傲慢の罪(偽) (アンパンくん)
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転生

 

 

……俺は死んだ。

 

 

それはなんて事ない何時もの休日だった。

休日に昼間から酒を飲むことが楽しみだった俺は午前中に家事を全て終わらせ、行きつけの居酒屋に向かっていた。

 

気が抜けていたのだろう。居酒屋へ向かう途中、突然向かいから歩いてくる男に、特有の刺激臭のする液体をかけられ火をつけられた。

液体は瞬く間に燃え上がり俺の身体を燃やして行く。

男は燃え盛る俺を見ながら気が狂った様に笑っていた。

 

燃え盛る俺は自分の人生の終わりを感じながら、最後に目に映ったのは、犯人の顔でも周りで悲鳴をあげてる歩行者でもなく、俺よりも熱く煌々と燃えている太陽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたらそこは真っ暗だった。水の中にいるような液体に包まれているような感じだった。

何故か息は苦しくない、というよりもまだ呼吸をした事が無い感じだ。

俺はここから抜け出すべく何故か殆ど動かない腕を動かし出口を手探りで探す。

目が見えてない割には存外早い時間で、通れるか分からないほど狭い出口を見つける事ができた。

 

俺はその出口に頭を突っ込んで出ようとする。が思ったより窮屈で思うように前に進む事が出来ない。

少しずつ、ほんとに少しずつ前に進み、ようやく片手が外気に触れる事が出来た。

そして、ラストスパートをかけ出ようとする。と、突然大きな手が俺に触れそこから引っ張り出してくれた。

 

ようやく全身を出す事が出来た。

引っ張りあげてくれた巨人が俺を抱き抱えている。

俺は声を出そうとする。が意識と違い俺の体は泣き声を上げることしか出来ない。

 

俺はそのまま別の人に抱き抱えられた。

その時ようやく微かだが目を開く事が出来、抱き抱えている人の顔を見る事が出来た。

 

 

 

その人は綺麗だった。

その人は泣いていた。

その人は笑っていた。

 

 

 

その時、直感的にわかった。

自分はこの人から産まれた赤ん坊だという事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は今、生命がこの世界に誕生しようと頑張っている姿を目にしている。

この世界で自分が最も大切な人が最も大切になるだろう命を産もうとしているのだ。

手に力も篭るだろう。

こんな時に苦しみを分かち合えず声をかける事しか出来ない自分が恨めしい。

 

 

 

永遠とも思う時間をかけ、ようやく片手が出て来た。

思わず大声を上げそうになる。が慌てて抑える。

妻が頑張っているのだ。ここで狼狽えてどうする。

が、もうこれ以上は妻の命が危険だと判断され、機械と『個性』、それと医者の手により我が子が誕生した。

 

新しい生命はとても小さかった。

儚く直ぐに壊れそうな小さな身体でこれでもかという大きな泣き声を上げた。

この部屋いっぱいに響き渡る小さな生命の声を聞いて目から涙が零れた。

 

我が子を抱き抱えた先生が俺に抱く様に促すが、出産を終えても自分が産んだ大切な命を見るまで気が抜け無いという顔をしている妻に、先に抱かせるように言う。

 

妻が我が子を抱き顔を見た瞬間、泣きながら笑顔になった。

その顔は今までどんな顔も見て来た俺が妬ける程美しく綺麗だった。

 

そしてそれが妻の最後の笑顔だった。

俺に我が子を渡した時「幸せにしてね」と言い痙攣し始めたのだ。

医者はそれを見た瞬間、突如大声を上げ我が子を助産師に預けさせ俺を病室から出した。

 

廊下では仕事をしていたはずの相棒(サイドキック)達がおり、どうだったか俺に聞いてくる。が、突然の出来事に何を話せば良いか分からず言葉が出てこない。

 

聞いて来た相棒(サイドキック)達も何かを察したのか真剣な表情で病室の出入り口を見る。

 

 

……どのくらい時間が経ったのだろうか。

先程の幸福の時間がどれくらい前だったか思い出せない。

いつの間にか遠くにいるはずのウチの両親と妻の両親が駆けつけていた。

 

