副作用:影が薄い。 (kwhr2069)
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序ノ編

短編小説は初です!3話構成になってます。

感想や批評等、お待ちしておりますので是非、お願いします!


では、一話目、どうぞ!



 影が薄い。

 存在感がない。

 

 昔から、そんな風に言われてきた少年。

 

 名前は、黒分寺 宵(こくぶんじ しょう)

 

 

 小学生の時。

 

 運動会のかけっこで、一位をとってもスルー。

 

 遠足でも、すぐ近くにいたのに、捜索騒ぎに。

 

 修学旅行では、部屋にいないと勘違いされる。

 

 

 中学生になって。

 

 体育の授業で、高度な技をしても顔を向けられず。

 

 テストで学年4位をとっても、周りの反応はなし。

 

 

 嫌になった彼は。

 

 目立とうとすることをやめた。

 

 

 そうすると、気持ちもどこか楽になった気がした。

 

 彼は、友達なんて必要なかったんだと思った。

 

 

 しかしそれは、ただ強がっていただけ。

 

 彼の心の隅には、寂しさが残っていた。

 

 

 彼は寂しさに気づかないよう平静に過ごそうとした。

 

 

 中二になり。

 

 独りの生活に慣れてきて、平穏に過ごしていたが。

 

 

 大規模侵攻に遭う。

 

 

 彼は一人っ子で、家は母子家庭。

 

 彼が被害を受けることはなかったが。

 

 

 しかし彼の母は、トリオン兵による攻撃を食らった。

 

 

 幸い、奇跡的に一命はとりとめるが、致命傷を負った。

 

 余命約一年と宣告される。

 

 

 黒分寺宵は、母が攻撃される瞬間を目の前で目撃していた。

 

 ただ見ることしかできなかった自分を呪った。

 

 

 死も考えた。

 

 

 追いつめられていた彼を救った人がいた。

 

 彼は存在感が皆無なはずなのに。

 

 

 その人の名は、歌川遼。

 

 彼は、ボーダーというところに所属していて、寡黙だったが目立つ方の男だった。

 

 

 しかし最初、彼はその救いの手を拒む。

 

 

 他人と接することを長年避けてきた彼は、簡単にそれを受けいれることができなかった。

 

 

 しかし、歌川の優しさに心が満たされ、だんだんと心を開く。

 

 そしていつしか親友に。

 

 

 また、別の出会いもうまれる。

 

 菊地原士郎。

 

 彼は、歌川と同じく、ボーダーに所属。

 

 正論という名の、毒を吐く男。

 

 強めの言葉をかけてくる菊地原を避ける人は、少なくない。

 

 

 だが、人と話していない闇時代を抱える黒分寺の心には、会話そのものが楽しかった。

 

 しかも、菊地原は黒分寺の存在を見失うことがない。

 

 これは、黒分寺にとって、更に救いだった。

 

 

 

 いつしか彼は、学校に行くことを苦にしなくなっていた。

 

 歌川と菊地原。

 

 この二人との出会いが、彼を絶望の淵から救い出したのだ。

 

 

 そして彼は、二人に進められ、ボーダー隊員となる。

 

 ボーダーで彼は、多くの人と出会う。

 

 たくさんの、素晴らしい人たちと。

 

 

 そして彼は、真実を知る。

 

 自分の存在感がなかった訳。

 

 

 副作用(サイドエフェクト)、『自然隠密状態』

 

 彼は、このサイドエフェクトを持っていた。

 

 ボーダーのオプショントリガーに、『カメレオン』というのがあるのだが、彼は常にその状態にある。

 

 もちろん、それとは違い、透明になっているわけではない。

 

 また、『カメレオン』使用中は、他のトリガーを使うことはできないが、そういう弊害はない。

 

 

 彼は、サイドエフェクトが理由で、他の人たちに存在を認識されていなかったのだ。

 

 

 さらに彼は、トリオン量も多かった。

 

 当時のトリオン量ランキングで、一位に躍り出るほど。

 

