概念礼装しか引けない男 (マーマレードタルト)
しおりを挟む

所長とマシュと自分

これは君では無いが君の話だ。
爆死したところとかね。


自分は藤丸装花という。

よくわからないまま人類を救うべく戦いに放り出された、ただの人間だ。

 

そう。本当によくわからないままである。今だってよくわからないけどデミサーヴァントになったマシュとレイシフトして、よくわからない土地を走り回っているのだ。

 

だがそれも少しくたびれた。それに所長も息が荒い。

ロマ二の案に従い、召喚サークルの設置も兼ねて休息する事にしたのだ。

 

 

「いい?この聖晶石を糧として、召喚サークルは稼働するの。縁のあるサーヴァントが応えてくれたら契約成功よ。強力なサーヴァントを呼びなさい、必ずよ!?」

 

そう言われても、自分はただの一般人。魔術師としても素人。サーヴァントなんかと縁なんてない。

しかし半泣きで頼み込む所長に無理ですとも言えないので、頑張りますとだけ言う。

頑張るのは本当だ。結果が伴うかは別として。

 

「先輩なら大丈夫です!頑張って!」

 

マシュの応援も心なしか期待に上ずっているような気がする。

頑張ってみるよ、と微笑んで頭を撫でる。ついでにフォウ君も撫でておく。中身はともかくもふもふで可愛い。

 

元気を貰い、ヨシっと気合をいれ召喚サークルを稼働させる。

 

青白い光が瞬き、それはやがて金色を放ちつつ、一筋の輪を描く。

 

強い力を感じる。それは正義の味方を目指す過程であらゆる苦難に傷つけられて死にかけた。それでもなお人を救いたいと願う意思だ。

 

金色の光に手を伸ばす。

 

届けーーーー

 

 

そして光は弾け

 

 

 

 

 

 

 

 

「概念礼装じゃないーー!!!!!」

 

 

 

サーヴァントではなく、概念礼装(リミテッド ゼロオーバー)を手にしたのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

あれから所長が貯めてた聖晶石を全て使ったが、結局サーヴァントが現れることは無かった。

 

「もうダメよ…お仕舞いだわ……」

 

所長は完全に心が折れてしまった(爆死)。廃墟の部屋の隅で三角座りをしている。ロマ二が励ましているが、一般的にああいうのはしばらくそっとしておいた方がいいと思うのだが……

 

「その、先輩…気を落とさないで下さい!」

 

いや自分は特に残念に思っているわけでもないのだが……

多分、座にいるサーヴァントも様子見してるんじゃないだろうか?

ならこの戦力で頑張るしかないのだ。

 

「確かに私が装備すれば戦力は強化されますが、1つしか装備できないので、そんなにたくさんあっても仕方ないと思うのですが……」

 

カード状になった概念礼装の山を抱える自分を見てマシュがぼやく。

 

だがいいのだ。使い道はある。

 

 

そんな風にしていると、ロマ二が慌てて警告する。

 

「不味い!敵サーヴァントが近づいてくる!これは……さっきのアーチャーだ!!」

 

「迎撃します。先輩、指示を!」

 

よし、ならマシュは所長を守るんだ。

アーチャーは自分が相手をする。

 

「りょうか、え?!先輩何を言っているんですか!?サーヴァントでもないのに対抗できる訳がありません!!」

 

確かに。サーヴァントも連れず、魔術師としても未熟。

されど我が身は世界を救うために奔走する身だ。退くという選択肢はない。

 

「なら私も一緒に!!」

 

大丈夫。マシュは所長を守っていてほしい。

 

「そんな!先輩を見殺しなんて出来ません!!」

 

相手をするといったけど

 

「え?」

 

別に倒してしまっても構わんのだろう?

 

懐からあるものを取り出す。

目をパチクリさせるマシュを尻目に、自分はそれを腰に巻きつけ装備する。

standing by.....と響く機械音が心地いい。

 

「先輩…?それは一体……?」

 

変身ベルト

 

「変身ベルト」

 

変身ベルト

 

「変身ベルト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身ベルト?」

 

変身ベルトである。

 

 

 




変身ベルトである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベルトとカードとアーチャー

目覚めろ、その概念。


そもそも概念礼装とは一体なんだろうか?

