A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ (赤川島起)
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A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ
期間限定ピックアップ召喚サーヴァント紹介


イベント対象サーヴァント。

善属性の女性サーヴァントの絆ポイント2倍+100%の威力アップ


真名:シンデレラ(島村卯月)

クラス:キャスター

レアリティ:☆4

 

アイドルに憧れ、夢を実現した少女。ファンのみんなに笑顔を届ける正統派のキュートアイドル。本来は英霊になりえないが、シンデレラという殻に彼女の生霊とファンの応援という信仰心で構成されたサーヴァント。その成り立ちは佐々木小次郎のそれに近い。アイドルであるため当然のごとく戦闘能力など皆無であるが、サーヴァント化したことに加え、ファンの応援という信仰心である程度の戦闘能力を持つことになった。キャスターとして顕現しているが、無論魔術は使用できない。支援・応援という意味合いでのクラスである。

 

宝具:硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

 

コマンド:Buster

 

味方全体の攻撃力と防御力アップ<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体にNP獲得状態を付与

 

「キュートな笑顔がトレードマーク!島村卯月、がんばります!!」

 

 

 

真名:シンデレラ(渋谷凛)

クラス:アサシン

レアリティ:☆4

 

アイドルにスカウトされ、芸能界へと入った少女。名前の通り凛とした正統派クールアイドル。何かを求めてアイドルになったらしく、どうやらその何かを見つけられたようだ。彼女を含めたアイドルたちのスキルや宝具はファンからの視点(いつわ)ではなく、P及び他のアイドル、自身の心情が元となっている。正確に言えば、アイドルのファン一号がPだからである。アサシンクラスであるが、何を殺すかは本人ですらわかっていない。

 

宝具:硝子の靴のお姫様(Never say never)

 

コマンド:Arts

 

自身に男性特攻状態を付与<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

 

「クールな表情と照れ屋なギャップ!目指せトップアイドル、渋谷凛!!」

 

 

 

真名:シンデレラ(本田未央)

クラス:ライダー

レアリティ:☆4

 

アイドルを目指し、オーディションで見入られてアイドルになった少女。元気と明るさが特徴の正統派パッションアイドル。島村卯月、渋谷凜と一緒のユニット「ニュージェネレーションズ」のリーダーを務める。彼女を含めたすべてのアイドルたちは善属性を持つ。それがスキル、「真のアイドル」を持つ絶対条件である。本人曰く、ライダークラスなのは調子に乗っているからじゃない?と笑いながら告げている。

 

宝具:硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)

 

コマンド:Quick

 

敵全体にクリティカルスターが多いほど威力の高い強力な攻撃

+味方全体のHPを回復<オーバーチャージで効果アップ>

 

「元気が売りのパッションアイドル!新世代(ニュージェネレーションズ)のリーダー、本田未央!!」

 

 

 

 




アイドル型サーヴァント

すべてのアイドルがEXランクのスキルを持っているが、これは彼女たちの強力な個性がスキル化しているだけであり、個性によって集まったゆえの偶然でも必然でもある。


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第1章 現代日本

A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ

 

 

 

亜種特異点である新宿を乗り越えたカルデアの面々。

新たな仲間、シャーロック・ホームズを加え次なるレイシフト先を伝えるブリーフィング。

集まった面々はマスターたる少年、藤丸立香。

彼の最初のサーヴァントであり、現在療養中のカルデア職員、マシュ・キリエライト。

カルデアに召喚された英霊三号であり万能の天才、現在は実質的なカルデアのトップ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

そして、新たなカルデアのご意見番にして最も有名な探偵、シャーロック・ホームズ。

カルデア首脳陣の会議はいつもより、ややゆるい空気の中進行していた。

 

「現代日本へのレイシフト、ですか?」

 

「その通り。今回のレイシフトはいつもとは毛色が違う」

 

「特異点、といえるのかも微妙なゆらぎだからね。だが、どんなに小さなものでも異変は異変。もとより人類史においてそうした異変など決して多いものではない。」

 

「だけど、今回のはかなり平和染みていると思うよ。何せ特異点の座標は西暦2012年の東京。新宿や冬木よりも現在(いま)に近い現代日本。それも冬木や新宿のようなレベルの異常でもない。神秘の薄いこの時代なら、そうそう大きいことは起こっていないだろう。」

 

「隠蔽、という可能性もあるだろうがそれだったとしても限界は伺える。数人の戦闘特化サーヴァントで対処できる範囲だろうね」

 

「だからこそ、今回はマシュもレイシフトしてもらうよ。リハビリ、という意味も兼ねてね」

 

「無論、手に負えないレベルの異変である場合は即撤退し、後日に再編成した部隊で挑む。緊急の場合は追加でカルデアのサーヴァントをレイシフトさせる予定だよ。」

 

「まあ、肩肘張らずに行ってくるといいよ。時代に沿った軍資金も用意しとく。マシュはそういった娯楽を経験してないからね、調査ついでに遊んでくるといいよ」

 

「えっと、先輩はどう思いますか?」

 

→「マシュと遊ぶの、楽しみだよ」

 

「……はい、私も楽しみです」

 

「ああ、それと軍資金による時代の混乱も心配することは無い。持っていくのは紙幣のみだからね」

 

→「紙幣だけ?」

 

「そう、紙幣の寿命は短い。一定の期間が過ぎれば回収されてリサイクルされる。あまり大きすぎる買い物をしない限りすぐに均されてしまうレベルの変化だ。立香君とマシュ嬢、サーヴァント数名が遊覧する程度は問題ないだろう」

 

「とりあえずの調査期間は一週間。それ以上は臨機応変に対処、という方針だ。立香君、マシュのエスコート、頼んだよ」

 

→「はい!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

アンサモンプログラム スタート

霊子変換を開始 します。レイシフト開始まで あと3、2、1………

全工程 完了

アナライズ・ロスト・オーダー

人理補正作業(ベルトリキャスト) 検証を 開始 します

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ここが、今回のレイシフト先なんですね……」

 

『そうなるね。今回のレイシフト先は、ブリーフィングでも言ったとおり。今までで最も現在に近い時代である現代日本。マシュ達が以前レイシフトした二つの冬木よりもさらに今に近い時代だ。そこはまだ、人波から外れているが、大通りに行けば人は今までに無いほど多いだろうね』

 

『人口は歴史を進むごとに増え、近代では爆発的に増加した。首都ではなかった冬木や、そもそも異常事態だった新宿とは違い、正常な東京の都市部であれば人の数は今までの比ではないだろう。近代トップクラスの人口密度の都市だ、はぐれないように注意してくれ』

 

「了解です、ホームズさん。それに今回のメンバーは特に頼もしい方々ばかりですから」

 

「おっと、これは責任重大だ。その期待に応えるとしよう」

 

ニヒルに笑い、答えたサーヴァント。

英霊エミヤは、普段とは違う黒と赤を基調とした現代風の装いをしている。白い髪と褐色の肌が多少目立つだろうが、もとよりさまざまな人物が集まる東京ではさして問題にならないだろう。

 

「なぜだか、懐かしい装いです。正直、少し気恥ずかしいですが……」

 

やや赤面しつつ、少しそわそわしたサーヴァント。

英霊アルトリア・ペンドラゴン。

彼女の装いはマスター礼装にもあるアニバーサリーブロンド。

金髪碧眼の外国人は東京では取り立てて珍しいものではない。

強いて言うならば、彼女の可憐な容姿が目立つくらいだろうか。

 

「近代の服は初めてではないですが、この衣装は少し新鮮です。……どこかで着ていたような気もしますが」

 

シャツとミニスカートといったJK風な格好をしたサーヴァント。

英霊ジャンヌ・ダルク。

マシュ含めた彼女たち四人が今回のメンバーであり、その選考理由は常識人。

癖の強いカルデアのサーヴァント達の中でも社会への適応能力が高いサーヴァントたちである。

 

「しかし、東京というのはいささか暑いですね。今までとは、なんと言うか……種類の違う暑さです」

 

「ああ、それはこの時代では夏であること、そして湿度の違いだろう」

 

「体感温度の違い、ですね」

 

「そうだ、日本は数値的には高い気温ではないが、湿度が高いから不快指数によってより暑く感じてしまう。夏はそれがより顕著に出る。東京であれば、ある程度対策はされているだろうが、もとより人が多い街だ。加えてコンクリートジャングルがより熱気を生む」

 

『ちなみにダ・ヴィンチちゃんの補足だが、日本人は最も汗っかきな人種だ。四季による寒暖差、高温多湿な気候だから蒸散する汗による体温調節が発達しているからね』

 

→「知らなかった……」

 

「先輩が若干ショックを受けています!?」

 

「あのー、そろそろ行きませんか?」

 

「そうですね、人気の無いところで固まっているというのは悪目立ちします。それに、今回はマスターとマシュの休暇も兼ねているのでしょう?せっかくの遊覧です、こちらもしっかり護衛しますから、存分に楽しんでください」

 

→「みんなも一緒に、だよ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

『ああ、我々はここから黙るとしよう。せっかくの休暇に無粋な横槍は挟まないでおくよ』

 

『何か緊急事態があればすぐ連絡する。だから、安心して楽しんでおいで』

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「こ……」

 

 

「これは……」

 

ざわめく人波、都会の喧騒。

エミヤなどを除きおおよそこの光景は経験している人物は少ないだろう。

現代都市部の人の多さは過去の栄えた都市とは比べ物にならないほどに人が多い。

百聞は一見にしかずというが、一見しただけで圧倒されてしまうほどに。

 

「すごい人数です!?聞いてはいましたが、これほどとは……」

 

→「夏……、人ごみ……」

 

「気づいたか、マスター。これは、上二人はわざとこの時期(・・・・)にレイシフトさせたな」

 

「この時期?お祭りか何か、ですか?」

 

「いや、そうではない。まあ、ある意味、ジャンヌの言った通りでもあるがな」

 

→「夏休み!だね!」

 

「夏休み……、いわゆる夏季休暇ですね」

 

「その通りだ、セイバー。もっと正確に言えば、学生たちの夏季休暇だな。この時期は小学生から高校生、そして大学生も重なる大型休暇の時期だ。街に若者が多いのも、それが原因だろう」

 

「?エミヤ先輩、少し気後れしているように見えますが?」

 

「ああ、まあな。此度の面々は、見た目で言うならば私だけが成人だ。君たちも含め、若者に囲まれているというのは、少し疎外感がある」

 

→「エミヤも一緒に遊ぶんだよ」

 

「……了解だ、マスター。やれやれ、ある意味、難易度の高いレイシフトになりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度街を見て回っていたカルデア一行。

現在は休憩ということでオシャレなクレープ屋で舌鼓を打っていた。

マスターの立香はチョコバナナ。

マシュはブルーベリー&ストロベリー。

少し居心地が悪そうなエミヤはツナマヨのおかずクレープ。

残り二人は、

 

「むぅ、この小豆クレープ、あんこと生クリームの甘み、そこに黒蜜のほろ苦さがあいまって……、これはまさに至高のクレープ!」

 

「いえ、それならばこちらの色とりどりの冷凍フルーツとカスタードのクレープもですよ。シャリシャリした甘酸っぱいフルーツは現代で無ければ流通できない、この時代を象徴するスイーツです!」

 

「いや、日本が代表とする甘味の定番、あんこと黒蜜のこのクレープこそ、日本で食べるスイーツにふさわしい!」

 

「今は夏です、ならば冷たさを前面に押し立てたこのクレープこそ、今食べるのに最適です!」

 

各々のクレープ、どちらがおいしいのかという舌戦。

別にライバル店とかそういうの無いので、完全に不毛な争いである。

もとより、そんなに仲が悪いわけでもないのだが。 

女性を狂わすスイーツによって、タガが外れてしまったらしい。

 

「……ジャンヌ、セイバー、そこまでにしておけ。そんなに気に入ったのならばカルデアに帰ったら、私が作ってやるから」

 

「うっ、……そうですね。つい熱くなってしまいました。主と騎士王に謝罪を」

 

「はい、こちらからも謝罪を。しかし、私たちをここまで熱中させる。日本のスイーツとは罪作りなものですね」

 

「……これは、カルデアでのメニューにスイーツを増やしてやるべきか」

 

どうやら今回メンバーの中では、エミヤの負担が一番大きかったらしい。

やれやれといった様相でポツリとつぶやいた一言。

そして、それを聞き逃さなかった人物がいたようだ。

 

→「帰ってからの楽しみができたよ」

 

「そうですね。こんなにおいしいクレープがカルデアでも食べられるのは、とても楽しみです」

 

「マスターにマシュまでもか……。作るのはやぶさかではないが、おそらく味わいというのは変わると思うぞ」

 

「……アレンジ?でしょうか?」

 

「いや、違う。言ってしまえば雰囲気だよ。この空気を含めての味だ。まったく同じ作り方でも、食べる側の受け止め方が違えば味は変わる」

 

→「休日に街でみんなと食べてるからこそだね」

 

「そういうことだ。さて、話を変えよう。少し散策はしてみたが……」

 

「はい、異常は見当たりませんでした。なので、これからどこへ向かうかは、マスターの決定次第ということですね」

 

やや緊張した空気が流れるが、普段のレイシフトに比べればだいぶゆるい。

マスター本人が休暇の姿勢なので、それに倣っているようだ。

肩の力を抜いてはいるが、油断も腑抜けてもいないところは流石は歴戦の英霊といったところか。

休暇中のマスターの護衛、のついでに外遊なのだろう。

 

→「せっかくなら今しかできないことがしたい、かな……」

 

「今でしかできないこと、ですか?」

 

「日本における、夏休みならではのこと、ということでしょうか?」

 

→「うん。ジャンヌの言ったとおり」

 

「なら、もう少し街を散策してみるのはどうかな?夏休みならば、さまざまなイベントが行われているだろう。それを探してみたり、もしくは調べてみれば何か見つかるだろう」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「どこも人が多かったですが、ここは特に若年層が多いですね」

 

来たのは大型のショッピングモール。

中央に吹き抜けが続く、二階層のショッピングロードだ。

人通りは多く、買い物袋を下げている人が多い。

 

「ウィンドウショッピング、というやつだ。さまざまな商品が綺麗に並べられているからそれを眺めたり、会話の種にする。その中で気に入ったものがあれば購入するという買い物の仕方。若者、とりわけ女性に多い買い方だな。ゆえに、ここにいるのも女性が多い。男性もいるが、多くは女性の付き添いや目的の店までの移動がほとんどだ」

 

→「学生は、お金の余裕が無いからね」

 

「区画によって、主な店も異なるようです。飲食店、衣服、装飾品、電化製品、書店などがそれぞれの場所に集中しているようです。」

 

地図を見ながら分析するマシュ。

彼女の気質といってしまえばそれまでだが、どうも分析や知識のすり合わせなどが多くなりがちである。

だが、今日はそこで終わりではない。

此度は分析させに来たのではなく。

仕事もあるが、それ以上に楽しませに来たのだから。

知識だけでなく体験を。

そう決意したマスターは、マシュの手を握る。

 

→「いろいろ見に行ってみよう!」

 

マシュにとって未知の場所であるならば、手を引っ張るのは自分の役目。

もとより今日の自分はエスコート役。

デートを成功させるのは自分にかかっているのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

さまざまな店を巡る一行。

飲食店のたびに足を止めるアルトリア。

食器店でさまざまなデザインの食器や料理道具に対して解析(魔術)をするエミヤ。

アクセサリーショップでさまざまな十字架アクセサリーを見て、勘違いしてしまったジャンヌ。

そして、見るものすべてに新鮮さを感じているマシュ。

現代への適正を今回の選考基準にしたが、思った以上にみんな楽しんでいるらしい。

 

→「楽しいね」

 

「はい。楽しみすぎて、時間を忘れてしまいそうになります」

 

「現在の時刻は午後三時、少し前か……」

 

「む。あちらで、なにやら人が集まっているようです」

 

「男性、がやや多いようですね」

 

一同が目を向けるのは、ショッピングモールの吹き抜け広場。

いつもはないであろうステージが用意されていることから、何かしらのイベントが行われるらしい。

 

→「ちょうどいいし見ていこうよ」

 

「私はかまいませんが、一体何が始まるのでしょうか?」

 

「私にはわかりかねます。ジャンヌとアーチャーはどうですか?」

 

「私もわからないです。祭り、という雰囲気でもないようですし」

 

「私は理解した。集まった観客、いや、ファンの様子を見ればすぐ察せる。マスターも同じだろう」

 

女性陣の返事をかき消すように、ステージから盛大なミュージックが流れる。

それに伴い、ファンの歓声が爆発する。

これからのライブ(・・・)への期待と興奮を燃料にして。

それに応え、主役たちがステージ袖から現れる。

 

マシュは思う。

 

今まで美女や美少女はよく見てきた。

もとよりカルデアはそういった人物が集まりやすい。

しかし、彼女たちはそのどの人物たちとも違う。

人を平伏させるような神々しさは無く。

人間離れというほどの絶世の美貌とも異なり。

触れれば折れてしまいそうな可憐さとも違う。

思わず後ずさってしまうような妖しさでもない。

 

いうなれば、―――――普通。

 

そう彼女たちは普通なのだ。

普通であるはず彼女たちが、英霊達と遜色ないほどに輝いている。

まるで変身したように。

 

「皆さん!」

 

「こんにちは!」

 

「私たち!」

 

「「「ニュージェネレーションズです!!」」」

 

まるで、魔法にかけられたように。

 

 

 

 

 



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第1章 現代日本 2

ステージの上で挨拶した少女たち。

それを聴き、より強い歓声を上げる観客(ファン)

知識としては持っていたし、エリザベートが度々口にしていたからマシュは現状を理解することができた。

 

アイドル。

 

直訳で偶像という意味を持つこの言葉は、現代日本において人々の前に立ち、歌や踊りを主に披露する人物を指す。

実感とともに、マシュを含めた女性陣たちはアイドルの本質を理解する。

 

いうなれば、人に好かれることを生業とする職業なのだ。

 

事実、一同は彼女たちのステージに引き込まれ始めている。

有名なのか、偶然の通行人たちは生で見る彼女たちに興奮をあらわにしている。

もとより、ライブが目的であった観客たちは既に熱狂している。

誰しもが注目する中、壇上のアイドルたちが言葉を発する。

 

「改めまして、ニュージェネレーションズの島村卯月です! 今日のライブも、がんばります!」

 

一人目は、満面の笑顔で意気込む少女。

キュートな表情と可愛げな仕草。

アイドルの王道を体現しているといえるだろう。

 

「ニュージェネレーションズの渋谷凛です。今日はこんなにも集まってくれて本当に、ありがとうございます!」

 

二人目は、利発的な少女。

クールな印象だが、冷たさは感じない。

カッコいいとかわいいが両立したような雰囲気だ。

 

「イェイ!ニュージェネレーションズのリーダー!本田未央だよ!みんな、今日はよろしくね~!」

 

三人目は、太陽のような笑顔の快活な少女。

明るく元気で、まさに情熱(パッション)

彼女たちのリーダーに偽りなし。

 

彼女たちに魅了されたような観客たち。

しかし、この魅了は女神たちのそれにあらず。

崇めるとも、敬うとも違う。

応援したくなる、というのが正しいだろう。

 

「じゃあ、早速一曲目に入りましょ~!」

 

「皆さんも、ご一緒に!」

 

「聴いてください!」

 

 

 

「「「お願いシンデレラ!!!」」」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ライブが始まった。

曲が流れ、アイドルたちが歌い始める。

ファンたちが持つサイリウムが揺れる。

アイドルたちの歌声に観客が合いの手を入れる。

この場において、ファンはただのお客様ではない。

ライブをアイドルと共に作り上げ、完成に導く仲間である。

行く人来る人が足を止め、会場は徐々に大きくなっていく。

一同五名もまた、彼女たちのステージに引き込まれていった。

Dr.ロマンのかつての趣味を、どういったものか理解して。

思い出し、少しさびしさを覚えながら。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「なんて言ったらいいのでしょうか……。端的に言えば、すごかったです」

 

→「楽しいライブだったね」

 

ライブを終え、簡易ステージが撤去される様子を見ながら感想をこぼす。

二時間のライブの後、少し時間が経ち現在五時半。

楽しかったが、もっと聴きたかった。

そんな寂寥感を抱き、広場のベンチにてたそがれていた。

 

「先輩」

 

→「何?」

 

「私、先輩やサーヴァントの皆さんと、こんなに楽しい休暇を過ごせて」

 

 

 

とっても、幸せです。

生きててよかった。

心の底から、そう思えます。

 

 

 

「せっかくのとこ悪いが、休暇はまだ終わっていないぞ」

 

「ええ、まだ始まったばかりです」

 

「今まで多くの激闘を制してきました。多めの休暇をとっても罰は当たりませんよ」

 

一週間の休暇もまだ一日目。

それもまだ終わってすらいない。

メンバーのほとんどが少年少女といった見た目である以上、夜遊びはできないだろう。

だが、夕食を含め楽しめることはまだまだある。

明日からは一体何をしようかと考えながら、マシュの希望である回転寿司へと歩を進める。

 

 

 

 

 

誤算があるとすれば、此度のレイシフトもまた未解決事件(レムナントオーダー)であることを失念していたことであろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

夕食である回転寿司を楽しんだ一同は、此度の休暇の拠点であるホテルへと到着。

部屋割りは、当然だが男性二人部屋と女性三人部屋。

さしたる問題もなく、スムーズに決定した。

強いて言うならば、大き目の部屋を取り全員でいるべきではという主張もあった。

主に女性陣から。

しかし、男性陣の意見と各部屋に護衛のサーヴァントがいるということから、その主張は却下された。

女性陣がこのような主張を出すあたり、二人の女難を如実に表しているといえるだろう。

そのような経緯もあったが、現在は一部屋に全員が集まっている。

今から行うは、本日の反省会(ブリーフィング)である。

 

『こちらからの観測結果では、特に異常が見られないね。特異点反応はあるが、反応があまりにも微弱だ』

 

『やはり早々大きな事は起きていないようだね。現場でも、何か事件が起きていた様子はないんだろう?』

 

「はい。ニュースなども確認しましたが、平和そのものといったところです。事件はおろか事故すら報道されていません」

 

「むしろ、テレビでは各地のイベントの報道がメインだったな」

 

「私たちが散策した場所も同様です」

 

「お聞きしたいのですが、この時期にレイシフトしているのはあなたたちの意向ですか?」

 

『無論さ。天才であるこのダ・ヴィンチちゃん、レイシフト先の時期を考慮しないほど愚かではないよ』

 

『立香君はまだ学生の身分だからね。一週間と短くはあるが、カルデアからのささやかな夏休みだ』

 

→「ありがとう、ホームズ、ダ・ヴィンチちゃん」

 

『む……』

 

『おやおや、これは少々気恥ずかしい。だけど、そのお礼受け取っておくよ』

 

人理を修復した若きマスターに対して送る、短い夏休み。

築いてきた功績に対してみれば、小さな報酬。

それに対して、素直にお礼をするマスター。

人の善悪を目の当たりにしてきたが、彼の根っこはやはり善性だ。

そうでもなければ、多くのサーヴァントを迎え入れる懐など持ち合わせてはいない。

 

「さて、明日の予定について議論するとしよう」

 

マシュたちサーヴァントの面々が、彼の元にいることを誇りに思うと再確認できた後、ブリーフィングが再開された。

夏休みではあるが、ただで行うわけではない。

カルデアの職員たちに報いるためにも、調査(しゅくだい)は済ませなければならないのだ。

 

「とはいっても、ここまで何も異変がないと調査対象が絞りにくい」

 

「特異点である以上、何かが起こっているはずです。私見ですが、此度の異変は平和的なものではないかと思います」

 

→「平和的な異変?」

 

「はい。今までの特異点では戦闘を行うことがほとんどでした。なので、異変とは荒事であると決め付けていました」

 

「つまり、今回の特異点の原因は荒事ではなく(まつりごと)。流血の伴わない異変であるということですね」

 

『それも推理はしていた。確かに人命に関与しにくい事柄であれば、人類史に対する影響も微々たる物だろう』

 

『でも、その程度がどれくらいかだね。本当に微々たるものなら修正力の出番すらないだろう。修正どころか捨て置かれるレベルだ』

 

「与える影響で大きいと考えられるのは国、首都、あるいは大企業クラスの経済組織か」

 

「そうなると、ニュースなどでは判断がつきませんね。この特異点の人たちにとって見ればあたり前のものとして認知されているかもしれませんから」

 

「ならば話は早い。この特異点は東京、情報に満ち溢れている。翌日の調査対象は……」

 

→「図書館だね」

 

『図書館デートとは、なかなかに知的だね。そして調査の観点からしても正しい選択だ』

 

『インターネット等の電子媒体も優秀だが、すべてが掲載されているわけでもない。紙媒体にしか残されていない事柄をそちらにお願いしたい』

 

『こっちは遠隔で電子媒体について調査しよう。Wi-Fiだらけの東京なら、入り込むのは難しくない』

 

「現場としても異存はない。マスターの意向であれば決定でいいだろう」

 

→「これでブリーフィングは以上かな」

 

「そうですね、先輩。では、明日に備え休息を取るとしましょうか」

 

→「おやすみ、マシュ」

 

「おやすみなさい、先輩」

 

彼らの就寝時間は早い。

もともと、完全室内であるカルデアで多くの時を過ごしてきたためだ。

体内時計の整理をするため、生活は規則正しい。

ゆえに、その時(・・・)を気づかないまま迎えることになる。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

時計は進む。

 

時間は深夜に差し掛かる。

 

多くの人が住むこの都市で、異変に気づくは一握り。

 

止まっていた時計が動き出す。

 

すべてのピースがそろったために。

 

ついにその時である。

 

 

 

 

 

深夜十二時​​​​​​(・・・・)を時計が指したこの時を。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ガバッ。

 

異変を察知し、藤丸立香が目を覚ます。

隣の部屋ではマシュもまた同様だ。

もとより就寝していないサーヴァントたちは、直後に臨戦態勢を整えている。

 

→「この感じはっ!?」

 

「マスター!」

 

部屋に集まるサーヴァントたち、そしてマシュ。

異常を察知してからの素早い行動は、彼ら全員が歴戦たる証。

今回のように、いきなり現れた結界(・・・・・・・・・)への対処でもそれは変わらない。

 

「何なんでしょうかこの結界は。どことなく嫌な感じがします」

 

『こちらでも異常は察知したよ。それに加えて追加情報だ。ホテルの外を確認してくれ』

 

ダ・ヴィンチちゃんの指示通り、窓から外を見る一同。

 

 

 

そこで跋扈していたのは、数多くのシャドウサーヴァント。

純粋なサーヴァントには劣るとはいえ、十分脅威といえる存在がまるで雑兵のごとく徘徊している。

さらによく見ると、人間の姿はどこにも見当たらない。

悲鳴も、怒声も聞こえないとても静かな空間がそこにはあった。

いくら深夜とはいえ、東京の都市部で外に誰一人としていないなどありえない。

騒ぎも起こらず、破壊も行われていない。

彼らは、ただ幽鬼のようにそこいらで動いているだけだ。

 

→「電気が、一つも点いていない?」

 

『その通りだ立香君。こちらからの観測では、君たちの周辺に人間が一人としていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という結果が出ている』

 

「東京の人口密度で、そのような状況はほぼありえない。しかも、ついさっきまでは何も起こっていなかった」

 

「であれば、必然として答えは出てくる。私たちの周りから、突如人々が消えてしまったのではなく」

 

「私たちが、この結界の中に迷い込んだ」

 

「この特異点の異変は、この結界で間違いないでしょう」

 

『こちらから見ても、その結界はかなり大規模だ。にもかかわらず、今まで全く観測できなかった』

 

『つまるところ、その結界は隠蔽されていたのではなく、たった今作られたものだろう』

 

「ならば話は早い。これほどの結界だ、高確率で結界の基点に術者がいる」

 

→「それを探し出せば!」

 

『結界は円形。こういうケースなら、中心である可能性が高いだろ――――――待って、サーヴァント反応だ!』

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シャドウサーヴァントは、ただ幽鬼のように佇んでいる訳ではない。

カルデアの面々を察知すれば、明確な敵意を持って襲い掛かってくる。

各自撃破しながら、はぐれであろうサーヴァントの元へ向かう。

結界を張ったサーヴァントではまずないだろう。

それでも、マスターである藤丸立香はかのサーヴァントを優先する。

その理由はいたって単純。

 

 

 

 

 

「誰か、助けてくださいっ!!」

 

 

 

 

 

助けを求められたから。

彼が動く理由は、それさえあれば十分だった。

 

→「大丈夫、助けに来たよ!」

 

囲まれていた彼女を、守る形で陣形を組む。

 

 

 

助けに入ったその少女は

 

戦場にそぐわない白いドレス衣装を身にまとい

 

頭にはピンクの石が埋め込まれたティアラ

 

そして、おおよそ歩きにくいであろうガラスの靴(・・・・・)

 

真名は、これ以上にないほどわかりやすい。

 

 

 

彼女はサーヴァント。

クラスはキャスター。

 

 

 

 

 

真名は、―――――シンデレラ。

 

 

 



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第2章 シンデレラガールズ

お姫様(シンデレラ)を背に、対峙するシャドウサーヴァントを注視する。

ここまで幾多の英霊と出会ってきたマスターにとって、既知の英霊であれば影や輪郭だけで真名を察するのは難しくない。

敵対する英霊(シャドウサーヴァント)は15体。

鮮血魔嬢、エリザベート・バートリー。

竜化した少女、清姫。

串刺し公、ブラド三世。

吸血鬼、カーミラ。

怪人、ファントム・オブ・ジ・オペラ。

狂乱した湖の騎士、ランスロット。

フランス軍の潔白なる元帥、ジル・ド・レェ。

白百合の王妃、マリー・アントワネット。

白百合の騎士、シュヴァリエ・デオン。

天才音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

処刑人、シャルル=アンリ・サンソン。

竜を駆る聖女、マルタ。

竜殺しの聖人、ゲオルギウス。

竜殺しの大英雄、ジークフリート。

オルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルク。

 

奇しくも第一特異点であるフランスの面々が敵となっていた。

 

「私は皆さんのサポートに回ります。恐縮ですが、お願いします」

 

マシュは戦闘に参加できない。

故に、此度の戦力はサーヴァント三名とマスター含めサポート二名。

シャドウサーヴァント相手とはいえ、数の不利は明白である。

加えて、三人を守りながら戦わなければならない。

戦闘慣れしている立香やマシュならばともかく、非戦闘員であろうシンデレラもいるために。

 

 

 

「―――あの、私―――」

 

 

 

だが、それは彼女が完全な戦力外であればの話である。

彼女はただのシンデレラにあらず。

もとより、純粋な意味での原典の登場人物(シンデレラ)ではない。

彼女の本質は、一人ではなく多人数にて発揮される。

 

 

 

「皆さんの、力に――――」

 

 

 

魔力が集中する。

彼女を中心に、魔力が集まっていくのがわかる。

それは、彼らにとっては慣れ親しんだ感覚。

意図して行った行動ではないだろう。

かつて、キャスターであるクー・フーリンはこう言った。

 

→「宝具!」

 

宝具とは本能である(・・・・・・・・・)と。

集中した魔力は波及し、五人へと展開する。

領域で効力を発揮する宝具。

味方を強化するという単純明快な効果。

 

 

 

ただ、宝具の効果は五人が想像だにしない形で発揮された。

全員の装いが変化する形で。

いや、わかりやすく言うならば。

彼らの服が変化していた。

 

とりわけ女性陣は、衣装(ドレス)と言っていい出で立ちで。

 

 

 

まずはアルトリア。

青いバトルドレスはところどころレースで飾られている。

無骨であった鎧部分も変化し、ちりばめられた金属製のアクセサリーが防御と装飾の役割を果たす。

手に持つエクスカリバーは変わらず。

頭上には青い宝石の埋め込まれたティアラ。

リリィとは違う、だが近い形といっていい姫騎士の姿。

もっと表現するならば、騎士がシンデレラへと変身したと言うべきだろう。

 

 

 

次にジャンヌ。

全体的に変化がかなり大きい。

元は紺色の布地と鎧が主体であったが、配色が黄色を主体としたドレスに変化している。

十字架のピアスとアクセサリーを中心に、銀色がアクセントとなっている。

宝具の旗は、アルトリアと同様変わらない。

が、大胆な変化は彼女の綺麗な金髪とよくマッチしていた。

黄色い宝石のティアラが燦然と輝き、農家の娘がシンデレラと化す。

もとより彼女は、ある意味シンデレラに近い性質なのかもしれない。

 

 

 

そしてマシュ。

彼女の変化もまた目覚しい。

ぴっちりとしたサーヴァントとしての面影も、普段のカルデアでの衣装とも全く異なっていた。

ピンクのフリフリとしたドレス姿。

眼鏡はなく、大盾とのギャップが大きい。

さらに、彼女たちとは色違いのピンクの宝石のティアラ。

デミ・サーヴァントの形態なのだろうが、一新どころか一変している。

 

 

 

男性陣もまた、彼女たちほどではないが変化していた。

エミヤの赤い外套と軽鎧、それが変化し赤と黒を基調とした執事風の洋装であった。

普段あまり見ない眼鏡も着けており、執事騎士(バトラーナイト)とでも言うべきだろうか。

マスター、藤丸立香も様変わりしていた。

見た目としては和装だが、武士とも将軍とも違う出で立ちだ。

明るいイメージの呪術師、といったところだろう。

 

全員に共通することとして華々しい衣装とは裏腹に、身にまとう魔力が一変して強化されている。

マシュなど、リハビリ中であったにもかかわらず、以前と遜色ないどころかそれ以上である。

あっけに取られていたのも一瞬で、彼らはすぐに目の前の敵へ意識を切り替える。

 

「少々驚きましたが、宝具による助力感謝します。貴女は、マスターと共に後方での支援を」

 

シャドウサーヴァントはもとより純粋なサーヴァントより劣化している。

数こそ多いが、百戦錬磨のカルデアのサーヴァントが大きく強化された今、物の数ではない。

戦闘はさほど苦労しないだろう。

 

「いえ、私にもがんばらせてください」

 

しかし、シンデレラは前に出る。

確かに、彼らが到着するまでの間まで持ちこたえていた。

戦闘能力は皆無ではないだろう。

だが、よく見れば動きがぎこちない。

戦闘向けのサーヴァントでない以上、当然かもしれないが戦いには慣れていないだろう。

それでも、彼女はカルデアのサーヴァント達の横に立つ。

勇気を奮い立たせるのはサーヴァントとしての本能か、彼女の気質が影響しているのか。

 

「―――わかりました。では、共に戦いましょう」

 

→「お願いね」

 

なんてことはない、彼女が勇気を出した理由、それは―――

 

 

 

「はい、島村卯月。がんばります!」

 

 

 

彼女は、勇気を振り絞るのをがんばった(・・・・・)

助けに入ってくれた仲間のために。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シャドウサーヴァントとの戦闘は危なげもなく勝利した。

張り詰めていた空気が弛緩し、大きく息を吐くマスター。

 

「戦闘終了。これ以上の増援も無いようです」

 

『こちらでも確認したよ。近辺に敵影なし、よくやったね』

 

「わっ!?」

 

突如現れたモニターに驚くシンデレラ。

いや、おそらく正確な真名ではないだろう。

先ほどは島村卯月と名乗っていた。

諸葛孔明のような依り代召喚に近いかもしれない。

 

「えっと、助けてくれてありがとうございます」

 

「はい。そして、こちらからもお礼を言わせてください。宝具による支援と、魔力弾による援護、戦闘の大きな助けとなりました。改めまして、サーヴァント、ルーラー。真名をジャンヌ・ダルクと言います」

 

「私はセイバー。ウーサー王の嫡子、真名をアーサー改めアルトリア・ペンドラゴンです」

 

「シールダーのデミ・サーヴァント。マシュ・キリエライトです。ご無事で何よりです」

 

「サーヴァント、アーチャー。エミヤだ。礼ならマスターに言ってくれ、私は彼の指示に従っただけだ」

 

「はい。ありがとうございます、ジャンヌさん、アルトリアさん、マシュさん、エミヤさん、そしてマスターさん」

 

→「どういたしまして」

 

「あの、名前を聞いてもいいですか?」

 

→「藤丸立香だよ。よろしくね」

 

「よろしくお願いします。改めまして、アイドルの島村卯月です」

 

→「アイドル……、――あっ、昼間のライブの!」

 

「来てくれてたんですか?ありがとうございます」

 

『さて、自己紹介も済んだ様だし詳しい話は後、移動することを勧めるよ。そこはいつまでも安心できる場所ではないからね。』

 

「あっ、なら私、安全な場所知ってますよ」

 

『それはありがたい。我々はあまり土地勘が無いからね。ここいらの地理に詳しいのは頼りになる』

 

→「ぜひお願い」

 

「卯月さんの申し出は非常にありがたいです。よろしくお願いします」

 

一向は、島村卯月(シンデレラ)の案内の元、移動を始める。

普通に考えれば、悪意のあるサーヴァントの罠という可能性もあるだろう。

しかし、彼らはその考えを却下する。

宝具とは、英霊の逸話の具現にして現身。

これを偽ることなどほぼ不可能。

それが、彼女の宝具を受けた一同の感想である。

事実、それは間違いではない。

 

彼女の宝具、その分類は――――対悪宝具なのだから。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「こ…………」

 

→「これは…………」

 

目の前にある建物。

東京という都市に合わせた城とも言うべき規模であった。

立派な門、広い中庭、綺麗な本館。

昼に東京を散策した面々だったが、このようなタイプの現代建築は未経験だ。

そして、門にはこの大きな建物の名前が示されている。

 

 

 

346プロダクション

 

 

 

それが、この建物(しろ)の名前であり。

彼女たちの本拠地。

 

「ここが安全な場所。私たちのプロダクションです」

 

シンデレラガールたちが集まる場所である。

 

 

 

 

 

――――――――-―

 

 

 

 

 

内装も豪華であった。

しかし、ローマやウルクのような装飾華美な豪華さではない。

かの王達からすれば、地味といわれるかもしれないが、落ち着いた豪華さといえばいいだろう。

黄金のような煌びやかさではなく、プラチナのような淑やかさ。

このような豪華さを好むのも、ここが日本たる所以だろう。

 

『さて、落ち着いたようだし話を進めよう』

 

「今までの情報を整理する――――のは分かるんですが、一つ伺ってもよろしいですか?」

 

→「そう、だね」

 

「はい?何でしょうか?」

 

 

 

「――――この衣装、何時まで着たままなのでしょうか」

 

 

 

マシュの言うとおり、ここまで彼らは装いが一変したままである。

男性陣はまだましだが、女性三人が赤面したままやや俯いている。

慣れないフリフリのドレス、その姿に気恥ずかしさを感じながら。

 

「えっと、…………どうすればいいんでしょうか?」

 

その言葉を聴き、より頭を抱える。

どうやら、彼女自身も宝具の解除方法を知らないらしい。

 

『逆に、お嬢さんからは質問がないかな?突然現れた我々に聞きたいことも多いだろうからね』

 

ホームズの質問に対し、待ってましたとばかりに表情を変える。

どうやら、ずっとこっちに質問したかったらしい。

 

 

 

「はい! ほうぐとか、サーヴァントとかって、何のことですか?」

 

 

 

その質問は、思った以上に斜め上であった。

 

 

 

 

 



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第2章 シンデレラガールズ 2

此度の特異点にて遭遇したはぐれサーヴァント、島村卯月(シンデレラ)の発言に、カルデアの面々は耳を疑う。

サーヴァント、英霊というのは召喚される際に現代や歴史的な基礎知識、そして最も重要な魔術や聖杯戦争の知識が与えられる。

これは召喚対象が全く魔術と関わりが無かったとしても例外ではない。

故に、本来サーヴァントの基礎知識のない召喚などありえないのだ。

 

「えっと、英霊とか聖杯戦争という言葉に聞き覚えはありませんか?」

 

「――――ごめんなさい、私には分からないです」

 

やはりというべきか、マシュの質問に対しても申し訳なさそうに答える。

となると、先ほどの宝具についても考えが変わる。

宝具の性質で戻せないのではなく、初めて使った宝具である為に戻し方を知らないのだと。

しかし、彼女の状態は以前のジャンヌが陥った初期状態となった時よりも深刻だ。

そうなると、順序良く一つずつ説明と質問をする必要があるだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

カルデアの面々は、彼女に対して聖杯探索(グランドオーダー)の基本的な説明を行った。

彼らが世界を救った人物であるとの説明があった時など、疑うことを知らないような目で素直に「すごい人達だったんですね」と感想を述べていた。

その中で、やはり彼女が一番反応を示したのは――――サーヴァントに対する基礎知識。

アーサー王やジャンヌ・ダルクと名乗っていた彼女たちが、まさかの本人だということに興奮を隠せない様子だった。

そして、そのあとに自分自身がサーヴァントになっていることについて、信じられないという驚きの声を上げる。

 

「うーん、サーヴァントさんは皆さん生前に生きていた人たち、なんですよね」

 

「ああ、私のような未来の英霊というケースもあるが、そんな私でも生前の記憶を多少なりとも持ち合わせている。私自身が死んだという意識が確かにあるんだ」

 

『召喚にはさまざまなケースがある。話を聴く限り、君には自身の生前があるという意識がない。似たような人物として、諸葛孔明がいるね』

 

『生前の人間を依り代に、英霊を降霊させる依り代召喚、もしくはそれに近いものだろう。詳しく調べるなら、一つ方法がある』

 

→「つまり…………」

 

『ご想像の通り。彼女と仮契約すればいい。そうすればさらに、彼女のステータスについての情報も分かるだろう。無論、選ぶかどうかは君たち次第だ』

 

マスターは、サーヴァントのステータスをマテリアルとして確認できる。

これは聖杯戦争においての基本手段だが、当然多くの情報を閲覧できるのは基本的に自身のサーヴァントについてである。

他のサーヴァントについては、表面上のデータしか解らない。

情報もまた、聖杯戦争において重要な手札であるため当たり前のことだ。

 

「分かりました。私も正直、何が起こっているのか理解できてません。でも、助けて下さった皆さんの力になれるなら構いません」

 

やはり、彼女は即答した。

基本的な聖杯戦争に関する知識はおろか、彼女はつい先ほどまで忙しない日常を過ごしていただけの一般人(アイドル)なのだ。

混乱も、動揺もしているだろう。

しかし、彼女は迷わず答えを出した。

今の彼女はサーヴァント。

他人の為にがんばれるその強さはとても得がたく、貴いものだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

カルデアの職員たちが卯月の霊基を調べている間、現場の面々は彼女の置かれている状況について確認する。

 

「私、寝支度をしてベッドに入っていたはずなんです。ちゃんと寝ていたんですが、気がついたら衣装姿でこの建物の私たちの所属する部屋にいたんです。それから、何が起こったのかもわからず、外を見て回っていたら、黒い影みたいな人たちに襲われて…………そこに、皆さんが助けに入ってきてくれたんです」

 

「なるほど。貴女はそれまで、魔術とは一切無関係に過ごしていた。そして、今夜十二時に結界に入ってしまった」

 

「はい。アルトリアさんの仰ったとおりです」

 

「となると、彼女はあまり情報を持っていないでしょうね。つらかったと思います。わけもわからないままに、この聖杯探索(グランドオーダー)に巻き込まれて。ですが安心してください、貴女には我々がついていますから」

 

「ありがとうございます!」

 

満面の笑顔。

女神たちとは違う、引き込まれるような笑顔に彼女がアイドルであると強く再確認する。

 

『歓談中失礼しまーす。霊基の調査、終了したよ』

 

そんな中、ダ・ヴィンチちゃんからの通信が入る。

カルデアでの調査結果を、真剣な面持ちで待つ一同。

 

『結論から言うと彼女、島村卯月(シンデレラ)は“聖杯によって召喚されたサーヴァントではない”』

 

→「聖杯によって召喚されていない?」

 

『そう、卯月嬢の召喚に聖杯は関与していない。順を追って説明していこう。本来、サーヴァントを構成する要素は三つ。英霊の座からの分霊、サーヴァントのクラス適正、そして人々の信仰心だ』

 

ホームズの語る内容は、サーヴァントに関する基礎中の基礎。

そう思い返すと、卯月にはこの要素は足りていない。

そもそも彼女は生きている人間であり。

キャスターはおろか他のクラスの適正も無い。

信仰心がアイドルの知名度としてあるくらいだろう。

これでは、サーヴァントとして聖杯に選ばれることはありえない。

 

『しかし、彼女は確かにサーヴァントとして現界している。キャスターとしての霊基も確認でき、その際に確認も取れた。彼女の真名はシンデレラで登録されている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

それは諸葛孔明でも言える事だろう。

彼もまた、ロード・エルメロイⅡ世という人間を依り代にしている。

しかし、彼とは決定的な違いがある。

 

『メインの人格がエルメロイⅡ世であるだけで、孔明にも英霊の座からの分霊が確かにある。だが、卯月ちゃんにはそれが無い。おそらく、代わりとなっているのは卯月ちゃんの意識―――生霊だ』

 

つまり、サーヴァントを構成する要素である三つ。

英霊の分霊は、彼女の生霊が代わりをなしている。

そして、残る要素は二つ。

 

『この場合、むしろ孔明より佐々木小次郎のほうが近いよ。いわば、彼女の外郭はシンデレラ、中身が卯月ちゃんの意識。小次郎との大きな違いは、信仰心は卯月ちゃん本人のものが適用されていることだね』

 

英霊としての霊基及び人格は卯月の生霊。

クラスの適正はシンデレラのもの。

信仰心は卯月自身のもの。

辻褄は何とか合う。

ただ、まだ疑問が二つほどある。

 

『残る疑問は二つ。ここにいる彼女が生霊であるならば、彼女自身の肉体は結界の外にあるのか?これは後々確認ができるだろう。そしてもう一つ、そもそもそんな不安定な召喚がありえるものなのか?』

 

「そうです。確かに筋は通っていますが、いくらなんでも無茶苦茶な召喚方法です」

 

『マシュの言うとおり、確かに無茶苦茶だ。だが、そもそも前提条件が違うならば?』

 

→「どういうこと?ダ・ヴィンチちゃん」

 

『確かにこの召喚方法は現実的ではない。その上で聞こう、――――そこは一体、何処だったかな?』

 

 

 

そうだ、そこに考えが及んでいなかった。

現実的でない召喚方法だが、そもそもここは現実ではなく結界の中だ。

結界による効果なのか、それとも偶然かどうかはわからないが。

 

『そして最後に、卯月嬢の戦闘能力についてだ』

 

戦闘時、卯月は魔力弾を放っての遠距離攻撃で援護していた。

威力もあり、戦力として機能していた。

しかし、卯月は当然として外殻であるシンデレラにそのような戦闘能力があるとは思えない。

その疑問の答えは非常にシンプル。

 

『理由は簡単。彼女のスキルを確認してみてくれ。それで一目瞭然だ』

 

→「わかった」

 

改めて、卯月を注視する立香。

緊張しているのか、ややこわばった表情で身を硬くする卯月。

マスターの権利を行使し、ステータスから彼女のスキルを見る。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

真のアイドルA+

 

アイドルというのは偶像であり作られたものだが、ファンの想う理想のアイドルを素で体現した人物が獲得する、無辜の怪物とは真逆とも言えるスキル。

もとよりサーヴァントは信仰心によって形成されるが、それをより強力にする。

元の知名度だけでなく、召喚後でもマスターや他の人物、英霊から発生する知名度で強化を受けるほど。自身の存在を広げるほどに強化されるという、アイドルを体現したスキルである。

 

 

 

 

 



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マテリアル 島村卯月

マテリアルが更新されました


 

 

 

英霊召喚

 

「アイドルの島村卯月です!これからよろしくお願いします、マスターさん!」

 

 

 

真名:シンデレラ(島村卯月)

 

クラス:キャスター

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:D

魔力:C

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:159cm・45kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「島村卯月、頑張ります!」

 

プロフィール

 

アイドルに憧れ、夢を実現した少女。ファンのみんなに笑顔を届ける正統派のキュートアイドル。本来は英霊になりえないが、シンデレラという殻に彼女の生霊とファンの応援という信仰心で構成されたサーヴァント。その成り立ちは佐々木小次郎のそれに近い。アイドルであるため当然のごとく戦闘能力など皆無であるが、サーヴァント化したことに加え、ファンの応援という信仰心である程度の戦闘能力を持つことになった。キャスターとして顕現しているが、無論魔術は使用できない。支援・応援という意味合いでのクラスである。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

がんばる努力A 自身のNPを増やす&味方全体のHPを回復

 

絶えない笑顔EX 味方全体の弱体状態を解除&弱体無効(1回)を付与+味方全体の攻撃力アップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のArtsカードの性能をアップ

 

道具作成(歌)A- 自身の弱体成功率をアップ

 

宝具:硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

ランク:A+

種別:対悪宝具

コマンド:Buster

味方全体の攻撃力と防御力アップ<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体にNP獲得状態を付与(5T)

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

がんばる努力A

 

彼女の口癖であり、彼女の姿勢を体現したスキル。

自身への勇気付けだけでなく、周りもその姿勢へと引き締める。

味方のサポートに適したスキルであり、彼女の気質も適しているためAランクで所持することになった。

 

絶えない笑顔EX

 

彼女の最大の魅力にして得意分野。いかなる逆境にも己を見失わず、その笑顔から味方全体の心の支えとなる。かつては、逆境に負けそうになっていた。が、引き上げてくれる仲間達や、背中を押してくれる人たちの助力により、もう挫けないと誓ったエピソードがスキル化したもの。仲間を支援し鼓舞する『カリスマ』に似て非なるスキル。彼女の笑顔が失われない限り、仲間の団結が途切れることはない。

 

陣地作成(場)C+++

 

魔術師における工房の作成は、魔術師ではないため行うことはできない。

彼女における陣地とは、シンデレラが輝く舞台の形態をしている。

ライブ会場や、舞台などアイドルに関わる場所を多岐にわたり作成可能。

一人ではあまり高い効果を発揮できないが、複数人で作成することに特化している。

アイドルが輝く為には、たくさんの人の力があってこそという彼女の心情が影響している。

 

道具作成(歌)A-

 

魔力を帯びた歌を歌う。

彼女の歌声は心に響き、敵味方問わず他者に影響を及ぼす。

無論、魔術の道具や概念礼装の作成は行えない。

が、歌に親和性のある道具であればエンチャントの様な形で力を付与できる。

しかし、その際の効果は道具との相性や他の要因によってランクがダウンする。

 

宝具:硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

ランク:A+

種別:対悪宝具

 

彼女のアイドルへの憧れ。彼女の原点にして始まりの想いが宝具となったもの。

長い間、キラキラしたかった彼女の想い。そして、Pという魔法使いによってシンデレラガールへと変身を遂げた出来事(いつわ)が元となっている。

もとより、彼女は自身のことを普通だと思っており、事実間違いではない。

しかし、普通の少女からドレス姿のお姫様へ変身は、まさにシンデレラガールを体現したアイドルである。

宝具の効果としては、筋力、耐久、魔力のステータス上昇であるが、対象は味方全体に及ぶ。

彼女の意識として、アイドルとして成長するのは、仲間のアイドルやスタッフ、Pと共にという考えが根底にあるためである。

みんなと一緒に笑顔でいたい。彼女の願いによって構築された領域宝具。

また、彼女には悪性の素養が殆どないため、悪意の強い相手に対抗する場合、宝具の効力が増す。味方が善性であった場合も同様の効果を発揮。

分類が対悪宝具となっているのはこのためである。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 学校の制服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 ステージオブマジック

 

 

 

 

 



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第3章 shadow_enemy

 現状の確認を行った彼らであるが、話題はこれからのことについてシフトしていた。

 特異点の異変がこの結界にあるとわかった以上、以前のブリーフィングの決定は無意味となる。

 内容は当然、結界内の探索ということになった。

 

「任せてください!私、このあたりはよく知っているので」

 

 →「頼もしいよ」

 

『さて、探索するにあたってだが、まずは何処を見るかだね』

 

「でしたら、まずはこの建物内がよいのではないでしょうか?安全地帯として利用していますが、思わぬ伏兵が潜んでいるやも知れません」

 

「ジャンヌの言うとおりだな。気を抜いたところで、背中から刺されては目も当てられない。無論、そう簡単に許すつもりはないが、可能性は潰したほうがいいだろう」

 

「問題は、この建物の敷地があまりにも広いことですね。今は存在しなくとも、潜入される可能性がありますから」

 

 アルトリアの言うとおり、アサシンのシャドウサーヴァントなどが潜入、暗殺を目論んだらマスターや卯月の危険は大きい。

 しかし、だからといって探索しないほうが愚作だろう。

 建物の構造を理解しておくのは、兵法の常識。

 三人とも戦を経験しているサーヴァントである為、見解は一致しており反対意見はマスターを含めゼロだ。

 まあ、ここまでのやり取りも衣装姿であるため、威厳は半減しているが。

 ともかく、一向はプロダクション内を捜索することに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「……建物として充実しているのは見て取れました。しかし、中身の豪華さに私の時代とのギャップを感じずにはいられません。アーチャー、この建物の設備はビルという形状であれば一般的なのですか?」

 

「まさか、私としても驚いているくらいだ。衣裳部屋やレッスンルーム、撮影会場はともかく、豪華な入浴施設にスパ、カフェ、間違いなく企業の福利厚生としては最上級だよ」

 

「私は、もともと城や宮殿というのには疎い人間でした。現代に精通しているエミヤや城を保持していた騎士王がそういうのであれば、ここの設備は恵まれているのでしょうね」

 

 建物の設備について歓談する英霊達と、中を案内する卯月。

 そのすぐ後ろで一人、考え込んでいるマシュ。

 必然、マスターたる立香が話しかける。

 

 →「どうしたの?」

 

「いえ、少し、今の私の状態について考えていました」

 

 →「かわいいよ?」

 

「あの、えっと、……そういうことではなくてですね。私は本来、戦える状態にはありませんでした。しかし、卯月さんの宝具によって、戦える状態に戻っているんです。先輩の力になれるのはとてもうれしいのですが、正直何がどうなっているのか……」

 

『ずばり、その質問にお答えしよう』

 

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

 

『霊基を調べた際にわかったんだけど、マシュが戦えている原因は魔術回路を使っていないからなのさ』

 

→「魔術回路を?」

 

『そう、マシュは卯月ちゃんの宝具によって霊基が継ぎ足されている(・・・・・・・・・・・)

 

「それは、以前のスカサハさんによる霊基の変質とは違うのですか?」

 

『微妙に違う。スカサハは霊基を変えていた。が、今回はマシュの霊基はそのままに、シンデレラの霊基の一部が追加されている。丁度、マシュの身体を覆う形でだ。マシュが使っている力は、あくまで表面上のものでしかないのさ』

 

「ですが、表面上の力にしては強すぎると思うんです」

 

『それは簡単さ。立香君、卯月ちゃんの宝具については確認したね?』

 

→「うん」

 

『彼女の宝具は、善性の人物に対して効力が増す。実際、マシュ、アルトリアとジャンヌ、立香君、エミヤの順番で強化に差ができている。彼女の宝具との相性と性別の影響だろう。特にマシュは宝具が同じ対悪宝具だ。もっとも強く影響を受けたんだろうね』

 

ダ・ヴィンチちゃんの補足に納得をするマシュとマスター。

ジャンヌとアルトリア、マシュの属性は「善」。

立香は不明だが、おそらく「善」。

そしてエミヤは「中庸」だ。

加えて性格や気質、宝具との相性があるなら間違いなくマシュが一番だ。

そこで立香は考える。

マシュと卯月の相性がいいのだとしたら、もしかしたら、マシュはアイドルに向いているのかもしれないと。

なんとなくそう思うのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「下がってください」

 

警戒を飛ばし、マスターの前にでるサーヴァントたち。

廊下を歩く最中、警戒していた出来事が現実となった。

目の前にいるのはシャドウサーヴァント。

数は2体。シルエットから清姫とエリザベートのものだと推測される。

 

「……おかしいですね」

 

「ああ、私も同感だ」

 

アルトリアとエミヤの言葉の通り、カルデア一同は違和感を感じ、困惑している。

立香は、何処となく理解できていた。

戦闘経験の乏しい卯月ですら、なんとなく感じ取っていた。

 

 

 

目の前のシャドウサーヴァントからは、およそ敵意と呼べるものが全く感じられない。

 

 

 

襲い掛かってくることもなく、ただ廊下を歩くようにこちらへと向かってくる。

 

一歩

 

二歩

 

三歩

 

→「ちょっと待って」

 

迎撃体制をとっていたサーヴァントたちを制止し、おもむろにシャドウサーヴァントに近づく立香。

いかに卯月の宝具で強化されようとも、劣化と言えどサーヴァントを前にすればただではすまない。

間違いなく悪手と言えるその行動に、影の清姫が急に速度を上げた。

やはり罠かと、サーヴァントたちがマスターを助ける間もなく

 

 

 

立香は清姫(影)に抱きしめられた。

 

 

 

→「…………はい?」

 

前に出ていた立香でさえ、唖然とする中、エリザベート(影)がおもむろに近づき、清姫(影)に対して抗議するようなジェスチャーをする。

シャドウサーヴァントは喋れない為、サイレントムービーを見ているかのような寸劇が繰り広げられている。

抗議に反応してか、立香から離れた清姫(影)はエリザベート(影)とのキャットファイトを繰り広げる。

 

「これは、どういうことなのでしょう?」

 

ジャンヌの言った事は、この場全員の共通する感想であった。

 

『ふむ。これはなんとも奇妙な画だね。まるで、カルデアの彼女たちを見ているかのようだ。これはあれだね、一言で言うのならば”昨日の敵は今日の友”。この結界のシャドウサーヴァント達は倒すことで仲間にできる、と言うことかな?』

 

ホームズの推理は、カルデアの面々の腑に落ちた。

倒したり、戦った相手と時に友誼を結び、仲間となる。

声こそないが、目の前の出来事は彼らの旅、聖杯探索(グランドオーダー)の足跡を見ているかのようだった。

 

 

 

 

 

346プロダクションを探索した結果、彼らが倒した15体のシャドウサーヴァント。

そのすべてが敵意なく自由に過ごしていた。

シャドウサーヴァントは、いうなれば英霊の現象(・・・・・)に近い。

まるで、カルデアの様子を現象として再現しているかのようだった。

 

「これはあれか。このプロダクションは擬似的なカルデアとでも言うような場所なのか?」

 

「本当のところはわかりません。ウヅキ、貴女の所属するプロダクションのアイドルたちはどんな方たちなのですか?」

 

「えっと、たとえばですね……」

 

アルトリアの質問に対し、卯月の知る限り様々なアイドルたちについて語っていく。

自身のユニットのメンバーたちを始め、他にも個性豊か過ぎるアイドルたち。

彼女が語るアイドルたちを聞くほどに、彼らはこう思っていた。

 

カルデアと同じくらい強烈な場所だ、と。

 

さらにすごいのが、古今東西あらゆる時代の英傑たちが集うのではなく。

魔術に関わらない、現代人の集ったアイドル集団でありながら、カルデアと同等クラスのキャラクターがそろっているのが奇跡的といえるだろう。

 

閑話休題(はなしをもどす)

 

先ほどホームズが語った内容が現実味を帯びてきたと言えるだろう。

結界の効果や意図は分からない。

が、このプロダクションが擬似的なカルデアと呼べるのならば、卯月がサーヴァントになっていることにも関連性が見えてくる。

おそらく、この事象は無関係ではない。

 

「これまでの状況を総合した仮説、倒したシャドウサーヴァントが戦力として味方になる。ならば、確認する方法は単純だ」

 

→「外のシャドウサーヴァントを倒せばいい」

 

「そうですね。アイドルたちとこの結界に関連性がある可能性も出てきた。ならば、ウヅキ以外のアイドルたちが召喚されている可能性がある」

 

「もしそうだとしたら、私……助けに行きたいです!」

 

「もちろんです。貴女は仮とはいえマスターのサーヴァント。貴女の仲間は私たちの仲間。仲間に危険が迫っているかもしれないのなら、助けに行く。そうですよね、マスター」

 

→「ジャンヌの言うとおり」

 

「方針は決まりましたね」

 

指針はプロダクションにおける仮説の検証及びアイドルたちの捜索。

目的を定めた一同は、プロダクションの外へ向かう。

彼らは強い。

こと助けると決めたときは特に。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シャドウサーヴァントが跋扈する静寂な街。

幾分か戦闘をこなしてきたところであるため、周りに敵であるシャドウサーヴァントはいなくなっていた。

そう、あくまで敵であるシャドウサーヴァントは。

 

「まさか、付いてきたシャドウサーヴァントが味方になってくれるとはな」

 

エミヤの言ったとおり、ここにはプロダクションから付いてきたシャドウサーヴァント達が好き勝手に過ごしていた。

先ほどまで、カルデアの味方として戦っていたのだ。

卯月を助けるときよりも、多くのシャドウサーヴァントが立ちふさがったが、危なげなく勝てたのは彼らのおかげだろう。

 

『これは、ホームズの推理に真実味が帯びてきたかな?となると、あのプロダクションにおける安全地帯としての信用性が増してきたね』

 

『私とて、根拠なく推理していたわけではないからね。そして、実際この推理が当たってしまった』

 

眉をひそめ、苦言をこぼしたかのようなホームズ。

それはまるで、――――嫌な推理が当たってしまっているかのようだった。

 

『気をつけたまえ。もしかしたら、もう既に――――』

 

 

 

ホームズが言い切る前に、大きな揺れが彼らを襲う。

 

 

 

→「地震……じゃない!」

 

立香の言うことは正しい。

現実とは乖離した結界である以上、大陸プレートの揺れである地震など起こりえない。

 

であるならば、原因は彼らの近くにあるであろう――――巨大なナニカであるだろう。

 

 

 

 

 

かくしてソレ(・・)は現れた。

巨大な姿。

黒々とした色。

今までの旅路で、彼らを幾度となく苦しめた敵。

 

 

 

 

 

「魔神……柱……」

 

 

 

 

 

否、かの魔神柱はここまで黒くなかった(・・・・・・・・・・)

目玉があるはずの場所は、丸い凹凸があるだけだ。

色に変化がなく、明らかに今までの魔神柱と一線を画している。

 

その姿、シャドウ魔神柱とでも言えばいいだろうか。

まず、本物ではないだろう。

しかし、魔神柱に敵意がないはずはなく。

 

 

「っ。魔神柱、来ます!」

 

→「戦闘準備!」

 

「はい!対魔神柱戦、行きます!」

 

 

 

偽りの魔神柱は、彼らに襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 



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第3章 shadow_enemy 2

魔神柱戦における特殊効果

「影英霊の援軍」 毎ターン敵に固定ダメージ


 影の魔神柱との戦闘。

 シャドウサーヴァントたちの援護も入り、順調に切り崩していく。

 やはり”シャドウ”であるためか、通常の魔神柱と比べ確実に劣化している。

 

「魔神柱の魔力低下!もう少しです、先輩!」

 

 劣化した魔神柱の戦闘能力は低い。

 具体的には、戦闘型サーヴァントが複数いれば余裕を持って勝てるだろう。

 消滅間際の魔神柱。

 次第に影の形が崩れていき、形を持った魔力の崩壊が大きく音を響かせる。

 その音は、彼の者が終わりを告げる声なき断末魔。

 

 しかしてそれは、彼”ら”にとっての警笛であった。

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

 

 攻撃とは別に、新たに地面が揺れる。

 

 

 

 →「また!?」

 

「先ほどより揺れが大きいです!?」

 

 

 

 地面を貫き、新たに出現した影の魔神柱。

 総数にして8体。

 先ほどの魔神柱を含め、合計9体の魔神柱討伐という難題に気圧されかけたマスター。

 

 

 

 一瞬怯んだマスターを横に、サーヴァントが魔神柱に向かって駆け抜ける。

 しかし駆け抜けた英霊というのは、シャドウサーヴァントであった。

 影だろうと偽者だろうと、我ら英雄の誇りに偽りなし。

 とでも言うかのような、勇猛果敢な突撃であった。

 その最中、ジャンヌのシャドウサーヴァントがこちらを向いた。

 影であるため、表情は判らず声もない。

 

(私たちが活路を開きます)

 

 カルデアの面々、とりわけマスターである立香は、まるでそう言っているかのように思えた。

 

「やれやれ、シャドウサーヴァントに鼓舞されるとはな。マスターを守るのを優先して遅れたなど言い訳にもならない」

 

 皮肉気に自虐するエミヤ。

 その手の白黒の双剣を握る手が強まる。

 

「同感です。純粋なサーヴァントに劣る彼らが魅せてくれたのです。私たちがしっかりしなければ英霊として立つ瀬がない」

 

 魔力放出を強め、エクスカリバーの輝きが増す。

 ドレスの優雅さは損なわれず、しかして鋭き力強さが両立している。

 

「影の私に負けてはいられません。この旗に誓って、彼らの誇りに報いましょう」

 

 旗に付く刃がきらりと光り、まるで宝石のように威圧する。

 クルクルと舞うように回転させ、そして戦いへ向けて構える。

 

「私も、皆さんのお手伝いできるなら。島村卯月、がんばります!」

 

 両の手を握り締め、目をそらさずに前を向く。

 影であるため軽減されているが、醜悪な魔神柱相手に一歩も引かない。

 スキル「絶えない笑顔EX」。

 彼女は挫けず、勇気を持って仲間を助ける。

 

「引き続き、対魔神柱戦行きます!皆さんの背中は、私が守ります!」

 

 ドレス姿でありながら、勇ましさや頼もしさを感じるさせるマシュ。

 美しい姿とギャップを感じる彼女の武装が地面を鳴らす。

 この結界に入るまで、久しく使用していなかった大盾が歓喜を叫ぶように音を鳴らす。

 

 →「もうひと踏ん張り、がんばって!」

 

 マスターの声援を合図に、一斉に駆け出すサーヴァントたち。

 卯月はあまりマスターから離れ過ぎない位置で、宝具とスキルを使って支援する。

 彼女の援護を受け、さらに勢いを増すシャドウを含めたサーヴァントたち。

 今の彼らにとって、目の前の魔神柱もどきなど恐れるに足りなかった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 戦闘終了。

 味方であるシャドウサーヴァントたちも動きを止め、魔神柱の崩壊を確認する。

 掻き消えるように消滅し、残ったのは自陣の味方と破壊の跡。

 東京の都市に残る爪あとは、無人の空間ならではの空虚な場所となっていた。

 

『魔神柱討伐、お疲れ様。……いや、あれほど劣化しているのなら別の呼び方が必要だね。魔神影柱(まじんえいちゅう)とでも呼ぼうか』

 

 →「純粋な魔神柱ほどじゃなかった」

 

「そうなんですか?私はもうへとへとですぅ……」

 

 初の魔神柱、いや、魔神影柱戦で緊張の糸が切れたのか、ぺたんと座り込む卯月。

 疲労の色は見て取れ、玉のような汗が額に浮かんでいる。

 援護やスキル、宝具による消費魔力も大きいからだろう。

 

「いや、ちょっと待って下さい。私たちの衣装変化(きょうか)はまだ続いています。卯月さん、魔力の消費は大丈夫なんですか!?」

 

 マシュの疑問も当然だろう。

 午後十二時少しすぎから今まで、変身と強化は続きっぱなしである。

 時間にして約五時間。

 変身だけならともかく、強化までこの長時間続けるには相当量の魔力が必要だ。

 ましてや、前半は仮契約無しであった為、カルデアからのバックアップを受けていない。

 さらに、卯月の宝具はA+ランク。

 強化の相性による上下を無視したとしても、明らかにカルデアが消費した魔力に釣り合っていないのだ。

 

「うーんと、その、……魔力って言うのが、私はまだ感覚として分かっていないんだと思います……。その、すいません」

 

 しょぼんとする卯月だが、彼女に非はないだろう。

 彼女はサーヴァントとしては成り立てどころか、一般人がいきなりサーヴァントになっただけである。

 今まで全く関わってなかった事柄を、彼女に説明しろというほうが酷だろう。

 

「いえ、卯月さんは悪くないですよ。魔力消費で疲労しているのか心配しただけですから……」

 

『一先ず、このことは検証していくとしよう。魔力消費を何処からかで肩代わりしているのか、他にも仮説はあるだろうが証拠はないからね』

 

 ホームズが一度話題をリセットし、これからの動向へと話を変える。

 疲労困憊といったマスターと卯月。

 必然、拠点であるプロダクションへの帰還を考慮する。

 

『現在の時刻は、六時前だね。安全地帯が確保できた以上、そろそろ仮眠も必要だ』

 

「はい、これ以上の無理な探索は危険です。もし、新たな魔神影柱と遭遇したら先輩たちが持ちません」

 

 →「マシュも無理しないで」

 

『そうだよ、マシュだってデミ・サーヴァント。睡眠は必要なんだ、無茶は禁物だよ』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言の通り、マシュも久しぶりの戦闘で肉体と精神の疲労は無視できない。

 満場一致で帰還することに決定した面々。

 疲れた足取りで、プロダクションへと歩みを続ける。

 そんな彼らを、東京に似つかわしくない星々が明るく照らす。

 

 

 

 

 

 夏休みの午前六時近く、結界内は朝日の無い深夜のままだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の中で、時と星は動かない。

 

 深夜でありながら、足元がはっきりと見えるほどに月と星があたりを照らす。

 

 時間は再びやってくる。

 

 彼らにとってはあずかり知らぬ事。

 

 この結界は時限式(・・・・・・・・)

 

 そのリミットは、――――ちょうど、六時間。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 結界内に響く鐘の音。

 これは何処からともなく聞こえてくる、時計塔の奏でる音色。

 突如聞こえてきたその音に反応するよりも早く、――――味方のシャドウサーヴァントが掻き消えた。

 

「先輩!これは!」

 

 シャドウサーヴァントだけではない。

 周りの建物、あるいは空間そのものが揺れ解けていく。

 この現象は、鐘の音とリンクしている。

 音が響くたびに、結界が解けるスピードが増す。

 島村卯月(シンデレラ)がいるからか、このイメージが頭をよぎる。

 

 

 

 鐘の音が告げる、魔法が解ける合図。

 シンデレラにかけられた魔法は、今この時を持って終了すると。

 

 

 

「あ……れ……?」

 

 

 

 イメージを払拭したいが為か、卯月に対してみんなが振り向く。

 彼女の体は、鐘の音と共に薄くなっていた。

 

 →「卯月ちゃん!?」

 

 マスターが叫ぶ。

 今の彼女は生霊がベース。

 ここで消えようが、本体である彼女の命に別状はないだろう。

 ただし、ここまでの六時間の記憶がどうなるかは不明である。

 

 それはつまり、彼女とのつながりが消えるかもしれないということを意味する。

 

 

 

 

 

「きっと大丈夫ですよ、マスターさん」

 

 

 

 

 

 彼女は微笑む。

 自身が消えていくというのに、不安が表情に見えない。

 それは彼女が、信じているから。

 

 

 

 

 

「忘れたんですか?今の私は、――――マスターさんのサーヴァントなんですよ」

 

 

 

 

 

 かくして卯月は結界から姿を消した。

 しばらくすれば、カルデアのメンバーもはじき出されるだろう。

 しかし、卯月はまた会えると信じている。

 それは、サーヴァントとしてのつながりがあるから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 景色が変わった。

 目の前にあるのは窓越しの東京。

 朝日は既に昇っており、街では朝早い人たちが活動を始めている。

 今、そばにいるのはエミヤだけ。

 おそらく、隣の部屋ではマシュ達がいるだろう。

 まるで、一夜の夢であったかのような印象さえ受ける。

 

 

 

 しかし、確かな記憶として。

 彼らの記憶には、島村卯月の名前が刻まれていた。

 

 

 

 

 

『しんみりしているとこ申し訳ない。ダ・ヴィンチちゃんからのアドバイスを伝えよう』

 

 

 

 

 

 その後に続く言葉に、マスターはあっけに取られた。

 サーヴァントであるならば、マスターとの間にある確かな絆であり必須項目。

 

 

 

 サーヴァントとは念話が可能である(・・・・・・・・)

 

 

 

 そんな当たり前にして、確かなつながりを。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

『もしもし、島村卯月です。――――――えっと、マスターさん……ですよね?』

 

 

 

 

 



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第4章 結界の外のシンデレラ

結界からの―――強制的な―――脱出後、卯月との念話で再会の約束をした立香は仮眠を取ることにした。

深夜にわたってぶっ通しで活動していた為、マスターとマシュの眠気はピークに達していたためである。

時は過ぎ、時刻はただいま午後三時。

場所は東京都市部のとあるカフェ。

夏休みである為か、学生を中心ににぎわっている。

その一角のテーブルに着席しているカルデアのメンバー+卯月。

当然だが、服装は街中で違和感のないものだ。

とりわけ、卯月は眼鏡に帽子と変装ルックな格好でありながらオシャレさは犠牲にしていない。

六人とカフェの客としてはやや大所帯となった面々の話題は、やはり昨晩、いや、今晩のことだった。

 

「つまり、卯月さんは夜に起こった出来事をはっきりとは覚えていないと……」

 

「マシュさんの言ったとおりです。夜中に人の居ない所にいて、影みたいな人や巨大なナニカのこととか、うすぼんやりと。なんて言ったらいいのか……。覚えているはずなのに実感がない(・・・・・)といえばいいんでしょうか?」

 

「なるほど。そういうことなんですね……」

 

アルトリアが察したことは、ほぼすべての英霊の共通認識といえるだろう。

おおよそのことを理解できたが、卯月は理解できていないだろう。

卯月の記憶以前に、前回の説明でも話していない内容だ。

説明役として、ダ・ヴィンチちゃんからの通信が入る。

 

『なーるほどね。つまり卯月ちゃんは肉体自体が「英霊の座」の役割を担っているという事だね』

 

「――えっ!?ちょっと、ダ・ヴィンチちゃん!?他のお客さんから目立っちゃ……う?」

 

カフェに突然現れた、明らかにオーバーテクノロジーであるホログラフ。

しかもそこに写るモナ・リザは、周りの注目を集めるだろう。

卯月の懸念はもっともだったが、辺りの客に騒ぐ様子はない。

それどころか、大声を上げた卯月に注目することすらなかった。

 

「ああ、流石にこの大所帯とアイドルの組み合わせは目立つと思ったのでね。話す内容も聞かれる訳にはいかないので、認識阻害の魔術を使ってある」

 

エミヤはアーチャーとして現界している英霊だが、その本質は魔術使い。

神秘の薄い現代においても、投影などを除いて秀才とは言いがたいが一般的な魔術は修めている。

優秀な魔術師相手ならばともかく、一般人相手ならばこれで十分だった。

 

「あの……、えっと……、本当に魔法使いさんなんですね……。蘭子ちゃん、よろこびそうだなぁ~……」

 

夜の出来事に実感がなかったためか、目の前で起きている非現実的な光景に尻すぼみになる卯月。

卯月が言った魔法使いという呼び方に、複雑な顔をするエミヤ。

訂正をしたいのだろうが、もともと魔術世界に疎い卯月に対して訂正を求めたところでたいした成果はないだろう。

己の不満を口に出さず、ため息で洗い流したところで本題に入る。

 

「さて、夜中の出来事を話し合う、……前にやるべきことがあるだろう」

 

→「自己紹介、だね!」

 

卯月の記憶が記録として処理されている。

そうであるならば、お互いについて理解を深めるのが優先だろう。

深夜の結界では、周りが安全と言い難かったため、満足できるほど話はできていなかったから。

 

「はい。改めまして、346プロダクションから来ました。アイドルの島村卯月です!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

もう一度行われた卯月の自己紹介と、カルデアの説明。

薄れていると言えど、卯月にも知識としての『記録』が残っている為か、カルデアについては復習程度で済んだ。

主に行われていたのは、卯月の紹介と346プロダクションの説明。

その中でも、彼らの注目をひときわ集める内容があった。

 

「シンデレラガールズ、ですか?」

 

「はい。私たち346プロダクションのアイドルは、シンデレラをメインコンセプトにしているんです」

 

シンデレラガールズ。

彼女たちが行う大型ライブでも、出演アイドル全員で行う自己紹介。

346プロダクション全体のコンセプトだが、卯月が以前言っていたようにアイドルたちの個性は非常に多岐にわたる。

必ずしも、お姫様や王女様らしいアイドルしかいないわけではない。

少女、あるいは女性がアイドルとして変身する。という様を、シンデレラとして表現しているのだ。

 

「そうなると、これが卯月さんのシンデレラとの縁なんでしょうね。シンデレラガールズという名称を持っているがために、シンデレラの外殻が形成された」

 

「しかしそうなると、ますますあの仮説が有力になる。シンデレラガールズを名乗れる人物は、他にもいるのですから」

 

アルトリアの考察は鋭い。

卯月がシンデレラというサーヴァントになれるのなら、その条件を満たしているアイドルは他にも多く存在している。

むしろ一人だけ、と言うほうが不自然だろう。

 

『その仮説について、卯月嬢にお願いをしていたね。――――他のアイドルたちの様子について、ね』

 

卯月はサーヴァントであった時のことを、記録としてだが知識として保有している。

もし他のアイドルがサーヴァントとして召喚されていたのであれば、どこか様子がおかしかったりしていた可能性がある。

 

「それが、プロダクションに来てた人も電話してみた人も特におかしい様子はなかったんです。アイドルで体調が悪い人もいませんでしたし」

 

『そうか。そうなると、結界で退去ではなく消滅した場合は記録を回収できないのか……。それとも、就寝時のことだから夢として認知しているのか。判断に難しいところだね』

 

だが逆に、むしろうろ覚えになってしまったからこそ判定が難しくなってしまったようだ。

うろ覚えの記録であれば、夢であると判断しやすくなるだろう。

 

「もしかしたら、記録としてでも覚えている方はいるかもしれません。できれば、私たちで直接確認しに行きたいですが……」

 

「ジャンヌの言った事は難しいでしょうね。この現代日本で、アイドルに近づくことは容易ではありません」

 

「認識阻害の魔術では質問もできないし反応を伺えない。傍で姿を隠して実行する……完全に不審者だな」

 

アイドルの様子を確認すると言うことについて、エミヤの言った事は最終手段だろう。

カルデアの面々が頭を抱えている中、卯月が助け舟を出す。

 

「あの……、これ、役に立つかどうか分からないですけど……」

 

卯月が恐る恐る提示してきたのは、とあるパンフレット。

本日から行われるイベントらしく、アイドルたちが多数参加するらしい。

 

「これは……」

 

「……これしかないんでしょうか……」

 

「正直、恥ずかしいです……」

 

卯月から提示された絶好の機会。

であるはずなのに、難色を示す女性陣達。

そのパンフレットには、こう記されていた。

 

 

 

 

 

シンデレラガールコンテスト!!

君もこの夏のアイドルになろう!!

 

 

 

 

 

一般人参加型のイベント。

アイドルのように着飾って、投票によって優勝を決めるアイドル型のミスコン。

夜はドレス、昼はアイドル。

緊張感あふれる特異点であるはずなのに、衣装を着てばかりになりそうだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シンデレラガールコンテスト。

イベントとしての規模は大きく、予選と本選に分かれているようだ。

各地に散らばった予選会場で上位の成績を収めた者が、後日行われる大きい会場で行われる本選に出場する。

346プロダクションのアイドルが関わる為か、参加する人数は多い。

アイドルであるシンデレラガールズの人気を伺わせる規模だ。

当日参加もOKであることも、参加人数の多さに拍車をかけている。

なお、当然の事柄として。

 

「………………」

 

→「………………」

 

男性陣は会場の客席にて待機である。

ミスコンの会場という女の園は、当たり前だが男子禁制だ。

アイドルたちの確認をマシュ達に任せ、カルデアの首脳陣を含めた面々は静かに登場を待っていた。

そんな中、どんな姿で現れるのかと、少し期待をするマスターであった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「はい、メイクできましたよ。かわいいから、つい張り切っちゃった」

 

化粧というものを全くしたことがないマシュは、鏡に映るメイクされた自身の姿にあっけにとられた。

マシュの可愛さを引き立たせるナチュラルメイク。

メイクさんの腕がいいのも当然だが、彼女の素材のよさも大きな要因だ。

自身の着飾りに疎いマシュは、自らの変わり様をこう思った。

まるで、卯月の宝具による変身のようだと。

衣装はまだ着ていない。

装飾品もない。

にもかかわらず、そう思わずにはいられなかった。

もっと綺麗になりたい。

そんな世の中の女性の願いを、遅ればせながらマシュは理解したのだった。

 

「わぁ。綺麗ですよマシュさん!」

 

やや呆然としていたマシュの傍に現れた卯月。

本日は会場の司会進行を勤める彼女だが、当然控え室は別。

そして、メイク用の部屋に訪れたのは卯月だけではなかった。

マシュよりも先にメイクを終わらせていたアルトリアとジャンヌ。

彼女たちも、生前に化粧とは縁がない。

彼女達に施されていたのもまたナチュラルメイク。

しかし、もとより人形のようであった彼女たちの可憐さは、メイクによってまた数段引き上げられていた。

 

「よく似合ってますよ。マシュ」

 

「騎士王の言うとおりです。とってもかわいいです」

 

「ありがとうございます。お二人も、すごくお綺麗ですよ」

 

仲良く相手を褒め合い、歓談する四人。

最初の目的を忘れたわけではないが、話題が脇にそれるのも仕方のないことだろう。

彼女たち三人にとって、初めてのお化粧なのだから。

 

 

 

「やっほーしまむー!メイク終わったー!?」

 

「未央声でかすぎ。卯月、準備でき……知り合い?」

 

どうやら、最初の目的はあちらから来てくれたらしい。

 

 

 

 

 



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第4章 結界の外のシンデレラ 2

結界は、深夜十二時からちょうど六時間の間に展開されていた。

それ以外の時間では、部分的にも展開されている様子はない。

そうなると、結界の展開していない昼間ではやれることが限られる。

マスターとマシュの仮眠時、サーヴァントたちが調べて回ったが有力な情報は得られなかった。

だからこそ関連性を探る為、そしてアイドルたちが他に召喚されていたかどうかを確認する為に、こうしてアイドルに近づく機会を伺っていた。

 

が、まさか手がかりのほうからやってくるとは。

少しできすぎかも、とマシュが思うのも無理はないだろう。

 

「そちらの外人さんたちはしまむーの友達?綺麗な人たちだね~」

 

「未央、テンション高すぎ。でも、私も同感かな……。卯月の学校の人、じゃないよね」

 

彼女たちほどの見目麗しさならば、必然学校ならば目立つだろう。

しかし、そんな話題を聞いた覚えは二人にはなかった。

以前に自身の学校について、そんな話題は上がったが、もし学校の関係者ならば真っ先に話すだろう。

どうやって答えたらいいのか、正直に話す……でもなぁ。

と、卯月がフリーズしている中、アルトリアが先んじて答える。

 

「はじめまして、私はアルトリアと申します。ウヅキとは以前、旅の最中にお世話になった縁で再会しました」

 

凛とした姿で、畏怖すら感じるほどに毅然としている。

メイクによってさらに磨かれた美貌もあいまって、まるで人間離れしているようだ。

カリスマB、一国を率いる人物にふさわしいオーラ。

普段、彼女たちが会うことの多い芸能人とは別種のオーラを初めて体験したからか、恐縮気味にやや固まる二人。

アルトリアが機転を利かせたとこで、それに追従する形で自己紹介に回るマシュとジャンヌ。

 

「お初にお目にかかります。マシュ・キリエライトです。卯月さんには、助けていただいた恩と縁で知り合うきっかけとなりました」

 

「私の名はジャンヌ。お二人は、卯月さんのご友人かと思います。どうか、これからも卯月さんと好くしてくださいね」

 

彼女たちの語る内容は嘘ではない。

多くは語っていないだけ、なのだが、二人には少々以外だったようだ。

 

「おお~、しまむーやるねぇ。できる女性!みたいな人たちを助けるなん、て♪」

 

「うん。本当にすごいと思うよ」

 

「うえぇ!?いや、私こそ助けられましたよ!それに、ここにはいないけど、エミヤさんやマス……じゃなくて、立香さんにもお世話になりましたし……。それと皆さんは、私の自慢のお友達なんです!」

 

卯月の元来のカタログスペックに突出したものはない。

笑顔など、アイドルとしての個性はあるが、普通の少女というのが彼女の根幹だ。

しかしこれこそが、誰とでも友達になれるという、卯月の稀有な才能だろう。

生前友人という関係性が極端に少なかったアルトリアを初め、やや照れくさいカルデアの三人。

マシュなど、生まれてこの方『友人』ということ自体が未経験。

立香は大切な『マスター』であり、他のサーヴァントやカルデアの職員は『仲間』だ。

 

「ふんふん、エミヤさんと立香さんね。ここにいないってことは、男の人?」

 

「はい、先輩とエミヤさんは男性です。私たちはお二人を含め五人で東京に来ました」

 

「あれ?エミヤさんとリツカさん、ってことは日本の人だよね?外国から来たってこと?」

 

「私たちが来たのは外国からで間違ってはいません。外国の施設で働いているのですが、そこはさまざまな国の人たちが集まっているんですよ。私はフランス、マシュさんとアルトリアはイギリス、エミヤさんと立香さんは日本です」

 

おお~、と感嘆の声を上げる未央と凛。

日本からあまり出たことのない彼女たちにとって、外国で働くというキャリアを持つ人物はどこか別世界の人間と感じるだろう。

余計に卯月がどうやって彼らを助けたのか、想像できない二人なのであった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

アイドルミスコンの司会進行役であるニュージェネレーションズの三人は、準備の為部屋を後にした。

残っているのは、マシュ達三人だ。

 

「……お二人は、どう思いましたか?」

 

「何か隠している様子も、何かを怖がっている様子もありませんでした」

 

「私も同じ印象です。サーヴァントとして召喚されていなかったのか、記憶か記録が回収されなかったのかまでは判断ができませんが」

 

数多の人間を見てきた英霊二人にとって、演技ができるぐらいの少女二人であれば嘘などを判別するのは難しいことではない。

それを信頼しているからか、マシュも彼女たちの意見に首肯する。

今回の手がかりは、どうやら空振りに終わったらしい。

そして時間も迫っていることなので、部屋に衣装さんが入って来た。

これ以上の相談は、どうやらできないようだ。

三人は成すがままに、着替えることとなる。

 

 

 

当たり前のことかもしれないが、彼女たち三人は上位を独占し、見事勝ち上がることとなった。

本選にいけばより多くのアイドルと会えるようになるが、気恥ずかしさはまだ抜けそうにはないようだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ミスコンの後、カルデアの面々は軽く打ち合わせをし、休息に徹することとした。

マスターとマシュは睡眠が必要。

深夜でしか結界を探索できないならば、必須といえる。

無論、それは今宵に結界が現れればの話である。

毎日か日を跨いで現れるのかは不明。

時間がずれることは考えにくいだろう。

彼の結界にシンデレラという要素が関連しているのであれば、深夜十二時という時間にも意味があると推測できる。

ただ気がかりなのは、深夜十二時に開始(・・)するということ。

シンデレラの物語に沿うならば、魔法が解けるのが十二時なのであって、夜明けではない。

原典のシンデレラとは違う展開だ。

 

 

 

シンデレラが関わる結界であるとの仮定ではあるが。

もしかしたら、結界におけるシンデレラとは。

彼女たちアイドルが中心なのかもしれない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

結界は再び現れる。

 

時間は、昨日と寸分違わず午前十二時。

 

人々が姿を消し、代わりにシャドウサーヴァントが現れる。

 

その中に、シャドウではないサーヴァントが混じっていた。

 

 

 

「ここ……、何処……?」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「結界の展開を確認しました。予想通り、今夜も現れました……ね?」

 

カルデアのメンバーは、結界の展開を予想していたがためにホテルのロビーで待機していた。

が、マシュが口ごもったように、彼らにとって予想外な出来事が起きていた。

 

 

 

全員の衣装が、昨日に変身したまま変わっていなかったのである。

 

 

 

「こ、これは……。いくらなんでも予想外です。今ここにウヅキはいません。にもかかわらず、彼女の宝具の影響を受けたままになっているなど」

 

「強化の持ち越し、結界が終わる時に中の人物の状態を保存していた……。いえ、ちがう。だったら私たちも、結界が解けた場所に移動しているはず」

 

不可解な現象。

確認を取る為、卯月に念話で連絡を取る。

おそらく、彼女の行動ではないだろうが。

 

『もしもし、卯月です』

 

→「もしもし、今何処?」

 

『346プロダクションの中にいます。昨日気が付いたときにいた場所とは少し場所がずれていますけど、おおよそ同じです。それと……』

 

→「それと?」

 

『今ここに来てからなんですけど、昨日のことをはっきりと思い出した気がするんです』

 

 

 

 

 

346プロダクションへ向かったカルデアのメンバーは、移動の最中に卯月と念話で確認を取る。

やはりだが、卯月はこの結界に戻ってからは宝具を使用していないらしい。

メンバーの衣装が変化したままな理由は、今のところ不明。

卯月と合流したところで、卯月の記憶について話すこととなった。

 

『つまり卯月ちゃんは現実の記憶はそのままに、昨日の記憶が引き継がれている状態なんだね』

 

「はい。昨日助けられたこと、お手伝いしたこと、お話したことも全部実感できます」

 

『まさに、サーヴァントと「座」の関係そのものだね。現実にある卯月ちゃんの記憶はいわば「生前の記憶」。サーヴァントとして行動したこちらでは「英霊としての記録」。そして昨日、退去はしたが消滅はしていなかったから、ちゃんと生き残っているサーヴァントとして扱われるということだね』

 

『しかしそれが判ったが、まだまだ結界に関する謎は多い。シャドウサーヴァントに魔神影柱、敵のすべてがわかった訳でもない』

 

「特に謎が多いのが、あの魔神影柱だ。シャドウサーヴァントだけならば、召喚のなりそこないとして、特異点にいても不思議ではない。しかし、魔神影柱は話が別だ」

 

魔神影柱の元となった存在、魔神柱。

これはもともと、魔術王ソロモン―――の力を振るっていた魔神ゲーティアの72柱の使い魔。

魔術王ソロモンが英霊の座から消失している以上、これが存在するのは冠位時空神殿からの脱走した魔神柱のみ。

ならば、この結界には本物の魔神柱がいるのか?

