霊晶石物語 (蟹アンテナ)
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誕生

膨大な魔力が渦巻き圧縮された魔力が結晶化し、無数の魔石の結晶が形成されている洞窟

魔力だけでなく生命エネルギーや世界を構築する元素[エレメント]なども高密度で洞窟内を循環している

 

永い時を経て形成された洞窟中心部に鎮座する魔石の柱に小さな霊魂が魔力の渦に紛れて入り込むと、洞窟に異変が起こった。

 

魔石の柱は眩く光り輝き、砕け散ると、その破片が渦を巻き中心部へと集まって行く

やがて、その中心部に青白く光り輝く六角形の結晶体が形成され、霊体・魔素・エレメントを吸収してその結晶体は見る見るうちに肥大化する。

 

光が収縮すると同時に洞窟内部が脈動し、天然洞窟がまるで人工物のような姿に形を変えて行く

 

この世界の人類が迷宮核[ダンジョンコア]と呼ぶ存在の誕生の瞬間であった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

(此処は一体何処だろうか?いや、私はそもそも一体何者だろうか?分からない、思い出せない・・・。)

 

洞窟中心部の光る石は思案する、自分は一体何者なのか、そもそもこの体は生物のものでは無い、暑くもない、寒くもない、何も見えない暗闇の中、宙に浮いたような感覚に戸惑う。

 

(この体は・・・いや、生物ですらない、石・・・なのか?)

 

曇りガラスに映る風景のように、過去の自分の記憶が酷く曖昧で、しかし、確実に存在した記憶の残滓をかき集める様に石は思い出そうとする。

 

(そうだ、私は確か難病を患い、家族に見守られる中死んでしまった筈・・・つまりここがあの世・・・なのだろうか?)

 

それにしては・・・である。

石であるが故に温度を感じず、視覚を持たず、人間が必要とする感覚器官が存在しないこの体は、嫌がらせのように周囲のあらゆる物を感知していた。

 

(一体なんだこの感覚は、何も見えないのに、まるで自分の周りに神経が伸びている様だ、触覚も熱も感じない筈なのに何かを感じる。)

 

石は言い知れぬ気持ち悪さを感じ、視覚を取り戻したいと強く願った。

 

(っっ!!?)

 

石の周囲に一本の魔石の小さな柱が地面を突き破って伸びてくる・・・・柱は、淡く光り輝き、石に視覚を与えた。

 

(眩しい・・・何だこれは?・・これは、やはり此処は洞窟だったか、一体何が何やら・・・。)

 

石は洞窟内部に限り監視カメラのように見渡すことが出来るようになった。

 

(目が見えるようになった・・・・いや、まてよ?もしかして・・・?)

 

石は、体の感触を熱を感じたいと強く願った。

すると、再び洞窟の地面を突き破って新たな魔石の柱が伸びてくる。

 

(っ・・・肌寒いところだったのか・・・いや、やはりこれで・・・。)

 

石の周りに次々と色とりどりの魔石柱が伸びて行き、まるで神殿のように神々しい雰囲気に包まれる。

人間としての五感を石は取り戻したのだ。

 

(此処は一体何処だ?私は一体・・・いや、元人間だった何かだ。記憶が混濁していて訳が分からない)

 

神経細胞すら持たない石の体で思考を巡らせ、新たな体の感覚を確かめる様に神経の様な物を地形に溶け込ませてゆく

彼自身は、混乱の極みであったが気が付けば覚醒から日にちが経ち、この数日間の内にある程度自分自身の体の機能について把握し始めていた。

 

彼の意思で洞窟の形状をある程度自由に変えられる事、洞窟の形状を変える事によって何かの力を消費する事、そして・・・。

 

(この感覚は?何かが流れ込んで・・・誰か来る?)

 

自分の支配する領域に踏み込んだ生物から、洞窟の形状を変えた時に消費した[何かの力]を補充することが出来る事に気付いたのだ。

 

「こんな所に洞窟があったんだ、湧水でも涌いていれば良いんだけど・・。」

 

ローブを身に着けた二人の人物が、自分の支配する領域の入り口から少し歩いた場所に立っている。

 

「外は酷い砂嵐だ、暫くここで休もう。」

 

「随分と深そうな場所だけど、野獣の巣穴じゃないだろうね?」

 

「出て来たらその時はその時さ、外に出て方向感覚を失って遭難するよりはマシだろう。」

 

どうやら、悪天候によりこの洞窟に避難してきたらしい、その表情を見れば疲労が蓄積していてすぐにでも体を休ませなければいけないだろう。

石は、湧水を求める彼らの元に地下水でも都合よく出れば良いのにと思うと、洞窟側面にヒビが割れ、清浄な湧水が流れ始めた。

 

「はぁっ?な・・何だぁ?」

 

「み・・水が飛び出してきた!?」

 

他ならぬ石本人?が一番驚いた。感覚が、神経が自分の支配する領域に伸びているからこそ、あの付近に地下水の類が存在しない事を知っている。

しかし岩の内部が突如くり抜かれ、何もない空間から突如水が出現し、それなりの強度がある筈の岩盤を叩き割り勢いよく吹き出したのだ。

 

最初こそ勢いがあった物の、湧水はチョロチョロと流れが穏やかになり、現在も水が流れ続けている。

 

「っっ!革袋を出せ!今のうちに補充しろ!」

 

「ひゃ・・ひゃぃぃぃ!!」

 

湧水が尽きてしまうと焦ったのだろうか、ローブがめくれるほどの勢いで革袋を取り出し、水を満たして行く。

最初よりも勢いは落ちたものの、湧水が尽きない事に安堵し、二人分の革袋に注ぎ込めるだけ注ぎ込んで、背嚢の中から片手鍋のような調理器具を取り出すと、それにも水を入れ始めた。

 

「こんな丁度良く湧水が湧くもんかね?何にしても運が良いわね。」

 

「咄嗟に補充してみたは良い物の、これは飲めるのか?」

 

「変な臭いもしないし、これだけ透明なら悪いもんじゃないでしょ?最悪腹を下す程度さね!」

 

「楽観し過ぎだろう・・・まぁ、今なら泥水でも腹いっぱい飲めそうだがな。」

 

石は彼らの会話から、この周辺地域の人々にとって水が貴重品だという事を何となく理解した。

安心しきった表情で、地面に赤い宝玉が収められた台座の様な物を敷き、その上に先ほど水を溜めた調理器具を乗せる。

 

「こりゃ久しぶりにスープが飲めそうだな。」

 

「乾燥スープの素があって助かったよ。」

 

石は、何を始めるのが不思議そうに様子を見ていると、ローブが脱げ赤銅色の髪が露わになった少女が何かを呪文のようなものを呟き、台座から火が灯る。

 

(っ!?これは一体?ガスコンロか?いや、まて、ガス・・?ガスコン・・ロとは一体何だ?うっ記憶が・・・。)

 

「具材は日干しの野菜くらいしか無いかなぁ・・・」

 

石が目の前で起こった超常現象に驚いているのを他所に、赤銅色の髪の少女が背嚢に手を突っ込みながら中身を漁っている。

 

「おっ?生きが良い具材発見!!」

 

少女が背嚢の中からもぞもぞと動く麻袋を取り出すと、麻袋から出て来た物は見た事も無いようなサイズの大蠍であった。

 

(ひぃっ!?)

 

石が思わず動揺していると、少女は日干しの野菜と共に大蠍を沸騰する鍋の中に投入し、岩塩らしき桃色の結晶をおろし金で削り、乾燥スープの味を調整した。

 

(・・・・あれ?また何かが流れ込んで・・・今度はかなり多い!)

 

大蠍が鍋に放り込まれてから暫くして絶命したのだろう、恐らくそのタイミングで石の体に力が流れ込んできたのだ。それも瞬間的ながらかなり多く。

 

「あ゛ーーっ!この火が通ってほろ苦い毒腺が溜まらんなー!」

 

「ジジ臭いぞ、それにちゃんと火が通ってなかったらあの世行きだぞお前・・・。」

 

「だってだってさ!食材は持っているのに全然調理できなかったんだよ!?もう、乾燥スープを塊のまま齧ろうと思ったんだよ!?」

 

「仕方がないだろう、水の配分を間違えたんだ、それに塩の塊を齧るような真似は止せ、それこそ干乾びて死ぬぞ。」

 

現在も洞窟の入り口に滞在する二人から[力]が流れ込んでくる。

しかし、大蠍が死んだ分、[力]の流れ込む量は抑え目である。恐らく、自分の支配領域で生物が死ぬと瞬間的ながら大量の[力]を吸収する事が出来る様だ。

 

(・・・これは、要検証だな・・・。)

 

「はぁぁっ・・・おなか一杯になったから眠くなっちゃった。ちょっと寝よう?」

 

「おいおい、まだ安全かどうかも分からな・・・って、寝るの早いな・・。」

 

ローブの二人組の片割れ、黒い髪をオールバックにした壮年の男は少女を抱きかかえ、岩陰に寝かせると、木でできた骨組みを組み立て始め簡単な天幕を張った。

暫くすると寝息が増え、砂嵐で疲れた体を休ませるように深い眠りへと落ちていった。

 

(この地で初めて出会う人たちだ、しっかり守ってあげないと・・・。)

 

石は、この洞窟に神経を伸ばしているので天幕の中の暗闇の中も何不自由なく彼らの寝顔を見ることが出来る。

彼はどこか穏やかな心で彼らを眺め続けた。




取りあえず、ダンジョンコア兼ダンジョンマスターのお話を書いてみたいと思います。
タイトルはほぼ決まっておりますが、今は未定です。

ただし、ダンジョンでハーレムにとか、ダンジョンチートで世界最強とかのタイトルにはしない予定です。


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接触

この世界に生まれ変わってからそれほど時間がたってはいないが、それでも石はある程度自分の周りの事を把握しつつあった。

 

自分が居を構える洞窟は、砂漠にぽつりと佇む小さな岩山の側面に空いた洞窟であり、人間が住むには過酷な環境で人の集落はここから遠く離れた場所に位置するらしい。

 

一応地上に人間と思われる気配が各地に点在しているように感じていたが、自分が想像するよりも気配を感じる範囲は広かった様だ。

 

「うーん!良く寝たぁ!!」

 

「まったく、不用心甚だしいぞラナ」

 

「あ、おはようカシム。」

 

寝ぼけた表情で目を覚ましたのが、ラナという少女で、周囲の警戒をしつつ仮眠をとったのがカシムと言う壮年の男性らしい。

 

「・・・・交易ルートから離れすぎている。砂嵐が治まっている今のうちに戻るべきだろう。」

 

「え~?折角珍しい場所見つけたのに、探索しないで帰るっていうの?」

 

「キャラバンの長の娘であるお前の護衛が俺の仕事だ。水の補給も終わっただろう?言う事を聞いてくれ。」

 

「いやいや、適当に言っている訳じゃないんだよ?だってさ、この洞窟湧水が出たんだよ?もしかしたら、新しい中継地点になるかもしれないじゃないか!」

 

カシムが顎に手を当てて少し考えると、ため息をつきながら背嚢を背負う。

 

「ふむ、確かに水源があれば交易ルートの開拓も可能・・・か?いや、いっその事拠点を構えるというのも悪くはないか・・・。」

 

「でしょ?でしょぉぅ?にひひっ!探検しよう!た・ん・け・ん!」

 

顔を近づけるラナ、面倒くさそうに彼女の額を掴んで押しのける。赤銅色の髪の毛がくしゃくしゃになる。

 

「そう言う所がまだ子供なんだよ、しょうがない、少しだけだぞ?」

 

睡眠不足で多少乱れた黒髪を櫛でオールバックにとかしなおし、カシムは武器や道具の確認をした後、洞窟の奥へと歩いて行く。

 

石はこの洞窟の中に地下水の類が無い事に、多少申し訳なく感じ、先ほど地下水を作り出した要領で、比較的浅い場所に広間を作り地底湖を作り出し、発光する水晶を彼方此方にちりばめて光源を確保した。

 

「何だか空気が冷たくなってきたな・・・。」

 

「外は灼熱の大砂漠だからねぇ・・・水たまりみたいな物でも良いから、水源が干乾びずに残っていてほしいもんだよ。」

 

「・・・・ラナ、気を付けろ洞窟の奥に明かりが見える。」

 

「先住者が居たって事?カシム・・・うん、わかった様子見してくれないかね?」

 

「それが俺の仕事だからな・・・任せておけ!」

 

ラナも腰に下げた護身用と思われる短剣に手を伸ばし、いつ襲撃があっても対処できるように周囲を警戒した。

 

カシムが、明かりの方向に向かった後も洞窟内の観察は欠かさず行っており、意外としっかりとした地盤の洞窟であると分析した。

 

「ラナ!凄いものを見つけたぞ!早く来てくれ!!」

 

カシムが興奮交じりで叫び、ラナを呼ぶ。

 

「カシム!?・・・わ・・・わかった!今行く!」

 

二人が地底湖の入り口に立った時、唖然とした表情で暫く佇んでいた。

 

「た・・確かにさぁ、冗談交じりで水源が無いか調査しようと提案してけどさぁ・・・こりゃぁ、とんでもない事だよ?」

 

「こんな大砂漠にこんな地底湖が存在するとは、どれだけの時間をかけて形成されたんだろうか・・・?」

 

石は心の中で、今さっき作ったばかりだと謝罪をし、二人の反応を見守った。

 

「ここに住もう!村のみんなにこの場所を伝えてさ!だって、村の井戸も年々湧水の量が減って行っちゃっているし、これだけ水があれば何とか生きていけるよ!」

 

「落ち着けラナ、見えている範囲だけでも相当な量の水だが、それがいつまでも続くとは限らんのだぞ?」

 

「でも、だって・・・!」

 

「・・・少々危険だが湖に入ってみるか、どんなもんだか」

 

カシムは、靴を脱ぎ、下着姿とまでは行かずとも身軽な服装になると、恐る恐る地底湖の水に足を差し込み、湖の中央まで歩いて行く。

 

「む・・・急に底が深くなっているな?これは思ったよりも水量があるのかもしれん、これは期待できるぞ?」

 

息を止めて地底湖の底へと潜り始める。ラナは心細そうにカシムの様子を見守る。

 

「カシム?・・・大丈夫?おーい!カシムぅぅ!」

 

カシムが潜った場所に、ポコポコと泡が浮かんできて、水しぶきと共にカシムが水面まで戻ってくる。

 

「ぶはぁっ!・・・久しぶりに泳いだから息が持たないと思ったぞ・・・ラナ!朗報だ!底が深いし相当な水量だ!見えている範囲だけでも十分に水が使えるぞ!」

 

