箱庭出身転生者と猫姉妹 (めざし)
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邂逅編
1話


歴史に残らないほどの昔の話、その者は神を弑殺した。
その者は神殺し、後の世ではカンピオーネと呼ばれる魔王は無辜の民の要望により国を先導する王となり、60年に渡って統治し続けた。その治世に狂いはなく、民は長い平穏を享受し続けた。しかし、魔王は60年目の節目を迎えた建国記念日に突如その姿を眩ませた。次の王を指名する書置きを残して・・・

その魔王は箱庭と呼ばれる世界に招待されていた。その世界は修羅神仏がギフトゲームと呼ばれる遊戯で以って物事や約定を決める世界だった。魔王は歓喜した。何故ならば60年に渡る治世は魔王に多大なストレスを与え続けたからだ。しかし魔王は耐えた。そうあれと無辜の民に望まれたからだ。『60年、そう60年間もだ。それだけの間頑張ったのだ。後は次に任せても良いだろう』と。
そして魔王は箱庭で自身を招待したコミュニティに所属し、ギフトゲームに臨み、そして破竹の勢いで勢力を伸ばした。・・・それがいけなかったんだろう。魔王はある女王に目を付けられた。神格を持った豊穣祭の化身のコミュニティは魔王の属するコミュニティにゲームを仕掛けた。そして7ヶ月に渡るゲームを制した豊穣祭の化身は魔王の所属するコミュニティを解散させ、魔王の身柄を奪い取った。それから幾星霜、人類最終試練が一つ、『絶対悪』の御旗を掲げる魔王の脅威が箱庭を襲う。
『絶対悪』の脅威から箱庭を守るため異世界の魔王は立ち上がる。豊穣祭の女王の下で神域にまで昇華した武術とより精度を上げた嘗て神々から簒奪した力、そして箱庭で得た数多の恩恵を持って、異世界の魔王は他のコミュニティの勇士らと共に『絶対悪』と相見える。そして異世界の魔王は自身の決死の一撃を以って『絶対悪』に数瞬の隙を生じさせ、他の勇士らの封印術式によって『絶対悪』を封ずることに成功する。
そして年月を数えるのも億劫になる程生きた異世界の魔王はその生涯を終える。。。筈だった。
豊穣祭の女王は異世界の魔王が自身の手から消えることを惜しんだ。しかし彼の霊格は砕けており、もはや復元不可能だった。そこで彼女は考えた。ならば、ズタズタに砕けた霊格を可能な限り纏め、その残滓を箱庭の外に放流し、外の子供と融合させ、再び召還するというトンデモを。
そして魔王の残滓は放たれる、箱庭の外へと。
しかし、そこで女王の計画外の事態が発生する。魔王の残滓は箱庭の外に流れた途端に観測できなくなったのだ。。。
そして魔王は再臨す。箱庭でも、自身が元々生まれた世界でもない異世界へと。


Side ???

 

「ハァっ・・・・ハァっ・・・・頑張って白音!!」

 

「・・・・うぅ、は、い・・ねぇ、さま・・・」

 

冥界のとある上級悪魔が統治している領土の外れに位置する森の一角で、二人の猫妖怪の姉妹と思われる幼い少女たちが駆けていた。

一人は14、5歳程の黒い髪を肩程まで伸ばした姉と思しき少女、もう一人は黒い少女の手に引かれながら懸命に走る妹と思しき白髪の齢2桁にも満たないであろう少女だ。

彼女たちは今とある上級悪魔の貴族の追手から逃走を図るために冥界の森を、それも魔獣が蔓延る危険な森の中をデタラメに走っていた。

 

「ハァっ・・・ハァっ・・・ど、どうやらあいつらを撒くことができたみたいよ、白音・・・すぅぅぅ、はぁ、すぅ、はぁ」

 

「げほっ、げほっ・・・はぁ、はぁ・・・こ、これからどうするのですか、姉様?」

 

「はぁ、はぁ・・・そうね、とりあえずこのままあいつの領地から脱出したらどうにかして人間界に脱出しましょう。たしかこの冥界という場所は悪魔以外にも堕天使って呼ばれる種族が悪魔と敵対してるって聞いたことがあるから、そこに保護を求めるのも手、かしらね」

 

この2人の少女たち、黒歌と白音はとある上級悪魔に誘拐され、冥界に連れてこられたが、姉の黒歌が屋敷の警備の一瞬の隙をついて妹の白音と共に脱出することに成功したのだ。

しかし、誘拐した上級悪魔の貴族が少女たちの脱走に気がつくと彼の眷属4人を追手として彼女たちに差し向けたのだ。

幼い少女たちは屋敷を脱出したところまでは順調だったが、ここは彼女たちの知らない異界であったため、元の世界に帰ることができず、右往左往していたところを追手に捕捉されてしまったのだ。

その後、黒歌は自身が考えつくあらゆる小細工を弄してこの森の中にまで逃げることに成功したが、彼女はそれが追手に誘導された結果であるということに終ぞ気づけなかった。

そう、それはまるで中世の貴族の嗜みの一つ、『狩』になってしまっていたことを。

 

「とりあえず、もう少し進んだら、一回休みましょう」

 

「・・・はい、姉s」

 

ドォォォォォォン

 

「「きゃああああああ!!?」」

 

黒歌の今後の方針に白音が返事をしようとした瞬間、彼女たちの背後から少し離れた地面が突如爆発した。

2人は爆発によって大きな怪我をこそ負わなかったもの、地面を転がされたためその小さな体にいくつもの擦り傷や土埃を負った。

 

「鬼ごっこはもう終わりか、小娘ども?」

 

「「!!」」

 

彼女たちが走ってきた道を彼女たちに気付かれないように気配を絶ちながら追ってきた追手の1人『兵士』の転生悪魔がボロボロの2人に、嗜虐的な笑みを浮かべながら話しかける。

 

「小娘どもにしては随分と遠くまで逃げてきたが、ここまでだ。大人しく俺と共に主人のもとに帰るぞ」

 

「・・くっ、そ、撒けて、なかったのか」

 

「当たり前だ、これでも転生前はそれなりの狩人だったんだ。小娘どもに気取られず尾行することくらいわけないさ。・・・さて、もういいか?俺ももう疲れてきたし、グズグズしてると主にまたお小言をもらいそうだ」

 

目の前の悪魔はやれやれと身振りしながら黒歌たちに近づいてくる。

 

「お前たちなんかにいいようにされてたまるか!」

 

黒歌は地面にうずくまったまま、そう言うと目の前の悪魔に気付かれないように右手に何かを握りこむ。

 

「これでも喰らえ!!」

 

黒歌はそう叫ぶと右手に握った土や砂を目の前の悪魔の顔、主に目に入るように思い切り投げつける。

 

「なっ!!!があああ、目が、目がぁぁああ!!」

 

「今のうちに!白音!立って!!走って!!」

 

うまく土が悪魔の目に入って、視界を奪うことに成功した黒歌はこの一瞬の、そして千載一遇のチャンスを逃さず、白音の手を取って再び逃走を開始した。

 

 

 

Side ???

 

パチッ、パチッ

 

同時刻、1人の少年が冥界の森の中で焚き火をしつつ、何かの肉や奇妙な形をした魚に木の枝を串にして焼いていた。

 

「・・・・・・そろそろ食べ頃かな?・・・いや、まだ早い、か?んー、お、先にシチューの方ができたみたいだな♪」

 

少年は肉と魚が自身の好みの焼き具合になるのを待っていると、鍋に入っていた昨晩のシチューの残りが温まったのを確認した。

少年はシチューが焦げないように軽くかき混ぜながら、シチューを温めていた鍋を焚き火から離し、大きな石の上に鍋を安定するように置き、彼は近くに張ってあったテントの中へと入り、少ししていくつかの皿と調味料を持って出てきた。

 

「ん♪肉と魚もこれくらいでいいかな」

 

少年は焼いていた肉と魚を皿に乗せて、鍋の近くに置き、シチューを小さなお椀に入れ始め、いざ食事を始めようとしたところ・・・

 

「いただきまー『ドサッ』・・・ん?」

 

彼が日本式の食事前の挨拶をしかけた時、崖の上から『何か』が落ちてきた。

 

「あん?死にかけの子供か、足でも滑らせたのか?にしてはやたらボロボロだが」

 

彼が落ちてきた物体を見てみると、それはボロボロの黒髪の子供が倒れていた。しかもその子供は高いところから落ちてしまった影響か手足が通常人体が曲がってはいけない方向に曲がっていた。有り体に言えば、折れていた。

 

「・・・うむ、これは厄介ごとの気配がするぞ」

 

少年はその惨状をみてこれから自身にやってくるであろう災難を予想した。そして・・・

 

「・・・う、あ。ねぇ、さ、ま。」

 

黒髪の少女は腕の中に1人の少女を抱いて落ちてきたのだろう。もう1人の少女が呻き声を上げながら上半身を起こしたが、まだ視界が確りと定まっていないのだろう、少女は姉と思われる少女の惨状に気づいていないようだ。

そして数瞬後視界が定まったのだろう、白い少女は叫び声を上げる。

 

「姉様!姉様、しっかりして!!!死んじゃやだよぅ!!」

 

少女は姉の惨状を見てその大きな瞳に雫を浮かべながら助けを請い始めた。

 

「だれか!!だれでもいい、だれかいませんか!?姉様を助け・・て・・・」

 

 

 

Side 白音

 

悪魔の追手に追われているうちに私たちが森の中を逃げ続けていると、いつのまにか崖の上に追い込まれていました。恐らくここまで追い込むことが追手の悪魔の算段だったのでしょう。私たちの前には道がなく、背後にはあの悪魔がいました。

その悪魔は姉様に最後通牒を投げかけましたが、姉様は当然拒否しました。私もあの悪魔の貴族のもとに戻りたくなんてありませんし、姉様の拒否も当然でした。

そして目の前の悪魔は反抗的な姉様に余程イラついていたのでしょう、脅しも込めて先ほどの爆発を私たちの目の前で起こしました。

私は姉様に抱きついていたから、さっきより総重量が増していたので爆発で先程のように吹き飛ばされることはありませんでしたが、地面に亀裂が入り、私たちは崖の下へと落ちてしまいました。

落下していく中、姉様は私を思い切り抱きしめ、そして・・・『グシャっ』という音が私の耳に聞こえました。

私は嫌な予感がして姉様の腕の中から出ると・・・そこには手足が折れた姉様がいました。

 

「だれか!!だれでもいい、だれかいませんか!?姉様を助け・・て・・・」

 

私はこんな森の中に私たちを助けてくれる正義の味方がいないと解ってはいながらも、助けを乞いました。だってそうしなければ大好きな姉様が死んでしまうから・・・

そして私が周りを見渡すと、1人の少年が座って串に刺した肉を食べているのを見つけました。

良かった。この子が誰か助けを呼んでくれれば姉様を救ってもらえると思ったから。

私はもう足がまともに動かせない程に疲弊していたので、這ってその少年の前まで進み、少年の足を掴んで少年に助けを求めました。

 

「お、ねがい・・・ねえ、さ、まをたすけて・・」

 

「やだよ、めんどくさい」

 

そして・・・そして少年は私に拒絶の言葉を叩きつけました。




初めまして、めざし、と申します。

初の二次創作、つまり処女作?になります。
初回なのに前書きと本文含めてやたら長くなりました(汗)。
ってかあらすじに収まりきらなかったから前書きにあらすじ書いちゃった(白目)


・・・コホン
まあ、就活の息抜きに書いてみたので、ペースは不定期になると思います。

さて、うぷ主は問題児とハイスクールD×Dがラノベの中でかなり好きで、これで二次創作やってみたいなと急に思い立ったので、書いてみました。最近このハーメルンという投稿サイトを知ったので、勝手が全然わかりませんでした。投稿するだけで二時間もかかったよ(笑)
うぷ主は文才が全くないので読みにくいと思いますが、少しずつ上達するよう精進していく所存なので、暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。

それでは次話で会いましょう。アデュー。


※誤字、脱字などがあった際はコメントをくれると嬉しいです。極力うぷ主も探しますが見落とす可能性大なので(汗)


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2話

Side 追手

 

時は黒歌が追手の悪魔に目潰しをしたところまで遡る。

 

「クソがぁっ!!あの小娘ぇ、よくも俺の目に土なんぞをっ!!ただじゃおかないぞっ」

 

「くっくっく、小娘ごとき1人で十分だとか宣っていた割には随分な有様じゃあないか、プレスティード?」

 

「うるせぇぞ!!バルディア!!」

 

黒歌によって目潰しをされた『兵士』の転生悪魔、プレスティードは激昂していた。

たかが妖怪の、それもレアな種類のモノとはいえ所詮は子供、まさか自分に噛み付いてくるなどと毛ほどにも思っていなかった彼は彼女の突然の反撃に咄嗟に反応できず、無様な姿を晒し、その上自身が毛嫌いしている同僚、『騎士』のバルディアに見られたからだ。

 

「ちぃっ、屋敷に連れ帰ったらあいつをあの妹の前で徹底的に辱めてやるぞっ!!!!」

 

「よせよせ、そんなことしてみろ。主の怒りの矛先が我らにも及んでしまうではないか。ただでさえ、彼奴らの脱走を許してしまった衛兵どもに主はご立腹だといのに」

 

「黙れ!!てめぇを今この場で爆殺してやろうか!!?」

 

「よしなさいな、2人とも、今はそんな下らないケンカをするよりもしなければならないことがあるでしょうに」

 

プレスティードとバルディアが言い争っていると、彼らの頭上から女性の声が響く。

 

「おや、てっきり飽きて帰ってしまったのかと思っていましたよ、ナターリア」

 

「うふふ、そうね、本当ならこんな疲れることしたくないんですけれど、あの可愛らしい子猫ちゃんたちを伯爵公認で虐めてあげることが出来るんですもの。それを見逃す手はないわ」

 

彼ら2人の前に降りてきた女性、『僧侶』のナターリアは黒歌と白音を屋敷に連れ帰るまでのこの『狩』を存分に嬲る腹積りでいたのだ。

ナターリアは黒歌たちの苦しむ様を妄想して頰を朱く染め、どこか淫靡な表情を浮かべていた。

 

「やれやれ、また彼女の悪趣味が表に出てきましたねぇ。これがなければ良い同僚と言えるのですがねぇ」

 

バルディアがどこか疲れたような気配を漂わせながら言うと・・・

 

ズシン・・・ズシン・・・

 

と何かとてつもなく重い何かが大地を震わせて、ゆっくりとバルディアたちの元に近づいて来た。

 

『おぉぉい、まってくれよぉぉぉ!おまえらぁ、はぇぇよぉぉ!!』

 

そして『それ』はバルディアたちの前に現れた。

『それ』は4Mを優に超える背を持ち、二足歩行をしながらのっそのっそと歩く・・・

 

 

・・・・・・カバだった。

 

 

 

「ふむ、ようやく追いつきましたか、メーヴィ」

 

『おでは、おまえたちと、ちがって、おもいし、せがたかいから、まちを、あるくのが、むずかしいんだぁぁ!!』

 

メーヴィと呼ばれた二足歩行のカバは息を切らしながら、人間には不快なつんざくような声音でそう弁明していた。

 

「不快な声を、出すんじゃねぇよ!!!ブチ殺すぞ!!!!」

 

既にイライラしていたプレスティードは遅れてやってきたノロマが耳障りな釈明をしているのを聞いてより機嫌を悪くしていた。

 

「俺はあの小娘どもの追跡を再開する。てめぇらはそのノロマと一緒に来い!!ジャマしたら容赦無く爆破するぞ!!」

 

「はいはい、でもあの子猫ちゃんたちは私も虐めてあげたいから程々にね」

 

『あぁい、おで、つかれたから、すこししてから、いくよぉぉ』

 

「やれやれ、主から言われたことをしっかり守ってくださいよ、プレスティード?あなたはいつもやり過ぎてしまうんですから」

 

「言われなくても解ってらぁ!!」

 

プレスティードは忌々しげに彼らを一瞥するとすぐに森の中へと走り去っていった。

 

「さて、10分もしたら出発しましょうか。その頃にはプレスティードがあの子たちを補足して無力化していることでしょう」

 

「『はーい』」

 

3人はこれからの予定を軽く打ち合わせた後、束の間の休息をとるのであった。

 

 

 

Side プレスティード

 

「もう逃げ場はねえぞ、クソガキども!!」

 

プレスティードは3分も経たないうちに黒歌たちを補足することに成功した。

そして彼は爆破の魔法を使いながら崖の方へと姉妹を誘導することにも成功し、彼女たちをとうとう追い詰めたのだ。

 

「今投降して屋敷に戻るってんなら、さっきの事は鞭打ち100回で許してやるぞ!!」

 

「ふざけるな、誰が戻るもんか!!勝手に私たちをこんなところまで攫ったくせに!!」

 

「はん!!そいつぁ俺らの主に目を付けられるようなレアな種族に産んだ親を恨むんだなぁ!!」

 

彼は追い詰められてヤケになった黒歌の軽いテレフォンパンチを躱しながら彼女の鳩尾にキックを喰らわせた。

 

「かはっ!!?ぐっ・・・げほっ、げほっ!!」

 

「姉様!!?」

 

鳩尾にキックを食らって軽い呼吸困難になり、地面に蹲る黒歌の前に白音が駆け寄る。

 

「もういいだろ?俺ももう疲れてんだ、帰ろうぜ?お前は良く頑張ったよ、その年のガキがてめぇより幼いガキを連れて狩人の俺からここまで逃げきったんだ、自分を誇っていいぜ」

 

プレスティードは彼女、黒歌を賞賛していた。

なぜならば、彼女は自分に補足されてからここまで15分に渡って逃げ続けることに成功していたからだ。

彼は目潰しをして、醜態を晒させた黒歌に対して激しい怒りを最初は抱いていたが、彼女は小細工をこそ弄してはいたが、6割くらいの実力を出していた彼との鬼ごっこから崖の上に追い詰められるまで、見事に逃げ続けられていたからだ。

まぁその賞賛もその潜在能力の高さから彼女は自分にとって良い手駒になってくれるだろうという打算から来ているのだが。

 

「げほっ、はぁ・・はぁ・・、あんたたちみたいな他人を虐げてもなんとも思わない、それどころか愉しんでさえいるクズどもなんかに・・・好きにされてたまるかぁ!!」

 

「・・・はぁ、めんどくせぇなぁ・・・もう、寝ろ」

 

ドォォォォォォン

 

プレスティードは黒歌の拒絶の言葉を聞いて、心底怠くなり、気絶させるつもりで爆破の魔法を彼女たちの前の地面に放った。

勿論、プレスティードは彼女たちが爆風でさっきのように吹っ飛んでしまわないように注意を払って、かつ彼女たちが爆音などでスタンする程度の威力を持った爆破を放った。

しかし・・・

 

 

ピシィッ・・

 

 

と、彼女たちは爆風でこそ吹き飛びはしなかったものの、彼女たちの足元は大きな亀裂が入り・・・

 

 

ピシ、バキバキバキ、ドォォォォォォン

 

 

彼女たちがいた地面は崩落し、深い崖の下へと落ちていった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やべ」

 

しばらくの間を置いてプレスティードは現実を認識したのだった。

 

 

 

Side ???

 

そして時は現在に至り、白髪の少女の懇願を拒絶した少年は改めて2人を観察した。

 

(・・・・こいつらを治療するのはまぁ、問題ない。この際だ、僕の練習台になってもらおう。・・・だが、それよりも解せないのは、こいつ何故僕を認識している?)

 

少年は驚愕していた。

何故ならば彼がテントを張った周囲には彼が展開した認識阻害の結界があったからだ。この結界にいる彼は本来、誰も認識することなどできないからだ。

しかし、それにもかかわらずこの白髪の少女、白音は彼に助けを求めた。そう、求めたのだ。

そして彼が驚愕している間に事態は進展していく。

 

「ちっ、結構な高さから落ちちまったようだが、死んでねぇだろうな」

 

彼が黙考していると上空から声が聞こえてくる。

 

(ふむ、この地の悪魔、か)

 

蝙蝠のような翼を広げた男、プレスティードが上空からゆっくりとこちらに向かって降りて来た。

やがて彼は地面に着地すると、倒れている黒歌を見つけ、ゆっくりと彼女のもとに近づいた。

 

「・・・黒猫の方は見つけたが、ちっ、死にかけだな。早いとこ連れて悪魔に転生させないとめんどくさいことになるか・・・。・・・・・・白猫の方は・・・いねぇ、逃げたか?」

 

プレスティードは白音の痕跡を探るため周囲を見渡して、そして発見した。

 

「・・・?痕跡は見つけた。だが、何故途中で途切れてる?」

 

白音の痕跡を発見したプレスティードは困惑していた。

何故ならば、体を引きずったような跡が途中で突然ぷっつりと消えているからだ。余りにも不自然に。

 

「・・・と、すると考えられるのはぁ・・・爆ぜろ!!」

 

プレスティードは痕跡が途絶えてる地面に目がけて爆破の魔法を放った。

すると・・・

 

「がぁっ!!!?」

 

プレスティードの足元が突然爆発した。

 

 

 

Side 白音

 

・・・私は正直もう死ぬんだなって思っていました。

私たちを追いかけて来た悪魔が空から降りて来て、姉様を見つけた後、私を見つけるために周囲をキョロキョロと見始めました。そしてあの男と目が合ってしまったので咄嗟に目の前の少年にしがみつきました。

恐怖と姉様が居なくなってしまった喪失感から目の前の暖かい男の子にしがみついていないと私の中の何かが壊れてしまうと思ったから。

そして背後の悪魔がこちらに手を翳したので、恐怖から強く瞼を閉じ、これから私たちを襲うだろう衝撃から身を強張らせながら少年にしがみついていると・・・

 

「がぁっ!!!?」

 

突然背後で爆発しました。

私はびっくりしました。

だってあの悪魔が自分の魔法で吹っ飛んでいったのだから

 

 

Side プレスティード

 

(な、にが、お、きたんだ?)

 

俺は今にも途絶えそうになる意識を必死に繋げながら、痕跡があった場所を見る。

・・・そこには何もなかった。何の異常も。俺が吹っ飛ばされる前と同じ光景のままだ。

 

(ど、ういうこ、とだ?俺が魔法をミスっただけ、か?それ、とも誰かから攻撃を?)

 

プレスティードは理解できなかった。彼は悪魔に転生してからそれなりに長い時間を生きて来た。

確かに転生したての頃、生前使ってなかった魔力を使うことで暴走し、自爆することは多々あった。

だが、それももう昔の話だ。今の自分は未熟だったあの頃とは雲泥の差がある。今更魔法をミスる事などないと自信を持って言える。

だが現実は実際に自身の足元が爆発したのだ。彼は混乱の極みにあった。

こんな魔獣以外いないような場所に自分以外の悪魔がこの森にいて、あまつさえ、領主の眷属である自分に牙を立てるこの地の悪魔なぞいるわけないからだ。

彼は近くにあった木を支えに立ち上がると、周囲を警戒した。

万が一今の爆発が他の悪魔からの攻撃だった場合、すぐに対応できなければ死ぬ可能性があるからだ。

そして・・・

なにもなかった筈の場所から白音が現れた。

 

(!!?なん、だと!?)

 

「姉様!!」

 

白音は黒歌の側に近寄り、彼女を抱き抱え、彼女を引きずりながら移動を始め、そしてまた消えた。

 

(・・・つまりこいつは認識を阻害する結界が目の前にあるって事だな?それはまあいい、理解できる。だが解せないのはあの小娘にそんなもんを張れるような力は少なくともまだない筈だ。ならば、あの結界の中には、他にも悪魔か何かがいるって事だ!!)

 

「そこにいるのはわかってる。出てこい!!俺はヴォルドームスカ・バルバトスが『兵士』プレスティードだ!!今の爆破魔法は明確な敵対行為だぞ!申し開きがあるならば、大人しく姿を見せろ!!」

 

果たして、結界があるであろう位置から現れたのは・・・

 

 

・・・・・・濡羽色のコートを身に纏い、同色の羽根付きの帽子を目深に被り、そして目元には舞踏会などで貴族がつけるような白い仮面を付けた、全身黒尽くめの少年が現れたのだ。



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3話

前回敵にオリキャラをぶち込んでみました。
要は主人公が無双するための当て馬ですね

あと黒歌の口調に関してですが、この邂逅編では「にゃん」とか「にゃ」はつけません。
理由としては、黒歌のこれらの口調は猫魈として一人前になり、成熟した故のものと解釈したものと考えており、要は余裕の表れと考えてます。
なので、まだ未成熟の本作の黒歌はこのようになっておりますのでご了承ください。


Side ???

 

(さて、予想通り厄介ごとが舞い降りて来たな)

 

白音に助けを求められた少年は今現在身に降り掛かろとしているトラブルにどのように対処すべきか頭を働かせていた。

 

(このまま素顔を晒すのはよろしくないだろうな。もし僕という存在が悪魔側に露見した場合、不法侵入で大事になること請け合いだ。・・・なら、正体が露見しないように顔を隠す必要があるか・・・あー、確か以前仮面舞踏会で使った一張羅があったな、あれでいいか)

 

少年はこれから自身が取るべき行動を簡単に整理してから、自身にしがみついている少女を一瞥してから結界の外にいる悪魔を見た。

 

(この子の引きずった跡を見てここに何かあると気づいたみたいだな、だがこれは僕たちの姿が確認できているといった感じではない・・・やはり認識阻害は効いている。ならこの少女はどうして僕を認識できた?)

 

少年は自身をしっかりと知覚することのできた少女に疑問を感じていたが、深く考える前に事態は進行を続ける。

 

「爆ぜろ!!」

 

目の前の悪魔がこちらに手を向けて魔力を迸らせる。

その瞬間、少年は深い思考に入りかけていた意識を切り上げ、戦闘時のそれへと刹那のうちに移行させ、男の魔法式を一瞥すると、その脳裏に反射させる術式を展開させる。

すると・・・

 

ドォォォォォォン

 

悪魔の足元が爆発し、悪魔は吹き飛んでいった。

 

少年は一瞬で反射の術式を組んで、見事に相手の攻撃を防ぐことに成功した自身の技量に満足した。

 

(ふむ、久しぶりに反射魔法を組んだわけだが・・・腕は錆付いていないようだ、よしよし。なら次は・・・)

 

「君、これから僕はあいつと戦うけど、このままだとあそこで倒れてる君のお姉さんも巻き込んじゃうからそこのテントの所まで引っ張って隠れてな」

 

少年は驚いた表情を浮かべている少女にそう告げて、自身のズボンを強く握りしめている手を優しく解き・・・

少年は術式を脳裏に展開させ、亜空間にて収納している変装用の一張羅をその身に纏った。

少女は一瞬で格好が変わった少年にさらなる驚きを示していたが、直ぐに姉を思い出したのか、結界の外へと駆け出した。

 

「さて、これで変装はいいかな・・・いけね、仮面仮面」

 

少年は自身の一張羅が術式によって採寸をピッタリと合わせた上で瞬間換装できたことに満足したが、うっかり仮面を展開することを忘れていたが、すぐにそれに気づいて仮面をつけた。

そんなふうに少年がワタワタしているうちに少女はテントまで戻り、吹き飛んでいた悪魔は近くの木を支えにしながら名乗りをあげた。

 

「そこにいるのはわかってる。出てこい!!俺はヴォルドームスカ・バルバトスが『兵士』プレスティードだ!!今の爆破魔法は明確な敵対行為だぞ!申し開きがあるならば、大人しく姿を見せろ!!」

 

少年は悪魔が少年を呼んでいるので素直にその誘いを受け、結界の外へと歩き出した。

 

(さて、姿を晒すからには確実に殺さないとなぁ。・・・久しぶりの対人戦だ、彼には僕の錆落としに付き合ってもらうとしよう)

 

少年は結界の外へと出ると、目の前の悪魔は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「・・・人間のガキ、だと!?」

 

どうやら悪魔は自身を攻撃した敵が子供だったと理解して驚いているようだ

 

「あなたがどこのどなたで、何故さっきの女の子たちを追いかけているのか、なんてことは毛程も興味も沸きませんが。・・・あなたはここで僕を知ってしまった。始末させてもらいます。」

 

少年は悪魔にそう死刑宣告を告げると・・・

悪魔のもとへと吶喊した。。。その手に白銀の槍を2本携えて。

 

 

 

Side プレスティード

 

「始末させてもらいます」

 

目の前の少年は一方的にそう告げるとプレスティードへと走り出した。

その速度は確かに子供にしては速かったがプレスティードの目で捉えられない速度というわけではなかった。

プレスティードは自身を先程襲った爆発魔法が少年が行ったものではないだろうと即座にあたりをつけ、結界内に少年の仲間がいるのだろうと推測した。

人間の魔法使いはそもそも悪魔などの超常の存在から教えを受けて、それを人間が扱いやすくアレンジしたものが人間の扱う魔法である。そして基本的に未熟な魔法使いは杖やタリスマンなどの触媒がなければ満足に魔法を扱えないのが常である。

よって、プレスティードはこの少年が魔法使いではないと確信し、他にも仲間がいるはずだと見当をつけたのだ。

さらにプレスティードは突撃してきた少年が素手であることから前衛職であると察し、即座に対応しようとしたところ、驚愕した。

何故ならば・・・

 

突然中空から槍が2振り出現し、少年の手の中に収まっていたからだ。

 

「なにっ!!?」

 

プレスティードは咄嗟に少年の槍による1突きを躱し、すれ違い、振り向きざまに少年に向けて爆破魔法を放とうとした。が・・・

 

「ぐぉっ!!?」

 

少年は振り返ることなくもう片方の槍の石突きの部分でプレスティードの腹に当てたのだ。

プレスティードは思わぬ攻撃に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がりながら、少年から距離を取りつつ、爆破魔法をデタラメに放った。

少年の目の前の空間に閃光が奔り、爆発した瞬間・・・

 

少年はその爆発ごと槍で切り払った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

プレスティードはその光景を前に思考ができなくなった。

そして・・・・・・

 

パンっ 、ビュンッ!