判断は付かないが、仮説として記憶しておくことにする。

 

閑話休題。

 

ここで一度、基本に立ち返る。

結界の謎を解く、それがこの特異点を解決する方法であるならば。

術者を発見するか、結界の基点を破壊するか。

どちらにしろ、アイドルたちの探索と並行して行うことになるだろう。

 

→「出発しよう!探せば何かわかるかも!」

 

「賛成です。今必要なのは情報、そしてそれは外でなければ発見できないでしょう」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

彼らは、外での探索へとシフトする。

昨日と同じく、シャドウサーヴァントの味方は付いてくるようだ。

昨日倒して仲間にしたことは引き継がれるらしい。

 

 

 

 

 

探索の成果は早かった。

何せ明確な戦闘音がしていたのだから。

向かった先にいたのは、―――――二人のシンデレラ。

 

シャドウサーヴァント相手に奮戦するのは、今日会った二人のアイドル。

 

 

 

渋谷凛と本田未央。

 

彼女たちもまた、サーヴァントとして現界していた。



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第5章 青と黄のシンデレラ

 新たに現れた二人のシンデレラ。

 渋谷凛と本田未央。

 卯月のユニットメンバーでもある彼女たちは、シャドウサーヴァント相手に二人で奮戦していた。

 だが、戦闘特化のサーヴァントなしではやはり多勢に無勢。

 しかし追い詰められる寸前で、カルデアのサーヴァントたちが到着した。

 

「凛ちゃん!未央ちゃん!」

 

「卯月!?」

 

「しまむー!?」

 

 現実感のない状況の中、突如現れた卯月の姿に困惑する2人。

 しかも、卯月と一緒に現れたのはミスコンで出会った三人と、おそらく同僚らしい男性二人。

 衣服もアイドルのような衣装であるが、手に持つ武器が彼らが戦闘者であることを如実に表している。

 混乱する二人をよそに、シャドウサーヴァント同士が戦いを始める。

 

「助太刀に参りました。二人とも、ご無事で何よりです」

 

「もう大丈夫。皆さん、とても頼もしい方たちなんです」

 

「いや!正直わけわかんないし!」

 

「後でちゃんと説明してよ、卯月!」

 

 笑顔で語る卯月を横目に、まだ危険は去っていないと臨戦態勢を維持する凛と未央。

 対するシャドウサーヴァントは十三体。

 反覆の将、呂布奉先。

 天下の義侠たる暗殺者、荊軻。

 剣闘士、スパルタクス。

 ブリタニアの勝利の女王、ブーティカ。

 軍師の魂を宿すロード、諸葛孔明(エルメロイⅡ世)

 若き日の征服王、アレキサンダー。

 古代ペルシャの王、ダレイオス三世。

 ゴルゴン三姉妹の長女、ステンノ。

 文明の破壊者、アルテラ。

 終身独裁官、ガイウス・ユリウス・カエサル。

 古代ローマ帝国第三代皇帝、カリギュラ。

 古代ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウス。

 ローマの父、神祖ロムルス。

 第2特異点、ローマの地で共闘あるいは敵対したサーヴァント。

 それに加えて、ローマ兵と思われるシャドウサーヴァントも増援としてやってくる。

 敵の数が多く、飽和戦術ともいうべき戦法。

 しかし、シャドウサーヴァントに声はなく、最低限の連携しかできていない。

 ローマ兵も同じだ。

 軍を率いることを得意とするサーヴァントが軒並みそろっているにもかかわらず、見た目以上の戦力にはなっていない。

 そしてそれは、カルデアの戦法が通りやすいということも意味する。

 

 

 

 

 

約束された(エクス)――――」

 

 

 

 味方のシャドウサーヴァントは既に離脱している。

 軍を押しとどめているのは、アーチャーであるエミヤの連続狙撃。

 数に任せ、こちらに向かってくる敵はジャンヌが防御する。

 ジャンヌが守り、エミヤが足止め。

 準備は整った。

 本来、軍ではなく城を対象とする過剰なる力――――対城宝具。

 まともですらない軍など、最強の星の聖剣を持つアルトリアの敵ではない。

 

 

 

勝利の剣(カリバー)アアアァァァ!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の中において、昨日の戦闘の爪あとが修復されていたのは既に確認済み。

 しかし、たった一発の宝具によって、昨日以上の破壊痕が街に刻まれていた。

 シャドウサーヴァントは星の聖剣で消滅し、シャドウローマ兵などの雑兵は宝具の余波で消し飛んだ。

 近くにサーヴァント反応がないことを確認していたとはいえ、少々やり過ぎ感が否めない。

 エクスカリバーが初見のニュージェネレーションズなど、完全に放心状態である。

 最短の戦法だったとはいえ、もう少しやりようはあったのではないかとも思ってしまう。

 

「えっ!?ちょっ、何今の!?」

 

「もう何がなんだか……」

 

「お、落ち着いて。今から説明するから」

 

 混乱する凛と未央をなだめ、何とか説明しようとする卯月。

 二人の格好は卯月と同じ。

 白をベースとしたシンデレラのようなドレス、そして足には硝子の靴。

 そろったドレス衣装があいまって、まるでこれから三人のライブが始まるかのようだ。

 

『さーて、情報交換といこうか。お嬢さんたち』

 

「モナ・リザ!?」

 

「ホログラフ!?」

 

『うんうん、新鮮なリアクションありがとう。ついでに自己紹介しよう。私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれ』

 

「おい、二人が余計混乱しているぞ。すまないな。改めて、私の名はエミヤ。二人のことは話には聞いている」

 

 →「はじめまして、藤丸立香です」

 

「あっ、はい。これはどうもご丁寧に……」

 

「もう、驚くのも疲れてきた。卯月は平然と馴染んでてすごいと思うよ……」

 

 初対面である男性陣の紹介が終わったところで、凛と未央の状況から説明を聞く。

 卯月は最初の現界時から346プロダクションにいた。

 今宵も同様。故に、二人の現界した場所はプロダクションではないだろう。

 

「気が付いたら、私たちは近くの建物の中に立ってたの」

 

「しぶりんと二人でね。衣装もそのときにはもう着てたんだ」

 

「誰もいなかったから、探そうと思って外に出てしばらくしたら……」

 

「たくさんのシャドウサーヴァント(・・・・・・・・・・)に襲われて……あれ?」

 

 未央が言った何気ない用語は、彼らの注意を引くのに十分すぎた。

 アイドルサーヴァントは聖杯からのバックアップを受けない、が前提だったにもかかわらず。

 

『ふむ。お二人さん、一つずつ質問していくから答えていってくれないか。できれば卯月嬢も一緒に』

 

 三人の了承を得たホームズは、順を追って問いを投げかける。

 バックアップされた知識がいかほどのものなのかを調べる為に。

 三人の答えは、完全に同一。

 

『第一に、英霊とは何かな?』

 

「生前の偉人や伝説の人物が祀り上げられた存在。その魂」

 

『聖杯戦争とは?』

 

「願いを叶えることができる聖杯をめぐる戦いのこと」

 

『サーヴァントとは?』

 

「聖杯戦争で魔法使い(・・・・)が召喚する英霊」

 

『…………カルデアとは何か?』

 

「人類を救った組織。たくさんのサーヴァントがいるところ」

 

『魔術と魔法の違いは何か?』

 

「…………わかんないです。」

 

『凛嬢と未央嬢に質問だ。今まで答えてきた質問の知識は、結界(ここ)に来たときに既に持っていたものかい?』

 

「はい」

 

『なるほど。質問は以上だ、協力感謝するよ』

 

 ホームズがそうしめるが、しーんとした空気のまま少し時が過ぎる。

 カルデアの面々は、頭をフル回転して状況を理解しようとする。

 

 彼女たちの知識はツギハギだらけなのだ。

 まず、魔術と魔法の違い。

 サーヴァントを召喚する人物は原則魔術師だ。

 故に、魔術に対する知識が疎くても、魔法使いが召喚するとは言い出さないはずだ。

 加えて、カルデアの知識を保持していること。

 サーヴァントに対する聖杯の知識には、カルデアのことは含まれない。

 自身を召喚した人物が所属する知識など、召喚したてのサーヴァントが持っているはずなどない。

 

 →「何かわかった?ホームズ」

 

『ああ、私の推理でよければ聞かせよう』

 

 ホームズの推理。

 それはほぼ真実に近い。

 もとより確信がなければホームズは自身の推理を語らない為だ。

 故に、推理に対する信頼度は大きい。

 

『結論から言おう。やはり彼女たちは聖杯からの知識のバックアップは受けていない』

 

「ではなぜ、バックアップを受けていないのにお二人はある程度の知識があるのですか?」

 

『バックアップ自体は受けている。ただし、聖杯からではなく卯月嬢からね』

 

「私ですか!?」

 

『正確に言うなら、すべてのアイドルたちの記録は共有される(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということだ。あくまで知識の記録に対してで、経験の記録は別だろうがね』

 

 つまり、彼女たちが事情を知るほど、他のアイドルへの助けとなる。

 少なくとも、カルデアが味方であると伝えることができるだろう。

 

「凛ちゃん、未央ちゃん……。本当は私も不安だけど、マスターさん達が助けてくれたんです。皆さんいい人達で、今は私もお手伝いしてて……。もしかしたら、他のアイドルのみんなもいるかもしれなくて……。とにかく!私、マスターさんたちとみんなを探しに行きたいんです!」

 

 卯月の説明は上手なものではない。

 ところどころ、話も止まっている。

 しかし、その真摯な姿はこちらに気持ちがストレートに伝わってくる。

 みんなを助けに行きたい。

 凛や未央、卯月が助けられたように、他のアイドル達がピンチかもしれない。

 

「卯月。私たちの答えは一緒だよ」

 

「大丈夫!この未央ちゃんが力になれば、百人力だよ!」

 

 ならば行こう、助けに。

 正直、まだ頭はいっぱいいっぱいだ。

 だけど、考えるのはとりあえず後。

 卯月が言うことなら信じられる。

 これが、ニュージェネレーションズの絆。

 彼女たちの団結は揺るがない。

 どんな場所、どんな状況でも。

 

 それが、三人の友情の結束。

 

 

 

 

 



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第5章 青と黄のシンデレラ 2

凛と未央の二人にカルデアの目的や今後の方針について、復習がてら説明する。

そして二人も卯月と同じく、マスターである立香と仮契約を行った。

なお、当然のごとく二人ともスキル「真のアイドル」を保有していた。

戦闘能力をある程度持っていた以上、予想していたことではあるが。

 

「いや~なんだか照れくさいな~。真のアイドル、だって」

 

「えへへ、実は私もそう思ってました」

 

「うん。ちょっと気恥ずかしいよね……」

 

「そんなことはありません。私達が先日見たミニライブ、何も知らなかった私が、まるで引き込まれるかのようでした。すばらしいステージだったと思ってます」

 

「あっ、来てくれてたんだ!ありがとね~!」

 

マシュの手を握り、ぶんぶんと強く握手する未央。

困惑しながらも、どこか嬉しそうにしているマシュ。

彼女にとって、英霊を除く同世代とも言うべき少女たちの距離感は初めてではあるが、今までにない体験をしていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

一向は、346プロダクションへ向かって移動していた。

探索を行う前に、確認しておくべき事柄があるからである。

それは、先ほど倒したシャドウサーヴァントが346プロダクションに既に配置されているかどうか。

配置されているにしても、味方になっているかどうか、付いて来るのかということも含めて今一度確認する。

既に、彼らの周りには多くのシャドウサーヴァントが点在している。

これ以上増えるのであれば、ぞろぞろとした大行列になりかねないだろう。

 

→「人数も多くなったね………」

 

「そうだな。もともとの私たち五人に加え、アイドルの三人。倒したシャドウサーヴァントが15体で合計23人の団体だ。先ほどの13体も加えると、36という大所帯になってしまう」

 

「戦力として連れて行ける分には問題ないのですが、多すぎても行動が制限されるでしょう。魔神影柱など、範囲攻撃を行う相手にはいい的になりかねない」

 

「シャドウサーヴァント相手であれば、先ほどの相手のような飽和戦術は有効です。しかし、もしもこの先の敵が予想通りであるならば……」

 

「今までの特異点のサーヴァントたち……でしょうね」

 

今までのシャドウサーヴァントの傾向から、そう予想がつくだろう。

魔神影柱もそこに含めてもいいかもしれない。

そしてこの先、通常攻撃が宝具級の威力を持つであろう敵がゴロゴロいるのだ。

宝具を使えず、弱体化しているとはいえトップサーヴァント。

たやすい敵など、一人だっていやしない。

これから来るであろう苦難に対し、険しい顔になるマスターとサーヴァント。

 

「あの、これから大変なことがあるかもしれません。でも、きっと大丈夫ですよ!」

 

その空気を吹き飛ばそうと、勇気付けてくれる卯月。

それに続き、凛と未央も声を上げる。

 

「さっきも言ったよ。未央ちゃんがいれば、百人力だって!」

 

「私たちも力になります。一人じゃ自信はないけど、皆となら」

 

トップサーヴァントというものを知らない二人。

いや、先ほどのエクスカリバーの威力を見ていたはずだ。

これからの敵が、すさまじい脅威であることは身をもって知っている。

励ましに根拠はない。

能天気とも取れるだろう、空元気とも取れるだろう。

だが、それでも――――確かに勇気は沸いてきた。

 

→「そうだね。ありがとう!」

 

「卯月さんたちの言うとおりです。弱気になってはいけませんね」

 

「そうだな。暗い雰囲気をよく吹き飛ばしてくれた。流石はアイドルだ」

 

「悲観的に考えては、士気に関わります。少々楽観的に考えるくらいがちょうどいいでしょう」

 

「それに、あくまで相手はシャドウサーヴァントです。簡単ではないでしょうが絶望的ではありません」

 

→「きっと、他のアイドルの仲間たちも味方になってくれるよ」

 

マスターの言うとおり、仲間はまだ増えるだろう。

アイドルたちは、十分戦力として計算できる。

むしろ、それこそが勝率を上げる近道だ。

 

「はい。きっと皆すぐ見つかりますよ」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

かくして、卯月の言った事は現実となった。

プロダクションに戻った彼らの前に、新たなアイドルが既に来ていたのだ。

喜ばしいことだろう。

だが、彼らの表情にあるのは、――――苦笑。

 

「あはは……」

 

そしてこれは、ニュージェネの三人も例外ではなかった。

緊迫したこの結界の中で、絶対に皆を見つけるんだと意気込んでいた。

 

 

 

 

 

だからこそ、目の前のソファーでごろ寝している、働いたら負け(・・・・・・)というTシャツを着たウサギのぬいぐるみを抱く少女に毒気が抜けるのは仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

「…………杏、何やってんの?」

 

頭を抱えながら、言葉を投げかける凛。

 

「杏ちゃん、らしいですね……」

 

卯月の笑顔も、やや引きつっている。

 

「いや、流石に気を抜きすぎだから!」

 

未央のツッコミは、この場全員の一致した感想だろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「あらためて、双葉杏。好きな言葉は不労所得と印税生活です」

 

ソファーに仰向けで寝たまま、顔をこちらに向けてピースする杏と名乗った少女。

今までにない、ニート系アイドルという新しすぎるジャンル。

カルデアですら存在しない、強烈な個性である。

 

→「こんにちは、藤丸立香です」

 

そんな強烈な個性を持つ少女に物怖じせず、自己紹介をするマスター。

それに続き、自己紹介をしていくサーヴァントたちとマシュ。

 

「うん、だいじょうぶ。皆の事は、ちゃんと知ってるから(・・・・・・・・・・)

 

先ほど検証したとおり、記録の共有をしている為か理解の早い杏。

だとしても、実感のない知識に対し、いささか順応性が高すぎる気もする。

 

「まあ、この空間がなんかおかしいのは見ててわかるしね~。そしたら、自分の知らない知識があるし。サーヴァントになっちゃったアイドルがいるらしいから、ここにいれば集合できるかなと思ってたから待ってたんだ」

 

よいしょ、と起き上がり、ソファーから降りる杏。

すると、姿が変わる。

もともと着ていたTシャツは青白いドレスに。

ラフだった少女は、美しいシンデレラへと。

そのあっさりとした変身に、一同は目をむく。

サーヴァントになったこと自体が彼女にとっては異常事態のはず。

にもかかわらず、自然な様子で自身の力をコントロールしている。

 

 

 

間違いなく、彼女は天才と言えるだろう。

 

 

 

件の彼女は、一同の驚愕を知ってか知らずか受け流す。

飄々とした様子で、あくびをしながら告げる。

 

「まあ、とっとと行こうよ。こんな結界があったんじゃ、夜のたびに呼び出されちゃうんでしょ?そんなのめんどくさいし、他の皆も心配だしね」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

辺りを探索する一行。

ついてくるのは第二特異点のシャドウサーヴァントたち。

346プロダクションにいたのは、合計13体のシャドウサーヴァント。

シャドウローマ兵は確認できなかった。

そして、第一特異点のシャドウサーヴァントは来ることができなかった。

どうやら、付いて来れるシャドウサーヴァントは特異点単位までのようだ。

清姫のシャドウサーヴァントなど、付いてこようとしたが叶わず、影ながら迫力満点であった。

 

閑話休題。

 

新たな仲間、双葉杏と仮契約したマスター。

ニートアイドルという矛盾した個性にもかかわらず、「真のアイドル」があることに少々驚きを隠せない。

ファンに対し、飾らない姿を見せていると好意的に解釈することにした。

 

「すごい絵面ですね、先輩……」

 

マシュの言うことに心底同意するマスター。

ニート志望を自称する彼女が、歩いて探索するなどするわけがなかった。

かといって、他のメンバーに迷惑をかけているわけではない。

 

彼女の持っていたウサギの人形。

それが大きくなってソファー状になり、杏はその上で衣装のままくつろいでいる。

ウサギのソファーはふわふわと浮いており、一行についていく。

サーヴァントの力を使いこなしてはいるが、間違うことなきライダークラスの無駄遣いである。

 

→「でも、結構気持ちよさそう」

 

「先輩!?」

 

「ふかふかでふわふわだからね~。でも、これは杏専用だよ~」

 

間延びした声で、応答する杏。

彼女が加わってから、緊張感がだいぶどこかへ行ってしまっていた。

 

「下手に緊張しないのはいいことですが、気を抜きすぎてはいけませんよマスター」

 

「それにしても、よくあんな状態で周りを見れていますね」

 

「ジャンヌさん、それはどういうことですか?」

 

「彼女、杏さんは周りへよく気を使っています。建物や行く先の道へ視線を飛ばして警戒しているのです」

 

「緊張感はないが、ちゃんと役に立っている。全く、今までに見なかったタイプの天才だよ、彼女は」

 

自身が凡才だと認識しているからか、ため息をつくエミヤ。

談笑しながらも、彼らの警戒は途切れない。

 

 

 

 

 

「…………来るね」

 

 

 

 

 

かくして、彼らの警戒にヒットした。

この地鳴りには、見覚えがある。

揺れは徐々に大きくなり、現れるのは九体の魔神影柱。

 

「でっかい!知識ではあるけどでっかい!」

 

「卯月も戦ってたんだ。私だって!」

 

初見である魔神影柱を相手に、声を上げる凛と未央。

 

「さて、と。すっごくめんどくさい仕事だけど、とっとと終わらせないとね」

 

強大な相手を前に、態度を崩さない杏。

彼女の頭の中には、勝てるという確信があるのかもしれない。

何より、やる気とは違う、彼女にしては非常に珍しい敵意を向ける。

 

本来、戦うことなどないシンデレラたち。

しかしこの場において、彼女たちはとても頼もしかった。

たくましいとも呼べる、精神的な主柱。

カルデアのサーヴァントたちも、彼女達に当てられてか気合を増す。

 

「魔神影柱来ます。行きます、先輩!」

 

ドレス姿の彼女達、それと衣装が映えるエミヤとマスター。

どこか優雅に、美しく立ち向かう。

シャドウサーヴァントたちもそれに続く。

 

対魔神影柱戦が、今再び行われた。

 

 

 

 

 



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第6章 硝子の靴のお姫様

「風よ、舞い上がれ!」

 

アルトリアの風王結界(ストライク・エア)が、魔力放出スキルもあいまって魔神影柱をなぎ払う。

 

偽・虹霓剣Ⅱ(カラドボルグ)!」

 

エミヤもまた近距離から遠距離まで、幅広く戦場をカバーする。

 

「そこですっ!」

 

ジャンヌも自身の武装たる旗を駆使し、敵をマスターたちに近づけさせない。

この三人が主戦力であるのは、ある種当然といえる。

今回は、エクスカリバーによる殲滅は行わない。

その発動には、ある程度の攻撃準備が必要な為だ。

その時間を稼ぐのに、九体もの魔神影柱相手では討ち漏らしが出てしまう。

シャドウサーヴァント達では、盾にするには心もとない。

マスターこそ彼らの要である以上、守らなければならないのだ。

近距離で防御するマシュ含めて4人による防御の布陣。

しかし、いかに強化されたとはいえ、魔神影柱9体は手に余る。

 

だが、忘れてはいけない。

ここには、新しいが頼もしい仲間ができたのだ。

 

「おっそいなぁ。そんなんじゃ何時までたっても杏は捕まえられないよ」

 

縦横無尽に空を翔る杏。

彼女のウサギソファーは非常に素早く、魔神影柱の周りを飛び回り撹乱する。

攻撃手段である魔力攻撃は威力に欠けるが、的確に味方への援護射撃となっている。

初戦闘にもかかわらず、彼女は怖気づくこともなく、淡々と役割をこなす。

 

「皆さん、がんばってください!硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

 

卯月もまた、宝具にてサポートを行う。

重ねがけは出来ないが、強化の上書きは行える。

強い魔力をこめた真名開放ならば、効果の程は上昇する。

 

「…………。」

 

無言で佇む未央。

もちろん、ただ立っているだけではない。

傍目に見ても、魔力が練り上げられているのがわかる。

彼女のスキルによってそれは行われ、宝具発動の準備を行う。

 

「いくよ」

 

アイドルサーヴァントは、総じて彼女たち自身の戦闘能力としては高くない。

故に、前衛としての足止めや殲滅には不適格だ。

だが、だからこそ(・・・・・)彼女たちこそが鍵となる。

 

「これが、私の足跡――――」

 

魔力が凜へと集中する。

一足先に、彼女の宝具が発動する。

 

「これこそが、私のステージ!!」

 

明りが灯る。

その青い光は、彼女を照らすいくつものステージライト。

さらに、魔神影柱を青いオーラが包んでいく。

縛られるように動きが制限され、悶え暴れる魔神影柱。

 

 

 

 

 

 

「魅せてあげる!硝子の靴のお姫様(Never say never)!!」

 

 

 

 

 

ステージライトが矛先を変え、魔神影柱に突き刺さるビーム(・・・)と化す。

その威力は高く、複数のライトが魔神影柱の一体を貫通(・・)した。

 

これが、彼らの戦法。

前衛をカルデアのサーヴァントに任せ、とどめの攻撃として彼女たちアイドルを起用する。

仮契約によるステータス確認。

その際に判明した彼女たちの宝具。

前衛に適さないなら後衛で活躍する。

彼らの作戦は完全に機能していた。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

声なき魔神影柱の崩壊音(だんまつま)

だが、魔神影柱はまだ八体。

しかも、捨て置いていた凛たちを脅威と認識してしまった。

残党が凛と未央、マスターとマシュに狙いを集中する。

敏捷ランクが高くない彼らでは、もはや逃げることはできない。

 

 

 

もう遅い。

 

 

 

「――――準備、OK」

 

 

 

それは、魔神影柱の方にこそ言える事だった。

 

 

 

「いざ!未央ちゃんの新たな力」

 

 

 

本田未央の宝具は発動に時間がかかる。

が、それ以上に彼女は時間をかけていた。

それが彼女の持つスキルの効果。

自身の攻撃時、チャージ行動を取ることによる威力上昇。

 

 

 

「ここに参上!!」

 

 

 

そうして発動した彼女の宝具。

 

その分類は――――――対軍宝具。

 

 

 

「飛び掛かれ!!硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)!!」

 

 

 

魔神影柱に降り注ぐ、数多の流星群(・・・)

隕石とは違う、デフォルメされた星の豪雨。

ランクにしてA+の対軍宝具は、八体もの魔神影柱を撃破していく。

 

「――――――――――!?」

 

なぜだ何なのだ!?

そうとでも言いたげな魔神影柱。

彼女たちはただの一般人(アイドル)のはずだと。

決して、かつて武功を示した英雄(サーヴァント)ではないのだと。

だが、その考えこそ甘い。

確かにもともとは一般人だ。

純粋な意味でのサーヴァントでもないだろう。

 

だが、それでも――――やはり彼女たちは、サーヴァントなのだ。

 

スキル「真のアイドル」。

 

知名度による能力の補正。

本来は、生前の能力値に何処まで近づけられるかという指標。

それを、このスキルは飛び越える。

自らの存在を、姿を、名前を、世界に知らしめることで効果を発揮する。

これが、ただの特異点であればここまでの効果は発揮できないだろう。

しかし、ここは彼女たちの特異点(ホーム)

彼女達が、今を生き、アイドルとして全力で過ごしている時代(とき)

 

最大限に発揮された宝具は、決して――――英雄(サーヴァント)に劣る道理などない。

 

「――――――――――!!」

 

魔神影柱が崩れ去る。

強力な宝具をもって、今ここに打倒された。

それを成したのは、英雄でも英霊でもない。

 

 

 

 

 

それを成したのは、アイドルだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

激闘は終わった。

 

だがまだ戦いは続くだろう。

 

時は来た。

 

針はまた六時を指す。

 

結界の魔法が解ける。

 

灰かぶりの姫(シンデレラ)アイドルの少女(シンデレラガール)へと戻る。

 

次のステージまであと18時間。

 

ステージが終わるまで、この結界は繰り返す。

 

最奥に、待っているものがいる限り。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

魔神影柱は倒した。

一気に気が抜け、どっと疲れが押し寄せてくる。

アイドル本人たちの体は睡眠中であることは幸いだろう。

この疲れがフィードバックしたら、精神的疲労だけでも仕事に支障をきたすだろう。

もう、それを考えるような時間となった。

午前六時、約十分前。

彼女たちと、一時的な別れの時間である。

 

「あ~、疲れた~。こんなに働いたんだから、ちょっとくらい休みたいよ~」

 

「だめですよ、杏ちゃん。今日から、アイドルミスコンの本選なんですから」

 

「気持ちはわからなくもないけど。でも、体のほうは大丈夫なんでしょ?サボっちゃだめだよ」

 

「うえ~……」

 

「あはは。そういえば、ましゅましゅたちも出てたよね?」

 

「ま……、ましゅましゅ?」

 

「気にしないで。未央があだ名をつけるのは、癖みたいなものだから」

 

「は、はぁ……。私は、構いませんが……。出たほうが、いいですよねぇ……」

 

少々気疲れしているマシュ。

無理もない。

彼女たちとは違って、カルデアの面々は純粋な肉体と霊体。

どちらの疲れも、昼の間に癒す必要があるだろう。

睡眠の必要がないサーヴァントたちはともかく、マシュは体力回復が優先だ。

 

『マシュ、君の好きにしなさい。あくまで君はリハビリ中なんだ。いかに結界の中では影響がないとは言え、絶対に無理をしなければいけないわけではない。場合によっては、こちらのサーヴァントを追加で送ることもできるんだ』

 

「いえ、あの……。先輩を守るのは、私の使命であり願いです。最後までやらせてください」

 

『うんわかった。でもこちらがどうしようもないと判断したら、ストップをかける。そのときは、こちらの指示にちゃんと従ってね』

 

「はい、わかっています。ダ・ヴィンチちゃん」

 

『ということは、ミスコンのほうは騎士王たちに任せて、ゆっくり休むかい?』

 

「いいえ。わたしが決めてやり始めたことです。ちゃんと最後までやりたいです。それに……」

 

→「それに?」

 

「えっと……、卯月さんたちがとても楽しそうにアイドルについて語るので……、――――――ちょっと、やってみたくなりました」

 

体験だけですが、と締めくくる。

そんな彼女の発言に食いついたのは、やはり彼女たち。

卯月がマシュの手を両手で握る。

片手は大盾に、もう片方は卯月に封じられ、困惑するマシュ。

 

「こんなことを言っちゃ、運営側としては失格なんですけど……、応援しています!きっと、素敵なアイドルになれますよ。それに、なんたって――――――」

 

マシュさんの笑顔、とっても素敵ですから。

笑顔のアイドルである卯月ののお墨付き。

とても頼もしく、楽しそうな応援。

 

「そうとなっては、本気でやるしかありませんね。成り行きでしたが、私も本選出場者です。マシュ、加減はしません。全力でかかってきなさい」

 

生来の負けず嫌いからか、アイドルという分野に対しても挑む姿勢を見せるアルトリア。

西洋風騎士系アイドル。

一時的なイベントならともかく、恒常的な属性としては346プロダクションにも存在しない個性。

剣士はいるが、彼女は和の剣士。

可憐な容姿もあいまって、間違いなく強敵だろう。

 

「マシュと騎士王もやる気ですね。なら私も、がんばってみましょう。これでも、フランスのアイドル的存在でしたし」

 

もともと似たような経験があるからか、余裕の表情で迎え撃つジャンヌ。

しかし、ある種の先達者であるという立場でのプレッシャーがある。

負けられないという気合は十分のようだ。

 

そして、そんな彼女たちを見てエミヤはため息をついているが、心なしか楽しそう。

そしてマスターは――――。

 

→「がんばってね、皆」

 

競争である為に、誰か一人を贔屓はできない。

実際、皆にがんばってほしいのは本心から。

正直、誰が勝ってもおかしくない。

皆それぞれに違う魅力や個性がある。

誰かが劣る、ということは決してないだろう。

 

「……!はい、マシュ・キリエライト。がんばります!」

 

「あっ、私のセリフ!」

 

「はい。せっかくなので、真似てみました」

 

「……くすっ♪」

 

「……あはは」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「じゃあ、またあとでね!」

 

「はい!詳しくは、また念話で」

 

シンデレラは去った。

結界も解ける。

彼らがいるのはもといたホテルのロビー。

休息を取る為に各部屋のベットへと潜るマスターとマシュ。

仮眠を取るほんの少し前。

マシュの顔は、ニヤつくような笑顔で――――。

 

まるで、遠足を楽しみにしている子供のような笑顔だった。

 

 

 

 

 



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マテリアル 渋谷凛&本田未央

マテリアルが更新されました


英霊召喚

 

「渋谷凛……。なんでアサシンなのかわかんないけど、来たからには、まあ、よろしく」

 

 

 

真名:シンデレラ(渋谷凛)

 

クラス:アサシン

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:C

魔力:D

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:165cm・44kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:秩序・善 性別:女性

 

「ふーん、アンタが私のマスター?」

 

プロフィール

 

アイドルにスカウトされ、芸能界へと入った少女。名前の通り凛とした正統派クールアイドル。何かを求めてアイドルになったらしく、どうやらその何かを見つけられたようだ。彼女を含めたアイドルたちのスキルや宝具はファンからの視点(いつわ)ではなく、P及び他のアイドル、自身の心情が元となっている。正確に言えば、アイドルのファン一号がPだからである。アサシンクラスであるが、何を殺すかは本人ですらわかっていない。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

照れ屋B 自身のNPを増やす&被ダメージ時のNP獲得量アップ(3T)

 

夢への憧れEX 自身の攻撃力を大アップ(3T)&スターを大量獲得

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のArtsカードの性能をアップ

 

気配遮断C- 自身のスター発生率をアップ

 

宝具:硝子の靴のお姫様(Never say never)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Arts

自身に男性特攻状態を付与<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

 

Buster:1 Arts:2 Quick:2

 

 

 

照れ屋B

 

彼女の持つ個性のひとつ。そのためか、時折いじられたりネタにされることも。

人気の一役を担っているが、彼女自身が恥ずかしがっているためランクは少し自重されている。効力はパラメーターの微増と魔力回復。クールな彼女が時折見せる、大きな魅力の一つである。

 

夢への憧れEX

 

何かを目標として憧れ、それを夢にするのではなく、夢を持つことそのものに憧れている者の証。渋谷凜はこれを叶えたということによりEXランクで所持している。夢に憧れ、夢を探し、夢を見つけて、その道を努力して突き進んだ彼女のアイドル人生そのものといえるスキル。その恩恵は自身の強化と幸運ランクの強化。EXランクであるためシンプルでありながら強力なスキルである。

 

気配遮断C-

 

自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がるというアサシンのクラススキル。

アイドルであるため、プライベートでは気を使うという意味での気配遮断。

暗殺者ではない人物にしては十分なランクだが、攻撃態勢をとった場合のランクダウンが通常よりも大きい。

これは、彼女が「隠れる」ことはできても「暗殺」ができないことが影響している。

 

宝具:硝子の靴のお姫様(Never say never)

ランク:A+

種別:対人宝具

 

渋谷凜の向上心、新しい何かを見つけるという決意。求道者たる彼女の足跡が宝具化したもの。

相手単体を青いオーラが包み込み、ステージライトを模したいくつもの青いビームが敵を襲う。

アイドルとしては当然とも言うべきだが、男性相手には威力が向上する。

かつて、興味すらなかったアイドルという選択肢。

しかし、スカウトに応じたからには真剣に向き合った。

そしてアイドルの道を歩む速度が徐々に速まり、次第に走り出し、全力疾走へと変化した。

宝具発動の際にステージライトが現れる。それこそが、アイドルとしてステージに立ちたいという、彼女の人一倍強い想いの証。

宝具の威力はアイドルサーヴァントと共闘することで増し、とりわけユニットメンバーと組むことでより威力を発揮できる。

渋谷凜がステージに立ったとき、彼女は新しい輝きを見つけるだろう。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 学校の制服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 ステージオブマジック

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「やっほー!本田未央15歳!一緒にがんばろうね、マスター!」

 

 

 

真名:シンデレラ(本田未央)

 

クラス:ライダー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:C

魔力:D

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:161cm・46kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・千葉

 

属性:混沌・善 性別:女性

 

「本田未央!いつでも元気いっぱいだよ!」

 

プロフィール

 

アイドルを目指し、オーディションで見初められてアイドルになった少女。元気と明るさが特徴の正統派パッションアイドル。島村卯月、渋谷凛と一緒のユニット「ニュージェネレーションズ」のリーダーを務める。彼女を含めたすべてのアイドルたちは善属性を持つ。それがスキル、「真のアイドル」を持つ絶対条件である。本人曰く、ライダークラスなのは調子に乗っているからじゃない?と笑いながら告げている。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

器用大富豪C+ 自身のNPを増やす&自身の攻撃力と防御力をアップ(1T)

 

やらかしリーダーEX 次のターンにクイック性能アップ&クリティカル威力アップ&スター集中&スター大量獲得を自身に付与(1T)+自身にスタン状態を付与(デメリット)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のArtsカードの性能をアップ

 

騎乗B- 自身のクイックカードの性能アップ

 

宝具:硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)

ランク:A+

種別:対軍宝具

コマンド:Quick

敵全体にクリティカルスターが多いほど威力の高い強力な攻撃

+味方全体のHPを回復<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:2 Arts:1 Quick:2

 

 

 

器用大富豪C+

 

彼女が語ったかつての一言。もとより、才気あふれる彼女に合致したスキル。

チャレンジ精神旺盛な彼女が目指す境地であるが、発展途上であるためCランク。

運動、勉学、アイドル業とそつなくこなすことができ、此度は戦闘にも応用できる。

まだまだ万能とは言いがたいが、召喚後にもかかわらず、成長の余地は大いにあるという変則的なスキル。

 

やらかしリーダーEX

 

かつての失敗、アイドル人生の転換期を元としたスキル。

自身の犯した大きな失敗をバネに、その後リーダーとしてアイドルとして飛躍したエピソード。黒歴史とでも言うべき逸話だが、彼女はそれを乗り越え、突き進んだ先の感動を生涯忘れることはないだろう。

その効果は力をチャージして解放するという単純なもの。

チャージに対して比例以上(・・)の効果を発揮する、等価交換を超えたEXランクに恥じないスキルである。

 

騎乗B-

 

乗り物に乗る技術。

Bランクであれば、たいていの乗り物は乗りこなせる。

が、彼女自身にそういった技術はない。

彼女の場合、御者がいる乗り物に対する加護。

乗り物を操るスキルではなく、操ってもらうスキル。

他者に騎乗スキルを付与するという一風変わったスキルである。

 

宝具:硝子の靴のお姫様《ミツボシ☆☆★》

ランク:A+

種別:対軍宝具

 

敵全体に星を降らす。いわゆる隕石ではなく、あくまでデフォルメされた黄色い星。

味方には星の粉が降り注ぎ、ある程度の回復が見込める。

この宝具の最大の特徴は、知名度によってその威力が大きく変化すること。

「真のアイドル」、スキルと相互関係にあるという稀有な宝具。

たまに立ち止まってしまうこともあるけれど、それでもトップアイドルに向かって突き進む意志。彼女の輝きたいという思い、成長への願望が宝具となったもの。

知名度が、たとえば日本中の多くの人間が知っているのであれば、その威力はA+ランクの最大限にふさわしい威力となる。

さらに、彼女のスキル「やらかしリーダーEX」のチャージもあるので、最大威力はさらに上がる。

逆境やピンチを、彼女の宝具が明るく照らすだろう。

ニュージェネレーションズのリーダーにふさわしい宝具でもある。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 学校の制服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 ステージオブマジック

 

 

 

 

 



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第7章 アイドルミスコン本選

→「でかい!」

 

立香がそう言うのも無理はない。

ここは、346プロダクションのアイドルたちがライブで使うステージ舞台。

もちろん、今回は多くのアイドル達が登場予定である為、通常なら抽選によるチケット配布が行われる。

身内が本選出場者ということで、関係者席を確保できなければ、エミヤとマスターは入ることすらできなかっただろう。

 

「しかし、身内の付き添いとはいえ、まさか英霊になってからアイドルを見に来るようになるとはね。本当に、何が起こるかわからないものだな……」

 

エミヤが語った内容に対し、納得する立香。

生前は、戦場で多くの時を過ごし、死後英霊になってからは少なくとも一緒に聖杯探索をしてきたのだ。

カルデアでは厨房を担当していたりと平和的な面もある。

が、まさかエリちゃんではなく、本物のアイドルが来るステージを見るなど予想もつかなかっただろう。

それも、一日目の時のような遭遇ではなく、ステージ自体を目的として来るなどとは。

 

→「楽しみだなぁ」

 

「……まあ、多少は同意しよう。身内だけでも綺麗どころが揃っている。しかも、普段着飾ることには無頓着なものたちばかり。普段とは違う姿が見れるだろうさ」

 

結界の中でも、ドレスやティアラなどで着飾ってはいた。

が、武器を持っていた戦場。

しかもあくまで宝具による戦闘能力の向上であり、着飾ることが主目的ではなかった。

今回のように武器を持たず、プロの手で飾られ、その魅力を存分に引き出す。

キャスター、メディアが羨ましがることだろう。

 

(記録映像を見せろ。と、言ってくるだろうな……)

 

エミヤがそう考えていたとき、ブザーが鳴る。

開演を知らせる合図。

ざわついていた会場の声が静まる。

明かりが弱まり、ステージライトが一人のアイドルを照らし出した。

会場から歓声が上がる。

 

「皆さん、今日はお集まりいただき、真にありがとうございます。本日、司会進行(メインパーソナリティー)を勤めます――――」

 

マイクを手に、派手さを抑えた衣装を着るのは少女ではなく女性。

落ち着いた様子であり、少女とは違う、大人の女性としての色気が垣間見える。

年を重ねた者でなければ出せない魅力。

その女性は息を吸い込み、先ほどとは違う、はきはきとした声で話す。

 

 

 

「川島みじゅき!18歳です!」

 

 

 

一瞬、声がなくなった。

何が起こっているのかわからないエミヤとマスター。

18歳にしては色気があるが、冗談か何かと思っているとき

 

 

 

ワアアアアアァァァァァ!!

 

 

 

歓声が爆発した。

中には彼女に対し、愛を告げる強者までいる。

どうやら、彼女にとってはお約束であるらしい。

 

「はい、ありがとう。つかみはOKって感じね!」

 

先ほどのような落ち着いている声に戻る。

はっきりとした声であり、観客が聞き取りやすいのはマイクだけが原因ではないだろう。

彼女は川島瑞樹、28歳。

アイドルの中では年上で、大人のお姉さんと言うべき女性。

ルックスが非常に若々しく美しい。

元はアナウンサーであり、その経験を活かしてMCなどの活躍も多い。

アイドルの中でも、彼女がメインの司会として起用されたのはそこなのだろう。

この技術は経験がものをいい、一朝一夕でつくようなものではない。

 

「さて、温かい歓声を頂きましたが、今日の主役は私たちアイドルじゃありませんよ~」

 

実際、彼女の衣装は派手ではない。

この会場の主役は、マシュたち含めたミスコンの本選出場者。

その彼女たちを埋もれさせない為の仕様だろう。

まあ、関係者でない多くの観客はアイドル達が主目的だろうが。

 

しかし、多くの観客は度肝を抜かれるだろうと立香たちは予想する。

何せ彼らの連れも、見事な美貌の持ち主。

カリスマ含め、人を惹きつけるオーラもある。

しいて言うならマシュにはその手のカリスマはない。

だが、彼女たちとは違う可愛さがあり、決して見劣りはしないだろう。

 

「早速登場してもらいましょう!各予選会場で上位入賞を果たした30人!この夏のアイドルたちの登場です!」

 

ステージの中央から移動し、手を向けて彼女たちを迎える。

 

 

 

歓声が上がる。

 

登場した者たちを見て、立香とエミヤは認識が甘かったことを自覚した。

 

 

 

たしかに、マシュやアルトリア、ジャンヌたちは可憐である。

しかし、集められたほか27名も特色は違えど負けず劣らずである。

上位独占できるのではないか、などという甘い考えは打ち砕かれた。

 

→「思うほど、簡単そうじゃないね……」

 

「まさか、これほどまでにレベルが高いとはな……。どのような能力があれば、彼女たちのような女性を集められるのか……」

 

エミヤの疑問はもっともだ。

マシュたちは目立つほどの美貌を持っている。

そんじょそこらにいるようなレベルではない。

いかに、この時代の人口がずば抜けているとはいえ、だからこそ集めるのは至難の業のはずである。

 

彼らのあずかり知らぬことであるが、これを成したのは346プロダクションのプロデューサー達。

もともとアイドル部門としては新進気鋭ながらも、多種多様で魅力的なアイドル達を保持しているのは一重に彼ら、彼女らの功績だ。

そんな彼らがイベントのために一丸となって彼女達を発掘した。

つまるところ、ほかの27名のほとんどがマシュ達のような応募組とは違うスカウト組なのだ。

無論、スカウト組と応募組に審査における不公平はない。

だが、スカウト組とは言わばプロデューサー達にとって、次世代のアイドルになれると確信した者達(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

鍛え抜かれた審美眼を持つ彼らが探し出した女の子たちは、やる気も十分。

アイドル志望の()達もいる。

ここで優秀な成績を収めれば、将来にプラスになると意気込んでいるからだ。

 

だが、カルデアの女性陣とて負けてはいない。

 

彼女たちとて、予選をぶっちぎりで通過したのだ。

アイドルを目標としている相手である以上、容易くはない。

でも、勝ち目はある。

 

「皆さんとってもきれいです。本当、若いっていいわねぇ~」

 

片手をほほにつける瑞樹。

さまざまな魅力を持つアイドル達を見慣れている彼女からしても、集められた少女たちは感嘆に値するようだ。

 

「さて、じゃあ早速だけど、一人ずつ自己紹介してもらおうかな。アピールタイムは一人一分まで。まず、1番の娘から」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

21番の自己紹介が終わった。

観客もノリがよく、アピールに対して合いの手を入れる。

マシュ達の番号は22、23、24番。

アルトリア、ジャンヌ、マシュの順番だ。

 

「はい。ありがとうございました。じゃあ次は22番の方」

 

「はい」

 

瑞樹の合図を受け、一歩前に出るアルトリア。

濃い青を基調としたドレス。

まるでサファイアのようにキラキラ光り、彼女自身が宝石とたとえられるほど。

高級感漂うその格好は、高貴という言葉がとても似合う。

 

 

 

「ご紹介に預かりました。わたしは、イギリスから来たアルトリアと申します」

 

 

 

静寂。

ただ一言、語っただけで会場が静まった。

カリスマスキルではない。

もし使っているなら、王気を感じるはずだ。

そもそも彼女は不正を好まない。

これはそれ以前、彼女自身の経験。

 

人の前に立つ事への慣れ。

 

堂々とした様子に、大衆の前に立つ緊張が無い。

内心では別の緊張があるのかもしれないが、それを全く顔に出さない。

完成に近い美の形、とでも言うべきだろう。

 

「自己紹介において、私を一言で表すならば、ちょうどいい言葉があります。――――それは、騎士です」

 

目が鋭くなる。

剣気は出さず、負けん気を前面に出す。

彼女は威圧しに来たのではなく、見て貰うために来たからだ。

アルトリアの美しさとの対比として、やる気と負けず嫌いを選択した。

 

「わたしは騎士として、正々堂々、ここにいる方達と競い合うことを誓います」

 

よろしくお願いします。と、優雅に一礼する。

少し時間がかかったあと、観客は思い出したように歓声を上げる。

 

ワアアアアアアアァァァァ!!

 

→「流石アルトリアだね」

 

「ああ。アイドルというものを事前に学んでいたようだな。実際、彼女達に会っていたのも大きいのだろう」

 

優しい目をするエミヤ。

第一印象は完璧といっていい。

庇護欲などとは無縁だが、それもまたアルトリアらしい。

 

「ありがとうございました。本格的な騎士さんでしたね」

 

本格というか本物の騎士である。

 

「では次の方お願いします、23番!」

 

「はい」

 

前に出たジャンヌ。

黄色と白の2色で構成されたドレス。

透ける布地が使われていたり、スカートに切れ目があって太ももが見えたりと、セクシーなつくり。

彼女のスタイルをより魅力的に見せる。

 

「皆さん、こんにちは。フランスから来ました、ジャンヌです」

 

その声は耳に残る。

その容姿は注目を集める。

かつてのフランスの旗印は、遠い場所と時代であるここに現れた。

勇ましくも美しい、救国の聖女。

名前もあり彼女が本物だとは知らずとも、ジャンヌ・ダルクを皆が連想した。

 

「此度は縁があり、此処に参加することになりました。至らぬこともあると思いますが、今日はお願いします。そして――――」

 

皆さんに、主のご加護があります様に。

そう締めくくった。

 

勇敢と慈愛。

双方入り混じる、戦う聖女のオーラ。

ジャンヌもまた自身の経験を活かし、見事にやってのけた。

 

「ありがとうございました。では、お次は24番の方」

 

「はい!」

 

前に出たマシュは、二人に負けず劣らず魅力的で――――可愛かった。

ドレスはピンク色をメインに、白いレースが飾られている。

大人っぽいドレスが、そのレースによってやや子供っぽさを残している。

大人と子供の入り混じる、少女としての魅力。

 

「初めまして。イギリスから来ました、マシュ・キリエライトです」

 

やや強張った声で挨拶するマシュ。

無理も無い。

彼女は大勢の人の前に立つことに関しては、二人よりも経験が足りない。

インパクトは足りていない。

 

「私は――――」

 

何とか言葉を口に出そうとする。

しかし、うまく出てこない。

考えていたはずだ、ここで何を話そうとしたのか。

それが、ここに来て真っ白になってしまった。

 

→「頑張れ……」

 

どれくらい経っただろう。

もうとっくに一分は過ぎてしまったようにも感じる。

早く終わってしまえばいいのにと、心の中の自分が叫ぶ。

実際は、数秒しか経っていないとしても。

 

 

 

何もわからなくなっていた時、不意にマスターと目が合った。

 

 

 

「――――すぅ、――――はぁ」

 

 

 

一度、呼吸を整える。

ここには何しに来たのだろう。

考えるまでも無い、思い出したのは――――卯月たちの顔。

そうだ、彼女たちはとても楽しそうだった。

杏だって、好ましく話していた。

そんな彼女達に憬れて、自分もやってみたいと感じたんだ。

 

そうだ、私は――――。

 

 

 

(ここに、楽しみに来たんだ)

 

 

 

なら簡単だ。

自分の心を、素直に口に出せばいい。

 

マシュがフリーズして、時間にして約十秒。

頑張れという声援を、心配した観客達がかけてくれている。

なら、それに答えなくちゃいけない。

 

「私は、今日を楽しみにしてきました。アイドルというのは大変なお仕事かもしれません。でも、きっと、とても楽しいと思うんです。ですから皆さん」

 

今日は一緒に、楽しみましょう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「これで、全員の自己紹介が終わりました。では、ここから第一審査にはいりたいと思います。ですが、その前に!サポートしてくれる、アシスタントに登場していただきましょう!」

 

再び歓声が上がる。

アシスタントとは言っているが、やってくるのは346プロダクション現役アイドル。

観客のテンションが上がるのは、当然だろう。

 

「それじゃあ早速、お願いしまーす!」

 

瑞樹の呼び声のあと、はーい!と声が響き、スポットライトが会場の一部を照らす。

そこから現れたのは――――。

 

 

 

「にゃっほーい!諸星きらり、です☆!」

 

「双葉杏、です♪!」

 

「「二人合わせて、あんきらです!」」

 

結界でも助けとなった小柄な少女、双葉杏。

長身であり、理想的とも言える抜群のスタイルを持つ少女、諸星きらり。

始めて見るきらりはともかく、杏は結界の中とは見違えるようだ。

だらけていた様子はなりを潜め、自身のキュートさを活かしたアイドルポーズ。

見事なまでの変わりようだった。

 

「それじゃあ早速、第一審査の内容を発表するよぅ!」

 

「お題は~――――」

 

会場の空気は緊張と期待。

二人の発表を今か今かと待つ。

 

「「宣材写真です!」」

 

 

 

 

 



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第7章 アイドルミスコン本選 2

 宣材写真。

 正式名称、宣伝材料用写真。

 アイドルを含めた芸能人を売り出すために、事務所がクライアント向けに撮影する写真で、通常同じ服装でさまざまなポーズを撮影したものが複数カット用意される。

 事務所がクライアントより仕事の依頼を受ける際や、事務所自身によるアイドルを売り出すための営業活動に使われる写真のこと。

 

 アイドルのスタートの一つであり、メディアへの露出がなければクライアントが初めて見るアイドルの顔。

 いわば、アイドルが最初に行う写真撮影。

 この出来次第で、仕事の量に間違いなく影響するだろう。

 

「こちらが撮影用のセットになりますにぃ」

 

「大道具さん、お願いしまーす」

 

 もともと大部分が準備してあった為か、数分とかからず完成した簡易撮影会場。

 ここで撮った写真をモニターに映し、それをもって審査するらしい。

 

「じゃあ、また番号順で行くわよ。小道具もいくつか用意してるから、自由に使ってね。制限時間は、一人三分。OKなら、早めに終わってもいいわよ」

 

 30人と審査人数が多いからか、一人当たりの時間が短い。

 その時間の中で、自らのベストショットを撮らせるというかなり難易度の高いお題である。

 流石のアルトリアたちも、写真は撮られ慣れてない。

 絵を描いてもらうこと、とはまた別の技術なのだ。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「では次、アルトリアさんお願いします」

 

「はい」

 

 カメラマンの声を聞き、真っ先に小道具へと向かうアルトリア。

 選んだ道具は、剣。

 無論、見た目だけで刃も無く軽い。

 騎士系アイドルと先ほど紹介したため、予想通りだ。

 

「じゃあ、好きなポーズをとってください」

 

 自由度が高いこの難問に、アルトリアが出した答え。

 それは、誇り高い王の姿、ではなく。

 勇ましい騎士の勇姿、でもない。

 

 それは、地面にぺたんと座り、身体を預けるように剣を抱く少女の姿。

 気丈とした様ではなく、何かを請い求めるような表情。

 

 次の写真ではまた違った。

 

 ライオンのぬいぐるみを抱き、年相応(見た目)の笑顔を見せる。

 打って変わって、可愛らしいところを魅せていく。

 

 そして最後に。

 

 マントを付け、凛々しく立つ王族の姿。

 煌びやかなドレスもあり、その姿はまさに理想の女王。

 

 本来、アルトリアにはこのような技術は無い。

 召喚直後の彼女では、ここまでの成果は発揮できないだろう。

 これは単純に彼女の負けず嫌いの成果。

 学ぶならば全力で、完璧に仕上げる。

 未知であるアイドルの仕事に対し、短期間ながら高いレベルで仕上げた。

 彼女が写真撮影を初めて体験したなどと思うものは、カルデアを除き誰一人として存在しなかった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 続いてジャンヌ。

 小道具に大きな旗は無く、ジャンヌ・ダルクのあの姿は再現できない。

 

「………………。」

 

 故に、祈る。

 彼女は敬遠な神の使徒。

 神に祈り、その声を聞いた聖女。

 

 目を閉じ、祈り、ゆっくりと目を開ける。

 

 その動作の中で、プロのカメラマンはシャッターチャンスを逃すことなく撮る。

 本物の聖女の祈りは、それだけで十分な美しさを語る。

 暗いステージでスポットライトに照らされていることでさえ、天から降りてきた光のよう。

 

 ジャンヌ・ダルクの本質。

 聖女としての敬虔さを、見事に表現しきっていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 そしてマシュ。

 

(宣材写真……。アイドルの顔……。どんな表情なら、私に仕事を任せてくれるのか……)

 

 その思考は正しい。

 ただの写真撮影ではなく、宣伝の写真である。

 なら自身のアピールだけではなく、相手側の目線に立つことも重要だ。

 

(私なら、どんなアイドルにお願いしたいか?)

 

 まず思い浮かべたのは彼女にとっての目標。

 島村卯月をはじめとしたアイドル達。

 彼女たちは、どんな表情をしていたのか?

 

 可憐(キュート)

 冷静(クール)

 情熱(パッション)

 

 どれも間違ってないが、根本的なものではない。

 ならば、――――。

 

 

 

 

 

「アイドルの島村卯月です!」

 

 

 

 

 

 笑顔。

 見ていてこちらが嬉しくなるような。

 思わず応援したくなりそうな。

 素敵な笑顔。

 

 だけど、笑顔は簡単な技術じゃない。

 いつでも笑顔でいられるというのは、もはや才能だ

 ぎこちない、付け焼刃の笑顔では論外。

 かといって、緊張が邪魔して心からの笑顔を浮かべるのが難しい。

 

 何か、笑顔になれること。

 

 自分が、一番強い笑顔になれたとき。

 

 マシュ・キリエライトが、一番嬉しかったとき。

 

 

 

 ああ、なら簡単だ。

 あの時を思い出せた。

 一番嬉しかった感情。

 もう緊張は無い。

 そうだ、ちゃんと撮ってもらわないと。

 かつてと同じ笑顔(かお)になる。

 

 

 

 先輩を助けることができたときの事を。

 

 

 

 大切な人と一緒にいられた時の表情(かお)を、記録してもらうように。

 

 

 

 大事な人と共にいられる。

 そんな当たり前で尊いものを、皆に知ってもらうために。

 

 

 

「大切な人と、どうか一緒にいられますように…………」

 

 

 

 声に出した。

 ほとんどの人からは、アピールの一環だと思われただろう。

 それは、彼女の願い。

 祈りではない、心からの想い。

 

 

 

 マスターと、ここにいるすべての人への、――――――メッセージ。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「これですべての撮影は終了。カメラマンさん、ありがとうございましたー!」

 

 瑞樹の言葉の後、ありがとうと復唱し手を振る参加者達。

 どうやら、杏ときらりは残るようで、アイドルは徐々に増えていく方式らしい。

 

「じゃあ、次の審査に移るわね。その審査を発表してくれるアイドルに登場してもらいましょう!」

 

 スポットライトが移り、照らし出されたのは二人のアイドル。

 一人がギターを手に、その音色をかき鳴らす。

 最後の音が止んだとき、会場から歓声と拍手が沸きあがる。

 

「はーい!みなさーん!盛り上がってますかー!私、ウサミンです!」

 

 さらに歓声が上がり、それを促したのはウサ耳をつけたアイドル。

 ウサミーン!と、声援が届き「キャハッ!」とポーズを決める。

 

「楽しんでくれてるかー!次の審査、紹介しちゃうぜ!」

 

 木村夏樹と安部奈々。

 本格ロッカーとウサミン星人。

 属性としては真逆とも言えるアイドル。

 彼女達が紹介する審査が何なのか、想像がつきにくい。

 

「お願いするわ。では、次の審査の内容をどうぞ!」

 

「「次の審査は――――」」

 

 お互いの顔を見合し、息を揃える

 すうぅ、と息を吸い、大きな声で発表する。

 

 

 

 

 

「「歌唱力テストです!!」」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 歌。

 どんな個性を売りにしているとしても、アイドルならば必ず行う仕事。

 アイドルであれば、歌をイメージするのはもはや常識。

 アイドルの基礎中の基礎であり、CDデビューはアイドルを目指す少女達の目標だ。

 

「このテストでは、事前に皆さん自身で決めてもらった曲をカラオケで歌ってもらいます」

 

「点数はつけない。あくまでここにいる観客のみんなの耳と心に残るように歌ってもらう」

 

 これはどうなるのだろう。

 そうマスターは思う。

 彼女達が歌っているとこなど、見たことがない。

 そもそも、曲を知っているのかどうか疑問だ。

 しかも、他の参加者たちは346プロダクションのアイドル達の曲を選択するだろう。

 観客にとっても知っている曲であり、共感しやすい。

 

 これは、マシュ達にとって大きなハンデだ。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 予想通り、ここまでほとんどの人がアイドルの曲を歌ってきた。

 知った曲であるため、その歌に合いの手を入れてきた観客達。

 ショート版で行われてきた、アイドルの卵達のライブ。

 そしてついに、アルトリアの番が来た。

 

「………………」

 

 スタンドマイクの前に立ち、目をつぶるアルトリア。

 すると大きく息を吸い、――――――歌い始めた。

 

 

 

「――――――♪」

 

 

 

 聞き入る観客。

 驚くカルデア。

 アルトリアが歌っている曲。

 

 その曲名は、――――「Never say never」。

 

 渋谷凛の持ち歌でありソロ曲。

 わずかな時間による事前練習だけでのぶっつけ本番。

 雰囲気がアルトリアに合っており、彼女自身も楽しそうに歌う。

 

 ここまでの参加者達に比べれば、技術や経験は劣る。

 しかし、楽しそうに、嬉しそうに歌う。

 

 

 

 思わず、応援したくなるほどに。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ジャンヌもまた、アイドルの曲を選択した。

 

 高森藍子の「お散歩カメラ」。

 

 ゆるふわとした藍子をモチーフとした曲であり、彼女のユニット「ポジティブパッション」のメンバーのソロ曲の中では比較的ゆったりとした曲。

 そしてその曲を歌うジャンヌは、――――見事だった。

 もともとは村娘である彼女は、聖歌を歌う機会も多かった。

 もちろん、アイドル曲との相違点も多い。

 

「――――――♪」

 

 そんなことはわかっている。

 カラオケに行く機会があったり、ボイストレーニングを行っているほかの参加者と比べれば誇れる技術ではない。

 

 だが、イメージする。

 かつて、ただの村娘だった頃。

 野を駆け回り、歩き回った日常のこと。

 美しい空、流れていく雲。

 流れていくそよ風の匂い。

 カフェやカメラは無かったけれど、楽しかった思い出。

 

 ああ、出来るなら。

 その思い出の光景を、皆に知ってほしい。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 マシュは他の二人よりも、練習できる時間が短かった。

 当然だ、アルトリアとジャンヌは睡眠を必要としない。

 結界で参加の続行を決意してから、寝ることなく練習できたのだ。

 睡眠を必要としたマシュは、二人よりもさらに分が悪かった。

 

 前奏が流れる。

 

 選択した曲は「ラブレター」。

 

 卯月の所属するユニット、「ピンクチェックスクール」のユニット曲。

 少女の恋心を、手紙にして送る気持ちを歌った曲。

 

「――――――♪」

 

 技術は拙い。

 悪くはないが、他の参加者と比べれば見劣りしてしまう。

 プロのアイドル達の歌を聞きなれた観客であれば、なおさらだろう。

 歌うマシュの表情は、笑顔。

 歌うこと自体が楽しくて仕方ないという姿。

 

 気持ちを伝えたい。

 恋かどうかはわからないが、自分の気持ちを、好きだという気持ちを伝えたい。

 

 曲が終わる。

 終わってしまう。

 楽しかった、まだ終わりたくない。

 でも、そのときはやってきた。

 

 歌い終わった。

 後は残りの伴奏のみ。

 

 

 

 まだ時間があるのなら、最後に一言だけ。

 

 

 

「受け取ってくださいね、先輩」

 

 

 

 最後に行われた、曲の歌詞には無いアドリブ。

 観客から声援が上がる。

 ありがとう、との声も聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 マシュの笑顔は、歌の最後まで途切れることは無かった。

 

 

 

 

 



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第7章 アイドルミスコン本選 決着

 いよいよ次が最終審査。

 それを紹介してくれるアイドルが入場する。

 

「こんにちはー!」

 

「私達ー!」

 

「ニュージェネレーションズです!」

 

 最後のアイドルたちは卯月、凛、未央。

 登場した彼女達に、アイドル全員が傍による。

 

「ここまでの審査、皆さんお疲れ様です」

 

「最後の審査は、私達アイドルと一緒に行います」

 

「観客の皆さんも一緒に楽しんでくださいね」

 

 すると、打ち合わせ通りに指定された立ち位置につく。

 アイドルも参加者も全員。

 一人一人に間隔があり、動けるスペースを作っていく。

 観客も予想できた人が出てきたらしく、早めに歓声をあげる。

 

 ここまでの審査を振り返る。

 第一審査、宣材写真(ビジュアル)

 第二審査、歌唱力テスト(ボーカル)

 そして、最終審査――――

 

 

 

 

 

「最終審査はステージダンス!」

 

「私達と一緒に、歌って踊って楽しみましょう!」

 

「それでは聞いてください!」

 

 

 

 

 

『GOIN!!』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドル達が踊る。

 その卵達も踊る。

 サーヴァントも踊る。

 

「――――――♪」

 

 楽しそうに、嬉しそうに。

 この場にいる人物の中で、ステージを楽しめない人物などいない。

 観客やカルデアを含めて、一人残らず熱中する。

 プロではない参加者は、時折ミスをしたりタイミングがずれたりする。

 いかに身体能力が高かろうと、カルデアの三人とて例外ではない。

 しかし、事前に誰かに言われているからか、深く気にすることは無い。

 少なくとも今は。それよりもこのステージを楽しみたい。

 

「――――――♪」

 

「―――!―――!」

 

 シンデレラが歌う。

 ファンが合いの手を入れる。

 会場のすべてが盛り上がる。

 舞台裏のスタッフも、事務員も、プロデューサーも。

 彼女達のステージを見て聞いて。

 楽しい気持ちになる。

 嬉しい気持ちになる。

 

 

 

 

 

 今この時、ステージ上にいるのは彼女たちは、一人残らず――――――シンデレラガールになっていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 これにて、すべての審査は終了した。

 

 最終結果は、全観客の投票にて行われる。

 

 休憩時間を兼ねて、マークシートによる投票結果がスタッフにより回収されていく。

 

 集計の間、壇上で行われるアイドルたち含めたトークショー。

 

 ついにその時はやってきて、結果がモニターに表示される。

 

 

 

 

 

「第1回シンデレラガールコンテスト!栄えある優勝者は――――――」

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「じゃあ、皆お疲れ様でした!乾杯!」

 

『乾杯!!』

 

 場所は東京都内のレンタルキッチン。

 レストランなどではアイドル達が人目につくため、このような場所を借りていた。

 参加しているのは、カルデアとアイドル達。

 

 

 

 名目は、――――お疲れ&残念会。

 

 

 

 三人は優勝はおろか、表彰台に上がることもなかった。

 四位以下が公開されていない為、何処にランクインしたかもわからない。

 だがこれは、順当な結果と言えよう。

 マシュもジャンヌもアルトリアも、魅力的であった。

 笑顔も良かった。

 可愛かった、格好良かった、情熱的だった。

 

 だがやはり、――――――技術が付いていけなかった。

 

 相手の多くは、アイドルを目指して長年努力してきた少女達。

 一日二日で追い越せるほど、甘い道のりではなかったのだ。

 

「大変でした……。でも、楽しかったです」

 

「ええ。今まで、人前に出たことはありましたが、それとはまた違う想いを持ちました。アイドルを志す少女の気持ち、少しだけ解った気がします」

 

「聖女や王と慕われるのとは違う、等身大の自分を見てもらい、好きになってもらう。本当にすごいですね、現役のアイドル達は」

 

「いやまあ、そこまで言われると照れるんだけどね」

 

「私も。でも私、最初はアイドルに興味は無かったんだ」

 

「凛さんが、ですか?」

 

「うん、スカウトだったんだ。でも、今は続けてよかったって思ってる。大変なこともあるけど、ライブとかちゃんとやりきったとき、すごく楽しいんだ」

 

 →「確かに楽しそうだった」

 

「まあね。あと遅くなったけど、声援ありがとう。3人もお疲れ様」

 

「ましゅましゅも可愛かったし、アルちゃんもカッコよかった!ジャンヌさんもすごかった!」

 

「皆さん、とっても素敵でした!」

 

 今日のステージを労うニュージェネの三人。

 それに続き、マシュ達を称える新たなアイドル。

 

「ほーんと!皆、はぴはぴしてすっごく良かったにぃ!」

 

「お疲れ様。後はゆっくり休みなよ、杏も一緒に付き合うからさ」

 

「杏ちゃん、明日もお仕事だよ」

 

 いつもどおりマイペースな杏を嗜めるアイドル。

 此度のステージで、杏の相方だった諸星きらり。

 ニュージェネと杏がこの会を提案したところを発見し、誘われる形でついてくる事となった。

 カルデア側からしても異論は無く、こうして参加しているのだ。

 

「さて、談笑を楽しんでいるところ申し訳ないが、ぜひ食事も楽しんでもらいたいね。せっかく作った料理が冷めてしまう」

 

「あっ、すいませんエミヤさん。じゃあ早速、いただきます」

 

「いっただっきまーす!」

 

 いつの間にか用意が済んでいたテーブルの上。

 そこに並ぶエミヤ特製の料理とあっては、逃すわけにはいかない。

 テーブルの上に並んだご馳走。

 魚介の香り漂うパエリア、脂弾けるローストチキン、色鮮やかで特製ドレッシングのかかったサラダ、旨みたっぷりのクリームシチュー。

 食後には紅茶とケーキが出てくるという至れり尽くせり。

 

「すっごくおいしい~!」

 

「エミヤさん、すごい料理上手です!」

 

「そう言ってもらえると作った甲斐がある」

 

 エミヤの料理はプロ級だ。

 カルデアにおいて、料理長を担う彼の腕は折り紙つき。

 ましてや、ここは食材豊富な現代日本。

 その中でも、様々な食材が集まりやすい東京。

 もとよりこのレンタルキッチンもエミヤの発案であり、嬉々として調理に取り掛かっていた。

 完全に水を得た魚。

 かつて、食材や調味料に制限がかかっていたカルデアでも十分美味な料理だった。

 

 →「今まで食べたエミヤの料理の中で一番おいしい!」

 

「おいしいです。これが、エミヤさんの全力なんですね」

 

 鬼に金棒、エミヤに包丁である。

 なお、エミヤの包丁は投影によるバッタもんだが。

 

「……………」

 

 アルトリアなど、もはや無言。

 言葉を出している暇があったら、次の一口を進める。

 行儀よく食べ進めてはいるが、もうおかわり寸前である。

 

「ん~!」

 

 ジャンヌもまた、料理に舌鼓を打つ。

 どうやらシチューが特にお気に入りらしい。

 

 

 

 食後のティータイムも終え、心地よい満足感に陶酔する一同。

 満腹感が心地よく、ついつい寝てしまいそうになる。

 

「エミヤさん。おいしい料理、ありがとにぃ!皆も、きらりを誘ってくれて嬉しかった!」

 

「お粗末様。礼なら結構、良い表情で食べてくれれば、料理人冥利に尽きる。」

 

 →「どういたしまして。それに、きらりさんもステージお疲れ様」

 

「きらりでいいよ。こっちこそ、応援ありがと!」

 

(みな)良い表情(かお)だった。結果こそ伴わなかったが、ステージとしては成功だろう」

 

「珍しいですね、アーチャー。貴方がそのように褒めるなど」

 

「いや、流石に私も素直に感想ぐらい言うぞ。でなければ、労いの為に腕を振るったりはしない」

 

「む、それもそうですね。確かにいつも以上に美味しかった」

 

 →「皮肉屋のエミヤが素直になる。アイドルってすごいね」

 

「マスター!?貴様もか!?」

 

 

 

 誰かが笑い出し、それが波及する。

 楽しく笑う、悔しさを洗い流すように。

 短期間とはいえ、全力で取り組んだアイドル業。

 全力だったからこそ、やっぱり悔しい。

 

 でも笑おう、楽しかったんだから。

 

 悔し涙ではなく、笑い涙を流す。

 

 

 

 

 

 

 日もとっぷり暮れ、全員が帰宅するまで。

 みんなの笑顔が途切れることは無かった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 十二時の鐘が鳴る。

 

 平和な世界が反転し、一部の者のみがそこを認知する。

 

 深夜に繰り広げられる結界の舞台。

 

 影が蠢く。

 

 かつての戦いを再現するように。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 深夜の結界に再び招かれたマスターたち。

 既にアイドルの四人とも合流し、プロダクションにて作戦の確認である。

 

『念話でのブリーフィングは覚えているね。今一度確認だが、今まで第一、第二特異点とシャドウサーヴァントが続いてきた。ならば、次は必然第三特異点以降のシャドウサーヴァントがいると見て間違いないだろう』

 

『どの特異点の敵とあたっても、決して楽ではない。理想は、新しいアイドルを先に見つけることだね』

 

「今まで通り、私が先行及び索敵だな」

 

 エミヤの視力は、アーチャーのため当然いい。

 常人離れしているくらいだが、遮蔽物の多い東京では完全ではない。

 見つけられるかどうかは、あくまで運次第。

 

「あの、手分けして探したらどうかな?」

 

 凜が挙手し発言する。

 確かに、人数が増えた為以前よりも余裕があるだろう。

 シャドウサーヴァントを含めれば数は20を超える。

 

 →「止めた方が良いと思う」

 

「なんで?」

 

 疑問をぶつける未央。

 彼女達にしてみれば、一刻も早くアイドル達を探し出したい。

 そんな焦りも多少影響しているかもしれない。

 確かに、探すならば手分けして、そのほうが効率は良いだろう。

 だが、それができない理由はもちろんある。

 

『単純に危険だからだ。手分けしたほうが探すのには効率がいい。けど、それは戦力の分断につながる。平和な都市を探すのとはわけが違うからね』

 

「わかった。そういう理由があるなら」

 

「せっかく見つけても、一緒にやられちゃったら本末転倒だもんね」

 

 しっかりとした理由をもって諭した為、引き下がる凜と未央。

 カルデアの面々とて心配している。

 共にステージに立った人や、まだ会った事のないアイドル達が危険かもしれない。

 だからこそ、しっかりと作戦を固める。

 生霊だから、やられても死ぬわけではないからと思うような人物は誰もいない。

 

 全員の気持ちは一つ。

 見つけ出して助ける。

 

 

 

 準備を終えた面々は、深夜の東京へと繰り出して行った。

 

 

 

 

 



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第8章 夜の街の世界

 深夜の結界。

 エミヤがビルの上を伝って索敵を行う。

 星明りの中、ぞろぞろと進む多くはシャドウサーヴァント。

 前回に引き続き、第二特異点のメンバーだ。

 

『報告しておこう。アイドルサーヴァント達についてだが、一つ仮説がある』

 

 →「仮説?」

 

『アイドル達の記憶と記録のことさ。昼の間に接点を持ったアイドル達の様子を見たが、特におかしい点は無かった』

 

「はい。夢見が悪いとか、悩んでいる様子は見受けられませんでした」

 

『そうなると、現実で記録を保持しているアイドルには共通点がある』

 

「……なるほど。確かにそのようです。当たり前といえば当たり前でした」

 

『では、答え合わせといこう。よろしく、アルトリア』

 

「任されました、ダ・ヴィンチ。記録を保持しているアイドルは、島村卯月、渋谷凛、本田未央、双葉杏。時期的に考えてみても、マスターと仮契約を行うことで現実と繋がりができるのでしょう。いわば、マスターとのパスが現実と結界の間に出来た道になっているのです」

 

『これまでの条件が揃っている。状況証拠から考えて、まず間違いないだろう』

 

「ということは、他のアイドルの皆にもう会いに行かないんですか?」

 

 卯月の疑問はもっともだ。

 会いに行ったところで、仮契約をしなければ結界のことを覚えていない。

 ならば、そこから情報を得ることも、先に待ち合わせをしておくことも出来ない。

 

『いや、幸いにも卯月ちゃん達に会えたことは大きい。出来れば交流を深めたいね。私たちカルデアが、信頼してもらえるようになる』

 

「アイドルに会うって、結構難しいからね」

 

「でも、流石に私達のプロダクションには入れないかな。関係者以外立ち入り禁止だから……」

 

 シンデレラガールコンテストは終わった。

 こうなると、もう現実でアイドルに会うのは難しい。

 卯月たちから紹介するわけにもいかないだろう。

 カルデアとの交流は、いわばプライベート。

 個人での人間関係を、他のアイドルに押し付けるわけにはいかない。

 

「あ!そうだ!こんなのはどうかな!?」

 

 声を張り、勢いよく挙手した未央。

 どうやら、何か案があるようだ。

 

「私たちは、しまむーのお友達って形で最初に会った。なら、そのシチュエーションをそのまま使えばいいんだよ!」

 

「ってことは、まず卯月がマシュ達と遊んでもらう。そこに、偶然を装って私達が合流するってこと?」

 

「そうそう!しぶりん理解が早い!」

 

『それはありがたいね。事前に何処に集合と決めておけば、ばったり会うことも難しくない』

 

「でも、問題が一つあるんだよね。ましゅましゅ達と会うまでは良いんだけど、立香さんやエミヤさんがいると、流石にそのまま遊ぶのは難しいかも……」

 

 未央の懸念。

 アイドルであるからには、プライベートでは気を使うのが当然。

 特に男性とは、友達であったとしてもそう簡単には遊べない。

 その人物が恋人持ち、あるいは既婚者だったとしても。

 人の良さは関係ない。

 ただ男性であるというだけでスクープの対象になる。

 グループでいても同じこと。

 上手に写真を編集されて、すっぱ抜かれるだけだ。

 

「あくまでアイドル達がそういう意識を持っているから、エミヤに認識阻害の魔術を使ってもらうわけにもいかない。しかも、そんな事をすれば流石に異変に気づくでしょうし……」

 

『まあ、その作戦ならマシュ達だけで行ったとしても十分だ。その案はありがたくもらっておこう』

 

 ダ・ヴィンチちゃんがそう締めくくる。

 

 

 

 

 

 すると、ちょうどエミヤからの念話が入る。

 敵影を確認したと。

 

『これは……、数が多い!シャドウローマ兵と同じ、敵はシャドウサーヴァントだけじゃない!』

 

「こちらも目視で確認しました。敵は、――――影となった海賊です」

 

 →「やっぱり第三特異点か!」

 

 こちらに襲い掛かろうと向かってくる影。

 その多くは、オケアノスで会った海賊の影。

 ドレイクの部下、ボンベもいるようだ。

 奥には、それを従えるシャドウサーヴァントもやってくる。

 総勢、15体。

 二人組の海賊アン・ボニー&メアリー・リード。

 血斧王、エイリーク・ブラッドアクス。

 海賊黒髭、エドワード・ティーチ。

 狩人と女神、オリオン&アルテミス。

 ゴルゴン三姉妹の次女、エウリュアレ。

 雷光の怪物、アステリオス。

 女海賊、フランシス・ドレイク。

 麗しの女狩人、アタランテ。

 イスラエルの王、ダビデ。

 トロイアの英雄、ヘクトール。

 コルキスの王女、メディア・リリィ。

 コルキスの魔女、メディア。

 アルゴー船の船長、イアソン。

 そして大英雄、ヘラクレス。

 宝具を使用できない為、船は無い。

 海賊達を筆頭に、各々の好き勝手に殺しに来る。

 しかし、こちらにとっては最悪の布陣がある。

 あろうことか、アルゴー船の面々がヘラクレスを全力で援護している(・・・・・・・・・・・・・・・)

 作戦ではないだろう。

 シャドウサーヴァントにそんな思考は無い。

 だが、考えている時間は無い。

 

「――――――!」

 

 声も無く、こちらのシャドウサーヴァントであるネロ・クラウディウスが剣を地面に突き立てる。

 すると、新たに影が生まれてくる。

 その形は、ローマ兵。

 

『馬鹿な!シャドウサーヴァントは宝具を使用できないはず!ましてや、セイバーのネロに軍勢を率いる宝具は無いはずだ!』

 

「しかし現実で起きている!どうやら味方らしい、考えるのは後だ!」

 

「対シャドウサーヴァント戦!先輩、指示を!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 戦場の大部分は、ローマ兵対海賊。

 もしくはシャドウサーヴァント同士の戦い。

 その中で、最も激しい戦い。

 カルデアVSアルゴー船団。

 二人のメディアによって強化され、本能のままに暴れまわるヘラクレス。

 十二の試練(ゴッド・ハンド)こそ使えないだろうが、もとより一度殺すこと自体が高難易度。

 シャドウサーヴァント化による劣化も、強化魔術で相殺されている。

 

壊れた幻(ブロークンファ)――くっ!?」

 

 それに加え、ヘクトールの援護。

 ヘラクレスを援護し、そのヘクトールをヘラクレスが庇う。

 単純に速く、そして強い。

 カルデアも卯月の強化を受けている為、劣勢ではない。

 しかしその戦闘に、アイドルたちは近づくことすら出来ない。

 せいぜいがサポート。

 アイドル達が宝具を使おうとすれば、たちどころに狙いを変更し襲い掛かってくるだろう。

 それを自覚している為、彼女たちは他のシャドウサーヴァント達を相手にしている。

 その甲斐があってか、そちらのほうは優勢のようだ。

 

「くっ!このままじゃ勝負がつきません!」

 

「魔力の消耗が激しい。たとえ勝ったとしても、疲弊が大きすぎます!」

 

 ジャンヌのいったとおり、このままいけばカルデアは勝てるだろう。

 ヘラクレスとは互角でも、他が決着がつけばこちらに加勢し、押しつぶせる。

 いかに大英雄だろうと、シャドウサーヴァント。

 宝具による不死がなければ、どんな攻撃でも無視できない。

 必ず隙ができるし、時間稼ぎも出来る。

 ただ、それはこちらの消耗を無視した場合での話。

 カルデアやマスターの魔力とて無尽蔵ではなく、集中力が切れて思わぬ被害を被る可能性もある。

 たとえ無事でも、そこに他の特異点の援軍や魔神影柱が現れれば最悪だ。

 カルデアにとって、この戦いは通過点に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 ――――街を照らす赤き月よ。

 

 

 

 

 

 →「この声は!?」

 

『サーヴァント反応あり!シャドウではない、アイドルの援軍(・・・・・・・)だ!』

 

『霊基照合。いや、まて、これは本当にアイドルなのか!?』

 

 

 

 

 

 ――――目覚めし魔王の鼓動。堕天使の翼にて魂を導く。

 

 

 

 

 

 →「何があったの!?」

 

『今霊基を確認した。が、このクラスはありえない(・・・・・)!』

 

 

 

 

 

 ――――呪われし右手には炎、聖なる左手には氷を。

 

 

 

 

 

 →「ありえない?」

 

『ああ。おおよそアイドルには似つかわしくない。いいかい、彼女のクラスは――――――』

 

 

 

 

 

 ――――見よ!これぞ、わが領域!わが世界!

 

 

 

 

 

『――――アヴェンジャーだ!!』

 

 

 

 

 

「闇の力に慄け!月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 月が、変わった。

 目に見えて空間が赤い(・・)

 綺麗な月夜といっていい満月は、禍々しい赤い光を降らしている。

 それ以外に変わったとすれば、今までの街の戦闘痕が消えている。

 

「これは、――――そうか!」

 

 エミヤが、いち早くこの宝具を理解した。

 街の破壊が消え去ったのではない。

 街そのものが入れ替わっている(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「マスター、この宝具は――――固有結界だ」

 

 

 

 瞬間、ヘラクレスが爆ぜた。

 

 

 

「――――――!?――――――!!」

 

 

 

 爆ぜたのは表面的なもの。

 ヘラクレスに対して降り注いだ爆炎。

 無論、それで終わりではない。

 

 

 

 降り注ぐは、多種多様な攻撃。

 爆炎、氷塊、雷撃、刀剣。

 大英雄に向かって、上空より放たれた援護射撃。

 

「今です!」

 

 不意に放たれた攻撃は、ヘラクレスに決定的な隙を作る。

 

「やぁっ!」

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

 三人の斬撃。

 生まれた隙に対して、同時に叩き込まれた攻撃は大英雄の霊核を砕いた。

 

「――――――」

 

 消え去るヘラクレス。

 程なくして、戦闘は終了した。

 となれば、関心を持つ対象は新たなアイドル。

 

 

 

 その人物はゆっくりと降りてきた。

 そう、彼女は飛行している(・・・・・・)

 それを証明するように、背中にあるのは白と黒の堕天使の翼。

 赤い月が戻り、固有結界が解除される。

 元に戻った月が照らすその姿。

 服装は、卯月たちと同じスターリースカイ・ブライト。

 地面に降り立った彼女はその翼を消す。

 真っ直ぐこちらを見据え、大きな声で言い放った。

 

 

 

 

 

「我が名は神崎蘭子!運命にて邂逅した星見の魔術師達よ、闇に飲まれよ!」

 

 

 

 

 

「……………はい?」

 

 

 

 

 

 闇に飲まれよと言われたが、喧嘩を売られたわけでは無いだろう。

 にしては、悪意が感じられないし、こちらに対してすっごい笑顔を向けている。

 

 彼女の名は、神崎蘭子。

 数多のアイドル達の中でも、特に強い個性である「中二病系アイドル」。

 本物の魔術師や英雄との遭遇に、彼女のテンションは絶賛うなぎのぼり中。

 事情を知っているこちらのアイドル達は、「あ~……」という表情をしていた。

 

 

 

 新たに仲間になるであろうアイドルに対し、初邂逅の衝撃が抜け切れないカルデアの面々であった。

 

 

 

 

 

 なお補足だが、蘭子が言った言葉を翻訳すると

「私は神崎蘭子です。初めましてカルデアの皆さん、そしてお疲れ様です」

 という、自己紹介と挨拶である。

 

 

 

 

 



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期間限定ピックアップ召喚サーヴァント紹介 2

真名:シンデレラ(双葉杏)

クラス:ライダー

レアリティ:☆4

 

好きな言葉は不労所得。目指すはもちろん印税生活という、ダメ人間まっしぐらなニート系アイドル。大好物は飴玉。

そんな彼女の気質に反して、基礎的な能力は非常に優秀。

アイドルとしての笑顔の使い方がうまく、仕事の覚えるスピードも早い。

間違いなく天才肌ではあるが彼女が使いたがらないため、あまり発揮されない。

しかし、彼女自身はアイドル業に対してちゃんと向き合っているし、楽しいと感じているようだ。

アイドルの仲間たちのことも好ましく思っているので、多少サボりはするが、辞めるとは言わない。

なお、普段からウサギソファーを愛用していたり、諸星きらりに抱えられているからか、ライダークラスとなっている。

 

宝具:いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 

コマンド:Arts

 

敵全体に高確率でスタンを付与&チャージを減らす<オーバーチャージで確率アップ>+自身の弱体状態を解除+敵全体の防御力をダウン<オーバーチャージで効果アップ>

 

「超個性的なニート系アイドル!絶対働きたくないぞ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(諸星きらり)

クラス:バーサーカー

レアリティ:☆4

 

日本人女性でありながら、高身長でスタイル抜群という稀有な体格のアイドル。

可愛いものが大好きで、そのためか本人は自身の体格をコンプレックスに思っている。

献身的で、周りに気を配れて頼りになる頑張り屋さん。

バーサーカーであるが、意思の疎通はまったく問題がない。

独特な口調をしているが、すぐに慣れることができる。

ただ、可愛いものを見つけたときなどにおける暴走が強調される形として、クラスの影響を受けている。

体格やクラス補正もあり、アイドルにしては身体能力が高め。

周りからのイメージによる影響もあるのだが、双葉杏を軽々と持ち上げたり、Pの背中をバンバン叩くなど、本人によるところも垣間見える。

 

宝具:????

