に結婚式を行うというのは?」

「やっぱりハッサンって見た目がいいからね。特に髪型がカッコいいからね。僕初めて見たときモヒカンの部分がアイスラッガーみたいに武器になるんじゃないかとか、髪をブラシの代わりにしてお風呂掃除するんじゃないかとか思ったもん。正義の味方っていうよりヒャッハーとか言ってヘビメタの恰好して村人襲ってる方が向いてるんじゃないかというルックスもポイント高いよね。トゲの付いた肩パッド付けたら、世紀末の中ボスって感じだよね。やっぱり勇者一行の人間どうしの結婚なんだからレイドック王とかも呼んで国家レベルの結婚式にした方がいいんじゃない?結婚式はレイドック城貸切とか」

ピエールとスラリンの話になるほど良いですねとジョセフは言った。

「わー、ハッサンがハッサン兄さんになるのか。うれしいなー。でもハッサン兄さんって言いづらいからハッサン兄貴とか言った方が良いのかなー」テリーは感情を殺して言った。

ジョセフが部屋から出て行った後、とりあえず見積もり出せよとテリーはハッサンに言ったが、ハッサンがピクリとも動かない為そのまま店を出て行った。

「どうしましょう?この事態」

「おめーらが煽ったんじゃねーか」

「こうなったらテリーが女装して結婚式やるしかないよ」

「何で俺があの肉ダルマのために一生モノの恥かかなきゃいけないんだよ!」

テリーはスラリンにつっこんだ。

「大丈夫だよ。僕も女装して妹のスラ子ですって言うから」

「でしたら私も女装して従妹のピエ美よって言います」

 

実はその発言をしたのはハッサンの多重人格の一人ハッサソであり、ハッサンはその記憶が一切ない、ハッサンは確かに虚偽発言をしたが精神鑑定により精神障害が認められており、責任が発生しないため無実であるとか色々な案が出たが、最終的にハッサンとアマンダが結婚するというのが一番現実的な解決手段であるとなった。

「食事に毎回トリカブトやヒ素が入っているというのも辛いものですな」

「キアリーが効くかなあ?死んだら死んだでザオリクで生き返らせればいいけど・・・」

問題を1つ解決したテリー一行は清々しい気持ちでアモスの所へ持っていくお土産を選びに行った。

 

「やっぱ、めでタイってことで鯛を買っていった方がいいですかねえ?」

「アジの開きとか買っていったらおかずになるから喜ばれるんじゃない?」

「あー、ダメダメ。そしたらアモっさんの奥さんが、せっかくだから夕飯一緒にどうですか?ってなるじゃん。俺、他人の家の母ちゃんの作った飯とか食えないんだよ」

「いやいやいや、普段食堂で妙齢の女性が作った料理食べてるじゃないですか?」

「あれは、プロが大多数の人の味覚に合わせて作ってるからいいんだよ。なんつーか、俺はその家独特の味っつーか、口に合わなくてもマズイって言って残しちゃいけない雰囲気とか苦手なものだから最初に全部食べたのに、勘違いされておかわりどうぞって言われるあの地獄感というか・・・」

「もー、テリーは変なとこにこだわるなー。だったらこの魚の形したクッキーとかでいいんじゃない?」

「クッキーは缶に入っているもの買えよ。高級感が違うし、食べ終わっても缶は残しといて書類とか入れるのに最適だし、事あるごとに俺がお土産渡したっていう記憶が呼び起こされるだろうし・・・」

「クッキー一缶でこうも恩を着せられては堪りませんな」

「さて、次はモンストルだ。って、俺は行ったことないからスラリン頼むぞ」

「はいはい、ルーラ!」

一行は光に包まれ空高く飛んで行った。

 



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第20話 訪問者

レイドック国軍によるムドー討伐隊がまたしてもムドーの姿を見失ったという話がザンテの耳に入った。またか。これで何度目だ・・・。ザンテはため息をついた。レイドック国軍が無能でなく、ムドーが彼らの言うようにあやかしの術を使うというのなら・・・、敵に幻を見せるマヌーサか、混乱させるメダパ二を使っているのか・・・。

 

呪文か・・・。ふとザンテは考えた。マヌーサもメダパ二もグループ系の呪文である。呪文にかかった者は幻を見たり混乱したりするが、呪文にかからなかった者には何も起こらない。これらの呪文の使用者は敵に何の影響を与えているのだろうか?すべての書物や教会の教えでは、それは人間の精神に影響を及ぼすとのことである。ザンテは右手のこぶしを握りしめ、自分の胸の中央に当てた。違う。ここに精神というものがあるとは思えない。私が魔の力を使っていた時、強く現象をイメージしていた。すると呪文を使う上で大事なのは・・・ここではないか?そう思いザンテは右手の人差し指で頭をコツンと叩いた。呪文を使う際、指先や杖の先端に意識を集中させろと魔法を使う者は習い、それがこの世界の常識である。だが私が集中させていたのは頭だ。強いイメージに比例して威力も高まった。ということは呪文とは・・・、魔法とは・・・、強い願いの具現化ではないのか・・・。

 

なぜそのような単純なことを、人間は、教会は、わざわざ詠唱や魔法陣といった複雑なしかけにしているのか?段階を踏んで覚えていくシステムとしているのか?王族や教会が自分達の地位を守るため?突出した才能を持つ者が出現するのを防ぐため?

・・・いかん、いかん。ザンテはぶんぶんと首を振った。本来なら人間の敵となりかねない私を、チャム様がここに連れて来て下さった理由は今ならよくわかる。人間として生きさせるためだ。余計なことは考えなくていい。私は医者だ。真理を追究する学者ではない。傷ついた人々を助け、そしていつかゲント族長となる。私のようなものを拾い育てて下さったチャム様の様に。

 

午後からは医者としての仕事がある為、ザンテは病院の役割もしている教会へ向かった。ここで病気や怪我のために訪れている者たちの診察をする。ムドーにやられたという兵士達も多数来ていた。一人一人回復呪文や、話を聞くことで丁寧に対応した。ふうっとザンテは息を吐いた。さて次の患者はと、名簿に書かれた名前を見て青ざめた。

「ザンテ様、次の患者様をお呼びしてよろしいでしょうか?」

看護士の役割をしているシスターが聞いた。

「あ・・・、彼女は・・・、いや、次の方とは知り合いです。申し訳ありませんが二人だけになりたいので席を外して頂けませんか?」

「・・・?わかりました。それじゃあ・・・」

シスターは部屋から出ていき代わりに一人の女性が入ってきた。

「久しぶりね、ザンテ。お医者様になっているとは思わなかったわ」

ザンテは魔の力で焼き殺した男性の子供の言葉に、何も言う事ができなかった。

 

「ずいぶんといい男になったじゃないの。私なんてこんなに痩せちゃって・・・。髪だってもうパサパサ。ザンテの方が年上なのに私の方が老けて見えるんじゃないかしら・・・」

アンナ自身がそう言うように、みすぼらしい姿をしたアンナの肌は乾燥しており、しゃべると歯も数本抜けているのが見られた。身だしなみを気にしていないのか少し臭いもする。

「アンナ・・・、君のお父さんにはすまない事をした。あの時の私はまだ子供でただ憎しみのままに・・・」

「憎んでって言うなら・・・、何で私を殺してくれなかったの?」

「え?」ザンテはアンナの言う事が理解できなかった。

「どうしろっていうの!?目の前で父さんを焼き殺されて!字もまともに読めない、農作業だって、裁縫だってまともにできない幼い私が!知らない土地で身内も亡くして、どうやって生きて行けって言うの!?父さんは盗賊たちから私を人質みたいにされて、脅されてて、私のために仕方なく!私のせいで!」

「あっ・・・、あう・・・あああ・・・」ザンテは何も言い返せなかった。

「私はもう十分罰は受けたわよ!何もできないから体を売って、でも客はあまり取れなくて、男に殴られて、病気ももらって、これ以上どうしろって言うのよ!?もうこれ以上苦しめないわよ!あんた私を殺しなさいよ!父さんみたいに、私を火だるまにして殺しなさいよ!もう嫌なのよ!こんな自分も、世界も!」アンナは座り込み号泣した。

シスターがドアを開けて入ってきた。

「何ですか!?あなたは!一方的にザンテ様を責めて!ザンテ様は今、たくさんの人々を救っておられて・・・」

「いいんです、シスター。私が・・・、私が彼女の父親を殺したのです。私は罵倒されて当然の人間なんです」ザンテはシスターをいさめた。

「ザンテ教えてよ・・・。お医者様だから頭良いんでしょ?なんで私は不幸なのよ?なんで父さんを殺したあんたが幸せそうに医者やってんのよ?ルビス様はなんであんたを愛して私を愛して下さらなかったの?どこであんたと私は分かれたのよ?ルビス様のいわれる因果はいつなのよ?父さんの罪をいつまで私が背負い続けなきゃいけないの?殺してよ!自殺は教会の教えだと地獄行きなんでしょ。あんたが私を殺してよ!これだけ苦しめたんだから責任取りなさいよ!殺してよ!死んで楽にさせてよ!殺して・・・、殺して・・・」

アンナはシスターに呼ばれたゲント僧によって抱えられ、ゲント村の外に連れ出された。

「ザンテ様、大丈夫ですか?お休みになりますか?」シスターは聞いた。

「大丈夫です。次の患者の方を呼んでください。患者の方々をお待たせするわけにはいきません」

ザンテはそう言ったが、待っていた患者の数人はもう帰ってしまっていた。

 

