四葉の姫君 (らふらふ)
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プロローグ
1話


初投稿です。暖かく見守ってくださると嬉しいです。


吾輩は転生者である。名前はまだ分からない。

 

 

 

気付いたら赤ん坊になっていた。周りにいるのは大きな人ばかりで、最初は混乱した。おそらく生まれ変わったのだろうと納得するまで1日がかかった。

 

現状を受け入れてからは、当然情報収集である。とはいえ、赤ん坊の身であるため、できることといえば周りの話を聞くぐらいだ。また日本に生まれたようで、皆日本語を喋っていたのには助けられた。

しかし、自分の名前が不明なのである。なぜなら、周りからは「お嬢様」と呼ばれているからだ。誰か名前を呼んでくれないものか。そして母親と父親らしき人は見当たらない。総合して考えるに、私が生まれたのは上流階級の金持ちの家で、両親は私に興味がなく召使い任せにしているのだろう。

 

おそらく一ヶ月ぐらい経ったころ、年齢不詳の美人が部屋にやってきた。

 

「深咲さん、私がお母さんですよ。やっと会いに来られたわ」

 

どうやら私の名前は「みさき」というらしい。そしてめでたいことに母は育児放棄じゃなかったようだ。母は疲れているように見える。仕事だったのだろうか、それとも産後に体調を崩したのか。

 

「互いに歩けるようになったら、深雪さんとも会わせてあげますよ」

 

「みゆき」というのは私の姉妹だろうか。仲良くできるといいな。

 

「深夜様、お身体に障りますのでそろそろ……」

 

母の側についている人が言った。やはり体調を崩していたようだ。

 

「わかったわ、穂波さん。じゃあ、深咲さん、また来るわね」

 

母は私の額にキスをし、部屋を出て行った。

 

それにしても、母とお付きの人の名前になんだかデジャヴを感じる。なんだろう。私のお世話係達が話していたのかな……?

 

**********

 

母の何回目かの面会で、衝撃的な事実を知った。なんとここは「魔法科高校の劣等生」の世界らしい。サイオンがどうとかいう話を聞いて、弾けるように記憶が蘇った。ただし、私の持っている知識は二次創作のものだけだが。そうと知れば、確かめなければならないことがある。母の名前は「みや」で、お付きの人の名前が「ほなみ」である。もしかして原作キャラの「四葉深夜」と「桜井穂波」ではないだろうか。しかも「みゆき」という名前を聞いた覚えがある。それってもしかして「司波深雪」ではないのか?兄に「たつや」がいたらもう決定としていいだろう。

しかし、原作では「みさき」なんていうキャラは出てきていない。ということは、ここはパラレルワールドなのかな……?

 

 

月日が流れ、よたよたとだが歩けるようになった。そして今日はいよいよ「みゆき」と対面する日である。お世話係に促され、部屋を出る。部屋のドアをチラリと見ると、「深咲」と書いたプレートがかかっていた。どうやら私の名前は深咲と書くらしい。隣の部屋を見ると、「深雪」と書いたプレートがかかっている。

 

「お嬢様、お姉様の深雪様ですよ」

 

と私のお世話係が言う。私が妹なのか。

 

「お姉ちゃん、こんにちは」

「こんにちは、深咲」

 

幼くはあるが、どう見えても「司波深雪」である。なんということでしょう。やはり私は「四葉」に生まれてしまったようだ。あの「四葉」に。

 

 

 



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2話

真夜との会話を少し修正しました(8/9)


私には不思議な力がある。当初は魔法だと思っていたが、魔法を習っていくうちに違うように感じていた。なんと他者の心が読める時があるのだ。正確にいうと表層意識、だろうか。これが精神干渉系の魔法だったらサイオンを使用するはずだが、それがないため仮に固有能力と呼んでいる。この力について誰にどこまで話すかが重要だ。問題はやはり四葉真夜だろう。原作でも何を考えているかよく分からなかったと思う。少なくとも私の知る範囲では。まだ会っていないが、会ったら表層意識を読んでみるのもいいかもしれない。平然とこんなことを考えられる辺り、やっぱり四葉の血筋というやつかもしれない。とりあえず今すべきことは、この固有能力の研究かな。

 

**********

5歳になり、会わないうちに兄の達也の感情が白紙化されていたようだ。訓練を一通り終えたら会わせることになっているらしい。前世からお兄ちゃんが欲しかったから嬉しいのだが、お兄ちゃんと呼んではいけないのだろうな。

 

**********

 

固有能力の限界が見えない。精神に干渉すること限定であるが、思いついたことはなんでも出来た。表層意識の読み取り、記憶のすり替え、記憶の消去、洗脳など一度も失敗していない。魔法ではないためCADも必要とせず、いつでも発動できるし誰にもばれない。なぜこんな能力があるのか知らないが、いいものを貰ったものだ。

 

**********

 

兄との対面の時がきた。お姉ちゃんは魔法の訓練を中断されて不満そうだ。

 

「あなたたちの兄にあたる達也よ。深雪さんのガーディアンにするわ。兄と言っても彼は使用人だから、身分をわきまえて接しなさいな」

 

お母様の顔からは兄への思いやりが一切読み取れない。隠しているだけかと思ったが、表層意識も静かなものだ。やはり兄への施術と同時にお母様も兄への感情を失ったのかもしれない。

 

この場で兄と仲良くなろうとするのは得策ではない。周りから窘められるだろうし、四葉の当主を目指す身としては失格であろう。そう、私は四葉の当主になろうと思っている。この固有能力を持ってすれば他の十師族より優位に立てるだろうし、なによりお姉ちゃんは当主を望まないだろう。この5年間でしっかりとシスコンになってしまった私は、お姉ちゃんの幸せのためならなんだってすることを決めていた。しかし、だからと言って兄を諦めるわけではない。誰もいない所で仲良くなってやろうと決意した。

 

「そしてこの子は桜井(さくらい)七波(ななみ)ちゃん。深咲さんのガーディアンよ」

 

「よろしくお願いします。お嬢様」

 

彼女は穂波さんとそっくりの顔で微笑んだ。

 

「よろしくね。あと、私のことはお嬢様じゃなくて名前で呼んでちょうだい」

 

「かしこまりました。深咲様」

 

私のガーディアンは兄ではなかったのだな。これは仲良くなるのが大変そうだ。

 

**********

 

あれから1年かけて兄と仲良くなった。おかげで周りに人がいないときは、「お兄ちゃん」「深咲」と呼び合う仲になれた。とはいえ、原作深雪みたいにベッタリではない。私は四葉のための婚姻をしなければならないのだから、恋は御法度なのだ。

 

さて、そろそろ叔母様と対面しなければなるまい。能力の把握も出来たことだし、なんとかなると思いたい。というわけで、母を通じて叔母様に謁見を申し込んだ。

 

 

 

「初めまして、叔母様。深咲でございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

 

「初めまして深咲さん。今日はどうなさったのかしら」

 

あたりまえだがお母様と似ている。お母様が綺麗系美女なら、目の前の叔母様は可愛い系美女だろう。だが、お母様に似ている以上に私に似ていた。いや、私が叔母様に似ているというべきか。お姉ちゃんはお母様にそっくりで綺麗系なのだが、自分で言うのもなんだが私は可愛い系なのだ。叔母様の遺伝だったのか……。

 

「実は、私の能力について話しておこうと思いまして。人払いしていただけませんか」

 

そう、結局私は叔母様に洗いざらい話すことにしたのである。最大の理由は、次期当主の座を得るためには能力の開示が必要だと思ったからだ。そしてもう一つ、叔母様が私を愛してくれていることが表層思考を読んで分かったからである。おそらく使い潰されるようなことにはならないはずだ。

 

「分かりました。葉山さん、呼ぶまで離れていていいわ」

 

「かしこまりました」

「ありがとうございます。早速ですが、能力の説明に入ります。私は精神に関することなら恐らくなんでも出来ます。いままで失敗したことがありません。しかも、この能力はCADを必要としないのです」

 

「具体的にどんな事ができるのかしら」

 

「試したのは、表層意識の読み取り・念話・魅了・記憶のすり替えや消去・感情の増幅や減退・洗脳などですね。洗脳は自我ありの思考誘導も自我なしの完全操作でも出来ました」

 

「そう。では私の思考を読んでみてちょうだい」

 

「ーー」

 

「確かに読めるみたいね。次は念話を試してくれる?」

 

『叔母様、深咲です。聞こえますか?』

 

「まさか……こんな能力者が出てくるなんてね。それを私に教えるということは、覚悟は出来ているのかしら。次期当主候補筆頭になってしまうわよ?婚約もしてもらうことになるわね」

 

もちろん分かっている。それが目的なのだから。

 

「当然、覚悟の上です。私は家族を守りたい。その家族には四葉も含まれています」

 

「分かったわ。ただし、次期当主指名は中学卒業の年にします。それまでに、当主として必要な勉強をしてもらいますよ。魔法、帝王学、淑女のマナーなども完璧にしてもらいます。婚約者の選定も中学生でね」

 

「分かりました。頑張りますので、これからよろしくお願いします」

 

にこやかな叔母様に見送られ、屋敷を後にする。

 

**********

 

中学生になった。中学生といえば、原作では追憶編にあたる。原作がどうとかそういう考え方は嫌なのだが、未来を部分的に知っているというアドバンテージは捨てがたい。

 

叔母様との初めての謁見から6年、次期当主として恥ずかしくないように様々なことを学んできた。正直淑女とかいう柄じゃないのだが、立場上致し方ないので必死に学び、今では優美な言動をとることが出来るようになった。

 

さて、そろそろ追憶編開始、すなわち沖縄旅行である。

 

「深咲、準備はできましたか?」

 

「できてるよ。お姉ちゃんは?」

 

「私も出来ています。穂波さんに最終チェックをしてもらいましょう」

 

お姉ちゃんは楽しい旅行だというのに表情が少し不満そうだ。やはり原作と同じくお兄ちゃんが一緒なのが嫌なのだろう。この旅行で改善されることを願う。

表情が、といったのは私が思考を読んでいないからである。できるだけ身内の思考は読まないようにしている。さもないと、人間として大切なものを失ってしまうと思ったからである。まあその分他人には容赦しないのだが。特に敵に対してはガンガン使っている。そう、時々四葉の仕事として呼ばれていて、敵の思考を読むことがある。これも次期当主としての仕込みなんだろうか……現場を知っているのは悪くはないと思う。

 

叔母様によると、そろそろ直接私の指揮下に入る部隊を作るとのこと。上手く使えるといいのだが……帝王学実践編といったところだろうか。

 

 

 

そして3日後、私達は沖縄旅行へと出発した。



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中学生編
3話


私達は別荘で先に待っていた穂波さんと合流した。

 

「いらっしゃいませ、奥様。深雪さん、深咲さんも達也くんもよく来たわね。さぁ、どうぞお入り下さい。麦茶を冷やしておりますよ」

 

「ありがとう。せっかくだからいただくわ」

 

「かしこまりました。深雪さん、深咲さん、達也くんも麦茶でよろしいですか?」

 

「「はい、ありがとうございます」」

 

「お手数おかけします」

 

穂波さんは私達を対等に扱う。それを見てお姉ちゃんは不満げな顔をしている。

 

「達也くん、荷物運ぶの手伝うわよ」

 

「いえ、これくらい問題ありません」

 

「いいの、いいの。こういうのは達也くんより私の方が得意なんだから。達也くんも疲れてるでしょ。後は私に任せて」

 

「いえ、二人で運んだ方が効率的です」

 

 

 

部屋でくつろいでいると、お姉ちゃんがやってきた。

 

「深咲、お散歩にいきましょう」

 

「いいわよ」

 

二人で散歩に出かけることになった。

 