 

コマンド:Buster

 

敵全体の防御力と攻撃力をダウン<オーバーチャージで効果アップ>+敵全体に強力な攻撃

 

「かぅわいいものだーいすき!今日も皆ではっぴはぴ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(神崎蘭子)

クラス:アヴェンジャー

レアリティ:☆4

 

所謂中二病と呼ばれる言動、趣向を好む個性的なアイドル。

彼女の言葉はさまざまな比喩や言い回しをしているため、非常に難解。

そのため神崎蘭子と接する場合、まず言葉を理解することが必要となる。

高飛車な口調をしているが、内面はおとなしく素直ないい子。

仲間に対する思いやりや、仲間意識も人一倍強い。

そのため、本来はアヴェンジャーの適性はない。

中二病が現世、世界への反逆と捉えられたこと、原典のシンデレラにアヴェンジャー適性があったことが理由だと予想されている。

名前の響きの格好良さだけで選ばれた可能性も無きにしも非ず。

 

宝具:月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)

 

コマンド:Buster

 

敵全体に強力な秩序属性への特攻攻撃<オーバーチャージで特攻威力アップ>

 

「選ばれし瞳を持つ偶像の魔王!さあ、闇に飲まれよ!(大人気な中二系アイドル!今日もお疲れ様です!)」

 

 

 

 

 



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第8章 夜の街の世界 2

新たに登場したアイドル、神崎蘭子。

彼女はサーヴァントとして召喚された際に、自身の記憶に知らないはずの単語があることに気づいた。

 

聖杯戦争、魔術師(まほうつかい)、サーヴァント、英霊、クラス、結界、魔神影柱、カルデア。

 

異様な知識に対し、初めは戸惑った。

だが、情報を精査していき、次第に歓喜した。

自分がサーヴァントになったこと。

自分が常々考えていた超常足る力を、振るうことが出来る様になったと。

 

だが、その直後にそんな自分を恥じた(・・・)

 

ここには、他のアイドル達がいる可能性がある。

シャドウサーヴァントという危険な存在が跋扈するこの空間で、この状況を喜んではいけないと。

みんな怖がっているかもしれない、不安になっているかもしれない。

喜ぶのは後だ。

後でみんなを見つけてからだ。

自分の意思とは別に、高揚する感情を抑えながら神崎蘭子は飛び回った。

探した、とにかく探し回った。

もう遅いのかもしれない、間に合わないのかもしれない。

嫌な想像を前に、最後には泣きそうな顔になった。

幸いにも、飛行している自分に遭遇する敵はなく。

 

 

 

大英雄と戦闘を繰り広げるカルデアと、合流するに至った。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

そんな彼女の葛藤と事情があり、合流した際の安心感と、英雄との邂逅による高揚が同時に笑顔となって吹き出たのだ。

これから苦楽を共にするカルデアに対し、気合十分な自己紹介。

 

「あの…………すみません。なんて言ったのか、解らないんですが……」

 

マシュの言ったとおり、蘭子の自己紹介は通じなかった。

蘭子からしてみれば、本物の魔術師であれば飛鳥と同様に理解してくれるのかと期待していたが、見事に空振ったようだ。

 

「なんと!我が言霊を、真なる魔術師であるそなた達が読み解けぬというのか!?」

(私のしゃべり方、本物の魔術師さんたちでもわかんないんですか~……)

 

「あの~、蘭子ちゃん?私達が通訳するから、ね」

 

「蘭子の言葉は難しいからね~。私達なら慣れてるけど、初対面の人には少し厳しいかな~」

 

卯月がフォローし、杏が解説する。

カルデアからすれば、彼女は未知のアヴェンジャーであり、何かあるのでは?と思っていたようだが。

 

「…………うん……わかった……」

 

どうもこっちが素のようだ。

彼女達の様子を見る限り、根は優しい人物のようである。

 

 

 

 

 

自己紹介も終わり、蘭子がカルデアについて理解している事を確認した上で、やはり話題となるのはクラスについてだ。

 

『クラスについては、あまり深く考える必要は無いね。ダ・ヴィンチはずいぶん驚いていたようだが』

 

『うっさいホームズ。あの情報を見れば、誰だって面食らうだろうに』

 

『確かにアイドルとはかけ離れているクラスだね。しかし、それを言うなら他のアイドルだって同じことさ』

 

→「卯月達か!?」

 

『正解。魔術師の適正はアイドルには無い。だが、シンデレラのほうには関連がある。かけたのではなく、かけられた側だったとしても関連は関連だ』

 

→「発明家も作家も水着の王妃様もいるしね」

 

『そういうこともあって、クラスに関しては今更な気もするがね。私とて探偵でありながら、もともとはキャスターだったわけだ。まあ、そうでなかったとしても、シンデレラがアヴェンジャーとなるのは至極自然なことだよ』

 

「原典におけるシンデレラを迫害した義理の姉は、目を潰されたという記述もあります。派生が多い作品なので、あくまでその一つなんですが」

 

『アサシンもそういう関連かもしれないね。ライダーは馬車に乗る記述からわかりやすい。本来詠唱によってクラスをコントロールできるバーサーカーはともかく、三騎士や他のエクストラクラスにも適応されたアイドルがいるかもしれないから、覚えておくといい』

 

→「どんなクラスでも驚かない、だね」

 

驚いたりして思考がそれで止まっては、戦闘時には隙になる。

シンデレラが三騎士として召喚されるとは考えにくいが、事前にそういうことを知っておけば慌てることは無いだろう。

そのように心得ておくことに越したことは無いのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

神崎蘭子との仮契約。

それがちょうど終わったところ。

スキルを見る限り、やはり蘭子のアヴェンジャー適性は本人のものではない。

クラススキルである「復讐者」もEランク。

「真のアイドル」も所持しているようだ。

 

「仮初の契約は、今ここに結ばれた。怯える偶像たちに光をもたらす為、いざ我等が魂の赴くままに!」

(仮契約完了ですね。怖がっているアイドルの仲間を助ける為、一緒に頑張りましょう!)

 

→「うん、一緒に頑張ろうね」

 

「…………あれ?マスターさんは、らんらんの言ってること解るの?」

 

→「なんとなく?」

 

「なんで、疑問形?」

 

凛のツッコミはもっともだが、マスター本人もほとんど勘のようなものなので言語化は出来ない。

マスターからの返答を得て、蘭子はプルプル震えていた、歓喜に。

 

「《瞳》の持ち主たる、我が新たな友よ!我から闇の祝福を捧げようぞ」

(私を理解してくれるんですね、マスターさん!本当にありがとうございます!)

 

カッコよい表情を作ってはいるが、若干ニヤケが隠しきれていない蘭子。

ちなみに、蘭子との意思疎通ができているのは、仮契約によるパスが繋がっていることも一因だ。

もっとも、様々な意味で難解である英雄達と関わってきたマスターだったからこそ、理解できているのかもしれない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「うわぁっ!このゆれは!」

 

突然だった為、素に戻った蘭子が発した言葉は、この後の敵を理解しているようだった。

カルデアとアイドル達も、この遭遇は三度目。

 

 

 

魔神影柱、合計九体。

 

 

 

ヘラクレスの後の連戦という、最悪のタイミング。

魔力の消耗が回復する前に、現れてしまった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「闇の力を受けよ!」

(これでも、くらえー!)

 

「こっちだこっちだ。杏に当てられるなら当ててみろー」

 

飛行が出来る二人が飛び回り、魔神影柱を撹乱する。

こちらのシャドウサーヴァントはもはやジリ貧。

まともに機能しておらず、烏合の衆と成り果てている。

 

「ああ!もう!これじゃあ、宝具を撃つ暇なんて無いよ!」

 

「魔神影柱も、私たちの宝具が危険だって理解しているんだ」

 

未央の愚痴に対し、的確な予想をした凜。

こちらも、アイドル達は情報を共有している。

魔神影柱もその可能性があるだろう。

思考能力が無かったとしても、持っている情報に対し本能的に行動しているのかもしれない。

これはつまり、これから戦っていく魔神影柱はどんどん自分達の動きを理解していくということ。

 

「くっ、我の宝具もまた、展開には暫しの時を必要とする」

(私の宝具も、使うのには時間がかかります)

 

「私も使いたいけど、流石に暇が無いかな」

 

撹乱している二人と、前衛を務める三人は負担が大きい。

ニュージェネの三人も、隙を見ては攻撃しているが、決定的なダメージにはならない。

やはり、戦闘直後による魔力の枯渇が問題だ。

遅れてきた蘭子や、温存していた杏はまだ余裕があるようだが、使う隙が無い。

 

「マスター、余力はありますか?出来るなら、私の約束された勝利の剣(エクスカリバー)を使います。このまま長期戦をするのは、私達には不利です」

 

→「何とか一発、もたせてみせるよ!」

 

「頼もしい言葉です。アーチャー!ジャンヌ!活路を開いてください!この戦い、私が決着をつけます!」

 

「了解した。せいぜい良い路を作るとしよう」

 

「任せてください。アイドル達の援護もあります、失敗する気はありません」

 

アイドル達を援護を受けて、勇猛果敢に攻めるエミヤとジャンヌ。

魔力の不足など、英雄である彼らが立ち止まるいい訳にはならない。

エミヤはその技量で、ジャンヌは防御を転じた攻撃で時間を稼ぐ。

 

「――――――!」

 

アルトリアに集中する魔力に気づいた魔神影柱。

しかし、それを阻むは英雄とアイドル。

 

「私、も。えい!やあ!」

 

「宝具じゃないけ、ど!」

 

「未央ちゃんの一撃、くらえー!」

 

放たれる魔力弾は、今出せる彼女達の全力。

直撃によって、魔神影柱の動きが一瞬止まる。

 

 

 

「束ねるは星の息吹――――」

 

 

 

それが決め手となった。

 

 

 

「輝ける生命(いのち)の奔流――――」

 

 

 

今再び、常勝の王の剣が決着をつけんと振るわれる。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

 

 

 



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第9章 宝具の衝撃

 放たれた約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 卯月の宝具によって強化されたその一撃は、魔神影柱をまとめて吹き飛ばした。

 

「――――――!!」

 

 もはや残骸というべき状態から、崩れ落ち消滅していく。

 最後の足掻きとばかりに暴れるが、それはむなしく空を切る。

 空中にいた蘭子と杏も、残骸から距離をとって安全を確保した。

 

「油断しないでよ~。ちゃんと消えるまで確認しないとね」

 

「心得ておる。心配は無用」

(大丈夫、わかってるよ)

 

 最後まで気を抜くことなく、すべての魔神影柱の消滅を確認した。

 目の前に残っているのは、もはや破壊痕のみである。

 

「魔神影柱、消滅を確認。戦闘終了です、先輩」

 

 →「おつかれさま、みんな」

 

「はい!おつかれさまです!」

 

「う~。今回は未央ちゃんあまり活躍できなかった~」

 

「そんなにふてくされないの。サーヴァントになったとはいっても、私達は戦いの素人なんだから」

 

「わかってはいるよ。でも、やっぱり足手まといにはなりたくないから……」

 

「いえ、足手まといなどではありません」

 

「そうですよ。騎士王の宝具が間に合ったのは、皆の功績です。貴方達の援護がなければ、確実ではなかったかもしれない」

 

「こちらからすれば、それだけでもありがたい。ヘラクレスの時も、他の場所での奮迅は助かった。あれが無ければ、もっと苦しい戦いになったはずだ。なあ、マスター?」

 

 →「皆頼もしいよ」

 

「……えへへ。いや~、そこまで言われると照れるんだけど」

 

「現金だなぁ、未央は」

 

「未央ちゃんですから」

 

 談笑する一同。

 それに合流しようと降りてくる杏と蘭子。

 

「しかし誇り高き王の剣、その力は真であった!」

(アルトリアさんの聖剣、すっごくかっこよかった!)

 

「まあ、本物の英雄、しかもアーサー王だもん。蘭子の気持ちもわかるよ」

 

 最強クラスの宝具。

 それも彼の有名なエクスカリバーとあっては、蘭子の興奮も当然だ。

 杏もまた、ゲームなどでも良くモデルとなる剣の実物に対し、蘭子に共感している。

 早く実際に話を聞きたいと、そわそわしている蘭子。

 

 

 

 

 

 バアアアアアアァァァァン!!

 

 

 

 

 

 そんな彼らに対し、突如魔神影柱が現れた。

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

 アルトリアの宝具は、破壊の規模が大きい。

 そしてそれは、目くらましになりやすいことでもある。

 宝具からギリギリ逃れ、地中へと回避した。

 魔力不足による威力低下もあったのだろう。

 いつ消えてもおかしくない程に追い詰めたが、倒し損なった。

 しかも、他の魔神影柱の残骸を吸収したのか、回復までされている。

 機を伺っていたのだろう魔神影柱は、もう既に攻撃態勢に入っていた。

 自身の無事を度外視した、捨て身の一撃。

 

 

 

 その身を叩きつけようと、倒れるようにこちらに向かってくる魔神影柱。

 

 

 

「――――や」

 

 

 

 迎撃の隙も無く、襲い掛かってくる。

 

 

 

 

 

 ドゴオオオォォン!!

 

 

 

 

 

 その魔神柱は、何かに殴り飛ばされた(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「――――はい?」

 

 

 

 

 

 魔神影柱は言わずもがな巨大。

 そんな敵を殴り、あまつさえぶっ飛ばした。

 

「こ―――」

 

「これは!?―――」

 

 殴り飛ばしたのは、堂々とした佇まい。

 至る所に付けられたリボン。

 髪はツインテールにまとめられている。

 何よりも、圧巻なのはその大きさ。

 

 

 

 

 

「待たせたにぃ」

 

 

 

 

 

 マスターが見上げるほどに大きい、その存在は――――。

 

 

 

 

 

 →「巨大ロボットだああぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 実にメカメカしい姿をしていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「ロボだよロボ、巨大ロボットだよ!」

 

「先輩の目が、未だかつて無いほどに目がキラキラしています!?」

 

『日本男子はこういうの好きだからねぇ~』

 

「あのロボットって……」

 

「……あれだよね?」

 

「あれですね」

 

「左様だな」

(そうですね)

 

 マスターが巨大ロボットに目を輝かせる。

 ロボットを見て、知ってるから余計に混乱しているアイドル達。

 

「……あ~、来たんだね~」

 

 一人落ち着いて、冷静に現状を見る杏。

 

 そんな彼らに対し巨大ロボット、ではなく、その肩に乗った人物から声がかかる。

 

「ちょっと待っててにぃ。あとは、きらりにおまかせだよぉう!」

 

 若干遠い為、はっきりとは見えないが姿は確認できた。

 スターリースカイ・ブライトを着るその人物は、服装は違えどロボットと似通っている。

 まず間違いなく、新たなアイドル。

 

 しかし、あまりにも宝具が予想外すぎるのだが。

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 そんな事情は、魔神影柱には関係ない。

 新たに現れた邪魔者を排除しようと、きらりへと襲い掛かっていく。

 

「いっくよぉ~!」

 

 そんな状況にもかかわらず、恐れを抱くことなく立ち向かうきらり。

 

 

 

 

 

「ガンガン敵を打ち砕け!」

 

 

 

 

 

 ロボットが構える。

 こぶしを振るわんと、敵を見据え迎え撃つ。

 

 

 

 

 

「ドンドン希望湧いてくる!」

 

 

 

 

 

 加えて、ロボの目が光りだす。

 それは、ロボの主力である必殺の一撃。

 

 

 

 

 

「それいけ!発進!鋼鉄公演きらりんロボ!(きらりん☆びーむ&なっくる)

 

 

 

 

 

 メインウェポンであるビームと、鋼の拳の合わせ技。

 きらりの宝具の真名開放をもって、魔神影柱との戦闘に勝利した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「みんな~、おっつおっつ~!怪我とかない~?」

 

「は、はい……。幸い、大怪我を負った方はいません……」

 

 巨大ロボの手によって降ろされた彼女。

 近くで見れば、エミヤに迫る高身長。

 髪は様々なアクセサリーでデコられている。

 どうやら、見覚えがあるアイドル。

 

 諸星きらり。

 

 シンデレラガールコンテストでは、杏と共に審査発表を行っていたアイドルだ。

 お疲れ会にも参加しており、カルデアとは既に面識がある。

 ロボットのインパクトで気づかなかったが、このしゃべり方にも覚えがある。

 

 →「ねえ!あのロボットは何!?」

 

 興奮気味にマスターが指差すのは、彼らの近くで佇む巨大なロボット。

 オカルトではなく、SF的な意味で現実感の無い光景だ。

 

「あれは、きらりが造った『きらりんロボ』!っていう設定のロボだにぃ」

 

「設定、とは?」

 

「あ~、ジャンヌの質問には私が答えるよ~」

 

 杏曰く、あのロボットは当然現実に存在する兵器ではない。

「きらりんロボ」。

 とあるイベントによって生まれ、その内容はきらりが演じる科学者でありパイロットが作り上げたという設定だ。

 ストーリーや設定もいくつかあるのだが、今回は割愛。

 きらりが関わる企画の中でも、屈指の人気を誇る企画である。

 

「何がどうなって、それが宝具になるんでしょうか……」

 

『そりゃあ、ファン達による逸話だろうね』

 

「あっ、はじめましてぇ。私きらり!これからよろしくにぃ!」

 

『ああ。よろしく、きらり嬢。知ってるかもしれないが、私の名はシャーロック・ホームズ。以後よろしく』

 

「……にょわー!きらり『嬢』だって~!」

 

『喜んでもらえるなら何より。さて、話を戻そう。宝具と言うのは、サーヴァントが過去に成した偉業、功績、大罪などが語り継がれ、逸話となって昇華するものだ。彼女達アイドルの場合、ファンからの応援がそれにあたる』

 

 →「そっか。人気企画だもんね」

 

『そう。そのような形で逸話が昇華され、宝具と化したのだろう』

 

「私達も、その影響を受けてます」

 

「自分のソロ曲が宝具の名前になってるから」

 

「たしかに、言われてみればそうだよね」

 

 卯月、凜、未央、杏の宝具は、自身のソロ曲が真名解放の名前となっている。

 蘭子の場合は異なり、ソロ曲の名前は使われていない。

 が、彼女の趣味全開の固有結界なので、ファンからのイメージと無関係では無いだろう。

 きらりもまた、形式が違うだけで根本は同じなのだ。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 そろそろ時間も過ぎた。

 午前六時が迫っている。

 結果として今日の探索では、蘭子ときらりが仲間となった。

 成果は上々。

 もう時間もあまり無いので、話題は日中の事となる。

 

「私達は、明日お仕事なんです」

 

「めんどくさいけど、夏休みは仕事が多いんだよね~」

 

「時間が取れるとしたら、明後日になるかも」

 

「残念だが、その時では私は魔力を高められない」

(私、明後日は休みじゃないですね)

 

「きらりも~」

 

「明後日は、私たちニュージェネはお休みだよ。でも、他のアイドル達はどうかな~?ほら、前に言った鉢合わせしよう、って話」

 

『それについては確認が取れ次第、念話で連絡してくれないかな』

 

「うん、いいよ!」

 

『いい返事だ。カルデアは、此度の日中は休息にあてよう。アイドル達も忙しいだろうし、連絡が取れたら、作戦会議にしようか』

 

 →「了解!」

 

「働きたくないけど、しかたないね」

 

「にょわ?杏ちゃん、今回はやる気?」

 

 いつもよりは、と但し書きが付くが。

 

「流石に、杏もサボっちゃいけない仕事(コト)の分別ぐらいつくよ。他のアイドルも見つけなきゃいけないし」

 

「……。にょわー!杏ちゃん、(やっさ)しぃ」

 

「ぐっ。タップタップ……」

 

 感極まり、抱きしめるというよりは締め上げるという形で杏を持つきらり。

 補正もあるのだろうが、筋力Bは伊達ではない。

 

 

 

 

 

「じゃあ、また念話で連絡を下さい。それでは、また」

 

「まったにぃ~」

 

「闇に飲まれよ!」

(お疲れ様でした!)

 

「じゃあね~」

 

 きらり、蘭子、杏が光の中に消え、現実世界へと帰還する。

 

「おつかれさまです、皆さん。また、明日」

 

「また明日。ゆっくり休んでね」

 

「まったねー!次も未央ちゃん、大活躍しちゃうよ〜!」

 

 卯月、凜、未央も同様に帰っていく。

 今日の探索は終わった、誰一人欠けることなく。

 だが、まだ強敵は多いだろう。

 不安も恐怖もある。

 

 →「明日も頑張ろうね、皆」

 

 だがそれは、顔には出さない。

 楽では無いだろうが、頼もしい仲間達がいる。

 頼りになる、アイドル達がいる。

 

「はい。先輩」

 

 これからの苦難に対し、彼らは前を向いていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界は繰り返す。

 

 舞台を作る。

 

 セットを作る。

 

 アイドルを作る。

 

 それ自体に意思は無く。

 

 ただシステムのように作動するだけ。

 

 結界に感情は無く。

 

 型に嵌った動きをするのみ。

 

 

 

 

 



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マテリアル 神崎蘭子

マテリアルが更新されました。


英霊召喚

 

「我が名は神崎蘭子!しかと覚えよ」

 

 

 

真名:シンデレラ(神崎蘭子)

 

クラス:アヴェンジャー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:EX

魔力:B

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:156cm・41kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・熊本

 

属性:混沌・善 性別:女性

 

「煩わしい太陽ね。我が友たるマスターよ、共に、我が魂の赴くままに突き進もうぞ!」

(こんにちは。これから一緒にがんばりましょうね、マスターさん!)

 

プロフィール

 

所謂中二病と呼ばれる言動、趣向を好む個性的なアイドル。

彼女の言葉はさまざまな比喩や言い回しをしているため、非常に難解。

そのため神崎蘭子と接する場合、まず言葉を理解することが必要となる。

高飛車な口調をしているが、内面はおとなしく素直ないい子。

仲間に対する思いやりや、仲間意識も人一倍強い。

そのため、本来はアヴェンジャーの適性はない。

中二病が現世、世界への反逆と捉えられたこと、原典のシンデレラにアヴェンジャー適性があったことが理由だと予想されている。

名前の響きの格好良さだけで選ばれた可能性も無きにしも非ず。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

覚醒魔王A 自身のNPを増やす+自身のスター集中度をアップ&クリティカル威力をアップ(3T)

 

ローゼンブルクエンゲルEX 自身のバスター性能をアップ&アーツ性能をアップ&クイック性能をアップ(3T)+自身の攻撃力をアップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

忘却補正(善)A 自身のクリティカル威力をアップ

 

復讐者E+ 自身の被ダメージ時に獲得するNPをほんの少しアップ

 

自己回復(魔力)A 自身に毎ターンNP獲得状態を付与

 

宝具:月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)

ランク:A+

種別:結界宝具

コマンド:Buster

敵全体に強力な秩序属性への特攻攻撃<オーバーチャージで特攻威力アップ>

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

 

覚醒魔王A

 

織田信長が持つスキル「魔王」の派生。

本来は、生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物であり、所有者は能力や姿が変貌してしまうスキル。

このスキルが派生し、自身のイメージによって自在に能力や姿を変貌させることができる。

織田信長と同じく、自身を魔王と自称しているため任意発動。

ただし、あまりにもファンのイメージからかけ離れた姿は再現できない。

彼女自身が思う「カッコいい」姿、あるいは「似合う」姿であるならばほぼ再現可能。

神崎蘭子はこれを使い、自身に堕天使の羽を生やすことを好む。

これによる移動が主であるため、「飛行」による規格外として敏捷がEXランク。

見た目だけだが衣装にも応用可能で、着ている服を変化させてオシャレする事もできる。

 

ローゼンブルクエンゲルEX

 

神崎蘭子の固有である世界観がスキルとなったもの。

さまざまな魔術や魔力放出、防御結界を擬似的に再現する。

炎や雷、闇の力、剣の投影などが主な攻撃手段だが、再現度という意味ではエミヤを始めとした英霊達には一歩及ばない。

万能性が高いが、それは消費する機会が多いということであり、結果的には燃費が悪い。

しかし、素での攻撃手段をあまり持たない蘭子にとっては、非常に有用なスキル。

彼女も気に入っており、己のイメージを存分に振るうことができる。

 

忘却補正(善)A

 

アヴェンジャーのクラススキル。本来は恨み辛みを忘れない、復讐者の記憶力。

しかし、神崎蘭子は恨みをぶつける相手もおらず、望んでなどいない。

でなければ、スキル「真のアイドル」を保有していないだろう。

彼女の場合、応援してくれるファンや共にがんばる仲間を忘れないための補正であり曲解。

恨みではなく、恩を忘れないためのスキル。

 

復讐者E+

 

自身の被ダメージ時に獲得するNPをほんの少しアップ

 

申し訳程度のクラス補正。

強いて言うなら世界への反逆という、中二チックな憧れ、言動。

恨みを溜めやすく、負の感情を力にするが殆ど機能していない。

ただし、味方に何かあった時には起こした相手に対し、強い感情で憤激するだろう。

仲間のために怒ることができる、とても優しい彼女らしい解釈である。

 

自己回復(魔力)A

 

復讐を遂げるまで、動き続けるための補正。

繰り返すようだが、蘭子には復讐の素養がほとんどない。

解釈としては、自身の抱く目標にたどり着くまで止まることはない、というもの。

このスキルは彼女の戦法と非常に相性がいい。

魔力消費が激しい蘭子にとって、助けになるスキルだろう。

 

宝具:月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)

ランク:A+

種別:結界宝具

 

彼女が獲得した固有結界型の宝具。

神崎蘭子の世界観たる空間に、強制的に引き込まれる。

Nacht Stadt Welt 直訳で「夜の街の世界」。

闇夜に染まる都会を、赤い満月が照らす結界。

この固有結界が一度機能すれば、彼女は月から魔力を無制限に使用でき、秩序属性の相手には赤い満月による呪いによって、与えるダメージが増大する。

彼女が敵と認識していなければ、味方であっても秩序属性のものは影響を受けない。

この宝具の真価は他の英霊、とりわけアイドルサーヴァントと組んだときに発揮される。

コンビ、あるいはユニットを組むことで、固有結界の世界観が変化する。

季節が冬へと変わったり、雨が降ったり、あるいは荒廃した廃墟となる。

はたまた、まったく異なる舞台になることもある。

また世界観によって、固有結界内で使用する技にプラスかマイナスの補正がかかる。

冬であれば氷や水系統が強まり、逆に炎などが弱体化する。

ユニットと相性のいい補正は、確実にかかるものと考えていい。

なお、神崎蘭子のみの固有結界に補正はなく、結界そのものにも直接的な攻撃力はない。

彼女の世界観を象徴しながら、他者との関わりを重んじる彼女らしい宝具である。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 ゴシックロリータ

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 薔薇の闇姫

 

 

 

 

 



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行間 一

 346プロダクション、その事務所の一つ。

 アイドルたちの主な集合場所であり、憩いの場。

 休憩で利用することもあれば、仕事における連絡事項を直接伝える場としても使われる。

 そこへ、一仕事を終えたアイドル達が帰ってきた。

 

「お疲れ。あれ?蘭子だけかい?」

 

 神崎蘭子とのユニット「ダークイルミネイト」でコンビを組んでいる、もう一人の中二病アイドル、二宮飛鳥。

 彼女が既に事務所にいた蘭子に対し、声をかけるが反応が無い。

 

「………………。」

 

 なにやら、一心不乱にノートへと記入している。

 集中している為か、飛鳥が入ってきたことにすら気づいていないようだ。

 

(いつものノート、かな?)

 

 蘭子は、自身の世界観をノートに字で、時には魔法陣(ずけい)で、もしくは絵で表現する。

 よく一緒にいることが多い飛鳥にとっては珍しい光景ではない。

 が、自分のことさえ気づかなくなるほど集中しているのは、ちょっとレアだ。

 

「蘭子」

 

 近くに寄って、声をかける。

 ここまで近づけば流石に気づいたようで、こちらへと振り向く。

 

「あ!飛鳥!っと、んんっ……。ユートピアへと帰還したようね。共に旅立った偶像たちも同様か?」

(《前略》事務所に帰ってきたんだね。皆も一緒?)

 

「ああ。撮影は終わったからね」

 

 飛鳥の言葉通り、一緒に戻ってきたアイドル達が事務所へと入ってくる。

 

 霊感アイドル、白坂小梅。

 カリスマJC、城ヶ崎莉嘉。

 パンクな鉤爪、早坂美鈴。

 そしてニート系アイドル、双葉杏。

 

 飛鳥もまた所属するユニット、「LittlePOPS」のメンバーたちである。

 

「蘭子ちゃん、おはよう!」

 

「煩わしい太陽ね、莉嘉」

(おはよう。莉嘉ちゃん)

 

「おは、よう…。今日も、ノート書いてるの?」

 

「左様。我は昨夜、闇の神による天啓を受けた。しかし、我の記憶は封印を受けた。今は、これを解呪しているのだ」

(うん。昨日の夜、いいことがあったの。でも、あまり覚えてないから。だから、こうして書き留めて思い出してるの)

 

「なんだ?いい夢でも見たのか?」

 

「ええ、当たらずとも遠からずよ、美鈴」

 

「そうか。邪魔して悪かったね、蘭子。ボクたちは好きにやってるから、キミは気にせず、自分のセカイを書き留めるといい」

 

「言われるまでも無い」

(うん。そうするよ)

 

 会話を終え、またノートへと没頭する蘭子。

 その集中力は、彼女達が入ってくる前と変わりないように見える。

 そこまでノートに書き留めたくなるようなことを考え付いたのか、と予想する「LittlePOPS」のメンバー。

 

「………………。」

 

 その中でただ一人、杏だけが沈黙を貫いている。

 彼女の視点から見れば記録だけとはいえ、彼の有名な英雄たちと肩を並べて共闘したのだ。

 しかも、現実へと帰還してから念話による会話まで可能となった。

 夢か幻かという虚構への疑いは、この事実だけで現実だと認識できた。

 ノートへと書き込みたくなるのは、蘭子の趣味からすれば当然の帰結だろう。

 

(しかも、それが実際有効なんだよな~)

 

 蘭子の持つスキル。

「覚醒魔王A」、「ローゼンブルクエンゲルEX」。

 これらのスキルは、彼女の世界観や想像力がそのまま蘭子にとっての手札となる。

 共に、蘭子の想像、世界観を具現化させるスキルであるためだからだ。

 結界の中だけとはいえ、ノートに書き込んだことが、実際に使用することが出来る。

 つまり、蘭子にとってこの行動は、そのままサーヴァントとしての研鑽そのものなのである。

 

(そりゃあ、張り切るよね~)

 

 だら~、としながら、考える杏。

 そう思っているうちに、他のメンバーはどうやら違う話題へと変わっていたようだ。

 

「そういえば…、プロデューサーさん、は?外回り?」

 

「あー、違うね。ボクは現場を実際に見てたから知ってるよ」

 

「ん?じゃあ、ドコいったんだ?」

 

「ちひろさんに連行された」

 

「えー!?Pくん、何かやったの!?」

 

「やったといえば、やっただろうね。……むしろ、またやったのか……というのが、ボクの感想さ」

 

「……………社泊か……」

 

「杏の言ったとおり。また社泊さ」

 

 346プロダクションは、福利厚生などはしっかりしている。

 テレビで報道されるような、残業手当も払わないブラック企業ということは一切無い。

 が、アイドルのプロデュースというのは、突き詰めてしまえばいくらでも仕事は湧いて出てきてしまう。

 やる気があるからこそ、仕事が増えてしまうのだ。

 しかも、現在は夏休み。

 普段は学校もあるアイドルたちが一日仕事に入ることも多くなり、夏休み特有のイベントも増える。

 年末業務さえ加わる冬休みよりはマシだが、企画しているイベントの数は夏休みのほうが上。

 需要も供給も増えると、仕事さえも増えてしまうのだ。

 

「たしかに、シンデレラガールコンテストも忙しかったし、まだまだ仕事は多いだろうけどさ……」

 

「それにどうやら、気になる人がいた様でもあったね」

 

「気になる人?誰?」

 

「さっきも美鈴が言ってた、シンデレラガールコンテスト。その参加者さ」

 

「あれ?あのコンテスト、参加者は…アイドル候補生、がほとんど、じゃなかった?」

 

「ほとんどと言うことは、一部は違うということさ。スカウト参加じゃない、応募での参加者でスカウトしたい人がいたそうだ」

 

「ということは見つけれてないんだ、Pくん」

 

「ああ。ずいぶん熱心な様子だった。が、ちひろさんの説教が効いたのか、今は仮眠中だ」

 

 なお。これだけやる気があるプロデューサーは、346プロダクションにおいては結構な数が存在している。

 程度の差こそあれど、自身がプロデュースするアイドルに対して、熱意を持たないものなど一人としていない。

 大企業とはいえ、これほどに人材に恵まれているのは幸運なことだろう。

 

 なお、スカウトしたいという人物に心当たりのある杏であったが、短い期間で確実に去ってしまう彼女たちを紹介するのは無意味と考えたからか、スルーすることにした。

 

「正直プロデューサー達さ、働きすぎだよね」

 

「杏のポリシーうんぬんは別にしても、同意見だよ。いつか、身体を壊すんじゃないか?ボクは心配だね」

 

「うん。私、も、心配」

 

「これに懲りて、Pくんもちゃんと休むように……ならないかな~」

 

「こういうのは、ウチたちからはっきりと言うべきだな!」

 

「賛成!Pくんが起きたら、抗議しに行こう、っと!」

 

 知らぬ間に、抗議運動が勃発してしまったらしい。

 各プロデューサー達は、担当アイドルたちを心配させてしまったとして、罪悪感から多少休むようになった。

 だが、またいつ無茶をするか。

 彼女たちは、なんとなく次の抗議運動を予感するのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデアのメンバーは、今日は休息に徹していた。

 マスターとマシュはしっかりと睡眠をとり、栄養のある料理を摂る。

 サーヴァントたちもそれに倣い、睡眠や食事で微量ではあるが魔力を回復していった。

 結界の手がかりが日中に見つからない以上、動き回って魔力を消費するよりは賢明だという考えからだ。

 睡眠もとりすぎれば逆に疲れてしまうので、ある程度して目を覚ました一同はアイドルたちについて調べることにした。

 もちろん、調べるのはシンデレラの名を冠するアイドルたち。

 彼女達が所属する、346プロダクションのことだ。

 

「すごいですね、先輩。皆さん、今までのアイドルたちに負けず劣らず魅力的です」

 

 →「しかも個性的だね」

 

「警官アイドルに、着ぐるみアイドル。忍者アイドルに、サイキックアイドル……」

 

「もう言葉を並べるだけで強烈だな。特に最後のはなんなんだ?」

 

「ユニットの組み方が、ずいぶん流動的ですね。常に一つのユニットだけがあるのではなく、別のアイドル達でユニットを組むこともあるらしいです。ユニットを複数持つことも、珍しいことではないみたいですし」

 

「まさに、個性の掛け算だな。これだけ流動性があると、メンバーのスケジュール調整だけで大変だろう」

 

 →「でも、どんなユニットになるのかワクワクする」

 

「はい。きっと、それが目的なのでしょうね」

 

 彼らが関わってきたアイドル達も、様々なアイドル達と共演している。

 ユニットにもいろんなテーマがあったり、時にはファンの要望から生まれたユニットもある。

 その多様性こそが、346プロダクションのアイドル達の魅力なのだろう。

 

 カルデアのアイドル談義は、もうしばらく続くのであった。

 

 

 

 

 



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マテリアル 双葉杏&諸星きらり

マテリアルが更新されました。


英霊召喚

 

「ふぁ~……。双葉杏……。できれば、あんまり働きたくないなぁ~」

 

 

 

真名:シンデレラ(双葉杏)

 

クラス:ライダー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:EX

魔力:C

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:139cm・30kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・北海道

 

属性:混沌・善 性別:女性

 

「いやだ!私は働かないぞ!」

 

プロフィール

 

好きな言葉は不労所得。目指すはもちろん印税生活という、ダメ人間まっしぐらなニート系アイドル。大好物は飴玉。

そんな彼女の気質に反して、基礎的な能力は非常に優秀。

アイドルとしての笑顔の使い方がうまく、仕事の覚えるスピードも早い。

間違いなく天才肌ではあるが彼女が使いたがらないため、あまり発揮されない。

しかし、彼女自身はアイドル業に対してちゃんと向き合っているし、楽しいと感じているようだ。

アイドルの仲間たちも好ましく思っているので、多少サボりはするが、辞めるとは言わない。

なお、普段からウサギソファーを愛用していたり、諸星きらりに抱えられているからか、ライダークラスとなっている。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

天性の才覚A 自身のNPを増やす+自身のスター集中度をダウン(3T)

 

ニート願望EX 自身に弱体無効貫通を付与&自身の弱体付与成功率アップ(1T)+自身に無敵を付与(1T) +次ターンに自身にスタンを付与(デメリット)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

騎乗EX(B相当) 自身のクイックカードの性能をアップ

 

宝具:いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Arts

敵全体に高確率でスタンを付与&チャージを減らす<オーバーチャージで確率アップ>+自身の弱体状態を解除+敵全体の防御力をダウン<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:1 Arts:2 Quick:2

 

 

 

天性の才覚A 

 

天賦の頭脳。天性の肉体の頭脳版ともいえるスキル。

彼女の計算能力はずば抜けており、膨大な計算も暗算で瞬時に処理できるほど。

加えて、肉体へのフィードバックも優秀で、物事の覚えや要領がいい。

しかし、彼女自身の肉体は高いレベルではないので、肉弾戦で発揮されることはほぼない。

これはサーヴァント化したことによって獲得したスキルではなく、彼女自身の能力がスキル化したもの。

魔力操作などに主に応用されたりしているが、本人がああ(・・)なので無駄遣いが多い。

 

ニート願望EX

 

彼女の主張、願望がスキル化したもの。

働きたくないという考えの下、効率のよい行動を選択できる。

さまざまな仕事において、やり直しをしたくないためか彼女はその殆どを一発OKでこなす。

EXランクで獲得しているため、未経験の事象ですらこなせる可能性を持つ。

しかし、やる気に応じて大きく効果が変動するためなど、ムラッ気が強いため「器用大富豪」とは相互互換。

彼女自身、アイドルとしてやっていくのは楽しいためか、あくまで名称は「願望」止まり。

彼女の個性らしいスキルである。

 

騎乗EX(B相当)

 

杏の騎乗スキルは、おおむね未央と変わらない。

が、彼女が普段乗っているウサギソファーをスキル「天性の才覚」によって改造し、自由自在に空を移動できるようにした。これが敏捷EXたる所以。

乗り物を改造するという点で評価規格外となったが、やはり彼女自身の騎乗スキルは英霊ほどではない。

しかし、彼女自身が天才肌のため、もしかしたらある程度の運転技術が習得できるかもしれない。

 

宝具:いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

ランク:A+

種別:対人宝具

 

敵に与える逆カリスマとでも言うべき宝具。敵全体の士気を大きく下げる。

幸運で判定を行い、失敗したものは一時的にではあるが、強制的に魔力枯渇状態へと誘う。

この宝具と好相性であるのが、スキル「ニート願望EX」。

もとより杏の幸運ランクは高く、効果を発揮しやすいがそれをさらに強化できる。

具体的に言えば、相手の幸運ランクや対魔力を無視できるようになる。

強力な防御宝具となると確実とは言いがたいが、それでも分は悪くない。

物理的な防御や宝具は意味を成さず、効果の発揮の仕方で言えばアンリマユの「偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)」に近い。

敵の判定は杏自身が認識しているかどうか。

味方を一切巻き込む事がないので、使い勝手がよく、本人のやる気次第では複数回発動も視野に入る。

杏にとっての敵とは、面倒な仕事そのものであり、それを一気に行動不能へと片付けかねない。

彼女の怠惰とも呼べる個性が宝具となっている。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 働いたら負けTシャツ

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 ぐうたら王国

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「きらり、きゅんきゅんぱわーで頑張るよ!これからよろしくだにぃ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(諸星きらり)

 

クラス:バーサーカー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:B

耐久:C

敏捷:D

魔力:D

幸運:A

宝具:A++

 

身長/体重:186cm・61kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「にゃっほーい!きらりだよ☆みんなではぴはぴするにぃ!」

 

プロフィール

 

日本人女性でありながら、高身長でスタイル抜群という稀有な体格のアイドル。

可愛いものが大好きで、そのためか本人は自身の体格をコンプレックスに思っている。

献身的で、周りに気を配れて頼りになる頑張り屋さん。

バーサーカーであるが、意思の疎通はまったく問題がない。

独特な口調をしているが、すぐに慣れることができる。

ただ、可愛いものを見つけたときなどにおける暴走が強調される形として、クラスの影響を受けている。

体格やクラス補正もあり、アイドルにしては身体能力が高め。

周りからのイメージによる影響もあるのだが、双葉杏を軽々と持ち上げたり、Pの背中をバンバン叩くなど、本人によるところも垣間見える。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

ましゅまろ☆キッスA 自身の攻撃力をダウン(1T)(デメリット)+自身のNPをすごく増やす

 

にょわにょわーるどEX 味方全体の強化成功率アップ(3T)+味方全体にそれぞれ確率で攻撃力&防御力をアップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

狂化C+ 自身のバスターカードの性能をアップ

 

宝具:発進!鋼鉄公演きらりんロボ!(きらりん☆びーむ&なっくる)

ランク:A++

種別:対巨大兵器宝具

コマンド:Buster

敵全体の防御力と攻撃力をダウン<オーバーチャージで効果アップ>+敵全体に強力な攻撃

 

Buster:3 Arts:1 Quick:1

 

 

 

ましゅまろ☆キッスA 

 

きらりの乙女心とコンプレックスの複合とも呼べるスキル。

彼女の趣味、嗜好に対し、高身長であることによる「自分には似合うわけがない」という感情。

しかし、自身が好きなものは好きと貫き、その姿勢を崩すことなく歩み続けた思いがスキルに昇華された。

効力は、自身のステータスの筋力ランクを一時的に魔力ランクと入れ替える。

このスキルにより、きらりは前衛、後衛を切り替えた戦略をとることができる。

たまに後ろ向きになることもあるけれど、きらりには前へと引き戻してくれる仲間がいる。

コンプレックスもまた、個性なのだと表したスキル。

 

 

にょわにょわーるどEX 

 

きらりの世界観、趣味、好みがスキルとなったもの。

自分のペースをつくり、他者をそれに適応させる。

味方の足並みを揃えるのに有効。いうなれば、どんな人物とも高いチームワークを取れるスキル。

他人との調和を重んじ、面倒見のいいきらりだからこそ獲得するに至った。

なおスキルが効きすぎると若干、彼女の口調が移る可能性がある。

 

狂化C+

 

バーサーカーのクラススキル。

理性は全く問題ないのだが、しゃべり方が独特な為、初対面だと意思の疎通が失敗することがあるのでこのランク。

可愛いものを見つけたり、照れ隠しをする際に一時的に少しだけ暴走することがある。

基本的には思考、理性、性格のいずれも問題は無い。

たまにではあるが、口調、思考が周りに影響することがある。

 

宝具:発進!鋼鉄公演きらりんロボ!(きらりん☆びーむ&なっくる)

ランク:A++

種別:対巨大兵器宝具

 

彼女が開発した(という設定の)、超巨大ロボを召喚する宝具。

もともとは、彼女が演じた科学者が作ったロボットで戦うストーリー。

人気のある企画であり、イベントや映画などにも使われていた。

無論、実在の兵器ではないが、人気企画であったためかサーヴァント化した際に宝具へと昇華された。

さまざまな武装という名の設定があるが、メインウェポンである「きらりん☆びーむあい」と「まかろん☆なっくる」の合わせ技を今回は真名開放として使用している。

他の武装も強力で、アイドルでありながら相手次第では鎧袖一触出来る。

しかし当然のごとく、魔力消費は強大であるため使いどころが限られる。

しかも、彼女自身の戦闘能力はサーヴァントの中では、決してずば抜けてはいない。

そのため、諸星きらりのサーヴァントとしての性能は非常にピーキー。

だが、非常に強力な宝具であることには変わりなく、使い方次第。

彼女が演じた作品であり、これもまた彼女の一つの個性。

本人もノリノリであり好きな企画であるため、超テンションMAXである。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 フリフリの私服

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 ぐれいと博士

 

 

 

 

 

 




杏のニート願望EXのCTは(12→10)です。


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期間限定ピックアップ召喚サーヴァント紹介 3

真名:シンデレラ(緒方智絵里)

クラス:キャスター

レアリティ:☆4

 

ナイーブな性格をしており、おどおどした話し方をする寂しがり屋なアイドル。

趣味は四葉のクローバー集め。特技は太鼓の達人。

支援・応援という意味合いでキャスタークラスとなった。

ずば抜けた身体能力や、何事にも動じないような精神力は持たないが、自分ができることを一つ一つ積み重ねていくことができる努力家。

四葉のクローバーのおまじないは彼女を代表する個性であり、そのためか幸運ランクがかなり高い。

好きな動物はウサギさん、小さい頃の夢はお嫁さんであり、庇護欲を沸かせるその気質から、ファンからは天使と呼ばれることも多い。

 

宝具:咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)

 

コマンド:Arts

 

味方全体に毎ターンHP回復状態を付与(5T)

+味方全体の防御力をアップ(5T)<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体にランダム及び低確率で「HP大回復とNPをすごく増やす」

 

「引っ込み思案だけど頑張り屋さん。天使のような優しいアイドル!」

 

 

 

真名:シンデレラ(三村かな子)

クラス:アーチャー

レアリティ:☆4

 

お菓子の好きなスイーツアイドル。本人の気質もふわふわとした優しいキュート系。

体型のことで話題になることも多いが、決して太っているとかではなく、標準的。

3サイズにおけるプロポーションが、見事なまでのボン・キュ・ボンでありながら、身長が153cmという結構なワガママボディ。

今回はマシュマロキャッチガンを持ってのアーチャークラスとなった。

通常弾はマシュマロではなく魔力弾で攻撃する。

趣味はお菓子作りであり、おすそ分けすることも多いがつまみ食いも多い。

それに加え、「美味しいから大丈夫だよ」という理由でお菓子を食べるという油断があるため、トレーナーからカロリーを控えるようにと言われてしまったりと、ぽっちゃりなイメージもあながち無関係ではない。

 

宝具:ふわふわで甘い一撃(マシュマロキャノン・ショコラティアラ)

 

コマンド:Buster

 

自身の宝具威力をアップ<オーバーチャージで効果アップ>

+敵全体に強力な攻撃

 

「あま~いものが大好き!ふわふわキュートな、お菓子アイドル!」

 

 

 

真名:シンデレラ(城ヶ崎莉嘉)

クラス:ランサー

レアリティ:☆4

 

カリスマを目指すギャルアイドルで、同じくギャルアイドルの姉がいる。今回はランサーで召喚された。

彼女の持つ槍は、先が刃ではなくカブトムシのツノの形状をしている。これは、彼女のカブトムシ好きが反映され、そのためランサークラスに当てはまることとなった。

セクシーで大人なギャルを目指すなど背伸びするところもあるが、趣味がシール集めだったりカブトムシにはしゃいだりと、子供っぽいところも目立つ。

どんなときでも自分らしさを忘れず、また忍耐強い一面もあったりと、芯の強い子でもある。

 

宝具:莉嘉の甲虫、大集合!(DOKIDOKIリズム・ビートル)

 

コマンド:Quick

 

自身のスター発生率をアップ<オーバーチャージで効果アップ>

+敵全体に強力な攻撃

 

「目指せカリスマ!積極的なちびギャルアイドル!」

 

 

 

真名:シンデレラ(赤城みりあ)

クラス:アーチャー

レアリティ:☆4

 

天真爛漫で元気のあるジュニアアイドル。趣味はおしゃべり。

社交的であり、かつ年相応の可愛らしさに溢れている。

今回彼女が武装としているのは、シャボン玉。筒から吹き出す魔力弾を攻撃手段として使用する。その元となっているのはみりあも歌った楽曲「shabon song」。

実は彼女はオリジナルメンバーではないが、宣伝時でのTV放映「胸キュン!シャボンストーリー!」の人気が高く、クラスに影響するに至った。

アーチャークラスの中でもかなりの変り種だが、アイドルの素質としてはかなりの正統派。

子供らしさも兼ね備えていながら、仕事に対する姿勢や目上への敬語、姉としての気構えができていたりとしっかりもの。なお、仲が良くなるにつれて敬語からタメ口へと変化する。

社交性はかなり高く、神崎蘭子と初対面で会話できるほどであり、仲間同士を繋ぐ架け橋のようなアイドルでもある。

 

宝具:舞い上がれ私のシャボン玉(ロマンティックナウ・バブル)

 

コマンド:Arts

 

味方全体に「確率で回避」を付与(1T)<オーバーチャージで確率アップ>

+敵全体にやや強力な攻撃

+自身の攻撃力・防御力をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

 

「天真爛漫な元気っ娘!そしてしっかり者のお姉ちゃん!」

 

 

 

 

 



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第10章 幸運の宝具

 時は再び訪れた。

 

 世界はまた切り替わる。

 

 再び挑むは世界を救った英雄。

 

 そしてこの世界のアイドル達。

 

 立ちはだかるは影の人形。

 

 かつての戦いを繰り返すように。

 

 彼らは、戦う。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 深夜の結界に集合した一同。

 346プロダクションにおいて、彼らはどの特異点のシャドウサーヴァントを連れて行くかを協議してきた。

 無論、今回においては満場一致といって良いだろうが。

 

『ヘラクレスを連れて行かない手は無いね。彼はシャドウサーヴァントの中では間違いなく最強戦力だ』

 

 シャドウサーヴァントにおいて、その強さを決定付けるのは基礎身体能力が多くを占める。

 いかに強力な宝具を持っていようと、シャドウサーヴァントは使用できない。

 技量を世に知らしめる英雄は、それを何の考えも無く振るう状態では弱体化が激しい。

 戦略を得意とする英雄など、理性なき状態では完全に得意分野が殺されてしまう。

 ヘラクレスであれば、身体能力は折り紙つき。

 狂戦士でもなお使用できた技量の喪失は痛いが、致命的ではない。

 戦略はもとよりバーサーカーなので今まで使用してきていない。

 こうなればダ・ヴィンチちゃんの言ったとおり、彼を連れて行かない理由は無い。

 

「はい。敵となれば手ごわいですが、味方ならばシャドウサーヴァントであっても心強いです」

 

 →「うん。たのもしいよね」

 

「今までのシャドウサーヴァントの中では、個々の戦闘能力という点では文句無い。……が、一つだけ気がかりがあるがね」

 

「対神攻撃、ですね……。かの大英雄は、間違いなく強いのですが、それゆえの弱点もあります」

 

「宝具は使用できないとはいえ、第七特異点には通常攻撃がその特性を持つ者がいます」

 

「大英雄とて無敵ではありません。油断せずに行きましょう」

 

 弱点はあるが、それはそれ。

 今まで強い敵を見てきたからこそ、その無敵が絶対のものではないと彼らは理解している。

 探索も四日目。

 今日もまた、アイドル達を探す為に346プロダクションを後にした。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「二人とも、大丈夫?」

 

『探してるけど、特別なものは見つかってないよ~』

 

『我が瞳に、曇りも異変も無い』

(異常は見つかってません)

 

 今現在いるサーヴァントの中で、飛行能力を持った蘭子と杏が上空から偵察を行っている。

 加えて、かなりの遠距離にわたって攻撃、援護の出来るエミヤもまたサポートしている。

 これにより、先制攻撃される機会は大幅に減ったと見て良いだろう。

 だが、縦横無尽に飛び回るわけにもいかない。

 アーチャーをはじめとした、対空攻撃を持つシャドウサーヴァントも存在している。

 遭遇する可能性は高くないが、同じく飛行能力を持った敵と遭遇することも考えられる。

 無理をしない程度に、リスクを避けて確実に索敵を行っていく。

 

「蘭子ちゃんたち、すごいですね」

 

「らんらんは納得とも言えるけどね。スキルで堕天使の翼を生やす。って、すっごくらんらんっぽいよ」

 

「杏ちゃんも、やれば出来る子だにぃ!」

 

「私たちも、油断せずに行こう。もしかしたら、隠れて襲い掛かってくるかもしれない」

 

「お~、アサシンの勘ってやつ?」

 

「ただの心構えだよ。それに私自身、何でアサシンなのかも分からないし」

 

「まあ、私もそうだしね。別に乗り物に対して特別な関係もないし」

 

『そこは解釈次第だよ。カルデアにも、暗殺者ではないアサシンや騎兵ではないライダーもいるからね』

 

「えっ?そうなんですか?」

 

 ホームズの発言に対し、意外ですと卯月が声を上げる。

 彼女たちからしてみれば、英雄や英傑の揃っているらしいカルデアの英霊達は、クラスにふさわしいプロフェッショナルたちだと思っていたからだ。

 しかし、クラスとはあくまで英霊の一側面。

 クラス適正も、様々な解釈があるのだ。

 

『前者には、女神ステンノ、処刑人シャルル=アンリ・サンソン、ファラオであるクレオパトラが代表的かな?』

 

「クレオパトラが、アサシン?王様、だよね?」

 

 世界三大美女の一角、日本でも有名であるクレオパトラに反応する凛。

 確かに、女王が暗殺者というのも、理解しがたい。

 

『当時及び後世にて、ローマの将軍を誘惑した、と口々に囁かれたからだね。事実は違うらしいが、結果としてクラスに影響を受けてしまった』

 

「ってことは、アイドルとしてファンを魅了しているからアサシン、なの?」

 

 自分で言ってて恥ずかしいのか、やや言いにくそうな凛。

 アイドルであるため当然の内容であるが故に、もしそうならばアイドル全員が適正を持っているということになる。

 

『もしくは、王子を恋に落としたシンデレラの方かもしれない。諜報、暗殺、潜伏、そして殺傷の技能を持つこと。これがクラスに選ばれる条件なのかもしれないね。解釈次第で、他にも条件があるかもしれないが』

 

「騎兵じゃないライダーには、誰がいるの?」

 

 自身のクラスからか、未央が質問する。

 その疑問の答えとして出てくるのは、彼女も良く知るビッグネーム。

 

『フランスの王妃、マリー・アントワネットだね』

 

「超が付く有名な偉人じゃん!」

 

『無論、王妃である彼女には騎兵としての逸話は無い。彼女の場合、逃亡に使われた馬車が宝具なんだ。騎乗スキルに関しても、神より授かった王権、フランス王家の象徴たる白馬の獣を乗りこなせるからだ』

 

「でも、私は馬どころか車だって運転できないよ?」

 

『以前チラッと話したが、シンデレラの馬車には御者がいるもの、なのだろうね。スキルの詳細でもあったように君の場合は運転してもらう騎乗スキルだ。ライダー適正は、シンデレラのものなのだろう』

 

 マリーとて、逃亡時の馬車は彼女が操縦していたわけではない。

 それが宝具にまで昇華されたのならば、ライダークラスの適正とて自身が操縦することが必須なのではないのだろう。

 探索する中、彼女たちのクラスやカルデアの英霊達のことを話す。

 

 

 

 しかして、その会話は中断を余儀なくされた。

 

『サーヴァント反応確認!数は二、だがこれは……』

 

 →「どうしたの、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

 言いよどんだダ・ヴィンチちゃんに詳細を尋ねるマスター。

 その回答は、別のところから答えられる。

 

 

 

『こっちも見つけたよ!シャドウサーヴァントが群がってる(・・・・・)!』

 

『完全に囲まれてます!』

 

 杏の話した内容は、アイドルのピンチを如実に表している。

 蘭子など、普段の口調さえ無くしている。

 それだけで、アイドルに迫った危機が伝わってくる。

 

 →「早く行かないと!」

 

 全員が、全力でその地点へと急ぐ。

 先行していた三人も、すぐさま救助と援護に向かう。

 

 

 

 

 

『魔力増大!これは……、宝具だ!追い詰められた二人のアイドルが、宝具を使用した!』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 第四特異点、ロンドンのシャドウサーヴァントたち。

 反逆の騎士、モードレッド。

 二重人格者、ヘンリー・ジキル&ハイド。

 天才科学者、ニコラ・テスラ。

 人造人間、フランケンシュタイン。

 蒸気王、チャールズ・バベッジ。

 頼光四天王、坂田金時。

 童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 劇場作家、ウィリアム・シェイクスピア。

 狐耳の巫女、玉藻の前。

 錬金術師、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 霧の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパー。

 不思議の国のアリス、ナーサリー・ライム。

 悪魔、メフィストフェレス。

 嵐の王、アルトリア・ペンドラゴン。

 合計十四体。

 円形に展開している彼らは、囲んでいるアイドルを攻めきれずにいた。

 攻撃を怒涛のごとく仕掛けるが、その防御を未だ崩せていない。

 

 

 

 

 

「働かない、全ての者達に告げる!」

 

 

 

「我々の正義の為に、今ここに宣言する!」

 

 

 

いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 

 

 

 

 

 杏の宝具が展開されると同時に、シャドウサーヴァントたちの動きが制限された。

 宝具、いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 杏が認識した(しごと)に対し、それを一時的に魔力枯渇による行動不能へと追い込む。

 一気に敵の動きを止め、その隙を逃さずシャドウサーヴァントを蹴散らしていく。

 

 杏の宝具による先制攻撃。

 

 今まで撹乱に徹してきた彼女は、ここにきてその真価を発揮した。

 宝具発動の際の隙も、先制攻撃ならば関係ない。

 きれいにはまった作戦は、次々と倒れていくシャドウサーヴァントが証明している。

 

 

 

 

 

 シャドウサーヴァントがいなくなったその先にあるのは。

 

 →「クローバー……畑?」

 

 円形に展開した、クローバーの絨毯。

 その中心にいるのは、二人のアイドルたち。

 祈るように宝具を使用していたアイドルと、手に持つ銃らしき飛び道具で援護していたアイドル。

 

「あの、ありがとう……ございます」

 

「助かりました、皆さん」

 

 キャスター、緒方智絵里。

 アーチャー、三村かな子。

 

 満面の笑みで、救助した皆を迎え入れていた。

 

 

 

 

 



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第10章 幸運の宝具 2

「あの、今、解除しますね」

 

 おどおどした少女がそう告げると、クローバー畑が消えていった。

 どうやら防御結界を張る宝具らしく、シャドウサーヴァントによる破壊の痕が結界の境目を作っている。

 

「二人とも、無事でよかったにぃ」

 

「きらりちゃん達こそ、助けてくれてありがとう。危ないとこだったよ~」

 

 きらりと談笑するのは、ふわふわした雰囲気を持つ少女。

 三村かな子。

 お菓子作りが趣味のアイドルで、好物も甘いお菓子。

 彼女の武装である、マシュマロキャッチガンがそれを表している。

 これは、テレビでも良く見かけるマシュマロキャッチなのだろうと予想をつけるマスター。

 事実、かな子はこういった企画にも縁があった。

 アーチャークラス適正としては無理やり感が無いことも無いが、もとよりアーチャー適性の範囲は広い。

 シンデレラにアーチャー適正があるとも考えにくいので、これはかな子がクラス適正を持った例なのだろう。

 

「智絵里ちゃんも無事でよかったです」

 

「ありがとう、卯月ちゃん。皆すごいね。あっという間だったよ」

 

 再びお礼を告げる少女、緒方智絵里。

 先ほど展開していたクローバー畑は、彼女の宝具によるものらしい。

 趣味も四葉のクローバー集めなので、まさにそれを表した宝具なのだろう。

 

 →「はじめまして」

 

「は、はい……。はじめまして……。緒方智絵里です。えっと、カルデアのマスターさん、……ですよね?」

 

「はじめまして、三村かな子です。皆さんにも助けていただいて、ありがとうございます」

 

 →「どういたしまして」

 

 記録の共有からか、友好的に接してくれる二人のアイドル。

 昼間に調べたこともあり、彼女たちの姿と名前は知っているマスター。

 自己紹介と仮契約はつつがなく進む。

 

「私たちも、皆さんの力になりたいです。この世界が危険かも知れないですし、アイドル達も助けたいですから」

 

「わ、私たちみたいに、襲われてしまうアイドル達がいるかもしれない、なら……私も、協力します」

 

 宝具で防いでいたとはいえ、怖い目にあっていた智絵里とかな子。

 だが、勇気を振り絞り、力強く宣言する。

 一人一人は決して力強いとはいえないが、人数が増えるたびに「皆とならできる」と思わせてくれるアイドル達。

「陣地作成C+++」という仲間と力を合わせるスキルを持つのも、アイドル達全員にそういう意識が根底にあるからなのだろう。

 

 →「こちらこそよろしく!」

 

「とても心強いです。共に力を合わせて頑張りましょう」

 

 アイドル達から勇気を貰い、快く返答するマスターとマシュ。

 これで、八人のアイドルが仲間になった。

 この結界では、敵となるシャドウサーヴァントや魔神影柱の数が多い。

 味方になるシャドウサーヴァントも増えていくが、いつまでもそれが続く保証も無い。

 これほどの規模の結界を張れる者が敵であるならば、戦力はいくらあってもいい。

 

 それに、今までの傾向からするのならば、近くに魔神影柱がいる可能性が高いのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 かくして、その予想は正しかった。

 既に予想がついていたからか、遭遇しても冷静に状況を判断した一同。

 魔神影柱、合計九体。

 突如現れるため、先制攻撃はできない。

 だが、此度はこちらも戦力は十分。

 心強い後輩、マシュ。

 百戦錬磨の英霊、エミヤ、アルトリア、ジャンヌ。

 味方のサポートに適した卯月。

 宝具による遠距離攻撃が可能な凛、未央。

 スキルによる様々な攻撃を行える蘭子。

 撹乱と援護を得意とする冷静な杏。

 とにかく強力な宝具を召喚できるきらり。

 影でありながら強力無比な、ヘラクレスをはじめとしたシャドウサーヴァントたち。

 それに加え、新たに智絵里とかな子も味方となった。

 戦況は、比較的有利に進んでいく。

 

「――――――!!」

 

 声は無くとも、威圧感を漂わせながら猛攻するヘラクレス。

 しかし、彼はあくまでシャドウサーヴァント。

 影とはいえ、魔神影柱九体との近接戦闘は、大英雄の身体に次々と傷を刻んでいく。

 

「ヘラクレスさん、頑張ってください!!」

 

 そう言いながら、かな子はヘラクレスを撃った(・・・)

 

「――――――!!」

 

 すると、撃たれたヘラクレスの傷が癒えていく(・・・・・・・)

 

 これがかな子の持つスキル、「おかしな国のおかし屋さんEX」。

 マシュマロの形状をした魔力弾を撃つことで、その対象の回復を行えるスキル。

 これにより、かな子は狙撃手と回復役を同時に行うことができる。

 

 そして、もう一人のアイドル。

 緒方智絵里は、再び宝具を展開していた。

 

 

 

「私の小さなおまじない」

 

 

 

「皆の助けになりますように」

 

 

 

「お願い!咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)!」

 

 

 

 

 

 再び咲き誇るクローバー畑。

 その境界には、強力な防御結界が展開される。

 内側にいる者には、防御と自然回復の恩恵をもたらす。

 

「ハッ!!」

 

 その内側から、狙撃を行うエミヤ。

 この結界は、智絵里が味方と認識している者の攻撃を通すことができる。

 

「未央ちゃんの一撃、くらえー!」

 

 それは、遠距離攻撃を行うサーヴァントにとって見れば、頼もしい盾となる。

 スキルによる魔力弾のチャージショット。

 EXランクのスキルによって放たれた攻撃は、魔神影柱を怯ませていく。

 

 智絵里の宝具の内側にいるのは、立香、エミヤ、卯月、凛、未央、杏、そしてかな子。

 近接戦闘を行うのは、アルトリア、ジャンヌ、マシュ。

 撹乱しながら攻撃を加える、蘭子、きらり。

 各々の好きなように動いていくシャドウサーヴァントたち。

 

 ゆっくりと、しかし確実に魔神影柱を削っていく。

 戦闘も終盤。

 カーテンコールの始まりは、クローバー畑から告げられた。

 

 →「あった!あったよ!」

 

 立香の手にあるのは、探し出した四葉のクローバー(・・・・・・・・)

 これを探し出すこと。

 それが、智絵里の宝具、咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)の真骨頂。

 

「ありがとうございます」

 

 その四つ葉のクローバーを、かな子に渡すマスター。

 目を瞑り願う。

 その願いに、四葉のクローバーは応える。

 

 かな子に魔力が溢れる。

 咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)

 クローバー畑から、四葉のクローバーを見つけ出した者に強力な魔力バックアップを施す宝具。

 その潤沢な魔力によって、かな子もまた宝具を展開する。

 宝具を準備するかな子の傍に、身を寄せるアイドル達。

 

 

 

「美味しいお菓子を一緒に食べて」

 

 

 

 かな子の宝具は、決して複雑なものではない。

 魔力による砲撃という、シンプルな対人宝具。

 その砲身である、身の丈を軽く超えるほどのマシュマロキャノンが出現した。

 

 

 

「力になってくれる人達がいる」

 

 

 

 しかし、この宝具にはとある特性がある。

 宝具の真名開放を、仲間と力を合わせて発動できるという特性を。

 卯月、凛、未央、杏、智絵里、そしてかな子。

 力を合わせたその宝具は、その分類を対軍宝具へと進化させる(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「皆で一緒に!ふわふわで甘い一撃(マシュマロキャノン・ショコラティアラ)!!」

 

 

 

 

 

「――――――――――――!!」

 

 

 

 

 

 アイドル六人の力を合わせた宝具による一撃は、消耗した魔神影柱ではひとたまりも無い。

 その一撃がトドメとなり、魔神影柱が崩れ去る。

 以前のように逃げられるということも無く、崩壊していく九体の魔神影柱。

 戦闘は終わった。

 幕を下ろしたのは、二つのアイドルユニット。

 

 

 

 卯月、凛、未央の「ニュージェネレーションズ」。

 

 

 

 そして、杏、智絵里、かな子の「CANDY ISLAND」のメンバーだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「戦闘終了。おつかれさまです、皆さん」

 

 →「お疲れ、マシュ」

 

「お、お疲れ様でした~……」

 

「き、緊張、しました……」

 

 戦闘能力が備えられていようと、戦場の空気を初めて体験した智絵里とかな子は緊張の糸が切れたようだ。

 もともと、二人は体力に自身があるほうではない。

 なお、ペース配分の上手い杏はケロリとしていた。

 こういうところは杏らしいし、実際有用な技術だろう。

 

「おっつおっつ!みんな、ぱーぺきだったよ!」

 

「皆の者、闇に飲まれよ!」

(皆さん、お疲れ様でした!)

 

 ピンチに陥ることなく、安定して魔神影柱を制圧できた。

 予想通りであれば、残るは第五特異点、第六特異点、第七特異点。

 そしてその特異点のシャドウサーヴァントに加え、九体ずつの魔神影柱がいるだろう。

 結界の術者は未だ不明。

 もし術者が敵だと仮定するならば、残るは半分。

 しかし、ここからが本当の山場だ。

 

 →「ありがとう。みんながいれば、これからもきっと大丈夫だよ」

 

 心の底からそう思う。

 頼もしい仲間達。

 心強いアイドル達。

 アイドル達の応援は、心に響く。

 

 険しくなるであろう戦いへの不安は、もはや無い。

 立香と肩を並べる皆は、それだけ大きな支えとなっている。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 四つの試練は乗り越えた。

 

 残る試練も激しい戦いは待っているだろう。

 

 容易い試練などありはしない。

 

 ここまできて、詳細不明の深夜結界。

 

 この特異点を攻略する鍵は。

 

 アイドルの、可能性――――。

 

 

 

 

 



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第11章 Tea_time

 事務員から渡されたスタミナドリンクを一気飲みする、スーツ姿の人物。

 パソコンによる作業を一時中断し、ショボショボした目を押さえる。

 346プロダクションのアイドル部門プローデューサーは、ぐーっ、と座ったまま背伸びをした。

 巷は夏休み。

 アイドル達の仕事を制限していた学業が休みとなり、仕事が増加するこの時期は必然的に激務となる。

 連日の社泊も、事務員と担当アイドル達の苦言により、今日のところは無い。

 が、この調子だとまた近いうちに社泊する可能性がある。

 少なくとも、この時期を乗り越えないと厳しい現状は続くだろう。

 

「………………。」

 

 しかし、つらい仕事に対して弱音は吐かない。

 でなければ、アイドル達の現場に義務でも無いのに顔を出したりはしない。

 アイドル達も大変な仕事をこなしているのだ。

 重圧(プレッシャー)もあるだろう。練習(レッスン)も厳しいだろう。

 だが、アイドル達の輝く姿は何物にも代えがたい。

 だからこそ、現場へアイドル達に会いに行く。

 アイドル達も、背中を押してくれるプロデューサーから勇気を貰う。

 

 コキッ、コキッ。

 

 自身の身体から音を鳴らし、作業へと戻る。

 正直、連日の疲れは取れないが、睡眠時間はまだとれている。

 もう少し頑張ろう、と気合を入れなおすプロデューサー。

 

 

 

 これは、346プロダクションのとある一コマ。

 

 

 

 なお、空となったいくつものドリンクのビンや缶の転がる惨状を目にした事務員から。

 

「ドリンクをちゃんぽんするぐらいなら、しっかりと休みなさい!」

 

 と、また叱られてしまうプロデューサーなのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界から帰還し、休息を取ったカルデアの五名はカフェに訪れていた。

 杏、きらり、蘭子はこの場にいない。

 杏は「LittlePOPS」、きらりは「Love Yell」、蘭子は「Rosenburg Engel」でのお仕事である。

「ニュージェネレーションズ」は後で合流するので、今いるアイドルはかな子と智絵里の二人。

 以前と同様、アイドルがいると騒ぎになるのを防ぐ為、エミヤの認識阻害魔術が適応されている。

 

「ん~♪おいし~い!」

 

 目の前のチョコレートパフェに舌鼓を打つかな子。

 満面の笑みで、パフェを堪能していく。

 彼女に限らずここに集まった七名は、メニューは違えどティータイムを楽しんでいた。

 もくもくと、大納言小豆パフェを食べ進めるアルトリア。

 思案顔でチーズケーキを分析するエミヤ。

 ひとくちひとくち、ゆっくりとフルーツパフェ味わうジャンヌ。

 ほろ苦いガトーショコラを一口食べた後、コーヒーを啜るマスター。

 王道であるショートケーキを、キラキラとした目で一心不乱に口に運ぶマシュ。

 これから真剣な話し合いが行われるところなのだが、ゆったりとした空気が漂っている。

 もちろん、このお茶会にも意味がある。

 かな子と智絵里は、念話と記録のみでしか結界の情報を持っていない。

 実感が無い彼女たちの緊張をほぐすため、一緒に美味しいものを食べる。

 認識阻害魔術も実際に見せることで、非現実感をアピールする。

 卯月とも行ったことであり、有効なのは証明済み。

 事前情報が以前より多いので、スムーズに事が進んだ。

 

 なお蛇足だが、凛、未央、きらりは結界で会う前に顔を合わせており、カルデアに悪意が無く信頼できると理解できた。

 杏は持ち前の頭脳で、状況を正確に理解した。

 蘭子にいたっては念話だけで実感としては十分であり、皆の力になるために張り切ってノートに書き込んでいたのであった。

 

 閑話休題。

 

 デザートを食べ終え、おかわりした飲み物だけとなった一同。

 ほぅ、とした雰囲気となり、マシュが口火を切った。

 

「美味しいカフェの紹介、ありがとうございます。流石、お菓子アイドルのかな子さんですね」

 

「ううん、ぜんぜんいいよ~」

 

 ぽわぽわした返答をするかな子。

 本人としては、美味しいデザートを食べた後なのか幸せそうだ。

 

「えっと……、ご馳走様でした……。ありがとうございます。その……、奢っていただけるなんて……」

 

 →「大丈夫だよ」

 

「気にすることは無い。こちらの軍資金は十分ある。これぐらいの散財では、懐は痛まんさ」

 

 緊張もほぐれたところで、今後のブリーフィングに入る一同。

 今までの探索を、二人に対して説明する。

 

『深夜の結界に現れる敵。確認されているのは、カルデアが今まで関わってきた特異点。そこで召喚されていた英霊のシャドウサーヴァント。そして、人理焼却事件の主犯。魔術王ソロモンの力を利用した魔神ゲーティアが使役していた七十二柱の使い魔、魔神柱。その劣化である影、魔神影柱だ』

 

『我々も、結界に召喚されているアイドルを探すと同時に、結界の術者について調べていた。が、今のところいい結果は出ていない』

 

 当然、最初の予想である結界の基点であろう、中央部へは足を運んだ。

 だが、そこには何も無かったのだ。

 シャドウサーヴァントも、魔神影柱も同様に。

 

『おそらく、結界に「部屋割り」が出来ているのかもしれない』

 

 →「部屋割り?」

 

『その場所にいける条件。ありていに言ってしまえば「鍵」が必要なのかもしれない。物理的なものか、達成した功績が必要なのかもわからないが』

 

「あの、……それはつまり、七つの特異点?を、全て乗り越えること……なんでしょうか?」

 

『ありがちな考えだが、智絵里ちゃんのその意見、一考の余地は大いにあるね。今までの聖杯探索(グランドオーダー)を、結界は再現しているのかもしれない』

 

「じゃあ、これからの方針については……」

 

『変わりなし。アイドル達の探索による戦力増加、及び各特異点のシャドウサーヴァントと魔神影柱の撃破、だね』

 

『………………。』

 

 ダ・ヴィンチちゃんのやる気のある声と、推理中だからか無言のホームズ。

 少しして、ホームズからも異論は無いと、お墨付きを貰った。

 

 残るシャドウサーヴァントは、おそらく三つの特異点。

 その前に、味方としたシャドウサーヴァントについて、今一度おさらいする。

 ちょうど、「ニュージェネレーションズ」のメンバーも合流したようだ

 

『もしもし、今着きました』

 

 卯月からの念話。

 今の彼女たちは、念話が使える意外は魔術に関わりない一般人だ。

 故に、エミヤの認識阻害を撥ね退ける力が無い。

 このような合図は、彼女たちには必須である。

 

 →「エミヤ」

 

「了解した、マスター。彼女たちを、魔術の対象から外したぞ」

 

 真っ直ぐこちらへ歩みを進める卯月達。

 それに加えて、二人のアイドルが一緒に来ていた。

 

「あれ~?かな子ちゃん、智絵里ちゃん、お友達~?」

 

「卯月ちゃんたちのお友達って、この人達なの?」

 

 初めて会う二人のアイドル。

 第一印象は、少女でありつつ幼さも残っていると感じる。

 実際、年齢は小学五年と中学一年なので、間違いではない。

 赤城みりあ、城ヶ崎莉嘉。

 共にローティーンのアイドルで、元気な笑顔が眩しい。

 男性がこの場にいることに、やや戸惑っている様子だ。

 

「はじめまして、アルトリアといいます。ウヅキとは友人で、日本に寄ったので顔を出しに来ました」

 

「マシュ・キリエライトです。みりあさんと莉嘉さん、素敵なアイドルと会えて嬉しく思います」

 

「ジャンヌと申します。普段は海外で仕事をしていますが、今は休暇として日本を観光しに来ました」

 

「私はエミヤという。この三人の同僚であり、仕事仲間だ。アイドルたちとは、多少縁があってご一緒している。野次馬やパパラッチの対策もしているので安心して欲しい。そして、こちらが私たちの上司だ」

 

 →「いや、上司って……」

 

「間違ってはいないだろ?マスター(・・・・)

 

 海外で仕事をしている人物。

 それも、少年といっていい若さで彼らの上司であると言われている。

 マスターという言葉も、上司的な意味合いで言われているのだと理解し、羨望の眼差しで立香を見る二人。

 

「すっご~い!海外で働いている偉い人なんだ!」

 

「ちょー、すごいじゃん☆ねえねえ、名前はなんていうの?」

 

 物怖じしない性格なのか、キラキラとした目で立香に詰め寄る。

 興奮しているのか、手も力強く握り、振っている。

 

 →「藤丸立香。よろしくね」

 

「赤城みりあです!よろしくね!」

 

「城ヶ崎莉嘉だよー☆こっちこそよろしくね!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 力強く挨拶した二人だったが、ハッとして我に帰る。

 今ここは公共の場。

 それも、アイドルとして知名度のある面子で、声を張り上げてしまった。

 エミヤが対策をとっているとは言ったが、普通の客もいる中で、男性といるのはまずいのではないかと思うみりあと莉嘉。

 

 しかし、その心配は杞憂だった。

 なにせ、誰一人としてこちらを注目していなかったのだ。

 不思議を通り越して、不自然に思う二人。

 何が起こっているのかわからないままだったが、自分たち以外は普段通りにしていることに気づいた。

 

「対策した、と言っただろう?」

 

 ニヒルな笑みを浮かべ、したり顔のエミヤ。

 よくわかんない様子の二人に両手のひらを差し出す。

 

 すると、手の上にアクセサリーが投影された。

 

 これが、今回カルデアがとった作戦。

 エミヤによる、魔術の実践(・・・・・)である。

 目の前の非現実的な光景を前に呆然とした二人だったが、太陽をモチーフとしたアクセサリーを受け取り、その重さが現実だと理解して――――。

 

「ええぇぇ!?何!?今何やったの!?」

 

「すっごーい!ねぇねぇ、今何やったの!?手品!?」

 

 素直に、今の光景を受け入れた二人のアイドル。

 それを見て、まだまだ子供なんだな~、と思う一同。

 

「実は私たちはね、――――――魔法使いなんだ」

 

 なにか懐かしい、と顔に浮かべ、二人のアイドルにふと口を零したエミヤであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「本物の魔法使いさんなんだ~。すごい人達に会えちゃった♪」

 

「卯月ちゃんが、私のお友達もいるけど大丈夫かな? って言ってたときは、まさかこんなことになるとは思わなかったよ~……。」

 

「あはは……。ごめんね、驚かせすぎちゃったかな?」

 

「ううん、大丈夫。それにこんな体験、ちょ~レアだし☆あっ!?なら、蘭子ちゃんも知ってるの?」

 

「らんらんも知ってるよ。その様子だと、何かがあった、って分かってたみたいだね」

 

「流石に予想外だったけどね。でも、私たちのプロダクションだって依田芳乃(うらないし)安部菜々(うちゅうじん)堀裕子(サイキッカー)サンタクロースだっているんだもん!」

 

 純粋なのか、卯月達との信頼がなしたことか、はたまた既に非現実的な状況に慣れているからなのか……。

 どうやら、カルデアのことを信じてもらえた様子の二人。

 カルデアからしても、今回は離れ業と言っていいだろう。

 幼さが残り、信じやすいこの二人だったからこその荒業である。

 現在進行形で、ホログラフのモニターがあるのも一因だろう。

 

『確実ではないが、もし君達がサーヴァントになったのなら、まずはプロダクションを目指して欲しい。今、詳しいことは分からないかもしれないが、そうすれば比較的安全に合流できる』

 

「プロダクションだね。正直、あんまりよくわかんないけど了解☆」

 

 

 

 カルデアの作戦は功を奏し、予定通り深夜結界では無事に合流を果たすことになる。

 新たな仲間を加え、また夜の舞台に挑むのであった。

 

 

 

 

 



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マテリアル 緒方智絵里&三村かな子

マテリアルが更新されました。


英霊召喚

 

「ち、智絵里です……。あの、よろしくお願いします……」

 

 

 

真名:シンデレラ(緒方智絵里)

 

クラス:キャスター

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:E

魔力:B

幸運:A++

宝具:A+

 

身長/体重:153cm・41kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・三重

 

属性:秩序・善 性別:女性

 

「あの……、私、頑張れて……ますか?」

 

プロフィール

 

ナイーブな性格をしており、おどおどした話し方をする寂しがり屋なアイドル。

趣味は四葉のクローバー集め。特技は太鼓の達人。

支援・応援という意味合いでキャスタークラスとなった。

ずば抜けた身体能力や、何事にも動じないような精神力は持たないが、自分ができることを一つ一つ積み重ねていくことができる努力家。

四葉のクローバーのおまじないは彼女を代表する個性であり、そのためか幸運ランクがかなり高い。

好きな動物はウサギさん、小さい頃の夢はお嫁さんであり、庇護欲を沸かせるその気質から、ファンからは天使と呼ばれることも多い。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

太鼓の達人A 毎ターン攻撃力を少しづつアップ(3T)

 

チェリー・エンジェルEX 自身のアーツカード性能をアップ(3T)+自身に無敵を付与(3回)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

道具作成(歌)A- 自身の弱体成功率をアップ

 

宝具:咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)

ランク:A+

種別:結界宝具

コマンド:Arts

味方全体に毎ターンHP回復状態を付与(5T)

+味方全体の防御力をアップ(5T)<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体にランダム及び低確率で「HP大回復とNPをすごく増やす」

 

Buster:1 Arts:3 Quick:1

 

 

 

太鼓の達人A

 

智絵里の持つ意外な特技。実際の太鼓を叩くのではなく、リズムゲームを得意とした彼女の個性。

このスキルを持つものは、連続する攻撃に対して補正がかかる。

徐々に威力が上がっていくが、連続が途切れた場合は補正が元に戻る。

引っ込み思案である彼女が持つ貴重な攻撃スキル。

連続攻撃のフルコンボは、強烈なダメージを稼ぐことができる。

 

チェリー・エンジェルEX

 

緒方智絵里が獲得した天使のスキル。

ファンから天使と語られたため、それに類する力を得ることになった。

異界の法則である防御を駆使し、身を守ることができる。

攻撃力も上昇するのだが、天使のイメージが慈愛寄りであるため、劇的には変化していない。

実は、彼女も天使の羽を生やし、飛行することができる。

しかし、彼女の飛行能力は蘭子には及ばない。

智絵里いわく、バンジージャンプを思い出しそうになる、とのこと。

使用頻度が低い為、敏捷ランクには適応されていない。

 

宝具:咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)

ランク:A+

種別:結界宝具

 

緒方智絵里のおまじないの象徴である、クローバーを咲かせる宝具。

彼女を中心に円形に展開したクローバー畑。その境目には防御結界が現れ、味方を守る

クローバー畑の範囲内であれば、持続的に回復が行われる。

この宝具の真価は、結界内にランダムで出現する四葉のクローバーを見つけた場合に発揮される。

これを手に取り、任意で発動すれば所持している人物の傷を大きく回復し、令呪クラスの魔力バックアップを受けることができる。

これが発動できれば、宝具の即時発動や連発が可能となる。

ただし、出現自体も運任せなので常時発動できる手札としては機能しない。

発見には、幸運ランクが影響する。

結界の出入り及び内側からの遠距離攻撃は、彼女が味方であると認識している人物に関しては自由が利く。

逆を言えば裏切りに対して弱いという特性でもあるが、味方の裏切りを勘定に入れるのは、智絵里を始めとしたアイドルたちにはふさわしくないだろう。

信じられる味方がいることが前提の宝具であり、仲間を大切にする彼女らしい宝具である。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 さくらんぼ柄の私服

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 夢色クローバー

 

 

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「こんにちは、三村かな子です。一緒にお菓子、食べませんか?」

 

 

 

真名:シンデレラ(三村かな子)

 

クラス:アーチャー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:D

敏捷:E

魔力:C

幸運:A+

宝具:B++

 

身長/体重:153cm・51kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「美味しいから大丈夫だよ」

 

プロフィール

 

お菓子の好きなスイーツアイドル。本人の気質もふわふわとした優しいキュート系。

体型のことで話題になることも多いが、決して太っているとかではなく、標準的。

3サイズにおけるプロポーションが、見事なまでのボン・キュ・ボンでありながら、身長が153cmという結構なワガママボディ。

今回はマシュマロキャッチガンを持ってのアーチャークラスとなった。

通常弾はマシュマロではなく魔力弾で攻撃する。

趣味はお菓子作りであり、おすそ分けすることも多いがつまみ食いも多い。

それに加え、「美味しいから大丈夫だよ」という理由でお菓子を食べるという油断があるため、トレーナーからカロリーを控えるようにと言われてしまったりと、ぽっちゃりなイメージもあながち無関係ではない。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

一粒のキャンディーA+ 自身のNPを増やす+自身の弱体状態を解除

 

おかしな国のおかし屋さんEX 味方単体のHPを大回復&低確率でNP増やす+自身のNPを減らす(デメリット)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力C 自身の弱体耐性をアップ

 

単独行動D+ 自身のクリティカル威力を少しアップ

 

道具作成(製菓)A 自身の弱体成功率をアップ

 

宝具:ふわふわで甘い一撃(マシュマロキャノン・ショコラティアラ)

ランク:B++

種別:対人・対軍宝具

コマンド:Buster

自身の宝具威力をアップ<オーバーチャージで効果アップ>

+敵全体に強力な攻撃

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

一粒のキャンディーA+

 

かな子にとっての失敗と成長を起源としたスキル。無理なダイエットによる失敗の記憶。

お菓子=気の緩み、と認識してしまい、気絶し倒れてしまったが、仲間からの激励と助言によって再び立ち上がり、大事なものを再度確認することができたという逸話から生まれたスキル。

作り出したキャンディーを口に入れ、呪いなどの状態異常を解除できる。

逸話系のスキルのため、キャンディーによる効果は、かな子が食べた場合のみ発揮される。

「道具作成(製菓)」の派生スキルだが、このキャンディーだけは材料を必要とせず、魔力のみで製作が可能。

キャンディーの摂取時は製作に消費した以上に魔力を回復できる。

そのため、連続での使用はできない。特別なお菓子は、常時食べるものではないからだろう。

豪華でなくとも、沢山でなくても、彼女の心に残った一粒のお菓子。

 

おかしな国のおかし屋さんEX

 

マシュマロの形状をした弾丸を、対象に撃つことで回復させるスキル。

彼女の習慣である、お菓子のおすそ分けが基となっている。

この弾丸にはある特性があり、撃たれた対象には一切の衝撃がないことに加え、弾丸の経口摂取に成功した場合、傷の治療だけでなく魔力も回復することができる。

まさに、マシュマロキャッチの再現とも言えるスキル。

また、彼女が持つマシュマロキャッチガンを他者に使用権を譲ることで、その人物がかな子を対象として発動することも可能。

経口摂取に成功すると、口の中に甘い味が広がるらしい。

 

対魔力C

 

三騎士などが持つクラススキル。

アイドル達は魔術とは殆ど関わりがないため、本来は補正が少ない。

が、シンデレラになるという魔法をかけられた。という概念からか、常に魔力で覆われている。

そのため、ある程度の対魔力を獲得するに至った。

概念が同じなので、アイドルが対魔力を持つ場合、どのクラスであっても基本的にはCランクでしか獲得しない。

 

単独行動D+

 

アーチャーのクラススキル。マスターなしで現界できる力。

しかし、このスキルは彼女たちアイドルと相性が悪い。

複数人で活動することがアイドルの前提であるため、サーヴァントの中ではかなり低いランクとなった。

原則、マスターなしでは半日ほどしか現界を保てない。

例外として、他のサーヴァントと行動を共にする場合はランクが上昇する。

 

道具作成(製菓)A

 

魔力を帯びたお菓子を製作できる。製作には相応の時間がかかる。

効果の発揮方法は、もちろん食べること。

さまざまな効果を持つお菓子を製作できるが、お菓子であるため基本使いきり。

効果持続時間も無限ではないので、常時発動の類は使用不可能。

その分、瞬発力が秀でている。

 

宝具:ふわふわで甘い一撃(マシュマロキャノン・ショコラティアラ)

ランク:B++

種別:対人・対軍宝具

 

巨大なマシュマロキャッチ砲を出現させ、魔力による砲撃を行う攻撃としては単純な宝具。

主な特徴としては、この宝具は発動する際に複数人で行うことができる。

味方と一緒に使用することで、一撃の威力が増すという類を見ない特性を持つ。

これは彼女の普段の行いである、手作りお菓子のおすそ分けと、そのお返しが、この宝具の根幹である。

彼女はスキルを使用し、味方の回復や支援を行えるので、まさにその習慣を体現できる。

多くの味方の助けを借り、放つ一撃は分類を越え対軍宝具へと変化するという、彼女のコミュニケーションによる力を象徴する宝具である。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 学校の制服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 ドルチェ・クラシカ

 

 

 

 

 



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第12章 激戦

 深夜の結界で日中の作戦通り、無事二人のアイドルと合流できた。

 ランサー、城ヶ崎莉嘉。

 アーチャー、赤城みりあ。

 以前予想していたとはいえ、シンデレラとしては意外である三騎士。

 それも、遠距離攻撃のアーチャーならともかく、近接戦闘を主体とするランサーに、まさかのジュニアアイドルが当てはまっていた。

 ただ、アイドル達からはある種の納得があるようだ。

 その原因は、莉嘉が持つカブトムシの槍なのだろう。

 

「莉嘉ちゃん、カブトムシ好きたもんね」

 

「うん!それに、私の宝具もカブトムシだし☆」

 

『まさに、なるべくしてなった。という宝具のようだね』

 

 アイドルサーヴァントは彼女たちの個性、趣味、好み、信念、経験などが、スキルや宝具になっている。

 代表的な莉嘉の個性であれば、宝具として昇華されるのも必然なのだろう。

 ランサークラスにまで影響するのは、流石に予想外だったが。

 なお、莉嘉はこう語ってはいるが厳密に言えばカブトムシの宝具ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 間違ってもいないので、あくまで蛇足に過ぎないことなのだが。

 

「みりあちゃんは……シャボン玉、なんだね」

 

「やっぱり、『shabon song』からかな~?」

 

「みりあちゃん、と~ってもかわゆぅかったから、かも知れないよぅ!」

 

「ありがとう、きらりちゃん!」

 

 天真爛漫という言葉が、これ以上ないほどに似合っているみりあ。

 可愛らしい笑顔は、卯月と同様に元気を与えてくれる。

 物怖じしない性格からか、短い付き合いでしかないカルデアに好意的に接してくれる。

 今までの知識から、皆を助けてくれたすごい人達、という認識があるとはいえすごいことだ。

 

 →「皆、話はちゃんと出来た?」

 

「うん!カルデアのみんな、とってもいい人たちだね☆」

 

「おしゃべりはここまでだね。みりあもたくさん、がんばるよ!」

 

 気合十分。

 命に別状はないとはいえ、怖いはずの戦いに怯まない。

 それは、他のアイドル達にも言えることだ。

 彼女たちは、人数が増えるほどに前向きになっている。

 仲間がいるほどに、目に見えて雰囲気が明るくなっているのが分かる。

 

 →「じゃあ、行こうか!」

 

「皆さん、行きましょう。私も、精一杯皆さんを守ります」

 

 マスターとマシュの声に続くように、探索へと向かう一同。

 カルデアの英霊達も、戦意が増しているのが分かる。

 それは、アイドル達のスキルによる影響なのかもしれない。

 しかし、そういったスキルがなかったとしても、士気は揚がっただろう。

 アイドル達から応援され、こちらもアイドル達を応援する。

 応援しあうことで、彼らは共に戦うことが出来るのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 第五特異点。

 トップサーヴァントが幾人も現れ、アメリカ大陸を文字通り揺るがした神話大戦。

 味方にも、敵にもいたトップサーヴァント。

 それに加え、あの特異点にいたサーヴァントのほぼ全てが一度に襲い掛かってくる。

 総勢十八体。

 クリミアの天使、ナイチンゲール。

 コサラの王、ラーマ。

 コノートの女王、メイヴ。

 堕ちた光の御子、クー・フーリン・オルタ。

 影の国の女王、スカサハ。

 八極拳と神槍の使い手、李書文。

 巨人と竜を退治した英雄、ベオウルフ。

 赤枝騎士団の勇士、フェルグス・マック・ロイ。

 フィオナ騎士団の長、フィン・マックール。

 フィオナ騎士団随一の騎士、ディルムッド・オディナ。

 拷問城の主、エリザベート・バートリー。

 シャーウッドの森の英雄、ロビンフッド。

 アメリカのアウトロー、ビリー・ザ・キッド。

 アパッチ族の戦士、ジェロニモ。

 発明王、トーマス・エジソン。

 神智学者、エレナ・ブラヴァツキー。

 授かりの英雄、アルジュナ。

 施しの英雄、カルナ。

 今までのシャドウサーヴァントの中では最多であり、個々の戦闘力も強力だ。

 しかし、カルデアのサーヴァントも伊達ではない。

 強化された彼らに加え、十人のアイドルサーヴァントたち。

 味方であるシャドウサーヴァントは、前回に引き続きオケアノスのメンバー。

 ケルト兵はいないため、数の有利は明白。

 だが、今まで以上の激戦となっていた。

 

 マシュが盾を構える。

 アルトリアが聖剣を振るう。

 エミヤが剣を投影する。

 ジャンヌが旗で防御する。

 ヘラクレスが力任せに暴れ回り、近接戦闘に向かない相手を撃破していく。

 しかし、相手の多くは戦士系のサーヴァント。

 殆どのアイドルサーヴァントと相性が悪い。

 だが彼女たちも、自分に出来る事を確実にこなしてくれる。

 

 

 

「それいけ!発進!鋼鉄公演きらりんロボ!(きらりん☆びーむ&なっくる)

 

 

 

 きらりの宝具によって、巨大ロボが出現する。

 類を見ない分類である、対巨大兵器宝具。

 その真名開放は、強烈な威力をもって敵を蹴散らす。

 

 

 

 ガガガガガガガガガッ!!