「つらい思いをさせてすまなかった。これは礼金だ。受け取ってくれ」

アンナをゲントの村の外へ連れ出したゲント僧がそう言ってアンナにゴールドの入った袋を渡した。

「これから3日間は家に居てくれ。怖くてたまらない時もあるだろうから、その時はこれを使ってくれ」

ゲント僧はそう言って粉薬を渡した。アンナは笑うしかなかった。戦時中恐怖で耐えられなくなり、精神に異常をきたす人間に使用されているというクスリをまさかゲント僧から渡されるとは思っていなかった。

「3日後、何もなくて、それでも辛いと思うならこれを飲め。ゲント精霊の導きの元、永遠の眠りにつくことができる」

今度は小さな瓶に入っている紫色の液体を渡された。

「毒薬じゃないの・・・。いいわよ。3日後飲むわよ。ゲントの精霊様は生まれ変わりをうたってらっしゃるのかしら?」

「いや、ゲント精霊崇拝に輪廻転生の考えはない。善き人も悪しき人も死後は魂を浄化され同じ場所で永遠の眠りにつくといわれている」

「そう・・・。同じ精霊崇拝でもルビス様とは違うのね。ルビス様は魔物でも清き心を持つものは人間として生まれ変わり、悪しき心に取りつかれたら生きながらにして魔族になるという考え方だったわ・・・」

「・・・ルーラで君の住んでいる町まで送ろう」

「いいわよ。キメラのつばさだけちょうだい。そして約束して。・・・必ずあの悪魔を殺して!あいつは、ザンテは、この世界で生きてちゃいけないのよ!」

「わかっている。魔族の落とし子の始末は必ず我々がやる。だから君もこのことは絶対に他の人にしゃべってはいかん。もしそうすれば、我々は君を始末しなければならなくなる。君がしゃべってしまった相手も含めてな」

アンナは上歯で下唇を噛みしめた後、キメラのつばさを空に放り上げ、その場を去って行った。

 

それから3日後の晩、チャムの部屋に一人のゲント僧が入ってきて報告した。

「アンナの身に何もおこりませんでした」

「ふむ・・・。で、いまアンナはどうしておる?」

「すでにこの世におりません」

チャムは目の前のゲント僧の様子からこのゲント僧自身がアンナを始末したと判断した。ゲント族の闇の部分を一人の売春婦によって世に広げられるよりマシだとチャムは思った。

「よし、次の段階だ。こちらの思い通りに動いてくれるといいのだが・・・」

チャムは言った。

 

シスターの説得により3日間の休養をとったザンテは、医者の仕事に復帰していた。その3日間の間、ただザンテはベッドの中に居ただけだった。だがこれ以上休むわけにはいかん。私を待っている患者のために、いずれはゲント族長となるために、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。ザンテの思いとは逆に患者の数は激減していた。来ていた患者もしかたなくといった感じだった。アンナとのやり取りがもう世間に広まっていたか・・・。

ため息をつくザンテだった。

 

その日の夕方、仕事を終えたザンテにマールという名のゲント僧の一人が声をかけた。

「次期ゲント族長が決定したらしいぞ。チャム様のお孫様であるチャモロ様だ」

 



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第21話 アモスに会いに行く

テリー一行とアモスが会話するだけの話ですが、一部下品な表現が含まれていますので、苦手な方はスルーして下さい。


一行はルーラによってモンストルに着き、アモスの家の前まで来た。

「今日は戦闘してないから服は汚れてないし、昨日フロも入ったから臭うこともないはずだ。さっき食べたランチの中に少しニンニクが入っていたけど、リンゴジュース飲めばニオイが消えるって聞いたから大丈夫。あとはきっちり挨拶してお土産を渡せば・・・げっ!」

テリーはお土産のクッキーを紙袋から取り出して奇声をあげた。

「ど、どうしたのテリー!?」スラリンは聞いた。

「こ、このクッキー、(サンマリーノ名物 魚クッキー)って表に書いてあるのに、裏にちっちゃく、製造所レイドック王国って書いてある!うわー!こういうの絶対アモっさんの奥さんとかから安物をお土産で持ってくるケチで常識のない人って思われるよ!」

実際そうじゃないかと思いながらスラリンとピエールは見ていた。

「俺、確かに学はないよ。それは認める。姉さん探しに行くために途中で初等教育を投げちゃったから。でも宿屋とか食堂に置いてある新聞はきっちりと目を通すんだよなー。そこらの冒険者と違って礼儀作法とかも知ってるんだよ。いや、実は俺も思ったんだよなー。サンマリーノのお土産にクッキーってのはおかしいって!でもその場の雰囲気に流されて妥協したって言うか・・・。いや、俺が悪いのはわかってるよ。最終的に決断して金出したのは俺だから。でもなー、どうしようかなー。サンマリーノに戻って違うのに取り換えてもらおうかなー。でも個人の思いつきで一度買った商品を取り替えろってのは、クレイマーみたいでやりたくないんだよなー。どうしようかなー」

「え?何?さっきから僕の方チラチラ見て。クッキーにしようって言った僕のせいだって言いたいの?そもそもテリーがこれはダメだ、これはダメだって言ったから消去法でクッキーになったんでしょ?」

テリーとスラリンの間に緊張がはしった。

「全く、お土産位でケンカしないで下さい。テリー、サンマリーノは海が近いので潮風が吹いて小麦が育ちにくい。よって農業が盛んなレイドック国でつくられ、漁業の町サンマリーノのブランド力をかりてこの魚型のクッキーは出来上がったのです。文化と文化の融合によってつくられたのがこのクッキーなのです。ヘレニズム文化の賜物なのです」

ピエールは言った。

「・・・百理ある」テリーはうなずいた。

(あんな説明で納得しちゃったの?)

(まあ、本人の言う通り学が無い・・・、ゲフンゲフン、他人の意見を聞くことができる柔軟な思想の持ち主だからな)

スラリンとピエールは小声で話しあった。そもそもヘレニズム文化の正式な意味がピエールもテリーもわかっていなかった。

 

よーし、んじゃ行くかとテリーはアモスの家の玄関の前に立った。

「ごめん下さーい!」テリーがそう言うとしばらくしてバタンと扉が開いた。

「あっ、すいません、事前連絡もなく急に着ちゃって。ボク、アモスさんと一緒にデスタムーア討伐の旅に行ってたテリーって言います。その時アモスさんには本当にお世話になって・・・。あっ、テリーって言ってもわかりませんよね。そうだ、青い閃光ってわかります?結構うわさになったって思うんですけど、あれがボクなんですよ。いやボクはね、恥ずかしいからやめて欲しいなって思ってたんですけど、世間の人たちが・・・ってアモっさんじゃねーか!奥さんかと思って緊張して損したよ!」テリーは言った。

フリだかマジだかよくわからない事はやめてほしいとスラリンとピエールは思った。目の前には髪やヒゲが伸び放題で、まだ寝間着姿のアモスがいた。

「昼間なのにだらしねー恰好してるなアモっさん。何?今奥さん居ないの?もしかして妊娠期間中だから里帰りしてんの?」テリーは聞いた。

「うむ。それはおいおい話すでござる。おや、スラリンとピエールも来てくれたでござるか。ささ、狭くて散らかっているでござるが中に入るでござる。土足厳禁でござる」

アモスはそう言ってテリー達を家の中に入れた。奥さんがいないならその辺の葉っぱを摘んで漢方薬とか言ってお土産にすればよかったなとテリーは思った。

 

「で、今日はどうしたでござるか?」

「本当に散らかってるなー。あ、今日はアモっさんの子供ができたって祝いと、仲間にするモンスターのアドバイスを聞きに・・・」

「いやいやいあ、子供なんてできていないでござる。拙者、とっくに離婚したでござる。紹介されて1ヶ月で結婚して、結婚生活1ヶ月で破綻したでござる。結婚したから子供ができるというのは前時代的な発想でござる。拙者にまさかあんな性癖があったとは・・・。離婚したら元嫁は出て行ってしまったでござる。結婚式の引き出物の拙者と元嫁の顔の書いてある皿が大量に廃品回収に出されているところを見たら、町の人に悪いことをしたと思ったでござる。町の人にあわせる顔がないでござる。よって拙者は引きこもり中でござる。町の人が食べ物を持って来てくれるから、それで飢えることはないでござる。もう少し落ち着いたら日雇い労働でもして社会復帰を目指したいでござる。結婚式のご祝儀でもらったお金は一人一人返すべきか悩んでいるでござる。いっそまたモンスターがこの町を襲ってくれれば・・・、いや、考えまい、考えまい・・・」

「え?あ?ごめん、知らなくて。姉さんから結婚したって聞いたからさー。姉さんも古風だから結婚イコール子供ができるって思ったんだよな。ダメだよな、姉さんも。やっぱ占い師も現代のニーズに合わせてナウでホットなヤングの事情も考えないとな!いや、いまどき珍しくないと思うよ。スピード離婚なんて。時代の最先端だよ、アモっさんは!あっ、これお土産!サンマリーノで買ってきたクッキーだよ。すっごい美味しいって評判でさー、アモっさんの喜ぶ顔が見たい一心で買ってきたんだよ。食べ終わったら、この缶を書類入れにでもしてくれよ。離婚届を入れたりして・・・。ハッ、ハハハー!なんちゃってー!あっ!もうこんな時間だ。もうすぐ夕飯用の総菜のタイムセール始まるじゃん。早くいかないと目玉の商品がすぐに売り切れちゃうんだよ。いや、閉店ギリギリの5割引きの見切り品を買ってもいいんだけどさー、そもそも無くなったら何も食べられないじゃん。じゃあな、アモっさん、元気で!」

