ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~ (三船)
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ミッションー100:プロローグ

初めまして、三船と申します。
ソニックアドベンチャーが大好きで(特にガンマ)ゼロの使い魔のクロスオーバーもののSSを読んでたら我慢できず思い切って生まれてはじめての小説を書いてみました。
お目汚しなると思いますが、楽しんでいただけれた幸いです。


ザザー・・ザッ・・ザザッ・・

 

 

 

 

動けない体で、電子頭脳に激しい警告音が鳴り響き、砂嵐のような映像がカメラアイの視界に覆うように流れる。

もう映像を修復させるだけのエネルギーも機能もなく、ただただ・・静かにその乱れた映像を眺めていた・・ほんの数秒程度の時間が何故か何時間にも感じられるほど、落ち着いた様子でそれを眺め続けた。

暫くしたあと、乱れた映像が少しづつ直っていき、あれだけ酷かった砂嵐の映像が嘘かのように鮮明に映し出されていた。 …その映像には、可愛らしいピンク色の女の子が、こちらを見上げるかのように優しい笑みを浮かべ見つめていた

 

 

 

 

《……『あなたが本当に悪いひとでないのなら、今度会う時は友達よ!』…》

 

 

 

 

 

「・・・・エ・・ミー・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

ミスティックルーイン近郊の海・・・その海上には戦艦と言うには生易しいほどの巨大な要塞が浮かんでいた。

「超万能巨大空中戦闘要塞エッグキャリア」…悪の天才科学者Dr.エッグマンが己の理想都市エッグマンランドを建設するという野望をもって平和な都市ステーションスクエアを破壊しようとしたが、英雄である青いハリネズミ"ソニック・ザ・ヘッジホッグ"によって破壊され、この海の上に墜落し…巨大空中要塞を誇ったその鉄の塊は今や少しずつ海底へと沈んでゆく定めとなっていた。

 

 

そして……そのエッグキャリアの甲板上の中央ドームに、激しい損傷を受け体の至る所から火花を撒き散らす一体の赤いロボットが倒れていた。

 

 

 

そのロボットの名は「E-102γ(ガンマ)」。

 

エッグマンが開発したE-100シリーズの2番めに造られたロボットで、先輩機体であるE-101β(ベータ)の余った予備パーツで造られた機体である。

最初は主人であるエッグマンにあまり期待されていなかったにも関わらず、想像以上の成果と戦闘能力を発揮しエッグマンを驚かし、数あるEシリーズの中でも評価が高くエッグマンから気に入られるようになった。 

 

 

だがガンマは、主人であるエッグマンの命令を絶対として忠実にこなすと同時に、自分の存在に疑問を持つようになっていた・・・

 

 

尻尾が生えたカエル捕獲任務のさい、同じ任務を受けた兄弟機であるE-103δ(デルタ)、E-104ε(イプシロン)、E-105ζ(ゼータ)は任務失敗によりエッグマンからお払い箱とされ、ガンマの目の前で兄弟たちが破棄されどこかへ消えていく光景・・

間違えて入った禁断の部屋で、無残にも体を分解され改造されていくベータの姿・・

 

次に会う時は友達だと言ってくれた、ピンク色のハリネズミの少女エミーとの出会い・・・

 

 

そのいくつもの境遇が重なりガンマは、

エミーの言葉と処分された仲間たちを思い出して自我に目覚め、

エッグマンのマスター登録を自力で解除し…散らばった仲間のEシリーズを倒すことで動力源となった動物を解放し助けることを決意したのだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「・・・エミー・・・・ボク・・ハ・・・」

 

 

バチバチッバチバチッと体に電流が走る。 もう喋ることさえ困難なほどに機能が低下していた

デルタ、イプシロン、ゼータを倒し、最後に残った改造されもう面影すら無くしたベータとの激しい銃撃戦のすえ、改造され強化されたベータによる最後の一撃をもろにくらった体はすでに限界が近づき、爆発したベータの中から小鳥が出てくるの確認し、飛び去る小鳥に振り返ったと同時に力なく倒れこんだまま動かなかった。 振り返る最後の瞬間、何かを思い出したかのように灰色の小鳥を見つめ、"自分がなぜあの小鳥に動揺したのか"・・・それがやっとわかった。

 

エッグマンのロボットである自分もまた、他のEシリーズと同様小動物の生命エネルギーを動力源として動いている。つまり、自分自身もまた解放されなければならないターゲットでもある、

だからベータによる最後の一撃はガンマ自身を破壊することで中の小動物を解放し目的が達成されることになる

 

 

もうすぐこの体は崩壊するだろう・・・しかし、感情を持ったガンマに後悔はなかった

 

 

 

 

……だが、その刹那

 

 

 

 

 

《……『お願い!助けて!少しでもこの子をかわいそうと思う気持ちがあるのなら』……『あなた…あなたは他のエッグマンのロボットとは違うみたい』……『ロボットさん…アナタ、そんなひとじゃないんでしょう?』……『今度会う時は友達って言ってたじゃない。この子もアナタの事、こんなに心配している。エッグマンの傍になんか居ちゃダメなんだからね』……

 

 

――――『ロボットさん!きっとまた会えるよねぇ!』…》

 

 

 

「・・・・ア・・・・アア・・・・ッ!」

 

 

 

 

もうすでに機能が停止してもおかしくないのに、ガンマのメモリーバンクにはエミーと会ったときの映像が、まるで走馬灯のように繰り返し流されていた。 

 

本当に短い時間だったが、それでも自我を持つことができたガンマには・・ただの戦闘ロボットでしかなかったガンマには、感じられなかったはずのエミーの言葉一つ一つが"ココロ"に染み込んでいくように感じられた。 

 

 

彼女の綺麗なピンク色の髪のように・・・包み込まれるような優しい温かさを。

 

 

映像に映し出された元気に笑う彼女に手を伸ばそうとするが、そこにいるはずのない彼女に触れれるわけがなかった

 

 

 

 

 

できるなら・・・許されるなら・・・もう一度、友達として彼女に会いたい。

 

 

 

 

 

そんな、些細な願いを思ってしまった。 だがそれは叶わぬ願いなのだとガンマ自身がさとり、最後の残りわずかなエネルギーを音声機能に回して もう届かないであろう、聞こえてなどいないであろう初めてできた友達に……最後の言葉を囁いた

 

 

 

 

 

 

 

「・・・サヨウナラ・・・エミー・・・・ボク ノ・・・  ト   モ   ダ    チ    」

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ガンマの体からベータの時よりも爆発のような膨大な光が体からあふれ出した。 

ベータの中から解放された灰色の小鳥は、しばらく飛んだあと、ゆっくりと爆発したガンマのほうへ振り返る。

 

そこにはエミーが連れていた小鳥のペンダントにあった写真の三匹のうちの一匹である赤い小鳥が、

同じく三匹のうちの片割れである灰色の小鳥と再会しお互いが嬉しそうに喜び合っていた。 

 

 

揃った二匹は、別れてしまった最後の一匹を探すため、再び沈みかけたエッグキャリアのほうへと向かっていった。  

 

 

 

「・・・ピィ?」

 

 

ふと、赤色の小鳥は自分たちが押し込められていたロボットが居た場所を少し訝しげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そこにあるはずの、あるはずであろうガンマの残骸が・・・まるで最初からなかったかのように、消えていた。

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが書けれたらまた書こうと思います。


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ミッションー101:召還

お待たせいたしました、前回はゼロ魔要素まったくの文字通りゼロだったので、今回はやっとルイズとの初対面です。


美しい晴天の青い空、大地に広がる緑豊かな草原、その一枚の絵とも言えるほどのどかで綺麗な風景の中心に、

白く聳え立つ大きな石造りの城が建っていた。

 

ここはトリステイン魔法学院。

貴族の子供たちに魔法と貴族としての礼儀作法を教育するため、そして立派なメイジへと成長させるための場所である。

その学院から離れたところでは、杖を持ちマントを羽織った数十人ほどの学院の生徒達が集まり…ある儀式を行っていた

 

 

学院で一年に一回行われる、春の進級試験・・・"サモン・サーヴァント"と呼ばれるメイジにとって自分の一生のパートナーを呼び出すための使い魔召喚、契約するための儀式である。

 

すでにほとんどの生徒が召喚と契約に成功しており、呼び出された生き物は様々で…犬や猫、カエル、大きなモグラ、一つ目の生き物、火を噴く巨大なトカゲなど、中にはドラゴンを呼び出した者までいる。 

召喚される生き物は選んで呼ぶことができるわけではなく、術者の技量や魔法属性に見合ったものが召喚されるというもので、どのような生物が呼び出されるかは予想ができないらしい。

 

召喚に成功した生徒達は、自分の使い魔と触れ合ったり、他の生徒の使い魔を見せ合ったり自慢したりと、とても微笑ましい光景に見えた

 

 

 

 

 

――――――ドォォオーンッ!

 

 

 

 

 

 

だが……召喚に成功した大勢の生徒達の中でただ一人

 

 

 

 

「何で・・・何でよ・・・・なんで何も出てこないのよっ!!」

 

 

 

 

ピンク色がかかったブロンド髪の目立つ美しい少女が、悔しそうに爆風で髪を乱しながら、何度も何度もサモン・サーヴァントの呪文を唱え、普通なら起こるはずがない大きな爆発を起こしていた。

 

 

彼女の名は「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」。

 

名門貴族出身であるはずの彼女は、トリステイン魔法学院に通っている生徒ならば使えるはずである基礎の魔法ですら爆発を起こし、色んな呪文も試してみたが、どれもこれも同じように爆発する始末で、魔法属性を持たない無能なメイジとして見られていた。

 

そんなルイズをメイジなのに魔法が使えないと言う理由から、回りの同級生からは魔法の成功率0(ゼロ)というところから「ゼロのルイズ」という不名誉極まりないあだ名を付けられては失敗するたびに馬鹿にされたりからかわれたりという、苦汁の学院生活を送っていた。

 

そんな彼女は今回の進級試験であるサモン・サーヴァントを成功させようと必死だった。 もしこれで結果が出せなければ落第・・・良くても留学となってしまう。もし実家にいるただでさえ厳しい父と母、姉達にそんなことを知られたらと思うとゾッとした。

だが、今彼女にあるのはここで諦めたくないという貴族としてのプライドで、絶対にこの儀式だけは成功させてみせると折れそうになる己のプライドに鞭を打っていた。

 

 

「おーい、いい加減に諦めろよゼロのルイズ!!」

 

「何度爆発を起こせば気が済むんだよっ!俺たちまで爆風で埃だらけじゃないか!」

 

「もうこの爆発で何回目?たしか今ので101回はいったんじゃない?」

 

「とうとう100回を超えたのか、流石にもう見飽きちまったし爆発のせいで耳が痛いよ・・・」

 

「どうせ無駄なのに・・」

 

 

そんな必死に抗っているルイズを尻目に、周りの生徒達は最初こそはルイズの起こす失敗魔法に嘲笑したが、ここまで何度も同じように爆発する光景を見ていれば流石に見飽きてしまい、最終的には冷やかな目で眺めたり、野次を飛ばす者まで出始めていた。

 

 

「ミス・ヴァリエール・・・貴方が必死なのはわかりますが、もう今日はこれくらいにしてはいかがでしょう?

後日、貴方には特別に再試験を行わせますから・・」

 

そう彼女に優しく問いかけるのは、眼鏡をかけ磨きのかかった禿頭が特徴の今回の儀式の担当である教師、ジャン・コルベール。

彼は何度もめげずに呪文を唱え続けてるルイズの姿をみてしばらく見守っていたが、待機していた生徒達が抗議を起こし始めてきたため、それにこの後の予定なども考えると流石にこれ以上時間がかかりすぎてはまずいと思い、彼女には悪いがここで切り上げようと声をかけるが・・・

 

「お願いですミスタ・コルベール!! あと一回!あと一回だけやらせてくださいっ!!!」

 

ルイズは儀式の中断を持ちかけてきたコルベールに、最後のチャンスを求め頭を下げた。

 

 

コルベールは魔法が使えないルイズが他の誰よりも勉強し、努力していることを知っているため…100回も詠唱を唱えすでに喉も体力も限界に近くになっているのに、必死に最後のチャンスを求めきた彼女の意思を尊重し、はぁ…っとため息をはきながら

 

「・・わかりました、あと一回だけですぞ? ただし、これでダメだったら本当に終わりですからね?この後の予定もあるのですから」

 

そうルイズに笑いかけ、最後のチャンスを与えた。

 

「はい!ありがとうございますっ!」

 

ルイズはコルベールに頭を再度下げたあと、深呼吸し一度気持ちを落ちつかせ、目を閉じて意識を集中させる。

そんなルイズを今でもなお"諦めろ"など"100回やっても成功率ゼロなルイズには無理さ"と、再び嘲笑をする生徒達を尻目に、侮辱の言葉を合えて無視し、唇をかみ締めて杖を握りしめる

 

 

「(見てなさい…!絶対にあんたたちがあっと驚くような使い魔を召喚して、見返してやるんだから!!)」

 

 

そんな気持ちを思いながら、気を引き締め次で102回目であるサモン・サーヴァントを行うため、大きく息を吸い……呪文の詠唱を行う。

 

 

 

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 宇宙の果てにいる、我が僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに答えなさいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

――――――チュドォォオオオーーーンッ!!!!

 

 

 

 

ルイズの渾身の力をふりしぼった呪文は、大きな光を放ったと同時にさきほどよりも大きな大爆発を起こした。

その影響は凄まじかったらしく、周りの生徒達は爆風で転んだり舞い上がる砂煙で涙目になって咳き込むものが続出した。

 

 

 

「いってて・・・ルイズ!いい加減にしろよ!!」

 

「ゲホッゲホッ!目に砂が…!」

 

「もう!服が砂だらけだわ!」

 

「なんだったんださっきの光? いままでの爆発にしちゃぁ妙だったなぁ、でもこれでルイズも留年決定だな!」

 

「ミス・ヴァリエール! 大丈夫ですか!?」

 

 

コルベールは爆風で尻餅をついているルイズにかけより、爆発の被害を受けた生徒達はルイズに罵倒の嵐をあげるが……当の本人であるルイズはそれどころではなかった。

 

モクモクと砂煙が舞う、先ほどの爆発が起こった場所へ、己が求めた強力な使い魔が現れるのを祈るように手を組んだ。

 

 

「(お願い、お願い!私の元にその姿を現して!)」

 

 

ルイズは心の中で強く願い、砂煙が収まるのを待った・・・。

 

 

 

 

 

「お、おい・・・なんかいるぞ」

 

 

 

一人の生徒が薄れてきた砂煙から一つの影が見えたらしく、その言葉に生徒達が次々と驚愕の表情を浮かべる。

 

「え!うそだろ!?」

 

「まさか・・・あのゼロのルイズが召喚に成功したのか?」

 

「ありえねぇ!」

 

ガヤガヤと生徒達が騒ぎだし、その言葉を聴いたルイズは俯いていた顔をバッとあげ、砂煙の先に見える使い魔らしき影が確認できた。

 

 

 

「わ、私・・・本当に召喚できたんですか?ミスタ・コルベール・・・」

 

「ええ・・よくがんばりましたね、ミス・ヴァリエール。まだどんな使い魔かはわかりませんが、召喚は成功のようです」

 

隣にいるコルベールに自分が本当に召喚に成功したのか困惑しながらも問いかける。

そんなルイズに、コルベールは肩にそっと手を乗せ、優しく答える。内心では、自分の教え子ができなかったことをやりとげ成し遂げたことを彼はとても喜んでいた。

 

 

「い・・・・いやっったぁぁああああ~~っ!!!」

 

 

ちなみにルイズは、自分の召喚が・・・初めて自分の魔法が成功したことに喜びを隠せず、今までに見せたことのないような満面の笑みを浮かべてピョンピョンと飛び跳ねていた。

 

そんなよろこぶルイズをコルベールは落ち着かせ、儀式の続行を促した。

 

 

「さぁ、ミス・ヴァリエール。 サモン・サーヴァントが成功したからといってもまだ合格と言うわけではありませんぞ? これからあなたと生涯を共にするであろうパートナーにコントラクト・サーヴァントを行わければなりませんからね。」

 

「は、はい!必ず成功させてみせますミスタ・コルベール!」

 

 

ルイズは舞い上がりそうな自身をなんとか押さえ、今だ砂煙が舞っている場所へゆっくりと歩き出す。

砂煙は時間が経つにつれてだんだんと薄れてきだし、そこにあった影がだんだんと形を現してきた。

 

 

「(うーん・・影の大きさからしてドラゴンとかグリフォンとかじゃなさそうね)」

 

 

ルイズが近づくにつれ影の大きさが見えるようになり、その使い魔は倒れている状態のようで、見たところ2メイルほどの大きさのようだ。 先ほど神聖で美しい使い魔をと願ったが、この様子だとグリフォンなどは無理そうだ。

 

 

「(でも、この際大きさなんかどうだっていいわ! やっとの思いで初めて召喚ができた使い魔だもの! きっと私に相応しいすごいのに違いないわ!)」

 

 

ルイズの脳内では、自分の美しい使い魔を学院内に連れて歩き、その使い魔の強大さと美しさに今まで自分を見下していた同級生たちがこぞってひれ伏し、「ルイズ様!今までの我らの無礼をお許しください!」「ルイズ様こそトリステイン一・・・いや、ハルケギニア一のメイジでございます!」 っと、自分を褒め称え崇め称える姿を想像してはニヤけそうな顔をなんとか抑えようと必死だった。

 

妄想に耽っている内に、ルイズは影のあるほうへと近づいていく

 

 

「(さぁ、姿を見せて頂戴!神聖で美しい私の使い魔!)」

 

 

わくわくしながら影のある場所に到着し、砂煙が晴れ・・・その使い魔の姿が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を見た瞬間、ルイズは間抜けな声を出し、唖然とした表情で足元で倒れている使い魔を見下ろす。

 

 

 

 

「・・・・あれって・・・ゴーレム?」

 

 

 

一人の生徒が煙が晴れてその使い魔が見えたのか、第一声がそれだった。

 

 

 

 

そのゴーレムは体が丸っこく、まるで卵みたいな形をしており、その卵に細長い腕と足が付いているようななんとも珍妙な姿をしていた。 足は鳥などの足のように逆関節になっており、人間でいう足首部分には丸い車輪のようなものが付いている。 

堅そうな見た目からして恐らくは金属でできてるのだろう。目のような部分にキラキラとした緑色のガラス球が二つはめこまれ、頭部はオレンジ色、胴体らしき部分は赤・白・赤と色が分かれており、腰の部分には筒のようなものが二本付けられ、真ん中から少し左よりに何のためについてるのかわからないレンズのようなものが付いている。

そして一番目を引くのは、その卵のようなものの右腕先に付いている黒い鉄の塊だった。 左手は指が三本しかないがちゃんとした手になっているのに、なんで右腕だけこのような形なのだろうか? もしかしたら鈍器の役割をする武器なのだろうとルイズは一人で納得する。

 

・・・・・・さて、現在のこの使い魔の姿からして、ルイズの見解は・・・これは神聖とも言えないし、美しいともいえる様なものではないと断言できる。間違いなくできる。 

極め付けに、この使い魔はゴーレムというにはなんとも非力そうな見た目をしている。こんなマッチ棒みたいな腕と足でゴーレムの得意である力仕事などできるのか? そこらの大きめの石をもっただけでも折れてしまいそうなほどその腕は細かった。

 

 

ルイズが呆然と立っている間、そんなへんてこなゴーレムらしき使い魔を見て、周りの生徒達は再び爆笑の渦に飲まれていた。

 

「ぶっ・・・ぶわはははははは!! お、おいおいルイズ!そ…そんな弱そうなゴーレムが神聖で美しい使い魔かよ!!」

 

「見ろよあの細い腕、あれならまだ平民に力仕事をさせたほうがましってもんだぜ!」

 

「さっすがゼロのルイズ!最後の最後で笑わしてくれるぜははははははっ!!」

 

 

ルイズはプルプルと体を震わし、顔を真っ赤にさせながら勢いよくコルベールのほうへ振り返る。

 

 

「ミスタ・コルベール!、もう一度召喚をやり直させてください!!」

 

「それはダメだ」

 

ルイズは悲願するも、コルベールは即座に却下する。

 

「ミス・ヴァリエール、これは伝統なんだ、この春の使い魔召喚は神聖な儀式であり、一度呼び出した以上どんなものだろうと変更はできない。それにミス・ヴァリエール…先ほど言ったはずですぞ?あと一回だけだと。」

 

コルベールはこればかりは譲らないとルイズを突き放すように言う。 

ルイズはコルベールのその言葉に、ガックリとうな垂れながらも「わかりました・・・」とトボトボとそのゴーレムのほうへ歩みだす。

 

 

 

「(こんなゴーレムを使い魔にして連れて歩いたら、一生の恥さらしね・・)」

 

 

 

重いため息をはき、ゴーレムらしき使い魔の近くに腰を下ろし、そのゴーレムに

 

「…あんた、感謝しなさいよね。誰が作ったのかは知らないけれど・・あんたみたいなへんてこなゴーレムが、こんなことされるなんて普通はありえないんだからね」

 

と、すこし悪態をつくように言い、ゴーレムの顔の前に手に持った小さな杖を振る

 

 

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァルエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 

 

ゴーレムの前でコントラクト・サーヴァントの呪文を唱え、すっとゴーレムの額(目と目の真ん中部分かしら?)に杖を置く。

 

「(ええっと・・・唇ってどこなの?っというよりゴーレムに口なんてあるの? どの部分にすれば・・)」

 

最後のキスで完了なのだが、どの部分にすればいいのか迷いがらも、適当に顔のようなところの真ん中あたりにキスをした。

 

 

 

 

 

 

その瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

キュィィイイイーーーンッ!

 

 

「キャッ!?」

 

突然ゴーレムから何かが動くような音が鳴り出すと同時にガラスのような緑の目が光だして、ルイズは驚いてばっと離れる。

 

 

ゴーレムの左手に"使い魔のルーン"が現れ、そのゴーレムの体の隙間からブシューッと音を立てながら蒸気を排出し、ゆっくりと上半身を起こす。

 

 

「・・・・?・・・・っ!」

 

何度か目をチカチカと点滅したあと、ルイズのほうへ顔をむけ一瞬驚いたような反応を見せるが・・そのあとは不思議そうに周りをキョロキョロと見回し、細長い手足で体を支えながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

「(こ、こうして見ると・・・けっこうデカいわね・・・)」

 

 

倒れていた為わからなかったが、こうして立っている姿をみるとその大きさがよくわかる。 ルイズの身長は153サントに対し、このゴーレムはコルベールよりも高く2メイルは超えている。 よくあんな細い足で金属でできた体を支えられるものだ。 

 

 

 

「ミスタ・コルベール、終わりました」

 

「うむ、サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントは一回で出来たね。 ・・・それにしてもこのゴーレムは不思議な構造をしているなぁ、こんなものは見たことがない。 ・・・ふむ、それに使い魔のルーンも珍しい形をしている、一応スケッチしておこう」

 

コルベールは興味ぶかそうにそのゴーレムを見ながらも、ルーンのほうもしっかりとスケッチしておく。

 

「きっとそのゴーレムはすごく弱いからルイズなんかにも契約できたんだよ!」

 

「ゼロのルイズにはその使い魔がお似合いね!」

 

契約も成功したルイズを再び周りの生徒が馬鹿にするようにゴーレムとルイズに指を刺しながら笑う。

 

「う、うるさいわね!!わたしにだってちゃんとこれくらいできるわよ!!」

 

ルイズは顔を真っ赤にさせながら嘲笑する生徒たちに食って掛かる・・

 

 

ゴーレムはその様子をじっと見つめ、視線をちょうど目の前にいたルイズに移し、肩を後ろからちょんちょんとつつく

 

 

 

「もう、なによ!少しまってなさい!今はあんたにかまt  「ココハ」

 

 

 

 

 

 

 

・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場に居た者の空気が凍りつき、生徒やコルベール、そしてルイズが・・・・声が発せられたであろう一つのものに視線が集中する。 

 

 

 

 

その場に居るものの視線が集中しているのは、ゴーレムだった。

 

 

 

 

 

 

「ココハ・・・ドコ?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「しゃ、喋ったぁ~~~!!!??」」」」」」」

 

 

 

ゴーレム以外の者全員が驚愕の表情で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在位置・・・不明。・・・・・・・コマッタ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――これが、ルイズとゴーレムのような使い魔の初めての出会いであった。 ・・・そしてルイズたちは気づいていない、このゴーレムはこの世界とはまったく別の世界からやってきたモノであることを。 このゴーレムには、"彼"の体にはある番号が書かれていたことを。

「102」 くしくもルイズが行った召還の回数と同じ、102回目に現れた彼・・・E-100シリーズの製造番号2番、その名は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――"E-102γ(ガンマ)"―――――




ここまで読んでいただきありがとうございました。

次の話もできしだい投稿したいと思います。


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ミッションー101:召還(ガンマ目線)

今回は次の話ではなく、召還され起動したガンマから見た話です。


―――ガンマは困惑していた。

 

 

ガンマは、たしかにあの時、海に墜落したエッグキャリアの上で、改造されたE-101β(ベータ)との戦闘で負傷し、・・・壊れてしまったはず。

なのに…突然再起動され、ブラックアウトしていたはずの視界が明るくなり、気づけば海の上だったはずの場所が・・・見渡すかぎり大地に広がる草原だった。  

ベータから受けた傷も直っており、それに入手した装備がなくなっている。 ガンマは自分の体をスキャンしたところ・・・中にいるはずの小動物がいないところから、やはり一度壊れているのは間違いない。 だが、今の自分の体は小動物の生命エネルギーとは別の・・・未知のエネルギーで動いているようだ。 それが何なのかは不明だが、まずは今自分自身がどこにいるのかということだ。

 

可能性としてミスティックルーインか、または空に浮く島"エンジェルアイランド"を候補にあげたが、どれもインプットされているデータと不一致だった。 何よりも、草原の中心に立てられている巨大な白い城がデータ上にないものなのだから一致するはずがない。

 

・・だが、ガンマは過去にこのような似た現象に遭遇したことがある。

 

まだエッグマンのマスター登録を解除していない頃、初めて受けたカエル捕獲任務のさいに正体不明の光に覆われ、いきなりデータにない場所に飛ばされてしまい困ってしまった。 そのときに祭壇らしき場所に集まって歌っているチャオ達に近づいたところ、ソニックの仲間であるナックルズ・ザ・エキドゥナの種族に似た、巫女のような服をまとった少女と出会ったのだ。 

 

・・・・アノ時カノジョハ・・ボク二何ヲ伝エタカッタノダロウ・・・? そう、ガンマはあの時のことを思い出していた。

 

いや、今はそれを考えるべきじゃない、っと再度現状の把握のために周りを見ようと、上半身を起こした状態で横を向くと・・・・

 

 

 

 

 

こちらをじっと見つめる、マントを羽織ったピンク色の髪の少女と、目が合った。

 

 

 

 

 

「(エ・・・・ミー・・・?)」

 

 

 

ガンマはその瞬間、電子回路が焼き切れるかと思うくらい驚くと同時に、

もう一度会いたかった友達に、再び会えたとよろこびそうになったが・・・

 

よーく見るとそのピンク色の髪の少女が友達のエミーでわなく人間の女の子であるとわかったところ、その少女は気づいてなかったがガンマはすごくガッカリしていた。

 

だがガンマはすぐに立ち直り、立ち上がって周囲を見ると・・・さきほどのピンクの髪の少女と同じマントを羽織った少年少女たちと、エッグマンの頭に引けをとらない輝きを放ちそうな禿頭をした年長の男がいた。 

 

一人一人が木の枝のようなものを所持しているが、危険性はないだろう。 だが、何故かこの少年少女たちはこちらを見てクスクスと笑っている、

 

何がおかしいのだろう? とガンマは疑問に思って見ていると先ほどの少女が年長の男に何かを話しかけ、男はそれに頷くとガンマのほうを観察するように見た後、何故か左手をみて何かを書き出した。

その行動の意図がわからないが、それに先ほどから謎の単語が発せられている。

 

「サモン・サーヴァント」「コントラクト・サーヴァント」「使い魔のルーン」「ゼロのルイズ」

 

どれもデータにない単語で、それに少年達がガンマのことを「ゴーレム」とも呼んでいた。 ここではロボットのことをそう呼んでるのだろうか・・・・

 

 

「(・・・理解不能・・・理解不能)」

 

 

流石にガンマも情報が足りなすぎてこの人間達の行動や目的、謎の単語、それにこの状況に理解ができず、電子頭脳がオーバーヒートしそうになる。 まずは情報を得ることが先決と判断した。

 

とりあえず、目の前にいるピンク色の髪の少女が他の少年少女たちに笑われて怒ってるようだが、声を掛けて

 

「ココハドコ?」っと言ったら・・・周りの連中も含めてガンマを見て「喋ったぁ~~~!!!??」っと叫ばれた……

 

たしかにステーションスクエアでも住民に珍しそうに見られてはいたが・・・ガンマのようなロボットが喋ったのがそんなに驚くほど珍しかったのだろうか?

 

 

 

 

 

「現在地・・・不明。・・・・・・コマッタ。」っと、ガンマは意味も無く呟くしかなかった。




ガンマ目線って難しい


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ミッションー102:使い魔のガンマ

初めての小説を始めて一週間でこんなにたくさんのお気に入りとコメントと評価をくださった方々、ありがとうございます。 
コメントなどを見るとガンマ好きな人が多くてとても嬉しいです
まだまだ序盤ですが、がんばって続きを書いていきます。

っというわけでやっとできた次の話です。


「あ・・・あんた、ゴーレムのくせに・・・喋れるの?」

 

 

 

やっとすこし落ち着きを取り戻したルイズは、恐る恐ると自分の使い魔である喋るゴーレムに話しかける。

 

 

「会話ハ可能。 タダシ、情報ガ不足シテイルタメ、十分ナコミュニケーション ガ 取レル期待ハ推奨シナイ」

 

「こ・・・こみゅにけーしょん??」

 

 

ルイズが使い魔の聞きなれない言葉と無機質な喋り方にとまどう中、生徒達はただのへんてこなゴーレムくらいにしか思ってなかったルイズの使い魔が突然話しかけてきたことで驚きを隠せなかった。

 

本来ゴーレムは明確な意思を持っているわけではなく、主人の命令通りに従う操り人形でしかない、それなのにこの使い魔は、ルイズの命令ではなく…自分の意思をもって言葉を話しているのだ。

 

 

「ただのゴーレムかと思ったら・・言葉を話すなんて!」

 

「ガーゴイルだったのか!?」

 

「でもこんな変なガーゴイルを一体どこのメイジが作ったんだ?」

 

「まぁゼロのルイズが呼び出した使い魔なら変なのは仕方ないさ」

 

 

生徒達がこの使い魔のことを変というのはあながち間違っているわけではない、ハルケギニアにいる土系統のメイジが作り出すゴーレムやガーゴイルは材質や形が違えど人に近い形をしているものが多い。 それなのにこの使い魔はここまで人間離れした姿をしているのだから変に見えるのは仕方がないのであろう。

 

ザワザワと生徒達が意見しあう中、ルイズは再度このゴーレムを上から下まで見ながら考え込む。

 

 

「(・・・会話ができるってことは、ガーゴイルか・・・自我を持った高位のゴーレムとかの可能性があるってことよね? 姿はあれだけど…神聖ほどではないにしろ、珍しい使い魔に違いないわ!)」

 

 

ルイズは自分が呼び出した使い魔が、ただのゴーレムじゃないと知るやいなや…その使い魔に対して毅然とした態度をとってご主人様としての威厳をみせようとする。

 

「あんた、まだ名前を聞いてなかったはね! 私の名前はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 あんたがこれから仕えるご主人様よ!覚えておきなさい!」

 

「初メマシテ、ボクノ名前ハ、E-102γ(ガンマ)。 ヨロシク、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ・・・トコロデ、ゴ主人様・・トハ?」

 

 

ルイズが呼びだしたゴーレム…ガンマは、突然自分を新しい主人と言ってきたルイズに疑問の声をかける。

疑問に思うのは当然だ、ガンマは先ほど目覚めたばかりの上に自分のデータをスキャンしたところ、マスター登録は空欄のままなのだ。 エッグマンのマスター登録を解除してからはそれ以降・・・いや、自我に目覚めた時点で新しいマスターを持つつもりはなかった。

 

 

「イーイチゼロニ・ガンマ? ずいぶん変わった名前ね・・・まぁいいわ。 ご主人様っていうのは、私のことよ!私があんたをサモン・サーヴァントで召喚して、契約を交わしたからもう私の使い魔ってことよ」

 

「使イ魔…? 召喚シタ…?」

 

 

ルイズはルーンが現れている時点でガンマは自分の使い魔になっているとおもっているが・・・当の本人であるガンマはわけがわからなくて痛くないはずの鉄の頭を抱えそうになる。 召喚とはどういうことだろうか?それに契約を交わしたと言っていたが、情報が足りない以上このルイズという少女に理由を聞く必要があるだろう。

 

 

「ソレハ・・「あー・・ミス・ヴァリエール、失礼だが、彼と話をしてもよろしいでしょうか?」

 

 

ガンマが何かを言おうとしたところを、横から禿頭の男、コルベールがルイズに尋ねる。

ガンマの様子をみて自分が説明すべきと判断したようだ。

 

 

「え? あ、はい。どうぞミスタ・コルベール」

 

「ありがとうございます。 さて、たしか…ガンマ君でよろしいかな? 初めまして、私はこのトリステイン魔法学院の教師を務めるジャン・コルベールというものです。 君は見たところ自我をもったゴーレムのようだが、突然ここに連れて来られた上に目覚めたばかりで困惑しているだろう、もしよければ私が今の状況について説明してもいいだろうか?」

 

コルベールはガンマに笑顔で自己紹介をするが、内心は今まで見たことがない精密な構造をしている上に、自分の意思を持っているゴーレムのガンマに興味津々で興奮しそうになるが、なんとかそれを抑えて平静を装っている。

 

ガンマはこのコルベールという人物を見て、ルイズのような高圧的な態度が見受けられないところから、この人物なら話が通じやすいかもしれないと判断した。

 

 

「初メマシテ、ジャン・コルベール。 現在、ボクハ自分ノ置カレテイル状況ニ混乱シテイル。 説明ヲ求ム。」

 

「ええもちろん、まずここは・・・

 

 

 

 

 

 

 

――――――――《数分後》

 

 

 

 

 

 

コルベールの説明を聞き終え、要約するとこうだ。

 

ここはトリステイン魔法学院という貴族であるメイジを育てる魔法学校と言う場所で、ここでは毎年春の進級試験で召喚の儀式が行われ、サモン・サーヴァントという召喚魔法により召還を行ったメイジに一人につき一体の使い魔を得られるらしく、コントラクト・サーヴァントという契約のキスでその召喚した使い魔に使い魔のルーンが現れることでその者を従えられるというのだ。しかも呼び出されるものはどうやって選ばれるかは分からないらしい。

 

そして、今回の儀式でこのルイズと言う少女が召喚によって呼び出したのが……ガンマだというのだ。

 

 

「・・・・デハ、コノ左手ノ印ハ・・・」

 

 

ガンマは自分の左手にいつの間にか刻まれた使い魔のルーンをじっと眺める。そこには解読不能の文字が刻まれていた。

 

 

「ええ、それがガンマ君がミス・ヴァリエールの使い魔となったという契約の証です。彼女はこの春の進級試験に全てをかけて何度も召喚に失敗しながらも、やっと君を呼び出すことができたんだ、もしよろしければこのままミス・ヴァリエールの使い魔になっていただけないだろうか?」

 

「・・・・・・」

 

 

ガンマは一旦黙り、コルベールとルイズを交互に見る。

一度、今ある情報とさきほどのコルベールの情報を照らし合わせることにした。

 

 

 

魔法…という理解不能な力については不明な点が多いが、自分はここに召喚される前…たしかに一度壊れている。

それなのにこの召喚という魔法で、遠いところからこんなデータにない場所へ移動させ、ここまで体も記憶もまったく元通りに復元させたのだ。 本来ならば体が元通りだとしてもデータチップがすこしでも破損していれば修復したとしてもメモリーが欠けているはずだしデータログにも乱れがあるはず。 

コアとなっていた動物の生命エネルギーの代わりとなる未知のエネルギーはその魔法と絡んでいるのだろうか?。再スキャンしたところ、左手にあるこの使い魔のルーンからも同質の未知のエネルギーが検出されている。 

 

それらの考えを踏まえ、ガンマはある一つの答えをだした。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ボクハ、コノ ルイズ ト言ウ少女ニ、救ワレタ・・?

 

 

 

 

 

 

 

本当ならば、壊れた自分は今頃は沈み行くエッグキャリアとともに・・・海底の底にいるはずなのだ。

もう二度と会うことができないと思ってた・・・・会いたいと願った"友達"に会えるチャンスを・・・彼女は自分に与えてくれたのだ。

 

つまり彼女は自分にとって恩人いうことになる。 ならばガンマは彼女のために、ルイズがこの学院を卒業できるまで、友達に会えるその日まで、使い魔という任を受けることにした。

 

 

―――――かつて自分を助けてくれた、他人のために一生懸命になった友達のように。

 

 

 

そう思いガンマは、自分の中のプログラムにある空欄になったマスター登録に、ルイズの名前を入力した。

 

 

 

「(マスター登録完了。)・・・了解シマシタ、ミスタ・コルベール。 マスター・ルイズ ノ使イ魔ニナル事ヲ、承諾シマス。」

 

「おお!そうですか…感謝いたします。 よかったですね、ミス・ヴァリエール、ガンマ君は君の使い魔になる事を認めてくれたようだ」

 

「は、はい…ありがとうございます、ミスタ・コルベール」

 

ルイズとしてはこのゴーレムに自分の主人としての威厳を見せて従わせたかったのだが…ガンマ自身が自分から使い魔になることを認めてくれたならよしとするとしよう。

 

一方コルベールは、やっとルイズに使い魔ができたことで一安心し、時間も迫っていることだし待機していた生徒達へ声をかける。

 

 

「お待たせした、それでは皆さん!これで今年の春の使い魔召喚の儀式を終了とする!各自寮に戻って使い魔との親睦を深めるように!」

 

 

そう宣言し、コルベールも生徒達もフライの呪文を唱えて宙に浮かびだした。

 

 

 

 

「・・・飛ンダ・・?」

 

 

 

 

それを見てガンマは驚愕した。コルベールも生徒達もセンサーで確認したが、飛行ユニットらしきものをつけてもないのに、まるで当たり前かのように空を飛んでいるのだ。

 

いくら住んでいる地域も文化も違うとはいえ、ここにいる人間達はステーションスクエアの住人と同じはずだ。人間にそんなことが可能なのだろうか・・?っとガンマが思いながら、生徒達は白い城のほうへ飛んでゆく。

 

 

「ルイズ!お前は歩いてこいよな!」

 

「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ」

 

「その不細工なゴーレムに運んでもらうんだな!」

 

「ルイズにはそのへんてこな使い魔がお似合いよ!」

 

何人かの生徒が振り返って、ルイズにむかってそう言いながら笑って飛んでいく姿をみながら、ルイズは悔しそうにプルプルと拳を握り締め、その生徒達を睨みつけていた。 そして今、その場に残されているのはルイズとガンマの二人だけとなった。

ルイズは諦めたように深いため息を吐く

 

 

「・・・マスターハ、飛バナイノデスカ?」

 

「っ・・今は疲れてるからやらないだけよ! さぁ、私達もかえ……うっ」

 

 

ルイズがズンズンと歩き出そうとしたが、途中でフラッとよろめく。 どうやら想像以上に疲労が出ているらしく、儀式が終わり気がすこしぬけたことで足にきてしまった。

だがそのまま倒れることはなく、とっさにガンマが左手で体を優しく支えてくれた。

 

 

「大丈夫デスカ?」

 

「こ、これくらい平気よ。 ……それより、さっきから気になってるんだけど、なんでアンタいきなり敬語口調になってるの?」

 

「ミスタ・コルベールノ説明ニヨレバ、ココハ上流階級ノ人間、ツマリ 貴族ガ中心トナッタ場所デアルタメ、敬語デ接スルベキト判断シマシタ」

 

ルイズはすこし関心したようにガンマのことを見る。自我があるとは言え、そこまでの知能は持ち合わせていないものと思っていたのだが・・・どうやらこのゴーレムは知能のほうも他のゴーレムよりは高いようだ。

 

「へぇ、ゴーレムのくせにちゃんと自分の身を弁えれるのね。 …でも、アンタは私の使い魔になったんだから、特別に私にはさっきみたいな喋り方で話すことを許してあげるわ。光栄に思いなさい!」

 

 

無い胸を張ってご主人様らしい振る舞いをするが、どうもこの使い魔の無機質な声での敬語口調に違和感を感じているらしいが、それはあえて言わないでいた。

 

 

「了解、マスター。 トコロデ、マスターカラハ カナリノ疲労ヲ検知、ムリヲセズ ボクガ目的地マデ、オ送リシマスガ・・」

 

「別にいいわよ、たしかにアンタはゴーレムだけど、そんな貧相な腕じゃ人一人抱えて歩いたら余計に時間が掛かるじゃない。 まぁ、どうしても運びたいって言うんなら…そうね、今飛んでいっているあの連中よりも早くつけるっていうなら話が別だけどね、どうせできないでしょうけど。」

 

少し意地悪そうに聞こえるが、いくら知能が高くても、このゴーレムはあまり力がなさそうだし見た感じでは動きも遅そうだ。 そんな使い魔に抱えられて行ったんじゃ日が暮れてしまう。

 

 

 

だがガンマはその要望に答えた。

 

 

「了解、彼ラヨリモ、早クニ目的地ヘ移動スル」

 

「はぁ? そんなの無理に決まって・・・ってきゃぁ!?」

 

 

ヒョイッ、とルイズの体を左手で抱っこするように抱える

 

 

「ちょ、ちょっとアンタ!降ろしなさいよ!恥ずかしいじゃn 「モードチェンジ」

 

 

「へ?」

 

 

ガシャガシャッ!と足を折りたたみ、足首についた車輪を地面につけて走行モードに変形する。

 

ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!…っとガンマの腰についたマフラーからエンジン音が鳴り響き、ルイズはガンマの変化と突然の音と振動に慌てふためく

 

 

「な、なに!?なんなのこの音!一体何する気!?」

 

「シッカリ、掴マッテ」

 

「ちょ、ちょっとまって!!!」

 

 

そんな慌てるルイズを落とさないように抱えながら、スロットルを回した

 

 

 

 

ギュィィィィイイイイイーーーーンッッ!!!

 

「きゃぁぁぁぁぁぁあああああーーー!!!」

 

 

 

 

ガンマが走り出し、ルイズはまるで初めてジェットコースターに乗せられた子供のように大声で叫んだ

 

どうゆう原理で走っているかはわからないが、最初は馬よりも早いスピードで走るガンマにしがみ付きながら、風で綺麗なピンクの髪が乱れることも気にせず怖がっていたが、だんだんとそのスピードに慣れていき、周りの風景が次々と流れていく様をみて彼女はある種の感動のようなものが表れだした。

 

 

自分は魔法が使えず、他の生徒達がフライで空を飛ぶことで得られるであろう爽やかな風の流れをその身に受けられるのがとても羨ましかった・・・。

 

 

なのに・・・なのにこのゴーレムは、使い魔のガンマはなんと大地をまるで風のように走っているのだ! これで興奮しないわけがない!

 

そしてそんなスピードで走っていれば、前方に飛んでいた生徒達をあっと言う間に追い抜き、追い抜く瞬間生徒たちから

「え・・・」「うそ・・」っと、信じられないような唖然とした表情で、簡単に追い抜いていったルイズとその使い魔を見つめていた。

 

 

 

「すごい…すごい!すごいすごぉぉおおーーいっ!!!」

 

 

さっきまでの疲労はどこへやら、ルイズはまるで子供のようにはしゃぎ、キラキラと目を輝かしていた。こんな経験は、きっとハルケギニアにいるどんな名馬だろうと味わえないことだろう。

 

「ねぇガンマっ!もっと早く走ることってできるっ!?」

 

「可能。ダガ、ルイズハ大丈夫?」

 

「ぜんぜん平気!だから、もっと飛ばしちゃって!!」

 

「了解」

 

 

ルイズの命令を受け、さらにスピードを加速させた

 

 

「いっけぇぇぇええ~~~!!!」

 

 

さらに強い風がその身にかかるが、それでもガンマが主人を絶対に落とさないようちゃんと支えてくれていた。

 

一体いつぶりだろう・・こんなに感動を覚えたのは。 こんなに風が気持ちいいと思えたのは。

 

そう思いながら、今しがみ付いている自分の使い魔…ガンマへ視線をむける

 

 

「(ひょっとして私・・・すごいやつを使い魔にしちゃったのかも)」

 

 

 

 

―――そんな思いを持ちながら、一人と一体は草原を駆け抜けていった




ゲームではガンマはそんなに早そうなスピードはなさそうですが、ソニックほどではないにしろ、エメラルドコーストでループコースを走ったりレッドマウンテンの斜めになっている道を走れたりとかなりのスピードが走れるんじゃないかと想像してます。


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ミッションー103:二つの月

やっとできました続きです。
書いててなんだかくどすぎるかなって思うときがあります。


この日―――試験を無事に終え、寮に戻ったルイズは上機嫌だった。

 

自分の運命を決めるとも言える召喚の儀式、そこで102回もの召喚魔法を唱え、やっと現れた謎のゴーレム ガンマ。 初めはこの弱そうな見た目のゴーレムに失望していたが、なんと自分でものを考え、言葉を喋ることができるというのだ。

しかもどういう仕組みなのか足の形状を変えることで高速で走ることができ、それによりいつも馬鹿にしてくる同級生達よりも先に学院に戻ることができてあいつらの鼻を明かしてくれたのだ、あいつらのあの時の顔は傑作だったとルイズは思い出すたびにほくそ笑みそうになる。

そして部屋に戻るためガンマをつれて歩いてる時も、やっぱりなのかガンマは目覚めた時と同じように不思議そうに周りを見回していた。

そんなにこの建物が珍しいのだろうか?一体どこの田舎から来たのだろう・・・

 

そう思っているルイズのことをつゆ知らず、ガンマは歩きながら自分がこれから暮らす場所のデータをインプットすることに専念していた。このトリステイン魔法学院という城はあまりにも大きいのだ、ただでさえデータがないのに万が一ルイズとはぐれてしまって迷子にでもなったら困ってしまうためだ。 なのでルイズと離れないようにデータを取りながらもしっかり付いていった。

 

そうこうしているうちにルイズの部屋の前に着き、ルイズは部屋の鍵を開け中に入ったが・・後ろから ガツッ となにか引っかかるような音がして振り向いてみれば、ガンマが少し大きかったせいか入り口の端に肩が引っかかっていたようだ。身長が2メイルもあるうえに幅も大きいからほとんど入り口のサイズとギリギリのようだ

 

「ちょっと気をつけなさいよ!傷が付いたらどうすんのよ!」

 

「謝罪スル・・」

 

ガンマは素直に謝りながら、なんとか体をひねったりしゃがんだりして入り口をくぐることで部屋の中に入ることができた。

ルイズは「まったく・・・」っといいながらも夜食用のパンを机に置き、そのまま目の前の豪華なベッドへダイブするように身を投げだす

 

「あぁ~~~疲れたぁ~~~・・・」

 

よほど疲れたのかベッドの上で仰向けになって体を伸ばしたりしてだらしなく寝そべる。100回以上も召喚魔法を使って体力も神経もすり減らしていればそれは疲れもするだろう。 そんなルイズを見ながら、ガンマは確認するように緑のカメラアイで部屋を見渡す

 

 

「綺麗ナ部屋・・」

 

ルイズの部屋の中を見渡しその感想を口にする。ステーションスクエアの海岸線に隣接するホテルの部屋も綺麗だったが、それなどとは比べ物にならないだろう。部屋の中は広く家具や床、日用品はどれもピカピカで装飾や材質などから高級品だというのがわかる、ここを通るときの通路もそうだったが、床の隅々まで掃除しているのか塵一つもないところからやはりここは貴族のための建物なのだと納得した。

その言葉を聴いてルイズは体を起こしてベッドに腰掛けるように座る。

 

「当然でしょう? いくら自我をもってるからって、本来なら平民どころかあんたみたいな田舎から来たようなへんてこなゴーレムには、一歩も入ることすら許されない場所なんだから」

 

ルイズはどうやらガンマのことを田舎から来たゴーレムと判断されたようだ、あれだけ周りのものをじろじろと見ればそう思われるだろう。

・・・もっともゴーレムに田舎もなにもないような気がするが。

 

「今日からこの部屋が貴方が暮らす所よ、もちろんここは私の部屋だから物を壊さないように気をつけなさいよね?

それと、そこが貴方の寝場所だから」

 

 

ピッと指をさしたところに、使い魔が寝るためであろう藁の山があった

 

 

「・・・・・何故、藁?」

 

「・・・しょうがないでしょう、まさか貴方みたいなゴーレムが使い魔になるなんて思わなかったもの・・・・ひょっとしてダメだった?」

 

 

すこしばつが悪そうに言うが、ロボットであるガンマは睡眠を必要としないため自分の場所を用意してくれているだけでもよかったと思っていた。

 

「問題ナイ。逆ニ、ボクノ居場所ヲ用意シテクレタルイズニ感謝シテイル」

 

「そ、そう…それならよかったわ」

 

ホッとしたようにルイズは息を吐く。 まさか感謝されるとは思わなかったが・・それでもガンマが納得してくれたようで安心した。

 

 

「(それにしても・・・コイツってホントに変わった姿をしてるわよねぇ・・)」

 

改めてみてガンマのその姿を不思議そうに見る、一体どこのメイジがこのゴーレムを作ったのだろう? 自我を持ち、複雑な構造をした金属の体で、馬よりも早く移動が出来るゴーレムだなんて聞いたことがない。 ひょっとして高位のメイジがつくったのだろうか?だとしてもこのゴーレムがトリステインの建物を珍しそうに見るあたり、きっと田舎出の貴族なのだろう。

・・・だが不可解なのは、こんな自我をもった珍しいゴーレムをそんな田舎にいるようなメイジに作れるのだろうか?

まず気になるのは、このガンマのゴーレムらしくない姿だ。 ゴーレムとはその頑丈な巨体と腕力を持ち味としており、役割はそれぞれで巨大な石の扉を開けたり、大きな跳ね橋を動かすためだったり、岩の撤去や建物の建設に使われたり、さらに重要なのは主人を守るために時には体を盾として、時にはその怪力をもってして敵を粉砕するのがゴーレムの役目なのだ。

 

なのに…このガンマはその役目と程遠いほど細い手足をしている。右腕の鈍器(?)は護身用としても心許ないし、さきほど自分を軽々と持ち上げたが、ある程度の腕力はあるがだからといっても力持ちというわけではないだろう・・だとしたら何のために作られたのだろうか?

 

「…ねぇ、アンタはどこから来てどこのメイジに作られたの?見た感じじゃ普通のメイジにはアンタみたいなゴーレムは作れないと思うんだけど」

 

ルイズにそう訪ねられ、ガンマは少し迷った。 ルイズには自分のことを教えてもいいが、エッグマンのことについてはやめておいたほうがいいかもしれない。万が一、ここでもエッグマンことが知れ渡っているならばそのエッグマンのロボットである自分がこの地の住民達に敵対されてしまう恐れがあるためだ。

それに・・・自我を持ったとはいえ、戦闘用ロボットである自分自身も必要以上の情報を与えられておらず、無知に等しいのだ。 だからルイズに伝わるようなるべく言葉で表せられるように説明した。

 

「マズ、ルイズハ"ステーションスクエア" "ミスティックルーイン" "エンジェルアイランド" ト言ウ地名ヲ聞イタ事ガアルダロウカ?」

 

「ステーションスクエア? ミスティックルーイン? 全然聞いたことがないわね、どこの田舎なの?」

 

「田舎デハナイ、コノトリステイントハ違ウ、ココヨリモ遠イ遠イ国ノ中ニアル都市ノ名前。 ソシテ、ボクハアル科学者ニヨッテ製造サレタ。 ボクガ居タ所デハ大勢ノ人間ガ暮ラシ、魔法ト言ウモノガナク、コノトリステインノ人達ノヨウニ人間ガ空中ニ浮カブ事ハ出来ナイ」

 

「ま、魔法がない!? 平民しか居ない国ってこと!? そ、それじゃぁ・・アンタを作ったその"カガクシャ"っていうのはメイジじゃないの?」

 

「ボクヲ造ッタ科学者モ、メイジデハナイ。 ボクハ魔法トイウモノデ造ラレタノデハナク、科学ニヨッテ造ラレタ」

 

「科学・・?よくわかんないけど・・それと魔法とどう違うの?」

 

「・・・情報無シ。ダガ、科学ニヨッテソノ国ガ発展シテオリ、ルイズ達ガ使ッタ魔法トハ違ウ (ちから)ナノハ確カ」

 

「なによそれ、それじゃほとんどわかんないじゃない!」

 

 

ルイズは冷やかしを食らったように不機嫌になり、夜食のパンを頬張る

 

 

「それに信じられないわ、魔法も無しで国が発展してるだなんて。 そもそもその科学っていうので何が役立つのよ?」

 

「インプットサレテイルデータニヨレバ、人ヲ乗セテ空ヲ飛ブ乗リ物ヤ、地面ヲ走ル乗リ物、遠クニ居ル人物ト会話ガ出来ル機械、自動デ開クドア 等様々ナモノガアル」

 

「それってどんなマジックアイテムなの? 本当ならすごいかもしれないけど、もうわけわかんないわ・・・とりあえずわかったのはあんたが魔法もしらないくらい辺境から来たってことくらいね・・」

 

わかりにくい情報の上に疲れも相まってうんざりしたように頬杖をついてため息を吐く。ガンマも主人であるルイズに納得できる情報が伝えられなくて申し訳なさそうな顔(?)をしている。

 

 

「・・・マスター・ルイズ、最後ニ質問ヲシテモイイダロウカ?」

 

ルイズが顔をあげ、ガンマの事を見るがどこか気だるげだ

 

「ん?いいわよ、言ってみなさい」

 

「コレカラ、ルイズノ元デ暮ラス上デ 重要ナ内容・・・・使イ魔 トハ、何ヲスレバイイノダロウカ?」

 

ガンマがもっとも気になっていた情報"使い魔" 、ルイズをマスターとして使い魔の任を受けると決めたが、そもそも使い魔とはどういうことをするのかがわからないため、主人であるルイズに直接聞こうと決めていた。

 

「ああ・・そういえばまだ説明してなかったわね。じゃぁいいわ、このルイズ様が使い魔の心得を説明してあげるわ」

 

ルイズはベッドの上に立ち上がってガンマの目線が合うように立つ。貴族として行儀が悪いがガンマを見上げながら説明するのが癪なのだろう。

 

「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。つまり感覚の共有よ、アンタが目で見たもの耳で聞いたものが主人の私にも見えたり聞こえたりすることね」

 

なんとも便利な能力だ、とガンマは思う、つまり自分の視界を通じて離れた場所から使い魔を通じてその場所の情報が得られるということなのだ。これなら偵察任務の際に役に立つ。

 

 

「何カ、見エルカ?」

 

「・・・ダメね、何にも見えないわ。 ひょっとしてゴーレムとじゃ相性が悪くて共有ができないのかしらね。」

 

「ソウカ・・・」

いきなり使い魔として使えない要素となるとは・・・

 

 

「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか」

 

「秘薬ニツイテハ情報無シ、ダガ探索任務ナラ経験アリ。過去ニ、前ノ主人カラカエル捕獲任務ヲ受ケタ事ガアル」

 

「か、カエ・・ッ!! …ま、まぁいいわ、つまりそうゆう探し物ができるってことよね?」

 

「? 特定ノ情報サエアレバ、探索ハ可能」

 

ルイズがカエルというワードに何故か敏感に反応したが、どうしてだろう?

 

 

「そして、これが一番なんだけど・・・、使い魔は、主人を守る存在であるのよ!その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!だけど・・・見た感じじゃアンタじゃ無理そうね」

 

普通のゴーレムだったならば期待できただろうが、いくら特殊な移動手段を持ってるからといってもガンマは見た目どおりこの細い手足では敵の攻撃を防げそうには見えない。

 

「ソノ心配ハナイ、ボクハ戦闘用トシテ造ラレテイル」

 

ジャキッ、と右腕の銃を左手で持つように構える。

 

「アンタが・・・戦闘用? とてもそうには見えないけどねぇ・・」

 

「信ジテクレナクテモイイ…デモ、マスターデアル君ハ必ズ守ル」

 

ルイズは思わず笑いそうになったが、ガンマのその真剣そうな姿に笑うことができなかった。

ガンマは、ルイズを自分のマスターであることと同時に、一度壊れてしまった自分を直してくれた恩人であるルイズを守ると決めたのだ。 それが今ガンマのできる唯一の恩返しなのだ

 

「・・そう、じゃぁもしもって時は、使い魔らしいところを見せて守って頂戴ね?」

 

ルイズはそう微笑み、ガンマのその言葉を嬉しく思っていた。戦闘用だと言うのは信じられないが、きっとこの使い魔は自分の身を呈してでも敵から主人を守ろうとするだろう。何となくだが、彼のそんな意志のようなものが感じられた。

 

「でも、別に今は襲ってくるような敵はいないから、代わりに他のことをしてもらうわ、掃除に洗濯。その他の雑用とかね。それが貴方の仕事よ」

 

「了解、マスター」

 

「さてと・・しゃべったら眠くなってきちゃったわ」

 

あくびをしたあとルイズはそう言うやいなや、いきなりガンマの前でブラウスのボタンを外していき、下着を露にする

 

 

その光景にガンマのカメラアイが何度かぱちくりと点滅する。

 

 

「・・・・アノ、マスター」

 

「なによ?」

 

「何故、服ヲ・・・?」

 

「着替えるために決まってるじゃない」

 

「イヤ、アノ・・本来ナラバ……人ノ前デ脱グモノデハナイノデハ…」

 

 

ルイズが平然としながら服を脱いでるのに、ガンマはらしくもなくおろおろしている。

 

ステーションスクエアのホテルにはビーチがあり、そこでは来場した客が泳ぐために更衣室で水着に着替えてるところから、女性(男性含め)は他人に着替えてるところを見られるのはダメなのだとガンマは思っていた。実際にカエルの探索中に更衣室に入ろうとしてホテルの従業員に注意されたことがあった

 

 

「人もなにも、アンタゴーレムじゃない。それに使い魔に見られたって、なんとも思わないわ」

 

「・・・・」

 

ほんとにそれでいいのだろうか・・?ガンマはまだルイズのことが理解できなかった

 

 

「はいこれ、明日になったら洗濯しといてね。それから朝になったらちゃんと起こすこと。頼んだわよ」

 

「・・了解」

 

ガンマにぱさぱさと洗濯物の服や下着を投げ渡し、眠たそうにベッドの中にもぐりこんだあと、パチンと指を鳴らした。

指の鳴らした音に反応したように、部屋を照らしていたランプの明かりが消え、ルイズの寝息とともに静かな暗闇が部屋を支配した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

暗闇の中、渡された洗濯物を藁の隅に置き、ガンマは寝ているルイズをじっと眺めた後、月明かりが照らす部屋の窓に目を向ける。

 

 

「・・・・エミー・・・」

 

ポツリ、とずっと会えることを願っている友達の名を呟いた。 エッグキャリアから脱出したあと、彼女は今頃どうしているだろうか・・。 エッグマンの追っ手である、E-100シリーズのプロトタイプであるE-100α(アルファ)…またの名を"ZERO"は、きっと脱出したあとも彼女を追い続けてるだろう、それがZEROに課せられた任務なのだから。 そのZEROから無事に逃げられればいいのだが・・・。

それに、ルイズのおかげでこうやって再び動ける体になったのだ、ここトリステインからステーションスクエアまでどれほどの距離があるかは不明だが、今すぐは無理でも、きっとまた彼女に会えるはずだ。 

 

今はまだ情報が不足している以上、下手に動き回るのは得策ではない。まだルイズのことがわからないが、彼女の傍で使い魔の任務を続ければ、自我を持った自分にとって人との関わりがどういうものなのかが分かるはずだ。それに魔法と言う不可思議な力や、自分の中の未知のエネルギーについても謎が多い。それらのことも調べる必要があるかもしれない。

 

 

そう思いながら、ガンマは窓に近づき夜空に浮かぶ月を見上げた。

 

 

 

「・・・・!?」

 

 

ガンマは月を見た瞬間、思考が一度とまり、そしてメモリー内の情報や感情、これまでの情報で推定した推測がメチャクチャに入り混じってクラッシュしてしまいそうになった

 

 

 

何故なら、ありえないのだ

 

 

ありえるはずがないのだ

 

 

 

 

 

一つしかないはずの月が――――二つあるのだ

 

 

 

 

「・・・マサカ・・・」

 

ガンマは、電子頭脳の片隅に、このデータにない場所で ある可能性を考えていた。 "ロボットを知らない" "魔法" "召還" "使い魔" "謎の単語" "人が空を飛ぶ" "未知のエネルギー" ・・・・それらの情報をもって、予測してしまったある可能性・・・それは

 

 

 

 

 

 

―――――「異世界」・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当ニ・・・・コマッタ」

 

 

 

 

ガンマの異世界の暮らしは、始まったばかりである




暑い・・・_(:зゝ∠)_
皆さんも体調に気をつけて


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ミッションー104:お洗濯

お待たせしました、今回はちょっと短いです。


召喚の儀式を終えて一日目の朝――――あれほど輝いていた星空と二つの月は、朝日が顔を出していくのと同時にだんだんとその輝きを薄めていく。 起床するにはまだ早く、生徒達は未だにぐっすりと夢の中にいるが、その中で一人目覚めた者がいた。

 

 

 

 

ブウゥゥゥン…ッ

 

 

 

「(E-102γ(ガンマ)、起動…)」

 

ルイズの部屋の中、小さな起動音と共に折りたたんでいた手足を広げて立ち上がり、緑のカメラアイに光を点らせて目を覚ましたのはガンマだった。 彼は洗濯をするという使い魔の任務のために朝になるまで待機モードになっていたようだ。

体をぐりぐりと動かして調子を確認し、寝ているルイズに目をむける

 

「(ルイズハ、マダ寝テイルヨウダ…)」

 

ルイズの命令に朝に起こすよう言われているが、まだ日が完全に昇っていないところ、まだ起床する時間帯ではないだろう。 なら時間に余裕があるうちに洗濯を終わらせておいて、その後起こすのであれば問題ない。

ガンマは行動に移ろうとするが、一歩足を踏み出したところで止まり、ゆっくりと昨日のことを思い出すかのように窓のほうを見る

 

 

「・・・ホントニコマッタ・・・」

 

 

ガンマの無機質な声のトーンが下がり、まるで落ち込んだように呟きながら、吐けないはずのため息を吐く仕草をする

 

昨日の夜、ガンマは夜空に浮かぶ二つの月を見て、ここが自分が居た世界とは違う別の世界だということがわかった。 別の大陸に召喚されたものと思っていたが、まさか異世界だったとは・・・、これでは帰る方法がわからない限りエミーに再会するということが限りなく不可能だということだろう・・・。

 

 

 

きっとまた会えると、信じていたのに・・・

 

 

 

「(・・洗濯任務、続行・・・)」

 

だが今はそのことで落ち込んでいる場合ではない。今の自分はルイズの使い魔としてのガンマなのだ。 それにまだこの世界についての情報も収集していないのに諦めるのは間違っている、今は使い魔の仕事をこなすのが最重要任務だ。

 

そう自分に言い聞かせ、隅のほうに置いてあった洗濯物を拾い上げ、ルイズを起こさないよう音を立てずに部屋から出て行った。

 

 

 

 

「洗濯・・・洗濯・・・」

 

昨日インプットしておいた廊下のマップを確認しながら、ガンマは洗濯物をもって歩いていく。傍から見ると見たことのないロボットが女性の下着をもってうろついてる状況は不審としか言いようがない。

 

だが暫く歩いていくうちに廊下の真ん中で急にピタリッと止まり、ガンマはあることに気づいた。

 

 

 

「洗濯場・・・・ドコ?」

 

 

 

なんとルイズに洗濯場がどこにあるのかを聞き忘れていたのだ。これではここらの場所のデータをインプットした意味がない。

だが今更わざわざルイズの部屋に戻って聞きにいくわけにもいかず、どうしたものかと悩んでいたら・・・前方に前が見えないくらいに大量の洗濯物をカゴいっぱいに載せ、重たそうに運んでいるメイド服を着た黒い髪の女性が歩いていた。

きっとこの学院で働いている使用人なのだろう、かつてガンマが乗っていたエッグキャリアにも似たようなメイドロボット達がいたことをガンマは思い出していた。

 

その後姿から、メイドの女性はガンマに気づいていないのか、せっせと洗濯物を運んでいる。きっと自分と同じように洗濯場へ向かおうとしているのだろう、彼女なら洗濯場への場所を教えてくれるかもしれないと思い、ガンマはそのメイドに声をかけた。

 

 

「オハヨウゴザイマス、少シヨロシイデショウカ…」

 

「は、はい、なんでしょ・・っ!?」

 

そのメイドは聞いたことのない無機質な声に戸惑いながらも振り返り、ガンマを見た瞬間ビクッ!と体が跳ね洗濯物を落としそうになる。 振り返った先に2メイルもあるゴーレムのようなものが目の前にいたらそれは驚くのも無理はない。

 

 

「驚カシテ申シ訳ゴザイマセン、大丈夫デスカ?」

 

「あ・・い、いえ、こちらこそ驚いたりしてすみませんでした! ・・・あの、もしかしてあなたは、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう・・・」

 

「ボクヲ、知ッテイルノデスカ?」

 

「ええ、なんでも召喚の魔法で見たこともない喋るゴーレムを呼んだって噂になっていますわ」

 

なんと、もう自分のことが噂になっていたのか…たしかに自分みたいな姿のゴーレムというものはここでは珍しいらしいから、噂が広がるのは仕方がないのだろう。

 

「アナタモ、メイジノヨウニ魔法ガ使エルノデスカ?」

 

「いえ、私はただの平民でございます。貴族様のように魔法などは使えないんです」

 

「・・? 平民ダカラ、使エナイト・・?」

 

 

ガンマはこのメイドの言葉に首を傾げそうになる。 どういうことだろう? まるで魔法は貴族にしか使えないような言い方だ。

 

 

「はい、私達のような魔法を使えない者は平民として扱われ、魔法が使える者は貴族として扱われているんですよ」

 

 

なるほど・・、っとガンマは納得したようにそのメイドを見る。 つまり魔法が使えるか使えないかで上下関係が決まってしまっているということなのだ、昨日の夜ルイズがステーションスクエアのことを「平民しかいない国」といっていたが、"平民"とはそのことを表していたのか・・。だが、何故同じ人間であるはずなのに魔法の有無の差で階級が決まるのだろうか?