「うそ・・・うそぉ・・・。」

 

ラナは体が震え、涙がこぼれ始める。

 

「これで・・・これで村が救える・・・水が、水がこんなに一杯に・・・。」

 

「魚の類はどうやら生息していないみたいだな、太陽光が差し込まないからか水草一本生えていない・・・水質は料理に使ったものと大差ない様だ。飲めるぞ」

 

バシャバシャと、浅瀬を歩きながらラナへと近づくカシム。

感動に震えるラナの背中を叩き、洞窟の調査を良く提案してくれたとほめたたえる。

 

「有難う、カシム・・・でも、背中・・・濡れちゃったんだけど?」

 

「うぉっ・・・すまん!」

 

石は、二人のやり取りを微笑ましい穏やかな気持ちで見守っていた。

 

(ふむ・・・試してみなかったけれど、地表まで影響を与えることは出来ないだろうか?地底湖を作ったことで、何かの力・・・それを結構消費してしまった。)

 

(・・・・今でも微量ながら彼らから私に何かの力が流れ込んでゆくのが解る。しかし、彼らの健康面で悪影響が及んでいない事から、もしかしたら彼らと共生関係を持てるかもしれない。)

 

キャラバンの長の娘ラナは、早速彼らの集落にこの洞窟の情報を持ち帰るんだと息巻いており、護衛のカシムも武具の点検をした後、黙々と集落へ帰る準備をし、最後に二人で水分補給を行った後、洞窟を去って行った。

 

(洞窟の中を監視カメラの様に見渡すことは出来るけど、洞窟の外になると離れれば離れるほどノイズ交じりになるな・・・最後はもう何も見えないか。)

 

石は、洞窟周辺までなら視点移動が可能なことを確認すると、早速地表に影響を与えることが出来ないか、実験を始めた。

 

結論から言うと、洞窟の外の方が何かの力を多く消費してしまう事、そして砂嵐や灼熱の日光などで容赦なく地形が風化されてしまうため、多少丈夫に作らないと持たないことが分かった。

 

(洞窟の岩山の上部にオアシスでも作れれば、彼らが定着した時に助かると思うけれど上手くいかないものだなぁ・・・そもそも洞窟の外に出た水はあっという間に干乾びてしまうし、何か保水性の高い構造はないものか・・・。)

 

石はふと神経細胞すら持たないはずの脳裏に、ふと思い浮かぶものがあった。

 

(スポンジだ!スポンジ状の構造を岩の間に作り出せばある程度の保水が出来るかもしれない・・・鍾乳石の一部に管を通して毛細管現象で地下水を地表に吸い上げるようにすれば・・・・。)

 

石は、彼らが去った後も試行錯誤を繰り返して少しずつ洞窟内や洞窟周辺の土地を弄り、生物がすむのに適した環境になるように整えていった。

 

そして、石が彼女らが戻らない事を心配し始めた頃に、地平線の奥に黒い影が見えた。

・・・・それは少しずつ大きくなって行き、ラクダの様な生物に荷物を載せた大規模な集団が、石の居を構える洞窟へと向かってくることが分かった。

 

(無事だったのか!良かった・・・かなり土地をいじったから、力も大分消費してしまったが、まだまだ蓄えはある。彼らが定着してくれればその内、消費した分も取り返せるかもしれない。)

 

「見えたぞ!間違いない!あれが私たちが見つけた水の洞窟だよ!!」

 

キャラバンの皆は、歓声を上げる。多少やつれていた表情がぱっと明るくなり、慌てた様に駆け出す者もいた。

 

「はぇ・・・うそ、洞窟の外に小さな湖が出来ている?」

 

「砂嵐で視界が遮られてはいたが・・・風化作用だけでここまで地形が変わるものだろうか?」

 

少しだけ身長が伸びたラナと、以前来た時よりも風格の増したカシムが久しぶりに訪れた洞窟の岩山に驚きの声を上げる。

 

「日陰になる山もあるし、心なしか砂の量が減ったというか・・・砂の底に沈んでいた岩山が姿を現したって事なのかな?」

 

「解らん、だがこれは良いぞ・・・とても良い事だ。日陰も多いし、洞窟に潜らなくても水が汲める、どういう訳か新たにできたオアシス付近の砂は常に湿り気を帯びているし干乾びる様子もない。」

 

キャラバンの者は、オアシスに飛び込むものもいれば、皮袋に水をためる者もいる。農地に適した土地かどうか検証する者も居た。

 

「あの後、村の井戸水も干乾びちゃったし、村丸ごと移動して良かったよ・・・本当に・・・。」

 

以前訪れた二人の後ろに、白髪交じりの男性が歩いてくる。

 

「あ・・父さん!」

 

「ラナ、カシム、良くやった。そして、村の大移動を決断させてくれたことに感謝する。」

 

「父さん、これで隣国に避難しなくて良かったよ。いいように使いつぶされることも無くなったんだよ?」

 

「あぁ、お前は自慢の娘だ。」

 

「村長、これで我々は滅びずに済む、オアシスが枯れて消滅した集落のなんと多い事か・・・。」

 

「カシム、ラナをよく無事に護衛してくれた。ラナだけなら半信半疑だったが、お前が私や村の皆を説得してくれたおかげで我らは新たな故郷を得ることが出来たのだ。」

 

「えへへ、やったねカシム!」

 

石は、洞窟周辺の様子を伺いながら、自分の支配する領域に居る者たちから力が流れ込んでくるのを確認し、これならば消費した分を取り返せるのはそう遠くはないだろうと、満足そうに心の中で頷いた。

 

(そう言えば、地底湖に生き物がいないと言っていたな・・流石に生物まで生み出す事は出来なかったが・・・?なんだ?何をしているんだ連中は?)

 

洞窟の中に入り込んだキャラバンのメンバーの一部は、地底湖に白い泥の塊の様な玉を籠一杯に放り込み、何かの植物の種子の様なモノを岩の隙間に差し込んでいた。

 

「オアシスが干乾びる前に、肺魚の卵を確保できて良かったよ・・・上手く増えてくれれば良いな。」

 

「水モロコシも、この水晶の光源で育ってくれれば良いんだけど、大丈夫かなぁ・・・?」

 

石は地底湖に生物が居ない事に悩ませていたが、彼らが洞窟の外から勝手に持ち込んでくれたことに安堵しつつ、洞窟が・・・知らぬ間に自分の支配領域が改造されて行くことに僅ながら怖さを感じていた。

 

(何だか色んな種類の作物だか卵だかを地底湖に入れているけれど、大丈夫なのだろうか・・・あっ、卵から力が流れ込むようになった・・・水に反応して孵化する生物なのかな?それまで生物と言うよりも物体に近かったみたいだけど・・・。)

 

石は、この世界の生物の力強さに驚きつつも、これから始まる不思議な共生関係に希望を持ち、まだ見ぬ未来へと思いをはせた。

 

(ま、いっか・・・これから賑やかになれば良いな。)




ずっと続きを描きたくて妄想こねくり回しておりましたけど、アイディアの整理を兼ねて思いついたときに、続きを書くようにしたいと思います。

そろそろタイトルもダンジョンマスターもの試作(仮から正式なタイトルに変えないとですね。


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救援物資

石が支配する領域に、村ごと避難してきた民は、岩山から湧き出る湖で作物を育て、岩陰に折り畳み式の天幕を張り、暮らしていた。

 

まだまだ作物は育つまでに時間はかかるが、水分を求めて岩山に集まる生物を狩る事である程度の食糧を確保できていた。

 

ちなみに、この一帯を支配する意思を持つ石は、地下に地底湖に繋がる無数の細い管を伸ばして、村の住民から得た[何かの力]を利用して水を生成し、岩山一帯を湿らせていた。

その甲斐もあってか、気化熱の作用で岩山付近の気温は僅かながら低下し、何処かからか吹き飛ばされてきた乾燥に強い植物の種子が岩の隙間で発芽し、少しずつ少しずつ岩山は緑に包まれていった。

 

 

「おい、見ろよ前はこんなところに水たまりなんてなかった筈だぞ?」

 

「ここ最近サボテンが良く生えるようになったと思ったら、こんなところに湧水なんて・・・一体どうなっているんだ?」

 

食料を調達しに岩山付近をうろついていた村の若者たちは、岩山の各所に小さな泉が湧いているのを発見し、喜ぶも、奇妙な地形変化に首をかしげていた。

 

「やはり、何かしらの地形の変化が起こっているのかもしれないな。」

 

「ラナとカシムの話では岩山もここまで大きくなかったらしいが、流砂か何かで埋まっていた部分が露出したんだろうか?」

 

「ふむ、この岩山の洞窟に地底湖がある事を考えると、何処かの水源と繋がって、その勢いで水が岩の罅などの隙間を通って湧水として地表に噴出したのかもしれん。」

 

「うーむ、あり得るな・・・ん?みろよ、恐らくこの足跡は岩トカゲの物だぜ?ここ周辺の生き物が水を求めてここに集まってきているみたいだ。」

 

「この場所は本来の交易路から外れた場所にあるからな、水が補充できずに干乾びるのを待つだけの危険地帯のはずだった・・・だが豊富な水源のお陰で、状況は変わりつつある。」

 

「砂漠と言っても年に何回か大雨が降るんだが、水を蓄えられる場所も限られているし、ほとんどは地表を流れ去ってしまう。今年はその大雨も降らず、井戸は枯れ作物も育たず、近隣の村は壊滅状態・・・水の奪い合いだって起きている、我々は本当に運が良かったんだ。」

 

「年に数回の大雨で孵化する砂鮫の卵がまだ休眠状態のままだったお陰で、村の大移動時の襲撃が少なかった、干ばつに助けられた数少ない面だが、このままでは人も動物も、魔物でさえも干乾びてしまうだろう。」

 

「この岩山の洞窟はかなりの地下水が見つかっているんだろ?近隣の村の住民を集めてこの岩山の開発を進めることは出来ないか?」

 

「どうだろうか?大移動時に立ち寄った場所の殆どは水不足で壊滅状態で、その生き残りが我々の大移動に加わって行き、此処への移民は相当数に上るが、未だに健在な集落がどれだけ存在するというのだろうか?」

 

「寄り道する余裕もなく素通りした村もあったが、今なら救援にも向かえるだろう?食料はこれからだが、水なら用意できるんだ。干乾びつつある村から離れられない頑固者は兎も角、助けを求めている者はこの岩山に招いた方が良い。」

 

「ふむ・・・まだ持ちこたえている場所の救援はした方が良いか、盗賊になられても困るしな。」

 

「余裕が無ければ奪うしかなくなる、我々もそうなっていたかもしれないのだ。大河を独占する隣国へ行っても奴隷よりもマシな程度の扱いしかされない、ならば砂漠の民同士で協力するしかあるまい。」

 

「皮袋や椰子の実水筒の数は、まだ余裕があるしラクダに乗せて運べば、それなりの量になる。食料の消費は痛いが、干し肉も救援物資に入れておけば暫くは耐えられる筈だ。」

 

「持ちこたえられているうちに雨が降ってくれれば、井戸水も復活するかもしれないが、希望的観測に過ぎんか。 」

 

「ここ一か所に拠点が集中するのも考え物だ、今後の天候次第ではあるが、村の復興の目処が立てば、跡地を再建する事も考えねばならん。」

 

 

石は洞窟内はもとより、岩山周辺の様子を観察することが出来た。

不思議なことに、思考を切り分けてそれなりの人口まで膨れ上がった村の住民の会話を聞き分けることが出来るのだ。

 

水不足に悩む近隣の村の話、干ばつで魔物すら個体数を減らしている事、水の存在を感知して岩山に集結する生物たち、生存をかけて盗賊にならざるを得ない者たち・・・様々な情報を一気に汲み取り、同時に処理する、生身の人間には到底不可能な、機械じみた能力である。

 

根を使い地中から水分をくみ取り、ろ過して必要成分だけを抽出する、ある意味では植物にすら似ていた。

 

 

・・・・・

 

(なるほど、この地に集結した民によると、この砂漠はただでさえ乾燥しているのに、頼みの綱である年に数回降ると言う大雨が降らず、記録的な大干ばつに見舞わられている訳か・・・。)

 

 

 

ラナとカシムの二人だけでは賄え切れなかった、[何かの力]も、この地へ集まった民の人数ならば余裕をもって備蓄に回すことが出来る。

 

しかし、急造で作り上げた地底湖だけでは、複数の村から集まってきた民の分の水を長期間賄えられるとは思えないし、そもそもこの岩山も辛うじて地盤と繋がっているだけで、砂の上に浮かぶ浮島の様な構造をしているのだ。地盤から切り離されたとき、何が起こるか分からないので、地盤の強化は必要課題である。

 

なので、少しずつ地底湖の水を増やすと同時に、地盤固めを行っていた。

砂を材料に岩石を生成して、頑丈な地層を形成し、岩山を中心に盆の様な形状で地下を合成岩で覆い、ダムの様に生成した水が岩山の外に流れないようにし、水を貯える地層も形成した。

 

それらは、砂の中に埋もれて、地表に暮らす民には感知されていないが、意思を持つ石の仕込みは時間をかけて効力を発揮してゆくだろう。

 

 

多少合成に[何かの力]は必要だが、ポリグルタミン酸の様な保水性の高い成分も合成できた。

砂漠の民が地底湖に持ち込んだ肺魚の卵の殻や粘液を参考に生成することが出来たので彼らは本当に良い仕事をしてくれた。

 

地表で暮らす民の農地にも密かに地形操作能力で保水性成分を加えることで地質の調整を行った。これで砂に水を撒いて育てるよりも大分良くなるはずだ。

 

 

ちなみに、地底湖に持ち込まれた生物の体組織に付着していた藻類の胞子が湖底に定着し、地底湖で大繁殖をしており、それらを食料に肺魚も産卵に備えて肥え太り始めていた。生物の気配のなかった洞窟は早くも新たな生態系を形成しつつあった。生物はとても逞しいのである。

 

 

・・・・・

 

 

(こんな過酷な環境なのに、それでも逞しく生きて行くこの地の生物と人々は美しいな。だからこそ、彼らの助けになるのは有意義に感じる。)

 

(そう言えば、水を生成する時に力を特別多く加えたときに、極少量生成される水色の結晶体は一体何だろうか?いや、水を生成する時だけではない、特別手を加えて岩盤を弄ったときにも色は違うが結晶体が形成されることがある。)

(それは、唯の美しいだけの宝石ではなく、私が加えた力を多く含むように感じる。)

 

(繁殖した肺魚を捕えるために地底湖に素潜りした砂漠の民が、水色の結晶体を見つけたとき大騒ぎをしていたが、結晶体に含まれる私の力は砂漠の民にとっても何かしらの資源として使えるのだろうか?)