「ちょっと、ちょっと。僕等、仲間モンスターのことも聞きに来たんでしょ!?目的の半分忘れてるよ」

早口でしゃべってさっさっと帰ろうとするテリーをスラリンが止めた。いたたまれなくなったから、早くこの場からいなくなりたいと思ったのに余計なことしやがってと思った。

 

「うーむ、テリーとピエールが物理攻撃と特技の攻撃担当でスラリンが状況により攻撃、補助、回復の遊撃でござるか。まあ、回復のスペシャリストを入れるのが一番でござるな。それによって多彩な特技と呪文を持つスラリンも活躍できるでござる」

まあ、そうだよね。とテリー達は納得した。

「回復といえば、やはりホイミスライムですか?この辺りにはホイミスライムが多い為、ここらでホイミスライムを仲間にするのが最適でしょうか?」ピエールが聞いた。

「いや、この辺のホイミスライムは今は仲間にならないでござる。ホイミスライムを便利だと思った魔物使いとかよく理解していない人間たちが仲間にしようとホイミスライムを狩りまくって、ホイミスライムは人間の前に出てくることがなくなったでござる」

うわーという雰囲気になった。

「まあ、僧侶になってもらえれば誰でもホイミというか回復呪文を使うことが出来るようになるから、出来る限り魔力(MP)の高くなる魔物を仲間にするべきでござるな。で、てっとり早く仲間になる魔力の高い魔物と言えば・・・・・・。それから、馬車を持つ予定なら能力は低くてもボス戦闘等でここぞという時に使える補助系の魔法や特技を面倒がらず使ってくれる献身的な仲間もいた方がいいでござる。だったらムードメーカーとなりえる・・・・・・。さらに初期能力の高い、物理攻撃を得意とする魔物達を得ようとするなら・・・・・・。とまあ、こんな感じでござるかな」

嫁に逃げられた無職の中年男性とは思えない的確なアドバイスにテリー達は感心した。

 

「ありがとうございます。アモス殿。ところで先程話された元奥様との離婚・・・。我々とて多少力になれることがあるかもしれません。もしよろしければお話を聞かせて頂けないでしょうか?」

ピエールの言葉に、まータメになるアドバイスも受けたし、グチの1つも聞いてやるのがお礼かなと思い、テリーもうんうんと頷いた。

「ううむ、話せば長くなるでござるが・・・。拙者、どうやら強すぎる性的興奮をおぼえるとモンストラーに変身してしまうようでござる。結婚初夜も裸の元嫁を見た瞬間、モンストラーになり、元嫁は本当に裸で家の外に逃げる始末。拙者は文字通り夜のベッドの上でケモノになり、元嫁は町の墓地まで裸で走って行ったでござる。夜は墓場で運動会でござる」

うまくない上に、迷惑な話だなと思った。

「まあ、最初は刺激が強かっただけだろうと思い何度もチャレンジしたでござるが、その度にモンストラーに変身し、裸で逃げる嫁が町の中を走り回る度に、住民たちから、ああまた今日もダメだったんだなと思われ、耐えきれなくなった元嫁は離婚届を書いて出て行ったでござる。拙者もサインしたでござる。拙者の女性経験の無さがこんなところで出てしまうとは・・・」

「えっ!?じゃあ、アモっさんてその年で童て・・・グフッ!」

テリーの話の最中にドスッと突きを入れて、ピエールが話した。

「しかし、人間とは子孫を残すためにある程度の性欲があるのは仕方ないことと思われます。デスタムーア討伐の旅の時はどうなさっていたのですか?」

「まあ、仲間にミレーユというセクシー担当と、バーバラという無邪気なロリ・・・、ゲフンゲフン、キュート担当がいたから妄想には困らなかったでござる。大体どっちかとイチャイチャ楽しんでると嫉妬したもう一人が参加してくるというストーリーが多かったでござるな。その時はモンストラーにならないから、こんなことになるとは・・・」

「テンメー!ひとんちの姉ちゃんと仲間の女の子をなに妄想の道具に使ってんだ!」

アモスに飛びかかろうとしたテリーをスラリンが押さえ込んだ。

「ありきたりなアドバイスとなりますが、やはり場数を踏むことが大事でしょうね。ガンディーノ等様々な街で娼館と思われる場所がありましたので、そこで何度かチャレンジしてみれば過度な性的興奮を得ることは無くなるかと思います」

「ううむ・・・、拙者も今回の結婚は拙者の方が一回り年上ということで気負い過ぎたという事は感じていたでござる。ひょっとして拙者は少し年上の、拙者を甘やかしてくれる大人の女性の方がいいかもでござる。ああいったところでは様々な女性を指名できるため、色々な女性とチャレンジしたいでござる」

「今回の大魔王出現によって夫を亡くした未亡人や親を亡くした若い女性もそういったところに流れていると思います。ほどよいタイプを見つけ、安定した夜の生活ができるように祈っております」

「うむ。結婚式の祝い金を返すことなく、そっちに回すことにするでござる。拙者も途中から馬車の中で過ごすことが多くなったが、腐っても魔王討伐組の一人。それ位の役得はあってしかるべきでござる」

「最低の会話だな!!」 テリーが大声でつっこんだ。

 

「もー!いい加減帰るぞ!じゃあな、アモっさん!」テリーは言った。

「アモス殿・・・。我々は今、テリーの見つけたダーマ神殿の中の未知なるダンジョンに挑むために、仲間を集め鍛錬をしているところです。どうでしょう?アモス殿の力と経験を活かすために我々の仲間になって頂けないでしょうか?もちろん夜は自由時間です」

「そうだよアモっさん。僕たちと一緒に冒険しようよ!冒険しようよ!」スラリンも同意した。へへっ、しょうがねえなあと、テリーは鼻の下を右手の人差し指でこすった。

「お主たち・・・」

「「「アモっさん・・・」」」

「いやいやいや、せっかく平和な世の中になったのになんでわざわざ危険な旅をする必要があるでござるか?意味がわからないでござる。そもそも拙者は今年で33。この年で不安定な生活はしたくないでござる。何もしなくても、人々から感謝され続け、色々もらえるこの生活を手放したくないでござる。明確な敵もいないのにレベルを上げ続けるなんて人生のムダでござる。モラトリアムでござる。拙者の青春はとっくに終わっているでござる」

アモスの言葉に「で、ですよねー」とピエールは言った。

スラリンがちらりとテリーの顔を見ると頬をピクピクとさせていた。下だと思っていた相手に、お前の方が下だぞと言われるとそうなるよねーとスラリンは思った。

 

「全くなんなんだあのオッサンは!あのオッサンはなんなんだ!」

「レック達が前に言っていたんだけどさー。モンストルの町にはじめて来たとき、村に住み付いた厄介者を追い出すイベントだと思ったらしいよ。お人好しの町の人たちの代わりに真実を告げるイベントだと思ってたんだって」

「今日の話を聞く限りじゃ、理性のタネはなんだったんだって感じですね」

「ああそう言えばさ・・・」スラリンが言った

「テリーってバーバラのこと好きだったんでしょ」

テリーがドンッとすっころんだ。

「僕、人が人を好きになる瞬間って初めて見たよ。・・・レックとバーバラが見つめ合っているときを見てね!」スラリンがニヤリと笑った。

「三角関係にすらならなかったということですな。さよなら三角また来て刺客ということわざがあります。テリーがアサシンになればバーバラ殿も受け入れてくれるのではないでしょうか?」

「さーて、もういい時間だから宿に帰ろうか。お前らの泊まるところはルイーダの酒場でいいんだっけ?」

テリーがそう言うと2匹は美しい土下座をした。俺、矢島金太郎っすと言うピエールに全く意味がわからないが頭を上げなよ金ちゃんと言うテリーだった。

「明日は育成枠の仲間を1匹仲間にするからな。早く寝るぞ。まっ、本当に育成しなきゃならないのはハッサンやアモっさんの女の子にたいする扱い方だけどな!」

テリーはフフフと笑いながら勝ち誇った顔で2匹を見た。ピエールの鉄仮面はピクリとも動かず、スラリンのいつも半開きの口は真一文字に閉められた。

「な、なーんてことを青い閃光が言っちゃたりして!」と言うと2匹がハハハと笑った。

このやたら笑いに厳しい2匹から笑いをとろうと思ったら毎回身を削らなきゃならないと思うと重い気持ちになるテリーだった。

 




読んで頂きありがとうございました。
キャラの口調がメチャクチャじゃねーかとか、DSの会話システムを使っていないのか?とおっしゃる方も多いと思います。
はい、私はDS版のDQ6は本当にさわりしかしていません。

私はSF版のDQ6が大好きで、某巨大掲示板のDQ6のスレの住民でした。そこで当時十年以上前に出たSF版のDQ6についてスレの同志たちと話をするのが好きでした。しかしそこで知ったのはDQ6とは世間的には
・MPを使う呪文よりノーコストの特技の方が強いため、べギラゴンやマヒャドの存在意義が無い
・話がわかりづらい
・HPが極端に低いバーバラを除いて育成するとキャラが大体同じような強さになる
・そのバーバラが外せない
・ラスボスが全く威厳が無い
・攻略本の職業紹介のところにレックが魔法戦士になっている絵があるのでそのとおりにしたら勇者にならない
・さんざんひっぱってやっと仲間になったテリーが弱い
と評価はイマイチのこと。

