常識人は衰退しました (makky)
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第1章:新しい非日常との出会い だいいちわです?

 この町は私の故郷だ

 幼い頃、それこそ物覚えついたときから、私はこの町で生活してきた

 

 そして同時に、私はこの町が嫌いだった

 

 右を向いても左を向いても、目に飛び込んでくるのは奇想天外な事ばかり

 ある日は路面電車を追い抜いていく上級学年生を見て

 またある日は自身の十倍を越す樹のてっぺんにある風船をジャンプで取るスーツのおじさんを見て

 はたまたある日は一人を殴ったはずなのに周りにいる人間全員を吹き飛ばす道着姿の女性を見てと

 

 はっきり言おう、この町はおかしい

 おかしいことがおかしくないくらいにはおかしいのだ

 

 このおかしな現象を「おかしい」と認識しているのは、どうやら私だけだったようだ

 ようだ、というのは誰に話しても誰に聞いても返ってくるのは

 

 「それが普通でしょ?」

 

 という、私の常識を木っ端みじんにしてくれる言葉だけだったからだ

 小学校三年生の出来事だったのは、今でも嫌と言うほどよく覚えている

 

 きっとあのまま行けば、私は確実に歪んでいただろう

 誰も私の言うことを「正しい」と感じてくれない

 そんな状況が続けばきっと私のことだ、その違和感を心に押し止めて噛み殺してしまっただろう

 そして何かしらの形で反動を受けて、それはそれは人前に出して恥ずかしい趣味に没頭したに違いない

 私が言うのだ、絶対間違いない

 

 だからこそ

 

 本当はこんなことに言いたくはないのだが

 

 言いたくはないのだがーー

 

 ーーにんげんさんおなやみごとですか?

 ーーぼくたちでよければそうだんにのりますよ?

 

「あー…大丈夫だ、明日のお菓子を何にするか考えていただけだ」

 

 この不可思議を凝縮して無添加のまま作ったような彼等には

 

 ーーおかしー!

 ーーやったですー!

 ーーいまからたのしみなのです

 ーーはやくかえりましょう

 ーーおかしのひはあしたです?

 ーーたのしみはとっておくものです?

 

「分かった、分かったから増えないでくれ。慣れたとは言え結構大変なんだよ」

 

 この小さな幸せをくれた彼等には

 

「ーーありがとうな」

 

 私ーー長谷川千雨は小さくお礼を言っておこうと思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、明日のおやつ作りの材料購入のためスーパーに来ているのだが、ひとつだけ守るべきことがある

 タイムセールの時間に近づかない、だ

 え?混雑時を避けるのは普通だろって?

 そんな理由だったらわざわざ「守るべきこと」なんて前置きしないさ

 一番問題なのは、その時間帯に遭遇したくない連中が集中するから

 遭遇したくない連中、それは私のクラスメイトだ

 この時間帯、だいたい四時過ぎごろは部活をしていない寮生活の面子が集中しやすい

 そしてここの女子中等部は原則寮生活だ

 遭遇率がひじょーに高い

 そんななかでも一番出会いたくないのがーーー

 

「…あーもう、ついてねーな」

 

 緑色の髪、人形のような白い肌

 そして隠そうともしない頭の二つのアンテナ(のようなもの)

 私のクラス、2-A不可思議クラスメイト上位の絡繰茶々丸である

 

(今日はよりによってあいつか、苦手なんだよな私…)

 

 表情のないその顔は、どう見ても無機質そのもので

 張り付けた感情すらない、まっさらな白画用紙を見ている気分になる

 

 ーーいやもう勿体振るのはよそう

 そう、あいつはロボットだ

 正確に言うとガイノイドらしいがそんなことはどうでもいい、重要なことじゃない

 自分のクラスメイトがロボット(生後4ヶ月)と知ったときのおどろきっぷりは、その次の日のおやつ作りで四品作ってしまうほどのものだった

 そんな彼女も今では立派な中学生(生後2年)になりまして

 私の精神力は無事に全快してーー

 

 くれるとよかったんだがな…

 

 彼女は確かに不可思議クラスメイトの上位には入る

 入るのだがそれでも順位は低い

 ロボット程度ではあのクラスの最上位にはなれないのだ

 最上位と言うのはそう、彼女とよく一緒にいる年齢詐称の女子中学生だろう

 …僅差で一位というところがミソなのだが

 

 言い出すときりがないからこの辺で終わりにしよう、今は目の前の問題に取りかかるべきなのだから

 

 絡繰茶々丸は先程も言った通り無感情のクラスメイトだ

 うっかり顔を合わせたとしても「こんにちは」程度で終わらせてくれるくらいには私に無関心だ

 

 問題はそっちじゃない

 彼女がいると時折、本当に時折なのだが

 先程話題に出した中学生にしては背が低い、金髪の海外留学生(担任談)がいることがあるのだ 

 

 その海外留学生は、学校の授業には殆どでない

 出ても平気で居眠りをする

 と言うか学校来て一番長くいる場所が屋上

 周りとの会話は一切と言ってよいほどなく

 「…ふん」とか平気で投げ返してくる

 一体何のために留学しているんだと言われそうな、不良中学生なのだーー表向きは

 

 正直に言おう、私はどうにかしてクラス替えをしてもらいたい

 このまま中学卒業まで一緒だなんて悪夢以外の何者でもない

 そうだ、彼女はただの海外留学生などではない

 

 おとぎ話の中だけに生き、ただただ恐れられるだけの存在

 人の血を啜り、眷属を生み出す

 そう彼女はーー

 

「ほんと、ついてねーな…」

 

 ーー目の前にいる彼女は、吸血鬼と呼ばれるものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔先に立たず、何て言うことわざがある

 どれだけの後悔であっても必ず後に立つということ

 つまり後悔は先には来ないのだ

 そう今自分が置かれている状況もまた、後悔なのだから

 

 (焦るな、ここで挙動不審な行動を取ったらそれこそ命取りだ…)

 

 慌てて店を出る、視界から急いでそれる

 そんなことをすればきっと一発で怪しまれるだろう

 彼女相手にそこまでバカなことはできない

 必要なものを急がず普段通りに取って店を出る、それで十分だ

 

 ーーにんげんさんおこまりのごようすですが?

 ーーぼくらがなんとかしましょうか?

 

 だから頭の中に聞こえてくるこれは無視しなければいけないのだ

(…落ち着いて考えてみれば、あいつはこっちが何かしないと敵対しないんだったな)

 

 考えすぎて思考が固くなってしまっていた

 そうだ、彼女は敵対者には厳しいがそれ以外に害を与えることはしない

 ーー無視してしまおう

 相変わらずの事無かれ主義、なんとでも言うといいさ

 そうと決まればさっさと買い物を終わらせてーー

 

「こんにちは長谷川さん」

 

 聞きたくなかった声が後ろから聞こえる

 振り替えれば、いつの間にやら近づいていた絡繰茶々丸

 なんで声かけてるんだよこいつは、もう少し空気ってもんをーー

 

「何をしている茶々丸、はやくせんか」

 

 まさかのご本人登場、感動のあまり頭が痛くなりそうだ

 

「はいマスター、長谷川さんを見かけましたのでご挨拶を」

「長谷川?…ああ同じクラスにいたな」

 

 どうやら彼女の中での私はその他大勢のうちの一人程度らしい、いやいいんだが

 

「長谷川さんも買い物でしょうか?」

「…それ以外にスーパーに来る用事があるのか?」

「世間にはさまざまな方がいらっしゃいますので」

「あたしをそこに分類するんじゃねぇ!」

 

 全くもって失礼なガイノイドである、親の顔が見てみたい

 …脳裏に似非中国人とマッドサイエンティストが浮かんだので考えるのをやめる、やっぱ出てくんな

 

「さっさと帰るぞ茶々丸、油を売る趣味は無い」

「わかりましたマスター」

 

 どうやら長話をする気はないらしく、せかす彼女について絡繰茶々丸はレジの方へと向かう

 

「相変わらず、なんというかなぁ…」

 

 遠ざかっていく金髪少女ーーエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの背中を見送りながら、私はお菓子の材料コーナーへと向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーどうだった茶々丸」

「誤差の範囲でですが微弱なノイズを検知しました」

「どのタイミングでだ?」

「私が長谷川さんに話しかける直前に2回」

「あいつ自身からノイズが、か」

「先程も述べた通り微弱のため誤差の可能性も十分にーー」

「可能性があるだけでも御の字さ」

 

 店を出てしばらくした道で、吸血鬼の主人とガイノイドの従者は話す

 先程偶然出会った、あるクラスメイトについて

 

「くくく、あいつが怪しいから気を付けろと言うから気にはなっていたが、なかなか面白い奴じゃないか」

「マスターは長谷川さんの事をどのように?」

「あいつか?あいつはな、面白いほどに『面白くない』のさ」

 

 従者の質問にニヤリと笑いながら返す吸血鬼、その顔はまるで新しいおもちゃを見つけた子どものようだった

 

「こんなところに14年も閉じ込められて退屈していたが、どうやら暇潰しにはなりそうだな」

「暇潰しですか」

「ああそうだ。もうじき待ちに待った獲物がやって来る、その前座にでも遊んでやろうじゃないか」

 

 欧州に知らぬものなし、恐れられる代名詞

 600年を生きる伝説の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはそう言って歪んだ笑みを見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァが長谷川さんと遭遇したみたいネ」

「あー、前から一度面と会ってみたいって言ってましたもんね」

「どうやらさらりとした初遭遇になたみたいだけれど、エヴァはかなり興味を持たみたいネ」

「うーん、長谷川さんですか。私のなかではかなり大人しいイメージがあるんですが」

「もちろんその通りネ。長谷川さんは大人しく悪目立ちしない、あのクラスのなかでは逆に目立つ性格の持ち主ネ」

 

 大量に設置されたディスプレイの部屋、そこに頭を白い団子のような布で二つにまとめたーー所謂包子頭の少女と、お下げに丸眼鏡と言ういかにも科学者な風貌の少女が、あるガイノイドからもたらされた情報を共有していた

 

「じゃああのクラスにいる一般人の一人なのでは?」

「いーや違うネ。長谷川さんは間違いなく此方側の人間、それも私と同類の人間ネ」

 

 座っていた椅子から立ち上がり、映像が写し出されているディスプレイを眺める少女ーー超鈴音は言う

 

「えー…そうですかー?」

「ム、納得してないね葉加瀬」

 

 超の言葉に納得いかない様子の少女ーー葉加瀬聡美はそう答えた

 

「長谷川さんはどちらかと言うと文系なのではないでしょうか、とても超と同じには…」

 

 そう言った葉加瀬に超は

 

「クフフ、それは外面の話ネ葉加瀬。それじゃあ見えるべきものは見えないネ」

 

 座り直した椅子をくるくると回して超は葉加瀬に向き直る

 

「もちろん長谷川さん自身が私と同類の人間とは言てないヨ。肝心なのは内側にあるものネ」

「内側、ですか?」

「そうネーー巧妙に隠したつもりかもしれないが、確かにそこにある。見えないのに見えているーー気持ち悪い物が、ネ」

「の、割には楽しそうですね超」

「当然ヨ!」

 

 椅子をひっくり返しそうな勢いで立ち上がる超は高らかに宣言した

 

「彼女は私のーーいや私たちの遥か先にいる!私たちがたどり着くべき場所に彼女はもういるネ!科学者としてなんとしてでもその秘密を明かさなければならないネ!」

 

 澄みきった狂気の目をしながら、遥か未来から過去を変え自身の運命さえも変えるためにやって来た少女、超鈴音は決して届かない宣戦布告を彼女に叩き付けたのだった



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だいにわです

 昨日の遭遇劇をとりあえず頭の片隅に追いやり、女子寮を出る

 始業ベルまであと30分、この時間はまだ寮の前の道路も人通りは少ない

 しかし私の記憶が正しければ今週は「遅刻者ゼロ週間」だ

 おそらくあと20分ほどするとすさまじい人であふれることになるだろう

 

「さて、今日も頑張りますか」

 

 普段通りの一日を普段通り過ごそうと決意して――

 

「……あん?」

 

 左手首につけたものが目に入る

 

「…おいおい嘘だろ」

 