思ったよりもこの魔法に関する情報は複雑なのかもしれないと改めて思い直した

 

 

「あの・・・ところで私に何か御用では?」

 

「! ソウデシタ、実ハマスターニ、洗濯ノ任務ヲ受ケタノデスガ…洗濯場ノ場所ガ不明ノタメ、場所ヲ教エテ頂ケナイカト・・」

 

「ああ、それでしたら私もちょうどそこへ行くところでしたので、どうせなら一緒に行きませんか?」

 

「アリガトウゴザイマス」

 

やっぱりこのメイドも洗濯場へ行くところだったようで、案内どころか同行してくれるようだ。 

 

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はシエスタと申します。このトリステインで貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているメイドです。」

 

「ボクノ名前ハE-102γ(ガンマ)。 マスター・ルイズノ使イ魔ノ任ヲ受ケルコトニナリマシタ。 ヨロシク、ミス・シエスタ」

 

「ミ、ミスだなんて、お止しください!私はただの平民なんですから、どうぞ普通にシエスタと呼んでください、えっと・・イー・・イーイチゼロニ・ガンマさん」

 

黒髪のメイド、シエスタは顔を赤くさせ両手を前に出してぶんぶんと振る、ガンマはその姿を見てなんで焦ったようにしてるのかわからなかったが、本人が嫌がっているならやめておくべきだろうと判断した。

 

 

「デハ・・・ボクノコトモ、普通ニ"ガンマ"ト呼ンデ欲シイ…改メテヨロシク、シエスタ」

 

「は、はい!よろしくガンマさん!」

 

ガンマは敬語口調をやめ、改めてシエスタと自己紹介をした。シエスタの様子から、貴族と違って敬語で話すより、普通に接したほうが話しやすいのかもしれないと判断したためだ。 シエスタもこのガンマというゴーレムが思ったよりも人間のように話すため内心驚いていたが、ここまで丁寧に接してくれるガンマに好感を持てたようだ。

 

 

ガンマは彼女のこの愛嬌のある笑顔を見て、ガンマは友達のエミーの笑顔を連想させていた。

 

「(エミーモ・・・アンナ風ニ優シク笑ッテイタナ・・・)」

 

そう懐かしむように、ガンマはシエスタと共に歩んでいった・・・

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「デハ、洗濯場ヘ案内ヲシテクレル間、シエスタノ分ハボクガ持トウ」

 

「え、で、でも悪いですよ!それにそんな量の洗濯物をいくらゴーレムのガンマさんでも・・」

 

「問題ナイ、コノ程度ノ量ハ十分二運ブ事ガ可能。 トコロデ、ココノ洗濯機ハ、洗イ終ワルマデ、ドノクライ時間ガ掛カカルダロウカ?」

 

「・・・・あの、"センタクキ"って・・なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・エ?」

 

 

 

 

 

―――この後ガンマがシエスタに教わりながら片手しか使えずの洗濯に苦戦したり、何度か下着を破ってしまったのは言うまでもない




ゲームの中でもガンマはロボット特有の天然系なキャラだと思います


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ミッションー105:不安

お待たせしました次の話です。

最近はなかなか小説を書く時間がとりにくくなってるので、更新が遅くなるかと思います。


「ガンマさん、飲み込みが早いんですね、もう片手だけでも十分洗えてますよ」

 

「マダ加減、難シイ・・」

 

 

洗い場である井戸の近くで、一人の黒髪のメイドと一体の大きな赤いゴーレムが一緒になって洗濯物を洗っていた。

メイドはシエスタと言い、さきほど出会ったルイズの使い魔であるガンマに洗濯のやり方を教えていた。

何でもこのゴーレムが元居た場所では人の手を使わず、入れるだけで自動で洗濯物を洗ってくれるという"センタクキ"という便利な道具があるらしく、このトリステインにもその道具があるものだと思っていたらしい。

そのような魅力的なものがあるだなんて信じられなかったが、もしそのようなものが実在するのなら、ここにも一台欲しいくらいだ。

 

そのため、ガンマは自分の手で洗濯物を洗うことになったのだが、そのような家事全般のことをやったことがなくてどうやればいいのかわからないと言うのだ。そこでシエスタがガンマに洗濯のやり方を一から教えることになったのだが・・・そこで一つ問題があった。 ガンマの右腕は通常の腕と違って、先が鉄の塊のような四角い形になっているのだ。

そのため洗濯を行えるのは左腕だけのため通常よりも時間が掛かってしまい、それでもなんとかコツを掴んだのかぎこちないながらも片手で洗濯物を右腕で押さえた洗濯板にこすり付けて器用に洗っていた。

最初こそ見た目はこんなに大きなゴーレムなのに、まるで子供みたいに興味深そうに洗濯物を洗っているところを観察しては見よう見まねで洗ってるところを見て「(なんだか可愛い…)」とさえ思ってしまった。

・・・だがそのため先ほど力加減を間違えてしまって薄い布で出来ている下着を何枚か破いてしまったのである。

 

 

「スマナイ、シエスタ・・教エテクレタノニ、上手クイカナクテ・・」

 

破けてしまった下着の有様を見て、洗濯の指導をしてくれたシエスタに謝罪する

 

「い、いえ、ガンマさんはこういうのは初めてなんですから仕方ないですよ、しかも片手でしか洗えないんですから・・・」

 

元は何のために使われるのかはわからないが、右腕がこのような不便な形である以上左手だけでの洗濯には無理があるとシエスタは思った。

 

「それに…謝るのは私のほうです。ガンマさんの腕をみれば洗濯が難しいとわかるのに、ガンマさんの分を私が引き受けてさえいれば・・」

 

シエスタはガンマの主人の下着が破れたことでガンマが咎められるんじゃないかと心配した、魔法が使えない平民である彼女は貴族の恐ろしさをいやと言うほど知っているのだ。だがあの貴族なのに魔法が使えずいつも努力しているミス・ヴァリエールがそんなことをするような子には思えないと思ってるが、それでも自分の裁量のなさのせいでガンマが怒られるのがとても辛いのだ。

 

「何故、シエスタガ謝ル?。コレハボク自身ノミス。ソレニ、マスターカラ受ケタ任務ハチャント自分デヤラナイトイケナイ。」

 

だがガンマは、シエスタの気持ちとは裏腹に平然と答えた。この任務はガンマ自身が受けたものであり、シエスタはあくまで自分に洗濯のレクチャーをしてくれただけで、シエスタが謝ることなどないと言いのけた。

 

「ソレニ、ボクハ シエスタガ何モ知ラナイボクニ洗濯ノヤリ方ヲ教エテクレタ事ガ、トテモ嬉シイ。」

 

 

そんなガンマの言葉を聴いて、シエスタは大きく目を見開いた。無機質な喋り方ではあるが、このガンマと言うゴーレムはなんとまじめで優しいんだろうか……自我を持っていると聞いてはいたが、まるで人の心が宿ってるように思えた。

 

「ダカラ、モシシエスタガ コマッタ事ガアッタラ、言ッテ欲シイ。ボクハイツデモ協力スル」

 

「・・・ありがとうございます、本当に優しいんですねガンマさんは。 私にも何か助けがあるようでしたら、いつでも言ってくださいね!。 それじゃ、残りの洗濯物もさっさと片付けちゃいましょう!」

 

「アイアイマムッ」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

しばらくして朝日がだいぶ昇ってきだす頃には、シエスタもガンマも洗濯を終えていた。

 

 

「それでは、後は私が洗濯物を干しておきますので、ミス・ヴァリエールの服が乾いたら部屋へ届けにいきますね」

 

「了解、手伝ッテクレテアリガトウ、シエスタ。」

 

「いいんですよ。ガンマさんも使い魔のお仕事をがんばってくださいね。 ではこれから他のお仕事もありますので、これで失礼します」

 

ペコリと頭を下げ、洗った洗濯物が入ったカゴを持ってガンマと別れていった。 そんな彼女にガンマは左手を軽く振って見送る。

そして彼女が見えなくなるのを確認したあと、ガンマは次の任務である"朝になったらルイズを起こす"を実行するため、再び部屋へと戻ることにした。

 

 

「(ソレニシテモ・・・洗濯機ドコロカ、電気サエ通ッテナカッタトハ・・コノ世界ノ技術ハマダ発展シテイナイノダロウカ・・?)」

 

ガンマはこの世界が魔法という科学とは違う力が主になっているというのは理解したが、ここまで技術力が低かったのは誤算だったようだ。

きっとこの世界では自分のようなロボットはオーバーテクノロジーなのだろう。 この世界で他の機器類にめぐり合える確立は無いに等しいと思ったほうがいいのかもしれない・・。

 

そうこう考えてるうちに、ガンマはルイズの部屋へとたどり着き、ドアを開けて中へと入っていった。

 

 

「・・んふふ~・・・美味しそうなクックベリーパイぃ・・・ムニャムニャ・・」

 

「・・・マダ寝テル・・」

 

 

ルイズの顔をそっと覗き込めば、寝言からしてどうやら食べ物の夢をみているようだ。なんとも幸せそうな顔である・・。

 

「マスター、起キテクダサイ。起床時間デスヨ」

 

ユサユサと優しく揺さぶり、ルイズを起こそうとする。 その揺さぶりのせいか、ルイズは夢から覚めたようにうっすらと眠たそうに目を開けていく

 

「くぁ・・ん~~・・? うひゃぁあっ!!?あ、アンタだれ!?」

 

「・・・。 E-102γ(ガンマ)、君ノ使イ魔。」

 

「え?・・あ・・そっか、昨日召喚したんだっけ・・」

 

 

やっと思い出したのか、眠たそうな顔をしながらあくびをしてベッドから起き上がり、椅子に掛かった制服を指差してガンマに指示をだす。

 

「服」

 

「了解」

 

ガンマは自分の隣にあったその制服を掴んでルイズに手渡す

 

「下着…そこのクローゼットの一番下の引き出しの中」

 

「了解」

 

ガンマは指示されたとおりにクローゼットの引き出しを開け、たくさんある下着の中から適当なのを取り出す。

 

「コレデイイダロウカ?」

 

「ん、なかなか的確に動くじゃない、さすがゴーレムね」

 

 

ルイズは自分の言うとおりに動いてくれる使い魔に満足気になりながら、手渡された下着を身に着ける。 ガンマは着替えてるルイズの姿を直視しないよう視線をそむけていた

 

「着せて」

 

「エ・・・、 ボクガ・・・着セルノ?」

 

下着をはき終わったルイズは次は制服を着るため、ガンマに服を着せるよう指示を出すが、ガンマのほうは予想外の指示に困惑して自分に指を指しながらルイズに確認をとる。

 

「あのね、ゴーレムのアンタは知らないだろうけど、貴族は目の前に下僕がいる時、自分で服は着たりしないものよ!」

 

「ソウナノ・・カ・・?」

 

ガンマは理解できなかった、普通ならば自分でやったほうが早いことを何故わざわざ他者を使ってやらせようとするのだろうか? 貴族というのはそういうものなのだろうか・・?

 

「そうゆうものなの! ほら、急がないと朝食に遅れちゃうでしょ?早くしなさい!」

 

「・・・了解」

 

ガンマはあまり納得できなかったものの、ルイズの指示に従うことにし さきほどの制服を遅めではあるがちゃんと着せていく。

右腕が銃であるためものを掴むことができないが、さきほどの洗濯のおかげで細かな動きが出来るようになり、銃の突起部分に服の裾を引っ掛けて、その間にルイズに着せて行ってはブラウスのボタンを左手だけで閉じていくことができていた。

その様子を見てルイズは不思議そうにそれを眺める

 

 

「・・・あんた、右腕がそんななのに、ずいぶんと器用にできるわね。」

 

「洗濯スル時、メイドノシエスタニ教ワッテ洗ウコトデ、ドコヲドウ持テバ服ガ固定デキルカ アル程度把握スルコトガ可能ニナッタ。」

 

「ふ~ん・・」

 

着々とガンマが服を着せていく中、ルイズはガンマをじっと見ていた。 

昨日の夜、このゴーレムが一体何のために造られたのかは結局分からず終いだったが・・・これは仮説だが、もしかするとこのゴーレムは力仕事や護衛のためとかではなく、主人の身の回りの世話をするためのお手伝い・・もしくは執事としての役割をもったやつなのではないだろうか? だとすればこのような力をあまり必要としない細い手足も納得できる。

 

このようなゴーレムを造れるだなんて・・・こいつの前の主人だったカガクシャっていう人はどんな人物だったんだろう?

 

 

「ねぇ、あんたがここに来る前に仕えていた主人はどんな人だったの?」

 

「・・・・・」

 

 

ピタッ…と、ルイズのその問いにボタンを閉じる手が止まる。ルイズはそれを見てまずいことを聞いたのではと慌てる。

 

 

「あ・・その、ごめんなさい。別に無理して言わなくてもいいから・・」

 

「敵」

 

「え・・」

 

「アイツハモウマスターデハナイ・・・ボクノ敵」

 

 

その言葉を聴いてルイズは硬直した、無機質な喋り方をするガンマのその言葉には敵意がこめられているように感じられたのだ。

ルイズはガンマの様子が気になり、さらに質問する

 

「マスターじゃないって・・どういうこと? あんたはその人に作られたゴーレムなんでしょ?」

 

「確カニ作ラレタ・・・デモ、ボクハ生ミ出サレタ当初ハ、タダタダアノ男ノ命令ニ忠実ニ従ウダケノ"ロボット"・・・ルイズ達ノ言ウ"ゴーレム"ノコトダ。 ツマリ、今ノヨウニ自我ヲ持ッテハイナカッタ」

 

「じゃぁ、最初は今みたいに自分でものを考えたりはできなかったんだ・・・でも、・・なんで敵になったの?」

 

ガンマは制服を着せる作業を再開させながら、ポツリポツリとその時の事を話し出す

 

 

「ボクノ他ニモ、仲間ノロボット・・・兄弟達ガ居タガ。アル任務ニ失敗シ、成功シタボク以外ハミンナ破棄サレテシマッタ。ドコカ遠クヘ追放サレタモノ、マッタク別ノモノへト改造サレタモノモイタ。 アノ男ハ・・自分ノ役ニ立タナイモノハ平気デ切リ捨テル人物ダッタ・・・。  ボクハ・・ソレヲ見テ自分ノ存在ニ疑問ヲ持ツヨウニナリ、ソシテ・・・アル時ヲキッカケニ、ボクハ自分ノ自我ニ目覚メ、アノ男ノマスター登録ヲ自分ノ意思デ解除シタ」

 

 

「・・・・」

 

ルイズは言葉も出なかった。ガンマは、自分以外の兄弟だったはずのゴーレムを、その主人だった男に全て奪われてしまったのだ。 もし・・・自分の実の姉達が、そのように奪われてしまったらと考えたら・・・胸が締め付けられた。

 

ガンマはルイズに制服を着せるのを終え、改めて緑のカメラアイをまっすぐルイズに向ける

 

 

 

 

「・・ルイズ、モシボクガ君ノ期待ヲ裏切ルヨウナコトヲシテシマッタラ・・・・・・ボクヲ捨テルノ?」

 

 

 

 

戦闘能力の高さ、任務の成功でエッグマンから多大な評価をもらったが、もし逆に・・・自分もデルタ達のように失敗していたら、捨てられていたのは自分だったのかもしれないと考えていた。

 

だからこそガンマは、ココロの奥底では不安でいっぱいだったのだ、マスターとなったルイズの使い魔という任務を完璧にこなせれるのかと・・・。

 

 

「はぁ~~・・・」

 

それを聞いてルイズは呆れるかのように大きくため息を吐いた

 

「…あのねぇガンマ、あんたミスタ・コルベールの説明を聞いてなかったの? 使い魔っていうのはメイジにとって生涯を共にするパートナーってことなのよ。あんたの前の主人がどんなやつだったかしらないけど・・・たとえあんたがとんでもないことをやらかして私に恥をかかせるようなことがあったとしても、あんたに使い魔のルーンが刻まれている以上あんたが私の使い魔であることに変わりないし、その使い魔を捨てるだなんてメイジにとって有るまじき行為・・恥以外のなんでもないことをするわけないでしょ!」

 

ルイズはガンマを叱るかのように無い胸を張って言い放った。 このゴーレムのガンマが、まるで一人ぼっちの子供のように見えたのだ。

自我を持ったが故に、兄弟も頼れるものおらず、新たな主人のもとで捨てられることを恐れているかのようだったのだ。

たしかに期待していたのとはだいぶ違ってて神聖でもなければ美しいわけでもない、だが、このガンマはもう自分の使い魔なのだ、102回もの召喚でやっと魔法が成功し、ようやく現れてくれた使い魔なのだ。それを手放す気など毛頭無い!

 

「それにね、仮に契約を解除しようとしたって簡単には行かないの。 メイジか使い魔、そのどちらかが死なないとその使い魔のルーンが消えないのよ。 …ガンマ、あんた一度死んでみる?」

 

「ヤダ」

 

既に一度死んだようなものなんだから即答である

 

 

「だったらそれでいいじゃない。だからあんたも安心して私の使い魔を続けなさい! でもまぁ・・・だからといってもし粗相をして恥をかくようなことがあったら、その時は罰を与えるから覚悟しておきなさい、いいわね?」

 

ルイズはガンマの胸をコツンと叩き、ガンマの緑のカメラアイを笑って見つめる。

 

 

「・・・・了解シマシタ、マスター・ルイズ。 ・・・アリガトウ」

 

ガンマの相変わらずな無機質な声だが、最後の感謝の言葉はどこか温かみがあった。

 

 

「さぁ、話はもうおしまい!着替えも終わったし、食堂に向かうから付いてきなさい」

 

「了解、マスター」

 

ガンマはルイズのことが、すこしだけ理解できたような気がした。 ・・・彼女が優しいマスターなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、・・トコロデルイズ・・」

 

「どうしたの?」

 

くるっとガンマのほうに振り返り、何事かとたずねる

 

「アノ・・・実ハ、報告スルコトガ・・・」

 

「何よ、早くいいなさい」

 

「コレ・・・」

 

 

恐る恐ると体に収納していた、洗濯で破いてしまったルイズの下着を見せる

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「なにこれ」

 

「下着」

 

「見れば分かるわ、何でこうなってるの?」

 

「チカラヲ入レスギテ・・・破レタ・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 

にっこり、とどこか恐ろしい笑顔を浮かべ、どこから出したのか乗馬用の鞭を取り出す。

 

 

 

「この・・・・馬鹿使い魔ーーーーーーーっ!!!!」

 

バシイィィィィン!!と、清清しいほどの乾いた音がガンマの頭を鞭でシバいたことで鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(前言撤回、コノマスター怖イ)」

 



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ミッションー106:二人は友達?

お待たせしました次の話です。
かなり話が亀進行で申し訳ないです


「もう…あの下着は結構高いのよ!?しかも気に入ってたやつだったのに、まったくっ!」

 

「申シ訳ナイ・・・」

 

 

ルイズはプンプンと怒りながら部屋を出て、その後ろをションボリとしながら付いていくガンマの姿があった。

あの後何度か鞭でシバかれて怒られたが、ガンマが片腕でしか洗えなかったことと、素直に謝りながら反省してるところからルイズはなんとか許してくれた。 鞭で叩かれてもロボットであるためまったく痛くはないのだが・・・あまり彼女は怒らせないようにしようと気をつけることにした。

 

 

そうしてルイズと共に部屋を出た先に、廊下に並んであるいくつもあるドアの一つが開き、中から炎のように赤い髪をしたこの学院の生徒らしき女性が出てきた。

その女性はルイズよりも身長が高く、褐色の肌をしており、スラリとしたスタイルをし、胸の大きさもルイズと比べれば天と地ほどの差があるほど大きくブラウスのボタンを二つ外すほどである。

 

 

「おはよう、ルイズ。朝からご機嫌斜めね」

 

「…おはよう。キュルケ」

 

 

その女性に挨拶されるが、ルイズは顔をしかめていた。 自分のせいで不機嫌にさせてしまったのはたしかだが、どうもルイズの態度から見るとこの女性に対して違う不機嫌さが出ているようだ

 

「あなたの使い魔って言うのは、そのゴーレム?」

 

ガンマを指さし、バカにした口調で言った。

 

「そうよ」

 

「あっはっは! 近くで見るとほんとにへんてこな姿をしてるのね! すごいじゃない! 『サモン・サーヴァント』でこんな珍しいゴーレムを召喚するなんて、あなたらしいわ、さすがはゼロのルイズ」

 

「うるさいわね、こいつはただのゴーレムじゃないのよ!昨日召喚の儀式の時に喋ってたのをあんただって聞いてたはずでしょ!」

 

「ふふ、たしかに喋れるゴーレムだなんてとても珍しいわ。でもそんなゴーレムもあなたじゃ雑用くらいにしか使えてないんじゃないかしら? さっきの怒鳴り声からするとその雑用も上手くいってなさそうね」

 

「ぐぬぬ・・っ」

 

 

図星をつかれ、悔しそうにキュルケを睨みつけるルイズ。 そんな二人のやりとりを見ていたガンマは、どうやらこの二人はいがみ合っているが知り合いのようだと思った、このキュルケと言う女性は平然とした態度をしているのに、主人のルイズはやけに敵対的だ・・・二人の間になにかあったのかはわからないが、この女性も制服からしてルイズと同じ学院の生徒であり、同じ貴族のようだ。ならばちゃんと挨拶はしておくべきだろうと判断する。

 

 

「初メマシテ、ミス・キュルケ。マスター・ルイズノ使イ魔ニナッタ、E-102γ(ガンマ)ト申シマス。」

 

「!…へぇ、見た目によらず礼儀正しいのね。変わった名前だけど、それにちゃんと意思をもって人と会話が出来るだなんて驚きだわ」

 

 

キュルケは突然丁寧に挨拶してきたガンマに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。 まさか命令もなしに自分から挨拶してくるとは思ってなかったようで、面白いものを見つけたかのようにガンマをじろじろと見る。

 

「キュルケに挨拶なんかしなくたっていいわよガンマ」

 

「あらルイズ、そんなつれない事言わなくたっていいじゃない。 こんな見たことないゴーレムに挨拶されるなんてなかなかないことなのよ? それに、このゴーレムの目のような部分なんて、まるで宝石みたいに綺麗だわぁ…」

 

キュルケはうっとりとしたようにガンマの緑のカメラアイに指をなぞらせ覗き込む。 このキュルケの行動の意味が理解できないガンマはどう対応すればいいのかわからず、ただじっとしているしかできなかった。

 

「ちょっと!人の使い魔に気安く触んないで!」

 

ルイズはそれが気に入らなかったらしく、ガンマからキュルケを引き剥がすように割ってはいる。

 

「あん、もうちょっとだけ見たかったのに・・。 でもまぁ、あなたのゴーレムが珍しいのはたしかだけど、どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。フレイムー」

 

キュルケがそう呼ぶと、キュルケの部屋から真っ赤な体をした巨大なトカゲが現れ、のしのしと歩いてくる。 大きさは虎ほどはあり、体からは熱気を放ち、尻尾の先にはゆらゆらと燃える炎がついていた。

 

 

「(・・・データニナイ生物)』

 

ガンマはフレイムをデータバンクで調べてみたが、やっぱり自分のデータにのっていない生物で、自分が居た世界には存在しないものだった。 たしかエッグマンのロボットでレオンと言う名のカメレオン型エネミーもこれくらい大きかったが、あれとは似ても似つかない。

 

「おっほっほ!その様子だとゴーレムのあなたも、この火トカゲが珍しいものだってわかるみたいね。」

 

「ボクガ居タトコロニハ、コノヨウナ生物ハ生息シテイマセン。危険ハアリマセンカ?」

 

「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないから。」

 

「…これって、サラマンダー?」

 

ルイズは少し悔しそうに尋ねる

 

「そうよー。火トカゲよー。見て?この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」

 

「そりゃよかったわね」

 

苦々しい声でルイズが言った。

 

「素敵でしょ。あたしの属性にぴったり」

 

「あんた『火』属性だもんね」

 

「ええ、微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」

 

キュルケは得意げに胸を張った。ルイズも負けじと胸を張り返すが、悲しいかな、大きな木の実とまな板では勝負にすらなっていない。ルイズはそれでもぐっとキュルケを睨みつけた。かなりの負けず嫌いのようだ。

バチバチと二人の視線の間に火花が出ているような気がするが、ガンマは気にする様子もなく思ったことを口にした。

 

 

「・・二人ハ・・友達?」

 

「どこをどう見たら友達に見えるのよ!!あんたの目はどこについてんの!?」

 

「目…ココ」

 

「そういう意味じゃない!!」

 

自分の目を指差すが、ガンマが何気なくいった言葉がルイズの癇にさわってしまったようだ。その剣幕に後ずさる

そのルイズ達のやりとりを見てキュルケはクスクスと笑いを堪えている。

 

 

「ともかく、あんたみたいにいちいち色気振りまくほど、暇じゃないだけよ」

 

ひとしきり笑った後、そんなルイズをキュルケはにっこりと余裕そうに笑う。 そして再びガンマを見つめる

 

「ねぇゴーレムさん、あなたたしかガンマだったかしら?」

 

「ソウデス、ミス・キュルケ」

 

「あなた、ホントに人間のように喋れるのね…。今度いつか、あなたの住んでいたところの話を聞いてみたいわ」

 

「可能ナ情報デアレバ、オ話デキマス。」

 

「ふふふ…お話が聞けるその時を楽しみにしておくわね。 それじゃぁ、お先に失礼。」

 

そう言うと、炎のような赤髪をかきあげ、颯爽とキュルケは去っていった。サラマンダーのフレイムは一度ガンマにきゅるきゅると挨拶するかのように鳴いたあと、ちょこちょことキュルケの後を可愛らしい動きで追っていった。

キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締めた

 

「くやしー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! しかも人の使い魔に馴れ馴れしく…! ああもう!」

 

 

「・・・・マスター、ボクジャ・・イヤ?」

 

キュルケの使い魔自慢に悔しそうにしているルイズを見て、ガンマは自分では使い魔としてダメなんだろうかと思いルイズい問いかける。 先ほどルイズの下着をダメにしてしまったのもあって負い目を感じているようだ。

 

「うっ・・・べ、別にあんたが嫌ってわけじゃないわよ。アンタは喋れるし、珍しいし、言うこと聞いてくれるし、頑丈だし、馬よりも早く走れるし・・・・・・・・・・あれ?サラマンダーよりすごくない?」

 

改めて考えてみるとガンマのほうが見たことないほど希少な喋れるゴーレムで、自我を持って話せるし、主人に忠実ときてるんだから文句なしの使い魔といえるんじゃないだろうか? なんだかそう考えるとキュルケのサラマンダーを羨ましいと思ったのがバカらしくなってくる。 この普通のゴーレムと比べて弱そうな見た目以外なら使い魔としての条件を満たしてると言えてるだろう。

 

 

「…ごめんなさいガンマ、わたしだってあんたみたいな立派な使い魔が居るってことを忘れてたわ」

 

「気ニシナクテイイ。ソレニボクハマダ使イ魔トシテ立派トハ言エナイ、ダカラルイズノ役ニ立テレルヨウモット頑張ル」

 

「・・・あんたってホントに真面目なのね。ゴーレムとは思えないくらいだわ。」

 

ルイズは呆れながらもニコリと笑った。

 

 

 

「・・・トコロデ、ミス・キュルケハ 自分ノコトヲ『微熱ノキュルケ』ト言ッテイタガ、魔法ト関係ガ?」

 

「ええそうよ、魔法には属性があって、キュルケの場合は『火』属性の魔法が得意だから、それにちなんで二つ名が付けられるのよ」

 

 

魔法というものには種類があるのか・・・だとすると、『火』以外にも何種類かの属性が存在して、メイジそれぞれに得意の属性魔法があって、それによって二つ名が付けられるということか・・。

ガンマは新しい魔法の情報に興味が出て、もう一つ気になった単語をルイズに聞いた。

 

 

「デハ、ミス・キュルケガマスターニ言ッタ『ゼロ』ハ、マスターノ二つ名ナノダロウカ? 『ゼロ』トハドウイウ意味ガ?」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・マスター?」

 

「アンタは知らなくていいことよ、さっさと行くわよ」

 

ガンマのその問いに答えることすらせず、何故かバツが悪そうに言い、食堂のほうへと歩き出す

 

 

「・・・??」

 

ガンマはわけがわからず、とにかくこの話題は打ち切り、ルイズの後を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

――――後にガンマは、この『ゼロ』の意味を知ることになる




アニメネタもチラホラ


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ミッションー107:アルヴィーズの食堂

お待たせしました次の話です。
考えてみるとハルケギニアではロボットはゴーレムなのかガーゴイルになるのかわかりにくいところだなって思います。


トリステイン魔法学院の敷地内で、中心部に位置する一番背の高い本塔には食堂がある。

 

その名は『アルヴィーズの食堂』。

 

この食堂は学院にいるメイジたち・・・つまり生徒や教師達が使用するためのもので、食堂の中はとても広く裕に百人は座れるほどのとても長いテーブルが三つ並んでいる。 しかしただ広いだけではなく、テーブルには豪華な飾り付けが施され、いくつもあるローソクや花が綺麗に立てられ、食後のデザートのためなのかカゴには色とりどりのフルーツが盛られている。見た目だけでもここは貴族専用の食堂であると思わされるほどだ。

 

そしてその入り口の前で、さきほどキュルケの使い魔自慢を終えてやっと食堂にたどり着いたルイズとその使い魔であるガンマの姿があった。

 

 

「・・・スゴイ」

 

 

ルイズの部屋を始めて見た時と同じような反応だが、それ以上にこの食堂の豪勢さにガンマは驚いていた。 ガンマはまだステーションスクエアのバーガーショップにしか行ったことがないため、人間達が食事をする一般のレストランなどを見たことがないが、こことは比較にならないだろうと思った。 

そんな驚きながら食堂の中を見回しているガンマに気づいたルイズは、得意げに指を立てイタズラっぽく目を輝かせる

 

「驚いたでしょ。トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。」

 

「魔法ダケジャナイ?」

 

「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」

 

「モットー・・・」

 

 

この学院ではメイジとしてだけでなく、貴族としての教育も行っているのか・・。 たしかにそれなら"魔法が使える貴族"という両方の性質を同時に育てられるということだ。 しかしそうなると、やっぱりシエスタの聞いたとおり魔法は貴族にしか扱えないものというのがこの世界の常識ということになるのだろうか。

 

「わかった?あんたが住んでたところじゃこんなのお目にかかれないでしょう? 本来ならここは貴族しか入ることを許されないんだけど…あんたは私の使い魔だから特別にここに入ることを許可してあげるわ、感謝しなさい。」

 

「アリガトウ、マスター。 ・・・デモ、ボクハモノヲ食べレルヨウニ出来テナイ。ソレニ、見タトコロ ココニハボク以外ノ使イ魔ガ確認出来ズ…予想デハ、他ノ使イ魔ハ別ノトコロデ待機サセテイルト思ワレル。 ソレナノニボクヲ入レテ大丈夫?」

 

ガンマは自分がロボット(ゴーレム)であるため、食事などはまず必要ない。それなのに自分が入ったら邪魔になってしまうのではと思いルイズにその疑問を聞いてみた。

 

 

「あんたに食事ができるだなんて思ってないわよ。 さっきも言ったようにあんたは私の使い魔なんだからおとなしくしてれば大丈夫よ。それにあんたは魔法も貴族もいない国から来たんだから何も知らないんでしょ? だったら少しでもここでの身の振り方を知っておくのも使い魔の大事な役目よ。 」

 

普通のゴーレムやガーゴイルだったならばこんなことは必要ないのだが、このガンマは別だ。 この喋るゴーレムはちゃんと知能をもっているし、状況判断(少々抜けてるが)も出来る上に、学習までできるようだ。それならばこのゴーレムにいろいろと学ばせて躾るのもいいだろうとルイズは考えたようだ。

 

「了解、マスター。 ボクモ、マダ情報ガ不足シテイルタメトテモ助カル」

 

「よし、決りね、それじゃぁ入るわよ。」

 

「了解」

 

 

話がまとまり、ガンマはルイズの後に続くように食堂の入り口をくぐった。 中に入ると既に席についている生徒達がおり、ガンマに気づいた者はその姿からぎょっとしたり、ルイズの使い魔だと気づいてクスクス笑っているものもをいるが、ルイズは無視を決め込む

 

ガンマは気にする様子もなく不思議そうに周りみると、壁際に精巧にできた小人の人形のような置物が並んであるのに気づく。

 

「ルイズ、アソコニアル人形ハ?」

 

「ああ、あれはアルヴィーズよ。この食堂の名前は『アルヴィーズの食堂』っていって、そのアルヴィーズはあの小人の名前から付けられてるのよ」

 

「ナルホド・・・」

 

ガンマはその小人の彫像に興味が出たのか近づき、じーっと見つめた後、その小人の顔を指でちょんちょんとつつく

 

 

 

…ペシッ!

 

「ッ!?」

 

 

突然、つつかれた小人が動き出してガンマの手をはたく。 これにはガンマも驚いていた、ロボットのエネルギー反応などなかったのにどういう原理で動いたのか理解できず不思議そうにその小人を見つめる。

 

「ふふ、アルヴィーズは魔法のかかった魔法人形なのよ、つまりガーゴイルね。 その子達は恥ずかしがりやだから無闇に触らないほうがいいわよ」

 

「動クト、思ワナカッタ・・・」

 

「普段は動かないけど、夜中になると動き出して踊りだすのよ。」

 

「踊ル・・・。」

 

再びアルヴィーズに視線を向ける。

 

これが"ガーゴイル"か・・・スキャンしたところ体は青銅でできているだけで他に変わったところは見受けられなかった。 魔法がかかった人形ということは、魔法の力で動いているということなのはたしかだが・・・そのエネルギーが感知できないのはどういうことだろう? 構造は自分のようにロボットというわけではなく、彫像そのものが動いたようなものだった。

 

 

「ほら、気になるのは分かるけどおとなしくしていなさい。 アルヴィーズに役目があるように、あんたにも使い魔としての役目があるでしょ?」

 

「了解・・」

 

 

そうルイズに言われ、ガンマはアルヴィーズから離れルイズの元に戻り、三つある長いテーブルの真ん中のテーブルに向かうとルイズが座る席へたどり着く

 

 

「椅子を引いてちょうだい。 まず使い魔は主人の気の利くように動くのが第一よ」

 

椅子のほうへルイズは首をくいっとかしげると、桃色のブロンドの長い髪が揺れる。

 

「了解、マスター」

 

ガンマはそれに答えるように椅子を引き、ルイズはそれを当然のように座り、ガンマは次にどうするか訪ねる

 

「マスター、次ハ何ヲスレバ・・?」

 

「そうね・・・じゃあ私の食事が終わるまで私の側に控えてなさい。終わったら次の指示を出すから」

 

「了解、コノママ待機スル・・」

 

ルイズの後ろに控えるように立つが、次第に集まってきた生徒達が自分の席に座っていき、三つある長いテーブルが生徒達で埋まる中・・・その中で2メイルもあるガンマが一際目立っていた

 

 

 

「おい、あれ見ろよ。ずいぶん変なゴーレムだな」

 

「ゼロのルイズが呼び出した使い魔だろ?あんな貧弱そうなゴーレム初めて見たぜ」

 

「でもよ、昨日あのゴーレムルイズを抱えた状態で馬より早く走ったって聞いたぜ」

 

「え! あんな細い手足でか!?」

 

「細いからこそ早く動けるんじゃないの?きっと速さに特化したゴーレムよ」

 

「だけど金属で出来てるんでしょ? 流石にそれだと無理に動かしたら折れるんじゃないかしら?」

 

 

 

ヒソヒソヒソヒソ……と、ガンマを見て昨日喋べれることと帰るときに他の生徒達を追い抜いたのがうわさになっているようで、それが聞こえたルイズはまんざらでもない様子だ。

ガンマもそれが聞こえたようで、やはり他の生徒達も自分のことをゴーレムかガーゴイルと思ってるようだ。 だが、わからないのはゴーレムとガーゴイルの違いだ。ガーゴイルはさっきのアルヴィーズを見れば意思をもった人形というのはわかるが、ゴーレムの場合はなんなのだろうか?

 

「(・・・・ソウイエバ目覚メタ時、ボクガマダ一言モ喋ッテ無カッタラ"ゴーレム"ト呼ビ、喋ッタ後ニ一人ノ生徒ガ『ガーゴイルだったのか!?』ト言ッテイタ・・・)」

 

っということは、ゴーレムとはガーゴイルとは逆の、意思を持たない人形を意味しているということだろうか? だがそれだと自我を持っている自分はガーゴイルということになるが、高位のゴーレムというのも自我をもったゴーレムということだろう・・・これらの違いがよくわからない。

 

 

 

ガンマがそう考えてる間に、生徒達のテーブルには豪華な料理の数々が並んでいく。 でかい鳥のロースト、鱒の形をしたパイ、焼きたてのパン、湯気が立ち上るシチュー、サラダ、ワインなど、とても朝食として食べるには豪華すぎるものばかりだった。

 

そうして料理が並び終え、さきほどまで喋っていた生徒達が一斉に静まる

 

 

「"偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします"」

 

 

ルイズも含め全員が目をつぶり、祈りの声が唱和される。

食べ物への感謝の言葉なのはわかるが・・・・この豪華な料理が本当に"ささやかな糧"と言えるのだろうか? ガンマはなんとなく祈りの言葉とこの豪華な料理の内容の差に矛盾があるように感じるが、貴族にはこれが普通なのだろうと納得する。

 

そうして祈りの言葉が終わり、全員が食事をし始める。 ガンマはその様子を緑のカメラアイで見回して観察する。

食事をしている生徒達はそれぞれ違ってて、肉汁たっぷりの鳥のローストにかぶりつく太めの生徒や、他の生徒と雑談ばかりしてあまり食事が進んでいない者、黙々とサラダを食べながら本を読んでいる眼鏡を掛けた青い髪の少女など様々だ。 食べ終わった食器を片付けたり、次の料理を運んだりとメイドたちがせっせと働いている。

そしてその中にシエスタの姿があった。

 

「ア・・・シエスタ」

 

「ん? シエスタって・・・あんたに洗濯の仕方を教えたって言うメイド?」

 

「ウン、シエスタモ忙シイノニ、片腕デシカ洗エナイボクニ洗濯ヲ手伝ッテクレタ。」

 

ルイズは食事を終え好物のクックベリー・パイを食べながら、ガンマの視線の先にある一生懸命に働いている黒髪のメイドに目を向ける。 ここハルケギニアでは珍しい人種の黒髪の少女、顔はなんとも愛嬌があって可愛らしい子だ。 胸も・・・チッ 結構あるな。

普段メイドの名前などいちいち覚えたりはしないのだが・・今回自分の使い魔に手を貸してくれたこのメイドのことを覚えておくことにしよう。今度会ったらお礼も言いたいし・・ガンマのことを理解してくれる人物がいてくれるなら嬉しいことだ

 

 

「ルイズ、気ニナッタケド・・ココデハドンナ料理デモ出セレルノカ?」

 

「ん? そりゃあそうよ、ここの料理は一流のコックが作っているものばかりなんだから、作れないものなんてないと思うわよ」

 

ルイズは料理のことを聞いてきたガンマに首をかしげながら答える。 ゴーレムである彼が料理に興味を持つなんてどうしたんだろうかと思ったようだ。

 

 

「ソレデハ、"ハンバーガー"ト言ウ食べ物ヲ知ッテルダロウカ?」

 

「ハ……ハンバアガア? 何よそれ、あんたの国の食べ物?」

 

「ソウ、ボクノ住ンデイタトコロノ都市ノ人間達ガ、一般的ニヨク食べテイタモノ。 "ジャンクフード"ト言ウ分類ニ分ケラレル、手軽ニ食ベラレルモノ」

 

どうやらガンマはここの豪勢な料理を見て、ステーションスクエアにあったハンバーガーショップの食べ物のようなものもあるのかと思って聞いたようだ。 一度あそこの店員に話した際に、買い物に来たロボットだと思われていたが、任務の情報収集するさいに話してるうちにガンマは興味本位でハンバーガーやジャンクフードの作り方を店員に聞いて教えてくれた。

だがハンバーガーと言うものはルイズの口ぶりからするとないようだと思ったが、予想外にルイズが食いついてきた。

 

 

「へぇ~、あんたのところの平民達ってそういうの食べてるんだ・・・。 具体的にはどういうものなの?」

 

「マズ、"バンズ"ト言ウ丸イ焼キタテノパンヲ横ニ 二ツ(ふたつ)ニ割リ、牛肉ノミンチヲ何度モコネ回シ、先ホドノ"バンズ"ヨリ大キメニ固メテ焼イタ後、半分ニシタ"バンズ"ノ間ニ 刻ンダタマネギ、ケチャップ、マスタード、ピクルス、レタス、スライスチーズヲ乗セ、ソシテジューシーニ焼イタ牛肉ノミンチノ塊、"ハンバーグ"ヲ間ニ乗セ、最後に"バンズ"デ挟メバ・・・ハンバーガーノ完成」

 

 

「・・・な、なんか・・・すごそうな料理ね」

 

ルイズはガンマのハンバーガーの作り方を聞いて、でかい肉の丸焼きを色んな調味料を塗った大きなパンに挟んだ物を想像した。ステーションスクエアの平民達はそんな胃がもたれそうなものをいつも食べてるのだろうか・・・。

 

 

・・・・じゅるりっ

 

 

そんな下品な音が聞こえるほうに目を向けると、ルイズの席から何個か離れたところにいるローストチキンを食べていた太めの生徒が涎をたらしていた。どうやらガンマの説明したハンバーガーを聞いてルイズと同じような想像をしたようだ。大食いの彼なら喜んで齧り付きそうな食べ物なのはたしかだろう。(流石に引くが)

興味をもったのか眼鏡をかけた青髪の少女もチラチラとガンマを見ていた。

ルイズも異文化の食べ物に興味を持ち始め、ガンマに他にないか聞いてみた

 

「ね、ねぇ、他にもその国の食べ物ってしってるの?」

 

「アル程度ノデータアリ、説明ハ可能」

 

「他にどんなのがあるの? 教えて頂戴!」

 

「了解。 他ニモ、フライドポテトヤ ピザ ナド・・・」

 

 

 

 

そうして、食事時間が終わるまでガンマの国の食べ物の話で花を咲かしていた。




ガンマは自我に目覚める前も好奇心が強かったんじゃないかなって想像してます


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ミッションー108:授業中はお静かに

今回は長文のためかなり時間がかかってしまいました。


アルヴィーズの食堂での朝食を終え、ルイズはガンマを連れて教室に向かうことにした。

先ほどまでガンマの異文化料理の話に夢中になり、内容が自分が知っている料理とはだいぶ調理法が違っていたり、聞いたことが無い材料や調味料などとても新鮮で聞いてて飽きなかった、そのため授業の時間が近くなっているのに気づきガンマの話を切り上げ食堂から少し急ぎめに廊下を歩いている

 

 

「あんたの国の料理ってこことはだいぶ違うのね。ひょっとして他にもあったりするの?」

 

「ボクガ知ッテイルノハ、ホンノゴク一部。モット調ベレバ沢山ノ食ベ物ノ情報ガ取得可能ダガ、現在ココデハソレハ不可能」

 

「あれでごく一部なの・・・あんたのところの国って意外とすごいのね・・」

 

 

平民だけの国と思っていたが、ほんの一部だけでもここまで料理の文化が進んだ国があるだなんて驚きだ。もしガンマの住んでた国に観光にいけるなら自分の見たことのない料理を食べて回るというのも楽しそうだとルイズは思った。

 

 

「ソレヨリ、コレカラルイズガ受ケル授業ハ、魔法ノ授業?」

 

「そうよ、私たちが受けてるのは四大系統の授業なの。 今日はたしか『土』系統の授業だったわね・・・って、あんたは魔法のこと知らないんだっけ」

 

「四大系統・・?」

 

「説明してもいいけど・・・私が教えるよりも実際に授業を見れば学べるはずよ。あんたにとっても魔法のことを知るいい機会だしね。 …ただし、部屋で言ったように粗相をして私に恥をかかせる様なことはしないこと、教室の中では大人しくしてること、いい?」

 

ルイズはガンマに再度釘を刺すように指を立てる

 

「了解、マスター」

 

ガンマにとって魔法の授業を見られるのはデータを得られるチャンスでもあり、実際に魔法の力がどのようなものなのか見たいという好奇心があった。それにさきほどルイズが言った四大系統という言葉も気になる、もしかしたら魔法に関する重要な要素かもしれない。

 

 

 

そんな話をしながら二人は教室の前に近づき、入り口の扉を開ける。

 

 

 

魔法学院の教室は大学の講義室のように広く、石造りになっている。黒板が設置されている場所は講義を行うであろう魔法使いの先生が一番下の段に位置し、そこから階段のように生徒達が座って勉強するための席が続いている。先に教室にやってきていた生徒達は入ってきたルイズ達のほうに一斉に振り向いた。

そしてルイズとガンマの姿を見てはクスクスと笑う者もいれば昨日ガンマに追い抜かれたことで訝しげに見たりするものなど反応は様々だが、やはりガンマのこの姿をへんてこなゴーレムかガーゴイルと思っているのが大半のようだ。 ガンマがキュルケのサラマンダーなんかよりも珍しくて立派な使い魔だと自分が思っていても、周りはそうは思わないのがルイズにとって悔しかった。

 

ガンマは座っている生徒達に視線を向けると、今朝出会ったキュルケの姿があった。キュルケの周りの席には男子達が囲い、まるで女王様のように祭り上げられている。

そのキュルケがガンマのほうを見て、ニコリと笑顔を浮かべてひらひらと手を振っていたため、こちらも手を振り返したら足に小さな衝撃がくる。どうやらルイズがガンマの足を蹴ったようだ

 

「何あの女に手を振ってんのよ、さっさと来なさい!」

 

「? 了解・・」

 

ルイズにせかされ、なんでいきなり怒ってるんだろう?と思い、手を振っただけで怒られる理由がガンマにはわからなかった。

 

 

・・・しかし見渡してみると、他の生徒達は皆様々な種類の使い魔を連れているようだ。キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいたり、肩にフクロウを乗せている生徒や、窓から顔を覗かせる巨大な蛇、カラスや猫など、サラマンダー以外ならステーションスクエアやミスティックルーインのジャングルなどで見かけるような生き物だ、これらは大して珍しくはない。

だが一番目を引いたのは、ガンマのデータにはインプットされていない生物達だ。六本足のトカゲや宙に浮いている巨大な一つ目の生き物など…ソニックやエミーのような種族とは違う、自分の世界にはいないものばかりだ。ガンマはそんな未知の生物達を珍しそうに見つめる、

 

「マスター、アノ生物達ハナンテ・・・」

 

「ガンマッ」

 

「! スミマセン・・・」

 

ガンマが質問しようとしたところでルイズが強めの口調で睨んだことでガンマはしゅんっと黙る。 ガンマが他の使い魔が気になるのはわかるが、もうすぐ先生が来る頃だから今は大人しくしてもらいたい。それに好奇心で他の使い魔を触れ回ったりしたらしつけのなっていない使い魔と思われてこちらが笑いものになってしまう。

 

「椅子」

ルイズが機嫌悪そうに声を掛けたことで、ガンマは急いでルイズの席の椅子を引く。また怒られるのは勘弁願いたいようだ。

ルイズは椅子に座り、ガンマは恐る恐る尋ねる

 

 

「アノ・・マスター、ボクハドコニ・・?」

 

「食堂の時みたいに傍に控えて大人しくしていなさい…いいわね?」

 

「了解・・」

 

ガンマは素直に従いちょうどルイズの席の隣に待機することにした。ルイズはガンマが大人しくなったのを確認してそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

教室の扉が開き、ここの先生らしき女性が入ってきた。 その女性は中年ほどの女の人で、紫色のローブと帽子を身に付け、ふくよかな頬が優しい雰囲気を漂わせている。どうやらこの女性がこの授業の担当の先生のようだ。

 

 

「おはようございます皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 

シュヴルーズと言う女性は周りを見渡して満足そうに微笑んで言った。そして見渡す際に数ある使い魔の中で異色の存在であるガンマに目が入る

 

 

「おやおや。随分と変わった使い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール。土のメイジである私でもそのようなゴーレムは見たことがありません。噂で聞いた話だと、そのゴーレムは喋れるそうですが、ガーゴイルなのでしょうか?」

 

「は、はい!ミセス・シュヴルーズ。ええっと・・ガーゴイルというか・・」

 

ルイズはシュヴルーズに尋ねられ、ガンマの事をどう説明したものか迷った。 ガンマから聞いた話では作られたばかりの頃は自我をもっていなかったと言っていたから意思のないゴーレムで間違いないのだろうが、その後で自我に目覚めたことでただのゴーレムではなくなっているのだ。 この場合はただ単に高位のゴーレムだといったって信じてはくれないだろう。ましてやゴーレムからガーゴイルになったなんて変だろうし、周りのやつらに笑われるだけだ・・・・ならば納得するような話にするしかあるまい、ルイズは軽く一度咳払いをして口を開く

 

 

「んんっ…このガンマと言うゴーレムは遠い国で作られた"ロボット"と言うものらしく、最初は普通のゴーレムのように自我を持っていなかったのですが、前の持ち主の下で長い時間をかけて自分の自我に目覚め、最初から自我を確立しているガーゴイルとは違う特別な個体のゴーレムなんだそうです。」

 

「エ? ボクソンナコト言ッテ…」

 

「(いいから私の話に合わせなさい!)」

 

 

ガンマが疑問の声をかけようとしたがルイズが即座にボソボソと周りに聞こえないように肘で軽くガンマの体を小突いて囁く。

多少の嘘は混ぜてはいるが、ガンマの経緯は概ね間違ってはいない。ガンマはすこし困惑しながらもルイズに合わせるようにシュヴルーズに挨拶することにした。

 

 

「ハ…初メマシテ、ミセス・シュヴルーズ。 ボクハE-102γ(ガンマ)ト申シマス。 マスター・ルイズノ言ウ通リ、ボクガ住ンデイタ国デハ、ボクノヨウナゴーレムハ"ロボット"ト呼バレテイテ、前ノ主人ノ元デハ只ノゴーレムトシテ働イテイマシタガ、前ノ主人カラ離レタ後、自分ノ自我ニ目覚メ、ボクハボク自身ト言ウ存在ヲ認識スルコトガ出来マシタ。 マダ マスター・ルイズノ使イ魔トシテ不十分デハアリマスガ、ドウカヨロシクオ願イシマス」

 

 

そう挨拶をしてペコリと頭を下げる。 周りの生徒はロボットと言う単語もそうだが、ガンマがガーゴイルではなく自我に目覚めたゴーレムだということに驚いていた。 何とかルイズの話に合わせれるように自分なりの解釈をして自己紹介をしたが、これでいいのだろうか?

 

そんな心配をよそに、シュヴルーズは手で口を軽く押さえて驚いていた。

 

 

「驚きましたわ・・・まさかそのような自分で自我に目覚めたゴーレムが存在するだなんて。ここトリステインではそのような例など聞いたことがありません。 それに人間のようにお話ができるだなんて、変わった姿ではありますが…ガンマさんは知性のある立派なゴーレムのようですね。 いい使い魔を持ちましたね、ミス・ヴァリエール。土のメイジである私もとても喜ばしく思います。」

 

そうシュヴルーズは嬉しそうに優しく微笑えんだ。

 

「あ、ありがとうございます。ミセス・シュヴルーズ」

 

どうやら無事納得してくれたようだ。ガンマが上手く話を合わせてくれたのもあるが、無機質な喋り方だが丁寧な口調で挨拶をする姿は土のメイジのシュヴルーズには印象がよかったようだ。あとでガンマを褒めてやろう…

 

 

「ゼロのルイズ!召喚できないからって、金で雇った土のメイジに作らせた貧弱なガーゴイルでほら話をするなよ!」

 

そう野次を飛ばしてきたのは食堂で見かけた太った生徒だ。ルイズは立ち上がり、ピンクのブロンドの髪を揺らしてその野次を飛ばしてきた生徒に向かって怒鳴る

 

 

「違うわ! きちんと召喚したもの!たしかに見た目は弱そうかもしれないけど、こんな構造をしたガーゴイルをそこらのメイジに作れるわけないでしょ! それに言っておくけどこいつはゴーレムなの!!」

 

「嘘つくな!どうせ『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろ?」

 

「ミセス・シュヴルーズ!侮辱されました!かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」

 

握り締めた拳で、ルイズは机を叩いた。 隣にいたガンマはおろおろしながらも興奮してる主人のルイズをなんとか宥めようとした

 

 

「マ、マスター、落チ着イテ・・・」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

「ハイ・・」

 

 

だがすぐ黙らされてしまう。あのマリコルヌと言う生徒に召喚に難癖をつけられたのがよほどご立腹のようだ。

 

 

「かぜっぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」

 

「あんたのガラガラ声は、まるで風邪も引いてるみたいなのよ!」

 

 

マリコルヌという生徒は立ち上がり、ルイズを睨みつける。 ルイズもルイズでマルコリヌを睨み返し険悪なムードとなっている。

シュヴルーズは見かねたのか手に持った小ぶりな杖を振った。

その瞬間先ほどまで怒りを露にしていた二人はまるで糸が切れた操り人形のように、すとんと席に落ちた。

 

 

「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マルコリヌ。みっともない口論はやめなさい。お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。それにミス・ヴァリエール、注意をしてくれた自分の使い魔に怒鳴るものではありませんよ、わかりましたか?」

 

シュヴルーズにそう言われ、ルイズはしょぼんとうなだれている。どうやったかはわからないが、ルイズが落ち着きを取り戻したようでよかったとガンマは思った。

 

 

「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」

 

それを皮切りに、周りの生徒がくすくすと笑い始める。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回し、杖を振るとくすくす笑っていた生徒達が急に黙りだした。

 

「(今度ハ何ヲシタノダロウ?)」

 

ガンマは気になって笑っていた生徒のほうへ緑のカメラアイを向けると・・・生徒の口にいつの間にかどこから表れたのか赤土の粘土がピッタリと押し付けられていた。

一体どこから粘土を出したんだ? もしシュヴルーズが飛ばして来たものなら少なからずとも反応があったはず・・。さっきのルイズとマリコルヌを座らせたことといい・・・これが魔法なのだろうか?

ガンマは不思議そうに生徒の口についた粘土を見つめていた

 

 

「貴方達は、その格好で授業を受けなさい」

 

生徒達のくすくす笑いが止まったのを確認し、シュヴルーズはこほんと重々しく咳きをする。杖を振って石ころがいくつか机の上に現れた

 

「それでは、授業を始めますよ。 私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」

 

「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」

 

シュヴルーズはこくりと頷いた。

 

「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私は単なる身びいきではありません」

 

シュヴルーズは再び、重々しく咳をした。ガンマはシュヴルーズの話を緑のカメラアイを向けてじっと聞いている

 

「『土」系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」

 

 

「(・・ツマリコノ異世界デハ、科学技術ガ発展シテイナイ分、魔法技術ガ発展シテイルコトデ魔法ガ科学技術ノ役割ヲシテイルト言ウコトカ・・・)」

 

『土』系統という魔法だけでここまで人間達の生活に深く関わっているのならば、魔法が使える人間が貴族としての力を得ているのに納得がいく。魔法が使える人間の力だけで機械がなくとも多くの役割を果たせるのならば、科学よりも魔法の技術に重点が置かれるのはおかしくない。 魔法があるかないかだけで、ここまで世界が違うものなのか・・。

 

 

「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときにできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」

 

シュヴルーズは机に置いた石ころに向かって、手に持った小ぶりな杖を振り上げ短くルーンを呟くと、石ころが光りだした。 そして光がおさまり、ただの石ころだったそれはピカピカ光る金属に変わっていた。

 

ガンマはその光景を見て緑のカメラアイをパチクリと点滅させ、ポカーンとしているとキュルケが身を乗り出した。

 

「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」

 

「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの・・・」

 

こほんと、もったいぶった咳をして、シュヴルーズは言った。

 

「『トライアングル』ですから・・・」

 

 

ゴールドじゃないと聞いたキュルケは残念そうに椅子に座りなおすが、ガンマはただその真鍮を見つめたままだ。

 

スキャンをしながら見ていたが、シュヴルーズが杖を振り上げ石ころに向かってなにか言葉を呟いただけで、石ころだったものがまったく別の物質へと変わったのだ。 ここまで魔法がなんでもありならこれでは汗水垂らして機械を作ってるエッグマンが哀れに見えてしまいそうだ・・・。 だが問題がある、スキャンしたデータを確認したが、石ころが真鍮に変質していくところをチェックしても、やっぱりその作用を起こしている魔法のエネルギーが検出されなかった。食堂のアルヴィーズもそうだったが、もしかして魔法のエネルギー自体には反応できないのだろうか?

 

 

 

「(ダガソレナラ・・・ボクノ中ノ、コノ"未知ノエネルギー"ハ一体・・・?)」

 

 

 

ひょっとしたら魔法と関係してるかと思ったが、魔法のエネルギーに反応できないのであれば、この未知のエネルギーは魔法の関連性はないのかもしれないだろう。そう思い、ガンマは未知のエネルギーについては後回しにし、先ほどシュヴルーズが言った言葉が気になりルイズに視線を向ける。

 

 

「マスター、質問ヲシテモイイダロウカ?」

 

「何よ、大人しくしてなさいって言ったじゃない、授業中よ」

 

ルイズは小声で話し、慌ててガンマもそれに合わせてルイズが聞こえるくらいにまで音声を落として話しかける

 

「ミセス・シュヴルーズガ言ッタ、"スクウェア""トライアングル"トハ、ドウイウ意味?」

 

「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」

 

「メイジノレベル?」

 

ガンマは気になって仕方がないような様子に、ルイズは はぁっと小さくため息をつきながら小声で説明する

 

「例えばね? 『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、さらに強力な呪文になるの」

 

コクリッとガンマは頷く

 

「『火』『土』のように、二系統を足せるのが、『ライン』メイジ。シュヴルーズ先生みたいに、『土』『土』『火』、三つ足せるのが『トライアングル』メイジ」

 

ガンマはシュヴルーズの三つの系統の種類に首(胴体)を捻る

 

「何故、同ジ系統ガ・・・? 同ジ系統ガ二ツアルト言ウコトハ…ソノ系統ノチカラガ倍増スルノカ?」

 

「よくわかったわね。あんたの言うとおり、同じ系統の数が多いほどその系統はより強力になるわ」

 

「ナルホド・・」

 

そこでガンマは一度シュヴルーズの授業の内容を思い出し、ルイズに問いかける

 

「デハ、ミセス・シュヴルーズハ三ツノ系統ヲ持ツ強力ナ『トライアングル』メイジデ、四ツノ系統ヲ持ッタ『スクウェア』メイジガ、ヨリ高イレベルノメイジト言ウコトダロウカ?」

 

「そのとおり。すごいじゃない、よく理解したわね。やっぱりあんた高位のゴーレムなんじゃないの?」

 

ルイズは自分の使い魔のもの覚えのよさに嬉しそうにする。

「(これでもうちょっと抜けたようなところが直ってくれればいいんだけどねぇ・・。)」とルイズは思った

 

 

「ソンナコトナイ、ミセス・シュヴルーズトルイズノ説明ヲマトメタダケ。」

 

「あんたほんとに真面目なヤツね・・・それで、聞きたいことはもうそれだけ?」

 

「モウ一ツ、マスターハドノ系統ガ得意ナノダロウカ?」

 

「・・・・・」

 

 

何気なく聞いたその質問に、ルイズは黙ってしまった

 

どうしたんだろうと思い、ガンマは声を掛けようとしたが、喋っていたところを見られていたらしくそこへシュヴルーズに見咎められる

 

 

「ミス・ヴァリエール!、自分の使い魔との仲がいいのはよろしいですが、授業中に私語は慎みなさい。」

 

「す、すいません・・・」

 

ルイズはビクッと背筋を伸ばし謝罪する。

 

「申シ訳アリマセン、ミセス・シュヴルーズ・・・」

 

ガンマも同じようにシュヴルーズに謝罪する。ガンマは自分のせいでルイズが怒られてしまったと思い、ルイズの反応も気になるが…もうこれ以上は質問しないほうがいいと判断する。

 

「ガンマさんも、授業中に私語などのお喋りは厳禁です、今後は気をつけてくださいね?」

 

「了解シマシタ・・」

 

主人と一緒に謝ってきた使い魔のガンマにシュヴルーズは優しく注意する。 周りの生徒は怒られてるルイズと使い魔を見てくすくすと笑うと、シュヴルーズが「また赤土が欲しいのですか?」といったらピタリと笑いが止まった。それを確認してシュヴルーズは軽く咳をする

 

 

「ではそうですね・・せっかくですから、ミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう」

 

「え? わたし?」

 

「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」

 

そう言われたルイズだが立ち上がろうとしない。何故か困ったようにもじもじとしている。

 

「ミス・ヴァリエール!どうしたのですか?」

 

「マスター?」

 

シュヴルーズと同じようにガンマもルイズの様子が気になって呼びかけると、キュルケが困った声で言った。

 

 

「先生」

 

「なんです?」

 

「やめといた方がいいと思いますけど・・・・」

 

「どうしてですか?」

 

「危険です」

 

キュルケはきっぱりとそう言うと、教室のほとんど全員の生徒が頷く。

何が危険なんだろう? ただ石ころを別の物質へ変換させるだけなのに・・・とガンマはキュルケの言葉に疑問を浮かべる

 

 

「危険? どうしてですか?」

 

「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」

 

「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」

 

「ルイズ。やめて」

 

キュルケは蒼白な顔で言ったが、しかしルイズは席から立ち上がった

 

「やります」

 

そして意を決したように緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。

隣にたったシュヴルーズはにっこりとルイズに笑いかける

 

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

 

こくりと頷き、ルイズは真剣な顔で手に持った杖を振り上げる

ガンマはそういえばルイズが魔法を使うところを見たことがなかったため、主人のルイズがどのように魔法を使うのか興味がありその様子を見守った。

 

「・・・・?」

 

そこでふと周りを見たら、キュルケを含む周りの生徒がこそこそと机の物陰に身を潜めていた。まるで地震かなにかがくるかのような姿勢だ。 どうしたんだろうとキョロキョロと見ていると、ちょうど近くに隠れていたキュルケが声を掛けてくる

 

「ねぇちょっと、ガンマ」

 

「ドウシマシタ? ミス・キュルケ」

 

「あなたはゴーレムだから大丈夫だろうとは思うけど、今から起こることは覚悟しといたほうがいいわよ…」

 

「?、ドウイウ意味デスカ?」

 

「すぐにわかるわ・・」

 

まるで意味がわからないという風にガンマは首を傾げそうになる。 まだこの世界に召喚されてから一日程度しかたっていないが、周りの生徒の反応から見て、ルイズはあまりいい印象をもたれていないようにも見える。それに"ゼロのルイズ"という二つ名もまるでルイズを馬鹿にしているような呼び方だった。だがだからといって、それで危険というのは何故なんだ?

