真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ (Celtmyth)
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鳴く少女のマジ恋!

初めまして、此度は気分が乗ってしまって書き始めてしまったこの作品を投稿しました。

とりあえず読んでもらって『いいな』て思ってもらえればうれしいです。

それでは鳴く少女の恋物語、始まりです。




 ――この文を見つけた者が人知を超える術を持つ者として、ここに眠る者について伝える。

 

 ――ここに眠る者は英雄としての才を持ちながら、人としてある部分を欠落した為に英雄になれなかった者である。本当の名前を知られず、ただ恐れられて見向きもされなかった不幸を持つ。

 

 ――儂が見つけた時には虫の息であったが、この者でなければ死に体になっていたほどだった。その後に儂はこの者が何者かを知り、それを知った上で儂はこの者を匿う事とした。幸いにこの者は“京”で死んだものとされ、誰に知られることはなかった。

 

 ――それから儂たちは密やかに暮らし、ただただ静寂な日々を送っていた。しかしその暮らしを続けてゆくと儂はある事に気付いた。この者は強者の、武の才とある才を備えた者だ。それこそ歴史に名を残し、英雄かと呼ばれるに相応しいほどに。そして、“京”で怪物と呼ばれても仕方がない事に。

 

 ――儂は思った。もしこの者に機会があれば英雄となり、誰かに感謝されていた事を。本当は怪物と呼ぶには、この者は無垢であったと。そう考えると私はこの者の不幸に悲しんだ。どうしてこの者は怪物と呼ばれなくてはなくてはならないと。

 

 ――そんな儂に追い打ちをかける様に、その者は死に体になってしまった。元々、虫の息だったのだ。すでにこの者は天命を迎えていたのだと。儂は、声を挙げて泣いた。

 

 ――悲しみ、泣き叫んだ儂はこの者をこの場所へと葬った。しかし同時にある思いを抱いた儂はこの文を遺した。遠き先でも残る様に石に彫り、風化せぬように布を巻き、解けぬように蜜で固めたこの文を。

 

 ――もし叶わぬならそれもいい。しかし叶うならどうか頼む。この者を、英雄にしてほしい。誰からも認められ、そして強くあれる様にしてほしい。

 

 ――この者、“京”で恐れられたこの  を

 

 

 

 

「おーい健美(つぐみ)ー。どこにいるんだー」

 

 ここは川神市にそびえ立つ九鬼のビル。その内部で一人の少女が人を探していた。少女は長髪をポニーテール――と言うには昔の武士風であるが――の形にまとめ、顔立ちは中世的で少年にも見える。それで彼女が少女とわかるのは女子学生服を着ていたからである。ただし腰には一本の刀が添えられていた。

 彼女の名は源義経。本日から川神学園に編入する、九鬼財閥の『武士道プラン』で生まれた源義経のクローンである。

 

「まだ見つからないの?」

「あ、葉桜先輩。申し訳ない、義経がしっかり見張っていなかったせいで」

「あいつの自由奔放は昔からだよ義経。それにあいつは今日の事はちゃんと理解しているだろうし、あとでちゃんと学園に姿を見せるって」

「それはそうかもしれないが」

 

 義経の傍に現れたのは葉桜清楚と武蔵坊弁慶に二人だった。

 弁慶は名の通り武蔵坊弁慶のクローンであり、その手には錫杖を持っている。ついでに腰には川神水の入った瓢箪をぶら下げている。しかしもう一人の葉桜清楚は25歳まで自身の正体を知らされない事情により、誰のクローンなのかは本人でさえ知らなかった。ただ読書好きや勉学に励む指示を受けていることから清少納言か紫式部と言う予想を立てていた。最後にもう一人、那須与一のクローンである青年がいるのだが今はビルの正面玄関でここにいる三人を待っている。理由は付き合えきれないからである。

 

「それにあんまり待たせると九鬼のみんなに迷惑をかける事になるよ。ここは健美を信じて先に行こうよ」

「それもそうだな……。よし、ここは健美を信じて学園に向かおう」

「了解」

「うん。それじゃあ行こうか」

 

 方針を決めた三人は与一の待つビルの正面玄関へと向かうのだった。

 

 

 

 義経たちが学園に向かい始めた頃、探され人となっていた健美はビルの最上階にいた。

 

「ヒュウ、ヒュー」

 

 健美は鳴き声のような声を口にする。まるで鳥の如く空に向かって鳴いていた。ビルの端ギリギリの場所に立ち、獣耳のように一部が逆立った髪に風を感じさせながら添え木にとまった鳥のように。

 

「ピュー、ピィ」

 

 彼女が見下ろすのは川神の町。これから自分はここで暮らし、何かを得るのだと。本能か知能かでそれを感じていた。何が起こるかわからないし、自分は何を起こすのかわからない。でも、それでも自分はここにいる実感があればそれでいいと考えている。

 

「ピュルルル……」

 

 鳴らし、鳴く健美はくるりと反転して屋上をあとにすることにした。これ以上は九鬼のお爺さんたちや義経姉さんたちに迷惑がかかると理解していた。そして健美は学園に向かうのだった。

 

 

 

 彼女は健美――夜響(やきょう)健美。遠き昔からに文の思いを汲んだ九鬼が誕生させた、『英雄になれず怪物と呼ばれた人物』のクローン。その正体は、謎に包まれている。

 

 

 川神に、その声が響き渡る。

 




今回はクローンで、葉桜先輩より謎の少女がヒロインでした。でもちゃんと日本系ですよ。

とりあえず名前からヒントを出しています。ただし自分がひらめきで考えたオリヒロです。ここでヒントを加えるとモデルはマイナーな存在と言うより、武士でもありません。むしろ『斜め上すぎだろ!』って怒られるかもしれません。

ですがしっかりと書きますのでお楽しみにしてください。


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第一話「武士道プラン、始動」

 どうも、衝動で始めたこの作品ですが頑張ってやってます。

 正直、前書きは苦手ですのでここはあいさつ程度の文と前回の簡単なあらすじを書くことにします。
 なので前回のあらすじ

『遠い昔からの手紙により、夜響健美と言うクローンが誕生した。他のクローンたちと育った彼女は川神学園へと転校することとなった』

 以上。それでは『鳴く少女のマジ恋!』、始まります。


 

 

 週明けの川神学園。今日は全校集会で生徒たち全員が校庭にいた。いつもなら学長ある川神鉄心の話を聞かされるのだが、本日は違う。

 この学園に九鬼財閥の『武士道プラン』の申し子たちが転入する日なのだ。

 『武士道プラン』とは偉人たちのクローンによって現代に甦らせ、それにより更なる刺激を世界に与える計画であり、その先駆けとしてのクローンたちが川神学園に転入することとなったのだ。

 その一端を直江大和は先日の東西交流戦で出会った源義経で触れ、そして今朝のニュースでその詳細を知ったのだった。そして更に鉄心の説明でクローンたちを含めて7人の転入生となる事も。

 そして紹介は3年の葉桜清楚、2年の源義経と武蔵坊弁慶(※那須与一はボイコット)、そして1年の九鬼紋白とヒューム・ヘルシング(※この人は特別枠)が順に挨拶をする。しかしこの順番によりほとんどの生徒がこう考えていた。

 

(最後のクローンはどうしたんだ?)

 

 3年、2年とクローンたちが自己紹介し、どちらの学年も最後の1人が現れなかったので必然的に1年に転入することがわかる。流れとして最後の1人が現れると思われたが、実際には紋白とヒュームが現れた。

 多くの生徒たちは与一のようにボイコットしたのか、逆に特別扱いされる理由でもあるのかと考えていた。

 そんな思考がある中、自己紹介を終えた紋白がその答えを告げた。

 

[さて。そろそろ気になっておることだろう、最後のクローンについて伝えるぞ]

 

 皆の意識が紋白の声に傾く。ここまで焦らされたので誰もが興味津々であった。

 

[最後のクローンは我らと同じく1-Sに転入する。ただ少々性格に難があってな。例えるなら動物のように無邪気で自由奔放なのだ]

「ん、俺みたいな奴か?」

「そりゃあキャップは自由だしね」

 

 キャップこと風間翔一がそれを聞いて笑うと師岡卓也が納得する。

 

[今朝もどこかに姿を眩ませてしまったが、今日の事は伝えている。これも動物のように素直に守ってくれる。今こそ遅れてしまったがちゃんと学園には現れるゆえ、それまで――]

 

 どうやら紋白は最後の1人が皆から悪い印象を与えられない様に今ここで事情や敬意を正直に伝えるつもりのようだ。生徒たちもその真摯さは伝わったようでそれほど不快感はなかった。

 その中の1人でもある大和は最初から不快感は抱かず、逆にどんなクローンなのかを考えていた。

 

(動物のような英雄のクローン。いくつか当てはまりそうなのはいるけど、それだけじゃわからないか)

 

 『動物のような』と言う事で清楚のような文化人タイプではなく、義経たちのような武人タイプであることは予想できたが、それで個人を特定するには情報が少ない。とりあえずその一つだけである程度は絞り込もうと無意識に頭を下に向けた。

 

 

 

 するとその先に、自分を真正面から見る少女と目が合った。

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

 思わず大和は声を挙げ、それが皆の注目を集めた。

 

「えっ、誰!?」

「と言うかいつの間に!?」

 

 京と一子も少女を見て驚くが、少女は気にせず大和だけを見ている。まるで興味を抱いた動物のように、真っ直ぐな目だった。

 

[あっ、健美!!]

「……ピュウ」

 

 皆と同じくこっちに目を向けた紋白が声を挙げると目の前にいる少女――健美は鳥のような声を出しながら彼女の方を向く。その直後、健美は紋白のとなりに移動した。ヒュームにぶら下げられた姿で。

 

[ほれ、マイクだ。ちゃんとあいさつをするのだぞ]

 

 紋白がマイクを健美に渡し、そのまま後ろに下がる。ヒュームも共に下がったので檀上には健美だけが残された。

 対する生徒たちはようやく登場した最後のクローン、健美に注目していた。そんな多くの視線中で健美は怖じけず、そして気にせずに口を開いた。

 

[やきょう、つぐみ。ふだんは、あまりしゃべらない。よろしく]

 

 それだけを伝え、腰を曲げて深々と頭を下げた。そのしゃべり方やお辞儀から見て先ほどの面々と比べ、健美は『幼い』の印象を与えた。そして顔を上げると一方的に告げる。

 

[しつもんは、こんど。でも、いっておきたいこと、いう]

 

 これで他の面々と違って質疑応答をする気はないと生徒たちに伝わったと同時、何を宣言するのかと意識する。そして生徒たちはその宣言を聞いた。

 

[ぶじんに、えいゆうに、なる]

 

 それは生徒たちに疑問を残させるものだった。しかし健美はその疑問に答える事も、その素振りを見せる事なく退場してしまった。

 

 

 

「まったく、あまり心配をかけるではないぞ」

「ピュウ」

 

 挨拶を終え、臨時集会が解散になるとクローンたちはそれぞれの教室に向かっていた。健美もクラスメートになる紋白、ヒュームと共に教室に向かっていた。

 

「それにあんな挨拶では皆に不信感を与えてしまうぞ。まぁお前が質問を今度にした事やクラウディオのフォローで何とかなったがな」

「ヒュウ……」

 

 健美は紋白が悩ましい表情をしているのを見て申し訳なさそうに落ち込んだ。その連鎖反応として獣耳の髪型が垂れ下がった。

 

「ああ、すまん。責めている訳ではないのだ。次からはしっかりすればよいのだ」

「……ピ」

 

 しかしすぐに元気を取り戻し、髪型も元通りになる。原理が気になる所だった。

 

「紋様、そろそろ教室に到着いたします」

「そうか。では共に頑張ろうぞ。ヒューム、健美」

「はい」

「ピュイ」

 

 何はともあれ、川神学園に新たな風が吹き始める。

 

 

 その先に健美が英雄になれるのか、それはまだわからない。しかし彼女は、そのきっかけをすでに掴んでいた。

 




 今回のお話はどうでしたでしょうか? 正直、健美のキャラはどこか薄いので他のキャラに負けしている気がして、彼女の立ち回りがすごく大変です。それでも彼女の魅力を引き出したいと頑張ってます。

 そして第一話を投稿しましたので健美の設定も一緒に投稿しています。まだ正体は明かせませんが、現時点での彼女の性格や立場が伝われば幸いです。

 それではまた次回にお会いしましょう。


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オリヒロ紹介

 夜響健美のプロフィールとなります。

 頑張って1000文字稼ぎました。


 

夜響健美(やきょうつぐみ)

 

身長    :150cm

血液型   :O型

誕生日   :7月20日

一人称   :※不明

あだ名   :健美 

武器    :体術、雷(氣を変換したもの)

職業    :川神学園1-S

好きな食べ物:餅(特に黄粉をかけたものが一番)

好きな飲み物:カルピスウォーター

趣味    :散策、観察

特技    :雷マッサージ 鳥の鳴き真似 動物たちとの意思疎通

大切なもの :クローンたち

苦手なもの :人混み

尊敬する人 :考えた事もない

 

 

 武士道プランで誕生したクローン、であるのだがオリジナルは現時点で不明。ただ平安時代後期には確かに存在した『モノ』であり、名前もオリジナルに沿ってつけられている。クローンとして生まれ変わるまで九鬼では賛否両論で議論が続いたため、誕生はほかのクローンたちより1年以上も後となってしまった。

 

 動物のような少女であり、喋る事もなく鳥のような鳴き声を発する。武術も変則的で無茶苦茶であるが氣を雷に変換する才能はずば抜けており、武人としては高い能力を持っている。しかし意外に勉強は得意であり、耳に入った物は大抵覚えている。

 

 クローンでは最年少なので末っ子のように可愛がられており、川神学園でもその光景が皆の目に止まるのでマスコット的存在として認識される。健美もほかのクローンたちを兄姉のような認識で見ており、頼るときは頼るし本音もビシッと告げる。

 

 戦闘スタイルは素手の格闘術、であるが実際は野生児や動物のように変則的で単純なもの。しかしその長所として動物的直感、予想外の対応、本能からの冷静さによりかなりの実力を持っている。加えて氣を雷に変換する才能は高く、同じことができるヒュームも関心させるほどのものである。戦いにも積極的に使うが、技の大半はカルチャーを参考にした物が多い。(フ○ーバーとか、極○斬とか、千○とか)

 

 自身の個性から最初こそ浮いた存在だが紋白やクローンたちのフォロー、そして学園における動物的行動が好印象となり、すぐに受け入れられるようになる。しかし武人でありセクハラ的なことを考えている川神百代や笑顔でも腹では策を練っている松永燕に対しては本能的に危ないと感じ取っているようで少し避けている。

 

 川神学園に転入した日、直江大和の前にいたのは本能的に彼が『この人はついて行っても大丈夫』と感じ取ったからである。それ以降は時間が出来る度に会いに行き、そしてよく餌付けをされている。それが延長して『だらけ部』に入部。大和と弁慶の二人から世話してもらっている。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 



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第二話「2-Sでご挨拶」

こんばんは、第二話の投稿です。
それでは前回のあらすじ

「武士道プランが始動し、川神学園には英雄たちのクローンがやってくる。クローンは全員で五名。しかし一年に転入する最後の一人がまだ現れず、紋白が彼女の事を伝える。
 大和はそれを聞きながらどんな英雄なのか予想してると、目の前のそのクローンが自分のことを見つめていた。その直後、改めて生徒の前であいさつをする。彼女が告げたのは、『英雄になる』と言うものだった」

それでは第二話、始まりです。


 ~~~時間は飛んで放課後~~~

 

 大和たちは義経たちが転入した日の放課後。彼女たちと改めて挨拶する為に2-Sへと訪れていた。そこで義経、弁慶、与一と人となりを知る事が出来た。

 そして今、弁慶に怒られそうになった与一が逃げ出した! しかし榊原小雪に回り込まれてしまい、結局は捕まってしまった!

 

「与一、ちょっと頭冷やそうか」

「う、うおあああああっ――――――――――――――!!!!!」

 

 与一は窓から教室の外へ投げ飛ばされ、ザッパーンと言う着水音がプールに投げ込まれたことを示唆していた。そして彼を心配した義経は手拭いを持って走って行った。

 弁慶が片手で見せたその光景は大和たちと2-Sの面々にその怪力の凄さを見せつける事にもなった。

 

「よっしつねちゃーん、たったかおーう☆」

 

 そんな時に武神・川神百代が上機嫌に決闘の申し込みに現れた。しかし残念ながら義経は先ほど教室から出ていってしまったところだった。

 

「ああ、武神だね。悪いけど主はいま不在だよ」

「じゃあ弁慶、お前が私と戦ってくれ」

「メンドーだからやめとく」

「え~、や~ろ~う~よ~」

 

 義経がいないから弁慶としたが断られてしまい、百代は子供のように駄々を捏ねた。

 

(さすがにこのままはマズイかな)

 

 その様子を見ていた大和はこの状態を放っておくと面倒な事が起きると考え、何らかの手を打とうと考えた。そしてそれはどういった手にしようかと顔を上げると、

 

 

 

 

 

 

 少女が天井逆立ちで自分を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

「ぶっ!?」

 

 二度目は噴き出す反応だった。それに気付いて風間ファミリーの皆も上を見上げ、そして一人残らず驚いたのだった。

 

「ああ健美、来てたのか」

 

 弁慶はこの奇天烈な事態に驚かず、ただ普通に気付く。その後に健美は天井から降りて彼女に抱き着く。

 

「ピ」

「おー、よしよし。お前は相変わらずだな」

 

 弁慶は健美の頭を撫でながら愛でる。姉妹愛、と言うよりペットと戯れているような光景だった。

 

「来てるなら都合が良いな。健美ちゃん、私と――」

「はい、失礼しますよ川神百代さま」

 

 健美の出現に百代が決闘を仕掛けようとするとクラウディオ・ネエロが割って入った。

 

「クラウ爺、いたなら早く出ておいてくれよ」

「申し訳ございません。健美さまがおかしな事をしないか見張っていましたもので」

「それはご苦労。じゃああとはよろしく」

「お任せください。――それで百代さま、義経様たちに決闘を申し込む際に提案があるのですが」

「なんですかそれ? まぁ聞きますけど」

 

 そのまま二人は話し合いをする為、皆とは少し離れた場所に移動する。これだけで色々な物が治まった。その後、改めて風間ファミリーの面々は健美に注目したのだった。

 

「こんにちは。ワタシ、川神一子」

「……つぐみ。やきょう、つぐみ」

 

 一子が名乗ると健美は抱き付いたままそれに返事をする。しかしその反応は動物的と言うか、どこか人間味が欠けた物だった。その後に他の皆も自己紹介をする。その中で健美は大和をジッと見つめており、それに京は更なるライバルを予感していた。

 

「で、早速で悪いんだけどお前って何の英雄なんだ」

「早速過ぎるよ、それ」

 

 卓也はいつも通りツッコミを入れるが彼を含め、その質問は皆も気になるものだった。健美は清楚と同じく歴史上にない名前を名乗っている。理由があっての事だろうが、それでも正体を伝えられている可能性はあった。

 

「残念だけど、健美は答えないよ。それに健美は英雄じゃないんだよ」

 

 しかしそれを弁慶が否定し、そして意味深な事を告げた。

 

「へ、なんで? てか英雄じゃないって?」

「そのまんまだよ。正確には英雄じゃないモノのクローン。それが健美なのさ」

「えっと、もしかして『歴史上では英雄として扱われていない人物』ってことか?」

「察しがいいね。その通りだよ、直江大和」

 

 理由が的中し、大和は弁慶から褒められた。他にもいくつかの理由を思いついていたが、先ほどの情報で今の答えが出ただけであるが、当てた事は内心嬉しかった。そしてこれで大和は朝に健美が言っていた事も理解できた。

 

「つまり朝の『英雄になる』って言うのは、そのオリジナルが英雄になれなかったから自分がそれを果たすってことなのか?」

「正解。私から説明しなくて助かるよ」

「よくわかるな、大和」

「まぁ得た情報から一番の可能性を言ってるだけさ」

 

 大和は謙虚に言っているが、内心では結構自慢げにしていた。と、そんな彼の制服の端を誰かが引っ張った。

 

「ん?」

 

 大和が引っ張られた所に目を向けるとそこにはいつの間にか弁慶から離れ、自分の制服を掴む健美がいた。

 

「えっと、なに?」

 

 用があるのかと尋ねてみるが健美は答えず、ただ大和を見つめていた。

 

「ああ、それは懐かれてるんだよ」

「懐かれてる? それはどういうことなんだ?」

 

 思わずクリスことクリスティアーネ・フリードリヒが尋ねる。

 弁慶はその質問に答える前に一度、川神水を一献。その後に懐かれていると言う意味を答える。

 

「健美は本能的に相手が自分にとっていい存在か悪い存在かを感じ取る。恐らく直江大和には自分にとっていい存在だって認識してるのさ」

「大和が普段からワン子を躾けてるからか?」

 

 思わず島津岳人が冗談交じりで答えたが、ある意味で納得できるものだったので誰1人否定しなかった。

 

「まぁ何にせよ健美が直江大和に懐いたならこれからよろしくって事で」

「まぁ悪い気はしないけど」

 

 大和としてはクローンたちと仲良くしておきたいと考えていたのでむしろ好都合でもあった。そう思って自分より身長が低い健美を見下ろして観察する。彼女は何も言わず、黙って自分を見上げている。

 ……可愛いと思うと同時、ワン子のように躾けたいSっ気にかられた。

 それと同時に京は健美を完全にライバルだと認識して油断しないと心に決めた。

 

「お前らー。私を差し置いて盛り上がるんじゃなーい」

 

 と、ここでクラウディオと話していた百代が戻っていた。彼女が来た方向を見ているとクラウディの姿はなく、すでにこの教室から退出したようだった。

 

「お姉さま。何の話だったの?」

「義経ちゃんたちに挑戦者する奴らの選別を任された」

「ああ、なるほど。だから姉さん、そんなにウキウキなんだ」

「そりゃあ戦いを提供して貰っているからな。ただ選別は外部からの挑戦者だ。川神学園の生徒なら普通に申し込んでいいらしい」

「ホント!」

 

 一子が川神学園の生徒優先で挑戦できると知って興奮していた。クリスも同じようであり、その瞳には闘志が宿っていた。

 

「それよりも弟、私が話している間に健美ちゃんと親しくなったみたいだな」

「いや、どちらかと言うと懐かれてる方だけど」

「じゃあ私も愛でる権利はあるな」

 

 百代はそう言いながら近づき、そのまま健美を捕まえようとした。

 しかし健美はそれをスッと避けた。

 

「ん?」

 

 なんで? と言わんばかりに呆けた顔をする百代だったがまた捕まえようとする。しかしまた避けられてしまう。

 しかし諦めず三度目。これもまた避けられる。

 

「ああ、それ。きっと本能的に危ないと思ってるからから避けてるんだよ。特に良からぬ事を考えている相手に多いかな」

「へ?」

 

 弁慶が避ける理由を口にして百代が呆けると、健美はコクリと頷いたのだった。

 どこか気まずい空気が漂う。そして風間ファミリーは何とコメントしたらいいかわからず沈黙する。

 

「……よーし、弟を弄ろう」

「ってなんで俺!?」

「だって健美ちゃん、お前に懐いて私は避けるだろ。だからこれは正統なる報復だ」

「理不尽だ!」

「そんな言葉に対する聞く耳は持ち合わせてないな!」

 

 大和はそのままとばっちりを受け、百代が満足するまで弄られてしまうのだった。

 

「……ピィ」

 

 そんな二人を健美は「大和を助けたいけど百代がいるから行けない」と板挟みになり、ただ眺めているしかしなかったのでした。

 




 今回はプロフィール通りの場面でしたね。健美は撫でられるのとか好きですが、セクハラ的なのはNGです。彼女と触れ合い時は下心なしでね。
 
 ちなみに健美が天井に張り付いていた原理は雷で磁気を起こし、その力で自分の体を建物内の金属に引き寄せてできた芸当です。
 
 それでは次回もお楽しみにしてください。
 


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第三話「だらけ部(非公認)の入部者」

三話の投稿です。今週、作品に対する感想と意見をいただき、それを意識しつつ内容を作っています。コメント、ありがとうございます。

前回のあらすじ

 義経たちの転入したその日、大和たちは改めて彼女たちとあいさつをした。最初はここにいた三人のつもりであったが天井より一年のクローン、健美が現れる。この時に彼女の存在と、その目的が明確になった。
 そして健美は大和に懐き、百代には警戒するようになった。



 

 義経たちの転入から翌日。特に騒ぎなどは起きずに放課後。空き部屋となっている第2茶道室で生徒と教諭、大和と宇佐美巨人が将棋盤を挟んで駒を指していた。

 

「あ~、小島先生とヴァージンロード歩きてぇな~」

 

 巨人は少し疲れているのか、むき出しの本心を晒していた。

 

「ヒゲ先生、武士道プランで少し疲れてる?」

「思ったほど疲れてねぇよ。義経は優等生だし、逆に気を遣って貰っているよ。ただ那須野与一が問題児なんだよ」

 

 言わずともわかること。中二病によるコミュニケーション不足が与一の抱える問題だった。

 

「それを本人には?」

「スパッと言ったが聞きゃしねぇ」

「珍しく体当たり教育をしたんだね」

「だって更生出来りゃあ小島先生も見直してくれるかもしれねぇじゃん」

 

 下心を素直に告げると巨人はチラリと大和に目を向けた。

 

「……与一の説得を俺に?」

「察しがいいね。それで返事は?」

「保留。今あいつを見てると思い出したくないことを思い出すから」

「そっか、お前は特にひどい方だったのね」

 

 これは男が一度通るものとしている巨人はそれ以上の詮索はしなかった。

 

「まぁ仲良くしておきたいけどね。弁慶はどんな感じ?」

「んー、川神水を飲んだり飄々としたりでよくわからんけど、まぁ大人しい感じよ。直江は結構、あいつとか好きそうだよね」

「性格が合いそうだね。仲良くしたいと思ってる」

「そうか。なんとなく近そうだし、わかるよ」

 

 そう言って巨人の一手。それに大和はすぐに一手を返し、しばし思考の時間となる。するとその後に、廊下の方から足音が聞こえた。

 

「ん、珍しいな。誰か通るのか」

「でもこんな場所に用なんてあるわけないし、通り過ぎるんじゃねぇ?」

「―――ところがどっこい、と」

 

 大和たちの声が聞こえていたようであり、そして扉が返事と共に開かれた

 

「弁慶。それに健美ちゃん」

「どーも」

「ピ」

 

 扉の向こうにいたのは弁慶と健美の二人。健美の手が弁慶の服を掴んでいたのでついてきた形なのだろう。

 

「なーんかいいダラ気を感じてね。自然と足が向いちゃったわけ。と言う訳でいていいよね」

「うーん。でもここはオジサンと直江の聖域だからな。無粋な真似はいただけないな」

「なんて薄汚いんだ……」

「ピ?」

「ああ、どこが薄汚いなんて知らなくていいから」

 

 首を傾げる健美に弁慶が諭す。すると健美は素直に頷いた。その反応を見て三人は『一番ここに似つかわしくないな、この子』と思った。

 

「んー。じゃあオジサンから質問。これに答えられたら許可する」

「オーケー、どんと来い」

「ピッ」

「あー、うん。お前さんはいいわ。弁慶が正解したら一緒でいいよ」

 

 ちなみにこれは二回も答えを聞くよりも楽だと思ったからである。さすがである。

 

 

 

 ~~~一つ問答中~~~

 

 

 

「よし、合格だ。このだらけ部入部おめでとう」

「だらけ部だったんだな、ここ」

「サンキュー」

 

 弁慶は巨人の問いに見事回答し、健美共々入部を果たした。

 

「じゃー早速入部祝いに川神水を頂こうかね」

「お前はいつも飲んでるだろ」

「何かあった時となかった時じゃ違うんだよ」

 

 そう答えて弁慶は宣言通り川神水を飲むのだった。

 それに対して健美は動物のように大和の背中に擦り寄った。

 

「おお、懐かれてるな直江。いったい何があったんだ?」

「なんか俺、この子に『良い人』判定を貰っちゃって」

「ふーん。逆に『悪い人』は?」

「姉さん。下心があるからって」

「あー、なるほどね」

 

 巨人もまたその理由に納得した。

 

「あー、そいや先生。体のどっか疲れてる?」

「え? そりゃあ疲労はいつも残ってるよ」

「じゃあちょうどいいね。健美、やってあげな」

「ピィ」

 

 何を? と疑問を持つ大和と巨人。その間にも健美は大和の背中から離れ、今度は巨人の後ろにやってくる。しかし今度は擦り寄るではなく、両手を巨人の背中に当てる物だった。

 

「えっ、ちょっと。何を――」

「……ピャ」

「オフっ」

 

 健美がなんか気合入れっぽい声を出すと巨人が変な声を出した。

 

「ヒゲ先生?」

「おぉ~、何これ。すっげー気持ちいんだけど~」

 

 そう言って巨人の顔に至福の表情が現れる。すごく中年っぽかった。

 

「弁慶、健美ちゃんはヒゲ先生の何をしてるの?」

「なに、ちょっとしたマッサージさ。健美は気を雷の属性に変えられるんだ。今やってるのはその応用」

「なるほど~。電気マッサージって所か。あ~、気持ち~」

 

 説明がされる中で巨人の表情がますます蕩けていく。

 大和はその特技に感心しつつ、『雷』と言う情報を付け加える。これでまた一つ、健美の正体に繋がるキーワードを手に入れた。

 

「これなら健美も堂々とここにいていいよね」

「寧ろいてくれ。名実共にだらけ部のマスコットで」

「うんうん。良かったね健美」

「ピッ」

「そうか。大和と一緒で嬉しいか」

 

 弁慶が言う通り、巨人に電気マッサージをしている健美は無邪気な笑顔をしていた。

 ここで大和はさっきから気になっていた事を弁慶に尋ねた。

 

「さっきから弁慶、健美の思っている事がわかるみたいだけど」

「そりゃあ長く一緒にいるからね。いまじゃ細かい事もわかるよ」

「へぇ~」

 

 やっぱり健美は動物みたいな子だな、と大和は改めて認識した。

 

 

 

 

 そんなこんなで今日の一日が終わり、大和は帰り際に弁慶と健美のアドレスを交換した。二人の連絡先を手に入れられて満足気な大和であった。

 




 三話、弁慶と健美がだらけ部に入部する話でした。

 内容にあった健美がこの場所に似つかわしくない理由
  ⇒健美は純真無垢だから「無気力」とか「めんどい」の属性は絶対に付加させてはいけないと
   思ったから

 次回は健美の実力の片鱗が見られます。お楽しみに


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第四話「電光石火」

第四話投稿です。今回は健美の実力の片鱗なので戦闘シーンはないですが、実力が伝わったかどうか感想をいただければうれしい限りです。

あらすじ
『クローンたちが転入した次の日。大和と巨人が非公認部活『だらけ部』の活動をしていると弁慶と健美が現れる。流れるままに2人は入部した』


「………」

 

 カツカツカツ………。

 

「………」

 

 トコトコトコ………。

 

「……俺なんかとじゃなくて義経と姉御と一緒に歩いてもいいんだぜ」

「ピッ」

「聞く気はなさそうだな。しょうがねぇ、勝手にしろ」

「ピュイ」

 

 軽くやり取りをして二人はまた黙ってします。しかし会話こそないがこの二人が並ぶとどこか兄妹と言う感がある。その一番の理由は、与一の距離感が他の誰より近いと感じられる事だった。

 

「……何度も聞くようで悪いがいいか?」

「ピユ?」

「本当に大丈夫か?」

 

 与一の問いは曖昧なものだった。普通なら何を言いたいのかわからないが、これは二人にしてみれば何度も繰り返した問答。これも最初の頃に聞かれた質問を省略した物。

 だから健美は与一の言いたいことは理解していた。

 

「わから、ない」

 

 返事は言葉にして答えた。

 

「転入前はすぐに『大丈夫』って答えてたな。不安になったか」

「………」

 

 健美は答えない。しかしこれは与一の言ったように不安を抱えている現れなのかもしれなかった。

 

「不安ならそれでいい。暗い道を歩くもまたお前次第だ。例え光のない闇だけの結末になろうともな」

 

 これは与一になりに励ましているのだろうか。しかし健美は純粋な子なので意味を理解できず首を傾げていた。しかし与一なりに心配してくれていることだけは伝わった。

 

「ん? 昨日の奴らだな」

 

 と、ここで与一が真正面を見ながら話を変えた。健美も正面を見ると義経たちと大和たちが一緒になっていた。

 

「ピ」

「楽しそう、か。確かに義経のような『光』の周りはそうだろうな。俺のような『闇』には程遠いことだ?」

 

 与一の言葉に健美はまた首を傾げた。そんな時、橋の道路を猛スピードで走るバイクを目撃し、そしてそのまま。

 

 

 

 義経の荷物がバイクの運転手に奪われる瞬間を目撃した。

 

 

 

「……ったく、あの馬鹿が」

 

 同じく盗まれる瞬間を目撃した与一はすぐさま駆け出し、健美も彼について行く形で駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーにあっさり盗られてんだよ」

「与一。すまない、義経は深く反省する」

「ピ」

「健美……。ありがとう、落ち込まないでと励ましてくれて」

「いや待て。『ピ』でそれだけの意味があるのか? と言うかいつもの『ピ』にしか聞こえんぞ」

 

 後ろから与一たちが合流する。その間にも大和は盗人のバイクが遠くへ、すでに豆粒ほどの小ささになっていることを確認した。

 

(ワン子が追いかけてるけど明らかに追い付いてない。やっぱりここは最終手段か?)