 

(救援が必要な村に給水キャラバンを派遣するために部隊を分けているが、皮袋や椰子の実水筒の他に、地底湖で拾った水色の結晶体を砕いて小分けに持たせているが、一体何に使うのであろうか?)

 

(危険な砂漠を渡るため、キャラバン隊の家族は互いに抱き合い、無事を祈り、それぞれの目的地へと向かって行く。彼らの旅の無事を祈る。)

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

「まさか、地底湖に水の魔石が生成されているとは・・・もしかして、地底湖は我々が考えているよりも深いところに繋がっているというのか?」

 

「水源に恵まれた地域の特に魔力が集まる場所でしか生成されない物なのに、なんで砂漠のど真ん中の、こんな乾燥した地域で水の魔石が?」

 

「確かに、この洞窟はかなり高い密度の魔力を感じたが、それでも水の魔石が存在する事自体不自然極まりない・・・まるで標高の高い山の頂上で海の魚を見つけたような違和感だ。」

 

「そう言えば、隣国の学術院で、ある学者がこの砂漠はかつて海の底であったという学説を発表したみたいですよ?もし、その仮説が正しければ、この岩山はかつて、海の底に存在し水の魔力が集まっていた場所なのかもしれません。」

 

「岩塩の類は少量産出してはいるが、あくまで仮説だろう?まぁ、しかし水の魔石のお陰で、幾つかの村の井戸を復活させる目処は立ったがな。」

 

「救援物資としては最上級のものです。次の雨期までには持ちこたえられるでしょう。」

 

「楽観は出来んぞ?干ばつがこの先ずっと続く場合は、最悪この地も干乾びるかもしれん。その時の為に備えておかなければ」

 

「そう・・・ですね。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

(水の魔石・・・?どういうことだ?)

 

(それでは何か、水を生み出したり、岩盤を固めたりするときに使う力と言うのは[魔力]とでも言うのだろうか?)

 

([魔力]・・・か、確かに得体のしれない力と言う意味では、しっくりくる言葉だ。

この世界の生物は、生きて行く内に余剰エネルギーと思われるものを微量ながら放出しているが、それらを吸収して保持し、様々な形態で出力することが出来るのがこの世界に生まれ変わった私に持たされた能力であった。)

 

(もし、その特定の形態に変性したエネルギーがそのまま物質として凝固したものがあの魔石と呼ばれる結晶体なのだとしたら、私が地形を操作する時に行使した力と似たような処置をしたとき、水を生み出し、地面を固めたりすることが出来るのかもしれない。)

 

(私の体もそれに似た物質で形成されているのだとしたら、それらのエネルギーの集合体が私と言う存在なのかもしれない。)

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

救援物資キャラバンが、幾つかの村から移民を引き連れて、岩山に戻ってくるのはそれから暫くしての事であった。

 

 



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落盤

砂漠で記録的な大干ばつが発生している中、少しずつ大規模な水源がある岩山の噂が広まり、各地の砂漠の民がオアシスの岩山に集結しつつあった。

 

オアシスから派遣された給水キャラバンによって岩山に近い集落は何とか持ちこたえており、岩山から発見されたという水の魔石によって、僅かながら井戸が復活し農業を再開できた村もある。とは言え、厳しい節水状態が続いているので雨が降らなければ廃村になってしまうのは間違いなかった。

 

人だけではなく、付近の生物も水を求めてオアシスに集結しているので、オアシスのある岩山付近は、魔物が徘徊する危険地帯でもあった。

 

(水を求めて砂漠中の生き物が、この岩山に集まってきている・・・もう既に人ではない私が、砂漠の生物に捕食され命を落とす民に心を痛めるのは筋違いかもしれないが・・・。)

 

(何とかしてやりたいな、でも、私は此処から動くことが出来ないし、かと言って私が影響を及ぼせる範囲に居る人間以外の生物を追い払うのも心苦しい。)

 

(砂漠の生物を、岩山の開拓村から少し離れた場所に誘導すれば幾らか被害は減らせるだろう、彼らはたまたま人間も捕食対象にしているだけで彼ら自身に罪がある訳では無い、水不足で種の存続の危機に立たされているのは何も人間だけではないのだ。)

 

(・・・・・少し離れたところに砂を固めた浮島でも作ってしまおうか、窪地状に成形し、中央部に肺魚の粘液成分を砂と混ぜて合成すれば、灌漑もしやすくなるだろう。)

 

比較的砂漠の民の集落の分布が少ない位置にひっそりと、散水用の管を伸ばし、管を足掛かりにして力を籠め、砂を岩石に合成して皿の様な形状に固めた後、付近の砂に生体由来の高分子ポリマーを混ぜて、地底湖の水を散水する。

 

地底湖に繁殖している藻類と砂が混ざり合い、高分子ポリマーの保水効果で粘度のある泥状になり、独特の異臭を放ち始めた。

 

(ふむ・・・これで上手くいくのだろうか?正直この手の知識に関しては素人同然だ、たまたまこの奇妙な体で生まれ、不思議な能力を得ただけなので、これが最適解かは分からない。だが、やれるだけの事はやっておきたい。)

 

結果的に、意思を持つ石の試みは、岩山付近の岩地にサボテンを始めとする乾燥に強い植物を群生させ、それを拠り所とする生物たちとそれを捕食する生物の小さな生態系を作り出し、人間の生活圏から肉食生物を離した。しかし、泥状とは言え湿った岩地がある事を現地人に知られ、そしてその泥状の岩地が砂鮫の産卵場所となった事は意思を持つ石にとっても予想外の事態であった。

 

流石の砂漠の民も、岩山付近の異様な地形に疑問を持ち始めたが、それでも今はいつ降るか分からない雨よりも、岩山の水の方が重要であった。

 

それからも意思を持つ石は、砂漠の民の為に地底湖の水量を増やしたり、地底湖や地表の湖を拡張したり、水の魔石を洞窟の比較的浅い層に合成したりと陰から支えていた。

 

最初にこの岩山を発見し岩山をオアシスに改造するきっかけを作り出したラナとカシムは成長し年老いた父親の補佐をしたり、護衛の経験を生かして若い男衆にサバイバル知識と魔物や盗賊の対処法などを教えていた。

 

「ラナ、もう私は民をまとめられる程の若さはない、そろそろ村長を引き継ぐことも考え始めてくれぬか?」

 

「そんな弱気にならなくても!・・・っと言いたい所だけど、本当に父さん砂漠の民の為に尽くしてきたからね。私も覚悟を決める頃合いか、うーん重たいなぁ・・・。」

 

「なに、私だって最初はそうだったさ、それよりもラナ、お前も良い年なのだから所帯を持つことを考えないか?死ぬまでには孫の顔くらい見せてくれ。」

 

「えっ!?あぁ、いやその・・・実は、カシムの所の男衆で砂鮫狩りが得意な奴と付き合っていて・・・その、そろそろ・・・。」

 

「ほうほう、砂鮫狩りの名手か・・・となると、アリーか!カシムが目を付けている者の一人だな!」

 

「まだまだオアシスでの生活が安定していないから、所帯を持つのは暫くお預けだけどね。カシムは若い頃に奥さん亡くしているし子供もいないし、アリーは我が子みたいに思っているみたい。」

 

「カシムには本当に世話になったからな、義理の息子とは言え、血縁を結ぶのは喜ばしい事だ。」

 

「あぁ、いやアリーは養子縁組している訳じゃないからね?あくまで師弟関係だし、アリーの両親は健在だからね?」

 

「む?おお、そうだったそうだった。私も耄碌したか・・・。」

 

「もう、しっかりしてよ父さん!」

 

意思を持つ石は、相も変わらず村人の会話を聞きとっていたが、ラナと村長の会話で感慨深いものを感じていた・・・。

 

(そうか、ラナもそんな年頃か・・・思えば彼らがこの地に訪れてから数年の歳月が経過しているんだな・・・木材も鉱物資源も貴重なこの砂漠で、生活拠点を作るのも苦難苦労の連続だ。私ができる事はそう多くは無いが、この村もここまでの大きさになれたんだ、それを考えると今まで私がやってきた事は無駄ではなかった様だな。)

 

(ヤジード村長は砂漠の民の為に老いても身を粉にして働き、指導し、村を今の形まで作り上げたんだ。無論、村長の元で働いた若者たちの力のお陰でもあるが、彼の存在が大きい、ラナが本格的に引き継ぐまではカシムに補佐してもらうのが一番だろうな・・・。)

 

「そうだ、あの洞窟の調査はどれくらい進んでいるのかな?」

 

「キャラバン隊が異国で工具類を調達してそれが村に届いてからだな、今は行けるところまでしか行けん・・・。」

 

「結構入り組んでいるうえに、狭くて子供くらいしか入れない場所もあるからね。村の子供が遊び場にして注意しても、時々水の魔石拾ってくるし、怒るに怒れない時もあるし・・・うーん、もし魔石の鉱脈みたいなのが見つかれば今の状況もひっくり返るのに・・・。」

 

意思を持つ石は、自分の支配する領域である洞窟の調査や開拓に内心複雑な思いをしていた。意図的に自分本体から村人が遠ざかるように通路を弄ってはいるが、完全に塞ぐと地形操作に微妙な支障をきたすので、子供が入れるくらいには通路を開けている。未だに本体に到達した者は居ないが、それも時間の問題である。

 

(私本体の力を行き届かせるためには、ある程度の空間が必要だが、人が入り込まないように狭めるとその通路付近に力・・・魔力が溜まって魔石が形成されてしまう事がある、結果的に人を呼び寄せてしまうかもしれないのは考え物だな・・・。)

 

(いや、いつまでも人と接触せずにこの洞窟に一人佇んでいられないという事か?いずれにせよ、来る接触に備えて心の準備をしておかねば・・・。)

 

それから、キャラバン隊の資材調達斑が岩山のオアシス村に到着したのは、間もなくであった・・・。

 

「それでは、岩山の洞窟の本格調査を開始する!工具の性能は鉱山の国の中でも保証されたものだ!存分に振るうがよい!」

 

「おおおおーーー!!」

 

村の男衆が、ノミや鶴嘴の様な工具を持って岩山の洞窟へと入って行く。狭くて入れなかった隙間は鶴嘴で広げられ、魔力の吹き溜まりは魔石が形成されているので意思を持つ石へ誘導する道しるべとなってしまう。

 

毎日毎日、採掘作業は進められ、次第に石本体への道は繋がりつつあった。

 

(困ったな、彼らと対面した時に言うべき言葉は決めてあるのだが、肝心の発音方法が思いつかない・・・・忘れていたが、私の体は石そのもので生物の肉体ではないのだ・・・どうしたものか・・・。)

 

石がそうこう考えているうちに、石本体の安置される領域の壁が穿たれて、村の若い男衆が集まってくる。

 

「な・・・何だこれは?なんて巨大な・・・。」

 

「とんでもない魔力が渦巻いていると思っていたら、こんな魔石の親玉みたいな石が存在していたなんて・・・。」

 

(つ・・・ついにこの時が来てしまったか、ええと、何か・・・何かしらの手段で彼らと意思疎通を・・・。)

 

「青白く発光しているが、良く見るとうっすらと虹色の光沢があるな・・・水の魔石とも違う様な・・・ただの魔石よりも遥かに高密度の魔力を内包する未知の鉱物だ。」

 

「と・・・取りあえず、試料を少しだけ頂いてしまおうか?」

 

(む!?ま・・・まてまて、私本体をそれで削る気か?待ってくれ、それはあまり良いアイディアではない、考え直してくれ!)

 

「それ!」

 

(ぐぁ!!)

 

「硬いな、もういっちょ!」

 

(あ・・ぎ・・・。)

 

「端っこがちょっと割れそうなだけか?まぁ、それだけでもいいか、ほっ!!」

 

(何だこれ・・・は!?痛覚がある訳では無い・・・だが、私が、私と言う意思が・・・本質が・・・失われて行くような・・・や・・・やめ・・。)

 

「鶴嘴の方が欠けてしまうとは一体どんな硬さなんだこれは・・・まぁ、小さな破片は手に入ったし、魔術や鉱物に詳しい奴に研究調査を・・・なんだ?」

 

巨大な魔石と思われる結晶体は、眩く発光すると、衝撃波を発生させ石の領域に入り込んでいた男衆たちをなぎ倒した。

洞窟は脈動し、天井にひびが入り、落盤が発生する。

 

「い・・・いかん!洞窟が崩れるぞ!早く逃げるんだ!」

 

「ま・・・待ってくれ!あ・・・あぐああああああ!!!!」

 

退避が間に合わず数名の調査隊が落盤に巻き込まれ、岩の下から血が滲み始める。

その後、命からがら逃げだした調査隊は、洞窟の奥に鎮座する巨大な魔石とそれに接触した事による落盤の情報を伝え、以後、洞窟の奥への侵入は禁止となった。

 

意思を持つ石の意識は、身を砕かれたところで途絶えた。

とても長い時間意識を失っていたが、再び彼が意識を取り戻すころには、自分と言う存在が非常に曖昧になっていた。

 

(うぅ・・・私は一体、あ・・あぁ、そうだ・・・洞窟の調査のために質の良い工具を持って洞窟の壁を掘り進んでいたんだ、そこで私は私と出会い・・・鶴嘴で私の体を・・・いや、私は何を言って・・・。)

 

(いや違う、私は自宅で倒れたときに救急車で運ばれて、難病と診断されその後、家族に見守られる中、命を失って・・・わた・・私・・私は・・・)

 

(一体何者なんだ・・・・・?)