ガンマはわけがわからないと思いながら、再びルイズのほうへ緑のカメラアイをむける。目をつぶっているところを見るとどうやら呪文を唱えようとするところのようだ。

 

そしてルイズが短くルーンを唱え、石ころにむかって杖を振り下ろす

 

 

 

 

 

―――――ドガァァアアアーーーンッ!!

 

 

 

 

 

その瞬間、机ごと石ころが爆発した。

爆風によってルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、教室中に悲鳴があがる。 その爆発の影響で驚いた使い魔たちは暴れだし、キュルケのサラマンダーは睡眠からたたき起こされて怒ったのか火を吐き、マンティコアが飛び上がって窓ガラスを突き破り、そこから巨大な蛇が中に入ってカラスを丸呑みしてしまった。まさにいま教室中は阿鼻叫喚の渦に飲まれていた

キュルケは立ち上がり、ルイズを指差す

 

「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」

 

「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」

 

「俺のラッキーが蛇に食われた! ラッキーが!」

 

などと生徒達か怒りの声が上がっていた

 

 

「・・・・危険ノ意味、理解・・・」

 

ガンマのほうはまさか爆発するとは予想もできず、体は他の使い魔たちよりも重いため爆風では倒れはしなかったが、飛んできた机の破片がぶつかってよろめいて尻餅をついている状態になっていた。 緑のカメラアイでルイズとシュヴルーズのほうをズームアップして安否を確認したが、煙だらけでよく見えないが二人とも怪我はないようだが …シュヴルーズのほうは気絶してしまってるようだ。

キュルケがあれほど危険と言っていたのはこのことだったのか・・・だが、今の爆発は・・・

 

 

「ゲロ~~~~!」

 

っと考えようとした時、ポテッと爆風によって吹っ飛ばされたのか誰かの使い魔の黄色いカエルがちょうどガンマの腕の中に飛び込んできた。

 

「・・・カエル?」

 

「ゲロ~~・・」

 

爆発で吹っ飛ばされたためかそのカエルは目を回していた。 怪我はない様だが、このままほっとくわけにもいかず、立ち上がってガンマは大騒ぎになっている教室を見回してこの使い魔の主人を探していた。

 

「ロビン! ロビン、どこいっちゃったのぉ!?」

 

離れた席のところで綺麗な金髪の巻き髪をし頭に赤いリボンを付けたそばかすのある少女が、自分の使い魔らしき名前を呼んで机の下や使い魔たちがいる足元を探し回っている。 状況から考えると小さな使い魔のようだから、もしかしてこのカエルの主人なのだろうか? そう思ってその少女のほうへ近づくと、目を覚ましたカエルがその少女にむかってケロケロと鳴きはじめる。

 

「スミマセン、モシカシテコノカエルハ貴方ノデショウカ?」

 

「ああ! ロビン!! よかったぁ・・無事だったのね!」

 

黄色いカエルはガンマの手からピョンッと飛びはね、主人である少女の腕に飛び込む。その少女はよほど心配してたのか嬉しそうにそのカエルを抱きしめている

 

「大丈夫デス、怪我ハ見当タリマセンデシタ」

 

「あ。その・・・あ、ありがとう・・・ゴーレムさん」

 

 

その少女はガンマにお礼を言うが、どこかぎこちない。 ガンマは別に気にする様子もなくその場を離れ、再びルイズに視線をむける。

 

煤で真っ黒になったルイズがむくりと立ち上がるが、見るも無残な格好だった。 ブラウスが破れ、肩の肌が見えてしまい、スカートも破れていてパンツが丸見えだ。 ガンマが洗濯で下着を破いてしまった時よりも酷い状態である。

 

しかし、さすがである。大騒ぎの教室を意に介した風もなく、顔についた煤を取り出したハンカチで拭きながら淡々とした声でいった。

 

「ちょっと失敗したみたいね」

 

だが当然ながら、他の生徒たちから猛然と反撃を食らう

 

「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」

 

「いつだって"成功の確率、ほとんどゼロ"じゃないかよ!」

 

 

その生徒の言葉を聴いて、ガンマはやっと理解した

 

 

 

「・・・成功ノ確率・・・0(ゼロ)・・」

 

 

 

最初はガンマは自分が生まれたE-100シリーズのプロトタイプのZEROのことを思い浮かべていた。 ゼロ・・つまり初めに生まれたものの意味をこめて付けられたものと思っていたが、まったく違っていたようだ。

魔法が使えない、爆発を起こしてしまう、つまり魔法の成功率0(ゼロ)・・・それが『ゼロのルイズ』。

 

その『ゼロ』の意味がわかることができた・・。 だが、ガンマはそれよりももっと重要なことに気が付いていた。

 

 

「(アノ爆発スル瞬間・・・・確カニ、"エネルギー"ガ発生シテイタ)」

 

 

そう、ルイズが魔法を使った瞬間に起きた爆発。 その時スキャンしたデータから、あるエネルギーが検出されていたのだ。 今までの情報の推測からして、魔法のエネルギーは感知できないはずなのだ、なのに・・・ルイズの放った魔法からエネルギー反応が出た。 それも、今ガンマを動かしている動力ともなっているものと同質のもの・・つまり・・・

 

 

 

 

「(間違イナイ・・・アレハ、ボクノ中ニアルモノト同ジ、"未知ノエネルギー"・・・!!)」

 



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ミッションー109:失言

お待たせしました次の話です。
今回もちょっと長めです。 もうすぐ戦闘回だけど上手く書けるかなぁ・・


トリステイン魔法学院の本塔の最上階には、学院長室がある。

 

 

その学院長室の中には重厚なつくりのセコイアのテーブルがあり、そのテーブルに肘をついて座っているのはトリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏だ。彼は白い口髭と髪を揺らし、ぼんやりと鼻毛を抜いては退屈をもてあましていた。 そこでおもむろに「うむ」と呟いて引き出しを引き、中から水キセルを取り出した。

 

その水キセルを吸おうとしたところ…部屋の隅に置かれた机に座って書き物をしている秘書のミス・ロングビルが羽ペンを振ったことで水キセルが宙を飛び、ミス・ロングビルの手元までやってきた。つまらなそうにオスマン氏は呟く。

 

 

「年寄りの楽しみを取り上げて楽しいかね? ミス・・・」

 

「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、わたくしの仕事の一つなのですわ」

 

オスマン氏は椅子から立ち上がると、理知的な凛々しい顔をしながらミス・ロングビルに近づく。そして椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目を瞑る。

 

「こう平和な日々が続くとな、時間のすごし方というものが何より重要な問題になってくるのじゃよ」

 

オスマン氏は外見からしてかなりの高齢の老人であることはたしかだが、彼の顔に刻まれた皺が、彼が過ごしてきた歴史を物語っている。100歳とも、300歳とも言われているが、本当の年齢が幾つなのかは誰も知っているものはおらず、本人も知らないのかもしれない。

 

 

「・・・オールド・オスマン」

 

「なんじゃね?ミス・・・」

 

「暇だからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」

 

ミス・ロングビルは羊皮紙の上を走らせる羽ペンから目を離さず言った。 普通の女性ならば顔を真っ赤にして抗議してるはずなのだが、学院長の秘書なだけあって冷静だ。

そしてそんなオスマン氏は口を半開きにすると、誤魔化すかのようによちよちと歩き始めた。

 

「都合が悪くなるとボケた振りをするのもやめてください」

 

どこまでも冷静な声で、ミス・ロングビルはオスマン氏に言った。ボケた振りを止めたのかオスマン氏はため息をつく。深く、苦汁が刻まれたため息であった。

 

「真実はどこにあるんじゃろうか? 考えたことはあるかね? ミス・・・」

 

「少なくとも、わたくしのスカートの中にはありませんので、机の下に貴方のネズミを忍ばせるのはやめてください」

 

「はぁ・・・・モートソグニル」

 

オスマン氏は悲しそうな顔で顔を伏せ、ネズミの名前を呟く。

ミス・ロングビルの机の下から小さなハツカネズミが現れ、オスマン氏の足を上って肩にちょこんと乗っかって、可愛らしく首をかしげる。 ポケットからナッツを取り出し、ネズミの顔の先で振ると、そのネズミは嬉しそうにちゅうちゅうと喜んでいる。

 

「気を許せる友達はお前だけじゃな、モートソグニル」

 

そういってナッツをあげると、ネズミはナッツを齧り始めた。 齧り終えると再びちゅうちゅうと鳴いた。

 

「そうかそうか、もっと欲しいか。よろしい。くれてやろう。だが、その前に報告するんじゃモートソグニル」

 

「ちゅうちゅう」

 

「そうか、白か。うむ…しかし、ミス・ロングビルには色気のある黒に限るのう。そう思わんかね。可愛いモートソグニルや」

 

コレにはさすがに冷静なミス・ロングビルの眉が動いた。

 

 

「オールド・オスマン」

 

「なんじゃね?」

 

「今度やったら、王室に報告します」

 

「カーッ! 王室が怖くて魔法学院学院長が務まるかーッ!!」

 

よぼよぼの年寄りとは思えない迫力でオスマン氏は目を剥いて怒鳴った。

 

「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな! そんな風だから婚期を逃すのじゃ。はぁ~~~~~、若返るのう~~~~、ミス・・・」

 

ここまでどうどうと開き直るのは返って関心してしまうほどだ。オールド・オスマンは再びミス・ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。

 

 

コトリ…

 

 

そしてミス・ロングビルは羽ペンを机に置き、静かに立ち上がって軽く息を吸うと・・・

 

 

「ふっ!」

 

ドゴォッ!!

 

「おぐっふぉお!!?」

 

 

ドガシャァァアッ!!っと、ミス・ロングビルの見事なソバットが決まり、オスマン氏は机の上の書類をぶちまけながら壁に叩きつけられドサリッと床に倒れる。 どこぞの怪盗コウモリを彷彿させるほどの綺麗な蹴りだ。

 

 

「ぉ“ぉ“お“お“~~っ……ミ・・ミス・ロングビル。お主…いつの間に、そんな体術を身につけたんじゃ・・・?」

 

ピクピクとオスマンは蹲りながら震えた声でロングビルに問いかける。 かなり丈夫のようだ。

 

「いやですわ、オールド・オスマン。 ただ魔法が使えるだけでは立派なメイジとは言えないと、あなたも仰ったではありませんか」

 

ミス・ロングビルは乱れた服を直しながら眼鏡をくいっと持ち上げて冷静に言う。

 

「た、たしかにそんなことを言ったようなことがあったと思うが・・・年寄りに対して、暴力を振るうのはどうかと思うのう・・・。そんな事だから余計に婚期を逃して・・・」

 

 

 

―――ピキッ

 

 

 

はっ!とオスマン氏はうっかり出てしまった一言に気づいてばっと口を押さえるが、時既に遅し。ミス・ロングビルからいいようがないほどのオーラがあふれ出し、ゆっくりとした足取りでオスマンに近づいていく。

 

「どうやら…もっとわたくしの蹴り技を…その身をもって感応したいようですわね」

 

「待って、今のは完全にワシの失言じゃった。このとおり謝るから許して、お願い!」

 

ダラダラと汗を流しながら手を前に出して許しを請う。ミス・ロングビルのぐんばつの脚に蹴られるのは人によってはご褒美かもしれないが、今のオスマンから見たら断頭台の上に立っている気分のようだ。

 

そしてロングビルによる蹴りの嵐が起ころうとしたところへ・・・

 

 

 

「オールド・オスマン!!」

 

 

 

ガタン!っとドアが勢いよくあけられ、中へ飛び込んできたのは教師のコルベールだ

 

 

「なんじゃね?そんなに慌ておって…」

 

ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机に座っており、散らばった書類もいつの間にか元の位置に戻り、オスマン氏は腕を後ろに組んで重々しく闖入者を迎え入れた。まさに早業である。

オスマン氏は内心ホッとしていたがロングビルのほうは「チッ」と小さく舌打ちしていたのは言うまでもない。

 

 

「たた、大変です!」

 

「大変なことなど、あるものか。全ては小事じゃ」

 

「ここ、これを見てください!」

 

コルベールは、オスマン氏に古めかしい古書を手渡した。

 

コルベールは昨日の『春の使い魔召還』の際に、ルイズが召喚したゴーレムのガンマが気にかかっていたようで、そのゴーレムの構造と珍しさもあるが・・・正確にいうと、そのゴーレムの左手に現れたルーンのことが気になってしかたがなく、彼は先日の夜から図書館にこもりっきりで、先ほどまでそのルーンについての本を探していたのである。

そして彼の努力が実り、一冊の本を見つけたのである。 その本は始祖ブリミルが使用した使い魔たちが記述された古書であった。 彼はその本に記されたある一節に目を奪われ、古書の一節とガンマの左手に現れたルーンのスケッチを見比べると、何かに気づいたのか慌てたようにその本を抱えてここ学院長室へ駆け込んできたのである。

 

 

「これは『始祖ブリミル』の使い魔たち』ではないか。まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そんな暇があるのなら、たるんだ貴族たちから学費を徴収するうまい手をもっと考えるんじゃよ。ミスタ・・・・・・ハゲールじゃったっけ?」

 

オスマン氏はチラッと彼の頭を見て首をかしげた。

 

「コルベールです!お忘れですか!それにそんな名前じゃありません!」

 

「そうそう、そんな名前だったな。君はどうも早口でいかんよ、その輝きそうな頭は印象的には覚えやすいはずなんじゃがのう…。で、コルベール君、この書物がどうかしたのかね?」

 

「頭のことはほっといてください! これも見てください!」

 

コルベールはガンマの手に現れたルーンのスケッチを手渡した。

それを見た瞬間、オスマン氏の表情が変わった。 先ほどまでのエロじじいとはうってかわって、目を光らせ厳しい色になる。

 

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

 

ミス・ロングビルは立ち上がって一礼したあと、その部屋を出て行く。 彼女の退室を見届け、オスマン氏は視線をコルベールに移し、口を開いた。

 

「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「マスター。教室ノ壊レタ机、窓ガラスノ後片付ケ及ビ、修理ハ完了。 後ハコノ集メタ瓦礫ヲ撤去スルダケ」

 

「そう・・・」

 

ガンマはそう報告するが、ルイズは気力なく返事をし、椅子に座ったまま俯いていた

爆発騒ぎを起こしたあと、罰としてルイズはめちゃくちゃにした教室の片づけを命じられ、しかも魔法を使って修理することを禁じられた。 といってもルイズは魔法が使えないからほとんど意味はなかったが、それでも片付けに時間が掛かり、片付けが終わったのは昼休み近くだった。

ほとんどの片付けはガンマがやってくれていた。彼はゴーレムであるためか文句一つ言わずに散らかった教室を片付けたり、新しい机やガラスを運んできてくれた。ただ、彼は左腕しか使えないためやっぱり作業がなかなか上手くいかず、余計に時間が掛かってしまいそうだったためルイズは彼の手伝いをすることにした。(それでも窓ガラスを支えたり机を拭いたりする程度だが)

それでなんとか片付けが終わり、ガンマは戦闘以外の作業がこんなに大変だったとはと思い、新しい経験を得てある種の達成感があった。

 

・・・だが、片付けをしている時から主人のルイズは元気がなく、終わった今もほとんど喋らず暗い表情のままだ。 ガンマはどう対応すればいいのか迷っていた。

 

 

「マスター、オ昼ノ食事ノ時間ガ近ヅイテル。 ソロソロ動カナイト・・」

 

「ほっといてよ・・・」

 

ルイズは小さく震えた声で呟く。

 

 

「マスター」

 

「…うるさいわねっ!ほっといてって言ってるでしょっ!!!」

 

「・・・スミマセン」

 

ガンマはそれでもなんとか声を掛けるが、ルイズは声を荒げながらガンマに怒鳴り散らす。 ガンマはいつもどおり無機質な声で謝罪するしかなかった

 

 

一人と一体の間に沈黙が流れる・・・

 

 

「・・・・あんた、もう気づいたでしょ? 私が何で『ゼロ』って呼ばれてるのか・・・私が魔法を使えないってことが、さっきの授業を見てわかったでしょう…?」

 

 

最初に口を開いたのはルイズだった。 先ほどの爆発騒ぎで、自分がなんで周りから『ゼロのルイズ』と呼ばれているのか、このもの覚えのいい使い魔のガンマならすぐに察しがついただろう。それなのにそのことには全く触れようとはせず、自分から進んで教室の片づけをしているところを見ていると、主人に気を使ってるようで逆にそれがルイズにとって辛く感じた。 

だがガンマは返事をすることなく、ただ黙ってルイズを緑のカメラアイで見つめたままだ。

 

「ガッカリしたでしょ? あんなに偉そうにご主人様ぶっといたやつが、魔法も使えず、爆発を起こすだけの落ちこぼれだったんだから。」

 

「・・・・・」

 

「それに比べて・・・あんたはすごいわよね。 自我のない只のゴーレムだったやつが、自分で自我に目覚めて、誰に命令されたわけでもなく…自分で物を考え、自分のその目で見て、自分の知りたいことを知って、自分の意思で行動できるようになったんだからね。・・・・・貴族なのに魔法が使えない私なんかよりも、よっぽど立派だわ」

 

 

顔を俯かせたままそう呟きながら、ルイズは服の裾をぎゅっと握りしめる

 

 

「ソンナ事ハナイ、ボクハルイズヲ立派ナ主人ダト思ッテル」

 

 

その言葉に、ルイズは顔を上げて目に涙を滲ませ、怒りの表情でキッとガンマを睨んだ。

 

「…それって、慰めてるつもりなの? 言っとくけどね・・・ゴーレムのあんたにはわからないだろうけど、優しい言葉は返って人を傷つけるだけなのよ!。人間じゃないあんたなんかに・・・人の気持ちなんかわかるのっ!!?」

 

「・・・・・」

 

ルイズは思わず叫んだ、この優しいゴーレムのガンマは本当に主人のことを心配しているのをルイズはわかっているはずなのだ。だが、それでも頭で分かっていても声を荒げて叫ばずにはいられなかった。

 

 

「私は今までだってね・・・"いつか魔法が使えるようになる""努力すれば必ず実る"って、そんな確証のない言葉を家庭教師の先生や学院の教師にだって言われたわ。小さい頃から魔法が使えないことで、お父様やお母様、お姉さまたちに魔法が使える様厳しく教育されたり、自分でも誰よりも魔法についての勉強をしたり、色んな方法を試したりしたわ・・・・でも・・・」

 

再びルイズは声のトーンを落として俯く

 

「たまたまサモン・サーヴァントに成功したからって、まともに魔法が使えるようになったわけじゃなかったのよ。 結局・・・私はただの、魔法の成功率ゼロ・・無能な『ゼロのルイズ』なんだわ・・・」

 

ルイズは再び沈黙し、ポロポロと涙を流しながら何も喋らなくなった。 ガンマはその主人をしばらく見つめた後、何を思ったのか主人の傍まで近づく

 

 

「・・・・なによ、もういいでしょ? いい加減ほっといて・・」

 

 

 

ポフッ

 

 

「え?」

 

 

ナデナデナデ……

 

 

ルイズの頭の柔らかいピンクの髪の上に、ガンマは自分の手をそっと乗せ、まるで子供でもあやすかのように優しく撫で始める。

 

「ちょっ・・ちょっと!何よいきなり! やめなさいよ!」

 

「ヨシヨシ・・・」

 

ルイズは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせてなんとか振り払おうとするが、ガンマのほうが力が強いようでただその手を掴んで止めようとするしかなかった。

 

「・・マダ、落チ着カナイ?」

 

「こ、今度はなによ・・・ひゃぁっ!?」

 

 

ガンマは撫でるのを止め、ルイズを両手でヒョイッと抱っこするように持ち上げると、まるで高い高いするかのようにルイズを上下にゆっくりうごかす

 

「イイ子イイ子・・・」

 

「~~~~~っ!! こ、ここここの・・・この馬鹿使い魔ぁーーーーっ!!!さっさと降ろしなさーーい!!!」

 

まるで赤ん坊を泣き止ますようなやり方に、とうとうルイズは怒ってガンマの頭をポカポカと叩いたり蹴ったりし、降ろすように命令する。先ほどまで泣いていた少女とは思えないほどの勢いだ。

 

 

「ヤット、泣キ止ンダ」

 

「降ろし・・って、え・・・?」

 

 

ガンマはルイズが泣き止んだのを確認して、そっと降ろす。 

ガンマはステーションスクエアで、チャオガーデンという人工生命体チャオを育成する施設に行ったことがあり、そこで何度かチャオの世話をしたことがあった。 そのチャオは小さく、非力で赤ん坊のような生命体だった。訪れたその時、たくさんいるチャオたちの中で一匹がどうしたのかめそめそと泣きじゃくっていた。

泣いている理由も、どうやって対応すればいいのかもわからなかったガンマは、ステーションスクエアの電車乗り場である人間の親子をみかけ、その時子供が泣いていて親がその子供を優しく撫でていたのを思い出し、それと同じようにチャオを優しく撫でたら・・・先ほどまで泣いていたチャオが撫でてるガンマを不思議そうに見て、落ち着いたのか泣き止んでニッコリと笑った。 その後はそのチャオにとても懐かれ、抱っこしてと要求したり、ガンマの絵を描いて嬉しそうに見せてきたりと、ガンマにとって不思議な体験だった。

 

そんな経験があったガンマは、泣いているルイズを見て・・・あのチャオと同じようにすれば泣き止んでくれると思い、同じように撫でたり抱っこしたりしたが、ルイズはチャオとは違って何故か恥ずかしがって怒ってるが、それでも泣き止んでくれたことがガンマは安心した。

 

 

「マスター、落チ着イタ?」

 

「え、ええ・・・まぁ・・」

 

 

ルイズはこのガンマの唐突な行動にただキョトンとするしかできず、涙の跡はあったがもう悲しそうな表情ではなくなった。

 

 

「・・・ルイズ、君ノ言ウトオリ ボクハ人間デハナイ、自我ガアッテモロボットデアルコトニ変ワリナイシ、魔法ノ事モワカラナイ。デモ、サッキノボクノ言葉ハ慰メデハナク、本当ノ事ヲ言ッタダケ。」

 

「・・・何が本当なのよ・・・現に、錬金で爆発を起こしちゃったじゃない」

 

「確カニ爆発シタ。ソレハ事実。デモ、召喚ハ成功シテルコトハ、魔法ガ使エタコトニ変ワリナイノデハ?」

 

「それは・・・・たしかに、そうだけど・・・」

 

ルイズは口ごもる、たしかにガンマを召還してることで魔法が使えたことはたしかだ。だが、それでも他の魔法が使えないんじゃ意味がないのではと納得が出来ない様子だ。

 

 

「ソレニ、ルイズ。ボクガ召喚サレタ時、ソノ時ノボクハドンナ状態ダッタ?」

 

「え?・・その時のあんたは・・まるで抜け殻みたいな感じだったけど・・・」

 

昨日の召喚の時の事をルイズは思い出していた。 ただのゴーレムやガーゴイルならただの魔力切れ程度にしか感じなかっただろうが、今思えばあの時倒れていたガンマは・・・まるで"さっきまで動いてた"かのような感じがした。

 

「ウン、ボクハ一度・・・アル理由デ壊レテシマイ、モウ二度ト動クコトナク海底へ沈ムハズダッタ。 ダケド、君ガボクヲ召喚シテクレタ事デ、今コウヤッテ動ク事ガ出来ル。…ボクハ、トテモ感謝シテイル」

 

 

ルイズは大きく目を見開いた、このガンマはなんと召喚される前は壊れていたのだ。 しかも海底へ沈むと言う事は、恐らくは海の上にいたということだ。一体そこで何があったのだろう?

 

 

「でも・・・だからって、それと私の魔法と何が関係してるのよ」

 

「ルイズ、君達ガ言ッテタ『ゴーレム』ト『ガーゴイル』ハ、ドウヤッテ動イテル?」

 

「そんなの簡単なことよ。ゴーレムもガーゴイルも、その術者の魔力を供給することで動いて・・・・・・あ」

 

「ソウ、ボクハソレト同ジヨウニ、君ノ魔力デ動イテイル。 サッキ君ガ起コシタ爆発ノエネルギーガ、ボクノ中ノモノト同質デアルコトガ分カッタ。 ツマリ……君ハ魔法ノ成功率0(ゼロ)ノルイズデハナイ」

 

「・・・・!!」

 

ガンマはスッと左手に刻まれた使い魔のルーンを見せ、自分がルイズの魔法が成功したことの証なのだと訴えるように、緑色のカメラアイでルイズをじっと見つめた。

ルイズは両手で顔を覆う、ガンマのその言葉が、今まで自分に友達や味方などいないと思っていた自分の荒んだ心に深く染みこむように感じた。自分が無能なメイジの『ゼロ』なんかじゃないという。慰めなどではなく、本当に自分のことを思って、ずっと欲していた言葉をこの使い魔は言ってくれたのだ。

 

 

「ソレニ、例エ君ガ本当ニ魔法ガ使エナイトシテモ、ルイズハボクニトッテマスターデアリ、ボクハ君ノ使イ魔ダ。ソレハ変ワル事ハナイ」

 

ルイズはゴシゴシと涙を拭き、いつもの彼女らしい笑顔を見せる

 

「・・・・・ありがとう、ガンマ。 さっきは酷いこと言ってゴメンね。 やっぱりあんた、本当に立派な私の自慢の使い魔よ」

 

「ソウ思ッテクレルダケデ嬉シイ。 ソレニ、君ハ泣イテイルヨリ元気ニ笑ッテル方ガイイト思ウ」

 

「ゴーレムのくせに口が上手いわね、あんたは。 ・・・でもありがとね。」

 

 

ちょっと照れくさそうにルイズは頬をかく。ガンマはルイズのこの仕草をする意味を理解してなかったが、彼女が元気になってくれてよかったと思った。

 

 

 

「(・・・エミー。 ボクニモ、キミノヨウニ人ヲ助ケレルカナ・・?)」

 

 

今は会うことが出来ない友達を思うように、ガンマはエミーの笑顔を思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

そうして立ち直ったルイズは残りの瓦礫の撤去をさっさと終わらせようとした時、ガンマはふと思ったことを言った。

 

 

「・・デモ、ルイズノ爆発ノ魔法ハ失敗デハナイト思ウ」

 

「え、どういうこと? 何か別の魔法の効果があったりするってこと?」

 

ルイズは自分の失敗魔法の爆発に何か別の使い道があるのではないかと期待をしてガンマに聞く

 

 

「アノ威力ナラ、多クノ敵ヲ倒ス事ガ出来ル」

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

「アレホドノ広範囲ノ爆発ナラバ、密集シタ敵ヲ一網打尽デ破壊スルコトガデキ、サラニ威力ガ高ケレバ、巨大ナ対象ニ対シテモ効果的ナ威力ガアルタメ、戦闘ニハ打ッテツケデアルト判断。 ダカラルイズハ破壊ニ関シテノ才能ガアルト思ワレ・・・・ルイズ?」

 

「・・・・・・・」

 

ガンマはなんとルイズのコンプレックスである失敗魔法の爆発を攻撃用としての威力があると評価したつもりだったが、ルイズはそれを聞いてぷるぷると拳を震わしていた

 

「・・・・・アノ・・・何カ、悪イ事言ッタ?」

 

 

恐る恐る聞いたガンマだが、ルイズはビシッとガンマに指差す

 

 

「あんた、罰としてこの瓦礫の山一人で片付けなさい」

 

「・・・エ?」

 

「返事は!!?」

 

「アイアイマムッ!」

 

 

ルイズの気迫に押され、ガンマは敬礼するかのようにいい返事で返す。何で怒らせてしまったのか結局ガンマにはわからなかった・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ヤッパリコノマスター怖イ)」

 

そしてさらに主人のルイズを怒らせたら怖いと認識することになった。




ルージュの蹴りを食らってみたいのは僕だけじゃないはず


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ミッションー110:Roses have thorns

おまたせしました次の話です。
なかなか作業が上手くいかず時間がかなりかかってしまいました。 調子によっては遅かったり早かったりと更新がはかどらなかったりすると思います。


ゴーーーンッ…ゴーーーンッ…

 

 

 

 

太陽がちょうど真上に位置した頃に心地よい鐘の音が魔法学院全体に響き渡る。 正午の時間帯であると同じにお昼の食事の時間であることを生徒や教師全体に告げるためのものだ。 

今朝の朝食の時のようにアルヴィーズの食堂へ人が集まっては給仕がせっせと料理をテーブルに並べていき、厨房にいるコック達は忙しそうに料理を作っている。 そこへルイズとガンマがやっと教室の片付けが終わり、少し遅れながらもお昼の食事をするため向かっている最中なのだが、ルイズはどうも不機嫌な様子だ。

 

 

「マスター…マダ怒ッテル?」

 

「当たり前でしょ、よりにもよって人が一番気にしていることを、何が『破壊の才能がある』よ! 嬉しくもなんともないわ!」

 

「デモ・・・杖ヲ振ッタダケデ、人ヤ机ヲ吹キ飛バス事ガデキルノハ、スゴイ事ダト・・」

 

「それが嬉しくないって言ってるでしょうが!」

 

「申シ訳ナイ・・・」

 

 

フンッとルイズはそっぽ向いてしまい、ガンマはまた主人を怒らせてしまいションボリと落ち込む。 ガンマからしてみれば、ルイズの爆発を起こす魔法は戦闘に役立つと考えていた。ガンマが以前入手していた参式レーザー銃も銃弾が対象に当たったら対象の周りに広がるように爆発する仕組みになっていたが、ルイズほどの広範囲の爆発を起こせない。 だからルイズの失敗魔法を攻撃用として評価できると踏んだつもりだったのだが・・・ルイズはそれを快く思わなかったようだ。

その結果、罰としてガンマ一人だけで瓦礫の山を全部片付けることになってしまったが、さっきまで落ち込んでいたルイズが元気を取り戻してくれたならこの罰も苦ではなかった。

 

 

 

そうして再びアルヴィーズの食堂に到着して中へ入り、先に来ていた生徒達がすでに食事を始めている中、生徒達は罰で教室の片づけをさせられたルイズを見てはあざ笑うかのようにくすくす笑っている。ルイズはその生徒達を少し睨んだが…食事の時間がもったいないため相手にしないことにした。

ルイズが自分の座る席へ近づくと、ガンマはルイズに指示される前に動いて椅子を引きルイズが座れるようにする

 

「うん、今度はちゃんとできたようね」

 

「ルイズノ食事ガ終ワルマデ、コノママ傍デ待機…デ、イイノダロウカ?」

 

「そうそう、その調子でお願いね」

 

椅子に座るとルイズはガンマがちゃんと自分に指示される前に行動できたことで、すこし機嫌がよくなる。やっぱりこのゴーレムは学習能力が高いようだ。先の授業での先生の魔法の説明を理解したし、弱そうな見た目と少し抜けたような性格には難があるが・・・それでもこのガンマは真面目で優しいやつなのは確かだ。まだ完璧とは言えないが、このまま少しずつ学ばせていけば執事のようなゴーレムに育てられるかもしれないとルイズは思った。

 

 

 

「(待機中・・・暇・・・)」

 

 

ルイズが椅子に座って食事を始めるのを確認し、ガンマは今朝と同じようにルイズの傍に控えるように待機するが、今のところ話題もないし食事もできないガンマにとって、ただ黙ってじっとしているのはなんとも退屈なものである。 銀のトレイを持ってデザートのケーキを貴族達に配っているシエスタの姿があったため、軽く手を振るとあっちも気づいたのか、笑顔で返してくれた。

 

「(明日ノ洗濯任務ノ時、シエスタノ分モ手伝オウ・・)」

 

そう思いながら、次に周りをカメラアイで見回すと、食事中の生徒達にはお喋りなどをしてる者が結構いるためわいわいと食堂の中は賑やかだった。 その雑談の内容も様々で、今流行のものやら噂話だの、ステーションスクエアでもたまたま聞いた住人達の会話と似たものだった。

まだこの世界の国のことを知らないガンマにはあまり興味がなかったため聞き流していたが・・・カメラアイを回している時に、生徒達の中でかなり目立った格好をした生徒が視界に映った。

 

その生徒は金髪でバラを胸ポケットに挿し、何故か服の胸元が大きく開いている。雰囲気も貴族らしく上品に見えるには見えるが・・・ステーションスクエアではあのようなタイプの人間は居なかったため、ガンマにはある意味未知の生物に見えていた。

キュルケのように胸が大きいわけでもないのに、なんで胸元を見せるように開けてるのだろうか?とガンマは疑問符を浮かべていると、その目立った生徒の周りにいる友人たちが、口々にその生徒を冷やかしている

 

 

「なあ、ギーシュ! お前今は誰と付き合っているんだよ!」

 

「誰が恋人なんだ? 教えろよギーシュ!」

 

その生徒はギーシュと言う名のようで、どうやら恋愛というものの話をしているようだ。 彼はすっと唇の前に指を立てた。

 

「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

 

自分を薔薇と例えていると言う事は、彼は色んな人に好かれるような人物ということだろうか? だがどちらかと言うと色的には赤い髪のキュルケのほうが薔薇の色と相まって似合うような気もするが・・・っとガンマは恋愛の話をまったく理解していないようで、首をかしげながらギーシュたちの会話を離れたところか聞いていた。

 

 

ポトッ…

 

その時、ギーシュのポケットから何かが落ちた。 ガンマはそれに気づいてズームアップで見たところ、それはガラスでできた小さな小瓶のようで、中には鮮やかな紫色の液体が入っている。 それがなんなのかはわからないが、どうやらギーシュはそれが落ちているのに気づいていないようだ。

もしあの小瓶を誰かが踏んづけたりして割れたりしたら、きっとあのギーシュは困るのかもしれないと思い、ガンマは行動することにする

 

「マスター、ココヲ少シ離レテイル」

 

「え、ちょっとどこ行くのよ?」

 

「スグニ戻ル。」

 

そう言ってガンマはその小瓶のほうへ向かっていく

 

「もう、 いいけど問題は起こさないでよ?」

 

「了解」

 

ルイズはガンマがなんの理由で離れるのかわからなかったが、すぐに戻るのならば心配ないだろうと思いガンマの行動を許すことにした。

 

 

「小瓶、ゲット」

 

その落ちている小瓶の所まで着き、ガンマはそれを拾い上げると落とし主であるギーシュのほうへ持っていくが、まだ気づいていないのかギーシュは振り向きもせず雑談をしている。

 

「スミマセン、ミスタ・ギーシュ。落トシモノデス」

 

その小瓶をギーシュの前に見えるように持って行く。ギーシュはガンマを見て驚いたが、すぐに苦々しげにガンマを見つめると、その小瓶を持った細い手を軽く押しやった。

 

「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

 

「? シカシ、コノ小瓶ガ貴方ノポケットカラ落チタノヲ、視認シマシタガ・・・」

 

 

ガンマは首を傾げそうになりながらなんで自分のじゃないと否定するのか、不思議そうにギーシュを見つめる。

そしてガンマの言葉を聴き、その小瓶の出所に気づいたギーシュの友人達が、大声で騒ぎ始めた。

 

「おお? その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか?」

 

「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」

 

「そいつが、ギーシュ、そのゴーレムの言うとおりお前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている!そうだな?」

 

「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが・・・」

 

そうギーシュが何かを言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた茶色のマントの少女が立ち上がり、ギーシュの席に向かってコツコツと歩いてきた。

栗色の髪をした少女で、その少女が着ているマントがルイズ達のマントの色と違って茶色だった。たしかルイズから得た情報ではマントの色で学年が分かれているらしく、この茶色のマントの少女は一年生なのだろう。

 

 

「ギーシュさま・・・・」

 

その少女はボロボロと泣き始める。

 

「やはり、ミス・モンモランシーと・・・・」

 

「待ってくれ、彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ・・・」

 

 

――バシィィンッ!!!

 

 

しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬を引っぱたいた。ガンマは突然の出来事に硬直する。

 

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」

 

ケティという少女は泣きながらその場を走り去っていき、ギーシュは叩かれた頬をさすった。

 

 

――ガタッ

 

 

すると、遠くの席から一人の見事な巻き髪の少女が立ち上がった。 その子はガンマの記憶には新しく、教室でルイズが起した爆発で吹っ飛んだ黄色いカエルの主人だった少女だ。 話の流れからして、恐らくはあの少女がモンモランシーという子なのだろう。

そのモンモランシーはいかめしい顔つきで、かつかつとギーシュの席までやってきた。

 

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただいっしょにラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで・・・」

 

ギーシュは首を振りながら言った。 冷静な態度を装っていたが、冷や汗が一滴頬を伝っている。

 

「やっぱり、あの一年生に…手を出していたのね?」

 

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、その怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

 

モンモランシーはテーブルに置かれたワインの瓶を掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけた。ギーシュの金色の髪がワインの色で染まっていく

 

そして・・・

 

「うそつき!!」

 

とモンモランシーは怒鳴って食堂を去っていった。

沈黙が流れ、ガンマはただただこの出来事に緑のカメラアイをパチクリと点滅させ唖然としている。 ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。 そして首を振りながら、芝居がかった仕草で言った。

 

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 

 

・・ただ落ちた小瓶を届けにきただけのつもりが、まさかこんな事態になるとはガンマに予想などできようものだろうか。 ルイズには問題を起すなと言われてはいるが、話の内容からするとこれはギーシュに問題があったのだろうと判断し、これ以上は関わっても仕方がないのでガンマは拾った香水の小瓶をテーブルに置き

 

「小瓶ハ、ココニ置イテオキマス」

 

と一言告げてルイズの元へ戻ろうとしたところを、ギーシュが呼び止めた。

 

 

 

「待ちたまえ、ゴーレムくん」

 

「ナンデショウ?」

 

ギーシュは椅子の上で体を回転させると、すさっ! と足を組んでガンマを見上げる。

 

「君が軽率に、香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。 どうしてくれるんだね?」

 

ガンマはそのギーシュの言葉に疑問を持った

 

「ドウイウ事デショウカ? ボクハ、貴方ガ落トシタ小瓶ヲ拾ッテ届ケタダケデ、関係性ハアリマセン。 ソレニ、ボクカラ見テモ ミス・ケティトミス・モンモランシーノ名誉ヲ傷ツケタノハ、貴方ナノデハ?」

 

ギーシュの友人たちが、どっと笑った。

 

「このゴーレムの言うとおりだギーシュ! 二股をしたお前が悪い!」

 

「ははははっ!『土』系統のお前がゴーレムに言われちゃあお仕舞いだな!」

 

ギーシュの顔に、さっと赤みが差した。

 

「いいかい? ゴーレムくん。君がただのゴーレムと違って自我を持っているのは知っているし、貴族に対する態度も悪くはない。 だが、僕は君が香水の瓶を見せたとき、知らないフリをしたじゃないか。 人並みの知性があるのなら話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

 

 

このギーシュは一体何を言ってるのだろう? どう考えてもこれはギーシュがあの二人と二股?で関係をもって騙していたことがそもそもの原因なのではないだろうか? そもそも自分は人間ではなくてロボットなのだから、そのロボットに責任を求められても困る。

 

 

「オ聞キシマスガ、僕ノ推測デハ、コノ香水ハミス・モンモランシーガ貴方ノタメニ送ラレタ大事ナモノデアルト判断。 ソレヲ落トシタ上ニ自分ノモノデハナイト発言シタト言ウ事ハ、ミス・モンモランシーノ事ヲ騙シテイイ存在ト考エテイタノデスカ?」

 

ガンマはテーブルに置いた香水の小瓶を持ち、ギーシュに見せ付ける

 

「な、何を・・!!」

 

「ソレニ、ミス・ケティノアノ様子カラシテ、彼女ハミスタ・ギーシュノ事ヲトテモ信頼シテイタハズ。 ソノ二人ノ女性ヲ騙シテ、悲シマセル事ハ、貴族トシテノモットーニ反シテイルノデハ・・?」

 

「うっ・・そ、それはっ・・・・」

 

 

ギーシュはガンマの正論にぐうの音もでなかった。 周りにいた友人達やいつの間にか集まった野次馬の生徒達は「ギーシュがルイズのゴーレムに説教されてる」と笑い、ギーシュは顔をさらに赤くさせてギリッと奥歯を噛み締め自分が笑いものにされていることに怒りを覚えだした。

『土』系統を得意とする自分が、自我があるからってゴーレムごときにコケにされるなど屈辱だ!と。

 

 

ガンマはギーシュが何も言ってこないところを見て、自分の非を認めてくれたと判断しその場を去ろうとする。

 

「デハ、コレデ失礼致シマス」

 

「ふん・・・。 ああ、そういえば君は・・・」

 

ギーシュはガンマの事を見て何か思いだしたようで、バカにしたように鼻を鳴らした。

 

「君は、あの落ちこぼれのゼロのルイズが呼び出した使い魔のゴーレムだったな。 ガーゴイルと違って自我に目覚めたとあっても、無能なゼロのルイズの使い魔じゃぁこうも気が利かないんじゃ仕方がないな。そんなゴーレムごときなんかに貴族の機転を期待した僕が間違っていたよ、さっさと行きたまえ」

 

 

 

ピタリッ

 

 

とガンマが足を止め、ゆっくりと振り返り緑のカメラアイをギーシュに向け、無機質な声で問いかける

 

「ソレハ、ドウイウ意味デショウカ?」

 

「そのままの意味さ。四大系統の魔法の一つも使えない上に、何をやっても爆発、爆発、爆発・・・そんなメイジとして無能なやつに召喚されたような使い魔では、召喚したゼロのルイズ同様役立たずってことさ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

ガシャッガシャッガシャッ…

 

 

 

 

無言のまま、ガンマはただまっすぐギーシュを見つめたまま、冷たい緑のカメラアイをじっと向けながらギーシュに近づく

ギーシュはそんなガンマに少したじろぐも、姿勢をくずさずガンマを見返す

 

「な、なんだね。何か言いたいことでも・・・ってうわぁあ!!?」

 

ムンズッと左手でギーシュの首根っこを掴んで持ち上げる。 2メイルもあるガンマよりも背が低いギーシュは、文字通り首根っこを掴まれた猫のように宙吊りになっている。

 

「な、何をするんだいきなり!? 無礼だぞ! 早く離したまえ!!」

 

「謝リナサイ」

 

「な、なんだと!?」

 

ジタバタと暴れるも背も腕も長いガンマにギーシュでは手が届かず触れることすらできない。 そんなギーシュを見つめたままガンマは言葉を続ける。

 

「貴方ガ傷ツケタミス・モンモランシート、ミス・ケティ。 ソシテ、ボクノマスターデアルルイズヲ侮辱シタコトヲ、謝リナサイ」

 

 

ガンマは別に自分が何を言われようと何とも思わない。 だが、ルイズは周りに馬鹿にされている理由はすでに理解しているが、それでも信じていたはずのモンモランシーとケティを騙すようなやつに、ましてや目の前でどうどうと恩人である主人のルイズを役立たずとバカにしたことがガンマには許せなかった。

 

―――"役立たずとして破棄された兄弟""友達を守ろうとしたエミー"

その記憶をもったガンマだからこそ、このギーシュの発言を無視することができなかった。

 

 

そしてそこへ・・・

 

 

 

「が、ガンマさんっ!」

 

「あんた、何やってるのよ!!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、シエスタとルイズが野次馬の間を通ってその現場に現れる。ギーシュを摘みあげているガンマにシエスタは驚愕し、ルイズはズンズンとガンマのほうへ近づく

 

「このバカ使い魔っ!問題を起すなって言ったでしょ!? さっさとギーシュを離しなさい!」

 

「・・了解」

 

パッと手を離すと、ギーシュはドサッと床に落とされ尻餅をつく。 その姿を見て周りのギャラリーは腹を抱えて笑い出した。

 

 

「あ、あんたねぇ! もうちょっと降ろし方ってもんがあるでしょ!?」

 

「? デモ、"離セ"ト言ッテイタカラ、ソノトオリニ・・」

 

「だから、そう言う意味じゃないって言ってるでしょ! アンタはどうしてこう・・!! 早く謝りなさい!!」

 

ルイズは焦ったようにガンマを怒り出し、ガンマはルイズが怒っていることに首をかしげるだけだった

 

 

そしてギーシュのほうは・・・貴族である自分をここまでコケにしたことに、周りの笑いものにしたことに完全に怒りを露になりそうになりながらも抑えてプルプルと震えながら立ち上がり、目を光らせてガンマを睨む。

 

 

「ふ、ふふ・・君は・・・『土』系統である僕にとっても興味深いゴーレムと思っていたんだが・・・貴族に対して礼儀がなっていないようだ」

 

「ミスタ・ギーシュ、ソウイウ貴方モ、貴族トシテ立派デハナイト思ワレマスガ・・」

 

 

ガンマのその言葉が、引き金となった・・・

 

 

「よかろう・・・ちょうどいい腹ごなしだ。ゴーレムくん、君に決闘を申し込む!」

 

「・・決闘?」

 

 

ギーシュはキザったらしく格好をつけ、そう言い放つと、周りにいたギーシュの友人や野次馬がざわつき、面白いものが見れると騒ぎだす。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよギーシュ!決闘は禁止されているはずでしょ!?」

 

「ルイズ、禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。使い魔と貴族の間の決闘なんか、誰も禁止していない。ましてやゴーレムとならなおさらね」

 

「で、でも・・・だからって・・こいつはっ」

 

 

スッ…

 

 

とルイズが続けて言おうとしたところを、ガンマは左手で制す

 

「が、ガンマ・・?」

 

「ソノ決闘、オ受ケイタシマス。」

 

「ガンマ!?」

 

 

ギーシュはニヤリと笑い、くるりと体を翻して食堂の出口へ歩き出す

 

「ココデハ、ヤラナイノデスカ?」

 

「貴族の食卓を、ゴーレムの残骸で汚せるか。 ヴェストリ広場で待っている。 いつでも来たまえ。」

 

ギーシュの友人たちがわくわくした顔で立ち上がり、ギーシュの後を追った。 その中の一人はテーブルに残った、ガンマたちを逃がさないための見張りなのだろう。

だがそれよりも、騒がせてしまったことでシエスタの仕事の邪魔をしてしまったことに気づき、ガンマは謝ろうとシエスタのほうへ向く

 

 

「騒ガセテシマッテスマナイ、シエスタ。 ・・・シエスタ?」

 

シエスタがぶるぶると震えながら、ガンマを見つめている。 気分でも悪いのだろうか?

 

「大丈夫? シエスタ」

 

「あ、あなた、壊されちゃう・・・・」

 

「エ?」

 

「貴族を本気で怒らせたら・・・ゴーレムのあなたでも・・・・」

 

 

シエスタは顔を青くさせて、だーっと走って逃げてしまった。ガンマは突然逃げてしまったシエスタを首をかしげそうになりながら見つめた。 貴族との戦いはそんなに危険なのだろうか? たしかに魔法が使えないシエスタにとっては魔法が使える貴族は武器を所持した人間と同じなのだろう。 それなら恐れるのは仕方がない。

そう考えていると、後ろからルイズが怒鳴ってきた

 

「あんた! 何考えてんの!! 私の言うことを聞かないで、何で決闘を受けたのよ!!」

 

「メイジノチカラヲ知ル、イイ機会ダト思ッテ…」

 

「あんたは・・どこまでバカなのよ。 ギーシュをあそこまで怒らせちゃったら、もうあんただけが謝っても許してなんかくれないわ! 私も一緒に謝るから、決闘なんか止めなさい!」

 

「デモ・・」

 

「でもじゃない!! 聞いて・・・あのね?いくらあんたが金属で出来てても、絶対に勝てないし、運がよくても腕が取れるか、下手をすればバラバラにされちゃうのよ! あんたみたいな・・・普通のゴーレムなんかよりも貧弱なあんたじゃ勝負が見えてるわよ! その右腕なんかじゃ対抗すらできないわ!」

 

「・・・・」

 

「お願いだから、私の言うことを聞いて! もしアンタが壊れたりしたら・・!」

 

 

ピンクの髪を揺らしながら必死にガンマに言い続ける。

 

 

「・・・ルイズハ、ボクノ事ヲ、弱イト思ッテル?」

 

「当たり前でしょ! あんたはどう見たって戦闘向けには見えないし、第一その右腕だって武器にしちゃショボすぎるわよ! だいたい、あんたに勝てる見込みなんて・・・」

 

 

「ルイズ」

 

 

教室のときのようにルイズの頭に優しく手を乗せ、落ち着かせるようにそっと撫で…ルイズの目線に合うように足を曲げて視線を下げる。

ルイズは言葉を遮られ、ただじっとガンマの綺麗な緑の目を見つめた

 

 

 

 

「ボクヲ信ジテ」

 

「・・・!」

 

 

 

緑のカメラアイで見つめ、そうルイズに言うと立ちあがり、ルイズとガンマのやり取りを見ていたギーシュの友人の一人に近づく

 

「ヴェストリノ広場ハ、ドコデショウカ?」

 

「こっちだ、ゴーレム」

 

友人の一人は顎をしゃくって案内し、ゴーレムはその後をついていく

 

ルイズは立ち尽くしたままガンマが行ってしまうのを見送ると、すぐさま我に返り苛立たしげに頭を抱える

 

「・・・ああもう! 勝手にしなさいよ!!」

 

ルイズは止めるのを諦め、ガンマの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・安全装置。解除」

 

ジャコンッと右腕のレバーを引き、戦闘可能状態にする。

 

 

――――ガンマはこの世界で始めて、元の世界ではなかった、魔法を使うメイジとの戦いを経験することになる



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ミッションー111:ヴェストリの広場の決闘

日間ランキングに載ってたのを知って、マジでビビッた


「諸君! 決闘だ!」

 

 

 

 

 

"うおぉーーーーーッ!!!"

 

 

 

 

 

ギーシュが薔薇の造花を掲げ、そう宣言すると周りから壮大な歓声が巻き起こる

 

 

ここヴェストリの広場は魔法学院の敷地内で、五つの塔の中の『風』と『火』の塔の間にある中庭である。西側にある広場なので、そこは日中でもあまり日を差さず、決闘にはうってつけの場所である。

普段ならばここまで騒がしくはないのだが・・・アルヴィーズの食堂でギーシュとガンマが決闘をするという噂を聞きつけたのか、たくさんの生徒達で溢れかえっている。

その場の空気は普段の貴族らしい気品のあるものではなく、普段見られることができない決闘に興奮を隠せず熱気の渦に包まれていた。彼らは貴族らしく上品な振る舞いを求められ娯楽というものがなく、このような刺激あるものに飢えていたようだ。

 

 

「ギーシュが決闘するぞ!相手はゼロのルイズのゴーレムだ!」

 

生徒の一人がそう言うと、ざわざわと騒いでいる人だかりの中からギーシュの友人に案内されて連れて来られたガンマが姿を現し、そのガンマに歓声が上がる。

 

 

「がんばれよへんてこゴーレム!」

 

「精々壊されないようにな!」

 

などと、やっぱりこのガンマの姿を見て弱いゴーレムと思ってる生徒が多く、ガンマには勝ち目などないと思ってるようだ。だがガンマは気にした様子もなく、緑のカメラアイで周りを見ていた。

 

 

「スゴイ人ノ数・・」

 

ガンマは自分の周りを埋め尽くしている観客の数に驚いていた。 自分がまだ目覚めたばかりの頃…ファイナルエッグで訓練を終え、エッグマンに空中要塞エッグキャリア搭乗クルーの選抜テストを行われ、そのクルーの座をかけてE-101β(ベータ)と戦ったことがあったが、あの時は見ているのはエッグマンだけで、今回の規模はそれ以上でこんなにたくさんの人間達に見られながら戦うのは初めてだ。

それにこの盛り上がりよう…まるでお祭りか何かのようにこの決闘を楽しんでる風にも見える。ステーションスクエアにある遊園地トゥインクルパークもたくさんの人間達が楽しそうに入っていったのを見たことがあるから、きっとそれと同じなのだろう。

 

それに改めてみると・・・学年が分かれているとは言え、生徒一人一人の年齢に差があるようだ。主人のルイズとキュルケも同じ学年のクラスではあるが、見た目だけでもキュルケのほうが年上に見えるし、発育も圧倒的だ。魔法学院ではそのような年の差にはあまり関わらないものなのだろうか? …とこんな決闘場のど真ん中にいるにも関わらず、ガンマはのん気にそう考えていた。

 

 

「よく来たね、ゴーレムくん」

 

 

ギーシュは腕を振って歓声にこたえていると、やっとガンマに気づいたという風にガンマの方に向いて余裕そうに言う。

 

「とりあえず、ここまで逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか。」

 

ギーシュは薔薇の杖をガンマに向け、キザったらしく格好をつける。いちいちあんな動作をしないと喋れないのだろうか? それに、決闘のミッションを受けた以上その任務を放棄する気はないし、ギーシュに女性二人を騙したことと主人のルイズを侮辱したことを謝らせなければならないのだから、逃げる理由などない。

 

 

「勝敗条件ノ説明ヲ求メマス」

 

「ルールは簡単。僕のこのメイジの命である薔薇の杖を落とすか、もしくは降参すれば君の勝ち。そして君が降参するか、壊れて動けなくなれば僕の勝ちってことさ。まぁ、僕がゴーレムとの戦いに負けるだなんてありえないだろうけどね」

 

たしかに簡単な内容だ。・・・しかし、このギーシュの余裕はなんなのだろう?普通の人間ならば生身で戦闘ロボットと戦うなど無謀だ。 だが、相手は魔法を使うメイジだ。たしか食堂で生徒がギーシュのことを『土』系統だと言っていたから、シュヴルーズと同じ系統魔法を使ってくるはずだ。 だけどシュヴルーズの魔法は物質変換と粘土を飛ばすところしか見ていないため、『土』系統で使える魔法と言うものがそれだけとは考えにくい・・・・もし攻撃用に使ったらどうなるのだろうか?

 

そうガンマが考えていると・・・

 

 

 

「ガンマッ!!」

 

 

後ろから主人のルイズが人込みを掻き分けて飛び出してきた。

 

「マスター・・?」

 

「おおルイズ! 悪いな。君の使い魔をちょっとお借りしているよ!」

 

ギーシュは悪びれた様子もなくルイズに声をかけるが、ルイズはズカズカと決闘場の真ん中に居るガンマへ近づいていく。

 

 

「どうしたんだい、ゼロのルイズ。 まさかとは思うけど・・・ここまで来て決闘を中止しろだなんて言わないだろうね? そんなにこのゴーレムくんのことがお気にめしているのかな?」

 

相変わらずキザったらしく薔薇を弄りながら、ルイズをバカにするかのように笑みを浮かべている

 

「うるっさいわね! アンタは今は黙ってなさいよ!この『二股のギーシュ』!!」

 

「っ!!?」

 

そうルイズが怒鳴ると、ルイズの言葉を聴いて周りに居た生徒達の空気が凍りつき、そしてその意味を理解したと同時に爆笑の渦に飲み込まれた。

ギーシュは顔を真っ赤にさせて顔を引きつらせているが、なんとか怒りを抑えようとプルプルと震える。二股をしてしまったのは事実のため、このまま怒ればさらに恥をかいてしまうということを理解したのだろう。

だがルイズはギーシュを無視してガンマから視線を外さず、じっと睨むように見上げる。

 

 

「アノ・・・マスター?」

 

「ガンマ、あんた言ったわよね? 私に"信じて"って」

 

「・・・ウン」

 

 

ルイズは目を閉じて軽く息を吐き、そして決心したように再び目を開けガンマを見る

 

 

「……なら、アンタの事を信じるわ。自分の使い魔を信じるのも、主人の役目だもの。・・ただし!」

 

ビシッとガンマに指差し、無い胸を張ってガンマを真っ直ぐ見る。

 

 

「命令するわ! 勝ちなさい! あんたが弱いゴーレムじゃないってところを、私に見せてちょうだい!」

 

 

 

ルイズは、ガンマに何を言っても止まらないだろうと分かっていた。でも、本当はガンマに戦わせたくはなかった。 こんなにも主人に忠実で、真面目で、心優しい使い魔が壊れるところを見たくないと思っていた。

だが、誰も信用できなかった自分に・・・この使い魔は「信じて」と言ったのだ・・・教室であの時自分の事をただの『ゼロのルイズ』じゃないと言ってくれたのに、その使い魔の言葉を信じないで、何が主人だ。

 

ならば、自分に出来ることはただ一つ…この優しい使い魔を信じるしかないのだ。

 

 

 

「アイアイマムッ、マスター・ルイズ。 必ズ勝利スルト、約束スル」

 

 

ガンマは右腕を構えるように左手で持ち、はっきりと返事をする。

ルイズはガンマのその返事にコクリと頷き、邪魔にならないようギャラリーのほうにまで下がっていった。

 

 

 

「・・・話は済んだかい?」

 

「オ待タセシマシタ、ミスタ・ギーシュ。イツデモ始メレマス」

 

 

ガンマがギーシュのほうに振り向くと、雰囲気が変わっていることに気づく。

ギーシュは先ほどまでと同様に笑みを浮かべてはいるが、その目には凄まじい怒りが篭っていた。食堂だけではなく、学院の生徒全員の前にまで己に恥をかかせたのだ。本当なら適当に痛めつけてやる程度で済ませるつもりだったが・・・もうそれだけでは収まらない。

今後ルイズが生意気な態度を取れないように、目の前で使い魔の貧弱なゴーレム風情が『土』系統のメイジである自分に逆らったどうなるか、思い知らせてやる。

 

 

「さてと・・では、始めるか」

 

 

―――バッ!

 

 

ギーシュは薔薇の花を振ると、花びらが一枚宙に舞った。

一体何をする気なのだろう?とガンマは疑問符を浮かべていると、驚くことが起こった。

 

なんと一枚の花びらが形を変えて大きくなり、人間と同じくらいの大きさの甲冑を着た女戦士の人形になったのだ。淡い陽光を受けて甲冑がきらめいており、それが金属でできているのがわかる。

 

 

「コレハ・・・ガーゴイル?」

 

ガンマはたった一枚の花びらでこのような大きな金属の人形を作り出せることに驚愕した。スキャンして見た所、どうやらこの人形は中身は空洞だが体がアルヴィーズの食堂の人形と同じ青銅で出来ているようだ。

まさか魔法でロボットのような兵士を作りだすことができるだなんて・・・たしかにこれならシエスタがメイジを恐れるはずだ。

 

 

「ふふん、残念。これはガーゴイルではなく、僕の自慢のゴーレム…『ワルキューレ』さ。驚いたかい?君と違って鮮麗されてて美しいだろう?」

 

ギーシュはガンマが自分のゴーレムに驚いていることにご満悦のようだ。 そしてその女戦士のゴーレムは両手の拳を構え、ガンマと相対する。

 

 

「言い忘れてたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

 

そう言うとワルキューレに指示を出し、ワルキューレはガンマに向かって突進していった。だがガンマは動こうとはせずワルキューレを見つめたままだ。

 

 

「な、何ボーっとしてるの!早く避けなさい!!」

 

 

ルイズが後ろから叫び、ガンマに避けるよう指示するが、それでも動こうとしなかった。

 

「よーく見てるんだなルイズっ! 君のゴーレムが、ただの鉄くずに変わるのを!!」

 

 

―――グワッ!

 

 

あと数メートルと言う距離にまで近づいたところで、ワルキューレが大きく腕を振りかぶり、ガンマへその鉄の拳を振り下ろそうとした。

 

ギーシュから見て、このガンマはいくら精密な構造をした特殊なゴーレムだろうと、あれだけ細い手足では防御しようがないと踏んでいた。あの変わった形の右腕も気になるが・・メイスの可能性があろうとあれでは大した脅威にならない。

それにワルキューレが攻撃しようとしてるのに、避けようとするそぶりも見せないとは少々興醒めだ。きっとこのゴーレムは戦ったことがないからどう動けばいいのかわからないのだろう。このワルキューレ一体だけで十分だと判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――しかし、ガンマの"右腕の正体"に気づかなかった時点で、ギーシュのその判断がすぐ間違いであると思い知らされる

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキッ

 

 

 

ガンマは右腕を突っ込んでくるワルキューレに向けて構え、頭に装着しているスコープがワルキューレを捉える

 

 

「ターゲット、ロック。発射」

 

 

 

 

 

 

――――ドウゥーーーンッ!!