ドシュッ!!

 

という音がプレスティードの耳が捉えると・・・

 

「ぐああああぁぁっ!!!?な、にぃい!!?」

 

彼の左肩に長い槍が突き刺さっていた。

いや、それは槍ではなかった。それは槍のように太く、長い矢だった。

何故解ったのか。それは離れた位置に立つ少年の手に赤塗りの弓とプレスティードの肩に生えているものと同じものを弓に番え、こちらに矢の先端を向けて構えていたからだ。

そして・・・その矢はプレスティードへと放たれた。

 

パンッ、ビュンッ!

 

矢がプレスティードの顔面へと飛び、彼の眼は余りの早さにそれを視認することが出来ず・・・

 

ガキンッ

 

と金属と金属が思い切りぶつかったような大きな音がプレスティードの耳へと入っていった。

 

「ぐぅぅっ!!なん、という威力!!?」

 

プレスティードの目の前に剣を少年に向けて構えたバルディアが立っていた。

どうやらプレスティードに迫っていた槍のような矢はバルディアの剣が弾いたようだ。

 

「やれやれ、随分と時間がかかっていると思い、来てみれば。なかなか面白い人間がいたものですね」

 

バルディアは矢を弾いた際に手を麻痺らせたのか、片手を軽く振りながらそう呟いていた。

 

「ふむ、増援か・・・シッ!!」

 

少年は新たに矢を番えると上空に向けて放った。

 

「なっ!?きゃああぁぁぁぁああ!!」

 

「ナターリア!!?」

 

「だ、大丈夫、怪我はしてないわ。でも・・・私の防御魔法をこうも容易く突破するなんて・・・」

 

「・・・プレスティード、ナターリア、どうやらこの少年はかなりの使い手のようだ。気をぬくな、全員で仕掛けるぞ!!」

 

 

 

Side 黒歌

 

「くっ・・・う、あ・・し、ろね」

 

「姉様!!」

 

どうやら私は崖から落ちた後もまだどうにか生きているようだ。

・・・でも、もう私は・・・

じきに白音を残して死んでしまうだろう。

 

「ご、めんね・・・しろね・・・・・わたし、は、もう、だ、めみたい」

 

「そんな!?ダメです姉様!!諦めないで!!すぐに助けを呼んで来ます!!だから・・・だから・・・」

 

「じぶん、のからだ、だもん・・・もた、ないの、は・・わかっ、てる・・んっ、くっ」

 

「いや・・・いや・・・ねえさま、をおい、てなんて・・いけません」

 

「しろ、ね」

 

ああ、だめだ。このまま私が白音に諭し続けても埒があかないだろう。こんなことをしていればいずれあの悪魔たちが白音を捕まえてしまう。それは駄目だ。それだけは許容できない。だが、どうすればいい?どうしたら今のこのどうしようもない現状を打開できる?

 

(・・も、う意識が・・・だめよ、黒歌。白音が逃げるのを・・見るまでは眼を、閉じては・・ん?)

 

黒歌がなけなしの気力を振り絞って意識を繋げ、白音の説得を続けよとした時、彼女の耳にあまり聞きなれない音が聞こえてくる。それはなんだったか・・・・・・そうだ、それは両親と暮らしていた時にテレビの時代劇かなにかで聞いた剣と剣を打ち合わせるような、そんな音が・・・

黒歌が涙で濡れる白音の顔から視線を外し、音の方向へと向けるとそこには・・・・・

黒づくめの小さな誰かがその手に自身よりも遥かに大きな剣を両手で持って、3人の悪魔と戦っている姿があった。

 

(・・・よ、くわかんないけ、ど・・・たすけて、くれるの・・・?)

 

黒歌は途切れつつある意識の中でその誰かが白音を救ってくれることを祈りながら・・・瞳を閉じた。

 

「いやああああああぁぁあぁ!!!」

 

最期に最愛の家族の慟哭を子守唄にして・・・・・

 

 

Side ???

 

「セイッ!!」

 

ギンッ、ズザザザザッ

 

悪魔の剣士の剣と僕の剣を思い切り打ち合わせ、その衝突の反動でお互い距離を取った。その直後に剣から手投げ斧へと武器を瞬間換装し、横にいた爆発使いの悪魔に投擲した。

爆発使いの悪魔は僕に手を向けていたが、自身に迫る斧から身を守るために斧に爆発魔法を放った。

爆発によってその悪魔が僕を一瞬見失ったことを確認した僕は弓を換装させ、眉間に向けて矢を放つ、が・・・女悪魔の氷の魔法によってできた氷壁を半分程まで貫通して矢は停止した。

 

「良く連携が取れていますね。良いですよ」

 

「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」

 

3人の悪魔は体力をかなり消耗しているのか、肩で息をしていた。

・・・そろそろこちらも決着が着きそうだ。

 

「さて、あの黒いお姉さんはもう逝ったみたいなので・・もうお開きにしましょうか」

 

僕はそう言って両手に槍を展開させると・・・突如あたりが暗くなった、気がした。

そして上を見てみると・・・・・・巨大な何かが僕に向かって落ちて来ていた。

 

ズゥゥゥゥゥウウウン

 

辺りに重い音が木霊して、大地が震えた。

 

「ナイスです、メーヴィ!」

 

悪魔の剣士は落ちて来た何かに声をかけて、近寄ろうとするが・・・その何かは血飛沫を上げながら地面を転がった。

 

「いやぁ、びっくりしました。まさか空から女の子ならぬ、空から怪物とは」

 

「・・・」

 

僕は槍に付着した血を振り払いながらそう呟いた。

どうやら剣士は絶句しているようだ。

・・・そんな隙を晒してると・・死ぬぜ?

 

ドシュッ

 

「ゴフッ!?」

 

僕は剣士の喉に槍を突き刺して、カバのいる方へと先程と同じように投げ飛ばした。

 

(あと2人だな)

 

「・・・・あ、り、えねぇ・・・・てめぇは、てめぇはただの人間のガキじゃ、なかったのかよ・・・」

 

「? こんな場所にただの人間がいるわけないでしょう?」

 

「あ、あなたからは魔法使いの気配も、神器の気配も感じないわ!!ただの人間の子供のはずよ!!なのに・・なのにぃ!!!」

 

「・・・あぁ、なるほどそうでしたね」

 

悪魔たちがどうして僕を見て普通の人間の子供だと勘違いしているのか謎でしたが、そういえば気配を誤魔化す指輪をつけてたんでしたね。

僕の魔力量はあまりにも膨大で、ただ居るだけ、それだけで世界が軋みをあげてしまうから。

だからこの指輪をわざわざ作ってはめていたんでした。

・・・まったく箱庭だったらこんなことしなくても良かったというのに。

 

「あなたがたが理解する必要のないことです。ではさようなら」

 

そうして僕は震えてもはや抵抗のできない彼らの命を摘み取りました。



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4話

Side ???

 

さて、これで目撃者は始末できたことだし、あの子どうしようかな?

少年は3人と1匹の悪魔を殺害し、展開していた武装と変装を収納しながら少女のもとへと向かった。

 

「で?君はこれで束の間の安息を得たわけだけどどうする?」

 

少年が少女にそう問いかけると

 

「・・・うっ、うぅ・・・・ねぇ、さま・・うぅ」

 

少女は俯き、死んでしまった姉の亡骸を抱きしめ泣き続けた。

 

・・・・辛気臭くて食事を再開する気にもならないな

 

「・・・・はぁ」

 

少年はうんざりしていた。自分は理由は分からないが少女たちのイザコザに偶然巻き込まれただけであり、久々の対人戦の機会を得られそうだからこれ幸いとこれに自分から介入したは良いものの、その元凶の事後処理にどうするかに悩んだ。そう、一思いに殺してあげようかどうかを。

そして・・・・

 

「・・・もし、君のお姉さんを生き返らせてあげるって言ったら、泣き止んでくれる?」

 

少年はそう問いかけた。

 

 

 

Side 白音

 

「・・・もし、君のお姉さんを生き返らせてあげるって言ったら、泣き止んでくれる?」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

姉様が私の腕の中で息を引き取り、そのあまりの悲しみと喪失感に今にも心がバラバラになってしまいそうな中、一方的に悪魔を蹂躙した男の子が私に問いかけてきました。

 

「聞こえなかった?君が抱いてるそのお姉さんさ、生き返らせたらさ、泣き止んでくれる?って聞いたんだよ」

 

「・・・・そん、なこと、できる、の?」

 

「んー、僕が持ってる権能の一つに時間を巻き戻す力があってね。それを使えば出来なくもない」

 

「!!」

 

「あ!でもでも、ちょっと問題があるんだ。この権能今の僕じゃ上手く使いこなせなくてね、『やり過ぎちゃう』かもしれないんだ。だから怪我をする前のお姉さんとは変わっちゃうかもしれないけどそれでも問題ない?」

 

「・・・・・ねえ、さまが、またわた、しと生きられるの、なら・・・・おねが、い、します」

 

私はこの男の子が『やり過ぎちゃう』という意味を理解はできなかった。ただ、それでも解ることはある。それは姉様と、こんな悲しい別れをしなくてもすむかもしれない、ということだ。

 

「ん、じゃあちょっと離れてて。お姉さん借りるよ」

 

そして私は姉様のまだ暖かい体から離れ、少年の後ろに移動すると、彼は横になった姉様の体を中心に魔法陣を作り出した。そして・・・

姉様の体を起点に半球状の結界のようなものを作り出しました。その中にはたくさんの時計のようなものが結界の外周を縦横無尽に走り回り、時計はその針を逆回転させていました。それは本当に時を巻き戻そうとするためのようでした。

そして・・・・

 

「んっ・・・お、あ・・・・微、調整難しい、な・・・・・・っぐ、おおおおおらああああ!!・・・・あっ」

 

「・・・・・・・・っく、っは!!?ゲホッ、ゲホッ」

 

そして姉様は息を吹き返しました。・・・・・・あれ?姉様が・・・少し縮んでいるように見えるのは気のせいでしょうか?

 

 

 

Side ヴォルドームスカ・バルバトス

 

「・・・・・何?弟よ、今何と言った?」

 

「黒歌たちを追跡していた俺たちの眷属が、どうやら森で殺されてしまったみたいだ、と言ったのだ兄上」

 

「・・・・・あり得ぬよ、それは。あの森には我が領民は入ることはない。それに派遣した俺の眷属はあの森に生息する魔獣共なんぞには決して遅れなんぞ取ることなどない、ということは『女王』のお前も理解しているはずだ、弟よ」

 

「そうだな、理解しているとも、兄上。だが実際あいつらが死んだことは事実だ。つまり黒歌共は何かを味方につけたのだろう、この領地に住む悪魔ではない何者かを」

 

「・・・・ははははは。もしやあるいはこれは良い知らせかもしれぬなぁ、弟よ」

 

「ん?どういうことだ、兄上?」

 

「我が眷属の中でもバルディアはかなりの実力者だった。それを屠ったというのならば、その者はかなりレアな掘り出し物だ、是非とも俺の眷属にしてやりたいぞ」

 

「・・・ふむ、なるほど、一理あるな」

 

「よし、これが片付き次第、早速森に向かうぞ」

 

「わかった、では諸々の準備をしておこう」

 

「ああ、頼む」

 

そして彼の弟は部屋から退出すると、彼は仕事の続きに取り掛かった。。。

 

 

 

Side 白音

 

あれから眠り続けている姉様を、今私の目の前で私の分の食事を用意してくれている少年のご厚意でテントの中で休ませている。

・・・・この少年は何者なのだろうか?私とそんなに歳は変わらなさそうなのに、あれだけ強かった悪魔3人を同時に相手取り、あまつさえ一方的に鏖殺してしまったこの少年は・・・

それと姉様を生き返らせるために使ってくれた魔法?のようなものも・・・

たしか彼は権能とか言っていましたが・・・・

 

「はい、出来たよ。熱いから気をつけてね」

 

彼はそう言って何かの肉の串焼きが数本、何か奇妙な形をした魚らしきものを串でさしたものを数本をお皿に乗せたものとシチューが入ったお椀を私にくれました。・・・・・・食べても大丈夫なのですか、これは?

 

「・・・・い、いただきます」

 

・・・・せっかく私のためにわざわざ焼いてくれたのですし・・・食べないと、失礼・・ですよね・・・・空腹は最高のスパイスと言いますし・・・・

で、ではまず魚の方から

 

ごくりっ

 

・・南無三!!

 

ぱくっ

 

もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ mgmg ・・・・・・・・・

・・・か、噛んでも噛んでも噛みきれない!!?

何ですかこれ!!ゴムでも食べてるんですか私は!!?

私がそうしてこの得体の知れないゴムを食べていると・・・

 

「・・・・mgmg ・・・・・・・・ぺっ・・・ハズレだったな、この魚」

 

少年はゴムのような何かをを吐き捨ててました・・・

得体の知れないものをわざわざ振る舞わないで下さい・・・

 

・・・・・・とりあえず1女の子として口の中に入れたものを吐き出すわけにはいかないのでどうにかゴムのような何かをを丸呑みにすることにした私は肉の串焼きは見なかったことにしてシチューに手をつけることにした。

・・・・・匂いだけなら問題はなさそうですが・・・・

 

ズズッ

 

「・・・あ、美味しい」

 

シチューの中の野菜は程よく煮込まれており、柔らかく、野菜嫌いな私でもすんなりと食べることができました。そしてこれは・・・ベーコンですね。これも柔らかく、疲弊した体に力を与えてくれるような何かを感じました。

 

「お、気に入ったか?今回結構上手くできてるなって思ってたからな。喜んでもらえてよかったぜ」

 

彼はそういうと、いつの間にかなくなってしまった私のお椀を取って、お代わりをいれてくれたのでした。

 

 

 

・・・・・それから美味しい食事を終えた私は、姉様を蘇らせてくれた力のことや彼の名前、どうして人間の子供がこんなところに1人でいるのか・・・そして今後について彼に相談しようと思った、のですが・・・

 

「あ、れ?」

 

急に視界がぼやけたと思ったら、倒れてしまいそうになりました。

 

「おっと。やっぱ疲れてたか。お前ももう休みな。・・・君たちが起きるまでは僕が警戒しといておくから、さ。お姉さんと一緒に眠っとけ」

 

彼はそう言って倒れそうになった私を抱きかかえ、テントの中まで運び、姉様の隣に寝かしつけました。そして、毛布を私にかぶせるとテントの外へ出て行きました。

 

「う、ぁ・・・・名、前、聞き、たかった、な・・」

 

そして私は意識を手放しました。

 

 

 

Side ???

 

少年は少女をテントの中で寝かせ、外へ出ると、今後の身の振り方を考え始めた。

 

(さて、1段落着いたわけだが・・・・これからどうしようかねぇ・・)

 

・・・・少年は2人の少女について、当初巻き込まれるのも面倒だからと見殺しにしようとしていた。実際あの悪魔たちが攻撃をして来なければそのつもりだったのだ。さらに付け加えると悪魔たちの処理後、姉の死で泣き暮れる少女を見てうるさいのと哀れみを感じたのでいっそ姉の後を自らの手で追わせてあげようか、とさえ思っていたのだ。

では、なぜあの少女を助け・・・あまつさえその姉さえ救ってみせたのか・・・・

彼はふとこう思ったのだ。

 

 

この少女はどう見ても10年も生きていない子供だ・・・・・そんな命を・・・かつて王として民草を導いた者として安易に幼い命を摘み取ってしまっていいものか、と。

だが、彼女1人では生きていくのは不可能だろう・・・・・両親が健在なのかは知らないが姉の死は彼女を苦しめ続けるのは想像に難くない・・・ならば自分が姉を生き返らせればよいのではないか?・・・・今の自分では権能を十全にコントロールは出来ない・・・・が、少し・・・ほんの少しだけ力の一端を制御しききれば蘇生はできるだろう・・・・・まぁ、駄目でもともと、修行の一環だと思えば寧ろメリットになりえるだろうか、と。

 

そして少年は少女に問いかけ、少女はそれで姉と再び笑いあえるなら、と頷いたのだ。

 

(まぁ・・・最近はここでの修行もマンネリ気味になってたし?彼女たちが僕の話し相手になってくれるならそれはそれで悪くはない、かな。んー、それはいいとして・・・ここからどうしよう?この冥界とやらにいるにしろ、人間界に戻るにせよ、どこか定住するべき家が必要、か)

 

少年は少女たちのこれからについて漠然と結論づけた後、今後自身らが生活する拠点について考え始めた。

 

(人間界の僕の家は叔母に奪われてしまったわけだし・・・いずれ取り返すのは当然だけど、子供の僕では日本の法律上相続できないからねぇ)

 

少年はある問題を抱えていた。

 

(はぁ・・・本当は生まれ変わったこの世界で穏やかな第2の人生を送るつもりだったのになぁ・・・・。両親が事故で亡くなって、叔母が後見人として僕を引き取ったのが始まりだったっけ・・・)

 

そう、この少年の両親は交通事故に遭い、2人とも彼がこの世に産まれて6歳のときに亡くなってしまったのだ。それはおよそ3年前のことである。その後父方の妹、つまり今生の叔母に当たるものが彼の後見人ととして彼を引き取り、共に暮らし始めたのだが・・・これが彼の人生設計に狂いを齎した。彼女は彼の両親の遺産目当てで彼を引き取ったのだ。彼は自分を引き取った後、彼女は自身に暴力を振るい始め、罵倒を浴びせるようになった。彼は1週間と経たない内に実家を出ることにした。そして実家を出る際彼はこう思った。

 

 

叔母よ・・・今を存分に愉しむがいい、今の僕は生まれ変わった影響か、力を十全に使いこなせないし、齢6の発言力のない子供だ。だから・・・今は雌伏の時を過ごしてやる。・・・・・・だが、せいぜい気をつけろ・・・僕はやられたらその分はきっちり返す主義だ。

 

 

そして少年は実家を後にし、しばらく人間界を放浪した後、この冥界の存在に気付き、やってきた。そして悪魔たちに自身の存在が露見しないように辺境の森で2年に渡って魔獣を相手に自らを磨き続けた。だが、その行程は彼が思っていたより困難を極めた。

 

そもそも彼は転生前の戦いにより霊格が粉々に砕けていた。彼の以前の主は砕けた彼の霊格を纏めたが、それは完全に復元することは叶わなかった。彼女は彼を再び手に入れるために異世界の子供の魂に彼の霊格を注ぎ、融合させて彼を蘇らせようとした結果、少年は転生前の記憶は持つものの記憶は所々欠け、断片的になり、時折記憶が蘇る有様となっていたのだ。彼は物心ついた時に自身には前世の記憶のようなものがある、と理解はしたものの、それは色褪せ、磨耗していた。彼が思い出せるのはその中でもとりわけ色濃く残った記憶しか思い出せない。それは強大な、人間ではない神々しい何かとの戦い・・・・それは自国の兵を率いて、迫り来る蛮族どもとの大戦・・・・それは広大な面積を持った閉じた世界での宿敵や星の化身との遊戯・・・・それは豊穣祭の化身との自身の命運をかけた大遊戯・・・・それは彼女の配下との稽古だったはずが、いつの間にか夢中になり、命がけの闘争になり、ボロボロになった鍛錬場・・・・

・・・・そして自身が最も強烈に記憶していたのは、最凶最悪の魔王『絶対悪』との戦いだ・・・自身が死んだ後あの世界はどうなったのかは知る由もないが・・・

 

彼はそう言った前世の記憶の中で、生前の自分が身につけた武技、魔法、そして権能をこの魔獣犇く森で記憶を参考に磨き始めたのだが、当初それは困難を極める。当然のことだが、少年の体は前世に比べて身長が低く、体格もしっかりしていない。その時点で既に槍や剣を扱うのは難しいと言える。しかも記憶の頼りに体を動かそうとするのだ。当然体の至る所で違和感が生じる。彼は魔獣を相手に時には圧倒し、時には大怪我を負いつつ、自身の記憶に残る技と現在の体から放たれる技とで生じる誤差を丁寧に丁寧に修正し、矯正し、現在の体に極力負担の出ないように戦い続けた。

武技だけでこれだけの課題が出てくる。魔法に至っても同様だ。彼は記憶に残る術式や魔法陣を展開することこそ問題はなかったものの、速度や精度、安定性に欠けた。幼いこの身では自身に宿る莫大な魔力を制御しきれなかったのだ。現在はある程度克服したものの、それでも多少違和感が残ってるのだ。・・・・とはいうものの、格下の悪魔の術式を即座に看破し、刹那のうちに反射術式を組み上げることくらいはできる程ではあったが。しかし同時に宿敵らに同様のことをしても同じ結果にはならない、というのも彼は理解しているのである。

そして問題は権能に関してだ。これが一番の問題だ。自身の霊格に刻まれた簒奪した権能は使うこと自体は可能だ。・・・制御ができないだけで。魔法の時以上に安定性に欠け、精度も悪く、自爆する可能性に目を瞑れば彼はこの世界のいかなる強敵をも叩き潰せるだろう。だが、そんな危険きわまりなものは彼としてもあまり使いたいとも思わない。今回少女の姉を蘇生するために使用した権能も記憶に齟齬が発生しないように術式で記憶のバックアップを取りつつ、ほんの3日前くらいまで戻そうと考えていたが実は彼女の体は4年も時間回帰していたのだ。しかも一歩間違えれば彼女どころかこの森一帯の時間が軽く500年は巻き戻るかもしれなかったといえば、どれだけ不安定なものかはお分かりいただけるだろう。

 

(・・・・うー、思い出したら悲惨な光景が・・・。・・・あと彼女の体に関しては申し訳ないとは思うけど、今を妹ともに生きていられる、ということで納得してもらおう。・・・あとこれからの生活については3人で話し合う方がいいかも)

 

少年はフラッシュバックしかけた記憶を振り払うように頭を振り、ミスで少し小さくなってしまった彼女に自分を正当化して罪悪感を振り払いつつ、3人で話し合ってこれからのことを決めようという判断を下して、引き続き不寝番を続けたのだった。




次回そろそろ主人公の名前を出す予定です。


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5話

Side 黒歌

 

「ん、みゅ?・・・・朝か」

 

この冥界では太陽がないため正確な時間はわからないが、私の体内時計が朝だと言ってるんだからそれで間違いない、うん。

 

「・・・・んー、のどかわいた・・・みず、みず」

 

寝起きのせいか上手く思考が働かないなか、喉に乾きを感じたので水を探すが見当たらない。

仕方がないから起き上がって、テントの外へと出ることにした。

 

「ん?起きたのか?・・・・・・寝ぼけてるみたいだな。あそこの茂みを少し進んだところに川があるから顔を洗ってこいよ」

 

テントの外で大きな石を椅子にして座っていた黒髪の少年がそう言うので私はそれに従いつつ、ついでだから白音も起こすか、と考えて白音を起こすことにした。白音も私と同じで朝に弱いところがあるので中々起きようとしないので負ぶって行くことにした。

そして言われた通りの方向に少し進むと綺麗な川が現れた。私と白音はそこで顔を洗ったついでに川の水で喉を潤すと、ふと自分の体が寝汗で気持ちが悪いと感じたので目の前の川で流すことにした。白音と一緒に。

顔を洗ってもまだ眠気が取れていないらしい白音の着物を脱がし、自身も着ていた着物を脱いで冷たい川の中に身を浸した。

 

「んーーーー、冷たーーい。でも気持ちいい」

 

「うみゅう・・・・つめたい。」

 

全身を侵す川の冷たさに体を強張らせつつも、汗が流れていく気持ち良さが勝り私は堪能していたが、白音はちょっと辛そうにしていた。そこへ・・・

 

「ああ、タオル渡すの忘れてた、よ・・・。すまん、これとあとバスタオルと替えの着替えはここに置いていくよ」

 

先程この川の場所を少年が現れ、私たちを見てすぐに顔を背けつつ中空から手に持っていたタオルとは別にバスタオルと服を取り出して足元に置いた。

 

・・・・・・・・へ?

 

「きゃあああああああああ!!?」

 

川の冷たさにようやくまともに思考を取り戻し始めた私はようやく自身を救った少年に気づくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・それから

 

「・・・・・言い訳をしてもいいか?」

 

「・・・聞きましょう?」

 

私と白音はあれから水浴びを終わらせて少年が用意してくれた着替えを着て少年と共に焚火にあたりながら冷えた体を温め、少年の弁明を聞くことにした。

 

「・・・・・正直僕は悪くないと思うんだ。僕は寝ぼけていた君のために川の場所を教えただけだし、それがまさか水浴びをすることになっているとは思いもしていなかったわけだしね?・・・まぁ、強いてこちらのミスを挙げるなら、行く前にタオルを渡すことを忘れてしまったことだけど。」

 

「・・・・むぅ」

 

彼の言い分を聞いてみたわけだが・・・・うん、反論のしようもないね。

 

「・・・はぁ、そうね。今回のことは私のミスだから、もう何も言わないわ。それに白音が言うには君が私たちを助けてくれたみたいだし。」

 

私がそう言うと目の前の少年はホッと息を吐いたが直ぐにまたバツの悪そうな顔をし始めた。・・・・どうしたのかな?

 

「・・・・あー、そのー・・・覗いたこととは別に僕はもう一つ君に謝らないといけないことがある。・・・まぁこれは僕の未熟さが招いたことだ、素直に恨み言は受け入れるよ。」

 

と、彼は言った。・・・・他にも謝ること?彼は私に何かしたのだろうか?そう私が疑問に思っていると・・・・

 

「・・・姉様、まだ自分の体の変化に気づいてなかったのですか?」

 

と、隣で座っていた白音が私を引きつった表情で見てくる。体?

 

「? ってなんじゃこりゃああああぁぁ!!?」

 

私は自分の体に起こった変化に気が付いた。ないのだ、胸が・・・成長期に入り、徐々に膨らみつつあった私の胸が!!白音と同じくらいの大きさにまで縮んでいたのだ!!一体何がおこったの!!?しかも心なしか身長も少し縮んでる!!!