 ピンク色に光っているそれは、彼らが私の生活を『お手伝いする』ために作ってくれたものの一つだ

 その日一日の間に私にとって嬉しくないことが起こると、普段は白色のブレスレットがピンクに光りだし、その原因を目にするとちょっとした仕掛け――ブラシが出てきてくすぐってくる――が始動する

 

 その名も『予感ブレスレット』

 

 彼ら曰く

 「たのしくないことがあるなら、えがおになってたのしくなるです」

 と相変わらず何を言っているのか要領を得ない

 

 だがこいつのおかげで小学校3年生からこの方「君子危うきに近寄らず」に徹することができた

 問題があるとすると、一度反応した相手には反応しなくなってしまうことだろうか…

 

「はぁ…決意した先からこれかよ…」

 

 今すぐ引き返してベッドに潜り込みたくなる衝動を押さえつけ、先ほどより重くなった足を引きずって私の母校――麻帆良学園女子中等部へと向かうのであった

 

――――――――――――――――――――

 

(勘弁してくれよ…)

 

 今目の前で起こっていることから目をそらしつつ、私は内心頭を抱えていた

 

 始業時間前から、クラスのいたずら仕掛人3人が扉や教卓周りにいたずらを仕掛け終わって少しした後に

『ああそういえば新任教師が来るとかなんとか言っていたなぁ』

 と思いだし、それが私にとっての厄介ごとだと理解しているときに、それは入ってきた

 

 扉に黒板消しという古典的なトラップの仕掛けてあった扉から入ってきたのは、想像していた教師像と全く異なっていた

 

 赤い髪に眼鏡、きっちりとスーツに身を包んでいるがその幼い顔立ちと身長

 そう、どう見ても未成年どころか私たちよりも幼いのだ

 

 そんな彼の上に挟まっていた黒板消しが落下していく

 そして、私の見間違いでなければ、できれば見間違いであってほしいが――

 

 ほんの一瞬だけ少年の上で静止した

 

 一瞬制止した後、まるで思い出したかのように頭に直撃し、そのあとは足元の縄に引っかかり頭上から水入りバケツが落ち、3本ほどの矢(吸盤式)の餌食になり教卓に激突して止まった

 

 仕掛け人を筆頭にクラスメートが少年に群がったところで、しずな先生が一度仕切り直し――

 

「今日からこの学校でまほ…英語を教えることになりました『ネギ・スプリングフィールド』です。3学期の間だけですけどよろしくお願いします」

 

 その言葉にクラス中が大騒ぎになったところで冒頭に戻る

 

(特大級の厄ネタだぜまったく…)

 

 ちらりと前を見てみれば自己紹介した少年――ネギ先生はクラスメートにもみくちゃにされていた

 

(作るお菓子の種類増やすか…?)

 

 こういう時は菓子作りで誤魔化すに限る

 帰りがけに追加しようかと考えていると

 

「――何かおかしくない?あんた」

 

「…あん?」

 

 もう一度前を見るとクラスメートの神楽坂明日菜がネギ先生につかみかかっているところだった

 

 なんだ喧嘩か?いきなり教師に暴行は流石に不味いだろ

 と思っているとクラス委員長の雪広あやかが止めに入る

 

 止めに入ったんだが「凶暴なおサルさん」なんて神楽坂に言っちまうもんだから、今度は神楽坂が「このショタコン」とか言い返して、取っ組み合いに発展してしまった

 いや止めに入ったんじゃねーのかよ委員長

 おまけにオジコンとか言い返してるし、相変わらずお前たち仲が悪いな

 

「……大丈夫なのかこのクラス?」

 

 今に始まったことではなかったが、呟かずにいられなかった

 

――――――――――――――――――――

 

 そのあともまあ色々と酷かった

 酷いというとあれかもしれないが、他に表現のしようもないのだから仕方がない

 

 あの後ようやく授業に入ったはよかったが、先生の身長が低く黒板の上に手が届かないわ

 委員長がどっから取り出したんだよと突っ込みたくなる金ぴかの踏み台を出してくるわ

 何か気になったようで、神楽坂がちぎった消しゴムを先生に当てまくるわ

 それをチクった委員長に筆箱をぶつけて乱闘第二ラウンドをおっぱじめたりと

 

 どう考えても初日に新任の教師が受けるような仕打ちではないが、この学校ではよくあることなのでスルーする

 

「さてと、何買おうかな」

 

 とりあえず授業が無事に終わったので追加でお菓子の材料を買いに向かう

 何やら教室ではネギ先生の歓迎会をするとかで盛り上がっていたが、私がいなくても大して変わらないだろうと気付かれないように抜け出してきた

 

「チーズケーキに合うようなお菓子か…味が濃ゆいからさっぱりしているお菓子がいいかな…」

 

 なんて考えて歩いていると、あるものが目に入る

 

「あれは、宮崎か?」

 

 10冊以上の本を抱えて、階段を降りようとしているクラスメートの宮崎のどかだった

 どう見てもひとりで抱えられる冊数ではない、せめて台車かなんか使えよと思い声をかけようとすると

 

「あっ」

 

 なんて短い声を上げてバランスを崩した

 

「クソッ――」

 

 駆け寄ろうとして走り出す

 だがどう考えても間に合わない距離

 

(使える遺留物を…ってな?!)

 

 そこに見えたのは杖を宮崎に向けているネギ先生だった

 次の瞬間

 今にも地面に落ちそうだった宮崎は地面すれすれで――浮いた

 

 そう

 

 まるで『魔法』みたいに

 

――――――――――――――――――――

 

「ハァァァ……」

 

 自室の床に座りながら、あたしは盛大に溜息を吐いた

 

 あの後咄嗟に反対側の階段の影に隠れてやり過ごしたが、ネギ先生はそこに居合わせた…いや居合わせてしまった神楽坂にどこかへ連れ去られてしまったようだ

 

 その後のことは知らないが、助けられた宮崎は放っておいてよかったのかと良心の呵責が今になって出てきた

 

「まぁ…大丈夫だろ、多分」

 

 他人の心配をしていられるほど今の自分に余裕はない

 心を落ち着けるためにも、まずはお菓子作りに取り掛かろう

 

「ってしまった追加のお菓子の材料…もういいか今日は」

 

 あんなことがあった後に改めて買い物に行く余裕すらないあたしは、予定通りチーズケーキのみ作ることにした

 

「にんげんさんおつかれのようです?」

「きょうおかしはなしですか?」

「おかしなしはとてもかなしいです」

「なんとしてでもつくってもらうです」

 

「呼んでもいねぇのに出てきているし…」

 

 卵と砂糖を混ぜていると、4人ほど出てくる

 

「ちゃんと作ってやるから安心しろ…というかあたしのためにも絶対作ってやるから」

 

「やったです!」

「きょうはけーきみたいです?」

「あまいけーきがいいです」

「これはきたいだいです」

 

 こいつらはお菓子のことになると元気になる、そしてお菓子を作ってやるとすごく喜ぶ

 甘ければ何でもいいらしいが『やっぱりお菓子がいい』とは、いつ聞いた言葉だろうか

 それ以来見様見真似、というよりレシピとにらめっこを続けて、簡単なものであればなにも見ずに作れるほど上達した

 

「良い事かどうかって聞かれりゃ、まぁ良い事に違いはねぇけどさ…」

 

 食べさせる相手が目の前のこいつら以外いないというのは嘆くべきことなのだろうか

 ヨーグルトを加えさらに混ぜたものにホットケーキミックスを混ぜながら、次は何を作ろうかと考える

 

「んー、次はチョコ菓子に挑戦してみるか…チョコパイ、はオーブンがいるか…」

 

 ダマがなくなったことを確認して、炊飯釜に油を敷き生地を入れる

 

「こういう時は高性能な炊飯器でよかったと思うな」

 

 ケーキコースのボタンを押して、後は出来上がるまで待つのみだ

 

「本当ならなんかついでに作るんだが、材料ねぇから仕方ないな」

 

 時間があるため本棚にしまってある『面白図書鑑』を取り出す

 自分の読みたい本の内容を読ませてくれるという優れもの

 クラスの本の虫に見せたら大変なことになるに違いない

 おまけにどの時代のどんな本でも読めるため、()()図書館島より読めるものはおそらく多いだろう

 …水没していても本が読める図書館だから怪しくはあるが

 

「にんげんさんにんげんさん」

 

「…ん?どうしたきゃっぷ?」

 

 初めて会った時、なんとなくリーダーっぽかったのでそう名付けた奴が話しかけてくる

 

「さきほどのことはどうするですか?」

 

「……」

 

 答えにくいことを平然と聞いてきやがって…

 

「どうするもこうするも『無視するだ』もちろん」

 

「むしですか」

 

「どうしようもねーからな、生憎と」

 

 首を突っ込むつもりはない、今まで通り距離を取り続けるだけだ

 

「あたしは、それでいいって決めたんだからな」

 

 

 

 

 

『なんでそんな変なこと言うの?』

 

『千雨ちゃんおかしいよ』

 

『どうでもいいじゃないかそんなこと』

 

『他の子と違って妙なこと言うのね』

 

 

 

 

 

 自分が他人と違う

 

 納得したことは一度もない

 

 理解したかったわけじゃない

 

 これはきっと、諦めなんだろう

 

「……」

 

「にんげんさんがそういうのならいいのです」

 

 察したのかどうかは分からないが、きゃっぷはそのあと何も言わなくなった

 

「ほんと、めんどくせぇな…」

 

 そう呟いて、あたしは『面白図書鑑』に目を落とし読書を再開した

 

 ――ついでに言うとチーズケーキは大好評だった

 

――――――――――――――――――――

 

 翌日から先生の授業が本格的に始まったが、まあ特筆するほど良くも悪くもなかった

 

 こりもせず黒板消しをセットしていた扉からネギ先生が入ってくるが、一緒に入ってきた委員長にキャッチされ今回は不発に終わる

 

 その後の英語の授業では例文の和訳で神楽坂が指名され、それはもう散々な目にあった

 例文が長く訳しにくいものであることは分かるんだが、本人の学力の限界を大幅に超えてしまっているため『ブランチ』とか『骨が百本』とか出てきてしまった

 

 人のことは言えないんだが

 

 そして先生、いくらそう見えたからって教師が「英語ダメ」って言うのは良くないだろ…

 

 なんて思っていると突然ネギ先生がくしゃみをした、それはもう盛大に

 どれくらい盛大かと言えば、掴みかかっていた神楽坂の服が吹き飛ぶくらいに

 

 ……

 

 よし!あたしは何も見なかった!いいな?