 

 大和は策を練り、チラリと百代に目を向ける。すると百代は頷き、指を鳴らした。あとは実行に移す、そうしようとした時だった。

 

「しょうがねぇ。――クラウディオ!」

「こちらに。そしてどうぞ」

 

 与一の声にクラウディオが現れ、そして長弓を丁寧に渡す。

 

「この距離から狙撃する気? いくらなんでも」

 

 京がそう呟くが与一は気にせず弓矢を構える。

 

「――さぁ行くぜ。これがソドムの弓と、この俺の初陣だ」

「そ、それは某ロボットアニメ第12作、狙撃型機体パイロットの初台詞!」

 

 与一の宣言に卓也がマニアックな知識で解説した。その間に与一は弦を引き、周囲に引き締まる音が響く。その瞳はスコープで覗いているが如く標的を捉えていた。

 

「――健美」

「ピュ?」

 

 しかし矢を放つ前、与一はそばにいる健美に声を掛けた。

 

「お前が義経の荷物を取りに行ってくれ。後でも行けるだろ?(・・・・・・・・・)

「……ピュイ!」

 

 与一は健美に荷物の回収をお願いした。それを聞いて大和たちは手間が掛かると思うと同時、与一の最後の言葉はどういう意味だと考えていた。

 そして与一は改めて標的を、ロックオンした。

 

「目標を狙い撃つ! 奥義――七大地獄の誘い(ワールド・ツアー)!」

 

 微妙なネーミングセンスと共に強烈な一閃が放たれた。

 その直後、健美の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、盗人は突然の悪寒に震えた。義経からバックをひったくり、これからの事を嬉々としていた気持ちが一転。恐怖があった。

 悪寒は背後から感じ取っており、その正体を確かめようと一瞬だけ振り返ろうとしていた。しかしそれは出来なかった。何故か? それよりも注目すべきものが、目の前にあったからだ。

 

「……ぬすみ、だめ」

 

 目の前にいた少女がそう言うと盗人がひったくったバックをいとも簡単に手に取った。

 

「なんだぁああああああ!!」

 

 盗人は事態を理解できず叫ぶがその直後、背後から迫っていた矢がバイクに命中し、転倒してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一連の光景を見ていた大和たちは関心と驚きを同時に抱いていた。関心は与一に対して、驚きは健美に対してだ。

 

「あの距離を当てたのはすげぇけど、あの後輩はビックリだ……」

「おっほ~、マジかよこれ」

 

 岳人が驚きで呟く中、翔一はテンション上々で道路に目を落としていた。そこはハンマーで叩き付けたような破壊跡があった。しかしこれはハンマーが叩いたのではなく、踏み抜いた結果破壊された跡だった。

 

「矢の速度を超えて、そのままバイクより前に出るなんて……」

 

 黛由紀恵は驚きつつも先ほど一連を口にしていた。

 

「どうだい? あれが健美の実力。その一端だよ」

 

 そこに口を挟んだのは弁慶だった。盗人が成敗されて先ほどより気が緩んでいた。

 

「えっと、何が起こったんだ? あいつが消えたと思ったら与一の矢とは別の閃光がバイクに向かっていったり」

「んー。そこまでの説明はめんどいなー」

「じゃあ義経が説明しよう。――健美は気を雷の属性に変える事が出来る。ヒュームさん曰く雷は一撃必殺だけじゃなく爆発的な加速力を持っていて、さっき健美がやったのはその力を使った『雷迅(らいじん)』。そこのへこみは健美が踏み抜いた跡で、もう一つの閃光と言うのは雷を纏った健美だ」

 

 川神ではよくある、常識を覆したものだった。男性陣は開いた口が塞がらず(翔一は除く)、女性陣は唾を飲むほど彼女の存在を意識した。百代だけが笑って健美がいる正面を見ていた。

 

「……本当に、楽しみになってきたなぁ」

 

 その目は闘氣が燃え、鋭いほどに輝いていた。

 そうこうしている内に向こうから一子と荷物を回収した健美がこちらに戻ってくる。しかし辿り着く前に、健美が一定の距離で足を止めた。

 

「ん? どうしたんだ」

 

 大和が呟き、健美と一緒にいる一子は『どうしたの?』と聞かんばかりな様子だった。

 

「あー、アレは警戒してるね。武神に」

『あ~』

 

 弁慶が川神水を飲みながら呟き、皆が口を揃えて納得した。その際、百代は岳人を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ピピ?」

「え、与一? あれ、いないぞ?」

「ああ、与一さんでしたら『組織に盗撮されちまった』と言って1人走っていきましたよ」

 

 そんなオチだった。

 




以上、第四話でした。

今回は原作のシーンに準じて、そこに健美の実力を見せる結果となる形を目指して書きました。ぶっちゃけ与一が矢を放つと同時にコインを弾いて打つネタも考えたんですが、なんか違うなと思ってやめました。

さて、そろそろクローンたち歓迎会の話に入ります。そこで健美がどう立ち振る舞うか、楽しみにしてください。


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第五話「夜のひととき」

 五話の投稿です。盆は親戚に顔を出していた時には執筆を止めて、明けて書き上げた週になりました。人生何があるかわからないので、親兄妹、親戚等に顔を見せるのは大事です。


あらすじ
『健美は与一と一緒に登校していたがその時、義経が荷物を奪われてしまう。それを与一と共に阻止する。与一は弓術で倒し、健美は氣で荷物を取り返した。その場にいた皆がその実力を目の当たりにした瞬間だった。』


 

 カリカリカリ……

 

 川神学園から帰宅中した健美は書く音を鳴らしながら1人勉強をしていた。彼女がやる順番は決まって宿題、復習、予習だ。そしてこれを90分で区切りをつけている。

 そしてその90分がたった今過ぎた。

 

「ヒュゥゥ……」

 

 ため息でさえ鳥の声に似ている。風に乗せるが如く、笛の音に近い声だ。

 

「………」

 

 健美は机上の片付けながらこの後の時間をどう使うか考える。鍛練するもよし。義経たちのところに行くのもよし。空を眺めるのもよし。思いつくものはたくさんある。しかし思いついても、『これがいいと』思えるものはなかなか出なかった。

 

「ピィィ……」

 

 机上の片づけが終わった頃に健美が力弱く鳴く。これと言ったものが決まらず、かといって何もしないと言うのはもったいない。『何かしたいけど何も思いつかない』状態が健美の気持ちを落とし込んでいた。

 そんな時、廊下からこの部屋に向かっているような気配を感じた。

 

「?」

 

 誰? と言わんばかりの顔で健美は扉に向かう。そして近づく気配で相手がこの部屋に向かっていると確信を得ると先に扉を開けた。

 

「おおう。また先を越されたか」

「ピ?」

「その通り。我、紋白であるぞ」

 

 部屋にやってきていたのは紋白であった。そして先ほどの返事を聞く限り、彼女も健美の言いたいことが理解できているのだろう。

 

「ピュイ」

「確かに用はあるぞ。少し話に付き合って貰いたいのだが、良いか?」

 

 紋白はどこかうずうずした様子で健美の返事を待つ。

 健美は紋白からの誘いにどうしようかと思ったがちょうど時間は開いているし、しかも何をしようかと悩んでいたところだった。であれば答えはわかり切っていた。

 

「ピィ」

「おお、付き合ってくれるか。ではすぐ一緒に行けるか?」

「ピュイ」

「そうか、では行こうか」

 

 そう言って紋白が手を出す。健美はその手を迷うことなく握り返し、そして二人は並んで移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 健美は紋白の部屋に連れてこられ、そこで義経たちの歓迎会兼誕生日会を行う事を告げられた。

 

「ぷぴ?」

「健美、カルピスを飲みながら喋るではない。ストローでも行儀が悪いぞ」

「(チュルッ)ピ?」

「うむ、義経たちの歓迎会を今度の金曜にやる事となった。幹事は2-Fの直江大和。お前も知っているあやつだ」

 

 ストローから口を離して改めて返事をした健美に対し、紋白は歓迎会の幹事を大和が行う事を伝えた。すると健美の髪が二度上下に動いた。

 

「それで健美、お前にもその準備を手伝ってほしいのだ」

「ピュイ」

「『やる』、か。即答であるな」

「ピー」

「『何をやればいい』とは、やる気が十分であるな。しかしこの件は幹事である直江に聞くと言い」

「ピィ」

 

 やる気満々の健美は軍隊形式の敬礼で答える。カルピス片手なので微笑ましい。

 

「うむ、頼むぞ。――と、我はそろそろ鍛錬の時間だ」

「ピィ」

「すまぬな。我から誘っておいて」

「ピピ」

「フハハ、そう気を遣ってくれるとは有り難いな。では我は行く。歓迎会の件、よろしく頼むぞ」

「ピ」

 

 健美は再び敬礼で答え、それを見た紋白は上機嫌に部屋をあとにした。

 

「……(チュルルルルル……)」

 

 そして健美は残りのカルピスを黙って飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

「……けぷっ」

 

 結局もう2杯もお代わりをして部屋をあとにした健美。グラスなどは自分で運んで自分で片付け、あとの作業は従者部隊の人に任せていた。

 さて、今度は何をしようか? と言った風情で歩きながらキョロキョロと顔を動いていた。

 

「どうやら暇しているようだな」

 

 その時、健美が背後から声を掛けられた。足を止めて振り返ると、そこにはヒュームがいた。

 

「ピ」

「……相変わらず驚きもしないが、まぁいい。健美、今日技を使ったな?」

 

 ヒュームが言っているのは『雷迅』の事だった。それに健美はオクリと素直に頷いた。

 

「そうか」

「ピュイ?」

「問題があるかだと? 問題はないが、不用意に技を使うな。下手をすると機が熟す前に正体を知られることになる」

「………」

 

 ヒュームがそう指摘すると健美は黙り込んでしまう。しかしそれに構わず話を続ける。

 

「お前が英雄として認められる条件は覚えているな」

「……じつりょくと、な」

「そうだ。ただ強くても多くの人間がお前を知り、認めなくてはならない。もしこれを怠るならお前は、前のお前と同じように英雄としては見られないだろう」

「………」

「だから不要に技を使うな。でなければお前は――」

 

 

 

 

 

 

 

「なーにしてんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の会話に、第三者の声が割って入り込んだ。健美とヒュームが振り返るとそれは与一だった。

 

「……っ」

 

 その姿を捉えた健美は彼の傍に駆け寄り、そのまま抱き付く。その体は、触れてわかる程に震えていた。

 

「ったく、序列0番の趣味がチビッ子いじめとは感心しねぇな」

「俺はただ忠告しただけだ」

「忠告だったら数年前の件(・・・・・)で健美は理解している。これ以上はただの脅迫だ」

「そう言えばお前はあの現場にいたな」

「まぁな。言っておくが義経たちには言ってねぇぞ」

「ほぉ。賢明な判断だな」

 

 ヒュームの眼光と与一の眼光が合わさり、ぶつかる。特に与一はいまだ震える健美の頭に手を乗せていた。

 

「……まぁいい。だが余計な手間は掛けさせるなよ」

「ふん。さっさといけよ」

 

 ヒュームは返事をすることなく姿を消した。そして彼の気配がなくなると同時に与一の緊張が解けた。

 

「ふぅ~。あのジーさん相手によく言えたな、俺」

 

 自分で自分を褒めた。相手は従者部隊最強の執事に対してあそこまで言えたのだ。十分に誇れる事だった。

 

「っと、大丈夫か健美」

 

 震える健美を落ち着かせるように声をかけ、頭を撫でる。すると健美の震えが徐々に治まり、最後には消え去った。

 

「……よ、いち」

「名前で呼ばれるのは久しぶりだな。ったくヒュームが。今朝に覚悟を確認したってのに、追い詰める様な真似をしやがって」

「キュゥ……」

 

 与一のセリフに健美が一層抱き付いてくる。

 

「あー、すまん。また怯えさせちまったな」

 

 自分のせいで再び不安にさせてしまった事を反省し、また健美を落ち着かせた。

 

「でも今朝も言っただろ。不安でもいい。どんな道であってもお前次第だってな」

「……クピ」

「だから健美、お前らしく英雄を目指せ」

 

 与一の言葉が、強く心に届いた。

 健美は与一から離れ、見上げて目と目が合う位置にまで後ろに下がると満面の笑顔を見せた。

 

「ありが、と」

「……礼はいらねぇよ」

 

 と言いつつ、与一は目を逸らして頬を染めていたので照れているのは見てわかる程だった。

 

 




今回は健美はいつもよりしゃべり、与一がちょっとかっこいい話でした。

前回の話から見てわかるように、健美は与一に懐いています。いわゆる「兄なら妹を守る」系の感じです。それに原作を見ていても、『与一ってなんだかんだ言いながら弟とか妹とかは面倒みるタイプなんじゃないか』と言う妄想があります。弁慶に酷い目合わされるから、その反面教師的に。

そして次回からはあの人が絡んできます。お楽しみにしてください。

それと『数年前の件』は健美の正体にかかわることなのでまだ先になります。


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第六話「ツバメとツグミ」

六話投稿です。今回の話で燕が登場します。


前回のあらすじ
『九鬼の極東本部。そこで健美は紋白としばしの会話を行った後、ヒュームから忠告を受ける。それに何も答えずにいたがそれを与一が庇い、そして安心させたのだった』


 

 

 

 

 今日、3-Fは朝のホームルームから騒がしかった。その理由を簡潔に伝えよう。

 

 今日、『こんな時期』と思えるこの日に転校生がやってきた。クローンではない一般人。

 

 その転校生は『美少女』と呼んでいいほどの少女だった。そんな彼女は、敬子程度であっても『武神』と呼ばれる川神百代と相対する事となった。

 

 その少女の名前は、松永燕。

 

 

 

 

 

 ホームルームの最中、隠す事のない喧騒の音が聞こえた事から皆揃ってそちらに目を向けていた。健美もその1人だった。

 

「ほぉ、さっそくか」

 

 ふとヒュームの呟きを拾った。昨日のこともあって健美は少し距離を取っている反面、関わりたくないとつい意識している状態なので必然と聞こえたのだ。

 なにやら意味深な呟きだったが今は距離を取っているので詮索せず、校庭の様子を眺めて窓に張り付いているクラスメイトと同じように健美も同じようにした。

 

「グッ!? 誰よプレミアムなアタシに乗ってるのは!?」

「ピ?」

「ってアンタか。乗るならあまり体重をかけるんじゃないわよ」

「ピ」

 

 ちょうど武蔵小杉の上だったが、特に強く怒られる事なかった。理由は同年代でもマスコットな扱いを受けているからである。

 小杉に気を遣ってあまり体重をかけない様にした健美は改めて校庭の、そこで行われていた戦いに目を向けた。一人は百代、もう一人は知らない人――燕――だった。

 

「ピィ……」

 

 そして健美は目の前の戦いに『スゴい』と呟いた。拳のみで戦う武神の百代に対し、燕はありとあらゆる武器と技を披露する。それはまさに力と技のぶつかり合いだった。

 戦いは見事。しかし健美はある事でこの光景を素直に賞賛する事はしなかった。

 

「健美、あの二人を見てどう思う?」

 

 そんな時、紋白が感想を求めてきた。しかし彼女は他の皆のように窓から外を覗くではなく、少し離れて窺うと言った感じだ。

 しかしそんな事で何かを探る気はなく、健美は自分の思うままの感想を答えた。

 

「たのしそう」

 

 そう言って指差したのは百代。

 

「うかがってる」

 

 そう言って指差したのは燕。

 

「……そうか。相変わらずお前は本質を感じ取るな」

 

 紋白は険しい表情で、しかし誇らしげに笑っていた。

 

 

 

 

 

 大和は今日のお昼をプールサイドで食べていた。理由は場所が空いている上に水気で涼しげだから。風が吹いていればもう少し涼しいのだが、残念なことに今日は無風だった。

 

「ピィィ……」

「ん、暑いのか。だったら風間の名を持つ俺が風を呼んでやる!! うぉおおおおおおお!! 俺の眷属の風よ! いざ吹けぇ!!」

「なんか与一の台詞っぽいぞ。それと吹いてこねぇし」

「ああ、時間差で吹くんだ。少し待とうな」

「ピッ!」

 

 大和が呆れるに対し、健美は納得してしばし吹くのを待つ事にした。しかし大和と翔一ならわかるが健美がいる光景は珍しかった。

 

「で、えっと、夜響ちゃん?」

「つぐみで、いい」

「じゃあ健美ちゃんで。会場の設置は今日の放課後から始める。とりあえずはその手伝いをお願い」

「ピ」

 

 これが健美のいる理由で、彼女は大和に歓迎会の手伝いを改めて申し出ていた。

 

「ありがとう。じゃあこれをあげるよ」

 

 大和があげたのは川神ラゾーナのロールケーキ。おやつにと持って来ていたものだ。

 

「ピィ♪」

 

 受け取った健美は髪をピコピコ動かしながら頬張る。微笑ましい光景だ。微笑ましい光景だが。

 

「……なぁ大和。こいつの髪ってホントどうやって動いてるんだろうな?」

「気にしちゃダメだと思うぞ」

「そうかなー。しかしこのロールケーキ美味いなー。よし買ってくるか!」

「今からか? さすがに昼休み中には戻って来れないぞ」

「俺はいま食いたいんだ!! じゃあな!!」

 

 そう言い残して翔一はプールサイドから走り去ってしまった。すると彼を追うかのように風が吹いた。

 

「本当に吹いたよ。末恐ろしい」

「ピィィ……」

 

 言が実現した事に大和は驚き、ようやく吹いた風に健美は気持ちよさそうにしていた

 

「少し昼寝でもするかな?」

「ピュイ?」

「あー、うん。言ってることはわからないけど好きにしていいよ」

「……ピピッ」

 

 理解したようで健美は敬礼をする。そして彼女は、横になった大和の頭の下に自分の膝を入れた。

 誰がどう見ても健美が大和に膝枕をしている光景だった。

 

「……えっと」

「ピィ?」

「いや、そんな『どうしたの?』って顔をされても」

 

 大和は困ったが『好きにしていいよ』といった手間、断るのは少し躊躇った。と言うより、膝の感触が心地よかった。

 

「まぁいっか。お願いしていいか?」

「ピ♪」

 

 陽気な返事だったので大和は了解の意志と受け取った。そしてそのまま陽気に呑まれ、眠りの中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 ペシッ。

 

 そんな感触と痛みで大和は目を覚ました。

 

「ん、なに……?」

「おはよー。また会ったね」

 

 目が覚めた大和は明らかに健美ではない、そしてよく知っている声を頭上から受け取った。

 

「納豆小町の松永燕先輩?」

「ごめいとー♪ 知ってるなんて嬉しさひとおし」

「今朝にあれだけ目立った宣伝をしていましたからね」

「んふふ、キミたちの名前は?」

「2-Fの直江大和です。こっちは1-Sの夜響健美です。よろしくお願いします」

「礼儀正しい子だね」

 

 そう言って燕は悪戯心を潜めた笑みを浮かべた。

 

「………」

「っと」

 

 すると膝枕をしていた健美が大和を起こし、彼の後ろに隠れた。

 

「おやおや。そっちの子には警戒されちゃったかな?」

「なんかすみません」

「気にしてないよ。ところで大和クン、年上に好かれたりしない?」

「大和クン……」

 

 『大和クン』と言うしみ入る響きに大和はつい動揺した。しかしそれは出来るだけ隠し、燕の質問に答えた。

 

「確かに年上ウケはいいかもしれません」

「でしょー。その上で聞きたいんだけど、年上に買われたい願望とかある?」

「!?」

 

 大胆な質問に大和はまた動揺した。しかし質問されたならどんな内容でも答えなくてはならない。そして大和はそれを口にしようとして。

 

 

 

 ビリッと、電気が発生する音が聞こえた。

 

 

 

「およ?」

 

 その声は燕の物であり、大和は何かと辺りを見渡して声は出さなかった。そして音の正体に気付く。

 先ほどから黙っていた健美から、科学実験のように体から電気を発生させていた。

 

「健美ちゃん、どうした?」

「…………」

 

 大和が声をかけるも健美は返事をしない。ただ燕を見ているだけだった。

 

「ん~。どうやらその子には少し嫌われちゃったかな?しょうがない、今回は出直すよ」

 

 対する燕は健美の視線から何かを感じ取り、踵を返して二人に背を向けた。

 

「松永先輩」

「燕でいいよ。燕先輩で」

 

 それを最後に燕はプールサイドから去ってしまった。その姿を見送った後、大和は頬を痛くない程度に引っ張られた。

 

「ふぁ?」

 

 引っ張られた状態で、大和は後ろに視線を向けて犯人を見る。言うまでもなく犯人は健美で、彼女は黙って大和の頬を引っ張っていた。

 

「ふぇ、ほ(えっ、と)……?」

「……あれ、きをつける」

「はえっへ、ふあえへいはいほほお(あれって、燕先輩の事)?」

「きを、つける」

 

 それから健美は午後の授業に間に合う時間まで大和の頬を引っ張って離さなかった。

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 大和たちと別れた燕は校舎に入ろうとした所で、入ってはもう見えなくなるプールサイドに目を向けた。

 

「夜響健美、雷使い、鳥の声……。なるほど、こりゃあすごい事だわ」

 

 燕は初見で最も有力であろう健美の正体を予想して、そんな感想を抱いていた。

 




サブタイトル通り、二人の出会いの話でした。燕は所見で健美の正体に感づいています。その上で驚きました。健美の正体はそう思える存在です。

さて、次回は義経たちの歓迎会の話。そしてその後から健美√が本格的に始まります。どうか楽しみにしてください。

あと健美のヤキモチがちょっとかわいかった。


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第七話「小さな活躍」

 投稿です。内容は少し薄味かもしれませんが、どうか見ていってください。


あらすじ
『川神学園に新たな刺激が現れた。それは転校生、松永燕の登場だった。朝にて百代とやり合えた彼女はすでに学園で話題となった。
 そんな彼女が大和と健美と接触。小悪魔的に大和と会話する彼女だったが、健美が警戒したことで退散する。そして去った後、彼女はすでに健美の正体に感づいたようだった』


 

 

 

 義経たちの歓迎会の準備は滞りなく進んだ。多くの生徒たちが積極的に手伝ってくれた事もあるが、その皆に的確な指示を出していた大和のおかげとも言える。

 そして今日、その歓迎会の日となった。ただし、トラブルもあった。

 

 

 

「与一が参加したくないって?」

 

 弁慶からのメールで事態を知った大和は会場を抜け出し、義経たちと合流していた。

 

「すまない。何とか来てくれと頼んだんだが」

「それをあいつは無視して……。やっぱり殴ってでも連れてくるか」

「いや、それはダメだ。今回は三人が主賓なんだから一人でも機嫌が悪いと台無しになる」

 

 指をバキバキと鳴らして今にでもとっちめに行きそうな弁慶を諌め、大和はどうするべきか思案する。

 

「じゃあどうするんだ?」

 

 急かすように弁慶が代案を求める。義経の方は自身の不甲斐なさで少々落ち込んでいる状態だった。

 もうすぐ歓迎会が始まる。その時間が一刻一刻と迫る状況の中、大和は覚悟を決めた。

 

「俺が説得してみる」

「お前が?」

「ああ、だから少し待ってくれ」

 

 時間もない事もあって大和は返事も聞かず与一の所へ向かった。

 

「行ってしまった……」

「そうだね」

 

 大和に賭けてみるしかない。二人は同じことを考えて待つことにした。

 

 

 

 ――その事に意識していた為か、窓の外に映った影を見逃してしまった。

 

 

 

 

 

 与一の説得を買って出た大和は屋上にて彼と対面していた。

 

「よぉ、与一」

「……直江大和か。確かお前、歓迎会の幹事だったな。説教でもしに来たか?」

 

 どうやら歓迎会についてはある程度把握していたようであり、大和が来た理由もすぐに理解していた。なら話は早いと、大和は説得に入った。

 

「説教じゃなくて説得だ。でないと弁慶にボコられるぞ」

「グッ……。だ、だがそんなことで俺は曲げねぇぞ。うん」

 

 体を震わせながら、芯のある事を言う。本人がいたら有無言わさずボコられそうだが。

 

「とりあえず、与一。素直に歓迎会に出てくれ」

 

 そこに大和が脈絡もなく、ストレートに参加を願いでいた。すると与一の体から震えがなくなり、弁慶の名前を出す前の状態に戻った。

 

「ハッ、偽善だな。正直に言ったらどうだ? 内申が欲しいだけだって」

「うんそうだよ」

 

 あっさり認めた。

 

「……素直じゃねぇか」

「誤魔化しても仕方がないからな。ただ勘違いしてくれ。俺は後輩の力になりたいだけなんだ。ただそれで下心がゼロって訳じゃない」

「いいな。見返りもなしに名前もしならい奴の為に頑張るなんて理解できねぇからな。俺が理解できるのはこっちだ」

 

 与一が見せたのは彼の携帯電話。しかも現在進行でイジっている。

 

「ネットか?」

「ああ。ネットはいい。学校の授業よりも掲示板の情報が役に立つ」

「俺もやってる。ハンドルネームは?」

堕天使ノ翼(ルシュファーズハンマー)だ」

 

 その名前に大和は確かな刺激を古傷から感じた。

 

(最初からわかっていたが……コイツは昔の俺並だ……!)

 

 羞恥とトラウマが大和を攻め立てる。しかしだからこそ与一を説得できる確証もあった。過去と現在の葛藤。しかしそれも一瞬だった。

 

(やるしか、ない!!)