 

「うわぁぁぁぁぁぁあああああん白音ぇぇぇぇ!!」

 

「きゃっ!!?急に飛びつかないでください、危ないです!」

 

私が白音の胸に抱きつくと白音が怒り始めた。

 

「・・・・姉様、に、起こったことは、彼が説明してくれると、思うので一回離れてください。重たいです。」

 

そう白音が言うので私は渋々離れた。

 

「コホン・・・あー、いいか?簡単にだが説明したいんだが?」

 

「はい、お願いします。ほら、姉様もしっかりして下さい。」

 

「・・・・ううっ、白音が冷たいよぉ〜、クスん。・・・・それでどうして私の体は縮んでいるの?雰囲気からして君がやったみたいだけど?」

 

白音がそろそろ本気で怒りそうなので大人しく話を聞くことにした。

 

「あ、ああ・・・・あー、それを説明する前に確認したいことがあるんだが・・・お姉さん、君は昨日何があったか覚えているかい?」

 

「え?・・・・えーと、たしかー、昨日は昼前に起きてしばらく外をブラブラして、えーと、家に帰ってきてから「え?」冷蔵庫にプリンが一個あったから白音に見つかる前に食べ、よう、と・・・・・あれ、いや、違う?・・違、う、そう、だ、私は・・・・私たちは、悪魔に追いかけられて・・・追い詰められて・・・・それ、から・・・・うっ、あ、あぁぁ!!!!」

 

「姉様!!!?」

 

私が少年に問われて昨日のことを振り返ろうとした時、途中から変な記憶が流れてきた。・・・いや、これは実際に体験したことだ。次々と新たな記憶が私の脳内を駆け巡る。悪魔に追い詰められ・・・崖から落ちて・・・・そして私、は、白音に抱きしめられながら。。。。

 

死ん

 

パンっ!!!!

 

大きな音が鳴り響いた。

脳内を犯す恐ろしい記憶が大きな音によって途切れた。音の発生源の方へと視線を送ってみるとそこには・・・

 

「すまない。辛い記憶を思い出させてしまったみたいだね。・・・・でもこれで君の今の状況は理解したよ。」

 

少年が手を合わせた状態でこちらを心配そうに見ていた。・・・・恐らく、今の音は彼が手を叩きあわせた音だったのだろう。

 

「よし、とりあえず今は君に起こったことについて語ろうか。だから君は僕の言葉にだけ耳を傾けておくれ。今は何も思い出そうとせず、僕の話だけを聞いてくれ。」

 

「・・・・うん、わかった。・・・・・でも、その前に・・・・手を握ってくれない、かな?」

 

「・・・いいよ」

 

そして少年は私の震える右手を両手で握ってくれた。・・・・温かい、なぁ。

隣に座っていた白音も空いていた左手を同様に握ってくれた。

 

「じゃあ、このまま説明するね。・・・・さて、どこから話すべきか。」

 

そして少年は少し悩んだ素振りを見せた後語ってくれた。

私が崖に落ちた後白音が少年に助けを求めたこと。助けを求めている間に私たちを落とした悪魔が彼らのもとに現れ、攻撃してきたこと。少年がその悪魔と戦闘を開始し、さらに戦闘中他の悪魔が現れたこと。そしてそれらを斃したこと。そして・・・そして・・・死んでしまった私を権能という力で生き返らせてくれたこと、を。

 

 

「・・・と、まぁそんな感じで君を蘇生させたわけ。で、さらに付け加えるとただ巻き戻すとこれまでの記憶もその分戻っちゃうからその前に魔法で君の記憶のバックアップを予めとっといて、蘇生後、その記憶を入れたって感じかな。・・・・まぁ、その結果さっきのように記憶の混濁が発生したわけなんだけどね」

 

「・・・んー、とりあえず何があったかは大体わかったわ。・・・それで?結局どうして私は縮んでしまったのか、についてはまだ聞いてないんだけど?」

 

「・・・・いやぁ、その、あれだよ。うん、不幸な行き違いというか、なんというか・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・力加減を間違えました、ごめんなさい。(ボソッ)」

 

「・・・・・・・・・・(ニコッ)」

 

「・・・・・・・・・・(に、ニコッ)」

 

私は彼の説明を聞いて、理解はした。・・・そう理解は。

 

「フンっ!!」

 

ゴスッ

 

「グフゥ!!?」

 

私は仏のような笑顔を浮かべ、彼の腹を思い切り殴ろうとした・・・・が、未だ手を握ってもらっていたので、彼の額に思い切り頭突きをかましてやった。

 

「っつぅ、あ、あんた石頭過ぎない!!?」

 

そう、かましてやったのだが・・・・どうやら彼は見かけによらず石頭だったらしく、ダメージを受けたのは主に私だった。・・・・なんでよ・・・・!!

 

「・・・・・うん、苦言とか恨み言とかは甘んじて受け入れるつもりではいたわけだが・・よもや頭突きをかましてくれるとは・・・しかも自爆してるし・・・」

 

「う、うっさい!!」

 

「ね、ねえさま・・」

 

うぅ、白音にまで呆れられた目で見られてるよぅ。

 

「・・・・・別に君にそんなことは、言うつもりはないわ。死んでいたところを助けてもらったわけだしね。・・・・ただこの行き場のない思いを発散したかっただけよ。・・・うぅ。」

 

・・・・・過ぎたことをウジウジ悩んでいても仕方がない。今を妹と生きていられるんだ。とりあえずそれで自分を慰めよう。・・・・だが、それにしても時間を巻き戻す権能?なんだそれは。そんな馬鹿げた力を人間の、それも子供が持っている?しかも神器でもないだなんて。こんなことが実際起こった今でも正直信じられないが・・・

 

「姉様を助けてくれたその力・・・えっと権能でしたっけ?神器とは違うみたいですがどうして人間の子供の貴方にそんな破格の力があるのですか?」

 

ナイス白音!!それを聞きたかった!!

 

「え!?・・・あー、その、だなぁ。」

 

ん?なんか困ってるみたいだ。そんなに言いにくいのだろうか?

 

「・・・・正直こんなこと言っても信じてくれるとは思えな『ここまできたら信じるから言って(下さい)!!』・・・い。・・はい、この力は神を殺した際に簒奪したものです。」

 

今更ここまできて少年を疑ってもしょうがないので、信じてもらえるとは思えないからと言い渋る少年を私と白音が何を言われても疑わないことを告げると観念したのかポツリとカミングアウトした。・・・・・衝撃的な言葉を。

 

「「神を・・・ころしたぁぁあああ!!!??」」

 

「お、おう?!」

 

いや・・いやいやいや。つまりこの少年は神の力で私を生き返らせたということ!!?・・・・で、でも確かに時間を巻き戻すだなんてそれこそ神の力でなくては不可能だろう。

私は何とかその力の出所に納得すると、次の疑問が湧いてくる。それは・・・

 

「・・うん、さっきも言ったけど君の言うことだからね、信じるよ・・・・その力が神の力だって。でも、つまりそれって君はその歳で既に神を殺したほどの実力者ってことだよね?・・・・でも、君からはそんな実力者には見えないし、力も感じないよ?」

 

「あぁ、それはですねぇ・・・」

 

少年は徐ろに立ち上がり新たに何かの結界を作った後指を鳴らす。すると・・・

 

 

 

3人は先ほどいた場所とは違う、何もない平原に立っていた。・・・・・そう何もない、地平線すらも見えない程に。。。

 

「こ、ここは?」

 

「ここは僕が作った遊技場の一つさ。この空間なら僕の力を解放して周りに影響を与えても外に漏れないから展開したのさ。」

 

少年は平然とそう宣うと彼は自身の左手につけていた指輪の一つを外した。すると・・・・・

 

「「!!?ぐっ、うぅ、ぁ・・・」」

 

彼の体から発せられた圧倒的な魔力の奔流が黒歌と白音を襲い、まるで2人にかかる重力が何十倍にでもなったかのように2人を地面へと押さえつけた。2人が地面とキスをしそうになる直前その重圧が消えたので、咄嗟に足を踏みしめて膝立ちになって少年を見てみると外していた指輪を改めて付け直していた姿がそこにはあった。

 

「この指輪が僕の力を隠蔽せしめていた、というわけさ。さて、力の一端を垣間見せたわけだが・・・・・これで僕の実力がある程度理解してくれたかな?」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

2人が膝立ちのまま絶句し、止まらない冷や汗を流していると、少年は再び指を鳴らした。

途端に3人は最初にいたテントの場所に先ほどと変わらない位置に戻ってきていた。

 

「ん、理解してくれたみたいだね。あー、そんな怖がらないでよ、少なくとも君たちが僕と敵対しない限りは戦うこともないし、寧ろ今の所は君たちの味方的な立ち位置でいるつもりなんだからさ?」

 

あれだけの力を見せつけておきながら少年はあっけらかんとそう言うので、2人は強張っていた緊張感が抜け、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「な、なるほど・・・・。君がどれだけ規格外かは理解したよ。私たちとしても助けてくれた恩人の君に敵対なんて微塵もする気はないから、寧ろこのまま助けてくれるって言うならとても心強いよ。」

 

「そうかい?それは良かった。・・・・さて、これで君にまつわることと僕の力について簡単に説明したけど他に何か質問ある?なければ、そうだね、そろそろお互い自己紹介でもしようか。いつまでも君とかお姉さんって呼ぶのも味気ないし。」

 

・・・・・・そう言えば私たち自己紹介もしてないんだったね。色々ありすぎたおかげですっかり忘れていたわよ。

 

「・・・・なさそうだね。じゃあ、まずは僕から、僕はレイ。葉桜 レイって言うんだ。」

 

「そう、レイね。良い名前ね。」

 

「ん、ありがとう。」

 

「じゃあ次は私ね。私は黒歌。こっちは妹の白音よ。よろしくね。」

 

「よ、よろしく」

 

「ん、黒歌と白音、ね。2人とも綺麗な名前だね、2人にぴったりだと思うよ。あと、こちらこそよろしく。」

 

「・・・うっ///急にそんな恥ずかしくなること言わないでよ!!びっくりするじゃない!!」

 

「・・・うぅ、こんなこと言われたの初めてだから、レイ君の顔まともに見れないよ・・・」

 

こいつはあれかしら、女たらしとか言う奴じゃないでしょうね・・・。

・・・ま、まぁレイは確かに可愛らしい顔立ちしてるし、こんなこと言われたらそりゃ嬉しいけどさぁ・・・・・・・・・・はっ!!何を考えてるの私ぃぃぃぃ!!!??

 

と、私が1人で言いようのない衝動に駆られていると・・・

 

「あぁ、ごめんごめん。久しぶりの会話だからつい舞い上がっちゃったよ。」

 

と、すまなそうにこちらに頭を下げ始めた。

 

「いや、まぁ、恥ずかしかっただけだし頭を下げなくても大丈夫よ。・・・こほん、あー、それよりこれからのことなんだけどさ」

 

とりあえずこの状況を打開するために話題転換する方向に決めた私は今後の方針について話し始めた。・・・・のだが、

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ってなわけで僕の実家は現在叔母に乗っ取られてしまっていてね。残念ながら人間界に戻っても住む場所がないんだ。まぁ、だからこの冥界に人間の僕がこうして現在いるってわけさ。」

 

と、彼はこの年頃の子供が経験するには重い境遇を大したことのないように言ってのける。

それを聞いて私は・・・・

 

「・・・・・んでよ」

 

「ん?」

 

「なんでそんな目に遭って、レイはそんな平然としていられるのよ!!」

 

私は悔しく感じていた。会ってまだ全然時間も経ってないこの少年の境遇を聞いて悲しみと悔しさを感じていたのだ。だというのにこの少年はまるでなんとも思っていないように言うのだ。

 

「・・・」

 

私が声を荒げたことに驚いたのか、レイはその黒い瞳を大きく見開いていた。・・・・・あ、よく見るとまつ毛長いな・・・

 

「・・・・平然としているわけじゃないさ、僕だって悔しいさ。・・・・ただ、当時の僕は今以上に力を扱えきれなかった上に、後見人のいない未成年の立場だからね。これに関してはどうしようもなかっただけのことさ。・・・・それに奪われたものはきっちりと取り立てるさ、利子も込みでね。」

 

「・・・・・レイ君は、強いね。力だけじゃなくて、心も。」

 

「んー、僕としてはそうでもないと思っているけど?」

 

「うんうん、なんて言うかレイ君ってすごく大人っぽい。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」

 

・・・・・・・・・おや?なんか白音の表情・・・・・ははーん?なるほどねぇ。

まぁ、レイも私が思っていたほど、別にどうとも思っていない、という訳でもなかったようだ、それに・・・。

 

「うん、わかったわ。いずれ復讐は果たすのね、なら私たちも手伝いたいわ!」

 

「・・・え?なんで?」

 

「レイは私たちの恩人だからね、借りは返したいもの。それにね、私たちももう親はいないんだ、だからね、レイ、私たち・・・・家族にならない?」

 

「・・・・・へ?」

 

ふふふ、驚いてる驚いてる♪レイの驚いた顔はかわいいなぁ。

あとはこれで白音を、くふふふ。

 

「・・・家族、ですか・・・・レイ君が家族になってくれたら、すごく・・・うれしい、です」

 

「え、あ、お、おう?」

 

「白音もこう言ってるし・・・お願い!」

 

ナイスよ白音!!このまま押せばいける!!

 

「・・・・家族になるのは、僕としても構わない、けど。いいのかい?僕は自分で言うのも変だけどかなり得体の知れない子供だよ?」

 

「大丈夫大丈夫、私たちだって普通の子供じゃないし。ほら。」

 

私はそういうと妖怪・猫又の上位種猫魈の証である猫耳と尻尾を出した。

 

「・・・・君達が人の子ではない、というのは解ってたけど。これは・・・驚いた。君たちはキャットピープルだったのか?・・・・いや、キャットピープルって耳とかの出し入れってできたっけ?」

 

「そのきゃっとぴーぷるってのが何かは知らないけど私たちは妖怪よ?」

 

「ようかい?・・・溶解?・・・ヨーカイ・・・・・・妖、かい・・あー、妖怪かぁ。たしか日本とか中国で生息してるっていうあれかぁ。聞いたことはあるけど実際に見たのは初めてだなぁ。」

 

「うんうん、その妖怪よ。それも猫又の上位種の猫魈なんだから!ムフー!」

 

「へぇ!」

 

「ほら、白音も出しなさい」

 

「は、はい」

 

「おお!」

 

私と白音が猫耳と尻尾を出すとレイはすごい興味津々な目で私たちを観察し、そして・・・・

 

「「ひゃんっ!!」」

 

私たちの猫耳を触り始めた。

 

「おお、しっかり触れる!しかも熱もしっかり感じるな!!本物の猫みたいだ!」

 

「「うぅ!!」」

 

彼は気の赴くまま私たちの耳の感触をを堪能した後尻尾も触り始めた。

 

「「ひぃんっ!!?そ、そこはだめぇ!!?」」

 

「うぉっ!?」

 

敏感な尻尾を耳と同様に無造作に触り始めたレイにとうとう私たちは我慢の限界に達し、彼に思い切り体当たりして押し倒してしまった。

 

「「はぁはぁ」」

 

「いててて」

 

「尻尾は敏感なんだからあんまり不躾に触らないで欲しいにゃ!びっくりするにゃ!!」

 

「悪い悪い・・・ん?にゃ?」

 

そして彼に文句を言って私たちは彼から退いて彼を起こした。

 

「とりあえず、これで私たちも普通でないことは理解してくれたかにゃ?」

 

「あ、ああ・・・それ出してると口調変わるのか?」

 

「そうにゃ。猫魈としての本質を表面化した影響でこうなる訳にゃ。・・ん、ただまだ私は猫魈が使う仙術を使いこなせてる訳じゃないから長時間出し続けてると問題が色々と起こるから普段は出してないのよ。」

 

私と白音は耳と尻尾をしまうと再び石を椅子にして座ることにした。

 

「なかなか生きていくのが大変なんだね、君たちって。」

 

「ん、そうね。しかも、この力を狙う奴もいるから、そう言った奴らからも身を守らないといけないし、現に昨日の悪魔たちだってこの猫魈の力が目当てだった訳だもの。」

 

「なるほどね。・・・・・うん、なるほど、分かったよ。君たちの家族になろうって話、受けることにするよ。」

 

「「ほんとう!!?」」

 

「うん、こうして2人と出逢ったのも何かの縁だ。こんな僕で良ければ僕と家族になってくれると嬉しいよ。」

 

「「やったぁ!!」」

 

「うぉっ!!?またか!?」

 

こうしてこの日私たちに新たな家族、レイが加わったのだった。




この間配信されたスマートフォンアプリ、戦姫絶唱シンフォギア XD UNLIMITEDをダウンロードし、現在イベント爆走中。
しかし、そこで難敵現る。まさかの一撃死させる上に全体攻撃が僕の装者を襲う。
果たして、僕はクリアできるのか、そしてクリアするとき僕は何コンしているのか。
それは神のみぞ知る・・・・


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6話

主人公たちの簡単なプロフィール

本作主人公:葉桜 レイ<はざくら れい>
9歳(この世界に転生してからの肉体年齢である 前世を含めたら軽く4桁は超えます)
黒髪黒目の純日本人。目鼻立ちは整っており、愛らしい顔をしている。冥界で2年サバイバルをしていた影響で髪は肩甲骨まで伸びており、前髪も目を隠すほどに長いが、彼はそれを邪魔に感じたので後ろに搔き上げてオールバックにしている。

彼は所謂転生者と呼ばれるものである。彼は前世ではもともと辺境のしがない一村人だったが、ある日まつろわぬ神と邂逅し、奇跡と運、咄嗟の機転によってその神を殺すことができた彼はその日からカンピオーネとなる。彼はその後その力を祭り上げられて一つの都市国家の王として君臨する。それから彼は自身の国を荒らすまつろわぬ神々や隣国から攻めて来る蛮族の殲滅を続け、いつしか小さな都市国家だった彼の国は大国となる。そして国が安定する頃には59年の時が流れ、かつて自身を祭り上げたものたちは死に、そして建国当初から彼を支えた最後の忠臣の最期を看取ると、60年目の建国記念日に次の王を指名した書き置きを残して姿を消す。その後彼は60年の治世では見ることのできなかった市井の生活を見たりしながら見聞を広め、自国や友好国を訪れながら放浪していた。そんな気ままな旅の中、ふと天から自分の元に何かが落ちて来るのに気づいた彼はそれを拾う。それは箱庭への招待状だった。彼はそれを読み、笑う。次の行き先が決まったと。そして彼は生まれ育った故郷を、世界から旅立つ。

彼は最後に所属していたコミュニティに隷属するまでは彼を箱庭に招待してくれたコミュニティで多くの実績を上げ、そのコミュニティを大いに盛り上げた。だが、その名声が『彼女』の耳に入ったことにより、そのコミュニティは崩壊の憂き目に遭い、彼自身も『彼女』のコミュニティに所属させられる。その後、彼は自身の実力不足を悟り、このコミュニティの武人たちに師事し、武芸百般を身につける。それはこれまで権能に頼りきり、後衛専門だった彼が全距離対応万能型のぶっ壊れのスペックを手に入れるためのきっかけとなった。
彼が箱庭に来て初めての師はこう語った「この私が手ずから教えるのだ。槍術とルーン魔術くらいは一流以上の使い手になって当然だ。だが、私の弟子がこの程度で満足するなど私が許さん。よって我がコミュニティの武人たちの技を盗み、己がものとせよ。・・・・・よもや出来ぬなどと言うまい?」
そして彼は最初の師の教えの通り、同コミュニティの武人の扱きを受けたワケである。これが後にこのコミュニティに所属するとある少女にとっての修行のベースとなり彼女を苦しめる悪夢となるのだが、それはまた別の話。

閑話休題
そんな風に自らを鍛え上げた彼はその後『彼女』の覚えめでたく瞬く間にコミュニティ内で頭角を現し、それなりの地位に付き、それと同じくして他のコミュニティの実力者とも親睦を深めた。
そんな彼に人生最期の試練が襲いかかった。人類最終試練『絶対悪』の到来である。
彼は自らの命を犠牲に『絶対悪』の封印に成功し、彼の人生は本来幕を降ろすはずだったが、彼の主による転生とその際のアクシデントによりこの見知らぬ世界に第二の生を刻むこととなった。

彼がこの世界に出生後、時折彼の故国日本では未曾有の大災害が襲うようになった。それは、彼の体から溢れ出す膨大な魔力が原因であり、彼が物心つくまで彼自身でさえそれらが自分の所為だとは気づかなかった。箱庭での日々により、より魔力の質を高めた彼の魔力は体から無意識に垂れ流されるそれにより世界が軋みを上げていたのだ。彼はそれを自覚すると自身の権能を用いてそれを隠蔽することになる。その際、これまで原因不明にして地球全体を覆う彼の魔力の発生地点を調査していた聖書の第三勢力及び他の神話勢力はその魔力が唐突に消えたことにより大混乱に陥ったらしいがこれも別の話である。
そして彼が6歳になったころ、一つの転機が訪れる。彼の今生の両親の死である。この件を境に彼は自身の居場所を失い、日本各地を暫く放浪し、それから冥界の場所をひょんなことことから知った彼は冥界へと赴く。彼は死後平和な生活を送っていたのと新たな体がかつての武技に耐えられないと知り、冥界にて再びの研鑽へとひた走る。そして魔獣を相手におよそ2年の月日が流れた頃、彼は2人の少女と出逢った。



本作ヒロイン1:黒歌<くろか>
初登場時14歳(肉体年齢及び精神年齢)
黒髪を伸ばし金眼を持つ着物を着た少女

彼女は妖怪・猫又の上位種の猫魈である。彼女とその妹の白音は彼女が13歳の頃に両親を亡くしてしまった。その後、姉妹2人で生活していたがある日上級貴族の悪魔に目をつけられ2人揃って冥界へと誘拐されてしまう。彼女の咄嗟の機転により白音と共に貴族の屋敷を脱出する事に成功するが、貴族の放った追手により辺境の森の崖の上まで追い込まれてしまう。そして追手の悪魔による攻撃と不慮の事故から崖の下へと姉妹揃って落下するが、妹だけでも救いたいと白音を抱きしめ庇って着地したため、彼女の体は瀕死となる。その後、彼女は最愛の妹の腕の中で息を引き取るがレイの活躍により蘇生する。その際、彼女の肉体年齢は4年ほど若返り10歳となる。
レイとの合流後、彼の生い立ちを聞いて彼も天涯孤独の身の上と重い境遇を送ってきたのだと知り、家族になろうと決意する。そこには、圧倒的強者であるレイの庇護下につきたいという打算が当初あったが話を聞いて両親を失ったことのシンパシーを感じたのと白音がレイに好意を抱いていると察しくっつけようと画策する。
だが、彼女自身もレイに対して実は好意を抱いている。死の実感を得て震えていた彼女の手を握ったレイの手の暖かさに心地よさを感じて以来、彼の近くにいると動悸が激しくなるのを感じるが彼女はまだそれを恋から来るものと自覚していない。



本作ヒロイン2:白音
9歳
白髪を肩ほどまで伸ばし金眼を持つ着物の少女

大体の話は黒歌と同様。
崖からの転落後、彼の慈悲により姉を蘇生してもらい彼に恩を感じる。彼の生い立ちを聞き黒髪同様シンパシーを感じるとともに彼に少なからず彼に好意を感じた少女は黒歌の家族になろうという提案に賛同する。


とある次元の狭間

そこで揺蕩う一体の巨大な赤い龍神が閉じていた瞳を開ける。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

その龍神は次元内に流れて来る以前感じ、そして唐突に消えた魔力を再び感知したため、微睡みにあった意識を覚醒させたのだ。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

そしてその魔力が再び唐突に消えるのを確認すると龍神は瞼を閉じ、最初の時と同じように次元の狭間を揺蕩い始めた。

 

 

 

 

 

 

赤き龍神のいた場所とは違う次元の狭間にて

赤き龍神とは異なる黒い龍神は突如次元の狭間に流れ込んで来た途方も無い魔力の波動に気が付き、興味を示していた。

 

「この魔力、我、以前も感じたことがある。・・・・・・でもやっぱり、この魔力の持主、知らない。・・・・・・誰?我やグレートレッドに限りなく近い?」

 

黒き龍神は魔力が流れ込んで来る先を探知しつつ、自身や自身から『静寂』を奪った忌々しい同族に似た気配を感じる、でも知らない何かに思いを馳せていたが・・・

 

「・・・・・・・・・・・・あ、消えちゃった」

 

突然出現した時と同様、唐突に消えてしまったその魔力に残念そうな口振りで呟いた。

 

「・・・・・・・・・あの魔力の持主いれば、我、グレートレッドを倒せる。そしたら、また『静寂』に戻れる。・・・・・・・・・・・・・・・探さなきゃ」

 

 

そして黒き龍神は飛び立つ。・・・・・・・その魔力を持つ誰かを求めて。。。

 

 

 

 

 

Side レイ

 

「・・・・・・・ってことで、んじゃあ、堕天使領目指して出発しようかぁ」

 

「「おー」」

 

 

レイと黒歌、そして白音は自身の自己紹介をしたのち、彼らは家族となった。そして彼らはこれからの方針として冥界内に居るらしい堕天使たちに自身らの保護を求めるべく行動することを決めた。

理由としては簡単、同じ冥界内で悪魔と敵対関係にある堕天使なら悪魔の手から自身らを保護してくれるのでは無いか、という黒歌の提案に対して、レイが他に案がなかったためその提案に乗っかることにしただけのことである。

・・・・・・と、これからの方針を決めたのは良かったのだが・・・

 

 

「んで、堕天使領ってどこにあんの、黒歌姉さん?」

 

「え?知らないよ?」

 

 

・・・・・・と、いきなり彼らは壁にぶち当たっていた。

 

 

「・・・・・へ?し、知らないの?」

 

「うん。だって私たちこの冥界にいるのって攫われてきたからだし、冥界に土地勘なんてないよ?」

 

「ええー・・・。な、なんかないの?ここら辺にあるって聞いたことがある、みたいな・・・・」

 

「うん、ない」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・Oh」

 

「寧ろレイこそ何か心当たりないの?2年もこの冥界で生活してたんでしょ?」

 

「・・・・・生憎この森から出てなくてね。残念ながら外のことは僕も知らないんだよ」

 

「・・・・・はぁ、レイも知らないとなると八方塞がりねぇ」

 

 

方針は決まったは良いものの、まさかの場所がわからないという新たな問題に2人は頭を抱えることになったのだが・・・・・

 

「・・・・でしたら、レイ君、姉様。ここは一度この森を抜けて、どこかの街か村に行って情報収集をするしかないのではないでしょうか?このままここに居て考えて居ても状況は改善しないのですし」

 

「んー、って言ってもなぁ、悪魔の領域内で敵対している堕天使領の場所を聞くのって不自然じゃないか、白音姉さん?」

 

「そこは臨機応変に対応するしかないでしょう。・・・例えば、依頼で堕天使領を調査しにきた、とか何とか理由をこじつけたりとか・・・」

 

「んー、まぁ依頼を受けてるって感じに言えば聞けなくもないだろうけど・・・ネックなのは見た目が子供なのと悪魔の雰囲気がないことだよなぁ」

 

「・・・むぅ、たしかに」

 

と、白音が状況を打開するための案を出すが、やはりそれも問題が浮上してしまい結局八方塞がりとなってしまった。

 

「・・・あーもう、めんどくさい。ここで考えて居ても仕方ないし、白音の言う通りとりあえずこの森から出ましょう!後のことはどこか村か街に着いてから考えましょう!!」

 

と、進まない現状に焦れてきたこの中で最年長(肉体年齢的に)の黒歌が白音の案に賛成の意を示した。

 

「・・・まぁ姉さんたちの言う通りここにいつまでも居ても拉致があかないのは実際その通りだし、あとは野となれ山となれ、かな」

 

 

と、この中で最も最年少(肉体年齢的に。白音とは同い年だが白音の方が早生まれだったのと白音自身の要望によりレイは白音姉さんと呼ぶことになった。その際黒歌はそれに何故か焦っていたような感じだったがレイにはよくわからなかった)ということもあり、2人の姉に従うことにした。

 

「よーし、じゃあ今度こそ出発ね。行くわよ、白音、レイ!」

 

「はい!」

 

「あいよー」

 

こうして一瞬、先行きが不安な3人であったが、目的地である堕天使領の情報を求めるために一行は悪魔の村、あるいは街を目指して旅立ち始めた。

 

 

 

 

 

しばらくして。。。

 

「やっと森を抜けたぁぁぁぁ!!!」

 

レイたちは4時間ほど歩き続けてようやく森を抜けた。

 

「私たちどれだけ森の奥にいたのよ!!?ってかレイはなんであんな森の奥深くで修行なんてしてたのよ!?あと、白音だけおんぶして貰ってずるい!!私もう疲れたー、おんぶしてよぉ〜れい〜!」

 

「森の浅いところにいる魔獣じゃ修行にならなかったんだよ。それに白音姉さんは足を挫いちゃったんだからしょうがないだろ、ってか黒歌姉さんがおぶれって言ったんじゃないか。どこもズルくないぞ」

 

「ごめんね、レイ君。足引張ちゃって。私重くない?森も抜けたし、私降りるよ?」

 

「いやこれくらい何ともないよ。それに家族だろ?困った時は助け合わなくちゃ。ってか白音姉さんは寧ろ軽すぎるくらいだよ?」

 

森を歩いている際に白音は足を挫いてしまったので、それを見た黒歌がこれ幸いと白音とレイの仲を発展させるべく策略を巡らせ、身体的に密着させて姉弟ではなく異性として強く認識させようとしていた。・・・・・つもりだったのだが、黒歌が思っていた以上に森が長く、また悪路であったために黒歌たちが森を抜ける頃には黒歌の体力がそこを着いてしまったのだ。そんなときに怪我をしたとはいえ、レイに負ぶわれて楽に森を抜けてしまった白音に軽い嫉妬を覚えてしまったのだ。

 

「うぅ・・つかれたよぉ〜、あるけないよぉ〜」

 

「・・・・はぁ。・・・ふふ、ったく、しょうがないなぁ。白音姉さん、悪いけど片手離すよ」

 

レイはブウたれる黒歌を見てしょうがない、と言った表情をして黒歌に近づき、彼女を抱き上げた。・・・抱っこする形で。

 

「きゃっ!!?」

 

「これなら文句ないだろ? 片手だからちょっと揺れると思うけど文句は無しだからな」

 

「わ、わ、わ!!(か、顔が近いよぉ///なにこれ、すごく恥ずかしい!!)」

 

「わ!?こら、暴れるな、動くな、落ちるぞ!!?」

 

そんな感じでレイは白音を負ぶりながら、黒歌を片手で抱き上げて歩くという器用なことをしながら再び歩みを始めるのだった。

が・・・・・・・

 

 

 

 

バチィィイィッ!!!