しかし、スレでは
・自由度が高い
・ムドーが強くて手ごたえがある
・転職システムが面白い
・スライム格闘場が面白い
・DQ5では仲間モンスターが弱くて最終的に人間ばかりのパーティーになるが、DQ6では仲間モンスターがヘタすりゃ人間より強いし、レベル99まで上がるので最後まで使える
・ところどころ抜けているというストーリーも考察のネタになることが多い
と、DQナンバリングの中でもトップクラスの評価でした。

そんな私やスレの住人が望むのは長所をさらに伸ばしたリメイクで、望むところは
・スライム格闘場の充実。具体的にはスライムだけでなくすべての仲間モンスターが戦う事が出来て通信で他のプレイヤーが育てたモンスターと対戦も可能
・ダークドレアムを倒した後のオマケが追加。20ターン以内に倒すとデスタムーアを倒しに行く以外の願いも叶えてくれる。その願いとは・・・
①普段ダークドレアムが鍛錬所としている、さらに強力な敵がいるダンジョンの解放
②DQ4のエッグラ・チキーラ同様に新たな武器をくれる
③ゴッドハンド、天地雷鳴師といった新たな職業の解放
④すべての願いをかなえたら、プチタークのようにダークドレアムの子供が仲間になる
・今まで謎だったストーリーの解明
①ミレーユはいつ自分の分身を見つけることが出来たのか?ムドー城でのオカリナのような笛はどこで手に入れたのか?
②黄金竜の正体
③テリーが仲間になるまでの経緯
漫画「ドラゴンクエスト6 幻の大地」こそが正史だと思っておりますが
テリーがデュランに屈するところは公式で見たかったです。
・テリーの強化。素早さが高い設定を活かし、キラーマシン2みたいに2回攻撃とか
と、思い出せるだけでこれくらいありますが・・・

リメイクされたDS版DQ6は!!
・追加されたストーリー、ダンジョン、職業なし
・仲間モンスター削除。その代りスライム族が仲間になる
・魔物使いが魔物マスターに
(ビミョーな特技しか覚えないのにスカウトできなくなったら存在意義は?)
・会話システム追加
・テリーちょっと強化
でした。

公式でこの発表が出た時、すぐに葬式スレが立ったのを覚えています。
しかも、当時のキャラクター紹介でバーバラのところに「テリーの事が気になるようだ」などと書かれておりましたが、なにか色々な力がはたらいたのでしょう。すぐに消されました。
スレの中じゃ、もうすぐDQモンスターズが出るからそっちで遊べということで仲間モンスターシステムは消されたのだと陰謀論めいたこともいわれました。
私も仲間モンスターシステムを愛していた者として、がっかりしましたが、いや、違うと。
勝手に自分で妄想して期待してハードル上げまくっていただけじゃないかと。SF版のカセットの電池がいつ切れるか心配していたがその心配が無くなったじゃないかと自分を納得させました。

しかし、体は正直で、DS版のDQ6は買ってすぐに遊ばなくなり親戚の子供にあげました。シエーナがマルシェに名前変更していたのだけは覚えています。

今になって思うのです。DQ6はSF版で完成していたと。あれは当時1万円以上とメチャクチャ高くて、親も子供だった私に渋りながら買ってくれた記憶がありますが、それ以上の価値があったと。発売から20年以上も経つのに妄想を辞めることのできない神ゲーであったと。それをあらためて、確認させてくれるリメイクでした。

親戚の子供はDS版DQ6が面白いと言っていたのでうらやましくなり、返せと言いましたが返してくれませんでした。いい加減、何年も経ってますから、もうクリアしただろうからまた返せと言ってみます。クリア後の簡単にはぐれメタルが仲間になるのが楽しみです。

なんか無理やりいい話にしました。半分くらい書き直しました。


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第22話 教育という名の鎖

ゲント族の族長をチャモロにするという話を流したその日の晩、コンコンとチャムの部屋のドアをノックする音が聞こえた。来たか。チャムはそう思い、入れと言った。

チャムの予想通りザンテが一人で入ってきた。

「チャム様、お話があります。いえ、あの、直接チャム様に教えて頂きたいのです。なぜまだ若い、いえ幼いチャモロ様なのです?ゲント族の族長は代々血筋に関係なく最も魔力の高い者、たくさんの人々を癒してきた者がつく座であったはずです!チャモロ様はまだ下級の回復呪文しか使えず、医療現場にも出ていない。どう考えてもこれはおかしい!」

ザンテの言葉は少しずつ熱をおびてきて最後は少し叫ぶような形となった。

「ふむ・・・、こんな夜遅くに族長であるわしの部屋に入ってきて、詫びのあいさつもせず、わしの決めたことに異を唱えるか・・・」

チャムの言葉に我に返ったようにザンテは眼を伏せた。

 

「チャモロを次のゲント族長と決めたのは潜在能力の高さだ。お前だってわかるだろう?チャモロの秘めたる魔力はわしよりも高い。将来性を期待してのことだ。そして器の大きさもある。チャモロはまだ幼いが、村の者や患者たちすべてに好かれておる。あの幼い子に相談事までする者があらわれる始末だ。実績がないというなら・・・、そうだな、いずれ現れる勇者パーティーの一員にでもしようか?船を手に入れるために勇者一行がここに寄る時がくるだろう。その時仲間にしてやればいいのだ。これで満足したか?」

「なっ!?私とて潜在能力の高さは負けておりません。修行により成人しても尚、魔力は増え続けております。それに・・・、それに教会のシスターや同じゲント族の友人のマールは私を良き医者、友として見てくれています。勇者一行の供をゲント族から出さねばならぬというならば、私が行きます。最上級の呪文が使える私なら即戦力となるはずです!」

ザンテは力説した。

「はっきり言いおって・・・。お前は未熟なチャモロより自分をゲント族の族長としろと言いたいのだろう」

チャムの言葉にザンテは歯ぎしりしながら答えた。

「・・・そうです!チャム様の御考え、ゲント精霊崇拝、ルビス様や教会の教え、人体の構造・医療、世界の歴史等すべてを理解してゲント族を正しく導くことができるのは私です。チャム様、もう一度御考え直しください。私はチャム様を師として、父親として・・・」

「マホトーン」チャムはザンテに呪文封じの魔法をかけた。

「くうっ・・・」ザンテは頭を目に見えない輪にかけられたような、頭の中にモヤがかかった様な感じとなった。チャムから教わったマホトーンをかけられた状態の時の話の様に。

「私のかけたマホトーンにより、お前は呪文を使うことができない」チャムはザンテに言った。

「ザンテ、ゲント族長としての命令だ。跪け」

「ううっ」チャムがそう言うとザンテは言われた通りに膝をついた。

「悲しいものだな。拾い育てた子に裏切られるというのは・・・」椅子から立ち、近づいてくるチャムにそんなつもりでは・・・とザンテが言おうとした時、チャムの右手の人差し指がザンテの頭に触れた。「メダパガネ」チャムは敵を混乱させるメダパ二の上位呪文をザンテに唱えた。例えば、なかなか口を割ることのない犯罪者や、被害者を前にしても反省することのない加害者に過去のトラウマを呼び起こされることを目的とした、ゲント族の族長のみに、口伝によって引き継がれ使用することのできる精神操作呪文である。

 

ザンテの頭の中に過去の忘れたくても忘れられないトラウマがよみがえった。幼いころイタズラをされて癇癪をおこした自分が相手を睨みつけるだけで怪我をさせてしまったこと。

子供のころ育ててくれた親がザンテを生かして育ててしまったことを後悔しているときの話を聞いてしまった日の気持ち。それでも優しくしてくれた両親や村人たちが盗賊たちに殺され、絶望感と無力感を味わった時。怒りのままベンおじさんを焼き殺してしまった時。先日のアンナとの会話。そして大恩あるチャム様に逆らってしまったこと。罪悪感を伴う様々な思いがザンテの頭の中を占領した。ザンテは両手で頭を押さえ、大声で泣き出した。

「だれか居らぬか!?ザンテが自分をゲント族族長にせよと謀反をおこした。こやつを牢に入れてくれ」

待っていた様に2人のゲント族の僧が部屋に入ってきてザンテを抱えて出て行った。

 

ザンテ達がいなくなった後、ザンテが友と称する若いゲント僧侶のマールが部屋に入ってきた。

「本当にこれで良かったのでしょうか?ザンテは医者として患者の方々一人一人に真摯に向き合っておりますし、自分が魔族の落とし子と知っているためか身分の低い者、罪を犯した者にも平等な態度で接しております。チャム様を大変尊敬しており、本当の父親の様だと・・・」

「この村ではそうかもしれぬ。お医者様、お医者様と人に頼られ感謝され、高等な教育を受けたゲント僧達と語り合い、親と慕っておるわしがいつも見守っておるこの村ではな。だがもし、ザンテが外の世界に出て、人間の醜さを知ったら、私利私欲や金のために親・兄弟・子さえも殺す人間の本性を知ったら、やつはどう転ぶかわからん。もしザンテが敵意を人間の方に向けてしまったら、勇者も現れていない今、誰がやつを止められる?死者と話すことができ、願うだけでイオナズン程の爆発を起こさせる力を持っていたやつを誰が止めきれる?無詠唱のイオナズンなどマスタークラスの賢者がようやく到達できる場所だろう。今しかないのじゃ。ゲントの村の教育により正しい常識、良識、道徳、倫理が身につき、親代わりであるわしに逆らうことができない今こそが、魔族の落とし子を始末できる最大のチャンスなのじゃ」