「お母様、少し歩いてこようと思うのですが」

 

「そうですか。いってらっしゃい。それと、達也を連れて行きなさい」

 

お姉ちゃんは不満そうだ。お兄ちゃんのことを信じられないからだろう。何の役に立つのだと無言で言っている。

 

「深雪さん、達也はあなたのガーディアンなのですから。達也、深雪さんと深咲さんに同行しなさい」

 

「かしこまりました」

 

 

 

散歩していると、軍服をだらしなく着崩した黒人の大男がお姉ちゃんにぶつかってきて、文句を言っている。

 

「痛ぇな、何処見て歩いてんだ、あぁん?」

 

彼らは二十年戦争の激化により沖縄に駐留していたアメリカ軍が引き上げた際に取り残された子供達「取り残された血統(レフト・ブラッド)」と称される人達だ。気性が荒いため、注意するようにとガイドブックに載っていた。

 

「詫びを求めるつもりは無いから来た道を引き返せ。それがお互いの為だ」

 

落ち着いた口調でお兄ちゃんが言い返した。正直私も怒っているのだが、ここはガーディアンに任せるべきであろう。

 

「何だと?」

 

「聞こえていたはずだが?」

 

男の目が苛立ちを宿している。もう能力を使ってしまおうか。

 

「地面に頭を擦りつけて許しを乞いな。今ならまだ青痣ぐらいで許してやる」

 

「土下座をしろという意味なら『頭を』ではなく『額を』と言うべきだ」

 

その直後、大男がお兄ちゃんに殴りかかった。私は硬直しているお姉ちゃんの手を握った。

 

「大丈夫よ、絶対勝つから」

 

お兄ちゃんは大男の拳を受け止めていた。

 

「ほぅ、手加減したとはいえやるじゃないか。単なる悪ふざけのつもりだったが……面白い」

 

「いいのか?ここから先は洒落では済まないぞ」

 

完全に本気になった大男に対して、お兄ちゃんは挑発をしている。

 

「ガキにしちゃ随分と気合の入ったセリフを吐くもんだ、な!」

 

殴りかかった大男をカウンターで倒したお兄ちゃんがこっちを振り返る。

 

「帰りましょう」

 

「お兄ちゃん、さすがね」

 

「え……」

 

お姉ちゃんは驚いているが、知らないフリをする。これまで人前で仲良くしていなかったから、訳がわからないのだろう。でも、もうすぐ二人の仲は改善するはずだし、これでいいでしょう。

 

**********

 

今日は黒羽家主催のパーティーに出なくてはならない。次期当主候補として出席しなければならないのだが、ついついため息をついてしまう。お姉ちゃんが一緒なのがせめてもの救いである。本来ならお母様が招待されているのだが、体調がすぐれないため欠席となったのだ。

 

「深咲様、失礼します」

 

「七波ちゃん」

 

七波ちゃんは四葉の仕事により、今朝の合流となった。七波ちゃんが来た以上、私とお姉ちゃんは別行動してもいいのだが、基本的に一緒に行動することにしている。シスコンであることも理由の一つだが、原作との差異を確認したいのである。私の存在によってどのくらいのズレが発生しているのか、将来にどんな影響があるのか考えなければならない。もっとも、私が知っている未来も高校二年の途中までだが……。

 

「深咲、準備はできましたか?」

 

「お姉ちゃん。完璧よ。ちょっと憂鬱だけどね。お姉ちゃんもあんまり不機嫌そうな顔しないでね。私が一緒にいるから」

 

「やっぱり分かる?なるべく頑張るわね。さ、行きましょう」

 

 

 

「「ご無沙汰していますおじ様。今日はお招きありがとうございます」」

 

「よく来てくれたね、深雪ちゃん、深咲ちゃん。お母様は大丈夫かい?」

 

「お気遣い畏れ入ります。少し疲れが出てるだけだと思いますが、本日は大事をとらせていただきました」

 

「それを聞いて安心したよ。ささ、奥へどうぞ。亜夜子も文弥も二人と会うのを楽しみにしていたんだよ」

 

おそらく二人が私達に会いたがっているのは本当だろう。だが、おじ様はあえて気づかないフリをしているのだ。あの二人が一番会いたがっているのはお兄ちゃんなのだから。

 

「お嬢様、何かありましたらお呼びください」

 

お兄ちゃんがそう言うと、お姉ちゃんは不機嫌そうな顔になった。これはお兄ちゃんに対する好意が芽生えてきているのだろう。

 

「深咲様、私はこちらで待機しております」

 

「よろしくね、七波ちゃん」

 

お兄ちゃんと七波ちゃんを残し、黒羽親子のところへ行く。二人は私達に気づくと、満面の笑みで挨拶してくれた。

 

「「亜夜子ちゃん、文弥くん、お久しぶり」」

 

「深雪姉様、深咲姉様!お久しぶりです」

 

「お姉様方もお変わりないようで」

 

亜夜子ちゃんと文弥くんは私達の一学年下の小学6年生の双子だ。一学年下といっても私達が三月生まれで二人は六月生まれなので歳は同じだけど、二人は私を姉様と慕ってくれている。そう、私をなのだ。お姉ちゃんのことは、文弥くんは慕っているけれど、亜夜子ちゃんはライバル心を抱いているようだ。二人と話していると、文弥くんがそわそわし出した。誰かを探すようにきょろきょろと周りを見回している。

 

「あの、深雪姉様……達也兄様はどちらに?」

 

「あそこに控えさせているわ」

 

お姉ちゃんがお兄ちゃんの立っている場所を指し示す。

 

「達也兄様!」

 

「もう、仕方ないわね!」

 

文弥くんがパッと顔を輝かせてお兄ちゃんの元へ駆け寄る。文句を言いながらも亜夜子ちゃんも足早に近づいていく。

 

「まったく、お客様を放っておいて……」

 

おじ様は苦い顔をしている。私達と同じく次期当主候補である文弥くんに、ガーディアンであるお兄ちゃんと親しくするなと言いたいのでしょう。

 

「二人とも、達也くんの仕事を邪魔しちゃ駄目だろ」

 

「あらお父様。少しくらいよろしいのではありません?深雪姉様、深咲姉様はわたくしたちがお招きしたお客様。ゲストに害が及ばぬよう配慮するのはホストの義務ですもの。ここにいらっしゃる限り、達也さんのお手を煩わせることは無いと思いますけれど」

 

「姉様の言うとおりですよ。黒羽のガードは二人のお客様の身の安全も保証できないほど無能ではありません。そうでしょう?」

 

「それはそうだが……」

 

二人の言い分に困ったおじ様に助け舟を出したのはお兄ちゃんだった。

 

「文弥、亜夜子、あまりお父様を困らせるんじゃないよ」

 

「でも、達也兄様……」

 

「滅多にお会いできないのですし、たまにはゆっくりとお話してもよろしいじゃないですか」

 

なおも縋り付く二人に、お兄ちゃんは笑みを向けた。お兄ちゃんの笑顔なんてレアなものが見れたわ。

 

「黒羽さん、会場の中はお任せしてよろしいですか?自分は少し外を見回って来ます」

 

「おお、そうかい?それは立派な心がけだ。分かった、深雪ちゃんと深咲ちゃんの事は任せておきたまえ」

 

「そんな!僕たち、明日には静岡に帰るんですよ!」

 

「文弥、少し落ち着きなさい……ですが達也さん、さっきも言った通り、滅多にお会い出来ない上にわたくしたちは明日には帰ってしまいます。ですので早めにお戻りくださいね?」

 

「分かった。一通り見て回ったら戻ることにするよ。では黒羽さん、少し外させていただきます」

 

文弥くんと亜夜子ちゃんの頭を優しく撫でて、お兄ちゃんは出て行った。

 

 



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4話

日の出前に目が覚めてしまった。せっかくなので体術の鍛錬をしようと庭にでると、お兄ちゃんが鍛錬していた。

 

「おはよう、お兄ちゃん。相手してもらえる?」

 

「おはよう、深咲。もちろんだ」

 

四葉の次期当主たるもの身体も鍛えなければ、ということである程度の体術の鍛錬をしている。たまにお兄ちゃんに稽古してもらうこともあるのだ。もちろん、手加減された上で全く敵わないのだが。

 

私が主にやっているのは合気柔術である。相手の力を利用するこの武術は非力な私にピッタリなのだ。非力とはいえ、さすがにお姉ちゃんよりは力があるはずだが。

 

「やっ、はっ」

 

「踏み込みが浅い」

 

「はぁっ」

 

「もっと腰を落として」

 

 

 

「はぁ…はぁ…ありがとうございました」

 

「お疲れ様、深咲」

 

「やっぱり全然敵わないな〜」

 

「そりゃあ、俺は深咲が当主としての勉強をしてる間も戦闘訓練してるんだから。これで体術が同等だったら立つ瀬がないよ」

 

「それでも、こっちは魔法を使ってるんだから、掠るぐらいはね…」

 

なんだか視線を感じる。誰だろう。

 

 

 

部屋に戻ると、お姉ちゃんがいた。さっきのはお姉ちゃんだったのか。

 

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

 

「その、ね……深咲とあの人は仲がいいのかしら?」

 

「うん。人前ではさすがに仲良くできないけどね、二人きりのときぐらいはね」

 

厳密に言うならさっきは二人きりとは言えなかった。本当はお姉ちゃんに見られているのはお兄ちゃんなら気づいていたはずだが、問題ないと判断したのだろう。

 

「そうなの。いつから?」

 

「6歳ぐらいかな?聞いていいかな、お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことどう思ってるの?」

 

「それが……分からないの。なんだかあの人のことを考えると胸がざわざわするけれど、どういうことなのかサッパリよ。あの人が体術が得意だってことも知らなかったし、これで私はあの人の妹だと言えるのかしら」

 

どうやら順調に好意を抱いていっているようだ。

 

「まずは話してみることから始めたらどうかな?きっといつか分かるよ」

 

「そう、ね……やってみるわ。そういえば、深咲も結構動けるのね?私には全然動きが見えなかったわ」

 

「お兄ちゃんには全く敵わないけどね。鍛錬してるし、そこそこかな」

 

「深咲さん、深雪さんを知りませんか?」

 

穂波さんが部屋にやってきた。おそらく朝食の準備が出来たのだろう。

 

「あっ、私はここにいます」

 

「部屋にいったらいないから、ちょっとビックリしましたよ。さ、二人とも朝食にしましょう」

 

「「はい」」

 

 

 

食べ終えた頃、穂波さんがお母様に話しかける。

 

「今日のご予定は決めていらっしゃいますか?」

 

「暑さが和らいだら船で沖へ出るのもいいわね」

 

「ではクルーザーを?」

 

「そうね……あまり大きくないセーリングヨットが良いわね」

 

「かしこまりました。4時に出港ということでよろしいですか?」

 

「ええ、それでお願い」

 

慣れたもので、穂波さんはお母様の言葉から意図を汲み取って段取りを組み立てた。

 

「深雪さん、深咲さん、特にご予定が無いのでしたらビーチに出られては如何です?寝転んでいるだけでもリフレッシュ出来ると思いますよ」

 

「……そうですね。午前中はビーチでのんびりすることにします」

 

「私もお姉ちゃんと一緒に行くわ」

 

「では私は深雪さんのお支度を手伝いましょう。うふふ、水着になるのでしたら隅々まで日焼け止めを塗っておきませんとね」

 

「いえ、大丈夫です。自分で出来ますから」

 

お姉ちゃんは慌てている。それを見る穂波さんはなんだか楽しそう。

 

「私も支度しないとね」

 

「お手伝いします」

 

「よろしくね、七波ちゃん」

 

お姉ちゃんのSOSには気づかないフリをする。ごめんね。

 

 

 

