ファンタジーライフ ~転生先は異世界でした~ (篠崎零花)
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プロローグ

メモ帳に書き溜めしていくスタイルなので不定期の更新になります。

なるべく読みやすく頑張りますので、適当に読んでください。


とある家のある部屋。

男女が添い寝しながら寝ていたのだが……。

 

 

―――???視点

 

「ああ、もう。あなたの働く環境は卑劣すぎ。いい加減、そのことを伝えないとずっとこのままよ?」

と言う若い女性の声が聞こえてきた。

 

(……夢、かな……)

浮かび上がってきている意識でそう考え、もう一度寝ようと試し始める。

 

「まぁまぁ、仕方ないじゃないの。私達だってやってしまうときはやってしまうんだもの」

「やってしまう、と言うレベルではない。これはもう、他の神にもよくなるまで助力を請うべき」

 

おっとりとしたの声が楽観的にそう言うが、凛としたの声の持ち主が説教するかの如く言った。

 

(夢だと言うのにうるさい)

そう感じた女は寝返りをうつ。

右半身が下になっている横向きから左半身を下に。

「だから―――他の神は―――言わないとなにもしない―――」

凛とした声の持ち主が言っていると、

「はいはい、そうね。それはあなたから散々聞かされたわよ。……ところで、その子、起きたんじゃないのかしらね?」

 

そう言われてようやく女の方を向く。

「む…。確かに向きが変わっている。こうなっては仕方ない」

もう諦めたかのような声を出したかと思うと、

「手間をかけるようで悪いのだが、起きてこちらを見てはくれないだろうか」

と呼びかけてきた。

 

(はぁ……。見るだけなら…仕方ない、かな)

そう思い、立ち上がって声のした方へ体ごと向くと、とんでもない人物が二人ほどいた。

 

片方は武装した若い女性で、剣と思わしき物が腰に下げられている鞘に入っている。

服装は武装しているわりにはかなり軽装で、西洋風ドレスのようにも見える。

容姿はダークブラウンの髪はセミロングからロングヘア辺りの長さに青い澄んだ瞳。

 

もう片方の若い女性はゴスロリを着ていて、大きな鎌を手にしている。

容姿は薄黄緑色の髪はツインテールにしていて、髪飾りとしてドクロのものをつけている。

薄黄緑色から紫色になっている毛先は足のふくらはぎの付近までのびていて、少し上の部分にとけどけしい髪留めがつけられている。

 

「え、えーと…コスプレ?それとも私が見ている夢?」

と聞きつつも、多少違和感を覚え始める女。

 

「やっぱりそうなるのか。でも、どちらも違うんだよ」

 

「もうパッと言うとね、この人かって死を迎えさせたら実は違ってねぇー」

オブラートに包もうとした言葉をあっさり言うゴスロリ少女に呆れる若い女性。

「ちょっとヘル!……でも、申し訳ないね。こちらも上に散々言ってきたんだけど、どうも本人達が現状を大げさでもいいから伝えないと対応してくれないみたいでね」

 

「は、はあ…。それで、私は死んでいる…で間違いないと?」

困ったようなな笑みを浮かべ、曖昧な相づちと共に小さく頷いた。

そして念のため、と言う意味も含めて確認しようと声をかけ。

 

「ええ、そうなのよ。だからアテナがあなたに何かしたいって聞かなくってね~」

 

「そう、ですか」

自分が死んだ、なんて信じがたい。

どう考えても。

 

しかもよりにもよって、あの人と添い寝している時だなんて…。

 

そう考えていると申し訳なさそうな顔をするアテナ、と呼ばれた若い女性。

「ヘルはいいから。それで、生まれ変わりをさせてあげたいんだ。二度目、は保証できないけどもう一度人生を楽しめるよ」

 

「……。…まぁ、生き返れるのなら。生まれ変わりでも、いいよ」

返事を渋ってからそう答えた。

 

「ありがとう。では、ヘル。いいね?」

 

「はいはい、分かったわよ。なにも言いはしないわ」

 

仕方なく、と言うヘルと呼ばれた若い女性はアテナと呼ばれた若い女性の傍に立ち。

「忘れてたわ。私はヘル、そっちはアテナよ。…じゃ、新たな世界で、ね」

そう言うと女を転生し始めさせる。

 

別れを言うなら今しかない。

そう感じた私は、

「私は篠宮碧喜(しのみやたまき)だよ。さようなら。アテナ、ヘル」

と言い終えると見計らったかのように碧喜の視界が光に包まれた。

「よい人生(ライフ)を」、そう聞こえた気がした。

 

―――???視点

 

起きると、隣で相変わらず猫みたいに丸く横向きになって眠るあの子がいる。

 

(もう少ししたら起きるだろう。寝顔も見たいし、そのままにしよう)

そう思って顔を数分見てからスマホをいじり出す。

 

スマホの画面を消し、それからいつものようにすぐ横にあるテレビをつけ、ゲーム機をつけると赤い動画のマークのものを起動させた。

 

(寝顔はいつ見ても飽きないな)

と思いながら上がっている動画を見ていく。

 

見ている時、ふと思った。

(……それにしても、起きないな)

動画を見はじめてからそれなりに経つと言うのに。

それはおかしいとその子の体をゆすり―――



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第1話 片割れの始まり

基本的に平和です。

なにかしら起きたりする予定ですが、まだ先のお話…と言うことで。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


―――碧喜(たまき)視点

 

耳に響く赤ちゃんの鳴き声。

視界がなんだか狭く、前よりうまく見えない。

 

「よしよし、良い子ですね~」

と言うと白い液体が入った哺乳瓶をこちらの口に持ってこようとしてくる。

 

(て、転生してすぐにこれって…!)

驚いた私は思わず払ってしまった。

だが、嫌がらずに微笑みながら再度持ってこようとする。

 

でも今度はゆっくりだ。

「大丈夫よ、ミルクだから」

 

そう言う母親の耳は垂れ下がっているものの、とんがっていた。

 

 

 

 

 

 

――約十数年後

それなりに時間が経ち、色々と馴れてきた頃、母親であるアニス・フェルマーに様々なことを教えてもらえた。

 

どうやらこの世界にはエルフや精霊以外の種族がいて、その他の種族の人達と交易などをしているらしい。

 

お土産、と言う概念もある辺り元の世界に似ているな、と思う。

 

(……に、してもこの本面白い。魔導書で魔法を覚えるのもいいけど、これは分りやすくていいね)

『面白簡単!難しい魔法もこれでばっちり!』というタイトルの本を読みながらそう思った。

 

その時、扉を3回ノックする音がした。

「はーい」

 

「リーシャ、いるわね?入るわよ」

と言う声と共に扉が開けられた。

「どうしたの、お母さん。なにか用なの?」

 

「ええ。ノーラちゃんが遊びに来てるわよ。そうだわ、ちょうどいいし、それを見せてあげたらどうかしら?」

言いながら私が持っている本を指差す。

 

「これ?……そ、そうかな」

と言って再度読んでいるところを見る。

タイトルの通り、簡単な魔法から難しい魔法まで書いてある本。

なんだけど、簡単な魔法なんて物によっては家事を例えに載っているわ、難しい物にいたってはドッジボール式で載っていたりと色々とおかしい。

 

(簡単だけど、習得するのにある意味時間かかりそうな本だよね)

 

「そう思うわよ。ノーラちゃんは魔法を扱うのは上手みたいなんだけど、覚えるのは苦手みたいなのよね」

 

「そうだったの?ならこれ、貸しても平気だよね。家、近くなんだし」

その本を閉じて立ち上がる。

私が振り返るとアニス(おかあさん)は微笑んでいた。

 

「それも良い手ね。ああ、ノーラちゃんならこっちに案内したわよ」

と言い、手招きしてきた。

 

1階に降りるとリビングにノーラ・リーンがいた。

金髪が肩に触れる程度伸びていて、明るい水色のつり上がった瞳がどこかツンデレっぽい(外見だけ)。

今日の服装は短パンを履いていて結構ラフに見える。

 

「おはよう、ノーラ」

 

「あら、おはよう」

と言ってニコッと微笑む。

 

「……と、そうだったわ。今から私は用事で外に出てくるわね。それで、なにか外に出るとかするんだったら置き手紙とかしていってちょうだいね」

と言い残してアニスは玄関から外に出ていこうとしてノブに手をかける。

 

「いってらっしゃーい」

「はい、分かりましたわ」

そう言われ、嬉しそうな笑みを浮かべると出ていった。

 

 

すると思い出したかのようにバンッとテーブルを両手で叩き

「あっ、そうだわ!わたくしと行ってほしい場所があるのよ。いいかしら?」

 

「い、いきなりどうしたの…。いつもそんなことあまり言わないのに」

と言うと本人(ノーラ)は不思議そうな顔をした。

 

私がその顔をしたいよ。

と言うのは置いておいて。

 

「それで、どこへ行きたいと思っているの?場所によっては私達じゃ大変だよ?そう、森の民なだけに方向音痴だから」

 

「大丈夫よ、そんなに厳しいような場所には行かないわよ。……都市へ行きたいのよ」

と呆れたような視線を向けながら言う。

どうやらしゃれは私に合わないようだ。

 

 

 

書き置きを残した私達は(本は書き置き(それ)をテーブルにおいた時に渡した)村から少し離れた場所にある飛行船の停留場に来ている。

 

「おー…。すっごいねー」

ちょっとした休憩所のような場所を見渡す。

食事処から雑貨売り場など、小さめながらにあると助かる物が多い。

 

「ええ、そうね。でも今は乗り場の方に行くわよ」

 

「はーい。色々と足りればいいんだけどね」

 

 

 

その後も他愛ない会話をしながら、乗り場付近にまでやってきた。

 

「2人よ、いいかしら?」

 

「はい。これね」

とお金を受け取り、2人分のチケットを渡す女の人。

 

 

因みに飛行船はどこへ行くとしても一律料金。

安いね

 

 

「買ってきたわよ。さ、行きましょ」

と私の左手を右手で握り、歩き出す。

 

「私はノーラちゃんにお金渡さなくていいの?」

そう聞くとノーラは歩きながら

「ええ、いらないわ。わたくしのわがままで来てもらっているのだから」

 

「気にしなくてもいいのに…。まぁ、分かったよ」

困ったような笑みを浮かべつつ、縦に二度頷いた。

 

 

 

 

――飛行船内

都市行きなだけあって、たくさんの人が乗っていた。

どこを経由してきたのか、人間やドワーフも乗っている。

 

「都市へ行くなだけあって、たくさん乗ってるね」

 

「そりゃ都市って言うほどだもの。これぐらい普通だと思うわよ?」

そりゃそうか、と思い「それもそうか」と言ってから空いている窓辺へと向かった。

窓から見える外を眺めつつ、都市に着くのを待った。



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第2話 転生は突然に

(こんなんで戦闘シーンとか書けるのだろうか)

と言う心配を今からする、どうも心配性です。

まだまだ平和に行く(予定)です。

※第1話ではなく第2話でした

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


―――???視点

 

気がつくと、俺は真っ暗な空間にいた。

何故、あぐらをかいて座っているのかは分からないが、楽だ。

 

「やっぱり説得は面倒ね。タナトスの頭を縦に頷かせるのは大変だったわ」

といきなり背後からそんな呆れたような、疲れたような声が聞こえてきた。

 

「でもあなた、あんまりよくないわよ~?そういうのは」

 

何の話だろうと思い、振り向く。

…コスプレだろうか。

ゴスロリを着たツインテールの若い女性が立っている。

 

「そうか。……それってコスプレ?」

 

「コスプレ?…ああ、そう見えるのね。なんか、他の死神(ひと)と区別するために着ろって言われてそのままなのよねー」

とおっとりとした口調で言った。

 

そんなんでいいのだろうか?

そう思ったけど、口にしないでおくことにする。

 

「そ、そうか。それは大変だったね?」

 

「ええ、大変なのよ。……っとそうだったわ。このままだと私が苦労した意味がないわね」

と思い出したかのように言った。

 

「あなた、生き返りか生まれ変わり。もし、選べるんだとしたらどっちがいいかしら?」

 

いきなりなんだ、と思ったが考えることにした。

 

……。

 

「どっちかと言われたらそりゃあ生まれ変わり、だね」

 

と言うとその若い女性は

「なるほどね。なら多分あなたも同じ世界へ送っても大丈夫でしょう。アテナもきっと許してくれるわ」

と言うと何かをいきなり唱え出した。

 

「ちょっ。ま、待って!?」

と言うのも遅く。

俺は光に包まれてしまった。

 

 

「……説教、なければいいんだけども」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か天井が見える。

なんでだろうか。

ぼんやりとしているのも、きっと気のせいだ。

 

「そろそろミルクの時間じゃないのか?沙恵」

 

「あっ、そうだったわね。私ってば、もう少しで忘れるところだったわ~」

 

「おいおい…。」

 

なんて会話が聞こえる。

なんのことだか分からないけど、お腹が空いた。

そう思い、それを伝えようと声を出そうとしたら何故か赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。

 

でもかなり近い。

まるで、俺が出しているかのようだ。

え?俺から?

 

そんな疑問を抱きつつ、少しずつその疑問などが理解しきれずに混乱し始めた俺の視界に映ったのは男女の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――約15、6年後

両親は、とても優しかった。

強いて言うなら母親である沙恵(さえ)って人がマイペースすぎることが残念かな。

諒太(とうさん)が苦労人になりかけているぐらいには。

 

そう思い返してから、ふと思った。

(都市、か)

 

昨日、友人に誘われて今日行くことになっていること。

 

家も近所らしいし、そろそろ来てもいい気がするんだよね。

そう考えた瞬間、チャイムが鳴った。

 

「あーい。今行くー」

言いながら居間から玄関へ向かう。

 

開けるなり、

「おっ、おはよ。じゃ、悠希。行こうか」

 

「おはよう。そうだね、そうしようか」

と話をしてそのまま出ていった。

 

 

 

 

「でも、今回はどうやって行くつもりなんだ?」

 

そう聞かれると横で歩いている愁斗(しゅうと)が平気そうな顔して笑った。

「あー、それは平気だよ。俺が先に用意しておいたからな」

 

「なにを用意したって言うんだよー」

と言いながら俺は愁斗の肩に左手をまわした。

声のトーンもふざけてるのが分かるほどに。

 

「あとで教えてやるよー」

 

「あとっていつー」

 

「そこについてからだよー。急かすなよー」

なんてふざけながら。

 

歩きづらかったのは言うまでもない。



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第3話 出会いはご都合主義

動作って案外難しいですね、篠崎小姫です。

まだ平和は続きます。

本編どうぞ。

※第2話ではなく第3話でした

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


―――悠希?視点

 

ついた先は飛行船の乗り場だった。

「ってことは…これで行くんだね」

 

「そうだよ。今のところ、馬車より安く、且つ速いからな」

 

「馬車の方が遅いのは仕方ないと思うけどな。地上だし」

呆れたような視線を愁斗(しゅうと)に向けながら俺はつっこんだ。

 

「それもそうか」

と肩をすくめ、

「まぁ、行こうか。チケットは用意してあるからさ」

 

そう言って乗船口を指差した。

「はいよ」

 

 

 

 

 

―――飛行船内

人間以外にドワーフが乗っている。

それ以外にも耳の長い人達が僅かに乗っていてさすが都市だと改めて認識する。

 

「馬車よりは…広いし、浮力もあるから平気なのか」

 

「そういうもんじゃないのか?きっと。どうなんだろうな」

と言うと落ち着ける場所を探し始める愁斗。

 

「どうなんだろう、分からないね。でも…どっちもいいものだね」

そう言いながら窓辺により手すりに腕をのせながら外を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――数十分か一時間後

都市の飛行船乗り場についた俺達はさっそく噴水のある公園まで向かった。

 

「久しぶりにこっちに来ると凄いな。都会って感じがする」

 

「何度見ても凄いとしか言えないけどね…」

そう言って俺は一度周りを見渡す。

様々な種族の人がかなりいるせいか人口も多い。

しかも噴水の近くにある人の像はそれなりの大きさがあって何気に目立つ。

 

……?

何故か噴水の近くにある椅子に座っている少女に目が行った。

 

容姿は長い髪の毛で、後ろ髪の上部分だけ結っている。

その横から少し短めのとんがった耳が見える。

 

顔を見ると、明るい翠色(すいしょく)の瞳は心配げに伏せられている。

 

最後に服装を見ると、白いノースリーブのワンピースにほんの少しヒールの高い白色のサンダルを身につけていて可愛いと思った。

 

「おっ、あの子可愛いと思わね?」

なんて言いながら俺の肩に腕をのせ、指差す

「まあ、そうだね。可愛いんじゃないかな」

 

「おっ、お前もやっぱりそう思うか」

 

(今の、適当に返したんだけどな)

と俺が呆れながら考えた、その時。

「んじゃ、悠希。お前行ってこいよ」

 

「は!?なんでそうなる。別に愁斗でも構わないと思うけど」

 

「俺じゃ駄目なんだよ。ほら、いいから行ってこいって」

と言い、肩に回していた手で強く背中を押される。

 

渋々行きながら一度だけ振り返るとニヤニヤと笑っている愁斗(あいつ)がいた。

 

 

 

 

 

目の前まで行き、とりあえず声をかけることにした。

「どうしたんですか?」

 

「幼馴染み同然の友達と来たんだけど、飲み物買ってくるって行ったきり戻ってこないの。それでここで待ってるだけだよ」

 

それだけ、にしては不安そうだ。

「探さないんですか?その友達を」

 

「うん。近くだって言ってたし、それにあの子…方向音痴なの」

 

それはまずいんじゃないだろうか。

って言うか近くだって言うことは…かなりの方向音痴だな、その友達は。

 

「……ところであなた、名前は?」

思考を遮るように聞いてきた。

 

そこでようやく俺は

(名乗ってなかったか…。そりゃ、警戒もされるわな)

と気づいた。

 

「それは悪かった。俺の名前は幸野悠希(こうのゆうき)と言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――碧喜視点

――時間を遡って数時間前

 

私達は飛行船を降りるなり噴水のある公園へと向かった。

 

「凄いねー。これじゃ下手したら迷子になりそうだよ」

公園とは言え、かなり人がいる。

だからふざけてそう言った。

 

「大丈夫よ、わたくしにはリーちゃんがついているんだもの」

 

「いや、誰がナビよ」

 

「わたくしの保護者と言ってほしいわ」

 

「それはまた違う気がするかなー…」

なんて他愛ない会話をしながら噴水近くについた。

 

「あっ、そうだわ!わたくし、ここで美味しいと評判の飲み物を売っている店を知っているのよ。いるかしら?」

 

「それはいいね。うん、欲しいからお願いできる?」

 

「ええ、いいわよ。そんなに高くないし、この公園からすぐの場所だからすぐに戻ってくるわね」

そう言ってニコッと笑みを浮かべるノーラ。

 

方向音痴だから、不安だな…。

 

 

その後、まさか心配していたことが実際に起こるとはその時の私は思っていなかった。

 

 

 

――現在

短い黒髪の少年が目の前に歩いてきた。

茶色よりの黒い瞳、半袖Tシャツに長ズボンのカジュアルだけど、かなりラフな格好。

 

おしゃれとは言えないけど、変に目立たない服装だと思った。

 

そんな少年と会話していてふと、名前を聞いてないなと思った私は名前を尋ねてみた。

するとその少年は幸野悠希と名乗った。

 

その名前を聞いて思わず前の世界にいた菊野優季(きくのゆうき)と名前がそっくりだと思った私は

 

「あなたのことが知りたいの。友達からでも良いから付き合ってもらえないかな?」

と勢いで言ってしまった。

 

「……えっ?」

 

固まる相手。

それもそうだ。

いきなり告白のようなことを言われたら誰だって困る。

 

「あー、その前に名前とか聞いておきたいです」

 

「私の名前はリーシャ・フェルマーだよ」

 

「そうですか。では――」

悠希(あいて)言いかけたところでその肩に新たな少年の腕が回された。

 

「悠希ー、まだやってるのかー?長いぞー」

 

「別にいいじゃないか」

 

「そりゃーそうだけどさ」

と言うとこちらを見て

 

「あっ、初めまして。俺は寺園愁斗(てらぞのしゅうと)です。宜しくお願いします」

と名乗ってきた。

 

「そ、そうなの。…宜しく」

 

「ちょっと俺らとこれから遊びに行きませんか?こいつも喜ぶと思うんで」

と言いながら肩に回した腕で軽くふざけた感じで揺らしている。

 

「付き合わせる前に手伝ったら?愁斗がなに考えているんだか知らないけど、この子…友達が方向音痴みたいで、戻ってこないらしい」

 

「マジか。一緒に探してやる。友人の名前はなんだ?」

いきなり悠希の肩に回していた腕を離すと真面目な顔をして私を見てきた。

 

「…ノーラ・リーンって言う名前だよ。この近くに美味しい飲み物を売っている店があるって行ってきりなんだけど、知ってる?」

 

「なるほどな。悠希、探してやろう。俺、先に行ってるからお前もその子連れてきてくれ」

と言うと走って行ってしまった。

 

「あー、まぁ。歩きながら話そうか」

と言って立ち上がる私。

 

「分かりました。俺も聞きたいことがあったのでお願いしたかったところです」

そう言うとお互い歩く速度をあわせながら愁斗の向かった場所へ歩き始めた。



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第4話 方向音痴はこの中にいる

まだまだ日常で行きます、篠崎小姫です。

そのうち、ちょっとした戦闘シーンとかいれたいですね。
きっと戦闘とすら言えないシーンになりそうですが。

自分の身を守るのは自分、ですよね?

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――悠希?視点

愁斗(しゅうと)と聞いた話(聞いたのは愁斗だけど)だと迷子になったノーラって子はどうやらあの店らしい。

 

ある意味何度も遊びにきていて正解だったらしい。

自分1人では行く気も起きなかっただろうけど、そこはいつも誘ってくれる愁斗には感謝かな。

 

「それで、リーシャさん。どうして僕にあんなことを言ったんですか?」

とひとまず気になったことを聞いた。

 

「よく知っている名前に似ていたものだから、だね。あなたのことを知りたいって言うのは本当だよ」

 

「そうなんですか。その俺の名前に似ている名前ってなんですか?」

 

それを聞くとリーシャは答えづらかったのか、困ったような笑みを浮かべた。

 

「それは…私達が友達になって親しくなってからが、いいかな」

 

「そう、ですか。あとなにかありますか?」

 

「今じゃ話せないことを抜けばもうないよ。もっとも、話せないのが多いけどね」

 

歩きながらそういう話をした。

全てを話してくれないのは初対面だからなのだろうか。

仕方ない、か…。

 

 

少し歩き、あとちょっとで店に入るってところで少女が呟いた。

「……篠宮碧喜(しのみやたまき)

 

「えっ?今なんだって?」

思わず足を止めてリーシャの方へ振り返る。

 

「なんでもないよ。探すの手伝ってくれてるんだから私も入るよ」

ニコッと微笑みながらなんでもないように言う。

 

……なんだろうか。

物凄く聞き覚えのある名前だった気がするんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

思わず前の名前を小さく呟いてしまった。

独り言のように言ったのが幸いして聞こえてなかったみたいだけど…聞こえていたら、どうしようかな。

 

なんて思いながら店の中へ先に入ると後から少し早足で悠希が入ってきた。

周りを見渡し、ノーラ(あのこ)を探す。

 

少しも探さないうちにさっきの男――愁斗(しゅうと)――がノーラと共に歩いてきた。

 

「案外見つけやすかったぞ。ただまさか店内で迷子になっているなんて思わなかったが」

 

「どうにか近くまでは行けてたのよ?だと言うのにリーちゃんから名前を聞いたってその男がわたくしを探しているって言うんですもの」

 

「ああ…そうなの。ごめんね、今度からは私も一緒に買いに行くから」

と言いながら私はノーラへ憐れみの目を向ける。

 

「だっ、大丈夫よ!次はなんとかなるわ!」

 

「絶対フラグだな」

 

「そうだね、迷子フラグたったね」

 

「あなた達まで!?と言うかフラグってなによ、フラグって」

 

「ノーラちゃんは知らなくていいと思うの。純情のままで、いよ?」

 

「そ、そういうものなのかしら…」

 

なんて会話をしていたら思わず笑ってしまった。

 

「もー!笑い事じゃないのよー?」

 

「あはは、ごめんね?」

と言った所で思い出した。

 

「あっ。悠希さん、愁斗さん。ノーラちゃんを探すのを手伝ってくれてありがとう」

 

そう言うと愁斗が得意げに

「構わないさ。レディーのためだからね」

と言った。

 

「お前、寒いから。まぁ、これぐらい構わないよ。もし、気にするんだったら…そうだね…俺達、これから遊びに行くんだけど来ないか?ノーラさんが酷い方向音痴だってのは分かったし、俺達も帰りまで一緒に見てあげるからさ」

 

その提案ははっきり言って嬉しかった。

多分あの話も気になっているのもあるんだろうけど、今は素直に受け取ろう。

 

「おっ。ついに悠希もナンパかー?」

 

「違うよ、どうしてそうなる。お前だって酷い方向音痴の子を1人で見るのは大変だと思うけど?」

 

「それもそうか…」

 

「それで、どうする?無理なら無理で強制はしないから」

 

「問題ないよ。ノーラちゃんも大丈夫かな?」

 

「ええ、大丈夫よ。むしろ大丈夫かどうかって聞き直したいほどだわ」

 

そう言ったノーラは愁斗と悠希の方を向いた。

「俺は大丈夫だぜ」

 

「別に問題はないかな」

愁斗、悠希の順に返事をしてきた。

 

「あっ、なら俺さ、いいところを知ってるからそこで遊ばないか?」

と言う愁斗に

 

「そう言ってる愁斗(おまえ)がノーラさん担当ね」

そう悠希が言うとオーバーリアクションで愁斗が反応した。

 

「まさかの俺か!確かに言い出しっぺは俺だけどさー!」

それに悠希は「なら任せたよ」と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数時間後、場所を遊園地に変え遊び始めた頃

「都市にはこんな施設もあるんだね」

なんて言いながら、私はさっき買ったチョコチュロスを食べる。

 

「そうなんだよ。都市って色々遊べる場所が多いんだよ。だからほら周りなんか昼前だって言うのにこんなんだぜ?」

 

そう言われ周りを見ると、多種多様の種族の人達から別々の種族でグループを作り歩いてたりする。

家族で来ている人達もそれなりにいるようだ。

 

「だから俺はあんまり来ないんだよね。愁斗(しゅうと)に誘われなかったらこんなに来ないよ」

 

「ま、まあ…そればっかりは仕方ないんじゃないかな?楽しいから皆来るんだろうし、それに…私が楽しい!」

 

そう言うと2人に呆れた表情をされた。

前の世界と違って、村は森の中。

こういう施設はないんだよ?

 

「そ、そうか…。んじゃあ、まだ少し乗って遊んだだけだし、他にも乗るかい?」

 

「おー、それは賛成。ノーラちゃんもいいよね?」

と聞こうとした。

 

その近くに、ノーラはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――悠希?視点

……。

何故だろうか。

また迷子になったのか、と言う思考より妙におかしいと言う思考が優先される。

 

 

 

――もしかして、ノーラさんが、やけに俺達の側にいたから?

 

 

 

いや、違うだろう。

「とりあえず探そう。リーシャは俺と。愁斗(しゅうと)は――」

 

「俺も一緒に探す。万が一があるだろう?1人より2人。2人より3人だろ?」

と愁斗が遮るように言うと渋々といった表情なものの、首を縦にふった。

 

「なら私は魔法でいる方向ぐらいは見てあげるね」

 

「魔法?そんなんでいる場所が分かるのか?」

と不思議そうに愁斗が言った。

 

「うん。正確には魔法じゃないんだけど、ノーラちゃんが持っているアクセサリーにノーラちゃんの親がかけたのがあって、それの合言葉のようなものを教えてもらってるだけだよ」

 

「なるほど。でも今は使える。ならリーシャさんにそれを使ってもらって俺達は万が一に備えて自己防衛の言い訳を考えておこうか」

 

「ああ、そうだな。あんな方向音痴の子がこんな場所で迷子になったものなら格好の餌だからな」

 

物騒な…。

と言うかあなた達は何と戦うつもりなのかな?

自己防衛云々は全然関係ないと思うんだけど。

 

一応、そのつけられている合言葉のようなものを唱える。

すると――

 

 

 

 

 

 

 

 

――悠希?視点

リーシャがなにかを唱えると、ノーラがいる方角が分かったらしい。

 

この人ごみの中では一番使える代物だけど…合言葉、と言う辺り本人は使えなさそうだな…。

 

それは別にどうでも良いとして

 

(なんで既視感(きしかん)なんかを覚えるんだろう。不思議だな)

 

と考えた。

だけど、後から多分わかるだろう。

そう思ってその思考をやめリーシャの行く方向へと行くことにした。

 

 

「…ところで、悠希。お前どうした?いきなり難しい顔をしたと思えばなんともないような顔して。なんかあったのか?」

 

歩きながら聞いてくる愁斗(しゅうと)

いつもは出ないようにしてたんだけどやらかしたか。

 

「ああ、いや。別になんでもないよ。多分俺の気のせいだと思うからさ」

 

「そうか?ならいいんだけどさ。なんかあったら俺に相談しろよ?なんとかしてやるから」

 

「うん、ありがとう」

そう愁斗と会話をしているとリーシャが止まった。

 

「……まさか、あそこ?」

そう言って指を指した先は何故か『都市一最恐』と名の高いお化け屋敷だった。



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第5話 戦闘経験は素人にあれが生えただけ?

次の話から戦闘が入ります。

なるべく想像しやすいよう頑張ってみます。

因みに両開きの扉の向こうの部屋は入って正面、左側、右側に扉があって、右側の扉はエクジットです。
※8月16日追記

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――悠希?視点

よりにもよって何故ここに…。

そう不思議に思ってリーシャの顔を見ると建物を(いぶか)しんでいるのか、そんな眼差しで見つめている。

 

「俺達の移動ルートの付近にお化け屋敷なんてなかったはずだし、こりゃあ出ないように不自然だな」

 

「そうだな。…っていうかどうやって確認するんだろうか。入る以外になにか手段はないのか?」

と返しているとリーシャも参ったような表情を浮かべた。

 

「スタッフに言う、のもありだろうけど普通に入っていったって言われたら私達も入るしかなくなるね」

 

「そうだな…」

「そうだね…」

俺と愁斗(しゅうと)がほぼ同時に返事をした。

 

どうしたものか…。

方向音痴のノーラが迷子になった時、手伝うと言った反面断りづらい。

愁斗もそう考えているのかどうかは分からないが、困ったような笑みを小さく浮かべている。

 

「とりあえず確認のために…入ろうか」

とリーシャ。

 

「「えっ?」」

思わず声をあわせて驚く俺達。

 

いやいや、そんなまさか。

普通、迷子を探すだけで入るわけないしね。

 

「どうする?」

 

「ひとまずリーシャさんの動きを見ようぜ。それからにしても――」

と2人でこそこそ話していたらリーシャは平然と向かおうとしている。

 

「…ためらっている場合じゃないらしい。愁斗(しゅうと)、この際だからついていくか」

と俺は半目で。

 

「ああ、そうみたいだな。なんでこんなことになったのやら」

愁斗は渋々といった顔で。

 

それぞれついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜視点

正直言って本当はこんな場所にいてほしくないと思う。

だっていくら人がこういう日でも多いからと言った所で、お化け屋敷に迷いつくような子じゃない。

 

「入る、か」

と呟いて入ろうとした。

 

「…ちょっと待って、リーシャさん。あそこ、なんかおかしい気がする」

そう言われ、振り返ると真顔の悠希が。

 

「おかしい、って?」

そう聞くと、驚きの返事をしてきた。

 

「……自衛はできるよね?」

 

「ま、まあ、ある程度はできると思うよ。どうして?」

と聞くとなにも言わずに先に入っていく。

 

「またあれか。リーシャさん、とりあえず頭の片隅にいておくだけにしておけ。気楽に行かないと大変だからな」

ニコリ、と微笑みながら「行こう」と言ってくれた。

 

「うん、分かった。そうするね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜視点

 

 

――お化け屋敷内部

入るとやけにおかしいような感じがした。

悪意、というべきなのだろうか。

 

「リーシャさん、愁斗(しゅうと)。ちゃんと後ろについてる?」

半身だけ振り返りながら聞いてきた。

 

「いるよ。でもやっぱりお化け屋敷だから薄暗いね」

 

「仕方ないな。雰囲気から怖がらせたいんだろうし。あ、俺もいるぜ」

と順番に返事をした。

 

「分かった。なら進もうか」

悠希(ゆうき)はそう言い前を向くとそのまま歩き出した。

私達もそれに倣って歩き出す。

 

 

 

 

それでしばらく歩いたが、機械によって驚かされることもお化け役に驚かされることもなかった。

むしろ…

 

(普通の人が、いない?何故?)

 

そこに疑問を持たざるおえなかった。

 

「不思議なくらいに(なに)もないな」

 

「そうだね。…凄く変な感じがするけど」

なんて話ながら歩いていると黙っていた悠希がいきなり両手を広げ

「止まった方がいい。この先になにかいる」

と私と愁斗(しゅうと)にしか聞こえないような声で言った。

 

「この先?でもこの先って…」

と言いながら前を向く。

 

そこにあるのは両開きの扉。

このお化け屋敷特有の少し広めの部屋があるらしい。

 

そもそもこのお化け屋敷は古い館をイメージしているらしく、2階建て。

短く歩いてちょっとだけ怖い思いをして帰るのもよし、長く歩いて恐怖を体験するもよしのなんとも変わったアトラクション。

 

「そうだな。本来ならあそこはさらに恐怖を引き立たせるためのものがあるはずだ」

 

「でも今は…。気を引き締めた方がいい。多分やっかいなことになってる」

 

私はなんとなく首をかしげた。

そう、なんだろうか。

 

「まぁ、でも気づいたのが早かった(・・・・)。だからまだここにいるんじゃないかな?今回はノーラさんって子の親に感謝だね。面倒なことにならずにすんだ」

そう言って指をポキポキと鳴らし始める。

 

この先になにがいるんだっていうのだろう。

 

「悠希が言うんならそうなんだろうな。とりあえずそろそろ開けても大丈夫そうか?」

 

「俺は平気だよ。リーシャさんは?さすがに心構えとかなしでいきなり、は大変だろうしね。あー、今回もなんとかなるといいんだけど」

 

……

「うん、分かった。」

 

そう言って私が頷くと愁斗(しゅうと)悠希(ゆうき)が両開きの扉のそれぞれ左右についた。

 

「悪いんだけど、リーシャさんもいけない?先行はしてあげるからさ」

 

「分かった。少しならお父さんからトレーニングの一環で教えてもらったし、頑張ってはみるね」

と言うと愁斗の方が手招きしてきた。

 

「なら大丈夫そうだな。悠希、こっちはいつでも行けるぜ」

 

「分かった。なら行くよ」

と言うと悠希(ゆうき)愁斗(しゅうと)が扉を思いっきり蹴って開けた。

 

 

両開きの扉の向こうに広めの部屋があり、真ん中に人が1人横たわらせるのに十分な(つくえ)がおいてある。

 

その上に誰かがのせられているが、元から薄暗く作られているせいかやや見えづらい。

 

そうやって見ていると2人は先に入って警戒しながら別々の場所を見ている。

 

(なら、私はあの机…かな?)

 

 

私も中へ入り、真ん中へ近付く。

机に横たわっている人物は肩まで届きそうな金髪をしているように見える。

耳は…(とんが)っている。

 

「ノーラちゃん…?」

 

その子の名前を呼びながら揺する。

なにかで拘束されているのか体だけがそれにあわせて左右に揺れる。

 

「多分手足がなんかで繋がれてるんだろうね。ところで愁斗、なにか見つけた?ここでもある程度の収穫はあったけど」

 

「……ああ、俺も手がかりまでとはいかないがちょっとした収穫があった」

 

と言うと早足で歩き、私の背後まで近寄ると「3人一緒になってた方がいい」と言い、急かすように背中を押した。

 

私は頷き、悠希の近くに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――悠希?視点

 

「収穫があった、というわりには同じ場所に集めるんだね」

 

「ああ、その方が伝えやすいのもあるしな。それでな…?」

と言うと俺達にも聞こえるギリギリの小声で教えてくれた。

 

幸いこのお化け屋敷はBGMというような音が大きく流されていない。

おかげさまで全部聞き取ることができた。

 

「そこでなにをしているのかな?君たち」

 

いきなりそんな声が正面からした。

 

「そういうお前こそここでなにしてる?」

と俺はその方を向きながら警戒心丸出しで問う。

 

「俺はここの関係者だ。お前らは無関係者だろう?ここから早く出ていくんだ」

 

と言って追い出そうとこちらに来た瞬間。

 

「―――」

 

リーシャが突然呪文らしきものを唱えた。

すると氷が虚空から現れ、声の持ち主の方へ飛んでいった。

 

パリン

 

「いきなりなにをするんだ?危ないじゃないか」

と言いながら姿を見せたのは赤黒い髪を少し長めに生やした男性。

既に得物である両刃の槍を手にしていて、臨戦態勢をとっているようにも見える。

 

「私達に敵意のようなものとかを向けておいてそれですか?それに、関係者なら手にしているそれはいりませんよね」

 

「ほう…それもそうだ。だが、まさか分かるとは。いや、よく見れば君もエルフか。そりゃ比較的敏感なわけだ」

と私の耳をしげしげと見ながら言った。

 

「…んで、その子はどうやって連れてきたんだよ。さっきまで俺達と一緒にいたはずだけど」

 

「ああ、それはとても簡単なことだよ。もう1人と一緒に優しく声をかけ、『何度もここに来てるから、君が望むような場所に案内できるよ』と言ってやるだけ。それだけで十分だ」

 

私は驚きを隠せなかった。

あの子(ノーラ)はそこまで無警戒な子ではなかったはずだから。

 

「それで、その子になにをしたんだ?さっきからビクとも動いてないんだが」

 

「ああ、その子か?その子は潜在魔力が高かったもんだから利用させてもらったよ」

と言って机の上のノーラ(あのこ)に近寄りお腹を撫でる。

 

「…ノーラちゃんは冗談気味に前世の話をしても信じてくれるような良い子だった」

 

そう言われ、男性は怪訝そうな顔をした。

「それがどうした?」

 

碧喜(たまき)だったあの時には出来ない方法であなたを―――牢屋へ送ります」



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第6話 混血種とご都合主義に前世?

少しだけ戦闘シーンがあります。

不慣れでおかしい場所もあるかもしれませんが、生ぬるい目で見ていただければなと。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――悠希?視点

 

「……ぷっ。あっははは!なにを言い出すんだと思ったらそれか!笑えるね」

 

なんて笑い出す男性。

俺にはよく分からない。

前世の名前としてあげられたその名はよく知っている名前だったから。

 

「笑っていられるのか?俺もちょうどお前のような奴には然るべき場所に行ってほしいって思ったところだからな。遊園地とはいえ、都市だし呼べばすぐだろ」

 

「甘い考えだな。そんな余裕があるとでも――」

と言っている最中に

 

「そういうセリフを言ってる(ほう)が油断っていうんじゃないかな?」

とリーシャが遮って言うのとほぼ同時に愁斗(しゅうと)が槍の間合いよりも懐に入り込んでいた。

 

そのまま槍の柄の部分を片手で抑え、もう片手で殴りかかろうとするが空いていた片手でそれを受け止める。

 

その間にリーシャが呪文を唱え、風をその両足に(まと)うと隙ができた男性の背中へ向け右足で回し蹴りをしてそのまま距離をとっていく。

 

「なっ…!気を許してやればこいつ…!」

と言ってリーシャの方へ向いた瞬間、痛そうに小さく声を出した。

 

「なるほど、魔法って案外便利なんだな」

小さな隙をよしとし、愁斗も同じように距離をとる。

 

よく見ると背中の服がちょうど回し蹴りされた付近だけ少し破け、僅かに赤い液体が見えた。

 

「砂ぼこりもこうなれば痛いんだよ。他にも応用のしようはある」

 

「なるほどなるほど。多種多様な魔法も組み合わせによっては脅威になるってわけだ。でもお前…まさか自分から近づいてくれるとはなぁ!」

と言って正面にいた愁斗に背中を向ける形で振り向き、そのまま槍で左側を斬りかかろうとした。

 

その時、ずっと見たまんま呆けてた俺は明らかな情報源であるリーシャに死なれては困る、そう思って隠し持っていた鞘入りの剣を右手で取りだして――

 

そのまま、左手で取り出すのと同時に槍めがけ振り上げた。

 

「なっ……!?」

両刃の槍だというのを利用して、あえて狙って当てて止めた。

 

「――そんなに驚くことかな?俺にはよく分からないね」

 

そのままこちらを斬り伏せようとしても早さで押し返してしまえば問題はない。

 

そしてそのまま流れで、押し返された槍を視界の隅に入れつつ懐へ入り、首元に刃になっている方を押し当てる。

 

「…くっ。場所のチョイスをミスったな」

 

その呟きにひっかかる。

 

「何故間違えたと分かる?魔法について驚かない辺り、お前だってなにか使えたりするんじゃないの?」

と警戒しながら睨み付けて問う。

 

そう言われたからなのか、それとも手詰まりだからなのか呆れたような表情を浮かべ出す。

 

「いやなに。他にも大事にしておきたいのがあるだけさ。それのせいで建物を放棄できない。……ん?」

 

続きを話そうとした男がいきなり黙る。

どうしたんだろうか、という疑問はすぐに溶けた。

 

何故か。

それは―――

 

「…あっ。えっと、その。ごきげよう?」

なんともばつの悪そうな声。

男が俺の当ててる剣の刃すれすれの状態で声の持ち主を見ており、俺はその視線をたどっていく。

 

リーシャや愁斗も同じようにしたのか、「あっ」という声が聞こえた。

「お、お前…生きてたのか?」

連れさらった張本人が間の抜けた声で問う。

 

『お前がいうな』とか『そこまでやっておいて気づかなかったのか?』とかつっこみをいれたいのは山々だけど、俺も驚きしかない。

 

「生きてるもなにも…寝てたのよ、ずっと。なにか物音がするなーって思ったらこの有り様でわたくしがびっくりしたわ」

 

「そ、そうか…。寝ていた、のか…」

 

とあっけにとられる男に対しリーシャは

 

「むしろそんな状況でよく寝れたね!マイペースって域を越えてるからぁ!」

 

なんてつっこみをいれている。

もうシュールすぎて呆れる。

 

(っと、剣ぐらい隠しておくか)

と1人、違うことを考え押し当てていた剣を離し、鞘にいれる。

 

「とりあえず手足についているものだけでも、いいかしら?」

 

「おっ、おう!」

そう威勢よく返事をしたのは愁斗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜視点

なんとも収拾がつかなくなった私達は通報するだけ通報し、黒幕であった男に情報の塊である道具などを押し付けて出てきた。

 

ノーラは一応家族に連れていってもらった。

大丈夫そうとはいえ、なにかされていたことを考えると妥当なのかもしれない。

 

現在は遊園地から離れ、喫茶店の中にいる。

私が目の前には左に悠希、右に愁斗(しゅうと)がいる。

 

どうやら聞きたいことがたくさんあるらしい。

 

「それで、なにかな?聞きたいことって」

紅茶を一口飲み、そう聞く。

 

口を開いたのは悠希だった。

「まず俺から。この世界に現存する種族とお前の前世が知りたい」

 

「なるほど。種族はハーフヒューマンを含め六つ。人間、エルフ、ドワーフ、ジャイアント、ドラゴニア。そしてハーフヒューマンだよ。ハーフヒューマンは文字通り混血種で器用貧乏とかになりがちだけど、あなどれないよ」

 

なにせハーフヒューマン。

分かりやすい種族名で、その名の通り混血種のことを指す。

今のところエルフとのしか見かけていない。

 

私の村の図書館にいたんだっかな…。

 

「そうなのか。人間とエルフは分かるけど、それ以外はなに?」

 

「んー。なら、ドラゴニアを優先して教えようかな。お父さんから教わったんだけど、竜の力を扱う種族なんだって。分かりやすく言えば竜の祝福、加護を受けた人間…みたいな?」

 

「余計に分かりずらいな。それだと見た目が俺達と一緒で見分けもつかないんじゃないか?」

 

そう愁斗(しゅうと)が言うと理解したのか悠希が

 

「いや、竜…ってことは目立たない場所に特徴が表れるんじゃないかな。例えば使用できる魔法などが竜に関することだけ、とか」

 

と適当に言った(ように見えた)。

 

「多分そうなんだと思う。それ以外は私も分からないかな。ドラゴニア以外はまだ分かりやすいと思うから今度ね」

 

と言うと改めて聞いてきた。

「それで、お前の前世ってなに?」

 

「それは――と、その前に愁斗さんはそういうのどう思ってるのかな?」

 

そう言われると肩をすくめ

「俺は前世を信じるってわけじゃないが、ありえない話でもないしな。あと今後、お前もらち……じゃなかった。一緒に遊ぶ仲になるんだからな」

 

なんだか、不穏だな。

 

「ほどほどにしてあげなよ?」

 

「分かってるって」

 

…大丈夫だろうか。



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第7話 情報交換は大事だけど、グッズも大事

ファンタジーライフなだけに平和です。

むしろこういう時が一番なのですよ。

…ごゆるりと。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

 

「とりあえず前世は人間だよ。姓は篠宮(しのみや)、名は碧喜。…といったところであんまりいうほどの前世じゃないんだよなー…大したことしてないしー…あ、これ美味しい」

 

そういってから私は紅茶と一緒に頼んでおいたチーズタルトを一口、食べた。

 

「…ここでよかったのか?俺ら、飲み物しか頼んでないんだが」

 

「だ、大丈夫じゃないのかな?」

 

一切れのチーズタルトを3分の1食べたところで

「喫茶店だし大丈夫だよ、きっと。因みにそれ以外で聞きたいことってないかな?種族だけで平気?」

と2人の顔を交互に見ながら聞いた。

 

「あー、じゃあ俺もいいか?さっきの魔法って誰でも覚えられて使えるのか?それが気になるんだが」

 

「ああ、魔法なら誰でも覚えられるし使えるよ。ただ覚えるには教えてもらうか本を読むとかしかないかな」

言い終えてからから紅茶を一口。

 

「そうか。それだけなら気にせずに覚えられるし使えるな。俺も今度教わってみてもよさそうだな」

 

「色々と手を出すんだな、お前も。でも俺もいいかもね。複合魔法とかも使えそうだし」

 

「お前もそうじゃないか」

 

と言い合い、悠希と愁斗が同時に笑った。

 

チーズタルトを3分の2食べたところでふと思いついたことを言ってみた。

 

「ところで気になったんだけど、2人に前世は?」

 

愁斗(しゅうと)は首を横に振った。

「俺は分からないな。あるのかどうかさえ、知らないし」

 

「あるかも、とは教えたじゃないか。因みに俺はある。名前は菊野優季(きくのゆうき)だよ」

 

とさらりというと何事もなかったかのように「あ、すみませーん。こっちにチョコケーキをお願いします」と大きな声で言った。

 

「あれ、お前…言って平気だったのか?前、無闇に言わないとかって聞いた気がするんだが」

 

「それはそれ、これはこれだよ。なんせエルフだ。言語は若いうちから教わるんじゃないか?」

 

「私の場合はそうだね。確かもう三つは覚えたかな。教えて、ってお父さんとお母さんに頼んだんだ。その後しばらくしたら教えてくれたよ」

とチーズタルトを口の中でもぐもぐしながら。

 

「そうか。せめて食べるか話すかどっちかにしたらどうだ?(せわ)しないぞ」

 

こくり、と返事代わりに頷いてまた食べにはいる。

 

「ま、まあ、とにかく。リーシャがいると助かることが多い。愁斗(しゅうと)、どうかな。問題ないと思うけど」

 

ふむ、と腕を組む愁斗。

「そうだな。ところでリーシャさんはまだ平気?」

 

「ん?なにが、かな?」

と聞き返してからハンカチで口元を拭く。

 

「遊べるかってことだ。俺達はまだ遊ぶつもりだし、どうかと」

 

「ああ、それなら平気だよ。でも行く場所決めてるの?」

 

そう話している間にチョコレートケーキが運ばれてきて

「お待たせしました。ご注文のチョコレートケーキです」

と言われ悠希の前の方に置かれた。

 

「決めてないな。リーシャさんは…と聞こうにも都市は初めて、って感じだな」

 

「もちのろん。初めて来たから全然土地を知らないよ」

 

少し不思議そうに首をかしげたが

「あ、ああ。なら仕方ないな。他にも遊べる場所があるから来るか?買い物できる場所も知ってるぜ」

 

「それはいいね。買い物って衣類とかもある?他にもある店とかがいいんだけど」

 

そう聞くと縦に二~三回首を振り

「そういうのもある。遊ぶ場所に関しては賭ける場所もあるらしいが、興味がないから行ってないしどこか知らん」

 

「俺はたまに親の金を借りてするけどね。大体増やして帰るけど」

 

大体…ってことは減るときもあるんだな。

そう思ったけど、口にするのはやめた。

 

「そ、そうなんだ…。都市って他になにかある?」

 

「ある。因みに悠希、もう行けるか?」

 

話していたからなのか、いつの間にかチョコケーキを完食していた。

「行ける行ける。行く先が決まってないなら行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

 

私は首を縦に振って

「うん、構わないよ」

と言った。

 

愁斗は

「あそこだろ?行こう行こう」

とむしろノリノリな口調で言い、伝票を持って立ち上がる。

 

「あっ、そうだお金は…」

 

「たまには誰かに払ってもいいかなってね」

 

「おっ、愁斗(しゅうと)。たまにはいいことするじゃないか」

 

「たまにはって言うな、たまにはって。俺も前からやってただろー?」

 

と言うととぼけたような顔を悠希が浮かべ

「そんなの、知らないなぁ。されたっけ?」

と言うと腕を肩にまわし

「お前ー」

 

「はいはい。とりあえず行くよ?」

 

 

「「あっ、はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

ある店に3人でやってきた。

売っているものは豊富なのだが、何故かほとんどが変わったもの。

普通なものもあるんだけどね。

 

「えっと…ここって?」

その光景を見たからだろう。

リーシャが戸惑いの声をあげる。

 

それもそうだ。

何故なら…キング以外可愛らしい少女の描かれたトランプで遊ぶ4人組から同じくキング以外が少女に似せて作られたチェスで遊ぶ人達。

 

仕方ない反応だろう。

「ある意味、何でも屋だからね。最初に見た人は大抵そんなリアクションをとる」

 

「そうだな。しかも上にも階がある。グッズとかが多かったはずだが」

 

「な、なにがしたいんだろうね…」

と言いながらリーシャは戸惑いが見える笑みをぎこちなく浮かべる。

 

「なにがしたい、とかは分からなくてもいいんだよ…。いいものがたくさんあるなら、ね」

 

悠希(こいつ)、保存目当てでトランプを買うほどだしな。遊んでるところを見たことがないぜ。あ、俺はグッズ目当てかな」

 

別にこういう場所があってもいいと思うんだけどな。

結構来る人いるんだし。

 

「別にいいじゃないか、それ目的でも」

 

「そうだね。ちょっと見ていきたいな」

 

やっぱり興味があるのかな?