そう言った後で、その教育とは自分たち人間にとって都合のいいだけのものじゃろうなとチャムは思った。

 

「今現在、我々人間が魔王と呼んでいるのはムドーのみじゃが、世界中に起こる異変を考えるとムドーだけが魔王とは思えん。人間を見守り、天空の城に住まうとされているゼニス王が世界にはびこる魔物たちに対して何も行動を起こされないのはなぜか?不敬な話ではあるが魔物たちにやられてしまったのではないか?レイドック城やアークボルト城に匹敵する大きさを持つグレイス城がいつのまにやら廃墟になったという話も聞く。これらの異変の背後にはムドーと同等、いやそれ以上の力を持つ魔王がいるのではないか?同時多発的に異変が起こるならそれらの魔王を束ねる者がいるかもしれん。大魔王という存在が。そう考えると一時の感情のみで世界の脅威となりかねない者をこれ以上増やすわけにはいかん」チャムは言った。

わかりましたとマールはうなずいた。

「マール、お前は時々牢に行き、ザンテに声をかけ続けろ。ザンテが絶望の末に暴走するのを防ぐためだ。数日かけて、今度は少しずつ、体を弱らせていく」

食事に毒を入れ、さらに毒入りの空気を流すのだとマールは気付いた。自分にも監視がつくだろうとマールは思った。まだまだ死にたくないのでゲント族を敵に回すような馬鹿なマネをしないとマールは誓った。そしてそんなマールの性格を知ったうえでの「魔族の落とし子の話し相手となる」という仕事を与えていたチャムの人選だった。

「ザンテが完全に弱りきったら、アマルム処刑場で処刑を行う。魔族の落とし子を生かし、育てることがどれだけ罪か世界中に知らしめるのだ」

 

人間の敵が、魔王となりえる者が生まれる因果よ、ここで断たれてくれ。

チャムは精霊ルビスに強く祈ったのだった。

 



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第23話 育成枠の仲間

ハッサンのところで馬車が完成するまであと3日。今のスラリンの「魔物使い」の熟練度は4。そんな条件下で初期能力の高くない育成枠の魔物の仲間を1匹入れようという話になった。ダーマダンジョン攻略に向けて、レイルーラを使わない戦略を立てたいので、仲間を入れるとしたら回復のスペシャリストを入れるか?色々こなす便利屋を入れるか?

「まっ、回復専門の魔物でしょうね。そうするとスラリンも攻撃に回れて戦闘も早く終わるというものです」

「とりあえず僕がレンジャーになっていろいろやるだろうから、回復係が欲しいよね」

「正直、レベル上げ担当のくちぶえ要員が欲しいところだが、馬車もない今、戦闘で役立たずの遊び人になっても、戦闘中死なない様にそいつをかばうだけで手一杯だろうからな」

話し合いは1分もせずに終わり、回復役の魔物を入れることになった。

 

魔力の高い魔物として、ウインドマージとレッサーデーモンのどちらを入れるかという話になると

「レッサーデーモンって・・・、見た目キモイから嫌だよね・・・」

「いかにも三下って顔してますからな。敵が自分たちより強かったら裏切るタイプの顔ですな。そのくせ普段はパーティーのリーダーのテリーを親分とか言ったりするくせに、自分より弱い仲間の魔物には陰で嫌がらせしたり足引っ張ったりするタイプでしょうね」

「これ聞いた話なんだけどさあ、夢見の洞くつで夢見のしずくなめて暮らしてたレッサーデーモンのブラディーポってやつがいて、そいつは透明人間の男の人二人と、女の人一人とぶちスライムにやられちゃったの。そのやられた時に人間の男がブラディーポの周りに人骨が転がっているのを見て言ったセリフは(ボクは人間も魔物も一緒に仲良く暮らせると思っている。だがブラディーポ、お前は人間をころしたなあ!!)って言って、ブラディーポは斬られて殺されちゃったの。いやいやいや、人間の男の人、あんただってさんざん魔物殺してきたでしょ。それなのにブラディーポは生命維持で何かを口にするために人間を食うなって、じゃあ、普段何食べろって言うの?同族の魔物を食べろって言うの?そんなんムチャクチャだよって思ったけど、レッサーデーモンだから謎理論で殺されてもしょうがないよね。僕もうろ覚えの話をうろ覚えで言っただけなんだけどね」

「キングスライム同様、お前らがレッサーデーモン嫌いなのよくわかったよ!ウインドマージでいいよ!」

 

「ホルストックかあ・・・、うん、行ったことないな。スラリン頼むぞ」

「そんなんで、どーやって、伝説の剣を探し出せると思っていたのか不思議だよね。まいっか、ルーラ!」

一行はホルストックに到着した。夜になるまで周辺で戦闘を行ったが・・・

「ウインドマージとは結構戦ったけど・・・、仲間になんないね」

「レッサーデーモンが仲間になりたそうな顔で立ち上がったけど、スルーしましたからね。レッサーデーモンだから罪悪感ゼロですけどね」

「くんせい肉でも投げてみっかなー。でもなんかこの世界じゃ違うって感じなんだよな。よくわかんねーけど。もう暗くなってきたから宿に行くぞ。あっちにホルコッタって村あっただろう。あそこの宿屋に泊るぞ」

「あっ、でもテリー・・・」

そう言うスラリンに手のひらをのせて、ピエールは首を振った。一度現実というものをテリーに見せるチャンスだと思った。

 

「ねー、もう落ち着いて寝ようよー!テリーもクリアベールより、一人5ゴールドも安くてラッキーとか言ってたじゃない」

「ゴザ敷いてワラのベッドの中で寝るなんて野営とたいしてかわんねーじゃん。メシもビミョーだし、これで一人10ゴールドはむしろ高いじゃねーか!」

「村の外観からして宿屋や食事のレベルも大体わかりそうなもんじゃないですか。旅人もめったに訪れない土地なんで、回転率とかから考えてこれくらい取らないとやっていけないのでしょう。普段文句言いながら泊まっているクリアベールの宿屋がいかにサービスが良いかわかったでしょう?」

「それにしたって、フロはどこですかって聞いたら、池があるからそこで水浴びして下さいって言われたぞ。余計汚れるわ!」

ギャーギャー文句を言うテリーを無視してスラリンとピエールは眠りについた。こういう人間がスローライフとかいって、田舎で農業しようとか言いだして、家まで買った挙句、1年で都会に戻ってくるんだろうなと思った。

 

2日目の昼ごろ、ようやくウインドマージが仲間になった。

「~。~。」ウインドマージがボソボソと何かを言った。

「んーとねー、たぶん彼の言わんとしているところは・・・」

「よろしく、名前はメルビー。風魔法が得意って言ってるんだろ」

スラリンが訳しようとするとテリーが言った。

「なんで人間がゾンビ系の悪霊の言葉がわかるんですか?!」ピエールが驚いた。

「ん~?何ていうかさ、子供のころ牧場にいたやつに教えてもらったとかさ、そこでドラゴンが卵落としたり、フン落としたり・・・、その辺よく覚えてないんだけど・・・、何となくだよ」

やはりテリーはモンスターマスターだと確信するスラリンとピエールだった。

「けどメルビー、みんながわかる言葉しゃべんなきゃダメだぞ。俺達の言葉聞きながら覚えていくんだ」

「~・・・」テリーの言葉にメルビーはうなずいた。

ムチャクチャ言うなあ。言葉を持たない種族が言葉しゃべったら、成長とか学習じゃなくて進化だよとスラリンとピエールは思った。

「よっし、メルビー、どうせお前はほっといてもバキ系全部使えるようになるんだ。まずは回復呪文のホイミ系覚えるため僧侶になってくれ。お前はパーティーの回復役やってもらうぞ」

「~。~」

「うん、うん。偉い、偉い。賢者目指すなら次は魔法使いだ。魔法使いはHP少なくてすぐへたるから、そうなったら当分は馬車の中だ。けど賢者になったらガンガン攻撃呪文もしてもらうからな」

「~。~」

傍からみれば口のある包帯の部分が上下に動くだけのメルビーと会話しているテリーだった。

 

「テリ~・・・」スラリンが気の毒そうにテリーに声をかけた。

「言うな。俺だってうすうすわかっていたことだ」

「テリー、すいません」ピエールは言った。

「なんでお前が謝るんだよ」テリーは言った。

ダーマ神殿にて、やはりテリー、スラリン、ピエールの職業熟練度は上がっていなかった。「フフフ・・・。俺だってわかっていたさ。なんせ、戦闘が楽勝も楽勝だしな」

全員レベル30以上のこのパーティーではホルストック周辺では熟練度が入らなかった。

「ま、それは良いとしよう。でもメルビー、お前さ・・・、何でそんなに弱くなってんの?」

仲間になって僧侶に転職したメルビーのステータスを見て、テリーは愕然とした。

「いやいやいや、魔物が仲間になったら、なぜか弱くなっているのは常識でしょ?」

「にしてもなあ・・・」ピエールの言葉にまだ納得のいかないテリーだった。

そんなこというなら、仲間になった時のテリーの期待の裏切り具合の方がすごかったと口にしたいが、すぐ近くにルイーダの酒場があるため、滅多なことは口に出せないスラリンとピエールだった。

「う~ん、う~ん、しゃあない!今の強さのメルビーならさっきのホルストック城周辺がレベル上げには最適だろう。敵の魔物たちがどんな攻撃してくるかも予想付くだろうし、もっと強い魔物が出るところだったら、たとえ防御してても、一撃くらったら死ぬかもしれねえしな。馬車が手に入るまであと1日半、目標はメルビーのレベル上げと僧侶のべホイミの習得だ!」

