将来の夢はマダオ。 (ら!)
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プロローグ

マダオ。

 

それは まるで ダメな おっさん を指す。

 

聖夜学園小に通う久我春日は一見どこにでもいる小学生だ。

 

 

ただ、死んだ魚のような目をしている点を除けば。

 

 

久我春日は誰にも言えない秘密が一つ、いや、二つ、三つ..まあ、それなりにある。秘密はいくつあっていいだろう。某怪盗三世のお姉さんいわく、秘密は女のアクセサリーだから。この際男とか女は関係ない。秘密は誰にだってあるだろう?まあ、それはさておき。

 

一つ、久我春日は前世の記憶がある。彼の名誉のために言うが、ぶっ壊れているわけではない。某名探偵みたく薬を飲まされて縮んでいたわけもなく、はたまた目覚めて自分のノートに〔おまえはだれだ?〕と書かれていたわけでもない。

 

 

彼が目覚めると、赤ん坊の姿で母親の腕の中にいた。それから紆余曲折を経て現在は祖父に引き取られ生活している。

 

祖父は道場の師範代で、春日はその跡取りとして育てられている。剣術道場で日々、木刀をふって、ふって、ときに祖父の叱咤が飛び、そしてふりまくる。

 

そんな生活のおかげか、精神面はかなり鍛えられた。もともとの前世というアドバンテージがあり、同年代と比べ大人びていてどことなく達観したこどもであったが、現在は無表情がデフォルトになっている。

 

そして小学校に入学すると春日は将来の夢という作文の宿題に取り組むことになった。前世でもう大人として経験したこともあって、まわりのこどもたちがキラキラとした目で夢を語る様子をみているのがむなしいと思ったのが正直な感想だ。

 

警察官になる、海賊王になる、シータぼくは海賊になんてならないよ、火影はおれの夢だ!、魔法少女になってよ!..

途中、おかしな発言もあったが、春日はそんなこどもたちを一歩遠くから眺めていた。

 

いまさらこれと言った夢も思い浮かばず、ただ、漠然と自分はおそらくこの道場を継ぐのだろうと考えていた。

 

鉛筆を走らせて残りの数行にさしせまったとき。

 

春日はこう綴った。

 

〔それでもぼくはマダオになりたい。〕

 

それ、どこかできいたことあるんですけど!てか、マダオって小学生がなにいってんですか!わたしはか⚪になりたいのパクりだろうがぁああああ!

 

おいおい。うるせぇな。そんなんだからいつまでたってもお前は新八なんだよ

 

おいいい!今の僕が悪い?ていうか!人の名前を悪口みたいに言わないでください!!

 

どこかのメガネがそんな風に叫んでいるような気がするような、ないような。春日は気にせず、満足気に作文をかきおえ、翌朝、自分の布団に奇妙なたまごをみつけるなんて考えてもみなかった。

 

 



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第一話 天然パーマに悪いやつはいない 前編

久我春日はただじっと見つめていた。

 

自分の布団に転がる奇妙な模様のたまごを。

 

「…どうしようか、これ。」

 

恐る恐るたまごを手にとってみる。

 

「…なんともいえない生あたたかさ。まるで産み落とされたばかりのような」

 

そしてやはりじっとみつめてみる。

 

「…これって食用?」

 

 

首をかしげてそうつぶやいた。たまごが怯えたような気がした。

 

 

ところ変わって聖夜学園小、四年星組。

 

結局、そのままおいておくわけにもいかず、鞄に入れて持ってきた。

 

(...起きたらたまごがあるなんて、どうなってんだ?)

 

春日はふと、思い付いた。昔、つまり前世のこと。自分が少年時代に熱中した電気ネズミが登場するゲームを。

 

(たしか、たまごは歩きまくって孵化させてたっけ。)

 

其れから某たま⚪っちよろしく、どこにいくにしてもたまごを手放さなかった。

 

 

(結構歩いたんだけど、まだみたいだな。…こいつ、さてはプータローだな。)

 

春日がそう思ったとき。

 

----コトン

 

たまごがそんな音をたてた。

 

そして放課後。

帰り際、細い道にある人影がいた。

 

「いいからそれ、よこせよ!」

 

「こっ、これはっ、ぼくがおこづかいをためて買ったもので…」

 

 

そう。春日はカツアゲ現場に遭遇したのだった。だが、春日はそれを気にも止めなかった。彼はその光景を眺めながらいちご牛乳を飲んでいた。

 

それに気づいたカツアゲ犯は春日にも目を向けた。

 

「おい、そこのおまえ。なにみてんだよ」

 

「......」

 

「おまえ、センコーにちくんなよ!チクったらおまえも」

 

「......」

ゴクゴグゴク

 

「わかってんだろーなぁ!」

 

「......」

ゴクゴグゴクゴグ

 

 

「人の話きけやぁ!」

 

 

 

「......だれだ、おまえ。」

 

春日はやっとカツアゲ犯の顔をみた。

 

「おれは-----」

 

「あぁ...思い出した。田中くんでしょ?うわぁ、久しぶりだね、元気だった?ところで君の向かいのおじさんのネコどうしてる?」

 

「知らねぇよ!おれ、田中じゃねぇよ!!てかおれとおまえ初対面!!」

 

「そういや、田中くん。山根くん元気?ジャンガジャンガしてるの?キモカワイイって最近いわれなくなったよね(笑)」

 

「おれ、田中じゃねぇよ!?山根くんも知らねぇよ!?ジャンガジャンガってなんだ!?アンガー⚪ズじゃねぇんだよおぉ!」

 

----コトン

 

また、たまごが音をたてた。

 

「ふざけんな、てめぇ!」

 

そして春日の手元のいちご牛乳奪い取った。

 

「はっ!こんな甘ったるいもの飲んでんのか、おまえ---」

 

ズゴオォォ

 

直後、カツアゲ犯の右頬にきれいなストレートがきまった。

 

----ピキキっ

 

同時にたまごが割れる音がする。

 

《こいついちご牛乳になんてことぬかしやがる。よし!春日、キャラチェンジだ!》

 

「...え?」

 

春日が目をぱちくりさせ現状を理解しようとする。自分の体が勝手にうごいた気がしたのだ。

 

《つっても、もうフライングしちまったが。

 

 

なりたい自分にキャラチェンジ!

 

 

 

 

 

波ァ-----ーーー!》

 

鳥山先生ごめんなさいいぃ!

 

メガネの雄叫びもはるか遠くで聞こえたような気がした。

 

「ったく、ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですか、コノヤロー」

 

口が勝手に動き出す。手元には洞爺湖と書かれた木刀。ただ、水溜まりに写った自分の目がいつも以上に死んだ魚の目のようだった。

 

 



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第二話 天然パーマに悪いやつはいない 後編

春日の心のなかにもう一人の声が響く。

 

「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですか、コノヤロー」

 

 

自然と木刀を握る手に力が入る。

 

「...みろよ、これ。てめぇらが騒ぐせいでこれ。

 

おれのいちご牛乳が

 

ぐっちゃぐっちゃじゃねーか!!」

 

たしかに春日が口にしていたいちご牛乳はカツアゲ犯によって踏みつぶされていた。

 

「あぁ?なんだてめぇ、いちごぎゅブフオオオ」

 

春日が振りかざした木刀はそのままカツアゲ犯の脳天を直撃した。

 

その場に沈黙がただよう。

 

「...あ、あの!」

 

「...なんだ、お前」

 

「た、助けてくださってありがとうございましたっ!」

 

「...あぁ。気にすんな。...まぁ、依頼料ってことでもらってやんねーこともないけどな」

 

「...依頼?...あなたは一体...??」

 

「おれぁ、万事屋の久我春日だ。まぁ、春さんでも春ちゃんでも好きなようによんでくれ。

 

 

 

ま!今日は初回限定サービスつーことで、まけてやらぁ。」

 

そして春日は背を向けてゆっくりとあるきだした。

 

感謝の気持ちでいっぱいのカツアゲされていた少年の手にはどういうわけか木刀が握られていた。

 

「春さん、かー。かっこいいなぁ!」

 

「ちょいとそこの君。この少年を気絶させたのはきみかね?」

 

「え?!ち、ちがいますよ!」

 

「なら、その手にある木刀はどういうことだい?」

 

「木刀...?え、な、なんでぼくが?!」

 

「じゃ、事情聴取ってことで同行ねがいまーす」

 

「そ、そんなぁー。は、春さぁんんんん!」

 

 

-----------

 

「お前、幽霊か?」

 

「ゆっ、幽霊?!...べ、別にこわくなんかないけどね!そこになんか気配がするなんて一ミリもおもってないから!」

 

「...幽霊じゃない、だと」

 

「な、なんだよ。おどかすなっつーの。..おれは銀時ってんだ。しゅごキャラとかいうフェアリー的な存在だ」

 

「...どうみてもマダオだろ」

 

「なにいってんだ、春日。銀さんに任せりゃどうってことない。安心しろ。

 

そうだ、糖分王におれはなる!」

 

「...そうか。ときに銀時。」

 

「んぁ?」

 

「いちごパフェは好きか」

 

 

---------

 

「いやぁ。おたく、講⚪社だったんだってな。」

 

「講⚪社?...なんの話だ」

 

「だぁかぁら!おれは集⚪社なの!王手出版のたまに表紙をかざるやつなの!天下の少年ジャ⚪プなの!」

 

「悪いが、おれはゴリラに興味はない」

 

「なんだ、おまえ!ヅラみたいなヤローなのか?会話が噛み合わないんですけど!」

 

「何をいってる、銀時。さっきからパフェにかじりついてるじゃないか」

 

「その噛み合うじゃねぇよ!...ったく、なんでおれの回りには話聞かねぇやつが多いんだ?」

 

「それはお前も話聞かねぇからだろ」

 

なんだかんだ言いつつ春日と銀時は打ち解けていった。今では二人仲良くファミレスでいちごパフェを注文し、食している。

 

 

「銀時、お前はいつまでここにいるんだ?」

 

「..なにいってんだ、春日。おれはお前のしゅごキャラだからお前のなりたい自分になるまでお前を見守るんだよ。」

 

「おいおいおいおい。そりゃねぇぜ、銀時。プライバシーもなにも、ねぇじゃないか。」

 

「..何も四六時中いっしょにいるわけじゃねぇんだよ。ただ、そうだな、おれは甘いものがないとだめなんだ」

 

「甘党なのか?」

 

「あぁ。医者が言うにはメタボリックシンドローム..いや、糖尿病予備軍だが、気にすんな。それでもおれは糖分がほしい」

 

「医者の忠告は聞くもんだぜ?わたあめ頭」

 

「男にゃ、ときに自分の武士道ってもんをつらぬくんだ。わかったか、女顔」

 

春日の日常に3時のおやつが加えられた。

 



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第三話 恥ずかしがらずに手をあげて言え

聖夜学園小、四年星組。

 

転校生というニュースは朝から教室中を賑わせるネタになっていた。

 

久我春日はそんなこともお構いなしに机の上に少年マガ⚪ンをひろげている。ここが学校なのに持ち込んでいいのかという脅しに春日は屈しない。

 

なぜ少年マガ⚪ンかというと、春日のしゅごキャラ、銀時の講⚪社という指摘から、自分も講⚪社の少年雑誌を手に取ったのだった。...決してそこに銀時への対抗心があったのではない。

 

この空間、いや、世界観なら知っておくべきだろうと考え、朝、コンビニに立ちより購入した。ちょうど銀時もジャ⚪プをみつけ、春日にねだった。もう一度確認するが、春日がマガ⚪ンをよむ理由は、この世界観を知ること、暇つぶしのためだ。

 

 

だが、春日は勘違いしていた。

 

このような世界観が、少年雑誌ではなく、少女漫画の世界観であることを。

 

だから、マガ⚪ンではなく、なか⚪しが正解だということを。

 

----------

 

「転校生の日奈森あむさんです。日奈森さん、一言どうぞ。」

 

「......」

 

教壇の前に立つ少女は異様であった。

 

(あの、ピンク頭って地毛?もしかして不良?)

 

春日もまた、彼女に圧倒されていた。ただ、他のクラスメイトと違う点は、やたら髪の色を気にしていたということだ。

 

 

 

----------

 

それから数日。日奈森あむが転校してきてから幾分か時間が流れた。春日はとくに彼女と話すこともなく、きょうも教室の窓側の席でひとりたそがれていた。春日にとってクラスメイトは、まだまだオコチャマで話すという行為そのものが精神的に疲れるのだ。だから、一匹狼みたく過ごしている。それが、春日のうわさを加速させているのだが。

 

そして、日奈森あむもまたひとり教室の席に頬杖をつき、足を組んで座っていた。

 

彼女はもはや有名人になっていた。カツアゲ犯を撃退したやら、校長の顔が上がらない、顔パス、ボンジュール。

 

すべては周りの勘違いとうわさがその状況をつくった。

 

「さっすが、日奈森さん!クール&スパイシー!!」

 

彼女のキャッチコピーはクール&スパイシー。

 

春日がそれを知ったとき妙に納得した。

 

(たしかにあの髪色はスパイシーだよな)

 

(おれの髪は銀色だ、春日)

 

(銀色?白髪じゃなかったんだ。...そこの転校生のことだよ、天パ)

 

(断じて白髪じゃねぇぞ?...あー、あいつか。直毛)

 

ちなみに久我春日のキャッチコピーは狂乱の貴公子だったりする。

 

(お前、ほんとヅラに似てんな。)

 

(ヅラ?)

 

(あぁ。そのむかつくくらいのストレートはあいつそっくりだぜ。)

 

(銀時は性格がねじまがってるようだな。)

 

(だぁれが、クルクルパーだコノヤロー!明らかにおれの頭みていったよな?!いまさら視線そわせたっておそい!なに、図星さされてショックを受けた顔してんだよ!...そのばかにしたような笑いもなんだよおおおおお!!めんどくせええぇぇ!!!)

 

 

---------

 

全校集会。

 

ガーディアンのキングスチェア、辺里唯世が演説をしていたときだった。

 

「はい!あなたが好きです!王子様!!」

 

手をピンとあげ、普段のクールとはかけ離れた顔で告白をした日奈森あむがいた。

 

 



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第四話 外見だけで人を判断したらダメ

「あなたが好きです!王子様!!」

 

日奈森あむの発言は体育館中に響き渡った。うたた寝していた春日も周りの空気に気づき、事態を把握しようとしている。銀時は、はなちょうちんをぶら下げ、夢の世界へ旅立っていた。

 

ざわざわ。

 

(あの転校生、なにやってんのおぉぉぉ!)

 

春日は内心ヒヤヒヤしていた。まだ純粋なこどもだからこそ、この公開告白は心にきずを負うのではないかと思ったのだ。

 

(すき、だなんてちょっとした気の迷いだろ。だいたい小学生の恋愛がこれから十年先も続くなんてイマドキ流行らねぇよ。

 

昼ドラみたいなドロドロした愛憎劇が主婦のみなさまにはウケるんだよ。昼顔しかり、あなそれしかりいまや世間は禁じられた恋を求めてんだよ、コノヤロー)

 

(銀時、起きたのか。...そうだな。いつまでたっても成長しない、いや、変わらないともいうが、サ⚪エさん一家のような平和な日常か)

 

(その例えはわかりづれぇよ、春日。むしろ、いつまでもまる子を可愛がるとも⚪うじゃね?)

 

(いや、サザ⚪さんだね!)

 

(いやいや、⚪子だろ)

 

(いやいやいや、サ⚪エさんだ)

 

(いやいやいやいや、⚪子だ)

 

(だあぁぁぁ!さっきからピーって効果音なりすぎだろ。お前、それじゃ⚪子じゃなくて、P子って聞こえるぞ!ここにおすぎはいねぇぞ!

 

...それより、これ、転校生の黒歴史になるぞ。...あいつ、明日学校休むんじゃねぇか?)

 

----------

 

そんな春日の心配も外れ、日奈森あむは教室にいた。

 

(...メンタルつぇーな。さすが転校生。うわさはうそじゃないってか?)

 

(銀時、触れてやるな。あの子も女子だ。デリカシーってものをわかれ。)

 

(朝から爆音でヘビーメタル聴いてた奴に言われたくねぇよ!...ったく、朝から頭がいてぇ)

 

(あれじゃないと起きれないんだ、わかれ。銀時。そもそもお前のその頭痛は二日酔いが原因だろ。あと、深夜のテレビみて寝不足だろ。)

 

(ネチネチうるせぇよ、お前はおれの母ちゃんか!)

 

(...ある意味お前はぼくのたまごから生まれたが...まぁ、この話はおいておこう)

 

(...そうだな。

 

あのピンク頭、お前さんが思っているより元気そうだな。その心配性は母親じゃね?)

 

(ぼくは母親じゃない、春日だ!

 

あの転校生、クール&スパイシーなんて言われてるが、よくみたら寂しがり屋にみえてな。

 

どことなく不安定にみえるんだが、気のせいだっか。)

 

(そうみてぇだな。...ほら、みろ。もうダチができてるぜ。

 

 

それに比べてお前といったら。

 

休み時間も移動時間もひとり。銀さんはお前の方があぶないとおもうぞ)

 

(そういうお前も、ぼくの母ちゃんか!

 

ぼくはいいんだよ、ひとりがすきだし。

 

 

 

それに、いまは銀時がいるだろ)

 

 

(................................................)

 

 

(...なに、顔そむけてんだ?耳あかいぞ、銀時)

 

(だぁぁぁ!おまえ、いきなりそんなこというなよな?!銀さんの心臓と銀さんの銀さんがバックバクじゃねぇか、コノヤロー!!)

 

(......なんだ、照れてるか。)

 

(べ、別に照れてねぇし?うれしいとかおもってねぇし?おまえがどうしてもっつーなら考えてやらんこともないけども?!)

 

無表情がデフォルトの春日はめずらしくニマニマした顔を銀時に向けていた。

 

 

 



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第五話 ジャンプは時々土曜に出るから気を付けろ

きょうもきょうとて、春日は学校へ向かう。当たり前だ、今の春日は小学生なのだから。そして、コンビニに立ち寄り、ジャ⚪プとマガ⚪ンを購入する。もはやこの少年雑誌は春日の聖書という名のバイブルになっていた。

 

 

「春日、今週のワンパークみるからジャ⚪プよこせ。」

 

「...それが、人にものを頼む態度か」

 

「すんませんしたぁぁぁぁ!!」

 

春日は銀時のあつかいがうまくなっていた。

 

 

-----------

 

「では、みなさんペアを組んで、お互いの似顔絵を描いてください」

 

いまは美術の時間である。先生のパンパンという手拍子を合図におのおのペアを組み始めた。この授業は合同授業で、星組だけでなく、月組も参加していた。

 

 

ここでひとつ言っておくが、春日はいわゆる一匹狼だ。だから、当然誰も誘えず孤立していた。

 

(......まぁ、余りもの同士で組むか、先生の顔描くことになるだろうなぁ)

 

 

ひとり、教室のすみに座り、マガ⚪ンを手に取り読み始める。実は、以前別の教師から注意を受けたのだが......

 

ぽわんぽわんぽわん【回想】

 

 

「久我くん、それは何かね?」

 

「ぼくの道徳の教科書です、先生」

 

「......ワシの目には少年マガ⚪ンとかかれてるように見えるのだが」

 

「道徳の教科書です、先生」

 

「......きみが開いているページにダ⚪ヤのエースというタイトルが見えるのだが」

 

「道徳の教科書です、先生」

 

「.........そうか。今度からサ⚪デーのmixを読むように」

 

ぽわんぽわんぽわん【回想終了】

 

 

あのときは先生が野球漫画に理解があって良かった。なにを言っても春日は怯むどころか、軽くかわされるので教師の間ではもはや注意するものはいない。おまけに成績優秀者という肩書きで、教師としてもやりづらく、頭がまわるからこそ結局口で負かされるのであった。

 

 

だが、先ほどから美術の教師が春日をみて涙ぐむ視線を向けており、春日はそれに気づいていた。この美術の教師は新米であるため、初々しく、春日にしてはめずらしくなんとも言えない罪悪感が芽生えた。

 

(......教師イビリしてるわけじゃないんだが)

 

そうは思っても春日のこの授業態度は授業妨害に値するかもしれない。

 

春日は鞄からえんぴつとスケッチブックを取り出し、ちょうどそのタイミングで声をかけてきた別のクラスの子とペアを組んだ。

 

 

「かきおわったらお互いに交換してくださいねー」

 

先生のその合図でおのおの交換していく。

 

「...はい、久我くん、描けたわ」

 

「...うん、ぼくもちょうど終わった」

 

ペアの相手から自分の似顔絵を受け取る。その絵はたしかに春日の特徴をよくつかんでいた。艶のある黒髪ストレート。無表情。一見整った顔立ちだが、やる気のない瞳は誰が見ても春日だとわかる。

 

一方、ペアの相手は顔をひきつらせていた。

 

 

「...こ、これが、わたし?」

 

 

そう、彼女が手にしているスケッチブックには、かの有名な機動戦士、別名、白い悪魔が描かれていた。

 

かろうじて目の部分にモザイク線をひいているが、明らかにモビ⚪スーツだった。ちなみにRX-78-2 型だ。

 

決してふざけていたわけではない。春日は人物画よりもガン⚪ムを描きたかったという気まぐれな理由で描いただけだ。

 

 

「...あー、藤咲さん?