 

洞窟の落盤から逃れ、洞窟最深部の巨大魔石の破片を持ち帰っていた調査隊は、鉱物専門の魔術師に調査を依頼したところ、その鉱物は凄まじい魔力と霊体を高密度で含んでおり、数少ない文献に僅かに記載されている幻の玉石・・・迷宮核、またの名を霊晶石である事が判明した。

 

洞窟に人や動物を誘い込み、彼らの求める物を生み出し、手を伸ばしたところ罠にかけ捕食する・・・そう言った伝承や、人々の祈りを糧に大地に命を宿す奇跡の石とも伝わる。

 

「人を食らう洞窟か、それとも砂漠に命を齎す神か・・・果たしてどちらなのか・・・。」

 

「父さん、一つ思うんだけど、私がこの岩山に訪れたとき、水に困っていたって話はしたよね?でも、都合よく岩から湧水が湧いて水を補充できたのは、もしかしたら迷宮核さんが気を利かせてくれたんじゃないかな?って思うの。」

 

「ラナ・・・・。」

 

「・・・私たちがあの洞窟の奥に足を踏み込んだ後だって、私たちを食べようと思えばいつでも食べれたし、この村が出来た後も水底に水の魔石を生み出してくれたのだって、彼のお陰かもしれないの。」

 

「確証はあるのか?」

 

「ううん、唯の勘だよ・・・でもさ、私たちが彼の領域に押しかけて傷つけてしまったのは事実なんだ・・・だから、皆で謝っておいた方が良いと思うんだ。」

 

「そう・・・だな・・・。」

 

「この破片は、洞窟の入り口付近に御神体として祀っておこう、二度と間違いが起こらない様に・・。」

 

その後、洞窟の奥地は不可侵の領域と認定され、村人は地底湖のある層から先に行くことは殆どなくなった。今は、地底湖で漁を行ったり水を汲む帰り道に、落盤で亡くなった調査隊員と傷つけてしまった洞窟の主に祈りをささげる社があるだけである。

 

身を砕かれた迷宮核は、時間をかけて自我を取り戻したころ、砕かれた体の安置された社に捧げられる祈りに・・・人々の意思の力に不思議な感覚を持ち始めていた。

 

自我と魂と魔力と自然の力と・・・様々な世界の要素を凝縮したこの体は、破片となっても未だに本体と繋がっている事に気づくのは暫く経ってからであった・・・。



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従属核

(思えば私の記憶と言うものは最初から破綻していた。辻褄が合わなかった。)

 

意思を持つ石、迷宮核は自分自身の記憶に疑問を持っていた。果たして自分とは何者か、この記憶は一体誰のもなのか?かつて自分が立っていた場所も分からず焦点が定まらない。

 

(私は、難病を患い、家族が見守る中その一生を終えた筈。)

 

(だが、私は愛する夫の子供を産み、出産に耐えられず死に、学業がうまくいかず学生生活も破綻して絶望し、学校の屋上から身を投げて死に、老いて先立たれた妻の後を追うように服毒自殺で死に・・・それらは、確かに私自身が体験したと確信をもって言える事であった。)

 

(確かに、それは・・・私だった。)

 

(つまるところ、私は・・・我々は無数の人間の集合体であり、記憶が曖昧なのもそれのせいなのだろう。)

 

(だが、確実に複数の人格の[核]となった私は存在するのだ。行動原理も倫理観も、無数の私達のどれとも違う、本来の私が存在したはず・・・それとも、それすら何かの間違いだったのか?)

 

迷宮核と言う実体を持った体を砕かれ、精神と体の再構築を終えた迷宮核は、記憶の整理と共に、忘れかけていた記憶の一部を取り戻した。

 

(思えば・・・ラナとカシムの言葉を最初から理解できていたのもおかしかった。私は彼らの言葉を初めて聞いた・・その筈だったというのに。)

 

(私の故郷となる世界の魂と、この世界の人間の魂は既に混じり合っていて、初めて聞く筈の言葉の発音もすんなりと聞き取れ、言葉として理解出来たのだろう。)

 

迷宮核は、その身に吸収した魂と、自分自身の記憶に惑い、いつ終わるとも知れない自己問答に陥っていた。

 

砕けた迷宮核が混乱している最中、岩山の集落の住民たちは、慰霊碑を兼ねた迷宮核の破片を祀る社を作り終え、水汲みの前後に祈りを捧げる行為を日常生活に組み込んでいた。

 

「今日も水の恵みと日陰を下さり有難う御座います。」

 

「我らが同胞の魂よ、安らかに眠りたまえ。」

 

木桶に水をため込み、村の各所に設けられた大鍋に水を注いでゆく。

洞窟に近い家は、洞窟の地底湖から水を汲み、岩山から湧き出る湖に近いところはそのまま外の湖から水を汲む。

あらゆる物が不足している砂漠は基本的に再利用できるものは再利用し、糞尿は肥料や燃料に、狩った魔物は皮・肉・骨・内臓・血液まで全て余すところなく利用する。

 

岩山が砂漠の民の集落として開拓され、十年近い歳月が流れる中、何度か天の恵みである大雨は降るには降ったが、年々その回数も降水量も減って行き、砂漠の民は水源に恵まれた岩山へ避難する者が多くなってきた。

 

大干ばつは進行し、砂漠の生物は減少を続け、岩山に避難して放棄された村跡に僅かに残る水を当てにして小動物が住処を作ったり、放置された畑に砂漠の植物が無秩序に生えてきたり、その日を生きるのに植物も動物も必死だった。

 

交易ルートの途中に点々と存在した村も、廃村となり、砂漠を経由する交易は途絶えてしまった。それは砂漠の外、水源に恵まれた、人類が生存するに適した土壌に暮らす国々にも影響を与えた。

 

切り立った山脈を迂回するために砂漠を通過する国、枝分かれした大河から大河へ移動する道中に砂漠の端を通る国、砂漠原産の希少植物を探す国、大砂漠の周りを囲む国々は前代未聞の大干ばつに悩まされていた。

 

最も直接的に、その過酷な環境の脅威にさらされる砂漠の民は、国と言う勢力を形成できず、文化的なつながりの乏しい孤立した集落を構える事しかできなかったのだ。

だが、この大干ばつで岩山に集結した砂漠の各集落の人々は、互いに知恵を出し合い、必要とあらば無理してでも砂漠の外の国から物資を調達し、オアシスのある岩山の開拓を進めた。

 

「傷を負いし岩山の主よ、我らの祈りと贖罪を受けたもう。」

 

「いわやまのあるじさま、水をかんしゃします!」

 

「これこれ、アイラ、祈りとはもう少し心を込めて行うものだぞ?」

 

「おじいちゃん、アイラ、こころこめているよ?」

 

「ごめんね父さん、私の教育不足だわ。」

 

「ふふふ、ラナよ、お前も子供の頃はこうだったぞ?」

 

「えぇっ!?流石にそこまで酷くない・・・よぉ?」

 

「おかあさんもそうだったの?」

 

「えーーーー・・・・うん、違う・・・よぉ?よね?」

 

「何故疑問形なんだ、お前たち、水汲みは終わったのか?」

 

「おお、アリーよ、来たか。」

 

洞窟の入り口に、傷跡だらけの若い男が歩いてくる。

 

「おとうさん!」

 

「おうおう、アイラ、お祈りは終わったか?・・・・それと、親父殿もいらっしゃったか・・・。」

 

「アリー、今日の狩りはどうだった?」

 

背中の金具に引っかけていた槍を抱えると、槍の側面についた真新しい傷を指でなぞり頷く

 

「砂鮫は数匹だけだが、仕留めることは出来たぞ?ただ、若い個体だったのか小ぶりだったがな、近場で狩りをしすぎると獲物となる動物がいなくなってしまうので、そろそろ禁猟の時期だろうな・・・。」

 

「おにくたべれないですか?」

 

「アイラは食べ盛りだからね・・・でも、砂漠は食べ物がとても貴重なの、私の体が小さいのだって、アイラくらいの齢に満足に食べ物が食べられなかったからなんだ。」

 

「そうだぞ、アイラ、俺がガキの頃は幾らか井戸水に余裕があったから、作物も育てられていて食い物も手に入って俺は身長が伸びたが、他の村はそうも行かなかったんだ。まぁ、そのお陰で砂鮫と渡り合える体格を持てたんだがな。」

 

「アリーは良いよねー、お母さんは、どうせちびっ子ですよー。」

 

「拗ねるなよラナ、さて親父殿、妻と娘が世話になった。」

 

「うむうむ、お主の様な若くて力のあるものが長としてついてくれると心置きなく後を任せられるというものだ。」

 

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ父さん、それと私が一応村長なんだからね?アリーは副村長というか村長補佐だし。」

 

「そうです、おかあさんえらいです。」

 

「アイラっ!!」

 

ラナは思わず娘のアイラを抱きしめ、頬ずりする。アイラは些か迷惑そうな表情をしていたが・・・。

 

「その辺にしてやれ、ほら家に帰るぞ?」

 

「だっこなの?わたしあるけるよ?」

 

「だめ、娘成分補給しないとお母さんだめになっちゃうの!」

 

「懐かしいな、妻が生きている頃はラナをこうしていた気がする。ふふ・・。」

 

砂漠の民を纏める村長家族が洞窟を後にすると、洞窟の入り口に設けられた社が、ぼんやりと光を放ち始める。

 

(これは・・・何だろうか?不思議な感覚だ。)

 

(暫く思考の海に沈んでいたが、こんな所に祭壇なんてあっただろうか・・・それにしても、この感覚は一体。)

 

(これは私の体の一部か?いや、繋がりが・・・確かに繋がりを感じる、私はまだ私の体の破片と繋がりが存在するのか。)

 

社に納められた迷宮核の破片が、より輝き始め、洞窟の入り口どころか洞窟の外側の地形まで強い影響を持たせることが出来るような感覚がした。

 

(なるほど、洞窟の外の地形変化に力を多めに込めなければならないのは、環境的な要因の他に、私本体からの距離の問題もあった訳か、あの社に納められた私の破片を通じて、より広範囲に力を巡らせることが出来るかもしれない。)

 

自分自身の体の破片を中継装置に、改めて洞窟中に神経の様なモノを伸ばし始める迷宮核。

迷宮核の分身から放たれる光の波が、地表を撫でるように広がり、大地が脈動する。

風に巻き上げられ村の中に入り込んできた砂は、社から放たれる光に触れると、凝固し岩と一体化し、乾燥していた空気は次第に湿り気を帯び始め、砂漠に滅多に発生する事のない霧が岩山全体を覆い始めた。

 

砂漠の民は、大干ばつに見舞わられた大砂漠に有り得ない天候に戸惑い、天変地異の前触れかと、祈りを捧げるために社へと向かうが、その社に納められていた迷宮核の破片が光り輝いているのを見ると、迷宮核こそこの現象を引き起こしているものだと確信する。

 

その日は、猛暑日であり、金具を触れば火傷するほどの暑さであったのだが、岩山周辺を覆う霧が、日光と熱を遮ってくれたおかげで熱に倒れた者は息を吹き返し、岩山に生息する動植物にも恩恵を与えたのだ。

 

より一層、迷宮核を敬う気持ちが強くなった砂漠の民は、迷宮核に信仰心を持つにいたるのはそう遠くなかった。

 

(砂漠の民の・・・祈りが、意志の力が、私に流れ込んでくるのが解る、砕けた私の破片、分身を通じて・・・・。)

 

(今まで岩山で生きる民や動植物の余剰エネルギーを回収して、力を溜めていたが、あの社の分身に意図的に意識的に、彼らの力が注がれて行く・・・傷は、癒えた・・。)

 

(この社で、私が出来る事が少しわかったよ。どうにかして、私の分身を移動させることが出来るなら、その分身を中継装置にもっと広範囲に、岩山周辺よりもっと広く大地に命を吹き込むことが出来るかもしれない・・・。)

 

(私が思うよりも、ずっとずっと、私は力を使うことが出来たんだ。それに今まで気づかなかっただけで・・・・。)

 

(私の一部になった砂漠の民は、我々は、この不毛の大地を生命の溢れる場所にしたかったんだ。だから、我らは砂漠を超え、開拓のための工具を異国から買い集めたのだ!)

 

(砂漠を生命溢れる地に・・・理想の実現のために、私の分身を私の意志で移動させる何かしらの手段が必要になりそうだな・・・動力から考えなくてはならないか・・・・。)

 

(自問自答、自己問答の時間はもう終わった。今は、ただただ大地に命を宿すために!!)

 

 

岩山を支配する迷宮核は、本格的に砂漠の大干ばつに立ち向かうことにした、それは砂漠の民の魂によるものなのか、彼らの信仰心・信頼する心に答えるためか、迷宮の試行錯誤は続く。

 

 

 

 

 

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従属核  スレイブ・コア

 

意思を持つ石がその身を切り離し、自らの領域の操作権限を持たせた分身

迷宮核と従属核は繋がっており、迷宮核の支配の及ばない遠隔地でも迷宮核に従い、本体には及ばないものの地形操作能力を持ち、小型の迷宮を生み出すことが出来る。

その他、大規模な迷宮の管理の補助も可能。破壊されても本体が無事なら被害は限定的で、ある種のダミー的な役割も果たす。



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試行錯誤

迷宮核は本格的に砂漠の大干ばつに立ち向かう事を決め、砂漠の民や岩山の動植物から得た魔力を利用して、乾燥しにくい土地に地質を弄り、水を生成して岩山付近の灌漑を行っていった。

 

砂漠の民が砂漠の外から持ち込んだ植物や砂漠原産の植物が土地に根付き、比較的乾燥に強い品種に限るが樹木すら生えるようになっていた。

 

現在では岩山のオアシス付近に限定されるが、砂漠の動植物の楽園となっており、大気中の湿度に反応して発芽する植物や、雨期で砂漠が水没するまで乾燥した状態で休眠する砂鮫の卵などが活性化し、姿を消していた砂漠の生物たちが復活を果たしていた。

 

幾ら乾燥に強い生物だからと言って、あまりにも長期間休眠が続いたり、雨期がこなければ繁殖はおろか活動すらまともに出来なくなるので、この大干ばつで絶滅していたかもしれない生物たちも、迷宮核の支配領域で辛うじて世代交代を果たし種を維持していた。

 

(今まで魔力を備蓄に回していたが、最近は砂漠の民から多めに魔力を得られるので、少し多めに水の生成に魔力を使ったが大正解だったな。)

 

生物が生きて行くには、栄養は必要だが、最も重要な物は水だ。少なくとも地球型の惑星で生きる生命体の殆どは水が無ければ生きて行くことは出来ない。

 

迷宮核が地下に伸ばした水のパイプラインで支配領域周辺に小さな人工オアシスを作り、砂漠の村同士を結ぶ休憩場として利用されている。風化作用で埋もれない様にしっかりと岩石で補強しているのでオアシスは維持されている。

 

しかし、この岩山は本来の交易路から大きく外れた場所に位置するので、砂漠の外の国々との交易は絶えたままである。大干ばつの影響は砂漠の外の国々まで及び、大河付近の国は水不足とまでは行かないものの、若干川幅が狭まった事に不安を覚えているらしい。

 

(水の魔石によって私の領域に近い村の井戸は、辛うじて維持されているらしいが、どの村も私の支配領域外に位置するのが歯痒いな・・・。)

 

落盤に巻き込まれ迷宮核に取り込まれた村人の魂の記憶によると、交易ルートの村は井戸水が枯れ、生き残りたちは一部が岩山のオアシスに避難したり、盗賊となって砂漠を徘徊したり、異国の地に逃れ奴隷に近い扱いを受けているらしい。

 

(そもそも、交易ルートに点在していた村の位置までは、かつて平原が広がっていたらしいが、この大干ばつと言い、この周辺地域は砂漠化が進んでいるのだろうか?)