 

 覚悟を決めた大和はすぐにスイッチを入れ――

 

 

 

 ようとして先に健美の姿を目撃した。

 

 

 

 

「ピュ」

「ん?」

 

 相変わらずの鳴き声を聞いて与一も彼女の存在に気付く。大和は中二スイッチを入れそこなった為に一時フリーズしており、数秒かけて再起動する。

 

「えっと、健美ちゃんも来たんだ」

「ピッ」

 

 返事をすると健美はある方向――階段ではなくフェンス――を指差した。大和はそれが何か読み取れず首を傾げるが、与一の方は合点が言ってそれを口にする。

 

「また壁に張り付いて登ってきたのか」

 

 それを聞いて大和も理解した。以前、健美が2-Sの教室の天井に張り付いた原理を尋ねており、今回もその方法で登ってきたのだ。その原理とは雷変換を磁力のように応用し、それを建物内の鉄骨に引きよせてくっついたと言うもの。本人曰く『5段階目の技』らしい。

 

「お前の歓迎会に参加しろってか?」

 

 与一が尋ねると健美はコクリと頷いた。

 

「……いや、お前の頼みでも聞けねぇな。だから」

「ピピ」

「何、『準備頑張った』?」

「ピッピ」

「『少しだけ料理手伝った』?」

 

 与一が健美の言いたい事と口にして復唱しながら会話する。それを見ていた大和は「相変わらず言っていることがよくわかるな」と改めて思った。

 そしてしばらく二人が会話をしていると与一が立ち上がった。

 

「与一?」

「お前、色々と健美の面倒を見てくれたみたいだな」

「まぁ、懐かれたらしくてね」

「懐かれた、か。そうか、お前も『特異点』だったのか……」

 

 最後はわざとらしく小声だったが大和にはバッチリ聞こえていた。再び羞恥とトラウマに攻め立てられたが、見方によっては与一に味方だと認識されたことだ。今後の付き合いを考えるならそれでよかったと、大和は思う事にした。

 

「参加してくれるか?」

「まぁな。だが今回は健美に免じてだ。俺はどうあっても闇の住人。光の住人たちと慣れ合うなんて事はしねぇからな」

「………」

「……だぁー。歓迎会はしっかり楽しんでやるから」

「ピィ♪」

 

 喜ぶ健美を、与一は不貞腐れながら彼女の頭を撫でる。それを眺めていた大和は無事に歓迎会を始められる事に安堵した。ついで、スイッチを入れる事がなくて本当に安堵していた。

 

 

 

 

 

 ――そして歓迎会は無事に成功した。

 

 

 

 

 




『中二のセリフって意外に難しい!!』

 そんなことを思いながら今回の話を書きました。結局、健美が割って入ったことでそんな場面は出なかっただけどね。

 まぁ前にもあったように与一は健美絡みが多くなります。なので彼の活躍も頑張って書きます。

 次で原作のプロローグ編が終わります。では、また。


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第八話「ここから始まり」

 ここで原作プロローグ編終了になります。


あらすじ
『歓迎会当日。急に行きたくないと言い出した与一を説得するために大和は彼のところへ向かった。そして改めて与一の中二病の規模を痛いほどに理解する。
 なら自分も! とスイッチを入れかけたところで健美が乱入。彼女が歓迎会準備を手伝ったことを伝えると与一は参加してくれることなった。小さな活躍が、成功を収めたのだった』


 

 

 

「歓迎会、楽しかったな!」

 

 歓迎会を終え、義経は大扇島にて感謝と歓喜を口にした。

 

「そうだねぇ。与一が素直に来ていたならもっと気持ちよく始められたんだろうけど」

「ここでそれを言うか、姉御? ちゃんと来たんだからもういいだろ」

「文句でもあるのかい?」

 

 反抗的な与一に弁慶から殺気が漏れる。今すぐにでも仕置きと言う制裁が行われそうだった。

 しかしそれを、健美が2人の間に入り込んで止めた。

 

「ピ」

「……『許してあげて』、か。与一、可愛い妹分に感謝するんだな」

 

 穏やかに弁慶から殺気が霧散する。与一も見てわかる程にホッと息を漏らしていた。

 

「そう言えばあの歓迎会は健美も手伝っていたな。ありがとうな」

「そうだね。それとお前が作ったって言うお菓子、なかなか良かった。ビリッとしていたけど」

 

 思い出したかのように義経がお礼を言いつつ頭を撫で、それに乗っかった弁慶は抱き付いて頬ずりをする。絵になる、微笑ましい光景だった。

 

「ピィ」

「ああ、お前はちゃんと頑張っているぞ。これならお前は英雄になれるさ」

 

 義経の言葉に、三人から少し離れていた与一が健美を見る。健美は義経に褒められて嬉しそうだったが、与一はその笑顔の奥にあるモノを見ていた。

 

「でもまだまだこれからだね。ところで健美、この一週間で思った事なんだがろくに決闘とかしてないな? 挑戦者はいないのか?」

「ピ」

「……好敵手より愛玩動物として見られているのか。まぁ気持ちはわかるけど」

「なんと!」

 

 ここで改めて浮上してきた事実だった。偉人の存在を置くことで未来の人材たちに競争意識を高めさせ、切磋琢磨させる『武士道プラン』。それなのに健美だけがその対象に見られていないのは問題だった。

 

「でも健美はこう可愛いし、切磋琢磨する好敵手にしては迫力はないからな」

「た、確かに」

「いやそれで納得するなよ、義経。でも確かにこのままだとマープルの小言確定だな」

「なんだ与一。お前も心配なのか」

 

 弁慶が茶化すと与一は何も言わずそっぽを向いた。下手に言い返しては物理的にやられるし、何より上手い言い方を見つけられなかった。

 

「だんまりか。まぁいい、今は健美の今後だな」

「とりあえず来週で誰かと決闘をしてくれるようにお願いをするか?」

「まぁ最初の出だしはそれがいいかのね。ただその後はどうするか……」

 

 話は戻り、英雄を目指す健美のこれからについて考える二人。しかし健美を英雄として押し上げる為には決闘だけではなく、もっと別の何かが必要だ。それがどういった物なのか、思いつかなかった。

 

「おい与一、何か案はないのか?」

「って俺かよ!?」

「妹分が困ってるんだ。力になりな、これ命令」

「しかも拒否権なしかよっ!?」

 

 ――ポンッ。

 

 弁慶が与一を巻き込んだ所、健美が拳を手の平の上に軽く叩いた。

 

「健美、何かいい案が出たのか?」

 

 健美は義経の問いに、コクリと頷いた。

 

 

 

 

 ――その夜。

 

「――なるほど、俺に頼みたいと」

『そういう事。健美がお前に頼みたいそうだ』

 

 廃ビル屋上。金曜集会にしてパーティーの二次会から抜け出した大和(※実は入れかけた中二スイッチが完全にOFFになってなかったようであり、先ほどついそれを出して皆にからかわれた後である)は携帯電話で弁慶と話していた。

 

『人脈の広さ。適材適所の手腕。なにより健美はお前に懐いている。だからこそ本人はお前に頼みたいらしい』

「そりゃあ先輩として嬉しいね」

『そうだな。恐らく健美は今日の歓迎会、紋白の頼みだった今日のイベントを成功させた事も含めてるんだろ』

「紋様とは仲が良いのか?」

『歳が一番近いからね。と言っても健美があんなんだから紋白が引っ張る感じだけどね』

「それは、目に浮かぶな」

 

 大和が思い浮かべたのは健美の手を引っ張りながら前を歩く紋白の姿。それは微笑ましい光景だと思うと同時、ロリコンのハゲが暴走しかけるだろうと思っていた。

 

『それで大和、やってくれるか?』

「構わないよ。その代わり、こっちに何かがあったら遠慮なく頼らせてもらうから」

『抜け目ないな、お前。まぁ妹分の面倒を見てもらうんだ。その時はおつりが来るくらいの頑張りをしてやるよ』

「珍しいな。弁慶がそんな事を言うのは」

『私だってやる時はやるし、家族が受けた恩は倍返したいのさ。――それじゃあ詳しい話は次の学園で』

「ああ」

 

 そこで通話は終了した。

 

「健美ちゃんを英雄にする為のプロデュース計画、って所かな?」

 

 まさにアイドル育成のようだ、と大和は笑う。

 

(でもこの一週間の騒動の中だと、あの子の事が浮かぶんだよな。多分、気になってるだと思う)

 

 その気持ちにいくつかの心当たりを思い浮かべるが、そのどれかに決めるにはまだハッキリしていない。それを確かめるために、弁慶からの電話はいい機会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――正体不明のオリジナルを持つクローンの少女。

 

 ――彼女と共に行動することが決まった大和はただ静かに思いを馳せる。

 

 ――健美の正体を知ったその日、彼の心はどう固まるだろうか。

 

 ――静かに、そして満ち足りる夏が始まる。

 

 

 

 

 




 以上、プロローグ編の終了です。分岐する前に決まった感じですが、この作品は大和×健美なのでご容赦を。

 この作品における大和の立場は『自分の手腕で健美を英雄にする事』です。A-2の葉桜清楚√に近い感じです。ただしそれとは違うやり方で名を広めていくので、楽しみにしてください。


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第九話・前「初めての決闘」

 ようやくバトル回です。まだ未熟なのでうまく描写できているかわかりません。なので意見があれば遠慮なくお願いいたします。


あらすじ

 歓迎会後、義経たちは英雄を健美の事を想ってこれから先についての話題を出す。しかしいい案が浮かばなかった三人は歓迎会の幹事をやっていた大和に頼むことにした。
 真夜中にその旨を伝えると快く受ける大和。そしてそれが、彼と彼女の物語の始まりだった』


 

 休みの土日飛んで平日の月曜日。

 

「それじゃあ頼むよ、大和」

「ピピッ!」

「ちなみに今のは『よろしく、先輩』と言ってるよ」

「うん、よろしく」

 

 昼休みの休憩時間初めから弁慶は健美を連れて大和の所にやってきた。ちなみに教室ではなく、廊下での合流だ。

 

「それでどうだい? 金曜は丸投げした感じだったけど」

「うん。最初のアピールは弁慶たちが言ったように決闘がいい。この学園なら武の実力を魅せる事が一番だからね。対戦相手も決まってる」

「それって風間ファミリーかい?」

「いや、違うよ」

「んん?」

 

 その否定に弁慶は『違うのか?』と言わんばかりに驚いた顔をしていた。

 

「それはどうして?」

「俺も最初はワン子やクリスにお願いしようと思ったけど、多馬大橋での一連を見たからね。過大評価をするわけじゃないけど健美ちゃんの実力はかなり上だと思ってね」

「そこまで評価してくれるなら逆にありがたいさ」

「ピ」

「これは『ありがとう』って言ってるよ」

「どういたしまして。――それじゃあ決闘をしてくれる相手を紹介するからついて来て」

 

 大和は手招きをしながら歩き始める。その次に健美、そして弁慶と後から続いていく。

 

「ってあれ?」

 

 その途中、弁慶がこの方向がある場所に向かっていると気付く。が、指摘するのも面倒だったので黙っておくことにした。

 

 そして大和が案内し場所、そして相手は――。

 

「来ましたか。ではすぐに始めましょう」

「ああ、よろしく頼むよマルギッテさん」

 

 2-Sでそこに在籍するドイツ軍人マルギッテ・エーベルバッハだった。

 

 

 

 

 

 決闘の礼儀に従い、健美とマルギッテは互いの校章ワッペンを重ね合わせた後、すぐにグランドへ移動していた。マルギッテは愛用のトンファーを持ち、健美は動きやすいように体操着に着替えていた。

 

「で、なんでマルギッテが相手なんだ?」

 

 弁慶はこれから始まる決闘にて、特等席になるだろう場所でそう尋ねた。他には義経と与一、そしてクリスがおり、そして源氏組はこの采配が気になっている様子だった。

 

「さっきも言ったけど俺は健美ちゃんの実力はかなり上だと思う。でもそれだと学園内から対戦相手は限られるんだ。それこそ弁慶たちクラスぐらいじゃないと」

「そこでマルさんが適任だと大和は考えたんだ。自分としては先に戦いたかったが、マルさんは前から戦いそうにしていたから譲ったんだ」

「ああ、だから今朝から闘氣が出ていたんだな、エーベルバッハさんは」

 

 義経が納得したと言わんばかりにうんうんと頷いた。

 こうしてマルギッテを選んだ理由を一通り伝えた大和は次に、この決闘における勝敗について語った。

 

「それにマルギッテさんなら勝敗がどうあれ、それなりの戦いを見せる事が出来ればそれだけ健美ちゃんの実力は証明できると思ってる」

「確かに勝ち負けは重要じゃない。ここで皆に見せたいのは健美の実力だからね」

 

 弁慶が校舎へ目を向けると、そこには多くの生徒たちが観客として今か今かと決闘を待ち望んでいた。見る限りほぼ全校生徒が観ている状況だった。ただし昼時なので昼食を片手に見ようとしてる生徒もいる。

 

「でも義経は健美を信じているぞ!」

「自分だってマルさんを信じてる!」

 

 そこへ義経とクリスが2人の勝利を信じる言葉が響いた。身内びいきに聞こえるが、彼女たちは純粋に応援したい気持ちでいっぱいだった。

 

「まぁね、私たちの妹分はあまり舐めない方がいいからね」

「……まぁ、そうだな」

「おお、与一。お前も健美を応援してくれるんだな」

「うっ、うるせぇよ。でもまぁ、頑張れぐらいは言っておいてやるよ」

「なら自分はお前たちより上に応援してみせる」

 

 妹分を思う源氏組に対しクリスは対抗意識を燃やす。ここでも一勝負置きそうであった。

 そんなこんなをしている内にグランドの空気が変わり始める。

 

「それじゃ始めるヨー」

 

 監督役はルー・イーが取り仕切る。いつでも対処できる事と、二人の決闘に際して被害を最小限に出来る事からだった。

 大和たちは口を閉じ、観客たちは鎮まる。そしてこれから戦う二人は静かに戦闘態勢を取った。

 

「レ―――ッツ、ファイ――――――!!」

 

 火蓋が、切られた。

 

 

 

 

 

 

(まずは小手調べ――)

 

 合図の直後、マルギッテは先手を打とうとしたが軍人の経験がそれを止めた。そして同時にこう告げる。

 

 『防げ』、と。

 

 その経験がマルギッテは先手を打つのを止め、横顔をトンファーでガードした。そのコンマ0.1秒後、腕が痺れる以上の衝撃が撃ち込まれた。

 

「くっ!?」

 

 痛みに耐えながらガード先を視界に捉える。そこには離れて目の前にいた筈の健美が、右足をトンファーに当てている光景だった。

 

「速い……、いや『迅い』!」

 

 そう、言葉を直したのは理由がある。一つは健美がいた場所から今いる場所までの地面は沿って抉れたようなあった事。もう一つはトンファー越しに伝わり、そして何より目で見える程の雷がる事。

 これはまさに『迅雷』と呼ぶにふさわしいと、そう感じたからこそ言い直した。

 

「はぁっ!!」

 

 マルギッテはトンファーを振り上げて張り付いた健美を飛ばす。健美は空中で身を丸めて回転し、落下した所で後転跳びを繰り返して距離を取る。

 

「ピュウ……」

 

 健美から声(※口笛じゃないよ!)が漏れる。彼女もまたマルギッテの実力に驚いていたのだ。

 

「……虎爪(こそう)

 

 そんな誰にも聞こえない程に小声で呟くと健美の手足から荒々しいほどの雷が発生するしかしそれは徐々に落ち着いていき、手足を纏うような形で治まった。

 

「――!!」

 

 今度は鳴かず、宣言もないままマルギッテに向かっていく。しかし動くたびに轟く雷がその代わりを果たしていた。

 

「――ハハッ!!」

 

 その音を聞き、そして健美が向かっている相手のマルギッテはただ笑った。彼女は歓喜していたのだ。久々に強い相手と戦えていると。それは健美の実力を認めた証拠だった。

 

「hasen! Jagd!」

「―――!!」

 

 叫ぶマルギッテと、黙ったままの健美。二人は同時に一撃を放ち、そして空気が震えるほどの音を出した。

 

 

 

 

 

 

「すっげ―――――――!!」

「ああ、最初っからクライマックスな決闘だ!!」

 

 観客の生徒たちは二人の決闘に声を張り上げていた。弁当片手に観ようとしていた生徒たちもそんな事は忘れ、ただただ見入っていた。

 それは武神・川神百代も例外ではなかった。

 

(雷を応用した攻撃力と素早さ。だが何よりすごいのは動物のように出鱈目な動きに洗練されたキレがあること……)

 

 この評価は百代でなくとも武道を嗜む者ならわかる事だった。

 その理由は相手がマルギッテと言う事。彼女は軍人であり、戦い方も必然と型に嵌った様な動きをしている。そんな彼女が相手だからこそ、健美の動きがどれだけお粗末なのかが見てわかるのだ。

 その上で百代はこうも思う。

 

「今は『武人』ではなく、『強者』の部類か」

 

 健美が転入した日、『武人に、英雄になる』と言った意味を理解した。健美には『模範』にあるべき戦い方を持っていない。古の時代ならまだしも、現代の世でただ強いだけでは皆から認められない。ただし自分は例外だと思っている。

 

「それなら釈迦堂さんに近いが、健美ちゃんなら大丈夫だな」

「ほぉ。武神さんからの太鼓判とは、将来有望だね」

「ぬ?」

 

 そこに燕が割って入ってきた。彼女は小悪魔的な笑みを見せて愛嬌があったが、油断ならない気配も漂わせていた。

 

「燕か。どうだ、お前からみて健美ちゃんは」

「凄いねぇ。あの実力が歴史として残っていたんなら間違いなく英雄って呼ばれてたなって思うくらい」

「私もだ。あれで歴史にないのは惜しいくらいだ」

「まぁ時代が時代だし、仕方がないかもね」

「ぬ?」

 

 燕の発言に百代は眉を顰めた。それはまるで、察しがついているかのように。

 

「お前、健美ちゃんの正体の見当がついているのか?」

「フフフ、それは秘密だよん」

 

 小悪魔的な笑顔で黙秘する。それは声をかけた時よりも底が見えないものだった。

 不審と思うべきその笑顔を見て百代は、笑い返した。

 

「なんだかお前と戦う日が待ち遠しくなったな」

「そう。楽しみだね、それは」

 

 百代は闘争に、燕は策謀に従って笑いあった。

 

「でも今は決闘の方を観戦しましょうか」

「そうだな」

 

 しかしすぐに二人は校庭の決闘の観戦へ戻る。今は二人の戦いを観る事が先決だった。

 

 

 

 

 

 

 一撃、二撃、三撃。と数えた後からすでに正確には図っていない。見積もって四十撃以上を二人は打ち合い続けていた。健美は雷を纏った拳を、マルギッテは愛用のトンファーを、衰える事無く。

 

「ッ!」

 

 しかしここで健美が引いた。地面を滑る足が土を抉り、深く溝を作り出す。そして静止した同時に水を払う様に両手を振る。

 

「~~~~!!」

 

 そして表情はすごく痛かったと言わんばかりに涙目だった。

 

「フッ、雷を纏っても硬化している訳ではなかったようですね。そんな手で私のトンファーは打ち破れないと知りなさい」

 

 マルギッテは優勢であることに笑う――と思えたが汗が一筋に流れた。先ほどまでの打ち合いは彼女の側にも被害を被っていた。

 それは彼女のトンファー。硬い打撃ではないものの、雷撃を纏った攻撃を打ち続けられたそれは焦げ跡とヒビをつけていた。

 

(もう防御には使えないな。それに終わっても修復に出さないといけませんね)

 

 ここで愛用の武器を大破させるのは忍びないマルギッテは早くも決闘後の事と戦闘スタイルの変更を考える。

 

「……らいじん、めっさつ」

 

 そこで健美の声が聞こえ、すぐにその方向を見る。そこには健美が自分に向かって踵落としをやろうとしていた。防御を止めたマルギッテはこの一撃を紙一重で避ける事にした。

 

「きょっ、こうそう」

 

 覇気のない声で技を呟き、健美は足を振り落とした。しかしマルギッテはそれを紙一重で避けてみせた。

 そして外れた健美の踵落としは、軌道の延長線上に沿って斬撃のような傷跡を地面に残した。

 

「っ!?」

 

 それを見てマルギッテは恐怖と安堵の感情が生まれた。この一撃は防御していては間違いなく破られてしまい、やられていたと。すでに防御を止めて回避を選んでいた良かったと。

 

「……ピ」

 

 蹴りの形をした斬撃を放った健美は距離を取る。そして一定の距離を得るとまっすぐ立ち、何かを取り出した。

 

「鉄球?」

 

 遠目だったが光を反射したことでマルギッテは鉄球と判断する。パチンコ玉より大きく、弾丸並であると。

 何をする? と警戒するマルギッテ。

 

「……ヒュ」

 

 健美は鳴き声と同時、鉄球を弾いた。

 

 

 

 

 

 

 その直後、マルギッテの回避動作を超えた一閃の雷が彼女に向かって迅った。

 

 

 

 

 

 




 いいところで切ってしまい、申し訳ございません。ですが以前、『展開が早すぎ』と言う意見を頂いたことがあったので、それを踏まえて『少しじれったく』してみました。ですが前書きにもあったように意見があれば遠慮なくお願いします。辛口でも耐えます。

と言うか意見がないとみなさまが楽しんでくれているかわからないので、むしろお願いします。

それではいったん、失礼を。




追伸

健美が使った技について

「らいじんめっさつ、きょっこうそう」=元ネタはリリ○のB○Aの青髪っ娘

健美が放った一閃の雷=元ネタはお分かり、と○る科学の第三位さん


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第九話・後「決着は」

 どうも。初決闘の決着回です。第九話・前を書きすぎてこっちの文字数は少なってしまいました。ですがこれからしっかりと平均文字数を増やしていきたいと思います。


あらすじ

 最初の決闘の相手はマルギッテとなった健美。彼女の実力は高くあるが、健美もまた彼女を怯ませるほどの実力を持って戦った。生徒たちは歓声を挙げ、そして武神百代はその才能を見ていた。
 そして健美は一閃の雷を、マルギッテの回避速度を超えて放った。
                                            』


 健美が放った雷は外れる事無くマルギッテに当たり、大きな衝撃を生んだ。それは健美の位置からマルギッテのいた場所まで砂を巻き上げ、視界がなくなるほどの威力だった。

 

「マルさん!!」

 

 クリスの表情が険しく変わる。しかし飛び出さず、彼女の無事を祈って見守っていた。

 

「なっ、何をしたんだ今の!?」

 

 そして大和は巻き上げられた砂の被害を受けつつ先ほどの技について尋ねた。

 

「アレはいわゆるレールガンってやつさ。適度な大きさを持つ金属物を電磁誘導で加速させて撃ち出す技さ」

「有名ラノベのヒロインみたいな技だな!」

「そりゃあ俺が貸したからな。あと踵落としはなんか魔法少女の技から取ったらしいぞ」

 

 ネタが多いな、と大和は思ったがこれ以上のツッコミはしないまま決闘はどうなったか確認する。

 健美はレールガンを放った後から体勢は変わっていない。彼女はマルギッテがどうなったか確認するまで動けずにいた。観客の生徒たちも健美よりもマルギッテの様子が気になっていた。そして徐々に砂が風に乗り、多くが宙で霧散して薄まっていく。

 

 

 

 

 

 そしてマルギッテの姿が現れた。倒れず、トンファーでガード体勢を取った姿で。

 

 

 

 

 

「なんと! 耐えきったのか!!」

「さすがだマルさん!!」

 

 彼女の姿を見て声をあげて驚く義経と跳ねる程に喜ぶクリス。そして観客から歓声が大きく響いた。

 

「本気で防いだか。私の時より鉄壁だな」

 

 横で弁慶はマルギッテを称賛する。以前、弁慶とマルギッテは掛けのような打ち合いをしていたと聞いていた大和は特に驚かなかった。

 そして改めて二人を見比べる。どちらも疲労らしい疲労は見せておらず、まだ叩ける状態であることは見てわかる。まだ続くか、と大和は考える。

 

 しかしそれに反し、マルギッテがガード体勢から無防備な体勢へと変えた。

 

「えっ?」

 

 大和や、他の面子はその行動の意味が読み取れず、混乱する。しかしその答えはすぐに現われた。

 

 

 

 

 

 マルギッテのトンファーが音を上げて砕けたのだ。

 

 

 

 

 

「マルギッテ、武器大破を確認! 勝者、夜響健美!!」

 

 

 

 

 

 

 ルーの勝敗宣言が決闘終了を告げた。そして場は鎮まりかえる。

 しかしそれもすぐに生徒たちの歓声で打ち消された。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、任務でもないのに長年の相棒を新調することになるとは」

「……ピィ」

「なんだ、気にしているのか。それはいらぬ心配です。貴方の決闘はそれだけの価値があったと思っていますから」

 

 決闘を終え、健美とマルギッテが並んで大和たちの所へやってくる。

 

「無事かマルさん!!」

 

 するとクリスがまっすぐマルギッテに駆け寄ってくる。

 

「お嬢さま。はい、特に怪我やありませんよ」

「でもトンファーが」

「本気の戦いをした結果です。惜しむことあれど悔いることはありません」

「そう、か。確かにその通りだ。すまない、マルさん」

「謝る事ではありませんよ」

 

 クリスを宥めるようにマルギッテは言葉を掛けていた。

 対して勝者の健美は弁慶に抱き着かれていた。

 

「お疲れ~。祝いに川神水飲んでいいよ~」

「こら弁慶、流石に川神水はダメだぞ」

「ノンアルコールだから大丈夫でしょ」

「それでも、だ」

 

 今まさに川神水を一献用意しようとする弁慶を諌める義経。しかし一度、健美を見て賞賛を送る。

 

「よくやったぞ、健美。義経も鼻が高いぞ。――ああ、だから弁慶。川神水を飲ませようとするな」

 

 隙を見て杯に川神水を注ごうとする弁慶をまた諌める。

 その二人のやり取りを無視し、与一が健美に近づく。

 

「……頑張ったな。褒めてやる」

 

 それだけを言ってまた離れてしまう。が、健美は嬉しそうに彼の背中を眺めていた。

 

「お疲れさま」

 

 そして最後、源氏組に気を遣って先を譲った大和が健美の前に来た。そして視線を合わせて屈んでから口を開く。

 

「聞こえてるでしょ。学園中の生徒たちからの賞賛が」

 

 そう言って大和が見上げると健美もまた見上げる。そして目に映ったのは決闘を褒め称える者たち。戦いたいと叫ぶ者たち。あとなんか叫んでいるハゲがいて、しかし白い少女に蹴り飛ばされるなどと騒がしく、しかし暖かい者だった。

 

「キミはまずみんなに認められた。でもね、これだけじゃまだ『英雄』は遠い。まだやる事がいっぱいある。俺はその手助けをこれからも続けるからね」

 

 そう言って褒めるように大和は健美の頭を撫でてあげた。これからもよろしくと、大和なりの挨拶だった。すると健美は大和の手を取った。

 

「ん?」

 

 何か言いたい事があるのかと抵抗はしなかった大和。しかし健美は何も言わなかった。

 

 

 

 

 スリスリ……。

 

 

 

 

 やったのは動物が甘えるかのように、大和の手を頬ずりする行為だった。

 

(こちらからもよろしく、って事なのかな?)

 

 そう解釈した大和は健美が満足するまで自分の手を貸し与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、

 

「大和。私に大和の匂いをつけさせて!!」

「何言ってんだよ京! 手かそれ絶対匂い付けじゃないだろ!!