 

大雑把に言ってしまえば人や物、魂や魔術といったもの。それらの概念を抽出したもの、らしい。その歴史は古く、遺跡からはメダル型や指輪型など様々な形の物も見つかっている。

 

自分は魔術師として未熟ゆえにその程度しか知らない。が、それくらい知っていれば十分だ。

 

要は積み重ねてきた事や意味を、サーヴァントの霊基に組み込めるような力にしたものであり、なおかつ扱いやすいようにカード状の形を与えたものだ。

 

そして、このベルトはそれらを人の扱える力に変える能力を持つ。

 

ーー先程手に入れた概念礼装(リミテッド ゼロオーバー)をベルトのバックル部分にあるスロットにセットする。

 

 

人が人のまま人の積み重ねた力を纏い戦う。その為に行う儀式。それが

 

 

ーーーー変身ーー

 

 

completeという機械音。薄く青白い光を放つ人造霊基のラインが全身を駆け巡るのと共に制服がカルデア戦闘服へ変換され、膝や肩などにパッドが装備されていく。

その中でも一際目立つのは顔全体を覆うように装備されたヘルメットだろう。

 

だが変身は終わりではない。ベルトに手をかけ、スキャナーを起動する。

 

 

ーー概念ライド【リミテッド ゼロオーバー】ーーー

 

 

スロットにセットされた概念礼装(リミテッド ゼロオーバー)の意思を願いを力を読み込み、装備へと変換されていく。

左半身に霊基によって擬似的に再現された魔術刻印。袴風の脚部パーツ、冬木の熱風を受け靡く羽織り。そして一振りの日本刀を腰に携える。

地獄のような風景を切り裂くように、変身の余韻で大気に溢れた魔力を右手で払う。蒼い風が冬木の地を駆ける。

 

 

「先輩…….その姿は…?」

 

希望だよ。

 

「希望…?」

 

夢を守り皆を守る。変身したからには、自分は最後の希望にならなきゃいけないのさ。

 

そうして格好つけたところで、すぐ側に矢が着弾し、崩れかけだった廃墟が更に崩れる。

アーチャーからの攻撃だ。崩れゆく廃墟から所長を連れて脱出するようにマシュに指示を出し、自分はアーチャーへ向かって走り出す。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「てっきり逃げ出すものかと思ったがね」

 

正義の味方が逃げ出したらお話しにならないとは思わないだろうか?

 

「正義の味方なら、か…くくっ確かに」

 

廃墟から飛び出した自分を待っていたのは浅黒い肌の東洋人だ。その手に弓を持っている事からアーチャーだと分かる。

 

「しかし先ほどのような油断は良くないんじゃないか?」

 

いいや。あれは油断ではない。

矢が飛んで来ているのは認識していた。しかし避ける必要がないと判断しただけだ。

 

「ほう?私が外すと思ったのか?」

 

そうではない。貴方は“必ず初弾を外す”。次から当てると言わんばかりに当ててこないのだ。

 

「フハハ!見破られていたか!あまりに未熟なマスターだと侮り過ぎたか。その通り、少し戦場を教えてやろうという老婆心さ」

 

ひとしきり笑ったアーチャーは、その顔から笑みを消し弓を構える。

 

「ではここからは本気でいくぞ。貴様が正義の味方だと言うなら私を超えてみせろ!」

 

言われずともそのつもりだ。

さぁ、ひとっ走り付き合ってもらおうか!

 

 

駆け出すのと矢が放たれるのは同時であった。

人間であれば視認する事も出来ないであろう速度で放たれる矢。しかし変身し、概念礼装を纏う事で擬似的にサーヴァントと同等の能力を持つに至ったこの身ならば捌くことは容易い。

腰に下げた日本刀を抜刀し、矢を斬りはらう。

 

続けて2、3射と放たれる矢も斬りはらい走り続ける。

アーチャーとの戦いでは懐に入った方が有利になると言うのが常道だ。

あのアーチャーがどこの英雄なのかは知らないが、接近戦の方が勝機はあるはず。

 

「ーー我が骨子は捻れ狂う」

 

瞬間全身が危険を捉える。アーチャーの放った矢から強い魔力を感知したのだ。

 

あれは斬り払えない…!

