ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか (もんもんぐたーど)
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ウチの新人がどうもおかしい。
1話


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あれ?

…ここはどこなのです?

どこか…薄暗くて気味が悪いのです。

 

こう言うときは暁お姉ちゃんの探照灯を電も持っていれば…と思うのですが、借りて(或いは作って)電が使えるのでしょうか?

 

…!?

なにかいるのです。強い敵意を感じるのです。いや、これは殺意なのです。

 

「…どうしたのです?」

 

「…グルル」

 

言葉が通じないまま、こちらに飛びかかってくる。このまま攻撃を受けたものなら間違いなく大ダメージを負って陸でも沈める自信があるのです。回避?いいえ、迎撃なのです。

瞬時に艤装を展開し錨をつかむ。高練度とはどういう事か、体験するといいのです。

 

タイミングをねらって…錨を振り抜きつつ周りに同種が居ないか確認。複数確認できたけど襲ってきているのは一体だけ。なら、ほかのにバレる前にしとめるのです…ってさっきのは一発でやっちゃったみたいなのです。

遺品と思われる変な石を拾ったのです。

 

ん?あそこで、金髪の女の人が追いつめられてるのです?女の人の邪魔にならないように駆け寄りながら連装砲で何かを撃つ。

 

あれ…?火力が思った以上に出て上半身を吹き飛ばしてしまったのです。

それより何よりと、女の人に駆け寄る。

 

「大丈夫なのです?」

 

「うん、大丈夫。ありがとう。…ところでさっきの攻撃は…。」

 

連装砲の事でしょうか?なんと答えればいいのでしょうか。とりあえず砲身を動かして自己主張させながら少し説明する。

 

「さっきのは連装砲これの砲撃なのです。電の固有武器みたいなものなのです。」

 

「固有武器…?…あ、また囲まれた。」

 

お話ししている間に囲まれてしまったのです。でも周りにいるのはさっき一発でやっちゃったなにかと、さっき砲撃で葬ったちょっと大きいなにかが複数居るだけなので多分何とかなるのです。

 

「っ、てぇー!」

 

とっさに振り返り大きい方のを撃つ。そのまま左にいた一番近い小さい方のを錨で殴りつつ女の人の背後のなにかに跳び蹴りを決める。一応艦橋艤装を消して錨だけを持った状態にして回避の準備をする。

危険を感じとっさに左に転がると元いた場所は悲惨なことになっていた。

特型駆逐艦の基本艤装はもともとあんまり近接戦闘を考慮していない武装ではあるのですが色々努力した結果、今では錨のリーチは電の間合いなのです。

敵が多く居る方向に斬撃を飛ばしつつ1体ずつしとめていく。しとめた後の何かの遺品と思われる石はよくわからないけど回収したのです。

 

女の人は剣にチャージして強力な力を引き出していて、非常に早い。一応スピード特化の駆逐艦である電の速さはそこまでは到達していないので、自分の練度はまだまだ足りないと感じるのです。

 

「ふぅ…、あ、あの…。私は電…いなづまなのです。よろしくお願いしますね。」

 

一通り凪いで、自己紹介を忘れていたことを思い出したのでやや突然ですが名乗ってみたのです。相手方の名前も気になりますし。

 

「アイズ… アイズ・ヴァレンシュタイン。よろしくね、いなづま。」

 

Sideアイズ

十五階層、中層。ミノタウロスが主に出現する場所で初心者冒険者がくる場所ではないし、間違っても神の恩恵ファルナを受けていない人がいる場所ではない。

 

ドーンという大きな音がしたと思ったら火薬のような臭いと共にミノタウロスのうちの一匹の上半身がなくなっていた。

 

「大丈夫なのです?」

 

さっきの音の発生源の方から駆け寄ってきたのは13歳くらいの見慣れない格好をした女の子だった。

 

「うん、大丈夫。ありがとう。…ところでさっきの攻撃は…。」

 

咄嗟に気になったことを聞く。もしかするとスキルかもしれないし魔法かもしれない。本当は初対面の人にそういうのを聞くのはマナー違反かもしれないけど、つい聞いてしまった。

 

「さっきのは連装砲はこれの砲撃なのです。電の固有武器みたいなものなのです。」

 

その女の子が背負っているなにかの一部が自己主張するように動く。女の子が考えた動きをそのまま反映しているような感じを受けた。でも固有武器って…あ。

 

「固有武器…?…あ、また囲まれた。」

 

ミノタウロスが増えているので見事に囲まれる。もちろん迎撃する。女の子は…振り返りその瞬間またあの音がして背後に迫っていたミノタウロスを2体、そして手に持っている…錨(?)で一番近いミノタウロスを狩っていた。

すごく強いボウガン?にしても引き絞る時間、狙いを付けるまでの時間がかからなすぎだし2体同時にというのは無理がある気がする。どういう仕組みなんだろ…。

 

このあと2,3分ミノタウロスを狩り、お互いに名乗った後再び静寂が訪れた。

 

「…ところでアイズさん。少し聞きたいことがあるのです。」

 

聞きたいこと…?名乗った時と同様に静寂を打ち破ったのは彼女からだった

 

「どうしたの…?」

 

「気になっていたのですが……ここ、どこなのです?……って、はわわ。」

 

彼女から鳴ったおなかの音と共に常識を疑う質問が私に投げかけられた。

 




番外編として書いたときは面倒だといいながら切り離して連載していくスタイル


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2話

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「わぁ……すごいのです。」

 

いなづまは純粋な瞳を輝かせ、自身の驚きをつぶやいた。あまりに純粋で心配になってくるくらい輝いている。気のせいかもしれないけど、いなづまの周りにキラキラとした何かが舞っているように見える。気のせい、だよね?

 

「……ここが地上。で私たちが出てきたのがダンジョンの入り口。バベルっていう名前。いろいろな施設が入ってる。ここが迷宮都市オラリオの中心。」

 

いなづまは振り向いて、つられるように見上げると"おぉ"と感嘆を漏らす。しばらく話をしていて大人しい子だと思っていたけど、彼女なりに興奮していたみたい。

 

さっきより身軽そうだと思って、ふといなづまの背中を見ると背負っていた金属製のリュックみたいなものは消えていた。あれは気のせいじゃないと思うし……スキルかな?

 

「……あっちの建物がギルドでこっちにあるのが私の所属するロキ・ファミリアのホーム。」

 

これにもまたキラキラとした視線を向けていたいなづまだけど、急に落ち着いたように感じた。

 

「ふむふむ。……私もファミリアに所属した方がいい、のです?」

 

いなづまは不安になったのか、私の服の端をつかんで若干首を傾げる。この姿に保護欲がかき立てられるのは多分私に限った話ではないと思う。

 

地上に出るまで考えないようにしてたけど、いなづまはどのファミリアにも属していないらしい。

神の恩恵(ファルナ)もファミリアも知らなかったみたいだし、出来れば自分と同じファミリアに所属させて面倒をみたいけど……。

 

「…アイズさん?」

 

ちょっと長考してしまったかもしれない。私が黙っていると不安になるのかな。さっきより気持ち目が潤んでいるような気がするし。やっぱり直接に聞いてみようかな。

 

「……いなづま、私の所属する…ロキ・ファミリアに、来てみない?」

 

いなづまは首を傾げると、はっとした表情になり難しい顔をする。もしかして嫌だった?

 

「行かせていただくのです。」

 

いなづまにさっきのような柔らかい雰囲気が戻る。なんだか服の裾を掴まれる力が少し強くなった、そんな気がした。

 

「…よし、行こっか。」

 

「なのです!」

 

いなづまの手を取り、離さないようにしっかりと握ってホームへと続く道を歩き始める。そのときには私は既にすっかりと忘れていた。この落ち着いた可愛らしい女の子は唯の弱者(無所属)ではなく実力で自分と比肩する強者(正体不明)であることを……。

 

「ねえ、いなづま。」

 

「なんでしょうか?」

 

手をつないで少し後ろを歩くいなづまにさっきから背中の方をじっと見られてる気がする。

 

「私の背中に何かあった?」

 

振り返ると、いたずらの途中で大人に見つかった子供の目と視線が合った。

 

――――

 

うちの目の前には、いつもと変わらない様子のアイズと緊張した面持ちの推定十歳程度の茶髪の女の子が居る。その子の名前は"いなづま"で十五階層で出会っていろいろ教えながら(・・・・・)きて、ステータスを読まれた(・・・・)とか。

 

アイズが嘘を言っていないのは分かるんやけど、こんな子が十五階に居るとは思えんわ。そもそも冒険者って感じがせえへん。まんま嘘でも個人経営の花屋の看板娘て言われたの方が信じられるんちゃうか?てかステータスを読めるとか何処の神やねん。もう滅茶苦茶や。

 

「えっと、いなづまはファミリアに所属してないんだよね?」

 

「え、そうなんか。」

 

いやまさか十五階層に神の恩恵(ファルナ)なしでなんて…嘘でも冗談でもないんかい。

 

「そうなのです。」

 

…これ、ほんまどないしよ。

こんな暖かくて柔らかそうなかわいい女の子(強い)を保護しなくてロキの名が廃るわ。ん、ロキの名云々に関係ないやろて?しばくぞ。

 

「君、ウチのファミリアに入ってくれへんか?」

 

ピタッといなづまと目の合った一瞬ですべてを見透かされたように感じる。瞬間の出来事の筈なのに長い沈黙が過ぎて、いなづまは笑みをこぼした。

この背筋の冷える感覚、やっぱり実力はあるんやな。

 

「はい、よろしくお願いします。でも、神の恩恵(ファルナ)は保留でも良いですか?」

 

あまりの超弩級新人にウチは考えることをやめた。うちは悪くないで。

 

「かまわんけど、いなづまは神の恩恵(ファルナ)のメリット分かってるんやろ?」

 

「はい。でもまだ懸念材料があるのです。」

 

そう言うといなづまは右手で突然現れた珍しい武器-海のないオラリオではまず見ないであろうそれ-を掴む。

 

「この力と神の恩恵(ファルナ)が干渉するかもしれないのです。」




ここまでそのまま移植です。予定でしたがかなり書き直しました。
ちまちま書いていた残骸は整理次第あげていきます。次は来週くらいに投稿予定です。


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3話

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「力……?」

 

ロキがいなづまに問いかけたその時、とっくの昔に空腹を訴えて音を鳴らしていた、いなづまのおなかが気の抜けた音を出す。

さっきまで鋭利にロキを見つめていた視線は地に落ち、キリッとした表情は耳まで真っ赤に染まるうちにどこかへ行ってしまった。

手に持っていた錨も消えて脱力したような様子だ。

 

「はわわ……。」

 

今の彼女は強者でも神の類いでもなく、ただおなかを空かせた住所不定の少女に過ぎなかったのだ。

 

ほんま、よういろんな表情するなぁ。ただかわいいだけやないかい。……少し、安心したわ。

 

「いなづま、ごめん。おなか空いてたの忘れてた。」

 

しゅんとするアイズの姿もあってちょっと年の離れた姉妹のように見えなくもないし、こういうのもええな。

なんかようわからんけど、今ならリードできそうやし一手打ちましょか。

 

「なぁ、アイズ。まだお昼食うとらんやろ。いなづまとアイズとうちら3人で食べにいかんか?」

 

「うん、そうしよう。」

 

「……はい。」

 

空腹を自覚して食いついてきたアイズと少し回復してきたいなづまの返事が返ってきた。

 

ほんまかわいい子供たちやわ。

いなづまが自然にアイズの服の裾をつまむ様子とか永久保存したいくらいや。まあ、いなづまに手を出すと本気で斬られそうな気がするし今のところは手ださんでおくけどいつか……っ

 

「ロキ、いなづまはお昼ご飯じゃない。」

 

「はぃ……。」

 

「はわわ……。」

 

アイズの勘の鋭さ、こわいなぁ。なんか鋭くなってる気するんやけど。いなづま効果なんか?

てかついさっきまで冒険者らしい風格を見せていたいなづまはアイズの背中に隠れて恐る恐るこちらを見てるし、こっちはこっちでなんなん?

 

「そんな、取って食うわけないし安心してな……。まあ、気い取り直して、豊饒の女主人にいくで。彼処なら個室あるしな。」

 

茶番は置いておき、何時ものように豊饒の女主人へと連れて行くことにした。ただ、いなづまはあんまり近づいてくれないんやけど。先っちょだけ、先っちょだけでええから頭なでさせてや。

 

----

 

豊饒の女主人は今日も冒険者たちで賑わっていた。

喧騒をBGMにテーブルと厨房を往復するヒューマンや揉めて摘まみ出されそうになる冒険者が店内を彩り、店の繁盛をそのまま表している。

 

そんな中に新たな客が訪れる。

大手ファミリアの主神ロキ、《剣姫》アイズ、そして見慣れない格好をした少女ーいなづまだ。

 

当然ロキとアイズはオラリオでかなりの知名度を誇る。そんな二人と一緒に見たことのない少女がいるなら注目を集めるのは当然のことだ。じろじろというほどあからさまではないものの視線を集めているのは間違いなかった。

 

そんな圧に晒されてか、いなづまはさっきより強くアイズの手を握る。

 

出会ってから半日おろか6時間も経っていない少女(いなづま)がこんなに私に頼ってくるのはやはり不思議な気分。何か信じられるようなことをしてあげた記憶はないんだけど。

 

「いらっしゃいませ。三名様ですか?」

 

「せや。予約はしとらんのやけど個室は空いてるやろか。」

 

「……確認してきますね。」

 

声をかけてきた店員のヒューマンの女性は少し思案顔をしてからバックヤードに入っていく。

 

この店は女性店員が多い。それは何時も思うこと。それは同時に実力者も多いということ。店主のミアさんは元一級冒険者らしい。それ以外にも……さっきのひとも実力者だと思う。

 

「空いてましたのでご案内いたします。」

 

さっきのひとが帰ってきて奥の個室へと通される。席に着くと私は2つあったメニューをいなづまとロキに渡す。

 

「ここから、選ぶのです?」

 

質問に頷いて答えると、いなづまは難しそうな顔でメニューを眺め始めた。いなづまのコテンと首をかしげる姿にロキの視線が怪しくなったので少し威圧する。

 

「決まったのです。はい、アイズさんはまだ決めてないですよね?」

 

メニューを手渡してくるいなづまになんとなくほっこりとした気持ちになる。

 

さっと目を通して決めると注文を済ませた。

 

「あ、あの、料理が来るまでの間に力について……お話ししようかと。そんなに長くならないので。」

 

「ええで。」

 

そこからいなづまの話が始まった。いなづまの力は戦闘艦の、船の力を付喪神として自らに降ろしているとか。それで降ろしているときと降ろしていないときの差が少しずつなくなって今は一体になっているとか。神そのものではないけどほとんど神のようなもの。それで神の恩恵(ファルナ)との干渉を心配した、とか。ロキはうんうんとうなずきいなづまの頭を自然になでる。もやもやする。まあ、話の内容をあんまり理解できなかったけど実質神の恩恵(ファルナ)持ちなの、かな。

 

「そか、それは不安になるわな。うちもわかるで。」

 

本来実力はどんなに隠してもにじみ出てしまう。隠しても高い実力を持つ人ならそれに気づいてしまう、気づかれてしまう。あくまで格下を怯えさせない配慮として、ここの店員みたいに広い実力幅の人を相手する時には実力を隠すことがある。

 

その点いなづまは普通じゃなかった。力を入れているときと入れていないときで、まるで別人かのような差がある。でも、それは当たり前だった。なんか、遠くに行ってしまうような気がした。

 

さっきよりずっとロキとの距離感が近づいた、いなづまを見る。

ロキと一頻り話し終え、ちょうど私の方を向いたときだった。

 

「あ、あの、アイズさん?」

 

「……なに?」

 

……なんていえば良いんだろう。なにも分からなくなって、少しずつぶっきらぼうに返事をする。

 

「アイズさんのことを、アイズ……お姉ちゃんって呼んで良いですか?」

 

ふわっと温かい気持ちが広がって、ほんの少しだけ、ぶっきらぼうに返事したことを後悔した。そっか、わたしは……。

 

「うん、良いよ。改めてよろしくね、いなづま。」

 

「こちらこそなのです、アイズお姉ちゃん!」

 

妹ができた。




予定より少々遅くなりました。ミアさんを出すか迷いましたが、うまく描けなかったのでカット。今後の課題です。
今後もしばらくは週一くらいの頻度で更新していく予定です。原作イベントはソード・オラトリアに準拠して進行する予定です。


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4話

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ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか4

 

「わぁ……。」

 

いなづまは、店員が運んできた料理 ー 自身が注文したパスタ ー にキラキラとした目を向けた。今回ロキはお酒を注文していない。あくまでいなづまの進退を決める為だったのでちゃんと飲酒を控えることにしたのだ。

 

「……ゴクリ。」

 

私から見て、地上に出たときの五割増しくらいのキラキラとした何かがいなづまの周りに舞っているように見える。二度目なので幻覚ではない……と思う。ロキも、キラキラが見えているのかーそれとも料理に夢中で言葉数の減ったいなづまをみたいだけなのかー分からないが、時折いなづまの様子をうかがっている。

 

「……おいしい、のです。」

 

役目を終えたのか、キラキラが空気に溶けるように見えなくなっていく。小さな口を一生懸命動かして、いなづまがはじめの一口をごくっと飲み込んだあとの一言に私たちは浄化された。

 

押し黙ったところから笑顔の花が咲き、その口から紡ぎ出された"おいしい"は、お姉ちゃんの心にクリティカルだ。妹ってすごい。

深刻な影響をうけ、私とロキは一時停止していたが私はロキよりも寸分早く再起動して次の言葉を返す。

 

「それは、よかった。」

 

「せやろ、ミア母ちゃんの料理は旨いもんなあ。」

 

「なのです。」

 

しばらくの間各々が料理を味わう沈黙をはさみ、ロキが話を切り出した。

 

「そういえばいなづま。ステータス読める理由はわかったんやけど、いなづまにステータスみたいなんはあるんか?今はアイズもいるし大体でええんやけど。」

 

ステータス、それは神の恩恵(ファルナ)の最重要要素で神と子供たちをつなぐものだ。ステータスの更新は主神のみが行えるのだ。その内容は基本的に主神と本人の秘密であって、特にレアなスキルは確実に秘匿される。

 

「形式が違いますが海軍規定能力基準……練度があるのです。アイズさんがレベル5とのことなので、換算すると大体私はレベル4から5の間になると思うのです……。魔法とスキルも有りますけどここだといまいちぱっとしないのです。」

 

"かいぐんきてのーりょくきじゅん"がなにかよくわからなかったけど、いなづまが強いのはわかった。魔法とスキルも気になる。ぱっとしないというのはどういうことなのか。

 

「やっぱりかなり強いんやな。一応後で魔法とスキルも聞かせてな。」

 

いなづまの魔法とスキル、気になる。詮索はしないつもりなんだけど、今し方思い出したいなづまの固有武器みたいなものー金属製のリュックっぽいなにかーには興味が膨らんでいた。特に付加効果があったようには見えなかったけど。

 

「あの、ステータスの詳細はアイズお姉ちゃんに言ってもいいのですか?」

 

お姉ちゃん、いなづまが悪い人に引っかからないか心配です。もうちょっと様子を見てからでもいいのにね。

 

「アイズにならまあええんやけど、人を簡単に信じるのはあかんで。話したいなら幹部にとどめとき。」

 

ロキが代わりに言ってくれたので少し安心。ロキは良くも悪くもいろいろ言ってくれるから私は好き、かな。好きっていうと襲ってきそうだから言わないけど……。いなづまはうんうんと頷き話を進めた。

 

「分かったのです。えっと、ところでアイズお姉ちゃんは幹部なのでしょうか?」

 

え……。まあ、言ってなかったけど、ね。うん、わたしがファミリアの幹部に見えないことは自覚してる。

けど、お姉ちゃん的(?)にはもうちょっと格好いい姿を見せたいかなぁなどといろいろ考えてしまう。しゅん……。

 

なんか、人のことをいえないくらい短い時間でお姉ちゃんになっちゃった気もするけど、たぶん気のせいだ。いなづまの妹力(?)が高すぎて引き吊られているだけだと思う。思いたい。

ーーーー

 

「あの、ステータスの詳細はアイズお姉ちゃんに言っても良いのですか?」

 

本当はスキルとかは秘密にしておいた方が良いのは分かりますが……共有できる人なら共有しておきたいのです。

 

「アイズにならまあええんやけど、人を簡単に信じるのはあかんで。話したいなら幹部にとどめとき。」

 

思ったよりも引き留められなかったのです。まあ冒険者なら自己責任と言うところでしょうか。アイズお姉ちゃんも心配そうにこちらを見ているのです。

 

「分かったのです。えっと、ところでアイズお姉ちゃんは幹部なのでしょうか?」

 

「せや。本人の自覚がイマイチ足らん気もしなくはないんやけど、まあまあやれてるで。」

 

しゅんとしたアイズお姉ちゃんかわいいのです。まあ、アイズお姉ちゃんがキッチリ幹部してるところはあまりイメージできないのでイメージ通りで良いのですが、そんなにしょげなくても……あ。俯き加減からアイズお姉ちゃんと目が合う。

 

……ふふ。お姉ちゃん達って確かにこんな感じだったのです。益々かわいいのです。

 

この後はアイズお姉ちゃんと同じ部屋で生活することが決まり、後でレベルについてギルドと協議するとかなんとか。取りあえずホームに戻ることになったのです。




なんか半端な気がしますが気のせいです。


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5話

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「あの、ここは……。」

 

大手ファミリアらしく広く迷いやすいホーム内を、いなづまはアイズに手を引かれて移動する。歩幅の差から気持ち早歩きになるいなづまとそれに気づいて歩くペースを落とすアイズ。ホームの案内と称して前を歩くロキはその二人の姿を後ろから見ることができない、その一点についてのみ後悔していた。

 

面倒やからと案内人を別で立てなかったうちのミスやからな。

だから一秒に二回くらい後ろ振り向いて尊い姿目に焼き付けてるんやけど、あ……これ、アイズにばれたわ。流石にしつこかったかなぁ。こっからは真面目に案内しましょか。

 

「ここは、巷で流行の屋内闘技場や。あとでになるとはおもうんやけど、ここでうちのファミリアの団長でレベル6の冒険者のフィンと一度戦ってみてほしいんよ。ギルドに出す資料につかえそうなんや。」

 

「レベル6……良いのです。何事も、経験なのです。」

 

いなづまは、さっきのいなづまー 豊饒の女主人の料理を前にしたアイズの妹 ー と全く違う種類で興奮した様子を見せる。いなづまは何となく戦いを好まない性格だと思っていたんやけど。どうなんやろうな。戦いたくないというほど戦うことに嫌悪感があるわけではなさそう、いや何らかの理由で戦いを求めている……?

 

「いなづま、大丈夫なの?レベル6だよ?」

 

アイズはいなづまを引き留めるつもりなんだろうけど、もう遅いやろうな。いなづまは完全にやる気を出してしまってる。

 

「多分大丈夫なのです。ホームでの戦いならほぼ死なないですし、それに格上のひととの戦いは経験を多く得れるので、強くなれる可能性があるのです。心身問わず弱いことは死を招くので……強くなれる機会は逃したくないのです。」

 

いなづまの表情に暗い影が落ちる。それを見逃すほどアイズは新米お姉ちゃんではなかった。

お姉ちゃん的に重症なんやけどな。

 

----

 

団長と戦わせる?

大丈夫なのかといなづまを見ると静かに闘志を燃やしている。レベル6というのは私含めてレベル5では太刀打ちできないのに。

 

「--心身問わず弱いことは死を招くので……強くなれる機会は逃したくないのです。」

 

いなづまの雰囲気が僅かに変わる。僅かに匂うこのねっとりとした暗さの雰囲気は……多分過去に見たことがある。

ダンジョンに潜るといろんな人を見る。物理的にも精神的にも多くを得、また失う可能性のあるダンジョンに潜ることはハイリスク・ハイリターン、いやもしかするとハイリスク・ローリターンかもしれない。そんなダンジョンに惹かれて潜る人は多種多様で……。

 

「……、……ちゃん?」

 

うん、こういうときにちゃんとお姉ちゃんらしく(?)お悩み相談とか出来たら良いよね。なんかこう、お姉ちゃんお姉ちゃんってその日のこととかいろいろ話してくれたら、えへへ。

 

「アイズお姉ちゃん!」

 

「ん……、あ。」

 

完全にトリップ(?)してた。……なんかティオネのフィンに対するあれみたいになってる気がする。気をつけよう。と、いなづまが眉をへの字に曲げてこっちを見ている。引き留められて真面目に答えたのに相手が勝手にトリップしてたら……こんな私を心配してくれるいなづまはやさしいね。

 

「は、はわわ。お姉ちゃん?」

 

ぎゅっと抱きしめることにした。よく分からないけど直感はこれが正解といってるからそうだと思う。

 

「フィンは槍使い。いなづまは、勝てると思う?」

 

「槍、なのです……?……多分、大丈夫なのです。生きてる相手が殺せない道理なんてないのです!」

 

なんかいきなり物騒になったんだけど、あれ?

いなづまは疑問の視線に気づいたのか首をかしげる。あぁ、かわ。

 

「なにか……って、はわわ。団長を殺したりはしないのです。強い人と戦うのは久し振りなので、テンションが……えへへ。」

 

「そっか。頑張ってね。」

 

テンションが上がっちゃったなら仕方ない。仕方なくない?いや、だって故意ではないみたいだし。……今後同じことがあったら注意しよう。流石に団長殺害発言はティオネとかが暴走するかもしれないし。

 

「はい!」

 

「お、おう。それじゃ中入ろうか。」

 

そう言えばまだ入り口にいたんだったね。割と本気で忘れてた。

 

少しの間空気のように気配が隠れていたロキが中に入るよう促す。ロキに続いて私たちは屋内闘技場にはいる。ここは私もよくお世話になる場所だ。屋内とは思えない広々とした空間に、雑多な団員達の姿。そして……いなづまが対峙する小さな勇者《ブレイバー》の姿があった。




今回は気持ち短めです、遅れたのに。
きりが良かったんですよ。


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6話

《ここに前書きを入力》


 

「ーーということや。」

 

「あぁ、彼女がその……いなづまなんだね。」

 

「なのです。」

 

オラリオ最大のファミリア、ロキファミリアを率いる団長、小人族で勇者《ブレイバー》のフィン・ディムナはロキからの状況説明と手合わせのお願い、そしてその手合わせの対象である ー随分とアイズに懐いている様に見え、アイズも満更ではない様子の少女ー 新入団員(仮)のいなづまに悩まされていた。

 

全くと言って良いほど、目の前の少女とレベル5相当というの二つの要素が結びつかない。

その点ロキのたとえは秀逸だった。これが行きつけの花屋の看板娘だと紹介されたらどんなに気が楽だっただろうか。今みたいに変に勘ぐる要素もなくアイズと姉妹然とした姿にほのぼのと出来たに違いない。

 

現実としては、アイズをお姉ちゃんと呼ぶ姿は見た目以上に彼女を幼く見せるもののダンジョン十五階層で十分立ち回れる能力を最低限持ってるということで、今の姿と実際の戦いぶりの差は大きいだろう。

 

そしてロキと神の恩恵(ファルナ)ではなく盟友関係を結んだ新人、という空前絶後の存在で現在進行形で頭痛の種だ。

 

ロキがいうには信仰由来の神のような存在だそうだけど、新人だそうだ。それはきっと同音異義語だと思う。

 

ん……?というかその話が本当なら小人族の復興が成せれば女神フィアナが架空じゃなくなる可能性があるってことじゃないか。

 

神から信仰が生まれる事は娯楽に飢えた神々の住まうオラリオで当然の事だ。今この瞬間にも新たな冒険者が神の子供《けんぞく》として誕生しているだろう。子供《眷属》たちの信仰は神の力を示すものになる。

 

ーなら逆は?

 

目の前の少女がそれを体現するなら、ある種の強さとして神に近づくほどの信仰を集めたなら……自分が槍を構えるのに躊躇しうる要因は一つもない。

 

 

 

そのことに気づくと俄然やる気が出てきた。現金なものだが僕は目的ー小人族の名誉回復・復興ーのためなら手段を選ぶつもりはない。

 

「いなづま、君はこの手合わせに何を賭ける?」

 

「賭ける……なのです?」

 

目の前の少女は首をかしげ思案顔に。同様にアイズも首をかしげるが多分混乱しているだけだろう。ロキはニヤニヤとこっちを見ている。真意に気づいたのだろう。

 

「私には……賭けられるものが他にないので……私自身を賭けるのです。フィンさんはどうしますか?」

 

「君が決めて良いよ。」

 

正直負ける気はしないのでいなづまに委ねる。信仰由来とはいえ神としての力を行使することは出来ない。少女にレベル6は負けないし負けられない。団長としても見た目からなかなか評価されない小人族だからこそ実力だけは本物でなくてはならない。

 

「私が勝ったら……アイズお姉ちゃんが欲しいのです。」

 

え……?

 

「え……?」

 

顔が赤くなったアイズの声と僕の思ったことが完全に一致する。アイズが欲しいって?どういう意味なんだ。

 

「それはいったい……」

 

「詳しいことは手合わせの後で、なのです。」

 

少女はにっこりと笑う。親指がうずくと、目の前に強者《正体不明》がいることを認識させられる。気付いたらアイズも復活してるし、もう始め時だろう。

 

「それじゃ、いなづまが踏み出したら始めにしよう。」

 

「分かったのです。」

 

直後彼女の体格からは予想も付かない衝撃が反射的に僕の身体を動かさせた。

ーーーー

 

「ーーアイズお姉ちゃんが欲しいのです。」

 

「え……?」

 

んん?いなづまはアイズが欲しいって言うたんよな?聞き間違いやとおもいたいんやけどフィンもあっけにとられてるしアイズも顔真っ赤にして声漏れてるしうん。なんや、いなづまそっちの気があったんか?

 

そうじゃないかもしれんけど、明らかに敢えて誤解を招く表現をつかっとる。フィンの動揺を誘ってるんやろうか。でも動揺を誘うは正直失敗やとおもう。自覚するからこそ隙がなくなる。それがフィンや。

 

「それはいったい……」

 

いなづまはにっこりと笑うとフィンの疑問を遮った。

 

「詳しいことは手合わせの後で、なのです。」

 

目の前の存在の圧にほとんど力を封じているはずの体がびくっと反応する。フィンは親指を気にしていて、アイズも混乱から目を覚ます。ただいなづま一人だけがさっきまでと変わらない表情でフィンを見つめていて……。

 

それなりの団員が修練に励んでいてそこそこ騒がしかったはずのー屋内闘技場は波のように広がる圧迫感に無音が広がった。

その圧迫感の中心には団長フィン・ディムナと団員にとって見慣れない茶髪見慣れない服を着た少女が見つめ合っている。

 

「それじゃ、いなづまが踏み出したら始めにしよう。」

 

「分かったのです。」

 

次の瞬間キーンとした金属のぶつかる音とともにいなづまとフィンの立ち位置が入れ替わる。アイズを除けばほとんどの団員がその姿を捉えられなかったようだ。

 

フィンは、いなづまがふらついた一瞬の隙を見逃がさず槍のリーチを活かして追撃態勢になる。避けきれずに受け身をとったいなづまから槍を引き、距離を取って二本目の槍を用意する。

 

まさかフィンに本気を出させるとは……。はじめのふらつきから劣勢を覆せていないが差は開いていない。ただ本気のフィンになんと追いつけている時点で異常やとおもう。

 

まあ、それでも限界というものがあるっちゅうもんで、手合わせもいよいよ佳境に入ってくる。

そんなとき、さっきまで距離を詰めてリーチ差を埋めていたいなづまが一気に距離をとった。何となく次が最後になるようなそんな予感がした。




直前に再編集して間に合わないやつです。


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7話

《ここに前書きを入力》


「……良い団長さんですね。」

 

いなづまの呟きが耳に入る。そのふと漏れたような声は興奮と喜びと、疲労と……ほんのわずかな驚きを私に訴えかけてきた。それは同時に、目で追うのも大変なー高レベル冒険者的手合わせに場外から興奮していた私に疑問と冷静さをもたらした。

 

とてもではないけど新人(じゃくしゃ)レベル6(きょうしゃ)に挑むような在り方ではなかった。この瞬間誰がどう見ても、フィンといなづまは同じ格のステージに立ち ー そして同格の緊張感を共有していた。

 

そしてさっきのつぶやき。もしかしてあの手合わせの中でフィンを分析する余裕があったの?直感のようなものかもしれないけどそれはそれですごいとおもう。身内だから良いんだけどそうじゃなかったら……。

 

「……ふぅ。」

 

いなづまは限界が近いのか一撃のために距離をとる。後ろに飛びながらも次の攻撃の準備が隙間なく行われていく姿はさながら精密な機械人形といったところ。

 

なんらかのスキルが機能しているらしく、いなづまの気配に隠されていた力の塊のようなものが着地したとたんに足元に収束した。

 

「なのです!」

 

掛け声と共に始めの斬り込みを上回るー私も目で追えなかったー速度でフィンに迫り槍を弾いて一瞬のうちにフィンの体勢を崩して押し倒してしまった。

何で今あの速度が出たのか、どうして始めにフィンの姿勢を崩さなかったのかと考えを巡らせていくうちに別に疑問が出てくる。

 

「……いなづま?…フィン?」

 

さっきまでのスピード感が嘘のように動きがない。ほぼ無音のまま1秒2秒と時間が過ぎていき10を数えたくらいでフィンに動き、というか発言があった。

 

「ロキ、アイズ……いなづまが気を失ってるから持ち上げてくれないか?技が決まってて僕だけじゃ動けそうにない。」

 

気を失ってると聞いて頭が痛くなるのを抑えながら、フィンに近づく。

 

しゃがんでいなづまを観察すると、息はあるものの意識はない事が分かる。フィンの首に回されたー気を失っていると思えないほどしっかりとロックしているーいなづまの左腕をほどきフィンから引きはがすと私はそのまま両腕で抱えるようーお姫様抱っこというらしいーに抱く。背後からロキが近づいてきているが気にしない。

 

「ほんますごいな。気失っても負けへんかったか。」

 

いなづまの暖かさと鼓動を確かめ安心するとともに、自分が思った以上に不安になっていたことを自覚した。いなづまと対照的に私の心臓はいつもより早いペースで全身に血を行き渡らせていた。

 

「これは引き分けかな……。」

 

冷静に考えれば、思い当たる事があった。魔法の使いすぎ、そうマインドダウンだ。いなづまはそんなに長くない手合わせの間に何度も魔法を使っていたからあり得ると思う。何故か金属製のリュックみたいなのは展開しなかったからあの"固有武器"は見れなかったんだけど……。

 

たとえマインドダウンだったとしてもレベル6相手に迫り実質引き分けに持ち込んだ実力は対人だと私より高いかもしれない。

 

「ーーアイズ?」

 

「……あ。どうしたの?」

 

いつの間にか起き上がっていたフィンに声をかけられる。

いや、かけられていた?今声をかけたにしてはフィンから漂う待たされた感とロキの視線が痛い。ガレスとリヴェリアもいるし……もしかして私またトリップしてた?

 

「どうしたのって……いなづまを医務室に運んで欲しいんだ。僕たちは今から僕の部屋でいなづまのレベルについて話し合ってくるけど、心配ならそのまま一緒にいてかまわないよ。」

 

「うん、わかった。」

 

取りあえずいなづまを医務室へ。後は着いてから考えよう。

 

ーーーー

 

「うん、わかった。」

 

そう言うとアイズはいなづまを抱えて闘技場を出た。

 

思ったよりもずっといなづまにべったりになっているアイズを見て正直やや不安がある。

一方最近レベル5で停滞していると感じている彼女にとっては良い刺激になっているだろう。それ自体の冒険者としての良し悪しは置いておきアイズという人間にとっては良い影響を与えていると言える。

 

「ガレス、リヴェリア。二人はいなづまをどう思う?」

 

まだロキから詳細を聞いていない二人に意見を求める。二人ともレベル6の一級冒険者だしさっきの手合わせ(?)で意見を聞いても問題ないだろう。

 

「あの子はいなづまというのか。とにかく早いといったところかのう。ただ一つ不自然じゃったのが、フィンが受け流し方を切り替える直前に受け流し方に対応しておる場面が何度かあった。」

 

ガレスの言葉に思い当たりさっきの手合わせを思い出す。確かにあまりにも滑らかに、いやねっとりと受け流しに対応してきていると感じる場面が何度かあった気がする。手合わせ前の彼女の言葉を警戒して手合わせに集中した結果、逆に手合わせの間はそこまで考えが回っていなかったかもしれない。

 

「私からは、彼女の魔法について気になることがあった。あの手合わせで私が見ている間だけで私でもマインドダウンするくらいは魔法を放っている。それに最後の機動は魔法で実現しているがちょっと特殊だな。あれは初めて見た。それに、完成された並行詠唱。魔法剣士型のフィルヴィスに似ているが……。」

 

確かに牽制にしてはやけに威力の高い魔法が多かった気がする。あの規模の魔法をポンポン撃てば、撃つほどに目に見えて身体が重くなっていくはずだ。双槍で受け止めても痺れるような魔法をあの手合わせで何度も使っていればマインドダウンは免れないだろう。

 

並行詠唱についてはロキ・ファミリアでもリヴェリアくらいしか出来ない高等技能だ。それに魔法剣士か……。もう驚かないでおこう。疲労だけがたまる気がする。

 

「一応擁護しておくといなづまは……はい、続きはフィンの部屋で話しますわ。」

 

まだ闘技場を出ていないのに口を滑らせそうになる主神を威圧する。多少拗ねてしまうが団員も多いこの場所で話せない内容だった。さっき自分に説明してきたときはちゃんと周り見てたのに手合わせを見て興奮してしまったのだろうか?