ドォォォォォォン!!!!

 

 

 

突如天から雷撃が彼らの元に降り注いだ。

 

 

 

 

 

SIde 黒歌

 

私はレイにいきなり抱っこされたことに驚き、暴れてしまった。・・・・だって私の目の前にいきなりレイの顔が出てきたんだよ?そりゃビックリするって。・・・・もう、するならするって言ってよ、言ってくれたら心の準備を済ませとくのに・・・。・・・・・・・ん?心の準備?・・・・・もしかして、いや、まさかぁ?

 

と、私が内心焦っていると・・・

 

 

 

バチィィイィッ!!!

ドォォォォォォン!!!!

 

 

突然雷が私たちを襲った。

 

そして・・・・・

 

 

 

「ようやく見つけたぞ!!猫ども!!」

 

・・・・・あの男。私と白音を攫った貴族の悪魔が私たちの前に現れたんだ。

 

 

「大人しく檻に戻れ、黒歌!この俺の眷属になれるのだぞ?全くなにが不満だと言うのか」

 

・・・・・随分と勝手なことを言ってくれる。・・・と、私があの男の言い分に憤りを感じていると・・・・

 

 

「・・・・おい、貴様。僕の姉さんを家畜扱いか?随分と舐めたことを言ってくれる・・・覚悟しろよ、塵一つ残さんぞ、羽虫」

 

・・・レイがぞっとするような無表情の顔しながら、不快げな声を出して怒りを露わにしていた。

 

 

「・・・・・・ほぉ?俺の攻撃をどうやって防いだか知らんがなかなかやるではないか。貴様何者だ?・・・・・・・ああ、わかったぞ。貴様だな?俺の眷属を殺した奴は?」

 

「知らねぇよ、取るに足らん羽虫の下僕なんざ」

 

「吠えるじゃないか、小僧!!面白い!!気に入ったぞ小僧!!!貴様もそこの姉妹同様、俺の眷属に加えてやろうじゃあないか!!喜べ、小僧!カス同然の人間の貴様をこの俺が使ってやると言うのだからなぁ!!!はーっはっはっはっは!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。黒歌姉さん、白音姉さん。あいつが姉さんたちを攫ったっていう悪魔で間違いない?」

 

「・・・え、ええ。そうよ」

 

「・・・はい、あの悪魔で間違いありません」

 

「・・・・・・・そうか。2人ともごめん。ちょっとここで待っててくれ、すぐ戻る」

 

 

そう言ってレイは私たちをその場にゆっくりと下ろすと、私たちの周囲に結界を張った。そして・・・

 

 

「遊ぶ気は無い。目障りだから、貴様はとっとと殺す」

 

レイは一振りの日本刀を中空から取り出し、鞘から刀を引き抜いた。

・・・・・・・・その刀は、とても美しかった。まるで磨き上げられた刃は芸術品のように曇りはなく、白刃を波打つように走る模様はそれだけで超一流の鍛治師が丹念込めて打ったものであると、刀に詳しくない私でも解るほど、それは・・・儚くも神々しく、何か高貴なものを感じた。

 

 

「ほぉ!!なかなかの業物のようだな。くっくっく。素晴らしい、素晴らしいぞ!!それは俺にこそふさわしいと言えるな。貴様は間違いなく掘り出し物だ、俺の眷属の損失を補うどころかお釣りが出てしまうほどのなぁ!!!!」

 

 

・・・・と、悪魔がなんか叫んでいると・・・

 

 

シャンっ

 

 

と、まるで鈴の音が鳴り響くような音がした。そして・・・

 

 

「貴様なんぞ触れるのも烏滸がましい、身の程を知れ」

 

・・・・私は見えなかったが、レイがその場で刀を振り抜いたらしい。それだけで・・・・レイは動いてもいないのに・・・空に居た悪魔を斬り墜としていた。

 

 

 

 

・・・・・・それから。どこからか様子を見ていたらしいあの悪魔の『女王』らしい悪魔が無残に真っ二つになった主の死体を見て何事か叫んで激昂して居たが、レイがあの美しい刀を仕舞って新たな武器、漆黒の大弓を中空から取り出し地面に固定するように設置し、槍のようなこれまた真っ黒な矢を4本程地面に突き立てるように展開し、内2本を徐ろに引き抜き、1本を弓に番え、もう一本の鏃とは逆の先端ーーー確か筈だっけ?ーーーを空いている手の薬指と小指だけで握って持つと、弓を構えて・・・・・悪魔に向けて第1射を放った。矢は綺麗に悪魔の下まで飛んでいき・・・・その矢のあまりの速度に躱わし切れないと悟った悪魔が防御障壁を張った。瞬間障壁と矢がぶつかり合う轟音が鳴り響いた。矢と障壁が拮抗し辺りに途轍もない衝撃波が生じる。それを見届けることなく既に第2射の構えに入っていたらしいレイは狙いを絞り終わると同時に放った。・・・・すると2射目の矢は寸分違わず前にあった矢の筈に中り、1射目の矢を押し出した。そして・・・・

 

 

「が、はっ!!!?」

 

信じられないと言ったような顔をした悪魔の胸には、矢が突き刺さっていた。。。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・。ふぅ、まだまだ、以前ほどの技には遠い、か」

 

 

と、レイが結局使わなかった矢とあの大弓を片付けながら、ポツリとそんなことを言っていたような気がした。

 

 

 

Side 白音

 

私たちを襲った悪魔たちの襲撃からおよそ2ヶ月が過ぎた頃、漸く私たちは堕天使領に辿り着きました。・・・・・・すごく長かったです。

お姉さまと2人であの暗い森を逃げていたあの時が遠い昔のように感じます。

だけど、実際はあの日はほんの2ヶ月前の出来事でしかなくて、今では新しい家族もできたことを思うと感慨深くも思います。・・・まぁ、この2ヶ月かなり大変でしたが。・・・・情報を得るために街に潜入して、3人で肩車して、その体の上に大きめのローブを被って大人に見せかけてみたり・・・・・・・・3人で寝るには少々手狭なテントで寝るために私と姉様でレイ君に抱きついて寝たり・・・・・・道中ドラゴンの住む領域を見つからないように慎重に抜けたり・・・・レイ君が悪魔の領土で取れた奇妙な素材を活かしたゲテモノ料理を出したり・・今はもう後ろにある、悪魔領と堕天使領を隔てるあの高く険しい山を乗り越えたり、と、うん、思い出したくもないようなことがたくさんでした。

でも、そんな苦労もとうとう報われて私たちは漸くここにたどり着くことができました。まる。

 

「さて、どうにかこうにか着いたわけだが、黒歌姉さん頼る人の当てはあるの?」

 

「いや、あるわけないじゃん」

 

「ですよねー・・・・・・うーん、じゃあとりあえず1番目立つあの場所に乗り込むとしようかぁ」

 

 

・・・と、レイ君はそんなことを言いながら歩き始めました。

 

「「まってまって!!」」

 

・・・いきなり真正面から乗り込もうとしないでください。・・・・・ほんと、レイ君のやることはいつも度肝を抜かされてしまいます。・・・はぁ。

 

「そんな考えなしに突っ込んで行ってどうやって私たちの保護を求めるつもりですか!」

 

とりあえず私は正論で攻めて彼を止めなければ。このままでは保護を求めたつもりが殴り込みになってしまう・・・。

と、私が心配していると・・・・・

 

「大丈夫だって、こういうのは正面から会いに行って誠心誠意込めてお願いすれば相手も笑って受け容れてくれるって、ばっちゃが言ってたよ」

 

「いやいやいや。流石にいきなり行っても簡単に話が着くとは思えないですし、何よりアポイントメントもとってない異種族の私たちの話を聞いてくれるとも思えないよ、レイ君・・・」

 

「んー、そうは言ってもアポイントメントを取ろうにも僕らの中に堕天使の知り合いがいない以上、取りようがないんじゃない?だったら、素直に正面から、がいいと思うよ?」

 

「・・・・むぅ」

 

そう言われてしまうと確かに堕天使に知り合いがいない私たちはそれしか手がないように思える。・・・説得は難しいか。そう言えば姉様は何か意見はないだろうか?

と、姉様の意見を聞こうと振り向くと・・・

 

「あ、そこのおじちゃーん、あそこの偉い人とお話しがしたいんだけどぉ、仲介してくれないかな?」

 

前髪が金髪の知らない堕天使のおじさんに話しかけている姉様の姿があった。・・・・・・・ねえさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??

 

「あん?・・・・お前、堕天使じゃねぇな?お嬢ちゃん、何もんだ?」

 

あわわわわわ。や、やばいです。このままじゃほんとに堕天使に殴り込みに来たと思われてしまいます・・・・・ど、どうすれば。

と、私が1人これから訪れる戦争の気配にワタワタしていると・・・

 

「うーんとね、私は黒歌って言うんだけど、少し前に貴族の悪魔に攫われてこの冥界に連れて来られたんだ。どうにかその悪魔の隙をついて逃げ出したんだけど、悪魔領にいるといずれまた他の悪魔に転生悪魔にさせられそうだから敵対関係にある堕天使領に保護を求めて逃げて来たの。お願いおじさん、助けて・・・」

 

と、上目遣いをしながら瞳を潤ませてそう言った。・・・・あざとい、あざといです姉様!!

と、私が1人感心したような呆れたような複雑な心持ちでいると・・・

 

「・・・・・・黒歌姉さん可愛い」

 

と、私の隣でレイ君がそんなことを言った。・・・・・えいっ

 

「痛っ!?」

 

なんかむしゃくしゃした私はレイ君の脇腹をいつの間にか抓っていた。

 

「いきなり抓るなよ、痛いぞ白音姉さん」

 

「・・・・・・ふんっ、知らないです」

 

「?何か悪いことしたか?」

 

「・・・・いいえ、別に。ただ、ちょっとレイ君にイラっとしただけです。」

 

「えぇ?・・・よくわかんないけど、なんかごめん。」

 

「・・・いえ、私こそすみません、レイ君は悪くないです。」

 

・・・はぁ、どうしていきなりあんなことしたんでしょう?自分でもよくわかりません・・・・。とりあえず今は姉様の交渉?を見届けましょう

 

 

 

「・・・・・・・・なんだと?・・・ちっ、サーゼクスの野郎、お前がしっかり貴族どもの手綱を握ってねぇからこっちにまで面倒ごとがきちまったじゃねぇか(ボソッ)」

 

「ん?おじちゃん、今なんか言った?」

 

「いや、なんでもねぇ。こっちの話だ。・・・・あー、それより黒歌つったか?保護してほしいんだって?」

 

「ん、そうそう。で、どう?堕天使の偉い人に仲介してくれる?」

 

「ああ、良いぜ?保護してやるとも」

 

「? おじちゃんがそんなこと勝手に決めちゃっていいの?」

 

「あぁ、問題ねぇさ。なんせ俺がその堕天使の偉い人なんだからな」

 

「!!?」

 

「じゃあ改めて自己紹介だ、嬢ちゃん。俺はアザゼル。『神を見張る者』のトップをやってる堕天使だ」

 

 

 

そしてこの日、私たちは堕天使のトップ、アザゼルと偶然邂逅を果たすのでした。




今回、前書きと本文含めて9000文字を突破しました。
いやぁ、筆が乗るとスラスラと書けますね。
ビックリしたビックリした(汗)

・・・・と、いうわけでレイたち一行は堕天使領へと辿り着いたその日に堕天使のトップとばったり出くわすという感じになりました。
さてさて、彼らは今後どうなるのでしょうね?

では次回もお楽しみに。アデュー。


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7話

先日この作品のお気に入り登録が100人突破していました((((;゚Д゚)))))))
正直うぷ主こんなに読んでしかも、お気に入り登録してくれるとは思っておらず、かなり驚いてます。

拙い作品ではございますが誠心誠意これからも執筆していく所存ですので読者の皆様も今後ともよろしくお願いします。
それでは、引き続き本編をお楽しみください。(・ω・)ノ


Side アザゼル

 

「じゃあ改めて自己紹介だ、嬢ちゃん。俺はアザゼル。『神の子を見張る者(グリゴリ)』のトップをやってる堕天使だ」

 

俺は堕天使に保護を求めにきた少女、黒歌に自身の正体を明かすことにした。へへっ、俺の正体を知ってめっちゃ驚いてんな。・・・・さて?他にも2人ほど誰かいるみたいだが、そいつらはこいつの関係者なのかねぇ?

 

「保護を受けたいのは嬢ちゃん1人かい?それとも・・・後ろの2人も俺たちに保護を求めるのか?」

 

「!!?」

 

嬢ちゃんは自分以外にも仲間がいることがバレて驚いたような表情を浮かべていた。

 

「・・・・・・流石は、堕天使のトップと言ったところかしら。もしかして最初から気づいていたの?」

 

「まぁ、そりゃあな。これでも頭張ってる身だからな、近くにいりゃ、隠れてようが見つけるくらいわけねぇよ。

・・・・んで?どうすんだい嬢ちゃん、結局3人まとめて保護するってことでいいのか?」

 

「・・ええ、お願いしたいわ。おーい2人とも、出てきて!」

 

黒歌が背後に潜んでいた2人に大声で呼びかけると彼女より小さい少女と同じか少し大きいくらいの背丈の少年が黒歌よりも前に出てきた。

 

「初めましてアザゼルさん、レイと申します。突然押しかけてしまってすみません、またこの度は僕たちを保護してくださり有り難うございます」

 

「白音です。・・ありがとうございます」

 

ペコリ、と少年が俺に丁寧に自己紹介と挨拶をしてきた。・・・・へえ、年の割には随分としっかりとしたもんだ。

 

「あぁ、いいっていいって、そんな畏まらなくて。まぁ、話は聞いていたみたいだから、説明しなくてもいいな。んじゃ詳しい話は後で聞くとして早速行くか、我らが『神の子を見張る者(グリゴリ)』にな」

 

そうして俺たちは『神の子を見張る者(グリゴリ)』の本拠地へと向かった。

 

 

 

 

それから・・・・

 

「ーーーなるほどねぇ。お前さんら2人は妖怪の、それもレアな種族だから、ってことでここに連れてこられたわけだ。

・・・・で、お前さんは両親が死んだ後、家にいられなくなり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

で、そこから隙をついて3人揃ってその悪魔の下から逃げてきた、かぁ」

 

俺はこれまでの3人の経緯を俺に割り当てられている研究室で詳しい事情を聞いた。・・・・『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を作ったのは確かにすげぇんだが、そのために無理やり転生させようとする悪魔のやり方はやっぱダメだな。そろそろ自重させないと他の神話勢力どもとの戦争の火種になりかねんぞ・・・・

と、俺が頭を悩ませていると・・・

 

「アザゼルさん、僕たちは人間界で3人、穏やかに生きていきたいと思っています。・・・ですが、そのためにも拠点となる場所や僕たちの身分を保証してくれる後見人がいなければどうにもなりません。なので貴方方堕天使に僕たちの後見人になって欲しいのです。幸い拠点となる場所に関しては僕の実家を取り返せれば良いと思うのです。そしてそのためには叔母から権利を親権を取り返さなくてはなりませんが・・・これは虐待について証言したり、その後それで僕が失踪したことを証言すればなんとかなると思います。・・どうでしょう?」

 

「なるほど。確かにお前さんの言う通りにすりゃまぁ問題なくお前さんの実家は取り返せるだろうな。・・・だが、その後はどうする?家を取り返して人間界で暮らし始めたとしてもまた他の悪魔の貴族に目をつけられて誘拐される可能性は高いぞ?」

 

「あー、確かにその通りですねぇ・・・」

 

レイは俺の指摘を受けて悩み始めてしまった。

 

「・・・じゃあ、こうしようぜ?俺が悪魔側のトップに交渉してお前たちの安全を保証してもらう。その代わりお前たちは俺たちの仕事をいくつか手伝って欲しい。もちろん、子供のお前たちに危険なことはやらせるつもりはねぇし、仕事を頼むのもお前たちがもう少し大きくなってから、ってのは?」

 

「・・・ふむ。そうですね、僕としてはそれで問題ないと思います。姉さんたちは?」

 

「そうねぇ、危険じゃないなら、私もそれで構わないわ」

 

「・・・私はいいと思います」

 

「そうか、良し、決まりだな。じゃあ、残りの細かい話はメシ食べてからにしようぜ?腹減ってるだろう?」

 

俺の提案にレイたちが賛成したのを見て俺たちは食事を摂ることにした。

その後、細かい打ち合わせを終え、食事の間に部下に子供達の部屋を用意させ、その日は解散となった。その際、部屋を男女別にしようとしたら長女の黒歌が一緒の部屋が良いと言い張ったので、3人とも同じ部屋でしばらくの間生活することになった。

 

 

 

 

ーーーそして、俺とあいつらと出会ってから4ヶ月の月日が経った。

・・・・・・俺たち堕天使がレイたちの後見人になる際レイの叔母との裁判が地味に長引き、レイの実家を取り戻すのにしばらくかかったのだ。

その間俺は裁判で使う資料作成に追われたりすることになってクソ忙しかったわけだが・・・。

そんなこんなで今日を迎えた。レイたちが人間界へと向かう日だ。

 

「アザゼルさん、今日までお世話になりました」

 

「「お世話になりました!」」

 

「おう、お前らも元気でな。たまには連絡よこせよ?」

 

レイたちが俺たちに別れの挨拶をした。・・・・あークソ、こいつらが急に居なくなると思うと寂しくなるなぁ。

・・・・そうだ。いいこと思いついたぞ。

 

「あぁ、そうだ黒歌、白音、レイ。お前たちはまだ子供だからな。今年の春から家の近くのこの学校に転入する予定になってるから、勉強頑張れよ」

 

「「「え?」」」

 

「当たり前だろ?俺はお前たちの保護者で、お前たちは子供。しかも、日本の義務教育を受けないといけない歳なんだからなぁ」

 

そう、こいつらは今年の春から地元の小学校に転入することになっているのだ。・・・そしてこいつらが学校に行く以上・・・

 

「保護者への手紙とか連絡があったら、ちゃんと連絡するんだぞ?・・・特に授業参観とか、三者面談とか、運動会のお知らせとかとかとか」

 

こういったイベント毎にこいつらに会いに行く口実ができる。へっへっへ、この際だから、近くにマンションでも借りとくか?

・・・・とか考えていると・・

 

「・・・・・総督?まさかとは思いますがそれを理由に仕事をサボろうとか、人間界に拠点を作ろうとか考えてませんよね?」

 

隣のシェムハザが言ってくる。・・・・お見通しかよ・・

 

「い、いや、そんなことは・・・ねぇぞ・・・?」

 

と、俺が冷や汗を流していると

 

「学校かぁ。そういや入学して1ヶ月で通わなくなっちまったんだよなぁ・・・・誰も僕のことは覚えてないだろうなぁ・・・」

 

と、レイが急にどんよりとした空気を出し始めた。

・・・・・あん?・・・・あー、そうか、こいつ、丁度入学して少し経ってから両親が事故ったんだっけ?

と、レイについて考えていると・・・

 

「だ、大丈夫だよレイ君。たとえ覚えて居なくても、友達ができないって決まったわけじゃないし、一緒にがんばろ?」

 

「そうそう、白音の言う通りよ。寧ろ私たちなんて通ったこと今までなかったんだからレイがしっかりしてくれなきゃ困るわ」

 

「うぅ、そうだな。・・・たとえ、僕のことを覚えてなくても・・・・また一から頑張るしかないかぁ」

 

と、白音と黒歌が励ましてもらったおかげか、多少レイは気を持ち直したようだ。熱いねぇ、お二人さん。

・・・・それとレイのおかげで俺に向いていたシェムハザの疑惑の視線がどっか行った!ナイスだぞレイ!!

と、心の中でレイに親指を立てていた。

 

「・・・・うん、良し。悩んでいてもしょうがないし、その時の僕に期待しよう。

・・・・えっと、それじゃ改めてお世話になりました!そして行ってきます!!」

 

「「行ってきます!!」」

 

「おう、行ってこい。事故とか病気に気をつけるんだぞ!!」

 

 

こうして3人は人間界へと旅立った。

 

 

 

Side レイ

 

僕たちは冥界の堕天使領を出発し、人間界の、僕がもともと暮らしていた街、駒王町へと戻ってきた。うーん、久しぶりの太陽だ、眩しいねぇ。

 

「うにゃあ、眩しいい!!」

 

「うっ、目が」

 

・・・・どうやら黒歌姉さんと白音姉さんはこの久しぶりの日差しで目を痛めたようだ。

 

「・・・大丈夫?2人とも?」

 

「・・・うぅ、れい〜、眩しくて目を開けられないから手を引っ張ってぇ」

 

「・・・ごめんなさい、レイ君。私もお願いします」

 

僕が2人を心配していると、2人が手をこちらに差し出してきた。

・・・これはつまり、僕が2人の手を引いて家まで連れて行けと?いや、いいけどさ・・・

 

「・・・・しょうがないなぁ、じゃあ転ばないようにゆっくり歩こうか」

 

そうして僕たちは登り始めた太陽に向かって歩き始めた。・・・いや、家がこっちにあるんだよ、決して姉さんたちの瞼越しに太陽光をぶち当ててやろうとしたとかじゃないから・・。

 

 

それからしばらくして・・・

 

「おぉ、ここがレイが住んでいた家?大きいねぇ!!」

 

一軒の家の前に立っていた。表札にはローマ字で「葉桜」と書かれている。うん、懐かしき我が家だ。

 

「オシャレな感じの家ですね、わぁ、庭も結構広いですね」

 

と、僕が実家の外観を見て1人懐かしんでいると、2人は勝手に門を開けて庭へと向かった。・・・いや良いけどさ、家主より先に入るってどうなの?・・・いや、家族だからいいけどさ・・・。

少々僕が呆れていると

 

「早く家に入ろう、レイ!」

 

「そうですね、荷物を置きたいですし内装とかも気になります」

 

 

・・・尻尾とか出してないけど、出してたら確実にブンブンしてそうなくらい家の中が気になるようだ。

 

「はいはい、今開けるからちょっと待って」

 

とりあえず家の鍵を取り出して開けるといの一番に黒歌姉さんと白音姉さんは家の中へと転がり込んで行った。・・・・・はやっ!!

 

「「わぁ!!!」」

 

2人は靴を玄関に脱ぎ捨てて、リビングやバスルーム、キッチンなどを順々に見て回り、その度に感嘆の声を上げていた。

・・・何がそんなに2人の興味を引くのか、全くわからんが・・まぁ喜んでるならいっか・・・・

僕はとりあえず両親が遺した家具などの状態を確認し、どれも問題ないことを確認して、冷蔵庫の中を確認した。

 

「・・・まぁ、当然食材とかないよねえ」

 

叔母からこの家を取り戻した際に叔母が持ち込んだ物は全て彼女に引き払ってもらったので、当然冷蔵庫の中はすっからかんだ・・・ってかそもそも電源すら入ってねぇし、仮に何か入ってたら確実にやばかったな、うん・・・・それより昼ご飯はどうしようか、外に出て食べるか、出前になりそうだな、この調子じゃ。

こんな感じに僕が昼飯について思案していると・・・

 

「レイがもともと使ってた部屋ってどこー?」

 

と、二階のほうから黒歌姉さんの声が響いてくる。

 

「階段上がって手前の部屋だよー」

 

それに対してとりあえず返事をして僕も軽く一階の状態を見てから二階へと上がることにした。

そしてかつての自分の部屋に入ると、黒歌姉さんたちがいたのだが・・・・・・・部屋には何もなかった・・。

 

「・・あらぁ、どうやら叔母さんは僕がいなくなった後、部屋の物は全て片付けちゃったみたいだねぇ」

 

かつてそこにはベッドや勉強机、ランドセルなどの家具や小道具があったのだが、そこには何もなかった。・・・・おそらく捨てられたかあまり使っていなかったものはオークションに出されたりしたのだろう・・・・とか適当に考えていると、姉さんたちはとても悲しそうにこちらを見た。

 

「・・・・レイ君の部屋・・・・だったんだよね・・・?」

 

「・・・・こんなのってないよ・・あんまりだよ・・・・」

 

と、すごくショックだったのか、その綺麗な金眼を真赤に充血させて涙を零していた。

・・・やれやれ、姉さんたちは泣き虫だなぁ。

 

「・・・泣かないで、2人とも。確かにここにあった僕の思い出はなくなっちゃったけどさ・・・。その分は僕たちで新しく埋めようよ。この真っ白になったキャンバスに僕たち3人の色をこれから塗っていこう?ね?」

 

と、我ながら後で思い返したら絶対に顔面から火が出てしまうような台詞をはいて、2人の頭を撫でて慰めた。

 

「「・・・・うん」」

 

「・・・・・髪の毛サラサラで気持ちいいな・・」

 

 

 

・・・それからしばらくしてそれぞれの部屋の検分を終えて僕たちは一度リビングに集まった。

 

「・・・・・さて部屋の状態を確かめ終わったことだし、つぎは昼飯について決めようか?なにか希望は?今の所外食か出前にするつもりなんだけど」

 

「外食にしましょう。その足でこの街の案内とか夜ご飯の材料の買い出しをするって流れが効率的です」

 

「白音の言う通りね、それじゃレイ、案内とかよろしく〜」

 

・・・と、こんな感じで外食しに行くことになった僕たちは近くの大型ショッピングモールへ行き、ショッピングモール内にあるフードコートでそれぞれ食べたいものを食べて、帰りに食材やら日常雑貨品などを買い漁り、気づけば大荷物となっていた。しかも、買い物に夢中になりすぎていて、いつのまにかかなりの時間が経過したらしく日が傾き始めていた。ということで、街の案内は後日行うことになった。

・・・・そして3人で荷物を分担して家に持ち帰ると(当然男の僕が1番重かったが、正直大した重さでもなかった)、今日は白音姉さんが料理をしたいと言ったので料理を任せ、その間にキッチン以外をとりあえず黒歌姉さんと一緒に手分けして溜まっていた埃などを掃除をした。

掃除が丁度終わった頃、白音姉さんから料理ができた知らせを受け、料理に舌鼓をうった。どうやら、堕天使領で生活している間に堕天使の女性に習っていたらしく、かなりの出来栄えだった。

食後、入浴することになったが黒歌姉さんが3人で入ろうと言うのでそのまま入ることになった。そして、僕はバスルームに搭載された我が家自慢のギミックを彼女たちに披露した。それは・・・・・

 

「「ふわぁぁ!!?すごーい」」

 

スイッチを押すとバスルームが真っ暗になり、プラネタリウムになるのだ。これは父が星を見るのが好きだったらしく、この家を建てる際にこの仕掛けを導入したものだ。

そして2人が天井に広がる星々の輝きに夢中になっていると・・・・

 

「「ひゃんっ!!?」」

 

突然浴槽から強烈な水流が襲った。

 

「どう?驚いた?」

 

この浴槽はジェットバスになっていたのだ。

これは母の要望を受けて取り付けたらしい。

 

「もうっ、いきなり驚かさないでください!」

 

「ごめんごめん」

 

「・・・・まぁレイのいたずらは後でとっちめるとして・・・・あぁこの泡気持ちいぃ」

 

「・・・そうですね、それに星もきれい・・・」

 

どうやら2人とも気に入ってくれたようだ。

・・・・・・そんなこんなで入浴を楽しんだ僕らは、ショッピングモールで買った寝間着に着替えて就寝することになった。・・・・・もともとの僕の部屋にあったベッドはもうないので、両親の寝室にあるキングサイズのとても大きなベッドで一緒に寝ることになった。・・・・うん、子供の僕らじゃ3人で一緒に寝ても全然余るわ・・・。

 

 

こうして葉桜家、3人の子供たちの生活が始まった。




はい、今回は短いですがここまでとなります。
次回から小学校編を予定してますので、原作開始まで今しばらくお待ちください。
ではでは。٩( 'ω' )و

追記、ちょっと文章増やしてみました。3000字ほど(白目)


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小学生編
8話


FGO夏イベ・ライト版・・・・・気づけばもう終わった。
うぷ主ぜんぜんまわってないのですが・・・・どういうことですか(震え声)?