 まあ後に、雨取という女の子にそれはあっさりと抜かれてしまうのだが。

 

 

 彼の元父は、競艇選手。

 母は、元体操選手だったという。

 さらに、二人の祖父は、陸上選手と野球選手。

 

 スポーツマンの遺伝子を持つ彼は、運動能力が高かった。

 

 

 彼が最初に受け取ったトリガーは、レイガスト。

 

 守備に寄った、攻撃手用トリガー。

 少々重いが、攻撃力、耐久力どちらもある。

 

 

 彼は、その才能を駆使し、入隊後すぐにB級に上がる。

 

 その驚異的なスピードはボーダー内で話題となる。

 

 しかし、彼のサイドエフェクトにより、例の3バカに絡まれたりということはなかった。

 

 

 彼は、その隠密性から狙撃手も考えたが、とある出会いから万能手になる。

 

 

 それは、銃手用オプショントリガー。『鉛弾(レッドパレット)

 

 トリオン量を多量に消費する。

 

 敵のシールドを無視して攻撃可能だが、射速が遅く、避けられると不利。

 

 

 彼は、トリオン量も多い。

 

 敵にも見つかりにくい。

 

 

 それは、運命の出会いと言ってよかっただろう。

 

 結果、彼は、攻撃手と銃手を兼ねる万能手となった。

 

 

 周りから見ても、彼自身の目から見ても。

 

 彼は、ボーダー隊員向きだった。

 

 自身でもそう思っていたはずだろう。

 

 

 彼は、自分の居場所を見つけた。

 

 輝ける場所を発見し、生きる意味を見つけた。

 

 

 だからこそ、彼は。

 

 歌川、菊地原の二人との出会いに心から感謝している。

 

 

 しているのだが。    続

 

 

★黒分寺宵、トリガーセット・能力値

 

 メイン: レイガスト    、スラスター、グラスホッパー、FREE

 サ ブ:アステロイド(拳銃)、 鉛弾  、 シールド  、FREE

 

 トリオン量:18、攻撃:6、機動:7、技術:6

 防御・援護:10、射程:3、指揮:1、特殊戦術:2 Total:53




読んでくださり、ありがとうございました!

神視点、主人公紹介回でした。
次回からは、主人公視点が中心になります。

あと二話、お付き合いいただければ嬉しいです!

では、また。


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破ノ編

短編、第二話です。


 日曜日。

 

 特にやることもなく、暇を持て余していた俺は、たまには行ってみてもいいか、という思いからボーダー本部へ行き、誰か知っている人と、個人戦をしようと思い立った。

 

 

 後から考えれば、これは思い立ったのではなく、そう仕向けられていたのかもしれない。

 

 

 そうとも知らず、呑気に本部へ。

 

 残念ながら、俺の知り合いは見当たらず、結局、暇なまま午前中を過ごす。

 

 帰ろうかとも思ったが、お腹がすいた。

 

 食堂で昼食を食ってから帰ろう、と考え付いた。

 

 

 後から考えれば、これは考え付いたのではなく、そう仕向けられていたのかもしれない。

 

 

 俺は、人気ナンバーワンの料理を選び、食堂の隅の方へ。

 

 

 一人で昼食なんてかわいそう?

 

 そんなことはない。俺は一人には慣れっこだ。

 

 

 でも、周りの目とかあるんじゃないんですか?