 

「わかった、ありがとう。いなづまについては僕の部屋で僕とロキ、それにもしアイズが来ればアイズからも説明する。それじゃあ移動しようか。」




戦闘描写はどうしても説明中心になってしまい大変です。軽快に描写できている他の作者さんは本当にすごいです。

今回は間に合いました。次回も頑張ります。


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8話

《ここに前書きを入力》


ロキ、ガレス、リヴェリアと共に僕の部屋に入る。ファミリアの中で団長である僕の部屋は広い方になるが4人で座ると以外と圧迫感があるものだ。

 

「まず始めにいなづまはウチの盟友や。神格でいえば地上でファミリアを作っとる神々の7割くらいの力がある。ついでに新入団員やで。」

 

4人全員が座ったことを確かめるとロキが話し始める。

 

(ひまじん)か。それならまだわからなくもないのう。ん、新入団員と言ったがまさか神が団員として……?」

 

ガレスは僕とリヴェリアの疑問を代表した。僕も盟友関係にあるとまでしか聞いていないのだ。

 

「いや、正確には"信仰の対象になっていたいなづまと同じ名前の戦闘艦の概念を降ろし続けて(・・・・・・)一体化、更に経験値を溜め偉業を達成しランクアップのような形で神格化した"らしいんやけど……前半は言うてること難しいんよなぁ。まあ、強いだけの可愛い女の子やで。」

 

「信仰が生んだ()と融合した少女、か。」

 

「なんとも業の深そうな感じがするのう。」

 

「そうだね……謎が多いけどあの強さには納得かな。」

 

いなづまが戦闘艦"いなづま"から力を授かり、偉業を達成したことで"いなづま"が神格化したなら、それは神の恩恵(ファルナ)を受けていると見なせるんじゃないか?文字に起こすと混乱しそうだけど。

 

僕は若干彼女を誤解していたらしい。まあ僕が気になっていたことー信仰から生まれた神は神の恩恵(ファルナ)を与えられる神格になるかーについてはむしろ進展したので気にしないが。

 

「せやな。神としての力を行使した痕跡がないし、見た感じ力の制御は出来てるから実力の面ではうちは心配しとらんのよ。でもいなづまは……あれ?何歳やろか。聞き忘れてしもうた。かわいいからええんやけど。」

 

「ロキ……。」

 

哀れみの視線がロキに集中する。まさか出会ってから僕と手合わせする間に年齢すら聞いていないとか、"妹スキーだと判明したアイズ萌えるぅ。いなづまもつよかわいぃ"とかしか考えてなかったと思われても仕方ないだろう。。

 

「べ、別にただつよかわいい義姉妹丼期待とか義妹にデレデレなアイズたん萌えとか思うとったんちゃうで。ちゃんとステータス擬きも見せて貰うたし、あと、後は……ぅ。」

 

視線に耐えきれず捲し立てるように内心と戦果を暴露したロキ。前半がなければやり手の主神だが前半のせいでただの神《変態》になってしまっている。妙に予想が当たってしまったと言う意味では自分も毒されているような気持ちだ。

 

「ロキの性癖はさておき……ステータス擬きというのは何だ。」

 

「おう、これやで。写させてもらったやつや。っとその前に"スキル枠"も書いておくわ。始めは見えへんかったからなぁ……。」

 

主神の数少ない、いや唯一の戦果を見ようと意識を切り替えるが後に続いた言葉に硬直する。

 

「途中から見えるようになった……発現ではないのかい?」

 

「せや。突然見えるようになってな。もともと有ったのは間違いないから発現ではないで。」

 

ん……?スキルは有るのに見えないって事があるのか。ロキも気にしてないみたいだし神々の中では普通にあり得ることなのかもしれないけど……。

 

とりあえず呑み込んで紙に写されたステータス擬きを見る。

 

「ふむふむ……ん?」

 

練度が89と書かれており括弧の中に推定レベル4~5と書かれている。別の基準で計ったものをステータスに換算しているらしい。近くに小さくアイズの推定練度92と書かれているのでアイズを基準にしているのだろう。実際に手合わせした感じだと、いなづまはレベル5で間違いないと思うのでアイズをレベル5の平均として考えて換算したんだろう。

 

それ以外のステータスは耐性と俊敏は同等、魔力がアイズよりかなり高く、力はいくらか低く耐異常はほぼないと言ったところか。

 

ステータスもレベル5の中で普通に強い方だが、スキルの方はかなり特徴的だ。今発現している2つはどちらも見たことのないレアスキル。

 

「見ての通りいなづまはレアスキル、それも訳の分からないのを2つも抱えてるんや。もちろん本人は把握してるで。だからスキルについては幹部の間で"秘密"にするで。」

 

主神がニヤリと笑みをこぼしながら宣言する。もしかして……。

 

「確かにこの"秘密"は言外できんのう。」

 

「流石にこれは"秘密"だな。」

 

「本当に"秘密"としかいえないな。」

 

ガレス、リヴェリア、僕と続いて"秘密"を宣言する。その結果はすぐに分かった。

 

なるほど、これは秘密としか言えないな。ロキ・ファミリアの新人は確かに戦場の女神だった。

ーーーー

私はベッドに横たえた(いなづま)の頬を指でつつく。ぷにぷに。

診てもらったけど幸いにもいなづまの身体に異常はなくしばらく休めば起きるとのことなので一安心だ。それでもいろいろな思いが渦巻いて私は縛られたようにベッド脇のいすから離れられない。

 

まだ一日も経たないのにすごく濃厚な時間を過ごしたと思う。私にとっては成長が停滞して少し味気なくなっていた日常に一輪の可憐な花を添えられたような……。いなづまとダンジョンに潜ったらきっと昨日よりも楽しいんだろうなぁ。

 

「すぅ……。」

 

もう一度頬をつつく。マインドダウンしてるなら頬をつついたくらいでは起きないと思うので好きなだけぷにぷに出来る。今はできないけど膝枕も出来るハズ。いなづまの柔らかほっぺつつき放題。じゃが丸くんだと……換算できない。どっちも欲しい。

さらさらの髪さわり放題。これもセットで。

 

「んぅ……。」

 

私は早く起きて欲しい気持ちと頬をつつきたいがために寝ていてほしい気持ちに揺れる。結局現状に甘んじて、欲望の赴くままにいなづまの頬をつつき髪をすいていたそのとき医務室のドアが開いた。

 

「アイズ、ここにいたのか。」

 

「ベート?何かあったの?」

 

入ってきたのは同じレベル5で俊足自慢の狼人 ベート。つり目でちょっと厳しい言葉を掛けてくる事があって、あと……蹴りがすごい。

 

「特になにもねぇよ。んで、そのベッドで寝てるのは誰だ?」

 

この顔、多分私がいなづまを運んでいるのを聞いてきたんだと思う。根拠は直感。この手に限る。

 

「いなづま。新入団員の子。」

 

新入団員と聞いてなんともいえない表情になるベート。んー、あ。ベートにいなづまを見てて貰ってフィンの部屋に行こう。ベートは口は悪いけど信用出来るのでいなづまが起きるまで見ていて貰うくらいは頼める。

 

「新入団員ねぇ。商業系ファミリアならわからなくもねぇが何でこんな奴がロキ・ファミリアに……。」

 

「……ベート。ここに座って、いなづまの様子を見てて。フィンの部屋に行ってくる。」

 

色々言いたいことがありそうだったので遮っていすに座らせ、用件を伝えて医務室を出る。多分ベートなら放置しないから心配になって戻ったりはしない。

フィンの部屋まで早足で歩きながら他の幹部に伝えるべきいなづまの情報を自分の中で整理する。

 

まだ左手にはいなづまの髪のさらっとした感触が残っているような気がした。




説明的文章だけだと草臥れるのでお姉ちゃん要素を増量。ソード・オラトリア買わなきゃです。次回で第一章完結予定です。

おまけ
フィン達が見たいなづまのステータス
ーーーー
いなづま Lv5
〈スキル〉
海神の加護《□□□□□》
ー 水上においてすべてのステータス上昇
ー 水上・水中において取得経験値上昇
ー 主と同僚を守護する
ー 味方との位置関係でステータス上昇
ー 可能なら長をかばう
ー 水の扱いに長ける
ー 三大欲求と二大要求を混合できる。
ー 異常に対する耐性を持つ
ー 水陸を区別しない


戦場の女神(夜)≪ヤセンノミチビキテ≫
ー 暗所でのステータス上昇・取得経験値上昇
ー 見えない味方を把握する
ー 有利な戦場を引き寄せる
ー このスキルを含む何らかの"秘密"を共有した希有な存在に加護と幸運を与える。秘密が失われるとき加護は失われる。隣に立つ信じられる誰を見つけたとき女神は再び戦場に降り立つ。

《 》


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9話

《ここに前書きを入力》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか9

 

「……。」

 

見知らぬ少女をお姫様だっこしていたと噂される気になるあの子の所へ行ったら見知らぬ少女のお守りを任された。その少女もダンジョンに潜る冒険者にしては無防備でらしくない。探索系ファミリアであるロキ・ファミリアに入る理由は謎だ。

 

何で俺がこんなお子様のお守りをしなきゃなんねぇんだ。医務室にいる以上何らかの事情があるんだろうが全く状況が読めねぇ。外傷なりなんなり原因が分かるもんがありゃましだがそんなのもないし、事情ぐらい説明していけよ……。

 

「んにゅ……。」

 

目の前の少女から目をそらし背中を向けて医務室の担当を目で探す。ちらっと視界に入る机上に置かれた"ただいま外出中"のプレート。そして背後に人が動く気配。

直感に従い振り返ると寝ぼけまなこの少女と目が合った。

 

「……おはようございます?」

 

「もう夕方だぞ?」

 

寝ているときの様子から考え得る"警戒心の低い少女"がそのまま目の前で動き始めるようだった。もっとも動き始めたと言ってもベッドから出てはいないが。

 

何がおはようございます?だ。そんなんじゃダンジョンに潜っても頭から食われておしまいだぞ?ゴブリンにすら瞬殺されそうな緩い感じ、日和ってるようにしか思えねぇが。

 

「……あれ?思ったよりも早いのです。1時間ですか……ってあれれ。(アイズさんは…… 。)……名乗り忘れてました、新入団員(?)のいなづまなのです。」

 

「俺はベート・ローガだ。俺のレベルは知ってるか?」

 

折角だと目の前の新人にオラリオにいたなら分かる簡単な質問を吹っかける。まさかレベル5の名前も知らないなんてことはないだろう。

 

「……えっと、レベル5くらいでしょうか。4ではないですよね?」

 

ん?なんで4ではないことを確認するんだ。まるで知っていたんじゃなくて今ひねり出したみたいな…。もしかして。

 

「ああ、レベル5だ。お前、最近ここに来たのか?」

 

「……今日、オラリオに来たのです。」

 

今日来てここにいるって事は……。あぁ、主神≪ロキ≫か。あの中身が親父の。

 

「ならロキには会ってるんだな?かわいいから採用みたいなこと言われなかったか?」

 

「主神ロキですよね?……言われてないと思うのです。"君、ウチのファミリアに入ってくれへんか?"とは言われたのです。」

 

あぁ、ロキから手を出したのか。それで近くにアイズがいて任されたと。アイズも大変だな。自分の成長に陰りが出て不安になってるところに忙しい要因が舞い込んできて。

 

「ロキは中身変態親父だから気をつけろよ。んで、お前はなんのためにここに来たんだ?そして何で寝てたんだ。」

 

「……目的、ですか。……。」

 

この話題は地雷だったらしくさっきまでの明るい様子は鳴りを潜め、視線を漂わせた後なんともいえない表情で黙ってしまう。何度か口を開こうとするも開ききる前に再び口を閉じる。

 

「秘密は誰にでもあるから、言えないなら構わねぇがうちのファミリアと団員を害することだけはすんじゃねえぞ。迷いをダンジョンに持ち込むような雑魚は早々と死ぬからな。」

 

ちょっときつめの口調で話題を打ち切る。何かあってすぐにこっちに来ると心の整理が付かないままダンジョンに潜る奴が必ず出てくるからな。

 

「はいっ。……ベートさんって優しいんですね。」

 

"優しい"今まで弄ってくるロキ位にしか言われたことのない言葉にいつも通り顔が少し熱くなるのを感じる。さっきとは種類の違う笑顔をこちらに向けてくるこの少女は何者なのか。

 

「別に優しくなんかねえよ。雑魚が実力を顧みずにダンジョンに突っ込んでいくのが見るに堪えないだけだ。」

 

これは本心だ。べ、別に心配してるわけじゃねえ。いきった雑魚を見るといらいらするだけだ。

「ふふっ、アイズお姉ちゃんがベートさんに任せた理由が分かる気がするのです。」

 

「……ん?」

 

"アイズお姉ちゃん"だぁ?アイズに妹がいるなんて話は聞いたことがねえ。となると自称妹って奴か。

 

「……なのです?」

 

俺の表情に反応したのか少し首をかしげる。こういう所に鋭いのはアイズに似ているような気がする。アイズとの違いは冒険者としての存在感が有るかどうかだろう。

 

「あ、あの……別に寝たふりとかをしてたわけじゃないのです。アイズお姉ちゃんの気が残っててベートさんが居たのでアイズお姉ちゃんが私のことをベートさんに任せて用事に行ったのかなぁって思っただけなのです。あと、寝てた理由は多分団長さんとの手合わせで最後に気絶してしまったから……なのです。」

 

んん?なんか誤解されてないか?

まあ、言われてみれば寝ていたはずのこいつがアイズとのやりとりを知ってるはずがないので不自然なのは当然だ。あと、"団長さんとの手合わせ"ってなんだ。

 

うちのファミリアの団長と言えばフィン・ディムナだ。ただ団長はレベル6。正面から当たってまともに手合わせが成立する実力があるのは同じレベル6のガレスやリヴェリア、低くてもレベル5だろう。

フィンは雑魚(かくした)との模擬戦に木刀を使うからそれの事だな。そして大抵新人はフィンを剣士だと誤解するんだよな。

 

「手合わせ、か。団長は剣も扱える槍使いだからな。どれくらい持った?」

 

「ふむふむ……団長さんは剣も(・・)扱えるんですね。てっきり槍専門かと思ってたのです。手合わせの時間は……ひぃ、ふ、みぃ……12、3分だったかと。」

 

ここでベートはさっきからイマイチ会話がかみ合わないと感じていた事をはっきり自覚する。何か大事な情報が抜け落ちているか間違っているような……自分は、目の前の少女を過小評価していないかと。フィンと自分、フィンとアイズ、フィンとアマゾネス姉妹……その模擬戦のうちどれだけ10分を超えて続いた試合があったか思い出す。

 

戦場において戦力評価は生命線になる。その戦力評価を自分が見誤った可能性に思い当たる。

 

「ほう、なかなかやるじゃねえか。俺と模擬戦やらねぇか?」

 

「今は身体が痛いのでちょっと……後で、後でやりましょうね。それよりアイズお姉ちゃんはどこに居るのでしょうか……。行き先を聞いてませんか?」

 

おっと、狼人の血が騒いだみてぇだ。目の前の少女はどんなに強い可能性があってもさっきまで意識がなかったことを思いだす。流石に病み上がりの人に無茶ぶりをするほど外道じゃない。

 

「団長の部屋にいるって言ってたぜ。折角だから連れてってやるよ。」

 

「ありがとうございます。……やっぱりベートさんは優しいですね。」

 

ベッドから出て医務室の机の上に書き置きを残しながら彼女は可愛く笑う。また言われたがもう答えないことにする。やりとりを続けてドツボにはまるのは経験してるからな。

 

「……置いてくぞ。」

 

「はいっ。」

 

医務室を出る準備が整ったのを見届けて入り口に向く。別に心配してるわけじゃねえからな。わざわざ送るのはホームで迷われてるのは迷惑なだけだからな。




第一章完結です。
幹部の会議?そんなものは知りません。


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私の妹(公称)はこんなにかわいい
10話


《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか10

 

いなづまの部屋は私と同室になった。外からやってきた新人(?)高レベル冒険者の監視という名目だけど、多分……ううん、気のせいだよね。まあ、可愛い妹と同室なのは大変喜ばしいというかなんというか、いなづまかわいい。同室に決まったときの喜び方もかわいい。妹の嫌いな姉なんて居ません!あわよくば寝顔も……。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう、いなづま」

 

結果から言うといなづまは私より早く起きていた。

 

つまり私がいなづまの寝顔を見るためにはマインドダウンか私が早く起きるかいなづまが早く寝るか。昨日ベートに預けたのを若干惜しむ。あれは預けないといけない局面だったけどまさか朝の寝起きいなづまを拝めないとは思わなかったから……。明日は早く起きて……えへへ。

 

あ、またトリップしそうになった。

 

部屋以外のいなづまの進退についても意外とあっさり決まった。

 

まずギルドへの申告レベルはレベル5。つまり一級冒険者だ。フィンとの手合わせと盟友関係の"ステータス擬き"が決定打になったらしい。あと、スキル・"魔法"についてはレアスキルにぶっ壊れ魔法(刺激が強いとのことで見せてもらえなかった)ととても言える内容ではないので秘匿。ロキがなんとかするらしい。

昇格ではないものの新しいレベル5と言うことで神々のセンス(中二病)で決められる二つ名も与えられる可能性がある。

 

あと、神としての格についてもロキ任せになる。いなづまは神であることを隠す事が得意らしいのでなんとかなるらしい。なんか「ダンジョンに潜るときは気をつけるんやで。」とか言ってたけどどういう意味なんだろう。

 

まあ、分からないことはちょっと置いておき、それより何より今日はなんと……いなづまとお出かけするんだ‼

 

「朝ごはん、食べに行きませんか?」

 

「そうだね、いこうか。」

 

出る準備を整えた私を見ていなづまが声を掛けてくる。自然に当然であるかのように伸びてきたいなづまの手をとり、しっかり握る。

昨日説明を受けて一応自分で朝食を食べにいける筈のいなづまだけど、この寝坊助お姉ちゃんを待ってて、手までつないでくれるなんて……。

 

「♪」

 

ファミリアの無駄に広いと思っていた廊下を二人で並んで歩く。

昨日気付いたんだけど、これ位幅があると手を繋いで並んで歩いても普通にすれ違える。余裕を持って黄昏の館を設計した人は全力でたたえられるべき。ここの主だと思えばロキのセクハラも一回くらいは許せるレベルの快挙。

 

と、いなづまの登場で図らずも評価が上がったロキのことは置いておき、今日はいなづまと生活用品と武器の購入をすると言うことになっている。

 

生活用品は置いておき武器についてはいなづまには固有武器があるけど、固有武器の修復は制御可能なもののいなづま自身の体力を消費するから別に武器を用意する。

 

と言うのも遠征とかホームを長時間離れる時に体力を回復できるかわからない状況で武器を失う可能性があるのは良くないからね。

 

立ち止まるいなづまと私、気付いたら目的地。見上げてくるだけでお姉ちゃんに喜び(ダメージ)が……。これが妹。圧倒的妹。自分でも何を考えているのか分からないくらいだけど、妹は良いぞ。

 

ーーーー

 

朝御飯を食べてリヴァリアさんから資金を受け取ったあと、私の武器を買いについでにアイズお姉ちゃん好物と噂のジャガ丸君を近くの屋台で買う。店員さんは黒髪をツインテールにした碧眼の人(?)でした。背は大きくなさそうでしたが胸部装甲が……。

 

私も大きくなったらちゃんと胸部装甲も育つのでしょうか?毎日牛乳を飲んでいるのですが、なかなか実感もないし同じ駆逐艦でも潮お姉ちゃんとか浜風さんとかは……うぅ。ま、まだ成長期(?)なので信じるしかないのです……。

 

「はい、なのです。」

 

「いなづま、人間はジャガ丸君なしには生きられないんだよ。」

 

アイズお姉ちゃんにジャガ丸君を渡すと冷静な口調で興奮気味の表情というちぐはぐな、いや喋ってる時点で興奮してるのです?お姉ちゃんはかなり落ち着いているというか寡黙というか……あんまり興奮とかしない方だと思うのですが……そんなにジャガ丸君が好きなのです?

 

「アイズお姉ちゃんは、私とジャガ丸君どっちが大切ですか……?」

 

食べ物に対してというとなんか変ですがちょっとイジワルな質問をぶつけちゃうのです。これが雷お姉ちゃんならきっとうまく受け流しちゃうのですがアイズお姉ちゃんには難しいと思うのです。

 

「……決めなきゃだめ?」

 

さっきまでのテンションから打って変わって絶望感漂う表情に変わる。ここまではっきり表情が変わるとちょっとぞくぞくしちゃいますね。はわわ、なんか変態さんみたいな思考に……。

 

「……別に、良いのです。出会って一日も経っていない妹とおいしいジャガ丸君じゃ……。」

 

「そんなことはない……。いなづまは大切な妹で……」

 

さっきまで逸らしていた目が合う。あぁ、やっぱりどこにいても私は私なのです。例えダンジョンや神の恩恵(ファルナ)みたいな不思議があふれるこの地でも……

 

「大好きな妹だよ。」

 

「私もお姉ちゃんのこと大好きなのです。……さっきはイジワルなこと言ってごめんなさい。」

 

お姉ちゃんが大好きなんだって。




23人も姉が居たら仕方ないのです。(吹雪型24番艦並の感想)


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11話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか11

 

あの後いなづまを抱きしめて姉妹愛(?)を確かめた私たちは手をつないでゴブニュ・ファミリアの本拠地【三鎚の鍛冶場(みつちのかじば)】へと向かう。

いつもお世話になっている鍛冶屋さんで主神のゴブニュがデスペレートを打ってくれたので覚えている。そういえばティオナやティオネの武器もこのファミリアの製作だったよね。

 

私は序でにデスペレートを診て貰う予定なんだけど、いなづまの場合、武器の製作はどうなるんだろうか。一応ロキからゴブニュへの手紙?を預かってるからロキには考えがあるみたいだけど。とりあえず工房のところにいなづまを置いてゴブニュの部屋に行く。

 

「ダンジョンにずっと潜っていた、訳ではなさそうだな。何時もより切れ味も落ちてないから錆びとりだけしておこう。……ん?」

 

「ロキから渡すようにいわれて……。」

 

手を止めたゴブニュに封筒に入ったロキの手紙を手渡す。ゴブニュはトリックスターを思わせる封蝋をみてなんとも言えない表情を見せるがすぐもとの表情に戻ってた。

 

「新入団員の武器か。 新入と言うわりには随分と要求が高いのだな。アイズ、君はこの新入団員とは面識があるのか?」

 

いなづまのことだろう。フィンとの戦いの中である程度武器の内容に当たりをつけていたのは間違いないけどどんな内容なのだろうか。

 

「……昨日一日、一緒に居ました。雰囲気は冒険者らしくはないけど、強いです。」

 

昨日の濃い一日を思い出す。いなづまと出会ったときーよく考えたらあの階層で私が一時とはいえ裁ききれない強さと数のモンスターに囲まれたのは何かあったのかもしれないがーいなづまの強さと可憐さとが正常な判断を奪っていたのかもしれない。

 

「強い、というのは新入団員のなかでか?」

 

ああ、そうだった。いなづまは世間的には最大派閥の一角のありふれた新入団員でしかない。私の感想と実際に伝わった意味の差は神でないと気づかない。

 

「いいえ。一冒険者として、です。」

 

「そうか、わかった。この件については引き受けるとロキに伝えておいてくれ。」

 

「はい、あと……その新入団員はいま工房にいますけど、会いますか?」

 

ーーーー

 

ゴブニュ・ファミリアの工房は私にとって因縁のある匂いと空気で満たされている。

 

艦娘にとって機関室の鼓動は母親の心臓の鼓動。燃料を燃やし鉄の音を匂いを満たしながら熱を生み出すそれは、見た目の無骨さに反して繊細な制御を必要とする。

工房の炉も温度や圧力の違いはあれ似たようなものだ。打ち付けられる金属が上げる音色が過剰に過去を思い出させる。

 

「良い場所なのです……。」

 

「どうした嬢ちゃん。君は付き添いかい?」

 

タオルを頭に捻り巻いて指揮を執っていた"親方"と呼ばれていた男の人が私に気付いて声を掛けてくる。

 

「えっと、武器を依頼するのにアイズお姉ちゃんを待ってるのです。」

 

「嬢ちゃんは、冒険者か。」

 

親方さんにとっては、それは意外だったらしい。確かに冒険者は一日見ていた中で常在戦場に近い空気感の人が多い。私を含め駆逐艦は在戦場を意識しているものの総合的な問題から戦闘意識のオンオフがはっきりしている傾向にある。特に駆逐艦はリロードが早いのもあって安全地帯で変に気を張るとふとした拍子に艤装が出て誤射の危険が上がるのだ。

 

「なのです。今の武器は、あ……この錨、なのですが。」

 

さっと錨を出す。本来の近接武器は改造魚雷だけど雷お姉ちゃんに止められたままなので錨で良いかな。魚雷の方が突きには向いているのですが錨は攻撃範囲と迎撃、受け流し……鎖付きなら遠距離と魚雷に比べて幅広く運用できるのがメリットなのです。

 

「い、錨か。持ってみてもいいかい?」

 

錨を親方さんに渡す。あれ……思ったよりも持ってる感じ重そうなのですがそこまでなのです?いくらか見て振って満足したのか錨が返ってくる。

 

「はい、ありがとね。確かに冒険者なんだなぁ……。」

 

見た目に厳つさに対照的な穏やかな表情に少しだけいつかの代の機関室長を思い出す。やっぱり良いところなのです。

 

「いなづま」

 

「あ、アイズお姉ちゃん。」

 

アイズお姉ちゃんがドアから顔を出す。ちょこっと顔を出す感じ、お姉ちゃんらしからぬ幼さを演出していて妹的にポイント高いのです。

 

「ちょっとこっち来て。」

 

「親方さん、ありがとうございます。失礼しますね。」

 

親方さんに頭を下げお姉ちゃんの手招きに導かれる。その先にはファミリアの主、主神の部屋。何事もなかったかのように握ったアイズお姉ちゃんの柔らかい手。

 

その部屋には身長こそ高くないものの存在感・風格は神の一柱として確かな老年の男性がいた。その神こそがゴブニュであった。

 

「お主がいなづまか。」

 

「はい、ロキ・ファミリアの新入団員いなづまと申します。よろしくお願いしますね。」

 

表情が変わらないまま目を合わせた私とゴブニュは長く感じる数瞬の間に最低限の信用を確保する。神同士なら人同士以上に目をそらさない事が重要だ。

 

「"ゴブニュ・ファミリア"に武器の製作をお願いできますか?」

 

「よし、引き受けよう。気に入った。どのような武器が良いんだ?」

 

無事ゴブニュの課題を突破した私は新たな武器の入手に一歩進めたのだ。




ゴブニュ・ファミリアの様子がよく分からない2017。


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12話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか12

 

「今更なのですが、二つも武器をお願いして良かったのでしょうか?」

 

「多分大丈夫だとおもう。ロキはそういうの甘いから。」

 

武器の依頼を済ませゴブニュ・ファミリアをでた私たちは生活用品の購入のためにオラリオの街中を廻っていた。

 

「ふむふむ……。あ、あの建物は何なのです?」

 

ちょうどあの謎の像が見える位置にいたのでそれにいなづまが気づく。

 

「あれはガネーシャ・ファミリアの入り口になってる像。主神ガネーシャの像、だったと思う。」

 

謎の像、象のお面を着けた神ガネーシャの像はオラリオでもかなりの存在感がある。この自己主張の激しい『アイアム・ガネーシャ』を本拠地とするガネーシャ・ファミリアは団員数が最大級の上位ファミリアなので謎の像だけを見て侮ってはいけない。

 

「大きい像、象さんのお面……はわわ、はわわ?」

 

象と像で混乱状態になっているいなづまを見て昔を思い出す。私も初めて教えてもらったときは"像のお面の象のガネーシャが象の像であれれ?"とか言って混乱したんだっけ。

ちょうどいいのでいなづまの頭を撫でる。撫で心地、撫で易さ、反応。短時間で妹の良さにどっぷり浸かってしまった私にとってなくてはならないものになりつつあった。

 

「……ん。」

 

「それじゃ、いこっか。」

 

頭を撫でられておちついたと思われるいなづまを見て手を繋ぎなおす。頭から手が離れる瞬間の名残惜しそうな顔をしっかり見ておくことも忘れない。

 

「なのです!」

 

ここでもう一つ見逃してはいけない妹可愛いポイントがあるがおいておき、掴んだ手を引きつつ日用品を扱ういくつかの店を回っていく。

 

この街の商店は基本的にファミリアか個人経営で他の街とつながる商会みたいなものはなかった気がする。街の外との取引はギルドがまとめて取り次ぐ仕組みだったような……。

 

と思考がそれたけど、競合する店はそう多くないので私は大体何時も同じ店で同じものを買うことになる。要は何処へ行っても店員と顔見知りなので見慣れないいなづまに結構興味を示してくる。

 

"可愛いお嬢ちゃんだね。"とか"妹さん?"とかまあ予想できる範囲内ではあったけど、いなづまの恥ずかしがりながらも満更でもない感じがかわいいとか、いなづまが容姿だけでも褒められると私も気分が良いと言う発見をした。妹可愛い。私の妹がこんなに可愛いことがあろうか、いやある。……んんん?

 

「……いっぱい買い物しちゃったのです。」

 

ロキ・ファミリア本拠地 黄昏の館が見えてくるところでいなづまは、私といなづまで分けて持っている服などを含む生活用品とちょっとした整備道具を見てつぶやく。

 

「楽しかった?」

 

「はい、なのです。」

 

目と目が合う瞬間s、ってこれ男女の離別を唄っちゃうあれだし0秒から歌詞が始まって消える戦闘糧食肥えた正規空母知らない子ですね。うっ頭が……。

 

「それなら良かった。ロキもニコニコしてるいなづまのほうが好きだと思うし。」

 

「お姉ちゃんは、どうですか?」

 

あ、マズった。後が続かなかったせいでいなづまの視線が少し厳しくなる。

 

「勿論……この瞬間のいなづまもかわいいけど、笑顔のいなづまが一番大好きだよ。」

 

今日一日で同じ間違いを何度かしているが、対処法は一つしか知らない。

 

今は荷物を持っているので通行人を気にしながら腕でいなづまの小さな体を引き寄せる。その間に手をつなぎ替えて、いなづまと私は対面する。

 

多分身長差は30セルチほど。私が1メドル62セルチなのでいなづまはおおよそ1メドル30セルチほどになると思う。それでここまで近づくといなづまとの視線はほぼ鉛直。

強烈上目遣い待ったなし。

 

この上目遣いも良いけど、長いこと同じ姿勢だといなづまの首に悪影響なので腰を曲げていなづまの顔の高さまで降りる。

 

不満と物欲しさを湛えた目が少し開かれた口が私を待っているのが分かった。

 

そっと妹と唇を重ねる。その時間は決して長くなかったけどしっかりと。

 

妹の唇を感じた後、いなづまをぎゅっと抱き寄せる。いなづまは抱き心地が良い。不思議な感覚でもある。少女特有のはかなさや柔らかさと同時にどんなに強く抱いても壊れない丈夫さ、この拘束を今すぐにでも抜け出せる身のこなしが私を妹への抱きつきに強く駆り立てる。

 

ファミリア内の妹分的立場の後輩団員達には無い強さは一層私を妹好きの姉に変えていった。

 

ーーーー

 

アイズお姉ちゃんの許してキス(ラブコール)を受けてこの世界での姉妹愛の過激さ(例外の可能性あり)を感じている電なのです。

 

私はドキドキ、アイズお姉ちゃんは平常運転、ってなんかもう……どっちが許す側なのか分からないのです。

 

結果的に言えばお姉ちゃんどうなの?を一日に何回も使った私の負けとも言えるのですが、正直大満足電になってしまったので多分これで問題ないのです。

 

ふう、今日もなかなかの密度の一日でした。大体行きつけのお店とオラリオの街の行動圏を把握したので買い出しには一人で行くこともできるようになったのです。

 

そういえば、ここに来るときに気になっていた本拠地近くのお花屋さんの名前が分かったのも収穫なのです。『ディア・フローラ』、良い名前なのです。

 

もう今日は寝てしまいますけど、明日はきっと今日よりも良い日になるので期待して身体を休めることにするのです。お姉ちゃんって暖かいですよね……。ふぁぁ……お休みなさい。




この作品は一般的な趣向のみで構成された健全な作品です


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13話

《ここに百合の花を挿入》
《ここに成長目標を設定》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか13

 

遠征

 

主に探索系ファミリアがファミリア規模でないと潜れない階層での探索を行う序でにダンジョンの下層での採集依頼などを引き受けることを指す。

 

遠征の成否はファミリアの評価につながり、また依頼達成にもつながる故に遠征のメンバー選定は非常に重要である。

 

今回の目標は59階層、途中セーフポイントの50階層全体を休めつつ第一級冒険者を中心とした数人で51階層での素材収集を行うため第一級冒険者全員を動員する、予定だった。

 

しかしここで想定外の事態が発生する。

新たな第一級冒険者いなづまの加入である。

フィンとしてはいなづまを連れて行きたいと思っていた。加入からの短期間でファミリアに馴染む適応力や格上の敵への対応力の高さ、それに基本的な手数の多さは魅力的だった。

 

特に手数の多さはおそらくファミリア内随一だ。

武器の使い分けや魔法の汎用性の高さはダンジョンでの過酷で多様な環境に常に一番効果的な戦術を選べる点において優位性が大きい。

 

しかし問題でもあった。味方である他の団員と連携とまでは行かなくても戦い方を共有できていないのだ。

まだレベルの低い団員は特に戦闘中高レベル冒険者の邪魔にならないよう立ち振る舞う必要がある以上この問題は軽視できない。

 

「で、結局今回は連れて行かないことにしたんだな。」

 

リヴェリアの結論にうなずく。

 

「ああ。いなづまは少し残念がってたけど理解してくれたんだが、アイズは少々いやがってね。いなづまの説得でしぶしぶだけど同意を得たから今回の遠征は当初の予定通りのメンバーでいくよ。」

 

リヴェリアはすこし驚いたようだがアイズはいなづまの影響で急速にお姉ちゃん化が進んでいる。良くも悪くも変わってきた。

 

「ふふっ、かわいいものだな。アイズが変わった。いや、変えてくれたのか。」

 

リヴェリアはママと呼ばれるだけあってファミリアの団員に広く目をかけている。アイズは筆頭の実力者であると同時に不安の種でもある。彼女を見る人が増えることはリヴェリアの胃袋を労ることになるのだ。

 

「そうみたいだね。ロキの見立ては正しかったみたいだ。それで特に日程にも変更はないから、もう今後の予定については、もういなづまに伝えてある。」

 

「そうか。……で、私を呼び出した本当の用件はなんだ。」

 

気づいていたか。まあ、気づかないとは思わないしリヴェリアだけが気づくように呼び出したわけだけど。

 

「いなづまについてどう思う?」

 

「正直不気味に思うところはある。かなり早熟だ。」

 

先読み、並行詠唱、高速機動、そして本人の打たれ強さ。攻守ともに強く戦いに特化したそれらを12歳にしては過分に、第一級冒険者としては十分に備えられている。その上第一級第二級冒険者に比べて十分一般人としての常識を備えている。

 

12歳という年齢を考えれば異常であり唯彼女が天才的なものを持っているというだけではない。環境が戦いの技能を人間の常識を早く完成させないといけない状況に追いやった可能性がある。

 

「僕も同感だ。だからといって排斥するつもりもないけどね。外的要因なのか元々の気質なのか、こればかりはいなづまが話してくれるのを待つしかないけど気にかけるのは大事だと思う。」

 

「ああ、……話は変わるがそういえば遠征でレフィーヤを前線に出す予定だったな。」

 

レフィーヤは、千の妖精(サウザンド・エルフ)の二つ名を持つLv3の冒険者で魔導士でエルフだ。レア魔法エルフ・リングはエルフの魔法に限られるが詠唱と効果の把握だけで魔法を使えるー正確には魔法を召喚しているーという強力な魔法を扱いリヴェリアの後継者として教育を受けている。それで今回の遠征ではできる限りレフィーヤがリヴェリアの立ち位置で魔法を撃つことになっている。

 

「うん。そうだけどどうかしたのかい?」

 

「前にも言ったとおりいなづまの戦闘スタイルは魔法を使う限りでは魔法剣士そのもの。エルフ以外から魔法のことを教わるのは彼女にとって癪かもしれないが……遠征にいく前にレフィーヤといなづまに関係を作っておきたい。レフィーヤが魔法剣士を目指していることを考えるといなづまとの関係はきっと彼女のためになるはずだ。」

 

リヴェリアはふぅと息をつくと用意していたお茶でのどを潤す。リヴェリアは多少らしくない語りで熱に魘されたような感覚に笑みが漏れたように見えた。

 

「関係か……。分かった何か考えておこう。」

 

リヴェリアとこの後取り留めもない会話をした後話し合いはお開きになった。

リヴェリアの気持ちも少しはわかるつもりだ。自分たち(レベル6)はわくわくしている。これからの読めなさに期待している。

 

オラリオの常識としてどうしても1つのランクアップの差が致命的な差として現れる。そういった意味では冒険者にとって下剋上というのは無縁のものになりがちだ。

 

当然それは第一級冒険者のレベル5とレベル6のあいだでも変わらない。上位レベルに敵うのは職業差で最高火力の一発勝負みたいな例外だけ。レベル5にも匹敵するレフィーヤの魔法火力はその例外の一つだが、流石にレベル4冒険者と模擬戦をすれば10回に10回レベル4冒険者が勝つだろう。

 

それを手数と技術で覆してきたのがいなづまだ。

ステータスを考えれば良くてアイズとトントン、下手したら負けるいなづまだが僕との手合わせの結果は引き分けだった。

 

"相手に行動を読ませない"・"相手を先読みする"・"不意の隙を作らない"等々の基本的な技術を積み上げていった結果が先日の引き分けだと感じている。対人ではしばらく感じていなかった種類の興奮に笑みが漏れる。

 

「ははっ、最高だね。」

 

この前の手合わせまでもう数年もホームで親指が疼かなかったことを思い出してこの崩れた表情に勇者(かめん)を被り直すのが少しだけ億劫になった。



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14話

《ここに百合の花を挿入》
10/21 21:20 魔法描写の一部が何故か抜けてたので修正


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか14

 

「いなづま、この子がレフィーヤ。レベル3の第二級冒険者。」

 

屋内闘技場にアイズさんに連れられて来ると目の前には自分よりも明らかに年下の見慣れない少女が居る。この子が噂のアイズさんについて回っているらしい新入団員……?

 

「レフィーヤ・ウィリディスです。いなづまちゃん、よろしくね。」

 

「いなづまです。よろしくお願いしますね。」

 

少女は持っていた武器をしまってぺこっとお辞儀をする。ここまでで特に怪しいところはない。むしろ新人にしてはきっちりしてる方だと思う。

 

「えっと…フィンが二人で模擬戦やって欲しいって言ってた。このレギュレーションで、」

 

アイズさんが二つ折りの紙を取り出して開いて見せてくる。私はその内容を見て絶句した。

 

ーーーー

いなづま

・レフィーヤが魔法を詠唱し終えてから行動開始

・魔法以外の攻撃禁止

・固有武器の展開禁止

・一撃受けたら負け

 

レフィーヤ

・一撃与えたら勝ち

 

ーーーー

 

「……レフィーヤさん?」

 

「えっとこれだといなづまちゃんがかなり不利に……。」

 

明らかに偏った制約に疑問を漏らす。噂ではレベル3とかレベル4とか言われていて……レベル5と言う話もあったがまさか有るまいと思って聞き流した。でも、これは……。

 

「いなづまはレベル5だからこれくらいは……ね?」

 

「はい、なのです。えっとレフィーヤさんって魔導師ですよね?」

 

こんなに小さいのにレベル5なんだ……。エルフ(同胞)ではなさそうだけどこの子も魔導師なのかな?魔法攻撃以外禁止なんて妙な縛りだし。まあ、ウィーシェの森出身の私には威力は及ばないと思うけどね。

 

「……うん、そうだよ。何かあったの?」

 

「えっと、模擬戦中並行詠唱しか使わないので頑張ってターゲッティングしてくださいね。問題、ないですか?」

 

並行詠唱……?こんな小さい子が本当に?ブラフでまあ、まだ並行詠唱が完成していなくてもその分私が勝つ可能性が高まるだけだけど……なんかもやもやする。

 

「うん。」

 

「それじゃ、始めようか。」

 

そして流されるままにアイズさん立ち合いのもとに模擬戦が始まる。ここで良いところを見せればアイズさんに褒めてもらえるかも?などとどうでも良いことを考えながら距離をとる。

 

「それじゃレフィーヤは詠唱を始めて。」

 

詠唱完了まで待ってくれるならこれ一択だと思う。本家よりも詠唱が長いけど威力は上の……。

 

「はい。

 

ー『ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ、誇り高き同胞よ

 

対面ではいなづまちゃんも精神統一をしているのがわかる。力が集まっているのは分かっているだろうけど落ち着いている姿は相応する実力があるのだろう。

 

ー我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい

 

エルフ・リングを使って王族の魔法を召喚する私はオラリオの外なら不敬かもしれない、なんてね。ふふふっ。

 

ー間もなく、()は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。

 

一節目詠唱完了

 

ー開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火。

 

二節目詠唱完了

 

ー汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。

 

三節目詠唱完了

 

ー焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ』」

 

レア・ラーヴァテイン

 

私が召喚したのはリヴェリア様の魔法。それはエルフの王族の名の元に発動される超強力攻撃魔法。

 

それを撃ちきった直後力の抜ける感覚と衝撃が私を襲った。

 

「はわわ。でも、防げなくは無いですね。」

 

よく見ると煙の向こうに影が見える。十分に距離があったはずなのにその陰はずっと近くに来ている。

 

『衝くべき魔光の精霊よ 捧げる力に舞来る(せいれい)よ 踊れよ踊れ力尽くまで 神秘の波の雷光の 無象の槍弓矢大斧如きにや 如何に劣ることあるか

 

いなづまちゃんはこの視界の悪さでも分かるくらいまで近づきながら魔法を詠唱しているようだった。急速に近づく魔法円に心拍数が跳ね上がり、次の魔法が口から出てこない。

 

足下の魔法円も消え失せ不安だけが膨らむ。そして

 

ー 刻は満ちて敵を穿つ一閃となれ 魔光の矢 クインク(5)

 

私の足下に囲むように力の迸る70セルチほどの5本の魔法の矢が刺さる。

 

「詠唱、しないのです?」

 

再び距離をとったと思われるいなづまちゃんが魔法を"溜めて"質問してくる。

 

「いや、あの。」

 

『去れ』

 

溜めていた魔法が四散する。私は座り込んでしまい自分の腰が抜けていた事に気付いた。

 

「戦場での魔導師の最大の仕事はどんなときでも詠唱を止めないことなのです。」

 

リヴェリア様も似たようなことを言っていた様な気がする。詠唱を中断すると唱え直すのに時間がかかる。唱えきらないといけない。

 

「アイズお姉ちゃん、レフィーヤさんの前衛として入って欲しいのです。動き出しは私と同時、初回のレフィーヤさんの詠唱が終わったらでどうでしょうか?」

 

「うん、そうしよっか。レフィーヤはそれでも……?」

 

アイズお姉ちゃんというときめきワードが聞こえて思考が乱れるも意識を取り戻す。えっ、いなづまちゃんってアイズさんのこといつもお姉ちゃんって呼んでるの!?

 

「はわわ、大丈夫ですか?」

 

「は、はひぃ。」

 

この後まともに受け答えできずしばらくぼーっとしていたため今日はここでお開きになった。




お姉ちゃん、お姉ちゃんってよんで。


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15話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか15

 

実のところ初撃はいなづまが守りきるのではなくレフィーヤが防御を抜くことに賭けていたお姉ちゃんです。

 

と言うのも単純にいなづまの場合防御を抜かれてもそこそこ無事というかなんというか、普通に戦闘を続けられるので普段通りに普通に受けちゃうんじゃないかと思っただけでいなづまを信じてないわけではない。ほんとだよ?まあ、詠唱完了から魔法着弾まで1秒もないけど、いなづまなら防御まではできるって話なんだけど。多分回避はしないだろうとは思ってた。あのルールなのにね。

 

「えへへ……。」

 

「レフィーヤ、本当に大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です。」

 

「……。」

 

私の背中にはエルフの魔導師、レフィーヤが乗っていて彼女の部屋へ移動中。なんだか理由もなくテンションが上がってるみたいだけど本当に大丈夫なのか心配。私の隣を歩く妹(かわいい)こといなづまもレフィーヤについて心配しているようだった。でも、多分今のことじゃない。

 

「レフィーヤさんは遠征、行くんでしたっけ?」

 

いなづまのわざとらしい質問に私は内心動揺する。レフィーヤは遠征の前線に出ることが決まっている。私からは本人に言わないよう言われているので言っていないが、フィンとリヴェリアの判断であるしいなづまも聞いているはずなのにその質問。つまり答えるべきは

 

「行くけど……。それがどうかしたの?」

 

「今回の遠征は少なくとも51階層までは確実に潜ると思うのですが、本当に……いえ、えっとレフィーヤさんは強くなりたいですか?」

 

いなづまはぎりぎり自然に言おうとしていた内容を飲みこむと質問を変えた。それは私が居るときに敢えてしたかのような、私も巻き添えを食らう広範囲攻撃。妹からでなくとも効く。妹だからより強烈に効いてる。

 

「……っ。もちろん、強くなりたい。今のままじゃ……。」

 

背中から感じる焦りと震えに自分の事かのように心拍数が上がる。

 

「焦らなくても良いのですよ?」

 

思わず足が止まる。本当にレフィーヤに向けて話しているの?実はお姉ちゃんにだったりしない?