 

即座に腰のホルスターから概念礼装を1枚取り出し、スロットにセット、スキャン。

 

ーー概念ライド【月霊髄液】ーー

 

足元から吹き出した水銀が周囲を囲みドーム型の壁を形成する。しかしこの形態では防ぎ切れないと判断し、あの矢の着弾点に集中防御させる。

 

そこまで行ったところで着弾。水銀は飛び散り焼け焦げ、その量を減らしたが自分は無傷。そのまま走り続ける。

 

「カラドボルグを防ぐとはな!」

 

軽い驚きを含みながらも矢を放つ手を止めることはしない。

先の矢に比べれば威力は低いが、当たれば大きなダメージになるだろう。

だが今なら残った月霊髄液が矢を防いでくれる。

今のうちに距離を縮めるべきだろう。

そう判断し、更に概念礼装をスキャンする。

 

 

ーー概念ライド【先制】ーーーー

 

 

羽織りと袴に人工霊基のラインが走り、概念が追加される。

走る脚がこれまでより強くアスファルトを蹴る。

 

時に矢を払い、時に避け、時に月霊髄液で受け、ついにアーチャーに肉薄する。

30メートル。人間にとっては決して近くはない距離だが、サーヴァントにとっては一足で埋められる距離だ。

 

「まさかたどり着くとはな。手加減したつもりは無かったが……」

 

自分だって死にものぐるいなのだ。そう簡単に死ぬつもりは無い。

 

そう言って刀を正面に構える。

アーチャーは不敵に笑うだけだ。

何か秘策があるのか……?ここまで防御させていた月霊髄液は既に使い切った。それでも退くという選択肢は無い。

 

覚悟を決めて飛び込む。刀の軌跡はアーチャーの首を狙う。弓兵の彼に防ぐ手段は……ないはずだ。

 

 

しかし次の瞬間キーン、と金属同士がぶつかる高い音が辺りに響く。遅れて鈍い衝撃が握る手に伝わってきた。

 

振り下ろした刀は、アーチャーの手にした双剣によって防がれていた。

 

弓兵なのに剣術だと!!?

 

鍔迫り合いの向こう側でアーチャーは薄く笑っていた。

 

 




アーチャー の くせ に なまいき だ !


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苦戦と三枚と必殺技

この小説は私の趣味だ。いいだろう?


サーヴァントにはクラスが割り当てられる。

例えば剣を扱う英霊はセイバーが、暗殺を得意とするならアサシンが、狂気を孕んでいるのならバーサーカーが、といった風に弓を扱うからアーチャーなのだ。

なのに目の前のアーチャーは一対の双剣を持ってこちらの攻撃をことごとく防いでいる。

そればかりでなく、隙を突いて鋭い反撃まで加えてくるのだ。

これでアーチャーとか表記ミスではないだろうか!

 

「なに、そう言ったサーヴァントが居ても良かろう」

 

戦場に卑怯もクソもないのだが毒づきたくもなる。

 

避けにくい突きをも織り交ぜた連撃も、傷こそ負えど致命傷は確実に避けている。

攻めているのはこちらだが、じわりじわりと焦りに追い詰められている気すらする。

このアーチャーの剣術はどちらかと言うと守る為の剣術だろう。敵の攻撃を先読みし、的確な位置に防御の手を置く。手数を増やす為の双剣。

 

ならば、その防御ごと押しつぶせばいい。

 

 

ーー概念ライド【緑の破音】ーーーー

 

 

全身を走る人造霊基が一際強く輝き、その輝きは日本刀にも宿る。

 

短く息を吐くのと同時に振るった刃はアーチャーの双剣の一本、白い剣を砕き吹き飛ばした。苦し紛れに残った黒い剣を投擲してくるが、体勢を低くする事で躱す。

この隙を逃しはしない!