 

「んじゃ、行こうか」

 

「行くんだったら俺も新しいのがないか知りたいからついてくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数時間後、衣類店にて

「リーシャにはこれも似合いそうだよね」

と俺は新たに服を持って見せながら言う。

 

結っていた上部分をほどいてもらった方が可愛かった。

そのついでに似合う服を一緒に見ている。

 

「み、見てくれるのはいいけど…そんなにいらないよ?」

と困ったような笑みを浮かべるリーシャ。

 

「肌が白いからなおさらそれをいかしたくなるもんな。かくいう俺も渡しすぎた気がするしな」

 

「金銭的な意味もあるけど、帰りは少し歩くんだよ?まぁ、おかげで私も欲しいの見つけられたんだけどね」

 

「おっ、そうか。それはよかったね。俺も少し見つけたし、軽く回ってみるか?」

 

と聞くと愁斗(しゅうと)とリーシャは首を縦に振った。

「でも、その前に会計しておかない?」

 

「それもそうだね」

と言って愁斗の方を見たら俺達みたいに手で持てる範囲ではなくかごに入れて持っていた。

 

「…って、お前は持ちすぎだよ。欲しいのは分かるけど減らした方がいいんじゃないかな」

 

「まぁな。着きれてないのとかまだあるし、そうするわ」

 

「ん、はいよ。先に会計すましておくね」

と俺が言うと「分かった」と言いかごを持って減らしに行った。

 

 

 

 

 

 

――先に会計を済ましてから約5分後の店先

 

「よっ、待たせたな」

と出てきた愁斗(しゅうと)の手には俺達の持っている中ぐらいの袋より大きめな袋が。

 

「待ったもなにも…また送らないと移動が大変じゃないか」

俺はそういって肩をすくめた。

 

「送る?都市(こっち)には家に買い物した袋とか送る手段でもあるっていうの?」

驚いたように目を丸くしながら聞いてきた。

 

「あるよな、悠希。俺がよく使ってるし、なによりお前が教えてくれた場所だしな」

 

「町から近いからってよく両親に連れていってもらえたからね。…ってそういうとお前も同じ町にいるよね?」

 

そう言われた愁斗は肩をすくめた。

「そうだな、俺も何度も来てるしな」

と言うとなにかを思い出したらしく

 

「あっ、悪い。先に行っててくれ。俺は後から行く」

といってそのまま何でも屋みたいな店の方へ行ってしまった。

 

「ああいう感じなら平気そう…というかやけに元気な人だね。なんか違うの買いにいってそうだけど」

 

「多分買いそこねたあの時のトランプかフィギュアとかそういう(たぐい)だからリーシャは気にしなくていいよ。んじゃ、おいて…じゃないや。先に行こうか」

 

(あ、ある意味仲良いね…)

 

なんだかリーシャに苦笑いされた気が…。

気のせいかな。

まあ、行ってよう。

そう思ってリーシャと共に例の荷物を家に届けてくれる施設へと向かった。



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第8話 荷物運びは異世界流で

乗り物について、なんですがそこまで凝って書いてはいません。

全て手抜き、というわけではありませんので平気な方やお前みたいな大ざっぱもいいんじゃないかって方はありがとうございます。

こんな感じでやっていきます。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

それなりに大きい建物が見えてきた。

見上げるとたまに空へ飛んでいく竜が見える。

気のせいだろうか、人と荷物が見えたような。

 

 

「ここがその家まで荷物を送ってくれる場所だよ。値段は確か1度につき1000円。どうなんだろうね」

 

「わ、私に聞かれても分からないかなー。とりあえず安いんじゃないかな、とだけは言っておくけど」

 

「そりゃそうか。まあね、馬車でなんかで頼もうものなら2000円近くかかるからね」

 

「それ、値段逆なんじゃないかな。それで大丈夫なの?」

と曖昧な笑みを浮かべながら少し不安に思った。

 

「……た、多分?平気なんだよ、きっと。とりあえず入ろうか」

 

「そうだね。値段はともあれ、荷物がへって楽になるしね」

 

そういう感じで中へと入ると案外広く感じた。

様々な種族の人達がそれなりにいる。

 

上の方を見ると『馬車をご利用の方はこちら』と『ドラゴンをご利用の方はこちら』という看板が左右に見えた。

 

真ん中には日時、天候、気温などが出ており、そこまでいらないんじゃないかなと思うけど凄く便利だなぁ。

 

「いつも俺達はドラゴンの方を使っていてね。馬車はあんまり使わないようにしているんだ」

 

「やっぱり馬車の方が荷物とか狙われやすいの?」

と、なんとなく想像したものを聞いてみた。

 

「らしいね。ここで働く母さんの知り合いに聞いたんだけど、この世に飛行魔法とかそういうのがない上に馬車は無防備になりやすいから、だってね」

 

「なるほどね。確かに空を飛ぶ方法は今のところ飛行船しかないから空で運ばれたらほぼ無理だもんね」

 

そういうと頷く悠希。

 

そうしたら今回はどちらを使うのだろう。

話の流れからしたらお互い選ぶのはドラゴンなんだけど。

 

「因みに悠希はどっちを選ぶの?私は聞いててドラゴンでもいいかなーと思ったんだけど」

 

そう聞くと不思議そうな顔をされた。

どうしてだろう。

そう思って首をかしげた。

 

「いや、今回は馬車でもいいかなってね。一応、乗ることは可能だし。あ、リーシャもこっちに来てくれるよね?」

 

「そうなの。ああ、それって荷物を見る代わりに安くなったりしそうだよね。……え?それってどこに?」

 

と聞き返すと入口から見て右側へと歩き出す。

それにならって私も歩き出し。

 

「まあ、ついてくればわかるよ。ついてくればね」

 

その後、ニコッと笑うとこう言った。

「あ、因みにもちろん、送る場所は俺の家だよ。帰りは飛行船のおかげで安全は保証されてるしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それから5分後、もうすぐで『こちら、馬車専用窓口』という入口に入るといったところで

「悪い悪い、大分待たせたな」

と駆け足で近寄ってきた姿が。

 

手にはさきほどより中ぐらいより少し小さい袋が二つの増えていた。

 

愁斗(しゅうと)、遅いよ。もう少しで置いていくところだったぞ?」

冗談混じりな口調でそういう悠希の顔はどこかいたずらっ子のような笑みを浮かべているようにも見える。

 

「なっ、それは酷くね!?確かに見ながら買ったから時間くったけどさー」

 

クスッと思わず私は笑い

「欲しいものだとしても見ながらじゃあ、遅くなるのは仕方ないよ?何度も来れるならその時、また見ればいいのに」

 

「今度来たときになかったら買えないし、一目惚れしたからどうしようもないんだよなー」

 

その言葉に呆れたような顔にかる悠希。

別にいいんじゃないかな?とは思うけど、それならそうと言えば待ったというのに。

 

「そうか。とりあえず俺達は馬車に行ってくるよ」

 

「仕方ないだろ?おう、分かっ…って『達』?リーシャさんも、なのか?」

不思議そうに私と悠希とを交互に見て聞いてきた。

 

「そうなるね。知り合いまでとか同じ場所なら相乗りできたはずだしさ」

 

な、なんか勝手に話が進んでない?

確かに大丈夫だけどさ。

 

「んじゃ、俺荷物だけドラゴンで送ってもらうから悪いが―――」

 

「わかった、いつもの場所で合流しよう」

と悠希が頷くと愁斗は空いていた右手を一度だけ上げ、そのまま『こちら、竜専用窓口』の方へ向かっていった。

 

「さあ、今のうちにやってこようか」

 

「そ、そうだね…」

 

色々と大丈夫なのだろうか。

少し心配になりながらもついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

―それから更に5分後

 

「はい、リーシャ・フェルマーって人の荷物も俺の家にお願いします。馬車にはいつもの場所で乗ります」

 

よし、これで手続き終わりっ。

面倒くさかったな。

 

「ねぇ、さっきのだと私はあなたの家に行くことになるんだけど?」

半目でジトーとこちらを見ながら言ってくる。

 

「ああー…。そりゃ、そうなる風にしたからね。泊まるぐらいできるでしょ」

 

「私ができてもあなたの家はどうなのか分からないでしょ?」

 

 

まだ半目で見てくるか…。

まぁ、よそよそしさが消えた辺りよしとしようか。

 

「大丈夫だよ、きっと。とりあえずくれば分かるって」

相手の右手をとり、いつも合流場所として使っている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

――歩いて2~3分の荷物輸送所から目の前に見える場所に馬車は止まっていた。

2頭の馬がついている。

 

すると御者台(ぎょしゃだい)からリーシャの耳より短いとんがった耳をもった男性が降りてきた。

 

「いつも使っていただきありがとうございます。今日はいつもの場所でよろしいですか?」

今回も同じ御者(ぎょしゃ)の人にきてもらえたようだ。

 

名前は聞いたことがないけど、ハーフヒューマンだという。

本人曰く『お客様に分かりやすく言えばハーフエルフですね。家族からこっちで仕事を見つけた方がこの村ほど苦ではないと勧めてもらいまして』だと聞いたことがある。

 

その後、『すみません、余計なことを…』とか申し訳なさそうにいってたけど、別に問題ないと思う。

同じ人にずっと頼んでたわけだし。

 

因みに実際、俺達みたいに同じ人をリピートする人は多いらしい。

ただリピートしたところで値段は変わらない。

…仕方ないね。

 

「うん、そこでお願いするよ。っと愁斗はまだなのかな?」

 

「みたいだね。……でも間に合ったみたいだよ、ほら」

とリーシャがいって荷物輸送所の方へ視線を向けると俺達を見つけたらしい愁斗(しゅうと)が右手を振りながら半ば走ってこっちへ来ていた。

 

 

その人も気づいたらしく

「その人を待ってから出発いたしましょうか」

と言ってくれた。

 

よかった。

おかげで愁斗も一緒に町へ帰れる。

 

「悪い悪い、待たせな。んじゃ、町へ戻ろうか」

リーシャはどこか呆れ返ったような視線を俺達に向けてきているのは気のせいだと思いたい。



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第9話 契約してるかしてないかで大分変わるエルフ

主人公以外の視点も入っています。

同時期での出来事って大変ですね。
読みやすいようにはなっているはずですが、そういうの苦手な方はブラウザバックという選択肢を考えた方がいいかと。

そして、こんな稚拙な小説を読んでくださった皆様へ。
本当に、本当にありがとうございます。

少しでも読んでいただけてるだけでありがたいです。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。



――優季(ゆうき)視点

 

都市の輸送所から馬車に乗った俺達3人は俺と愁斗(しゅうと)が住む町へ向かっている。

 

「そういえば名前、なんていうのか聞いてなかった気がする」

 

そう呟くと前に座っている愁斗が頷いた。

「そういえばそうだな。聞くことできたっけか?」

 

そんな感じで話しているとリーシャがため息をついた。

「出来るらしいよ。っていうか書いてあったよ?ちゃんと。あとは馬車専用窓口の思いっきり見えやすいところとかにもあったし。その、悪いんですけど紹介がてらフルネームで一度、名前を言ってもいいですか?」

 

と俺の左側に座らせたリーシャがいうと御者台(ぎょしゃだい)へ向けて問いを投げかけた。

 

「ええ、構いませんよ。その代わり、貴方のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「代わりもなにも…全然構いませんよ。私はリーシャ・フェルマーと云います。そして、悠希と愁斗さんが今まで繰り返し頼んできた相手の名前は真叶(まなと)・アトウッドさんって言うらしいよ。今度はチラッとでもいいから名前も見たら?」

 

とリーシャが言っていると常に頼んでいた御者(ぎょしゃ)の人が笑った。

「まあ、顔だけ見て使う人もいるので仕方のないことですよ。むしろそれでリピーターが現れてくれる、それだけでいいんですよ」

 

そう言われて俺は大丈夫だっだろ、と顔をリーシャに向けた。

 

「フォローされたね、悠希。しかも思いっきり」

半目で俺達のことを見つめながらそういってきた。

 

「……うっ。別に結果オーライだからいいと思うんだけどな。愁斗(しゅうと)はどう思う?」

 

「ま、まあ…俺もそう思う、ぞ?」

曖昧な笑みを浮かべながら視線をそらされた。

 

俺と同じように見ていなかったのもあるのか、それとも何度か使っている最中に気づいたのかな。

前者か後者かは別にいいとして、視線をそらすほどとかそんなに気まずいのか。

まあ、先に気づいてたみたいだからなぁ。

 

なんて思っていると

「私としては嬉しい限りですよ。こういう一期一会を楽しめるのは皆様のおかげですので」

笑いながらそういってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

そうやっていつもより賑やかに進み、町までの道のりがおおよそ半分にきたとき。

突如としてリーシャの顔つきが険しい顔になった。

 

前にいた愁斗が先に気づいたのか

「なんかリーシャさんの表情(かお)…凄いことになってないか?」

と俺に近づいて(ささや)いてきた。

 

仕方ないので俺が聞くことにした。

「リ、リーシャ?いきなりどうした?」

 

「……別になにも」

といって顔をそらしてリーシャ自身の左斜め後ろへ向ける。

半身ごと。

 

俺はなんだか嫌な予感がした。

今まで馬車を使っていてもなにも感じず、普通に町までついたんだけどな。

 

「どうしたっていうんだよ、リーシャさん。急に警戒心丸出しになんかして…」

 

といった後に御者(ぎょしゃ)である真叶(まなと)

 

「お客様方、こんなときに失礼を承知で言います。母と父にずっといってもらっていたことなんですが、エルフは物心ついた時から精霊と交流するらしくその影響かなにかはまだ明らかになってはいませんが自身に向けられた感情が分かりやすなるそうです。ただ問題はハッキリとその感情を持たれないと分からないことですかね。最終的にエルフも耳がとんがっただけの人間ってわけですよ」

 

と説明するようにいってきた。

 

その間にも嫌な予感が強くなっていく。

「そ、そうなんですか。って悠希もどうした?」

 

「説明はあとでする。愁斗(しゅうと)は荷物と真叶(なまと)さんを見ててほしい。お前なら少しはいけるよね」

と俺は真顔でほぼ決めつけたようにいった。

 

「わ、分かった。俺に分からないもんが分かるならそうしておく。安心しろ、俺も素人なりにやってやる」

 

「悪いね、愁斗。リーシャは…大丈夫か。でも一応気をつけてね。俺も気をつけるから」

というとリーシャは少しだけこっちを見て頷いてみせた。

 

 

 

 

それから数分たっただろうか。

2頭の馬のそれぞれが突然現れた人影に驚きいなないたかと思うと小さくブルブルと鳴きながら顔を横にふった。

 

「ほう…前回の獲物はハーフの御者(ぎょしゃ)だったが今回もそうとはな。ハーフに当たる率が高いが良いカモだ。お前ら、さっさとやってずらかるぞ」

と出てきた人物が声をかけると左右の林や草むらに隠れていたであろう人影が複数人でてきたのを御者台(ぎょしゃだい)に座っていた真叶《まなと》は見た。

 

「い、いきなり現れてなにをするつもりですか?やめてください」

御者(ぎょしゃ)の声がした。

それとほぼ同時に俺達から見て右側に人影が見えてきて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

御者の真叶(まなと)がそういった後辺りに、悠希が後ろに入り込もうとしてきた人影に飛び蹴りを決めた。

 

不意打ちされるとは想定していなかったのだろう。

軽い誰かの呻き声と共に悠希が外へ。

 

冷静になられて囲まれる前に素早く同じ場所から降りた。

そこには黒いローブのフードを目深にかぶった人が二人いた。

 

正確にはいきなり蹴られて驚きながらも立ち上がっていく者と突然現れた私達に警戒心を持ったらしい者。

そして、馬車よりに悠希と私。

 

「い、いきなりなにをするんだ!どうなるのか分かっているのか!?」

 

そう叫んだのはさっき悠希に蹴られた人。

だが、蹴られた(はず)みでフードが(なか)ばとれかかっている。

 

……どうやら、エルフやドワーフ以外の女性らしい。

 

「いきなり?その言葉は俺達が言いたいね。せっかく今までより楽しく住む町へ戻れると思ってたのにな」

 

「んなら素直に持ってる奴全部渡すんだな。さもなくばお前らなぞ―――」

 

「―――!」

 

長そうな口上には氷系魔法と土系魔法による(外見は氷の中の石みたいな感じ)先制を。

 

「ぐぅっ……キサマァ!」

 

と叫ぶもう1人に

 

「本来ならありえることだろう?リーシャがしたことはむしろ普通。そうやって(おそ)いにかかってきた方がそんな感じじゃあ通報すれば捕まえられそうだな」

 

と悠希はいいながら左腰にある(さや)から剣を抜いて向けていた。

 

「それで捕まえられると思う?」

と言って現れたのは同じくローブのフードを目深にかぶった3人目。

 

「思ってはいないよ。でも、もう1人こっちに来るなんてどうしたのかな?」

視線だけ向けてそう返す悠希。

でもあれは…。

 

「前と後ろとで挟み込みができるからね。ただまさかそっちから出てきてくれるとは思わなかったよ。――――抵抗するのはいいけど、出てきたことを後悔しないことね」

 

そういうと近くにいた私に向け、襲いかかろうとしてきたのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――愁斗(しゅうと)視点

 

真叶(まなと)、悪いっ!そこ、通らせてもらうぞ!」

 

悠希(ゆうき)が飛び蹴りしながら出ていったのを尻目に俺は前へと向かい、そういって御者台(ぎょしゃだい)から外へ出る。

 

真叶が困惑した様子で何度も首を縦にふったのが視界の隅でうっすらと見えた。

 

でもそれは(あさ)はかだったのかもしれない。

「……!?」

 

3人。

皆一様にローブを着込んでいて、顔は目深にかぶったフードのせいで見えない。

 

「なるほどね。今回は元気な獲物か…。でも、俺が手を出すほどでもないな。お前ら、自由にやれ。だが、ほどほどにな」

 

そういったのは俺よりも身長のある人物だった。

かなりの威圧感がある。

 

「分かってるよ、リーダー」

「足がついて身元が割れたらまずいもんな」

 

そういって2人だけこちらにじりじりとゆっくり詰め寄ってくる。

 

「な、なにが目的だ!俺達はただの一般市民なんだぞ!金目になるようなものは持ってなんかいない!」

構えをとり、そう叫ぶけど俺の足は正直で恐怖で震えている。

 

さっきの時は3人で1人だった。

だから、素人だけでも先手などをとればどうにかできたし、タイミングよくノーラさんが目覚めて声を発して気を引いたのもある。

俺達も例外じゃなかったけど。

 

でも今はどうだ。

強そうな奴とその仲間2人。

 

「ほう…。その(ざま)でありながら逃げ出さないその勇気は買ってやる。だが、易々と目的をばらす間抜けがいると思うか?」

 

「……っく」

そりゃそうだ。

簡単に話してくる奴なんていたらそれこそ数が今より減っているはずだ。

でも、俺は怖いからこそ構えるのをやめない。

 

「だろう?甘い奴だ。だが、それこそ面白い」

 

「そっすね。今もいたけど、アタシが見てきた中で一番名残惜しい奴だ」

 

「だけど、そうもいってられないんだよね。残念だけど、黙らせなきゃいけないし」

 

などと物騒な話をし始める。

 

俺……どうにかできるかな。



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第10話 盗賊は突然現れる(当たり前)

のんびりスタイルの小姫です。

一部敬語の子がいるのですが、文章力がまだそこまで上がっていない、不甲斐ない私のせいでため口いりです。

すみません。

※多少読みやすくするために文章に付け加えを行いましたが、内容に変化はありません

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

「させないっ!」

そういってリーシャとリーシャに迫る人物の間に入り込み、剣で相手の攻撃を防ぐ。

 

この時に見えた武器は俺の使う剣より短かった。

 

これが、短剣というものなんだ…。

そう思う余裕すらなかったけど。

 

「へぇ、素人だから不意打ちへの対処なんて無理だと思ったけど…あんたは対処できるんだね」

と感心したような声でいった。

 

それでリーシャは我に返ることができたらしい。

 

「ああ、何故か剣を扱えるようにって父さんから言われててね。焼き付け刃みたいなものだけど、ないよりはマシなんだよね」

というと相手の方が距離をとった。

 

「確かに素人のそれだね。()(しろ)だらけだから凄く惜しいよ…」

とか言いながら2人の方を見ている。

 

「しょうがないな、アタシ達はそういうのだし」

 

「そうだな。惜しんでいる暇などない」

 

そう会話しているのを見ながらどうしたものか、と思案する。

 

どうやら向こうも動きがあったらしく、愁斗(しゅうと)が前から出たのか馬の方から声がした。

でも、挟み込めるとかどうとかいってたし1人で大丈夫だったのだろうか。

 

しかし、こっちもこっちで素人同然の俺と分からないリーシャとじゃ大丈夫かどうか…。

 

そう思いながら3人への警戒心をより一層強めた。

 

「それで?護衛も頼まない無防備なあんた達は一体どうやって私達に抵抗するつもりなのかな?」

 

「そうだよね。どう考えたって荷物とか全部渡した方がいいというのに。あがく理由があたしにはさっぱり分からない」

 

俺から左側にいる人物は武器となる短剣を取り出しながら

「そうだな。渡さないなら強引に奪うだけだしな。例えどうなろうと。不利だったから負けたとか言い訳するなよ?素人」

というと不敵にふんっと笑ったのが聞こえた。

 

だが、その後突然目の前にいる人物がリーシャを見ているように感じた。

 

少し左を見ると2人もリーシャをジッと見ている、ような気がした。

 

3人共、口が少し開いていたような…?

俺も半身だけ振り返ってリーシャを見てみる。

 

下ろしたままだったらしく、肩甲骨まで伸びた長い金髪が(なん)の影響もなくふわふわと揺れている。

 

しかも、普通の魔法を使うのではないらしい。

 

足元が(わず)かに光を帯びている。

視界の隅に映ったのは、魔法陣。

 

そこにかざすようにして少し前に出されているのは左手。

目は伏し目がちに見えた。

 

(一体、(なん)の魔法なんだろうか…)

 

「―――なら、あがいて、あがいて、あがくまで。次なんて作らせない。″力を貸して!ウンディーネ!″」

 

そう叫ぶとリーシャの体を水の泡がまとうようにして現れた。

(なに)かを口にしているらしく、小さく揺れている。

 

「なにを…しているの?リーシャ…?」

そう思わず呟くも、(なに)も返してこない。

 

「はっ、こけおどしか。ならなにも怖くはないぜ」

といってフードを直した人物がリーシャに襲いかかろうとする。

 

今度は俺がリーシャを見すぎて守れそうにない。

 

 

 

でも、大丈夫そうだと知ることになった。

俺が動く前に強かな音と共に水の音がしたから。

 

その音を作り出した主は背中まである長い髪型の人物だった。

その髪の色は水色で、輪郭はどこか中性的に見えた。

髪から顔を覗かしている耳は明らかに長くとんがっていた。

 

「なっ、あれは…水の精…!なるほど、純粋なエルフか…!どうりでハーフより耳が長いと…!」

 

俺の右横にいる人物が(なか)ば叫ぶようにしていうと

 

「ありえないだろ!あたし達は町へ続く道でしか実行してないからエルフなんているはずがない!」

 

「今はいる!そう考えるしかないだろ!?」

 

といきなりそんなことを(わめ)くようにいいあっている。

俺にとってはちょうどいい。

 

剣を急いで鞘にしまうと右横にいる人物の短剣をもった手へ上からチョップをするように右手の親指と手首の間に当てた。

 

リーシャに気をとられていたので、対処が遅れたらしい。

そのまま、小さな音をたてて短剣が落ちた。

 

簡単にはやられてくれないらしく、俺を右手で殴ろうとしてきた。

それを(かろ)うじて避けながら左手首をあえてつかみ、背後へ。

背後に回ると俺は自分の身長より頭一つから二つ分大きな相手の(ひざ)に足を当てて前へ崩れさせ、そのまま背中に乗る。

 

背中に乗った後はまず左手首を(わき)がしっかりしまるようにしながら押さえ、右手の方も流れで体から離されないうちに手首をつかみ、左手と同じように脇がしまるように背中で押さえた。

 

この一連の流れでついにフードがずれて顔が見えた。

どうやら人間の女性のようだ。

 

「油断した…。ハーフとは思わず、エルフだと思っていれば…」

 

そういうってことはどうやらこのやり方は力が入れにくくなる、ということが分かるようだ。

 

そうなんだ、リーシャの耳がノーラさんより短いんだ。

どうでもいいから見てなかった。

でもその違いがなければきっと、俺達の方がやられていたかもしれない。

 

「それで、どうするつもりなんだっけ?いくら精霊で召喚したてとはいえ、悠久の時を生きる者。油断すればあなた達が負けるよ」

 

ウンディーネと呼ばれたリーシャより身長の高い人物は(うなづ)いた。

「……下手に動かないで。……手加減……まだ知らないから」

 

そういうと構えをとって、牽制している。

 

「くそ…あたしらもエルフの耳は長いもんしかないとばかり…」

と片方が悪態をつきながらそういった。

もう片方はリーシャといきなり現れた精霊というウンディーネを睨んでいた。

 

愁斗(しゅうと)の方は大丈夫だろうか。

1人だし、相手が何人いるかもこっちからは把握ができない。

なにもなければいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――愁斗(しゅうと)視点

 

もう無理だ。

そう思った時、空から翼が羽ばたく、というには大きい音がしてきた。

 

「あ、あれは!?」

と1人が指を指せば

「竜…!?ありえないぜ、あんなの!アタシが知るにはこっちとかに出てこないはず!」

ともう1人がそれがいるだろう方向を向きながら叫ぶ。

 

その2人より大きな人物は落ち着いているように俺には見えた。

「落ち着け、多分こっちには来ない。ただの竜ならな」

 

俺にはその後ろなんて見る余裕はない。

前で会話している内容も大半は耳を通りすぎている。

 

 

だけど、数分かそこら辺した後。

 

たんっ

そういう音が隣で聞こえた時。

視界の(すみ)(なに)かが軽くしゃがんた状態から立ち上がるのが見えた。

 

「ええーと、なにをしているんでしょうか?あまりにも目立つのでつい来ちゃいましたけど」

と男とも女ともどっちとも言える声が横からした。

 

「……えっ?」

 

そんな間抜けな声が出てしまったけど、気にする暇もない。

 

なにせ横を向いたら、炎のような赤色のかなり短い髪をした人が立っていたから。

身長は俺と同じか少し高いらしく。

 

横顔は見えるけど、女性なんだか男性なんだか凄く曖昧なように見える。

 

「なるほど。目立つ、か。ならば、言われる前にお前も――」

 

その言葉を遮るように平然とした様子でニコリと微笑み

「あ、いいです。説明はいらないので。さっき、都市の方から来ましたけど…後ろの方達がやけにピリピリしてましたので」

と言ってのけた。

 

「ふん、ばれてるならお前も身につけている物全てを渡せ。俺にはこの2人もいるんだぞ」

そう呼ばれた2人は剣の長さと比べると半分の長さしかない刃物を取り出して

 

「渡してきたところで見逃さないけどね」

片割れがそう言った。

 

そりゃそうだよな。

危険だの、どうだのと言われながら対策が追加金を払っての護衛のみ。

 

そんなんでは馬車を利用する人は減るばかり。

 

後ろにいるはずの真叶(まなと)のことを見ようと半身だけ振り返る。

真叶も俺みたいに恐怖を感じているようだけど、あの顔はまだ諦めてないように見える。

 

首だけ動かして前をもう一度見る。

真ん中の少し奥にでかいのが1人、その前に2人。

3人、共に黒いローブを身に(まと)い、その顔を目深(まぶか)にかぶったフードで隠している。

 

「それは当たり前ですよね。ですが…これを見ても、でしょうか?」

というのでちらりと横を見たら、その人の片腕と背中に生えた物が人の物ではなかった。

 

それこそ竜の、というのが正しいのだろうか。

 

変化したものらしい。

「だからなんだと言うんだ?所詮、にんげ―――」

それを見てもなお余裕だったのか、言い続けていた人物の声が突然途切れる。

 

当たり前だ。

さっきの人のサイズより大きな赤い竜がそこにいたから。

 

「そうですか。残念です。僕は穏やかに解決させてそのまま、町で欲しいものを買いに行きたかったのですが…仕方ないですね」

 

大きめなサイズの赤い竜はそうしゃべりながらも尻尾を馬車に当てないよう、気をつけている。

前足をあげて立っているのはさっきまで人の姿をとっていたからなのか…?

どういうことなんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――???視点

 

うーん、1人がちょっと混乱しきっているようですね。

目の前はやっぱり駄目でしたか。

 

「……なるほど、ドラゴニアか。だが、町へ行くのならお前は関係ないだろう?何故行かない」

 

ひきつった笑みを浮かべながらそう言ってきました。

確かにそうですね。

 

「だからと言って、同じ町へ行く人達が立ち往生しているんですよ。もしかしたら僕が知っている以上の良い物が買えるかもしれません。それに…理由なんていりますか?」

 

素直に僕は言ってあげました。

きっと、僕が向かっていた場所とこの人達の向かう場所は同じはずですから。

でなければわざわざ馬車を使う人なんて少ないはずですから。

 

「くっ……。こ、こいつ…!」

そういって短剣を僕へ向けて刺そうと向かってきました。

 

僕についた傷はかすり傷でした。

 

「…えっと、痛いですね。ですが、それだけですか?まあ、近くに可燃物さえなければ僕も色々と手段があったのですが…仕方ないですね」

 

相手が短剣でよかったです。

僕はまだ、ですしどうなっていたか…。

 

あれ、そういえばこの人動きませんね。

不思議に思った僕は顔を覗いてみました。

 

驚きで固まっていました。

あ、もしかして…ドラゴニアが竜化するのを見たのは初めてだったんでしょうか。

まあ、これで僕も気にせず町へ買い物しにいけますね。

 

 

ゆっくりと変化をといていく。

 

「…な、なんだよ」

 

僕を刺していた相手が自ら離れていく。

 

「どうかしました?」

 

2人も下がっていく。

そのままでかい人が背中を向けると逃げ出していった。

2人は「ま、待ってください!リーダー」や「リ、リーダー!!」と叫びながらついていくのが見えた。

 

 

それから刺された場所を見てみましたら、かすり傷はやっぱり体についていて、服もそこだけ裂けて血で汚れてしまってました。

 

(やっぱり、痛いですね…)

 

そう思っていると後ろから声をかけられました。

「大丈夫ですか?怪我をされたようですが…」

 

「痛いですが、この程度なら大丈夫です。皆さんは大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫です。おかげさまで助かりました」

 

もう1人の方も我に返ったのか、ようやく僕の方を見てくれました。

「その、なんだ。ありがとな。偶然見かけたとはいえ、こっちまできてくれて。助かった」

 

「全然構いませんよ。なにせこういう町や村への道は危険だと僕がよく知っていますから」

 

なるべく笑顔を浮かべながら言いました。

 

「そうなのか…。でも、最近までは平気だったんだけどな」

 

「多分移動してきたんですね。何故移動してきたか、までは分かりませんが…」

 

と話していると「とん」っていう人が降りてくる音がしました。

 

「すみません、差し支えがなければ服は無理ですが、怪我だけでも癒せるのでやらせてもらってもよろしいですか?」

 

そう言われた僕は首を縦に振り

「あ、出来ればお願いします」

といいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少しだけ時間を(さかのぼ)って優季(ゆうき)視点

 

「……あれは」

いきなり空を見上げ、そう呟くリーシャ。

なんだと思い、俺もそのままの体勢で空を見たらドラゴンが町の方へ飛んでいこうとしているのが見えた。

 

「竜、か…?でもこの辺に竜を見かける人なんて聞いたことがないんだけどな」

 

俺も返事をするようにそう呟いた時。

「……驚くことじゃ、ない。……普通、目立たないように移動……しているだけ」

と、空を見ずにウンディーネと呼ばれた人物が答える。

 

「だからって竜がこっちにくるかよ」

もう片方がそういうとその横にいた人物が偶然にも空を見上げ、赤い竜が人の姿になり地上へ降り立つ様子が見えたのか驚いた顔をしていたのをウンディーネと呼ばれた人物は見たらしい。

 

「なっ、あれはドラゴニアじゃないか!」

そう叫んだ次のタイミングでもうあっちは大丈夫になっていたことを後々俺達が知ることになる。



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第11話 ドラゴニアは○○

不定期投稿な私です。

すでにどんな風にするかを決めているのですが、過程を考えるのは大変ですね。

ですが、ギャグっぽくないギャグとかシリアスじゃないシリアルとかで読みやすくしていきたいです。

※誤字があったため、訂正しました。内容に変化はありません
今回も不定期更新でお送りしています。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

叫び声が聞こえたと思ったら、前にいる2人がいきなり両手をあげた。

 

「リーダーが逃げたんなら俺らは降参だ」

 

「さすがにこれ以上手出しはしないよ。あたしとしては口惜(くちお)しいけどね。せっかく見つけたのに」

 

俺が押さえている女性も

「単独行動ほど危険なものはないしね。仕方ないさ。……もうなにもしないから離してくれやしないかい?」

となだめるような口調でいった。

 

本当かどうかを確かめるためにリーシャの方を無言で向き、見つめてみた。

 

初めはなに?というような顔で首をかしげたけど、すぐに分かったのか

「もう敵意とかは感じないよ。そんなに敵意を持ってない、か敵意すら持ってない…だね」

そう教えてくれた。

 

「そっか。なら離す。でも、変な真似をしたら証拠として写真をとるからね」

と言って離れる。

自由になった女性は言葉通りなにもせず2人と同じような場所まで移動し、下がった。

 

「わ、分かったよ…」

そう1人が言うと

 

「あ、アタシはもう帰るわ」

もう1人はそう言い、背中を向けるとそのまま逃げていった。

 

「じゃあな、お前ら」

残った2人のうち1人はそう告げて林の方へ姿を消した。

 

そして相手は女性だけになった。

 

「写真をどう撮るんだか知らないけど、勘弁してほしい」

 

「分かったよ。だけど、今回だけね」

と俺がいうと(うなづ)いて同じように林へ。

 

「ありがとうね、ウンディーネ。もういいよ、帰っても」

それを最後まで見届けるなり、リーシャがそう言った。

 

「……分かった。……縁があったら、次も……多分、会える」

 

ウンディーネはそういい終えたなり、まるで水が蒸発していくような感じで消えていった。

 

「あっ、さっきのはハッタリだから。リーシャは気にしないでね」

 

それを聞くとリーシャは呆れたような、そんな感じの笑みを浮かべた。

「そ、そうなんだ。それはまた凄いね…」

 

「その薄い反応、酷くないかー?あとさっきのはなに?」

 

リーシャにさっき呼んでいたのを聞こうとした。

そうしたら

 

「それより前を見ない?真叶(まなと)さんと愁斗(しゅうと)さんが無事か確認しないと。多分平気そうだけど、ね」

 

「そ、そうだね。うん、そうしようか」

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺達が御者台(ぎょしゃだい)がある前の方へ行くと真叶が男とも女とも言えない人に(なに)かをした後だった。

 

「その程度の出血量でしたら、多分これで大丈夫だと思います。こういうのしか出来なくて申し訳ありませんが」

 

「むしろ自分で止血する手間がはぶけて助かりました。なにせまだ僕は成人の儀式を終わらせてないのでまだ十全な能力とかを持ってないんですよ」

 

そんな会話をしている。

 

「2人共、その様子なら大丈夫そうだね。ところでその人は?」

リーシャはそれに構うことなく、馬の前にいる真叶(まなと)ともう1人のそばへ。

 

「偶然通りかかった人みたいですね。…あっ、すみません。私、馬をなだめてきますね」

教えようとした真叶はそういうと2頭の馬の方へ向かった。

 

 

「と、とにかく。助けてくれたのは間違いないぜ。ああいうのは初めてだったから焦ったよ」

愁斗(しゅうと)がそう口を開いた。

 

「そうだったんだ。ありがとうございます。俺の悪友とかをさっきのからどうにかしてくれたみたいで」

 

俺がさり気なく″悪友″と言ったというのに愁斗が半目で見てきた。

冗談混じりだから許してほしいな?