そんな心配の胸中を知ってか知らずかいなづまは続けた。

 

「急がば回れとも言うのでステータスの上昇だけではなくてレベル3のうちにつぶせる弱点を潰していくことも意識するとランクアップにもいくらか貢献するのです。ここには心強い家族(なかま)が居ますし、ね?」

 

ニコッと笑う彼女の(こうげき)はここで止まる。

 

「でも、このままだときっとレフィーヤさんは後悔するんじゃないかなぁって。」

 

「っ!?」

 

「レベル3で基礎的な内容を繰り返すまでも無いと思うので、遠征までいっぱい模擬戦しましょうねっ?」

 

さっきのレフィーヤとの模擬戦では放たれていなかった強者のオーラにレフィーヤの心拍数が跳ね上がりきゅっと縮こまるような錯覚に陥る。ここで、最後の最後でサクッと威圧するのがいなづまの常套手段だとここ数日で学んだ。

いなづまが言うには"なんかいつも通りお話しすると和みがちなので大事なお話の時は戦場の空気感を思い出して貰おうかと……怖い、ですか?"と言うことだったのでその時は思いっ切り撫で回しておいた。全然怖くないよ。かわいいだけだよ。

 

「う、うん。そうしよっか。」

 

だけど初見なら相当な威圧感だとおもう。ギャップ萌えならぬギャップ威圧感。レベル0からレベル5に一瞬で化けると言う意味では絶望的な威圧感を感じる事になるのかな。

 

それも含めていなづまはかわいいのだけどね。同格の存在感で済むと言う点で自分がレベル5に至ってて本当に良かったと思う。ギャップが楽しめるから。

 

「それじゃ短い間ですがよろしくお願いしますね。」

 

最後にそれだけ言うといなづまはレフィーヤから目を離し半歩前に出る。この時点で威圧感はもう無い。するとレフィーヤは張っていた緊張の糸が切れたのか力が抜けてぐったりとした。

 

「すぅ……。」

 

「ふふっ、寝ちゃいましたね。」

 

レフィーヤの寝息を確かめたいなづまは私と話すのにちょうど良い位置として真横に移動してきた。お姉ちゃんセンサーでいなづまの笑顔を判定……

結果、ポジティブ90%ネガティブ10%

ネガティブは僅かに嫉妬……?レフィーヤを負んぶ(おんぶ)してるからかな?そうだったらおかわりですごく可愛い。

 

「いなづまもおんぶ、されたいの?」

 

「っ、あ、う……はぃ……。」

 

無意識の嫉妬だったのか視線をレフィーヤと私と床でローテーションしながら、小さく肯定した。一瞬呆けた表情から沸騰するように赤く染まる様は妹でなくともかわいいし妹なので尚更かわいいと言うこと(本日2回目)。

今触れればきっといつもより何割か増して暖かい体温を返してくれる妹は、無意味にピンと伸ばされた左手、自身を落ち着かせようと彼女の慎ましやかな可愛らしい胸に添えられた右手、うつむく度にチラ見せになる白いうなじ、そして呼称としての姉妹という間柄(ブースター)、それぞれからかわいさが伝わってくる。

 

「お姉ちゃん……?」

 

またやってしまった感がすごい。目の前にはレフィーヤのベッド。もう現場に到着しても気づかない姉を心配してくれる妹の鑑。

 

「ん、あ、よいしょ。」

 

レフィーヤを寝かせるといなづまの方へ向き直る。僅かに痕跡が残っているもののほぼ平常運転に戻ったいなづまを正面に、今思いついた画期的な提案を提示することにした。

 

「いなづま、ダンジョンに行こうか。疲れたら帰りにおんぶするから。」

 

「はわわ、良いのですか。甘えちゃいますよ?」

 

戯けた表情で左手を握りながらそういう彼女はもう次の一言で本拠地を飛び出す勢いを感じさせる。

 

「もちろん。お姉ちゃんだからね。」

 

この後ダンジョンに潜ると、ゴライアスをサクッと倒したいなづまが(ちょっとわざとらしいけど)倒れ込んだのでじゃが丸くんをあげつつおんぶして帰った。その日の夜はすうすうと寝息を立てるいなづまの寝顔に満足して瞼を閉じた。




オネーチャン絡めるといなづまに時間を割けるようになるので大変良いのです。
なんかルール忘れてるんじゃないかってかんじの繋がりだったので直しました。


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16話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか16

 

「ふぁぁ……。」

 

いつも通りの朝、ではなくみなさんが遠征に出かけた次の日の朝。

いつも私の起きる時間が早いこともあってファミリアがまだ寝静まっているような静けさがあるが、今日はそれにもまして静かなのです。当然同じ部屋のもう一つのベッドは誰も寝ていないかのように整えられ、いや実際に昨晩は寝ていなかったのです。……アイズお姉ちゃん、遠征のメンバーですからね。

 

顔を洗って朝のランニングから始まり鎮守府にいた頃の早朝トレーニングとほぼ同じ行程をこなす。本拠地内を中心に設定したランニングコースで受ける風はなかなか心地よい。それでも潮風に吹かれたしょっぱいあの空気感がまだ懐かしい。

 

いろいろなことを思いながら周りを見渡すと遠征に行っていない低レベルの冒険者たちが自主的に訓練している様子も見える。そもそも冒険者に向いていない様なひと、熟練度は高いが低レベルから抜け出せないと思われるひと、何か光るものを持っているひと。これだけ沢山の冒険者たちが居てもレベル2,3とランクアップできる冒険者は一握り……。

 

早朝トレーニングを終えて部屋に戻る。お姉ちゃんを起こさないと……。

 

「お姉ちゃ……、あっ。」

 

ここで起こすべき姉は遠征に行っていたことを思い出す。なんとなく掴もうとした手をすり抜けるような感覚に少しばかり寂しさがある。うぅ……。

 

朝ご飯を食べた後はダンジョンに向かう。

素材収集系クエストを取り20階層あたりに行く予定になっているのです。

 

やることは素材収集系クエストをとっておきつつ、回復薬(自家製バケツ)の素材研究のための自分用も確保するの二つ。

 

これはこのあたりの回復薬は自家製バケツ-またの名を密造高速修復材-の材料と似た組成なので、ここでも自家製バケツが作れるかもしれないと思ったのです。当然素材が必要なのですが、買うとなると中々値が張るのとバケツを作ろうとしていることがばれるかもしれないということで自分で収集しようという作戦なのです。

細かいことはアイズお姉ちゃんに聞いても分からなさそうだったので、合間を見て調べていましたがやはり実物がないと始まらないのでクエストで集めに行く材料を参考にしつつ収集しちゃいます。

 

そしてお姉ちゃんが居ない14日間がチャンスとばかりに私は素材集めに向かうことにしたのです。

 

ダンジョンで20階層以下に一人で潜るのは多分初めてなのです。

通ったことはあるので把握はしているが用心するに越したことはないのです。

想定外はいつでもどこでも存在するから想定外だってお母様、おか……も言ってましたし。ん……?一瞬思考が乱れたが大したことではないと思いなおす。

 

ダンジョンに潜るに当たっての準備として、艤装の収納領域(ストレージ)に必要なものを放り込んでいく。

艦娘の艤装は船の器であり半身なので見た目から想像も付かない大容量。ドラム缶をつければ容量は数倍にも膨れ上がり友軍主力艦隊への補給を行っても余るほどには物資を積載できる。

 

「ふぅ……。」

 

その分出し入れがやや面倒になるが戦場では必要ないものや予備の備品も艤装に放り込んでおけるので薬品の調合に使う器具なんかもすぐに使えるものが一頻りそろっているのは幸いだったのです。

 

出かける前にロキさんに挨拶しないと……。残っている団員の中でレベル5以上は私だけなので何かあったときに何処に居るか分からないと困っちゃいますからね。

 

「行ってきますね!」

 

ーーーー

 

いなづまとは何者か。

これは次の会合までに一通りの答えを用意しておかなあかん課題や。というのもどうせ会合のときに根掘り葉掘り聞かれるんはもう分かり切ってることやからな。神々は突然現れたレベル5に興味津々やろ。

実はいなづまのステータス表示を主神の血(うちのち)で整えたんや。それでうちがステータスを更新と元々のステータスの分がうちらが見れるステータスに反映されるという念の入れよう。しかも神同士で透かし合うことを想定していないからか、魂も表面上はいなづま固有の平凡(?)な少女にしかみえへん。フレイヤに盗られる心配もぐっと減ったで。

 

……ここまでの内容だとどれくらいの冒険者たち(こどもたち)が理解できるんやろか。アイズなんかはちゃっかり理解してそうやけど、ベートは途中で逃げ出しとるやろ。 ああ、なんだかまとまらんなぁ。




はわわ
今回は諸事情でやや短いです。


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17話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか17

 

まあ、ぱっと見だけでもふつうの冒険者として整ってるのは少し気が楽やわ。ただ、どこから来たかはわからんし、正直聞く気もない。予感みたいなもんやけど聞かんといた方が良さそうやし、聞いても説明できるかどうか……。

 

下手なこと言って二つ名に変なの付けられても敵わんしなぁ。

 

「はあ……どないしょーか。」

 

うーん、このまま悩んでても思いつかない気がするし、気分転換にいなづまの部屋に行くのもええな。うちの部屋から幹部であるアイズと一緒に暮らすその部屋までの距離は近いのであっという間や。

 

「いなづまー、はいるで-。」

 

返事はない。でも入る。

 

部屋は二人で暮らすのに困らないほどに広く、キッチン、リビングダイニング、トイレ、奥にはベッドルーム、クローゼット等々充実している。そんな部屋のリビングに所狭しと置かれた道具はどこかで見たことがあるような……あぁ、思い出したで。ミアハの所のあれ、調薬の道具に似てるやん。

その道具類の近くのテーブルの上には一冊のノートと紙の束が置かれていた。

 

"低濃度・高濃度回復薬液 分析ノート"

 

表紙も日焼けしてそれなりにボロボロになっているそのノートを丁寧に取り上げページをめくる。

 

天然の回復薬……?なんやそれ……。妖精?艤装の自己修繕?標準的あるいは例外的な魔法による治療?

どんどん増える見たことのない言葉に理解が追いつかなかった。

 

"高濃度で適切な■■■■処理を行った回復薬は瞬時に傷をふさぎ強力な回復を促す。■■■■■でちゃんと治したいときは適宜必要な回復魔法と医学的治療を併用すること。でないと死ぬ。(未検証)"

 

"■■■■■原液は過回復による寿命減少が疑われているので要検証"

 

"■■■■■■■された低濃度回復薬は■■■■に働きかけるので殲滅攻撃以外では……とにかく身体だけでも生きたい時用"

 

"81-(11+5*12)=10年以内に死亡の可能性大"

 

 

いくつもの単語が鉛筆で黒く塗りつぶされ、隙間を縫うように不穏な文字列が並ぶ。急かされるようにページをめくっていくと一番最後のページから数ページに"正"がびっしりと書き連ねてある事に気付いた。

 

端には所々かすれて読めないが走り書きで"10■21 m■■ 10 Av■ 14 ■■ B+ R.I.■."と書いてあり集計したもののように見える。

 

 

なんとも言えない恐怖感に、極力音を立てないようにノートを閉じ元に戻す。

 

いなづまの過去に何かがあったのか、それとも中二病(神々の戯れ)的な衝動なのか、ともかくこの話題については自分から触れないでお……こう。そういえばいなづまは、何処に居るんだっけ?

 

後ろに振り返ると、よくダンジョンで収集するクエストが出ている素材いっぱいいっぱいの陰から茶色い頭がこちらを覗いていた。

 

「い、いなづま?」

 

「あの……ロキさんはどうしてここに?あ……。」

 

気まずい。具体的には娘の部屋を漁っていたら娘の闇に突き当たって引き返すタイミングで娘が帰ってきてしまったときくらい……ってそのままやん。最早比喩になってないくらいそのままで思わず自分にツッコミを入れるが状況は変わらず。

 

「……えっと、ごめんなさい。」

 

「え……?」

 

なんか謝られたんやけど、どういうこと?

 

ーーーー

 

「え……?」

 

はわわ。はわわ。

えっとあのあああののの。ノートを見られてしまったっぽいのです?や、ゆ……。ま、まああのノートの内容は多分こっちじゃ分からないとは思うので問題ないとは思うのですが、海軍の闇が詰まっている部分は神様(勘の良い方々)にはばれてしまうので、できれば見られたくなかっただけで、いつかタイミングを見て話そうとは思っていた内容だけどいま聞かれたら答えないというわけにはいかないしそれに回復薬もこれ個人用とはいえここまで器材を揃えていると何か言われても可笑しくないかとかなんとか云々。

 

「なんか謝られるような事あったんか?あ、ノートについてはウチは何も聞かんで。話せるときに話してな。」

 

覚悟を決めて目をつぶる。

 

「ありがとう……なのです。」

 

…………。

 

あったかい。

 

ロキさんは多分今私を抱きしめているだろう。密着してやっと分かるくらい極微に垂れ流される神威も今の私にとっては心強い。普段ぱっちりと開けることのな彼女(ロキ)の眼が開かれているであろう事に確信を抱きながら現状に甘んじる事にした。もう少しだけ、後ろめたいキモチ(ひみつ)を秘密のままにさせてください。

 

 

ここの人たちは私よりずっと強くて、きっと優しすぎる。単純な力比べなら私に分があるかもしれないけど、それよりずっと強いものを持ってる。漠然とした予感はここでやっと確信に変わる。

 

アイズお姉ちゃんもそうなのです。私のお姉ちゃん達はお姉ちゃんに相応しい何かを持っていて、勿論アイズお姉ちゃんも……。今お姉ちゃんは力を渇望してて、その中でもお姉ちゃんがお姉ちゃんである何かを失っていない。

 

ダンジョンで無茶して団長(フィン)さんに怒られてなければ良いのですが……。まあ、大きな怪我とかが無ければ……無事に帰ってきてくれれば、それで……。




もっと安定して展開してどうぞ


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18話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか18

 

ふぁぁ……。

おはようございます。

今日はアイズお姉ちゃんが遠征に行って7日目になります。あ、密造回復薬(バケツ)は一応昨日完成しました。まだ材料費を削減できる場所があると思いますが効果はバケツに相当する物になっているので一応完成なのです。

 

完成までには小説数冊分の壮大な物語があるかもしれませんが今回は省くとして、とうとう日程に折り返しであるところの7日経ったことでお姉ちゃんの抱擁を求めて身体が疼き始めました。

 

というのは半分は冗談で発作が出ているわけではないですが、なんか具合が変調しているのは間違いないので、明日の夜は延命策としてロキを抱き枕代わりに寝ようと思います。

 

「いってきますね」

 

「おう、気をつけてな-。」

 

2日目からちゃんとロキの返事を確認してからホームを出ることにしたので多分同じ事は起こらない、はずです。

 

今日は朝食の前にまずダンジョンへ潜ります。今日は25階層まで。一応日帰りは可能なのですが、収集予定の素材の種類や量が多いので明日中に帰る予定になっているのです。食料は常に炊き出し出来るくらい持ち歩いているので食料以外のものを整理しておいてあります。

 

「♪」

 

ダンジョンはダメージを負うとモンスターを生み出すことをやめて自身の修復を優先するので人が居ないタイミングで縦にぶち抜いて階層を移動すると17階層まではあっという間です。

 

18階層までぶち抜くのは抜いた後高いところに放り出される上に18階層の空を破壊しながら落下するので滅茶苦茶目立つと思われるのでやりたくないのです。

 

サクッと階層主(ゴライアス)を轢いてドロップを回収しつつ18階層で一休み。

 

 

突撃姿勢で凝り固まった身体をほぐしながら朝食の準備をする。

 

ちょうど良い森の近くで水辺の空いているところがあったのでサバイバルキット的な何かを展開して火をおこしたりご飯を炊いたり串に刺したお魚を直火焼きにしていく。

 

こういう場所でご飯を食べるなら普段の料理のような味付けではなく粗塩だけの素材を活かした(てをぬいた)料理をするのもまた一興なのです。

 

簡易テーブルの上の食器の上で魚を箸でほぐしながら狙い通りにお焦げのついたご飯を食べ進める。良いことを思いついたとばかりにたくあんを取り出しサバイバルナイフで適量切り分ける。ちょっと厚めに切ったたくあんは食べ応えがありよく噛むことで食欲と胃液が増してくる。刺激が脳を活性化し、咀嚼によって消化がよくなり健康寿命が伸びる。みんなで食べる食事とはまた違った、一人飯特有の孤独な満足感、自然の中の抱擁。

 

"モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・"

 

お姉ちゃんとか鎮守府のみんなで食事を食べることが多かった時には半分も理解していなかったあの漫画の台詞を思い出す。ゴローさんの気持ちになるですよ。

 

汁物が足りない。そこに気づいた私はご飯が炊けて空いたスペースに火にかけた小鍋を用意する。中には水と油揚げとわかめ。具材に火が通り一煮立ちしたあと、一度火から下ろして味噌を溶かし入れる。沸騰しないように位置を調整しながら混ぜ最後に沸騰直前まで加熱してネギを入れ、火から下ろす。

 

「ふぅーふぅー。……あぁ…。」

 

ご飯とお魚を脇に出来立てのお味噌汁をいただく。きっと日本(じん)はこの汁物から逃れることが出来ないのです。身体の方もあっつあつの汁によってエンジンが掛かってくる。外気にさらされて程良い温度になっていくお味噌汁を今を好機とばかりにいただきつつ、残すところ僅かとなったご飯とお魚にも箸をのばす。

 

完食

 

満足してしまったのです。お腹いっぱいですからね。満足したなら仕方ないのです。

 

諸々を片付けながら今日の予定と今の時刻をつき合わせる。予定より若干早いので森を歩いて抜けられると考える。全力で移動すれば一瞬だけど食後でもあるし時間があれば歩きたいと思っていたので好都合なのです。

 

今回は25階層までといっているのですがほとんどの時間を19から24階層での収集にあてる予定なので25階層にいる時間はかなり短いと思うのです。諸事情で一度24階層で軽く収集して各種の障害に備えてからいこうと思うので階層抜きは程々にしつつ上手いことやっていきたいのです。

 

ーーーー

 

ロキ・ファミリア遠征部隊は51階層および50階層において未知のモンスターと遭遇し依頼であったものの確保には成功したものの装備を中心に多数の物資を消失し新規階層の開拓は失敗して帰路に就いてる。帰路2日目、ダンジョンに潜り始めてから7日目になっていた。

 

当然誰か一人の問題ではなかったし未知のモンスターの攻撃で装備や物資だけでなく少なくないけが人が出てしまったので無理も利かない状況だった。こういう想定外が起こるダンジョンでは階層攻略はロキ・ファミリアのような大きなファミリアでも確実に成功するわけではない。そういう事実を再認識させられた遠征になった。

 

「流石にここではイレギュラーはなさそうだね。」

 

先の戦闘で自慢の専用装備(オーダーメイド)を失ったアマゾネス、ティオナ・ヒリュテが呟く。前方の警戒として組まされた彼女は持ち前の五感の良さを存分に発揮して警戒に当たっていた。

 

「そりゃ、何度もあんなのに当たるかってぇの。次あれが来たら一人で逃げるからな。」

 

相方として組まされた狼人、ベート・ローガも同様に優れた五感で警戒を怠ってはいないもののテンションは下がり続けているようだった。

 

「へぇ、そんなこと言っちゃうんだ~。真っ先に前に出てアイズに良いとこ見せようとしたおおかみくんが。」

 

「うざい。黙って周り見てろ。」

 

ベートは先のキャンプ地防衛でアイズのエアリアルを載せて先陣をきったは良いもののここぞというタイミングでアイズが見ておらず若干滑っていた。そんな残念狼は自由人アマゾネスと組むとこうなることを予想していて……、不幸にも的中した事でより一層気怠いといった雰囲気を醸し出していた。

 

「ん?あれ、新人の……。」

 

ティオナの視線の先には一人の少女が見える。ダンジョンのこの階層にいるにはどうも心許ない容姿の彼女が、そこにいた。

 

「いなづまか。」

 

茶髪に比較的低い身長、セーラー服という珍しいタイプの服……背中を覆うように存在する固有武器、そしてレベル5。いろいろな要素を詰め込んだ謎多き存在は手際よく素材を判別し収集しているようだった。

 

「え、ベートが名前覚えてるなんて……。」

 

「少なくとも今の装備のないおめーよりは強いから安心しろ。」

 

ここ24階層はクエストによく出てくる素材の収集階層ではあるものの素材収集自体かなり大変な仕事(クエスト)であり、少なくともソロでやるものではなかったような、あとベートに名前を覚えられるなんて、と思考を展開するティオナ。

こういうこともするのかと一種の関心を持ってみるベート。

 

2人と1人の距離は徐々に詰まり……、二人が声を掛ける前に彼女は振り返った。

 

「どちら様なのです?」




制服を捲りたい


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19話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか19

 

「どちら様なのです?」

 

予想よりもずっと冷たい音色に名状しがたい恐怖を感じる。面識はあったはず。それでも何かを警戒されているのは……。ああ、今ここにいることはイレギュラーだ。本来の日程なら2日後だった帰還が早まっていることは地上には伝わっていないからか。

 

「ティオナ、だけど。」

 

「おい、名前位は覚えられるだろ、いなづま。」

 

「……ふぅ。二人とも本人のようなので安心したのです。えっと、遠征はもうちょっと時間がかかるはずなのですが何かありましたか?」

 

なにを基準に本人かどうかを判断しているのか興味があった二人だが本題に入ったので気を引き締める。

 

「あれだ、未確認のモンスターに遭遇した。イレギュラーってやつだ。」

 

「私たちと50階層のセーフポイントにあったキャンプがどっちも攻撃を受けて、怪我人とか武器の損傷で遠征を中止したんだよ。私の専用装備(オーダーメイド)も溶けちゃって。」

 

武器が溶けた。そんな異常事態を聞かされても、いなづまは驚きはすれど冷静さは失わない。

 

「溶けたのです?」

 

「溶解液ってやつだ。武器もそうだが盾も溶けちまうからまともに戦えたのは、オレとアイズとフィン、あと……あのレベル3の魔導士の……。」

 

「レフィーヤさんですか?」

 

いなづまは採集で広がっていた道具類を片付けながら会話を続けている。ティオナはなんとなくいなづまの意識がアイズに向いていることに気づくが、特に問題があるわけでもなさそうで、また気付かないベートを見るのもまた一興かと思い直す。

 

「そいつだ。遠征のはじめの方はダメダメだったが最後で挽回したって感じだった。」

 

「なんとか形になったなら、良かったのです。あと、団長(フィン)さんはどんな感じでしたか?」

 

「団長は……幹部なのに前に出過ぎる剣姫にダンジョンで何故か料理勝負をする上位女性冒険者、極めつけはイレギュラーのモンスターと胃薬が手放せなくなっちゃって……。」

 

「はわわ……、団長さんって大変なのです……。ね、剣姫さん(お姉ちゃん)。」

 

突然私たちの後ろの方に視線を飛ばすいなづま。それにつられてティオナとベートも後ろを振り向く。いなづまの目が向けられた先には、やや離れている場所に焦り顔のアイズが物陰から顔だけ出してこちらを伺っている様子が見えた。

 

「……えっとね、ね?」

 

視線の応酬に耐えかねたのかとうとうこちらの方にきたアイズにいなづまが言葉をかける。

 

「勝手に出てきたりとかしてないですよね?」

 

「うん、フィンに言ってから来た。近くにいたら分かるから、ね?」

 

この義姉妹、最早エスパーなのではと考えるティオナに対してベートはまぐれか何かだと思っているようで微妙におもしろくない顔をする。

 

「あと、無茶も程々にして下さいね。帰ったらゆっくり休まないとだめなのです。」

 

「うん、わかった。」

 

「うん、うん?」

 

自然と手をつないだ二人にティオナは何か大事なことを流したような気がしたがもはや今更というか何というか。

 

「とりあえず本隊の方に戻るぞ。いなづまは合流するんだろ?」

 

「なのです。」

 

ご機嫌なアイズ()いなづま()アマゾネス(自由人)、そして実力至上主義の残念狼(苦労狼人)という類い希なカオスがここに形成されていた。

 

ーーーー

 

アイズが"いなづま……!"といって迫ってきて、先行するベート・ティオナのところへ行くことを許可してから10分。

 

休み休みとはいえ弱くないモンスターといつもより整わない装備といまいち高くない士気で対応することは大変なことだ。哨戒としてベートとティオナが前方の敵は倒してくれているものの左右と後方はティオネ・ガレスそして僕がある程度倒さなければ無事の帰還は難しい。

 

……本当はアイズを前に出したくはなかったんだけど、いなづまが近くにいることは"分かる"から、あわよくばつれてきて欲しかったのだ。

 

幹部にしか知られていないが普段からたくさんの食料と回復薬を持ち歩く"歩くキャンプ地"のようなこともしているいなづま。僕は今日もそうであればと願いつつ、アイズが居れば合流してくれる気がするといった非常に煩雑な期待にかけつつそのときを待つ。

 

「団長さん!」

 

「レベル5が合流するというから一旦戻ってきた。」

 

「ああ、了解した。とりあえず一緒に行動してくれ。時にいなづま、あれはあるかい?」

 

「あれ……あぁ、備品ならいつも通り、いや……試製品ですけど回復薬(バケツ)が多めにあるのです。」

 

アイズ以外のレベル5は頭上にはてなを浮かべる。アイズ(お姉ちゃん)はちゃんと理解したみたいなので、さすおねと言っておこう。

 

「それは好都合だ。リヴェリアに聞いて配ってきてくれ。」

 

「……なのです。」

 

名残惜しそうにアイズから手を離すと頷いたいなづまはここからフラットには見渡せない場所のリヴェリアに向かって最短距離で移動する。やっぱり見えているのだろう。

 

「……フィン、"ばけつ"ってあのバケツだよね……?」

 

「あぁ、彼女のは最高級回復薬(エリクサー)で満たされてるけどね。」

 

そう言いながらロキ・ファミリア団長 フィン・ディムナは、いなづまの居た場所に1つ残された緑色の"回復"バケツを手に取り中の液体を踊らせた。




2時間遅れです。書き溜めがないのでちょくちょく遅れるのが大変申し訳ないのです。


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20話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか20

 

物資の喪失により滞っていた負傷者の治療がいなづまの合流後の18階層到着で再開した。バケツ一杯のエリクサーで大体10人分はまかなえるため人数が多いロキ・ファミリアの遠征メンバーに行き渡る十分な量があった。溶解液の被害を受けていないメンバーについてもはバケツ以外にも用意された潤沢な物質で無事治療を受けられる状態になり、全体の士気は回復傾向だ。

 

そんなわけでロキ・ファミリア遠征隊は治療と休息のためにセーフポイントの18階層で一泊してから地上に戻ることにした。

 

「いなづまちゃん大活躍だ〜。」

 

「いなづま……。」

 

「ぐぬぬ……。」

 

「……なのです。」

 

その運良く物資を持って地下に潜っていたいなづまは(アイズ)に背中から抱きつかれ、自由人(ティオナ)に頬をつつかれ、弟子魔導師(レフィーヤ)に嫉妬されていた。

 

私は25階層での収集を終えた直後にロキ・ファミリア遠征隊と合流し、リヴェリアさんに聞いて必要な量のバケツを用意したのです。

そのあとは自身の素材収集も続行しながら軽傷者の手当てをして回っていたので思ったよりもずっと疲れているのです。

 

背中で触れるお姉ちゃんは暑いと言うこともなく、ずっと同じようにいられる程の体温でついうとうとしてしまう。

 

不思議なものなのです。私がお姉ちゃんに依存してしまうのはある意味病的かもしれないのですが、実に体格差のあるお姉ちゃんは初めてなのでより一層依存が悪化しているような気がしたりしなかったり……。はわわ、びっくりなのです。

 

「いなづま、眠いの?」

 

「……はい。でも、今からご飯の準備があるので……いったん離れるのです。」

 

背中のお姉ちゃんが急降下テンションとホールドで私を夢の中へ誘おうとするがその魔の手を失礼にならない最大限の配慮を込めて振り払いつつ抱きつきを脱する。

 

「いなづまちゃんがご飯作るんだ。」

 

「しゅん。」

 

「ぐぎぎぎ……。」

 

純粋に事態を飲み込むティオナさんと最後の抵抗とばかりにセーラー服の裾をつかむアイズお姉ちゃん、もはや修羅の顔になってしまったレフィーヤさん。このなかでは普段自由奔放と言われがちなティオナさんですが、アマゾネス姉妹の妹なだけあってこう言うときは意外なほどの判断力と冷静さを発揮してくれるので、ここにいるのが大変幸いなのです。多くのお姉ちゃんは大体お姉ちゃん(ポンコツ)になりがちですし、普段しっかりしているなら逆は然りなのです。

 

「夕飯はカレーライスなのです。一杯作れて嫌いな人が少ない良い文明なのです。」

 

「はいはーい、質問です!福神漬けはつきますか?」

 

気付いたら白く燃え尽きている(アイズ)弟子(レフィーヤ)を横目に食欲が表に出てきた妹アマゾネスが手を挙げる。料理人としてこういう質問に的確に答えていくことが信頼を生むとかなんとか言いますし、答えていきましょうね。

 

「希望者には付けます。」

 

「やったっ。」

 

にゃはは。妹力が高くて良いのです。こっちもやる気が出てきますね。全身を使った感情表現、内側から沸いてくるような明るい表情。艦娘ではない筈ですが戦意高揚(キラキラ)が見える姿は素の妹力の高さが伺えるのです。

 

私もそんな姿に答える必要があるのです。

艤装の収納領域(ストレージ)からガス入りの缶などの野外用コンロ一式、業務用鍋など必要なものを取り出して行く。野菜くらいは誰かに切ってもらおうと視線をさまよわせると、お姉ちゃんが"待てをかけられた犬のように"こっちをみているのです。

 

野菜くらいは切れるでしょうか?

 

「お姉ちゃん、タマネギをとにかく細かくしてほしいのです。」

 

「うんわかった。」

 

次の瞬間玉ねぎは微塵切りになってまな板の上に置かれていました。……早い。これ、キーマカレーなら一瞬で材料の準備が終わるのでは?

 

「とりあえず、この辺りの材料全部同じようにしておいて下さい。」

 

「うん。」

 

こうして私とお姉ちゃんのどきどきクッキングが始まったのです。

 

ーーーー

 

アイズが料理をしている。

 

そんなふれこみで18階層(セーフポイント)の一角の、いくつもの鍋と脚立が並ぶそこには人集りが出来ていた。そもそも第一級冒険者にもなるとセーフポイントでは多少のお金のために自炊すると言うことはあまりない。

 

もちろん家事を嗜んでいる冒険者もいるがレベル5となればなかなか居らず、ましてや隙あらばダンジョンに潜っているせいで町中よもダンジョンのほうでよく見かける剣姫(アイズ)が料理を出来るという話は聞いたことがない。

 

「あれ、アイズ一人じゃないな。」

 

そんな中でアイズの切った材料なんかを超高速で鍋に入れていくいなづまに気づく冒険者がちらほら居ながらもダンジョン内で娯楽に乏しい冒険者にとっては十分以上に盛り上った。総じて材料が細かく切られ、いつの間にか鍋に入っているだけだったとしても。

 

「お姉ちゃん、ふーふー、あーん。」

 

カレー作りも途中から切る材料がなくなり、いなづまも高速移動を止めていたので普通に姉妹がカレー作りに励むだけになっていたが、カレーをゆっくりかき混ぜるよう指導する電と指導されるアイズのあいだにはほほえましさしか生まれず、癒やしの空間にさえなってしまった。

 

比較的汁気のないキーマカレーを小皿にとりスプーンで掬って(アイズ)に食べさせる(いなづま)にはあるエルフから嫉妬の念波が送られてくるがその後のアイズの笑顔で浄化されてしまい一人のエルフは救われた。

 

「……おいしいね。」

 

アイズはいつものわかりにくい表情変化から想像のつかない笑顔を見せ、無差別笑顔テロに発展する。

 

「大正義。」

 

「アイズ姫と妹ktktr」

 

「百合は良いぞ。」

 

有象無象の冒険者たちは自分たちがいる場所がまさかダンジョン内の18階層(セーフポイント)であることを忘れてしまっているかもしれないが、ここは一応ダンジョン内である。天国ではない。

 

しかしこの瞬間、小さなレベル5の夕飯配膳開始の宣言を以て一夜限りの天国(美少女義姉妹の手料理パーティー)になった。




おなかすいたですよ


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21話

《ここに百合の花を挿入》
《ここに成長目標を設定》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか21

 

「……すぅ。」

 

少女はアイズの膝の上で眠る。さっきまで人集りの中心で姉とともに料理を作っていた彼女はとうとう眠気に耐えかねて姉の膝を借りることになった。妹は初め目をこすりながらフラフラとテントに戻ろうとしていたが、姉に見つかり速攻で快眠膝枕攻撃に屈しただけである。

 

まず可愛い。それだけでいなづまには相当の価値があると言えるがそれだけではない。膝枕を前に蕩ける表情や寝てしまった後も時々顔が緩むことを忘れてはいけない。

 

ほっぺを軽くつまむ。しっとりとしてぷにぷにな幼い肌はよく延びるがやりすぎると起きてしまうので要注意。指先でつんつんしても感触だけで1時間は軽く満足できると思う。

 

「アイズっていなづまのこと好きだよね。」

 

ティオナは隣に座ると、いなづまから視線を外さないアイズのーこれもまた中々柔らかいーほっぺをつつく。当然アイズといなづまとは違う意味合いだが信用度という意味では遜色ないものだ。アイズも気にしていないようで黙ってつつかれている。

 

「うん、妹だから。」

 

「……本当にそれだけ?」

 

ティオナは半ば思いつきで踏み込んでみることにした。長いこと同僚として同じ戦場を共にした同僚(レベル5)と突如としてロキ・ファミリアに現れた期待の新人(レベル5)との関係について。

 

「……多分。」

 

ボソッと呟くような小さな声で返してきたアイズに踏み込む隙を見る。ただ、アイズも自覚しているのか隙とはいえどもガードが堅そうだ。

 

「それじゃあ、レフィーヤのことはどう思ってる?」

 

「後輩、かな。」

 

返ってきた答えはティオナを完全に満足させるものではなかったがアイズの状態を把握するのには十分だった。

 

「後輩として好きってこと?」

 

「うん。」

 

予想通り迷わずに答えが返ってくる。基本的にアイズ・ヴァレンシュタインは迷わない。モンスターを見たら斬るし困っている人が居たら助ける。じゃが丸君は買う。判断の早さもアイズの強みで勿論人間関係もアイズにとってはそれほど迷うようなものではなかったはずで。

 

「いなづまと比べたら?」

 

「……いなづま、かな。いや、レフィーヤがどうでも良い訳じゃないけど姉だし、ね?」

 

アイズが一瞬の葛藤と戦う瞬間が、いなづまが来る以前のアイズより今のアイズを人間らしくしている気がする。

 

アイズは気付いているかわからないけど以前のアイズはモンスターを斬ることしか知らない人形のように見えることも少なくなかった。私はこの葛藤の刹那がこんなに美しい(・・・)アイズを見ることなど出来ないと思っていた。でも義妹(いなづま)はアイズという精密な人形から繊細な煌めきを丁寧に引き出しその人形が人であったことを示して見せた。逆に精密さに覆い隠された綻びをほじくり返していると言い換えられるかもしれない。

 

でも結局は同じこと。私は思い悩みその中で前に進む人の姿が好きなんだよね。自分の悩みが胸のコンプレックスくらいしかないし、私とてアマゾネスだ。男性を誘惑する手段はエロティックなボディだけじゃない。親しみやすさから入って親身に相談を受けるうちに……。みたいな感じでやれるはず。多分、たぶん。

 

「そっか、まあいなづまちゃん可愛いからね。」

 

「……それに強い。強いんだ……いなづまは。」

 

強い

 

いなづまはレベル5。この幼さ、12歳でレベル5に到ったのは正直信じられないところがある。でもアイズが言うなら強いんだろうし、24階層にひとりで潜って素材を集めてる事を考えても実力が高いとわかる。

 

「今度いなづまと手合わせしたいなぁ……。」

 

「そうなるよね。ベートも同じ事言ってたし、対人だけならフィンとも引き分けたし。」

 

そうだ、いなづまはベートが名前を覚えていたんだった。レフィーヤですら覚えて貰ってないのに……。でも、フィンと引き分けたのかぁ。……え。

 

「え、フィンと引き分けたの?」

 

「うん。えっとね、結局いなづまはマインドダウンしちゃったんだけどフィンの槍を弾いて関節ロックしてたからフィン一人ではいなづまの拘束を抜け出せなくなったの。それで引き分け。」

 

……えぇ。思ったよりもガチンコで強い。私とアイズとかティオネとアイズとか、二人組で対峙しても下手打てばあっさり負けるフィンに完全拘束で引き分けを引き出すというのは流石にレベル5じゃないのでは?でもマインドダウンしてるからやっぱりレベル5相応なの?ねえ?

 

「マインドダウンするほどってどんな感じだったの?」

 

「えっと、中威力くらいの魔法を牽制代わりに数十発、足場を爆破して加速してたときの魔法が六発前後……かな?全部並行詠唱だったよ。」

 

「へ、並行詠唱……。ってそんなに魔法撃てるなんていなづまちゃん後衛魔導師だったの?」

 

並行詠唱ならマジックサークル出てるはずだし牽制代わりとはいってもマジックサークル出るくらいの魔法は詠唱を避けられない筈だし……。

 

「どっちかというと魔法剣士なんだって。いなづまの主武器は巨大斧(ラージアクス)なんだけどリーチを魔法で補うタイプだとか……リヴェリアが言ってた。」

 

「へぇ……。って巨大斧(ラージアクス)?」

 

もしかして巨大斧(ラージアクス)って最近ゴブニュ・ファミリアで作ってた全長110セルチもあるあれのこと?

 

「いなづまの身長よりちょっと短いくらいの斧だよ。あれ。」

 

アイズが指さした方にはアイズのテントが有り、その脇には長い柄にその半分近くを納める過分に大ぶりな刃を備え地面に刺さった巨大斧(それ)があった。




大変遅れてしまいました。申し訳ありません。


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22話

《ここに百合の花を挿入》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか22

 

「おっかえりいいいいいい!」

 

ロキ・ファミリア遠征隊が9日ぶりの地上の空気を味わいながら黄昏の館(ホーム)の目の前にたどり着くとホームの門が開き我らが主神が飛び出してくる。ほぼ文字通り飛んできた主神を的確にかわしていく第一級冒険者(レベル5・6)。一方近くにいたためにロキに補足され回避に失敗したレフィーヤ(レベル3)

 

「え?」

 

「みんなーー無事やったかーーーーっ!?うおーーーー寂しかったーー!!」

 

レベル3の魔導士エルフに襲いかかりながら安否確認をする主神に一同呆れ顔だがいつものことなので第一級冒険者組はスルーである。

 

「ロキ、今回の遠征での死者はいないよ。怪我は出たから詳細は後で報告する。」

 

フィンの簡単な報告でも子供たちが無事に帰ってきたことがうれしいのだろう。上機嫌な彼女はレベル3の彼女の年の割には豊かな胸部を丁寧に揉みしだく。まあ、とにかく揉んでいる。

 

「せやか、了解やで。あとーーおかえり、フィン。」

 

「あぁ、ただいま、ロキ。あと、レフィーヤが困ってるからそれくらいにしておいてくれ。」

 

「おおっと、すまんなレフィーヤ。」

 

揉むことはやめるが顔は相も変わらずエロジジイといわれれて当然のひどい顔であるし、今にも飛びかかりそうな雰囲気を隠そうともしない。

 

「お、ティオネ、その胸の……」

 

レフィーヤを離れた後ロキはティオネなどの筆頭女性冒険者に襲いかかり返り討ちにあった。当然である。一通り回り終えたのか最後にアイズといなづまのところにロキが近づいてくる。

 

「おかえりーアイズにいなづま。」

 

「……ただいま、ロキ。」

 

「ただいまなのです。」

 

すっとアイズに近づくと労るようにアイズの肩を二、三度叩き、踵を返す。

 

「身体ズキズキ痛むなー、ちゃんと休まんとあかんよ?」

 

「……うん。」

 

そのままリヴェリアの方に行ってしまったロキの背中を見ながら妹に掴まれた右手が暖まっていることを感じる。外気にさらされて少し下がっていた体表面の温度を少女の体温が引き上げていく。

 

「ふふん。普段はあれでもロキさんもちゃんと神様ですからねっ。」

 

「……そうだね。」

 

ニコニコ笑顔のいなづまはアイズの腕をしっかりホールドしながらこちらを見上げてくる。嬉しそうな表情にうっすらと溶けている私を心配する気持ちに丁度いなづまの"ゆっくり休まないとだめなのです。"とロキの"ちゃんと休まんとあかんよ?"が重なった。いなづまにはロキと同じものが見えているのかな……。

 

もしかするとあの白い男の子もこんな気持ちだったのかもしれない。顔見知りでも事情を知ってるわけでもないなら恐怖しか残らなくてもおかしくはない。

 

「別にアイズお姉ちゃんもこっち側に来れるのです。今はまだその気がないだけで。あ、でも無理してこなくても良いのですよ?ダンジョンに潜りにくくなりますし。」

 

「え、いなづま……?」

 

こっち側ってどういうこと……?

 

「はわわ、間違えたのです?まあ、いずれにせよお姉ちゃんが離れない限り、私はお姉ちゃんから離れていくことはないので安心して……甘えさせてほしいのです。」

 

いなづまは何かがあったのか百面相しながら可愛いことを言って、そして自分で言うことが恥ずかしくなってきたのか目を逸らし俯き加減になる。

いなづまははっきり言って思いつく短所が身長の低さと部屋の片づけくらいの良くできた存在だ。本当は私みたいな戦闘しか出来ない姉なんて足枷でしかないんじゃないかって思うときがあった。さっきもそうだった。もしかするとさっきの白い男の子の時からの"怖がられているかも"という思いが視界を曇らせていたのかもしれない。

 

「うん、ずっと離さないからお姉ちゃんに、ずっと甘えてね。」

 

でも今気付いた。いなづまはそんなことどうでも良かったのかもしれない。いなづまは甘え、時に頼られる互恵的な姉妹関係を望んでいた。直接聞いた訳じゃないけど多分別の"お姉ちゃん"も今までに存在した(・・・・)んだと思う。何となくわかる。いなづまは甘え上手で頼られ上手だ。でもそれは過去の"お姉ちゃん"から学んだことでその"お姉ちゃん"との別れから学んだことだろう。でもそんなことは気にしない。

 

「なのです。末永くよろしくお願いしますね。」

 

今この瞬間いなづまと義姉妹の関係であることだけが結果で過去の"お姉ちゃん"がいなづまを育ててくれたとしたら、私はお姉ちゃん達の思いを引き継いで、いなづまと時を紡ぐ事だけがいなづまと過去の"お姉ちゃん"達できる精一杯のことなんだ。

 

「うん、改めてよろしくね。」

 

お日様の高いうちからわいわいと騒ぐファミリアの面々と主神がホームの門をくぐる。

これがロキ・ファミリア。オラリオ最大級の探索系ファミリアで私の大切なものを見つけた大切な場所。そしてこれからもっと大切になる時間を過ごす場所。

 

「私の妹はこんなにかわいい」

 

ギリギリ聞き取れない声量でつぶやいた音に反応して再び顔を上げるいなづまのほっぺに空いてる手で触れた。確かにそこにいる。

 

「どうしたのです?」

 

「何でもないよ。」

 

きょとんとした表情の彼女に笑顔を返すと世界で一番大切な笑顔が返ってきた。




いつも閲覧・評価・感想等ありがとうございます。
やっと第二章が完結です。
ようやく一巻の時系列に追いつきました。来週投稿分からは新章に入ります。今後もこの作品をよろしくお願いします。


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私のお姉ちゃんは頑張り屋
23話


《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか23

 

ーアイズといなづまの部屋

 

「……。」

 

アイズお姉ちゃんはロキさんの言うとおり早めに寝てしっかり休めたようで、見える範囲ではかなり回復しています。なんだか良い夢を見れたようなので寝起きにしては明るい雰囲気で、起き上がってもなんとなくうれしそう。何かを懐かしむような表情も見逃せないのです。It is not bad at all.

どうでも良いですけどアイズお姉ちゃんのベッドはふかふかな上にお姉ちゃんを感じられるので素晴らしいので一日中もふもふできます。お姉ちゃん本体も同様なのです。

 

(何年も思い出すことさえ)(なかったのに……何故今になって?)