と、絶望しつつXDの夏イベプロローグに一気にテンションを上げるうぷ主。
今年の夏は暑くなりそうだぜ!!・・・・だが財布は真冬到来だぜ・・・・_:(´ཀ`」 ∠):

そんなうぷ主の近況でした。
では本編をば。


※あと日刊ルーキーランキングにうぷ主の作品載っててすごくうれしかったです。みんな応援ありがとうー・:*+.\(( °ω° ))/.:+


AM 5:30

 

レイは日が登り切っておらず、空はまだその暗さを少しだけ残していた、そんな朝早くに彼は寝苦しさから目を覚ました。

彼はそのままムクリと上体を起こそうとしたが・・・・

 

「・・・ん、みゅう・・・・」

 

「・・・くー・・くー・・・」

 

自身の首もとに両腕を巻きつけるようにして眠る何故か半裸の黒歌と左腕に抱き付くこれまた何故か半裸の白音によって起き上がることができなかった。

 

「・・・・んー、いつも思うが何故姉さんたちは寝る前にはしっかり着ていた寝間着が朝起きると脱げてるんだ?」

 

という、解けない謎について考察しようとして・・・・・・そのまま二度寝した。

 

 

 

 

 

それからしばらくして・・・・・

 

「朝ですよレイ君、姉様、起きてください」

 

「・・・・・あと5ふんだけまってぇ・・・」

 

「・・・・おはよう、白音姉さん・・・」

 

「はい、おはよう、レイ君」

 

「・・・・白音姉さん、手伝って・・」

 

「・・・はぁ、またですか姉様・・・。姉様、寝間着が脱げていますよ。起きてください」ゴロゴロ

 

ドスンっ

 

「ぐぴゅっ・・・・んぁ、いたい。」

 

 

 

 

それはレイが二度寝を始めてしばらくしてからのこと

 

白音は目が覚めると自身が半裸でレイに抱きついて寝ていたことに気付き、赤面して起き上がった。どうして自分は寝ている間に寝間着を脱いでしまうのか、という自問自答をしていたが、それは冥界で悪魔領を3人で旅していた頃から解けない命題であり、結局今日もその答えを出すことはできなかった。

とりあえずもはや日課となってしまったこの問答を切り上げ、記憶の片隅追いやり、着替えを始めた。

それから彼女は簡単な朝食を作り、レイと黒歌を起こしに来たが、レイは直ぐに目を覚ますものの、黒歌が起きようとしなかったので、まずレイの首に巻きつけている彼女の両腕を強引に外し、そのまま彼女をゴロゴロと転がしてベッドから落っことした。これも毎朝の日課の一つとなってしまった、白音流黒歌起床術である。・・・・ちなみにテントで寝泊まりしていた時にはこの技は会得していなかったため、黒歌を起こすのはかなり苦労したらしい。

 

 

 

「起きましたか姉様? ご飯の支度が整いましたよ」

 

「・・・・あーい。ふあぁ、ねむねむ」

 

「・・・ほら、またベッドにダイブしようとしないでください」

 

黒歌が再びベッドに飛び込もうとするのを阻止し、白音は彼女の背を押して食卓へと向かった。

 

 

 

Side レイ

 

(さて、5日後に始業式だからな。今日は学校で使うものを買いに出かけるかぁ)

 

と、朝食を終えた彼らは朝食を準備してくれた白音のお礼にレイは使った食器を洗い、黒歌は溜まった洗濯物を洗濯機に突っ込み、洗濯されて湿った洗濯物をベランダに干していた。

そしてレイと黒歌がそれぞれの仕事を終えると、レイはリビングに姉たちを招集して今日の予定について語った。

 

「今日は昨日行った駅前の商店街で学校指定の上履きとか体操着を買いに行こう」

 

「わかった」

 

「はい。・・・・あ、レイ君何時頃家を出る予定ですか?」

 

「ん? あぁ、そう言えば商店街が開くのって結構遅いんだったっけか? だから・・・そうだな、昼前くらいに出ようと思うよ」

 

「わかりました。・・・・それまであと、3時間ほどありますね。修行しましょう、昨日は出来ませんでしたし」

 

「賛成。今日こそは魔法を習得して見せるわ!!」

 

「2人とも意欲があって感心感心、じゃあトレーニングウェアに着替えて庭に出るか」

 

「ええ」「はい」

 

 

僕たちは堕天使領で生活している間に一緒に修行をするようになった。もともと僕は1人で鍛錬をしていたが、ある日姉さんたちに自分たちも強くなりたいと言われ、彼女たちに魔法の技術と武技、そして戦い方について教えることになった。彼女たちを強化する方法は僕自身何通りも直ぐに思いついたが、その中で最も簡単で手早く力をつける方法はやはり自身が持つ恩恵を彼女たちに譲渡することだろう。

しかし、僕は姉さんたちの強い覚悟の目を見てその方法を取ることはやめた。彼女たちの決意を冒涜すると感じたからだ。なので、僕は彼女たちが耐えられるかはわからないが、彼女たちの決意を信じて自分と共に研磨する、という方法を取ることにしたのだ。

 

 

そして彼は最初、魔法の理論や術式などの座学、筋トレなどの基礎的な身体能力の向上をメインに稽古をつけ始めた。そしてそれも3ヶ月を越えた頃にはより実戦的なものへと変え始めた。彼女たちは猫魈という種族の恩恵かなかなかに吸収が早かったため、3ヶ月という短い期間で身体能力の上昇と基本的な魔法理論についてなどを身につけたからだ。基本的に今の稽古はレイが作った結界内で行なっている。当然周りに影響を及ぼさないためなのと、アザゼルさんに僕の特性を伝えていないため、隠す必要があったからだ。

 

 

・・・・・僕は別にアザゼルさんや他の『神の子を見張る者(グリゴリ)』の他の幹部のことを信用していないわけじゃない。寧ろ逆だ。アザゼルさんのことは2人目の父のようにさえ僕は思っている、が、『神の子を見張る者(グリゴリ)』という組織は一枚岩じゃない。それは幹部のコカビエルさんが『』の中で少々浮いていることから見てもそう間違ったことでもないし、末端の方まで幹部の意志が伝わりきっていないように見える。

僕のカンピオーネなんていう異質の力や恩恵、そしてこれらの存在の露呈は確実に僕を争いの坩堝へと巻き込むだろう。だからこの力の存在を知るものは極力少ないほうがいい。そして知る者は極力伝播しないような小さなコミュニティ内で留まるのが好ましい。故に家族という最小単位、黒歌姉さんと白音姉さんの2人で収まっている現状こそ最良の状態なのだ。・・・・・まぁその2人にも自身が転生者であるということは伏せてあることはかなり心苦しく思っているのだが・・・・

 

 

(・・・・2人なら僕が転生したって話をしても信じてくれるかもしれないけど・・・んー、どうしようかなぁ・・・・)

 

と、レイは着替えながら自身の隠し事について悩んでいると・・・

 

「レイ君着替え終わった?・・・・どうしたの?何か考え事?」

 

と、白音はトレーニングウェアに着替え終え、なかなかやってこないレイを迎えに来ると、何か悩んでいるような表情を浮かべていたレイを見て問いかけた。

 

「・・・いや、大したことじゃないよ。今日はどこから巡るか考えてただけさ」

 

と、レイはとりあえずこのことは一旦切り上げることにして、適当に誤魔化すことにした。

 

「・・・そう?ならまずはランドセルからでいいんじゃないかな?」

 

「えぇ?嵩張る物は最後の方がいいんじゃない?」

 

「あー、それもそうだね」

 

「でしょ?だから上履きを最初に見るか、体操服先に見るかで悩んでたんだよ」

 

「なるほど」

 

「ま、それはおいおい考えるとして・・・・庭に行こっか」

 

「うん」

 

 

・・・どうやらうまく誤魔化せたようだ。

レイはそう安心してそのまま白音とともに庭に出ると、早速認識阻害の結界と防壁を張った。

 

「もう、遅いよ2人とも!!」

 

「ごめんごめん。・・・・じゃあいつも通りストレッチしてから始めようか」

 

 

そうして軽い準備運動を始めてから彼らは修行を開始した。

主に学んだ術式を展開して魔法を放ったり、組手などを中心に行う。黒歌と白音は武器を扱うよりも徒手空拳の方が性に合うのか、主に拳法についてレイから学び、そこに独学で仙術を取り入れた彼女たち独特の戦い方へと昇華させていった。

姉同士の組手は互いの体格が似通っている上、その身に覚えた技術もまた拮抗しているためなかなか決着が付かない。逆にレイとの組手は手加減されているとは言え、レイが余りにも多くの技の引き出しを持つため、一つ一つを必死に自身の手札を用いて対処していく、といった感じのものとなる。これは同格の実力者との戦い方の上達とあらゆる攻撃から身を守る方法を身につけることへと繋がり、2人の実力は並みの上級悪魔程度ならば、まだ倒すのは難しいにしても簡単には殺されない程度には力をつけるまでに至っていた。

そして組手を終えたレイたちは己の課題に取り組む。レイならば依然安定しない権能の掌握を第1に、他にも未だかつての域に達していない武技の修正を。黒歌と白音は新たな魔法の他にも身体能力の向上と新たに妖術、そして仙術の訓練を行っていた。

 

そして朝の密の濃い修行を終わらせた3人は駅前の商店街へと出かけた。

 

「さて、早速体操着から買いに行くぞ」

 

「えーと、体操着のコーナーは・・・・あ、あったあった。レイー、白音ーこっちこっち」

 

3人は最初に体操着を買いに来た。そしてそれぞれのサイズに合わせたものを買い、その後上履きや筆記用具、ランドセルなどを購入した。

その後彼らは商店街にある定食屋で遅めの昼食を摂り、夕食の材料を買って帰宅した。

今日は3人で協力して夕食の準備を始めることになった。今日は手作り餃子である。3人で仲良く餃子の皮に具を包んでいた。・・・具の玉ねぎを刻む際黒歌は目に染みたのか、ポロポロと涙を零しているのを白音とレイに見られて笑われ、黒歌が怒っていたのは割愛だ。

 

そしてそんなこんなで楽しい夕食を終えて、3人は夜の修行を開始した。夜の修行は環境に対応する訓練である。それは結界内をレイの魔法で真っ暗にして、闇の中で組手を行なったり気配探知の訓練(鬼ごっこや隠れんぼ)をしたり、レイの権能で雷雨を降らせたり、大雪を降らせたりする中でバトルロワイヤルしたり(当然レイは手加減するが)、だ。

こうしてハードな夜の修行を終え、レイはヘトヘトになって動けなくなった黒歌と白音を家の中へと運び、風呂の用意をした。

風呂が沸くのを確認したレイは未だ動けない2人の衣服を脱がし、風呂場に入れ、シャワーで2人の汚れを軽く洗い流してからボディーソープで背中を洗った。1カ月も同じことをやっているのでレイの動きは手馴れたものを感じさせた。・・・流石に前とかは自分に洗わせたが。

その後昨晩と同様ジェットバスとプラネタリウムを堪能した3人は風呂場を後にし、入浴後の冷えた牛乳を煽った後、歯を磨いてから就寝することになった。

 

 

そして翌日、いつも通りの朝を迎え、今日も今日とて朝食後修行に勤しむ。

レイは今日の予定を姉たちの街案内に費やすことに決め、少しだけ早く修行を切り上げることにした。

 

「今日は2人に街を案内しようと思う、特にこれから通う学校とかは道のりをしっかり覚えとかなきゃいけないからね」

 

 

と、言った感じにレイが提案し、2人が了承することで早速3人は外出するのだった。

そして3人はまず学校を目指し場所を確認し、何度か家と学校を往復して道のりを完全に覚えると、そのままの足で駒王町の市立の大きい図書館や市民プールなどの公共施設、本屋や喫茶店、ゲームセンターなどの娯楽施設や雑貨店などを巡り、町のだいたいを見て回った。

その間黒歌が、これってデートだよねぇ、とか嬉しそうに言うからレイと白音は少々気恥ずかしく感じていた。しかも黒歌はまるで恋人の手を握るようにレイの手を絡めて歩き出すし、白音も同様にレイの空いた手を握るから余計に恥ずかしく感じたのだった。

 

と、そんなこともあったが、その後何事もなく町を見終わった彼らは今日は夕食を外食で済ませ、そのまま帰宅して修行することにした。因みに夕食は蕎麦だった。

そして本日の日課を終えた彼らはそのまま就寝した。

翌日、レイはいつまでも長いままの髪をバッサリ切ろうと思って、床屋に出かけようとしたが、長いままのレイが良いと黒歌と白音に懇願され渋々長い髪のままになってしまったが、せめて前髪だけでも目にかからないようにしたいと、頼み込んだ結果、黒歌と白音が調整する、ということで妥協してもらい、長い後ろ髪は髪ゴムでまとめることにした。

 

その後彼らはそんな新しい日常を送り、そのまま始業式の日を迎えた。

 

 

 

小学校の職員室にて

 

「ーーーでは、葉桜 黒歌さんは6年3組、白音さんとレイ君は今日から同じ5年1組となっています」

 

と、副校長先生にそう言われ、それぞれ担任の先生に連れられて自分たちのクラスへと向かった。

 

 

「ーーーーはい、それでは皆さんに今日から一緒になる新しいお友達を紹介しますよー、白音さん、レイ君、入って来てくださーい」

 

レイと白音が自身のクラスの前で待機していると、クラスの中から担任の先生に呼ばれた。そのままクラスの中に入り、黒板に自身の名前を書いて自己紹介をした。

 

「初めまして。葉桜 レイです。家の都合で4年程この町を離れていましたが、最近戻って来ました。もしかしたら僕のことを覚えている人もいるかもしれませんが・・・えーと、まぁ、改めてよろしくお願いします」

 

と、レイは無難に挨拶し・・・・・

 

「初めまして。レイ君の姉の白音です。よろしくお願いします」

 

と、白音は簡潔に挨拶をした。

 

「ーーーでは、自己紹介も一旦終わりにして2人は空いてる席に座ってくださいね〜。では朝の挨拶を始めますよー」

 

と、指示を出された2人は最後列の空いていた2つの机を繋げた席に座った。因みに名前順の関係上白音が左でレイが右である。

 

 

そして朝の挨拶が始まり、先生からの連絡事項の報告が終わると、1時限目の準備をしに先生は一度職員室へと向かい、いなくなった途端・・・・・

当然新しいクラスの仲間となった2人に興味津々なクラスメイトたちが質問の雨あられを飛ばしは始めた。

 

「前はどこにいたの?」

 

「2人は何が好き?」

 

「サッカー興味ない?」

 

「ゲームとかするの?」

 

「白音ちゃんって言うんだ、かわいい名前だね!」

 

「葉桜くんは髪の毛長いね、女の子みたい!」

 

などなど、一斉に2人を囲んでは、返答する間もないような質問に襲われ、どうにか一つずつ対応しているうちに(以前いた場所などの答えるわけにはいかない質問には適当に誤魔化したり、はぐらかしたり、アザゼルが捏造した来歴に沿った情報を答えた)1時限目のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってようやく2人は解放された。

 

 

「・・・・・・・・・・すごかったね、レイ君・・・」

 

「・・・・・・・・・・あぁ、怒涛の質問攻めで、今日はもう疲れたぞ」

 

「・・・・うん。でも姉様も同じ目にあってるんだよね、多分」

 

「・・・・だろうね。まさか転校生がこんな大変な役職だったとは・・・・」

 

「・・・・恐るべきは子供の好奇心、だね・・」

 

 

と、2人は疲れたような表情を浮かべて、姉の冥福を祈っていた。

 

そして、今日は始業式なので授業数が少なく、午前中には学校から解放されたのだが・・・

当然クラスメイトから授業の合間合間では質問しきれなかった続きを再開され、2人はまたか、と思いながら返答し、校門前で疲れたような顔をした黒歌と合流してから帰宅したのだった。



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9話

今回モブキャラにオリキャラを少々出してみました。
分かりにくかったら申し訳ありません。


では、本編をば、お楽しみください。



※我がカルデアに世界的な名探偵をお迎えすることができました・:*+.\(( °ω° ))/.:+
あとはその宿敵が福袋で来てくれれば良かったんですが・・・・まぁ、あんな闇鍋ガチャじゃ早々来ることなんてなく、カルナさんが代わりに来てくれました。持ってなかったから嬉しいんですけどね・・・・ただ
来るなら限定鯖が良かったんですけどねぇ・・・・
といううぷ主の近況でした


急げ・・・急げ・・・

 

・・・・僕は今、誰も歩いていない廊下を1人、全力で走っていた。

それは僕の未熟さから来る失態が全ての始まりだった。・・・・・僕がもしあの時気づいていれば、白音姉さんはあんなことにはなっていなかったかもしれない。・・・いや、少なくとも何かしらの対策は立てられたかもしれない。

昨日の自己紹介の時僕は思っていた以上に緊張していたか、あるいは浮かれていたのだろう。あの時に異常があったことを僕は見逃してしまっていたんだ。・・・だから白音姉さんの時は間に合わなかった。だが、黒歌姉さんはもしかしたら大丈夫かもしれない。あの人は普段は少しだらしないところがあるがここぞという時には意外としっかりしていたりするところもあるのだ・・・。だから、僕はそれに一縷の望みを託して今黒歌姉さんの教室、僕のクラスの一つ上の階にある6年3組を目指して走っている。

そして・・・・・

 

「姉さん!!」

 

僕はやっとの思いで黒歌姉さんのクラスの前に辿り着き、扉を乱暴に開ける。扉を開いたそこには・・・

 

後ろの席で自身の机に頭を乗せて突っ伏している黒歌姉さんの姿があった。

 

 

「黒歌姉さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!?」

 

 

僕は黒歌姉さんのその姿を確認するやいなや思わず叫んでしまった。すると背後から・・・・・

 

「・・・・・・レイ君、うるさいです。いきなり叫ばないでください、先輩たちの迷惑です」

 

 

コンっとという音ともに僕は白音姉さんに頭を叩かれていた。

 

 

 

 

 

ーーーそれはレイたちが2回目の登校後、黒歌と別れ白音とともに1時限目の国語の授業を受けている最中、白音が小声でレイに語りかけた時に起こった。

 

 

「・・・・・・レイ君、今黒板にはなんて書いてあるのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 

これがこの事件の始まりだった。

 

「・・・・・・え?もしかして白音姉さん、字、読めないの?」

 

「はい」

 

「・・・・・・。

・・・いや、昨日自己紹介の時黒板に自分で名前・・書いてたよね?」

 

と、突然のカミングアウトにレイが目をパチクリしながら白音の顔を見ながら尋ねると・・・・

 

「昨日のあれは、漢字はレイ君の名字と思われるところまではレイ君が書いた字を見よう見まねで書いただけですし、名前に関しては名札を見ながら書いたので・・・」

 

「・・・・・・う、そ、だろ」

 

「いえ、本当です」

 

そう言われてレイは白音の胸についている『しろね』と書かれた名札を見ながら、昨日のことを思い返してみると・・・・

 

(・・・・・あぁ、確かに白音姉さんが昨日書いた字はやたらグニャグニャしてた気がする・・・名前も平仮名だったし・・・・。・・・なるほど、昨日名前だけ平仮名だったのはそういうことか。てっきり漢字が分からないのかと思っていたが・・そういう・・・。・・ん?ってことは?)

 

「・・・姉さん、もしかしてだが・・・・黒歌姉さんも字の読み書き出来ない?」

 

「うん、多分」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「それでレイ君、今黒板にはなんて書いてあるのですか?」

 

「・・・あ、あぁ。それはだなーーー」

 

 

と、レイは今まで思いもしなかった事実が突然湧いて出てきたことにより思考が真っ白になってしまい、白音の問われるままに答えていた。・・・当然、そんなことをしていれば前に立って授業を続けている担任の目に入ってしまい・・・

 

 

ヒュンっ

 

 

と、レイの額目掛けて真っ白なチョークが飛んでくるが・・・・

 

 

パシっ!

 

 

と、意識していなかった方向から突然飛来物が彼を襲おうとしたのでレイはつい無意識にチョークを掴んでしまった。当然・・・

 

 

「おおおおお、すっげぇ!!!」

 

 

当然クラスメイトの注目の的になる・・・。

 

 

「え?あ・・・」

 

 

それに遅れて気付いたレイは自身がしでかしたことに気づき、焦る。

 

 

「・・・葉桜くん、チョークを止めたことはすごいですが、授業中に喋ってはいけませんよ?」

 

「は、はい。すみませんでした!!」

 

「いい返事です。では、チョークを私に返したら、葉桜くんは今読んでいたところをもう一度音読してください」

 

「はい!え、ええとーーー」

 

 

と、いった一波乱があり・・・

 

 

1時限目の終了を告げるチャイムがなるやいなや、レイは駆け出した・・・黒歌の教室を目指して・・・

 

ーーーそして冒頭へと繋がる・・・

 

「うぅ・・・れい〜・・・」

 

「すまない、姉さん・・・僕がもっと早く気付いてさえいれば・・」

 

「・・・・やはり姉さんも字の読み書きが出来なかったんですね・・・」

 

白音が黒歌が使っていたノートに書かれている文字のような何かを見て、察した。

 

「・・・算数難しすぎるよ〜・・・・」

 

「なるほど、黒歌姉さんは1時限目の授業は算数だったのか・・・。・・・・算術も出来ないと・・・・。OK把握した。今日から読み書きの練習と算数も日課に付け加えよう・・・」

 

 

と、レイは1人この状況を打開する決意を固めた。・・・それはひとえに愛すべき家族が今後の学校生活で困らないようにするために・・・・。

 

 

と、朝から早々トラブルを抱えたレイは学校から帰ったら自身が姉2人に勉強をつけるから今日の授業はひたすら黒板に書かれてあることを写すように言付けて、白音を連れて次の授業の準備をした。

そんなこんなで午前中の授業を終えて、レイにとっては久しぶりの、白音にとっては初めての給食の時間を迎えた。

先生が決めたその日の給食を運んでくる当番が教室に戻ってくる間にそれ以外の者たちが4人、あるいは5人1班のグループを作り(クラスの総人数が奇数だったため)、自分たちの机をそれぞれ向かいあわせるように移動させ、それぞれの食卓を作った。その際どうやら作るグループは前の2人、あるいは後ろの2人との班のようだ。

 

 

「レイ君レイ君、学校のお昼って学校が出すんですか!!?」

 

「あぁ、いや、学校によっては家からお弁当を持参するところもあるみたいだけど、この学校は給食があるんだよ」

 

と、白音は初めての給食に興味津々のようだ。

2人が運ばれてくる給食について話していると・・・

 

「あ、あのぉ・・・」

 

「「ん?」」

 

2人は1人のクラスメイトに話しかけられた。どうやら同じ班の女の子のようだ。

 

「あ、えっと・・・・私・・野中 詩穂って・・言うの・・・・え、と・・」

 

2人に話しかけてきた赤縁のメガネをかけた少女、詩穂、はどうやら人と話すのがあまり得意ではないのか、若干聞き取りづらいほどの小さな声で喋っていた。

 

「え、と・・・その・・・わ、私の隣の席の子が今日、きゅ、給食当番だから・・・そ、その・・・その子の分も私たちの誰かが、よ、用意しなきゃ・・・い、いけないの・・だ、だから、え、と、うぅ・・・」

 

「・・・あぁ、えっと野中さん?だいたいわかったけど一旦落ち着いて、ね?」

 

「は、はいぃ・・・。す、すみません、私、話すの、そんなに得意じゃないの・・・」

 

「大丈夫ですよ。私やレイ君はそんなことで怒ったりはしません。だから落ち着いて話してください。ほら、一回深呼吸しましょう。せーの、すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・」

 

「は、はいぃ・・・え、と、す、すぅぅ・・・はぁぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・」

 

「・・・落ち着きましたか?」

 

「すぅ・・はぁ・・、は、はい、少し落ち着きました」

 

「良かったです。それで、確かもう1人の方の分の用意・・でしたね」

 

「そ、そうです」

 

「なら、僕が用意するよ。・・・・あ、いや、やっぱ僕がお盆二つ持つから白音姉さんと野中さんは手分けしてお皿に食べ物を載せてくれないかな?」

 

レイはもう1人の子の分も用意することにしようと思ったが、一旦それは改めることにした。何故ならレイがそのように提案した瞬間詩穂が悲しそうな、申し訳ないような表情を浮かべてしまったのだ。そこでレイは一緒に仕事を分担することにして彼女が抱えてしまう申し訳なさを仕事を与えることで軽減し、かつ初対面の詩帆と仲良くなれるかもしれないと考えたからだ。・・・・まぁその際、レイはお盆を持って立ってるだけとなってしまい、逆に自分が申し訳ない気分になってしまったのは言うまでもない。

 

「えっと、はい・・わかり、ました」

 

「わかりました。じゃあ野中さんはあちらのスープと牛乳をお願いします。私は今日のメインのハンバーグをもらってきます!!」

 

と、白音姉さんが早速仕事を野中さんに割り振ったようだ。・・・なんか心なしかハンバーグを見て興奮しているように見えるのは気のせいだろう・・・。

と、まぁ僕はお盆を二つ抱えて待っていると少しして2人がお皿を抱えて戻ってきた。

 

「すみま、せん・・・遅くなりまし、た」

 

「え、いや、全然そんなことないんじゃないか?むしろ早いくらいだぞ?」

 

と、戻ってくるのが遅くなってしまったと謝る詩穂にレイは周りを見渡しながら言う。

 

「ほら、他のグループの子たちもまだ誰も用意し終わってないよ?」

 

そう、レイたちは2人分の給食を分担して運んだ結果1番に揃えられたのだ。

 

「レイ君見てください。このハンバーグ、あそこにあった中で1番の大きさなんです。ムフー」

 

と、僕が野中さんに気にしなくて良いと伝えていると白音姉さんが鼻息を荒く、目をキラキラさせながらしながら成果を報告してきた。

 

「・・・・じゃあ、その大きいのは姉さんに譲るよ」

 

「え?良いんですか?」

 

「うん」

 

「ありがとう、レイ君!」

 

レイは白音が喜んでいるのを見届けて残り2人分の給食も同様に白音と詩穂に用意してもらい席へと戻った。

・・そしてクラス全員が各自給食を揃えるのを確認した先生は食事前の挨拶を述べ、食事時間となった。

すると・・・

 

今日の食事当番をやっていた、レイと同じ班の少年が自己紹介をしてきた。

 

「俺は野田 惇、アツシって呼んでくれ。それと給食運んでくれてサンキュな!」

 

「よろしくアツシ。昨日前で挨拶したから知ってると思うけど、葉桜 レイです。僕もレイでいいよ」

 

「白音です。私も白音でいいですよ」

 

「おう、よろしくな、レイ、白音!」

 

「・・えっと、じゃあ2人とも、私のことも詩穂、で呼んで、ください・・」

 

「了解、詩穂」 「わかりました、詩穂さん」

 

こうして僕と白音姉さんに新たな友人、アツシと詩穂と親交を深めることになった。

 

 

給食を終えると休み時間となり、4人は揃って話をしていたが・・・・当然、クラスに転入してきたばかりのレイと白音の2人は依然としてクラスメイトたちの注目の的であり、2人の周りには昨日同様人集りが生まれ、昼休みいっぱい質問祭りとなった。

そんなこんなで質問の対応に追われていると、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り、2人はようやく解放されたのだった。・・・その際、2人は苦笑いを浮かべたアツシと詩穂に労われ、さらにこれからクラスの掃除をするという事実を2人から告げられたレイと白音はげんなりとした表情を浮かべることになるのだった。

 

掃除を終えて、しばらくすると午後の授業の呼び鈴が鳴り、レイと白音は次の授業の準備を始めた。

次の授業は体育らしく、レイと白音はクラスのみんなと一緒に更衣室へと向かい、着替えて体育館へと集まった。どうやら今日はドッヂボールをするようだ。

午前の授業中の1騒動によって、レイが運動神経抜群なのではないかという疑惑が生まれたらしく、レイはその一挙手一投足にクラスメイトが注目されることになった。当然・・・

 

(・・・や、やりにくい・・)

 

レイは味方にさえ注目されてしまうという今の状況下で少し焦っていた。

それは今現在レイがボールを所持している現状にあった。

レイは「一般的な小学生の筋力」の具合を知らなかったため一体どれだけの力で投げればいいのか見当がつかなかったからだ。当初レイは周りのクラスメイトたちがボールを投げているのを見て、その度合いを図ろうとしていたのだが、残念なことに第1球目をクラスメイトたちに投げてくれと頼まれてしまったため、それが出来なかったのだ。

 

(さて、どうする?どれくらいの力で投げれば自然なんだ?逸脱し過ぎれば問題にしかならんぞ・・・地味にピンチだ・・・)

 

レイはボールを地面に弾ませながら考えていると、ひとつ良策を思いつく。

 

(・・・・・そうか!別に無理に僕が相手に当てる必要ないじゃん!!外野にパスしてしまえばいいんだ!)