 

 そういうことにした

 

~~~~~~~~~~

 

 そういうことにしたのになぁ…

 

「ああーー!やめっ…やめてくださいーっ」

 

 放課後になり、先生が大慌てで教室に入ってきて神楽坂と何やら話をした後

 ネギ先生が持っていた小瓶の中身を本人に飲ませたら、さあ大変

 

 まるで惚れ薬でも飲んだかのようにクラス中の女子がネギ先生に群がっていく

 

 あーそういえば昔似たもん渡されたなーあんときは異性にじゃなくて動物にめっちゃ好かれたけど

 

 なんて思っているとネギ先生が教室からダッシュで逃げていった

 

 その後の行方は知らないが、考えるだけ無駄というものだろう

 

(持っててよかった『あっちいってポイ』)

 

 厄除け用にあらゆる効果(毒を含む)を無効化するお守り袋のような遺留物だ

 

 まさか二日目で効果を発揮するとは思わなかったが、周りの誰も気が付いていない様だ

 要注意人物たちはすでに教室にいない…あぁいや一人いたか

 まあこっちに目もくれずに、惚れ薬(仮)の餌食になったお嬢様見て若干動揺しているから大丈夫だろ

 

「…明日こそ平穏でありますように」

 

 そう願うばかりであった

 




『予感ブレスレット』
使用者本人にとって喜ばしくない事がその日のうちに起きるとき、ピンク色に光って知らせてくれる遺留物
さらにその喜ばしくない事を引き起こす人物に遭遇するとブラシが現れて使用者にくすぐって知らせてくれる

『あっちいってポイ』
 媚薬毒薬しびれ毒麻薬即死毒ets…どんな猛毒だろうと無効化する遺留物
 見た目は白い袋に赤い字で『厄』と書かれているお守り
 ちなみにメインは毒物だが副作用として催眠洗脳魅了服従などのいわゆる「厄い」ものにも効果を発揮してくれる


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だいさんわらしいです

 あのネギ先生は、色々と珍しいこの学園でも話題になるほど珍しいらしい

 先生が来てまだ5日だが、学園中等部だけでなく高等部の方でも話題になっているそうだ

 話題になっているらしいんだが――

 

「「「ゴーゴーレッツゴー!!2-A!!」」」

 

 ――だからと言ってなぜ高等部の先輩方とドッジボール対決をすることになってしまったのだろうか

 

――――――――――――――――――――

 

 事の始まりは昼休み時間の場所取りで、高等部の先輩方と言い争いになったのが原因らしい

 

 その際は前の担任高畑先生が間に入って事なきを得たようだったのだが、今度は午後の授業で屋上のコート使用でダブルブッキング(高等部の校舎は隣なのでかなり怪しいが)してしまった

 

 そこでネギ先生がスポーツで勝負を決めようと提案した

 高等部11人対中等部22人というハンデ付きで、中等部が勝てばコートから出ていき昼休みの邪魔も今後しない

 高等部が勝てば、なぜか知らないがネギ先生が高等部の担任になるらしい

 

 そんな大事なこと生徒だけで勝手に決められないはずなんだが、お互いやる気になってしまっているので仕方がない

 

 そんな中で始まったドッジボールだが、ドッジボール用のコートに22人もいれば当然密集するわけで

 

「開始早々7人外野行きか」

 

 御覧のありさまというやつだ

 

「み、みんな固まらないで散らばって!!」

 

「的にされますわよ!!」

 

 神楽坂と委員長の二人が慌てて指示を出すが、相手は背中を向けている相手に標的を変える

 

 1人は外野送りにできたが2人目は神楽坂が止める

 

 これだけ強いのは想定外だったが、聞けば先輩方は麻帆良ドッジ部らしく、関東大会優勝経験ありとのこと

 そりゃ強いわけだわなと1人納得する

 

 こういうのは外から見て楽しむのに限る

 先輩方が『トライアングルアタック』とやらを繰り出し、主戦力の1人委員長が脱落

 

 なるほど、三角形に布陣してボールをパスしあって攻撃する戦法らしい

 名前はあれだが実に理にかなった戦法だろう

 

 ――現に今私もその戦法の餌食になって敢え無く外野行きになったわけだが

 

 昔っからこういう運動は苦手で、もっぱら屋内での活動――読書主体だが――しかしてこなかった

 友達らしい友達もいなかったし、気が付けば読書からお菓子作りにメインが移っていたりして

 まぁ、楽しい時間を過ごしてきたつもりではある

 

 そういえば明日から週末に入るから、何か大掛かりなお菓子でも作ってみるか…と考えていると2-A陣営で動きがあった

 ネギ先生が何やら声をかけるとみんなやる気になっていた

 

 その後はもう、なんといってよいのか分からない状況だった

 宮崎がどこからともなく取り出した体育のルールブック集に則り高等部チームから反則を取ったり

 相手が投げてきたボールをサッカー部の和泉亜子が弾丸ボレーの要領で蹴り返したり

 それを真似してかバスケット部の明石祐奈がダンクシュートをかましたり

 かと思えば新体操部の佐々木まき絵がリボンでボールを掴み連続アウトを取ったり――

 

「いやいや最後のはダメだろ流石に」

 

 思わず突っ込んだが、流石に最後のは反則だろ

 まあ先輩方の『トライアングルアタック』も、内野同士のパスになって反則だから強く言えないんだが

 

 そんなこんなあって最終的には10-3で中等部の勝利となった

 だがそれをどうも受け入れられなかったドッジボール部キャプテンがロスタイムとか言って神楽坂にボールを投げた

 それを直前に気が付いたネギ先生が間に入ってボールを体で止めた

 止めたと思ったらそのボールをはじき返して、その結果先輩方の服が吹き飛んだ

 

 ……

 

 よし!勝てたからそれでいいや!

 

 またそういうことにした

 

――――――――――――――――――――

 

 ドッジボール事件から日にちが過ぎ、学園内は期末テスト一色になった

 うちのクラス、2-Aを除いて

 

 正直に言えば、この学園はエスカレーター式なので中等部のテスト結果はそこまで反映はされない

 だが学年トップクラス3人に100位以内を4人出しているにもかかわらず万年最下位なのである

 理由はいくつかあり、100位圏内が7人いるが他は300~550位にクラスメンバーが集中しており、さらに――

 

「最下位圏に5人…間違いなく足引っ張ってんだろうなぁ、あの『バカレンジャー』達が…」

 

 時刻は20時、2年生737人中350番台をキープしているあたしは、そんなことを考えながら自室で勉強にいそしむ

 

 …いや自慢じゃねーからな?真ん中って自慢できるような順位じゃねーからな?

 

 他のクラスメートは知らねーが、流石にテスト前に勉強しないほどあたしは能天気じゃない

 …今日の放課後、突然野球拳始めたクラスメートは知らねーが(強調)

 

 カリカリと、あたしのシャーペンが書き走る音だけが聞こえる

 生憎同居人は今日も不在だ

 曲芸手品部に住み込んでいるらしいと聞いてはいるが、ありなのかそれは?

 まあ学園側が何も言ってきていないならいいんだろうが

 

 本来2人部屋であるところを1人で使うのは、どうにも落ち着かない

 がそのおかげでこっちもある程度好きに生活できるからいいのだが

 

「にんげんさんおつかれのようです」

「んー?まあな」

 

 以前自分で「さー・くりふとふぁー・まくふぁーれん」と名乗った奴が話しかけてくる

 よく見る何人かが部屋の中でくつろいでいる…っておいテーブルの上のお菓子を食べていいとは言ってねーぞ

 

「おかしをたべるなともうされますか」

「しくしく」

「もうだめだしのう」

 

 んな大げさな

 

「テストが終わったらちゃんとしたお菓子作ってやるから…せめて食べていいか聞いてくれ」

「わかりましたです」

 

 こういうところの聞き分けはいいんだが、一週間もしないうちに破るのが玉に瑕なんだよなぁ

 

「それよりもにんげんさん、よいのですか?」

「ん?何がだ?」

「もうすぐあの『き』がまぶしくひかるそうですが」

「『き』?…あぁ、世界樹のことか」

 

 そう言われて、学園中央に鎮座する巨大樹『世界樹』を思い起こす

 だが確かあいつが光るのは麻帆良祭中だったはずだが

 

「あと3か月くらいあるだろ?もうすぐって程じゃ――」

「22ねんぶりにぴかっとひかるのです」

「――あん?」

 

 22年ぶりに?何言ってんだ?

 

「せいかくには21ねんぶりです?」

「ほんとうはもう1ねんごのよていだったのです?」

「いじょうきしょうのえいきょうです?」

「ちきゅうおんだんかなのです?」

 

「おいお前ら、だから何言って――」

 

「ねがいがなんでもかなう」

「ちいさなねがいからおおきなねがいまで」

「きすからせかいせいふくまで」

「あ、でもせかいせいふくはむりです?」

「そくぶつてきなものはむりなのです」

「でもあいのこくはくはかなうです?」

「にんげんさんたちのこころをわしづかみなのです」

 

 …………

 

「…聞きたくなかったぜそんな話!」

「これもうんめいなのです」

「勝手に話しただけだろうが!ったく…」

 

 聞いちまったもんは仕方がない、切り替えていこう

 

「ま、あたしには関係ない話さ。告白するような相手もしてくる相手もいねぇし、当日近づかなきゃいいんだろう?」

「あの『き』のちかくにいればいるほどかないやすいです?はなれればこうかはうすくなるです?」

「んじゃ大丈夫か…」

 

 少なくともあたしには関係ないだろう、他の連中はどうか知らねーが

 

「今のところ一番心配なのは来週の期末テストだな…」

 

 いつの間にかいなくなっていたあいつらから気をそらして、あたしは勉強を再開した

 

――――――――――――――――――――

 

「2-A最下位脱出しないとネギ先生がクビーーーー!?」

 

 期末テストまであと2日という日、朝の教室に委員長の叫び声が響く

 

 クラス中てんてこ舞いだが、ネギ先生は一応3月までの教育実習生じゃなかったか?クビも何もと思わなくもない

 

「とにかくみなさん!テストまでにちゃんと勉強して最下位脱出ですわよ!その辺の普段真面目にやってない方々も!!」

 

 おいあたしまで名指しするな

 一応普通の点数とってるんだからな

 

「みんなー!たいへんだよーー!」

 

 そんな教室に飛び込んできたのは、漫画研究会兼図書館探索部の早乙女ハルナと宮崎のどかだった

 

「ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に……!」

 

 そう言って特大の爆弾を落としていった

 

――――――――――――――――――――

 

 話を聞けばネギ先生とテスト最下位組は勉強するために図書館島に向かったそうだ

 夜遅くに

 

 もうその時点で何しに行ってんだと言いたくなるが、その最中に図書館島名物のトラップに引っかかってしまい行方不明になってしまったそうだ

 

 一応ネギ先生もいるし、おそらく大丈夫とは思うが…

 

(仕方ねぇな…)

 

 せめて無事かどうかだけでも確認するべきだろう

 あれでも担任とクラスメートなのだから

 

 教室から気付かれないように出ていき、空き教室に入る

 

「確かこのかばんに…お、あったあった」

 

 持ち運んでいるかばんから紙とペン状のあるものを取り出す

 

「えぇっと図書館島に行ったのは…『ネギ・スプリングフィールド』『神楽坂明日菜』…」

 

 広げた紙に遭難メンバーを書き込んでいく

 

「…『綾瀬夕映』に、あと『近衛木乃香』っと…あれ?」

 

 今気が付いたが近衛も遭難しているのか

 

「何やってんだよお目付け役さんよぉ…」

 

 いやあの近衛のことだ、気付かれずにこっそり抜け出したとかそんな感じだろ…なおのこと良くはないが

 

「とりあえずこれで全員だなっと、あーこほん…『ひょっこりさんひょっこりさん、みんなの居場所を教えてください』」

 

 ペンを持ったままそう呟くと、ペンが勝手に動いて名前の横に文字が書かれ始める

 

 その名も『ひょっこりペン』

 落とし物や迷子が『ひょっこり』出てくる遺留物だそうだ

 

「えぇっと何々…『地底図書室』?」

 

 全員が同じ場所を指示した

 

「とりあえず全員無事か…」

 

 このペンは落とし物や迷子が『存在しなくなっている』と何も書かれない

 全員書かれたということは皆命に別状はないと考えていいだろう

 

「…これなら大丈夫か」

 

 もしもテスト当日になっても戻ってこなければ最悪学園側に知らせざるを得ないが、おそらくこのことは学園も把握しているだろう

 

「とりあえずやる気になっている委員長の言うとおりにしますかね」

 