 

「いいんですよ、別に。それならお礼とかはいらないので途中まで一緒に行かせてもらえませんか?馬車とかに乗るの初めてなんで」

ニコッと笑みを浮かべながらいってきた。

 

「それはそれで大丈夫なのかな?ま、まあ…」

 

「大丈夫だよ、きっと。どうにかなるって」

とか話していたら、馬をなだめたらしい真叶が

 

「お客様、乗れるようになりましたので馬車へ来ていただけないでしょうか。ええと…」

といって赤髪の人の名前を呼ぼうとするが、名前を聞いていないから呼べないみたいだ。

 

「ああ、そうですよね。僕の名前は樅山(もみやま)由希《ゆき》と言います。由希、と呼んでもらっても構いません」

 

「分かりました。町まで、というところまでになってしまいますが、由希様も乗ってはいきませんか?お代の方は上に話せば分かってくださるので」

さっきよりも表情を(ほころ)ばせながら性別不明の由希へいった。

 

「はい。むしろ少しでも馬車に乗れるなんて嬉しいところです」

 

そういったのを聞いて

「んじゃ、俺らも乗ろうぜ。悠希(ゆうき)達も遅いとおいてくぞー」

愁斗(しゅうと)がそういって馬車の中へ。

 

由希さんは…困ったような、呆れたような笑みを浮かべるとついていくように馬車の中へ。

 

「んじゃ、俺達も乗ろうか。ついでにリーシャと由希さんに質問タイム作るからね」

 

そういって俺はリーシャの顔を見ながらいった。

 

「そうだね。でも、質問ができるのは町につくまでだよ?」

そういうと馬車の中へ向かって歩き出した。

俺は「分かったよ」といって、リーシャと共に馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――馬車の中

 

「まずは一つ。失礼なんだけど、聞かせてもらうね。由希(ゆき)さんの性別ってどっちなのかな。見た目とか声じゃいまいち分からなくってさ」

 

俺は走り出した馬車の中、愁斗(しゅうと)の右隣に座ってもらった由希さんにまずそう聞いた。

 

「やっぱり分かりませんよね。皆さんは僕の性別、なんだと思いますか?」

明らかに俺達の答えがどんなものかと期待している感じの表情(かお)だ。

 

「え、えーと…男?でもあなたみたいに可愛い男は村の中でも見たことないなぁ…」

困ったように笑いながら答えるリーシャ。

 

確かに俺も見たことはないね。

顔だけ、を見るとだけどね。

だから俺は服も見てみた。

 

「服装とかいれると…男っぽいね。なんていうか、元気な性格の男、みたいな感じだね」

 

俺のように若い男がカジュアルにまとめようとしたらこうなるだろうなー、なんて格好だから余計に分かりづらかった。

 

「俺は…そうだな、男に見える。ついでに女服もあいそうだと思ったね」

 

「女の服も似合いそうな可愛い男、って言いたいんだね」

 

俺がそう言いながら由希(ゆき)の左隣にいる愁斗(しゅうと)を見つめる。

 

「わ、悪かったな!つい意識して言いづらかったんだよ!」

とやけっぱちな感じで言ってきた。

 

「それも仕方ないね。ちなみに答えは?」

 

俺とリーシャがほぼ同時に由希へと視線を向ける。

 

「答え、ですか?それはですね……」

そういうとためるように黙った。

 

口元が楽しげに(ゆる)んでいる辺りイタズラっぽい人だな、と思う。

 

「女、なんですよ。よく男みたいな格好をしているんで、むしろ間違われた方が面白(おもしろ)いです」

 

「なるほど、普段から着ていると。ってことはたまには可愛い服も着るってことなんだよね?」

リーシャが好奇心でそう聞くと

 

「はい、着ますよ。僕もちゃんとした女だって覚えていてほしいので」

 

由希さんは気にした様子もなくニコニコしながら答えた。

 

「そりゃそっか。しかも、たまになら他の男もドッキリするみたいだしね」

 

「俺もそうだしな。…そうしてくれるような女友達はいないけどな」 

 

和気(わき)あいあいと話し合っていると

「あー、その。楽しそうなところすみませんが、もう町に入りましたので、あと少しで到着(いた)します。由希(ゆき)様、降車する場所は広場でもよろしいですか?」

そう、言ってきてもらえた。

 

「はい、僕はそこで大丈夫です。用事も広場とかにある店でしたので」

なんて口元を緩めながら言っていた。

 

「なら、ここまでだね。ありがとう、今度お礼とは言わないけどオススメの土産屋でも紹介しようか?」

 

「それでいいですよ。会えたら、教えてもらいますね」

由希(ゆき)さんはそういうとニコッと笑ってくれた。

 

その後、広場で降りた由希さんを俺達は軽く手を振って見送った。

 

 

 

 

 

 

それから広場から離れた場所にある俺の家の近くまでつくと俺達を降ろしてくれた。

荷物はちゃんと家まで送ってくれるという。

 

「じゃあ、ここまでだな。リーシャさん、悠希。またな」

 

「うん、またね。会うか分からないけど」

 

「んじゃあね。昼、食べ過ぎるんじゃないぞー」

 

最後に俺がそういうとふっと笑った。

「ないよ、そんなん。家で食べんだからさ」

 

そういうと手を俺達に向けて振り、道をそのまま横切って反対側にある家へと入っていった。

 

「ああ、リーシャ。俺の家はこっちだよ」

そういって先に歩き出す。

 

「わ、分かったよ。それで、私にも聞きたいことがあったんじゃないの?」

といいながら俺の後をついてくるリーシャ。

 

「そうだね、あるよ。魔法に関して、と精霊に関してだね。いいかな」

 

「なら、精霊を先に。多分短いと思うから」

 

「なるほど、そうなのか。それで、精霊ってなにかな?」

 

「エルフなら誰でも見える精神体のようなものだよ。人型をしてて、ハーフヒューマンでも見える人は見えるみたいだよ」

 

「ふぅん…。それだとさっきのはどうしてあの子は人間と同じ姿で現れることができたのかな?不思議なんだけど」

 

そう言いながら、さり()なく「あっ、そうだ。あれが俺の家ね」と少し歩いた先にあるブラウン色の屋根を指差して教えた。

 

「私はまだ精霊と契約してないからね。そういう私みたいな人には四大精霊と呼ばれる強い精霊がそれまで手助けしてくれるんだよ」

 

言い終えると指差した場所を見て「覚えて大丈夫なのかな」と苦笑いしながら呟いた。

覚えられて困るならそもそも連れてこないし、教えないっての。

 

「なるほどね。だから呼び出せたんだ。ってことは契約したら無理になるんだ?」

 

「うん、そうなるね。でも精霊の服は作ってくれるんだ。………冗談だよ?」

 

「わ、分かったよ。冗談なんだね」

思わず曖昧な笑みを浮かべながら頷く俺。

 

「んじゃ、入ろうか。リーシャも遠慮なく入っていいからね?」

 

「わ、分かった…」

そういうリーシャの声は戸惑いを感じさせるようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

家に入るなり、俺はいつものようにあがる。

 

「お、お邪魔します…」

少し大きめな声でそういうと慎重に入ってきた。

 

「だからいいのに。っと、荷物は受け取ってくれたみたいだな」

周りを見ても小さなタンスのような下駄箱とかそういうのしかない。

 

だから、と思っていたら俺達から少し離れた前側にある扉が開いた。

そこにいたのは俺より少しでかい身長、白髪混じりの黒髪。

肌は外によくいたからか、少し日焼けしている。

その人は―――

 

「父さん。荷物ありがと」

 

「いや、構わないさ。ただ…多かったのはそこの子の分かな?耳がそれなりに長くてとんがっているように見えるけど」

 

「ああ、そうだよ。俺とリーシャの買ったものだったからね。それと種族は」

 

「はい、エルフですよ。耳の通り、です」

リーシャが俺の言葉を遮るようにいった。

どうやら前ほどの人見知りではないらしい。

 

「そうかそうか。仲良くなるのがはやくていいもんだね。名前はなにかな?」

 

「リーシャ・フェルマーです。でもそこまでフレンドリーにはなってませんよ?」

なんてお互い笑顔で会話している。

 

「俺の名前は幸野諒汰(こうのりょうた)っていう。まあ、でも…悠希(ゆうき)…お前、女の子を家の中まで連れてくるなんて驚いたぞ?てっきり興味なしかと思ってたな」

 

「連れてくるよ、そりゃあ。あと父さん、俺だって男なんだからな?興味の一つや二つはあるよ」

と言って半目で睨み付けるように顔を見る。

 

分かったよ、といわんばかりに両手を頭の耳付近まであげて肩をすくめた。

 

「っと、立ち話もあれだな。あがってけ。悠希、リーシャが飲めそうなものあるかもしれん。自分の分の飲み物をとるついでに冷蔵庫見たらいいんじゃないか?俺はあのマイペースな沙恵(さえ)を見てくる。おっとりしすぎてて放っておけたもんじゃない。というわけでなんかあったらよくいる場所にいるからそこまで来てくれ」

 

というとどこか早足でいってしまった。

 

「た、大変なんだね。どれだけおっとりした性格なんだか気になるよ…」

曖昧な笑みを浮かべながらいったその言葉に俺は

仲睦(なかむつ)まじいからいいかなって思ってたからなぁ。そこまで気にしてなかったよ。あ、俺の部屋は上ね」

といって玄関から見て少し奥にある短い階段へ向かう。

 

「ま、まあそれでいいならいっか。そうなんだ。ならあがらせてもらうね」

 

そう礼儀正しくいってから俺の後をついてきた。

少し初対面のように接してしまっているのはきっとお互い様だろう。

 

喫茶店で飲み食いしたのは大分前だし、もうすぐでお昼だろうから、食事にでも誘おうかな。

 

 

なんて考えていたけど、先にやらないといけなさそうだ。

広めの部屋に入ってすぐ見える窓のところに荷物がおいてある。

 

「さり()なく分かりやすいようになっているような気がするんだけど、きっと気のせいだよね」

 

「気のせいじゃないな。しかも短時間でよくできたと思う」

 

と、いいながら俺はその近くにおいてあるものを見る。

 

…タンス。チェスト。

どれも小さめな物っていうのと、俺の個室にしてもらえた部屋が元々広めだったのもあり、ちょうどいい。

 

「泊まらせる気満々…っていうかよく買えたね、これ」

 

「いや、もしかしたら偶然かもしれない。大体いきなり物があったら中に俺へのメッセージが入っているからね」

そういって、俺は五段のタンスに近づき、ちょうど上から三段目を開いてみた。

 

リーシャも俺の部屋の扉を閉じてからそばによってきた。

 

手紙にはこう記してあった。

 

『いつ届いてるかさっぱりだけども、使い勝手のいい家具を買ってみたわ。チェストも上二つ、下三段と使いやすそうだったからつい一緒にね。便利だから使ってみてね』

 

 

 

―――母さんかい



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第12話 隠れた名店と契約精霊の進化説明

今更ながらこの異世界の日時は太陽暦に近いものを採用しています。

太陽は1つ、月も1つ。

今回も読みやすければいいのですが…。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

2人である程度荷物を片付け、近くの食事処までやってきていた。

昼前だからなのか人はそこまでいない。

 

すんなり通された私達は2人席に座った。

 

それからお互い、別々のメニューを見て(なに)を食べるのか考えていたけど

「……し、視線が私達に集まるのは何故」

メニューを机に開いたまま置き、半目で正面にいる悠希のことを見ながら呟いた。

 

「そりゃ周りからしたら珍しいんだろうね。俺達みたいな2人組は」

見ていたのだろう、置いたままのメニューから視線を私に向けていった。

 

「そうなんだろうけど…。と、とにかく頼もうか。すみませーん、いいですかー」

と、大きな声を出して呼ぶ。

 

「少々お待ちください」という声が聞こえ、前を向くとじっと私を見ていた。

 

「なにかな、悠希」

 

「いや、なんでもないよ。でも聞きたいことができた。やっぱり魔法ってリーシャが使うようなのがあれば別のもある?」

(なか)ば真顔で聞いてきた。

 

「うん、ちゃんとあるらしいよ。こっちでは精霊魔法と属性魔法って呼んでるんだけど、違いは一つ多いか少ないか程度であまり大差ないんだよね」

 

そういうと頷くと同時に「なるほど」といった。

 

「そうそう一応教えておくね。ハーフヒューマン…分かりやすく言えばハーフエルフの人も精霊との契約の可否は個人差があるんだけど、精霊魔法を使ったり四大精霊に手助けを求めることはできなくもないよ」

 

それをきくと面白いことを聞いたというような感じの表情になった。

「なるほどね。それはそれで色々と……。ま、まあとにかく今の俺は属性魔法だけでいっかな」

なにかを言いかけたようだけどやめたようだ。

なにを考えているんだろう。

 

そう考えているとタイミングよく、なのか店員がやってきてこういった。

「お待たせしました。ご注文はなんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

店員に食べるものや飲み物を頼んだ後。

「ああ、そうだ。これも教えておくね。契約した精霊は最初から連れ歩けたりできるんだけど、ぼんやりとした光にしか見えないんだよ。でも姿をとれるようになったら人型になれたり、獣型になれたりするみたい」

 

「連れ歩いてるのはさすがに俺でも見えるよね?」

肩をすくめてそう聞いてきた。

 

私は頷いて

「そうだね。ハッキリ、というぐらい見えるかな」

そういった。

 

なにを想像したのか、納得したような顔を浮かべた。

「まあ、でもそういうのもありだね。もし、リーシャとかが大丈夫だったら今度試したいのがあるんだ。その時もまた聞くけどいいかな?」

 

「そ、そうだなぁ…。今はまだ大丈夫だよって言い切れないけど、いいよ」

そういうとなんか楽しみなのかどうなのか。

笑ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

少しゆっくり食べ終え、外に出ると昼過ぎだからなのか人通りがさっきより少し多かった。

日が、上辺りにあるせいか少し暑い。

 

「そうだ。リーシャ、図書館へ一緒に行ってくれないかな。どうも1人で行くと探しにくくてさ」

 

「探しにくい?町の図書館なんてそんなに広くないはずじゃないの?」

 

俺は首を横に二度振る。

 

「俺も最初は思ったよ。でもそうじゃなかった。そのせいで読みたい本もすぐに見つけられないんだよね」

そう話してたら思い出してきた。

乾いた笑いを思わずしてしまう。

 

「そ、そんなになんだね。分かった、行くよ」

そういうとリーシャが頷いてくれた。

 

「ならこっちなんだ。来てくれるかな」

そういって、俺はリーシャを連れてその目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

図書館の外見を見る。

うん、どう見ても…

 

「よくある少し大きめな図書館だね。広めだからそりゃ本なんて探しにくいだろうけど…想像しにくいね」

 

そういって私は腕を組んだ。

 

「中を見れば分かるんじゃないかな。ほんと、疲れるから」

というと「行こう」と半身だけ振り返り、私を見てきた。

 

冗談でしょー、なんて思いながら頷いた。

 

私達は中へ入るため、改めて入口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中へ入るなり、私は驚いた。

ジャンル別とはいえ、そこそこの量があったから。

 

届かないほど高い本棚とかはない。

強いていうなら私の身長では届かないことかな。

悠希を見上げられるほどだしね。

 

「あー…そういえばリーシャの身長までは考えてなかったな。とる手伝いはしてあげるよ。探すの手伝ってくれるんだしね」

 

「あ、ありがとう。そうしてくれると嬉しいな」

曖昧な笑みを浮かべながら私はいった。

 

 

 

入口から少し進み、肝心なものを聞き忘れたことを思い出した。

 

「そういえば今日は(なん)の本を探すつもりできたの?」

 

そう聞くとハッとした表情になった。

「そうだったね。今日は2冊から3冊ほど読みたい本があってね。こっちの方にあるはずなんだけど…」

そういって少し奥の本棚へ向かい始めた。

私もその後を追うように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それからしばらくして。

 

私は図書館の椅子に座り、机に上半身を伏していた。

その反対側にいる悠希は面白そうだと言う本、剣に関する本、属性魔法に関する本を適当な順でぱらぱらと読んでは別の本を読んでいる。

 

私のは1冊。

精霊、ユニコーンなどの存在する物について記された本を閉じた状態で頭のすぐ右横に置いてある。

 

「真面目なんだかそうでないんだか…。別にいいんだけどね。それで、お目当てのはあったの?」

そう聞いてから顔だけあげる。

 

「んー、面白そうっていった奴がその一つかな。残りの2冊はなんとなくだよ」

 

「そうなんだ。…というか剣は独学だったんだね。その割にはやけに慣れていたようだけど…」

 

私がそういうとニッと口元を笑みの形にして

「気のせいだよ、それは。ところでリーシャはなんでその本なのかな」

とむしろ聞き返された。

 

私は上半身を起こし、本を手元に引きずる形でちかよせた。

「改めて知ろうかなって。初めて知ったのもあるけど」

 

そういって周りを見渡す。

そこそこの人がいるとはいえ、皆探すのに苦労しているみたい。

 

「なるほどね。さすがリーシャ、偉いなぁ」

なんて言うと机に少し身を乗り出して私の頭を()でてくる。

 

「な、なんでそんな風に撫でるのかな?とりあえずやめようか」

呆れたように半目でジッと見つめた。

 

「はいはい。それで、なんか興味のあるものでも書いてあった?」

 

「興味が出た…というかこうなるんだなって思ったのはあったよ。ほら、ここ」

 

私はそういうと本を開き、精霊のページにする。

そこには契約した精霊がどのような感じに変化するのか、というような絵が描かれていた。

 

見せた絵はぼんやりとした小さな人にも見える形の光から犬や猫などの獣の形や女性や男性にも似た人の形などが数ページに渡って描かれていて、分かりやすい。

 

「なるほど。確かにリーシャは猫っぽいし―――」

言葉を遮るようにして頬を叩く。

乗り出していた上半身を戻して座り直す悠希。

 

「猫っぽくもなんでもない。というか、なんの関係もないよね?」

 

「はいはい、そうだねー。…まあ、色々あるんだね、精霊にも」

と話していると開いたままの本を閉じ、3冊を手に持った。

 

「じゃあ、戻してくるけどリーシャも戻す?手伝うよ」

 

「あー…うん。お願いしてもいいかなー。三、四段目以降が届かなくて」

そういって私は座っていた椅子から降りる。

降りた後、机の上の本をとった。

 

やっぱり悠希のお腹か胸の下辺りしか身長がないらしくまたもや見上げる形に。

 

「分かったよ、渡してくれるだけでいいからね。それと…やっぱり小さいのは不便(ふべん)そうだね」

 

「そうだね、やりづらいこともあるから不便(ふべん)だよ」

といいながら手にした本を悠希へ渡そうと差し出す。

 

「でもそればっかりは仕方ないね。そのうち大きくなるんじゃないかな。…あ、リーシャの読んでた本は一番上のだったよね?」

 

私は頷いてから

「うん、一番上からとったのだよ」

といった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」

 

図書館を出るなり、俺はそう聞いた。

 

「そこってどういう店?言えるようなものなのか知りたいな」

 

「ああ、小物屋かな。リーシャの頭に(なに)か一つアクセサリーをつけたいって思ってね」

俺がそういうと「なるほどね」といって頷いた。

 

「こういう町だから(たい)したものはないけど、可愛いものは多分あると思うよ。ついてきてくれるかな?」

 

「そういうのもあるの?いいねぇ…。あの村にもあるっちゃあるけど、どの服にもあうような無難(ぶなん)でシンプルなものが多いし。お土産はもうちょっと種類が多いけど」

 

(うらや)ましい、って言いたいのが分かるほどの表情でいうリーシャ。

 

お、お土産だけはしっかりしてるんだね。

フォローとして『どの服にもあうシンプルなアクセサリーもいいと思うよ』とか言いたいけど…どうしたものか。

 

「まっ、まあ行こうか。こっちにもシンプルなものが少しあるかもしれないし、ね?ね?」

苦笑いを浮かべながらそういった。

フォローになっているかどうかはさっぱりだけど。

 

「…とりあえずそうする」

リーシャがそういったので、行くことになった。

 

俺もあとでちょっとした場所に寄らせてもらおうかな。

そう思いながら。



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第13話 お洒落をする準備と召喚する戦い

展開もなかなかに遅めな気が投稿している自分で思いますが、こうのんびりとした日常が多いのもまたいいのではないでしょうか。

そろそろ戦闘シーンも増える頃です。

文章力が欲しくなってきますね…。

下から本編です。
ゆっくりと適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

小さめな店だけど、小物類などを売っている場所まで来た。

いつもは通りすがるだけだったけど、今回はリーシャもいる。

 

俺もペアでなら気にすることなく、この店に入れるだろう。

元から男性でも入れるらしいけど。

 

なんて店の入口から離れた場所から真顔で見つめていたら察したらしいリーシャが俺の顔を横から少し覗くように見てきた。

 

「…やっぱり女の子が多いから入りづらい?なんだったら私が1人で入るよ?」

 

困ったようにも見える笑みを小さく浮かべながら、なのは気にしているからなのかもしれない。

 

「大丈夫だよ、俺も入るから。…あとリーシャはまだここの土地を知らないんじゃなかったかな?」

 

俺がそこをつくと困ったように笑った。

 

「それを言われたらなんとも言えないんだよなー…。って、連れてきたの悠希じゃないの!」

 

ノリツッコミ、ありがとう。

ツッコミといえるかはノーコメントだけど。

 

「それもそうだね。でもたまにはいいんじゃないかな?」

そういって、俺は中へ入ろうとした。

 

その時に

「村からあまり外に出なかったし、たまにはいいかな」

なんてリーシャは呟くと先に中へ。

 

「だからいいんじゃないかっていったのにね」

俺も誰へとでもなく呟いてから店内へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

店の中はどこか女子向けな感じがしたけど、落ち着いた雰囲気があってそこまで入りづらいようなものではなかった。

 

アクセサリーもシンプルなものから少し派手(はで)なものに可愛いものなど(かず)はそんなに多くないのに種類が豊富で驚いた。

 

…今日はたまに見るときより客が少ない。

お昼の時間帯だからかな?

別にいいけど。

 

「結構可愛いのがあるね。髪飾りとかそういうのがいっぱいあるのは初めて見た」

 

そういうリーシャの顔は嬉しそうに緩んでいる。

 

「そっかそっか、なら好きなのを2つ選んでみたらどうかな」

 

「それもそっか。んじゃ、ついでに2つ余分に買っておこうかな?」

 

「ん?その2つは誰かにあげるの?」

と俺が聞くとリーシャは首を横に振った。

 

「1つはノーラちゃんにあげるから間違ってはないよ。でも、1つはその予定、かな。まだいないし」

そういうと商品を見始めた。

 

いない…ってどういうことだろう。

からかいながら聞いてみるかな?

 

「ねぇ、いないってことは兄弟でもこれから出来るの?それともまた違うもの?」

 

「あなたに兄弟ができたら面白そうだよね。まぁ、普通に教えるけど、これから契約する精霊とのペアルックだよ。悠希とは前みたいに仲良くなれたら、ペアルックとかそういうのを買おうかなって思ってる」

 

まさかのツッコミがなかった。

それどころかスルーされた上にそっくりそのまま返された。

 

「そ、そうだね…。ってそういうことか。まだ早い気もするけど…考えておくのもよさそうだね。俺とのペアルックは仕方ないよ。それこそまだ時間的にも早すぎるだろうからさ」

 

「というわけで、選ぶの手伝ってよ。私のだけでいいからさ」

 

俺は肩を一度すくめてから頷いた。

「分かったよ。簡単な感想になるけどね」

 

そういうと『分かってる』というようにリーシャは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――数十分後

 

リーシャは薄紅色の少し大きな花付きのの髪をまとめて留めれる髪飾り1つ、紐などを通せる所がついている薄紅色の小さな花1つ、鈴付きのヘアゴムを買っていた。

ヘアゴムだけ送ってもらってたけど。

 

小さい紙袋にそれぞれ分けてもらい中ぐらいの袋に入れてもらったのを見て俺は店先に出た。

リーシャも支払いなどが終わり、買った物を受け取ったらしく後ろから出てきた。

 

「おー、悠希じゃないか。その女の子は知り合いか?」

左側からそんな声がかけられた。

 

その方を向くと濃茶(こいちゃ)色のサイドが少し長め、前髪なども長めの髪型をした誠也(せいや)が立っていた。

片手でやや小さめの袋を持っているのが離れているおかげで見える。

半袖Tシャツのすそを出し、(ひざ)下のズボンを()いている。

 

日焼けしたその肌は去年の夏にでもやけたんだろうか。

「ああ、そんな感じかな。お前こそどうしたんだ?見た感じ、欲しいものでも買った?」

 

そう聞くと誠也(せいや)は頷いた。

「ああ、買ったよ。サモンゲームってトレーティングカードゲームの新パックだけどな。5箱買ったよ。あ、もちろん決闘(けっとう)の方な」

 

「あー、もう出てたんだね。確か今回はカードとカードを重ねて出す奴の新しいのとか強化パーツが出たんだよね?」

 

「そうだな、新しいのもようやくカード化したって感じだな。まだ売ってるところが多いだろうから間に合うと思うぞ?」

 

「そうか。なら今日明日にでも買うよ。…それで、この子についてなんだけど」

 

ようやく話題を変えれそうになったので、振ってみたらリーシャは俺達の事を半目で見ていた。

 

「……なんで(あき)れられてるんだろうな?俺達」

 

「分からないな。ま、でも触れぬ神に(たた)りなしってね」

 

そう話していると

「…秘密。ところで、そこにいる悪友もどきは悠希の知り合いなのかな?」

とリーシャが誠也に顔を向けていった。

 

その時に誠也が「悪友もどき!?悪友じゃなくて同類だから!」とかいってるけど、いいのか、それで。

 

「ああ、うん。前に仲良くなってね。名前は及川(おいかわ)誠也って言うんだよ」

 

「そうなんだ。私はリーシャ・フェルマーだよ、宜しくね」

 

「そうなのか。宜しくな、リーシャさん」

そういって誠也は袋を持ってない右手を差し出した。

 

一瞬首をかしげるリーシャだったけど、分かったのか差し出された右手に右手を出して握手をした。

 

「手を繋ぐ必要は…あった?」

半目で呆れたように相手の顔を見つめながらいった。

 

「そ、それはいいだろ。雰囲気って奴だよ。必要とか不必要とか関係ないっての」

 

なんて会話をしているうちに自然に手を離したらしい。

 

それから何故か顔を下斜めに向け、誠也側から表情が見えづらいようにしている。

…笑いそうなのか肩が少し揺れている。

 

「な、なんでだよー。別にいいだろー?一度(いちど)はしてみたかったんだよ」

 

なんていっている誠也(せいや)の肩に左手をのせて

「仕方ないね。そういう後先考えずにやる時もあるのはお前のことだしな。フレンドリーなお前ゆえだしな」

とフォロー(笑)をした。

 

「いや、悠希。それはどういう意味なんだい?」

 

「話してるとこ悪いけど、この後はどうするの?私はもうほとんどないけど…」

曖昧な笑みを浮かべ、そう言ってきた。

 

「ああ、そっか。そうだね…誠也、今日はどうするのかな?前みたいにこっち来る?」

 

「ああ、隣なんだから飯食ってから行くわ。大丈夫だよな?」

 

俺は頷いて

「それなら大丈夫だな。あと俺も夕食までそっちの家にお邪魔してもいいかな。この子もいるけど、平気かな?」

そういい、右手の(ひら)をリーシャの頭にのせる。

その時、俺をジト目で可愛らしく睨んでくる顔が視界の隅に見えた気がするけど、気にしないことにした。

 

「大丈夫だ。…まあ、珍しい客に母さんとか父さんが驚きそうだけどな」

なんて笑いながら誠也がいった。

 

仕方ないか、町に来る他の種族の人達は観光目当てとかお土産目当てだし。

でも、大丈夫だろうな、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの店からそれなりに歩いて、誠也(せいや)の家へ。

俺の家と同じ二階建てのもの。

屋根は明るい朱色。

 

誠也が先頭でその後ろに俺とリーシャが立っている。

 

「あっ、そうだ。忘れる前に言っておくけど、開けるのだけでもいいからパックの開封、手伝ってくれたりしないか?」

半身だけ振り返ってそう聞いてきた。

 

「俺は構わないが、探してるものとかは言ってくれないと探さないからね」

 

「手伝いはするけど、多分見ながらになっちゃうかもだけど」

とそれぞれが答える。

 

俺も明日辺り5箱買うからね。

リーシャにも聞いてみようかな。

明日の朝にでも。

 

「いつも悪いな、悠希。んで、見るのは構わないが、見方が分からなかったら俺か悠希に聞くんだぞ?できるだけ分かりやすく教えるからさ」

といって口元を笑みの形に緩めた。

 

「ん、なら分からないものだけ聞くことにするね」

 

それを聞くと誠也が頷いた。

 

「それなら平気そうだな。なら、立ち話もあれだから入ってしないか?」

 

「そうだね、そうしようか」

 

リーシャも頷いてくれたので中へ入らせてもらうことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上がってリビングを通ろうとしたら、誠也の母親が俺達を見かけたらしい。

こっちへ近寄りながら声をかけてきた。

 

「あら、貴方は。お隣の悠希君ね。お久しぶりね。…それでそこの耳のとんがったお嬢さんは貴方たちの知り合いかしら?」

 

「あ、その子は俺の知り合いです。名前は」

 

「リーシャ・フェルマーって言います。自由に呼んでもらっても構いませんよ?」

と俺の言葉を引き継ぐようにしていった。

しかも、笑顔で。

 

「あら、そうなのね。そうなると引き止めてちゃ貴方たちに悪いかしら」

 

「あ、いえ。俺は構わないので」

リーシャは俺の隣でクスッと優しく微笑んでから「私も、なので」といった。

 

「あー、なら水かお茶用意してあげたらいいんじゃないか?母さん。茶菓子は適当に俺が見繕(みつくろ)うからさ。どう?」

 

「それがいいわね。なら先に部屋へあがっててちょうだい。貴方たち3人分の飲み物を用意してからあがるわ」

 

誠也の母親はそういうと今度はリビングへ向かっていった。

 

「あっ、そうだ。リーシャさん、あとで耳とか触ってもいいか?よく人の耳と感触が同じって聞くから俺も確認してみたいんだが」

好奇心(こうきしん)丸だしでリーシャに近付く誠也。

 

聞かれた当の本人は困った、というにしか見えない曖昧な笑みを浮かべている。

「その噂が本当かどうかはともかくして、触るのはやめてほしいな」

 

「少し触るとかならいいか?ちょびっとだけだからさ」

 

「どれだけ触りたいの?っていうか普通の耳だから。触っても同じだってことが分かるだけだから」

なんてジト目で誠也を見ていた。

 

「つ、冷たいな…。そう思わないか?悠希」

 

いや、俺に振っても同じだけどね。

でも、言ってあげるかな。

 

「エルフも人間と違うところがあるだけでさすがに同じところもあるだろうね。種族が分かれてるだけでしょ」

と俺は呆れたような表情を浮かべて思っていたことを伝えた。

 

「悠希もか……」

そういって曖昧な笑みを浮かべたのを見た。

 

 

 

階段を上がって少し通路を歩いた所に誠也の部屋がある。

そこに俺達が入っていく。

下側では誠也の両親がなにか話し合っていたけど、多分リーシャみたいな子が初めてだから驚いているのだろう。

 

俺も違う意味で驚いたし。

 

 

 

誠也の部屋は入口から見えるところにデッキケースが半分まで置いてある中ぐらいの棚とか机と椅子とか棚より気持ち大きい本棚とか。

奥の隅にはベッドが置いてあって、ちょうど足元かお腹辺りに朝日が当たるようなところに窓がある。

もう1つはその反対側の、棚と本棚の間にある。

いつも通りの散らかってない部屋だった。

 

「そうだ。ハサミは普通のが2本、ちょい小さいのが1本だけど大丈夫か?」

入るなり、先に奥に入った誠也が振り返って聞いてきた。

 

「あー、ならリーシャには悪いけど小さい方使ってもらえるかな?平気?」

 

「平気だよ、少し小さいなら。任せてよ」

リーシャはそういうと自信ありげにニコッと笑った。

 

「じゃあ、悪いけどそれを使ってもらえると助かる」

と誠也がいうと持っていた袋を部屋の真ん中辺りにパッと投げるようにして適当に置き、それから机の長細い引き出しからハサミを2本、小さめのハサミを1本取り出した。

 

「じゃあ、やろうか。悠希、リーシャさん」

 

 

 

 

それから箱を開け、パックの上側をそれぞれがハサミで切る。

5枚出てくるのでそれを分ける。

 

「可愛いのから格好いいのまで…色々あるんだね」

そう言いながらカードをゆっくり見ては次のカードを見ている。

 

「そうだね。その分テーマも色々あるからリーシャも平気かな?」

 

「んー…どうしたものかな…」

カードを見ながらのせいなのか反応がかなり薄い。

聞き流してたりする?

 

「そのうちやってるところ見せようぜ。もしかしたら興味持ってくれたりするかもしれないしな。…っていうかルールブック、残してたっけか」

 

あっ、という顔になる俺。

同じく残してたか分からないと言ったら、今度は誠也が困惑するだろうからなぁ…。

こればっかりは仕方ないね。

 

「だ、大丈夫だよきっと。どうにかなるって。あ、これだよね?」

必要だと言われたカードは合計4枚ほどしかなかったけど、一応差し出した。

 

「仕方ないな、最近は思いっきり読まなくなったし。…よし、あとはパーツとかで買って完成させればいいところまできた」

 

「お?新しいの、作る気満々なんだね。そんなに俺の作ったあれを越えたい?」

 

誠也にそれを聞くといつもより強く頷いた。

 

「そりゃあな。特に白色の竜が出てくるデッキは強すぎだろ。少しは加減してくれよ」

 

「そうは言っても…俺達、サモンゲームをほぼ一緒に始めたじゃないか。それに…そうでなくとも、手を抜く必要はあるかな?」

 

それを聞くとあはは、と笑い出した。

「それもそうだな。悠希、お前はそういう奴だったのを忘れてたよ」

 

「……話が盛り上がってるところあれだけどさ。カード、もう分け終わったよ。んで、なにかするんじゃなかったっけ?」

そういって机の上に分けたカードを指差すリーシャ。

 

「あっ。いっけね、忘れてた。それはだな―――」

といってそのカードにも手を伸ばす誠也。

 

抜けてるんだか抜けてないんだか、いまいち掴めない奴だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

それからしばらくして2人は机を挟んでカードゲームを始めようとしていた。

 

「「サモンスタート」」

 

そういってお互い電卓に8000と打ち込む。

太陽光とかの明かりって便利だね。

改めて知ったよ。

 

でも…なにを見てればいいのやら。

 

なんて考えているとそれぞれ5枚、カードを手にしている。

「んじゃ、俺からね。モンスターを召喚っと。あと罠カードねー」

 

「今日のために置いておいたようなもんになったな…。狙ってたな?」

 

「狙ってないよ、そこまでは。前に来て預けてたの忘れてたぐらいだし」

 

「お前なあ…。せめてそれは忘れないでくれ。無くさないようにとか、俺自身のと分りやすいようにするのとかって案外大変なんだぞー?」

 

なんて話し合っている。

場のカードとかデッキとかどう見てもあのトレーティングカードゲームです。

本当にありがとうございました。

 

「あー、うん。頑張ってね?」

といって窓から外を眺める。

ちょうど2人の間から棚とか本棚が少し見えてるしね。

 

「あっ、ちょ、リーシャ。ちょっとぐらい見てくれよー」

 

「…リーシャはマイペースだな。…まるで猫みたいだ…」

 

聞き捨てにならない単語が聞こえたけど、聞かなかったことにしよう。

猫じゃないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

それから30分後。

ようやく俺の勝ちで決着がついたところで、持ってきてもらった飲み物で休憩することになった。

 

リーシャはそれまで暇だったらしい。

声をかけるまで会話をしているかのような独り言を言っていた。

 

「…リーシャ、誰と話していたの?」

 

「ああ、対戦してる間に話してた相手のこと?ウィルちゃんとシェード君だよ。これから精霊と契約するからって相談してただけだよ」

 

「そ、そうなんだね。因みに対戦、もう終わったよ」

 

そういってから前の方にいる誠也に視線を向ける。

 

「俺の負けだったけどね。リーシャもやるか?」

 

「えっ?私?でも、サモンゲームをするための物、ないよ。違うのならあるけど」

そういって取り出したのは本。

表紙や背表紙を見る辺り、転生前の世界(あっち)でいうライトノベルのようだ。

 

「うん、誠也(せいや)。とりあえずまた今度にしようか。それまでに俺が教えておくからさ」

 

俺がそういうと誠也は肩をすくめた。

 

「なら、しょうがないな。あっ、そうそう。俺な、シールドブレイクの方にも興味があるから手を出してんだけど、悠希もどうだ?」

 

「今回はいいわ。決闘(けっとう)の方だけでも充分楽しいしね」

 

「そうか…。茶菓子出すついでにちょいと噂を越えない話でもしていいか?」

そういうと減った皆の紅茶を継ぎ足す誠也。

 

顔がたまに見る真面目な表情をしているのを見ると、どうも良い話ではなさそうだ。

 

「構わないよ。むしろ気になるから話してほしい」

 

「まずは聞いてみないと分からないからね。私も大丈夫だよ」

 

それぞれの返事を聞いた誠也は丸い缶に入ったクッキーを棚の左隣にある小さな箱から取り出すとこう切り出した。

 

「―――最近、やけにダンジョンの危険度が高くなっているらしい。そのせいで、前は安全から普通だった場所も入れなくなっている」



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第14話 風呂にハプニングはつきものなのか?

風呂回をやってみました。

誰得ですが、こういうサービスシーンもひつ…え?そうでもないですか?

まあ、上手く書けたか自信はありませんが、本編は下からです。
平気な方、寛容な方などは適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

「ダンジョンが?でも、本来は難易度が変わることなんてない。そのはずだろ?」

と俺は疑問を抱きながらいった。

 

リーシャもダンジョンの存在は聞いていたのか知っているらしく不思議そうな顔をしている。

 

「あまりにも突拍子(とっぴょうし)な話になるんだけど…(なに)かが起きかけてる、とか?そんな感じなのかな」

 

「なんとも言えないのが現状だな。根拠があるとは言えんし。…ただ、冒険者ギルドができるって話もある。こっちは根拠があるらしい」

 

リーシャは首をかしげた。

 

「ダンジョンが発見されてから大分(だいぶ)()つはずだけど…なんでこの時になって()てるんだろうね」

 

それには俺も頷いた。

とはいえ、それにしたって不思議だ。

 

「でも、それも噂っていうか話に出てるんだよね。俺はそういうのとか気にしてなかったから知らないけど、誠也(せいや)(なに)か聞いてる?」

 

「少しは、な。だから俺の想像も含めて話す。多分今まではダンジョンと言えば危険。だからあまり行く奴もいなかったし、そういうのも必要なかった。でも最近になって唐突(とうとつ)に内部のモンスターが(なん)らかの理由で変化した。そうだと、俺は思っている」

 

というと俺達の顔を見てきた。

はぁ…と俺はため息をつく。

 

「その(なん)らかの理由…が分かれば苦労しないんだろうね。しばらくしても結果が出ないなら俺達で調べに行かないか?」

 

そこに紅茶を一口飲んだリーシャが

「でもダンジョン…入ったことある?最初は安全から入って肩慣らしとかするもんなんだよ?」

といってきた。

 

なるほど、入ったことでもあるのかな?

そう思いながら俺も紅茶を 啜(すす)り、クッキーを一つ食べる。

 

「その言い方だとリーシャさんは入ったことでもあるのか?感じからして無さそうに思えたんだけどな」

 

「あー…。一応は、ね。安全判定されていたダンジョンが近くにあったもんで、よく連れていってもらってたし」

 

驚く誠也(せいや)にリーシャが曖昧な笑みを浮かべながら教えた。

 

「なるほどね。でも、どうする?今や素人の俺達でもクリアできたかもしれないダンジョンでさえ危険になっているって感じだし。…話の流れでいくと、だけどね?」

 

「うーん…どうしたものかな」

そういうとリーシャは自身の腕を組み思索(しさく)にふけはじめた。

 

「ま、まあ…今日はもういいんじゃないか?明日にしようぜ。多分その方がいいだろ。それよりも……俺の分のチョコクッキーを1枚でもいいから残しておいてくれよ!普通のクッキーしか残ってないじゃないか!」

 

そう不満に思うのも無理はない。

なにせ話している最中、たまにチョコクッキーを俺とリーシャが食べていたから。

 

「いやぁ、悪い悪い。やっぱ考えると頭使うんでね。美味しい方をもらったぜっ」

俺はそういってニヤァとしたり顔を浮かべる。

 

リーシャにいたっては申し訳なさそうな笑みを浮かべ

「ご、ごめんごめん。ミルククッキーも美味しいんだけどさ、チョコクッキーも美味しくて…」

といった。

 

「だ、だからって1枚も残さないのは酷いじゃないか」

と言いながら誠也は机を両手で軽く叩く。

 

「なら今度、クッキーでも作ろうか?…リーシャと作るけど」

そういってからリーシャをちらっと見る。

 

リーシャは驚いた表情をしていた。

けど、気にしない。

 

「おっ。ならミルククッキーとチョコクッキーとチョコチップクッキーな?枚数は任せるが、その三種を作ってもらいたいんだが」

両手を机の上にのせながら前のめり気味(ぎみ)になりながら真顔でいってきた。

 

「わ、分かったよ…。リーシャは大丈夫?クッキー作りとか一緒にやってもらっても」

 

「うん、大丈夫だよ。でも、枚数はあとで決めようね」

俺が聞くと頷いてから返事をしてくれた。

 

「なら決まりな。残りのミルククッキーは全員で分けて食おうぜ」

それに対し俺達は頷いた。

 

 

 

 

 

そんな話をしてから少しもしないうちにリーシャがミルククッキーを手にしながら

「…村で食べたことのあるクッキーよりサクサクしてて美味しい。やっぱり木の実じゃないから…?」

なんてどこか懐かしそうにいった。

 

…いいね、エルフは。

何故か誠也(せいや)が「それは悠希が作ったんだ。今度、また集まるときにでもお前をまた誘ってやるよ」とか優しく笑みを浮かべながら言うほどだからね。

 

……って、誠也はエルフについて知ってるのか。

あとで俺が忘れてなければ聞いておくかな。

 

「誠也、でも問題がある」

残りのクッキーを食べてからそう俺はいった。

 

「問題?場所…に関してはどうにでもなるしな。もしかして、リーシャとの連絡手段のことか?」

と机の上に置いたままだったカードをデッキにしまいながら俺が言いたいことを当ててくれた。

 

「そこなんだよね。リーシャを俺の家に泊めておくってのもありだけど…」

そう一度言葉を(にご)らせてからリーシャを横目で見る。

 

「あー、それなら手紙があるよ。どうしても時間差が出ちゃうから急ぎの用の時には使えないけどね」

 

「手紙か…。でも、それ以外はないしなぁ…」

 

腕を組んで俺が悩んでいると

「あ、なら悠希のところでよさそうだな。リーシャの親には手紙を出せば平気だろ」

と誠也が言ってきた。

 

「そ、そういう問題か?……リーシャは?」

 

そう聞きながらリーシャを見るとデッキケースに俺のカードを入れていた。

 

「ん?あ、ああー…。多分平気だよ。なにせダンジョンに普通に自衛ができるようにと連れてく親だしね」

 

うん、それは普通に教えた方がもっとも安全で手っ取り早いと思うんだけどな。

 

「変に(おそ)ったら返り討ちにあいそうだな、こりゃ」

 

なにを考えてるんだ、誠也よ…。

 

「やらなきゃいい話でしょ?あ、こんな感じで大丈夫だった?」

半目で呆れたように誠也にいったと思ったら次に俺に振ってきた。

 

見せてきたデッキケースの中身は前にメイン、後ろにエクストラが入ってた。

確かこれは…癖だな。

「あ、ああ…ありがとう。悪いね、リーシャ」

 

「それならよかった」

そういってニコッと笑った。

 

誠也はその様子を不思議そうに見ていた。

 

 

 

そういえば、聞いてないことがあったな…。

忘れる前にでも聞くか。

 

そう思って前にいる誠也を見て

「あ、そうだ。誠也、風呂はどうする予定なのかな」

と聞いた。

 

「あー、それは忘れてたな。お前の家の風呂って借りてもいいか?」

 

「平気だと思うよ。父さんと母さんはよく外で風呂に入ってるしね。なんでそうしてるのかまでは聞いてないけどね」

 

「おっ、なら行かせてもらうことにするわ。あとそれはお前が信頼できる息子だからだろ、きっと」

 

誠也がそういった時、なんかリーシャが「自宅警備する息子…?」とかって小さく呟いていた気がするけど、つっこまないでおく。

 

「どんなんだし…。あ、リーシャは俺の家でいいからね」

 

「分かった。でも、1人で入るからね?」

 

その言葉に対して俺は首を横に振り

「入ったりはしないよ。だから安心してほしいな」

といった。

その時に誠也が企んでいるような顔をしていた気がするけど、横目でチラッと見えたぐらいだし多分気のせいだね。

 

フラグになってないといいんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくはサモンゲームやらなんやらと遊んだりしていたら夕方になっていて、リーシャと共に俺の家へ。

 

帰って少しもしないうちに夕食の準備をリーシャが手伝ってたけど…魔法で野菜を炒めるのはどうかと思うよ。

あのかなりおっとりした母さんが珍しく目を丸くしていたし。

 

 

食べてから家においてある時計で30分か40分かそのぐらいした時に誠也(せいや)が入ってきたのか扉の開閉音がした。

俺はリーシャと共にリビングにいるのでそっちまではここからじゃ見えない。

 

「こんばんはー」

 

「あら、誠也君。こんばんは」

 

「おっ、こんばんは。今日は泊まるのか?」

 

俺の父さんがそう質問したのが聞こえた。

 

「はい。泊まりにきました。あとは寝るまで俺達でも大丈夫なんで」

 

「そうだね、悠希と君がいれば大丈夫だろう。なら、あとは任せたよ。それじゃあ、僕達は行こうか」

そういう声がしたと思うと

「ええ、そうね。特にあの子は問題なさそうだものねぇ」

と母さんの声がした。

 

どうしたものやら…と思っていると

「本当に任されてるんだね。ある意味信頼されてるというか、なんというか…」

俺の前でリーシャが困惑した様子で呟いた。

 

 

「ん…?ああ、なんでか知らないけどね。別に気にしてはなかったけど」

 

わりとどうでもいいし…。

聞いてもいいけど、知るならこの世界の二次元を探りたい。

リーシャ、お前は肌白すぎて二次元からこんにちはした人みたいだぞ。

 

……と考えてるなんて本人には言わないけど。

 

 

「そ、そういうものなんだね。因みにつかぬことを聞くけどさ、この町に混浴できる風呂場なんてあるの?」

 

そう聞かれて『あぁ…やっぱり不思議に思うか』と思った。

 

「それがあるんだよ。しかも混浴できる場所だけ、体を洗う場所が別にある」

 

「不思議だよなー。その上、まさかの脱衣場と風呂場の間にあんだから」

 

玄関の方から来ながらそう話す誠也(せいや)

 

「……つまり、そこはタオルを巻いて入るのかな?」

 

「「そうなるな」」

 

今日、珍しく誠也とハモった気がする。

でもハモるのも無理はないさ。

俺達は入ったことあるんだし。

 

「そ、そうなんだね。ある意味心配になるけど…。はだけたりとかそんなのありそうだし」

 

「その話はたまにしか聞かないね。あったとしてもふざけてお互いのタオルを下ろしあった結果らしいし」

と言って俺はついさっきリビングに来た誠也をジト目で睨み付ける。

 

「た、確かに俺もやってるけどそこまではしてないからな!?」

 

「やってるんだね、あなた達も。そういうおふざけ」

そういうとリーシャは半目になって俺達を見てくる。

 

「いや、俺はやられてる側だからね!?抵抗しないとタオルが落ちて大事なところが他の人にも見られるんだぞ!?」

と机を叩きながら叫ぶ。

 

結構大事なことだしね。

俺で話題にされては困る。

 

「なるほど。誠也さんの言い訳はあるかな?」

その半目のまま、誠也へと視線を移すリーシャ。

 

「そ、それはだな……。ないっ!」

清々しいほど素直にいった。

 

「わぁ、とても素直ですね。ということは人々の目に友達のソレをさらけ出さして笑うド変態さんなんですね。ドン引きものですね」

半目で誠也を見ているが、さっきより呆れたようにも見える。

 

「そ、そういうのじゃないからな!?っていうか何気に黒いな…」

と言い終えると困ったように小さく曖昧に笑っていた。

 

「うん、気のせいだと思うよ。因みに湯浴み(ゆあみ)の順番とかって私が先でも平気かな?」

 

湯浴み?