穂波さんの手で身体の隅々まで日焼け止めクリームを塗りこまれたのであろうお姉ちゃんは少しぐったりしている。私はお姉ちゃんに近づき囁いた。

 

「せっかくの機会だし、お兄ちゃんとちょっとお話してみたら?」

 

「い、いきなりすぎないかしら?」

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは優しいから受け止めてくれるよ。私は七波ちゃんと波打ち際で遊んでくるからね」

 

「えっ……一緒にいてくれないの?」

 

「二人きりの方がお兄ちゃんのことが分かるでしょ。さ、七波ちゃん、遊ぼう!」

 

おずおずと話しかけるお姉ちゃんの声を背に、私は波打ち際に向かう。

 

 

 

たっぷり遊んで戻ってくると、お兄ちゃんが砂まみれになっていた。どうやら喧嘩に巻き込まれたらしい。きっと積極的に巻き込まれに行ったに違いないと、私は呆れた目でお兄ちゃんを見る。目を逸らされたので、想像は正解であろう。

 

別荘に戻ってシャワーを浴びると、お姉ちゃんが来ていた。

 

「お姉ちゃん、どうだった?」

 

「緊張して、あんまり話せなかったのだけど……でも、私を大切に思ってくれているのは分かったわ。もちろん深咲のことも。でもね、なんであの扱いに怒らないのかは分からなかったの」

 

「ああ、お兄ちゃんは気にしてないのよ。お母様のこととかね」

 

「気にしてない……?」

 

「そう。これ以上はお兄ちゃんに直接聞くべきね」

 

「分かったわ。ありがとう深咲。きっかけをくれて」

 

「このぐらい、お安い御用だよ。私達、姉妹じゃない」

 

「うん。深咲、大好きよ」

 

「私も、お姉ちゃんが大好き」

 

 



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5話

穂波さんが手配した小さなクルーザーに乗り、沖へと出る。これから起きることを知っている身としては、少し緊張する。とはいえ、そのことを悟られるようなことはしないが。次期当主としての教育は伊達じゃないのだ。

 

レーダーを確認していた船長達が、いきなり大声を出す。

 

「潜水艦!?何で日本の領海に!?」

 

「急げ!巻き込まれるぞ!」

 

「船長、無線が繋がりません!」

 

「くそっ!こんなときに……!」

 

私達の乗るクルーザーに何かが近づいてくる。

 

「魚雷!?何の警告もなしに!?」

 

魚雷が発射されたのだ。お兄ちゃんが海に向けて手を伸ばしている。分解を使うのだろう。

 

「あれは……なに……?」

 

お姉ちゃんが呆然とした声でつぶやく。

 

 

 

結局クルージングは途中で中止になり、別荘へ戻ってきていた。

 

「お休みのところ申し訳ありません。軍の方がお話を伺いたい、とのことですが……」

 

「私に……?」

 

七波ちゃんの戸惑いがちな声に、ドアを開け問いかける。こんな展開もあったっけ……。

 

「ええ、穂波さんと達也さんで聞きたいことには答えると言ったんですけど……」

 

「分かったわ。リビングかしら?」

 

七波ちゃんが凄く申し訳なさそうな顔をしているけども、別に彼女が悪い訳じゃない。七波ちゃんにそう返事をして、着替えてからリビングに降りた。事情聴取に来た軍人さんは風間玄信大尉と名乗った。

 

「……では、潜水艦を発見したのは偶然だったんですね?」

 

「発見したのは船長さんですから。どのような経緯で発見に至ったかはあちらに訊いてください」

 

「何か、船籍の特定につながるような特徴に気が付きませんでしたか」

 

「相手は潜航中だったんですよ。船籍の特定なんて素人には無理です。例え浮上していたとしても潜水艦の特徴なんて分かりません」

 

「魚雷を撃たれたそうですね?攻撃された原因に何か心当たりは?」

 

「そんなものありません!」

 

穂波さんはかなりイラついているようだ。今の「何か余計なことでもしたんだろう」と言わんばかりの質問には少しカチンと来たから、穂波さんが怒りを覚えても無理もないだろう。

 

「……君は何か気がつかなかったか」

 

穂波さんに睨まれた風間大尉は、お兄ちゃんに問うた。

 

「目撃者を残さぬ為に、我々を拉致しようとしたのではないかと考えます」

 

「ほう、拉致?」

 

「クルーザーに発射された魚雷は発泡魚雷でした」

 

「ほう……」

 

「達也くん、発泡魚雷ってなんですか?」

 

穂波さんがお兄ちゃんにたずねる。

 

「化学反応で大量の泡を作り出す薬品を弾頭に仕込んだ魚雷です。泡で満たされた水域ではスクリューが役に立たなくなります。重心の高い帆船なら転覆する可能性も高い。そうして相手を足止めし、事故を装って乗組員を捕獲することを目的とした兵器です」

 

さすがお兄ちゃん、博識である。

 

「何故そう思う?」

 

「クルーザーの通信が妨害されていましたから。事故を偽装する為には通信妨害の併用が必須です」

 

「兵装を断定する根拠としては、些か弱いと思うが」

 

「無論、それだけで判断したわけではありません」

 

「他にも根拠があると?」

 

「はい」

 

「それは?」

 

「回答を拒否します」

 

「…………」

 

「根拠が必要ですか?」

 

「……いや、不要だ」

 

風間大尉は私達に一礼をして外へ出た。その見送りの為に私達も外に出ると、そこには昨日絡んできた不良軍人がいた。

 

「なるほど……司波達也くんと言ったね。ジョーを殴り倒したのは君だったのか。桧垣上等兵!」

 

「はっ」

 

「部下が失礼をしたね」

 

「桧垣ジョセフ上等兵であります!昨日は大変失礼をいたしました」

 

「謝罪を受け入れます」

 

「司波達也くん。自分は現在、恩納基地で空挺魔法師部隊の教官を兼務している。都合がついたら是非基地を訪ねてくれ。きっと興味を持ってもらえると思う」

 

風間大尉はそう言い残して、車に乗り込んで去って行った。

 

**********

 

バカンスの三日目は朝から荒れ模様だった。

 

「今日のご予定はどうなさいますか?」

 

「こんな日にショッピングもちょっと、ねぇ……」

 

焼き立てのパンをちぎりながらお母様はチョコンと首を傾げる。こんな仕草をすると、まるで少女のようだ。我が母ながら本当に可愛い。

 

「何かあるかしら?」

 

「そうですね……琉球舞踊の観覧なんて如何でしょう?衣装をつけて体験も出来るみたいですよ」

 

穂波さんは手元のコントローラーを操作して、琉球舞踊公演の案内を呼び出す。

 

「面白そうね。深雪さん、深咲さんはどう思いますか?」

 

「私も面白そうだと思います」

 

「行ってみたいわ」

 

「ではお車の手配をしておきます。ただ一つ問題が……この公演は女性限定なんです。達也くんはどうしましょうか」

 

お母様は少し考える仕草をする。

 

「達也、貴方は今日一日自由にして良いわ。そういえば昨日の大尉さんに基地に誘われていたわよね?良い機会ですから見学してきなさい。もしかしたら訓練に参加させてもらえるかもしれないし」

 

「分かりました」

 

「あの、お母様!」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「私も、に、兄さん、と、一緒に行っても良いですか?」

 

お姉ちゃんが真っ赤になりながら言う。

 

「深雪さん?」

 

「あっ、えっと……私も軍の魔法師がどんな訓練をしているのか興味ありますし、その……ミストレスとして自分のガーディアンの実力は把握しておかねばと思いますので……」

 

「そう……感心ね」

 

お姉ちゃんの苦し紛れの言い訳をお母様は信じたフリをしているが、絶対に騙されていないと思う。

 

「深咲さんはどうするのかしら?」

 

「私はお母様と琉球舞踊に行きます」

 

せっかく原作よりも早い時点で仲良くなってきているのだ。二人で出かけた方が仲が深まるだろう。

 

「分かりました。達也、聞いての通りです。基地の見学には深雪さんが同行します」

 

「はい」

 

「一つ注意しておきます。人前では深雪さんに敬語を使ってはいけません。また、『お嬢様』ではなく『深雪』と呼びなさい。深雪さんが四葉の人間だと悟られる可能性のある言動は禁止します」

 

「分かりました」

 

「くれぐれも勘違いをしてはなりませんよ。これはあくまでも、第三者の目を欺く為の方便です。深雪さんと貴方の関係に何ら変更はありません。貴方は深雪さんのガーディアンなのですから」

 

「肝に命じます」

 

**********

 

その日の夜、お姉ちゃんは惚けたような顔をしていた。これは仲が進展したと思ってよさそう。お母様も気づいているはずだが、一先ず気にしないことにしたようだ。

 

「お姉ちゃん、入るよ?」

 

「どうぞ」

 

「今日はどうだった?少しはお兄ちゃんのこと知れたかな?」

 

「ええ、に、兄さんはCADが好きみたいね。それと、深雪って呼ばれるのが嬉しくって……これからまたお嬢様呼びされるのが憂鬱だわ……」

 

「だったら私みたいに、二人のときだけ呼んでもらうようにしたら?」

 

「う、受け入れてくれるかしら?いきなり言ったら変なんじゃないかしら」

 

お姉ちゃんは期待と不安でころころと表情を変える。

 

「だったら一緒に行ってあげるよ」

 

「う、うん。お願いするわ」

 

 

 

「お兄ちゃん、深咲です」

 

「どうしたんだ?」

 

ドアを開け、周囲に人がいないことを確認してからお兄ちゃんが問いかけてくる。

 

「おじゃましてもいいかな?」

 

「もちろんだよ」

 

「さあ、お姉ちゃん。頑張って!」

 

私はお姉ちゃんの背中を押す。

 

「あ、あの、に、兄さん……私のことは、深咲と同じように扱ってください!深雪って呼んで欲しいんです!」

 

お姉ちゃんは緊張に染まった顔で告げる。

 

「分かったよ深雪。これでいいかな?」

 

「はいっ」

 



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6話

感想、誤字報告ありがとうございます。


その後の3日間は平和な日々だった。いつ敵襲が来るかと緊張していたからあまり楽しめなかったけど。お姉ちゃんとお兄ちゃんの仲も順調のようだった。

 

**********

 

その日の朝、朝食を食べ終えた後に全ての情報機器から警報が流れた。ついにその時がきたのだ。

 

「真夜様に便宜を図っていただけるように連絡します!」

 

「ええ、お願い」

 

穂波さんもお母様も流石に緊張気味だった。お姉ちゃんは完全に怯えた顔をしている。

 

そのとき、お兄ちゃんの端末に連絡がきた。

 

「基地へ、ですか?ありがたいお申し出ですが……いえ……はい、それでは母と相談してみます……はい、後ほど」

 

お兄ちゃんはソファに座って顔だけ向けているお母様に一礼した。

 

「奥様、恩納空軍基地の風間大尉より、基地内のシェルターに避難してはいかがか、とのお申し出をいただきました」

 

「奥様、真夜様からお電話です」

 

と穂波さんが電話を差し出す。

 

「もしもし真夜?……ええ、そう……貴女が手を回してくれたのね……でもかえって危険じゃなくて?……そうね、分かりました。ありがとう」

 

「奥様、真夜様は何と?」

 

「軍に話を通してくれたそうよ。まぁ、大した労力じゃないとはいえ骨を折ってもらったんだし、真夜の言う通りにしましょう。達也、大尉さんにお申し出をお受けします、と連絡して。それからお迎えをお願いしてちょうだい」

 

 

 

基地から迎えに来てくれたのは、例の桧垣ジョゼフ上等兵だった。

 

「達也、待たせたな」

 

「ジョー、わざわざありがとうございます」

 

「他人行儀な挨拶は止せよ」

 