 

 

〔アムロ、行きまーす〕っていってみなよ!大丈夫!困ったときは〔オヤジにもぶたれたことないのに...!〕って言えばいいよ」

 

 

春日なりの謝罪とフォローのつもりだった。

 

 

ガーディアンQチェア、藤咲なでしこのキャラチェンジが暴走し、普段の彼女からかけ離れた広島弁が降臨したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 



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第六話 人生はベルトコンベアのように流れる

3月某日。世の小学生、中学生、高校生。彼らのための春休み《楽園》が始まるまで、あと数日。

 

先日のガン⚪ム事件が落ち着き、時間が流れた。これ以来、春日と藤咲なでしこの両者のあいだには、なんとも言えない居心地の悪い空気が流れ、両者のクラスメイトのみならず、全校生徒の間で彼らのことは暗黙の了解として事件はパンドラの箱へとしまわれた。

 

当の春日と言えば、

 

「......やっぱ、エヴァンゲ⚪オンの方がよかったかなぁ」

 

と、思った程度で、反省する方向性がズレていた。

 

「広島弁といったら、ワン⚪ースの赤犬が話してるよな」

 

「あぁ。あれ、長谷川さんが声の担当してるぞ」

 

「.........え?」

 

銀時の大人の裏事情という爆弾が投下され、思考が止まった。マダオの声と赤犬の声が同じだなんて、キャラが違いすぎてビビる。方や、ホームレス。方や、海軍元帥。...やっぱりビビる。

 

----------

 

春休みを控えた聖夜学園小、四年星組の教室に件のガーディアンQチェア、藤咲なでしこがやって来た。

 

彼女は一直線に日奈森あむのもとへ向かい、ロイヤルガーデンという名のお茶会に招待した。

 

去り際に春日と藤咲なでしこの視線が交わる。藤咲なでしこの背後にスタンドが見えるのは、春日や銀時だけでないはず。だが、それも一瞬のことで、春日はそれほど注意深く思っていなかった。

 

その翌日、日奈森あむがガーディアン入りを断ったというニュースや家庭科室に不審者が侵入したという噂が流れても、春日はやっぱり通常運転だった。

 

それから担任教師の〔よいこの春休みの過ごし方〕というプリントが配られ、ホームルームがおわり、四年星組は解散となった。

 

今年の〔よいこの春休みの過ごし方〕には、ひとつ項目が加えられていた。これは毎年使い回しのプリントが配られ、〔夜の外出は控えなさい〕やら、〔釣りは大人同伴でいきましょう〕やら耳にたこができるまできいたよいこの模範行為が記されていた。そして、今年もこの使い回しが使用されるはずだった。なにも起こらなければ。つまり、書き加えられていたということは起こってしまったのである。

 

 

ぽわんぽわんぽわん【回想】

 

昨年の春休みのことである。夜の学校のグラウンドに春日はいた。その横には、ライン引きがあった。ライン引きというのは、石灰で白線を引く道具のことだ。ここまでの流れで察しのついた方はいるのではないだろうか。

 

 

 

そう、春日は夜のグラウンドに巨大な機動戦士の地上絵をライン引きを使い、描いたのである。

 

どんだけガン⚪ムが好きなのか。

 

 

 

ちなみに機種はRX-0 ユニコーン。ご丁寧にデストロイモードまで再現されていた。

 

そもそも春日がこのような奇行に走ったのには理由がある。自分の二度目の人生は何かのアニメ、漫画の世界なのではないかと考えたからである。

 

ここで注目するのは自身の名前、久我春日。ひらがなで読むと、〔くが はるひ〕。

 

はるひといえば、あのハルヒだ。宇宙人、未来人、超能力者のSF学園ファンタジーだ。

 

そして、春日はその主人公、涼宮ハルヒのように夜の校舎に忍び込み、例の地上絵を描いた。春休み明けに、春日の描いた地上絵は聖夜学園中の人間の知ることになり、以来、七不思議のひとつになっている。

 

まぁ、それから春日も事態の大きさに気付き、自分がやったと名乗り出た。

 

 

 

〔認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを〕

 

以上が春日の反省文の書き出しである。いつから赤い彗星となったのか。

 

現在の心境としては「今にして思えば、あのときの自分はどうかしてた。」と、春日のなかで黒歴史となっている。

 

ぽわんぽわんぽわん【回想終了】

 

改めて、〔春休みのよいこの過ごし方〕をよむ。

 

 

〔グラウンドにはエヴァンゲ⚪オンを描こう!

 

 

ちなみに理事長は初号機を希望します〕

 

 

上記の「エヴァンゲ⚪オンの方がよかったかなぁ」という発言はここからきていたり、いなかったり。

 

 

 

 



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第七話 粘り強さとしつこさは紙一重

午後3時おやつの時間のことである。いちご大福を片手に春日が唐突に呟いた。

 

「...お前の声って、キョンに似てるなぁ」

 

「おれはアイドルじゃねぇよ、コノヤロー。なんてったって糖分王だからな。糖分だけはやめられねーよ。学園天国のこのご時世で美人の隣なんかねらっちゃいねーよ。」

 

「大泉昨日子じゃねぇよ!これわかる人一体何人いると思う?!」

 

「35人」

 

「お決まりな答えありがとよ!バーロー。

 

......ほんっと、こんなちゃらんぽらんなのに、烏間先生と声いっしょだもんなぁ。

 

 

あわれなり。」

 

「そのかわいそうなものをみるかのような視線ヤメテ!!?そのあわれなりってどうした!!平安お坊ちゃんキャラって、斬新だな、オイ!急なキャラ設定はやめてくんない?!」

 

銀時のいちご大福は彼の動揺を誘い、そのまま春日の口へ入った。

 

「おれのいちご大福ぅぅ!!!」

 

銀時、あわれなり。

 

 

------------

 

桜の花が咲き乱れ、春の訪れを感じる今日この頃。春休みという名の《楽園》はおわりを告げ、春の出会いを胸に期待する人も多いのではないだろうか。あるいは、新しい環境に不安を抱き憂鬱な人もいるだろう。春日はというと、前者でも後者でもなく、この春休みを通して春日のステータスに〔引きこもり〕が追加された。

 

クラス発表の掲示板を確認し、自身の新しいクラス、五年星組へ向かう。ちらりと教室を見渡すと、見たことある顔がひとり、ふたり、三人、あれ、あの人なんか透けてない?...もう一度数えてみると数字があわない。春日が銀時を横目にみて、春日の瞳は遠くを写した。いまさら、自分に何が見えるのか気にしない。自称フェアリー的な存在、しゅごキャラの銀時がみえるのだ。だから、気にしないことにした。

 

新クラスと言えば、自己紹介。春日はわくわくしていた。例えるならドラゴン⚪ールの孫悟空が「オラ、わくわくすっぞ~」的なノリだ。もっとわかりやすく例えるなら、ワン⚪ースのルフィが目をキラキラさせて「いっしょに海賊やろう!」とさらりと仲間に勧誘するノリだ。

 

参考にいうと、去年の自己紹介は

 

「三年月組出身、久我春日。ただの人間には興味ありません。この中にモンスターボール、ピカチュウ、サトシの帽子を持っている人がいたら、ぼくのところにきなさい。

 

 

バトルしようぜ、ポケモンバトル」

 

なぜこの自己紹介をチョイスしたのか理由は語らずともわかるだろう。...グラウンドに地上絵を描いたことから察してほしい。

 

今年はどうしようか春日が考えていたとき、なんと担任が事故でお休みらしい。代理の教師のその説明を受け、そのままホームルームは終了した。

 

------------

 

春日に一方的だが、話し相手ができた。

 

「なーなー久我、やっぱりおれ告ろうかな」

 

「すまん。生理的に無理だ」

 

「お前じゃねぇよ!たまに目が合うんだよ!それに!例え毛むくじゃらなやつでも!まるごと愛する、女神のような心の広さ!...これって脈アリだよな!?」

 

「お前の脈は異常だ。...このままだと残り少ない学園生活を余儀無くされるだろう」

 

この場合の残り少ない学園生活とは、告白をして玉砕してしまうまでのカウントダウンのことである。

 

「うそだろ!?...よし!おれ、告白してくる!!」

 

そうやって送り出したのが20分前。明智くん(仮)はどうしているだろうか。

 

春日が廊下を曲がったとき、何かに腕を引っ張られた。

 

 

「ごめんなさい。私と久我くん、許嫁なんです。」

 

なでしこが春日の腕を掴みながらそう言った。

 

 

▼ なでしこは MK5を くりだした!

マジで 鼓膜破れる 5秒前

 

「「「「「ええぇぇぇぇーーーー!!」」」」

 

▼ こうかは ばつぐんだ!

 

▼ 明智(仮) は目の前が まっくらに なった



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第八話 人の名前とか間違えるの失礼だ

「私と久我くん、許嫁なんです。」

 

 

藤咲なでしこの爆弾は、明智くん(仮)のHPをすみからすみまで削りまくった。とくせい:がんじょう により、なんとか持ちこたえている。

 

それは春日も同様であるが、それは顔に表れることはなかった。とくせい:マダオ は伊達じゃない。

 

なでしこは春日に腕を絡ませながら続けた。

 

「私たち、あーんなことも、そーんなこともしちゃったの」

 

「あ、あんなこと?!そんなこと、だとぉ!!?」

 

 

 

大嘘である。

 

 

明智くん(仮)は真に受けてショックを受けるどころか、春日に「う、うらやましいなんて、おもってねぇから!」と、チラチラ見ながらいった。それは顔とセリフがあっていなかった。

 

「...そうだっけ?...んー。そうみたいです、はい。...藤咲さん般若の顔こっちに向けるな、300円あげるからぁ!」

 

「やだ、久我くんたら!そうでしょ?だから、ごめんなさいね、明智くん(仮)」

 

 

 

「さっきから何度も言おうか迷ったが、おれは空智だぁ!明智くん(仮)じゃねぇよ!というか、(仮)ってなんだよ!おれはふられたのかよぉぉぉ?!」

 

空智は絶叫しながら走り去った。

 

----------

 

「どう言うことだよ、10文字以内で説明しろ」

 

「私と貴方は許嫁(笑)」

 

「きっかり10文字じゃねぇか!(笑)って他に言い方あるだろ」

 

「あら、貴方もこの類いの件には困ってるのではなくて?...まぁ、都合のいい断り文句ができたと思ってくれたのでかまわないわ」

 

「お前はかまわなくても、ぼくはなぁ...」

 

狂乱の貴公子と呼ばれる春日だが、その頭脳明晰、死んだ魚のような目だが整った容姿は良い意味でも悪い意味でも目立っていた。事実、春日は呼び出しを受けることがあった。

 

「毎日毎日、ストーカーに付きまとわれるこの心労、わかってくださりますか」

 

「...へぇ、明智くん(仮)ストーカーだったのか」

 

「空智くん、でしょ?...そしてそうなった原因は貴方も関係していると耳にしたのだけど?...彼の恋愛相談にのっていた、とか」

 

たしかに春日は空智から恋愛相談を受けていた。だが、春日はマダオで興味のないことには無関心かつ適当であった。引き金を引いたのは春日の一言だ。なでしこの言い分もあながち間違いではない。言い淀む春日になでしこは1枚のカードを切り出す。

 

「...ガン⚪ムなんて、お父様にも、描かれたことないのに...」

 

「なんでもかんでも親父まきこめば、アム⚪になれると思うなよ!...ったく、女ってのは怖ぇよ、しょうがねぇなぁ」

 

さすが日奈森あむを懐柔し、ジョーカーに仕立てあげた策士、藤咲なでしこ。いつしかみたスタンドの片鱗はこの事であったと春日は確信した。

 

-----------

 

放課後。春日は目の前に浮かぶ×印の入った黒いたまごをみていた。銀時も春日の視線の先をたどり、それをみた。

 

「なぁ、銀時。今日のブラック星座占いのてんびん座って、何位だったか覚えてるか」

 

「おれは、結野アナみてたからおぼえてねぇよ。...やべ、トイレ行きたくなってきた」

 

「おいおい。この状況でか?...無茶言うなよ。それよりも あれ、やばいだろ。妙な胸騒ぎがしやがる」

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ピキキ

 

 

黒い×印のたまごに亀裂が走った。

 



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第九話 べちゃべちゃした団子なんてなぁ、団子じゃねぇバカヤロー

×キャラ

 

×たまが孵化したもの。総じて邪悪な性格。放っておくと暴走し悪さをするばかりでなく、持ち主の心の状態も危険になる。全身真っ黒で人型をしており、額に大きな×が付いている。

 

 

「...真っ黒で、人型...なのか?」

 

「調べものにWikipediaを当てにするのはやめろ。現代人のわるいクセだ。やつらでもわからないことはある。」

 

 

 

春日と銀時の目の前にはモザイク修正されたゴリラがいた。

 

 

「そうみたいだな!...銀時!くるぞ!」

 

 

--------キャラチェンジ!

 

 

 

 

 

「オッス!おら、悟空!いっちょやってみっか!」

 

《銀さん、まずいですよ!そもそも会話が通じませんし、ここは講⚪社です!》

 

「おでれぇた!おらと同じ名前だなぁ」

 

《えぇぇぇー!本気にしちゃったよ!このゴリラ!ゴリラなのにしゃべれるのかよ!同じ猿人でも、どこのサ⚪ヤ人だぁぁぁ!》

 

さっきからツッコミを入れるのは、メガネ。声のみの登場である。もはやお約束だ。

 

----------

 

▼ 春日は助けを呼んだ

 

「「............」」

 

 

 

十分経過。

 

 

「「............」」

 

 

 

0.5時間経過。

 

 

 

▼ 助けはあらわれなかった

 

「おっかしぃな。...最新バージョンにアップロードしたのに」

 

《何いってんですか!まだサトシはマサラタウンを出発してませんんんん!!オー⚪ド博士からピ⚪チュウをもらったばかりです!!》

 

ところで、×キャラと遭遇したときは浄化、もしくは、破壊しなければいけない。たとえ、×たまの中からゴリラが生まれたとしても。

 

ふと、周囲を見渡すと空智が倒れていた。

 

「...アイツ、死んだフリしてんのか?」

 

《違いますよ!どうみたって、あの×キャラの持ち主が彼でしょうがぁ!!》

 

 

「...久我。

 

 

決闘しろ!!藤咲さんをかけて!!」

 

「......いいぜ。

 

ワリーが人の人生賭けて勝負できる程大層な人間じゃないんでね、代わりといっちゃ何だが、藤咲の代わりにぼくの命を懸けよう。てめーが勝ってもアイツはお前のモンにはならねーが、邪魔なぼくは消える。後はくどくなりなんなり好きにすればいい。もちろんぼくが勝ったら、アイツからは手ぇ引いてもらうぜ」

 

 

そう言ってゴリラ(×キャラ)に自身の木刀を投げ渡す。ゴリラが木刀を手に取ったそのとき

 

 

 

 

 

「か め は め 波ァ!」

 

《鳥山先生、ごめんなさいぃぃぃ!》

 

 

ゴリラはそれに飲み込まれた。

さすが少年たちの永遠のあこがれの必殺技かめはめ波である。

 

「甘ぇよ、いちご牛乳より甘いね。こんな事の為に誰かが何かを失うのはバカげてるぜ、全て丸く収めるにゃこれが一番だ」

 

だからといって、いきなりかめはめ波を繰り出す必要があったのか。

 

「...貴様、だましたのか?!

 

 

 

...だが、いーやつだな、お前。藤咲さんが惚れるはずだ。いや......女子より男にもてると見た」

 

そう言って笑った。

浄化したといえるのか、白い羽のデザインのたまごは空智の中へかえっていった。

 

それから暫く。

 

▼ おや、空智くんの 様子が...!

 

 

▼ おめでとう!空智くんは愛の狩人(ストーカー)に進化した。

 

 

 




【補足】
しゅごキャラ!とは

聖夜学園に通う小学生日奈森あむは、見た目クールでかっこいい少女として周りに見られているが、実は口べたで、恥ずかしがりの内気な少女であった。

ある日の朝、ベッドの上に3つのたまごがあった。そのたまごから、しゅごキャラであるラン、ミキ、スゥ が生まれた。しゅごキャラとは、なりたい自分が具現化されたものだという。なんやかんやでガーディアンのジョーカーになり、エンブリオをみつけるためにイースターと対立している。

なお、この作品は銀魂とのクロスオーバーであり、主人公はオリ主で、銀時はオリ主のしゅごキャラとして登場する。


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第十話 第一印象がいい奴にロクな奴はいない

5月。ゴールデンウィークを終え、少し疲れた顔がうかがえる。どこにいっても人だかり、人に揉まれ、迷子放送のお世話になった小学生の数は知れず。

 

五年星組の担任もようやく退院し、復帰した。

ドジなのか、よく転ぶ姿をみかける。

 

久我春日はその担任から呼び出しを受けていた。

 

「久我くん、一応この学校は何かしらのクラブに入らないといけなくてね...」

 

「.........」

 

「それで、キミはどのクラブに入るかな?」

 

「わりぃ、ねててきいてなかった」

 

「...やけにおとなしいと思ったら...もう一回説明するよ...」

 

 

こめかみをひくつかせながら、もう一度春日に説明を始めた。彼はとんでもないクラスの受け持ちになってしまった。ジョーカーの日奈森あむ。同じくガーディアンQチェアの藤咲なでしこ。そして目の前にいるおよそ小学生には見えぬ久我春日。

 

良くいえば、個性あふれる生徒だが、逆にいうと一癖も二癖もある生徒だ。

 

いまだって、もう目が半分閉じている。去年の担任はこの時点であきらめたらしいが、自分はそうはいかない。なんとしてでもやってやる。もはや意地だ。そして、これをきっかけに春日と彼は長い付き合いになることは誰も知らない。

 

-----------

 

と、いうわけで春日のクラブ見学は始まった。はじめに言っておくが、運動部はスルーだ。ただでさえ、家に帰ると祖父との稽古があるのだ。いくら無邪気な小学生の身体といえど、限界がある。無駄に疲れたくないのが本音だ。

 

当てもなく歩いていると、校舎とはべつに建物をみつけた。中へ入ると、映画館のように真っ暗で、春日は近くにあった椅子に腰を掛けた。

 

 

「映画なんて久しぶりだなぁ」

 

「ガキみたいに はしゃぐなよ、春日。

 

 

 

 

すみませーん!キャラメルポップコーンといちご牛乳おねがいしまーす!」

 

 

「どの口がいってんだよ!おまえが一番はしゃいでんじゃねぇか!

 

 

 

 

あ、いちご牛乳を追加でおねがいしまーす!」

 

ふたりがギャーギャー騒いでいると、どこからか人影があらわれた。

 

「残念だけど、ここは映画館じゃなくて、プラネタリウムなんだ。

 

 

 

それにしても今日はお客さんが多い日だ」

 

どこかでみたことのある青年がそう告げた。春日がそう感じるのも無理はない。ガーディアンのKチェア、辺里唯世の面影を感じる。いや、この場合、辺里が青年に似ていると言った方がしっくりくる。

 

「さてさて、キミたちはなにを求めてここにたどりついたんだい?」

 

「キミたち?...銀時が見えるのか」

 

「まぁね。ぼくはこのプラネタリウムの管理人とでも言っておこうか。」

 

 

「...ここにいる以上は何処かに属さなきゃいけねぇらしい。だが、生憎ピンとくるのがなくてな。」

 

「そうそう。おまけにこいつといったら、一匹狼気取って、ろくなやつじゃねぇし」

 

「ぼくもお前みたいなマダオはみたことねぇよ」

 

「まぁまぁ、ふたりとも。

 

何も選択肢はそれだけじゃない。ないのならば、つくればいい。」

 

「つくる、か。ありがとよ、音無響子さん」

 

「ぼくは未亡人じゃないよ。プラネタリウムの管理人さ、惣一郎さん」

 

「......あんたとは気が合いそうだな」

 

そう言って春日は立ちあがりこう言った。口元はニヤリとニヒルに笑っている。

 

 

「犬でもなけりゃ、しんでもいねぇよ。

 

 

宇宙一馬鹿なサムライだ、コノヤロー」

 

 

-------------

 

 

「そういうことだから、ここにサインしろ」

 

 

半ば脅しのように春日は告げた。用紙は〔クラブ創設申請書〕と書かれてある。

 

「...なになに、〔ものつくり部〕?」

 

軽い気持ちで春日の担任は承諾した。彼はやっと、春日がクラブに入ったことが喜ばしかった。それがたとえどんな団体であり、形でも。

 

ものつくり部

部長、久我春日。

部員、1名。

マスコットキャラ、銀時。

顧問は もちろん二階堂悠である。

 

 



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第十一話 お前らテロなんてやってる暇があるならペロの散歩にでも行ってきな

聖夜学園のとある空き教室。埃まみれで物置き同然だった教室は〔ものつくり部〕の部室として、⚪フォーアフターした。

 

なんということでしょう!足の踏み場がなかった床は収納ボックスを設置し、整理整頓された部屋に様変わり。匠のセンスある色とりどりのガン⚪ラコレクションがかざられ、マニアの心をくすぐります。〔糖分〕とかかれた掛け軸は匠のオリジナル。シンプルにまとめられたそれは見事に部屋に調和しています。そして、なんといっても最新技術搭載のからくり部屋は、防犯対策もバッチリです。

 

 

「どうもリフォームの匠です」

 

「......久我くん、ここはいつから忍者屋敷になったんだい?」

 

 

ものつくり部の顧問、二階堂悠が扉を開けると、おきまりのようにタライが落ちてきた。そして、春日が手にしているステッキを床にコンっと叩くと二階堂悠の足元の床が滑り台に変形した。どこのよし⚪と新喜劇だ。そのうちローテ⚪ショントークでもしだすのか。

 

そのまま二階堂悠はフェードアウトした。

 

-------------

 

さて、ものつくり部はいよいよ始動した。

 

部員は書類上、久我春日1名なのに公認されているのか?そんな疑問を抱いただろうが、このものつくり部の部長は久我春日だ。そしてそのしゅごキャラ、銀時もまたぶっ飛んだヤツである。このふたりがタッグを組んでいる時点でもう勝負はみえている。

 

 

お忘れかもしれないが、久我春日は前世持ちの見た目はこども、頭脳は大人、マダオ希望のなかなかのくせ者である。

 

ラブ⚪イブしかり、バカとテストと召喚⚪しかり、学園モノに立ちふさがる敵として登場するのは、生徒会である。かれらは、〔部員数が足りないから認められない〕やら、〔節度ある学生生活を乱している〕など何かしらいちゃもんをつける。誤解のないように言いたいが、春日の一方的な解釈である。

 

これらの事例から察するに当然、春日がつくったものつくり部は、クラブとして認められないだろう。だが、そんなフラグはお断りである。なんせ、この学校の生徒会的存在はガーディアンであり、ガーディアンといえば、先日春日を脅した藤咲なでしこがいる。そんなところにわざわざいく必要はない。というか行きたくない。

 

東の地域にこんなことばがある。

 

赤信号、みんなで渡ればこわくない。

 

-------------

 

「........一階堂せんせー」

 

「おしいね、その1に1を足して見ようか。」

 

春日は先程フェードアウトした二階堂悠を引きづり、ある提案を持ちかけた。

 

「じゃあ、零階堂せんせー」

 

「何で引き算したの?1に1を足せば2だよね?!」

 

「理事長室に案内しろよ、メガネ。そんなツッコミじゃ、新八の足元にも及ばねーよ。いいか、なんのためにお前はメガネをかけているんだ。

 

 

 

 

ツッコミのためだろ?」

 

 

「いや、ただ目がわるいというか、メガネをかける理由にツッコミってそんなわけ......

 

ていうか新八って誰だよ!!」

 

ちなみに今の春日はキャラチェンジ状態であり、ぐだぐだと口を動かしている。

 

「いいか、赤信号だろーが、黄色信号だろーが、理事長にサインもらわねぇといけねぇんだよ。信号なんか気にして生きてられっかよ」

 

「......久我くん。キミがいつも以上に死んだ魚のような濁った目しているのはぼくの気のせい?」

 

「いいんだよ。いざという時には、きらめくから」

 



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第十二話 ベルトコンベアには気をつけろ

ところ変わって、理事長室。

 

 

理事長こと天河司はニコニコと笑顔をふりまきながらゲン⚪ウポーズを組んでいた。

 

 

「おや、宇宙一のお侍さんじゃないか」

 

「よぉ、管理人さん。理事長だったのか」

 

そう、理事長室で春日をむかえたのは、プラネタリウムの管理人さんだった。

 

「......キミがここにくるということは、答えがみつかったってことかな?」

 

 

 

-------------

 

 

(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ.........やります、ぼくがノリます

 

 

 

 

 

...だから、理事長

 

 

 

 

 

 

てめぇもエ⚪ァのファンなら、ノッてくれ!)

 

 

 

 

「......我が、忠勇なる理事長よ。今や、聖夜学園の半数が、我がソー⚪・レイによって宇宙に消えた。この輝きこそ、我らジ⚪ンの正義の証しである。決定的打撃を受けた聖夜学園に、いかほどの戦力が残っていようと、それは既に、形骸である。

 

 

あえて言おう、カスであると!

 

 

 

それら軟弱の集団が、このア・バオア・⚪ーを抜くことは出来ないと、私は断言する。人類は、我ら選ばれた優良種たるジ⚪ン国国民に管理運営されて、初めて永久に生き延びることが出来る。これ以上戦いを続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。聖夜学園の無能なる者どもに思い知らせ、明日の未来のために、我らジ⚪ン国国民は、立たねばならんのである!