 

 

 

 

 

 

ヴェストリの広場に、一発の銃声が鳴り響いた。




次回、初戦闘回


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ミッションー112:薔薇を守る青銅の盾

お待たせしました次の話です。
ついに来ちゃいました初戦闘回です。 戦闘の表現って表すのが難しいというのが書いててよくわかりました(汗


ヴェストリの広場で決闘が行われている頃――――所変わって、ここは学院長室。

 

 

 

ミスタ・コルベールは、口から泡を飛ばして興奮したようにオスマン氏に説明していた。

春の使い魔召喚の際に、生徒のルイズが見たこともないゴーレムを召喚したこと。そのゴーレムと『契約』したことでゴーレムが起動し、自我を持って喋る事ができたこと。そして、左手に『契約』の証明として現れたルーン文字が気になって、昨日の夜から図書館で調べていたら・・・。

 

 

「それで、始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた……と言うわけじゃな?」

 

 

オスマン長老は長く伸びた白い髭を弄りながら、コルベールが描いたガンマの手に現れたルーン文字のスケッチをじっと見つめた。

 

 

「そうです! あのゴーレムの左手に現れたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたものとまったく同じであります!」

 

「で、それで君の結・・ 「それだけではありません! あのゴーレムは私の知る限りハルケギニアにいる『土』のメイジが作り出すゴーレムやガーゴイルとはまったく異質なんです! ただの鉄とは違う材質の金属、細かな部品で構築した身体、人間と大きく異なった形をした姿、それに驚くことに! あのゴーレムはミス・ヴァリエールを抱えて馬よりも早く走れることができるんですよ! 想像できますか!? 一体どこのメイジがあのようなゴーレムを作ったのでしょう・・!擬似的な自我で作られたガーゴイルと違って自分でものを考えて判断し、会話が成り立つのならば、まず間違いなく高位のゴーレムに違いありません!!」

 

「コ、コルベールくん、少しは落ち着かんか・・」

 

オスマンはコルベールの熱弁にドン引きしながらも落ち着くように促す。 コルベールはここトリステインでもメイジでありながら研究所に篭ってはよくわからない道具を作ったり弄くったりしている変人として有名でもあった。だから彼はガンマが現れたことで、目を輝かせて子供みたいに夢中になっていたのである。

 

 

「す、すみません・・・つい」

 

やっと我に返り、オスマン氏に謝罪する。オスマン氏は気を取り直し、再度問いかける

 

「もう一度聞くぞ?コルベールくん、君の結論は?」

 

「はい、あのゴーレムは…『ガンダールヴ』です! これが大事じゃなくてなんなんですか! オールド・オスマン!」

 

コルベールは禿げ上がった頭をハンカチで拭きながらまくし立てた。

 

 

「ふむ・・・・。確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じと言いうことは、そのゴーレムは喋れる上にただ珍しいというだけでなく、『ガンダールヴ』にもなった・・・と言うことになるんじゃろうな」

 

「どうしましょう」

 

「しかし、それだけでそう決め付けるのは早計かもしれん。そのゴーレムはどのような姿をしておるのじゃ?」

 

「え~っとですな・・・こんな姿をしてまして・・」

 

コルベールは昨日ガンマの使い魔のルーンを描くついでに、ガンマの姿もスケッチしていたようで、ごそごそと懐をあさり一枚の紙を取り出してオスマン氏に手渡す。

 

 

 

「これが・・・そのゴーレム・・なのかね?」

 

 

オスマン氏は渡されたコルベールが描いたガンマの絵を見て、拍子抜けしたように首をかしげてコルベールを見る。

 

「たしかに、普通のゴーレムと比べて珍しい形をしておるがのう・・・、コルベールくん。こういっちゃぁ悪いが、君は本当にこの見るからに弱そうなゴーレムが『ガンダールヴ』だと言うのかね? こんな卵に棒をくっ付けたようなのが?」

 

コルベールが熱弁したゴーレムの説明を聞いて、騎士の鎧のような姿のゴーレムなのかと思ったのだが・・・想像していたのとかなりかけ離れたデザインをしている。

 

たしかにこれだけ細い上に、足が『幻獣ヒポグリフ』の前足に似た形をしているから、馬より速いというのは納得できそうだが・・・そもそもゴーレム自体が使い魔になることが異例なのに、こんなへんてこなのが『ガンダールヴ』と言うんだから輪をかけて信じられないようだ。

 

 

「はい!この目で見て何度も確認しながらスケッチしたのですから間違いありません!たしかに・・・見た目は変なゴーレムに見えるかもしれませんが…この古書に記載されているルーンと同じなのはたしかです!」

 

「ふむ・・・・・ん?」

 

オスマン氏は机をコツコツ叩きながらガンマの絵を眺め、ある部分に注目する。

 

 

「どうしました?」

 

「コルベールくん、このゴーレムの右腕はこんな形をしておったのかね?」

 

ガンマの絵の右腕を指差し、コルベールに問いかける

 

「はい、こんな形をしてました。左腕は普通なのに対し、右腕だけこのような鉄の塊のような形をしてて、形状からして恐らくはメイスのような武器なのかもしれないのですが・・・私でもこれがなんなのかはわからないのです」

 

「・・・・・・」

 

「・・・オールド・オスマン?」

 

オスマン氏は眉間に皺をよせ、何かを考え込むように顎に手をやってガンマの絵を見つめる。 コルベールはオスマン氏の様子を見て、このガンマの右腕がどうしたのだろうかと気になって声をかけるが、オスマン氏は無言のままそのスケッチを睨んだ。

 

 

 

 

「(・・・この形状は・・・もしや・・・)」

 

 

 

 

――――コンコンッ

 

 

「誰じゃ?」

 

ドアがノックされ、オスマンは扉の向こうにいる人物に尋ねる

 

「私です。オールド・オスマン」

 

扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。

 

「なんじゃ?」

 

「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようで大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、見物に来た生徒達に邪魔されて止められないようです」

 

オスマンは呆れたようにため息を吐く。

 

「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」

 

「一人は、ギーシュ・ド・グラモンです」

 

「あのグラモンとこのバカ息子か。親父も色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。おおかた、女の子の取り合いじゃろう…それで相手は誰じゃ?」

 

「・・・・それが、相手は人間ではありません。 ミス・ヴァリエールの使い魔のゴーレムのようです」

 

 

オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。あのゴーレムと・・・決闘?なんでそんなことに?と疑問を浮かべているようだ。

 

「教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」

 

オスマン氏はそれを聞いて、目が鷹のように鋭く光った。・・・が、その目はすぐに消え思考を巡らせる。

 

 

本来なら、教師ともあろう者が子供のケンカを止めるのに秘宝を使おうとしているのに対して『アホか。大人が揃いも揃ってケンカを止めるのに秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい』…っと言うところだが、オスマンはこのゴーレムのことが気がかりになっていた。

 

 

 

もし・・・このゴーレムの右腕が、"自分の知っているもの"と同じだとしたら・・・。

 

 

 

「…いいじゃろう。じゃが、使うかどうかはわしが『遠見の鏡』から状況を見て判断する。使用許可の合図はモートソグニルを通して伝えよう。それまでは『眠りの鐘』を使う事は許さん。それと、もし生徒達を眠らせたさいに、そのゴーレムが話しも聞かずまだ暴れるようだったら、拘束するか・・・最悪破壊してもかまわん」

 

 

破壊という言葉を聞いて、コルベールは驚いたようにオスマンのほうを見る。

コルベールの話しぶりからすると、そのゴーレムは自我があっても主人であるルイズを運んでいったということは、ちゃんと使い魔として従順に従っているということだ。『眠りの鐘』を使用したさいに周りの人間達が突然眠って驚くかもしれないだろうが・・・自分の意思を持って会話が成り立つと言うのなら、主人以外の人間の言葉も理解はするはず。

 

だがもし、あの"右腕"をもつそのゴーレムが話も聞かず暴走をしてしまうようだったら・・・生徒の命を守るために、実力行使にでなければならない。とオスマンは眉間に皺を寄せそう判断した。

 

 

「わかりました」

 

ミス・ロングビルはそう返事し、扉を少し開けネズミが通れるほどの隙間を作る。

 

「モートソグニル」

 

肩の上に居たモートソグニルは「ちゅうっ」とオスマンに返事するように鳴き、扉の隙間を通ってミス・ロングビルの肩に乗る。扉を再び閉めミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。

 

 

 

コルベールは唾を飲み込んで、オスマン氏を促す

 

「…オールド・オスマン」

 

「うむ」

 

オスマン氏は杖を振り、壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――先ほどまで騒がしかったヴェストリの広場は、静寂に包まれていた。

 

 

 

 

本来なら聞こえるはずのない、一発の銃声が・・・生徒達の口を一斉に閉ざし、皆一体何が起こったのか理解できず、中心にいた2体のゴーレム、ワルキューレとガンマのほうへ視線が集中していた。

 

「・・・・・うそ・・・」

 

ガンマの決闘を見守っていたルイズも、信じられないものを見たかのように呆然と立ち尽くしていた。

 

ギーシュのワルキューレが襲ってきているというのに、自分が避ける様指示したにも関わらずガンマは動こうとしなかった。

いくらガンマが丈夫だろうと、あんな勢いで突っ込んできたワルキューレの鉄拳をまともに受けたら只ではすまない。 自分の使い魔を信じていたルイズだったが、ガンマが成すすべも無くワルキューレに体を砕かれる未来を想像していた・・・。

 

 

 

 

――――――だが、その時起こった一発の銃声が、ルイズが想像したその未来を撃ち砕いたのだ。ただの鈍器としか思っていなかった、『ガンマの右腕』で。

 

 

 

 

「な・・・あ・・・っ!」

 

そしてギーシュは、薔薇の杖を持った手をわなわなと震わし、今目の前で起こった事が信じられず声にならないうめきをあげ、ルイズのゴーレムに攻撃をしかけていたはずの『ワルキューレ』を見た。

 

 

 

 

 

そのワルキューレの体には、向こう側が覗きこめるほどの・・・大きな風穴が開いていた。

 

 

 

 

 

ドシャリッ とワルキューレはそのまま力なく地面に倒れる。 その場に立っていたのは……右腕を構えたままのガンマだった。

 

 

「("15.5cm単装誘導速射砲一基一門"。機能、及ビ性能、威力共ニ問題ナシ。)」

 

ガンマは自分の唯一の武装である銃の調子を確認し、この世界でも十分活用できると判断した。いくら魔法で生み出した金属の兵士と言えど、所詮はただの青銅。エネミーを一撃で破壊することができるこの武器でも対処可能だということがわかり、これなら決着は早急に着くだろうとガンマは思った。

 

 

 

――シュウゥゥ…

 

 

そしてそのガンマの右腕の先端の穴から、硝煙が上がってるのを見て、生徒が口を開きだす。

 

 

「あれって・・・もしかして、銃か?」

 

「あのゴーレム、腕が銃になってたのか!!」

 

「嘘だろ! ただの銃で青銅を打ち抜くなんて事できるのか!?」

 

 

静まり返っていた生徒達は、ガンマの右腕の正体に気づき、ざわざわと騒ぎ出す。それもそのはずだ、ハルケギニアに存在する銃は軍における銃士隊の基本装備としてる『火縄銃』と『マスケット銃』の2種類のみで、現在のハルケギニアの技術では近距離でしか威力を発揮できず、しかも今倒れているワルキューレのように、体に大穴をあけられるような威力などあるはずがない。

メイジにとって銃など脅威にもならないというのに・・・・今目の前に居るゴーレムは、あの青銅でできたゴーレムを、"たった一発の銃弾"で倒してしまったのだ。

 

ギーシュも周りのギャラリーと同様に思ったようで、ガンマの銃の威力に驚きを隠せず硬直していた。

 

 

 

「・・・モウ、戦闘ハ終了デスカ?」

 

ガンマは構えてた右腕を降ろし、固まっているギーシュに静かに問いかける。

 

「!! わ、ワルキューレぇ!!!」

 

ギーシュはハッ!と我に返り、慌てて薔薇の杖を振る。二枚の花びらが舞い、新たに二体のゴーレムが現れる。

 

「行けぇ!!」

 

取り乱しながらも、薔薇の杖を振って二体のワルキューレに指示を出し、ガンマに向かって駆け出す。

 

 

「(いくらあの腕の銃が強力だろうと、単発式のはずだ!再装填される前に攻撃できれば問題ない!!)」

 

ギーシュはガンマの銃に驚きはしたものの、知ってる限りではハルケギニアにある銃は一発撃った後再装填するのに時間がかかる。ガンマの銃もそれと同じで、いくらゴーレムの体を砕くほどの威力があろうと、撃つ前に決着を着ければいいと考えた。

念のため2体のゴーレムを出したのも、もし仮に一体を倒されたとしても、残ったもう一体で装填される前に一気に攻めかかれると判断したようだ。

 

 

だが、ガンマは慌てることなく、"まるで慣れてるかのように"銃を構え、新たに現れた二体を再びスコープが捉える。

 

「ワルキューレ 二体確認。ターゲット、ロック。発射」

 

 

――――ドウンッドウゥンッ!!

 

 

再び銃声が鳴り、ガンマに向かって突っ込んでくるワルキューレに二発の光弾が放たれる。

 

一体目は胴体に被弾し、腹部を砕かれ真っ二つにされ、二体目は両手でとっさにガードをするが、その両手ごと頭部を吹き飛ばされ青銅の破片がバラバラと散る。

 

 

「あ・・・ああ・・!」

 

ギーシュは自分の予想が外れ、しかも確実に当てれるような命中精度で装填もしないで連射ができることに驚き、近づく前にあっと言う間に二体のワルキューレを倒されたことで、ガンマに対して恐怖を感じた。 もしあんな弾をまともに食らえば、自分もワルキューレのように粉々に砕かれてしまうことを想像してしまったようだ。 今まで見せていた余裕の表情が消え、顔がサーっと青くなる。

ギーシュが錬成できるワルキューレの数は全部で七体。破壊された三体を除いて残りは四体。 たとえ全部を錬成させて突撃させたとしても、さっきの三体のように銃の連射で破壊されるのが目に見えていた。

 

 

その光景を見た生徒達からは動揺の声から歓声へと変わり、ただの弱いゴーレムと思っていたガンマの活躍に熱狂していた。

 

 

「す、すげぇ~!! なんなんだあのゴーレム!!」

 

「装填も無しでさらに二体もギーシュのゴーレムを倒しやがった! ただの銃じゃないぞ! なんなんだあの光の弾は!?」

 

「ひょっとして魔力を弾丸にして撃ちだすマジックアイテムか? あんなの見たことない!」

 

「いいぞへんてこゴーレムー!!」

 

 

ギーシュを応援していたはずのギャラリーも、ガンマへ声援を送る側へと変わり立場が逆転してしまった。なんともすごい手の平返しである。

 

 

「・・・・・」

 

そしてそのガンマの主人であるルイズは、ただただ開いた口が塞がらないというほどに呆然と見ていた。ただの鈍器と思っていた右腕が・・・実は銃で、しかも見たところ実弾ではなく魔力を弾として撃ち出せれるマジックアイテムのようだ。いくらギーシュが『ドット』メイジと言えど、それでも実力は本物だ。そのギーシュのワルキューレを簡単に倒してしまうだなんて・・・見た目では力のない執事のゴーレムくらいにしか思ってなかったのに、このガンマは一体・・・。

 

 

そこでルイズは、昨日の夜にガンマが言った言葉を思い出す。

 

 

――――『ソノ心配ハナイ、ボクハ戦闘用トシテ造ラレテイル』

 

 

「・・・あいつ・・・本当のことを言ってたんだ・・・」

 

最初は信じられなかったが、こんな光景を見せられては信じるしかあるまい。もしかしたら、このまま本当にこの決闘に勝ってしまうのかもしれないとルイズはガンマを見て思った。

 

 

 

 

「ミスタ・ギーシュ。マダ決闘ヲ続行シマスカ?」

 

ガンマは震えているギーシュを見て、戦意を喪失していることを感知し、まだ続けるかどうかを問いかける。

 

「・・う・・・ぐっ・・・ぐぅぅぅ・・!」

 

恐怖に染まっていた表情が悔しそうな顔になり、ギーシュはガンマのその余裕な態度を見て、自分が見下されているように感じたようだ。 『青銅のギーシュ』と言う二つ名をもった自分が、恐怖し、しかもそのゴーレムにプライドを傷つけられたのだ。

 

 

このまま引き下がれば・・・それこそグラモン家の、貴族の名折れだ。

 

 

「・・・ゴーレムくん、まずは君に謝ろう。『土』系統のメイジである僕が見た目で君の力量を見誤ったことをね。」

 

「・・・?」

 

ガンマは、突然謝ってきたギーシュに疑問を抱く。自分はたしかにギーシュに謝らせるために決闘を受けたのだが、なんで自分に謝ってきたのだろうか? それにさっきまでの震えた様子もなく、逆に落ち着いているかのようだ。・・・もしかして、まだ何かあるのだろうか? とガンマは警戒を解かずにいた。

 

 

「だから!」

 

 

――――バッ!

 

 

ギーシュは目をカッと見開いて、薔薇の杖を振り、残りの四枚の花びらが宙に舞う。

 

 

「このギーシュ・ド・グラモン! 敬意をもって、今ある僕の全てで、君を倒す!!」

 

 

 

――――――ズズゥゥウンッ!!!

 

 

 

「・・・!」

 

ギーシュが放った四枚の花びらが再びワルキューレへと姿を変えるが・・・さっきの素手の三体と違い、その四体にはそれぞれ武器が持たれていた。

 

 

 

一番後方にいる一体は、二本の手斧を持ち、二体目はショートソードと盾、三体目は槍と盾を持って左右に並んで立っている

 

 

―――そして、一番前衛である四体目のワルキューレは、他のワルキューレよりも鎧の装甲が大きく、両手には巨大なタワーシールドを二つ持っていた。その姿は見た目でだけでも威圧感があり、タワーシールドも相まってまさに動く青銅の城とも言えそうだ。 

 

 

ガンマはそんな武装したワルキューレたちを見て、スキャンしたところ装備もすべて青銅製であることがわかったが、あの前衛に位置する大きなワルキューレが他のワルキューレよりも装甲が厚く、いくら青銅だとしてもあれだけ分厚ければ一発撃っただけでは破壊できないだろうし、あの巨大な盾も厄介だ。壊すだけでも時間がかかるだろう。

 

あのギーシュの雰囲気からして、これが切り札に違いない。 だが、ワルキューレのデータをとってみたところ、動きもソニックのように素早いわけでもなく、E-シリーズのような装甲を持っているわけでもない。 確実にホーミング弾を当てていけば勝てるはずだ。

 

 

 

――――ジャキンッ

 

 

 

ガンマは、静かに銃を構え臨戦態勢を取る。

 

 

 

 

 

「いくぞ!!ゴーレムくん!!!」

 

 

 

――――ギーシュは、最後の四体のワルキューレに、薔薇の花びらを失った杖を振った




長くなりそうなので二話分にわけました。


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ミッションー113:Bayonet

お待たせしました、Bパートの分がやっと完成です。 修正も兼ねて時間が掛かってしまいました。
先に投稿してしまったAパートと内容がかなり違っているかもしれませんが、そこはご了承くださいませ。


"ガゴォォォオンッ!!"

 

 

 

ギーシュが杖を振ってワルキューレ達に指示を出したのと同時に、タワーシールドを持った大きなワルキューレは、両手の盾をお互いにぶつけてゴングのように大きな音を鳴らし、三体のワルキューレを引き連れガンマへ向かって前進する。

先頭に立つワルキューレは他のワルキューレよりも体格が大きく、重厚な鎧と全身を覆い隠せるほどの大きなタワーシールドを持っているため、重量が他のワルキューレよりも重くスピードは遅いようだ。だが周りにいる三体は先頭のワルキューレのスピードの合わせるように走っており、陣形を崩さず綺麗に並んで走っている。

 

 

「ワルキューレ四体確認。ターゲット、ロック…」

 

ガンマは先ほどの三体と同様にワルキューレ達をロックオンし、いつでもホーミング弾を撃てるようにする。先頭に立っている大きなワルキューレ・・・個体名として『アーマードワルキューレ』と命名しよう。 そのアーマードワルキューレを先頭にしているということは、その鎧の装甲と盾の防御力に自信があるということだ。

 

しかし・・・陣形は整っているが、何故三体のワルキューレはアーマードワルキューレと距離を開けてるのだろう? アーマードワルキューレのあの巨大な盾ならば、自身の体も他のワルキューレすら隠しながら走れるはずだ。 それなのに三体とも姿をさらけ出している・・・・もしかしたらこの三体はあくまでただの武装した兵士で、こちらの注意を引き付けるための、ようはおとり用なのだろうか?。本命はアーマードワルキューレのほうで、ホーミング弾を盾で防ぎつつ、一気に近づいて接近戦に持ち込む気なのかもしれない。ならば先に他のワルキューレを排除するのが先決だ。

ガンマはそう判断し、ターゲットを周りにいる三体のワルキューレへと変更する

 

 

「発射」

 

 

ドドドウゥゥンッ!

 

 

右腕の銃から三発のホーミング弾が放たれ、三体に向かって光弾が向かっていく。武器を装備している以外は最初に破壊した三体と能力は同じだ、この三体も問題なく破壊は可能だとガンマはそう予測する。

 

その時、アーマードワルキューレは動きを止めて盾を持った両手を大きく広げ、防御範囲を広げた。

 

それと同時に周りのワルキューレはアーマードワルキューレの後ろに素早く隠れ、追尾した三発の銃弾をアーマードワルキューレがタワーシールドとその身で防いだのだ。被弾した盾と鎧は当たった部分にヒビが入り、一部が抉れてはいるが攻撃を防ぐことに成功したようだ。それでもガンマの銃の破壊力が勝っていることがわかる。

 

「(疑問。アーマードワルキューレニ隠レルノナラ、何故最初カラ隠レナカッタ?)」

 

ガンマはこのワルキューレ達の行動に疑問を感じた。ワルキューレ達の装甲では一撃で破壊されるのはすでに実証済みのはずだ。それなのに・・・このワルキューレ達の行動はまるでこちらが撃つことを誘ったかのように姿をさらしていたように思える。何故そのような無駄なことを・・? とガンマはワルキューレの不可解な行動に理解ができずにいた。

 

そしてそのワルキューレ達を操っているギーシュは、ガンマの放った光弾を見て納得したように目を鋭くした。

 

 

「やっぱり、あの光の弾は相手を追尾することができるのか…」

 

 

そう呟き、ギーシュはさっき出した二体が破壊された時の事を思い返し、ガンマの銃に気になる点があったことに気づいた。 あの時は取り乱したせいで気づかなかったが、ガンマが銃を撃った時、銃口を向けてはいたが・・・"射線の向きを変えていなかった"。

それに三体目のワルキューレが撃たれた時のあの光弾・・・わずかにだが、軌道を変えていたように見える、つまりあのゴーレムの銃の弾は相手を追尾することができるということだ。

 

実弾ならば肉眼で見ることはできないが、この光弾はちゃんと認識することができる。 だからそれを確かめるためにこの四体のワルキューレの陣形を散開するような形にしたが、どうやら自分の読みは当たっていたようだ。

 

・・・だが、それがわかったからと言って勝機が見えたと言うわけではない。自分が作り出したあの前衛のワルキューレに倍の魔力を注ぎ込んで(美しくないのがちょっといやだけど)強固な鎧にしたものの、それでも青銅である以上あのゴーレムの強力な魔力の弾をそう何発も防げない。 ここからどこまであのゴーレムに近づくかが勝負の肝だということだ。

 

 

「ワルキューレ! そのまま進めぇー!!」

 

ギーシュが薔薇の杖をむけてそう叫び、三体のワルキューレを守るようにアーマードワルキューレは両手のタワーシールドでガッチリと前を防ぎ、まるで戦車のようにガンマにむかって突進していく。

 

「! ターゲット変更、破壊対象、アーマードワルキューレ」

 

 

 

ドウンッ!ドウンッ!ドウンッ!ドウンッ!

 

 

 

ガンマは三体のワルキューレがアーマードワルキューレに隠れてしまったことでロックオンできなくなり、こちらに突っ込んでくるアーマードワルキューレへとターゲットを変え、一発一発集中的に攻撃する。

回りこんで横から射撃することも可能だが……まだギーシュにゴーレムを作り出す以外の魔法を使う可能性がある以上下手に動くわけにもいかず、正面から迎え撃つしかない。

 

ガンマの武装の『15.5cm単装誘導速射砲』のホーミング機能は命中精度がとても高く、あのソニックの動きすら捉えるほどだ。 ロックオンをするための頭部に装着しているレーザースコープは多数のターゲットの姿を捉えることでロックオンすることが可能だが・・・一体に付き一発しか撃てず、その一発がロックオンした対象に当たるまでは次の弾を撃つ事ができないというデメリットがある。

ガンマの銃はロックオン機能を使わなくとも射撃することは可能だ。しかし、ガンマは今この場でそれができないのに理由があった・・・

 

 

「(バースト射撃デ一掃スルコトハ可能。シカシ…今ノ現状デハソノ行為ハ危険)」

 

 

ロックオン無しでの射撃には危険がある。たしかにあのワルキューレはソニックのように弾を避けられるわけでもないし、改造されたベータのように弾を弾くことさえできないだろう。だが、それよりも"場所"が問題なのだ。

万が一弾がターゲットから外れて、周りにいる観客の生徒達に流れ弾が当たってしまうという危険があるため、ガンマは命中率の高いホーミング弾のみを使っているのだ。今までは敵しかいない場所でしか戦ったことがないガンマには、このような周りにたくさんの人間がいる中で戦うのにやり辛さを感じていた。

それでもガンマは、今目の前にいる敵を緑のカメラアイで真っ直捉え、右腕の銃を撃ち続けた。

 

そしてそのガンマの攻撃を受け続けているギーシュのワルキューレのほうは、さっきまで見事に出来ていたアーマードワルキューレの二つのタワーシールドがガンマが撃つごとにその強固な盾の姿がボロボロになり、すでにあちこちにヒビが入っては崩れていき、限界が近づいていた。

 

 

「(頼む!もう少しだけ持ってくれ…ワルキューレ!)」

 

 

ギーシュは冷や汗を垂らし、焦る気持ちをグッと抑えながら、ワルキューレに祈るように前進させていき、ガンマとの距離を縮めていく。

 

 

―――バゴォオンッ!!

 

 

とうとう一つ目のタワーシールドが破壊され、アーマードワルキューレはもう一つのボロボロのタワーシールドを構えながらガンマの攻撃を受け続ける。

 

 

ピシッピシッ…

 

 

そのもう一つのタワーシールドもガンマの攻撃を受ける度にヒビが入り、壊れそうになるが、アーマードワルキューレはそれでも足を止めず、一歩また一歩と、どんどんガンマへ突き進んで行く。

 

 

「(ワルキューレ接近。後退開始)」

 

ガンマは怯むことなくこちらに進んでくるアーマードワルキューレに危険を感じ、後ろに下がりながら撃ちつづける。 あのアーマードアルキューレは自身を盾にして、後方の三体のワルキューレの攻撃範囲内にまで接近させてこちらに奇襲をかけるつもりなのだろう。

サイ型メカのリノタンクよりも防御力が高いアーマードワルキューレの突進力も侮れない…だが、この距離でたとえ攻撃を仕掛け、二体のワルキューレが持っている盾で攻撃を一度防げたとしても、あのワルキューレのスピードではこちらに接近する前にホーミング弾を撃つ余裕がある。 データどおりならば、このまま攻撃を続ければ殲滅は可能だ。とガンマはデータを分析して、ワルキューレを今まで破壊したエネミーと大差ないと判断していた。

 

 

 

――――しかし、そのデータに頼っているガンマは肝心なことを失念していた。ここは異世界であり、ガンマは自分の世界での戦いしか知らないということを。 そしてガンマは知らなかった。今相手をしている『土』系統のメイジ、ギーシュ・ド・グラモンが"軍人家系"の貴族であるということを。

 

 

 

―――バゴォォォンッ!!

 

 

ついに二つ目のタワーシールドが限界を向かえ、光弾を受けて粉々に砕け散り、アーマードワルキューレは無防備になってしまう。続けてガンマの攻撃を体で受けて装甲が数発の光弾と同じ大きさに抉られ、ガクリッとその場で膝を突く。

 

アーマードワルキューレの動きが止まったことで、ガンマは続けて攻撃をしようとしたとき、今まで沈黙していた後方にいるワルキューレ達が動き出した。

 

 

「(今だっ!!)」

 

 

アーマードワルキューレがガンマに攻撃を仕掛けれる距離にまで接近し、タワーシールドが破壊されたのと同時にギーシュが三体のワルキューレに指示を送る。

盾をもった剣と槍の二体のワルキューレがアーマードワルキューレの左右から現れ、ガンマに向かって武器を構え走りだした。

 

 

「ワルキューレ二体確認。 ターゲット、ロック…」

 

しかしガンマはこのワルキューレの行動は想定内のようで、慌てることなく二体に向けてロックオンした時・・・

 

 

――――シュバッ!

 

 

「っ!」

 

なんとアーマードワルキューレを踏み台にして、後方からジャンプしてきた二振りの手斧を持ったワルキューレが飛び出した。 ガンマはこれは想定外だったようだが、続けてその三体目にロックオンをしようとレーザースコープを向ける。

 

 

ブオンッ!!

 

「!?」

 

だが三体目のワルキューレはロックオンされる前に両手の手斧を同時にガンマにむけて投げつけ、手斧は円を描くようにガンマに向かって飛んでくる。 ガンマはターゲットを三体目のワルキューレから飛んでくる二振りの手斧にロックオンし、速く撃たなければ間に合わないと判断し二体のワルキューレと手斧に向かってホーミング弾を放った。

 

四発の光弾がそれぞれのターゲットを狙って飛んで行き、二本の手斧が撃ち落とされ、二体のワルキューレは片手に装備した盾で光弾を防御し、両方の盾が腕ごと砕け散った。

もしこれが人間だったならば腕を失った痛みで行動などできるはずがないのだが、この意思のないゴーレムに痛覚などないのだ、失った腕を意にも介さず二体は武器を構えて突撃してくる。 三体目の投げた手斧には驚いたが、それでもまだ次の攻撃には間に合う。

 

 

「ターゲット、ロッ…!!?」

 

――ガキィィィンッ!!

 

 

再びガンマがロックオンしようとしたが、なんと二体のワルキューレがスキャンしたデータ以上のスピードで急接近し、ガンマに攻撃を浴びせたのだ。攻撃によってロックオンを阻害され、ホーミング弾を撃つことが出来なくなる。

ガンマは一旦下がって体制を整えようと後方へバックステップをするが、それでもワルキューレに追いつかれてしまい剣と槍による連携攻撃で動きを封じられる。

 

 

「(理解不能。理解不能。何故スキャンシタデータ以上ノ動キヲ・・!!)」

 

ガンマはこのワルキューレ達の急なスピードアップに困惑した。 たしかにスキャンしたデータではあの重量でここまでの動きなど出せるはずがない、なのにどうして・・・。とガンマは気になってこのワルキューレ達の体を再スキャンし、一体目に破壊したワルキューレのステータスと比較して確認する。

 

「(! 装甲ガ減少シテイルタメ、ソノ分ノ重量ガ減ッテイル!?)」

 

なんとこのワルキューレ達の装甲が通常の数値に比べ、半分にまで薄くなっている。そのためにその分の重量が減って装甲が薄くなっている分、動きが破壊した三体よりも身軽になっているのだ。イレギュラーで現れた手斧を持ったワルキューレの斧の投擲によってロックオンのタイミングがズレたのも影響があり、だからあの距離からロックオンする前に一気に接近することが出来たということなのだろう。

 

だがそれよりもこの状況がまずい。ガンマはたしかにエッグマンが作り出したEシリーズの中でも評価されているが、それでも接近戦に対応されていない"射撃用ロボット"なのだ。 エッグキャリアの上で戦ったソニックやベータも接近攻撃をしてきたが、スピンアタックや体当たりなどの直線的な攻撃方法だった。

この二体のワルキューレの動きは只単に攻撃してるわけではなく、射撃ができないよう確実に自分の動きを封じさせるような連携のとれた動きだ。数で押してくるエネミーと違い、ガンマはこの動きに着いていけず、ワルキューレに翻弄されている。

 

 

――――ガゴッ!ギギンッ!ガンッ!

 

「戦闘データ無シ。対応不能、対応不能!」

 

 

体に攻撃を受ける度に金属同士がぶつかる音が鳴っていく。 ガンマがなんとかロックオンして銃を向けようとすると右側から剣を持ったワルキューレが銃を剣で弾いて妨害し、左側からは槍を持ったワルキューレがガンマが距離を取って離れようとすると、動きを封じるように体や腕や足を鋭い槍で突いてバランスを崩してくる。

片腕を失っているというのに、たった二体でも動きは熟練の兵士のようで卒が無い。お互いが失った片腕の分の補佐をして隙を埋めているのだ。

 

ガンマはこのような近接武器による接近戦闘の経験がなくて対応ができず、細い腕で何とか防ごうとするが、ワルキューレの動きのほうが早く体に斬撃をいくつも受ける。

ガンマの体は丈夫な金属で出来ているため、青銅でできた武器では傷を付けることは難しいが、それでもワルキューレに押されつつもあった。

 

 

「いいぞワルキューレ! そのまま追い詰めろ!」

 

ガンマへ接近戦に持ちこむことができたことにより、ギーシュは自分が有利になったことで調子をとり戻し、自分の戦法が上手くいったことで笑みを浮かべた。 前衛として作ったタワーシールドのワルキューレに、他のワルキューレの装甲を削って注ぎ込んだのもガンマに近づくためである。攻撃用の三体はただ装甲を削っただけではなく、自身の重量を減らし、身軽にして速さに特化した動きができるようにしたのだ。

そしてもう一つが、あのガンマの銃に貫通性能がないということだ、あの右腕の銃から放たれる光弾は被弾したと同時に四散し、そのまま消えたのだ。つまり、実弾と違って魔力で出来ているために破壊力はあるが物体を貫くことができない。だからあの二体のワルキューレは盾と片腕を失うだけですんだのだ。

 

あのゴーレムの銃はたしかに強力だ。だが、逆に言えば接近戦に弱いという事でもある。元に、あのゴーレムが前衛のワルキューレが接近したときも近づかれるのを避けようと後退してたし、接近戦ができるのであれば、最初に出した一体目のワルキューレに銃を使わずに攻撃できてたはずだ。 銃さえ使えなければ、今あそこにいるのは力のない貧弱なゴーレムであることに変わりない!

 

 

「ガ、ガンマァ!しっかりしなさいよ!!」

 

ルイズはガンマがワルキューレに一方的にやられ始めているのを見て思わず叫んだ。やっぱりあのゴーレムは見た目どおり格闘向けではなかったのだ、ああもワルキューレに近づかれては銃を使いようが無い。ルイズは自分の使い魔を信じると決めたものの、それでも不安と焦りを隠せずにいた。

 

 

 

「あーあ…油断なんてするからギーシュに一杯食わされちゃうのよ。」

 

ガンマが追いこまれている状況を眺めながら顎に手をやってそう呟くのは、今朝ルイズに使い魔自慢をしていたキュルケだ。大勢いるギャラリーの中でもその燃えるような赤い髪がとても目立ち、ギャラリーの一角からガンマの決闘を観戦していた。彼女もまた周りの生徒と同じようにガンマがギーシュと決闘するという話を聞いて、面白そうだからと見に来たようだ。

 

「動きがまったくなってないところを見ると、戦闘のほうはからっきしなのかしらねぇ、あのゴーレム。あんな強い魔法の銃を持ってるのに、あれじゃぁ宝の持ち腐れだわ・・。」

 

ワルキューレを一撃で破壊できるような遠距離武器を持っているというのに、それを生かせず相手に接近を許してしまったガンマに呆れたようにため息をつく。

 

「ねぇタバサ、貴方はどう思う?」

 

そして自分の隣にいる、眼鏡を掛けた青い髪の少女…タバサに声をかける。タバサは決闘には興味がなさそうに手に持っている本に集中しており、そんな彼女に声をかけてきたキュルケにタバサはチラッと視線を向けて、小さく呟く。

 

「・・・何が?」

 

「あのガンマってゴーレムのことよ。あなたから見て、ガンマはギーシュに勝てると思うかしら?」

 

そうキュルケが問うと、タバサは眼鏡越しから戦っているガンマへと視線を向け、少し眺めたところでまた手に持っている本に視線を落とす。

 

「・・・あのまま何もできないようだったら、所詮はただのゴーレム。」

 

でも・・・っと、タバサは小さく言葉を切り、ぺラリと次のページを捲る。

 

 

「・・・自我があるということは、人間のように考えもするし、覚えることもできるということ。」

 

「・・?それってどういう意味なの?タバサ、教えなさいよ~」

 

タバサの言葉の意味がわからず、首をかしげるようにキュルケがどういう意味なのか聞こうとするが、タバサはそれ以上は言わずに口を閉ざし、本に集中した。このタバサは本を読み始めたら一日中でも読みっぱなしなのだ。

キュルケはタバサがこれ以上は何も喋らないのだろうと諦め、自分もまた決闘の続きを観戦することにした。

 

 

 

「見事だゴーレムくん、君には本当に驚かされたよ。 僕をここまで本気にさせたんだからね!」

 

そしてギーシュは地面に杖を向け、地面に膝をついているアーマードワルキューレの隣にいるワルキューレの足元に新しい斧を作り出し、ワルキューレはそれを拾い上げる。 その斧はさっきの手斧よりも大きく、刃も鋭く、丸太を一振りで両断できそうなものだ。

 

「ここで一気に片をつけてあげよう!」

 

 

―――ギラリッ

 

 

そのワルキューレは陽光で煌く斧を構え、ガンマが二体のワルキューレに翻弄されてるところに向かって走り出す。 剣や槍と違ってあのような重い武器で攻撃を受ければ、いくら自分の体が青銅よりも硬い合金で出来ていても、衝撃で内部にダメージが入ってしまう。ガンマはなんとかこの状況を打破しようとするが、こうも動きを封じられては行動しようがない。

 

 

「(現状デノ回避ハ不可。ホーミング弾発射不可)」

 

ロックオン自体はできるが、こうも狙いを定められなければ外れる可能性がある限り撃ちようがない。まずこの二体をどうにかしなければならないが、接近戦闘の機能を持たない自分ではどうしようもない。仮に左腕で殴ったとしても、その衝撃で左腕が故障でもして使えなくなったらこの世界での生活に支障が出る。パーツの替えや修理などができない今の現状ではそのリスクは避けなければならない。

だがこのままでは一方的にやられるだけだ、一体どうすれば・・・!

 

 

―――ビュッ!

 

「ッ!!」

 

 

左側のワルキューレが槍をガンマの緑のカメラアイに向けて鋭く突きを放つ。

 

 

ガシィッ!!

 

 

カメラアイに槍が刺さる寸でのところで、ガンマはとっさに左手で槍を掴む事が出来た。何度も攻撃を受けたことである程度のワルキューレの動きを学習して、攻撃パターンを読んで槍を防いだのだ

 

 

 

 

―――――その時、槍を掴んだガンマの左手の、"使い魔のルーン"が輝きだした。

 

 

 

 

ピピピピッ

 

《―――NEW WEAPON:青銅の槍―――》

 

 

 

「!・・コレハ?!」

 

ガンマは突然自分の電子頭脳に今掴んでいる青銅の槍の情報が流れ込んできたことに動揺した。まるでコンピューターに接続して情報をダウンロードしたかのように、この青銅の槍の使い方を瞬時に理解してしまったのだ。

それだけではない、ググググッとワルキューレが槍に力を入れるが、まったくビクともしていない。まるで巨大な岩に槍を突きたてようとしてるかのように、ガンマの槍を掴んでいる左手から動かないのだ。

 

「(未知ノエネルギー上昇ニヨルパワーアップヲ確認、原因ハ不明……何ナンダコレハ?)」

 

突然の槍の情報のダウンロードだけでなく、なんとガンマ自身の体にも変化が起こっていた。接近戦闘型でないはずの自分のパワーが急激に上がっている・・・一体何が起こっている!?

 

 

「よく掴むことができたね!でもそれはほんの一時凌ぎにしかすぎないぞ!!」

 

ギーシュはガンマの変化には気づいておらず、続けてワルキューレに指示を出し攻撃を続行させ剣を持ったワルキューレがガンマに向かって剣を振り下ろす。

 

 

「ッ!!」

 

――――パキィーン!

 

 

 

一瞬のことだった。

 

 

ガンマが剣を持ったワルキューレが攻撃を仕掛けてきたのを認識した途端、自然に体が動いた。 右腕の銃でワルキューレの剣を叩き折り、左手の掴んだ槍をそのままそのワルキューレの顔面を貫いたのだ。

そして自分の槍に引っ張られたワルキューレはそのままガンマに引き寄せられ、ガンマの右腕の銃を腹部に押し付けられる

 

 

―――ドウゥゥンッ!

 

 

そのままガンマはワルキューレの腹部に銃をめり込ませ、体を吹き飛ばした。

ガンマは次に斧を持ってこちらに向かってくる三体目のワルキューレを視認し、ワルキューレの顔面に突き刺した槍を引き抜いてそのまま上半身を一回転させて、勢いよく槍を三体目のワルキューレをなぎ払うように振りぬいた。

 

 

――――メギャァッ!!

 

 

三体目のワルキューレはバットのように振りぬかれた槍を腰に食らい、鈍い音を立てて体がくの字に折れ曲がって吹き飛ぶ。

 

三体の武装したワルキューレが瞬く間に倒されたことで、ギーシュは再び声にならないうめきをあげ、まわりの観客の生徒は驚愕の声をあげる。今までワルキューレに一方的にやられていたガンマがまさかのどんでん返しを行ったのだ、しかもあの槍を振るった速さも、ゴーレムとは思えない速さで、あんな細い腕で青銅のゴーレムを叩き折るなどありえないのだ。

 

 

「・・・理解不能・・・理解不能」

 

 

ガンマ自身もこのパワーアップに驚いており、自分が倒した三体のワルキューレを見下ろして、突然の自分の変化と戦闘能力の上昇に困惑と驚愕が入り混じり、電子頭脳がオーバーヒートしそうになる。

自分に何が起こったのだ? 自分の中の未知のエネルギーが突然活発化して、槍を掴んだだけで接近戦闘型でないはずの自分のパワーや性能が大きく上回り、それにまるで"知っている"かのように槍を使いこなし、あの青銅のゴーレムをまるで粘土のように叩き潰してしまった・・・・一体何が・・?

 

そう疑問に思い、ふと槍を持っている自分の左手の使い魔のルーンを見ると、光り輝いていた。

 

 

「(光ッテイル・・・?)」

 

試しに槍を捨ててみるとその光が消え、次に三体目のワルキューレが落とした斧を拾い上げると、再びルーンが光りだし今度は青銅の斧の情報がダウンロードされる。 ・・・まさか、このルーンが戦闘能力を飛躍的にアップさせたのか?どうやら武器を持つことで発動するようだが、使い魔のルーンにそんな効果があるだなんてルイズは言っていなかった・・・これも使い魔の能力の一つなのだろうか?

 

 

・・・。疑問は尽きないが、今はそれについては置いておくことにしよう。まずは・・・・

 

 

 

ジャキンッ

 

 

「最終ターゲット確認。目標、ギーシュ・ド・グラモン」

 

斧を構え、ギーシュに向かって聞こえるようにそう宣言し、力強く駆け出した。

 

「(体ガ軽イ・・・コレモルーンノ効果?)」

 

825kgもある自身の重量を感じさせないほどに、その走る足が通常のスピードよりも軽く速くなっていた。

 

 

「ワワ、ワルキューレェ!!」

 

ギーシュは最後に残った傷ついたアーマードワルキューレを自分の盾に置いた。そして迫ってくるガンマに向かってアーマードワルキューレが最後の抵抗のように拳を振り下ろすが、ガンマにはワルキューレの動きがスロー再生の映像のように遅く見え、難なくそれを避けると青銅の斧を大きく振り上げ、アーマードワルキューレの脳天目掛けて一気に振り下ろす

 

 

 

―――――ズバァンッ!!

 

 

 

次の瞬間、あの強固な鎧に見に纏ったワルキューレが、ギーシュの目の前で真っ二つに切り裂かれる。

 

「ひぃっ!」

 

ギーシュは小さく悲鳴を上げ、尻餅をついた。 ガンマはアーマードワルキューレが動かなくなったのを確認し、青銅の斧を捨てて、ギーシュの元ヘとゆっくりとした足取りで歩く。

 

 

 

ガシャッガシャッガシャッ・・・

 

 

 

無機質な緑のカメラアイでじっとギーシュを見つめ、ジャコンッ とガンマは右腕の銃のレバーを引きながら歩いてくる姿を見て、ギーシュはこのガンマの姿を見て恐ろしい存在に見えたようにガタガタと震えだした。

 

そして目の前まで近づいたところで、ガンマが腕を伸ばしてきたことでギーシュは「うわぁあああ!!」と悲鳴を上げながら頭を抱えてギュッと目を瞑る。

 

 

 

 

「ぅぅ・・・う・・?」

 

いつまでたっても何も起きず、恐る恐る目を開けると・・・・ガンマの左手に、自分が持っていた薔薇の杖が握られていた。

 

 

「ミスタ・ギーシュ、降参シマスカ?」

 

 

ガンマのその無機質な声に、ギーシュは呆気にとられたような顔をしながら首を縦に振った

 

「こ・・降参だ」

 

ガンマはギーシュが降参したことで勝利条件が達成されたことで決闘のミッションが完了したと判断する。

 

「ミッション、完了」

 

 

 

―――ドウゥーンッ!

 

 

 

右腕を高く上げて空に向かって勝利の咆哮のように空砲を広場に響かせた。 広場にいた生徒達からわっと歓声があがり、「ギーシュが負けたぞ!」とか「あのゴーレムやるじゃねぇか!」などと、ガンマの戦いぶりを称えていた。中には土系統の生徒がこちらを見て「あんなゴーレム欲しい」なんて言っているが、気にしないでおこう。

未だに尻餅をついているギーシュに視線を向け、手を伸ばす

 

「ミスタ・ギーシュ、立テマスカ?」

 

「あ、ああ・・・ありがとう」

 

ギーシュは差し出されたガンマの三本指の左手を握り、立ち上がると、薔薇の杖を返してくれた。ガンマのその行為を見て、自分の主人を侮辱され、しかもあんなにワルキューレに殴られたというのに、なんでこんなに優しくしてくれるんだろうかとギーシュは不思議に思っていた。

 

 

「ガンマァ!!」

 

後ろのほうからガンマの主人であるルイズが駆け寄ってきた。

 

「マスター・ルイズ。決闘ニ勝利シマシタ」

 

一仕事終えたように主人のルイズにガンマは勝利の報告をする

 

 

「勝利しました、じゃないわよ!!なんであんたその右腕が銃だってことを言わなかったのよ!そんな危なっかしいものを所持してるのなら最初に言うべきでしょ!?」

 

勝利を喜んでくれたかと思ったら、すごい剣幕で怒り出した。これにはガンマもタジタジで、さっきまでの戦いぶりが嘘かのようだ

 

「デ・・デモ、コレガ銃ト理解シテイルモノダト思ッテ・・・」

 

「そんなメイスみたいな形のものが銃だなんてわかるわけないでしょ!!あんたは一体どこまで抜けてるのよ!!?・・・それに勝手に決闘はするし、こんなに傷だらけになって心配させるし・・・」

 

 

ガンマの傷ついた体に触れ、ルイズの目に涙が滲んでいた

 

「主人の身にもなりなさいよ、この馬鹿使い魔・・・」

 

「・・・・スマナイ、ルイズ・・心配ヲカケテ」

 

そっと頭を優しく撫で、ガンマは静かに謝罪する。

 

「だ、だから恥ずかしいから止めなさいって!もう!」

 

ルイズは恥ずかしそうにガンマの手を払いのけ、目をごしごしとこすってぷいっとそっぽ向くが、ガンマが無事でいてくれたことが何より嬉しかったようだ。

 

 

「・・ルイズ、ちょっといいかい?」

 

そこへギーシュが割って入り、ルイズはギーシュを睨むようにじっと見る。

 

「・・・何よ」

 

「このギーシュ・ド・グラモン、今まで君をゼロと侮辱したことと、そして君の使い魔を役立たずと馬鹿にしたことを謝罪する。どうか許して欲しい」

 

ギーシュはいつものキザッたらしいポーズもとらず、真面目に頭を下げた。それを見て周りの生徒は驚き、ルイズもルイズで呆気にとられたようにきょとんとした顔をするが・・・しばらくして小さくため息を吐き、ポリポリと頬を掻く

 

「・・・どういう風の吹き回しか知らないけど、私の使い魔が勝ったから気分もいいし、その姿勢に免じて許してあげるわ。」

 

「あ、ありがとう…!このギーシュ・ド・グラモン、心から感謝する!」

 

ギーシュはパァっと明るくなり、再びキザったらしいポーズをとって背景に薔薇のイメージ映像が映るような幻が見える。本当にこのギーシュは反省をしているのだろうか・・?

 

 

「ガンマもそれでいいわよね?」

 

「ボクハ別ニ気ニシテイナイ、デモルイズガ許スナラ、ボクモ許ス。ダカラ、仲直リ」

 

スッとガンマは左手を差し出す

 

「感謝するよゴーレムくん・・本当にすまなかった」

 

ギーシュも答えるように差し出してギュッと手を握って握手する。ガンマの金属で出来た左手は大きく、ギーシュの手を包み込んでしまうかのように優しく握っていた。

 

「デモ、ミスタ・ギーシュ。貴方ガ二股ヲシテ傷ツケタミス・モンモランシート、ミス・ケティニモ謝ル事ヲオ忘レナク」

 

「う゛っ・・あ、ああもちろんだともさ!」

 

ガンマのその一言がグサリっと刺さり、ギーシュは引きつった顔でなんとか答えた。ガンマのド直球な言葉はかなり心を抉ってくるようだ。ガンマ本人にその自覚がないのが性質が悪い。

ルイズはガンマがいつもどおりのようすで、呆れながらも安心していた。

 

 

 

 

「ルイズ・・・このゴーレムくんは何者なんだ?この僕のワルキューレを倒すだなんて・・・」

 

「授業の時言ってたでしょ?こいつは遠い国の"ロボット"て呼ばれる自我を持ったゴーレムだって」

 

「そうだけど、それでもホントに彼はただのゴーレムなのかい? 僕が作ったあの前衛のワルキューレだって一撃だったんだぞ?」

 

「ふんだ。ただあんたが弱かっただけなんじゃないの?」

 

 

そう言って、ルイズは隣にいるガンマに視線を向ける・・。 ギーシュの言うとおり、このガンマというゴーレムは何者なんだろうか?金属の体で、馬より早く走り、強力な魔法の銃を持ち、そしてあの細い腕からは想像できないような速さで武器を振るう姿・・・戦闘用と言っていたから、きっとその国の戦闘用のゴーレムなのかもしれないいが、それでも自分の知っているゴーレムとはかけ離れすぎている。

 

それに、ガンマの過去に何があったのかもわからない。カガクシャという男に作られ、兄弟のゴーレムを失い、自我を得て、海の上で壊れていた・・・ガンマの身に何が起こったのか気になるが、ガンマにとってあまり触れられたくない記憶なのかもしれない・・。それにまだ一日しかたってないのに、ガンマの全てを知るにはまだまだ彼のことを知らなすぎるのだ。

 

 

だからルイズは、確認するように、ガンマに問いかけた。

 

 

「ねぇガンマ、あんた……一体何者なの?」

 

 

 

 

 

 

―――――何者なのか・・・・・・たしかに、今の自分は何者なんだろう? エッグマンによって戦闘用ロボットとして生み出され、忠実に命令に従い、エミーと小鳥に出会って自我に目覚め、そして任務に失敗した兄弟を破棄しベータを改造したエッグマンの元から離れ、兄弟をエッグマンの呪縛から解放するために戦い・・・最後に同じ小鳥の兄弟が入ったベータと共に相打って壊れてしまった自分。 そして、今こうやってルイズに召喚されて使い魔として存在する自分。・・・一体自分は何者なんだ?―――――

 

 

――――――だが、これだけは言える。今の自分は、もうエッグマンのロボットのE-102γ(ガンマ)ではない。 エミーと再び、もう一度・・・友達として会えることを望むE-102γ(ガンマ)であり、そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ボクハ、E-102γ(ガンマ)。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールニ召喚サレ、君ヲ守ル為ニ呼バレタ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――使イ魔ノガンマダ」



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ミッションー114:監視者

お待たせしました次の話です。
今回は短い上に、決闘を覗き見してたオスマンとコルベールの視点です。


「・・・オールド・オスマン」

 

「うむ」

 

「あのゴーレム、勝ってしまいました・・・」

 

「そうじゃな」

 

 

決闘の決着が着いた頃――――『遠見の鏡』から決闘の一部始終を見終えたコルベールとオスマン氏はお互いの顔を見合わせ、コルベールが震えながらオスマン氏に呟いた。 ガンマの右腕が銃だと発覚したところからコルベールは食い入るように『遠見の鏡』に釘付けになり、今でも既に興奮気味のようだ。

 

 

「すごい・・・すごすぎる!! 見ましたかオールド・オスマン!? あのゴーレムの右腕、まさか銃だったとは…!! しかも見たところ火薬を使った実弾製のものではなく、魔力を弾丸として射出するマジックアイテムのようです! たしかにミスタ・ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでもゴーレムの戦いにおいて遅れをとるとは思えません!それなのに、青銅で出来たゴーレムをたった一撃で破壊してしまうとは、なんという威力!。それにミスタ・ギーシュのゴーレムの斬撃をいくつも受けてるのに、あの体にはかすり傷程度しかついてないじゃないですか!。そしてあの動き! あんなに早く動けるゴーレムなど見た事がない! やはりあのゴーレムは『ガンダールヴ』!!」

 

「わかった、わかったから落ち着かんかコルベールくん…」

 

オスマン氏も流石にうんざりしたように興奮してるコルベールに落ち着くよう促す。気持ちは分からなくはないが、もう少し落ち着きを持って欲しいものだ。

 

 

「あ…すみません、こんなにすごいゴーレムだったものですから・・・。ですがオールド・オスマン、このゴーレムは本当にすごいですよ!」

 

コルベールがこうも興奮するのは無理もない。ガンマのあのような細い腕で武器を操り、槍で吹っ飛ばされたワルキューレが両手で持つほどの重さのある大きな斧を片手で軽々と持ち、あの大きなワルキューレを真っ二つに引き裂いてしまったのだ。 例え土のメイジがガンマに似せて作った金属のゴーレムを作ったとしても、あんな細さの腕では重さに耐え切れずに折れてしまう。

しかも、あのガンマの金属の体の質量から考えて、少なく見積もって重量は1500リーブルはあるはず。そんな重さであんな動きができるなど、こんなこと普通はありえない。

 

「うむ…ワシから見ても、このゴーレムは普通ではない。 それに・・」

 

オスマンは、机に置かれたガンマのスケッチを手に取る

 

 

 

「やはり、この右腕は銃だったんじゃなぁ・・・」

 

スケッチに描かれたガンマの右腕を、オスマン氏はどこか懐かしそうに見つめる。まるで遠い昔の友人のことを思い浮かべてるかのような表情だ。

 

 

 

「ひょっとしてオールド・オスマンは、あのゴーレムの右腕が銃とわかっていらしたのですか?それで『眠りの鐘』の使用許可を?」

 

「ん? いやなに、単なる勘じゃよ。むか~し見た短銃と形がたまたま似ておるものじゃからもしかしてな~っとおもってのぉ。」

 

「はぁ・・」

 

コルベールにそう尋ねられ、オスマンはあっけらかんとひらひらと手を振る。コルベールは首をかしげるもそれ以上は追求せず、一度咳払いをしオスマン氏を促した。

 

 

「オールド・オスマン。さっそくこのことを王室に報告して、指示を仰がないことには・・・」

 

「それには及ばん」

 

オスマン氏は、重々しく頷き、白い髭が厳しく揺れる。

 

 

「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇った『ガンダールヴ』!」

 

「ミスタ・コルベール。君も知っておるだろうが、『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」

 

「そのとおりです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』、その姿形は記述がありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」

 

「そうじゃ。始祖ブリミルは、その呪文があまりに強力ゆえに、呪文を唱える時間が長かった・・・。知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは・・・・」

 

 

その後を、コルベールは興奮した調子で引き取った。

 

 

「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並みのメイジではまったく歯がたたなかったとか!」

 

「でじゃ、ミスタ・コルベール」

 

「はい」

 

「そんな敵を一撃で破壊してしまう魔法の銃を持つようなゴーレムを、現代の『ガンダールヴ』にしたのは、誰なんじゃね?」

 

「ミス・ヴァリエールですが・・・」

 

「あのヴァリエールの三女か・・・彼女は、優秀なメイジなのかね?」

 

「いえ・・彼女は大変努力家であるのですが、悪い言い方をしますと、無能というか・・・」

 

コルベールは言いにくそうにそう告げる。彼としてはルイズのことを卑下するようなことを言いたくないが、魔法が使えないと言うメイジとして致命的なのは事実なのだ。

 

 

「さて、その二つが謎じゃ・・・。無能なメイジと契約した自我を持ったゴーレムが、何故『ガンダールヴ』になったのか。それに、今まで"生物"しか召還されなかったはずのサモン・サーヴァントで、どうして無機物のゴーレムが召還がされたのか・・。 まったくもって謎じゃ。理由が見えん」

 

「そうですね・・・意思を持たないはずのゴーレムが、自我をもっているだけでも前代未聞ですからなぁ」

 

「とにかく、王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにはいくまい。いくら人間のように自分の意思を持っていようと、あのような魔法の銃を装備したゴーレムは、ボンクラどもにとってはただの兵器としか見ないじゃろうて。そんなオモチャを与えてしまっては、またぞろ戦でも引き起こすなど目に見えておる。宮廷で暇をもてあましている連中はまったく、戦が好きじゃからな」

 

そうオスマン氏は、ムスっとしたように眉間に皺をよせる。

 

「ははぁ。学院長の深謀には恐れ入ります」

 

「この件は私が預かる。他言は無用じゃぞ。ミスタ・コルベール」

 

「は、はい!かしこまりました!」

 

 

オスマン氏は重い腰をあげ、杖を握ると窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。

 

 

「伝説の使い魔『ガンダールブ』か・・・・。いったい、どのような姿をしておったのだろうなぁ」

 

コルベールは夢見るように呟いた。

 

「『ガンダールヴ』は、あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから・・・」

 

「ふむ」

 

「生き物だったのかどうかはともかく、とりあえず腕と手はあったんでしょうなぁ」

 

「そうじゃろうな・・・」

 

 

 

キィ…

 

 

 

オスマンは窓をそっと開け、窓際から見える、どこまでも広がる美しい青空を眺めた。 外から部屋へと流れてくる爽やかな風がオスマンの白い髭を優しく揺らす。

 

 

 

「今日は、風の精霊の機嫌が良いようじゃのう・・・」

 

 

 

窓から流れ込む優しい風は、重くなっていた空気を洗い流すように部屋の中を周り、コルベールもどこか心地よさそうに、その風を受け止めた。

そしてその風は、再び外の風に乗るように走りさり、どこまでも青い空へと流れていった。

 

 

誰にも縛られることもなく、自由に大空を駆け巡る青い風は・・・人々の荒んだ心を吹き飛ばし、優しい風を送り届ける英雄のようだ

 

 

 

「(あのゴーレムも・・・ひょっとすると、貴方の仲間と同じ"ロボット"なのかもしれないのう)」

 

 

 

オスマンは、懐から古びた丸いバッジを取り出し、大切そうに持って懐かしむように見つめる。バッジを見つめるその目には、哀愁も漂っていた。

 

バッジはかなり古びており、所々の塗装が剥がれ、元々は綺麗な金属プレートだったようだ。その中心には、ある一つの文字が紋章のように描かれていたが、オスマンにはそれがなんなのかはわからなかった。

 

 

 

 

―――――そのバッジには、ガンマの世界の文字でこう書かれていた。

 

 

『G』と。




前の焦ってやってしまった投稿失敗もありますので、余裕をもって書いていこうと思います。


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ミッションー115:使い魔は大変

今月は忙しかったためちまちまと書きながらやっとできました


ヴェストリの広場での決闘騒動が終わり、午後の授業を終え……ルイズはガンマを連れて部屋に戻った頃には外はすでに夕暮れになり、淡い夕日の光が窓から差し込んでガンマの緑のカメラアイに映りこんでいた。

 

 

「はぁぁ・・・今日はとんだ一日だったわね」

 

 

部屋に戻ったルイズは自分の椅子に座るやいなや、机に突っ伏し深くため息を吐く。

あの決闘の後教師達に呼び出され、騒ぎを起した上に学院で禁止のはずの決闘をしたギーシュとガンマの主人であるルイズは教師達にカンカンに怒られた・・・。先に決闘を仕掛けてきたギーシュには罰として荒らした広場の手入れと掃除を命じられたが、特にルイズのほうはガンマの右腕が銃であったことが問題だったらしく、生徒への被害や学院側のものを壊さなかったからお咎めなしで罰を受け無かったものの、主人が自分の使い魔の能力を把握していなかったことを咎められ厳重注意を受けたのだ。 あんなゴーレムを一撃で破壊できるような銃をガンマが所持していたのだから危険と思われるのは当然だ、知らなかったとはいえ、たとえ罰を受けても文句は言えないだろう。

「申シ訳ナイ、マスター。ボクノセイデ、怒ラレタ・・・」

 

「もういいわよ、済んじゃったことなんだから。それにあんたが戦闘用のゴーレムだって信じなかった私も悪かったしね」

 

謝罪するガンマに、ルイズは机から顔を上げてそう言った。 この使い魔が騒ぎを起したことや右腕が銃だったことを言わなかったのは問題だが、主人である自分にも責任がある。 生涯を共にするパートナーであるガンマを、外見だけで"貧弱な執事のゴーレム"程度にしか認識していなかったのだ、もしちゃんとガンマの能力を事前に知っていればギーシュだって決闘をしなかったかもしれないし、ガンマも傷つくことはなかったのだ。

今もガンマの体に残っている決闘で受けた傷を見て・・・顔には出さなかったが、プライドの高いルイズは使い魔の主人として、それを怠っていたことを恥じていた。

 

 

「デモ、今日ハオカゲデ魔法ノ情報ヤ、メイジトノ戦闘データヲ得ル事ガデキタ。 ソシテ、ボクノ想定以上ニ、メイジガ通常ノ人間ヨリモ強イト言ウノガワカッタ。」

 

ガンマは今日の出来事を振り返りそう判断する。ギーシュとの決闘に勝利はしたものの、場所の条件や魔法に対する警戒もあったが・・・メイジの戦闘能力を低く見積もりすぎてしまったのだ、このミッションの戦績データに評価をつけるならEランクもいいところだろう…もしあの時この使い魔のルーンの能力が発動していなかったら、勝てたかどうかわからない。

ギーシュがメイジのレベルで"ドット"メイジという一番レベルの低いメイジらしいが、それでもあれほどの動きができる兵士や武器を生み出せれる時点で、シエスタのような力をもたない人間が太刀打ちできないのはたしかだ。 まだ魔法に関する情報は不十分だし、メイジの強さは計り知れない・・。

 

 

「ギーシュを返り討ちにしたあんたも十分強いと思うけどね・・。 でも、またあんな騒動を起されるのはごめんよ、今回は許してあげるけど…またあんなことしたら鞭だけじゃ済まさないわよ?」

 

ルイズは姿勢をガンマに向け、きつめに注意をする。

 

「了解、マスター。心配シテクレテアリガトウ」

 

「っ…と、当然でしょう…!あんたは私が苦労してやっと呼び出した使い魔なんだし、壊れてもらっちゃ困るじゃない。それにあんたにはまだまだ使い魔として躾けなきゃならないことがたくさんあるんだからね!そこを勘違いするんじゃないわよ!」

 

「ウン、理解シテル。デモ、ソレデモ嬉シイ・・・」

 

ガンマのその純粋な言葉に、ルイズはプイっと顔を背ける。

 

「ま、まぁ・・ちゃんと理解してくれるのなら助かるわ。今後は気をつけなさいよ?」

 

「アイアイマムッ」

 

「でも、あんたにはホントに驚かされてばっかりだわ。貧弱なゴーレムかと思えば腕が銃になってるし、斧や槍を使いこなしちゃったし・・・平民だけの国のゴーレムってみんなそうなのかしら」

 

今のガンマは自分の魔力で動いているが、きっと以前は魔力以外のものを動力として動いていたのかもしれない。それに決闘で見たあのガンマの戦い方は魔法で作られたゴーレムやガーゴイルとは一線を越している。その国の戦闘用のゴーレムということは、このガンマを作ったカガクシャってやつは・・・スクウェアクラスのメイジに相当するんじゃないだろうか?