桧垣上等兵は友人のようにお兄ちゃんに話しかけている。お母様は少し不快そうにしている。お母様の表情に気づいたのか、馴れ馴れしい態度を一先ずしまいこんで、軍人らしいしゃちほこばった動作で私達に敬礼した。

 

「風間大尉の命令により、皆さんをお迎えにあがりました!」

 

「ご苦労様。案内をお願いします」

 

「はっ」

 

必要以上に張り切った声で口上を述べた上等兵に、少し辟易した顔で穂波さんが応えた。桧垣上等兵にそれを気にした様子は全くなかったが。

 

 

 

基地に着くと案内された部屋には、私達の他に5人の民間人がいた。

確か魔法師を見下している人だったような……と考えていると、ガーディアンの3人が突然立ち上がりある方向に目を向ける。

 

「二人とも、今のは……」

 

「桜井さんにも聞こえましたか」

 

「おそらくアサルトライフルでしょうね」

 

「達也くん、状況は分かる?」

 

「いえ、ここからでは……この部屋の壁には、魔法を阻害する効果があるようです」

 

「どうやら古式の結界が施されているようです。この部屋だけじゃなく、この建物全体に及んでいます」

 

そこで、3人の話を聞いていた民間人の男が偉そうに話しかけてきた。

 

「おい、君達。魔法師なのかね」

 

「……ええ、そうですが」

 

穂波さんが答える。

 

「だったら君達、外の様子を見てきたまえ」

 

「私達は基地関係者ではありませんが」

 

「それがどうしたというのだ。君達は魔法師なのだろう?ならば人間に奉仕するのは当然の義務ではないか!」

 

人間主義者ってやつかな。平然とこんなこと言うなんてね。

 

「本気で仰っているんですか?」

 

「そもそも魔法師は人間に奉仕するために作られた『もの』だろう。だったら基地関係者かどうかなんて関係ないはずだ」

 

「なるほど、我々は作られた存在かもしれませんが」

 

嘲りを隠さぬ口調でお兄ちゃんが割って入る。

 

「貴方に奉仕する義務などありませんね。魔法師は人間社会の公益と秩序に奉仕する存在なのであって、見も知らぬ一個人から奉仕を求められる謂れはありません」

 

「こっ、子供の癖に生意気な!」

 

「はぁ……まったく、いい大人が子供の前で恥ずかしくないんですか?」

 

男が慌てて振り返ると、彼の子供たちは軽蔑の眼差しをしていた。いい気味だ。

 

「それから誤解されているようですが……この国では魔法師の出自の8割以上が血統交配と潜在能力開発です。部分的な処置を含めたとしても、生物学的に『作られた』魔法師は全体の2割にもなりません」

 

「達也」

 

「何でしょうか」

 

椅子に背中を預けたお母様が、気怠げな声でお兄ちゃんを呼んだ。

 

「外の様子を見てきて」

 

「しかし、状況が分からない以上、この場に危害が及ぶ可能性があります。離れた場所から深雪と深咲を守ることは」

 

「達也。あなた、立場を弁えなさい?」

 

お母様がお兄ちゃんに背筋が凍るような視線を向けている。

 

「ーー失礼しました」

 

お兄ちゃんは謝罪の言葉を口にして頭を下げた。

 

「達也くん、この場は私と七波で引き受けます」

 

「よろしくお願いします」

 

お兄ちゃんが一礼して出て行くと、私はCADを構えた。この後は裏切り者の軍人が来るはずだ。

 

 

 

外から聞こえる銃撃音がだんだん近づいてくる。それと同時に足音が近づき、扉の前で止まった。ガーディアンの二人は私達の前に立ち、警戒している。私は密かに魔法の準備をする。

 

「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります!」

 

警戒を保ちつつも、二人の緊張が少し緩んだのが分かる。お姉ちゃんもホッとしているようだ。

 

「皆さんを地下シェルターにご案内します。ついてきてください」

 

「すみません、連れが一人外の様子を見に行っておりまして」

 

穂波さんが告げる。金城一等兵は顔を顰めている。

 

「しかし既に敵の一部が基地の奥深くに侵入しております。ここにいるのは危険です」

 

「では、あちらの方々だけ先にお連れくださいな。息子を見捨てて行くわけには参りませんので」

 

お母様が建前のセリフを言う。なんとも思っていないくせに、よくもさらりと言えるものだ。

 

「しかし……」

 

金城一等兵が難色を示したが、先程の男は早く避難したいようで一等兵に詰め寄っている。その隙に穂波さんがお母様に話しかける。

 

「達也くんでしたら、風間大尉に頼めば合流するのも難しくないと思いますが?」

 

「別に達也のことを心配しているのではないわ。あれは建前よ」

 

やっぱり。私にしてみれば予想できていた言葉だったが、お姉ちゃんは衝撃を受けている。そっと手を撫でて落ち着いてもらう。

 

「では?」

 

「勘よ。この人たちを信用すべきではないという直感ね」

 

「私も同意見だわ」

 

お母様と私の言葉に穂波さんと七波ちゃんが最高度の緊張を取り戻した。精神干渉系魔法に長けた魔法師の直感は馬鹿にできないのである。

 

「申し訳ありませんが、やはりこの部屋に皆さんを残しておくわけには参りません。お連れの方は責任を持ってご案内しますので、ご一緒について来てください」

 

言葉は先ほどと変わりないが、脅すような態度である。

 

「ディック!」

 

桧垣上等兵が入ってきた。その隙に私は魔法を発動する。

 

凍火(フリーズ・フレイム)

 

火器を無力化する振動・減速系の魔法である。

 

金城一等兵が桧垣上等兵に銃口を向けている。しかし当然ながら発砲はできない。

 

「なんだこれは!?」

 

銃は使えなくてもナイフなどで攻撃されると困る。私は反射障壁(リフレクター)を発動した。

 

「っち!……アンティナイトを使え!!」

 

「ぐ……ぅ……」

 

なに……これ……固有能力が使えな……

 

「み……さき……助けてお兄様……」

 

まずい……いしきが…………

 

「深雪!!深咲!!」

 

倒れる寸前、お兄ちゃんの必死な声が聞こえてきた。

 



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7話

目を覚ますと、お兄ちゃんが出ようとするところだった。

 

「お兄様!あの……い、行かないでください。お兄様がそんな危険を冒す必要はないと思います」

 

「必要だからじゃない、そうしたいから戦いに行くんだよ。さっきも言った通り、俺はお前達を傷つけられた報復に行くんだ。自分のために。そうしなければ俺の気が済まないから。俺にとって本当に大切だと思えるものは、深雪と深咲だけだから。我が儘な兄でごめんな」

 

「大切だと、思える……?」

 

「お前達もそろそろ知っておいていい頃だ。お母様から教えてもらいなさい」

 

「お母様に……?」

 

「心配するな。俺はこれからもお前達のことを守り続けるし、その為に無傷で帰ってくる。大丈夫、俺を本当の意味で傷つけられるものなど存在しない」

 

 

 

正直、油断していた。力を持っているから、未来を知っているから……守れると思っていた。実際自分の身を守るだけなら容易かっただろう。でも、周りを守るには、足りない。力が、経験が、判断能力が足りない。お兄ちゃんが駆けつけるのが1秒遅かったら、怪我では済まなかっただろう。

 

そもそも、どうして反射障壁(リフレクター)で守ろうとしたのだろうか。敵は4人しかいなかったのだから、全員殺した方が早い。おそらく、前世の常識が邪魔して、無意識のうちに殺すのを躊躇していたのだろう。このままではいけない。いざという時のために殺せるようになっておかないと、とてもじゃないが四葉の当主なんて務まらない。だから……

 

「お兄ちゃん、私も行くわ」

 

「深咲!?」

 

「今から行く先は戦場なんだぞ……わかった、いいよ」

 

「お兄様!?」

 

お兄ちゃんには申し訳ないが、時間がないため操らせてもらった。身内に能力を使うのは本当に気持ち悪いな……ごめんね……。

 

「じゃあお姉ちゃん、行ってくるから」

 

「絶対に無事に帰ってきてね。お兄様から離れずに」

 

「ええ、分かってるわ」

 

「深咲様、私もお連れください」

 

「いいわ、よろしく七波ちゃん」

 

 

 

お兄ちゃんが私の横で闊歩している。CADが光るたびに敵が分子レベルで分解され、倒れたはずの味方が起き上がる。私は自前の干渉装甲を展開しているが、七波ちゃんの障壁に阻まれて攻撃はやってこない。桜シリーズは障壁魔法に特化した調整体魔法師である。ただの銃火器では彼女の障壁は破れない。

 

前方の空間にムスペルスヘイムを使う。他に使える領域魔法だと行軍の邪魔になってしまうだろうから。ムスペルスヘイムは気体分子をプラズマ分解し、更に陽イオンと電子を強制分離し、高エネルギーの電磁波を生み出す魔法である。高温すぎて死体が残らないのである。

 

またムスペルスヘイムを使う。私は今人を殺しているのだ。

 

ムスペルスヘイムを使う。においが気持ち悪い。

 

ああ、やっぱり実戦は違うな……ガリガリと精神が削られていくのが分かる。隣にいるお兄ちゃんと七波ちゃんが支えになってくれている。今は、それでもいい。だが、次は一人で立っていても平気になっていなければ。

 

 

 

お兄ちゃんの不気味さと私の派手な猛攻に恐れをなした敵軍が次々と白旗を上げる。お兄ちゃんは追撃をしようとして風間大尉に止められていた。

 

「司令部より伝達!」

 

弛緩していた雰囲気が一気に緊張を帯びていく。

 

「敵艦隊別働隊と思われる艦影が接近中!高速巡洋艦2隻、駆逐艦5隻!20分後に敵艦砲射程内と推測!至急海岸付近より退避せよとの事です!」

 

ここも原作通りになるんだな……。

 

「総員、捕虜を連行し、内陸部へ避難せよ!」

 

風間大尉が告げる。表情はポーカーフェイスだ。

 

「君達は基地へ帰投したまえ」

 

「敵艦の正確な位置は分かりますか?」

 

唐突なお兄ちゃんの問いに渋りながら答える風間大尉。

 

「以前の見学の際に見せていただいたCADはありますか」

 

「とってこさせよう」

 

真田中尉がCADを持ってきてくれた。原作で使っていたやつだろう。

 

「俺には敵艦を撃退する手段があります。ただ、誰にも見られたくないので軍には先に撤退していただきたい」

 

「俺と真田は残る」

 

「……分かりました。深咲は先に帰っていなさい」

 

「断るわ。ここでお兄ちゃんを見捨てるわけにはいかないの。次期当主候補としても、妹としてもね」

 

 

 

お兄ちゃんは現在、受け取ったCADの試し撃ちをしている。

 

「20kmしか届きません。そこまで待ちましょう」

 

「だが20kmとなると相手も射程圏内に入る」

 

「ええ。ですから、お二人は退避をしてください」

 

「いや、戦いにおける死の危険は軍人の常だ。責任者として最後まで見届けさせてもらおう」

 

「分かりました。10分あれば準備が出来ます。それまで砲撃が飛んでくると思いますがーー」

 

「大丈夫よ。七波ちゃんと穂波さんが防いでくれるわ」

 

「なんだって?穂波さんはーー」

 

「援護します!!」

 

「穂波さん、やっぱり来てくれたのね」

 

ここは原作どおり。だが、絶対に死なせない。七波ちゃんがいることで負担が分散されるだろうし、もちろん私も黙って見ているつもりはない。

 

「来ます!」

 

砲撃の威力は速度と爆発だ。爆発さえなんとかしてしまえば威力は大幅に減退するはずだ。凍火(フリーズ・フレイム)を使い爆発を防ぎつつ、対物障壁も使う。私の対物障壁は桜井の二人にはかなわないのだけど。