 

「アイズお姉ちゃん……お寝坊さんですねっ。」

 

もうそろそろティオナさんが呼びに来る頃合いなので声をかける。はっとした表情のお姉ちゃんもとても良いものなのです。

 

「あ……おはよう、いなづま。」

 

「おはようございます。ささ、早く着替えるのです。急がないと誰かが突撃してきますよ?」

 

身体をほぐすのとお姉ちゃんの着替えを実況するのは少しばかりあれなのとで、お姉ちゃんを急かしてから直ぐに部屋を出る。すると廊下の曲がり角の方から人の気配が……。アマゾネス姉妹の妹の方の最近何かと接点が増えているティオナさんだと思うのですが……。

 

「あ、いなづまだ。アイズは?」

 

「お着替え中なのです。もうすぐ出てくると思うのです。」

 

「そっか、ここで待ってても良い?」

 

「なのです。」

 

短いやりとりの後、ティオナさんはドアを挟む微妙な間合いで壁に寄りかかった。"アマゾネスは外見だけじゃない、中身で勝負"というだけあって心理的な距離ぴったりに付けてくる。

 

「いなづまは何でアイズをお姉ちゃんって呼ぶの?」

 

それで心理的限界に全力で踏み込んでくる。思い切りの良い踏み込み方なので割と口が軽くなる気がする。

 

「お姉ちゃんっぽいから、なのです。」

 

「それじゃ、出会った冒険者がティオネだったら?」

 

ちょっと回り道をして探ってくるのはいつも通り。行動はかなり直情的なのに、こういうところでは直線で踏み込んでこないのは無配慮と無遠慮の境界線を感じますね。

 

「ティオネお姉ちゃん……でしょうか。うーん、悪くないですね。」

 

「頼まれてもティオネはあげないよっ。」

 

えへへと笑ってみせると流石に妹なのか慌てた感じで抑止してくる。逆の立場でも多分同じ事を言うとは思うのでその気持ちはよくわかるのです。

 

もし誰かが居なかったらという想像は、結構大変というか……見落とす要素が多いので、実際との乖離がすごく大きくなりがちなのですが、"お姉ちゃんが居ないと生きていられない"事は、自明なので深く考えずに答えられますね。

 

「盗る気は無いので安心して欲しいのです……。」

 

「そうだよね。いなづまにはアイズが居るもんね。」

 

「お待たせ、あ。」

 

ティオナが手を伸ばそうとしたとき、丁度アイズが部屋から出てきた。服装はダンジョンに潜るときに防具の下に着ているいつものー造りはワンピースタイプながらボディラインに沿って細目に作られていて動きを阻害しないー服で昨日より軽い足取りで部屋を出てくる。

 

「おはよう、アイズっ。ぐっすり休めたみたいだね。」

 

「うん。」

 

同僚に返事をするアイズの顔色は昨日に比べて随分と良くなっていた。

 

「朝食の時間が終わる前に早く行きましょう、ね!」

 

「そそ、ほら早く行くよ。」

 

「う、うん。」

 

電とティオナがアイズの手を引く。妹たちによる強力な牽引でアイズの相対姉力は大いに向上して、アイズのもつ絶対姉力を上回る姉力が発揮される。妹に振り回される姉というものは良い。妹が強く押すと断れない駄姉ちゃんも姉妹の間柄なら許される。

……但しティオナの歩幅に負けて電も地面から浮いているが気にしないこと。

 

ーーーー

黄昏の館(ホーム)

 

「夜は打ち上げやるからなーーーー!遅れんようにーーーー!」

 

「行って、きますね……。」

 

主神(ロキ)がホーム正面入り口の張り出した屋根の上に立ってダンジョン探索の後処理をしに行くのを見送っている。電は内心冷や冷やしながらも送り出してくれる存在が居ることの嬉しさもあって一瞬だけロキの方を向いて手を振ると直ぐにアイズの側に戻った。

 

「お姉ちゃん、あのロキさんは危なくないのですか?」

 

「うーん、いつものことだし多分大丈夫、だとおもう。」

 

いつもなのですか……。神に老化はないので素の身体能力に十分体を鍛えていれば大丈夫ではあると思わなくはないのですが、心配なものは心配なのです。まあ、今回はお姉ちゃんに免じて心配しないでおくのです。

 

「わかったのです。それで、えっと、今日はダンジョン探索の後処理とのことなのですが、何をするのです?」

 

「あー、いなづまは初めてだもんね。主な後処理は

ギルドに魔石を売りに行くのと

戦利品のうち自前で加工しないもの……ロキ・ファミリア(うち)の場合、ほとんど全部を専門の商業系や加工系のファミリアに売りに行く。

あとは武器や道具の整備補填。

到達階層を更新したときはギルドに報告しなきゃいけないからやることが増える、くらいかな。」

 

「はわわ、やることがいっぱいなのです。」

 

そういえばファミリアが大きいと後処理でバカにならない量の戦利品を市場に出すことになるけど大丈夫なのでしょうか?この量の素材の買取額を流石に高額につり上げすぎるのは少々危険な気もしますが……心配事は尽きないのです。

 

「うん、えっといなづまは……」

 

「ディアンケヒト・ファミリアに行くグループなのです。お姉ちゃんと一緒なのです。」

 

当初はギルドの方について行き団長と行動を共にするつもりだったのですが、回復薬の素材のうち幾つかが過剰で腐らせてしまうのも勿体ないのでついでに換金してしまおうかと団長にお願いしたのです。"ティオナが暴走しないよう気にかけて欲しい"とのことだったのですが、どういう意味なのでしょうか?

 

「そっか。良かった。」

 

今は意味深な言葉よりもお姉ちゃんの嬉しそうな横顔を眺める方が大事なのでじーっと見つめてしまいますね。はぁ、お姉ちゃんは良いのです。




第三章開幕なのです。
お姉ちゃんの活躍に乞うご期待、なのです。


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24話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか24

 

オラリオの街路を列をなして進むロキ・ファミリアのメンバーに勝手に人混みが割れていく。

オラリオの人口と冒険者数に対して、決して多くない第一級冒険者を何人も推す最大級のファミリアの一角は、中小のファミリアが乱立するオラリオでは尊敬よりも……畏怖や憎悪の明らかな目印になりやすい。

 

例に漏れずロキ・ファミリアも畏怖の対象であり周囲の冒険者らのつぶやきは尊敬2割畏怖7割よくわからないもの1割である。

 

「ベートさん、よかったですね。人気者なのです。」

 

「いなづま、それは皮肉か?」

 

はて、何のことでしょうか?別に、ベートさんと目が合いそうになった冒険者が、無言で目をそらしているのをどうこういっているわけでは、ないのですが……。」

 

「おい、口から本音もれてんぞ。」

 

「はわわ、びっくりしたのです。」

 

まさかティオナさんに秘密をぶちまける前にベートさんに本音を漏らしてしまうとは……。やっぱり警戒心が薄くなってしまっているのです。もっと気を引き締めて行かないといけないのです。

 

「はぁ、ところでいなづま。なんでアイズのところじゃなくて俺のところに来たんだ?行き先も違うしわざわざこっちに来るような用事も……」

 

「あるのです、残念ながら。」

 

ベートさんが言い淀む隙間に結論を差し込んでいく。決して冗談やおふざけの用事ではないのですが、ベートさんは頭も比較的回転が速くツッコミの切れも滑り具合もいい感じになるので、ついついいじりたくなるのです。

 

「は?何があるって言うんだ。」

 

「確か用事を済ませた後は団長命令でミアハ・ファミリアに行くのですよね?その時に一番売れている薬1つと一番安い回復薬を3つほど買ってきて欲しいのです。費用は……これで。」

 

ベートさんは私が解き放った圧に押されるまま、十分なお金が入った袋を受け取ってくれたのでそそくさと退散する。

 

「お、おい。」

 

「それじゃあ、お願いしますね!」

 

ベートさんから離れてアイズお姉ちゃんの近くに移動する。同じ場所に行くメンバーで固まっていたようでアイズお姉ちゃん、レフィーヤさん、ティオナさん、ティオネさんの4人がいた。私がささっとアイズお姉ちゃんにくっつくと一行の歩みが止まった。

 

ーギルド正面

 

「僕とリヴェリア、ガレスは魔石の換金にいくから、ここからは各々予定通りの目的地に向かってくれ。」

 

フィンさんは丁度ラウルの方を向くと念を押すように一言付け加える。

 

「換金で得たお金はちょろまかさないでおくれよ?ねぇ、ラウル?」

 

「あ、あれは魔が差しただけっす。もう、あれっきりです、団長!?」

 

このあたりはお決まりなのか皆穏やかな様子。フィンさんもにっこり笑って解散を宣言する。でも、ラウルさんって次期団長の最有力候補だったと記憶しているのですが大丈夫なのですか?

 

「さ 私達もいくわよ!間違っても襲われて道中戦利品(ドロップアイテム)を盗まれないでよね。」

 

「流石に襲われる事はないと思う」

 

ティオネさんの注意にアイズお姉ちゃんから即つっこみが入る。流石に4人のレベル5と高火力レベル3を相手に喧嘩を売れるのはレベル6、7くらいなのでは……と思ったのですが直ぐに突っ込むあたりはいつものお姉ちゃんなのです。

 

「ま、まあいいわ。用心するに越したことはないという事よ。」

 

「話は変わるけど、ラウル達はなんだかんだ言ってちゃんと交渉してお金取ってくるからすごいよね。」

 

話題が尽きることを警戒したティオナさんが新たな話題を投入。お姉ちゃんが困らないように配慮する妹の鑑なのです。助かったとばかりに上機嫌に妹の助け船に乗るティオネさん(お姉ちゃん)も良いのです。外見ことクールに取り繕っては居ますが内心話題が尽きて無言になることを恐れていたのはわかっちゃうのでそこも良しなのです。

 

「勉強も込みでそれなりに痛い目にも遭ってきてるのよ。団長の指示でね。」

 

ティオネさん団長好きすぎ問題では?団長って言う度に僅かに表情がやわらくなるのは面白すぎるかと。まあ、ロキさんとの(パス)を通じて子ども達の情報が流れ込んできているだけなので、お姉ちゃんセンサーで気付いたわけではないですが……。

 

あと、アイズ(お姉ちゃん)。私がアマゾネス姉妹の方を見ているからって手をくいくいっとわずかに引っ張るのは本当にかわいすぎでなんかもう好きなのです。本人は気付いていないと思いますが……それもまた良いのです。あ、こっちはお姉ちゃんセンサーなのです。今日も絶好調なのです。

 

「へぇ。それじゃあ、最初から交渉が上手かった訳じゃないんだ。」

 

「団長相手にお金をちょろまかした上で自分から謝罪したくらいだし、素質はあったのかも。」

 

「ふむむ。」

 

どうもアイズお姉ちゃんは私が話に興味を持っていると思って上手いこと話に割り込んでいきましたが、残念ながらニアミスと言ったところでしょうか。話の内容ではなく、展開そのものの方だったので悪くない筋ですが。

 

これで会話を続けようとする勢力が増加。この後はアイズお姉ちゃんとティオネさんが話題を投入し続け無事会話がとぎれることなく目的地"ディアンケヒト・ファミリア"に到着したのです。

 

「いらっしゃいませ ロキ・ファミリアの皆さま。」

 

出迎えてくれたのは、綺麗なお姉ちゃん属性持ちの方でした。本業は治療師のようで只の受付嬢ではないと思いますが……。




お姉ちゃんかわいいよ


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25話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか25

 

ディアンケヒト・ファミリア

 

オラリオ最大手の医薬系ファミリアで高レベル治療師・調薬師を多数抱える。生産している薬品の中でも手軽にあらゆる場面で利用できる最高品質万能回復薬(エリクサー)は高レベル冒険者に人気であり、その影響で低価格帯の各種回復薬も数多く売れている。

 

「アミッド久し振りー」

 

「本日のご用件は引き受けていただいた冒険者依頼(クエスト)の件でよろしいでしょうか。」

 

「ええ、そうよ。今は大丈夫?」

 

綺麗なお姉さん属性持ちの方ことアミッドさん(仮)はティオナさんの呼びかけに会釈で応じ用件を確認する。こちらから返事をしたのはティオネさんでした。ティオネさんはディアンケヒト・ファミリアとの交渉を任されている立場なので妥当でしょうか。

 

「商談室は空いていないのでカウンターでもよろしいでしょうか?」

 

「構わないわ。」

 

あぁ、早速影響が……。この規模の商談で商談室が使えないのは急な帰還に予定が合わせられ無かったと言うこと。流石に資金的には問題ないでしょうが、負担がかかるのは間違いないのです。ティオネさんがそれを分かって交渉してくだされば良いのですが……。フラグですかね。

 

ーーーー

 

「泉水、確かに確認させていただきました。」

 

やや大きめのー梅酒を作るときに使えそうなサイズ感のーガラス瓶に満たされた透き通った液体は泉水という。

 

地下の深いところまでゆっくりと濾過され、ダンジョンの力場に長時間曝されたその水は普通の水とは一線を画す秘薬そのものであり高品質な治療薬には欠かせない素材の一つ。

 

液体な上に比重が重く、一度に収集できる量は限られているが、直接的な秘薬としての効能は凄まじく即効性も高い。余り知られていないが、天然回復薬(バケツ)の発生条件の内の一つでもある。

 

その貴重な水と各種の薬草を組み合わせることで僅かな材料で最大の効果を引き出すのが治療薬学研究の基本となっている。薬草単体でゆっくりと効果を発揮する薬学も一部に存在するが、泉水を薄めることで即効性を絞る方法が主流なのでオラリオに流通する大半の薬は泉水が含まれている。

 

「こちらが報酬の最高級万能薬(エリクサー)になります。お受け取りください。」

 

実は報酬として最高級万能薬(エリクサー)16本はやや少ない気もするが市場の拮抗額としては妥当なのでおいて置くのです。

 

アイズお姉ちゃんが受け取ったので解析を開始しちゃいます。

 

「一本50万ヴァリス……。」

 

「16本かぁ、うはぁぁ〜。これだけあると豪邸が建っちゃうね。」

 

「きれい……」

 

見た目は泉水の透明さが名残り、各種の薬草を干渉しないように配合して生まれた独特の色合いは液体の宝石と形容することが相応しい。

 

お姉ちゃんがきれいと思わず漏らすのは当然ですが、やはり純粋にかわいいのです。綺麗寄りの見た目に純粋と純粋と戦闘能力を包み込んでちょっと変わったエッセンスを加えたお姉ちゃんなので、お姉ちゃんの方がきれいだと言いたいのです。心の中にしまっておきますが。

 

あとディアンケヒト・ファミリアの皆さんごめんなさい。ここの万能薬(エリクサー)ちょっと誤解してたのです。

 

「これは……殆ど慈善事業なのです。」

 

「ん、どうしたの?」

 

天然系お姉ちゃんの疑問顔は不思議のダブル乗せなので、本当にそそるのです。今すぐ襲いたいくらい好きなのです。って、はわわ。お口ゆるゆるなのです。それよりレフィーヤさん、万能薬(エリクサー)持って震えすぎなのでは?ああ、もう気にしないで話してしまいましょうか。私はティオネさんが冒険者依頼(クエスト)外素材の交渉してるのを確認して話し始める。

 

「エリクサー、思ったより原価率高いなぁと思ったのです。」

 

「げんかりつ?」

 

ティオナさんから疑問の声が上がったので簡単に説明しようと思います。大まかな説明なので細かい不正確さは御免なのです。

 

「ものを売るときの値段のうち、材料や機材、人件費などの生産と開発に掛かるお金のことなのです。残りは貯蓄などの資産として内部に留保されるのです。

 

基本的には値段が高いものほど原価率のうち原材料費が下がりお給料や開発費の部分が高くなるのですが、このエリクサーは製造原価だけで30万ヴァリスから40万ヴァリスになると思うのです。

 

これにより簡単に計算すると原価率60~80%となるのですが、最終的にファミリアの資産として残るのは一本当たり5万ヴァリス程度になるので薬としてはかなり薄利、利益が少ないと思ったのです。」

 

「……半分くらいしかわからなかったけど50万ヴァリスっていうのは安いくらいなんだね。」

 

「なのです。」

 

つい喋りすぎてしまいましたが最後に一つ。製薬はかなり投機的、つまりハイリスク・ハイリターンの分野なので一般には研究開発費が薬の値段の多くを占める事になるので原材料費は高くても20%以内に収まるのですが、ここの万能薬(エリクサー)は珍しく素材が高いようなのです。多分安価な治療薬は原価率1%くらいだと思いますが、それでも万能薬(エリクサー)を看板として推すディアンケヒト・ファミリアにとっては必要十分の余裕しかないのでしょう。すごいのです。

 

自家製万能薬(エリクサー)は泉水をほぼ使わない節約レシピですが効き方に癖があり、対外向けに万能薬として売り出せる代物ではないのであくまでオラリオ(ここ)では予備のお薬として活躍してもらうことに決めたのです。

 

話は変わりますがアイズお姉ちゃん、適度に相づちを打ちながら全部聞き流してましたね。そんなに光り物(エリクサー)が好きなら、魔法を掛けた小瓶に自家製万能薬(エリクサー)を詰めてプレゼントするくらいはやっちゃいますよ?やったら、喜んでくれるでしょうか……?はわわ、はわわ。

 

「カドモスの皮膜よ。」

 

あ、遂に今回の換金の目玉というかヤバいやつが来ましたね。あれ1000万ヴァリスで売れたら十分だと思うのですが、どうなのでしょうか?ってレフィーヤさん、それ(エリクサー)を落として割ったら10年分くらいの手取りお給金が吹き飛びますよ!!!ああ、もう世話が焼ける弟子なのです!

 

(せーふ)

 

ああああ、お姉ちゃんのレベル5の俊敏と動態視力にものを言わせたキャッチで難を逃れたので、ばれないように魔法円と魔法を消す。レフィーヤさんは自分のことで手一杯になっていて魔法には気付かなかったみたいですが……

 

「……700万ヴァリスでお引きt」

 

「1500万ヴァリスよ。」

 

はぁ?こっちはこっちでなにやってるのです?普通にカドモスを討伐してレアドロップしても1200万ヴァリス位から交渉開始ではないのですか?もう提示してしまった以上下手に譲歩すると下を見られるので出来ませんがこれは……。

 

やっと団長さんの言葉の意味がわかったのです。……この駄目お姉ちゃんが。




ここ数週間投稿が不安定になってしまいすいません。
来週は21:30に投稿予定なのです。


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26話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか26

 

「……800万までは出しましょう。」

 

これだと900万までは……行かないですね。困りました……。このままでは現金で1000万ヴァリス確保するのは難しいでしょう。冒険者依頼(クエスト)の方も慈善事業張りの低利益な万能薬(エリクサー)で支払われているとはいえ、実際問題としては利益分を引けば安めなので流石に1000万ヴァリスを割り込むのはロキ・ファミリアとしては"なし"なのです。

 

散々市場への影響を心配しておきながら言うのもあれですが、あくまで相手を生かさず殺さず、今回の負担をほかのファミリアにふっかけられないギリギリまでお金を出させることが重要なのです。

 

「今までに出てきた皮膜の質とこの品質の差を考えたら別にこれくらい高くない筈よ。1400万」

 

一気にその場の圧が高まりアマゾネスの力の一端が解き放たれる。これは相手が女性だったことも影響してそうなのです。恋する乙女の暴走なのは分かるのですが……。

 

「私達は団長から『金を奪ってこい』とそう一任されているのよ。半端な額で取引するつもりは毛頭無いわ。」

 

「ちょっと、ティオネ。」

 

「流石にそこまでは言われてないですよ……。」

 

「……?」

 

「はわわ……。」

 

姉の暴走をマイルドに抑止しようとするアマゾネス妹 ティオナさん。万能薬(エリクサー)をティオナさんに預けたことで肩の荷が下り冷静になった魔導師 レフィーヤさん。フィンさんとのやりとりを丁寧に思い出して事実を確認しようとし首をかしげるお姉ちゃんかわいい、アイズお姉ちゃん。そしてすべてをスルーし交渉を続けようとするアマゾネスの駄目姉ちゃん(おねえちゃん)

 

「850万、これ以上は……。」

 

ティオネさんとの距離感からわかりますが、アミッドさんと付き合い長いのですね?ティオネさん達が大きく妥協させるには強敵ですが、まあ今の私には余り関係ない事なのです。フィンさんに一任されているので。

 

普通何らかの役職を貰う事は新入団員、おろか一般の団員にとって荷が重いーあり得ない処遇です。でも鎮守府の運営、資源の管理というファミリアの経営にも似た経験がある(いなづま)は役職を貰う事は別にあり得ないと言うほどではなかった、それだけなのです。

 

「今回や……ん、なぃ?」

 

人の背後から肩を軽くトントンとたたき、そのまま肩に手を置いて人差し指を伸ばすとどうなるかは、ご存じですよね?

 

「ちょっと、交渉代わって貰っても良いのです?」

 

正解は振り向いたあの子のほっぺに人差し指がぷにと当たりしゃべることを中断させられる、なのです。身長差があるので気合(魔法)で滞空時間を長くして居ますが大体同じような結果になると思われるのです。

 

響お姉ちゃんによくやられていましたが、私からやり返せたことはないのです。後ろに立つと振り向いてくるので距離すら詰められないのです……どうしてだったのでしょうか。

 

「う、うん?」

 

サクッと頷かせてカドモスの皮膜を回収すると、暴れ出す前にティオナさんにティオネさんを預けアミッドさんの前に立つ。

 

「失礼しました。交渉を代わりました、アミッドさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんが……。」

 

流石に交渉事には慣れてると見受けられるアミッドさんでも少しは動揺してくれているようです。

 

「あ、ごめんなさい。申しおくれました、いなづまと申します。

 

今後の取引について、ディアンケヒト・ファミリア、ミアハ・ファミリア他4のファミリアについての全権を団長から委任されましたので今後ともよろしくお願いします。」

 

魔導師(レフィーヤさん)アマゾネス姉妹(ティオネさんとティオナさん)、アミッドさんがあっけにとられる中、アイズお姉ちゃんだけは"あーそういうことね完全に理解した(わかってない)"感をだして動じていない。お姉ちゃんがこういうことに強いのか他のレベル5(ひと)が弱いのか分かりませんが、そんないつもよりちょっと表に自信の出ている表情もとっても好きなのです。

 

ーミアハ・ファミリア

 

"ミアハ・ファミリアに行くのですよね?その時に一番売れている薬1つと一番安い回復薬を3つほど買ってきて欲しいのです。"

 

「ったく。なんなんだ。」

 

用事を終えてミアハ・ファミリアに向かう俺の脳内にいなづまの声が残りこびり付いたように離れない。

そもそも何でいなづまはディアンケヒト・ファミリアに行ったんだ。ミアハ・ファミリアに用事があるならフィンについて行ってその後俺と合流すれば良いじゃねえか。

 

「お、お客さんだ、珍しいね。いらっしゃい。」

 

「お薬のご入り用ですか……?」

 

主神と子供、どちらも腑抜けた面を曝しているミアハ・ファミリアだが、どうも団長はディアンケヒト・ファミリアでは引き受けられない依頼をこのファミリアに依頼したいらしい。それも前金として2000万ヴァリスに金額の書かれていない小切手までつけてな。

 

ロキ・ファミリア(うち)の団長からの"依頼書"と前金、小切手が入ってる。それと別で、"一番売れている薬一つと一番安い回復薬三つ"が欲しい。」

 

「へぇ、ロキ・ファミリアからご指名か。」

 

優男(神)が蝋で封された手紙を受け取りつぶやく。女の方は手紙の受け渡しが終わったタイミングで話しかけてきた。

 

「一番売れている薬、ですか。薬とは……」

 

「何でも良い。種類は問わない。」

 

「分かりました。」

 

疑念の色を隠せていないが弱小ファミリアにはこんな注文も文句を言わずに引き受けなきゃやってられない厳しさがある。力だけじゃねぇ、立場の弱さが苦境につながる。見てらんねぇよな……。

 

忙しく動き回る女と黙り込んだ優男(神)を横目に"自分しか助けられない弱い自分に"心の中で唾を吐いた。



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27話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか27

 

「んん゛〜、流石に疲れたのです。」

 

無事1000万ヴァリスと次回の依頼時+万能薬(エリクサー)2本の権利を確保したのでディアンケヒト・ファミリアを出る。アミッドさんは普通に良心的な方だったので時間も掛からず良い感じにまとまりました。主神と対面したかったのですが上手く行きすぎたのでそれはかなわず。まあ、こういう日もあるのです。

 

「おお。」

 

(私の手柄 私の手柄 私の手柄……)

 

「いなづまちゃん、交渉も出来るんだ……。」

 

「はわぁ〜。」

 

小さく喜ぶお姉ちゃん、団長に褒められたかった故の絶望に苛まれるティオネさん、単純に感心といった感じのティオナさんに気の抜けたというか呆然としているというかといった様子のレフィーヤさん。このメンバーはどの瞬間を切り取っても面白い絵柄になりますね。お姉ちゃんかわいいですし。

 

「ティオネさん。」

 

「……なによ。」

 

別のとは言えお姉ちゃんにジト目で見られるのはムズムズしますね。お姉ちゃんかわいいと同時にくすぐったいくらいの罪悪感でなんかもう、すきなのです。

 

「交渉できたのはティオネさんのお陰なのです。私はほんの少しお手伝いしただけなのです。」

 

「それで。」

 

すこぶる機嫌が悪い。ここで押すか引くか。……押しちゃいましょう。ティオナさんのお姉ちゃんですし。

 

「ティオネさんが持ち帰った方が……。」

 

「いいわ。」

 

場を静けさが支配する。状況に乗れないものや何とかしようとするものもいる中、その中でアマゾネスの胸中に焔が灯っているのが見て取れた。

 

「今回は駄目だったけど次は自力で穫りに行くから。無理して同情してくれなくてもいいの。」

 

「あの、それじゃ、お願いなら聞いてくれますか?」

 

強い。きっとこの後も決して(・・・)フィンさんが自分の方を向かない事に気付いても、ティオネさんが止まることはない様な気がするのです。前に進み続ける限り道は続く。

 

「ん?」

 

「怒られちゃうので、代わりに手柄をもらってください><」

 

「……え、えええええ?!」

 

両目をぎゅっと閉じて1000万ヴァリスの袋をアマゾネスに押しつける少女と叫ぶアマゾネス。それぞれの姉妹等の介入が有るまで二人は滑稽な様子を曝す。

 

「ティオネ、うるさい。」

 

「ヴァ、ぐはぁ……。」

 

オーバーフローして叫ぶ姉に手刀を下し気絶させる妹。

 

「大丈夫?」

 

「はわわ……。」

 

後ろから抱きつかれ耳元で囁かれた甘美な声に腰を抜かした妹とそれを受け止める姉。

 

その間で手持ち無沙汰なのか混乱しているのかうろうろするエルフ魔導師()

 

「とりあえずホームに戻ろう。」

 

「は、はい。」

 

ーーーー

 

ーゴブニュ・ファミリア

 

ゴブニュは工芸の三神のうちの一柱。三神の中でもっとも優れた技術を持ち魔法の鎚を三振りするだけで完璧な武器を作ったと言われていて、その武器は必殺必中とされる。また同三神の一柱であるディアンケヒトと協力したこともある。戦場の後方でも神速の武器修理で活躍しており、医療にも通じているとされ、食べ物に関して尽きることのない食材や不老不死になる食べ物などを与える存在としても知られており幅広い信仰を集めた。

 

そんなゴブニュが"趣味と実益を兼ねた"ファミリアを開いた結果がこのゴブニュ・ファミリアであり……大切断(アマゾン)の専用武器ウルガを鍛えることができる唯一のファミリアである。

 

「ウルガ、溶けちゃった。」

 

「ノオオオオオオオーーー!!」

 

髭を蓄えいい年をしていたおじさん鍛冶があまりの事態に大声を上げて転げていたとしてもその事実は変わらない。

元凶(ティオナ)はあっけらかんとしているしアイズお姉ちゃんは興味がないらしくゴブニュのいる部屋に一直線だし、私はお姉ちゃんに引きづられている。そのまま勢いで入室。お姉ちゃんの後ろに張り付き、背中に隠れる。あ、ティオネさんは団長にほめられに、レフィーヤさんは自室でお休みになられているので来ていないのです。

 

「整備か、見せてみろ。」

 

お姉ちゃんは愛剣をゴブニュにわたす。製作者であるゴブニュには分かるのだろう。この不壊属性の剣が異常なモンスター(アブノーマル)を斬ったことに。

 

「変に刃が鈍ってるな。何を斬った。」

 

「溶解液が詰まったモンスターです。」

 

そう。今回の遠征では未知のモンスター ー溶解液が詰まっていて攻撃に使い、殺されると溶解液がばらまかれるらしいー が登場し分析力の高いフィンさんが不壊属性なしでも溶解液をやり過ごせるアイズから剣を借りたという事なので、実は本来アイズが使っているときよりも劣化はしていないはず。

 

「元の切れ味を出すには時間がかかりそうだ。代わりの剣を出そう。……遠慮はするな。下手な武器を持たせてもお前ならすぐに使い潰すだけだろう。」

 

裏から剣を漁り丁度良いものを見つけたゴブニュはアイズにそれを渡した。

 

「振ってみろ」

 

「はい」

 

容赦なくお姉ちゃんは剣を振る。この間実に100ms、投機的実行を疑う反応速度に私は投機的に後ろに跳びお姉ちゃんの剣を回避した。はぁ綺麗なのです。ぶれない重心とそれに支えられて繰り出される剣技の美しさは戦場の芸術なのです。

 

「今日は変に力んでないな。何があったかは知らんが、良い感じだ。」

 

お姉ちゃんも思うところがあったのか軽くうなずく。今朝はいい夢でも見たのでしょうかね。思ったよりも今回の遠征で得たものは大きかったということでしょうか。どうもステータスは伸び悩んでいるみたいなのですが……。

 

あとは、地上に出る前にミノタウロス追いかけたところでしょうか?あそこに分岐点(ターニングポイント)があるなら、ベートさんがしっかりしている事を祈るしか無いのです。下手なことをいってアイズお姉ちゃんを泣かせたら許さないのです。



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28話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか28

 

「アイズーーーーっ!レフィーヤ達も来たし打ち上げ行こー!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

ティオナの声がした方から飛び込んできた影を受け止める。茶色の頭はふわふわもふもふで、薄く朱の挿したほっぺはもちもちで、吐息はくすぐったい。私より一回り小さな手がギュッと引き寄せてきて、簡単には振り解けない力があって、それでその……、いい。

 

「行こっか。」

 

「なのです。」

 

この瞬間だけはこの世界に私とお姉ちゃんの二人しか居ないようだった。思わず飛び込んだお姉ちゃんの胸の中はとっても暖かくて確かに生きていて、お姉ちゃんにとって今日一日がとてもいい日だった事が伝わってくる。私とお姉ちゃんが出来る限りの面積でくっついている間に一緒にいなかった時間が共有される。離れている間の一抹の寂しさもそれを上回る見えない糸のような信頼と安心も。

 

「ほらぁ、急ぐよ!さっきからレフィーヤのお腹が待ちきれない~ってグーグー鳴きっぱなしだしさ。」

 

「ちょっ、ティオナさん何言ってるんですかぁ~。」

 

今の私達の距離は-3セルチ。ぎゅっと手をつなぐ。あんまり他の人を待たせるのもよくないので離れることの最後の抵抗としてお姉ちゃんの手を占有することにしたのです。ベートさんに分けてあげるつもりはないです。今回の打ち上げで酔ってやらかさなければ半径1メドル位には入れてあげます。万が一にもないと思うので余談ですがだめなら木に吊すので覚悟を決めておいてください。

 

ーーーー

 

「……。」

 

「ベート、何やらかしたか分かってますか?」

 

「えっと、あの?」

 

「あ、あ……。」

 

目の前には木に逆さまに吊されたレベル5の狼人(ウェアウルフ)と混乱している白髪の男の子ー低レベル冒険者、気持ちの整理が付かず口を開け閉めするお姉ちゃんがいて、当然のように混沌を生んでいるのです。なんか男の子に向き合って口ごもっているお姉ちゃん、なんか告白しあぐねている女学生にしか見えないので正直白髪の男の子には場所変わってほしいのですが、だめですよね……。今宵の宴そのものは無事終わりましたが、私達の宴はこれからなのです。

 

「いなづま、これはいったい。」

 

「まだわからないのですか。私は宴で何したか聞いてるのです。」

 

「……全く覚えてない。」

 

「はぁ。えっとですね、

 

酔った勢いであなたとお姉ちゃんが助けた冒険者の事をバカにしお姉ちゃんを傷つけた上、求婚して拒まれました。その場には助けられた冒険者君もいて彼にも伝わり、彼が危うく無銭飲食しかけたのであなたは私によって木に吊されました。

 

以上なのです。」

 

「……マジか。」

 

「大マジです。とりあえずお姉ちゃんの用件が済むまでは吊されておいてください。あとベートさんが生きているのはお姉ちゃんが止めたからなのです。良かったですね。」

 

「……あぁ、わかった。」

 

話している間にも脱力していき、徐々に色が抜けていきとうとう真っ白になったベートさん(レベル5)から目をそらし、お姉ちゃんの方を向く。

 

「……だから、強くなって。ダンジョンは強くなれる場所だから。」

 

「は、はい!」

 

あ、まだ言わないんですね。お姉ちゃんが"壊れる"前になんとか事態を収束させたのでどこまで自分だけの英雄(今朝見た夢)に踏み込むか判断しあぐねていたのですが、流石に見ず知らずの男の子には重荷を背負わせないようですね。

 

「……短剣?」

 

「ん、どうしたの?」

 

冒険者君の腰に装備された短剣に気付く。余りにも貧弱で、お金を掛けられなかったことが分かる。整備も行き届いていない。さすがにこれでダンジョンの中を戦うのは厳しいのです。

 

「何かお詫びしなきゃいけないとおもうのですが、武器の整備とかどうでしょうか?」

 

私は小声で話しかけたがお姉ちゃんは気にしない。お姉ちゃんだから、仕方ないのです。

 

「あぁ、それは一応考えてあって、稽古付けてあげようかなって。」

 

おうふ。予想を超えてきたっ?!まさかそこまで考えているとは……。それにしても"幸運"なのです。もちろん運も冒険者の素質のうちの一つなので将来が期待できますね。……あとはラッキースケベさえ発動しなければ。

 

「え、稽古付けてくれるんですか?」

 

「ベル君がよければ。」

 

「やったっ。」

 

なんかさっき嫉妬まがいの視線を送ってしまったことを反省する程度には可愛らしいですね。なんかピョコピョコしてて、何でしょうかね。まあ、取りあえずお姉ちゃんからはこれと言うことになるのです。

 

「ベルさん、あの。……お姉ちゃんが稽古をつけるんですし、武器はちゃんとしたものを用意できるんですよね?」

 

「あっ……。その……。」

 

「いなづま?」

 

ああ、アイズお姉ちゃんの咎めるような目。御馳走様なのです。もちろん只意地悪しているわけじゃないのです。当然お姉ちゃんの英雄になる可能性のある魂なのは分かるのです。お姉ちゃんセンサー。なので大切に扱いますがお姉ちゃんを取られるのはちょっと癪なので少し意地悪いなづまなのです。

 

「後でちゃんと武器を買いに行きましょう。私持ちでいいのですよ。べ、べつにベルさんの為では無いのです。お姉ちゃんの為なのです。」

 

「え、あ、ありがとうございます。でも、」

 

ベルさんが断ろうとしたタイミングで背中に回って抱きついてくるお姉ちゃん。やぁ、くすぐったい。ねぇ、もう。

 

「よしよし。」

 

「にゃぁ、はぅわわわ。」

 

頭を撫でてきたと思ったら、耳に甘ったるい息を吹きかけてきたり、首筋をすっと舐めてきたりと滅茶苦茶なお姉ちゃんに、慌てる冒険者君(ベルさん)、意識が遠のく私。

 

「どどどどうしたんですか?」

 

「妹を可愛がってるだけだよ?」

 

「ええええ!?」

 

もう、ちょっとだけ休んでもいいですよね?

 

この後暫くベートさんは放置されました。当然なのです。



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29話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか29

 

「ふにゃぁ……」

 

膝の上の茶色い頭から聞こえてくる気の抜けた声に姉は小さく微笑んだ。完全に脱力し自身とベンチに全体重を預ける少女は妹で、でも血縁で結ばれているわけではなかった。その中で幸運だったのが姉も妹も広義の家族の感覚を持ち合わせていて、両者の需要供給が完全に一致していたこと。

 

強いお姉ちゃん(じょういしゃ)が欲しかったはぐれの駆逐艦と強い(こうはい)が欲しかったダンジョンの剣姫がダンジョンの出会いに導かれたのは当然だった。

 

「ねぇ、いなづま。」

 

良く通る透明感のあるお姉ちゃんの声が空から降り注ぐ。直接顔は見られなくても、

 

「なのです?」

 

「ありがと。」

 

ちょっと気恥ずかしさがにじむ声に

 

"ドキドキ大盛りへいお待ちぃ!らっしゃいませ、今日はお姉ちゃん成分増量中。一度でお姉ちゃん分お得ダヨーン"

 

はぁ?わけわかめなのです。というくらい心の平静が乱されているのです。すき(挨拶)

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……昨日のこと。気付いてくれて、ありがとう。」

 

あー、白髪冒険者君に気付いて引き留めた上にベートを干したあの、あれですか。白髪冒険者君の将来性を青田買いしようとしたら相手が弱小(というか彼一人)ファミリアで主神の問題もあっていろいろ保留になっちゃったあれ、なのです?

 

まあ、お礼は受け取っておくのです。多分お姉ちゃんは引き留めたところまでしか考えてないと思うのでそれ以外のことは細事でしょう。

 

「どういたしまして、なのです。」

 

「えへへ、いなづまはやっぱりかわ、あっ。///」

 

かわ、かわわ?わわわ?

少し動いてお姉ちゃんの顔を見ると何時もの表情の読みにくい顔ではなく、真っ赤に染まり口を所在なく小さく空けたまま止まっていてうれしさと戸惑いのコンチェルト。お姉ちゃんがかわい過ぎて反動がやばいのです。

 

「……なのです?」

 

「……なんでもないよ。」

 

目をそらして控えめに頬をかくのを眺めるのも良いものです。特にお姉ちゃんは剣士としての日々の努力が滲む身体 ー細いながらも必要な筋肉で構成されて無駄がない、女性的な柔らかい美しさも備えた、大変燃費が悪いそれー は見事で、専門家ではない一駆逐艦(わたし)でも見惚れてしまうのです。

 

「お姉ちゃんはどっちかというと綺麗系ですよね。」

 

「……さっきの聞こえてたの?」

 

恐る恐るといった表情でこちらを伺ってくるの無限にかわいいですよね。ビクッとなって一瞬膝から落ちそうになったのですがそれも含めて点数が高いのです。

 

「えへへ、ちょっと照れちゃいます。でも、お姉ちゃんのほうがかわいいですよ?」

 

「ふにゃぁ……。」

 

ぐったりとうなだれるお姉ちゃん。はぁ、語彙力が失われるかわいさでは?完全に空を向くとお姉ちゃんの透ける金髪とその裏の青空をみる。日差しがホームの建物に遮られて心地よい温度の日陰を作る。陰の一部を担う橋の上にちらっと見えるロキさんの背中とリヴェリアさんの顔。目は合ってないけどこっちのほうを見ているようだった。

 

リヴェリアさんが降りてくる。そしてベートさんが縄を抜け、ホームの屋内へと続く道の壁に背中を預ける。準備を整え、時は動き出した。

 

「アイズ。」

 

「……リヴェリア。」




色々あって後半を来週分に回すことに……。遅れた上に短いですかご容赦ください。


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30話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか30

 

「……リヴェリア。」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴ

 

彼女はロキ・ファミリアのママと呼ばれることがあるほどには面倒見がいい。年齢的にはガレスやフィンと同年代であり母親(ママ)と呼ばれても違和感ない年齢ではあるが、本人の感覚としては長命種のそれも純粋なエルフであるためうら若き乙女の方が正確である。余談だがあまりにもママを多用すると口を尖らせて拗ねるので注意が必要。

 

「はにゃっ。」

 

お姉ちゃんとぶつからないよう気をつけながら電が起き上がる。

そこから最低限の動作でお姉ちゃんの隣に座り、さっきまで自分の頭をなでていたお姉ちゃんの手を確保する。

 

あったかい。電の表情は和らぎ穏やかさに満ちるが直ぐに場の緊張感に適応した。

 

「(はぁ、二人は本当に仲がいいな……)ベートの失言の件だ。その感じだとほぼ解決したように見えるが。」

 

「うん。ただ……」

 

「やらかした相手の主神とロキさんの仲が険悪なのでどうしようかと。」

 

なるほど、先日からファミリア運営にも関わっているとはいえまだ新人であるいなづまと、ロキとは専らステータス更新とセクハラ被害の関係で本人たちが思っているよりも関係が希薄なアイズでは手に負えない内容だろう。関係が浅いわけではないが強い進言が出来るほどではない。アイズをここに繋ぎ止める強くなれる環境(上位ファミリア)といなづまを繋ぎ止めるアイズ自身(お姉ちゃん)はロキと直接結びついているわけではないしな。

 

「そういうことか、わかった。後で部屋にくるといい。ロキを宥め賺す(なだめすかす)ことくらいは手伝える。」

 

「ありがと。」

 

「なのです」

 

一方私はいつもと雰囲気が違ういなづまに庇護の意識が掻き立てられていた。

 

しおらしく姉の腕にすがり、小さな身体に緊張を詰め込んだ彼女は……フィンとの模擬戦でみた強者でもレフィーヤの指導について意見交換したときの魔導学者でもない、

 

普通の女の子になっていた。

 

アイズ自身もフィードバックを受けているようでこの瞬間は冒険者アイズの強者感や凛々しさが隠れ、

妹の不安を引き受ける姉として現前と存在していた。

 

構図的に何かをやらかした姉妹を叱る母親のようになってしまったしお互いその雰囲気に飲まれているところはあった。

思っていたよりもずっと私の方が緊張していたようで雰囲気が妙に堅かったようだ。さっきロキに"誰がママだ。"と言っていたことを思い出し、偶にはそんなこともあるかと思い直す。

 

「それじゃあ私は部屋に戻るから、またあとで。」

 

「ばいばい」

 

「な、なのです」

 

パタパタと手を振る二人を背にファミリアの館内へと続く通路を歩く。途中には今回の問題児(大罪人)ベート・ローガが壁により掛かっていて誰かを待っているようにも見えた。

 

「ベート。」

 

「リヴェリア……お説教か?」

 

とてもではないがお説教を受けるつもりが有る姿勢ではないベートに苦笑を漏らしながら彼の先読みの誤りを指摘してやることにした。

 

「説教しようか迷っていたところだが、いなづまにきっちり絞られたそうだな。一晩吊されたとか。」

 

「……ああ、そうだよ。本当は数時間のつもりだったのに一晩吊したことについて謝られたのは驚きだったがそれ以外は特に言うこともないだろ?」

 

これは初耳だ。ベートにお小言を投げていたいなづまにお預け状態だったアイズが我慢できずに仲良く(・・・)したという話を小耳に挟んだのでそれの絡みかもしれない。

 

「だから今回は私からは何も言わん。だが、これとは関係なく(・・・・)手伝ってもらいたいことがある。手伝ってくれるか?」

 

「……ちっ、仕方ねぇな。」

 

そのまま移動するとちゃんと狼人()がついてくることがわかる。しつけをされてない犬というより酒癖が悪いんだろうな。




次週も短めになります。スローテンポで申し訳有りません。再来週から2000文字以上に復帰します。ご容赦下さい。


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31話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか31

 

「え?ないよ。」

 

「本当ですか。マジですか。……買い物、行きましょう。」

 

まさかお姉ちゃんがお出かけ用の私服も持ってないなんて……。私服持ってなくて町へ買い物に連れて行くのも何か久し振りな感じがしますね。

 

……あぁ、雷お姉ちゃんですね。思い出しました。割烹着とエプロンと制服と水着しか持ってなかったので響お姉ちゃんと一緒に買い物に連れて行った覚えがあるのです。そのあと偶々遠征に行っていた暁お姉ちゃんが仲間外れにされたと怒ってしまい、後で4姉妹そろってお出かけしたのも良い思い出なのです……。

 

ベンチから立ち、お姉ちゃんの正面から手を取って引っ張るとつられてお姉ちゃんが立ち上がる。思っていたよりも重かった反応にびっくりしたのかビクッとして、それもまたお姉ちゃんなのです。

 

「……うん。私はそういうの疎いから、いなづまがリードして、ね。」

 

「は、はいなのです!」

 

そして私たちは……服屋の並ぶ通りにやってきた。お姉ちゃんはこういう場所に全然来たことないからか若干挙動不審になっている。本当にダンジョンに入り浸っていたのですか……。街中では全然見かけないけどダンジョンには何時も居るという噂が本当だと言うことが示されてしまったのです。

 

「何か欲しいものとか見つかりました?」

 

「えっと、うん。どうしようかなぁって。」

 

頬を掻きながら目をそらすお姉ちゃんに、電は戦慄する。

あぁ、戦闘方面に頑張りすぎてこういう生活面の想像力が……。まあ、(わたし)も人のことを言えるようなものではないのですが何とか最低限はわかるのです。

 

「取りあえず適当なお店に入ってみましょう、ね?」

 

----

 

「お、アイズといなづまはっk、って、ティオネ?」

 

「ねえ、二人とも。今からあの二人をつけてみない?」

 

飛び出していこうとしたティオナを引き留めたティオネは一緒にいたレフィーヤと二人に一見奇妙な提案をする。当然ティオナは不服の表情だが、魔導師故に割と頭の回転が速いほうであるレフィーヤはティオネの意図に気が付いた。

 

「二人だけの時のいなずまさんを観察して弱みを握るんですね!」

 

「弱みを握るまでは行かないけど……、急に出てきてアイズと私たち以上になかを深めてるのは不可解だわ。何か秘密があるかもしれないと思っただけよ。」

 

納得のいったティオナにそこそこ当たっていて安心した様子のレフィーヤ、スペシャル可愛い駄姉ちゃん(おねえちゃん)ドヤ顔を披露するティオネ。

 

「あ、もうどっかいっちゃいそうだよ?」

 

アマゾネス特有の鋭い視力が店に入ろうとする二人を捉える。その店はこの3人にとって馴染みのある店だった。

 

「あの店は……」

 

「私たち行きつけの」

 

「アマゾネス的露出度の服が売ってる店だね。あー、もうそろそろ新作でてないかなぁ?」

 

アマゾネス的露出でアイズのイメージを一気に膨らませて熱暴走したレフィーヤ、あの店に入ったことに嫌な予感めいたものを受けるティオネ、新作に思いを馳せるティオナと既にチーム内の混沌が急上昇する。

 

物陰から物陰へ移動するようにその店の前に進むと正面のガラスから、試着に勤しみ(いなづま)の前で一回転する(アイズ)の姿。ぼんやりとしたイメージだけで熱暴走するレフィーヤには刺激が強すぎたようで顔面崩壊にいたりFXで有り金全部溶かしたかのような表情になる。ティオネはいなづまのアマゾネス的感性の良さに戦慄し、ティオナは新作を発見し自身の財布の軽量化を予見する。

 

「ほんっとに二人の仲良いですね。生き別れの姉妹みたい。」

 

「そうねぇ。髪色も割と近いし本人から何も聞いてないから否定のしようもないわ。逆にそれなら納得できるくらい。」

 

「いなづまちゃん少し顔赤くなってるの可愛い。アイズの照れのなさが清々しいレベル。」

 

レフィーヤの発言に思うところがあるティオネと考えるのは放棄したが観察は続行中のティオナ。当然このメンバーの共通認識としては二人とも大変可愛いのだが、細かいシチュエーションが可愛さにロケットブースターを括り付け加速していく事から目を背けられなかった。

 

それを口に出してしまえば可愛いだけが自分の中に残ってティオナ達を多幸感で蝕んでいった。

 

「あ、ここでは買っていかないんですね。」

 

「流石にちょっと恥ずかしかったんじゃない?私は似合ってると思ったけどね。」

 

「およよ、今度はあそこかぁ。」

 

店から出てくる二人の視線から逃れながら二人の背中を追うとこれまた因縁がある店に入っていく。

 

「あれは……」

 

「うごき辛くて暑苦しい服が売ってる……」

 

「エルフ御用達の……って何ですかその枕。それはティオネさん達が涼し過ぎる格好してるからです。エルフ的には破廉恥なんですよ!?」

 

エルフ怒りの反論も涼しい表情で受け流すアマゾネスが二人。格好が涼しげなだけにって何にもおもしろくないですよ!!