いきなりそんな単語を出されたので、俺は思わず首をかしげた。

 

「湯浴み…?どういう意味なんだろう」

 

「順番って言うぐらいだから風呂のこと…なんじゃないか?」

 

誠也すら分からない、という風に首をかしげている。

 

「あ、ああー…。誠也さんのであってるよ。湯浴みはお風呂のことなんだよ。私の村ではよく風呂に入るときとかのことを湯浴みって言っててね。その癖でも出ちゃったんだろうね」

 

「なるほどな。なら、俺はすこーし悠希とサモンゲームをするから先に風呂に入っててよ。悠希もいいよな?」

 

「またするのか。いいけどさ…。ああ、いいよ」

呆れたような顔を浮かべ、頷く。

 

その時にチラッと見えた誠也の顔はなんか悪巧みしているような顔に見えたような気がした。

 

――実際そうだったらしく、まさかあんなことになるなんてその時の俺には知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

先に風呂に入らせてもらえる、ということなので入ることにした。

 

あの2人はまたサモンゲームをするらしい。

そのうち私も“また”やってもいいかな。

ルールとか色々違う点がありそうだけど。

 

 

脱衣所へ入る扉を開け、入る。

 

洗面台が正面に見えて、左横に棚が置いてある。

そのかごが棚に5個ほど並んでいるのを見る限り脱いだ物をそこへ入れるらしい。

 

それを見てまず上に着ていた服を脱ぎ、かごへいれる。

 

「……んっ」

私はお母さんよりかなり小さいので、あっちで言うCのブラジャーなるものと下着も脱ぐ。

 

それから風呂用と思われるタオルを借りさせてもらう。

そこまで長くないし、体を拭く用じゃないと思いたい。

 

 

それらをしたあとに後ろを振り向くと真ん中に長方形の窓がついている扉があるんだけど、もうすでに湯気で向こうが見えなくなっている。

 

開けて入るとそこまで広いわけじゃないけど、今の私の身長ならのびのびと使えそうだと思った。

 

洗う前に風呂でも入るかな。

そう思って先に浴槽へ足を入れ、そのままの流れで座る。

 

「……ふぅ」

ついそんな安堵のため息をついてしまった。

 

体とか頭とか洗うのはあとにしよう。

そう思った私はもう少し風呂に入っていることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

1試合だけするつもりだったサモンゲームは結局5試合してしまった。

たまに誠也や俺がトイレへ席を外したりなどをしたものの、1試合数分単位で終わるものがあったため短時間で終わらせることができた。

 

「そうだ、悠希。そろそろ風呂に入ったらどうだ?」

 

「なら、あと1試合したら入るよ」

 

そう俺が言うと誠也が困ったように笑った。

 

「分かった分かった。あと1試合な?それ以上はさすがに風呂に行けよ」

 

「はいよ。じゃあ、シャッフル(あんど)カットね」

 

「あーいよ。時間的にさっさと出来るデッキにしたし、すぐに終わるだろ」

 

「終わったら入るって。でも、どうかな?」

 

そういって再度始めたサモンゲームは俺の手札がさっきまでの5試合よりも良く、数分足らずで終わらせてしまった。

なので再戦を挑んだのだが、風呂へ入るようにと何度も言うので仕方なく風呂に入ることに決めた。

 

その時、『風呂から上がったらもう1戦してくれる』という約束も何気なくしてもらえた。

 

 

 

脱衣所へ入り、左にある棚に置いてあるかごに着ていたものを全て入れる。

そして、腰にタオルを巻いて風呂に入ろうと扉を開けたら湯気(ゆげ)で中が(すご)く見えづらい。

 

でも、誰かの日焼けの一つもしていない白い(はだ)の背中が見えた。

 

 

扉の音で気づいたのだろう。

振り向いたその誰かは……

「―――変態っ!」

といって俺に向け風呂椅子を投げてきた。

 

「ちょっ!ごめんっ!」

辛うじて避け(少し当たって痛かった)、脱衣所から出ようとするが何故か開かない。

 

何度も何度も開けようとするが、ビクともしない。

 

「…な、なんでだろう…」

と困った顔をしながら呟いた。

前みたいな関係だったら、なにもなかったんだろうけど…。

 

「……どうしたの?」

急いで体を流したのか、水滴を滴らせながらリーシャが、風呂場の扉から顔を出して聞いてきた。

それを見てすぐに俺は背中を向けた。

 

「あ、開かないんだ。だから、その…悪い」

背中を向けたまま、そう返す。

 

「それだったら…まあ、仕方ないね。……一緒に入る?」

 

「そうなんだよ。…って…え?本当にいいのか?」

 

『一緒に入る?』なんて今の関係では出てこなさそうな言葉を言われ、自分でも驚くほどのすっとんきょうな声が出てしまった。

 

「だから、出れないなら一緒に風呂に入ろうって言ってるの。ただ…体洗ってるときは目、そらしてね」

 

はあ…とため息をついて振り返る。

「分かったよ。…でも背中ぐらい、洗ってもいいか?」

 

聞かれて悩むような仕草をとるリーシャ。

だけど、数分で決めたらしく首を縦に振ると

 

「いいよ。でも背中…だけだからね」

 

といって再度風呂場へ入ってしまった。

 

あとで元凶を凝らしめてやろう。

俺はそう決めると気まずい思いで風呂場へと入っていった。



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第15話 季節は夏です。別れも突然です

シリアスもどきがあります。

何故もどきと言うのかは…読んでからのお楽しみです。

ネタ、稚拙な文などが苦手な方は回れ右をオススメしています。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

風呂を上がる頃には棚にリーシャの分が入ったかごが置いてあった。

お互い、なんとも言いがたい雰囲気(ふんいき)で体や頭を拭き始めた。

 

けど、男である俺の方が拭くものが短かったりざっと拭けたりとで先に終わった。

そのまま白いTシャツ、カーキのハーフズボンに着替え、脱衣所から出る時に脱いでおいた靴を履いてから俺は十中八九元凶である誠也(せいや)を探し始めた。

 

 

 

 

 

探していた相手は探さなくともすぐに見つかった。

なにせ脱衣所から出て少し歩いたリビングにいたのだから。

 

「ここにいたか、誠也。さて、さっき脱衣所の扉の前になにをしたのか白状してもらおうかー…」

そういってソファーに座っていた誠也の背後に立つ。

 

「さてはて。なんのことやら。俺は知らないなぁ」

 

「知らないじゃないぞ、こいつ~。もう少しで俺が社会的に死んでたかもしれないんだぞー」

 

おふざけなので、かなり手加減をしながら誠也の左肩、右脇の辺りでホールドしている。

まあ、誠也も自衛が出来ないような奴じゃないし、おふざけ程度なら抜け出せるんだろうけどね。

 

「そりゃー悪かったー。まさかそうなるとは思わなかったんだー」

と棒読みでいってきた。

 

それに俺がつっこもうとしたが、それよりも先に背後から

 

「へぇ、そうなんだ。ちゃんとした理由とかを言ってくれたら私、なにもしないであげるんだけど…なにか言うこと、ない?」

 

という声がした。

 

俺達はその体勢のまま、振り向く。

ワンピースタイプのネグリジェを着たリーシャが笑顔で立っていた。

目だけが笑ってないけど。

 

「な、なにをするっていうのかな?リーシャさん?」

 

「冷気でも起こしてこの部屋を寒くするつもりだけど?」

 

「「いや、むしろしてください!」」

とほぼ同時に叫んだ。

 

「……えっ」

あっけにとられた顔になるリーシャ。

そりゃそうだよ。

まだ暑い日が続くと言うのにそれを言えばこうなる。

一応窓は開けてるんだけどね。

 

んんっ、と持ち直したのか半目で俺達(多分誠也を見てるんだと思う)を再度見てきた。

 

「とりあえず、驚いた…とだけ言っておくからね。あんまりしないでよ?」

 

「違うのならするなっ」

とイタズラっぽく笑った誠也を俺はおふざけで揺らした。

 

「お前なぁ~」

 

そうやっている(さま)を見てなのか、クスッと笑う声がした。

それにつられて俺達も笑い出す。

 

平和だな…と、そう思った。

 

だけど、そう思ったすぐあとに玄関の扉が開く音がした。

閉まる音がする前に男の人が入ってきた。

 

その姿は所々服が破れていて、破れた箇所からは怪我が見え、着ている服には赤い液体がちらほらと見える。

 

「ふ、封印されてたはずの魔王が…!魔王が魔物を…!魔物を引き連れて(ここ)を襲いにきた…っ!」

 

と急に叫んだ。

俺達は顔を見合わせるもリーシャはどこか不安げに瞳を揺らし、誠也も不安そうだったが、なにをするかを普通に考えられそうなくらい、冷静に見えた。

 

俺も少し不安だけど、どうにかしなきゃまず駄目だと思った。

 

そう考えるのとほぼ同時に玄関が再び開き、そこから両親の姿が見えた。

 

「悪い!今はなにも聞かず母さんと逃げてくれ!悠希、お前はお前の部屋にある剣を持っていけ!あれはある物作りや改造が大好きなドワーフが作ったものだからしばらくは持つはずだ!誠也、お前には短剣を同じ人に作ってもらっているからそれを持っていけ!リーシャ、悪いがお前にはそのドワーフがいる洞窟までの地図を持っていってもらう。あと母さんも出来れば守って欲しい」

 

一気にそれらを言うと最後に

 

「……一応、足は荷物輸送所から持っていくといい。緊急事態だからと2頭から4頭まで使う馬車なら渡してくれるだろうからね。あとはリーシャ、お前に俺の家族とその友達を任せた。ついでになってしまって悪いんだが…ドワーフの洞窟でなにか聞かれたら村野優真(むらのゆうま)って名前でも出しておけ。じゃあな…俺は足止めでもしてくるよ」

 

といった。

 

「それって…待てよ、俺だって…!」

 

なにも出来ないわけじゃない。

そう言いたかったのだけど。

 

「……お前がいると足手まといになってたまらん。だからさっさといけ」

 

とピシャリと言われ。

 

「そこまで言うのは酷いと思うわよ?」

 

「いいや。ここまで言わないと馬鹿は分からないみたいだからな。じゃあ、いってくる。…案内してくれ」

そういうと玄関に置いた剣(普段俺が使っているもの)を手にして軽い怪我をした男の人についていった。

 

「……とりあえず、行きましょう。悠希、誠也。貴方達は1回部屋に行って。言われたものはそこのベッドの下に隠されているから探してみるといいわ。リーシャさんは…精霊との契約、まだなのよね?」

 

「は、はい。まだしていないです」

 

「分かったわ。なら―――」

 

そう会話しているのを尻目に俺は自室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

それから急いで私達は逃げる用意をした。

再度の着替えや簡単な荷造り。

手伝ったのはいいけど、少々雑になってしまった。

それらを4人で分担して持つ。

 

「玄関から出るわよ。ついてきて」

そう言われ、開きっぱなしの扉から出ていく。

 

順番は悠希の母親、悠希、誠也、私。

 

(ちな)みに悠希の右腰には剣の入った(さや)が、誠也(せいや)の左腰には短剣の入った鞘が(たずさ)えられている。

 

 

 

 

それから早足で歩いてしばらくしたあと。

こっちにはまだ魔物とやらが来ていないらしい。

でも、そのわりには荷物輸送所の周りに人はあまり見えなかった。

 

どうしたんだろうか…と考えようとしたら

 

「…この状況だ。もしかしたら、自分で持っていく人の方が多いんだろうな」

 

と誠也が呟いた。

 

「ええ、そうでしょうね。危険が迫っていると言うのにここまできて、馬車を借りるって選択肢まではなかなか出にくいでしょうし。今ここにいるのはきっと、それが出てきた少数派でしょうね」

 

「なるほどな…。それであまりいないわけなのか」

と納得したように返している。

 

「あー、いいかな?私、まだ2頭のしかやったことないんだけど、大丈夫?」

かなり近づいたところで聞く私。

 

「大丈夫よ。とにかく事情を話して貸してもらいましょう」

そう悠希の母親に言われ、ついていく。

 

「それと私のことは沙恵(さえ)って呼んでいいわ。ただ、呼び捨ては緊急時のみよ?」

とその間に言われ、私と誠也は頷いた。

悠希は表情が見えづらく、頷いたのかさえ分からなかったけど。

 

 

 

 

 

 

中に入るなり、かなり短いとんがった耳を持つ青年に

 

「無事でしたか。上司から緊急事態が起きたと聞いたので、皆さんのことが心配になり、つい来てしまいました。それと今のところ、この町で被害を受けているのは町の入口周辺だそうです」

 

といきなり声をかけられた。

 

「……真叶(まなと)さんか。それで、こっちに人があまり見えないのは何故か分かる?」

 

「はい。(おそ)らくは周知されていなかったのが原因かと。そうすればこうはならなかったと思われるのですが…。今回のことを機にもう一度上司に話しておくのでどうにかなるかと」

 

なるほど、一部の人しかその事を知らなかったのね。

無事に逃げられるといいんだけど…。

 

「あ、それと馬車って…」

 

「あ、馬車ですね。他の皆さんは今のところ2頭のを持っていく方が多いので今からでないとそろそろなくなってしまうかと…」

 

「ならその2頭の方をお願いします。でも、真叶さんはこのあと、どうするんですか?」

 

「4頭を使う馬車を借りられる方と一緒に行きます。他に残ってる人もそのためにいるようなものですから。気にせず使ってください」

 

「分かり、ました…」

そう言いながら頷いて半身だけ振り返る。

 

「こっちは大丈夫よ。ところでドワーフの洞窟の場所は知ってるかしら?」

 

私は首を横に振って

「……分からない、かな」

と答えた。

 

「なら、今から馬車に向かうから貴方達は後ろに乗ってちょうだい。こんなときまで盗賊は出ないでしょうし、一直線に行くわよ。悠希と誠也もいいわね?」

 

そう言うと悠希の母親は2人が頷くのを見る様子もなく真叶さんに教えてもらった方向へ向かい始めた。

私達も後を追って歩き出した。

 

本来は通れない場所を通ったので、最初に馬車に乗ったときより早く馬車についた。

 

 

 

 

「悠希、誠也。先に馬車に入ってもらってもいいかしら?ちょっとリーシャと話がしたいのよ」

と馬車の前でそう話してきた。

 

「理由は?」

 

「ないわよ。聞かれても困らないことだからいてもいいけども…」

とまでいって町の入口の方へ顔を向ける。

私もそっちへ顔を向けると煙があがっていたり、火が出ていたり、建物がかなり壊されていたりなどとひどい()(さま)になっていた。

 

「やっぱりやめるわ。貴方達、もう乗ってちょうだい。出るわよ」

そう言われ、悠希と私の背中を押して入るよう(うなが)してきた。

 

「…しょうがない。乗ろうぜ」

誠也はそういうとあっさり乗った。

私達は押されるがまま、乗ることに。

 

悠希の母親は御者台(ぎょしゃだい)に座るとそのまま、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「…えっと、悠希。大丈夫?」

 

やっぱりああいう風に言われて大丈夫なのか、心配になったのでそう聞いた。

 

「まぁ、な。でも、あれ…隠せてないんだよな。俺がある程度の嘘が分かるのを知っててわざとああいってきた。そこまで俺達家族を守りたいと思うならついてきてほしかったよ」

苛立(いらだ)ったような表情でいった。

 

「優しい嘘って言いたいの?」

 

と聞くと目の前に座った悠希は小さく頷いた。

 

「ああ…。まぁ、俺もある意味隠し事が父さんにバレてたのかもしれないな。それについては近いことをリーシャには前に言ったはずなんだけど、覚えてるかな?」

 

「この世界における貴重な情報源だとかだったはずだけど…」

 

「うん、それだよ。んだからこそ、守っておく必要がある。俺とリーシャにしかいいことはないだろうけどね」

 

「いや、あるだろ。エルフは長寿な分、若いうちから色々と教えてもらえるって俺の母さんが言ってたぞ」

 

「まじか」

 

「まじだ」

なんて片や驚いた顔、片や真顔で話している。

 

でも、悠希さんや。

あなた、私からそれに近いことを聞いているでしょうよ。

『言語を三つほど教えてもらった』と。

母国語となるエルフ語は別に数えるとして、古代エルフ語と精霊語と共通の日本語のようなもの。

 

「それはいいけどさ。さっきの雰囲気(ふんいき)はどこにいった!?」

 

「いつまでも引きずったら父さんに悪いだろうしね。あれでも町の中じゃ腕が立つって自称してたし」

 

「いや、それなりに剣術の腕はあったの、俺は見てるからな!?盗賊を追い払ったことがあるとかも聞いたことあるしさ!」

 

「あー、そうだったのかー。そりゃー知らなかったなー」

とあからさまに棒読みでいう悠希。

 

シリアスを返せ。

そう思った私は黙って前に座っている2人を半目で見ることにした。

つっこんでも余計にシリアスがなかったことになるだけだろうしね。

……なるのかさっぱり分からないけど。



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第16話 エルフとドワーフは案外仲良し

他の方の小説とか読むとやっぱり凄いなぁ、と思う私です。

ですが、私なりに完結まで頑張っていきたいと思います。


因みに下から本編です。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

…まぁ、正直いって遠回しな言い方をする父親だった。

あの時が一番分かりづらかったけどね。

 

「……ところで母さん。あの洞窟の中にいるの?そのドワーフが本当に?」

半目で目の前にある俺達なら簡単に通れそうな洞窟の入口を見ながら聞いた。

 

「ええ、そうよ。…って、馬車から降りるときに教えたじゃない。どう見ても普通の洞窟だけども、ドワーフはそういうところに住むんだって」

 

母さんも洞窟の入口を眺めながら答えた。

 

「そ、そういうものなんだね…」

 

とだけ呟いて今度は洞窟の入口を少し見上げてみる。

やっぱり自然すぎて分かりづらい。

奥を見るとちょっと看板がうっすらと見えて違和感があるけど。

 

「本当、信じにくいけどね。でも、私も住んでいるところが森の中だからあんまりここのこと、言えないんだよなぁー…」

曖昧(あいまい)な笑みを浮かべながら同じく入口を見ているリーシャ。

 

「しかも自分らで掘ったっていう噂だから(すご)いよな…。尊敬するわ」

 

「ところで…。見るのはいいけども、そろそろ入るわよ。もう暗いのだから」

 

なんて眺めながら話しているとそう言われてしまった。

 

「うん、そうだね。いくら魔法を扱えるリーシャがいるからって暗い場所じゃ大変だしね」

 

「うん。でも、それより問題は私達と話が通じるかってところなんだけど…」

とリーシャがためらいがちに俺達を見回す。

 

「あー、そこは大丈夫よ。父さんが言っていた名前とかを出せばいいのだから。あとは…悠希、あなたの名前でも出してみたらいいんじゃないかしら?」

 

「しっかりしたな、って思ったら俺の母さんは母さんだったよ!リーシャ、精霊にここのこと知ってるのがいないか聞けるかな」

思ったことをつっこむみたいなノリで(なか)ば叫ぶように言ってから横に向いてそう聞く。

 

「ん?精霊に?…いいけどさ、聞く前にいい加減目立ってると思うんだけど。それについてはどうかな」

 

――ああ、そうか。

リーシャだけ、耳がそれなりに長くとんがっていることを失念(しつねん)していた。

 

「それもそうだね。なら、一応入ろうか。2人も平気だよね?」

 

「ええ、全くもって平気よ」

 

「そうだな…一応入った方が大丈夫そうだしな」

とそれぞれの返事をしてもらったところで、俺達はぞろぞろと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟内に入ると身長の低い人達――まぁ、ドワーフしかいないからそうなんだろうけど――が行き()っていた。

 

そんな中、こちらに気づいた1人のドワーフがこちらに近寄ってきたけど、見た目は10代前半から後半の少女。

 

「あっ、あなたはエルフですか!?そうですよね、耳が短めとは言え、とんがっているんですから!」

 

……え?

今、俺達になにを話してきたんだろうか?

全くもって分からない。

 

「あ、ああ…うん。そうだけど…ってもしかして、お父さんが言ってた話、本当なの?ここに”イフリート“っていう性格が世話焼きの母親みたいな上位精霊がいるっていう…」

 

「そうなんですよー。そのせいか、よくイフリートと男達が言い合いをしていることが多くて困ってるんですよ。アドバイスとかくらい聞けって話なんですけどね」

 

「そ……そうなんだ」

 

何故かドワーフの少女と話しているリーシャがいきなり困ったような曖昧な笑みを浮かべた。

いったいなにを話してるんだろうか…。

 

「母さん…2人がなに話してるか分かる?通訳欲しいんだけど」

 

「…通訳できるならとっくにしてあげるわよ。誠也くんは分かる?」

 

「俺も分かりゃ端的にでも教えたんだが…まだ他の言語を一つも覚えてないから全然話せん。こりゃ無理だ」

 

俺も含め全員無理、ということになり最終的に3人でリーシャとその少女の会話の終わりを待つことになった。

 

「って、失礼しました。つい愚痴(ぐち)をこぼしてしまって…。エルフである貴女の後ろにいる人間達はお知り合いで?」

 

「構わないよ、愚痴をこぼした方が楽になるだろうしね。うん、この人達は私の知り合いだよ。…ところでつかぬことを聞くけどさ、この言語以外で話せるのってなにかな」

 

「……すみません、これ以外で他に覚えているものだとドワーフ語ぐらいしか…。覚えてる人は覚えてるんですけどね。それで、なにか用があるんですか?」

 

「そっか…。えーと、それは待ってね」

 

リーシャが俺達の方に振り向いてきた。

「私がエルフだから近寄ってきた子みたいなんだけどさ、改造とか大好きなドワーフとか優真(ゆうま)とか知ってると思う?」

 

「話の内容はなんだったの?」

そう俺が聞くと「簡単にいうね」とリーシャがいった。

 

「イフリートを契約させた人がエルフで、それ繋がりで私達のところに来たみたい。それで私達はなんの用できてるのか、だって。そう聞いてきたよ」

 

なるほど。

そんな感じの話をしていたのか。

 

「だったらまずはドワーフについて聞いてみたらいいんじゃないか?知らなかったら案内でもしてもらってもいいと思うけど…どうかな」

 

誠也はそういうと俺と母さんの顔を交互に見た。

 

「いいかもしれないわね。もしかしたら運良く見つけられるかもしれないものね」

 

「運良くって…まあ、俺もそれでいいと思う」

 

それを聞いたリーシャは頷いて、さっそく聞くことにしたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしたあと。

俺達はあるドワーフの家の前に案内してもらってそこに立っている。

 

リーシャが扉の前で、残る俺達はその後ろ。

「…ところでなんで私が前なの?」

 

「いいじゃないか、前でも。…ところでそろそろノックしない?」

そう俺がいうと半目で俺を見てくる。

 

よく半目になるな、リーシャは。

 

「まあまあ。リーシャだとなにかと楽なんでしょ?だからよ、きっと。そこまで気にしなくていいと思うわよ?」

 

「う……。分かったよ。ノックするよ」

 

そういってようやくリーシャは家のドアを三回叩いた。

重いものを置いたらしい、少し大きめな音のあと。

少しもしないうちにそのドワーフの少女と対面を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――???視点

 

ふむ…封印が解けてしまったか。

もう少し持ってくれるとばかり思ったんだがな…。

 

そう思い、一旦家の外へ出る。

「そうなると俺みたいな年寄りの出番…ってわけか。参ったな」

 

そう呟くと

 

「じいさん、いきなり外へ出てどうしたんですか」

 

と言いながら外へ出てきた。

 

灰色の前横後ろがほぼ揃えられた短い髪を持つ俺の知り合い。

 

やっぱりその深い赤色の目と日焼けしたその肌が特徴的で覚えやすいな。

 

「いやな…魔王の封印が解けたような気がしてな。それで外になんとなく出たんだよ」

 

そういうと納得したように頷いた。

だけど、すぐに真面目な顔をする。

 

「そうでしたか。でも確か僕の記憶が正しければ前みたいにダンジョンにだけいたはずの魔物などが外にも出てくるようになってしまうのでは…?」

 

「お前はドラゴニアになる前からそうやって気配りのできる男だったな。悪く言えばお人好しだが。……そうだな。前に魔王が現れたときみたいになるだろうな」

 

「それじゃ大変じゃないですか!どうにかしないと」

 

「どうにかするのはいいけどな。お前、こういうときこそ冷静にならにゃ助けられるもんも助けられないぞ。手から余計に命がこぼれ落ちる。それは良くないと暴れる祖龍を大人しくさせる時に教えたじゃないか」

 

と相手の言葉を遮ってまでいった。

そう言われると申し訳なさそうにする。

 

「は、はい。分かりました…。でっ、でも今回も封印するわけには行かないと思います。だからといってまた僕達が倒しにいくわけにもいかないでしょうし」

 

「ああ、そこなんだがな…諒汰(りょうた)が作った孫にでもやらせるよ。もちろん強力なパートナーを渡してな」

そういって俺は腕を組んだ。

 

「それって…じいさんがデュランダルっていう切れ味のいい剣を使ったからであって貴方の孫にはないんじゃないですか?」

 

と俺の孫を心配してなのか、そういってくれた。

やっぱりお前を選んでよかったよ。

 

「いんや、そこは大丈夫だ。デュランダルより白く、世界を救うかもしれんあいつに持たせるにぴったりの剣があることを知っててな」

 

そう言いながら俺は右手の人差し指だけをたてる。

 

「そ、それってなんですか?」

 

不思議そうに首をかしげる。

そうか、まだ朔也(さくや)には話してなかったか。

 

「この家にはないんだけどな。……名をエクスカリバー、という」



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第17話 外見年齢は当てにならない

い、一応これでも話の内容は進んでる……はず?

またまた稚拙なものですが、平気な方は適当に読んでもらえるだけでも飛んで喜びます。私が。



下から本編です。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。

※少し内容を変更しました。大体の流れに変更はありません


――優季(ゆうき)視点

 

あれからどれだけたったか。

紗耶香(さやか)と名乗ったドワーフの少女としばらく話していてそっくりなところがあるな、と思う反面見た目や性格に相違点があると分かった。

 

 

 

「そうですね…リーシャさんもなかなかのスタイルじゃないですか」

そう言いながら紗耶香は手の届く範囲でリーシャの体を触っている。

 

因みに紗耶香の容姿はリーシャより身長が低く、髪の毛は明るい茶色の肩甲骨に触れるほどの長髪。

触覚みたいに生えた毛がなんだか気になる。

 

「…そ、そういう問題じゃあ…」

と困ったような笑みを浮かべ、たまにこっちを見るリーシャ。

因みに俺の母さんもあのセクハラの被害を受けました。

(いわ)く、隠れ巨乳だそうな。

意味が分からん。

 

「ああしてるのを見てるとうらやま……じゃなかった。けしからんな」

 

「お前はなにを言ってるのかな、誠也(せいや)よ」

ジト目で横にいる誠也を見る。

 

「なんでもないさ。ただの若さゆえの(あやま)ちってやつさ」

 

「口にしただけで過ちというのかどうかさっぱりだけど、否定しておくね」

 

「つれないなぁ~…お前。んで、あれはなにをしてるのか悠希か沙恵さんのどっちか知らないか?」

 

そう聞かれて、なんだったか忘れた俺は肩をすくめて見せた。

 

「ああ、そうね。本人(いわ)くあれは単純に挨拶のつもりらしいわよ。多分私達とは付き合いが長くなるから、なんでしょうけど…次もああされるのかもう心配だわ」

そういった母さんは片手で文字通り頭を抱えている。

 

「剣の話はどこへいったんだろうね…全然分からないや」

 

「なら話を戻さないとずっとあのままになるんじゃないのか……?」

 

あ、それもそうか。

っていうか挨拶が体に触れるってまるでセクハラみたいだな。

…触りたがり?

 

 

でもいい加減に本題へ移らないと、と思った俺は声をかけることにした。

 

「ところで紗耶香さん。俺が持ってる剣と誠也が持ってる短剣を作ったって本当?」

 

そう言われ、紗耶香も本題を思い出したらしくリーシャから手を離した。

「あ、あー…。はい、私ですよ。本当は一つの武器で二種類の機能があるものとかを作りたかったのですが、性質上難しいみたいで。市販のより耐久力が高くなっただけになってしまいました」

 

「耐久力も大事だと思うんだけどな。というよりこれはドワーフなら作れるのかい?」

 

「そうだと思います。作ってる人は作ってるみたいなので。ただやっぱり武器を作る人、防具を作る人で分かれてるようですよ」

 

そう答えてもらって俺は頷く。

 

「紗耶香さんはどうなのか教えてもらってもいいか?凄く気になるんだけど」

 

「ああ、私は剣とか作るのなんておまけのようなものですよ。主にしているのは既存のものをいじくること、ですね。…ただあんまりそういういじくれるものがないので少々残念に思ってます」

 

言葉より残念そうに見える表情を浮かべている。

そういえば確かにこの異世界にきてからというもの、いじくれる可能性がありそうなものを見ていない。

 

「そっか…。というか今更過ぎるんだけど、よく俺達と普通に話ができるね。さっき会った女の子なんかリーシャとしか話せなかったのに」

 

と俺がいうと誠也が同意するように頷いた。

 

「自然に話してて忘れてたが、そうだな。リーシャともそうだし」

 

そういえば誠也はあの時いなかったしね…。

分からないのも当たり前か。

 

「私は覚えておくと得なので覚えました。他に覚えている人も大体話せると便利だったり、得をするからって理由だと思いますよ。ですが、基本はイフリートと話すために精霊語を覚えてるぐらいですね」

 

「へぇ、そうなのね。…ところで変なことを聞くけども、この洞窟で知らない人とかいなかったりするのかしら?」

と曖昧な笑みを浮かべながら俺の母さんがそう紗耶香にいった。

 

「そうですね、ここの中の皆さんとは友人です。一応ここ以外にも私達が住んでる場所はあるんですけどね」

 

「な、なるほどね。ならあなた以上に剣を作れる人とか教えてもらえたりするのかしら?」

 

「教えてもいいですが、私も一緒に行きたいです。なにせ白磁のような肌の持ち主と隠れ巨乳の持ち主が……っとこれじゃ失礼ですね。悠希さんとは話とか気があいそうでしたので」

 

そういってニコッと笑った。

…これって…まさか…

 

「類は友を呼ぶ、なのか…」

と思わず呟いてしまった。

 

「おう、どうした悠希」

 

「いや、なんでもないよ。それと紗耶香さんの件は皆平気?」

リーシャや母さん、誠也の顔を一通り見てからそういった。

 

「まあ、一応連れてて困るような子じゃないし…」

 

「お前の母さんもずっとはついてこれないし、仲良くなったら楽しくなるかもしれんからいいんじゃないか?」

 

「性格がちょっとあれだけども、心配はなさそうだものね」

とそれぞれ肯定的な返事をくれた。

 

「そうですか。なら、改めて自己紹介しますね。私の名前は紗耶香(さやか)です。こう見えて、もう成人済みです」

といって口元を笑みの形に緩めた。

 

「……へ?お前、20歳はもう過ぎてたの?」

そう俺が聞くと「はい」といってためらいもなく首を縦に振った。

 

「た、確かに大人になっても人間の子供サイズしかならないって聞いてたけど…実物を見ると驚きしかないね」

 

「教えてもらってたリーシャさんですら驚くのか…。凄いな、お前。あ、俺も改めて…及川誠也(おいかわせいや)だ。宜しくな」

 

と誠也が再度しっかりと自己紹介をしたのをきっかけに俺達も自己紹介とここにきた理由を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――???視点

 

久しぶりに魔物を引き連れた魔王を見た気がするわね…。

そりゃ昔にある人間が封印したのだから当たり前なんだけども。

さて、どう追い払ったものかしら。

 

なんて考えていると背後から

 

「ルーちゃーん。いくらなんでも1人じゃ周りまで気にしてられないでしょー?」

 

と声がした。

ルーちゃん、なんて私をそう呼ぶのは1人しかいない。

 

「そうね。あんたもいた方が楽になることもあったものね」

 

そういって振り返ると緑色の長い髪を一つに結った私より少し小さい少女…と私より少し大きい銀髪の波打った肩につきそうでつかない微妙な髪型の男が見えた。

 

「俺に関してはそうでもないか?」

と肩を大げさにすくめてみせてきた。

 

「え?あんたは私がカバーしてるんじゃなかった?たまに不意討ちされかけてるから本当参っちゃう」

 

「本人にばれる不意討ちは不意討ちって言わねえよ!?」

 

「ナイスツッコミだよ、サタン」

と私は右手の親指を立てていった。

 

「ああ、まあうん。もういいさ。とりあえず…この町が滅びる前に俺らで退けておこうぜ。さすがにそこのガブリエルが放っておかないだろうからな」

というと男が横に立つ少女の頭に手を乗せる。

 

「放っておかないじゃなくて見捨てない、なの。とりあえずそろそろやるよ。このままじゃ、犠牲者が増えるだけだしね。私は怪我人とか住民を避難させるから魔物とかはルーちゃんとサッくんに任せたよ!あと出来ればルーちゃんも避難誘導宜しくね!」

そうガブリエルがいうと1人で行ってしまった。

 

「仕方ないね。サタン、私はとにかく見かけた奴から順に助けつつ魔物とかを倒す。魔王の足止め頼んだよ。あんたなら余裕で出来るでしょ?」

 

「そりゃな。んじゃ、お前も頑張れよ。足止めとかするのも楽じゃないし、面倒なんだ」

 

そういうのを聞いて頷くと私達もそれぞれお互いやることをしに町の中に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

「なるほど、そうだったんですか。それでここへ…。分かりました。それはいいんですが、今晩はどこに泊まるつもりですか?もう遅いですし、観光客用の宿屋探すとかしないと駄目ですよ」

と言ってきた。

 

「でも、俺達そんなにお金持ってきてないし…。皆も持ってきてないよね?」

 

そういった悠希は私達の顔を見る。

 

「…の、飲み物とかは買えると思うぜ」

 

「最低限のことはできるわよ、きっと」

 

「飲食代で飛びそうだなぁ」

 

最初に震え声で誠也(せいや)、次に悠希の母親である沙恵(さえ)さんが目をそらしながら、最後に私の順でいった。

 

「そうなるとこの人数分は厳しいか…」

 

「なら、一つ…いいですか?泊まる場所を提供する代わりにリーシャさんと私を同室にさせてください。一応布団とかしけば貴方達の分は足りると思いますので」

笑顔でそういってきた。

 

「リーシャ…で、いいのかい?」

 

「はい。むしろリーシャさんじゃなきゃ駄目です。代わりに沙恵さんでいいか、と聞かれても嫌ですので」

と何故か勝手に話が進んでいる。

 

 

「まさかだけど…触るため、とかいわないよね?」

 

なんとなくそうかもしれない、と思ったものを試しに聞いたら紗耶香(さやか)さんが顔をそむけた。

 

「そ、そんなことないですよ。いやですねぇ」

 

「思ってたんだね。凄く分かりやすい…。まあ、なんだ。俺達はまだ初対面なんだからほどほどにしてくれるとリーシャが泣いて喜ぶんじゃないか?」

 

なんて適当なっ……!

いや、あながち間違いではないんだけど。

 

「そうですね。少しやり過ぎるところでした」

紗耶香(さやか)はそういうと私の方を向いた。

 

 

「すみません。あと少しでいいので体を触らしてもらっても――」

そう言いかけた紗耶香さんの額を片手の人差し指と中指でつつく悠希。

 

「遠慮してもらえないかな。多分俺達もそうだけど、リーシャも色々あって大変だったんだ。そういえば分かってくれるかな?」

 

その言葉を聞くと複雑そうな表情を浮かべた。

だけど、なにかを思い付いたらしく明るい顔になった。

 

「それもそうでしたね。分かりました。同室にしてもらえるだけでもいいです。その代わり…添い寝はいいですか?その柔らかい体を一度でもいいので抱き枕にしてみたかったんですよ」

 

私は呆れたような顔を浮かべ、ため息をつく。

 

「分かった。ただ添い寝以上のことをしたら…名前で呼ばず、変態さんと呼ばせてもらうことにします」

 

そういったら渋々(しぶしぶ)といった表情だったけど、頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

「な、なんか本当…誰かをちらつかせる性格だね」

見てて思ったことをそのまま呟いてしまった。

 

俺の横にいた誠也が不思議そうな顔をした。

「ん?その誰かって悠希の知り合いか?お前の口から聞いたことなんてないんだが…」

 

「ん?ああ…。別に気にしなくていいよ、誠也」

 

「そ、そうか…。ところでリーシャ達はなにをしてるんだろうな」

 

あっさり(あきら)めてくれたらしい。

その代わり、リーシャと紗耶香の方を見る。

 

そっちを見ると紗耶香が嬉しそうな顔をしてリーシャに抱きついている。

リーシャは(あき)れ果《は》てたのか、それともなんなのか…何故か半目のまま抵抗も抱き返すこともつっこむこともせず立っている。

 

「…抱かれてるね、あれは」

 

「…しかも本人はなんか知らんがなんの動きも見せないな」

 

「そうだね…」

といって俺は頷いた。

 

「ま、まあ…泊めてもらえることにこしたことはないわ。ああしてる間に色々と終わらしておきましょ。そうすればあなた達はあのサモンゲーム?とやらが出来るようになるわよ」

 

俺は母さんの方を向くと半目で見つめた。

なんで知ってるんだよ、と言わんばかりに。

 

「さ、沙恵(さえ)さん。どうして俺達がどうにかして持ってきた相棒のデッキの存在を知っている!?」

 

誠也(せいや)が驚いた表情で聞いた(そこまで驚いているように見えないのは多分俺の気のせいだと思いたい)。

 

「だと思ったわ…。まあ、いいわ。ほら、これ。私がなんとかして持ってきたはいいけども、どうせ使わないからあなた達に渡すわね」

そういって母さんが俺達に渡してきたのは可愛い女の子がイラストされた俺の元いた世界でいうプレイマット(この世界じゃもどきだけど)だった。



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第18話 四大精霊に武器と○○カード

全体的に話の進み具合は遅いですが、完結させるまで頑張ります。

このような小説を一度でも見てくださる皆様に感謝感激です。
ある意味名無しとしては励みになります。



グダグダ回?…の本編は下からです。

※少し内容を変更しました。大体の流れに変更はありません。誤字も修正しました

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

その次の朝。

起きてすぐ目に移ったのはまるで洞窟を掘って作ったという感じが凄くする天井(てんじょう)

 

昨日のことは夢じゃないんだな…。

そう思うともう父さんは…と思い少し暗くなってしまった。

 

そんな複雑な思いで起き、そんな思いを忘れるためも含めて部屋から出る。

 

因みに寝かせてもらったのは奥の方の部屋。

手前にある部屋より少し高い位置にあるのか短い階段がある。

ただドワーフ向けなだけあってその階段の段差が俺にとって低い。

 

昨晩は上るのがある意味大変だったけど、今朝は下りるのがある意味大変だった。

そのまま広間に行くと先に起きていたらしいリーシャがいた。

 

「おはよう。リーシャは朝早いんだね」

 

そういって俺が椅子に座っていたリーシャの方へ近寄ると、リリーシャは椅子から立って俺の方を向いた。

 

「あ、おはよう。…まあね。寝ていた紗耶香(さやか)さんを起こさないようにして来るのは大変だったけど、そろそろ私も精霊との契約が出来るようになるからね。その準備をしておかないと大変だから…」

 

その言葉を聞いて疑問に思ったことが一つあった。

 

「契約できる…ってなにか年齢とこ時期があるようなものなの?」

 

「ああ、それに近いのならあるよ。でも、それが教えてもらった内容は『生まれてからある程度たったら』だし、前提はもちろん精霊語が話せること、だよ」

 

俺はある意味驚いた。

それと同時に『それに近いのがある』、という言葉に納得した。

 

「な、なるほどね。んまあ、そりゃそうか…。ってん?契約できる精霊って選べるの?」

 

そう聞くとリーシャは頷いた。

 

「うん、選べるよ。ただ相性さえよければ、ね。……性格的な意味で」

 

「そっちかよ!」

 

思わずそうつっこむように言ってしまった。

 

「半分冗談だよ。あながち間違いじゃないんだけどね」

 

「そ、そうか…」

 

なんて俺が曖昧な返事をした、その時に俺が通ってきた方から

「おはよう。もう起きてたんだな」

と声がした。

 

俺達はその方へ向くと誠也(せいや)がちょうどこっちに歩き始めたところだった。

 

「「おはよう」」

 

といったところで今度はその通路の左にある通路から紗耶香(さやか)が姿を見せた。

 

「んー…よく寝れた…」

 

そういう紗耶香は心なしか朝から生き生きしているように見えたけど、会って1日や2日じゃ全然分からない。

 

俺の母さんも起きてきたようで俺達が寝させてもらった部屋から姿を見せた。

 

濃い茶色の肩に触れる程度の長髪が少しはねている。

あとでこっそり、教えておこうかな。

 

 

 

 

 

 

少し時間をあけたあと、誠也を除いた3人で朝食を作って食べた(その時に母さんの耳元で髪のことを(ささや)いた)。

 

 

「さて、今日は昨日言った人のところに案内しますね。沙恵(さえ)さんはどうしますか?」

 

「ついていくわ、私も。それから悪いんだけども、そのあとでいいから一緒に町へ行ってくれないかしら。今どうなってるか分からない以上、皆で行った方が安全だと思うから。いいかしら?」

 

そう聞かれた紗耶香は首を縦に振った。

「はい、いいですよ」

 

 

「もう向かっても大丈夫なもんなのかな?」

 

「そうですね…歩きながら話したりなどすればちょうどいいかと」

 

それを聞いて一体なんの話をするのか、と思った。

けど、紗耶香の家を出て話した内容は他愛(たあい)のない普通の会話だった(俺と誠也は昨晩寝る前にしたサモンゲームの話をしていたから内容までは聞き取れなかった)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話をしながら、とはいえそんなに遠くない場所に知り合いの店があったようだ。

 

「お兄さん、いますか?」

と言いながら店先に近付いていく紗耶香(さやか)

どうでもいいだろうけど、俺達は紗耶香の少し後ろにいる。

 

すると店の奥の方から茶髪を濃くしたような短髪の少年が出てきた。

一見すると紗耶香よりは少し高く見える。

 

「ああ…いるよ。どうかしたのかい?」

 

「はい。私の作った剣と短剣を見てもらいたいです」

 

そういうと俺と誠也(せいや)の顔を見てきた。

 

「ん?…ああ。なるほど、渡したのか。初めまして。僕は裕太(ゆうた)っていう名前だよ。それで、自己紹介しながらで構わないからそれを見せてはくれないかい?」

 

そういってくれたので、俺は誠也と一度顔を見合わせて頷いた。

 

「分かった。俺の名前は幸野悠希(こうのゆうき)っていう。それで町で受け取ったのはこれだよ」

そういって俺は右腰の(さや)から見た目はとてもシンプルな剣を取り出して見せた。

 

裕太って人は「うん、なるほど」といって相槌(あいづち)を打った。

 

「んで、俺は及川(おいかわ)誠也って名前だ。俺のはこれだな」

というと誠也は左腰の(さや)から短剣を取り出して見せていた。

 

誠也のもシンプルな見た目だったけど、俺のと同じで両刃になっていた。

 

 

「なるほどね。……なんだ、紗耶香(さやか)。それなら僕はそんなに手を加えなくていいぐらいだよ。全然問題はないさ。あ、君達もいいかい?」

というと紗耶香の頭を二~三回なで、リーシャと母さんの方を見た。

 

 

「私はリーシャ・フェルマーって名前だよ。一応知り合い」

 

「私は幸野沙恵(さえ)よ。好きによんでもいいわ。ただし変な呼び方は駄目よ」

 

とそれぞれリーシャは口元を緩めながら、母さんは柔和(にゅうわ)な表情を浮かべながらいった。

 

「そうなんだ。こんな僕だけど、宜しくね」

 

「あ、それとお兄ちゃん…いいですか?」

 

聞かれた裕太は不思議そうに首をかしげるものの、肩をすくめ

「だからお兄ちゃんじゃなくて裕太でいいんだよ?呼び捨てでいいと前にいったじゃないか。…それで、どうしたんだい?」

といった。

 

「嫌です。この方が面白いので。私にも武器、いいですか?出来ればハンマーにしてほしいんですが…」

 

そう言われた裕太は首を横に振った。

「多分君の性格的に力押しのハンマーより剣か短剣の二刀流の方が向いていると思うんだけど…気のせいかい?なにせ魔力はイフリート姉さん曰く『魔力が低かろうが平均だろうが使いこなしたもん勝ちだよ』だって」

 

「なんかどこか大ざっぱ気味だね…。なんか姉御、とかとも呼ばれてそうなんだけど」

 

そういうと紗耶香(さやか)が後ろに振り返って

 

「はい、そう呼ぶ人もいますよ」

 

といってきた。

 

「……えっ?」

 

「姉御って呼ぶ人はいますよ」

 

「…そ、そうなのか」

 

「まじか…」

 

最初に俺、次に聞いていた誠也が驚きながらいった。

 

「僕の知り合いもたまに姉御って呼んでいる人がいるね」

 

「聞いた限りだとイフリートは姉御肌、なのかもしれないわね…」

 

「そうだね…」

なんて会話もした。

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それはいいとして…本題に戻らない?」

そういったのは困ったような微笑を浮かべるリーシャだった。

 

「そうですね。因みに何故私は双剣なんですか?」

 

「ああ、それはだけどね。君は普段は君と同性に挨拶と言う名のボディータッチが多いけど、何気(なにげ)に身体能力を使ったりしてこっそり近寄るのが得意みたいだからだよ」

 

そう言われた紗耶香は「間違ってはいないですが…」と呟いていた。

やっぱり…この人、背後から這い寄るセクハラ魔なのか。

 

「でも紗耶香。どうしたんだい?急にそんなことを頼むなんて…。武器の作り方を教わってきた時はなにか作ったり自分なりにオリジナルの物でも作るのかな、ってなんとなく分かったんだけどね」

 

「この人達と一緒に洞窟の外へ出るので必要になったんです。魔王も出てきて色々と危ないようですし…」

そう、真面目な顔をしていった。

 

でも何故か裕太さんは呆れたような表情でため息をついた。

「なるほどね…。でも、外に出るのもいいんじゃないか?今まで以上に友達とかを増やして帰ってきそうだけど、むしろその方が面白そうだね」

 

というとさっきまで呆れてため息をついたとは思えないぐらい、楽しそうに笑った。

 

「とりあえず今から僕の友達とかをある程度呼んで、剣の改善とか剣を作ったりとか色々する。今日中に渡せるようにはなると思うけど…遅くなったらごめんよ」

といって奥へ消えていった。

 

 

 

「時間を潰してた方がよさそうですね。一度解散しますか?」

 

そう聞いてきたので、俺は首を横に振った。

 

「いや、出来ればここを案内してほしい。いいかな」

 

「はい、案内とかいいですよ。他の皆さんはどうしますか?」

 

「私はこの近くで時間を潰すわ。だから悪いけども、離れるわね」

そういって俺の母さんは1人で離れていった。

 

まだよく知ってもいないところを平然と歩けるのは凄いと思う反面、どこか心配になってしまった俺がいた。

 

だけど、止めなかったのはきっとこの洞窟に住んでいる人達なら大丈夫だろうと言う本能に近い勘の影響だろうか。

俺にはまだ分からなかった。

 

「私はついていくね。色々と面白そうだから」

リーシャはそういうと結託のない笑みを浮かべた。

 

面白そう、というのは本気なのか…。

まあ、いいとして。

 

「俺はそうだな…行くか。サモンゲームのカード情報とか知っておきたいしな」

 

「よく昨日のことがあったのに知ろうと思えるな…」

と俺が呆れたようにいうと不思議そうな顔をした。

 

「そりゃそうだろ。昨日、町で起きたことは悲しいことだ。でも、辛くても前を向かなきゃ死んだ奴らが報われないだろ?」

 

……こいつ、何歳だよ。

俺と大差ないはずなんだけどな。

 

「そ、そうだけどお前…昨日のことよりパックの新情報が頭にあるんじゃないのか?」

 

そう聞くと首を横に振った。

 

「ならもしかしたら、禁止制限カードのことだったりして。店先に出たりするの?」

 

リーシャが突然(とつぜん)そういった。

多分、勘なのかもしれないけど。

 

でも何故か、誠也(せいや)が頷いた。

 

「ああ、それのことだ。新パックの情報は多分後になると思っている。魔王のことがあるしな」

 

「なるほどね…。なら、禁止制限も遅くなりそうだけど。あ、俺はいくよ。こういう場所になにがあるのか興味あるしね」

 

「お、遅れたら遅れたでどうにかなる!」

 

そう話していたら紗耶香が曖昧な微笑を浮かべていた(横目でうっすらと見た程度だけど多分そう)。

 

「なら、沙恵(さえ)さんだけ来ない…と。あ、教え忘れましたが、沙恵さんもこっちに来たことありますよ。諒汰さんと一緒でしたが」

 

「あぁ~…。道理でやけに落ち着いてると思った。母さんにとって知ってる場所だったのか。そりゃ1人で動けてもおかしくないね」

 

そう俺が納得したようにいうと紗耶香が『そうでしょう?』と言わんばかりに頷いた。

 

 

 

「では、私を含めた4人で行きましょうか。さっくりと案内しますので興味があれば言ってください」

 

 

ということで母さんを除いた4人で歩き回ることにした。

 

道中、俺達がカード類などの雑貨店の前に出されているサモンゲームの新パックの情報を見て予約するなりなんなりして手にいれようとはりきったり、リーシャが水晶か宝石を売り買いしている店を見つけ、アクセサリーにもできることを知るなり魔力を込めて溜めておくのもよさそうと言って買おうかどうかと悩んだりした場所もあったけど、話が長くなりそうだから割愛。

 

……でも、誰に割愛って言ったんだろうか、俺は。

別にいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それなりに時間がたった頃。

俺達は最初に裕太(ゆうた)と会った場所に戻っていた。

 

母さんもちょうど戻ってきていたらしく、俺達の存在に気づくと

「あら、戻ってくるタイミングがいいわね。今、出来たらしい武器を取りに裕太さんともう1人が鍛冶場に戻っていってるところよ」

俺達の方に半身だけ振り返っていってくれた。

 

「え?でもこの短時間でそういうのは全部出来ないのが普通じゃないのか?」

 

「私も最初はそう思ったのだけれども、そのもう1人は…」

とまで母さんが言うと狙ったかのように奥から裕太と炎と形容してもいいぐらいの赤い短髪を後ろで一つに()った女性(?)が出てきた。

 

その女性は明るい朱色の目で、肌はそんなに日焼けをしてなさそうな感じがしたけど、服装が半袖にハーフパンツだから、この人は元気な性格なんだろうなと思った。

というか顔がまたどこか中性的だなぁ…。

 

「今日中にどうにかしたけど、大丈夫だったかい?」

とその人が言ってきた。

 

俺が頷くとほぼ同時だったか。

紗耶香(さやか)が前に出るとこう呼んだ。

 

「あ、イフリート姉さんじゃないですか」

 

 

 

 

あれ、上位精霊って言わなかったっけ…。

そう思った俺はジーッと怪しいものを見るように睨む。

 

「ん?ああ、そりゃそうか。あたしみたいなイフリート、普通はいないからね」

 

視線に気づいている様子だけど、表情を緩めた。

 

 

「普通は…と、いうよりあなたみたいな人、初めてだよ…」

 

「へぇ、さすが精霊のことを知ってるなだけあるね、あんた」

 

何故かリーシャの方から驚きの声が小さいものの、聞こえた。

 

「あはは、まあそこの子がそういうくらいだけど、長く付き合えば大丈夫になるって」

と笑いながらいった。

 

そ、そういうものなのだろうか?