 

「いきます。質量爆散(マテリアル・バースト)

 

戦略級魔法が放たれ、敵艦全体が消失した。

 

そして当然ながら余波が発生した。

 

「ーー津波だ!退避しろ!!」

 

「私に任せてーーニブルヘイム」

 

その瞬間、目の前の海水が凍りついた。さすがに海を凍らせるのは初めてなので全力を出したのだが……うん、やりすぎた。沖まで見渡す限り凍りついている。

 

「ちょっと、張り切りすぎちゃったかな……」

 

「これ、ちょっとか?」

 

お兄ちゃん、呆れた目はやめて。

 

 

 

結論から言うと、私達二人は戦略級魔法師となった。お兄ちゃんはともかく私のはただのニブルヘイムのバリエーションなんだけどなあ……。面倒なことになった。

 

「二人とも、戦略級魔法師だということは絶対に秘密ですよ。もっとも、深咲さんは時期がくれば公表しますけれど」

 

「はい、分かっています。叔母様」

 

「そうそう、深咲さんの婚約者候補なのですけどね。一条の次男か、七草の次男か、三矢の三男を考えています。現状の実績を考えれば一条が第一候補ね」

 

「一条の次男というと、先日の佐渡侵攻で活躍した方ですね」

 

「そう、クリムゾン・プリンスね。まあうちの達也さんや深咲さんの方が強いですけど」

 

なぜか、原作では一条の長男だった一条将輝は次男になっているのである。それから、七草に次男とかいたかしら……三矢は原作でもよく分からなかったけど。

 

「では、うちから申し入れを?」

 

「それではつまらないわ。優位に立つために、あちらから申し入れをさせたいのよ。幸い、あちらの婚約者選びは息子自身に任せているそうですから……だから深咲さん、第三高校に進学なさいな」

 

「そして一条の次男を籠絡する、と」

 

「一条の当主にも会えたら最上ね」

 

幸いにして、容姿と魔法力は突出しているのだから、あとは私ががんばるだけだ。不安要素といえば……なんといってもお姉ちゃんだろう。原作で惚れていたのだから。九校戦までが勝負ね。そこまでに上手くいかなければ、嫌でも固有能力を使うことになる。

 



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8話

私達母子は現在、四葉本家に住んでいる。沖縄海戦以来、お母様の体調が良くないからだ。お母様は自分が長くないことを悟っているようで、叔母様や私達と静かに暮らしたいとのこと。

 

原作では叔母様とお母様って仲が悪かったはずなんだけれど……まあ仲が良いに越したことはない。

 

「叔母様、深咲です」

 

「入ってちょうだい」

 

部屋に入ると、葉山さんの足元に拘束された男が転がっている。忍び込もうとして捕まったのかな?

 

「この男、うちの研究員なのだけど、どこかに情報を流そうとしていたのよ」

 

「分かりました。少々お待ちを」

 

男に近づき、覚醒させる。

 

「どこの手の者?どこまで情報を流した?お前の仲間は?ーー」

 

次々と質問をしていく。返事など必要ないため、スムーズに尋問は進む。

 

「お待たせしました。七草の手の者のようです。末端も末端ですけどーー」

 

「お疲れ様でした。七草には少しお仕置きが必要なようね。ホントにあの男は昔から四葉を目の敵にして……」

 

叔母様が吐き捨てるように言う。

 

「叔母様、現当主に関しては分かっておりますが、次期当主はどうなのでしょう?たしか七草智一さんでしたか?」

 

「現当主ほど四葉に対する執着もないし、策謀もあまり好まないようです。しかし、七草の数は脅威ですからね。次期当主の代も油断はできないでしょう」

 

「数を削げるようならいいんですが……」

 

「そうねえ、うちは身内だけの少数精鋭ですからね。なかなかそちらにまで手が回らないわ。そうそう、もうすぐ深咲さんの直轄部隊が完成しますから、彼らを使ってみますか?」

 

「そうですね、末端から少しずつ削りますか」

 

**********

 

「お兄ちゃん、入ってもいいかな」

 

「どうぞ」

 

「CADの調整をお願いしたいの」

 

「いいぞ。ところで、最近叔母上によく会いに行っているようだが……」

 

「いろいろ頼まれごととか、聞きたいこととかあってね……」

 

「あんまり……いやなんでもない」

 

お兄ちゃんは叔母様が信用出来ないようで、忠告したそうにしている。さすがに本家の中だから、言うのを憚ったんだろう。そんなに警戒しすぎることもないのに……ちょっと叔母様が不憫だわ。だってお兄ちゃんは叔母様のーー

 

「本格的にやるのか?」

 

「うん、ズレを感じるわけじゃないけど、出来る時にしておきたいんだ」

 

「分かった」

 

下着姿になり、寝台に寝転がる。CADの調整には個人の魔法力を測定する必要があるため、全身スキャンで測定をする。機械による測定と同時に、お兄ちゃんの「眼」による測定も行われる。凝視される形になり正直少し恥ずかしいが、必要なことだから仕方がないのだ。

 

測定が終わり、服を着る。お兄ちゃんは測定データを尋常じゃない速度で処理している。流石は未来のトーラス・シルバーである。

 

「終わったぞ。起動式を少し整理しておいたよ。あとソフトのごみ取りもな」

 

「ありがとう。うん、いつも通り違和感ない」

 

「ところで、三高に行くって話だが、CADの調整はどうするんだ?そうそう会えないだろうしな」

 

「そのことなんだけどね、七波ちゃんに調整技術を教えてあげて欲しいの。理論は学んでるけど、実践がまだなのよ。お兄ちゃんに教えてもらえば、安心して調整をお願いできるわ」

 

「お安い御用だよ」

 

「ありがとう。よろしくね」

 

**********

 

「深咲、入ってもいいかしら」

 

「どうぞ、お姉ちゃん」

 

「穂波さんがおやつを用意してくれたから、一緒に食べましょう」

 

「ありがとう。あら、お兄ちゃんは?」

 

「お兄様は少し用事があるんですって」

 

「じゃあ仕方ないね。ところで、いつの間にお兄様と呼ぶようになったの?」

 

「沖縄で助けてもらった時からよ」

 

「そっか、二人が仲良くなってくれて嬉しいわ」

 

「思えば、私がお兄様を誤解して遠ざけていたことで、深咲も板挾みだったのね」

 

「いつか仲良くなってくれるって分かってたから、大丈夫よ。昔はともかく、今では尊敬してるみたいだし」

 

「そうなの、お兄様を尊敬しない私なんてもう想像できないわ」

 

お姉ちゃんは頬を染めている。これ、本当に尊敬だけかしら……?

遠回しに聞いてみよう。

 

「お姉ちゃんは将来の結婚の事とか、どう考えているの?」

 

「うーん、深咲が四葉を継いだら、私は分家として司波家当主になると思うのよね。それはいいけど、それに相応しい婚約者を選ばれるのはちょっと……」

 

「じゃあ、相応しい能力を持った相手を自分で見つけるしかないんじゃない?」

 

「やっぱりそうかしら。だけど、本当のお兄様を知ってしまったら、他が物足りなく見えてしまって……」

 

これはやっぱり恋しちゃってるのかしら。ハッキリとは分からないけど、直接的に聞くわけにはいかないし。

 

「でも結婚と言えば、深咲の方が先じゃないの。一条の次男でしたっけ?」

 

「そう、口説き落とさないとね。でも、直接的なアプローチは叔母様の嫌がる『こちらからの申し入れ』に当たると思うのよね。だから、相手から来るようにしなくちゃ……難易度が高いわ」

 

「まあ、大変そうね。何か出来ることがあったら遠慮なく言ってね。愚痴も聞くわよ」

 

「ありがとう、お姉ちゃん。そう言ってくれるだけで心強いわ。差し当たっては同じクラスになれるかどうかね」

 

「そればかりは運ですものね」

 

「うーん、やっぱり運に頼るのはダメね。確実に出会えるようにプロデュースしなきゃ。叔母様に協力してもらいましょう」

 

「それがいいわね」

 

部屋にノックの音が響く。

 

「深咲様、真夜様がお呼びです」

 

「今すぐ行きます」

 



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9話

時刻は0時過ぎ、眼下には警備の厳重な建物が見えている。七草の息のかかった違法研究所である。叔母様の情報収集能力は本当に驚異的だ。

 

「ボス、突入準備が整いました」

 

声を掛けてきたのは雛菊。隠密行動に長ける古式魔法の使い手で、私の直轄部隊ラタトスクの隊長である。ちなみにラタトスクという名前は、叔母様の直轄部隊ユグドラシルにあやかってつけた。

 

「では、もう一度確認する。目標は研究データ。抜き取ったあとは破壊すること。実験体がいた場合は保護すること。突入メンバーは表から濃霧・雷霆・刹那、裏から雛菊・玲瓏・幽玄。私が遮音障壁を張る」

 

「了解!」

 

表の警備員をムスペルスヘイムで始末する。濃霧達が建物に入ったのを確認し、千里眼(クレヤボヤンス)を発動する。千里眼(クレヤボヤンス)は透視、遠視ができる知覚系魔法で、最大で半径10kmまで見える。これを使いながら、念話で誘導するのだ。私の特異魔法は表向き念話ということになっている。本当はお姉ちゃんと同じくコキュートスなのだけど。

 

『刹那、前方に隠し金庫がある』

 

『了解です』

 

『幽玄、右手に隠し扉がある』

 

『これですか』

 

幽玄の開けた扉の先には、実験体の収容所があった。幸い数は少ないようだ。ピクリとも動いていないのだが、生きているのだろうか?

 

すべての処理を終えた隊員たちが戻ってくる。結局生きていたのは一人だったようだ。他の元気な実験体はどこかに動かされたのかもしれない。

 

「ボス、すべてのデータを抜き取り破壊しました」

 

「了解、最後に建物を破壊する」

 

破城槌を使い、研究所を瓦礫の山にした。

 

撤収した後、四葉本家に戻ってくると、午前3時過ぎだった。ねむいわ。

 

**********

 

「あの研究所では生体干渉の研究をしていたのよ」

 

「それって第一研の研究テーマでは?」

 

「そうなのよね。爆裂でも作りたかったのかしら。ああ、保護した実験体はあなたの好きにしなさいな」

 

「分かりました。失礼します」

 

謁見室を出て歩く。

 

「雛菊、例の実験体は?」

 

「こちらです」

 

思ったよりもいい待遇のようで、客人用の部屋を一つ当てがわれていた。

 

「初めまして。私は深咲。あなたを助け出すように指示したものよ」

 

「あなたが、救い出してくれたのか……」

 

「ここに来たからには、もう理不尽なことはないわ。指示には従ってもらうし訓練もしてもらうけど、衣食住はたっぷりと与えられるしワザと傷つけられることもないのよ。どうかしら、うちの部隊に入らない?」

 

「ここは居心地がいい。恩返しもしたいし、願っても無いことだ」

 

「そう、じゃあこれからよろしくね。あなたのコードネームは紅蓮よ」

 

「ぐれん、紅蓮か。名前はないからちょうどいい」

 

「しばらくは隊員達と訓練ね。あなたは何が得意なのかしら」

 

「加重系魔法が使える、いや、使えます」

 

「あら、無理して口調を変えなくていいのよ?」

 

「そういうわけにはいきません。上司ですから」

 

**********

 

目の前でお兄ちゃんと七波ちゃんが組手をしている。

 

七波ちゃんの手刀をお兄ちゃんは腕で防ぎ、カウンターを入れる。

 

左手で七波ちゃんの右手を巻き込みながら右の突きを放つお兄ちゃん。

 

七波ちゃんは右手を八の字に振ることで技を逃れ、拳を包むように受けてそのまま脇に抱え込む。

 