 

熱心に頑張るエルフも暖簾に腕押しでは張り合いがないのか直ぐ冷めて二人の観察に戻る。

 

「あ、あのアイズにフリル付きのロングスカートを、え?」

 

「こ、これは偉業では?偉業なのでは?」

 

「はぁ……可愛い。」

 

歴史が動く瞬間だった。アイズは何でも似合う。いなづまと姉妹可愛い。二人でフリフリ マックスキュート。少しずつ思考が浸食されていた3人はこれだけでもう満足しかけていた。

 

「でも、アイズさんって男装も似合いそうですよね。」

 

「「それだっ!」」

 

レフィーヤの破壊的一言で正気を取り戻した3人。しかし、そんな三人のことを知ってか知らずかいなづまは有る行動にでる。

 

次回アイズ・いなづま追跡隊死す。




次回で分割1話終わりです。あとでいい感じに閑話を挟んで話数調整するのでしばらくお待ちください。


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32話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか32

 

「これも似合いそうですよね。クールな感じにぴったりなのです。」

 

私の手には細身の男性が着るような装い一式がある。そう、男装なのです。私の知っている艦娘にもこういう服が似合うクールな方々はいらっしゃいますがお姉ちゃんもそれに勝るとも劣らぬクールさなのです。

 

「男装?」

 

(男装はしってるのですか……。)はい。ちょっと胸の辺りが苦しいかもしれないのですが多分このサイズが一番似合うと思うのです。」

 

手元のこれをお姉ちゃんに渡して更衣室に押し込んでいく。流されるままに更衣室に入って着替え始めるお姉ちゃん。お姉ちゃんのお着替えとか延々と眺めていたいですよね。あー、楽しみ過ぎるのです。レフィーヤさんとかだとお姉ちゃんの男装で新境地に目覚めちゃうのではないでしょうか。

 

「……。」

 

「……どう?」

 

「良いのです。お姉ちゃんは身長もあって姿勢もいいのでやっぱりこういう引き締まった格好は似合いますね。さっきの服とは対極的なのですがこれもお姉ちゃんなのです。」

 

あっ、あ。言ってしまった、言ってしまったのです。

はわわ、はわわ。照れがうっすらのった美青年(お姉ちゃん)がこっち見てるのです。お姉ちゃんはクールに決めるのです。イケメンだぁ。

 

「……ありがと。」

 

「はにゃぁ……。」

 

とりあえずお姉ちゃんに妹する。敵わないのです。

ね、レフィーヤさんにはさぞかし効いたでしょう。え、ここには居ない?はは、そうでしたね、ここにはいませんでしたね(棒読み)

あとで自慢してあげましょう。とりあえずこの服は後で買っておきます。それで良いでしょう。

 

「ど、どうしたの?」

 

「いえ、何でもないのです。それで、なにか着てみたい服とか思いつきました?」

 

お姉ちゃんを再び更衣室に詰め込みカーテン越しに会話を続ける。こういう姿は見えないけどそこにいる人と会話するシチュエーションもいいですよね。なんか、物理的にではなくて心でつながってるみたいな現象を可視化しているといえばいいんでしょうか。

 

「……なんとなく。次の店、いこう。」

 

「わかりました。そうしましょう。」

 

ふふ、お姉ちゃん女の子化計画進行中なのです。見た目はいいのでちょっとずつ仕込んでいけばじきに……。当然良い貰い手がいると良いのですがちゃんと釣り合う人が良いですよね。もしどうしてもと言うなら私が最後まで一緒に居ても良いのですが、一緒に居ても良いのですが、がが。

 

ここでサイレント服購入芸を決め、お姉ちゃん用フリル付の可愛い服&紳士服を艤装に放り込む。これは艤装様々なのです。重油と洋服を同時に放り込んでも混ざらない謎テクノロジーは完全にオーパーツですが。

 

「それじゃいこうか。」

 

「なのです。」

 

更衣室から出てきたお姉ちゃんの腕を確保し店を出る。お姉ちゃんとのウィンドウショッピング、良い響きなのです。

 

ーーーー

 

「」

 

「」

 

「」

 

期待を裏切らない最強の新人の齎した大惨事の結果が後を付ける三人に襲いかかった。紳士服アイズ。これ以上に危険な存在は今までオラリオに存在しなかっただろう。三人が死亡することは当然の流れであった。男装の麗人の流れる金髪は栄華の道、華奢な背中はしなりも強かな竹の様。芸術であった。

 

「いなづま、やってくれたね。」

 

「いなづま、おまえがナンバーワンだ。」

 

「はあはあ、お姉様、レフィーヤを踏んで下さいまし。」

 

故に誰も顔を赤らめるティオナやキャラの壊れたティオネ、超絶ヤバい顔と化した顔芸職人を咎めることは出来まい。事実周囲の人々の話題はアイズに似たイケメンについてで盛り上がっておりおまえ等の目は節穴かと問いたい。さっき剣姫が更衣室に入っていったことを見過ごしていたらしい。

 

まあ、実は剣姫がこんなところにいるはずがないという前提に始まっているので見ていようが見ていまいがそっくりさんで話が終わっているのだが……。

 

「うん、仲が良いのは仲が良いからなのね。わかったわ。」

 

三人は満足げにちょっと遠回りしてホームに戻った。ティオネがいい感じに締めたように見えるがアフリカでは一分に六〇秒が過ぎていますと言うのとさして変わらないことには最後まで誰も気づかなかった。いや、どうでも良くなっていたのだろう。アイズが幸せならそれで良い。世の至宝を垣間見た三人はそんな境地に達しているようであった。

 

このあとレフィーヤは散々いなづまに弄られた。



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33話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか33

 

お姉ちゃんが持つのは神ゴブニュから借りた細く威力が高く、そして壊れやすい剣。

長く戦い続ける事を至上とするお姉ちゃんにとって壊れやすいことは小さくない負担なのです。

 

でもまぁ、よく壊さずに20階層まで降りられたものなのです。やっぱり調子が良さそうなのです。

 

「ベル君……。」

 

「……?」

 

あの白い男の子、でしたっけ。

将来性と運を備えてベートをかませ犬にしそうな(しつつある?)かわいい男の子だったと思うのですが、そんなに気になっているのです?

 

「彼は今もダンジョンに潜ってるのかなぁ。」

 

「そう、だと思うのです。」

 

もっとも、彼は装備が貧弱すぎる。20階層には居ないだろうし、居たら今頃……。まあ、流石に新人ならギルド側で何らかのアドバイスはしてると思われるのでさすがに大丈夫でしょうけれどね。や、自分も新人ではあるのですが、ね。

 

「どこにいるかなぁ」

 

「流石にこの階層には居ないと思うのです。」

 

片手間にモンスターを狩りながら思案顔のお姉ちゃん。かわいいですねぇ。うん。

 

「そ、そうだよね。もう少ししたら上の階層に居こうか。」

 

 

「な、なのです。」

 

あ、あの、お姉ちゃんが、ダンジョン侵攻を、切り上げるのです?

 

男の子、お姉ちゃんに影響与えすぎでは?

 

「あ。」

 

「いなづま、どうしたの?」

 

モンスターを捕まえて調教していると思われる一団を発見したのです。はわわ、びっくりなのです。

 

「あれは?」

 

「……ガネーシャ・ファミリアかな。多分モンスターフィリアに出すモンスターだと思う。」

 

「モンスターフィリア……怪物祭(モンスターフィリア)ですか。はぇ……そんなお祭りがあるんですね。すごいのです。」

 

怪物祭、なんかモンスターが居なくても祭りの名前になりそうな名前ですが、どんなお祭りなのか気になります。でもお姉ちゃんはそこで話をやめて上の階を目指すようです。あとはお楽しみと言うことでしょうか。

 

「うん。それじゃあいこうか。」

 

「なのです。」

 

お姉ちゃんの左側のモンスターが減った隙を見てお姉ちゃんの左側を確保しモンスターを狩る。私たち二人の高い機動力をもってして鈍足なモンスターは二回目の行動の前に魔石に還元される。

 

艦娘である分下駄を履いているとも言える私のさらに先をいくお姉ちゃん。そこまでの高みに上るまでの努力はいかほどのものか。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

"エアリアル"

 

お姉ちゃんが持つステータス内魔法で内容は風の使役。言い換えるなら風精霊との使役契約を履行できる魔法。ステータス内魔法はステータス外魔法に比べると随分と短く本質的な魔法。だから目覚めよという詠唱からも分かるとおり、お姉ちゃんの本性が覚醒すると行った方が正しいような、そんな魔法。

 

「機関原速。」

 

私の艤装から生み出される力が緩やかに上昇しお姉ちゃんに追従するに足る推力となる。

 

階層を上るにつれ、地上が近づくにつれて冒険者が増えてくるのでぶつからないよう、彼を見逃さないよう速度を落とす。

 

「や、やった。」

 

見つけた。血と汗にまみれて奮闘する男の子の周りは魔石もとられずに放置されたモンスターの死骸と独特の空気が漂っていた。

 

「……。」

 

それを見るお姉ちゃん。より威圧感に遠ざかる冒険者。結果的に多くのモンスターに対峙する男の子。

 

囲まれては突破し囲まれては突破。じっと見つめるお姉ちゃん。気づかない彼、私。

 

図らずも決して高くないレベルとはいえモンスターパーティーもどきを体験する彼。

そんな彼も人である以上限界がある。

 

「あっ。」

 

ふらついた彼に襲いかかるモンスター。

誰もいなければ、いやこの階層にいる程度の冒険者では、彼はあっという間にあの世行きだっただろう。

 

でも

 

目覚めよ(テンペスト)

 

「機関全速」

 

私たち(元凶)がいる。

 

お姉ちゃんからのアイコンタクトに答えモンスターの半数ずつを亡き者にする。余波がダンジョンの壁をいくらか削ったが男の子は全くの無事だった。

 

「あ、アイズさん。いなづまさん。」

 

「奇遇なのです。」

 

「君を捜してた。」

 

「えっ、あの……///」

 

お姉ちゃん、なんでそんな真顔でそんなこと言えるのですか?私なら勘違いしちゃいますよ?勘違いじゃない?本気ならそれはそれで歓迎なのですが、って相手は男の子ですよ?ほら男の子顔真っ赤にしちゃって、絶対勘違いしてるのです。間違いないのです。はぁ、どうしましょうか。

 

 



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34話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか34

 

神の宴(かみのうたげ)

 

その名の通り神々(ひまじん)が時たま好き勝手に集まって騒ぐというただそれだけの集まりである。神しか参加できないという条件を除けば概ね自由だ。

 

開催地は持ち回りであり、その開催規模によるが、概ね主要なファミリアから選ばれている。

 

今日の開催地はガネーシャ・ファミリア。開催費用はガネーシャ持ちだ。こういったところにも神々の(じまんたいかい)としての性質が現れている。

 

「相変わらず奇天烈な形しとるなぁ。」

 

似非関西弁を漏らすロキ(トリックスター)は着飾った貧相な身体を晒しながら額に手の甲を当て門の上の象の像を仰ぐ。相変わらずと言われてももう何年も像は建て替えられていないので当然の象である。

 

『俺がガネーシャだ!!』

 

「盛況やなぁ。」

 

思い思いに騒ぐ神々。今回会場を提供するガネーシャも例外ではない。むしろ全力である。

 

少し離れたところからの視線、ひそひそ声。ロキにとって珍しい事ではない。"断崖絶壁"だの"残念女神"だの"見事な無乳"だの。どうせ似たようなメンバーなのであとで絞ってやると密かに決意。アイズたんの豊かなお胸はどこからきたんやろか。まあ子供に嫉妬する気はあらへんけど、揉みたくなるんは許されるやろ、主神やし。っと今はそれよりも気になることがある。ヘスティア(ドチビ)が来るという噂である。

 

「にしても、ドチビおらへんなぁ~。」

 

目的は二つ。ヘファイストスのところに居候していたのを叩き出された駄女神がどんな貧乏をしているのか確かめること。そして……自分の子供(ベート)が相手の子供(ベル)に粗相をしたことを、謝ること。

 

正直乗り気ではなかった。あのけしからん胸に頭を下げるのは納得できるはずがなかった。相手も弱小ファミリアや。弱小どころか団員一人なんてなぁ。うちだって3人おったんやぞ。あの時はめっちゃ揉めてたんやけどな。でも……

 

「おお、ロキじゃないか」

 

「ん?」

 

目の前に現れたのはディオニュソス。胡散臭い(ブーメラン)優男神で中堅ファミリアの主神。これもやっぱり胡散臭い。

 

「よぉ、ディオニュソス。来とったんか。」

 

「せっかくの宴だし、情報収集もかねてね。私のファミリアはロキ・ファミリア(きみのところ)ほど強くもないし非常識でもないからね。」

 

ほーら、口を開けばこれである。そんなんだから悪い顔してるとか胡散臭いとか言われるんや。しらんけど。

 

「あらぁロキ、お久しぶり。元気にしていた?」

 

ああ、でたぁ。おっぱいお化けや。デメテル。なにが豊穣や。豊胸やろこのぉ。商業系ファミリアはほんま安定感あるから可愛い女の子にも人気やろうしデメテルの雰囲気と合う子も多いやろなぁ。

 

「おおぅ、いたんかデメテル。」

 

あまりの眩しさに嫉妬するを通り越して押されかける。バインバイーンや。どっかのドチビとは違って背も低くないから大人のオンナって感じや。そういえばドチビ、あの極貧でドレス買えるんやろうか。格好次第でなんていってやろうか楽しみやわ。

 

「それにしてもガネーシャの宴は相変わらず豪勢よねぇ。一番集まってるんじゃないかしら。」

 

「生活に困ってる有象無象おるんやろうけどな。」

 

「まあまあ、それに今の時期だとアレがあるから。」

 

うちの吐いた毒をスルーして指摘されたそれに、柱に貼られたポスターを見る。そういえば、そうや。そんな時期や。

 

怪物祭(モンスターフィリア)ね。当日は間違っても邪魔されたくないのね。」

 

「フィリア祭かぁ……。」

 

なにか引っかかる。なんや、これは。

 

「ロキはフィリア祭に来るのかい?」

 

「まあ、行こうとは思ってるんやけど……。」

 

「まさか本当かい?今度こそ何か悪巧みでも企んでいるんじゃないかい?」

 

あぁ、なんかわかった気がするで。

 

「おいコラァ、どういう意味じゃ。」

 

「ごめんごめん。興味がないものだとばかり思っててね。他意はないんだ。」

 

はぁ、ほんまか。プレイヤーが増えてもうた。これはややこしくなるで。

ここでちょうど視界の端にドチビを含む3人が見える。あれドチビがフレイヤに絡まれてるんか?ファイたんもおるしもう行こうか。

 

「あ、このあたりで失礼するで。おーい、ファイたん、フレイヤ、ドチビぃ!」

 

なんかちゃんとドレス着てるし何でいじってやればええかわからんけど、会えただけでも僥倖や。拠点わからんからなぁ。ぱっぱと話し付けて来るで。




どうでも良いですが表記を外伝のソード・オラトリアに準拠しているので神々の会話中では怪物祭(モンスターフィリア)についてフィリア祭とも表記しています。これについて補足説明します。

フィリア(philia)は古代ギリシャにあった4つの愛の概念のうちの一つで、他社とつながる友愛や親愛の事を指します。(因みに愛の概念のうちの一つである恋愛はエロス(eros)といいます。)
フィリアそのものに祭の意味は一切無いです。

つまりモンスターフィリアは怪物友愛(親愛)となり、祭というのは意訳的な表現です。(フィリアは英語でも同単語なので全体を英語として訳すと考えました。ギリシャ語で揃えればテラスフィリア(Teras philia)です。)
一方フィリア祭は友愛(親愛)祭と言い換えられ意味の被りも無いので至って自然であると考えられます。(欲を言えば祭をフェスティバル(festivál)にそろえるとより自然でした。)

こうした事情があるので、ソード・オラトリアにおけるフィリア祭という略称は何ら不自然ではないことを記しておきます。


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35話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか35

 

ロキさんに連れられてやってきたのは異様な雰囲気の酒場。力場が一点に沈み込んでいる本当に変な雰囲気です。神の力なしでこの状態を作れる神はそう多くない。神と断定する理由なのです?微弱神気ですよっ。

 

「よぉ、待たせたか。」

 

「いえちょっと前に来たばかり。あら、そちらは……」

 

あ、これ夜戦の女神(ヤセンノミチビキテ)無しだとお姉ちゃんは一瞬魅せられますね。それでも自覚的になので並の冒険者とはレベルが違いますし、振り払える程度には抵抗できているのですけどね。

 

「初対面やったね。うちのアイズちゃんに新人のいなづまやで。こんな奴でも神やから挨拶しとき。」

 

こんな奴と言われたその神は美の化身。フレイヤさんですね。へえ、首飾りの効果自体は弱化してるけど露出させなくても効果があるという意味では強いですね、このブリーシンガメン(ブリーシンガルの首飾り)は。

 

「……はじめまして。」

 

「初めましてなのです。」

 

"魂まで酔わされそうな圧倒的な魅力"

お姉ちゃんってなんか時々詩人みたいな感想を漏らすこと有りますよね?何ででしょうね?可愛いので良いのですが。

 

「へぇ、可愛いわね。それにしてもあなた達にロキが惚れ込む理由がよくわかった。」

 

あれ?バレてない?私の神気の抑制がフレイヤさんの神気探知を上回ったのです?

 

「それにしても、どうして剣妃(アイズちゃん)正体不明(いなづまちゃん)を連れてきたの?」

 

隣で椅子に座ってきにぃっと笑ったロキはやっぱり自分(いなづま)の主神だった。セクハラ親父と同じ思考回路でも過去の悪行所行(トリックスター足る所以)があっても、神というわがままな存在の中では団員を見てくれている方だろう。

 

「そら、せっかくのフィリア祭やし3人でラブラブデートや。アイズたんに加えてこんなかわいい子供までおるし、行かないなんてないやろ。

 

それに、放っておくと直ぐダンジョンに潜ろうとするからなぁ。いなづまのお陰で少しまともになってるんやけど……。誰かが止めんと休まんやろうから。」

 

「……。」

 

ちょっとだけ目をそらして頬を膨らませるお姉ちゃん最の高では?まさかダンジョンに潜り続けることが不本意みたいな堂々としたすねっぷりですね。かわいいっ。頑張りお姉ちゃんかわいいっ。

 

「なんでこうなったんやろうか。」

 

「なのです?」

 

「ふんっ。」

 

「あらら。」

 

少しだけ和気藹々とした空気が広がるがロキはここに緊張感を持ち込もうとしていた。

 

「ところでフレイヤ。最近自分妙に動き回ってるみたいやけど、男か。」

 

「……?」

 

周囲が沈黙に包まれる。お姉ちゃんが黙ってる理由は全く理解できていないだけだと思うのですがそれも良いので良しとします。

 

「……。」

 

「白髪、白兎。」

 

「「えっ。」」

 

アイズとフレイヤの声が重なる。窓の外には(ベル)少年。二人は気づくも動けない。

 

「強くない、まだ強くないんやけど、綺麗な魂しとるんよな。うちらから見れば何にも無いことこそ全てがあることなんやから、あの子は全てなんや。」

 

「……。そうね、あの子傷つきやすいかもしれない。目を離すとボロボロになって帰ってきそう。でも、」

 

「……傷つく度に強くなる。」

 

フレイヤさんの言葉をお姉ちゃんが続ける。驚きのスムーズさ。初対面だと思えない息の合いよう。

 

「冒険者が彼の天職やね。周りは冷や冷やするけどな。」

 

「それを確保した幸運な神は誰かしら。」

 

「ドチビ……ヘスティアや。ひきこもりの。」

 

極貧から脱したことでいじりポイントが本質的になったロキさんのヘスティアさん罵倒ですが、本当にヘスティアという神は竈の神なので引き籠もりなのは本当なのです。戦場にはでられないというのが定説で実際表に出てきたことはないのです。

 

「処女神が?」

 

「せや、もうしんどくなってきたしウチは二人とのデートに戻るで、ほなさいなら。あと、変なことせんといてな。ほんま。あんたは加減を知らんから。」

 

フレイヤは苦笑する。天界をひっくり返した本人からそんな言葉を聴くとは思わなかったのかどうなのか。

 

「ええ、また今度。あと、その言葉そっくりそのままお返しするわ。」

 

「言っとけ。」

 

神同士の利害調整とは思えない穏やかな幕引きだった。

 

「よぉーし、デートやデート。」

 

「じゃが丸くん、普通のと小豆クリーム味を2つずつ。」

 

「なのです!」

 

「花より団子、二人とも若いなぁ。」

 

はむはむと食べ進めるお姉ちゃんかわいいっ。ロキさんがお姉ちゃんの食べているじゃが丸君をガン見してるけど無視してお姉ちゃんと分け合う。間接キスですね。て、ちょっと気恥ずかしいかも、なのです。

 

「いなづま、大丈夫?」

 

「はわわ、全然大丈夫なのです。」

 

「いちゃいちゃしおって。かわいいなぁ。」



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36話

《ここに瑠璃溝隠を発見》

お気に入り登録300突破感謝です!!今後もよろしくお願いします。


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか36

 

「そういえばロキ、さっきのは?」

 

じゃが丸君を食べ終え適当にふらつきながら、一息ついたお姉ちゃんがさっきの神々の利害調整(かいごう)について説明を求める。当然お姉ちゃんは神ではないのであの会話で利害調整を行っていたことなど知る由もないのですが……。

 

「さっきのはなぁ、うーん、オラリオで一番やっかいな(やつ)に釘差しといたってところやな。」

 

「ロキよりも厄介なの?」

 

「な、なんや。ウチがそんなに厄介みたいやないか。」

 

お姉ちゃんの直球発言が炸裂しダメージを受けるロキさん。残念ながらロキさんの方が神としての厄介さは上ですよね。そうで無ければ夜戦の女神だけ(多少のバフだけ)で彼に気付くほど敏感にはならないでしょう。余談ですが彼はフレイヤさんではないです。彼です。

 

「過去の実績があるのであきらめて欲しいのです……。」

 

ともかく今はお姉ちゃんのジト目を受けてるロキさんいいなぁ。でもやらかしたくはないのです。無理ですね。

 

「まあ、うん。でもロキの言うことも分かる。今回は(ひまじん)がいっぱい関わってるから。」

 

「「「この怪物祭(モンスターフィリア)何かが起こる。」」」

 

「ってもう時間が無いで。こっからが近道や。」

 

「な、なのです?」

 

「わっ、ロキ早いっ」

 

留守番をもっぱら生業とする主神とモンスターを狩る子供であるがダンジョンの外では立場が逆転する。ロキは驚く二人を横目にしっかりと手をつかむ。

手を繋いだ3人は会場に向かって駆け出した、が。

 

「す、すいません!第一級冒険者のアイズさんではありませんか?」

 

「ええ、そうですけど。」

 

突然駆け寄ってきたギルド職員と思われる女性に声をかけられる。お目当てはお姉ちゃんなのですが当然私もついて行くのです。止められても"お姉ちゃんから離れたくない妹"風について行くので問題ないのです。

 

「今祭り用に捕獲されていたモンスターが脱走しまして、東部周囲に散らばってしまったらしいのです。ガネーシャ・ファミリアの団員とともに来場客の避難誘導に当たっていますが人手が足りません。どうか手伝ってはいただけないでしょうか。」

 

お姉ちゃんは手伝う気でロキと目を合わせる。お姉ちゃんは冒険者の鏡なので当然ですね。

 

「言うたそばからやな、ええでガネーシャに貸し作ったろ。いなづまもな。」

 

「はい。」

 

「なのです。」

 

----

 

一方別行動していたロキ・ファミリア第一級冒険者とその仲間たちの面々は……

 

「アイズたち来ないね。」

 

「開場までの時間を考えたらもうここを通っててもいいはずよ。この辺りはたいした裏道もないし。」

 

レフィーヤの提案で別行動で寄り道しているアイズ、いなづま、ロキを待とうというものだった。

 

「すいません、私がアイズさん待ちたいってわがまま言って。」

 

ロキがアイズを連れていったときの台詞が脳裏から離れない。アイズが一人でダンジョンに潜っているという話を実はロキがレベル3以下の団員に伏せるよう通達しているだけなのだが、彼女にとってはやっと一緒の前線で戦えると思っていた憧れの人との距離がまた離れてしまったように感じられていたのだ。

 

「ううん、いいんだよ。私もアイズと合流したいと思ってたしね。」

 

「そういえばティオナさんは……、何でもないです。」

 

ダンジョンに潜るとき誘われましたか?と続けるはずだったがレフィーヤは引っ込めた。これ以上踏み込むと何か大切なものを失う気がした。果たしてそれが正解だったかはそのときはわからなかった。

 

「んー?なにかあったらちゃんと言ってね。大丈夫なら良いんだけど。」

 

「はい」

 

レフィーヤはティオナの返事を話半分に頭をもたげる。

正直良い態度ではなかったが良くも悪くも気にしない性格のティオナはそれをスルーする。

 

「ねえ、あそこ。あのガネーシャ・ファミリアの団員武装してない?」

 

そこに時間を持て余して暇になっていたティオネの声が割り込む。ティオネの指す方には確かに武装したガネーシャ・ファミリアの団員が見える。好奇心だけは人並み以上に備えた一方祭りのためにまともに武装していないアマゾネスの興味を誘うにはこの事象は十分すぎた。常に冷静な魔道士を志すレフィーヤも例外ではなく0秒で追跡することが決定する。

祭りの喧噪とは違った慌ただしい雰囲気といやな予感を伴う妙な緊張感に飲み込まれた3人の冒険者は人通りが少なくなったこと、いや周囲がほぼ無人になったことにも気づかずに武装団員らを追跡する。するとその先には見覚えのあるシルエットが慌ただしく動くギルド職員とガネーシャ・ファミリアの団員に檄を飛ばす姿が目に飛び込んでくる。

 

それはある男神には見慣れない男神といわれ、あるファミリアの主神には胸囲の差を見せつけられたという我らが主神、ロキその(ひと)であった。




(ずっとできてないですが)最近16時30分に投稿することが難しくなってきたので新生活に合わせて投稿のタイミングを変更することを検討中です。


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37話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか37(改)

 

「ロキさん?」

 

「おう、ちょっと手伝ってな。脱走したモンスターのうちアイズといなづまが討ち漏らしてたら叩いてほしいんやけど。」

 

焦った顔で状況も分かっていない3人にお仕事を投げる鬼畜主神。

 

「結構無茶言うわね。それでアイズといなづまはどこ?」

 

状況が分かっていないだけならまだしも3人は丸腰である。それに肝心のアイズと電が見つからない。

 

「アイズは上から敵を探してて、いなづまはそこの物陰にいる。なんか地下が変らしいんやけど、分からん。」

 

「上にいる?」

 

「あそこや。」

 

上?と思ったらロキの指す方の屋根の上の柱にアイズがちらりと見える。

短いスカートでそんな高いところに立っていて大丈夫なのかという質問はごもっともだし、さっきそこの駄女神(ロキ)も試みていたが不思議な力で見ることはできないそうだ。ある妹が言うにはスカート周りの風を操れば良いのですとのことだが真偽は不明である。

 

「やっぱり地脈の気が乱れてるのです……。」

 

そんな中、電はふらっとロキの背後の柱の陰から出てくる。なぜか電の足下だけ波打っているように見えて、自分達の立つ地面が不確かなものに感じられる不思議もあるが3人は気にしないことにした。

 

それにしても不穏な一言ですね、地脈の気が乱れてるなんて。 地脈の気が何か一介の魔導師エルフにはわからないのですけど。

 

「どういうこと…?」

 

「いなづま、何かあったんか?」

 

さっきまで地面が波打っていたことが嘘みたいな普通の地面に立つ電は体をほぐしながら、どこからか出した主武器(巨大斧)を背負う。

 

「地下に何かが潜んでいるのです。すぐには出てこないはずなので、とりあえず皆さんは準備しながら足下に気をつけてその辺りでお姉ちゃんの活躍を見ておいてください。」

 

電が言い終わると同時に4人と主人に一瞬影がかかる。風を纏った剣姫の陰だ。

アイズは少し離れたところで逃げ遅れた人を襲うモンスターに斬りかかる。借り物の剣ではなかなか本気を出すことが難しいが本気でやるまで強いモンスターはいなさそうだった。

まだ地下のモンスター?がいるらしいからどうなるかわからないですけどね。

 

「うわー、本当に出番なさそう。」

 

「目の前に餌を置かれてるのにお預けを食らってる感じだね。」

 

「武器も無いのに何でそんなに余裕なんですか。地下いるモンスターの詳細もわかってないのに。」

 

「今のところわかってるのは、多分細長いのです。とりあえずティオネさんにナイフいくつか渡しておきます。ティオナさんにはこれを」

 

「どうも。ありがたく使わせてもらうわ。」

 

「巨大斧だ。使ってみたかったんだよね。」

 

どこからか取り出したナイフと背中に担いでいた斧をティオネさんとティオナさんにそれぞれ渡したいなづまちゃんは私の方に振り返る。

 

「これ、何も無いよりは魔法も打ちやすいと思うのでどうぞ。何枚か渡しますが使い捨てなので、使い切っても良いですよ。」

 

「あ、ありがとう。」

 

一飛びで屋根に飛び乗ったアマゾネスと艦娘と違ってなんとかよじ登ってきた魔導師は息を切らせながらお気楽アマゾネスに愚痴を漏らす。ただ、レフィーヤは気づいていた。この3人はこの場を乗り越えられるだけの実力を持っていることを、そしてレフィーヤ自身はまだそこまででは無いということを。

まだまだ憧れの背中に届かない。でも私はそう魔導師だから一人で戦うことはできなくても、みんなとなら。この紙?の使い方はわからないけど。

 

「……ねぇ、なんか地面揺れてない?」

 

「あっ、来る。構えてください。」

 

「……揺れてるわね、って来るの?」

 

ティオナと電の声が重なり、レフィーヤには少々聞き取りづらかったがすぐに事構えることは理解できた。不安定な足場にやっと立ち上がったとき少し先の通りから爆音噴煙の中にモンスターのようなシルエットが浮かぶ。いくつもの触手のような異形がうねうねとグロテスクな姿をさらす。3人はこれに先日の遠征でアイズが討伐した新種と思われるモンスターを思い出す。

 

「何あれっ、新種?いや細長いけどさ、ね。あれ、いなづまは?」

 

「いなづまは向こうにもおんなじのが出たみたいで、もうそっちの方に飛んでるわ。」

 

誰かがが固唾を飲んだ、そんな気がする一瞬の間を挟む。

 

「つまり。」

 

「私たちでなんとかするわよ。レフィーヤは後方で詠唱してて!」

 

「は、はい!」

 

見物客とモンスターの間に割って入った二人のアマゾネスがモンスターへと立ち向かう。投げることを考えていない設計のナイフといつもと重心が違う大型の斧であるからかうまく力が入っていない。

 

これティオナさんティオネさん本当に大丈夫ですか?慣れない武器のなかで徐々に動きが良くなってるのはさすがレベル5だと思うのですけど。

 

「ぃったい。何これすごく堅いんだけど。いや芯を捉えられてない?」

 

「んぁ、まっすぐ飛んでっ。」

 

一方後方で魔法を準備するレフィーヤ。彼女が選んだ魔法はアルクス・レイ。単射の自動追尾魔法で高い貫通力が期待できる。ただし詠唱中に狙撃対象を切り替えることは難しく基本的には再度詠唱することになる。

 

ー 解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿(うが)て、必中の矢

 

杖が無いのにいつものように魔法が準備されていく。ポケットの中の紙が淡く光ったような気がした。

いける、いまなら。レフィーヤがそう確信し、いざ魔法を発動しようとした途端

 

えっ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

「ぁ、ぁ。」

 

足下が割れ地面から生えてきた一本のモンスターの尻尾らしきものが彼女の脇腹から体の中心に向かって突き立てられそのままの勢いで彼女の足は地面を離れる。そのまま空に向かって伸びる尻尾に突き上げられるレフィーヤ。

 

「何あれ、尻尾?って、レフィーヤ!!」

 

じりじりと後退してきていたアマゾネス姉妹はモンスターの攻撃によって重傷のレフィーヤを見る。一度空に打ち上げられ地面にたたきつけられた彼女はおそらくレベル3で神の恩恵(ファルナ)が無ければ無残に肉塊になれ果てていたであろう。痛いという状態を通り越して熱いかのように感じられる

 

一方モンスターの尻尾らしきものはレフィーヤから一度離れると一瞬その場にとどまる素振りを見せる。レフィーヤから離れる機動さえもアマゾネス姉妹を遠ざけさせる威力が込められているから恐ろしい。しかし問題はそんなことでは無かった。

 

「咲い……た?」

 

「これ蛇じゃ無くて花なの??」

 

モンスターの次の一手は開花。すべてはこの為だったかのように、祝福をあげるようにその文字通り牙を剥く人食い花が咲き誇り周りの地面から一斉に草が芽吹く。邪魔されたくないのか周りに現れたツタによってアマゾネス姉妹は拘束される。ナイフで切っても切っても減らず、巨大斧では大きすぎて十全に振ることはできない。

 

「ああ、もう邪魔っ。」

 

「レフィーヤ起きてっ。」

 

間に合わない。アマゾネス姉妹は拘束されている。アイズは遠くで戦っている。電はさらに遠い。嫌、嫌だ。まだ死にたくない。一、二歩分後ずさりするもさっき受けた傷で体が言うことを聞かない。もう動けない。いやはやここまでか。

ここで思い出すのは憧憬の彼女、アイズ・ヴァレンシュタイン。まだレベル3になる前のレフィーヤをミノタウロスから守った憧れの背中だ。

 

「えっ。」

 

まさか目の前に遠くで戦っているはずの彼女の背中があるわけが無い。

 

「お待たせ、レフィーヤ。」

 

そうしてまたきっと私は彼女に守られる。




えっとですね、設定が混じってなんかおかしいものが出来上がってしまいました。
読み直して意味がわからなかったので当該箇所を書き直してあります。誤字報告いただいた分は反映して修正してあります。いつも報告ありがとうございます。
来週の更新は土曜日7日の21時45分の予定です。よろしくお願いします。


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38話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか38

 

お姉ちゃん、これは間に合いましたね。レフィーヤさんに一緒にこっそり渡した簡易障壁護符がまだ発動していないのです。艦娘の常時障壁を応用した簡易障壁護符は応急修理女神・応急修理要員が艦娘を安全に修復するために開発された一回限りの障壁で、高い耐久性を発揮するのです。殆どの攻撃は受け止めきれ、受け止められない攻撃も1回だけは必ず防ぐ優れものなのです。

 

自動発動なので残体力で受けきれない危機か耐久残量60パーセントが迫ると発動準備に入るのですが、準備だけで発動まではしなかったのはお姉ちゃんが間に合ったからだと思うのです。直接見られないのでもしかするとお姉ちゃんじゃ無くてアマゾネス姉妹のどちらかかもしれませんが多分お姉ちゃんなのです。

 

「艤装完全展開、最大戦速。」

 

とりあえず今いるところから新たに出てくる気配はないのでお姉ちゃんたちの方の応援に向かうことにします。結構ギリギリというか下手したらお姉ちゃんの剣折れてるかもですし、なにかほかに問題があるかもしれないのでできる限り急いで合流したいで、すね……。あれ?