とりあえず様子見にしておくかな。

 

 

「話してるとこ、悪いんだが持ってるそれが俺達のか?」

 

誠也が聞くと裕太が頷いた。

「うん、そうだよ。同時進行とか一番きつかったけど、イフリート姉さんのおかげでどうにかなった。あ、名前はもう教えてあるから大丈夫だよ」

 

「そうか…。ありがとうな」

 

「いいってものだよ。あまり洞窟から外に出なかったんだし、むしろ喜ばしいこと。…紗耶香のこと、頼むよ?」

そう、いってきた。

 

紗耶香の方をチラッと見てみたが、視線があうなり肩をすくめてきた。

 

「分かった。頑張ってみるよ、俺達で。……じゃあ、そろそろ町に戻るんで」

 

いい終えると俺は振り返って背中を向ける。

 

「また会おうね、皆。そのときはもっと皆のこと知りたいな」

 

「じゃあな。また来るか分からんけど」

 

「さようなら。お元気でね」

 

「……いってきます」

 

リーシャ、誠也、母さん、紗耶香の順番に挨拶をした。

俺は挨拶の代わりとして左手をあげて左右に振った。

 

今後、どうなるんだろうな…。

そんな思いと共に洞窟を出た。

 

 

――因みに武器はしっかりと受け取っている。

 

 

 

 

ただ、洞窟を出たあとが問題だった。



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第19話 一狩りをして、精霊がいて、話をして

水着回とかやってもいいなーと思う今日この頃。

ファンタジーライフを投稿させてもらっている篠崎零花です。

因みにこの小説……今さらなんですが、季節がありまして夏です。
分かりやすいよう季節感も出していく予定です。

※誤字を訂正しました。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

洞窟を出た俺達、それと紗耶香は魔物と遭遇した。

いや、遭遇するの早すぎるよね。

 

 

 

目の前にいる魔物は少なくて3体。

でも、さっきから見てるとぷるぷると震えるその透明な水色の水滴の形によく似た体、前を見るためだろう2つの目と思われる黒色のなにか。

 

「うん、なにあれ」

思わず俺はそう呟いた。

 

前世では確かにゲームとか色々やってたけど、基本一人称視点とか三人称視点の対人戦が主だった。

銃撃戦みたいなのもかなりやった。

ロールプレイングゲームも少しはしたけど、こんなのいたっけ?

 

 

「あ、あー…。そこにいるのはスライムだね」

と後ろからいつの間にか前に出てきたリーシャがいった。

 

「え?スライム?あれが?」

 

「うん、そうだよ。その状態なら弱いし、倒すとゼリーになるからなにかと使えるよ」

 

なるほどなるほど。

スライムゼリーは使える、と…………えっ?

 

俺はリーシャの方に顔を向ける。

 

「とりあえず倒そっか。あ、紗耶香(さやか)さーん。いいー?」

 

「あ、いいですよ。弱いと言え、油断せず倒せば私でも平気なはずですから」

 

紗耶香はそういうと「あっ」と呟くとそのまま続けて

 

「援護はお願いしますね。あと朝の挨拶も」

 

と補足するかのようにいった。

 

「援護はしてあげるけど、朝の挨拶は言葉だけで我慢してほしい、かな」

 

「仕方ないですね。あとで勝手に挨拶代わりのボディータッチをしますから」

 

「いや、勝手にするのも駄目だからね!?」

 

そうはなしながらスライムに近づくと、ある程度の距離から攻撃を始めた。

紗耶香は双剣(どっちも短剣らしい)を使い、リーシャは火の玉や氷の粒といった魔法のみを使っていた。

 

 

 

 

距離をとってあったのもあるのだろう。

3体いたスライムは反撃もむなしく倒されましたとさ。

でも、最初に話している間に攻撃すれば…って跳ねたり体当たりのようなことしかしてないのを見ると不意討ちも厳しそうだな。

そりゃ油断しなければ大丈夫、といえるのかもしれないけど…あれでも魔物だし…なんとも言えないね。

 

「これがスライムゼリーだよ」

落ちたゼリーを持っていた小さめな袋にいれると1つだけ拾って見せている。

 

「へぇ、それがなんですか」

 

「そんなのがいたりするんだな」

と誠也も近づいてリーシャが持っているゼリーをまじまじと見る。

 

「案外料理とかに使われてたりしてね」

と冗談気味にいい、笑う。

 

「あ、いや。それが本当に入っててね。料理以外にも使われているみたいだけど」

 

「そ、そうなんだ…」

 

じょ、冗談でいったのにな。

そう俺は思った。

 

「というか…しれっと持って帰るんだね、それ」

 

「まあね。スライムゼリーって使わないんだとしても道具屋とかに売れるし」

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、町へ向かって歩き始めた俺達。

 

「そういえば、町や都市だけらしいわね。時間が分かるのは」

といきなり母さんが言った。

 

「あれ、そうなんだ。ない場所の方が少ないと思ってたんだけど…」

 

俺がそういうと

 

「私が住んでる町にはないよ?だから時間なんてざっくりと決めてて…」

 

「私のところもないので、リーシャさんと一緒ですね。ただその分は頭の固い人達がどうにかしてくれています」

 

リーシャがそういうと紗耶香(さやか)も便乗するかのようにいった。

 

「そうだったんだ…。と、なるとドラゴニアとかジャイアントのところもそうなのかな」

 

「話によるとそうらしいわよ。ドラゴニアのところは日差しでどうにかしているって噂だけども」

 

そこまで話が進むと疑問に思うことが1つある。

それは町や都市に存在する時計の素材。

 

なにで代用しているんだろう…。

そう考え、聞こうと思ったとき

 

「なぁ、だとしたら町とかにあるあの時計はどう作ったんだ?というか時計ってそう簡単に作れるものなのか?」

 

と大体聞きたいことを誠也が聞いていた。

 

「いってもいいのだけども…あくまで噂よ?それでもいいのなら、答えるのだけども」

 

本当はそっちが本来の性格なのかと聞きたいけど、時計の方が気になるしね。

それに父さんを信頼してた、ともまだ言えるかもしれないし。

そうなると信頼しすぎと思えるかもだけど。

 

 

「俺は構わん。噂でも前からあるって言われたら気になるしな。悠希はどうだ?」

 

「そうだね…。今は噂に留まっているんだとしても、もしかしたらそこから分かるかもしれないし」

 

俺達2人にいわれ、小さく頷く。

 

「分かったわ。それはね……”祖龍”がもたらしたって話なのよ」

 

「な、なんか一狩りされそうな感じだね」

 

「ひ、一狩り?どういう意味なのかしら、それは…」

きょとんとした表情を浮かべる母さん。

 

なんでだろうか、とそう思った時に心を読んだかの(ごと)く俺に

 

「一狩りっていっても分からないと思うよ。フロンティアとかそういう現代にあったものがこの世界にあるわけじゃないんだから」

 

と耳元にささやいてくれた。

そのためにわざわざ近付いてくれたらしい。

 

そして、俺が離れるとリーシャは

 

「一狩りっていうのはさっきのモンスターを倒す行為とかだよ。こう、普通に倒すより一狩りの方がなんかそれっぽくなるでしょ?」

 

といっていた。

そうか、必ずしも異世界とか転生とか、そういうのを理解してくれる人ばかりじゃないしね。

しかもはなしてないし。

話をしても信じる人が多いわけじゃないだろうしなぁ。

今さらになって気づかされた。

 

「なるほど、そうだったのね。息子とはいえ、たまにはそう格好よく言ってみたい年頃だものね。つい失念していたわ」

 

といって俺に優しく微笑むと再度歩くために前を向いた。

…思春期だと思われていたらいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――休憩とかをはさんだから、町につくのにかなり時間がかかってしまった。

多分徒歩だっていうのもあったのだろうけど、そこまで離れていなかったことに感謝だね。

 

 

でも、町について目についたのは半壊状態の家やでこぼこになってしまった道など。

赤い液体のようなのも所々見えるが、倒れている人は何故かいない。

 

「…因みにリーシャ、1つ聞いていいかな」

 

「うん、いいよ。と、いうか悠希達に隠すことなんてないから普通に聞いてほしいな。…聞かれる場所によるけど」

 

そういってくれたので、

「なるほど。ならさ、エルフって精霊と契約したら敵意とか感じないの?」

と聞いてみた。

 

「ああ、それ?うん、そうだね。なにせ『精霊と契約するまで』を条件にした魔法らしいからね。因みにこれ、親は子供1人につき一度しか使えなくて重ねてかけることはできないんだって…そう、両親から聞いたよ」

 

どんな魔法だよ…。

そう思ったけど、もしかしたら危機察知能力とかを上げてるだけかもしれない。

 

精霊が必ず見えて、魔法も使える。

俺の知る条件だけでもこうなのだから、自衛の一つもできないと辛いのだろう。

 

「なるほどね。でもそうなると、混血児になったらどうなるのかって聞いた?」

 

「あー、それはなんとも…。それに私もそっちの話は聞かなかったからなぁ。混血の人なんて村にもいるし」

 

 

「えっ、都市以外にもハーフヒューマンなんていたのか!?」

その言葉を聞いて驚く誠也。

だけど、俺はお前の声で驚いたわ。

そりゃいるでしょ、例えハーフだとしても自分の住む家が、村や町があるんだからさ。

 

「う…うん。いるよ、普通に。そりゃまがりなりにもエルフなんだし…」

 

「そ、それもそうか。半分とは言え、エルフなんだもんな…」

 

「んで、そういう人が住む村より都市や俺達の住む町のような場所の方が生きやすいってのもあるんだろうね。それでこっちでも見かけるんじゃないのか?」

 

なるほど、納得といった表情で俺を見る誠也。

お前にも抜けてるところ、あるんだな…。

 

そう思っているとリーシャが突然呟いた。

 

「……若い精霊達が驚いてる……?」

 

「ど、どうしたいきなり。町なんだから精霊なんてあまりいないと思うんだけど。と、いうか若いとかあるんだね」

 

「ああ、こういう場所なら普通にいるよ。しかも、契約できる子ばかり」

 

「そりゃ凄いな。んで、悠希が聞いたことを聞くようで悪いんだが、その若い?精霊が驚いてるってどういうことだ?」

 

横道にそれかけた話が誠也がそう聞いたおかげで、リーシャも気づいたらしく「あっ」とかいっていた。

 

「それがね…大きな音に驚いてるんだけど、その発生源が広場みたいなんだ…」

 

そういうリーシャの顔はどこか気まずそうだった。



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第20話 荒れた町と演奏

それなりに進んでる…と思いたいです。

名前のついたモブとかいるのは呼びやすいように、などの理由が多いというどうでもいいことを言ってみますね。

そのうち、水着回とかしたいですね。
では本編どうぞ。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

…見えなくても精霊がいたら驚くものだと思ったけど。

ま、まあ…ほら、まだ実感がわかないだけだよ、うん。

私なんて最初は驚いたのになぁ……。心の中で泣きそう。

でもなんか…この町に前来たときより精霊が減ってる気がするような。

 

いつまでも黙ってるのもあれだし、ね。

 

「それで…こっちから広場に行く道ってどれだっけ?」

と気まずい思いで聞いた。

 

まさかこの町育ちの精霊に聞けば分かるなんて言えないし…。

 

「あ、ああ。案内するけど…誠也と母さんはどうする?家でも見に行く?」

 

そういうと誠也さんは首を横に振って、悠希の母さんは肩をすくめた。

誠也さんはまだなんとなく分かるから(転生後の優季の家と誠也の家はほぼ近所レベル)なんも思わないとして、悠希の母さんは別行動しないらしい。

うん、私は未だにギャップを受け入れきれてないから分からないや。

 

 

「因みに私はついていく、ですよ」

 

「あっ、悪い。念のためでも聞いておけばよかったな。…あと、なんでリーシャの背後にいる?」

 

「えっ?」

と間抜けに声をもらしてから半身だけ振り返る。

私が手を伸ばせばあっさりと頭をなでられるんじゃないかってぐらい近距離にいた。

 

「なんとなく触れば雰囲気をぶち壊せるきっかけを作れるかと思いまして」

 

「それは今しないでね。すんごく迷惑だから」

と言いながらジト目で紗耶香(さやか)さんを見つめる。

 

「そ、そこまで言いますか…。分かりました、やめます」

 

「問題が解決したところで行こうか。それ以外にも気になることはたくさんあるんだしさ」

 

「そうだね。そうしよっか」

と私が頷くことで会話が終わり、目的地へ皆で向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから歩いて少しかしばらくしたあと。

建物は半壊…でいいのだろうか。

ほとんどが壊れていて、木造が多かったのだろう。

骨組みも見えていたり、途中で折れ曲がっていたり…。

直すのに苦労しそうだな、と思った。

と、いうかよく燃えなかったなあ。

 

 

 

 

そんな光景を見ながら歩き、広場についた私達が見たのは3人組が1人は歌っていて、残る2人はなにかを弾いている。

そしてその周りには…人がいた。

怪我をしているのか、所々包帯が巻かれていたけどね。

 

「もはやライブだね。分かりやすく言えば演奏会みたいな」

 

「そうだね。…でも、なんか演奏してる人達…あんまり見ない髪の色だね。緑とかっていた?」

 

そう聞く私に

 

「私は知りませんよ。聞いたこともなければ見たこともありませんし」

 

「さすがに情報ぐらいしか知らんし、実物を見たのはお前達とドワーフだけだから参考にすらならないぞ」

 

「わ、悪いわね。必要な知識とか私個人の趣味とかをいつでもできるように…とは頑張っていたけども、そういうのまでに手を出してなかったから分からないのよ」

 

と順番に答えてくれた。

ふむ、手に入れた収穫は私も含め全員知らない…と。

詰んだかなぁ、こりゃ。

 

 

そう思っていると

 

「俺は近寄ってくけど、他はどうする?」

 

と悠希が聞いてきた。

 

「私はさすがにそろそろ、家とか町とか見てきたいから悪いんだけども離れるわね。なんかあったら沙恵(さえ)って呼びながら探してくれたら見つけやすいと思うわよ」

 

そういうと少し腰から頭を下げ、そのまま別の方角へ行ってしまった。

 

「母さーん、任せたー。……それで、残りは?」

 

「ついてくぜ。気になるしな」

 

「気になるのは私もなんだけどね。なんでああしてるの、とかさ」

 

「それには同感だな。というか昨日はいなかったし」

 

「昨日の騒ぎで出てくるのはもう人ですらないじゃないですか。人間以外のなにかじゃないですか」

 

人間…以外?

それを聞いて、私は少し前にいる悠希の方を見る。

悠希もなにか言いたいことでもあるのか、私の方に半身だけ振り返ってきた。

 

「まさか…ね」

 

「うん、ないと思う」

 

短く発せられた言葉にあっさりと否定する私。

 

「は、はやくないかな…リーシャ…」

 

なんか残念そうに言ってくるけど、さすがにないかなーって思って、ね。

まさか転生の時に関与した神とかあの時いなかった神がまさか来るわけないし。

ごめんね、悠希。

そう思っていたら平気そうだと気づくことになった。

何故なら…

 

 

「とりあえず近づいてみたら分かるんじゃないのか?な、そうだろ?」

 

そう言われ、ハッとしたのか悠希は頷き、

「そう…だね。離れた場所から見て分かる情報だけが全てじゃないしね」

といった。

 

「そうですよ、皆さん。行きましょうよ。それに聞いてる感じ、もうすぐで終わりそうですよ?」

 

「そうなると聞けるものも聞けなくなる。行こうか、誠也(せいや)、リーシャ。紗耶香(さやか)も平気か?」

 

そう悠希が聞くと紗耶香さんはすぐに頷いた。

「はい。問題はありませんよ」

 

「んじゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場だった場所の中心につき、怪我をしている人達に紛れてその歌を聞く。

多分、私の耳とか紗耶香さんの身長で目立ってそうな気がするけど。

 

 

 

 

 

それから1~2曲を聞いたところで終わった。

「ありがとー」

 

そういって手を振ったのは緑色の髪を一つに結った少女。

他の2人と比べると比較的身長が小さいみたい。

 

後ろにいる2人は…なんか呆れていたり、面倒くさかったりするのかな。

っていうか顔に出すぎ…。

 

そう思っていると私達以外の人達は皆離れていった。

 

「ここでなにをしていたの?」

 

「そりゃ元気付けだよー。助けたあとは放っておくのは嫌だからねー」

 

「ほんと、お人好しなんだから…。あとあんたはちょっとはなしすぎよ」

と後ろから波打つ長い金髪の女性が前に出てきた。

そんなことより…

 

「助けた……っていうわりには3人しか見えないけど?」

 

「よく普通に聞けるなぁ、リーシャ。見違えるよ」

 

何故か悠希にそう言われたので、周りから怪しまれないようどうにかこっそり足元周りに薄い氷をはっておいた。

多分あとで悠希はこける。

一度使用したら溶けるぐらい薄いからきっと平気。

一度あるものは二度ない(無理矢理)だから。

 

なんて思っていたら

「あー、もう。あんたは私らがしたっていったら信じるの?」

 

と聞かれた。

なにを疑う必要がある?

私は素直に首を縦に振った。

 

「ちょっ、リーシャ。本当に信じる気か?いくなんでも3人じゃ――」

とまで聞こえたと思ったら滑る音がした。

半身だけ振り返ると、そこには尻餅した悠希が。

んまぁ、ですよね。

 

そう思いながら悠希に手を差し出す。

「でもよ、リーシャさん。同じことをいうようで悪いがどう見ても無理そうだぞ。後ろのあいつは分からんが」

 

そう言われた人(波打った少し長い白髪っぽい銀髪をしてる)は面倒くさそうに片手をあげた。

 

「まだ分からないよ。もしかしたら本当にこの町を助けてくれたのかもしれないんだよ」

 

「…うん、リーシャ。やっぱりお前は変なところでお前だったよ。少しは疑えって」

そういって私の頭に手をのせたのはさっき立ち上がったばかりの悠希。

 

「それより、名前はなんていうんですか?私は紗耶香(さやか)って言います」

 

「そうなんだー。私はガブリエル・タリスって名前だよ。私のことは自由に呼んじゃってー」

と言いながら屈託(くったく)のない笑顔を浮かべた。

 

「んじゃあ、ガブガブかタリスレディーで」

あえて真顔でいってみた。

 

「こ、後者はさすがに遠慮するね?」

 

ガブガブはいいんかい。

それはそれで変わったあだ名だと思うんだけど。

 

「ああ、私はリーシャ・フェルマーって名前だよ。…そういや、紗耶香さんに名字はないの?」

 

「え?ドワーフには名字なんてありませんよ。だから名乗れないんです。聞かれるのが凄く遅かったですが」

 

忘れてた、とか気にしてなかったとか言えない……。

 

「んで俺は幸野悠希だ。他の人も名前ぐらいは教えてくれるよね?」

 

「分かったわよ。名前はね。私はルシファー・メディナとあそこにいる面倒くさがりの男はサタン・ブロウズ。もういいわね?」

そういうルシファーって名乗った人は私達になにも話すことがない、と言わんばかりの冷ややかな顔を向けてきている。

 

「もしかして用事でもあった?それだったら悪かった。ちょっと好奇心で…な。許してくれるか?」

 

「ん、別に気にしてなんかいないわ。ガブリエルは怪我人の方に行ってたら?私達は勝手にやってるわ」

そう緑髪の子より少し大きな女性がいうとその人より少し大きな男性に言葉をかけ(離れていて聞き取れなかった)、そのまま立ち去ってしまった。

 

「ご、ごめんね。ルシちゃん、は元から素直じゃないの。あと…私達、ただの通りすがりだから。それに追い払う、だったらある程度の強さを持った人ならできたりしてね」

 

「そういうものなのかなぁ…。料理とかで胃袋を掴むとかそういう類じゃなさそうだし」

と私が不思議そうにいうと目の前の人物にきょとんとされた。

 

ふむ、料理で人を落としたことないのかな?

それかそもそもボケてると分からないとか?

多分後者だろうけど。

どっちでもありそうで、ある意味怖いね。

 

「それで、怪我人ってどこですか?私も手伝いたいのですが」

そう紗耶香さんがそのガブリエルと名乗った人に聞いている。

 

「あ、それだったらいいよっ。私、歓迎しちゃうー。名前はー…さやさやでいい?」

 

「さ、さやさや…?そ、その呼び名で私のことを呼ぶんですか…?」

 

「大丈夫じゃないなら普通に呼ぶよー?」

 

なんて会話が聞こえるけど、呼び名なら大丈夫でしょ。

そう思ってそこから離れた。

 

 

「リーシャ?どうしたの」

 

「話をするにも離れて、ね?」

半身だけ振り返ってから肩をあえてすくめてみせた。

 

「っと。それもそうだね。誠也もそれでオーケー?」

 

「オーケーの意味は分からんが大丈夫だ。にしてもあれ…なんだったんだろうな」

少し離れようと歩き出しながら誠也さんがそう呟いた。

 

「んー…俺は歌で元気つけようとでも思ったんじゃないかって推測するけど。でも、こっちじゃあんまり見ないな…」

 

「歌ってそもそもあったんだな。てっきり、歌なんて存在しないものかと思ってたんだが」

不思議そうな口調でいう誠也。

 

「……えっ?」

と驚きの声をあげたのは悠希。

私は驚きのあまり声すら出なかった。

なにせこっちの村には歌に良く似たものを歌ったりしていたものだから。

 

そうか、もしかして歌を聞く機会とかって場所によってなかったりするんじゃあ…?

となんとなくそう思った時。

 

「あれ、悠希とかリーシャさんはあるのか?なんだよ、羨ましいな」

 

といっていたので、私は首を横に振った。

 

「私は歌と言えば歌なんだけど、そういう人に聞かせるっていうような感じのものじゃないの。どっちかっていうと精霊との踊り…というか舞というか」

どういうのか、と言おうとしたけど、どう説明したものか悩んでしまいつい言葉を濁してしまった。

 

「なるほど、分かった。なんとなく想像できたし、ありがとな」

そういって誠也さんが私の頭に手をポン、とのせた。

少し驚いたが、すぐに口元を少し緩める。

それを見て、誠也さんも口元を笑みの形にすると手を離した。

それから悠希の方を見て。

 

「悠希もいいか?聞いても」

 

「あ、あー…。その、俺は覚えてないんだ。どこで聞いたんだろうなー」

と棒読みで言いながら顔ごと視線を私達からそらしている。

 

誤魔化すなんて…悠希も大変だね。

前世の話をしたところで分かってくれるかどうか、だし。

 

「そ、そんなことより都市とか行かない?町がこんな状況だというのに…とかって言われそうだけど、気分転換とか情報が手にはいるかもしれないし、どうかな」

 

「おっ、それはいいな。リーシャさんもまだ平気か?」

 

そう聞かれ、私は素直に頷く。

「そうだね。もし、読めなかったり分からなかったりしたら私が役にたつしね」

 

「精霊にも聞けるようだしね。いいんじゃない?あと魔法とかあるしね」

 

「そうだな。んじゃあ、悪いけど一緒にきてくれると助かる。魔法の方は俺達も頑張るからさ。な?」

といって悠希を見る誠也さん。

悠希は曖昧な笑みを浮かべていた…。



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第21話 予想外の建物。受けるものは受ける

ここから冒険はある意味本格的に始まっていきます。

色々とやらかして見ようと思います。


下から本編です。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

飛行船の乗り場などはどうやら無事だったらしく、俺達3人はそれに乗って都市に向かった。

 

そして、ついてから驚いたことは…

 

「な、なんかある場所に向かっていく人達が多いような気がするんだけど…」

 

「…そうだね。なにかあるのかな」

 

「んじゃ、行こうぜ。こうやってあーだこーだと推測してる暇があったら見に行った方がはやいと思うしな」

そう言われてリーシャはハッと顔をわずかに上げ、頷く。

 

「それもそうだね。リーシャ、行こうか」

 

と俺がいうとリーシャが歩き出し、俺達もならって歩き出す。

 

 

 

「うん。でも、それにしたっては…色々と期間が短すぎない?」

 

「きっと都市だから腕のたつ人とかいたんだよ。あとはなんか使ったり、かな?」

 

「なんかって。魔法以外で使えるのは人脈ぐらいだぞ?」

と誠也が笑いながらいう。

わ、笑うんじゃない。

これでも至極(しごく)真面目に言ったんだから。

 

 

「でも、悠希がそういうのも無理はないか。前から計画されてなきゃ期間的に無理だろうしな」

 

ん…?

前から計画…となると噂が出始めた時期とずれるな。

元々作る予定だったーとか、そんなのだったら笑うぞ?

 

 

 

 

 

 

 

その人の流れにあわせて歩けば歩くほど、そっちに向かう人が増えてきた。

 

「…あ、あれって…」

と俺の右横を歩いていたリーシャが突然そう呟いた。

 

「あれって言われても分から………え?」

 

俺もそこまで言ってからそれを見て思わず驚きの声を出してしまった。

 

「たて…もの…?あんなの、いつの間にたったんだ…?」

 

「ああ、そうだな。しかも、大きさから見て本店みたいなものなんだろうな」

 

誠也は冷静にいうものの、驚きを隠しきれないらしい。

まぁ、その人の群れが向かっている先がなにせ大きな建物だからね。

 

開きっぱなしの扉から見て内部はある意味2階建て。

1階と2階で見える限りでもそれなりの人数が座れる椅子やテーブルがある。

 

ここからは奥のカウンターと受付をしているだろう人が数人見えるのけど、様々な種族の人達が並んでいるのを見て間に合ってないんだろうなー…と思っているとリーシャが先に入ろうとしていた。

 

「ちょっ、リーシャ。中に入るのか?」

 

そう聞くと半身だけ振り返ってきた。

「多分さ、ここ…冒険者ギルドだと思うんだ。出来てまもないとしても、ギルドなら最新の情報とか依頼とか出てる掲示板とかあってもおかしくないかなって思って…」

 

そりゃそうだろうけどさ。

だからといって、こういうのに対して『テンプレだからある』とか言えたとしても、出来てすぐなのにそういうのがあるものなのか。

 

そう考えていると誠也もリーシャの方へ。

「よく分からないが…それは良い考えだな。もしかしたら俺達の知らん情報とかあったりするかもしれんし、その掲示板とやらがあったらわざわざ聞きに行かなくても平気になりそうだしな」

 

「でしょ?もしかしたら、依頼とかでお金を稼げるかもなーって」

頷いてそう答えるリーシャは前見たときより真面目な気がする。

猫っぽさが消えてるからあんまりいじれないな…。

 

「分かったよ、とりあえず入ろう。そろそろ邪魔になりかねないしね」

 

俺がそういうとリーシャと誠也が頷いた。

 

「先にそれを探さないか?板みたいなのがあればそっちを見た方がはやそうだしね。ないものは聞けばいいし。ついでに依頼も簡単そうなの受けてみようよ」

と提案してみた。

 

「ん、分かった。依頼の件についても分かったよ。なるべく後ろから支援するね」

 

「はいよ。元からしようと思ったのが二つに増えるだけだし、問題はない。強いていうんなら男としてのロマンは欲しいってところだな」

誠也はそういうと唯一の女子になってしまったリーシャへ目を向けた。

 

「なにを考えてるのかな…?」

 

「な、なんも考えてはいないぞ!?やましいことなんて考えるわけ、ないじゃないか!」

 

「いや、その段階で考えてるってバラしているようなものだぞ?誠也よ」

 

「……あっ」

 

言われて気づいたか。

俺と誠也がリーシャの表情をほぼ同時に見ると、半目にはしているものの、さっきより誠也への視線が冷たいものになっているような気がする。

 

「そ、そろそろ入ろうぜ。こんなところで話しててもらちがあかないしな」

という誠也の言葉で皆、出来てまもないだろう冒険者ギルドの中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入って思ったことはやっぱり広い、ということか。

カウンターの方は長蛇の列だけど、なにをしているのだろうか。

 

並んでいる人達について考えていたら

「あったよ、掲示板もどき。情報とか依頼が半分ずつ張られてて凄く見やすいよ」

とリーシャの声がその思考を遮るかのように聞こえた。

 

「おっ、そうだな。悠希も見ようぜー。なんか朗報とかもあるかもしれないしさー」

 

「うん、そうだね。…まぁ、その朗報があればいいんだけどね」

 

そう返してから俺も2人と同じように掲示板を見る。

リーシャが俺の右前、誠也が俺の左前にいるが、この中で一番高いのが俺なので全然見るのに問題がない。

 

 

 

『魔王復活』とか俺達の住む町以外にも被害を受けた場所とか色々のっている。

一番目立つところにある情報は『各地にて魔物が出没中。有望な冒険者求む』だった。

支店もこれから作るよ、なんて近くに手書きされているのを見ると最近のものらしい。

よくこの短期間で作れたなあ。

 

 

 

「依頼もまだ残ってるけど、簡単そうなのって…どういうのだと思う?」

そういってリーシャが依頼の方を指差す。

 

なんとなく内容を見てみた。

ゴブリン退治、薬草調達、ダンジョン探索、料理代行……うん、誰だ、これを依頼したのは。

 

俺がそう思うと、誠也も同じ考えだったらしく

「なんで料理代行まで依頼に入ってるんだ?」

といった。

 

「誠也さん、そういうのはいいけど…こっちには家事代行があるよ。もう何でも屋だね。まぁ、どうしてあるのかなんて大体分かるけど」

と1枚の紙(家事代行って書いてある)を指差しながら俺達を見てきた。

大体分かる、というわりには不安そうだけど。

 

「ま、まぁ…それ、よく内容を見ると代行は名ばかりでただの手伝い募集って書かれてるから大丈夫なんじゃないかな」

 

「そうだろ、多分。…でも、依頼なのにそう書かないっていうのも変わってるな。とりあえず、これがいいんじゃないか?」

そういうと巨大蜘蛛退治を誠也がとった。

 

「封印されていた魔王がまた現れたってだけでこんなのも現れるんだな…」

 

そういってからリーシャを見ると真面目な顔をしていた。



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第22話 初めての○○はトラブルだってある

最近、息抜きとして新しく小説を書いています。

そちらもゆっくり投稿していきますので、どうか生ぬるい目で見ていただければ幸いです。



では、下から本編になります。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季(ゆうき)視点

 

依頼を受ける人用の受付(さっき入口で見たカウンターは右側で、こっちは左側。どっちも窓口は3ヵ所)のところへさっきの『巨大蜘蛛退治』という依頼の紙を見せに向かう俺達。

ちょっとリーシャの顔が嫌そうに見えるのは蜘蛛が苦手だからなのだろうか。

ごめんね。でも、多分簡単で収入がよさそうなのがこれだったから。

本当はゴブリンとかダンジョン調査でよかったんだけど、次…ね。

 

 

そう思いながら、受付まで近づくと受付に立っている左の若い女性が手をあげた。

「こんにちは。こちらで受注を受け付けています。今、手に取られているそれをお受けになるのでしょうか?」

 

「うん、そうなんだ。俺とこの2人で、受けたいんだけど…」

と、そう言いながら俺はその人の前にあるカウンターに依頼書を置く。

 

「はい、分かりました。ところで、こちらは初めてのご利用ですか?」

 

「ああ、うん。初めて、だね」

 

「そうですか。えっと、冒険者としての登録で大丈夫でしょうか?」

 

「うん、皆もそれでいいよね?」

といって半身だけ振り返って2人にそう聞く。

 

「それについては大丈夫だ、問題ない。むしろなったらなったで、季節ならではの依頼とか受けやすくなりそうだな」

 

と誠也がいい、リーシャはただ無言で頷いた。

多分『それで平気。問題ないよ』って意味だろうけど…前世で同棲してた俺じゃなきゃ想像するのも難しいと思うんだが。

 

その様子を見聞きしていた受付の人はカウンターから手形のくぼみがある薄くて小さなものを取り出した。

 

「では、こちらで左手を登録してもらえませんか?あと名前もよろしいでしょうか」

 

異世界ファンタジーの欠片もないな。

いや、トランプとかそういうのが量産されてるんだからそれっぽいのはあるのか…?

 

そう考えているとリーシャが先に左手でやっていた。

「って、リーシャ…お前…ためらいないな」

 

「そりゃあね。しておいて損はない。あ、そうだ。受付の姉さん、近いうち精霊と契約するんだけど、それについては大丈夫かな」

 

「はい、分かりました。では、リーシャ様は精霊使い見習いで受けさせてもらいますね。ですので、精霊と契約してもそのままで大丈夫です。お二方は冒険者として、となりますけど宜しいでしょうか?」

 

「ああ、平気だ。んで、これだな?」

そういって誠也がそれに手を当てる。

それを見ると受付の人はリーシャに氏名を書く紙を手渡していた。

 

俺はため息をつく。

「分かった。先に氏名を書く事ってできるかな?」

 

「はい、できますよ。こちらに…よろしいでしょうか?」

そういった受付の人はリーシャに渡した紙を俺にも渡してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして登録を終えた俺達は、依頼を受けて例の場所に向かった。

徒歩で向かったため、それなりの時間がかかったものの、なににも遭遇せずに行けた。

 

「ところで蜘蛛の巣もでかいのかな」

つくなりそういったのはリーシャだった。

 

「でかいんじゃないかな?ほら、巨大蜘蛛っていうほどなんだし」

 

「それもそうか…。……うん?」

 

話しているとふいにリーシャの体が浮いた。

 

「リーシャ、どうした?いつ飛べるようになったんだ?」

 

「わ、私…飛べるようになってなんかないよ。それに…そんな魔法なんてあるのかな」

 

そう言われ、腕を組んで首をかしげる俺。

 

「なんなんだろうな…」

 

そう言っている間にどんどんリーシャの体が空中に浮かんでいく。

でもずっとではなく、途中で止まった。

 

 

 

「おー…なんか結構浮いたよ?大丈夫かな、私」

そう、上から話してきたので必然的に俺と誠也は上を向いた。

 

「なぁ、あれ…教えた方がいいかな」

 

「多分な。逃げれるかどうかはともかくとして」

とこそこそと相談し始めた俺達をよそに上ではもうことが始まっていた(らしい)。

 

 

 

「っていうか、あれはあれでそれなりの高さが……うん?」

そこまでいって上を見上げてみる。

巨大蜘蛛がリーシャの近くにいて、当の本人はその蜘蛛を目を見開いて凝視していた。

 

それで俺が見たときはちょうど、巨大蜘蛛がリーシャの体を糸でぐるぐる巻きにしているときだった。

 

「そうだな。…って突然どうした?」

といった誠也も顔をあげて、ようやく気づいたらしい。

 

「「……あっ」」

 

「ちょっとそうじゃなくて助けて!?」

 

と叫んできたので俺は誠也の方を見る。

誠也も俺の方を見てきていた。

「なにげに体だけにしているんだな。あれ」

 

「しかもさっき、前足で頭を撫でようとしていたように見えなかった?」

 

なんて話していたら叫び声が聞こえてきた。

再度、上を向くと前足のひとつで頭を撫でられていた。

 

「なんか大丈夫なんじゃないかな、あれ」

 

「でも依頼…討伐しないと終わらなくね?」

 

「あ、それもそうか。んじゃ今から助けるわー!」

大きな声でそう伝えるとリーシャとその頭を撫でていた蜘蛛が一緒にこちらを見た。

 

「おっと、こりゃまずいね」

そういって右腰に指してある(さや)からさっと剣をとる。

女であれなら男はどうなるか分かったもんじゃないし。

 

「その先にどうにかすりゃ大丈夫だろ」

と言いながら短剣を左腰から取り出しているけど、魔法をまだ知らないからなのかどう立ち回ろうか悩んでいる顔をしている。

 

 

「ああ。来いよ、スパイダー。糸の貯蔵は充分か?」

 

「い、いきなり性格が変わったな。別にいいけどさ…いくぞ!」

 

そう話していると蜘蛛も巣から降りてきた。

やっぱりサイズはでかい。

どうにかして倒してリーシャを降ろすしかない。

だからこそどうにかする。

 

「――ああ、そうだね」

そういって2人同時に蜘蛛へ肉薄した。



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第23話 冒険者ギルドへの報告と村へ行こう

余談ですが、ハーフヒューマンってまんまな種族名をつけたのはハーフエルフ以外も出したいから、じゃないんですよね。

私の中ではハーフエルフ=人間やエルフの両方から迫害を受けている、という風にイメージが出来上がっていまして。

それだったら、もうありえないだろという全種族普通に交易中!みたいなことがしたくなり、つけました。

なんかもう似たようなものは既に出てそうですが。

まあ、そんな余談でした。
下から本編です。適当に読んでやってください。

※一部分かりづらい場所がありましたので少し追記いたしました。大筋に変更はありません

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

あれから大分たって、巨大蜘蛛は倒された。

私も少し時間がかかったものの、降ろしてもらえた。

ある意味トラウマができそうな体験だったな…。

 

「2人共、怪我とか大丈夫?」

 

擦り傷とかそういうのが見えたのでそう聞いてみた。

 

「俺は問題ないよ。ありがとうね、リーシャ」

 

「別にいいよ。誠也さんは?」

 

同じように聞くと肩をすくめる誠也さん。

 

「ああ、悠希があそこまで動いてくれたおかげでな。軽傷ですんだよ」

 

「そっか、ならいいんだけど。……にしても、なんか新しいトラウマとか出来そうな体験だったなあ、と」

そういって思わず苦笑いを浮かべる。

 

「ま、まあ思い出す前に報告しに戻ろうぜ。……でも、なにか持ってった方がいいのかね」

と困ったように誠也さんが呟いていると悠希が右腰の鞘に剣を戻し、懐から依頼書を取り出す。

 

するとそこには報告待ち、というハンコがいつの間にかされていた。

 

「……どこで理解してるんだか、つっこまないでおこうか。なんか気になるけど」

 

「気になるどころじゃないよ…。まあ、確かに知らぬが仏、なんだろうね」

 

「そうだな…。ま、まあなにも持って帰る必要がないなら安心だな」

 

「そうだね」

なんて会話をし、冒険者ギルドへと戻る私達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして戻った私達は悠希を先頭にして冒険者ギルドに入る。

受付のところまで行くと同じ人が手を振って「こちらです」と呼び掛けてくれた。

 

 

依頼書をカウンターにおくと受付の人が口元を緩めた。

「分かりました。完了した依頼の報酬はこちらになります。では、お疲れ様でした」

 

そういって袋をカウンターにおく受付の人。

 

「うん、また今度ね」

といってカウンターから離れる。

蜘蛛関係の依頼はもうあんまり受けたくない。

あいつ、撫でてくるし…。

っていうか虫って頭撫でてくるっけ?

 

 

「とりあえず、これでいいみたいだね」

 

また掲示板の前にたつ私達。

なんか忘れてる気がする…。

 

「そうみたいだね。ところで俺達なんか忘れてないか?」

 

私は首を一度かしげてから

「気のせいじゃないの?」

といってみた。

 

私自身、まだ思い出せてないし。

情報を調べるんだっけ?

悠希と顔を見合わせたまま、固まる。

悠希なんて腕を組み出した。

 

「あ、情報を聞くんじゃなかったか?見た分の」

 

「「……あっ」」

 

そっちを忘れてたなんてね。

悠希の顔を顔だけ動かして見てみる。

 

「ま、まー…聞くのを抜きにしてもそれなりの情報が得られたんじゃないかな?」

 

「ああ、そうだな。それとも聞くのはまた今度にするか?」

 

「それでいいんじゃないかな。今は全部把握しきれないだろうし、出来ても今の私達じゃ厳しいんじゃないかな。ゆっくり現状を知っていこう?」

とそういって私はおどけたように肩をすくめてみせた。

 

「それもそうだね。…ところでリーシャ。精霊はまだ平気なの?」

 

ああ、もしかして精霊との契約に関する話かな?