挨拶しなければと立ち上がろうとするが膝に力が入らない。が、代わりに両親達がこちらに来てくれた。

俺は挨拶をして先程のあった事を話す。

時間がたったからだろうか。自分でも思った以上に言葉がスラスラと出てくる。

 

最後まで話し終えた時にちょうど病室のドアが開き、先程の先生がマスクをとって出て来た。

 

 

そして俺はその先生から放たれた言葉を聞いた瞬間……膝から崩れ落ち泣き叫んだ。

 

 




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発現

 

 

 4年が経った。

 

 やはり、僕は転生していたらしい。

 そして、僕を産んでくれた母親らしき綺麗な女性は亡くなってしまった。

 

 が、新しい母親が出来た。

 その人はシングルマザーで僕を産んだ母が亡くなって以来ずっと落ち込んでいた父だと思われる人物を献身的に支えていたらしい。

 その行動に立ち直った父は深い感謝を覚えシングルマザーでは大変だろうと思い結婚したみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 ……そのおかげで僕は毎日、新しい母と僕より3歳年上で兄にあたる子供に虐待を受ける日々だが。

 

 どうやら新しい母親は父の『ヒーロー』と呼ばれる職業の社会的地位の恩恵を受けるため、そして自分の息子の今後を考えて、結婚する為に色々計画をしていたらしい。

 

 まだ話を理解出来ないだろうと思い僕がボコボコにされて倒れている時に協力者らしき人物に気分良く話していたのを覚えている。

 

 

 

 そして、この世界についても色々分かって来た。

 

 まず、この世界の殆どの人に『個性』という魔法みたいな力が備わっているということがわかった。

 現に、新しい母親はいつも僕を痛めつけた後、最後はぬいぐるみを持ってきて、僕とぬいぐるみを同時に触るのだ。するとぬいぐるみに僕と全く同じ傷ができ、僕の傷は痛みを伴いながら強制的に治る。

 

 おそらく、あれは『個性』を使用しているのだろう。

 

 他にも、この世界の犯罪者に『(ヴィラン)』と呼ばれる者が多かったり、僕の父もやっている『ヒーロー』と呼ばれる職業が有名だったりと僕が自分を俺と呼称していた前世とは全く違う世の中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは都内のとある一軒家。

 

 そしてそこは今話題のヒーロー『オールマイト』や一年の事件解決数最多を記録した燃焼系ヒーロー『エンデヴァー』など若手のヒーローが台頭する中で今も根強い人気を誇る天候系ヒーロー『ウェザーマスク』が住む家でもあった。

 

 ウェザーマスクには息子がいた。

 自分の最も愛する者が残した息子だ。

 彼は愛する者が残していった息子を何より可愛がった。

 当然といえば当然だろう。自分の愛する者が残していった贈り物なのだから。

 

 だが、彼は義理深かった。

 自分が絶望の淵に立たされていた時、支えてくれた女性が苦しんでいるのを見てられなかったのだ。

 だから彼は結婚を申し込んだ。

 君を一番に愛せないがと言って……

 その決断が自分の宝物を傷つけるとは知らずに……

 ここまで女性の計画通りだと知らずに……

 

 

 

 

 

「……生意気なんだよ。いつもいつも、あのスーパーヒーロー、ウェザーマスクに可愛がられやがって。」

 

 リビングで7歳とは思えぬほどがっちりとした少年が小さな少年に殴る、蹴るの暴行を繰り返していた。

 床には血の跡がつかない様にマットが引いてあり、外からは見えない様カーテンは閉めきっていた。

 少年の身体には既に至るところに痣があり、ところどころ腫れ上がっていた。

 

「ヘッ、ママが居ないからって優しくやると思うなよ。いつも以上に痛めつけてやる。」

 

 ガタイのいい少年はポケットからメリケンサックの様な物を取り出すと自分の手にはめた。

 そのまま、痛みからかうずくまりながらベソをかいている少年に乗っかり、タコ殴りにする。

 傷は後で母が消してくれることを知ってるからか殴ることに全く遠慮も躊躇もない。ボコボコにしていく。

 

 

 

 流石に殴り疲れたのか少年は殴るのをやめ少年から降りる。

 荒くなった息を整えながら少年はうずくまった少年の胸ぐら掴むとそのまま顔を近づけさせる。

 