 

(ここ程、風化浸食は受けてはいないが、岩地方面では、かつて大河が流れていた川の跡が存在する事から、大規模な気候変動があったのかもしれないな。)

 

なお、砂漠岩地にある大河跡は砂漠の民が道として利用しており、かつてキャラバン隊はそこを通って交易を行っていた。

最も、大河跡を歩いてる最中に年に数回の大雨に遭遇すると、ものの数分程度で洪水になり、大河跡をなぞるように激流が荒れ狂うので雨が降ると同時に大河跡から離れないと巻き込まれて溺死してしまう。砂漠で一番多い死因が溺死と言うのはこれのせいである。

 

(此処は交易ルートから大きく外れた、砂漠の端に浮かぶ岩山・・・此処からでは岩地の地質が分からない、何とか私の分身をかの地に持っていけないだろうか?)

 

社に祀られている迷宮核の破片は今もぼんやりと光を放っており、岩山オアシス付近に限定されるが、程よい湿度と気温に調節されており、水汲みや漁をする村人に祈りを捧げられ、迷宮核本体へと魔力が供給され続けている。

 

(御神体として祀られている私の分身を岩地まで運んでくれれば、大河跡を利用した水源が作れるかもしれないが、彼らに直接運んでもらう訳にも行かないし、あれが無くなれば地底湖周辺の管理が若干面倒になると思う。)

 

(・・・となると、地道に水の魔石を生成するしかないのだろうか?)

 

迷宮核は、そこでふと生み出せるものは水に限定されているのだろうかと疑問を持った。思えば地形を操作し、地下洞窟の形状を変化させ、何もない場所から水を生み出したりと様々な試みをしてきたが、それらの応用で別な物を生み出せないのか?

 

(そもそも私は、まだ私ができる事の全ての能力を把握してはいない・・・地形を変え、水を生み出し、私の支配領域全てを見ることが出来る、本当にそれだけなのか?)

 

迷宮核は、思考する

 

(例えば、地形の操作や水の生成以外に何か生み出すことは出来ないのか?・・・火をおこしたり、大気の流れを生み出したり、光を灯したり・・・。)

 

迷宮核は身の回りに渦巻く力・・・魔力を操作して、水以外のものが生み出せないか、試してみる。

 

水を生成する時と似たような感覚で、燃え盛る炎をイメージしながら魔力を込めると、コアルーム付近の壁が激しく炎上し、熱エネルギーに変換されきれなかった魔力が空気中の砂塵などを核にして赤い結晶体へと成長する。

 

(炎は・・・おお、水と同じように何もない場所から火が噴き出した・・・何が燃焼しているのかは判らないが、私が力を込めたものがそのまま燃料となっているのだろうか?)

 

迷宮核は、炎を生み出した後、自分の周りにある砂山に魔力を集中させ、つむじ風を生み出し砂を巻き上げてみる。

 

(ふむ、大気の流れも生み出せるのか・・・いや、よくよく考えるとオアシスの村人たちが熱でやられたときに霧を発生させたが、その時に気流を操作していたな・・・あれが無ければ霧はそうそうに霧散していた筈。)

 

迷宮核は、一切光源が存在しない区画に視界を移し、その暗闇に魔力を込めると蝋燭の様なぼんやりとした光の玉が生まれ、暫くすると光は収まり消えてしまう。

 

(光は・・・ふむ、力を込めている間だけしか光は発生せず、力を抜くと徐々に消えて行くのか・・・。)

 

(光を放つ水晶の生成よりも魔力は使わないが、光る水晶とは違って永続性は無いな・・・どちらにせよ使う魔力は今までの中で最も微量だ、暗闇に迷い込んだ者を導くくらいにしか使い道は無いだろう。)

 

自分の持つ力は思いのほか応用が利くようで、迷宮核は実験に手ごたえを感じていた。

 

(ふむ、力の行使で魔石が生み出されることがあるが、もし物理現象を起こさず純粋に魔石として固めることは出来るのだろうか?水の生成を経由せず、純粋に魔力を集めて魔石を生成する・・・それは可能なのだろうか?)

 

魔力を込め、水があふれるのをイメージしつつもその力を抑え込め固めるように力を圧縮していると、青白い光と共に空中に青い魔石が生み出され、ぽたぽたと水が石の表面から滴り落ち、ガラスの様な澄んだ音を立てて水の魔石は地面に転がり落ちる。

 

(!なるほど、僅かながらどうしても水の生成などの現象は起きてしまうのか、だが大部分が魔石に変換されている、効率面は段違いだ、もう殆ど実用段階と見てよい。)

 

その後、火・風・光と同じ要領で魔石を合成して実験を繰り返すと、地面には色とりどりの魔石が無造作に転がる異様な光景が広がっていた。

 

(まずいな・・・作りすぎたか、どうやって運んだものか・・・いや、それよりも。)

 

一通り魔石を合成するコツをつかんだ迷宮核は、いよいよもって自分自身の分身、意図的に迷宮核の破片を生み出そうとしていた。

 

(私の体を砕かれたとき、私の体や意思を構成する何かが失われたように感じた・・・私の分身を生み出すには相応の覚悟が必要だな。)

 

迷宮核は、自分自身の体を複製するつもりで膨大な魔力を込めるもガラスのように無色の大きな魔石が生成されるだけで、自分の複製を生み出すことは出来なかった。

 

(ふむ、私の分身を作り出すのにはどうしても、この身を切り取らなければならないのか?)

 

迷宮核は、自分の体が砕けた時の事を思い出しながら、自分自身を構成する結晶体を小さく分けて取り外すようにイメージすると、自分の意識が分離する様な感覚と共に握り拳大の大きさの迷宮核と同じ質感の結晶体が転がり落ちる。

 

(むぅ、一瞬だけ意識が遠のいた・・・だが、小さく分離した私と、本体の私は確かに繋がりを感じる。)

 

迷宮核本体から切り取られた結晶体は、迷宮核と同じく青白く輝きうっすらと虹色の光沢をもっていた。その内側には凄まじい魔力と迷宮核同様、自我を持っている様だ。

 

(自ら切り離すと、切り取られた部分はすぐに塞がるんだな、自分から切り離す分には負担が少ないようだ。)

 

分離した小さな迷宮核を自分の体のように動かしてみると、確かに自分本体と同じ力を持つ様で、規模は小さくなるが十分に独立した支配領域を形成できるようだ。

 

(切り離したは良いが、どうやって岩山の外にこの分身を移動させることが出来るのだろうか?)

 

思えば、それなりに長い間この場所に留まっているが、自ら移動する手段がなく、切り離した分身と、合成実験で地面に散らばる魔石群を片付ける方法が思い浮かばなかった。

 

(ふむ、多少荒っぽく運搬する必要がありそうだな・・・。)

 

地形変化能力を生かして、地面を隆起させ魔石の山を転がしながら迷宮核本体へ続く通路へ移動させ、迷宮核の間・・・コアルームを掃除した。

 

(中々悪くない発想だった。しかし、随分と乱暴な方法だな。)

 

迷宮核は、鉱石類が激しく音を立てて転がる音に内心喧しく感じつつも、意外と魔石が丈夫な事に気づく。

 

(そう言えば、鶴嘴で殴られても私の体本体はそれなりに耐えられていたが、この魔石や私の分身の強度はどれくらいのものなのだろうか?)

 

好奇心のまま、地形操作能力で地面と天井から柱を伸ばし、魔石をプレスしてみるが、多少持ちこたえ、強度限界を超えたとき水を噴き出しながら魔石は爆散した。

 

(内部に蓄えられた力が解放されて水の魔石から水が噴き出したのか・・・しかし、大部分は魔力に帰ってしまうな・・・。)

 

迷宮核は、砕けた魔石から放出された魔力を再度吸収するが、水に変換されて地面を濡らした分はどうにもならなかった。

 

(作りすぎた魔石は、砕いて再吸収すれば処理は出来るか、だが水の魔石でこの惨状・・・他の魔石を砕くとどうなってしまうのか・・・・。)

 

結論から言うと、火の魔石が最も危険で、最も無害に近いのが光の魔石であった。

火の魔石が砕けると同時に、セラミック爆弾を彷彿する威力の爆発を引き起こし、地面に転がっていた魔石を次々と破壊し、連鎖爆発させながらコアルーム近くの通路はズタボロになり、水の魔石の影響で地味に水没していた。

 

(だ・・・大惨事だな・・・火の魔石は扱いに注意が必要か、風や水も暴風や鉄砲水と危険な代物だが、一番危険度の低い光の魔石ですら目を持つ生物を失明させるには十分の光量の閃光を発生させる。魔石は乱暴に扱ってはならんな。)

 

残るは自分の体から切り離した、分身体・・・流石に自分と繋がる小さな迷宮核を破壊する事は躊躇われたが、好奇心を抑えられない迷宮核は、恐る恐る地形操作プレスで自分の分身を挟んでみる。

 

(鶴嘴で殴られたときほど直接的でないにせよ、意識が薄れるような・・・そんな信号が私本体に届いてくるな。)

 

次の瞬間、小さな自分の分身を挟む岩の柱に罅が入り、音を立てて砕け散ってしまう。

多少細かい傷はついているが、小さな迷宮核は健在だった。

 

(魔石の比ではない丈夫さだな・・・それとも、本能的に自分自身を硬化させたのだろうか?かなり硬い・・・硬すぎる。)

 

分身に魔力を送ると、細かい傷は塞がり、無傷の小型迷宮核がそこに浮かんでいた。

 

(私同様自己修復能力があるのか、ふむこれだけ丈夫ならば、多少手荒な方法で運ぶことが出来るのでは・・・?)

 

迷宮核は、地表まで続く小さな縦穴を作ると、縦穴からチューブが伸びて小型迷宮核をすっぽりと包んだ。

 

(そして、底部に火の魔石を仕込んでおいて・・・。)

 

小型迷宮核の下に仕込まれた火の魔石を地形操作能力で圧力をかけて砕くと、火の魔石は爆散し、チューブに抑え込まれた爆圧は上に逃れるために小型迷宮核を押し上げ、岩山の外まで天高く小型迷宮核を打ち上げた。

 

(凄い、私の分身から送られてくる視界は雲よりも高い場所にある!あれが私の支配する岩山か、地面に落下するまでにそれなりに猶予があるが、しかし本当に一面砂だらけなんだな・・・。)

 

暫く上昇し続けていた小型迷宮核は落下をはじめ、迷宮核本体のある岩山が豆粒に見えるほど離れた場所に落下していった。

 

(む・・・う、砂漠にそのまま埋もれる形で落下したか、反動を受けた感触が私本体にも届いた様な感じがした・・・。)

 

砂に埋もれた・・・と言うよりもめり込んだ小型迷宮核は、鋭い光を放つと、砂は凝固し、ぽっかり穴の開いた岩石を形成し、その穴の中には青白い光を放つ小型迷宮核が鎮座していた。

 

(私本体の視界移動ではノイズがかって見えなくなる距離だが、私の分身を通して向こうの風景が見える・・・しかし、多少規模は小さくなるが私が出来る事は一通りの事は可能な様だな。)

 

小型迷宮核を覆う岩石は肥大化を続け、今や砂漠ににょっきり顔を出す小さな丘くらいに成長していた。

 

(どれ、岩地を薄い板状に伸ばして、中央を窪ませて水を生成すれば・・・・。)

 

先ほどまで砂しか無かった場所に現れたのは、岩山オアシスのミニチュア版であった。

水量はオリジナルに及ばないので、照り付ける日光に晒されてお湯になりつつあったが・・・。

 

(周りに生物の気配が無いから、このミニオアシスには定着してくれる動植物は居なさそうだな・・・だが、位置的には廃村の近くだった筈、その内誰かが見つけてくれるだろう。)

 

迷宮核は、岩山オアシスから遠く離れた場所に落下した分身とのやり取りをしつつも、何とかして分身を自由に動かせないか、自分の領域内で試行錯誤を繰り返していた。

 

(地形操作能力で高低差を生み出して、分身体を転がして移動するのは、どうにも燃費が悪いな・・・もう少し、効率的に出来ないものか?)

 

更に小さく分離させたビー玉サイズの極小迷宮核を動かしながら、水流で押し流したり風で吹き飛ばしたりして移動手段を模索するが、その内極小迷宮核の周りに合成した岩の車輪がついた奇妙な物体に成り果てていた。

 

(ついついやりすぎてしまった・・・今思えばこの仕組み、この形状・・・英国面を感じるな・・・。)

 

極小迷宮核がはめ込まれた車輪状の物体は、車輪部分から水を噴き出し、その反作用で車輪は回転を始める。

 

(流石に壁にぶつかって爆散はしないが、これは駄目だ・・・何故かは知らないが、これを採用してはいけない気がする・・・。)

 

迷宮核は、自分の分身体を覆う車輪にヒントを得て、極小迷宮核を覆う鎧に何かしらの移動手段をつける方法を研究し始めた。それは車輪だったりキャタピラだったりするが、最終的に水流操作を利用した油圧式の脚までも搭載可能となった。

 

(生物は生み出すことは出来ないが、こんな方法があるとは・・・疑似生物とでも言うのだろうか?)

 

極小迷宮核を制御に使い、核を覆う鎧を超小型の迷宮として扱い、脚部の内部を管が通り、内部の液体の流動によって脚部を動かす。

動きはまだまだ、ぎこちなく、どことなく生前幼い頃遊んだラジコンを思わせた。

 

(む!?)

 

先ほど射出した分身体から、生物の気配を感じた信号が送られてきて、そちらに意識を向けるとミニチュアオアシスめがけて複数の砂柱が恐ろしい勢いで接近してくる光景が映った。

 

(あれは・・・砂鮫の群れか!先ほどまで気配すら感じなかったと言うのに・・・。)

 

砂鮫たちは勢いよく岩地に乗り上げると、体をくねらせながら日光でぬるく暖められたオアシスに入り、口をパクパク動かしながら水分を摂取していた。

 

(確か、砂鮫はああ見えて岩山オアシスに持ち込まれた肺魚と近縁種だったのだな、となると、ここも産卵場所になるのだろうか・・・・むむ?)