まあ、聞いてみるかな。

ついてくるか、ついてこないかって。こないんだったら1人だし、来るんだったら少し離れたところにいてもらわないとだし。

 

「そうだね、そろそろだよ。そうなると悠希達は一緒に来るか別行動って選択肢があるけど…どうする?」

 

「俺はリーシャと一緒に行くよ。精霊とか見てみたいしね」

 

見てみたいって…。

まあ、いいけど。

 

「誠也さんはどうする?一緒にきてもいいし、こなくてもいいよ。ただ来るんなら一つだけ守ってほしいかなってのがあるけど」

 

困ったような笑みを少し浮かべながら誠也さんにも聞いてみた。

 

「俺もいいのか?いいのなら超興味あるし、行きたい。んで、守ってほしいのってなんだ?」

 

「あ、それは俺も気になる。なになに?」

 

2人共、興味津々で聞いてくる。

そんな興味の出るようなことじゃないんだけどなあ。

別にいいけど。

 

「私が契約する前後は少し離れたところで黙ってみててほしいなー…ってことだけだよ。それだけやってくれればいいよ」

 

「分かった。それだけならいいよ」

 

「我慢はしてみるよ。できなかったらごめんな」

 

いや、それはちょっとなぁと私が思って苦笑いを浮かべると悠希が左腕を自身の腰に当てた。

 

「その時は無理矢理でも口を押さえて静かにさせてあげるよ。口元だけだから大丈夫だろうしね」

 

「あ、普通に黙っとくわ。心の中だけでハイテンションになるわ」

 

なんか知らないけど、話はまとまったみたいかな?

んなら、そろそろ行けそうだね。

 

「んじゃ、飛行船で行こうか。そっちの方がいいし」

 

「はいよ。あ、その袋は俺が管理するわ」

そういって手を差し出された。

 

「はいはい、分かったよ」

と私は返して適当に渡した。

 

それを見て誠也が笑った。

いやいや、面白いところなんてなかったと思うんだけどな?

 

「じゃあ、行こうか」

その私の一言をきっかけに冒険者ギルドを出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

飛行船の乗り場についた俺達は3人分でチケットを買うとお土産屋を見て回ることにした。

親に土産(みやげ)を買うのを忘れたとかそんなんじゃないらしいけど…多分迷子が出たり、俺達と一緒に色々なところへ向かったからつい、なんだろうな。

 

……ってそうなると結局忘れたってことになるのか。

そうか。

 

 

「色々あるね、お土産。下手したらいっぱい買っちゃいそう」

そう言いながら笑うリーシャ。

 

「だから俺と一緒に、なんでしょ?誠也は『俺もなにかしら一つか二つ買っていく』って言っていっちゃったけどさ」

 

すぐ隣のお土産屋に、なんだけどね。

 

「いいんじゃないかな、それも。都市限定のものとかあるんだろうし」

そういって表情を緩めるリーシャ。

限定のお土産、か。

そういや最近トランプ以外に実用的なものが増えたらしいからね。それでも買いにいったのかな?

 

 

「ああ、そうだね。リーシャにも一つ買ってあげるよ」

 

そういうとリーシャが驚いたような表情を浮かべた。

いや、そんなに意外なことじゃないと思うんだけどな。

転生してから初めて、だからなのかな?

 

「あ、ありがとう。でも、買うかどうかは悠希に任せるよ。私はなんも言わないでおくね」

 

「……そっか。分かったよ」

 

「うん、それに…私に欲しいものを聞いてそのお土産を買ったらお土産で返すからね。ループしちゃうよ?」

 

何故かそういってきた。

まあ、確かにその繰り返しはある意味大変なことになるね。

どれを買ってあげるかとかそういう意味で。

 

…なら。

「俺も一つか二つぐらいは買ってくよ。時間も平気そうだしね」

 

「そうだね。ここ以外にもあるみたいだし、あとで3人で行ってみる?」

 

「そうだな。んじゃあ、ちゃっちゃと買うわ。誠也にも言わないといけないしね」

 

そういうと俺とリーシャはお土産を集中しながら見て、選ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくしてお土産屋とお土産屋の間で合流した。

 

「いくつ物買った?」

 

なんとなく気になって聞いてみた。

因みに俺は1個。なんとなくハンカチを買ってみたってだけなんだけどね。

絵柄が三首の犬をデフォルメしたものだったからつい衝動買いしてしまった。

 

「私は2つかな。白いハンカチと精霊とかがたくさん載った本かな。…でも、どうやってこの本を作ったのか疑問だね」

 

「方法はないわけじゃないだろうけどな。協力してもらうとかそんなん。っていうか、そういう本あるもんなんだな」

 

確かに…。

あとで読ませてもらうかな。

 

「それで誠也はなにを買ってきたのか、聞いてもいいかな」

 

「俺は初心者向けの属性魔法について書かれた本だ。悠希、あとで一緒に読もうぜ」

 

と笑顔で誘ってきた。

初級でも覚えたい、か。

それには賛成だな。

その分、戦闘のレパートリーとか色々と増えるしね。

 

「おっ、いいのか。なら、そうさせてもらう。因みに俺は三首の犬がデフォルメされたハンカチね」

 

「そ、そんなの売ってたんだ…」

と何故か半目で見てくる。

売ってるのが不思議だったのかね。

 

「確かにな。まあ、そういうこともあるだろ。あとの続きは飛行船で話さないか?」

 

「そっか、出る少し前から乗れるみたいなことを買ったときに言われたもんね」

そういうとリーシャは二度頷いた。

 

でも少し前って…またまた分かりづらい。

素材不明の時計でも置けばまた変わると思うんだけどな。

まあ、その時計は多くないらしいし仕方ないけど。

 

「んじゃ、そろそろ向かうか」

 

俺がそういうと2人は頷いてくれた。

それにしてもリーシャの家のある村か…。

エルフが多いだろうけど、どうなってるんだろうなー。

 

そんな思いと共に俺達は飛行船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

しばらくして、飛行船は森の近くにある飛行船場に止まった。

降りるなり、森の方を見て夏だなあと思った。

 

青々しい木々。冬になると葉っぱがなくなってすっごい寒いけど、季節が分かりやすくていい。

 

「なるほど、あの森にあるのか?」

 

そう言いながら私の視線の先にある森を指差す悠希。

 

「うん、そうだよ」

といって頷いた。まあ、そこの住民と一緒じゃないと行けないような村じゃないんだけどね。

 

道ならちゃんとあるし。

 

「へぇ…。外から軽く見ただけじゃ分からないな」

 

「どう見ても森だしね。でもエルフのいる村は大体こうだからね?」

そういって私は苦笑いを浮かべる。

 

見たことはない、とは言えなくなった。

というか、自分でそう言ったから見たことないっていうの難しくなっただけなんだけどね。

一応どこも似たようなものだと、長老が言ってたしそうなんだろうけどさ。

 

「んじゃあ、行こっか。エルフの村へ」



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第24話 エルフの村でしかやれないこと

文章力以外に上げたいもの、見つけました。

最近、寒いので皆様もお体にお気をつけください。


下から本編です。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

村へ続く道を進めば進むほど左右に見える木々が増えていく。

んまぁ、そりゃそうなんだけど。

村は森の中なんだし。

 

「道になるように地面がある程度いじられてるんだね…」

 

「そうだね、そうしておかないと色々と危ないし、村につくのが遅くなるかもしれないしね」

呟いた悠希にそう返した。

 

道にいればどういう原理かよく分からないけど、魔物とかに襲われにくくなるらしい。

襲われないってわけじゃないけど、それだけでも大分安心して歩けるっていうね。

 

 

 

 

 

それからある程度歩くとすんなり村が見えてきた。

家は普通に建っているものからちょっと少年少女の時に作りそうな秘密基地よろしく木に建てられている家とか。

はしごとかでのぼる様を見ると秘密基地っぽいけどね。違うから仕方ないね。

 

 

「なるほど…。色々と面白そうな建て方だね。ちょっと住んでみたいかもしれん」

 

悠希がそういうのを聞いて少し苦笑いを浮かべてしまった。

夏とかにはいいけど、冬は寒かったりするからなぁと。

一応寒さ対策はしてるんだけどね。

 

「住んだら住んだで大変だけどね。買い物とかの帰りは特に」

 

「あっ、そうか。一回でたくさん…とかそんなことしたら袋ではしごだとのぼりづらいか」

 

「案外工夫してたりな。はしごを変えて小さな階段みたいになるようにー、とかさ」

 

「一応それも出来なくはないみたいだよ?」

 

そういうと誠也さんは驚いたような顔になる。

まあ、意外か。木だからあんまりやれそうにないって印象がつきやすそうだしね。

仕方ない話かもしれないけど。

 

 

 

 

 

「まあ、とりあえず話が完全に横道にそれる前に…本題に移るね。私の家に向かってもいいかな?準備とか色々あるし」

 

全部家に置いてきちゃったし。

と、いうか持ってくるようなもんじゃないし。

 

「はいよ。ついでに両親に挨拶とかできそうだしね」

 

うん、挨拶してなにをするのかな?

特にないはずなんだけど。

 

「悠希はなにを考えて…まあ、いいけどな。俺も知り合いとして自己紹介とかしておきたいね」

 

「そ、そうか…。ご自由にどうぞ…」

 

まさかそういう風に返されるとは思わなかったから思わず困ったような笑みを浮かべてしまう。

特に悠希のがちょっと怪しい。

別にいいけど。

 

「とりあえず、リーシャの家ってどっちにあるのかな」

 

「っと、そうだったね。こっちだよ」

 

そういって村の方へ歩き出す。

と、案内しようとしたら

「……それはいいんだけどよ、昼食べてからとか駄目、か?」

と背後から申し訳なさそうというか、弱々しいというか。

そんな声が聞こえてきた。

 

2人して振り返る。

そりゃそんな声出されたら気になるしね。

悠希はそうでもなさそうだけど。

 

「ん、じゃあ…リーシャ。悪いけど、食べるところ知らない?出来れば安くて美味しいところがいいんだけど」

 

「構わないよ。ちょっと裏に入るから食事時と重なっちゃうかもだけど」

 

「俺はそれでも構わん。あるんなら行きたい」

 

「それについては俺も賛成かな」

 

…ふむ、そういえば朝食をとってから大分たったしね。

それに蜘蛛退治って内容の依頼をこなすっていう慣れないことしてるし。

そりゃお腹も減るか。

 

 

「分かった。仕方ないけど、先にそっちに行こうか。2人ともいいかな?」

 

「俺はいつでも大丈夫だよ。リーシャがいうなら多分美味しいだろうし」

 

「俺も大丈夫だぜ。どんな店か気になるな」

 

それを聞いて頷くと私はその店へ向かって再度歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏にあるので多少時間がかかってしまったが、安くて美味しい店の前についた。

因みに有名じゃないし、支店なぞ存在していない。

 

理由はちゃんと店長から聞いたけどね。

それがあるのか、それともはたまた偶然か。それとも裏にあるからなのか。

最低でも店前から見える位置にあるテーブル席が1つだけ残っていた。

 

「おー、空いてるんだね。さっそく入ろうよ、2人共」

 

「偶然っていうか凄いってレベルだねぇ、空席があるだなんて」

 

そういうと左右から驚きの声が聞こえた。

そりゃ安くて美味しい上にお昼頃なんだから今は並んでてもおかしくはないはず。

 

「と、とにかく入ろうよ。リーシャがそういうぐらいなら俺達より先に入られるかもしれない」

 

それを聞いて頷く。

確かにそれについては否定はできない。

なにせよくお昼頃に来ると列が出来ていて、長時間待たされているから。

 

そうだね、ちょうどいいし、入るかな。

 

私が先頭で入り、後から悠希と誠也さんが入ってきた。

どうやら良い匂いがするらしく、後ろから「美味しそう…」って声がした。

匂いだけでご飯とかいけるタイプなのかな?多分いけなさそうだけど。

 

 

「いらっしゃいませ、今日は何名様でしょうか?」

と言葉とはうらはらに親しげな声音で話しかけてきたのはここの店員のお兄さん。

 

「3人だよー。まあ、今日は知り合いを連れてきたんだけどね」

 

「そうなんですね。では、あの窓側のテーブルでよろしいですか?」

といってから「仕事中だからごめんね」と言わんばかりに私に向けて小さくウインクをした。

仕事中なら私語なんて出来ないし、仕方ないと思うんだけどな。

 

「うん、平気だよ。んじゃ、座ろっか」

 

「そうだね。あ、メニュー、俺先ね」

 

「おい、俺も見るんだぞ。俺も先でいいか?」

 

「はいはい…。お先にどうぞ」

なんて話をしながら入口から少し歩いた窓側のテーブルに悠希、私。正面に誠也さんが1人で座った。

4人席なだけあって1人分の椅子があく。

そこやテーブルの下に荷物などをおく。

 

メニューは二つしかないので悠希と誠也さんに手渡した。

実は私はある程度、覚えているから見なくともなんともないんだよね。

 

 

「んまぁ、ゆっくり決めていいからね。私はもうほとんど決まってるから大丈夫だよ」

 

そういうと大きな葉っぱ型のメニューから目を離した悠希と誠也さんから驚きの目を向けられた。特に悠希からは分かりやすいほど。

 

「結構早いね、リーシャ。ってことはメニューは見なくてもいいのかい?」

 

「んー、出来れば少し見たいけど、見なくても大丈夫って感じだからなぁ」

 

「ってそりゃそうか。感じからして常連みたいだしね」

 

「じゃなきゃ俺達に教えてこないだろー?」

 

「それもそうか」

とまでいうと笑い出す2人。

いや、頼むもの決めなよ。

 

そう思った私は呆れたようにため息をつく。

「笑うのはいいけどさ、注文するもの決めたの?」

 

「「あっ」」

 

「待ってるから考えて決めてね。一応大抵のものはあっさりしてるから。濃いのもあるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで頼み、来てから食べ終えて出るまでにそれなりの時間がたっていた。

私は定食系、悠希は獣肉を使ったものとパン、誠也さんはパスタ系を食べた。

支払いはもちろん前に受けた依頼の報酬金からなので悠希が払った。

 

「いやぁ、案外獣肉ー、なんて臭みとか味とか色々あると思ったら結構あっさりしててびっくりしたよ」

 

「へぇ、そうだったのか。パスタもなかなか美味しくてびっくりしたわ」

 

「弓による狩りとかをやってるからね。それを生業としている人にでも直接もらえるよう、頼んでるんじゃないかな。パスタは初耳だからすんごい気になるけど」

 

そういうと誠也さんは「おー、ならまた今度一緒に来ようぜ」といってくれた。

わざわざそれのために来るなんて大変じゃないのかね。

まあ、いいけどさ。

 

 

「それにしても弓で狩りってしてるもんなんだね。なにを狩ってるとかは知らない?」

 

「私は知らないかな。弓より先にある程度体を鍛えられたもんだから…」

そういって顔をそらす。

弓も扱えるけど、多少しか出来ないなんて言えないし。

 

「メニューに書いてなかったのか?いくらそういう村とはいえ、なにかぐらい書いてるだろ」

 

誠也さんにそう言われた悠希は首を左右に振った。

「そこまでは見てないから知らないんだよね。絵を見て美味しそうだなーと」

 

「さすがに料理名も読もうよ…」

 

「だな。んじゃないと大変だぞー?」

 

なんて話をしていると悠希が困ったように笑った。

くせ、なのかな?

 

「お腹も満たされたところで、私の家に向かうんだけど…どうする?準備が終わるまで観光でもしてる?」

 

そう私が聞いてすぐに反応したのは悠希だった。

「俺はやめておくよ。そこまで広い村じゃないとはいえ、連絡手段がないから別れた後にまた会うのが面倒。ってなわけでついていく」

 

誠也さんは肩をすくめ

「あとで店によったりとか…するのか?」

と聞いてきた。

 

「うん、寄るつもりだよ。他にも買うものあるか見ておきたいしね」

 

「あ、それなら俺もなに売ってるか気になるから色々寄ってくれると助かる」

 

「分かったよ。ある程度案内してあげる。なんか誠也さんにも欲しいのがあるっぽそうだし?」

 

「おっ、さすが…って何年ここから離れたことはないんだ?」

 

なにかを言おうとしたらしいけど、急にその話になった。

私は少し自宅の方に進んでから半身だけ振り返り、横目で

「そうだねぇ、生まれてから十数年だよ。そもそも何歳かなんて私自身もあんまり詳しく数えてなんかいないんだけどね」

といった。

 

「あ、曖昧な年数だな…。って待て、お前自分がいくつかなんて知らないとか言わないよな」

 

「ところがどっこい、言うんだよ。大体の年齢なら分かるんだけど、なにせ何歳かまではあまり話題にならないんだよね」

 

両親も実年齢はかなり高いらしい。確か数十歳とか数百歳……あれ、いくつだったかな?

 

「ところがどっこいってもう聞かない言葉だね」

 

「人間、出るときは出ちゃうんだよ。だから仕方ないね」

 

そういうと苦笑いされてしまった。

そ、そういうときもあるもんだよ…?

 

 

 

「ところでリーシャさん…準備はしなくていいのか?」

 

「あっ、そうだった。行こ?」

 

そういって私は今度こそ自宅へ向かい始める。

「そうだね」とか「じゃないとまた遅くなりそうだな」とか後ろから聞こえたけど、まだ日が長いから平気だと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからある程度歩いたところに私の家はある。

悠希達の住んでいる町と似たような作りの方の家なので、驚きはしなかったようだけど。

 

家の前につくなりすぐに扉を開けた。

そのまま、流れで入る。

「たっだいまー。お父さんって今日はいるー?」

 

後ろからは「お邪魔します」とかそういうのが聞こえた。

因みにこっちも靴は脱がないよ。

 

「あら、リーシャ。帰ったのね、おかえり。ええ、しばらくぶりにね。会う?」

と言ってきた長い波打った濃い金髪をした女性は私のお母さん。

長くとんがったその耳はたれていて、性格を表してるなぁと思った。

 

「うん、会うー。それと友人の悠希と誠也さんだよ」

とあっさりめに紹介する。

 

「どうも」

「初めまして」

 

「あらそう。私はアニス・フェルマーよ。とりあえず貴方達もあがって」

 

「「あ、はい」」

 

と、普通にあげるお母さん。

他のエルフ達同様、人間であることに興味を向けていない。

そも、むしろ種族にまで意識を向ける人の方が少ない。

 

 

 

「ところでどこにいるの?」

 

そういえば聞いていないことが一つあるなぁ、と今さら思い出したので聞いてみた。

 

「ああ、そうだったわね。今はリビングにいるわよ。貴方達のこと、お父さんにも紹介してあげるわね」

 

「それはどうも」

と素っ気なくいったのは悠希だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングにお母さんを含めた4人で入るとお父さんが珍しく椅子に座り、手のひらサイズの犬の頭を撫でていた。

 

因みにその精霊の見た目は全身の基本色はライトブラウンで、額にまろまゆみたいなのが自然に生えていて、それまた可愛い。

尻尾は中ぐらいの長さで耳は立っている。

なんかこう見ると精霊って言うより本当に犬を飼っているみたいで面白い。

 

 

 

「あなた、リーシャが帰ってきたわよ。あと一緒に友人も来たわ」

と明るい声でお母さんがいった。

 

すると犬(※注意:精霊です)の頭から手を離すと半身だけこちらに顔を向けてきた。

「ほほう、外に何事もなく出れたんだな。それはなによりだ。その2人が友人かな?」

 

「うん、色々あったけど、大丈夫だったよー」

と言ってから加えて「うん、友達だよ」といった。

 

「ああ、なるほど。僕はダレン・フェルマーっていってこの子は土の精霊のアルスって言うんだ」

 

「よくこの人はダレン?とかっていじくられてるんだけどね」

 

「あはは、そうだね。でもそんなこと言ったら自己紹介しきれないじゃないか」

と言いながら笑うお父さん。

うん、やっぱりこうなるのね。

 

 

「そ、そうか…。とりあえず、俺は幸野悠希っていう。こっちは及川誠也だよ」

 

「宜しくな、ダレン。なかなかに可愛い犬だな」

 

そう誠也さんが言うと困ったように笑った。

おぉ…お父さんの困り顔、初めて見たわ。

 

 

「ああ、そうそう。私、そろそろだからってあれを持っていきたいんだけど、なにならいいの?」

 

「あー、それはだな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父さんと私が準備している間、悠希と誠也さんにはお母さんと話をしてもらった。

 

準備を終わらせ、下に降りたときに何故か悠希と誠也さんが驚いたような顔をしていた。

一体どんな話をしていたのやら…。あとで聞くかな?

 

「2人共、お待たせ。準備が終わったから出るんだけどいい?」

 

「はいよ。この村にはもう一度戻ってくるのか?」

 

「うん、そのつもりだよ」

 

「なら、誠也。荷物置かせてもらおうか」

 

「そうだな」

 

と話しているとお父さんが近づいて

「なら、リビングにおいておくといい。僕とアルスとで見ておくから問題はないだろう?」

といってくれた。

 

「あ、なら…言葉に甘えさせてもらうことにします」

 

「いいよいいよ、構わないって。気軽に見れた方がいいだろうしね」

 

「そ、そういうものなのかね……」

 

お父さんにそう言われた悠希が曖昧な笑みを浮かべた。

気軽に見れるようなもんじゃないと思うけど…。いいのかなぁ。

 

「どうなんだろうね。それで、行ける?」

 

「俺は行けるよ。誠也は?」

 

「いつでも大丈夫だ、問題ない」

と得意げに言ったが、つっこみがされないことが分かると「……相手にしないのはよくないぞ?」なんて寂しそうに呟いていた。

あれでボケたつもりだったのだろうか。

 

「ちょっとあるところにいってくるね」

 

「分かったわ。ところで悠希くんと誠也くんは夕食の予定とかどうしてるのかしら」

と首をかしげて聞くお母さん。身長が私より高いとはいえ、その外見…本当ややっこしいね。

 

「食べる場所はまだ…だったね」

 

「そうだな。ならあとで決め――」

「ここで食べていくといいわ」

とお母さんが誠也さんがそういうのを遮っていった。

 

「い、いいのなら…」

 

「アニスがそういうんだ。大丈夫だよ。安心して行っておいで。リーシャもね」

 

「分かったー。んじゃ、行こうか」

 

「「ああ」」

 

そうはなし終えると、私達はある場所へ向かうために私の家を出た。



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第25話 エルフは精霊と共に

短めな本編ですが、ごゆっくり適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

そのある場所は家からそれなりに歩いた場所にある。

そこは少しだけ木々で隠れているものの、小さな池のような湖沼(こしょう)がある。

 

水は澄んでいて、底まで見える。

若い精霊もたくさんいるのか、小さな人の形をした淡い光がたくさん見える。

 

「悪いけどさ、終わるまで木々とか草に隠れてもらっててもいいかな」

 

と小声で2人に伝える。

どうしてもこれは真面目にやらないといけないらしいし。

なにせ町で一番ふざけていると評判だった男でさえ精霊との契約は真面目に行ったらしいから。

 

「はいよ、分かった。隠れていればいいんだね?」

 

「うん。悪いね」

 

「仕方ないさ。俺達は承知の上で来てるんだから。な?誠也」

 

そう言われた誠也さんは一瞬「えっ?」って顔をしたけど、すぐに納得したような顔で頷いた。

 

「そ、そうだな。リーシャさんの近くじゃ失敗しかねないもんな」

 

ひきつったような笑みを浮かべながら言う誠也さんを見てつい、笑ってしまった。

なにせ近くで見ようとしたのが分かるぐらい動揺してるんだもの。

 

「な、なんだよ。俺だってそりゃ近くでじっくり見たいわ」

 

「ごめんね?でも、隠れてみてね。結構、大事だから」

 

そう言ってから小さめな湖沼(こしょう)の近くへ。

向かっている最中、一度止まって半身だけ振り返ると手短な木々に隠れているところだった。

まあ、近いけど木々でなんとかなるかな。

 

再度近づき直し……うん、じゃあ、やるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

リーシャが湖沼(こしょう)に近づいてからしばらくするとその周りにさっきまで見えなかった淡い光が見え出した。

 

小声で話す分には多分あっちには聞こえないよね。

…まあ、少し離れてるから聞こえるか分からないけど。

 

「あれ、綺麗だな」

 

「……え?」

 

「ほら、あれ…綺麗じゃないか?」

 

「あ、ああー…。そうだな、綺麗だ。凄く、な」

 

二度目で聞こえたらしい、誠也がそう返してきた。

あの本に出てきた絵、そっくりだな。

あれで精神体か…。言葉さえ分かれば話せるとかもはや対話だね。

 

 

「精霊としか対話できないもんなのかな」

 

「さすがに無理だろ。むしろ精霊以外に精神体の種族っていたか?」

 

「ど、どうなんだろうな…」

とぼそぼそ話しているうちにかなり進んでいた。

というか話に夢中になりすぎたかな?

 

 

 

 

 

少しするとリーシャから淡い人形(ひとがた)の光が一つを残してゆっくり離れていく。

終わった、と言われる前についリーシャのそばに寄る。

 

「…綺麗だね、それ」

 

「契約したばかりだからこの見た目だけどね」

そういって困ったように小さく微笑む。

もう別人じゃないかってレベルまできているような気がする。

 

本当、碧喜(たまき)だったとは思えないほど色々と成長したというか…変わったというか…。

でも、この世界でも…もう一度仲良くなって付き合いたい。

 

そう思ってリーシャを見ていたら背後から

「もういいのか?」

という声が。

振り返ると誠也が俺と同じように木から出たところだった。

 

「うん、もういいよ。契約の儀式はちゃんと終わらせたからね」

 

「へえ、そうなのか。因みに精霊って契約したら名前とかつけるのか?」

 

「うん、つけるよ。もちろんネーミングセンスが問われるけどね」

 

なんて話し合っている。

へえ、ネーミングセンスか。

 

 

「それで、リーシャはなんて名前をつけたの?」

 

「ああ、名前はね…ソル、だよ」

 

そうリーシャが言うと淡い人形(ひとがた)の光がリーシャの周りがぐるりと一周した。

 

「ソル、か。覚えやすいし、いい名前だね」

 

「前もって考えてたからね。変な名前にはならないはずだけど」

と胸を張るリーシャ。あんまりないように見え……本人に失礼か。

 

「あ、一旦家に帰るよ。話は歩きながらでもいいかな」

 

そう言われ、俺は誠也と一度目を合わせ、頷く。

 

「はいよ、分かった」

 

「つくまでに話が終わらなかったりしてな」

 

「そんなことないと…思うよ?」

 

そういったリーシャは複雑そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからしばらく歩きながら話をしたんだけど、ほとんど精霊の話だった。

リーシャはどこからその知識を得たのだろうか…。

まあ、十中八九両親だろうな。

でもリーシャの父親のしか見えなかったな…。リーシャの母親のはどうしたんだろうか。

 

そんな疑問は聞かないでおくことにしたけど。

 

 

 

 

少しかそれなりに歩いただろう。村の中心地についた。

「さてと。どうする?この村のこと、案内してあげてもいいんだけど…」

そういって振り返ってきた。

 

「俺はリーシャが平気なら…かな?」

「興味はあるが、その…いいのか?」

とそれぞれ返した。

 

「私は平気だし、そもそも…」

といって周りを見渡すリーシャ。

それにならって俺達も同じように見渡してみた。

 

そういえば…好奇の視線とかそういうのが向けられてもおかしくないというのに、誰もそういう視線を俺や誠也に向けていない。

むしろ俺達とかがいてもそれが普通だと言わんばかりに…。

 

 

「視線の話、だったのか?」

 

「うーん、半分だけ違うかな。まあ、忘れたしそれでいいか。まあ、とりあえず案内はするね。ついてきて」

 

そういうと淡い光と共に先に歩いてゆくリーシャ。

精霊……か。俺もそういうのじゃなくてもいいから他にも仲間いたら賑やかになるんだろうな…。

 

そう考えていたら

「おーい、悠希。ボケーッとしてたら置いてかれるぞー?」

と声をかけられた。

 

「あ、ああ…そうだね。行くよ」

そういって誠也と一緒にリーシャのあとを歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村には病院こそはなかったものの、似たものがあった。

光の精霊と契約した人が働いているらしいが、リーシャ曰く他の精霊を連れた人もいるらしい。それって精霊=精神的癒しというような扱いをしているようなものだけど……まあいいか。

 

村、という割には広く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーシャの家に入るなり、リーシャは両親にもみくちゃにされていた。

 

「…精霊とまだ一緒になっただけなのに」

 

「1回目からその子なんて凄いと言っているんだ。いくら他の子供たちと同じように精霊と遊んだことがあるとはいえ…ね」

 

「お父さんがそういうぐらいなのよ。だからそこは素直に喜んでも良いのよ?」

 

そう言われているリーシャは本当に困ったような顔をしている。

 

「どうする?あれ。俺は放っておいても大丈夫だと思っているんだけど」

 

「そうだな。じゃあ、見ておくとするか」

 

「そうだね」

と小声で話し合う俺達。

そのあとに食べた夕食は豪華(ごうか)に見えた。



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第26話 覚えがはやい精霊と二度目の依頼

ゆっくりやっていたら大分時間がたつものですね、篠崎です。

どなたでも適当でも読んでもらえれば嬉しいです。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

もみくちゃにされた後、2人を自室に案内して荷物の場所を教えた。

 

「日本語…ですか?それって人語のこと、ですよね。私はそう聞きましたけど、やっぱり覚えるべきなんですか?」

 

「うん。出来れば、ね。でも覚えたらそこにいる私の知り合いとかと普通に話せるようになるよ?…少ないメリットだけど、悪くはないと思う。どうかな」

 

そういってカードとかその他を見たりする2人を背後から見る私達。ちょっと不審者かな?

 

「……そこまでリーシャさんが言うのなら覚えてみます。直接話せた方がすぐに聞けて私も楽になりそうですからね」

 

「それはどうも」

 

そう話していると荷物を確認したらしい2人が近づいてきた。

「なんかこれさ…俺達が泊まること前提になってないかな?」

 

「え?そうなの?どれどれ…」

とわざとらしく言って(ここ重要)から部屋を見る。

いつもの部屋と違って布団が二つほど増えているのと悠希達の荷物があるぐらいかな?

それ以上に問題はないはずなんだけどなー…と考えながら首をかしげる。

 

 

いや、分かってるんだけどね。

布団が二つあるのは、悠希と誠也さんが泊まること前提になっているからこそなんだと。

 

「困っちゃうね」

 

「リーシャさんや他の皆さんの人となりも分からないのでまだなにも言えませんよ」

 

「…そ、そうだったね」

 

「いや、別の言語使うのなしにしてもらえないかな。俺達が分からない。…因みに布団は誰が用意したの?」

 

そう言いながら悠希が私のベッドの横に()かれた布団二枚を指差す。

あのしっかり敷いたようで少しシワができている敷き方は…お母さんだな。

お父さんはむしろ少し距離をおいておかない。

 

分かりやすいね。

 

「ああ、多分あれはお母さんかな。……ってあ。な、なにもきいてないよ!?多分家に泊めるつもりなんだろうなぁとは思ったけど!」

 

 

「……素直な奴だな、リーシャさんって」

 

「素直で悪いことはあんまりないぞ?…そうだね、聞いてないなら仕方ない。泊まらせてもらうことにするよ。誠也は?」

 

「そうだな。まだ悠希の部屋より広いから泊まるのによさそうだ」

と誠也さんが口角を片側だけつり上げながらいうと悠希がなんか怒っていた。

 

十分あれでも広いと思うんだけどな。

そう思っていると横に浮遊しているソルが楽しそうに笑っていた。

見ていて微笑ましかったのかな。

 

 

 

 

その後、流れ的に泊まることになった悠希と誠也さんは夕食も食べることに。

食卓に精霊がいることに驚いていたけど、そんなに驚くことかな?

 

 

 

 

町が元通りになるまでのしばらくの間、飛行船を使って私の住む村と悠希達の住む町とを行き来していた。

そんなある日、いつものように歩いて冒険者ギルドへ向かおうとしていた時、大分復興した町の一角にある看板がおいてあったのを偶然見かけた。

 

そこには

『冒険者ギルドの支店も発足(ほっそく)いたしました。そちらでも本店同様ご利用ください』

と書かれていた。

 

な、なんかチェーン店みたいな看板だね。

誰が書いたのやら…。凄く分かりやすいからいいんだけどさ。

 

 

 

因みに今、資金稼ぎのために冒険者ギルド(町の支店)へきている。

前より依頼が増えた気がする…。

 

「なんか増えたな。これが時間の経過というやつなのか」

 

と依頼書が張られた掲示板を見ながら誠也さんが呟いた。

 

「そればっかりはどうしようもないね。その分危険になった、というわけだろうし」

 

「大丈夫ですよ、皆さん。私とリーシャがいればどうにかなります」

 

「あー、そうだね。精霊使いがいるのといないんとじゃかなり違うしね」

 

そう言って悠希とソルが私を見る。

うん、精霊使いだからって万能じゃないんだぞ?

 

「そうでもないんだけどな…。んで、どれにするの?」

と言いつつ淡い光を放つソルを横目で見つめる。

日本語によく似た人語を覚えたのもあるのか、どこか姿が変わるような(きざ)しがある。

最初だから大して変わらないだろうけどね。

 

 

 

「んじゃあー…これとかはどうかな」

そう言って渡してきたのはミミック退治依頼。

前に受けた巨大蜘蛛退治より何故か高い。その上、何枚もある。

だというのに今とったのはあまり触られなかったらしくシワのない綺麗な紙(他の依頼書はものによってはシワができたりしている)。

 

なんだか嫌な予感がする…。

そう思ったけど、誠也さんはもう頷いていた。

 

「おっ、いいんじゃないか?ミミックっていうほどだし、よっぽどのことがなければ死なないだろ」

 

「死んだら元も子もないと思うんですけどね。そこのところ、どう思いますか?」

 

「ぐっ…そ、それを言ったらなんも言えないんだが」

 

「駄目な人なんですか?あなたは。リーシャさんもなにか言ってくださいよ」

 

 

えっ、いきなり私に振るか!?

こ、この場合は…

 

「そ、そうだよ!勇気と無謀は違うんだって親かそれ以外の人に言われなかったの!?」

 

と流れのまま、そう言う。

私も私で元も子もないなーとは思ったけど、気にしないことに。

 

誠也さんは気まずそうに黙ったけど、悠希は呆れた様子だった。

「誠也も色々と無理してたしなー。怪我だってたくさんしてたしなー。そこのところもどうなのかな?」

 

あ、自爆したな。

誠也さん”も”なんて自分もそうみたいに言うってことは何回か病院…だったかな。そこのお世話になってるな?

そうやって思いながら半目で見つめる。

 

「と、とにかく受けようか!話はそれからだよ!」

 

そういうと手にしている依頼書を左側のカウンターへ早足で持っていった。

あれはあれで話をそらそうとしたんだなー。

 

 

仕方ないか。

「…準備、しておこうか」

 

「そうだな」

 

そう会話していると精霊であるソルは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季(ゆうき)視点

 

ミミック退治依頼を受けた後、安全とされたダンジョンの中に入っていた俺達。

なんともまあ、安全とは言えないダンジョンだけど。

 

確か存在する難易度は安全、普通、注意、危険だったか。

その中で一番下と言うのにそれなりに強いモンスターがそれなりにいる。

 

まあ、魔王とやらの封印が解けた現状じゃそれでいい評価…なのだろうか?

 

「考えるのは良いけど、ぼさっとしてると今みたいに不意打ちうけるよ?」

 

「うけますよー」

 

そう言ったのはリーシャと精霊のソル。

その2人の視線の先を追ってみるとスライムゼリーと布片や木片が見えた。

 

「前のことを思い出してただけだよ。いやぁ、久しぶりにあれしたいなーと」

 

「村にゲームなんてものはなかったけどね。っていうかそれよりミミック探し、でしょ?」

 

「よく誠也もソルもいるのにその単語を平然と出せるね…。それはいいとしてそのミミックまだ見つからないね。宝箱の1つもないし」

 

そういうとソルだけが首をかしげた。

 

「ゲームについてはさっぱりだけど、宝箱云々(うんぬん)に関してはなんとも言えないな。見つかるのはモンスターばかり…。俺達以上にリーシャがモンスターとの戦闘経験があって凄く助かっているよ。あと悠希にもな」

 

そう言われ、抜いたままの剣を手にしたまま誠也を見る。

どういうこった。俺は独学で木刀をふったりとか水鉄砲をカスタムしようとして失敗するとか…あ、これリーシャと出会う前だ。

 

 

「そんなことはないよ。俺は独学で軽く鍛えたにすぎないからね…」

 

大した理由とかそういうのはないんだけどね。

でも、親しい人を守れる力にはなったしよかったと思っているけど。

 

 

「…ねぇ、あそこのあれ…なにかな?お宝?」

突然そう言うリーシャ。

俺と誠也は思わずリーシャを見るとある方向を指差していた。

因みにソルも不思議そうにリーシャを見ている。

 

んで、気になると言うことでそっちを見ると今まで見つからなかった宝箱が見えた。

木製っぽそうだけど、色がついてて分かりづらい。

 

「あれはなんだろうね?ようやくって言ったところだけど…」

 

「怪しいですよー?大分」

 

とソルが言うがリーシャや誠也、俺も興味がつきない。

3人で顔を見つめあわせると頷き―――そこへ近付いた。



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第27話 女性の天敵もいるもんだね

今回、誰かがひどい目にあわされる!!


なんてふざけてみたくなった、篠崎です。
全年齢対象を目指したらこんなことになりました。

そんなぐだぐだでも平気な方は下からが本編ですので、適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季視点

 

宝箱に近付いた俺達は(ソルは少し離れている)それをどうするか話し合うことにした。

 

「……ところでどう確認しよっか。魔法とかで壊す方法もあるけど、本物だったら中身が駄目になるし、悩み所だね」

 

「そこなんだよなー…。本物かミミックの見分け方なんてまだ分からないみたいだし」

 

「だからと言ってなにもしないわけにはいかないんじゃないかな?…そうなると必然的に開けるわけになるんだけど、誰が開ける?」

そう言って3人を見やる。

 

どうなるんだかわからない以上不用意に手を出したくはない。

出来れば誠也に開けてもらえれば面白そうだなーと思った。

ちょっと卑怯だろうけど。

 

 

「んじゃ、全員でまずは近付いてみようか。そこから1人が開ける動作をしてみるとか…」

 

「そんなんで分かるんだったら苦労なんてしなさそうだけどね。分かった。もう少し近付いてみようか。ソルは万が一に備えて離れたところから見てくれないか?」

 

「なんとかなりますよ、きっと。ね、リーシャさん」

 

急に話題を振られたリーシャは驚いた表情をしてから微妙な顔をしながら何度も頷いた。

なにかでも考えていたのかな?やけにボーッとしていたし。

 

 

ということでソルは少し後ろに下がり、俺達は1歩進んで手を伸ばせば箱を開けることが出来る距離まで近付いた。

 

どうやら近付いただけではやっぱり駄目なようでミミックなのかそうでないのか分からない、という結果に。

 

俺は半身を少し右横に向けて

「やっぱり誰か開けないと――」

いけないんじゃないか?と言おうとした。

その時だったか。リーシャが突然消えた。

 

 

「…はっ?」

「お、おお…?」

とそれぞれが驚いたように呟く。

消えた。目の前からいきなり。

魔法にテレポートなんてあったか?

いや、多分ないだろうな。

あったとしてもリーシャがなんの理由もなしに使って姿を消すなんてことはないと信じたい。

 

 

「…魔法、か?その割には詠唱すら聞こえなかったが。どうなんだろうな」

 

「それを俺に聞かれても分からないんだよね。ソルは?」

 

 

そう聞くために半身だけ振り返る。

誠也も同じように振り返ってるのが少し見えた。

 

 

「……その中に入れられてましたよ。なにか赤く長いものに」

と腕のようなもので俺達の背後にあるものを指差した。

 

2人そろってその指している方を見る。

そこにあったのは宝箱。

それ以外で目立つものや地形をいうんだとすれば左に小さめな部屋、目の前には少しくぼみができるように作られた壁に宝箱から少しはみ出てるなにかの白いすそぐらいかな。

 

 

「なあ、あのすそってスカートみたいじゃないか?しかも似たようなのを着てた奴いたよな」

 

「…着てた、というかその服だよね。リーシャ以外に女の人は来てないはずなんだけど。性別不明は置いておくとして」

 

後ろから「性別不明じゃないですよ。元から性別はありませんっ」なんて言われたけど、あえて気にしないことに。

 

 

 

「じゃあ、リーシャさんって…」

 

「十中八九あの中だろうね」

と俺が言うと誠也が「うわぁ…」と呟いた。

 

にしても違和感がある。俺達が近付いて反応されたのはリーシャのみ。

俺と誠也には見向きもせず、性別があるかどうかよく分からないソルに対しても無視を決めている。

 

…まさか女食いのミミック?

そう思っているとペッと吐き出す音がした。

思わずその方を見る俺と誠也。

 

 

そこにはさっきまで着ていた服のほとんどが溶け、下着も最早ないに近い状態になってしまったリーシャが。

「いや、ちょっ、おま!?」

 

焦ったように声をあらげたのは誠也。そりゃそうなるわな。

ほぼ一糸纏(いっしまと)わぬ姿に近いのだし。

俺?俺は友人から知り合いまでたくさんいたし、よく小さい子を風呂に入れる手伝いとかをしていたもんだから裸は慣れている。

 

…ああ、それは今から少し前の話だけどね。

 

でも、暑いのに上着を着る必要はないし、慣れているとはいえ、変に女性の体を見るわけにはいかないし…と誠也の方をチラッと横目で見た。

どうやら誠也も同じらしい。

頬が赤いのを見る限りそういう耐性はないらしい。

 

どうやって隠そうか…。

そのことを考えているとリーシャが俺達に背を向け立ち上がった。

 

 

 

 

 

「……へぇ、いい覚悟だねぇ。ミミックゥ…」

と低い声でいうのを聞いた。

 

その方を見ると周囲にそれなりに大きな火の塊をいくつも浮かせていた。

しかも、やる気満々らしく独自の構え方をしている。

 

 

こ、この場合は…リーシャに同情すればいいのか、はたまたこうしたミミックに同情すればいいのか。

……横にいる顔を真っ赤にした誠也の目を塞ぐなりパーで頬をひっ叩いてやればいいのか。

 

 

「とりあえずー…これ、食らってみよっか」

そう言ってその浮かせてあるものを正面から真っ直ぐのものと弧を描くようなもの、という二種類の方法で飛ばしていた。

 

ミミック自身にはその魔法を回避するための手段がなかったらしく、閉じたまま動かなかった。

 

 

 

…因みに関係ないけどリーシャが着ていた服は駄目になったとさ。

その後は宝箱を見つけるなり、ミミックかどうかを確かめる前に回し蹴りをしたり地属性らしき魔法の中ぐらいの石をぶつけたり…などのことをリーシャがした為、中身が駄目になった宝箱がいくつが出てしまった。

 

 

 

 

そんなんで進んでいると一番奥についた。

更に最奥にある大きめなフロアには上半身が人間の女性、下半身が蜘蛛というモンスターがいた。

 

扉とかは存在しなかったけど…いつの間に奥まで来たんだろう。

そんなつもりはなかったんだけどなー…と思っていると先にリーシャが中に入って魔法を唱えるなり放ち始めた。

ソルに至っては詠唱するのは一緒だけど、リーシャに向かって使っている。

大丈夫なのか?あれ。

 

「悠希さん、誠也さん。多分さほど強くないと思うので、どちらか片方にリーシャさんより前で戦って援護をしてほしいのですが…大丈夫そうですか?出来れば裸を見ても反応されなかった方に来ていただきたいのですが…」

 

 

「わ、分かったよ。どうしてこうなったって感じが強いけど俺が手伝う。誠也は…鼻血出すかもしれんから後ろにいた方がいい。変態扱い受けるかもしれんから危ないし」

 

そういうと誠也が不満げな表情を浮かべる。

しょうがないだろう、こればっかりは。

なにせ実際不可抗力とはいえ、俺の知り合いのパンツを見てしまい鼻血を出し変態扱いを受けてしまっているから。

一応広めないように、とは言ってあるんだけどね…?

 

「分かったよ。ソルもそれで平気か?」

 

「はい。むしろ助かります。多分早く終わらせてあげた方がこれ以上の恥ずかしい思いをさせずにすむと思うので…」

 

俺はそれに対して「そっか」とだけ返すと剣を構えて前に出た。

その時、背後から金属音がした。多分鞘にでもいれたんだろうな。

 

 

 

案外、倒すのには苦労した。

放たれた魔法や剣を跳ねて回避したり、糸を飛ばして動きを鈍くしてこようとしてきたから。

まあ、これが普通なんだろうけどね。

 

途中誠也が入ってきてリーシャの方をなるべく見ないようにしながら応戦してくれたのでどうにかなった。

 

 

そのモンスターが落としたのは蜘蛛の糸数個と紙切れ3枚。

 

「悪いけど、ちょっと奥の宝箱見てくる。落としたものは悠希達で見てくれる?」

 

「分かったよ…。でも拾うだけ拾ったら全員で開けるとかそっちの方がはやいと思うけど、どうかな?」

 

そういうリーシャにそう返すと悩むような仕草を少ししてから頷いてきた。

 

「んじゃあ、そうしようか。誠也は…ま、まあ気合いだね。頑張れ」

 

「えっ、ちょ、悠希!?そりゃないぜー。っていうかどう開けるんだ?最後の宝箱って」

 

「……」

その言葉にパッとすぐに動いたのはリーシャ。

そういう時の行動は早いんだなと関心したけど、そんなことしてる場合じゃない気がした。

 

 

「鍵が3つあったよー。宝箱も3つあったー。あとで2人の分渡すから開けても大丈夫?」

 

「俺は大丈夫だよ。と、いうかクリアするつもりはなかったんだけどな……どうしてこうなった」

 

「仕方ないな。これはミミックとの確認の仕方を危機も調べもしなかった俺達にも責任があるな。特に俺だろうけど。あ、構わないぞー」

 

「もう終わったことだから仕方ないね。…それよか違和感を感じたって言うべきだったかな」

 

「お前なー!気づいてたんなら言ってくれよー!確かに報酬金とか貰える物ばっか気にした俺も悪いけどさー!」

 

 

気にしてたんかい。

それで受けたのか…。

まあ、過去の事だしうだうだ言っても終わらないけど。

 

「んまぁ、お互い…ドンマイって話だね」

 

「ああ…そうだな…」

 

という話の後、リーシャは素朴なものの、半袖Tシャツとスカートが繋がったようなワンピースを手に入れて着ていた。

全部開けてしまったらしいが、俺達の分を手渡してくれた。

 

大した物ではなかったけど、それなりに良いものを入手した気がする。

俺は半月に一ヶ所だけ穴が開いたものと木の板。

誠也は木の板と何故か本。

 

本なんてどうやって…と思ったけど気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

町に戻った俺達はすぐ冒険者ギルドへ向かった。

 

支店のせいかやや狭めだが、この際気にすることじゃない。

問題はいくらになるか、だけど…。

 

「おかえりなさい、皆様。依頼の方はどうですか?」

と受付の人に聞かれ、依頼書と人数分の紙切れを無言で出した。

資金にでも困らない限り二度と受けるまい、と心に決めながら。

 

「アラクネも倒してくれたんですね。でしたら、その分上乗せしておきます」

 

うん、アラクネ?