「おい、いいか。あの人はもう俺のパパなんだ。お前みたいな奴、この家にはいらないんだよ。」

 

 少年は更に言葉の追い討ちをかける。が痛めつけられた少年は意識が無いのか、聞こえてる素振りを見せない。

 それに腹が立った少年は『個性』を使って殴ろうと右手を振りかぶる。

 

「や…やめてよ。」

 

 すると、殴られていた少年は殴るのを辞めさせようと自分の胸ぐらを掴んでいる手を掴み返す。

 

「なんだ、逆らうのか⁉︎ 弟のくせに‼︎」

 

 少年はニヤリと笑いながら手を離す様言う。

 前に自分の母に反抗して酷い拷問紛いな事をされたのを忘れたのだろうか。

 自分が反抗してきたと言えばこいつは更に酷いめにあうというのに。

 が、腕を掴む力はドンドン強くなっていき離す気配もない。

 

「お…おい、離せよ。離せって言ってるだろ‼︎」

 

 痛みが強くなっていき焦りが出る。痛みに耐性がないのか目が涙目になっていく。しかし、いっこうに話す気配がないので殴って辞めさせようとする。

 

 ゴキッ

 

「ギヒャーーーーーッ‼︎」

 

 折れた。

 殴ろうとした少年の胸ぐらを掴んでいた腕が折れたのだ。いや、正確には胸ぐらを掴んでいた腕を掴んでいた少年が殴られる前に折ったのである。

 

「う…腕が……。ママーー、腕が〜〜」

 

 腕を折られた少年は助けを求める。が、誰も助けに来ない。

 当然だろう。この部屋で何が起こっているか外からは分からないのだから。

 

 殴られていた少年はダメージが全く無いかのように悠然と立ち上がった。そしてそのまま玄関へと歩いていく。

 

 彼がどこに行くかは分からない。

 だが、一つ言えるのは、彼は二度とこの家には戻って来なかったという事だ。




質問、感想よろしくお願いします。


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仕事

 

都内のとある一角。

大通りを抜け裏道に入っていくとそこに小さな居酒屋があった。

店は見たところとてもオンボロで本当に営業出来ているかも分からない。

しかも、立地が悪いせいか客の入りも殆どない。

 

それでも店主である男は血の繋がりもない娘を養おうと日々頑張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラッ

 

「いらっしゃいませーーー」

 

いつもは閑古鳥が鳴いている店に1人の男が来た。

男はスーツを着ており、口にはとてもゴツゴツしいマスクの様なものをつけている。

包帯で顔の上半分がグルグル巻きにされており目は見えていない様だが何故か周りの様子が分かる様だった。

 

「やぁ、店主はいるかな?」

 

「お父さんですか……?、ちょっと呼んで来ますね。」

 

男は店員に店に来た目的でもある店主の居場所を聞く。

この店に一人しかいない店員である娘は店主でもある父を呼びに店の奥に入っていった。

 

その間、スーツの男は手慣れた様子でカウンター席に座り、先ほど出されたお手拭きで手を拭きながら待つ。

 

店の中はとても古い感じで、和風というよりは中世の酒場といった様子だ。

壁には斧頭がやけに大きい斧が飾れているだけであり、他にこれといった物はない。

 

 

「お、お待たせしました。ぼ…僕が店主のエスカノールです。」

 

暫くして店の奥から出て来たのは、身長が160センチぐらいしかないほっそりとした男性だった。髪の毛は金髪で鼻の下に変なチョビヒゲが生えておりメガネをかけている。

 

「やぁ、久しぶりだね。エスカノール君。」

 

「あ…貴方は、……オールフォーワンさん‼︎。お久しぶりです!」

 

店主は尋ねて来た男を見た瞬間驚きの声をあげた。

男は驚くことは想定内だった様で全く動じてない。

 

「しばらく見ない間にチョビヒゲなんか生やしてね。」

 

「い…いや〜、ちょっとは風格出るかな…なんて!」

 

「……いや、お父さんは前の方がカッコ良かったよ。」

 

「ゴフッ‼︎」

 

奥から父を呼びに入ってた娘は戻って来ては今まで自分からは言えなかった文句を遂に言う。

 