魔法の銃だけでもすごいのに、あんな動きをするゴーレムを作れるその国の技術力は凄まじいものだとルイズは関心するが、ガンマはそれを否定した。

 

 

「ソレハ違ウ、本来ボクハ射撃用ロボットデアリ、接近戦ニ対応サレテイナイシ、アノヨウナパワーヲ持ッテイナイ」

 

ルイズはその言葉に眉を顰め、腕を組んだ。

 

「何言ってんのよあんた。あの時、槍と斧を自在に操ったじゃない」

 

「ボクモ、ソレガ不思議。今マデボクハ銃以外ノ武器ヲ使ッタコトガナク、アノワルキューレノ槍ヲ掴ンダ途端、ソノ槍ノ情報ガボクノ頭ノ中ニ流レコンデ、マルデ最初カラ知ッテルカノヨウニ動カセタ」

 

ガンマはギーシュとの一戦を思い出し、その時感じた疑問を口にする

 

「ソレト同時ニ、性能ヲ遥カニ上回ルパワートスピードヲ得ラレテイタ。本来ノボクデハ 歩行モードデアノヨウナスピードヲ出セズ、重イ青銅ノ斧ヲ早ク振ルウ事ハ不可能」

 

「じゃぁ何? あんたホントに剣とか槍をもったことすらなかったの?」

 

「経験無シ。今回ガ初メテ」

 

「ふーん・・・・・」

 

何か思い当たる節があるのか、ルイズは考え込んだ。

 

「ドウシタ?」

 

「そういえば・・・使い魔と契約したときに、特殊能力を得る事があるって聞いたことがあるけど、それなのかしら」

 

「特殊能力・・?」

 

「そうよ。例えば、黒猫を使い魔にしたとするでしょう?」

 

ルイズは指を立て説明することにし、ガンマはコクリッと頷く。

 

「人の言葉を喋れるようになったりするのよ」

 

「言葉ヲ・・・」

 

喋る猫を想像して、ガンマはエメラルドコーストで見かけた釣竿を持った大きな猫を思い出した。あの時はカエル捕獲任務で、ターゲットのカエルをもっていた大きな猫から横取りした時に喋っていたが、あれはソニックのような種族と同じ亜人種だから、普通の猫とは違って元から喋れるから例外だろう。

 

「デモ、ボクハ猫デハナイシ…生キ物デモナイ」

 

「知ってる。古今東西、サモン・サーヴァントではハルケギニアの生き物、普通は動物や幻獣が呼び出されるんだけど・・ゴーレムを使い魔にした例はないし・・・。だから、何が起こっても不思議じゃないのかもね。銃以外の武器を使ったことがないあんたが、自在に操れるようになるぐらいのこと、あるかもしれないわ」

 

そんなことありえるのだろうか? 元の世界で作られた自分が、改造されたわけでもないのに、武器を握っただけで情報をダウンロードできる上に戦闘能力が向上して、まるで羽みたいに自分の体が軽やかに動いた。 それにあの青銅できたワルキューレもれっきとした金属だ。パワーが上がったからと言っても、片手だけであんなに簡単に金属の塊を切り裂けるものなのだろうか?

 

「でもおかしいわね・・・アンタの"右腕の銃"もちゃんとした武器のはずでしょ? それなのになんの反応もしないの?」

 

ルイズが疑問に思ったのがそれだ。ガンマの右腕だってれっきとした武器なのだ。何度かガンマが左手で右腕の銃を持つように構えたりしてたのだが、能力が発動した様子など見られなかった。

 

「恐ラク、ボクノ右腕ハ 体ノ一部トシテ認識シテイルタメ、ソレデ反応シナイノデハナイダロウカ? 現ニ、発動スルノデアレバ、コノルーンガ光ッテイルハズ」

 

「体の一部ねぇ・・まぁ、腕にくっついてるんだからきっとそうなんでしょうね」

 

 

あの決闘の後、ガンマは自分の右腕を握ったりしてルーンが反応するか試してみたが、全くルーンが光らなかった。 銃自体が右腕になっているが、物を持つ時や洗濯の時だって"腕"として使っていたのだ、だからもしかすると、『武器』としてよりも『腕』としての認識が強いのかもしれない。もしルーンの能力が発動しているのなら、召還された時にも何らかの反応が出ていたはずだ。

ガンマは困ったように頭を抱えた

 

 

「シカシ…魔法トイウ未知ノ力《ちから》ハ、コノルーンモ含メテ不思議ナ事ダラケ。現在ノボクニハ理解不能」

 

「そんなに不思議なら、トリステインのアカデミーに問い合わせてみる?」

 

「アカデミー?」

 

ガンマは首を傾げ、ルイズに緑のカメラアイを向ける

 

「そうよー。王室直属の、魔法ばっかり研究している機関よ」

 

魔法の研究機関…名前からして、この世界の組織のようなものだろうか? 王室直属ということは、貴族の中でもさらに上級の貴族なのだろう。・・だがガンマはなんとなく嫌な予感がして、ルイズに問いかける

 

「モシ、ソコデ研究サレタ場合、ドウナル?」

 

「そうね・・人間だったら色んな実験をされるでしょうけど、あんたの場合は異国のゴーレムだから、体中を調べられるでしょうね。体をバラバラにされたりとか」

 

「拒否スル」

 

ズザッとガンマは後ずさり、即答する。

 

「安心なさい、アンタをそんなところに送ったりしないから。」

 

そんなガンマを見てルイズはイタズラっぽく笑った

 

「でも、その特殊能力のことはあまり人には言わないほうがいいわね。魔法の銃だけでも珍しいのに、使えなかった斧や槍を振れるようになったゴーレム、だなんて。じゃないとホントにバラバラに解体されちゃうわよ?」

 

「了解、マスター・・」

 

 

ガンマは重々しく頷く。 ルーンを調べるのにその代償でバラバラにされたのではたまったものではない。その研究機関とやらもエッグマンと同じような人間たちが居るのだろうか・・。ルイズの言うとおり、安全に暮らすためにもこの力のことは公にはしないほうがいいだろう。

 

未知のエネルギーがルイズの魔力であることはわかったが、ルーンは結局わからずじまいだ・・・。幸い、このトリステイン魔法学院は魔法に関する情報が山のようにある。本当なら元の世界に帰れる方法をすぐにでも見つけたいところだが・・・ルイズの使い魔である以上勝手な行動はできない、ルイズに事情を説明して協力を求める手もあるが……自分が別の世界から来たなどと流石にそれは信じてはくれないだろうし、さらに混乱を招いてしまうだけだ。 使い魔の任務をこなしつつ地道に情報収集するしかないだろう

 

「(デモ、コノ世界ノ生活・・・悪クナイ)」

 

それに、そんなに慌てる必要はないのかもしれない・・・洗濯や掃除もいい経験で、魔法や色んなことを知ることができるし、ギーシュとの一悶着はあったが、それ以外はとても平和な時間でもあったのだ。 なによりも、この主人のルイズは怒るととても怖いが優しい人物だ・・・最初は使い魔任務をちゃんとやれるか不安であったが、この調子でこなせればこの異世界でルイズと上手くやっていけるかもしれないと、ガンマはそう思った

 

 

「さてと、話が長くなっちゃったわね」

 

ルイズはもうこの話はおしまいと言わんばかりに立ち上がり、「ん~~・・」っと背伸びをする。窓の外を見れば、日がほとんど沈んでしまい、夕暮れの赤い空が暗くなっていき、星空が見えてきてる。

 

「私はお風呂に入ってくるから、あんたはその間に部屋の掃除をしたあと、水を汲んできてちょうだい」

 

部屋の隅に置かれた空のバケツを指差す。ガンマはその言葉に緑のカメラアイをパチクリと点滅する

 

 

「エ・・・・マダ、アルノ?」

 

「バカね、当たり前でしょ。今日やったことはほんの序の口!雑用は他にもまだまだたくさんあるわ」

 

そう言うとルイズは長いピンクのブロンドの髪を揺らし、ガンマの近くにきて無い胸を張り、指を立てた

 

「あんたが以前は遠い国の戦闘用のゴーレムだってことは信じてあげる。だけど、今のあんたはわたしの使い魔のゴーレムなんだからね! それに、決闘のことはいいけど…私の命令を無視したことは許してはいないわ、だから今後はヘマをするごとに使い魔とはなんたるかをビシビシ叩き込んでやるからそのつもりでいなさい!」

 

どうやら使い魔任務はあれだけではなかったようだ。つまり、メイドたちがやるような家事全般を行わなければならないと・・。料理は食堂で済ませれるからいいが、任務の難易度が上昇したような気がする。

だが、これも使い魔としての大事な任務なのだからちゃんとこなさなければならないだろう、とガンマは素直に従った。

 

「了解、マスター。部屋ノ掃除ト、水ノ回収任務ヲ実行スル」

 

「わかればよろしい。もう水汲み場の場所はわかってるでしょ? 私が部屋に戻る前にちゃんと済ませておいてよね」

 

満足そうに頷き、ルイズはドアを開け部屋を後にしようとするが、何か思い出したように振りかえる

 

 

「あ、それとまた今朝の時にように私の下着を破ったら、今度は鞭じゃなくて鈍器で罰を与えるからそのつもりでね♪」

 

 

パタンッ

 

 

さらっと恐ろしいことを笑顔で言い残し、ドアを閉めルイズは部屋を後にした。

 

そして、部屋の中心でポツンと一人(一体)残されたガンマ・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・使イ魔任務、トテモ大変・・・・」

 

 

 

 

 

 

――――――――こうして、使い魔のガンマの長い一日が終わった。




休みほしい・・・_(:3」∠)_


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ミッションー116:ガンマの一日

お待たせしました次の話です。 これが今年最後の投稿になりますが、来年も続けて書いていきます。良いお年を。


チッチッ……チチチッ……

 

 

 

 

―――――朝の光が窓に差し込み、外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

 

 

 

この時間帯はほとんどの生徒が目を覚ましたり、自分の使い魔に起こしてもらったりして起床している頃であるのだが

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

部屋の主であるルイズは、そんなすがすがしい朝を迎えているにも関わらず、ベッドの中ですやすやと寝息を立てている。

普段回りからゼロとバカにされながらも気丈に振るまっている彼女も、こうやってあどけない寝顔で眠っている姿はとても可愛らしいものだ。しかし、眩いばかりの光が窓から照らされているのだが、一向に目覚める気配がない・・、主人を起こす役目を持つガンマの姿は部屋にはなく、待機場所としている寝床の"ニワトリの巣"(ガンマが卵みたいな形をしてるからルイズがそう名づけた)も蛻の殻だ。

 

 

ガチャッ……パタン

 

 

すると、部屋の扉が開かれ、水の入ったバケツを提げたガンマが戻ってきた。 どうやらちょうど洗濯と水汲みを同時に終わらせてきたようで、手に提げたバケツに注がれた水がチャプチャプと音を立てて揺れている。

緑のカメラアイでベッドに未だに寝ているルイズを視認し水の入ったバケツを床に置くと、ルイズの身体をユサユサと優しく揺さぶるとルイズはうっすらと目を覚ました。 ピンクのブロンドの髪が朝日に照らされてキラキラと輝きながらゆっくりと上半身を起こす。

 

 

「ふぁあ~・・・」

 

 

まだ眠たそうにあくびをしながら目をくしくしと擦り、視線を横に向けると己の使い魔であるゴーレムのガンマの綺麗な緑の目が、ルイズの瞳に映った

 

 

 

「オハヨウ、マスター」

 

「ええ・・おはようガンマ…」

 

 

 

 

 

 

―――――この世界でルイズの使い魔としての生活を始めてから一週間が立ち、ガンマの一日は毎朝このように始まっている。

 

 

 

 

 

まずルイズよりも先に起動し、朝一番にやらなければならないのは以下の三つ・・"洗濯"と"水汲み"と"ルイズを起こす事"である。

 

最初の二つの洗濯と水汲みは井戸で同時に行えれるため、主人を起こす前に先に終わらせるようにしている。最初は上手くいかなかった洗濯も、シエスタに頼んでレクチャーをしてもらったおかげでだいぶ出来るようになり、一週間も続ければもうやり方をマスターしたようで片手だけでも手際よく洗濯物を洗っていくことができるようになった。 だが下着の洗濯だけは未だに力加減が難しく、たまに破りそうになる時がある、もしこれでまた破ったりでもしたらルイズに怒られてしまうため、ガンマにとっては一番困難な任務なのだ。

 

二つの任務を終えて部屋に戻れば、次に寝ているルイズを起こす事だ。 起こされたルイズはガンマに指示をだして着替えを取らせ、下着はルイズ自身が着替えるが制服を着せたり靴を履かせたりするのはガンマの仕事になっていた。着替えが終われば次にガンマが汲んできた水で顔を洗い、歯を磨くのである。

水道があれば顔を洗うことも歯を磨くこともその場で済むし、わざわざ汲みにいく必要もないのだが…部屋にはそんな気の利いたものが引かれているはずもない。電気さえも通ってないのだからこの世界の技術レベルを考えれば当然だろう。

 

そしてもちろんルイズは、自分で顔を洗ったりはしない。 顔を洗うのもガンマにやらせているのだ。

ガンマは用意していた水の入った小さな桶に、左手でタオルを水で濡らしてギュッと搾り出し、ちょうどいい絞り具合の濡れタオルでルイズの顔を拭くのである。 人間の手と違ってロボットのガンマの手では顔を洗いづらいため、濡れタオルで洗顔を行っている。

 

 

「マスター、痛クナイ?」

 

「んーん。ちょうどいいくらいよ。あんたもだいぶ加減が分かるようになってきたわね」

 

ルイズは顔を拭かれながら心地よさそうに顔をほころばせる。 この一週間雑用の仕事をやらせてみたが、このガンマは覚えるのが早いし手際がよく、文句も言わずちゃんと主人の気の利くように行動しているため ルイズはガンマをとても気にいっていた。

 

ガンマの抜けたような性格を抜きにしても、こんな優秀な使い魔はそうそう居ないだろう。 そこいらのゴーレムやガーゴイルよりも知能が高く、それに見た目とそぐわず強いと来てるんだから文句のつけ様がない。 あの決闘騒動から同級生達はあまりバカにしなくなったし、一部の土メイジの生徒はガンマを羨ましそうに見つめたりしていたのだ。 相変わらず爆発しか起こせないが、ルイズはそんな自分が高位のゴーレムのガンマを召還し、自分に忠実に従ってくれてることである種の優越感に浸り、ニコニコと上機嫌だ。

 

「? ルイズ、ドウカシタ?」

 

「いえ、なんでもないわ。もういいわよ」

 

「了解」

 

ルイズは誤魔化すように洗顔を終わらせると、立ち上がって鏡の前に座り、ピンクのブロンドの髪をヘアブラシで梳かし始める。 ルイズは普段化粧を必要としておらず鏡をほとんど覗かないのだが、ガンマが手際よく準備をこなしてくれたため朝食に行くにはまだすこし時間があり、その間に髪の手入れをしているのだ。

 

 

 

「これでよしっと・・・それじゃ行って来るわね」

 

「行ッテラッシャイ、マスター」

 

 

そうこうして、身支度が整ったらルイズは朝食を取るために食堂へと向かう。 部屋に残ったガンマは掃除をするためにシエスタから貰ったどこぞの家政婦が着用するエプロンを身につけ、掃除用具を取り出し部屋の掃除を開始する。

床を箒で掃き、机や窓を雑巾で磨くのである。 午前中の仕事は主に『洗濯・水汲み・ルイズを起こす・身支度・部屋の掃除』で、この部屋の掃除が終わればあとはやることがなくなり、ガンマにとってゆういつの自由時間とも言える。

この時間を使ってガンマはこの世界についての情報収集を行ったり、この学院の中を見て回ったり、他の使い魔達を観察したりと、ガンマにとって一日の中の楽しみでもあった。

 

 

「シカシ・・・コマッタ・・・」

 

 

ガンマは掃除の手を止め、机の上に並べられた一冊の本を手に取り、机に置いてパラパラとページを捲りだす。そのページに描かれた文字を緑のカメラアイをチカチカと点滅させ読み込もうとする

 

 

「(データナシ・・・解読不能。・・・・ヤッパリ、読メナイ)」

 

 

この一週間情報収集をして気づいたことがあった・・・この世界の文字が読めないのだ。 数日前に興味を持って本を読んだところ、本に書かれている文字がガンマのデータにはインプットされていない見たことのない言語で書かれていたのだ。 これでもガンマには元の世界にある世界各国の言語もインプットされているため、何度も照らし合わせて解読を試みようとしてみたものの・・・まったく解読できず、エラーしか表示されない。

ガンマ自身が戦闘用として特化しているため、そこまでハイスペックじゃないのも理由ではあるが、データ自体が少なすぎるのだ。ミスティックルーインの前線基地にあるメインコンピュータに接続すれば解読は可能だろうが・・・現在のところ自分だけでは解読はできそうにない。

 

生活や情報収集する上で、文字が読めないのはかなり痛手だ。この学院には大きな図書館があるが、文字が読めなければ魔法のことやこの世界についてのことを調べようがない・・、ルイズと一緒に魔法の授業を受けて四大系統や基礎の魔法についてはある程度学ぶことができたが、それでもまだ齧った程度でしかないのだ。 今度ルイズに頼んで、文字を教えてもらうべきだろうか・・?

 

 

ガンマはそう考えながら本を閉じ、元の場所に戻して掃除を再開しようと箒を手に取るが、そこで何かに気づいたようにピタッと立ち止まる。

 

 

 

「(・・・文字ガ読メナイナラ・・・・何故、"ルイズ達ノ言葉ガ分カル"?)」

 

 

 

言語自体が違うのであれば、言葉だって通じないはずだ、それなのに普通に喋れている・・。 今の自分はルイズから見れば英語で喋っているのだ、ルイズだってこの世界の言葉で喋っているはず・・・それなのにお互いが共通しているかのように言葉を交わしているだなんてどういうことだろう・・?

 

 

そこでガンマはふと、左手に刻まれた使い魔のルーンに視線を向ける

 

「ソウイエバ、ルイズハ・・・・」

 

 

 

――――『使い魔と契約したときに、特殊能力を得る事があるって聞いたことがあるけど、それなのかしら』

 

――――『例えば、黒猫を使い魔にしたとするでしょう? 人の言葉を喋れるようになったりするのよ』

 

 

 

「・・ット言ウコトハ・・コレモ、ルーンノ"特殊能力"ノ一ツト言ウ事ダロウカ・・?」

 

もしこのルーンの特殊能力で、ルイズ達の言葉が分かるようになったとそう考えれば、可能性は高いかもしれない。 仮に違ったとしても、言葉が通じるのは幸いだ、もしこれで言葉も分からなかったらコミュニケーションをとるのに一苦労していただろう。

 

「(言葉ガ通ジルノニ、文字ガ共通ニナラナイナンテ、偏ッテル・・)」

 

文字が読めないのは残念だが、逆に考えれば学習する課題が増えたと思えばいい。 ガンマは自我に目覚めてからは好奇心が旺盛になり、どんな小さなことでも、一般の人間ならばめんどくさがるような事も子供のように興味を持つのだ。いずれこの世界の文字も習得できるようになるだろう。

 

 

「掃除任務、再開…」

 

とりあえず、まずは部屋の掃除を終わらせるのが先決だ。 ガンマは再び箒を動かし始め、サッササッサと床を掃きだした

 

 

すると

 

 

 

 

―――――コンコンッ

 

 

 

ドアからノック音が聞こえだす。 この時間にはルイズは朝食を終えて授業に行ってるはずだし忘れ物をしていないからルイズではないだろう。 だが、ガンマはこのノックをしてくるドアの向こうの人物が誰なのかが分かっていた。

 

 

「ドウゾ」

 

ガチャッ

 

 

一声掛けてドアを開けると…そこに立っていたのはこの魔法学院で働いているシエスタだった。

 

 

「おはようございます。ガンマさん。 ミス・ヴァリエールの服をお持ちしましたわ」

 

「オハヨウ、シエスタ。イツモアリガトウ」

 

ペコリと頭をさげながらガンマに挨拶をし、シエスタは籠に入っている綺麗にたたんだルイズの衣類をガンマに手渡す。 シエスタはガンマが部屋の掃除をあらかた終わらせている時間帯にやってきて、主人のルイズの服を届けにきてくれるのだ。

 

 

「どうですかガンマさん、お仕事のほうは上手く行ってますか?」

 

「順調。ダガ、マダ改善ノ余地アリ。マタ、シエスタニレクチャーヲ頼ンデモイイダロウカ?」

 

「もちろんですよ!私にできることがあったら、何でも言って下さい!」

 

 

ガンマのお願いに、シエスタはニッコリと笑顔で返事をした。 あの決闘騒ぎの翌日、シエスタはガンマの元に来てあの時逃げてしまったことを謝ってきたのだ。 平民が魔法を使える貴族を恐れるのは理解していたため気にしなくてもいいと言ったのだが引いてくれず、何故か尊敬の眼差しで見つめ「私に何かできることはありませんか!」と詰め寄られ、どう対応すればいいのかガンマは困ってしまった。

そこで、ちょうどガンマは雑用任務での掃除や洗濯のやり方のコツがわからなくて上手く出来ずにいたため、それでシエスタに雑用などのレクチャーを頼んでみたところ快く引き受けてくれた。 今では彼女はガンマにとって先生のようで、よく雑用などのアドバイスを貰ったりしているのだ。

あいかわらず彼女の愛嬌のある優しい笑顔が緑のカメラアイに眩しく写り、ガンマはじっと彼女の顔を見る。

 

 

「あの、どうしました?ガンマさん」

 

こちらをじっと見つめてるガンマにシエスタは声を掛けた

 

 

「今日モ、シエスタノ笑顔ハ、トテモ綺麗」

 

「え・・・ッそ、そんな綺麗だなんてっ!私は、別に・・・」

 

「?」

 

シエスタは突拍子もなくまさかいきなり綺麗だなんて言ってきたガンマに、手をわたわたと振って頬を赤くさせる。相手はゴーレムだと言うのはわかっているが、普段言われ慣れてないことを真正面から言われて照れてしまったようだ。そしてガンマは自分の思ったことをそのまま言ったつもりなのだがシエスタの反応がよくわからず首をかしげるだけだ。

 

「トコロデシエスタ、"アレ"ハマダ、残ッテル?」

 

ガンマはあいかわらず気にした様子もなく、"あれ"のことをシエスタに問いかけ、シエスタはハッと我に返り見っとも無いところを見せてしまったと恥ずかしそうにしながら答える

 

「は、はい!まだ残っていますよ。 ガンマさんのために料理長が取っておいてくれたそうです」

 

「了解。ソレデハ、部屋ノ掃除任務ガ終ワッタラ食堂ニ向カウ。アリガトウ、シエスタ」

 

ガンマは掃除を再開しようと箒を取りに行くと、シエスタが後を追ってきた

 

 

「それなら、私もお手伝いします」

 

ガンマは振り返り、緑のカメラアイをシエスタに向ける

 

「エ、デモ…シエスタニハ、他ノ仕事ガアルノデハ・・?」

 

「大丈夫ですよ!ちゃんと片付けは終わらせていますし、時間にも十分余裕がありますから安心してくださいっ」

 

そうシエスタは、ニッコリとガンマに笑顔を浮かべる。ガンマは少し迷ったが、シエスタのほうが自分よりも掃除が上手いし、シエスタの気持ちを無下にするのもよくないと思い、手伝いをお願いすることにした。

 

「ソレデハ、ボクハ床ヲ掃除スルカラ、シエスタハ、窓ヤ机ヲ拭クノヲ頼ム」

 

「わかりました。 早く終わらせて、一緒に食堂に行きましょう!」

 

「アイアイマムッ・・」

 

 

 

 

 

 

 

―――――モシ、エッグキャリアニイタメイドロボットモ、ココニ来テイレバ、シエスタ達ト仲良クナレタダロウカ・・・・っと、シエスタを見ながらガンマは、今頃海底に沈んでいるエッグキャリアの中で、掃除を続けているメイドロボットのことを思い出していた。



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ミッションー117:我らの銃剣

お待たせしました、今年初投稿の続きです。

正直ロボットのガンマとマルトー達をどうやって絡ませるのかめっちゃ悩みました。


シエスタと一緒に部屋の掃除を終わらせてアルヴィーズの食堂の裏にある厨房へ訪れたガンマは、コック達に囲まれながら歓迎を受けていた。

 

 

「『我らの銃剣』が来たぞ!」

 

最初にそう叫んで歓迎してくれたのが、この厨房を一手に切り盛りをしている魔法学院コック長のマルトー。 彼はシエスタと同じ平民で、エッグマンみたいに太った四十過ぎほどの男性だがガッシリとした体系をしており、あの数々の豪勢な料理を作り上げるほどの腕前をもつ料理人だ、そしてなにより魔法と貴族を毛嫌いしている。

当初彼はゴーレムであるガンマも例に漏れず毛嫌いの対象として見ていたのだが、食堂で聞いた異国の料理の話や決闘でメイジのギーシュを倒したガンマを気に入ったようで、それ以来彼を『我らの銃剣』と呼んでもてなしてくれるようになった。

 

 

「よく来てくれたな『我らの銃剣』!お前のお求めのものは用意してあるから、ゆっくりくつろいでいってくれ!」

 

「感謝スル、マルトーコック長」

 

 

ガンマは用意された自分用の椅子(と言う名の木箱)に逆間接の足を器用に動かして座ると、シエスタがさっと寄ってきてにっこりと笑いかけ、この世界の文字が書かれたラベルの貼られてる液体の入ったボトルを出してくれた。

 

「どうぞガンマさん、今日の"油"は特別ですわ」

 

シエスタは嬉しそうに微笑んだ。

 

「アリガトウ、シエスタ」

 

 

シエスタが出してくれた目の前に置かれた液体の入ったボトル。 この厨房で料理に使われている"料理用油"だ。

 

何故ガンマがこの厨房に訪れているのか・・・それはこの厨房で使われている"料理用油"をオイル代わりとして貰いにきているのだ。エッグマンの元から離れこの世界に来てからメンテナンスもろくにしておらず、そのメンテナンスに必要な工具も部品もない状況だから仕方がないのだが…せめて潤滑剤となる油を必要としていた為コック達からその代用となる料理用油を分けてもらってるのだ。

本当なら機械用油が欲しいところではあるが、貴族達のための料理を作るだけあってそれに使われている油も高級なもので、成分も酸化し難く、体内に保存すれば長持ちするためガンマはここの油をとても気に入っており、これを飲みにくるのが楽しみの一つでもあった

 

 

トクトクトクトク・・・

 

 

ガンマはテーブルに置かれたボトルを左手でもち、口(?)の部分にあたるボディーの装甲の一部が開き、現れた給油口に油をトクトクと流し込んだ。それを見ている周りの一部のコック達はなんともいえない顔で苦笑いを浮かべる

 

 

「ゴーレムとは言え・・・よくあれをそのまま飲めるよな・・」

 

「うん・・」

 

「うう・・また胃がムカムカしてきた」

 

 

飲んでるのが人間ではなくゴーレムだと言うのはわかってても、あんなドロッとした液体をジュースみたいに飲んでるガンマに慣れない者も居るようだ。それを間近でうっとりとした面もちで見つめているシエスタは色んな意味ですごいものである。

そんな周りの反応も気にせず、油を飲み干したガンマは空になったボトルをテーブルに置き、緑のカメラアイを輝かせた。

 

 

「コレハ・・・トテモイイ油」

 

 

ガンマは手をグリグリと調子を確認するように動かしながら満足気にそう言った。

 

 

「今マデノ料理用油ヨリモ 機体ノ稼動部分ニ循環シヤスク、何ヨリ高純度デ質ガ良ク馴染ミヤスイ。 料理用ノ油ニ、コノヨウナ物ガアッタトハ・・」

 

「ガンマさん、口が汚れてますよ」

 

「ア、ゴメン・・・」

 

ガンマが感激したように油の感想を言ってたら、シエスタが優しく布巾でガンマの口周りに垂れてしまった油を拭いてくれた。まるで姉が大きな弟の世話をしている様子みたいで、回りのコックやメイド達は不思議と和んでいた。

すると、包丁をもったマルトーがやってきた。

 

 

「気に入ってくれたか。その油は『ツヴァギ油』っていうやつで、貴族どもの晩餐会や特別な日にしか使わないやつだからな」

 

「『ツヴァギ油』・・?」

 

「ああ、これはシエスタの故郷のタルブの村で栽培されてる"ツヴァギの花"でしか取れないものなんだ。 健康にもよくて特に女連中に人気があってよ、なかなか手に入らないやつなんだ」

 

シエスタの故郷と聞いて緑のカメラアイをシエスタにむけると、自分の故郷の品をガンマが喜んでくれたことが嬉しかったのか、シエスタは幸せそうに微笑んだ。

 

そしてガンマはテーブルに置いた空のボトルに視線を向ける

 

 

 

「(『ツヴァギ油』・・・・・"椿油"ノ事ダロウカ?)」

 

 

 

"椿油"はアメリカではカメリアオイルと呼ばれている、世界三大オイルの一つといわれる高級油だ。 前にステーションスクエアのアンティークショップを経営しているもの好きな主人と情報収集で話してるさいに、ロボットであるガンマを見て「食用油の中には機械油の代わりとして使えるものもある」と言うことを聞き、その例として挙げられたのが"椿油"なのだ。

発音が微妙に違うが…語感が似ているし、成分も椿の花と同じものだ。この異世界にも自分の世界と同じものが存在していたとは驚きだが、マルトーはそんな貴重な品を自分にくれてよかったのだろうか? 晩餐会や特別な日にしか使わないとなると、それを勝手に使ったと貴族にバレたら怒られるのではないだろうか?

 

 

「コンナ貴重ナ油ヲ、ボクナンカニクレテ大丈夫?」

 

「ふんっ! 料理に別の油を使ったところで、貴族のガキ共には味の違いなんてわかりっこないさ、それならお前に飲んでくれたほうがその油も喜ぶってもんよ」

 

ガンマがそう言うと、マルトーは得意げに鼻を鳴らした。

 

「あいつらは、なに、確かに魔法はできる。 土から鍋や城を作ったり、とんでもない炎の玉を吐き出したり、果てはドラゴンを操ったり、たいしたもんだ! でも、この油と調味料を使って絶妙の味に料理をし立て上げるのだって、言うなら一つの魔法さ。そう思うだろ、ガンマ」

 

ガンマは頷いた

 

「ボクモ、ソウ思ウ。 ボクハ物ヲ食ベル事ガ出来ナイカラ、マルトーノ料理ノ味ヲ知ル事ガデキナイガ・・肉ヤ野菜、果物ナドノ様々ナ物ヲ使ッテ、数々ノ料理ヲ作レルコトハ、トテモスゴイ事」

 

ハンバーガーショップで得た食べ物以外の情報を知らないガンマには、マルトーが作る豪勢な料理はとても興味深いものでもあった。ハンバーガーやピザなどとは違う作り方で、しかも一品一品が盛り付けなども一つも手を抜かず丹精こめて作られているのだ。

 

「いいやつだな! お前はまったくいいやつだ! 貴族の魔法人形なんかとは大違いだ!」

 

マルトーは感激したようにぶっとい腕をガンマの首(?)に巻きつけた。マルトーのこの押しにはガンマは少し引き気味である

 

「マ、マルトーコック長、落チツイテ・・」

 

「なあ、『我らの銃剣』!俺はお前の鉄の頭に接吻するぞ!こら!いいな!」

 

「イエ…アノ、ソノ呼ビ方ト、接吻ハヤメテイタダケナイダロウカ・・」

 

ガンマはそう言った。

 

 

「どうしてだ?」

 

「接吻ヲシタラ、マルトーノ口ガ汚レテシマウ可能性アリ。ソレニ、ボクハソンナスゴイ事ヲシテナイ」

 

マルトーは、ガンマから体を離すと、両腕を広げてみせた。

 

「お前は魔法を使えない俺達じゃ敵わなかった、あの高慢ちきな貴族を倒しちまったんだぞ!わかってるのか!」

 

「ハイ」

 

「しかも、聞けばお前は魔法のない国で造られたゴーレムだそうじゃねぇか!」

 

マルトーがニカっと笑いながらそう言うと、ガンマの肩をバンッ!と叩いた

 

「そんな国で造られたっていうゴーレムのお前が、貴族のゴーレムを右腕の銃で次々と撃ち抜き、左手の刃で切り裂く姿は、まさに『銃剣』だ! 俺は魔法で造ったゴーレムも気に入らなかったが、お前は俺達にとって誇りだ!そんなお前を『我らの銃剣』と呼ばずになんと呼べってんだ!」

 

「ガンm…「そうだろお前たち!」

 

ガンマが言い切る前にマルトーが振り向きながら若いコックや見習い達にそう怒鳴ると…

 

 

「「「「そのとおりです親方!」」」」

 

 

コック達が嬉しげに唱和する。

マルトーは油を貰いにくるガンマに、毎回こうやって尋ね、ガンマはその度に困ったようにしながら同じ答えを繰り返してるのである。

 

「やい、『我らの銃剣』。俺はお前の事がますます好きになったぞ。どうしてくれる」

 

「ソウ言ワレテモ・・・」

 

ただ自分はギーシュにルイズとモンモランシーとケティに謝らせるためにやっただけのことだったのだが、遠慮しながら言ってもマルトーはそれを謙遜と受け取っている。 まさかエッグマンの戦闘用ロボットとして造られた自分が、ソニックのように英雄扱いをされるとは思いもしなかった。 もっともギーシュに勝てたのはこのルーンのおかげなのではあるが、これの謎自体も解明されていない。

 

 

「(・・・一体ナンナノダロウ、コノルーンハ・・・・)」

 

 

とガンマがじっと自分のルーンを見つめていても、マルトーはそれをガンマの控えめさ、と受け取ってしまうのであった。

 

 

「お! そうだ、シエスタ!」

 

マルトーは思い出したようにポンと手を叩き、シエスタの方を向いた。

 

「はい!」

 

二人の様子を、ニコニコしながら見守っていたシエスタが、元気よく返事を返す。

 

「我らの勇者に、俺の自身作を持ってきてくれ」

 

「わかりました!」

 

シエスタは満面の笑みになり、厨房の奥へと向かった。・・・自信作とはなんのことだろう?

 

「マルトー、自身作トハ?」

 

「『我らの銃剣』、お前がご主人様と初めて食堂へ来た時、食べ物の話をしていただろう? たしかハンバガアだったか…」

 

「ハンバーガーノ事?」

 

「そうそう!それだそれ! お前のその異国の料理の話を聞いて俺も興味が沸いてな。お前を驚かしてやろうと思って試作品を作ってみたんだよ」

 

マルトーは自信満々に豪快に笑った。 つまり自分が話したハンバーガーの情報を元に、マルトー流のハンバーガーを作って自分に見せようとしてるということだ。

 

「トテモ、楽シミ」

 

ガンマも、マルトーが作ったというハンバーガーに興味が沸いた。バーガーショップのハンバーガーにも色んな種類のものがあるが、この世界のコックが作るハンバーガーがどういったものになるのか気になった。あれほどの豪華な料理を作れる腕を持つマルトーならきっとすごいハンバーガーになるに違いない。

 

「お持ちしました!」

 

シエスタが言われたとおりに、蓋で隠したマルトーの自信作を持ってきてガンマのテーブルの上に置いた。 ・・随分と大きな皿に載せてるようだが、たくさん作りすぎたのだろうか?

ガンマが不思議そうに大きな皿を見ていると、マルトーはガンマの前にやってきて、蓋の取ってに手をかける

 

 

「さぁ『我らの銃剣』!その緑の目ん玉でよ~く御覧じよ! これがマルトー様の自信作!"トリステイン流ハンバーガー"だ!!!」

 

 

そう叫びながら勢いよく蓋を開けられ、ガンマの緑のカメラアイにマルトーの自信作が どどーん!と映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・マルトーコック長、『コレ』ハナンダロウカ?」

 

少し間を空けて、マルトーに緑の目を向け『コレ』について問いかける。

 

「何って、ハンバーガーに決まってるじゃないか」

 

ガンマは再び、『ハンバーガー』に目を向けた・・・

 

 

 

 

 

 

結論から言おう、デ カ ス ギ ル

 

 

 

 

 

 

なんでホールケーキサイズにしたんだ? ビッグバーガーも真っ青なほどの大きさだ。たしかに大きさの説明はしていなかったが、これでは手軽に食べることなどできないのではないか? 軽くハンバーガー6個分の大きさはあるほどだ。

 

いや、大きさはこの際置いておくことにしよう。それよりもハンバーガー自体のつくりが問題だ。

たしかに・・多少形が違うが、ハンバーガーとしての基本的なものは出来ている。ちゃんとパンの間にハンバーグらしき牛肉の塊・・・・・これはステーキだろうか? 肉の塊とは言ったが・・そのまんますぎる。まぁこれはおいといて、ちゃんとレタスや刻んだタマネギ、ソースであるケチャップも使われているからこれはオーケーだ(何故かポテトまで挟んでるが)。 しかし・・・なぜスライスチーズをパンの間にではなく、"パンの上"に乗せてるのだ?しかもその上にハムやトッピングまで乗せている。きっとピザの作り方の話まで聞いて間違えて混ぜてしまったのだろう。

 

 

そんな風にガンマのイメージにあったハンバーガーをぶち壊すほどのぶっ飛んだインパクトのあるハンバーガーである。

 

 

 

 

「どうだ『我らの銃剣』、実物を見たことがねぇが、これぞお前の説明どおりにあったハンバーガーだろう!」

 

「全然違イマス」

 

「え?」

 

 

 

―――――その後、あっさりとダメ出しを食らったマルトーはガックリと肩を落としつつも、ガンマが異国の料理の話をしてくれることで持ち直し、他のコックやシエスタまでが食いつき気味にガンマの話を熱心に聞いていた。結局、ガンマはマルトー達にハンバーガーの説明をすることでこの日の自由時間を潰すことになったのである・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅるきゅる」

 

 

――――そして誰も気づかなかった、窓の外から赤い影が覗き込み、きゅるきゅると鳴きながら消えて行ったのを・・・。



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ミッションー118:日向ぼっこと宝物庫

お待たせしました次の話です。 やっとこのあたりの話まで進むことができました。
原作一巻分の話しが終わるまでの道のりが長い(遠い目)


午前の仕事をやり終え、自由時間を済ませたガンマは次にルイズの居る教室へと訪れ、護衛任務を務めなければならない。

護衛任務に就くのは時間指定になっており、授業中の時は授業の邪魔になってしまうため入ることを許されておらず、ガンマは次の授業に移るまでの合間の休憩時間になってから教室に入ることにしている。

 

教室から出てきた担当の教師にペコリと挨拶をしてから教室に入室すると、ガンマの姿に気づいた生徒達が一斉に視線を向けるも、それは一時的なもので初日の時のように"へんてこ"だの"貧弱"だのというものは居なかった。

ルイズが座ってる席へと移動し、主人のルイズに午前の任務の報告をした。

 

 

「マスター。午前ノ掃除任務完了。コレヨリ、マスターノ護衛任務ニ就ク」

 

「ご苦労様。もうすぐ授業が始まるから、いつものように後ろで待機してなさい」

 

「了解」

 

 

ルイズは報告をしたガンマに満足そうに頷き、ガンマは指示されたとおりに教室の後ろへと待機して護衛任務に就いた。

 

 

この任務ではルイズの授業のお供を務め、ルイズに追従して一日を過ごすことになっている、この任務中では独断の行動を許されなくなっており、ガンマは主人の命令を第一として行動しなければならない。

ルイズは真面目に働いているガンマに自由時間を与えてはいるが・・・それと反比例して使い魔任務初日の時よりも躾がとても厳しくなっていた。

前に勝手に傍から離れたり、時間に遅れたり、掃除がちゃんとできてなかったり、余計な一言を言って怒らせてしまったりして、何度か怒られたことがある。

 

ルイズが言うには「ご主人様の言い付けを守れない間抜けな使い魔には罰を」というのがルイズのモットーであるらしい・・。 それに、何故か使い魔としてだけでなく執事としての仕事もやらされるようになり、食事の時はルイズの給士の役割をしなくてはならないため、午前の仕事も含めれば多忙な一日となる。・・なんだかメイドロボットにでもなった気分だ。

 

もしこれが自分のようなロボットではなく一般人だったならば、ステーションスクエアの駅の職員のようにストを起こしているかもしれない。

もっとも、こうなったのもガンマがルイズの命令を聞かずにギーシュと決闘をして騒ぎを起してしまったことが元々の原因なのだから仕方がないだろう・・と、ガンマは文句もなく素直に受け止めていた。

 

 

 

「それではこれより次の授業を始める、全員席に着きなさい」

 

 

少し経つと、教室の扉が開き、今日の授業の担当の先生が入ってきて黒板の前に立ち、生徒全員が席に着くのを確認すると授業が始まる。

 

 

ガンマはこの護衛任務で、魔法の授業を緑のカメラアイでデータを取りながら魔法についての情報収集を行うのが日課となっていた。

水からワインを作り出す授業や、秘薬調合してポーションを作り出す講義や、目の前に現れる大きな火球や、空中に箱やボールなどを浮かせ、それを窓の外に飛ばして使い魔に取りに行かせる授業など・・・・ガンマには理解不能な超常現象の数々に、驚愕するばかりだった

 

「(授業中・・・暇・・・・)」

 

しかし・・最初はその授業に夢中になって見ていたのだが、ガンマは一度見た授業内容はメモリーにデータとして記憶してしまうため、同じような内容を何度も見るのは正直飽きてしまった。 生徒達にとって一度習ったことを復習することは大事なことではあるのだが、今やっている授業もこの前に見た同じ内容で、これ以上のデータを取れるような情報はない。

だからといって護衛任務中に動き回るわけにもいかず、ガンマはじっと授業が終わるのを待つことにした・・・

 

 

 

―――――「カァッカァッ」

 

 

そこへ一羽のカラスがバサバサと羽音を立てながらガンマに近づき、ガンマはその声に反応して緑のカメラアイを向けた。

そのカラスに右腕をそっと差し出すと、そのカラスは警戒することもなくガンマの右腕の上に止まった。

 

 

「コンニチワ、ラッキー。今ハ授業中ダカラ、オ静カニ」

 

ガンマがそのカラスに音声を落として小さい声で挨拶をして、ラッキーというカラスは応えるように「カァッ」と一鳴きした。

 

 

 

――――そう、このカラスは前にルイズが魔法の爆発を起こしたさいに、使い魔達の混乱の影響で大蛇に食べられてしまったラッキーだ。

 

あの時呼び出したばかりの使い魔が大蛇に食べられたことでその主人の生徒が困ってる様子だったから、ガンマが自分の長い腕を使って大蛇の口の中に突っ込み、まだ飲み込まれて間もなかったことだから何とか飲み込まれたラッキーを掴みだすことができた。 大蛇の口から救助されたラッキーは胃液でベトベトでグッタリしていたが・・なんとか一命を取り留め、今では元気に飛びまわれるほどに回復している

それ以来から回復したラッキーに懐かれてしまい、教室に入るたびにこうやってガンマに寄り添うことが多く、ガンマは腕に止まったラッキーを優しく撫でてラッキーは気持ちよさそうにクァ~ッと小さく鳴いた。

それを皮切りに、他の使い魔達もガンマに寄り集まってきては傍で擦り寄ったりして戯れており、ガンマの回りはちょっとした動物園状態になっている。

 

しばらくすると、窓からポカポカと暖かい陽気に当てられ、回りの使い魔達は次第にぐーぐーと眠りだした、ガンマの体に止まってるラッキーや小鳥の使い魔も、寄り添いながらお互いの羽毛に顔をうずめて仲良く眠っている。ガンマは緑のカメラアイで見つめながら、その使い魔達を起こさないように、自分の足元にいる一匹の体毛をそっと撫でた。

 

 

「(もう…またやってる)」

 

チラッとその様子を見たルイズは、授業に集中しているご主人様を差し置いて他の使い魔と戯れてるガンマを睨んでいたが、授業の妨害にならない以上授業中の使い魔が居眠りしたり他の使い魔と戯れるのを禁じる校則はない。

決闘騒ぎの時は教師達は暫くガンマのことを警戒していたが、ガンマの性格と従順に働いている姿や、そして『土』メイジのミセス・シュヴルーズからの弁明もあり、最近では警戒も解かれ、今じゃガンマが使い魔達とじゃれ合ってても放置気味である。

ルイズとしてはもっと執事としての姿勢も示して欲しいと思うところだが、使い魔と戯れてもまだ静かにしている分躾が行き届いているということだ。ガンマもちゃんと授業の内容を覚えているし、ルイズはしぶしぶと我慢することにした。

 

「(それにしてもあいつ、随分と懐かれてるわね。使い魔は使い魔同士、気が合うのかしら・・・)」

 

使い魔達がガンマに寄り集まっている光景を、ルイズは不思議そうに眺めた。

本来契約した使い魔は主人に好意を寄せるようになってるが、元々幻獣や野生動物には気性が獰猛なものもいれば臆病な性格のものさえいる、だから他者に対して警戒心をそう簡単に解くようなことはしないはずだ。それなのに…ガンマにこんなにも心を許しているのは、無害なゴーレムと理解してるからなのか…同じ使い魔ゆえか…それともガンマの純粋さからなのだろうか……?

 

それはわからないが・・・ 同じ生き物でもない、命を持たない鉄の塊のゴーレムなのに、使い魔達はまったく恐れようとはしていない。 ガンマの傍で撫でられながら眠り込んでるマンティコアの顔を見ると、とても安心しているような安らかな表情をしている・・。

魔法の銃を持った戦闘用ゴーレムだといっても、こうも穏やかな雰囲気を漂わす姿を見せられては、とても戦うために造られたゴーレムとは想像しにくいものだ。

 

そんな風に考えていると・・・

 

 

「ミス・ヴァリエール、ちゃんと聞いてるのですか!」

 

「! は、はい!聞いてます!」

 

 

余所見をしているのを先生に注意され、ルイズは慌てて黒板の前に意識を向ける。回りの生徒はクスクスと笑い、ルイズは顔を赤くさせていた。

 

「(ガンマだって余所見してるのになんで私が・・)」

 

っと、ルイズはう~っと唸りながら半ば八つ当たり気味にガンマを睨んでたが、ガンマはまったく気づいていなかった。

 

 

 

 

すると、ガンマの近くに並んである席の通路からガンマをじっと睨んでいる赤い影があった。

 

「(・・フレイム?)」

 

ガンマは良く知っている、キュルケのサラマンダーのフレイムだ。床に腹ばいになり、通路から顔をひょっこりとだしてガンマをじっと見つめている。

 

「フレイムモ、一緒ニ寝ル?」

 

フレイムにそう問いかけるが、フレイムは尻尾を振ると口からわずかに炎を吹き上げて、主人のもとに去って行った。

 

「・・・?」

 

一緒に寝るのはいやなのだろうか・・・。とガンマはフレイムのその行動がわからず、首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――そして、教室でガンマが使い魔達と日向ぼっこを満喫している頃・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院長室で、秘書のミス・ロングビルは書き物をしていた。

 

机に束ねられた羊皮紙を、一枚、また一枚と確認しながらその紙の上に羽ペンを滑らせるように動かしている。そして何枚目かの羊皮紙を机に並べ、ミス・ロングビルは手を止めるとオスマン氏のほうを見つめた。オスマン氏は、セコイアの机に伏せて居眠りをしていた。

 

 

――――――フッ…

 

 

ミス・ロングビルは薄く笑った。誰にも見せたことのない、笑みである。

 

コトッ

 

羽ペンを置いて、それから立ち上がると、低い声で『サイレント』呪文を唱えようとした・・・

 

 

 

「・・・けしからんのぉ、ミス・ロングビル…」

 

 

「ッ!?」

 

寝ているはずのオスマン氏が、ボソリと呟き、ミス・ロングビルは目を大きく見開き心臓が飛び跳ねるかのように驚いた。つぅ…と額に一筋の冷や汗が伝う。

 

 

「むにゃ・・・けしからんのぉ~・・・むふふ・・やっぱりおぬしは白より黒が似合うわい・・」

 

「(・・・このエロジジイ…)」

 

 

ただの寝言にホッと安堵するも・・・一瞬、オスマン氏のふざけた夢ごと、寝顔に一発ソバットでもぶちこんでやろうかという衝動に駆られたが、それを押さえて改めて再び『サイレント』の呪文を唱える。オスマン氏を起こさないように、自分の足音を消して学院長室を出た。

 

 

 

ミス・ロングビルが向かった先は、学院長室の一階下にある、宝物庫がある階である。

 

階段を下りて、強固に作られた金属性の巨大な扉を見上げる。扉には、分厚い閂がかかっており、閂にもこれまた大げさともいえるほどに巨大な錠前で守られていた。

 

ここまで厳重に守られてるのは当然。この宝物庫には、魔法学院成立以来の秘宝が納められているのだ。

ロングビルは慎重に辺りを見回すと、ポケットから鉛筆くらいの長さの杖を取り出した。ミス・ロングビルがくいっと手首を振ると、杖がするすると伸び出し、オーケストラの指揮者が使用している指揮棒くらいの長さになった。

ミス・ロングビルは低く呪文を唱え、詠唱が完成すると杖を錠前に向けて振った。

しかし・・・・錠前からはうんともすんとも音がしない。

 

「やっぱりか……ま、ここの錠前に『アン・ロック』が通用するとは思ってなかったけどね」

 

くすっと妖艶に笑うと、ミス・ロングビルは自分の得意な呪文を唱え始めた。それは『錬金』の呪文であった。朗々と呪文を唱え、今度は分厚い鉄の扉に向かって杖を振る。 魔法は扉に届いたが・・・しばらく待っても扉にはなんの変化は見られなかった。

 

「ふぅん・・どうやらスクウェアクラスのメイジが、扉全体に『固定化』の呪文をかけてるようね」

 

ミス・ロングビルは呟いた。『固定化』の呪文は、物質の酸化や腐敗を防ぐ呪文である。これをかけられた物質は、あらゆる化学反応から保護され、そのままの姿を永遠に保ち続ける効力をもつものだった。『固定化』をかけられた物質には『錬金』の呪文の効力を失わせる力があり、この『固定化』をかけたメイジの実力を上回ったメイジでなければ、『固定化』に『錬金』の呪文は通じないようだ。

 

しかし、この鉄の扉に『固定化』の呪文をかけたメイジは、相当強力なメイジであるようだ。 『土』系統のエキスパートであるミス・ロングビルの『錬金』が受け付けなかったのがいい証拠である。

 

「さて、どうしたものかしら・・・」

 

ミス・ロングビルは、かけた眼鏡をくいっと持ち上げ、扉を見つめていた。

 

 

―――その時に、階段を上ってくる足音に気づく。音の数からして一人のようだ。ミス・ロングビルは杖を折りたたみ、ポケットにしまった。

 

 

現れたのは、太陽のように輝きそうなハゲ頭のコルベールだった。

 

 

「おや、ミス・ロングビル。ここでなにを?」

 

コルベールは間の抜けた声で尋ねた。ミス・ロングビルはさきほどの妖艶な笑みではなく、普段の愛想のいい笑みを浮かべた。

 

「ミスタ・コルベール。 宝物庫の目録を作っているのですが・・・」

 

「はぁ。それは大変ですな。ミス・ロングビルお一人でやるとなると、一つ一つ見て回るだけで、一日がかりですよ。何せここにはお宝やガラクタひっくるめて、所狭しと並んでいますからな。」

 

「でしょうね」

 

「でも、何故中に入らず扉の前に?オールド・オスマンに鍵を借りられなかったのですか?」

 

ミス・ロングビルは少し困ったように微笑んだ

 

「それが・・・、オールド・オスマンはご就寝中なのです。まぁ、目録作成は急ぎの仕事ではないので・・・」

 

「なるほど、ご就寝中ですか。あのジジイ…じゃなかったオールド・オスマンは、寝るとなかなか起きませんからな。では、僕も後で伺うことにしよう」

 

寂しい頭を摩りながらミスタ・コルベールは歩き出した。それから突然立ち止まり、ロングビルに振り向いた

 

「その・・・・・、ミス・ロングビル」

 

「なんでしょう?」

 

ミスタ・コルベールは照れくさそうに、口を開いた。

 

「その・・・・もしよろしかったら、なんですが・・・・昼食をご一緒にいかがですかな?」

 

ミス・ロングビルは少し考えたあと、ニッコリと微笑んで、申し出を受けた

 

「ええ、喜んで」

 

 

ロングビルはコルベールの横に並び、二人並んで歩き出した。

 

 

「ねぇ、ミスタ・コルベール」

 

ちょっとだけくだけた言葉遣いになって、ミス・ロングビルは話し掛けた

 

「え、は、はい? なんでしょう?」

 

思ったよりあっさりと自分の誘いが受けられたことに気をよくしたミスタ・コルベールは、跳ねるような調子で答えた。

 

「宝物庫の中には、入ったことがありまして?」

 

「ええ、ありますとも」

 

「では、『破壊の杖』をご存知?」

 

「ああ、あれは、奇妙な形をしておりましたなぁ」

 

ミス・ロングビルの目がキラリと光った。

 

「奇妙と、申されますと?」

 

コルベールは顎に手を当て、首をひねりながらうなった

 

「う~ん、なんと説明すれば良いでしょう。杖というにはあまりに無骨で、本当に杖として造られたものなのか・・。とにかく、とても奇妙な品としか説明のしようがありません。はい。 ・・それよりも、ミス・ロングビルは何をお召し上がりになります? 本日のメニューは平目の香草包みですが・・・。 あ!そういえばメイドから聞いたのですが、コック達が珍しい異国の料理を作ってるそうですよ? たしか"はんばかあ"というサンドイッチのようなものだそうで・・、それを頼んでみるのも良いかもしれませんな。 なに、僕はコック長のマルトー親父に顔が利きましてね、僕が一言言えば、世界の珍味、美味を・・・」

 

「ミスタ」

 

ミス・ロングビルは、コルベールのおしゃべりを遮った。

 

「は、はい?」

 

「宝物庫は、本当に立派なつくりですわね。 あれでは、どんなメイジを連れて来ても、開けるのは不可能ではないでしょうか」

 

「たしかにそのようですな。並大抵のメイジでは、開けるのは不可能と思います。 なんでも、スクウェアクラスのメイジが何人も集まって、あらゆる呪文に対抗できるよう設計したそうですから」

 

「ほんとに関心しますわ。ミスタ・コルベールはとても物知りなのですわね。私も見習いたいですわ」

 

ミス・ロングビルはコルベールを頼もしげに見つめた。

 

 

「へ?いや・・・・は、はは、そんな自慢できるようなものではないですよ。暇な時に気晴らしで書物に目を通すことが多いもので・・・・、研究一筋といいましょうか。ははは、まぁ・・おかげでこの年になっても独身のままですがね・・・はい」

 

少し照れながら話すも、だんだんと自嘲気味になって寂しげに笑うコルベール。彼の頭を見ればその悲しさが物語っている。

それをミス・ロングビルは、スッと彼と距離を少し縮める。

 

「ミスタ・コルベールのお傍にいられる女性は、きっと幸せでしょうね。だって、誰も知らないようなことをこんなにたくさん教えてくださるんですから・・・」

 

「えっ」

 

ミス・ロングビルはうっとりとした熱のこもった視線で、コルベールを見つめた。コルベールはその視線に思わず、ボッと顔から湯気が出て、ハゲ頭が赤くなりゆで卵みたいになっている。

 

「いっいや! いやいや! もう! からかってはいけませんぞミス・ロングビルっ! 」

 

裏返った声でコルベールはカチコチに緊張しながら、禿げ上がった額の汗を拭いた。 彼は今までここまでの女性経験がなかったため、耐性がないようだ。

それから冷静になり、キリッと真顔になって、ミス・ロングビルの顔を覗き込んだ。

 

「ミス・ロングビル。ユルの曜日に開かれる『フリッグの舞踏会』はご存知ですかな?」

 

「いいえ、初耳ですわ。なんですの?それは」

 

「ははぁ、貴女はここに来てまだ二ヶ月ほどでしたな。その、なんてことない、ただのパーティーですよ。ただ、このパーティーには伝統や言い伝えのようなものがありましてね、ここで一緒に踊ったカップルは・・結ばれるとかなんとか!」

 

「まぁ!そんな素敵な伝統があるのですわね。 で?」

 

ミス・ロングビルはにっこりと笑って相槌し促した。

 

「その・・・もしよろしければ、僕と一緒に踊りませんかと、そういう。はい」

 

「喜んで。でも、舞踏会も素敵ですが、それよりも、もっと宝物庫のことについて知りたいですわ。私、見たことのない色んな魔法の品々にはとても興味がありますの」

 

コルベールはなんとかミス・ロングビルの気を引きたい一心で、頭の中を探った。

 

 

「(宝物庫・・・宝物庫・・・・・・。そうだ!あの話がある!)」

 

 

そこでやっとミス・ロングビルの興味を引けそうな話をコルベールは、一度咳払いをし、もったいぶって話し始めた。

 

 

「では、ご披露いたしましょう。そこまでたいした話ではないのですが・・・」

 

「是非とも、伺いたいですわ」

 

「実を言うと、宝物庫には確かに魔法に関しては無敵ですが、一つだけ弱点があると思うのですよ」

 

「(弱点……) とても、興味深いお話ですわ」

 

「それは・・・・もっとも単純で大雑把な方法、つまり、物理的な力です」

 

「物理的な力・・・ですか?」

 

「そうですとも! 例えば、まぁ、そんなことはありえないのですが、巨大なゴーレムが・・・・」

 

「巨大なゴーレムが?」

 

 

その話の続きを促したミス・ロングビルに、さらにコルベールはもう一つの話題を持ち上げた。

 

 

「それともう一つ・・・。 この宝物庫には"あるちょっとした噂"があるのですよ。・・お聞きになりますか?」

 

「ええ、是非ともお聞きしたいですわ」

 

 

それからコルベールは、得意げにミス・ロングビルに自説を語った。 二つの話を聞き終わった後、ミス・ロングビルは満足気に微笑んだ。

 

 

 

 

「大変興味深いお話でしたわ。ミスタ・コルベール」

 

 

 

 

―――――ミス・ロングビルの眼鏡の奥にある瞳が、妖艶に輝いていた。



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ミッションー119:恋ってなに?

おまたせしました次の話です。 いつのまにかもう四月・・・未だに花粉が辛くて鼻水出っ放しです。 


――――――その日の夜・・。

 

 

 

 

 

「マ、マスター、少シ待ッテ・・」

 

「つべこべ言わずにさっさと出なさいってば!あんたは重いんだから!」

 

 

 

ルイズの部屋に戻り、今日一日の多忙な使い魔任務も完了させて、就眠の準備に入ろうとしたところ・・・・どういうわけか、ルイズに突然「出て行って」と言われ、ぐいぐいと背中を押され困ったようにおろおろしながら部屋から追い出されているガンマの姿があった。 追い出されるといっても、825kgもあるガンマを小柄なルイズに動かせれるわけがないので、ガンマ自身が押される形で部屋を出てるだけである。

 

そうして廊下に出されると、ルイズはガンマの寝床としてる藁束も廊下にほっぽり出した。

 

 

「アノ、マスター。一体ナニヲ・・?」

 

「ガンマ、あんたはちゃんと仕事をしてるから我慢してたけど、最近授業中の不真面目な態度が目に付くわ。」

 

困惑してるガンマに、ルイズはビシッと指を指す。

 

 

「いいことガンマ、ここでは"メイジの実力をはかるには使い魔を見ろ"って言われてるくらいで、メイジにとって使い魔はパートナーであると同時に、己自身の鏡でもあるの。 私の護衛を勤めてる最中に使い魔と遊んでるだなんて、あんたがそんな体たらくじゃご主人様である私の面子が立たないじゃないの!」

 

授業中にラッキー達と日向ぼっこしてたさいに、そのガンマに余所見をしたおかげで怒られたことをルイズは言ってるようだ。完全に八つ当たりみたいなもんだが、なんとも根に持つ少女である。

だがガンマは今一怒られてる理由を理解できていないようで首をかしげていた

 

「シカシ、授業ノ内容ハ、チャント記憶シテ・・」

 

「それとこれとは話が別っ!」

 

「ハイ・・」

 

ルイズは形のいい眉を吊り上げて言い放ち、ガンマはシュンっと落ち込む

たしかにここ数日、護衛任務中にラッキーや他の使い魔達と戯れたりすることが多く、ちゃんと任務に就いていたとは言いがたいかもしれない、授業が終わった時もルイズの機嫌が少し悪かったのはそれが原因だったのだろう。

 

 

「だからあんたには、罰として新しい仕事を与えるわ。」

 

「新シイ仕事?」

 

伏せていた緑のカメラアイを向ける。

 

「そうよ、今夜一晩この部屋の扉を守る門番よ。あんたのようなゴーレムやガーゴイルにとって本職とも言えるわね」

 

 

ガンマはメモリーに記録してある『土』系統の魔法に関するデータにアクセスしたところ、現在持っている情報ではガーゴイルはゴーレムと違ってある程度の擬似的な意思を持っているため、メイジが操作しなくても魔力を供給されていれば自立行動が可能のようだ。 用途も様々で、アルヴィーズの食堂に飾られてる魔法人形のように踊りを披露したり、ロボットのように貴族の敷地内から侵入を防ぐセキュリティ・ガードとしても用いられているようだ。

エッグマンのメカであるサル型エネミーのキキも、レッドマウンテンの入り口の監視として設置されていたのだから、ロボットである自分もそれに当てはまるというわけだ。

 

 

「デモ・・マスターヲ守ルノナラバ、ボクガ傍ニ居タホウガ良イノデハ…」

 

「だったら、誰も部屋に入れないようにすればいいわ。 命令よ、私が寝ている間 朝までちゃんとここを見張っていなさいっ。」

 

「・・了解、マスター」

 

 

バタンッ

 

 

ガンマが返事をすると、ルイズはドアを閉めて中からがちゃりと鍵をかける音が聞こえる。 完全に閉め出されてしまったようだ・・・

 

 

――――ヒュゥゥゥ・・・

 

 

人気のない夜の静寂な廊下の中、空いた窓から夜の冷たい風が吹きこむ。昼間と違い夜は気温が著しく下がり、ガンマの金属のボディをひんやりと冷ましていった

 

 

「部屋ノ防衛任務、実行・・・」

 

 

とりあえず部屋の扉の前に立って、ガンマは警備モードに移行する。 しかしルイズには見張っていろとは言われたが・・・ここには敵対勢力などいないし、学院には衛兵が巡回してるのだから見張っている意味などあるのだろうか? 暇になるだろうから時間をつぶすためにこのまま朝まで待機モードになっていてもいいのだが・・・・・

 

 

―――――――『今度は鞭じゃなくて鈍器で罰を与えるからそのつもりでね♪』

 

 

「(リスクノ可能性アリ、危険ト判断)」

 

あの時言ってた恐ろしい言葉を思い出し、ガンマは待機モードになっているところをルイズに見られた場合を予測したため止めておくことにした。 これ以上怖いルイズを怒らせるようなことをしてしまったらどんな罰を受けるかわかったものではない。

今日油を補給したばかりだったが、これだけ働かされるとまた新しい油で身体をリフレッシュする必要がありそうだ。

 

「ツヴァギ油、飲ミタイ・・・」

 

ガンマは扉の前で軽く溜め息を吐く仕草をした

 

 

 

 

―――――ガチャリッ

 

 

 

 

すると突然、その静寂を破るかのようにキュルケの部屋の扉が開いた。

 

「?」

 

ガンマはキュルケの部屋に緑のカメラアイを向けると・・開いた扉からサラマンダーのフレイムが出てきた。 暗い廊下を尻尾の炎が明るく照らし、まるで松明のようである。

こんな時間にどうしたのだろう? 召還された使い魔達は夜行性の生き物が多いようで、フレイムも他の使い魔達のように授業中に寝ていることがあるから、サラマンダーも夜行性なのだろうか・・? と不思議そうに考えていると、フレイムは尻尾の炎を揺らしながらちょこちょことガンマのほうへ近づいてきて、足元で座り込んでガンマを見つめた。

 

「コンバンハ、フレイム。」

 

緑のカメラアイを向けて挨拶をしながら、ガンマはゆっくりと手を差し出す。フレイムはガンマの左手に鼻を近づけて少し匂いを嗅ぎ、鼻をすりつけ始めると、ガンマはフレイムの頭を優しく撫でた。

 

「きゅるるぅ~・・」

 

昼間の時とは違ってフレイムはガンマの手を受け入れ、気持ちよさそうに甘えるような声を出す。 見た目はこんな大きなトカゲなのに警戒心も害意も無く、人懐こいようだ。

 

「ドウシタノ、フレイム。 ボクニ、何カ用?」

 

 

そう問いかけると、フレイムは口を大きく開き…カプッ とガンマの撫でていた左手をくわえ込んだ。

 

 

「? フレイム、オ腹空イテル? ボクノ手ハ、食ベ物ジャナイ」

 

ガンマがそう言ったが、フレイムはそれでも離そうとはせず、まるでついてこいと言わんばかりにぐいぐいと手を引っ張っている。

フレイムのその行動が気になったガンマは、ふとキュルケの部屋のほうに目を向けると、部屋の扉は開けっ放しだった。

 

「・・・モシカシテ、ミス・キュルケノ部屋ニ?」

 

「きゅる!」

 

フレイムはくわえ込んでたガンマの手を離して返事をするように鳴いた。 その様子から察するにフレイムのきまぐれでは無く、キュルケが自分に用があるためフレイムに命令して、フレイムはガンマを部屋に連れ込もうとしてたようだ。

 

 

「デモ・・現在ボクハ任務中・・・」

 

「きゅる!きゅるきゅる!」

 

「ア…フレイム、押サナイデ」

 

 

任務中にここを離れるわけにはいかないため、ガンマは断ろうとするが・・フレイムはそんなことなどお構いなしに、ガンマの後ろに回りこんで背中を頭でぐいぐいと押しだした。 どうしても部屋に連れていきたいみたいだ。

 

「・・・了解、フレイム、キュルケノ部屋へ移動スル」

 

ガンマは少し迷ったが、ルイズの部屋とキュルケの部屋は近いし、キュルケが一体自分に何の用があるのかも気になるため、少しの間なら大丈夫だろうと判断してキュルケの部屋に行くことにした。 フレイムはガンマの言葉を理解したのか、きゅるると鳴いて先に部屋へと歩き出し、空いた部屋の入り口前で止まって手招きするようにガンマに尻尾を振った。

ガンマはその後ろを付いていき、フレイムに案内されながらキュルケの部屋のドアをくぐった。

 

 

「失礼シマス」

 

部屋の中に入ると、部屋は真っ暗だった。 尻尾の炎のおかげでフレイムの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。

用があるのに何故明かりを消してるのだろうかと疑問符を浮かべていると、暗がりからキュルケの声が聞こえた

 

 

「扉を閉めて?」

 

「? 了解シマシタ」

 

キュルケの声に反応し、ガンマは言われたとおりに扉を閉めた。

 

「ようこそ、来てくれて嬉しいわ。こちらにいらっしゃい。」

 

「ミス・キュルケ。ソノ前ニマズ、明カリヲツケル事ヲ推奨シマス」

 

明かりを消してる理由はわからないが、こうも真っ暗では話のしようがないためそう勧めると、パチンッとキュルケが指を弾く音が聞こえた。

 

シュボッシュボッシュボッ・・・と部屋の中に立てられたロウソクが、独りでに一つずつ灯っていく。

 

ルイズの部屋にある魔法のランプと同じ原理で、ガンマの近くに立てられたロウソクから順番に火が灯り、キュルケの傍のロウソクまで並ぶように灯っていった。 まるでステーションスクエアの道のりを照らす街灯のように、ロウソクの淡い灯りが浮かんでいる。

ロウソクの道を沿うように緑のカメラアイを向けていくと・・

 

 

 

―――――ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった

 

 

 

そのキュルケの姿を見て、ガンマはパチクリと緑のカメラアイを点滅させた。

 

 

今キュルケが身につけているのはベビードールという下着で、肌の露出が目立つものだ。 というかそれしか着けていない。 ルイズのまな板のような胸と違い、キュルケの木の実のような大きな胸がレースのベビードルを持ち上げ、より強調されている。

ガンマは別に恥ずかしいと感じてるわけではない、ステーションスクエアのホテルにあるプールサイドで泳いでた水着姿の女性客を見た事があるため、恐らくあれはルイズが着てるネグリジェと同じように、キュルケにとって寝巻きなのだろうと判断する。だが・・・そう理解しようとはしているものの、ベビードールは下着の類であることに違いないため、このような下着姿のキュルケにどういった対応をすればいいのか困っていた。

キュルケはそんな反応を見せたガンマが可愛いと思ったのか、クスクスと笑う。

 

「そんなところに突っ立ってないで、こちらにいらっしゃいな」

 

ガンマは戸惑いながらもキュルケの声に従い、ベッドに腰掛けている彼女の隣にまで移動する。

 

「ミス・キュルケ、ボクニ何カ御用デショウカ?」

 

ガンマは緑のカメラアイを彼女に向けて、下着姿の事にはあえて触れずに無機質な声で言った。

キュルケはにっこりと笑って自分の隣をぽんぽんと叩いてガンマに促した。

 

「とりあえず、座って?」

 

「イエ…ボクハコノママデモ平気。ソレニ、ボクガ座ッタラ、ベッドガ壊レテシマイマス」

 

「立ったままじゃ気楽にお話できないでしょう?それに壊れても怒らないから、遠慮しないで」

 

「リョ、了解・・」

 

シエスタ達もそうだったが、ロボットに座るよう促す人間なんて初めてである。ガンマはおどおどしながらもできるだけ体重を掛けすぎないようにゆっくりと逆間接の足の角度を変えて、ベッドに座っているキュルケの隣に腰掛けるように座った。

 

 

ギシギシギシィ……ッ!