「舐める以外に何がある!!」

 

 健美が大和の手を頬ずりしていたのを京に目撃され、危うく手を嘗め回されることろであった。

 




 勝ったのは健美ちゃんでした。勝敗判断は『マルギッテの武器破壊』。原作でも多分珍しい決着だと思いますが、これもまた決着の一つだと思っています。しかし実際は素手でも戦えたんでしょうがここは『素手で攻撃を防ぐことはできない』と『健美は称えるべき実力者』と言う要素があると思ってこのような決着です。

 さてこれで健美はまず自身の実力を見せつけられました。次からは自分の名を広める事が増えていきます。なのでキャラの絡みが増えていきますので、楽しみにしてください。


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第十話「次は何をする?」

日付は変わりましたが投稿します。台風が来る前に。


あらすじ

 レールガンを放った健美だったがマルギッテは見事に防ぎ切っていた。しかし決着はついていた。マルギッテは防ぎ切ったもののトンファーが大破し、武器破壊と言う形で健美が勝利をつかんだ。そして学園中の生徒たちが熱い決闘に賞賛を贈った。
 』


 

 健美とマルギッテの決闘は多大な効果をもたらした。学園中の生徒たちは勿論のこと、口伝で学外にも広まり、そして名のある実力者たちの耳に入る様になった。結果として健美への挑戦者は増えていき、その実力が認識されている事を証明した。

 健美は無事に英雄への第一歩を踏み出したのだ。そして彼女は更なる一歩、いや英雄の名に辿り着くための方法を求めて第二茶道部にやってきた。

 

「……スピ~」

 

 やってきて、大和の膝の上で寝息を立てながら昼寝をしていた。

 

「こりゃあ、この部に相応しい寝入りっぷりだな」

「ヒゲ先生、さっきまで『あいつ、だらけ部にしては最近張り切りすぎじゃね?』なんて呟いてたしね」

「まぁ退部はさせる気はネェよ。こいつの電気マッサージはマジで効くんだよな」

 

 怠惰にまみれた理由だった。と、思うがそれは全体の6、7割本気で残り3割は冗談で言っているのだと大和は察する。本気が半分以上占めているのは我ながらどうかと思うが、そこはあえて追求しない。理由は面倒だという、この部らしい考え方である。

 

「しかしここまで大きくなるのはお前の予想通りか?」

「学園全体と学外の広まり具合はね。だけど挑戦者が増えたのは健美ちゃん自身の頑張りだよ。こっちに関しては学内止まりだと思ってた」

「その理由は?」

「まず健美ちゃんは正体のわからない存在。実力があっても相手が何者かわからない内は様子見をするって踏んでいた」

「血気盛んな奴らは?」

「そういう人たちは目に見えてわかる姉さんや義経たちに向かう筈だよ。実際そういう人たちはまだ健美ちゃんに挑戦はしていないよ」

「情報はえーな」

 

 むしろ健美より大和が頑張りすぎなんじゃないかと頭に過った巨人。しかしいちいち指摘するのも面倒だったので口は閉ざしておいた。

 

「そいや血気盛んで思い出したんだがマルギッテの武器はどうなったんだ?」

「クリスから聞いた話だと九鬼財閥が補修、選別、強化をやってくれているらしいよ」

「あれ、なんで補修って言葉があるんだ? あれってどう見ても全壊していただろ?」

「その壊れたトンファーを再利用するから補修なんだって。選別はあくまでその材料や試作品から完成形を見出すものだって」

「なんか金が掛かってそうだな」

 

 巨人は以前に『貴方の思い出の品を甦らせます』的なキャッチフレーズの特番を見た事あり、その時は見事に修繕をしていたが同時に破格の費用が掛かっていた。そして今回の品は『武器』と言う一般庶民はほぼ縁がなく、買おうと思えば少々の値が張る品物。それを修復するとなるなら数十万をポンと出す感覚であると考えていた。

 

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

「試作品が多いですね軽く五十は超えていますか?」

「ま、折角だから最高の逸品に仕上げてやるって話だ。お前専用の形を追求する為にこれだけの数になった訳だ」

「ちなみに費用はどれくらいですか?」

「ポンと数百万が出てるぞ」

「そうですか。さすがは九鬼財閥を納得しましょう」

「そこは『期待に応えましょう』ってぐらいの遠慮を言えよ、猟犬」

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

 

 健美の件で色々と話した大和と巨人はいつものように将棋を打って時間を潰していた。準備の方は大和が動けないので巨人が行い、片付けは大和がする事で話が付いている。が、相変わらず大和の優勢なのでハンデや待ったをかけているので結局は巨人が片づけをやる羽目に遥かもしれなかった。

 

「はい」

「おふっ、そこを攻めてくるわけ……」

 

 優勢の大和に劣勢の巨人は更に追い込まれる。そして次の一手をどれにするか思考している間、大和は眠ったままの健美の頭を撫でた。

 

「………ンピ」

「あれ、起こしちゃった?」

 

 寝言とは違う、穏やかさが途切れたような声に大和はそう判断して声をかけた。するとそれが正しい判断であり、健美は目を覚まして体を起こした。

 

「ピュイィ……」

「おはよう。気持ちよく眠れた?」

「ピィィ……」

 

 なんと答えているのかまだ読み取れない大和だが、また寝入ってしまいそうなほどにコクリと頷いたので『肯定』と認識する。

 

「じゃあ寝起きで悪いけど、次の段階について説明するよ」

「あれ、それって俺と将棋を打ちながら?」

「ヒゲ先生、まだ時間がかかるでしょ?」

「反論できねぇな……」

「……ピィ?」

 

 大和は笑い、巨人は頭を抱え、健美は首を傾げる。

 そんな短いやり取りをした後に大和は健美に『次の段階』を説明し始めた。

 

「この前の決闘で健美ちゃんの実力は周知の事実になった。そのおかげで内外関係なく挑戦者が出てくるようになった。これはわかってるね」

「ピ……」

「……まだ眠気が取れていないな少し待つけど」

「ピピ……」

 

 いまだ船を漕ぐ健美に気を遣ったが彼女は眠たそうに首を横に振る。

 その直後、その体から激しいほどの電光が発せられた。

 

「おわっ!?」

「へっ、なに!?」

 

 突然の事に驚く二人。ただし巨人は将棋盤を見下ろして次の手を考えていたので健美の事は見ておらず、大和の声で驚いていた。

 そして発光した健美だったがすぐに治まり、彼女のシルエットがハッキリ見えるように戻る。少しスパークしているようだが、当の本人は平気そうだ。これ以上なく、爽やかな笑顔をして。どうやら先ほどの発光は目覚ましの効果を持つものだったらしい。

 

「ピッ!」

「あっ、えっと……」

「ピ?」

 

 どう対処していいかわからず固まってしまった大和を見て健美は首を傾げ、何かあるのかと顔を近づける。それはもうキスが出来そうな至近距離だった。

 

「……っ!」

 

 さらに固まる大和。しかし持ち前の頭脳がフル回転し、この状況を打破する為の王道パターンが十数通り思い浮かべる。その中で無難で、常識的な人がやるであろう行動で阻止する事にした。

 その行動は健美の肩を掴み、あまり引き離す感を出さない様に優しく遠ざけるものだった。

 

「女の子が、気軽に男の顔を覗いちゃダメだよ」

「ピ?」

「不思議そうな顔をしない。次からこういう事はあまりしないこと、いいね」

「ピッ」

 

 意味は理解していないが、『してはいけない』と言うのは理解したようだ。しかしここまで純粋なのは正直予想していなかったし、ここまで無防備なのは危ういと大和は考えた。この点は修正していかなくては、と心に決めた。

 

「青春だねぇ~。それと直江、もう俺は打ったぞ」

「ん、ほい」(パチッ)

「え、もう打つの。しかもまた際どい所を……」

 

 再び巨人は次の手を考えて込んでしまった。

 改めて大和は健美と向き合う。両手は駒を打った時に話しており、自然な向かい合う二人だ。

 

「それじゃ改めて説明するね」

「ピュイ」

「さっきの質問だけど、その事はちゃんとわかってるよね」

「ピッ」

 

 自然な肯定の頷きだった。大和はそれを確認して本題に入る。

 

「よし。なら次は『健美ちゃんと言う人物』を知ってもらうようにするんだ」

「ピ?」

 

 自然な首の傾げ方だった。大和はそれを確認して説明に入る。

 

「健美ちゃんは何のクローンなのかはわらないでしょ。でもそれって『夜響健美』として認識を積み上げられることでもあるんだ。何のクローンであれ健美ちゃんが『こいつはいいやつだ』って誰もがキミを受け入れる。受け入れるって事は認められる事なんだ」

 

 ここで一度、健美の反応を見る。話は真剣に聞いてくれており、言っている意味は理解してくれている様子だった。なら簡単に言う必要がないと判断し、これからの行動を教えた。

 

「つまりこれからは決闘だけじゃなく、多くの人と触れ合う機会を増やすこと。そうすれば健美ちゃんがどんな子なのか皆が知ってくれるようになるんだ。わかった?」

「ピッ。ピ、ピュイ、ピュイイ」

「ん?」

 

 説明が終わった後、健美が頷いたと思ったら何やら両腕を動かしながら何かを求めているかのような行動をする。

 大和はまだ健美の言葉は理解できない。しかしこの行動は見てわかる程に何を言いたいのかを読み取った。

 

「どんなことをすればいい、って言ってるの?」

「ピッ」

 

 力強く頷いた。的を射たようにぴったりと当たったようだ。

 

「それなら安心して。いくつか心当たりがあるし、場合によっては依頼を協力する形で手伝うことも出来る。それに俺も付き添うからわからないことは言ってくれていいよ」

「ピュイ! ピピィ!!」

「おっと!」

 

 『付き添う』と言う言葉が嬉しかったのか、健美は飛び付くように大和に抱き着いた。

 大和は戸惑ってすぐに離そうとしたが健美はガッチリと腕を絡ませてくっ付いている事で諦め、そしてなんだか一子が膝の上に乗っている感覚に似ているのですぐに受け入れた。

 

「ホント、青春だねぇ~」

 

 蚊帳の外にいる巨人は二人の姿を見てそんな感想しか出なかった。

 




 大和と健美の距離が少しだけ縮まった話でした。そして今回の話から今後、大和は健美と一緒にいる機会が増えていきます。それに伴い、原作キャラとの絡みが増えるので、楽しみにして下さい。

 それではこれで失礼します。


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第十一話「得た疑問」

 投稿です。投稿速度を上げようと頑張りましたが、月末に資格試験を入れてそっちの勉強もやって時間がさけません。でも気分転換と時間を見つけて書いてます。


あらすじ

 決闘後の健美の名は学園の内外に広がり、その実力を認めた挑戦者たちが増えてきた。まずは一歩、彼女は英雄へ近づいた。
 そして次には人と触れ合うことで人柄をしてもらうこととなる。これには大和も付き添ってくれ、それを知った健美はうれしさで彼に抱きつく。
 二人の距離もまた一歩進んだ。

 』


 

 多くの人と触れ合い、そして受け入れられる。それが英雄として認められると大和から説明を受けた日から数日が経っていた。健美はすぐにでも行動に移したかったのだが平日中は学園の生徒たちと学外の挑戦者たちとの決闘で時間を作る事が出来なかったのである。

 しかしそれも週末で大方の決闘が消化し終わり、しかも丸一日使える休日にようやく行動に移す事になった。

 

「――ピュイイ!」

「……だからよろしく。で合ってるかな?」

「ピュイ」

 

 鳴きながら頷いた。それを見て大和はホッと胸を撫で下ろした。

 大和も平日中は健美とのよりコミュニケーションを取れるようにと積極的に会話をたり、この点については先輩である義経たちとも相談をしたり、時にはムツジロウさんにもアドバイスを聞いたりもした。その努力の甲斐あって十回中六回は当たるまでに読み取れるようになった。

 努力して良かった。そう自身へ賛辞を送ると改めてこれからの事を話し始めた。

 

「それじゃあ早速案内するよ。ついて来て」

「ピッ。ピィ、ピィ?」

「えっ、こんな格好でいいかって?」

「ピ」

 

 健美の格好はいつも見ていた制服姿ではなく、しっかりとした私服姿である。夏場なので少し露出があるタンクトップと短パン、そして動きやすいようにブーツを履いている。ここで露出を控える上着の一つでもあればいいのだが、彼女はそれを着こなさず以上の格好だ。

 一言で評価するなら、『慎みが足りない』だ。

 

「うーん。まぁむしろその恰好がいいかな?」

「ピ?」

「まぁ『なんで?』って思うよね。とにかく行けばわかるよ。ついて来て」

「ピュ」

 

 健美が素直に頷き、それを確認した大和は案内を始めた。

 健美はどういった事をするのかわからないが、小さな不安さえ抱かなかった。たった二週間前に出会った大和の事を純粋に信頼していた。獣のような本能で、ただこの人は大丈夫と。その感情もあって健美は案内されている間はずっと大和の背中を見つめながら歩いていた。

 

「さて、ついたよ」

 

 するといつの間にか目的地に到着していた。見つめるあまり、時間を忘れてしまっていた。

 

「どうかした?」

「ピィ」

「大丈夫ならそれでいいけど」

 

 大和は様子がおかしいと思ったが『大丈夫』と返事をした上にその返事もしっかりしたものだったので深くは追及しなかった。そして改めて目的地の場所を見せた。

 

 

 

 

 そこは、孤児院だった。

 

 

 

 

 

 

 

「待て待て――!」

「ハハッ、待たないよー!」

 

「……ピッ!」

「わぁ、きれー」

「すっげー! ビリビリだ!」

 

 庭では一子が子供たちと追いかけっこ、健美は得意の雷で一芸を披露していた。大和はそんな光景をここの院長と一緒に眺めていた。

 

「今日は本当に感謝します。私以外は休暇が重なってしまって人手不足だったのですよ」

「そこまで畏まらなくていいですよ。こちらも後輩の為になると思って引き受けたんですから」

「ですが助かっているのは事実です。ここは素直に受け取ってください」

「そうですか。じゃあそうします」

 

 二人が話した通り、今日この孤児院は悲しいことにスタッフ全員が休暇を重ねてしまい、院長一人で切り盛りする事態になっていた。と言っても元々、ここのスタッフはここでの仕事を生き甲斐とするような人たちで、休日返上で頑張っていたのでその結果今日のような事態となってしまった。ちなみに孤児院と言う運営が厳しいここでスタッフがいるのは九鬼財閥が少なからず援助金を出しているからである。

 そして改めて庭で子供たちの相手をしてくれている一子と健美の様子を眺める。本当ならファミリーの皆も来てほしかったのだが百代は挑戦者との戦い、翔一はいつも通りの遠出、岳人と卓也はそれぞれの趣味の本日限定のイベントに参加、京は弓道部の休日練習に参加、クリスは父親との久々の団欒である。ここで由紀恵の名前がないのは実は彼女もここに来ているのだ。庭にいないのは子供たちの為に厨房でお菓子を作っているからである。

 さて、話は戻し一子と健美の様子だ。一子は元気に子供たちと動き回って楽しく遊んでいる。しかも子供たちの体力を考えて手加減をしている。お陰で子供たちも満足そうに遊んでいた。続けて健美は雷で色々と見世物をしている。こっちは体力に自信がない子供たちがほぼ集まっており、一子と対象となってくれている。

 

(ワン子は大丈夫だと思ってたけど、健美ちゃんも上手くやっているみたいだな)

 

 大和は素直にそう思い、心から安心した。健美は鳥のような言葉しか発しないので大人相手よりも子供相手にしたが、それでも意思疎通には不安があった。しかし目の前の光景はその心配もないほどに健美も子供たちも笑顔だった。

 

「ところであの電気のような物を出している彼女。もしかして武士道クローンの方ではありませんか?」

 

 と、院長が健美を見ながら大和に問いかけていた。

 

「御存知でしたか?」

「川神市に住んでいますからね。ただ彼女の事を知ったのはここ最近ですが」

「そうですか。でもだからって気遣いはしないでいいですよ。院長さんの手伝いに来た女の子でお願いします」

「ええ、もちろんですよ。ただ一つ、聞いてもらってよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょう?」

 

 大和は怪訝な表情で院長に応じる。すると院長は健美を見ながら、どこかもの寂しそうな顔で話し始めた。

 

「私は様々な事情を持つ子供たちを受け入れてきました。その中には心を痛め、病んでいた子供たちもいました。あの子は、そんな子供たちと似た物が感じられます」

 

 その言葉に大和の表情は少し驚いたような物になる。彼が知る健美は動物のように素直で、英雄になると努力する一途な女の子でしかない。そんな彼女の心に何かあると言われては信じられなかった。

 

「俺にはそう思えません」

「私もそう信じたいですよ。ただ経験上、小さな違和感でも手遅れになる前に何らかしらやっておきたいのですよ」

 

 その院長の言葉には重みがあった。考えてみればここにいる子供たち以外、多くの子供たちがこの孤児院へやってきて、そして旅立っていったのであろう。その全員が光ある道を歩んでいったかは別として。

 

「あの子は純粋で、おそらく夢の為にまっすぐ向かっているのでしょう。ただ同時に、恐怖と言うものが感じられます」

「恐怖?」

「そうですね。具体的にするなら、秘密を知られたくない恐怖でしょうか」

「秘密……」

 

 秘密と言う単語に大和は自然と健美の正体と繋がった。思えば今日まで彼女の正体についてはあまり考えた事はなかった。特に明かす様子もなく、なにより健美の人柄から正体などどうでもいいと考えてしまっていた。

 しかしもし院長が言う通りであれば。

 

(英雄を目指す反面、自分の正体が受け入れられるかの不安がある?)

 

 そんな結論が大和の脳裏に浮かぶ。浮かんでしまえば消え去る事は難しく、むしろより主張を繰り返していく。まるでSOS信号のように助けを求められているかのように。

 

「キュッ、カァ――」

『ワァ―――!!』

 

 そんな時、珍しい鳴き声と共に子供たちの歓声が広がる。大和が目を向けてみれば雷を花火のように派手な演出をしていた。どちらも楽しそうな笑顔を見せて。

 

「……貴方の言葉。心に留めておきます」

 

 大和がそう言うと院長は何も言わず笑っていた。

 そして大和は自身の目的として、健美の正体に迫ってみると決意した。

 

 




 今回は健美より大和の視点が大きい話でした。一種の基点と言う者で、今後の大和の行動に大きくつながるものです。そんなわけで大和の視点で進むことが増えます。だって大和が主人公だから。

 ただ今週は資格勉強のラストスパートがあるので投稿が一週間の定期通りになるかは保証できません。もうしわけございません。ただ試験が終われば素早くなると思うので、そこは期待していいです。

 それではまた次回に。


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第十二話「『恐れ』の一因」

 約二週間ぶりの投稿です。なんとかできました。


あらすじ

 健美の英雄への第二歩として今度は人との触れ合いをさせた大和。それは人手不足になった孤児院のお手伝いで、これは問題も起きずに成功した。
 そんな中、大和は院長から健美の印象を聞かされる。それは彼女が何かを『恐れている』と言う指摘で、大和は最初こそありえないと言ったが話を聞くうちにそれはなくなった。
 健美の正体について迫ってみようと決めた出来事だった。
 』


 

 孤児院での時間を無事に過ごし、今日は解散となった。健美は九鬼ビル、一子は川神院、由紀恵は島津寮へと帰っていく。そんな中、大和だけは多馬川の川原に一人佇んでいた。

 

「……まだか来ないか」

 

 ケータイの画面を覗きながら呟く。彼がメールをし、その返信を待つこと約二十分が立っていた。送った相手の事を考えるなら五分五分だったが、内容を踏まえるなら『来る』確率の方が高い。しかしそれも自身の予測と勘がおおいに含んでいた。

 日を改めるか。と、時間的にも気持ち的にもギリギリだった大和は後日に改めようと思い、その旨を伝えるメールと送ろうとした。そして指がキーを打ち始めようと動く。

 

 

 

 

 

 

「―――よぉ」

 

 

 

 

 

 

 その時、返事を待っていた相手の声が後ろから聞こえた。

 大和はメールと打とうとした指を止め、ケータイをしまう。しかし振り返らず背を向けた状態で一言。

 

「来るならメールで返してくれよな」

「悪いな。下手に傍受されるのは避けたかったんだ。あと、尾行も避けてここまで来た」

 

 出だしから中二病全開。思わず話を合わせる為にそのスイッチを入れそうになった大和だが、ここは川原なので下手に知り合いに観られるのを避けて留めた。ただし話には合わせることにした。

 

「それなら仕方がないな。俺ももう少し気を付けるべきだったな」

「今さらいいさ。――それで、健美についてだったな」

「ああ、ある人から気になる事を言われてね。大事になる前に色々と聞こうと思って」

 

 ここで大和は振り返り、彼と目を合わせて率直に伝えた。

 

「お前なら何か知っていると思って呼んだ。だから教えてくれ、与一」

 

 

 

 

 

 

 健美の件について与一は思いのほかあっさりと承諾した。しかし川原では話す気はなく、話すなら大和だけとする条件であった。

 それに大和はちょうどいい場所あることで二人そこへ向かった。そして到着したのは一件の喫茶店だった。

 

「ここは?」

「結構穴場の喫茶店だよ。ただ席は小さいから集団向けじゃない、一人か二人組のお客さんが多いんだ」

「つまり、コソコソ話すならちょうどいい場所か」

「そう言う事。前に確認したけどここの店長さんはそれを含めて今の形にしたらしいよ」

 

 ちょっとした隠し情報を教えると二人は喫茶店の中に入っていく。内装は大和が言った通り二人が向かい合って座れる程度の机や壁向かいのカウンター席が多かった。見てわかる様にコソコソ話すにはうってつけな喫茶店だった。

 二人はここで適当に注文を取り、テーブル席ではなくカウンター席に座った。テーブル席ではないのは、面と向かって話せない事でも話せるようにするためである。

 

「まず何から話せばいいんだ?」

「とりあえず先に与一が色々話してほしい。その後に俺が質問をする」

 

 それに与一はわかった、と答えてそのまま話へと入っていく。

 

「最初に教えておくと俺たちと健美は最初から一緒だったわけじゃない。一緒になったのはだいたい十年前からだ」

「そうなのか?」

「ああ、葉桜先輩は最初から一緒だったが健美は違うんだ。元々、健美のオリジナルは偶然と言える発見だった。いわゆる『想定外』なのさ」

 

 『想定外』の言葉に大和は眉を顰める。九鬼がクローンを生み出す際にどんな技術で、そしてどんな素材で生み出したのかまったく知らない。想像できるのはオリジナルの遺伝子から作り出す事だろう。それを踏まえ、健美の遺伝子が偶然で見つかったなら最初から与一たちと一緒ではなかった理由もなんとなく理解できる。

 

「今、健美が偶然見つかった英雄だから最初からいなかったと思ってるだろう? だが実際には違う」

「違う?」

「健美は俺たちの一つ下の学年だぞ。その程度の年齢差で別々にする理由にならねぇ。これについては別の確信がある」

「確かに。で、確信って言うは?」

「俺は一緒になる前の健美を見かけた事があるんだ」

 

 大和は思わず与一に顔を向けてしまう。しかし与一は口を閉ざし、ここから先の話をしなかった。この対応に大和はすぐにその理由を察した。

 

「その後の話はダメか?」

「ダメって事はない。健美はお前に懐いているし、そしてお前自身はあいつを心配して俺に話を聞こうとしている。聞く資格はある」

「他言無用とか、そう言うのを条件でか?」

「察しが良いな。で、お前はそれが出来るか?」

 

 与一もまた大和へ顔を向けて尋ねる。

 これに大和はそれだけ重要な話である事を察し、その上で黙って頷いた。

 

「……わかった。お前を信用する」

 

 そして二人は互いに顔を背けて話を再開した。

 

「あの日に遭遇したのは本当に偶然だった。俺は闇の囁きを聞き、夜中の外へと飛び出した」

(十年近く前から中二病だったのか、こいつ……)

 

 話の最中、そんな事を思う大和だった。

 

「そして俺は囁きに誘われるまま向かうと九鬼の施設らしき場所に来ていた」

「そこに健美ちゃんがいたのか?」

「いや違う。その施設の外だ。施設を見つけた後、その近くに騒ぎの音を聞いて俺はそこに向かった。そしてそこに健美がいたんだ。―――焦げて倒れた木々と九鬼の研究者たちの中心に、な」

 

 大和は思わず息を飲んだ。出会い、今日までの健美からでは想像もつかない事に受け入れがたいと思ったからだ。

 

「それからしばらくした後で知った事だが、その時の健美は精神が人より動物に近かったらしい。だからこそ不安定で、それを克服するまでは俺達と別々だったんだ。俺が見たのはそんな時で、感情が暴走して起きた事態らしい。そんな中、研究員の一人が叫んだ言葉を聞いた」

 

 大和は何を、とは聞き返さない。聞き返さず、与一が告げるのを待った方がいいと思ったからだ。

 対して与一はその研究員が言った言葉を、不快そうに教えた。

 

「―――この化物、と聞こえたんだ」

 

 その時、大和の中に憤りが燃え上がるのを感じた。驚きよりその感情だったのは無意識であったが、大和は静かに抑え込む。ここで安生を爆発させても無意味だからだ。

 

「その後は他の研究員がやってきて健美を眠らせて回収していた。俺がいた事は気付いてなかったみたいでな、そのまま帰る事が出来た。健美と一緒になったのはそれからしばらく後だ」

「……その時の健美ちゃんはどんな感じだったんだ?」

「今よりは大人しかったな。そしてその時の俺は自分でもわからないくらいにあいつを気遣った。その結果、一番あいつに懐かれているってわけだ」

 

 ここでようやく話に一区切りがついたと言う感じであった。

 ここまでの話、大和はどういった質問をしたらいいのかと少し悩む。しかし一つだけ、話を聞いていて聞きたい事があった。

 

「与一は、健美ちゃんが誰のクローンなのか知っているのか?」

「まぁな」

 

 返事はあっさりと貰えた。話の中で正体を知った部分はなかったが予想する限りだと健美と遭遇した時か、その後に調べたかの二つに一つだった。しかし今はそこまでの詮索をする気はなく、正体が重要な所だった。そして恐らく健美が『化物』と呼ばれた一因だと考えていた。

 

「そこは教えてくれるか?」

「ダメ、とは言えねぇか。いつかは明るみに出る事だが、今教える訳にはいかない。ヒントぐらいまでだ」

「それで十分だ」

「わかった、教えてやる。―――ヒントは北東、南東、南西、北西だ」

 

 それは四つの方角のキーワード。あまりにも曖昧すぎるヒントであり、大和もそれが何と繋げているのかわからなかった。

 

「俺が答えられるのはここまでだ。それと、話せることもさっきまでの事で全部だ」

「いや、十分だ。ありがとうな、与一」

 

 大和が礼を言うと与一は席を立つ。また顔を向けると与一の頼んだドリンクはすでに空であった。よくよく確認すると自分が頼んだもののいつの間にかほぼ中身がなかった。思っていた以上に時間が経っていたようだ。

 話はここまで。そういう事であった。

 

「直江大和」

 

 しかし立ち上がった与一はすぐにさよならとは行かず、大和の目を見て告げる。

 

「健美の事、絶対に泣かすんじゃねぇぞ」

 

 それは冷めた与一には似合わない、熱い言葉だった。そして彼はそのまま去ることなく、大和を睨み続ける。これは返事を待っている大勢だった。

 少し気圧された大和だったが、返事はすでに決まっていた。

 

「そんな事は絶対にないし、させない」

 

 一片の戸惑いのない返事だった。それを聞いた与一は大和から視線を外した。

 

「その言葉、忘れるんじゃねぇぞ」

 

 与一は自分のグラスを持って席を離れていく。

 大和は去っていく与一を目で追うことなく、残った自分のドリンクを飲み干す。これからの先を思い馳せながら。

 

(そう言えば……)

 

 そんな時、大和は来週に行われる行事を思い出していた。それは川神学園夏の名物。名前は。

 

「もうそろそろ水上体育祭が始まるな」

 

 またひと騒動が起きる予感であった。

 




 お久しぶりです。資格試験に月末月初の作業、季節の移り変わりによる風邪などと色々とありましたがなんとか投稿できました。でもまだ喉が痛いです、はい。

 今回は健美の正体について一つのヒントを開示しました。まぁじれったいと思うヒントと思いますが、どうか長い目で待ってください。

 そして次回は『水上体育祭』の回になります。一つの投稿で収まるかまだ分かりませんが、楽しみにしてください。

 それではまた次回に。


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第十三話「水上体育祭!!(ただし熱い描写はカットされました)」

 明確なイベントの話ほど、何を書いたらいいかわかりませんでした。他に要因を挙げるとするなら、ヒロインは学年が違うので必然的に競技中の絡みは不明瞭になりました。ごめんなさい。


あらすじ

 院長の話を聞いた後、大和は健美の事を知っているであろう与一に話を聞く。そこで聞いたのは特例として扱われた事と、心無い言葉を向けられた過去の話だった。この話をしたうえで、与一は大和に念を押す。泣かすなと、熱い言葉で伝えた。
 大和はその言葉を迷いなく受け止めるのであった。

 』


 

 

 

 夏だ! 海だ! 競争だ!!

 川神学園名物、水上体育祭の開始だ!!

 

 

 

 

 

「ピッ」

「ああ、頑張って。本当なら少しくらい手を貸したかったけどさすがに学年が違うからね」

「ビッビ」

「そうか。紋白……じゃない紋様が指揮してくれるなら安心だ」

 

 競技開始前、2-Fの大和の所に健美がやってきていた。お互いに川神学園指定のスクール水着、なのだが健美がそれを着るとどことなく似合ってる。たまにワッペンの『健美』が『つぐみ』に見えてしまうくらいに。

 

「そう言えば疑問なんだけど、健美ちゃんは雷を出せるよね。泳ぎとか大丈夫?」

「……ピュイイ」

「ヒュームの爺さんに徹底的に叩き込まれたんだ。よしよし、よく頑張った」

 

 告げて項垂れる健美の頭を慰めるように撫でる大和。すると気持ちいいのか嬉しいのか小動物を思わせる笑顔をしていた。

 

「……飼い主とペットね」

「いや、ブリーダーとペットだ」

「似ているようで違うよね、その二つ」

「え、違うの?」

「わからないなら教えても上げてもいいけど?」

「ヒィ、笑顔が怖い!」

「と言うかよく会話が出来ているな、あいつ」

「うーん、俺もあれくらい出来た方がいいかもな」

 

 そんな二人を2-Fの面々は共通の認識で観ていたのであった。

 

「でもそろそろ競技が始まる。健美ちゃんも自分のクラスに戻った方がいいよ」

「ピ、ピピ」

「ああ、そっちも頑張って」

 

 開始の時間が迫ってきたので二人はここでお別れとなる。しかし健美が大和から少し離れて一度、大きく手を振ってきたので大和も手を振り返した。

 

「ま、こっちもほどほどに頑張るか」

 

 そして大和も水上体育祭に少なからず熱意を持った。

 

 

 

 

 

 

 

〈午前中の競技消化中……〉

 

 

 

 

 

 

 

 そして午前の部終了後。

 

「おっしゃ、俺たち1位だ!」

「脅威のS組がやる気がないからね」

 

 スコアボート兼順位表を見て喜ぶ翔一を卓也が付け加える。そしてそのS組はその通りと言わんばかりにトップ3から外れていた。

 

「うーん、でも張り合いがないと面白くないわね」

「それもそうだがちゃんと勝っているんだ。それは喜ぶべきだろう」

「そだね」

 

 ファミリーの三人娘もおしゃべり程度に不満などを呟く。しかしそれでも勝利している事実には心躍っているようであった。

 その中、大和は自分たちのクラスとは別。1-Sの順位を確認していた。

 

「1位か。頑張ってるみたいだな」

 

 この結果はある意味予想通りだった大和。1-Sには紋白がおり、彼女が指揮を取っているのであるならある意味予想内である。それに健美の活躍も、口伝であったが聞いていた。出場した競技は個人成績トップとして成果を上げた。しかも集団競技においても協力し合っての勝利を得たとも聞いている。いい傾向だった。

 そして大和は午後も気を抜かず采配を決めて行こうとする。午前のS組はやる気がなくそれほど強敵に成り得ていなかったが、午後もそうとは限らない。

 

「一応、午後を警戒して皆の体力は温存させて置いたけどS組が活発になるなら配分を考え直さないとな」

 

 この独走を守るべく午後からのペースを組み立て直し始める。

 と、そんな時だった。

 

「1位でも気を抜いていないな、直江大和」

「えっ?」

 

 後ろからの声に大和はいったん考えを止めて振り返る。そこにいたのはちょうど考えの一つにあった1-Sの、競技を指揮して1位を勝ち取ったであろう九鬼紋白がいた。

 

「紋様」

「ああ、我だ。しかしこうして面と向かって話すのは初めてだな。学園では挨拶程度だったし」

「それはすみません」

「気にするな。それに我は礼を言いにきたのだ」

「お礼?」

「健美の事だ」

 

 その名前を聞いて大和は更に意識が高まり、しかし紋白の言葉を待った。

 

「お前のおかげで健美は随分と皆と打ち解けた。別に嫌われた訳ではないのだが、いかんせん動物を愛でるような形でな。良くも悪くも浮いていたのだ」

「はい、それについては知っていまいした。でも今はもう違うのでしょう?」

「ああ。まだ言葉がわかるものはおらぬが、ほぼ対等と言う関係を築いている。少しずつ皆から認められ、頼られてきている。英雄の道を一歩一歩進んでいるぞ」

「それは良かった」

 

 心の底から嬉しいと思える事だった。自分の目が届いていない時はどんな風に振る舞い、それを他人はどう認識しているのか少し気になっていたのでこの話を聞けただけでこれまでの事が報われる。

 しかし大和はその嬉しさと同時、紋白に聞きたいことがあった。

 

「紋様、一つだけ聞いてもいいですか?」

「ん、なんだ?」

「紋様は健美ちゃんのオリジナルがどんな物であっても庇ってくれますか?」

 

 遠慮なく答えると紋白は表情を険しくした。そして数秒の沈黙、彼女は堂々と答えた。

 

「健美のオリジナルは父上を含め、マープルと言った武士道プランの責任者たちしか知らされておらぬゆえ、我も知らぬ。が、我は健美のオリジナルが何であれ応援する。英雄になれるその日まで」

 

 紋白の言葉は王者のようでありながら、友のように熱い思いのあるものだった。それは、同じような思いを抱いていた大和にとって2度目の嬉しいものだった。

 

「……俺はこれからも健美ちゃんに協力します。でももし何かあったら、力を貸してください」

「ああ、もちろんだ。むしろこちらから頼む」

 

 大和は思わず、無意識に口にした申し出であったが紋白は一切の『拒み』を持たずに承った。

 今さらながらこの二人の会話は紋白に付き添っているヒュームとクライディオの二人に聞かれていることだろう。しかしその二人が干渉してこない今の状態は黙認していることだろう。

 

「そろそろ時間だ。我は行く」

「はい。お互い、午後も頑張りましょう」

「うむ。それではな」

 

 踵を返して紋白は去って行く。が、数歩ほど移動した後で彼女はまた振り返った。

 

「それと先ほど、兄上たちを激励に入ってきた。午後は気を引き締めて臨んだ方が良いぞ」

「そうですか。肝に銘じます」

 

 その後に紋白は再び踵を返して1-Sに戻っていった。

 

「……さて、これは気が抜けないな」

 

 激戦となる午後の競技に想い耽りながら、大和は改めて作戦を練り始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして午後はS組も本気を出し、F組はそれに対抗するかのように競い合った。

 

 激戦に次ぐ激戦の果て、結果は3年・1年のトップはS組。2年はF組がトップをキープしつつ、S組は3位と言う快進撃を見せた体育祭となった。

 




 まずはじめに、ごめんなさい。体育祭なのに競技の描写がなく、『紋白とつながりができた瞬間』
と言った話でした。熱い戦いを期待してました皆様には申し訳ございません。これから精進いたします。

 それでは次回もどうかお願いします。


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第十四話「二羽は一本の添え木に止まる」

 この時間での投稿はおそらく初めてです。少し頑張った気がする気分です。


あらすじ

 水上体育祭で大和と健美は一緒にいる事はそれほど多くなかったが互いに全力を出した。そして御前を終えた頃、大和は紋白と対話する。その時、大和は健美の正体について紋白の気持ちを問うた。
 それを聞き、紋白は彼女が英雄になる日を望む思いを答えた。大和はすぐそばに力になってくれる存在がいると知り、もしもの時に協力を頼むのだった。

 』


 

 大和が健美の成長に付き合い始めてから二週間が過ぎていた。マルギッテと決闘をし、孤児院の子供たちと戯れ、水上体育祭では活躍した。それに並行するように二人の親密さも少しずつ上がっていき、今は屋上で二人きりの昼食を摂っていた。

 

「もきゅ、もきゅ……」

「ちょっと詰め過ぎじゃない?」

「ふい」

「うん、まず口の中を空にしようね」

 

 健美は膝の上に乗せた、三段の重箱の食事を三、四口入れては一気に咀嚼して食す。喉を詰まらせかねない食べ方だが咀嚼の時間が長いのでしっかり噛んでいるようだった。そして彼女が口の中の物を飲み込んだことを見計らって大和は話題を切り出した。

 

「そっちはどう? 挑戦者とか1-Sとのみんなとか」

「ピュイ」

「ははっ、相変わらず可愛がられてるみたいだね。でも決闘を申し込められるようになったのは前進したって事だよ。健美ちゃんの事は挑戦したい競争相手だって」

 

 進展した状況を知り、大和も思わず笑みが零れる。健美の成長を自分の事のように嬉しいと感じたからだった。が、その笑みの裏には僅かながらの不安があった。

 

(でもこれからはどうしようかなぁ……)

 

 それは次にどんな行動をしていいのか、これと言った案がもうないと言う事だった。

 健美がやっていることはある意味アイドルのようなものだった。地道な努力を重ねながら人気を得ていく。それを武道家に当て嵌めるなら地味な努力は『修業』、『決闘』、『親交』と言った物が挙げられる。そしてこれこそ健美がやっているもの全てだった。

 

(この間のような水上体育祭は学園内のイベントだから学外の伝聞にはなっていない。やっぱりまだ義経たちの影に隠れている感じなのか?)