 

と、外野にいる味方にパスを送る。そして当然相手に取られないようにするためにレイはボールを山形に投げた。

・・・・さて、客観的に考えればレイのこの咄嗟の思いつきは良い手だったと言えよう、ドッヂボールにおいて外野の味方と連携して相手を討ち取るのは当然のことだろう・・・・。そう、レイがこの時力加減を間違えていなければの話だが・・・。そして・・・

 

「いくぞ、アツシ受け取れ!」

 

「おう!!・・・・って、どこまで投げてんだぁ!!?」

 

そう、レイが投げたボールは山形の軌道を描いて・・・体育館の天井に直撃していた。

 

ガンっ!

ひゅぅ

ポスん

 

と、ボールは天井に当たった後、そのまま垂直に落下し、ちょうど真下の敵陣にボールは落下していき、ボールの軌道を眺めていた少年の顔面にそのまま直撃した。

 

 

「櫻井くん、アウトー。外野に行ってください。」

 

と、審判をしていた白音がいつも通りの平坦な声でヒット判定の申告をした。そして・・・・・

 

 

「・・・・・・すっげぇ!!!!今の狙ってやったのかぁ!!!!??」

 

レイは味方から今の奇想天外な当て方をしたことを賞賛され・・・

 

「・・・・あ、あぁ。たまたまだよ、たまたま・・・」

 

と、答えるしかなかった。

と、まぁ開始早々そんなハプニングはあったものの、その後はボールが相手陣営に渡り、レイたちを襲うボールの速度からサンプルを得ることに成功したレイはそれ以降はどうにか変に思われない程度に活躍することに成功し・・・そのまま無事に、そして何故かやたらと気疲れさせられた体育の授業を終わらせるのだった。

 

その後、今日の授業を全て終えたレイと白音はアツシたちと別れ、黒歌を迎えに行った。・・・・が、どうやら6年生はまだ授業があるらしく、黒歌に先に帰ってて欲しいと言われてしまったため、2人は先に帰宅することにした。・・・その際レイは今夜黒歌と白音に字と算数をを教えるために幼児向けの本やドリル、新たに自宅用に学習用ノートを購入し、隣にいた白音はこれから自身らを襲うであろう文字や数式の羅列の多さに青い顔をしていたのは余談である。

 

 

 

そして・・・・・・

 

「ただいまぁ!!」

 

2人が帰宅してから少しして黒歌が帰ってきた。どうやら、2人が買い物している間に時間が結構経っていたようだ。

 

「「おかえり(なさい)」」

 

「いやぁ、学校って大変だねぇ。ずぅっと座っていないといけないとか、私途中からお尻が痛くてしょうがなかったよ。しかも字が読めないから国語の時間退屈で退屈で。2人はどうだった?」

 

「僕は大したこともなかったかな?字は読み書きできるからね」

 

「私も姉様と同様読めなかったので・・・ただ鉛筆をずっと使ってたら、途中から指が痛かったですね・・・」

 

「・・・・・鉛筆の握り方も教えないとな・・・。良し、先ずは夕食の準備だ。食べたら、勉強するぞ!」

 

「「うん」」

 

その後夕食を終えた3人はみっちり勉強をした。・・・・黒歌は最初ビニール袋に入っている参考資料の多さに遠い目をしだしたが、一度に全部は無理なのでコツコツやろう、とレイに励まされ今日は白音とともに鉛筆の正しい握り方、平仮名を覚えることになったのだが・・・当然、1日でマスターすることはできず、これもコツコツとやることになり、22時を超えた辺りで勉強を切り上げ、いつもより遅い鍛錬を開始し、寝る頃には日付が変わっていたのだった。



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10話

記念すべき10話目です。
今回結構ほのぼのとしてます。

では、うぷ主の挨拶はこの辺で。では、本編をば。


「・・・・・・学校生活ってとても忙しいんですね・・・・。毎日毎日、宿題が出るだなんて思ってもみませんでした」

 

「・・・・・特に私たちは平仮名やカタカナから勉強しないと、そもそも問題文がしっかり読めないっていう・・・。

・・・あぁ、遊びたいよぉ〜、つまんないよぉ〜、体動かしたいよぉ〜・・・」

 

「ほら、黒歌姉さん手が止まってるよ。これが終わったらオヤツ用意してあげるから頑張って・・」

 

「!!

オヤツですか!?

急いで終わらせるので私の分もお願いします、レイ君!」

 

「・・・・先に白音姉さんの方が食いついてしまった・・」

 

 

それは初めての休日の朝、3人は2日ある休日を思う存分満喫するために早いうちに宿題を消化してしまおうと考えて行動に移していたのだが・・・平仮名とカタカナを学び始めたばかりで覚束ない2人の少女は、問題文を読むことさえ一苦労するという問題にぶち当たり、想定以上に宿題の進行が滞っていた。当然そうなれば、段々と集中力が下がるし勉強する意欲も落ちてくる。遊びたい盛りの黒歌がブウたれるのも仕方ないことと言えよう。

それを見かねたレイは黒歌を鼓舞するためにオヤツで釣ることにしたのだが・・・・よもや白音が先に釣れるとはびっくり仰天である。

 

「もちろん姉さんの分もあるから落ち着いて。・・・あ、ほら、そこ計算間違ってるよ」

 

「どこですか?・・あ、ここか。むぅ、掛け算難しいです・・・」

 

「レイ、レイ、これはどうやるの?」

 

「ああ、そこは・・・」

 

と、このようにしてレイは自身の宿題をやりつつ、姉たちのノートを時折見て間違いを指摘したり、あるいはどうしてもわからないところがあれば、レイに尋ね、それをレイが答えるといった感じに宿題を進め、それから彼らはそれぞれが一区切り着くまで宿題を進めた。

 

 

「このわらび餅美味しいです!!」

 

「ほんとほんと!どうしたの、このわらび餅?」

 

「あぁ、昨日の夕食の食材の買い出しに出かけた時に見かけてね。美味しそうだったからオヤツ用に買ってみたんだ。姉さんたちの口に合ったみたいだから、買って正解だったね」

 

「次もなんかオヤツ用意してちょうだい!ご褒美があれば頑張れる気がする!!」

 

「私からもお願いします!」

 

「はいはい、思った以上に好評で何よりだよ。機会があれば多めに用意するから2人とも僕の分まで食べようとしないでくれ・・」

 

大人っぽく見えるレイ(実際精神年齢に限って見れば、大人なんてレベルじゃないのだが)もこう見えて甘味は好きらしく、いくら姉であっても自分の分まで取られるのは勘弁して欲しかった。

 

「ほら黒歌姉さん、休憩も終わりにして、とっとと宿題片付けて遊びに行こう?もうすぐ範囲も終わるんでしょ?」

 

「うぅ、まだやるのぉ?いいじゃん、残りは遊んでからで・・・」

 

「・・・・それでも良いけど、多分今日中には終わらなくなる可能性の方が大きいよ?明日も朝から宿題したいの?」

 

「え?なんで?」

 

「だって、遊んで帰って、夜修行したら絶対やらないと思うよ、勉強?」

 

「うっ!

そ、そんな・・こと、ないよ?たぶん・・・」

 

「ほら、自分でもできないって思ってるんでしょ!

今やらないと後で後悔するよ。特に明日絶対」

 

「うぅ・・・わかったよぉ」

 

「姉様、覚悟を決めましょう・・・幸い本当にあと少しなんですから」

 

「白音まで・・・はーい!こうなったら徹底的にやってやるぅ!!」

 

こうしてレイと白音の指摘により覚悟を決めた黒歌は残りの宿題に手をつけ、間も無く終わらせることに成功した。

そして・・・・

 

「終わったぁぁ!!行くよ、2人とも!!!」

 

「うん、お疲れ様黒歌姉さん。じゃあ着替えたら出かけようか」

 

「お疲れ様です、姉様。今日はどこに行くんですか、レイ君?」

 

「そうだね、最初は2人が気になっていたゲーセンから行こうか?」

 

「いや、最初にご飯食べよう!私お腹すいた!!」

 

「さっきわらび餅いっぱい食べてたじゃん・・・」

 

「甘いものは別腹なの!!

ほら、白音もお腹空きましたって顔が言ってるよ!」

 

「え?!

・・・いや、まぁ、確かに空いていますけど・・。

・・そんなに分かり易い顔してました?」

 

 

と、まぁ終わって早々黒歌は溜まった鬱憤を晴らすかのように行動に移したのだった。

 

 

 

・・・・所変わって彼らは黒歌が以前クラスメイトから聞いて気になっていたという通学路の途中にあるイタリアンレストランで思い思いのランチメニューを注文していた。

噂に違わぬ料理の味に満足した後、レイが当初予定していたゲームセンターへ向かった。

そして・・・

 

 

「うおおぉぉ、うるさぁぁい!!」

 

「これは・・・そうですね。ゲームの音がすごいです」

 

「うん、初めて入ったけど・・・これは・・・圧巻の一言・・・・」

 

彼らは初めて訪れたゲームセンターという魔境がまるで魔獣の咆哮のように耳を犯すその騒音に度肝を抜かれていた。

しばらく呆然としていたが、取り敢えずゲームを堪能するべく、レイたちはお札を小銭へと両替し、そのままUFOキャッチャーや格闘ゲーム、射撃ゲームなどを行なった。・・・が、当然初心者の彼らは上手く操作できず悲惨な結果に終わってしまい、次来るときにはリベンジを果たすと誓ってゲームセンターをあとにするのだった。

その後、彼らは新しい服を見繕うためにデパートへと赴き、春物の服を扱っているコーナーにやってきた。

 

 

「レイ君レイ君、これなんて可愛いんじゃないですか?」

 

「レイ、レイ、これなんて似合うんじゃない?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

レイは今、白音と黒歌によって着せ替え人形のように服を取っ替え引っ替えさせられていた。

・・・・・・それも女の子向けの服を・・・

 

「2人とも・・・どうして僕にそんな女の子の服を、き、着させるのかな・・・?」

 

「「似合うから?」」

 

「・・・・・。いや、いや、確かに髪が長い上に、客観的に見ても僕の顔は女の子みたいな顔してるけどさぁ・・・。

だからって!女の子の服を!!持ってきて!!!着させるのは!!!!おかしいんじゃないかな!!!!!??」

 

「まあまあ、落ち着きなよレイ。そういうのが似合うのも一種の才能だから喜んで良いと私は思うよ。

あ、こっちも良いね」

 

「そんな才能願い下げだぁ!

あと、ちゃっかり脱がして着せようとするんじゃない!!」

 

「落ち着いてください、レイ君。騒ぐと他のお客さんの迷惑になっちゃいますよ」

 

「・・・すまない白音姉さん。姉さんの言う通りだ、気をつける。

・・・・・ところで、白音姉さん、その手に持ってるその白いフリフリのたくさんついたワンピースはなにかな・・・?姉さんが自分で着る、んだよね・・・?」

 

「?

いえ、レイ君の分ですよ?」

 

「・・・・・・・・ふぅ、OK。僕は突然日本語がわからなくなってしまったy・・あ、こら!その手に持った服を無理矢理着させようとするんじゃない!!

やめ・・・・ヤメロォーーー!!」

 

 

と、デパートの一角でこのような騒ぎがあったらしい。

しかもそこには・・・・

 

「あわわわ・・・レイ君、お、女の子の格好、すっごく似合って、る・・・。

か、かわいい、かも」

 

と、赤縁のメガネをかけた気弱そうな少女が顔を真っ赤にしてその一部始終を見ていたのは余談である。

 

 

 

 

 

「・・・・ひ、ひどい目にあった・・」

 

と、階段の近くにあった椅子に座ってひどく疲れたような表情をした少年、レイはそう呟いていた。

 

「いやぁ、今日はいい服がいっぱい買えて良かった良かった。ね、白音」

 

「はい、まさかあんなにレイ君に似合う服が見つかるとは・・・。

帰ったら早速また着てください、レイ君!写真を撮ってアザゼルさんに見せてあげましょう!!」

 

「・・・・・・・・・・勘弁してくれ・・・」

 

と、疲れた様子のレイの近くにはやたら良い表情の黒歌と白音の姿がそこにあった。

 

「・・・・はぁ。この借りはいずれ返すとして・・・このあとどうする?大体買い物も終わったし、何もなければこのまま食品コーナーでも行って、夕食の材料買って帰ろうと思うんだけど?」

 

「んー、そうね、特に私は用はないかな?白音は?」

 

「そうですね。私も特にはないですね」

 

「そっか。じゃあ、食品コーナーに行くか」

 

と、この後の予定を決めて、3人は食品コーナーへと向かった。

 

「今日は何食べますか?」

 

「んー、私はなんでもいいよ」

 

「・・・そういうのが一番困るんですよ、姉様」

 

「んー、じゃあ今日は家で焼肉なんてどうかな?なんかがっつり肉食べたい気分」

 

「焼肉!!?良いね、そうしましょう!!」

 

「焼肉ですか?

家に鉄板なんてありましたか?」

 

「ああ、この前倉庫に残ってるものを確認してたらあったよ。まぁ、ちょっと埃かぶってたから一度洗わないといけないけどね」

 

「そうですか。なら、今日は焼肉にしましょうか」

 

「やったぁ!!焼肉♪焼肉♪」

 

「ふふふ、姉様ったら子供みたい」

 

「子供だもーん!」

 

ニッと黒歌は笑って2人の前を歩き出す。

 

「・・・・レイと出会ってから毎日が楽しいなあ」

 

という呟きは後ろの2人には聞こえなかった。

 

 

 

その後、3人は自分が食べたい肉をそれぞれ買い、さらに白音とレイは肉しか食べようとしない黒歌のためにシイタケやピーマン、人参など、おおよそ子供が嫌う食材をもともと購入する分に加え、黒歌が満足するだけバレないように購入していた。

そしてレイは帰宅後早速倉庫から鉄板を運び出し、埃などの汚れを落とした後、庭のテーブルに設置した。

 

「こんな感じかな。おーい、2人ともー、用意できたよー」

 

レイは自身の仕事に満足した後、2人を呼ぶことにした。

 

「丁度良かったです。こちらも準備できました」

 

と、白音がパックに入っていた肉や野菜を皿に移し、塩胡椒での味付けを終えて庭にやって来た。

 

「あれ、黒歌姉さんは?」

 

「買った服などの値札などを切ってもらっているので、そろそろ終わらせてこっちに来ると思いますよ」

 

「そっか。じゃあもう先に野菜から焼いちゃおうか、焼けるの時間かかるし」

 

「それもそうですね」

 

そうして2人は鉄板に軽く油を引いた後野菜を焼き始めた。

 

「ああああ!!先に始めるなんてひどいよぉ!」

 

すると、少ししてから黒歌が外に出てきて、先に焼き始めている姿を見てしまったため、怒り出してしまった。

 

「うおっ!!?

いきなり飛びかからないでくれ、危ないじゃないか」

 

「うるさいうるさーい!勝手に始めた2人が悪いんだよ!」

 

「姉様、落ち着いてください。姉様が来る前に焼けるのに時間のかかる野菜を先に焼いてただけです」

 

「違うの!!そういうのが問題じゃなくて、せっかくBBQみたいになってるのに一緒に始めないのが問題なの!!」

 

「ええ・・・。

それのどこに問d・・・・あ、いや、僕が悪かったです。だから泣かないで・・」

 

レイは黒歌のよくわからない持論に怒られ、言い返そうとしたが・・・黒歌の瞳に涙が浮かんだのを見て自身が悪かったと謝ることにした。

 

「ほ、ほら姉さん・・・肉を焼いてくれないかな?

そ、その・・・僕もいい加減お腹空いちゃったし・・」

 

「うう〜、反省してる?」

 

「してますしてます。次から同じ轍は踏みません!!」

 

「うぅ〜・・・なら、良いよ・・」

 

「ほ、ほら姉様。レイ君も反省しているようなので・・・そろそろお肉焼ませんか?」

 

 

こうしてレイは平謝りして白音にフォローしてもらいつつ、なんとか黒歌から許しをもらい、焼肉を再開したのだった。

 

 

 

「よぉし、今日は食べるぞ〜!!」

 

「あ、ほら姉さんこの肉焼けたよ」

 

「わーい、ありがとうレイ!」

 

(・・・・ふう、一時はどうなるかと思ったけど・・。

なんとか姉さんの気が治って良かった。)

 

「姉様、お肉ばかりじゃなくしっかり野菜も食べましょう。栄養が偏ります」

 

白音はポイポイと黒歌の皿に焼けた野菜をよそう。

 

「うっ・・・や、野菜なんて食べなくても平気よ」

 

「好き嫌いはダメです、しっかり食べてください」

 

「い、嫌だ・・・ピーマン苦いもん、シイタケの食感きもいもん、人参不味いもん・・・」

 

「・・・はぁ、こうなったら仕方ありませんね。レイ君、お願いします」

 

「はいはい」ガシっ←レイが黒歌を羽交い締めする音

 

「は、離せ、離せぇ!!」

 

「では姉様、まずはシイタケから・・・大丈夫です、農家の方が丹精込めて作った出来の良いシイタケです。きっと姉様も気に入ります。食わず嫌いなだけです」ガシッ←白音が黒歌のアゴをつかむ音

 

「あががが・・・ぐごーーー!!?」

 

「あ、吐き出しちゃダメですよ?」ぐっ←白音が黒歌の口元を抑える音

 

「んー!んー!!?」

 

「・・・・なんて絵面だ・・」

 

「もぐもぐもぐ・・もぐもぐ・・もぐ・・・もぐ・・・・もぐ・・・・」

 

「・・・・姉さん、これお茶」

 

「!!」

 

パシッ!!!

ゴクゴクっ!

ぷはっ!?

 

「ぜぇぜぇ・・ひ、ひどいめにあった・・・」

 

「・・・では、姉様、こちら畑で採れた旬の人参です、どうぞ」

 

「また!!?ヤメロォ!!ハナセェ!!!」

 

 

その後近所に少女の悲痛な叫びが響き渡り、なにか事件と勘違いしたご近所さんに通報されてしまったのは別の話。

 

そんなこんなで楽しい(阿鼻叫喚な)食事を終えた3人は少しの休憩を挟んでから修行を開始し、やはりレイの予測通り、遊んだ疲れと修行の疲れにより、黒歌と白音は湯船に浸かっている間に眠ってしまい、全然起きない2人の介護に苦労することとなった。・・・・意識のない人の体を洗うのはとても疲れるということをレイはこの日知り、一歩大人となったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、レイたちはいつもの朝の修行を終えると、遠出の準備をしていた。ピクニックである。

駒王朝から少し離れたところに山があるので今日はそこで白音の作ったお弁当を食べようと、黒歌が提案したのだ。

なんでも、黒歌のクラスメイトからその山のことについて聞いたらしく、山の頂上はちょっとした原っぱになっていて、この時期に行くととても寝心地がいいのだそうだ。

ということで、彼らは午前中のうちに自宅を出て電車で山の麓へと向かった。

 

「うーん、今日は絶好のピクニック日和だねぇ〜」

 

「そうだね、姉さん。これで原っぱに寝転がったら気持ち良いだろうね」

 

「姉様、レイ君、登るにはあそこから行くみたいですよ」

 

3人は麓に着くと、早速山を登り始めることになった。

 

「うーん、日頃から激しい運動してるから全然苦にならないね」

 

「そりゃあれだけ僕がしごいてるからね。この程度で音を上げるわけないさ」

 

「・・・そう言えば、修行を始めてからだいぶ経ちましたが私たちは強くなれているのでしょうか?」

 

「なれてるさ。実戦をしていないから実感が湧かないだけで今の姉さんたちならあの時の貴族程度とならそれなりの戦いができると思うよ?

少なくとも一方的にやられる、なんてことにはならないさ」

 

「そう・・ですか。レイ君がそう言うなら安心です」

 

「ま、あとは実際に戦ってみるしかないよね」

 

「そうだね。・・・まぁ僕としては極力争いに関わりたくはないから、何事もないのならそれが一番だよ」

 

「・・・むぅ、そう言う割には自分が一番ストイックに修行してるくせに・・」

 

「ははは、まぁ、それはほら、僕の力は一部不安定だし、武に関してもまだまだ未熟だからねー」

 

「・・・・・あれで未熟だって言うのなら大抵の実力者は全員未熟だからね、レイ君」

 

と、前を歩くレイが自身の未熟さについて言及するとジトーとした目で黒歌と白音はレイを見て呆れていた。

 

「・・・・はは、前の僕と比べたら・・・・言葉通り未熟者としか言えないさ」

 

そうレイは俯いて誰に聞かせるともなく、とても小さな声で自嘲気味に呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・はずだった。

 

 

 

 

 

 

Side 猫姉妹

 

「・・・・はは、前の僕と比べたら・・・・言葉通り未熟者としか言えないさ」

 

 

 

それは本当にたまたま聞こえただけだった。たまたま風がその音を拾わなければ・・・・。

私たちが猫魈で五感が普通のモノより優れていなければ・・・。

それを私たちは聞くことは決してなかっただろう。

だが、私たちは聞いてしまった。それを。

 

「「・・・・・・?」」

 

「・・・今の聞こえましたか、姉様?」

 

「うん、聞こえた。

白音はどう思った?今の」

 

「・・・そう、ですね。

何か今の言い方には違和感を感じました。

まるで・・・」

 

「まるで・・・・自分は見た目通りの年齢じゃない、みたいな?」

 

「そう・・・ですね、そんな・・・感じです」

 

「・・・レイって時々ああ言う風に何か隠してる時あるよね・・・、それも多分重要なの」

 

「そうですね、時折・・・。

本人は隠してるつもりみたいですが・・・」

 

「・・・レイにだって隠し事の一つや二つ、そりゃあると思うよ。・・・だけど、」

 

「・・・だけど、私たちは家族だから・・・・悩んでいることがあれば頼って欲しいし、困っていることがあれば相談して欲しい・・・ですか?」

 

「うん、そうだね・・・」

 

「でも、だからこそ・・・」

 

「私たちはレイから言ってくれるまで・・・」

 

「待つだけです!」

 

「ふふ、流石私の自慢の妹ね、よくわかってるじゃない!!」

 

「ええ、姉様こそよくご存知で!!」

 

 

そうだ、だから私たちは待とう。私たちの弟が自分から『それ』を語ってくれるその時まで・・・。

 

そして2人はその日、その時決意したのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぁあ、ほんとにこの原っぱきもちいいね。

これは明日あの子にお礼言わなきゃ!」

 

「そうだねぇ、僕たちもついでによろしく言っといてぇ〜」

 

「あらら、レイがフニャフニャになってるわ・・・。

ま、わかるけどねー、その気持ち。」

 

「ふふ、レイ君の寝顔可愛いですね」

 

 

レイたちは程なくして目的の場所へ着くと、レジャーシートを木陰の下に設置し、そのまま白音の用意した昼食を全て平らげると、彼らは木漏れ日の下、原っぱに寝転がってこれまでの疲れを癒していた。

レイは日頃、自身の宿題に加え、黒歌と白音に平仮名や片仮名に初歩的な漢字、数字に四則演算などを一から教え込んでいたのに、さらに修行も同時進行で行なっていたため、彼が意識していないところで疲労が溜まっていたのだ。

そうなれば当然・・・

 

「すぅ・・・・すぅ・・・・」

 

と、あっさりと睡魔がやってきて、そのまま眠りに落ちてしまった。

 

「・・・ん?あらら、いつの間にか本当に寝ちゃってるよ」

 

「・・・まぁ、ここ最近はレイ君に負担をかけすぎてしまっていましたからね。

レイ君は平気そうに振舞っていましたが、やはり疲れが溜まっていたんでしょう」

 

「・・・うん、そうだよね。

学校に通いだして不慣れな私たちのために頑張ってくれてたもんね、レイは・・・。」

 

「今だけはゆっくり寝かせておいてあげましょう。

また明日から学校ですし・・・」

 

「・・・あ!いいこと考えた!」

 

「・・・・・・なにかロクデモナイこと考えてませんか?」

 

「失敬な!!

至って真面目ですぅ!!」

 

「・・・そうですか、それは失礼しました、姉様・・・」

 

「あー、その目は疑ってるなぁ?」

 

「いえいえ、そんなことは無いですよ、姉様?