娘から予想外の不意打ちを浴びた店主は膝から崩れそうになるが少ない精神力で何とか耐え、久しぶりに顔を見せた常連がいつも頼んでいた飲み物を出す。

 

「あぁ、ありがとう。それでね今日は、エスカノール君……君に仕事を頼みに来たんだ。」

 

「……はぁ〜。お酒の配達か何かですか?」

 

「いやいや、残念ながら違うよ。実は、ちょっと手合わせして貰いたい者がいてね……勿論、仕事だからお金はちゃんと払うよ。」

 

オールフォーワンはそう言うとスーツの内ポッケから小切手を一枚取り出してカウンターの上に置いた。

 

エスカノールはおそるおそる、小切手を手に取り金額を見る。

娘も気になったのか父の後ろに回り一緒に小切手を見る。

 

「「ヒィィィィィィィィ!!!!」」

 

書いてあったのは2人がこれまで見た事ない様な金額だった。

想像以上の金額に驚いた二人は抱き合いながら部屋の隅でいってしまう。

 

「…け、けど、僕、喧嘩はからきしですよ。」

 

「そんなこと分かっているさ。それでも僕は君にお願いしたいんだ。」

 

部屋の隅で娘とブルブル震えていたエスカノールは震えが取れたのか立ち上がりそのまま考え込む。

 

「お父さん、受けるべきだよ‼︎ このお金があればお父さんが無理して私が高校に行くためのお金を貯めなくても良いんだよ‼︎」

 

エスカノールは血は繋がってないが愛しい娘と思えるこの子に自分が受けれなかった人並みの教育を受けさせようとこの酒場を開いた。

だが、いくら前世の記憶があるからといってこの世界は自分がいた世界とは違う仕組みで動いており、その上自営業などした事もなかったから家計は常に火の車だった。

 

「……わかりました。このエスカノール、喧嘩などからきしですが娘の為、そして大恩あるオールフォーワンさんの頼みとなれば断る訳には行きません。思った通りの結果にはならないかもしれませんが、それでもよろしければ是非やらせて下さい‼︎」

 

右の拳を上に掲げ決意を固めたように声をあげた。

 

オールフォーワンはその言葉を聞き満足そうに頷いた

 

「君ならそう言ってくれると思ったよ。それじゃあ、明日の8時に迎えを寄越すから店の前で待っててくれるかい?」

 

「えっ、明日やるんですか‼︎」

 

「あぁ、そうだよ。此方としても早い方が都合が良いし、君も今した決断が時間が経って鈍るのは嫌だろ。じゃあ、明日よろしく頼むよ。」

 

そういうと代金を机の上に置き、颯爽と店を出て行った。

 

その言葉を聞いたエスカノールはだんだんと顔色を悪くしながら娘の方へ振り向く。

 

「すいません。明日の授業参観は行けそうにないです。」

 

「いや、お昼にお父さんが来ると迷惑だから来なくていいよ。」

 

娘はそういうと店をたたむため、外へ出て行った。

そうして、店の中には娘の言葉に更に落ち込んだ一人の可哀想な男だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズズ……

 

朝、光が差す裏路地に真っ黒なモヤが現れそこから人が出てきた。

顔は黒いモヤで覆われており黒い霧が服を着たようにも見える。

そしてそれは何かを探すように裏路地にを歩いていく。

 

(全く、先生にも困ったものです。金髪のチョビヒゲを連れてこいなんて。もう少し詳しく教えてくれないと。しっかしここら辺は暑いですねぇ)

 

殆ど手がかりが無いまま手探りで探していく。

が、そんな状態で人など見つかる筈もなく、諦めて一旦戻ろうとした時、奥から数少ない手がかりに当てはまる人物が歩いて此方に近づいて来た。

 

「全く、いつまで経っても来ないから、この私自ら探しに来てしまいましたよ。」

 

「え、もしかして貴方が先生が仰っていた方ですか⁇」

 

 

 

 

「えぇ、そうです。私が『傲慢の罪(ライオン・シン)』エスカノール様だ。」




ちなみに仕事とは原作でオールマイトが初めて戦った脳無の試作型と戦う仕事です。(パンチ5発で壊れました)