 

 

 

 だが、それをやすやすとは許してくれない。

 大きさという力は、的が大きいと言う弱点となる。

 アーチャーのシャドウサーヴァント、アルジュナの弓がきらりんロボを削っていく。

 

 

 

 ドッゴオオオォォン!!

 

 

 

 より小さいはずの影が、きらりんロボを殴り倒した。

 ベオウルフ。

 英文叙事詩に名高い英雄。

 彼の偉業である巨人退治(・・・・)

 似たような姿を持つ、きらりの宝具とは相性が悪かった。

 

 

 

 →「………………っ!」

 

 

 

 サーヴァントに供給する魔力は、カルデアからも補っているがマスターの負担もある。

 きらりの宝具がやられた今、魔力の余裕は決して多くは無い。

 

 

 

「弾ける力、シャボン玉の魔法」

 

 

 

「弾けた瞬間、私が変わる」

 

 

 

舞い上がれ私のシャボン玉(ロマンティックナウ・バブル)!」

 

 

 

 出現したのは、直径2mの大量のシャボン玉。

 シャボン玉には、それぞれに映像が映し出されている。

 それは、彼女たちを含めた味方の姿。

 魔力が満ち、視界を封じ、敵を撹乱する。

 特にシャドウサーヴァントたちへの恩恵は大きく、回避率が明確に上がっていた。

 

 

 

 パッチイイィン!!

 

 

 

 シャボン玉に攻撃した、エリザベートが吹っ飛んだ。

 無論、これはただの撹乱ではない。

 シャボン玉一つ一つに、明確な攻撃力がある。

 近接戦闘を主とする、戦士系サーヴァントの直接攻撃はダメージを負う結果となる。

 

 

 

「これが、私の未来!」

 

 

 

 みりあがシャボン玉を纏った(・・・)

 すると、みりあの姿が変化していく。

 いや、変化ではなく成長(・・)というべきだろう。

 みりあの外見年齢は、五、六年程成長していた。

 髪が伸び、子供から少女へと変わっている。

 そして、何よりもその身から溢れる魔力が強化されていた。

 

 舞い上がれ、シャボンの玉(ロマンティックナウ・バブル)

 シャボン玉を纏うことで、その映像をその身に投影する宝具。

 言い換えれば、みりあの未来を先取りする宝具(・・・・・・・・・・・・・・)

 彼女の未来、無限の可能性を一足早く使用することが出来る。

 その効果は、第二魔法、第五魔法に近い。

 

「いっくよー!」

 

 弓を番える(・・・・・)

 みりあの未来から、弓を使っている未来を先取りする。

 放たれた矢は正確に、そして確実に命中していく。

 

 アイドル達は、各スキル、宝具を使い応戦していく。

 誰一人として、無傷な者はいない。

 しかし、彼女たちは誰一人として脱落していない。

 仲間に危険が迫れば、確実にカバーする完璧なコンビネーション。

 人数が多いほど難易度が跳ね上がるそれを、戦闘経験の殆ど無い彼女達が実現している。

 カルデアの、ひいてはマスターの感じた思いは正しかった。

 アイドル達を、心強いと思ったこと。

 

 事実、アイドルサーヴァントたちは人数が増えるほどその真価を発揮していくのだから。

 

 

 

「莉嘉のコレクション、見せてあげる!」

 

 

 

「世界にいっぱい、シールを貼っちゃえ!」

 

 

 

「デコっちゃうよ~☆莉嘉の甲虫、大集合!(DOKIDOKIリズム・ビートル)!!」

 

 

 

 現れたのは、人間が騎乗出来そうな程に大きいカブトムシの大群。クワガタも少し混じっている。

 しかし、違和感を感じざるを得ない。

 まるで、イラストに描かれたカブトムシが、現実に飛び出たかのようだ。

 それもそのはず。

 莉嘉の宝具によって現れた昆虫たちは、生命体ではない。

 宝具によって投影された存在。

 近い宝具で言うならば、ネロ・クラウディウスの「招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)」だろう。

 世界というページの上に、貼り付けられたシール(・・・)

 それが、あの昆虫たちの正体なのだ。

 故に、欠けると存在が保てなくなる投影よりも、存続する力が強い。

 そして一匹の戦闘力も、伊達ではない。

 

 

 

「いっけええぇぇ!!」

 

 

 

 ヤマカブトに騎乗し、手に持つ槍を振るいながら敵に突っ込んでいく莉嘉。

 さらに増した数の利。

 数を減らしていた敵にとって、この大群がトドメとなった。

 

 

 

 激戦は終わった。

 息を整え、休息のために346プロダクションへと帰還する。

 前のように、連続での魔神影柱戦は無理があるためだ。

 今はただ、みんなが無事であった事を喜ぶことにする。

 346プロダクションは、カルデアにとっても安心できる場所となっていた。

 

 

 

 

 



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マテリアル 城ヶ崎莉嘉&赤城みりあ

マテリアルが更新されました。


 

英霊召喚

 

「やっほー☆莉嘉だよー!よろしくね、マスターくん」

 

 

 

真名:シンデレラ(城ヶ崎莉嘉)

 

クラス:ランサー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:C

魔力:D

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:149cm・36kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・埼玉

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「うん☆今日も私は元気、元気!」

 

プロフィール

 

カリスマを目指すギャルアイドルで、同じくギャルアイドルの姉がいる。今回はランサーで召喚された。

彼女の持つ槍は、先が刃ではなくカブトムシのツノの形状をしている。これは、彼女のカブトムシ好きが反映され、そのためランサークラスに当てはまることとなった。

セクシーで大人なギャルを目指すなど背伸びするところもあるが、趣味がシール集めだったりカブトムシにはしゃいだりと、子供っぽいところも目立つ。

どんなときでも自分らしさを忘れず、また忍耐強い一面もあったりと、芯の強い子でもある。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

カブトムシパワーA 自身のクイックカード性能をアップ(3T)+防御力をアップ(3T)

 

カリスマJC EX 味方全体の攻撃力をアップ&味方全体のNP獲得効率をアップ(3T)+敵全体に中確率で魅了を付与

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力C 自身の弱体耐性をアップ

 

騎乗A- 自身のクイックカードの性能をアップ

 

宝具:莉嘉の甲虫、大集合!(DOKIDOKIリズム・ビートル)

ランク:A+

種別:対軍宝具

コマンド:Quick

自身のスター発生率をアップ<オーバーチャージで効果アップ>

+敵全体に強力な攻撃

 

Buster:2 Arts:1 Quick:2

 

 

 

カブトムシパワーA 

 

カブトムシの如きパワーを扱うことができるようになるスキル。

彼女の筋力ランクは最低値であるEだが、槍を使用して「投げる」という行動に対し大幅に補正が入り、槍による鍔競り合いなど、それ以外の行動にも補正が入る。

彼女の中の子供っぽい部分が、個性としてスキル化したもの。

甲虫由来の防御力も再現しており、低い近接ステータスをカバーして戦闘を行うことができる。

 

カリスマJC EX 

 

「カリスマ」の派生スキル。人々を率いる素質ではなく、JCの目標として君臨する。

莉嘉にとっての「自分らしさ」を貫き続け、その結果たどり着いた地位。

JCに限らず、人々を魅了し応援された彼女が持つ固有の「カリスマ」。

カリスマ由来の士気高揚はもちろんのこと、対象の人数が多いほど効果が増す。

高ランクの「カリスマ」は呪いに近いが、彼女の「カリスマ」は応援、好意、魅了を司る。

裏切りや暗殺を目論もうと、いつの間にか立派なファンの一員へと変化するだろう。

スキルの強弱は、莉嘉の裁量で変化できる。魅了したい相手に対し、ピンポイントで発動することも可能。

アイドルの中でも、セクシー路線でいくなど、ファンをメロメロにすることを目指した故のスキルである。

 

騎乗A-

 

彼女がランサーでありながら騎乗スキルを所持するのは、宝具による影響。

宝具によって召喚されたものであれば乗りこなすことができ、他者にも騎乗させることができるが、通常の乗り物などは操縦できない。

ライダークラスではないので、他者に騎乗スキルを譲渡することもできない。

召喚した昆虫などに騎乗するための限定的なクラススキル。

 

宝具:莉嘉の甲虫、大集合!(DOKIDOKIリズム・ビートル)

ランク:A+

種別:対軍宝具

 

人が乗れるサイズのカブトムシ、クワガタムシを複数召喚する宝具。

種類によって戦闘能力が異なり、一番が「ヤマカブト」、「ヘラクレス・ヘラクレス」、「コーカサスオオカブト」、の順で強く、クワガタは個体差が大きい。

その正体は、魔力を持って形成された非生命体、生物を模した投影。いうなれば世界というページに貼り付けられたシールのようなもの。そのため、姿形は若干デフォルメが入っている。

正確に言えば、この宝具で召喚可能なのは別にカブトムシに限らない。

莉嘉が好きなものであれば、たいていのものを出すことができる。

彼女には好きなものがいっぱいあり、「どれも好きだもん」という欲張りさんな宝具といえる。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 学校の制服

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 キラデコ☆パレード

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「こんにちはー!えっとね、みりあ、いーっぱいがんばるよ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(赤城みりあ)

 

クラス:アーチャー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:D

魔力:C

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:140cm・36kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「みりあもやるー!」

 

プロフィール

 

天真爛漫で元気のあるジュニアアイドル。趣味はおしゃべりで社交的、年相応の可愛らしさに溢れている。

今回彼女が武装としているのは、シャボン玉。筒から吹き出す魔力弾を攻撃手段として使用する。その元となっているのはみりあも歌った楽曲「shabon song」。

実は彼女はオリジナルメンバーではないが、宣伝時でのTV放映「胸キュン!シャボンストーリー!」の人気が高く、クラスに影響するに至った。

アーチャークラスの中でもかなりの変り種だが、アイドルの素質としてはかなりの正統派。

子供らしさも兼ね備えていながら、仕事に対する姿勢や目上への敬語、姉としての気構えができていたりとしっかりもの。なお、仲が良くなるにつれて敬語からタメ口へと変化する。

社交性はかなり高く、神崎蘭子と初対面で会話できるほどであり、仲間同士を繋ぐ架け橋のようなアイドルでもある。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

天真爛漫A 味方全体のNPを増やす

 

立派なお姉ちゃんEX 味方全体の攻撃力をアップ(3T)+味方全体の〔妹、弟を持つサーヴァント〕の攻撃力を大アップ(3T)+味方全体の〔兄、姉を持つサーヴァント〕の防御力を大アップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力C 自身の弱体耐性をアップ

 

単独行動D+ 自身のクリティカル威力を少しアップ

 

宝具:舞い上がれ私のシャボン玉(ロマンティックナウ・バブル)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Arts

味方全体に「確率で回避」を付与(1T)<オーバーチャージで確率アップ>

+敵全体にやや強力な攻撃

+自身の攻撃力・防御力をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

天真爛漫A

 

みりあの性格であり個性。無邪気で好奇心旺盛な様子がスキルとなったもの。

趣味であるおしゃべりや、彼女の社交性も影響している。

第一印象で他者に好感を持ってもらいやすくなり、味方となった人物とはたとえ言語が違っても意思疎通が可能となる。

判定に成功すれば、高ランクの狂化を持つサーヴァントとも会話ができる。

その英霊の根幹を曲げることはできないが、通訳やブレーキ役にもなることができるだろう。

 

立派なお姉ちゃんEX

 

みりあの自立心。姉としての姿勢がスキルとなったもの。

妹や母にとって、立派な姉であろうとした彼女の矜持

兄弟を持つサーヴァントへ、強化の恩恵を与える。

下の兄弟を持つものは、その脅威となる敵を倒すための攻撃力を。

上の兄弟を持つものは、自分で身を守ることのできる防御力を。

たとえ、兄弟で殺し合いをしていようと、不倶戴天の敵であろうと、兄弟姉妹の原点をその人物達から引き出すスキル。

血縁は必要なく、兄弟姉妹と認識していれば、その恩恵を受けることができる。

みりあの立派な姉であろうという様子に、同じ境遇の者が多大な影響を受けるだろう。

 

宝具:舞い上がれ、シャボンの玉(ロマンティックナウ・バブル)

ランク:A+

種別:対人宝具

 

直径2m程のシャボン玉を大量出現させる。

無論、ただのシャボン玉ではなく自由自在に映像を映し出すことができ、人の姿を映し出して撹乱することもできる。

魔力によって形成されているため、破裂時には相応の攻撃力を持つ。耐久性を上げて乗ったりもできるが、細かいコントロールはできないので「飛行」ではなくあくまで「浮遊」。

このシャボン玉の真価は、みりあ本人が纏う形で使用することで発動する。その際、「赤城みりあ」としての容姿を基本として、映し出されていた映像の姿へと変身ができ、能力や技能もある程度獲得できる。

彼女のアイドルとしての根幹、可愛い服を着たり歌ったりしたいという未来への希望が宝具となったもの。

彼女の未来は無限大であり、この宝具はその可能性を先取りしている。

第二魔法、第五魔法に近い、非常に希少な宝具。

少しの間だけ、彼女はあらゆる可能性を体現できる。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 可愛い私服

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 ハッピーホイップ

 

 

 

 

 




立派なお姉ちゃんEX 補足

歴史、神話の英霊は逸話どおりの家族構成で効果を受ける。

イシュタル、ジャガーマンは神霊側のものを扱う。

孔明はエルメロイ二世の構成で扱う。

アイドルサーヴァントは、本人のものを適用。

BBはどちらもなし。

エミヤにとっての兄弟は、姉でもあり妹でもある人物であったため、両方の効果を受ける。

イリヤとクロエは、姉戦争に決着がついていないので、妹の方のみ効果を受ける。

メルトリリスとパッションリップは共に姉。各自の内心でそう認識しており、姉戦争も行われていないため。


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第12章 激戦 その間

 第五特異点のシャドウサーヴァントを倒し、346プロダクションにて羽を休める。

 次の魔神影柱に備え、体力と魔力を回復するよう休息に務める。

 ただ、休息は何もしないと同義ではない。

 身体を休めながら、ブリーフィングを行っていた。

 

『魔神影柱の強さは、初めて出現したときから殆ど変化していない。アイドル達も増えたし、第五特異点のシャドウサーヴァントを味方にできたことも大きい。連日の戦闘で疲れはあるだろうが、このまま行けば、危なげなく勝てるだろう』

 

「戦闘に余裕ができるのはいいことだ。何が起こるかわからない以上、急な事態に対処できる余力が要るからな」

 

「魔神影柱は変化無しと予測できます。問題は、それ以降の戦闘ですね」

 

『魔神影柱との戦闘中、もしくは戦闘後に第六、第七特異点のシャドウサーヴァントや追加の魔神影柱と遭遇したとしても、時間を稼げば午前六時まで持ちこたえることは出来るだろう』

 

「遭遇戦の有無は別として、今後の展開を予想するに超したことはないと思います」

 

『第六特異点のシャドウサーヴァントは円卓の騎士、エジプトのファラオ、そして初代を含めた歴代のハサンたち等。こうして並べるだけでも、錚々たる面子だね』

 

「円卓の騎士ですか!?」

 

 話の中に上がった、円卓の騎士という有名な英雄たちに対し、口々に声を出すアイドル達。

 ここにいるアルトリアの部下たちである為、余計に考えてしまう。

 かつて獅子王と名乗った、女神ロンゴミニアド。

 今までの傾向から彼女の円卓の騎士達が、シャドウサーヴァントとして敵対する可能性は高い。

 

「円卓の騎士は強敵だが、剣技で名を馳せた英雄たちだ。シャドウ化による影響も少なくは無いだろう。膂力も無視は出来ないが、懸念があるとすれば、やはり『ギフト』の存在だな」

 

「最大の焦点はそこになるでしょう。ただ、『ギフト』は権能によって女神ロンゴミニアドから騎士達へ下賜されたものです。女神ロンゴミニアド自体も、英霊の座に登録されてはいない」

 

 『ギフト』。

 第六特異点でカルデアを苦しめた円卓の騎士達。

 彼らに与えられた、女神による強化であり祝福。

 さまざまな効力があり、そのどれもが強大で強烈だ。

 しかし、アルトリアの言ったように女神ロンゴミニアドは召喚することは出来ない。

 神霊であるロンゴミニアドでなければ、ギフトは付与できない。

 聖杯があれば、話は別だろう。

 だとしても、この特異点において聖杯の存在自体が未確認である。

 

 

『だが、この大きな結界の維持に聖杯が使われているかもしれない。ただ、アイドルは聖杯によって召喚されていないから、可能性としては微妙なとこだけどね』

 

 ただ、聖杯が無いとも言い切ることは出来ない。

 結界の維持、多くのシャドウサーヴァントと魔神影柱。

 以上を鑑みても、この特異点は規模が大きい(・・・・・・)

 結界の維持に聖杯が使用されている、という考えは自然と出てくる。

 だが、ダ・ヴィンチちゃんが言ったように、アイドル達は聖杯によって召喚されていない。

 そもそも聖杯があるならシャドウサーヴァントではなく、通常のサーヴァントを召喚すればいい。

 聖杯がある可能性としては、五分五分と言ったところだ。

 

 閑話休題。

 

 女神ロンゴミニアドのシャドウサーヴァント及び『ギフト』が出てくるかは分からない。

 が、ランサー・アルトリアの存在もあるので、いると仮定する。

 次に話題となるのは、アサシンの語源となった者達。

 ある種、最も警戒しなければならない相手だ。

 

「歴代の暗殺集団の頭目たちへの警戒は怠るわけにはいかないだろう。シャドウサーヴァントは戦術の乏しい『英霊の現象』。だが、技術を振るうこと自体は出来る。暗殺という手段は、彼女たちアイドルとは相性が悪い。最悪、何人かがやられてしまう可能性もある」

 

 アイドル達はファンからの信仰心を受け、スキルや宝具が強力だ。

 しかし、そうであってもアイドル達は個々人が劇的に強いわけではないのだ。

 戦術や経験も、暗殺への対処も決して秀でていない。

 蛇足だが、もし彼女達が個人の力だけで戦えば、戦士系サーヴァントに勝つことはかなり難しいだろう。

 アイドル達は、個人ではなく集団で動く事を前提としているサーヴァント。

 彼女たちの真価は、チームプレイによって成り立つ。

 故に、暗殺を武器とするハサン達は非常に危険だ。

 その中でも、特筆するべきハサンがいる。

 

「一番危険なのはやはり、初代『山の翁』ですね。ただ、気になる点もあるのですが……」

 

『どうかしたのかね、ジャンヌ』

 

「彼の英霊は、第七特異点でも助力をいただきました。そうなると――――」

 

 →「どっちかに召喚されているのか……」

 

「もしくは、どちらにも召喚されているかですね、先輩」

 

「分からんぞ。どちらにも召喚されていないのかもしれない」

 

 →「どうして?」

 

 エミヤの発言に、首をかしげる立香。

 今までのシャドウサーヴァントは、かつての特異点の英霊達。

 カルデアにとって、大きく関わった初代山の翁が不参加とは考えにくいはすだ。

 しかし、エミヤには気がかりがあったようだ。

 

「今までの特異点も、全ての英霊がシャドウサーヴァントとして出現したわけではない。だからこそ、少ないながらも出てこない可能性もある」

 

 →「そういえば……」

 

「ええ、確かに。エリザベートは、第二特異点でも召喚されていました。が、シャドウサーヴァントとして召喚されたのは、第一特異点と第五特異点のみです」

 

「ネロさんも第五特異点に召喚されていたはずなのに、先ほどはいませんでした。全ての英霊が召喚されるとは限らない、ということなんでしょうか?」

 

『…………………。』

 

 マシュの疑問に、答えられるものはいない。

 推理が完全ではないからか、ホームズも沈黙している。

 呼ばれなかったシャドウサーヴァントに、共通点があるのだろうか。

 

「あの~、エジプトのファラオの方って、どのような人達なんですか?」

 

 卯月が場の空気を換えるためか、残る英霊について質問する。

 第六特異点で召喚されていたファラオは二人。

 

『ラムセス二世こと、太陽王オジマンディアス。天空の女王ニトクリスの二名だよ』

 

「だれ……ですか?」

 

 日本のティーンエイジャーで、この二人を知っている人物は少ないだろう。

 歴史を勉強していれば別だが、どうやら智絵里は知らなかったようだ。

 

「ニトクリスはエジプト第六王朝最後のファラオ。ペピ二世の娘といわれているね。ラムセス二世は、セティ一世の息子。エジプト最大の建築家で、古代エジプト最大のファラオと呼ばれる人だよ。現在もミイラが残っているしね」

 

 その少ない人物に、杏は当てはまっていたらしい。

 ものぐさゆえにムラがあるが、彼女の知識量はかなり多い。

 

『ニトクリスはキャスター。オジマンディアスはライダーで召喚されていた。気をつけるべき相手だけど、シャドウサーヴァントであれば本当に幸いだ。特にオジマンディアスが宝具を使えないのは非常に大きい』

 

 トップサーヴァントの一角、太陽王オジマンディアス。

 強力な宝具を多数所持しており、もし全て使えていたら、かなり厳しい戦いを強いられていただろう。

 

『後は三蔵法師、俵藤太、アーラシュかな』

 

「三蔵法師!知ってる☆西遊記だよね!」

 

「みりあも知ってるー!」

 

 日本では抜群の知名度を誇るからか、アイドルの年少組も知っていたようだ。

 玄奘三蔵は徳の高いキャスターだが、シャドウサーヴァントであれば戦闘能力は高く無いだろう。

 俵藤太も、本領を発揮するのは戦闘ではない。

 注意すべきはアーラシュだが、彼もまた宝具が使えないことが幸いだろう。

 無論、アーチャーとしての能力も高いので、楽観は出来ないが。

 

『考察は以上にしよう。休憩も出来ただろうからね』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉通り、休息は十分取った。

 現れるだろう魔神影柱を撃破するため、346プロダクションを後にする一同。

 今後の敵を予想することも大事だが、今は魔神影柱へと意識を切り替える。

 十分倒せる算段はあるが、油断はせずに向かう。

 アイドル含めたサーヴァントは十五名。

 マスターである立香と共に、再び戦場へと赴いた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 魔神影柱、九体。

 眼前の巨大な敵に対し、恐れる気持ちは微塵もなし。

 魔力は十分、気力は十二分。

 アイドル達は、その能力(ちから)と絆を用いて戦う。

 スキルや宝具、チームワークを駆使して。

 第五特異点のシャドウサーヴァントも、強力な戦力として機能した。

 想定外の事態は起こらず、誰も欠けることなく戦いは終わりへと向かう。

 順調そのものであり、魔神影柱との戦いは何事も無く終了した。

 時は過ぎ、鐘が鳴り、結界は再び閉じる。

 残る敵は、半数を切っている。

 彼らの探索は、終わりが見えるところまで到達した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の時針は進む

 

 全ての敵を倒したとき

 

 最奥への道は開かれる

 

 かつての戦いを再現する

 

 終点にいる存在は、――――――

 

 

 

 

 

「――――――。」

 

 

 

 

 

 カルデアと、シンデレラたちを待っている。

 

 

 

 

 



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行間 二

 空はどんよりと曇っている。

 パラパラと小雨が降り、高い湿度と夏の気温でむしむしと不快に感じる。

 346プロダクションの事務員、千川ちひろは通路から空を見上げていた。

 

「長引きそうな雨ですね……」

 

 んしょ、と手に持つ資料を支え直し、再び目的地へ向かって歩き出す。

 歩きながら考えているのは、自身がアシスタントするプロデューサーのこと。

 

(忙しいのは分かりますが……、上手に休んでくれないものですかね……)

 

 はあ、とため息をつく。

 やる気があるのは結構。

 しかし、時には力を抜くことも大切なことだ。

 アイドル達のためとはいえ、常に全力で業務にあたっていては、いつかどこかで綻びが出る。

 

(睡眠時間はちゃんと取っています。って、そこを削るって考えがあるのが、もうダメなのに気づいていないんですよ)

 

 睡眠時間を取るのは、本来仕事で振り回されていいものではない。

 早番や夜勤だったとしても、一定時間の睡眠は確保して当たり前のことだ。

 当たり前のことをいちいち報告したということは、本人にとって当たり前じゃない時があると暴露しているようなものである。

 

(対症療法ですけど、できる限り仕事を手伝うしかないんですね……)

 

 仕事を減らすのは、現状では不可能に近い。

 プロデューサーが現場に来ることは、アイドル達にとって確かなプラスになっている。今更やめられないだろう。

 各種イベントも、もう動いているのでキャンセルは無理。

 出来るだけ、プロデューサーの負担を減らすしかないのだ。

 

(心配かけさせるプロデューサーさんには、今度何か奢って貰わないと)

 

 ただ、日ごろお世話になっているからと、嬉々として奢ってくれそうではあるが。

 あまり、心配をかけさせたことによる罰にはならないだろう。

 なにせ、休日ですらアイドルに付き合っていることが多いのだ。

 

(さしあたって、ドリンクの差し入れを持って行きましょう)

 

 頑張って、仕事を終わらせて、しっかり休んでもらう為に。

 アイドル達のために仕事をするのは自分も同じ。

 イベント業務も今が佳境。

 山場を超えたら、他の社員も誘って打ち上げでもしようかなと、少し未来の計画を組み上げ始めていた。

 

 

 

 なお、先日に続いて複数のドリンクをちゃんぽんしていたプロデューサーに対し、何度目かになる説教をするちひろであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「あいにくの天気ですね、先輩」

 

 →「蒸し暑いね……」

 

 結界の探索後、ホテルの各部屋にて睡眠を取ったマスターとマシュ。

 天気は小雨が降り続け、雲の厚さからして止みそうに無い。

 外へ出かけようかとも思ったが、どうしたものかと考える立香。

 ちなみに、本日のアイドル達は全員お仕事。

 イベントは雨天を想定していることが多いので、中止になるということはあまり無いだろう。

 野外で落雷がある場合は別だろうが、そのような様子も無い。

 そもそも、今日の仕事は屋内らしいので、要らぬ心配だろうが。

 

「ダ・ヴィンチ。今日もまた、結界は観測できないのかね?」

 

『残念ながらそのとおりだ。こちらからでは結界の観測はできず、特異点の異常も見つからない。深夜結界が展開されているときは、確かに反応があるのだけどね』

 

『まるでコインの表と裏のようだね。似たようなケースもあるから、そういう類のものなのだろうさ』

 

 どうやら、日中は今まで通りになりそうだ。

 ただ、裏の世界である深夜結界は、いつ表の世界に影響を及ぼすか分かったものではないのだ。

 早く結界の謎を解くことに、越したことは無い。

 そのためにも、今は英気を養うことに専念する。

 

 →「外に行こうか」

 

 だが、ただホテルで休んでいるだけでは気が滅入ってしまう。

 せっかくの東京だ。見所はいろいろある。

 

「そうですね。雨といっても、屋内施設や地下街が多くあるのが東京です。どこかに気に入る場所があるでしょう」

 

「疲れたときは、美味しいものを食べてリフレッシュするのもいいですよ」

 

 張り詰めすぎれば、糸は簡単に切れてしまう。

 一休みして、余裕を持つのも大切だ。

 

 →「マシュは、どんなところに行きたい?」

 

「えっと、では……。カラオケ、に行ってみたいです」

 

 マシュから出た提案は、彼女にしては珍しい。

 ただ、なぜカラオケなのか、大体察しはついていた。

 

 マシュは、アイドル達の曲を歌いたいのだ。

 彼女たちと関わって、ステージに立った、あの時の感動。

 聴いてくれる人は少ないけれど、きっと笑顔で楽しく歌えると思うから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 撮影の休憩中、島村卯月は思考していた。

 それは、最近知り合いになったカルデアの人物達。

 彼らは七つの特異点を乗り越え、世界を救った英雄たち。

 結界はまるで、それを再現していると言っていたので、残る特異点は二つなのだろう。

 失敗する事を考えないのだとすれば、もう彼らといられる時間は長くない。

 短いながらも、現実と結界で親しくなっていたカルデアは、素敵なお友達になった。

 

 しかし、マシュ達が去って行った後、自分たちは彼らのことを覚えている事ができない。

 

 詳しいことは分からないが、彼らのことを覚えていられないのは悲しい。

 だが、早かれ遅かれ、彼らはこの時代を去ってしまう。

 ここは、彼らの住む時代から少しだけ過去らしい。

 ならせめて、何かできることは無いだろうか。

 

「しまむー!何考えてるの?」

 

「ちょ、未央ちゃん!?」

 

 座っていた卯月を、後ろから抱きしめるようにスキンシップを散る未央。

 なんとなく元気が無さそうな卯月を励ますように、声をかける。

 

「えっと、マスターさんたちのことを考えていたんです」

 

「カルデアの人たちを?」

 

 凛が話に加わる。

 彼女にとってもカルデアは親しい間柄の為、他人事ではない。

 結界のことは実感が無い記録のみだが、現実では一緒にステージに立った仲だ。

 カルデアのことで卯月が何を思っているのか、気になる内容であった。

 

「マスターさんたちは、いつかこの時代からいなくなってしまいますよね?」

 

「あ~……。うん……。確かにね」

 

「仕方ない、ことなんだろうけど……」

 

 忘れていたと言うか、考えないようにしていたことだ。

 近いうちに、カルデアの人たちはいなくなる。

 ただ別れるのではなく、完全に忘れ去ってしまう。

 もう二度と、彼らと会うことはできない。

 一期一会とは違う、完全な離別。

 が、それは凛の言ったとおり仕方の無いことだ。

 正しいことであるが故に、どうにもならないこと。

 

「だから、せめて何かできることは無いかな?って思っていました」

 

「……出来ること?」

 

「はい。私たちは、カルデアの人たちのことを忘れてしまいますから。けど、何をすればいいのかは、まだ分からないんですけど……」

 

 黙り込む一同。

 そんな中、パチン。と、指で鳴らした音が響く。

 未央が、何かを思いついたようだ。

 

「ならさ、お別れ会とかやろうよ!」

 

「お別れ会、ですか?」

 

「この前、お疲れ会をやったばっかりなのに?」

 

「それはそれ、これはこれ。楽しいことは、何度やってもいいんだよ!」

 

 カルデアは、彼女たちアイドルの事を忘れることは無いだろう。

 しかし、それじゃあ足りない。

 彼らの心に、自分たちの存在を刻み付ける。

 どうせなら、結界で関わったアイドル達も誘って楽しく騒ごう。

 

「うん、いいと思うよ。私たちには、それくらいしか出来ないと思うし」

 

「はい!きっとマスターさん達にとって、楽しい思い出になってくれます!」

 

「よーし、そうと決まれば。お仕事とのすり合わせ、ちゃんと考えなきゃね!」

 

 スケジュールを確認し、他のアイドルとも連絡を取る三人。

 もっともっと、彼らと笑おう。

 共に楽しもう。

 

 

 

 頭で忘れても、心で忘れないように。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の最奥

 

 佇むように待つ存在

 

 眠るように待つ人物

 

 深夜結界の基点

 

 そこにいる存在は

 

 一人ではない(・・・・・・)

 

 

 

 

 



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期間限定ピックアップ召喚サーヴァント紹介 4

真名:シンデレラ(前川みく)

クラス:セイバー

レアリティ:☆4

 

プロのアイドルに徹する真面目な気質を持つ少女。几帳面で公私混同を好まない。

猫系アイドルというキャラクターを持ち、語尾に「にゃ」をつけている。

ネコミミを普段から携帯していたが、サーヴァントになった際に本物のネコミミとなった。

なお、彼女のネコミミは自由に出したり消したりでき、色や種類の変更も自在。

プライベートではメガネをかけ、委員長のような清楚な姿を見せる。

猫キャラとのギャップから、こちらの人気も高い。

セイバーでありながら、剣を主武装としないサーヴァント。

彼女の通常攻撃には、猫の引っかきのような斬撃が出現する。

これは彼女の宝具による力が零れ落ちたもの。

彼女の剣は、宝具を使ったときのみ使用できる。

 

宝具:強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)

 

コマンド:Buster

 

自身の攻撃力をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

+自身にクラス相性の攻撃及び防御不利を打ち消す状態を付与(3T)

+敵単体に超強力な攻撃

 

「真面目で可愛い猫系アイドル!みくは自分を曲げないよ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(多田李衣菜)

クラス:ランサー

レアリティ:☆4

 

ロックなアイドルを自称している少女。実際はその“たまご”で、ギターはまだ練習中。

常にヘッドフォンを携帯しており、多くのヘッドフォンを収集している。

ロックという響きに対して憧れが強いが、知識や経験が乏しいため、にわかっぽい雰囲気を出すこともしばしば。

ロックに対する知識はあまり無いが、彼女にとってロックとは「魂の在り方」と定義している。

そんな李衣菜の信念が他人から共感を呼ぶこともあり、そんな生き様がロックなのだと言えるだろう。

彼女の武装はスキルによって投影されたギター。その形は一定ではなく、彼女の意思で自在に変化する。

――――のだが、他者はそれを視認することができない。

 

宝具:心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)

 

コマンド:Buster

 

自身の攻撃力&防御力をアップ(1T)<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

 

「ロックなアイドルのたまご。エアギターを持って登場!」

 

 

 

真名:シンデレラ(新田美波)

クラス:セイバー

レアリティ:☆4

 

現役大学生のアイドル。スポーツと勉学を得意とする文武両道。

趣味のラクロスと資格取得がそれを表している。

アイドルサーヴァントでありながら、「神性」を獲得しているという珍しい特性を持つ。

神代以外のサーヴァントが「神性」を持つ例は少なく、英霊全体で見ても非常に稀。

美の女神ウェヌス(ヴィーナス)と戦乙女ヴァルキュリア(ワルキューレ)の二面性を持つ擬似的な神性であり、セイバークラスの該当はヴァルキュリアの影響。

本人の真面目で几帳面な気質もあり、見事なリーダーシップを発揮することも。

他のクラス適正として、ラクロスの槍を使用するランサー。

複数の神性とシンデレラの影響によるアルターエゴ。

彼女の色気を全面的にピックアップした、アサシンクラスが該当する。

アサシンクラスで召喚された場合、「神性」に加えて「魔性」を獲得する。

 

宝具:美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)

 

コマンド:Arts

 

自身に与ダメージプラス状態を付与<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

+敵全体に中確率で魅了を付与

 

「健康的で魅力的なお姉さん。みなみ、決めますっ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(アナスタシア)

クラス:アサシン

レアリティ:☆4

 

ロシア人の父と日本人の母を持つハーフ。愛称はアーニャ。

日本語のリスニングは問題ないが、話す場合にロシア語が少し混じる。

非常に純粋で素直な性格。

そのため、周囲の情報を鵜呑みにする傾向があり、天然と称していいだろう。

他人から教わった日本語によって、言葉づかいが大変なことになったりもする。

アサシンクラスであるが、暗殺に関する技術は殆どない。

趣味は天体観測とホームパーティー。

そのため、彼女の歌う歌詞も星や空といった描写が多い。

自らのことを「中身は少し日本人」と称しており、好きな食べ物は肉じゃがだったり、朝はご飯と味噌汁派など、日本の影響が強く出ている。

 

宝具:星空へと希う郷愁(Nebula Sky)

 

コマンド:Quick

 

+敵全体に強力な攻撃

敵全体の攻撃力をダウン&自身のクリティカル威力アップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

 

「星空のように美しきアイドル!純粋で素直で、ちょっぴり天然!」

 

 

 

 

 

 



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第13章 円卓の騎士、その影

 深夜十二時。

 もう六度目になる深夜結界。

 敵対するであろう予想戦力は、第六または第七特異点のシャドウサーヴァント。

 どちらも強敵であり、場合によっては味方の誰かを失いかねない。

 故に慎重、そして確実に攻略する必要がある。

 誰か一人を失うだけで、戦力の低下は激しくなる。

 多人数で行動することが、アイドルサーヴァントの前提であり特性であるからだ。

 そうでなくとも、マスターである立香は仲間を犠牲にすることなど望んでなどいない。

 

 →「行こう!」

 

「はい、マスター!」

 

 出てくるであろうシャドウサーヴァント達をおさらいし、情報の整理を行った一同。

 以前に話し合っていたことでもあり、比較的短い時間で終わった。

 そしては346プロダクションを後にし、探索へと向かう。

 偵察と索敵に出るエミヤ、蘭子、杏。

 先頭を行くアルトリア、殿を務めるジャンヌ、皆を守るマシュ。

 

 この数日間で、彼らのチームワークはまるで熟練のそれであるかのようだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドル達を含め、全員警戒を怠らない。

 結界の探索も慣れた様で、自身の役割をきちんとこなす。

 慣れ始めが一番油断を誘う時期だが、そのような様子もない。

 

『アイドル達は頼もしいね。戦いとは無縁だった少女たちとは思えないよ』

 

 →「本当に助かってる」

 

「えへへ、そんなに褒められると照れちゃうな~」

 

「危ない人には注意すること!アイドルの基本だもん☆」

 

『サーヴァント化し、能力を獲得したとしても、それを使いこなせるかは本人次第だ。アイドル達は、それを十全にこなせている。まるで、一般人であるマスターが、サーヴァントの助けを借りて世界を救ったようだね』

 

「ふふ。私達って似たもの同士なのかも知れませんね」

 

 ホームズとかな子の言ったことも、的を射ている。

 一般人であったが、突如力を振るえるようになり、成長し偉業を成し遂げた。

 そういった意味では、ある種同じ経験をしてきたと言えるだろう。

 マシュもまた下地があったが、デミ・サーヴァントとしての能力を獲得した時、最初は宝具すら使えなかった。

 最初期に出会った卯月もまた、初めはぎこちなかった。

 しかしカルデアと過ごし、アイドル達とも共闘し、いまや立派なサーヴァントだ。

 アイドル達は知識を共有しているが、その始まりを担ったのが卯月。

 そんな彼女に続き、アイドル達も共に成長した。

 現在、総勢十人のアイドルサーヴァント。

 彼女たちには、まだ伸び代がある。

 サーヴァントとしては異質である、成長する力があるのだから。

 

 

 

 

 

『シャドウサーヴァントを確認した、マスター。どうやら、そちらへ向かっている』

 

 エミヤからの念話が入り、戦闘体制へと移行する。

 ただ、念話越しだが歯切れが悪い印象を受ける。

 

 →「どうしたの?」

 

『……そちらに向かったのは、シャドウサーヴァントだけではないと言うことだ』

 

『確認した。霊基反応あり、シンデレラの霊基で間違いないようだ。新たなアイドルサーヴァントだよ』

 

「それって大丈夫なんですか!?」

 

 凛が声を荒げるが、偵察のメンバーからは焦った様子はない。

 ピンチではない、と言うことなのだろうか?

 

『杏から見ても、致命的なピンチじゃないよ。そっちへ向かって、シャドウサーヴァントから逃走している。皆なら十分追いつけるよ』

 

『我の「瞳」から覗いても、彼女たちの逃走は力を余らせている』

(私から見ても、余裕を持って逃げてると思います)

 

『ここからだと、私達が本隊に合流するほうが早い。彼女たちの様子は、見れば分かる』

 

 どこか言いづらそうな、もしくは呆れている様子の三人。

 すぐさま立香たちの本隊と合流し、目の前からやってくる存在も視認した。

 こちらへ向かってくる、アイドルとシャドウサーヴァント。

 その先頭にいるのは、スターリースカイ・ブライトを着た少女。

 

「李衣菜チャンが音を立てるからにゃー!あれがなければ気づかれることもなかったのにゃー!」

 

「その後に声を上げたのはみくちゃんだもん!そっちでバレたんでしょー!」

 

 二人のアイドルが、喧嘩しながら全力疾走で逃げていた。

 

 

 

 

 

「……余裕あるじゃん!あの二人!」

 

「喧嘩しながら逃げてるって、お二人らしいですけど……」

 

 突っ込む未央と、笑顔を引きつらせている卯月。

 逃げに徹しているとはいえ、言い争いながら撤退戦を成している。

 だが、アイドル達の敏捷値はあまり高くないはず。

 シャドウサーヴァントとはいえ、敏捷ランクがAを超える者もいるはずだ。

 

「――――――!」

 

 事実、今まさに追いつき、手に持つ刃で切り裂かんとする影が三つ。

 

「おっ!?――っとう!!」

 

 何か(・・)を振りかぶった少女。

 手には何も持ってないはずなのに、短刀とシャドウサーヴァントを牽制する。

 

「にゃ!?にをするにゃー!!」

 

 どこかしなやかな身のこなしで攻撃を避け、腕を振る少女。

 空振ったはずなのに、影には確かな切り傷ができていた。

 

 喧嘩する二人、言い争いは止まらない。

 しかし、彼女たちは抜群のチームプレーを発揮していた。

 

「っと、皆がいるにゃ!」

 

「カルデアの人たちもだ!」

 

 一同の目前で、自身のスピードにブレーキをかける二人。

 

「自己紹介は後でお願いするにゃ!」

 

「今は、目の前の相手に集中。でいいよね?」

 

 真逆の構え、互いに背中を向ける二人。

 それは鏡合わせの様で、普段の様子を如実に表している。

 

 →「よろしくね、二人とも!」

 

「シャドウサーヴァント、来ます!」

 

 マスターとマシュの合図で、戦闘は開始された。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 確認できるシャドウサーヴァントは十三体。

 徳高き三蔵法師、玄奘三蔵。

 後の藤原秀郷、俵藤太。

 太陽王ラムセス二世、オジマンディアス。

 古き天空の女王、ニトクリス。

 暗殺教団の党首、百貌のハサン。

 同じく党首である、呪腕のハサン。

 毒殺の名手たる党首、静謐のハサン。

 太陽の騎士、ガウェイン。

 竪琴の騎士、トリスタン。

 湖の騎士、ランスロット。

 東方の大英雄、アーラシュ・カマンガー。

 隻腕の騎士、ベディヴィエール。

 ロンゴミニアドを持つ謎の人物、獅子面の騎士。

 その中でも、歴代ハサン・サッバーハが輪をかけて危険だ。

 

「来てるよ!」

 

「うぉおっと!?」

 

 気配遮断によって近づかれ、素早い身のこなしでヒットアンドアウェイに徹している。

 シャドウサーヴァントとなっていなければ、今頃幾人かのアイドル達はやられていただろう。

 

「未央!後ろ!」

 

「あっぶな!?サンキュー、しぶりん!」

 

 互いが互いの死角を補うことで、奇襲への対策とする。

 道路の中央である為、遮蔽物がないのも幸いしている。

 しかし、厄介この上ないことには変わりない。

 意識をそちらに取られ、十全なパフォーマンスを発揮できない。

 

「甘いっ!」

 

 しかし、地力には大きな開きがある。

 こちらの人数は、サーヴァントが十三人。

 シャドウサーヴァントは、第四特異点の十四体。

 サーヴァントのみでも同数の人数である上に、シャドウサーヴァントの援軍による差が大きい。

 しかも、こちらにいるのは反逆の騎士モードレッド。

 加えて、嵐の王アルトリア・ペンドラゴン。

 対円卓の騎士とも言うべき二人は、逸話的にも優位を取れる。

 

 しかしそれは、相手にギフトがあれば話は別だ。

 さらに、姿を現していない存在である、初代山の翁も気になるところだ。

 いつの間にか、自分たちの首が飛んでいたなんて事態になりかねない。

 

 不気味な感情が、心の底に残る。

 

 

 

 ザシュッ!!

 

 

 

 首を切る音が響く。

 モードレッドのシャドウサーヴァントが、ガウェインを<ruby><rb>討ち取った</rb><rp>(</rp><rt>​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​</rt><rp>)</rp></ruby>。

 

 →「やっぱり……」

 

 ここまでの戦いで気づいてはいたが、ここに来て確信した。

 

 円卓の騎士たちは、ギフトを所持していない(・・・・・・・・・・・)

 

 でなければ、いかに逸話的に不利とはいえシャドウサーヴァントに倒されなどしない。

 

 

 

 結局、懸念していたギフトもなく、初代山の翁が現れることもなく。

 

 程なくして、戦闘は終了した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「助かったにゃ。改めて、お礼を言わせてほしいにゃ」

 

 語尾に「にゃ」をつける、猫の耳を生やした少女。

 前川みく。

 猫系アイドルを売りにしていると聞いてはいた。

 

 ピョコッ、ピョコッ。

 

 彼女の言葉や感情に呼応し、動くネコミミが気になるところではあるが。

 

 →「どういたしまして。……そのネコミミ、本物?」

 

「あ~、どうもサーヴァントになったら、生えてきたみたいなのにゃ」

 

 そう言いながら、自身の白いネコミミを弄るみく。

 尻尾も生えているようで、フリフリと左右に揺れている。

 愛嬌があり、可愛らしい様子だ。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。カルデアの皆、すっごく『ロック』だったぜ!」

 

 こちらに向かってニカッっと笑い、サムズアップをする少女。

 多田李衣菜。

 カルデアのことを褒める形で、「ロック」と称しているらしい。

 

 →「こっちこそありがとう。君も『ロック』だったよ」

 

「ありがとう!まあ、当然だけどね!」

 

 何か琴線に触れたのか、大げさに声を上げる李衣菜。

 喜んでいるのは間違いないようだ。

 そんな彼女を、横からジト目で見るみく。

 

「……ギターはまだ練習中の癖に(ボソッ)」

 

「なっ!?それはそうだけど、今言うことじゃないでしょ!?それを言うなら、みくちゃんだってネコキャラなのに魚食べれないじゃん!」

 

「にゃ!?初対面の人がいるところでそれを言うにゃー!」

 

「それはそっちも同じでしょー!」

 

 ギャーギャーと、言い争いを再び始めた二人。

 オロオロとする立香とマシュ。

 しかし、アイドル達はいつもと変わらない。

 彼女たちにとってはいつものやり取りであるらしい。

 それぞれ向ける表情や感情は異なるようで、呆れていたり、しょうがないなと言っていたり、仲がいいよね~、とも言っている。

 

 

 

 新たな仲間として合流したアイドル。

 前川みくと多田李衣菜。

 真逆であり、喧嘩もするけど、根底では仲が良い。

 

 

 

 カルデアと共闘するアイドルサーヴァントに、ユニット「*(Asterisk)」が加わったのであった。

 

 

 

 

 

『解散(にゃー)(だー)!!』

 

 

 

 

 

 …………加わった瞬間、解散してしまったようだが。

 

 

 

 

 



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第13章 円卓の騎士、その後

 紆余曲折あって、再結成した「*(Asterisk)」。

 彼女たちが加わったことで、戦力の地盤がより強固なものになった。

 マテリアルによってスキルを確認した後、話題となったのは先ほどのシャドウサーヴァントについて。

 ギフトについてはまだいい。

 シャドウ化した際、宝具と同様に再現できないものとして考えうるからだ。

 しかし、奇妙な点がある。

 

 それは、現れなかったシャドウサーヴァントについて。

 

『倒したシャドウサーヴァントに、モードレッド、アグラヴェイン、そして「私」の姿は確認できなかった』

 

「登場したサーヴァントに、法則があるのだろう。……そこの所、どうなんだね?シャーロック・ホームズ」

 

 エミヤの言葉の後、全員が一斉にホームズへと目線を向ける。

 世界最高にして、唯一の顧問探偵。

 彼の頭脳による推理であるならば、核心に迫った情報が出てくるだろう。

 

『確かに、大方の推理は付いている。だがしかし、証拠が無い(・・・・・)。名探偵を名乗る以上、現状の推理で現場を引っ掻き回すことなど出来ないよ』

 

 しかし、彼は不確定要素に対しては口にしない。

 彼の癖でもあるが、しかし戦場においては正しい点もある。

 推理によって、その物事を真実だと決め込んでは、違った場合に痛いしっぺ返しをくらうことになる。

 無論、悪い点もある。

 少ない情報でも有ると無いとでは全く違う。

 時には、命に関わることもあるだろう。

 ただ、それは戦場の理屈であり、事件解決とは考え方が違う。

 ここは戦場でもあるが、特異点という事件現場(・・・・)でもある。

 物事を妄信し、視野を狭めてはいけない。

 

 かつて、シャーロック・ホームズはロマニ・アーキマンを信用していなかった。

 

 それは、今にしてみれば間違いである。

 カルデアにとって、Dr.ロマンは終始頼れる人物であり、信用に値する人間だった。

 重要参考人という意味では、間違いではないのだが。

 そして、彼はDr.ロマンのことを、こう称してもいた。

 

 “どうしているのか分からないが、事件とは無関係の、別にいてもいなくてもいい傍迷惑な謎の人物”と。

 

 それもまた、最終的(・・・)に見れば間違いだ。

 あの時はそういう風に目に映るのだろうが、答えとしては違った。

 Dr.ロマンがいたからこそ、人理焼却事件は解決へと至ったのだから。

 

 名探偵であるホームズといえども、情報が揃わなければ推理は当たらない。

 故に、事件解決にはいつだって「決定的な証拠」が必要だ。

 そうでなければ、何かしらの事象で推理がひっくり返ってしまう可能性もある。

 

「……そうか。ならば今は問うまい」

 

 カルデアの頭脳の一角である、彼が話さないのであれば、今は言及しない。

 それだけの信頼関係が、彼らカルデアにはあるのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 →「来た!?」

 

 再び合間見える、九体の魔神影柱。

 先の戦いとのインターバルは短く、連戦となってしまった。

 シャドウサーヴァントも、十全とはいえない。

 いかに逸話的に優位といえども、さっきまで敵対していたのは高レベルのシャドウサーヴァント達。

 相性がよかったのも、モードレッドとアルトリアだけであった。

 シャドウサーヴァント達は、特に消耗している。

 しかし、嘆いてなどいられない。

 準備万端のときだけに、敵が来るとは限らないのだ。

 この戦場に、開始の合図など無く。

 

「はっ!」

 

 エミヤの射撃が、その代わりとなった。

 それに伴い、マスターが始まりの指示を出す。

 

 →「魔神影柱戦、行くよ!」

 

「にゃ!前川みく、気合入れていくにゃ!」

 

「私の『ロック』、見せ付けてあげる!」

 

 仲間になったばかりだからこそ、やる気に溢れたみくと李衣菜。

 

 シャッ!!

 

 ダッ!!

 

 そんな二人は、魔神影柱に向かって速攻で駆け出した。

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 攻撃を仕掛ける魔神影柱。

 

「甘いにゃ!」

 

 機敏に攻撃を避けるみく。

 動きに無駄が無く、その動きはある動物を連想させる。

 

「にゃ!!」

 

 手を振りかぶり、それに対応するように斬撃が出現し、魔神影柱を切り裂く。

 その戦い方は、まるで猫の挙動。

 四足で動いているわけでもないのに、どうにもその姿を連想させる。

 

「くらえー!」

 

 魔神影柱に、手に持った何か(・・)を振りかぶる。

 

「――――――!?」

 

 魔神影柱に、その何か(・・)が当たり、ダメージを与えていく。

 それは、アルトリアの「風王結界(インビジブル・エア)」に近い印象を受ける。

 

 これこそが、多田李衣菜の持つスキル「エアギターA」。

 

 彼女がランサーとして召喚された原因とも言えるスキル。

 個数は一機しか出すことは出来ないが、出せる回数に際限は無い。

 エミヤと同じく、彼女には武器破壊が意味を成さない。

 形状も自由が利き、よくよく見れば切り傷もあるのが確認できる。

 楽器として出すことも出来るが、武器専用に改造したギターを出すことで攻撃の手段としているのだ。

 

「やああぁぁっ!」

 

「喰らいなさい!」

 

「莉嘉もいっくよー!」

 

「きらりんパーンチ!」

 

 前線にて奮闘する、アルトリア、ジャンヌ、莉嘉、きらり。

 

 空中で援護する、蘭子、杏。

 

 後衛には、エミヤ、マシュ、そして補助、追撃を行うアイドル達。

 

「――――――!!」

 

 しかし、やはり魔神影柱は手ごわい。

 一体一体は、本物の魔神影柱に及ばないが、九体という数がネックだ。

 

「危っ、なあ!?」

 

「大丈夫!?」

 

 蘭子の危なげな回避に、思わず声を張り上げる杏。

 やはり、先の戦いの疲れが出ている。

 チームワークでそれをカバーしているが、危うい場面がところどころ見える。

 特に前衛と空中のアイドルがそれに陥っているようだ。

 このまま行けば、地力の差で勝てるだろうが、アイドルの誰かがやられてもおかしくない。

 

「――――――にゃ」

 

 何かを決めた表情をするみく。

 そして、宝具発動の体制に入る。

 

 

 

「みくに、猫チャンの力を少し分けて」

 

 

 

「皆の為に、あたっくするにゃ!」

 

 

 

 

 

「これがみくの力、強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)!」

 

 

 

 

 

 宝具の真名が解放された。

 それにより、みくの手に猫の意匠が施された剣が現れる。

 セイバーである、みくが獲得した力。

 それを右手で握り、姿勢を低くしたみくは――――

 

 

 

 タッ。

 

 

 

 一瞬で、トップスピードで駆け出した。

 

 <ruby><rb>強くて可愛い、猫チャンパワー!</rb><rp>(</rp><rt>チャーミングビースト​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​キャット</rt><rp>)</rp></ruby>

 宝具の効果はいたって単純。

 展開することで、猫の如き身体能力を得る。

 

 それによって、みくは魔神影柱を駆け上がっている(・・・・・・・・)

 

「にゃっ!!」

 

「――――――!?」

 

 宝具である剣による攻撃。

 確実にダメージを与え、その敏捷性をもって敵からの攻撃を許さない。

 ヒットアンドアウェイを的確にこなし、強化された力を振るう。

 

 しかしそれは、この宝具の本質ではない。

 もとよりこれは、強化する宝具などではない(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 ザシュ!!

 

 剣を持たない左手で、「引っ掻き」をくらわせるみく。

 

 

 

 これは、猫という概念を操作する宝具。

 

 

 

 剣もまた、猫という概念をその形に収めただけに過ぎない。

 願いや信仰が、宝具という形を作るように、その剣は造られている。

 みくは、「セイバーになったから剣を持つようになった」という、クラス適正の因果が逆であるサーヴァントなのだ。

 

 

 

「私の信念、私の思い」

 

 

 

「そのココロは、『ロック』と共にあり!」

 

 

 

 

 

「これが私の『ロック』、心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)!」

 

 

 

 

 

 突如、ライブ会場が現れた。

 アイドルが、この形状の宝具を使うのは二度目。

 蘭子もまた、似たような宝具を所持している。

 

 

 

 固有結界、「心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)」。

 

 

 

 この世界の主役は、彼女、多田李衣菜。

 手に持つギターは、皆にその存在を知らしめる。

 刃は無く、武器となりそうな形状をしていない、何の変哲も無いギター。

 

 それこそが、この世界における李衣菜の相棒。

 

「いっくよー!!」

 

 ジャーン!!

 

 みくとバトンタッチするように、李衣菜がギターをかき鳴らす。

 楽しそうに、笑いながら彼女はギターを弾く。

 

 

 

「――――――!?」

 

 

 

 すると、魔神影柱が攻撃を受けた。

 

 

 

 形は、あまり見えない。

 透明な波紋がライブ会場に広がり、それ自体が衝撃となってダメージを与える。

 音自体に、攻撃力があるわけではない。

 音は、あくまで合図であり指揮でしかない。

 

「いっけええぇぇ!!」

 

 攻撃のペースが早まる。

 すると、どんどん固有結界が狭まっている(・・・・・・・・・・・)

 

「――――――!!」

 

 彼女の行う攻撃の正体、それは固有結界そのもの(・・・・)だ。

 固有結界を削り取り、物理的な攻撃手段として用いる。

 そのため、固有結界の時間は短い。

 最後の最後まで、全力を出し切るように、攻撃の手を緩めない。

 

「李衣菜チャン!!」

 

「オーケー、みくちゃん!!」

 

 固有結界最後の攻撃。

 二人は飛び出し、魔神影柱が眼前に迫る。

 

 みくは、自身の宝具である剣を掲げ。

 

 李衣菜は、固有結界を蹴撃として足に纏い、振りかぶる。

 

 

 

「――――――!?」

 

 

 

 固有結界は解除された。

 その役目を終えたことを表すように。

 魔神影柱にはかなりのダメージが入っていおり、虫の息。

 

 トドメのダメ押しは、カルデアの英霊達によって完遂された。

 

 戦闘終了。

 魔神影柱は撃破された。

 

 

 

 

 

 これにより、倒した魔神影柱は合計54体となった。

 

 

 

 

 



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マテリアル 前川みく&多田李衣菜

マテリアルが更新されました。


英霊召喚

 

「前川みくにゃ!マスターチャン、これからよろしくにゃ!」

 

 

 

真名:シンデレラ(前川みく)

 

クラス:セイバー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D+

耐久:E

敏捷:C++

魔力:C

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:152cm・45kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・大阪

 

属性:秩序・善 性別:女性

 

「マスターチャン!今日のおかずはハンバーグにゃ!」

 

プロフィール

 

プロのアイドルに徹する真面目な気質を持つ少女。几帳面で公私混同を好まない。

猫系アイドルというキャラクターを持ち、語尾に「にゃ」をつけている。

ネコミミを普段から携帯していたが、サーヴァントになった際に本物のネコミミとなった。

なお、彼女のネコミミは自由に出したり消したりでき、色や種類の変更も自在。

プライベートではメガネをかけ、委員長のような清楚な姿を見せる。

猫キャラとのギャップから、こちらの人気も高い。

セイバーでありながら、剣を主武装としない。

彼女の通常攻撃には、猫の引っかきのような斬撃が出現する。

これは彼女の宝具による力が零れ落ちたもの。

彼女の剣は、宝具を使ったときのみ使用できる。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

動物会話(猫)A+ 味方単体のNPを増やす

 

マジメネコチャンEX 自身の強化倍率をアップ(3T)+自身の攻撃力をアップ(3T)+自身のスター発生率をアップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力C 自身の弱体耐性をアップ

 

騎乗C- 自身のクイックカードの性能アップ

 

宝具:強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Buster

自身の攻撃力をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

+自身にクラス相性の攻撃及び防御不利を打ち消す状態を付与(3T)

+敵単体に超強力な攻撃

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

動物会話(猫)A+

 

猫との意思疎通が可能になる。猫の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なことは伝わらない。

猫系アイドルというキャラクターからの派生によってできたスキル。

前川みくの場合、相手がネコミミをつけた場合にも同様の効果を得る。

その性質ゆえに、敵対関係にある人物にはあまり活用できない。

念話による疎通なので、言語の違いも無視できる。

 

マジメネコチャンEX

 

彼女のアイドルとしてのプロ精神がスキル化したもの。

加えて、このスキルは宝具、強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)から零れ落ちたものでもある。

猫系アイドルというキャラクターを徹底し、真面目に努力してきた彼女の個性。

スキルの使用によって、筋力と敏捷のランクを上げることを主目的に使う。

戦闘経験がない彼女が、接近戦をこなすため、猫の本能を利用したりもする。

彼女に本物のネコミミが生えているのも、このスキルの影響。

さらに、自身の持つスキルのランクを一時的に引き上げることが出来る。

クラススキルにも適応できるので、どのクラスで召喚されたとしても、その強みを引き出すことができるだろう。

自分に出来ることを、弱音を吐かず、真面目にこなし、己を曲げることが無いみくの真っ直ぐな気性と合致したスキル。

 

騎乗C-

 

セイバーのクラススキル。

おおよそはアイドルサーヴァントのライダークラスと同じ。

騎兵のクラスではないため、多少ランクが下がっている。

 

宝具:強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)

ランク:A+

種別:対人宝具

 

みくの個性、猫系アイドルを基とした宝具。猫のような身体能力を獲得できる。

この宝具の使用時は、筋力、敏捷のランクが大きく上昇する。

自身の肉体を強化しているのではなく、猫という概念を拡大、強化して自身に付与している。

そのため、引っかく、ジャンプするなどの行動には宝具の効果が高くなる。

この宝具の本質は、猫という概念の操作にある。

その操作の幅は広く、様々な武装などの姿を形作り、まさに化け猫のような万能性を持つが、クラスによってその武装は変化する。

セイバークラスの場合、猫という概念を剣という形に収めたものを使用できる。

過程としては、人々の願いそのものが剣となった「エクスカリバー」に近い。

剣を所持しているからセイバーなのではなく、セイバークラスとなったことで剣を振るうことができるようになった。

猫という概念を操作する宝具であり、それを応用することで他クラスへの適正が多い。

彼女の猫キャラである根幹、「猫チャンが好き」という、みくの力の源が宝具になった。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 学校の制服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 キャットパーティー

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「多田李衣菜。ロックなアイドル、目指してるんで……」

 

 

 

真名:シンデレラ(多田李衣菜)

 

クラス:ランサー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D+

耐久:E

敏捷:C

魔力:C+

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:152cm・41kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:混沌・善 性別:女性

 

「ロックは魂の叫びだぜ!」

 

プロフィール

 

ロックなアイドルを自称している少女。実際はその“たまご”で、ギターはまだ練習中。

常にヘッドフォンを携帯しており、多くのヘッドフォンを収集している。

ロックという響きに対して憧れが強いが、知識や経験が乏しいため、にわかっぽい雰囲気を出すこともしばしば。

ロックに対する知識はあまり無いが、彼女にとってロックとは「魂の在り方」と定義している。

そんな李衣菜の信念が他人から共感を呼ぶこともあり、そんな生き様がロックなのだと言えるだろう。

彼女の武装はスキルによって投影されたギター。その形は一定ではなく、彼女の意思で自在に変化する。

――――のだが、他者はそれを視認することができない。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

エアギターA 自身のバスターカードの性能アップ(3T)+自身のNP獲得量アップ(3T)

 

ロックな生き様EX 味方全体の攻撃力をアップ(3T)+味方全体の確率で発動するスキルの成功率アップ(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力C 自身の弱体耐性をアップ

 

宝具:心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Buster

自身の攻撃力&防御力をアップ(1T)<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

 

Buster:2 Arts:1 Quick:2

 

 

 

エアギターA

 

ギターを投影することができる。ギターの形状をしていれば自由度は高く、刃や針をつけることも可能。多田李衣菜がランサーである所以。

どのようなギターを投影した場合でも、視認出来るのは原則李衣菜本人のみ。

他者は味方であっても見ることができず、同じスキルを持っている人物は例外である。

ロックやギターが好きな彼女の感情が、彼女のエアギターと呼応したことでスキルとなったもの。

彼女の相棒は、宝具にてその姿を見せる。

 

ロックな生き様EX

 

「自分がロックだと思えばそれがロックである」という彼女の信念がスキル化したもの。

一般的なロックというものの知識が、李衣菜からは欠けていた。

しかし、自身の信念を貫き、その生き様は他者すら共感させる。

ついには、彼女の望んでいた「ロック」にもたどり着いた、彼女にとっての偉業。

李衣菜が思う「ロック」な行動、人物に対しての補正であり加護。

悪い空気というものを払拭し、全ての判定を強化するスキル。

彼女の「ロック」は、誰かの心に火を灯す。

 

宝具:心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)

 

ランク:A+

種別:結界宝具

 

李衣菜がたどり着いた魂の境地。ロックなアイドルの完成系でありスタート地点ともいえる宝具。

自身の可愛さも受け止め、それでいてクールなロックアイドルとなった彼女が主役である、ライブ会場の形をした固有結界。

この宝具の使用時は彼女のエアギターが視認でき、本物の音色をかき鳴らすギターとなる。

この固有結界で音を奏でると、斬撃、打撃、衝撃波などの攻撃ができ、簡易的な防御壁としても活用できる。味方とセッションすることで威力増加だけでなく、結界内で発動できるアクションのバリエーションが増える。

音自体に攻撃力や防御力があるのではなく、固有結界そのものを削って物理的な手段として使用している。

その特性のため、展開時間はかなり短く範囲も狭いが、敵からすれば固有結界そのものを一気にぶつけるという、文字通り世界を敵に回す宝具。

ちなみに、この宝具の使用時でもギターの腕は発展途上。

既知の曲の再現はできるが、新たな曲の作曲や、知らない曲を弾く場合は高いレベルを発揮できない。

しかし、巧くなくても、心をこめて歌うという彼女の思い。

そんな彼女の歌は、聴いた人の心に鼓動を刻むだろう。

 

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 ロックな私服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 目を開けてみる夢

 

 

 

 

 



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第14章 計画と約束

 結界に残されている謎

 

 一つ、召喚されているシャドウサーヴァントと魔神影柱について

 

 二つ、術者は、何が目的でこの結界を展開したのか

 

 三つ、なぜ、アイドル達がサーヴァントとして召喚されているのか

 

 未だ、仮説までしか答えがない

 

 全ての謎が解ける時は

 

 もう、遠くはないだろう

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 しんしんと、雨が降っている。

 昨日に引き続き、どんよりとした曇り空。

 夏休み特有のエネルギッシュなパワーはあるのだが、晴天時よりも人の波は抑えられている。

 昼食を食べ終え、別の喫茶店にて一服するカルデア。

 アイドル達はいない。

 忙しい時期であるため、オフの日は少ないからだ。

 

『もしもし、島村卯月です』

 

『えっと、智絵里です』

 

『我らの繋がり、意思疎通の秘術は機能しているか?』

(もしもし、念話は聞こえてますか?)

 

 あくまで、この場には。という意味だが。

 仕事の都合があるため、今回は念話での会議となった。

 

『もしもーし、聞こえてますか?』

 

『なんか、念話をするって変な感じにゃ』

 

 慣れていないからか、ぎこちない様子の李衣菜とみく。

 休憩中や、楽屋で待機している合間の時間を利用し、全員に繋がることができたようだ。

 

「それでは。ブリーフィングを始めようか。まずは当然、次の探索で出現するだろう敵についてだ。ほぼ間違いなく、第七特異点のシャドウサーヴァントだろう」

 

「はい。今までの聖杯探索(グランドオーダー)の中でも、最も厳しい戦いでした」

 

「神話に語られた女神の同盟。ウルクを守護していた戦士。英霊の頂点の一角」

 

「そして、……七つの人類悪の一つ」

 

 第七特異点は、七つの特異点の中で最大規模の戦いであった。

 魔獣から人々を守る要塞都市となっていたウルク。

 壮絶な戦いの中で、目覚めてしまった人類悪。

 神々と魔獣、人類が種の存亡を賭けた戦争。

 

 だがしかし、先の第六特異点での事がある。

 

 →「円卓の騎士は、ギフトを持っていなかった……」

 

「ああ、特異点の全てをなぞらえているわけではない、ということだ」

 

 ならば、シャドウであることも含めて、難易度はだいぶ下がるかもしれない。

 もとより、以前の敵はシャドウサーヴァント。

 魔獣やティアマトは、いないものと考えられるだろう。

 

『ちょっと待って。私と未央、卯月が一緒にいた、あの戦いの時の兵士たちはどうなるの?』

 

『杏達も同じ疑問があるよ。第三特異点の時のことでさ』

 

『我らと死闘を繰り広げた、海の蛮族共のことよ』

(私達が戦った、海賊たちですね)

 

 確かに。と、そのときのことを思い出す。

 第二特異点では、ローマ兵が。

 第三特異点では、海賊たちが。

 シャドウ化して襲い掛かってきていた。

 彼らもまた、魔神影柱と同じで、シャドウ化するなど本来ありえない。

 シャドウサーヴァントとは、英霊の残留霊基。

 霊基を模した偽物であり、影のようなもの。

 出現経緯や理由は様々だが、サーヴァントに近い存在であることは確かだ。

 

 だとするなら、今まで戦ってきた魔神影柱や兵士、海賊の影たちは一体なにか?

 

「それを言うなら、倒したシャドウサーヴァントが味方になる、というのも謎です」

 

 ジャンヌの言うとおり、シャドウに限らず倒したサーヴァントは消滅し、座に帰還するのが原則だ。

 しかし、この結界ではその原則が崩れている。

 結界の効果が、シャドウサーヴァントの再生なのだとしても、カルデアの味方をする(・・・・・・・・・・)のは明らかにおかしい。

 

 →「倒したシャドウサーヴァントが味方になるのも、ちゃんとした理由があるって事だよね」

 

『結界を出した人が、カルデアの味方をしているということなのでしょうか?』

 

「ウヅキの意見の可能性もありますが、こうも考えられます。結界の術者は、機械的に作業をしている(・・・・・・・・・・・)だけと」

 

『つまり術者はいても、意識がない状態、ってこと?』

 

「リンの言うとおり、その可能性もあるでしょう。意識を持ってなお、ただ役割をこなすだけという考えもありますが」

 

「どちらにせよ、結界がカルデアにも利をなしている以上、結界の術者が悪意を持って我々を排除しようとはしていない、ということは確かだ」

 

 一貫しない結界の内情。

 試練を課したいのか、乗り越えて欲しいのか、苦肉の策として手を貸しているのか。

 終わりが近いにもかかわらず、謎は尽きない。

 

『そもそもさ、なんで私達がサーヴァントになったんだろうね?』

 

『未央チャンの言うとおりにゃ。みく達が、シンデレラとして召喚されているのも、考えてみれば謎なのにゃ』

 

『あれ?私たちはシンデレラと縁があるから、それに対応したからじゃないの?』

 

「いや、だったら、結界でしか召喚されないというのはおかしい。擬似サーヴァントとして召喚されるのだとしたら、現実にも存在しなければ説明がつかない。縁があるのは確かだろうが、そもそも擬似サーヴァントと違い、英霊の分霊は保持していない。第一、君たちシンデレラは聖杯によって召喚されていない(・・・・・・・・・・・・・・)のだから」

 

 李衣菜の言葉を修正するように、前提を提示するエミヤ。

 サーヴァントとして異例である、聖杯によって召喚されていないサーヴァント。

 これを成せる方法は、決して多くない。

 例外は、カルデアの『守護英霊召喚システム・フェイト』などだろう。

 

 結局、正解と思える答えは出ることはなく。

 ホームズが推理を語ることもなく。

 謎を残しつつ、此度のブリーフィングは難航していった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 次のシャドウサーヴァントや、魔神影柱の対策を話し終え、張り詰めた空気が弛緩する。

 それぞれの楽屋や休憩室で、息を吐きストレッチするアイドル達。

 次のことを話し終えた為、立香が思ったのは次の次について。

 

 →「次の特異点が終われば、結界の奥に行けるのかな?」

 

「そうだと思います。が、結界での探索、シャドウサーヴァントと魔神影柱との戦闘で、時間が来てしまうでしょう。奥への探索は、もう一日を要します」

 

『それならさ!明日、来て欲しい場所があるんだ!』

 

 元気な声で提案する未央。

 明日、ということは日中のことなのだろう。

 

『皆で話し合ったんだけど、カルデアの人たちとせっかく仲良くなったから、お別れ会がしたいな、って』

 

「お別れ会、ですか」

 

『そうだよ☆だって、このままお別れして、何にも覚えていられないなんて悲しいじゃん』

 

『だったら、皆で楽しく遊ぼうって。みりあ、カルデアのお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に遊びたいもん』

 

 →「ありがとう」

 

「では、僭越ながら私が料理を担当しようか」

 

 彼女たちの嬉しい提案に、乗り気となったカルデアの主夫(オカン)

 以前の会にはいなかったアイドル達もいるため、やる気は十分のようだ。

 

『ダメだにぃ。せぇっかく、きらり達がおもてなしぃをするんだもん』

 

『私たちに準備させてください。腕によりをかけて作ります。お菓子作りは、特に期待しててください』

 

「とてもありがたい申し出です。しかし、アイドル業は大丈夫なのですか?」

 

『大丈夫、です。ちゃんと、スケジュールを見て、明日はお休みをいただいているので……』

 

『しかし、我らが共にいられるのは刹那の刻限。太陽の時から、魅惑の時に至るまで』

(全員が一緒にいられる時間は少ないですけど。でも、十二時から三時までなら大丈夫です)

 

『杏の貴重な休みを使うんだもん。ありがたく思ってよ』

 

 エミヤの提案を却下し、自分達が主催したいと話すアイドル達。

 彼女たちの記憶に、カルデアのことは残らない。

 アイドル達も、そのことは分かっている。

 こうして行った会も、忘れられてしまうだろう。

 だが、カルデアにとってはそうではない。

 彼女たちの真心は、彼らの心に残り続ける。

 

 だからこれは、アイドル達の忘れたくないという願い。

 

 頭では覚えていられないかもしれない。

 ならせめて、心では覚えていたい。

 記憶も形も修正されてしまうだろうが、「私たちは確かにここで出会ったんだ」と刻み付けるように。

 

『皆さん、是非来てくださいね。おもてなしも精一杯、頑張ります』

 

『私たちには、このくらいしか出来ないけど。でも、せっかくなら楽しんで欲しいな』

 

『絶対に、来なきゃダメだからね!』

 

 アイドル達のその願い。

 カルデアの答えは、もちろんイエス。

 

 アイドル達とカルデアの間に結ばれた。

 確かな約束。

 

 

 

 

 



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第15章 神性と妖精

 結界の展開から七日目

 

 探索はもう、大詰めを迎えている

 

 七つ目の試練を乗り越えたとき

 

 彼らに待っているのは――――

 

 

 

 八つ目の、試練

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデアとアイドル達が探索を始めて七日目。

 結界は、建物などは修復しても地形までは変わらない。

 もとより、街並み自体は現実のままなので、日中に調べることができる。

 数少ない、結界の外で出来る情報収集であり、昼の外出もこれが目的の一部であった。

 ただ、カルデアの中央管制室からの地図データがあるため、重要度は低かったが。

 そして、現実とは違い、シャドウサーヴァントや魔神影柱の出現場所があるのだ。

 人数が充実した今、斥候による偵察は彼らの定石となっていた。

 ただ、この結界も探索を続けた為、出てくる敵が減っている。

 倒した敵は再生しないので、シャドウサーヴァントが無限に湧いてくる、ということもないようだ。

 探索も効率化が進み、そのため成果も出やすくなる。

 

『立香君、反応ありだ』

 

 →「アイドルですか?」

 

『おそらくだけどね』

 

「おそらく、……ですか?何か、あったんでしょうか……」

 

『いや、トラブルがあったという意味ではないよ、智絵里嬢。ただ、反応が特殊だっただけさ』

 

「反応が特殊?」

 

 首をひねる李衣菜。

 アイドルサーヴァントについては、だいぶ霊基を調べたはず。

 にもかかわらず、その上で特殊(・・)と言葉を選んだ。

 今までのアイドルサーヴァントは、十分特殊な部類に入る。

 復讐の素養がないアヴェンジャーに、巨大ロボを宝具とするバーサーカーや、未来の姿に変身するアーチャー。

 しかし、あえて特殊と言う言葉を選んだのは、今までのアイドルとは違う形の特殊なのだろう。

 

『ああ、アイドルどころかサーヴァント全体としても異例だよ。何せ、「神性」の反応があったんだから』

 

「しんせい?ってなに?」

 

 莉嘉が疑問符を出すが、当然のことだろう。

 現代日本では、一般的な用語とは言えない。

 

「えーと、つまり、神様の性質、と言うことでしょうか」

 

 その言い回しは、ほとんど正しい。かな子の言った通り「神性」は、神霊の適正。

 文字通り、神様の属性を持つか否かである。

 英霊がこの属性を持つことは珍しくない。

 が、それは神代に近い時代の英霊に限られる。

 サーヴァントが獲得する場合、神と血縁があるか、神霊の擬似召喚などにほぼ限られる。

 時代が進むにつれ、神秘は薄れ、神からの干渉はなくなっていった。

 近代に近いサーヴァントが、「神性」を獲得する機会などほぼない。

 

『確かに、アイドルがこれを獲得するなんて、かなりのレアケースだ。だが例外の実例は、カルデアにもいる』

 

『それを説明する前に、アイドルを迎えに行こうか。幸い、戦闘には至っていないようだし』

 

 気になる内容だが、まずは合流優先。

 アイドル達の安全確保のため、反応のある地点へと移動することにした。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「はじめまして、カルデアの皆さん。私たちの仲間が、大変お世話になりました」

 

 →「いえいえ、これはご丁寧に」

 

「こちらこそ皆さんには、たくさん助けられてきました」

 

「改めまして、新田美波です。今回は、セイバーとして召喚されました」

 

 丁寧に挨拶をしてきたアイドルから、神々しい気配を感じる。

 立香にとって、カルデアで慣れ親しんだ「神性」による感覚だ。

 スターリースカイ・ブライトを身に纏い、美しい剣を持つその姿は、まさに女神と呼ぶにふさわしい。

 

「ドーブルイ ヴィエーチル。こんばんは、私の名前は…アナスタシアです。気軽に、アーニャ、と呼んでください」

 

 そして、もう一人のアイドル、アナスタシア。

 綺麗な銀髪と、妖精のような容姿を持つ少女。

 クラスはアサシン。

 凛と同じく、暗殺の技能は保持してないと見ていいだろう。

 自己紹介も終え、無事合流できたことを実感する。

 戦闘中や、助けに入る形での合流じゃない為、余裕をもって互いに確認ができる。

 

「でも以外だったにゃ。美波チャンは、てっきりランサーだと思ったから」

 

「ラクロスが得意だからね。私もそうじゃないかと思ってたんだけど」

 

「なんでぇ、ランサーで召喚されなかったのかな?」

 

 みくと李衣菜の言葉通り、事実彼女はランサーのクラス適性もある。

 しかし、此度はセイバーとして当てはまった。

 召喚されるクラスによって、英霊はスキルや宝具、性格すら変わることがある。

 サーヴァントは英霊にある複数ある側面の一つで、その一つが強調されるということだ。

 が、きらりの疑問はもっともであり、彼女たちアイドルサーヴァントは状況が違う。

 英霊と違い、座からの分霊を使っていない生霊による召喚だからだ。

 それを、ダ・ヴィンチちゃんが解説する。

 

『いや、彼女たちアイドルは、また違う理由だよ。英霊にとって、サーヴァントという器は小さすぎる。ゆえに縮小し、そのため異なる側面ができるんだ。彼女たちの場合はその()。サーヴァントの器は、彼女たちアイドルの生霊にとっては大きすぎる。だから、信仰心によって足りない部分が肉付けされる』

 

 →「と、いうことは」

 

「つまり、アイドル達の個性、その一部が強調(・・)される形で召喚されたと」

 

 このケースは前例があり、きらりも同じパターンである。

 バーサーカーとして召喚された為、普段の暴走が強調されることがあるらしい。

 程度は違えども、理屈は同じと言うことである。

 無論、他のアイドルや英霊のように、元々あるいは生前の性格とほぼ同じような状態で召喚されるのが基本である。

 キャスターとランサーのクー・フーリンがそうであるように。

 

「えっと、私の場合、このスキルが原因だと思います」

 

 その言葉を受け、ステータスを確認するマスター。

 確認できたのは、「神性」を伴う「女神の神核」。

 

 そして、スキル「アイドルのリーダーEX」。

 

「ミナミは、私たちの、リーダー、ですね」

 

 にっこりと、彼女がリーダーであることが嬉しいという表情を見せるアーニャ。

 確かに、美波はユニットのリーダーを務めることが多い。

「蒼の楽団」や「アインフェリア」などがそれにあたる。

 

「このスキルの影響なのか、普段の私より、皆の為にしっかりしなきゃ、っていう気持ちが強いんです」

 

『つまり、アイドルたちのリーダーとしての側面が強調されている。ということだね』

 

 源頼光というサーヴァントがいる。

 彼女はバーサーカーの場合、母性が強調される形で召喚でされる。

 セイバーの場合、都を守護する風紀委員長のようなリーダーとなるらしい。

 そしてランサーの場合、影から風紀を正す委員長、スケバンのような性格となる。

 美波もそれと似たケースであり、セイバーの場合はリーダーシップを発揮するということなのだろう。

 

『そして、さっきの話の続きをしよう。美波嬢の持つ「女神の神核」について。だが、これは予想がつく。サーヴァントの宝具やスキルは逸話によって形作られる。ならば、ファンに女神と語られた(・・・・・・・)アイドルである美波嬢ならば、このスキルを持ってもおかしくはない』

 

神霊との血縁を持たないが、「神性」スキルを持つサーヴァントは少数ながらいる。

「神の懲罰」「神の鞭」という二つ名を持つアルテラ。

似たような性質だが、現代の生まれでありながら「女神の神核」を持つアイリスフィール。

また、カルデアにいないサーヴァントだが、豊臣秀吉も保持する場合がある。

美波もまた、その少数の一人ということだ。

 

閑話休題。

 

「あの、皆さん。出来れば、輪になって集まって欲しいです」

 

 アーニャが言い出したのは、円陣の要求。

 知識はあれども、美波とアーニャにはサーヴァントとしての実感がほぼない。

 カルデアに対して好意的なのは、記録によって伝わった知識。

 そしてアイドル達が信頼しているという点が大きい。

 だからか、円陣を組んで気合を入れたいのだろうと考える。

 

 →「いいよ、皆で気合を入れなおそう」

 

「スパシーバ、ありがとう、です♪」

 

 マスターが快諾し、アーニャの顔に笑みが浮かぶ。

 サーヴァント全員にも異論は無い。

 団結力が重要であることは、十分すぎるほど分かっている。

 一同は輪を描き、その中心にアーニャが手を置く。

 それに続き、アイドル達が、英霊が、マシュが、立香が続いていく。

 

「円陣かけるなら、やっぱり美波チャンだと思うにゃ」

 

「異議なし。なんたって、『アイドルのリーダー』だもんね」

 

「もう、みくちゃん、李衣菜ちゃん」

 

 少し困ったような表情をするが、しかし頼られているのが嬉しいといった様子の美波。

 ほとんどのメンバーが同意見であるようで、決まったような雰囲気だ。

 しかしその中で、ただ唯一の反対派が『待った』をかける。

 

「ニェット、いいえ。できれば、アーニャにやらせて、欲しいです」

 

「アーニャちゃん?私はかまわないけど……」

 

 真剣な様子のアーニャ。

 遅ればせながら、全員がアーニャの真意を理解した。

 この円陣の目的には、精神的なおまじないだけではない理由(・・)がある。

 

「皆で、力を合わせて――――」

 

 重なった手から、伝わってくる。

 

「皆で、手を繋いで――――」

 

 確かな繋がり。マスターとのパスと似ている、独特の感覚。

 

 

 

「そして、皆で、乗り越えましょう!」

 

 

 

 この瞬間、彼らの魔力が繋がった(・・・・・・・)

 まるで、ここにいる全員とパスが繋がったかのような状態になっている。

 

『これは、本来マスターとサーヴァントの間でしか発生しない魔力のパスが、全員と繋がっている。アーニャ、君の仕業だね』

 

「ダー。私の、スキルによるものです♪」

 

 そう言った、アーニャのステータスを確認する。

 これほどの効果、間違いなく高ランクのスキルによる力。

 

 それが、「繋いだ手の輪EX」。

 

 他者と、魔力の共有を行うことができるスキル。

 個人としてではなく、集団として魔力を運用するという前代未聞な効果。

 魔力の貸し借りではなく、完全に繋がることによって、全員の魔力貯蔵量が許す限り、無制限に使用することができる。

 

「とんでもないスキルだな。他者と魔力を共有するということは、運命共同体になるといっていい」

 

「しかし、非常に有用なスキルです。誰か一人が、魔力不足に悩まされることが無くなる。場合によっては、魔力を一点集中して使う事ができます」

 

「懸念があるとすれば、魔力の使用ペースが乱れる危険性がある、ということですが……」

 

 ジャンヌの危惧していること。

 個人の魔力不足を考慮しなくていい、ということは、魔力を使いすぎる危険性があるということだ。

 一人だけなら、ペース配分を間違えた被害は一人だけで済む。

 しかし、このスキルの場合は、全員にしわ寄せが及ぶ。

 ただでさえ、戦いになれていないアイドル達。

 一人もペース配分を間違えないなど、彼女たちにはかなり難しい。

 

「大丈夫、です。その心配は、ありません」

 

 言い切ったアーニャ。

 そんな彼女の様子から、今一度、繋がったパスを確認する。

 

「…………なるほど」

 

 エミヤが、そう零す。

 確かに、全員とパスによる繋がりがある。

 しかし、その間に仕切り(・・・)のようなものを感じるのだ。

 任意で開けることができる、鍵の無い扉のようなもの。

 開けなければ、自身の魔力のみが消費される。

 これならば、自分の魔力が減った時だけ、他者の魔力を共有できる指標となる。

 

「それに、アーニャたちには、頼もしいマスターがいます」

 

 →「了解、指示は任せて!」

 

 さらに、幾多の戦いを乗り越えたマスターがいる。

 サーヴァントへの指示を、幾度と無く経験した立香。

 彼ならば、共有した魔力を持つサーヴァントへ、的確な指示が出せる。

 アーニャは立香のことを、そう判断した。アイドルの仲間が、カルデアを味方と判断した。

 ならば、それを信頼すると。仲間とカルデアが繋いだ絆を信じると。

 

 アイドルたちは、強い友情で結ばれているのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 そして彼らは遭遇する。

 ここまでの激戦を潜り抜け、ついに来た第七特異点の影。

 

 金星の女神、イシュタル。

 天の鎖、エルキドゥ。

 怪物と化した女神、ゴルゴーン。

 ゴルゴン三姉妹の三女、ランサー・メドゥーサ。

 生命と豊穣の女神、ケツァル・コアトル。

「戦い」と「死」の象徴、ジャガーマン。

 冥界の女主人、エレシュキガル。

 スパルタの王、レオニダス一世。

 長刀を持つ僧兵、武蔵坊弁慶。

 若き日の源義経、牛若丸。

 

 総勢――、十体。

 賢王あるいは英雄王ギルガメッシュ。

 初代山の翁、キングハサン。

 花の魔術師、マーリンは不在という、明らかにおかしい人選。

 

 しかし、シャドウサーヴァントは待ってくれない。

 七回目となる、シャドウサーヴァント達との集団戦が開始された。

 

 

 

 

 



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第15章 神性と妖精 2

 第七特異点のシャドウサーヴァントは、これまでの戦いの中でも数が最も少ない十体。

 だが、侮ることなど出来ない。

 此度の相手に、人間の英霊は三人。

 他の七名は、神話でその名をとどろかせる神霊。

 そして、生きた宝具であるエルキドゥ。

 人間の英霊も、純粋な戦士たち。

 シャドウサーヴァントとはいえ、基礎スペックが高い相手ばかり。

 

「我の闇に沈め!」

(倒れて!)