 

 俺は、影が薄い。存在感がない。

 

 サイドエフェクト、『自然隠密状態』

 

 俺は、この体質のおかげで、周りから目を向けられることはほとんどない。

 

 

 一人で料理に舌鼓を打っていたその時。

 

 事件が発生した。

 

 

 存在感がないはずの俺のもとに、歩み寄ってくる一人の人。

 

 その歩みは、俺のすぐ近くで止まった。

 

 

 仕方なく顔をあげたその先には、風間さんがいた。

 

 

 風間蒼也。A級3位風間隊の隊長。個人では、攻撃手ランク:2位。

 

 身長158cmとかなり小柄。ちなみに、20歳、大学生だ。

 

 いきなりの登場にざわついている食堂。

 

 

「風間さん?いきなりどうしたんですか?」

 

 とりあえず手短に用件を聞く。

 

「・・・。」

 

 黙っている風間さん。

 

「あの...?風間さん?」

 

「・・黒分寺宵。B級隊員。チームに所属せずソロで活動。」

「万能手。レイガスト、拳銃使い。鉛弾を使用。」

「サイドエフェクト、『自然隠密状態』か。」

 

 唐突に俺のプロフィール紹介。

 

 困惑。

 

 要件は何ですか?と聞こうとしたとき。

 

「単刀直入に言おう。風間隊に入らないか、黒分寺。」

 

 

「・・そういうことでしたら、すみませんけどお断りします。」

 

 チームに所属する気がない俺は、即座にお誘いを蹴る。

 

 

「これは言おうか迷ったんだが。」

 

 そう前置きして、

 

「お前は、ネイバーに母を殺されたと聞いた。」

 

「っ!!」

 

「復讐したいとは、思わないのか。」

 

 俺は、その問いには答えず、

 

「・・遼と、菊地原ですか。」

 

「ああ。二人からお前のことは聞かせてもらっている。」

 

 

 風間隊の、歌川遼と菊地原士郎。

 

 俺は、この二人と同じ中学校に通っている。

 

 二人とも、俺の数少ない友達だ。

 

 

「悪いですけど、チームに所属しようと思えないんです。」

「だから、すみません。」

 

 

 無言の風間さん。

 

「そうか。」

 

 ようやく開いた口から漏れた言葉からは、本当に残念だという思いが感じられた。

 

 

「だがな。」

 

 続けて風間さんが言う。

 

「俺はお前を買ってる。それと、こう見えても俺は、意外と諦め悪いぞ。」

 

 

 不穏な言葉を残して去られ、俺は、ため息をつくのだった。

 

 

*  *  *  *  *  *

 

「そうでしたか。やっぱり宵はチーム所属したくない理由でもあるのかな...。」

 

「そうだろ。あいつが誰かと一緒に何かをやってるとこ、見たことないし。」

「それにしても風間さんは、あいつを買いかぶりすぎなんですよ。」

 

 その後。風間蒼也が作戦室に行くと、風間隊のメンバーが残っていた。

 

 そこで、断られたという話をし、今、こういう状況。

 

「本人が乗り気じゃないなら、無理して誘う必要もないんじゃないですか。」

 

 もちろん、風間隊オペレーター、三上歌歩もいる。

 

 

 この四人で、風間隊だ。

 

 

 風間隊は、全員が『カメレオン』というオプショントリガーをセット。

 

 それと菊地原のサイドエフェクト『強化聴覚』を組み合わせた、隠密戦闘を得意としている。

 

 

 そう。

 

 だからこそ彼らは、『自然隠密状態』の黒分寺宵に目を付けたのだ。

 

 

「風間さん、黒分寺君ってどれくらい強いんですか?」

 

 三上が聞く。

 

「・・そうだな。言われてみれば噂だけで、実際に見たことはなかったな。」

 

「見るまでもない。別に大した奴じゃないですよ。」

 

「え?菊地原君は見たことあるの?」

 

「いや、ないけど。」

 

「なんだ、じゃあ、詳しいことは分からないんだね。」

 

 

「よし。」

「歌川。また黒分寺の誘導をお願いしてもいいか。」

 

「今回は成功しましたけど、次は分かりませんよ?」

 

「失敗しても別にいい。日曜日に頼む。」

 

「わかりました。やっときます。」

 

 

 誘導。怪しげな言葉だ。

 

 

 

 二日前。

 

 歌川遼は黒分寺宵が日曜、つまりこの日に、本部に来るように仕向けていたのだ。

 

 自分が忙しいから、課題を写すために、黒分寺に土曜日までにすべての課題を終わらせ、

 