 

砂鮫だけではない、砂漠ヘビや砂トカゲ、後は名前の知らない小さな昆虫類などが、次々とミニチュアオアシスに集まり始めていた。

 

(砂漠の生物が分身に集まって行く?本能的にこの石が力を持っていることを知っているのだろうか?ごく僅かだが、射出された方の分身に魔力が齎されているな・・・。)

 

砂鮫は冷え込む夜までオアシスに浸かっていたが、気温が下がる前に再び砂漠の彼方へと去って行ってしまった。他の小動物はミニチュアオアシス近くに穴を掘って巣作りを始めていたが・・・。

 

(砂鮫が今のところ人間の次に魔力供給量が多い生物らしいな、まぁこのミニチュアオアシスが誰かに発見されて休憩場として利用してくれるようになれば、良いが、そうでも無さそうなら、このラジコン方式で分身を移動させてしまっても良いかもしれないな。)

 

 

暫くして、砂漠の民の間で奇妙な噂が流れるようになった。曰く、岩山オアシスで食用サボテンを採集している時に雲一つないのに雷のような轟音が鳴り響いたとか、砂漠の空に一筋の流れ星が流れ地上に落ちていったとか、村同士の連絡の為に人員を送っていたら砂漠の生き物が同じ方角に向かっていったとか・・・。

 

砂漠の民と迷宮核の奇妙な共生関係はこれからも続く。



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砂漠の巨大湖

砂漠の端に浮かぶ岩山オアシスは、枯れたオアシスから避難してきた難民が集まり、文化的な繋がりが乏しいながら、皆が互いに協力し合い本格的な集落と化していた。

 

人が集まる事で、人間の体から放出される余剰エネルギーの量が増え、それを迷宮核が吸収し、それを元に水を生成する。

 

人と迷宮核の奇妙な共生関係は、迷宮核の支配領域を激変させ、岩山オアシス付近に限るが砂漠原産の植物や砂漠の民が砂漠の外から持ち込んだ植物の種子が芽吹き、茂みを作るほどに大繁殖をしていた。

 

迷宮核の計らいによって危険な肉食動物は、集落から比較的離れた位置に誘導され、そこを繁殖地に選んだ砂漠の生物たちは、大干ばつで数を減らした個体数を再び増やし始めていた。

余談であるが、既に肉食生物の繁殖地は砂漠の民に発見されており、一人前の砂鮫狩りになれるかの腕試しの場所として利用されている。

 

「最近村に外の人が良く来るなぁ・・・。」

 

「水の魔石が届く比較的近い村は、何とか維持できているが、井戸水が枯渇してしまった村の連中は、最後の希望として噂の岩山へと向かうんだとか。」

 

「移民目的で来るなら別にいいが、盗賊は勘弁してほしいものだな。」

 

「せっかく水の魔石を送ったのに、盗賊と化していて荷物を全部奪われた給水キャラバンも居るんだってな。」

 

「全く、大干ばつで追い詰められているのは分かるが、何故全て自分の物にしたがるかねぇ・・・困っているなら支援物資を送るのに刃で答えるとは・・・。」

 

「奪い合いを続けるうちに疑心暗鬼になり、他人を信じることが出来なくなってしまったんだろう。ここも何回かならず者どもに襲撃を受けている。」

 

「内側から崩そうと密偵を送ってきた事もあったが、莫大な水源と待遇からあっさりこちら側に寝返ってくれた。不幸中の幸い襲撃を予測して撃退できたが、警戒せねばならんな。」

 

「この地に避難してきて、それなりに長く住んでいるが、本当に人口が増えたよ。ここで生まれた子供たちも居る。」

 

「我が子らをならず者や砂漠の魔獣から守るのも我々大人たちの役目であるな、そして我らの守護者である岩山の主様を汚さぬようにしなければ・・・。」

 

「岩山の主様と言えば、最近また草木が増えてきたな?食用サボテンが沢山手に入るのは有難い。」

 

「サボテンの中には毒を持つものも存在する。食あたりが増えたのは悩みどころであるが、それでもこれ程生命に満ち溢れた砂漠は生まれて初めて見たよ。」

 

岩山のオアシス周辺は、迷宮核が土地を弄り保水性の高い成分の粒子が砂と混ぜられており、地下に伸びた散水管によって常に湿り気を帯びているので草木が根付き、地中の微生物も増え、枯れた植物や動物の死骸が分解されることにより土が出来始めていた。

 

本来砂漠は殆ど微生物が存在しないのだが、迷宮核の地質操作や砂漠の民や砂漠の動植物によって外部から微生物が持ち込まれ、新たな生態系が作られていたのであった。

 

「さて、野草狩りもこれくらいにして切り上げるか、坊主が腹を空かせている。」

 

「ははは、カミさんにももっと食わせてやりなよ!二人目が腹の中に居るんだろう?」

 

「本当は肉を食わせてやりたいんだが、今は禁漁期だからなぁ・・・砂鮫を狩りつくしてしまったら今後砂鮫肉が手に入らなくなってしまうから我慢か・・・。」

 

「肺魚も供給が全然追いついていないし、やはり洞窟の地底湖や村の泉だけじゃ広さ的に限界か・・・。」

 

「大干ばつの前なら、干乾びた湖の底を掘れば簡単に捕獲できたが、今は乾燥しすぎて卵や繭も全滅、恐らくこのオアシス以外には殆ど生き残りはいないだろうな。」

 

「草食性の肺魚の食べる藻類も、洞窟の光る水晶に依存しているからそれほど増えないし、やはり頭打ちになるな・・・。」

 

「はぁ、せめて村の泉がもう少し大きければ・・・・ん?なんだこの揺れは・・・。」

 

突如岩山オアシス全体が地響きに襲われた。

音は次第に大きくなり、岩山の側面に亀裂が走り、大量の水が鉄砲水の様に噴出し、あっという間に大きな湖を作り出した。

そこは砂地だった筈なのに、いつの間にか岩地に変化しており、水を逃さない構造になっていた。

鉄砲水は次第に勢いを失って行き、小さな滝程度まで収まった、

 

「こ・・これは一体!?」

 

「これが岩山の主様の奇跡なのか!?」

 

岩山の側面に穿たれた穴は、洞窟の地底湖と繋がっていたのか、鉄砲水に紛れて肺魚が流されてくることもあった。

運悪く岩に叩きつけられて絶命する肺魚も居たが、運よく生き延びた肺魚は、水没したサボテンを藻類の代わりに齧り取り当面の食糧を確保していた。

 

(岩山オアシスの人口も増えて魔力供給に余裕が出たおかげで、計画を思ったよりも早く実行できた。)

 

(既に集落の水源として使われている泉を拡大すると、天幕を巻き込んだり村人を溺れさせてしまう危険性があるから、村の外側に湖を作ってみたが、思ったよりも上手くいったな。)

 

(水深は地底湖よりもやや浅めだが、面積は桁違いだ。ありったけの魔力を込めたから当分は干乾びる事は無いだろう。)

 

(さて、洞窟や村の泉で育てていた水モロコシなる作物に適した条件の土地になった訳だが、どうなるか・・・。)

 

水モロコシ・・・レンコンの様な植生だが、水中にトウモロコシの様な根塊を作り、生のままだとシャリシャリとしたデンプン質の食感だが、火を通すと本物のトウモロコシのように甘くジューシーになり、様々な料理の材料となる。

 

本来なら砂漠の外の世界・・・大河の国原産の植物であるが、砂漠各地のオアシスの村が健在の頃に持ち込まれ栽培されていたので、意外と砂漠の民にとってポピュラーな食材でもあった。

種子はある程度乾燥しても発芽できる強さを持っているのだが、たくさんの太陽光を浴びる必要があるため、地底湖の光る水晶程度の光源では不足していた。

辛うじて小ぶりのトウモロコシ程度まで成長する水モロコシが少数存在しただけで、ほとんどはベビーコーン状態である。

 

村の外の泉でのみ、まともなサイズの水モロコシが少数栽培されていたので、迷宮核はその事実に頭?を悩ませた。

思えば当然である、肺魚にせよ水モロコシにせよ本来光源の乏しい地底湖に適した生物ではないのである。

 

砂漠の民の受け入れ準備の地形操作や、それによる魔力不足でかつかつになっていたとしても、洞窟の外の地形操作に若干コスト増しの魔力消費で小さな泉しか用意できなかったとしても、もう少し工夫すれば村の食糧事情を今よりも良い状態に出来たかもしれないと迷宮核は若干後悔していた。

 

(だがそれも今日で終わる。)

 

迷宮核は鉄砲水にBB弾サイズまで小さく分けた己の分身を紛れ込ませており、それを中継装置に洞窟の外の地形操作をより簡単に低コストに行えるようにしたのである。

 

水流の勢いを借りて、湖の広範囲に散った極小迷宮核は、細かい地質の修正を行い、水漏れが無いか神経の様なものを伸ばして確認し、湖の安定化を図っていた。

 

(砂鮫が湖に侵入しない様に、登ってこれない程度に岩の段差をつけてやったが、砂蛇や岩トカゲなら突破されるだろうな・・・一部毒を持っている動物も居るから人間と無駄な争いをしてほしくないのだが・・・。)

 

(しかし、流石は肺魚の近縁種・・・まさか水中でもある程度活動できるとはな、恐るべし砂鮫!)

 

砂鮫は地底湖に生息する肺魚の近縁種と言うよりも、大型で肉食の肺魚そのものであり、砂を泳ぐ能力を持つが、彼らの繁殖地は砂漠の民に見つからなかったオアシスである。

泥水の中で卵は孵化して、砂地を泳ぐ前に泥を泳いで砂の中を泳ぐ練習をして遊泳に慣れると、そのまま新天地へと旅立って行くのだ。

とは言え、大規模な水源に辿り着く事が出来た幸運な個体は数年ほどで水中に適応した形態へと移行するので水が大量にあるのならば態々選り好みして乾燥地帯で暮らそうとは彼らも思わないようだ。

 

大河の国に住み着いた砂鮫は、現地で人食い魚として恐れられ、駆除の対象になるが形態変化によって姿が大きく異なるので、砂鮫と同一種と欠片も思っていないようであった。

 

何故迷宮核がそのような知識を持っているのか?それは単純である。

村に持ち込まれて屠殺された砂鮫の記憶を取り込んだからである。

 

(彼らには悪いが、村のすぐ傍で人食い魚の繁殖場を作る訳には行かないのだ。肺魚を食い荒らされても困るしね。)

 

(村中が大騒ぎだな、計画通りとは言え、こちらも大きく動いた。暫くは自粛しておくか・・・どの道、魔力消費と湖の維持で当分は活動も抑えめになるな。)

 

この日、岩山オアシスの村に新たに出現した大規模な水源に、村人は驚き、新たな水モロコシの栽培候補地が増えたことに歓喜し、ますます岩山の主の信仰を深めていった。

 

太陽光線を浴びて育った水モロコシの葉は水面を覆わんばかりに広がり、大きな根塊を沢山つけ、時々肺魚に食害されてしまうものの豊作であり、砂漠の民の食生活を大きく改善する事になった。

 

栄養不足で乳が出ずに赤ん坊を飢えさせてしまう難民は減り、乳幼児の生存率も高まり、砂漠のオアシスの人口増加は飛躍的に加速する事になった。

 

砂漠の外の国々と交易するための中継拠点である砂漠に点在する集落群は大干ばつで殆ど滅ぶか、岩山オアシスに村人ごと避難してしまっているので、交易はほとんど行われていなかった。ほんの極僅かな砂漠の民が水の魔石を使って強引に砂漠を突破し、砂漠の外の国に認識されない程度に物資を調達するくらいである。

 

いつしか、砂漠の集落はすでに絶滅し、いよいよもって人が生きて行けない死の大地へと化してしまったと、砂漠の外の国々は考えるようになっていた。

 

それ故に、大干ばつの影響で大河の水量が減ったことによって危機感を覚えた国々は、自国内の問題解決に意識を向けていたため、岩山のオアシスの存在についぞ気づく国は存在していなかったのである・・・・。その時点では

 

(私の分身を幾つか砂漠の各地に調査に向かわせているが、岩山に避難してきた村人の故郷も見て回るべきか・・・まだ辛うじて水が残っていれば良いが・・・。)

 

迷宮核は、村人たちの故郷の復興の可能性を諦めきれていなかったのである。

分身体とは言え、小さな集落丸ごとくらいは地形操作可能な力を秘めているのだ、まだ村跡地の土地が生きているのならば、灌漑する事で息を吹き返すかもしれない。そんな思いと共に・・・。

 

迷宮核の分身体・・・小型迷宮核・・・いや従属核は、石の外殻に履帯を取り付け砂地に独特の跡を付けながら廃村へと向かうのであった。



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オアシス拡張

大干ばつに襲われる砂漠、降水量は年々減って行き、それは水源に恵まれた大河の国々まで影響を及ぼしていた。

水源に恵まれた地域は、溜め池などを作り、大雨が降った時に水を確保してやりくりしている。

 

年に数回の大雨は、年に有るか無いか程度に減ってしまい、砂漠を動くものは人は元より魔物すら僅かとなってしまっていた。

 

それは、砂漠の端に位置する岩山を除いてであるが・・・・。

 

迷宮核によって岩山のオアシスは、その規模を大きく拡張していた。

岩山の外側に位置する場所に、岩山の横穴から滝が流れ、ごく最近形成された巨大湖が広がっていた。

 

水深はそこまで深くは無いが、一番深いところでは足がつけられないので、浅いと言う訳でも無い。

岩山の横穴から降り注ぐ滝からは時折、肺魚が流されて来る事もあり、滝は岩山の地底湖と繋がっていると予想される。

 

閉鎖環境である地底湖では、魔力を帯び光る水晶くらいしか光源が無いため、肺魚も肺魚の餌となる藻類もあまり大きく成長しないが、日光が降り注ぐ巨大湖では肺魚も藻類も大繁殖している。

 

砂漠の民も突如出現した巨大湖に驚き多少困惑していたが、彼らの主食である水モロコシに適した農地として利用可能であることに喜び、食料問題は大分改善された。

 

砂漠に持ち込まれた乾燥に強い植物の中でも成長の早い樹木は、若干細身ながら建材として利用可能な大きさに成長しており、すでに一部は伐採され乾燥の工程に入っていた。

 

キャラバン隊によって岩山のオアシスに持ち込まれた植物の中にはパピルスも混じっており、今まで村の中の泉でごく僅かに試験的に育てられていたが、巨大湖の出現によってより大きな規模で持ち込まれた植物の育成が出来るようになった。

 

パピルスは切り取られ、格子状に並べられて重石などでプレスし乾燥させられ、パピルス紙などに加工された。

 

繊維質の植物や食用可能な植物が持ち込まれたことによって、砂漠の暮らしは豊かになってきており、岩山オアシスの集落は拡張が大きく進んでいた。

 