 

「――――――!!」

 

 さらに、女神イシュタルには飛行能力も備わっている。

 アーチャーである彼女の武装、飛行船「天舟マアンナ」。

 制空権を掌握され、一方的な射撃を許すわけにはいかない。

 相対するのは、飛行能力に長けた蘭子と杏。

 

「赤原を行け、緋の猟犬!赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 そして、遠距離を得意とするエミヤ。

 数多の弓兵たちに引けを取らない命中精度によって行われる援護射撃。

 

「――――――!?」

 

「助かるよ。これで、いける!」

 

 隙ができたイシュタルを、ノックバックさせる魔力弾。

 威力ではなく、吹き飛ばすことが目的の一撃。

 それにより、マアンナから振り落とされないようにしがみつくイシュタル。

 隙が増し、決定的なチャンス。

 

「暗黒の炎、闇の極致たる力を受けるがいい!呪いの炎よ、逆巻け(フラム・フルーフ)!!」

 

 黒い炎の竜巻が、イシュタルを襲う。

 蘭子のスキル「ローゼンブルクエンゲルEX」によって放たれた大技。

 巻き込まれたイシュタルは、なすすべも無く消滅していく。

 まずは一人、敵の中で唯一飛行能力を持つ為に、倒さなければならなかった相手。

 人数で勝っているために、シャドウサーヴァント一体を相手に複数人で対応する。

 空中戦は、カルデアとアイドルが一勝をもぎ取った。

 

 なお、蘭子はカッコよく叫んでいるが、別に宝具とかでは無い。

 

 

 

 

 

 戦士のシャドウサーヴァントは、生前の技術を再現している。

 あくまで再現であり、駆使してくるわけではない。

 戦技を「振るう」のではなく、戦技を「振り回している」といえばいいだろう。

 

「――――――!!」

 

「――――――!?」

 

 であるならば、単純に数こそが勝敗を分ける要因となる。

 連れてきたのは、第六特異点のシャドウサーヴァント。

 円卓の騎士だけで五人。

 敵対する三体の戦士は、なすすべも無く敗れ去っていく。

 本物のサーヴァントであれば、いかに人数に差があれど応戦できただろう。

 だが、彼らがシャドウサーヴァントである以上、逆転の目は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 地上で行われている、女神たちとの戦闘。

 その五体のシャドウサーヴァントを相手に、歴代ハサンのシャドウサーヴァントが撹乱する。

 アイドル達は基本、接近戦が苦手だ。

 サーヴァントの能力に、戦闘技術が付いていかない。

 それを、チームワークや判断力、各々の個性でカバーする。

 

「にゃにゃにゃ!!」

 

「せーのっ!!」

 

「いっくぞー!☆」

 

 縦横無尽に駆け回り、スピードをもって敵を切りつけるみく。

 身の丈以上のエアギターを投影し、そのまま重力に任せて振り下ろす李衣菜。

 隙が出来た敵を槍で持ち上げ、投げつける莉嘉。

 近接戦闘をするクラスであるセイバーとランサーでありながら、見事に戦いをこなすアイドルたち。

 

「――――――!!」

 

 味方であるシャドウサーヴァント、後方支援を行うアイドル。

 シャドウサーヴァントでありながら、強大な個である女神たちを、次第に追い詰めていく。

 

 

 

「――――神性解放」

 

 

 

「私の剣は、仲間の為に!」

 

 

 

 

 

「行きます! 美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、美波の神気が膨れ上がった。

 剣の意匠は、より神々しく

 彼女の姿は、より美しく。

 宝具「美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)」。

 美波の神性、「女神の神核」の最大出力。

 宝具にまで昇華されたその神格は、美波に戦闘技術(・・・・)を獲得させる。

 美波は女神本人ではない。だが、彼女はヴァルキュリアとヴィーナスの神性を獲得した。

 それに伴い、宝具によって戦乙女の戦闘技術を再現した(・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 これは、平行世界における「夢幻召喚(インストール)」に近い。

 技術ごと継承することができるが、その使い方は本人次第。

 

「せい!!」

 

「――――――!?」

 

 その宝具を、美波は使いこなしていた。

 一定時間とはいえ、神霊に近い戦闘技能を振るうことができる。

 擬似的な神性とはいえ、シャドウサーヴァントとの差は歴然としていた。

 

 

 

 

 

 天の鎖、エルキドゥ。

 その戦闘能力は、全盛期のギルガメッシュとほぼ等しい。

 通常攻撃でさえギルガメッシュの「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」に匹敵する。

 シャドウサーヴァントになったとしても、彼自身が宝具。

 神造兵器としての真名解放は、シャドウ化によって出来ず弱体化されていても、すさまじい強敵である。

 それを示すように、数多の攻撃が放たれる。

 

「――――――!!」

 

「皆を守って、咲いて咲いて、幸せの四葉(ガーデン・オブ・クローバー)

 

 智絵里の宝具が展開され、味方を守る盾となる。

 だが、あまり長くは防げない。

 面制圧が可能なエルキドゥを相手に、集団戦は本来悪手。

 しかし、チームワークこそがこちらの武器。

 いかに悪手だろうと、アイドルの力を殺すわけにはいかない。

 

「やああぁっ!!」

 

「まだまだ!!」

 

 アルトリアとジャンヌが攻めに入り、敵の攻撃を中断させる。

 

「撃ちます!」

 

「みりあも!」

 

 結界内部から行われる、アイドルのアーチャー達の狙撃。

 だがそれも、牽制にしかならない。

 敵を倒す算段が無ければ、ジリ貧となってしまう。

 

 だが侮ること無かれ。アイドル達とてヤワではない。

 

 →「あった?」

 

「見つからないです」

 

「こっちも――――、あっ、あった!!」

 

 智絵里の宝具によって発生した四葉のクローバー。それを手渡す凛。

 令呪にも等しいバックアップをもって、二人のアイドルが宝具発動準備に入る。

 

 

 

「私の、思い」

 

 

 

「私の、願い」

 

 

 

 

 

「皆と、一緒に。星空へと希う郷愁(Nebula Sky)

 

 

 

 

 

 雲の無いまま、吹雪がエルキドゥを襲った。

 アーニャの宝具によって、吹き荒れる雪の暴風。

 その分類は、対軍宝具。

 強烈な吹雪は、エルキドゥの動きを止める。

 

「――――――!!」

 

 しかし、そこまでだ。

 アーニャの宝具は、動きを止めるまでに留まった。

 致命的なダメージを、エルキドゥに与えることができない。

 

 

 

 だからこそ、トドメとなる一撃が必要だった。

 

 

 

「いいとこ見せちゃうよ。飛び掛かれ!硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)!!」

 

 

 

 流星群がエルキドゥを押しつぶす。

 対軍宝具による連続攻撃。

 故に、智絵里の宝具によるバックアップが必要であった。

 

「――――――!?」

 

 最強の一角とはいえ、シャドウサーヴァント。

 対軍宝具を続けざまに受ければひとたまりも無い。

 

 今までの戦いで、最も少ない人数。

 にもかかわらず、これまで以上のすさまじい戦いとなったのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 346プロダクションへ戻った一同。

 休息も当然だが、魔神影柱との戦闘を前に第七特異点のシャドウサーヴァントを連れて行くためである。

 気がかりなのは、第七特異点の人選。

 

『第七特異点の代表と言っていいギルガメッシュの不在。ティアマトを倒すキーパーソンであった、山の翁とマーリンも同じく』

 

 もしもこの三人がいたら、もっと厳しい戦いになっていただろう。

 正直、いなくて助かったという感情もある。

 

「だが、魔神影柱を相手にする際、この十人でもかなりの戦力になるだろう。最後の戦いに向けて、余裕ができるのはありがたい」

 

『でも、結界の奥に彼らを連れて行くことが出来るかは未知数だ。あまり当てにしないほうがいいかもしれないよ』

 

 もとより、シャドウサーヴァントがなぜ味方をしているのかは不明。

 もしかしたら、いつか裏切られるのかもしれない。

 だが、推理を進めているホームズが危険を知らせていないのなら、彼の考えでは安全と判断したのだろう。

 

 

 

 

 

 →「行こうか」

 

 休息は終わった。

 いつもの探索よりも時間に余裕があるため、休息に時間を当てられた。

 回復系スキルもあるので、休憩の効率が良かったことも大きい。

 

「はい。次の戦闘は、おそらく魔神影柱です。気を引き締めていきます、先輩」

 

 次の敵は魔神影柱。

 初めて遭遇したときから、個体の戦闘力は殆ど変化していない。

 情報の共有によって、多少の戦術を使ってくるぐらいだが、アイドルのチームワークのほうが数段上だ。

 味方のシャドウサーヴァントもつわもの揃い。

 それでいながら、油断はしない。

 背中を任せられる仲間達がいる。歴戦の英雄たちがいる。

 アイドルとカルデアの、最後になるかもしれない戦い。

 

 ――――――結界での戦いは、これより加速していく。

 

 

 

 

 



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マテリアル 新田美波&アナスタシア

マテリアルが更新されました。


英霊召喚

 

「セイバー、新田美波です。女神を担うにはまだまだですけど…マスターさん、どうか導いてください」

 

 

 

真名:シンデレラ(新田美波)

 

クラス:セイバー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D

耐久:D

敏捷:C+

魔力:C+

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:165cm・45kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・広島

 

属性:秩序・善 性別:女性

 

「私、少しだけお姉さんだから」

 

プロフィール

 

現役大学生のアイドル。スポーツと勉学を得意とする文武両道。

趣味のラクロスと資格取得がそれを表している。

アイドルサーヴァントでありながら、「神性」を獲得しているという珍しい特性を持つ。

神代以外のサーヴァントが「神性」を持つ例は少なく、英霊全体で見ても非常に稀。

美の女神ウェヌス(ヴィーナス)と戦乙女ヴァルキュリア(ワルキューレ)の二面性を持つ擬似的な神性であり、セイバークラスの該当はヴァルキュリアの影響。

本人の真面目で几帳面な気質もあり、見事なリーダーシップを発揮することも。

他のクラス適正として、ラクロスの槍を使用するランサー。

複数の神性とシンデレラの影響によるアルターエゴ。

彼女の色気を全面的にピックアップした、アサシンクラスが該当する。

アサシンクラスで召喚された場合、「神性」に加えて「魔性」を獲得する。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

文武両道B+ 自身のNP獲得効率をアップ&自身の攻撃力をアップ(3T)

 

アイドルのリーダーEX 味方全体の宝具威力をアップ(1T)+味方全体のNPを増やす+味方全体の〔アイドルサーヴァント〕のバスターカード性能アップ&アーツカード性能アップ&クイックカード性能アップ(1T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

対魔力B 自身の弱体耐性をアップ

 

騎乗C- 自身のクイックカードの性能アップ

 

女神の神核(美)C+ 自身に与ダメージプラス状態を付与&弱体耐性アップ&自身の魅了成功率アップ

 

宝具:美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)

ランク:A+

種別:対人宝具

コマンド:Arts

自身に与ダメージプラス状態を付与<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃

+敵全体に中確率で魅了を付与

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

文武両道B+

 

様々なスポーツ、資格をこなす彼女の器用さ。

そもそもの前提として、彼女は運動も勉強も嬉々としてこなす。

未知の経験に対し、それをマスターするのに補正が入る。

練習や相性次第では、スキルさえ獲得することが可能。

教師役がいた場合、その可能性はさらに上昇する。

アイドルの世界へ飛び込む時の思い。美波の未知への挑戦がスキルとなった。

 

アイドルのリーダーEX 

 

その世話焼き気質から、美波はアイドルたちのリーダーになることが多い。そんな彼女の持つリーダーシップが、スキルへと昇華された。

チームのリーダーとして仲間をまとめ、全体としての能力を向上させることに長けている

リーダー系のスキルだが、「カリスマ」とは別系統。

これは、「面倒見のいいお姉さん」が根本にあるため、人を率いる才能とは別のものであることから。

EXランクで獲得された場合、セイバークラスに該当される。彼女の持つ個性の中でも、リーダーシップが強調される形で召喚されたためである。

たとえ憤りを感じる出来事があったとしても、責任感から皆のまとめ役に回る彼女は、立派なリーダーであると言えるだろう。

 

女神の神核(美)C+

 

生まれながらにして完成された女神であることを現すスキル「女神の神核」の派生。

ファンたちから、女神のようであると語られ、ソロ曲の影響もあって獲得するに至った。

肉体成長と体型変化がなくなるのに加えて、彼女の場合は魅了の成功確率が上昇する。

生来の神性ではないのでCランクだが、精神系の干渉を弾く場合に高い効果を発揮する。

彼女の負けず嫌い、頑固さが影響したためである。

ランサークラスで召喚された場合にはランクが上昇する。

アイドルのリーダーとしてではなく、トップを目指す一人のアイドルとしての側面が強調されるため、この個性が強化される。

 

対魔力B

 

アイドルサーヴァントの中では異例のランク。

魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

「女神の神核」による影響を受けたため、ランクが上昇するに至った。

 

 

宝具: 美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)

ランク:A+

種別:対人宝具

 

ファンによって語られたが故の神性、「女神の神核」を完全開放する宝具。

この宝具を使用している時に限り、美波の神性は本物の女神たちと同ランクであるEXにまで上昇する。

ヴァルキュリア由来の戦闘能力、ウェヌス由来の魅了を司る力。

美波の運動神経もあいまって、「戦乙女の女神」の如き勇姿を見せることができるようになる。

美波が普段持つ優しさではなく、激しいまでの凛々しさを主体とした宝具。

その戦う姿は美しく、相手は思わず目を奪われてしまうだろう。

彼女の持つ二つ名に、「笑顔の女神」というものがある。

この宝具は、その二つ名をまさに体現しているといえる。

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 清楚な私服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 ノーブルヴィーナス

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「ミーニャ サヴート アーニャ。私の名前は…アナスタシア、です。ええと、アーニャは…ニックネームです」

 

 

 

真名:シンデレラ(アナスタシア)

 

クラス:アサシン

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:C+

魔力:C

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:165cm・43kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・北海道

 

属性:中立・善 性別:女性

 

「アーニャ、マスターの力に、なりたいです」

 

プロフィール

 

ロシア人の父と日本人の母を持つハーフ。愛称はアーニャ。

日本語のリスニングは問題ないが、話す場合にロシア語が少し混じる。

非常に純粋で素直な性格。

そのため、周囲の情報を鵜呑みにする傾向があり、天然と称していいだろう。

他人から教わった日本語によって、言葉づかいが大変なことになったりもする。

アサシンクラスであるが、暗殺に関する技術は殆どない。

趣味は天体観測とホームパーティー。

そのため、彼女の歌う歌詞も星や空といった描写が多い。

自らのことを「中身は少し日本人」と称しており、好きな食べ物は肉じゃがだったり、朝はご飯と味噌汁派など、日本の影響が強く出ている。

 

保有スキル

 

真のアイドルA+ スターを獲得&毎ターンスター獲得状態(5T)

 

トライリンガルC+ 自身のアーツカード性能&クイックカード性能アップ(3T)+自身のNP獲得効率アップ(3T)

 

繋いだ手の輪EX 味方全体のNPを減らす(デメリット)+味方全体のNPを増やす+味方全体に毎ターンNP獲得状態を付与(3T)

 

クラススキル

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

気配遮断C- 自身のスター発生率をアップ

 

宝具:星空へと希う郷愁(Nebula Sky)

ランク:A+

種別:対軍宝具

コマンド:Quick

+敵全体に強力な攻撃

敵全体の攻撃力をダウン&自身のクリティカル威力アップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:1 Arts:2 Quick:2

 

 

 

トライリンガルC+

 

ロシア人と日本人のハーフという個性。

育った環境ゆえに、アナスタシアは日本語、ロシア語、英語の三ヶ国語を話すことができる。

彼女の生まれは北海道で、10歳までロシアで暮らした後、北海道へと引っ越した。

そんなアナスタシアの生い立ち、アイドルになる前の原点がスキルとなったもの。

彼女は話し言葉が得意ではなく、日本語もロシア語も完璧ではないためCランク。

行動の同時並行や同時思考、同時の魔力操作に補正が入り、それに伴い魔力の運用効率が良い。

スキル及びクラスの影響で、彼女の魔力効率はかなりの低燃費を発揮できる。

 

繋いだ手の輪EX

 

不安に思った時に人と手を繋ぎ、緊張をほぐして他者の支えとなったエピソード。

最終的にその繋いだ手を仲間たち全員で結束させ、一つの輪を作り上げた逸話がスキルとなった。

他者と魔力を共有し、一つの大きな魔力として運用できるようになるスキル。ただし、個人の出力は変化しない。

共有した魔力は自分で使うことも、他人が使うこともできる。また、共有できる人数に制限はない。

必然、全幅の信頼を寄せる相手にしか使用できない。

しかし生来の人懐っこさもあり、常識的な人物であれば仲良くなることは難しくない。

純真である彼女のキャラクターが、一歩を踏み出す勇気を与えてくれる。

 

宝具:星空へと希う郷愁(Nebula Sky)

ランク:A+

種別:対軍宝具

 

コロコロとした明るい表情をする彼女が持つ、もう一つの顔。故郷、あるいは大切な仲間との居場所への強い想いが宝具になったもの。

どんなに寂しくても、どんなに離れていても、困難へと立ち向かう姿勢。

使用時の副次効果として、彼女のいる場所を中心に星空が展開される。

気温が下がり、雲も無いにもかかわらず、凍えるような吹雪が敵を襲う。

宝具の使用後、彼女は「単独行動」スキルを獲得する。

そのランクは、アナスタシアが心から想う仲間が多くいることで上昇する。

普段は明るく優しい彼女が感じる寂寥感。しかし、それを和らげてくれる仲間がいる。

新しい場所へと歩みを進めても、自身の背中を押してくれた仲間のことを、彼女は想い続ける。

 

 

 

 

霊基再臨

 

第1段階 ボーイッシュな私服

 

第2段階 スターリースカイ・ブライト

 

第3段階 クリスタルスノー

 

 

 

 

 

 




眠れる小悪魔B+ 自身の魅了付与成功率アップ+毎ターンNP獲得状態を付与

アサシンクラスに該当した美波が「女神の神核」に代わって獲得するスキル。
「神性」と「魔性」が複合したスキルでもある。
彼女の性格上、異性の誘惑は得意としていないが、天然の色っぽさによって目のやり場に困るほどの魅力がスキルへと昇華された。
他者への魅力付与に大きく補正が入る。魅了されなくとも、彼女を魅力的だと思ってしまえば、その人物から僅かながらに魔力を奪う。
このスキルを所持している場合、宝具の効果にも変化が生じる。
「神性」の再現と共に「魔性」による力も発揮され、意匠も小悪魔的なものになる。
その際の宝具名は、「美を司る戦場の小悪魔(ヴィーナスシンドローム)」。


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第16章 七つ目の試練、そして…

 突如現れる巨大な影。魔神影柱との遭遇。

 醜悪な姿がシルエットによって軽減された、九体の影の使い魔。

 戦闘能力は通常の魔神柱よりも低く、それを九体という数でカバーする。

 しかし、魔神影柱など既に敵に非ず。

 こちらのサーヴァントは、シャドウサーヴァントが十人、カルデア所属が四人、アイドルが十四人。

 シャドウサーヴァント含め、木っ端な者など一人としていない。

 既に戦闘の様相は、数の暴力と言っていい。再生しない魔神影柱など、ただの案山子だ。

 サーヴァントの何人かは、待機という現状なのだから、それも致し方ない。

 時間をかけることなく、短い間に戦闘は集結する。

 

 

 

 結界が解除される午前六時まで、あと――――二時間。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 戦闘が終わるまでが短くなった。

 シャドウサーヴァントと魔神影柱を倒してなお、数時間の余裕がある。

 個々の戦力が大きくなれば、それだけ決着がつくのが早い。

 既に見回ったところも多く、探索の時間も効率的になったのも要因だろう。

 だが、今から辺りを散策したところで、遭遇しても時間的に決着がつかない。

 魔神影柱戦が終わり、小休止をしてから346プロダクションへと戻る予定である。

 

 →「……変化がないね」

 

「はい。第七特異点と魔神影柱の戦いは終結しました。仮説が正しければ、結界に何かしらのアクションがあるべきなんですが……」

 

「……もう推理を披露してもいいだろう、ホームズ。ここで迷宮入りなど、望むところではないはずだ」

 

『……そうだね。決定的証拠はまだだが、状況証拠は既にある。なにより、説明しなければ先に進みそうに無い』

 

 七つの特異点、そのシャドウサーヴァントと魔神影柱は倒した。

 この結界が、聖杯探索(グランドオーダー)の再現であるならば、事が起こるはずである。

 全員が内心、思っている事がある。

 七つの特異点を超えたならば、そこにあるべき存在。

 だが、同時に<ruby><rb>こう</rb><rp>(</rp><rt>​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​</rt><rp>)</rp></ruby>考える。

 

 しかし、それだけはありえない(・・・・・・・・・・)と。

 

 

 

『では、私の推理を開示しよう……と言いたいところだが、その前に報告がある。――――――敵性反応だ(・・・・・)

 

 

 

 →「っ!?気をつけて、皆!!」

 

 マスターの指示通り、周囲を警戒するサーヴァントたち。

 最後の戦いか、それとも何かしらのイレギュラーか。

 シャドウサーヴァントか、魔神影柱か、はたまた全く違う敵なのか。

 

 見回した中に、近づいてくる影が見えた。

 

『!超々高速で接近する反応を感知!これは――――』

 

 ダ・ヴィンチちゃんが話し終えるより早く、一同の前に現れた一体のシャドウサーヴァント。

 

「あなたは……」

 

 一目見て、この結界の性質を一つ理解した。

 だってそうだろう、このシャドウサーヴァントがいるのであれば、全てが線で繋がるのだから。

 

 

 

 

 

 →「巌窟王……エドモン・ダンテス」

 

 

 

 

 

 巌窟王エドモン・ダンテス。

 監獄等にて行動を共にした英霊であり、アヴェンジャーのサーヴァント。

 監獄塔を除き、彼が特異点に来た事例は一つしかない。

 

 

 

 終局特異点、冠位時間神殿ソロモン。

 

 

 

 そう、この結界は聖杯探索(グランドオーダー)の再現ではない。

 終局特異点の再現(・・・・・・・・)なのだ。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 新たに現れたのは、様々な特異点で出会った英霊のシャドウサーヴァント。

 数は今までの中で、最も多い二十体。

 巌窟王、エドモン・ダンテス。

 竜の魔女、ジャンヌ・オルタ。

 極東の聖人、天草四郎。

 北欧の戦乙女(ワルキューレ)、ブリュンヒルデ。

 征服王、イスカンダル。

 神秘殺し、源頼光。

 対セイバー用決戦兵器、謎のヒロインX。

 直死の魔眼、「両儀式」。

 第六天魔王波旬、織田信長。

 新撰組一番隊隊長、沖田総司。

 風魔一族頭領、風魔小太郎。

 魔法少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 その姉妹、クロエ・フォン・アインツベルン。

 大江山の鬼の首魁、茨木童子。

 三大妖怪の一角、酒呑童子。

 白き聖杯、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 抑止の守護者、アサシン・エミヤ。

 エジプト最後のファラオ、クレオパトラ。

 太陽の化身の分け御魂、タマモキャット。

 女スパイ、マタ・ハリ。

 

 数の有利はこちらにある。

 質もまた、こちらのほうが上だ。

 シャドウサーヴァントは、正式なサーヴァントの劣化。

 対してこちらには、シャドウでありながら強力な第七特異点のメンバー。

 さらに、正式なサーヴァントを連れたカルデア、そして強力な能力を持つアイドルサーヴァント。

 敵にも強力なシャドウサーヴァントがいるが、それはこちらの戦力を上回らない。

 

「――――――!!」

 

 だが、それでも侮れないのが英霊なのだ。

 たしかに、総合的な能力は勝っている。

 されど、油断して仲間を失う訳にはいかない。

 

「皆さんに、力を。硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

 

 卯月の宝具によって、全員が強化される。

 人数が増えた今、宝具による恩恵は非常に大きくなった。

 

「皆で一緒に!ふわふわで甘い一撃(マシュマロキャノン・ショコラティアラ)!!」

 

 かな子の宝具が発動した。

 味方と共に魔力を注ぐことで、分類すら進化する攻撃宝具。

 だがしかし、かな子の近くにアイドルはいない。

 にもかかわらず、対軍宝具として現れた砲身。

 

 その理由は、アーニャのスキル「繋いだ手の輪EX」。

 他者と魔力パスを繋げる、評価規格外のスキル。

 つまり、一ヶ所に集まって使用する必要が無くなるのだ。

 

 スキルと宝具によるコンボ。

 

 アイドルのコンビネーションは、集まるほどに真価を発揮する。

 

「デコっちゃうよ~☆莉嘉の甲虫、大集合!(DOKIDOKIリズム・ビートル)!!」

 

 巨大なカブトムシが出現し、即座に莉嘉が騎乗する。

 

「借りるにゃ、莉嘉チャン!」

 

「私もお願い。エアギターで一発おみまいするぜ!」

 

「莉嘉ちゃん、みりあも乗せてもらうね!」

 

 他のアイドル達も、それに倣う。

 莉嘉の宝具によって出現したものには、他者も騎乗する事が出来る。

 その特性を活かし、昆虫たちを乗り回す。

 上から攻撃を叩き込む李衣菜。

 時に乗り換え、己が速度をもって踏破するみく。

 近接をカブトムシに任せ、遠近両方を担うみりあ。

 アイドルの三騎士達は、その称号にふさわしい戦果を上げる。

 

いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 

 多人数同士の戦闘において、杏の宝具は無類の効果を発揮する。

 直接的な攻撃力こそ持たないものの、敵を行動不能にする宝具は一斉に敵を無力化する。

 

「はぁっ!!」

 

「せいっ!!」

 

「やあっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 その敵を、悉く切りつけていくカルデアのサーヴァント。

 そして、セイバー・新田美波(シンデレラ)

 美しき剣戟は、スキル「文武両道B+」によって修得したもの。

 カルデアのサーヴァントとの共闘を経て、自らの剣技に昇華した。

 あくまでスキルによる修得。無論、英霊と見比べれば隙も未熟さも目立つだろう。

 しかし、卯月の宝具をはじめとした、味方によって強化された美波のスペック。

 動きの鈍った敵など、必然のように打ち破ってみせた。

 

 

 

 様々な特異点で共にした英霊のシャドウサーヴァント。

 

 それを打倒し、張り詰めていた空気が緩む。

 

 だが、気の緩む暇など無い。

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 

 

 

 

 即座に魔神影柱が現れた。

 思えばこれも、終局特異点の要因だ。

 

 72柱の魔神柱。

 

 これまで倒した魔神影柱は63体。

 この場にいる敵と合わせて、ちょうど72体。

 

 

 

 そうこれが、――――――最後の魔神影柱戦。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「うきゃー!!来い!きらりんロボ!!」

 

 きらりの宝具が起動する。

 連戦を経て、味方の精神力に余裕はない。

 早期に決着をつけるべく、アイドルサーヴァントの中でも威力に秀でた宝具をもって当たる。

 アーニャのスキルによって魔力を貰い、召喚された「きらりんロボ」。

 即座に、巨大な魔神影柱へ向かって駆け抜ける。

 

「いっけー!はぴはぴ☆とまほーく!!」

 

 ロボのリボンが変形し、手斧(トマホーク)となって武器とする。

 近くの魔神影柱をなぎ払うが、他の個体がきらりんロボに迫る。

 

硝子の靴のお姫様(Never say never)!!」

 

 その横から、凛の宝具が魔神影柱に直撃した。

 最中、バックステップにて後退する「きらりんロボ」。

 逃げたのではない、力を溜めるためだ。

 

 

 

「それいけ!発進!鋼鉄公演きらりんロボ(きらりん☆びーむ&なっくる)!」

 

 

 

 すべてを灰にする、強力なビーム。

 超音速で敵を砕く、鋼の拳。

 質量の破壊力だけではなく、神秘も纏った真名開放は、魔神影柱の多くを打ち滅ぼす。

 残った魔神影柱も、大きいダメージを受けている。

 だがこちらも、魔力の消費は大きい。

 宝具の連続使用は、アーニャのスキルによる補助があってなお、厳しいものがあった。

 

 

 

「――――投影(トレース)開始(オン)

 

「――――憑依経験、共感終了」

 

「――――工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)

 

「―――停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!!」

 

 

 

 魔神影柱戦のラストは、効率よく敵を屠るエミヤに託された。

 彼の連続投影。その一斉射撃。

 的確に魔神影柱に突き刺さり、剣のサボテンとなる。

 

 

 

「――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

 

 

 それが、すべて起爆した。

 どこに刺し、どこで起爆すれば、よりダメージを与えられるのか計算しつくされた攻撃。

 魔神影柱にトドメを刺し、すべての試練は成し遂げられた。

 

 

 

 

 

 現在の時刻は――――午前、六時一分(・・・・)

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 これより、道は開かれる。

 

 彼らは待っている。

 

 結界の最奥で。

 

 彼が作った結界。

 

 彼らが用意した舞台。

 

 かつての戦いの再現。

 

 シンデレラが踊る会場。

 

 

 

 その成り立ち故に、こう名乗るべきだろう。

 

 

 

 

 

 固有結界(・・・・)、深夜結界舞台シンデレラ。

 

 

 

 

 



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最終章 スターライトステージ

 時刻は午前六時を過ぎた。

 にもかかわらず、結界は展開されたままである。

 明らかに、いつもとは異なるイレギュラー。

 最奥への道のりに、シャドウサーヴァントはついてくる事が出来ない。

 

 ――――、玉座へのルートは開かれた。

 

『結界が閉じないのは道が開かれたから、言うなれば「鍵」が開けられたからだ』

 

 ホームズの解説に、返答する余裕は無い。

 不安は伝染し、アイドル達にも緊張が走る。

 

 ――――、一同は進む。奥にいる存在を確かめる為に。

 

『固有結界が、完成に近づいている。今までの結界は、不完全なままだった。カルデアが最奥に辿り着くこと。それが、完成の条件の一つ』

 

 今までは、時間制限付でしか展開できなかった(・・・・・・)

 しかし、ついに完成が迫っている。

 そうなれば、固有結界の展開時間に際限など無い。

 

 ――――、結界の謎、それが徐々に紐解かれていく。

 

『シャドウサーヴァントは、終局特異点に来てくれた者達。それは(みな)気づいただろう』

 

 この結界は、終局特異点をなぞっている。

 思えば、ヒントは今までにもあったのだ。

 各特異点のサーヴァントと、終局特異点に来たサーヴァントの違い。

 結界に現れた、シャドウサーヴァント。

 第一特異点では、キャスターのジル・ド・レェとジャンヌ・オルタ、アタランテがいなかった。

 第二特異点では、タマモキャットとレオニダスがいなかった。

 第三特異点では、リリィではないメディアが召喚されていた。

 第四特異点では、坂田金時がライダーになっていた。

 第五特異点では、シータ、ネロ・クラウディウス、ニコラ・テスラがいなかった。

 第六特異点では、アグラヴェイン、モードレッド、山の翁、ホームズがいなかった。

 第七特異点では、ギルガメッシュ、マーリン、そしてこちらにも山の翁はいなかった。

 そして、終局特異点に来てくれたのは、英霊だけではない。

 

 ――――、心臓が早鐘を打つ。

 

『海賊とローマ兵も、駆けつけてくれた陣営に含まれている。魔神影柱を含め、終局特異点を忠実に再現している』

 

 シャドウサーヴァントは倒すと味方になり、行動を共にしてくれた。

 他のシャドウサーヴァントや、魔神影柱と戦う助けになってくれた。

 

 ――――、呼吸が定まらない。意識しなければ、規則的に行うことすら出来なくなっている。

 

『あの時の終局特異点には、カルデアも含まれている(・・・・・・・・・・・)。直接接触する形でいたのだろう?ならば、再現の一つにカルデアの役割そのものが含まれていた』

 

 つまるところ、346プロダクションは再現されたカルデアそのもの(・・・・・・・・)

 戦ったサーヴァントを仲間にし、共闘する在り方を象った。

 

『終局特異点の全容は、魔術王ソロモンの固有結界。そして、この空間もまた、固有結界だ』

 

 ――――、一瞬、ドクンと一つ強い鼓動を発した。

 

 だが、魔術王ソロモンは召喚されない。

 英霊の座から消滅し、サーヴァントとして現れることは無い。

 術者として、存在するはずが無い。

 

『だが、この固有結界の術者はソロモンではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ――――、ああそうだ。だってそれだけはありえない。

 

 ならば、終局特異点を再現できるものは誰か。

 既に、その力を司るものはいない。

 

 そもそも――――――

 

『もとより、完全に再現などされていない。この結界にいる存在の悉くがシャドウ化している』

 

 ここは特異点でありながら、正規のサーヴァントが一人として召喚されていない。

 現実はおろか、結界の中ですら。

 術者の目的は、一体何なのか。

 

 ――――、彼らが知る、優しい魔術王は、もういない。

 

術者に目的など存在しない(・・・・・・・・・・・・)。意識が無いから、再現をするしか機能が無いが故に』

 

 召喚されていたのはシャドウサーヴァント。

 そして魔神影柱に影となった兵士、海賊の亡霊。

 不完全にしか再現できず、かつての戦いを再現するだけの機構。

 だが、その中で一つの例外(・・)

 

 最も異例なサーヴァント召喚、――――アイドルサーヴァントたち。

 

 

 

『探偵としては真に遺憾だ。決定的証拠……、真犯人を現行犯で見つけることでしか推理を明かせなかったのだから……』

 

 

 

 無論、状況証拠で正解には辿り着けてはいた。

 だが、その推理を開示した際の、完璧な根拠を示せなかった。

 無理も無い。何せ、最奥にしか証拠が無かったのだ。

 

 

 

 

 

『さあ、着いた。この固有結界の術者と、アイドルが召喚された原因がいる場所だ』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 玉座の間。

 

 星が輝く空。

 

 魔術王の玉座とは、また違う意匠。

 

 

 

 

 

 そこに佇む、存在は――――――。

 

 

 

 

 

 →「ソロ……モン……」

 

 

 

 

 

 魔術王ソロモンのシャドウサーヴァント(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 と――――――

 

 

 

 

 

「プロ……デューサー……さん……?」

 

 

 

 

 

 宙に浮く、大量の玉座(・・・・・)

 

 そこに力なく座っている、346プロダクションの全プロデューサー(・・・・・・・・)

 

 彼らこそが、この固有結界の基点。

 

 アイドルを召喚した原因であり、結界の術者。

 

 

 

 

 

 ありえない、ありえない、ありえない。

 

 今までのシャドウサーヴァントとは訳が違う。

 

 一般人であるプロデューサーが、どうして終局特異点の術者になりうる?

 

 召喚できないはずのソロモンが、なぜシャドウサーヴァントとなっている?

 

 

 

『ここは、固有結界・時間神殿ソロモン、その欠片(・・・・)。――――あの戦いで砕け散った、特異点の残り物。ここに現れたすべての影は、固有結界に刻まれた足跡』

 

 

 

 あの戦いで現れた全ての存在は、その戦いぶりを刻み付けた。

 刻み付けられて出来た()に、魔力が満たされたことによる影法師。

 

 ここで召喚されたシャドウサーヴァントは、英霊の座から召喚されていない。

 

 

 

 故に。

 

 

 

あの(・・)魔術王も、英霊の座から召喚されていない。この場でしか存在できない、戦いの痕跡』

 

 

 

 

 

 ――――――シャドウでありながら、グランド(・・・・)サーヴァント。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「そんな……。なぜ、プロデューサーさんなんですか……?」

 

 かすれるような声。震えている声色。

 卯月達も、今まで戦いには参加してきた。

 どんなに困難でも、カルデアやアイドルの皆と一緒なら、立ち向かえると思っていた。

 

 だが、これは無いだろう。

 

 信頼する、プロデューサーと対峙するなど、彼女たちの想像の埒外だ。

 だから、問う。なぜ、と。

 

『偶然、なのだろう。こればっかりは……。偶然、君たちのプロデューサーに時空神殿の欠片が宿ってしまった』

 

 伝えられたのは、残酷な真実。理由など無い、ただの偶然。

 本来なら、砕け散った固有結界の欠片はただ霧散して消滅するはずだった。

 奇跡のような偶然で、一人のプロデューサーに欠片が宿ってしまったが為の連鎖。

 

『346プロダクションのアイドルプロデューサーが、全員術者となっている。彼らの信念、シンデレラをプロデュースするという在り方が、結界に干渉した。そして、シンデレラをプロデュースするのは一人だけではない。同じ場所、同じ志を持ち、同じ景色を見ているからこそ、伝播してしまった』

 

 プロデューサーが固有結界の術者となる。

 それにより、固有結界はシンデレラの舞台という特性を得た。

 一人では、城は建てられない。プロデューサー全員で、この結界(しろ)を作り上げた。

 

 城が建てられたのならば、ここにはシンデレラがいなければならない(・・・・・・・・・)

 

 シンデレラ達は座からの分霊を得ず、聖杯によって召喚されていない。

 彼女たちを召喚したのは、彼女たちのプロデューサーなのだ。

 

「………………。」

 

 プロデューサー達に意識は無い。

 もたれかかるように、身体をぐったりと玉座に預けるように座っている。

 彼らが、戦闘に関わってくることは無いだろう。

 

 分かっている。

 

 倒すべきは、魔術王のシャドウサーヴァント。

 だがしかし、基となった規模が異なる。

 あのときの戦いの再現であるならば、その力は冠位(グランド)のもの。

 いかにシャドウ化で弱体化していようと、それ以前の霊基が桁違いなのだから。

 

 →「……来るよ!」

 

 戦いが始まろうとしていた。

 心構えができないまま。

 

 その時、ソロモンのシャドウサーヴァントが動きを止めた。

 

 

 

 

 

「なに悄気た顔してんのよ。アイドルがそんな顔してちゃ、ダメじゃない★」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、一人の少女。

 

 身に纏う衣装は、スターリースカイ・ブライト。

 

「お姉ちゃん!?」

 

 声を上げる莉嘉。

 ここに来て、全く予想外の登場。

 

 アイドルサーヴァント、城ヶ崎美嘉。

 

 

 

 否。

 

 

 

 ここに来たのは、城ヶ崎美嘉だけではない。

 

「ふふっ。皆口をあんぐりしちゃって。……キス、して欲しいのかしら?」

 

「やっほー。初対面の人もいるし、よろしゅーこ」

 

「にゃはは!面白そうな人たちだね!」

 

「フンフンフーン♪フレちゃん参上!」

 

 速水奏、塩見周子、一ノ瀬志希、宮本フレデリカ。

 いや、この場に駆けつけてくれた人物は、まだまだいる。

 

 

 

 その全貌を見て唖然とした。

 

 346プロダクション所属のすべてのアイドル達(・・・・・・・・・)

 

 

 

「アタシ達も手伝うよ。プロデューサー達、全員まとめて取り返そう!」

 

 

 

 心が弱っていた彼らにとって、最も心強い援軍。

 

 震えていた身体が、落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

 

 



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最終章 スターライトステージ 2

 346プロダクション全プロデューサー。

 彼らが結界の基点であり、欠片となった時間神殿をシンデレラの城へと無意識に作り変えた者達。

 故に、アイドル達はその縁をもって召喚された。

 全てのプロデューサーのもとにいる、全てのアイドル達が。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「若い子達が頑張ってるんだもん。大人の私達がちゃんとしないとね」

 

「同感。年下の子たちに任せっきりだなんで、大人失格よ」

 

「ええ。気合を入れていきましょう」

 

「普段は流されてばかりな私ですが、ここは頑張らなきゃですね」

 

 346プロダクションの中でも、大人のお姉さんに分類されるアイドル達。

 川島瑞樹、片桐早苗、高垣楓、三船美優。

 

「ところで、楓はお得意のギャグは封印なのかしら?」

 

「ひどいです早苗さん。まるで私が、駄洒落を得意としているみたいじゃないですか。そんなに私、得意(・・)がっていませんよ」

 

「いや、言ってるじゃないの。それにイマイチ」

 

「厳しい評価ですね、瑞樹さん」

 

 戦いを目の前にして、落ち着いた様子の四人。

 昂ぶる様子も、怖がる様子も見えない。

 年長者が取り乱しては、年下の者達が不安に感じてしまう。

 

 だからこそ、彼女達はいつもどおりなのだ。

 

 軽口を叩きながらも、目の前の存在からは目を離さない。

 強大な敵を前に、彼女達は動じない。

 

「もういいです。早苗さんと瑞樹さんなんて知りません」

 

「拗ねないの。謝るから。気合入れるんでしょ」

 

「私も、イマイチって言って悪かったから」

 

「機嫌、直してください。楓さん」

 

「ふふっ。良いんですよ美優さん。あわてたお二人を、見たかっただけですから」

 

「あー!ひっどーい!」

 

 ……少々気を抜きすぎな感じもするが。

 もはや、空気が緩くなっている。

 いつまでも続きそうな、彼女たちのやり取り。

 

 

 

「もう、楓ったら。私たちをおちょくったんだから、――――ちゃんと戦うのよ」

 

 

 

 だがその時、突如空気が締まった。

 ピリピリと感じる気配。

 いや、魔力――――。

 

「もちろんです。私だってシンデレラガールズの一員なんですから」

 

「それを言うなら、あたし達もよ。どんな相手だろうと逮捕しちゃうんだから!」

 

「プロデューサーさんを助ける為です。絶対に、取り戻しましょう」

 

 サーヴァントになって、一段と頼りになる大人アイドル達。

 彼女たちは、敗北など微塵も考えてなどいない。

 

 そんな頼もしい大人たちに、少女たちは続いていく。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「フフーン!カワイイボクが来たからには、大勝利間違い無しですよ!」

 

「全く持ってその通り!あたし達『KBYD』が来たからには、ホームラン間違いなし!」

 

「幸子はん、友紀はん。落ち着きや。気合入れすぎても、空回りになってしまうどす」

 

 気合十分な二人のアイドルと、それをたしなめる一人のアイドル。

 輿水幸子、姫川友紀、小早川紗枝の三人組ユニット、「K(カワイイ)B(ボクと)Y(野球)D(どすえ)」。

 バラエティ番組に出る機会の多い人気ユニットである。

 

「大丈夫ですよ、紗枝さん。ボクは冷静ですよ!ボクのプロデューサーさんを、取り戻す為ですから!」

 

「そうそう。あたしも、バットでかっ飛ばさなきゃ気が済みそうに無いし!」

 

 口では落ち着いていると言いながら、むしろヒートアップしている幸子と友紀。

 そんな様子を見た紗枝は、水を差すのをやめたらしい。

 

 ――――なにより、紗枝もまた二人と同じ気持ちなのだから。

 

「……まあ、やる気満々な様子でいい事やと思うことにしやす。うちも、プロデューサーはんを勝手に連れられて、……いささか腹立たしく思ってやすしなぁ……」

 

 この場にいるアイドル達に、プロデューサーを利用されて怒りを感じていない者などいない。

 理由はどうあれ、ソロモンの固有結界に囚われている事は、紛れも無い事実。

 

「カワイイボクが、カワイイサーヴァントになったんです!今のボクに、不可能なんてありませんよー!!」

 

「敵は強大!なら、目指すは逆転!サヨナラホームラン、かましていくよー!!」

 

「ならうちも、お二人はんに続いて気張るとしやす~。『KBYD』一丸となったら負ける気なんて、さらさらありまへんどす」

 

 気合もやる気も不足なし。

 サーヴァントになったことで、力も湧いてくる。

 皆と一緒にいるから、こんな恐怖なんてたいしたこと無い。

 

 

 

 一人で飛ぶバンジージャンプのほうがよっぽど怖かったのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「うう……。もりくぼ、怖いです……。でも、帰りたくもないんですけどぉ……」

 

「だらしないぞ、ノノ!ここは敵に向かって、引っかいてやる所だ!でも、帰りたいって言わなかったのはエライと思うぞ!」

 

「フヒヒ……、美鈴ちゃん、すんごいやる気だね……」

 

「ふふふ。まゆも、すっごーく、ヤル気ですよ♪」

 

 恐怖を殺しながら、勇気を振り絞る気弱なアイドル、森久保乃々。

 そんな乃々を激励する、鉤爪を携えたアイドル、早坂美鈴。

 内向的でマイペースなキノコアイドル、星輝子。

 静かでありながら、激情が溢れている様子を見せるアイドル、佐久間まゆ。

「インディヴィズアルズ」と「アンダーザデスク」のメンバーたちである。

 

「さすがのもりくぼも、ここは逃げちゃいけないと思ってますからぁ……」

 

「そうだ!ここは逃げちゃいけない。ここで逃げたら、絶対に一生後悔する。少なくともウチは、アイドル人生に後悔なんてしたくない!」

 

「私も、同じ……。でも、私たち以上に…まゆさんは…気持ちが強そう……」

 

「あら、そう思われます?でも、そうですね。――――――まゆのプロデューサーさんを取り戻す為なら、どんなこと(・・・・・)でもします。うふふ……」

 

 事件の元凶はあくまで、意思無き結界の欠片である。

 だが、そうであろうと無かろうと、せん無きことだろう。

 

「怖いけど…、逃げたくない……。こ、こうなったら、やけく… やけくぼですけどぉぉぉーーーー!!」

 

「ノノもやる気だ!ウチも引っかいて引っかいて、引っかきまくってやるぞ!」

 

「私も…気合、入れなきゃ。――フヒヒ、フハハ、アッハッハ!ヒャッハアアアァァァ!!ゴートゥーヘールッ!!」

 

「アイドルの皆やプロデューサーさんのためですから。――――――邪魔です♪」

 

 テンションを上げ、自らを奮い立たせるアイドル達。

 テンションの方向性こそ違うが、気合ではある意味一番なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「全・力・疾・走です!!」

 

「どこを走るつもりなの?茜ちゃん」

 

「言葉の綾です!!私の気合が全力疾走です!!」

 

「先走った、って言いたいのかな?」

 

 熱血とゆるふわ、対照的な雰囲気を持つ少女たち。

 未央とのユニット、「ポジティブパッション」のメンバー、日野茜と高森藍子。

 前言を撤回しよう。

 この場における一番の気合を持つアイドルは、茜で間違いない。

 

「仲間を助けるこの瞬間!今の私は、未だかつて無いほどに燃えていますよー!!」

 

「茜ちゃん?」

 

「届け歌声! 燃やせ友情! 響け歓声!取り戻せプロデューサー!私たちの気合、未央ちゃんに伝われー!」

 

「お、落ち着いて、茜ちゃん!」

 

「ボンバーーーー!!」

 

 なにやら、茜の後方で特撮のような爆発が起こったような気がする。

 気がするだけで、実際にはそんなこと起こっていないのだが。

 そう思ってしまうほど、今の彼女は熱血乙女なのだ。

 

「茜ちゃん!!落ち着いて!!」

 

「うわぉっと!?」

 

 珍しく大声を出した藍子。

 やる気があるのはいいのだが、空回りしては意味がない。

 バーサーカークラス故のことかもしれないが、注意は必要だ。

 

「熱くなるのも悪くないけど、ちゃんと考えて動かないとダメだよ。ここには茜ちゃんだけじゃなくて、皆がいるんだから」

 

「藍子ちゃん、ごめんなさい!それとありがとう!皆に迷惑をかけては意味がないですからね!一致団結です!」

 

 人数が増えたからこそ、チームワークが重要になる。

 茜もチームプレーの大切さは知っている。

 一心同体、一蓮托生。

 同腹一心、三位一体。

 さすれば彼女達に敵はなし。

 

「分かってくれたのなら。さあ、私たちも行きましょう!」

 

「私たち『ポジティブパッション』!!未央ちゃん達と一緒に戦います!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 神谷奈緒、北条加蓮。

 凛と一緒に活動するユニット、「トライアドプリムス」のメンバーたち。

 今までのアイドル達と異なり、彼女達は感傷浸っていた。

 

「……加蓮。凛は、ここまで頑張ってきてたんだよな……」

 

「そうね。私達はさっき召喚されたばかりだけど、凛は厳しい戦いを乗り越えてここにいる。……やっぱり、すごいね……」

 

 召喚されたときに得た、これまでの戦いの記録。

 それを知ったとき、彼女達が凜に抱いた感情は、――――先達者への情景。

 立派にサーヴァントをやっているチームメイトに対する羨望と、ほんの少しだけの嫉妬。

 

「ああ、凛はすごい。でも、あたし達だって負けちゃいられない!」

 

「そうだね、奈緒の言うとおり。サーヴァントだとしても、アイドルと名のつく以上はやってみせる!」

 

 羨望も嫉妬も、彼女達は自らを動かす燃料に変える。

 アイドルへの思いは、人一倍強い。

 どんな形であろうとも。

 

「あたし達『トライアドプリムス』!!」

 

「アイドルにかける想いは、誰にも負けない!!」

 

 凛が先に行っているのならば、追いかければ良い。

 どうせなら追い抜いてやろう。

 凛ならきっと、悔しがってもすぐに追いついてくれるだろうから。

 

「加蓮にだって負けないからな」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

 「トライアドプリムス」。

 チームメイトでありながら、ライバルでもある。

 彼女たちは仲間だからこそ、負けたくないのだろう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「卯月ちゃん達やカルデアの人達。ここはしっかり、応援しなきゃ。頑張ろうね響子ちゃん!」

 

「うん、ここが正念場だよ。今来たばかりの私たちじゃ、説得力は無いかも知れない。でも、卯月ちゃんみたいに頑張らないと!」

 

 彼女達の名は、小日向美穂、五十嵐響子。

 卯月と共に、「ピンクチェックスクール」で活動するアイドル達。

 

「それに、お礼もしたいから……」

 

「響子ちゃん?」

 

「シンデレラガールコンテストの時、マシュさんが私たちの歌を選んでくれた。たくさんある曲の中から、私たちの歌を」

 

「……うん。私もあのコンテストを見て、とても嬉しかった。――――マシュさん、すっごく楽しそうに歌ってくれたから……」

 

 歌の巧拙の問題ではない。

 言うなれば、あのステージに立つマシュの「笑顔」に心奪われた。

 楽しそうに、もっと歌いたそうに。

 そんな表情で、自分たちの曲が歌われていた。

 

 アイドルとして、嬉しくないはずがない。

 

「だからって訳じゃないけど、全力で皆を応援するよ!五十嵐響子、頑張ります!」

 

「うん!小日向美穂も頑張ります!」

 

 満面の笑顔。

 卯月とは違う、彼女たちだけが持つ笑顔。

 

 笑顔のアイドル達の応援が皆に届く。

 

 ――――――最高の、笑顔と共に。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ソロモンが蠢く。

 一気に体積が膨張し、後方に魔神影柱を従える。

 命令一つで、魔神影柱そのものを武器として放ってくるだろう。

 

 だが、もう恐れはしない。

 

 背中を預けるのは、200人近いアイドルサーヴァント。

 

 仲間が増えるほどに、頼もしくなるアイドルたち。

 

 恐怖など、もはや微塵も感じてなどいやしない。

 

 

 

 →「行くよ、皆!」

 

 

 

 

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 真の最終決戦が今、幕を開けた。

 

 

 

 

 



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最終章 スターライトステージ 3

シャドウソロモンに対する特殊効果

「アイドルサーヴァントの応援」
毎ターンスターを獲得&毎ターン敵に固定ダメージ


 グランドサーヴァント。

 通常のサーヴァントよりも一段階上の霊基を持つ英霊。

 七つの人類悪に対して世界が召喚する英霊の頂点にして、始まりの七つ。

 相手が冠位のシャドウサーヴァント。

 

 否。

 

 グランドキャスターの足跡に過ぎないとしても、その力は通常のサーヴァントはおろか魔神柱ですら凌駕する。

 

 →「大技、来るよ!」

 

「はい!」

 

 的確な指示をもって、シャドウソロモンへと食い下がる。

 加えて、大勢のアイドル達の援護。

 アイドルサーヴァントは、仲間が増えるほどに大きな力を発揮できる、

 

 卯月のスキル、「絶えない笑顔EX」。

 きらりのスキル、「にょわにょわーるどEX」。

 莉嘉のスキル、「カリスマJC EX」。

 みりあのスキル、「立派なお姉ちゃんEX」。

 かな子のスキル、「おかしな国のおかし屋さんEX」。

 李衣菜のスキル、「ロックな生き様EX」。

 アーニャのスキル、「繋いだ手の輪EX」。

 美波のスキル、「アイドルのリーダーEX」。

 

 これらは、味方を補助するスキル。

 チームでこそ、本領を発揮する。

 

 凛のスキル、「夢への憬れEX」。

 未央のスキル、「やらかしリーダーEX」。

 蘭子のスキル、「ローゼンブルクエンゲルEX」。

 杏のスキル、「ニート願望EX」。

 智絵里のスキル、「チェリーエンジェルEX」。

 みくのスキル、「マジメネコチャンEX」。

 

 これらは、彼女達自身を強化するスキル。

 どれも強力だが、単体では真価を発揮しにくい。

 だが、仲間からの援護によって驚異的な力となる。

 

 アイドルサーヴァントの本領にして、最大限。

 全アイドルによる総力戦は、シャドウソロモンに食い下がる。

 

 

 

「――――――――!!」

 

 

 

 だが、あくまで食い下がるだけだ(・・・・・・・・)

 

 侮るなかれ、相手は痕跡に過ぎないとしてもグランドサーヴァント。

 影からの驚異的な出力は、全アイドルの援護があって初めて相殺できる。

 後退こそしないが、前進も出来ない。

 このままではいずれ、こちら側の魔力が先に尽きる。

 相手もまた、正規のグランドサーヴァントでない以上、この出力を維持すればいずれ尽きる。

 

 だが、それはいつ?

 

 五分後か?三十分後か?一時間後か?

 

 はたまた一日後か?一週間後か?一ヵ月後か?

 

 ゴールの見えないマラソンは苦痛だ。

 明確な終わりがわからないというのは、それだけで絶望感を煽る。

 味方の精神とて脆弱ではない。

 が、この作業(・・)は、ゴリゴリとやすりのように心を削っていく。

 

「――っ!負けない!美の女神たる戦乙女(ヴィーナスシンドローム)!!」

 

 果敢に攻めるアイドル。

 

「ミナミっ!アーニャも。―――星空へと希う郷愁(Nebula Sky)

 

 後方から支援するアイドル。

 (みな)、削れてゆく集中力に抗って奮戦する。

 この状況下では、肉体的なダメージは回復が効く。

 それよりも問題となるのは、精神力へのダメージ。

 

「志希ちゃんの~、ケミカルポイズン!!」

 

「フレちゃ~ん、アターック!!」

 

 ああこの中で、ブレない彼女たちの様子こそありがたい。

 いつもどおりの彼女達が、他者の心を支えてくれる。

 

「っ――――」

 

 だが、彼女たちとて人の子だ。

 磨耗しない精神など存在しない。

 疲れもある、恐怖とて無くなったわけではない。

 

「絶対、絶対に――――強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)

 

「これが、私のロック――――心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)!」

 

 負けたくない、負けてたまるか。

 このまま終わりたくない、皆がいるんだ、プロデューサーを取り戻すんだ。

 だから頑張る、頑張れる。

 

 

 

 

 

 ああ。

 

 ――――、早く終わって欲しい。

 

 

 

 

 

 とは思わない(・・・・・・)

 それだけは、己の心に巣食うのは許さない。

 弱気とは違う。

 負ける気だけは、何があっても抱かない。

 

 

 

 負ける気だけは、何があっても――――――。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「何やってんの!!」

 

 

 

 一喝。

 

 

 

 激しい戦闘の最中、美嘉の声が響き渡る。

 

「美嘉さん!?」

 

 戦闘中に、意識を逸らすという蛮行。

 攻勢を捨て、守りへと移行することで事なきを得る。

 しかし、それもいずれ限界が来る。

 攻撃を捨てた分相手の消費も遅くなり、より終わりが遠ざかる。

 

 だがそれでも、美嘉には伝えなければいけない事があった。

 

 

 

「皆、負けない気でいたでしょ。絶対に負けたくないって思ってるよね」

 

 

 

 そうだ、今まで負けない気でいた。

 負けてたまるかと、皆一様に奮起していた。

 

 

 

そうじゃないでしょ(・・・・・・・・・)!?負けない気でいるんじゃダメ!勝つ気(・・・)でいなきゃいけないの!!」

 

 

 

 負けないのではなく、勝つ。

 強大な相手に対峙して、徐々に削れていったが故に足りなかった感情。

 心が削れる?それがどうした。削れたのなら作り直せ。

 美嘉もまた、自身の弱気を感じていた。

 だからこそ、自分が言い出さなければいけないと思った。

 

 

 

「絶対勝つ!みんなの気持ちを、それで一つにするんだよ!!」

 

 

 

 アイドル達にも、様々な視点がある。

 一喝されて、弱気な心を払拭したもの。

 叱咤される前から、勝つ気しかなかったもの。

 流れが切り替わったと感じる、カルデアの面々。

 だが、美嘉の言葉によって、全員が意思を共にした。

 アイドル達が一つになった。

 

 

 

 

 

 ドクンッ。

 

 

 

 

 

 鼓動が、鳴った。

 

 

 

 

 

 カラーン。

 

 

 

 

 

 鐘の音が響いた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カラーン、カラーン、カラーン。

 

 鐘が鳴っている。

 甲高い、遠くまで響き渡りそうな音が。

 

 →「一体、どこから!?」

 

 警戒する立香。

 この音は結界の終わりに似ている。

 まさか結界が崩れようとしているのか?

 

 いや、違う。

 

 この音は結界から聞こえているのではない。

 アイドル達から共鳴するように響いている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「あっ――――」

 

 アイドル達は、それ(・・)が何か理解した。

 頭で、ではない。

 感覚で、とも少し違う。

 

 

 

 言葉にするなら、本能で(・・・)理解した。

 

 

 

 本能で、サーヴァントが理解できるもの。

 

 それすなわち、――――宝具である。

 

 

 

 

 

 ステージが、誕生した、

 

 それは、あまりにも巨大だった。

 結界のバック、背景のように現れた。

 日本はおろか、世界にだってこれほどの集客数を誇る会場は無いだろう。

 

 

 

 合体宝具、「魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)

 

 

 

 アイドル達の意識を共有したことによって発現した、新たな宝具。

 その原因は、スキル「陣地作成(場)C+++」。

 アイドル達全員(・・)が持つスキル。

 シンデレラが輝く舞台、ライブ会場などを作成する。

 その効力は、複数人(・・・)で行うことで増していく。

 

 そう、ここにいるのは全てのアイドル(・・・・・・・)

 

 全てのアイドルがこのスキルを発揮することで、宝具の域にまで到達した。

 

 

 

「――――――よし!」

 

 

 

 それを言ったのは誰だったか。

 だが、アイドル達が思ったことを吐露している。

 そうここは、アイドル達が最も力を発揮できる場所。

 

「これ、は?」

 

「私達も、恩恵を?」

 

「卯月さんの、宝具……」

 

 その効果を受けたのは、アイドルたちだけではない。

 カルデアの女性陣も、その恩恵を享受する。

 ここは、シンデレラが最も力を発揮できる場所。

 そう、カルデアもまた、卯月の宝具によってシンデレラの霊基が継ぎ足されている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 相性による効き目の強弱は別にして、その効力は三人に及んでいる。

 卯月の宝具、「硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)」。

 シンデレラの霊基を継ぎ足して、他者のステータスを強化する宝具。

 残っていた、もう一つの謎。

 いつまでも続く、卯月の宝具による衣装変化(きょうか)

 

 

 

 それは、この固有結界・深夜結界舞台シンデレラによる副作用。

 

 プロデューサーが作り上げた舞台には、シンデレラがいなければならない。

 

 シンデレラになったのならば、結界の基点であるプロデューサー達によってそうあり続けることになる。

 

 

 

 さあ、本当の意味で舞台は整った。

 ここからが本領発揮。

 全力全霊の舞台をお見せしよう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「――――――!!」

 

 強化されたシンデレラに対応するかのように、シャドウソロモンが変質する。

 

 いや、違う。

 

 変質ではない、元に戻っている。

 だってそもそも、彼は魔術王ソロモンに非ず。

 変化した影が、新たなヒトガタを作り上げる。

 

 

 

「――――――。」

 

 

 

 人類悪の影、シャドウゲーティア。

 ソロモン王の遺体を利用し、受肉した召喚式そのもの、――――の痕跡。

 この結界は、かつての戦いを機械的に再現する。

 だからこそ、この変化は必然だ。

 

「まさか……このあと……」

 

 マシュが予感する。

 そうだ、敵がゲーティアで、戦いを再現するのならば。

 宝具「誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)」が来る。

 

 

 

 

 

「――――――。」

 

 

 

 

 

 ことはなかった。

 そう、シャドウ化による共通点。

 影となったものに、宝具は使えない。

 装備ならともかく、真名解放など不可能。

 

 だが、だからと言って安心できない。

 

 影と言えども、七つの人類悪の一つ、『憐憫』の理を持つ第一の獣・ビーストⅠ。

 出力も保有魔力も、あの時とはだいぶ劣る。

 そうだ、あの戦いを制したのも、一人の力だけではない。

 

 

 

 だって、ゲーティアを倒す最後のピースは――――――。

 

 

 

 →「えっ?」

 

「う……そ……」

 

 

 

 ()は、そこに現れた。

 そうだ、ここにいる影達は座からの召喚ではない。

 ならば、()が現れることに不思議はない。

 

 

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 

 

 ロマニ・アーキマン、通称Dr.ロマン。

 またの名を、魔術王ソロモン。

 ゲーティアを倒した最後のピース。

 

 

 

 

 

「――――――。」

 

 

 

 

 

 だが、シャドウゲーティアは慌てない。

 今の魔術王ソロモン(ロマニ・アーキマン)はシャドウサーヴァント。

 ゲーティアを倒す決定的な宝具「訣別の時来たれり、其は世界を手放すもの(アルス・ノヴァ)」。

 シャドウサーヴァントである為それも使用できない。

 

 

 

「ドクター……」

 

 →「……ロマン」

 

 

 

 だが、そんなの関係あるもんか。

 この状況下で、奮い立たないカルデアではない。

 

「そうです。ドクターと一緒なんです!」

 

 →「やっと、一緒に戦える!」

 

 人理修復の旅路において、ついに実現しなかったDr.ロマンとの共闘。

 影だから?痕跡だから?

 分かっている。

 でも、この場にいるシャドウソロモンは、Dr.ロマンが刻みつけたもの。

 つまり、彼の意思だ。

 今のカルデアは、ドクターの意思と共にある。

 

 

 

 影の魔神王、擬神王ゲーティアとの戦いが始まった。

 最終決戦の終幕は近い。

 

 

 

 

 

 人類悪 陰影

 

 

 

 

 




マテリアルが更新されました。

島村卯月
プロフィール:〔最終章 スターライトステージ 3〕をクリアで開放。

補足 宝具:硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

彼女が他者をアイドルの仲間に誘ったエピソードによって、女性に対してシンデレラの霊基を譲渡する性質を持つ。
深夜結界舞台において、この宝具の衣装変化は持続する。もとより、核となっているPがシンデレラを導く魔法使いであるため、味方をシンデレラにするこの宝具の魔法は時が来るまでで解けることはない。


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最終章 スターライトステージ 4

対シャドウゲーティア戦の特殊効果。

「ソロモンとの共闘」
奇数ターンにNP獲得&偶数ターンにHP回復

魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)
毎ターンスター獲得&毎ターン敵に固定ダメージ


 シャドウゲーティアとの戦いは苛烈を極めている。

 舞台の主役は、二百近いシンデレラたち。

 このステージにおいて、一人ひとりが一騎当千。

 完全なホーム、豊富な信仰心。

 相乗される強化、抜群のチームワーク。

 

 均衡は、既に崩れている。

 

 明らかに、シャドウゲーティアに対して押している。

 

「我が力を受けよ!」

(いっけー!)

 

「にょっ、わああぁ!!」

 

「面倒な仕事は、もう終わりだ!!」

 

 絶対勝つ。

 意思を共に、ステージで舞い踊るシンデレラ。

 

「………………。」

 

 →「マシュ!」

 

「はい!戦闘態勢変更、防御をドクターへ集中します」

 

 ソロモンと、初めてでありながら連携をこなすカルデア。

 シャドウサーヴァントは、理知的な戦術を構築できない。

 己の力、技術を振り回すだけ。

 

 だが、逆を言えば味方の動きがわかりやすいと言うことでもある。

 

 動きを誘導し、シャドウソロモンが悪手を打たないように戦いを作り上げる。

 ロマニ・アーキマンとは、今まで一緒に過ごしてきた。

 何度も話をした。何度も話を聞いた。

 Dr.ロマンの思考など、彼らには手に取るようにわかる。

 

「――――――!!」

 

 音無き声を吼え上げるゲーティア。

 

「………………。」

 

 もくもくと、己の魔術を振るうソロモン(ロマニ)

 

「風よ、舞え、逆巻け!風王結界(ストライク・エア)!!」

 

 風を纏い、青き宝石のティアラが輝く。

 アルトリアの領域に入ったものは切り裂かれ、吹き飛ばされる。

 

「我が旗よ、私の仲間のために…、我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 最前線で展開され、後方の味方を守る盾となるジャンヌ。

 黄色い宝石のティアラ、その美しさが陰ることはない。

 

「ドクター……、先輩……。いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

 

 マシュは、ゲーティアと戦ったことは無い。

 マスターである立香の為、盾として彼を守った。

 その後の決戦にはいなかった。

 だからこそ(・・・・・)、今度こそはと自らを奮い立たせる。

 ティアラに埋め込まれた、ピンクの宝石は砕けない。

 

 黒二点たる、男性二人。

 彼らは、「魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)」によって強化されていない。

 卯月の宝具では、衣装変化(きょうか)は受けてもシンデレラの霊基を獲得しない。

 シンデレラがアイドルとするなら、彼らはスタッフ。

 だが彼らもまた、シンデレラの舞台に欠かせない仲間。

 

 →「エミヤ!」

 

「承知した。この光は永久(とわ)に届かぬ王の剣………永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

 

 エクスカリバーが光る。

 エミヤの投影では、「無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)」を使っても本来は再現不可能な剣。

 しかし、味方からの強化と繋がれた魔力(パス)によって作り出す事が可能となった、星の聖剣に近づかんとする剣。

 執事の騎士(バトラーナイト)として、これ以上ないほどに相応しい。

 

 

 

「闇の力に慄け!月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)!!」

 

 

 

 蘭子の固有結界が展開される。

 だがしかし、赤い月以外は風景に変化がない。

 この宝具は、アイドルと共にいることで世界観が変化する。

 全てのアイドルが揃っているこの空間。

 このステージ以上に、相応しい舞台などない。

 

「炎よ、氷よ、雷よ、闇よ!!」

 

 宝具の続く限り、スキルによる攻撃を放ち続ける。

 

「いくよ!」

 

「私も!」

 

硝子の靴のお姫様(Never say never)!!」

硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)!!」

 

 流星群が降り注ぎ、ステージライトが敵を穿つ。

 凛の宝具は、ユニットメンバーと組むことで威力が増す。

 ここには、全てのユニットが揃っている。

 未央の宝具は、知名度によって大きく左右される。

 この世界には、彼女を知る人が大勢いる。

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 守る、攻める、撹乱する。

 それによって、ゲーティアを追い詰める。

 

 

 

「―――!?――――――!!」

 

 

 

 あと少し、もう少し。

 

 

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 

 

 ここに来て、ゲーティアが変化した。

 このまま訪れる敗北に抗って、逸早く形態を先に進めた。

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 そのシルエットは、人王ゲーティア。

 魔神ではなく、ヒトとして最後に立ちはだかった存在。

 この深夜結界舞台を制しても、人理は揺るがない。

 そう、魔神王からすれば何の意味もない戦い(・・・・・・・・・)

 最初から、この姿になる条件は揃っていた。

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 意味は無い、影であるため理由も無い。

 ただあの時の譲れないもの、最後の勝ちを得る為に全霊を賭して戦った彼の再現。

 だが、今の彼は敗北の中から残った残滓ではなく。

 敗北に抗おうとする機能である影としての名は、擬人王ゲーティア。

 

 

 

 →「まだ……」

 

 

 

 後一押し。

 それがとてつもなく長い道のりに見える。

 残る魔力は少ない。

 アイドル達も息を切らし、肩で呼吸をしている。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 →「まだ……まだ!」

 

 

 

 やれる。

 長い道のりだろうが、もうゴールは見えた。

 後は最後まで戦い通すだけだ。

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 魔術王ソロモン(ロマニ・アーキマン)が前に出た。

 前といっても、アイドル達の最前まで。

 後ろを振り向き。

 

 

 

 パチ、パチ、パチ。

 

 

 

 手を叩く。

 拍手を送る。

 これは、時間神殿では無かった出来事。

 つまり、深夜結界でこそ起こったこと。

 

 

 

 足りなかったものが、はまっていくのを感じ取った。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 深夜結界舞台シンデレラ。

 それは、プロデューサーが時間神殿の欠片から構築したシンデレラの舞台。

 アイドルの舞台に必要な人。

 

 シンデレラの名を冠する、アイドル自身。

 

 アイドルをサポートするスタッフ。

 

 そして、アイドルをプロデュースするプロデュ-サー。

 

 だがここには、どうしても足りないものがあった。

 

 

 

 アイドルを応援する者。――――ファンの存在が。

 

 

 

 それも、ロマニ・アーキマンが来た事で全て揃った。

 

「拍、手?」

 

「……うん」

 

「……そっか」

 

 今までの戦い。

 輝き続けたシンデレラ。

 そんな彼女たちに対する、たった一人の拍手。

 それこそが、アイドルに最も必要だった。

 

 今ここに、アイドルがいる、スタッフがいる、プロデューサーがいる、ファンもいる。

 

 アイドル達の共鳴が、一段階上へと昇華される。

 

 

 

 そうこれが、――――二つ目の(・・・・)合体宝具。

 

 

 

 

 

 シンデレラの舞踏会(スターライトステージ)

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ゲーティアが崩れ去っていく。

 動きが制限され、崩壊していく。

 ただそこに存在しているだけで。

 ランクEX宝具、「シンデレラの舞踏会(スターライトステージ)」。

 その分類は、対悪・対戦闘宝具(・・・・・)

 敵対行動や悪意ある行動を対象にし、存在するだけでダメージを与える特攻結界。

 対策は簡単だ、戦いを止めればいい。

 ただそれだけで、この宝具の対象を外れる。

 

 

 

 だが、擬人王ゲーティアにそんな機能は無い(・・・・・・・・)

 

 

 

「………………。―――。」

 

 

 

 次第に薄れていく、消滅していく。

 

 

 

 

 

 そして、その姿は完全に消え去った。

 

 この時をもって、最終決戦は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「マシュ……」

 

「はい。……ドクター」

 

「………………。」

 

 戦いは、終わった。

 全てに決着がつき、シャドウソロモンも退去することとなる。

 

『私は、ロマニ・アーキマンとは関わりが無い。故に、私からは何かを言う権利は無い。だが、君達カルデアの職員達は違う。……なにか、言いたい事はあるかい?』

 

『……いいや。私は別になーんにも。それに、マシュの邪魔はしたくないからね』

 

 カルデアの職員は、戦地に赴く彼を見送った。

 マスターである立香は、自らの宝具によって消滅する瞬間を見届けた。

 マシュだけが、時間神殿の戦いにおいてDr.ロマンとお別れをしていない。

 

「今までドクターは、いつも私の身体を気にかけてくださりました。まさか今回、影とはいえこうして会えるとは思いませんでした」

 

 目の前のドクターは、ただの影に過ぎない。

 意識は無く、記憶も記録もしない、ただ消え去っていくだけの存在。

 だが、ここまで一緒に戦ってきた意思だけは本物だ。

 ドクターが残した意思に、マシュは感謝の意を告げる。

 

 

 

「ありがとうございました、ドクター。私、――――生まれてきて、本当によかったです」

 

 

 

 そう言った直後、ドクターの影が掻き消えた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 此度のステージは、全て終了した。

 

 アンコールは無い。

 

 それを告げるファンが既にいないから。

 

 深夜結界は役割を終える。

 

 アイドルたちによる、盛大な舞台は終わった。

 

 そうして、会場から退場するのは――――――。

 

 

 

 

 




対シャドウゲーティア戦ブレイクゲージ

第一段階 擬神王 ゲーティア

第二段階 擬人王 ゲーティア


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終幕 結界の終わり

 影は掻き消え、この場に残るのはカルデアと大勢のアイドル達、そして意識が無いままのプロデューサー。

 アイドル達の関心は、プロデューサーの安否にあった。

 

『心配ない。今の彼らは、ただ眠っているだけの状態に近い』

 

「あの、私たちとは違うんですか?」

 

『君達は意識があるが、現実にある身体も脳も使っていない。アイドルサーヴァントは、生霊を基とした霊体だからね。それに引き換え、プロデューサー達は術者であるためここにいる必要がある。午前零時からの六時間だけ、彼らはここで眠っていたんだ』

 

 ああそういえば、最近プロデューサーは疲れている様子だった。

 睡眠はちゃんと取っていると言っていたが、結界の起動時間である深夜から朝にかけてのことだったのだ。

 

『無論、この莫大な固有結界。プロデューサー全員から魔力を集めたところでぜんぜん足りない』

 

 そうだ、この結界はあまりにも広い。

 時間神殿を再現していたのだから、固有結界の中でもすさまじい規模を誇る。

 

『となれば、この結界を動かしていた動力源(・・・)が存在する』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 玉座に座したまま、プロデューサー達は眠っている。

 結界に終わりが近いからか、その顔は安らかだ。

 

 神殿の最奥。

 

 そこにある巨大な玉座。

 座る人物はいない。

 全てのプロデューサーが座るのは、空中に浮かんでいる数多の玉座のみ。

 そこにあったのは人に非ず。

 不完全であった結界を支え続けた、歪な動力源。

 

 

 

 →「…………聖杯」

 

 

 

ではないね(・・・・・)。正しくは、時間神殿に残っていた聖杯が壊れたものだ』

 

 壊れた聖杯が、集まっただけの塊。

 サーヴァントを召喚する機能など無く。

 願望を叶える装置としても役に立たず。

 無限に等しい魔力を生み出すことも出来ない。

 

『溜まっていた魔力を消費する以外、何も出来ない代物だ』

 

 結界は不完全だった。

 もしこれが、本来の聖杯であったとするならば。

 結界に時間制限など無かっただろう。

 シャドウではないサーヴァントが何騎か召喚されていただろう。

 魔神影柱にも自己だけで再生できる能力があっただろう。

 だが、結界は不完全なまま起動し、カルデアとアイドル達が攻略することで完成へと近づいた。

 

『固有結界が完成してもしなくても、いずれ消滅していた、ということになる』

 

 結界は、現実へは何も影響を及ぼさなかった。

 人理を焼却しようとする機能は魔力が足りないため、全く発揮されていなかった。

 基点となった術者であるプロデューサーも、人々へ害が及ぶことを望んでいない。

 

 つまるところ、カルデアがここに来る必要さえなかった(・・・・・・・・)

 

 ただ放置しておくだけで、特異点のゆがみは勝手に修正されてしまうのだから。

 しかし、結界は起動した。

 結界は、カルデアが来なければ不完全でさえ起動することはなかった。

 時間神殿の欠片でも再現できなかった最初のピース。

 終局特異点を攻略しようとする、カルデアの者たち。

 カルデアが来たから、この結界は動き出したのだ。

 

 

 

「でも!」

 

 

 

 卯月が叫ぶ。

 言わなければいけないと思ったから。

 カルデアに、何かを言う権利は無い。

 彼らが来たから、アイドル達は必要の無い戦いに身を投じることになった。

 

 

 

 でも、彼女たちはそんなこと欠片も思っていやしない。

 

 

 

「私たち、カルデアの方たちと出会えて、本当によかったと思います!」

 

 

 

 会えて良かったと。

 会えたことに意味は会ったと。

 カルデアは、この特異点に不必要ではなかった(・・・・・・・・・)と。

 

「そうだよ。私たちが会えたことは無意味じゃない。戦いは厳しかったけど、それ以上に楽しいこともあったから……」

 

「大変だったけど、今から楽しい事が待ってるじゃん!それにせっかく準備してるんだから、お別れ会は楽しまなきゃ!」

 

 凛と未央が卯月に続く。

 怖かったことも、辛かったこともあった。

 でも、それだけじゃなかった。

 出会ってからの時間は短い。

 たった一週間。されど、一緒にステージに立った、カフェでのデザートも美味しかった、パーティーも楽しかった。

 面を向かって話をした、念話でもたくさん話をした。

 それに、ここに来て全てのアイドルと知り合った。

 なら、最後くらい楽しまなきゃ損だろう。

 

「はい。貴方たちの厚意、とても嬉しく思います」

 

「ありがとうございます。皆さん、今までお疲れ様でした」

 

「こちらからも礼を言う。君たちの奮戦は、とても頼りになった」

 

 アルトリアが、ジャンヌが、エミヤが感謝を告げる。

 

 →「ありがとう」

 

「ありがとうございます。私も、皆さんに出会えてよかったです」

 

 立香が、マシュがこの出会いに感謝する。

 

 さあ、割れた聖杯の集合体をプロデューサーから切り離そう。

 結界から脱出し、レイシフトを遅らせてパーティーに参加する。

 時間はもう押しているが、壊れた聖杯があれば特異点の修復は始まらない。

 最後に、それくらいなら許されるだろう。

 

 

 

 

 

 パキーン!!

 

 

 

 

 

 割れる、音が響いた。

 

 元から壊れていた聖杯は、たった今魔力が尽きて砕け散った。

 

 先程までの激しい戦闘に、歪な聖杯は限界を迎えていた。

 

 この特異点は、現在をもって修復される。

 

 残酷にも、別れの時は突如にして訪れてしまった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界が崩れていく。

 動力を失い、繋がりを失ったことによってプロデューサー達も現実世界へと戻っていく。

 完全に崩壊すれば特異点は修復され、カルデアは元の時代へと帰還する。

 

 →「……ごめんね、皆」

 

 こうなってはもう、残ることは出来ない

 修復された特異点に、カルデアは記録さえ残らない。

 死別とも違う、記憶の無い離別。

 

「嘘……ですよね?だって、……まだ!」

 

 詰め寄ろうとする卯月の肩を、美嘉が掴む。

 振り返る卯月。

 美嘉はただ、無言で首を横に振る。

 分かっていたことだ。

 彼らが帰還することは、どうしようも出来ないこと。

 正しいことであるが故に、仕方の無いこと。

 

「っ…………。……」

 

 俯くことを止め、後ろへと下がる。

 言いたい事を、整理しなければいけない。

 

 

 

 ――――短い言葉で、自分の気持ちが伝わるように。

 

 

 

「じゃあ、まずは私からね★」

 

 結界が完全に消え去るまでの短い間。

 

 この特異点で彼らと言葉を交わす、最後の時間。

 

「と言っても、アタシはあんまり話すこと無いんだけどね。現実で知っているのだって、コンテストを見た覚えしかないし」

 

 美嘉をはじめ、駆けつけてきたアイドル達はカルデアと面識はほぼ無い。

 間接的でしかないため、言えることは限られる。

 

 

 

「だから、アタシからはこれだけ。――――ありがとう。(りか)がお世話になりました」

 

 

 

 アイドルやサーヴァントとして以前に、姉として礼を述べる。

 危ないこともあったけど、莉嘉を守ってくれてありがとう、と。

 

「それじゃ、アタシは終わり★」

 

 入れ替わるように、今度は美波とアーニャが前に立つ。

 

「私達も、現実では皆さんと会っていません。ですが、いろんなお話を聞けて面白かったです」

 

「ダー、アーニャもです。他の皆も、楽しそうに話していました」

 

「ラブライカ」の二人も、一緒に行動した時間は少ない。

 だが、皆で繋いだ手。

 絆の輪を、カルデアと共にした。

 短くはあるが、確かな絆があったのだ。

 

 

 

「短い間でしたが、お世話になりました」

 

「スパシーバ、皆さん!」

 

 

 

 次は「*(Asterisk)」。

 毅然とした様子で話し始める。

 

「私たちのこと、頼もしいって言ってくれて嬉しかった……。みくの猫チャンパワー、皆の為になってよかったにゃ!」

 

「一緒に戦ったこと、出会ったこと。後悔なんて、してないから!」

 

 頼もしかったアイドル達。

 喧嘩ばっかりしていた、正反対の二人。

 だが、背中合わせの二人は互いの背中を守っていた。

 二人の息の合ったコンビネーションには、とても助けられた。

 

 

 

「カルデアの皆、ありがとうにゃ!」

 

「カルデアの皆、最っ高に『ロック』だったぜ!」

 

 

 

 年少組のアイドルは、今にも泣き出しそうな顔だった。

 年若い二人は、別れにというものに慣れていない。

 

「せっかく会えたのに、もうお別れなんて寂しいよ……」

 

「一緒にやりたいこと、いーっぱい!あったのに……」

 

 だけど、ちゃんと言わなきゃいけない。

 目じりに浮かんだ涙を、手で、腕で拭き取る。

 彼らの目をしっかりと見て、別れの言葉はきちんと告げる。

 

 

 

「さようなら、カルデアの皆!カリスマJC莉嘉の活躍、見てくれてありがとう☆」

 

「たくさんおしゃべりできて、みりあ楽しかった。皆……っ、バイバイ!」

 

 

 

 そう言った後、勢いよく振り返る。

涙が零れ、宙でキラリと光っていた。

 幼い二人に次いで、智絵里とかな子が話しかける。

 

「あの、わたし……。あれ?……なんて、言ったらいいのか、わかんなく…なって……」

 

「……私も、……何を話すか決めていたはずなのに、頭の中が真っ白になっちゃって……」

 

 彼女たちは、ここに来て話す言葉を見失った。

 それでも、いっぱいになった頭から、一番言いたい言葉を探し出す。

 思いつくのは、一緒にやりたかったこと。やってあげたかったこと。

 アイドル達の皆が抱いていた、心残り。

 

 

 

「皆さん、さようなら。でも……、一緒にクローバー集め、したかった…です」

 

「私のお菓子、食べてもらいたかったです。お菓子作り、得意なんですから」

 

 

 

 遅くなった願望を吐露し、涙を拭いながら交代する。

 きらりと杏。

 彼女たちの顔に、涙は無い。

 

「今まで、ほんっとうに、ありがとにぃ♪」

 

「これでようやく、夜はゆっくり休めるよ」

 

 彼女たちだって、悲しくないわけじゃない。

 でも、他のアイドル達が悲しい別れを担ってくれている。

 なら、自分達は明るいお別れをしよう。

 悲しいだけのことに、したくないから。

 

 

 

「カルデアさん。これからも、きゅんきゅんぱわーで、頑張ってにぃ♪」

 

「杏の貴重な頑張り、忘れるんじゃないよ」

 

 

 

 最後まで、彼女達は変わらない。その、――――震えた後姿以外は。

 

「私、……、私!!――――」

 

 蘭子は、一番カルデアに情熱的だった。

 歴史、神話、未来の英傑。

 世界を救ったマスターと、彼と共にいる普通の女子。

 カルデアは、蘭子の憧れそのものだった。

 

 

 

「私、――嫌だ!!お別れなんてしたくないっ!こんな別れ方なんて、したくなかった!!」

 

 

 

 別れの言葉としては、決して合格とはいえない。

 だがたとえ、間違っているとしても、彼女達が持つ尊き感情。

 仕方の無い事だ。

 まだ二十歳(おとな)にもなっていない、正真正銘の子供。

 記憶さえ失う別れに、割り切れるはずも無い。

 

 

 

「私忘れないよ!何があっても、絶対に忘れない!」

 

 

 

 蘭子は強い。

 受け入れるのではなく、抗う。

 理不尽な世界へ反逆するからこそ、――――彼女は、アヴェンジャーなのだから。

 

「あ~あ。私が言いたいこと、らんらんに言われちゃった……」

 

「未央も言う気だったんだ。まあ、私も同じ気持ちかな……」

 

 未央と凛。

 蘭子の言葉を受け、気持ちが固まった。

 そうだ、大人しくしている理由なんて無い。

 仕方ないと受け入れるしか無いなんて、認めてやらない。

 

 

 

「あのときのステージ、すっごく楽しかった!」

 

「また一緒に、あの時みたいなステージを作ろう!」

 

 

 

 だから、再会の約束を。

 根拠なんて無い。

 でもきっと、また会えると信じて。

 

「………………。」

 

 そして最後を飾るのは、卯月。

 カルデアと一番最初に出会ったアイドル。

 一番長く、彼らと共にいた少女。

 

「私は、これからもきっと、アイドルを続けていきます」

 

 卯月が宣言したのは、これからのこと。

 カルデアが去った、未来のこと。

 ここで終わりじゃない、という意思表示。

 

「私、アイドルを頑張って、頑張って。そして、――――皆さんに、私たちのことを届けたいです!」

 

 卯月は自分たちのことを、時代を超えて伝えたいと言い放った。

 不可能ではない。

 アイドル達の想いは、数年の時ぐらい超えてゆけるだろう。

 記憶がなくても、覚えていられなくても、アイドルを頑張ることには自信があるのだから。

 

 

 

「だから、応援よろしくお願いします。私も、皆さんを応援しますから。――――島村卯月、がんばります!」

 

 

 

 

 

 これで、全員。

 

 結界は、もう終わる。

 

 舞台は終幕を迎える。

 

 

 

 そして、カルデアが去る時間がやってきた。

 

 

 

「あっ……」

 

 彼らの身体が、光の粒子となって溶けていく。

 レイシフトが始まった。

 立香達は、元の時代へと帰っていく。

 

「今一度、ありがとうございました。皆さんのことは、決して忘れません」

 

「私も同じです。そして、一緒にアイドルをやれて楽しかったです」

 

「君達には世話になった。アイドル達の事は、たとえ地獄に落ちても忘れんよ」

 

 アルトリアが消え、ジャンヌが消え、エミヤが消えた。

 残っているのは、立香とマシュ。

 もう残せる言葉は、一言だけ。

 

 

 

 →「バイバイ……またね!」

 

「いつかきっと、また会いましょう!」

 

 

 

「…………はい!」

 

 返事を聞き、笑みを浮かべる少年と少女。

 そしてついに、彼らは完全に消え去った。

 

「……う……あ……ぁ」

 

 アイドル達の涙を、押しとどめていたものが無くなった。

 泣く、泣く、泣く。

 一人が泣けば、誰かが泣いた。

 

 

 

 

 

 結界が崩れ終わるまでの僅かな間、彼女達は泣き続けた。

 

 そこにいるのは、サーヴァントでも、シンデレラでもない。

 

 ごく普通の、少女達の姿。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界は、完全に崩壊した。

 

 同時に、特異点は修復された。

 

 立香達もまた、結界からカルデアへと帰還した。

 

 

 

 短かったアイドル達との冒険は、こうして幕を下ろした。

 

 

 

 

 




次回 エピローグ


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エピローグ アイドルマスター

 目を覚ます。

 だるい頭を振り切るように、枕から頭を上げる。

 自身の部屋で眠い目をこする、とあるプロデューサー。

 

 目覚まし時計を見ると、時刻は出勤時間をとうに過ぎていた。

 

「………………。っ!?」

 

 慌てて飛び起き、超特急で身支度をする。

 既に遅刻は確定している。

 社用のケータイを取り出し、すぐさま会社へと連絡する。

 

『おはようございます、プロデューサーさん。どうかなさいましたか?』

 

 電話に対応したのは、アシスタントを勤める事務員、千川ちひろ。

 言葉遣いは丁寧だが、その声色には覚えがある。

 間違いなく、彼女は怒っている。

 すぐさま寝坊したこと、遅刻する旨を伝える。

 

『…………はぁ~……』

 

 すると、ちひろの口から発せられたのは、ため息。

 あれ?と、疑問に思うプロデューサー。

 てっきり、先日のような説教がとんでくると身構えていたが、肩透かしを食らってしまった。

 

『先に業務連絡だけ済ませちゃいますね。……プロデューサーさんは今日、休暇となっています』

 

 何を言っているのか理解するのに、少し時間を費やした。

 休暇も何も、今は忙しい時期のはずだ。

 自分は休暇など取った覚えはなく、今日やる予定だった仕事も覚えている。

 

『美城常務からの通達です。「本日、全プロデューサー(・・・・・・・・)は休暇にあてるように」だそうですよ』

 

 メチャクチャな命令だ。

 自分だけならともかく、全プロデューサーを休ませるなど前代未聞である。

 これには、何か裏がある。

 そう思考するのも当然だ。

 ドッキリか、冗談か、まさか解雇か?