 

「甘いぞ!」

 

しかし、瞬きの間もなくアーチャーの手には双剣が握られている。だが押し切れると判断し、踏み込もうとしたところで視界の隅にキラリと光るものがうつった。

次の瞬間、無意識のうちに地面を転がって大きく横に移動していた。

先程まで立っていた所には、投擲したはずの黒剣が突き刺さっていた。あのままアーチャーに気を取られていたら後ろからブーメランのように戻って来た黒剣が背中に突き刺さっていただろう。原理は分からないがブーメランのような変則的な使い方も出来るようだ。

 

「今のを躱すか」

 

そう呟きながらアーチャーは再び双剣を構えた。

安全な場所であろうとはいえ、マシュや所長を置いて来たのだ。もし魔物に襲われていたら、いくらデミサーヴァントとなったとは言えマシュはまだ戦いには不慣れ。ましては所長を守りながらとなれば……余り時間をかけては居られない。

 

そろそろ本気を出させてもらう。

 

概念礼装を三枚取り出し、スキャンする。

 

 

ーー概念コンボライド【コードキャスト】【一の太刀】【騎士の矜持】ーーーー

 

バチバチッと腰から日本刀へかけて人造霊基が輝き、眩い光が日本刀を覆う。

相性の良い概念礼装を複数枚スキャンする事で発動する概念コンボライド。スキャンする礼装で威力は変わるが、サーヴァントの宝具にも負け劣らぬ威力を誇る。これで決める。

アーチャーを見据え、日本刀を鞘に収める。眩い光も鞘に収まり、辺りは元の薄暗さを取り戻していく。

 

そのままアーチャーへ駆ける。

 

双剣を投擲し進路を防いでくるが、それは既に見た技だ。交差する双剣の一瞬空いた間へ体を捻りながら飛び込み、同時に羽織で双剣を包み込んでしまう。

完全に封じることは出来ないが、この僅かな間があれば良い。

 

驚くアーチャーの目の前に、飛び込むように着地するのと同時に抜刀。

 

慌てて双剣を手元に呼び出すが、その程度では止められない。白い閃光は闇を裂くように双剣を容易く両断し、アーチャーの身体を断ち切った。

 

「み、見事だ……」

 

振り切った日本刀を鞘に収めるのとアーチャーの上半身が地面に落ちるのは同時であった。

 

 

上半身だけになって地面に力無く転がるアーチャーに近づく。敗北したというのにその顔には清々しい笑みが浮かべられていた。

 

「私の敗北だ……進むがいい…聖杯は、あそこにある…」

 

そう山の一角を顎で指す。もう腕を動かすことすら出来ないのだ。

だが、なぜ素直に教えてくれるんだろうか?

 

「敗者は、勝者に相応しいものを、だろう……?」

 

光に還りながらもアーチャーはその口を止めない。

 

「こんな地獄みたいな聖杯戦争に呼ばれた時はどうなるかと……唯一まともそうなキャスターもアレに挑んで敗北していた………だが最後に君みたいなサーヴァントに会えて……」

 

あ、一応自分マスターです。

 

「そうか、マスター……マスター!?君みたいなマスターが居るものか!!」

 

そんな嘆きを残してアーチャーは消えていった。

それ言うと剣の扱いが達者な貴方も人の事言えないと思うのだが……

そんな事を思いながら変身を解除するのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「先輩、ご無事でしたか!?」

 

大丈夫。大きな怪我もしてないよ。

 

「全く、急に飛び出すから驚いたわ」

 

2人とも無事なようだ。辺りにスケルトンの残骸が転がっている事から幾度か襲撃されたようだが、上手く撃退出来たらしい。

 

『無事で良かった!アーチャーに向かって行った時はどうなるかと思ったよー!』

 

それより聖杯の場所が分かった。

 

「本当ですか?」

 

最後にアーチャーが言い残していったよ。山の祠?にあるらしい。

 

「なるほどね。霊脈がそこに集まってるのかしら」

 

「でも大丈夫でしょうか…?罠の可能性はありませんか?」

 

そんなことをするようには見えなかったけど……どの道他に情報は無い。調べてみる価値はあると思う。

 

『真偽は分からないけど、その位置に大きな反応があるのは確かだよ』

 

「そうと決まれば行くわよ」

 

そうして自分達は聖杯目指して移動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

「ところであのベルトとか変身とかなんなのよ」

 

カッコいいでしょう?