 本部にいることをそれとなく示唆しておき、

 

 食堂の人気メニューの話もしていた。

 

 

 黒分寺が日曜日に本部に行くように、歌川遼は裏で手を引いていたのだ。

 

 

 恐ろしい子...!である。

 

 

*  *  *  *  *  *

 

 夕方。

 

 本部から出た俺は、本屋に寄った後、日曜日恒例の場所へ向かう。

 

 

「お母さん?」

 

 目的地に着くと、扉をあけながら、俺はそう言う。

 

 

 俺の母、黒分寺 明璃(こくぶんじ あかり)は、窓から見える夕焼けを眺めていた。

 

 こっちに気づくと、「ああ、来たのね。」と一言。

 

「はい、これ。頼まれてた雑誌。」

 

 俺はそう言いながら、本屋で買ったものを渡す。

 

「ああ、ありがとう。ちょっとそこに、置いといて。」

 

 そう言うと、また夕焼けを眺めはじめる。

 

「夕焼け、綺麗だね。」

 

 近くの椅子に座り、話しかける。

 

 しかし母は、何も言わずただ夕焼けを眺め続けた。

 

 

 

 やがて日が沈み、母は話し始めた。

 

「夕焼けって、残酷だと思うの。」

 

「あんなに綺麗なのに、少しの間しか見られなくて。」

「空が曇ってたら、それだけで見られなくなるし。」

 

 どうしたのだろうか。

 今日はやけに詩的だ。

 

 

「なんだか、命の儚さと同じようなものを感じない?」

 

 

 その一言に、俺の心は締め付けられる。

 

 

 母が半年ほど前に、『夕焼けが好きになった』と唐突に言ったことがふと蘇る。

 

 

 俺の暗い雰囲気を察したのか、母は話題を変えた。

 

「最近、どう?友達とは上手くやれてるの?」

 

 

 俺は少し考えて、言う。

 

「そうだね。まあ、ぼちぼち。」

「強いて言うなら、今日風間隊の隊長さんに勧誘された。」

 

「そうなの?で、入るの?」

 

「いや、俺じゃ全然弱いから。」

 

「入りたいとは思わないの?」

「歌川くんと菊地原くんも、風間隊だったわよね?」

 

 母は、諒と菊地原のことを知っている。

 

 二人は、1、2回だが、病院に来たこともある。

 

 

「それはそうだけど...。それとこれとは違うんだよ。」

 

 母はその時、何か言いたげな顔をしたが、すぐに元に戻り、

 

「せっかくだし、入ってみればいいのに。」と言った。

 

 

 そこから、他愛もない話を少しした後。

 

「んじゃ、帰るわ。」

 

 そう言って立ち上がる。

 

「うん。ありがとね、いつも。本当に去年から迷惑かけて...。ごめんね。」

 

 

 謝られてしまった。

 

 心が痛む。

 

「いや、いきなり何?別に謝ることでもないよ。」

 

「そうね。変なこと言っちゃった。じゃ、気をつけて。」

 

「うん、じゃ。」

 

 

 再び何か言いたげな顔をしたのが少し気になったが、結局俺は帰宅。

 

 

 

 のちに俺が、今日のこの行動を後悔することになるとはつゆ知らず。    続




次回で完結となります。

結末、あたたかく見守って下されば嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございました!


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急ノ編

短編、これで終わりとなります。
第三話です。


 今日は、日曜日。

というか、今日も、日曜日だ。

 

 

 この作者は、日曜日しか知らないのだろうか。

 

 前話からは、なんだかんだで一週間が経っている。

 

 もし読んでいないという方は、ブラウザバックして、読みにいってください。

 

 この作者も、きっと喜ぶでしょう。

 

 駄文失礼した。

 

 

 

 とにかく、日曜日。

 

 俺は、ボーダー本部の食堂にいる。

 

 今日ここに来たのは、先週食べた料理がおいしく、また食おうと思ったからだ。

 