 

 大和が懸念していることはまさにその通りだった。事実、武士道プランの発表でニュースや新聞で大きく取り上げられたのは義経・弁慶・与一の三人。これの大きな要因は正体が明確であった事。名前が違う清楚と共に知名度はやや低めだった。マルギッテの決闘を経て学外からの挑戦者は増えたがそれでも義経たちと比べて少ない。

 と、ここまで考えてある事に気付いた。

 

「そう言えば健美ちゃん。健美ちゃんの挑戦者って姉さんを経由している?」

「ピ? ピィ」

「してない、か」

 

 大和が気付いたのは義経と弁慶の挑戦者は百代が振るいにかけ、実力が伴っていると判断すれば挑戦できるシステム。それは多すぎる挑戦者を限定するのが目的だが、先ほど健美はそれがないと答えた。経由がなく、それでいて挑戦者が少ないと言うのはまだまだ知名度が低い証だった。

 

「俺とした事が……」

「プイ?」

「いや、なんでもないよ。それと口から糸こんにゃくがはみ出てるよ」

 

 また口の中いっぱいに詰め込み、しかしちょっとはみ出していた健美に注意する。彼女はすぐに啜って中に入れるとモグモグと咀嚼を再開する。

 やっぱり小動物だな、と思いながら大和も食事を再開する。そしてこれからどうするかと頭を巡らせる。

 

 

 

 

 

 

「おやおや~、二人っきりでランチとは仲が良いね~」

 

 

 

 

 

 

 そこへ好奇心と悪戯心が混じった声が聞こえ、二人はその声が聞こえた方を振り向く。そこにいたのは小悪魔を思わせる笑顔をした燕がいた。

 

「燕さん」

「ども、おひさしぶりだね」

「………」

 

 大和が思わず彼女の名前を口にし、燕はそれに応じるように改めて挨拶をした。すると健美が大和と燕の間を遮る様に割っている。弁当を離さないまま。

 

「あやや、まだ嫌われてるみたいだね」

「あっ、すみません。こら、健美ちゃん」

「いいよいいよ。それと健美ちゃん、別に大和クンを取ったりしないから」

「………(じぃー)&(モグモグ)」

「食べるのを止めない子に睨まれてるって新鮮な体験だね」

 

 確かに。これでは健美が睨みつけても緊張感の欠片も生まれなかった。しかしそれは置いておいて、健美が睨み続けていると言うことは燕の言葉を信用していないと言う事である。

 燕はそれを察し、大和とは距離を取る場所で座り込んだ。

 

「よし、私はここから動かないからね。とりあえず健美ちゃんも座ってほしいかな」

「………ピ」

 

 ここまでしてようやく納得したようであり、健美も座る。ただし大和のとなりをガッチリ確保した位置に。

 

「本当に懐かれてるね、大和クン」

「まぁ、はい」

「青春だねぇ~。と、感想を言った所で本題を言っちゃいます。―――大和クン、そろそろ健美ちゃんの次に詰まっちゃった所じゃない?」

 

 まるで心を読んだかのようなその言葉に大和は燕の眼を見た。

 

「……そう、ですね。隠さずに答えるなら行き詰ってますよ」

「だろうね。でもそう落ち込む事じゃないよ。大和クンがやってきた事は一番効率がいい方法なんだから」

「ピッ」

「『そんなのわかってる』。って言ってます」

「そっかそっか」

 

 大和が正直に胸の内を告白した後、燕は健美を含めた二人に向かって告げた。

 

「ねぇ、私も手伝わせてくれない?」

「はい?」

「ンピ?」

 

 それに大和と健美は左右逆に首を傾げた。

 

「あやや、そんなに驚く事だったかな?」

「あっ、いえ。そういう訳じゃ」

「ピュイ」

「こら、疑わないの。でもどうしてそんな事を?」

「単純な理由だよ。頑張る二人に協力したくなったから」

「ピピ」

「だから疑わないの」

「……健美ちゃんには完璧に警戒されちゃってるね」

 

 通訳されなかったので何を言ったのかわからないが、大和が諌めている姿を見る限りあまり遠慮ある言葉でもなさそうであった。それで燕は落ち込んだがすぐに立ち直る。

 

「じゃあ条件。私は出来る限り大和クンとは接触しないし、からかわない。さすがに相談はしたいから近づくのは許可して欲しいな」

「ピュィ……」

「嫌そうだね。でも大和クンばっかりに頼るのも負担がかかるだろうし、それに私みたいな嫌いな人と付き合っていく事も一つの勉強だと思うよ」

「ピュ……」

 

 燕が告げる『事実』に健美はわずかながら反応する。そして大和の方に目を向ける。黙って何も言わないが、大和の方は真っ直ぐな瞳に思わず困惑してしまう。

 

「えっと……」

「たいへん?」

「おお、喋った」

 

 しかし唐突に沈黙を止めて、しかも久々に言葉を使って質問した。

 燕はその珍しい事に興味津々だったが、大和はそんな陽気な気持ちはなかった。健美が言葉を使うのは大抵、覚悟をした時か真正面から向き合う時だ。そして今回は間違いなく後者。嘘曖昧な答えはダメだと、そう察した。

 

「うん、大変。正直、俺一人じゃ限界もあるから」

 

 大和は正直に、現状は限界にきていることを告げた。

 すると健美は目を瞑って俯き、しかしすぐに目を開けて燕を見る。そして箸を向けながら答えた。

 

「とらないなら、いい」

「……わかった。取らないから協力させてね」

「ン」

 

 燕の返事を聞いて健美は箸を降ろした。

 大和は健美の一部始終を見守っていたが、これは彼女の成長の証と考えていた。健美は今でも燕に敵意の感情に似た物を抱いているにも関わらず、条件付きながら協力することを認めた。

 

(俺の負担を軽くしたい思いもあるだろうけど、それでも燕先輩を受け入れたのは大きな一歩だ)

 

 これは大和の見解だが健美は人の好き嫌いがハッキリしている。大丈夫だと判断した相手には懐くが、危険と判断した相手には距離を取る。前者は自分や与一で、後者は百代や燕だ。しかし今回は距離を取っていた燕を認めたのは確かに大きな一歩だ。

 

「じゃあよろしくね、健美ちゃん。鳥の名前同士、仲良くしようね」

「プイ」

「うぅ、そっぽを向かれた……」

 

 前言撤回。形だけの協力で、別に距離を近づけたわけではなかった。

 

 

 

 




 と、言うわけで燕さんも協力してくれるようになりました。でも健美はまだ嫌いです。大和の負担を軽くするために受け入れただけです。


 しかし『これから~』と行きたいところですが時間は飛びます。じれったい流れを切って一気に加速します。『え?』と思う方もいると思いますがどうか最後までお付き合いくださいませ。


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第十五話「祭りの鐘が鳴った」

 どうも、こんにちは。今週は食事代をケチったせいで体力回復が足らず、頭痛を起こして体調を崩しかけましたがなんとか復帰してこうして投稿できました。健康管理は大事です。皆さんも気を付けてください。


あらすじ

 水上体育祭も経て健美の名は広まりつつあった。しかし大和にとっては次の手をどうするべきか悩んでいた。そんな時、三年の燕が二人に協力を申し出たのだった。
 最初こそ健美は燕の事を警戒していた。しかし今のままでは大和に負担がかかると知り、条件付きで申し出を承諾したのだった。
 』


 

 燕の協力は大きな力となった。元々、西では『納豆小町』と呼ばれて世間広く名を広めた武士娘。宣伝についてはこれ以上ない協力者だった。彼女の力もあって曖昧だった学外への知名度も広まり(もちろん納豆の宣伝も忘れていなかった燕先輩)、それを聞き付けた実力者も少しずつ増えてきた。

 もちろん大和も大和なりに色々な経験を健美にさせた。最初の孤児院の手伝いから清掃活動や奉仕活動と言ったボランティア。少々の不安はあったものの勧めた接待などのアルバイト。どちらも危ない場面もあったが何とか切り抜けた。(磁力でスチール缶集めたり不届きな客が触れた瞬間に放電したり)。そうやって活動を広めた結果、川神市内でも親しまれるようになった。

 そんな日々が過ぎて7月、もう間もなく夏休みに入ろうとした時にそれは発表された。

 

 

 

 

 

 それは、『若獅子タッグトーナメント』の開催だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発表から翌日、学園内でも多くの生徒たちがペアを組んで登録をしている。登録していないと言えばなかなかペアを見つけられないと言った人達であろう。

 

「――それで、健美ちゃんは俺と出たいと」

「ピ」

 

 そんな中、大和は健美からペアの申し出を受けていた。昼休みになった途端に屋上へ来てくれと言われたが、話題はこれだと思っていたのでそれほど突然な申し出と言う訳でもなかった。

 

「確か武士道プランの皆は参加は必須なんだよね?」

「ピ」

「そうなるとちゃんと勝ち抜かなきゃダメだよね?」

「ピ」

「だよね。じゃあ聞くけど、健美ちゃんは俺のカバーをしながら戦える?」

「……………………ピ」

「頷いたけど難しいって受け取っていいんだよね、その返事の遅さは」

 

 実力のある健美だが、タッグ戦の経験はなさそうであった。少なくとも義経たちとは一緒になって組んだこともあるかもしれないが、大和のような非武闘家との経験はないだろう。つまりどのようなカバーをすればいいのか知らないと考えるのが妥当だった。

 

「義経たちとは組まないのか」

「ピ、ピピ。ピッピピ」

「義経はスタイルから与一と組む方がいい。弁慶は『自分でパートナーを見つけるのも英雄の資質』と言われて断られたか。さすがに葉桜先輩はないか」

「ピ」

 

 強く頷く健美だった。だからと言って自分を誘ってくれるのはある意味信頼している証なのかもしれないが、流石に無謀すぎる選出だったと思う。

 

「まぁでも弁慶の言い分は正しいよ。自分の戦い方を見定め、その上で自分と相性のいい相手を見つけて誘うのも武人としての素質だと思う。まぁその上で俺みたいなのを相棒に選ぶのは間違っているとは言わないけど、もっとよく考えるべきだと思う」

「ピュゥ……」

「ああ、ごめん。別に嫌だってわけじゃないんだよ。ただ俺も健美ちゃんには勝ち上がってほしいからそれなりの実力者と組んで欲しいんだ」

「ピ?」

「俺は出ないのかって? 今のところは出来る気はないな」

 

 大和はこう言っているが、状況によっては出ると言っているようなものだった。気持ち的にも健美となら出てもいいと心の一部が告げているが、やはり彼女には出来る限り上へと勝ち上がって欲しかった。

 

(しかし健美ちゃんと相性のいい人っていってもなぁ……)

 

 これは大和の独断だが、これまで健美の戦いを見てきた印象は一言で言うと『ソロ』だ。つまり単独によるバトルスタイル。雷による攻撃はフォローがいらないほどに強力であり、同じく速度も文字通りの電光石火。例えるなら百代のように突撃型とも言えるものだ。そんなタイプと組める人物と言えば判断力に長け、臨機応変に対応できるようなタイプ。この条件に当てはまりそうな人物と言えば、一人しか――。

 

「やーやーやー、相談事ですかお二人さん」

「ん?」

「……ピ」

 

 唐突な第三者、燕が2人の前に現れた。

 

「と言っても何を相談しているか予想がつくよ。タッグトーナメントのペアでしょ」

「そうですね。燕先輩も声をかけられたんじゃないですか?」

「まぁお誘いはいっぱい来たよ。でも組みたい子がいるから断ってきちゃった」

「へぇ、誰なんですかその人は?」

 

 何気に大和が尋ねると、健美が燕との間に入って『取るな』と言わんばかりの眼で睨み始めた。

 しかしそんな健美の予想に反して、燕の言葉は意外な物だった。

 

「健美ちゃん、私とタッグを組んでみない?」

「……ピ?」

 

 燕は大和ではなく健美にお誘いを申し出た。大和に声をかける物だと思っていた健美は思わず首を傾げてしまった。

 

「ピピ?」

「なんで? ね。まぁ私的には大和クンとも出てみたいって思ってたけど、健美ちゃんと出た方が私にとっても得る物があるし、何より相性的には良いと思うんだ」

「あっ、燕先輩も俺と同じ考えですか」

「あれ、もしかして大和クン。健美ちゃんのパートナーに私の事を考えていた?」

「はい」

 

 即答だった。大和が先ほどパートナー候補として頭に浮かべていたのは確かに彼女、燕だった。彼女は技とスピードに長けた武士娘であり、加えて知力を持って的確な判断をするタイプ。突撃型の健美のフォロー出来るだろうし、立ち周りも上手くやり切る事が出来る筈だと。

 

「ふふっ♪ 大和クンも推してくれてるし、どうかな健美ちゃん。私と出てみない?」

 

 そして改めて燕は健美をコンビに誘う。健美はどうしようかと燕と大和を交互に見て判断に困っているようだった。

 

「ん~、大和クンの薦めでも一押しが足りないか。それじゃあ健美ちゃんに一ついいことを教えてあげる」

「ピ?」

「トーナメントで勝ち上がれば名は広がるし、実力も知れ渡る。まぁ大きく言うなら優勝して百代ちゃんとのエキシビジョンマッチで成績を残す事が出来たなら、それはきっと英雄の資格に等しいよ」

「……っ」

 

 『英雄』の言葉に健美の視線は燕を捉える。その目の色は半信半疑であった。

 

「……かてる?」

「それは私と健美ちゃんの頑張り次第だね」

「……わかった」

 

 健美は燕に向かって手を伸ばした。それは承諾の証で、目標への一歩だった。そして燕はその手を笑顔で握り返した。

 そんな二人を見て大和も自分の役割を決めた。

 

「二人が組むなら、俺は出場しません。二人のサポートに徹します」

「おや、いいの?」

「そのかわり、優勝したら賞品山分けで。まぁなくても協力しますよ」

「ピュイ」

「大丈夫、大丈夫。そんなに念を押さなくても一緒にいるから」

「ピッ」

 

 出場者は二人組のみ。しかし第三者がそのサポートに回る事は禁止と言う事もない。それに大和はこの二人が出るなら力が及ぶ限り手助けしたいと思ったからだった。

 

「そう言えば燕先輩、チーム名はもう決まってるんですか?」

「一応、こんなのはどうかな。チーム欣喜雀躍(きんきじゃくやく)

「ピピ?」

「欣喜雀躍って言うのはスズメ跳び跳ねるように喜んでいるさま、つまり小躍りして喜ぶって意味だよ。でもなんでそんな名前に」

「ツバメもツグミも同じスズメ目だから。あとは、やるからには楽しそうな感じがいいじゃない」

「なるほど」

「ピ」

 

 なんとなく燕らしい理由であると同時に、このチーム名は良いと思う二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 若獅子タッグトーナメント。チーム『欣喜雀躍』、参加決定―――。

 

 

 

 

 

 




 展開は唐突に『若獅子タッグトーナメント』へと入りました。以前、コメントより『模擬戦をやってください』と言った意見もありましたが、申し訳ございません。健美の場合は大将タイプではなので泣く泣く没にいたしました。ホントはやってみたかったけど、そうなると『清楚ちゃんマジ西楚』やんなかやいけないので。

 まぁ次回からバトルシーンが増えると思いますので、楽しみにしてください。それではまた。


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第十六話「前夜、二人の告白」

ちょっとスランプに陥りましたがすぐに立ちなおさせました。もう少し頑張ってます。



あらすじ

 若獅子タッグトーナメント開催。多くの若人たちが参加を表明し、強者たちが集う。
 そして大和と健美もその熱に乗り、どうするかと話していた。そんな二人の前に燕が現れ、健美にチームとして組んでほしいと申し出た。二人はそれを受け入れ、参加を表明した。
 チーム名は、「欣喜雀躍」である。
 』


 健美と燕がチームを組んだ後に怒った事と言えば、危機感を覚えた京が義経と組んだり与一が清楚と組んだりと、そんな感じに見知った面子が徐々に参加していくような事ばかりだった。

 そうして参加が徐々に落ち着いくにつれて期限は迫り、そしてようやく明日で開催となる。そんな前夜。

 

「ジェノサイドチェーンソー!!」

「きょっ、こうざん」

 

 健美とヒュームが戦っていた。

 

 

 

 

 ことの始まりは、それほど前とは言えな程のほんのさっきだった。

 

「あの、今さらなんですが態々家から出て送って貰わなくて良かったですよ」

「いいのいいの。明日は大会なんだから、話せるなら長く話したいのよ。ね、健美ちゃん」

「…………」

「睨まれてる……。別に大和クンの隣にいる訳じゃないのに」

 

 三人は横並びで右に燕で左が大和、その真ん中に健美。ちょうど『凹』な形になっていて、見る印象によっては微笑ましい。具体的に伝えると『健美が大和の腕に引っ付いて燕先輩にガン飛ばしている』=『とっちゃヤダ』である。

 

「まぁ息の合った動きも出来るようになったし、大和クンが持ってきた情報にもちゃんと確認しているから試合の方は心配ないんだけど」

「ピピ」

「『だって負けたくないもん』、ね。そだね。」

「燕先輩もここしばらくで健美ちゃんの言ってる事が理解できるようになりましたね」

「なんとなく、だけどね。さすがに大和クンや義経ちゃんほど正確じゃないけど」

「俺だってまだ全部とは言えませんよ」

「ピュイ」

「「『そんな事はない』って言った」」

 

 少し微妙な所もあるようだが、三人はしっかりと『チーム』として形を成しているようだ。準備は万全と言ったところだ。

 

「まぁとにかく、明日から本番。燕先輩、頑張って下さい。健美ちゃん、精一杯やってね」

「うん」

「ピッ」

 

 そして明日に向けて気を引き締め直す。試合に向けて自信を気合を込めて――。

 

「待て」

 

 そんな時、前方から三人を呼び止める声が聞こえた。三人は揃って前を見ると、そこにいたのは執事のヒュームであった。

 

「赤子がキャッキャと暢気に騒ぐのはいただけないな」

 

 そして三人が何かを言う前にダメだし。相変わらずであった。しかし、何故ここにいて態々声を変えたと言う疑問はあった。九鬼関係者から健美に用があるのかと思われるが、それにしてはいつもより威圧的だった。

 

「あの、ヒュームさん。こんな所でどうしたんですか?」

「面倒だから用件だけ言う。健美、俺と戦え」

「え?」

「ほい?」

 

 理解が及ばなかったのは大和と燕の二人だけ。健美は瞬時に動いてヒュームに向かって打って出ていた。

 

「ジェノサイドチェーンソー!」

「きょっ、こうざん」

 

 これが始まりだった。

 

 

 

 

「ハァ!」

「クゥ!」

 

 二人が衝突する度に雷撃・電撃が弾けて輝く。必殺技を使ったのは最初の一合のみ。これ以降は両手両足に雷電を纏わせた格闘戦だった。必殺技同士による『演出』がなくなり、接戦による『白熱さ』が際立つ。大和と燕は今まさにそれに呑まれていた。

 

「やっぱり健美ちゃんは単独がかなり強い。ずっと私に合わせてくれてたんだ」

「わかるんですか?」

「うん、息を整えるときは曖昧だったけどヒュームさん相手の今だからわかる。周りを気にせず、ただ前に向かってぶつかっている。最初の決闘みたいにね」

「マルギッテとの決闘、か」

 

 それを聞いて、大和は再び健美とヒュームの戦いに目を向けた。

 健美が蹴りを放てばヒュームはそれを脛で防ぐ。逆にヒュームが拳を放てば健美は紙一重で避ける。

 

「フッ!!」

「ピュ!!」

 

 すると二人は同時に距離を取り、直後にまた真正面から突っ込んでいく――と思ったがそのまま通り過ぎた。

 

「あれ、すれ違った時に拳が交わっている。しかも十数発」

「マジですか」

「マジだよ」

 

 燕が交差の際に起きた事を教えてくれた事で大和は改めてこの戦いのレベルを祭か幾人する。

 そして健美とヒュームは繰り返すように突っ込んでは通り過ぎ、交差と言う短い時間の打ち合いをする。大和にその様子は見えないが横で燕が横で『拳十発、蹴り一発……』と交差をするたびに何が打ち出されていくつ出たのか呟いて教えてくれていた。

 

「……! 大きいのが来る」

 

 呟いていた燕がそう言った直後、健美とヒュームが上へ跳んだ。真上でなく斜めで、上がり続ければすぐに接触するとわかる程に。そして、距離は互いの間合いに入った。

 

「ジェノサイドチェーンソー!!」

「きょっこうざんっ」

 

 最初に出した技が再び衝突し、ここ一番の雷電が発光した。

 

「まぶしっ!」

「おお、危ない危ない」

 

 大和は光に目を多い、燕は予見してすでにガードしていた。二人は視界を覆ってしまたがドサリ、と何かが落とされる音を聞いてすぐに開放した。

 二人が見たのは膝を着いた健美と、それを立って見下ろすヒュームの姿だった。早い、決着だった。

 

「「健美ちゃん!!」」

 

 大和と燕は声を揃え、迷わず健美に駆け寄った。健美に寄り添って状態を確認すると、怪我はなく服が汚れているだけだった。ただ呼吸は乱れており、体力がなくなっていることが明白だった。

 

「――やはりな」

 

 そこへヒュームが声をかけた。大和と燕が顔を向けたがヒュームはただ健美を見ている。そして健美が顔を上げたと同時に言った。

 

「『本気』であっても『本性』を出していない。せっかくの潜在能力が全く表に出ていない」

 

 その言葉に大和と燕は健美へと目を向けた。そして二人は同時にこんな言葉があった。

 『あれで全力じゃない?』と。

 

「ピィ………」

「明日は絶好の機会だと言うのにまだ正体を晒すのが怖いのか? 英雄は称えられると同時に恐れられる存在だ。恐れから逃げる以上、どんなに強くともどんなに多くの人間に愛されようが真の英雄にはなれん。この一歩を踏み出せない以上、英雄になる事は諦めろ」

「………」

 

 容赦のない言葉に、健美は項垂れていた。

 ヒュームの言葉から察するに、『明日の大会で正体を晒して戦え』と言っているようなものだった。しかし健美が正体を明かすのを恐れているのを知っている大和にとってそれは速すぎると思った。まだ正体を知らないが、だいたいの予想をしていた。もしかしたら、『人』として伝えられていないのではないかと。

 

「松永がいれば優勝も夢ではないだろう。だが、それだけだ。『優勝できる』止まりでは、な。――伝える事だけは伝えた。俺は先に帰る」

 

 そしてヒュームは背を向けて立ち去る。瞬間的に移動できる彼であればすぐに戻る事が可能だろう。これまでそんな場面は見て来たし、今回もそうだと思えた。

 

 

 

 

「待ってください」

 

 

 

 

 だから大和はヒュームの姿が消える前に呼び止めたのだった。それは無視しても良かったのだろうが、ヒュームはそれを聞き届けて大和を見た。

 

「なんだ?」

「言うだけ言わせて下さい。本音を言うと俺だって健美ちゃんの正体は気になりますし、知りたいと少なからず思ってもいます。でも同時にヒュームさんが言う様に、英雄には恐れられる事も覚悟しなければならない事も理解しています。俺は姉さんをずっと見てきましたら」

「ほぉ。それで?」

 

 ヒュームは『本当に言いたいのはそんな事ではないだろう?』と言った風情で聞き返す。

 大和もそれを察し、本当に言いたい事を口にした。

 

「健美ちゃんはクローンですが同時に『夜響 健美』です。この現代で頑張っている、一人の女の子です。オリジナルを超えて英雄の頂を目指している、俺が支えたい女の子です」

 

 まるでそれは恋人が相手の親に挨拶しに来たような台詞だった。これを聞いてヒュームは口を緩め、燕は驚いて口元を隠し、健美はただ目を向けていた。

 

「――好きにしろ」

 

 ヒュームはそれだけを言い残して姿を消した。

 そしてしばらく沈黙の時間が過ぎると、大和は自分の言った台詞を想い返して顔を赤く染めた。

 

「えっと、さっきのは……」

「大和クン。いい告白だったよ」

「ぬぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 燕の一言で大和の羞恥は最大となり、感情のまま走り始めてしまった。さっきまでの出来事をぶち壊すほどに、だ。

 

「やっぱり大和クンは可愛いな」

「……ピ」

 

 後輩をからかって燕は楽しそうだったが、健美はそれが気に障ったようで振り払うように燕から離れた。

 

「あやや、怒らせちゃったかな」

 

 健美は口にしなかったものの『当たり前だ』と言わんばかりのジト目で睨んでいた。しかし彼女はすぐに大和の跡を追うつもりらしく、戦闘直後ながらしっかりした足取りで動く。

 

「―――  」

 

 しかし燕が口にしたその『名前』で足を止めてしまった。

 

「やっぱり、健美ちゃんはこのクローンなんだね。こうして反応があるまで信じられなかったよ」

 

 燕が口にしたのは予想していた健美のオリジナル。この言から尋ねるまで確信に至ってなかったが、ここでそれを得た。

 

「でもむしろスッキリした。私は健美ちゃんを選んで良かった」

「………ピ?」

 

 健美はその言葉の意図を読むことが出来ず、固まっていた体が動いて燕と目を合わせる。

 

「健美ちゃん。私、優勝した後は百代ちゃんとエキシビジョンマッチをやる。その為の準備もしてきた。でも、確実に勝てる自信はない。一人だと、勝てる自信がない」

 

 燕は一歩一歩近づき、健美の目の前まで来るとそっと手を差し出した。

 

「もしね、健美ちゃんにその気があったらでいい。一緒に、百代ちゃんを倒してほしいんだ。健美ちゃんが自分の正体を晒してでも」

 

 ヒュームの言葉と、大和がいなくなった事でようやく口にすることの出来た燕の本心だった。

 

 

 

 

 

 しかし健美は、その手を眺めるだけで握り返そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 




 なんか告白回、という感じで書きました。そして今回も正体のヒントが出ました。しばらくしてマジでますで楽しみにしてください。


 では次回、また。


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第十七話「若獅子タッグトーナメント開幕ッッ!!」

 寒くなってからと言うもの、なかなかテンションが上がらず投稿速度が下がってしまいました。でも頑張ります。そして本格的なバトル展開を!!