そんなのいたっけか。

 

「アラクネって…モンスターのこと?」

 

「はい、そうですよ。見た目は…そうですね、上が人で下が蜘蛛です。ミミックと違い、そこまでの個体ではないようなんですが、女性に目がないようです。特に露出の有無に関係なく可愛らしい人なら優先的に狙ってくる厄介なモンスターです。良いモンスターでもあるようですが、前例はありませんね…」

 

そう、受付の人が言うとリーシャが固まった。

と言うかマジで?

 

「…ミミックは女性の服、アラクネは可愛い女性に…。強くなると更に厄介になるのはどっち…とか情報はあるの?」

試しにそう聞いてみた。

 

いや、あっても困るんだけどさ。

知っても得するような話じゃないし、聞くようなことでもない気がする。

 

 

「噂の範囲を出ませんがあることにはありますよ」

 

「お、おおー……そ、そうなんだ。どうもありがとう…」

 

気まずさのあまり、ためらいがちに言ってしまった。

まさか噂とはいえあるとは思ってもみなかったし。

 

「……確認しても良いけど、資金に困った時だけね。…あと人数によって考えるけど…」

 

そう呟いたのはリーシャ。

い、いいのか。そういうのだったら。

多分この人数ならまず資金は尽きないだろうな。

でもちょっとやりづらいな…。そのうちどうにかするか。

 

「…とにかく情報ありがとう。依頼掲示板の前にもう一回行ってからここ離れようか」

 

「それには賛成だな。でも、リーシャさんに悪いから一着服買ってやりたいし衣服屋寄ってもいいか?」

 

「はいよ、分かった。リーシャもそれで大丈夫?」

 

そう聞くと頷いて

「別に問題ない。服の方は選ばせてもらうね」

と言って精霊のソルの方を見る。

どんな反応をしたのか淡い光のそれに見えて分かりづらかったけど、肩にとまったのを見て多分そこにいたくなっただけなんだろう。

 

受付から離れてすぐ近くにある依頼掲示板へ歩み寄った。

他にあと一つぐらいは受けても平気そうだったしね。

まあ、登録してるんだし明日に回しても大丈夫みたいなんだけど。

いいか、別に。

資金源はあっても困らないから。



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第28話 長は複数いる

知り合いから進めてもらった小説や他の方の小説が面白すぎてなかなか自分のに手がいかなかった篠崎です。

ですが、このような小説でも少しでも見てくれる方がいるので凄く嬉しいです。
本当にありがとうございます。

色々とグダグダな小説かもしれませんが、今後も適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――優季視点

 

「…巨大蜘蛛は女性大好き、ミミックは変態…。ここにまともな依頼はないの?」

 

依頼掲示板の前に立つなりこうぼやいたのはリーシャ。

そりゃそうだろう。

2つしかまだ依頼を受けてないのにどっちもそんな変わった依頼なのだから。

 

「…そうだね。普通なの探そうか。誠也、協力してくれるよね?」

 

「そ、そうだな。いい加減普通に達成できる依頼を受けたいしなっ」

 

「それだったら明日に回せそうなのがいいんじゃないですか?そうですね…こういうのとかどうですか?」

とソルが言うと身長があれば届く範囲の依頼書をとってきた。

(因みにソル以外のでかい順は年齢を含めて誠也、俺、リーシャ。ついでに言っておくと、誠也は俺より少し年上)

 

 

その依頼書…というかその紙の内容はこう記されていた。

『洋館調査』

 

 

「…明日に回せる依頼、なのかな?これ」

率直に思ったことを言った。

それしか思いつかなかったってのもあるけど。

 

「大丈夫でしょ。心配なら、聞いてこようか?」

というと未だ浮いて依頼書を持つソルに手を差し出した。

 

「い、いいや、別に。受けるときに聞いてくる」

 

そう言われて不思議そうに首をかしげるリーシャ。

そんなに疑問を抱くようなもんじゃないから気にしないでくれると嬉しいかな…。

そう思ったけど、試しに黙っててみることにした。

 

なんか呆れたような目線を誠也の方から向けられたような気がするけど多分考えすぎだと思う。

 

 

 

 

受ける時、明日に回したいことを伝えたらあっさりとOKを出されてしまった。

そんなあっさりと出してしまっていいものだろうか。

 

『もし受けたっきりだったらどうするんですか』、なんて聞いてみたら『そう聞かれる時点でしないと思いますよ』と笑顔で返された。

 

因みにそのことをリーシャ達に伝えたらソルを除く2人に笑われた。

酷いんじゃないかな?

 

 

 

それから依頼書を折りたたんでから俺の懐に入れ、冒険者ギルドの外へ出た。

視界の隅に入った空の感じからして多分もうすぐで夕方になるんじゃないかな。

いやぁ、暑かったのが涼しく……ってなんか一つ忘れてないか?

 

そう、それは…

 

「そういやあと少しで夕方だけど…ソルの方は大丈夫なのか?」

 

「あー、ソル?大丈夫もなにも…」

 

「ここにいますよ。ここ。リーシャさんが森などによく出されていて助かりました」

と話しているのでリーシャをよく見てみると頭に人形(ひとがた)の淡い光があった。

 

「森とバランス感覚に関係性は……いいか。でもちょっと歩きづらいから本音で言えば降りてほしいかなー…なんて。出来れば座ってる時とかにしてほしいかな?」

 

「あれ、それってそういう時はやっていいという風に聞こえますよ」

 

「そのつもりだよ。その方がまだバランスがとりやすいしね」

 

「なるほど…そうなんですね」

 

 

…人間も動物判定できるんだとすれば、もうすでにソルの見た目は小動物だぞ?

と言いたかったけど、これが分かるのリーシャぐらいだな。

っていうか人族が人間以外もいるし、それ以前にここは異世界だ。

 

そんなネタを今、言えるのだろうか…。

 

 

 

「そういう話をここでするのはいいけどさ、外に出て夕食でも…どうだ?そろそろ行っておかないと都市ほどじゃないが、混んで並ぶぞ?」

 

「おっと、そうだね。リーシャ、行こうか」

 

「うん、そうだね」

 

そう話して外に出る俺達。

「あっ、だからといって置いていくのはあんまりですよー!」

という声が後ろから聞こえたが、リーシャが頭から下ろしたんだろうなと思い気にせず飲食店に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくした後、夕食を食べ満足した俺は自分達の家にでも帰ろうかー…と考えたので、リーシャと誠也に伝えた。

 

まあ、伝えたまではよかったんだけどね?

リーシャがなにか言いたそうにしているのを見て誠也が不思議そうな顔をしたんだけど、なにを言い出すつもりなのかな?

 

「私の家に泊まらない?森の中だし、凄く疲れもとれやすいと思うの。それに飛行船ならはやいよ?」

 

「い、いいのか…?一応俺達、野郎だから狼だぞ?」

 

と提案してきたリーシャに誠也がいった。

俺もまさに考えたことだが…俺達、ちゃんと男として見てもらえてるのかな…。

不安になるぞ、うん。

 

「ん?多分大丈夫でしょ。なにかあったら寝ててもソルが先に気づいて私を起こすし」

 

いや、そういう問題じゃ――

 

「……リーシャ、どうやらそういう問題じゃないみたいですよ。そう、悠希さんの顔に書いてあります」

 

「書いてないから!」

 

半ば叫ぶようにいうとリーシャが笑った。

今のやり取りが面白かったのかな。

 

 

「まあ、とにかく。泊まるか泊まらないかはお任せするよ。でも泊まって寝たら疲れは大分とれると思うんだけどな。どう思う?」

 

 

まあ、否定はできない。

何回か泊まってみた感想は疲れなんて吹き飛ぶ、だったから。

まさかエルフの村とかで寝るのがあんなにも楽だとは思ってもみなかったが。

 

 

「いいんじゃないか?ハッキリ言って色々と大変だが、背に腹は変えられんだろ」

 

「お前が言うとしっくり来るね。…まあ、そうだね」

 

「んじゃあ……?」

と言って首をかしげるリーシャ。

 

「分かったよ、親に一言いうからそれぞれの家に一回寄らせてもらってもいいかな?」

 

「あー、全然構わないよ。むしろ気にしないで。言っておいた方がいいだろうから」

 

本当は言わなくてもいいんだけどな…と思ったけど、言った手前、行かないでおくとそれまた不思議がられるんだろうなーと。

 

それぞれの家に行って親に聞いてみたら、俺の親も誠也の親もちゃんと帰ってきてくれればいいと言ってきた。

心配すらしないのか…と思ったけど、どうやら完全にしてない訳じゃないらしく、どうも素直に言ってこないだけだったようで。

誠也の親はもう顔に出てたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーシャの言葉に甘え、俺と誠也だけが飛行船の乗船料金を支払った。

因みに俺は無理を言ってリーシャの分を払った。

どうやら今世では払ってもらうことがあんまりなかったらしい。

 

まあ、それは別にいいけど。

 

 

「それにしても…道だけは暗くならないんだね」

 

「そりゃあね…。ただでさえ村が森の中にあるんだから暗くなるのも早いのにこういう街灯みたいなのをおかないわけにはいかないでしょ?ちょっと見た目は変わった形になっちゃうけど」

 

「そうみたいだね…」

 

「明かりがどうついてるのか気になるが…リーシャさんは知らない、か?」

 

「私はちょっとねー」

とはぐらかしている。

村へと続く道を歩きながらそう話す俺達。

 

っていうか、リーシャ…まさか知らない?

んー…あとでこっそり聞いてみるかな。

俺が聞くことを覚えていたら、だけど。

 

 

…それにしても街灯が独特な形をしているな。

植物みたいな…そう、それこそつたみたいなもの。

その先端は若干丸まっていて、ランタンみたいなものがそこにぶらさげられている。

 

 

「……お二方にとってそんなに珍しいですか?あれ、エルフの村長が村長になるときに作った代物みたいですよ」

 

「…っ!?…ってなんだ、ソルか。いきなり声をかけてくるからビックリしたじゃないか」

 

「いや、ソルはさっきからいたよね。リーシャのそばに。ちょっと思考しすぎじゃないかな?人のことあまり言えないけど」

そういうとなんか呆れたような視線を向けてきてる気がする。

失礼な。

俺も町や都市以外の街灯を見るのが初めてだっての知らないわけじゃないだろうに。

っていうか誠也は……ああ、驚きすぎて声が出なかったんだね。

 

「し、仕方ないじゃないか。初めて見たらそうなったりはしない?」

 

「あ、ああー…そりゃそうか。ごめんね、悠希と誠也さん」

納得したような顔でそういってくれた。

 

 

 

 

 

 

それから少し歩くと村が見えた。

夕方だからなのだろう、耳のとんがった人達が多く見受けられた。

前は余裕がなかったり、忙しかったりと見てなかったけど、耳が長かったりリーシャみたいにやや短い人達がいたりたれてたり…。

俺達の耳をとんがらせ、少し長くしたような人達もいることから、ハーフヒューマンも普通にいるらしい。

 

多分、俺達の存在に慣れた…もしくは俺がリーシャやそれ以外の人達と親しくなったからか?

…まあ、いいか。

まさか本当にいるとは思わなかったけどね。

迫害とかなんてないと思うが…もしかして、狙われやすいとか?そんな卑怯な手を使う奴…あ、いたか。

 

 

「おーい、思考に浸るのはいいけど、食べるところが一度でも混むと大変だよー?」

 

「あ、ああ。分かった。それは俺の胃的に困るし、食べなきゃこの世の中やっていけん」

 

「お、おおげさな…。でも、分からなくもない」

 

「……リーシャってエルフなのに人間寄りの思考なんだな。俺の気のせいかもしれんが」

 

と誠也が言うなりリーシャが曖昧な笑みを浮かべた。

おーい、無言は肯定なんて言われたらおしまいだぞー。

 

 

「あー…多分、町とか都市に興味があったからじゃないか?ほら、都市で初めて会った時からやけに言葉が通じたじゃないか。それって普通は出来ないと思うんだよね」

 

「観光客がよく行き来している場所はそうでなくとも話せてるみたいだけどな。そこはどういうんだ?悠希」

 

そう言うと俺をジッと見つめてくる。

どうしたものかと思ってリーシャを見るとなにか言いたそうな顔をしていた。

余計なこと話されてもなー…。

しょうがない、やるだけやるか。

 

 

「そりゃ―――」

 

この後、リーシャに日本語…もとい、人語が通じない穴場に連れていかれた。

めちゃくちゃ美味しかった。



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第29話 また依頼を受けたらこうなった

たまには横道にそれても……え?よくそれてるって?
はい、その通りですね…。

ですが、これはこれで意味がないわけではないので、宜しければ適当に読んでやってください。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


――碧喜(たまき)視点

 

一晩明かした次の日の朝。

私達は朝一の飛行船に乗って町へと出ていた。

洋館へ行くには道案内をしてもらった方がいいから。

そう提案してきたまではよかったんだけど…。

 

 

 

「どうしましょうか、リーシャさん達」

 

「と、言われても…知ってる人なんているのかな」

 

そう呟く私。

ソルも困ったような顔をしている。

するとカウンターに行っていた悠希が私達のそばにきた。

 

「どうだったの?」

 

「ああ、精霊による情報と依頼書の情報のおかげで多数ある洋館から特定ができたらしい」

 

「そうなんだ。…にしてもなんか探すのだけでも苦労するのって空いた洋館はいくつあるんだろうね…」

 

確かに…。

依頼書を見る限り、そこまであるように見えなかったんだけどなぁ。

最初に聞いた時はビックリしたし。

 

 

 

「ところで誠也さんは?仲間がどうの、出会いは酒場からだのと言ったきり戻ってこないけど。…こんな時間から開いてるわけがないと思うんだけど、どうかな」

 

「……」

 

「そ、そうだよね。誠也もなんであんなふざけたことを言うんだろうな。まだあいつも未成年なのに」

 

 

最初にソル、次に悠希がいった。

でも不思議なことにソルは気まずそうに、悠希は心なしか作り笑いを浮かべているような…気のせいかな。

 

うん、多分気のせい。

そう思っているとようやく待っていた人物がやって来た。

…私からすればそれなりに大きな人を連れて。

 

褐色のとても短い髪、黒色の瞳で尚且つ元気そうな澄んだ感じがする。

体つきもよく、夏だからなのか半袖に膝より少し上のハーフパンツといった動きやすそうな格好をしている。

この人…性別はどっちなんだろう。

 

「この人が案内してくれるんだとさ。酒場で見つけたからちょいと飲んでるかもしれん」

 

「そ、そんなに飲んでませんよ、失礼な。…まあ、こんな朝から飲むのもそりゃおかしな話ですが。……え、ええと、洋館に一緒に行ってくれる方ですか?」

 

そう話した人の声はそれなりに高かった。

頬がほのかに赤いのは…なんでだろう。

そんなまさかとは思うけどね。

 

「あー、うん。そうだよ。…ところでさっきはどこにいたの?会って早々の私が聞くようなことじゃないけど…平気なら聞いておきたいかなって」

 

 

失礼にあたるかな、と不安に思いながら聞いたせいか若干ソルが私の顔を見ているような気がする。

気がするだけで確認はしていないからそうしてるかどうかなんて分からないんだけど。

 

 

「……洋館に1人で行ったら怖い目にあったので。その怖さをまぎらわすために開いてた酒場で酒を飲んでたところですよ」

と言ってハハと笑ったけど、大分乾いて聞こえた。

 

 

だ、大丈夫なのかな…と不安に思った。

そこの人もあるけど、これから行くであろう洋館への不安も含め。

 

 

「敬語で話さなくても大丈夫だよ。あ、俺は幸野悠希って言う。んで、洋館は…そう遠い場所にあるわけじゃないんだよね?」

 

「あ、ああ…分かったよ。そうだね、そんな遠くじゃないね。むしろ馬車で近くまで行けるレベルさ。しかもまだその付近は安全だよ。因みに僕は松森祐菜(まつもりゆうな)って言うよ。これでもジャイアントさ」

 

「なるほど…。それなら大丈夫そうかな。え、そうなのか」

 

そう頷いていた悠希だったけど、ジャイアントと聞いて驚いていた。

…人間より大きいからそれ以外なんだろうなぁと思っていた私にとってはそこまで驚きじゃなかったけど。

 

嘘。かなり驚いた。

 

 

「なるほど。でも、俺達も準備しなくちゃだから悪いけどいいか?」

 

「あー、構わないよ。そればっかりは仕方ないからね。んじゃ、僕も用意するかな…。村の広場…って分かるかな?そこに借りた馬車でもつれてきておくから終わったら広場に来てもらえると嬉しい」

 

 

それにそれぞれ語尾はちがくとも分かったと返し、解散することに。

因みに私も名乗っておいた。

もう少し遅かったら名乗りそこねるところだったけど。

 

 

 

 

 

 

準備は軽く済ませた。

傷を治す飲み物ことポーションがあったから、それを数個。

ハーブは念のために同じく数個。

武器も一応、揃えた方がいいよねと言うことで、弓と矢筒。

それと誠也さんが持つことを前提に小さめな盾を買った。

 

矢はかなり安かったのでそれを多めに買った。

 

 

 

 

 

 

そこまでやって広場へ向かった。

…ついたとき、祐菜さんって人がやけに暗い顔をしていた。

なんて言うか酔いも覚めてそうだった。

 

「あれ、祐菜さん。準備は終わったの?」

 

「先にいるとは予想外だなー、びっくりだなー」

 

と声をかけると祐菜さんがビクリと体を震わせてから顔をあげた。

なに、そこまで怖い思いしたの?

 

あ、今関係ないけどさっきのは上から私、次に棒読みの悠希のセリフだよ。

 

 

「…そ、それで大丈夫か?佑奈さん。行けなさそうなら直前まで案内してくれれば俺達3人…ともう1人のソルでどうにかなると思うからさ」

 

「だ、大丈夫だよ。僕は大丈夫だからさ。ハハハ……」

と乾いた笑みを浮かべたと思ったらため息をついた。

本当に大丈夫かなぁ。

 

 

ってよく見ると背中にやけに大きな剣が見えた。

大剣…なのかな。祐菜さん本人もでかいからなんか分かりづらいけど。

あ、でも普通の武器持たせたら今度は小さいかな……。

 

 

「ん?…ああ、この背中のは大剣だよ。愛用してから間もないんから、扱いきれるとは言いきれないんだけどね」

 

「あっ、そ、そうなんだ。でも大丈夫だよ。“普通”はすぐに扱えるようになるもんじゃないらしいから。素人だからこう、とは言えないけど」

 

 

苦笑いでそう言った祐菜さんに悠希や誠也さんのことをチラチラと横目で見ながら答える私。

私は幼い頃、やらかしたせいもあって体術とか精霊魔法を教えてもらってたけど(今考えるとどうしてすぐに覚えられたんだろうね?今度調べるか)、悠希達のは知らない。

 

 

独学…にしては素人目からしても素人っぽくないし。

特に悠希のは顕著だった。あんな振り方をしてよく平気だな、と思うぐらいに。

…こっちも、どうしたものか。

 

 

「…リーシャさん?」

 

「あっ!ご、ごめんごめん。まあ、気にすることはないって。ね?悠希」

 

 

いきなり名を出された悠希は一瞬驚いたようだったけど、すぐにいつもの優しそうな顔に戻った。

ぎこちなさがあるのは気のせいだと思いたいけど。

 

 

「そ、そうだね。それと準備が平気そうなら例の洋館に向かいたいんだけど…」

 

「分かった。ここしばらく達成できていなかったんだ。君達とならきっとできる。うん、できるはずさ」

 

 

…本当に大丈夫かな。

 

 

「そ、そんな目で見なくても大丈夫だよ!今度は酒に逃げないでやるつもりだからさ。……あ、さっき酒に逃げてただろって言うのなしね。自覚はしてるから」

 

「そ、そうか。んじゃ、行こうか。リーシャも逃げたら駄目だからね?」

 

「中身が外見より大人びているからと放り込まれたダンジョンより怖いものはない」

 

 

そう言うと何故か悠希が申し訳なさそうにこっちを見てきた。

しかもなんか謝ってきた。

平気だと私は返したんだけど、このままいると土下座してくる勢いになってきた。

誠也さんと祐菜さんに視線を送るとなんか苦笑いしてた。

 

 

「と、とりあえず行こうな?終わらないぞ」

 

「…それもそうか。もう行ける?リーシャ、祐菜さん」

 

「いつでも大丈夫だよ、問題はない」

 

「情けない姿はもう見せれないからね…。僕も僕なりに頑張らせてもらうよ」

 

 

 

ようやく洋館へと向かう私達だった。

長かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季視点

 

洋館の近くについた俺達は馬車をリーシャに頼んで精霊にある程度守ってもらえるようにしてもらった。

リーシャ曰く『久しぶりに任せてもらえるから頑張るらしい』とのこと。

俺はそこでようやく馬車にさっき買ったばかりのクッキーを置いてきた理由が分かった。

紙も残してきたらしいけど、なんでだろうな…。

 

 

 

なんて色々考えながら歩いていたら、もう入り口の前に立っていた。

外見は放置されて間もないようなものじゃなかった。

 

「これで怖いって…中でなにがあるのやら。不思議なもんだね」

 

「リーシャは落ち着きすぎなんですよ…。ああ、でも放り込まれたダンジョンで最初に見たモンスターが実はスケルトンだったと言うのなら落ち着くのも無理はないですかね」

 

「それは言うんじゃない。今からしたらある意味黒歴史なんだから」

 

「こりゃまた失礼しました~」

 

と話すリーシャとソル。

なんかさっきの謝り方が軽いような気がしたけど、リーシャは半目で見るだけでそれ以上はなにもしていなかった。

 

 

仲が良いんだな…と思う反面微笑ましいと思ってしまった俺がいた。

 

 

「因みに俺が開けてもいいかな?多分俺なら色々となんとかできると思うからさ」

 

「誰が先頭でも変わらないと思うんだけどな。なんだったら2人で開けないか?俺が危なかったらリーシャ辺りにでもなんとかしてもらうし」

 

 

そう言って半身だけ振り返る誠也。

リーシャに何を期待しているのやら。

ほら、なんか気まずそうな顔をしてるし。

 

 

「ま、まあ…分かった。なんとかできるようだったら、するね?」

 

「ああ、遠慮なく蹴って平気だからね、リーシャ。気にすることはないからさ」

 

そう言ってあげるとリーシャは複雑そうな顔をしていた。

その後、横にいたソルがリーシャに近づいてなにかやっていたけど、なにをしたんだろうか…。

あとで聞けそうだったら聞いてみるかな。

 

 

 

っといけないな。

これじゃいつまでたってもらちがあかない。

 

「誠也、とりあえず開けようか。かけ声は“せーの”でも平気かな?」

 

「あ、あぁ…そういえばそうだな。ここを開けないと話は進まないもんな。んじゃ、いいか?」

 

「お前こそ」

 

と話してからほぼ同時にさっき決めたかけ声を言って開ける。

エントランスは中央に2階にあがれる階段が一つあり、それ以外に大して気にするようなものはなかった。

強いて言うなら扉とか多いし、なんか変な鎧がかざってあったり絵画みたいなのが飾ってあるぐらいかな。

絵画はなんか日に焼けてるのかそれとも空気に触れていたからなのかここから見えるもので元が分かりやすいのはあんまりなかった。

 

 

 

「…うわー、なんか出てきそうな雰囲気だねー。怖いわー」

 

「棒読みで言ってもあんまり意味は……ああ、1人にはありましたね」

 

「そんなこと…」

ありえない、と言おうと思ったら祐菜さんが叫んでいた。

いきなり『いやぁー!』なんて叫ぶからびっくりした。

 

 

「い、いきなり叫ぶなよ…。ビックリしたな」

 

「…怖がりだから仕方ないんじゃないか?それこそ諦めた方が…」

 

「だ、大丈夫だよ。大丈夫だから…」

 

そういうけど、声が震えていてなんか頼りない。

って言うか隠しきれてないよ、祐菜さん。

でも…なにもないと思うんだけどな。

あ、でもある意味あるか。

 

外見と中とのギャップ

 

…建てられてから何年とか分かったりはしないのかな。

 

 

 

 

「一応この人数で動くのもあれだし、分かれない?」

 

 

中に入るなり、リーシャが今みたいに提案してきた。

確かに2階もありそうなこの洋館を団体で探すよりそれぞれ分かれて探した方が手っ取り早いのは分かる。

でも…

 

「怖がりもいるし、下手に分けたら大変なことになりそうだから2人で分けようか。ソル…はリーシャと一緒で1人で数えさせてもらう。悪いね」

 

「仕方ないですよ。一応行けないことはないんですが、私はリーシャの方がとても落ち着きますので」

 

 

…そういう問題か?

 

 

「んで、分け方はどうするんだ?」

 

「それはだね…誠也、お前が祐菜さんと一緒に行ってほしい。大丈夫だろ?お前なら」

 

 

俺がそういうと半目で見てきた。

いやだってお前…怖がりじゃないはず、だったよね?

 

 

 

「そうじゃないけどさ、魔法が使えるのってリーシャさんぐらいじゃないのか?祐菜さんはどうかなんて知らんが」

 

そう振られた祐菜さんは何故か気まずそうな顔を浮かべた。

 

「あー、もしかして使えない、とかじゃないよね?」

 

「あ、いや…全然使えないわけじゃないらしいんだけどね?僕達はそこまで魔力を体内に(たくわ)えられないらしくってさ。簡単な魔法を覚えて使えればマシって種族なんだ。僕は頑張ってはみたんだけど……」

 

 

頑張ってみた後…どうしたんだろうか。

まさか怖がりなだけに魔法も怖くて出来なかったとか?

さすがに幽霊系とかそういう苦手なものがあるのは人それぞれだし仕方ないだろうとは思っている。実際俺は怖いものがないようなものだし。

 

 

「その後、どうしたの?頑張ってみて一つは使えるようにでもなったの?」

 

俺の考えを代弁するような感じで言ったのはリーシャ。

偶然……なのか?

 

「いやぁ、魔法はまだ覚えてないよ。個人差はあるけど、僕はまだ平均なんだってね」

 

「なるほど…。それで、人数分けって大丈夫?」

 

そう言われると祐菜さんはどこか嫌そうな顔をした。

そんなに誠也が頼りないのだろうか。

初対面だから無理もなさそうだけど。

 

 

「俺とリーシャとソル、誠也と祐菜さんにしたいって考えてるけどむりかな。広そうだから、出来れば手分けして探したいし…」

 

「……。…分かった。誠也さん、宜しくね」

 

 

 

ようやく折れた祐菜さんは誠也と行動することになった。

そして調べる場所は誠也達は2階へ、俺達は1階に決め、お互い向かうことにした。

まだその時の俺はこの洋館をただの誰も住んでいない建物だとばかり思っていた。

人ならざる者も含めて。



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第30話 成果のある調査?

道のりは遠く険しい。でも、実際今通ってる道は何故か安全。

はい、特に意味はありません。
余談ですが、主人公は2人扱いになっています。
補正がかかっているか、かかっていないかなんですが…それは追々分かると思います。

それでは、下から本編です。平気な方は適当に読んでやってください。


――碧喜(たまき)視点

 

2階を任された2人はそれぞれ複雑そうな顔をして上がっていった。

誠也さんはそんな幽霊とかいないだろって顔をしていたけど、そうなると精霊の説明がつかないよ。

あれ、エルフもしくはエルフの血を受け継いだ人達以外に例外がいないと見えない理由が精神体のせいって説があるし。

 

それに精神体は簡単に言えば霊体。つまるどころ、幽霊。

契約すれば確かに全員に見える、姿が変わると言った感じになるけどそれって幽霊みたいなものをいつでも見れるってわけで……。

 

言わないでおこう。

 

 

祐菜さんもいたし、話したらまた叫びそうだし。

その人はほぼ幽霊とか怪奇現象が起きないかどうかが不安なんだろうって簡単に想像がつくぐらいの怖がりみたいだしね。

理由があるんだろうけど、聞きづらいし。

 

まさかミミック(笑)とかの類いじゃないだろうし。

というかいないでほしい。

 

 

「1階はどこから調べる?私はしらみつぶしで片っ端から見ていくつもりなんだけど」

 

「俺は特に考えてないからしらみつぶしでいいよ。時間が結構かかりそうだけどね」

 

「大丈夫だよ、ソルもいるんだし一緒に探してもらえると思うよ?」

 

「リーシャか悠希産のどっちの手伝いとかそういうのでも少しは早く別の部屋を見ることが出来るので損はないと思いますよ」

 

私とソルの2人(?)に言われた悠希は苦笑いを浮かべた。

あんまり変わらない…とでも思ったのかな。

どうなんだろう。

 

私がそう考えていると悠希が気にせず手身近な扉へ向かっていく。

姿を見失うと探すのが大変になると言うのに。ひどいな。

 

 

 

 

 

 

 

その後、数部屋見たもののなにも出なかった。

強いて言えば虫やらほこりなどのゴミやらがたくさん出てきたことかな。

あとボロボロになった絵画が少し。

 

なんで空いてるんだろうな、この洋館。と疑問に思うほどなにもない。

なんかソルが反応するものが道中にあったけど、なんだったんだろうか?

 

そう思って振り返ってみると裸体の女性の彫刻があった。

 

 

「うわっ」

 

「どうかした?……あれ、こんなとこにそんなのあったっけ」

 

「なんか変な感じがしますね…。あれ、それはどうしたんですか?」

 

 

その声に反応した2人がそれぞれの反応を示した。

驚いたのは私だけかい。

 

 

「…一応言っておくと持ってきてはいないよ?私の覚えている魔法に物を軽くする魔法とかそういう便利魔法はないし。悠希……はまず持ってこないか、こんなの」

 

「一緒に行っている子が女の子なのにわざわざ持ってこないよ。変態扱いされかねないし。…それに持っていけるとは思えないね。重そうだし」

 

 

女の子って…。

ま、まあ嬉しくないわけじゃないからいいんだけどさ。

っていうか重そう?

持っていけるかも、って一度でも考えたのかな。

別にいいんだけどさ。

 

 

「そっか。んでもってソルはそういうの覚えてないみたいだし、彫刻より違うのが欲しいみたいだから可能性は低いし…」

 

「そうすると消去法で考えて…自分で移動してついてきたってなるんだが?」

 

 

 

 

「「「…………」」」

 

思わず押し黙る私達。

どうしたものか。

そう考え始めると目の前で形を変えていく。

どうやら変わったモンスターみたいで見え始めた緑色が橙色になりはじめた。

その橙色になった液体みたいな固体(言うならばゼリーみたいな)がねちょねちょと音を出しながら動く。

 

 

「…ええと、笑われているみたいですよ、私達」

 

精霊ってそこまで分かるものなのかな?

そう思っていると目の前で液体になっていくそれ。

顔はスライムにそっくりだったけど、スライムと違って大きさは半分以下だった。

むしろ前の世界にあったスライムをモンスターにしたらこうなるんじゃないかって感じの見た目をしている。

 

「元に戻ったみたい…だね」

 

「だね。しかも襲ってこない…。これって単純に驚かしたかっただけだったりしないか?」

 

「そんなまさか……」

 

 

モンスターって知性がないって言うし。

そう困惑している私に悠希が苦笑いを浮かべた。

 

「でもそう考えるしかないよ?じゃなきゃ不意打ちした方がそこにいるスライムもどきに得なはず。わざわざ地の利を捨ててまですることじゃないよ。例え精霊がいたとしてもね」

 

思わず私は頷いてしまった。

全くもってその通りだったし。

「た、確かに…」

 

「でも、そう考えると今私達が入ろうとした部屋って……」

 

そのソルの言葉に悠希は不思議そうな顔を浮かべ、私は苦笑いを浮かべた。

 

それから少しもしないうちに私は絶句し、悠希は失笑してソルは呆然と口を開ける出来事が目の前で起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季視点

 

まさか、あの部屋に変わった人がいるとは思わなかった。

本当のことをいえば人なんかではなかったけど。

どうやら魔法使いらしい。

男勝りな性格をした女性だってことも話してて分かった。

因みに服は最初、死体(いわゆるゾンビ)みたいな雰囲気を醸し出していて話しづらかった。

それをなんとか説得して着替えてもらった。

なんで服を着替えられたのかってツッコミはしないでおく。

 

「いやぁ、本当に悪かったな。でも、二手に分かれてるんじゃなかったのか?」

 

「あれ、なんで知ってる?俺はそういうこと言ってないし、リーシャ達も言ってなかったはず」

 

「ああ、いやね。2階の方が酷くしてあってね……リビングアーマーを2体呼んであるんだ」

 

「それって……」

 

そう呟くが否や2階から叫び声がした。

…あれは大丈夫かな。

 

「……助けにでも行く?一応安全なんだと分かっててもほら、心強い人がいてくれた方が落ち着くでしょ?」

 

「だからってなんで俺のことを見つめながら言うのかな?不思議でならないんだけど」

 

「いいから、悠希も行く。あなたは――」

 

「ついていっても問題ない外見なはずだけど…どうかね」

 

 

そう言われてから気付いた。

そういや、容姿とか見てないなと。

一見問題なさそうな感じはするんだけど…どうだろうか。

 

 

「大丈夫だと思いますよ。……多分」

 

「だと良いんだが…。あと最後になんか言わなかったか?」

 

「気のせいですよ、やだなぁ。ね、リーシャ」

 

 

いきなり振られたリーシャは驚いて『にゃっ!?』なんて声を出していた。

どんな声を出して驚いてるんだか。

こっちがビックリするわ。

 

「そ、そうだね?」

 

「とりあえず行こうか。恐怖のあまり腰が抜けてそうな人が1人いるし。誠也でも平気だけど、周りに怖がりな女性がいなかったから持て余してると思うんだ」

 

リーシャは「あぁ…」と納得してくれたが、ソルだけが首をかしげた。

まあ、それは仕方ないか。

 

 

俺達はその流れのまま、2階に向かうためにエントランスへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランスへ向かう最中はなにも起こらなかった。

んで2階にあがってみたら…

「ああ、あれは大丈夫なんじゃないですか?」

 

とソルから冷静なツッコミを言わせる見事な光景(笑)だった。

どんな感じかって言うと背後から歩いてついてくるリビングアーマーから逃げ惑う2人…っていう風景とでも言えばいいんだろうか。

2体とも対応にでも困ってるのかそれともなんなのか計り知れないけど、あわてふためいてる。

 

ある意味シュール…。見た目もあいまって余計にね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくした後、リーシャがどうにか説得して(ソルが途中から手伝っていた)、冷静になった2人は恥ずかしがっていた。

黒歴史の一つや二つぐらい、出来ても仕方ないことだと思うんだけどね。俺だけか?

 

因みに今は2体いた内の片割れであるリビングアーマーに案内された客室にいる。

さすが広い館。驚くことに別館もあるんだそうな。

 

 

……あれ、確か俺達は依頼できたはずなんだけどな……

 

「まあ、クリアってことになってると思うよ。ソル、確認してもらっていい?」

 

言われたソルは頷いてからなにかを詠唱して虚空に依頼書を――

 

「うん、それはいいけどさ。俺はなにも言ってないはずだよ。どうして考えてたことを知ってる?」

 

「いや、思いっきり呟いてたし」

 

「そうですね。突然独り言を言うものですからビックリしましたよ」

 

「そ、そっか…。疑って悪かったな」

 

「別に~?」

 

そう話していると扉が開く音がしてローブを身に(まと)った女性が出てきた。

さっきはよく見る暇もなかったから見てなかったけど、大分お洒落なローブを着ている。

それこそ、目深に被ったフードとかそういうのがなければローブに見えないほどにはお洒落な柄をしている。

色は…白色なんだ。汚れが目立ちやすそうだな。

 

 

「驚かせてしまってすまなかった。館に入る無関係者は外に出すよう指示しててな。怪我だけはさせないように言ってたからなにも問題ないとばかり…」

 

「い、いや…悪い人じゃないって分かったんで問題ないですよ。祐菜さんもよかったね」

 

「あんまり心臓に良くない依頼だったけどね。もう勘弁願いたいわ。ってなわけで先に帰らせてもらうね。後は君達に任せたよ。僕はもういいからね」

と言うとそのまま帰ろうとした。

 

「ああ、ちょっと待ってくれないか。君に渡すものがある」

 

そういうと祐菜さんになにかを手渡した。

遠目からして小さな物だと思うんだけど、なんだろう。

 

「それを肌見離さずもっているといい。大した物じゃないけど、困らないはずだからさ」

 

「分かったよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐菜さんが出ていってしまった後、向かい合う形で俺達は座らせてもらうことになった。

俺の正面左側に誠也、右側にローブを着た女性。

俺は誠也から見たら左側にいて、その左隣はリーシャとソルだ。

 

うん、こう見るとややこしいな。こうするか。

 

誠也 ローブを着た女性

  机

リーシャ達 俺

 

うん、分かりやすくなった。

これで大丈夫だな。

…で、なにが大丈夫なんだっけか。

 

 

「そういや聞いてなかったね。どうしてここに来たんだい?今のところ、あの子達が人に害を与えたとかそんなことはしてないはずなんだが……」

 

「あ、いやそれじゃないんです。俺達が来たのはここが…この洋館が誰もいないのにも関わらず人々が近寄らない、近寄れないからなんです。それで偶然掲示板にあったのを取りまして」

 

「他にも洋館調査はあったんだけどね、ここのが興味あってとった……ってソルが」

 

「そ、そこでどうして私に振るんですか!?」

 

「なんとなく、かな?」

 

その返答に苦笑いを浮かべるソル。

大変そうだな、ソルも。

 

「なるほど。なら、文面に害のないモンスターがいるものの要注意とも書かれていそうだな」

 

 

それを聞いた俺は苦笑いを浮かべざるをえなくなった。

確かに書いてあったから。

 

 

「そんなまさかー……。え、嘘。そうだったの!?」

笑いながら俺やソル。誠也の顔を見たリーシャはすっとんきょうな声を出した。

 

「ま、まあ…その。もう大丈夫みたいなら俺達、帰りますんで」

 

「そうか。お礼に渡したいものがあったのだが…時間がないならひきとめておく訳にはいかない。一応そこまではついていくが、その後は…」

 

「大丈夫です。それで、お礼…とは?」

残念そうな顔をしていた(見えないけど、そんな感じがする)女性の顔が明るくなった気がした。

 

「ああ、そのお礼にこの館を譲ろうと思っている。屋根裏はないが、別館もあるし不便はしないはずだ。どうかな?」

 

「えっ、ですけど俺達…」

 

「そこは大丈夫だろ。ほら、俺達の親って俺達がたまに顔を出しゃ平気とか言うような奴だろ?んだったらここにまず拠点を置いて、冒険者ギルドを行き来してもいいんじゃないか?幸い町からそう遠くないしよ」

 

「そうだけどさ…」

 

「ああ、もしかして連絡手段か?そうだな…実験台になってくれるんならあるんだが…」

 

「実験台って……」

 

俺が気にしてることを当てるとは…まさか、ニュータイプか。

とか思っていたら実験台という物騒な単語が出た。

意味を察したっぽいリーシャが苦笑いを浮かべてたけど、あえてなんも言わない。

 

 

「んまぁ、とりあえず報告に行かないか?私がいれば失敗にはならんだろうからさ」

 

「あ、あぁ…はい」

 

なんともまぁグダグダな…。平和に終わってよかったけどさ。

ということで俺達はローブの女性と共に町にある冒険者ギルド(支店)にとんぼ返りすることとなった。



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第31話 洋館の処遇について

どうも、篠崎です。
今回からサブタイトルを分りやすくしてみました。
他にもサブタイトルを変更してみたのですが…いかがでしょうか。


関係ないですけど、寒いですね。皆様もお体には気を付けてください。
では、下から本編になってますので適当にゆっくりどうぞ


――優季視点

 

町に移動した俺達はローブの女性の言う通りに冒険者ギルドまで寄り道せずに行った。

その間、リーシャがソルと歩きながら話していたけど…なにを話してたんだか。

あとで覚えていたら聞くことにするかな。

 

 

 

その人を連れて左側のカウンターに行ったら前の人と同じ人が出てきて…その人を見るなり驚いていた。

 

「ど、どうしたんですか?その人は…。あの館に誰かいるという情報はなかったはずなんですが…」

 

「あ、あぁ…本人が連れてくれば分かると言ってたからそれで…」

 

「すみません、私じゃどうしようもないので上の人呼んできますね。お手数かけますが、そこで待っててもらえませんか?」

そういうなり後ろへ行ってしまった。

 

 

 

それを見てなのか、乾いた笑い声がする。

何年前からあるんだか知らないけど、この冒険者ギルドのシステムが出来たのはかなり最近だし、仕方ないと思うんだけどな。

それも知らないなら無理もないか。

 

「冒険者ギルドも新しいから仕方ないんじゃないかな。…ところで元々はなにをしていたの?」

 

「あー…ちょっと、な。……そう、館に引きこもってたんだよ。本とか読んでた方が楽だったからな」

 

「そ、そうなんだ…」

そう言葉を濁す女性に苦笑いで答えるリーシャ。

それ以上言わないのは気にして、なんだろうな。

 

 

 

そう思っているとソルが俺のそばによってきた。

「……あの、大きな声では聞けないことなんですが、聞いてもいいでしょうか?」

 

とそんなヒソヒソ声で話してくるので思わず首をかしげてしまいそうになった。

…なんかあったっけか。

 

「あ、あぁ…構わないけど。なにかな」

 

「悠希さんってやけに落ち着いてますよね。それが不思議だなって思いまして。リーシャや誠也さんはそうでもないみたいなのに……どうしてですか?」

 

 

そう来たか。

まあ、当たり前な質問だわな。

背後からローブの女性が現れた時に俺だけが笑ってたから。

ローブの女性のことを笑ったんじゃないんだよ?違うからね?

 

そんなことを誰へとなく思ってから冷静になる俺。

 

 

 

「そんなことないと思うぞ。リーシャや誠也みたいに相応な反応をする時は俺だってするし…違うかな?」

 

「……まあ、そういうことにします。そろそろ話を切り上げないとコソコソ話してるなんてってリーシャが気にしますから。また今度、聞くことにしますね」

そういってリーシャの方に飛んでいった。

そのままなにか軽く話をしたようだけど、言語が違うから全く分からない。

まあ、こっちもこっちで話が進みそうだな。この冒険者ギルドの上の人が出てきたから。

 

 

因みに見た感じ若い女性なんだけど、耳がとんがっている。

これも関係ないんだけど、そのとんがった耳はリーシャと同じような長さに見える。

 

 

出てきた時、その人を見てまるで幽霊でも見たかのように驚いていた。

 

「え、えっと…」

 

「あなたは下がって大丈夫よ。私がこの人達と話をするから」

未だ困惑気味な男?(見た目は男と言いがたい受付の人)に微笑みながらそう告げると受付の人が一礼してから下がっていった。

 

 

 

 

「ところであなたは船岡鈴奈(ふなおかすずな)…その人でいいのね?」

 

「ああ、そうだ。間違いはない」

 

あっさりとそう言いきって頷く女性。

へぇ、なんだ。なんか事情があって探されてたのかな?

そう思ったけど、なんか違和感を感じる。

 

 

「……冒険者ギルドの設立に手を貸してくれた人達がいるんだけども、その人達が心配していたわよ。それこそ一日中探すんじゃないかって思うぐらいに」

 

「そう、だったのか。…それは失念していたな。会ったのも大分前だし、てっきりもう…」

 

 

そこまで言うと口を閉ざした。

大分前って…一体誰のことだろう。っていうかそりゃ設立に手を貸した人ぐらいはいるだろうなとは思っていたけど、本当にいたとはね。

その人達と知り合いってことは……どういうこった。

 

 

「あー、そう話してるのはいいんだけどさ。鈴奈さん…でいいんだね。顔とか見せてもらってもいい?駄目なら諦めるからさ」

 

「それは私…いえ、僕からもお願いしたいです。宜しいでしょうか?」

 

 

 

そういうと複雑そうな顔をしたような気がする。

俺もソルの一人称がいきなり『僕』になってなんか違和感があるけど。

 

「それもそうか。不審者だと思われても困るしな」

そういってフードを外すと肩甲骨までは行ってそうな長い銀髪が出てきた。髪の長さはリーシャとほぼ同じかな?