それより、そのいいことについて早く教えてください」

 

「・・・・もう、今回は見逃してあげるけど、次からは怒るよ?」

 

「すみません、姉様。それで?」

 

「うん、それでね、いいことっていうのはーーー」

 

 

 

 

 

Side レイ

 

 

ーーーう、ぁ

なんだ?すご、く、心地いいな。なんだこれ?

 

僕はどうやらいつの間にか眠っていたようだ。

微睡みからふと、ほんの少しだけ意識が覚醒すると寝心地の良さと胸の重みに気づいた。

後頭部に柔らかくて暖かい何かがあるな。

・・・・枕は持ってきてないはずだけど・・・・しかも心なしか、良い匂いまでする。

目を開けてまず胸の重みを見てみると・・・・・

 

そこには白い何かが僕の体に乗っかっていた。

 

なんだこれ?

・・・とりあえず、触ってみる。

すると・・・

 

「ん、ぁん・・・・ん、う、ふみゅっ・・・・。

・・・・んぁ?あ、レイ、君?そ、そこは・・・・だ、駄目」

 

変な音がした。

ん?いや、この音・・・・いや聞きなれた声!!?

 

僕はそこで意識が少しだけ覚醒すると・・・・・

僕の胸の上に乗っていたものの正体、白音姉さんが乗っかっていたことに気づいた。・・・・・あぁ、あの良い匂いは白音姉さんの髪の匂いだったのか・・・。

・・・・・いやいやいや!!!!??

 

「し、白音姉さん!!??何してるのさ!?しかも耳と尻尾まで出して!?」

 

「え、えっと・・・その・・・レイ君の胸の上で寝てたらなんか気が抜けちゃって・・・・いつの間にか出てた、にゃん?」

 

 

いや、出てたにゃん・・・って言われても・・・。かわいいけどさぁ・・・。びっくりするからやめてほしい。

 

 

どうやら白音姉さんはいつの間にか寝てしまった僕の上で丸くなって眠っていたようだ。

 

「ん・・ふあぁ・・・・あ、レイ・・・起きたんだ?よく眠れた?」

 

と、僕の頭上から黒歌姉さんの声が聞こえた。

上を見てみると、黒歌姉さんの顔がそこにあった。

・・・・・どうやら、僕は黒歌姉さんに膝枕をされていたみたいだ。・・・・黒歌姉さんのもも、やわらか・・・・・。

 

「・・・・・はっ!!?え、なんで僕は膝枕されてるの?!」

 

「んー、私がしたかったから?」

 

「そ、そう・・・。あー、駄目だ、頭まわんないや」

 

「どうする?まだ眠っとく?」

 

「・・・・そう、だね。

姉さん・・・もう少し膝、貸しててくれないかな?」

 

「ん、良いよ。

まだ日が沈むまで時間あるから・・・しばらく眠ってなさい」

 

「・・・・ん、そうする、よ。

あり、が・・・と・・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・・」

 

「・・・・・ん、どうやらまた寝たみたいね。

ナイス白音、仙術の応用はほぼ出来てきたみたいね」

 

「はい。・・・・ふあぁ、私もまだ眠いです。

姉様も寝ますか?仙術で誘導しますけど?」

 

「そうね、お願いするわ」

 

「はい。では姉様、おやすみなさい」

 

「ん、おやすみ・・・・しろ、ね・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・・・くぅ・・・くぅ・・・・」

 

 

 

 

こうして3人の休日は暖かな木漏れ日の下、穏やかに過ぎていった。



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11話

レイたち葉桜姉弟が転入してから一カ月が過ぎ、既に転入生として物珍しさからの質問から解放されていた。

そしてそれは彼らが転入して4度目の朝の全校集会の校長先生からの挨拶の時のことだった。

 

 

「ーーーえー、それから来月には運動会があります。なので今月から競技の練習を執り行います。

また、5年生には我が校伝統の演奏行進、6年生には組体操を行ってもらいます。

それから・・・これから夏に向けて日中は暑さが日増しに強くなると思いますので皆さん、熱中症には十分注意するように。

こまめに水分補給を取ることが予防につながります。

・・・・では、本日の全校集会は終了します。」

 

「ーーーはい、校長先生ありがとうございました。

それでは、朝の全校集会を終わります。

では、最初に6年生から教室にーーー」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side レイ

 

「なぁ、アツシ。今朝校長先生が言ってた演奏行進?ってのはなんのことだ?」

 

僕は今朝の全校集会で来月行われる際に僕たち5年生が行うという演奏行進なるものについて、以前からこの学校に所属しわかっているだろうクラスメイトのアツシに詳細を聞いていた。

 

「んあ?

・・・あ、そっか、知らねえのか。

演奏行進ってのは午前の部が終わって昼食を挟んだ後、俺たち5年生が午後の部の最初に楽器持ってグラウンド内を演奏しながら行進するのさ、文字通りな」

 

「ふむふむ、なるほどね。

ちなみに楽器は何使うのさ?」

 

「基本的には鍵盤ハーモニカとリコーダーだな。

棒持った指揮者が先導したりするからそれに従って動くんだよ。

・・・他にも有志でやりたいやつが他の楽器使うんだが・・・あー、他になにあったっけ、シホ?」

 

「え、えっと・・・大太鼓や小太鼓、鉄琴や木琴、アコーディオンとか・・・だよ」

 

「あー、そうそうそれそれ」

 

「なかなか種類が多いんですね」

 

「まぁ、有志なら大人しく僕らはリコーダーでも吹いてようか、白音姉さん」

 

 

レイたちはアツシと詩穂から演奏行進の詳細を聞いていると、1時限目のチャイムがなり、担任の先生が入ってきたので、そのまま授業の準備をするのだった。

 

 

そして少々時間が過ぎ、午後の授業に5、6年生合同の体育が始まった。もちろん、行うのは運動会に向けて演奏行進の練習である。6年生は昨年演奏行進を行なっているので、今回見本としてやるらしく、レイたち5年生は見学だ。

因みにレイたちは朝のHRで担任から配られた、やりたい楽器の要望書にリコーダーと書き、そのままリコーダーが通った。

 

「あ、いたいた。白音ー、レイー!」

 

僕たち5年生がグラウンドから離れて待機していると黒歌姉さんがやって来た。

 

「姉様?

どうしてここにいるんですか?

6年生の皆さんは並んでますよ?」

 

「いや、白音姉さん。

黒歌姉さんは並んでも演奏もできないし、ましてや行進の動き方も知らないから、寧ろいると邪魔になるでしょ。

だからここにいるんだよ、だろ?姉さん?」

 

「せいかーい!さっすがレイ、先生に言われて離れてろってさぁー。

・・・・でもレイ?流石に邪魔とか言うのは酷すぎるぞ!!」ガシガシ

 

「うわっ!?ごめんごめん!!」

 

「なるほど、それもそうですね」

 

僕は黒歌姉さんが何故ここにいるのか理解できていない白音姉さんに推測を告げると納得してくれた。・・・言い方が悪くて黒歌姉さんにとっちめられたが

 

「この人白音とレイのお姉さんか?美人だねぇ」

 

「ほ、ほんとに・・・・きれいで、す。それに・・・仲がいいんですね」

 

「ん?白音とレイのお友達?

私は黒歌、いつも妹と弟がお世話になってます。これからもよろしくお願いね?」

 

「「は、はい」」

 

アツシと詩穂は黒歌姉さんがウィンクをしながら微笑むと2人は顔を赤らめてしどろもどろになりながら返事をした。

 

まぁ、黒歌姉さんはなんだかんだいって普通に美人さんだからね、こんな風に頼まれたらこうなるのも仕方ないかなって思うよ、僕も。・・・・だからね、姉さん・・・・そろそろヘッドロックをかけたままのその腕の拘束を解いてくれないかな?息がもうだいぶ苦しくなって来たんだ・・・・・・。

 

「姉様、そろそろ離してあげてください。レイ君青くなってきてます」

 

「ん?おっと、忘れてた」

 

「ぷはっ!!ゴホッ、ゴホッ・・・一瞬きれいな川がみえたよ・・・・」

 

「ははは、あんなきれいなお姉さんに構ってもらえるんだ、役得だろ」.

 

「・・・・まぁ、自慢の姉ではあるよ、うん」

 

と、そんなこんなで黒歌姉さんとアツシたちとの紹介が終わると6年生の準備が整ったのか、行進が始まった。

 

「・・・・へぇ?思ってたより本格的だね。これはなかなか難しそうだ」

 

「そうですね、笛やハーモニカを吹きながらあんなきれいに行動するにはかなり練習を積まないといけませんね」

 

そう、この演奏行進とやら思った以上にレベルが高そうだった。

白音姉さんの言う通り楽器を演奏しながら動き回るにはそもそも楽譜をしっかり指に覚えこませなければ、周りを意識することは出来ない。よくよく見ると彼らは二つに団体を分けてグラウンドの中央に向かって行進し、そのままぶつからないように交差したりしていたのだ。小学生がやるにはなかなかレベルが高いと言える。

と、しばらく感心しながら僕たちが見学していると行進は終わり、僕らは先生指導のもと隊列を組まされ、自身の周囲の子たちの顔を覚えることと簡単な動きの説明をして今日の体育の授業は終わることになった。

これからしばらく体育の授業はクラス合同で行い、音楽の授業はこの演奏行進の楽曲の練習を行うようだ。

・・・・しかしそこで一つ問題が浮上した。

 

「・・・・・・・あ、ところでレイ君」

 

「ん?なに?白音姉さん?」

 

「・・・私、今まで楽器を使ったことがないので笛が吹けません・・・・・」

 

「・・・・・そうか。・・・まぁ、練習するしかないな・・・。良いよ、家でこれから練習しよう」

 

「はい、お願いしますねレイ君」

 

こうして僕と白音姉さんに新しい日課が出来た。

その夜・・・・・

 

「・・・・?あれ、『レ』はどの指でしたっけ?」

 

「『レ』はこうだよ、姉さん」

 

「んぅ、指がレイ君みたいに流暢に動かないですね」

 

「仕方ないさ、初めてはそんなもんだよ。

今はゆっくりで良いから、一つ一つの音符をしっかりマスターしていこう?」

 

「はい」

 

僕と白音姉さんは今、リコーダーの練習をしている。

姉さんにはまず音階を理解してもらい、その後音符に合わせたリコーダーの吹き方を教えた。最初は息継ぎや息の加減を上手く出来ず、音が安定しなかったり、途中で途切れたりと問題があった。とはいえ、まだ練習して初日だ。今日は指の動きとそれに対応した音だけを理解してもらい、息に関しては明日に回すことにした。音楽は1日で詰め込むようなものでもないし、日々の積み重ねが必要なのだ。白音姉さんは座学や暗記は得意な方なので先に知識を入れてもらうことに注力してもらった。

 

「んー、白音も大変ねぇ」

 

「・・・・やっぱり黒歌姉さんもこの際だからやるかい?白音姉さんの苦労がわかるよ?」

 

「いやぁ、やりたいんだけどね・・・・リコーダー学校に忘れちゃったのよ」

 

「ならこれ使う?」

 

「え!?いや、でもそれレイ使ったやつだよね!!?」

 

「そうだけど?」

 

「そうだけど、って・・・・それって間接キスじゃ・・・」

 

「え? そんなこと気にするの? 姉弟じゃん?」

 

「そういう問題じゃなーい!!・・・・はぁ、どうしてレイは時折そういうデリカシーのないところがあるのかなぁ」

 

「レイ君・・・・流石にそれはどうかと思うよ?」

 

「白音姉さんまで・・・」

 

口の部分をしっかり拭いてるし、気にするようなことないと思うんだけどな・・・・それに姉さんたち、この前一緒にクレープの食べ合いっこした時何も言わなかったじゃないか・・・。

 

 

と、レイが内心少女たちの心の機微がわからなく、悩んでいると・・・

 

 

「あ、それよりレイ君・・・・アザゼルさんに運動会の連絡を入れた方が良いのでは?」

 

「あ、そうだね。すっかり忘れてたよ」

 

「じゃあ、私の方から連絡しとくから、2人はそのまま練習してなさい」

 

「ん、じゃあ頼むよ黒歌姉さん。アザゼルさんによろしく言っといてね」

 

「ありがとうございます、姉様。私の分もお願いします。」

 

「はいはい」

 

僕と白音姉さんがそう頼むと黒歌姉さんは部屋を出て行った。

 

「さて、じゃあ続きを再開しようか、姉さん」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

Side 黒歌

 

「ーーーってわけで今度運動会やるから来てねー」

 

『おう、任せとけ!!ちゃんと予定は空けとくぜ!ちゃんとお前らの勇姿は映像に残すからな!!』

 

「はは、ほどほどにね」

 

『そういや学校生活の方はどうだ?楽しんでるか?』

 

「ええ、満喫してるわ。・・・・・まぁ、最初は色々な意味でやばかったんだけどね・・・」

 

『何!?誰かにいじめられたのか!!?』

 

「いや、そういうわけじゃないよ・・・・・・。文字が読めなかったのよ・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

 

「いや、私たち・・・ってか私と白音ね・・今まで学校行ってなかったからさ、文字とか知らなかったのよ」

 

『・・・・・それで?』

 

「う、うん。今はもう平仮名カタカナはレイのおかげでマスターしたし、簡単な漢字ならだいぶ覚えてきたわ。・・・・まあ、算数は数字と四則演算くらいまではできるようになったわね・・・分数はまだ時折間違えるけど」

 

『なるほど・・・・・。ちっ、そいつは悪かったな、そこまで思い至らなかったのは俺のミスだ。

事前にもっと気にかけていれば早く対処できたのに・・・』

 

「うんうん、気にしないでアザゼルさんは『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督として忙しいでしょ?

それに私たちは学校に行かせてもらえるだけでも感謝してるんだから」

 

『・・・・・黒歌』

 

「もう、そんな声出さないで!

むしろ、レイたちと一緒に勉強するの楽しかったくらいなんだから結果オーライよ」

 

『・・・そうか。んんっ、そうかわかったぜ、なら今度の運動会、お前たちの応援には他の奴らに負けないくらい応援するぞ!『神の子を見張る者(グリゴリ)』のやつら総出でな!!』

 

「それはちょっとやめてちょうだい!!?ここ悪魔が管轄してる土地なんでしょ!!?悪魔が堕天使が戦争仕掛けたって勘違いするわ!!?」

 

『なあに心配するな。悪魔側には事前に交渉してお邪魔するよう話はつけとくからよぉ〜』

 

「・・・・・はぁ、何言っても聞かなそうね・・。なら、穏便に頼むわよ。

間違っても私たちが原因で戦争の口火を切ることにならないでちょうだいよ?

そんな理由で後世の歴史の教科書に載りたくないわ・・・・」

 

『任せとけ、任せとけ』

 

(ふ、不安だ・・・・)

 

 

と、黒歌は少々・・・いやかなりの不安を抱きつつも、アザゼルに運動会のことを知らせるのだった。




今回少々短いですがここまでとします。

今回のこの運動会のイベントですが、この行進に関しましてはうぷ主の小学生時代にやったものをモデルとしています。運動会でなにやったっけ?とか思い返してたら、そいえばこんなんあったなと思い出し、ぶっこんでみました。完全に思いつきの見切り発車です。・・・・上手く描けるのだろうか・・・・。

あと、今回アザゼルさんは子煩悩な姿が出てましたね・・・これはのちのヴァーリ君にどれだけ影響するのか・・・・楽しみだ・・・・

次話もお楽しみに!!アデュー


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12話

白音とレイがリコーダーの練習を始めて一週間が経った頃、白音はまたしても新たに生まれた問題に追われていた。

それは音楽の授業中のこと・・・

 

「・・・・・・むぅぅ、音はどうにか覚えられたものの、皆に合わせられません・・・」

 

 

白音はそれぞれの音に対応した指の動きは覚えられたものの楽譜通りに演奏すると、どうしてもぎこちなくなったり止まったり、と周囲とズレてしまっていたのだ。だが、同時にこれは仕方ないこととも言える。始めて一週間で覚えたての少女が周囲に合わせて演奏するなど容易にできることではないからだ。とはいえ、レイがそれを焦らなくてもいいとやんわり指摘しても意外と負けず嫌いな白音は焦ってしまい、それが余計に悪循環を生む。そして・・・・

 

 

「・・・やはり私には無理なのでしょうか・・・・」

 

「いやいや、そんな弱気にならないでよ、まだ始めて一週間なんだよ?

まだ時間もあるし、パートを一つずつゆっくりでもいいからものにして、それから全体を綺麗に吹ければいいのさ、こういうのは。

だから今は腐らず出来るところから少しずつやろうよ?」

 

「・・・・はい」

 

(・・・んー、姉さん結構ネガティブになってるなぁ・・・。でもこれに関しては指を慣らしていくしかないし、練習あるのみ、だもんなぁ)

 

 

と、このように時折自分は本番を迎えても吹けず、足手まといになってしまうのではないか、というネガティブ思考に陥ってしまうようになっていた。

 

 

「・・・家でもレイ君に見てもらってるのに・・・・私は・・・」

 

「・・・大、丈夫、だよ、白音ちゃん!」

 

「・・・詩穂さん?」

 

「最初は、誰でも、出来なくても、当たり前なんだよ?

大丈夫、昼休みでも、放課後でも、私たちが一緒に、白音ちゃんと、練習するから・・・・だから頑張ろ?」

 

「シホの言う通りだぜ!俺だって今も出来てねえ所がいっぱいあるんだ、一緒にがんばろうぜ、な?」

 

「詩穂さん、アツシくん・・・。はい!」

 

 

白音はどうやらアツシと詩穂の激励に元気を取り戻したようだ。

 

 

「・・・ありがとな、2人とも。どうにも白音姉さん焦っちゃうみたいで・・・2人のおかげで元気になったみたいだ」

 

「気にすんなよ、友達だろ」

 

「うん、気にしないで、レイ君。白音ちゃんが元気に、なったらそれだけで、嬉しいもん」

 

 

レイは白音に聞こえないようにアツシと詩穂に礼を言うのだった。

そして、それから4人は昼休みには集まって練習するようになり、放課後はそこに暇な黒歌も混じってするようになったのだった。

 

それから少し時間が飛んで二週間後・・・

 

 

「・・・・・パート毎ですけど・・・やっと全部綺麗に吹けるようになりました!!」

 

「うん、おめでとう姉さん!」

 

「おう、練習頑張った甲斐があったぜ」

 

「やったね、白音ちゃん!」

 

「はい、皆さん、ありがとうございます!・・・あとは通しで吹いてやるのと楽譜の暗記・・・・あと行進しながら吹くだけです」

 

「そうだね、残りも難しいけど、一歩ずつ進めばいずれは出来るようになるんだ!それにあと三週間もある、きっと大丈夫さ」

 

「はい!」

 

「じゃあまずは早速通しでやってみようぜ!!」

 

「「「おー!」」」

 

 

そしてレイたちは最初から最後まで演奏したのだが・・・・

 

 

「・・・・・・・だぁ〜!やっぱ通しでやるとなると難しいな、おい。

・・・・ってか、なんでレイとシホは普通に出来やがんだ!?」

 

「うーん、日頃の成果?」

 

「・・・・かな?」

 

「・・・そんな・・・私と練習量・・変わらないじゃないですか、レイ君・・・・」

 

「・・・・・そこはセンスということだよ、姉さん・・・」

 

「・・・・・・グスッ・・」

 

「!!?

ね、姉さん!?なんで急に泣くんだ!!!?」

 

「す、すいません・・・・グスッ・・・・・。

追いついたと思ったのに・・・レイ君にまた・・置いていかれたって・・・思ったら、グスッ・・・急に涙が・・・」

 

「え!!?いや、いやいやいや、これは慣れの問題だから!練習してればすぐ出来るから!

な、なぁ詩穂さん!!?」

 

「うぇ!!?う、うん!と、通しでやるのは、ま、また勝手がち、違うから!」

 

「そ、そうだぜ!?また出来るようになるまで練習続けようぜ、シロネ?」

 

「はい、ごめんなさい、急に泣き出してしまって・・・・」

 

「・・・・ふふ、むしろ泣く程負けん気が強くあってくれた方が上達するのは早いから良いと思うよ、姉さん、ふふふ」

 

「・・・・・むぅ、なんでそこで私を見て笑うんですかレイ君は?」

 

「い、いや嬉しいのと子供っぽくてかわいいなって思って、ふふ」

 

「んなっ!!?

・・・レイ君のそういう所は私は嫌いです」プイッ

 

「ごめんごめん。

僕が悪かったから怒らないでよ姉さん、ぷくく」

 

「謝る気ゼロじゃないですか!レイ君なんて知りません」

 

「・・・・なんでこいつらはイチャイチャしてんですかねぇ・・・。

おら、練習再開すっぞ!」

 

 

そんなこんなトラブルを起こしつつではあったが、4人は再び通しで練習を続け1週間も続けていくうちに大分形になっていた。そして・・・

 

 

「では本日より体育の授業は楽器を実際に使っての練習となります。各自楽器を忘れないようにしてください。

・・・では本日の朝のHRはこれで終わります」

 

 

運動会まで残り二週間を切り、今日から楽器を実際に演奏しながら練習することとなった。

 

 

「・・・・はぁ、不安です。動きながら演奏するなんて無理なんじゃないでしょうか?

一通り吹けるようになったとはいえ、まだ楽譜覚えきってないんですけど・・・」

 

「今から弱気になってもしょうがないよ、姉さん。

結局本番では今までの練習以上の結果なんてそうそう出るようなもんじゃないんだし。

そもそも他の子だって初めてのことなんだから、同じ条件だよ。

それに楽譜だってもう4分の3くらいは見なくても吹けるようになってるじゃないか」

 

「・・・・・わかってますよ。でもやっぱりまた私だけ出来ないんじゃないかと思うと恐いんですよ・・・」

 

「・・・まったく、しょうがないなぁ。

じゃあこうしよう、姉さん。

大きなミスを5回しなかったら今度の休みにどこか遊びに出かけようよ」

 

「・・・え?」

 

「だからゲームさ。・・・で、逆に5回ミスしたら罰ゲームってことで。

・・・こういう風にゲーム感覚に考えれば姉さんなら気合入るだろ?」

 

 

 

 

Side 白音

 

・・・・私は今日の体育で、いや新しい練習で皆さんの足を引っ張ってしまうんじゃないかってついつい悪い方に考えが行ってしまい、ひどく憂鬱でした。

・・・いや最近の練習の成果で一通り出来るようになってきましたし、初めて動きながら演奏するにしてもそんなに心配しなくても問題はないと思っています・・・・思ってはいるんですが・・。

やはり、以前ミスして皆さんの足を引っ張ってしまったことを思い出してしまって、また同じになるんじゃないかと不安になるんです・・・・。だから私は憂鬱でした。そんな風に私が悩んでいると・・・

 

 

「・・・まったく、しょうがないなぁ。

じゃあこうしよう、姉さん。

大きなミスを5回しなかったら今度の休みにどこか遊びに出かけようよ」

 

「・・・え?」

 

「だからゲームさ。・・・で、逆に5回ミスしたら罰ゲームってことで。

・・・こういう風にゲーム感覚に考えれば姉さんなら気合入るだろ?」

 

「・・・・・・」

 

 

レイ君はそんな風にどこか私をバカにしたようにニヤリとした笑みを浮かべ私にもちかけました。

・・・・・なるほどゲームですか・・。

良いでしょう良いでしょう、その提案受けて立ちましょう!

 

 

「・・・良いですよレイ君。

私もそろそろ姉としての威厳を見せつけてあげないといけないと思っていたところでした。

その勝負受けて立ちましょう。

・・・・ところでその罰ゲーム私が勝ったら当然レイ君も受けますよね?」

 

「・・・え?!遊びに行くのでダメ?」

 

「ええ、ダメですね。遊びに行くのは姉様も一緒でいいので、レイ君には罰ゲーム受けてもらいますよ?

・・・・この間レイ君に似合いそうな服を見つけましたし(ボソッ)」

 

「んん!!?今聞き捨てならないことボソッと言わなかった姉さん!?」

 

「さて何のことでしょう?

・・・・では罰ゲーム楽しみに待っていてくださいね?」

 

「もう勝ったつもりかよ・・・。良いぜ、横でしっかり聞いてっからミスしたらすぐ判るからな姉さん」

 

「ええ、大丈夫ですよ?そんな不正行為なんてしませんとも・・・ふふふ」

 

「・・・・う、やばいな。やらかした感がハンパない・・・」

 

 

どうやらレイ君は罰ゲームが自身に降り懸かりそうになって怖気付いたみたいですね・・・・。ふふふ・・・逃がしませんよ?

 

 

「おや、レイ君?負けることが怖いんですか?

そうですよね、お姉ちゃんに勝負で負けたら恥ずかしいですもんね?」

 

「・・・・へぇ?さっきまでビビってた割には随分強気だね、姉さん?

姉さんこそ負けても吠え面かくなよな!」

 

 

・・・あはっ♪上手くいきました♪吠え面かくのはレイ君なんですよ、休みの日が楽しみです♪

 

・・・・と、まぁそんなこんなで賭けになりましたが結果を先に言いますと私が勝ちました。ブイッ!