(喜び、安堵、希望、砂漠の民の感情が、意志の力が私に流れ込んでゆく・・・。)

 

(岩山オアシスの村の人口は少しずつ増えていっている。巨大湖の維持だけで魔力がかつかつになると思っていたが、驚くことに安定した備蓄が出来ている。)

 

(水を飲みに来た野生動物に村の住民が襲われることもあるが、砂鮫みたいな大型の生物は巨大湖に入れ込めないようにしているので人死にはまだ起きていない。)

 

(懸念していた事は起きてしまったが、現時点ではさほど深刻な被害が発生している訳では無いが、やはり水を必要としているのは人だけではないな、砂漠の生物の保護区はこの場所とは別に作るべきだろう。)

 

迷宮核は意識を切り離した分身体に向けると、岩山オアシスから旅立った分身体の景色が映る。

試験的に作った岩山オアシスのミニチュア版は、生成した水がすぐに干乾びてしまい、砂嵐などの風化作用で、迷宮核の分身体である従属核を保護する小型迷宮を容赦なく削ってしまうので、維持するのが難しい状態にあった。

 

砂漠の小動物は、小型迷宮をねぐらとして巣を作っているが、お世辞にも安定した場所とは言えなく、風に煽られてグラグラと揺れる事もあるので、従属核はこの場所に見切りをつけて別の場所に移動することにした。

 

砂漠の小動物や時々水分を補給しに来る砂鮫などから魔力を得ているが、小型迷宮の維持にはとても足りないので、もっと安定した場所に拠点を構えるべく、コアルームで実験した自走方法で、従属核は移動を開始する。

 

岩の壁を生成して、迷宮核を覆う箱のようなものを作り上げた後、箱の外側に履帯と環状のチューブを生成し、水流をチューブ内に循環させ、その水流を水力タービンで動力に変え、履帯を回す。

 

他にも勢いよく水を噴射して飛んだり、火の魔石を炸薬に砲弾のように飛ばしたりする方法も実験したが、魔力の薄い外部環境では一番コストパフォーマンスが良い移動方法は、チューブ内に水流を発生させ動力に変える方式であった。

 

一応チューブや従属核を守る外殻は迷宮扱いになっているのか、外殻やチューブ内の消費魔力は少なく、水流を発生させる魔力もそこまで消費が激しい訳でも無いので、現状はこの方法を採用している。

 

従属核砲弾での移動は、確かに一度に長距離を移動できるのだが、砲身となる外殻を常に使い捨てにしなければならず、火の魔石の生成と炸裂に魔力を大きく消費するので、費用対効果はあまりよろしくない。

 

砂漠の民の魂の記憶を頼りに、移動する従属核は、砂からひび割れた地面の境界に達し、砂地から荒れ地そしてまだ土が残っている場所とグラデーションがかった地形が視界に映った。

 

(間違いない、岩山オアシスの水の魔石が届いていない廃村だ。)

 

岩山オアシスに近い村は、井戸水を水の魔石で維持しているので、砂漠の民の行動範囲を広げるための重要な中継地点となっているために、常にキャラバン隊が組まれ、水の魔石が運ばれているのだが、あまりに距離が離れていると水の魔石を運搬するのも一苦労のため、村人全員を岩山オアシスに避難させ、村は野ざらしとなっている。

 

(干しレンガの外壁も補修が長い間行われていないから、崩れてしまっている物も多いな、辛うじて土が残っているが、砂が大分入り込んでいて荒れ地になるのも時間の問題か・・・。)

 

従属核は、キャラバン隊の記憶を思い出しつつも、村の螺旋掘りの井戸へと向かい、水源がどうなっているのか確認しに行った。

 

(これは・・・酷い、土が僅かに湿っているだけで地表は干乾びているではないか、まともに雨が降らなかったが故に水脈も途絶えてしまっている。)

 

井戸周辺には、岩トカゲや野生のラクダなどが水を求めて訪れていたのか、特徴的な足跡がいくつも見つかった。

志半ばか、砂ネズミの干乾びた死骸が岩に挟まっているのを見て、どこか虚しさを感じる従属核。

 

(村周辺は、辛うじて乾燥に強いサボテンなどの植物が生き残っているが、これ以上は土地そのものが持ちこたえられなくなってしまうな、村跡地の保水力が完全に失われてしまう前に措置をしなくては!)

 

従属核はチューブ内の水流を強めて勢いよく履帯を動かして、外殻ごと螺旋掘りの井戸に飛び込んだ。

外殻は井戸の底に衝突すると弾け飛び、従属核は地面に打ち付けられるが、罅一つ入らず、眩く青白く輝き、井戸を中心として大地が脈動する。

 

螺旋掘りの井戸はむき出しの地層が、まるで陶器のように滑らかな質感となり、井戸の中心部に、岩山オアシスのコアルーム同様の感覚器たる魔石の柱が伸び、中央部に光り輝く従属核が鎮座する。

 

突如、従属核を中心として水柱が上がり、螺旋掘りの井戸が瞬く間に水で満たされ、村の各所の荒れた地面が、罅の隙間を通るように水が滲み、まるで大雨が降って止んだ時のように湿り気を帯び始めた。

 

(・・・・まぁ、これはおまけだな・・・。)

 

帰還を諦めていなかった住人の手によるものなのか、立ち去る最後の最後までメンテナンスしていた比較的状態の良い干しレンガの家は、従属核の放つ光に触れると、硬質化し、より丈夫で崩れなくなった。

 

殆どの家は風化して崩れ去ってしまっていたが、原形を残していて、手入れすればすぐにでも利用可能な施設は、従属核によって補強された。

 

既に井戸を中心として、散水管が村の周辺まで延ばされており、荒れ地を・・・特に砂の浸食が激しい場所に水を送った。

 

(土地の保水力が完全に失われていなくて良かった、あと少し遅れていたら砂漠に飲みまれていただろう。)

 

従属核は、神経の様なものを伸ばしながら地形の状態を確かめ、枯れた水脈を利用して土地を灌漑したり、周辺の生物の分布を調べたりしていた。

 

(・・・奇妙な反応が荒れ地に幾つかあるな?散水の湿気に反応して微弱な生命反応を感じる・・・。)

 

地表には砂蛇やサソリなどの他に、岩トカゲなども確認されているが、灌漑を行っている土地周辺に奇妙な生命反応を感じた。そこは、他の荒れ地に比べてやや窪んでおり、干乾びた草の様なものがいくつも見られた。

 

(こんなところに草が?・・・いや、確かこの窪地は雨期に水没して小さな泉が出来る場所だった筈・・・っという事は?)

 

従属核は比較的太い散水管を伸ばし、窪地を満たすように大量の水を流し込み、荒れ地はボコボコと空気を押し出しながら大量の泡を発生させ、茶色く濁った泥水となる。

 

(・・・・これは、やはり当たりか、微弱な生命反応が増大・・・いや、次々とただの物質に近かった存在が水を取り込み生物へと変貌してゆく!)

 

そう、泉の跡地は、肺魚の産卵地でもあったのだ。特に、この肺魚は乾燥に強い種らしく、産卵後そのまま放置しても孵化する事は無く、完全に泉が干乾びて卵もカリカリに一度乾燥しなければ孵化しない構造なのだ。

 

降水量が大幅に減少した現在でも、この大干ばつを生き抜くことに成功したのは、ほかの肺魚よりも抜きんでた乾燥への耐性である。

 

(岩山オアシスの肺魚よりも乾燥に強い種だが、卵の特性が特殊過ぎるから繁殖は難しそうだな・・・ただ、水源を維持するだけでは駄目か・・・。)

 

(だが、肺魚も水草も即席の泉に新たな生命の形が生まれつつある、もう少し時間をかけて観察する必要があるが、上手くいけばこれらの遺骸が積み重なり、保水力を持った土地への材料となるかもしれない。)

 

従属核は、螺旋井戸の中心部を深く深く掘り下げ、従属核本体を守りつつ地形操作に障害を発生させない程度に格子状の蓋を多重に取り付け、井戸の最深部をコアルームとした。

 

それから暫くして、螺旋井戸や泉の水源を目当てに岩トカゲやラクダなどが村跡地に訪れ、次第に砂漠の植物もその土地に根付き始めた。

 

後に岩山オアシスに避難した元住民が、運び忘れていた物を取りに、キャラバン隊を組み、村跡地に訪れるのだが、その目に映ったものは、草が生い茂って浸食されつつある廃村であった。

 

泉の跡地は、つい最近枯れたのか若干湿り気を帯びており、まだ薄っすらと緑色を残した干乾びた水草が転がっていた。

 

驚くことに、とうに枯れ果てたと思っていた螺旋掘りの井戸は、水をたたえており、澄んだ水が、こんこんと湧き出ているようであった。

 

目的の物を回収した後は、そのままとんぼ返りするつもりでいたキャラバン隊はこの光景に驚き、村周辺を徹底的に調査した後、岩山オアシスに帰還した。

 

岩山オアシスの住民はその情報に驚き、その中に、螺旋掘りの井戸に潜ったキャラバン隊が、井戸の中心部にごく僅かだが、青白い光が見えたという情報を聞き、岩山オアシスの主との共通点を見出していた。

 

まだ、確定したことではないが、大干ばつに襲われる砂漠の地方ではあり得ない奇妙な現象にどうしても岩山の主を思い起こして仕方がないのであった。

 

・・・・・・実は、岩山オアシスの住民に砂漠を横断する従属核が幾つか目撃されているのである。

 

 

・・・荷車の車輪の様な奇妙な物体が、水をまき散らしながら転がっていた。

 

・・・蜘蛛の様で生き物ではなさそうな物体が、ぎこちなく歩いていた。

 

・・・車輪と帯を組み合わせた箱の様な物体が、奇妙な跡を付けながら移動していた。

 

等々、今まで砂漠で目撃例のなかった奇妙な物体が最近目撃されるようになり、何れもその中央部に強力な魔力を宿しているらしく、特に車輪型の物体は、軸に青白く輝く結晶体が露出していたという話だ。

 

「岩山の主様が種子を飛ばしている。」

 

「死にゆく砂漠を救うための使者を送り出している。」

 

「この砂漠に住まう人々は救われる。」

 

確定した情報でもないのにもかかわらず、岩山オアシスの住民たちはより強い信仰心を地底湖に祀られる御神体に向けて、祈りを捧げ、迷宮核はより強い力を身に着けるのであった。

 

(ふむ、観察している限りではこの村の住民の健康面で悪影響はなさそうだが、これだけ強力なエネルギーを送っていて大丈夫なのだろうか?)

 

(万が一という事も考えられるし、やはり何かしら彼らとの意思疎通ができないか試す必要がありそうだな・・・。)

 

岩山オアシスの村は新たなキャラバン隊を編成している。おそらく、水源を復活させた村跡地の元住民たちであろう。

だが、どうやらこのオアシスで結ばれた新たな家族もそのキャラバン隊に加わっているようだ。

 

(父親の故郷を初めて見る少年と、魔物の侵攻で村を奪われて避難し、避難先で夫と結ばれた母親の新たな故郷への旅か・・・人と人の縁と言うのは不思議な物だな。)

 

(あの廃村は再建され、再び貿易のための中継拠点としての機能を蘇らせるだろう。)

 

(それこそ、あの周辺にはまだまだ村跡地が点在している筈・・・そちらも余裕があれば私の分身を向かわせたいところだな。)

 

工具や食料、そして岩山オアシスで育てた作物の種子や苗を詰め込んだキャラバン隊は、息を吹き返した故郷の地へと向かって出発する。

 

長い間、岩山オアシスの開拓に従事していた壮年の男たちは、手を振り送り出す仲間たちに涙を流しながら大声で何かを呼び掛けている。母親とその子供たちは、どこかもの悲しそうに、そして期待を胸に岩山オアシスを後にしてゆく。

 

(さらば同胞たちよ、そして暫しの別れ・・・向こうでも私は君たちと共にあるぞ。)

 

水源が復活した村の元住民たちは、砂漠を渡り故郷へと目指して旅に出た。

砂漠は、いつ砂鮫を始めとする魔物たちの襲撃を受けるか分からない危険地帯であるが、不思議と一度もキャラバン隊は魔物の襲撃を受けなかった。

 

しかしそれは、迷宮核が密かにキャラバン隊付近にいる魔物を散水管で興味を引いて誘導させ、魔物と遭遇させないようにしていたのだが、彼らはそれを知る由もない。

迷宮核は、過酷な環境に生きる魔物たちにも情けをかけていたのである。

 

(サポートできる圏外に到達したか・・・村跡地に到着するまで、支援は出来ないが、砂鮫は荒れ地の堅い土を掘り進むことは出来ないから、襲撃される危険性は低いな。)

 

(あの村が中継拠点として復活するれば、いよいよ本来の営みに戻れる。この大地に生きる民に未来あれ。)

 

岩山の主は、ただただそう願うのであった。



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蘇る大地

大干ばつに襲われる砂漠地帯、降水量は減り大河付近の国々にも影響が表れ始め、深刻な水不足に陥っていた。

しかし、交易ルートから外れ、今まで水源が確認されていなかった砂漠の端の岩山に、巨大なオアシスが形成されていた。

 

今まで小さなオアシスで暮らしていた砂漠の民は、大干ばつでそれぞれのオアシスを失い、大規模な水源が発見されたという噂を頼りに一か八か、交易ルートから外れた死の領域へと旅立っていったが、彼らが目にした物は岩山の側面から流れ落ちる滝と巨大な湖、そして岩山オアシスを開拓する人々であった。

 

岩山オアシス付近は少しずつではあるが、サボテン以外に草が生え始め、特に水源が近いところには茂みすら作っていた。

生命を育む事のない、ひび割れ砂と化した大地は、僅かな水分を取り込み砂地でも生きて行くことのできる植物や、それを捕食する動物の糞や遺骸によって、新たな生命を育む土壌に生まれ変わろうとしていた。

 

局所的ではあるが、大河付近の生態系に近い環境になり、本来の砂漠の生態が守られ、大干ばつによる大量絶滅を辛うじて回避していた。

 

勿論、広大な大砂漠では微々たる影響しかないが、オアシスを生み出し続ける迷宮核の当面の目標は砂漠の民の保護と地盤固めであり、概ね目標は達成している。最終的に砂漠を緑あふれる土地へと改良したいところだが、その目標は未だ遠い。

 

従属核を岩山オアシスの上部から射出し、周囲の探索や枯れたオアシスの復活、魔物に襲撃され行動不能になった従属核の回収などを行っているが、それらの試みは次第に成熟し、情報収集や砂漠での調査活動の技術が向上し、ごく最近従属核による土地再生能力を向上させた魔石パッケージ型従属核が運用されるようになっていった。