逆らわず前進したお兄ちゃんの足が七波ちゃんの後頭部に襲いかかり、それを七波ちゃんは身を捻って躱した。

 

辛うじて見える攻防に思わず息を吐く。

 

「ありがとうございました。達也様」

 

「七波も随分上達したね」

 

二人がこちらに歩いてくる。

 

「なんかもう、私には見ているだけで精一杯だったわ。もっと体術の練度も上げないと」

 

「程々にな。本来お前は魔法がメインなんだし」

 

「そうね、いざという時に咄嗟に身体が動くぐらいにはなりたいかな。七波ちゃんの足手纏いにはなりたくないし」

 

「足手纏いになど!状況を理解して守られて下さるだけでいいんですよ」

 

「いつもありがとうね。だけど守られるだけのお姫様にはなりたくないの」

 

「確かに深咲様の体術の練度ならある程度の者は相手できますが……」

 

「無謀なことはしないから、ね?」

 

「約束ですよ」

 

沖縄海戦以来、敵は容赦なく始末できるようになったけど、部下を使い捨てることはできそうにない。七波ちゃんが危機に陥ったら黙っていられないだろう。

 

「さて、折角だからお前も稽古していくか?」

 

「ええ、お願い。あと、体術だけじゃなくて魔法ありの形式で模擬戦をお願いしたいの。三高は尚武の気風だと言うし、模擬戦が多い気がするのよね。お兄ちゃんを相手にしていれば、大抵の相手には気圧されないですむと思うし」

 

お兄ちゃんと向かい合う。一呼吸おいて、息を吸い込んだ。

 

とてつもない速さで接近してくる。自己加速魔法だ。

 

私も自己加速魔法を使い、避ける。交差する瞬間、手首を取り投げ飛ばす。流石に投げにくかったが、なんとか距離を取る。

 

単一振動系魔法で牽制するが、小揺るぎもせず再接近してくる。

 

バックステップで距離を開け、冷却系の魔法を使おうとする。

 

と、その瞬間後ろに回り込まれ、サイオン波が放たれる。

 

思わず膝をついてしまった。私の負けだ。

 

「最後の、なに……?」

 

「ただのサイオン波酔いだよ。波を合成したんだ」

 

原作の服部戦で使ってたんだっけ?あれはループ・キャストがあってこそのものじゃなかった?

 

「CAD使ってた?」

 

「いや、フラッシュ・キャストだよ」

 

「なるほど。それにしても、全然歯が立たなかったね……」

 

「そんなことはないさ。投げられた時はちょっと焦ったよ。それに、お前の本来のスタイルなら、領域干渉によって相手は魔法の発動すらできないよ。三高での模擬戦では、接近戦は最後の手段にすべきだな」

 

「わかったわ。四葉として負けられないからね。」

 

「そういえば、高校は四葉の名で入るのか?それとも司波?」

 

「まだ分からないわ。叔母様がどうお考えなのか……場合によっては四葉でも司波でもない別の名字で入学するかもね」

 

「司波でもない?」

 

「ええ、私が四葉だと発表する時点でお兄ちゃんとお姉ちゃんのことを隠しておくなら、同じ名字だと都合が悪いもの。九校戦で互いに目立つだろうしね」

 

「そういうことか……そもそもどこまで実力を出していいんだろうな」

 

「そのうち叔母様に聞いておくわ。受験まであと二年はあるし」

 

「悪いな」

 

相変わらず叔母様を毛嫌いしているらしい。

 



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10話

中学三年生になった。

 

今日は都内に滞在している。お供は七波ちゃんと雛菊だけである。

四葉の息がかかったホテルで、今回のターゲットであるイギリスのスパイを待っているところだ。

ターゲットの捕獲自体は黒羽家がやってくれるので私達は待つだけなのだが……予定時間を過ぎても連絡がない。手こずっているのだろうか。

 

予定時刻を10分過ぎた頃、文弥くんから連絡があった。

 

「深咲さん、お待たせしました!」

 

「なにかトラブルでもあったのかしら」

 

「実は九島家と被ってしまい、軽く戦闘になりまして……ああ、最終的にターゲットは確保できていますよ」

 

「お疲れ様でした。ターゲットを連れてきてください」

 

数分後、ターゲットを連れた黒羽家の者達がホテルにやってきた。四葉の仕事用ホテルなので、裏口から入れば特に見咎められることもない。

 

ターゲットに対し、洗脳を施す。イギリスのスパイを四葉のスパイにすり替えるのである。魔法師は国外移動が制限されているため、外国の情報を得るためにはこうした工作が必要なのだ。

 

あとは、偶然を装って逃せば任務完了である。一度捕まっている以上調べられるだろうが、薬も魔法も使っていないのだから分かるはずがない。

 

今回の任務で分かるように、黒羽家に対しては私の能力を一部教えている。精神干渉系魔法だと思われているようだが。今のところ詳細を知る人間は叔母様だけだ。

 

「文弥くん、亜夜子ちゃん、終わったらお茶でもどう?」

 

「はい、ぜひ」

 

「お邪魔しますわ」

 

叔母様は一条が婚約の第一候補だと言っていたが、私としては文弥くんも有り得ると思っている。情勢的に外部の人間を入れたくなくなる場合には、文弥くんが第一候補になるだろう。四葉として質の高い次世代の魔法師を得たいと考える場合も、精神干渉系魔法に高い適性を示す彼と私の子供なら有力ではないだろうか。一条と違って叔母様の御命令で動かせるのも良い点だ。もっとも、最終判断は叔母様が下すべきものであるから、私があれこれ考えても関係ないのだが。それに彼が黒羽の当主になるにしても、交流を深めておいて損はない。

 

「二人は、高校はどうするの?」

 

「達也兄さんや深雪さんが通うことになる一高か、深咲さんが通うことになる三高がよかったのですけど……ご当主様の指示により四高になりました。僕たちが一箇所に集まりすぎるのは良くないということで」

 

「残念だけど仕方ないわよ文弥」

 

「そっか……じゃあ再来年の九校戦ではライバルだね」

 

「ええ、でも来年は三人の応援です」

 

「ありがとう。四葉の力を見せつけてやるわ」

 

「そういえば深咲お姉様はなぜ三高に通うことになったのですか?」

 

「ちょっとした任務があってね……まあいずれ亜夜子ちゃん達にも分かるわ。ところで文弥くん。今日は女そ「変装です」……変装はしていないのね?」

 

「今日は潜入でも諜報でもないですから」

 

文弥くんは澄ました顔で答える。

 

「せっかく可愛いのにもったいないわよ」

 

「姉さん!僕は男なんだよ!可愛いとか言われても嬉しくないよ!」

 

「まあまあ。私にとっては文弥くんは頼りになる男の人よ?」

 

「あ……ありがとうございます」

 

文弥くんは照れているようだが、亜夜子ちゃんは何故だか微妙な表情を浮かべていた。

 

**********

 

四葉本家に戻ってきた。叔母様への報告を行う。

 

「……以上で報告を終了します」

 

「お疲れ様でした。よくやってくれたわ」

 

「ところで叔母様にお伺いしたいことが……」

 

「なにかしら」

 

「私は高校にはどのような名で通うことになるのでしょうか?姉と兄は司波なのですよね?」

 

「ええ、あの二人は司波です。深咲さんには四葉を名乗らせようと考えているわ。次期当主発表後だしね。それに、あなたは私にそっくりなのだから、見る人が見れば分かってしまうわ」

 

「四葉ということは、全力を出してもいいのでしょうか」

 

「もちろんです。あなたの固有能力をバラさなければ好きにやっていいですよ」

 

「姉と兄との接触は避けたほうが?」

 

「積極的に四葉だと触れ回る必要はないけれど、接触するぐらいはかまわないわ」

 

「つまりバレてもかまわないと?」

 

「ええ、あの二人も九校戦で実力を見せるでしょうから、牽制のためにも四葉の名を利用して欲しいぐらいだわ」

 

「なるほど、他の十師族からのアプローチを警戒しているんですね」

 

「そういうことね」

 

「そういえば、一条の次男と出会うためのシチュエーションをいくつか考えてみたのですが……」

 

「どれも面白そうね。この中だと旅行案が一番いいんじゃないかしら。あそこは毎年秋に家族旅行に行くらしいですから。今年の場所・日程は分かり次第知らせるわ」

 

「ありがとうございます」

 

**********

 

「お兄ちゃん」

 

「深咲、どうしたんだ?」

 

「叔母様に高校でのことを聞いてきたわ。あれ(・・)以外の力は隠さなくてもいいし、いざとなったら四葉の名前を出してもいいって」

 

「本当なのか」

 

「うん。一高には十文字と七草の直系がいるじゃない?だからだと思う」

 

「そうか。なるべく関わらないようにしよう」

 

「それはどうかな?二人とも目立つだろうし、目を付けられるんじゃないかな」

 

お兄ちゃんはいかにも嫌そうだ。でもね、原作知識的に目を付けられるのは確定なんだよね。ご愁傷様。

 

「そうだ、九校戦のときは絶対に会いに行くからね。大っぴらだと目立つから、夜とかに」

 

「そもそも俺の能力じゃあ九校戦には出れないと思うんだが……深雪はともかくとして」

 

「そうかな?お姉ちゃんが選手なのは確定として、お兄ちゃんはエンジニアとか出来そう」

 

こんな高レベルエンジニアなんて他にいないだろう。なんたってトーラス・シルバーの片割れだし。

 

「まあ、俺が出るかはともかくとして、九校戦の前に入試だな」

 

「そうだった……ペーパーテストが不安だわ。もちろん平均は上回っていると思うけど、主席は落とせないからもっと勉強しておかなきゃ。お兄ちゃん教えてください」

 

「もちろんいいよ。深雪と三人で勉強会でもしようか」

 

**********

 

暑くなってくるのと並行するように、お母様の元気がなくなってきた。もうすぐ命の灯火が消えようとしているのが分かる。父親はもちろん来ない。来ても誰も喜ばないけど。今お母様の周りにいるのは子供達三人と穂波さん、叔母様である。

 

「二人とも、そんな顔をしないでちょうだい」

 

私とお姉ちゃんは耐えきれずに涙が出てしまっている。お兄ちゃんも少し悲しげな顔をしている、気がする。

 

「お母様……」

 

「あなた達が大人になるのを見られないのは残念だけど、でも納得しているわ。私の代わりに真夜が見てくれるもの。深雪さん、深咲さん、幸せにおなりなさい」

 

「はい、きっと。お母様、天から見守っていて下さいね」

 

「穂波、今までありがとう」

 

「そんな、奥様、もったいないお言葉です……」

 

「真夜、私の子供達を頼んだわよ」

 

「もちろんよ。三人のことは任せておいてちょうだい。いつか再会した時に、たくさん話を聞かせてあげるわ」

 

お母様は微笑んだまま、眠るように息を引き取った。

 

 



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11話

えー、お久しぶりです。お気に入り登録して下さっている皆様には申し訳ないのですがスランプです……。

脳内妄想が、言語化、できない……。


9月になって暑さが少し和らいできた。現在私は悩んでいる。一条の次男との偶然を装った出会いについてである。旅行先で出会うことを決めたのはいいのだが……たぶん、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎も一緒にいるはずだ。どうやって怪しまれずに接触するか……やはりここは固有能力の出番なんだろうな。

 

一つ、確認しておこう。私は身内の心を操るようなことはしたくないし、この固有能力はほとんど敵に対して使ってきた。身内に使うと後で罪悪感に耐えられなくなるのは分かりきっている。沖縄でお兄ちゃんに対して使ったのは辛かった。だが、固有能力なしでは叔母様の要求を達成するのは難しいだろう。だから、線引きをしようと思う。直接感情を操るのは禁止、読心と軽いきっかけを与えるのはいいということにしよう。軽いきっかけとは相手から私に話しかけさせる、などの行動を促すことを指す。あとは臨機応変に対応しよう。