 

『本当、何がどうなっているんだか……。まさか全てのプロデューサーさんが寝坊なんて(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 はい?と、思わず口に出す。

 プロデューサー全員が寝坊した?

 偶然にしては出来すぎだが、どうやら事実らしい。

 

『……まさか、心当たりが無いと思っていますか?』

 

 これは、まずい。

 嵐の前の静けさ。

 説教の前兆だ。

 

『私、休んでくださいって言いましたよね?日ごろの無茶が祟ったから寝坊する羽目になったと理解しているんですか?身体を壊していたかもしれないんですよ』

 

 矢継ぎ早に襲い掛かる、ちひろの苦言。

 約十分間、ありがたいお説教は続いた。

 

『分かったのなら、本日はお休みください。フォローなら、ちゃんとこちらで出来ますから』

 

 そう言った後、軽くやり取りをして電話は切られた。

 全てのプロデューサーを休ませた上で、そのケアも行える346プロダクションの組織力を今一度実感する。

 決定を下した美城常務が、何を思ってそう判断したのかは分からない。

 過労やブラックなどのイメージは、346プロダクションにふさわしくないと考えたのかもしれないが、それは自身にはあずかり知らぬことだ。

 

「………………。」

 

 降って湧いて出た休日。

 何をするか考え……る前に、部屋の掃除をしようと決める。

 最近、自宅では寝ている事以外の印象がない。

 埃も溜まっていることだし、窓を開けて空気を入れ替えることにする。

 

 

 

 

 

 セミの鳴き声がする。

 

 太陽が眩しく、思わず手を天にかざす。

 

 今日の天気は、雲ひとつ無い晴天。

 

 昨日までの雨は止み、晴れ渡った空が広がっていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 朝になり、目が覚めた。

 寝坊をしたと思い時計を見るが、今が夏休みであること。

 そして、午前中はアイドルのお仕事も休みだったと、慌てるのを止めた。

 寝起きによって上手く働かない頭で考える。

 なんで、今日の午前中は休みだったのか?

 

 夢を、見ていた気がする。

 

 その夢を、思い出そうとして――――。

 

「あっ――――」

 

 目から、一筋の涙がこぼれていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデアに帰還して、数日後。

 マイルームのデバイスで、特異点にあった記録を閲覧する立香。

 目を離さず、その映像に集中している。

 そんな彼の後ろから、近づいてくる一人と一匹。

 

「先輩」

 

 →「おっと、……マシュ?」

 

「フォウ!」

 

「フォウさんもいます。……先輩、今日も卯月さんたちの記録を見ていたんですか?」

 

 記録と言ってはいるが、其の実、ただのライブ映像だ。

 特異点にあった映像媒体を、カルデアにコピーしたものである。

 著作権とかいろいろ問題ありそうだが、そこは時代が違う為、大目に見てもらいたいところだ。

 

 →「ドクターみたい、だったかな?」

 

「少しだけですけど、そう考えちゃいました。でも、私も同じかもしれません」

 

 カルデアに帰還した一同は、あの特異点から大なり小なり影響を受けた。

 

 アルトリアとジャンヌは、歌やダンスの練習をする様子が度々確認できるようになった。

 アイドルとしてステージに立った、あの楽しさが忘れられないのか。

 はたまた、いつかあの時のリベンジをしたいと考えているのか。

 もしかしたら、両方なのかもしれない。

 なお、そんな彼女たちを鑑賞する円卓と二人のジル。

 大抵は、感動やら何やらで騒がしくなったところで気づかれ、制裁が与えられるまでがセットである。

 

 →「皆、いつもと様子が違ったしね」

 

「そうですね。ただ、エミヤさんはあまり変わったように見えませんでしたが」

 

 エミヤは一番変化が少ない。

 アイドルが記録された媒体も、あまり鑑賞していないらしい。

 ただ最近、彼はお菓子を作る機会が増えた。

 そのどれもが美味しく、細やかなつくりをしている。

 クローバーやカブトムシを模したものがカワイイと、カルデアの年少組に人気があるようだ。

 

 →「マシュは、やっぱり?」

 

「はい。私も、あの時のことが忘れられないみたいです」

 

 マシュもまた、アルトリアやジャンヌと同じだ。

 歌を歌い、ダンスを学ぶ。

 それは、とても楽しい。

 楽しいのだが、――――やはり、あのステージとは違った。

 観客やステージに立つ仲間たちとの一体感。

 沸きあがる歓声と、湧き上がる充実感。

 あの強烈な感動は、やはり浮かんでこなかった。

 

 →「マシュは一週間、楽しかった?」

 

 先日の特異点へのレイシフト。

 本来は、休暇の為の一週間。

 現代日本の豊富な娯楽を楽しもうとした、短い夏休み。

 まるで休めていなかったが、それでも答えはきっと同じ。

 

「とっても楽しかったです!すごく貴重で、何にも代え難い体験ができました!」

 

 それは、黄金の時間。

 シンデレラたちと繰り広げた大冒険。

 忘れることの無い、アイドルたちの笑顔。

 

 

 

 

 

『立香君、マシュ。すぐにこっちに来てくれないか?』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「ああ、二人とも来たね」

 

 待っていたのは、ダ・ヴィンチちゃんとホームズ。

 

「――――さて、ここに来て理解したかもしれないが、まずは説明させてくれ」

 

「あの特異点で、彼女達は特異な霊基をもって召喚された。結界以外では現界できない、例外的な事例として」

 

「サーヴァントは消滅する場合、その記録と共に英霊の座へと戻る」

 

「だが、彼女達はどうか?シンデレラでありながら、その分霊を所持していなかった彼女達は?」

 

「本来なら、消滅していただろう」

 

「しかし、ここで奇跡(・・)が起こった」

 

 そうなのだろう。

 そうに決まっている。

 

 だって、すぐそこに答えとなる、少女がいる!

 

「彼女たちにとって、英霊の座とは本人の肉体。すべてが終わった後、彼女たちそのものがたった一人のための座となった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 たった一人分の容量しかない、英霊の座。

 だがそれが、一度に二百近い数で誕生した(・・・・・・・・・・)

 

「あとは簡単だろう?『座』があるのならば、そこからサーヴァントを引き出せばいい」

 

「そしてつい先程、一足早く召喚されたようだ」

 

 無茶苦茶で、荒唐無稽な奇跡。

 叶ったのではなく、叶えたと言うべき力技。

 だがどんな形であろうと、彼女たちの願いは確かに届いたのだ。

 

 

 

 

 

 今はただ、この奇跡を歓迎しよう。

 

 彼女たち、シンデレラガールズとの再会を。

 

 

 

 

 

 →「ようこそ、カルデアへ!」

 

「はい!これからよろしくお願いします、マスターさん!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデアの食堂では、様々な料理が並んでいた。

 お菓子も多く、立食形式で並べられている。

 これを作ったのはカルデアにいた英霊ではない。

 

 作ったのは、新たに召喚されたサーヴァント。

 

 シンデレラの名を冠する、――――アイドルたち。

 

 

 

 

 

 

「えー、それでは。できなかったお別れ会の振り替えと」

 

 

 

「一週間お疲れ様会、そして――――」

 

 

 

「特異点修復と」

 

 

 

「再会を祝して」

 

 

 

 →「乾杯!」

 

 

 

 

 

 

『カンパーイ!』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドルたちは、全て覚えていた。

 

 昼のこと、夜のこと、――――――そしてカルデアのこと。

 

 アイドルたちは、忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 彼女たちだけが知る

 

 

 

 この夏の

 

 

 

 世界を救った英雄たちとの

 

 

 

 ――――大冒険の、記憶。

 

 

 

 

 

 A.D.2012 深夜結界舞台シンデレラ

 

 

 

 

 

 舞台終幕

 

 

 

 

 




特異点クリア報酬



アイドルスカウトチケット ×5 獲得

魔術礼装「深夜の呪術衣装」 獲得

霊衣開放権

マシュ・キリエライト

アルトリア・ペンドラゴン〔セイバー〕

ジャンヌ・ダルク〔ルーラー〕

エミヤ〔アーチャー〕

上記4名「深夜の舞台衣装」 獲得


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あとがき&おまけ

皆さんおはようございます、赤川島起です。

このたび、「A.D.2012 深夜結界舞台シンデレラ」を無事完結する事が出来ました。

これも一重に、読者の方々の応援や感想のおかげです。

毎日投稿を続け、約2ヶ月(内8回休み)。

楽しいばかりでなく、辛いこともありましたが、良い達成感を得る事が出来ました。

 

・この作品を書こうと思ったきっかけ

 

まず、一番最初の雛形は『シンデレラを真名として、デレマスのアイドルを召喚する』です。

一番最初にそれを思いつき、ならどんなスキルを持つか?どんな宝具を持つのか?と、頭でいろいろ考えた次第です。

次に、そんなアイドルを活躍させる舞台として『終局特異点の欠片』が採用されました。

サーヴァントとして召喚されるはずのないアイドル達を、召喚させるならどんな物語であるべきか?

ここに至って、この作品の根本である大筋が完成しました。

初投稿の約1、2ヶ月前のことでした。

 

・登場したアイドルサーヴァントについて

 

今回、メインとなるアイドルサーヴァントとして、シンデレラプロジェクトの面々を採用しました。

感想の返信でも言っていたのですが、この世界観はアニメ時空に限定していません。

読み手の受け取り方として、好きなプロデューサーを当てはめる方式となっています。

その上で、アニメのアイドルをメインにしたのは、情報量の多さです。

スキルや宝具を考える際、アイドルの逸話、個性などの情報が必須となります。

自分がアニメ版から影響を受けていたのも、要因のひとつです。

ちなみに、最も設定を考えるのが早かったのが蘭子。

最も難しかったのがアーニャでした。

 

・感想からの質問

 

この作品におけるラスト、元の世界でいるアイドルとカルデアで召喚されたアイドルの関係について質問がありました。

作品では詳しく書いていなかった内容ですので、解説していきたいと思います。

特異点が修復された際、結界に存在していたアイドル達の霊基は行き場を失いました。

本来であれば消滅するのですが、本来の人物であるアイドル達に宿り、彼女達は個々人が『座』となりました。

その影響で、結界での記憶、ひいては特異点の記憶を保持し続けることに成功。

カルデアに召喚されたアイドル達は、『座』として扱われている人間としてのアイドル達から召喚されます。

そしてカルデアから完全に退去する時、その記憶は『座』であるアイドル達のところへと戻ります。

そのため、人間としてのアイドルには『特異点の記憶』と『カルデアの記憶』が存在する、と言うことになります。

 

・これからの更新について

 

今回をもって、メインストーリーを完結とさせていただきます。

以降は不定期で、番外編などを更新していきたいと思っています。

 

 

 

それでは、ここで筆を置かせて頂きたく。

 

またの機会にお会いできれば幸いです。

 

ご愛読ありがとうございました。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

宝具:魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)

ランク:C~EX

種別:合体・結界宝具

 

深夜の固有結界、シンデレラの舞台を経たアイドルサーヴァントたち全員が持つことになった宝具。

スキル、「陣地作成(場)C+++」の最大展開によって修得することとなった固有結界。

結界の中身は各アイドルによって異なる。

展開した空間内に、他のアイドルサーヴァントを「単独行動D+」を保持した状態で召喚する。

召喚できるアイドルに制限は無く、すべてのアイドルを召喚可能。

アイドルには、本当の意味で仲の悪い関係が無いためである。

人数はマスターの魔力などによって増減するが、一人で展開する場合の目安は4~20人程。

同じ宝具を持つアイドルサーヴァントと同時展開することで、持続時間と召喚可能人数が増え、シンデレラは強化される。

一人では戦闘型サーヴァントに対抗しがたいアイドルサーヴァントが、勝利の可能性を引き寄せることが出来る。

複数人で活動することが強みであるアイドルたちの真価を発揮するための宝具。

彼女たちの絆は、遠い世界であろうと途切れることは無い。

 

 

 

宝具:シンデレラの舞踏会(スターライトステージ)

ランクEX

種別:合体・対悪・対戦闘宝具

 

大勢のアイドルサーヴァントによる合体宝具。使用するには、多くのアイドルサーヴァントを従えているか、宝具「魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)」を展開している時に限られる。

敵対行動をとる者、悪意を持って行動するものに対する非常に強力な特攻結界。

対象となったものは、存在するだけで際限なくダメージを受け、魔力を大きく失ってしまう。洗脳など戦いに何かしらの要因を持つものは、それを排除されることとなる。

敵味方関係なく効果は及び、敵対しないことでのみ避けることが出来る。

そのため、思考が「戦闘する」で固定されているもの、令呪で戦闘を強制されているもの、すでに攻撃態勢に入ってキャンセルできないものに、多大な効果を発揮する。

発動中のスキルや宝具をも打ち消し、防御宝具としても使用ができる。

アイドルの舞台への障害を消し去るため、問答無用で戦闘を終結させる対戦闘宝具。

この結界が閉じられたとき、アイドルたちが笑顔でステージを終えるだろう。

 

 

 

 

 



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期間限定プチイベント配布サーヴァント紹介+告知

真名:シンデレラのキャスター

クラス:キャスター

レアリティ:☆4

 

346プロダクション所属のアイドル部門プロデューサーの一人。

強面な外見に反して、生真面目で真っ直ぐな性格をしている。

彼がアイドルをスカウト、プロデュースする一番の指標は「笑顔」。

それぞれのアイドルが持つ「笑顔」を、より輝かせるという信念を持って仕事へ打ち込む。

かつてはアイドルとのコミュニケーションが上手くいかず、彼の元からアイドルたちが離れてしまった過去から、アイドルたちとは最低限しかコミュニケーションをとらずに決定事項のみしか情報を開示しなかった

そんなシンデレラを運ぶだけの物言わぬ車輪となっていた彼だったが、それを覆したのもアイドルたち。

彼女たちの言葉を受け、彼は再びシンデレラを変える魔法使いの姿を取り戻した。

 

宝具:????(パワー・オブ・スマイル)

 

コマンド:Arts

 

味方全体の弱体状態を解除

+味方全体の最大HP(lv1)

+味方全体のアーツ性能をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

+????

 

「強面だけどとても誠実!シンデレラ達の魔法使い(プロデューサー)!!」

 

 

 

真名:シンデレラのライダー

クラス:ライダー

レアリティ:☆4

 

プロデューサーを助けるアシスタント。プロダクションに所属する事務員の一人。

業務の合間にドリンクを差し入れすることが日課となっている。

ライダークラスらしく複数の宝具を所持し、肉弾戦を苦手とするタイプ。

ただし、スキルの効果を発揮した場合はその限りではない。

プロデューサーやアイドルを支える強い味方。

そのためか他者を支援することに秀でたサーヴァント。いろんなお仕事をこなす万能型。

アイドルやプロデューサーからは親しまれている一方、有能だが謎の多い人物として認識されているようだ。

 

宝具:????

 

コマンド:Arts

 

????

+敵全体に強力な攻撃(lv1)

+スターを大量獲得<オーバーチャージで効果アップ>

 

「仲間をサポートするアシスタント!仕事はきっちりこなします!!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

深夜の結界による冒険譚は終わった。

カルデアで、思い思いに過ごすアイドルサーヴァントたち。

そんな生活の中、彼女達が口々に告げる人物。

各々が信頼し、共に歩んできたと話される者。

彼あるいは彼女。

その人物の役職は、プロデューサー。

シンデレラ達の成長を促し、共にトップを目指す魔法使い。

その彼ら彼女らの内の一人。

とあるプロデューサーのIFの物語。

 

彼の持つ、称号の名は――――――――。

 

 

 

 

 

期間限定プチイベント

 

 

 

『結界の残響』編

 

 

 

近日公開

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

緊急執筆

 

 

 

幕間の物語 シンデレラ(安部奈々)

 

 

 

鋭意製作中

 

 

 

 

 

真名:シンデレラ(安部菜々)

クラス:キャスター

レアリティ:☆4

 

出身はウサミン星、年齢は永遠の17歳と語るアイドル。

異彩を放つプロフィールに対し、本人の気質は真面目でコツコツ積み上げる苦労人。

プロとしての意識は、他のアイドルから目標にされるほど。

なお、素性について突っ込まれるとボロを出してしまうことも多い。

アイドルへ憧れた期間は長かったらしく、仕事にかける情熱は非常に強い。

魔法少女に思い入れがあり、歌って踊れる声優アイドルを目指し、それを叶えた人物。

それ故に、キャスター適正はある種当然ともいえる。

アイドルサーヴァントとして、魔法少女(正確には『魔法』ではないが)の力を振るう。

通常時には、魔法少女としての力は使えない。

彼女曰く「やっぱり魔法少女は変身しなくちゃいけませんから」とのこと。

また、「方法はいろいろありますが、魔法少女が飛ぶのはデフォルトですよね」とも語っている。

 

宝具:変身!魔法少女ウサミン!(メルヘンチェンジ・マジカルウサミン)

 

コマンド:Buster

 

自身に〔悪〕特攻状態を付与(1T)<オーバーチャージで効果アップ>

+敵単体に超強力な攻撃(lv1)

+攻撃力を大ダウン〔悪限定〕(3T)

 

「夢と希望を両耳に引っさげ、魔法少女ウサミン爆誕!」

 

 

 

 



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アイドル達のカルデア生活
番外編 アイドル達のカルデア生活


今回登場するアイドルには、サーヴァントの設定が未決定の場合もあります。
クラス、宝具などの質問は、お答えしかねますのでご了承ください。


 カルデアには、様々なサーヴァントが所属している。

 神話の英雄に過去の偉人。

 恐れられた怪物に大罪人。

 神様そのものや、AIですらサーヴァントとして現界している。

 その中でも、異彩を放つサーヴァントたちがいる。

 

 そう、346プロダクション所属のアイドル達である。

 

 わけあってカルデアへと召喚された彼女達であるが、個性的なサーヴァントたちとの交流や生活を行っている。

 その一部を、ご覧に入れよう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side シミュレーションルーム

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…………。今のところ、もう一回通しでやりましょう」

 

「OK。私もステップが気になってたから」

 

「私も『間』がうまくいかなくて、しまむーの言うとおり、もう一回やろう!」

 

 汗だくのジャージ姿で、もう一度ミュージックを流して踊り始めるニュージェネレーションズ。

 戦闘訓練とは違う、彼女達の本職であるアイドルとしての訓練。

 もちろん、彼女達がレッスンを行っているのにはちゃんとした理由がある。

 

 一つ目、スキル「真のアイドルA+」

 

 他者に自己の存在を知らせることで、信仰心を集め強化するスキル。

 その性質上、新たな特異点では彼女達の本領が発揮しにくい。

 人々にアピールすることは、彼女たちにとっては自身が強くなることと同義なのだ。

 

 二つ目、コミュニケーションツールとして

 

 歌や踊りは文化や思想が違っても、思いをストレートに伝える事ができるコミュニケーションツール。

 第七特異点のような、大勢の味方と長期間過ごす場合には有効な手法。

 加えて、沈んでしまった士気を高めることもできるだろう。

 

 三つ目は、まあ、ただの習慣。

 

 彼女達の生活に含まれていたレッスンは、モチベーションを維持する為にも続けていたのだ。

 定期的にミニライブも行っており、お祭り好きなサーヴァントが観客として参加することもある。

 

 さて、アイドルたちには純朴だったり、常識的な者が多い。

 カルデアで最も近い気質を持つ者でたとえるなら、アルトリア・リリィやイリヤスフィール。

 穢れを知らない彼女達を影から見守ったり、近づき難いと感じる者もいたり。

 

 

 

「ふふふ、純粋でカワイイ子達だなぁ。ぬいぐるみのオイラなら、いい目を見れる!」(くわぁ!)

 

「うむ!純粋ということは生娘ということだ!そんな彼女たちには是非、夜のお相手をしてもらいたい!」

 

 

 

 逆にどうにかお近づきになろうと画策する者達もいる。

 自らの欲望に忠実なカルデアの性欲問題児。

 

 アーチャー、オリオン。(アルテミスの付属品)

 セイバー、フェルグス・マック・ロイ。

 

 彼らの辞書に自重という言葉は無く、言動からしても彼女達にとっては確実に有害。

 ここら辺のところは、(逸話や気性はともかく)紳士的である円卓の騎士の方が幾分かましである。

 

「では、早速声をかけるとしよう!」

 

「おう!アルテミスが来る前にな!」

 

 

 

 

 

「そこまでです!二人とも止まりなさい!」

 

「罪状は、言う必要はありませんね?」

 

「おとなしくしててもらうわよ」

 

 肩を捕まれ、動きを止めざるを得ない二人。

 彼らに声をかけた三人。

 

 ジャンヌ・ダルク。

 天草四郎。

 聖女マルタ。

 

 カルデアの秩序を司る治安維持隊、――――ルーラー警察である。

 

「そんなに体力が有り余っているなら、是非お相手したいと仰ってましたよ――――スカサハさんが」

 

「オリオンにも声がかかってますね、――――レオニダス達のマッスル組から」

 

「アルテミスやランサーの頼光じゃないことを幸運に思うことね」

 

「いや、それは絶対……違う、お誘いだと思うのだが……」

 

「いやだ!そんな暑苦しくて汗臭いとこなんざ行きたくねぇ!」

 

 問答無用というばかりに、強制的に連行される罪人二人。

 幸か不幸か、ミュージックを伴ったレッスンであり、集中していた三人はこのやり取りに気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side カメラマン

 

 

 

 

 

 シミュレータールームを応用した撮影会場。

 アイドル達の経験談のもと、資料も参考に忠実に再現している。

 カルデアでもアイドルとして納まっている彼女達の写真は、高い需要がある。

 アイドル達も慣れているからか許可した為、こうして定期的に撮影会が開かれている。

 ただし、入ることを許されているのは認められた人物および関係者のみである。

 

「こちらに目線をお願いします」

 

「はーい!かぅわいく撮ってにぃ!」

 

 カメラを構えるのは、聖ゲオルギウス。

 カルデアに来てから、カメラが趣味だった彼はすぐこの立ち位置に収まった。

 礼儀正しい聖人の為、必然とも言える。

 

 そんな彼が撮る相手は、諸星きらり。

 

 長身でモデル体形のアイドルで、可愛いものが大好き。

 着ている衣装も、リボンやフリフリが多く付けられている。

 ちなみに、ヴラドとメディアの合作である。

 メディアにとってみればきらりは守備範囲外なのだが、趣味が合ったらしく好意的に製作してくれている。

 むしろ全アイドルの服飾担当になろうかという勢いだ。

 

「あの、ホームズさん」

 

「なんだい?マシュ嬢」

 

「きらりさん、……ほかのアイドルさんも含めて、ゲオルギウスさんがカメラマンになるのは理解できるんですが……」

 

 

 

「こっちも可愛く撮ってね~。杏を撮るんだから、ちゃんと一発OKしてくれなきゃ困るよ~」

 

「デュフフ、了解ですぞ!杏ファン垂涎の出来にしてみせようぞ!」

 

 

 

「…………なんで黒髭さんまで担当しているんですか?」

 

 マシュの目線の先にいるのは、双葉杏と海賊黒髭。

 有害筆頭とも取れる黒髭がなぜ関係者となっているのか。

 写真技術はあるだろうが、当然の疑問である。

 

「目の届くところで監視できるから、だね。下手に隠れられて盗撮されるよりは、公式カメラマンとして採用したほうがリスクが少ない」

 

 加えて、アイドル達が黒髭自体を許可していることも大きい。

 彼女達にしてみれば、黒髭も間違うことなきファンであり、彼の言動にも仕事柄慣れている。

 無論、根が悪人である黒髭が暴走する可能性は否めない。

 だが、公式カメラマンとして採用されているということは――――。

 

「問題を起こせば、その地位を剥奪ということですね……。アメとムチですか」

 

「その通り」

 

 かくして、カルデアの写真の需要は満たされるのであった。

 

 補足だが、流石の黒髭も地位を失うことを恐れたのか、比較的平和に撮影は続いていったことを追記しておく。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side ライブ

 

 

 

 

 

 少女二人が倒れていた。

 カルデアにおいて、恐れられているそれ。

 新人であるが故に、それを知らなかったことによる大きすぎる被害。

 

 

 

 そう、ネロ&エリちゃんのコンビライブの犠牲者である。

 

 

 

「どうよ!すばらしすぎて気絶するぐらいでしょ!」

 

「うむ!至高の芸術たる余と、アマチュアながら見所のあるエリザベートのライブ!これはもう、トップアイドルといっていいレベルであろう!」

 

 ルックス、という意味ならば文句は無いだろう。

 ダンスも高い身体能力からか、筋は悪くない。

 

 しかし、彼女たちは致命的に――――音痴なのである。

 

 

 

「――――にゃ」

 

「ん?何?」

 

「もう一度言うがよい!」

 

 

 

 

 

「みくたちを殺す気かにゃあああぁぁぁ!?」

 

「カワイイボクを殺す気ですかあああぁぁぁ!?」

 

 迫力を持った大声で二人に詰め寄るアイドル達。

 猫系アイドル、前川みく。

 自称カワイイ、輿水幸子。

 今回のライブの犠牲者はこの二人のアイドル。

 なお、ギャグ補正がなければ即死だった――――かもしれない。

 

 

 

「ちょっとちょっと!私達のライブに文句があるっての!?」

 

「然り!いかにそなた達がプロとはいえ、納得がいかぬ!」

 

 

 

 

 

 プツンッ。

 

 

 

 

 

「ああそうかにゃぁ……、じゃあ、納得がいくよう説明してやるにゃあ!」

 

「ボクも同感です!この二人に、アイドルが何たるかを教えなきゃ気がすみません!」

 

 全くもって、当然の怒りである。

 

「まず第一に、ファンを楽しませようする気が全く見えにゃい!」

 

「何を言うか!?至高の芸術たる余のステージ!これを見て楽しまないものなどいるはずがなかろう!」

 

「そうよ!全世界のアイドルたるこの私のステージを楽しまない豚共なんて、いるはずがないでしょうに!」

 

「論!外!です!」

 

 声を張り上げるみくと幸子。

 彼女達のプロとしての意識は高い。

 そんな彼女達がこんな(・・・)ライブを認めるわけにはいかなかった。

 

 

 

「じゃあ!ちゃんとファンのことを見てるのかにゃ!?」

 

 

 

 どんな反論でも受け付けない。

 そういう姿勢だったネロとエリザベートは二の句が継げなかった。

 

「自分だけが楽しみたいならカラオケにでも行ってて下さい!ファンの方たちは、ボクたちがちゃんとファンのことを見ているか、気づいてくれているんです!」

 

「ファンの人たちに、勝手に楽しんでもらおう(・・・・・・・・・・・)なんて傲慢、通るとでも思ってるのかにゃあ!?」

 

 彼女達のプロ意識は高い。

 確かに、アイドルとして恵まれていたのは運も才能もあっただろう。

 しかし、彼女達が一番重視したのは―――ー努力。

 

 ファンの人達に楽しんでもらう努力を、彼女たちは積み上げてきたからこそプロのアイドル(・・・・・・・)なのだ。

 

「――――――わかったわ。悔しいけど、プロとしての意識はアンタ達の方が全然上みたい」

 

「うむ……。余にも思うところがある……。アイドルを甘く見すぎていた余たちが悪かった」

 

「ふんす!わかってくれればいいにゃ!」

 

 カルデアの職員やサーヴァントたちから見れば驚愕の光景だろう。

 あのネロとエリザベートが己の実力不足を受け入れた。

 一重に、彼女達がその道を進む、「真のアイドル」だから。

 スキルとは関係ない、彼女達のプロ精神。

 

「じゃあ、やることはわかってますね?アイドルの心得その2――――基礎レッスンです!」

 

「うん!アタシたちの指導、よろしくお願いするわ!」

 

「うむ。いつか、共にステージ立てるよう研鑽を重ねるとしよう!」

 

 道のりは険しい。

 指導も苦労するだろう。

 だが、今、確実に彼女たちは進歩したのだ。

 

 

 

 

 

「あれ?李衣菜ちゃんは?」

 

「まさかまだ倒れているのかにゃ――――」

 

 

 

 後ろを振り向くと、そこにはちゃんといた。

 ロックなアイドル(を目指している)、多田李衣菜。

 

 なぜかさわやかな汗を流して、握手していた。

 

 

 

「すごかった!超ロックだったよ!まさか、あの織田信長が女の人で、しかもこんなにロックだったなんて!」

 

「うはは!そうじゃろそうじゃろ?じゃが、お主のエアギターも見事であった」

 

「ありがとう!でも、本物のギターも頑張る。いつか、一緒にセッションしようね!」

 

「お主の気概、見事じゃ!その時まで楽しみにしておくとしよう!」

 

 

 

 どうやら、さっきまで盛り上がっていたらしい二人。

 夢中になっていたから。

 そして、ロックな爆音で相殺していたからか、被害が無かったようだ。

 

 

 

 

 

「にゃにを一人で楽しそうにやってたんだにゃー!」

 

 

 

 

 

 解散にゃー、と声が響く。

 もはや見慣れてしまった解散芸(いつもの)を見ているのは二人のアイドル。

 

「よくやるよなぁ、あの二人。端から見てる分には楽しいけど」

 

「あの、いつものこととはいえ、行かなくていいんでしょうか?英霊の方達も困惑しているようですし」

 

「ま、確かに。行くとしますかね。せっかく、だりーもギターの練習やる気のようだし」

 

「そうなると、私があっち担当なんですね……」

 

 からからと笑うロッカー(本物)。

 ため息を吐く常識人(永遠の17歳)。

 

 なつきちこと木村夏樹。

 ウサミンこと安部奈々。

 

 彼女達のユニットメンバーであり師弟のような関係。

 

 自らの弟子の下へ向かう、面倒見のいい師匠達なのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドルたちは人数が多い。

 数でいえばサーヴァント達に匹敵するだろう。

 それゆえに、まだまだ語れていない話もある。

 それはまた、機会があれば別のときに話をしよう。

 

 

 

 それでは、今日はここまで。

 

 

 

 

 



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番外編 アイドル達のカルデア生活 2

 アイドルサーヴァント。

 その人数は多く、そのメンバーだけでそれまでカルデアにいたサーヴァントの数に匹敵する。

 故に、前回語れなかった多くの出来事が起こっている。

 

 今日は再び、その様子をご覧に入れよう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 資料室

 

 

 

 

 

 カルデアの資料室。

 紙媒体を保管しておくこの部屋は、カルデアには複数存在している。

 が、カルデアの職員はこの部屋をほとんど使用しない。

 スキャンを行い、電子媒体へと移したものを使用すれば事足りるからだ。

 しかし、カルデアの紙媒体は増加の一途をたどっている。

 

 なぜなら、今現在そこを主に使用しているのはサーヴァントたち。

 

 その中でも、作家系のサーヴァントたちが入り浸っているため。

 彼らが資料室を勝手にカンヅメ部屋として改造したのだ。

 そして最近、そこに新たなメンバーが加わった。

 

 

 

 

 

 締め切り間際。

 その修羅場を表現するのに、それ以上に合う言葉は無いだろう。

 部屋は乱雑としており、ドリンクの缶がいたるところに放置されている。

 睡眠が必要ないはずのサーヴァント。

 にもかかわらず、目にはくまが浮かび、表情はげっそりとしている。

 

「全く!カルデアの人口増加のおかげで本の供給が追いつかん!よりにもよって、子供の数が増えるとかカルデア(ここ)は地獄か!前々からそうじゃないかとは疑っていたがな!」

 

 口からは皮肉と罵声が飛び、それを放ったのはハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 童話作家として有名な彼は、若年層のアイドルサーヴァントが増えたことによる愚痴が止まらないようだ。

 しかし手は止めず、怒涛のごとく原稿を書き上げていく。

 

「我輩としても、この忙しさは殺人的ですな!公演のための脚本が次々と締め切りとなって襲い掛かってきます!本職とはいえ、限度があると思いませんか!」

 

 ウィリアム・シェイクスピア。

 劇場作家である彼は、アイドル達の加入で本領を発揮したといって良いだろう。

 何せ、演技や舞台を経験したアイドル達が、しかも複数カルデアに加入したのだ。

 彼が脚本し、アイドル達が演じる。

 その舞台は録画され、映像となってカルデアにおける人気娯楽となった。

 その代償が、この締め切り地獄というわけである。

 

 そしてもう一人。

 新たにここに加わったのは、アイドルサーヴァントの一人。

 

「はは……。眠らなくてもいい身体になればいいのにと思った、かつての自分を張り倒したいっス……」

 

 荒木比奈。

 童話作家、劇場作家の次に登場した漫画作家のサーヴァント。

 正確に言えば、漫画描きアイドルなのであって、プロの漫画家ではない。

 しかし、カルデアにおいて唯一無二の漫画供給者である彼女は、二人に負けず劣らずの修羅場である。

 彼女の描いた漫画は、紙媒体及び電子媒体となってカルデアに流通していく。

 おでこに冷えるシートを張りながら、彼女の描く手は止まらない。

 

 死んだような目をしながら、手だけは機敏に動き書き上げていく三人。

 もう何徹したかも曖昧になり、終わりの見えない地獄が続いていく。

 

 その中に、作家でも修羅場でもない人物がいた。

 

「………………。」

 

 黙ったまま本を読み、ページをめくる音のみを発する、少女と女性の中間とでも呼ぶべき人物。

 文学少女アイドル、鷺沢文香。

 見た目の雰囲気もそれを表しており、趣味も読書。

 手にある本は、一般では流通していないもの。

 カルデアで、アンデルセンが書き上げた本のうちの一冊である。

 

「しかし、貴殿がこの少女の入室を許すとは!執筆作業を読者に見せることを良しとしない貴殿らしくないですな!」

 

「うるさいぞ劇場作家。声を出す余裕があったら手を動かすスピードを速めたらどうだ。」

 

「あ~。そりゃあブーメランじゃないっスかねぇ?」

 

「は!俺の皮肉は執筆の一環だ!舌がノると筆もノる性分なんでな!」

 

「そいつは結構。ならば話してもらってもかまいませんかな?なぜ、貴殿が彼女を気に入っているのか」

 

「お前は何を勘違いしている。この女のせいで、俺がどれだけ苦労していると思ってるんだ!」

 

「ん?文香さんは本に対して真摯っスよ。嫌う部分なんてありそうも無いっスけど」

 

だからだ(・・・・)アマチュア!目が肥えた読書家を唸らせるのがどれだけ大変だと思っている!この女は、作家を見ずに本を見る。こいつの感想は、書いた俺に敬意を払えどもそれを勘定に入れない!こっちが一筆一筆にどれだけ苦労しようが、行うのは本に対してのみの評価だ!」

 

「それは、貴殿のポリシーからしてみれば正しいのではないですかな?」

 

俺がいつこの女を嫌いと言った(・・・・・・・・・・・・・・)?そんなことはとうに分かっている。さっきから俺が口にしているのは徹頭徹尾、苦労に対する愚痴でしかない!」

 

「あ~……。ツンデレなんスね」

 

「やかましい!俺をそんな一辺倒で使い古された属性に当てはめるんじゃない!」

 

 わいわいと騒ぐ三人に対し、集中しているのか一切見向きもしない文香。

 ふと、彼女が手を止め、ポツリとつぶやいた。

 

 

 

「――――――面白い。」

 

 

 

 たった一言だけ。

 すぐ、ページをめくる音が再開した。

 本人はもしかしたら、つぶやいたことすら気づいていないのかもしれない。

 

 そんな文香の声を聞き、アンデルセンの手が一瞬、止まった。

 

「ふむ」

 

「あ~」

 

「やかましい!そのニヤニヤした面をこっちに向けるな!」

 

 夜は更けていく。

 雑談や騒ぎはすぐに違う話題へとシフトする。

 彼らの締め切りは、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

「失礼する。差し入れにコーヒーを持ってきた」

 

 ドアが開き、入ってきた青年。

 インドの大英雄。名をカルナ。

 施しの英雄は、今日は彼らにそれを持ってきたらしい。

 

「あ~、ありがとうっス!カルナさん」

 

 アンデルセンやシェイクスピアから皮肉交じりの礼を告げる中、唯一まともにお礼を言う比奈。

 

「………………ああ」

 

 そんな彼女を見て、どこか懐かしそうにしているカルナ。

 

「ん?どうかしたっスか?」

 

 

 

 

 

「いや、少し懐かしい人物を思い出していただけだ」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 食堂

 

 

 

 

 

 カルデアの食堂は、サーヴァントにも憩いの場として利用されている。

 カルデアキッチンズは、当番などによって味が代わるが美味しい料理を提供してくれる。

 そして夜が更けると、幾人かのサーヴァントが始める事がある。

 

「乾杯!」

 

『カンパーイ!』

 

 そう、酒盛りである。

 

 

 

「ほう、これはなかなか酒にあう」

 

 強めの蒸留酒を片手に、焼き鳥をほおばる女性。

 彼女の名は荊軻、アサシンのサーヴァントである。

 

「プハァ!うまい!今日は一段といい酒が呑めそうだ!」

 

 巨大なジョッキを手に、から揚げを口に放り込むのは、征服王イスカンダル。

 気に入ったのか、皿の上の肉がどんどん消えていく。

 

「か~!日本酒、ってのもなかなかイケるね~!生前は専ら、ビールとワインだったから新鮮だよ」

 

 お猪口、ではなく、グラスに入った透明な酒を楽しんでいるのはフランシス・ドレイク。

 フォークを使い、行儀の良くない食べ方で揚げ出し豆腐を口に運ぶ。

 

「やっぱ、アイルランドつったら鮭だよな!アーチャーのやつも、なかなかいい仕事するじゃねえか」

 

 ビールのお供に鮭フライ(タルタルソース)を喰らうのはクー・フーリン。

 作った人物には思う部分もあるが、料理については話は別だと割り切り、楽しそうに呑んでいる。

 

 此度の飲兵衛はこの四人に加え、参加しているアイドルがいる。

 

「ん~♪いい仕事してるわ。このローストビーフ、最高ね!」

 

 ワインを手に、箸で肉をつまむのは川島瑞樹。

 上品に口に運びながら、ゆっくりとワインを堪能している。

 

「美味しいわよね~。体重を気にしなくっていいのが、ホンとありがたいわ」

 

 サーヴァントになったため、存分に食べれると意気込んでいるのは、元警官アイドル片桐早苗。

 ビールと焼き鳥という黄金コンビを、次々と消費していく。

 

「あら、この酢の物美味しいですね。タコの味をしっかり引き出してます」

 

 優雅に箸で酢の物をつつく女性、三船美優。

 お猪口で日本酒を呑んでおり、この中では落ち着いた雰囲気だ。

 

「刺身醤油で、今朝染みをつけた。う~ん、イマイチ」

 

 食べている刺身を題材にした駄洒落を披露する二十五歳児、高垣楓。

 焼酎を飲む彼女に、何人かのサーヴァントがそっちを向いたが変わらずマイペース。

 他のアイドル達はスルーしており、少ししてそれに習うことにした。

 

 

 

 以上の四名。

 彼女達こそが、お酒大好き大人アイドル。

 なお、居酒屋メニューなのは彼女達の注文だからである。

 

 飲み会を行う面子は、その時の各々の都合で変化する。

 今日はたまたま、この八人が集まったようだ。

 

「しかし、オススメするだけあってなかなかに美味だ!日本の酒場がうらやましくなってきたわ!」

 

「まあね。日本人はお酒に弱いからこそ、呑める範囲で美味しくしようとしたのかもね。私達でも呑めるほうなのよ。樽で呑むような貴方達からすれば、たいしたことは無いでしょうけど」

 

「ふふっ。でもこうして、歴史的な偉人と一緒にお酒が呑めるなんて、カルデアは楽しいとこですね」

 

 楽しげに語る楓。

 その言葉には、英霊達にとっても同意見だ。

 時代も文化も土地も異なる人物達が、酒を囲い料理を囲い、飲み交わす。

 様々な話も聞けるし、実に楽しい時間だと思っている。

 

「わたし、やっぱりお酒の力ってすごいな~って思うんです」

 

「何か言いたげね、楓」

 

 付き合いの長さからか、その様子に気づいた瑞樹。

 すると、手に持ったグラスを置き、彼女は語り始める。

 

「私たちのこの世界。いろんなところに、いろんな時代に、いろんな人たちがいました。そして、こうして集まってみると、とても面白いと思うことがあるんですよ」

 

「それは……なんなんでしょうか?」

 

お酒ってどの時代でもどの場所にでもある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)んです。全く違う文化を持っていても、どんなに未開の土地だとしても、どんなに古い時代でも、お酒ってありますよね」

 

「そういわれれば、そうかもしれないねえ」

 

「置いているだけで作れるとか、アルコールに依存性があるというのが理屈なのかもしれません。でも、お酒をこうして皆で楽しむ。いつでも何処でも、酒宴は楽しまれていた。それって、とってもすごいことだと思いませんか?」

 

「人の歴史は酒の歴史か……。うん、確かにそう思う。なかなかに面白い話だった」

 

「確かにそうだのう。かの英雄王の時代にも、既に酒はあったとも聞いている。最古の文明から脈々とつながれ、時には全く別の流れで生まれてきた。それが酒か。うむ、酒に対する新たな考え方が出来たわい!」

 

「ふふっ。楽しんでいただけたならなによりです」

 

 笑顔を浮かべ、グラスを再び煽る楓。

 どうやら、酒トークはここまでらしい。

 

「結構マジメな話だったわね」

 

「そういうところも、楓さんらしいかもしれません」

 

「お酒に対してマジメ、ってとこが特にね」

 

 

 

 

 

 笑い声が続く。

 

 彼らの宴会は、キッチンからのストップがかかるまで終わらなかった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 いかがだっただろうか。

 今日紹介したのはほんの一部。

 楽しんでいただけたのなら幸いだ。

 それではまた、他の話は別の機会に。

 

 

 

 

 

 それでは、今日はここまで。

 

 

 

 

 



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番外編 アイドル達のカルデア生活 3

 此度もまた、アイドル達のカルデア生活をお見せしましょう。

 数多の英霊達と交流を深めるアイドル達。

 その交流にも、様々な形があります。

 まずは、ちょっと変わったその様子からいきましょう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 食堂

 

 

 

 

 

 目の前の敵に、賢王ギルガメッシュは思案していた。

 この敵は、自身が全身全霊をもって戦わなければならない相手だと。

 

「……………。」

 

 無論、模擬戦ではない荒事はカルデアにおいて禁じられている。

 故に、争っている競技は戦闘ではない。

 

「………………。」

 

 相手も真剣な様子で考えを張り巡らせている。

 でなければ勝てないことを、今までの勝負で分かっているからだ。

 

「……………。」

 

 ギルガメッシュは様々な道楽を行ってきた。

 現代での娯楽でさえ、浴びるように楽しんできたのが英雄王(ギルガメッシュ)であり、彼はその知識と経験を引き継いでいる。

 

「………………。」

 

 しかし、様々な快楽を貪ってきたギルガメッシュにおいて、行えなかった道楽が存在する。

 

「………………。」

 

 正確に言えば、行えなかったのではなく、行うに値しなかった。

 それは、彼が強すぎた(・・・・・・)ために。

 

「………………!!」

 

 勝負のときは来た。

 決着をつけるため、彼は自らの手札を開示する。

 

 

 

 

 

「…………フォア・カードです」

 

「残念だったな、――――ストレート・フラッシュだ」

 

 

 

 

 

 彼は賭博(ギャンブル)に興じていた。

 

 

 

 

 

「参りました……」

 

 丁寧に頭を下げ、健闘をたたえるのはアイドルサーヴァントの一人。

 鷹富士茄子。

 アイドルだけでなく、全サーヴァント中、最強クラスの幸運の持ち主。

 ギャンブルなど、蔵から財を持ち出すに等しいギルガメッシュにとって、唯一対等なギャンブルを行える相手であった。

 

「よい、楽にせよ。むしろこちらも良い体験ができた。(オレ)は賭博に愉悦を感じたことは無かったが、これはなかなか良い経験だった。我と対等に競える相手など、お前の他にいるまい」

 

 確かに、ギルガメッシュと茄子のギャンブルは激戦だった。

 その内容に、周りに野次馬が集まるほどに。

 

「お疲れ様。流石だね、ギルは」

 

「当然よ……。と言いたい所だが、今の勝負はこの我をしてもギリギリだったぞ」

 

 ディーラーを行っていたのはエルキドゥ。

 雰囲気に合わせてか、ディーラーの装いをしていた。

 ギルガメッシュの言ったとおり、この勝負はすさまじいものになっていた。

 まず、この勝負で出ていた役は最低(・・)フルハウス。

 ジョーカーは抜きで行っているため、当然最強はロイヤルストレートフラッシュ。

 だが、この勝負はそれでも勝利を確信できない。

 今にも過去にも、ロイヤルストレートフラッシュ同士の勝負など、イカサマ無しで成立したことなど皆無だろう。

 

 なお、野次馬が集まった理由はそれだけではなく、賭けられていた壮絶なQPも原因だったりする。

 チップ一つが100万QP、互いのチップはそれが100枚で行われていたのだから。

 

「こちらからもありがとうございました。ポーカーはあまりやったこと無かったんですが、楽しいものなんですね」

 

 勝負に負けたが、そんな素振りを見せずに笑みを浮かべる茄子。

 なお、茄子はあまりQPにこだわりは無い。

 彼女の幸運を頼って来る者は多く、正当な理由があれば彼女はそれを断らない。

 そのお礼などで利益を得ている為、今回の損も払えない額ではないのだ。

 

「単純な運であれば、お前の方が上だろう。しかしこれはポーカー、駆け引きのゲームでもある。ウルクの王として備わっている、人間を見定める審美眼での差であろう。逆を言えば、賭博においてこの我に駆け引きという技を引き出させたのだ。誇ってよいぞ」

 

 尊大なりに健闘を称えるギルガメッシュ。

 今の彼は、新たに体験できた愉悦の後で上機嫌であった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side トレーニングルーム

 

 

 

 

 

「アッセイ!アッセイ!」

 

「ローマ!ローマ!」

 

「ふんぬ!ふんぬ!」

 

 (おとこ)

 筋肉隆々のその空間を表現するのに、その一文字だけで十分だった。

 カルデアのトレーニングルームは、この状態になることが常である。

 今いるのは、スパルタクス、ロムルス、レオニダス。

 他にも、坂田金時、ベオウルフ、ヘラクレス。

 流石にアイドルサーヴァントも、この空間に入る人物はいない。

 

「298、299、300…………」

 

「はっ!まだ!まだ!」

 

「■■■■■■■■■■■■――!!」

 

「ボンバーーーー!!」

 

 …………まあ、何事にも例外はあるのだが。

 熱気溢れるこの部屋で、共にトレーニングをしているアイドル。

 日野茜。クラス、バーサーカー。

 熱血乙女な彼女は、何事にも全力で挑む。

 カルデアに来てからも、日課であるトレーニングは欠かしていないどころか、増加していた。

 何せ、身体能力はサーヴァントになったことで向上したのだ。

 他の体力自慢なアイドルをぶっちぎるスタミナが、ここで発揮されていた。

 

「アッセイ!アッセイ!」

 

「ローマ!ローマ!」

 

「これが、スパルタだああああぁぁぁ!!」

 

「351、352、353…………」

 

「おらっ!おらっ!」

 

「■■■■■■■■■■■■――!!」

 

「トラーーーーーイッ!!!」

 

 なお、この部屋にはフェルグスとオリオンの対策がされている。

 オリオンも、流石にこの空間では無理と諦めている。

 フェルグスに関しては、入ってきたとしても金時をはじめとした、ほとんどのサーヴァントが彼女を警護している。

 

 今日もまた、彼女の熱血レッスン&トレーニングは続いていくのであった。

 

 

 

 

 

「全力アターーーーック!!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side とある部屋

 

 

 

 

 

 共通点をもつ英霊とアイドルは、何組か存在している。

 そうした者達は、比較的友好的に関わることが多い。

 

 だが、そもそも英霊同士で仲が悪い場合もあるのである。

 

「交流だ!」

 

「いや直流だ!」

 

 カルデアにいる英霊の中でも、発明に携わる人物たち。

 交流のニコラ・テスラ。

 直流のトーマス・エジソン。

 共に電気を動力源にしながら、その因縁からか特別に仲の悪い二人。

 にもかかわらず、無視するでもなく顔を合わせることが多い。

 喧嘩するほど仲がいい、……かどうかは微妙である。

 

「レディ!君はどうなんだね!」

 

「やはり直流だろう!」

 

 二人の発明家が話題を振った相手。

 ロボット工学アイドル、池袋晶葉。

 この喧嘩騒ぎの中、我関せずと機械いじりをしていたが、突如振られた話題に対し即答した。

 

「そんなもの、両方使うに決まっているだろうが。交流も直流も、それぞれ上手に使い分けてこその技術者だ。良いロボットを作ろうと思うなら、私は何でも使う」

 

 完璧な正論である。

 そもそも、彼女は直流にも交流にもこだわりは無い。

 もちろん、彼女にもロボット製作においてのこだわりや矜持もある。

 だが、彼らの論争は別だ。

 

「別にそれぞれを否定するわけではない。製作において、発明家は自身のこだわりも信念も貫けばいい。人型ロボットにこだわるのもいい。実用性を重視するのも良い。競争したいのなら、それは動力ではなく発明した作品で競うべきだろう?現代でも良くやっていることだ」

 

 現代において、ロボット同士によるコンテストは珍しいものではない。

 明確なルールをもって、持ち寄った発明品を競い合う。

 晶葉にとって見れば、至極当たり前の考えであった。

 

「「それだ!!」」

 

「……いや、むしろなぜ今までやってこなかったんだ?」

 

 あきれた様子で二人のほうを向く晶葉。

 一応、そういったことは二人もやってきたのだが、お互いの邪魔をしたりして、いつもぐだぐだで終わってしまっていたからである。

 

「レディ!その勝負、詳しいルールを教えてくれないか!」

 

「これで優劣がはっきりとつくというもの!是非審判をお願いしたい!」

 

 交流、直流とこだわりをもつ二人。

 まあどっちかと言えば互いの動力ではなく、発明者本人自体を目の敵としている。

 事実、晶葉やダ・ヴィンチちゃんには突っかかることは無い。

 

「……まあ、良いだろう。私としても、偉大な発明家二人の作品には興味がある」

 

 こうして再び、テスラ対エジソンの戦いの幕は切って落とされた。

 なお、勝負の行方はここでは語らないことにしておく。

 

 無論、一度だけで済むことなど無く、ルールを変えては何度も行われていくこととなった。

 たまに晶葉やダ・ヴィンチちゃんも参戦し、またエレナは暴力沙汰が減ったと喜んでいた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 食堂

 

 

 

 

 

 そこでは、実に重々しい空気となっていた。

 メンバーがメンバーである以上、ある種当然かもしれないが。

 目を瞑りコーヒーを飲む、巌窟王、エドモン・ダンテス。

 イライラした表情を隠そうともしない、竜の魔女、ジャンヌ・オルタ。

 何がおかしいのかケラケラ笑う、この世全ての悪、アンリマユ。

 ムスッ、とした様子な、怪物と化した女神、ゴルゴーン。

 カルデアにおいて、悪属性しか存在しないアヴェンジャーの面々。

 なお、新宿のアヴェンジャーはいない。

 会話すら成り立たないので当然のことだが。

 

 そして、そんな彼らに相対するように着席している二人のアイドルサーヴァント。

 

 おっかなびっくりとした様子の、中二病アイドル、神崎蘭子。

 カフェオレを飲んでいるが、砂糖の量を間違えたことにも気づく余裕が無い、中二病アイドル、二宮飛鳥。

 彼女たちも同じアヴェンジャーではある。

 が、二人とも属性は善であるという、ある種矛盾したサーヴァントであった。

 

「…………で?」

 

「ひっう!?」

 

 口火を切ったのはジャンヌ・オルタ。

 そのドスの効いた声に、たまらず短い悲鳴をあげる蘭子。

 

「なんでこうやって顔を突き合わせなきゃいけないわけ?」

 

「それはお前のせいだろう?お前がこの二人に突っかかることが無ければ、マスターもこのような場を設けなかった」

 

「チッ!わかってるわよ」

 

 ゴルゴーンの苦言に対し、自身に非があると不祥ながらに認める。

 ジャンヌ・オルタは、かなり特異なサーヴァントだ。

 所謂生前と言うものが無く、作られた記憶しかない。

 故に、彼女がさまざまな事を実体験をしているのはサーヴァントになった後のこと。

 そのため、アヴェンジャーのクラスというものにも感慨深いものがあるらしい。

 だからか、自身とは真逆とも言える存在である二人のアイドルに絡むことがあった。

 それを見かねたマスターが、アヴェンジャーによる交流会を開催したのである。

 なので、こちらを注視してはいないが、幾人かのサーヴァントも抑止力として待機している。

 

「ちょっと、アンタらも何か言ったらどうなの?」

 

「えーっと、その……、あの……」

 

「はっきり言いなさいよ!」

 

「ぴゃっ!?」

 

 怒鳴るオルタと、涙目になる蘭子。

 完全に加害者と被害者である。

 

「そこまでにしてもらおうか。会話ならともかく、蘭子をいじめるのをボクは看過できない」

 

 カップを置き、ジャンヌ・オルタをにらみつける飛鳥。

 親友である蘭子へのこの仕打ちは、同じ陣営とはいえ許さないと。

 

 そんな様子の飛鳥に対し、さらに口撃をしようとするオルタ。

 

「止めておくことだ、竜の魔女」

 

 こちらもカップを置き、静かに語りかける巌窟王。

 怒気は無いが、止めるという意思は伝わってくる。

 

「何よ、アンタは言いたいこと無いわけ?アンタも復讐者には思うところがあるんじゃないの?」

 

 復讐心をもたないアヴェンジャー。

 それは、復讐者(アヴェンジャー)でしか存在していないジャンヌ・オルタにとっては、看過できない自己の否定だ。

 世に名高い復讐者である巌窟王が、この二人のアイドルに何を考えているのかも気になることではある。

 

「オレも同意見だね~、ケケケ。アンタの言動はお門違いさ」

 

「アンタにゃ訊いてないわよ!」

 

 横槍を入れた人物を怒鳴る為、そちら側を見るジャンヌ・オルタ。

 アンリマユは飄々としており。

 ゴルゴーンは沈黙を貫いている。

 巌窟王にいたっては、キッチンにコーヒーの追加をアイドルの分も含めて注文していた。

 

「…………なによ」

 

 復讐者であるはずの英霊達が、善なるアヴェンジャーに何も思うことが無い。

 そういった様子の彼らに、口を閉じるオルタ。

 

「竜の魔女。貴様は復讐者というものをどのように解釈する?もしくは自身が呪う、復讐の対象はどいつだ?」

 

「私を売ったフランスという国そのものよ。偽者の記憶だろうと、これが私の根幹なのよ」

 

「だろうな。話は変わるがこの二人の少女は、世界への反逆、がアヴェンジャーの適正となったらしい」

 

「それが何よ!?」

 

 淡々と語る巌窟王の言に対し、苛立ちを爆発させるオルタ。

 怒声交じりの質問に対し、答えを告げるのはアンリマユ。

 

だからだよ(・・・・・)。こいつらはあくまでクラスがアヴェンジャーなのであって、復讐者ではないのさ。原典におけるシンデレラであれば、話は別だろうがね、ケケケ」

 

「復讐というのは個人、もしくは組織に対して行うものだ。この少女たちのように、人ではなく世界や社会に対して行う反逆など復讐ではない。ただ、それだけのことだ」

 

 つまり、彼らはアヴェンジャーのアイドルに対して、同じ(・・)復讐者だとは思っていない。

 ゴルゴーンにいたっては、人間そのものが嫌いなので、何も特別に感じることは無い。

 彼女たちのことは、アヴェンジャーではなく他のアイドルサーヴァントやマシュたちなどと同様に扱っているだけなのである。

 

「………………。」

 

 二人の復讐者の言葉に対し、黙っていたジャンヌ・オルタだった。

 

 ニタァ。

 

 が、突如邪悪な笑みを浮かべた。

 このアイドル達は復讐者ではない。

 ならば、聖女と同じように扱えばいい(・・・・・・・・・・・・・)のだと。

 

 

 

 結局、ジャンヌ・オルタが二人に絡むことは無くならなかった。

 嫌味な言い方は相変わらずだが、その様子を見た聖女のジャンヌに、説教をされたりしていたようだ。

 

 この一連の出来事とその後の交流に対し、

 

 蘭子は「怖かったけど、趣味が意外でした」

 

 飛鳥は「ある意味、彼女は蘭子に似てるのかもしれないね。傷つけられたくないから、攻撃的になるのさ」

 

 とコメントしていた。

 どうやら、オルタの行動は空振りかつ逆効果だったらしい。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドル達との交流は、必ずしも良い関係を築くものではない。

 だが、空気が悪くなるのも、彼女たちには似合わないだろう。

 どんなときでも、最後は笑顔で。

 それが、彼女たちアイドルの力なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 



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番外編 アイドル達のカルデア生活 4

 カルデアにいる英霊は、かつてその道を極めた偉人である。

 共通点を持つ者ならば、作家たちや発明家たちのように関わることもあったりする。

 時としてそれは、師弟のような関係を築き、双方共に技を磨く。

 今回は、師弟のような関係となった、英霊とアイドルの様子を見てみよう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side キッチン

 

 

 

 

 

 カルデアの食堂は、様々な英霊、職員、マスターの憩いの場として利用される。

 趣味、補給のために食事を摂る時。

 お茶会やイベントなど、ちょっとした祝い事に。

 酒豪たちによる、宴会の会場としても。

 特に何も無くても、趣味や交流、遊戯のためにこの場所を使うなど、その使用方法は多岐にわたる。

 

 だがもちろん、そんな憩いの場を支えている者達がいる。

 カルデアの食堂で、美味しい食事を提供する人物達。

 

 かつて世界中の料理人と友誼を結んだらしい料理長、エミヤ。

 食文化が乏しいはずの英国から生まれた奇跡の料理人、ブーティカ。

 気まぐれながらも、野生の技で腕を振るう料理人、タマモキャット。

 マスターの頼みならば、いかなる手間も惜しまない料理人、清姫。

 村娘であったためか、慣れた手つきで調理場に立つ料理人、マルタ。

 

 メンバーは事情によって変化、増減するが、主に厨房に立つ料理人たち。

 

 

 

 人は彼らを、――――――キッチンカルデアと呼ぶ。

 

 

 

 なお、料理という名の邪魔をする人物は含まれていない。

 

 

 

 

 

 件の厨房には、料理特有のかぐわしい香りが漂っている。

 現在は、昼食の準備中。

 古今東西の英霊達がいるからか、料理のジャンルは数種類に分かれている。

 しかし、どの区画の料理も甲乙付けがたい。

 洋食のジャンルからは、肉の脂弾ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「う~ん、バッチリ!上手に出来てるわ」

 

「ありがとうございます。ハンバーグには自信があるんです」

 

 ブーティカの賛辞に、満面の笑みで応える少女。

 五十嵐響子。

 お嫁さんにしたい有名人グランプリのアイドル部門で、ナンバーワンに輝いた家事万能アイドル。

 彼女のソロ曲の主題でもあるハンバーグは、シンプルながら見事な出来栄えである。

 ちなみに、彼女の得意料理は肉じゃが。女の子に作ってもらいたい料理の代表格。

 まさに、理想のお嫁さんを体現したアイドルだろう。

 

「良い出汁だ。和食において、もはや私から教えることは無いかも知れんな」

 

「いや、まだまだエミヤさんには届いてないけえ。学べることは多いっちゃ」

 

「分かってるじゃないか。君はもう教わるのではなく、自身で学ぶ段階なのだよ。教えという殻を破り、自分の味を極めていくことだ。ここからが、本当に長いぞ」

 

「嬉しい言葉ですけえ。これからも、精進するっちゃ」

 

 やや特徴的な方言を話すアイドル、首藤葵。

 料理をするアイドルの中でも、和食に精通した人物だ。

 実家が料亭であり、和装もあいまって13歳ながら若女将の風格がある。

 エミヤに師事していた彼女だったが、得意料理であったこともあってか、和食においては彼をも唸らせた。

 食において相応の厳しさを持つエミヤから、若くしてお墨付きを貰うという偉業をなしたらしい。

 なお、他ジャンルの料理は勉強中。

 一般人から見れば十分レベルは高いが、本人はまだ納得がいっていないようだ。

 

「むむむ……。魚料理においては、このキャットも認めざるを得ない……。対抗心とよだれが止まらんのである」

 

「お魚アイドルれすから。それにキャットさんの料理も、とってもおいしそうなのれす~」

 

 カラリと揚がったサバに、甘酸っぱいタレを染み込ませて作るは南蛮漬け。

 たまねぎを添え、完成させるの少女の名は浅利七海。

 お魚系アイドルという、おそらく世界初の個性を持つ少女。

 こと魚料理においては、深い知識によって様々な料理を作る。

 ただ、なんにでも魚を入れかねないということもしがち。

 正直、チョコレートに魚のすり身は合わないと思う。

 

 料理を嗜むアイドルは多い。

 ジャンルや料理は違えど、各々の得意分野を持っている。

 そんな彼女たちは、キッチンカルデアに指導してもらうこともしばしば。

 生前に料理を行ってきた英霊達は、召喚されてからこの厨房で腕を磨き続け、多彩な料理ジャンルを持つエミヤから技を盗んできたため料理スキルは高い。

 多くのアイドル達の料理の腕は、趣味の領域を超えない。

 が、それは成長の余地があるとも言える。

 厨房を任される英霊は常識的な人物も多いので、良好な師弟関係に収まるのも自然なことであった。

 なお今はこの場にいないが、十時愛梨、三村かな子など製菓技術の高いアイドル達は、お茶会の方で活躍している。

 

 →「おいしそうな匂いがするね」

 

「本当ですね、先輩。どのメニューにするか、迷ってしまいます……」

 

 そうこうしている内に、来客第一号と二号が到着したようだ。

 アイドル達の参入によって料理人も増えたが、食べる人数も増えた。

 カルデアの厨房は、ここからが戦場となる。

 

「さて、忙しくなるぞ。準備は良いな?かかるぞ!」

 

「「「はい!!」」なのれす!」

 

 料理長の合図で、より調理に身が入るアイドル達。

 続々とやって来る来客。

 注文の声が舞い、テーブルは次々に料理で埋まっていく。

 

 キッチンカルデアは、忙しくも楽しそうな様子で調理にかかっていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 通路

 

 

 

 

 

 ルーラー警察。

 カルデアの治安維持を自主的に行う組織だが、正確に言えばルーラーだけが該当するわけではない。

 ライダーのマルタやランサーのジャンヌ・リリィをはじめとした、他の英霊も参加することがある。

 なので、カルデア警察と呼称する方が正しいだろう。

 なにより彼らにも、ルーラーではない新入隊員が増えることになったのだから。

 

「南条光です!よろしくお願いします!」

 

 元気良く挨拶する、アイドルサーヴァントの少女。

 南条光。

 ヒーローアイドルと呼ばれる彼女は皆を守るため、カルデア警察に入隊していた。

 ちなみに、片桐早苗も隊員である。

 

「天草四郎です。元気ですね、大変よろしい」

 

「元気で笑顔でいること!それが、みんなの不安を払う秘訣だから!」

 

「良い心がけです。では早速、パトロールへ行きましょう」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 そんな二人の去った後、現れた黒い影。

 数は二つ。

 大きさは、だいぶ異なっている。

 その正体は――――――。

 

「相変わらず南条はイイ子ちゃんね!今日こそあのヒーロー気取りに、レイナサマの完璧なイタズラをお見舞いしてやるわ。アーッハッハッ…ゲホゲホ」

 

「落ち着きなさい、レディ。悪巧みというのは、もっと静かに行うものサ」

 

 新宿のアーチャー、真名ジェームズ・モリアーティ。

 いたずら大好きな悪役アイドル、小関麗奈。

 悪を是とする二人であるが、モリアーティからすれば麗奈はいい玩具でありトカゲの尻尾でもある。

 麗奈からすれば、悪役英霊のなかでも特に悪巧みに優れているからと、彼女としては非常に珍しく尊敬を向ける相手なのだ。

 が、それをも利用するのが、かの犯罪紳士――――だった。

 

「それでオジサマ(・・・・)、どのようなイタズラを仕掛けようかしら?」

 

「では手始めに……。――――今、なんと呼んだのかネ」

 

「ん?オジサマだけど?」

 

 

 

 オジサマ、おじさま、叔父様…………。

 

 

 

 その響きが脳に染み渡った瞬間、教授の身体に電流が走った。

 父性、とは似ているようで違う。

 娘、とも異なるこの感覚。

 

 これはそう、――――姪っ子と呼ぶべき存在。

 自分は今、真の意味で叔父さん(・・・・)になったのだと。

 

「フフフッ、良かろう!(くわっ!)悪のカリスマである私の犯罪(イタズラ)、ご覧に入れてみせよう!」

 

「……いいけど、なんかテンション高いのね?」

 

 どうやら、麗奈は意図せずして、この犯罪紳士を篭絡したらしい。

 

「フハハハハッ!何でもないサ!この叔父様に全て任せなさい!」

 

 (フラン)と違い、自身の悪事を魅せる事で喜んでくれる姪っ子を得た犯罪紳士。

 今ならばそう、宿敵たるあの顧問探偵にですら勝って見せよう!

 

 

 

 

 

「犯人は……」

 

「お前だッ!」

 

「「!?」」

 

 大声を聞き、振り返った先にいた二人。

 

 名探偵、シャーロック・ホームズ。

 探偵アイドル、安斎都。

 

 彼らもまた悪事に対して、頭脳を持って戦う人物。

 犯罪紳士の宿敵であり、最大の弱点。

 どうやら麗奈は師匠を得た代わりに、敵対する相手も増えたらしい。

 

「……えっと、オジサマ?こういう場合は……」

 

「無論!戦略的撤退!」

 

「やっぱりー!?」

 

 逃げる犯人(未遂)と追う探偵。

 以降も、探偵と警察が犯人を追うという光景をカルデアでよく見かけるようになった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 戦闘用シミュレーションルーム

 

 

 

 

 

 カルデアにおいて、英霊同士の戦闘訓練は珍しいことではない。

 腕試しを行ったり訓練の成果を発揮したりと、シミュレーションルームの使用頻度は多い。

 そして時折、特定の組み合わせで行われることもある。

 たとえば、ケルトの師弟や主従。

 中国拳法を使う者同士。

 

 その中でも、アイドルと訓練を行う組み合わせが存在する。

 

「……参りました」

 

 竹刀を弾き飛ばされ、尻餅をついているアイドル。

 脇山珠美。

 剣道とアイドル道を極めんとする、道着姿の低身長なアイドル。

 なお、本人はちびっ子と呼ばれる事を気にしている。

 

「太刀筋が読みやすいです。壱の太刀は重要ですが、そこからの『繋ぎ』がおろそかでは意味がありません。一つの太刀筋から、どの道筋でも展開できるようにすることを忘れないで下さい」

 

「は、はい……」

 

「一先ず休憩にしましょ。ちゃんと呼吸を整えて。はい、水」

 

「ありがとう、ございます……。やっぱり、皆さんは遠いですね……」

 

「いやいや、訓練当初に比べれば、見違えるような出来よ。しかし、拙者たちとて剣に生きた先駆者。竹刀だろうと、そう簡単に一本はやれんさ」

 

 そんな彼女の剣を見ているのは、歴史に名高い日本の剣豪たち。

 セイバー、沖田総司。

 セイバー、宮本武蔵。

 アサシン、佐々木小次郎。

 珠美も剣の道に生きるものとして、彼の剣豪たちと竹刀を交えるのは必然のことであった。

 しかし、珠美はあくまで剣道アイドル。

 相手は剣で名を馳せ、英霊となった人物達。

 普段とは勝手の違う竹刀であっても、技の冴えには陰りなし。

 幾多の死線を潜り抜けた、沖田総司の「剣術」にはなすすべも無かったようだ。

 いつまでも休んではいられないと、気合を入れなおし、今度こそはと再び立ち上がった珠美。

 

「もう一度、お願いします!」

 

 

 

 そして、もう一組。

 この場で指導を行っている師弟がいた。

 

 

 

「う、上手くいかない……」

 

「クナイの扱いは、忍者の武器の基本です。投擲、剣戟の両方を一定のレベルにするまで、次の段階へは進めないものと思いなさい」

 

 遠く離れた的に対し、クナイを投げる訓練を行う人物。

 くノ一アイドル、浜口あやめ。

 忍者でアイドル、通称忍ドルである彼女を指導するのは、忍者一族の五代目頭領、風魔小太郎。

 此度は指南役である為か、風魔の頭領としての風格で指導に当たる。

 

 ちなみにだが、あやめの故郷は三重県であり伊賀の膝元。

 

 彼女の忍ドルとしての源流も伊賀であり、小太郎とは本来相性が悪い。

 小太郎からしても、伊賀を至上とする考え方は絶対に納得できない。

 が、しかして彼女は風魔を貶める発言をすることも無く、武器の整備も真面目に行っている。

 先人の忍者である小太郎に対し、師匠と呼び敬意を向けてくる姿勢も無下には出来ないので、こうして指導しているらしい。

 感情的にはならないように振舞ってはいるが、こと指導となれば熱が入る。

 あやめの身体能力はアイドルの中では高いほうだが、小太郎の指導には苦戦している様子だ。

 

 

 

 二人のアイドルは、厳しい指導でかなり消耗している。

 呼吸は整わず、床は汗で水溜りができている。

 

 

 

「なぜ、やめないんですか?」

 

 そう言い出したのは、指導する側である沖田総司。

 剣の道、忍びの道を進む彼女たちが、自分たちによって道を違えてしまう(・・・・・・・・・・・・・・・・)のではないかと思ってしまった故に。

 

「私たちのことは知っているはずです。人を斬り、自らの剣を血で染めてきました。私の指導で、貴女までそうなってしまうのではないかと。そういう考えが、頭をよぎります」

 

 沖田総司は人を斬り、戦いに身を投じた事を悔いてはいない。

 むしろ、戦場で戦い抜けなかったことこそが心残りなのだ。

 しかし、その血塗られた人生を他者に、ましてやこのような少女に押し付ける事など論外だ。

 かつて近所の子と親しくしていたこともあり、彼らと珠美の姿が重なる。

 それは、根拠無き幻想――――。

 

 人斬りの表情(かお)となってしまった彼女たちを、沖田総司は幻視してしまった。

 

「弓術」と「弓道」が違うように、「剣術」と「剣道」は違う。

 明確にルールがあり、その中で技を競う「剣道」は武術とはいえスポーツなのだ。

 人を斬り殺すことを是としてきた、彼らの「剣術」とは考え方自体が異なる。

 

「私たちの剣は『人斬り』の剣。貴女のように、優しい人が振るうものじゃない……」

 

 沖田総司は、『人斬り』として有名である。

 敵対するものは斬る。

 そのようにシビアな価値観を持っているが、彼女とてそれが平和な時代にそぐわないものだとは理解している。

 珠美の剣は、血の気配が全く無い。

 そんな彼女の剣が、自身の教えによって血を吸ってしまうのではないかと。

 沖田総司は、そう思ってしまう。

 そしてそれは、この場にいる剣士の英霊との共通認識でもあった。

 

 佐々木小次郎は、可憐な花が血で汚れる事を好まず。

 宮本武蔵もシビアな死生観を持っているが、彼女の正義感はそれを快く思わない。

 

「……貴女も同じですよ。忍びの技は、諜報、妨害、そして暗殺の為に使うことが目的です。貴女の目指す忍道と、僕の成してきた忍道とは、違う道なのではないですか?」

 

 彼ら英霊は、多くの血を流し、人を殺してきた過去を持つ。

 サーヴァントになった以上、戦闘訓練は必要だろう。

 術理が似ている自分たちに師事するのは、効率的なのだろう。

 

 だが、彼女たちアイドルの本質を曲げてはならない。

 

 それは、精神的な意味でも、「真のアイドル」という意味でも。

 本質を曲げてしまったら、彼女たちの強みは殺されてしまうのだから。

 

「……珠美も、皆さんの時代で、剣を握ると言うことの意味は理解しています。自分が目指す『剣道』は、皆さんと違うということも、分かっているつもりです」

 

 剣とは本来、人を斬る為のものだ。

 竹刀を持つ珠美と違い、彼らが持つのは真剣。

 何人もの人間を彼らが殺してきたことを、珠美は知っている

 しかし、その上で。

 彼らと自分の道が違うと承知の上で。

 

 ですが、と言葉を紡ぐ。

 

「たとえそうであったとしても、あなた方は私が目標とする『剣技』を持っているのですから」

 

「剣術」と「剣道」は違う。

 しかし共に「剣技」を磨く者であると、彼女は言う。

 

「私も同じです。小太郎師匠は、尊敬するほどの『忍術』を修めています。過去は関係ありません。今、目の前に立っておられる『忍者』は、私が師匠と呼ぶにふさわしい人物です」

 

 二人の弟子を見て、彼らは理解し安心した。

 

 彼女たちは曲がらない(・・・・・・・・・・)

 

 どんなつらいことがあっても、究極の選択を迫られたとしても。

 彼女達が己の『道』を曲げることはありえない。

 

「……良い話だった。まさか、拙者が言葉で怯まされるとはな……」

 

「あれ~?沖田ってば、泣いてる?」

 

「な、泣いてなどいません!」

 

 彼女たちの師匠として、不安であった心の枷が解かれた。

 剣技も忍術も未熟。

 

 しかして、彼女たちの心は既に定まっていた。

 

「では、修行を再開しましょう。僕たちの『技』を盗んだ上で、自らの『道』へ昇華させるのです。――――生半可な道のりではありませんよ」

 

「「はい!!」」

 

 師弟共に気合に満ちている。

 修行は厳しいが、彼女たちは挫けることなく邁進する。

 

 

 

 

 

 アイドル道との両立は大変だが、

 

 彼女たちは、歩みを止めることなく進んでいく。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 師匠と弟子。

 弟子は、師匠から技術を習い。

 師匠は、弟子から何かを学ぶ。

 英霊とアイドル。

 彼ら彼女らの研鑽は、いつか実を結ぶだろう。

 

 それでは、今日はここまで。

 

 

 

 

 



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番外編 アイドル達のカルデア生活 5

アイドルと英霊。

彼ら彼女らの共同生活。

意気投合し、絆を深めるサーヴァントたち。

今日のお話は、ちょっとした趣味の世界。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

Side メガネ

 

 

 

 

 

以前の出来事から心機一転し、レッスンに余念が無いネロとエリザベート。

必然、アイドルとの交流が最も多いサーヴァントとなっている。

なお、二人は共にボイスレッスンで苦戦しているらしい。

ネロはスキル「皇帝特権EX」に頼らず、指摘された部分を自力で修正している。

エリザベートは100%他者のために歌う場合は綺麗なのだが、アイドルにはトップになるという自分のための目標があるため、その折り合いが難しい。

指導者はアイドルサーヴァントの面々が担当しているが、トレーナーは専門ではないのでそちらも苦戦しているようだ。

 

 

 

閑話休題(まあ、それはそれとして)

 

 

 

アイドルと話す機会が多い二人。

ならば、その趣味に付き合うことがあるわけで、――――

 

「おおー!よくお似合いです!」

 

「当然である!至高の芸術である余に、そなたのセンス光るファッションアイテム!似合わないわけがなかろう!」

 

「うーん、……良い!イイ感じだわ!さすがアタシ!」

 

――――まあ、当人たちがノリノリの場合もよくあることである。

 

場所はシミュレーションルーム。レッスン終わりの雑談タイム。

そんな中、ネロが付けているのは赤い細縁が上にのみ付いているメガネ。

時折両手でメガネのズレを直す仕草には庇護欲をそそるものがある。

 

エリザベートが付けているのはピンク色の太縁をしたメガネ。

キュートでありながら普段とは異なる印象が見られる。

帽子をかぶり、マフラーをすればお忍びで休日を楽しむアイドルのようである。

 

「とってもよく似合ってます!」

 

「うん、私も同感。本当、よく似合ってる」

 

「はるにゃーの目の付け所は流石ですなー」

 

「なるほど、メガネだけに!ですね!」

 

「うむ!アイドルたるもの、ジョークも達者ではないといけないからな!」

 

「なるほど!バラエティで活躍する為の技術ね!勉強になるわ!」

 

「あ……、あー……未央ちゃんにとって、予想外のお返事……」

 

「次!次はこんなメガネはどうでしょうか!」

 

ネロとエリザベートが、次々と印象を変えていく。

メガネとは現代において単なる視力矯正器具ではなく、ファッションの一部になって久しい。

そんな彼女たちのメガネをプロデュースする、メンバーの中心にいる少女。

 

上条春菜。クラス、ライダー。

 

メガネをこよなく愛する眼鏡ストであり、猫好きとしても知られるアイドルである。

カルデアにおいて、サーヴァントで眼鏡をかけている人物は少ない。

そもそも、肉体的に優れているサーヴァントは視覚矯正器具としての眼鏡は使用しない。

マシュのようなデミサーヴァントであれば話は別だが、アーチャーには数キロ先のタイルの数さえ数える事が出来る者すらいるのだ。

魔眼殺しや雰囲気作りとしてなら利用しても、ファッションとして使用するサーヴァントは少ない。

ファッションメガネの歴史は浅く、精通した人物はいなかった。

そんな中、カルデアのファッション眼鏡事情に一石を投じたのが彼女、上条春菜である。

 

「うむ!しかし、メガネとはここまで進化したのだな!余は嬉しい!」

 

「あれ?ネロさんの時代には、メガネがあったんですか?」

 

「皇帝ネロのメガネについては、私が説明しましょう!」

 

どこからともなく指示棒を取り出し、別のメガネにかけなおす春菜。

卯月、凛、未央、ついでにエリザベートも着席である。

どうやら、春菜先生による『教科:メガネ』の時間であるらしい。

 

「そもそもですが、世界最古のメガネはいつからあるか知っていますか?」

 

「はい!」

 

「未央ちゃん!」

 

「わかりませんから授業を始めたのではないでしょうか!?」

 

「確かに正解です!ですので、後で未央ちゃんには補習です!」

 

「しまった!?薮蛇だった!?」

 

「話を戻します。現在分かっている最古の拡大鏡は、紀元前8世紀の古代エジプトにその記述があります」

 

「彼の神王オジマンディアスの少し後の時代であるな!」

 

「それだけ古い歴史のあるメガネですが、古代ローマではネロさんの家庭教師『小セネカ』が小さい文字を見る為の道具として球体のガラスを使って拡大、矯正できることを文献に残しています」

 

「あやつは几帳面で有能だったからな!流石は余にとって、恩人とも言える男だ!」

 

「そして、ネロさんは矯正レンズをコロッセオの観戦に使用していたといわれています」

 

「うむ!相違無いぞ。確かに余はコロッセオに赴く際に持ち込んでおった」

 

「代用品ですが、メガネを『使った』記述はこれが最古でしょう。視覚矯正凸レンズとしての製造法が考案されたのは9世紀頃のスペイン。紆余曲折を経て、メガネが発明されたのが13世紀のイタリアです」

 

「「「ほえ~」」」

 

「日本にメガネを伝えたのは、日本では一番有名な宣教師であるフランシスコ・ザビエル。献上品として持ってきたそうですが、……残念ながら現存はしていません」

 

「フランシスコ・ザビエル……。うむ、何か引っかかるが……気のせいだな!そういうことにしよう!」

 

「日本に現存する古いメガネでは、足利義晴や徳川家康が所持していたものがあります。そしてついに、江戸時代の半ばからはメガネの販売店が出来るようになりました!」

 

話は続き、ある程度語り終えて満足したのか一息つく春菜。

ここまで語気は強く、熱弁した己を少しクールダウンする。

生徒4人に向き直り、締めとする。

 

「以上!ざっくりですが、『メガネの歴史』世界史編と日本史編でした!」

 

パチパチパチ。

 

四つの拍手が春菜を称える。

純粋に、メガネについて熱く語る彼女の授業が面白かったらしい。

好きなものの魅力を語る為に、努力を惜しまなかったゆえの成果である。

 

「さて、授業は終わりましたが、何か質問はありますか?」

 

「はい!春菜先生!」

 

「未央ちゃん」

 

「『ネロちー』の使っていたメガネって、代用品なんだよね?なら、代わりに使っていたのはなんだったんですか?」

 

 

 

「エメラルドである!!」

 

 

 

「おお~、豪華~!」

 

「うむ!だが、今のメガネに比べれば少々視難かった。故に、メガネの進化を余は実感しているのである!」

 

「そう、メガネは進化しました。近代では、ファッションメガネの始まりともいえる伊達メガネが登場。これは、伊達男、が語源になっています。最初こそ、男性向けのファッションアイテムでしたが、次第に女性にも使われるように――――」

 

「失礼する。こちらにマスターは……いないようだな」

 

「エミヤさん、おはようございます」

 

「ああ、おはよう卯月君。すまないが、マスターを見なかっただろうか?」

 

「マスターなら、さっきマシュとブリーフィングルームに向かって行ったよ。つかさとエルメロイ先生も一緒だったから、会議だと思うんだけど……」

 

「しまった、入れ違いか……。念話中だったから遠慮していたが裏目に出たな……。すまなかった、ではこれ以上会話を遮るのも忍びないので、これで失礼――――」

 

 

 

 

 

「待ってください!!」

 

 

 

 

 

かつて無い大声を上げ、エミヤを静止する春菜。

その眼光は、ギラリとエミヤを――正確には彼の目の周りを凝視していた。

 

「……何かね?」

 

少々引き気味で、嫌な予感からか後ずさるエミヤ。

記憶は薄れ、磨耗しているが彼の経験上から来る危機感が訴えていた。

 

――――これは、どこかで経験した事態であると。

 

「伊達メガネとは、元々男性向けのメガネから来る呼び名です。『メガネは女を三分下げる』という言葉に、私は納得ができません」

 

じりじりとにじり寄る春菜。

両手で持ち、エミヤをロックオンする――――黒縁の伊達眼鏡。

春菜のメガネ愛から来る勘が、彼女を訴えていた。

 

 

 

「ですが、あえて言いましょう!男性向けのファッションメガネであれば、『伊達メガネ』というネーミングはすばらしいのだと!」

 

 

 

彼、英霊エミヤはとてつもなく――――メガネが似合うのだと!!

 

 

 

「これからマスターと打ち合わせがあるので、これにて失礼する!!」

 

「ああ!?待ってくださーい!?」

 

逃げるエミヤ。追う春菜。

彼の人の良さなら、別に付き合ってもおかしくは無い。

が、間違いなく長々と付き合わされることになるという予感。

また、自分に向けてしか喋っていなかった先ほどの彼女の様子が、どこか婦長を思わせてしまったのもあるのだろう。

二人の追いかけっこは、マスターたちに追いつく少しの間だけ続くのであった。

 

 

 

なお後日。男性向けメガネ試着会が、春菜によって開催されたことをここに追記しておく。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

Side お山

 

 

 

 

 

→「平和だ……」

 

「平和ですね」

 

マイルームでお茶を楽しむマスターとマシュ。

カルデアは現在、比較的平和であった。

亜種特異点や微小特異点の解決のために奔走する時期はあるが、人理焼却事件の最中よりは忙しくは無い。

サーヴァントが手伝ってくれることにより、人手不足が多少改善していることも大きい。

時折、ちょっとした事件やいざこざが起こることもあるが、今は比較的平和で穏やかである。

 

そのちょっとした事件といっても様々で、たとえば、――――

 

 

 

 

 

「マスター!助けてください!!」

 

「ちょっと本気で手を貸して!!アタシ達じゃどうしようもないのよ!!」

 

 

 

 

 

――――たとえば、このような事件である。

 

さて、何かと思い目線を入り口へと向ける二人。

大声の主は、カルデアでも少ないエクストラクラス、アルターエゴの二人。

 

パッションリップ、メルトリリス。

 

リップはともかく、メルトが大声で助けを求めるとは珍しい。

助けて欲しいとはリップのことだろうか?

 

 

 

それとも――――彼女のブレスト・バレーから下半身がぶら下がった彼女のことだろうか?

 

 

 

→「「うわああああああぁぁぁぁ!!?」」

 

 

 

女性の胸の谷間に頭から突っ込んでぶら下がっているというなかなかにショッキングな光景。

しかし、これはかなりの危険な事態である。

パッションリップの胸の谷間。正式名称『ブレスト・バレー』。

ごみならいくらでも溜め込めてしまう、虚数空間による無限のゴミ箱。

死の谷とも称されるそこに落ちてしまえば、掬い上げるのは容易ではない。

 

「助けてください!私とこの人、二重の意味で助けてください!」

 

「アタシもリップも手が不器用なのよ!頼むわよ!」

 

→「了解!」

 

「何が何でも助けます!二人を!」

 

 

 

救助中。

 

 

 

「ふう~、助かりました~……」

 

「あたしもです~……。まさか、極大のお山に、こんな秘密が隠されていたなんて……」

 

戦慄した様子だが、胸に突っ込んだこと事態には懲りていない様子の少女。

 

棟方愛海。クラス、バーサーカー。

 

アイドルの中でも異質な趣味があり、それが女性のお山への登山(間接的表現)。

恋愛的に女性が好きであるとかは無いらしい。

ただ単に『お山』が好きという、純粋に不純な人物である。

なお、そんな愛海に対して尊敬の念をもって『師匠』と呼ぶ黒髭(じんぶつ)がいたりする。

 

「いや~、今まで抑えていたんですけどね~。人によっては洒落にならない方もいますから……」

 

愛海とて、カルデアの女性たちに無差別に突貫していたわけではない。

ブーティカや頼光、マタ・ハリなどは難易度が低いが酒呑童子やゴルゴーン、静謐のハサンなどは生き死にに関わるのだ。

 

→「相性が悪かったね……」

 

「はい、先輩。もしくは相性が良過ぎたともいえますね」

 

「うう……」

 

大きな身体を縮めるリップ。

それは、彼女が自身の持つスキルを自覚しているからだろう。

 

スキル『被虐体質A』。

 

集団戦闘において、他者が標的のものも含めた全ての攻撃を自身へ集中させるスキル。

護衛役として優秀なスキルだが、Aランクとなると攻撃側はこのスキルの保持者に対して冷静さすら保てなくなってしまう。

 

「たはは……、あたしも暴走しちゃいましたね。反省です」

 

しかも、今の愛海はバーサーカー。

狂化スキルは日常生活に支障は無いが、こういった形で暴走することに繋がってしまう。

およそ現世ではありえないサイズの『お山』に対し、『登山家』としての血が騒いでしまったのだろう。

 

 

 

「というか、別にリップを見るのは初めてではないでしょう。なぜ、今になって暴走したのかしら?」

 

 

 

メルトの言うことも最もである。

アイドル達がカルデアにやってきて多少時間が過ぎている。

全員が全員に会ったわけではないが、この二人は面識があったはずである。

 

「――――ねえ、なぜかしら?」

 

確信を持ってか、愛海に話しかけるメルト。

 

「………………」

 

話しかけられた当の本人は、顔をそっぽに向けて汗ダラダラである。(ギャグ的表現)

 

まあ、なんと言うか。

 

つまるところ、今回は暴走を装った計画的犯行だったわけである。

 

 

 

→「判決。バーサーカー棟方愛海、――有罪(ギルティ)

 

「早苗さんと清良さんに連絡しますね」

 

 

 

「嫌ああぁぁ!?お情けをー!!」

 

 

 

彼女の嘆願も空しく、やって来た片桐早苗と柳清良に連行されていく愛海であった。

結果、棟方愛海にはエルメロイ先生による宿題が課されることになった。

 

しかし、不屈である棟方愛海は挫けない。

 

これからも、彼女の挑戦は続いていく。

 

たとえ、どんな障害が阻もうとも。

 

 

 

そこに、『お山』がある限り――――――!!