 

「そういう事を聞いてるんじゃないわよ!!」

 

 

 

 




かっこいいからだ!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

洞窟と黒とセイバー

勢いでばばーっと書いてます。


 

いざ、決戦。

 

 

の、前に戦力の補充である。

アーチャーを倒した際に入手した聖晶石を使って召喚サークルを起動するのだ。

 

「出来ればサーヴァント出来ればサーヴァント出来ればサーヴァント……」

「所長……」

 

天を仰ぎ祈りを捧げる所長を、まるで痛ましい物を見るような目で見守るマシュ。きっとこれも人生経験だ。たぶん。

 

そして恐らくだが、今回もサーヴァントは引けない。

これは勘なのだが、自分の持つベルトの影響なのではないかと思う。概念礼装も言わば、人が積み重ねて来た歴史。それが失われると知れば、自己保存しようとするだろう。その力がベルトに増幅されているのではないだろうか。

つまり、概念礼装を引く確率>超えられない壁>ランサーが死なない確率>サーヴァントという感じになってる。確率的にどう頑張っても概念礼装(爆死)

 

かといってこのベルトを破棄するかと問われれば、そうするわけにもいかない。

 

“絶対に捨てられないのだ”

 

なので大人しく概念礼装を引くしかないのである。

 

 

 

 

概念礼装【フォーマルクラフト】

【イマジナリ アラウンド】【カレイドスコープ】【魔性菩薩】【黒の聖杯】【ガンド】etc…を入手しました。

 

 

 

 

『わぁ、本当に概念礼装しか引けないんだね』

「やっぱり概念礼装しか引けてないじゃないぃぃ!!」

「お、落ち着いて下さい!適切に切り替えて使えば戦力は上がります!」

「装備させるサーヴァントが居ないのよっ!!」

 

自分が戦うから問題ない。

 

「あぁ、もう!!そういう話しじゃないのよぉー!!!」

 

所長には残念だが、諦めて貰うしかない。

さて、戦力の補強も終わった事だし進むことにしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

暗がりの洞窟。天然の物にしては大き過ぎる事から元からあったものを人が拡張したのだろう。

 

そんな広大な地下空間にソレは居た。

 

「アーチャーを破ったか」

 

黒い甲冑を身に纏い、手には黒き剣を携えた恐怖を形にしたような騎士。されど金の髪は絹のようにサラサラと風になびく様は息をつくほど美しく、不気味なはずの青白い肌も美しさを引き立てるアクセントになっている。

 

しかし、その美しい身からは先のアーチャーとは比べ物にならない程の魔力を感じられる。

真名は分からないが、クラスは恐らくセイバー。それも高名な人物。そしてその後ろには更に強大な魔力反応…道中にロマンから聞いた大聖杯というやつだろう。

 

「先輩下がってください!あの敵は危険です!」

 

「その盾、ほう……そういう事か。面白い」

 

下げていた剣を構えるセイバー。警戒度を一気に上げる。マシュにいつでも防御出来るように指示する。

 

「試してやろう」

 

無造作に剣を振り下ろすのを見た瞬間、所長を抱えてマシュの後ろに飛び込んだ。

 

「ぐぅぅ…!!!」

 

黒い魔力を伴った衝撃波をマシュの盾は防ぎきったが、衝撃でマシュは盾ごと弾き飛ばされていた。

当たり前だが、これまで道中で戦った魔物とは比べ物にならない程強い。

 

所長に離れて身を守るように告げる。

 

「ちょ、ちょっと!?貴方何する気なの!?」

 

マシュだけを戦わせる事は出来ない。自分も戦うつもりだ。

 

「多少戦えると言ったって、アーチャーとは比べ物にならないわ!無駄死にするかもしれないのよ!?」

 

例えそうだとしても、自分は逃げる訳にはいかない。あのベルトを手にした時から自分は戦う者なのだ。

親指をグッと立ててサムズアップし、ベルトを腰に装着しながらマシュの元へ駆け出す。

 

 

ーー変身ーーーー

 

 

completeというスタートキーが回る音。それと共に青い人造霊基のラインが全身を駆け巡りカルデア戦闘服を包む。戦闘服の強化魔法が起動し、身体能力がサーヴァントと渡り合える程にまで引き上げられる。

そのまま概念礼装をスキャンする。

 

 