 

**********

 

10月中旬、いよいよ初戦の時である。旅行先でファーストコンタクトを達成する。連れていけるのは七波ちゃんだけだし、ほとんど自分でやらなければならない。注意点としては、ある程度仲良くなるまで四葉だと知られないこと。恐れられたら恋愛どころじゃあないからだ。

 

「さあ行きましょうか、七波ちゃん」

 

「はい、お伴します」

 

「行ってらっしゃい、深咲」

 

「行ってきます。頑張ってくるわ」

 

キャビネットに乗り、旧群馬県へと向かう。行き先は大昔からある老舗の温泉宿だ。

 

駅からはコミューターを使う。宿の前まで来ると、源泉から湯気がごうごうと立ち上っているのが見える。この温泉のメインエリアと言える湯畑(ゆばたけ)である。

 

「御予約の司波様ですね?お部屋は1015室でございます」

 

そう、この旅行には司波の名前で来ている。まだ四葉を名乗ることは許されていないからだ。

 

部屋の中は驚くことに洋風で、ベッドが二つ並んでいる。荷物を置いてベッドに腰掛け、千里眼(クレヤボヤンス)を使い一条家を探す。

 

「まだ来ていないわ」

 

「それまでどうします?せっかくなので温泉でも入りますか?」

 

「そうね。時間が勿体無いものね。どうせだから楽しんじゃいましょ」

 

着替えを持ち、二人で温泉へと向かう。大浴場は二つあり、深夜の掃除を経て男女入替されるそうだ。

 

個別ブースで身体を洗い、湯着を身に付ける。湯船の側で七波ちゃんと合流し、湯に浸かった。早い時間だからか、他に人はおらず貸切状態である。湯の温度は少し温めで、長時間浸かるのにはいいかもしれない。

 

「受験の準備は順調かしら?」

 

「ええ。深咲様には及ばぬまでも、上位成績を取れるように精進しております」

 

正面玄関を監視しながらおしゃべりをしていると、一条一家がやってくるのが見えた。もちろん吉祥寺真紅郎も一緒である。

 

「来たわ」

 

「急いで出ますか?」

 

「ゆっくりでいいわよ。あまり焦っても仕方ないと思うわ」

 

湯船を出て、ゆったりと着替える。相変わらず誰も入ってこない。貸し切りになってありがたいことではあるが。

 

大浴場から出て、部屋までの道のりを歩いていると、受付付近に不穏な雰囲気を感じた。

 

「金を出せ!」

 

大柄な男が宿のスタッフに刃物を突きつけている。強盗だ。

 

私は七波ちゃんに目配せをし、無系統の共鳴によって男を気絶させようとした。

 

「えっ……相克!?」

 

「なっ……しまっ……」

 

近くから声が聞こえた。七波ちゃん以外に他に魔法師がいたのだろう。相克によって魔法式が作用していない。

 

流れるように術式解体(グラム・デモリッション)を使い、魔法式をまとめて吹き飛ばす。これは沖縄でのことを反省し、お兄ちゃんに教えてもらったものだ。

 

「今のはまさか……グラム・デモリッション!?」

 

「知っているのか、ジョージ」

 

外野が何か言っているが、スルーして改めて共鳴を使う。宿のスタッフに拘束できるものを持ってきてもらい、七波ちゃんが気絶している男を縛り上げる。あとは警察に連絡すれば、一件落着である。

 

さて、落ち着いたのでいい加減現実を見なければならないだろう。さっき聞こえたジョージというのはもしかしなくても吉祥寺真紅郎のことですね。なんということでしょう、必死に考えた出会いのプランが台無しに!

 

そして私は想定外の出来事に弱い。沖縄の件からも明らかだ。うろたえないようにしっかりと気を引き締める。

 

振り返って目を合わせ、にこやかに話しかける。

 

「こんにちは。先ほどの魔法師の方ですね?警察へ事情説明をしなければなりませんので、一緒にお待ち願えますか?私は司波深咲といいます」

 

「私は桜井七波です」

 

「も、もちろんです。先ほどはお見事でした。自分は一条将輝といいます。よろしくお願いします」

 

「僕は吉祥寺真紅郎です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

自然に時間を共有できる言い訳ができたと思う。そう思えばこの事件も良かったかな。宿側にとってはたまったものではないだろうが。

 

「あの魔法式をかき消したのはグラム・デモリッションですよね?」

 

吉祥寺真紅郎が質問してくる。確か原作でも司波達也のグラム・デモリッションに驚く描写があったと思う。

 

「ええ、私はサイオン保有量が多いらしいので。よかったらロビーのソファでおしゃべりしながら待ちましょう」

 

 

 

「吉祥寺さんってもしかして、カーディナル・ジョージですか?」

 

「実はそうなんだ。よく分かったね」

 

ソファに移動すると、気を使ってくれた七波ちゃんが吉祥寺真紅郎に話しかけている。私も頑張るとしよう。

 

「お二人はおいくつなんですか?」

 

「二人とも15歳です。中学3年生ですね」

 

「まあ、私たちと同級生だったのですね。高校は、魔法科高校に行くのでしょうか」

 

「ええ、第三高校を受験予定です」

 

知っているけど、知らないふりをして話す。ちょっとお姉ちゃんのような話し方になっているのは、もちろんわざとだ。

 

「あら、私たちも第三高校の予定なんですよ。お互い入学して会えるといいですね」

 

笑いかけると、一条将輝が赤面した。おお、これはいい感じ?

 

読心を使ってみると、どうやら気を引けてるみたいだ。順調順調。

 

とはいえ、いつまでもお姉ちゃんみたいに淑女然とした態度ではいられない。もちろん、当主教育のなかに淑女教育も含まれていたため、今のように取り繕うことはできる。ただ、お姉ちゃんとは違い、心の底から淑女になれたわけではない。いつかはもっと砕けた関係になりたいと思う。まだ早いか。

 

互いに自己紹介を兼ねた雑談をしていると、予想より早く警察官が到着した。

 

被害者の宿のスタッフと魔法を使った私と一条将輝、犯人を縛り上げた七波ちゃんが事情聴取を受けたが、気絶にとどめたこともあり特にお咎めはなかった。原作の魔法師排斥とかを知っているので、少し緊張していたのだ。よかった。

 

事情聴取が終わると、当然解散になる。ファーストコンタクトの成果がもう少し欲しかった私は、固有能力を使った。

 

「あの、司波さん!よ、よかったら、メールアドレスを交換しませんか?」

 

「はい、いいですよ」

 

ターゲットのメアド、ゲットだぜ!

 

**********

 

「予想外の事態だったけど、思ったより楽にいけたわね」

 

「そうですね。あそこで事件がおこるなんて……でも、ファーストコンタクトは上々でしたね」

 

「あの男に感謝してもいいいぐらいよ。七波ちゃんはどうだった?」

 

「はい、吉祥寺さんとはそこそこに友好を深められたかと。アドレスも交換しました」

 

「あら、やるじゃない。たぶんね、三高に入学しても、あの二人は一緒にいると思うのよ。だから、一対一よりも四人で仲良くする考えでいた方が上手くいきそうね」

 

「確かに……じゃあ一条さんとも程々に仲良くしつつ、主に吉祥寺さんと話しておきますね」

 

「お願いね。七波ちゃんは頼りになるわ」

 

「ありがとうございます」

 

私はいい従者を持ったものだ。彼女の支えがあるから今回みたいな任務でもやっていけるのだ。

 

「まあまずは、この旅行中に何度か話してある程度親密になっておきましょう」

 

「ですね。ところで、私のことはどう説明するのですか?メイド?護衛?」

 

「それがあったわね……とりあえずメイドでいきましょう。護衛がばれたときはそのときで」

 

「かしこまりました」

 

「あと、気をつけるべきはね、一条の当主にはまだ会ってはいけないということよ。今素性がばれるのはよろしくないわ。高校生になってから会いに行く予定にしてるから、そのつもりでね」

 

「承知しております」

 



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12話

なんとか年内に更新できました。皆様良いお年を。


2095年、正月。ついにこの時がやってきた。そう、次期当主指名である。

 

慶春会に出席するため、今日は朝から忙しくしている。慶春会とは、四葉の親戚一同と使用人が本家に集う会のことである。正装をしなくてはならないため、和風着せ替え人形のようになっている。化粧のために顔を弄り回され、帰りたくなった。ここが家だが。

 

「お兄ちゃん、あけましておめでとう」

 

「あけましておめでとう。頑張ってな」

 

「うん。ありがとう」

 

廊下ですれ違ったお兄ちゃんに挨拶をする。お兄ちゃんは慶春会には参加しないのだ。

 

「お姉ちゃん、あけましておめでとう」

 

「深咲、あけましておめでとう」

 

控えの間に入り、お姉ちゃんと挨拶を交わす。まだ他の人は一緒じゃないようだ。今年の慶春会には、次期当主候補が全員招かれているはずだ。

 

「深雪さん、深咲さん、あけましておめでとうございます」

 

「深雪姉様、深咲姉様、あけましておめでとうございます」

 

「文弥くん、亜夜子ちゃん、あけましておめでとう」

 

「あけましておめでとう」

 

文弥くんと亜夜子ちゃんがやってきた。亜夜子ちゃんは相変わらずお姉ちゃんに対する目つきが挑戦的である。私がライバル視されていない理由はいまだによく分からないが。やっぱりお兄ちゃんを巡っての対立だろうか……?

 

その後、津久葉(つくば)家の夕歌(ゆうか)さんや新発田(しばた)家の勝成(かつしげ)さんと挨拶を交わしていると、控えめな振袖を着た七波ちゃんが現れた。

 

「失礼致します。皆様の慶春会への案内役を仰せつかりました桜井七波と申します。至らぬところ多々あろうかと存じますが、精一杯努めますのでよろしくお願い致します」

 

七波ちゃんはかなり緊張しているようだ。慶春会の案内役はちょっと他とは違うというか、やや時代錯誤で伝統文化の解釈を間違っているのではないかと思われる部分があるので、それが今から恥ずかしいのかもしれない。

 

「まずは文弥様、亜夜子様、ご案内致します」

 

文弥くんと亜夜子ちゃんが目礼をして立ち上がる。

 

しずしずと進む七波ちゃんの後ろに、歩幅を合わせて二人は控えの間を出て行った。

 

「そういえば深雪さんと深咲さんは慶春会の入場作法をご存知かしら?」

 

見送っていた夕歌さんが訊ねてきた。私は知っているが、お姉ちゃんは知らないかもしれない。

 

「知っていますよ。ちょっと大変ですよね」

 

「案内役の呼び出しがあって、それに先導されて入場すると聞いています」

 

「そう……。じゃあ、私から深雪さんには一つだけアドバイスね」

 

お姉ちゃんは訝しげな顔をしている。

 

「入場の際にね、絶対噴き出しちゃ駄目よ。我慢できそうになかったら、さっさと座ってお辞儀しなさい。純和室だから、それで笑っているところを誤魔化せるわ」

 

**********

 

夕歌さんも勝成さんも広間に向かい、ついに私達の順番である。

 

「深雪様、深咲様、ご案内致します」

 

「……七波ちゃん、大丈夫?なんだか疲れているみたいだけど」

 

お姉ちゃんの言うとおり、七波ちゃんはかなり消耗しているように見える。きっと心労だろう。早く終わらせてあげよう。

 

「次期当主候補・司波深雪様、及び、次期当主候補・司波深咲様、おなーりー」

 

ちらっとお姉ちゃんを見ると引きつっている。確かにこれは破壊力がでかい。

 