 

 

ジーク・ジ⚪ン!」

 

途中、シ⚪ジくんになったり、ギレン・⚪ビになったり、もうこれはわかる人にしかわからない押収だ。要は〔ガーディアンなんか知ったことか、ここにサインしろよ〕ということである。

 

 

何故、こんなわかりにくい言い回しなのか。それは、以前〔よいこの春休みの過ごし方〕にさかのぼる。思い出してほしい。

 

 

 

〔理事長は初号機を希望します〕

 

 

 

これは春日の作戦だ。春日は理事長の中に眠るオタク心を目覚めさせようとしている。

 

 

余談だが、二階堂悠は蚊帳のそとになっていた。彼にとってのロボットはマジ⚪ガーZや鉄腕ア⚪ムだからなおさらだ。

 

 

 

「...さすがはリリンのうみだした文化の極み、久我くん。」

 

春日をカヲルのようにたとえ、ゲン⚪ウポーズを崩さず、理事長はにっこり笑った。

 

「サインしよう!おもしろそうだしね。サービス、サービス」

 

 

ガン⚪ムとエ⚪ァがわかりあった歴史的瞬間であった。

 

-------------

 

そうして理事長承認となったものつくり部。その活動は、《つくる》ことがキーワードだ。表向きはロボットの製作としているが、いちごパフェをつくったり、からくり部屋をつくったり、その《つくる》という動作はものつくり部の活動の一環として数え、それは多岐にわたる。基本的に自由でアットホームな部活だ。

 

 

 

 

 

 

だが、この部長は春日なわけで......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日と銀時はドラ⚪エⅩⅠをプレイしていた。

 

 

 

 

〔世界を救いに行ってくる〕と担任の二階堂悠にドラ⚪エ休暇を申し込んだのは今朝のこと。なにを言っているのかわからないが、狂乱の貴公子と呼ばれる春日のことだ。その思考回路は理解できないだろうと考え、あっさり二階堂悠はそれを欠席扱いとした。

 

 

--------------

 

「御用改めだぁ!ものつくり部ならびに久我春日。お前は包囲されている!」

 

扉の奥からスピーカーで発せられた声は春日の耳に届いた。

 

 

春日が回避しようとしたフラグが立ってしまった。

 

 



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第十三話 テレビとか新聞とかちゃんと見ないとダメだって

さてさて、時は春日がドラ⚪エ休暇を取得したころに戻る。

 

日奈森あむはジョーカーとして×たま狩りに励んでいた。

 

アメリカに転校する少女やバレエの少女のこころのたまごを守った。ほしな歌唄のライブでは残念ながら、それはできなかったが。彼女はガーディアンのなかで唯一キャラなりができ、なおかつ×たまを浄化することができる。

 

春日が部活創設を企んでいる間に、日奈森あむもまたエンブリオをめぐり、イースターと戦っていた。

 

事態が急変したのは、つい先日の体育のこと。自身のしゅごたまを二階堂悠にまんまととられてしまった。

 

二階堂悠の正体は、イースターの手先だったのだ。彼は教師として、学園に潜り込み、エンブリオを狙っていたのだ。

 

ガーディアンや占い師、冴木のぶこの協力もあり、彼女の3つのたまごのうち、ラン、ミキは取り返せたが、スゥはいない。

 

以上が春日がドラ⚪エに勤しんでいた間の日奈森あむの怒とうの日々だ。

 

 

--------------

 

「......二階堂といえば、久我くんが何か知っているかも」

 

そう呟いたのは藤咲なでしこだ。彼女は春日が創設したものつくり部の顧問が二階堂悠だったことを思い出した。

 

「...久我くんってダレ?」

 

しゅごキャラたちの頭の上でクエスチョンマークがおどる。

 

〔久我春日。五年星組所属。ものつくり部、部長。成績優秀、艶のある黒髪ストレートと整った容姿は一目置かれている。死んだ魚のような目が特徴的。神童と称された小学生。現在は狂乱の貴公子と恐れられている。〕

 

狂乱の貴公子。

 

それは日奈森あむも聞いたことがあった。いつも教室でひとり、つまらなさそうに窓の外を眺めていたり、まるで近づくなといっているかのような冷たい空気をまとっていたり。

 

「じゃあじゃあ、その春日っちに会いにいけばいいってことだよね!」

 

明るい声を出すのはAチェアの結木やや。

 

「おぅ!なら、突撃するか!」

 

にかりと笑うのはJチェアの相馬空海。

 

「日奈森さん、久我くんに聞いてみよう」

 

手を差しのべるのはKチェアの辺里唯世。

 

「いきましょう、あむちゃん」

 

Qチェアの藤咲なでしこの声にあむは顔をあげた。その顔は、不安気だが、確かに希望の色があった。

 

「......あの久我くんがそう簡単に協力してくれるかしら」

 

ロイヤルガーデンに藤咲なでしこのこぼした声は誰も聞こえなかった。

 

 

--------------

 

「御用改めだぁ!ものつくり部ならびに久我春日。お前は包囲されている!」

 

そう啖呵を切ったのは結木やや。ガーディアンの最年少ながらスピーカー片手に声を張り上げた。

 

「ややちゃん、待って!」

 

なでしこの静止の声を聞かず、いつまでたっても出てこない春日にしびれを切らしたややは、ものつくり部の部室のドアに手をかけた。

 

 

 

数秒後、ややの悲鳴があがるのは、この部室が春日と銀時の手によって、改造された故である。

 

 

「......そうは簡単にいかせてくれないわよね、やっぱり。」

 

なでしこはひとり、ため息をついた。だが、その顔は好戦的であった。



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第十四話 ペットは飼い主が責任を持って最期まで面倒をみましょう

「御用改めだぁ!ものつくり部ならびに久我春日。お前は包囲されている!」

 

春日にややのスピーカーで発せられた声はもちろん耳に届いた。

 

ひやりと背筋に汗が流れる。

 

春日には心当たりが多すぎた。

 

たとえば、ドラ⚪エ休暇は現在進行形で絶賛プレイしている。

 

たとえば、⚪フォーアフターなる改造は現在進行形でガーディアン共がその餌食にあっている。

 

たとえば、〔クラブ創設申請書〕は現在進行形で理事長の承認で押し通している。

 

たとえば、ガーディアンのQチェアの藤咲なでしこは現在進行形で自分の許嫁(仮)である。

 

 

例をあげたらキリがない。

 

 

 

 

そして、背筋にひやりと汗が流れたのは銀時も同じだった。

 

「おい、春日。おまえ、まさか家賃滞納しているのか?」

 

銀時の頭に浮かぶのは、家賃催促のババアの姿だった。

 

「家賃?んなわけねぇだろ」

 

春日が銀時にそう答えたときだった。

 

 

「おどりゃぁぁ!ワレがしたんじゃろうが知っとんでぇぇぇ!!」

 

春日が最後にみたのは薙刀をかまえ、血走った目をしたなでしこの姿だった。

 

 

-------------

 

(...あぁ。なんてこった、パンナコッタ。せっかくのドラ⚪エが!)

 

春日の心中は、ドラ⚪エをセーブできず、強制終了させられたことが占めていた。せっかく発売日に手に入れたドラ⚪エを中断させられた。3⚪S版と⚪S4版の両方を手に、同じく話がわかる銀時とそれぞれドラ⚪エに熱中していた。ドラ⚪エ休暇を取るほどに。

 

そんな時にものつくり部を訪れたのが、事もあろうかガーディアンだった。

 

 

「久我くん、二階堂について何か知ってない?どこにいるとか。」

 

ガーディアンを代表して、辺里唯世が春日に尋ねた。

 

「何でもいいの、教えて。これはガーディアンとしての仕事なの」

 

 

続けてなでしこが言った。

 

「仕事だぁ?てめーら仕事なんかしてたのか?街見てみろ、×たまが好き勝手やってるぜ」

 

春日は皮肉った顔で言い返した。驚いた顔で相馬空海が言う。

 

「おまえ、×たまを知ってんのか?!」

 

「んなこたぁ、今はどうだっていい。二階堂だろーが、ガーディアンだろーが、関係ないね!

 

 

 

 

 

 

 

ぼくは自分の肉体が滅ぶまで、背筋伸ばして生きてくだけだ!!!」

 

 

 

 

これは、一匹狼の小学生の話である。

 

聖夜学園の勢力は弱体化し、学園のやりとりをするガーディアンもついに弱肉強食の時代に突入した。

 

その危機的な教育現場の穴埋めに現れたのがフリーランス......すなわち、一匹狼のスチューデントである。 

 

たとえば、このこども。

 

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門知識のライセンスと叩き上げのスキルだけが春日の武器だ。

 

小学生、久我春日。

 

またの名を、狂乱の貴公C

 

 

『ぼく、失敗しないので』----

 

 

 

-----ピッ

 

 

「あ、もしもし?」

 

「「「「「着信音かよ!!!」」」」」

 

せっかくいつもの死んだ魚のような目がきらめいたのに、まさかの着信音である。まるで図ったかのようなタイミングだ。あの独特の冷淡な語り口調で脳内再生すると、某医療ドラマを思い出すのはなぜだろう。狂乱の貴公Cとはアルファベットを無理やりくっつけた。

 

 

それにしてもこの部室はよし⚪と新喜劇を再現しすぎだ。

 

とりあえずガーディアンのズッコケのタイミングにはなまるをあげたい。

 

 



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第十五話 疲れたときは酸っぱいものを

 

 

「誰からの電話だったの?」

 

「......野暮なこときくな。おまえは浮気をうたがう主婦か」

 

春日は呆れた視線をなでしこにおくった。

 

「あら、やだ。私たち許嫁じゃない」

 

 

 

 

不器用な恋愛の会話だと思うが、春日となでしこの背後にはそれぞれ重い空気が漂っていることを忘れないでほしい。

 

 

「「「「い、許嫁ぇぇぇ!?」」」」

 

誤解とは、こうしてうまれるのである。

 

 

--------------

 

 

聖夜学園では、スーツは皺だらけでだらしない格好、おまけに橙色の髪を寝癖もそのままに無造作に束ね、眼鏡を掛けたダメ教師を装っていた。あむを「ヒマ森さん」と呼び、こどもたちのこころのたまごを壊していた。

 

 

だが、いまは、髪形を整えて眼鏡を外し、奇麗なスーツを着用している。1つの事に集中すると寝食すらも疎かにする性分で、何故か連れ去ったスゥに心配されている。

 

彼、二階堂悠は、子供の頃はロボットエンジニアを目指していた。だが、恩師の退職や両親の猛反対に遭い、自分の進むべき道を見失った。

 

 

その迷いから生まれる前のしゅごたまを事故で壊し、夢を捨てて屈折した人間として育っていった。だから彼はしゅごキャラを見ることができる。

 

 

イースター社に入社後にエンブリオ探しを目的に聖夜学園に潜り込んだ。こども達のこころのたまごを壊すとき、罪悪感に苛まれることもあった。

 

 

「昔、定春1号と名付けた、たまごを飼っていたんだ。だけど、寝ている間に握りつぶしたのかな、こわしてしまった。あれから、たまごに自ら触れるの禁じたよ。......おかげで三食卵かけご飯も食べられなくなった。」

 

寂しそうに二階堂はスゥに当時の心境を吐露した。

 

 

「せんせ~、

 

 

 

 

 

 

三食たまごかけご飯はからだにわるいですぅ」

 

スゥは二階堂の健康状態を心配していた。

 

 

「......そうだね。それからは三食お茶漬けの生活が始まったよ。

 

力のコントロールが下手なぼくじゃみんなを不幸にしてしまう。でもキミならこの装置とでも釣り合いがとれるはずさ。

 

やっと、エンブリオが手に入る!

 

.....これは神様のプレゼントだ!」

 

二階堂は実験装置を目の前に怪しげに笑った。

 

スゥは怯えの色をみせ、何も言えなかった。

 

 

 

---------------

 

「......スゥが、連れ去られた......あたしのせいだ」

 

「あむちゃん......」

 

 

あむのしゅごキャラのラン、ミキがそっとあむに寄り添う。

 

 

 

落ち込むあむにかける言葉がみつからず、空気が沈んでいた。だが、春日は目線を唯世、なでしこ、やや、空海へたどり、最後にあむに向けた。

 

 

「日奈森、覚えとけよ。ぼくらは正義の味方でもてめぇのしゅごキャラの味方でもねぇよ。

 

 

 

 

 

 

......てめぇの味方だ!」

 

 

 



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第十六話 昔の武勇伝は三割増で話せ、盛り上がればいいんだよ、盛り上がれば

二階堂悠は、大量の×たまのエネルギーからエンブリオを人工生成する機械の研究を進めた。

 

そして、それは研究の成功をまさに目前に控えていた。

 

 

 

--------------

 

 

 

 

連れ去られたスゥを助けるため、春日と銀時、ガーディアンはかけだした。

 

 

--------キャラチェンジ!

 

「いくぞ、銀時!」

 

「へへっ、わかってらぁ!そこどけ、コノヤロー。万事屋銀ちゃんのお通りだぁ!」

 

木刀を片手に春日は先頭を走った。ガーディアン一同の目が見開かれる。

 

「キャラ持ち?!」

 

「春日っちもこの子たちみえるの?!」

 

「ただ者じゃないとおもってはいたけど......」

 

「それで×たまを知ってるワケか!」

 

「久我くんがキャラ持ちだなんて心強いよ......!」

 

上から、あむ、やや、なでしこ、空海、唯世が反応した。

 

「......いいか、よくきけコノヤロー!場所はB地点空き家だ!

 

 

おまえら、フォーメーションAでいくぞ」

 

春日の指揮にガーディアン一同はそれに従おうとしたが、ある一点に気づく。

 

 

「「「「「フォーメーションなんていつ決めたぁぁぁぁぁ!!」」」」」

 

--------------

 

 

 

空智くんを覚えているだろうか。

 

彼は春日からの指示でストーカーとしての能力を活かし、二階堂悠の居場所を突き止めていた。そして、先程の電話で春日に報告した。指示する際には〔藤咲さんのために〕と念押ししていたため、情報の伝達速度は上々だ。空智くんの返事は「御意っ!」と敬礼のポーズだ。ちなみに報酬はなでしこのプロマイドである。

 

日奈森あむを勧誘する際もそうだったが、春日となでしこの手段はよく似ている。ふたりの関係は冷戦状態だか、案外、気が合うのかもしれない。

 

だが、そう簡単には進ませてくれないらしい。途中、イースターの妨害にあい、二階堂悠のもとにたどり着けたのは、あむと春日と銀時、ラン、ミキだけだった。

 

--------------

 

「「「スゥ!!」」」

 

扉をバンと開け放ち、あむとランとミキは駆け寄った。

 

「......よぉ、二階堂。」

 

「......やっと、名前を覚えてくれたのかい?でも、一足遅かったね。久我くん。それとヒマ森さん。

 

......そういえば、キミは世界を救いに行ってたんだろう?」

 

言外にドラ⚪エ休暇をしていた春日を指摘した。

 

「あぁ。だが、目の前に泣きそうな顔してるやつをほっとくほど、落ちぶれちゃいねぇよ。

 

二階堂、おまえこそ何してんだ?その歳で誘拐なんてして、そのうち文⚪砲でも喰らうつもりか?......世間の目は痛いぜ?」

 

 

二階堂は「はは、こりゃ手厳しいね。この周辺地域はもちろんイースターが根を張ってるし、こどもたちのこころのたまごからエンブリオをみつけようなんて夢は捨てて、やつらとうまく共生していくだけだよ」と笑った。

 

スゥの救出に向かうあむと春日に、二階堂は実験装置のコントローラーをつきつけた。

 

 

「無傷で捕まえるなんざはじめから無理とは承知の上さ、犠牲の一つでも出なきゃアイツらはわからない!

 

 

腐ってようが、ぼくはぼくのやり方でエンブリオをつくる!

 

 

 

それがぼくの道ってやつだ!」

 

 

それからあむの快進撃が始まった。キャラなりのオンパレード、あむのターンだ。もちろん、春日も戦ったが、あむのキャラなり劇場にその活躍は霞んでしまった。最後にあむはスゥとのキャラなり、アミュレットクローバーになり、リメイクハニーを決め、フィニッシュ!

 

戦いに敗れた二階堂に春日は言葉をかけた。

 

「おまえ、ロクな人生送ってきてねーだろ。

 

まぁぼくも変わんねーか。人様に胸はれるような人生送っちゃいねぇ。

 

まっすぐ走ってきたつもりが、いつの間にか泥だらけだ。

 

だが、それでも一心不乱に突っ走ってりゃ、いつか泥も乾いて落ちんだろ」

 

その春日の励ましは、たしかに二階堂の心に届いた。

 

 

二階堂になついていたスゥに銀時が近寄った。

 

「俺ぁしらねーよ。面倒見るならてめーで見な。おめーの依頼料にそいつの分はキッチリいれとくからな。あ、《万事屋銀ちゃん》で頼むぞ。」

 

スゥは、銀時の後ろ姿につぶやいた。

 

「ありがとうですぅ、銀ちゃん。

 

 

依頼料は、ショートケーキで払いますぅ」

 

--------------

 

「あ、ありがと、久我くん」

 

「あぁ。

 

 

実はガーディアンに尻尾、つかまれちまってよ。

 

 

おまえから口利きしてくんねーか?」

 

「そ、それとこれは......!」

 

あむにガーディアンのサインを要求する春日の姿があった。なでしこの言った通り、簡単に動かない、やはり思惑があった。

 

「ほら、今なら、辺里の写真もついてくるぞ?」

 

「うっ!」

 

「......ボク、この光景デジャヴを感じる」

 

「あむちゃん、つられちゃダメだよ!ファイトー!」

 

「なでしこちゃんも久我くんもあむちゃんもよくわかってますぅ」

 

 

 

二階堂がイースターをリストラされ、彼が路頭に迷う日はそう遠くないだろう。

 

 



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第十七話 考えたら人生ってオッさんになってからの方が長いじゃねーか!恐っ!

聖夜学園の校区内にある、とある公園のベンチに二階堂悠はひとり、暇そうにしていた。

 

「......あーあ。これからどうしよっか」

 

彼はエンブリオ計画に失敗し、イースターにリストラを宣告された。

 

そんな彼の様子に小さな影が近づいた。

 

「おじちゃん、どうしてここに座っているの?」

 

純粋なこどもの問いに彼は答えた。

 

 

「一時のテンションに身を任せたからだよ。

 

人生は長いから、後先考えずに行動しちゃいけないよ。」

 

と言ったが

 

「ばいばい、まるでダメなおっさん。

 

 

略してマダオ。

 

 

......あ!おねーちゃーん!」

 

 

こどもは姉をみつけ、去っていった。

 

「......はは、まったく最近のこどもは...

 

 

アレ、おかしいな。

 

 

前が霞んでみえないや。」

 

 

 

-------------

 

......『マダオ』

 

 

いまのぼくにはお似合いの言葉だ。

 

 

 

少し前まではイースターの幹部として出世街道まっしぐらだった。もののはずみでしゅごキャラを連れ去り、ぶっ飛ばされてから、地位も仕事も、自信も失い、妙なツレを手に入れた。ツレと言えるのかわからないが、しゅごキャラなのにどこか自分と同年代の近さを感じる。

 

 

ツレは、ぼくにグラサンを取れと言う。でないと仕事の面接が受からないと。いやいや、ぼくはグラサンなんてかけてない。これはどうみてもメガネだ。......そうだよね?そうだといってほしい。

 

そう反論したら、ツレは諭すように言い出した。そしてぼくのメガネをとり、グラサンにかえた。

 

 

わかった、ぼくがかけているのはひとまずグラサンとしよう。

 

 

こうして、ぼくのメガネへのこだわりをヤツは崩した。

 

 

「二階堂さんよぉ、信念持ってまっすぐ生きるのも結構だが、一ぺん手放して曲がってみるのも手なんじゃねーの?曲がっているうちに、絶対譲れない一本の芯みてーなもんも、見えてくんじゃねーか?」

 

 

 

 

 

とうとうぼくは、グラサンを取って、無事タクシー運転手に合格した。あれ、ほんとぼくなにやってるんだろう。

 

 

 

 

 

人を運ぶ仕事をしていると、どいつもこいつもちゃんと「目的地」がある。

 

だが、ぼくは目的地《夢》を見失った。目的地《夢》へたどり着くための道に迷った。

 

 

そんなとき、ぼくのタクシーに乗り込んできたのが、ぼくと同じ目的地のないようにみえるしゅごキャラ、銀時だった。ちょっとキミ、タクシー代ちゃんと払えるのかい?

 

タイミング悪く、銀時がいる時に拾った客が、傲慢な態度の元上司だ。

 

元上司をイースター本社に運ぶ途中、タイミング悪く、産気づいた妊婦に出会ってしまった。

 

「おまえらのような下等な人間のガキが一人や二人どうなろうと、知ったことではない!本社へ向かえ!!!」

 

 

そう騒ぐ元上司を、ぼくはつい、ぶっ飛ばして、産気づいた妊婦をタクシーに乗せた。

 

 

銀時は言う。

 

「二階堂さんよぉ、アンタやっぱグラサンの方か似合ってんな。」

 

 

 

だから、ぼくがかけているのはメガネだって言ってるじゃないか。

 

 

 

-------------

 

ある日の公園で、ぼくはまたあのこどもに出会った。

 

でも今度のぼくは違う。

 

仕事をなくしてここに居る理由。

 

「自分の芯を通したからだよ」

 

胸を張って、そう言い切れる。

 

不器用なりにぼくらしく生きようと、ぼくは決めた。

 

「不器用って言葉使えばカッコつくと思ってんじゃねーよ、マダオ」

 

いまの声は舌足らずのこどもではない。となりをみると、懐かしい顔をみた。

 

 

 

「きみ、ここにいたらマダオになるぞ。

 

ほら、きみをさがしている人が呼んでる」

 

「あみー!どこにいるのー!帰るよー」

 

「あ!おねーちゃーん!まってー!」

 

こどもが去っていく。

 

「......久しぶりだね、

 

 

 

 

 

久我くん。」

 

ふらりと久我春日は二階堂をみた。

 

「おぅ。......思ってたより元気そうだな」

 

「それで、ぼくに何か用かい?」

 

すると、春日は二階堂に茶封筒を投げ渡した。あわてて、受け取ろうとした二階堂は足をひっかけ転んだ。

 

「おいおい......