 ああなった委員長はもう止められない

 

 抜け出したことがバレる前に、さっさと戻ろうと空き教室を出て

 

 扉の向こうに立っていた誰かにぶつかりそうになった

 

「っ…?!」

 

「……」

 

 褐色がかった肌、特徴的なピエロのペイント

 ここ最近教室でちらりと見るだけで、まったく言葉を交わしていなかった

 クラスメートにしてあたしのルームメイト

 

 『ザジ・レイニーデイ』が立っていた

 

――――――――――――――――――――

 

『あーハジメマシテ?』

 

『……』

 

 この女子中等部に入ることになり、ルームメイトになった彼女と初めて交わした言葉はそれだった

 

 交わしたといってもあたしの方から一方的に話しかけただけで、相手からの返事は一言だけだった

 

『きょ、今日からヨロシク…』

 

『…よろしく』

 

 あたしが憶えている中で、本人の声を聴いたのは後にも先にもこの時だけだった

 

 接点はクラスメートでルームメイト、ただそれだけ

 

 その日から彼女は部屋に戻らなくなった

 

 部室に泊まり込んでいるとクラスの誰かが言っていたのを聞いて、それっきりだ

 

 あたし以上に、クラスでは浮いた存在

 

 そして――

 

 『予感ブレスレット』が反応した相手――

 

 彼女も、『そっち側』の人間だった

 

――――――――――――――――――――

 

「……」

 

「……」

 

 き、気まずい…

 

 できるだけ小声であの言葉をつぶやいたつもりがだ、もし聞かれていたら色々と厄介だろう

 いやそうでなくとも、空き教室でなにやっていたんだと思われても仕方がない状況だ

 

 何か言おうと、と思っていると

 

「…委員長が」

 

「…え?」

 

「…委員長が探してた」

 

 そう言って先に歩き始める

 

 …あ、あぁなんだ呼びに来ただけか

 

 少し安心して、あたしも教室を出る

 

「……」

 

「…あーレイニーデイ?」

 

「…なに?」

 

 名前を呼ぶとレイニーデイは振り返った

 

「…ありがとうな、わざわざ」

 

「……」

 

 無表情で見つめてくる彼女の瞳は、初めて会った時と同じ色をしていた

 

「…どういたしまして」

 

 そして今、あたしは初めて彼女の笑った顔を見た

 

――――――――――――――――――――

 

 結果から言うと遭難していたメンバーは、期末テスト開始ギリギリになって中等部にやってきた

 一応間に合ったということだろうか、その後別の部屋でテストを受けたようだ

 

 そして迎えたクラス成績発表の日

 結果は――最下位

 

 と思っていたのだが、その後学園長が採点ミスしたとか何とかで再集計

 聞いて驚き、なんと万年最下位の2-Aがここにきてトップの成績となった

 

 トトカルチョは大混乱の阿鼻叫喚、2-Aにかけていた面子が逆転勝利という前代未聞の事態となった

 

「だから何だって話だがなぁ」

 

 結果を見届けた後、あたしはさっさと下校した

 期末テスト発表が終われば、後は明日の終業式で長いようで短かった2年生も終わりだ

 春休みに入ると次学年向けの宿題も出されるので、のんびりとした長期休暇とはいかないだろうが

 2週間ほどの休みの間に、今度は何のお菓子を作ろうか思案して

 いつも通りに部屋に入り、あたしは実に2年ぶりの出迎えを受けたのだった

 

――――――――――――――――――――

 

 目新しく増えたものはなく、本棚に本が数冊とお菓子作り用と思われる調理器具がいくつか新しく追加されているだけの、どこか殺風景な部屋を見渡す

 

 ここに入るのは実に2年ぶりのこと

 あの日以来部室の荷物をもっていってからこの部屋に入ることはなかった

 理由はいくつかある

 私の目的によるものが一番だったが、次いで理由となったのがルームメイトのことだった

 

 オレンジ色の長髪を後ろで束ね、目が悪いわけではないのに丸い眼鏡をかけている少女――長谷川千雨

 どこから見ても、誰から見ても普通の中学生

 注意深く見たところで、おそらくこの学園のほとんどの人間はそれ以上の評価を出すことはないだろう

 

 そんな彼女に興味がわいたのは、今から2年前の中等部入学式でのことだった

 私の前に座っていた彼女は、きちんとした姿勢で特段変わった容姿でもなく入学式に臨んでいた

 あえて変わっているところを挙げれば、彼女の左手に薄いピンクのブレスレットが付いていたことぐらいだった

 そんな彼女があるタイミングで顔を若干しかめた

 後ろからだったのでよく見えなかったが、学園長が登壇した時間違いなく表情が曇った

 その時、私は見た

 彼女がつけていたブレスレットが、ピンクから白に変わる瞬間を――

 

 私はその時から、彼女を注意深く見た

 そしてこの部屋で私と話をしたとき

 彼女のブレスレットが、同じように色を変えるのを見たのだ

 

 ――彼女はきっと、何かを隠している

 それは学園側としてではなく、ましてや私たち側でもない

 もっと別のなにかだ

 期末テストの前にクラスから出た彼女の後を追った

 見つけた時にはもう何かをし終えた後だったようだ

 彼女の力を見極めなければいけない

 この部屋に何かがある、そう考えて2年ぶりに戻ってきた

 

 ふと彼女の机の上に置いてあるものが目に留まる

 長方形の白い花瓶に、花弁の閉じた花が一輪だけ刺さっていた

 

 ――私はそれがどうしても気になって

 まるでそうするのが正しいような気がして

 その花瓶に手を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にんげんさんじゃないにんげんさんなのです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 咄嗟に後ろを振り向き声の聞こえた方を見回す

 ――部屋の中には私一人だ

 そこを見ても、なにもいない

 でも今、確かに私に対して何かが話しかけてきた

 今聞こえた声は…?

 

 その時、部屋の鍵が開く音がした

 

「時間切れ、ですね」

 

 短くそういうと、あらかじめ用意していた本を持ち自分にあてがわれている机に向かう

 

 ――収穫はなかった

 だが、これで確信に近づけた

 

 彼女は間違いなく()()()()()()()()

 

「それがもし、私たちと相反しないものであったら――」

 

 ――あなたとはお友達になれるといいですね、長谷川さん

 

――――――――――――――――――――

 

 部屋に入って私を出迎えたのは、ルームメイトのレイニーデイだった

 なんでも一冊だけ見当たらない本があり、念のためとこの部屋に探しに来たそうだ

 お目当ての本は無事に見つかったようで、特に話もせず部屋を後にしていった

 

「2年以上放置していた本がこの部屋で見つかる、か」

 

 どうにも怪しいと思った

 だが特段机の上や本棚を触っていたような様子も見られず、少なくともその言葉を信じるほかないようだった

 

「っと、こいつもつけてっと」

 

 机の上に置いてある花瓶――に刺さった花を2回つつくと、それまでしぼんでいた花弁が開き満開になる

 

「おーいお前ら、出てきていいぞー」

 

「やっとでられるです?」

「きょうもきゅうくつだったのです」

「あしたのとうばんはKはんです」

「りょうかいです」

「あしたがおわれば、にんげんさんのおやすみがはじまるです」

「そうすればおかしてんごくです」

「とてもたのしみです?」

 

 ぞろぞろと部屋の隅からあいつらが出てくる

 

 今しがた起動させたのは遺留物の1つ『フラワーアンテナ』

 周辺に飛んでいる電波を1つ残らずキャッチして、特定の範囲内から遮断するというものだ

 花がしぼんでいるときは無効化されるので、見るだけでよくわかる仕様となっている

 

「新学年か、今から気が重いぜほんと…」

 

 おそらく平穏とは程遠いことになるであろう新学年に思いをはせつつ

 目の前ではしゃぐ彼らに今度はどんなお菓子をふるまおうかと、あたしは考えるのだった




『ひょっこりペン』
 手に持ち見つけてほしいものを書いた紙の上に置き「ひょっこりさんひょっこりさん」の後に見つけてほしいものを言うと、場所を書き出してくれる遺留物
 完全に消失しているもの、人であれば死亡している場合を除いて確実にその場所を書き出してくれる
 ちなみに普通のペンとしても使える

『フラワーアンテナ』
 チューリップを小さくしたような花形の遺留物
 つぼみが開いているときはどんな電波もシャットアウトし、つぼみが閉じていると解除される
 範囲は半径約3mほどで、部屋の中心に置けば部屋丸ごと電波を遮ることができる
 なお花瓶がないと自立できないが、花瓶はどんなものを使ってもよいそうだ


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だいよんわだったらしいです

(・ワ・)きがついたら『にっかんらんきんぐ』とやらにのっていたのです

(・ワ・)れんさいなんほんかかかえていますが、のんびりとこうしんするらいしです

(・ワ・)これからもよろしく、ということでひとつてをうちましょう

(・ワ・)かんしゃかんげきこんぺいとうです


 ついにやってきた終業式

 波乱万丈だった2年生も今日で終わりと考えると、少し寂しい気がしないこともない

 

「おはようございまーす、えーっと…長谷川さん!」

 

 ここ最近よく聞くようになった声が、後ろから聞こえてくる

 それ以外にも2-A(うちのクラス)の騒がしい何人かの声も聞こえる

 

「…おはようございます先生」

 

 そんな朝のテンションについていけないあたしは軽く会釈をして、通り過ぎていく副担任を横目で見る

 

「んー♡2-Aでも特に目立たない方の千雨ちゃんまで覚えているなんて、教師の鑑っ!」

 

 ラクロス部兼まほらチアリーディング部の椎名桜子が去り際にそう言っていく

 

「…悪かったな目立たなくて」

 

 悪気がないのは分かっているし、自分でも目立つ方じゃないのは重々承知しているつもりだ

 

 その方が楽でいい

 

 誰にも近寄らず、誰にも近寄らせない

 

 自分のからの中に閉じこもってしまえば

 

 私は平穏に暮らせる

 

 あたし1人が我慢すれば…

 

「…だーっ!暗いこと考えんじゃねー!」

 

 頭をぶんぶんと振って一度思考を吹き飛ばす

 

 もう全部終わったことだ、今更ぐちぐち言ったって意味がない

 

「とにかく明日から春休みなんだ、新しいお菓子に挑戦するって決めたばっかりだろ」

 

 ネガティブな考えはお菓子で吹き飛ばす

 今までそうやってきたんだ、これからもそれでいい

 

「…つーかあいつらえらく急いでいたな、遅刻する時間でもねーのに」

 

 すでに視界から消えていた2-Aメンバーを思い返し、あたしも中等部へと向かうのだった

 

――――――――――――――――――――

 

「フォフォフォフォ、皆にも一応紹介しておこう――新年度から正式に本校の英語科教員となるネギ・スプリングフィールド先生じゃ」

 

 3学期修了式の壇上で近衛近衛門学園長がそう言った時、あたしは軽く眩暈を覚えた

 いや、想定してしかるべきだっただろうと言われれば、まったくもってその通りでしかない

 

「ネギ先生には4月から『3-A』を担任してもらう予定じゃ」

 

 その言葉に生徒たちは割れんばかりの拍手で答えた

 

(…こりゃ本当に腹決めるべきか)

 

 若干グロッキーになりながら、あたしは壇上の新担任に目をやり世界を呪った

 

――――――――――――――――――――

 

「というわけで2-Aの皆さん、3年になってもよろしくおねがいしまーす!」

 

 教卓に立つネギ先生がそう言うと、クラスメイト達は次々に祝福の言葉をかけていく

 

 しかしいまだに万年ビリの2-Aが、学年トップになってトロフィー貰えたなんて信じられない

 

(あの『地下図書室』とやらでなんかあったんだろうが…それだけであのメンツが高得点取れるのか?)

 

 大概失礼な考えではあるが、あの5人組が(1人を除いて)そんなすぐに成績が伸びるとも思えなかった

 

(単純に『ネギ先生』の教え方がうまかったから、で説明がつけばいいんだがなぁ)

 

 そんなことを思っていると

 

「ハイッ、先生ちょっと意見が!」

 

「はい鳴滝さん」

 

 双子の姉の方の鳴滝風香が、珍しくネギ先生に質問する

 

「先生は10歳なのに先生だなんてやっぱり普通じゃないと思います!」

 

 その言葉に教室がざわっとする

 