「魔術師の塔行ったら?あそこだとレベル関係なしに熟練度入るよ」

「あのなスラリン。そのためにわざわざレイドックの城に行って王子で多忙のレックに、ちょっと安全にレベルと熟練度上げしたいからインパス使ってって言うのか?絶対嫌だぞ俺。いいよ。1日半だ。仲間の強化のためにお前たちも我慢しろ」

「~・・・」

「あー!メルビーも申し訳ないなんて思わなくていいよ。たった1日半の事だ。んじゃダーマの食堂でメシ食ったら、まず俺ん家でメルビーに魔導士系の装備させて、、ホルストック戻ってひたすら戦闘だ。ホルコッタ村の宿屋が汚いとかメシが不味いとか言うんじゃねーぞ!」

つっこむ気も起きないので、スラリンもピエールも頷いた。

 




ブラディーポの話は私が愛してやまない漫画「ドラゴンクエスト6 幻の大地」でのシーンを何となくの記憶で書いたものです。20年ほど前の記憶で書いていますので違っていた場合はご了承下さい。
さすがに記憶と攻略サイトと手持ちのSF版のカセットのクリアデータだけで妄想二次小説を書くのはつらいので、DS版の攻略本を買いました。1500円もしました。昔は攻略本って600円くらいじゃなかったですっけ?まあ、すっごい中身濃くて分厚いんで、いいんですけど。独自の公式イラストとか欲しいと思うのは私だけですかね?SF版とDS版がごちゃまぜになることはあるかと思います。その時は読んで頂いている方の頭の中で変換してください。


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第24話 煉獄

残酷な描写があります。


アマルム処刑場。ゲント族ですら慈悲をかけることを諦めた罪人を処刑するために造られた公開処刑場である。ここで処刑された罪人の名と罪状は世界中に知らされ、永遠に極悪人としての名を残すことになる。

 

ザンテがアマルム処刑場に送られる日となった。ザンテはマホトーンをかけられ、牢から引きずり出された。ザンテは毒入りの食事と空気のせいで筋肉が無くなり痩せ細り、骨と皮だけの体となっていた。髪の毛を剃っていた頭からは銀色というより灰色の髪が生えていたが、半分以上抜け落ちたようになっていた。ザンテの体は清められることなくそのまま牢と同じように魔力封じの施されている馬車に入れられた。その馬車には兵士が4人付き、ザンテを運んで行った。4人の兵士達の首にはある魔力の込められた首輪が付けられていた。その馬車の前方と後方に監視のためのゲント族の僧侶や兵士用の馬車が付き、後方の馬車にチャムが乗り込んだ。そうやって進むこと2時間。アマルム処刑場に到着した。

 

馬車から出され、4人の兵士に囲まれたザンテの目の前にチャムが立った。

「ザンテ、お前の罪状は反逆罪だ。族長であるわしに逆らった挙句、自分をゲント族の族長にせよと迫った。・・・温情をかけて育てた我々ゲント族を裏切ってくれたな・・・」

かろうじて意識の残るザンテの頭の中で、そんなことはないと否定した。

「この処刑場では一方的な罪は与えん。もしお前がこの地の神に愛されているのならお前は無実ということになる。あちらに一本の柱が見えるだろう。ここからあそこまで歩いていき、あの柱に触れることができればお前は無実だ。だが、有罪である者には神の怒りとして爆発が起こる。爆発が起こる場所は1箇所であるとは限らん。・・・ここはそういう場所なのだ」

チャムは一息入れて続けた。

「ふむ。ザンテ、今のお前は1人では立つこともできまい。そこの4人の兵士達、ザンテを抱えてあの柱まで行くのだ。ザンテが無実ならば、お前たちもゲント村に帰ることができる。多少の傷は我々が治してやる」

兵士達は絶望的な雰囲気を出しながらも観念した様にうつむいた。

 

チャムによる刑の説明後、見張り用のゲント族の兵を数人残して、チャム達ゲント僧侶はアマルム処刑場を見下ろすことのできる丘に立っていた。背後より武器商人のジグがチャムに話しかけた。

「アマルム処刑場が使われるのは久しぶりですな。そしてこの(煉獄)という名の処刑方法、おそろしい限りです。チャム様に言われた通り、このアマルム処刑場の地に(ばくだん石)を地雷として何十個も埋めております。あの兵士達にも逃亡防止用に(メガンテのうでわ)を改造したもの、メガンテの首輪を首に付けております。逃亡を確認次第、メガンテの首輪を発動させ、兵士の首を吹き飛ばすことが可能です」

「ふん・・・、嬉しそうな顔で話すでない。お前の仕事ぶりには期待しておるよ」

イオラ程の爆発を起こすといわれているばくだん石の開発に成功したジグに対し、チャムは言った。

 

1人では立つことのできないザンテを2人の兵士が左右の肩を担いで抱え、前後に2人の兵士が付いた。

「用意はできたな。では煉獄の刑を開始する」

チャムがそう言うとゲント族の兵士達は一斉にザンテ達から離れた。だが、ザンテを囲む兵士達は怯え、そこから一歩も先に進もうとしなかった。

「うわ・・・、あっ、・・・あああっ!!」

その中の先頭にいた兵士の1人が発狂した様に声をあげその場から逃げだした。それを見たチャムは仕方ないとばかりに右手の人差し指を逃亡する兵士に向けると兵士の首に付いたメガンテの首輪が光りボフッと爆発しその兵士は倒れた。兵士はバタバタと手足を動かしていたがやがて動かなくなった。

もう少し魔力を増やしておけば苦しまずに死なせてやれたとチャムは思った。元々ザンテの周りにいるように配置してメガンテの首輪を付けた兵士達は死刑確定の罪人なのだが。

「あうっ・・・、うううっ・・・」ザンテと残り3人になった兵士達は柱を目指し、ゆっくりと歩き出した。

「ううっ、あっ・・・、あああっ・・・!!」ザンテの左肩を抱えていた兵士が声を上げた。土とは違う、硬い物を右足で踏んでしまった感触があったのである。ドゴオオンッと音を立てて地面が爆発した。ザンテ達は爆風で全員が吹き飛んだ。

「うあああっ!!俺の足がああっ・・・!!」ばくだん石を踏んでしまった兵士の右膝から下はすでになく、腹から下もやけどで爛れていた。ザンテも傷を受けていたが他の兵士達ほどではなかった。チャムを含む、ゲント族の者たちは驚愕していた。あれほど体を弱らせたのにまだ魔力に対する耐性が残っていたのか。一方でジグはばくだん石の威力に満足しながらも上からでは爆風により、負傷具合のわかりにくい今の状況に苛立ちを感じた。ばくだん石は今のままではまだコストが掛かり過ぎる。大量生産ができるようになるまであとどれ位の月日が必要だろうか?そんなことも考えていた。

兵士達はばくだん石を踏み、傷を負った兵士をその場に置いて、ザンテを抱え再び歩き出した。このザンテさえあの柱のところに連れて行けば無実となり傷も癒してくれるというゲント族族長のチャムの言葉を信じて。

 

(行かねば・・・。あの柱まで)何度の爆発をくらっただろう?そばに付いていた兵士達はもう動くこともできない為、ザンテは1人這いながらチャムの言っていた柱に向かった。私があの柱に着けば終わるのだ。私の罪のせいであの兵士達を死なせるわけにはいかん。ザンテは力を振り絞った。足はすでに動かないため匍匐前進のように手の力だけで前に進んだ。左の手が硬いものに触れてしまった。(ああっ、しまった・・・)ザンテが嘆く間もなくばくだん石は爆発した。(ううっ、あううう、あっ、あああっ、私の手が・・・)ザンテの左手は皮と肉が吹き飛び、骨が見える状態になっていた。顔も火傷で爛れ、視界が狭くなっている。これでもう、医者としての仕事はできんかもしれん。だがまだ右手がある・・・。生きるのだ。生きて、ゲント族の族長に・・・。頭の中で何度も回復呪文を使おうとしたが使えず、魔の力を使おうとしてもチャムの顔が頭をよぎり使うことができなかった。これは試練だ。チャム様が私に、ゲント族族長となるために試練を与えているのだ。ザンテは自分にそう言い聞かせ、右手の力だけで這って進んだ。ぞわりと腹に嫌な感触がした。腹の下に何か硬い物が・・・。そう思った時にはばくだん石は爆発していた。うつぶせのザンテは吹き飛び、仰向けの形となった。爆風により柱に少し近づくことができたが、ザンテは絶望的な自分の身体の状態に気付いた。腹の傷が開き、内臓が飛び出そうとしている!右手はもうピクリとも動かない。もうダメだ・・・。私は罪人としてここで死ぬのだ。申し訳ありません、チャム様。済まなかったアンナ。4人の兵士達・・・。私がいなければ、生まれてこなければ・・・。

 

懺悔とともに生を諦めたザンテの頭の中に声が聞こえてきた。

(遂に見つけたぞ!我が器となる肉体を持つものを・・・)

爆発によって吹き飛ばされた地面から邪神を象った像が見えた。

 



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第25話 馬車と育成枠2匹目

「~。~」

「マ、マジか。よっし、ようやくメルビーがべホイミ覚えてくれたか!」

ヘロヘロになったテリーが言った。

「たった1日半で50回くらい戦闘するなんて無理があり過ぎだよ。もう夜になったじゃん。早く宿に行って寝ようよ」

「ま、まずは、食糧の補給を・・・。テリーが昼飯抜いてノルマさっさと達成しちまおうとか言ったんで朝からぶっとうしで歩き回って、戦い続けて、今日1日で13時間くらい休憩なしで労働してますよ。労働現場の改善を要求します」