あらすじ

 明日に本場を控え、三人で最後の打ち合わせをしていた大和、健美、燕。そんな彼らが夜道を歩いているとヒュームが立ちふさがり、そして健美とのバトルがはじまった。 結果はヒュームに軍配が上がった。すると彼は健美に向かって遠慮ない言葉を向ける。
 しかしそこへ大和が反論する。自分は彼女を支えると。告白に近い宣言をした。そして同時に、燕は百代を倒すために健美を選んだことを伝える。彼女の正体を当てて、その上で協力を申し込んだ。
 大和の告白は置き、健美は燕の申し出に対しては何もしなかった。
 』



 

「行くぞ!! 我こそは――」

「ピュイン」

「ぬあぁあああああああああああああああ!!!」

 

 名乗りを上げようとした、カンフー風の男性が容赦なく落雷に当てられた。正確には川神学園女子制服の少女の指先から発生した電撃が弧を描いて命中した。

 

『健美選手の雷攻撃が落ちて撃沈!! 勝者、チーム欣喜雀躍!!』

 

 実況からの宣言から観客が沸き立つ。

 

 

 今日は待ちに待った若獅子タッグトーナメント。その予選を、実力者たちは着々と本戦へと勝ち上がっていた。

 

 

 

 

 

 一試合を終えたチーム欣喜雀躍こと燕と健美は控室から離れて自動販売機コーナーにいた。

 

「いやー。見事な一撃だったね。私が動く暇なんてなかったよ」

「ピュイ」

「えっ、『最初から動く気なんかなかったんじゃないか』って? まさか~、そんなとないよ~」

「…………」←いっさい信用していない眼差し。

「……ごめんなさい。その通りです。だからその目を止めて頂戴」

 

 地味に来たのか、小悪魔的な笑顔から一転して燕は自身の嘘を認めて謝った。それを見て健美は大げさなくらいに胸を張って頷いたので許してくれたようだ。

 

「でもこれであと一試合で本線進出が決まるよ。大物と当たらなくて幸運だったね」

「ピュイ、ピ」

「『なんで当たらないんだろう』? うーん、神さまのお導き?」

「ピ」

「別にキリスト教徒でも神道に精通していないからね」

 

 少しボケた内容が混ざっているが、彼女たちもあと一試合で予選通過となり、本選出場となる。そして燕が言ったようにこれまで苦戦を強いられるようなチームとぶつかることなく進められたのでまさに幸運だったと言えるだろう。

 

「そう言えば義経ちゃん達もチームも順調に勝ち上がってたね」

「ピ」

「ほぉ。意外にライバル心メラメラだね。『戦うのが楽しみ』だなんて」

「ピュイ」

「なるほど。青春だね」

 

 ニヤニヤと、健美が最後に言った言葉を聞いてそんな評価を呟いていた。燕の様子から本当に青春チックな甘い言葉だったのかもしれない。

 

「あ、でも今度は私にやらせてね。私としても家名を上げるだけあげたいからさ」

「ピ」

「うん、ありがとね。――で、昨日の返事は?」

 

 そして唐突に今日の試合の話から昨日の申し出に切り替わった。

 

「……ピ」

「確かに『気があったら』って言ったよ。だから今日また気が変わってないか確認したの」

「ピッピ」

「なんでそこまで拘るのかって? 実は今まで色々な手回し・下見はしてきて隙や弱点を見つけられたけどやっぱり足りない。百代ちゃんのメンタルを揺さぶりでもすれば可能なんだけど、さすがにそこまでは出来なかった。残されたのは外部戦力しかない」

「ピピ」←自身を指差している

「うん、健美ちゃんが一番の戦力だって判断した。雷の属性だし、それにマルギッテとの試合で『全力』じゃないって気付いてたからね」

 

 その言葉に健美の髪がピンと立った。本人にしてみればその時に見破られていたのかと言う驚きだった。

 

「あの時は確かにうまく隠していたみたいだけど、残念だけど私もそっち系だよ」

「ピィ」

「そっけないね。まぁそう言う訳だから健美ちゃんを選んだわけ。ヒュームさんが言ってたように『本性』を隠している健美ちゃんを。もしかしたら百代ちゃん並の闘争心に匹敵するかもしれにゃいっ!?」

 

 いきなり燕が悲鳴を上げた。原因は健美が出した雷(微弱)が彼女の体に感電したせいであった。

 

「ピピ」

「『誰がいるのかわからないから、余計な事は言うな』ね。ごめんごめん、確かにその通りだわ」

 

 自分らしくなかったな。そう反省しながら燕は痺れた所を優しく撫でる。しかし逆に勘あげればそれだけ自分が焦っていると言う事でもあり、意志を持ちようを気を付けるべきだと気付くことが出来たと思う事にした。

 

「おっと、そろそろ次の試合の時間だ」

「ピュウ。ピィ」

「次の相手? えっと確か――凸凹マシンガンズだっけ」

 

 

 

 

 

 

「西方十勇士が一人宇喜多秀美!」

「おなじくあまごはる!」

 

 次の対戦チーム凸凹マシンガンズは天神館の二人だった。パワー系の秀美とスピード系の晴、その他色々な対極の長所をそれぞれ兼ね備えているから凸凹なのだろう。

 

「西方十勇士か……。今までの相手チームより強いだろうね」

「ピピ」

「うん、さっき話した通り。私がやるよ」

「ピ」

 

 健美は譲る様に一歩下がり、燕は挑むように一歩出た。

 

「私が相手だよ。健美ちゃんばっかり頑張らせたくないからね」

「えっ、マジで! ウチとしてはその小鳥娘より松永さんと戦ってみたかったんや!!」

「それはちょうどいいね」

「おい、わたしをわすれるな」

 

 二人だけで盛り上がりそうだった所を晴が諌める。が、その目は鋭く燕を捉えていたのでこちらも戦いたくて仕方がなさそうだった。

 

「モテモテだねぇ~。でも時間をかけちゃ衆目は集められないんだよね」

「ピュイ」

「ん、『礼を欠かない』? う~ん、それもそうだね。なら、二人同時に行こうか」

 

 燕はこの試合での立ち回りを決め、軽快にステップを取る。

 そして、試合の合図が鳴った。

 

「ほな、行くでぇえええええええええ!!」

「こら、さきばしるな!」

 

 合図と共に秀美が燕に襲い掛かる。晴はその猪突猛進な行動をとった相方に対して怒鳴るも、その動きは彼女の隙をフォローするかのようだった。

 

「どっせぇいっ!」

 

 そして秀美は勢いをそのまま乗せたハンマーを振り下ろした。会場が揺れ、ハンマーを振り落とした跡から煙が舞う。

 

「ふぅ、一撃で終わったか?」

「ばか、まだ――」

「ん?」

 

 勝利を確信した秀美。が、そこへ晴が何かを伝えようとしてその言葉が途中で途切れた。

 秀美が振り返ると、相方である晴が倒れていた。

 

「あれ、いつのまに!?」

「――ついさっき。てなわけで貴女にも一発」

 

 驚く秀美の後ろから燕の声。そして彼女は対応させる間もなく、鍛えられぬ箇所に一撃を与えた。

 

「あうぅ……」

 

 秀美の巨体は音を立てて倒れた。

 

『なんと!! 同時に二人も気絶させた燕選手!! ルール上一人だけでいいのだが、こちらが確認する間もなく同時撃破だ!!』

『単純に無駄なく動いたんだ。宇喜多のハンマーを避けた後、尼子に接近して手刀。その後すぐに戻って宇喜多を沈めた。見事だ』

 

 興奮した実況が大々的に叫び、それに合わせ百代が簡潔に詳細を伝える。それには観客たちも大きな歓声を上げるのだった。

 

『これまで夜響選手の瞬殺だったが相方の松永選手も負けてはいない! チーム欣喜雀躍、雀が踊るチーム名にしてはすごすぎだぞ――――――!!』

 

 実況の声が響き、二人の名前が多くの観客、さらにTV中継で観戦している人々にも印象深く残された。

 

 

 

 

 

 

 そして、彼女らは明日の本選出場が決まった。

 

 

 

 

 

 

 




 大和が出ません。なぜかって?『関係者の方以外の立ち入りを禁止します』的なあれで選手控え室には顔を出せませんでした。ある意味常識です。彼は観客席でめいいっぱい応援していますので、あしからず。

 そして次回から本戦開始!! まじバトルだよ!! マジ決戦だよ!!

 次回もよろしくお願いしまっす!!


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第十八話「本戦開始! さて、トーナメント表は?」

タッグトーナメントに入ったのでテンション上げています。その反面、『マジ恋』以外の二次小説やオリジナルを『小説家になろう』とかに投稿してみたいなと思っています。でも今はこっち優先です。


あらすじ

 若獅子タッグトーナメント開幕!
 健美と燕は順調に試合を勝ち残り、本戦へ向けて進んでいく。その休憩中、燕はまだ百代討伐協力を諦めていない事を伝える。同時に健美を選んだ理由と考えを伝える。しかしそれでも答えはもらえなかった。
 そんなこんなで最後、凸凹マシンガンズを倒した二人は本選出場が決まった。
 』


 

 翌、8月3日。タッグトーナメント本戦当日。

 

「それじゃあ大和クン、行ってくるね」

「はい、頑張ってください」

「ピュイ」

「うん、健美ちゃんも頑張って」

 

 本戦に勝ち残った燕と健美は入場待機の為に控室へ向かう前、大和からの応援を貰っていた。予選と同じく大和は直接的なサポートは出来ないので今日も観客席での応援と言う形となっている。しかし電話でやり取りをするくらいの事は可能である。(昨日は特にアドバイスがなかったのでしなかっただけ)

 

「燕先輩、もし情報か何かあれば電話してください。スグルが映像を撮るらしいので」

「わかったよ。じゃ、私は行くね」

 

 先に燕が一般人立入禁止区域に入っていく。少し急ぎ過ぎではないかと思うが彼女の事だ。先に入って拾える情報は拾う腹積もりなのだろう。

 

「健美ちゃんも何かあったら連絡を入れてね」

「…………」

「健美ちゃん?」

 

 同じく健美にも一言伝えたが、どういう訳か彼女は大和をジッと眺めている。少し前なら何かあるのかと思うが、開幕前夜の事もあるので大和はかなり照れくさい。

 

「……しつもん」

「へっ? あっ、ああ、うん。なに?」

 

 人語で声をかけられたので大和は驚いたがすぐに落ち着いて返事をする。

 健美は大和に向かってこう言った。

 

「おとといの、ホント?」

 

 それはちょうど開幕前夜の事だった。

 それを聞いて大和は言葉が詰まるほど動揺し、顔にも熱が上がっていく。なんでこんな時にと思ったが、その理由はすぐに察した。

 

(ヒュームさんが言ってた事、だよな)

 

 健美は恐れられる事を避けて『本性』を隠している。その起源は与一から聞かされた、研究員に『化け物』と言われた事。最初こそ憤りはした大和だったが、健美の正体(・・・・・)を客観的に見るならそれは一つの認識であった。受け入れる者もいれば拒絶する者もいる。それは仕方がない事だろう。

 しかし大和自身の気持ちはすでに『今さら』と呼べる域にあった。

 

「ホントだよ。俺は健美ちゃんを支えてあげる」

 

 すでに大和の気持ちに揺るぎはなく、目の前の少女の為に頑張ると決めていた。それはもう、『恋』と呼べる域であることも自覚している。でも本気の告白は今日の戦いが終わってからしよう。そんな決意が今まさに固まった。

 

「……ん」

 

 返事も人語で、珍しい物だった。こう言う場面は初めてなので健美がどんな状態なのか大和はわからないが、彼女が笑顔であったので良い感情を抱いているのはわかった。

 

「じゃあ健美ちゃん、がんば――」

 

 

 

 

 ―――チュ。

 

 

 

 

 今一度、一言添えようとすると頬に柔らかい感触。そして気付く両肩に感覚。

 大和は、自身の肩を使って軽い跳躍をした健美にキスをされていた。

 

「へ?」

「ピュイ」

 

 声が出たのは健美が着地した後で、しかも彼女はそのまま立入禁止区域へと言ってしまった。

 

「………へ?」

 

 大和は不意打ちの連続でしばらく思考が混乱して立ち往生することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 健美の不意打ちからしばらくの時間が経ち、いよいよ本戦開始となった。会場は観客の熱気で空気が震え、声が場外にも届く。そんな中、大和は熱を冷める為に戻るまで時間がかかったのでクラスメイトから怪訝な表情をされていた。

 まぁそんなラブコメな話は置いておき、実況の田尻が本戦出場の選手たちを紹介していく。

 

 

 源義経と椎名京の『源氏紅蓮隊』

 

 長宗我部宗男と島津岳人の『400万パワーズ』

 

 黛由紀江と武蔵小杉の『ザ・プレミアムズ』

 

 那須与一と葉桜清楚の『桜ブロッサム』

 

 福本育郎と鉢屋壱助の『無敵童貞軍』

 

 正体不明の『ミステリータッグ』

 

 マルギッテ・エーベルバッハとクリスティアーネ・フリードリヒの『大江戸シスターズ』

 

 武蔵坊弁慶と板垣辰子の『デス・ミッショネルズ』

 

 不死川心と榊原小雪の『KKインパルス』

 

 九鬼英雄と井上準の『フラッシュエンペラーズ』

 

 板垣亜巳とクッキー2の『アーミー&ドック』

 

 川神一子と源忠勝の『チャレンジャーズ』

 

 大友焔と風間翔一の『ファイヤーストーム』

 

 武田小十郎とステイシー・コナーの『ワイルドタイガー』

 

 羽黒黒子と板垣天使の『地獄殺法コンビ』

 

 そして最後、松永燕と夜響健美の『欣喜雀躍』

 

 

 以上16チームが田尻の高らかな紹介で会場に現れた。軽く解説の百代と三郎が本戦突破における説明を加えた後、いよいよ対戦トーナメントが発表された。

 

 『欣喜雀躍』は第三試合。相手は、『デス・ミッショネルズ』だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、こりゃあくじ運が悪いわ」

 

 一戦目が優勝候補相手に苦い顔をする。他に叫んでいる者もいるが今は特に関係ないので放っておく。

 そんな中、田尻から更なる説明が伝えられる。

 

「なお、これはあくまで仮のトーナメント表になります。正式な決定は30分後になります」

 

 これを聞いて燕の顔は普段通りに戻った。田尻が言ったのは交渉次第でチームの入れ替えが行える事であり、初戦からの大物食いやその逆も出来る事だった。

 

(こりゃあすぐにどこかのチームと交渉した方がいいかな。一番交渉がしやすそうなのは『ファイヤーストーム』か『チャレンジャーズ』ぐらいかな)

 

 選定基準は主に『強者と戦いたいそう』と『二つ返事で受けてくれそう』の二つ。もちろん他のチームに対しても交渉次第で何とかするつもりだった。

 そんな事を考えていると手首を健美に掴まれた。

 

「ん、なに?」

「…………」

 

 燕は応じるが健美は何も答えずジッと見つめている。何かと首を傾げたが、燕はまさかと思う可能性が一つ。しかしあり得る可能性でもあった。

 

「健美ちゃん。もしかして……」

「……ンピ」

 

 あえてその可能性を言葉にして口に出すことはなかったが、健美は察してくれたと判断して堂々と頷いた。それを見て燕は掴まれた腕を引っ張ってみる。しかし解けない。次にこの状態のまま移動してみる。自分が背高いのにまったく動けない。

 

「…………はぁ」

 

 それは諦めから出たため息だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は過ぎ、正式なトーナメントも決定した後、燕と健美は舞台の上に立っていた。

 

「さてさて、やっちゃったからには責任とってよね」

「ピ」

「うん、じゃあ行こうか」

 

 気を引き締めて二人は対戦相手対峙する。すると対戦者の方が声をかけてきた。

 

「妹分でも手加減しないよ、健美」

「頑張る~」

 

 相手は弁慶と辰子。『欣喜雀躍』は入れ替えを行わず『デス・ミッショネルズ』との試合に臨んだ。その原因は健美が、弁慶と戦って勝ちたいとしていたからだった。

 

 初戦からの大物食いとなった健美と燕。困難な壁だが、打ち破れないものとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談。

 

 健美たちの試合は一回戦第三試合なので、第一、第二の試合もあった。その結果は以下の通り。

 

 

 

 第一試合、『地獄殺法コンビ』VS『ワイルドタイガー』。

 両チームの試合はある意味で幸運な結果と言えた。試合開始直後、黒子がステイシーに向かっていくも銃で反撃をされる。しかし黒子はその乱射に耐え、その隙に天使が小十郎と対峙して彼をノックアウト。

 勝者は『地獄殺法コンビ』となった。

 

 

 

 第二試合、『400万パワーズ』VS『無敵童貞軍』。

 こちらの試合は忍者がいたにも関わらずあっさりした決着だった。壱助は何か小細工をしたようだったが、宗男が何事もなく油を被った事で不発だったことがわかる。結局、壱助は事実上の1対2の試合となり、忍術を駆使するも敗北した。

 勝者は『400万パワーズ』だった。しかしその反面、忍術のオンパレードや育郎を守り切った事から壱助自身と天神館、そして忍者の名が高まった。

 

 

 

 ちなみに不発の原因はこちら。

 

1. 壱助、本人にフェイントをかけつつ宗男の樽に爆薬を仕掛け終える。

2. 何事もなく立ち去った後、そこに燕を抑え続けて気分転換をしていた健美が出現。

3. 火薬の臭いを嗅ぎ取り、それが唯一火薬を使う焔の物ではないと気付く。

4. 不審な危険物として九鬼の関係者に渡す。

5. 樽を取りに行った宗男だったがない事に気付き、急遽予備を使う事になった。

 

 以上。

 

 




 はい、トーナメントはいきなりこの二人のバトルになります。理由としては、『このまま変えなかったらクロ-ン組と闘うな』と気づいたから。だからこのままにした感じです。ついで、第二試合は主に、やりたかったから。

 それプラス、健美のキスは背伸びした感があると思いましたが、それがいいとどこかの自分がささやきました。ちなみに大和はこの時点で健美の正体に辿り着いています。その上で大和は健美を支えます。さっさと告白しろ軍師。

 でも次回、弁慶との戦いは熱く行きたいと思います。熱くなかったらそれは私の未熟さです。先に謝ります、未熟でごめんなさい。

 それでは次回、楽しみにして下さい。


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第十九話「VS武蔵坊弁慶」

 こんばんは。いままでの更新速度からすると一番遅い投稿です。バトルなので頑張って書いているうちに『なんか違うな』と感じてバッサリやり直したりしました。で、内容もこれまでの文字数なのでもの足りないかもしれませんが、どうぞ観ていってください。



あらすじ

 本選出場を果たし、若き実力差たちとの戦いが始まる。大和は健美と燕を激励をし、二人も期待以上の結果を残すべく臨む。
 そして欣喜雀躍の最初の相手は、デス・ミッショネルズ。弁慶&辰子のパワーコンビ。避けることもできた試合だったが、健美がこの相手と戦いたいとして避けることはしなかった。避けなかったからには、勝て。
 』


 

 

「それでは両チーム、準備はよろしいかな?」

 

 司会の田尻が確認すると二チーム四人は黙って頷く。すでに目の前の対戦相手に集中し、声で返事をする気もなかった。それが無礼とも思わず、むしろいい緊迫感を醸していると田尻は感心していた。

 

(一回戦から激しい戦いが観られるようですな)

 

 ただそんな期待を胸に秘めていた。それを抱き、田尻は息を吸う。

 

「ではタッグバトル、レディゴォ!!」

 

 

 

 

 

 

 試合開始の合図に合わせ、燕と健美は素早く前に出た。二人とも構えているので間違いなく先制攻撃を狙っている。燕は辰子へ、健美は弁慶へとだ。

 

「むっ」

「はわっ!?」

 

 弁慶はすぐに対処したが辰子は遅れた反応を見せる。結果として弁慶は防御を成功させ、辰子は中途半端になって体勢を崩す。

 

「じゃあ健美ちゃん! そっちはよろしく!」

「―――ィ」

「風で声がかき消されちゃってるね!」

 

 戦闘中に余裕と思うがこれで最後。これからは互いに目の前の相手を倒す事にだけ集中する。恨みっこなしの、早い者勝ち勝負だ。

 

『これはコンビネーション攻撃をさせない為の形に持っていったな。これまでデス・ミッショネルズは同時攻撃によるKO勝ちだったから』

『まぁお前もそれで負けたしな。でもそれでも二人は強い。そう簡単には上手くいかないだろう』

 

 三郎と百代が試合の解説をして観客に欣喜雀躍の意図を伝える。確かにと共感する者ものが多く、しかしそれで倒すのは難しいと思う者も多かった。

 そして事実、その方法でデス・ミッショネルズに挑む二人はそれを忠実に実行する。

 

「では燕ちゃん、いっきま~っす!!」

「あわわわわわ」

 

 燕は体勢を整え終えていない辰子にラッシュをかける。しかし相手も相手で攻撃を受けていながら怯んだ様子はあまりない。こっちはこっちでタフさがあった。

 対して健美と弁慶は最初のやり取りから動いていない。牽制しあう、にしては二人とも気を張っている様子はない。ただ相手を見ているといった感じだ。

 

「……昔を振り返ってみると私たちが戦った回数なんてあまり多くないだろうね。いつもは義経の鍛錬とかが多かったから」

「ピィィ」

「いやいや、別に相手をするのが嫌だったわけじゃにあんだよ。なんていうかさ、ちゃんと相手が出来る自信がなかったんだよ。健美ってさ、油断していると反射的に先制攻撃をしちゃいそうになる時があったから」

 

 笑い事では内容な事を笑って言う。しかしそれに憤ってもいい健美はあまり反応した様子はない。むしろ首を傾げて理解していないようだった。見覚えがない、とすればそれは逆に異常だったと言える。無意識下で弁慶を警戒させるなど、恐ろしいとしか言いようがなかった。

 

「まぁそんな事があるから健美との相手は避けてた訳。とりあえず謝っとく、ごめんね」

「ピュイ、ピ」

「だったらここで戦って、か。そだね、たまには妹分の相手もしないといけないよね」

 

 シャリンと、弁慶の錫杖が鳴ると弁慶の気が張り詰める。すると健美も少しずつその体から雷を発生させる。

 

「……じゃあ」

「行くよ健美!!」

 

 そして二人はようやく本格的に戦い始めた。

 先手はまたもや健美。今度は雷を纏っての突撃であり、威力は見た目以上に何倍も跳ね上がっている筈だ。しかし弁慶はそれを見ても動かず、真両面から受け止めるつもりだった。

 

「そぉい!!」

 

 受け止めるは間違いだった。弁慶はやったのは健美を近づけ、愛用の錫杖によるカウンターだった。振り下ろす方向は真横。縦では左右どちらにも避けられるし、避けられては錫杖はステージに叩き付ける形になるのでその後の行動がワンテンポくれる。しかし真横なら上・下・後ろ、そして振る方向にしかない。そちらなら次の手も予め決める事が出来る。

 

「―――ッ」

 

 その中で健美が取ったのは予想外となる防御ではなく、予想内の回避。そして避けた方向は下。トカゲのように這うかのような体勢だった。そして腕の筋力だけでそのまま後ろに下がり、そして今度は脚の筋力だけでまた突撃する。

 

「そう来るか!」

 

 迫り来るヒット&ウェイの攻撃。あのまま這う状態から攻撃に転じてくれれば先読みしていた行動通りであり、比較的楽に対処できた。こうなってはこのままの勢いを利用するしかないと判断する。弁慶は錫杖を振り回した勢いを更に勢いづけるために一回、二回と体を回す。そして十分な勢いを溜めると錫杖を健美に向かって投げた。

 健美はこの手に刹那で焦った。自分はこれ以上なく速度を上げ、弁慶より速くなっている。しかしその速度は直線的な物であり、急な方向転換は出来ない。そしてそんな速度の中で弁慶の錫杖が目の前から勢いよく飛んでくる。何が言いたいかと尋ねらればこう例えて答えるだろう。

 

 

 

 

 正面衝突しかける暴走列車は互いに躱せるかと。

 

 

 

 

 答えは、無理。弁慶の錫杖は健美の腹に命中した。

 

 

 

 

「――――ッッッ!!」

 

 悶絶する声を抑える健美。かなりの一撃だったが、それでも耐えようと我慢した。しかも直撃した錫杖を手にし、そして突撃することを止める事無くそのまま弁慶へ向かっていく。

 

「うへぇ!?」

 

 これに弁慶は驚いた。彼女の予想ではここで沈める気だったが、その予想以上に健美は耐えて向かってきた。その驚愕が彼女の行動を遅らせ、隙を作った。

 健美はその隙を逃さず、そして手に入れた錫杖を握りしめて跳んだ。

 

「ぶき、しようの―――」

 

 錫杖に雷が纏っていき、激しい音を立てて膨れ上がる。その言葉は比喩ではなく、本当に雷が形を成していく。それはまるで、輝く大剣だった。

 

「――きょっ、こうざん」

 

 縦一閃。その速度は弁慶が錫杖を振り回した時よりも速い、故に彼女の反応よりも速い。

 

「……無理」

 

 弁慶が一言そう諦め、動く間もなく――いや、妹分が前に進もうとしている事と目の前にして笑いながらその一閃を受けた。直後に雷の爆発だった。

 

 

 

 

 

 

 

「弁慶っ!!」

 

 選手控え室、モニター越しで試合を観戦していた義経が声を挙げた。しかしその声で彼女に視線を向ける者はいない。それだけモニター越しの試合は目を見張るものだった。そして今、舞台は爆発から煙が舞い、弁慶の姿を隠している。そこでは健美が錫杖を支えにして様子を窺い、二人の戦いの影に隠れてしまっていた燕と辰子は弁慶の下へ駆け寄ろうとしているところを上手く足止めしている状況だった。

 そうした中で煙は薄く霧散してゆき、そしてその中に隠れていた弁慶の姿が見えた。服には焦げ跡や煤跡が目立つが、体そのものに傷を負っている様子はなかった。しかし動く気配が全くなかった。すると映像の端で鉄心が田尻に何かを伝えている。その会話は短かったようですぐに離れたが、田尻はその後に宣言した。

 

『弁慶の気絶により勝者、チーム『欣喜雀躍』!!』

 

 勝者宣言から一瞬の沈黙、そして一気に湧き上がる歓声が響き渡った。

 

『健美ちゃん、賭けたな』

『賭けただと?』

『健美ちゃんは錫杖の一撃でもうかなりのダメージを受けていた。次の一撃に耐えられない程にな。だから残る気をさっきの一撃に込めて放ったのさ。弁慶が沈まなかった事に驚いて隙を見せたのも幸がそうしたな。ただこれで倒し切れなかったら健美ちゃんは勝敗条件に引っかからなくても戦えてなかっただろう』

『だから賭けなのか』

『まぁ燕はそれをカバーする気だったろう。自分の戦いをしながらも健美ちゃんと弁慶たちの方を意識していたからな』

『どの道、弁慶があの技を受けた時点で欣喜雀躍の勝利は決まっていたのか』

『その通りだ』

 

 大半の者が見破れなかったこの試合の流れを解説し、皆がここで大きく活躍しなかった燕に感心(※そうなるように燕が虎視眈々としていたのはここだけの話である)する。これからの戦いも、期待が膨れ上がるのだった。

 そんな考えが集中する観客席の中、二人のサポートに徹していた大和は違っていた。

 

(一回戦は勝てたけど、やっぱりここからが正念場だろうな)

 

 そんな懸念をしているが、仕方がないだろう。欣喜雀躍はいるのはトーナメント中もっとも激戦区と言える場所。第二試合で当たるのはザ・プレミアムズもしくは桜ブロッサム。黛由紀江のいるチームか、那須野与一がいるチームか。とりあえず大和は今ここで自分が出来る事をすると誓った。

 

 

 

 

 

 

 ―――チーム欣喜雀躍、短くも激しい戦いを乗り越えて一回戦突破。

 

 

 

 




 戦いは短かったかと思いますが、健美ちゃんは頑張りました。だからバッシングは私にお願いします。

 あと報告。この作品のお気に入り登録が100件を超えました!! 皆様、愛してくださってありがとうございます!! 何か記念の話を書こうかなと思いましたが、今回はこの作品を長く続ける気持ちにするため、先駆けてタイトル通りにしようと思います。



 『鳴く少女のマジ恋!』が完結した後の次なる少女のマジ恋!の物語、そのプロローグと言う形の予告で一時投稿します!!
興味があったら見ていってください。


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第二十話「VS那須与一」

 長く時間を空けてしまいました。ぶっちゃけ、『戦国恋姫』に嵌ってました。師走の残業後についやっていました。ごめんなさい。


あらすじ

 一回戦から強敵、弁慶と辰子のデス・ミッショネルズの試合。欣喜雀躍の二人は相手に連携を取らせないためにそれぞれが一人に集中する戦いを取った。
 健美は姉貴分である弁慶との対峙した。二人は全力で、まさに力と根気のぶつかり合いだった。全力だったが、その決着はすぐについた。
 勝者は健美。一つの壁を乗り越えた瞬間だった。

 』


 

 

 

 健美たちの試合に続く試合も白熱したものからあっさりとしたものまで。しかしどれも目が離せない試合であった事は共通している。

 

「………スピィ」

「ふむふむ」

 

 しかし健美はそんな試合を観る事無く、毛布を被って昼寝の最中だった。まぁ試合の観戦、他チームの情報収集は燕の方が得意であるし、現に彼女はテレビに映る試合風景を見ながらブツブツと呟いているのであった。

 こうして二人が別々な行動をとっているのは理由がある。燕はともかく、健美は最初の試合から全力であった。試合時間、打ち合った数が少なかったがそれは結果として全力を出し切った短期決戦の結果である。そしてその勝利に見合うだけの体力と気を健美は使用し、最後まで勝ち抜くには難しいほどのものであった。故に健美の睡眠は消費した体力の回復が主な目的。百代を倒す事を目標として参加している燕にとっては頭を下げて頼みたい事でもあったので次の試合までの行動を全て任されたのだった。以上、欣喜雀躍からの報告でした。

 そしてそんな二人、健美を見守る様にしている視線が三つ。一つは義経、もう二つは与一と清楚のものであった。

 

「ぬぅ……」

「声かけづらい、義経?」

「……うん、健美が勝ったのは嬉しいが弁慶が負けたのは残念だから少し複雑なんだ」

「でも今は寝ているから大丈夫じゃない?」

「えっと、起きた時に声をかけようかと……」

「しょーもない」

「あうぅ」

 

 源氏愚連隊は特に深刻な様子ではなかった。しかし片方、桜ブロッサムは複雑な空気を漂わせていた。

 

「えっと。大丈夫与一くん」

「ん、ああ。八つ当たりで姉御にラリアットを喰らったダメージなら回復したっす」

「そっちじゃなくて、健美ちゃんの方。気になるんでしょ?」

「……確かにそうっす」

 

 与一にしては珍しく素直は返答であり、清楚も予想外だったようで驚いていた。長い付き合から与一が健美の事を気にかけていたのは知っていたが、それを話題にするとそっぽを向かれることが多かった為、こんな反応は初めてだった。

 

「私の方から聞いた事だけど、今日は素直だね」

「そうっすね。でも闇からの囁きから、今日が運命の日になるんだって思ってます」

「???」

 

 清楚さんに中二病ネタはわかりませんよ与一くん。

 

「……俺も一つ、正面から向かってやるか」

「え?」

 

 中二病ネタがわからず頭を捻らせていた清楚を余所に与一が何かを決意し、そのまま欣喜雀躍へ近づいていく。

 

「与一くん、何を――」

「ちょっと頼みごとっすよ。なに、先輩が心配する事じゃないっすから」

 

 詳しいことを言わずに与一はさっさと清楚から離れ、そして欣喜雀躍――燕の前に立った。

 

「ん。何か用かな、与一くん」

「ちょっとした頼みごとっす。二回戦、俺と健美だけに戦わせてくれませんっすか?」

 

 今さらだからここで報告。両チームは第二回戦の対戦チーム同士だった。

 

 

 

 

 

 時間が流れるにつれて試合は順調に消化されていく。チームは半数以下となり、それに呼応するかのように観客たちの熱も上昇し続ける。そして二回戦第一試合も終え、第二試合が始まる。

 

「さぁ、二回戦第二試合は欣喜雀躍と桜ブロッサムの試合だ! 欣喜雀躍の夜響選手にとっては二連続になる英雄対決! もしこのまま順調に進めば源義経選手との衝突もあり得る話だ!!」

 

 高い熱も持つ観客を煽るかのように一つの期待を叫ぶ。それに同意する観客はほぼ全員であり、歓声が大きく響く。クローン同士の戦い、それなりに興味深い組み合わせなのだろう。

 

「では両チーム、前へ」

 

 そして試合も始まりを迎えようとする。

 

「健美、話は聞いているか?」

「……ピュイ」

 

 向かい合った両チームの、クローン同士の二人が言葉を交わす。健美は燕から与一の提案を聞かされていたので素直に頷いていた。

 

「ピピ」

「ん、確かにあっさり受けて貰ったよ。今さらが松永先輩、何か裏でもあるのか」

「いやいや、ないよ。でも強いて言うなら一回戦の二の前はしないってくらいかな?」

「えぇっ!? それって私を警戒してるって事じゃない」

「そんなつもりもないって」

 

 燕は笑顔で否定し、清楚はとりあえず彼女の言葉を信じる事にした。しかし振り返れば突撃してきた小杉を壁にめり込ませるほどのカウンター、多くの者は気にしていないが彼女の正体はいったいなんであろうか?