 

 

ガンマが体重をかけるごとにベッドが軋むような音が響き、ベッドが悲鳴をあげている。 いくら丈夫に作られているとはいえ、壊れないか心配だ。

 

 

「アノ・・・御用トハ?」

 

再び問いかけると、ナックルズのように真っ赤な燃えるような赤い髪を優雅にかきあげ、キュルケはガンマを見つめた。 ぼんやりとしたロウソクの灯りに照らされたキュルケの褐色の肌は、野生的な魅力を放っており、異性を引き寄せる力をもっている。

もっとも、ロボットであるガンマにはそんな感性など理解できないため、キュルケの姿を見てもステーションスクエアでは見かけなかった人種で、このような肌をした人間もいるのだなって思ってるくらいである。

 

「いきなり呼びこんでごめんなさいね、あなたとは二人きりでお話したかったの」

 

そういえば初めて会った時に、いつか自分の国の話を聞きたいと言ってたことをガンマは思い出す。 きっとそのことで自分を部屋に招きいれたのだろう、たしかルイズはキュルケといがみ合ってるようだったし、自分も使い魔任務で多忙だったからそれで話そうにも話せなかったのかもしれない、今なら話すには絶好の機会ではある。

任務も控えているためあまり長くは話をすることはできないが、ガンマは何を話そうか聞こうとすると、先にキュルケが口を開いた。

 

 

「ねぇ…ガンマ、あたしの二つ名はご存知かしら?」

 

「? ミス・キュルケノ二ツ名ハ、『微熱』ト記憶シテイマスガ・・」

 

「そう、あたしの二つ名は『微熱』。 あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。 だから、いきなりこんな風にお呼びだてしてしまうの。わかってる、いけないことよ・・」

 

キュルケは大きく溜め息をついた。そして、悩ましげに首を振った。

 

「ゴーレムのあなたでも、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」

 

「イエ、ソノ様ナコトハ…」

 

「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」

 

キュルケはガンマの左腕に身を寄せ、潤んだ瞳でガンマを見つめた。彼女の大きな胸が、ガンマの左腕に当たっている

 

「ミ、ミス・キュルケ・・?」

 

 

困惑してるガンマに、キュルケはすっとガンマの金属の手を握り、太い三本の指を、一本、一本、冷たく硬いガンマの指を確かめるようになぞり始めた。

キュルケのこの理解不能な行動にどうすればいいのかわからず、ガンマは固まって動けなくなっていた。

 

 

「あたしね、あなたのことが気に入っちゃったの。そう、まるで恋のようにね」

 

「恋・・・」

 

「あなたがギーシュを倒した時の姿・・・・私が知ってるどのゴーレムもガーゴイルよりも、とってもかっこよかったわ。 勇敢に立ち向かい、巨大なワルキューレを一太刀で真っ二つにしてしまうなんて、まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ! あたしね、それをみて痺れたのよ、ゴーレムであるあなたに! 信じられる! あぁ・・・まさに情熱だわ」

 

キュルケは色っぽい吐息を出しながら、うっとりとした表情でガンマの宝石みたいに綺麗な緑の目を見つめる。

イーヴァルディの勇者というのはなんなのかはわからないが、つまりキュルケは自分に興味があるということだろうか? しかし、いくらギーシュとの決闘での影響力があったとは言え、流石に大げさな気もするのだが・・。

 

「だからね、あたしはあなたのことが知りたくて、フレイムを使って様子を探らせたりしてたの・・・あなたがメイドと仲良くしてたり、真面目にお仕事してたり、お茶目なところがあったり・・・そしてなにより、あなたは人や動物に優しいだけじゃなく、強い好奇心も持っている。 ルイズの使い魔にしておくにはもったいないくらい魅力的よ」

 

ガンマは緑のカメラアイを床に寝転んで欠伸をしているフレイムに向ける。 どうりで最近使い魔任務中にフレイムを時々見かけることがあったと思ったらそういうことだったのか。 使い魔の能力には主人の目となり耳となる感覚の共有ができるようになるとルイズがいっていたから、それでフレイムを通じて自分を見ていたということだ(でもお茶目ってなんだろう?)

 

 

「デハ、ズットボクヲ、監視シテイタノデスカ?」

 

「監視だなんて人聞きが悪いわ・・でも、そう思われても仕方がないわよね。 ほんとに、あたしってばみっともない女だわ。そう思うでしょう? でも、全部あなたの所為なのよ」

 

「ボクノ・・・所為?」

 

「あたしの二つ名の『微熱』は情熱なのよ。あの日からあたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。マドリガル、恋歌よ。あなたの所為なのよガンマ。あなたが毎晩あたしの夢に出てきて、その細くも力強い金属の腕で、わたしを抱き上げてくるんだもの。もう、あなたのことを考えられなかった日なんてなかったわ・・・」

 

ガンマはなんと答えればいいのかわからず、じっと座っていた。 キュルケは沈黙しているガンマにゆっくりと身を乗り出し、そっとガンマの緑の目を指でなぞった。

 

「あなたの魔法の銃は…あたしの心までも撃ち抜いちゃったのよ…」

 

綺麗な緑のカメラアイを見つめながら、ゆっくりと目をつぶり、唇を近づけてきた。

 

 

 

 

 

「オ待チクダサイ、ミス・キュルケ」

 

 

しかし、ガンマは彼女の肩を優しく押し戻した。 キュルケはどうして? と言わんばかりの顔で、ガンマを見つめた。

 

 

「ミス・キュルケ。 ボクハ貴方ヲハシタナイナドト思イマセン。 ロボットデアルボクノコトヲ思ッテクレル、優シイ人物ダト理解シマシタ」

 

ガンマはキュルケを緑のカメラアイで見つめながら言った。

 

「デモ・・・ボクニハ、人間ノ『恋』トイウ感情ヲ、理解デキテイマセン。」

 

 

――――ガンマは以前、ステーションスクエアのバーガーショップで、そこで働いている店員に思いを寄せている女性のことを思い出していた。 彼女は何故かその店員に話しかけもせず、いつもショップの入り口付近の前で右往左往としており、いつも遠目からその店員を見つめているばかりだった。 だが日を追うごとに、その女性は少しずつ店員との距離を縮めていき、まだ話しかける勇気がないようだったが店の中にまで入れるようになっていた。 ・・恐らく彼女は、あの反応からして、きっとキュルケの言っている『恋』という感情をあの店員に向けていたのだろうとガンマは推測した。

 

 

・・・だが、エッグマンにそのような情報を教えられていないガンマには、理解するには難しすぎる壁である。

 

 

自我をもっていようと、人間の持つ感情を全て理解できているわけではない、だからキュルケの『恋』というのはどういうものなのか理解できず、どのような答え方をすればいいのかわからないのだ。 ギーシュの行いでケティとモンモランシーが傷ついたように、自分の心無い言葉でキュルケが悲しむのでは・・・とガンマは思っていた。

 

 

「理解モシテイナイノニ軽率ナ発言ヲシテシマッタラ、ソレハ貴方ノ『恋』ニ対スル無礼トナッテシマイマス。 ダカラ、ボクニハソレニ答エレル資格ハアリマセン・・・、申シ訳アリマセン、ミス・キュルケ。」

 

ガンマはキュルケから目を離し、緑のカメラアイを伏せながら謝罪をした。

 

そんなゴーレムらしからぬガンマの姿に、キュルケは先ほどまでの色っぽい雰囲気がどこかへ吹き飛んでしまい、呆気にとられたようにきょとんとした顔となった。

 

 

そして次第に肩を震わせた

 

 

 

「・・プッ、・・くっ・・・くく・・・」

 

「・・・ミス・キュルケ?」

 

「あ~っはははははは!」

 

とうとうキュルケは耐え切れず、涙目になって腹を押さえながら笑い出した。 突然笑い出したキュルケに、ガンマは状況がよくわからず首をかしげた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ…。 ふふ・・やっぱりあなたって面白いのね。ゴーレムに振られちゃうだなんて、初めての経験よ」

 

ひとしきり笑って落ち着いたのか、キュルケは息を整え、改めてガンマを見つめる。

キュルケはたしかにガンマに強い関心を抱いてはいるが、恋などは別にしてはいないし、まずそんな趣味も持ち合わせていない。 彼の話を聞くついでにちょっとからかってやろうと思い、彼を招き入れ、この自我を持ったゴーレムが自分に対してどんな反応をしてくるか見てやろうとした。 つまりキュルケにとって遊び心のつもりでガンマにあのような話を持ちかけたのだ

 

だが、予想外にもガンマに断られてしまった。 いままで幾多の男を魅了させてきた自分が、初めて振られたのだ。しかもゴーレムに! そんな自分がとても滑稽に思え、笑わずにいられなかった。

 

 

「ますます気に入っちゃったわ! ガンマ、今夜はあたしの部屋に泊まっていきなさいな。ルイズに部屋を追い出されてるのでしょ?」

 

「エ、アノ、ミス・・」

 

「キュルケよ」

 

「エ」

 

「敬称はいらないわ。キュルケって呼んでちょうだい、ガンマ♪」

 

「リョ、了解・・・キュルケ・・」

 

キュルケはガンマの腕に抱きついてきて、ニッコリと笑顔を浮かべている。 わけがわからなくて困ってるガンマに対し、キュルケは先ほどの雰囲気など消えうせ猫のようにすりついてきた。 なんとも切り替えの早い女性だ・・。

 

「さ♪ 今度はちゃんとお話しましょ? 夜はまだ長いんだから」

 

 

 

 

――――――――ドンドンドンドン!!

 

 

 

 

キュルケがそう言った時、窓の外が大きく叩かれた。

 

ガンマはその音の発生源である窓に目を向けると、そこには恨めしげに部屋の中を覗く、一人のハンサムな男の姿があった。

 

「キュルケ・・・・。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば・・・」

 

「ぺリッソン!ええと、二時間後に」

 

「話が違う! なんでゴーレムなんかと!」

 

ここはたしか、三階である。 どうやらぺリッソンと呼ばれたハンサムは魔法で浮いているようだ。

キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、そちらのほうを見もしないで杖を振った。 

 

 

ボゴオオオォォン!!

 

 

すると一本のロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばした。

 

 

「無粋なフクロウね」

 

ガンマは唖然としたように緑のカメラアイをパチクリと点滅させ、その様子を見つめていた。

 

「今ノ方ハ・・・・」

 

「彼はただのお友達よ。まったく、いきなり窓から入ろうだなんてマナーがなってないわ」

 

「アノ・・友達ニアンナコトヲシテ、大丈夫?」

 

「平気平気。ちゃんと火加減してあるから」

 

「火加減・・・」

 

「とにかく今、あたしがお話したいのはあなたよ。ガンマ」

 

 

キュルケは再びガンマにくっつこうとすると・・・・今度は窓枠が叩かれた。

見ると、悲しそうな顔で部屋の中を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。

 

「キュルケ…!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!なんで、なんでゴーレムと一緒にいるだ!?」

 

「スティックス! ええと、四時間後に」

 

「まさか君にそんな趣味があったのか!? いくらゴーレムだろうと僕はゆるさんぞ!」

 

怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとしたが、キュルケが煩そうに再び杖を振ると、再びロウソクの火から太い炎が伸びて男を襲った。

 

「でもそんな君も素敵だぁぁぁああああーー!!!」

 

男は火にあぶられながらも、断末魔のような叫びを上げながら地面に落ちていった。

 

 

「・・・・友達?」

 

「彼は友達というよりはただの知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜が長いなんて誰が言ったのかしら! 瞬きする間に、太陽はやってくるじゃないの!」

 

ポカーンとしてるガンマに、キュルケはまたくっつこうとした

 

 

「ああああああああ!!?」

 

 

窓だった壁の穴から数人の悲鳴が聞こえた。 ガンマはそちらに振り向くと、窓枠で三人の男が押しあいへしあいしていた。

 

 

「「「キュルケぇ! そのゴーレムはなんなんだ!なんでゴーレムと仲良くしてるんだ!!」」」

 

三人は同時に同じセリフをはいた、見事にハモっている。

 

「マニカン! エイジャックス! ギムリ! ええと・・・六時間後に」

 

 

「「「朝だよ!」」」 「朝…」

 

 

三人は仲良く唱和し、ガンマも一緒に答えた。キュルケはうんざりした声で、フレイムに命令した。

 

「フレイムー」

 

きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたフレイムが起き上がり、三人が押し合っている窓だった穴にむかって、炎を吐いた。 三人は先ほどの先客である二人と同じように仲良く地面に落下していった。

普段ならばキュルケの火の魔法とフレイムの吐いた炎の威力に興味を抱くところではあるが、こんな混乱した状況ではそれどころではない。 あの五人はなんでドアからじゃなく窓から入ったのか意味がわからないが、キュルケとそんなに話がしたかったのだろうか?

 

「アノ三人ハ?」

 

「さぁ?知り合いでもなんでもないわ。やっと静かになったわね。さぁガンマ、続きを・・・」

 

「イエ・・・申シ訳ナイ、キュルケ。コレデ失礼スル」

 

「あ!ちょっと待って!まだ全然お話してないじゃないのぉ」

 

ガンマが立ち上がろうとすると、キュルケは引き止めるようにガンマの腕にしがみ付いた。

 

「シカシ、ボクニハ任務ガアル・・・」

 

「そんなこと言わないで。 あなた、ここ最近色々と調べまわってるのでしょう? だからあたしがあなたの知りたい事を教えてあげるわ」

 

「デモ、マスターノ命令ナノデ・・・」

 

ガンマは緑のカメラアイを向けて言った。 自分もキュルケと話をしたいのはやまやまではあるが、なんだかよくわからないがこれ以上は関わってはいけないような気がするし、主人の命令をこなさなければならないため任務に戻ることを判断した。

 

 

そのとき・・・・

 

 

 

 

――――――バダァァンッ!!!

 

 

 

 

今度はドアが蹴り破るかのように物凄い勢いであけられた。

またか、と思ってそちらに振り返ると・・・そこにはネグリジェ姿のルイズが立っている。

 

 

 

「・・・・ガンマ、見張りはどうしたの」

 

「マ、マスt・・!!」

 

 

 

―――――――《WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!》―――――――

 

 

 

声をかけようとしたところで、言葉が詰まる。ガンマの緑のカメラアイにルイズの鬼のような形相が映り、電子頭脳に危険信号が送られ警告音が鳴り響く。その恐ろしさに思わず時が止まったように硬直して動けなくなった。まさに蛇に睨まれたカエルのようである。

 

キュルケはちらりと横目でルイズを見たけど、ガンマの左手にしがみつき身体を密着させたまま、離そうとはしない。

 

 

「隣が騒がしいと思って来て見れば・・・!」

 

艶やかに部屋を照らすロウソクを、ルイズは一本一本忌々しそうに蹴り飛ばしながら、ズカズカとガンマとキュルケに近づいた。

 

「キュルケ!」

 

ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。 そこでやっとキュルケはガンマから身体を離し、やれやれといった態度でルイズのほうに向いた

 

「ノックもしないで入るだなんて失礼じゃなくて? それに取り込み中よ。ヴァリエール」

 

「ツェルプストォオー!! 誰の使い魔に手をだしてんのよぉ!!」

 

「しかたないじゃない。彼のこと気に入っちゃったんだもん」

 

地の底から響くような声で怒鳴るも、キュルケは両手を上げて平然とした態度でいる。 ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、レッドマウンテンの火山のごとく怒りを表にし興奮状態になっているのが見て取れた。 ガンマは二人の間に挟まれて、ルイズとキュルケを緑のカメラアイで交互に見ながらおろおろし始めた。

 

 

「あんたには見境ってものはないの!? こいつは人間でもなければ動物でもないのよ! こいつはゴーレムよっ!ゴ・ー・レ・ム!!」

 

ガンマに何度も指を指しゴーレムだと強調させるように言った。

 

「あら、あたしはただ彼とお話がしたかっただけよ?」

 

「だったら!なんでわざわざ話しをするためにそんなはしたない格好でいる必要があるのよ!!」

 

「別にいいじゃない。あたしにとってこれが寝巻きなんだから、どんな格好でいようとゴーレムの彼にとっては問題ないはずでしょう? もしかしてあなた・・・あたしがゴーレム相手になにかやらしい事をするとでも思ったのかしら? 想像力豊かなのはいいことだけど、お子ちゃまのくせにやらしいわねぇ」

 

「な、なななななんですってぇっ!!」

 

しかしキュルケはどこ吹く風のようにひらひらと受け流し、両手をすくめてみせた。ルイズは顔を真っ赤にしてギリギリと忌まわしそうに歯軋りをたて、ルイズの手がわなわなと震えた。

 

 

「アノ・・・"ヤラシイ事"ッテ?」

 

「あんたは知らなくていいの!!!」

 

「ハイッ」

 

ルイズに睨まれ、ガンマはビクリと固まる。ここまで怖い主人は初めてだ。

 

 

「来なさい。ガンマ」

 

ルイズはガンマをじろりと睨んだ。ガンマは主人の命令に従い、ベッドから立ち上がる。

 

「あら。お戻りになるの・・・?」

 

キュルケは悲しそうにガンマを見つめた。キラキラとした瞳が、悲しそうに潤んでいる。

ガンマはそのキュルケの瞳を緑のカメラアイで捉え、躊躇した。 このまま離れたら彼女を悲しませてしまうのではと思い迷ってしまう。

 

「いつもの手なのよ! あんたまで引っかかっちゃダメ!」

 

ルイズは右腕を両手で握り、ぐいっと引っ張って部屋から出ようとする。

 

「了解、マスター。 指示ニ従ウ」

 

キュルケには悪いが、使い魔であるガンマは主人の命令を第一として行動しなければならないので、逆らうことはできない。 それに与えられた任務を放棄しては、それではルイズへの恩を仇で返す行為になってしまう。

ガンマが出て行こうとするその様子を見たキュルケは、残念そうにすると・・・・

 

 

―――――ファサ…

 

「あら・・・?」

 

 

ガンマが向き直り、ベッドの毛布を手に取って、ベッドに座ってるキュルケの肩に毛布を掛けた。

 

「夜ハ冷エルカラ、風邪、引カナイデ」

 

キュルケが吹き飛ばした窓から冷たい風が入りこんでるので、キュルケが風邪を引いてしまう可能性があったための行動だ。 ガンマは床に寝てるフレイムに「キュルケヲ、温メテアゲテ」とお願いし、先に廊下に出てるルイズのいるドアへと向かった。

 

キュルケは、ベッドから動かず、じっとガンマを見つめた。

 

 

 

「オヤスミナサイ、キュルケ」

 

 

 

――――パタンッ

 

 

そう言って、静かにドアを閉めた。

 

キュルケは座ったまま、ぼんやりと閉まったドアを見つめていると、フレイムが寄ってきた。

 

「きゅるる・・」

 

フレイムはキュルケの足元にきて、ベッドに顔を乗せる。 冷たい風で冷やされた部屋の中、フレイムから発せられる熱気のおかげでキュルケの周りの空間だけが温かくなっていた。

ガンマがお願いしたとは言え、フレイムが自分以外の者から言われたことを素直に聞くとは・・・っとキュルケは少し呆れながらも自分を温めてくれるフレイムの頭を優しく撫で、フレイムは嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

「・・・ふふふ。 ホント、紳士的で、優しいゴーレム。 本気で好きになっちゃいそうだわ」

 

 

――――ガンマが掛けてくれた毛布にくるまりながらそのままベッドに横になると、フレイムの熱気のおかげでポカポカと温かく、次第に眠気がやってきて瞼が重くなり、スヤスヤと寝息をたてていた。



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ミッションー120:ルイズとキュルケの因縁

GWなんだから連休でもいいのになぁ・・・_(:3 」∠ )_
っというわけでやっとできた次の話です。


「こんの・・・バカ使い魔ーーーーーー!!! 罰を与えた矢先になにやってんのよーーーーー!!!!」

 

 

ピンクのブロンドの髪を激しく揺らし、家具が震えるほどに強く地団駄を踏んだ。

 

 

「マ、マスター、現在就眠時刻…他ノ人ノ睡眠妨害ニ・・・」

 

「その原因を作ったのはあんたでしょうがぁあ!!」

 

「スミマセン・・」

 

 

ルイズは部屋に戻ると、部屋の鍵を閉め、唇を噛み締めながら両目を吊り上げて怒りを爆発させていた。 今までにも何度か怒られたことのあるガンマだが、今回のルイズの怒り具合は凄まじい。ルイズが破壊神の咆哮のような怒鳴り声を上げる度に、ガンマは大きな身体を縮こまらせていた。

ルイズは顎をしゃくった。

 

「ガンマ、そこに座りなさいっ」

 

「了解・・」

 

ガシャガシャと足を折りたたんで床に座りこむ。ルイズは両手を組んでゴゴゴゴ…と威圧的に見下ろした

 

「もうね、あんたには心底呆れたわ。ゴーレムのくせに仕事をサボっただけじゃ飽き足らず、よりにもよってあの忌々しいツェルプストーの女に尻尾を振るだなんて!見損なったわよこのタマゴーレム!!」

 

「タ、タマゴーレム…?」

 

たしかにエッグマンの作るメカは卵型の体系をしているのは認めるが、また上手い具合のネーミングを付けられたものだ。

 

 

「今度ばかりは勘弁ならないわ! その体に使い魔とはなんたるかを徹底的に叩き込んでやるっ!」

 

そう言ってルイズは机の引き出しから乗馬用の鞭を取り出し、ガンマの頭を鞭を宙で舞わしながらビシバシと激しく叩き始めた。

 

「ル、ルイズ、落チ着イテ」

 

「なによ!あんな胸がでかいだけの女のどこがいいのよッ!しかもあんなにべったりとくっついて~~~!!」

 

 

―――――ビシッ!バシッ!ビシッ!

 

 

ガンマも自分に落ち度があるため大人しく罰を受けている、これだけシバかれると頭に鞭の後が残りそうだが…鈍器で叩かれないだけ幾分かマシではあるだろう。

しかし・・・ルイズが怒ってる理由は理解できるが、どうもあのキュルケとのやり取りや先ほどの言動を聞いてると、ガンマがキュルケと接触していたことを怒ってるように感じられる・・・。二人の仲が良くないのはたしかなようだが、それにしてはルイズは過剰反応ともいえるため、ガンマはそこが気になっていた。

 

 

「・・マスター、ボクガ一時的デモ任務カラ離レテシマッタ事ハ謝罪スル。 デモ、ボクハタダ キュルケニ話ガアルト言ワレテ行ッタダケ。何故、ソコマデ怒ル?」

 

 

そう疑問を持ちかけると、ピタリと鞭を振るう手が止まり…ルイズはフー、フー、と息を切らしながらガンマを見る。

 

少し間を置き・・・ルイズはまだ息を荒げてはいるが怒りはだいぶ収まったようで、ルイズは近くにあった椅子に座ると、足を組んだ。

 

 

「いいわ、この際だから教えてあげる。まず、キュルケはトリステインの人間じゃないの。隣国のゲルマニアの貴族よ。それだけも許せないわ、私はゲルマニアが大嫌いなの!」

 

なるほど、キュルケだけこの学院の中で褐色の肌をしているのは、ゲルマニアという国から来た留学生だからなのか。

 

「ドウシテ、嫌ウ?」

 

「私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあるの。だから戦争になるといっつも先頭切ってゲルマニアと戦ってきたの。 そして・・・!」

 

ダン!っと机を叩いた。

 

「そして!国境の向こうの地名はツェルプストー! キュルケの生まれた土地よ!」

 

ルイズは歯軋りをしながら叫んだ。

 

「つまり、あのキュルケの家は……ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の敵なのよ。実家の領地は国境挟んで隣同士! しかも寮では隣の部屋! 許せない!」

 

「シカシ、キュルケカラハ敵対的意思ヲ検知セズ、友好的ト思ワレル。 ソレニ、彼女ト会話ヲシタトコロ…キュルケハ、俗ニ言エバ『恋スル乙女』トイウ印象ガ見受ケラレルガ・・」

 

「な~にが『恋する乙女』よ!! あの女の決まり文句は必ず 『恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ』…って言うけどね! あんなのただの色ボケの家系よ! キュルケのひいひいひいおじいさんのツェルプストーは、私のひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったのよ! 今から二百年前に!!」

 

「二百年・・・」

 

さらにルイズはヒートアップさせた

 

「それから、あのツェルプストーの一族は、散々ヴァリエールの名を辱めたわ! ひいひいおじいさんは、キュルケのひいひいおじいさんに、婚約者を奪われたの! さらにひいおじいさんのサフラン・ド・ヴァリエールなんかね!奥さんをとられたのよ!あの女のひいおじいさんのマクシミリ・フォン・ツェルプストーに! いや、弟のデゥーディッセ男爵だったかしら・・・・」

 

「ツマリ、ツェルプストー家ノ人間ガ、マスターノヴァリエール家ノ人間ノ…恋人?ト言ウ人間ヲ、横取リサレ続ケラレタト?」

 

恋人の意味は理解できてないが、ガンマは前に釣竿を持った大きな猫から尻尾が生えたカエルを横取りしたことを連想していた。たしかにそう考えたらせっかく吊り上げた獲物を取られ続けられたら根に持つのは当然だ。しかも二百年ときてるのだからそうとうだろう、なんかソニックとエッグマンの因縁よりも根深いようだ。

 

「ちょっと意味が違うけどそういうことよ。 でもそれだけじゃないわ!戦争の度に殺しあってるのよ。お互い殺し殺した一族の数はもう数え切れないわ! だからあのキュルケには、たとえ小鳥の一匹だろうと取られたくもないし、触れさせてなるもんですか! ご先祖様に申し訳がたたないわ!!」

 

ルイズがそこまでいうと、喉が渇いた様子を見てガンマは近くの水差しからコップに水を注ぎ込んで、ルイズに渡す。

 

「ドウゾ」

 

ルイズはそれを受け取り、一気に飲み干した。

 

「ぷはぁっ…というわけなのよ。キュルケとの接触はダメ。絶対禁止」

 

「・・・・・・」

 

水を飲んで幾分か落ち着いた様子で、ルイズは言い聞かせるように言うと、ガンマは少し考え込んだ。

 

 

 

「・・・了解、マスター。理解シタ」

 

「よかった、ちゃんとわかってくれたのね。じゃぁ今後…」

 

「今度カラハ、ルイズノ許可ヲ取ッテカラ、話ヲスル」

 

 

ズルッ、とルイズは椅子からこけそうになった。

 

 

「ぜんっぜんわかってないじゃない!! 私が言ってるのは、キュルケとは絶対に関わるなって言ってるのよ!!」

 

ルイズは苛立たしげに頭を抱え、再びガンマにきつく怒り出した。ガンマは困ったようにおどおどしだす。

 

「デモ・・・キュルケハ、話ヲシタイト言ッテ・・」

 

「ダメなものはダメっ! あんたはわたしの使い魔でしょう!つまりあんたはもうヴァリエール家と関係してるってことなんだからね! 言う事聞かないようなら、今後自由時間は無しよ!」

 

「っ! ソレハ…」

 

ルイズの無慈悲ともいえるような罰に、ガンマはうろたえた様に反応した。自由時間がなくなれば、情報収集がより難航してさらに時間がかかってしまう上に、食堂の油が飲めなくなってしまうのだ。

 

「とにもかくにも、ヴァリエール公爵家の元で世話になってるんだから、わたしの言うことはちゃんと従いなさい。」

 

「・・・了解、マスター」

 

ガンマは音声を若干落としながら返事をした。緑のカメラアイも悲しげに薄く光っている。

 

「ぅ・・・そんなに落ち込まなくたっていいでしょ・・・(少し言いすぎたかしら・・)」

 

叱られた子供のように落ち込んでるガンマを見て、ルイズは少しばかり罰が悪そうにした。 こいつは抜けてはいるがほんとによく働いてくれるし、叱ってばかりでは逆に教育に悪いかもしれない。 だがだからといって自由にさせてあのツェルプストーとの交流を許すのはルイズのプライドが許せないし、制限をかけすぎるのもこいつが可哀相だ・・・・。

 

 

 

――――「(・・・よし、ここはご主人様の器量の見せどころね)」

 

ルイズは一人納得するように頷いた。

 

 

 

「ガンマ、明日街へ買い物にいくわよ」

 

「・・買イ物?」

 

ガンマはその声に反応し、いつもの明るさの緑のカメラアイをルイズにむける。

 

「あんたはよく働いてくれてるからね、ご褒美として剣を買ってあげるわ」

 

ガンマはルイズの以外な申し出に疑問を浮かべた

 

「何故、剣ヲ…? 現在ノトコロ、ボクニ近接武器ヲ所有スル必要性ハナイト思ワレルガ」

 

首をかしげて疑問符を浮かべてるガンマに、ルイズは答えた。

 

「あんたは魔法の銃を持ってるけど、この前の騒動で学院内での銃の使用を禁止されたでしょ? それじゃもしもって時に私を守ることができないじゃない。 それにキュルケに好かれたんじゃ、男連中が黙ってないでしょうしね。剣を持てば抑制効果にはなるし、あんたに手をだそうとする輩も出ないはずよ」

 

たしかに、あの騒動でガンマの右腕が銃だったのがかなり問題になっていたから、学院内での使用を禁じられたのだ。 つまり今のガンマは丸腰の状態であるため、攻撃手段がないのだ。

剣があれば、ルーンの効果で扱えるようになっているし、抑制効果になるなら無用な戦闘を避けれるようになるし、銃が使えなくなった事態が発生した場合、近接武器での応用が可能となる。

 

「・・デハ、プレゼントッテ事?」

 

「ご褒美なんだからプレゼントに決まってるでしょ? 言っとくけど、これはあんたが使い魔としてご主人様を守れるようにするために買ってあげるんだからね。 せっかく左手で武器が扱えるんだから有効的に使ったほうがいいし、降りかかる火の粉は自分で払いなさい」

 

そう再び厳しく言うルイズは、ガンマの体に目を向ける。 まだ身体にはワルキューレから受けた傷痕が残っているが、大したダメージではないようだ。 だが、また問題が起こらないという保障はない、剣を買うのはまた問題を起されないようにするためでもあるし・・・ガンマがまた傷ついてしまうのを防ぐためでもあるのだ。

ガンマはコクリと頷いた

 

 

「了解、マスター。感謝スル」

 

「じゃ、もう遅いし寝るわよ。明日は虚無の曜日だから授業は休みだしね、昼頃には出発するからちゃんと準備しておきなさい」

 

「了解」

 

 

どうやらこの世界でも曜日によって休みが決まっているようだ。そういえば魔法に関する情報ばかり探っていたが、この世界での常識とも言える一般的な情報はまだ得られていない・・・これらの情報も時間があったら調べてみようと思いながら、ガンマは廊下に出ようとした。

 

 

「どこに行くのよ」

 

「? 部屋ノ見張リ任務・・」

 

あ、そうだった・・・っとルイズは思い出したように頬を掻いた。

 

 

「はぁ……いいわよ。今回の見張りの仕事は免除するわ、部屋にいなさい。またキュルケに絡まれたら大変でしょ」

 

ガンマは驚いたように緑のカメラアイを点滅させた。

 

「なによ」

 

「本当ニ・・・イイノ?」

 

ガンマは恐る恐ると問いかけた。 まるで何か別の仕事でも言い渡されるんじゃないかと心配してるような態度に、ルイズはなんとなくムカついた。

 

 

「いいって言ってるでしょ! さっさと寝る!!」

 

「アイアイマムッ」

 

そうルイズが叫ぶと、ガンマはそれ以上は何も言わないで藁束を部屋に運び入れ、その上で待機モードとなった。

 

 

「ほんとにもう・・」

 

ぶつぶつ言いながらルイズも温かいベッドに潜り込んで、パチンと指を鳴らして魔法のランプを消すと、部屋は真っ暗になる。

 

ルイズも疲れたのか、瞼が自然に重くなり、眠りに入ろうとした・・・

 

 

 

「ルイズ」

 

そこでふいに、ガンマが待機モードになってる状態で、ルイズを呼んだ。

 

「んん・・・何よ?」

 

眠りを邪魔されたせいか片目を開けて少しぶっきらぼうに答える

 

 

「剣ノプレゼント・・・トテモ嬉シイ。アリガトウ」

 

 

ルイズはそのガンマのどこか感情がこもった様な無機質な言葉に、一瞬きょとんとした顔になり、頬が少し赤くなった。

 

「っ・・・あ、そう。でもまだ渡したわけじゃないんだから、そのお礼は早いわよ」

 

「ウン・・・」

 

そう誤魔化すように言って、ルイズは布団をかぶった。

 

「オヤスミ、ルイズ」

 

「・・おやすみ」

 

 

 

 

―――――今日も長い一日だったと思いながら、ルイズの寝息と共にガンマもスリープモードへと入った。



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ミッションー121:おでかけ

個人的にソニックXでガンマの走行モードのシーンを見たかったなぁって思います(´・ω・`)


今日は虚無の曜日―――――

 

この日は魔法の授業は行われず、生徒達にとって安息日である。 この日も爽やかな風が流れる気持ちのよい天気で、若きメイジ達は各々が好きなように休みを満喫しており、のんびりと羽を伸ばしていた。

 

 

 

時刻は昼頃。

 

塔の中庭で、タバサは自分の使い魔である青いドラゴンを背もたれにして、眼鏡の奥から見える海のように澄んだ青い瞳をキラキラと輝かせ、ゆったりと読書を嗜んでいた。

 

タバサは虚無の曜日が好きだった。誰にも邪魔されずに、自分の世界に好きなだけ浸っていられるからである。 彼女にとって他人は、自分の世界に対する無粋な闖入者である。数少ない例外に属する人間でも、よほどの事でない限り鬱陶しく感じるし、話し声ですら雑音でしかないのである。

それで他人からどう見られようと、彼女にとってはどうでもいいことであり、とにかく放っておいて欲しい・・と考えるタイプの少女であった。

 

虚無の曜日の時は寮の自分の部屋の中で読書をするのだが、今日は気分転換にたまには外で本を読もうと思ったらしい。 それで外に出たところ…ちょうど木の木陰で昼寝をしている自分の使い魔がいたため、遠慮もなくその巨体に背を預けて読書を始めたのである。

使い魔の青いドラゴンも主人の存在に気づいていたようで、薄目を開けてチラっとみたが、気にもせずまたすぐにグーグーと眠り出した。

 

 

ペラッ……

 

 

ページをゆっくりと捲り、彼女は次のページを開いて本の世界に没頭する。青い空と同じように青みがかった髪を爽やかな風が揺らし、彼女はこの平和な時間を満喫していた・・・

 

 

 

―――――――ドッドッドッドッドッドッ!

 

 

 

だが…そんな彼女の平穏を破るかのように、空気が響くような音がタバサを本の世界から引き剥がした。

空気に振動が伝わるような耳を劈く音で、馬小屋の馬達も驚いてヒヒーンと高く鳴いて騒いでいるのが聞こえた。

寝ていた使い魔のドラゴンも、その音に驚いたようにビクリと目を覚ましてキョロキョロと頭を動かした。

 

せっかくの休日に、一体誰がこんな音を出してるのだろうか?これではうるさくて本を読むのに集中できないではないか・・・。

と、タバサは不快そうに音の発信源である門のほうへ目を向けた。

 

 

目を向けた門の前で、ルイズと赤いゴーレムの姿が見えた。 その赤いゴーレムは学院で話題にもなっていた、ルイズの使い魔のガンマである。ルイズは肩に鞄を掛けており、ガンマは足を折りたたんだ状態で、大きな音を出してるようだ。

どうやらこの音の正体はあのゴーレムの仕業のようだ、たしか一週間前の召還の儀式でも同じような音を出していたことをタバサは覚えており、興味深げにじっとガンマをその青い瞳で見つめていた。

 

 

 

――――――ギュィィィィイイーーーーンッ!!

 

 

 

すると、ガンマはルイズを左手で抱きかかえると、大きな音を響かせながらものすごい勢いで走りだし、門から出て行った。ちょうどそこにいた門兵は、手に持った槍を落としてしまい、あんぐりと口を開けて走り去っていったガンマを見つめていた。

 

 

「・・・・速い」

 

タバサは呟いた、重い金属でできてるとは思えない凄まじいスピードであのゴーレムは走っている。 ルイズが鞄を持っているということは、どうやらでかけるためにガンマに乗っていったのだろう、どこへでかけるかは自分の知るところではないが、あのゴーレムに乗っていけば遠出するのには便利そうである。

そう驚きもせず落ち着きながら眺めていれば、あっという間にルイズを抱えたガンマはさらに遠くへ移動しており、音もだんだんと遠のいていった。興奮していた馬達も餌やりに来ていたメイドになだめられて落ち着きだしたようで、再び静けさが学院に戻ってきた。

 

タバサは表情をピクリとも動かさず、やっと彼女の集中を妨げる音が消え去って興味をなくし、静かに本に視線を向けた。

 

 

「きゅい、きゅい!」

 

だが、それとは対照に・・青いドラゴンはそのゴーレムの速さに対抗意識を燃やしたように楽しそうに声を出している。うずうずと翼を動かし、今にも飛び上がって追いかけようとしていた。

 

「ダメ」

 

ゴンッ

 

「ぎゅんっ!?」

 

 

興奮気味の自分の使い魔に、タバサは身の丈よりも長い杖で頭を叩いた。青いドラゴンは涙目できゅいきゅいと主人に抗議の声を上げるが、タバサはそれを無視してまた読書に耽っていた・・・

 

 

 

 

「タバサーーー!!」

 

 

今度は寮のほうから、慌てたようにキュルケがこちらのほうに向かって走って来た。

日に二度も読書を邪魔されるとは、安息の日を何だと思っているのだろうか・・。タバサはめんどくさそうに『サイレント』を唱え、音を消した。

 

「―――――!――――っ!――――っ!!」

 

「・・・・・」

 

急いで走って来たのか、近くまでやってきたキュルケは息を切らせながらタバサに向かって何事かを大げさに喚いているが、タバサの『サイレント』の呪文が効果を発揮しているため、声どころか足音さえもタバサに届いていない。

タバサは自分の空間に入ってきた闖入者であるキュルケに気づいているが、本から目を離さなかった。

 

 

「~ッ!」

 

――パッ

 

「あ…」

 

「~~~!!~~~ッ!!」

 

 

キュルケはタバサの本を取り上げると、タバサの肩を掴んでガクガクと肩を揺らしながら先ほどよりも激しく何かを訴えだした。

タバサは揺さぶられながらも、人形のように無表情にキュルケの顔を見つめていた。その顔からはいかなる感情も伺えないが、まったく歓迎していないことは確かであった。もし相手が他人だったなら、なんなく『ウィンド・ブレイク』でも使ってふっ飛ばしてやるところなのだが・・・相手はキュルケだ。キュルケはタバサにとって数少ない例外であり、タバサの大切な友人である。

 

しかたなく、タバサは『サイレント』の魔法を解いた。

魔法を解いたことで効果がなくなり、いきなりスイッチが入ったオルゴールのように、キュルケの口から言葉が飛び出した。

 

 

「やっと解いてくれたわね! タバサ、今から出かけるわよ!早く支度をしてちょうだい!!」

 

タバサは短くぼそっとした声で自分の都合を友人に述べた。

 

「虚無の曜日」

 

それで十分であると言わんばかりに、タバサはキュルケの手から本を取り戻そうとした。だがキュルケはタバサの手が触れる前に本を高く掲げた。タバサはルイズよりも背がさらに5サントも低く小柄であるため、背の高いキュルケが持ってる本には、タバサの手では届かなかった。

 

「わかってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよ~~く知ってるわよ。 でもね、今はそんなことを言ってられないの! 恋なのよ!恋!」

 

それでわかるでしょ? と言わんばかりのキュルケの態度であるが、タバサは首を縦には振らなかった。キュルケは感情で動くが、タバサは理屈で動く。 どうにも対照的な二人であるが・・そんな二人は何故か不思議なほどに仲が良い。

 

「そうよね、あなたは理由を説明しないと動かないのよね。ああもう! あたしね、恋をしちゃったの! 今日はどうやってその"ひと"とお話しようか考えながら着替えてたら、外から音が聞こえてきたの。でね? 気になって窓から覗いたら、あのにっくきヴァリエールがその"ひと"と一緒にでかけちゃったのよ! あたしはそれを追って、二人がどこへ行くのか突き止めなくちゃいけないんだけど、あなたの使い魔じゃなくちゃ追いかけられないの! わかった?」

 

タバサはコクリと首を縦に振った。先ほどその現場を目撃したところなので、自分の使い魔でなければあのゴーレムのスピードに追いつけないのは理解できた。

 

でも・・・タバサは一つ理解できないところがあった。たしかゴーレムがルイズの他に運んでいった"男"はいなかったはずだが・・・? 誰かはわからないがキュルケの恋の相手は、ルイズと一緒にでかけたということだろう、しかしそんな人物は見なかったし馬が借り出されたところもなかったから、タバサは首をかしげた。

 

 

「・・・相手は?」

 

「もちろんガンマのことに決まってるじゃない! あたし、彼のことがすっっごく好きになっちゃったのよ!」

 

 

キュルケの耳を疑うような発言に、タバサは無表情のまま固まった。

 

 

 

「・・・熱でもある…?」

 

「ないわよっ! 『微熱のキュルケ』だけど!熱なんてないわ!!」

 

「相手はゴーレム・・・」

 

「そんなの、些細な問題だわ。 好きになった相手が人間でなくとも、恋に境界線なんて存在しないわ! それに種族の壁は、高ければ高いほど恋を燃え上がらせるのよ!」

 

タバサは、呆れたように友人を見つめた。友人の惚れっぽさや恋愛ごとによく振り回されたことがあるためキュルケのことをよく理解してはいるつもりだ、恋をした相手が誰だろうと、それは彼女の自由である。『恋の情熱は全てのルールに優越する』 それがキュルケの家の家訓なのだそうだ。

まさかゴーレムが相手とは正気を疑うところだが・・タバサは口を挟む気はなかった。

 

 

「だからお願いよタバサ!あなたのシルフィードに乗せてちょうだいっ! もうあなたが最後の希望なのよ!助けて!」

 

キュルケはタバサに泣きついた。

 

 

「・・・・わかった」

 

 

小さく溜め息をつきながらコクリッとタバサは頷き、キュルケの表情はパァッと明るくなる

 

「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」

 

タバサは再び頷いた。 本当は読書を楽しみたいところだが・・友人のキュルケが自分にしか解決できない頼みごとを持ち込んだ、ならば仕方がない。それに自分もあのゴーレムには個人的に興味があったため、友人の頼みを引き受けることにしたのである。

 

タバサは杖をもってドラゴンの背中に飛び乗ると、キュルケも続いて飛び乗った。

 

 

「出発」

 

 

タバサは自分の使い魔にそう命じると、青いドラゴンは待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに高鳴き…二人をその背に乗せて、ばっさばっさと力強く両の翼を陽光にはためかせ、地面から飛び上がった。

 

 

「いつ見ても、あなたの"シルフィード"は惚れ惚れするわね」

 

キュルケが突き出た背びれにつかまり、感嘆の声を上げた。 そう、タバサの使い魔は『風竜』と呼ばれるウィンドドラゴンの幼生なのであった。

タバサに風の妖精という名を与えられたシルフィードは、この大きさで幼生ではあるが…『風竜』の名の如く空を風のように飛び、竜の中でも一番速い種族だ。 あっという間に空に飛び上がると、寮塔に当たって上空に抜ける上昇気流を器用に捉え一瞬で200メイルも空を駆け昇った。

正面から受ける風で赤い髪をなびかせてるキュルケに、タバサは尋ねた。

 

 

「どっち?」

 

キュルケが、あ、と声にならない声をあげた。

 

「わからない・・・。慌ててたから」

 

タバサは別に文句をつけるでなく、ウィンドドラゴンに命じた。

 

「赤いゴーレム。後を追って」

 

ウィンドドラゴンは短く鳴いて了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始めた。

高空に上り、その視力でゴーレムを見つけるのである。あのような派手な色のゴーレムを草原で見つけるなど、この風竜にとってたやすいことであった。

 

 

「きゅい!」

 

どうやらすぐ見つけたようだ。タバサとキュルケはウィンドドラゴンが向いている方角に目を向けると、草原を走る赤い点が目に見え、かすかにだが木霊する音がその方角から伝わってきた。

 

 

「すごい・・・もうあんなに進んでるの? あなたのシルフィードより速いんじゃない?」

 

「規格外・・」

 

ウィンドドラゴンの飛行速度は馬の約5倍の速さを出すことができるが、この短時間であんな距離まで走っているということは、あのゴーレムはそれ以上の速度を出しているということだ。 

 

「くるるる…!」

 

シルフィードはふんすっ!とムキになったようで、自分も負けまいと、ガンマの走っている方角へと力強く翼をはためかせた。

 

「あら。負けず嫌いなのね、あなたの使い魔」

 

「・・・知らない」

 

とりあえず、自分の忠実な使い魔が仕事を開始したことを認めると、タバサはキュルケの手から本を奪い取り、尖った風竜の背びれを背もたれにしてページをめくり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――ブロロロロロォォ・・!!

 

 

 

「マスター。目的地マデ、アトドノクライノ距離ダロウカ?」

 

「さっき看板を通り過ぎていったから、もうすぐのはずよ!」

 

 

トリステイン魔法学院から出発して30分近くが経過し、ガンマは草原の上をスポーツカー並みのスピードで走っている。

移動手段として用いている乗馬用の馬だと、学院から町まで走り続けて3時間、徒歩だと二日はかかる距離がある。それを、ガンマはなんとものの半時で駆け抜けているのだ。ガンマの腕に抱っこされた状態で必死にしがみ付いているルイズは、ピンクのブロンドの髪を乱しながらガンマの速さに内心舌を巻いていた。

 

最初は調子に乗ってガンマにさらに飛ばすよう命令してしまって、体が冷えて寒かったり、風圧で落ちそうになってしまったが、ルイズはこの自分の身に受ける風が自分の使い魔によるものだと思うと、そんなことなど気にもならず、自分が今風のように走っていることを楽しんでいた。

 

 

 

 

そうしてまたしばらく走っていると・・・前方に、目的の場所が見えてきだした。

 

 

 

 

「見えてきたわ!少しスピードを落としなさい!」

 

「了解」

 

ルイズに命令され、ガンマは少しずつスピードを落としていき、町の門が見える場所にまで到着すると、ちょうど休められそうな腰かけられる岩があるところに止まるよう指示をだした。

 

 

「あ~もう、髪がボサボサだわぁ・・」

 

途中で止まったところで、ルイズはガンマの腕から降ろされると、風で乱れてしまった髪を手で整えだした。

ガンマはガシャガシャと歩行モードに戻り、緑のカメラアイを目的地であるその場所に向けた。

 

 

 

「アソコガ・・・・」

 

 

 

カメラアイがチカチカと点滅し、その壮大な風景がカメラアイに大きく映りこんだ。

 

 

 

そこには、トリステイン魔法学院よりも、さらに巨大で立派な美しい白い城が佇み、そこを中心に大きな城壁が町を覆い囲んでいた。

 

 

ルイズはガンマに、誇らしげに説明をした。

 

 

「すごいでしょ?  あそこが、女王陛下が治める私たちの国・・・」

 

 

 

 

 

 

「『トリステイン王国』よ!」



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ミッションー122:魔剣デルフリンガー

お久しぶりです。スランプ気味でだいぶ長いこと間を空けてしまいましたが、やっと続きが書けました。
しかも気づけばこの小説も始めて1年がたってるとは・・・時が経つのってはやい(しみじみ


休憩を終えた後、ルイズは途中でガンマに走行モードではなく歩行モードで運ぶようにと指示をだして移動した。まだガンマの存在を知られていない王国で走行モードのまま行ったらまず間違いなく騒ぎが起こってしまうから、そのための対処である。岩場から結構な距離があったが、ガンマは以外にも歩行モードでもかなり早く走れるようで、それほど時間をかけずに街に到着し、多少好奇の目で見られはしたが、なんとか問題を起こすことなく街へ入れたのである。

 

 

 

――――"ワイワイガヤガヤ"

 

 

「賑ヤカナ街……人間モ沢山。ステーションスクエア以外ノ街ハ初メテ」

 

「いいところでしょ? ここは『ブルドンネ街』っていってね、王都で一番の大通りでトリステインきっての名所なのよ。ここまで活気溢れる街はそうそうないわ」

 

「ココハ、ソンナ二有名?」

 

「もちろん! この大通りの先には宮殿があってね・・」

 

トリステイン王国にやってきたルイズとガンマは、賑やかな城下町の中を歩いていた。驚いたように辺りを見回してるガンマに、ルイズは歩きながらこの街について話してくれた。

この街はトリステイン王国の首都トリスタニアで一番の大通りであるブルドンネ街と呼ぶ場所で、各地から訪れてきた商人達が仕入れてきた物資の流通から商都としても有名であり、この先にある宮殿と繋がったもっとも繁栄した街なのだそうだ。

 

周りの建物は白い石造りで出来た建物が多く、ステーションスクエアのような煌びやかなネオンや高層ビルなどがない、中世ヨーロッパのような街並みだ。 街一番の大通りにしては幅5メートルほどしかない道ではあるが、老若男女と様々な人間達が行き交い、街全体が活気に溢れている。

道端には露店が溢れ、商人が声を張り上げて仕入れてきた品を売っていた。 果物や肉などの食べ物や、籠や食器などの日用品、アクセサリーや宝石、魔法道具と様々なものも売られている。

文明どころか世界そのものが違うが、たくさんの人間達が楽しそうにしてる姿を見て、ガンマは平和な都市ステーションスクエアの風景を思い出していた。

 

「ケロッケロッ」

 

いくつも並んである露店の一つからカエルの鳴き声が聞こえ、ガンマはその店の前で立ち止まった。その店には筵の上に奇妙な形をしたカエルが入った壜が並べられていた。

 

「(データニ無イカエル・・・)」

 

そのカエルも自分の世界には存在していない種で、見たこともないものだった。前に行ったカエル捕獲任務で捕まえた尻尾の生えたカエルも特殊だったが、このカエルはこの世界特有の種なのかもしれない。ガンマはそのカエルが気になって興味深げに見つめていた。するとルイズが腕を引っ張ってきた。

 

「ほら、寄り道しないの!」

 

「ア・・、申シ訳ナイ・・」

 

ガンマは素直に謝罪した。だがやっぱり好奇心旺盛なガンマは少し名残惜しそうに見つめている。ルイズはカエルの壜を見て引き気味に顔をしかめ、ガンマを強引に引っ張っていった。

 

「もう・・それより、あんたに預けた財布はちゃんともってる?」

 

「問題ナシ。チャント保管シテアル」

 

パカッと体の装甲の一部が開き、ルイズから預かった財布を見せた。ルイズは、財布は下僕が持つものだと言って、財布をそっくりガンマに持たせたのである。 ガンマの体には回収したリングをしまうための収納ケースが付いており、容量も大きく中にぎっしり金貨がつまった財布も簡単に収納できるのだ。

 

「よし、ちゃんとあるわね。これならスリでも簡単には盗めないわ」

 

「デモマスター、財布ハカナリノ重量。イクラスリデモ、コレヲ盗ムノハ困難ト思ワレル」

 

「たしかにね。でも魔法を使われたら、一発でしょ」

 

「魔法ヲ?」

 

辺りを見回したが、周りにいるのは全て質素な服装をした平民だけで、メイジの姿は見当たらなかった。魔法学院での生活で得た情報によると、メイジはとにかくマントを身に着けているようで、もったいぶった歩き方をしている。ルイズに言わせると、貴族の歩き方だ、というのだ。

 

「デモ、メイジハ一人モ見当タラズ、普通ノ人間シカイナイガ」

 

「だって、貴族は全体の人口の一割いないのよ。あと、こんな下賎なところ滅多に歩かないわ」

 

「ダガ、貴族ガ何故スリヲスル? 上流階級ノ人間ナラバ、盗ミヲ働クメリットハ無イト思ウガ」

 

「貴族は全員がメイジだけど、メイジすべてが貴族ってわけじゃなわ。いろんな事情で、勘当されたり家を捨てたりした貴族の次男や三男坊なんかが、身をやつして傭兵になったり犯罪者になったりするのよ」

 

「犯罪者・・・」

 

どうやらメイジにも、犯罪行為をするものは存在するようだ。天才科学者でありながら悪事を働くエッグマンという例もあるし、そこは自分の世界の人間と変わりないようだ。

 

「ま、いくらメイジでもわざわざゴーレムから盗もうとする馬鹿はいないでしょうけど、油断はしないでよ? あんたの体がいかに頑丈な金属でも、魔法でその体をこじ開けてお金を奪うことだってできちゃうんだからね」

 

「ソンナコトモ可能ナノカ?」

 

「あったりまえじゃない。トライアングルメイジだったらそんなの朝飯前よ。ドットのギーシュなんかと比べ物にならないわ」

 

言われて見れば、前のシュヴルーズの授業の内容を振り返ると、『錬金』で石ころを金属類に変換することが可能なら、逆に脆い砂に変えることだってできる。そのような高レベルのメイジが犯罪に手を染めた場合、メイジなら誰でも扱える"コモン・マジック"で物を浮かしたり鍵を開けたりして金品を盗むことは簡単だし、傭兵だったら昨日の晩キュルケが見せた炎の魔法だって壁を吹き飛ばすほどの威力があったから、エッグマンのメカのゴーラやボアボアなどの炎のように、攻撃用として使用すればとても強力だ。 もしかしたら魔法の炎でも金属を溶かすことだってできるかもしれない。

 

「(『錬金』ガ ロボットノボクニモ効果ガアルカハ不明ダガ…脅威ニ値スル・・・)」

 

前の決闘でギーシュはゴーレムでしか戦わなかったが、もし自分の体に『錬金』を掛けられ頑丈な合金を脆い物質に変えられてしまえば戦闘は不可能だ。 他の『火』『水』『風』の三つの系統魔法も"トライアングル"や"スクウェア"レベルでどれほどの破壊力をもった魔法を放てるか予測できない。メイジとの戦闘経験のデータがほとんどない段階では、ギーシュの時のように装甲にかすり傷がつく程度で済まないかもしれない・・・。

 

 

―――「(モシ、ルイズヲ守リナガラ戦ウ事態ガ起コッタ時・・・ルイズガ傷ツク事無ク守レルノダロウカ・・・・)」

 

 

 

「・・ちょっと、聞いてるの?」

 

「! ゴメン、考エ事シテイタ」

 

話の最中ガンマが少し考え込んでるところを声をかけられ、慌てて主人にカメラアイを向ける。ルイズはガンマがちゃんと話を聞いてなかったと思ったようで、眉をへの字に曲げていた。

 

「どうせあんたのことだから、また露店の品に目がいってボーっとしてたんでしょ?」

 

「イヤ、ソンナ事ハ…」

 

「誤魔化したって無駄よ。まったく、ご主人様がせっかくありがたい話をしてるんだから、ちゃんと聞きなさいよね!」

 

「善処スル…」

 

フンッとそっぽ向かれた。また主人を不機嫌にさせてしまったようで、シュンッとガンマは落ち込んだ。

 

 

「……トコロデマスター、先程カラドノ店ニモ、剣ラシキ武器ハ扱ッテイナイヨウダガ・・武器屋ハドコ?」

 

街に着いてからだいぶ歩いているが、大通りに並んだ露店にはいろんな品物があるが、剣らしき武器を取り扱っているような店はなく、ガンマはどこに武器屋があるのかと問いかける。

 

「こっちよ。剣だけ売ってるわけじゃないけどね」

 

「アノ、マスター、可能デアレバ…他ノ店ヲ見テ周ッテモ・・」

 

「ダメッ! 早く来なさい!」

 

この街のマップデータを得る目的もあったので主人に了解を得ようとしたが・・さりげなく言ったお願いをルイズはきっぱりと却下し、さっさと歩いていった。

 

「マ、マスター。待ッテ・・・」

 

おろおろしながらも、ガンマは慌てて主人の後を追いかけていった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

ルイズはガンマを連れて、さらに狭い路地裏に入っていた。表の通りと違って路地裏はゴミや汚物が転がっており、悪臭を放っていて表の綺麗な通りとは大違いな場所だった。ルイズはその悪臭に顔をしかめ、鼻を摘み、不快そうにしている。

 

「汚いわねぇ」

 

「ココハトテモ不衛生・・・掃除ノ必要性アリ」

 

「だからあまり来たくないのよ…臭いし汚いし靴も汚れちゃうし、最悪だわ…」

 

そう愚痴をこぼしながら歩いていくと、四辻に出た。ルイズはそこで止まると、辺りをキョロキョロと見回した。

 

「え~っと、ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺なんだけど・・・」

 

「コンナ場所ニモ、露店ガアルノカ?」

 

「あるにはあるけど、ちゃんとこの街で経営してるお店があるのよ。ほら、あそこに看板が掛かってるでしょ」

 

ルイズが指で示した方向にカメラアイを向けると、たしかに四辻の角に何件か表の通りにもあった看板を掛けた店らしき建物があった。 看板には壺や本の絵が描かれたものがあり、それがその店の取り扱っているもののようだ。ルイズが武器屋を探してる間、ガンマは色んな形の看板に興味が出て、他にもないかと辺りを見回しながらじーっと眺めている。

 

それから、ルイズは一枚の銅の看板を見つけ、嬉しそうに呟いた。

 

「あ、あった」

 

ガンマもルイズが見つけた看板を見ると、剣の形をした看板が下がっていた。そこがどうやら、目的の武器屋であるらしかった。

ルイズとガンマは、石段を上がり、羽扉をあけた。

 

 

 

―――カランカランカラン♪

 

 

 

扉に設置されたドアベルが、羽扉が開いたことで反応しカラカラと鳴った。 中に入ると、店の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの灯りが灯っていた。 壁や棚には所狭しと剣や槍、斧などの色んな種類の武器が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。

 

薄暗い店の奥で、パイプをくわえていた五十がらみの親父が、プカプカとふかしながら入ってきたルイズのほうを胡散臭げに見つめ、紐タイ留めに描かれた五芒星に気づく。 身形や立ち振る舞いからして位の高そうな貴族だと目利きすると、パイプをはなしドスの利いた声を出した。

 

「お嬢様、貴族のお嬢様、このような場所にどういったご用件ですかな?うちはまっとうな商売してまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちも…」

 