 

「レフィーヤさん?」

 

「「いなづま!」」

 

ああああ、やってしまいました。基準耐久度が駆逐艦のままだったのです。

単体で使うときはダメージが基準値の60パーセント以下で自動発動、応急修理時は0パーセント以下で自動発動ですが、駆逐艦基準をレベル3魔導師に換算すると瀕死時に発動準備、そこから攻撃を検知して発動と大変ギリギリになってしまうのです。まさかこんなところで致命的なミスをするとは何が起こるかわからないというか何というか。

 

今のところギルド職員が介抱してくださっているみたいなので引き継いで治療に当たりつつお姉ちゃんを援護ってもう剣折れてるんですね。はい、滅茶苦茶なのです。あの感じ、ゴブニュさんに怒られるとかそんなこと考えていそうですよね。

 

「お姉ちゃん、これ!」

 

「え、いなづま?は、はい。」

 

艤装から取り出した二つ目の武器をお姉ちゃんに向け、投げる。途中はたき落とされそうになるも、お姉ちゃんの風はその程度ではゆらがず見事にキャッチしました。

 

ゴブニュ・ファミリアに依頼した2つめの武器は多分お姉ちゃんにしか見せたことがないのです。まあ、武器は違いますがお姉ちゃんでも使いこなせるであろうほどよいリーチの武器なので多少はしのげるでしょう。多分無いよりはましなのです。

 

「手当引き継ぐのです。包帯とかもあるので。」

 

「は、はい。わかりました。お願いします。」

 

「ぁ……はぁ。ゲボッ。」

 

もうお姉ちゃんから目を離しレフィーヤさんの方へ駆け寄る。ひどい傷。取り合えず内臓のダメージ確認と傷の消毒をできる限り丁寧に迅速に。艦娘と違って常時障壁が守ってくれているわけではないので見た目も中身も相当ボロボロになっているようです。腹部の傷は、正直直視したくないですね、見ますけど。骨もいくつか折れている様です。あ、ティオナさんとティオネさんはお姉ちゃんが風を使ったタイミングで解放されたので放置します。特に目立った負傷はなさそうですし。

 

「これが槍。リーチが長い。」

 

「アイズ~、こいつら魔力に反応してるみたい。」

 

「わかった、ちょっと引き離す。」

 

初めて使うと思われるの長槍を手足の延長のように操るお姉ちゃんは8体もの同種のモンスターを引き受け押し込まれることも無く、どちらかというと若干優勢まであるのです。

 

でも、決められない。多分どの一撃も決定打にはなってない。多分この後も。

数の利を生かして庇い合うモンスターに急所を隠されている。だから一向に数は減らず耐久戦の様相を見せる。当然地脈の乱れから力を得ているモンスター側にもリミットがあるが生身の人間に比べればずっと長い。つまりそうなる。

 

「一撃で消し飛ばす火力があれば……」

 

「……火力、あれば……アイズさんを、みんなを助けられますか?」

 

「レフィーヤさん?」

 

さっきまで荒い呼吸とともに静かに目を閉じていたレフィーヤさんが、ふと私が漏らした一言に反応する。火力、レフィーヤさんの最大の武器。高火力魔導系ではレベルを飛び越えて最高クラスに位置するそれはレベル6でエルフ王族のリヴェリア・リヨス・アールヴその人を上回るほどに達している。

 

「……仲間で有れますか?」

 

「30秒、いや10秒待ってください。一撃くらいは撃てるまで治療しましょう。死ぬほど痛いですけど、良いですか?」

 

レフィーヤさんに一度死ぬくらいの覚悟が有るならば、前にすすむ覚悟があるならば。

 

「おねがいします。」

 

高濃度回復液、経験豊富な(いくつもの死体を築いてきた)私でもなければこんな使い方できないでしょうね。傷の回復速度が速すぎて本当に死ぬほど痛いのですが。傷口に適量掛ける。これだけですがかけ過ぎると死にますので、もしやるときは専門家の指導の下で行ってくださいね。や、無理してやらなくても良いのですが。

 

「ぅ、あぁ。……はぁはぁ。たいしたこと、無いじゃないですか。

 

ーウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい

 

 

「強情ですね。」

 

私が返事する頃にはすでに立ち上がり、魔法円が展開されていたのです。さすがなのです。初手はエルフ・リング。リヴェリアさんの魔法を使うつもりなのでしょうが、今回はここが問題なのです。

 

話は変わりますが、一般に魔法の魔力放出タイミングは大きく分けて2回有ります。

一つは事前収束。魔法発動前に高濃度の魔力だまりを発生させて高精度と高火力を両立できる高等技術です。ただエルフの魔法にこの工程はありません。

もう一つが魔法発動時です。準備を終えて発動準備が完了したときに魔力を解放しそれを制御下に置きます。

 

エルフの魔法は前述のように発動直前にのみ魔力が解放されるので隠密性が高いです。これが強みでもあります。しかしエルフ・リングだけは例外です。エルフ・リングの詠唱が終わった直後から召喚する魔法に使用される全魔力が露出し容易に魔法が検知されてしまいます。普通なら事前収束する魔法も有るのでエルフの魔法では無いと誤認してくれる可能性もあり不利有利はあまりないですが、今回の相手だと有ることが起こります。それは……。

 

「大丈夫、詠唱を続けて。」

 

「私たちもいるよっ。」

 

「なのです。」

 

レフィーヤ目がけて一斉にモンスターが襲いかかって来ることなのです。

動けるのは慣れない武器を片手に携えた第一級冒険者ら。

 

ー閉ざされる光、凍てつく大地。

 

守る対象はかすっただけでも倒れてしまいそうな瀕死のエルフ。

 

ー吹雪け、三度の厳冬

 

守るべき時間はやたら長い王族の魔法の詠唱時間+αという厳しい条件。

 

ー我が名はアールヴ

 

そして、その先には……時をも凍てつかせる王族の攻撃魔法が、ここに怪物どもを巻き込んだ氷の花を咲かせる。

 

【ウィン・フィンブルヴェトル】

 

オラリオ最強の魔導師が小さきエルフに指導した高火力の一角。最強襲名の筆頭候補にふさわしい最強の魔法。

 

「や、やりました。」

 

お姉ちゃんが駆け寄り倒れかけたレフィーヤさんを受け止める。

 

「助けてくれて、ありがとう。」

 

「はい……それで、あの。」

 

「なに?」

 

全くピンときていない抜けた表情のお姉ちゃんは相変わらずとして、レフィーヤさんはまるで思い人をデートに誘うかのような表情で続ける。

 

「アイズさん、今度は私もダンジョンにご一緒しても良いですか。」

 

「うん、そうしよっか。」

 

「あたしも~、あたしとティオネも一緒に行くぅ。」

 

この後主神も合流して難なくモンスターの残りを討伐したが、レフィーヤはしばらくの運動禁止、ダンジョン禁止を余儀なくされみんなでダンジョンに潜るのはしばらく先の話である。




にゃーん


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39話

《ここに瑠璃溝隠を発見》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのはまちがっているのだろうか39

 

「もう直ってる」

 

「すごいのです。ガネーシャ・ファミリア式人海戦術でしょうか。」

 

昨日のモンスター脱走騒動で所々破壊されていたオラリオの街はギルド職員とガネーシャ・ファミリアの団員の尽力によって表だったところの修復は概ね完了しているようで昨日の破壊の跡をぱっと見で見つけることは出来ないくらいだったのです。

 

「人海戦術?」

 

「あー、人数の多さを生かして頑張ること、でしょうか。第一級冒険者数人よりも第二級冒険者数十人、それよりもレベル1を数千人みたいな感じで。」

 

「ふむ、ガネーシャ・ファミリアは団員の数が多いから?」

 

「なのです」

 

人海戦術は主に陸軍のドクトリンで畑違いなのでうまく伝わったか不安なのですが、大丈夫そうなのでそういうことにしておきます。

 

「うーん、あ。」

 

「どうしたのです?」

 

急に立ち止まったお姉ちゃんはあたりを見渡し軽く上を向いた。

物思いにふけるようなこの表情は、なんというかわずかな陰りがお姉ちゃんの容姿を引き立てているというか。語彙力不足なのです。そんな表情をさせている罪作りな人は一体誰なんでしょうか。

 

「ここで、ここであの子がシルバーバックを……。」

 

「え、ベルさんですか?」

 

「うん、昨日ね。」

 

珍しく立ち止まった剣姫の脳裏にはミノタウロスをやっと倒してレベル2になった彼が貧弱とも言える装備でシルバーバックに立ち向かっている姿が描き出されていた。

赤い目と白い肌、華奢で割れ物であるグラスよりもずっと繊細で壊れやすいものに見える彼も冒険者の端くれで、いや、むしろ本質的に冒険者そのものであった。

そしてその姿にアイズ・ヴァレンシュタインの幼き頃、何も無くなってただ強くならないといけない気持ちだけが形作っていた真っ白な自分、それが駆けていく姿と重なった。

 

「あの子は、何を思ってダンジョンに潜るんだろう。」

 

「なのです?」

 

「ん……なんでもないよ。」

 

「……変なお姉ちゃん。ベルさんのこと気になってるのです?」

 

私は、電は、今のお姉ちゃん(アイズさん)しか知らないから、かつてどんなことがあって何のためにダンジョンに挑み続けるのか知らないから、ずっと頑張ってきたお姉ちゃんの殆どの時間は私とは無縁で、それで私にとっては少し不安で。

もしベルさんがお姉ちゃんの過去の時間と重なるような生き様を見せてくれるのであれば、より強くよりまっすぐに進む姿をそのまま写してくれるなら、私はお姉ちゃんの過去の頑張りを追体験できるかもしれない。

 

そんな重要な存在とお姉ちゃんの関係でも、やっぱり直球に恋する乙女風味を醸し出してくると茶化したくなると言うのが人情(艦情?)なのです。

 

「ん?気にはなってるけど、どうしたの?」

 

「あ、いえ何でも無いのです。」

 

はぁ、薄々気づいては居ましたがお姉ちゃんに色恋沙汰は禁句というか、全然通じなくてこっちが恥ずかしくなってくるのです。そんな素面でぽかんとしないでください。なんか電が変みたいじゃないですか。

 

「でも、なんかいまの気持ちは気になってる、に収まらない気もする。いなづまはこれ、わかる?」

 

そこから自分で気づいて軌道修正することまでは想定外なのです。なんでさっきのガバガバ恋愛無縁ムーブから恋せよ乙女に軌道修正できたのか訳がわからないのですが。ああ、もう。お姉ちゃんにペース乱されまくりでこっちはもうどうしたら良いかわからないのです。

 

「多分、それは、」

 

「おう、アイズにいなづまやないか。こんなところでどうしたんか。」

 

ここに救世主かお邪魔かわからない我らが主神、ロキさん登場なのです。遮られて中断しましたがこれがどう影響するか、言わなかった方が良いのか押してでも伝えるべきか?一瞬考えましたが自分が言っちゃうとその気分になってそうなってしまう気がするので、ベル少年の今後の頑張りでお姉ちゃんを振り向かせてくださいと言うことで、はい。まあ、すぐに認めるかは不明ですが、何様ですが。

 

お姉ちゃんはロキさんに反応して乙女モード解除されてるので多分気づかれては居ないと思うのです、多分。こういうときに気づかれると強烈につつき回してくること間違いなしでやっかいなのが主神のあまり良くないところでしょうか。まあ、ノリの良さと表裏一体なところもあるので一概に悪いとも言えないのが憎めないポイントというのはあるのです。

 

「町、結構直ってるねって話してた。」

 

「せやなぁ。何故か(・・・)フレイヤんところの団員も手伝ってたみたいやけど、ずいぶんと綺麗になるもんやなぁ。」

 

「何故でしょうね、まあ、綺麗になっていればそれ以上言うことはないのです。」

 

「うん、そうだね。」

 

「むぅ、ほんまつれないなぁ。また二人連れてフレイヤ冷やかしたろうと思ったのに。」

 

神々の話に非干渉の方針を決めた私とお姉ちゃんですが、ロキさんははしごを外された様な感じだったようで口をとがらせる。フレイヤさんを冷やかすのです?

 

「冷やかすの?」

 

「せや、うちの子らがこんな頑張ったのに原因の自分はどうなんやってな。」

 

「お姉ちゃんは頑張り屋さんですからね。今回も頑張ってたのです。」

 

「ちょ、そんな。私はやるべきことをやっただけで……。」

 

フレイヤさんよりも先にお姉ちゃんをつついていきたい気持ちがオーバーフローしたので、褒めちぎっていきたいのです。もう、さっきの乙女モードよりも顔真っ赤なのです。はぁ、可愛い。

 

「そこやで。あれを当たり前なんて言えるアイズはやっぱりええ子やな。」

 

「その実力と謙虚さは冒険者の鑑、理想の姿勢なのです。容姿端麗で中身も実力も伴うなんてお姉ちゃん最高なのです。」

 

「そ、それならいなづまだって私よりも小さいときにレベル5相当の実力をつけて薬とかいろいろすごくて、でもこんなにお姉ちゃんのこと気に掛けてくれて優しくて、もふもふで可愛いから、ね?」

 

は、はわわ。反撃が。もう顔が熱くなってきたことを感じ、循環するようにごちゃごちゃの気持ちと顔の熱さが襲ってくる。お姉ちゃんも今こんな気持ちなのです?それなら少し、いやとてもうれしいのです。

 

「お姉ちゃんは男女問わず人気があるじゃ無いですか。これはーーー」

 

人通りの少ない町中とはいえ、ここから1時間以上もお互いを褒めちぎりつつロキさんに茶々を入れられたので、気づいたらちょっとしたギャラリーが出来てて、二人でさらに顔を真っ赤に染めたのは別の話。




投稿遅れてしまいました。とりあえず来週はちゃんと土曜日中に投稿できるようにします。よろしくお願いしますね。


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番外1

《ここに瑠璃溝隠を発見》
《ここに魑魅魍魎を投下》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか 番外1

 

ーギルドと新人冒険者

 

「なんで今更ギルドに?」

 

「なんか薬草からお薬を作るときは申告が必要らしいのです。どうも密造して薬を目的外に使ってる人が居るみたいで……。」

 

私といなづまはちょうど休暇で、いなづまが出掛けるというのでついて行くことにしたところだった。いなづまはその出自の特殊性から全ての処理をロキに丸投げしていたが、薬事取り扱い?だけは自分で処理しないといけないらしい。

 

「目的外?」

 

「んー、まあ怪我とか病気でも無いのにお薬を使うことなのです。薬一つとっても飲めば良いってものではないので具合が悪化したり死んじゃうこともあるのです。」

 

「へぇ……。それじゃ行こうか。」

 

「なのです。」

 

正直あんまりわかってないけど、戦闘から糧食から薬のことまでカバーする妹ってすごく強いよね。とりあえず困ったらいなづまに聞けばいいことはわかってるから大丈夫、だよね?というか、どんな人が何も無いときに薬なんて飲むんだろう。あんなに苦かったり痛かったりするのに。

ーーーー

「えっと、新人冒険者の、いなづまさんですよね?」

 

「そうなのです。何か、有りましたか?」

 

窓口のところで背伸びして受け答えをする電は微笑ましいものが300パーセント。届いてるのに背伸びしちゃういなづまが可愛すぎる問題は解決困難、いや解決しなくてもいいと思う。

 

「新人講習はお受けになられましたか?」

 

「えっと、初めて聞いたのです。」

 

新人講習?えっと、どういうこと?いや、新人冒険者であるにはあるんだけど、ね?

 

「えぇ、ダンジョンに潜ったことは?」

 

「ふつうに有るのですが、」

 

それはまあ、私とダンジョンアタックしてるし一人で薬草を収集しに行ったりもするから平均3日に2日はダンジョンに潜ってる。いなづまも私のことを手放しに批判できない程度にはダンジョンにいるけど、諸事情があるので仕方ないのですと頬を膨らませるいなづまも大変可愛かったなぁ。

 

「えっ、どこまで、ですか。」

 

「一人では三十七階層、お姉ちゃんとなら四十階層までなのです。」

 

「……え?」

 

「え?」

 

ハーフエルフの受付嬢さんといなづまは向き合って首をかしげる。受付嬢さんも美人さんが多くて、来る度にロキが鼻の下を伸ばすんだけどこの受付嬢さんも例に漏れずといった感じに美人さんでいなづまと首をかしげるのもなかなか良いものがある。ただ二人で止まってて周りの職員にじろじろ見られているのは一寸頂けない。独占欲が出てきてしまう。

 

「あの、何か問題ありましたか?」

 

「あ、アイズさん!?いや、あのこの子がまだ新人講習を終えてないのに深層まで潜ってるって。」

 

「それ、私と潜ってるんです。レベル5、なので。」

 

「なのです。」

 

「ええええ?」

 

このあとしばらく受付嬢さんが使い物にならなかったが無事復帰して事務手続きを完了した。あと信じて貰えなかったことに不満だったいなづまの膨らんだ頬も大変かわいらしかったことを付け加えてく。

ーーーー

ーベートのお使い

 

ロキ・ファミリアで第一級冒険者をやっているはずの俺だが何故か使いっ走りのまねごとをさせられている。依頼人はリヴェリア・リヨス・アールヴ。ということになっているが実際に恩恵にあずかるのは……まあいい。依頼内容は中層から深層付近でのレアドロップの収集。どうもいなづまがその領域のレアドロップを欲しているらしい。何を作るつもりかはわからんがこれだけ深い層のレアドロップを自分で集めることが大変な数使うと言うのはどういうことだ。

もしあの、あれに使うつもりなら明らかに性能過多だぞ。

 

「ベート、どうした。」

 

「ん、なんでもない。」

 

「それにしても、駆け出しに持たせるものにしてはやけにコストが高いのはわかる。」

 

今回は依頼人のリヴェリアとともにダンジョンに来ている。かなり珍しい組み合わせのはずだ。獣人とエルフは仲が良くないからな。ただ、さすがにママと言われるだけ有ってリヴェリアの察しの良さは折り紙付き。そして、ロキ・ファミリアのなかでもかなり常識的だ。

 

「それだ。いくら何でもやり過ぎに見える。ミノタウロスの角で作った短剣でもレベル3までは十分だ。というかバーバリアンの体毛なんて何に使うんだ。」

 

「確かにな。ただ、今はどっちかというと完成品が気になってるがな。」

 

「それは、まあな。」

 

いなづまは高レベル冒険者として考えると非常に常識的だが彼女の常識はオラリオの常識と離れている部分も少なくない。

早さの基準はアイズだし、魔法の基準はリヴェリア、近接戦闘はアマゾネスらだったりする。滅茶苦茶だ。

 

「あの子が何を見せてくれるのか。」

 

これだ。正直踊らされていること自体は気に入らないがさっきの滅茶苦茶さが退屈な日常を刺激的にしているのは間違いねぇ。電が来てすぐの時に1対1で戦ったときは意外なほどにあっさり負けたし、今までアイズの魔法しか乗せたことが無かった靴に初めていなづまの雷を乗せたときはなかなか面白いモンスター討伐になった。

 

「見るには生きて帰らねぇとな」

 

そして俺とリヴェリアは迷宮の孤王に向き合った




今回は番外編です。
後で30から32話の分割1話を統合してそこに差し込みます


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私の弟子は期待が持てる
41話


《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか41

 

「調整なのです?」

 

「うん。」

 

ホーム内にある緑豊かな小庭では帰ってきたばかりの愛剣を振るう剣姫の姿が有った。当然そのそばには妹が居る。

 

剣の調整で結果的に"余計に"かかってしまったのでお姉ちゃんといえどもすぐに誤差を吸収できるわけではないと言うことでしょうか。

 

そういえば諸々の元凶の先日のダンジョン深層の攻略時に出たモンスター。これは大変くせ者で聞いた話をまとめると食虫植物を大変やばい感じにしたモンスターさんみたいなのです。溶解液も進化の過程を考えると対象を捕食するためのものだったはずです。それであの"拾った"カドモスの皮膜、当然偶然だとは思えないわけで。当時のお姉ちゃんたちは事態の異常さを察知はしていたようですが結局それ以上のことはしていないようなのです。まずいですよね?

 

「調整、完了。」

 

「おお、すごいのです。」

 

ここでお姉ちゃん、葉っぱの賽の目切りを披露。本当に綺麗に切れていてぱらぱらと地面に落ちていく様子はなんとなく投げ損ねた紙吹雪みたいな、なんか褒めてるように聞こえないたとえになってしまったのです。いなづま()がものを例えることが下手でも、それでもお姉ちゃんがすごいのだけは本当なのです。本当ですよ?

 

「そう、そっか。」

 

「あ、アイズさん。」

 

「レフィーヤさん?」

 

あたふたしている間にレフィーヤさんが登場。木陰から出てきたと言うことはそこにずっと居たと疑われてしまうと思うのですが、多分テンパってる人はそんなこと考えないと思うのでそんな感じでしょうか。

 

「凄いですね。剣術、誰か師匠とか居るんですか?」

 

ん?お姉ちゃん……?というかリヴェリアさんが。はい、しーですね。

 

「師匠……は両親、かな。」

 

お姉ちゃんのご両親……。それは……。

 

「ご両親は、」

 

「レフィーヤ、本を取ってくるだけで随分と時間が掛かるな。どうしたんだ。」

 

「げっ、リヴェリア様っ。」

 

背後から迫っていた気配に気づかないほどお姉ちゃんのことしか見ていなかったレフィーヤさんもなかなかですよね。流石お姉ちゃん。魔性の女ですね(そうじゃないのです。)

 

「げっとはなんだ。まったく、自分の修練を忘れてどうする。時にアイズ。」

 

「なに?」

 

嫌な予感がしたのかお姉ちゃんの表情に影が落ちる。リヴェリアさんとお姉ちゃんの間になにか有りましたっけ?うぅ、微妙に疎外感なのです。

 

というかレフィーヤさんの足が地面から離れてるように見えるのですが片手で持ち上げてるとかですかね。流石レベルが高いとこんなパワープレーも可能ですよって感じなのです。魔導師としてはかなりパワーが強いほうだと思うのですが、気にしてはいけないんでしょうか。

 

「強くなるには肉体だけじゃなく精神も鍛えないとな。」

 

「ね、アイズさんやりましょう。」

 

突如ポエマーになったリヴェリアさん、キラキラを実装したレフィーヤさん、露骨に嫌そうな顔をするお姉ちゃん(アイズさん)。そこから導き出される答えは……。

 

「座学やだ。」

 

「えぇ……。」

 

キラキラから悲しみに満ちる表情に急転直下したエルフ魔導師と口をとがらせてお誘いを断るお姉ちゃん。正解は座学のお誘いでした。お姉ちゃんは魔法を発現しててかつ十全にそれを使いこなせる実力はあるので、確かにもう魔法学の授業はいらないといえばいらないのですが。

 

「だそうだ、残念だったな。」

 

「ちょっと待ってください。今は何をやってるんですか?」

 

「何とは、ああ、魔法における流体の制御理論の応用だ。」

 

流体制御というと水や風といった不定形のものを魔法で制御下におくというものですが、魔法においては非常に応用が利きその分難しいことで有名なのです。それを難なく直感でこなしているお姉ちゃんのすごさについては別の機会にするとして、お姉ちゃんの得意分野だと思うのです。

 

「風の奴?」

 

やっぱり聞き覚えがあったのかお姉ちゃんから反応があった。それにレフィーヤさんもリヴェリアさんも反応。レフィーヤさんは意外そうな、リヴェリアさんはまことしやかに囁かれている事実(自己矛盾)のママの表情になっておりここだけで全体の相関関係が見て取れるようなのです。私は?当然お姉ちゃんの良さを誇らしく思う表情ですよ?

 

「ああそうだ。案外覚えてるもんだな。」

 

「アイズさんも昔やったんですか?」

 

「うん、魔法発現したばかりのときかな。」

 

「お話聞きたいのです。」

 

少し気迫を乗せてお姉ちゃん昔話の流れを作ろうとする妹がここに一人。なのです。ちらちらとリヴェリアさんにも視線飛ばしつつお姉ちゃんの周りをうろちょろする作戦。レフィーヤさんのほうを見ないでおくのも大変重要なのです。や、多分見たらキラキラで飲まれるので、多分。

 

「まあいい、たまには人の話も役に立つだろう。」

 

このあと滅茶苦茶昔話をした。




急な案件で時間がとれず、大変遅れました、申し訳なさでいっぱいです。しばらく投稿が不安定になるかもしれませんがよろしくお願いします。
あと今回から新章がスタートです。もっとキャラにスポットを当てて話を書いていきたいと思う今日この頃です。


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42話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか42

 

「そこー、団長に皿を用意しないの!」

 

朝食前の忙しい時間帯の食堂だが、その中央には一見奇妙な指示を飛ばす褐色肌の少女がいた。このファミリアにそんなことをし、また出来るのは1人しか居ない。

 

「ティオネさん……。」

 

「いなづま、見ちゃだめ。」

 

アマゾネス姉妹の駄姉(だめ)の方、ティオネ・ヒリュテその人なのです。ただエプロンを身にまとったアマゾネスが愛する男性の為に朝から手料理を振る舞っているだけのはずなのですが、お姉ちゃん的に(アイズスタンダード的に)アウトな光景らしくお姉ちゃんの両手で視界が塞がれているのです。確かに朝食から食べるのにしてはやたら量が多く、胃に重い様にも見えますが視界を塞ぐほどものでもない気がするのです。

 

「どうして、なのです?」

 

「もうね、ティオネは助からない。手遅れだから、いなづまに移らないように。」

 

「団長さんは?」

 

「……。なんとか生きてる。ラウルが合間を見て胃薬を渡してるみたい。」

 

お姉ちゃんは人情深いですが結構ドライなところがあって助からないと判断したときの引き方が清々しい位なのです。が、それでもここまではっきり助からないと言い切ったのは知ってる範囲ではじめてなので余程酷い状態なのでしょう。

そしてサラッと管理職ムーブしているラウルさん。意外かもしれませんがちゃんと次期団長の筆頭候補なだけ有ります。まあ団長としての胆力とかはこれからに期待なのです。

 

「ところで、あの。」

 

「なに?」

 

十分に視界が無くとも艦娘に備わった各種の感覚は正確に周りの状況を把握するだけの能力がある。そうでなければ無灯火での戦闘が基本になる夜戦を戦い抜くことは難しい。でも、でも、見えないよりは見えた方がずっと良いのは間違いない。

 

一般的な少女が暗闇を嫌うのと同程度には暗闇に人間、というか生物的な恐怖を備えている一駆逐艦は足下が頼りなくなる錯誤を覚える。ここは海ではないのに、波に揺られているような気さえしてくる。

 

「あ」

 

気の抜けた音ともに少女は後ろの姉にもたれかかる。原始的な恐怖だの何だのは半分くらいは言い訳だったかもしれない。実のところ朝食前に混沌とした食堂が出来上がったおかげで二人がまだ朝食にありつけていないという重要な問題が発生していた。先ほど発生した(正確には発覚した)問題もあってこの姉妹の間で微妙に緊張が生まれていたというのもあるのですが……。それにしても和ませるために同僚を手遅れ扱いするあたりお姉ちゃんはちょっと感覚がずれているというのも分かって貰えるような気がします。

 

「ぎゅーっ」

 

え、これ意図的だったんですかそうですか。妹を抱き留めるときに声に出しちゃうお姉ちゃん可愛いって、もう完全にお姉ちゃんにペースを持って行かれているのでなされるがままなのです。お姉ちゃん暖かいですよね。胸部装甲もあるし優しいし髪も綺麗だしちょっと子供っぽいし、不完全な調和のとれた自然の芸術、妖精のいたずらのような、どちらかというと妖精よりは精霊種ですか今回はそういうことじゃないのでおいておくのですが。

 

「ぐぅ……。」

 

あああ、おなかの音お代わりは流石にいらないのですぅ。なんでこんな時ばかり自己主張が激しいおなかなのですか?何でなのです?いなづま、何か悪いことしたかなぁ……。

思考が止まっていた時間丸々お姉ちゃんに頭をなでられていたし、ぎゅーってされててやっぱり暖かいままだしなんかもう、どうでもいい気もしてくるのです。なんだかねむくなってきました。

 

ーーーー

 

「……にゃのです。」

 

朝食前の一悶着もあり微妙な空気を生産し続けていたのに、このいにゃづま。おなかがすいているのを知りながら拘束して姉の体温を与え続けるどうなるかということに関しては結果的に猫化して寝るということがわかった。妹で遊ぶな?私もそう思う。いやでも、いなづまの反応が良すぎてついつい。あとで何を言われるか分からないけど、こうしているうちに朝食の準備が整ったようなので良い感じに二人分の朝食を確保し席を探す。

 

「あ、アイズさん!」

 

第一村人(レフィーヤ)発見。席も都合良く2人分空いているので電を座らせつつわたしもレフィーヤの横に座る。レフィーヤのテンションは高め。当然うれしいんだろうけど私との朝食はそんなにうれしいものなのかな?ミノタウロスから助けた冒険者、ベル君も最初は怖がってたしレベル5だし怖がられても仕方ないと思うんだけど。

 

「レフィーヤ。」

 

「なんですか?」

 

サラダをモキュモキュと食べる姿は曲がりなりにも妹属性(?)持ちであることを表してるし、容姿だってかわいい妹系だ。もちろんいなづまと競合するし、どちらかというとレフィーヤの方が関係は深くてもおかしくなかった。どうしてレフィーヤをいなづまみたいに扱わなかったんだろうか。

 

「レフィーヤは、強い?」

 

呆気にとられる表情も妹として申し分ない。なんか妹ソムリエみたいだけど断じて違う。なんか

そう、真実に近づきたいだけ、だけなのに。

 

「え、いやいやそんなことはないですよ。レベルもそうですし技術的にも未熟ですし、それに。」

 

「……レフィーヤって弟子っぽいよね。」

 

「へ?」

 

なんか分かった気がする。レフィーヤは妹だけど、どっちかというと弟子だ。後から追いかけてくる、そんな立場な気がする。




なかなか進捗が出せない日々


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43話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか43

 

朝ご飯を食べて目が覚めた駆逐艦、電なのです。

ところで今朝発覚した問題について考えるのをやめて後回しにしていたのですが食事もひと段落ついたのでいよいよ問題に向き合うことになったのです。

 

「ところでいなづま。」

 

「な、なのです?」

 

妙に緊張感の高まる語り口なお姉ちゃんですが、今回は天災的な要素があったとはいえ問題の発信源というか震源地なのでわざわざ演出しなくてもと思わなくはないのです。察しの良い方はお気づきかと思いますがあれです。

 

「4000万ヴァリスって最短何日引きこもれば稼げると思う?」

 

「最軽量装備で1週間かからないくらい……でしょうか。」

 

連日引きこもると深い階層で狩れるので1日あたりの稼ぎを大きくすることが出来るのです。

当然危険を伴いますが4000万ヴァリスなら30階層前後で70時間くらい集中的に狩ればいけるはずです。ファミリアの遠征は普段行きづらい深層での狩りで低級冒険者の経験値と高級冒険者の食い扶持を確保することにあるので、比較的移動が早いお姉ちゃんなら同じことが出来るのは道理なのです。

 

「え、アイズさんそんなにお金必要なんですか?」

 

となりでご飯を食べてる憧れの先輩が同僚にお金の話をする、という視点のレフィーヤさん的にはかなりカオスな状況なのでは?大変忖度したというわけではなくて……

 

えっとですね、多分龍田さんが新月さんとか早霜さんに同じような話をしていると考えたら今のレフィーヤさんの表情は想像できないと言うほどのことでもないのです。

 

「うん、ゴブニュの代剣壊しちゃったから……。」

 

"まさか5日でこれとは……"なんてぼやくゴブニュさんの姿が思い浮かびますね。さらにその裏側でティオナさん(アマゾン)の大剣を打っている職人さんたちが居ると思うと涙が出ますね。

 

「ああ、そういうことですか。」

 

「やっほーアイズ、いなづま。ダンジョン行こー!ベートも持ってきたよっ。」

 

「人をもの扱いするな。」

 

「騒がしいわね、アイズといなづまは食事中よ?」

 

ここでティオナさんがベートさんを引きずってきて状況がカオス化、フィンさんにさりげなくご飯の殆どを返されて一人で食べることになっていたティオネさんも会話に参加しさらにカオスが広がるのです。

 

「てかティオネ、それ団長のじゃないの?」

 

「団長ったらね、一人で食べきるのは勿体ないからって半分こしてくれたのよ♡ふふっ……これも二人の共同作業ってやつかしら。うふふふ……。」

 

団長とティオネのやりとりを知らないティオナさんが燃料を投下。重度の恋煩いを発症している彼女ですが、ポジティブシンキング自体は見習いたいものです。それ以外については、ノーコメントなのです。

 

「それでティオネ、」

 

「いやよ、一週間も団長から離れるなんて」

 

「フィンも誘おうと思ってるんだけど……。」

 

この短いやりとりのあと一瞬の静寂を挟むと、ティオネさんの方から重機のような激しい音がし、あっという間に彼女のテーブルの上の食べ物は食べられない大きな骨などだけになってしまったのです。訳が分からないのです。あの大きなお魚を食べたのにスタイルが一切変わらないとかさっきの音とか、団長が絡んだときの判断力とか。いや最後のはいつもでしたね。

 

そういえば圧縮して体積を0にすればすればカロリーは0になるっていう持ちネタの芸人さんが居ませんでしたっけ?鎮守府で時々みんなで見たときはすごく面白かったのですがリアルで似たようなことが起こると呆然とするしかないのですね。すこし賢くなった気がするのです。

 

「しょーがないわね、私もついて行ってあげるわ。」

 

「「????」」

 

「やったー、ベートもいこう。」

 

お姉ちゃんとレフィーヤさんが仲良く首をかしげていますが当然の反応なのです。まあそうなりますよね。あ、れ?

 

「ぅっ、」

 

「いなづま?」

 

「……何でも無いのです。」

 

大丈夫、でしょうか。すごく嫌な予感がするのです。この前の遠征の比じゃない、何かが起こる。本当にそれしか分からない今の私を悔やむと同時に、そのまま視える状態だったらどうなっていたのか予想が付かない位の重い感覚に戦慄するしかないのです。

 

「本当に?」

 

「……嫌な予感がする、それだけなのです。大丈夫なので心配しなくても……。」

 

電が言い終わる前にアイズ(お姉ちゃん)は電と視線を合わせるように腰を落とす。

そして妹の両頬に手を当てた姉は、ほどよい力加減で頬をひっぱったり離したりし始める。妹は自身の状況についていけなかったのかしゃべるのも中断して、姉の瞳に映されていることしかできなかった。姉は妹の不思議(いじょう)が妹を喰らってしまうことを恐れていた。強いのに、ともすれば消えてしまいそうな不確かさに気づいていたから。神々と同じ視界を持つ(いなづま)が人並みの感覚であることにーそれがどれだけ奇跡的かには気づいていないがー気づいていたから。視える不幸に気づいていたから。二人で過ごした時間が、まだまだ短いけど濃厚な時間が、それを教えてくれたから。

 

「こんなお姉ちゃんかもしれないけど、出来ればもっといなづまの話、聞きたいかなって。これでもちゃんと心配、してるから。」

 

だからお姉ちゃんはいなづまのことをもっと知りたい。いなづまのところに届くかは分からないけど、もっと近くに、欲を言えばそばに、居てあげたい。

 

「いなづまちゃん、さっき本当に顔色悪かったんですよ?」

 

「面目ない、のです。落ち着いたのでもう大丈夫なのです。弟子に心配を掛けちゃうのは、流石に良くないのです><」

 

そういえば今の状況だけど、いなづまとレフィーヤだと当然レフィーヤの方が身長は高い訳なんだけど、何故か全然レフィーヤの方が年上に見えないというか、師弟関係が正常に見える。なんでだろう。あ、いなづまが戦闘状態になってるからか。艤装(といなづまが呼んでいる背中の固有武装)まで出しちゃって、完全に貫禄がある。レフィーヤは丸腰だし戦闘に入ってもここまでの威厳はないかなぁ。

 

話が逸脱するけど時々、何故かリヴェリアといなづまがダブる瞬間があるんだけど、これは正常な感覚なのかな?寝ぼけてるときに掛け布団を剥がしてくるところとか。うーん、わからない。




最近ちゃんと執筆の時間がとれてないので隙間時間で執筆していますが、なかなかまとまりとテンポのある文章を書けているような気がしません。まとまった時間で文章を書いた方が文のまとまりはいいんですよねぇ。


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44話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか44

 

今回のダンジョンアタックは一週間弱という日程の都合上、遠征ほどではないですがそれなりに準備が必要なのです。準備はバベル正面の広場に正午きっかり。約半日有るのですが、特にティオナさんは大双剣(二代目ウルガ)を受け取って職人からの愚痴も回収しないといけないことには武器もないのでそれなりに忙しいのです。当然私は自前の回復薬いくらかとディアンケヒト・ファミリアでの買い出しメモの作成があって、そして今回はレフィーヤさんの指導組として、リヴェリアさんとレフィーヤさんとで魔導士御用達の魔女の家(?)、魔女の隠れ家に行くことになっているのです。

 

 

魔女の隠れ家には当然魔女さんがいる訳ですが、魔女は、エルフや精霊ら、そして神の恩恵(ファルナ)を受けた冒険者が扱う魔法とは違う種類の魔法を扱う技能集団で種族でその多くは魔法大国 アルテナに居を構えているのです。

 

 

私の感覚で言えば鎮守府付きの妖精さんに近しい存在なのです。お互いの存在がメリットを与え合う、互恵的存在といった感じでしょうか。とにかくほぼ唯一の魔導具供給源である魔女なしにはオラリオの魔導士稼業は成り立ちませんし、おそらく唯一の取引相手である魔導士がいなければ魔女は生活することが出来ません。

 

「レノア、邪魔するぞ。」

 

「……あぁリヴェリア来たか。……小娘と、見慣れない子だね。」

 

「ご……ご無沙汰しています。」

 

「初めまして、いなづまと申します。よろしくお願いしますね。」

 

初めて妖精さんと出会った時を思い出す。初めて艤装を背負おうとしたときに艤装からぴょこぴょこ飛びだしてきて、一瞬自分が静かに暮らしていた小人の家を荒らしてしまったように感じられたのも懐かしい記憶なのです。

 

オラリオに来てからは他の人が見ているところで艤装から出てこなくなってしまいましたが、鎮守府を移ったときと同じ反応なので多分新しい環境に慣れていないだけだと思うのです。

 

と、話がそれてしまいましたね。えっと魔女のレノアさんなのですが、小さな(ルナ)(ステラ)があしらわれたアクセサリーがいくつか垂れる、萎びたとんがり帽子に黒のローブ、二重の属性に対応する首飾り2本、長く垂れた鼻といった容姿で珍しい見た目ですがその雰囲気はとげとげしいものではなく、むしろ温厚な部類なのです。ちゃんと驚いてはいるのですが恐れるものではない気がします。

 

「おや、小さい割には肝が据わってるじゃないか。(それに、いやなんでもないね。)

 

魔女は希少種で長命種でもあるので、この格好は必要なものを端的に身にまとった結果だと思うのですが初見でこの格好だとよく驚かれるのではないでしょうか。

まあ、戦闘向きの職業でもないですし殆ど趣味であってもかまわないですし、この格好(それだけ)で作業が捗る(はかどる)ならそれでいいと思うのです。

 

「それで、魔宝石の交換は終わったか?」

 

「不備はないよ。要望通りの最上位(とくせい)のやつを取り付けてある。まったく、『遠征』だかなんだか知らないが4つも魔宝石を駄目にして……。」

 

目を細めてため息を吐き出すレノアさん。いくら長命種のエルフとはいえ同等以上に長い時を地上に刻んできた魔女さんには子供、いや孫のようなものかもしれないのです。

 

「魔導師の杖は、魔力を高めて魔法の威力を左右する。分かってると思うが魔宝石は希少品なんだよ。」

 

「ああ、無下に扱ったりはしないさ。」

 

魔宝石は魔女しか作り出せない。正確には作り出せはしますが魔女ほどでもなければ実用的な魔宝石にならないのでこの認識は正しいのです。例外は熟練妖精さん達ですが、それでも自分たちで使う用(自給自足)が限界なので魔女という存在の希少性がうかがえる一面なのです。

 

え、あれ?妖精さん達が艤装から出たがっているのです?"魔女さんと話したい"のです?わかりますけど、え、ちょ、ちょっとまってくださいなのです。"くぁwせdrftgyふじこlp"わ、わ、どうしたのです?なのです?

 

レフィーヤさんもそんなきょろきょろしてどうしたので、え?あれは、

 

「あっ、あれって魔導書(グリモア)ですか!?」

 

「はわわ、すごいのです。」

 

「まさかレノア、おまえが作ったのか?」

 

魔導書を見ていたレフィーヤさんとリヴェリアさんの向きが入れ替わり、それぞれレノアさんと魔導書に移る。

 

「いひひっ。あたしがそんな大それた魔術師(メイジ)かい?魔法大国(アルテナ)に知人がいてね、よしみで一冊分けてもらったのさ。」

 

ちなみに魔女の自称は魔術師(メイジ)なのですが、これは謙遜なのでこっちから話しかけるときには使わない方が良いと思うのです。何故かこういう謙遜が好きな魔女さんが多いようなので勘違いしない方が良いとかなんとか。

 

「いま競売中でね、ひひっ、良い具合に競り上がってるだろう?」

 

「と、とんでもない値段ですね。」

 

「読むだけで魔法が使えるようになれるんだ、当然だな。」

 

「一定の確率で魔法枠も拡張できる代物ですしね。えっ、」("装備枠2スロットに)|《『装備』すると消滅せずに読める"のです?》妖精さん?え?

 

「ん……まあ、それも上限の三つまでの話さ……。魔法を4つ以上扱っちまう常識外(おまえたち)には無用の長物だろう?そこの新入りも似たような匂いがするがね。」

 

妖精さん達には今度、今度ここに来たときには、ちゃんと時間をとるので今日は勘弁してください。お願いしますよっ。すると渋々ながらおとなしくなってくれたのでダンジョンアタックが終わったらできる限り早くここに顔を出すことにするのです。

 

「はわわっ、流石魔女さんなのです。」

 

「それにおまえ達、魔法大国の連中に目の敵にされているよ。小娘の方はなんだか大層な二つ名まで付いてるだろう、いひひっ、夜道には気をつけな。」

 

「えっ、それは。」

 

「なのです?」

 

「レノア、余計な脅し文句はよせ。それにレフィーヤも真に受けるんじゃない。」

 

「は、はいっ。」

 

今朝の悪寒、妖精さん達の動揺、魔女の笑み、やっぱりなにか起こってしまうのですか……。




一日遅れの投稿なのです。ごめんなさいなのです。


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45話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか45

 

「あ、フィンとティオネがきた。」

 

「僕たちが最後みたいだね。待たせちゃったかな?」

 

魔女の隠れ家を後にしてバベル前の広場に私たちは集まっていた。団長(フィン)とティオネを除いて。

 

「ううん、さっき来たばかりだから。」

 

そこにちょうど二人がやってきた。私とティオナとベート、いなづまとレフィーヤとリヴェリアの2組が合流して間もないので実際にそうだった。フィンとティオネが二人の理由?それはうん、たぶん言わなくても分かると思う。

 

「あぁ、私たちもさっき合流したばかりでな。それにしてもこの面子でダンジョンに潜るのは久しぶりだな。」

 

「えへへ、あたし行く前からわくわくしちゃってるもん。」

 

「あんたはちょっと自重しなさいよ。ウルガを振り回さない。」

 

気分の高揚がそのままウルガの荒ぶりに出るティオナ、それを止めるティオネ。いつも通りの、少し前はよく見た光景のはずなのに今日は違う。わたしのとなりには妹が、後輩魔導士(レフィーヤ)が居る。

 

「アイズさん、私、その。」

 

「なに?」

 

「私、今回もアイズさんと一緒に冒険できてうれしい、です。」

 

後輩魔導士の笑顔がまぶしい。さっきよりもわずかに強くなる(いなづま)の拘束。こういうときはどう返せば良いんだろう。

 

「本当は今回一人で潜るつもりだったの。でも、」

 

でも、今は違う。妹が、後輩が、教えてくれたから。

 

「いまは、妹と後輩の好意に甘えても良いかなって。誰かに頼っても良いかなって思って。だから」

 

「今度こそ、アイズさんをお助けします。仲間として。」

 

「なのです。」

 

「うん、よろしくね。」

 

「アイズ、いなづま、レフィーヤ。行くよ〜?」

 

もう歩き出していたティオナ達が振り返って声をかけて来る。いつもより時が流れるのが早く、もう日は頂天から傾きつつあった。

 

----

-ダンジョン17階層

「やっほう。ウルガ絶好調っ。」

 

二代目大双剣(ウルガ)がモンスターを切り裂き、唸りを上げる。”ウルガ”の名に恥じない豪傑。使い手を選びすぎるきらいはあるが性能は第一級武器として十分すぎるほどに備わっている。ゴブニュ・ファミリアの力作でそれに相応するコスト(ねだん)も付随する名器。

 

……どうもティオナは気にせず最高性能で購入して借金を増やしてるみたいだけど……。

 

「ほんっと危なっかしいわね。当たったら痛いじゃないの。」

 

「えぇ、痛いで済むんですか?」

 

後衛のレフィーヤが比較的前に出てくるほどには、この階層のモンスターは強くない。決して油断できる理由にはならないし、ティオナの乱暴な戦闘スタイルに巻き込まれたら凄く痛いと思う。そう考えるとレベル3魔導士なら痛いでは済まないはずけど、どうなんだろう。って、あ。

 

「レフィーヤさん前を見て」

 

「レフィーヤ、よそ見するな。」

 

「は、はぃ。」

 

レベル3魔導士とはいえ、強大な魔導出力に耐えられるよう強固に設計された(といなづまが言っていた)魔導杖で殴られたら中層までのモンスターなら十分に怯みうる。そこからどうするかが生死を分けるんだけどね。

 

「急所、喉を突け。」

 

「ひぃ、はぃ。」

 

パワーの関係性としてはレフィーヤの方が強いのに対応が後手に回ってしまう……。レフィーヤにとって近接戦闘はまだ慣れないもの。先日のこともあって彼女自身大変かもしれない。

 

「レフィーヤ、おまえは魔導士だがダンジョンでの近接戦闘は免れないと思え。気を引き締めていけ。」

 

「はいっ。」

 

モンスターの死骸の山を築く凄腕魔導師とその弟子魔導士。背中を見て学べと言うことがあるけど、あの背中を追いかけるレフィーヤの精神力はすごいと思う。




またまた分割1話です。こうして人は負債を抱えていくんですね……。
次回から日曜日投稿にします。よろしくお願いします。


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46話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか46

 

階層主ゴライアス

それは17階層に出現する「迷宮の孤王」。ほかのモンスターを圧倒する、次元の違う存在。

但し一度討伐するとしばらくの間、新たにゴライアスが生まれることはない。そういった意味でも特殊なモンスターだ。

 

「ありゃ?階層主(ゴライアス)いないけど誰か倒しちゃったの?」

 

「街の冒険者が総出で片付けたみたいだ。交通が滞ってるからって。」

 

街というのは以前アイズといなづまでカレーを作った場所は18階層。17階層の直下で安全地帯(セーフポイント)の為、腕自慢の冒険者らが集まって街を形成している。時々ゴライアスを突破できない冒険者ら(パーティー)が続き交通が滞るとこのようにゴライアスを撃破することがある。それほどに腕の立つ冒険者らが街を構成している。

 

「へぇ、それじゃあしばらく待たないと駄目かぁ。」

 

「残念そうにするな、これからが本番なのだから。」

 

力の行き場を失ったウルガを振り回すティオナ(アマゾネス妹)とそれを窘めるリヴェリア。戦闘体制を解除して妹と手をつなごうとする姉とそれを歓迎する妹も観測される。となりにいるレフィーヤも前回とは違い穏やかな表情だ。それがアイズと一緒にダンジョンに潜れることがそんなにうれしいのかいなづま(ししょう)と関係を改善したからなのかは不明だが、今はどうでも良いかもしれない。

 

「明るいですね。」

 

「予定よりちょっと遅いくらいか。まあ、問題ねぇ。」

 

「ダンジョン内でずっと戦闘してると時間が分からなくなるね。」

 

「……なのです。」

 

そう、実はもっと早くに18階層に到達しているつもりだったのだ。ゴライアスの討伐を考慮しても18階層の『昼前』には到着しているはずだった。誰かと待ち合わせをしているわけではないので問題ないが、それでも()()()だった。少なくとも電はそう感じていた。もう既にいくつものフラグを見せつけられている彼女は少し過敏になっているかもしれないが、それくらい不自然なことだった。

 

「ここの川魚、なんかおいしそう。」

 

「帰りに食べましょうか。団長さん良いですか?」

 

脇道にそれた場所にある、最高より少し暗いくらいの空を映す川をのぞき込むアイズは少しお腹を空かせていたのかもしれない。ダンジョンアタック中はセールスポイント以外での食事が不定期になりがちだ。成長期の少女には空腹になるタイミングも出るだろう。

 

「うん、かまわないよ。それにしてもお昼時は確実に過ぎてるしいつもよりは飯屋も空いている筈だけど、妙に騒がしいな。」

 

18階層には昼夜がある。今は、フィンの見立てでは昼を過ぎて夕方にさしかかっている位。()()()()()()()()()()()の天気とはいえ、概ね正確に判断できるのは豊富な経験と高い技量がなせるワザ。同じだけダンジョンで過ごした第一級(レベル6)のリヴェリアやガレスも同様である。

 

「お、おいあれ。」

 

「何だあれは。」

 

「道が封鎖されてる?」

 

「え、どういうことよ。」

 

18階層に街があると言ったばかりだが、その街は決して18階層の多くを占めているわけではない。むしろ街の外の領域の方がずっと広いのだ。草原や草木に覆われた森が存在する地獄の中の天国(ユートピア)は開けた土地が街に、広場に、『遠征』の拠点にと様々に使われてきた。時には上下の階層からあふれてきたモンスターが暴れたり、冒険者が暴れたりして()()されているが。

 

「こら、ティオナ。先に行かないの!」

 

「えー、先にあの人達に話を聞いてくるだけだもん。」

 

「駄目よ。あなただと何かやばい人だと思われて捕まるのが関の山だわ。」

 

そんな()()()階層の一画を占める街の入り口が不思議なことに封鎖されていた。

 

「っ誰が見てやがる。」

 

「え?」

 

「レフィーヤ、気をつけて。」

 

レフィーヤは気づかない。ベートの視線の先は街に向いているようで向いていないことに。レフィーヤは気づかない。自分以外がその視線に気づいていることに。

 

「え?」

 

レフィーヤは気づかない。

 

その視線が誰を狙って()()()を。




今回は分割1話の中編になります。


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47話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか47

 

絶壁の上に広がる土地を覆うように発達した冒険者らの街、ギルドの目が届かないダンジョン内で、治外法権的な地位を確立する不思議な場所。その入り口付近にロキ・ファミリアの精鋭一行は到着していた。

 

「手作り感がすごい……。あと334って……。」

 

「前の遠征のときは殆ど滞在しなかったし、特に話をしたこともないから知らないかもしれないが、この街は時々破壊されているんだ。安全地帯(セーフポイント)とはいえ、ダンジョンにイレギュラーは付きものだからな。過去に300回以上モンスターなどのイレギュラーで破壊され破棄されてきたんだ。」

 

「今もイレギュラーじゃない?入り口に武装した冒険者が立ってるのは初めてだよ?」

 

「まあ、そうよね……。」

 

レフィーヤの手作り感発言にはアイズも苦笑を漏らしたが、この入り口の出来にはレフィーヤに同意せざるを得ない。電は鎮守府祭の入り口と同じくらいの作りに見えると思っているし、ほかのメンバーも似たようなことを思ってはいたが、限りなく意見が一致したのはアイズとレフィーヤの間だけだったかもしれない。

 

と話が逸れてしまったが目下の問題は街には入れるかどうかである。もし入れなかった場合は……?