(うん、そうだな。先生と並んでいると「小学校のお友達同士かな?」って間違われるやつが言うとと説得力あるな)

 

 内心で毒を吐く、ずいぶんまがった性格だと実感はしている

 

「えーと」

「それで史伽と考えたんですけど――」

 

 と双子の妹の風見史伽も立ち上がって

 

「今日、これから全員で『学年トップおめでとうパーティー』やりませんか!?」

 

 そう言った

 

「おーそりゃいいねぇ!」

「やろーやろー♡」

「じゃ、ヒマな人寮の芝生に集合!」

 

 …………

 

(前振り、関係ねーじゃねーかよッ!)

 

 内心盛大に突っ込むが、このクラスでは多々あることなのでもう驚きもしない

 

(あーダメだもう2年同じクラスだが、このノリにだけはついていけねー…)

 

 額を抑えてうんうん唸る、万年こんなノリなんだついていけないのも仕方がない

 

「――ん?」

 

 しかしパーティーねぇ…

 ただでさえ羽目を外しがちなこのクラスが、そんなことしたら大騒ぎどころじゃねーぞ…

 

「どーしたんですか長谷川さん、どこか痛むんですか…?」

 

 1人で考え事をしているといつの間にかネギ先生が立っていた

 

「(やっべ考え事に没頭しすぎて気が付かなかった…)あーいえ別に…」

 

 そう誤魔化しはしたがこの先生のことだ、色々と気にして聞いてくるのは想像に難くない

 

「すいません先生、今日はちょっと気分が優れないので帰宅します」

 

 そういってさっさと鞄をからうと教室を後にする

 

 後ろから「え…あ…ちょっ」なんて先生の声が聞こえるが無視する

 

 後でこっそり抜け出せばいいものを、どうしてこう目立つような真似すんだか…

 

 女子中等部を出て寮へ向かう途中、自分の行動にうんざりしていた

 目立ちたくないとか言って、もう少し上手な生き方もできるだろうに

 

「不器用なんだか生き方が下手くそなんだか…」

 

 …あのクラスでそもそも目立たないようにするというのが、間違ってはいる気がするが

 

「はぁ…気が重いなぁ…」

 

 なんて弱音を吐いていたら

 

「は…長谷川さーん!!」

 

 後ろから聞こえてきた新担任の声に、思わず「うげっ」と唸る

 女子中等部を出てだいぶ時間がたっているが、よく追いつけたな先生

 

「…何か用でしょうか?」

「ハァ…ハァ…あ、あの…さっき体調が優れないって言ってたので」

 

 そういって先生は懐から何か取り出した

 

「これ、おじいちゃんからもらった超効くま…サプリです。おひとついかがですか?」

 

 効きますよーなんて無邪気に言うな

 つーか一瞬何を言いかけた何を

 

「…ありがたく1つ戴きますね」

 

 断ると面倒なので一錠だけ貰う

 

「あ、あの…パーティーには来ないんですか…?」

 

 ポケットに錠剤を入れると、不安そうな声で先生が聞いてくる

 

「ええ、まぁ…私パーティーとか人が多いところは苦手なので…それに」

「そ、それに?」

「…非常に個人的な理由ですが、あのクラスになじめていませんので」

 

 いいクラスなのは分かるんですがね、と心にもないことを言って寮のほうに歩きだす

 

「あ…じゃ、じゃあこれを機に皆さんと仲良く…」

「すいません、今のところそういうつもりはないので、失礼しますネギ先生」

 

 妙にぐいぐい来る(考えれば自分の担当生徒がボッチだから当たり前だが)先生を無視する

 

 がその程度で諦めるような先生ではなく、女子寮の私の部屋の前までついてきて説得を続けていた

 

「――それでは先生、パーティー楽しんでください。さようなら」

 

 そう言って扉を閉める

 

 部屋に入るとドッと疲れが出てくる

 先生は何も間違っていない

 私がただ決心をつけられていないだけなのだ

 この街を受け入れるという決心が

 

 だが――

 

「――そう簡単に、受け入れられるかよ」

 

 逃げに逃げ、耳も目も塞いできた

 

 この街のおかしさを感じながら

 

 あたしは自分に嘘をつき続けてきた

 

 あいつらに出会って、色々な遺留物を手にしてきてもそれは変わらなかった

 

「…やーめだやめだ、お菓子でも作ろう」

 

 できたお菓子はあいつらに食べてもらえばいい

 冷蔵庫の中には今まで作って余った材料がある

 消費期限が近付いているものも多い

 

「バターと牛乳に板チョコ…あー小麦粉も結構あるな…よし、あれでも作るか」

 

 とりあえず20個ほどを目安に作っていく

 

 小麦粉、ベーキングパウダー、バターを混ぜていく

 

「『rub in』…だったか確か」

 

 すり合わせるようにバターと小麦粉を混ぜていくことを、イギリスではこういうらしい

 これの出来次第でこいつのできばえが変わるとか

 

 パン粉のようになった生地に砂糖と刻んだチョコレートを加え

 さらに牛乳を入れて混ぜ、まとめ上げていく

 

 粉っぽさがなくなったら生地を2cmの厚さに広げて型抜きをしていく

 

 本当はオーブンを使うのだが、流石に麻帆良学園の寮とはいえオーブンはないのでトースターで代用する

 

 20分ほどで焼きあがるので2回に分けて焼き上げていく

 

「んーやっぱりオーブン無いとレパートリーに限界があるな…寮監に掛け合ってみるか?」

 

 さすがに個室には置かれないだろうが、共用のリビング辺りになら置いてくれはしないだろうか

 

「新学期に合わせて、には遅すぎるか…うーんしかし来年になると――」

「あ、このボウルはどうしますか?」

「ん?あーそれは洗いますね、生地はもうこっちに、移し、て……」

「?」

 

 渡されたボウルを何の気なしに受け取り、違和感が

 ちらりとボウルがやってきた方を見てやれば――

 

「…あえて聞きますが、どうしているんですか『先生』?」

「あ…すいませんドア開いていたので」

 

 …鍵のかけ忘れには気をつけよう、そう強く決心した瞬間だった

 

「はぁぁ…パーティーに参加されるんじゃなかったんですか?」

「えっと、ここに来る前に皆さんから『準備の時間があるから』と言われていまして」

 

 なるほど、だからあたしの後を追ってきたんですね

 

「…一応生徒の部屋ですので、入る際には声をかけてくださいね先生」

「す、すいません。ただ――」

 

 ――長谷川さんがとても楽しそうで、声を掛け辛かったんです

 

「…理由になってませんよそれ」

 

 まったくと言って本棚から本を取り出す

 

「時間になったら出ていってくださいね先生」

「あ、ハイ…」

 

 先生をガン無視して読書を始める

 呼んでもいないのだから客でもなんでもない

 居たければいてもいいが、あたしは関わらないぞ

 

「…あ、あの長谷川さん?」

「…なんですか?」

「今作っているのは…?」

「『スコーン』です、チョコ入りの」

「へー…え?ス、スコーンですか?」

「ええ…トースターで焼いていますが」

 

 そういうと意外そうな顔をする

 なんだ、あたしがお菓子作ってるのがそんなに意外か?

 

「…今焼いているもの以外に、この生地の分も焼くんですよね?」

「もちろんですが」

「…見た感じ後10個くらい作れそうなんですが?」

「まぁ、作れますね」

「…あの――」

「一人では食べませんよ流石に」

「……」

 

 …なんだよその『ちょっと信じられない』みたいな顔は

 

「余りはしないです、一応あてはありますので…だから大丈夫ですよ」

「そう、ですか」

 

 そんな話をしているとチンっとキッチンの方から聞こえてくる

 どうやらお目当てのものはできたようだ

 

「できたみたいなので、ちょっと見てきますね」

「あ、はい」

 

 そういって席を立ち、キッチンに向かう

 

 トースターの中から完成したスコーンを取り出す

 中に入れていたチョコの香りが漂ってきて、とてもおいしそうに出来上がった

 

「『スコーンは冷めたほうがおいしい』か…これはしばらく冷まして――」

「長谷川さん」

 

 取り出したスコーンをテーブルの上に置くと、リビングの方にいたネギ先生が話しかけてくる

 というかいつの間にキッチンに入ってきたんだよ…

 

「なんでしょうか先生?」

「このスコーン…いただけないでしょうか?」

「…はぁ?」

 

 何を言い出すんだこのちびっこ先生は

 

「こんなにおいしそうなスコーン、クラスの皆さんにも食べてほしいと思って…」

「……えぇ?」

 

 食べる?何を?あたしのスコーンを?誰が?うちのクラスメイトが?

 

「い、いやいやいやいや!!うちのクラスメイトにって、マジで言ってますかそれ?」

「はい…ダメ、でしょうか?」

「いやダメってわけじゃないですけど…」

 

 もともとあいつら以外に食べさせるつもりはなかったからいいが、()りに()ってうちのクラスメイトかよ…

 

「う、うーん…」

「……」

「……はぁ、わかりました、ただしこの10個だけですよ?それでいいですね?」

「――はい!ありがとうございます!」

 

 そういうとスコーンの入ったお皿ごと持って部屋から出ていってしまった

 

「…あー押し切られた感がヤバい…」

 

 キッチンの椅子にドサッと座り込む

 悪手を打ったか、いやお菓子位大丈夫と見るべきか

 

「…あ、しまった」

 

 部屋に帰ってきてから『フラワーアンテナ』を起動させるのを忘れていた

 

「スイッチオンっと」

 

 そういって起動させると、あいつらがぞろぞろと出てくる

 

「ようやくでられますな」

「きょうはおかしつくるよていでしたか?」

「いいえあしたからだったはずです?」

「きょうはらっきーでしたな」

「でもはんぶんなくなったです」

「うれしさもはんぶん」

「たのしさもはんぶん」

「でもはんぶんある」

「それはかならずいただくです」

 

 今日も今日とて騒がしいが、相変わらずお菓子のことに話題がいってる

 

「オーケーオーケー、あと20分待て。おいしいスコーンが出来上がるからな」

 

「すこーん!」

「なつかしのあじ」

「にんげんさんがつくってくれたはじめてのおかし」

「とくべつなそんざいです?」

「きゃんでぃーではなくすこーんですから」

 

 ――懐かしいこと覚えてるなこいつら

 

 見様見真似で初めてこいつらに作ったお菓子

 最初は写真通りに膨らまなくて、おまけに砂糖の分量が少なくて全然甘くなかった

 初めてとはいえこいつらは甘くなく

 

『こんごにきたいするです』

 

 とばっさりと切り捨てられた

 

 その後は何とか汚名を返上したが、今となってはあれもいい思い出になっていた

 

「ま、なるようになるってね」

 

 そういって型抜きし終えた生地を新しくトースターに入れ、残りのスコーンを焼き始める

 

 焼き終わるまで読書を再開――と思ってふと外を見てみる

 天気は快晴、絶好の外出日和だ

 

 すると下から声がする

 下の方を見てみると――

 

「げっ」

 

 そこにいたのは2-Aメンバー

 どうやらそこでパーティーを行うようだ

 

 そこに主役のネギ先生があたしの作ったスコーンと一緒に現れた

 クラスの連中にいい感じに冷めたスコーンを配っている

 半分ずつに分けてその場にいた全員が食べている

 声は聞こえない、だがその表情はどうやらそこまで悪くない評価をもらったようだ

 

 くるりとネギ先生がこちらを向き、大きく手を振る

 

 それにあたしは――柄にもなく――手を振り返した

 

「まぁ、こういうのもいいかな」

 

 ――ほんの少しだけ、来年度からの新学年に希望が持てた日になった




(・ワ・)きょうは『いりゅうぶつこーなー』はおやすみなのです


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第2章:にんげんさんの大仕事 だいごわですよ

(・ワ・)にっかんらんきんぐ『6位』ですと?

(・ワ・)えつらんすうもすごいことになってるです

(・ワ・)・・・・・・

(・ワ・)こうしんしなければようせいがすたるというものです

(・ワ・)というわけでこうしんです


 『キーンコーンカーンコーン…』

 

「3年!A組!!」

 

「「「ネギ先生ーっ♡」」」

 

 新年度開始早々喧しい…失礼、騒々しい挨拶から始まったうちのクラス

 教卓には正式に担任となったネギ先生が、照れくさそうに頭をかいている

 

「えと…改めまして、3年A組担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの一年間、よろしくお願いします」

 

「はーい!よろしくー♡」

 

 とりあえず特に問題なく新学年は始まった