あと、ネタが無いです。見たいシチュエーションなどがあったら教えて下さい。(書くかは分かりません)

質問や設定など聞いてくれたら考えてる限りであれば答えます。感想もお願いします。


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出会い

「あのー、オールフォーワンさんはどうやってお父さんと知りあったんですか。」

 

純粋な疑問だったのだろう。

こんな見るからに傷だらけで人には言えないような隠し事をしてそうな男と今は見るからにひ弱で気の弱い男がどこで知り合ったのかが。

 

あるいは、父親たる存在が何かの悪事に巻き込まれたか心配して聞いたのだろうか。

 

 

けど、ゴメンね。

この出会いを僕の口から語る事はないだろう。

 

別に言えない事情がある訳でもないし、それこそ昼のエスカノール君に聞けば『傲慢』に僕を貶めながら、夜のエスカノール君なら遠慮がちにポツリ、ポツリと話してくれるだろう。

 

けど、僕は話さない。

何故なら、これは僕自身のプライドの問題だからだ。

 

悪を象徴する僕ではなくただの僕自身の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、これもハズレかな。」

 

あの日、僕は来たるべき日に向けて有能な『個性』を集めていた。

オールマイトとその前の『ワン・フォー・オール』所有者、志村菜々の友人との戦いの日だ。

 

なるべく先延ばしになるよう手を尽くしてきたが、それもそろそろ限界らしい。

 

勿論、負けるとは思わないが少しの可能性も考慮して手を打っておくのが長く生きるコツだ。

 

「……もう明け方か、そろそろ戻らなければ…。」

 

僕は陽が差し込み始めた裏路地を歩いていく。

 

だいたいこの時間はホームレスや表に出れない様な犯罪者がいっぱいいる。

その中から盗りやすそうな個性を盗ればいいだろう。

 

 

 

そして獲物を探している時、僕はそれを見つけた。

 

 

それは道の脇ににいた。

巨大な片手斧らしき刃物に寄りかかり気持ちよさそうに寝ている青年と呼ぶにはまだ若い男だった。

 

着ている服も微妙にブカブカだが身だしなみはしっかりしておりホームレスではなさげだった。

 

「今日はこの男で終わるか。」

 

少しの物音では起きそうにないので、歩いて近づいていき寝ている男の個性を奪いとる。

 

と同時に、昔奪った個性『解析』を使い奪った個性を解析していく。

 

「んー、何時もに増して時間が掛かるな……。」

 

だが個性『解析』にもデメリットが存在した。

解析中はその場から動けないのだ。

 

その場で解析したのがミスだったのかも知れない。

 

 

 

 

突然、上から人が降ってきた。

いや、飛んで来たと言った方が適切か。

 

 

FAKOOOM

 

 

「ようやく見つけたぞ。オール・フォー・ワン‼︎」

 

飛んで来たのはマントをつけた男だった。

いや、男というよりは老人だ。

足には噴射機みたいな物をつけている。

 

「志村の友人か…、悪いが今は君たちと戦う気はない。逃げさせて貰うよ。」

 

僕が『解析』を一旦取りやめ、逃走する為に個性『転移』を使おうとした時……。

 

 

ドクンッ

 

 

急に身体の中から熱が吹き出た。

感じた事もない熱さだった。

まるで、体の内側に太陽が有るような……。

 

「か……ッ‼︎ ……はあ……。」

 

「はぐっ、から…だ…が…あつ…い。」

 

そのまま、身体全体に熱が巡る。

体の水分が蒸発し、口から湯気が出てくる。

あまりの熱に全身の細胞が炭化していく。

 

 

 

 

 

 

「当然です。私の個性ですから……。」

 

突然、斧にもたれかかり寝ていた筈の少年が立ち上がった。

何故か、体が大きくなっており先程とは別人の様だ。

 

 

「『太陽(サンシャイン)』、偉大なる我が個性。」

 

 

僕は自身が燃え尽きる寸前で男から奪った個性を放出した。

それは太陽みたく丸くなりながら光を放ち彼の身体に吸い込まれていった。

そんな光景は見たことがなかった。

 

さらに、どんな原理か僕が長年奪ってきた個性は大半が焼滅してしまった。

 