 

「まぁ何でもいいっす。それと、決着は一撃で決める。それでいいな、健美」

「ピ」

 

 二人が応じ、そして燕と清楚がそれぞれの後ろへと控える。田尻や観客たちは何かとを傾げるが、そこへ与一が口を開く。

 

「気にしなくていい。一回戦と同じ流れだと思ってくれりゃいい」

「そうですか。―――では二回戦第二試合、開始っ!!」

 

 良いと言われたすぐに試合を開始した田尻。『いきなりかっ!!』と思う声が要所要所に聞こえるが戦う当事者たちは慌てず、むしろ静かすぎる動きだった。そして両チームは静かに距離を取り、そして健美と与一が向き合った。

 

「――――行くぞ、健美」

「――――うん、いく」

 

 ここで観客は健美が言葉を発した事に驚いた。しかし試合に臨む、と言うよりステージ上の面子は気にしていない。健美と与一はそれ以上に、相手の事しかない。

 

「ふぅ………」

 

 与一は弓を構え、矢を添えて弦を引く。第一回戦で由紀恵と相対した流れだ。

 

「ピュゥゥゥ……」

 

 健美はスタートダッシュようなの体勢をし、両手両足に稲妻を走らせる。由紀恵のように集中して最高の一手を打つ狙いだ。

 これでこの試合は桜ブロッサムが一回戦で見せた状況の再現となった。しかし『またか』と思う者はいない。『次は那須与一が射抜くのか?』『もしかしたら夜響健美が勝つのか?』と言ったまた違う結果を見せてくれるのではないかと言う期待を抱いていた。

 時間は静かに、両者の一撃を高めながら流れていく。由紀恵の時は小杉を気遣った事で事態が動いたが今回は両チーム、相対する二人の気迫に圧させる心配はない。動くとしたら健美と与一、どちらかが必勝を確信できる最大の力を貯め込んだ瞬間―――。

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 

 

 与一が先に最大の一撃を完成させた。いつものような口上はなく、弦の音だけを響かせた。放たれた矢はまっすぐ、動かない健美の眉間へと飛ぶ。

 命中まで残り5m、3m、1m、80cm、60cm、40cm、30、20、10、5、4、3――

 

 

 

「―――――ッ!」

 

 

 

 しかしここで健美の気が一気に高まった。与一に遅れながら、彼女も最大の力を完成させた。両手両足の稲妻が膨れ上がり、落雷そのものの音を立てる。

 その光と速さに惑わされない目を持った者はそれを見た。雷が獣に似た形をした事を。

 

 

 

 

 

 与一の弦が響き、健美の稲妻が轟いたのはコンマの差である一瞬。一般人には見ることが出来ないその一瞬を見ることが出来たのは武道家たちのみ。そして見えた見えなかった者たちは決着のついたステージに注目する。

 二人はすでに真正面ではなく、背中合わせのような位置となっていた。与一は弓兵であるため最初の場から動いておらず、健美が彼の後ろに移動したと見て取れる。であれば勝敗は決まってる。

 

「……よくやった」

 

 与一はそう言い残して仰向けに倒れた。健美はまさに目と鼻の先にあった矢を凌ぎ、一撃で与一を沈めた。

 

「勝者、欣喜雀躍!!」

 

 田尻の宣言により勝敗が決まった。どんな決着だったのか知らない観客たちだったがそれでも高いレベルだったと思う。

 勝敗が決した後、健美は糸が切れたように膝を着いた。

 

「健美ちゃん!」

 

 そんな彼女に清楚が駆け寄る。敵同士であったが勝敗を決した今ではその行動は許される。彼女は身を低くして健美の様子を窺うと、彼女が大量の汗を流していた。

 

「もしかして、ギリギリだったの?」

「……ピ」

 

 弱々しい返事だ。あの一瞬はまさに全力の一瞬だったのだ。それを知って清楚は、その理由を知りたくなった。

 

「どうしてそこまで戦うの? 別に負けたってちゃんとすれば誰も非難しないのに」

「だめ」

「え?」

「かつ。ここで、かつ」

 

 理由は『勝つ』。しかしただ言葉通りの意味で捉えるのは違うと清楚は感じた。もっと何か、ここでの試合よりも大きな何かに勝とうとしているのではないかと。

 そんな考えに至ると、清楚はこう告げた。

 

「……最後まで、見守るね」

 

 彼女はそうする事にした。可愛い妹が、何かを為そうとしている。それがなんなのかわからない。もしかしたら間違っているのかもしれない。でも、それがハッキリとわからない今はただ見守っていきたいと思えた。

 

 

 

 

 

 ――欣喜雀躍、二回戦突破。

 

 

 

 

 




 一瞬で終わる戦いの表現は難しい。それだけです。

 今回は多く語らず、次の投稿に向けて励みます。


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第二十一話「VS源義経」

 以前の投稿ペースにはまだ戻れていませんが、なんとか投稿を続けています。やっぱり戦闘シーンンは難しいです。では本編へ、。どうぞ。


あらすじ

 弁慶を倒した健美はじっくりと休んで次の試合に備えていた。その試合の相手は那須与一と葉桜清楚の同じクローン同士の戦いだ。しかし今度は一回戦のような激しい戦いにはなからなかった。
 与一が燕に健美との一対一を申し願い、彼女はそれを承諾した。そして始まった二回戦は与一たちが一回戦で見せた内容とほぼ同質。観客も息を飲んで見守った。互いに最大の力を練り上げ、真正面から向かい合った結果、
 軍配は健美側となった。そして欣喜雀躍は順調に勝ち上がった。
 』


 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」

「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 雄叫びを挙げて突進してくるのは力自慢の岳人と宗男のコンビ。小細工なしの真っ向勝負。しかし――

 

「ちょいや」

「ごふっ!」

「がふっ!」

 

 真っ向勝負し過ぎてあっさり燕に片足を挫かれ、

 

「とぉ」

「がっ!」

「ぶっ!」

 

 そのまま点穴を打って二人の意識を奪った。

 

「燕選手、二人同時にノックアウト!! 準決勝第一試合! 勝者、欣喜雀躍!!」

 

 苦労と呼べる苦労もなく、この試合の勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 

「いや~、楽勝楽勝♪ 400万パワーズは動きが単純だから予測しやすかったよ」

「ピュイ」

「勝利した時と言ってたことが違うって? いやいや、嘘は言ってないよ」

「ピュ」

「あ、あははは……。言い得て妙だね、ここで『武士の嘘は武略』とは」

 

 遠慮なくズバズバと言われてさすがに参っている様子の燕。が、『よよよ……』とワザとらしい行動を取っているので実際は表面上だけだろう。健美もそれはわかっているのでジト目のまま彼女を見ていた。

 

「ピピッ」

「そだね。お遊びはここまでにしようか」

 

 しかしこのやり取りはちょっとしたお茶目だったようだ。燕はパッと気を張り、健美もジト目の色を消して眼光が走るほど鋭くする。二人が見ていたのは天井から吊るされているテレビ。そこに映し出される光景。

 

『それまで! 準決勝第二試合、源氏紅蓮隊の堂々勝利!!』

 

 ちょうどもう一方の準決勝が終わった所だった。そして、彼女たちが戦う相手が決定した瞬間だった。

 

「順調に勝ち進んだね。これで源氏トリオと戦う事になっちゃったね」

「ピュイ」

「最初のトーナメント表を見た時から確信してたって? 信頼してるんだね」

「ピュ」

 

 堂々と胸を張る健美。見ていて愛らしい姿だ。

 

「自慢なんだね。――だからこそ勝ちたいんでしょ」

「ピ」

 

 今度は力強く頷く健美。ここに来るまで弁慶、与一と言う兄姉分たちを超えてここまで来た彼女だ。いまさらその心に揺らぎはない。ただしこれまでに試合とは違うものだ。その為にすることは、一つしかない。

 

「でも今度の相手は前衛と後衛がしっかりした、理想形と言ってもいい二人組。一人で突っ走っても勝てないよ」

「……ピピッ」

「そこまで嫌われるのはもう慣れたけど、次の試合は信頼してちょうだい」

「ピュイ」

 

 源氏紅蓮隊に勝つためには、こちらもコンビネーションを駆使するしか他はない。この大会初めて、二人が息を合わせる事が勝利への道だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、両チームは衝突した。

 

「でやぁ!」

「ほっ!」

 

 義経の鋭い一刀を紙一重で躱す燕。しかし戦っているのは彼女たちだけではない。

 

「―――ヒュ」

 

 燕の影から健美が姿を見せ、義経の懐へ入り込もうとする。弁慶を倒した彼女なら義経相手では拳一つ当てるだけで沈められる。

 しかしそう簡単に事は運ばない。

 

「まだ甘い!!」

 

 義経の後方、弓を構えた京がその隙間を埋めるように矢を放つ。精密性の高いその矢は義経を傷つけず、かつ健美を狙った軌道を飛ぶ。すでに懐に入ろうと攻めに出ていた健美にそれを避ける術、退路はない。健美に為す術はない。

 

「はい救助!!」

 

 故に燕がそれをフォローした。彼女は義経の刀を避け、その後に健美が入れ替わった事で下がろうとしていたのでそのついでと言わんばかりに健美の首根っこを掴んで引っ張る。それが戻れない健美を戻すことに成功。矢は誰にも当たることなく流れた。

 しかし相手側もそのまま逃がすつもりはなかった。

 

「隙あり!!」

 

 二人の近くにいた義経が二刀目を振る。先ほどの一刀より速く、鋭い物だった。

 

「……ッ!」

 

 だがその閃光を、健美の手刀が弾いた。雷の属性を纏わせたその一振りは義経の刃にも引けを取らない威力を持ち、剣戟に似た音を鳴らす。

 その後に両者は距離を取って離れた。

 

「なんと! 決勝に相応しいほどの接戦であり、この大会の名に相応しいコンビネーションを魅せる試合だぁ!!」

 

 このタイミングで田尻の実況が割って入り、それに観客たちが湧く。実力者が織りなすコンビネーションの一進一退。まさに『若獅子タッグトーナメント』の名に恥じない試合だった。

 そんな沸き立つ試合を前に、大和は緊張感と焦りの色があった。

 

(やっぱり源氏紅蓮隊は大会一の優勝候補なだけある。と言うか京のやる気がハンパない……!!)

 

 少し関係無いところが混ざってはいるが、大和の見解は正しい。だからこそ欣喜雀躍が勝てるのかと不安を抱いている。しかし試合中、彼に出来る事はない。見守り、勝利を願うしかない。

 大和がそんな心配をする中、試合の臨む二人はただ相手の隙をついて勝つことだけを考えていた。

 

「わかっていたけどあっちのコンビネーションは『整ってる』ね! 少なくて小さい隙でも必ず嫌なタイミングで埋めてくる!!」

「ピュ」

「確かにその上、京ちゃんを狙ったら義経ちゃんが向かってくるから必然的に義経ちゃんと戦わなきゃならなくなる、だね!!」

 

 二人は冷静に分析・振り返りを行って逐一で状況を整理していく。しかしあくまでこれを整理しているのは燕。健美はただ彼女の指示通り、そしてその時の判断で足並みをそろえているだけである。その上で相手と引きを取らないコンビネーション。賞賛の一言だ。

 

「だけど今は隙を見つけてそれを通すしか勝算はないから、続けていくよ!」

「(コクリ)」

 

 二人は再び義経に向かっていく。接近戦に置いては2対1という物だったが、京がフォローしている故に実質の2対2.むしろ遠く離れた京からの援護射撃が厄介であり、優劣で言えば欣喜雀躍が不利だ。燕と健美はどちらも『前衛』。『前衛』の義経と『後衛』の京と違ってバランスが悪いのだ。それでいて決着がつかないのはそれを補う技があっての賜物だ。

 

「こい、健美!」

「一応、私もいるんだけど!」

 

 そして再び義経との接戦を始める。しかし後ろからは京の矢が絶え間なく義経の隙間を縫って飛んでくるので上手くリズムに乗れない。隙の多さでは健美・燕の方が多いくらいだった。それでもその隙を突かれる事はなく、そして目の前にいる義経を倒そうと攻め続ける。

 その中で燕が大勢の意識の外、健美だけにわかる場所で簡単なジェスチャーをした。それに健美はパチパチッと、静電気レベルの音で返した。

 

「長引くと分が悪くなるから、一気に行くよ!!」

「ならこちらも!」

 

 長引く接戦になると思われたが、唐突過ぎる決着宣言に両チーム距離を取り、観客も一斉に静まり返る。そして、再び正面に向かって飛ぶ。義経と向かい合ったのは、健美だった。

 

「やっぱりお前が来るか健美!!」

 

 向かってくるのが妹分と知ってどこか嬉しそうな義経。しかしその感情を表情に見せたのは一瞬。すぐに武士の顔に戻り、刀を構える。やる事は一刀で健美を倒し、連続して燕を倒す。もちろんそれは後方に控える京の援護射撃を信じた上で。

 

 

 

 

 

 

 もしそれが撃ち落とされたらどうなるか。しかも、自分が対峙していると思っていた妹分によって。

 

 

 

 

 

 

「あっ……!!」

 

 京から焦りの声が聞こえる。理由は援護射撃に放った矢がことごとく健美によって撃ち落とされた。義経の影から見事に、だ。義経はその事実に気付かず、健美の放った雷がワザとらしく外れた真意を考えずそのまま打ち込みに言った。

 

「はぁああああああああああ!」

 

 義経の一刀が健美へと振り下ろされる。互いに前へ進みながらであるためその接触は免れない。だが忘れてはいけないことが一つ。これはあくまで『タッグ』なのだ。

 

「―――ハズレ」

 

 刀が振り下ろされようとしたその時、健美の口からそんな一言が漏れた。さすがに何かと気が緩むが刀は止まらない。気が緩んでも一撃必殺の威力は変わらない一振りが健美へと降ろされ――たが逸れた。

 

 

 

 

 

 後ろの燕が健美の襟を引っ張って無理矢理間合いから外させたのだ。

 

 

 

 

 

「何!?」

 

 義経は考えてもいなかった方法で避けられて一瞬意識が乱れる。しかしこれは彼女の素直さが招いた結果だ。これまで片方がもう片方を救う形で攻撃を避けた場面などいくらでも目撃した。燕が「一気に決める」と叫んだ言葉が一手だけのものと思わなければこの場面はなかった筈だ。

 しかしすでにそれをやり直す機会はない。京の援護は健美が撃ち落とし、義経の一刀は燕が回避させた。ここが健美と燕の、最高の好機――――!

 

 

 

 

 

 

「せーっ」「ッヒュ」

 

 

 

 

 

 

 この好機に二人の拳が義経の体へ同時に放たれた。

 

「―――ッッ!!」

 

 強烈な一撃に声すら挙げられず義経の体はくの字に曲がり、そのまま後ろへ吹き飛ばされる。受け身も取れずステージの上を転がり、そして立ち上がらなかった。

 

「勝負あり!! この瞬間にて欣喜雀躍の勝利、松永燕と夜響健美のコンビが優勝だ――――!!」

 

 田尻の優勝宣言が、高らかに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 欣喜雀躍が優勝して会場の熱気は最高値に上がる。いい試合を見せてくれた感謝と興奮が包み込む。大和もその一人だった。

 

「よしっ!」

 

 他の観客たちほど派手な行動は見せてないが、その心の内では感激の熱でいっぱいだった。

 そうした中、二人が田尻からインタビューを受けていた。

 

『優勝した心境はいかがですかな?』

『はい! パートナーが力一杯に頑張ってくれたから優勝できました!!』

『そうですな。では健美選手は?』

『………』

 

 マイクを向けられた健美だったがコメントなどはせず、燕の耳元で何か呟く。

 

『……ああ、なるほど』

『どうかしましたか?』

『うん、いつもの鳴き声じゃだめだと思うから、私が代弁します。優勝はしたけど、健美ちゃんの中ではまだ終わってないそうです』

『終わってない?』

 

「え?」

 

 インタビューの内容に田尻や大和、そして観客全体が揺らぐ。そんな中、健美と燕は同じ場所を見上げていた。そこは、解説席と呼べる場所だった。

 

『私たち、エキシビジョンマッチに真剣で臨みます』

 

 マイク越しに聞こえた言葉に観客はさきほどの意図を理解し、そして解説席――武神・川神百代に視線を向ける。

 

 

 彼女は興奮を隠しきれずワクワクと、二人を見つめていた。まるで獲物を狙う獣のように。

 

 

 

 

 

 

 ―――武神との試合が、もうすぐ始まる。

 




 我ながら400万パワーズの扱いヒドス。タイトルかだから養鶏にタチワルヒドス。

 なんて思いながら義経を倒して優勝した欣喜雀躍です。そして次はいよいよ百代との試合であり、そして健美の舞台も整った感じです。

 近々、正体が明らかになるでしょう。

 それではまた次回に。


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第二十二話「武神と策略家と――」

投稿です。
いよいよ、百代との試合の時がやってまいりました。そしてっ、ようやくこの時がやってきたのです!!



あらすじ

 決勝まで勝ち上がった欣喜雀躍。そして最後の相手となったのは源氏紅蓮隊、義経のいるチームだった。
 これまで二人はどちらかが相手を倒す流れだったが、今度の相手は一人で制するほどもろくはない。二人は初めてともいえる、コンビネーションで試合に臨んだ。
 義経と京の組み合わせはすさまじい。しかし健美と燕もそれに負けず劣らずの息の合った動きを魅せる。
 そして、健美と燕は見事に勝利した―――。
 』


 

 

 数多くの選手、チームを乗り越えてその頂点に登り詰めたのは松永燕と夜響健美の欣喜雀躍の二人だった。彼女らは見事若獅子タッグトーナメントの制したのだ。

 しかし、まだ戦いは終わっていない。

 

「さぁ、皆さまご覧あれ!! これよりエキシビジョンマッチ、優勝チーム欣喜雀躍と武神・川神百代の試合の開幕だ―――――!!」

 

 田尻が叫び、観客席から熱気が湧く。それ一身に向けられているのは舞台に立つ三人の少女たちである。

 

「見ていて楽しかったぞ、二人の試合は」

「二人と言うより健美ちゃんの戦いじゃないかな、百代ちゃん」

「ピ」

「なんて言ったんだ?」

「嘘つくな、だって。しくしく……」

 

 これらから戦おうと言う二人と一人は緊張もせず、余裕すらある。と言ってもこの三人に緊張があるのか疑いたい。いやないだろう、間違いなく。

 

「まぁいいさ。楽しく戦(や)ろう」

「百代ちゃんはいつもそれだね。ま、期待に沿えるように頑張るよ」

 

 二人が試合の意気込みを告げる。その中で健美は観客席を見上げていた。その視線の先には大和がいた。

 その視線は誰が見ても明らかだったので、そばにいる卓也も気付いていた

 

「大和、健美がこっちみてるよ」

「まぁ相手は姉さんだからね。自分の方を応援してもらいたいんだよ」

「でもやっぱりモモ先輩が勝つんだろうね。さすがに実力が違いすぎるだろうし」

「……そうかな?」

「え?」

 

 百代の勝利を疑うような言葉に卓也が振り返ると、大和が深く考えていると思わせるような表情をしているのに気付いた。

 

「どうしたの、大和。心配事?」

「心配事じゃない。でも多分、健美ちゃんはこの試合に全てを出し切ると思う」

「健美ちゃんが? まぁモモ先輩に善戦すればそれなりの知名度は得ると思うけど……」

「そんな簡単な事にはならないはずだよ」

「え?」

 

 先ほどから意味深な事ばかり呟く大和に卓也は少しの違和感を抱き始めた。しかしここで会場が光り、思わず目を瞑る。この出来事により違和感を捨て去ってしまった。

 

 

 

 

 

 会場には装着を終えた燕が健美と共に、百代を見ていた。

 

「それじゃあモモちゃん。勝たせてもらうよ」

「いいだろう。いったい誰の依頼なのかはこの際気にしない。健美ちゃんと来い」

「もちろん。健美ちゃん、どちらが勝っても恨みっこなしだよ」

「……ピュイ」

「気にしないならそれはありがたい」

 

 三人は言葉を交わし、今か今かと開始を待つ。故に田尻も待つ必要はもうなかった。

 

「それではエキシビジョンマッチ、始めッッッ!!」

 

 試合開始の合図が切って落とされた。その、刹那とも言えるすぐ後で二人が動いた。

 

「川神流無双正拳突き!!」

「きょっ、こう、ざん」

 

 蹴りと拳が衝突した。両者の放った一撃は必殺の域に達している。それが衝突すれば衝撃波の一つでも起きるだろう。そしてそれが実際に起きたのは接触してから数秒後だった。

 

『ショット』

 

 そんな派手な光景とは場違いな機械的な声。

 

「上手く避けてよね健美ちゃん!!」

 

 そして後ろからの声と共に健美の真後ろから気の弾丸が雨のように降りかかる。

 

「うわっ、健美ちゃんに容赦ないな!?」

「ピ」

「いや私はわからないから」

 

 弾丸の雨が降りかかる中で二人はそれを避けて動く。背を向けた健美は見事に避けているが百代は数発ほど命中している。この理由としては当たった弾は健美の影から飛んできた物であった事と、さりげなく健美自身の気を撒き散らせていた為に察知し辛くなっていた。

 

「効果!!」

「ピュイ」

「ないのか――!!」

「その通りだ! 燕ぇ、こんな攻撃では私にダメージすら与えられないぞ!」

「だったら、予定通りに!」

『スタン』

 

 燕は平蜘蛛のチューブを変え、射撃モードから雷撃モードに変える。それに合わせて健美が彼女の隣に並んだ。

 

「ピピッ」

「うん、行くよ!!」

 

 時間も置かず二人は百代に向かっていく。これは相手に体勢を整えさせないための動きだったが、百代相手にそれは期待できない。しかし燕はそんな事理解しており、健美もそれは聞いている。これは二人が今の勢いに乗る為だった。

 

「「はぁ・ヒュゥ!!」」

 

 違う言葉が重なると共に二人は上下同時攻撃を打ち込んだ。狙ったのは顔面と鳩尾の急所。二か所とも手が届く位置だが、二人の攻撃は別々の向きから放たれている。受け止めるにしては受け止め辛い同時攻撃。

 

「――甘い!」

 

 しかし百代は難なく受け止める。放たれた方向を考えるなら腕の力が入れづらい筈なのに彼女は難なくやってのけた。

 

「くぅ!」

「たいない、かみ、なり」

「うわ、やばっ!!」

 

 燕は苦く表情を歪めるが健美はまだ終わっていなかった。接触している事を好機として彼女は手を掴み、そして全身から雷が放たれた。燕はこれを予感してさっさと離れていた。

 放電を直接受けた百代だがその表情は―――少し歪んだ。

 

「ハハッ、これは効くぞ健美ちゃん!!」

 

 本人も放電が効いている事を認める。だからと言ってこのまま受け続ける義理もない。

 

「そぉりゃぁ!!」

「ッ!?」

 

 健美が掴まった状態のまま力づくで振り回す。さすがに武神の力は凄まじく、一振りで健美は吹き飛ばされた。

 

「隙あり!!」

「なに!?」

 

 そこ瞬間、離れていた燕が百代に迫る。相手が対処に入るよりも先に、燕は渾身の一撃を当てた。

 

「ぐはっ!!」

 

 その一撃に百代の体は浮く。立っていた位置から少しだけ離れ、足元がふらつきながらも姿勢を保つ。大きな一撃だった。しかし、彼女にそれは意味がない。

 

「―――瞬間回復」

 

 彼女が『武神』と呼ばれる要因となったその技が与えたダメージを全て消し去ってしまうのであった。

 

「相変わらずの反則技だね。何回ぐらい使えるの?」

「だいたい30回ぐらいか?」

「何と言うベホマ連発も無理ゲー」

 

 しかしこの瞬間回復を攻略しなければ百代に勝つことは出来ない。それに無理ゲーであっても『攻略不可能』と言う訳でもない。糸口は必ずある。

 

「でも、まだ見つからない内は攻めて攻めるしかない。健美ちゃん、今度はモモちゃんを挟むように行くよ」

「ピッ!」

 

 瞬間回復を前にしても二人の戦意は消える事はない。勝利を信じて前に出る。

 

「面白い! 少し打ち合ってやろう!!」

 

 百代も二人同時相手ながらこの試合を楽しいと感じていた。それに合わせて彼女のギアは少しずつ上がっていく。

 

 

 

 

 

「見事、だな。健美は勿論あの松永燕も良くやる」

 

 観客席から見える試合を、九鬼揚羽は賞賛していた。加え戦っている片方が九鬼の英雄クローンであるならなおさらだ。

 

「しかし、あの松永燕が百代の討伐依頼をしていたとしらなければもう少しいい言葉が出たのかもしれぬがな」

 

 しかしその表情は一転、苦い色を見せた。

 

「気に入りませぬか?」

「だがもう遅いだろう。ならこの試合を見届けるしかあるまい」

「ヒュームも認めておったのだ。方法はともかく、意味はあるのだろう」

「もちろんですよ英雄さま」

 

 そばにいた紋白が、燕に依頼した彼女が混ざった事で先ほど彼女たちがしていた話題が再び浮かぶ。そしてそれには英雄とヒュームも加わっていた。

 

「しかしあの試合を観る限り、松永燕は対策不足のまま臨んだようですがね」

「む、どういう事だ?」

「まず川神百代の技を完璧に見切れていない。何発か受けているのが証拠です。それに相手のペースが乱れていない。倒す気であるならそれも乱している筈です」

「ならこのままでは負けると言いたいのか?」

「松永燕なら、そうと言えるでしょう。しかし彼女はその不足分を、相方で補っている」

「健美の事か? そう言えば我らでもあやつの正体は知らないままだな」

「それなら、この試合で見られるでしょう。あいつの、健美が忌み嫌うその正体を」

 

 忌み嫌うと言う言葉に三人は新たな気持ちを得て試合の観戦に戻る。忌み嫌うとは何か? それを知りたくて目をこらし始めた。

 ちょうどその時、百代が人間爆弾を使った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 人間爆弾は相手を巻き込む自爆技。しかし瞬間回復を習得している百代は自爆のデメリットをなしにしていた。しかし技である以上、その射程内に敵がいなくてはならない。

 

「サンキュ、健美ちゃん」

「ピィ」

 

 百代が爆発する直前に健美が雷迅で速度を上げ、そして燕も連れて脱出したのだ。ちなみに今の二人の状態は、健美が燕をお姫様抱っこしている状態だ。

 

「……逆なら絵になっただろうな」

「私もそう思う」

 

 それが百代と燕の感想だった。しかし今は試合中。百代はすぐに次の手を打った。

 

「今度はコレで行くぞ! か~わ~か~み~」

「まずっ!? 健美ちゃん、わたしを前にして!!」

「ピュ」

 

 手のひらに気を込める百代を見て燕が前に立ち、平蜘蛛のチューブを変える。その直後に百代の手のひらが開いた。

 

「波―――――――ッ!!」

『シールド』

 

 同時だった。百代の光線はまっすぐ二人に向かい、しかし燕がそれを上空へ逸らしてみせた。

 

「くぅ……っ」

『リカバリー』

 

 直撃は避けた。しかし余波だけでも大ダメージだった為、すぐに回復をする。

 

「ほぉ、お前も回復できるのか」

「でもせいぜい40%程度までが限界。モモちゃんと比べたら可愛いもんだよ」

「それは残念だな。なら、もう終いだ」

 

 それが決着を予告する宣言であることは誰であっても理解できた。

 百代がとどめを刺すために二人の下へ跳ぶ。しかしそれをさせまいと健美が燕を守る様に立ち位置を入れ替え―――

 

 

 

 

「ありがと。でもごめんね」

「ピ?」

 

 

 

 

 しかし燕がそれを止め、まるで身を呈して健美を守るかのように庇う。

 結果、百代の攻撃は燕一人が請け負った。

 

「なに!?」

 

 さすがに百代も驚いた。彼女から見て実力が上なのは燕の方。いくら彼女が計算高い武人でもその身を犠牲にして健美を守る理由が思いつかなかった。しかしそんな考えを持っている間に燕は健美を抱きしめながら転がる。勢いがなくなった所で健美が燕の腕の中から脱出して彼女の体を起こす。

 

「……なん、で?」

「なんでって……、そりゃあ健美ちゃんに戦ってもらう為だよ……」

「……でも」

「耐えなさい。誰が何と言おうとも、自分を貫く。私はそんな生き方だよ。だから、健美ちゃんのすべてをみんなに見せてあげて」

 

 そう言って燕は笑った。

 健美は燕の好き嫌いを言えば嫌いだ。腹に何かを隠している気配があって、しかも最初の時は大和にちょっかい出そうとした。しかし彼女の生き方は、『自分らしく』あった。健美もタッグを組んでそれをよくわかった。こうして燕が庇う事で自分を追い詰めたと言う事も、納得するしかなかった。

 

「……て、かす」

「それぐらいなら」

 

 この言葉で健美は燕を寝かせた。トーナメントではこの時点で敗北は決定しているがこれはエキシビジョンマッチ。まだ試合を続ける事は出来る。

 健美は燕に背を向け、百代と正面から向かう。

 

「続けるのか。なら楽しませろよ」

 

 百代はまだ戦う事が出来てうれしそうだが、健美はどこか上の空のように顔を上げた。

 

 

 

 

 ヒュゥウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………

 

 

 

 

 すると今までにないほどの鳴き声が会場に響き渡った。

 その直後に膨大な雷が健美の体から発生した。

 

 

 

 

 

 ――選手控室。そこにはクローンの四人がTV越しに見守っていた。

 

「覚悟が決まったか、健美」

「覚悟?」

「ああ、あいつが世間に正体を晒す覚悟だよ」

 

 

 

 

 

 ――会場観客席。スポンサー九鬼の区画。九鬼の兄妹と二人の老執事がいた。

 

「実を言いますと健美の正体は特に秘匿されていません。明かす時期は健美自身の判断でした」

「何だと? ではなぜ健美はこれまで正体をかくしていたのだ」

「皆様も健美が英雄と呼ばれていない事はご存じすよね。実は人間として名を遺した物ではありません」

 

 

 

 

 

 ――会場観客席。大和のいる一般席。

 

「健美ちゃんは人間じゃない?」

「いや、違う。考えるに昔の人は自分たちの都合で色々な隠し事や、隠語を使っていたんだと思う。付け加えるなら時代は平安時代の後期。まだ迷信事が信じられる時代だ」

「迷信事って」

「ああ、迷信。つまりお化けの類だ」

 

 

 

 

 

 

 与一は皆に伝える。

 

「健美のオリジナルは京で夜な夜な出現した妖」

 

 

 

 

 ヒュームとクラウディオは主に伝える。

 

「縁が深いのは源頼政。彼の放った矢によって退治された妖怪」

「日本のキメラと言われる、あらゆる動物の部位を持った雷獣」

 

 

 

 

 大和は健美から目を話さず口にする。

 

「猿の顔、狸の体、虎の手足、尾は蛇。トラツグミに鳴き声をしたその妖怪の名前は」

 

 

 

 

 そして四人の口にした名前は、別の場所にいながら重なった

 

 

 

 

 

「「「「――鵺」」」」

 

 

 

 

 

 

 夜響健美。彼女の正体もまた伝説の存在であった。

 




健美ちゃんの正体解禁!!
皆さんの予想は当たりましたか? 当ててくれていたのであればうれしい限りです。

さて、次回は武神VS妖怪・鵺のバトル!! 頑張ります!!