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

カルデアで、ちょっとした事件は日常茶飯事。

良くあることであり、いつもの光景である。

何が言いたいのかというと――――。

 

カルデアは、今日も平和である。

 

 

 

 

 




注)メガネの歴史は私調べです。
私自身はメガネの歴史にあまり精通していません。
ご了承下さい。


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番外編 アイドル達のカルデア生活 6

サーヴァントとなったアイドル達は、各々が好きなように行動している。

が、やはり一番の行動原理はカルデアのお手伝い。

その中でも、大小含めた特異点の解明、解決がメインだ。

戦闘を介する機会も多いため、基本的に真面目な彼女達が訓練に精を出すことも多々見受けられる。

当然、各サーヴァントたちと模擬戦も行われる。

今回は、その一部始終をご覧頂こう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

VS フェルグス・マック・ロイ

 

 

 

 

 

「むん!」

 

――――――剣で攻撃を振り払う。

 

 

 

アイドルサーヴァントは、近接戦闘が不得手である。

セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士に該当する者も少ない。

スポーツや武道ならばともかく、戦闘を経験した人物が皆無なのだから当然だ。

アイドルサーヴァントの三騎士でも、ケルト神話などの戦士系サーヴァントには分が悪い。

サーヴァントになって戦闘能力が向上したとはいえ、彼女達は多人数で行動する事が前提のサーヴァントである。

 

 

 

「せいや!」

 

――――――思った以上にやりづらいと、フェルグスは感じた。

 

 

 

だが、そんなアイドルたちの中にも例外はある。

 

一つ目に、彼女達が真面目に戦闘訓練をこなしていること。

経験がないのならば、鍛錬を積めばいい。

一朝一夕で勝てるわけはないが、差は縮められる。

 

 

 

「はっはぁー!予想以上だ!戦いが終わったら、是非一夜を共にして欲しいな!」

 

――――――そう言った直後、攻撃が激化した。

 

 

 

そしてもう一つ。

サーヴァントとして、基本性能を含めた圧倒的な才能がある(・・・・・・・・・)場合である。

 

 

 

「はっ!寝言を語るには早すぎるわよ、豚の分際で(・・・・・)

 

 

 

その数少ない例外の一人。

 

財前時子。クラス、ランサー。

 

女王様アイドルとして有名な彼女は、プロデューサーはおろかファンですら豚扱いする生粋のサディスト。

そのキャラクター故に、彼女のファンは紳士達の集まりであるらしい。(比喩)

本来は、他のアイドルと同様に戦闘経験は持っていない。

が、それを覆すスキルを保持している。

 

スキル『女王特権EX』。

 

皇帝系サーヴァントが保持する『皇帝特権』の亜種。

生来の王族ではない彼女だが、親衛隊(ファン)から女王様だと語られたゆえの類似スキル。

彼女自身にも優れた才覚があり、裕福な生まれの環境による経験値も含まれている。

多岐にわたる能力を獲得できるスキルであり、それ故に戦闘もこなす事が出来る。

 

無論、「戦闘をこなす」と「戦闘で強い」は別だ。

 

 

 

「にべもないな!まあ、今はこの戦いを楽しむことで由としよう!」

 

 

 

彼女はまるで当然のごとく、フェルグスと一対一で打ち合っていた。

 

「楽しむ?なら【ご褒美】を受け取りなさい。とっても、楽しいわよ!」

 

鞭がしなり、四方から連続で迫ってくる。

鞭は強度に乏しいはずだが、宝具であるためか一向に断ち切れる気配がない。

それは、扱っている彼女の技量も関係あるのだろう。

 

「残念だが、俺はマゾヒストではないのでな!それに、楽しいのはお主の方だろう!」

 

それを許すはずもなく、虹霓剣(カラドボルグ)を振るい迎撃する。

彼女の武器に硬度は無いため、一気に距離を詰めて打ちに行く。

 

パシイィン!!

 

「私は近づくことを許したかしら?」

 

鞭による攻撃で、虹霓剣(カラドボルグ)を防御する。

思わず愛剣を手放しそうになるくらいの重さに、内心驚愕するフェルグス。

いかに戦闘訓練とはいえ、様々な英雄を輩出したケルト神話で指折りの勇士である自身でも押し切れない。

攻撃こそ最大の防御を体現した戦闘スタイル。

叶うなら、死闘による全力勝負で相対したかった。

そう思うほどのバトルセンス。

 

「本当に、やりにくいことこの上ないな、――――その鞭も(・・・・)

 

加えて、彼女の象徴たる宝具。

その性質は、アイドルサーヴァントの中でも攻撃的。

一度嵌ったら最後、もう抜け出すことはほぼ不可能。

 

 

 

 

 

「だったら大人しくしてたらどう?楽に成れるわよ」

 

 

 

「むっ」

 

 

 

しまった!と思った頃にはもう遅い。

既にフェルグスは彼女の術中に在り、これで勝負は決してしまった。

 

 

 

 

 

女王様のご褒美(ドミネイト・クイーン・チャーム)

 

 

 

 

 

「ぬうおおおおぉぉぉ!!」

 

必死に抵抗するフェルグス。

しかし彼の意思とは別に、彼女へ向かって突進する。

構えることなく、防御の姿勢をとることなく、ただ無防備に。

 

それも全て、――――ご褒美を受け取る為に(・・・・・・・・・・)

 

 

 

バッシイイイィィン!!

 

 

 

フェルグスにめがけて、全力で振り切った鞭が襲い掛かった。

勝負ありと判定され、シミュレーターが終了していく。

後に残ったのは、倒れ付すフェルグスと勝ち誇る様子も無い女王様。

 

対人宝具、『女王様のご褒美(ドミネイト・クイーン・チャーム)

 

攻撃力自体はそこまで高くない。

本人の手加減によって威力が変化しやすいが、最大でも致命傷にはなりにくい。

だが、それを補って余りある凶悪な性能をしている。

効果は単純明快。

 

この宝具に対峙した人物は、その一撃をたまらないほどに受けたくなってしまう(・・・・・・・・・・)

 

相手の防御そのものを奪い去り、燃費の良さ相まって連続で使用可能。

一度でも魅了されたら最後、何度でも【ご褒美】を受け取ることになる。

込めた魔力では手加減したとはいえ、この惨状がその結果であり。

 

「………………ふん」

 

最後にフェルグスを豚を見るような目で一瞥し、女王様はシミュレータールームを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

なお、件のフェルグスは懲りずにまた彼女に申し込むのであった。

訓練的な意味でも、夜戦的な意味でも(比喩)。

蛇足だが、彼女の鞭が癖になったわけではないと追記しておく。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

VS三蔵法師一行

 

 

 

 

 

やはり、アイドルサーヴァントの本領はチーム戦だ。

個々ではなく、チームワークで相対する。

そのため、模擬戦も指導という形でなければチーム戦になる事が多い。

英霊達もまた、チームワークの向上に繋がると好意的だ。

とりわけ仲の良いメンバーというものがあり、彼女達もその類のチーム。

 

三蔵法師ことキャスター、玄奘三蔵。

猪八戒ことアーチャー、ダビデ。

沙悟浄ことランサー、李書文。

白龍馬ことバーサーカー、呂布奉先。

なお、俵藤太は人数調整の為審判役。ただの見物とも言う。

 

そんな彼らに相対するアイドルサーヴァント達。

 

 

 

 

 

「うーん、君はとってもアビシャグだけど。苛烈すぎて気後れしちゃいそうだね」

 

「あら、魅了されてもいいのよ。まあ、私はそんなに安くないけどね」

 

ダビデに対峙するアイドル。

速水奏。クラス、アサシン。

新田美波と同様、『女神の神核』を保持するサーヴァント。

 

「是非魅了されたいけど、今はご遠慮願おうかな。だってその瞬間に負け確定なんだもん」

 

「よく分かってるのね」

 

そう言い終わったが早いか、投げキッスで魔力が編まれ、ハートの形(・・・・・)を成して矢となりダビデに迫る。

彼女のサーヴァントとしての性質は魅了特化。

男女構わず隙あらば籠絡する。

ステンノ、エウリュアレに迫る程の魅了スキル。

 

 

 

 

 

「呵々、良く訓練されておる。あやつらの指導を真面目に受けている証拠よな!」

 

「何の!いつまでも下忍のままではありませんよ!」

 

こちらは完全に指導状態。

神槍と謳われた李書文相手では、無理も無いことなのだが。

だが一矢報いようと、距離をとっての投擲。

それも空しく、手裏剣と苦無は簡単に弾かれてしまった。

 

浜口あやめ。クラス、アサシン。

 

忍者系サーヴァントたちを師として、日夜稽古に励む彼女。

しかし、いかに訓練したかといって李書文はハードルが高すぎた。

あやめと彼との体術では、埋められない差が存在する。

 

「応とも!その向上心こそ大事な燃料よ!それを絶やさず燃やし続けることだ、な!」

 

死角からの挟撃は、いとも簡単に迎撃される。

そのシルエットは人間よりも小さく、犬と鳥の形をしていた。

 

「コタロウ!?ハンゾウ!?」

 

彼女のスキル、『使い魔(忍)C』。

忍犬コタロウ、忍鳥ハンゾウを使役する事が出来る。

今まで隠してきたとっておき。意識外からの二匹による奇襲。

ただ残念だが、かの拳聖には通じなかったようだ。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

雄たけびを上げる呂布。

その姿はぐるぐる巻きと呼称すべきだろう。

赤いリボンで雁字搦めに拘束され、抜け出そうと力を振り絞る。

 

「やっぱり手ごわいですね。まゆの拘束が切れ掛かってます……」

 

拘束する側も楽ではない。

呂布の筋力はA+。

このレベルになると一瞬でも気を抜けば簡単に引きちぎられてしまう。

 

佐久間まゆ。クラス、アサシン。

 

拘束に秀でたある種アサシンらしい能力。

幾条もの赤いリボンを武器に、気配遮断で隙を突き縛り上げる。

にもかかわらず、力技で拘束を引き裂こうとする呂布のパワーはまゆにとって計算外。

ある程度予想してはいたが、ここまでとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

アサシンのアイドルサーヴァント三人。

連携し、あるいは分断されて模擬戦に集中する。

特筆するべき点があるとすれば、

 

 

 

――――――三人共、普段はしていないメガネをかけていることだろうか。

 

 

 

「はっはっはー!メガネは偉大!三蔵ちゃん!貴女にもメガネを進呈しましょう!」

 

「それは別に構わないんだけど……、それをやられるのは勘弁願いたいわね!」

 

ドシーン!と、大きな地響きが広がる。

そこに居るのは上条春菜。

その宝具こそ、ライダークラスである証。

諸星きらりと同種である、対巨大兵器宝具。

 

 

 

出撃!眼鏡帝国グラッシーロボ(ハイメガネ・レーザーキャノン)!!」

 

 

 

グラッシーロボのメガネから放たれた、二条の極太レーザー(模擬戦により麻痺効果)が三蔵ちゃんに降りかかる。

予想していたのか、危なげなく回避する。

しかし、それによって隙が出来た。

 

「いっけー!グラッシーロボー!」

 

春菜の指示に従い、両の拳で連続パンチをお見舞いする。

手ごたえは――――無し。

決着はついていないようだ。

 

これが、ライダー上条春菜の宝具。

ランクにしてA++。

諸星きらりの『きらりんロボ』と対を成すロボット系宝具、『グラッシーロボ』。

春菜が熱演した、悪のグラッシー帝国の総帥グラッシー・ハルナの最終兵器。

その火力は並みの宝具を凌駕する性能を持つ。

強力無比な巨大兵器に搭乗するライダー。

宝具やスキルに秀でたアイドルサーヴァントの中でも、トップクラスの威力。

 

 

 

ただ、それでも――――必勝とは限らないのが世の常である。

 

 

 

「チャンスは貰ったわよ!」

 

巨大兵器を前にしてなお、自信に満ちたその表情。

師匠として、情けない姿は見せられないという意地。

そして、このピンチを押し返す宝具を彼女は持っている。

 

 

 

「御仏の加護、見せてあげる!」

 

 

 

キャスター、玄奘三蔵。

彼女の宝具は対軍・対城宝具。

敵対者を懲らしめる、覚者掌底。

 

 

 

 

五行山・釈迦如来掌(ごぎょうさん・しゃかにょらいしょう)!!」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドッ!!

非力なはずの人型の連打は、一撃一撃が釈迦如来の力。

 

「うわああぁぁ!?」

 

その攻撃によって機体は大きく揺れ、肩に乗っているだけの春菜は振り落とされまいと必死につかまる。

だが、奮闘空しく最後の一撃が放たれた。

 

 

 

「ええぇぃ!!」

 

 

 

バッゴオオオォォォン!!

 

ロボは吹っ飛び、攻撃を受けすぎた為かエーテルへと戻り霧散する。

勝負あり。

リーダーである春菜の気絶によって、模擬戦はチーム三蔵法師の勝利。

 

「やったわ!今回は私たちの勝ちね!」

 

自らの弟子たちに、Vサインを見せ付ける三蔵ちゃん。

アイドルサーヴァント達も残念そうだが、模擬戦はあくまで模擬戦。

ここからどう発展させていくかが大切だ。

 

「春菜ちゃん。大丈夫ですか~?」

 

「きゅうぅ……」

 

目を回し、メガネをかけたひよこが飛び回っている春菜が回復するのに、少し時間がかかりそうだ。

今回の敗因は宝具への過信。

乗っていれば攻撃は届かないと油断した為の結果。

宝具の運用は適切に出来てこそ。

今日の模擬戦を経て、又一つ経験値を重ねたグラッシー帝国メンバーであった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

単体で強力なアイドルも居る。

チームでのアイドルも無敵ではない。

勝負は時の運、相性、実力、そして判断力が左右する。

マスターの力になる為に。

アイドル達はカルデアで、今日も真面目にトレーニングを重ねていく。

 

 

 

 

 



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番外編 アイドル達のカルデア生活 7

 アイドル達には、特に仲の良いメンバーというものがある。

 年齢の近しい者、趣味が合う人、同じユニットで活躍するチームメイト。

 そして、カルデアへと来たアイドル達には、また新たな組み合わせが加わった。

 

 それは、サーヴァントとしての『クラス』。

 

 基本7クラスとエクストラクラスに振り分けられたそれは、アイドル達に新たな仲間意識を芽生えさせるきっかけとなった。

 今回は、そんな同クラスで交流するアイドルと英霊達の様子をご覧頂こう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Servant class アルターエゴ

 

 

 

 

 

 エクストラクラスの一つ、『別人格』のサーヴァント。

 該当者が少ないエクストラクラスの中でも、とりわけ人類史に刻まれている名の知れた英霊が極端に少ないクラスである。

 その性質上、カルデアのような特異な場所でなければ、かなり召喚が困難だと言えるだろう。

 縁あって、幾人かのアルターエゴが召喚されたカルデア。

 パッションリップがキュートなメンバーとのお茶会に誘われたり。

 メルトリリスが人形好きのアイドル達と趣味に興じたりすることも多く見られる。

 

 そして実は、二百人近く加入したアイドル達にこのクラスに該当された人物達が居たのである。

 

 場所は食堂。

 一つのテーブルを囲み、おいしい食事に舌鼓を打つ件のメンバー。

 わいわいと、楽しく料理を食べている彼女たち。

 その料理とは、――――『おでん』である。

 

「うん。おでんはおいしい。やっぱり、ちくわぶは最高だな。この、『もむちゃっ』とした舌触りがなんともいえない……」

 

 魔神セイバー…………。もとい、アルターエゴ、沖田総司[オルタ]。

 ある事件を経て、カルデアへと加入した特殊なサーヴァント。

 

 実はオルタの中で、[悪]属性ではなかったりする。

 余談だが、彼女の属性は[中庸]。

 ランサーオルタのアルトリアは[善]。

 サンタでオルタの二人も[善]であったりする。

 

「確かに、おでんはおいしいですよね。だから是非、いろんな人にこう言いたいです。おでんを食べに()でん(・・)……」

 

 そう言って日本酒をグラスで、くいっ、と傾けたオッドアイの美女。

 アルターエゴ、高垣楓。

 おでんを食べると聞いて、一升瓶片手に突貫してきたようだ。

 普段はお酒に目がないという飲兵衛であり、ややだらけた様子を見せたりする。

 が、ライブなどでクールな姿を見せる紛れも無いトップアイドルであり、その歌声から『世紀末歌姫』などと呼称されたりしている(主に蘭子から)。

 

「フヒ……。シ、シイタケもいい感じに、煮えてきた……。出汁を吸って、食べごろだ……」

 

 今回のおでんには、きのこ類が多めに入っている。

 その原因であり、きのこ限定の鍋奉行をしている少女。

 アルターエゴ、星輝子。

 ヘビメタアイドルとして活躍しており、きのこを愛する人物としても有名である。

 普段は大人しいというか、ジメジメした様子をみせる。

 だが、ライブなどの時には一変というか豹変し、メタルでロックな歌唱力を見せ付けるというギャップもあり、それがまた彼女の人気の秘訣でもある。

 

「いいわね、しいたけ……。うん、熱燗とよく合うわ……」

 

 ほう、っと息を吐き、余韻に浸るミステリアスな美女。

 アルターエゴ、高峯のあ。

 冷静な表情をあまり崩さない、どこか浮世離れした美貌のアイドル。

 アヴェンジャーの二人、神崎蘭子と二宮飛鳥の憧れであるらしい。

 そんな彼女も、ジョークのネタを仕込んだりとお茶目な一面を見せることもある。

 

「ワタシは食事を行えません。ですが、こういった交流が好ましいことは理解しています。のあが用意してくれた機械オイルも、質が良くて気分が良いですし」

 

 鋼鉄の身体ゆえに、料理ではなくオイルを摂取するメカメカしいサーヴァント。

 アルターエゴ、メカエリチャン。

 最初はしぶしぶであった彼女も、アイドル達と関わっていくにつれて好意的に受け止めていったようだ。

 特に高峰のあと関わる事が多く、彼女からの差し入れであるオイルがずいぶんとお気に入りらしい。

 

 偶然だが、今日はアルターエゴのみの面子である。

 それぞれ仲が良いアイドルや、ぐだぐだな彼らが参加したりもするが、今回はこの5人がおでんを囲んだ鍋パーティーに興じているようだ。

 

 平和に鍋を突く一行ではあるが、どうやらそのままでいられないらしい。

 

「おや、アルターエゴの面々がご一緒のようで。私もその一員として、ぜひ参加させてくださいな」

 

 横から話しかけてきたのはアルターエゴ、殺生院キアラ。

 淑やかで上品な見た目とは裏腹に、自己愛と快楽を突き詰めた魔性菩薩。

 幾分かは丸くなって、こうしてカルデアへと召喚されることを是としたが、性根は微塵も変わっていない。

 純粋な者を堕落させるのを楽しみとしながら、それに抗うのを応援するという二面性。

 ある種、アイドル達とは最も遠い存在である。

 

「ふふふ、参加したいのなら構いませんよ。人数が増えれば、もっと楽しいですから」

 

「あら、ありがとうございます」

 

 警戒心無く、キアラを受け入れたように見える楓。

 よく分からない様子といった輝子と沖田オルタ。

 警戒レベルを引き上げた様子を隠さないメカエリチャンとのあ。

 ただおでんに舌鼓を打ちたいというのであれば、断る理由は無い。

 相手の過去をあまり気にしない、というスタンスをシンデレラ達は取る事が多い。

 エリザベートやネロなど、悪名高い人物とも仲良くやっている秘訣である。

 ただ、今回はどうやらその行動は間違いのようで――――――。

 

 

 

「ああそういえば、こちらには良い隠し味がありまして――――」

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 ゴインッ!と

 

 懐から怪しい小瓶を取り出そうとしたキアラの頭に、銃剣での峰打ちが炸裂した。

 そのまま普通に参加すればお咎め無しだっただろうに、問題ありとして判決が下ったようだ。

 

「………………。」

 

 それを行った張本人、エミヤ・オルタ。

 銃で殴った様子の彼だが、悪びれた様子も無く無言で佇んでいる。

 

「いきなり何をしますか!」

 

 涙目で抗議するキアラ。

 確かにキツイだろうが、自業自得なのはキアラのほうである。

 

「マスターからの任務(オーダー)だ。お前の蛮行を発見次第、連行せよとな」

 

 がしっ、とキアラの首根っこを掴むエミヤ・オルタ。

 そのままズルズルと、引きずって食堂を後にする。

 

「ちょっと、これは女性の扱いとしてはどうなのでしょうか!?断固抗議させていただきます!!」

 

「好きにしろ。だが、お前を裁くのはオレではなくマスターだ。まあ、オレからすれば甘い裁定になるだろうがな」

 

 一方的にギャーギャーとした二人組みが去った食堂は、嵐の後の様な静けさだった。

 

 

 

「……あ、エリンギが煮えた」

 

「もぐもぐ。うん、ちくわぶ程じゃないけど、これもまた美味しい」

 

 

 

 マイペースな二人を呼び水に、皆が我に帰る。

 

「ええ、気にすることはありませんね。ええ、いつもの事です。それよりも今はオイルと共に、このパーティーを楽しむとしましょう」

 

「そうね、そうしましょう……」

 

「キアラさん、参加できなくて残念ですね」

 

 呆れた様子の二人と、暢気にも見える様子の楓。

 この後もおでん会はつつがなく進み、無事に解散することとなった。

 なおキアラの処遇を知る者は、この食堂内ではおらず、深く気にすることも無かったそうな。

 蛇足だが、アンデルセンにからかわれるネタが増えたと、憤慨する様子のキアラが別日に見られたことをここに記録しておく。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Servant class バーサーカー

 

 

 

 

 

『狂戦士』のサーヴァント、バーサーカー。

 会話が困難なほど理性を失っているものが多く、一見は理性的でも、根本的に意思疎通が不可能な人物が多々存在するクラスである。

 だが、バーサーカークラスのアイドル達は基本的に意思疎通は可能であり、理性も失ってはいない。

 ただ、時折暴走したり、制御不能になったりと実は問題児が多かったりする。

 そんな彼女達も、普段は普通の女の子。

 個性的ではあるし、アイドルである以上は特別であるが、決して特殊ではない。

 だからこそ、今日のように誰かのマイルームで菓子パーティーを開いたりもするのだ。

 絨毯の敷かれたその部屋は、複数の皿に幾種ものお菓子が盛り付けられている。

 お茶とお菓子を楽しむ会、というよりは、だらだらと寝転がっておしゃべりに興じる女子会という雰囲気だ。

 

「うーん!キャットちゃん特製ポテチ、サイコー!いくらでも食べれちゃうね。ゼボーンッ!!」

 

 パリパリと、ポテチを食べ進める金髪の少女。

 バーサーカー、宮本フレデリカ。

 感嘆詞に「C’est bon」を使っているし、血統もフランスの血が入っているのだが、発音も含めて絶妙に使いこなせていない。

 クッションを胸の下に敷き、うつ伏せになって足をパタパタさせて美味しさを表現している。

 そんな彼女はフリーダムな自由人。

 ルンルンと普段をテキトーに、その場のノリで過ごす。

 ただ、本当に大事に至った時は空気を読み、助けに入れるように細心の注意を払う聡い子でもある。

 

「……おはぎ、おいしい……。あんこは、正義」

 

 己の世界に入り、黙々と和菓子を消費するのは謎のヒロインXオルタ。

 和菓子、というよりはあんこが好物である彼女は、いつの間にか紛れ込んでいたというのが正しいだろう。

 

「はい!この、しっかりとしていて、それでいて優しい甘さ!熱いお茶にピッタリです!」

 

 だらだらとした空間の中で、ビシッとした正座でお茶を堪能する声の大きい少女。

 バーサーカー、日野茜。

 熱血乙女な全力少女である彼女だが、やっぱり甘いものは好きなようで、こうしてバーサーカーの女子会に参加したようだ。

 

「にゃはははは!キャットを褒め称えよ。おだてれば、追加ぐらいは出してやらんことも無いぞ」

 

 今回の女子会の要であり、お菓子担当であるタマモキャット。

 所々にあるキャロットケーキやキャロットマフィンが、彼女がいることを実に表している。

 無論、その味は保証されており、彼女たちをはじめとしたアイドル達にも好評だ。

 

「せっかくなら、ショーコやノノ、ユーキも来れれば良かったのにな。ま、用事があるってならしょうがないか……」

 

 お菓子は楽しんでいるが、ここにいないメンバーに思いをはせる少女。

 バーサーカー、早坂美玲。

 パンクファッションを好む孤高の一匹狼。

 ではあるが、仲間を大事にし引っ張るリーダータイプ。

 だからこそ、友人がここに来られず残念な様子だ。

 

「皆さん、いろんな繋がりがあるからですよ。ご友人が多くいるのは良い事だと思います」

 

 茜とはまた違った、ごく自然な様子で正座をするマシュ。

 女子会というものに参加し、楽しくおしゃべりに興じている。

 なお、マシュの言った通り、星輝子は鍋パーティー。

 森久保乃々は成宮由愛やダ・ヴィンチちゃんといった絵描き達と。

 乙倉悠貴は新田美波やネロ・クラウディウス達とスポーツへ、それぞれ参加している。

 

「いや、あっちはあっちで楽しんでいるなら良いんだ。ウチはウチで楽しんで、後で皆との話題にするからな!」

 

 ここでのおしゃべりを、別の友人とのおしゃべりの話題にする。

 ここにいないのは残念だが、後で皆の話題が集まれば、もっと楽しいはずだと美玲は語る。

 

「そういう手段もあるのですね。女子会とは、実に奥が深いです……」

 

 と、感心した様子のマシュ。

 私は勉強中です、といった調子で堅苦しさが抜けていない。

 そういうのも含めてマシュらしい。

 

「そんなに難しいことじゃないよ~。今は今で、てきとーに楽しんじゃえばいいんだよ。そうすれば、後で自然に楽しかったな~、って思い出すし」

 

「そうですね!楽しかったことは、後で皆に話したくなるものです!私も、後で未央ちゃんと藍子ちゃんにいっぱい話すつもりですから!」

 

「そ、そういうものですか……。そうですね、私も、後で先輩にいっぱい話したくなると思います」

 

「そうそう、その調子だよ~♪」

 

 とまあ、このように女子会はつつがなく進む。

 バーサーカー達のおしゃべりは、実に平和に進んでいった。

 問題児が多いとはいえ、別にバーサーカークラスだから問題を起こすわけではない。

 

 

 

「逃げろ~♪」

 

「逃げるでごぜーます!」

 

 扉に近かったからか、自動で開いたドアの向こうでは、鬼ごっこをしている様子のジュニアアイドル達とカルデア年少組。

 

 龍崎薫、市原仁奈。

 

「楽しいわ!楽しいわ!楽しいわ!」

 

「うわーい1こっちだよ~♪」

 

「こっちよこっち!捕まえて御覧なさいな!」

 

 ナーサリー・ライム、ジャック・ザ・リッパー、アビゲイル・ウィリアムズ。

 どうも、主に彼女たち5人が逃げているようだ。

 

「廊下は走ってはいけません!ダメですよ!」

 

「こら~!待ちなさーい!」

 

 それを窘めてはいるが、結局5人と同様に走ってしまっている少女。

 ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィと赤城みりあ。

 年少組の中でも、お姉さんという位置づけにいる彼女たちだが、夢中で追いかけているうちに自分も走っていることに気がついていないようだ。

 

「にゃ?あの子、みりあと言ったか……。なんか、以前見たよりも大人っぽくなっていた気がするのである」

 

「それは、みりあさんの宝具ですね。未来の先取り、肉体年齢を成長させる宝具ですので」

 

「……ん?なら、彼女達もそうなの?」

 

 ここまで沈黙していた、Xオルタが指を指す。

 そこに居たのは――――。

 

「待つんです!危ないです!誰かにぶつかりますよ!」

 

「待って~、置いてかないで~!」

 

 みりあやジャンヌ・リリィと同様、5人を追いかけるアイドル達。

 橘ありす、佐々木千枝。

 ジュニアアイドルの中でもしっかり者の彼女たち。

 注意する為に追いかけているのは、まあ、目を瞑ろう。

 スピード違反を追いかけるのに、速度制限を律儀に守っては意味がない。

 ただ、おかしいのは一点のみ。

 

 

 

 なぜ二人とも、5歳近く成長しているのだろうか――――。

 

 

 

「あれ?二人とも、そういった宝具は持っていないはず……。これは!?事件です!!」

 

 即座に立ち上がり、事情を聞くために突貫するマシュ。

 それに協力するため、続いていくアイドル3人。

 

「ずずっ」

 

「はむもむもぐ」

 

 いつもの事と静観し、変わらずゆったりするキャットとえっちゃん。

 犯人に目星はついているので、落ち着いてマスターへと連絡する、できたサーヴァントであるキャットなのであった。

 

 なお、二人の成長の原因であり犯人は二人。

 キャスター、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 同じくキャスター、一ノ瀬志希。

 大人っぽさに憧れる二人の少女を誑かし、成長の秘薬を渡したらしい。

 この後、廊下を走り回っていた五人と、怪しい薬に手を出した二人は揃って仲良くお説教。

 パラケルススと志希の二人には、一週間の工房への立ち入り禁止が言い渡された。

 まあ、キャスター二人がこれで懲りることは無いだろう。

 一週間たてばまた、怪しい薬を作成し始めるのだ。

 別にバーサーカーが問題行動を起こすわけではない、という出来事なのだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 同クラスとなったアイドル達と、同じクラスである英霊達。

 彼ら、彼女らとの関係は、また新しい。

 他のクラスの様子もまた、後々見られる――――かもしれない。

 また機会があれば、その時はよろしく。

 

 

 

 

 



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マテリアル
マテリアル マイルームボイス 特定サーヴァント所持


マシュ:いずれかのシンデレラ所持 深夜結界舞台シンデレラクリア後

 

「シンデレラの皆さんと、共に過ごすのはとても楽しいです。また今度、一緒にライブステージに立ちたいです!」

 

マシュ:シンデレラ(島村卯月)所持

 

「卯月さんのことは、ひそかに目標にしています。いつか、私なりの笑顔を見せたいです」

 

 

 

 

 

アルトリア・ペンドラゴン(セイバー):シンデレラ(渋谷凛)所持

 

「リンという名前には、少し思うところがあります。」

 

「自身を優雅であれと決め、自分の好きなように歩むリン」

 

「自身が何者であるかを探し、夢に向かって真っ直ぐなリン」

 

「おや、私が知る二人のリンは、結構正反対なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク:シンデレラ(本田未央)所持

 

「未央さんの明るさは、とても好ましいです。誰とでも友達になるという目標を掲げるところなどは特に」

 

「ということは、オルタや目の突き出たジルとも友達になれるのでしょうか?」

 

「もしかしたら、二人の方が未央の明るさに当てられてしまうかもしれませんね」

 

 

 

 

 

エミヤ:シンデレラ(渋谷凛)所持

 

「リン……か……。いや、なんでもない。優雅であれと口にしている割に、うっかりが直らない人物がいただけだ」

 

「あの少女とは、まるで違う人物がな……」

 

「似ているところ?強いて言うなら、……熱くなりやすいところか?」

 

 

 

 

 

ナーサリー・ライム:シンデレラ(橘ありす)所持

 

「あの子の名前もありすっていうのね?自分の名前に恥ずかしがっている様子だけど……。でも、大人に憬れるのも子供心なのよ。あの子には、内緒だけどね」

 

 

 

 

 

シンデレラ(一ノ瀬志希):ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス所持

 

「あのヒトが伝説の錬金術師ねぇ……。フンフン……、いろんな薬剤の匂いがする……。……うん、是非アタシのおともだちになってほしい!」

 

「ん?何か企んでないかって?……さぁ、どうかにゃあ……にゃははははっ!」

 

 

 

 

 

シンデレラ(佐久間まゆ):清姫所持

 

「清姫さん……ですか……。正直、まゆは苦手です。いえ、普段は良い方なんですよ。でも、愛する人を自分で手にかけることを、まゆは納得できそうに無いですから……」

 

 

 

 

 

謎のヒロインX:セイバークラスのシンデレラ所持

 

「あのセイバー、リリィに近しいものを感じます。ええ、闇討ちは控えます。出来れば弟子に取りたいですね。きっと良いセイバーキラーになります。」

 

 

 

 

 

シンデレラ(荒木比奈):カルナ所持

 

「カルナさんから聞いたんッスけど、以前のマスターがアタシに良く似ていたらしいっス」

 

「ただ、一つだけ似ていないところがあったみたいですけど……。何処が似ていなかったのか、気になるところっスね!」

 

 

 

 

 

山の翁:シンデレラ(双葉杏)所持

 

「怠惰な者がいるな……。しかし、あやつを糾弾するのは私の役目ではないようだ……」

 

 

 

 

 

マリー・アントワネット:いずれかのシンデレラ所持

 

「あら、彼女たちアイドルなのね!とっても素敵、きらきら輝いているわ!きっと、良いお友達になれると思うの!」

 

「さっそく話しかけてみるわ!一緒にお茶会なんてどうですか?って」

 

 

 

 

 

エドワード・ティーチ:20歳以上のシンデレラ所持

 

「ムムム……。年齢からして、拙者の好みではないですが…………。なんか、新しい扉を開きそうですぞ……」

 

 

 

 

 

メディア:シンデレラ(諸星きらり)所持

 

「彼女とは気が合うわよ。そりゃあ、見た目は趣味じゃないけど……」

 

「ただ、どうも趣味が合うのよねぇ」

 

 

 

 

 

シンデレラ(浜口あやめ):忍者系サーヴァント所持

 

「カルデアはとってもいいところですね。なぜかって?良くぞ聞いてくれました!なんと言っても、偉大な忍者の方達がいるからです!すごい方々を見習って、あやめも自分の忍ドル道を邁進していきます!」

 

「それはそうと、……サイン、貰えないですかねぇ?」

 

 

 

 

 

シンデレラ(脇山珠美):侍系サーヴァント所持

 

「彼の侍達には、とても感謝しています。未熟な珠美にも稽古をつけてくれますから。珠美の剣道が、皆さんの期待に応えられるようになりたいです!」

 

「それはそれとして、皆さんの……サイン、欲しいんですよぇ……」

 

 

 

 

 

シンデレラ(宮本フレデリカ):タマモキャット所持

 

「フレちゃんと仲良くなれそうな人はっけーん!」

 

「きっと、フリーダムで、フレキシブルで、フレちゃん系の人だね!」

 

「えっ?フレキシブルの意味は何かって?……しっらなーい!」

 

 

 

 

 

エリザベート・バートリー(ランサー):いずれかのシンデレラ所持

 

「彼女たち、プロのアイドル……。確かに、アタシはまだまだアマチュアよ」

 

「でも、アタシだって負けない!」

 

「いつか、あの子達よりもすっごいライブをしてあげるんだから!」

 

「そのために、まずはレッスン!プロから盗んで、学んでいかなきゃ!」

 

 

 

 

 

刑部姫:シンデレラ(荒木比奈)&シンデレラ(大西由里子)所持

 

「ひーちゃんとユリユリ?もちろん仲良しよ」

 

「ひーちゃんには漫画を手伝ったり、手伝ってもらったり」

 

「買い専のユリユリは意見を貰ったりしているからね」

 

「いやー、コタツを囲んでオタ活は最高よね」

 

 

 

 

 

諸葛孔明(エルメロイⅡ世):シンデレラ(三好紗南)所持

 

「ヤツには借りを返さないといけないな……」

 

「何のことだって?無論、あのゲーマーを叩き潰す算段のことだ!」

 

「くそっ、思い出したら腹が立ってきた!」

 

「マスター!早速いつもの面子を集めてくれ!」

 

「シンデレラからはあのゲーマーとMs.双葉!」

 

「英霊からは征服バカとゲーマー・インフェルノ!ついでに黒髭と刑部姫だ!」

 

 

 

 

 

オケアノスのキャスター:シンデレラ(財前時子)所持

 

「彼女?ああ、あの女王様風の……」

 

「別に、似ているとは思わないよ」

 

「彼女は豚を虐げるけど、きっちりご褒美も授けるからね」

 

「私とも、カーミラとも違うのさ」

 

「マスターのことも豚扱いとはいえ、彼女、結構優しいんだよ」

 

 

 

 

 

アナスタシア:シンデレラ(アナスタシア)所持

 

「あの子、私と同じ名前なのね」

 

「私も先祖からとった名前だけど……」

 

「自分より後の時代の人が同じ名前というのも、なんだかむずがゆいわね」

 

 

 

 

 

イヴァン雷帝:シンデレラ(アナスタシア)所持

 

「もう一人のアナスタシア……」

 

「皇女のアナスタシアが娘とすれば、彼女は私からすれば孫に近い……」

 

「この見た目にもかかわらず、なついてくれるのはありがたい」

 

「だが、……少々……照れる……」

 

 

 

 

 



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マテリアル 財前時子

マテリアルが更新されました


英霊召喚

 

「ランサー、財前時子。……何見てるのかしら?さあ、早く傅きなさい」

 

 

 

真名:シンデレラ(財前時子)

 

クラス:ランサー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:C++

耐久:D

敏捷:D

魔力:C

幸運:A

宝具:A+

 

身長/体重:168cm・46kg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・愛知

 

属性:混沌・善 性別:女性

 

「豚の料理は楽しいわ……」

 

プロフィール

 

生粋のサディストであり、多くの(ファン)に崇拝される女王様アイドル。

趣味はお仕置き。特技は豚の料理(文字通り)。

ただ「ドS」なだけではなく、同僚のアイドルなどに優しい一面もあり、通すべき筋は外さない性格。

「わたしの気分を害さない子には優しいわよ」、とは本人の談。

生まれや育ちは完全にお嬢様であり、幼少時は聖歌隊所属。

それを裏付ける審美眼や美声を持っている。

様々な分野で頭角を現し、結果を残してきた程の才覚の持ち主。

その才能はサーヴァントになったことでより顕著になったが、鍛錬は欠かさない努力家でもある。

数少ない、近接戦闘で専門の英霊に引けをとらないアイドルサーヴァント。

彼女の性格もあり、その性質は攻撃的なものが多くを占めている。

マスターに対しては基本豚扱い。

支配者気質である彼女が召喚者をマスターと仰ぐことは無い。

上から目線で接さず、有能であると示さなければ、彼女がマスターに心を許すことはないだろう。

 

保有スキル

 

真のアイドル(女王)A+ 自身にスター集中状態を付与〔lv1〕(3T)&毎ターンスター獲得状態〔lv1〕(5T)[CT8]

 

加虐体質(鞭)A+ 敵単体の弱体耐性をダウン〔lv1〕(3T)+敵単体に高確率で魅了を付与〔lv1〕[CT7]

 

女王特権EX  自身の攻撃力を確率でアップ+自身の防御力を確率でアップ〔lv1〕(3T)&自身に無敵を付与(3回)[CT7]

 

クラススキル

 

対魔力(令呪)EX 自身の弱体耐性をアップ+自身の強化解除耐性をアップ

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

道具作成(豚料理)A+ 自身の弱体付与成功率をアップ

 

宝具:女王様のご褒美(ドミネイト・クイーン・チャーム)

ランク:C+

種別:対人宝具

コマンド:Buster

自身に防御無視状態を付与(1T)+

敵単体に超強力な<魅了>特攻攻撃<オーバーチャージで特攻威力アップ>

 

Buster:3 Arts:1 Quick:1

 

 

 

真のアイドル(女王)A+

 

女王様としての理想を体現していることで獲得したスキル。

アイドルの中でも「信仰心」が少々違う形を持つ故にスキルが変化した。

「信仰心」による恩恵を強化し、召喚後にも上昇する特性は他のアイドルと同じ。

名称こそ少し変化しているが、効果は通常の「真のアイドル」と殆ど変わりはない。

「信仰心」を得る際に、知名度を少しだけ広げやすくなっている。

彼女を称え、崇拝する者たちの忠誠心の結晶とも言えるスキルである。

 

加虐体質(鞭)A+

 

名称は似ているが、通常の「加虐体質」とはその性質が大きく異なる。

本来は攻めるほどに攻撃力をプラスし、反面冷静さを失う諸刃の刃。

彼女の場合、鞭でダメージを与えるほどに敵に魔力が蓄積する。

毒のように蓄積した魔力は彼女の攻撃に反応し、対象に快感物質を分泌していく。

閾値を越えた場合、完全に魅了され彼女の忠実な奴隷となる。

解毒などの状態異常回復で解除できるが、気がつかなければ終わりの初見殺し。

気づいたとして、回復手段が無ければ彼女の攻撃を全て回避しなければならない。

「加虐体質」とは異なりデメリットはない。

彼女が攻めるときは常に冷静であり、熱を上げてもそれを失うことはない。

 

女王特権EX

 

生まれながらの支配者である彼女のことを示すスキル。

花よ蝶よと育てられ、しかし増長することなく現状に甘んじることの無き生き様。

優れた才と弛まぬ努力、そして残してきた結果によって獲得した。

本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで獲得できる。

「皇帝特権」と同種のスキルであり、効力も近い。

何の素養もない場合は効果を発揮できないが、様々な分野で頭角を現した彼女は召喚直後からその万能性を発揮できる。

本人の嗜虐性もあって、未経験ゆえの戦闘技能を補うだけでなく、より攻撃的で強力な戦闘スタイルを獲得している。

一度スキルを会得すればそれを失うことはないが、習得にも限度はある。

しかし、彼女の意思でいつでも保持スキルを切り替えられる。

女王としての資質と積み上げてきた功績があっての時子様だということを表したスキルである。

 

対魔力(令呪)EX

 

マスターが持つ絶対命令権、対令呪に特化したスキル。

魔術への耐性の場合は、他のアイドル同様Cランク程度に効果を発揮する。

聖杯戦争の大前提である令呪に対する拒否権。

マスターからの令呪に不満を持った場合、それを跳ね除ける。

それだけでなく、令呪による命令は彼女によって捻じ曲げられ、命令したマスターへと返っていく。

破格ともいえるスキルだが、通常の戦闘では意味を成さない対マスタースキル。

支配者気質であり、マスターですら豚扱いする。そんな女王様と語られたからこそ獲得した特殊スキル。

だが、優秀な者やアイドルの仲間のような気分を害さない人物に関しては(表にはあまり出ないが)優しい。

もしも彼女がマスターを尊重し、令呪に応えるに足ると判断した場合、彼女は全力を持ってその期待を上回るだろう。

 

道具作成(豚料理)A+

 

文字通り、豚肉料理が得意であることを示す特異型クラススキル。

豚肉を調理する時とそれを食べさせた時、豚さんをお料理する(比喩)ときに発揮される。

効果は一律で、自身が行う魅了の成功率にボーナスがかかる。

エプロン姿も、それを食べさせてくれる姿も、躾をする姿もひっくるめて時子様の魅力なのだと現したスキル。

 

宝具:女王様のご褒美(ドミネイト・クイーン・チャーム)

ランク:C+

種別:対人宝具

 

女王による鞭、ご褒美の一閃。

威力自体は魔力を込めた強力な攻撃程度でしかない。

最大の特徴は、相手が攻撃自体に魅力を感じてしまう点。

対峙する相手は、どうしようもなく彼女の攻撃を受けたくなってしまう。

対魔力などによる判定に失敗すれば、いつまでも鞭を受け続けてしまう。

それ以前に彼女のスキルによって魅了状態になってしまえば、ほぼ勝ち目はない。

威力やランクは低いが燃費が良く、連続使用が前提である宝具。

防御や抵抗そのものを奪い去る、アイドルサーヴァントの中でも非常に攻撃的な性能を持つ対人攻撃。

彼女にとっての鞭は当てるものではなく、受けさせてあげるもの(・・・・・・・・・・)

女王からの褒美を防御ないし回避するなんてありえないでしょ、という意思。

対魔力があったとしても、彼女の魅了を防ぎ続けなければならず、「加虐体質(鞭)A+」による魔力蓄積が一定の値を超えていれば、最高ランクの対魔力でも防ぐことはできない。

対峙した相手にとって、かなり戦いにくいサーヴァントだと言えるだろう。

 

霊基再臨

 

第一段階 アイボリー・コート

 

第二段階 スターリースカイ・ブライト

 

第三段階 クイーン・オブ・クイーン

 

 

 

 

 

 



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期間限定イベント 『結界の残響』編
IF第1章 シンデレラのキャスター


戦闘可能サーヴァント:パーティー編成不可

☆4 ????

☆5 ????

☆4 ????


深夜の結界は砕け、消滅した。

あの結界は既に、欠片ですら残ってはいない。

アイドルとの冒険も終わり、舞台は終幕している。

 

 

 

ならば、

 

かつての物語を思わせるこの場所は、

 

あの結界の『残響』だ―――――。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

Side IF story

 

『結界の残響』

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

→「うん…………ん?」

 

→「ここは……」

 

カルデアのマスター、藤丸立香が目を覚ます。

マイルームにて就寝し、来たはずの朝に違和感を感じる。

硬い地面から起き上がり、瞼を開け、室内に無いはずの冷えた外気で眠気を失う。

 

 

 

そこは、星の輝く深夜の大都会であった。

 

 

 

 

 

→「うん、いつものだ」

 

 

 

 

 

「はっはっはっ。いやー、少々こういう事態に慣れすぎではないかな?マスター」

 

後ろからの呼びかけ。

慣れ親しんだカルデアのサーヴァントの声。

白いローブに身を包み、大きな杖を持った若い見た目の男性。

 

サーヴァントキャスター、花の魔術師マーリン。

 

アーサー王に仕えた宮廷魔術師であり、人と夢魔の混血。

冠位の資格を持つ魔術師、なのだが本人は呪文を噛むので魔術を得意としていない。

今はただのキャスターとして、カルデアに協力してくれるサーヴァントの一騎である。

 

「いやね。異常事態に取り乱さず、冷静なのはいいことだよ。ただ、ここまで慣れてしまうのも考え物だと思っただけさ」

 

はっはっはっ、と笑うマーリン。

無音の空間であるからか、辺りに笑い声がよく通る。

その声を聞いてか、この場にいたもう一人が目を覚ます。

 

「ん……。あれ?……せん……ぱい?――――うぇっ!?先輩!?なんで私の部屋にいるんで……私の部屋じゃない!?」

 

「はははっ。いやー、いいリアクションをありがとう。マスターもこれくらいの反応があると面白いんだけどね」

 

「マーリンさん!?えっと、ここは……一体?」

 

「そうだね。まずは今置かれた状況下について、考察していこうか」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

深夜の都会。

雲一つ無い星空の下、三人は状況を確認する。

マスター藤丸立香にとっては慣れてしまった状況だが、今一度整理しなおす。

 

「マスターはもう気付いているね?ここは夢の世界。本来の肉体から意識が離れ、この場所に迷い込んだという今までにもあったケースだ」

 

→「よくあることだったからね」

 

「先輩がこの状況に慣れきってしまっているのは分かりました……。しかし、今までのケースとは大きく異なる点があります」

 

マシュの言うことに、他の二人も既に気付いている。

肉体から意識が離れ、別の世界や特異点へ介入することは今までにもあった。

 

が、その今までに共通する状況が今回は異なるのだ。

 

「今までの意識のみの転移は、先輩だけ(・・)が巻き込まれていたはずです」

 

少なくとも、最初の時点では。

と、繋げたマシュ。

当然だ。

意識のみの転移なら、他のサーヴァントと同時に行うことなどほぼありえない。

事態が発覚し、カルデアからの介入があってサーヴァントを送り込める場合はある。

が、スタートの時点から行動を共にできるケースは、思い出してみる限りでは初である。

 

「ああ、そうそう。僕は除外していいよ。僕は夢魔との混血であり魔術師だ。夢への介入は得意分野でね。後から素早く着いただけさ」

 

→「マシュと一緒に?」

 

「いや、それは違う。僕が来たときは既に、マスターとマシュは揃ってここで添い寝してたよ」

 

「添い寝……、はぅぁっ!もうっ、からかわないで下さい!」

 

「だっていちいち反応が楽しいからね。からかい甲斐があるってものさ」

 

かんらかんらと笑うマーリン。

人でなしである彼だが、かといって無意味に勘違いさせるような悪意がある人物ではない。

サーヴァントの一人として、信頼する彼の言うことは真実なのだろう。

この場所に来たのはマスターとマシュ。

後追いできたのがマーリンというわけだ。

 

→「この場所、見覚えがあるんだけど……」

 

「はい。それは私も感じていたことです」

 

大都会。

それだけで、今までの経験から当てはまる状況がある。

その絞られた情報に一致しそうな出来事。

 

辺りを見回す。

 

整った道路。

人はおろか気配さえない無音の空間。

破壊痕の無い整理されたビル群。

深い夜にもかかわらず、不自然なほど夜目が利く状況。

 

ここはまるで、あの時の――――。

 

現代の東京に現れた、現世に影響を与えない偶像特異点。

 

 

 

シンデレラと駆け抜けた、深夜の結界舞台を連想してしまう。

 

 

 

「二人が思っていることに、間違いは無いだろう」

 

考えが顔に出ていたのか、二人を肯定するマーリン。

二人は彼に向き直り、次の言葉を待つ。

そう言い切るには、何か確信があるのだと感じて。

 

「この特異点は、そもそも現代の東京ではない。――――そういう形をした固有結界(・・・・)さ」

 

深夜の結界舞台は2012年東京に展開されていた固有結界であった。

そういう意味では確かに共通点と言えるだろう。

だが、今回は特異点と化した固有結界(・・・・・・・・・・・)

以前とは、前提がそもそも違う。

他の場合なら、前例はあるにはある。

人理修復の最後。終局特異点。

が、それは『獣』の力をもってして始めて存在できていたのだ。

 

「とは言っても、そんなに大規模じゃないけどね。展開には術者であるサーヴァントが一人いれば十分。世界の狭間、いわゆるどこでもない場所(・・・・・・・・)。虚数空間や世界の裏側とは似て非なる所。二つの重ね合わせの平行世界の間にある隙間(・・)。修正力をほとんど受けない『無』の空間に結界は張られている」

 

まあ、いつまでも続くわけじゃないけどね。

と、冠位の資格を持つ魔術師は語る。

人理が焼却され、修正力が無かったあの時の場合とは違う手順を踏まえているのだろう。

規模が小さく、発生しても勝手に収束される無人の空間。

後にも先にも残らない、点だけの世界。

そして、ここで重要なワードが出てきた。

 

術者であるサーヴァント、と。

 

魔術師では世界の狭間に固有結界を展開することはおろか、到達すら不可能。

世界を渡れる魔法使い、あるいはどの時空にでも存在できる英霊であれば可能性が生まれる。

 

「理屈は分かりました。しかし、なぜ深夜結界と似通った状況なのかは不明ですが……」

 

「それは、今の段階では断定できないね。強いて言うなら――――、術者と関係があると予想できるかな」

 

→「……ということは」

 

深夜の結界における関係者。

加えて、固有結界を展開できる人物はかなり限られる。

独自の固有結界を持つエミヤは除外。

例えば、いずれかのアイドルサーヴァントであるのか。

 

 

 

あるいは――――――。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「先輩!敵性反応ありです!」

 

素早く戦闘態勢に入る三人。

カルデアの制服を着たマスターとマシュを庇うように、前に出るマーリン。

今ここで、戦えるのはマーリンのみ。

対して反応は複数。

だがしかし、マーリンに焦りの表情は無い。

余裕を持ち、諭すように話しかける。

 

「マシュ、ここに君の肉体は無い。意識のみの転移であり、君やマスターの身体もサーヴァント同様にエーテルで構成されている。だからこそ、ここではデミサーヴァント化してもデメリットは無い。イメージすれば、できるはずだよ」

 

やってごらん、と促される。

最高峰の魔術師からのアドバイス。

イメージする、いつもの工程を。

 

姿が変わる。

 

カルデアの制服を着た少女から、頼れるサーヴァントの姿へと。

大盾を構え、敵がいるであろう反応地点へと向き直る。

 

音も無く現れたその敵の正体は、シャドウサーヴァント。

 

→「――――――!?」

 

「そんな!?」

 

だが、それは予想外の輪郭。

通常ではどんな場所でも縁が無い。

彼女たちを召喚できる触媒も無い。

サーヴァントと化した彼女たちを召喚できるのは、ほぼカルデアのみ。

そんな考えを否定するかのように。

 

 

 

彼らの目の前には、シャドウ化したアイドルサーヴァント達が敵意を持って対峙していた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

アイドルサーヴァントは、特異点ではほぼ召喚できない。

通常の英霊と異なり、彼女たちの『座』は現世に人として、今を生き存在しているからだ。

人類史ごと焼き尽くされた人理焼却事件の最中では召喚できず。

人理修復後でも2012年以降の彼女達が生存している年代でのみ召喚が可能になる。

カルデアは現在2017年。

加えて2012年にレイシフトするか、年代を設定して召喚することもできる。

例外はあるかもしれないが、現状では不明。

ましてやここは『無』の空間。

未来や過去の無い閉じられた世界。

高次元に『座』が存在しない彼女達は、召喚が不可能であるはずなのだ。

もしくは、不完全な為にシャドウサーヴァントなのか。

対峙するアイドルは3人。

 

セイバー、前川みく。

アーチャー、赤城みりあ

ランサー、城ヶ崎莉嘉。

 

かつて、深夜結界で共に戦ったアイドルサーヴァントの三騎士。

 

『■――――■―――■―■!!』

 

ノイズまみれの叫び声を上げ、威嚇するように戦闘態勢に入る。

その叫び声から感じる声色は――――

 

不満、恐怖、不安、拒絶。

 

美しいはずの声は、負の感情を絶叫するだけに成り果てていた。

襲われることは明白。

マスター達も、理解の及ばぬままに構える。

前川みくのシャドウサーヴァントが、今まさに飛び出そうとした瞬間――――――

 

 

 

 

 

「待ってください!!」

 

 

 

 

 

戦闘は開始されず、予期せぬ乱入者――――いや、関係者によって中断された。

 

「私に、彼女たちと話をさせてください!」

 

全力疾走で駆け抜けて、カルデアとシャドウサーヴァントの間に横入りした人物。

黒の紳士用スーツ服はかっちりとしており、着崩しやだらしなさは見当たらない。

三白眼の強面な顔つきだが、その表情には焦りが浮かんでいる。

纏った気配、そしてマスターとしての経験則から立香は察した。

 

彼はサーヴァントであると。

 

その件のサーヴァントは今なんと言った?

シャドウではあるが、アイドルであるサーヴァントを彼女たち(・・・・)と呼んだ。

十中八九、アイドルの関係者。

そしておそらく、――――この固有結界の当事者。

 

「先輩……」

 

マスターである立香の指示を待つマシュとマーリン。

予想外の出来事だらけで、いろいろと状況が複雑だ。

仮にあのサーヴァントが敵対者であるならば、だまし討ちやあちらの加勢を考慮しなければならない。

 

→「大丈夫だよ。きっと」

 

しかしこのマスター、善悪の機微に関しては百戦錬磨。

記憶ごと偽ってでもいない限り、その人物の感情に関してとても敏感であり、今敵対するのか否かの判断は非常に鋭い。

なお、根本的に善人なので将来的に裏切ったりする場合の予想はつかない。

悪く言えばお人よし、よく言えば器の大きいマスターなのだ。

 

「ありがとうございます」

 

勘ではあるが、アイドルに対する優しげな所作に偽りは無いと考えた。

今回の場合、その判断は正しかった。

 

 

 

 

 

彼は、彼女達が最も信頼する人物。

 

アイドルサーヴァント、シンデレラガールズの関係者。

 

シンデレラに『魔法』をかける魔法使い(プロデューサー)

 

故に、こう呼称するのが適切なのだろう。

 

 

 

 

 

シンデレラのキャスター、と。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

『■――■■■―――■■■!!』

 

ノイズまみれの声を荒げ、責めるように叫び続けるシャドウアイドルサーヴァント。

その言を、聞き漏らさないよう真剣に彼は耳を傾け続ける。

 

「前川さん……」

 

果たしてその叫び声の理由を理解できたのか、出来なかったのか。

おそらく、ノイズが酷すぎて聞き取れなかったのだろう。

彼の焦りは未知への焦り。

彼女の言っている事が聞き取れないゆえの焦り。

 

「――――――私は」

 

『■■■■■■―――■―■!!』

 

口数が少ないのが原因か、話しかけようとした時点で一方的に打ち切られた。

臨戦態勢は元々整っていた。

己の爪を振るわんと、彼へ襲い掛かるシャドウサーヴァント。

寸前に迫る、影の凶刃。

 

 

 

ガイィィン!!

 

 

 

その斬撃は、マシュの盾によって防がれた。

 

→「やった!マシュ!」

 

「はい、命令(オーダー)を受諾しました。これより、彼のサーヴァントと共同戦線に入ります」

 

「一方的で悪いけど、こっちはそう判断したよ。君に、異存はあるかい?」

 

「いえ、助かります。あと身勝手で申し訳ないのですが、――――彼女たちへ温情を」

 

「先輩」

 

→「了解。出来るだけ手加減してね」

 

苦しそうな彼の表情から、彼女たちとの親愛を察するマスター。

主命は撃退。

倒さずに無力化する。

シャドウサーヴァント相手では初めての試みだが、今のメンバーでやってやれないことは無い。

 

 

 

予想外の即席パーティーで、突発的な戦闘は開始されたのであった。

 

 

 

 

 




戦闘可能サーヴァント

☆4 シンデレラのキャスター

☆5 マーリン

☆4 マシュ・キリエライト

シンデレラのキャスター:戦闘時スキル構成

スキル1:プロデューサーA+++

味方単体のバスターカード性能アップ+アーツカード性能アップ+クイックカード性能アップ〔Lv6〕(3T)[CT7]

スキル2:強面B+

敵単体に中確率でスタンを付与〔Lv6〕+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ(3T)〔Lv6〕〔CT6〕

宝具:????


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IF第1章 シンデレラのライダー

※このクエストにはバトルがありません


「■■■■■■―――■■■!」

 

シャドウサーヴァントは撤退した。

戦闘の中、絶えずノイズだらけの叫びを上げ続けて。

 

「戦闘終了。シャドウサーヴァントの撃退に成功しました」

 

→「お疲れ、みんな」

 

「これくらいはお安い御用さ」

 

張り詰めた空気が弛緩し、改めて共闘したサーヴァントを確認する。

大柄な体躯、人によっては怖いと感じるような強面。

複雑な心情なのか、暗い表情の人物。

 

「……先ほどは私のわがままを聞いていただき、ありがとうございます」

 

こちらに向き直り、ビジネスマナーにのっとった所作で頭を下げる。

それだけでも、彼が生真面目な性格をしているのだと感じ取れる。

体格や顔立ちで先入観を持つことは、歴戦のマスターである立香にはもはや無い。

 

→「どういたしまして」

 

「はい。では、改めて自己紹介を――――」

 

 

 

「プロデューサーさーん!探しましたよ!」

 

 

 

互いの情報を精査しようとしたところで、新たに聞こえた知らない声。

その声を聞いてか、彼はしまった、あるいは忘れてた、という表情を浮かべる。

一同に駆け寄ってくるのは、黄緑色をしたやや派手な事務服を身に纏った人物。

一直線に彼のサーヴァントの元へ近づいたところで、先んじて彼のほうが話しかける。

 

「すみません、千川さん。アイドルの皆さんを見つけたと思って、とっさに動いてしまいました……」

 

「ええ、急ぐ気持ちは分かります。でも、報告・連絡・相談。こんな時だからこそ、焦らずに行動するのが肝心ですよ」

 

「はい、肝に銘じます…………」

 

話は終わったのか、二人は改めてカルデアと対面する。

一歩こちらに歩み寄り、ポケットからとあるケースを取り出す。

そこからさらに一枚の紙を取り出し、両手で持ってこちらへと差し出す。

そこにあったのは、――――二枚の名刺。

思わずこちらも頭を下げて受け取り、その内容を確認する。

 

→「346プロダクション、プロデューサー?」

 

「はい、改めまして。サーヴァント、キャスター。真名は……、特にありません。プロデューサー、あるいはシンデレラのキャスターと呼んでもらえれば」

 

「サーヴァント、ライダー。千川ちひろ、もしくはシンデレラのライダーとお呼び下さい」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

丁寧に挨拶された二人のサーヴァント。

シンデレラ――――、アイドル達の関係者とは思っていたが、彼女たちの話にも度々登場していたプロデューサーとアシスタントだということに素直に驚く立香とマシュ。

ただ、アイドルサーヴァントは非常に特殊な存在だ。

本来は、あの結界の中でしか存在できないイレギュラー。

その後、奇跡のような確率でカルデアと縁を持った故の召喚。

だが、どうも彼女たちとは事情が違うようだ。

シンデレラ(アイドル)に該当しない以上、召喚方法そのものが異なるのだろう。

先ほども、自然な様子でサーヴァントと自己紹介していたのだから。

 

「カルデア……の皆さんですか……はい。此度は、当社のアイドル達がお世話になっているようで真にありがとうございます」

 

→「こちらこそ、助かってます」

 

「先輩の言うとおり、アイドルの皆さんはとても頼もしいですよ」

 

「そうだね。戦闘に無縁だったはずの彼女達はよくやっているね。――――さて、では早速質問させていただこう。先程、真名が無い、と言っていたがどのような意味か説明してもらえるかな」

 

「そう、ですね……。いえ、答えたくないと言うわけではないです。一応、サーヴァントとしての基本知識はありますので」

 

なんと言ったらよいのか困惑したようなプロデューサー。

対して、説明する言葉を見つけたようで助け舟に入るちひろ。

 

「ですが、私たちにはその最低限の知識しか(・・)無いんです」

 

「しか?つまり、君たちには英霊として積み上げているはずの『記録』が無い、と言うことかな?」

 

「おそらく、そうなのだと思います……」

 

「これは、……あの時と同じ」

 

→「フランスでのジャンヌみたいな?」

 

マスターの語った内容が、実に的を得ている。

彼らは本来与えられるべきの記録はおろか、サーヴァントとしての基礎知識やバックアップですら最小限となっている。

かつて、ジャンヌが呼称したサーヴァントの新人という状態なのだろう。

 

「ふむふむ。なるほどね」

 

「ですので、その最低限の知識に含まれるもので、『シンデレラのキャスター』と名乗りました」

 

→「シンデレラたちの魔法使い(キャスター)、ってことかな?」

 

「はい。まさに文字通りです(・・・・・・)

 

「と言うと?」

 

「私自身は、英霊になれる器ではありません。あくまで一介のプロデューサーに過ぎませんから。だから、――――擬似サーヴァントとして召喚されたのです」

 

擬似サーヴァント。

グランドオーダー時に限り召喚が許される、特例的なサーヴァント。

霊核の高すぎる神霊、または低すぎる幻霊を召喚する際に、人間を寄り代(ベース)に構成される。

この場合はおそらく、幻霊による擬似サーヴァントだろう。

彼の名乗り、シンデレラの関係者から推測される幻霊は一つ。

 

「私は『シンデレラの魔法使い』という幻霊を核としたサーヴァント、と言うことになります」

 

つまり、彼はアイドルサーヴァントと異なり、本人の肉体に『座』が存在しない。

御伽噺のシンデレラ。その登場人物の一人である幻霊によるサーヴァント。

彼女たちとは、明確に規格が違うサーヴァントなのだ。

 

「うんうん」

 

→「ちひろさんも?」

 

「はい。私もシンデレラを導く登場人物。かぼちゃの馬車を操縦する『シンデレラの御者』が元となっています。――――それだけではありません」

 

目を瞑り、一息入れ、改めて発言する。

 

「私の持つスキル『二重召喚(ダブルサモン)』。――――ライダーとアサシンの混成。幻霊である『シンデレラの御者』の霊核が低い為なのか、中途半端にクラスが分割されてしまったのだと思います」

 

スキル『二重召喚(ダブルサモン)』。

二つのクラススキルを保持できるスキルである。

だが、本来は様々な制限がかかる。

一つ、召喚時に特殊な条件付けを行うこと。

一つ、三騎士、エクストラクラス(例外あり)との組み合わせは出来ないこと。

ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーからのいずれかで組み合わさったクラス。

霊核の低さゆえに、クラス適性ですら半端となってしまったことによる適性。

 

「――――いや、それは違うね。霊核が低ければ、サーヴァントと言う形すら取れない。君がダブルクラスであるのは、もっと別の理由だ」

 

その説を、冠位の資格を持つ魔術師は明確に否定する。

ここまで聴きに徹していたが、整理が終わったのか一つずつ確認していく。

 

「まず一つ、この空間についてだ。この固有結界は、君達どちらか二人の宝具(・・)だね?」

 

「はい、そうなのでしょう。私の宝具、『魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)』による空間です」

 

「そして、君はそれを制御できていない(・・・・・・・・)と」

 

「恥ずかしながら……。申し訳ありません」

 

右手を頭の後ろへと回し、ばつの悪そうな表情を浮かべるプロデューサー。

今回の結界の基点は彼。

宝具『魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)』。

アイドル達と同種の、アイドルを召喚する固有結界。

そのアイドル達がシャドウ化しているのは、制御が出来ていないからだろうか。

自身の不手際によって発生した空間に、皆を巻き込んでしまったことに対して謝罪する。

 

→「気にしないで」

 

「まあ、気にすることは無いと思うよ。何せ君にとっては初めての宝具行使なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「それは、どのような意味なのでしょう?」

 

状況を掴み取れていないからか、困惑した様子の二人。

現状を正しく理解しているマーリンが、今回の核心に迫る。

 

 

 

「この空間そのものが、君たちのサーヴァントとしてのスタートライン(・・・・・・・)だからさ。英霊に時間の概念は無い。時間軸や平行世界よりも高次の存在ゆえにだ。だけどもし、サーヴァントとしての最初の場所、そんなものがあるとしたら。そんな回答の一つが、ここと言うわけさ」

 

 

 

この場所は、完全なる『無』の空間に展開された結界。

過去も未来も無いどこでもない場所。

時空と言う概念に囚われない、だからこそのスタートライン。

その舞台として、プロデューサーが持つ宝具が採用されたのだ。

 

「おそらく、マスター達が経験した深夜の結界舞台。それに付随して発生したアイドルサーヴァント達の二百近い『英霊の座』。その大きな事象変化に波及して生じた『残響』。本来英霊になりえない『幻霊』が、サーヴァントとして始まるため(・・)の世界」

 

二百近い『英霊の座』の発生。

あの奇跡の出来事に起因する、新たなる英霊の登録。

特異点における連鎖召喚ならぬ、連鎖登録である。

 

「せっかくだし、もっとロマンチックに言おうかな。シンデレラの名を冠するアイドル達を支える為に、君達はサーヴァントとして呼び出されようとしている。彼女たちが信頼する人物の代表として、ね」

 

シンデレラによる奇跡の『残響』は、無論その関係者に届く。

まさに本当の意味で、彼らは新人(・・)のサーヴァントなのだ。

 

→「じゃあ、俺たちがここにいるのは……」

 

「無論、君がシンデレラ達のマスターであることに他ならない。マシュの場合は、シンデレラとの親和性の高さが原因だろうね」

 

「親和性、ですか?」

 

「ああ。例えば、君は卯月ちゃんの宝具『硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)』の効果を最も強く受けた影響さ」

 

卯月の宝具『硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)』は、シンデレラの霊基を譲渡する性質を持つ。

つまり、マシュは最もシンデレラに近い人物(・・・・・・・・・・・・)

この始まりの為の結界に引き寄せられたのも、マスター同様ある種の必然なのだろう。

 

そしてもう一つ。

先ほどのちひろの発言を否定したことへの回答がまだであった。

 

「擬似サーヴァントは本来、『器』ではなく『中身』の人物が主導権を握る。彼ら幻霊が、主導権を手渡せばその限りではないし、おそらくそれもあるだろう。だけど、それ以上に君達はシンデレラ(アイドル)達から影響を受けた」

 

「それは、どんな影響なんですか?」

 

「ちひろちゃんの質問に答えよう。『幻霊』でありながら、童話シンデレラの登場人物として高い知名度を持つ『魔法使い』と『御者』。それに加えて、君たち自身(・・・・・)の知名度が霊基に刻まれている。共に『魔法使い』の性質を持つプロデューサーはキャスターに。器と幻霊が異なるクラス適性を持つちひろちゃんはダブルクラスへと派生したのさ」

 

アイドルサーヴァントは、ファンからの応援と言う『知名度』によって恩恵を受けている。

だが、彼女たちの場合それだけではない。

彼女たちの逸話はファン第一号であるプロデューサーや、他のアイドル達からも語られている。

彼らはその逆。

プロデューサーとして、アシスタントとして、アイドル達からの逸話が霊基に刻み込まれているのだ。

無論、アイドルには劣るがファンの持つ知名度も含まれるのだろう。

 

結界の正体。

彼ら二人の召喚の理由。

サーヴァントとして構成されている要素。

 

そのどれをとっても、彼らはアイドル達に影響を受けている。

それが、彼らにとっては嬉しくもあり。

プレッシャーでもあり、誇らしくもあった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「話は大変分かりやすかったです。そこで相談なんですが、――――今から、何をすべきなのでしょうか?」

 

「そうだね。君は固有結界の展開限界という制限時間の中、その『正解』を探し出す事が目的になるだろうさ」

 

→「正解?」

 

「そう。ここは始まるための(・・・)世界。サーヴァントとしてアイドル達を支える為に、プロデューサー君がまずやらなければいけないこと。それを見つけ、解明し、正解する。そういう試練の時間、と言うわけなのさ」

 

「なるほど。やるべきことは分かりました。ですが……、前回ほどではないにしろ、この結界は十分広いです。歩き回って探すだけでは、時間がかかるばっかりです」

 

「大丈夫ですよ」

 

マシュの懸念に対し、にっこりとした表情で伝えるちひろ。

そんな彼女を見て、マシュは彼女のクラスを思い出す。

ちひろの肩から、二匹の白いネズミが顔を覗かせる。

 

「『チーちゃん』『ユーくん』、行きますよ」

 

その二匹は彼女の使い魔。

共に駆ける仲間であり宝具。

 

 

 

彼女はライダー。

 

 

 

「綺麗に着飾るシンデレラ」

 

 

 

その幻霊は『シンデレラの御者』。

 

 

 

「親愛なる友を乗せ、いざ舞踏会への道へ」

 

 

 

お姫様を乗せて、お城へと案内する操縦者。

 

 

 

 

 

「それが私の役目。進め!『かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)』!!」

 

 

 

 

 

仰々しい口上のによって、出現した騎乗物。

 

「これは……」

 

シンデレラを乗せるにふさわしい、アイドル達を運ぶ乗り物。

 

→「もしかして……」

 

 

 

その形状は、黒い大きめの乗用車(バン)であった。

 

 

 

→「確かにアイドル達の移動方法だけども!?」

 

「えっと、期待させていたようですみません。私の宝具『かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)』は概念的な乗り物なんです。様々な形状を取れて、もちろんかぼちゃの馬車にもなれるんですが……そちらは魔力の消費が激しいので」

 

申し訳なさ気で、しょんぼりとするちひろと二匹の使い魔。

どうやら車の形態では『白馬』を必要としないからか、ネズミの姿で居続けるようだ。

そんな二匹に対し、指で頭をなでるちひろ。

 

さておき。

 

どうやら5人が乗るには十分な大きさ。

道の整備された東京が結界のモチーフなので、車で動くのに支障はない。

 

「では、よろしくお願いします」

 

→「じゃあ、よろしくお願いします」

 

「よろしくね、二人とも」

 

カルデア含めた一同5人。

千川ちひろの操縦する乗用車へと乗り込んでいく。

 

 

 

始まりの結界の中で、彼らの道のりが始まったのであった。

 

 

 

 

 



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IF第2章 従者の宝具

サポートサーヴァント

☆4 シンデレラのキャスター

☆4 シンデレラのライダー

☆5 マーリン

☆4 マシュ・キリエライト


黒い乗用車が無人の街並みを進んでいく。

信号機も機能していない空間で、止まることないエンジンが音の無い町に響く。

千川ちひろが乗せるべきシンデレラとは、現代のアイドル達。

ゆえに、彼女達が乗りなれた現代の乗り物が宝具の一形態となるのは理にはかなっている。

『シンデレラの御者』が元となる宝具ではあるものの、千川ちひろの影響を受けたことを如実に現しているといえるだろう。

今の席順は、運転席には当然ちひろ。

助手席にはマスターが乗り込み、運転席の後ろにプロデューサー。

そのとなりにマーリン、マシュと並ぶ。

中でもマーリンは車に似合わないこと、この上ない。

彼がいつも持つ杖が空間を圧迫し、大柄なプロデューサーに時折ぶつかっているようだ。

 

閑話休題。

 

「この結界の探索ですが、闇雲に走り回っても徒に時間を浪費するだけです。なので、手がかりを探す事が重要だと考えます」

 

→「手がかりかぁ……」

 

マシュの発言から、当てはまるものを思考するマスター。

サーヴァントが始まるための空間。シンデレラを導く者としての試練。

つまり逆に言えば、今のままではアイドルを導くべきサーヴァントとしては不適格と言うことになる。

かのプロデューサーとアシスタントを一瞥する。

仮契約によって彼らのステータスは把握している。

能力的にも、性格的にも、信用的にも不足は見当たらない。

 

→「となると――――宝具かな?」

 

可能性はある。

実際に、キャスターは自身の固有結界である宝具をコントロールできていない。

アイドルを召喚する効果にもかかわらず、彼女たちに攻撃されているのだから。

 

「シャドウ化したアイドルサーヴァント。それに対するアプローチがカギになる……その可能性はありますね」

 

「ただ、どのアプローチが正解なのかは分からない。倒せばいいのか、救えばいいのか。もしくは全く別の原因があるのか」

 

始まったばかりの探索。

当然、まだ判断材料は少ない。

これ以上の推理は堂々巡りになりかねない。

ゆえに、暫定的な結論を出すことにする。

 

→「とりあえず……アイドル達を探そう!」

 

「はい。現在最も有力的な手がかりです」

 

「私からも、お願いします。――――アイドルの皆さんに会わなければ、何も始まらない気がする……と思うので」

 

「いやいや、その感覚は大切だよ。何せ君の世界で、君の宝具で、宝具とは本能だ。なら、本能の導くままに進むことこそ、正解への道筋なのさ」

 

マーリンがそう結論付け、その瞬間目を細める。

空気が変わったことを察知してか、マスターを筆頭に緊張した様子へと変わる。

 

 

 

ズガアアアアアァァァン!!

 

 

 

キキーッ!とタイヤが横滑りし、ドリフト染みた走行でありながら転倒を阻止したちひろ。

歩道へと車は乗り上げたが、すぐさま車道へと走りなおす。

 

二度目の遭遇は、相手からの奇襲によって開始が告げられた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

上空からの爆撃。

これを成せるアイドルサーヴァントはかなり限られる。

窓から顔を覗かせると、目視で確認できた影が三つ。

 

キャスター、緒方智絵里。

ライダー、双葉杏。

アヴェンジャー、神崎蘭子。

 

サーヴァントの中でも決して多くはない飛行能力の持ち主。

既に攻撃態勢に入られている以上、完全に制空権を取られていた。

 

ブオオオオォォン!!

 

エンジンを最大限吹かし、制限速度をぶっちぎったスピードで夜の街を爆走する。

だが、場所が悪い。

広い空間の少ない、コンクリートジャングルである東京。

いかにスピードに優れていても、地上走行である以上必ずどこかで限界が来る。

対して三人は空中を縦横無尽。

 

『敏捷EX』

 

飛行による評価規格外であるその意味を、改めて痛感することになる。

 

→「車から降りられない?」

 

「無理です先輩!今止まったら狙い撃ちにされます!」

 

乗用車の構造上、上空の相手に対応する術は無い。

猛スピードの車から飛び降りるほか無いか、と覚悟を決める。

 

「問題ありません。マスターさん、宝具の形状を変化させます(・・・・・・・・・)。シートベルトはしてますね。では、――――しっかり、つかまっててください!」

 

黒い乗用車が、光に包まれる。

形状を変化させる中、二匹の白い『ネズミ』が前へと飛び出す。

その二匹は徐々に大きさを増し、美しい姿をした二頭の『白馬』へと姿を変えた。

 

そして、その『馬車』は全貌を見せる。

 

全体を白で彩った、ゴージャスでありながら繊細な装飾。

屋根は無い。

上を見上げれば、星空と三つの影が見える。

ところどころに、かぼちゃの意向をしたことを伺わせる様子が分かる。

二頭の白馬は全力で駆け、その手綱を握るちひろ。

 

 

 

これが、彼女の宝具『かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)』の真の姿。

 

 

 

ライダー、千川ちひろの騎乗物。

その姿は事務服から、男性的な騎手の衣装へと形を変えた。

『シンデレラの御者』という特性上、彼女の騎乗スキルは他者を乗せることで本領を発揮する。

自身はあくまで脇役。

主賓を乗せ、送り届ける為の馬車。

 

「これなら、何とかなりますか!?」

 

「ああ、もちろんだとも。せっかくだし僕も、キャスターらしいところを見せないと、ね!」

 

マーリンが杖を振るう。

 

 

 

すると、次第に馬車が空を走る(・・・・)

 

 

 

「ええぇぇー!!」

 

あまりの状況に驚くちひろ。

彼女の馬車に、飛行能力は無い。

屋根を取り除き、魔術による遠距離戦を想定していた彼女には予想外の出来事。

空に魔力の足場を作り、宙を駆ける道となる。

 

かつてバビロニアで、最終決戦時に使ったマーリンの援護。

その再演である。

 

→「マシュ!」

 

「はい。警戒態勢から戦闘態勢に移行。対シャドウサーヴァント空中戦、行きます!」

 

デミ・サーヴァントのバランス感覚をもって、走る馬車で立ち上がるマシュ。

三次元戦闘を基本とする三人に対し、盾を構え迎え撃つ姿勢をとる。

上下左右正面背後。

どの位置からの攻撃も、残さず受けきる構えである。

マシュは護る者。

非常にストレスの大きい盾役というスタイルを、その曇りない心で貫き通す。

 

 

 

「普通の少女をシンデレラへ――――」

 

 

 

その背中を、――――

 

 

 

 

「私の『魔法』が変身させる」

 

 

 

シンデレラのキャスター(プロデューサー)が押す。

 

 

 

「笑顔を咲かす、『シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル )』!!!」

 

 

 

 

 

レンジ内に変化があった。

劇的なのはマシュだろう。

かつての舞台、深夜の衣装。

 

卯月の宝具による変身と同じ衣装。

 

両者共にシンデレラへ導く宝具ゆえの一致。

その『魔法』が、本職たるプロデューサーの手によって今成された。

 

これが彼固有の対アイドル宝具(・・・・・・・)、『シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル )

 

一定範囲内の自軍の女性に対し、アイドル属性を付与する性質を持つ宝具。

無論、それだけではない。

が、それ以上は彼自身にも分からない。

 

例えばマスター。

深夜の呪術衣装とは全く異なる姿。

腰には一振りのレイピア。

黒と青をベースとした、シュッとした姿をかもし出す衣装。

 

マーリンは白のスーツ姿。

タキシードとは違う、煌びやかなビジネススタイル。

 

ちひろには見た目の変化がない。

が、心なしか馬車の機動力が増しているようだ。

 

彼の信条、プロデューススタイルは個性の尊重。

個々人の魅力を活かし最大限に発揮させ、笑顔の姿を前面に出す。

そのため、彼の宝具の効果は相手や場合によって変化する。

プラスの効果であることは間違いなく、また本人の意に反する強化も起こることはない。

 

女性のアイドルへの変身と、その仲間である味方全体への強化の二つの効果を持つ宝具。

 

 

 

「いっきますよー!!」

 

 

 

そして今この場はシンデレラの(・・・・・・)馬車。

ちひろの騎乗スキルは、対象がシンデレラであれば効力を増す。

 

 

 

その変化は、――――劇的だった。

 

 

 

タタタタタタタタッ!!