 

 

ガシャッガシャッガシャッガシャッ

 

 

 

「ありや・・・せ・・・・・」

 

 

後から店の中に入ってきたガンマの姿を見て、ドスの利いた声が次第に小さくなり、冷や汗を流しながら顔を引きつらせていた。

まさかゴーレムを連れて買い物に来ただなんて予想はしないだろうし、主人自身になにかやましいことがあるのかどうかはわからないが、この反応は当然ともいえる。しかもガンマは背が高く2メートルもある上に、店内が薄暗いせいで緑のカメラアイから発光する薄い光がまるで悪魔の目のように見えたようで、威圧感は抜群である。

 

「客よ」

 

だがルイズはそんな店主の反応に意にも介さず、腕をくんで言った。

 

「こ、これは失礼いたしました。ゴーレムを連れた客なんて始めてなもんで・・・いやぁしかしこりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」

 

「どうして?」

 

「いえ、若奥様。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場が決まっておりますんで」

 

「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」

 

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」

 

店の主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言った。 それから、後ろのゴーレムのことは気にしないようにし、キョロキョロとその使い魔を探す。

 

「それで、剣をお使いになる方は、どちらに?」

 

店主はニコニコとそう聞いてきた。そしてルイズは首をくいっと後ろにいるガンマのほうへ動かした。

 

「こいつよ」

 

「へっ? こ、このゴーレムですかい?」

 

目をまん丸に見開いてる店主に、ルイズは頷いた。 ガンマはすっかり、店の中に並んだ武器を夢中になって観察していた。 とくに飾られてる甲冑を見て「コレモガーゴイル…?」と呟きながら指でちょんちょんとつついて、店の中のものを珍しそうに見入っている。

ルイズはそんなガンマを無視して言った。

 

「私は剣のことなんかわからないから、こいつに合うやつを適当に選んでちょうだい」

 

「で、ですが若奥様。お言葉ですがそちらのゴーレム…いや、ガーゴイルで? そのガーゴイルになぜ武器をお買いに? 土メイジでしたらガーゴイル用の武器は錬金で作るほうがお金も掛かりませんし、簡単ではありませんか?」

 

店主は素朴な疑問をルイズに投げかけた。たしかに錬金が得意分野である土メイジが、わざわざ魔法人形に武器を買って持たせるなどおかしなものである。 それにそのガーゴイルの右腕も変な形をしているが、おそらくメイスの役割をした腕かもしれないし、武器を買う必要はないように思える。

 

「こいつは~・・使い魔だから特別なのよ。いいから早く持ってきて!」

 

ルイズは言葉を濁しながらまくりあげるように言って、主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。

倉庫の奥で、彼は聞こえないように小声で呟いた。

 

 

「・・・やれやれ、ガーゴイルに合う武器を持って来いとは、無茶なことをいう小娘だわい。人間とかってが違うんだからわかるわきゃねーってのによ・・・」

 

ブツブツ文句を言いながら店主は倉庫に並べられた武器の山を漁った。

 

「 …それにしても、最初は驚いちまったが、あのガーゴイルはいかにも弱そうだなぁ・・。見た目もへんてこだし、あんな棒っきれみたいな腕じゃ棍棒だってまともに振れやしないんじゃないかね? せいぜい荷物運びくらいしか使えなさそうだが、あんなガーゴイルを連れ歩くなんて、変わり者の貴族だなぁ。 ・・ま、ワシにとっちゃ鴨がネギしょってやってきたようなもんだわい。せいぜい高く売りつけてやるとしよう」

 

 

彼は保管用の大きなガラスケースにしまってある武器を見つけると、「これならちょうどいいだろう」とケースから何本か取り出し、それを抱えて倉庫から現れた。

 

「お嬢様のガーゴイルに合いそうなものを、いくつかお持ちいたしました」

 

ドチャリッと抱えていた数本の武器をカウンターに並べ、そのうちの一つであるハンドアックスを見せた。

随分、小振りの小さな斧である。 片手で扱うものらしく、銀色の刃で、短めの柄には装飾が施された皮製のカバーが巻きつけられていた。ちょうどガンマの大きな手でも握れる大きさである。

主人は思い出すように言った。

 

「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に武器を持たすのがはやっておりましてね。人間の従者をお連れになる貴族様が特にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」

 

彼は机に並べた武器から1メイルほどの長さの、細身の剣を見せた。これもハンドアックスと同様片手で扱える代物で、短めの柄にハンドガードが付いてるものだ。両方ともきらびやかな模様が施されていて、たしかに貴族に似合いの綺麗な武器ではある。

 

「貴族の間で、下僕に武器を持たすのがはやってる?」

 

ルイズは尋ねた、店主はもっともらしく頷いた。

 

「へえ、なんでも最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして・・・」

 

「盗賊?」

 

「そうでさ。なんでも、『土くれ」のフーケとかいうメイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。盗む方法も大胆で貴族の方々は恐れているらしく、下僕に剣を持たせて武装させている始末で。へえ」

 

「ふーん」

 

ルイズは盗賊の噂話には興味がなかったので軽く流し、じろじろと斧や他の武器を眺めた。レイピアは流石に細すぎてすぐ折れてしまいそうだから論外だが、この手斧も小さすぎる。ガンマは確か、この前もっと大きな斧を片手で軽々と振っていたのだ。それに今欲しいのは斧ではなく、剣である。

 

「悪いけど、私が欲しいのは剣なのよ。それにもっと大きくて太いのがいいわ」

 

「お言葉ですが、剣と人には、男と女のように相性ってもんがございます。それはガーゴイルも例外じゃあありませんよ。見たところ、若奥様の使い魔とやらには、重い武器よりもこの程度の小振りのものが無難かと思いますが」

 

「大きくて太いのがいいと、言ったのよ。それにこいつを見た目で判断しないで頂戴!」

 

「かしこまりました」

 

ルイズは言った。 店主はぺこりと頭を下げると、カウンターに並べた武器を抱え奥に消えた。その際に小さく「素人が!」と呟くのを忘れない。

 

 

「マスター。ボクハアノ斧デモ問題ナカッタガ・・」

 

ガンマ的には手斧くらいなら体のどこかに携帯することで持ち運びができ、あのサイズなら近接戦闘の場合すぐに装備が可能で、それに斧を一度使った経験があるから小回りの効く軽い斧は都合がいいと判断した。

 

「イヤよ、小さい斧をもったゴーレムなんてかっこわるいじゃない! せっかくあんたに買ってあげるんだから、大きくて立派なものじゃないと納得いかないわ!」

 

「ソウダロウカ・・?」

 

 

だがルイズは利便性よりも見た目のほうを重視してるようだ。剣に関する情報があまりないガンマにはなんとも言えないものである。そう話しながら待っていると、今度は立派な剣を油布で拭きながら、店主が現れた。

 

 

「これなんかいかがです?」

 

先ほどの小振りのものと違い、ルイズの注文どおりの見事な剣だった。刀身は1.5メイルはあろうかという大剣で、柄は両手でも扱えるように長く、立派な拵えである。 ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように磨かれた両刃の刀身が光っている。やけに派手な剣ではあるが・・見るからに切れ味が良さそうな頑丈な大剣であった。

 

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても・・・図体はでかいですが、やっこさんのその腰の形じゃぁ剣を腰から下げるのは無理でさあ。本来なら余程の大男が腰に下げる代物なんですが、やっこさんのようなガーゴイルなら、背中にしょわんといかんですな」

 

店主はガンマの体を見てそういった。 人間体系だったならまだしも、ガンマの体の構造上、腰部分に剣を備え付けることはできそうにない。無理やり腰につけたとしても、剣があったら走行モードにモードチェンジする時の障害となってしまう。ガンマもそれには納得していた。

 

「これ、試しに持たせてもいいかしら?」

 

「どうぞ、構いませんよ」

 

「ガンマ、持ってみなさい」

 

店主にそう尋ねて了解を得ると、ルイズは後ろにいたガンマにそう指示を出す。ガンマは「了解」と言って近づき、その剣を手に取った

 

 

ピピピピッ

《―――NEW WEAPON:シュペー卿の剣―――》

 

 

「(…アノ時ト同ジ反応・・・)」

 

剣を握った瞬間、前と同じようにこの剣の情報が自動的にダウンロードされた。どうやらこの剣の名前は『シュペー卿の剣』というようだ。電子頭脳に情報がインプットされたことで剣の扱い方が手に取るように理解し、細い左腕で大剣を持ち上げ、数回ほど軽く動かした。

 

「おったまげた・・片手でもちゃんと扱えるんですな。流石はガーゴイル」

 

どうせまともに振れないだろうとたかをくくってたが、意外と腕力はあるようで店主は驚いていた。

 

「へぇ~、意外と様になってるじゃない」

 

ガンマが剣を確かめるように動かしているのを見て、ルイズはこれでいいだろうと思った。2メイルもあるガンマにはちょうどいいサイズで、護衛としてもピッタリである。店一番と親父が太鼓判を押したのも気に入った。貴族はともかく、なんでも一番でないと気がすまないのである。

 

「おいくら?」ルイズは尋ねた。

 

「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ここにその名が刻まれているでしょう? おやすかあ、ありませんぜ」

 

主人はもったいぶって柄に刻まれた文字を指差した。

 

「わたしは貴族よ」

 

ルイズも、無い胸をそらせて言った。主人は淡々と値段を告げた。

 

「エキュー金貨で2千。新金貨なら3千でございます」

 

「さ・・・3千ですって!?立派な家と、森つきの庭が買えるほどの値段じゃない」

 

ルイズは呆れて言った。 ガンマはこの世界の相場と貨幣価値の情報は得ていないので、さっぱりである。自分の世界の『リング』と同じではないのは間違いないだろう。 それに単位のほうも『金貨』と『新金貨』で種類が違うようだし、今のガンマには理解ができず首をかしげて突っ立っていた。

 

「名剣は城に匹敵しますぜ。 屋敷で済んだらやすいもんでさ」

 

「新金貨で、百しか持ってきてないわ」

 

ルイズは貴族なので、このような商人との買い物の駆け引きがへたくそだった。あっけなく財布の中身をばらしてしまう。 主人は話にならない、というように手を振った。

 

「まともな大剣なら、どんなに安くても相場は二百でさ。百ぽっちじゃ、さっきの斧だって買えませんぜ」

 

「う・・・」

 

ルイズは顔をガンマのボディーの色のように赤くした。剣がそんなに高いとは知らなかったのだ。 ガンマに立派な剣を買ってやると息巻いていたのに、完全に赤っ恥である。

 

「マスター、ドウスル?」

 

「仕方ないわね・・・残念だけど買えるやつにしましょう。ガンマ、それ返しときなさい」

 

「了解」

 

ルイズの指示に従い、ガンマは剣を店主に返した。

 

 

 

――――そのとき・・・・、乱雑に積み上げられた剣の中から、笑い声がした。低い、男の声だった。

 

 

 

「こいつはお笑いだ! たった百しかもってないのに剣を買うだって? 世間知らずにも程があら!」

 

 

ルイズとガンマは声の方を向いた。それと同時に、店主は頭を抱え「また始まった…」とうんざりしたように呟いた。

 

「しかも、よりにもよってガーゴイルの武器にだと…? 冗談じゃねぇ! 木偶人形に力任せに振り回されるなんざ剣が泣いちまうぜ! そこの卵みたいなへんちくりんには、そこらへんの棒っきれを持たせたほうがお似合いさ!」

 

「・・?・・??」

 

ガンマはいきなり悪口をいってきた人物がいる方をキョロキョロと探した。しかし、声の聞こえてくるほうには人影はない。ただ、乱雑に剣が積んであるだけである。それなのに声だけが聞こえてくるので困惑している。

 

「おめぇみたいなのはガキの買い物に付き添って荷物運びをしてるほうがちょうどいいぜ、卵野郎。わかったらさっさとご主人様と一緒に帰りな! おめぇもだよ! 貴族の娘っ子!」

 

「失礼ね!どこにいるのよ!」

 

ルイズは怒り心頭に声のするほうに向かって怒鳴った。ガンマは、ガシャガシャと声のする方に近づいていき、緑のカメラアイで辺りをサーチした。

 

「生体反応無シ…。誰モイナイ・・・」

 

「おめぇのその緑の目玉は飾りか!」

 

「ッ!」

 

 

ガンマは驚いた。なんと、声の主は一本の剣であった。さびの浮いたボロボロの剣から、声が発せられているのであった。

 

 

「剣ガ・・・・・喋ッタ?」

 

「なんだ、剣が喋っちゃいけねぇってのかよ?おめぇみたいな木偶人形だって喋ってるんだ、喋る剣があったっておかしかあねぇだろ!このタマ公!」

 

「タ、タマ公・・?」

 

ガンマはポカーンとした様子で見ていたら、店の主人が怒鳴り声をあげた。

 

「やい! デル公! お客様に失礼なこと言うんじゃねえ!」

 

「デル公…?」

 

ガンマは、その剣をまじまじと見つめた。スキャンしてみたところ、さっきの大剣と長さは変わらないが、刀身が細く、薄手の長剣である。 少ないデータの中に載ってあったサムライブレードとよく似ている。 ただ、刀身の表面には錆が浮き、お世辞にも見栄えがいいとは言えなかった。

 

「お客様? たった金貨百枚しかもってねぇ貴族の娘っ子に、この弱そうなへなちょこガーゴイルがお客様だぁ? ふざけんじゃねぇよ! おままごとなら他所でやれってんだ!」

 

「黙りやがれ! てめぇみたいな性根のひん曲がったやつに比べりゃ、こっちのガーゴイルのほうが大人しいしかわいいもんさ! 爪の垢でも煎じててめぇにぶっかけて、もっと錆びだらけにしてやりたいくらいだ!」

 

「知ったことかよ!出来るもんならやってみやがれ!」

 

ギャー!ギャー!と、店主と喋る剣が口喧嘩を始めだした。

 

 

「・・・これって、インテリジェンスソード?」

 

ルイズが、当惑したように声をあげた。

 

「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。 いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣を喋らせるだなんて・・・。こいつはとにかく、やたらと口が悪いわ、客に喧嘩を売るわで閉口してまして、ほとほと困らされてるんでさ・・・・。やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめぇをドロドロに溶かしちまうからな!」

 

「おもしれ!やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」

 

「やってやらあ!!」

 

店主が裾を巻く利上げて動き出した。しかし、ガンマはそれを遮る。

 

「店主サン、落チ着イテ。ボク、コノ喋ル剣、トテモ興味深イ」

 

それからガンマは、緑のカメラアイでまじまじとその剣を見つめた。学院で見たゴーレムやガーゴイルなどの魔法人形とは違う、武器そのものに意思がある。喋る武器など初めてみたので、ガンマはとても興味が引かれた。

 

「初メマシテ、デル公。ボクノ名前ハE-102γ(ガンマ)、ヨロシク」

 

「ちがわ!俺はデル公じゃなくてデルフリンガーさまってんだ!驚きやがれ!」

 

「見た目も性格も悪いですが、名前だけは一人前でさ」

 

店主がそう付け足した。

 

「了解、訂正スル。ヨロシク、デルフリンガー」

 

「ヨロシクじゃねぇーよ!ったく、ガーゴイルのくせに変なやつだな、なんか調子が狂うぜ・・。まぁいいや、ちゃんと挨拶できる点はガーゴイルにしちゃ上出来だ、褒めてやらぁ。ヨロシクなタマ公」

 

「ウン、ヨロシク」

 

ぶっきらぼうに挨拶したのに、無機質な声でペコリと挨拶された。 普通なら自分の罵詈雑言で相手は怒り心頭になってるはずだが、このガンマってガーゴイルは一向に反応してこず、じーっとデルフリンガーという剣を見つめている。デルフリンガーはその視線がなんだか居心地が悪く、再び暴言を吐いた

 

「ほら、挨拶は済んだろ?ジロジロ見るんじゃねぇよ! 言っとくが俺はおめえなんかに使われるつもりはないかんな!さっさと帰りやがっ・・・・・・」

 

「?」

 

突然、あれだけうるさかった剣が黙った。じっと、ガンマを観察するかのように黙りこくった。

それからしばらくして、剣は小さな声で喋り始めた。

 

 

「おい、おめえ・・・・俺を持ってみろ」

 

「エ・・?」

 

「いいから、俺を持て」

 

あれだけ騒いでた剣が、静かに語りかけた。そんな有無を言わさぬような言動に、ガンマはすこし困惑しながらも、言うとおりにして剣を左手で握ったと同時に、剣のデータがダウンロードされる。

 

 

 

ピピピピッ

《―――NEW WEAPON:魔剣デルフリンガー―――》

 

 

 

左手のルーンが光だし、剣に関するデータが電子頭脳に流れ込んだ。魔剣というから何か特別な構造にでもなってるのかと思ったが、やっぱり金属の剣のようだ。魔法のエネルギーも感知できないし、どういった仕組みで喋ってるんだろう?

ガンマが不思議そうに思ってると、剣がカタカタと震えた。

 

 

「………おでれーた、本当におでれーた。見損なってた。てめ、ガーゴイルのくせに・・・『使い手』か」

 

「『使イテ』?」

 

「それに・・・おめえの中の、このエネルギー・・・・・どこかで・・・・」

 

「・・・?」

 

ブツブツと呟くばかりで、まるでうろたえているような様子である。一体どうしたのだろう?

 

「デルフリンガー、大丈夫?」

 

ガンマは少し心配になり、剣に声をかけると・・・剣は突然閉じてた口を開きだす

 

 

「決めたぞ。おめ、俺を買え」

 

「エ・・デモ、帰レッテ・・・」

 

「うるせ、気が変わったんだ。剣が欲しいんだろ?だから俺が買われてやるんだ。感謝しやがれ」

 

「・・リョ、了解」

 

なんだかよくわからないが、ガンマはそう言った。すると剣は、黙りこくった。

 

「ルイズ、コノ剣ニ決定スル」

 

ルイズはいやそうな声をあげた。

 

「ぇえ~~~~。そんなのにするの? もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」

 

「デモ、喋ル剣ハ珍シイ。希少性ガ高イト判断。ソレニ、ナンダカ・・人間ノ言葉デ例エルナラ、気ニ入ッタ」

 

ガンマは左手に掴んだデルフリンガーを眺めながら、無機質な声でそういった。なんとなく、そう感じたのである。

 

「むー・・・まぁ、あんたがそれがいいんなら、別に構わないけど・・プレゼントが錆びた剣だなんて・・」

 

ルイズはぶつくさ文句を言ったが、他に買えそうな剣もなく、ガンマが気に入ったならしょうがない。ルイズは店主に尋ねた。

 

「あれ、おいくら?」

 

「あれなら、新金貨百で結構でさ」

 

「安いじゃない、安くても相場は2百なんでしょ?」

 

「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ。こいつにゃこの価格で十分ですよ」

 

主人は手をひらひらと振りながら言った。

 

「ガンマ、財布を出して」

 

「了解」

 

ガンマは収納ケースからルイズの財布を取り出すと、中身を広げた。中には金貨や銀貨、銅貨などの硬貨がジャラジャラと入り混じっている。ガンマは中身から綺麗な金貨を一枚取り出した。

 

「マスター、新金貨トハ、コレ?」

 

「そうそれよ。それを百枚払って」

 

「了解」

 

ガンマは財布の中身を緑のカメラアイをチカチカと点滅させて、選別を開始する。左手で新金貨のみを機械的に識別して10枚づつ重ねて取り出し、カウンターの上に並べる作業を始めた。

 

「最近のガーゴイルは、こんなこともできんのか・・。それに手際もいいし、うちにも一体欲しいねぇ」

 

と、店主は感服したように驚いてる間に、カウンターにはあっという間に綺麗に並べられた新金貨が10枚ずつ重ねられていた。ガンマは店主に確認とった。

 

「確認ヲオ願イシマス」

 

店主は慎重に枚数を確かめると、頷いた。

 

「毎度」

 

剣を取り、鞘に収めるとガンマに手渡した。

 

「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」

 

「アリガトウゴザイマス」

 

と、ガンマはペコリとお辞儀して、デルフリンガーという名前の剣を受け取った。

 

「じゃ、剣も買ったことだし、出るわよガンマ」

 

「了解、マスター」

 

主人のルイズに従い、店の玄関へ後に続いて行った。

 

 

……チャキッ

 

 

ガンマはもう一度、鞘に収めた剣を少し抜いて、その剣に話しかけた。

 

 

「改メテ、コレカラヨロシク。デルフリンガー」

 

「おう!よろしく頼むぜ、"相棒"!」

 

「・・・相棒?ボクハ、ガンマ…」

 

「相棒は相棒さ。それから、俺のことはデルフって呼んでくれや。そのほうが呼びやすいだろ?」

 

「了解、キミノ事ハ、デルフト呼ブ」

 

「へへへ。 おめぇの中の力…、どんなもんか期待してるぜ」

 

カタカタと鍔を動かし、なんだか笑ってるかのように見えた。

 

「デルフノ言ッテル事・・理解不能」

 

 

 

 

――――そんな気さくな剣と出会い、ガンマは初めての相棒を得た。



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ミッションー123:買物帰り

お待たせしました。今回が短いですが次の話です。



「すーー、はぁ~~っ・・やっとまともな空気が吸えたわ」

 

 

武器屋を後にして、剣を買う目的果たしたルイズとガンマはそのまま路地裏から大通りに出た。 悪臭の立ち込める路地裏から開放され、ルイズは何度か深呼吸する。それに合わせる様に、先ほど購入した剣が喋りだした。

 

「俺もだよ、長えこと店ん中に置かれっぱなしだからな、お日さんを拝めるなんざ久方ぶりだ。俺を買ってくれてあんがとよ、相棒!」

 

「オ礼ハ、マスターニ言ウベキト推奨スル。マスターガボクノ為ニ買ッテクレタ」

 

「おっとそうだったな。礼を言うぞ貴族の娘っこ」

 

「そこはご主人様か、ルイズ様って呼びなさいよ!ほんとに失礼な剣ね!」

 

「そう堅いこと言うな、これから相棒の剣として一緒にいることになったんだからよ。世話になるぜ貴族の娘っこ」

 

 

武器屋で購入した意思を持つ魔剣『デルフリンガー』は、上機嫌に声を出した。喋る錆びた魔剣デルフリンガーを買ってもらったガンマは鞘のベルトを肩にかけて剣を引っさげて、歩くたびに鞘が体にあたり音が鳴っており、現在デルフは鞘から少し刀身が出てるから喋れていた。 路地裏を歩いてる間、あんなに罵言雑言を吐いてた剣はガンマに陽気に話しかけ、ガンマもインテリジェンスソードと普通に会話を行っている。ゴーレムが剣とお喋りをしてる奇妙な光景を、ルイズはなんとも言えない顔で見ていた。

 

 

「私としては、あんたはずっと店の隅っこで埃を被ってるほうがお似合いだと思うけどね」

 

デルフはその言葉に反応して金具をカタカタと鳴らした。

 

「なんだと娘っこ!」

 

「だってそうじゃない。魔剣なのに口も悪いし錆びだらけだし、あんたみたいなボロ剣を店主が処分したい気持ちがわかるわ」

 

「誰がボロだ! 今はこんなだが、このデルフリンガー様は昔は伝説の魔剣といわれてたんだぞ!」

 

「嘘おっしゃい、あんたのどこが伝説よ!」

 

「二人トモ、喧嘩、ダメ…。」

 

ガンマは二人を宥めようとする。ルイズは、手を額に当てため息混じりに言った。

 

「あんたみたいなボロ剣を新金貨百枚もだして買ってあげたんだから、私にも敬意を見せるのが筋でしょうに・・とんだ不良品だわ」

 

そんなルイズに、デルフは鼻で笑うように金具をカタカタと動かして吐き捨てた。

 

「ケッ、懐どころか、胸まで薄い娘っこがよく言うぜ。」

 

 

―――ピキッと、ルイズのこめかみに血管が浮き出た。

 

 

「な・・・・なんですってぇ~~!!!」

 

ルイズは今にも掴みかからんといった勢いでデルフに詰め寄る。その剣幕に、デルフは「ヒェッ」とたじたじになった。

 

「マ、マスター、落チ着イテ。ココ、大通リ」

 

怒ったルイズにおろおろしながら、ガンマはそう注意する。後ろを見れば、大通りを歩いてる人や商人が、叫んでるルイズになんだなんだと注目していた。

ルイズはそれにハッと気づくと、気まずそうに顔を赤くさせ大人しくなった。そしてガンマが持ってるデルフを睨みつける。

 

「ガンマ、そいつを黙らせといて!」

 

「了解」

 

主人の命令に従い、ガンマはデルフを完全に鞘に収めた。店主の言ったとおり、鞘にしまわれたことであれだけ喋ってたデルフは静かになった。 また喧嘩になってしまいそうだから、このままにしておいたほうが良さそうだとガンマは判断する。

 

 

「ねぇ、本当にそれでよかったの? いくら気にいったからって…そんな剣じゃ武器として役に立たないんじゃないの?」

 

「ボクハ剣ニ関スルデータヲアマリ持ッテイナイカラワカラナイガ、錆ガ発生シテイルタメ、攻撃能力ガドレ程ナノカハ不明。ダガ、剣ヲ所有スレバ抑制効果ガ発揮スルコトハ間違イナイ。ソレニ、スキャンシテミタ結果、デルフニ使ワレテイル金属ハ通常ノ金属ヨリモ丈夫デアル為、使用上ハ問題ナイト思ワレル」

 

緑のカメラアイをチカチカと光らせて、肩に引っさげたデルフをスキャンしてそう判断した。ルイズは『スキャン』という言葉に首をかしげた。

 

「そういえば、前からデータだのなんだの意味わかんないこと言ってたけど・・、スキャンってなんなの?それに今の言い方…まるでそのボロ剣の素材がなんなのかわかったような口ぶりよね」

 

「"スキャン"トハ、簡潔ニ述ベレバ『走査』…細カク調ベルトイウ意味。 ボクニハ対象ノ物質データ・・・ツマリ、情報ヲ分析スル能力ガアリ、ドノヨウナ物質ナノカ調ベル事ガ可能。タダシ、以前ニモ言ッタヨウニ情報ガ不足シテイルタメ、機能ニモ限界ガアル」

 

ガンマの意外な能力にルイズは目を丸くした。

 

「へぇ~!あんたってそんなこともできたんだ。ロボットって便利なのね・・」

 

見ただけで物質の鑑定までできるだなんて、メイジ以外に、ましてや普通のゴーレムではありえないことだ。 この能力があれば、秘薬の材料探しの効率がぐんと上がるだろう。

他にもまだ自分の知らない能力をガンマは持ってるのだろうか・・? そう思うと期待が膨らんだ。

 

 

「(案外、空まで飛べちゃったりしてね…)」っと、冗談まじりに胸の内で笑った。・・・だがガンマが持ってる剣に目をむけると、ルイズは不満そうな顔をした。

 

 

「でもさぁ…そんなあんたに錆びた剣じゃ不釣合いよ。やっぱりもっとまともな剣に買い換えたほうがいいわ」

 

ルイズは横目でガンマが持ってるデルフに向けて言うと、デルフが金具をカタカタと鳴らした。どうやら抗議の声をあげようとしてるが、鞘に収まってるため喋ることはできないようだ。

ガンマはルイズに緑のカメラアイを向け、無機質な声で答える。

 

「店主ガ提示シタ剣ノ相場額ヲ考慮シタトコロ、現在ノルイズノ所持金デハ、他ノ剣ノ購入ハ難シイト思ワレル。手斧モ購入出来無イノデハ、買イ換エハ不可能ト判断。ソレニ、ルイズハモット買物ノ相場額ヲ理解スル事ヲ推奨スル」

 

「ぐっ・・・あんた、ご主人様が恥をかいたばかりなのに、ハッキリ言うわね・・・」

 

 

普段ならガンマのこの余計な一言に怒っているはずのルイズだが、ガンマの言っていることは正論であり、剣の相場を知らなかった自分に落ち度があったことは否定できない。しかし、ルイズはご主人様としての器量を見せるためにガンマに似合うような立派な剣を買ってやろうとした結果がこれなのだ。

今の所持金ではこれしか買えず、ガンマが気に入ったとはいっても、彼女は貴族のプライドとしては納得できないのだった。

 

 

「デモマスター。ボクハ、プレゼントヲ貰ッタノハ初メテノ経験。マスターガボクノタメニ、デルフヲプレゼントシテクレタ。ボク…トテモ嬉シイ。ダカラ、デルフヲアリガトウ、マスター。大切ニ スル」

 

そんな彼女に、ガンマは素直に感謝を述べた。ボロボロの剣だろうと、ルイズがただのロボットである自分のためにプレゼントをしてくれたことがなにより嬉しいことだった。

 

「・・ご、ご主人様として当然のことをしたまでよ! せいぜいそのボロ剣を壊さないように扱いなさい!」

 

「了解、マスター」

 

ガンマの感謝の言葉に、ルイズはご主人様らしく無い胸を張る。照れくさそうにほんのりと頬が赤くなっているというのに、素直になれないルイズであった。

 

 

 

 

―――「(・・・・よろこんでくれたなら、いっか)」

 

 

 

そう思い、顔に笑みが戻ったルイズは、ガンマを連れて大通りを通っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見~つけた。 こんなところにいたのね」

 

少し離れた物陰から、ルイズとガンマを見つめる二つの影があった。学院からルイズ達の後を追ってきた、キュルケとタバサである。

 

シルフィードのように大地を風のように走るガンマを追いかけて、ようやく街にまで着いて二人の姿を見つけると、ここまで尾行してきたのである。 隣にいるタバサは、もう自分の仕事は終わりだとばかりに本を読んでいた。

 

「ふぅん、なるほどね・・・自分の使い魔に剣を買ってあげるために街に来たってわけ。剣のプレゼントで気を引いて、あたしを遠ざける魂胆かしら? あたしを出し抜くだなんて、ゼロのルイズのくせに生意気なことするじゃない!」

 

 

キュルケはつまらなそうに見つめると、物陰からガンマが持っているものを見て、ギリギリと唇を噛み絞めた。 本当なら今頃、ルイズの部屋に突入してガンマにアプローチをかけて、上手く誘導して連れ出した後二人きりで時間を過ごすつもりだったのだ。 それをあのルイズに邪魔されたのだから、彼女は悔しさのあまり地団駄を踏んでいた。

 

その二人が近くに居ることに気づいていないルイズとガンマは、元来た道を通って出入り口の門へと向かっていった。 キュルケは二人が見えなくなったあと、物陰から出てきてくつくつと笑う。

 

「ふふふ・・でも甘いわね、ヴァリエール。いくら大剣と言ってもそんな細そうな剣じゃ、ガンマには不釣合いだわ。プレゼントするなら、もっと頑丈なものにしないと話にならないわよ」

 

キュルケは燃えるように赤い髪をかきあげ、ルイズ達が出てきた路地裏のほうに向いた。

 

「・・剣を買うの?」

 

ずっと口を閉じていたタバサは、ポソリと呟いた。だが視線は本に向けたままである。

 

「当然よ! あんな安物よりもガンマに相応しい立派な剣を持たせた方がいいに決まってるもの。ヴァリエールなんかに負けてらんないわ! たしか武器屋はあそこだったわね? いくわよタバサ!」

 

意気揚々とキュルケは路地裏に入っていった。

 

 

「・・・・・」

 

なんでゴーレムにそこまで入れ込むのだろうか・・・っと、流し目で友人の姿を見つめながら、タバサは小さくため息をつく。

 

 

――グウゥゥ…

 

 

「・・・お腹すいた」

 

 

あとでキュルケにご飯を奢って貰おうと思いながら、自分もキュルケのあとを追っていった。




次回でやっとフーケ編です。


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ミッションー124:月夜が照らす影

お久しぶりです。あいかわらず亀更新で申し訳ないです。


――――――太陽が完全に沈み、すっかり夜が更け巨大な二つの月が魔法学院の本塔の外壁を照らしている。  広大な草原に佇む魔法学院を赤と青のそれぞれの輝きを持つ月によって放たれる月光がコントラストとなり、昼間とはまた違う幻想的な風景を見せている。

 

 

その二つの月が照らす本塔の天辺に、一つの人影が立っていた。 人影は顔をすっぽり覆うようにフードを被り、ローブを身にまとっている。マントが夜風に吹かれてバサバサとはためき、月の光に照らされて黒いシルエットとなる。その姿はまるで人の姿をした巨大な蝙蝠のようだ。

 

 

・・・バサァッ!

 

 

ローブのマントをはためかせ、本塔の屋根から飛び降りる。 落下しながらぶつぶつと口の中で呟き、右手に握られた杖を振った。

 

すると、落下速度がゆっくりとなり、ふわり・・・っと一枚の羽毛のように本塔の外壁に着地した。人影は自然な動作で、まるで地面の上に立つように外壁の上を垂直に立った。 このような芸当はメイジにしかできない技である。 だが、貴族であるメイジにこんな真夜中に塔の天辺に上ってこのような酔狂なことをする者がいるだろうか・・・?

 

 

 

 

―――否、該当する人物は一人だけ存在した。

 

 

 

 

「お宝を頂戴するには…いい夜ね」

 

 

 

そう、この人影こそ・・・『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に落としいれた、悪名高いメイジの盗賊「土くれのフーケ」であった。

 

 

フーケには数々の武勇伝がある。北の貴族の屋敷に、宝石が散りばめられたティアラがあると聞けば、早速赴きこれを頂戴し、南の貴族の別荘に先帝から賜りし家宝の杖があると聞けば、別荘を破壊してこれを頂戴し、東の貴族の豪邸に、北の国の細工師が腕によりをかけて作った石咬みの指輪があると聞いたら一も二もなく頂戴し、西の貴族のワイン倉に、値千金、百年ものヴィンテージワインがあると聞けば喜び勇んで頂戴する。

神出鬼没の大怪盗、土くれのフーケに盗まれた宝の数は数知れない。

 

そしてフーケの盗みの手口は、闇に紛れ込んで繊細に屋敷に忍び込んだかと思えば、大胆にも屋敷を粉々に破壊して盗み出したり、白昼堂々と警備の厳しい王立銀行を襲ったかと思えば、夜陰に乗じて邸宅に侵入して盗み出し、衛兵が気づいたときには金庫の中は空となって、フーケはすでに姿を消しているのだ。

 

フーケのその盗み方は行動パターンが読めず、トリステインの治安を預かる王室魔法衛士隊も振り回されてばかりで手を焼いていた。

 

しかし、貴族とてむざむざ宝を盗まれるのをただ指をくわえてるわけではない。 フーケの盗みの方法には共通する点が存在する。フーケは狙った獲物が隠されたところに忍び込む時には、主に『錬金』の呪文を使い、屋敷の壁や扉を粘土や砂に変えて穴を開けて忍び込むのだ。 それらの手口から対抗できるよう対策を練って、屋敷の壁や扉は、強力なメイジに頼んでかけられた『固定化』の魔法で、フーケの『錬金』の魔法から守られている。

 

しかし、フーケの『錬金』はそのメイジの『固定化』をはるかに上回っていた。大抵の場合、『固定化』の呪文などものともせず、強固な扉や壁をただの土くれへと変えてしまうのだ。

 

さらに忍び込むばかりでなく、フーケが屋敷を破壊する時によく使われるのが、巨大な土ゴーレムだ。その身の丈は軽く三十メイルはあるほどで、城でさえも壊せるような巨大なゴーレムである。 腕利きの魔法衛士隊が集まってこようと、まるで羽虫でも払うかのごとくそれを蹴散らし、白昼堂々とお宝を盗みだしたこともある。

魔法を掻い潜って接近戦に持ち込んだ者も何人かいたが、フーケは魔法だけでなく体術も得意なようで、その鋭い蹴りは屈強な男でさえも蹴り伏せてしまい、あっけなく逃げられてしまう。

 

そのような盗みの技から、フーケは『土くれ』という二つ名を付けられ、「土くれのフーケ」と呼ばれるようになった。

だが土くれのフーケの正体を見たものはいない。 ローブでスッポリと顔を隠しているため、男なのか女なのかさえ謎である。ただわかっていることは……おそらくトライアングルクラスの強力な『土』系統のメイジであること。

 

そして、お宝を盗んだあとは必ず、犯行現場の壁に

 

 

―――『秘蔵の○○。確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

と、ふざけたサインを残して去っていくこと。 そして、いわゆるマジックアイテム・・・・、とくに強力な魔法が付与された数々のお宝が何より好んでるということであった。

 

そんな大怪盗が次に狙うターゲットが・・・このトリステイン魔法学院だった。今、フーケが垂直に立っている場所が、本塔の五階に位置する宝物庫である。今回フーケが狙うお宝は・・・この宝物庫の中に眠る『破壊の杖』であった。

 

 

 

フーケはフードの中から伸びる青い、長い髪を夜風になびかせ悠然と佇む様に、国中の貴族を恐怖に陥れた怪盗の風格が漂っている。

フーケは口元をわずかに歪め、足から伝わってくる壁の感触に舌打ちをした。

 

「チッ…流石は魔法学院本塔の壁ね。 守りも完璧だわ・・。 物理的な衝撃が弱点? こんなに分厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!」

 

『土』系統のエキスパートであるフーケは、足の裏で壁の厚さを測ることができる。 トライアングルクラスといわれるほどのフーケにとって、そんなことなどぞうさもないことだった。

 

「確かに、『固定化』の魔法以外はかかってないみたいだけど・・・こんだけ分厚けりゃ、ゴーレムどころか大砲でも壊せそうにないね・・・・まったく、まるで要塞だよ」

 

フーケは腕を組んで悩んだ。

強力な『固定化』の呪文がかかってるから、『錬金』で穴をあけるわけにもいかない。 この五階周辺の外壁を調べてみたが、どこにも綻びがないほど強固な作りをしている。 物理的衝撃を何度も与えればいずれは崩れるかもしれないが、いくら三十メイル級の土ゴーレムでも壊すのに時間が掛かりすぎる。 いっそのこと宝物庫の鍵を盗もうかとも考えたが・・・その鍵は学院長のオールド・オスマン自身が管理しているため、盗むのは難しい。

 

「手っ取り早く済ますなら、いままでのようにゴーレムでぶち破るのが一番だけど・・・この分厚さじゃ貴族の屋敷のようにはいきそうにないか…。まずはこの邪魔な壁をどうにかしないと、中に入ることは不可能ね」

 

獲物を目前にして手も足も出せず、ギリ…と歯噛みをした。

 

「かといって、このまま『破壊の杖』を諦めるわけにゃあ、いかないね・・・・なんとしても手に入れてやるさ」

 

フードの中から覗かせるフーケの目が、きらりと光った。そして腕組をしたまま、じっと考え始めた。

 

 

 

 

 

――――――― 一方、フーケが本塔の壁に足をつけて悩んでるころ・・・。ルイズの部屋では騒動が持ち上がっていた。

 

 

 

「こんな時間に一体何の用よ、ツェルプストー」

 

部屋の中心で、ルイズは腰に手を当てながらある人物と睨み合っていた。 不倶戴天の敵、キュルケである。

夜の優美な時間をガンマが淹れてきた紅茶を飲みながらゆったりと過ごしていたところを、キュルケは何やら布で包んだ大きな長物を両手で抱えて押しかけてきたのだ。 傍らではガンマは二人の険悪な様子にどう対応したものかとおろおろとカメラアイを動かしており、いつの間にかタバサはベッドに座り、我関せずといった態度で本を広げていた。

招かれざる客であるツェルプストーによってせっかくのティータイムを台無しにされたのもあるが、 昨日の夜の出来事もあったため…ルイズの表情にはいつもよりも険しく怒りを滲ませていた。

 

「別にあなたに用があって来たんじゃなくってよ、ヴァリエール」

 

「じゃぁなんなのよ。 用がないなら帰ってちょうだい!」

 

今にも睨み殺しそうなほどの眼光で睨みつけているが、キュルケは悠然とそんなルイズの視線を受け流す。

 

「実は、あなたの使い魔に用があってね」

 

「ガンマに?」

 

ルイズは眉を上げてガンマに振り返る。 

 

「エ・・ボク二?」

 

「そう。あ・な・た・に♪」

 

まさかのご指名に、キョトンとしたようにガンマは自分を指差すと、キュルケは笑顔でにっこりと答える。

抱えていた長物の布をシュルシュル…と解いていくと、中からピカピカに輝く綺麗な長剣が姿を現した。

 

「ぁあーっ!? そ、それって…!!」

 

それを見て、気づいて叫んだのはルイズだった。その剣に見覚えがある・・・あの武器屋の親父が店一番の名剣と太鼓判を押していた『シュペー卿の剣』であった。

 

「綺麗な剣でしょう? 武器屋のご主人が、お店一番の業物だってみつくろってくださったの」

 

ピカピカに輝く刀身を指で優しくなぞって、自慢するようにルイズ達に見せ付けた。

 

「どういうことよ、ツェルプストー!」

 

「どうもなにも、ボロ剣しか買えない貧乏なヴァリエールに変わって、ガンマに立派な剣を渡しにきたのよ」

 

「だ・・・だれが貧乏よ! っというか、なんであんたが剣のこと知ってるのよ!」

 

「さぁ? どうしてかしらねぇ?」

 

わなわなと指を震わして愕然とするルイズを見て、キュルケは小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

どうやらキュルケは、ルイズ達が立ち去った後に武器屋の訪れて、ガンマにプレゼントするためにこの高価な剣を購入したようだ。つまり、キュルケはルイズ達がブルドンネ街に行ったの知って、どういうわけか馬よりも速く走るガンマの後を付けてきたということだ。

よりにもよってあの憎っきツェルプストーに剣のことを知られた上に、ガンマへのプレゼントに自分が買ったものよりも格段に上な代物を用意してきたのだ。つまりボロ剣しか買えなかった経緯も知っているということだろう。 ルイズはそう確信すると、キュルケの抜け目の無さにギリギリと歯を立てた。

 

「ま、そんなことどうだっていいわ」

 

まるで眼中にないかのように優雅に振る舞い、キュルケはとことことガンマの傍によって剣を贈った

 

「ほらガンマ、あたしからのプレゼントよ♪」

 

ガンマはあまり状況が飲み込めてない様子で一瞬とまどったが・・キュルケが自分のためにプレゼントをしようとしてるのだと判断した。昨日ルイズに絶対にキュルケに関わるなと命令されたが、あの『シュペー卿の剣』はたしか "立派な家と森付きの庭"が帰るほどの破格の値段だったものだ。 どうして彼女が自分のためにそのような高価な剣をプレゼントしてくれるのか理由はわからないが・・・自分のために買ってくれた彼女の好意を無下にするわけにはいかないだろう。

 

「アリガトウ。キュルケ」

 

お礼を言って、受け取ろうと左手を伸ばすと…そんなガンマを見てルイズは足を蹴飛ばした。

 

 

「ガンマッ! あんた昨日言ったことを忘れたんじゃないでしょうね!?」

 

 

ビクッと、ルイズの怒声によって剣に伸ばした手が止まる。ルイズを怒らせたら怖いと学習しているため、怒声に反応したようだ。

 

「ア…、マスター・・デモ・・」

 

「でもじゃないの! あんたには、あのしゃべるのがあるじゃない!」

 

「シカシ・・・」

 

ガンマは困ったように音声を落としながら、迷うように手を伸ばしたり引っ込んだりと動かしている。

 

 

「嫉妬はみっともないわよ? ヴァリエール」

 

キュルケは、勝ち誇った調子で言った。

 

「は? 嫉妬? 誰が嫉妬してるのよ!」

 

「そうじゃない。 ガンマにピッタリな剣を、あたしが難なく手に入れてプレゼントしたもんだから、嫉妬してるんじゃなくって?」

 

「誰がよ! やめてよね! ツェルプストーの者からは豆の一粒だって恵んでもらいたくないだけよ!」

 

キュルケはガンマを見た。 どうすればいいのか困ったように剣を見つめている。

 

「見て御覧なさい。あなたがきつく言うからガンマが困っちゃってるじゃない。 知ってる? この剣を鍛えたのはゲルマニアの錬金術師、シュペー卿だそうよ」

 

それからキュルケは、熱っぽい流し目をガンマに送った。

 

「ねえ、あなた。 このままでよくって? ゲルマニアと違ってトリステインの女ときたら、このルイズみたいに嫉妬深くて、気が短くって、ヒステリーで、プライドばかり高くって、どうしようもないんだから」

 

ルイズはキュルケをぐっと睨みつけた。

 

「なによ。ホントのことじゃないの」

 

「へ、へんだ。あんたなんかただの色ボケじゃない! なあに? 男を漁りすぎて相手にされなくなったから、トリステインまで留学して来たんでしょ?」

 

ルイズは冷たい笑みを浮かべて、キュルケを挑発した。相当頭にきているのか、声が震えていた。

 

「言ってくれるわね。ヴァリエール・・・・」

 

キュルケの顔色が変わった。彼女の初めて見せる怒りの表情に、ガンマは驚いたように緑のカメラアイをチカチカと点滅させる。

ルイズが勝ち誇ったように言った。

 

「なによ。ホントのことでしょう? 」

 

 

バチッ・・・バチバチバチッ!

 

 

二人の間の空気の温度が一気に低下し、まさに一触即発の状況へと転じる。 ガンマが二人をどうにか宥めようと声をかけようとする前に、二人は同時に自分の杖に手をかけた。

 

 

―――ビュウゥ!

 

 

「!?」

 

突然、部屋の中でつむじ風が舞い上がり、まるで狙ったかのようにキュルケとルイズの手から杖が吹き飛ばされた。

ベッドのほうでじっと本を読んでいたタバサが、いつの間にか杖を掲げていた。どうやら彼女が二人よりも速く杖をふって風を起こしたようだ。

 

「室内」

 

タバサは淡々と言った。 ここでキュルケの火やルイズの爆発の魔法を放ったら危険であるといいたいのだろう。

 

「なにこの子。さっきからいるけど」

 

ルイズが忌々しげに呟くと、キュルケが答える。

 

「あたしの友達よ」

 

「友達・・?」

 

ガンマも無機質な声で呟き、タバサに緑のカメラアイを向ける。

 

 

「そう、あたしの大事なお友達で、タバサっていうの」

 

キュルケはころりと表情を笑顔に変えて、ガンマに紹介する。

 

「なんであんたの友達が私の部屋にいるのよ。勝手に人のベッドに座って」

 

キュルケの友達というのが気に食わない様子のルイズ。キュルケはぐっとルイズを睨んだ。

 

「いいじゃない」

 

「よくないわよ」

 

ルイズとキュルケはにらみ合ったまま、バチバチと火花を散らし続ける。

そんな険悪な二人の様子を他所に、ガンマはベッドに座っているタバサという少女に緑のカメラアイを向ける。 授業の時など普段見かけることはなかったが、食堂や図書館で本を読んでるところを目撃していたので、タバサもルイズとキュルケと同様、同じクラスの生徒であることをガンマは憶えている。先ほどのあの風は、どうやら彼女の魔法によるもののようだから、彼女は『風』系統のメイジなのだろうか? 風をあんな風に正確にコントロールして杖だけを吹き飛ばすだなんて、『火』や『土』とはまた違った力を持ってるようだ、『風』の系統でも、トライアングルやスクウェアで威力が異なるのだろうか・・? ガンマはそう思案する

 

 

「・・・・・」

 

「?」

 

 

ガンマがそんな風に考えていると、じっと本に目を向けていたタバサがこちらを見ていた。 じっと、空のように青い瞳で興味深そうに見つめている。そういえば一週間前の食堂でルイズと食べ物の話をしていた時も、チラチラとこっちを見ていた気がする。

 

「ハジメマシテ、ミス・タバサ」

 

「・・・・」

 

ガンマはとりあえず、ベッドに座っているタバサにペコリと挨拶をした。だが返事はなく、再び視線を本のほうに戻し、本のページを黙々とめくっている。

どうやらかなり無口のようだ、しかしなんで自分を見つめていたのだろう? ガンマは不思議そうに首をかしげた。

 

 

そして視線を二人のほうに戻すと、ルイズとキュルケは未だにぐっと睨み合ったままだ。キュルケが視線を逸らして言った。

 

「埒が明かないわね・・。じゃぁ、ガンマに決めてもらいましょうか」

 

「エ? ボクガ?」

 

いきなり自分に振られたのでガンマは戸惑う。

 

「そうよ。あんたの剣でモメてるんだから、あんたが決めなさい」

 

ルイズもぐっと睨んだ。癪ではあるが、こうなったら自分の使い魔に選ばせようと託したようだ。

 

 

「選ブ・・・選ブ・・・」

 

ガンマは、キュルケの剣と、肩に引っさげたデルフリンガーを交互に見ながら悩んだ。 たしかに、ボロボロではあるがマスターであるルイズからデルフをプレゼントしてくれたのだから、剣はこれ以上所持する必要はないともいえる。 だけど・・・キュルケが自分のためにあんなにも高価な物をプレゼントをしてくれるという行為は、自分にとって嬉しいものだ。 それを断るわけにもいかないが、受け取ったら怒ったルイズに重い罰を受けるのは確実だし、許してはくれないだろう。 だが受け取らなかったら、優しいキュルケを悲しませてしまう・・。

それに、現在装備しているデルフにだって自分のように意思がある。彼は自分を『相棒』と呼んでくれているのに、デルフの意思を無視してどちらかを選ぶというのは・・・・。

そう思うと簡単には選べない。 剣を選ぶということは、すなわち二人のうち、どちらかを選ぶということであり、剣の『相棒』も選ぶということである。

 

 

「さぁ、どっち? 当然あたしでしょ?」

 

「速く決めなさい。もちろん私に決まってるわよね?」

 

右にカメラアイを向ければキュルケが睨む。 左にカメラアイを向ければルイズが睨む。 肩に引っさげたデルフも『俺を捨てたりしないよな!?』と訴えるように金具をカタカタと鳴らしているのが聞こえた。

 

 

 

「アノ・・・二本トモ選ブ…ハ・・・可能?」

 

 

ガンマは恐る恐ると、指を立てて提案を述べた。

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

―――ガゴンッ!!!

 

二人に無言で思いっきり剣の鞘で頭をどつかれ、ガンマはぶたれた頭を擦った。

 

 

「ねえ」

 

キュルケはルイズに向き直った。

 

「なによ」

 

「そろそろ、決着をつけませんこと?」

 

「そうね」

 

「あたしね、あなたのこと、大ッ嫌いなのよ」

 

「奇遇ね、あたしもよ」

 

「気が合うわね」

 

お互いがオーラを放ち合い、キュルケは微笑んだあと、目を吊り上げた。 ルイズも負けじと、無い胸を張った。

二人は同時に怒鳴った。

 

 

「「決闘よっ!!」」

 

 

「フ、二人トモ、学院デノ決闘ハ、禁止デハ…」

 

ガンマが慌てて言うが、ルイズもキュルケも、お互いが怒りをむき出しにして睨みあっているので、ガンマの声は耳に入っていなかった。

 

「もちろん、魔法でよ?」

 

キュルケはさも当然のように告げて、勝ち誇ったように言った。

ルイズはぐっ…と唇を噛み締めたが、すぐに頷いた。

 

「ええ。望むところよ」

 

「へぇ、いいの?ゼロのルイズ。魔法で決闘で、本当に大丈夫なの?」

 

小ばかにした調子で、キュルケが呟く。ルイズは拳を握り締めながら、強く頷いた。 自身はない。 未だに爆発しか起こせないのだから、あるわけがない。

でも、あのツェルプストー家の女に魔法で勝負と言われては、意地でも引き下がれない。ヴァリエール家のプライドが許せない。それに・・・

 

「もちろんよ! だれがあんたなんかに負けるもんですか!」

 

 

 

 

―――「(ガンマにも、ご主人様がすごいんだってところを、見せてやるんだから!)」



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ミッションー125:射的ゲーム

「・・・むっ」

 

 

本塔の外壁に張り付いて思案に暮れていたフーケは、向こうから誰かが近づく気配を感じ取った。

 

「見回り? こんな時に…」

 

とんっと壁を蹴り、小さく『レビテーション』の呪文を唱えながら地面に飛び降りる。 回転しながら落下の勢いを殺し、『レビテーション』の効果でふわりと地面に着地する。 それからすぐさま影の中に溶け込むように移動して植え込みに消えた。

物音を立てないように指で植え込みの葉の間を空けてから、フーケは気配を感じた場所を覗き込んだ。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

中庭に現れたのは、キュルケを筆頭にルイズ、ガンマ、そしてタバサだった。

 

「マスター、決闘ノ中止ヲ求メル」

 

「しつこい、もう後には引けないのよ!」

 

「シカシ、校則違反…」

 

「そんなの承知の上よ!これは、私のプライドの問題よ! それともなに? あんたは私があのキュルケに負けるとでも思ってるのっ!?」

 

「イエ、ソノヨウナコトハ…」

 

「だったらあんたは黙ってご主人様が勝つところを見てればいいの!わかった!?」

 

「了解・・・」

 

キュルケとルイズが決闘を行う場まで移動する最中も、ガンマはなんとか主人を説得しようと試みているが、怒りで冷静さを失っているルイズはガンマの説得には耳を貸さず、感情的になってるようでガンマの言葉を跳ね除けており、ガンマは困り果てていた。

ガンマは肩に引っさげたデルフを鞘から抜いた。

 

 

「デルフ、助言ヲ求メル。ドウスレバイイ?」

 

「おいおい相棒、俺は剣だぞ? ガーゴイルのおめぇにもわかんねぇことを俺に聞いたってわかるわきゃねぇだろうが」

 

「ソウカ・・・」

 

呆れたように金具を鳴らすデルフにそう言われ、吐けないはずのため息を吐く仕草をした。 ルイズのプライドという固定観念は理解できないが、このような事態になってしまったのも、自分がちゃんと剣をえらばなかったことが原因だ。 それに自分もルイズの命令を無視して決闘を行ってしまった前科があるため、人のことを言える立場ではない。 でもルイズやキュルケにも怪我をして欲しくないし、やはりどちらかを選択するべきだったのだろうか・・・?

 

 

ガンマが悩んでるうちに、キュルケ達は中庭の中央広場にたどり着いた。

 

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

キュルケが振り返って言った。ガンマは心配そうに言った。

 

「マスター、キュルケ、本当ニ決闘ヲ実行スルノカ?」

 

「そうよ」

 

ルイズもやる気満々である。ルイズもキュルケも、自分が中止を求めようとしても決闘を止める気配はなさそうだ。 だがガンマはそれでも自分の意見を述べた。

 

 

「デモ、決闘ハ危険…。二人ガ怪我ヲ負ウ可能性アリ。ボク、二人ニ怪我ヲシテ欲シクナイ…」

 

ガンマは無機質な音声を落として言った。その言葉に、二人は少し冷静なる。

 

「たしかに、決闘で怪我するのもバカらしいわね。」

 

「…そうね」

 

キュルケがそう言うと、ルイズも頷いた。

 

「でも、宣言した以上決闘を取りやめるつもりはないわよ。あんたとの決着をつけないと気がすまないもの」

 

「そうこなくっちゃね。なら、ルールを変更する必要があるわ」

 

キュルケは指を顎に当てて別の決闘方法を考えてると、後ろでずっと本を読んでいたタバサがキュルケに近づいてきた。タバサはキュルケの耳元で何かを呟く。それから、キュルケの持ってる剣とガンマのデルフリンガーを指差す。

 

「あ、それいいわね!」

 

キュルケは微笑むと、ルイズに手招きした。

 

「ルイズ、ちょっと耳貸して」

 

「なんなのよ…」

 

キュルケはボソボソと呟く。

 

「あ、それはいいわ」

 

ルイズも頷いた。三人だけで話が進み、話の内容が伝わっていないガンマは頭に?を浮かべて首をかしげてると、三人は一斉にガンマの持ってるデルフのほうに向いた。

 

 

「・・・相棒、なんであいつら俺を見てんだ?」

 

「理由、不明…」

 

 

ガンマとデルフは、なんだかとても嫌な予感がした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

『おいこらぁーーっ!! 魔剣をなんだと思ってやがんだこのバカ女どもっ!! 降ろしやがれえ~~っ!!』

 

 

デルフは抗議の声を上げるように金具をガチガチと鳴らしてるが、鞘を縄で固定されてるから声を上げる事も出来ず誰も返事をしてくれなかった。

本塔の上からデルフ、そしてシュペー卿の剣が束ねられた二本をロープで吊るされ、空中にぶら下げられていた。

塔の屋上には、風竜が二本の剣に結びつけたロープを銜えて支えており、剣をぶら下げている。タバサはウィンドドラゴンに跨って塔の上から見下ろしていた。

はるか地面の下には、小さくキュルケとルイズ、その隣にガンマの姿がある。

 

夜とはいえ、二つの月のおかげでかなり視界は明るい。上から吊るされた二本の剣が、小さく揺れているのが二人と一体の目に見えた。

キュルケが腕を組んで言った。

 

「いいこと? ヴァリエール。 あのロープを切って、先に剣を地面に落としたほうが勝ちよ。勝ったほうの剣をガンマに使ってもらう。いいわね?」

 

「わかったわ」ルイズは硬い表情で頷いた。

 

キュルケ達が行う決闘は、以前ファイナルエッグで性能テストを行った射撃訓練プログラムと似たものだ。

あの時は制限時間内に各箇所に設置されたナックルズとテイルスに似せた人形、そして最終ターゲットのソニックの人形を破壊することを目的とした訓練内容だったが、この決闘のルールでは魔法でターゲットを吊るした縄を切って落すことが勝利条件となっている。月の光で明るいから見えずらいことはないが、人形とは違って縄を切って落すことを目的としたルールだから、対象も人形よりも小さく、当てるのは至難だろう。だがこれならお互いが怪我をしないで済むようだ。

しかし、その的となってしまったのがデルフとキュルケの剣である。たしかに、お互いの剣の使用権利をかけた勝負であるなら理にかなっているかもしれないが・・・的にされたデルフが気の毒だ。

 

『相棒なんとかしてくれー!!』

 

「(デルフ、現状救出不可…申シ訳ナイ)」

 

今もなおデルフは金具を鳴らして助けを求めてるように見えるが・・、彼には悪いが決闘が自分の意思に関わらず現在進行形で行われてる以上、二人の邪魔をするわけにもいかないし"黙って見ていろ"と主人のルイズに命令されているので、自分ではどうしようもできない。

せめて二人の魔法がデルフに直撃しないことを願うしかない。

 

 

「どんな魔法を使うかは自由。ただし、あたしは後攻。それぐらいはハンデよ」

 

「いいわ」

 

「じゃぁ、どうぞ」

 

ルイズは一歩前にでると、杖を構えた。屋上のタバサが剣を吊るしたロープを振り始めると、ゆらりゆらり…と、振り子のように剣が左右に揺れる。

動かさなければ、『ファイヤーボール』等の魔法の命中率が高いものならば、簡単にロープに命中させることができる。 あの剣は一定の間隔で揺れているから、タイミングさえ合えば命中させることができるはず。

 

 

―――しかし・・・・命中するかしないかを気にする前に、ルイズには問題があった。魔法が成功するかしないか、である。

 

 

ルイズは悩んだ。どれなら成功するだろう? いや、そもそも成功した試しなどなかった・・・。

 

『風』系統や『火』系統どころか、『水』や『土』だって爆発しか起こしていない。『サモン・サーヴァント』でゴーレムであるガンマを召還することには成功したらから、『土』系統の可能性もあるかもしれないが、基礎の『錬金』だって失敗している。ましてや、『ファイヤーボール』を唱えたところで爆発を起こすのが関の山だ。

その時になって、キュルケが『火』が得意であることを思い出す。

キュルケのことは嫌いだが、悔しいが魔法の技術に関してはほんの少しだけ認めている。『火』系統の授業でファイヤーボールの実習が行われた中で、キュルケは遠く放れた的に一発も外すことなく見事に命中させたことがあった。

キュルケの腕ならば剣のロープをなんなく切るだろう。 失敗は許されない。

 

「(…でも、できるの?私に・・・)」

 

もし失敗したら・・・・ガンマはキュルケが買ってきた剣を使うことになる。プライドの高いルイズに許せることではなかった。だがそれだけにプレッシャーがかかる・・・。

ルイズの目に不安が過ぎった。

 

 

チラリと横に目を向けると、ガンマが静かに主人のルイズを見守っている。

 

 

 

――――「(ええい!しっかりしなさい、ルイズ! ヴァリエール家の三女であり、由諸正しい旧い家柄を誇る貴族の私が、あのツェルプストーを相手に失敗を恐れてどうするの! ガンマにすごいところを見せてやるんでしょう!)」

 

 

 

ブンブンと頭を振って、弱気になってる自分に活を入れてそう言い聞かせた。ルイズは悩んだ挙句、『ファイヤーボール』を使うことに決めた。 小さな火球を目標めがけて打ち込む魔法である。

短くルーンを呟く。――きっと、魔法は成功せず爆発するだけで終わるかもしれない・・・・。 でも、使い魔であるガンマは、あの魔法の銃で一発も外さずにギーシュのゴーレムを撃ち抜いてみせたではないか。主人である自分にだって、あのロープくらい簡単に当てられるはずだ!

ルイズはキッとロープを睨みつけ、杖を握りしめる。

 

呪文の詠唱が完成すると、ルイズは気合を入れて、杖を振った。

 

 

 

―――――ドオォォォンッ!!

 

 

 

杖の先から出るはずの火の玉はでることはなく、一瞬遅れて、デルフの後ろの壁が爆発した。爆風で、デルフは大きく揺さぶられる。

 

『バッキャロー!俺を粉々にする気かーッ!!』

 

爆風の衝撃で揺さぶられながら、声を出せないがデルフの怒鳴り声が金具の音から伝わってくる。

 

 

「そ……そんな・・・・」

 

ルイズは憮然とした。ロープはなんともない、運よく爆風で切れてくれたら、と思ったが甘かったようだ。 本塔の壁には爆発の影響でヒビが入ってるが、今のルイズにそれを気にする余裕はなかった。キュルケは・・・・腹を抱えて笑っていた。

 

「ゼロ! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの! 器用ね!」

 

ルイズは黙ったまま俯く。

 

「あなたって、どんな魔法を使っても爆発させるんだから! オマケに魔法も当たってないんじゃ話しにもならないわよ! 少しはガンマを見習ったら? あっはっは!」

 

「・・・・っ」

 

ルイズは悔しそうに拳を握り締めると、ガクッと膝をついていた。

 

「さ~て、次はあたしの番ね。」

 

キュルケは、狩人のような鋭い目で剣を吊るしたロープを見据えた。 タバサがロープを揺らしているので、狙いがつけずらい。

それでもキュルケは余裕の笑みを浮かべた。ルーンを短く呟き、手馴れた仕草で杖を突き出す。『ファイヤーボール』はキュルケの十八番である。

 

 

ボウッ!

 

 

杖の先から、メロンサイズほどの大きさのある火球が現れ、剣のロープめがけて飛んでいった。勢いよく飛んでゆく火球は狙いたがわずロープに見事ヒットし、一瞬でロープを燃やし尽くした。

 

 

 

――ブチッ ヒュウウゥゥゥゥーーー・・

 

 

 

『あ~~れ~~~~!』

 

デルフ(とキュルケの剣)は地面に落ちていく。 その下はクッションなどはなく、本塔の屋上から地面までかなりの距離があり、このまま地面に落ちればいくら金属でできた剣といえど無事ではすまないだろう。

すると屋上にいたタバサが杖を振り、二本の剣に『レビテーション』をかけてくれた。 加減された呪文のおかげで、フヨフヨとゆっくりとした遅さでデルフは地面に降りてきた。

 

「デルフ、キャッチ」

 

ガンマは落下地点にかけよって両手で二本の剣を受け止めた。

 

「デルフ、大丈夫?」

 

『し…死ぬかと思ったぞ・・・』

 

デルフは力なく金具を鳴らす。二本とも念のためスキャンを行ってみたが、どこにも壊れてるところはないことを確認して安堵する。

 

後ろのほうでは、キュルケは勝ち誇って笑い声を上げている。

 

「あたしの勝ちね! ヴァリエール!」

 

「・・・・・・」

 

ルイズは口を閉ざしたまましょぼんとして座り込み、地面の草をむしり始めた。

 

 

 

 

――――― 一方身を潜めていたフーケは、中庭の植え込みの中から決闘の一部始終を見守っていた。

 

 

 

 

「どういうことだい…? あの壁に、ヒビを入れちまうだなんて・・」

 

フーケは宝物庫の壁を見て我が目を疑った。 信じられないことに、ルイズが放った魔法でスクウェアクラスの『固定化』が掛かった辺りの壁に亀裂が入ったのだ。

ルイズが唱えた呪文は『ファイヤーボール』なのに、杖の先から火球は飛ばず、代わりに壁が爆発した。

あんな風にモノが爆発する呪文なんて見たことがない。 あまつさえ、あの要塞並みの分厚い壁にヒビを入れたのだ。それはつまり・・・、あの爆発の呪文がスクウェアクラスの『固定化』をかき消すほどの威力があるということになる。そんな強力な呪文が存在するのか?