 

ところで、ぼくが創ったものつくり部の顧問サンはここで何しているんだ。」

 

 

「ぼくはもう、教師じゃ......」

 

「おまえ、知ってるだろ?顧問がいないと部として認めねーってガーディアンが言うんだよ。」

 

二階堂は茶封筒の封をあけた。

 

〔聖夜学園教員採用要項〕とかかれている。

 

 

「どうするかはおまえ次第だ。

 

 

 

......銀時が世話になったな。ありがとよ」

 

片手をあげ、春日は立ち去った。

 

 



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番外編 その1
IF 黒魔女さんが通る‼


黒魔女さんが通る‼ とは

 

小学5年生のオカルト好き少女、黒鳥千代子(チョコ)のもとに、紫苑メグ、一路舞、春野百合という三人の少女が訪ね、彼女たちは美男子、三条ショウが誰のことを一番好きなのかを知るために、チョコにキューピットさんでショウの本命を教えてもらおうとした。しかし、チョコは花粉症で鼻づまりのせいで「キューピットさん、キューピットさん、南の窓からお入りください」というごく普通の呪文を「ギュービッドざん、ギュービッドざん、南の窓がらお入りぐだざい」と唱えてしまう。そして、呼び出されたのはなんと性悪でおやじギャグ好きな、黒革コートに身を包んだ色白の美人黒魔女、ギュービッドだった。

 

彼女は王立魔女学校出身のインストラクター黒魔女で、チョコは黒魔女修行をさせられるハメになってしまう。そしてチョコは黒魔女修行に励むようになった。

 

 

take1

 

五年一組のクラスメイトはかなり個性的である。その中の久我春日もまた異才を放っていた。チョコこと、黒鳥千代子は手違いで黒魔女になったが、春日もなんやかんやで黒魔女になった。

 

そんな春日のインストラクター黒魔女は銀時である。

 

「春日、人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねーことだよ。

 

 

さあ、ジャンプをもってくるんだ。話はそれからだ」

 

銀時は日々グダグタとお説教じみたことを言い、なんやかんやで黒魔女修行は脱線していた。銀時から命じられた少年ジャ⚪プを購入するためにチョコと本屋で会うのは日常になりつつある。

 

 

take2

 

五年一組のクラスメイトはかなり個性的である。その中の久我春日もまた異才を放っていた。チョコこと、黒鳥千代子も手違いで黒魔女になったが、春日もなんやかんやで黒魔女になった。

 

「あの人、ヅラだよな」

 

春日が小さな声で言った。公園のベンチで人間に紛れ込んでいたヅラが反論した。

 

「ヅラじゃない、桂だ!」

 

それから、訳のわからない「攘夷がjoy」というラップを覚えさせられ、いつのまにやら黒魔女(過激な革命派)に勧誘された。

 

春日は知らない。桂は魔法界でテロリストとして指名手配されていることを。

 

 

 

take3

 

五年一組のクラスメイトはかなり個性的である。その中の久我春日もまた異才を放っていた。チョコこと、黒鳥千代子も手違いで黒魔女になったが、春日もなんやかんやで黒魔女になった。

 

「俺は昔、スナイパーというアダ名で呼ばれていたらいいのになぁ。」

 

きょうもバズーカをぶっ飛ばし、春日の部屋の壁は木端微塵になくなった。

 

春日は沖田をサディスティック星からやってきた宇宙人ではないかと疑っている。

 

 



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IF 夢色パティシエール

夢色パティシエールとは

 

スイーツが大好きな中学生、天野いちごはなんやかんやで一流パティシエのアンリ・リュカスにスカウトされ、聖マリー学園へ編入することになる。製菓の腕に未熟ないちごは、失敗を繰り返しつつも、スイーツ精霊のバニラや仲間たちスイーツ王子と共に、一流パティシエールを目指す。

 

 

 

 

 

take1

 

聖マリー学園中等部。ここに入学してからずいぶんと時間が経過した。久我春日はというと、とあるスイーツ精霊とは出会い、それなりに切磋琢磨していた。そのおかげかAグループになり、スイーツ王子こと樫野、安藤、花房と同等にそのひとりとして数えられている。

 

そんな春日が出会ったスイーツ精霊は銀時だ。

 

「いいか、おれの名前は銀時だ。間違っても金時なんて呼ぶなよ?」

 

 

得意分野は宇治金時、つまり小豆を使ったスイーツだ。他にも専門分野ではないのにパフェやらチョコレートやらこだわりを持っている糖分王だ。

 

「いくら甘党だからって、さすがにご飯の上に小豆はのせないよ。それに毎日いちご牛乳ばかり飲むって言うのもちょっと控えた方がいいよ、久我。」

 

そう苦笑するのは実家が和菓子屋の安藤。医者から週一のパフェに制限された春日の様子をみて、慰めつつもたしなめた。

 

「何いってんだよ、安藤。

 

カルシウムさえとっときゃ、全てうまくいくんだよ」

 

いちご牛乳片手に力説されても困る。

 

糖尿病一歩手前なスイーツ王子、それが久我春日である。

 

 

 

take2

 

聖マリー学園中等部。ここに入学してからずいぶんと時間が経過した。久我春日はというと、とあるスイーツ精霊とは出会い、それなりに切磋琢磨していた。そのおかげかAグループになり、スイーツ王子こと樫野、安藤、花房と同等にそのひとりとして数えられている。

 

 

そんな春日が出会ったスイーツ精霊は神楽だ。

 

「ちゃらついたおかずに興味ないネ。たくあんヨロシ。」

 

得意分野は酢昆布ならびに駄菓子。卵かけご飯を好んで食べている。とりあえずおなかが満たされたら満足な胃拡張系チャイナ娘だ。

 

「......ぼくが樫野から徴収した大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら3/4殺しで許してやる」

 

「......おい、久我。徴収ってどういうことだ。」

 

樫野が春日の肩に手を置いたのをみた神楽はこれ幸いにと雲隠れした。樫野のお説教が始まったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

take3

 

聖マリー学園中等部。ここに入学してからずいぶんと時間が経過した。久我春日はというと、とあるスイーツ精霊とは出会い、それなりに切磋琢磨していた。そのおかげかAグループになり、スイーツ王子こと樫野、安藤、花房と同等にそのひとりとして数えられている。

 

そんな春日が出会ったスイーツ精霊はマヨ方だ。

 

「あぁ?マヨネーズ馬鹿にすんなよ、コラ」

 

得意分野はマヨネーズ。1にマヨネーズ、2にマヨネーズ、3にマヨネーズな生粋のマヨラーである。常に瞳孔が開いているスイーツ精霊だ。

 

 

 

「久我、ぼくの飴細工どうかな?」

 

春日が答えるよりも先にマヨ方はスイーツマジックを使った。

 

 

 

 

美しく食べるのがもったいない程の花房の飴細工はマヨネーズをこれでもか!とこってりかけられ、無惨な姿と化した。

 

 

「あれは、犬のエサだ......」

 

 

いちごがそう言ったのも無理はない。

 



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将来の夢はトゥース!
第十八話 テクノカットにわるいやつはいない


 

ドラ⚪エ休暇なる休みを満喫していたある日のこと。春日はあることに気づいた。

 

「.........出席日数、やべぇかも」

 

はじめのころは、担任や先日共闘したガーディアンから「おまえ、生きてる?」とかいう安否確認ならぬ生存報告がなされていたが、そのうちひとり、またひとりと減っていき、ついには確認すらされなくなった。

 

 

 

春日が数ヶ月ぶりに五年星組の教室の扉をたたくと、「だれ?」という視線を真正面から受けた。

 

(......一応、クラスメイトなんだけど)

 

泣きたいと思ったが、自業自得である。そもそも休まなければよかった話だ。

 

 

自分の記憶を頼りに、座席へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その席はすでに埋まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トゥース!」

 

 

 

人差し指を空に向け、にかりと笑ったピンクのベストがトレードマークの人物が春日に笑顔を向けていた。

 

 

--------------

 

 

ピンクのベストと整髪料で整えた七三分けならぬ八二分けの人物は、春日に気づき、胸を張りながらゆっくりと近づいた。

 

「えー、オー⚪リーと言う者でございますけれどもね。今日も老林とKASUGAで頑張って漫才やって行きたいなと思いますけどもね」

 

教壇に到着するなり、どこにいたのかしゅごキャラがあらわれ、しゃべりだした。

 

ピンクベストの人物はそれを無視して、

「皆さん、本物のか、す、が、ですよ。皆さん、夢でお逢いして以来ですね」と語りかける。

 

老林が「まぁニセモノがいたら見てみたいですね」と言ってやんわりとツッコミをいれると、KASUGAはあざ笑うような不敵な笑みを見せながら「ヘッ!」と言う。

 

 

--------------

 

 

現状をまとめるとこうだ。久我春日の悪いところを全て改善したKASUGAにみんなが洗脳されて、久我春日の17話分してきたことを全てKASUGAがしたことにしてしまった。

 

 

「銀メダルとったり、ボディービルやったり......」

 

春日が思い出すかのような口ぶりでつぶやく。

 

「いやいや、おまえ、きのうまでドラ⚪エやってたからね!?いっしょに〔ふっかつのじゅもん〕唱えたからね!?

 

 

 

というか、おまえ!

 

銀さんとの17話分の思い出 、どこのブッ⚪オフに売り払ったぁぁぁぁ!!」

 

 

そう言って、春日の頭をぐわんぐわんとゆらす。

 

「17話なんてペラッペラの思い出、どこのブッ⚪オフが買い取ってくれるんだぁぁぁぁ!!」

 

負けじと、春日も銀時をつかむ。

 

敢えてタイトルをつけるなら『将来の夢はトゥース!』といったところか。

 

 

唐突に老林が「お前と漫才なんかやってらんねーよ」と言い出した。

 

「お前それ本気で言ってるのか?」

 

「いや、本気で言ったらお前と一緒に何年も漫才やってねーだろ」

 

「「ヘヘヘヘヘッ!」」

 

互いに笑い合い、コンビ愛を見せる。お互いに頭をぐわんぐわんとゆらしたり、つかみあったりしていない。

 

 

満足したのか、老林は普通にお辞儀し、KASUGAは左手を高く挙げ「バァイ」と言って締めた。

 

 

教室中「トゥース!」、「トゥース!」と盛り上がり、なかには失神するものまでいた。すばらしきカリスマ振りである。

 

 

 

 

--------------

 

 

 

 

 

さぁ~て!来週のマダオさんは?

 

 

 

春日です。このあいだ銀髪天然パーマ野郎とおやつの取り合いで喧嘩してイラっとしたので、次の日のやつの夕食にナウ⚪カの腐海と化した白米にあずきをのっけてやりました。

まんまとあずきに騙されたやつは腐海に気づかず、泡を吹いて動かなくなりました。焦ったぼくは、自転車で1.5㎞逃亡しました。

 

さて、来週マダオさんは!

 

「春日 禁断のダークマター」

 

「マダオ 安らかにねむれ」

 

「春日の逃走中」

 

の3本です!

 

 

じゃん、けん、ぽん!

 

 

 

 

 

 



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第十九話 人は死んだら生き返らない

廊下の角を右に曲がる。幸い、この学校の校舎の地図は頭に入っている。階段をかけのぼり、一気に加速する。やつらは×たまを手にしていた。

 

 

「やむを得ん!......戦略的撤退だ!!」

 

 

そう判断し、ものつくり部の部室に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

春日は、黒いサングラスをかけた小学生の群れから逃げていた。まさにリアル逃走中である。

 

 

---------------

 

「数が多すぎる......!」

 

春日は部長とかかれた席にもたれかかる。

 

KASUGAなる人物の手によって、五年星組のみならず、学校全体が春日を捕まえようと躍起になっていた。みんなの記憶から《久我春日》は消去されていた。

 

 

「...アイツ、何者だ?何で、ぼくが忘れられているんだ?」

 

「......×キャラの暴走だな、こりゃ。それも最悪の。」

 

銀時が冷静に状況を分析していた。たしかにあの老林とかいうしゅごキャラの額にはバッテン印があった。銀時とて、春日のしゅごキャラ。持ち主の危機的状況を打破するべく、おやつの一件は保留とした。

 

 

 

自分の記憶が消去され、忘れられるというのは、なかなかつらい。春日の意識がぷつりとなくなった。最後にみたのは、銀時が焦ったように手をのばす姿だった。

 

 

よみがえる春日の記憶。それは走馬灯のように一気に頭に流れてきた。この記憶をみるのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。

 

 

 

こじゃれたカフェにいつのまにか春日はいた。自身の体は透けていて、まわりに認識されていないようだ。ピアノのBGMが流れる。店員が、食後のモンブランを運び終えたときだった。

 

 

「夕べはお楽しみでしたね。」

 

にこやかに話すのは誰だっただろう。

 

「なぁにが、お楽しみだよ。なんでピンクベストなんて着なきゃいけねーんだよ。」

 

「ほら、貴方、春日っていうじゃないですか。だったら一度くらい、いいでしょ。」

 

 

 

(あれは、昔の.........ぼく?

 

かすが?ちがう、ぼくは、はるひだ。)

 

 

 

場面がかわる。

 

 

独特の機械音で編集された音がきこえる。

 

『もう衝撃的でしたよ。一体、何があったのか。あいさつもしてたし、変わったことは見当たらないけど』

 

交差点のビルの大きな画面。電気量販店の最新型の液晶テレビ。ニュース番組のインタビューなのか、アナウンサーとコメンテーターが映った。

 

 

(.........何だっけ?

 

 

 

どうしてたっけ?

 

 

 

 

 

ぼくは、

 

 

なんで、生まれ変わったんだ?.........)

 

 

また、場面がかわる。さっきのカフェで話してた誰かだ。

 

「......どうして!」

 

涙を流し、嗚咽混じりの声を絞り出す。

 

「どうして、約束したじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いっしょにドラ⚪エやろうって!

 

 

 

.........戻ってきてよ、ねぇ!!」

 

 

------------

 

ハッと気づいたときは、肩にタオルケットがかけられていた。

 

 

「知らない天井だ。」

 

目覚めて第一声がこれである。

 

 

「あら、やっと起きたのね」

 

「おっはよー!春日っち」

 

「久我、久しぶりだな!」

 

「久我くん、大丈夫?」

 

「ひとり走り回ってバカじゃん?」

 

春日の前にガーディアンが揃っていた。様子から察するにここはロイヤルガーデンなのだろう。

 

 

「......おまえら、ぼくがわかるのか...?」

 

「あったり前って言いたいところだけど、実は忘れてた!」

 

「そこの銀時がおれたちの口にダークマターだっけ?......それを食べたらおまえのこと思いだしたってわけだ」

 

空海が皿を指差す。テーブルを見ると、黒い物体が皿に盛り付けられていた。

 

「ぼくらはガーディアン。生徒の困ったときは助ける、正義の味方さ」

 

 

「.....あたしは、スゥのことであんたに助けてもらったし、ね。」

 

ぼそぼそと「素直に心配したって言えばいいのに」「でも、あむちゃん意地っぱりだからね」「あむちゃん、照れてるですぅ」ラン、ミキ、スゥの言いたい放題に「うるさい!あんたたち」とあむが吠える。

 

ちらりと銀時を見ると頭をがしがしと右手でかいていた。

 

「ったく、心配させんじゃねーよコノヤロー」

 

 

 

 

「さて、久我くん。ここからは貴方だけじゃないわ。ガーディアンにお任せあれ」

 

 

普段は寒気のするなでしこの笑顔がきょうはなんだかちがうような気がする。頼もしくみえる。

 

「......なんかジャリジャリする」

 

「貴方の口にダークマターを入れたら目が覚めたのよ。」

 

 

前言撤回。やっぱりコイツ女狐だ。油断ならない。口の中がジャリジャリ言う。

 

 

ダークマター、恐ろしい子......!

 

 



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第二十話 人生もゲームもバグだらけ

『おぉ!春日、しんでしまうとはなにごとだ!』

 

目の前にいる白いオッサンは誰だ?

 

『なに、覚えとらんのか。一度会ったじゃろう?』

 

知らないものは知らない。

 

『まぁ、よいよい。ところでお主、帰りたいか?

 

 

 

《久我春日》になる前の世界に帰りたいか?』

 

 

春日はまっすぐ前を見て言った。

 

 

「いいえ。ぼくの帰る世界があるなら、それはぼく自身でさがしたい。」

 

『ほぅ。やはりおもしろい。なら、探せ。そこにお主が求めた《ゆめ》はあるだろう』

 

-------------

 

なつかしい夢を見た気がする。春日の精神年齢はすでにこどもの域をとうに越えている。それはしゅごキャラがいたって、変わらない。どんなにつくろっても純粋なこどもにはなれない。だから、物わかりのわるいこどものように駄々をこねるなんてマネはしない。それに未練なんかありゃしない。

 

わかっている。

 

大人になって、社会に飛び出して、やっとあこがれていた場所にたどり着いた。理想と現実はちがっていて、理不尽を強いられたり、酒の味も知った。情にかまっちゃダメだ。割り切って生きなきゃ。みんなそうやって耐えて、忍んで、生きてるのだから。それが《日常》なのだから。

 

 

だけど、《久我春日》になって、ここに生まれて。それでも必死こいて生きていた。《久我春日》として生きないと。それが求められているのだから。だから、《いいこ》になりきらないと。

 

「......忘れちゃいねェし、忘れられねェよ。

 

でも、ここは!この場所は!この世界は!

 

てめぇらバカどものいろが混ざりあった…...

 

薄汚ねェ、銀色だァァァァァ!!」

 

 

-------キャラチェンジ

 

「どうして、そう思う?変に理由をつけて学校を休んだのも、《久我春日》になったのも、おまえが逃げ出したからだろう。

 

疲れたからだろう。

 

 

そんな主人公《久我春日》なんていらない。不良品なんていらない。だったら、消す!!」

 

春日はKASUGAと対峙する。

 

 

「オメーの言う通りだ。 ここには完全無欠のヒーローなんてどこにもいねェ。みんな欠点抱えた欠陥品ばかりだ。」

 

 

クール&スパイシーだけど、ほんとは意地っぱりで素直になれないピンク頭。

 

おしとやで儚げだけど、腹のなかは黒い、計算高いポニーテール。

 

やさしい王子さまだけど、内にある野望は想像もつかない金髪アホ毛。

 

【赤ちゃん】なら、みんなに可愛がってもらえる、大きなベビー。

 

ガーディアンのお兄さんだけど、単純な体育バカ。

 

春日の頭に浮かぶのは、いま、ともに闘う彼らの姿。

 

 

「 でも、だからこそぼくたちはつながり合う。互いに欠けたものを補おうと支え合う。

 

ぼくだって一人じゃ何も出来ねェ不完全体主人公だ。 だが不完全体達は……… まぎれもねェ、完全無敵の主人公だよ。

 

そーいうこった。 気にくわねーならまた来い。いつでも相手してやるよ。

 

じゃあな。不完全体野郎。」

 

 

春日は【洞爺湖】とかかれた木刀をふりかざす。重い一撃がKASUGAの溝に入った。辺りは、まばゆい光りでいっぱいになった。

 

 

-------------

 

 

 

 

〔お気の毒ですが、冒険の書は消えてしまいました。〕

 

春日の手元にはコントローラーが握られていた。

 

「セーブデータ飛んじまったよコノヤロー」

 

「おい、春日。おれはこの前の腐海を忘れちゃいねぇよ。いちご牛乳に誓って言う!」

 

「ぼくだってダークマターを闇討ちされたんだ。いちごパフェに誓って言うね」

 

 

KASUGAが誰だって?

 

それは神のみぞ知るってものだ。

 



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六年生篇 前半戦
第二十一話 春休みあけは皆ちょっと大人に見える


春。それは、出会いと別れの季節だ。高校デビューだとか、イメチェンしようだとか、心のスイッチが切り替わる時期だ。『good-bye、昨日までの自分。』『新たな自分にこんにちは! 』そんな風にころっとかわるわけだ。浮かれまくって変人の出没がみられるのも、この季節である。

 

春日もまた、少し成長したようだ。それは、銀時の影響も少なからずある。春日と銀時が出会って、約1年の時間が過ぎた。時間というものは早い。「あれ?時間の流れおかしくね?」って思ったら、タイ⚪マシンなりどこで⚪ドアなり使って、適応してほしい。諸君ならできると信じてる。......そのうち春日の五年生(後半戦)をできたら、なんてかんがえてるが、当分、先の予定だ。上げて落としてすまない。

 

-------------

 

「......わるいが、辺里。」

 

 

 

「久我くん………」

 

 

 

 

「おまえの気持ちは受け取れない」

 

 

 

 

 

「......お願いだから、話聞いてくれるかな。」

 

春日と唯世は一通の手紙をめぐって、話していた。その手紙には、ハートのシールが貼っている。どうみてもソレっぽい。

 

「藤咲さんから預かったんだよ」

 

「......なんだ。てっきり、おまえが気でも迷ったのかと」

 

春日は唯世から手紙を受け取り、封を開けた。

 

 

 

〔久我くんへ

 

 

これをよんでいるという事はわたしはもうこの世にはいないだろう...

 

 

 

 

なんてね、かいてみただけよ。手紙の書き出しってなんだか照れくさいわね。

驚いた?貴方には驚かされてばっかりだったけど、次に会うときはきっと、貴方も驚く姿になってると思うわ!月に代わって、お仕置きよ!!

 

はじけるレモンのかおり! 藤咲 なでしこ

 

 

 

P.S. フランスに留学します。ガーディアンとあむちゃんのこと、よろしくね〕

 

 

すべてを読み終えたあと、手紙はくしゃりとしわができた。

 

「......狐に化かされた気分だ。というか、化けすぎだろ。なんだよ、月にかわって、て。なんだよ、はじけるレモンって。混ぜすぎたろ。知らないのか?【混ぜるな、危険】って。

 

だいたいなんだよ、驚く姿って!不良娘になるのか?そんなのお父さんは認めませんんんんんん!!」

 

「落ち着け、春日。あの喰えない女狐がそうくるなら、おまえも変わればいい。仰天チェンジして、テレビにでも出てやりゃいいんだよ」

 

「テレビになるのか?なら、微熱大陸がいい!」

 

話がズレてきている。口ではギャーギャー言いながらも、さみしいのかもしれない。

 

-------------

 

六年星組。これで、春日は3年連続で星組だ。三ツ星だ。教室を見渡すと、さっき会った辺里唯世、落ち込み気味な日奈森あむ、知っている面子が揃っていた。よくみると、ひとつ席があいていて、おそらく朝から話題の転校生が座るところであると検討がつく。

 

自分の座席は窓際の後ろから2番目。ちょうどいい。できれば1年間この席を死守したい。

 

しばらくすると、マダオな雰囲気を醸し出す、二階堂がやって来て、やはり転校生の紹介を始めた。名前は【真城りま】と言うらしい。ちらりと視線が合った気がした。が、お互いにすぐそらした。美少女だが、どことなく自分が気の迷いでも起こしたら、ロリコン疑惑が浮上しそうである。そんなこと起こらないだろうが。

 

だが、六年星組はこの転校生の出現によってクラスが分断されることになる。

 

きっかけはおそらく新学期はじめの日。あの日からだ。うしろの席の少年に目線で椅子をひかせる所業をやってから、ヒビが入った。そして、追い打ちをかけるようになんと転校生は新しいガーディアンQチェアとなった。加えて、辺里の「今までにいないタイプかも」なんていう気でもあるのかと匂わす発言。ついでにいうと、春日も「久我くんは?!」と、質問された。春日はこうみえて世渡り上手な人間だ。だから、去年からつづくなでしことの仮面許嫁を理由に はぐらかした。

「ぼくには藤咲がいるからね」

こんな具合いである。当人たちが聞くと寒気がしそうだ。

よって、矛先は回避された。

 

でも、不器用な人間もいるわけで。怒りのボルテージが上がった女子は日奈森あむにねらいを定めた。追いつめられたあむは、反論もできず、巻き込まれた。そして、男子と女子が分断し、日奈森あむと真城りまをそれぞれリーダーとして対立していった。

 

あい変わらず、春日は我関せずな様子である。

 

「ぼくはなにもみえていない」

 

なんて、言ってるわりにはまだ余裕がありそうだ。

 

こうして、六年星組には、二大派閥ができたのであった。



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第二十二話 言わぬが花

新学期。いつみても、ひな鳥のようにそわそわと動くこどもはかまいたくなるものだ。かわいらしく、初々しい新入生がまぶしすぎて、「目が!目がぁ!」とム⚪カのごとく目を手で覆う。

 

 

 

「六年星組、久我春日くん。いますぐ、職員室へ来なさい。」

 

 

 

 

 

新学期早々、春日は呼びだしをくらった。

 

 

-------------

 

「久我くん、これは、どういうことだい?」

 

口もとをひつかせながら、マダオこと、二階堂は春日と向かい合い、問いかけた。

 

「......どうって、みりゃわかるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

新入生勧誘してんだよ」

 

 

「じゃあ、このポスターはどういうことだいぃぃ?」

 

二階堂は歯を【い】のかたちにして、さらに問いかけた。その手にはポスターが握られていた。

 

〔月は東に 日は西に 聖夜の鐘が鳴る

 

あの町この町日が暮れて 今来たこの道 夜の底

 

悪人どもの目が光る 上下左右に前後ろ

 

次から次とあきれるほどに 浮かんで消える 毒の華

 

真っ赤な華を咲かせましょう

 

サルカニ合戦銀太郎 勧善懲悪 夢物語

 

あきらめるのはおよし

 

この世に悪がある限り 

 

あなたのそばに仕事人

 

 

 

 

 

 

きっと 恨みを晴らしてみせます〕

 

 

しばらく、春日はそのポスターをみつめた。

 

 

「......何か問題でも?」

 

「問題大有りだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!