ーー概念ライド【リミテッド ゼロオーバー】ーーーー

 

 

一瞬身体を包んだ光が弾けると、羽織や日本刀が装備される。

そのまま抜刀し、マシュを攻める騎士に斬りかかる。

 

「奇怪なやつめ」

 

しかしなんなく受け止められ、逆に腹に蹴りを受けて吹き飛ばされてしまう。追撃で衝撃波が飛んでくる。

 

「先輩!」

 

割り込んだマシュが盾を構え、衝撃波を防ぐ。マシュに礼を言い、隣に並び立つ。

 

「私にも戦わせてください。未熟かもしれませんが、先輩のお力になりたいんです!」

 

むしろこちらからお願いしたいくらいだ。マシュの防御力は心強い。

協力プレイだ。それに合わせてフォームを変える事にする。

 

ホルスターから概念礼装を1枚取り出し、スキャン。

 

 

ーー概念ライド【イマジナリアラウンド】ーーーー

 

 

概念礼装を読み込むとベルトからFoam Changeと機械音が響き、袴や羽織、日本刀が光に還る。

代わりに白の腰布が巻かれる。右腕は振りの付いた着物の袖を、左腕に黒の射籠手を装備し、最後に頭部には紫の刺繍の入った黒いフードを被る。

 

マシュに頷きかけ、同時に駆け出す。

 

「雑魚が群れたところで」

「先輩!」

 

再び衝撃波が飛んでくる。マシュに防御を任せ、後ろに隠れる。

それを凌いだところで2撃目を放とうとしたところで能力を行使。目に見えない不確定を引き寄せ、セイバーの動きを阻害する。ビキリとセイバーの動きが鈍る。

 

「ッ!?」

「ハァァァ!!!」

 

一瞬の隙を突き、マシュが盾をセイバーに叩きつける。剣で受け止めたセイバーの足元が砕け沈む。

 

「舐めるなァ!!」

 

マシュを振り払ったところへ、桜色の矢を射かける。

いくつか当たるが、鎧を貫通するには至らない。

弓を影に戻し、影を短い桜色の刃に形成。更に概念礼装をスキャンする。

 

 

ーー概念コンボライド【閃光】【好機】【緑の黒鍵】ーーーー

 

 

戦闘の余波で辺りに漂う魔力の残滓(スター)を吸収し、力に変換する。

 

リミテッド ゼロオーバーを纏っていた時より上がった俊敏性を生かし、セイバーに対して密着戦を挑む。これで衝撃波は使いづらくなり、黒い長剣も幾分か振り回し難いはずだ。

 

「度胸は認めてやろう。だが甘い」

 

光を帯びる短い刃を剣の柄で受けたり、ガントレットで受け流すことでいなされてしまう。

能力を行使出来れば優位に立てたかもしれないが、自分が虚数魔術に対しての理解が浅いせいで有効に使えていない。

苦し紛れに繰り出した首への攻撃は手首を掴まれ阻止された。

 

「愚かさは死で償うがいい」

 

咄嗟に左腕を掲げるが、この程度では防ぐ事はできないだろう。避けられない死にヘルメットの下で目を見開く。

 

「させません!!」

「ガッ…!?」

 

横からマシュがシールドバッシュを繰り出す。自分に意識を集中させていたセイバーは反応が遅れ、まともに受けて吹き飛ばされた。

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

 

マシュの手を借りて立ち上がりつつ礼を言う。本気で死ぬかと思った。

 

「良かろう。ならばこれはどうだ」

 

ガラガラと瓦礫を跳ね除け、セイバーが立ち上がったセイバーが再び剣を構える。

 

次の瞬間、周囲の魔力が黒く渦を巻き始める。その暴力的とさえ感じる膨大な魔力に直感する。あれは……宝具だ。

 

そんな圧倒的な力に立ち塞がる。マシュ・キリエライトだ。

 

「先輩は…私が守ります」

 

怯えを宿し、それでも決意を秘めた強い目でセイバーを見据え、盾を構えた。

 

その後ろ姿は間違いなく戦う者のものであり、騎士のものであった。

 

 

 




キャスターのアニキは合流前に単独でセイバーに挑んで死にました。この人でなし!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。