 

 やはり、美味い。

 

 何の料理かは伏せておこう。

 

 何と言っても、この作者は料理描写がヘタクソだからである。

 

 読者のご想像にお任せする方向で。

 

 二度目の駄文、失礼しました。

 

 

 だが、こんな俺の平穏な日常も、簡単に崩れる。

 

「おう、黒分寺。」

 

「風間さん、こんにちは。また勧誘ですか。」

 

「いや、まあ、そうなんだが。」

「その前に、俺と10本勝負をしてもらう。」

 

「へ??」

 

 

 

 つまり、こういうことらしい。

 

 風間さんは、俺を勧誘していたが、実際の戦闘ぶりは見ていない。

だから見せてもらう、と。

 

 

 そういうわけで、昼食を食い終わった後、個人戦をしに行くことに。

 

 

 俺は、なんだかんだで個人戦はかなり久しぶりだ。

 

 その相手が、攻撃手2位。

 

 ・・・。頭おかしいんじゃないのかな?

 

 

「ああ、言い忘れてた。」

 

 戦いの前に、風間さんが一言。

 

「俺が勝ったら、部隊入りの件はちゃんと真面目に考えてくれよ。」

 

 そんな条件...。はあ。

 

「ちなみにですけど、もしも俺が勝ったら?」

 

「俺に勝つ奴を、みすみす逃せと言っているのか?」

 

 ・・・。ですよね。言われると思いました。

 

 

 まあとりあえず、戦うか。

 

 

 一本目。

 動きが悪すぎて、あっさり負ける。

 

 

 二本目。

 何となく思い出してくるも、二連敗。

 

 

 三本目。

 開始早々の鉛弾を当て、有利に展開。勝利する。

 

 

 四本目も、同じようなやり方で連取。

 

 

 五本目。

 流石に三連続で同じやり方は通用しない。

 

 だが、そんなことは分かっている。レイガストを(シールド)モードにして、スラスターオン。

 

 そこから、近距離で拳銃(アステロイド)をぶっ放し、勝利を収める。

 

 

 五本終わって3-2。リードしている。

 

 こうなったら勝ちにいきたい。と思うのが、普通だろう。

 

 

 そして、六本目。

 開幕の鉛弾はかわされる。しかも、逆に腕を斬られてしまう。

 

 こうなれば一発逆転を狙って守りに徹する。

 

 しかし、風間さんの技に敗れ、あっさり3-3と追いつかれる。

 

 

 七本目。

 開始早々でグラスホッパーを使い、さらにスラスターオン。

 

 そのまま突っ込んで斬りかかる。

 

 勝利したかのように思われたが、間一髪でかわされていた。少し削っただけ。

 

 だが、このままいけば倒せる。そう思って距離を詰めたが、それは間違えていた。

 

 俺が風間さんを倒したと思った瞬間。

 

 思わぬところからスコーピオンがでてきた。

 

 結果、相打ちとなり、引き分けに終わる。

 

 

 そして、八~十本目は、頑張るものの三連敗。

 

 

 個人戦は、俺の3勝6敗1分けとなった。

 

 

 その後。

 

 俺は風間さんと話していた。

 

「やっぱり負けちゃいました...。」

 

「3本も取られるとは、まあ、噂通りと言ったところか。」

 

「でも、最後は全然手も出ませんでしたよ。」

 

「俺は、そう簡単に負けるわけにはいかないんでな。」

 

 

 やはり、分かっていたことだが、風間さんは強い。

 

 ここは、3本とれたことを素直に喜ぼう。

 

 

「ということで、黒分寺。」

 

 風間隊入り、考え直してくれ。というタイミングで、

 

「宵!!」

 

 いきなり遼が俺のもとに来る。

 

「どうした、遼?」

 

「さっき、病院から連絡が入って、お前のお母さんが...!」

 

!!!