きみは、何をしているの?!これ、部活案内だよね?恨みとか、悪人とか、物騒なワードとびでてるんだけどおおおぉぉぉ!!!」

 

「......あぁ。

 

 

 

 

こっちは、裏家業の方だった。勧誘のはこれ。」

 

そう言って、春日は1枚のポスターを二階堂に手渡した。

 

 

「待って!!いま、幻聴が聞こえたような......裏家業って......?」

 

「もちろん、あんさ」

 

「ん?ぼくの聞き間違いかな?もう一回言ってくれるかな?」

 

「もちろん、あんさ」

 

「その続きは、【つ】じゃないよね??【つ】だったら、ぼく、発狂するよ?それこそ、ム ⚪カみたく、発狂するよ?」

 

「もちろん、あんさ」

 

「言わせないよおおおおぉぉぉ!!?

...............やっぱりぼくはなにも聞いてない、聞いてない、聞いてない、聞いてない、聞いてない.........」

 

二階堂は目をつぶって、暗示のように繰り返した。落ち着いて、春日から手渡されたポスターを目でおう。

 

 

 

〔一掛け二掛け三掛けて

 

 仕掛けて殺して日が暮れて

 

聖夜の門をくぐり 遥か向こうを眺むれば

 

この世はつらい事ばかりだねぇ

 

片手に線香 花を持ち 

 

ちょいちょい 坊や 何処行くの

 

私は必殺仕事人・久我春日と申します〕

 

 

 

 

「アウトおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

 

その日、二階堂の絶叫が学校中に響き渡った。

 

 



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第二十三話 男は心に固ゆで卵

六年星組の教室は、ギシギシと、ぎこちなくどことなく居心地がわるい。それの理由はただひとつ。男子と女子の勢力争いだ。

 

だから、春日は、休み時間は教室にいない。どこにいるかというと、部室だった。

 

黙々とガン⚪ラに熱中している。カラーコーティングにこだわりを抱いているようだ。

 

「.....................」

 

集中しすぎて、もはや声も発することはない。

 

そのオーラは、わざわざ教室から派遣される生徒にさえ隙を与えない。ちなみに今日の派遣生徒は日奈森あむだ。

 

「......久我くん?授業はじまるよ」

 

恐る恐るあむは、春日に声をかける。ガーディアンを通じて春日と面識があるとはいえ、春日とあむは、まだ知人の域だ。廊下ですれちがって、あいさつする程度、そもそもあまり会話したことがなかった。

 

そして、あむが春日を遠い人と感じる理由は《狂乱の貴公子》というウワサが原因だった。たとえば、学校のグラウンドにガン⚪ムの地上絵をかいたとか、鬼の教師を前にして「道徳の教科書」だといい放ったとか、理事長と親密な関係だとか、逆鱗にふれたら闇討ちされるだとか、.........いいあげたら山ほどありそうだ。まさに《狂乱》。狂っている。容姿が整っているのにこのザマであるから、それを皮肉ってだれかが《狂乱の貴公子》と呼び出したらしい。いまでは、ものつくり部の部長の肩書きで理事長やガーディアンを相手取り、聖夜学園の裏番長としての存在感もある。

 

「......なんで、あたしがこんなことを」

 

「あむちゃん、じゃんけん弱いからね!ドンマイ!」

 

「あむちゃん、久我くんにヒビってないではやく!!」

 

「あきらめたら試合終了ですよぉ~」

 

 

あむのしゅごキャラ、ラン、ミキ、スゥが励ますが、春日がいる部室は入室する時点で覚悟が必要だ。この前は、目の前から槍が飛んできた。日に日にからくりが悪化していると感じるのはあむだけじゃない。

 

 

--------------

 

「いつもわるいね、日奈森」

 

「そう思うなら、あの罠をどうにかして......」

 

 

ふたりが話しながら、教室へ向かう。

 

あむが教室の扉を手にかけようとしたとき、中から声が聞こえた。

 

「やっぱ、りまさまだよな!」

 

「だな!日奈森も前はクールでかっこよかったのに最近女子と群れだしてらなんからしくなくなったよなー」

 

思わずあむは扉から手を離した。その様子に気づいた春日が声をかける。

 

「......日奈森?」

 

春日があむの横顔をうかがおうとしたとき、あむは突然、駆け出して去ってしまった。

 

でも、春日はあむの横顔をみた。

 

 

「......あいつ、泣いてた」

 

 

ぼそりと春日はつぶやき、先程のあむと同じように教室へ近づく。すると、あむが聞いてしまったことを春日はすぐに悟った。

 

===ガーディアンとあむちゃんのことよろしくね====

 

「......あの女狐のいうこときくのは癪だが、泣いてたよな」

 

コクりと銀時と目をあわせた。

 

---------キャラチェンジ!

 

 

--ガラン!

 

それを合図に勢いよく扉を開けた。

 

 

 

 

「箱根八里は馬でも越すが、爺を訪ねて三千里は泣かせてくれるなァ

 

てめーらもこの世の峠は越えらんねーだろ?

 

西が曇れば涙雨 東が曇れば恨み雨

 

どうせこの世は生き地獄だ

 

替わって はらそうぜ女の涙をよ。 

 

 

 

 

 

っつーことで、てめーら歯ァ、くいしばれ!!」

 



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第二十四話 タイトルだけじゃ映画の面白さはわかんない

ここ数日、聖夜学園で日常となりつつある光景がある。

 

「久我さん!!おはようございますっ!」

 

「荷物持ちますっ!」

 

 

春日に舎弟ができた。

 

 

ことの次第は、春日に一括された少年たちが、春日にあこがれ、舎弟というかたちで落ち着いた。彼らはカルガモの親子のように引っ付くような真似はしないので、春日は現状を受け入れている。

 

春日が廊下を歩くと、モーセのごとく人波がわかれ、大奥のように皆、頭を下げる。

 

「......ったく、実写化されたとたん態度がかわるなぁ、オイ。おれたちは何回各方面に頭さげたんだとおもってんだ。」

 

「しらねーよ」

 

 

「この掌返された感じはなんだよ。そんなに小栗しゅんのすけがいいのかよ。みんなの銀さんはどこにいったんだ、オイ。

 

 

 

 

な?はーるひ」

 

 

「首傾けて『まーきの』みたいにいっても、マダオに心ときめかねーよ!おまえちゃっかり実写版にあやかってるじゃねーか!!」

 

 

「硬いこと言うなよ、ほら、昨日の敵はきょうの友っていうだろ?はーるひ」

 

「意味わかんねーよ!そのいい方腹立つからヤメロ」

 

 

--------------

 

どうしてこうなったのだろう。

 

「......おかしい、なんで、うちのクラス、こんなにキツいんだろう......」

 

「あむちゃん!ファイト~!!」

 

きょうは球技大会。月組と星組にわかれ、日奈森あむは奮闘していた。ランとキャラチェンジしていてそれなりに運動神経がよくなっているはずなのにきつく感じる。

 

「ってソコーーー!!!」

 

あむが周囲を見渡すと、ビーチチェアに座りビッグサングラスをかけ、優雅にくつろぐ真城りまがいた。彼女の傍にはめしつかいが配置されている。

 

「.........うるさい。ビッグサングラスはセレブの間で話しかけない合図なの。知らないの?」

 

 

「それより!真城さんもいっしょにやろ!ほら!」

 

 

 

あむに手を引かれ、りまはボールを高くあげた。

 

 

 

 

 

 

----スカッ

 

 

二回目。もう一度高くあげた。

 

 

 

 

----スカッ

 

 

「......もしかして、真城さん運動オンチ?」

 

「......」

 

 

「で、久我くんはそこでなにしてんの?」

 

あむが口もとをひくつかせながら、春日にたずねた。

 

 

「あ?きまってるじゃねーか。

 

 

 

グラブってんだよ」

 

 

 

「さっきからこの調子だ、諦めなピンク頭。

 

な?はーるひ。」

 

 

 

「はーるひじゃない、グラブる春日だ。」

 

 

「バカじゃん!?意味わかんないし!グラブるって何?なんで、銀時は首かたむけてんの!?」

 

 

「何ってお前。おれは小栗銀さん。こいつはグラブる春日。なら、残ってんのは何だ?」

 

 

「千年に一度の神楽だろ!やるんだ、日奈森。いいか、おまえはアルアル言ってるヒロイン、いや、ゲロインだ!!」

 

 

銀時と春日があむに言ったそのとき、草むらから何かが飛び出した。

 

 

「.........ヒロイン...?

 

 

もしや、フラグなのですーーー!」

 

 

「「「は?」」」

 

あむと春日と銀時の声が重なった。

 

目の前にいる金の輪っかはドラゴン⚪ールでみたことある。だが、どうみてもしゅごキャラだ。

 

このとき春日と銀時の行動はシンクロした。

 

「「......あぁ!おれだよ、おれ。そうそう。あー!今からいくわー。

 

ってことでサヨーナラ」」

 

 

 

 

「ウエーイト!このラブハンター、エルにサヨナラはフラグ回避を意味するのですーー!」

 

 

「......ていうか、久我くん。どこに向かって手ふってんの?真城さんめっちゃそわそわしてんじゃん!すっごい挙動不審にアンタ思いだそうとしてるけど、心当たりなくて気まずそうな顔してんじゃん!」

 

呆れた表情であむはつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十五話 フラグを踏んだらサヨウナラ

実は真城りまと久我春日が直接対面するのは今がはじめてではない。球技大会より以前にふたりは会っていた。それは決していい意味ではなくわるい意味で、互いの印象を受けた。

 

 

事件は、放課後の六年星組で起こった。あむが春日のもとに派遣されたが、結局放課後になるまであむのものつくり部の部室攻略は続き、やっとこさ春日を連れ出したとおもったら、放課後だったというわけである。教室に着いたとき、あむの様子がおかしいと思ったとたん、春日をおいて駆け出してし去ってしまった。

 

 

教室の様子とあむの泣きそうな顔をみて春日はすべてをさとり、勢いよく扉をあけた。

 

 

「てめーら、歯ァくいしばれ!!」

 

 

 

そうして始まった春日の猛攻。それは、学園生徒のなかで噂される【闇討ち】であった。曰く、目があったら地獄の底まで追いかけられる。曰く、嬉々とした表情で相手を痛め付ける。そして、ターゲットとされた相手に逃げ場はない。

 

そんな状況のなかでひとりの目撃者があらわれた。

 

 

 

 

真城りまである。

 

 

 

彼女は教室の様子をみて凍りついた。思わず自身のくちもとに手をあてる。

 

「おいおい、もっと啼けよ。それぐらいじゃ足りねーだろ?何ビビってんだ?大丈夫だ!ちょっと新しい扉を開けるだけだ」

 

なぜなら、春日が少年たちに向かって鬼畜ぶりを発揮していたからである。一言でいうなら、それは、ドSだ。春日の背後に悪魔の尻尾がみえる。健全な少年少女がみる光景ではない。自主規制させていただく。

 

 

最後のひとりが気絶したところで春日はひとりごちた。

 

「......あ~あ。もう少しでこいつの心へし折れると思ったのに。ちょうきょ......加減って難しいなぁ」

 

「調教っていいかけてるうぅぅぅ!!こいつまじのSか?こんなとこ誰かにみら、れ......」

 

「?......どうした、ぎんと、き......」

 

春日が振り向いたときその場の空気が凍った。春日と銀時は扉にたたずむ少女、真城りまを凝視した。

 

 

「「「............」」」

 

 

なぞの緊張感がおそう。

 

 

 

(おいいいいいい!!みられてんぞ!おもいっきしみられてんぞ!!)

 

(落ち着け、銀時。まだヤツはなにもいっていない。ここはぼくにまかせろ。)

 

 

 

 

「......やぁ、お嬢さん。いい天気だねぇ。ここはぼくと新たな扉を開けてみないかい?」

 

(おいいいいいい!!それ、Sの扉だよな?!何いってんだぁぁぁ!!ほらみろ、アイツドン引きしてんぞ!!!)

 

 

(そんなことはない。次こそ大丈夫だ。まかせろ。)

 

無表情をつとめながら、死んだ魚のような目をした春日がりまに向き合った。

 

 

「......ふむ。ちなみにお嬢さん。どこからみていた?」

 

 

 

 

 

「......貴方が恍惚とした顔で『もっと啼け』って言ってるところから......」

 

 

「「アウトオオオオオ!!!!」」

 

 

-------------

 

だから今、春日が自分に向かって手を振っても他人の振りをするのは仕方がないとりまは考える。気まずそうな顔をしているのは春日の鬼畜ぶりを思い出したからである。

 

 

(他人のふり、他人のふり、他人のふり.........)

 



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第二十六話 想像力は中2で培われる

今現在、春日と銀時、あむの前には天使の輪っかをのせたしゅごキャラがいた。

 

 

「あれれーおっかしいなぁ。前に進まないぞ。原稿ストックがなくなってネタがつきた漫画家のペンみたく進まないぞー。」

 

 

「ウエーイト!このエルの目は誤魔化せません!

 

ズバリ!

 

日奈森あむと、この死んだ魚のような目をした少年はいま、まさに!

 

フラグがたっています!!」

 

ビシッとあむと春日に指をさしたエルは自信満々に宣言した。

 

 

((やべええええ!!こいつ電波だ!!!))

 

 

またしても、銀時と春日がシンクロした。

 

あわててあむはエルに弁明した。

 

 

「エル!変なこと言わないでよ。あたしと久我くんはそんなんじゃなくって.....」

 

 

 

 

(そうそう。頼むから余計なこと言うなよ、日奈森。こいつは電波なんだから。)

 

 

春日は気持ちを落ち着かせながらあむの言葉の続きを待った。

 

 

 

 

「えっと、...そう!久我くんはなでしこの許嫁だし!」

 

 

(日奈森ィィ!なんで、いま、それをここで言う!?)

 

 

(あぁ、そんな設定もあったなぁ。なつかしいなぁ、オイ。はーるひ。)

 

 

(おまえはだまってろ!小栗銀時ィィ!)

 

 

「なんですと!恋の三角関係!!

 

 

親友とその許嫁に想いを寄せるヒロイン。親友を裏切りたくないけど、彼を想う心は日に日に増すばかり。ふたりの女に気持ちが揺れ動く男。......

 

なんて王道な展開!!なんて、おいしい展開!!バリ3のフラグがたちまくりですーー!!」

 

 

「グハァっ!............」

 

 

「く、久我くん!?急に血を吐いてどうしたの!!?」

 

 

(これだから電波はこえーんだよ。おれはズラかるぜ、春日。

 

 

安心しろ。おまえの尊い犠牲は忘れるが、骨は拾ってやる。)

 

 

あむのしゅごキャラ、ミキがエルの手を引っ張った。クールなミキは自分のことをボクというが、女の子である。そして、この場にいるなかで一番冷静だった。

 

「ちょっと、エル......!」

 

「...ハッ!......そうです!エルは歌唄ちゃんのしゅごキャラ!おこちゃまガーディアンと馴れ合うなど、言語道断ですっ!

 

エルが日奈森あむのしゅごたまと入れかわったとか、日奈森あむとキャラなりしてるとか、日奈森あむのしゅごたまに×がついたとか、バレたら駄目です!

 

誰にも言っちゃいけません!!フラグがバリ3になってしまいます!!!」

 

 

(こいつ、全部言っちまったよぉぉぉ!!自爆しちまいやがったァァァァァ!!!)

 

 

「久我くんがまた咳き込んだ!

 

はやく、運ばないと!エル!誰か、よんできて!」

 

 

「了解ですっ!

 

 

救急車ァァァァァ!!」

 

 

「そんな原始的な呼び方でくるわけないでしょぉぉぉ!!」

 

 

さすがのミキもクールになれなかった。電波の影響力は計り知れない。

 

事態が混沌とはじめたとき、あむの視界に黒いたまごが飛び込んだ。

 

「あれは×たま!こんなときに....!

 

ミキ、エル!久我くんをお願い!

 

....ラン、キャラなり!」

 

「おっけー、あむちゃん!いっくよー」

 

 

 

-----キャラなり アミュレットハート

 

 

 

 

チアリーダーのような格好をしたあむは×たまを追いかけた。校舎の中に進み、一階、二階。階段を上っていく。そして、屋上に着いたとき、

 

 

「よし!みつけた......!?」

 

あむは×たまを追いかけるのに夢中になり、自分がどこにいるのかわかっていなかった。

 

 

 

あむはどこにいるのか。

 

 

 

その答えは、球技大会、真っ只中の全校生徒の前である。

 

 

「なるほど。チアリーダーにカモフラージュして×たま狩りとは、お見事です」

 

 

ガーディアンの新Jチェア、三条海里。彼はいま、月組の応援団長を務めている。

 

 

「ぼくたちも加勢するんだ!

 

 

星組応援団!集まって応援しよう!」

 

そして、同じくガーディアンのKチェア、辺里唯世も、星組の応援団長を務めている。

 

 

「了解です!キング。

 

月組応援団も集合してください!」

 

 

拍手喝采。全校生徒の前で×たま狩りをするハプニングがあったが、応援団の機転でむしろ場を盛り上げ、無事、×たまは浄化された。

 

 

 

 

 

そして、救護テントのなかでは......

 

「春ちゃん、ゆっくりしてください~」

 

「春ちゃんじゃない、グラブる春日だ。」

 

ベッドに横たわる春日を看病するスゥの姿があった。

 

 

「......なんかスゥって、二階堂先生といい、久我くんといい、扱いなれてるね。ボク、不思議だよ」

 

 

「二人とも、マダオだからですぅ」

 

 

 



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第二十七話 ジジィになってもあだ名で呼び合える友達を作れ

日奈森あむは聖夜学園小のガーディアン、ジョーカーだ。ガーディアンのなかでキャラなりと×たまの浄化ができ、しゅごたまを3つ持つという、ビッグダディならぬビッグマミーなキャラ持ちである。

 

六年生の春、あむのもとに新たなしゅごたまがうまれた。正確にいうと、まだ誕生していないが、黄色のダイヤ模様のしゅごたまがあった。あむにとって、春は新しく環境が変わるため不安な季節だったが、楽しいことが起こりそうな予感がした。

 

ところが、そんなあむの期待は裏切られた。親友のなでしこの突然の留学。空海が卒業したばかりなのに直接お別れを告げられることなく、なでしこからの手紙でそのことを知った。

 

それでもあむは新しいクラスに馴染もうと気持ちを奮い起たせた。自分のクラス、六年星組は、あこがれの辺里唯世、何気に四年から同じクラスだった久我春日がいた。それに四年のときにできた友達もいっしょだった。

 

担任の先生は二階堂で複雑な気分だったが、スゥがなついているようなのでとやかくは言わない。その二階堂に連れてこられたのは転校生だった。名前は真城りま。ちっちゃくてふわふわしていて、正真正銘の美少女だった。

 

自分の隣の席に座ったりまをみて、あむは早速声をかけた。

 

「あたし、日奈森あむ。よろしくね。もしよかったら学校案内とか......」

 

あむのファーストコンタクトに対するりまの返しは冷たかった。あむのライフは半分削られた。それからどういうわけか、六年星組は男子と女子が対立し、久我春日は保健室登校ならぬ部室登校するようになった。そのお迎えに毎回自分を指名する二階堂に一度じゃんけんで決めるように提案したが、見事に負けた。

 

それから数日後の放課後、ロイヤルガーデンに行くと、新しく入ったJチェア、三条海里そのしゅごキャラ、ムサシとQチェア、真城りまそのしゅごキャラ、クスクスの自己紹介がおこなわれた。

 

三条海里曰く、自分はジョーカー失格だとのこと。×たまの出現とその浄化が間に合っておらず、心が空っぽのこどもたちが増えている。その場のご指摘をいただいた。そこで、Jの×たま狩り改善案に基づき、ジョーカーとそのサポート役で×たまを浄化することになった。

 

そして、真城りまと共に×たま狩りをすることになったのだが.........

 

この美少女、真城りまはなかなかの強烈なキャラだった。

 

りまを引っ張って、走ったら、りまは呼吸を乱している。走ることは苦手なようだ。空海との×たま狩りのようなクセで柄にもなく熱血に走ってしまった。

 

ミキがりまに嫌味を言ったが、りまはどこふくかぜというようにさらりと【めしつかい】を召喚しようとした。あわててりまの携帯をとりあげると、泣き出してしまった。あむがりまの涙をみてアワアワしていると

 

「単純。ウソ泣きもわかんないの?女の子なら涙腺のコントロールくらいできて当然だと思うけど」

 

なんて言われてしまう始末である。ショックを受けているあむとそのしゅごキャラたちのなかでいち早く正気に戻ったあむが尋ねた。

 

 

「真城さんのキャラチェンジってどんなの?」

 

「キャラチェンジなんかどうでもいい。

...クスクス」

 

 

 

-------キャラなり クラウンドロップ

 

 

 

「みせてあげる......!!」

 

 

りまの視線には×たまがいた。

 

 

-------ジャグリングパーティー

 

 

りまの攻撃によって、×たまは浄化ではなく、破壊されてしまった。

 

「動くこともできないなんて、バカみたい。

 

 

ジョーカーなんかやめちゃえば?」

 

あむはりまになにも言い返すことができず、その場に座り込んでしまった。

 

 

あむのライフはゼロである。

 

 

--------------

 

どのくらいの間地面に座り込んでいたのだろう。マイナス思考に陥ってしまい、新しい4つ目のしゅごたまに×がついてしまった。自分はジョーカーで、×たま狩りをするのに、ますます失格に思える。

 

思えば、この間から良いことがない。新しいガーディアンには馴染めないし、友達だってあまりできなかった。楽しみにしていた分、余計に落ち込んだ。

 

夕焼けがさしかかる。正面から人影がみえた。顔をあげると、久我春日がいた。肩に鞄をかけている様子から下校途中のようだ。

 

 

「立って歩け。

 

前に進め。

 

あんたには立派な足がついているじゃないか」

 

すれ違うとき、春日は一度あむの顔をみて言った。そのまま何事もなかったかのようにスタスタと歩いて去っていく。その春日の言葉はたしかにあむの耳に届いた。あむの心にじんと響いた。気づくとあむの頬に一筋の涙が流れていた。

 

 

 

「どこの錬金術師だ、オイ!!春日、それ実写に便乗してんじゃねーか!それならこの銀の玉もお得意の錬金術で10倍にしてくださいッ!」

 

 

「それ、パチンコ玉だろ、銀時。いい歳したしゅごキャラが土下座するなよ。みっともない」

 

あむの背後の数メートル先では、春日と銀時が言い合いをしているようだ。教室にいる無表情の春日とは信じられないくらい銀時とギャーギャー騒いでいる。

 

春日の噂にびくびくしていた自分がおかしく思う。銀時と春日をみて、あむは思った。

 

「......いつか、あたしもあんな風に真城さんと話せたらいいな......」

 

あんなに冷たい態度をとられたが、あむはりまを放っておけなかった。理由は、はっきりと言葉に表せない。だけど、りまはどこか自分と似ているような気がした。かわいくない性格。意地っ張りなところ。

 

まずは明日おはようから始めようか。

 

りまとあむの距離が近づくまでもう少し。

 



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第二十八話 ベギラマな夏

ミーンミンミンミーン......