 

「すいません、リヴィラの街は只今出入り口の封鎖を行っていまして、基本的には出入りともに出来ない状態です。」

 

「何かあったのですか?」

 

警備にあたっている冒険者にアイズに隠れて脇から顔を出したいなづまは真っ先に聞きづらそうな内容を切り込む。見た目というのは結構重要な要素で、大人や名の知れた人が聞くよりも子供が聞きに行った方が角が立たない事がある。当然逆も存在するが今回はそうではないと考えたのだ。

 

「いや、あの……。うーん、事件があって、犯人が逃走する前に街を封鎖することになったのです。」

 

「事件ですか、(ふぇ、もうなのです?)

 

「あ、あの!」

 

子供に聞かせづらい内容なのか口ごもる冒険者、膠着する雰囲気。そんな空気感の中、警備の後ろ側、言い換えれば町の方の大通り、そこに現れたのは犬人(シアンスロープ)の少女。

 

「な、なんだ。脱走か?」

 

「こ、殺される、殺されちゃうの!」

 

「ど、どうしたんだ。」

 

え、どういうことなの?アイズが首をかしげ、電も若干の"混乱"を患い、レフィーヤはあまりの悲痛な叫びに半歩後ろに下がる。静まりかえった絶壁の上、そこには獣人の少女の乱れた呼吸だけが妙に響いていた。まだ日は落ちない。そんな中でも、迷宮の楽園(アンダーリゾート)の夕暮れは確実に近づいていた。




今回で分割1話は終わりです。どこかで良い感じの閑話を書いて清算しないといけないんですが、内容まで思いついても2.5千字でちょうど良い読み切り閑話を書くのも難しいものです。(前回の分割1話分の残りと併せて3話分、出来れば定期更新外で書くつもりです。)
今回は明日も投稿するため大変短いです。よろしくお願いします。
追記 2018/6/13
設定ミスや読み直しで全然書き進んでいないので先に閑話を何本か書き上げて投稿します。


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48話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか48

 

「どうしたのだ?」

 

封鎖された街の入り口で、突然殺されると叫んだ獣人の少女が現れて面々が呆気にとられる中、最初に少女に言葉を投げかけたのはロキ・ファミリアのママ リヴェリア・リヨス・アールヴだった。

 

「あの、冒険者が、あれが、あの。」

 

「落ち着くんだ、ほら、吸って、吐いて。」

 

「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~、はいっ。」

 

「っ!?(あの人かな、さっきの……)

 

気づいたら街の外へ出てきたその少女はリヴェリアに介抱されながらもゆっくりと真実を紡ごうとする。番犬代わりにベートを携えたリヴェリアは警備員に割り込む隙を与えさせずに話を進めていく。ベートは一瞬、警備員の肩越しに一つの影を見た。少女の背後、未だに状況が読めていない警備の冒険者のさらに向こう側。さっきまで人一人として居なかった筈の緩衝の空間に、一人の()が立っている。その存在感にその周囲や背後は陽炎のように揺らめいて見えた。状況の変化が早すぎる。

 

(あれはなんだ……)(雰囲気がそこらの冒険者)(と全然違う。)

 

「……それでさっき、冒険者が、あの受け渡しをした人が、殺されてて、私も……殺されちゃうんじゃないかって。」

 

……殺される?荷物の受け渡し?地上まで?そんなこぼれ落ちたような荷物の本質からかけ離れていくような情報だけが彼女 "ルルネ・ルーイ" からあふれてくる。まだ繋がらないバラバラの断片で一つ一つが離れてもはや無関係かのように聞こえる。

ギルドを介さない闇の依頼である故直接会っているはずの依頼人は妙に良い金払いに容姿の分からない格好だという。怪しい要素がこんなにあっても引き受けざるを得ない冒険者がいるという事実もロキ・ファミリアの一行には重くのしかかってくるが、今はそんなことを考えている場合ではない。このやりとりをしている間も()は近づいてきている。これだけの上級冒険者が集まっている場所で、何故か()()()()()()()と戦う予感を持っていた。

 

()の、全身を黒い布と鎧が覆っている格好や整備されながらも過去の痕跡を残す背中の大鉈はそれだけの風格を持っていた。まるで場の雰囲気を支配されているようであったし、それに気づける余裕がある人が少なかったこともあるかもしれない。それでも何もかもがおかしく、何もかもが滅茶苦茶だった。ただ一人違和感(それ)に気づける者がいるとすれば……。

 

「……それで、抜け出そうと?」

 

「うん…」

 

「ってことは今お前がいま"例のぶつ"を持ってるんだな?」

 

「失礼します。ルルネ・ルーイさん、ちょっとこっちへ来てください。今は鞄の中は見ないので。」

 

「え、ちょっと、えぇ?」

 

アイズの背に隠れじっと動静を見守っていたいなづまが飛び出し、ルルネと立ち位置を入れ替える。

"失礼します"の時点でルルネの目の前に立ち、言い終わるときには既にいなづまが街の境界線の内側に、ルルネは街の境界線の外側にいた。当事者のルルネも主に尋問に当たっていたベートとリヴェリアもいなづまの突然の行動に呆気にとられる。ただそのなかで、アイズは"何かが起こる"ことだけは認識できた。

 

(にげて)……。」

 

「え?って、ああ地面がっ?」

 

その瞬間目の前でいなづまとその奥に見える()が地面の隆起によって姿を消した。足場を失いよろめく警備員冒険者をベートがどつきながらもこちら側のけが人はゼロ。入り口は失われてしまったが、入り口付近の左右は一部が崩壊している為、なんとか中に突入することは出来るだろう。そう見立てて一行は既にがれきと化した街の外壁を移動し始める。

 

「え、街が燃えてる!」

 

「……今から街に突入する。リヴェリア、できる限り大きな魔法で引き寄せてくれ。ティオナとティオネは町の方へ、アイズとベートは……ルルネとこの場を離れて。取り敢えず君はここにいてくれ。」

 

「こいつらは、この前の?でも今回はちゃんとした武器(ウルガ)があるからね。負けないよっ」

 

「急ぐわよティオナ。」

 

「え、え?」

 

いなづまの小さすぎる声を聞き逃さなかったアイズは思わず疑問の声を漏らす。見覚えのあるー最近地上で暴れているのを見たばかりの細長い植物系ーモンスターに真っ先に気づいたフィンは団員に指示を飛ばす。魔導師組であるリヴェリアとレフィーヤは驚きはすれども冷静に、アマゾネス姉妹はいつも通りにそれぞれなすべき事を遂行する。巻き込まれた冒険者は混乱していたが、ここが一番の安全地帯なのはフィンやリヴェリアという上位者(レベル6)が証明しているような物なので直ぐに落ち着きを取り戻す。

 

「……どうしよう。」

 

「とにかく地上に出るぞ。お前、負ぶってやるから乗れ。団長命令だから乗せてやるが次はない。」

 

問題はルルネとアイズ、ベートの3人だった。相変わらず状況に追いつけずぼけっとしているルルネといなづまが気になって仕方ないアイズ、"弱い"冒険者に手を煩わされることが嫌いだと公言してはばからないベート。フィンは何を期待してこの3人で行動させることにしたのか、その意図を真っ先にくみ取ったのはベート・ローガだった。

 

「アイズも、ってどうしたんだ。」

 

「……ベート、私が時間を稼ぐから、その子を連れてって。ベートの足なら1日足らずでつくよね?」

 

「指示を無視してここに残るのか?」

 

ベートは恐れ縮こまる少女を背中に乗せて、一点を見つめて動かないアイズの背中に視線を注ぐ。なんで自分が想いを寄せている彼女の背中はこんなにも寂しげで、辛そうで、()()()()()。やはり(無用な身内)で剣姫は弱くなってしまったのではないか?ふとそんな気持ちがよぎったが、それは違うと邪念を頭から振り払う。

 

「多分(いなづま)だけじゃ、あの存在(なにか)は抑えられないから。いそいで。」

 

覚悟を決めるようにデスペレートに風をまとわせる剣姫に俺はこれ以上何を言えるだろうか。ただ一つだけ、一つだけ気になってしまったことがある。ほんの少しの違和感を。

 

「分かった。俺一人で連れて行く。だがよ、アイズ。お前には何が見えてるんだ?」

 

「え、あ……、これは、うん、後で話すから。ごめん。目覚めよ(テンペスト)『エアリアル』、無事で、ね……。」

 

妙に湿っぽい返事とともにエアリアルを付与されたベートは最速で地面を蹴り出す。背中で震える少女を振り落とさないように。同僚から託された信頼(届け物)を壊さないように。自分の苦手分野だと自負して久しい"人を守ること"を、その意味を深くかみしめるように。オオカミは駆ける。荒れる神への反逆者達のるつぼを、絶対的な孤独と絶望に彩られた最高の狂気(しあわせ)の胃の中を。襲いかかるモンスターをなぎ、前に進む。それがベート・ローガの出来る、想い人への最大限の手助けだと信じて。




投稿遅刻奴になってしまいましたが直前の日曜日分です。前回の日曜日に投稿する予定だった分は閑話なので今週の平日に投稿します。よろしくお願いしますね。


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番外3

《ここに瑠璃溝隠を発見》
《ここに魑魅魍魎を投下》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか 番外3

 

ダンジョン入り口、バベルの正面の広場ではロキ・ファミリアの精鋭が続々と集まっていた。オラリオ屈指のファミリアの一級冒険者7人、二級冒険者1人の超豪華パーティーでのダンジョンアタックがこれから始まろうとしている。

 

そんなバベル前、即ちダンジョン付近に存在するこの広場は新品の重量級武器を携えた大切断(アマゾン)や熱い恋に燃えるアマゾネス、待ち合わせの間服の裾を妹に掴まれっぱなしでどうしたら良いか分からないけどすごくうれしい剣姫、待ち合わせ場所の人の多さに困惑して姉の服の裾をつかんで離さない妹等々多様な人が集まる。そんな多様な人たちもこれからダンジョンの洗礼を受けるかダンジョンのふた(バベル)での休暇を楽しむかの2つにしか分けられない。それで済んでしまう。オラリオはそんな都市だ。そんな中で隠れるように、それでも小柄ながらしっかりとした存在感溢れる存在と糸目がチャームポイントのスレンダーな女神が居た

 

「で、ロキ。何故かレベル6の中で一人だけ置いて行かれてしまったしがないドワーフに何のようじゃ。」

 

「そんなつれないこと言わんといてな。別にガレスのことを忘れておいていった訳やないんやで。ガレスが居らんかったらあの子達ものびのびダンジョンに潜れんかもやしなぁ?それでちいと探し物に付き合ってや。」

 

そんなことを言ってカラカラと笑う主神に、呆れ顔ながらもついていく小さな巨人(ドワーフ)の背中。アンバランスに見えてほどよいバランスが存在する不思議な関係性である。そんな二人は気軽な関係性をそのまま広場の外に持ち出していく。町の中を歩き、少し道をそれたあたりでガレスは現状に念を押すかのように言葉を投げかけた。

 

「それで、わしを連れてここに来た理由はなんじゃ。本当に探し物かのう?流石に"でぇと"というもんでもないじゃろう?」

 

関係性が悪いというわけでもないのにそんなことを言うなんて、というほどガレスの性格が悪いわけではない。むしろかなり温厚なドワーフであり激情を表すことはかなり珍しい。余計な付け足しではあるが冗談を言うのも珍しいしそこまでうまくない。茶目っ気はある。それでで"でぇと"なわけだがそれにしては皮肉が効きすぎている。

 

「この地下水路、妙な気せんか?」

 

そう。ここは地下水路。そんな場所で今から探し物をするという発言。まったく筋が通ってるように思えない。本気で思っているならただの人選ミスだとしかいえないとガレスは思った。本来ベートに頼むような内容である。偏見であるところを否定できないがベートのような獣人は基本的に嗅覚に優れ、探し物に最適ではある。それなのに連れてきたのはガレス。いったいどういう理由だろうか?

 

「妙というのはわからなくはないが……そういうことじゃないのじゃろう?わしにはわからんのう。」

 

前方から視線を逸らすことなく答えるガレス(第一級冒険者)ロキ(トリックスター)は陰湿な笑みを漏らす。いや、陰湿というにはいささかポジティブな意味合いを含みすぎているような、どちらかというと少しばかり気恥ずかしいだけで本当は嫌っているわけではないような間柄の親戚-この世のものとは思えないくらい政策のいい継母か何か-が嫁に与えた難題を嫁が見事に自力で解いて見せた時の表情といえるかもしれない。とにかくまどろっこしいかもしれないが、子供(ガレス)がこの場の"違和感"を認識できているのは(ロキ)にはバレバレだということだけである。

 

「まあ、ええで。それで今日はガレスにあれを()()()()()()()と思ってな。」

 

「はあ、地上(そらのした)でもこの役回りは免れんのかのう。」

 

いつの間にやら主神の手には謎の巾着が、視線のお先には怪物祭の時のあれ(植物型のモンスター)が姿をあらわす。今日一番の呆れ顔とそれに対照的な安定感を見せつけていく凄腕ドワーフ。だからこそロキはこの状況にガレスを連れてきたのだ。

 

「魔石適当に投げるからうまいこと切ってな。よろしゅう頼むで。」

 

「……行くかの。」

 

ガレスの返事を皮切りにロキが魔石を投擲する。それにつられて動きだすモンスター。武器の大斧を片手に踏み出すガレス。それを見守る主神ロキ。まもなく地下水路(そこ)は果てしない戦場になるのは必然だった。

 

「やっぱりガレスの戦いは地味だけど規模がでかいんやなぁ、いや地味というほどでもないか。」

 

高い防御力とパワーに支えられた重量級武器による火力が基本のガレスと"調教師(ティマー)の手から離れた状態の"モンスターが暴れまわるということは、豪雨や洪水による水害を防ぐために広大な地下空間を利用するよう設計されている地下水路とはいえ決して無事では済まないわけで、容赦ない振動と攻撃の()()によって見事なまでに破壊が尽くされていた。保水能力をかろうじて残した床やちょうどよく間引かれたようにも見える柱がその惨状を克明に記憶しているようだった。

 

「ふぅ……(これで、地上の分は)(全部やな。さて、)(答え合わせ)(と行こうか。)お~い、そこらへんで魔石見つけたら拾っておいてな~。」

 

最後のモンスターを借り終えて戻ってくるガレスを見て一瞬一息ついたような気持ちになったロキだが、再度気を入れなおす。ここは地上。正直者(こどもたち)を引き連れた曲者たち(かみがみ)が跋扈する。仕事と退屈に苛まれた天界よりもずっと面白い最高の世界(賭場)であると。




本編仕上がらなかったので番外編だけ投稿です><
しかも番外2ではなく番外3が先にできてしまい時間の都合もあるので投稿しちゃいます。
ちゃんと本編も番外も書いてるので安心していただけると幸いです。


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50話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか50

 

ルルネは途中まで居心地の悪そうにもぞもぞとベートの背中の上を動いていたが、とうとう疲れからか微かな寝息を漏らすだけとなった。落ち着いた事を僥倖にベートは更にスピードを上げる。モンスターを振り切るのに十分どころかまともなモンスターなら認識する前に通過する早さにもかかわらず、いくらかのモンスターはベートを執拗に追いかけている。

 

「……どうなってやがる。」

 

追っ手が自分の見えないところから追撃を仕掛けてきている。そうとしか考えられない状況だがベートは追っ手を排除できない。ベートの戦闘スタイルではルルネを背負ったままで居られない。でも何も無しに地上に出ることは危険だ。相手はレベル5に直接視認を許さない上でこの攻撃を行っている相当の実力者だろう。気づいてもなお有効な手立てを打てないのはベート・ローガが"誰かを守ることに弱い"という事実を十分に補強していた。そんな彼だがふと思う。

 

そんな実力者と事を構えるなんて、依頼主も無茶するよなぁ。実際の相手がこの追っ手そのものじゃなくてもこれだけの調教師(ティマー)を雇える誰かなんぞ地上に何()もいないだろう。そう考えるとこのまま地上に出た場合安易に暴れる事は無いかもしれない。闇依頼であろうとはいえ過去の事件も最終的には原因となった神は特定されて天界に送り返されている。余程軽率でもなければ……いや、そういえばこのモンスター()()()()()()()()()()()?そう、地上だ。

 

「うぅ……すぅ。」

 

誰よりも早く走り全身を揺らすベート・ローガの背中は決して寝心地がいいわけでは無いだろう。さらに当然と言うべきかルルネの姿勢は寄生先のベートの姿勢によっても微妙に変わる。両腕でしっかりと首を覆うように抱きつく彼女の鼓動は、呼吸はゼロ距離で接するベートにも嫌なほどに伝わってくる。"運命共同体"、そんな言葉がベートの脳裏に浮かぶ。そしてその吐息にくすぐったさを思い出さざるを得なかった。()()()()()()を。

 

「俺は、負けないからな、絶対に。」

 

凶狼(ヴァナルガント)の誰に宛てたわけでもない呟きがモンスターとダンジョンとの空洞にわずかに響く。地上(そら)はまだ遠く、背伸びしても見えない。

----

 

「……誰?」

 

「名乗るときは自分から名乗るものなのです。」

 

無骨な格好と()()()()()()()()()外套から想像が付かない綺麗なソプラノボイスに電は思わず眉をひそめる。そこにはただただ嫌な予感、ぼんやりとしながらも存在感は背景を超える胸のざわめきがあった。その正体不明(多分女性)と自分の間の距離はこのあたり(オラリオ)風にいえば6,7メドル程度。会話を交わすのにはあまりにも遠いが、戦場として考えれば-特に遠いときには平気で数km離れた距離から撃ち合うような海戦を主たる感覚の根拠とする駆逐艦にとっては尚更-()()()()距離。相手から伝わってくる実力と自分の実力を天秤に掛ければ、劣勢。相性で埋めても……良くて互角。既に10メドルを切ったこの距離で目を離した瞬間にここが自身の墓場になる。そう判断した電にとって相手から話しかけてきたことは僥倖だった。

 

「……名乗るような真名(なまえ)はあいにく持ち合わせてないの。」

 

「…………嘘は良くないですよ。真名の有無は聞いていないので。」

 

仮面の向こう側でわずかに目を見開く相手をよそに、火を入れられた艤装の機関は静かに眠りから醒める。地上(そら)仮初めの(セーフポイントの)天空(てんじょう)も関係ない。ただ艤装(フネ)はここを戦場(よる)と見なした。ダンジョンは夜。天界と全く反対の、地上の地獄(てんごく)。平時は数百メドルの崖を飲み込んでなお広く感じるはずの天蓋(そら)がぐっと近づいて見えるほどのピンと張り詰めた緊張感に、時は鉛のように重く進む。

 

「……まさか、(てき)か。冒険者をやってる(もの)も居るとはな。」

 

「まさか、そんなことあるわけないじゃないですか。カマ掛けただけですよ?」

 

正体不明は右手を顔に掛ける。本当に仮面を取るような動作に電の胸のざわめきがより深まっていく。そのときふと思い出した。ルルネ・ルーイは何を言っていたかを。

 

えっ、いや、そんな……嘘ですよねっ?まさか、()()()()()()()()()()なんて。この人が、件の事件の犯人?

 

「……まあ(かみ)なわけがないか。武勇を誇る神々でもダンジョンに直接潜ってきたことないからな。」

----

その()()()()()()()()()の下には当然のように、いやさも当然のような女性の顔があった。




お仕事忙しすぎて予定より遅い上にまた分割します(爆死フラグ)。あと今週末の更新はお休みさせていただきます。7月第3週日曜日にめっちゃ更新しますのでよろしくお願いします。


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51話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか51

 

「……そうですね。ところで、その()はどこから持ってきたんですか?」

 

電は胃の底から刺すような吐き気がこみ上げてくるのをぐっと押さえ込み、濁った目から視線をそらさないよう努める。どんなにその答えが見え透いていたとしても、どうしても本人の口から聞かなければいけないような気がした。もっとも、視線をそらさない理由はまったく別の理由であるが。

 

「死体から顔の皮を引き剥がした、それだけだ。満足か?」

 

「……毒妖蛆(ポイズンウェルミス)でしたっけ?」

 

「ああ、"生者には厳しく、死者には優しい"あの毒だ。はぁ、きつくてかなわん。」

 

その女性はそれだけ言うと誰かの顔の皮とその調()()()の所持品だったと思われる厳めしい鎧を脱ぎ捨てる。顔の時と同様に非常にらしいシルエットの女性の姿がベールを取り払われたようであった。でもその目は、一介の駆逐艦の少女が信じた(ひかり)と同じくらいの深さで濁りきっていた。

 

「……綺麗ですね、思ったよりもずっと。」

 

「っ、どういう意味だ。」

 

「さあ、どうでしょうか。」

 

どうしたものだろうか。気づいたらさっきまでの不気味さは、違和感はすっと消えてしまっていた。全く分からない。分からないとしか言えなくなっていた。自分は何を見てしまったのだろうか。なにを魅せられてしまったのだろうか?

 

「……まんまと乗せられたな。宝玉(タネ)は何処だ。」

 

「さあ何処でしょうか……。(まあ、電は知らないのですが。)

 

「なら、死んでもらうか。」

 

次の瞬間()()()()()()()()錨と大鉈がぶつかった音だけを残し両者の立ち位置は後方にずれた。結果だけを見れば大差ないように思えるが両者の間には状況的に圧倒的な差があることは電が一番理解していた。女性の攻撃はずっと重く早く、正確だった。()()()のは艦娘としての本能のような反応であり、ダメージコントロールが働いたからであった。

 

「っ、早い。」

 

「ほう、防げるのか。」

 

余裕のない電に対して女性は感心した表情を隠さない。目の前の口達者なだけかと思っていた少女が、おそらく高くてもレベル3程度のとるにも足らない存在が、自身の攻撃を受け流してよろめくことなく後退して見せたのだ。

 

でもそれだけでしかない。女性はそこに攻撃をたたみかける。受け流し、補助機関(ブースター)による緊急回避、艦娘障壁、偽餌(デコイ)、あらゆる手段を選択肢にいれた電は最小の動きで女性の猛攻を捌ききる。大鉈を受け流し蹴りを回避し背後をとられる直前にブースターを吹かす。直接受ける攻撃を艦娘障壁で分散しさりげなく偽餌(デコイ)に押しつける。それだけでなんとか耐えることは出来たが、いまの電にはそれだけしか出来なかった。

 

じり貧であると分かっていても全てのカードを切ることは出来ない。何故ならば、ここが()()()()()であるからだった。




分割1話後半です。
投稿ゆるゆる過ぎますが忙しさが山積みなのでしばらく不安定になることをお許しください。


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52話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか52

 

「……どこ。」

 

ベートと少女と別れ、既に瓦礫となった街の壁を乗り越えた先で彼女は呟いた。彼女が探している愛おしい妹も()()()()()()()()()()()()()あの(なにか)も何もない。軒先だけに止まらない所々に残った街の破壊の跡が、何カ所にも渡って決して大きくない足で抉られた地面が、わずかにそれでもはっきりと残った少女の残香ーもっとも正確には何度か砕けたであろう駆逐艦電の艦娘障壁の残香であるが彼女にそれを識別するすべはないそれーが、そして何よりも彼女(アイズ)自身の感覚がそこにいた筈の少女をリフレインする。

 

霧が濃い。手がかりに溢れ、全くの快晴で、遮ることもなく視界が開けているはずなのに、この状況にアイズの脳裏にはそんな一言が浮かんでいた。自分でも分からなかったがそうとしか形容できない何が、確実にアイズの電探(かんかく)を曇らせていることは事実であった。

 

「ここに居たはずなのに……。」

 

さっきより霧が濃い。より濃くなっている。あの少女が現れたときよりもずっと濃い。電は()()()()。けど見えない。なんで……。

 

いなづまを知ってからこんなに電が遠くに感じられた事は今まで無かった……。いや近くに居るのか遠くに居るのかも分からなかった。それでもアイズにとっては同じ事でしかない。見えていたもの()が見えなくなったのだから。それでもわずかに感じ取れる事実は、アイズを現実から引き離さなかった。

 

「……こっち?」

 

たっぷり10秒掛けた熟考の末、アイズは気づく。広範囲に広がる破壊痕と()の濃さが一瞬重なったように見えた。後は感覚を集中するだけ。このあたりは普段より熟考したとは言え、剣姫の速さは伊達ではなかった。地上で同期(ティオネ)に変なイメージをかぶせたり、妹を甘やかしたり甘やかされたり、妹に沈められた後輩(レフィーヤ)を背負ったり、先輩(リヴェリア)から逃げ回ったりしているだけがアイズ・ヴァレンシュタインではないのだ。元々は戦場に生きていたはずの戦乙女だった。一周回ってもとの姿に戻ったかのようにも見える。

 

()()()、今行くからね。」

 

でも、そんなことはなかった。アイズという()()は前に進み続ける。一度戦場から浮いた剣姫は思い出した。自分が立っていた場所を、一度離れた気がしていた戦場(ダンジョン)を。

 

「私は、お姉ちゃんで、私だから。」

 

でも既に全てを捨てて地獄(ダンジョン)に潜った過去の彼女はここには居ない。かつて速くなるために身軽になった少女は何か大切な何かからも身軽になっていたことに気づいてしまった。

 

だから行くよ。

 

そして私はついに視界(かんかく)に電と敵を収める。今度こそ。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

「……戦闘中の事故なら、許されるよね?()っちゃってもいいよね?」

 

「は?何を言ってるんだ。」

 

「え、お姉ちゃん……?」

 

お姉ちゃん、可愛い妹を助けに来たよ。




分割1話前半です。こうして1クールアニメが量産されていくのかというお気持ちです。ただ時期もあって分割変則更新はもうそろそろで終わりになる予定です(希望的観測)。


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53話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか53

 

ビシッと決めた風に敵と電の間に割り込んだのはいいもののふつうに考えて明らかに下策である。そう思いつつも私がこんな割り込み方をした理由はただ一つ。

 

「…………。」

 

最近知った事有ることを実践してみただけ、かな。

ちゃんと直視してないけど(いなづま)はボロボロで、もうあとどれくらい戦い続けられるか分からない状態で、電と共有された感覚から目の前の(なにか)がさっきの(なにか)と同一、遠くても同質の存在で、私だけでも電だけでもきっと敵わない上の舞台に立つ存在だってことはもう分かってる。きっと電と私の立場が逆でも押し切られるギリギリで踏みとどまることしか出来なかっただろう。

 

「……そうか。今の風、"アリア"か?……運が良いな。捜し物が2つも同時に見つかるなんて、幸運も有るものだ。」

 

もしかすると二人でもこれに敵うかは分からない。

 

「お姉ちゃんっ……!」

 

でも、"お姉ちゃん"なら話は別だよね。

だって背中には手負いの妹が、目の前には元凶が居るんだもん。

本当にそれだけだけど、でもお姉ちゃん(いまのわたし)にとってはずっと大事なことで、良くも悪くもそれだけという問題ではなくなってしまう。

妹の"お姉ちゃんっ"だけで何倍にも力を出せる。

 

だからお姉ちゃんはダンジョン(ここ)に居る。全てが交差する、妹と出会った運命(キセキ)が詰まったこの場所で、お姉ちゃんは戦うんだ。

 

「私はあなたの捜し物じゃない……!」

 

もうこの会話の中で既に彼女の攻撃目標は私に切り替わっていて、電は魔法攻撃や砲撃で私を援護している。12.7cm連装砲(固有武器)が火を噴き、気づかない間に私に乗せられた艦娘障壁が、夜戦の女神(ヤセンノミチビキテ)のバフが、やたら重い彼女の攻撃から私を守ってくれる。私が自分に早さで壊れることから守ってくれる。

 

さっきの割り込みだって妹を通じて、みていたから、見えていた(しっていた)から。私がお姉ちゃんであるからこそのあのタイミングとあの(ちから)。だからというのは変だけど、でもこれだけは言いたい。

 

あの風(エアリエル)は私だけのものじゃない。だから……」

 

「……!」

 

「『アリア』を見つけるためだけの出し(だし)に使わないでっ!」

 

最近、本当につい最近のことなんだけど、私に妹が出来た。

それは不思議な出会いだった。中層でいつも通り戦っていたはずなのにいつもより追い込まれて、でも焦りがあった覚えはなくて、そんなときに電と出会った。後輩のかわいさと同僚の強さと、私の親しいなにか(いもうと)を突然で偶然だけど必然に満たしちゃった電。そしてあの白兎(おとこのこ)に出会って、助けて、謝って、ちょっと助けて、いろいろ約束して。そんな中で電が助けてくれたり、意味深なことを言ったり、ロキが変わってきたり、とにかくたくさんの刺激があって、気づきがあって。

 

「は?なぜ立ち上がれる。」

 

威力を殺しきれずに跳ね飛ばされ、電の後方に隆起していた元地面にたたきつけられる。私の前に電が立ち、さりげなく掛けてくれる回復性の魔法も、中身がつきて転がる回復薬(バケツ)も私の滲んだ視界に入ってきた。それでも私は私の風(エアリエル)を自分に重ねる。何度でも。

憧れた(かぜ)に非常によく似たその風はそれを阻む者に対して鋭く吹き上げる。

 

もう私はこの戦場で何度も死んでいる、実際は死んでいないけど致死の攻撃を何度も浴びて、妹に強がった背中を見せながら助けられて死にかけてる。だから死んでる。

だってこの(なにか)は私の格上で、対人ではフィンに迫る電を圧倒してたんだもん。対人戦闘を得意としない私が一人で戦って、どれくらい時間が稼げるか分からない様な相手だもん。でも私はまだ倒れない。絶対に。

 

(お姉ちゃんだから)

 

例えアイズお姉ちゃんが世間一般の"お姉ちゃん"に比べてどんなに不器用で、ダメダメでもそんなことは関係無い。前に進み続ける背中は私の知っている沢山の姉の背中と同じで、でもその背中は一人一人違っていて、だからこそ電はお姉ちゃん達の妹で良かったという実感が持てるのです。そして妹でありたいし、妹で有ることができるのです。

 

「……微速前進。」

 

「……!」

 

血の繋がった姉を持たないが故の言い訳がましい理由付けかもしれませんが、(いもうと)にとってはとても大事なことなのです。姉の背中、傷だらけの強がりさんを必死に助けたいともがく原動力で根拠で、きっと私の力そのものでしょう。沈んだ敵も、できれば助けたいのです。でも、その前にお姉ちゃんを助けたいと思うのは不自然でしょうか?

 

「前進一杯、電の本気をみるのです!」

 

唐突ですが、艦娘と船と人の境界線は比較的曖昧で、変なところで地続きの様になっていたり、浮いていたりします。だから、こんなことも出来ちゃうのです。

 

「グハッ」

 

「え?」

 

地面を海と再定義して艤装に読ませる。すると不思議なことに若干のペナルティがあるとはいえ航行能力やソナーを海以外でも生かすことが出来る。海であることに強みがある艦娘としての能力値上昇、経験値加算は起こらないがペナルティー分を引いて暁型の諸性能を考慮しても35ノットは出る。それに駆逐艦は加速が速い。それも継続戦闘能力を度外視して行う前進一杯ならめったに見ることの出来ない急加速になる。

 

最後に艦娘は人型とはいえ船の諸元に準拠して慣性がかかる。するとどうなるか?

 

二千トン近い重量と五万馬力の生み出す加速が少女のサイズで、それも殺意に満ち足りた艦娘障壁が前方に集中した形で打ち出される。

 

これが姉を助けたい妹の"本気"

そして傷ついた姉をみて『戦闘中の事故なら()っちゃってから助けても良いですよね?』とはっちゃけた(プラズマ)ラムアタック(必殺技)であった。

 




やっぱり遅れてしまいましたが今回は若干頑張りました。今後もこんな感じで文章量を確保できる様にします。


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54話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか54

 

(微速前進)

 

私が電の前になんとか立ち上がり次の攻撃に備え次のチャンスを狙っていると、

 

「前進一杯、電の本気をみるのです!」

 

(いもうと)()()()して、相手に体当たりを敢行していた。もっと細かくいえば、足を動かさず滑るように前進、そして加速し槍を構えてそのまま敵に突っ込んでいっちゃった。えっ?

 

電の足下にはどこかでみた水のように波打つ不確かな地面-ティオナ、ティオネ、レフィーヤの3人ならすぐに思い出せるかもしれないそれ-があり、電の背中には今までになく激しく煙を吐き出す固有武器(ぎそう)とそれにぶら下がる錨があり、敵も私も呆気にとられる中、その状況の中心たる電だけが動きを止めなかった。

 

「……(沈んだ)敵もできれば助けたいのです。でも、」

 

一瞬の静寂、電の声が空気を伝って私に伝わる一瞬の隙間、敵と電の間の距離がもう零になろうかという刹那に私は体感でたっぷり1秒はかかっているような錯覚を与えられる。

 

「ぐはっ。」

 

()()()からでも、遅くないですよね?」

 

「え……?」

 

その刹那の先には敵を穿つ血の滴る槍を片手に、まるで温度を失った声色をして底冷えのする言葉を紡いだ妹の姿があった。地上で過ごした穏やかなの全てを忘れ去ったかのような冷酷な雰囲気を纏った少女は静かに敵から槍を引き抜く。

追撃を仕掛けようと槍を構えなおした電に敵は一度体勢を立て直すかのように飛び退いた。

 

「第一級、Lv5か6かわからんが……?分が悪いな。増援もきたようだし……引かせてもらおう。」

 

電の雰囲気がおかしい。間違いなく電なのに、なんで、なんで。

 

「……取り逃がしちゃったのです。」

 

敵が崖際に立っていたのが災いしてそのまま崖から真っ逆さまに落ちていく。その姿を見届ける電を見て、アイズの困惑は深まるばかりだった。終わったはずなのにまだ、電の足下の地面には波紋が揺らいでいる。何か漠然とした感情によって、また先の戦闘の後遺症によってアイズの足は地面に縫い止められたままだったが、幸いして妹に声をかける事くらいは能うだけの力が残されていた。

 

「いなづま?」

 

「おねえちゃん。」

 

くるりと可愛らしくこちらを向いた電だったが、アイズはそこに新たな事実を発見する。風に靡くのとは違う小刻みに彼女の制服(いつものふく)が揺れる。呼吸が乱れているわけでもないのに。固有武器もいつの間にか姿を消していて、地面に刺さった槍だけが電を支えていた。

電は震えていた。いつもの穏やかさとハイライトを失った瞳が、頬から過剰に赤みを引いてもはや蒼白に近い血色が、暴力的に姉の鼓動を早めていく。

 

「どうしたの……?」

 

全身を隆起していた固い地面に叩きつけられて近く限界を迎えていたアイズの身体は動かない。一歩も前に進めないことにもどかしさだけが募る。

 

そういえば電と私の距離、最弱の(エアリエル)でちょうどいい感じになる?少し時間が経って若干回復してるから最弱くらいならなんとかなるはず。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

「『エアリエル』、捕まえた。」

 

見事に電に抱きつくことに成功するも姉妹ともに自力で立つことも厳しい負傷者なので二人して地面に転がる。抱きついた瞬間ビクッと震えたが特に抱擁から逃れようとはしなかった。

 

体温も心なしか微妙に低い電は私の腕の中で静かに寝息を吐く。敵も助けたいという発言の直後から変調していた雰囲気も寝てしまえばいつも通りに戻っていた。顔色も心なしか良くなっている、気がする。

 

「……ねむい。」

 

ここで電とともに私が寝てしまってもいいのだろうか?

 

眠りかけの頭はまだ寝る時ではないと警鐘を鳴らす。"敵意"はこの近くで感じられなかったし、ほかのところにいたモンスターも粗方始末し終えたように感じられたが、気を抜くのには早いと言うことだ。

 

実はそれよりも大事な理由があるがそれはそれである。電の貴重な寝顔をしっかり記憶に焼き付けておこうとかそういうことだけどそのことは秘密にしておきたい。電と出会ってからずっとこんな調子な気がするけどやっぱり気にしない。妹の寝顔を観察することも姉の特権なの(多分)。

 

「……アイズ、いなづま!これは……。」

 

ーーーー

 

モンスターに対処し終えた私たちは序盤に姿を消したいなづまちゃんを探しに未踏のエリアを移動していたのですが、これはいったい……。

 

「アイズ、いなづま!これは……。」

 

「……殺人事件の犯人らしい人と交戦したの。2人掛かりでも、逃げられちゃった。こんな実力で無名なのは違和感がすごいけど。」

 

「え?」

 

「ほう、レベル5では対処しきれないか……。」

 

いなづまちゃんを抱いて地面に転がったまま答えるアイズさん。私たちがきても起きあがる気配はないのですがそんなに消耗することなんて有るんですね……。無名の猛者、響きはかっこいいんですけど最近の不可解な事件を思うとただ手放しにかっこいいというわけにもいかないですね……。

 

「あとリヴェリア、私といなづまに回復魔法をお願い。」

 

「ああ、わかった。」

 

リヴェリア様が2人に回復魔法をかける。詠唱の早さはさることながらその回復量は数ある回復魔法の中でも随一。私の師の実力の確からしさを確認できたところで、起き上がりいなづまちゃんを背中に背負ったアイズさんが口を開く。

 

「……町の方は?」

 

「幸いにも押さえ込めたから比較的無事さ。誰かの戦闘痕の方が激しいくらいさ。」

 

「それじゃ全然問題ないね。今日ここで一泊できそう?」

 

「それは、うーん。殺人事件の現場が宿屋だったから今日は閉じるとかなんとか。」

 

「えぇ、でもテントとかは。」

 

「いなづまちゃんが持ってるんでしたっけ?」

 

「うん。だからどうしようかなって。」

 

私の戦闘指導を時々勤めてくれるいなづまちゃんはまだ眠っている。いなづまちゃんの収納スキル?は本当にたくさんのものが入るのでかさばる荷物は最近の遠征時には預けてしまっている。

 

だからいなづまちゃんが寝ていて、アイズさんが起こさないと判断している以上そういうものを取り出すことはできないということになる。若干アイズさんの横暴だけど曖昧な感情をむき出しで答える妹持ちの精霊とその背中で眠る今回の功労者にはだれも反論できなかった。

 

「困ったな。なにも思いつかない。」

 

「ああ、ただ地上に出来る限り早く戻らないといけないのは間違いない。当てもなくベートを地上に送ってしまったしね。」

 

「強行軍、する?」

 

アイズさんの首傾げにいやされます。申し訳ないのですがベートさんのことは半ば忘れかけていました。それにしても今回は本当によくわからないですね……。そんなことを思っているとアイズさんの肩に小人が乗っている様に見え思わず目をこすった。

 

『それは危険、です。』

 

「え?」

 

「ん?妖精さん……?」

 

妖精さん?え、どういうことですか?ちっちゃな人が声と言えるか分からない振動で私に、いや私たちに直接伝えるかのように語りかけてくる。ついでに彼?の頭上に小さな看板にも全く同一の内容が書かれて自己主張してくる。

アイズさんはそれをさも当然のように乗られている肩の反対側の手でその子人に触れ、軽くつつくなどする。

 

「電の固有武器(ぎそう)の妖精さんだよ?荷物を出してくれるんだって。」

 

『出しますよ!』

 

妖精さん?はその場に必要なものを出してくれようとする。団長とリヴェリア様は若干あきれ顔だけどそこまでで、ついて行けてるかのように振る舞ってるようにも見えなくもないです。あれ????

 

「え、え?」

 

「あ、でもここで出さないで川沿いで出そう。お魚食べたい。」

 

「はぁ、やっぱりアイズはアイズだ。」

 

やれやれといった感じの団長さんにリヴェリア様も頷く。もしかして、この中で妖精について突っ込み待ちだと思ったのは私だけですかね??

 

ーーーー

 

「あの、あの、妖精さんって、何ですか?」

 

川辺に移動し、そういえば行きにアイズさんが川魚食べたいとかなんとかいってて、いなづまちゃんが団長に同意を取り付けてましたよね。今思い出しました。っと言うのは置いておき、落ち着いてきたので気になっていたことを聞く。

 

電はアイズさんに膝枕されていて、アイズさんは何故か数が増えた妖精さんに囲まれたり肩を占領されたりしている。見た目的には微笑ましい部類なのもあり静かな川の畔には穏やかな雰囲気が漂っていた。川の中でははしゃぐアマゾネスが、その近くにはそれに巻き込まれる団長がいる。

 

「妖精さんのこと?えっとね、電の支援系スキルの具現化みたいなもの、かな。この子たちそれぞれで役割分担してるんだって。」

 

アイズさんは肩に乗っていた妖精さんを一人?手の上に載せると指先でその頬をつつく。赤髪おかっぱの妖精さんはくすぐったそうな表情でその刺激を受け、身をよじる。

 

「かわいいですね……。ん?」

 

『よろしく!』

 

私がじっと見つめたからかアイズさんの指を躱しつつ挨拶してくれる妖精さん。ずいぶんとかわいらしいスキルの具現化さん?ですね……。

 

「それにしても……。」

 

「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 」

 

「これはひどい、ですね。」

 

「……すぅ。」

 

アイズさんによる視線誘導に負けて私は目を背けていた現実(そこ)に目を向ける。鬼の形相で川魚を捕まえようと奮闘するティオネさんと面白がりながら川に入るティオナさんがいる。

 

もちろん団長は呆れ顔で佇んでいるがティオネさんのあまりの気迫に、今回のダンジョンアタック出発日の朝と同様の結末をも予想せざるを得ないですね。

 

『魚を釣るの?釣るよ。』

 

「魚釣れるの?」

 

『……もちろん』

 

妖精さんはアイズさんの疑問にドヤ顔で答える。その間に胸を張って片手で看板を持とうとし、持ち損ねて両手で持ち直すなどがあったので若干不安ですけど……。まあ、いなづまちゃんの一部ともいえるので大丈夫、ですよね?