 しかし今年度は修学旅行という大きな行事もあるが、新任の先生に任せて大丈夫なのだろうか

 そうでなくてもこのクラスは色々とやらかす未来が見えるが

 

 しかし、どうにも嫌な予感がする

 そういった遺留物はつけていないが、なんだか想定外のことが起こりそうな予感がして仕方がない

 

 そんな風に考えていると、教室にしずな先生がノックをして入ってくる

 

「ネギ先生、今日は身体測定ですよ。3-Aのみんなもすぐ準備してくださいね」

「あ、そうでした!ここでですか!?わかりましたしずな先生!」

 

 …一応担任なんだから、そこは把握していて欲しかったなぁ

 

「で、では皆さん、身体測定ですので…えと、あのっ、今すぐ脱いで準備してください!」

 

 そしてテンパると突拍子もないこと言いだすのもやめてほしい

 

「ネギ先生のエッチ~~ッ♡」

「うわ~ん!」

 

 『間違えました!』と言って慌てて出ていく先生を確認すると、クラスメートたちは準備を始める

 

「ネギ君からかうとホント面白いよねー♡」

「この一年間楽しくなりそーね」

 

 …一応担任なんだから、そういうことはやめてやれ

 

「あれー?今日まきちゃんは?」

「…さあ?」

「まき絵は今日身体測定アルから、ズル休みしたと違うか?」

「まき絵胸ぺったんこだからねー」

「お姉ちゃん言ってて悲しくないですか?」

 

 なんて言う話が聞こえてくる

 そういえば佐々木まき絵が来ていない

 元気が取り柄のあいつが珍しい

 

 体重測定で大騒ぎしていると

 

「ねえねえところでさ、最近寮ではやっている…あのウワサどう思う?」

「え…なによソレ柿崎」

「ああ、あの『桜通りの吸血鬼』ね」

 

 少々気になる話題が聞こえてきたので、ちょっと聞き耳を立てる

 

「しばらく前からある噂だけど…何かねー満月の夜になると出るんだって、寮の桜並木に――」

 

 ――まっ黒なボロ布に包まれた…血まみれの吸血鬼が…

 

 まほらチアリーディング兼コーラス部の柿崎美砂のその言葉に、あるものは怯え、あるものは興味深そうにうなずき、あるものはデタラメだと切り捨てた

 

「――そのとおりだな神楽坂明日菜」

 

 そんな大騒ぎの教室に、めったに聞かれない声が流れる

 

「ウワサの吸血鬼はお前のようなイキのいい女が好きらしい、十分気をつけることだ…」

「え…!?あ…はぁ」

 

 ありゃーエバちゃんから話しかけるなんて珍しーという声が聞かれるが、確かに珍しい

 普段は教室でひじついているか、そもそも教室にいないかのどちらかなのだが

 

 すると廊下が騒がしくなる、廊下側にいたメンバーが突然窓と扉を開けた

 下着姿のままでだ

 

「…なにやってんだあいつら」

 

 いくら女子校だからってもうちょい気にしろよ…

 

 しかし『桜通りの吸血鬼』ねぇ

 該当者一名、ついでにお供が一体

 

 しかもうれしいことにどっちもうちのクラスメイトときたもんだ

 これは笑えるな、はっはっは

 

 …ず、頭痛がする

 ほぼ間違いない、今しがた話題に上がった「桜通りの吸血鬼」はあいつに違いない

 

 動機は分かんねぇが、ろくでもないことに違いない

 

 触らぬ神に…この場合鬼か、祟りなし

 

 この件は知らぬ存ぜぬで押し通す

 平穏無事が一番だ

 

――――――――――――――――――――

 

 そう思っていた自分を思いっきり殴ってやりたくなった

 

「どうした?まさかもう諦めたわけじゃないだろうな?」

 

 立ちふさがるように、黒いローブを身にまとったそいつは言った

 

「…万事休すだなこれは」

「あうぅ…」

 

 背後で震えているクラスメイト――宮崎のどかが小さく唸る

 

「何もしてこないのなら…その血、頂くとしようか」

 

 冷や汗が全身から吹き出てくる

 今まで遠目から非常識を見てきた

 だが今のように、目と鼻の先にまで近づいてきたことはなかった

 

 挽回策を必死に考えながら、こうなってしまった経緯を思い返していた

 

――――――――――――――――――――

 

「やべぇ…新しいお菓子の本探していたらこんな時間になっちまった」

 

 すっかり日が落ち夜空には満月が覗いていた

 早く帰んねーと門限に引っかかっちまう

 と思って桜並木の街道――桜通りを小走りで進む

 

「吸血鬼…吸血鬼か…」

 

 後々話を聞くと、あの時クラスメイトが騒いだのは佐々木まき絵が桜通りで倒れて見つかったからだそうだ

 ネギ先生は貧血だろうと言ったらしいが

 

「本当に血を吸ってるのか…?」

 

 だがそうすると吸血鬼による実害が出たことになる

 昨日の今日だから、すぐには動かないだろうが学園も何かしらの対策をとる

 …はずだ

 

 さすがに動かないなんてことはないだろう、と考えながら走っていたせいか

 

「おぉあ?!」

「きゃ…!」

 

 目の前を歩いていた誰かに危うくぶつかりそうになる

 

「す、すみませんちゃんと前を見ていなくて…って宮崎じゃねーか」

「ふぇっ…は、長谷川さんでしたか…あふぅ」

「いや人の顔見て脱力されても困るんだが」

「す、すみません…てっきり吸血鬼さんかと…」

 

 なんだよ吸血鬼「さん」って

 

「つーかいつのもメンバーはどうしたんだよ一体」

「えっと…用事があるから私だけ先に…」

「おぉう…そうか…」

 

 気が弱そうなんだがこういうところはアグレッシブだなおい

 

「まあ分かった、どうせ一緒の道だから一緒に――」

 

 ザァァァっと、風が桜通りを吹き抜けていく

 

「――ほう」

 

 背後から、声がする

 幼さを残しながら、威厳を含んだ冷酷な声

 

 後ろをゆっくりと見てみれば――

 

「――25番長谷川千雨」

 

 ああ――

 

「27番宮崎のどかか…」

 

 本当に今日は――

 

「悪いが少しだけ、その血を分けてもらおうか」

 

 最悪の厄日だぜクソが!!

 

「――走れ宮崎!!」

「…ふぇ?!」

 

 呆けていた宮崎の手を引いて走り出す

 

(不味いっ…このタイミングで来られるとはっ!!)

 

 甘かった、昨日の今日だからと油断していた!

 無理をしてでも早く帰るべきだった!

 

(考えろ!考えろ!考えろ!いつもと違う、宮崎も一緒に逃げられる方法を!)

「鬼ごっこか?生憎と――」

 

 後ろから聞こえてくる声をひたすら無視しながら走り続けるが

 

「付き合ってやる気はないのでな!」

 

 バサッと何かが羽ばたくような音がする

 

「は、長谷川さーん!あ、あの人と、飛んできてますよー!」

「んなっ?!」

 

 宮崎がそう叫ぶので首だけ回してみてみると――

 

 飛んでいる

 

 黒いローブをまといながら、確かに飛んでいた

 

 ――その一瞬のスキが、命取りとなったのだろう

 

「――油断大敵だぞ?」

「は?…ってうぉあああ?!」

 

 至近距離から声が聞こえたと思ったら真横に黒ローブがいて転ばされた

 何言ってるのかわからねぇと思うが、何をされたのかは分かった

 

 そして転んだことで完全に逃げられなくなったことも――

 

「さて――」

 

 黒ローブはあたしたち2人の目の前に立って

 

「――チェックメイト、というやつだ」

 

 黒い帽子の下から嗤いを覗かせた――

 

――――――――――――――――――――

 

 人気のない桜通りで、あたしたちは絶体絶命のピンチを迎えていた

 

(どうする!使えそうな遺留物はない!どうする…どうする!)

「手古摺らせてくれるなよ?私も余裕はないのでな」

 

 そう言いながら近づいてくる黒ローブ、後ろの宮崎が顔を伏せる

 

 ――せめて宮崎だけでも…!

 

(にんげんさんおなやみですか?)

 

 そう決心しようとしたところに気の抜けた声が聞こえてくる

 

 …そうだ!

 

(ああそうだ!頼む!宮崎を助けられる遺留物を――)

(そういうことですたら)

(おまかせあれ)

(ついでににんげんさんもたすけてやるです)

 

 お、おう…ついででもなんでもいいから頼む

 

(ひさかたぶりのしんどうぐ~)

(われわれのどうぐ、おやくだち)

(さしあげさしあげ)

 

 そう言ってするりとあたしの左手にそれを出してきた

 

 六角形の柱のようなキーホルダーサイズの――

 

(っておいこれどっかで触ったことあんぞ)

 

 具体的に言うと、特にこれといって面白みのないお土産店のキーホルダーコーナーで

 

(小さなおみくじキーホルダーじゃねーか触った感じ)

(おーさすがにんげんさん)

(さわっただけでわかるとはさすがです)

(いいから!使い方の説明!)

 

 今褒められてもうれしくねぇんだよ!

 

(ちいさなおみくじ『くるくるみくじ』)

(ふればくるくるふくがくる)

(だいきち・ちゅうきち・きちにしょうきち)

(でももしかしたらうれしくないかも)

(きょうにだいきょう)

(ひいたものが)

(にんげんさんのしあわせです?)

 

 …待て、おい待て

 

(ハズレ付きかよ!?選りにも選って?!)

(すりるはひつようですので)

(さいきんのこどもたちはぬるまゆにつかりすぎです)

(かつのがあたりまえなじんせいは、そんざいしないというのに)

 

 現代社会に嘆いている場合か!!

 

(…万が一凶とか大凶引いたらどうなるんだよ?)

(0えふにかぎりなくちかいじょうたいをそうぞうしていただければ)

(ふざけんじゃねぇ!!)

 

「神への懺悔は終わったか?」

 

 なんてバカやってるとすでに黒ローブが目の前にまで来ていた

 

(…えぇい!一か八かだ!!)

 

 左手に持ったそれを3振りほど上下させる

 すると中から一本おみくじが出てきた

 

(大吉なんて贅沢は言わねぇ…せめて小吉以上を…!)

 

 伸びてきた手から逃げるように、あたしは目を瞑った

 

 あたしの賭けの結果は――

 

「――風の精霊11人(ウンデキム・スピリトウス・アエリアーレス)縛鎖となりて(・ウインクルム・フアクテイ)敵を捕まえろ(・イニミクム・カプテント)!!」

 

 この場に乱入してきた、どことなく頼りなかった新担任によってはっきりとした

 

(か、勝った…!)

 

 左手におさまった遺留物から覗く『吉』の字が、それを指し示す

 

魔法の射手・戒めの風矢(サギタ・マギカ・アーエル・カプトゥーラエ)!!」

 

 ――満ちる月下の大通りで

 

 今、二人の非常識(非日常)がぶつかり合う――

 




「くるくるみくじ」
 お土産屋さんあたりで時々見かけるキーホルダーサイズのおみくじ型の遺留物
 三回振るとおみくじが一つだけ出てくる
 その結果によって振った本人の運勢が大きく左右される
 ちなみに大吉は童話災害一歩手前くらいの幸運が降ってくる
 半面大凶は0F一歩手前くらいの悪運が降ってくる


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だいろくわですから

(・ワ・)にっかんらんきんぐ1いからずいぶんとおそいとうこうですな

(・ワ・)これではさきがおもいやられるというものです

(・ワ・)おもったいじょうになんざんだったとのこと

(・ワ・)こんごにきたいするです


「――っは!出来のいい『幸運』だなまったっく!」

 

 躍り出てきたのは、普段から持ち歩いている長い杖を構えたあたしたちの担任――ネギ・スプリングフィールド

 

 杖の先から光の矢のようなものが噴き出し、黒ローブに向かっていく

 しかしそれはすべて黒ローブの直前で跳ね返された

 

「僕の呪文を全部跳ね返した!?」

 

 先生の驚きの声が聞こえてくる

 

「…クソッ!」

 

 先生はあたし達から距離を取っているが、いつこっちに()()が飛んでくるか分かったもんじゃねぇ!

 

「宮崎、立てるか?」

「は、長谷川さん…何とか…」

 

 若干震えているが、何とか移動できそうだ

 

「ここから逃げるぞ、寮までまっすぐ止まるなよ」

「えぇ?!で、でもネギせんせーが…」

「先生なら大丈夫だ、あの変質者をとっ捕まえてくれるさ」

 

 とにかく今はここから離れることだけを考えなければ

 

「いくぞ宮崎!早くここから…!」

 

 そう言って寮への道を見ると

 身に覚えのあるシルエットがこちらを見ていた

 

「…勘弁してくれよ」

 

 頭に2本のアンテナを付け

 まるで人形のような関節をした

 黒ローブとよく一緒にいるクラスメイト

 

「幸運とかけ離れてるな…!」

「こんばんは長谷川さん、宮崎さんもご一緒で」

 

 普段と変わらない無表情で、そいつ――絡繰茶々丸は言った

 