それではまた!!」


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第二十三話「“夜”に“響”くはトラ“ツグミ”の声」

投稿です。さぁ、健美が本性さらして武神に挑みます。楽しんでいただければ幸いです。



あらすじ

 ついに来た武神・百代との試合。優勝した健美と燕は彼女と戦えるエキシビジョンマッチに堂々と臨む。
 燕は初めての全力で、健美と共に百代へと向かっていた。最初こそ拮抗した戦いを見せたがやはり実力差は広く、すぐに劣勢となり燕は戦闘不能になる。
 残ったのは健美一人。しかし彼女はこの試合ですべてを見せた。本気だけではなく本性を。その姿を。その正体を。
 彼女は、鵺としてすべてを出し尽くす。
 』


 

 きっかけは、二十年近くも昔に見つけ出された一通の文だった。当時、クローンの遺伝子を探すため数多くの調査と発掘が行われたたが、この文が見つかったのは偶然であろう。何せどこでもある様な大岩の下を、ふざけた調査員が気分転換と称して掘り出したのが原因なのだから。そして文にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 ――この文を見つけた者が人知を超える術を持つ者として、ここに眠る者について伝える。

 

 ――ここに眠る者は英雄としての才を持ちながら、人としてある部分を欠落した為に英雄になれなかった者である。本当の名前を知られず、ただ恐れられて見向きもされなかった不幸を持つ。

 

 ――儂が見つけた時には虫の息であったが、この者でなければ死に体になっていたほどだった。その後に儂はこの者が何者かを知り、それを知った上で儂はこの者を匿う事とした。幸いにこの者は“京”で死んだものとされ、誰に知られることはなかった。

 

 ――それから儂たちは密やかに暮らし、ただただ静寂な日々を送っていた。しかしその暮らしを続けてゆくと儂はある事に気付いた。この者は強者の、武の才とある才を備えた者だ。それこそ歴史に名を残し、英雄かと呼ばれるに相応しいほどに。そして、“京”で怪物と呼ばれても仕方がない事に。

 

 ――儂は思った。もしこの者に機会があれば英雄となり、誰かに感謝されていた事を。本当は怪物と呼ぶには、この者は無垢であったと。そう考えると私はこの者の不幸に悲しんだ。どうしてこの者は怪物と呼ばれなくてはなくてはならないと。

 

 ――そんな儂に追い打ちをかける様に、その者は死に体になってしまった。元々、虫の息だったのだ。すでにこの者は天命を迎えていたのだと。儂は、声を挙げて泣いた。

 

 ――悲しみ、泣き叫んだ儂はこの者をこの場所へと葬った。しかし同時にある思いを抱いた儂はこの文を遺した。遠き先でも残る様に石に彫り、風化せぬように布を巻き、解けぬように蜜で固めたこの文を。

 

 ――もし叶わぬならそれもいい。しかし叶うならどうか頼む。この者を、英雄にしてほしい。誰からも認められ、そして強くあれる様にしてほしい。

 

 ――この者、“京”で恐れられたこの鵺を

 

 

 

 

 

 きっとこの瞬間は、彼女の物語は始まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場から発生した雷は太陽よりも光り、視界を真っ白に染め上げる。加えて雷命が轟き、一切の音も遮断する。まさに雷が昇ったと例えてもいいほどに。

 そして自然界の雷よりも長く鳴り響いて消える。その中に、健美はいた。

 

「……燕以上に奇抜な姿になったな、健美ちゃん」

 

 真正面から向かいう合う百代が、そして離れた観客の全員もその姿に言葉が出なかった。

 

 両手両足は雷が網目状に巻かれて指先で伸び―――それはまるで虎の四肢のようで、

 体は雷が鎧のように覆われ―――それはまるで猿や狸の体毛のようで、

 極めつけに尻尾のようなものまで―――それはまるで蛇の様だった。

 

「妖獣、雷来」

 

 全ての注目を集める健美が技らしき名前を呟く。しかしその言葉を聞き届けた者は少なく、多くが彼女の姿に困惑していた。しかし知る者は知っている。この姿はまるで平安時代の妖怪・鵺だと。

 しかし今は試合中。であれば百代はこれ以上の停止はしなかった。

 

「まぁ何だっていい。どんな姿でもそれが健美ちゃんの本気なんだろ。だったら全力でぶつかってこい。この私が――」

「油断」

 

 百代が『かかってこい』と言っている言葉を紡いでいた途中で、健美が彼女の目の前にいた。百代が認識することなく、離れた場所から目の前までに。

 

「は―――――」

 

 ようやく認識して、しかし百代はその時すでに一撃を貰った。顔ではなく頭の横に裏拳を受け、倒れるではなく殴られた方向に向かって飛ばされた。

 この時、観客は驚きの連続となった。あの“武神”が投げ飛ばされるなど、想像もしない光景だ。そんな事が出来る人物などそれこそ化物だ。つまり、健美はその化物の域にいるのだと。

 

『ぶ、武神が殴り飛ばされた―――――!! あまりの驚きの連続にこの私も言葉を失って今いました!』

 

 ここで田尻の実況が再開する。さすがの彼も健美の変貌には言葉を失い、しかしあまりにも驚きが連続で来たので我を取り戻す。

 

『しか―――しっ、武神もこのままで済ませる筈はない!!』

 

 そしてその言葉は正しい。ステージの闘氣は衰えず、むしろ膨れ上がっている。その中心である彼女、百代は健美を見ていた。

 

「今のは効いたぞ、健美ちゃん」

「そうは、見えない」

「と言うかさっきから普通に喋っているな。そのせいか?」

「活性化して、いつもより、早口」

「早口なのか、それ。でも今はそんな事はどうでもいい………どうでもいいんだよ!!」

 

 彼女は歓喜した叫びで健美へ向かっていき、拳を振るった。迷いなく自分が当てられた箇所を狙ったが、健美は紙一重へ避ける。空振りになった拳は空を切り、途轍もない突風が吹く。

 

「ハハッ、避けた避けた! ならこれはどうだ!!」

 

 百代は先ほどの一撃よりも速度を上げ、しかし威力を下げず連続攻撃が始まる。

 

「―――迎え撃つ」

 

 その連続攻撃に健美も同じく連続攻撃で迎え撃ち始める。同じく拳で、迷いなく百代の拳とぶつけ合う。

 拳と拳のぶつけ合いは凄まじかった。重い音の他に健美からは雷が弾ける。それが目には見えない速度で行われている為、周囲はただ雷が持続的に発生しているしか見えない。それが十数秒、打ち合った拳の数は数千発以上。そこで健美の方が吹き飛ばされた。この直前、健美は打ち合うのを止めて踏ん張ることなく一発を受け止めてた事であえて吹き飛ばされたのだ。

 吹き飛ばされた健美は空中で手足の雷、爪に見える部分を肥大化した。

 

「極光斬、改め、極光刃。連続版」

 

 体をランダムな方向に回転しつつ、伸ばした爪からブーメランに似た雷が数多放たれる。

 

「そんな技ならこれをくれてやる!! 星殺し!!」

 

 それを百代は一つ一つ落とすのではなく、極太のレーザーで丸ごと飲み込んだ。彼女らしい選択であり、健美にとっては危機的状況。

 しかし健美は空中にいるのも関わらず『星殺し』から逃げるように、見えない手が彼女の体を引っ張ったかのように移動した。この時、健美は雷を応用で磁力を生み出し、それを利用して会場の観客席に使われている鉄骨に自身の体を退き寄せた。さすがにステージの外に出てしまったが足に地面に付いた瞬間、すぐに戻ったのでカウントがあっても問題ない。

 

「雷迅、覚醒版」

 

 そして健美は攻める。その技を呟いて一歩、その後には姿を消していた。

 百代は姿が消えた健美を探そうとして――それは必要ないと判断するとすぐにやめた。気配はこのステージ上から消えていないし、健美も気配を遮断している訳ではない。ただ速すぎた。恐らく文字通り世界が違う場所に。

 

「グッ!」

 

 その時、百代は首の後ろで衝撃を受けた。なんだ? と思うのは愚かだ。その衝撃は健美の一撃だ。ヒット&ウェイを極端にしたような一撃。当てて離れたとわかる程の単純なスタイル。ただ見えないだけ。

 そしてその攻撃は続く。首の次は腹。腹の次は背。背の次は右腕。規則性もなく百代の体に衝撃が与えられる。軌跡すら目に映らない速度の為、観客の目には武神が見えない攻撃を当てられているしか映らなかった。

 

「だったら―――川神流・人間爆弾!!」

 

 見えぬなら、と判断した百代はこの試合二度目の人間爆弾を使った。周囲を巻き込む自爆技。周囲を巻き込むのなら、ステージ上であればそれは必中。その証明は自爆後、煙の中から健美が現れた。その体に焦げ跡を目立たせながら。

 

「……くぅ」

 

 そしてそのまま苦しそうに膝を付いた。

 

 

 

 

「あの馬鹿、まともに受けるからそんなにダメージを貰うのだ」

 

 その時、ヒュームが呆れて酷評を口にした。

 

「どういう事だヒューム?」

「健美のあの『妖獣雷来』は雷を纏い身体能力全般を底上げする技は大きな弱点があります」

「感覚も鋭くなっている、ではないか?」

「ご明察です。感覚は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つであり、健美はこの五つも格段に上がっています。そしてあの雷は特に触覚と強く結びついています。しかしそれは直接攻撃・雷の断絶や乱れを起こすと数倍の痛みが走るのです。つまり――」

「ただの攻撃でも大ダメージ。それが武神の攻撃であればそれ以上か」

 

 メリットがあればデメリットも存在する。健美の今の状態はまさにそれだと言う事を理解した。恐らく百代と拳の打ち合いをしていた時点でかなりのダメージを受けており、そして『星殺し』も必死で避けたのだろう。だからこそ九鬼の三人は束の間ほどに思う。

 

 

 このままでは勝てないのではないのか、と。

 

 

 そう思わせる程の健美が抱えているハンデ。それで勝とうなど無謀にも等しかった。

 しかしヒュームはそうとは考えていなかった。

 

「しかし武神はここで負けを得るでしょう。あやつはすでに罠に掛かっておりますから」

 

 ヒュームの言葉に三人は疑問を向けるが彼は答えない。いまはただ試合を見守って下さいと沈黙で伝えていた。

 

 

 

 

 『妖獣雷来』によって百代に匹敵する力を得た健美だったが同時にダメージ倍加のデメリットによって体力の限界に近づいていた。しかしそれで気力で立ち上がる。対する百代はすでに瞬間回復を使って完治していた。

 

「なかなか効いたぞ健美ちゃん。だが人間爆弾でそれだけのダメージ、その姿の弱点だな」

 

 ここで百代もそのデメリットに気が付いた。それは底の見えた寂しさであり、ここまで楽しませてもらった喜びだった。ここで終わりにしようと決めるには十分だ。

 

「勿体ないが、そろそろ終わらせよう健美ちゃん」

「……そ」

 

終了宣言を告げられると健美は四つん這いとなり、更に雷を激しく鳴らす。彼女も次で決着をつけるつもりであった。

 

「最後、行く」

「ああ、来い!!」

 

 二人は同時に蹴り、真っ直ぐ正面から距離を詰める。そして二人の拳がぶつか―――らなかった。

 

「っ!?」

 

 百代は間違いなく健美を捉えて拳を放ったが、それが空を切った事で集中が乱れる。乱れなければ健美がタイミングをずらす為に尾で急ブレーキをかけて一歩遅れていた事に気付けていた。しかし対処するにはすでに遅く、健美が懐に潜り込みそのまま百代の体を真上に蹴り飛ばした。

 二度飛ばされた百代。そして健美もそれを追って跳び上がる。今度こそ二人は真正面から衝突し、互いに互いの両手を受け止める。

 

「空中戦か!! だがそれで私に勝てるなんて思ってないだろうな!!」

 

 百代は空で決着を付けようと思った。しかし対する健美はこう答えた。

 

「欣喜、雀躍」

 

 呟かれたのはその言葉。それは健美のチーム名だった。百代は何故今さらここでチーム名を言うのかと、

 

「っ!? まさかっ!!」

 

 百代はすぐにステージの上を見下ろす。

 

 

 

 

 そして彼女は立ち上がった燕の姿を目撃した。

 

 

 

 

 

「私の回復は二回。だからまだ一回残っていたんだよ」

 

 百代と健美の戦いの最中、燕は密かに体力を回復してこの瞬間を待っていたのだ。

 

「最初は大和クンに近づけなかったから情報が引き出せなくて焦ったけど、まさか健美ちゃんがここまでやってくれるとはね。約束通りこれからしっかり手を貸してあげなくちゃね」

 

 この勝機を与えてくれた幸運の女神――妖怪だから正しいかは不明――の為のお礼を考えつつ、切り札を使う。

 

「行くよ健美ちゃん!!」

『フィニッシュ!』

 

 

 

 

 燕の姿を確認して間もなく遥か上空から何かが落下し、それは健美と百代の横を通り過ぎていく。

 

「くっ―――」

「逃がさない」

 

 百代が手を振りほどこうとしたがそこに健美が放電して攻撃する。この一瞬に百代の体は痺れ、その隙に健美が動いて彼女の背後に回る。

 

「雷、落とし」

 

 そして踵落とし。しかし雷を纏ったその技は接触の瞬間に雷が天に昇って行ったのでまさに雷が落ちたような光景だった。その一撃を受けた百代の体は急降下する。その軌道は健美と燕が挟む形だ。

 このままでは危ない。そう判断するにも先ほどの一撃は大きくダメージをもたらしていた。なら使い技は一つ。『瞬間回復』だ。

 

「瞬間回復――――なっ、回復しない!?」

 

 しかしその技は使えなかった。燕の電撃、健美の雷はしっかりと百代の体に蓄積して気の流れを乱していた。しかも健美の先ほどの技はその蓄積した雷を一気に解放して瞬間回復どころか他の技もほぼ使えない状態だった。

 もう、詰んだのだ。

 

 

 

 

「最大、出力」

「いっけぇえええええ!!!」

 

 

 

 

 健美の轟雷が、燕のエネルギー砲が百代を挟むように放たれた。雷光と黒色のエネルギーがぶつかり合い、そして大爆発する。

 煙が晴れるとそこにいたのは倒れる百代、腕を掲げる燕、そして『妖獣雷来』を解除して無事に着地した健美の姿だった。

 

「そこまで!! 戦いを制したのは松永燕選手と夜響健美選手だ!!」

 

 田尻の言葉が決着を告げた。

 




 どうも、鵺として戦い始めて決着まで。最後の最後まで燕さんがいました。さすがは智将、油断ならないですね。はい。

 そしてここでタッグトーナメントは終わり、そろそろ健美の未来も決定する時期です。もう少しお付き合いください。

 ではまた次回に


※ちなみに妖怪嫌いの百代が健美と戦えたのは彼女があまり妖怪画を見ない方あり、何より物理で殴れると判断したためです


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最終話「お世話します」

投稿です。自分としてはここまで来たな、の感想ヒトことです。ではどうぞ。




あらすじ

 鵺として本性をさらした健美。多くの者たちがその正体に驚く中、百代はただ戦いたくて仕方がなかった。
 そして二人の決闘は始まった。そして主導権は健美が取る予想外の展開、そして負けず劣らずの派手な戦い。互いに攻め、魅せて、戦う。しかし流れは百代へ傾き、決着は予想通りとなろうとした。
 しかし終わらなかった。二人が上空に飛んですぐに燕が復帰し、そして健美が瞬間回復を封じる。タッグの二人がはさむように大技を放った。
 その後に倒れていたのは、武神・百代だった。 



 

 ――武神・川神百代の敗北。

 

 

 

 この一報は瞬く間に世界中に広がり、人々の心を惹きつけた。

 

 曰く、あの武神が本当に負けたのか? と。

 曰く、その戦いはいったいどんなものだったんだ? と。

 曰く、いったいどこの誰が倒したのだ? と。

 曰く、倒した者はいったい何者だったのか? と。

 

 広がりすぎた故にその真実は極一部にしか成り得ない――そう思われたがそれはあっけなく知れ渡った。

 それは一人ではなく二人。しかもまだ学生と言う若い者たち。一人は川神学園三年の納豆小町・松永燕と川神学園一年にして武士道クローンの夜響健美。二人はこの時、全世界の注目を集めていた。

 

 

 

 

 

 そしてヒーローインタビュー。そこに健美の姿はなかった。

 

 

 

 

 

「義経、そっちは?」

『心当たりを探してはみたが見つからない。いったいどこに行ったんだ』

 

 大和は源氏組の義経と連絡を取りつつ健美の行方を捜していたが見つからない。まさに神出鬼没の鵺のようだった。

 

『本当にどこに行ったんだ……。やっぱり、ずっと付き添っていれば』

「義経が責任を感じる事じゃないよ。とにかくこの後も」

『ああ、任せてくれ』

 

 ここで電話の通話を切る。そして大和はここ、川神学園正門前で空を見上げる。こうなった経緯は言ったってシンプルだった。

 試合終了直後、燕はともかく健美は全身全霊で戦った為にダウン。すぐに義経たちの付き添いの下、医務室に運ばれたのだが目を離した隙に姿を眩ませたのだ。その理由は不明であり、捜索と言う現在に至る。ちなみに捜索には風間ファミリーにも手伝ってもらっており、その理由は敗北した百代が思いのほか前向きに立ち直った為に慰める時間が無くなった為である。

 

「従者部隊の人たちでも見つけられていないって言うし……」

 

 健美は武士道クローンである為、九鬼の従者部隊だって捜索に参加している。しかしそれでも見つからないと言う事はそれだけの隠れ蓑を持っていると言う事。大和が特にその確信を得ているのは忍者のあずみ、そして風間ファミリーの由紀恵でされ見つけ出せていない事実からだ。

 

「さすがは鵺、って事なのかな?」

 

 鵺は黒雲に身を隠し、夜な夜な鳴いていたと言う。そんな逸話が関係しているかわからないが健美は間違いなく隠密の心得がある。思えば最初はよくいつの間にか大和の目の前にいたのが懐かしい。

 懐かしむのはここまで。気配で見つけられない以上、心当たりを回ってその姿を目で見つけるしか他ないが芳しい報告は上がっていない。義経たちの話から健美は自分のテリトリーからはあまり出る事はないらしく、長浜もしくは川神にいる事は間違いなくいるらしい。

 大和は考える。自分が知る限りで健美が行きそうな場所に。正体を晒した後で行きそうな場所。

 

「……待てよ」

 

 すると大和の中に、ある“心当たり”が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 大和は浮かんだ“心当たり”を目指して走った。その場所が浮かんだのは幸運と言えるだろう。何せその場所は何もない場所。過ごした時間もそんなにない。でもそこはある出来事があった場所。

 

「―――ここにいたんだね、健美ちゃん」

 

 大和がやってきた場所はタッグトーナメント前日、ヒュームが襲い掛かってきた場所。その場所に健美はいた。よく見てみれば彼女の周りには野良や野生の動物たちがいる。軽く戯れていたのだろう。それが風景との一体感を醸し出しており、これもまた見つからなかった一因なのだろう。

 

「ヒュウ」

 

 大和が来た事で健美が返事をした。しかしほのぼのとしたその姿とは反し、彼女はどこか寂しげだった。

 

「隣、いい?」

 

 返事はなかったが健美は自分の隣をポンポンと叩く。むしろ歓迎と言っているようだった。

 大和はお言葉(ジェスチャー?)に甘えて腰を下ろす。この瞬間で健美に集まっていた動物たちが散っていく。健美は気にした様子はないが大和はちょっどだ残念だった。

 と、のんびりした話題はここまでにして大和は躊躇わず本題を切り出した。

 

「なんで黙っていなくなったりしたんだ? みんな健美ちゃんを心配したんだよ」

「……ピィ」

「考えてったって、何を?」

「ピピ」

「これからの事を?」

 

 この言葉で大和が思い当たる物と言えば健美の正体が知れ渡った後、世間はどう見るかと言う事だが、それは違うと否定する。健美は決めたなら貫く子だ。今回の事も中傷覚悟で晒している筈。ならどんな『これからの事』を考えているのだろうか。

 

「これから、どうしようか」

 

 大和が答えを出そうと悩んでいるところに健美が言葉でそう告げた。その直接的な言葉でわからない大和ではない。

 

「もしかして、次の目標で悩んでる」

「ピ」

「でも健美ちゃんの目標って英雄になる事だよね?」

 

 大和が言うと健美はポケットからケータイを取り出し、軽く操作するとその画面を大和に見せる。

 

『これは十回に一回の勝利です。次に勝負したら勝てないでしょう。それにこの試合では健美ちゃんて言う相棒がいてくれたから勝てたんです』

 

 それは今日、それも先ほどと言えるくらいにあった試合後のヒーローインタビューの動画だった。映って言えるのはもちろん燕で、そしてこの後に何を言っていたのかもわかっていた。燕はこの後から健美の実力と人柄、そして鵺と言うオリジナルでありながら英雄として賞賛すべき言葉が並べられたのだ。それはまるで庇うかのように、それはまるで宗教家の言葉のように。

 と、健美は動画の途中で停止させた。

 

「あとは、すすむだけ」

 

 健美は武神を倒した事実から、この時点から英雄としての証明を得たのだ。むしろこの試合で認めない人間などいるのかと言いたいくらいだ。武神を倒したなら、その実力は認める物だ。

 つまり大和の言った『英雄になる』はほとんど達成したような物だった。ならそれで行き着く答えは。

 

「これからどんな何を目指していけばいいのかわからないの?」

 

 その言葉に健美は頷いた。健美はこれから英雄として見られる。それは健美がこれまでの歩みを終えた事。ならその先は、暗く何も見えていない状態だ。だから健美は一人で出て行ったのだ。目標が叶って、しかしこれからどうすればいいのかわからない不安から。

 何とかしてあげたい、と大和は思った。そう思ったが、彼はある疑問を持っていた。それはここに来るまでに抱いていた疑問で、健美の話を聞いてより大きくなったそれを。

 

「だったら健美ちゃん、なんでここに来たの?」

「……ここ?」

「だってここは……」

 

 そこまで言って言葉を濁すが、当たり前の事だ。なにせここはヒュームに襲われた意外に、燕に正体を看破された場所であり、そして何より大和が熱い宣言をした場所。

 

「……ヒュウ」

 

 そして健美は大和が言葉を濁した事でその事を思い出した。しかしこの様子を見る限り、この場所には無意識に来たようだった。しかし自覚したならその理由は単純だ。

 

「やまと、かんがえてた。すると、ここだった」

 

 それがここにいた理由。無意識に、そして大和の事を考えてここに来た。

 それを聞いて大和は顔が熱くなる感覚を得た。それは自分の気持ちを自覚した証拠でもあった。

 

「……健美ちゃん」

「ピュイ?」

 

 自覚して、そしてその気持ちは歯止めがきかなくなった。なら前に進むしかない。顔は合わせずとも、言葉は伝えた。

 

「何ならさ、俺とずっと一緒にいない?」

「いっしょ?」

「そう。学園生活や今までの協力だけじゃなくて何気ない日も卒業した後も……ああもう、これは俺らしくない。――――夜響健美」

「ピ?」

 

 

 

 

 

 

 

「俺の恋人になって下さいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 告白の言葉は面と向かって、そして健美の肩を掴んでまでまっすぐに伝えた。

 そして長い沈黙。大和は目を閉じて健美の返事をただひたすら待っていたが何も反応がないので目を開けた。そして見たのは変わらぬ健美の表情―――ではなく、ニホンザルのように真っ赤な顔だった。

 

「えっ、と……」

 

 大和も今までにない反応でどう声をかけるべきか困ってしまう。しかし徐々に健美の顔の色が戻っていくと恐る恐る両頬に手を当てられる。

 

「ほん、と?」

 

 確認の言葉で、まるで信じられないと言わんばかりの問いだった。それに大和は迷わず答える。

 

「本当」

「ほんと?」

「本当の本当」

「ほんきの?」

「本気で、真剣(マジ)だよ」

 

 健美にしては珍しいほど饒舌で、疑り深く尋ねてきたが大和は自分の気持ちを伝える。そしてまたしばらく沈黙が続くと、健美が大和の手を離して抱き付いた。

 

「おっと」

 

 突然の抱擁に驚きはしたがそれでもしっかりと受け止め、優しく抱きしめる。

 

「……はなさない」

「それはこっちの台詞だよ」

 

 軽く返すと健美の腕が少し力強くなるのが感じる。

 

 出会ってまだ長くはない二人。しかし時間は関係はない。互いに真剣であることは変わりようがない。

 そして二人はこれから先、一緒に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ピ」

「ん、どうか―――」

 

 健美が『あっ』と言ったので大和が声をかけようとした瞬間、彼女の体が爆発するように放電した。

 

「どわっ!?――――って、しびれない?」

 

 直接触れてるにも関わらず大和に何の痛みも感じない。見た目だけの激しさ。しかし、抱き合う感触が徐々に狭くなっていく感覚があった。

 そして放電が治まると―――

 

「…………え?」

「………ぴゅう」

 

 大和の腕の中に、獣人系ロリが納まっていた。

 

「誰!?」

 

 思わず叫んだ大和だったがよく見るとロリの姿はすごく見覚えがあった。

 尖った頭の耳。所どこの獣毛は猿・狸・虎模様、しかも蛇の尻尾付き。何よりトップだけの川神学園指定の制服。つまりこの子は

 

「健美なのっ!?」

「ひゅう」

 

 驚く大和に対し、ロリ獣化した健美は見た目相応の可愛らしさで返事をしたのだった。

 

 

 これが『妖獣雷来』を使った副作用であることを知るのはこの時から30分後の事である。

 

 

 

 なんだかんだ、大和は珍妙な恋人と一緒になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ※『健美との未来』が解放されました。

 

 

 

    ※新ルート、『弓腰少女のマジ恋!!』が解放されました。

 

 

 

 

 




 以上、夜夜健美こと『鳴く少女のマジ恋!!』√はここまで。イチャラブな『未来編』が始まり、以前に期間限定で投稿した『弓腰少女のマジ恋!!』始まります!!
 次の話も読んでくれればうれしいです!!」


 では!!


 追伸

 健美が若返った=雷に打たれると若返ったネタ

 生えた獣の部分=鉄心の技に似たもの。気が無意識に形作っている。


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