 

蝉の鳴き声が頭に響きわたる。世間はもう夏休みだ。夏休みが始まる前に宿題を全て終わらす者もいれば、最後の最後まで手をつけずに最終日に家族の手を借りて泣きながら終わらす者もいる。夏休みのよくある光景だ。そして、ガーディアンは夏休みだと言ってもお構い無しに集合することになった。場所はいつものロイヤルガーデンだ。×たまに夏休みなんてない。やれやれ、休日出勤ご苦労様です。

 

そんなガーディアンのひとり、ジョーカーは......

 

「ムリっ!絶対ムリっ!!

 

自分のたまごに×がついたなんて......! 言えるわけないじゃん!」

 

ジョーカー故なのか。本人の責任感からなのか。頑なに意地を張っていた。すると、なだめるようにミキが言った。

 

「でも、ガーディアンのみんなにはちゃんと話さないとね」

 

-------------

 

 

「すでにデータは手もとにあります。俺の分析によりますと、ムダが多すぎることが判明しました。合理化が必要です。つまり、もっと機能的かつ効率的にですね、......(以下略)」

 

全員の姿がみえるなり、開口一番にJチェア、三条海里が口を開いた。

 

が、話を聞かない奴らがいた。

 

「日本茶キライ。ココア飲みたい。お煎餅もイヤ」

 

りまは唯世が用意した日本茶とお煎餅を拒否。その反応に唯世は「ごめんね...ぼく、日本茶くらいしかたてられなくて...」ショックを受け、隅っこで落ちこんでいる。

 

「ばっか、おまえ何言ってんだ。ココアだなんだ甘えてんじゃねぇよ。

 

ここはいちご牛乳一択だろ。

 

ファイナルアンサー?」

 

「おぅ、ファイナルアンサーだ、春日。ついでにケーキも用意しろ、新八」

 

「し、新八...?俺は、三条海里だ。」

 

「カイリだろーがハイジだろーが、関係ねーよ。てめーはメガネかけてんだ。安心しろ。今日からメガネ掛け機だ。自信を持て。」

 

口では不満を言いつつもちゃっかり春日と銀時に足で使われている海里。まるで普段から慣れているようにその手際はほれぼれするくらい無駄がない。

 

「はいっ!りまたん、ココアだよ」

 

結城やや は りまのめしつかいとなっていた。

 

お茶会のメニューがそろったところでやっと本題に入る。

 

「あり?なんでぼくここにいるんだ?」

クッチャクッチャ

 

「貴方が部長を務めているものつくり部に問題があるからです」

 

「.........」

クッチャクッチャ

 

「無許可の部室改造。それによる被害報告。」

 

「.........」

クッチャクッチャクッチャ

 

「他にも無断欠席や、いろいろ疑惑が--って、話きいてますか!?」

 

「わりぃ。それは日奈森につけといて。それと黙秘権行使しまーす」

クッチャクッチャクッチャクッチャ

 

「はぁ?!なんであたしが!!ていうか、真面目な話してるときにクチャクチャ音たてるなァァァァァ!!」

 

 

-------------

 

 

「そうだ!久我くんも日奈森さんのサポートをするのはどうかな」

 

立ち直った唯世がそう提案した。

 

「サポート?ほんじゃ遠慮なく手取り足取り腰とグフォォォ!!」

 

「ヤメロ、この腐れ天パ。ギャグでも言っていいことと悪いことがある」

 

ピクッとりまの耳が反応した。

「ギャグ...?」

 

「どうしたの?りまたん」

 

「...な、なんでもない!」

 

唯世と向き直った春日が問いかける。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「実は×たま狩りのペースが追いついてなくてね...そこで、交代でジョーカーのサポートをすることになったんだ。」

 

「なるほど。たしかにキングの言う通りそれはいいですね。データによると、過去に貴方は我々ガーディアンに協力して、なおかつキャラ持ちでもありますし。」

 

「......なんでそんな面倒なこと。」

 

春日が文句を言う前に、ややが春日の眼前に春日の問題行動が書かれた書類をつきだす。自分はどうやら不良少年、問題児のように扱われているらしい。精神年齢がいい歳しているだけに情けなく思う。ちらりとりまを窺うと、勢いよく視線を外された。なんだか心が痛い。

 

(SはSでも、打たれ弱いSなんだぞ......)

 

心中で逆ギレする。あむをみると、不安気な顔をしつつも、そわそわとしている。待てと命令される子犬のようだ。

 

====ガーディアンとあむちゃんのことよろしくね====

 

追い討ちをかけるようになでしこの声が春日を捕らえる。逃げ場はない。

 

「ったく、しゃあねぇなぁ。...ほら、行くぞ銀時。......日奈森も。何ボサっとしてやがる」

 

春日は自分の頭をぐしゃぐしゃとかきあげ、ロイヤルガーデンの出口へ向かう。銀時はニヤリと口角を上げついていく。

 

「...え?...あ、ま、待ってよ」

 

あむも一瞬遅れて、春日のあとを追いかけた。

 



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第二十九話 ミルクは人肌の温度で

人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。 何かを得るためには、それと同等の代価が必要になる。それが、錬金術における等価交換の原則だ。

 

 

その頃ぼくらは、それが世界の真実だと信じていた。

 

 

 

痛みを伴わない教訓には意義がない。

 

「こんな......

 

 

 

こんなはずじゃ............

 

 

 

 

畜生ォ持っていかれた...............!!

 

 

おれの全財産んんんん!!」

 

 

人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできないのだから。

 

 

 

 

「だからやめておけといったのに。バカだなぁ銀時。」

 

お気づきかもしれないが、今回のオープニングはどこかで聞いたことのあるナレーションだ。某錬金術漫画を思い出す。ご安心を。銀魂から某錬金術漫画にシフトチェンジではなく、銀魂的お約束、パロディーです。銀魂のことがきらいでも錬金術はきらいにならないでくださいィィィィ!

 

それはさておき、春日と銀時はふたり仲良くパチンコ台の椅子に座っていた。銀時が文字通りすっからかんになるのはそれほど時間がかからなかった。

 

「なんでだ?等価交換の原則はどうしたんだオイ!プラマイゼロどころか、マイナスじゃねーかよォォォォ!!」

 

「さすがだな、銀時。等価交換の法則なんざカンタンにひっくり返しやがる。」

 

 

対する春日は得意気な顔で銀時をみた。春日の画面はフィーバー、つまり、当たりがきていた。そもそもギャンブルに等価交換も何もないが。

 

「パチンコで稼いでしばらく部費にまわすか。お!きたきたきたぁぁぁ!」

 

数日前、ガーディアンに夏休みだというのに呼び出され、×たま狩りを手伝わされた。三条海里から無駄が多すぎるとのことで部費を削られた。ものつくり部は意外とお金がかかる。設備の維持管理。新たなるトラップの設置。ロボット開発。とにかくお金がいる。普通の部活動なら部費は足りるはずたが、無駄遣いが多いせいか、ちゃらんぽらんなせいか、明日の活動もままならなくなっていた。

 

正直に言おう。こんな小学生みたくない。普通の小学生ならこんな手段を考えつかない。だが、春日は中身が大人なマダオ希望の小学生だ。そして、銀時もマダオ。ふたりがそろえば自然とパチンコ店へ足が向かう。

 

「『ありえない』なんて事はありえない。逆転の発想だよな。あの頭が固いガーディアンなんざ見返してやる」

 

 

--------------

 

一方、そのガーディアンは、Aチェア、結城ややの自宅にてミーティングをしていた。ややの弟、つばさの面倒をみながら、×たまについて意見交換をしていた。

 

結城ややは甘えん坊な赤ちゃんキャラ。アルバムがつばさが生まれて薄っぺらくなったことに不満を持っていた。甘えん坊なややが、【お姉ちゃん】になる。

 

不満を抱きつつも、つばさのお世話を頑張るややをみて、あむは少し自分と重ねてみていた。【お姉ちゃん】という言葉はくすぐったい。照れくさくなる。両親に頼られて、【お姉ちゃん】と呼ばれる。妹が初めてしゃべった言葉が【お姉ちゃん】だったことを思い出していた。

 

突如、つばさの容態が急変し、病院へ向かう。つばさの治療の間、重々しくあむが口を開いた。自分の4つ目のしゅごたまに×がついたこと。それはいまほしな歌唄の手もとにあること。代わりに歌唄のしゅごキャラ、エルがやって来たこと。

 

あむが語り終えたとき、ガーディアンのみんなはあむを励まし、一緒にあむの×たまを探すことを約束した。

 

 

-------------

 

「......やっぱ、パチンコだけじゃ、無理があるよな」

 

春日の手には1枚のプリントが握られていた。

 

【全国小学生ロボットコンテスト

 

優勝 金一封

 

主催(株)イースター社】

 

 



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第三十話 夏休みあけも皆けっこう大人に見える

昨今のテレビ業界は氷河期と言ってもいいくらい苦戦を強いられている。昔は休日や平日問わずの夜のゴールデンタイムは誰もがテレビにかじりついていた。パソコン、ネットの普及によってじわじわと人気を奪われている。そこで、テレビ局は視聴者を取り戻すべく、特別番組を企画した。

 

 

 

その名は【エンタの仏様】である。

 

 

かつて視聴者を虜にした伝説的バラエティー番組だ。その人気は番組終了後も衰えず、たびたびスペシャル番組として復活している。旬の若手芸人から中堅、はたまたベテランまで豪華メンツだ。

 

 

「やっぱ、ドリフだよ、ドリフ。ピカ⚪の定理だの、はねるのトビ⚪だの、新時代の笑いって言っても結局は原点に戻るんだよ。古くさかろーが、観てて安心するから笑えるんだよ。おれは懐古主義だからな。

 

あ、この芸人最近見ないとおもったら、まだ消えてなかったんだな」

 

「だが、銀時よ。最近はご長寿番組の【笑角】でさえ、若者を意識して新しい風をふかせようとしている。それだけテレビ業界は苦しいってワケだ。

 

あ、この芸人、話題のグレーがかった白い人いじってる。」

 

「あっ!てめぇ、それはおれのいちごプリンだ、返せ!期間限定品なんだ!いますぐリバースしろ!」

 

「ふ!わるいが、一度口に入れたものは出さない主義でな。返品不可だ!」

 

 

春日と銀時はまんまとテレビ業界の戦略に引っかかり、テレビにかじりついていた。

 

--------------

 

 

夏休みがあけ、登校がはじまった。

 

 

「バラバラーンス!」

 

教室の教壇の前で、いま流行りのネタを真似する小学生はどこにでもいるだろう。聖夜学園も其に当てはまる。

 

「あはは、おまえそれ、ポーズ逆だろー?」

 

「ははっ!なにやってんのー!」

 

にぎやかな子どもたちの笑いで教室の空気は包まれていた。なごやかな雰囲気になっていた。

 

 

 

.........ただ、ひとりをのぞいて。

 

 

「はははっ!りま。あれ、りまが昨日やってた......」

 

あむが笑いながら、りまに話しかけると

 

「何あれ、全然ちがう。あんなのギャグじゃない」

 

ワナワナと手をふるわせるりまがそこにいた。

りまの様子に異変を感じたあむが止めようとするが、

 

 

「りま、せーの!」

 

りまのしゅごキャラのクスクスがりまに合図をする。ポンっと音をたて、りまの頬にピエロのようにメイクが浮かびあがる。

 

 

 

--------キャラチェンジ!

 

 

 

「バラバラーンス!!」

 

 

クールな女王さま系美少女の皮が剥がれ、ゆるみにゆるみまくった表情をしたりまがクスクスと共に流行りの一発芸をキメていた。

 

 

 



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第三十一話 女の一番の化粧は笑顔

「バラバラーンス!!」

 

とん、とん、とん、ちーん。。りまが流行りの一発ギャグを披露すると、教室が静まり返った。だが、しばらくすると、笑いがあちらこちらで続出した。

 

「はは、意外すぎる!笑」

 

「キャラ全然ちがうし!ふふっ笑」

 

 

その一方で。りま親衛隊は

 

「うそだ。おれたちのりまさまが......」

 

「明日からどうすればいいんだ.........」

 

りまのギャップにショックを受ける。だが、そんな彼らを神は見捨てなかった。大きな声が教室に届いた。それは、希望の光。

 

 

 

 

「もう大丈夫!何故って? 私が来た!! 」

 

 

「オールマイトォォォォォォ!!

 

 

 

 

 

 

............ん?アレ、この声ってもしかして......」

 

 

声の持ち主は鞄からスケッチブックを取りだし、見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オープニングからスタンバってました】

 

 

 

 

教室の入り口にこじんまりとよせていた春日がいた。相変わらずの無表情だ。

 

「狂乱の貴公子!?」

 

 

「きょうは部室に立てこもらないだ!?」

 

 

ほぼこの場にいる全員が驚きの顔をしている。その理由と上記の発言は噂で春日が部室に立てこもっていると流れていたからだ。失礼すぎる。彼らの春日のイメージはどうなっているんだ。それはさておき、春日が教室に入ろうとすると、すでにカオスな状態だった。静まる教室。キャッキャッとハイタッチするりまとクスクス。カオスだった。そんな様子を春日はとうとうバレたのか、と他人事のように思っていた。

 

りまが教室から出ていき、あむもその後を追った。春日は先日のことを思い出していた。

 

 

ぽわんぽわんぽわん【回想】

 

教室の本棚が汚いという委員長の指摘により、クラスに1人整頓係を決めることになった。

 

くじ引きの結果、りまがその係になった。でも、りまは家庭の事情で放課後に残ることは難しい。手伝おうとした、めしつかいも各々用事があり手伝えず、女子とは仲がよろしくないため頼めない。困った顔をしたりまを日奈森あむはそんなりまをそっとみていた。

 

「りーま!みて、へんなかおー」

 

クスクスが自分の頬を引っ張り、りまにみせた。ひとりで本の作業をしていたりまはそれをみて笑った。様子をみかねたあむが本棚の整頓を手伝い、作業は終わったかに思えた。

 

 

 

りまが【ギャグマンガ大王】を手に取るまでは。

 

 

案の定、りまのキャラチェンジが暴走し、クスクスとともに「バラバラーンス!!」と騒いでいた。そして、真の悪い人間がいた。

 

 

久我春日である。

 

 

教室の入り口にこじんまりとよせていた春日がいた。相変わらずの無表情だ。

 

 

【ずっとスタンバってました】

 

 

なぜかスケッチブックを見せている。

 

そして、りまは春日がいたことに気付き、あむの背にかくれた。りまは厄介な人間にバレたとすでに涙目である。そんなりまを春日は一瞥し、口を開いた。

 

「悪ぃが泣いてる女シバくほどドSじゃねぇんだ。もう疲れたしな。

 

もし、泣かす奴らがいるんなら待ってろ。

 

きっちり落とし前をつけにいく。

 

それまでに泣き止んでおけよ。」

 

りまはあむの背からそっと顔を覗かせ、春日をみた。春日の背中が大きくみえた。

 

ぽわんぽわんぽわん【回想終了】

 

 

 

 

---------------

 

あむとりまが教室に戻ったころ、教室は異様な空気だった。黒板には【第2回気になる女子ランキング】とかかれてある。それをみたあむは「また、あいつら」と呆れた顔で教室に入ろうとした。

 

だが、少年たちは心身共に折れていた。いったい誰の仕業なのだろう。あむが教室を見渡すと見知った人物がいた。その人物を視認したあむはこれが噂の【闇討ち】だと認識した。話しかけようとしたが、どこからか声が聞こえる。

 

 

 

 

 

これは、一匹狼の小学生の話である。

 

聖夜学園の勢力は弱体化し、学園のやりとりをするガーディアンもついに弱肉強食の時代に突入した。

 

その危機的な教育現場の穴埋めに現れたのがフリーランス......すなわち、一匹狼のスチューデントである。 

 

たとえば、このこども。 

 

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門知識のライセンスと叩き上げのスキルだけが春日の武器だ。

 

小学生、久我春日。

 

またの名を、狂乱の貴公C

 

 

『ぼく、失敗しないので』----ピッ

 

 

 

 

 

「あ、もしもし?」

 

「電話かよっ!なに、その呼び出し音。長いよ!!長すぎる!!前にも聞いたことある!!いますぐ変更を要求しますッ!」

 

「致しません」

 

「其処は『御意ッ!』でしょうがぁぁぁ!」

 

「致しません」

 

すました顔で春日はあむを一蹴する。りまはあむと春日のやり取りにくすりと笑った。

 

「もうすぐ明智くん(仮)がくるから心配いらねぇよコノヤロー。後片付けはやつに任せる」

 

 

裏設定によると、某医療ドラマのような語りは空智くんに固定されている。そして、春日はりまの顔をみて言った。

 

「それと、お嬢さん。

 

......いや、真城。

 

約束しろ!

 

 

 

これからの人生でどんな苦境に立たされても

 

そのツラから笑顔だけはなくさねぇってな!」

 

 

りまと春日の不思議な縁がはじまった。

 

 



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第三十二話 Gペンは気まぐれ屋さん丸ペンは頑固者羽ペンは我が道を進む

「はーい、注目~!えー、となりの月組の夜神くんのノートがなくなりました。心当たりのある人は先生のところまで来るように。」

 

今朝のホームルームは二階堂悠のその言葉から始まった。それに反応した生徒が挙手する。彼の名前は空智。彼は先日、春日に後始末をさせられて虫の居所がわるかった。

 

「二階堂せんせー!久我くんがノートと羽ペン持ってごそごそしています」

 

たしかに、鉛筆や消しゴムを手にするクラスメイトの中で羽ペンを握る春日は異様だった。

 

「久我くん、そのノートみせなさい。

 

 

えーと、なになに......

 

 

【Bewitch the mind Ensnare the senses Bottle fume Brew glory Put a stopper in】......??」

 

二階堂が英文を読み上げる。が、さっぱりわからない。それは、クラスメイトも同じこと。皆頭の上にクエスチョンマークがあった。その様子をみて春日は説明する。

 

 

「【人の心を操り、感覚を惑わせる技を。名声を瓶の中に詰め、栄光を醸造し、死にすら蓋をする、そういう技を。】

 

......かの偉大な教授の言葉だ。

このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な化学と、厳密な芸術を学ぶと耳にしたので予習をと思って。」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?ちょっとマニアックすぎて先生わかんないんだけど!!とかいって分かるぼくはポッタリアン!!これ、ホグ⚪ーツの話だよね?!エクスペクトパトローナムゥゥゥゥ!!」

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげた事はやらん。故にこの授業は魔法かと疑う諸君が多いかもしれん。」

 

「......おーい。もしもし?久我くん。

......なんかいきなり演説が始まったんだけど。なんか呪文叫んだ先生恥ずかしくなったよ。」

 

春日の演説はまだまだ続く。

 

「フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力

心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力、諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶に詰め、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法だ。ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロ達より諸君らがまだましであればの話だ。

 

ところで諸君ら、何故教授の偉大なるお言葉をノートに書いていないのかね?」

 

「いやいや、いまは魔法薬学の時間じゃないからね?久我くん。たとえ、ポッタリアンの血がうずいても、ここは日本だし、いまは隣の月組の夜神くんのノートをね、」

 

「マダオ、君の無礼な態度にグリフィンドールは一点減点。」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!!!君たちもなんで羽ペン持ってんのぉぉぉぉ!!?鉛筆で我慢してくださいッ!!!

 

あれ、空智くんんの様子が......!?」

 

 

二階堂が視線を横にずらすとノートを広げた銀時がいた。

 

「やっぱ持つべきものはジャンプだ。主人公だからって、ゴムゴムやら、かめはめ波やら、必殺技持ってんのにおれだけないって不公平だろ。毎回力まかせに戦うのはだりぃし。痛いし。銀さんだって、ラクして勝ちたいんだコノヤロー。最近はPTAが煩くて乱闘シーンも控え気味だったが、これなら文句ないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

そしておれは新世界の神となる」

 

 

それはデ⚪ノートだった。ノートの表紙には【夜神】とかかれてある。

 

「銀さんは職員室集合な。」

 

---------------

 

「というわけで、ショッピングモールいくぞ、銀時。」

 

ノートを弁償するために、春日と銀時。

 

「唯世くんとデート......!!」

 

あこがれの唯世とのデートのために、日奈森あむ。

 

「日奈森さんと、ガーディアンの買い出し」

 

ちょっと意識する、辺里唯世。

 

「.........」

 

しっぽをゆらす大きな黒猫。

 

「ガーディアンを尾行せねば......!」

 

気分は忍びの、三条海里。

 

ショッピングモールに個性豊かな、ある意味問題のあるくせ者が集結する......!

 



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第三十三話 ストレートパーマに悪い奴はいない

【はじめてのおつかい】のようにてくてく進んでいく。

 

だーれにもー、なーいしょでー、......

 

春日の頭にはそんなメロディーが流れている。

 

「きょうはノートと、部の材料も、ちとそろえねーとな。」

 

「おぅよ。こちとら糖分足りなくて頭パッカーンなりそうだ。パッカーンて!」

 

「いや、お前の頭はパッカーンっていうより、くるくるパーじゃねえか?見た目も中身も。」

 

「ああ?なんだと!?どうせ黒髪ストレートにおれの苦労はわからねぇさ!毎日アイロンでブローしてケープかけまくってもくるくるな天パの苦労はな!おれがモテないのは天パのせいだぁぁぁぁ!!」

 

銀時を軽くいなそうとしたとき。

 

 

 

 

 

『そんなあなたに朗報です!この【すとれーとくりーむ】にかかれば、どんなものでもまっすぐに!

 

このしつこいくるくるパーにすとれーとくりーむをぬれば......

 

ほら、あっという間に艶のあるなめらかなスタイルの出来上がりです』

 

大型テレビで通販が始まった。

 

「おー!すげーな!買ってくれよ春日ィ」

 

「ふ!笑止!ぼくがそんなものにつられるか」

 

『ちょっとお待ちください!これだけじゃぁ、ありません!!【すとれーとぱんち】もついてきます。みてください!このすとれーとぱんちは、天パを馬鹿にする野郎の頭をぱんちパーマにかえることができます!勿論、ご自身にお使いになってもかまいません!