「もうちょっと効率のいいレベル上げを・・・。次に仲間になってくれる奴には(くちぶえ)覚えてもらおうな。とりあえず歩き回らなくていいから・・・」

50回目の戦闘でようやく僧侶のメルビーはべホイミを覚えた。クタクタになった一行はルーラでクリアベールに行き、飯をたらふく食って泥のように寝た。

 

結局昼過ぎまで寝ていたので超過料金を取られてしまった。

「うががががが・・・、ひょっとしていつもの夕方位に戦闘を切り上げて、朝早く起きて、またレベル上げに行くというパターンの方が良かったってか・・・」

「昨日はフワフワのベッドに寝れてサイコーとか言ってたくせに・・・。まー、資金は十分あるからいいじゃない。さて、サンマリーノに馬車取りに行こうよ」

「そうですよ。レベル上げの後、馬車取りに行ったら今度は知り合いに会う前に汚れちまったから、フロに入って服も洗濯するとか言いだして、また遅れるのがオチですよ。サンマリーノで優雅に海鮮ランチでも食べて、余裕ある感じで馬車を引き取りに行きましょう」

ピエールの言葉にあっさりと納得したテリーは宿を出て全員でサンマリーノに飛んだ。

 

「うーむ、やっぱりサンマリーノの飯はうまいな。ハッサンがここに住んでなくて顔合わさずにすむのなら拠点をサンマリーノにしてもいいんだが・・・」

「テリー、間違ってもそれをクリアベールの食堂で言っちゃいけませんよ。海鮮類が珍しいからより美味しく感じているだけです。なんだかんだで肉や野菜をバランスよく出して栄養も偏らず飽きない料理を出してくれるクリアベールの食堂の料理人の方に感謝すべきです。あ、このサラダとパスタ追加でお願いします」

「普段より倍近く食ってるやつに言われたくねーな」

満腹になったテリー一行はハッサンの家に向かうことにした。お土産の製造元が違うことをJAROに訴えるなどとテリーは言ったが、あれを見抜くことができるのはテリーだけだと魔物たちが褒めたらおとなしくなった。

 

「よーし、ハッサン家に着いたな。ごめん下さーいって、あっ!」

1階が工房になっているハッサン工務店の中に大きな馬車があった。

「おー、テリー達早かったな。こういうのは期限の日の夕方ギリギリに取りに来るのが職人への暗黙のルールだぞ。まあいいか。どうだ、たいしたもんだろ」

ハッサンは誇らしげに自分で製造した馬車を指した。

「うんうん、まあ、いいんじゃない」平静を保っていたがこれで自分も馬車のオーナーかと思うとニマニマしそうになる口元をおさえるのが精一杯のテリーだった。

「あっ、テリー、これ請求書」ハッサンが紙をテリーに渡した。

「馬も手配してあるからな。すぐに持ってこれるんで今日から乗れるからな。御者は・・・、ピエールできるだろ?」

「ええ任せて下さい。それにしてもこのような立派な物を短期間で・・・。ありがとうございました」

「ファルシオンがひいてた馬車よりも少し大きくて頑丈そうだね。中も広々としているし、色々載せても大丈夫みたい。ハッサンは本当にすごいよ!すごいよ!」

「~!~!」

魔物たちは口々に馬車を褒めた。

「おい、お前ら・・・、そんなに褒める必要ないぞ。こっちはきっちりとゴールドという対価を払うんだからな。でもな、ハッサン・・・。なんだこの金額は。サンマリーノじゃインフレでも起こってんのか?」

テリーはプルプルと震えながら請求書を見せた。

(馬車、馬1頭合わせて15,000ゴールド)と書かれていた。

「それ位するに決まってんだろ!馬車で10,000ゴールド、馬で5,000ゴールドだ」

「馬車って大体5,000ゴールド位でくるんだぞ。なに相場の3倍の値段とってんだよ!」

「そりゃおめえ、そんじゃそこらの作業員が作った馬車だろうが。この馬車にはハッサン工務店のベテラン職人の匠の技術が詰まってんだよ」

「ベテラン職人って、ジョセフって奴、つい最近入社したって言ってたじゃねーか!」

 

ギャーギャー言い争いをする2人を見てピエールは思った。普通こういう1品もののオーダーメイド品は製作者側が最初に値段を提示して、この値段ならこの位のグレードでオプションを付けようと思ったらこれ位値段が上がりますとか、もしくは依頼者側がいくらまでなら出せるからその範囲で作製してくれという話し合いをして、製作者側が製図を作り、それを改善点やコストカットできるところを何度も話し合いをした後、手付金として前金を払ってようやく製作にとりかかり、中間あたりで依頼者を呼び、もう一度このまま進めていいかと判断を仰いだ上で、完成品を作るに至るのだ。今回はいろいろと端折り過ぎているから買い手と売り手の間にトラブルが起きても仕方ないケースであった。

「テリーも仲間だから相場より少し割り引いてくれるかなという下心があったんだろうね。大きい建設会社に直接仕事を頼んでもその下請けが仕事をするだけで、中間マージンが高いからって、直接下請けに仕事を頼んだら、値段そんなに変わんないわ、親会社の看視がないから仕事はテキトーだわって時があったけど、感覚的にそれに近いよね」

「~、~。(口約束よりもきちんと文書で契約書を書いてからお互いの判をうった上で、仕事に取り掛かるべきだった)」

魔物たちはそれぞれの感想を抱いた。

 

こりゃ、テリーがキャンセル料払うとか言いだすなと思いピエールが言った。

「テリー、15,000ゴールドというのはハッサン殿だけに支払われるわけではありません。こちらに勤めておられる従業員の方々、そしてその方達が税金を納めるサンマリーノの町の方々に払うのです。テリーの支払う15,000ゴールドによってサンマリーノの船は改修工事ができて性能が上がり漁獲高も増え、新鮮でおいしい海鮮類がサンマリーノだけでなく、各国に行きわたる様になります。テリーは資本家としてこの世界自体に投資をしているのです」

「・・・百理ある」テリーは納得した。

「でも俺、15,000ゴールドなんて大金持ち歩かねーからな。持ち歩く金は3,000ゴールドまでって決めてるから。ゴールド銀行に行って金おろしてくるからな。待ってろよ」そう言ってテリーは走って行った。

「ピエール、相変わらず、口うまいなー」

まあ、ナイトですからねというピエールにハッサンは続けて言った。

「そんなお前にプレゼントだ。受け取ってくれ」

ハッサンはメタルキングの剣を持って来てピエールに渡した。

「これは・・・、いいんですか?この世界に1本しかないものを・・・」

「いいってことよ。この剣だって、飾られてるより使ってもらう方がうれしいだろ」

実際、ハッサンは応接室にメタルキングの剣を飾っていて、はじめこそ客との話し合いのネタになり重宝していたが、そのうち同じような話ばかりして飽きるわ、商談に入るまで無駄に時間が掛かるわで持て余していたところだったので、手放すにはちょうどよかった。ピエールにしても、現在装備している(きせきのつるぎ)は手に馴染んでいるし、攻撃するたびに回復はしてくれるし、単純に剣による攻撃なら追加効果のある(ふぶきのつるぎ)の方が合計すれば高いダメージの数値を出せることは知っていたが、空気を読んで余計なことは言わなかった。そうしているうちにテリーが戻ってきた。

 

「ほら、きっちり15,000ゴールドだ。領収書を書いてくれ。保証期間は1年付けろよ」テリーはハッサンに言った。

「テリー、見て下さい。ハッサン殿からメタルキングの剣を頂きました」

「ん?あっそ。つーか、使わねーんだったら最初からさっさとよこせってんだよ。頂きましたもなにも、そもそもそれハッサンの私有物じゃねーからな。デスタムーア討伐組の共有財産だから。預かり主が変わっただけだから、そんなに感謝する必要ねーぞ」

そう言うと、(賢者の石)とか(時の砂)とか持って行っちまったバーバラは罪だよなーとテリーは思った。

「んーだと、コラァ、お義兄さんありがとうございますと素直にいえねーのか!?」

「だれがお義兄さんだ!人んちの姉ちゃん勝手に妄想婚約者にしやがって!テメーはさっさと部屋とYシャツを気にするアマンダと結婚して、寝言で別の女の名前を言って、毒入りスープでアマンダと一緒に逝きやがれ!」

古いネタを・・・と魔物たちは思った。

 

「次に仲間にするのは・・・アイツか。上の世界のカルカドか・・・。はい、スラリンよろしく」

「・・・。まずはダーマ神殿の井戸に行かなきゃね。ルーラ」

一行はカルカドに到着した。

「もう夕方近いから早めに仲間になってほしいよね・・・」

「宿屋が嫌な予感しかしねーからな。そりゃしあわせの国とか言われたら逃げ出したくなるわ、この町・・・。でも、なんだかなー、俺の物欲センサーが井戸の近くに何かあるって言ってるんだけど・・・」

「さっさと仲間にしましょう。この辺りもメルビーしか熟練度が入りませんよ」

という訳でカルカドの町周辺で戦闘をすること数回、スーパーテンツクが仲間になった。

「クエッ、クエッ」

「おう、よろしくなツンツン。踊りが好きなのか。補助係として期待しているぞ。でも最初は遊び人としてくちぶえを覚えてもらうぞ」

「クエッ、クエッ」

「そうだな、その後、踊り子からのスーパースターだろうな。毎回ハッスルダンスやってくれるだけで戦いが安定するからな。遊び人だから戦闘中遊ぶんで、行動の予想がつかないからその間は馬車だけど我慢してくれ」