そしてそのことを姉様に伝えると・・・

 

 

「え、そんな面白いことになってたの?見たかったなー。

ま、でも今度の休みが楽しみだね。私もレイに似合いそうな服を見つけたんだ〜」

 

「ぐぬぬ・・・。ま、まぁ負けは負けだからな、黙って受け入れよう・・・。

・・・・・・・・・い、いややっぱ許して・・・もうワンピースは嫌だ」

 

「ダメですよ!せっかく私が勝ったんです、しっかり付き合ってもらいますよ」

 

「そうそう。往生際が悪いぞ♪」

 

「・・・・今度から安易に罰ゲームとか賭けないようにしよう」

 

 

・・・・・まぁ、なんだかんだレイ君は私を勇気付けようとこんなこと言い出してくれたわけですし、少しは抑えめにしときますか。

それに今回、今までの成果が無駄じゃなかった、というのも分かって安心しましたしね。何かレイ君にお礼するのも悪くありません。

 

と、私がそんなことを考えていると・・・

 

 

「・・・はぁ、それより黒歌姉さんは組体操の方は問題ないの?」

 

「んー?まぁ、私は猫の妖怪だからねー、組体操くらい問題ないし、修行でバランス感覚とかも鍛えてるからむしろ他の子たちのほうが心配な感じかな」

 

「ふーん、なるほどね。あーあと、姉さんは紅組なんだっけ?」

 

「そうよ。レイたちは?」

 

「同じく紅組だねぇ」

 

「そっか、それは心強いわね」

 

「まぁ、当日は力を出しすぎないように気をつけるくらいかな、問題は」

 

「そうですね、それに関しては細心の注意を払わないとですね」

 

「まぁ、多少騒ぎになってもアザゼルさんたちが上手くフォローしてくれるわよ、きっと。

私たちはベストを尽くしましょ?」

 

「・・・丸投げかよ。まぁ黒歌姉さんの言うことも一理あるか。

せっかく応援しにきてくれてるのにベストを尽くさないのは失礼だよな」

 

「はい、たまには姉様も良いこと言いますね」

 

「むか!白音は最近自分の意見をしっかり言うようになったのは良いけど、失礼だよ」

 

「うん、ごめんなさい姉様。ついうっかり」

 

「・・・もう、気をつけなさい。可愛いから許すわ。

・・・・さて、修行の続き始めましょ?最近運動会の練習ばっかりだから今日は多めにやりたいわ」

 

「了解。じゃあまずは姉さんたちで組手してからにしようか」

 

「わかりました。・・・・では、行きます姉様!!」

 

「ん、来い!」

 

 

運動会当日に力を出しすぎないように気をつけることを確認した後、その日は少し多めに時間をとって修行をすることにしました。姉様との組手は拮抗してるからなかなか決着がつきませんでしたが、でも逆に自身の力の全てを余すことなく出し切れるので、上達したところや短所などが如実に表れます。それから私たちに必要なことをレイ君が指導してくれるので更に磨きがかかり、翌日の修行にそれを活かすようにするのでどんどん強くなってる実感があります。

・・・・まぁ、それでも小学生な私たちではまだまだなのでしょうけど・・・。でも、毎日続けることでいずれはレイ君に追いついて、レイ君の見てるものを共有したいものです。

 

 

 

Side レイ

 

(姉さんたちの修行も大分進んだことだし次のステージへ、と行きたいところだが・・・・。

今の姉さんたちの体力や体格的にこれ以上はオーバーワークだろう・・・。

と、するならば・・・・精神的に鍛えるべきか・・・・。だが、あまりこの方向の修行は・・・。

どうしたものか・・・)

 

 

レイは黒歌と白音が組手を行なっている傍で悩んでいた。

それは2人が今より更に強くなるために、より実戦的な修行を行うべきなのではあるが、それは幼い2人が行うには余りにも厳しいものとなるからだ、故にレイは悩んでいた。

 

 

(・・・・しばらくはこのままのメニューで進めよう。最初ほどの劇的なレベルアップにはならないが、このまま一歩一歩歩き続ければ最上級クラスの悪魔にもそう易々と遅れは取らないレベルに至るのは間違いない・・・。

・・・・・もし、2人がこの先を望むならば、その時は・・・)

 

「レイー、交代しよ!今日こそは一本取って見せるわ!」

 

「・・・うん、やろうか」

 

(・・・これについては運動会が終わった後でいいな)

 

 

レイは今後の予定をそう結論づけて2人の組手に参加した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

運動会当日

 

「選手宣誓、僕たち私たちは、スポーツマンシップに則りーーーー」

 

 

開会式を迎えたレイたちは朝から学校のグラウンドに集まって、校長先生からのありがたいお言葉を頂いたり、学生代表の子たちの選手宣誓を聞いていた。そして・・・

 

 

「では、これよりプログラム1番大玉ころがしを始めます。生徒の皆さんは速やかに所定の位置について下さい。

繰り返しますーーー」

 

「始まったね姉さん。緊張してる?」

 

「うんうん、大丈夫だよレイ君。リハーサルでも問題なかったし、本番もきっと大丈夫だよ」

 

「ん、大丈夫そうだね。お、アザゼルさんたち見つけた」

 

「あ、ホントだ。手を振ろうか」

 

「そうだな。・・・っと、そろそろ行かないと怒られそうだ。行こう姉さん」

 

「うん」

 

 

こうして彼らの初めての運動会は幕を開けた。




はい、今回は運動会が始まったところで終わりにしたいと思います。

今回投稿が遅くなり申し訳ない。大学の試験と就活が重なりハードでした。
次話はなるべく早く出したいところです。

今回負けず嫌いな白音ちゃん回でしたが、いかがでしたでしょうか?今回も子供っぽさが出るように四苦八苦しました。
あと今回かなり巻きで進ませた感がパナイです、申し訳ない。小学生の頃の練習の記憶が全然思い出せず、ぐぬぬ、と言った感じでなかなか筆が進まず、ちょっと飛ばし飛ばしと言った感じです。展開早いよ、とか言われても仕方ありませんね(汗)

と、そんな感じで苦労しましたが、次話はできるだけ無理のないように構成してお届けしたい所存。
誠心誠意執筆中ですのでお待ちを!では今回はこれにて。アデュー


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13話

遅くなって申し訳ない!リアルがお盆シーズンとかで忙しく執筆できなかったんです。
また今後も少々不定期更新となると思いますが温かい目で当作品を見守って下さると嬉しいです。

では本編をば

運動会は二回に分けまーす




「うぉぉぉぉぉ、大玉来るぞーーーー押せぇぇ!!」

 

「押した奴は座れ!!紅組より早く進めるんだ!!」

 

「白組に負けるな!押して押して押しまくるんだ!!」

 

「ああ、大玉が外側に!!」

 

 

第一種目大玉転がしが始まって、競技は実に荒れていた。

大玉転がしの練習は例年事前に一度しか練習を行なっていないため、今年も同様であり、低学年から前の方に並び学年順に後方へと並ぶ。そして高学年が後ろから指示を出すと言った感じになっている。下の学年から回って来る大玉は時折その中でも力自慢の生徒が混ざっているためか、大玉が大きく宙に飛び上がったりするため、なかなかに不安定な軌道を描き、中には外側に飛んだ大玉に吹き飛ばされる生徒さえいた。そんな中レイは・・・

 

 

「・・・よっと!」

 

 

4列に並んだ中でも外側に位置に並んでいたことが幸いし、列の外に飛び出ようとしていた大玉を上手く軌道修正を行なって列の中に再び戻し、そこへ・・・

 

 

「えいっ!」

 

「たぁっ!」

 

列の中央にいた白音が他の生徒に紛れて大きく大玉を押し出し、それによって大きく跳んだ大玉を黒歌が一気に列の最後尾まで押し飛ばす。

 

 

「・・・・・う、うおおおおおおっ!!?一気にリードしたぞぉ!!?」

 

「ああ、でも追いかけないと!!?」

 

 

大玉を最後尾から最前列まで運ぶために列の両端から離れたところに2人ずついた最高学年の生徒は大玉に並行して追いかけていたのだが、3人の圧倒的アシストによって大きく離されてしまっていたため、5年生の列から追いかけるハメになっていた。

そのまま大玉を追いついた彼らは列から少し離れたところにあるコーンの周りで大玉を3周程させた後、最前列まで運び始めた。・・・・この競技はこれを3回ほど繰り返し、最後に大玉を4人の並走していた生徒が持ち上げて終了するのだが、1周目の時点で紅組は大きくリードしてしまい、そのまま差を埋められるどころか繰り返すたびに大きく開いてしまったので圧勝してしまった。

 

 

「・・・圧勝だったねレイ君」

 

「・・・そうだね。

直前のリハーサルより大玉が荒れて、ついついフォローしちゃったからあの時よりすごい差がついちゃったね・・」

 

「・・・まぁいいんじゃない?勝負は時の運よ、2人とも」

 

「・・・いやこれは大人気ないというべきじゃないでしょうか姉様?」

 

「アザゼルさんたちも喜んでることだし、これに関してはこれでやめにしよう」

 

「・・・そうね、レイの言う通りよ白音・・・。

これ以上言っても仕方のないことだわ・・・」

 

「・・・・・・諸行無常とはこのことですね」

 

「こほん、このことは一旦置いといて。・・ほら姉さんたち、次の競技が始まっちゃうから戻ろうよ」

 

「「うん・・」」

 

 

と、こんな感じでレイたちは明らかに自分たちのせいで余りにも大人気なく勝ってしまったので申し訳なく感じつつ、次の競技が下の学年であるためグラウンドに用意された自分たちのクラスの席に戻ることにしたのだった。

 

 

「・・・・さて次の競技まで少し時間が空くからアザゼルさんたちのとこにでも行く?」

 

「そうだね、行こっか」

 

 

レイたちは席に戻ってからプログラムを見て、自分たちの学年の次の競技が少し後であることを確認したので応援席のアザゼルたちのところへ向かうことにした。

 

 

「よぉ、お前ら第一種目は圧勝だったな!ちゃんと映像に残したぜ」

 

「・・・いえ、圧勝しすぎて逆に申し訳ない気分です・・」

 

「あん?何だ元気ねぇな?勝ったんだからもっと喜んだらどうだ?」

 

「ベストを尽くすのはわかってるんですが、さすがにこれは大人気なかったというか・・・」

 

「っは!子供がなに生意気言ってやがんだ!!

いいんだよ、そんなの気にしなくても。お前たちはまだ子供なんだからよ!むしろもっとやれ」

 

「なに言ってるんですか総督!あんまり度がすぎたら白音ちゃんと黒歌ちゃんは目立ちすぎちゃって怖がられるかもしれないんですよ!!」

 

「お、おう・・どうしたシェムハザ?急に大声出すなよビックリするだろ・・・」

 

「総督はわかってませんね・・・。人は異質なものを排除する傾向にあることはご存知でしょう!!

2人がそれでいじめられでもしたら大変ですよ!」

 

「い、いやそりゃわかってけどよぉ・・・。万が一の時はちょっと記憶をいじってだなぁ・・・」

 

「そう言う問題じゃありません!まったく貴方は昔からーーー」

 

「わーストップストップ、シェムハザ様!!せっかくの黒歌ちゃんたちの運動会なんですから、こんなところで説教なんてしないで下さい!!」

 

「そうっすそうっす、それは帰ってからでお願いしますっす!!」

 

「・・・むぅ、それもそうですね。すみませんドーナシーク、ミッテルト、つい頭に血が上ってしまいました」

 

「ふぅ・・・助かったぜ2人とも・・」

 

「「い、いえ当然のことをしたまでです!!」」

 

「・・・アザゼル。残りは帰ってからみっちり話しましょう」

 

「うげっ!?」

 

「ははは、アザゼルもシェムハザには形無しだな」

 

「るっせぇぞ、バラキエル!親としちゃあ応援したくなるもんなんだよ!ってか、お前らだってこの気持ち解んだろうが」

 

「「当たり前だろ、だがそれとこれとは話が別だ」」

 

「・・・くそ、ハモりやがって」

 

「皆さん、楽しそうですね・・・。ところでアザゼルさん、今日はこれだけですか?」

 

「ん?ああ、本当は神の子を見張る者(グリゴリ)の全員で来たかったんだけどよぉ〜、シェムハザがなぁ・・・」

 

「何を言ってるんですか総督!!ここは一応悪魔の管轄してる土地なのですよ!!?総出で行ったら戦争を吹っ掛けに来たのかと勘違いされるかもしれないとあれ程言っているでしょ!!それに誰もいなくなった本拠地に攻められでもしたらどうするというのです!!」

 

「・・・・ってな感じでな!こういうこった、はっはっは」

 

「笑い事じゃないんですよぉ!!」

 

「悪かったって、だからそんな怒んなよシェムハザ。

んで、今回は悪魔側と交渉した結果、15人程でくることに決めたんだが・・・公表したら滅茶苦茶応募者が殺到してな・・・抽選の結果このメンツになったってこった」

 

「ふぅん、なるほどね・・・。シェムハザさんお疲れ様です、アザゼルさんが本当迷惑をおかけしたようで・・・。

肩でも揉みましょうか?」

 

「いえ、大丈夫ですよ、レイ君。アザゼルのこれはいつものことですから・・・。あと肩揉んで下さい」

 

「喜んで」

 

 

アザゼルたちがこの運動会に来るにあたり色々問題があったようだ。・・・・しかもその仕事はシェムハザにのしかかる形で・・・。そんな風にレイと白音が話している一方、黒歌は・・・

 

 

「へぇ、そんなことがあったんだ。良く抽選通ったわね?結構な倍率だったんでしょ?」

 

「そうっすね、かなり運が良かったっす!

いやぁアザゼル様やシェムハザ様、バラキエル様のような幹部の方々に御目通り叶う今回の機会をふいにしたくなかったのもそうなんすけど、アザゼル様の義息子さんや義娘さんにも会って話してみたかったんすよね!

レイナーレっていううちの上司も応募してたんすけど彼女は落ちちゃって、すごく悔しそうにしてたっすねー」

 

「・・・ふぅん?ってか私たちに会ってみたかったってどうして?」

 

「いやぁ貴方方は結構神の子を見張る者(グリゴリ)の末端の方まで伝わってましてね?会ってみたいなぁって思ってたんすよ!聞けばうちとそんな歳が変わらないとのことだったんで、是非お友達になりたいと思ったんすよ!!

もちろん打算抜きで、っす!!」

 

「・・・・なるほどね。うんじゃあお互い自己紹介から始めましょうか、私は黒歌、葉桜 黒歌よ。貴方は?」

 

「うちはミッテルトっす!よろしくっす、黒歌!!」

 

「よろしくねミッテルト。じゃあ妹と弟も紹介するわ」

 

「是非お願いするっす!!」

 

 

と、黒歌は同年代の堕天使との邂逅があったという。そして・・・

 

 

「白音ー、レイー!!」

 

「姉様?」

 

「黒歌姉さん?あ、さっきいた子だ」

 

「おはようございますっす!君がレイ君っすか?」

 

「うん、そうだけど君は?」

 

「おっと、これは失礼!うちはミッテルトって言うっす!先ほど黒歌とお友達になったんすよ」

 

「へぇ、なるほどね。じゃあ姉さんから聞いて知ってると思うけど改めまして、僕は葉桜 レイです。よろしくねミッテルト」

 

「じゃあ私も。黒歌姉様の妹でレイ君の姉の白音です。よろしくミッテルト」

 

「よろしくっすレイ、白音!

・・・・それでさっきから気になってるんすが、なんでレイはシェムハザ様の肩を揉んでるんすか?」

 

「・・・日頃、お疲れのシェムハザさんを癒してあげたいなぁって思ったんだよ」

 

「? まぁ幹部っすもんね、うちら一端の堕天使じゃ解らないものがあるんすよね」

 

「・・・・あぁ、そうなんだ。わかってくれるかい、お嬢さん。

主に上司の無茶振りに振り回されて大変なんだ・・・」

 

「ほへぇ、お疲れ様っす、シェムハザ様。なんでしたらうちも腰などをお揉みしますっす!」

 

「・・・・あぁ、頼むよ」

 

「・・・・・・今後はお前にできるだけ苦労かけないようにしとくよ。うん」

 

「・・・なんか変な空気になってしまいましたね、姉様」

 

「・・・・これは主にアザゼルさんがいけないのよ、白音」

 

「・・・・そうだな、黒歌嬢の言う通りだな。気をつけるんだぞアザゼル。

シェムハザに倒れられようものなら仕事が回らなくなるんだぞ」

 

「うぐ、痛いとこ突くじゃねぇかバラキエル」

 

「「「「事実だ(です)」」」」

 

「・・・・・善処します」

 

 

何故かシェムハザの慰労会な感じになってしまいアザゼルはたじたじになるのだった。

 

 

「・・・おっと、いつのまにかプログラムも進んだな・・次は黒歌の学年の番じゃねぇか?リレーか」

 

「あ、ほんとだ。私二回走るんだー。しかもアンカーも務めることになってるの!」

 

「へぇ、まぁ流石だわな。頑張れよ!」

 

「うん!応援よろしくね!」

 

「「「「「任せろ(っす)!」」」」」

 

「じゃあ行ってきまーす!」

 

「頑張ってねー、黒歌姉さん!」「頑張ってください姉様!」

 

 

黒歌は手を振りながら控えの方へと向かって行った。

それから少しして6年生のリレーが始まり、紅組、白組2人ずつの計4人のリレーだったが最初は黒歌のクラスの紅組がバトンミスを起こしてしまい2つの白組が1位2位独占だった。が、1回目の黒歌がごぼう抜きにし一気に最下位から1位に躍り出たままバトンパスに成功し一気に乱戦にもつれ込んだ。その後紅組が2位3位となってアンカーの黒歌にバトンが渡り、3位だった黒歌のクラスはまたしても追い上げ、そのまま1位となった。

 

 

「いぇーい、見た見た!!?頑張ったでしょ私!!」

 

「うん、見てたよ黒歌姉さん!最初の追い上げが特に凄かったね!半周も差があったのにごぼう抜きとは恐れ入ったよ」

 

「ふふん、そうでしょそうでしょ!!」

 

「最後の追い上げもすごかったっすね。さすがにアンカーを任せられるだけのことはあるっす」

 

「はい、しかも姉様のクラスが1位になったおかげで紅組の点数は更に伸びましたね」

 

「これは紅組の優勝間違い無いんじゃないか?」

 

「いえいえアザゼル、まだ始まったばかりですよ。何が起こるかまだわかりません。

3人とも油断はしてはいけませんよ。ベストを尽くすのですよ?」

 

「「「もちろん!」」」

 

「・・・おぅ、さすがにこれから親になろうってだけのことはあるな・・・。俺よかよっぽど父親っぽいぞ・・・・」

 

「いやアザゼルさんも僕たちにとっては父のように思ってるよ、だからそんなこと言わないでくれ」

 

「そうです。血は繋がってないですし、短い時間しか経っていませんが、アザゼルさんの愛情はしっかり伝わっていますよ!」

 

「2人の言う通りよ、だから・・・・そんな悲しいこと言わないでよ」

 

「・・・お前ら・・・。すまねぇ、ひどいこと言っちまったな・・・・。

あぁ、そうだ、俺はお前たちの父親だ!もうこんなことは言わねえ!お前ら次の競技も勝ってこい!!」

 

「「「うん!!」」」

 

 

4人の親子は改めて自身らが家族なのだと認識し、アザゼルの強い発破を受けた3人はその後も破竹の勢いで紅組に勝利をもたらして午前の部を終えた。そしてレイたちは今回来た堕天使の女性陣が作った弁当や3姉弟が一緒に作った合作弁当を広げて昼食を摂るのだった。その際、レイたちは自身らが学校で初めてできた友人をアザゼルたちに紹介したり、これまでの学校生活で起こった思い出話に花を咲かせた。

そして・・・・

 

 

「・・・・っと、そろそろ演奏行進の時間じゃねえか?」

 

「あ!危ない危ない。もうこんなに時間経ってたか。まさかアツシに指摘されるとは・・・」

 

「・・・おい、そりゃどういう意味だ?」

 

「2人とも喧嘩してないで行きますよ。じゃあ姉様、アザゼルさん、皆さん、行ってきますね」

 

「行ってらっしゃい!落ち着くのよ白音、シホ!」

 

「・・うん、がんばり、ます!お姉さん!!」

 

「応援してるぜ!頑張れよ、落ち着いてやりゃできるぜ!」

 

「頑張るっすー!」

 

「頑張ってください!練習通りにやれば大丈夫ですよ」

 

 

レイたちはアザゼルたちから激励をもらうと、控えへと向かった。

が・・・

 

 

「・・・ん?あ、待つっすレイ」

 

「ほい?」

 

「んー、やっぱそうっすね。なんか魔力出てるっすよ、微量に。はは、緊張でもしてきたんすか?」

 

「・・・・・。あー、そうみたいだね、ありがとうミッテルト」

 

「いやいや大丈夫っすよ。でも気をつけたほうがいいっすよ。ごく微量とはいえ、ここは悪魔の管轄池なんすから。

見つかったら悪魔になんか言われるかもっす、喧嘩売ったーとかで」

 

「そうだね、気をつけるよ。・・・じゃ、行ってくるね」

 

「ん、行ってらっしゃいっすー」

 

 

ミッテルトはレイを呼び止め、彼にだけ聞こえるように耳元でそう伝えて別れた。

 

 

(・・・・・・。霊格が少し上がった、か・・・いや、馴染んできたのか・・・。

いやそれよりもだ・・・このままだとまずいな、指輪の出力を上げるか増やさないとな。

まぁ、帰ったらでいいか)

 

 

レイの思っている通り、レイの霊格は現在の体が元々持っていた霊格と前世の霊格が溶け合って馴染んできたことによって、霊格の大きさが前世のそれに少しだけ近づいていたのだ。それによりレイが身につけている10の指輪のうちの4つ隠匿の指輪では、レイの身より溢れ出る魔力が抑えきれなくなってきていた。

だが、その出る魔力は極々微量であり、アザゼルやバラキエルのような実力のある堕天使では自身が大きな力を持ちすぎているが故に阻害されて感知できないほどだった。しかし、逆にミッテルトやその他のそこまで力の大きくない堕天使は気づくことができた・・・・が、ミッテルトを除く運動会に来ていた他の下級から中級の堕天使はそもそもレイたちにさして興味があったわけではなく、どちらかと言うとアザゼルやシェムハザ、バラキエルといった幹部と出会えるためのイベント、という程度にしか考えていなく、レイが魔力を垂れ流しにしていることにたとえ感知出来ていたとしても気にもしていなかったのだ。結局彼らにとってレイたちはアザゼルが気紛れに養子として迎えた程度の存在でしかなく、その中でも所詮普通の人間の子供にしか感じられないレイよりはまだ妖怪の猫姉妹にしか目が行かないのだ。

だからこそレイを含めて仲良くなりたいと考えていたミッテルトだけは気付くことが出来たとも言えるのだが・・・。

 

 

(・・・んー、アザゼルさんたちは全く気づいてなさそうだし良かったな。

どうしても無意識に溢れちゃう魔力を隠すために指輪を着けてたけど、これももう効きづらくなったかぁ・・・。

指輪で誤魔化し続けるのもそろそろ厳しいしどうしようかなぁ・・・)

 

 

と、レイはそんなことを考えながら白音たちと一緒に控えに着き、準備を整えるのだった。

 

 

 

Side アザゼル

 

「よーし、シェムハザはこれを持ってここでレイを撮れ!バラキエルはこれで白音だ!!んで他の奴らはこれとこれであそことそこからーーー」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいアザゼル!貴方は一体いくつビデオカメラを持って来てるんですか!?」

 

「あん?そりゃあらゆる角度の良い画を取るためにちゃんと15個分持って来てる決まってんだろ!!」

 

「・・・・・・。その熱意を少しでも良いから趣味だけじゃなく仕事にも向けてくださいよ・・・」

 

「おらぁ!!お前ら、絶対にベストショットを見逃すんじゃねぇぞ!!散開!!」

 

『はっ』

 

「・・・・はぁ」

 

 

(シェムハザがなんかボソボソ言ってた気がするが今はそんな事に構ってる場合じゃねぇ!俺はいち早く全体を撮影できるあの中央の激戦区に陣取らなきゃならねぇんだ!

帰ったら映像を編集して最高の動画に仕立てなきゃな、へへへ。

っと、さてさて、ここなら良い具合に撮れそうだな)

 

 

アザゼルは激戦区であった中央に体良く場所を確保することが出来たので、三脚を広げビデオカメラを固定し、全体が映るように調整した。それからしばらくすると、レイたち5年生による演奏行進の演目が始まった。

 

 

(お、来た来た!2人はまだか・・・・お、いたいた。レイは・・・いつも通りって感じだが白音はちと固いな・・・。・・・・おお、入場門から入って大きく回ったら、そこで2つにグループを分けるのか

!!?なに!?そこで列をぶつからないように交差させるだとぉっ!!?

こいつぁ嘗めてたぜ!小学生のだからってなぁ!!)

 

 

とかとか我らの堕天使の総督アザゼルさんは愛しい子供達の晴れ姿に1人興奮しながら撮影していた。

 

 

「・・・・もし?そこのちょい悪のおじさま?」

 

「・・・・・!!」・:*+.\(( ◾️ω° ))/.:+ ←アザゼルさん、娘が中央で目立ってるのを発見し興奮しながら撮影中

 

「・・・・・・。あ、あの、もし?」

 

「・・・・・///」( ◾️ˊ̱˂˃ˋ̱ ) ←アザゼルさん、娘が不安そうにしていたところを突破したのか娘の晴れやかな顔を視認しほっこり中

 

「・・・・もしもーし」

 

「・・・・・・!?」∑(◾️Д゚) ←アザゼルさん、息子が先頭に立ち、列を率いているのを見てビックリしながら撮影中

 

「・・・・・」(・ω・`) ←謎の人、無視されてしょんぼり

 

「・・・・・!」(◾️ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ ←アザゼルさん、娘が何か間違えたのか焦った表情を浮かべているので応援しながら撮影中

 

「す・み・ま・せ・ん!!」

 

「・・・・・んあ?んだよ、さっきからうるせぇなぁ」

 

「・・・はぁ、やっと気付いてくれましたか・・・・」

 

 

アザゼルが撮影中自分の近くで何やらうるさいのがいたのは気付いていたが、子供たちの晴れ姿を撮影することの方が最優先事項だったためシカトしていたが、とうとう袖を掴んで自分の存在を主張して来てしまったため続けることもできず、肩越しに振り返ってみると、そこには赤い服を着た長い黒髪の女性が涙目でアザゼルを睨んでいた。

 

 

「・・・んあー?どちらさん?俺は今忙しいんだけど?出来れば後にしてくれないかねぇ」

 

「・・・・わかっていながら散々無視しといてその言い草ですか・・・。いいですけどね、別に・・・」

 

「用向きは急ぎじゃないのか?なら後にしてくれや」

 

「・・・・・・まぁ、特に何か用があって話しかけた訳じゃないですけどね」

 

「・・・あっそ。なら話しかけてくんなよな、忙しいんだよ」

 

「気になっただけですよ。・・・どうして堕天使の、それも総督がここにいるのか、ね」

 

「・・・なに?」

 

 

アザゼルは女性が急ぎの用が自分にないとわかるとすぐに顔を戻していたが、背後の女性が自身の正体を指摘した事に警戒心を抱いた。・・・・まぁ顔はそのままにしながらだが・・・。

 

 

「別にあなた達聖書の勢力が何してようが構わないですが・・・トップの者が人の子たちの催し物を見物、それも機材を使って撮影までしているのか、気になったのですよ」

 

「・・・・別に大した事じゃねえよ。俺の子供たちがこの学校で運動会で頑張っている。親の俺がそれを撮影してちゃ変なのか?」

 

「・・・子供ですか?・・・・ふむ、あの白い妖怪がそうなのです?・・・あー、あそこに座っている黒い妖怪の子も?」

 

「そうだぜ。あともう1人いるがな、そこで小さな円を作ってくるくる回ってる長い黒髪の男の子だ」

 

「ほう。ずいぶん可愛らしい顔立ちですが男の子なのですか?・・・・!?!?」

 

「そうそう。男なのに随分可愛らしいやつだろう?ある意味将来が心配だぜ、へへ。・・・・って、んあ?

どうしたよ?」

 

 

アザゼルは後ろの女性が何か空気が変わった気配を感じ取り、振り向いて尋ねた。

 

 

「・・・・いえ。なんでも、ありませんよ」

 

「そうかい?随分顔色悪いが?

・・・・ってか、あんたは・・・」

 

「・・・あぁ、自己紹介していませんでしたね。私は天鈿女命(アメノウズメノミコト)。日本神話に名を連ねる者です」

 

「・・・・・・アメノウズメって言えば芸能を司る神だったか?そんなやつがどうしてここにいる?」

 

「ここに来たのはたまたまね。仕事が行き詰まってたから散歩がてらに出てみたら、こーんな楽しそうなことをしてるじゃない?だから見物しに降りて来たのよ」

 

「・・・なるほど?ちなみにその身体は分体か?やけに神格が小さいが」

 

「ええ、そうよ。まぁ近くの社に祀られていた御神体を依り代にするためにちょーっと拝借して来たのだけどね」

 

「・・・おいおい」

 

「ま、ま、そんなことはどうでもいいじゃない!

・・・それよりいくつか聞いてもいいかな?」

 

「んだよ、さっきのおかしな雰囲気となんか関係あんのか?」

 

「・・・・・うん。まず1つ目はなんで堕天使のあなたが妖怪のあの子たちを引き取ったのか聞いても?」

 

「・・・・いいんだが、聞いても気を悪くしないでくれ、これは俺もどうにかしたいと考えてるんだ。

事の発端は聖書勢力の問題だ、それも悪魔の、な。」

 

 

アザゼルは彼の隣に立ったアメノウズメに黒歌と白音の経緯を説明した。

 

 

「ーーーってわけなんだ。ちなみにさっきの男の子はレイって言うんだが、あれも同じように悪魔にさらわれたようでな。一緒に来たんだ。あいつら曰く途中で合流してそのまま意気投合、で姉弟になったそうだ。

それから堕天使領に逃げ込んだあいつらはそのまま神の子を見張る者(グリゴリ)で保護って流れだな」

 

「・・・・ふーん。なるほどね。

・・・・アザゼルさん、日本神話を代表してお礼申し上げます。我が国の子供たちを助けていただき感謝します」

 

「気にするな。さっきも言ったが、これは俺たち聖書勢力の起こした問題だ。むしろこっちは謝らなきゃいけない立場だ」

 

「・・・それでも助けてくれたことは変わりありませんよ。

・・・・・そしてそのレイ君についてなのですが・・・」

 

「ん?レイがどうかしたか?」

 

「彼は()()ですか?」



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