 

メーカー希望小売価格が13000円のところ、今ならたったの6900円! 限定数は100です!』

 

「何ィ!おまけだと!?銀時ィ!携帯用意しろおおお!」

 

「へーい」

 

『ぜろいちにーぜろー、ぜろぜろの、にーにーにーにー、にーほん髪ふえったー

 

お電話お待ちしてまーす』

 

その一連の様子をみていた黒猫がにやりと笑う。

 

「イクト~、あいつらバカにゃあ」

 

「何だ?つか、おまえだれ?」

 

猫耳がはえたしゅごキャラに銀時は気づいた。しっぽで器用にバランスをとっている。

 

「おれは猫だ。名前はある!にゃー」

 

「へー、そう、で、そちらさんは?」

 

もう一人、猫というか猫人間のような影があった。

 

「おれの持ち主のイクトにゃ。ぷぷ。おまえの頭くるくるパーだにゃー」

 

ニヤニヤした顔つきで、銀時をみる。

 

「あぁ!?んだと、猫コラァ!!くるくるパーじゃなくて天パだ、コノヤロー!!」

 

「......ヨル。それくらいにしておけ。それと、久我春日......だったか?」

 

春日に近づくイクト。気ままな猫のような雰囲気だ。背は春日より若干高いが、見た目は高校生のようにみえた。

 

 

 

「ん?そうだが。ぼくって有名人なのか?やべ、サイン考えなきゃな......」

 

だらだらとゆるく話す春日をイクトは見据える。

 

「おまえがおこちゃまガーディアンにつくのかしらないが、せいぜいイースターには気をつけるんだな。......いくぞ、ヨル。」

 

ヨルとキャラチェンジしたイクトはそのまま去っていく。......木に登って。

 

「.........なんだぁ?あいつ」

 

首をかしげる春日に足音が聞こえる。

 

 

「...久我くん!ここにどろぼう猫、いや、だれか来なかった?」

 

「よぉ辺里。

 

 

んや、だれも通ってねぇよ」

 

「おかしいな、こっちに逃げたと思ったんだけどな」

 

しれっと流す春日。無表情のため、唯世はそれに気づかない。

 

「いけない!日奈森さんを置いてきてしまった。またね、久我くん!」

 

-------------

 

春日の家には段ボールが届いていた。無断で注文したため、祖父の雷が落ちそうになったが、咄嗟に育毛剤と偽り、ごまかした。

 

銀時の髪はくるくるパーのままだが、祖父の髪はフサフサのストレートになった。

 

「......やっぱり、お前のそのねじまがった根性だけはまっすぐになおせねーみてーだな」

 

鼻で笑った春日に銀時のすとれーとぱんちが繰り出された。

 



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第三十四話 犬の肉球はこうばしい匂いがする

世間はもう寒空。そろそろ冬服の支度をした方がいいかもしれない。そんなことを考えながら春日は近所の公園に足を運んでいた。おじいちゃんみたく、散歩に出かけていた。別段、いつもとかわりない。

 

 

 

「あるよなー。二期始まったと思ったら急な作画崩壊したり、世界観ぐちゃっと壊したりしてるアニメ。大人の事情だか、なんだかしらねーが、久しぶりだな、コノヤロー」

 

「誰と話してんだ?銀時」

 

 

ふたりでぺちゃくちゃ悪態をつく。

 

ついてるはずだった。

 

「おねぇちゃん、どこぉ~」

 

......目の前にふたつに髪を結んだ女の子があらわれるまでは。

 

 

--------------

 

迷子の迷子のこねこちゃん。あなたのおうちは何処ですか。

 

「あみ、わかんない。」

 

「......だよなー、迷子だもんな。それがわかってんなら迷子になんねーよな」

 

おうちを聞いてもわからない。

 

「お嬢ちゃん名前は?」

 

「...しらない人に名前教えちゃダメって、ママが」

 

「しっかりしてんなオイ」

 

 

名前を聞いてもわからない。

 

「仕方ない、銀時。こういうときは犬のお巡りさんになりきってこの迷子を救うしかあるまい。」

 

キリッとした顔で警官の服に身を包んだ春日がいた。

 

「イヤイヤ、なにいっちゃってんのお前ェェエ!!ドヤァって腹立つ、オイ!......ちょっと待てよ、この展開。やっぱ、お前ヅラじゃねーの!!?」

 

「さぁ、特別にお前の衣装も用意したから着ろ。」

 

春日の手元には警官の衣装があった。

 

「取り調べごっこ?わ~い!あみも!あみも!」

 

「......『あみ』ちゃんだそうだ。」

 

「あ。しゃべちゃった」

 

女の子、あみが口もとに手をあててふさいだ。

 

-------------

 

「はけぇぇーーい!」

 

「......わー、あみちゃんノリノリだなー」

 

普段から目が死んでいると言われる春日だが、今日はいつも以上に目が輝きを失っていた。

 

「銀時、後は任せた」

 

「あっ、逃げんなテメー!......ブフォ!おれの天パが悲鳴を!!」

 

あみが「しゅごいキャラ~」と喜びながら、銀時の後頭部を掴んでいる。

 

「こういうときはカラスやらスズメやら聞きこみが大事なんだ。犬のお巡りさんだってそうしてたし。」

 

「お前、警察をなんだと思ってんのぉぉぉ!」

 

「税金ドロボー」

 

銀時と春日がギャアギャア騒いでいると、一人の少年が近づいた。

 

「迷子かな?君たち」

 

「「ちげぇよっ!」」

 

「おねぇちゃんどこぉ~」

 

困った顔をした少年はあみの手を引く。

 

「髪の長いお兄ちゃん、おねぇちゃんのいるところ知ってるの?」

 

「まあね。心当たりなら。それに君も行くよ、ほら、」

 

春日はしばらく少年を無表情にみていたが、やれやれと言った様子であみの反対の手を握った。

 

 

 



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第三十五話 ヒーローは遅れてやってくる

時は二週間前に遡る。

 

「おねだりCD?」

 

聖夜学園の生徒の間で出回っている×印がプリントされた、通称、おねだりCD。実はイースターによる手口だと判明した。

 

ガーディアンの辺里唯世もおねだりCDの被害に遭い、学園生徒をも巻き込んだ。

 

事態を聞きつけたガーディアンはすぐさまおねだりCDの回収を開始。だが、おねだりCDはJチェアの三条海里によって広められていた。つまり、海里はイースターのスパイだったわけだ。

 

海里とあむたちガールズは一時、敵対するが、なんやかんやあって和解。海里はガーディアンに戻り、ともにイースターと戦うことになった。

 

それと同時にあむは、おねだりCDの歌い手がアイドルのほしな歌唄だと知る。歌唄はエルの持ち主で、現在、あむのしゅごたまと入れ替わっている。イースターの悪事を阻止するため、歌唄を止めるため、ガーディアンは立ち上がった。

 

「やーだね、断る。ぼくはいそがしいんだ」

 

「そこをなんとか頼むよ、久我くん」

 

唯世がお得意のキラキラとしたまなざしで春日に訴える。

 

「ものつくり部として大会に出場することになってな。予選は通ったが、本選を控えてるところだ。ままごとなら余所でしな。」

 

ツンとした物言いで春日はいつも通りの無表情で答えた。

 

「......資金集め、ネタはあがってます」

 

海里が静かな声で告げる。春日はピクリと耳を動かした。

 

「なになに。お宅らいつからセンテンススプリングしちゃったの?それともフライデー?」

 

冷静に努めながら春日は言い返す。

 

「匿名情報です。で、返答はどうしますか」

 

「こえーよ、脅しにきたヤクザですか?コノヤロー。銀時、ヅラかるぞ、って......」

 

「銀時ならあちらでスゥのいちご牛乳をのんでるよ」

 

あむが指を指した方をみると、スゥに懐柔された銀時がいた。

 

「......お前ってやつはよぉ。」

 

呆れた表情で春日はつぶやいた。

 

 

--------------

 

そして時間はあむと歌唄の戦いに戻る。持ち主以外とのキャラなりは体力を多く消費する。疲弊した歌唄とあむの前に迷子だったあみがあらわれた。

 

「おねぇちゃ~ん!!」

 

「わ!あみ!?どうしてここに!!?」

 

「髪の長いお兄ちゃんと目が死んでいるお兄ちゃんにつれてきてもらったの!」

 

「髪の長い......?それに目が死んでいるって......」

 

目が死んでいると言われている人物にあむを含め、ガーディアンには心当たりがあった。

 

「よぉ。ヒーローってモンは遅れて登場するにかぎるだろ」

 

ヘラリと片手をあげ、腰にさした木刀をにぎった春日があむたちの前に姿をあらわした。

 



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第三十六話 ケンカの横槍は危険

「よぉ。ヒーローってモンは遅れて登場するにかぎるだろ」

 

ヘラリと片手をあげた春日の姿が月夜に照らされた。ニヒルに口角をあげ、いつもの死んだ魚のような目は少し好戦的にまっすぐ見据えている。緊張した場の空気に似合わず、どこか余裕がある。

 

けれども、×たまの群れは春日の登場を待たない。×たまは春日たちに遅いかかかる。

 

「久我くん......!」

 

 

気がついた者たちは春日へと視線を向ける。

 

 

 

月の光りのせいか、輝いてみえ----

 

 

 

 

「あ、あの久我くん。......刺さってます」

 

 

 

訂正、輝いてみえたのは気のせいだ。

 

 

「え?何言ってんだ、日奈森。これはアレだよ、アレ。お洒落だよ、コノヤロー」

 

 

春日の額には、×たまの、たまごの破片が突き刺さり、どくどくと赤い液体が流れていた。つまり、簡単にいうと、春日は×たまの群れを避けきれなかった。

 

「どうみても、刺さってるよ!?久我くん!大丈夫!?」

 

「なぁに、言ってんだ。これはお洒落だっってんだろ。な?」

 

あむが心配するなか、軽い口調で、春日はほしな歌唄に問いかける。

 

「......私が放った×たまを避けるなんて......」

 

「えぇぇぇぇぇーーーー!!フォローしたぁぁ!!?敵に、しかもほしな歌唄にフォローされてるぅぅぅぅ!!」

 

「これくらい大したことねーよ。」

 

「久我くん、めちゃくちゃ血が出てるじゃん!!何平然としちゃってんの!!?大したことありすぎるよぉぉー!!」

 

「血?こりゃケチャップだ、日奈森。ハロウィン意識して仮装してんだよ。ドンキに行って買ってきたんだ。

 

 

だからお前もコスプレしてんだろ?」

 

春日の現在の格好は、警官の衣装を着ていた。ところどころの赤い部分をみるとハロウィンにみえなくもない。

 

「まさかのケチャップぅぅ!!これはキャラなりだから!!ハロウィン関係ないから!!!」

 

あむの突っ込みがさえ渡った夜であった。

 

 

---------------

 

 

「久我くん!来てくれたんだね!」

 

「もお!遅すぎだよー、春日っち!!」

 

「......べつにヒーローなんて、よんでないけど」

 

「クイーン、そんなこと言わずに。これで戦局は一気にこちらのものです!」

 

「あみのこと、その、......あ、ありがと。...」

 

「あむちゃん、こんなときに意地っぱりと人見知り発動しちゃって......」

 

「それがあむちゃんらしいですぅ~」

 

場が少し賑やかになった。歌唄もあむの妹、あみとふれあい、自身のおさなき夢を思い出した。

 

「歌唄ちゃん、おうた、歌って!あみ、歌唄ちゃんみたいになるの!!」

 

自分は何のために歌いたいのか。その答えを見つけた歌唄。エルが離れて、イルも離れて、×ダイヤもあむのもとへ行ってしまったいま、あみの言葉は歌唄の心に深く刺さった。

 

「......ゆめの、つぼみ......ひらく」

 

歌唄のうたはもう×たまを引き出すものではなくなった。

 

 

--------------

 

「海里も、歌唄も、ガーディアンにやられて、何やってんのよ!......いい?あなたたち。このような×たまで作ったおねだりCDがうまくいったら、.........」

 

ヘリコプターの中で歌唄のマネージャーであり、海里の姉、三条ゆかりがよからぬことを企んでいる。

 



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第三十七話 一日局長に気をつけろッテンマイヤーさん

三条 ゆかり。

 

イースター社の最年少社員。ほしな歌唄のマネージャーで、海里の姉。言われてみれば、よく似ている。海里と同じく真ん中分けで眼鏡を掛けている。だが、髪色は海里と異なり、鮮やかな赤色だ。

 

 

年齢は本人曰く20代。高校卒業後に大学に行かない代わりにすぐにイースター社に入った。

 

仕事はきっちりしているが家ではなんとまあだらしなく、基本的に海里が家事全般を手助けしている。スイッチガール。否、マダオというべきか。

 

まるで、ダメな 女。(仕事はデキる)ちなみにいうと、海里の雑用慣れはここからきている。

 

 

歌唄と長く行動を共にしていたせいか、いつの間にかしゅごキャラを見ることができるようになった。偶然、海里のしゅごキャラ、ムサシを目撃して、海里にイースターのスパイとしてガーディアンにさせる。だが、それは海里の離反によって失敗。

 

歌唄の能力を利用しエンブリオを探していた。「ブラックダイヤモンズ」を立ち上げ、エンブリオ探しと×たま大量生産を同時に狙った。

 

聴いた人のココロのたまごを無理矢理取り出すCDを無料配布。このCDとは、おねだりCDのことだ。そしてゲリラライブを行い、知名度がある程度上がった段階でメンバーを公表すると共に曲を全世界に配信する計画を立てた。

 

だが、歌唄は×ダイヤとの度重なるキャラなりによって疲弊していた。持ち主以外とのキャラなりは体力を消耗する。もう、歌唄にはあむと戦う力が残っていなかった。加えて、突然のあみの登場により、自身の誰かを喜ばせるための歌を歌いたいという気持ちを思い出した。

 

その様子をみたゆかりはひとり、ヘリコプターに搭乗し、計画を実行しようとしていた。

 

「海里も歌唄ももう、用済みだわ!ここからは私がエンブリオを手にする!!」

 

ヘリコプターの中で高らかに宣言する。

 

ハイハイと、そうは問屋がおろさないようで。......

 

 

-------------

 

ゆかりの誤算は、彼女が×たまの危険性をよく理解していなかったことだ。

 

ゆかりが乗るヘリコプターには大量の×たまがあった。こんな量の×たまがあって、暴走が起きないのがおかしい。案の定、×たまは暴走をし始め、ヘリコプターの運転士を妨害。機体が傾き、ヘリコプターはいまにも墜落しそうな状態だった。

 

「キャァァァ」

 

ゆかりの悲鳴がきこえる。

 

お巡りさん姿の春日はいち早くヘリへ向かう。続けてダイヤとキャラなりしたあむ、エルとキャラなりした歌唄もむかった。

 

 

バランスを崩し、ゆかりは落ちていく。

 

「イヤァァァァ」

 

 

タイミングよく歌唄がゆかりをだきとめる。

 

「た、たすかった。......う、歌唄ぅぅぅぅ!!」

 

「......今さら見捨てるわけないじゃない、三条さん」

 

アイドルとマネージャーの絆が深まった一幕であった。

 

 

 

 

 

「こちとら目の前のもん護るので手一杯だ。

それでさえ護りきれずによォ。

 

今まで幾つ取りこぼしてきたかしれねェ。

 

ぼくにはもう何もねーがよォ。

せめて目の前で落ちてるものがあるなら拾ってやりてェのさ」

 

春日と銀時の躍進が始まる。キャラ持ちのなかで唯一キャラなりしていないが、その気迫は鬼のようで、昌に戦場を駆け抜ける修羅。

 

×たまの群れを狙い、木刀を一振りする。

 

春日が一ヵ所に集めた×たまをあむが浄化し、事態はおさまった。

 

 

-------------

 

 

 

『あの~、さっき目の前で落ちてるものがどうとかいってましたけど、本当にそうですか?』

 

久々の新八。はたからみるとただのメガネがしゃべっているシュールな図だ。

 

「あ?何言ってんだ?そんなに疑うならVTRで検証してみやがれ。」

 

 

▼リプレイ検証

 

 

『あ、完全にアウトですね。転落する三条さんと、すれちがってますよ、銀さん、春さん。』

 

 

「うるせぇよ。ダメガネ。

 

年頃のこどもがそんなに深追いするわけねーだろ。定年間際の警察か、お前は!!」

 

『アンタの格好、警察ぅぅぅぅ!!どの口がいってんだ!!アンタ、そもそもこどもって柄でもないでしょーがァァァ!!!』

 

「よくみろってんだ、ホラ」

 

そこには某ジ⚪リ映画のヒロイン愛用のメーヴェを運転する春日の姿が映っていた。

 

ちなみにメーヴェとは、風の谷のヒロインが愛用する小型グライダーだ。

 

機体中央部に小型のジェットエンジンが装備されており、離陸時や加速時にその推進力が使われる。しかし、風の流れを読み、それを利用して滑空するのが基本的な操縦方法であり、一流の風使いにしか乗りこなすことはできない。機体下部から光弾を散布することも可能である。

 

春日は、手すり前部の付近を握り、腹部をベルトの上に乗せ、体を水平に保って空気抵抗を減らす。

 

こんな飛行運転中に人を助けることは困難だ。

 

 

「ほんとはシャアザ⚪に乗りたかったんだが、自重して、メーヴェにおさまったんだ」

 

「なかなかイカしてんなぁー!さすがにあの状態で木刀振り回すのは無理があって、途中からメーヴェで×たま追いかけ回したんだっけ」

 

警官が暴走族を見つけ、サイレンをならして警告するみたいだ。春日はノリノリで「前方の×たま、止まりなさい」と無線の仕草をしてみせた。

 

 

 

ほのぼのと語り合う銀時と春日。

 

『お前ら反省しろぉぉぉぉぉ!!!!』

 

新八の雷がふたりの頭に落ちた。

 



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番外編 その2
IF ケロロ軍曹


ケロロ軍曹 とは

 

ガマ星雲第58番惑星「ケロン星」から地球(ペコポン)の侵略のため、先遣隊が派遣された。その隊長・ケロロ軍曹、突撃兵・タママ二等兵、機動歩兵・ギロロ伍長、作戦通信参謀・クルル曹長、暗殺兵・ドロロ兵長の兵士からなる、宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊【ケロロ小隊】が地球に降り立った。

 

ところが、地球に降り立つ際、隊員らは散り散りになってしまう。小隊長のケロロは一軒の民家に潜伏するが、ペコポン(地球)人の日向夏美とその弟の日向冬樹に発見されてしまう。地球に取り残されたケロロは、日向家の居候になり、家の掃除をさせられたり、趣味のガンプラを作ったりして毎日を過ごす。

 

 

 

 

take1

 

久我春日は最近妙な宇宙人を拾った。

 

その宇宙人の名は銀時。ケロロ小隊の幻のシックスメン、特攻兵である。

 

「銀時殿!我輩が来たでありますよ~」

 

「銀時ィ、みどりのカエルがきたぞー」

 

 

「あぁ、ちょうどいいとこにきた、隊長。諭吉を出せ。10倍にしてやる。

 

......なに、銀の玉を転がすだけだ。」

 

「ゲロォ!!?わ、我輩の諭吉がァァァァァァ!」

 

地球侵略そっちのけでパチ屋に行く気だ。

 

 

take2

 

久我春日は最近妙な宇宙人を拾った。

 

その宇宙人の名は神威。元ケロロ小隊の軍人でいまは宇宙海賊と名乗っている。

 

「神威ィ、黄色いカエルがきたぞー」

 

 

「引っ込んでてよ。いま、楽しいところなんだ。邪魔者すると殺しちゃうぞ」

 

「......クックックッ。ツレねぇこというなよ。知ってるか?このペコポンにはサムライっていう強ぇヤツがいるぜ?」

 

 

元軍人の神威を使い、地球侵略を企んだが、途中、夏実にバレ、さらに神威の気まぐれにより、ケロロ小隊の地球侵略はいつも通り失敗に終わった。

 

 

take3

 

久我春日は最近妙な宇宙人を拾った。

 

その宇宙人の名は新八。ケロン人といいながら、その本体はメガネである。ケロン人というメガネ掛け機にメガネをかけ、日々、地球侵略に取り組んでいる。

 

「メガネ、影薄いカエルがきたぞー」

 

 

「くぉら!!誰がメガネ掛け機だァァァァァ!!この人物紹介、悪意ありすぎだろぉぉぉ!!!」

 

「まぁまぁ、新八殿。メガネだからって貴方には伝家の宝刀ツッコミがある。いつもみんなに忘れられている拙者とは、格がちがうでござる。名前すら忘れられることだってざらでござる。」

 

そう語るのは、同じく日々、周囲から散々な扱いを受けているドロロ。

 

「......ドロロさん。(あっぶね、名前忘れてたァァァ!!)」

 

「君と拙者とじゃ、地味の器が違うでござる。」

 

場がシリアスになるなか、春日がポツリとつぶやく。

 

「お前らどんだけ地味なんだよ。キャラかぶりだな」

 

 

 



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IF 妖怪ウォッチ

妖怪ウォッチとは

 

ある夏の日、ケータは虫取りをしている最中に妖怪執事のウィスパーと出会い、妖怪を見ることのできる不思議な時計【妖怪ウォッチ】を手に入れる。あらゆる場所に出没する妖怪と友達になり、時に彼らと協力して、町の人々の悩みや問題を解決する。世の中の困った問題や不思議な現象は全て「妖怪のしわざ」とされており、妖怪と「ともだち」契約をすると妖怪メダルが渡され、妖怪ウォッチで召喚することができる。

 

 

 

take1

 

久我春日が妖怪と「ともだち」契約をし、妖怪ウォッチで召喚したのは神楽だった。

 

「かぶき町の女王アル。テメーらひれ伏しな。」

 

神楽は持ち前の馬鹿力で、悪党をなぎはらい、かぶき町の女王と名乗るようになった。彼女の胃袋は、さすが妖怪というべきなのだろう。

とりあえず我が家のエンゲル係数がとてつもない数字になった。

 

ウチが食糧難になったのは誰のせい?

 

妖怪のせいなのね、そうなのね。

 

 

take2

 

久我春日が妖怪と「ともだち」契約をし、妖怪ウォッチで召喚したのは猿飛あやめこと、さっちゃんだった。

 

「さっちゃん、納豆くせぇよ」

 

「春さん。貴方がなんといおうと納豆はやめられないわ。私のアイデンティティだから!!」

 

「............(換気扇まわすか)」

 

「ふふ。そうやって無視するのね。いいわ、焦らしてみなさい!」

 

 

「............(ファブ⚪ーズかけるか)」

 

 

「......あぁ!もう、ダメ!春さん、私をメス豚って呼んでェェェェ!!!」

 

ご覧のとおり、生粋のドM妖怪である。

 

「.........」ドゴォ!

 

春日は無言でさっちゃんを蹴飛ばした。空のかなたへと飛んでいった。

 

「壁、突き破っちまったなぁ。さっちゃんに請求するか」

 

春日はドライに対応している。

 

これもまた、妖怪のせいなのね、そうなのね。

 

take3

 

久我春日が妖怪と「ともだち」契約をし、妖怪ウォッチで召喚したのはお妙だった。

 

可憐で美人な姿とは、裏腹に彼女の手料理は凶器であった。今日もまたひとり救急車に運ばれる被害者がいる。

 

「あのー、この黒い物体は何でしょうか?」

 

春日が遠い目をして、問いかける。

 

「たまごやきですぅ」

 

断固としてたまごやきと言い張るが、それはダークマターだ。あれ、おかしいな、目の調子が悪いぞ。余談だが、彼女の弟はこのダークマターを日々摂取したため、目がわるくなったらしい。

 

春日はひとくち、口にいれた。が、直後泡を吹いて意識を失った。

 

 

ダークマターは誰のせい?