 

『川に近づいてほしい。』

 

「うん。レフィーヤいくよ。」

 

「はい。」

 

アイズさんは妖精さんを頭に乗せ、いなづまちゃんを背負おうとする。直後その辺りに散らばって好き勝手に動き回っていた妖精さん達はささっといなづまちゃんに群がりあの固有武器?が出現してはその中に入っていきました。再びアイズさんが動き出したのは固有武器が再び消えてからでした。

 

勝手に出たり入ったりするの本当にスキルなんでしょうかね?

 

その後川の上流側に場所を確保した私たちは妖精さんが身の丈に不釣り合いに見える長い釣り竿で川に住んで居なさそうな決して小さくないお魚を釣り上げるなどいろいろ有りましたがリヴェリア様と一緒に無事でした。団長は……ティオネさんに襲われていただけなので何もなかったはずです。きっとそうです。

 

そして私たちはそのままテントを張ってそこで一晩過ごすことにしました。今日のことは色々ありすぎて私の中では全くと言って良いほど消化できていないのですが、眠い頭はきっと回らないに違いありません。そんな感じでアイズさんといなづまちゃんと一緒のテントで寝ることにしました。一段落付いたので明日1日もあればきっと気持ちの整理も付くでしょう。

 

「レフィーヤ、お休み」

 

「アイズさん、おやすみなさい。」

 

でもそのとき私は気づいていませんでした。今回のダンジョンアタックの何一つもが一段落どころか始まってすらいなかったなんて。




2週間半ぶりの更新です。皆様いかがお過ごしでしょうか????
私は想定の5000兆倍忙しくてあれです。あれ(語彙力)
頑張って週末更新するつもりが予定がずれる等トラブルに見舞われた結果こんな感じになりました。今回はこの作品で初めて四千字を超える回になりましたが読みづらくなければこれぐらいの文字数でも良いかなぁと思う頃合いであります。今週末も微妙なところで有りますが時間のやりくりも創作界隈で生き残る必須スキルの内の一つでありますので頑張っていきたいと思います。今後ともよろしくお願いしますね。


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55話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか55

 

「指示を。」

 

「殲滅、出来る?」

 

「肯定。」

 

助走をつけて地面を削った少女はちょうどモンスターの目の前で推力を失う。腰を落としたその少女はその半身とも言える武器を全周に振り抜き、敵に災厄と絶命の風をばらまく。鋭く透明な刃がモンスターの上半身と下半身を過剰に綺麗な線で分かち、死を悟らせる前にその命を散らせていた。

 

「……。」

 

その中心で自らの放った凶刃が為の返り血を一身に浴びた少女はその事実に微塵の興味も示すことなくもう一歩前に進む。利き手に握られた武器はこの時点で持ち替えられていた。目の前の(モンスター)を穿つ為だけに。

 

「……。」

 

終わり。そんな雰囲気だけを残してアイズの懐に走り込んできた。

 

「……戦闘終了は終了条件じゃない?」

 

「アイズ、どういうことだい?」

 

フィン・ディムナは18階層からの帰り道に不可解な行動を繰り返す一組の義姉妹の姉の方に疑問をぶつけていた。

 

そもそも妹、電のほうが合流した時点でいつもと雰囲気が違うのは分かっていたがそれに対してアイズの反応も予想の範囲外であった。

 

「いまの電は常時戦闘モードに()()()()()んだけど、それは想定内。問題なのはそれが何故か()()()()()こと。」

 

「想定内なのか……。」

 

どうしたものかとフィンが視線を向ける先には無限に妹の頭をなで回すアイズ・ヴァレンシュタインの姿。ある種暴走に近い状態になった妹に対して愛でる姿勢と想定内と言い切ることが両立する事実は少なくともフィンには理解できなかった。

 

「……まあ、状況が状況だったから。私が弱いから……。」

 

いつもはアイズの湿気った雰囲気を吹き飛ばすアマゾネスの二人は後方に居てこの会話を聞いていない。すねたような雰囲気のアイズと無言を貫くいなづまの二人とそれに付き合う団長と。

今はベートが居ない故に荷物を持たない速度の出る前衛はこの3人しか居ない。フィンの受難は終わらない。

----

 

「んで、実行犯とおぼしき調教師は取り逃したと。」

 

「そうだね。実力はレベル6、おそらく僕一人では相手取るのに苦労するだろうね。あのいなづまが一人では抑えきれず、アイズと合流してもなお逃がしたんだからね。」

 

主神と並んで食堂で口頭の報告を済ませるフィンには直近の山積した問題で明らかな疲労の色が見えた。前回今回と波乱続きのダンジョンアタックで膨大になった主神への報告書類や多数の幹部会議等、多忙に多忙を重ねたフィンのスケジューリングはオラリオに一握りしか居ないレベル6冒険者をまさに圧殺せんとする狂気に満ちたものだった。

 

「それで、どこのもんか検討はついとるんか?」

 

「いや、まったく。少なくとも地上(オラリオ)で名の知れた冒険者ではない。」

 

「つまり元凶は今のオラリオ(ここ)暇人(かみがみ)ではないっちゅう事やんな。はあ、どういうことやねん。」

 

同時にこんなに一気に短期間に重すぎる問題が吹き出してきて、どうも一つの影がちらつく事実にはトリックスターの負担も馬鹿にならない程度であった。オラリオの神々ではない何者かが今の秩序を乱そうとしているということはある種の場外乱闘を強要されているようなものでとてもではないがまともな状況ではない。

 

「それに、あれは何なのか全く分かっていない。」

 

「アイズが嫌がっていたあれか。今回の調教師が狙っていたギルドを通さない依頼の運搬物の。」

 

ベートとともに先に離脱したルルネ・ルーイが殺害された冒険者から引き取ったという運搬物。それは何やら球体のようなもので、アイズがそれを見た瞬間-しかもまだ布に包まれた状態のそれ-に距離をとって近づけないよう言ってきたという不思議な事情がある。あとでフィンがアイズに聞きに行ったところ電から聞くように言われて、電-いつの間にか元通りの様子に戻っていた-から『"アリア"関連の問題なのでお姉ちゃんについてはしばらくそっとしておいて欲しいのです。気をつけないと大惨事になるかもしれないので。』と言われ様々な疑問とともに捨て置かれている案件である。

 

「あの件についてはアイズがいなづまにあの話をしていたということもほんの少しだけ意外だが、それよりもいなづまがアイズを知りすぎている理由が気になるね。」

 

「うちが考えてたんは冒険者アイズと言うよりはアイズの種族がいなづまに近しいところがあるんちゃうかと思ってるんよ。今回もそれが絡んでなくはないやろ?風とか。」

 

アイズの風はアイズの本質に近いと誰かは言った。アイズの風は"アリア"の風でもあると誰かは言った。そしてなんとも難しいことにアイズは確かに人間でロキの子供(けんぞく)なのだ。もし今のアイズの風が"アリア"のそれと()()()()()()アイズは最早人間といえるのだろうか?

 

「種族ね……。」

 

「まあ、それよりも直下で解決しないといけない問題もあるし。」

 

「ああ、あのたね()とか言うのの運びの依頼主に会う件か。」

 

あの運搬物はまだ団長室に厳重に保管されていた。ルルネ・ルーイはいったんファミリアに返したが依頼主と会うときにはいったん呼び出す予定である。その日が今日なのだが。

 

「あと野暮用で話をせなあかん神もおる。」

 

「それが両方()()()か。なんとも都合がいい話だね。」

 

ルルネ・ルーイの運搬物の依頼主が指定していた運搬先はギルドの付近の脇道。そして神ロキが少しばかり話をするつもりの場所がギルドのある一室で相手はそこに居る一柱の神だった。名前はウラノス。ギルドの主神であり、"オラリオ"の創設神だ。

 

「楽しみやなぁ……。何が出てくることやら。」

 

道化師は、ただ静かに笑っていた。




投稿力を高めていきたい


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56話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか56

 

ギルドという特別な立場の組織とは言え、職員全員が勝手に内部に侵入していく(ひまじん)をまともに相手できる訳ではない。

むしろギルド職員はそういった自分勝手な輩については冒険者でも無い限り総じて無力であり、必然的に傍若無人で煙に巻く事を大得意としているロキのような存在を抑えて主神のところにたどり着かせまいとする力は、非常に弱かった。

 

今回も気弱な受付嬢がロキの生け贄になり、あっさり祭壇に続く道へと到着する。

 

「か、神ロキ!ここはウラノスの祭壇に続く神聖な道っ。お引き取りください。」

 

ただ、こういった状況の例外として同族から嫌われながらも働き続ける勤勉な中年エルフ-もっとも同族から嫌われている理由はギルドのトップであるという立場に対して、保身のための本人の豪遊にも見える対外的な接待と外見の醜さであるという説が有力である-のロイマンが挙げられる。たとえその心根が保身だったとしてもギルドとしてなすべき役割を果たしているのは疑いようがない事実であるし、エルフ以外に関しては壊滅的に人望がないと言うこともない。

 

「そう堅いこと言わんといて。ただウラノスに聞きたいことがあるだけや。」

 

まあそれでもロキの前ではかわいい子豚ちゃん程度の役割しか果たさない。本当に足止め程度だと分かっているし、いいように手玉にとられる事が分かっている故に神に対して最低限粗相を働かないことだけがロイマンの考えるべきことだった。

 

『ロイマン、通せ。』

 

「……はい。」

 

ここでロキはあっさり通されたことを意外に思う。最悪というか現実的な選択肢として今日中にウラノスに会うことを諦めるというものがあった。それほどウラノスに会うと言うことは難易度が高いことなのだがここまで来てしまえばウラノスも無下に追い払うわけに行かなかったのかもしれない。あとは自分の行動が掴まれているか。

 

まあ神同士の意図の探りあいは神と子供(ひと)とのそれとは一線を画する。()()()わからないからだ。当然電のように双方の性質を兼ね備えるが故に読み合いが発生することもあるが例外中の例外だ。

 

あの子は常に読めるわけではないというややこしさがウチといなづまの間で無意識的な表層意識の読み合い(視線バトル)を発生させるのであって、いわば常時思考ダダ漏れの子供達とは別の領域の話になってくるっていうだけなんやけど。

 

「よぉ、ご無沙汰やな。」

 

祈祷の座で不動の老神がロキに視線を注ぐ。神威無しにこの存在感。まさしくオラリオを影から支える御柱そのものであった。

 

「フィリア祭では散々だったんやね。各所から叩かれとるようやけど大丈夫なんか?」

 

「ギルドの運営はロイマン達に一任している。私の関知するところではない。」

 

「それじゃ、率直に聞くで。()()()()()()()()()()()の引いとんのはギルドか?」

 

「それは違う。」

 

"それは"と範囲を限定しながら言い切ったと言うことはギルド本体は少なくとも関与していない。なおかつそれを把握した上で何らかの調査を行っていると言うことだろう。誰かの目線が気になるがその()()はこちらに殺気を向けるわけでもなくただ様子を見ているだけに過ぎないようなので完全に無視。下手に接触すればウラノスと本気の腹の探り合いが始まってしまう。いやこちら側(ウチとディオニュソスの協力関係)としては本気で探らなければならなくなったという感じか?

 

「え、あれ?」

 

「……は?」

 

「……む。」

 

軽い存在感が一瞬のうちに表れ視線を感じた方向を塞いだことに気づきウチがそっちを向いてみると確かにギルド前で別行動になっていたはずのある少女がいた。

 

「あれれ、どういうことなのです?」

 

「いや、それはこっちの台詞やで。ついてきてたんか?」

 

はぐれの船舶神卸系付喪神少女こと電は突然の守護体制でロキのそばに転移した現状について主神と周辺の神一柱、あと何かに説明しなければならなくなってしまった。現状を確認するためにくるりと見回すと、何故こんなことが起きたかを推測できそうな素材が視界に入る。納得がいくと同時に妖精判定のある種の信頼性を思い出し、少し気落ちする。

 

「いえ、"かばう"が誤判定で発動しちゃったっぽいですね。"かばう"成功で電が"無"を被弾したのです。」

 

どういうことかというと、特定の判定を妖精さんが下すとき、別の妖精さんが対応するエフェクトを発生させる。今回の場合は妖精さんが残すかばう判定のエフェクトの残光と自身のステータス上の変化の貫通ダメージの可視化が発生していたので気づいたと言うことなのですが、まあ通じないですよね。

 

「うん、わからん。スキルの誤爆ってことでいいんか?」

 

「大体そんな感じなのです。」

 

ちらちらとウラノスの方を見る電に絶妙な少女らしさを見いだしたロキは慣れた手つきで自身の前方に電を抱え込む。

 

「その(しょうじょ)は冒険者か。」

 

「かわいいやろ。」

 

意外なことに影のような監視者を除けば全員が神の特殊な空間にもかかわらず心理戦は立ち消えになる。ロキはその誘導に全く乗るつもりもなく、理由はどうであれ助けに来てくれる愛おしい眷属(こども)をほかの神に自慢する程度のことしか考えていない。当然抱えられた電が処理落ちしていたとしても関係ないし、どこかでお姉ちゃん(アイズ)がニュータイプばりの直感を発揮していてもまた関係ないことである。

 

「否定は出来ない。」

 

ウラノスはその威厳を保ったままだが自身の眷属とも言えるギルド職員らに思いをはせていた。ギルド職員は美形が多い。それは男女問わずだ。眷属を自慢したいロキの気持ちは十分に理解できたしキャラ崩壊の危機さえなければそこら中で自慢して回っていただろう。やはり体裁という問題は決して無視できるようなものではないのだ。

 

「まあええわ。うちからは以上や。電、帰ろっか。」

 

「……なのです。」

 

「……。」

 

この後神ウラノスからロイマンにダイエットのミッションが秘密裏に下されたが、きっと今回のこととは無関係であろう。そうに違いない。




更新遅すぎ問題が発生しているので明日も投稿します。


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番外2

《ここに地下迷宮の息吹》
《ここに処女神の愛眷属》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか 番外2

 

「すいません!ヘスティア・ファミリアはここで合っていますか?」

 

白兎さんことベルさんにベートさんがやらかして吊され、ベルさんがお姉ちゃんと甘酸っぱい雰囲気をだして私も流れ弾を食らった日から2,3日後のことです。

 

私とアイズお姉ちゃんはある廃教会の前、その壊れかけの扉の前にいました。壊れかけというのも大げさかもしれませんが立て付けはよくなさそうですね。

 

「はーい、どちら様です、か?」

 

小刻みに廃教会を揺らす可愛らしい足音の後に、軋む扉から黒髪をツインテールにまとめた少女(かみ)が顔を出す。ニコッと人当たりの良い笑顔で出てきたはずの彼女はお姉ちゃんを視界に収めるなり表情を固くした。

ロキさんが言っていたドチビとかロリ巨乳とかについてまさか限度があるだろうと思っていたのですが本当でしたね……。

 

「ロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインと」

 

「電です。」

 

ロキの名前を聞いた途端態度はいっそう硬直化する。ロキさんが言うには罵り合う仲だと聞いていたが実際の力関係については判断できない。今回の件に限れば、もうロキの方から何らかの方法で謝罪をしていることにはいるが、それまでの関係とは別の問題である。

 

「……要件はなんだい?ベル君は今ダンジョンだからここにはいないよ。」

 

「ベル君の武器について相談に来ました。」

 

「へ?」

 

「唐突で申し訳ありません。先日の件……うちのベートがベルさんに不適切な発言をした件のお詫びで、ベルさんにアイズお姉ちゃんが稽古をつけようという話になったのですが、装備が耐えられそうにないので武器とかをどうしようかという相談をしに来た次第です。」

 

唐突にやってきた二人の姉妹の前にボクはどう対応するべきか全くと言って良いほど思考がまとまらなかった。神々の宴でロキには謝られるし突然の訪問者も現れるし。

 

姉の方は何か見覚えがあるが妹についてはよく分からない。先日の件の詳細は実はベル君からは何も聞いていないのでロキに謝られた時点では分からなかったが、思い当たりは有った。妹さんのおかげでやっと全容がわかったという感じだ。

 

それはつい数日前ダンジョンから朝帰りしてきたときのこと。

 

あのときはじっと待ってることしか出来ないことに軽く絶望したが、帰ってきたベル君を抱きしめてそんな陰鬱な気分も吹き飛んでいた。頼りない容姿なのに妙なところは安心感が持てるんだよね……。っと思考かそれた。

 

「でも本人が居なくても良いのかい?」

 

「……本人を思ったよりも見つけられなくて時間もとれなかったので、ヘファイストスさんからホームの位置を聞いて来たのです。後のことはあんまり考えてないので安心してください。」

 

全く安心できる要素はなかったがこの姉妹はいつもこんな感じのノリなんだろうか?いろいろ思うところがあったが取り敢えず客間-といっても普段ベル君と二人でいるあそこなので有ってないようなものだ-に通してじゃが丸君とお茶を用意するなどしてから、思ったよりも話し込んだ。

 

稽古をつける事についてはレベル5の二人が面倒を見てくれる時点で歓迎した。因縁のロキのところの眷属(こども)たちだけど素直さは神に隠せて居なかったからね。そして結局武器については、元々武器作成を計画していたボクがアイズ君といなづま君の持ってきてくれた素材を持ち込んでヘファイストスに頼み込むことになった。けれど、いなづま君の"多分使い切ってくれると思いますよ"という発言と素材の多様性、悪く言うと雑多な感じが全く繋がらなかった。アイズ君はこれについて何もコメントしなかったけどどう思っているのか一度聞いてみたいとは思った。

 

だから出来上がったヘスティア・ナイフ、総費用1億ヴァリスの綺麗な短剣にそんな雑多な素材が余すことなく使われたことに軽いショックを受けるのはずっと後の話。

 

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時系列わかりにくいぞゴルァという問題をスルーして番外2を投下。一応時期を話数で言うと34の直後です。

書き上げるまでの時間に対して内容と量が少なすぎるのはいつも通り(良くない)。
感想ください(唐突)


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58話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか58

 

それはダンジョン(じごく)37(ある)階層。骸骨がなれの果てを積み上げて地獄の意味を更新したその場所で、3人の冒険者は不思議なぐらい穏やかな雰囲気に満たされていた。普通に考えれば全くの不思議であるがその名前を挙げれば決して不思議では無いと思えるだろう。アイズ・ヴァレンシュタイン、レフィーヤ・ウィリディス、いなづま、その3人である。

 

レベル5二人にレベル3一人、前衛2後衛1のバランスの良い小規模パーティーであるが37階層ほどになるとなかなかの難易度であり、"偉業"の蓄積には丁度良い位ですら有る。

 

"偉業"というと1つの大きな壁を乗り越えることのように聞こえるが、決して死にかけるような"偉業"を一度に達成する必要は無い、魂に蓄積される小さな"偉業"でそれを達成できるというのが電が聞いた、神ロキによる"偉業"についての見解だった。

 

神の恩恵(ファルナ)自身がかなり不可思議なもので長く地上に降りている神でもその全貌を知るものは多くないというので、判断ミスが生死に直結しかねない偉業に関しては、"偉業"狙いのクエスト受注にはギルドが目を光らせているというが……。冒険者側からすると条件がわかりにくいというのもあり、実態としてはなかなか偉業のために無意味に散っていく冒険者は減らないという話であった。

 

先日のダンジョンアタックは18階層までで引き返してしまいましたが、そのときにレベル5に止まっている現状に限界を感じたお姉ちゃんともう少しでレベル4が見えていたレフィーヤさんと私で出直してきて37階層に来ているのです。

 

「なんとか、と言いつつ思ったよりも楽に狩れてしまったんですけど、これ"偉業"に入るんですかね?」

 

「うーん、私は問題ないと思うけど。」

 

「楽に感じたのはレフィーヤさんが戦闘中に平行詠唱を習得したからだと思うのですが……やっぱり天才……。」

 

あっけないと言わんばかりの表情のレフィーヤさんに、首をかしげるお姉ちゃん、なんとも言えない私で談笑するこの場所は決してそんな穏やかな場所では無い。ここ37階層 白宮殿(ホワイトパレス)、階層主ウダイオスを推す深層最初の難所であり、闘技場(コロシアム)と言われるモンスターの湧き場も存在する。

 

それでもこんなに穏やかなのは、おおよそ3ヶ月に1度しか湧かない階層主を討伐した直後であり、周りに別のモンスターがすぐ湧く状況では無いという事に尽きるのです。ダンジョンの壁は戦闘の余波でぼろぼろになっていてまだ修復も始まっていないので、下手したら半日ほどは安全地帯になるでしょう。

 

「うん、私もそう思う。レフィーヤの援護があったから大きな怪我もせずに倒せたんじゃないかな。平行詠唱で援護の幅も広がってたと思うし。」

 

「そ、そうですか?はにゃっ。」

 

不安と喜びを混ぜたような曖昧というか宙ぶらりんな表情で伺うような声を出すレフィーヤさんにお姉ちゃんが手を伸ばす。

 

「頑張ったね。」

 

伸ばされた手はレフィーヤさんの頭に優しく添えられ、エルフのよく手入れされた美しい髪にお姉ちゃんの白い指が通る。

驚いたときの口癖が師匠の片割れから伝染っていたエルフはお姉ちゃんへの弱さもまた同じくらい高まっていた様なのです。

 

リヴェリアさんのようなオラリオ最強といっても差し支えない魔導士に師事する上にロキ・ファミリアでは頭一つ抜けた魔導士であり、同系統の冒険者とライバルに近い関係を持たなかったレフィーヤさんは自分の実力が相対的にどれくらいなのか十分にわかっていない節があります。

 

「……お役に立てましたか?」

 

平行詠唱が出来ることの凄さをわたしやリヴェリアさんと比べて自分が出来ないという基準でしか判断し得ないなら、レフィーヤさんから見てこんなに評価されるのは意外に思うのも不思議ではないのです。

 

「うん、とっても。」

 

ここでお姉ちゃん、レフィーヤさんをそのまま抱きしめる暴挙に出る。はぁ、いいなぁ……。でも、ここ最近はレフィーヤさんの自己肯定感を下げる事象がちょくちょく起きてるみたいなので今回くらいはお姉ちゃんにしっかり誉められて自信を持ってもらう必要がありますよね……。

 

「……なのです。」

 

その代わりにお姉ちゃんのがら空きの背中を制圧してしまいます。私の知るお姉ちゃんの中でダントツに身長が高いだけあってその安心できる背中は広く、逆にその広さが包み込むように安心を生み出す循環が生まれたのです。

暖かいのです。

 

電と同じくらいの背中(ふぶきがたくちくかんのせなか)も間違いなくお姉ちゃんの背中だったのですが、やっぱり広いと広いだけお姉ちゃん力も高まりますねっ。まあお姉ちゃんはみんな違ってみんな良いので比較するのはあまり意味のある行為じゃ無いんですけどね。

 

でも、こんなに広い背中を独り占めできる自分はきっと今だけは特別な妹に違いないのです。……自分で思っておいてなんですが特別な妹はちょっと意味不明ですが、まあそういうことなのです。

 

「二人ともお疲れさま。」

 

お姉ちゃんの声を背中伝いで聞いた後、しばらくその場でつかの間の休息を終えて、私たちは地上に帰還しました。途中で"冒険"してしまった白兎系冒険者とそのサポーターの小人族(パルゥム)の少女を助けて合流、後に厄介ごとに巻き込まれる切っ掛けになるのですが今の私たちには知るよしも無いことだったのです。




先週末投稿出来ず、しばらく安定して文章を書いていない自体に気づいたので今日は2話連続投稿です。頑張ります。


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59話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか59

 

「みんな、おかえり。あー、アイズ、ステータス更新しよっか?いなづまとレフィーヤは後でやるから安心してな。2人は先に風呂入ってきてくれると助かるわ。」

 

ウダイオス討伐後、無事地上に帰還した私たちは、途中で合流したベルさんとサポーターの方-結局名前を聞きそびれてしまったので残念なのです-とギルドで分かれて、ホームに帰還しました。ホームの入り口の門のあたりには、糸目に限りなく無い胸部をたたえる吾等が主神、ロキさんが立っていたのです。

 

「うん」

 

「はいっ。」

 

「なのです!」

 

ロキさんが両手をわきわきさせてお姉ちゃんに襲いかかろうとし、お姉ちゃんがデスペレートに手を掛けたのを見届けて、私とレフィーヤさんは自分たちの部屋を経由し風呂へ向かう。ロキ・ファミリアのお風呂は広く、どちらかというと鎮守府にある艦娘浴場や銭湯の類いに近い広さなのです。ファミリアに所属する人は基本的にファミリア内に住んでいるので当然広くないと福利厚生に良くないのですが、今の時間帯だとどんなに居てもたまたまこの時間に帰ってきた冒険者くらいしかいないので過分に福利厚生を感じてしまいます。

 

「いなづまちゃんはお風呂好きですよね?」

 

「ええ、とても。毎日肩まで浸からないと落ち着かないくらいには好きです。」

 

日本(じん)ですし、広い湯船は大変よろしいのです。とかいってつい長々と良さを語り始めるとドン引きされてしまうのは目に見えているのでセーブしているつもりですが、うまくいっているでしょうか?

 

「私はシャワーだけ浴びたら寝ちゃうことも少なくないですね……、湯船で足を伸ばす気持ちよさも分かりますが。」

 

「足を伸ばせる広い湯船は良いものです。ロキ・ファミリアは大手だけ有ってこういった福利厚生がしっかりしてるので団員さん達のコンディションも保たれて良いのです。」

 

残念ながら大手でも、団員を多く推すファミリアで有ってもここまで気が回っているファミリアも決して多くは無いと思いますが、ね。現実は辛く厳しい。

 

実際に湯船でレフィーヤさんと並んで足を伸ばし疲れを癒やしながら脇道にそれた思考を収束させる。結果的に私たちは恵まれていますが、だれしもがそれを享受できる訳ではないのです。となんか湿っぽい事を考えてしまいましたが、なにもかもベルさんが悪いのです。正確には彼が連れていたサポーターの方ですけど、それは置いておきましょう。それについては今度考えるのです。

 

「いなづまちゃんも"福利厚生"とか団長やラウルさんとか……幹部の皆さんみたいなこと言うんですね。」

 

自分には分からないと言いたげなレフィーヤさんの首かしげのあざとさに高い妹力を感じ戦慄しますが、今はそれよりも重要なことがあるのです。

 

「むぅ。レフィーヤさんもリヴェリアさんの後継者と目される立場なんですから、リヴェリアさんの考えていることは明日レフィーヤさんが考えることでもあるんですよ?」

 

さっきまでこっちを向いていたのに視線をがっつりそらしていくレフィーヤさん。可愛いですけど駄目です。

 

----

尤もな指摘に私が一瞬目をそらした後、再度電ちゃんの方に向き直ると彼女はここではないずっと遠い場所を見る目で再び口を開く。

 

「それに幹部になってたり薬科(ポーション)販路の担当になっていたりすると、新人冒険者なのに気づいたら考えることに事欠かないのです。リヴェリアさんの後を引き継ぐことはもっと大変ですよ?」

 

「……はぁ、本当は風呂の間くらいは何も考えないで居られたら良いのですが。」

 

言い終えるとそのまま瞳を閉じた彼女は口元あたりまで浸かるほどにお湯の中に沈んでいく。自分の魔法の師のうちの一人であったり、憧れであるアイズさんの隣に立つ数少ない魔導士であったりと実力の高さに目が行ってしまいがちのいなづまちゃんですけど、おそらく自分よりも年下なんですよね。そんなことを考えると、なんだか私には今のいなづまちゃんのその表情が酷く悲しげに見えてきました。

 

「にゃ?」

 

何故か分からないけど、いや、はっきりと言葉に出来ないだけで分かってはいる。いなづまちゃんがこんな表情をしていることを好く思っていない私が居る。理屈抜きに、お風呂の温かさに表情が崩れて至福の時間を味わっている電ちゃんが見たいと。私のわがままかもしれないけど、私は今、そんな電ちゃんが見たいと。

 

そして脳裏に浮かんだのは憧れの……アイズさんがよくいなづまちゃんにしているスキンシップ。頬をつついたりうなじをなぞったりと様々だけど、まず初めてなら一番難易度が低そうなあれを試してみる。

 

「いなづまちゃんの髪は落ち着いた色で目立つわけじゃ無いけど魅力的ですよね。」

 

あたまを撫でることです。結果から言うと効果はてきめんで、一瞬驚きの表情が出てきましたがすぐに目を細めてリラックスした雰囲気になりました。

 

「……そう、ですかね?」

 

「ええ、アイズさんが良く撫でているのも理解できる気がします。」

 

「……なのです。」

 

いなづまちゃんは目をそらして、そのままおとなしくなりますがその後の入浴中は穏やかな雰囲気を保ってほんの少しだけ時間がゆっくりに感じる入浴時間を過ごしました。風呂を出てからある重大な事案があり一気に慌ただしさが迫ってくるのですがそれはきっと後の話です。




誤字脱字上等の気合い投稿します。


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60話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか60

 

「フヒヒ……久しぶりにアイズたんの柔肌を蹂躙したるわ……!」

 

「ステータス更新って、指要ります?」

 

「要るでー!超要るでーー!!」

 

真顔でデスペレートに手を掛けたアイズを前にロキは慌てたようにオーバーな何も伝わらないジェスチャーとともに釈明しながら、適当な空き部屋にアイズを連れ込んだ。

 

ロキ・ファミリアは大変広く余裕のある設計をしているため、そこそこ空き部屋がある。団員が増えても急に箱物を増設出来るわけでもないし、逆に部屋さえあればそこを倉庫として使ってもいい。余裕は冗長にみえる事もあるが非常に重要なのだ。

 

「ここなら大丈夫やろ。ほな脱いで。」

 

「……はぁ、分かりました。」

 

アイズからの反応は芳しくない。加減を間違えて変ないじり方をしてしまったのかもしれない。次回への反省点やなとロキは独りごちた。

 

それにしてもアイズたんのステータスを見るのは結構久しぶりやな。前回、前々回と忙しさにかまけて更新してなかったしアイズに催促もされなかったし。ウチのファミリアはなんだかんだ言って全団員のステータス更新を最長3日程度の感覚でやってるから、こんなに更新が空いたのは冒険者になりたての頃のアイズたん以来やろ。

 

「……あ、え?」

 

「どうかしました?」

 

「レ、レベル6や。ランクアップやで!」

 

やっときたという雰囲気のアイズたんに、電がこんなところにも良い影響を与えていたのかと思うと本当に拾いものだったという感じやな……ほんま。

 

「……よし。電よりも先にランクアップした。」

 

「ってそっちかーい。てっきり長らくランクアップしてない方かと思ってたんやけど。」

 

「それもあったけど……変な焦りよりもお姉ちゃんとしての威厳を保つ方が重要だと気づいたから、ね。」

 

うん、それも分からん。でもまあ変に力んでも成長には逆効果やし結果論やけどええんやない?多分。

 

「それじゃ、これがレベル5の最終ステータスで、一応これがレベル6でのステータスや。んん、レアスキルも発現しとるな。"精癒"や。効果は精神力の自動回復。ウチだとリヴェリアだけが発現しとる。」

 

「……精癒。スキルはその人を映す鏡……。」

 

「誰が言ってたんや、そんなこと。」

 

決して間違っては居ない。むしろ神々の間では常識で、それゆえレアスキルの内容によっては平気で隠匿する。ただ同時に人の子ら(けんぞく)には基本的にはっきりとは伝えない事の一つでもあった。それは特殊なスキルを獲得した結果逆に傷ついて萎縮してしまうことを防ぐための予防線であり、神々の読み合い(あそび)の為のレギュレーションでも有った。

 

「電が」

 

「ああ、完全に理解したわ。それ、神々の公然の秘密やからあんまり言いふらさんといてな。」

 

「……わお。私から電にも言っておくね」

 

「ウチも言うけど、お姉ちゃんの方がちゃんと妹に言うこと聞かせられるやろうからよろしく頼むで。」

 

本物の神としての一端はどうしてもこんなところで出てしまうんやな……。難しいなぁ。




再び分割1話です。投稿間隔が空くよりも短くてもキリの良いところで投稿しちゃいます。今週中に分割1話後編を投稿していきたいですね。


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61話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか61

 

「レフィーヤ、それじゃあ始めようか。」

 

神ロキがアイズを解放して次にステータスの更新に呼び出したのはレフィーヤだった。電ではなく。

 

「あの、電ちゃんは後回しで良いんですか?」

 

「あー、それはやな……レフィーヤが先の方がええんやないかなって直感でな。」

 

朗らかに笑ってそう言うロキの表情からレフィーヤはその真意をくみ取れずにいた。何故レベル5の電よりも先にレフィーヤのステータスを更新する必要があるのか。直感という最大限にぼかした表現の意味はなんかのか。そんな疑問を飲み込めというロキの気持ちは大凡伝わらず、結果的にレフィーヤは首をかしげるだけに終わる。

ロキはまあたいした問題ではないと話題を本命に戻すことにする。意思の伝達が楽なのはいつも人から神への一方通行なのだ。神の意志は開けっぴろげない限り人の子らはその気持ちの重ね合わせも能わない。

 

「まあまあ、取り敢えずそこ座っていつも通り服はだけてな。」

 

「は、はい。何度やってもこればかりは慣れませんね……。」

 

ロキの指示にレフィーヤは少し照れを含ませながら答える。

彼女は誇り高きエルフなので服はどんな季節でも露出が控えめで、更に言えば変に着崩すようなこともこのときを除いてはしない。三つ子の魂百までとも言うがまさにそういうことなのだろう。

 

「むむ、お……ランクアップ可能やな。」

 

「へぇ、ランクアップ可能ですか、え?」

 

あまりにも軽く言うロキに釣られ掛け聞き流そうとしたレフィーヤだったが、よく考えればかなり重要な内容であって思わず聞き返す。

 

「せやで。ただ伸びしろがあるからまだランクアップはせえへんほうがええな。」

 

時々と言って良いがランクアップは保留にすることがある。”偉業”の蓄積がステータスが伸びきる前に終わることがあるのだ。偉業は蓄積するという事実が現実として現れる数少ない例である。

 

「それじゃレベルは据え置きってことですね。」

 

「まあ、せやな。まあ現状護身は問題ないし、頼りになる仲間も居る。焦らなくてもええからな。それじゃまた明日。ウチはちと疲れたから寝るわ。」

 

レフィーヤは自身の境遇が恵まれたものだと改めて認識し、ロキはそれだけ言ってレフィーヤの軽く頭をなでるとその場を立ち去る。そうして出来上がったどうしてか誰も居ない部屋にただ取り残されたレフィーヤは一人ごちた。

 

「あれ、結局電ちゃんのステータス更新は?」

 

頭の良さが裏目に出て気になった事象に気をとられていたり半分くらいの優しさが漏れていたりすると噂されるレフィーヤは、自分の置いてきぼり感よりも師匠の一人のステータス更新が気になっていた。




分割1話中編です。過去の自分が無責任にも期限に投稿するといっていたのですが間に合いませんでした。。。さあ自分、次は頑張るのです。


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62話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろう62

 

「あれは、いなづまちゃん?」

 

主神ロキに勢いで置いてきぼりにされたレフィーヤは、することもないので部屋を出てアイズを探すことにした、が先にさっきまで一番気になっていた少女ー尤も少女というのは外見的な話であってその実力その他諸々一少女に収まる者ではないーを発見する。

 

「……あれ、立ったまま寝てる?」

 

レフィーヤから見えているのは背中だけだが、同じところで立ったまま時々ふらつく様子はどうも寝ている様にしか見えなかった。

 

ロキさんが部屋を出てから大して時間が経っていない中で立ったまま寝るいなづまちゃんがいるということは、ロキさんは本当に寝てしまったのかもしれないです。

 

まあ本当は私が心配するようなことでは無いですけど……実力としては師匠なだけあって次元が違いますし。まあ、少なくとも外見的に今まで知っていた第一級冒険者の皆さんと全然違う印象が強いのでどうしても気になってしまうというところでしょう。

 

「いなづまちゃん?」

 

「……なのです。」

 

レフィーヤの声に反応して半目を開きなんとか語尾だけをひねり出した後、いなづまちゃんは再び謎のバランス感覚で立ったまま寝る作業に戻ってしまいました。やっぱり寝てるんですね。

 

「あれ、電と……レフィーヤ?」

 

「アイズさん!」

 

ちょうど良いというか何というか当初の目的だったアイズさんが通りかかる。私は探しても中々見つけられないアイズさんも、アイズさんから探して貰えるいなづまちゃんならすぐ見つけられるんでしょうね。ずるいなぁ……なんて言うと大人げないですけどね。

 

「寝てるの?」

 

「みたいです。」

 

「……疲れたのかな。」

 

さも当然かのようにいなづまちゃんを背負ったアイズさんが漏らす。ファミリア内、特に第一級冒険者の間でのアイズさんは頼れる側面よりもおっちょこちょいともとれる行動が目立ちますが、今この瞬間は私が憧れた頼れるお姉さんでした。

 

「……(アイズ……お姉ちゃん)、あっ。」

 

「ん?」

 

「え、いやなんでもないです。」

 

思わず口を塞ぐがアイズさんには幸いにして聞こえていなかったらしくなんとか誤魔化す。別に聞かれても困るものではないですがやっぱり恥ずかしさが先行してしまいますね。あー、いつか正面から言ってみたいです。やっぱり妹慣れ(?)してるいなづまちゃんはずるいです。

 

なんでそんなに簡単に"妹"になって、アイズさんの内側に入り込んじゃうんですか。受け入れさせちゃうんですか。

 

「……別にレフィーヤが好きな呼び方で私を呼べば良いと思うよ?可愛い妹が多いに越したことはないし。」

 

「え?」

 

え?

 

「ん?いや、私の聞き間違いならそれはそれでいいんだけど。」

 

「き、聞こえてたんですか?」

 

「あ、うん、うん。そ、そう。それはそう。」

 

何故か気恥ずかしさがアイズさんにも伝染ったようで、少し口籠もるように返事が返ってくる。なにか思うところでもあったのでしょうか。まあかわいらしさがドバドバなのでよきよきみたいな感じですが。あれ、私の語彙力なさ過ぎ……?

 

----

 

「あ、うん、うん。そ、そう。それはそう。」

 

多分冒険者になって戦いに身を投じるようになってから上位一桁に入る緊張が私の中を駆ける。実は聞いていなかったのだ。"聴いて"はいたんだけど、聞いてはいなかった。どういうことか伝わるか分からないけどそういうこと。

 

「……考えておきます。」

 

目をそらしたレフィーヤの小声に妹力の片鱗を見る。やっぱりかわいい。まだ電ほど妹力はないけど間違いなく素養はある。

 

「うん、それじゃ……おやすみ。」

 

「おやすみなさい!」

 

やっぱり妹は良いものだ。でも、レフィーヤもおねえちゃんって呼んできたら……どうしよう。私爆発しちゃうかも?




分割1話終わりです。
やっぱり週末に投稿できてないじゃないか!!
今後もベストエフォートで頑張りますね。


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63話

《ここに地下迷宮の息吹》


ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか63

 

「アイズさん、おはようございます。」

 

「おはよう、レフィーヤ。」

 

結局レフィーヤはお姉ちゃん呼びではなく以前のままさん付けで落ち着いちゃった。少し残念な気がするけど、もしレフィーヤまでお姉ちゃん呼びしてくるようになってしまったら本当にどうなっちゃうことやら……。妹の可愛さ属性持ちの後輩という罪な存在が妹という犯罪級の健康になってしまうと私はどうしたらいいのか分からなくなっちゃうまであったかもしれないし。ってすでに思考が滅茶苦茶になってるし……。

 

「あれ、いなづまちゃんはどうしたんですか?」

 

「今ちょっと体調が悪いからもう少し寝てるって」

 

そう!電はどうも体調を崩してしまったらしいので部屋で寝ている。普通に生活するとまず電よりも早く起きることは難しいので、普通におきたら掛け布団から電の寝顔があったのは初めてかもしれない。もっとも原因が原因だけにお姉ちゃん式心配回路がばりばり動作しているけど……。

 

「……いなづまちゃんも体調を崩すんですね。」

 

「電も人の子……らしいからね。」

 

変にぼかしてしまったけど決して間違ってないし。だってなんか電だもん。ロキが言うには神様の端くれ、電が言うには(かみ)との境界線を失った巫女。二人の言うことは矛盾しない。

 

「らしいって何ですか……。」

 

「だって私の同い年の時より強いし。」

 

どうでも良いレベルで思い出してしまって少しすねたように返事してしまったが対外的にもこれは大凡通じるだろう内容だ。私の幼少期を知るリヴェリア達ならなおさら"事実"を知らなくても"らしい"に同意してくれるだろう。

 

「……それはすごいですね。12歳、でしたっけ。」

 

「うん。」

 

まあ、でも可能性だけなら白髪の兎さん……ベル君にも同じくらいのものを感じてるから期待してるんだよね。何か分からないけど、今なら"分かる"かもしれないけど、可能性を感じる。って今は関係ないか。まあ、レフィーヤは間違いなくリヴェリアの後を継ぐものになるだろうね。強いし、向上心も凄いし、ね。

 

「……私も頑張らないといけないですね。」

 

「レフィーヤは冒険者なりたての頃の私みたいな変な無理の仕方をしちゃ駄目だよ。"冒険者は冒険してはいけない"し、強さだけが電の強さじゃないことはレフィーヤも分かってるよね?」

 

隙あらば自分語りのように過去の自分の話をちらつかせてしまったけど、失敗だったかもしれない。輝く可能性に満ちたレフィーヤの瞳が別種の輝きを放っていることに気づいたころには言い切っており、既に軌道修正も難しそうだ。

 

「アイズさんにもそんなことがあったんですね。」

 

まるで私が生まれたときから戦姫(バトルジャンキー的二つ名)だったかのよう思われてしまうのは心外だ。でも、自分も最近までリヴェリアやフィンらレベル6の先人達にも幼少期があったことを全く顧みることはなかったし、むしろレフィーヤよりも偏見が強かったかもしれない。

 

「き、気になる?」

 

「はい!」

 

やぶ蛇だとは思ったけどつい言ってしまった一言に自分の口は塞ぎようがないことを改めて自覚する。それは気になるよね。憧れ、らしいし。ああ、なんか照れくさい。

 

「それじゃ、何から話そうか……。ええと、あれはまだ私が駆け出しで、ロキ・ファミリアもこんなに大きくなかった頃……」

 

目を閉じて脳裏に描かれるダンジョンの壁と床と散らばったモンスターの残骸と……。それはロキ・ファミリア始まりの三人とそれを追いかける戦いと力に背中を追われていた少女の話。私、アイズ・ヴァレンシュタインが一番荒れていたと自覚する黒歴史とも言える記憶だ。

 

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お久しぶりです。しばらく体調が悪く、行事が重なるなどして投稿出来ていませんでした。取り敢えず生存報告的投稿です。


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