 

二頭の白馬『チーちゃん』と『ユーくん』の足並みが速まる。

もはやスピードは、劣化したシャドウサーヴァントでは追いつけないレベルにまで達していた。

 

 

 

「■■■■■■―■―■■■!」

 

 

 

ノイズまみれの金切り声。

三人から発せられる悲痛な叫び。

 

その音の中に。

 

 

 

「■ワ■■■■■■―■■■!」

 

 

 

言葉が入り始めていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「神崎さん!緒方さん!双葉さん!」

 

プロデューサーが語りかけ続ける。

今回の戦闘は撃破が正解とは限らない。

アイドルを導くものが、アイドルを倒してしまうのには違和感を感じる。

そのため、戦闘に余裕があるうちにいくつもの手を試す。

 

説得、嘆願、交渉、傾聴。

 

およそマイナスではない、様々なネゴシエーション、

だが彼女たちとは会話すら成立せず、コミュニケーションは全く取れない。

 

 

 

「■―■■―■■■―■■■!」

 

 

 

叫びは止まらない。

普段そのようなイメージのない、杏のシャドウサーヴァントもまた叫び声を上げ続けている。

大人しいはずの智絵理もまた、喉が苦しいのを無視するかのように声を発する。

激情に満たされた雰囲気のシャドウアイドルサーヴァント。

彼女たちの訴えのような攻撃は回避されるか、強化されたマシュの盾によって防がれる。

 

 

 

「話を、聞いてください!私は、――――皆さんの力になりたいんです!」

 

 

 

プロデューサーの痛恨の訴え。

紛れもない本心からの発露。

 

 

 

しかし、その発言は。

 

 

 

「■■シ■■■タ■ワ■■ナ■!」

 

 

 

否定されるかのように上書きされ、かき消される。

 

→「今、声が――――」

 

ノイズまみれの音から、ようやく聞き取れた声。

しかし、その意味までは分からず。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!」

 

 

 

不利な状況下の為か、シャドウ化したアイドル達は戦場から去っていった。

撃退は成功した。

が、その状況を喜ぶものは一人も居ない。

 

その理由は、聞こえ始めた声。

 

声色は、どこまでも暗く。

影の黒さも相まって、――――絶望しきったかのような雰囲気。

 

 

 

何よりも、プロデューサーから逃げる(・・・・・・・・・・・・)素振りだった彼女たち。

その後の彼が、酷く苦しそうな表情をしていたから。

 

 

 

 

 




シンデレラのライダー:戦闘時スキル構成

スキル1:アシスタントA+++

味方単体の弱体状態を解除&弱体無効(1回・3T)を付与+毎ターンHP回復状態を付与〔Lv6〕(5T)[CT6]

スキル2:二重召喚B

自身のNP獲得量をアップ〔Lv6〕(3T)+アサシンクラスに対する攻撃及び防御相性不利を打ち消す状態を付与(3T)[CT6]


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IF第3章 違和感

 車の中で、無言の状況が続く。

 話しかけづらい雰囲気の原因は、プロデューサーの表情だろう。

 苦々しい顔で、必死に頭を回転させている。

 それが空回りかどうかは定かではないが。

 

 →「アイドル達の様子……やっぱり変だった」

 

 マスターが切り出す。

 プロデューサーも顔を上げ、話を聞く姿勢になる。

 

「前提として、シャドウサーヴァントの会話能力はまちまちです。喋れる固体とそうでない個体の両方が今まで確認されてきました」

 

「シャドウアイドルサーヴァント、―――長いから便宜上シャドウアイドルと言おうか。彼女達の叫び、先の戦闘の終盤では僅かではあるが発音が確認できた」

 

 →「でも、……アイドル達らしくは無かった」

 

 マシュ、マーリンの言に付け加えるマスター。

 経験上、シャドウサーヴァントの意思疎通の是非は個体によって異なる。

 暴走、洗脳の類であれば別として、シャドウであれど意思はあくまでサーヴァント本人のものだ。

 だとすれば、シャドウアイドル達の叫ぶ様子はカルデアでの姿とは似ても似つかない。

 

「『座』を介した事による『英霊シンデレラ』の方の意思なのか……。いえ、あの様子では違うでしょうね……」

 

 ここで仮契約によるサーヴァントマテリアルで判明した、プロデューサーの宝具について補足する。

 通常、アイドルサーヴァントは彼女達が生存している年代でしか召喚できない。

「座」が高次元にではなく、現世に存在しているのが原因だ。

 しかしこの結界は世界の狭間。

 今も昔も存在しない閉じられた世界。

 故に、彼の宝具「魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)」による召喚は通常ではなく、別のルートでもって召喚している。

 プロデューサーは彼自身が「英霊の座」からの分霊を得ている。

 そのため、彼によるシンデレラの召喚は「英霊の座」を経由する。

「英霊シンデレラ」からの分霊を受け継ぎ、アイドル達は擬似サーヴァントとして呼び出される。

 アイドルサーヴァント達の召喚制限を受けず、宝具によって自在に召喚が可能。

 ただし、彼が直接呼び出せるサーヴァントは自身がプロデュースしたアイドル、または「シンデレラの御者」のみである。

 

 なお、アイドルサーヴァント達の召喚宝具「魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)」はカルデアを経由することで、各特異点でも発動が可能となっている。

 カルデアのバックアップがあれば、シンデレラとプロデューサーの違いである召喚制限の有無はあまり関係ないことなのだ。

 

 閑話休題(補足終わり)

 

 アイドル達らしからぬ悲痛な叫び。

 プロデューサーを責めるような彼女たちの様子は、一人ひとり異なる。

「英霊シンデレラ」の叫びであれば、特色など無く似たような様子となるだろう。

 

「なら、アイドルたちの様子は彼女たちの本心なのでしょうか……」

 

 弱弱しく、プロデューサーが独白する。

 暴走や外的要因を考慮しないのであれば、その可能性は否定できない。

 通常、どんな人間にも弱く、脆い一面は存在する。

 

『私、アイドルやめる!』『信じてもいいと思ったのに……』『何にもない…、私には何にも……!』

 

 彼女たちアイドルは、鋼の精神の持ち主ではない。

 スポットライトの当たらない部分では、暗い負の側面が存在した。

 苦悩し、道に迷い、挫折した過去がある。

 

 

 

 →「きっと、皆なら大丈夫だよ」

 

 

 

 だからこそ(・・・・・)、今の彼女達は強いのだ。

 立香は、アイドル達の過去を伝聞以上には知らない。

 マスターとして、今カルデアに居るアイドル達のことなら知っている。

 

 →「皆、弱くないよ」

 

 生まれながらに不動の精神を持たずとも、鍛えることは出来る。

 サーヴァントとなったアイドル達には、その経験がある。

 その心は鋼であらずとも、決して脆弱ではない。

 

「そう、ですか」

 

 プロデューサーの知らない、サーヴァントとしてのアイドル達。

 カルデアの一員として、時に遊び、時に働き、時には戦う。

 普通の女の子たちが英雄達と肩を並べ、背中を預ける。

 その様子は、少し想像し難い。

 

「皆のカルデアでの生活、お聞きしてもよろしいですか?」

 

 運転しながら、ちひろが質問する。

 ちひろは、アイドル達のウワサや日常の一コマには詳しい。

 が、プロダクションの外。ましてや外界から隔離された秘密組織、カルデアでの様子は気になるのだろう。

 その気持ちは、プロデューサーも同様だ。

 

 →「もちろん」

 

 当然、マスターは快諾する。

 マシュと共に、時折マーリンが合いの手を入れながら話していく。

 短いながらも、アイドル達と過ごした時間は濃密で話題には事欠かない。

 

 

 

 彼らの雑談は、乱入者(・・・)によって中断させられるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「見つけた……!」

 

 今回のシャドウアイドル達との遭遇は、カルデアの方が先に発見した。

 だが、そのメリットは活かしきれ無いだろう。

 

「しかし……これは……」

 

「待ち伏せだね、間違いなく」

 

 フィールドは、狭い通路の路地。

 ちひろの『馬車』ではスピードを出すのも難しく、出したところで直線しか走れない。

 空中戦でもないので、マーリンの支援による空中走破もうまみが少ない。

 こちらの長所を殺す布陣。

 こうなると馬車を降り、地上戦で戦う必要がある。

 対して、シャドウアイドルの面々。

 

 バーサーカー、諸星きらり。

 アーチャー、三村かな子。

 ランサー、多田李衣菜。

 セイバー、新田美波。

 アサシン、アナスタシア。

 

 こちらと人数では同じ。

 しかしこちらの一人は非戦闘員であるマスター。

 防御役であるシールダー一人、キャスター二人、騎乗物に頼るライダー一人。

 対して相手は、パワーで勝るバーサーカー、三騎士であるセイバー、アーチャー、ランサー、伏兵であるアサシンと隙が少ない。

 戦闘員という意味では、こちらが数で不利。

 カルデアの方に三騎士は無く、近接戦闘を専門とするのはマシュのみ。

 火力に秀でたライダー、ちひろの強みを生かせないことで、状況はかなり不利になる。

 

 

 

「私が前に出ます、皆さん支援お願いします」

 

 

 

 宝具である『馬車』を解除し、言葉と共に突撃するちひろ。

 自由度が求められる戦場で、味方を一まとめにするのは効率が悪い。

 故に降ろす他無いが、その場合ちひろの騎乗スキルの関係上『馬車』の能力が落ちてしまう。

 そのため、『馬車』による突撃を諦め、白兵戦で応対する。

 ライダーは本来、その性能を宝具に頼る場合が多い。

 不足する白兵戦能力を補うように、多量の宝具という手札で戦う。

 千川ちひろも、その例に漏れない。

 だがしかし、マスターはその様子を無謀とも破れかぶれとも思わない。

 

 

 

 なぜなら、ちひろなら出来るという確信と信頼があるからだ。

 

 

 

「はああぁぁ!!」

 

 ギイィィン!!という金属音が響く。

 セイバーである美波のシャドウアイドルに、鍔迫り合いからそれを弾くように距離をとる。

 

 ちひろの今のその姿、まるでセイバー。

 事務服から一変し、華やかな緑のバトルドレスと一振りの剣。

 衣装が変化しただけではなく、明確な剣気も感じ取れる。

 

 これがちひろの持つ固有スキル、『コスプレ・パーティーEX』。

 

 衣装によって能力そのものを変化させ、技術すら獲得する評価規格外スキル。

『シンデレラの御者』に由来せず、ちひろの個性が元となっている。

 本当のセイバークラスのサーヴァントには及ばないが、シャドウサーヴァントに対する武器としては十分有効だ。

 

「■■■―■■―■―■■■!」

 

 ただ、思ったよりも相手の圧力が強い。

 マスターが後方に回っている為、前衛の人数に差ができる。

 

「くっ――――!」

 

 そして、シンデレラのキャスターは肉弾戦が不得手である。

 体格は兎も角、プロデューサーにも『シンデレラの魔法使い』にも戦闘技能は無い。

 支援に秀でたサーヴァントの宿命か、直接的な戦闘力は低い。

 同じく近接戦闘を不得手とするアサシン、アナスタシアに苦戦している様子からも明らかだ。

 話しかけ、説得する様子も見えるが効果は無いようだ。

 

「やああぁぁ!!」

 

 マシュが、バーサーカーであるパワーファイターのきらりを押さえる。

 一撃一撃が重く、思わず足を止められる。

 

「おっと、そっちはダメさ!」

 

 一対二をこなすマーリンは、一番負担が大きい。

 不可視の武器には慣れているからか李衣菜のエアギターをいなし、かな子の射撃を魔術によって迎撃する。

 冠位の魔術師であり、アルトリアの剣の師匠である彼ならではの芸当だ。

 

 

 

「プ―■■■■―ヲ―■■■!」

 

 

 

 彼女たちの慟哭に、発音が時折混じる。

 その音数に比例するかのように、彼女たちの攻撃は苛烈さを増す。

 このままではジリ貧。

 今の状況を打破すべく、マスターが札を切る。

 

 

 

 

 

 →「令呪を持って命じる!ライダーよ、その身を強化せよ!」

 

 

 

 

 

 莫大な魔力リソースがすべてちひろに集約され、その身を強化する。

 宝具を封じられてもなお、スキルを駆使して戦力足らんとする彼女にマスターは全力でバックアップする。

 今、彼女が突破口だと判断したゆえの令呪。

 

「美波ちゃん、ごめんね!!」

 

 攻撃力を増し、その剣閃でシャドウアイドルを吹き飛ばす。

 飛ばした先に居るのは、アサシンのアナスタシア。

 折り重なる二人。

 

 

 

 その彼女達は、地面に吸い込まれるように溶けていった。

 

 

 

 →「――――――これはっ!?」

 

 

 

 周りを見ると状況を不利と感じたのか、逃げるように地面に吸い込まれるシャドウアイドル。

 一人、又一人と姿をくらませる。

 

 その中で。

 

 

 

「ぷろでゅーさー――――」

 

 

 

 ノイズまみれの、しかし聞き取れる声で彼女は声を発した。

 

 

 

「シンジデタノニ――――」

 

 

 

 その内容は、底冷えする怨嗟の声だった。

 

 

 

 

 




コスプレ・パーティーEX

自身のバスター性能アップ&アーツ性能アップ&クイック性能アップ〔Lv6〕(3T)
+自身の防御力をアップ(3T)[CT7]


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IF第4章 シャドウアイドル

答えを出す時がきた。

 

全員がそれを感じ取っていた。

 

プロデューサーの担当アイドル達。

 

シンデレラプロジェクトの14人。

 

絶叫し、悲痛な様子のシャドウアイドル。

 

不完全な宝具展開。

 

ここは、――――――

 

 

 

アイドル達と共に、サーヴァントになる為の試練。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

あの戦闘から、一言も発しないプロデューサー。

苦しそうな、でも真剣な表情で思考している。

考えて、考えて、考えて。

必死に答えを探す。

 

「今は声をかけないほうが良い。あくまで、これは試練であり試験。彼が答えを探し、解答(・・)しなければ意味が無いからね」

 

と、マーリンは語った。

助力することは出来る。

励ますことも出来る。

しかし、代わりに解答をすることは出来ない。

 

「先輩……」

 

苦々しい表情で、周りを見るように促すマシュ。

結界に綻びが出始めた。

元々、此処はたった一人のサーヴァントが展開している固有結界。

世界の干渉を受けない『無』の空間とはいえ、長時間は維持できない。

回答の時間は迫っている。

 

「…………。」

 

もくもくと、ただ運転するちひろ。

彼女もまた、固有結界によって召喚されたサーヴァント。

プロデューサーをサポートし、助けるアシスタント。

ただ、彼女自身がプロデューサーの代役にはなれない。

 

時間は無い。

一緒に推理し、力になった。

カルデアでのアイドル達の話で励ましもした。

 

 

 

ここからは、彼だけで答えを出さなければならない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

車を降りる。

到着した場所、その建物を見上げる。

 

プレートには、――『346プロダクション』。

 

彼ら彼女らにとっての日常。

苦楽を共にする、シンデレラ達の居場所。

少女の理想、夢へと至る偶像の城。

 

そのシンデレラ城の前に、立っているシャドウアイドル。

 

「――――――。」

 

「――――――。」

 

「――――――。」

 

ライダー、本田未央。

アサシン、渋谷凛。

キャスター、島村卯月。

 

 

 

いや、「ニュージェネレーションズ」だけではない。

 

『――――――。』

 

合計14人。

今まで対峙した、シンデレラプロジェクトのシャドウアイドル。

声は聞こえない。

ただ幽鬼のように佇んでいるだけ。

 

「………………。」

 

カツ、カツ、カツ。と、足音が無人の大都会に響く。

一人で前へ、彼女たちの傍へ。

 

→「がんばれ…………!」

 

小言で祈るマスター。

結界は縮小した。完全に消え去るまで、もう長くない。

そんな中、彼は己に秘めた思いを告げる。

 

 

 

さあ、解答の時間だ。

 

 

 

 

 

『ぷろでゅーさー――――――ナンデニゲタノ?』

 

『ドウシテ?』

 

『ワタシタチノコト、チャントミテナカッタノ?』

 

 

 

ガラガラした声で、流暢に話しかけてくるシャドウアイドル。

話の内容は、恨み。

プロデューサーを責めるためだけに述べられた言葉。

 

 

 

『コワカッタ』

 

『ニゲタカッタ』

 

『クルシカッタ』

 

『ナンデ、タスケテクレナカッタノ?』

 

 

 

立て続けに述べられる怨念。

恨み辛みを、プロデューサーに吐き出していく。

苦しそうな表情で、しかし目を逸らさずに向かい合うプロデューサー。

そんな彼に、シャドウアイドル達は容赦なく罵声を浴びせる。

 

 

 

 

 

「ワタシ、あいどるニナンテナラナケレバヨカッタ!!」

 

 

 

 

 

その一言が、彼にとっては決定的だった。

 

 

 

「あなたたちは――――――、」

 

 

 

目を閉じる。

ここに来て、初めてアイドルから目を外した。

アイドル達にではなく、――――己自身に語りかける為に。

 

 

 

「島村さん達ではありません」

 

 

 

それは、シャドウアイドル達への否定の言葉。

アイドルの形をした影達が、一歩たじろぐ。

それを見て、解答が正解であることを悟った。

 

 

 

プロデューサーである彼の解答。

 

 

 

この結界にアイドル達は召喚されていない。

 

 

 

「かつて、私のせいで辛い思いをさせてしまいました」

 

「力不足で、考えが足りなくて、大事なことに気付けなくて」

 

「アイドルの皆さんに何度も助けられて、教えてもらいました」

 

「私のせいで、アイドルを辞めさせてしまった人がいました。シンデレラプロジェクトだって、消滅しかけたこともありました。アイドルを、辞めさせてしまうかも知れませんでした……」

 

「でも、……皆さんは乗り越えて、途中で立ち止まっても、最後まで歩き続けた!」

 

「どんなに辛くても、アイドルにならなければ良かった(・・・・・・・・・・・・・・・)とは言わなかった!」

 

彼女達は、普通の女の子たちだ。

泣いて、笑って、困難にぶつかって、それを乗り越えてきたアイドル達だ。

アイドルを辞めようと思っても、期待に押しつぶされそうになっても。

 

 

 

彼女達は――――、アイドルになったことに、後悔はしていない。

 

 

 

「貴方達はシンデレラ・プロジェクトの皆さんじゃない!私がかつて幻視した(・・・・・・・・・)私が一番恐怖する感情の具現です(・・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 

 

かつてのトラウマ。

己から離れ、去っていったシンデレラ達。

その彼女たちと、シンデレラ・プロジェクトのメンバーを重ねてしまった姿。

 

彼の宝具「魔法にかけられた女の子たち(シンデレラ・プロジェクト)」という器に、魔力と彼の恐怖が注ぎ込まれたことによる、アイドルサーヴァントのなりそこない。

 

それが、シャドウアイドルの正体。

そもそも、この結界にアイドル達は召喚されていないのである。

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■!!』

 

 

 

悲鳴を上げるシャドウアイドル。

それは、演じられた恨みではなく、突きつけられた正答への慟哭。

プロデューサーの感情そのものである影達は、もはやアイドルの姿すら保てずグズグズに溶けていく。

 

 

 

→「やった!!」

 

「先輩!!プロデューサーさんが、見事正解しました!」

 

 

 

結界が狭まる。

己の弱さと向き合い、アイドル達を信頼して出した答え。

アイドルをプロデュースする者として、彼はその資格を得た。

役割を終えたためか、結界は消滅へと進めていく。

 

 

 

 

 

しかし、――――――結界の消滅は、突如に停止した。

 

 

 

 

 

「これは…………?」

 

346プロダクションを中心に、中途半端に結界が残った。

消えていくビルは途中欠け。道路も不自然に寸断されている。

広くもないが狭くもない。

人間からすれば十分広いが、町とも区とも呼べない空間。

大きさにしてドームぐらいだろうか。

目算だが、大きく外してはいないだろう。

 

そして気づく。

 

グズグズに溶けたはずの影が、集まり、形を作り上げていく様を。

 

ボコボコと、沸騰するかのように容積を増していく。

14人の少女たち程の体積などではない。

巨大で、そして見覚えある姿へと変貌していく。

 

その姿、魔神影柱。

 

「なんなんですか、あれは……」

 

見覚えのないちひろが、そう言葉を漏らす。

深夜の結界舞台にしか居なかった筈の、魔神柱の再現である影。

だが、魔神影柱を元々生み出したのは――――他ならぬプロデューサーである。

 

「深夜結界の名残、感情の叫びから共鳴した残響。プロデューサー君の恐怖から生まれた影達が、かつての深夜結界舞台の情報を元に体裁を整えただけ、魔神柱の再現の再現だ(・・・・・・)

 

トラウマを、完全に払拭するなど簡単な事ではない。

アイドル達と同じく、等身大の人間であるプロデューサーには。

故に、プロデューサーの感情の具現たるあの影は、簡単には消滅しない。

負の感情は、正の感情を否定する。

こちらに向けられた確かな敵意。

 

これが、サーヴァントになる為の最終試練。

 

シンデレラの助けになれることを、戦いをもって証明せよ!

 

 

 

 

 

「皆さんの笑顔を咲かすために――――、『シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)』!!」

 

 

 

 

 

全員の衣装が変わる。

戦意は十分。もはや迷いは微塵もない。

やるべき事がはっきりした。

いまなら、魔神影柱だろうと怖くはない。

 

→「皆、行くよ!!」

 

マスターの号令をもって、最終試験のベルが鳴る。

魔神影柱との再戦が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)

シンデレラのキャスターであるプロデューサーの宝具。

女性にアイドル属性を付与し、その仲間たちに恩恵を与える効果を持つ。

発動には、対象の了承を得なければならない。

例えば、先の戦闘では恩恵こそ得ていたが、ちひろにアイドル属性は付与されていなかった。

これは、ちひろがマシュというシンデレラをアシストすることに集中していたためである。

そう、あくまで彼女はアシスタント。

主役ではなく、シンデレラを輝かせる役目を全うする従者の一人。

 

 

 

「これは、あの時の微睡(まどろ)み」

 

 

 

だが、もしも――――

 

 

 

「誰も知らない私の姿」

 

 

 

ちひろが主役(シンデレラ)になれるとしたら――――

 

 

 

「輝きましょう。四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)

 

 

 

それは、このような姿になるのだろう。

 

 

 

「――――綺麗…………」

 

→「…………うん」

 

思わずため息が漏れる。

一新したちひろの姿に、思わず目を奪われる。

 

スターリースカイ・ブライト。

 

シンデレラたちの白いドレス。

アシスタントであるちひろが、アイドル達と同じ衣装を身に纏う。

そうでいて、彼女の『馬車』は白馬と共に健在だ。

 

対己宝具、四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)

 

プロデューサーと同種の宝具である、自身を強化し、アイドルになる宝具(・・・・・・・・・)

千川ちひろ。

彼女は「御者」と「シンデレラ」両方の特性を持つサーヴァントなのである。

 

「ブルルッ!!」「フシュゥ!」

 

使い魔である『チーちゃん』と『ユーくん』が気合も十分に足を鳴らす。

白馬の「御者」で「友達」のちひろを乗せて、かぼちゃの馬車は走り出す。

千川ちひろという、シンデレラを乗せて。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

この世界は直に終わる。

 

勝敗に関係なく、結界は消滅する。

 

シンデレラの仲間達は、己の役割を貫く為に戦う。

 

影の魔神、感情の化身を倒すことで。

 

自身の存在を肯定する為に。

 

 

 

 

 




宝具:シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)

コマンド:Arts

味方全体の弱体状態を解除
+味方全体の最大HP(lv1)
+味方全体のアーツ性能をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>
+味方全体の女性サーヴァントに〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(バトル中永続)



宝具:四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)

コマンド:Arts

自身に〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(3T)
+敵全体に強力な攻撃〔Lv1〕
+スターを大量獲得<オーバーチャージで効果アップ>






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IF最終章 3つめのスキル

魔神影柱の猛攻が、広範囲へ波及する。

狭い結界内での範囲攻撃は、マスターにも小規模ながらダメージが入る。

その小規模でさえ、エーテル体とはいえ人間である立香には危険だ。

故に、いつだって頼りになってきた後輩、マスターの最終防衛ライン、――――マシュがいる。

 

「やああぁぁぁ!!」

 

大盾を振り回し、攻撃を弾き返す。

ピンクのティアラが燦然と輝き、シンデレラの霊基に恥じぬ美しさをもって戦っている。

 

「ふっ!」

 

剣を振るい、猛攻を見せるのは前衛を任されたマーリン。

キャスターであるが、この場で最も戦闘技能を持つため前衛に配置されていた。

魔術による防御と中距離攻撃、剣術による近距離攻撃を駆使して戦っている。

加えて、マシュやちひろに対しての補助魔術も同時並行しており、その技量の高さを存分に発揮していた。

 

「援護します!」

 

そんなマーリンを、さらにサポートするプロデューサー。

もとより、彼に戦闘技術は一切無い。

彼はあくまでプロデューサーであり、シンデレラの魔法使い。

自身ではなく、他者をプロデュースするのが彼の本領。

それを象徴するのが、スキル「プロデューサーA+++」。

最高ランクで獲得されたサポート系スキル。

 

「ありがとう。助かる、よ!!」

 

先ほどより、機敏に剣が動くマーリン。

目に見えて、強化されたのが分かる。

マーリンだけではなく、マシュやちひろに向けてもサポートを切らさない。

本物には劣るとはいえ、戦闘型サーヴァントを複数そろえて戦うべき魔神柱を相手取っている以上、彼のスキルによる援護は生命線とも言うべき状況だ。

 

「チーちゃん!ユーくん!頑張って!」

 

己の使い魔にして、シンデレラの友である白馬(ネズミ)に激励を飛ばすちひろ。

カルデア側における最大火力である彼女は、マーリンとプロデューサーの補助もあって空中を疾走している。

突進により少なくないダメージを与えるが、決め手にはならない。

役割柄、肉体的負担が最も多く、ちひろや白馬達にも疲労とダメージが見える。

 

 

 

→「令呪を持って全サーヴァントに命じる、負った傷を回復せよ!」

 

 

 

令呪を使用し、サーヴァント達のダメージをリセットするマスター。

対象を散らした為に効果は薄まるが、『負った』傷を回復するという命令の為、ダメージの多いサーヴァントに効果が集中することで活用した。

 

 

 

→「さらに令呪を重ねて命ず、――――――皆でこの試練に合格しよう!!」

 

 

 

さらに、最後の令呪を魔力タンク代わりに使用する。

踏ん張りどころであると判断し、もう一押しのための力に変えた。

 

「はい!」

 

「了解だよ」

 

「分かりました!」

 

「もちろんです!」

 

サーヴァント達が気合十分に返事をする。

魔神影柱は、彼らにとって倒せない相手ではない。

戦闘に秀でてなくとも、そのポテンシャルをもって影の魔神を押し返す。

前回のような、複数の魔神影柱が相手であれば話は違っただろう。

だがしかし、此度の相手は一柱。

増援も、援軍も、魔神影柱には無かったのである。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

魔神影柱が崩壊を始めた。

令呪をも武器にした戦力に、勝利の天秤がカルデアへと傾いている。

後一押し。

最後の一撃はシンデレラのライダー、――――千川ちひろに託された。

 

 

 

「これで、――――幕引きです!!」

 

 

 

白馬が嘶き、馬車が込められた魔力によって光を纏う。

かぼちゃの馬車は、シンデレラの為にある。

使い魔の白馬達は、友の為に全力で走る。

彼女の騎乗スキルが最大限機能するのは、シンデレラを乗せ、かぼちゃの馬車の形態になった時。

千川ちひろの最強攻撃。

四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)を発動し、使い魔に騎乗しての突進攻撃。

 

そして、さらに威力を底上げする為、最後の切り札が発動する。

 

 

 

 

 

令呪を持って命じます(・・・・・・・・・・)――――――――」

 

 

 

 

 

令呪が輝き、そのリソースがちひろへと宿る。

だがしかし、マスターの令呪は既に無い。

三画の令呪は、先も含めた激闘の中で使い切った。

サーヴァントへの絶対命令権は、マスターしか持たない。

 

だがここに、とある称号(・・)を持つ者が存在する。

 

 

 

 

 

「千川さん、――――勝って下さい!!」

 

 

 

 

 

莫大な魔力が迸り、速度と威力が増していく。

これがプロデューサーの3つめの固有スキル、「アイドルマスターEX」。

アイドルにのみ有効な三画の令呪を保持する評価規格外スキル。

ルーラーの最高特権、クラススキル「神明裁決」と同種の――――――令呪を行使できるスキル。

 

 

 

→「いっけええええぇぇ!!」

 

 

 

突撃が炸裂する。

シンデレラの従者達による、協力の一撃。

 

 

 

令呪という願いを乗せたかぼちゃの馬車は、――――――魔神影柱を貫いた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

→「………………勝った……?」

 

「の、でしょうか?」

 

動きが止まり、大きな風穴の開いた魔神影柱。

それを成した馬車に乗るシンデレラ(ちひろ)は、マスター達の方へと帰還する。

皆、疲労の色が濃い。

だが、この戦いはカルデアの勝ちで決着である。

もはや、あの影達は形を保つことすら不可能なのだから。

 

 

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

 

 

魔神影柱が発狂する。

形を保てないなりの、魔神影柱最期の足掻き。

もとよりあれらは、プロデューサーの恐怖(かんじょう)の具現。

その感情が昂ぶり、風穴を中心に影が集中する。

 

 

 

「これは!?残った魔力が暴走している!このままじゃ、ここも無事では済まない!」

 

 

 

溢れ切った感情は、文字通り爆発しようとしている(・・・・・・・・・・・・・・)

シャドウサーヴァントの影が溶け、渦となって加速する。

溶けた影が集まって、一つの球体に――――爆弾になった。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

始まった暴走。

制御できない感情の爆発へのカウントダウン。

その破壊力は、根本の燃料であるプロデューサーの感情の強度に比例する。

彼の信念、アイドル達への想いが強いために威力も規模も格段に大きい。

 

 

 

ザッ。

 

 

 

マシュが無言のまま、庇うように前に出た。

爆発(アレ)を防げば全てが終わる。

出来なければ、エーテル体とはいえマスターと共にその魂が砕かれるだろう。

この結界における最後の役割。

完全勝利の為の全身全霊の防御。

それらが全て、あどけない少女の肩に圧し掛かっている。

 

 

 

「…………マシュさん」

 

 

 

プロデューサーが令呪を構える。

彼の宝具によってアイドル属性を付与されているマシュもまた、令呪の恩恵を享受できる。

 

 

 

「笑顔で居てください」

 

 

 

一画、令呪が消えた。

それは、マシュへ向けたアドバイス。

 

 

 

「――――はい!」

 

 

 

満面の笑み。

頭を過ぎったのは、カルデアに居るアイドル達。

彼女たちの笑顔は、いつだって皆の力になっていた。

自分だってそうだ。

なら、――――――自身もそうでありたいと思う。

 

 

 

「それと――――アイドルに、なってみませんか?」

 

 

 

一画、最後の令呪が消える。

彼の言は、もはや命令ではなく。

だがそれは、どんな命令にも勝る願い。

 

 

 

「――――――こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 

二画の令呪がマシュに宿る。

プロデューサーから、新人のアイドルへ。

新たなシンデレラガールズに彼の宝具、シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル) が反応した。

 

 

 

 

 

「これは少女の理想」

 

 

 

「夢へといたる偶像の城」

 

 

 

「共鳴せよ!」

 

 

 

 

 

乙女よ永久に(キャッスル・オブ・)――――偶像の城(シンデレラ)!!」

 

 

 

 

 

城が、現れた。

キャメロットが白亜の城であるならば、そのシンデレラ城は純白の城。

屋根の色はカラフルで、ピンクとブルーとオレンジ色。

その城は本来何処にも存在せず、偶像としてのみ人々(ファン)の心に刻まれている。

少女達が夢見る、偶像であり虚像の城。

 

 

 

「はあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

爆発を受け止める。

一歩も引かず、宝具を展開し続けるマシュ。

彼女が獲得した、シンデレラ時限定宝具『乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)』。

夢を守る特性を持つ防御であり、他者から守られる(・・・・)宝具でもある。

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』は精神の守り。

 

己の心が壊れなければ、その盾は決して壊れない。

 

乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)』は、ある意味ではその逆。

誰かに夢を与え、またその誰かから力を貰う。

 

他者の夢が砕かれぬ限り、その盾は決して砕かれない。

 

ファンからの応援、信仰心、届けられた希望がそのまま力になる。

それは、この場にいない『誰か』からも。

今までの旅路、関わってきた人たち。

マシュを応援したいと想う人々の心が、彼女の宝具を強化する。

 

 

 

その姿はまさに、紛れも無いシンデレラの形。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

短い時間、従者たちとの試練は終わりを迎える。

 

最後の爆発も防ぎ切り、ここに新たなサーヴァントが2騎誕生した。

 

シンデレラ達に寄り添う、二人の従者。

 

アシスタントとプロデューサー。

 

彼と彼女は走り始める。

 

『アイドルマスター』の名に恥じない為に。

 

そして何より、アイドル達のために――――――。

 

 

 

 

 




マシュ・キリエライト[深夜の舞台衣装]時のスキル・宝具が開放されました。

真のアイドル(偽)B+++ 自身のHPを回復〔lv1〕+毎ターンスター獲得状態を付与〔lv1〕(5T)[CT9]

焦がれ歌う少女の盾 味方全体の攻撃力&防御力アップ〔lv1〕(3T)[CT7]

一会を心に夢幻の守り 自身にターゲット集中状態を付与(1T)+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ〔lv1〕(1T)[CT7]



宝具:乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)

味方全体に強化解除耐性をアップ<オーバーチャージで効果アップ>
+味方全体に無敵状態を付与(1T)
+味方全体の防御力をアップ〔Lv3〕




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マテリアル シンデレラのキャスター&シンデレラのライダー

マテリアルが更新されました。


 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「シンデレラのキャスター……。えっと、プロデューサーと呼ばれています」

 

「あの、名刺をどうぞ……。こういう者です」

 

 

 

真名:シンデレラのキャスター(プロデューサー)

 

クラス:キャスター

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D

耐久:C++

敏捷:D

魔力:C

幸運:B+++

宝具:A+

 

身長/体重:185cm(初期設定)・不明kg

 

出典:アニメ・アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本

 

属性:秩序・善 性別:男性 隠し属性:地

 

「皆さん、いい笑顔です」

 

プロフィール

 

346プロダクション所属のアイドル部門プロデューサーの一人。

強面な外見に反して、生真面目で真っ直ぐな性格をしている。

彼がアイドルをスカウト、プロデュースする一番の指標は「笑顔」。

それぞれのアイドルが持つ「笑顔」を、より輝かせるという信念を持って仕事へ打ち込む。

かつてはアイドルとのコミュニケーションが上手くいかず、彼の元からアイドルたちが離れてしまった過去から、アイドルたちとは最低限しかコミュニケーションをとらずに決定事項のみしか情報を開示しなかった

そんなシンデレラを運ぶだけの物言わぬ車輪となっていた彼だったが、それを覆したのもアイドルたち。

彼女たちの言葉を受け、彼は再びシンデレラを変える魔法使いの姿を取り戻した。

 

保有スキル

 

プロデューサーA+++ 味方単体のバスターカード性能アップ+アーツカード性能アップ+クイックカード性能アップ〔Lv1〕(3T)[CT8]

 

強面B+ 敵単体に中確率でスタンを付与〔Lv1〕+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ(3T)〔Lv1〕〔CT7〕

 

アイドルマスターEX 味方単体の〔アイドルサーヴァント〕のHP大回復〔Lv1〕&NPをすごく増やす〔Lv1〕〔CT8〕

 

クラススキル

 

陣地作成(場)B+++ 自身のアーツカード性能アップ

 

道具作成(計画)B 自身の与回復量アップ+味方全体(控え含む)のNP獲得量を少しアップ

 

宝具:シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)

ランク:A+

種別:対アイドル宝具

コマンド:Arts

味方全体の弱体状態を解除

+味方全体の最大HP(lv1)

+味方全体のアーツ性能をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体の女性サーヴァントに〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(バトル中永続)

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

 

 

プロデューサーA+++

 

他者をプロデュースする技術。幾人もの人気アイドルを生み出した彼は、これをA+++ランクで所持している。

他者がとる行動をサポートし、効力を上昇させるスキル。

通常攻撃、魔術、スキル、宝具でさえも効果を引き上げることが出来る。

彼の大きな功績、優れた能力がスキルへと昇華された。

知名度の上昇もサポートできるので、スキル「真のアイドル」と非常に相性がいい。

 

強面B+

 

外見の恐ろしさ。生まれつきの人相。

体格、容姿に加えて、何度も不利益を被った逸話から獲得するに至った。

他者へ向ける威圧感であり、陥った不条理からの挽回に長けてもいるという二つの側面を持つスキル。

 

アイドルマスターEX

 

とある称号を示したスキル。逸話の詳細は不明。

効果は限定的だが、かなり強力。

アイドルサーヴァントに対してのみ有効な、三画の令呪を保持している。

通常の聖杯戦争であれば回復しないが、カルデアによって召喚されている場合は一日に一画回復する。

このスキルを保持する条件は、アイドルに対して不条理な命令をしない者に限られる。

アイドルに対して利己的な命令を抱き、実行しようとした瞬間にこのスキルは永久的に失われる。

たとえスキル保持者が操られたとしても、令呪によって強制されたとしても、このスキルは一切の不可侵として扱われ、他者は干渉も使用もできず、譲渡も不可能。

スキルを獲得、コピー、無効化する能力があっても、条件を満たさない限り習得は絶対不可能。

アイドルのことを第一に考え、支えることができる人物にのみ獲得、使用が許されるスキルである。

 

クラススキル

 

陣地作成(場)B+++

 

アイドルたちが輝く会場を作ることができる技能。

本職であるプロデューサーであるがためにアイドルたちよりも高いランクで保持している。

彼もまた、複数人で作業することに特化している。

あくまでプロデューサーであるため、一人で大掛かりな製作することは難しい。

その代わり、アイドルたちよりも多種多様な会場を用意することが出来る。

 

道具作成(計画)B

 

計画書や企画書を作成することを得意とする。

ただ作成するだけでなく、立てた企画を正確に伝え、理解してもらうことも含まれる。

理解はしてもらえるが、対象の確固たる決意や信念を曲げることはできない。

作成した書類に沿って行動する際に、基礎ステータスや行動判定にボーナスがかかる。

対象となるのは、書類に記載されている人物全て。全員から、もしくは代表者から承認を得ることで効果が発揮される。

不測の事態に陥った場合は、企画者がアドリブを持って計画を修正すれば対応することが出来る。

生真面目な彼の性質が、クラススキルに非常によく反映された結果である。

 

宝具:魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)

ランク:C~A+

種別:合体・結界宝具

 

アイドル達の絆の象徴。アイドルサーヴァントを召喚する固有結界。

アイドルサーヴァント達が所持するものと違い、全てのアイドルは召喚できない。

召喚が可能なのは、自身がプロデュースしたアイドル及び『シンデレラの御者』のみ。

他のアイドルの宝具と同時発動することで、この制限は撤去される。

種別に合体宝具が含まれているのはこのためである。

アイドルサーヴァントとの最大の違いは、彼が『シンデレラの魔法使い』という幻霊を有していること。

女性に魔法をかけ、変身させるという過程において『英霊の座』を経由する。

召喚されるアイドル達は『シンデレラ』を寄り代とした擬似サーヴァントとして召喚される。

故に、アイドルサーヴァントの時代による召喚制限が無い。

そもそも召喚されるアイドルサーヴァントは例外無く『魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)』を所持している。

そのため、ほぼ確実に合体宝具として発動ができるので事実上全てのアイドルを召喚可能である。

 

宝具:シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)

ランク:A+

種別:対アイドル宝具

 

彼のプロデュースの本領であり、数多のトップアイドルを生み出した功績。

そして、アイドルプロデュースに対する信念である「笑顔」。

その根幹を全面的にプッシュする方針が宝具化したもの。

効果範囲内の女性に対し同意を得た場合、その人物にアイドルの特性を付与できる。

その際、対象となった女性は善属性へと例外なく変化し、精神性もそのように引っ張られるようになる。

彼のスキルとの関係上、宝具が適応すれば自身の令呪の重要度が大きく増すことになる。

女性をシンデレラへと変身させる側面とアイドルを守護する二面性を持つ宝具。

過去によるトラウマを乗り越え、もう二度とアイドルから目をそらさないという決意の表れ。

アイドルが相手であるならば、彼はプロデューサーとしての本領を遺憾なく発揮する。

また男性相手でも効果がある。スタッフやプロデューサーという同僚として、あるいは同じファンの一員として、アイドルと共に歩む仲間として行動する。

仲間全てに対して、活力、希望、夢を与える宝具でもある。

各々の個性を伸ばすのが彼の信念であるため、味方に与える効果は一定ではない。

宝具やスキルのランクが伸びるのか。それとも新たな力を獲得できるのか。もしくはクラスをも変えるのか。

彼の魔法の効果がどのように影響するのかは、彼自身にもわからない。

ただ、そこに笑顔が咲くことは確かだろう。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 紳士用スーツ服

 

第二段階 紳士用スーツ服

 

第三段階 紳士用スーツ服

 

 

 

 

 

英霊召喚

 

「改めまして。アシスタントの千川ちひろです。何か困った事があれば、いつでも呼んでくださいね」

 

 

 

真名:シンデレラのライダー(千川ちひろ)

 

クラス:ライダー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D

耐久:E

敏捷:C

魔力:D

幸運:A+

宝具:A+

 

身長/体重:154cm・ヒミツkg

 

出典:アイドルマスターシンデレラガールズ

 

地域:日本・東京

 

属性:中立・善 性別:女性 隠し属性:地

 

「お疲れ様です!マスターさん!」

 

プロフィール

 

プロデューサーを助けるアシスタント。プロダクションに所属する事務員の一人。

業務の合間にドリンクを差し入れすることが日課となっている。

ライダークラスらしく複数の宝具を所持し、肉弾戦を苦手とするタイプ。

ただし、スキルの効果を発揮した場合はその限りではない。

プロデューサーやアイドルを支える強い味方。

そのためか他者を支援することに秀でたサーヴァント。いろんなお仕事をこなす万能型。

アイドルやプロデューサーからは親しまれている一方、有能だが謎の多い人物として認識されているようだ。

 

保有スキル

 

アシスタントA+++ 味方単体の弱体状態を解除&弱体無効(1回・3T)を付与+毎ターンHP回復状態を付与〔Lv1〕(5T)[CT9]

 

二重召喚B 自身のNP獲得量をアップ〔Lv1〕(3T)+アサシンクラスに対する攻撃及び防御相性不利を打ち消す状態を付与(3T)[CT7]

 

コスプレ・パーティーEX  自身のバスター性能アップ&アーツ性能アップ&クイック性能アップ〔Lv1〕(3T)+自身の防御力をアップ(3T)[CT8]

 

クラススキル

 

騎乗B++ 自身のクイックカード性能アップ

 

気配遮断B++ 自身のスター発生率アップ

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカード性能アップ

 

道具作成(ドリンク)C++ 自身の回復量アップ+与回復量アップ

 

宝具:四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)

ランク:A++

種別:対己宝具

コマンド:Arts

自身に〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(3T)

+敵全体に強力な攻撃〔Lv1〕

+スターを大量獲得<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:1 Arts:2 Quick:2

 

 

 

アシスタントA+++

 

スキル「プロデューサー」と同系統のスキル。

あちらが対象の持つ能力・個性を伸ばすスキルであるのに対し、こちらは魔力消費やデメリットを回避することに優れている。その立場からか、直接的な知名度上昇の効果は無い。

味方の弱点・欠点を抑える効果と長期間に及ぶ回復効果を持つ。

以上とは別に、彼女の差し入れするドリンクには回復効果があるのだが、ドリンク自体に魔術的効果はない。

ドリンクに対して付与されたこのスキルによる効果であり、保存期間が短いのも込められた魔力が切れてしまうからである。

逆を言えば、魔力の漏洩を防止すれば保存期間が延ばせるが、ちひろ自身はその技術を持っていない。

 

二重召喚B

 

二つのクラスを兼ね備えたサーヴァントであることを示す、きわめて希少な特殊スキル。

本来は、召喚者が召喚の際に特殊な条件付けを行わなければならない。

彼女のライダークラス適正の大本は、「シンデレラの馬車の御者」。

「魔法使い」とは別のシンデレラを舞台へ送り届ける役回り故の適正。

加えて、彼女の場合は「シンデレラ」や「魔法使い」の影に徹する姿勢、アイドルたちの「有能だが謎の多い人物」というイメージからアサシンクラスを獲得した。

「シンデレラの御者」という幻霊と「千川ちひろ」が合わさることによって構成された疑似サーヴァント故のスキル。

シンデレラというビッグネームやアイドル達ほどの信仰心を持たないため、このような形をとることで召喚された。

 

コスプレ・パーティーEX

 

彼女の趣味であり個性。

様々な衣装を貯蔵、早着替えできるスキル。

衣装に応じて、特定の技術を獲得できる。

様々な状況に対応可能であるが、複数の衣装を同時に着れないため、追加できる技術は一種のみ。

水着を着て水泳技術、ナース服で看護技術などといった調子だが、特化した英霊などには及ばない。

上記のことを差し引いても、きわめて汎用性が高い。

事務所にまで及んでいるちひろの趣味が最大限反映されたスキル。

書類整理に洗濯、運転、戦闘と何でもござれである。

 

クラススキル

 

騎乗B++

 

乗り物に乗る能力。

シンデレラを送り届ける御者という特性のため、他人を乗せる場合において高い能力を発揮できる。

なお、彼女自身が所持している騎乗物は大きめの普通車のみ。

ただし、その特性ゆえに『コスプレ・パーティーEX』の衣装や状況に応じて外見や機能が変化する。

もっとも高いパフォーマンスを発揮できるのは、かぼちゃの馬車の外見時である。

 

気配遮断B++

 

影ながらサポートし、その優秀さを表にはあまり出さない気質。

ひっそりと活躍し、敵味方問わずその手腕を知らさせない技術。

暗殺技術はまったく無いので『コスプレ・パーティーEX』適用時以外は、攻撃時のランク減少がアイドルと同様に著しい。

 

陣地作成(場)C+++

 

アシスタントという立場上、陣地を造るよりも、造る人をサポートするのに秀でている。

他者に陣地作成のスキルがある場合、その効力をより高められる。

ただ、やはり彼女もシンデレラに関わるものとして、一番造りやすいのはアイドル達が輝く舞台であるようだ。

 

道具作成(ドリンク)C++

 

彼女の習慣であるドリンクの配布がスキルへと影響されたもの。それ以外は製作できない。

肉体の損傷を癒す「スタミナドリンク」、魔力を回復させる「エナジードリンク」の2種を製作可能。

彼女自身はドリンクの製作に秀でているわけではないため、ドリンクの製作後は数週間までしか効力が持続しない。

保存状態を良くしても、味の保持や腐敗の防止が出来るだけ。

期間が過ぎてしまえば、本当にただの栄養ドリンクでしかない。

賞味期限はしっかりと守りましょう。

 

宝具:かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)

ランク:B

種別:対人宝具

 

ちひろ由来の宝具では無く、『シンデレラの御者の幻霊』由来から所持するようになった宝具。

シンデレラを城へ届けるための移動用の宝具であり、攻撃よりもスピードに秀でている。

現代のシンデレラであるアイドル達にとって、現場への移動というのが主な用途であるため、基本的な形状は大きめの乗用車(バン)である。

もとよりアイドルの移動方法は車に限らない。

故に、船、ヘリコプター、飛行機などにも変化できる。

形が一定ではない概念的な騎乗物。彼女の騎乗スキルの特性上、他者を乗せていないと十全に扱えない。

最大限に効果を発揮できるのは、『かぼちゃの馬車』という形態をとり、シンデレラを乗せている場合。

この形態をとっているときに登場する2頭の『馬』が、彼女にとっての使い魔にあたる。

通常時には、白いネズミの姿をしており、ちひろから『チーちゃん』『ユーくん』と呼ばれている。

 

宝具:皆さん、お疲れ様です!(フルアップエナジー)

ランク:C++

種別:対陣宝具

 

ちひろが作成したドリンクと魔力を消費して発動する。

ドリンクであるためその効力を発揮させるには「飲む」という工程が必要だが、それを省略する宝具。ドリンク一つで範囲内の味方全体に効果がある。

無論、複数を対象とする場合相応の量のドリンクが必要になる。

味方の回復量が上限に達した場合、必要以上のドリンクを消費しない。

無駄な過回復が無いためドリンク効率がいいが魔力を消費する以上、緊急時以外ではあまり活用する意味が無い。

地面にこぼれているなどの「飲めない」ドリンクは利用できないため、ドリンクの容器を破壊されるリスクがある。

ただ、必ずしもちひろ自身がドリンクを持っている必要はなく、範囲内であれば壁越しでも使用できる。

 

宝具:四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)

ランク:A++

種別:対己宝具

 

逸話・由来不明の特別宝具。

とある昼下がりの泡沫の夢の実現。

自身がシンデレラとなり、キラキラ輝くステージへと至る。

宝具使用時、『コスプレ・パーティーEX』が自動的に適応され、アイドル衣装で固定される。

味方などの影響で衣装自体は変化しても、宝具終了までスキルの解除はできなくなる。

アイドル属性を自身に付与する宝具。

衣装を「着る」から「着飾る」へと変化することにより、衣装が全て宝具へと進化。

スキルを宝具へと昇華させる宝具でもある。

これにより複数の宝具を使い分け、クラスを超えた戦術を取ることが出来る。

最も強力な攻撃は、彼女の使い魔『チーちゃん』か『ユーくん』に騎乗しての突進攻撃。

シンデレラの馬車における動物。

「御者」によって騎乗する馬であり、「シンデレラ」が信頼する友と語られるネズミでもある。

「御者」と「シンデレラ」の両方を体現するちひろ故の真名開放。

本来アイドルではない彼女もまた、シンデレラに憧れる乙女なのだという証明である。

 

 

 

霊基再臨

 

第一段階 事務員服

 

第二段階 事務員服

 

第三段階 事務員服

 

 

 

 

 




おまけ:他の人物がスキルを獲得する場合

赤羽根P プロデューサーA+++

小規模に過ぎない765プロダクションのアイドル達を国民的アイドルへと導いた彼は、このスキルを最高ランクで獲得している。
対象のステータス、知名度が低い場合、上昇率が跳ね上がる。
ただし、その場合でも対象の潜在能力以上を引き出すのは難しい。

秋月律子 プロデューサーA

優秀な人物であり、765の仲間達と共に歩む人物でありながらAランク止まり。
これは、プロデューサーとしての側面と同時にアイドルとしての側面を持つ事が原因。
事実、スキル『真のアイドル』をBランクながら獲得している。
アイドルとプロデューサーのスキルを両方保持する珍しいスキル構成であるが同時に発揮することは出来ない。
これは、アイドルである自身を自己プロデュースする事が出来ないからである。

間島P プロデューサーA-

本気になった際のプロデュース力はきわめて高い。
が、いい加減な仕事や度が過ぎたイタズラをする事があり、その際にはランクが低下する。
筋骨粒々で肉体的性能が非常に高く、たとえどんな災難に見舞われたとしても必ず事務所に帰ってくる様は、熱心なプロデューサーなのだといえよう。

内匠P プロデューサーC+

本来はDランク程度しか発揮できない。
肉体労働やアイドルを守る気概があるため、ある程度ランクが上昇したが事務仕事などが大の苦手である為Cランク止まり。
プロデューサーでありながら、集団よりもユニット規模のチームワークを得意とする。
アイドルの扱い方が雑であり、上下関係も苦手だがプロデューサー業に努力する姿勢もある。

米内P プロデューサーB+

新米プロデューサーとしては十分高いと言えるランク。
熱血漢でありながら根は真面目。
彼のプロデュースは地道で着実であるが、かといって小さくまとまっているわけでもない。
発想の大きい仕事をする場合や大掛かりな行動にボーナスが多めにかかる。
大人なアイドルが好みではあるが、経験からジュニアアイドルのプロデュースを得意とする。

石川P プロデューサーA+++

交渉、通知、スカウト、トラブル解決、アイドルの体調管理、スケジュールの調整、間接的サポートなど非常に優秀であり、このランクは必然と言える。
欠点が少ないその様から、他者の妨害に対する耐性に優れている。

音無小鳥 アシスタントA+++

規模の小さい765プロダクションで事務以外の仕事にも携わり、プロダクションそのものを成長させた一員として最高ランクで獲得している。
デメリットの軽減に加えて、効力の上昇も同時に発揮する事が出来る。
小規模ゆえに、プロデューサーの手助けをより多くしていた事が由来。
うっかり屋で妄想癖があり、極たまにミスをするがご愛嬌。


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マテリアル マシュ・キリエライト 深夜の舞台衣装

マシュ・キリエライト[深夜の舞台衣装]時のマテリアルが更新されました


霊衣開放スキル解禁

 

「私、アイドルになったみたいです……。あの日のステージみたいに、精一杯歌いたい気分です。だから先輩、――――私の歌、聴いてくれますか?」

 

 

 

開放条件 結界の残響 IF最終章3つめのスキル をクリアすると開放

 

マシュ・キリエライトが深夜の結界で着た衣装。

シンデレラ(島村卯月)によって外付けされたシンデレラの霊基。

シンデレラのキャスターによって霊基を譲渡された場合も同じ姿となる。

宝具「シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)」による強化では、スキルと宝具を獲得する。

マシュ自身の任意で霊基を可変できるが、別々の霊基のスキル、宝具は両立できない。

加えて、シンデレラの霊基はかけた術者が現界していないと解除されてしまう。

根本の霊基がシンデレラではない為、「魔法使い」がいなければその「魔法」を保てないからである。

また、シンデレラ共通宝具「魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)」「シンデレラの舞踏会(スターライトステージ)」は所持していない。

ただし、召喚することはできずとも、召喚されることはできる――――――かもしれないが現状では不可能である。

 

 

 

保有スキル

 

真のアイドル(偽)B+++ 自身のHPを回復〔lv1〕+毎ターンスター獲得状態を付与〔lv1〕(5T)[CT9]

 

焦がれ歌う少女の盾 味方全体の攻撃力&防御力アップ〔lv1〕(3T)[CT7]

 

一会を心に夢幻の守り 自身にターゲット集中状態を付与(1T)+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ〔lv1〕(1T)[CT7]

 

クラススキル

 

対魔力A 自身の弱体耐性をアップ

 

騎乗C 自身のクイックカードの性能を少しアップ

 

陣地作成(場)C+++ 自身のアーツカードの性能をアップ

 

宝具:乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)

ランク:B+++

種別:対悪宝具

 

味方全体に強化解除耐性をアップ<オーバーチャージで効果アップ>

+味方全体に無敵状態を付与(1T)

+味方全体の防御力をアップ〔Lv3〕

 

 

 

真のアイドル(偽)B+++

 

最もシンデレラに近い者の証であるスキル。ファンからの信仰心を力にする。

無論、元々アイドルではないマシュにそういう意味でのファンはいない。

しかし、今までの旅路、カルデアで関わった人やサーヴァントたち。

マシュを応援したいという彼ら、彼女らの想いが信仰心となり、アイドルとなったマシュを後押しする。

他者から応援され、それに応えるマシュの姿は、紛れもないアイドルのカタチ。

やはり一番のファンというのはマスターであり、信頼すればするほどそれが彼女の力となって皆の応援に応えるだろう。

 

焦がれ歌う少女の盾

 

アイドルに憧れるマシュの焦がれるような思い。

その心が、彼女の本来の宝具、「いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)」に影響を受けたスキル。

使用者の精神力がそのまま防御力になる特性により、アイドル達への尊敬と憧れが物理防御に変換したもの。

カルデアへの帰還後、マシュの趣味に歌とダンスが追加された。

とても充実しているが、ステージに立ったときの強烈な達成感と、それに伴う心地よい疲労感を彼女は忘れることが出来ない。

故に、マシュは歌い続ける。歌い続ければ、いつかあの光景に至れるのだと想いながら。

それは、誰かのために歌う少女の姿。

少しして、アイドル達がカルデアに来ることになった。

ならば、そのステージにたどり着くのはそう遠くない未来になるだろう。

 

一会を心に夢幻の守り

 

アイドル達と出会い、共に体験した足跡。とある夏休みの大冒険の記憶。

深夜の決戦の中、アイドルを始めとする仲間たちを守るため、常に前へ出続けたマシュの覚悟がスキルへと昇華された。

他者の攻撃を引き付け、さらに守る対象が多いほど自身の魔力に補正がかかる。

具体的には敵の攻撃を中和し、魔力に変換して利用する。

誰かを守ろうとすればするほど、結果的に自身を守る力となるだろう。

 

宝具:乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)

ランク:B+++

種別:対悪宝具

 

シンデレラに至ったマシュが獲得した限定宝具。

人類史に存在しないはずの偶像、シンデレラ城を顕現させる。

もしかしたら、シンデレラ城のモデルとなった無名の城、失われた城があったのかもしれない。

しかし、この城はそのどれでもない。人々が思い描く空想、少女達の理想が宝具という形となった城。「無辜の怪物」ならぬ「無辜の城郭」。

他者の夢を守るマシュ。そんな彼女への応援という信仰心が、この宝具の源泉である。

たとえ側に誰かいなくとも、その背中には、マシュを支える幾人ものファンがいる。

マシュを応援する人々の想いが、その城壁を堅固なものにする。

人々の夢が砕かれない限り、その盾は決して砕かれない。

――――――――無論、マシュ本人も。

 

 

 

深夜の舞台衣装

 

アイドルという形状をとったシンデレラの霊基。

2012年の深夜結界舞台の衣装。

 

 

 

 

 



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IFエピローグ シンデレラと従者達

 残響は虚空へと消えた。

 

 試練の結界は閉じる。

 

 合格の証と共に、従者達はこの世界から去っていく。

 

 彼らが、辿り着く先は――――――。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 感情の爆発は終息した。

 その暴威から守り切り、一気に緊張が解けたのか膝から崩れ落ちるマシュ。

 

 →「マシュ!」

 

 味方を守る役目を果たした後輩に、駆け寄って支えるマスター。

 

「大丈夫です。ちゃんと無事ですよ、先輩」

 

 マシュの言葉通り、その身に爆発による傷は一つもついていない。

 強大な脅威を前に、マシュによって守られるその様はゲーティアとの戦いを髣髴とさせた。

 健気な笑顔を向けてくれるマシュの姿に、すべてが終わったことも含めて一安心する。

 

 そう、この結界のすべてが終わったのだ。

 

「お疲れ様です、皆さん。……この度は、私の事情に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げるプロデューサー。

 自分の未熟によって迷惑をかけたと、深く謝罪する。

 

 だが、それは二人の望むところではない。

 

 そのことを、ちひろが代わりに告げる。

 

「プロデューサーさん。謝罪でも間違いではないでしょうけど、カルデアの皆さんが言ってほしいのは、違う言葉のようですよ」

 

「えっ……はい……」

 

 襟を正し、マスター達へ向き直る。

 服装に乱れなく、ゆっくりとした所作で彼は最敬礼する。

 ちひろもまた、それに続く。

 

 

 

「本当に、――――――ありがとうございました!」

 

 

 

 硬い姿勢を崩せず、几帳面な様を崩さない。

 徹頭徹尾、丁寧に人に接するその姿。

 それが実に、彼らしいのだと思えた。

 

 

 

 →「どういたしまして」

 

「こちらこそ、です。お二人に会えて、共に過ごせたことに感謝します」

 

 ちひろには、とても頼らせてもらった。

 サポートも前衛もこなせる人物として、マスターを支えるマシュには非常に参考になっていた。

 

 プロデューサーには、彼の宝具によって、一時的にとはいえマシュはアイドルとなったのだ。

 シンデレラの魔法使いが、マシュという女の子に『魔法』をかけてくれた。

 それはまるで、君はアイドルになれる、と言われたようで。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「あっ、壁が……」

 

 →「崩れていく……」

 

 マシュの言った壁とは、建物の壁面のことではない。

 それは、結界の壁。世界の際。

『無』と結界を隔てていた境目が、ボロボロと崩れていく。

 

 この世界は終わる。

 

 プロデューサーとちひろはそのまま消えるのだろう。

 擬似サーヴァントは、現実に生きる本人に支障は与えない。

 なら、マスターとマシュはどうなるか。

 レイシフトはできない。カルデアと連絡がついていないからだ。

 プロデューサーとちひろは、カルデアへの戻し方を知らない。

 引き込まれたのは、カルデアの二人の方なのだから。

 

 ――――だが、その心配はこの場において無用である。

 

「戻る心配ならしなくていいよ。僕のクラスと種族、忘れたわけじゃあ無いだろう?」

 

 キャスターのサーヴァント、花の魔術師マーリン。

 彼の種族は人間と夢魔(・・)の混血。

 夢の世界に入り込んだマスターとマシュを唯一見つけ出した。

 ここまで自力で来たのだから、帰ることも出来るという事。

 マスター共々エーテル体であるが、連れて帰れると断言する。

 カルデアの通信すら届かない場所だというのに、当然の如く。

 

 →「じゃあ、頼んだよマーリン」

 

「うん、任された。安全無事に二人をお連れしよう」

 

 やや芝居がかったように、少々大げさに言うマーリン。

 舞台の上の役者のように。

 物語の最後として、美しく幕を閉じる為に。

 

「では、私たちはこの辺で」

 

「……重ね重ねですが、ありがとうございました」

 

 毅然としたちひろと、ぺこぺこと頭を下げるプロデューサー。

 両者は光に包まれる。

 試験を終えた彼らは、これよりサーヴァントとしての始まりに至る。

 

 

 

 →「またね」

 

「またいつか」

 

 

 

 手を振る二人に笑顔を向け、シンデレラのキャスターとライダーはこの世界から去っていった。

 従者の役目を始める為に。

 彼ら二人が消えた後、自分達も光に包まれていく。

 レイシフトに近い感覚。

 マーリンを信頼し、この感覚に身を任せる。

 三人の姿は、粒子となってカルデアへと出発する。

 

 従者は去り、カルデアもまた帰還し、試練の世界は消滅した。

 

 そして、この場所には再び、『無』のみが存在することとなった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデア マイルーム AM07:28

 

 

 

 

 

 →「う……ん……。……朝?」

 

 カルデアで、目を覚ますマスター。

 少しだけポケーっとするが、すぐに自身の記憶から何が起こったかをサルベージする。

 短くも濃密な、シンデレラの従者たちとの時間。

 夢の中の世界で繰り広げた試練。

 それらを無事に乗り越え、今カルデアに帰ってきたことを自覚した。

 

 コンコン。と、ノックの音が鳴る。

 マイルームのドアの向こうから聞こえた音が誰によるものか、予想するのは簡単だった。

 

 →「どうぞ」

 

「先輩、失礼します」

 

 想定通り、やって来たのはマシュ。

 次点でマーリンだったが、彼はどうやら来ていない。

 自分の仕事は終わった、という心積もりなのだろう。

 何か問題があれば話は別だろうが。

 

「おはようございます。夢の世界について、先輩に報告をしようと思いまして」

 

 →「うん、わかった」

 

 特異点の影響は、どのように残っているかわからない。

 カルデアに戻り、何か不具合は出ていないかを確認するまでが彼らの仕事である。

 特に、今回の出来事はカルデア側と連絡が取れなかったので、どう観測していたかは不明である。

 

「カルデアでのことですが、私達の意識が抜けていることを、ダ・ヴィンチちゃん達はすぐに察知していたそうです。ただ、どの年代にも私たちの反応が無かった為に、探すのは困難を極めたそうです」

 

 それは確かに当然だ。

 あの世界は世界の狭間。

 人類史上に存在しない空間なのだ。

 今までも、そういった事例はあった。

 ジークと出会った大聖杯の中でもまた、終始カルデアと通信はできなかったのだから。

 

「その際に、マーリンさんがカルデアにいないことをホームズ氏が察知。逸早くマスターの元へと向かったと推理した為、カルデアでパニックが起こることは無かったそうです」

 

 英霊達はもちろんだが、この推理によって、カルデア職員達が落ち着いて観測(しごと)ができたのが大きかったらしい。

 立香はサーヴァントたちを律する事が出来る楔であり、カルデア職員にとって、今まで共に過ごしてきた大事な仲間の危機だったのだから。

 ただ、そんな中で何も言わずに一人だけで勝手に行動していたのがマーリンらしいといえばマーリンらしいのだろう。

 

「こちらでの時間と夢の世界との時間は、ほぼ同じ。つまり、ほんの数時間……私達が眠っていた、睡眠時間と同じでした」

 

 あの空間では、移動時間の殆どが車だった。

 深夜結界よりも狭いこともあり、かかった時間は長くなかった。

 時間という概念が薄い状況ではあったが、彼らと出会ってから数時間しか経っていなかったのだ。

 まあもとより、それ以上はあの固有結界を維持できなかっただろう。

 

「私たちの意識が戻り、カルデアに帰還したことは眠っている間に確認できたようです。睡眠が必要な私達は一旦休ませて、マーリンさんから事情を聞いていたようなので」

 

 ということは、マーリンは本当に仕事を終わらせていたらしい。

 夢の世界は彼の得意分野。

 マーリンの尽力によって、安全に帰還できた。

 後でまた、お土産を持ってお礼に行くと決める。

 今回の功労者であり、おいしい所を持っていった彼に。

 

 

 

 タタタタタタタッ!!

 

 

 

 足音がする。それも複数。付け加えるなら十数人。

 その音は徐々に近づいており、主はこのマイルームにやって来た。

 部屋の外で慌てた表情をしているのは、ニュージェネレーションの面々。

 

 

 

「大変、大変ですー!!マスターさ、うわあぁ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「あぶなっ!?」

 

 

 

 大急ぎでドアを開けたは良いが、一緒に後ろからやって来た後続が減速できずにニュージェネの三人にぶつかった。

 全員が揉みくちゃになり、人の山になっていたのは十四人。

 それは、あの世界でシャドウアイドルとなっていたメンバーと一致する。

 

 緒方智絵里。

 三村かな子。

 神崎蘭子。

 諸星きらり。

 双葉杏。

 前川みく。

 多田李衣菜。

 新田美波。

 アナスタシア。

 赤城みりあ。

 城ヶ崎莉嘉。

 本田未央。

 渋谷凛。

 島村卯月。

 

「イタタタ…………、って、大変大変なんですマスターさん!!」

 

 今の状況も割りと大変だと思うが、普段大人しい卯月がここまで慌てているのも珍しい。

 それもそのはずと、次の言葉で理解することとなる。

 

 

 

「あの、マスターさんは知らないと思うんですけど、――――――新しいサーヴァントさんが二人、召喚されてたんです!!」

 

 

 

 →「あっ……」

 

 

 その様子と今までの経緯から、誰が来たのか把握した。

 なるほど、ならば彼女達が全員大慌てになっているのも納得がいく。

 

 

 

 

 

「その召喚された二人が、私たちのプロデューサーさんと事務員さんなんです!!」

 

 

 

 

 

 彼らがカルデアに召喚されたのは至極当然。

 あの結界の試験を終え、エーテルの体が崩壊して消えていった彼ら。

 サーヴァントが消えていくとき、その分霊は英霊の座に帰っていく。

 擬似サーヴァントであれば、少なくとも本来の肉体を持つ人物達には影響を与えない。

 だが、あの空間はサーヴァントとして始まるための(・・・)場所。

 アイドル達の力になれるかどうか、従者(なかま)として加わる為に。

 これから(・・・・)擬似サーヴァントとして召喚されるのならば、それはアイドル達がいる場所に他ならないのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「それでは、皆準備して~」

 

 最初の音頭をとるマスター。

 カルデアの食堂は、あの時のように飾り付けられていた、

 中心にいるのは、二人の男女。

 主役であることに慣れていない二人は、気恥ずかしさを隠せないでいる。

 そんな彼らを畳み掛けるように、クラッカーと共に一斉の祝言が告げられた。

 

 

 

 

 

「「「「プロデューサーさん!!ちひろさん!!カルデアへようこそ!!」」」」

 

 

 

 

 

 アイドル達の祝福。

 担当したアイドル達も、そうでないアイドル達も同様に。

 今回の主賓。

 シンデレラの魔法使い(キャスター)とシンデレラの御者(ライダー)

 プロデューサーと千川ちひろ。

 普段は中心に立たない二人が、今回の主役。

 試練を乗り越えた彼らは、アイドル達を支え続けていくだろう。

 今までのように、これからもそうであるように。

 いずれ来るであろう、引退(おわり)の時が来るまで。

 アイドルマスターの称号を持つ者として。

 

 ただ今は、この時を共に過ごそう。

 

 シンデレラとカルデアに、新しくも頼もしい仲間ができたことを。

 

 仲間と共に、祝宴を楽しみながら。

 

 

 

 

 

 結界の残響編 終

 

 

 

 

 




特異点クリア報酬

シンデレラのキャスター 獲得

シンデレラのライダー 獲得

※上記のサーヴァントは、各高難易度クエストをクリアすることで追加獲得できます。
(高難易度クエストの投稿予定はありません)

追記 魔術礼装 「深夜の呪術衣装」

SKILL 1 「生命変換」 味方単体の最大HPアップ+NPダウン(デメリット)

SKILL 2 「呪術障壁」 味方全体に被ダメージカット状態を付与

SKILL 3 「痛覚集中」 味方単体にターゲット集中状態を付与





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番外異聞帯 ■■■■■■■■■■■■

エイプリルフールネタです。(ネタバレ)


それは、失われた異聞。

過った選択、過った繁栄による敗者の歴史。

並行世界論にすら切り捨てられた、行き止まりの人類史。

滅びのみが終点となった世界、剪定事象。

またの名を、――――――異聞帯(ロストベルト)

 

 

「ここは、今までの異聞帯(ロストベルト)とは決定的に異なっている。何せ、クリプターがいない(・・・・・・・・・)のだから。」

 

 

そこは、月が崩壊した日本。宇宙に漂う月の欠片、コンペイトウ群。

災厄「ロストアルテミス」から復興する歴史。

 

 

「クリプターが意図せず生まれたのだよ。ばら撒かれた種によって発芽した、野生の空想樹(・・・・・・)が。」

 

 

降り注ぐ巨大隕石(ドロップ)から、人々の日常と繁栄を守る者達。

特定の資質を備えた、オーディションに選ばれた女性たち。

 

 

「天海、春香さん……?」

 

「えっと、どちら様ですか?」

 

 

彼女らが駆るは大気圏外で活動する巨人型重機。

隕石の破壊・除去を目的とした守護者。

 

 

→「巨大ロボットが、居る歴史……」

 

「先輩の目が、またキラキラしています!?」

 

 

その機械の名は、「immortal Defender Of Legatee」。

直訳で「遺産相続人の永遠の守護者」。

頭文字をとった通称は、「iDOL」。

 

 

「どこ所属の『iDOL』かは知らないけど、ボクも負けてやるわけにはいかないよ!」

 

「いきますよ!きらりちゃん!」

 

「おっけー!春菜ちゃん!」

 

 

「iDOL」に乗り、宇宙(ソラ)を舞う。

彼女達は登場するロボットにちなみ、こう呼ばれている。

 

 

「許さない……。ゆるさない。ユルサナイ!」

 

「バーサーカーのサーヴァント!」

 

 

『アイドルマスター』。

人格を持つ構造体『iDOL』のマスターだと。

 

 

 

 

 

「この異聞帯は接ぎ木(・・・)だ。剪定の対象になっていた枝を、強引に継続している」

 

 

 

 

 

この異聞帯は、継続そのものが不確定。

 

剪定の対象となりながらも、それを回避せんと動く者。

 

剪定を進めんと、裏側で動く者。

 

カルデアは、彼らの死神になるのか。

 

それとも…………

 

 

 

 

 

「空想樹が……動いてる……?」

 

 

 

 

 

異聞深度_@

 

 

 

亡月復興世界ゼノグラシア

 

偶像体の主

 

 

 

coming soon………?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

異聞帯サーヴァント

 

 

 

真名:天海春香

 

クラス:ライダー

 

レアリティ:☆5

 

パラメーター

筋力:E

耐久:E

敏捷:D

魔力:C

幸運:A+

宝具:EX

 

身長/体重:158cm・45kg

 

出典:アニメ・アイドルマスターXENOGLOSSIA

 

地域:日本

 

属性:中立・善 性別:女性 隠し属性:人

 

「大丈夫。アナタ自身がすごい人だから」

 

プロフィール

 

巨大ロボット『iDOL』インベルのアイドルマスター。

上京した際に、災害復興の為の国際組織日本支部「モンデンキントジャパン」と謎の組織「トゥリアビータ」との戦闘に巻き込まれる。

そして、自身が合格したオーディションが芸能人ではなく、『iDOL』の操縦者たる『アイドルマスター』を探す為のものだったと知ることになる。

その後自身を助けてくれた人格を持つロボット、『iDOL』のインベルと再会。

逡巡の末に、自分自身がアイドルマスターになることを決意した。

汎人類史におけるアイドル「天海春香」とは完全な別人。

誰かに嫌われることを何よりも恐れ、「ま、いっか」という口癖で思考を停止する傾向があった。

現在は改善されており、後に芸能界にて活動を開始した。

 

保有スキル

 

異聞のアイドルA+ 自身のNP獲得効率をアップ(1T)〔Lv1〕&毎ターンスター獲得状態(5T)〔Lv1〕[CT8]

 

七転八倒A 自身のクイック性能大アップ(3T)〔Lv1〕+自身の防御力ダウン(3T)(デメリット)[CT7]

 

iDOLマスターEX 自身の宝具威力を大アップ(1T)〔Lv1〕+自身のNPを増やす〔Lv1〕[CT7]

 

クラススキル

 

騎乗A+ 自身のクイックカード性能アップ

 

対魔力D 自身の弱体耐性をアップ

 

宝具:微熱SOS!(ファウストシュラーク・オーバーブースト)

ランク:A++

種別:対隕石宝具

コマンド:Quick

 

敵全体の防御力をダウン(1T)<オーバーチャージで効果アップ>

+敵全体に強力な攻撃[Lv.1]

 

Buster:2 Arts:1 Quick:2

 

騎乗A+

 

隕石を破壊する巨大重機「iDOL」を操縦するための必須技能。

幻獣はおろか、生き物に対しての騎乗スキルは一切発揮できない。

反面、機械や車など無生物に関しては非常に優秀な操縦をする事が可能。

初見であったとしても、その騎乗物を十全に乗りこなせるだろう。

 

対魔力D

 

ほとんど純粋な科学技術が跋扈する異聞帯の住人のため、サーヴァントとなってもその対魔力はやや低め。

科学技術だけでは説明できない、人格を持つ構造体iDOLに少しだけ関わっている程度。

 

異聞のアイドルA+

 

自身への信仰心を強化するスキル。

シンデレラのものと異なり、何処で召喚されようとも件の異聞帯での信仰心が基準となる。

何かの理由で汎人類史側に召喚されたとしても、召喚の土地による信仰心の影響を受けない。

ただし、シンデレラ達の「真のアイドル」による強化ほどの恩恵とは言い難い。

 

七転八倒A

 

何度転んでも立ち上がり、歩き続ける事が出来る姿勢。

転ぶことを恐れ、自身のスピードを緩めることは無い。

ただ、何も無いところで転ぶこともある。

 

iDOLマスターEX

 

異聞帯における巨大ロボット、「iDOL」と心を通わせる者の証。

EXランクともなれば完全に心が通じ合っている。

騎乗物であり、宝具である「iDOL」が自立的に行動し、マスターである春香のために全身全霊を尽くす。

ただし、騎乗していない「iDOL」に対しての命令権は一切無く、自由気ままに行動を許すことになる。

春香自体に命令権が無い為、令呪による絶対命令権も意味を成さない。

暴走には要注意である。

 

宝具:微熱SOS!(ファウストシュラーク・オーバーブースト)

ランク:A++

種別:対隕石宝具

 

パイルバンカー型改良パーツ、「ファウストシュラーク」による絶大なる一撃。

その威力はこの異聞帯における小型核兵器に匹敵する。

宝具化したことにより神秘が付与されている為、サーヴァントにも無論有効。

最大の弱点は消費する魔力。そして弾頭そのものを製作するのに時間がかかる点。

天海春香に道具作成のスキルが無い為、弾頭の製作は魔力充填による宝具の再生に頼ることになる。

召喚主が機械に関する整備環境を整えていれば、製作する時間を大幅に短縮できる。

どんなに魔力環境が整っていたとしても、魔力充填の時間は短縮されない。

 

 

 

 

 

真名:如月千早

 

クラス:バーサーカー

 

レアリティ:☆5

 

パラメーター

筋力:A

耐久:A

敏捷:C

魔力:D

幸運:B+

宝具:EX

 

身長/体重:162cm・41kg

 

出典:アニメ・アイドルマスターXENOGLOSSIA

 

地域:日本

 

属性:混沌・悪 性別:女性 隠し属性:人

 

「インベルは……ドコ?」

 

プロフィール

 

『iDOL』ヌービアムのアイドルマスター。

国際組織である「モンデンキント」に敵対する「トゥリビアータ」所属の人物。

普段は口数が少なくクールな態度を装っているが、その内面は春香に対する激しい嫉妬と憎悪、そしてどんな残虐な手段も厭わない狂気に満ち溢れている。

それも全て、天海春香の「iDOL」インベルに異常な執着を見せるからである。

汎人類史における「如月千早」とは体格も含めて似ても似つかない別人。

異聞帯においては三浦あずさの妹であるという。

そんな彼女もかつては「モンデンキント」所属でありインベルの元マスター。

人体実験の対象としての生い立ちがあり、改造手術の失敗作。

しかし義理の両親が「モンデンキント」に反乱、離脱する際にインベルと行こうとして拒否される。

以降、彼女の執着は春香が新たなるマスターとなったことで加速することとなった。

 

保有スキル

 

改造人体A 自身の防御力をアップ(3T)〔Lv1〕+HPを回復〔Lv1〕[CT7]

 

戦闘続行(思念)EX 自身にガッツ付与(1回・5T)〔Lv1〕+ガッツ発動時に自身の攻撃力が超アップ(1回・5T)〔Lv1〕[CT9]

 

iDOLマスター(狂)EX 敵単体のアーツ攻撃耐性をダウン(3T)〔Lv1〕+自身のNPを増やす〔Lv1〕[CT7]

 

クラススキル

 

狂化EX 自身のバスターカード性能アップ+魅了無効

 

騎乗A 自身のクイックカード性能アップ

 

宝具:煉獄の理想郷(アルカディア・インフェルノ)

ランク:A++

種別:対隕石宝具

コマンド:Arts

 

敵全体に強力な攻撃[Lv.1]

+高確率でチャージを減らす<オーバーチャージで効果アップ>

 

Buster:2 Arts:2 Quick:1

 

スキル

 

狂化EX

 

彼女の持つどす黒い嫉妬と憎悪。どんな残虐な手段も厭わない姿勢。

春香の騎乗する「iDOL」インベルに異常な執着心を抱いている。

それ故に彼女に対する魅了(チャーム)は完全に無効化される。

行動原理が「インベルを取り戻す」で固定されており、事実上マスターなどの制御は不可能。

 

改造人体A

 

改造手術による痕跡。実験対象としての経歴。

その影響で実年齢は48歳であるが、外見年齢は17歳で止まっている。

狂化の恩恵もあり、その身体能力はすさまじい。

本来は活性剤を投与しなければ機能不全を起こしてしまうが、サーヴァント化したことにより消費魔力の増大でとどまっている。

 

戦闘続行(思念)EX

 

往生際の悪さ。たとえ致命傷を受けようとも、目的を達成するまでは戦い続ける。

彼女の往生際の悪さは、死亡しても終わらない。

肉体を捨てた思念(エーテル)体となろうとも、完全に消滅しない限り彼女が止まる事は無い。

 

iDOLマスター(狂)EX

 

異聞帯における巨大ロボット、「iDOL」に執着し続ける者の証。

EXランクである彼女は、狂化が二重にかかっている状態に等しい。

このスキルは一切外すこと、無効化する事が出来ない。

「iDOL」に対する一方的な思いであり、判定に成功すれば他者の「iDOL」を自身の宝具として使用できる。

ただし、彼女がこの効果をインベル以外に対して使うことは令呪を使ったとしても起こり得ない。

 

宝具:煉獄の理想郷(アルカディア・インフェルノ)

ランク:A++

種別:対隕石宝具

 

「iDOL」ヌービアムのランチャーユニット、「シュープボーラー」による砲撃。

本来火器を「iDOL」は保持しないが、追加装備によって可能としている。

用途外ではあるが、人間と「iDOL」を融合させる装置、シュメルツオーフェンによって量子化した千早を弾として発射することも可能。

そうした場合、他の「iDOL」との融合を決行できる。

ただし、発動すれば最後サーヴァントには戻れない。

洗脳などの手段を用いず、あるいは解除されて対象の「iDOL」に拒絶されてしまえば何もできること無く消滅してしまう。

バーサーカーで召喚されている場合、シュメルツオーフェンは必ず所持しており、命令も聞かないため勝手に発動してしまうことも十分にありうるだろう。

 

 

 

真名:菊地真

 

クラス:アーチャー

 

レアリティ:☆4

 

パラメーター

筋力:D

耐久:D

敏捷:A

魔力:D

幸運:C

宝具:EX

 

身長/体重:163cm・47kg

 

出典:アニメ・アイドルマスターXENOGLOSSIA

 

地域:日本

 

属性:秩序・中庸 性別:女性 隠し属性:人

 

「座右の銘?スベスベマンジュウガニです!」

 

プロフィール

 

巨大ロボット『iDOL』ヒエムスのアイドルマスター。

何事にも流されないクールな性格だがその実、弱さやトラウマを隠すヴェールであり、無茶も行う激情家。

「モンデンキント」の職員、三浦あずさに憧れを抱いている。

もともとは『iDOL』ネーブラのマスターであったが、「モンデンキント」のメンバーと衝突し退社。

その後「トゥリアビータ」に迎え入れられ、以降は「モンデンキント」のメンバーと対立することとなった。

カニ好きな一面があり、家具や小物にカニのデザインが施されたものを好んでいる。

身長の割にスレンダーなことを気にしており、牛乳を飲む場面もしばしば見受けられる。

 

保有スキル

 

沈着冷静(偽)B 自身のNPを増やす〔Lv1〕+自身の防御力をダウン(3T)(デメリット)〔CT7〕

 

秘めた激情A 自身の攻撃力を大アップ(3T)〔Lv1〕+自身の精神弱体耐性をダウン(3T)(デメリット)〔CT7〕

 

iDOLマスターA+ 自身の宝具威力をアップ(1T)〔Lv1〕+自身のNPを増やす〔Lv1〕[CT7]

 

クラススキル

 

対魔力D 自身の弱体耐性をアップ

 

騎乗A- 自身のクイックカード性能アップ

 

単独行動B 自身のクリティカル威力アップ

 

宝具:危険、あるいは逃げられぬ恋(ニヴルヘイム・レールガン)

ランク:B+++

種別:対巨大兵器宝具

コマンド:Buster

 

自身に必中状態を付与(1T)

+敵単体に超強力な攻撃[Lv.1]

+防御力をダウン<オーバーチャージで効果アップ>

+中確率で即死効果<オーバーチャージで確率アップ>

 

Buster:1 Arts:2 Quick:2

 

スキル

 

騎乗A-

 

アイドルマスターでありながら、乗り物に酔いやすいという特徴がデメリットとなり付与されている。

搭乗から時間が経つほどにデメリット発生の確率が上昇し続けていく。

短期決戦であればほとんど発生しないが、長期戦では注意が必要。

乗り物酔いに陥ると数分の間、騎乗スキルが大幅に低下する。

ただもともとの操縦技術がかなり高い為、平常時の操作はAランク以上の技能を発揮する。

 

単独行動B

 

一人で行動する事が多かったため、神秘の薄いサーヴァントでありながらランクが高い。

一方であずさに対する承認欲求が非常に高く、恐怖に近い疑念すら抱いていた。

環境次第でランクが上下する性質を兼ね備えている。

 

沈着冷静(偽)B

 

如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせるスキル。

彼女の場合、どんな任務であろうと必ず成功に導かんとする姿勢。

何事にも流されないクールな姿勢という、彼女の表向きの振る舞い。

ただし、任務の成功を優先するあまり、自身の生存に関してはあまり考慮されない。

 

秘めた激情A

 

彼女の内面。かつてのトラウマに起因する承認欲求の強さ。

後に自身の道を見つけ、歩み始めた彼女自身の意思まで含めた背景がスキル化したもの。

激情家という荒々しさと、繊細な心。

彼女との関わり方によって、このスキルはプラスにもマイナスにも働くだろう。

 

宝具:危険、あるいは逃げられぬ恋(ニヴルヘイム・レールガン)

ランク:B+++

種別:対巨大兵器宝具

 

「iDOL」の中で唯一、当初から対iDOL戦を想定されている。

そのため、分類も対巨大兵器宝具となっており、対隕石は若干不向き。

左手のニードルガン型の銃から発射される、レールガンによる狙撃。

必中レベルの命中精度は宝具の効果ではなくマスターである真の技術。

宇宙空間からさえ狙撃するその一撃は直感などに頼らない限り、事前に察知することは事実上不可能。

仮にサーヴァントが防げようが、マスターそのものを狙い撃たれてしまうという非常に性質の悪い宝具である

 

 

 

 

 




重ねて言いますがエイプリルフールネタです。
今回の内容は掘り下げてはいきませんのでご了承ください。

また、当内容の発案者の『瀬名誠庵』様。
非常に遅くなりましたが、ご提案ありがとうございました。


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アイドルサーヴァント wiki

※今回の内容は、アイドルサーヴァントを含めた、今作品のwiki風の設定資料集です。

英霊の座に登録されている原典のシンデレラは「英霊シンデレラ」と呼称しています。

wikiは新情報や気まぐれによって追加されます。

ご了承ください。


・アイドルサーヴァント

 

デミ・サーヴァント、擬似サーヴァント、シャドウサーヴァントといったサーヴァントの種類の一つ。

該当した人物達が全て「アイドル」であることが名前の由来。

確認できるそのすべてが女性であり、例外なく善属性を有している。

「英霊の座」に当人たちの分霊は存在せず、現世を生きる本人たちを仮初の「座」として、その「生霊」をベースにクラス適性と信仰心で形成された存在。

その性質上、例外的事例を除き特異点発生後の2011年以降で彼女達が存命の期間しか召喚できず、さらにはアイドルである彼女たちとの「(えん)」も必要となる。

分霊は得ていないが、真名は彼女たちにゆかりのある「シンデレラ」として登録され、サーヴァントの性質もそれに引っ張られ影響を受けている。

また、その肉体は通常のサーヴァントと同様、エーテル体として構成されている。

そのため睡眠や食事は必須でなく、霊体化も可能。

痛覚軽減効果もあり、戦闘経験に乏しいアイドル達がその身をある程度守れるように肉体が構成されている。

人理焼却事件、地上漂白化事件の最中であれば、例外的ルートを持ってのみ召喚できる。

 

 

 

・戦闘能力について

 

平和な世を過ごすアイドルである彼女達は、例外を除き単騎の戦闘能力において優れているとは言えない。

真名である「英霊シンデレラ」も特化しておらず、一対一で勝つことはかなり難しい。

信仰心による強化を向上させるスキル「真のアイドル」を所持しており、自身の認知度によってその性能が大きく強化されている。

また、ランクEXのスキルを全員が所持しており、宝具も高ランクのものが多い。

チームワークを活かして動く事が前提のサーヴァントであり、アイドルサーヴァント同士ならばより顕著に発揮される。

人数が増えるほどに相乗効果を発揮し、特定条件時にはトップサーヴァントにも匹敵する成果を期待できる。

 

 

 

・英霊シンデレラ

 

アイドル達の真名の由来。「英霊の座」に登録されているとある英霊。

童話で世界に知られる人物であり、知名度は先進国を中心にずば抜けて高い。

童話自体に派生が多く、様々な語られ方をしている。

ロビンフッドのようにモデルが複数人おり、サーヴァントとして召喚されるのはその中の「誰か(・・)」。

王子と出会い幸せに結婚した者。

不幸な生い立ちを魔術使い(まほうつかい)に助けてもらった者。

自身の義母義姉への復讐を成功した者。

自身や誰かのために行動して、それを勝ち取った者などの「シンデレラストーリー」を持つ事が「英霊シンデレラ」の該当条件である。

アイドルサーヴァントは、その中の「誰か」から真名とクラス適性を分けてもらっている。

モデルはバラバラだが「かぼちゃの馬車」や「ガラスの靴」などを代表的な宝具として所持しており、人々の信仰心が元となっているため共通点は多い。

 

 

 

 

・アイドルサーヴァントのクラス適性

 

クラス適性は、真名の「英霊シンデレラ」から受け継がれた場合とアイドル当人達が獲得した場合などが存在する。

「英霊シンデレラ」の適性クラスは、「ライダー」「アサシン」「キャスター」「バーサーカー」「アヴェンジャー」「????」。

各クラスについては以下参照。

 

・セイバー

 

「英霊シンデレラ」は適性を持たない為、アイドルが適性を持つ場合のみ獲得される。

基本七クラスの中でも、最もアイドルが該当する事が少ないクラス。

剣を象徴とするアイドルとして脇山珠美。

剣を撮影上使用していたアイドルとして村上巴。

例外的な事例とて前川みくや新田美波などが該当する。

 

・アーチャー

 

飛び道具を保持する又はした事があるアイドルは多くなく、該当する人物が少なめだがセイバーほど少なくない。

撮影を含め、実際に所持した事があるアイドルとして三村かな子、片桐早苗、大和亜季。

概念的な特殊武装や特殊事例として赤城みりあ、輿水幸子、桐生つかさなどが該当する。

 

・ランサー

 

三騎士に共通する事項として、該当するアイドルサーヴァントは少ない。

長物を所持することはあるが、槍を保持する者はほぼいない。

結果的に槍(のようなもの)を所持することができるアイドルとして、城ヶ崎莉嘉、多田李衣菜、城ヶ崎美嘉、木村夏樹、新田美波。

保持する長物により、財前時子などが該当する。

 

・ライダー

 

「英霊シンデレラ」が適性を持つ為、アイドルサーヴァントの中では比較的多い。

乗り物を所持しているアイドルも多く、向井拓海、原田美世、及川雫、イヴ・サンタクロースなどが該当する。

実物ではなく企画やキャラクター等によって騎乗物を得た者として浅利七海、本田未央、双葉杏、上条春菜、北条加蓮、南条光が該当する。

 

・キャスター

 

魔術師の英霊であるが、「英霊シンデレラ」もまた魔術戦に秀でているとは言い難い。

魔法をかけられたという逸話によってクラス適性が獲得された。

宝具やスキルを持って味方陣営をサポートする者がほとんどであり、戦闘的な気質を持たないアイドルが支援、応援するということでキャスタークラスに該当する事が多い。

一例として緒方智絵里、島村卯月、小日向美穂、五十嵐響子、高森藍子、クラリス、一ノ瀬志希、荒木比奈、川島瑞樹、鷺沢文香、森久保乃々、佐藤心。

魔法使い、又は魔法少女などの役柄やイメージとして安部奈々、横山千佳、神谷奈緒、道明寺花鈴。

特殊な事例として鷹富士茄子、依田芳乃、白坂小梅などが該当する。

 

・アサシン

 

暗殺者としての殺傷技術は気配遮断などの一部を除いてほぼ皆無。

ファンを魅了する仕事である以上、クラスは獲得したが殺害等の技能はゼロ。

代わりに拘束、魅了、諜報などの通常戦闘とは別の変則的な能力に秀でているものが多く該当する。

男性を中心に対人に秀でたものとして渋谷凛、速水奏、佐久間まゆ、新田美波、アナスタシア。

諜報や撹乱などを得意とするものとして、八神マキノ、浜口あやめなどが該当する。

 

・バーサーカー

 

狂化のランクに違いはあれど、会話などは全員が可能。

ただ、時折暴走気味になったり、意思疎通に失敗する場合があるなど何かしらのリスクが存在する。

狂化の恩恵として、ステータスが秀でたものが多く該当する。

諸星きらり、日野茜、宮本フレデリカ、棟方愛海、早坂美鈴、ヘレンなどが該当する。

星輝子、佐久間まゆも特殊事例として存在する。

 

・アルターエゴ

 

別人格のサーヴァント。

本来「英霊シンデレラ」は適性を持たないが、別人のシンデレラという意味でアイドル全員がクラス適性を持つ。

ただ、霊基が特殊なエクストラクラスということも相まって該当者は少なめ。

高垣楓、高峯のあ、星輝子などが該当する。

 

・ルーラー

 

裁定者のクラスであるが、アイドルサーヴァントはこのクラスに該当しない。

現世に対して望みを持たないことがクラス適性である為、トップアイドルになる事が目標であるシンデレラガールズ達は誰一人としてクラス適性を持たない。

 

・アヴェンジャー

 

復讐者のクラス。

「英霊シンデレラ」がクラス適性を持つ為、一応全員が該当する可能性を持つのだがアイドル達自体と相性が悪い。

ある種の反逆的気質を持つ神崎蘭子、二宮飛鳥の二人しか該当しない。

 

・セイヴァー、ムーンキャンサー、フェイカー、ウォッチャー、ビースト、ファニーヴァンプ

 

該当する要素がないエクストラクラス。

救世主、月の癌、偽者、番人、獣、毒婦とアイドル達とは無縁の存在。

 

・ガンナー

 

銃を保持するエクストラクラス。

情報が少ないので設定に使いづらい。

 

・フォーリナー

 

降臨者のサーヴァント。該当アイドルは無し。

異星の神々などの領域外の生命とは無縁であり、狂気の擬似的な克服もまた保持していない。

アイドルはあくまで時に悩み、時に落ち込み、それでも前を向こうとする等身大の人間だからである。

 

 

 

・隠し属性

 

アイドルサーヴァントは基本的に人属性(例外あり)。

大衆によって信仰された一人の『人間』であるため。

従者たるシンデレラのライダーとシンデレラのキャスターは、童話シンデレラの伝承がモチーフとなった擬似サーヴァントのため地属性。

 

 

 

・宝具

 

アイドルサーヴァントが高ランクの宝具を保持する事が多いことは前述したが、更なる特性として合体宝具が非常に多いという点があげられる。

ユニットなどのチームワークを活かして活動する事が多いため、アイドル達の得意分野であり逸話も豊富。

その代表である『魔法をかけられた女の子(シンデレラガールズ)』と『シンデレラの舞踏会(スターライトステージ)』は、アイドルサーヴァント全員が所持している。

以上のことを加味すれば、逸話系宝具の数ならサーヴァントの中で最多にもなりかねないほどである。

 

・サーヴァントとしての性質

 

サーヴァントとして霊基に刻まれた特性。(女王メイヴがチーズに弱いなど)

アイドル達は多少なりの魅了耐性がある。

ファン達の信仰心に加え、シンデレラである彼女達は各自の王子様にしか恋愛感情を抱かない特性を持つため。

しかし、神秘の強度が高い相手、ーーーーたとえばステンノやエウリュアレーーーーーーには分が悪い。

 

 



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