 

妖怪のせいなのね、そうなのね。

 



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六年生篇
第三十八話 男にはカエルに触れて一人前みたいな訳のわからないルールがある


歌唄とガーディアンとの対立、からの和解から数日過ぎたころ。

 

聖夜学園小は冬休みをむかえていた。

 

ガーディアンのJチェアだった、三条海里は故郷の山口へと転校し、Jチェアは空席になった。

 

Kチェアの辺里唯世、ガーディアンOBの相馬空海は新たなJチェアの確保のために奔走していた。

 

だが、なかなか後任は決まらず、二人は理事長からの呼びだしで学園にいた。

 

「お久しぶり、相馬くん」

 

理事長の紹介で出てきたのは、フランスへ留学した藤咲なでしこだった。

 

「な、なでしこ!?どうしてここに?!てか、お前、帰ってたのか!!?」

 

「ふふ、髪が乱れるわ、相馬くん」

 

久々の再会に空海はなでしこの頭をガシガシとなでる。

 

-------------

 

「お待たせ」

 

「ん?なんで男の格好してんだ?」

 

「ぼくの本当の名前は藤咲なぎひこ。正真正銘の男の子だよ」

 

なぎひこは聖夜学園小の男子生徒の服を着ていた。なでしこの姿を見慣れていると、不自然に感じる。

 

「唯世は、知ってたのか!?」

 

「うん」

 

「だって、相馬くん運動以外ダメそうで。」

 

はぁ、とため息を吐きながらなぎひこは言う。

 

「......お前、なでしことキャラちがくね?(苦笑)」

 

「家訓で、ね。ま、これからもよろしく」

 

-------------

 

ロイヤルガーデンへ向かう途中、偶然にも三人はあむと遭遇した。

 

「双子なんでしょ!海里がいなくなって寂しいけど、なぎひこがJになるんだったら頼もしいね!!」

 

なぎひこ とあむは面識があるらしい。だが、なぎひこはギクシャクした態度で笑顔がひきつっていた。その場をなんとか乗り切るも、唯世と空海は追い討ちをかけるようになぎひこの外堀を埋めていく。

 

 

「そもそもぼくは一時帰国したんだから、やらないって。ほら、久我くんはどうしたの?」

 

なぎひこはそれでも反論し、その矛先を春日へ向けた。

 

 

「声をかけてみたんだけど」

 

「......しばらくみないあいだにパワーアップしてるぞ、あいつ」

 

空海は疲れきった声で春日を思い出した。

 

 

 

 

ぽわんぽわんぽわん【回想】

 

 

「久我くん、お久しぶり」

 

「よ!相変わらずこの部室は物騒だな。......ん?なんだ、それ」

 

ヘロヘロ状態のふたりは春日に挨拶をかわした。ふと、空海が春日の部長と書かれた机の上にある一点に気づく。

 

「我がものつくり部の技術力を結集したメガネ型ロボット、ソンタくんだ」

 

ポツンと机の上にメガネが置いてある。一見するとただのメガネにみえるが、春日はそれを自信満々に紹介した。

 

 

『春さん、ぼくの名前は新八だって何度言えば分かるんですかァァァ!』

 

ソンタくんこと新八が独特の機械音でツッコミが炸裂する。どうやらこのメガネ型ロボットはAI、人工知能らしい。よくしゃべる。

 

「このロボは、言わずとも人の言うことを推し量ることができる、《忖度》機能を兼ね備えた最新式だ。オプションでツッコミモードも搭載している。さ、新八」

 

『わかりましたよ、春さん。』

 

唯世から用件が書かれた紙を受けとる。

 

メガネ型ロボット新八がフレームを点滅させ、解読する。

 

『......えーと、《新Jチェアを命じる。》だそうですよ、春さん』

 

「面倒だから断っといて新八」

 

『......だそうです。申し訳ないですが、今回はお引き取りください。辺里さん、相馬さん』

 

ぽわんぽわんぽわん【回想終了】

 

 

 

 

 

「圧倒されすぎて、取りつく島もなかったよ」

 

「あぁ。君たちも苦労してるんだね」

 

なぎひこはその場にいなかったが、容易に想像できた。春日が相手だと妙に納得してしまう。なぞの説得力をあたえる、それが久我春日だ。

 

「と、いうわけで」ポン

 

「なぎひこ」ポン

 

唯世と空海がなぎひこの肩にそれぞれ手を置く。

 

「Jチェアになってよ!」

 

にかりと、某インキュベータみたく勧誘する。

 

「んなっ!ぼくはまだ了承したわけじゃ......」

 

「日奈森、すげー楽しみにしてたし、久我もある意味喜ぶんじゃね?」

 

 

「うっ!!......

 

どうすんだ、ぼくぅぅぅぅ!!」

 

「「新J誕生!!」」

 

ひとまずガーディアンは安泰である。まる。

 



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第三十九話 地球の前に、もっと危ない「ギンタマン」の未来を考えろ

やぁ。突然のプロローグ失礼するよ。

 

ぼくの名前は、藤咲なぎひこ。

 

 

ぼくの家は、男子が女形舞踊を学ぶために子供の間は女の服を着て、女の名前で暮らさねばならないという藤咲家の家訓があるんだ。

 

なでしこの名前で女子として振舞っていたんだけど、その女装期間があけていまはごく普通の少年として過ごしている。

 

初めてなぎひことしてあむちゃんと会った時には「なでしこの双子の兄」と名乗った。

 

思えば、これが後々のぼくの悩みの種になるんだ。あむちゃんには女装期間が明けたらちゃんと話すつもりだった。だけど、なかなか打ち明ける機会に恵まれず、罪悪感に苛まれ続けている今日この頃。ほんと、自業自得だよね......

 

 

実は、もうひとつ悩みの種があって......

 

言わずもがな、狂乱の貴公子こと、久我春日くんのことだ。

 

 

 

-------------

 

 

 

聖夜学園小。まさか、ここに戻ってくるとは、しかもガーディアンになるとは夢にも思わなかった。感慨深く、教室の扉をみる。

 

おっと、いけない。これからクラスのみんなに編入の挨拶があるんだった。

 

六年星組。どんなクラスなんだろう。

 

 

ガララっと、ぼくが教室をあけると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかのお巡りさんの格好をした久我春日がいた。

 

 

 

え?なにこれ。新手のドッキリ?あっはっはー、んなわけあるかァァァ!おんどりゃァァァ!!!

 

 

ハッ!......いけない。このままではヤツのペースにのせられる。冷静になるんだ、ぼく。

 

 

「......なにしてるんだい?」

 

 

ピピィ~ッ!!

 

久我くんは警官服に付属している笛をならして、その音にあわせてピタッと敬礼して宣った。

 

「逮捕なのだ!!」

 

 

某赤塚作品を思い出させる特徴的な訛り。こころなしか、にじみでるギャグ漫画臭。某ドラゴン⚪ールのベ⚪ータが「コイツ、ギャグ漫画だ」とか言い出しそうだ。

 

 

いや、ちょっと意味わかんないんだけど、ぼく。それより、みんなはどこに行った?あれ、逃げ遅れたのかな、ぼく。

 

 

それより馴れ馴れしく肩を抱きながら「イヤミィ~」っていうのは、やめてくれ。ミーはおフランス帰りだけども!

 

頭の中でバカ⚪ンのパパが「これでいいのだぁ」なんて流れる。

 

 

......いいわけあるかいッ!!西から昇ったお日様は東へ沈んだり、柳のしたに猫がいるからネコヤナギって言ったり、もうぼくには手が負えませんんンンンン!!!

 

 

 

-------------

 

元の姿に戻った久我くんがやっと説明を始めた。

 

「何ってお前、ひょっとしてあの約束、忘れた?」

 

 

「え?」

 

あの約束?この姿で久我くんと会うのは2回目だけど、きっと忘れてる。確信を持って言える。だって、思いっきり「はじめまして」って言ったんだよ。相変わらず、いい加減な性格。変わってないようで安心したよ。

 

「前に打ち合わせしたの覚えてねーの」

 

「は?何のこと!?」

 

ギックぅぅぅぅ!!前言撤回。安心できません。前っていつのこと?!なでしこのときのこと?!まさか、勘づいた......?よりにもよってこんなときに。......

 

ふぅーとため息をしながら、久我くんはやれやれと言った様子でしょう話し出す。

 

「連載が始まった2017年7月25日からしばらく経つが、いい加減この小説も目新しさがなくなってきただろう。

 

読者を飽きさせないためにも新鮮な息吹きを吹き込む必要があるって話したじゃん」

 

いや、そんな生々しい話した覚えはないよ?

 

ん?おでん屋の屋台で?

 

え?なにこのねつ造された思い出描写。うわ、しかもツケで食べてるし。ニート感、半端ないな、ぼくら。ほんと、マダオみたいだ。

 

 

それにしてもいつになく饒舌だ。まさか、キャラチェンジしてる?よくみると、いつも以上に死んだ魚の目をしているような......

 

 

「ただ、焦ってもいまのぼくたちじゃ、下り坂のアクセス数をはねあげることはできねェ。」

 

ちらりと銀時に視線を向けると、今度は銀時が話し出す。......やっぱり、こういうこと言い出すときって、たいていキャラチェンジの暴走だよね。(遠い目)

 

 

「だから、この休みを利用して各々がそれぞれのやり方で力をつけてくる。

 

そしてニューマダオとして必ずまた集結しようって」

 

 

 

 

 

どこからか麦わら帽子を取り出し、目の下にマーカーで縫い傷を書き出す久我くん。

 

 

 

 

 

 

 

「二年後にジャボンディ諸島で!!」

 

 

 

「知らねーよ!そんな約束!!?」

 

 

 

たしかにぼくはフランスに留学しに行ったけども!!ある意味、力をつけるためだけどォォォォ!!

 



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第四十話 リヴァイアサンってきいたらどうしてもサザエさんがちらつく俺のバカ!!

×ダイヤ改め、ダイヤと春日は向かい合っていた。歌唄との戦いに決着がつき、それぞれがほっとした日。何気なくあたりを見回した春日がダイヤと目があったのは偶然だった。それはダイヤがあむのしゅごたまに戻ろうとしたときのこと。ダイヤは言った。

 

「きこえる、あなたの心の声。

 

あなたはどこにでもいるような小学生だけど、

あなたの世界はココにいる人たちよりも広い。あなたの目が死んでいるのはそのせい。

 

あなたはそんな世界が憎いと思っている。」

 

一方の春日はただきょとんとした顔で少し戸惑った。

 

 

 

 

 

--------コトン。

 

 

 

だが、そんな本人をよそに春日のしゅごたまが音をたてていた。

 

 

--------------

 

 

場所は、放課後のものつくり部の部室。バサッと一枚のポスターが机に置かれた。

 

「我々、ものつくりは見事予選突破し、ついに決勝までたどり着いた。そして、決勝はテレビ中継される!」

 

 

この場にいるのは春日、銀時、ソンタくん(新八)だ。

 

 

 

『春さん、何かご不満でもあるんですか?』

 

やれやれと言った様子で新八がきく。

 

「不満!?あるに決まってんだろ、コノヤロー。

 

 

せっかくのぼくたちの晴れ舞台だってのに、なんだコレ。

 

 

【ロボコン】って安直すぎんだろ、このチーム名。」

 

 

そう、春日はチーム名が気にいらなかった。

 

 

『アンタ、イースターさんに失礼だろォォ!!ただでさえ記入しなかったぼくたちのミスなのにイースターさんもあれこれ捻って面白くなるようにつけたんですから!』

 

 

ここで発覚したのは春日率いるものつくり部のチーム名を記載し忘れていたことだ。このままではチーム名なしになってしまうので、主催者のイースターが気をつかって、春日たちのチーム名を考えた。

 

だが、銀時は新八に反論する。

 

 

「甘ェこと言ってんじゃねーよ。面白ェ面白くない以前に肝心なのは売れるか売れないかだ。

 

昨今のテレビ事情知ってるか?幾ら面白い番組でもそれが視聴者に届かなかったら意味ねーんだよ。

それが《商売》だろが。」

 

うんうんと頷きながら、春日も反論する。

 

 

「確かに面白ェのかもしれねー。一生懸命つくったのかもしれねー。

でもぼくはイースターに問いたいね。お前らこれ本気で数字取るつもりあんのかって。あのイースターが本気で取る気ならばよ

 

 

 

 

当然こうなるハズだろ」

 

 

【TALES OF ロボコン】

 

 

「なるかァァァァァァ!!」

 

 

某有名ゲームのオマージュだ。これならインパクトがあると銀時は自負する。

 

 

「世の中なんでもテイルズオブっときゃまちがいねーよ」

 

 

『テイルズオブるって何!?どんな動詞!?』

 

春日も便乗してチーム名をひねり出す。

 

「じゃあ、これ」

 

 

 

【TALES OF ロボコン イ⚪テQ】

 

 

「ついでに視聴者プレゼントでマダオのWi-Fiつけたらいいんじゃね?やべ、優勝間違いなしだ、コレ。」

 

 

『いいわけあるかァァァァァァ!!それ他局の番組ィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!』

 

 

結局、収拾がつかなくなったので、三人がそれぞれ考えたチーム名を改めて議論した。

 

緑の衣装に身を包んだ春日が提案する。

 

「チーム⚪望の党。ユーザーファーストのためのクリーンなロボット社会を目指します!」

 

対する銀時も提案する。

 

「チーム立憲甘党。排除されたロボットたちよ、今こそ集まれコノヤロー」

 

 

 

『お前らいい加減にしろォォーーー!!』

 

本日何回目かの新八の叫びがこだました。

 

 



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第四十一話 雪ではしゃぐのは子供だけ

それはある日の休日のこと。

 

春日は校庭にいた。こんな寒空のなか、わざわざ外に外出することはめずらしい。春日は正真正銘のこたつ族で暖かいこたつに籠るのが常だ。

 

そんな春日が外にいる理由はズバリ、雪が積もったからである。

 

マフラー、手ぶくろ、コート、耳当て、ニット帽、ホッカイロ、すべての装備を装着した春日。外見がベイマッ⚪スにみえるのは気のせいだ。

 

 

「あ!目が死んでいるおにいちゃんだ!」

 

トテトテと駆けてくるのは、あむの妹、日奈森あみ。あみはあむといっしょに、雪だるまをつくるために校庭に来ていた。

 

「あー。覚えてるよ、

 

 

 

 

ひまわりちゃんだったよね?」

 

まったく検討違いの答えだ。

 

「久我くん、それは消しゴムしんちゃんの妹の名前じゃん!この子はあみ!」

 

「おー。そーだった。悪ィ、悪ィ。」

 

「いいよ、あみ、許す!それより、いっしょに雪だるさん、つくろ!」

 

そんなこんなで春日たちは雪だるまをつくることになった。

 

-------------

 

ところ変わってロイヤルガーデン。

 

なぎひこの新J就任がきまり、唯世と、なぎひこ、空海が集まっていた。空海曰く、裏ルールがあるらしい。簡単にいうと、王さま(唯世)のわがままをきくこと。基本的に女の子には紳士的な、なぎひこだが、男には手厳しい。マッサージをさせると、指の力が強く、唯世のリアクションタイムになっていた。そして、話はなぎひこの女装に移り、二人はなぎひこの機敏に触れてしまった。

 

「そんなに言うなら履いてみる?」

 

なぎひこにロックオンされたふたりに逃げ場はない。

 

 

-------------

 

そして、校庭では。

 

「日奈森よォ、お前何?何勘違いしてるのか知らないけどよ。

 

これ、アレだよ。

 

 

 

 

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよ」

 

 

「アームストロング2回言ってんじゃん!あるわけないでしょ、こんな雪だるま!!」

 

真面目な顔つきで語る春日。どうやら今日のツッコミはあむのようだ。銀時も春日に続けて言う。

 

「キャラなりキャラなりって最近過敏になりすぎてんだよ。お前は意識しすぎ。

 

別におれが春日とキャラなりしてないからとか不満におもってねーし?×たまの浄化のオイシイところ持っていかれて悔しいとかおもってねーし?

 

ったく、最近の小学生は大小の雪の塊が2つできてるのが雪だるまだとか言ってすぐ話をそっちに持っていくんだよ。」

 

「それは《芸術》をわかってないね。あむちゃんしばらくボクに話かけないで」

 

ミキまで頭のネジがおかしくなったようだ。

 

「いや、だって、明らかにおかしいじゃん!じゃあ、一体何なの、それ?」

 

あむがひとり疑問に思っていると、結木ややが校庭にやって来た。

 

 

「あれ、あむちーだ!久我っちも!みんな来てたの?」

 

「あ、やや!ちょっと、久我くんたち止めてよ」

 

ややがあむに「任せて!」と、サインをした。そして、例のあれをみた。

 

 

「なぁんだ!ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だ!完成度たけーなオイ!!」

 

 

「えぇぇぇぇぇ!!なんで知ってんの!?あるの?マジであるの?あたしだけ知らないの!?」

 

 

「江戸城の天守閣をぶっとばし江戸を開国させた決戦兵器だよ、あむちー。社会で習ったじゃん!」

 

「何、こんな格好悪い大砲にやられたの?あたしたちの国は!?そもそも江戸って無血開城じゃなかった!?」

 

あむのいう江戸と、ややのいう江戸。ふたりの《江戸》違いで会話が噛み合っているようで通じてない。

 

続けて、真城りまがやって来た。雪像はあみのリクエストですべり台が設置されていた。ソレを視界に入れたりまは思い出したかのように言う。

 

 

「アラ?ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。完成度たけーなオイ!!」

 

「もう原型ないのになんでわかるの!?」

 

「惑星セザーンとキャーシャーンの星間戦争においてセザーン側を勝利に導いたメゾット砲とは裏腹に、ずっと倉庫に入れっぱなしだった悲しき兵器......笑えないわね」

 

相変わらず笑いに厳しい少女だ。

 

「どうでもいいし、長い!!

 

一旦休憩して寒いからロイヤルガーデンで暖まろ、みんな!」

 

-------------

 

 

一行はロイヤルガーデンへ向かう。あむが扉を開けると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か女子制服のスカートを履いた唯世と、なぎひこにスカートを履かされている空海の姿があった。

 

それをみた春日はスマホをかざしながらシャッターをきり、言った。

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度たけーなオイ!」

 

「やあ、あむちゃんたち。バカ面下げて本当にしょうもないアームストロングでしょ?」

 

目が笑っていない笑顔のなぎひこが軽く挨拶する。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は周知されているらしい。

 

 

「えぇぇぇぇぇーーー!!!!」

 

あむのツッコミも崩壊した。

 

 



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第四十二話 AIBOU

 

 

「......はぁ。どうしよう.........」

 

 

その日はあむのため息から始まった。

 

 

--------------

 

 

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だとかいう雪だるまをつくって、ロイヤルガーデンで女装してる唯世たちをみて、なかなかハートフルな一日のおわり。

 

帰宅したあむはあったかい自分の部屋へと向かう。

 

 

どういうわけか、手負いの猫、否、猫人間が倒れていた。

 

 

なんやかんやで猫人間こと、月詠イクトをかくまうことになったあむ。

 

本来、月詠イクトはイースター側の人間で、自分たちガーディアンの敵。ロイヤルガーデンのお茶会で、イクトのことを報告しようとしたが、言い出せなかった。

 

そんなわけで冒頭のため息である。

 

「......どうしよう...はぁ......」

 

場所は【学び舎 16時の記憶】と囁かれる春日率いるものつくり部の部室。由来は至るところから仕掛けられたトラップから抜け出せず、目が覚めたら16時、また入口からのスタート、保健室へ運ばれた勇者(生徒)は数知れず......という一連の流れがダンジョン攻略みたいだからだとのこと。ちなみに何故ならば16時なのかというと、入り口の壁時計が16時を示したままであるから。春日に電池交換の選択は今のところない。

 

「おや?

 

 

 

日奈森じゃないか」

 

重々しい雰囲気であむが目をあわせた。

 

 

「......あぁ、久我くん。

 

 

 

......なんて注ぎかたしてんの!?」

 

春日が紅茶のポットを高く持ち上げ、カップに注ぐところだった。今日はどことなく紳士的にみえる。

 

「よぉ!暇か?」

 

「暇にみえます?」

 

銀時をちらりと一瞥して、春日はチェスの駒を並べる。

 

 

「......みえねぇな。たまにはコーヒー牛乳でも飲むか」

 

 

ガララと勢いよく扉があき、なぎひこがやってきた。

 

「妙ですねぇ......君がここに来るなんて、まるで梅干しが入ってないおにぎりじゃないか」

 

「いや、なにも問題ないよ、そのおにぎり!!むしろ、食べやすくなってるよ!!」

 

春日は優雅に紅茶(砂糖五杯)を口に含み、ざらざらとした舌触りのそれをあじわった。

 

 

「それより、日奈森。何か悩んでるみたいだな。そうだ!藤咲君に頼んで、君の親友とやらの藤咲なでしこにきいてもらったらどうだい?」

 

妙に紳士ぶった春日が名案とばかりに言う。

 

「な、なんでぼくが......」

 

「なでしこ!?」

 

あむの沈んだ気持ちが沸き上がった。あむのキラキラとした目がなぎひこに向けられる。

 

 

「ハハ。細かいことが気になるのがぼくの悪い癖。さあ、日奈森。話してみろ。安心しろ。彼がなでしこになってきいてやる」

 

 

「お言葉を返すようだけど、久我くんの茶番劇に付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいよ......」

 

 

「はいィ?」

 

あきらめた表情でなぎひこは自身の長い髪をひとつに束ねた。

 

ポツリポツリとあむが話し出す。

 

なぎひこはタイムリーな話題すぎて、なんとも言えない。なぎひこも自分がなでしこと双子だと周囲に嘘をついているから。実際は同一人物だが。

 

 

「した方は忘れても、 された方はいつまでも傷となる。」

 

ボソッと言った春日の言葉があむとなぎひこのハートを突き刺す。あむの心中は唯世への懺悔が溢れ始めた。

 

 

 

「たとえ嘘がばれなかったとしても、幸せになれなかったと思う。偽りで始まったものは、その後もずっと偽りの人生でしかないのだから。」

 

 

 

春日のその言葉は自身に向けて言った。お忘れかも知れないが、春日の前世云々も含めて、春日は嘘をつきすぎた。また、なぎひこも思うところがあるのか、なにも言い返せない。

 

重苦しい空気が漂うなか、春日が突然声をあげた。

 

「ぼくとしたことが!大事なことを見落としていました!!」

 

 

 

「そんなにあわててどうしたの、久我くん。」

あむが心配そうに声をかける。

 

 

 

「おぅ、最後にひとつだけ。藤咲にちょっと......」

 

「ぼくがなんだって?」

 

「......いや、なでしこのな、その、よかれと思ってアイツのプロマイドで一儲け......ゲフン、ゲフン、まぁ懐があったかくなって」

 

「......へぇ」

 

心なしかなぎひこの目が笑っていない。

 

「お前とアイツさすが双子だよなー。そっくりだなぁ、こりゃ、もうひとつ、いや二つ!もうけれるな!」

 

「おんどりゃァァァァァァァァ!!!」

 

それからははやかった。あまりの突然のことにあむも何が起こったのか頭が追い付かない。ただ、すべてを終えたなぎひこの顔は晴れやかだった。

 

 

【学び舎 16時の記憶】と呼ばれる部屋の前で気絶した春日の姿が目撃された。

 

 

どうしてそんな事態にいたったのか。

 

 

誰もわからない。

 

 

 

真実は闇に葬り出された。

 

 



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