「クエッ、クエッ」

「うーん、確かにしあわせの国なんてものに騙された人間たちは馬鹿だったのかもしれねえ。目が覚めた人間の男が幸せを考えた時、(母ちゃんの作ったシチューを食べる)ってのも魔王との戦時中ってのを考えればそりゃ普通じゃなく、最上級クラスの幸せだよって俺も思ったもん。(1杯のかけそば)と逆だよ。外食でかけそば1杯を家族で食うってのを幸せだ、贅沢だっていうんなら、普段家で何食ってんだよって話だよ」

「魔物の僕ですら、クエッ、クエッって言ってるようにしか聞こえないんだけど!」

「どーせ我々がわからないと思ってテキトーにしゃべってません?」

「~!~!(どんだけあのマンガが好きなんだよ!曖昧な記憶でしゃべると後で大恥かいて、全部修正する羽目になるぞ!)」

テリーとツンツンの会話に他の魔物たちはつっこんだ。

 



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第26話 精神転移魔法シンルーラ

邪神の像からの声がザンテの頭の中に聞こえた。

(さあ、早く来てこの像に触れるのだ。ワシが魔力を貴様に与えれば回復できる)

意識が遠のきそうになるザンテには状況がわからなかった。

「・・・何だ?・・・もういい。このまま眠らせてくれ。死なせてくれ」

(バカなことを言うな。爆弾による土煙が晴れるまであと1分程の時間しかない。早くここへ来ぬと監視の者たちに見つかってしまうぞ)

邪神の像の声はザンテの頭の中に強く響いた。

「私は罪人だ。生きてはいけないのだ。この世界で許されざる存在なのだ。死なせてくれ・・・」

すべてを諦めたようにザンテはつぶやいた。

 

(本当にそう思っているのか?)邪神の像の声はさらに強くザンテの頭の中に響いた。

(お前は何かを成し遂げたのか?この世界に未練はないと言えるのか?この世界に何かを残したと言えるのか?この世界の先を知りたいと、世界の果てを見てみたいと思わないのか?もしお前が本当に罪人で、誰もお前を救おうという者がいないのなら、お前自身がお前を救うのだ。お前を生かすのは親でもない、師でもない、神でもない。お前自身なのだ!)

「ぐううっ・・・、うううっ・・・!」

ザンテは芋虫のように体をくねらせながら邪神の像の元へ進んだ。数日間入れられていた牢の中で涸れたと思っていた涙が出てきた。

「死にたくない!・・・生きたい・・・」ザンテは強く願った。

(そうだ、強く願え。たとえ賊の烙印を押されたとしても、魔力を封じられようとも、全身を炎で焼き尽くされようとも、生きようとする心は誰にも止められん)

ザンテは這いながら進み、コツンと邪神の像に触れた。

(シンルーラ!)邪神の像がそう言うと、かつてザンテであった(彼)は目を閉じてゆっくりと(めいそう)をした。

彼は立ち上がり言った。「精神転移・・・完了」

 

(これは・・・。どうなっているのだ?)ザンテの意識が頭の中で彼に尋ねた。

「お前の体の中にワシの魂が入った・・・。詳しい説明は後だ。今はこの状況をどうにかしなければならない」

彼は自分を監視しているであろう丘にいるゲント僧侶たちの魔力を感じ取った。

「ムーンブルグの高官たちよりもはるかに高い魔力を持つ者が数人いる。相変わらず人間の進歩とはおそろしいものよ・・・。まあいい。この土煙が晴れるまであと数十秒。ザンテの死体を用意し、この場から離れなければならない」

彼は先日この地で行われた爆破実験により死亡した男の死体を思い出した。

(それならば、その男の魂はあのあたりにある)

「ネクロムルーラを使わずして、死霊と会話できるのか?すさまじい才能だな。場所が分かれば話が早い。さあ人間、ワシらのために蘇れ。ザオリク」

彼の前に瀕死の人間の男の体が現れた。

「あやかしの術を使ってもいいが・・・、そうじゃな、こやつをザンテそっくりにするには、ザンテの体を模写する必要がある。・・・モシャス」

彼はかつてムーンブルグの王女を犬に変えた呪文を使った。男の体が先程までの全身に傷と火傷を負ったザンテとそっくりになった。

「ザキ」彼がそう言うと、男の命は再び尽きた。

 

「すさまじい魔力じゃの・・・。この短い時間でこれだけの事が出来るとは正直ワシも思わなかった。この魔力のせいでお前は迫害され死刑となったわけじゃが、最後にこの魔力がお前を救ってくれたのじゃ」

彼の言葉にザンテは何も答えなかった。

「・・・さあ、ここから離れて様子を見るか」

 

アマルム処刑場を包んでいた爆発による土煙が晴れると、ゲント族の僧達のいる丘から、手足を無くし大怪我をした3人の兵士と、腹から内臓を出して死亡しているザンテの姿が確認できた。ザンテの魔力の暴走等、想定していたトラブルもなく、無事、魔族の落とし子を処刑できたことで、皆安堵していた。

「ばくだん石から魔力を抜いていき無力化させ、安全を確認した後、怪我をしている兵士達を助けてやれ。兵士達が死にたいというのなら毒を飲ませて楽にしてやるのじゃ」

チャムはそうゲント族の兵士達に命令した後、周りにいるゲント僧に言った。

「お前たちは帰る準備をしておけ。気分が悪くなったというものはルーラで帰ってもよい。ワシは一応ザンテの死体を確認しておく。魔族の落とし子じゃ。何があるかわからんでの・・・」

「チャム様、確認なら我々が・・・」

そう言うゲント僧を別のゲント僧が止めた。

「チャム様、まだ日は高い。お時間は有りますゆえ、ゆっくりとで結構です」

そのゲント僧はそう言ってチャムを送り出した。

 

チャムはザンテの死体の前に来た。死体は焼け焦げ、内臓も出ていた。これがザンテと出会ってから、ずっと自分が望んでいた結末か・・・。

チャムはその場に膝をついた。すまぬ、すまぬザンテ・・・。これ以外の方法が思いつかなかった無能な師を、父を許してくれ。懸命に学び、自分の魔の力を押さえつけ、他人を救い、人間になろうとしていたお前を見る度に、ワシは何度、自分の地位や立場を捨て、お前を遠くへ逃がしてやろうと思ったかわからん。じゃがそれをしてしまえば、もし未来に何かあった時にワシは死んでも責任がとれん。

ワシはこれから毎日ゲントの精霊に祈り、お前が安らかな眠りにつくことを願おう。ルビス様の教えにある様に、生まれ変わりがあるのなら今度は本当の父と子に・・・。

チャムは立ち上がり死者たちが悪霊やゾンビになることなく安らかに冥界に行くことのできる呪文を唱えた。

「ニフラーマ」

 

(ありがとうございます・・・。お元気で。チャム様・・・)

遠くからチャムを見ていた彼はあふれる涙を抑えることはできなかった。

「自分が殺した者のために泣き、殺された者が殺した者のために泣くのか・・・。ワシには理解できん」彼は言った。

(お前だって、破壊神復活のために、自分の体を生け贄としたのだろう。それと同じだ。ハーゴン)

「ふん・・・」ハーゴンであった彼の魂は言った。

 

「シンルーラで1つとなった我々の魂は溶け合い、いずれ1人の新たなる人格となる。そのために名前が必要だ」

(ジャコルがいい・・・)

「ジャコル・・・。人間の創作した物語の天界から追放された天空の住人の名前か?まあいいだろう。我々の名はジャコルだ。もちろん時々偽名は使うがな。今度はこちらの頼みごとを聞いてもらうぞ」

(何だ?)

「雪が見たい・・・。我が城は、祈りの場所は、万年雪の降り注ぐ美しい台地にあった。聖地ロンダルキア。数百年、数千年ぶりになるのだろうか?白い雪が見たい・・・」

(いいだろう・・・。この世界にもマウントスノーという雪国がある。私は行ったことがない為、ルーラが使えず歩きとなるがそれでもかまわないだろう?)

ジャコルの中のハーゴンは思った。雪国か・・・。もしそこで雪に対する信仰が有るのなら、雪の精霊は生まれているのだろうか?あの癇癪持ちで短気な雪の女王は存在しているだろうか?

(それにしてもシンルーラとは驚いた。この世界の魔法に関する文献をほぼ読みつくしたと思っている私もそんな呪文があるとは知らなかった)

「ルーラを単純な移動魔法だと思っている者ばかりじゃからの。ルーラとは転移魔法じゃ。そう考えるとルーラは無限の可能性が出てくる。形無きもの、目に見えぬものすら別の空間に移動させる、今回は邪神の像に移していたワシの魂をお前の中に移しただけの話じゃ。ルーラを攻撃魔法と考えれば、ルーラは最強の魔法となりえる。ルーラを支配する者が世界を支配するのじゃ。・・・ワシの時代の魔族の書物に書いてあったことの受け売りじゃがの」

 

さて、一歩ずつじゃ。マウントスノーを拠点に、シドー教団を再び立ち上げ、シドー様の復活を行う。信者を少しずつ集めんといかん。一からのスタートじゃの。ジャコルの中のハーゴンはそう思い、その場から離れて行った。

 



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