目は…青色っぽいけど、なんか違うな。別の色が混じってるみたいだけど、分からないね。

 

にしても身長がそれなりに高いのもあってスタイルは良い方なんだな。

 

 

「なんだ、隠すような格好ではないじゃないですか。なにか理由でもあったんですか?」

 

「どこかの誰かさんが心配性でな。その私を心配して探していた人がそうだったろ?」

 

 

そう言いながら女性に顔を向ける。一応女性の顔を見てみたら、その通りなのか苦笑いを浮かべてる。

……まさか、手伝った理由が冒険者ギルドがあれば捜索依頼とかも兼ねて出せるからとかだったりしないよね。

突拍子もないし証拠もほぼないから、ありえないような話なんだけどね。

 

 

「まあ、いいんじゃないか?なんだったら、会えるまで一緒にいないか?」

 

「ああ、それがよさそうね。本人がよければって話なんだけども。どうかしら?」

 

「ああ、構わない。むしろその方が会いやすそうだからな」

そういうと俺を見てきた。

どういうことだろうか。俺はその人達ときっと関係ないと思うよ?

 

 

 

「なら、もう大丈夫そうね。あ、依頼書はまだ持ってるかしら?」

 

あ、忘れてた。

そうだよ、俺達は報告にきたんじゃないか。なんで忘れてたんだろう。

えっと、確か…

 

 

「あ、すみません。僕が持ってます」

 

「あれ、なんでソルが持ってるんだ?まあ、いいけど…出せる?」

 

「はい、出せますよ。ちょっと待ってくださいね」

そういってなにかし始めるソル。

それを微笑ましい表情でリーシャが見てるんだけど、なんか兄弟とか姉妹みたいだな。

外見の性別がどうなるのか楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

それから少しして依頼書を出し、報酬を貰った俺達。

ついでに何故かその館を俺達がもらうことに。代表は俺になったけどね。

 

んでもって俺達はそこを拠点にするために買い物に出かけるはめになった。

……ソルに変化が起きつつあるのを(リーシャ以外の)俺達は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

ソルが成長しつつあるのは感覚で分かっていた。

一人称に変化が出るとは思わなかったけどね。

 

あれからそれぞれの親を順番に行き、今までの経緯を話して説得して回った。

連絡手段がないのは本当困っちゃうね。

どうにかならないのかな。

 

 

「それは大分きついと思うけどね。そこんところ、どうかな?」

 

「そ、そうなんだけどさ…。夢とか見たいものじゃない?」

 

 

そうすれば楽に今ここにいるとかそういうのを教えられるのにな。あとどこにいるのかを聞ける。

 

 

「なんとも言えませんね、そればっかりは。でもその夢が実現するとなると確かに楽にはなりそうですね」

 

「ねっ、でしょう?でも結構問題があるんだよね。魔法が使える使えない以前に」

 

 

そういうとソルが不思議そうにした。

そりゃそうだ。ソルが想像しにくくて仕方ないのかもしれないものだし。

 

 

「それ、とは?消費魔力量とかもありそうですが」

 

「あぁ、それもあるね。でも、それを常時消費ってしてたら回復も間に合わないし、かといって魔力で充電っていう手もあるけど…」

とそのあとはぶつぶつと言いながら文字通りに頭を抱える私。

それをニコニコしながら見るのはどういうことかな?

 

 

 

「まあ、他の精霊とも交流しておきたいし…その間になんとかなるかな?」

 

「あー…確かに。僕は火と氷だから出来ないかもだけど、他の精霊にだって複属性持ちの子がいますし、会えるかもしれないてすからね。あっ、僕の知り合いでも紹介します?両手で数える程度ですけど、少しだけ複属性持ちが混じってますし」

 

「へぇ、さすが。んじゃあ、それは困ったときにでも」

 

といって会話を切り上げようと悠希達を見る。

……おーい、いつの間にサモンゲームをやってるの?

まあ、いいや。そっちに行こう。

そう思って悠希と誠也の方へ向かった私はちょうど背後で見えなかった。

ソルの姿が一瞬変化したことに。



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第32話 最近の噂

最近、とても寒いですね…。皆さまはどうお過ごしでしょうか。


と関係ないことから始めましたが、今回は内容薄めかもしれません。
それでも大丈夫だって人は適当でも読んでくれると嬉しいです。


――優季視点

 

船岡鈴奈さんがついてくるようになった。

というか一緒に同行することになった、と言うべきなのだろうか。

鈴奈さん曰く『私を探している人達に会いやすくなる方法はお前達と一緒に行くことだ』とのこと。

どうしてそうなった。逆に会いにくくなるかもしれないというのによく分からない人だ。

 

 

 

まあ、それよりも問題は鈴奈さんってなにができるのかな……。

今度機会でもあったら色々と聞いてみるかな。言葉を濁らされそうだけど、ちょっとは教えてくれるでしょ。

 

 

 

 

 

なんて考えながらエントランスホールに新調されて間もない椅子に座っていると皆が戻ってきたらしく、扉の開閉音がした。

 

「いやぁ、まさかこうなるとはねえ…」

 

「そうだね…僕もそうなるとは思わなかったよ。まあ、今までなんか色々な人がいたし、情報もあったしと良い機会になったんじゃないかな?」

 

 

うん、色々な人って覚えられてない辺りさ、出すぎってことだよね。なにが、とは言わないけど。

 

 

「そう言って買い物ついでに最新の情報を調べにいったのは誰なんだろうな」

 

「私達だね。鈴奈さんにも手伝ってもらっちゃったけど」

 

それで遅かったのか…納得。

だからといって無言で出ていくのはやめようね?

 

「構わないよ。元より新しい情報が知りたかったんだ。だから気にするんだとしたらそこの悠希にした方がいいんじゃないか?」

 

名が出されたからなんとなく首をあげてみた。

するとさんに…じゃなかった。4人と目が合った。

いや、反応しないっていう手もあったんだけど、あえて反応してみたらどうなるのかってなんとなく思ってな?

 

 

「あ、悠希。大事な話があるんだけど…いいかな?」

 

「いいけど…どうした?なんかしでかした?」

 

「しでかしてないから!…いやね、そういうのじゃなくって。もうちょっと違う話なんだけど…」

 

 

茶化してみたらそう返ってきた上に真面目な顔をした。

ああ、うん。さすがにこれ以上はやめるか。

 

「分かった、分かったよ。んでもさすがにリーシャ達も座れる場所で話そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビング(らしい)場所でその重要な話とやらをした。

 

内容はと言えば

曰く魔王復活の影響は各地に出ている

曰く一部の村や町などは魔物や魔族による被害を受けたらしい

曰く非人道的な研究施設がある

曰く老齢の男性が冒険者ギルド設立に関わったらしい

曰く……

 

うん、噂が多いってことはよーく分かった。

どこからこの情報を仕入れたんだろうか?

そう思った俺は素直に聞くことにした。

 

「でもさ、リーシャ。ソルもそうだけど、その噂はどこで聞いたんだ?」

 

「どこでって…昼間から開いてる酒場とかだよ。ついでに精霊にも聞いたけど…ソルに対してまるで応援するかのような言葉をかけてく子が多かったんだよね。なんでかな」

 

「なるほど、そこはさすが精霊使いなだけあって情報を手にいれるのは比較的楽なのか。…んで、魔王による被害って…」

 

 

「かなりのものだな。むしろ3人がかけつけた場所以外は悲惨だ。それこそ復興もあんな短期間じゃ出来ないだろうな。死傷者だってもっと出ただろうさ」

 

俺がそこまで言うと鈴奈さんが急にそう言い出した。

その後、『気にしないでくれ』とは言っていたけど…。

おかしい。なんでそんなことを知っているんだ。

魔王に襲われ、逃げた後の町に見知らぬ顔の人物が3人いたことを。

 

 

「なんでお前、そんなこと知って―――」

「今日は早めに寝ると良い。寝室は2階で浴室は1階にある。君達同士の情報交換は寝室に入る前にはしておくんだな。…じゃあ、私は自室に戻るから。用があるなら好きに来てくれ」

 

とだけいって席をたった。

なにを隠したいんだろうか。

謎だらけすぎて分かることが少ない。けど、敵対してるわけじゃないし平気…かな?

 

 

 

 

 

 

そう考えているうちに沈黙に包まれてしまっていたらしく、誰もなにも話さない。

そんな中

「……じゃあ、俺からな。実は転生者について調べてたんだよ。短期間で情報も少なかったから手こずったよ」

と沈黙を破って言い出した。

 

 

「転生者…って俺とかのことか。でもどうして急にそれなんか調べたんだい?調べたところでなにもないと思うけど」

 

俺がそういうと誠也がなんか苦笑いしているように見えた。

 

「そうですね。ですが、聞いてみたらどうですか?なんの情報がなかったとしても、それが収穫になると思いますので。よく僕の知り合いがやってましたよ。……その人は知らないことが知れただけでも喜んでましたけど、僕と同じ二属性持ちだったんですよね」

 

 

うん、二属性持ちとかよく分からないけど、とりあえず聞いとけば損はないって言いたいんだろうな。

遠回しで言ってるんだか、言いたいことが分かってないのかはともかく。分かったよ、聞けばいいんだろう?

 

 

「分かった、分かった。とりあえず話は聞くよ」

 

「おう、悪いな。んで、転生者のことだが…どうやら片手で数えれる…らしい」

 

「らしいって…これまたあやふやだね。それって誠也さんが又聞きしたから?」

 

リーシャがそう聞くとその通りだと頷く誠也。

いやいや、誰に又聞きしたの?知ってる人でもいたの?

俺がそう思っているとまさかの鈴奈さんが聞いていた。意外だ。

 

 

 

「ああ、それが緑髪の女がそう伝えてるらしい。その女には連れがいて、そいつらは一応噂として広めるよう言ってるんだとさ。…ただここで問題がある」

 

「どこに問題があると言うんだい?今の話の流れじゃなかったよ?」

 

ありのままを言ってみたら誠也に呆れられたんだけど、どういうk………ああ、まさか。

 

「……あるもなにも、悠希。そんでもってリーシャさん。お前達の容姿がそのまま伝えられている。因みに悠希に至っては追加がある」

 

 

「転生者よりとんでもないこと、とか言わないよね。まあ、転生者に関しては否定しないけどさ」

 

 

事実なんだし。っていうかリーシャは本当のことしか言ってなかったんだな。

…変わりすぎて別人かと思ってたわ。本人に失礼だから言わないでおくけど。

あ、ソルに睨まれた。

 

 

「まあ、そうだよな。お前はやけに物知りだったし、違和感はあったんだよな。んで、お前の追加はだな……あの魔王を倒せる唯一の人間、だそうだ」

 

 

……はっ?今なんて?

 

 

「なるほどね。それで私に色々と…。普通ならそんな短期間で覚えれるわけないものを…。っていうかいつの間に学習能力を上げられてるのかちょっと分からないけど、この際どうでもいい」

 

 

ソルもなんか言ってたけど、大分聞き流したせいでよく分からなかった。

なんか元々僕たちは知識欲だとか好奇心だとか言ってた気がする。

 

 

「んで、悠希で間違いないんだよね?」

 

「ああ、そうらしい」

 

「どう見てもリーシャ(そこのおんな)とかわりない一般人に見えるんだがな」

 

「俺だって信じられないさ」

 

「流れでそこの女って呼ぶんじゃない」

 

 

さっきまで真面目な空気で話していたのが一気に崩れた。

どういうことなの。

 

 

「はいはい、とりあえずそんな物は気にせず依頼受けに行こうか。資金がなきゃ詰むぞ」

 

「「分かったー」」

 

「行ってもいいが、私はサボるぞ?」

 

「準備ぐらいさせてくれ」

 

因みに上から適当に答えたリーシャ&ソル、鈴奈さん、誠也。

碧喜、お前は分かってるんだろ。資金がなきゃやれることもやれなくなるぐらい。

鈴奈さん、お前は出来れば実力を知りたいからそこはサボらないでほしい。

っていうかソルも何気なくため口で話してるじゃないか。そうやって普通にため口で話せるなら俺達だけにでもいいからそれで話してほしい。話しやすくなるから。主に俺が。

最後の誠也は――

 

 

「いや、準備はしてからいくよ。足りない分は依頼を受けてからでも大丈夫か?」

 

「なるほど。そういうのは全然問題ない。むしろお前のことだからそりゃ準備はしてから行くよな…」

 

「そりゃね。ほら、村に行くよ」

 

 

適当に話を切り上げ、出ていこうと皆でぞろぞろと館から出ていこうとした時。

「今日は…今日もまともな依頼を受けたい」

という小声が聞こえたけど、なにも言うまい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

館から近道を通ると少し歩いただけで町についた。

けど、どうやらある意味危険な道らしい。じゃあ、遠回りでいいんで安全な道でお願いします。

実際にそう言ってみたらこっちより時間はかかるよ?と言われた。リーシャとかがなんか説得してたけど、多分次からはそっちになる…かな?

 

 

 

町についた俺達は宿をとってそこで寝ることにした。

家がある俺と誠也は本当はそっちに行けばいいんだけど、誠也んちにも俺の家にも家族がいるしなぁ…。あ、でも俺の家は母さんだけか。今度なにか送ってあげるか。

 

 

そう思いつつ、ベッドで横になって寝た。

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

夜、宿屋にある庭に出た私はこの町の精霊達と夜遊びという名の対話をしに来た。

ついでに夜空を見に。

因みに宿代は前にもらった依頼の報酬金から出した。ちょうどよかったんでね。

 

「リーシャ。そういえば君は幼い頃からよく精霊に好かれたけど、それって転生者だったからなのかい?」

 

そこら辺の精霊を呼んで世間話とか聞き出そうとした時、そう聞かれた。

 

「あー…それはどうなんだろうな。というか、そんなに好かれてた?あれが普通だと思ってたんだけど」

 

 

しかもわりと真面目に。

一応他の子の周りもチラ見とかはしてたんだけどさ、それなりにいたよ?

まあ、エルフってそんなもんなのかなーとかって思ったのもそこなんだよ?

 

 

 

「ああ、なるほど……なるほど。転生者って理由じゃなさそうだね。そうだとしたらリーシャ…君、周りからああいう対応されて当たり前だね」

 

 

い、いやいや。

あれさ、娘には過酷な旅させろ的な感じだったと思うんだけどな。

やられたらやられたで凄く(命的な意味も含め)大変だっていうのがよーく分かった。

 

 

「…あの対応で?私からすればそうとは思えないんだけどなぁ…」

 

「……まあ、自衛する(すべ)を知れたって思えばいいんじゃないかな?ほら、魔法とかも他の子より早く教えられたじゃないか」

 

「そうだといいんだけどさ…。魔法に関してはもっとあとでもよかったと思うの」

 

ため息つきつつ、そういうと肩?をすくめられてしまった。

仕方ない…。ソルだってそこまで知ってる訳じゃないんだし。

 

「そういうってことは魔法でなにか苦労でもしたのかい?」

 

「そりゃもうかなり。制御するのなんて幼かったから大変だったし、それ以外は威力の調整とか…。対象だって取りづらかったんだよ?」

 

私がそう言ったら「ああー…」とかいって頷かれた。

どうやら理解してくれたみたい。多分。

 

「でも厳しいばっかりじゃなかったんだろう?僕は見てないけど、他の子とかが言ってたよ」

 

「…まあ、そうなんだけどさ…。一つだけはそうでもなかったかなー…なんて」

 

「えっ?それってなんだい?」

と興味津々に聞いてくる。

いい加減、やりにきたことをさせてもらうよ。

さっきからそれまくって出来てないんだから。

 

 

「別になんでもいいでしょ?それより精霊達と話してそれとなく情報になりそうなの、聞き出すよ」

 

「はーい…」

 

 

残念そうな声だったけど、すぐに諦めてくれたみたいでよかった。

いくら契約したとは言え、紛れもない精霊だから好奇心は強いとばかり思ってたけど…そうでもないのかな。

 

 

そう考えつつ、私は次の日のために精霊達とある程度まで会話をした。

その後眠たさのあまり、違う場所に入ってしまったらしいけど、それは今の私に知るよしもなかった。



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第33話 新たな依頼はまた調査

まさかのファンタジーライフが幻想郷生活に抜かれるとは思いませんでした。

ですが、ああやって書いた小説が少なくても皆様に読んでいただけるのは凄くありがたいです。

これからも幻想郷生活ともどもこのファンタジーライフも宜しくお願いします。



下から本編になります。


――優季視点

 

次の朝、俺は朝日なんかではなく別のもので起きた。

違和感、といえばいいのかな。

そう、添い寝する形で誰かが入っているようなそんないわかn……

 

「―――!?」

 

ベッドの布団を少しめくったら金髪の少女もといリーシャが横向きで寝ていた。

しかも若干丸まってるし、服は白色のネグリジェ。あんまりはだけてないのが唯一の救いかな。勘違いされにくくなるし。

 

にしてもなんで添い寝状態なんだろうな。

いつもなら添い寝してこないのに……。

…あ。そういえば、そばにいつもいるあのソルって名前の精霊は?

 

そう思って見渡してみたら……小さな布団がテーブルランプの置いてあるタンスの上に置いてあってそこで寝ている。

確かあれはリーシャがリビングのテーブルに置いてたはずなんだけど。

誰が動かしたんだろう…。

 

「……んぅ………あっ」

 

「……えっ?」

 

声に反応してそっちを見たらリーシャと顔があった。

 

「…お、おはよう…悠希」

 

「おはよう。昨晩はなにをしていたのかな?俺、気になるんだけど」

 

と笑顔で聞いたら苦笑いを浮かべた。「…いや、まぁ、その」とか言ってるし、気まずいんだと思うけどさ、前世では添い寝なんていつものようにやってたよね。

もしかして今の関係でも気にしてるのか?

 

 

 

そう考えながらリーシャの答えを待っていると部屋の扉が開けられた。

「…なにやってるんだ?お前達」

 

「……俺の方が聞きたい」

 

「……」

と俺からして背後から聞かれたので冷静にそう答えたらリーシャが恥ずかしそうに布団に顔を埋めていた。

うっすら見えた頬は結構赤かったような気がした。

 

「はぁ…そんなことしてないで朝飯食べに行くぞ。誠也って奴なんかは案外すぐに起きたからな?」

 

「いやいや、俺はなにもしてないんだけど…」

 

「ほう?その証拠は「……私が寝ぼけて入ったって言えば信じてくれる?」」

 

 

いつの間にか上半身を起こしていたリーシャが遮って言った。

寝ぼけてって…。昨夜、本当になにをしていたんだろう。

俺、凄く気になるんだけど。

 

 

「そ、そうか。とりあえず待ってるからな」

 

と言って扉が閉められた。

 

「じゃ、じゃあ着替えようか」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しした後、着替えた俺達は誠也達と合流してその宿屋の朝食をいただいた。

ソルは俺達にとって一口サイズのパンを二個ぐらい食べてたけど、あれで足りるのかな。

 

その後、宿屋を出て冒険者ギルドへ向かった。

もちろん依頼を受けるために。

 

「そういえば鈴奈さんって昔のこと知ってるけど、いくつなの?」

 

向かって歩いている最中、リーシャが俺も気になっていたことを聞いていた。

というかストレートに聞きすぎてるような…。大丈夫かな?

 

「ま、まあなんだ。そういうのは噂とか伝説になってるんだから私も知ってておかしくないだろ?」

 

「……そ、それもそうだね」

 

「リーシャ、それ以上はあんまりよくなさそうだよ?」

 

「そうだね、ソル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町支店の冒険者ギルドについた俺達は依頼掲示板の前にたった。

他にもそれなりにそういう人達がいて同じように依頼を見ている。

 

「これとかどうだ?」

と鈴奈さんが依頼書を掲示板からとって俺達に見せてきた。

そこには『ダンジョン調査』と書かれていた。

 

「いいとは思うけど…それ、全体に向けての依頼なんだね。危険なのかな?」

 

「…あー、そこまでは見てなかったな。大丈夫か?」

 

「危険だとしてもゆっくり攻略していけば平気だろ。悠希もいるし、魔法の使える2人がいるんだ」

 

それもそうか。

リーシャとソルが精霊魔法をそれなりに使えるみたいだからね。っていうか使ってたしね。

俺も属性魔法でもいいから覚えてみたいよ。

 

「そうだよ。なんだったらリーシャに弓を持たせてもいいだろうし。使えるだろう?」

 

「うん、普通に使えるよ。魔法だけで不安なら今から買ってきて持つよ」

 

そういってニコッと微笑むリーシャ。

体術に弓か……。両親にでも教えてもらったのかな?

 

「ならいいか?ソルは精霊だから魔力に関しては大丈夫だろうけど、リーシャは魔力とか大変だろ?」

 

「いや、まあ。でもそうだね、言葉に甘えさせてもらうね?弓矢を持ってた方が多分素手の時より役に立てると思うから」

 

そういうリーシャは得意気に見えた。

あれはようやく体術以外を見せれるから、嬉しくてしてるのかな?

 

「なるほどな。じゃあ、私は中衛と前衛を移動することにするわ。一応、依頼受けてくるわ」

 

そういうと鈴奈さんは依頼書を持って受付まで向かった。

持っていくのはいいけど、俺と誠也だけ決めてないよね…。

 

 

 

「……悠希、俺達はとりあえず前衛でやるか。リーシャも準備するみたいだし、俺もいいか?」

 

「うん、そうだね。リーシャとソルもいいかい?」

 

そう聞くとリーシャは「うん、いいよ」と言って頷き、ソルも肯定してくれた。

あとは鈴奈さんが……と思おうとしたらこっちに来た。

 

 

 

「いやぁ、すまない。待たせたな。冒険者登録もやったから遅くなってしまった。んじゃ、準備とか平気か?」

 

「ああ、それは皆で話して必要なものを準備するって決めたんだけど…」

 

そういうとニッと口角をつり上げる鈴奈さん。

 

「全然構わないさ。むしろ行こう。なにかあると困るし」

 

「………そ、そうだね」

それに大してそう返したリーシャの顔は苦笑いしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備するために冒険者ギルドを出た俺達は全員で武器屋へ行こうとしたんだけど…。

「ねぇ、皆のうち1人でもいいから武器とか売ってそうな店知らない?」

 

「わ、私はちょっと…」

「僕も無理だよ。って言うかこう見えて精霊の中ではまだ子供だよ?」

 

「そ、そっか…。鈴奈さんや誠也は?」

 

精霊に子供とか大人とかあるんだ…。年齢とかそういうのなんて関係なさそうに見えたんだけどな。

 

「俺も知らないな。っていうかあったか?」

 

「ダンジョンとかに入ったことがなかった2人は仕方ないだろうな。その武器屋は前からあるらしいが、私は知らないな」

 

 

いや、それを言った時点で知っててもおかしくない気がするんだけど。考えすぎかな?

 

 

「そういうってことは場所とか知ってるのかい?」

 

「ああ、広場から少し歩くと防具などを売ってる店があってそのすぐ隣にあるらしいぞ。私は知らんがな」

と俺達から顔をそらしながら答える鈴奈さん。

本当に知らないのかな、この人は。……怪しい。

 

「と、とにかく!準備をはやめに終わらせたいから行くぞ!」

 

話を切り上げるかの如くそう少し大きめな声で言うと俺達より先に行こうと歩き出した。

あの言い方だと図星みたいに感じられるだろうに…。

あ、リーシャとソルが頷きあってる。一応誠也は……ああ、一回頷いてきた。多分あれは知ってるなとか言いたいんだろう。

頷き返しておこうか。

 

 

 

「突っ立ってるとおいていくぞー?」

 

「今いくー」

「……あはは」

「お前な…」

「はいはい」

 

歩いていた鈴奈さんが半身だけ振り返って言ってきた。

それに対しての反応は上から素直に返したリーシャ、困ったように笑ったソル、なんか呆れ顔の誠也、適当に返した俺っていう順番。

 

まあ、危険といっても全員にあててならある程度攻略されててもおかしくないだろうな、と俺は思った。

確かにボスを倒されるとまた一から入れるんだとしても、それは前の話だろうし、そういう専用のダンジョンが存在するのかもしれないし。

魔王とやらが復活した今じゃ分からないしね。

だから大丈夫だろ。そこまで準備しなくても。きつくなったら皆で逃げればいいんだし。

あとで向かう最中にでも話し合っておこう。

 

そう考えながら俺はリーシャ達と一緒に鈴奈さんの後に続いた。

 

 

 

 

――その考えはどうやら甘かったらしいとあの時の俺は知らなかった。



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第34話 ダンジョンの仕組み、それと罠

ゆっくりゆっくり物語は進んでいます。

幻想郷生活の方では番外編らしく番外編を投稿しておりますので、そちらも一読してみてはいかがでしょうか?


では、こちらの下から本編になります。


――優季視点

 

準備をし終わった後、俺達は冒険者ギルドで借りた馬車へ向かっていた。

いやぁ、こういう全体依頼とか冒険者ギルドがある町や村、都市より離れた場所へ向かう冒険者達のための馬車があるとは思わなかった。しかも値段は無料。

 

でも、こうするってことは冒険者として働いてる人が多くなった…ということなのかな。

……どうなんだろう。

 

 

「どうしたの?悠希。なにか考え事?」

 

「あ、いや。…なんでもない。そうだ、リーシャ。前衛と後衛に分かれない?」

 

「そう。ならいいんだけど。……前衛と後衛に?今のメンバーで考えうる辺り、まず前衛は悠希と誠也さん。それで後衛は私とソル。鈴奈さんは……」

 

とそこまで言ったリーシャは腕を組んで首をかしげた。

うん、まだ前衛がいいかもしれないって言ってないし、本人にも平気かどうか聞いてないからそりゃ首をかしげても仕方ない。

 

道具に関しては皆別々に買ったから知らないけど、一応武器は俺がもう1本追加の剣、誠也は小さな盾、リーシャは弓矢、鈴奈さんは槍と盾。

 

 

 

「いやまぁ、考えてはあるよ」

 

「あったんかい!」

 

「まだ本人に聞いてないから平気かどうか知らなかったし…」

 

「はぁ……。鈴奈さん、こいつらが前衛か後衛かって話をしてるみたいなんだが、今大丈夫かー?」

なんてリーシャと話していたら、誠也が従者席に座ってる鈴奈さんに今の通りに呼びかけた。

おかげさまでその話題がしやすくなった。ほんとありがとう。

 

 

「ああ、全然問題ない。それで、前衛か後衛かって話だよな?」

 

「その話で一つお願いがあるんだけど、いいかな。鈴奈さん」

と俺が聞くと「構わない」って返ってきた。

 

 

「鈴奈さんも前衛に行ってくれたりはしないかな。平気そう?」

 

「なんだ、そんなことか。ああ、平気だ。むしろ私の体はこう見えて丈夫だから任せてほしかったのだがな」

と言ってハハハと明るく笑った。

そ、そうなのか。っていうかどこかで話してくれれば首をすぐにでも縦にふってあげられたのにな。

 

 

 

「じゃあ、前衛3人の後衛2人で大丈夫だね?」

 

「私はそれで問題ない」

 

「なんかパーティーみたい…」

 

「つっこむの今更な気がするんだが。気のせいか?」

 

「気のせいじゃないよ。凄く今更だと私も思ってる」

 

「「あはは…」」

 

と最後に誠也と鈴奈さんの呆れたような笑い声が聞こえた。

それからはしばらく静かに進んでいってたり、いってなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく馬車に揺られているとだんだんゆっくりになってきた。

本当、冒険者ギルドって便利だよね。依頼を受ければ行き方も教えてくれるし。

そこまで自力で、っていうのが大変なんだけどさ。

 

 

 

「ああ、それっぽいのを見つけたからそろそろ降りてくれないか?皆が降りたら私は馬車をどうにかすっから」

 

「分かった」

 

と誰かが返事をした。

それを聞いた鈴奈さんが馬車を止め、それにあわせて俺から順に降りて、最後に誠也が出てきた。

 

 

 

 

んで、降りた俺は少し歩きながらその例のダンジョンを探してみた。

…えーと、どれだっけか。

 

「なにを探してるの?」

 

「そりゃダンジョンの入口なんだけどさ、リーシャは分かる?」

 

見渡すのをやめてリーシャの方を見ると苦笑いを浮かべた。

なにも言わないでそれはちょっと酷いんじゃないかな。

 

 

「誠也は知ってる?ダンジョンの入口の場所」

 

「……すまん。俺は道具の整理をしてて見てないんだ」

 

なるほど…。だからごそごそしてたのか。

そりゃ受け取った地図を見る暇もないよね。

となると見たのはさっき苦笑いしたリーシャと鈴奈さんぐらいか?

ソルは横から見れそうだけど、どうなんだろうなあ。

 

「…これは連れてった方がいいね、リーシャ。じゃないと僕ら…鈴奈って人に置いていかれるよ?」

 

「それはないと思うけど…。まあ、入口には行っておこうか」

 

困ったように笑いながらリーシャは言うと俺達の方を見た。

なるほど。とりあえず頷いておくかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入口に向かう最中、鈴奈さんと合流した。

曰く『馬車だけは安全だ』とか言っていた。まあ、ならいいんだけどさ。

 

 

洞窟の入口みたいな感じの出入り口から離れた場所で見えるのは階段と難易度の書かれた看板。

この難易度って誰が決めてるんだろうね。

そのうち知りたいものだよ。

 

…それはそうと、これからここに入るんだな…って思うとなんか緊張するね。

そこまで警戒する必要はないんだろうけどさ。全体依頼なんだし。

誰かがある程度までは攻略してるでしょ。多分。

 

 

「じゃあ、入ろうか。皆」

と鈴奈さんに声をかけられた俺達は各々の返事を返してから鈴奈さんを先頭に俺、誠也、リーシャとソルって言う感じに入っていった。

 

でも本当、なんでダンジョンへ続く階段は1人か2人しか通れないんだろうね。

誰かがそう作ったのかな。

でも、そうだとしたら誰なんだろうか…。

 

 

降りるとダンジョンらしく、広めの通路になっていて、前衛と後衛に早速わかれることに。

それからしばらく進んだけど、今までのダンジョンと違って大してモンスターがいなかった。

 

再度出たりしないって話は聞いたことはないけど…もしかして難易度によって再度入れるとかそんなんだったりするのかな。

なんか可能性としてはありそうだな。

 

 

 

 

更に奥に進むとモンスターが数体いたので、俺と誠也で倒した。

そこまで苦戦するようなモンスターじゃなかったのもあるんだけどね。

 

「それなりに入られてるっぽいね。……って言うか難易度が安全と普通以外に入るの初めてだから全然仕組みが分からないや…」

 

「そんなもの、すぐに分かった方が怖いと思うんだけどな。誠也はどう思う?」

 

「いきなり話を振るなよ、と言いたいがそうだな。それこそ理解できる奴を見てみたいぜ」

 

俺がなにを言いたいのか理解してくれた誠也のおかげでリーシャが納得してくれたようだ。

まあ、話の流れから分かってくれたのかもしれないけどね。さすが悪友(笑)。

 

 

 

 

 

 

そこからある程度進むとそれなりに広い場所に出た。

そこに現れたのは多少強いオーク。人間より少し大きいモンスター…とされてるらしい。多分。実際大きく見えるけどね。

でもあのオーク、まだこっちに気づいてないんだな。

 

 

「…誠也、鈴奈さん、行ける?」

 

「俺はいつでも」

 

「ああ、問題ない」

 

声を潜めて聞いたんだけど、確かに大丈夫そうだね。

リーシャは……視線を送ったら頷いてくれた。

ソルはまだ人形(ひとがた)の淡い光だから頷かれても…ああ、大丈夫なのか?

 

 

「じゃあ、行くか。俺、先に気を引いておくな」

 

誠也がそういうと先に小走りで近寄っていった。

 

「なら俺達はそれにあわせていこうか」

 

「そうだな」

「はーい」

「分かったよ」

 

少し遅れて俺達もその方へ走り出した。

リーシャとソルは多分少し後から来ただろうけど。後ろから詠唱する声が聞こえたし。

 

 

 

当たり前だろうけど、近付いたときに武器を持っているのが見えた。

やけに大きなこん棒だな、とは思ったけど。先もなんか丸くてでかいし。

当たると相当痛い…というか五体満足でいられればいいな、っていうようなレベルだろうな。

 

誠也の方が先に気づいてそうだけど。俺より先に行ってるんだし。しかも誠也は前衛の中では軽装だからなのか、凄い身動きが軽い。

体力を気にしないんであれば1人で倒せるんじゃないかな。

 

誠也に気が向いてる今のうちに強い一撃を仕掛けた。

低いうなり声に似たものを言いながら半身振り向きながらこん棒を殴り付けてくる。

それをバックステップでなんとか避けるとそこにオーク目掛けてリーシャ達の方から炎が飛んできた。

 

 

「助かった!」

 

「いいタイミングだったようでなによりー」

と返してきた声はリーシャのものだった。

その後すぐに風のように光が俺や誠也、鈴奈さんにまとうように出てきた。

 

身が軽くなったから支援?とやらなんだろうけど…

「僕からの細やかな手伝い、かな」

 

なるほど。攻撃魔法以外も使えると凄く楽そうだね。リーシャもそのうち使えるようになるのかな?

まあ、あとでソルにお礼しておくか。

 

 

 

 

 

 

その後は誠也がすばしっこく動いて気を引き、俺と鈴奈さんとで誰か1人が狙われないように攻撃しあい、リーシャとソルがそこに支援するように魔法を放ってくる。

 

おかげでそんな時間もかからずに倒すことができた。

落としたものもそこまで悪いものではなかった。

良いものだと強いて言うなら薬草を落としたぐらいかな。

 

 

 

 

 

「……まだ奥に進めそう?」

と心配そうに聞いてきたのはリーシャ。

結構立ち位置を変えて戦ってたから、体力でも心配してくれたのかな。

 

「俺は大丈夫だよ。他の皆はどう?」

 

 

「この程度なら私にとって準備運動にすぎないから気にすることはない」

「こんな奴と連戦しない限りは大丈夫だと思う。多分な」

 

「因みに誰も聞いてないだろうけど、僕はリーシャ同様そんなに魔力を消費してないから気にしなくていいよ」

 

 

…いや、それはそれで気にしないといけないからありがたいんだけどな。

リーシャかソルのどっちかでも無くなったら大変になるんだから。

 

 

 

「じゃあ、先に進もうか」

 

でも、俺がそう言うと鈴奈さんが険しい顔をした。

急にどうしたんだろう?

 

 

「どうしたの?鈴奈さん。今んところ心配するようなことは起きてないけど」

 

「いや、そうじゃないんだけどな…。そこまで気にするようなことじゃないし、行こうぜ」

 

そういってニッと笑みを浮かべてこっちを見てきた。

平気なんだか平気じゃないんだか…。

どっちにせよ、よく分からない人だ。

 

「ああ…分かったよ」

 

 

その時になにかリーシャとソルが話していたけど、違う言語なのか全く分からんかった。

何の話をしていたのか覚えていたらあとで聞くかな。

 

 

 

 

 

 

 

更に進むと、モンスターが時折いた。

でもそのモンスターはそんな複数で出てこない上にそんな強くないからなんなく俺達でも倒せた。

全然問題ないし、行けるとこまで行こう。

 

そう思って俺は皆に話した。

鈴奈さんにだけ苦笑いをされたんだが、どういことだ…。なにかあるなら話してきたらいいのにさ。

リーシャや誠也だって「この調子なら大丈夫」みたいなことを言ってきたのに。

まあ、いいや。進もう。



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第35話 ダンジョン経験者と未経験者

今回、下手な描写ではあるかもしれませんが血流描写がございます。

苦手な方はブラウザバックを選択肢にお考えください。
それでも平気と言う方は…本編をどうぞ。


――碧喜視点

 

ある程度進んだところでそろそろおかしいんじゃないかな、と思い始めた。

 

なにせさっきから出会う魔族がやけに倒しやすい。

いくら何度も入られてるかもしれないダンジョンだとしても、倒しやすいってことはないと思うし。

難易度が危険ってのもあるんだろうけど、なにをしたらこうなるんだろう…。

 

油断したらいけない。

それもちゃんと分かってるんだけどなぁ。

ソルもなんかおかしいって言い始めるし。どうなってるんだろう。

 

 

 

 

そこから更に進んでも倒すのに苦労しないモンスターや多少苦戦する程度のモンスターぐらいしかいなくて、ついに半分まできた。

それで、進んだのはいいんだけど目の前に広い場所が見えるんだよね。

…あれ、なにか出る部屋って感じがする。フラグ立ってないといいなあ。

 

「…あそこで強敵が出てきたりして、ね」

 

「出てきたりするかもってレベルに見えないんだけどな、俺には」

 

私が呟くと悠希がそう言ってきた。

っていうかそれを言ったらますます入りづらく…。大丈夫かなぁ。

 

 

「まあ、なんとかなるだろ。な、鈴奈さん」

 

「なればいいんだけどな…」

誠也にそう返した時の鈴奈さんの顔はかなり険しかった。

…なにを感じとればそうなるんだろう?

 

 

「とりあえず入ってみないことにはなにも分からないし、入らないかい?」

と聞くと悠希と誠也さんからほぼ同時にそうだね、そうだなと頷きながら言われた。

―――鈴奈さんだけ、他の皆より険しい顔のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

入ると先程より人形(ひとがた)に近いものがいた。

それが見るだけで2体いると言うのに他にもたくさん他のモンスターがいる。

そこへ先に誠也さんと悠希が駆け足で向かい、鈴奈さんはその後を急ぎ足でついていった。

 

「そのままだと置いていかれるんじゃないかな、僕たち」

 

「それもそうだね」

と言う短い会話をしてから私も向かった。

 

 

その後の戦闘はかなりの苦戦を強いられて、私とソル以外が凄く危ない状態になっていって―――そこで私は奥の手を使うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――優季視点

 

一つ目の巨人2体と多数のスケルトンをどうにかして相手にした後、俺は周りを見渡してみた。

俺も俺で結構怪我をしてしまったけど、誠也や鈴奈さんも相当な怪我をおっていた。

いやぁ、途中からスケルトンが違う方に行ってくれたおかげで凄く倒しやすかった。

 

 

………………。

 

…………。

 

……違う方に?

 

「誠也。リーシャはどうした?」

 

「さっき周りを見たときにいなかったのか?」

 

「……いなかった」

 

そういったら、鈴奈さんの顔が難しそうな表情になった。

それも焦ってるような感じもしなくもないような。

 

「スケルトンが向かった方に探しにいくぞ。多分そっちにいるんじゃないのか?」

 

それって…。

そう思った俺は誠也の方にそいつの顔を見るつもりで顔を向けた。

そしたら誠也もこっちを向いてきた。まあ、誠也の表情はかたいように見えたけど。

 

「まずい、そっちの方へ急ごうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

誠也のその一言から俺達はその方向に行ったのだけど、もう遅かったらしい。

見える限り、体や服は傷だらけでボロボロ。その傷から赤い液体が流れてるのが見えた。

血だっていうのは言われずともすぐに分かった。

問題はそこじゃない。

 

リーシャは目を閉じて、倒れている。

「……リーシャ!」

 

俺が駆け寄ると後ろから、「マジかよ…」と「……だから言ったんだ」っていうような音が聞こえたような気がしたけど、今はそれどころじゃない。

人形(ひとがた)の光が見えた気がしたけど、それも気にしてる暇はない。

 

倒れているリーシャの上半身だけ抱き上げるも、なにも言ってくれないし、起きてくれない。

……そんなことはないだろ?

 

 

「リーシャ。…なんで目を覚ましてくれないの?」

 

「ってこいつ…あの量を処理しつつこっちに魔法を使ってきたのか…」

 

「みたい、だな。そこは難易度の低いダンジョンとは言え、入った経験があるリーシャだからこそ出来たことなんだろうな…」

 

 

なんか話してるけど、今はそんなことを気にして話しに入る気分じゃない。

 

「起きなよ、リーシャ。起きろって…」

 

俺はそんなことを言いながら上半身を抱いた状態でリーシャを揺さぶる。

さっきから一向に目を開けてくれないけど。

 

「落ち着きなよ、君。そんなんじゃ応急手当の一つも出来やしない」

 

「こんなんで落ち着いていられるか!リーシャが起きないんだよ!?」

 

「…焦るのも分かるが、まだ生きてるかもしれないんだぞ?」

 

「いや、それ以前に生きてるなんてこと、そこにいる契約精霊を見れば一発で分かるぞ。とりあえず離れるんだ。誠也もな」

 

……そんなんで生死の何が分かるって言うんだ。

そう思って言ったら、ほぼ無理矢理どかされた。

なんなんだ、本当。

 

 

見てるとソルと共に何かをしている。

何か、と言うのは知らん。誠也に色々と理由をつけられて距離をとったもんだから見えてないし。

 

帰るときに見たら、包帯だらけになっていたリーシャ。

…俺は気が気でならなかったけど。

 

その後、ダンジョンから誠也と話ながら出て、行きに乗った馬車で再度村へ帰ることに。

その間、俺は誠也と気分転換するために関係ない話をしたり着替えたりした。…誰が替えを用意してくれたんだろう。不思議だ。

 

 

ついたときには夕方。

急いでそういう怪我を治療してくれる建物に行き、そこにリーシャを任せて冒険者ギルドに寄ってから宿屋に帰った。

まあ、その夜は寝づらかったけど。……平気だといいな。

 



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第36話 実は生きてました

今回、かなり短めになっています。
それと後書きもありますので、よければ一目通してください。


では、下から本編です。


――碧喜視点

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

ここ、は?…ああ、もしかしてこの匂いからして治療所…かな?

いやぁ…そりゃさすがにあの数のスケルトンを相手にしながらのサイクロプスへの攻撃は無謀だったな。

そのおかげであの時、三途の川が見えて本気で焦った…。

花畑で綺麗だったけど、うん。二度目は遠慮願うかな。

 

……いや、うん。本音を言えば凄く怖かったかな。

こっちは5人に対し、あっちはサイクロプス三体にスケルトンが数十体。

数えてないからなんとも言えないけど、確かそれぐらいらいたはず。

 

それをソルと一緒にとは言え、対処していくのはもうとんでもなかった。

 

 

「……そうだ。ソルー?」

無理に体を起こすわけにもいかないから呼んでみた。

ハハッ、今このときに返事を聞いたら違う意味で発狂しそう。

一応私の中では癒しだからね。

 

 

「いるよー」

 

「…な、なんだってー!?」

バッと上半身を起こしてその聞こえた方(要するに左側)を向く私。

と同時に体からの痛みという名の悲鳴が。

 

「っ!?…お、起きて早々元気そうでなにより…」

 

「元気っていうか、単純にテンションがおかしくなっただけっていうか…。あ、うん。引かないで」

 

「大丈夫大丈夫、僕は精霊だから引くもなにもないよ」

 

「なら棒読みでそれを言うのはやめてね。ちょっと傷つくよ、私」

 

「わ、分かったよ…」

 

 

 

などと話していたら病室に人が入ってきた。

先頭の2、3人は服装が違うから治療してくれた人かな?薬草の匂いもするし。村でよく嗅ぐはめになったから間違いない。

 

 

「起きたんですね、フェルマーさん。…でも、上体を起こすのは…」

 

「アッ、ハイ。すみません」

 

そう言ってそそくさと痛みを我慢しながら横になる私。

っていうか思わず敬語になっちゃった。

 

「まあ、元気そうなのであとは痛みと包帯が取れれば退院できそうですね」

 

「そうだな。…因みに心配してた人もいるからそっちも気にしてやってほしい」

 

そう男の人が言うと背後から悠希達が出てきた。

どう見ても心配してるのひとr……いや、2人か。

鈴奈さんは呆れたように笑ってるからなんか言ってくるかな?

 

「…あんまりあんな無茶はしない方がいいんじゃないか?」

 

「そうだぞ。俺もそうだけど、俺以上に心配した奴がいるからな?最初なんて周りすら見えてない様子だったんだからな?」

 

「しょ、しょうがないだろ。あの時、どう見ても死に体のそれだったんだからさ」

 

「い、いやぁ…その…矢のストックは切れるわ、体術をしてる余裕はないわ、魔法だけだと範囲魔法以外でしないといけないわ、サイクロプス…という一つ目の巨人三体と戦ってる3人に魔法を使うのは…ねぇ?」

 

「……そうか。その、あれだ。大丈夫?」

 

 

一瞬なんのことかと思ったけど、負った怪我のことだろうね。

 

「大丈夫だよ。それに跡が残ったとしても見えないしね」

 

と言ってから場の空気をぶち壊すようなことを言ってみようと思った私はそのテンションのまま言いのけた。

 

「傷跡があったらあったで水着とかそういうときに分かりやすいんじゃないかな」

 

 

…特に治療師の人達が口を開けて目を丸くしてました。

いやぁ、ほら。そういうポジティブ思考も大事よ?

 

「あ、ああ…。まあ、その様子なら大丈夫そうですね。私達はもう席を離すのであとは皆さんで…。では、行きますよ」

 

「「はい」」

 

 

そう話して出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「っていうかその程度ですんでよかったな、リーシャ」

 

「うん、そうだね」

と言ってから悠希の方を小さく笑いながら向く。

多分愛想笑いとかになってそうだけど。見逃してほしい…な?

 

「まあ、治ったらまたダンジョンとか依頼とか受けようよ」

 

「…そうだね、悠希。皆もいいかな?」

 

「今度は身の丈にあった依頼だといいんだがな」

 

「鈴奈さんって案外毒舌なんだな…」

 

 

誠也さんが言ったその一言に私は笑った。

釣られて皆が笑い出す。

その後、しばらく他愛の無い会話をして皆は帰っていった。

 

はやく、怪我が治らないかな。

そう思いつつ私は夜空を窓から見上げた。




すみません、こちらの方は未完のまま打ち止めとさせていただきます。

何故かと言うとこの後々、悠希の祖父である人物のところに行かなくてはならなくなるのですが、伏線などが不足して会うことが出来なくなっているんですよ。

……はい、簡潔に言えば詰みました。
そういう理由で大変申し訳ありませんが、未完となります。すみませんでした。
そして、ご愛読ありがとうございました。


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