――――――――――――――――――――

 

 前門の鬼、後門の人形

 どちらに行っても逃げ道はない

 最悪の状況からは、まだ脱していなかったのだ

 

「え…?か、絡繰さん?!」

 

 黒ローブと対峙していた先生が、意外な来訪者に驚く

 

「ネギ先生もこんばんは」

 

 そんな様子の先生に欠片も動揺せず、絡繰はぺこりとお辞儀をした

 

「――不意打ちとはいえ、驚いた」

 

 被っていた黒の帽子を外しながら、黒ローブは先生に称賛の声を掛ける

 

「凄まじい魔力だな…」

 

 長い金髪、赤い唇、覗くとがった犬歯

 よく見かける彼女とどこか違いながら

 よく見る彼女と大差ない姿

 

「えっ…き、君はウチのクラスの…」

 

 にやりと口を歪ませ、先ほどの攻撃で傷ついた指から滴り落ちる血を舐め取る

 どこか魅了されそうになる面妖な面持ちでそこに立つ彼女の名は――

 

「エ、エヴァンジェリンさん?!」

 

 夜の帳は、静かに降りていった

 

――――――――――――――――――――

 

「……」

「…通してくれそうにねぇな」

 

 後ろの方で話を始めたネギ先生とマクダウェル

 逃げ出すなら今のうち、なのに――

 

 未だに無表情でこちらを見つめる絡繰

 

(どうする…後ろの二人がドンパチ始めたら、今度こそ終わりだ…)

 

 流れ弾一発で命に関わる

 ネギ先生が来ても、形勢は変わらずか…

 

(にんげんさんにんげんさん)

(ん?どうした一体?)

 

 突然話しかけてくる、また何か遺留物でも見つけたのか?

 

「…ノイズ検知…極微弱…誤差範囲と認める…記録継続…」

 

 ……

 

 な、なんかぶつぶつ言いだしたが…無視だ無視

 

(で?なんだ?なるべく手短に頼むぞ)

(さきほどのおみくじのせつめいがまだおわってなかったです)

(しようじょうのちゅういをよくよみ、ようほうようりょうをまもってただしくごしようください)

(わかったわかった…んで、説明の続きは?)

(こうかのけいぞくじかんについてです)

(継続時間?)

(そうです、このおみくじのこうかはきっかり「20ふん」です)

(それをすぎるといつもとおなじ)

(へいへいぼんぼんなせいかつがまっているのだ)

 

 …継続時間は20分?

 

「うわっ!」

 

 パキィンという音とともにネギ先生が叫ぶ

 見ると先生の周りに氷のようなものが散らばっている

 

抵抗(レジスト)したか、やはりな…」

 

 不味い…本格的に不味い

 

 だがどうやら、先ほどのおみくじの幸運は想定以上の効果を発揮してくれたようだった

 

「何や今の音!?」

「あっネギ!!」

 

 絡繰の後ろから近衛と神楽坂の声がする

 

 その声に反応してか、絡繰は軽くジャンプするとマクダウェルの横に立った

 

「ではそろそろお暇させてもらおうか、フフ…」

 

 そういって土埃の中に消えていった

 

「はぁ…はぁ…た、助かった…」

 

 思わずそう言って地面に膝をつく

 緊張が切れたせいか力が抜ける

 

「ア、アスナさん!このかさん!宮崎さんと長谷川さんを頼みます!僕はこれから事件の犯人を追いますので、心配ないですから先に帰っててください」

「ハァ?!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!相手は二人組だったでしょ!?一人で行っても――」

 

 神楽坂が制止しようとするが、すでにものすごい速さでネギ先生は走り去っていってしまった

 

「ど、どうしよう…さすがに不味いわよねあれ…」

 

 いつの間にか仲良くなっていたのか先生を心配する神楽坂

 

「…神楽坂、あたしは大丈夫だからネギ先生について行ってくれ」

「え?千雨ちゃん、本当に大丈夫?」

「ああ、転んでケガしたくらいだ、動けるし寮まで余裕だ…今はむしろ先生が心配だろ?」

「…うん、そうね。ごめんね千雨ちゃん!」

 

 そう言って神楽坂もネギ先生の後を追って走り出した

 

「…ふうぅぅぅぅぅぅ」

 

 一度大きく深呼吸をする

 とりあえず山場は越えた

 ネギ先生はちょっと心配だが、神楽坂がいれば多分大丈夫だろう

 

「なーなー千雨ちゃん?」

 

 生きていることを実感していると、近衛が話しかけてくる

 

「ん?どうした近衛?」

「それがなー、本屋ちゃんうちらが来た時安心したんか…」

 

「きゅぅ」

 

「気ぃ失っとるんよ」

 

 ……

 

「…あたしが背負っていくから、近衛は荷物を頼む」

「分かったえ~」

 

 とりあえず寮まで運ぶことにした

 

――――――――――――――――――――

 

 寮まで宮崎を運び、そのまま近衛に任せて部屋に戻る

 

「千雨ちゃんは大丈夫なん?」

 

 と聞かれたがかすり傷程度だからと言っておいた

 

「はあぁぁぁぁぁ…」

 

 盛大な溜息を吐いてベッドに倒れ込む

 

 あー制服着替えないと皺になるなーでも着替える気力がないなーというかもう動きたくないなー

 

「……」

 

 現実逃避して、この現状が変わるわけはないのに

 

「学校…行きたくねぇ…」

 

 クラスメートに目をつけられると言う、考えられる中で最悪の事態

 今まで一度もしたことのない『ズル休み』に携行しても仕方がないだろう

 いやむしろ休む許可をもらってもいいくらいだ、これは正当な理由のある休みに違いない

 

「…さっさと寝よう」

 

 どちらにしろもう動けないほどには疲れた

 明日の朝もこんな感じだったら休むことにしよう、うん

 

――――――――――――――――――――

 

「しっかりみたです?」

 

「もちろんですな」

 

「かぜのうわさにはきいておりました」

 

「あれほどはっきりとははじめてですが」

 

「かくにんかくにん」

 

「われわれきおくりょくがわるいので」

 

「にんげんさんはおつかれのようす」

 

「きょうのところはかくにんだけということで」

 

「じゅうぶんなしゅうかくでしたな」

 

「しかしおかしほどではないです?」

 

「おかしのほうがたのしいです?」

 

「なかなかみきわめがむずかしい」

 

「そうとおくないうちにわかるのでは?」

 

「えたいのしれないけんきゅうするです」

 

「おかしのあいまに」

 

「おかしのあいまに」

 

――――――――――――――――――――

 

 気怠さが残る体を引きずりながら、あたしは中等部へ登校した

 

 あたしが入ってしばらくすると、神楽坂に腕を掴まれたネギ先生が入ってくる

 マクダウェルの席を見てほっとしたり、絡繰に話しかけられて飛び上がるほど驚いていた

 

 その後授業を始めたのだが、全く身に入っていないうえにため息を連発する始末

 気持ちがよく分かるだけに何も言えなかった

 

 だが突然パートナーがどうのと暗い顔して言われるとこのクラスは妙な勘繰りをする

 以前から外国の王子様とかいろいろなうわさが流れていたために、日本に来たのはやっぱりパートナーを探すためだったんだと盛り上がり始める

 

 それに合わせて暗い表情をしていた先生を慰めようと、寮の大浴場で元気づける会を開こうと話が飛躍した

 

 それを聞いたあたしは、そんな活力がなかったのでいつもと同じように自室に引きこもることにした

 そして自室に扉を開けようとしたとき

 扉と床の間に挟まれた一通の手紙に気が付いた

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『親愛なる長谷川千雨様へ

 

 お茶会のお誘いをさせていただきます

 本日夜7時、森の中のログハウスでお待ちしております

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…本人が書いたとは思えない文面だなこれ…」

 

――――――――――――――――――――

 

 現在の時刻は夜7時前

 部屋に送られていた手紙に同封されていた地図を頼りに、あたしは森の中を進む

 日が落ちて若干歩き辛いが、ある程度舗装された道なのでそこまで気にならない

 

 そういう感じでしばらく歩くと、開けた土地にでる

 

 丸太て組み立てられたログハウス

 窓から明かりが零れている

 その玄関先にはメイド服を着た人物が立っており、あたしの到着を待っていたようだ

 

「…こんばんは、絡繰」

「こんばんは長谷川さん、マスターがお待ちです」

 

 『マスター』ねぇ…

 ずいぶんと特殊な呼び名で

 

「じゃあお言葉に甘えて、失礼するよ」

「ではこちらへどうぞ」

 

 絡繰の案内でログハウスに入る

 

 中に入るといたるところにかわいらしいぬいぐるみが並べられている

 人形だけではなく動物のものも並べられているあたり、この家の主の趣味らしい

 

「――来たか」

 

 その家主はリビングのソファの上であたしのことを待っていた

 

「突然の招待、まずは謝ろう」

「あー、いや別に気にしてねーし」

「なに、礼儀の1つだ。そもそも来ないと思っていたからな」

 

 行かなかったら行くまでしつこいことは分かってんだよ

 最悪の状況を想定して、いくつか遺留物を持ってきてはいるがさて…

 

「あまり時間もない…さっそく始めようか」

「あぁ、んじゃお言葉に甘えて」

 

 勧められるがまま家主――マクダウェルの向かい側のソファに座る

 

「今日はダージリンのいい茶葉が手に入ってな」

「ダージリンか…」

 

 そうマクダウェルが言うと、絡繰がポットをもって来る

 ほのかに香る独特の香り

 時折自分で入れて飲むがこの香りは

 

「…春摘の新茶か」

「ああ、本場は夏摘が主流だが私はこちらも好きでな」

 

 一口すすると、なるほど確かに良い茶葉だ

 それに淹れ方なんてあたしの数段は上だ

 

「――さて、本題に入ろうか」

 

 今までの親しみを感じていた声色から一転

 底冷えしそうな冷たい声で、マクダウェルはあたしに話しかけてくる

 

 

 

「お前は()()()()()()()?『長谷川千雨』」 

 

 

 

 




(・ワ・)こんかいもいりゅうぶつこーなーはおやすみです


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だいななわならいいですな

(・ワ・)しんねんあけましておめでとうです

(・ワ・)ことしもいろいろとたのしいこともりだくさんだといいな

(・ワ・)でもにんげんさんてきにはおしょうがつやすみのほうがたのしい?

(・ワ・)そういうわけですから、ことしもよろしくよろしく


 先ほど変わらない表情で、あたしの目を見抜くような視線

 

 カップを持つ手が震えそうなのをどうにか抑える

 

 ――ここに呼ばれたときから覚悟はしていたつもりだ

 昨夜の段階ではまだ大丈夫だと楽観していた

 

 だが、あの手紙が届いてあたしだけがここにいる

 その時点で()()()()()()()()()()()()と理解した

 

「……質問の意味が、よく分からないな」

 

 その言葉ににやりと口を歪めるマクダウェル

 

「自覚があるのかないのか知らんが、お前はだいぶ目立つぞ…特にあのクラスではな」

「目立つ…?あたしがか…?」

「ああ、その様子だと気が付いていなかったようだが、な」

 

 そんなあたしの様子が面白いのかより深く笑う

 

「あのクラスは少々…いやかなり特殊でな、面白いほどに騒がしいんだが――」

 

 カップの紅茶を一口すすって心を落ち着かせる

 そうだ、あのクラスはかなり特殊だ

 クラスメートも他のクラスに比べて特徴的すぎる

 そしてとどめに2年の3学期から来た1()0()()()()()()()

 

 そう――あからさまにおかしいのに

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…あのクラスではな」

 

 誰もあの状況に違和感を感じない

 いや、もしかしたら感じていて口に出していないだけかもしれない

 最初のころはそう考えることもあったが、クラスを観察しているとそんな考えは吹き飛んだ

 

 あのクラスでそんなことを考えている人間は、いない

 

 ――たった一人を除いて

 

「だがお前は違うな?長谷川千雨…お前は、あのクラスに違和感を覚えている――違うか?」

 

 …もう紅茶を飲む余裕すらない

 今まで考えないようにしてきた

 あたしの認識のほうが、むしろおかしいと考えることもあった

 だが、それを許容してしまえば

 あたしは――

 

 

 

『嘘つき!』

 

 

 

「っ!」

 