 

 

*  *  *  *  *  *

 

 病室で、今にも亡くなってしまいそうな女性が一人。

 

 その病室に、駆け込んでくる一人の少年。

 

 女性に駆け寄る。「お母さん!お母さん!」とその子は叫ぶ。

 

 女性はうっすらと目を開ける。

 

「宵...。ごめんね、何もしてあげられなくて...。」

 

 そんなことない、と言うように首を強く横に振る少年。

 

 それを見た母親の顔には。

 

 

 笑顔が浮かんでいた。

 

 

「宵。あなたが一番大切だと思えるものを見つけなさい。」

「あなたが困ったときに、助けてくれる友達をつくって。」

 

 

「もっと、自分を大切にしないとだめよ。」

 

 

「こんな親で、ごめんね...。ありがとう、宵。」

 

 

 これが、彼女の最期の言葉となった。

 

 必死に母親の名前を呼ぶ少年。

 

 もちろん、その声は届かない。

 

 

 黒分寺明璃。

 

 くしくも、今日で去年の余命宣告からちょうど360日。

 

 一年の余命に数日届かず、亡くなった。

 

 

 その後。

 

 残された黒分寺宵。

 

 ふと、母が書いたと思われる手紙を見つける。

 

 

『宵。あなたにこの一年助けられた。私が落ち込んだ時、もう何もかも諦めそうになった時。

 私のことを励ましてくれた。本当に感謝してる。本当に、本当に、ありがとう。』

 

『それと、もっと自分を持ちなさい。あなたは、副作用を理由に、自分を出すことを諦めてる。

 でも、今のあなたには、友達がいる。存在をしっかり認識してくれる、素晴らしい友達が。

 怖いかもしれない。でも、勇気を出した先には、きっと幸せが待ってる。頑張って!』

 

『なんで、風間隊に入らないのか。私なりに考えてみたんだけど、合ってるかな?

 あなたは、周りに引け目を感じすぎている。自分に自信を持っていないんだよね。

 あなたには、せっかく才能がある。くすぶらせておくなんて、私はダメだと思うよ。』

 

 

「ははっ、全部見抜かれてる。・・俺ってば、ダサいな。」

 

 彼は、そうつぶやく。

 

「・・ダサすぎるよ。・・ホント。」

 

 そう言う彼の頬を、幾筋かの涙が伝う。

 

 美しい、涙が。

 

 

 その病室の外には、美しい夕焼けが広がっていた。

 

 

*  *  *  *  *  *

 

 半年後。

 

 俺の所属する部隊は、他のいくつかの部隊と一緒に、ネイバー遠征にいくところだ。

 

 太刀川隊、加古隊、そして、風間隊。

 

 

 母が亡くなった後、遺された言葉に背中を押されて、俺は風間隊に入隊。

 

 本来ならB級からやり直しのところだが、実力が認められ、特例としてそのまま入隊できた。

 

 

 俺は、自分の逃げ場として、ボーダー隊員になった。

 

 ココには、いろんな人たちがいて、毎日が楽しかったから。

 

 そして、奇跡的に、才能があったから、楽しく続けられた。

 

 誰かを守りたいとか、そういう正義感は持っていなかった。

 

 自分にとって、一番楽な選択をしていただけなんだ。

 

 

 そんな俺は、風間隊に入る資格はない。

 

 そう思っていた。

 

 

 でも、母の言葉で気付くことができた。

 

 俺にも、頑張らなくてはならない理由があることに。

 

 

 俺は、あの時。大規模侵攻の時。

 

 動けずに、ただ見ることしかできなかった自分を清算しなければならない。

 

 

 だから、俺は戦う。

 

 最も大事だと思っていた人はもういないけれど、

 

 助けなければならない人、感謝している人はまだいる。

 

 

 その人たちに応えるために、俺はこれからも歩みを止めずに進んでいきたい。    完




無事、完結ということで。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!

少しだけでも、印象に残る小説となったでしょうか。
そうであれば、嬉しいです。


それでは。
感想等を残していただければ幸いです。

読了、誠にありがとうございました!!


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