使用人が一斉に平伏している。

 

私達は端正な所作で膝を折って一礼した。

 

横に跪いた七波ちゃんが「お席にご案内します」と小声で囁く。それを合図にして顔を上げた。

 

案内されて席に着く。ざわめきが起こった。私が叔母様の隣に案内されたからだった。お姉ちゃんは叔母様と向かい合う最前列だ。

 

「皆様、改めて、新年おめでとうございます」

 

金糸をふんだんに使った華麗な黒留袖を着た叔母様のお声により、ざわめきがピタッと収まり、一拍置いて出席者全員が「おめでとうございます」と唱和した。

 

叔母様が満足げに左右を見回す。

 

「本日はおめでたい新年に加えて、一つ、皆様に良い知らせ伝えることができます。私はこれを、心より喜ばしく思います」

 

そう前置きをして、広間を睥睨する叔母様。

 

「皆様が最も関心を寄せていらっしゃることを、ここで発表させていただきます」

 

広間中が水を打ったように、しんと静まった。

 

「私の次の当主は、ここにいる司波深咲さんにお任せしたいと思います」

 

一拍置いて、熱烈な拍手が起こった。ありがたいことだ。

 

「ご挨拶とかは、またの機会に。この慶春会は、そういう固いお話をする場ではありませんので」

 

所々で賛同の笑い声が上がった。大体が顔を赤くしている男性である。酔っているのだろう。

 

「では、お食事にいたしましょうか」

 

そうして、無事に慶春会が終わり、次期当主としての地位を確立したのだった。

 

**********

 

そして翌日、2095年1月2日。四葉家から魔法協会を通じて十師族、師補十八家、百家数字付き(ナンバーズ)などの有力魔法師に対し通達が出された。

 

四葉深咲を四葉家次期当主に指名したこと。

 

四葉深咲は四葉真夜の姪にあたること。

 

四葉深咲の婚約者は高校生の間に決定すること。

 

有力魔法師各家はその日のうちに、魔法協会にある四葉家の私書箱宛に祝電を打った。また、婚約の打診がいくつかの家から来たようだ。叔母様は「検討します」と返しているらしい。もう腹案があるくせに意地悪な人だ。

 

**********

 

2月下旬、今日はいよいよ魔法科高校の入学試験の日だ。

 

実技は処理速度・演算規模・干渉強度の3つを測定される。四葉の血筋である私にとっては容易い試験だ。

 

問題は筆記である。お兄ちゃん程の圧倒的な点数を取る自信はない。それでも主席は落とせないから頑張るしかないが。今日のためにお兄ちゃんに家庭教師してもらったのだ。

 

おや、一条将輝がいる。当然吉祥寺真紅郎も一緒だ。

 

「話しかけますか?」

 

「あっちから気づいてもらいたいところね……ま、とりあえず試験に集中しましょ」

 

教室に入り、試験の準備をする。一緒に受験申し込みをしたため、七波ちゃんとは前後の席である。

 

筆記は全部埋めることができた。とはいえ、特に魔法工学分野は自信が持てないが。苦手なのだ。魔法工学に限っては七波ちゃんの方が上だと思う。

 

試験が無事に終わり、解放されたような気持ちで外に出る。

 

一条将輝を再度発見。近くに寄ってみることにする。

 

「七波ちゃん、ちょっと疲れたしお茶でもしていかない?」

 

「賛成です。脳味噌を使った後ですし、糖分を補給しましょう」

 

そろそろ視界に入りそうだ。

 

「あ!司波、いえ、四葉さん?」

 

「ええ、四葉で合っていますわ」

 

「驚きましたよ。四葉家の次期当主と知り合っていたとは……」

 

「言えなくてごめんなさいね。私が四葉の名乗りを許されたのは、今年の正月のことなのですよ」

 

「そうでしたか」

 

「一条さんはあの(・・)一条家なんですよね?」

 

「ええ。正直あの時にばれたと思っていましたが」

 

「私自身隠していたものですから、確認しにくくて……」

 

「なるほど。あの、立ち話もなんですから、お茶でもどうですか?」

 

「ええ、よろこんで」

 

もちろん、固有能力により後押しをしている。

 

 



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番外編1

お待たせした上に番外編で申し訳ないです。
スランプ&多忙&病気の三重苦でして……
今回の番外編は悶えながら書きました。これが限界です。


あの夢のような温泉旅行から数ヶ月たった。つまりあの人に出会ってから数ヶ月だ。

 

司波(しば)深咲(みさき)さん。

 

俺の、天使。

 

あの時は本当に地上に天使が舞い降りてきたのかと思った。神なんか信じちゃいなかったが、本気で神に感謝したくなった。

 

彼女は突然目の前に現れた。あれは旅館のフロントに強盗が入ったときのこと。俺はとっさに魔法を使って倒そうとしたのだが、彼女と被り相克が起こってしまったのだ。その後彼女は颯爽と術式解体(グラム・デモリッション)を使い、強盗を倒した。もっとも、術式解体(グラム・デモリッション)のことはジョージが解説してくれるまで知らなかったのだが。流石ジョージは博識だ。

 

それから警察が来るまで至福の時間を過ごした。なんと彼女も三高に入学するらしい。素晴らしい。同じクラスになれるように祈った。

 

あの旅行中に何度か彼女と会えて話をしたが、家族には何も話していない。話すようなことじゃあないしな。茜にはからかわれそうだし。

 

「……さき!将輝ってば!」

 

「っああ、悪いなジョージ」

 

「最近ずっと上の空だよね。やっぱり彼女のこと?」

 

「ジョージに隠し事はできないな」

 

「メールのやりとりはしてるんでしょう?仲良くなれたの?」

 

「まあな……初対面のときよりは仲良くなったと思う。だけど個人情報とかは全然……」

 

「普通に聞けばいいのに。世間話の中で聞き出すとかできるよね?」

 

「その……なんだ。俺の個人情報も全然話してないしな。一方的に聞き出すってのはどうも……」

 

「話してない!?なんで?魔法師なら一条家の次男だっていうのはプラスの情報だと思うけど?」

 

「初対面でもないのに自分から言い出すとか恥ずかしくないか?」

 

「分からないでもないけど……それじゃあ進まないよね」

 

「そうだが……まあ、入試か入学式か、会えたらその時にな」

 

「わかったよ。意外と将輝ってヘタレだったんだね……」

 

「ヘタレってなんだよ!俺はちょっと遠慮してるだけだ!」

 

「はいはい」

 

「楽しそうだね、真紅郎くん。なんのお話をしてるの?」

 

ノックと同時に扉が開いて、茜が部屋に入ってきた。

 

「茜……ドアを開けるのは返事を確認してからにしろって、いつも言ってるだろ」

 

「真紅郎くんだから良いじゃない。兄さんが連れ込んでいるのが女の人だったら、あたしだって遠慮するよ」

 

「ぐっ……あのなぁ」

 

「そんなことより、お父さんが呼んでるよ。書斎だって」

 

「そんなことって……まあいいか。今行く」

 

書斎に呼ばれるということは、二人だけで話さなければいけないということだろう。書斎についてノックをして待つ。

 

「将輝です」

 

「おう、入れ」

 

「失礼します」

 

「そこにかけて楽にしろ」

 

言われて親父の正面に座る。

 

「年初にあった四葉家の通達は知っているか?」

 

「四葉家?知らないな。四葉がうちに一体何の用だったんだ?」

 

「当家に対するものではない。十師族、師補十八家、及び百家の一部。日本魔法界の主要な各家に対する、まあ、挨拶みたいなものだ」

 

「挨拶?まさかあの無愛想な四葉家が新年の挨拶を送ってきたというわけでもないだろう?一体何を言ってきたんだ?」

 

「四葉家の次期当主は四葉深咲(みさき)を指名すること、彼女は四葉真夜の姪であること、彼女の婚約者は高校生の間に決めること、以上の3つだ。調べてみたところ、四葉深咲嬢はお前と同じ学年のようだ。それ以上は分からなかったが……」

 

なんだか嫌な予感がする。名前が一緒なだけ……だよな?

 

「深咲嬢の写真は手に入れられなかったが、四葉真夜殿の写真を見せておこう。似ていれば見れば分かるだろう。似ていなければ無意味だが……」

 

「俺は次男だから、その四葉家次期当主とはあまり関わることはないだろう?それとも同じ学年だから九校戦とかで関わるだろうということか?」

 

「ここからがお前を呼んだ本題だ。件の深咲嬢はなぜか第三高校に入学予定らしい。四葉殿が当家にメッセージを送ってよこした」

 

「三高に入学だって!?」

 

「そうだ。だから必然的に関わることになる。ほら、これが四葉殿の写真だ」

 

ほう、これが夜の女王の写真ね……って司波さんじゃないか!?

 

「これはっ……!」

 

「どうしたんだ将輝?」

 

「そっくりなんだ!俺が去年の温泉旅行で会った女の子と!」

 

「ほう。その子の名前は?」

 

「司波深咲。そういえば三高に入学するって……」

 

「お前が会ったのは四葉深咲嬢である可能性が高いな。まあ、顔見知りなら4月からも大丈夫そうだな」

 

「ああ。仲良くなった……と思う」

 

「ふむ。顔が赤いが、もしかしてお前……深咲嬢に惚れているのか?」

 

「なんで親父にそんなこと言わなくちゃいけないんだよ!」

 

「まあ言いにくいのも分かるがな。もしサポートが欲しければうちから四葉家に申し込むこともできるぞ?」

 

「待ってくれ。俺は……その……申し込みはいい」

 

「そうか。してほしい時は言ってくれよ」

 

その後どうやって親父の書斎から部屋まで戻ってきたのか記憶が曖昧だ。

 

司波さんが……四葉だなんて。それも次期当主だなんて。救いは婚約者がまだ決まっていないってことだな。ジョージに相談しないと。

 

「あ、お兄ちゃんが帰ってきた」

 

「将輝?どうしたの?」

 

やっぱりジョージには分かるか。

 

「茜。俺はジョージに話があるから……」

 

「はいはい。じゃあね、真紅郎くん」

 

「本当にどうしたの?」

 

「司波さんが……」

 

「ん?剛毅さんと話してきたんじゃ?」

 

「そうなんだよ。それで司波さんが四葉かもしれないって」

 

「四葉!?」

 

「ああ。それも次期当主らしいんだよ。正確に言うなら四葉家次期当主と司波さんの名前が同じで、四葉真夜殿の写真が司波さんにそっくりだった」

 

「それじゃ……あの出会いはワザとかもしれないね」

 

「ワザと?」

 

「そう。なんらかの伝手で一条家の旅行先の情報を知っていたとしたら、彼女は将輝に会うためにあの場にいたのかもしれない」

 

「俺に、会うために……」

 

「何を喜んでるんだよ……策略かもしれないって話をしてるんだよ!」

 

「言いたいことは分かるが……俺に会ってなんの役に立つんだ?」

 

「それはまだ分からないけど……とりあえず警戒は忘れないでよね」

 

「ま、大丈夫だろ。俺にはジョージがいるんだし。それに、惚れたっていう意味でもう手遅れだしな!」

 

「しょうがないなぁ……」

 

「それで、彼女は高校生の間に婚約者を決めるらしい」

 

「じゃあ、今はいないってことだね。これはチャンスだよ!一条家の次男ともなれば家柄も十分だし、彼女自身とも仲良くなってるだろう?」

 

「あんまり家柄に頼りたくはないんだが」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないって!彼女の場合、優秀で家柄のいい魔法師を婿に迎えなければならない立場なんだ。だから、それを示さないと恋愛対象にも入れてもらえないんじゃない?」

 

「そう……か。ここは一条でよかったって言う場面だよな」

 

「まずは入試のときに何とかして会おう」

 

「分かった」

 



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