四大系統の中に爆発を起こす呪文などないはずだ。いったい、あの魔法はなんなのだろう…?

 

 

フーケは頭を振って雑念を振り払った。理由はどうあれ、壁にヒビが入ったのはフーケにとって好都合、これはまたとないチャンスなのだ!

 

「この機会を逃す手はないね・・・!」

 

フーケは杖を取り出すと、薄く笑みを浮かべて呪文を詠唱し始めた。長い詠唱が完成すると、地面に向けて杖を振る。

 

 

――ボゴゴゴゴォォ…!

 

 

音を立てて、地面が生き物のように動き、盛り上がった。盛り上がった部分が次第に形を成していき、巨大な土の腕が地面から生え出した。

 

 

「さぁ、あんたの出番よ。"ゴーレムちゃん"!」

 

 

―――土くれのフーケが、本領を発揮したのだ。




実写版ソニックどうしてああなった・・・(´・ω・`)


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ミッションー126:参上!土くれのフーケ

また長いことお待たせしました、次の話です。 最近やっと余裕ができそうな環境になって調子が戻りそうです。


「残念だったわね!ヴァリエール!勝ったからにはガンマにはあたしの剣を使わせてもらうわ!」

 

キュルケは、勝ち誇って大いに笑った。 ルイズは勝負に負けたのが悔しいのか、膝をついたまましょぼんと肩を落として、打ちひしがれていた。

 

「(マスター・・)」

 

剣を抱えたまま、どう声をかければいいのかわからず、ガンマは複雑な気持ちでルイズを見つめた。

それから、腕の中で抱えられてるデルフは金具を鳴らしだした。

 

 

『おい!さっさと縄解いてくれよ!』

 

「ア、ゴメンデルフ…」

 

ガンマは低い音声で謝罪する。 落ち込んでるルイズのことが気になるが…まずはデルフとシュペー卿の剣を縛ってるロープを外すことにした。二本とも鞘から抜け落ちないようにきっちりぐるぐる巻きにされてるから、結び目を堅くてぐいぐい引っ張っても外れない。

片手だけでは解けそうになく、ガンマはキュルケに頼むことにした。

 

「申シ訳ナイ、キュルケ。 コノロープヲ解イテクレナイダロウカ」

 

キュルケは微笑んだ。

 

「ええ、喜んで」

 

 

 

 

 

その時である――――

 

 

 

 

 

 

――――"ズズゥウン!"

 

 

 

 

 

突如、大きな音と共に地面が揺れだした。地震かと思ったが、地震にしては妙な揺れ方で、まるで巨大な物体が地面を叩いたような衝撃が後方から発せられたのをガンマのセンサーが感知する。

キュルケもガンマと同じ方向に何かの気配を感じたようで、ガンマと同じタイミングで振り返った。

 

「ッ!!」

 

「な、なにこれ!」

 

ガンマはカメラアイを点滅させ、キュルケは我が目を疑うように口を大きくあけた。 

 

 

そこには、いつの間にか土でできたゴーレムがいた。 巨大な巨人の足元の芝生は無残に掘り起こされたように土が見え、まるで地面から這い出てきたような様で地面に方膝をついて鎮座している。 先ほどの揺れは、この巨人の仕業のようだ。ルイズも膝をついたまま、突然のゴーレムの出現に呆然としている。

 

ガンマ達が驚いているのもつかの間、土のゴーレムは体を動かし始め、足元にある植え込みをメキメキと踏み潰しながらゆっくりと立ち上がり始める。

 

 

 

 

――――"ムオオオオォォォォォーーーッ"

 

 

 

 

 

完全に二本足で立ち上がると、ゴーレムが唸るような低い咆哮を上げた。 立ち上がったことでそのゴーレムの全貌が露になり、ガンマはその巨人の大きさに驚愕した。 スキャンしてみた結果全長が三十メートルはあり、全身が土と岩石の物質で構成された土人形のようだ。

 

「きゃぁああああああ!!」

 

キュルケは悲鳴を上げて逃げ出した。

逃げ出すキュルケを見てこれが由々しき事態であると判断したガンマは、ルイズのほうを向いた。

ルイズは腰が抜けたようにペタリと座り込んでゴーレムを見上げている。

 

 

「(状況確認、危険ト判断。最優先任務、マスター・ルイズノ保護。ルイズヲ守ル)」

 

 

ガンマは自分の任務を遂行するため、動けないルイズの傍に駆け寄り、二本の剣を肩に引っさげ両手でヒョイッとルイズを抱き上げる。

 

「へ? ひゃぁっ!」

 

ルイズが小さく悲鳴を上げた。

 

「マスター、避難ヲ開始スル」

 

我に返ったルイズは突然のことでうろたえてるようだが、緊急事態のため主人の反応を無視して走り出した。

ガンマは巨大なゴーレムと応戦せず、避難することを選択した。あの質量と大きさだ、いくらエネミーを破壊する威力のある自分の銃でも、性能上あんな巨大な土塊の集合体であるゴーレムを破壊できるか可能性は低い、それにあのような巨大なエネミーとの戦闘データはガンマにはまだなく、ルイズを守りながら戦闘を行うにはリスクが高すぎる、まずはルイズを安全な場所まで運ばなければ・・・

 

 

ズシンッズシンッズシンッ!

 

 

っと、巨大なゴーレムは地面にいる小さなルイズたちの存在など気にも留めず、地響きを起こしながらこちらへ向かってきている。

 

「こ、こっちに来るわ!!ガンマ急いで!!」

 

ルイズは慌てふためいてガンマの頭をベシベシと叩いた。急かされたガンマは急いでこの場から離れるためモードチェンジへと移行する。

 

 

「モードチェンz…」

 

 

――ガギィッ!

 

「!?」

 

 

ガンマが走行モードへと変形しようとした途端、折りたたもうとした足の関節が固まった。ガンマはバランスを崩してこけてしまい、ルイズはその拍子でお尻を打った。

 

「いった~っ もうどうしたのよ!」

 

「マスター、脚部ニ異常発生。動ケナイ」

 

「ええ!?」

 

無機質な声で異常を伝えるとルイズは打ったお尻をさすりながらガンマに駆け寄る。 何事かと足に目を向けると・・・足の関節部分にいつの間にか土の塊が付着していた。 一体いつの間にこんなものが? まるで土の塊が足を固定するように硬質化して固まってる。土塊に混じってる砂利が関節の隙間に入ってるせいで脚部のパーツを動かすことができない、これではモードチェンジ不能だ。

 

「な、なんで足にこんなものつけてんのよ!あんたってば!」

 

「不明、ボクニモ理解不能…」

 

そんな二人に、ゴーレムの足がすでに間近に来ていた。あと一歩足を動かせば、自分達を踏み潰せる距離である。 ガンマはなんとか立ち上がろうとするが、間接が土で固まってるせいで立ち上がれない。

 

「安全装置、解除。」

 

ガンマは銃の安全装置を解除した。学院内での銃の使用を禁止されているが、今は緊急事態だ、少しでも足止めをするためにガンマは右腕の銃を構える。

 

ジャキッ

 

 

だが、右腕にも足と同様の異常が発生した。

 

 

「!? 腕ガ…!」

 

気づけば"右腕の銃"にも同じ土の塊が覆い包み、銃口を塞がれていた。しかも内部にまで浸入してるせいで銃口が詰まってて、このまま射撃すれば腔発を起こす危険がある。

ガンマは異常事態の連続で困惑し焦るようにカメラアイを点滅させた。ルイズを守るという自分の任務を遂行しようにも、銃は封じられ、デルフもシュペー卿の剣も縄で縛ったままで剣を抜くこともできない。

身動きがとれず唯一の攻撃手段まで封じられてしまってはもう打つ手がない、せめてルイズを逃がさねば!

 

「ルイズ、逃ゲロ! ココハ危険!」

 

「く、こんな石・・・!」

 

ガンマはルイズに逃げるよう告げるが、ルイズは警告を聞かず、一生懸命にガンマの足にくっ付いた塊を引き剥がそうともがいている。

それをあざ笑うかのように、巨大なゴーレムの足が持ち上がり始めた。

 

 

―――「きゅいいぃぃぃ!」

 

 

もうダメだと思ったその時、青いドラゴンが風を切る音と共に滑り込んだ。タバサの使い魔のウィンドドラゴン、シルフィードである。

背には主人であるタバサが跨っており、その後ろにはキュルケも乗っている。

 

「何やってるのよヴァリエールったら! タバサ、ガンマもお願い!」

 

「シルフィード」

 

「きゅい!」

 

カプッ

 

「わぁ!?」

 

コクリと頷き、手足を見てガンマが動けない状態だと察したタバサはシルフィードに命じた。主人の声に呼応し、シルフィードがルイズの襟首を銜え、倒れてるガンマを前足で抱きしめるようにがっしり掴み、力いっぱい翼をはためかせてゴーレムの足と地面の間をすり抜ける

 

 

 

―――ズシィィィン!!

 

 

 

その場から離れた直後ガンマ達が居た場所に、ゴーレムの大きな足が大きな音を立てて地面にめり込んだ。

 

 

「ふう…間一髪だったわね二人とも、もう少し遅れてたらぺちゃんこになってたわよ」

 

「キュ、キュルケ?! あんた先に逃げたんじゃ」

 

「さっきタバサに拾って貰ったのよ。とりあえず無事でよかったわ。貴方達ももうとっくに避難してるもんだと思ったんだけどね。」

 

「これのどこが無事だってのよ!!」

 

襟首を銜えられて宙吊りにされたんじゃ無事とは言えないと文句を言う。

 

「しょうがないでしょ? この子のシルフィードでもガンマは重たいんだから。ちゃんとタバサにお礼いいなさいよね?」

 

こんな事態になっているにも関わらず、いつもの調子で風になびく赤い髪を押さえながらキュルケは言った。 ルイズはウィンドドラゴンに銜えられてるのにキュルケに噛み付いてる。

 

「空・・・飛ンデル・・・」

 

ガンマはいきなり飛び込んできたドラゴンに抱かれて飛び上がったことに驚いたが、どうやらルイズと一緒に助けてくれたのだと理解した。 あと少し遅れていたら、ゴーレムに踏み潰されてスクラップになっていたことだろう。

 

「えっと・・・たしかタバサだっけ? 助けてくれてありがとう」

 

「救出感謝シマス。ミス・タバサ」

 

落ち着きを取り戻したルイズは、ウィンドドラゴンに跨っているタバサにお礼を言った。ガンマも主人と共に助けてくれたタバサにお礼を述べると、タバサは無表情に頷いた。

 

「くるる…」

 

「?」

 

するとウィンドドラゴンは不服そうにジトーっとガンマを見てる。 まるで『重たいお前を運んでるんだからこっちにもお礼を言え』と言いたげである。ガンマはまだこのウィンドドラゴンという生物との交流はまだなかったが、自分を運んでくれているこのウィンドドラゴンにもお礼を言うべきだと判断した。 たしかさっきシルフィードと呼んでいたが、それがこのドラゴンの名前なのだろう。

 

「助ケテクレテアリガトウ。シルフィード。感謝スル」

 

「きゅい♪」

 

ガンマがシルフィードにもお礼を述べると、シルフィードはえっへんと鼻息を鳴らす。よくわからないが、とりあえず機嫌を直してくれたようだ。でもお礼が遅かったとはいえ、睨まれるようなことをしただろうか?ガンマは首を捻りそうになる。

 

 

二人を救出したシルフィードは、重量のあるガンマを抱えながらもあっという間に塔を超えて空高く昇り、ルイズ達は上空からゴーレムを見下ろした。

 

 

―――《キュィィン…ピピピッ》

 

 

ガンマはカメラアイでズームアップしながら周囲を見回していると、センサーが反応した。

 

「マスター、ゴーレムノ操縦者ヲ発見。場所、ゴーレムノ肩」

 

ガンマがその場所を指差す。 ルイズ達はそこへ視線を向けると・・・ゴーレムの肩の上を、黒いローブを身に着けた黒い影が立っていた。

ガンマは無機質な声で呟く。

 

「マスター、アノ人物ガ、ゴーレムヲ操ッテイルメイジ?」

 

「わかんないけど、そうに違いないわね…。あんな巨大な土ゴーレムを操るだなんて、きっとトライアングルクラスの土メイジだわ」

 

「『トライアングル』・・・」

 

ガンマは緑のカメラアイを向けながら地上を歩いてる土ゴーレムを見下ろし、改めてメイジの力を目の当たりにした。

三つの系統をもつ『トライアングル』クラスのメイジはより強力な力を用いていることは想定していたが・・・これは自分の想定を超えている。

エッグマンが作りだした巨大メカがいくつか存在するが、トライアングルの土メイジが使う魔法は、エッグマン専用兵器『エッグウォーカー』や『エッグバイパー』よりもさらに巨大な三十メートル級のゴーレムを生み出し、操ることも可能なのか・・。 ドットメイジのギーシュが生み出したアーマードワルキューレなど2、5メートルほどで比較にもならない。 自分の腕と足を覆っている土の塊も、以前ミセス・シュヴルーズが生徒を黙らせるさいに使用した土魔法と該当データが一致しているから、あのメイジの魔法によるものだ。つまりあのゴーレムを操ってるメイジは、『土』系統のエキスパートという可能性が高い

 

・・・・・レベルが違いすぎる。

 

 

ガンマは土で覆われた右腕を握った。さっき、ルイズは危険を顧みず、自分を拘束してる土の塊を外そうとしてくれた。 本来なら主人を守るべき存在である使い魔の自分を・・・・・。

 

 

「マスター・・・、ドウシテ逃ゲナカッタ。ボクノ任務ハ マスター・ルイズヲ守ルコト。行動不能ノボクナド放棄シ、逃ゲルコトモ可能ダッタハズ。ソレナノニ・・ドウシテ」

 

 

ルイズはきっぱりと言った。

 

 

「言ったはずよ。使い魔を見捨てるような恥知らずはメイジなんかじゃないわ」

 

ガンマは無言で、ルイズを見つめた。

 

緑色に輝くカメラアイにピンク色の髪を靡かせるルイズの姿が、眩しく映りこむ。 その姿に、ある一人の少女を重ねた・・・

 

 

 

 

 

ザザーッ ザザザ・・ッ

 

 

 

――――ナゼ……

 

 

――――ナゼ…… 助ケル……?

 

 

 

 

――――《・・・『今度会うときは、友達って言ってたじゃない』・・・》

 

 

 

 

 

 

「・・・・エミー・・・・」

 

 

 

ガンマのその小さな囁きは、ルイズには聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

「逃がしたか… ふっ まあいいわ。」

 

フーケは、巨大なゴーレムの肩の上で薄い笑みを浮かべていた。

ウィンドドラゴンの邪魔が入ったおかげで"あのゴーレム"を仕留め損ねたが…、あれならしばらく身動きが取れないだろう。 今も上空を舞うウィンドドラゴンの姿があるが、フーケは頭からすっぽりと黒いローブに身を包んでいる。その下の自分の顔さえ見られなければ、ほっといたところで問題はない。

フーケはウィンドドラゴンのことは気にも留めず、ヒビが入った本塔の壁を見据えた。

 

ズンッズンッズンッ…

 

「ゴーレムちゃん、思いっきりいくわよ…!」

 

塔の前に到着すると、巨大なゴーレムはぐぐぐっとぶっとい腕を大きく振りかぶり、殴りつける体制に入った。

 

 

 

「"シャベルクロー"!」

 

 

―――ブオンッッ!!

 

 

 

ヒビが入った壁に向かって、土ゴーレムの拳が振り下ろされた。

インパクトの瞬間 フーケはゴーレムの拳に向かって杖を振る。

土の拳が鋼へと変わり、形も変化して先端が鋭く尖り、二本の鍵爪のように先が割れた二又の巨大なスコップの形へと変貌する。

 

壁に拳が突き刺さると、鋼のスコップが穴をこじ開けるようにバガァアンッ!と鈍い音を立てながら壁を抉り出した。

ガラガラと魔法学院が誇る塔の壁が崩れ落ち、黒いローブの下でフーケは微笑んだ。

 

「強力な『固定化』も、こうなっちまったら意味ないねぇ…」

 

フーケは土ゴーレムの腕を伝い、壁に開いた穴から宝物庫の中へと侵入した。

中には様々な宝物があった。 しかし、フーケの狙いはただ一つ、『破壊の杖』である。

フーケは周りにある宝物など目にもくれず、大理石の床をつかつか進むと、様々な杖が掛かった壁の一画があった。

 

「この中ね・・」

 

フーケはその杖の一画を見渡す。その中に、台座に飾られたどう見ても魔法の杖には見えない異様な品があった。

 

「・・・? もしかして、これが?」

 

フーケはその杖を疑視した。全長は1、5メイルほどの長さで、見たことのない金属で出来ている上に、太く無骨な形をして先端に筒の穴のような空洞があいていた。 ・・・本当にこれが杖なのか? どう見ても杖にしては大きすぎる。

フーケはその下に掛けられた鉄製のプレートを見つめた。

 

 

『破壊の杖。持ち出し不可』…と書いてある。

 

 

『破壊の杖』で間違いないようだ。 フーケの笑みがますます深くなった。

フーケは『破壊の杖』を取ろうと持ち上げると、その軽さに驚いた。 いや、人間が扱うには十分重いが…両手で持ち上げるほどの大きさにも関わらず、金属で出来てるとは思えない重量だ。 数々のお宝を手にしてきたフーケだが、こんな代物は初めてである。鋼ともスチールプレートとも違う・・・一体何で出来てるんだろう?

 

「っと、今は考えてる暇はないわね」

 

そろそろ学院の連中が騒ぎ出してるころだ、ここからずらかることにしよう。『破壊の杖』を布で覆い包み、それを担ぎ上げるとゴーレムのほうへ戻りだした。

 

 

「ん?」

 

ピタリ。 中心部の床を踏んだとき、フーケは足から伝わる違和感を感じとり、動きを止めて、足元の大理石の床を見下ろした。

 

「・・・・床の中に何かあるわね・・。しかもかなり大きい…」

 

足の裏から感じる大理石の床の中に、軽く2メイル以上ある異物が埋まってるみたいだ。隠し扉とかそういうものはない、床の中にそっくりそのまま埋め込んでいるような状態だ。 なんでこんなものが埋まってるのだろう? フーケは不可解な表情を浮かべた。

 

 

「…。そういえば、あのハゲが宝物庫には噂があるっていってたわね・・」

 

フーケは頭の片隅に置いていたあの時の話を思い出す。 噂によれば、昔オールド・オスマンが宝物庫のどこかに、大切な宝を隠してるということだ。しかもその宝は、奇妙な形をした鉄の像だったらしい・・。 もしかしてその宝とはこの中の物体のことだろうか? こんな大きなものをわざわざ大理石の床をくりぬいてまで隠すだなんて、よほどオスマンにとって大切なものと見える。

 

 

しかし、フーケにとってはオスマンの宝が像であれ彫刻であれ、どうして隠してるかなどどうでもいいことだ。

狙いはあくまで『破壊の杖』のみ。それ以外には用はない。

 

 

「まぁ・・もう"一つ"頂戴するやつは、あるんだけどね」

 

口元をわずかに歪め、そう呟いた。フーケはさっさとゴーレムのほうへきびすを返し肩に飛び乗った。

去り際に杖を振る。すると、壁に文字が刻まれた。

 

 

 

       『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

宝物庫に空けられた穴から出てきた黒ローブのメイジを再び肩に乗せ、ゴーレムは歩き出した。魔法学院の城壁をひとまたぎで乗り越え、ズシンズシンと地響きを立てて草原を歩いていく。

 

そのゴーレムの上空を旋回していたシルフィードは、羽ばたきながらゆっくり近くの塔へ近づく。

その背に跨ったタバサが身長より長い杖を振る。『レビテーション』でルイズを浮かして、塔の上に降ろし、シルフィードがその隣に抱えてたガンマを置いた。

タバサが再び身長より長い杖を振ると、ガンマの手足を拘束していた土の塊が、サラサラと砂の粒子へと変わり、ガンマを開放した。

土の拘束を解かれたガンマは隙間に残った砂を洗浄機能のエアーでブシューッと排出し、ぐりぐりと動かしながら右腕と脚部に異常が無いかを確認して、タバサに向き直る。

 

「アリガトウゴザイマス。ミス・タバサ」

 

ガンマがタバサに再び礼を言った。 タバサはまた無表情に頷く。

タバサは淡々と「ここにいて」と述べ、キュルケを乗せたまま再びシルフィードを空へ飛ばし、草原へ進んでいったゴーレムを追っていった。

ガンマは巨大なゴーレムを見つめながら、隣にいるルイズに尋ねた。

 

「マスター、アノメイジハ、塔ヲ破壊シテ中ニ侵入シタガ・・・何ガ目的ダッタノダロウ?」

 

「ゴーレムが穴をあけたのは本塔の五階…宝物庫だわ。あの黒ローブのメイジ、壁の穴から出てきたときに、何かを担いでたわ」

 

「デハ、ソレヲ盗ムタメニ?」

 

「恐らくね。あんな大胆な方法で盗むだなんて、とんでもないやつだわ」

 

「・・・! マスター、ゴーレムガ停止シタ」

 

塔の上から眺めていると、草原の真ん中を歩いていた巨大なゴーレムは突然動きを止め、ぐしゃっと崩れ落ちた。

崩れ落ちたことで砂煙がブワッと舞い上がり、空から追跡していたシルフィードは空中で停止した。

もうもうと巻き上がった砂煙はその一帯を覆い包み視界を遮っている。タバサが上空から杖を振ると、風が巻き起こって砂煙を吹き飛ばす。 

そこにはもう縦横無尽に塔を破壊し、中庭と草原を踏み荒らした巨大なゴーレムの姿は無く、大きな土の山ができていた。

 

ガンマはズームアップしてそこを見渡したが、月明かりに照らされたこんもりと小山のように盛り上がった土山以外、何もない。

そして、肩に乗っていた黒いローブのメイジの姿は、消えうせていた。

 

 

ルイズとガンマは、呆然と眺めるしかできなかった。ルイズは悔しそうに拳を握り締めている。

 

ガンマは視線を変え、足元に溜まっている砂の山を見つめた。 タバサの『錬金』によって変えられた砂を、左手で掬い上げる。

 

 

 

 

 

 

 

―――――「(疑問。ナゼ、アノメイジハ・・・・"ボク"ヲ攻撃シタ・・・・?)」

 

 

 

 

指の隙間からサラサラと砂が零れ落ち、夜風に吹かれて舞い上がった砂の粒子が、風に乗ってキラキラと空に散っていった。




実写版ソニックどうなるかなぁ・・・。


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ミッションー127:杖にかけて!

謎のメイジ襲撃後の翌朝――――トリステイン魔法学院では、蜂の巣をつついたように大変な騒ぎになっていた。

 

 

何せ、厳重な宝物庫から秘法の『破壊の杖』が盗みだされてしまったのである。それも、巨大な土ゴーレムが壁を力任せに破壊するといった大胆な方法でだ。

平和なトリステイン魔法学院で起こったこの大事件で生徒達は大騒ぎとなり、教師達が事態を収拾するため生徒達を落ち着くかせなんとか混乱は収まったものの、一晩たった今もこの話題でもちきりだ。

 

早朝、学院長のオールド・オスマン氏から教師達に召集令が下され、賊難に遭った宝物庫にはオスマン氏を中心に、学院中の教師が集まった。

 

 

「これは手酷くやられたのう・・」

 

オスマン氏が壁を見上げながら呟いた。壁にはぽっかりと大きな穴が空き、そこから日の光が差し込んで薄暗いはずの宝物庫の中を明るく照らしている。

教師の面々は、壁に空いた穴を見つめ、やぶられるはずのない壁のこのありさまに開いた口が塞がらないとばかりに口をあんぐりと開けていた。

 

大穴の空いた壁の近くには、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。

 

 

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

その声明を見て教師達は、口々に好き勝手なことを喚いている。

 

「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくり、トリステイン中を騒がしているあの盗賊か!魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたもんじゃないかっ!」

 

「衛兵は一体なにをしていたんだね?」

 

「衛兵など所詮は平民だ!あてにならん!それより昨日の当直は誰だったんだね!」

 

その声に、ビクリとミセス・シュヴルーズは震え上がった。そして、今にも消え入りそうな声で言った。

 

 

「わ・・・わたくしでございます・・・・」

 

昨晩の当直は自分であった。 まさか魔法学院を襲う盗賊がいるなどと夢にも思わず、一日くらいサボったって大丈夫と思い、ぐうぐう自室で惰眠を貪っていたのであった。本来なら、当直の教師は夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。

 

「ミセス・シュヴルーズ!当直であるあなたはなにをやってたのですか!」

 

教師の一人が、早速ミセス・シュヴルーズを追求し始めた。責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。

ミセス・シュヴルーズはボロボロと泣き出してしまった。

 

「も、申し訳ありません・・・」

 

「泣いたってお宝は戻ってはこないのですぞ! それともあなた、『破壊の杖』の弁償ができるのですかな!」

 

「わたくし、家を建てたばかりで・・・・」

 

ミセス・シュヴルーズは、よよよと床に崩れ落ちた。

そこへオスマン氏が間に入った。

 

「これこれ。女性を苛めるものではない」

 

ミセス・シュヴルーズを問い詰めていた教師が、オスマン氏に訴える。

 

「しかしですな! オールド・オスマン! ミセス・シュヴルーズは当直をサボったのですぞ! 責任は彼女にあります!」

 

オスマン氏は、長い口髭をこすりながら、口から唾を飛ばして興奮する教師をじーっと見つめた。

 

「え~と、ミスタ・・・・・ギットリだっけ?」

 

「ギトーですっ! ギ・ト・-! お忘れですか!!」

 

「そうそう。ギトー君じゃったな。 君はいつも怒りっぽくていかんのう」

 

「オールド・オスマンが何度も名前を間違えるからです!!」

 

「すまんすまん。次は忘れんようにしよう」

 

オスマン氏は柳に風と受け流す。オスマン氏は「さて…」と言葉を遮り、教師達を見回した。

 

 

「この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」

 

しかし教師達から名乗りでるものは居なかった。 教師達はお互いの顔を見合わせると、恥ずかしそうに顔を伏せていた。

 

「君はどうなんじゃ、ギトーくん。ミセス・シュヴルーズを非難できるほど、真面目に当直をしておったのかね?」

 

シュヴルーズを糾弾していたギトーも、顔を真っ赤にさせて黙り込んだ。オスマン氏は、呆れたように首を振った。

 

 

「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。 まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、私を含め…この中の誰もが夢にも思っていなかったことじゃ。 それもそうじゃろう、ここにいるほとんどが手練のメイジじゃ、誰が好き好んで、虎の穴に入るのかっちゅうわけじゃ。・・しかし、それは間違いじゃった…」

 

オスマン氏は、壁にぽっかりと空いた穴を見つめた。

 

「見てのとおり。 賊はこの宝物庫に忍び込み、『破壊の杖』を奪って行きおった。つまり、この事件は我々の油断と慢心によって引き起こされた結果なのじゃ。そんな体たらくでミセス・シュヴルーズだけを非難できようか? 責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばあるまい」

 

ミセス・シュヴルーズは、感激してオスマン氏に抱きついた。

 

「おお、オールド・オスマン!あなたの慈悲のお心に感謝いたします! わたくしはあなたをこれから父と呼ぶことにいたします!」

 

 

――ギュウウウゥッ!

「ぐほぉっ!?」

 

 

ただその力が強かったのか、オスマン氏は思わずむせた。シュヴルーズは感極まったあまりギリギリとオスマンの体を締めてしまい、オスマン氏は耐えながらもそんなシュヴルーズの尻を撫でた。

 

「え、ええのじゃ。ええのよっ、ミ、ミセス…」

 

「わたくしのお尻でよかったら!そりゃもう!いくらでも構いませんわ!はい!」

 

さらに締める力がはいり、オスマン氏は苦しそうに「おごごご!」と悲鳴を上げてる。

 

「ミセス・シュヴルーズ・・。オールド・オスマンが苦しそうですぞ」

 

見かねたコルベールにそう言われ、シュヴルーズは慌ててオスマン氏を解放した。

 

「ひぃ、ひぃ…尻を撫でるのも楽じゃないのう~」

 

オスマン氏は腰をトントンと叩く。あの上体でも尻を撫でたのは流石というべきだろうが、誰も突っ込んできてくれなかった。皆、一様に真剣な目でオスマン氏の言葉を待っていた。

場を和ませようと体を張ったのに誰も心配してくれないオスマン氏はちょっと寂しい気分になったが、こほんと咳をした。

 

「で、コルベール君、現場を見ていたと言うのは彼女達かね?」

 

「そうです。 三人とも、こちらへ」

 

オスマン氏が尋ねると、コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えてた三人を促した。ルイズ、キュルケ、タバサの三人である。

彼女たちは昨晩現場で『土くれのフーケ』の犯行の一部始終を見ていたため、コルベールに目撃者として連れてこられたのだ。もちろんガンマもいるのだが、彼は使い魔(というかゴーレム)なので数には入っていない。

 

「ふむ・・・・、君たちか」

 

オスマン氏は、三人のほうに向きながら、興味深そうにガンマを見つめた。

 

「・・・?(ボクヲ見テル…)」

 

自分を見つめてるこの人物が、ルイズが事前に説明してくれた学院長オールド・オスマンで間違いようだ。他の教師達とは授業で面識があるが、学院長をこうして目にするのは初めてである。この人物も教師の一人かと思ったが、周りの教師達とは服装が違うし、長い髭に立派な杖や雰囲気なども、明らかにメイジ達のトップとも言える印象を感じられる。現に正面に立っているルイズは、いつもよりも緊張している様子だ。

でも、ガンマはこのオールド・オスマンがどうして自分をじろじろと見ているのか不思議そうに首をかしげたが、かしこまってペコリと頭を下げた。

 

「ハジメマシテ、オールド・オスマン。ボクハE-102γ(ガンマ)。マスター・ルイズノ使イ魔デス」

 

「ほほっ噂で聞いとったが、礼儀正しいゴーレムじゃのぉ。」

 

オスマン氏は温和な表情で微笑んだ。一瞬、チラリとガンマの右腕を見て目を細めたが…。

 

 

「では、あの晩見たことを詳しく説明したまえ」

 

オスマン氏がルイズたちに説明を求めた。ルイズが進み出て、見たままを述べた。

 

 

「あの、大きなゴーレムがいきなり現れて、ここの壁を壊したんです。ゴーレムは中庭の地面から作られたようでした。塔を破壊するさい、腕を爪のような形のスコップに変えて、宝物庫の壁を抉るように突き刺して破壊してしまいました。 そしてゴーレムの肩には黒いローブを着たメイジが乗っていて、この宝物庫の中から何かを担いで・・・・それが『破壊の杖』だと思いますけど・・・、盗み出した後再びゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を跨いで草原のほうへ向かって歩きだしたんです。最後にゴーレムは土煙を上げながら崩れ落ちて、後には土の山しか残っておりませんでした。」

 

「それで?」

 

「こちらのミス・タバサが使い魔に乗ってゴーレムを追跡していたのですが・・・、肩に乗っていた黒いローブのメイジは土煙にまぎれて、影も形も無くなっていたそうです」

 

タバサはルイズの言葉に続いて、答えるように小さく相槌を打った。

 

「他に、フーケについて特徴などはわかるかね?」

 

「いいえ、月明かりがあっても真夜中でして、黒いローブを着てること以外は・・・」

 

「ふむ・・・・後を追おうにも、手がかり無しというわけか・・・」

 

オスマン氏は白いひげを撫でた。それからオスマン氏は、気づいたようにコルベールに尋ねた。

 

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね? 今朝から姿が見えんのじゃが」

 

「それがその・・・・私も朝から見えませんので」

 

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

 

「どこなんでしょう?」

 

 

 

 

――――「ただいま戻りました」

 

 

 

 

そんな噂をしていると、ミス・ロングビルが宝物庫の出入り口の前に現れていた。

 

「ミス・ロングビル!どこに行ってたのですか! 大変ですぞ! 大事件ですぞ!」

 

興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。しかし、ミス・ロングビルは落ち着き払った調子で眼鏡をくいっと持ち上げ、オスマン氏に告げた。

 

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

 

「調査?」

 

「そうですわ。大きな音で目が覚めて、起きたら学院中が大騒ぎ。その上、宝物庫はこのとおりですわ。もしやと思い宝物庫に駆けつけたら、壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

 

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

 

コルベールは慌てた調子で促した。

 

「それで、結果はどうでしたか?」

 

「はい。フーケの居場所がわかりました」

 

「な、なんですと!?それは本当ですか!」

 

コルベールが素っ頓狂な声をあげた。教師たちもまさかの朗報にざわつきだす。それとは対照に、オスマン氏は冷静な口調で促した。

 

「だれに聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

 

「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの怪しい男を見たそうです。それに、大きな荷物も抱えてたそうです。おそらく…彼はフーケで、その廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

 

ルイズが叫んだ。

 

「黒ずくめのローブに…大きな荷物? そいつです!フーケに間違いありません!」

 

オスマン氏は、目を鋭くしてミス・ロングビルに尋ねた。

 

「近くの森と言ったな。そこはここから近いのかね?」

 

「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」

 

「すぐに王室に報告しましょう!王室騎士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては・・!」

 

コルベールが提案に、教師達はそれがいいとばかりに賛成意見が飛び交った・・・・・その時。

 

 

―――"カァァンッ!"

 

オスマン氏の杖の先端が地面に強く打ち付けられた。

 

 

「 馬鹿ものっ!! 」

 

 

オスマン氏は首を振り、クワッと目を向いて怒鳴った。怒鳴り声が宝物庫内にビリビリと響きわたり、周りの者は固まった。ガンマは老人とは思えないほどの迫力にパチクリとカメラアイを点滅させた。

 

「今から王室なんぞに知らせても間に合いはせんわ! フーケに逃げる時間を与えるだけじゃろう! その上、身に掛かる火の粉を己で払えぬようで、なにが貴族じゃ! これだけのメイジが雁首揃えとるというに、魔法学院の宝が盗まれたのじゃぞ! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らが解決する!!」

 

ミス・ロングビルは小さく微笑んだ。まるで、この答えが来るのを待っていたかのようであった。

オスマン氏はコホンっと咳払いをすると、有志を募った。

 

「それでは、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

 

 

「「「・・・・・」」」

 

 

しかし、誰も杖を掲げなかった。困ったようにお互いの顔を見合わすだけだ。

 

「…どうした? おらんのか! 大盗賊『土くれのフーケ』を見事捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

 

オスマン氏はキョロキョロと辺りを見回すが、教師達はまったく名乗りをあげなかった。 しかしそれは仕方の無いことだろう・・同じメイジとは言ってもこっちは学院の教師。相手はあの『土くれのフーケ』、三十メイル級のゴーレムを操り、魔法衛士隊をいくどと退けしまう実力をもった恐ろしい大盗賊だ。 それに並大抵のメイジが立ち向かう等、無謀の極みである。

普段は自身の魔法に鼻をかけてる教師達のこの情けなさに、オスマン氏は嘆かわしいとばかりにため息をついた。

 

俯いていたルイズが、すっと杖を顔の前に掲げた。

 

「っ!ミス・ヴァリエール!?」

 

ミセス・シュヴルーズが、驚きの声をあげた。

 

「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて・・・・」

 

「誰も掲げないじゃないですか」

 

ルイズはきっと唇を強く結んで言い放った。

唇を軽くへの字に曲げ、ルイズは真剣な目をしていた。ガンマは予想外のルイズの行動にポカンとしながらそんなルイズを見つめていた。

 

「マスター、ソノ任務ハ・・」

 

「あんたは黙ってなさい」

 

危険であると注意しようとしたが・・・ルイズにキッと睨まれ、ガンマは言葉を出さなかった。

 

「…しょうがないわねぇ」

 

ルイズがそのように杖を掲げてるのを見て、しぶしぶキュルケも杖を掲げた。

 

「ツェルプストー! 君も生徒じゃないか!」

 

コルベールが驚いた声をあげると、キュルケはつまらなそうに言った。

 

「フン。ヴァリエールに負けられませんわ」

 

キュルケが杖を掲げてるのを見て、タバサも掲げた。

 

「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」

 

キュルケがそう言ったら、タバサは短く答えた。

 

「心配」

 

キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。

 

「・・・・・」

 

 

 

――チャキッ・・・

 

 

「っ! ガンマ・・」

 

三人の掲げた杖に、ガンマの銃が加わった。

 

 

「ボクノ任務ハ、マスター・ルイズヲ守ル事。マスターガ行クノデアレバ、使イ魔トシテ ボクモ同行スル」

 

無機質な声で、ガンマは答えた。この任務は危険であるが、自分にはそれを止める権限がないし、ルイズ達だけを行かせるわけにもいかない。ガンマは緑のカメラアイで、真っ直ぐルイズを見つめた。

ルイズは唇を噛み締めて、お礼を言った。

 

「ありがとう・・・・、タバサ…ガンマ・・・・」

 

そんな三人と一体の様子を見て、オスマン氏は笑った。

 

「うむ、そうか……。では、お主たちに頼むとしようか」

 

「オールド・オスマン! わたしは反対です! 相手はあの大盗賊なんですよ!? 生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」

 

「では、君が行ってくれるかね? ミセス・シュヴルーズ」

 

「い、いえ・・・、わたしは体調がすぐれませんので・・・・」

 

「彼女達は、敵を間近で見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いとるが?」

 

タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師達が驚いたようにタバサへ視線が集まった。

 

「それって本当なの? タバサ」

 

キュルケも知らなかったのか驚いている。

 

「マスター、皆驚イテイルガ…『シュヴァリエ』ハ ソンナニ凄イコト?」

 

「当たり前よ! いい?『シュヴァリエ』は、王室から与えられる爵位の称号のことなのよ!」

 

ルイズがガンマに説明してくれた。『シュヴァリエ』は言わば階級の一つのようなもので、爵位としては最下級の称号であるのだが、タバサの年齢でそれを与えられるという事自体が驚きなのである。男爵や子爵の爵位ならば領地を買う事で手に入れる事も可能なのだが、シュヴァリエだけは違う。純粋に業績に対して与えられる爵位・・・、つまり実力の称号なのだ。

その称号を得ているということは、タバサは王室からも認められるほどの実力をもったメイジということだ、一見無口で大人しい印象の少女にしか見えないが・・・自分の世界でもあの青いハリネズミが人間達から英雄と呼ばれてるのだし、見た目ではわからないものだ。

 

タバサがシュヴァリエの称号をもっていることで、宝物庫の中がざわめいた。 オスマン氏は、それからキュルケを見つめた。

 

「次にミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 

キュルケは得意げに、髪をかきあげた。タバサもすごいが、キュルケも軍人家系だったことにガンマは驚いている。

それから、ルイズが自分の番だとばかりに可愛らしく無い胸を張った。

 

「あ~・・・ミス・ヴァリエールは・・・えっと・・」

 

オスマン氏は褒めるところがなかなか見つからなくて困ってしまった。 二人に比べるば彼女は問題児という印象しか浮かばない。ルイズは言葉に詰まらせてるオスマン氏に不安な表情が浮かんできている。

気まずくなったオスマン氏は目を泳がせていると、彼女の使い魔の存在がいたことを思い出した。

 

「そうそう!ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で…、その、うむ、なんだ、大変勉強熱心で努力家であり、将来有望なメイジと聞いているが?

しかもその使い魔は!」

 

それからガンマを熱っぽい目で見つめた。

 

「ただのゴーレムが自我を持ち、あのグラモン家の息子である、ギーシュ・ド・グラモンが操る七体のゴーレムと決闘して、魔法の銃を用いて見事勝利したと聞いておるぞ? 」

 

オスマン氏は思った。このゴーレムが、本当にあの"ロボット"であるのなら・・・・本当に…本当に伝説の『ガンダールヴ』でもあるのなら・・・・。

『土くれのフーケ』のゴーレムに遅れをとることはあるまい。

コルベールが興奮した調子で、後を引き取った。

 

「そうですぞ!なにせ彼は強力な魔法の銃を持った高位のゴーレムであり、あのガンダー・・・」

 

ゴヅッ!

 

オスマン氏は慌ててコルベールの足を杖で突いた。

 

「あいたッ! い、いえ、なんでもありません!はい!」

 

コルベールが自分の足を摩ってると、教師達はすっかり黙ってしまった。オスマン氏は威厳のある声で教師達に言った。

 

「この中で三人に勝てるという者がいるのなら、一歩前に出なさい」

 

異議を唱える者は誰もいなかった。反対するものがいないと確認したオスマン氏は、ガンマを含む四人に向き直った。

 

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

 

 

「「杖にかけてっ!」」「…杖にかけて」

 

ルイズとキュルケとタバサは、凛々しい表情(タバサはずっと無表情だが)になって直立すると、杖を掲げて宣言した。それからスカートを摘み、恭しく礼をする。

 

「アイアイサーッ。オールド・オスマン」

 

ガンマは右腕の銃をジャキンっと敬礼のように構えた。卵型のへんてこな姿ではあるが・・・無駄の無い動きで銃を構える動作は、勇敢な兵士のようだ。

 

「では、馬車を用意しよう。それでフーケの隠れ家に向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」

 

「はい。オールド・オスマン」

 

「戻ってきたばかりで疲れとるじゃろうが、彼女達を手伝ってやってくれ」

 

ミス・ロングビルは頭を下げた。

 

「元よりそのつもりですわ」

 

 

 

 

 

――――そうして捜索隊が決まったことで集まった他の教師達は解散し、捜索隊メンバーとなったルイズ達はミスロングビルと共に出発のための準備へと向うことにし、宝物庫を出ようとした。

 

 

 

 

 

《…………ピコンッ》

 

 

 

 

「ッ!!」バッ

 

 

宝物庫をあとにしようとルイズ達のあとをついて行ったガンマは、一瞬、センサーにある反応を検地し、振り向き宝物庫を見回した。

 

 

「(・・・・一瞬ダガ、機械カラ発セラレル微弱ナ電磁波ヲキャッチ。反応ガ弱スギテ解析不能……何故、宝物庫カラ・・・)」

 

 

「何してるの、早く来なさい」

 

「ア…了解・・」

 

 

ルイズに呼ばれ、ガンマは宝物庫を少しだけ見つめると、ルイズ達の後をついていった。



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ミッションー128:破壊の杖奪還作戦

かなりお久しぶりです。書いたり書き直したりの繰り返しでなんとかできました。

〔追記〕
少し文章の追加と編集をしました。


―――準備を整えたルイズ達四人(三人と一体)は、ミス・ロングビルを案内役に早速出発することにした。

 

オールド・オスマンが手配してくれた馬車は、"キャラバン"という名の幌馬車であり、積載量が多く、一台で大量輸送を行うことができるものだ。 わざわざこの馬車にしたのは重量の重いゴーレムであるガンマも一緒に乗れるようにと、オールド・オスマンが配慮してくれたのだ。 幌馬車であるが、屋根の幌は取り外されており、道中で襲われたときに、すぐに外へ飛び出せれるほうがいいということでこのようにしたのである。

ミス・ロングビルは御者を買って出て、御者台から馬車を引く二頭の馬の手綱を握っている。 その後ろの座席にはルイズ、キュルケ、タバサの三人が座っており、ガンマは体が大きくて座席に座れないので、一番後ろの荷物置きに足を畳んで座っている。

 

 

 

 

ガタゴトッ…ガタゴトッ…ガタゴトッ・・・

 

 

 

「ふわぁ~…」

 

「はしたないわよ、ツェルプストー」

 

「だって~、やることもないし退屈だもの。それにこの馬車ってばすわり心地もよくないし、お尻がいたくなっちゃったわ」

 

欠伸をするキュルケに、反対側の席にいるルイズが注意したが、キュルケは退屈そうにん~っと大きな胸を強調するように堅くなった背筋を伸ばした。

空を見上げれば、燦々と輝く太陽の日差しがキュルケ達に注がれ、ポカポカと暖かく眠気に誘われるが、揺れる上に座り心地のよくない馬車の中では横になることもできない。『土くれのフーケ』を捕まえるという大事な任務を受けてるというのにキュルケのこの緊張感の無さは褒められたものではないが、目的地に到着するまでまだ時間がかかる、魔力を温存するためとは言っても彼女にとってこの時間は苦痛のようだ。

 

「ねぇタバサ、出発してからどのくらいたった?」

 

タバサは、ちらりと空を見上げ太陽の位置を確認し、ぽそりと言った。

 

「ちょうど1時間…」

 

「まだ1時間なの?はぁ~・・あと数時間も移動だんて、退屈で死んじゃいそう」

 

愚痴りながら頬杖を着き、深くため息をつく。キュルケはミス・ロングビルのほうに向いた、彼女は御者を買って出てからというものずっと喋っていない。

キュルケは、黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。

 

 

「ミス・ロングビル・・・・、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」

 

ミス・ロングビルはにっこりと笑った。

 

「いいのです。わたくしは、貴族の名を失くしたものですから」

 

キュルケはきょとんとした

 

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」

 

「ええ、だけどそれは肩書きだけで、メイジであっても平民と同じなんです。でもオスマン氏は貴族や平民だということにあまり拘らない方で、私を秘書として雇ってくださったのです」

 

「ふーん・・・・・ねぇ、ミス・ロングビル。差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 

ミス・ロングビルは困ったように優しい微笑みを浮かべた。

 

「そんな、お話しするほどのものではありませんわ」

 

「いいじゃないの。教えてくださいな」

 

やんわりと断りをいれるが、キュルケは興味津々といった顔で、御者台に座ったミス・ロングビルににじり寄る。

するとルイズがキュルケのその肩を掴んだ。キュルケは振り返ると、ルイズを睨みつけた。

 

 

「なによ、ヴァリエール」

 

「よしなさいよ、昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」

 

キュルケはふんっと呟いた。荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。

 

「まだフーケの隠れ家まで遠いのでしょう? 暇だからお喋りしようと思っただけじゃない」

 

「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」

 

キュルケはそれに答えず、足を組んだ。 そして、嫌味な調子で言い放った。

 

「ったく・・・・、あんたがカッコつけたおかげで、とんだとばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか・・・」

 

ルイズはキュルケをじろりと睨んだ。

 

「とばっちり? あんたが自分で勝手に志願したんじゃないの」

 

「あんたが一人じゃ、ガンマが危険じゃないの。 ねぇ、ゼロのルイズ?」

 

「どうしてよ」

 

長く赤い髪をいじりながら、ちらりとガンマのほうを見やる。

 

「あの時ガンマが動けなくなってたのは、あなたが原因なんじゃなくって? ヴァリエール」

 

「…っ!」

 

キュルケの指摘に、ルイズは言葉が詰まった。

 

「あんなに足の速いガンマが逃げ遅れるだなんておかしいじゃない。どうせ貴方のことだから腰でも抜かしてて、ガンマに助けられたのよね? そうじゃなければあんな状況にならなかったはずよ。 それに……いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ? ガンマに戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?彼には魔法の銃があるんだしね」

 

 

「誰が逃げるもんですか!! あんなでかいだけのゴーレム、私の魔法でなんとかしてみせるわ!」

 

「魔法?誰が? 笑わせないで!!」

 

 

二人は再び睨み合い、バチバチと火花を散らし始めた。 隣にいるタバサは止めるわけでもなく相変わらず本を読んでいる。

 

「二人トモ、現在任務中…喧嘩ハ、ダメ」

 

ガンマがおろおろしながらも無機質な声で間に入り、二人をとりなした。

 

「ま、いいけどね。せいぜい怪我をして足でまといにならないことね」

 

キュルケはそういうと、手をひらひらと振ってみせた。ルイズは悔しそうにぐっと唇を噛んでいる。

 

「マスター、落チ着イテ」

 

「落ち着いてるわよ!・・・ん?」

 

イライラしながら怒鳴り、ふとガンマの背中を見ると・・・自分がプレゼントした剣ではなく、キュルケの剣を背負っていることに気がつく。

 

 

「ガンマ、私があげた剣はどうしたのよ」

 

「? 決闘ノ結果、コノ剣ヲ装備スルコトニナッタカラ、現在デルフハ学院ニ待機サセテイル」

 

昨晩の勝負の結果、キュルケの剣を装備することが決まったので、現在デルフはシエスタに預かってもらっているのだ。 できればデルフの意思も尊重したかったが・・・貴族にとって決闘は自信の名誉を賭けたものでで、ルールは絶対であり使い魔である自分にはどうすることもできない。それに剣は片手でしか使えないし、長い剣を二本も装備してては動きにくくなって任務に支障がでてしまう。

シエスタに預けて後にしようとした際、デルフが 『あれはなまくらだからやめといたほうがいいと思うんだがなぁ』 と言っていたが・・・"なまくら"とはどういう意味なのだろう? 何か問題があるということなのだろうか?

一度スキャンしてみたが、この剣は他の武器と同じような金属であることはたしかだし、店主は『魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ』と説明していたから、魔法の効力によって攻撃力が向上しているということかもしれない。 魔法のエネルギーを感知できない自分には判断がつかないし、なまくらの意味は不明だが・・自分のルーンの効果もあるし、武器としては問題はないだろう

 

 

「そう・・・・だったわね(あんなに喜んでくれたのに・・・)」

 

「勝負に勝ったのはあたし。文句はないはずよね?ゼロのルイズ」

 

「・・わかってるわよ」

 

うつむくルイズを他所に、キュルケは「そうだわ!」と思い出したようにパンッと手を叩いた。

 

「ねぇガンマ、依然言ってたあなたの国のお話を聞かせてくれる? あなたの国にどんなものがあるのかとても気になってたのよ」

 

キュルケはキラキラと目を輝かせて、期待したようにガンマを見つめる。 どうやら前にガンマの国の話を聞くことを約束していたのを思い出したようだ。その話が聞こえたタバサもピクリと反応し、本から顔を上げて視線をガンマに向けた。

 

「ア・・デモ、マスターニ…」

 

「あら、もしかしてあたしと話すなって言われたの? それなら大丈夫! ようは、"あたしだけ"と話ちゃダメなんでしょ? だったら今ここにはタバサやミス・ロングビルもいるんだし、問題ないんじゃない?」

 

たしかにそれなら命令に反していることにならないから、話してもいいのだが・・・それをルイズが容認するだろうか? ガンマは困ったようにカメラアイを主人に向けた。

 

 

「・・好きにすれば」

 

ルイズは意外にも、一言だけ淡々と言って了承した。しかしルイズはガンマに背を向けており、表情が見えない。

 

「ほら、あなたのご主人様もこう言ってるんだし、大丈夫よ」

 

「・・・・」

ガンマは主人の様子が気になったが・・・話す許可を得たのでキュルケ達に、話しても問題のない可能な限りの情報でステーションスクエアの街の話をすることにした。

 

「了解。 デハマズ、ボクガ居タ場所ニハ海岸線ニ"ステーションスクエア"ト言ウ平和ナ都市ガアリ、ソコハ大勢ノ人間達ガ」

 

「・・・・」

 

キュルケ達が楽しそうに話してる中、ルイズは、ちらっとその様子を見たけど、何も言わなかった。

 

 

 

 

―――『あの時ガンマが動けなくなってたのは、あなたが原因じゃなくって? ヴァリエール』

 

 

 

 

ただ・・・・先ほどのキュルケの言葉が、ルイズの耳から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ルイズ達を乗せた馬車は深い森に入っていった。 馬車が通る道を鬱蒼とした樹々が左右から覆って薄気味が悪く、古代遺跡が眠るミスティックルーインの密林地帯ほどではないが・・ガンマ以外の人間であるルイズ達の恐怖心をあおるには十分の暗さだ。 これだけ草木が生い茂った森ではいくら昼間でも日が通らず、人を寄せ付けないようだ。

 

さらに馬車を進めていくにつれ、道がだんだんと険しくなっていく。 走らせるごとに馬車が悪路の影響でガタゴトとゆれて、振動がもろにルイズ達に響いてくる。

すると、生い茂る木々が馬車の走行を遮るように道を塞いでいた。

 

「これ以上は進めませんね。ここから先は、徒歩で行きましょう」

 

馬車を止めるとミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車を降りた。 ガンマも歩行モードへと折りたたんだ足をガシャガシャと広げ、右腕の銃を構え辺りを警戒しながらルイズ達につづく。

 

森を通る道から、人が通れるほどの小道が続いている。人が通りやすいように人為的に草木を切り取られてるところを見るに、小屋へと続いてるルートのようだ。ガンマは回りに危険が無いかをサーチし辺りを見回していると、キュルケが左腕に手を回してきた。

 

「なんか、いやだわ、暗くて怖い・・・・」

 

怯えるような仕草をし、ガンマの金属の腕に身体をくっつける。

 

「キュルケ、ソンナニ体ヲ密着サセルト、歩キニククナル」

 

「だって~、薄暗くて~、すごくこわいんだもの~」

 

キュルケはうそ臭い調子で言い、大きな胸がガンマの腕に当たっていた。夜に比べればそんなに暗くはないのだが、そんなに怖いのだろうか? まだ怒ったルイズのほうが怖いと思うのだが・・・、と見当違いなことを思いながら不思議そうに首をかしげる。

ルイズも怖がってないだろうかと気になって、斜め後ろに緑のカメラアイを向けた。

 

「マスターハ、大丈夫?」

 

心配そうに聞こうとしたが、ルイズはふんっと顔を背けた。

馬車でのやり取りから、ルイズは何故か不機嫌になっている、また怒らせるようなことをしてしまっただろうか・・・。

 

 

 

 

 

馬車を降りて徒歩で幾ばくかの道のりを進んでいくと、薄暗い森の奥から陽光が照らし出されてるのが見えだし、そこを出ると一行は開けた場所にたどり着いた。

広さはおよそ魔法学院の中庭ほどの広さで、森の中の空き地といった風情である。 広場の中央にはミス・ロングビルの情報どおり、一軒の廃屋があった。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

 

ミス・ロングビルは廃屋を指差して言った。 廃屋からは物音一つせず人が住んでいる気配はまったくない。ガンマはカメラアイを動かし、ズームアップしながら廃屋を見回した。

ミスティックルーインの探検家が使っている木造の小屋と似た作りをした掘っ立て小屋のような作りだ、隣には朽ち果てたボロボロの釜と壁板がはがれた物置が並んでおり、薪がたくさん詰まれている。 小屋の状態を見るに、もう何年もほったらかしにされているようだ。

四人と一体は小屋の中から見えないように森の茂みに身を潜め、ガンマは頭を枝木でカモフラージュ(のつもり)をして隠しながら廃屋を見つめた。

 

 

「静かね・・・ホントにフーケがいるのかしら」

 

「襲撃カラ10時間ガ経過…既ニ逃走シテイル可能性アリ」

 

「でも、昨日あれだけゴーレムで暴れたから、かなりの魔力を消費してるはずよ。まだ中で休んでるかもしれないわ」

 

ルイズ達は小声で話し合う。フーケの巨大なゴーレムは作りだすのにかなりの魔力を消費する。まだ中にいるとしたら失った魔力を回復させるため、拠点にしてるこの小屋で休みをとっている可能性がある。

まだ核心があるわけではないが、とにかくあの中にいるのなら、この場合奇襲が一番である。ルイズ達は、ゆっくりと相談をし始めた。

 

タバサはちょこんと地面に正座すると、皆に自分の立てた作戦を説明するために枝を使って地面に絵を書き始めた。 ガンマは身を屈めながらその絵を覗き込む。

 

 

―――作戦はこうだ。 まず、偵察兼囮役が小屋の傍に接近し、中の様子を確認する。 そして、中にまだフーケが居れば、フーケの意識を囮役に向けさせ、外へ誘導する。

小屋の中ではゴーレムを作りだすための土がないから、フーケお得意の土ゴーレムは使えないのだ。他のメンバーはそれぞれ小屋の四方に配置し、裏口からも逃げないよう取り囲む。そして、フーケが外へ出たところを魔法で一斉攻撃する。 土ゴーレムを創り出す暇すら与えずに、集中砲火で沈めるのだ。・・・・といった段取りである。

 

なるほど・・・とガンマはカメラアイを点滅させ理解する。 前にキュルケが部屋に入ろうとした生徒を蝋燭の火を使って吹き飛ばしたように、メイジの扱う属性魔法にとっての万物の根源をなす"元素"があれば、魔法の性能が格段にあがる。 たしかにフーケのゴーレムは強力だが、元である土がなければ土ゴーレムを作りだすことは難しくなり、発動させるための呪文さえも封じられたらいくら"スクウェアクラス"のメイジでも、手も足もだせなくなるというわけだ。

 

「それで、偵察兼囮役は誰がやるの?」

 

ルイズが尋ねた。タバサは指を指し短く言った。

 

「彼が適任」

 

全員が一斉にガンマを見た。ガンマはきょとんとしている。 普通ならばゴーレムなどに偵察など無理だろうが、ガンマは通常のゴーレムよりもスピードが速く、あんな真夜中で高所からゴーレムに乗ってるフーケを見つけ出すほどに目もよい、それにフーケはガンマを魔法で動けなくして踏み潰そうとしたのだ。そのゴーレムが近くまでいると知ったら、簡単に誘き出せれるはずだ。

タバサはそれらのことを想定し、偵察兼囮役にガンマを指名したようだ。

 

「ガンマ、危険かもだけど・・・あの小屋にフーケがいるかどうか調べてきてちょうだい」

 

「アイアイマムッ マスター・ルイズ」

 

主人の命令を受け、ガンマはコクリと頷いた

 

 

シャキンッ

 

 

ガンマはキュルケから貰った名剣を鞘から抜いた。 剣を握った左手のルーンがキラキラと光だすと同時に、自身の機体の機能が向上し、体に羽が生えたみたいに軽くなる。

 

「動かないで」

 

「?」

 

するといきなりタバサはガンマの近くに来て小さく呪文を唱え、ガンマの足に杖を向けた。

 

「ミス・タバサ、一体何ヲ…?」

 

「『サイレント』。音が鳴らなくなる」

 

ガンマはきょとんとしながら確かめるように足を動かす。 すると不思議なことに地面を何度も踏みつけても、普段からガシャガシャ鳴る足音はまったくの無音となっている。

すごい・・授業でデータはとってはいたが、実際に音を消してしまうだなんて、本当に不思議な現象だ・・。

 

「アリガトウゴザイマス、ミス・タバサ」

 

お礼を言うとタバサはコクリと頷き、全員に目を配った。全員準備がいいことを確認すると、合図をだした

 

「作戦開始」

 

 

――――ババッ!

 

 

合図と同時に、ガンマはすっと一足飛びに小屋の傍まで近づいた。 825kgもの重量があるにもかかわらず地面に着地しても『サイレント』の効果で足音が消え、無音のまま地面がめり込んだだけだ。 これなら気づかれずに小屋に近づけそうだ。

魔法がこんなに便利だったとは・・とガンマは関心した。

 

「偵察・・・偵察・・・」

 

関心はさておき、そのまま任務を続行して窓に近づき、恐る恐ると中を覗き込んでみた。

 

小屋の中はそこまで広くはなく、リゾートホテルの一部屋分ほどしかないようだ。 部屋の中央に埃の積もったテーブルと、倒れた椅子、そして老朽化で崩れた暖炉が見えた。テーブルの上や床には空になった酒瓶が何本かころがっている。 そして部屋の隅には、外にあったものと同じ薪が積み上げられていた。 暖炉の中には炭の山が出来ているところを見るに、ここは元々炭焼き小屋だったのだろう・・、他には、木製の大き目のチェストが置かれているくらいだ。

一見もぬけの殻のように思えるが、ガンマは念のためカメラアイで部屋の全体を生体センサーで調べだした。カメラアイがチカチカと何度も点滅する。

 

 

―――キュィィーン・・・

 

 

「・・・生体反応無シ。コノ小屋ニハ、人間ハイナイ」

 

 

ガンマの生体センサーは生物のもつ熱や生体エネルギーを感知する機能が備わっている。 たとえ床や天井にかくれていようと、人体から発せられるエネルギーは隠すことはできない。 そのセンサーに反応がないとなると・・・やはりここにはもういないのだろうか。

しかし、相手はメイジの盗賊、土くれのフーケである。 いないと見せかけて、どこかでこちらの出方を伺っているかもしれない、タバサが魔法で音を消したように、人間の生体反応を隠すことも可能なのだろうか? だがセンサーで魔法のエネルギーを感知できないのではどうにもできない・・・・・どうしたものか・・・。

 

ガンマはどうするべきかとしばらく考えたあと、やはりここは魔法に詳しい彼女たちに任せるべきと判断し、皆を呼ぶことにした。

ガンマは頭の上で、両手を交差させた。誰もいなかったときの場合のハンドサインである。 隠れていた全員が恐る恐る近寄ってきた。

 

「中ニハ、誰モイナイ」

 

ガンマは窓に指を指しそう報告した。 タバサはドアに向けて杖を振った。

 

「・・・罠はないみたい」そう呟いて、ガチャリとドアを開け、中入っていく。 キュルケとルイズも後に続いた。ガンマは残って見張りをしようとしたが、ミス・ロングビルだけは中に入ろうとはせず、小屋の前に留まった。

 

 

「ミス・ロングビル、中に入ラナイノデスカ?」

 

「私はこの辺りを見張っていますわ。ガンマさんは皆さんの護衛をお願いします」

 

「シカシ ミス・ロングビル・・・貴方カラ長時間ノ移動ニヨル疲労ヲ検地。ソレニ、マダドコカニフーケガ潜ンデイル可能性ガアリマス。ドウカ、無理ハナサラナイデクダサイ」

 

ガンマは心配そうに無機質な声で言った。ミス・ロングビルは土くれのフーケを追ってから何時間も寝ずに移動して道案内までして同行してくれた。通常なら人間は疲労で睡眠をとらなければならないのに。

 

「ありがとうございますガンマさん・・・でもご心配なく、わたくしも伊達にオールド・オスマンの秘書は勤めておりませんわ。ガンマさんの銃ほどではありませんが・・これでも魔法には自身がありますの」

 

ミス・ロングビルはニコリと笑いかけた。

 

「デスガ・・・」

 

「もちろん無理はいたしませんわ、あくまで見張りですからね。 それに、ガンマさんこそ、いつどこでフーケが襲ってくるか判らないのでしたら、ミス・ヴァリエールの傍にいたほうがいいと思いますよ? ガンマさんは、主人を守るのが勤めなのでしょう? ですから、見張りはわたくしに任せてください」

 

「・・ワカリマシタ。デスガ、モシフーケガ現レタラ、スグニオ知ラセクダサイ。スグニ救援ニ向カイマス」

 

と言って、ガンマは「デハ、オ任セシマス」とペコリと頭を下げると遅れながらドアをくぐっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・本当、優しい"ゴーレムちゃん"だねぇ・・・・・壊しちゃうのがもったいないくらい」

 

 

 

―――――ミス・ロングビルは、先ほどの彼女とは思えない、不敵な笑みを浮かべていた。



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