 思わず歯ぎしりをしてしまう

 隠してきたつもりの本心が、目の前の同級生に暴かれそうになっている

 そんなあたしの状況を、面白いおもちゃを見つけた子供のような表情で見つめるマクダウェル

 

「まぁ、そちらにも興味はあるが…私が興味を持っているのは、お前の秘密だ」

「…秘密?」

 

「お前の隠し事は、もう一つある…違うか?」

 

 あたしの、もう一つの秘密…

 まさか…

 まさか、それも知られているのか…?

 

「……」

「回答は沈黙、か…心当たりがあると認識していいのか?」

 

 …いや、まだだ

 今の発言から、『何かを隠しているがそれが何かは判断できていない』ということだ

 

「…生憎と、何のことか分かんねぇな」

「ふん、案の定否定するか。賢明とは思えんが、まあいい」

 

 楽しいお茶会とは程遠い空気になりながら、マクダウェルは紅茶をすする

 

「昨夜のことを坊やに話していないところを見るに、厄介ごとを避ける以外にもっと大事な隠し事があるのは分かるさ」

「…昨夜のこと、ね」

 

 隠そうともしない言い方に、やはり昨夜のあれは――

 

「それほどまでして隠し通そうとする秘密…なるほど、あいつの言う通りお前は確かに『怪しい』な」

「あいつ…?」

「ああ、お前の違和感を教えてくれた、親切な人間さ」

 

 絶対嘘だ、断言してもいい

 目の前のクラスメートに他人の隠し事をそれとなく伝えるとか、間違いなく善人のすることではない

 

(絶対だれか突き止めてやる…)

 

 さっきまでの負の感情を怨念に変えてでも探し出してやる

 

「……」

 

 ちらりとマクダウェルを見ると、視線をあたしからずらしていた

 視線の先には、おそらくだがあたしの後ろに立っている絡繰に向いている

 

「…ふん」

 

 すると面白くないといった感じで鼻を鳴らす

 なんなんだ一体

 

「クラスにいた時もそうだが、お前は『面白くない』な」

「わざわざ来てやったのにその言い草はどうなんだ、おい」

 

 失礼極まりないなこいつ

 

「だが俄然興味がわいた、お前のもう1つの秘密も見てみたくなった」

 

 なんだこの天上天下唯我独尊の塊みたいな思考回路は

 

「なに、神楽坂にも言ったが次の満月までは何もせんさ」

「…そうか」

 

 誰が信じるかそんな言葉

 というかなんでそこで神楽坂が出てくるんだ…

 

「今日はごちそうさんでした、じゃあそろそろ帰るからな」

「なんだ、もっといてもいいんだぞ?」

 

 じゃあそのニヤ付いた顔をどうにかしろ

 

「お邪魔しました…」

「お気をつけてお帰りください長谷川さん」

 

 玄関口まで見送りに来た絡繰に軽く会釈をして、あたしはログハウスを後にした

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「…茶々丸」

「残念ですがマスターと長谷川さんの会話中に、ノイズは検出されませんでした」

「この程度脅威ととらえていないか、何かされてもどうにかできると判断したのか…」

 

 先ほどのニヤ付いた表情から一変して、不機嫌になった少女は顔を歪ませる

 

「――忌々しい」

 

 吐き捨てるようにそう呟いた

 

「目下の重要事項は坊やだ――が」

 

 カップに残っていた紅茶を一気に煽る

 

 ――こんな感情になるのは15年振りか

 

「まさか久しぶりに人間相手に『苛立ち』を覚えるとは思わなかったぞ…長谷川千雨」

 

 その閉じ切った心の奥底に、お前はどんな秘密を隠している

 すべてに諦めを覚えたその顔の下に、何を隠している

 

 苛立ちと同じほどに、1人の人間に『惹かれている』

 

 それは見下されたことに腹を立てたからなのか

 それとも――

 

「――らしくもない」

 

 普段の自分なら唾棄すべき思考

 目の前の最も重要な目的と並べるまでもないはずの、小さな目的

 

「それも含めて、見せてもらおうか…」

 

 ――お前のとっておきの秘密とやらを

 

 紅茶の香りが仄かに残るリビング

 幼さを残して少女は小さく嗤った

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 色々と思い出したくないお茶会から一夜明け、いつものようにあたしは中等部に登校した

 ネギ先生もだいぶ落ち着いたのか、今日は真面目に授業をした

 

 そして今日も今日とてマクダウェルは休みだった

 

 一日がおわり、昨夜のお茶会を思い返しながら寮に向かう

 

(結局昨夜のあれは、あたしに釘を刺したかったのか?)

 

 秘密を暴く、とは言っていたがただの好奇心でそういうことをするようなやつとは考えられなかった

 

 おそらく別に目的がある

 

「あたしはそのついでってか」

 

 まったくもってはた迷惑な話だ

 

「どうしたもんか…」

 

 部屋に入りベッドに座り込む

 次の満月の夜まで行動は起こさないと言ったが、全く信用できない

 そもそも信じる要素が皆無なのに信じれるわけがない

 

「目的が不明瞭のため判断できませーん」

 

 ばたりとベットに倒れ込む

 

 このまま成り行きに任せるのは避けたい

 だがあまり率先して動けば余計な関りを増やしてしまう

 

「…あれ使うしかねぇか」

 

 ずいぶん昔に一度使ったきりでお蔵入りしていた遺留物を思い浮かべて引っ張り出す

 

「後片付けが面倒だから使いたくねぇんだよなこいつ…」

 

 真っ白いA4サイズの紙を一枚引きながら、インク瓶のようなそれの蓋を取る

 

「スポイトかなんかつけてくれよまったく…よし」

 

 インク瓶を傾けて紙の上に落としていく

 赤いシミが紙の上に模様を作っていき――

 

「…うげ、よりによってその日かよ…」

 

 ある日付を表した

 

『厄インク』

 紙の上に垂らすと垂らした本人の一番近い厄日を教えてくれる

 必ず垂らさないと効果がなく、万年筆等で書いても何も現れない

 以前使おうとしたときに誤って床に落としてしまい、その結果床一面に赤々とあたしの厄日が…

 それ以来万が一を考えるとなかなか使う気が起きなかった遺留物だ

 

「一週間切ってんじゃねーかよ、ったく何が『次の満月までは何もせん』だ、完全に嘘じゃねーか」

 

 次の満月まで半月以上ある、あの言葉を信じていたら油断していたに違いない

 その示した日付が――

 

「大停電の日、面倒だな」

 

 5日後に迫った麻帆良大停電の日であった

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 翌日登校するとネギ先生が白い小動物と一緒にやってきていた

 昨日一昨日と自分のことにかかりっきりだったのでよく分からないが、なんでも先生のペットだそうで

 

「学校に連れてきていいのか…?」

 

 寮の方は許可を取ればペットも可なのだが、流石に学校に連れてくるのは…

 

「…ま、いっか」

 

 なんかあってもあたしには関係ないだろうし

 週末のおかし作りの買い出しに行かなくてはいけないんだ

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……」

「……」

 

 だがまさか買い出しの途中にこいつと出会うとは思わなかったよ

 

「…2日ぶりだな、絡繰」

「はい、先日のお茶会以来ですね長谷川さん」

 

 なぜか知らないが服が濡れて汚れている絡繰と遭遇

 猫缶が入ったビニール袋を持っているようだ

 

「…お前なんでそんなに濡れてんだ?」

「先ほど川で流れていた猫を」

「オーケー大体わかった」

 

 どうやら目の前のロボ子さんは、川流れしていた猫を助けるためにびしょ濡れになったらしい

 

「…妙なところで人間らしいっつーか、抜けているっつーか…」

「?」

 

 若干首をかしげるな

 

「まぁ、風邪とかは引かねーだろうけど早めに帰って着替えておけよ」

「ご厚意感謝します」

 

 妙にかたっ苦しい挨拶をして、絡繰は歩いていく

 

「…絡繰!」

 

 そこそこの距離が開いたところで、絡繰を呼び止めるとこちらを振り向いた

 

「お前、結局マクダウェルとはどういう関係なんだ?」

 

 同じ家に住み、メイド服で身の回りの世話をする

 ロボットであることを加味しても、凡そ同級生同士とは思えない関係性

 あの日からどうしてもそれが気になっていた

 …まあ大体の予測はつくのだが

 

「…私とマスターの関係は、誤解のない最も正確な言葉で表すと”主従関係”になるかと」

 

 案の定想定していた通りの回答が返ってくる

 そうだよなぁ、同級生っつったってロボットだし――

 

人形(ドール)契約を結んでおります、名実ともに主従といって差し支えないかと」

 

 ……

 いきなり専門用語を言われても詳しくないから分かんないなぁ

 

 どうすんだよこれ聞き返すわけにもいかねーぞ

 ――かくなる上は仕方がない

 

「あー、そうなのか…色々と込み入ってるんだな」

 

 あたしは誤魔化すことにした

 

「悪いな引き留めて」

「問題ありません」

 

 そういって再び歩き出す絡繰

 猫缶持っているということはどこかで猫に餌でもやるつもりなのだろう

 

「…ずいぶんと人間味のあふれることで」

 

 相変わらずの非日常を噛み締めながら、残りのお菓子の材料購入に向かうことにした

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「…ねぇ、聞こえた?」

「な、なんとか…」

「うーむこいつは…」

 

 長谷川千雨と絡繰茶々丸が立ち話をしていた場所から少し離れた建物の影に、2人と1匹が小声で話をしている

 

「千雨ちゃんって茶々丸さんと仲良かったのかしら?」

「でもこの前はエヴァンジェリンさんに襲われていましたし…」

 

 先日の襲撃の際、長谷川千雨は宮崎のどかと一緒にあの場にいた

 襲われる直前でどうにか間に合ったが、次の日以降特に何も言われなかったためそのままにしていたが――

 

「よくわかんないわね、普通襲われた相手と仲良く話なんてする?」

「少なくとも魔法の気はねーようだが、どうにも勘ぐっちまうぜ兄貴」

 

 襲ってきた相手を気遣うような声かけ

 数日前襲われたとは思えない関わり合い

 もしかしたら、長谷川千雨はあちら側の――

 

『いやダメってわけじゃないですけど…』

 

 そんな思考をしていた彼――ネギ・スプリングフィールドの脳内に、あの時の彼女の少し困ったような表情が浮かんでくる

 楽しそうにお菓子を作り、自分の無茶なお願いも聞いてくれた

 そんな彼女を思い浮かべていた

 

「…ううん、千雨さんは無関係だと思う」

 

 首を横に振り、目の前の1人と1匹――神楽坂明日菜とアルベール・カモミールの言葉を否定する

 

「どうしてそう言えるのよ?」

「…勘、ですかね」

「勘ってあんたねぇ…」

「ま、まぁまぁ姐さん、確かに兄貴の言う通り何か打ち合わせをしていたわけでもねーし、とりあえず今はあいつを追いかけねーと!」

 

 気が付いたらだいぶ先に進んでいた絡繰茶々丸に意識を向ける

 

「そ、そうね…とりあえず今は茶々丸さんの後を追うわよ」

「や、やっぱり追わないとダメですか?なんかさっきから凄い罪悪感が…」

「あーもういいっすから後を追うっすよ兄貴!」

 

 カモミールの声で慌てて絡繰の後を追う2人

 どうにも浮かない顔をして行くのであった

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 週末をはさんで訪れた月曜日

 なぜか元気になったネギ先生だったが、マクダウェルが風邪で休むと聞いたらすぐに出ていってしまった

 気になるのは分かるが、せめて朝のホームルームまではしていってくれよ…あとその手に持ってる『果たし状』ってなんだ一体

 

 結局あの後ホームルームなしで1日が始まった

 いくら今日英語の授業がなかったからって、それでいいのか新任教師

 

 そして、ついにこの日がやってきた

 珍しく朝から居るマクダウェル

 それにあたふたしながらも、安心した様子で授業を始めるネギ先生

 そう――

 今日は、大停電当日だ

 

 




『厄インク』

 どこにでも売っていそうな赤インク瓶型の遺留物
 紙の上と作中では説明したがインクが存在できる所ならどこででも使える
 普通のインクとおなじなので拭き取れば一応は落ちる
 使用者の一番厄い日、すなわち『厄日』を教えてくれる
 なお2番目以降の厄日は教えてくれない


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