そして僕はそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あぁ、ナイトアイに頼んでここら一帯を封鎖して貰え。早よう来るんじゃぞ俊典。』

 

 

「……というわけで、坊主。そこに倒れている男を引き渡してくれんかのぅ⁇」

 

「ダメです。」

 

金髪の大男がオール・フォー・ワンを捕縛しようとする老人の前に立ち塞がる。

 

「ん、何故じゃ⁇ 奴は凶悪な(ヴィラン)なのじゃぞ。お主も自らの個性を奪われかけではないか。」

 

「……えぇ、だからこそです。この愚かな盗人には私自ら罰を与えなければ。」

 

「罰なら法が与えてくれる。……それじゃいかんのか?」

 

「当然です。この私が罰を与えてこそ罪が償われるのですから。」

 

「……傲慢極まりない奴じゃの、すまんがちょっと眠っとれ‼︎」

 

老人は個性『ジェット』を使い目の前の大男に蹴りを入れる。

 

目の前に盟友を殺した張本人が倒れており老人は焦っていた。

いつ意識が戻り逃げ出すか分からない、この機会を逃したら次の機会に自分は生きていないかもしれない。

そんな不安もあったのだろう。

 

故にミスを犯した。

後になって考えみても決して正解が出るとは限らないだろう。

だが、これだけは分かる。

その行動は誤りだと。

 

 

 

「それが『傲慢の罪(このわたし)』」

 

大男は老人の蹴りを片手で掴んでいた。

老人といっても実力はトップヒーローに並ぶ程であり決して弱くは無い。

その蹴りを軽々と受け止めたのだ。

 

老人……グラントリノは即座に離れようと『ジェット』を使い試みた。

だが、大男の握力が強すぎるせいか捕まれているのを振りほどけない。

掴まれている足からイヤな音が鳴る。

瞬時の判断で体を捻り、もう片方の足を『ジェット』で加速させ腕を蹴りつける。

が、大男に効いてる様子は無い。

 

 

ーー突如、グラントリノには大男が太陽に見えた。

 

 

大男が空いているもう片方の手でパンチを放つ。

 

「ーーーーっ」

 

ガードがギリギリ間に合い何とか防御するがガードした腕から嫌な音がする。

更に、足が地についていないため簡単に吹っ飛ばされる。

そのまま後ろの壁にぶつけられた。

 

「ーーガッ‼︎」

 

大男は傍に置いてあった巨大な片手斧を手に取りグラントリノにトドメを刺そうとする。

 

「これで終わりです。」

 

斧を振り下ろした。

 

 

 

 

土煙りが吹き荒れる。

切った手応えはなかった。

 

突如、後ろに人の気配を感じた。

 

振り返ると前髪をV字に2本逆立てた金髪の筋骨隆々の男が先程と老人を抱き抱えていた。

 

「…ゴホッ……遅いぞ、俊典。」

 

「申し訳ありません、グラントリノ。ここからはお任せを……」

 

駆けつけた英雄(ヒーロー)……オールマイトはグラントリノを優しくおろし、後ろの大男に振り向く。

 

「ハァーー、次から次へと……。何故こうも敵うはずのない戦いに挑むのですか?」

 

「HAHAHA、それはやってみないとわからないんじゃないかな。それよりもだ、何故君はこの凶悪な(ヴィラン)を庇っているんだい⁇」

 

「庇う⁇…この私が⁇……彼を⁇……フッ…フハハハハハハ‼︎。」

 

「……ん、違うのかい?」

 

「当たり前です。彼にはこの私自ら罰せねばならないのであなた方に連れて行かれると困るだけですよ。」

 

「そうかい、……では私は君を犯罪者にしない為、君を倒し後ろの敵を連れて行こう‼︎」

 

オールマイトは両腕をクロスさせるとそのまま大男に向かって突っ込んで行く。

 

CAROLINA SMASH(カロライナ スマッシュ)!」

 

そのまま、胴体にクロスチョップを放つ。

地面がひび割れる程の衝撃波が後ろにまで吹き荒れる。

 

が、大男は澄ました表情でその場に留まっている。

 

瞬時に効いてないと判断したオールマイトは連続でパンチを打つ。

周囲に豪風が吹き荒れ、周りの瓦礫をもふきとばしていく。

周囲の被害は甚大だが、グラントリノ等に被害が被らない様調節してるのはさすがといえよう。

 

オールマイトの連撃が効いたのか大男は一歩後退する。

この一歩に少しずつだが確実に効いていると確信したオールマイトは更に攻勢に出ようとする。

 

 

ーーーザンッ

 

 

突如、オールマイトの胸が一文字に斬れた。

 

「ーーークッ」

 

突然の事に動揺しながら瞬時に後ろに下がる。

深く斬られたからか、傷口から血が吹き出てコスチュームを赤く染める。

 

「オイオイ、全っ然効いてないのか⁇」

 

「フン、その程度の攻撃、効くはずがないでしょう。……ですが、この私を一歩でも下がらせた事に敬意を表し「あっ、パパーーー‼︎」ええ⁉︎」

 

突然遠くの方から女の子の声が聞こえた。

見てみると黒髪のボブカットで9歳ぐらいの可愛らしい女の子がこちらへ走って来るのが分かる。

 

「ダメだ、少女‼︎ こちらに近づいては‼︎」

 

オールマイトはこちらに近づいてくる少女に制止を促す。

が、聞こえてないのか、自分ではないと思っているのか言う事を聞く様子は無い。

そのまま、嬉しそうにニコッした笑顔で大男の方に近づいていってしまった。

 

「今日は私が見つけたから、お昼は私の好きな物ね。うーんとね〜ハンバーグがいいな‼︎」

 

隠れんぼでもしていたのだろうか、自分が見つけた事を嬉しそうに大男に語る。

大男の方も持っていた片手斧を降ろし、穏やかな表情で話しを聞く。

 

「ええ、良いですよ。ですが、その前にあの者を懲らしめなければなりません。……あぁ、そうだ。クマ、貴女の個性であの男と私をこの前行った湖に飛ばす事は出来ますか⁇」

 

「うん、大丈夫だよー。」

 

クマと呼ばれた少女はそう元気に返事をする。

 

「それではお願いします。」

 

うんっ、と大きい声で返事をした少女はオールマイトの方に向く。

 

 

突然、親子の会話が始まり呆気に取られてたオールマイトだが当然今の話は聞こえていたので警戒せざるを得ない。

 

此処には、長年の宿敵オール・フォー・ワンが無防備で気絶してるがいつ気が付いてもおかしくない為、此処から移動するのは避けたい。

そして周辺は先程ナイトアイに頼んだ警察による包囲網も出来つつあった。完成も時間の問題だった。

つまり地の利は完全に此方にある。

住民や街の被害も心配では有ったが、そこは出来る相棒(サイドキック)が機転を利かしてくれているのだろう。

 

そんなほんの僅かな油断とも言えぬ気の緩みが起きてしまった。

 

 

オールマイトの視界に入っていた筈の少女が消えた。

否、既に自分のすぐ側におり少女の個性によって発現したらしきクマの肉球のような物がついた手が自らに触れていた。一瞬だった。

世間より『平和の象徴』として讃えられてたオールマイトが気付かなかったのだ。

 

即座に後ろに下がろうと試みるがいつの間にか地に足がついてない。

触れられた瞬間、個性の影響で浮いていたのだ。

そのまま、凄い勢いで上空まで飛ばされる。

 

究極の脳筋と呼ばれる由縁となった個性『ワン・フォー・オール』のパワーで勢いから逃れようとも身体がピクリとも動かない。

 

オールマイトはされるがまま飛ばされて行った。

 

 

 

 

「パパ、あれで良かったの⁇」

 

「ええ、どうやら彼は周りの被害を気にして本気を出せなかった様ですからね。その様な状態でこの私を一歩下がらせたのです。遊んであげる価値はあります。」

 

「ふーん、けどハンバーグまでには帰って来てね‼︎」

 

「勿論です。……あぁ、あとそこの倒れている黒スーツの男を家に運んで置いてくれますか?それと、この周辺にウジャウジャと羽虫が取り囲んでいるので気をつけるように。」

 

「うん、分かった‼︎ それじゃあ、行ってらっしゃい。」

 

少女が大男に触れる。

大男は、ぱっ‼︎と手品みたくその場から消えてしまった。




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