 

まずは、ワインボトル程の大きさの従属核の周りを地の魔石や水の魔石でコーティングし、その周りを砂を固めた岩石で覆い、下部に火の魔石を組み込み、それを炸薬にして岩山オアシスから射出される。

 

岩山オアシスの発射口を飛び出すとともに従属核は、燃焼ガスを受け止め加速のエネルギーを稼ぐ周りを覆う岩石をその場で切り離し、魔石と従属核のみが上空に打ち上げられる。

ある程度の高度に達し、速度も低下し始めた頃に、魔石部分を変形させ薄くて丈夫な翼を形成し、グライダー滑空状態になり飛距離を稼ぐ。

目的地上空に達すると、翼を収納し、砂地や荒れ地を目指して自由落下し、地面に深々突き刺さったのち、地の魔石を使って水が漏れない構造に地形操作をし、水の魔石の魔力を開放し中規模のオアシスを形成する。

これが、長年の土地再生の経験によって生み出されたパッケージ・スレイブコアの力である。

 

主に従属核による灌漑は、復興したオアシスの村付近で行われ、水を求めて砂漠に散った民が集まりやすいように旧・交易ルートを中心に迷宮オアシスが広がって行った。

 

大干ばつの影響で個体数を大幅に減らしていたと思われた砂漠の生物たちは、目敏くそれを見つけ、人間が見つける前にそこを繁殖場所として選び、砂鮫などの大型の魔物がオアシスに居座って交易ルートの開通の障害となる事もあったが、それは別の話である。

 

「砂漠の神が生み出したというオアシスは調べる限りでは、旧・交易ルートに沿ってオアシスの生成が行われているようだ。」

 

「やはり、我々を見守る偉大な存在がこの砂漠のどこかに居るらしい。」

 

「もしかしたら、この大干ばつを我々は乗り越えることが出来るのかもしれん。」

 

砂漠の民は、少しずつ広がるオアシスに希望を持ち始めていた。

食料として持ち込んでいた水モロコシを食べずに、我慢してまでオアシスに種子を植え付け、滅びた村の廃材を再利用して新しい村づくりをする者も居た。

 

後に、交易ルートに伸びる草の茂みは、緑の帯と呼ばれるようになり、砂漠を往来する人々にとって欠かせない目印となって行くのである。

 

そして、何よりも従属核によって生み出されたオアシスの中心部に、魔石の柱に覆われた虹色に輝く柱が立っているのである。岩山オアシスに祀られる御神体と同じ質感の魔石柱が必ず中規模オアシスに存在する事が確認されて以降、砂漠の民にとって迷宮核の存在はまさに神格化されたものとなっていた。

 

新たに開拓された交易ルート上の村々は、日替わりで男たちが毎朝オアシスの中心まで泳ぎ、祈りを捧げ、悪意を持った者に傷をつけられていないか確認する習慣が出来ていた。

 

(毎回毎回、切り離した私の分身に祈りを捧げるために泳ぐのは大変そうだな、分身体を見守ってくれるのは有難いが、万が一溺れてしまってはいけない、少し余計に魔力を消費してしまうが、祈りを捧げる習慣のある村には、分身体に行くための道くらいは作ってあげようかな?)

 

砂漠の民の喜ぶ姿に上機嫌な迷宮核は分身体である従属核を操作して、泉の中心部へと延びる道を作り、岩山オアシスの地底湖の照明にも使っている光る水晶の柱を水面に突き出し、夜にだけライトアップする構造にしてみるのだが、それをやった日には交易ルートの村々の人々は狂喜し酒に酔って我が子や妻をオアシスに投げ込む者も出始めていた。

 

(少しばかりやりすぎた気もするが、砂漠の人々が喜んでくれてよかったよ。)

 

(しかし、私の分身体を各種の魔石とパッケージ化して射出するのは、まだまだ改良できそうだな?そもそも、土地を灌漑しても魔力を回収するための動植物が居ない無生物の状態では、魔力を生み出すことは出来ない・・・ならば、最初から種なり卵なり一緒に詰め込んで射出出来るのではないか?)

 

迷宮核は肺魚に偽装した従属核を地底湖に幾つか放ち、砂を固めて作られた肺魚型の外装の物体がヒレに当たる部分から水流を発生させながら地底湖の水モロコシの種子や肺魚の卵を回収して行く。

 

実は、この時、地底湖で漁を営む女性や子供たちに肺魚型の奇妙な物体を目撃されており、迷宮核の使いが地底湖に居るという事で、岩山オアシスの巨大湖に奪われつつあった人気を取り戻し、砂漠の神のお使い探しがブームとなるのであった。

 

(動植物の種子や卵を含んだパッケージの射出は、最初は生のまま打ち上げてしまって、潰れて失敗、水モロコシと肺魚の卵を乾燥させての射出は、水モロコシのみ発芽をし、乾燥した肺魚の卵は全て孵化失敗、やはりここの肺魚の卵では無理なのか?)

 

(いや、螺旋井戸の村の肺魚は一度乾燥してから孵化する種の肺魚だった筈・・・彼らの卵ならもしくは!)

 

迷宮核は螺旋井戸の村の従属核を操作して、水抜きをして乾燥し始めた泉の泥の中に埋もれる肺魚の卵を管を伸ばして回収し、新たに打ち上げられた回収専用の従属核に乾燥に強い肺魚の卵を引き渡す。

 

この時、回収用の迷宮核は螺旋井戸の村の住民に目撃されており、岩石でできた巨大な蜘蛛が、岩山オアシスの向こうに歩き去って行ったと伝わり、一時岩山オアシスの村に厳戒態勢が敷かれたが、回収用従属核は、外殻を岩山オアシス手前でパージして、迷宮核から延ばされた迎えの管を通って行き、岩山オアシスの住民に見つかる事は無かった。

 

(実験がてら生物に偽装したフレームを使ってみたが、走破性が高いわりに目立ってしまってしょうがないな・・・せめて、その分身体が私に関係あるものとして砂漠の民に伝える方法があれば、攻撃されないのだが・・・。)

 

(そうだな・・・まずは、私を模した紋章を彫り込んでみるか、六角形の結晶の周りに佇む複数の柱、それを簡略化して・・・・こんなものだろうか?)

 

地形操作能力で、洞窟の壁を削り、絵を描く迷宮核、どことなく生前教科書で見かけた壁画を思わせる簡素化された迷宮核本体のシルエットに、内心苦笑いしつつ、岩山オアシスの村の外壁や、洞窟に祀られる御神体の裏側の壁、そして砂漠に散った従属核の中型オアシス群に、共通の紋章が描かれた。

 

日が昇ると交易ルートの中規模オアシスは元より、生活が安定して余裕のある岩山オアシスの住民たちも狂ったようなお祭り騒ぎとなっていた。

 

「岩山の主様、いや、砂漠の神様の紋章だ!!」

 

「この大干ばつは必ず乗り切れる!!」

 

「この紋章こそ、我らを結ぶ楔となり、栄光となる!!」

 

「俺は、拳に刻み付けたぞ!この紋章!砂漠の民に加護よあれ!!」

 

砂漠を横断する従属核が攻撃を受けない様にと、識別のために作った紋章は、思わぬ砂漠の民の結束を産み、彼らにとっての強大なアイデンティティーとなった。

 

魔力が溜まり次第打ち上げられる、従属核にも刻まれるその紋章は、砂漠の神の使者たる印とされ、それらが目撃された地域周辺に新たなオアシスが誕生する印となった。

 

そして、それはごく最近、僅かながら再開された交易によって砂漠の外の国々に噂として伝わり始め、眉唾物ながら交易が再開された理由に興味を示し始める者が出てくるのであった。

 

「大干ばつに襲われる砂漠に比べて、我が国の方が降水量があるが、それでも水不足の問題は深刻だ。」

 

「それでも砂漠の民は、生き残っていた。彼らが渇きに対して対策が出来ていたのもあるかもしれないが、それでも真っ先に滅んでもおかしくない彼らが生を繋げているのは些か不自然だ。」

 

「何か秘密があるに違いない、それに今まで彼らになかった共通する紋章・・・一体何が彼らを結束させた?」

 

「ふん、水を求めて自ら奴隷として堕ちる連中だ。姑息にも、自分たちを孤立させないために思いついた浅知恵に過ぎぬ。」

 

「砂漠に水の魔石だと?幻覚でも見ていたのだろう?もしくは蜃気楼か?ははは」

 

大河の国々は砂漠の民が信仰するという、砂漠の神と言う存在を一笑に付す者ばかりであった。

 

・・・しかし、絶滅を免れた砂漠原産の希少植物群は、大河の国々にとって魅力的に映り、砂漠の希少品を取り扱う砂漠の交易の再開は、砂漠の外の国々に歓迎される事となる。

 

そして、砂漠の外の各国の民で構成される砂漠横断交易キャラバンは、目にする事になる。交易ルート上に現れた奇妙なオアシスと、それらに共通する紋章を・・・・。

 

無駄に凝り性な迷宮核が調子に乗って紋章を刻んだその溝に光る水晶の粉末を溶かし固めて夜に発光するように仕上げた物は、砂漠の外の国々に強烈な印象を与える事となった。

 

「もしかしたら、砂漠の神って実在するのでは?」

 

「そ・・・そんな事ないだろう?砂漠の民が、どっかから石材を調達して自分で作ったに違いないさ・・・は・・・はははっ」

 

「あたしゃそんなもん気にしないさね、砂漠のど真ん中で水浴びが出来りゃどうでも良いさ。」

 

「おかっちゃんは、豪胆と言うか、細かい事は気にしないんだなぁ・・・さて、山脈を迂回できるようになったし、じゃんじゃん稼がせてもらうぞ!」

 

交易が再開したことで生まれた喜びの感情や、生きる意志は各中規模オアシスの村の従属核に届き、それを通じて迷宮核の力は更に高まる事になった。

局所的ながら、ひび割れて乾燥した大地は蘇り始め、砂漠本来の生態が大干ばつ前の状態に戻りつつあった。





【挿絵表示】

紋章は大体こんな感じのイメージです。
絵を描くのは好きですが、上手くは描けませんですOTL


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音響装置

大干ばつによるオアシスの集落群の壊滅で、岩山オアシスに避難した砂漠各地の民は、文化的な繋がりが薄いながらも、手を取り合って岩山オアシスの開拓を進めていた。

 

本来ならば、それぞれの村から出る事が無く一生を終える筈だった人々も、一か所に集まる事で交流が生まれ、出身の異なる者同士が結ばれることもあった。

 

そして、新しい世代たる子供たちは、砂漠にぽつりと浮かぶ岩山オアシスを遊び場として歩き回り、小柄故に狭い場所にも入り込むことが出来て、時に大人が見つける事の無かった発見をしたり、野生動物に襲われて怪我をする事もあった。運の悪いものは自然の摂理に従う事にもなるが・・・・。

 

「ねぇ、君・・一体何をしているの?」

 

「ん~?光る水晶を触っているの!」

 

岩山オアシスの内部・・・特に、地底湖は危険な生物はあまり確認されておらず、何処からか迷い込んだサソリに極稀に刺されるくらいしか野生動物の被害は確認されていない、つまり比較的安全な遊び場所である。

 

「不思議な石だよねー!透き通っていてぼんやりと、そして蝋燭よりも明るく光るんだもん。」

 

「砂鮫のお腹から蝋燭作っているみたいだけど、あの臭いってきついよねー・・・ぼくはこっちの方が好き!」

 

「あたしは別に平気だけど、光り方というか、このぼんやり具合が蝋燭よりも好きかな?」

 

迷宮核によって多数設置されている光源の水晶だが、村人たちはこれらの採掘を禁じており、開拓初期に極少量試料として回収されたもの以外は、そのままの状態である。

ちなみに、光る水晶は岩山オアシスの外部に出ると急に光が弱くなり、最終的に消えてしまうのでキャラバン隊の光源には使えないと判断された。

 

本当は、魔力を供給すれば発光する仕組みなのだが、迷宮核に信仰心を持つ村人は、砂漠の神の加護が消えてしまうからだと解釈してしまい、携帯可能な光源としての利用は試みられなくなってしまった。

 

「ここは昼でも涼しいから快適だよねー!」

 

「うまくいけばお魚さんも捕まえられるしねー!」

 

「えぇ?あんなすばしっこいの無理だよー?」

 

水汲みをしている大人が一応監視しているが、基本的に子供たちは自由に遊ばせているので、よっぽど危険な事をしない限り大人が干渉する事は無い。

夜遅くに水遊びする様な子供には流石に怒るが・・・。

 

(ふぅ・・・水脈の調整はこんなもので良いかな?さてと、この時間帯は子供たちが走り回っているな・・・。)

 

(ふふふ・・・かつてこのオアシスに来た子供たちは、今はもうこの子たちの親か、時が流れるの早いものだ。)

 

(時々危ない遊びをしている子供が居るが、そういう時に声をかけることが出来れば・・・ふむ、やはり何かしら砂漠の民との意思疎通手段を考えるべきか?)

 

迷宮核がそう考えているのを知らずに、子供たちは岩山の地底湖周辺を遊び場に同年代の遊び仲間と走り回っている。

 

「あ!これ、おもしろい!」

 

「ピカピカ触ったらお父さんとか村のおじさんとかに怒られちゃうよ?」

 

「みてみて!石で叩いてみると変な音がする!」

 

「あ!本当だ!あはは面白~い!叩く場所かえると音が違うー!!」

 

光る水晶を手ごろな大きさの石で叩いて音を楽しむ子供たち、意外と丈夫な水晶は子供程度の腕力で割れる事は無く、軽快な音を発している。

 

(あぁ、懐かしいな、コップに水を入れて音階を楽しむ遊びは生前も子供たちの定番の遊び道具であったな・・・水晶でそれを再現しているのか・・・。)

 

(ふむ、音を反響しやすい材質の鉱物でも使って楽器が作れそうだな・・・うん?まてよ?)

 

村の様子と、従属核の状況をせわしなく確認しながら並行作業を進める迷宮核は、分けた思考リソースを僅かばかりに子供たちに向け、水晶を叩いて遊ぶ子供たちに何か引っかかるものを感じていた。

 

「キンキン音がして面白いね!」

 

「こするとまた変な音がするよ!あははは!」

 

(・・・・・・!!!)

 

子供たちが凸凹した石で水晶を擦り、細かく振動して独特の音を発したところで迷宮核の脳裏(?)に稲妻が迸った。

 

(振動・・・・そうか、スピーカーだ!)

 

(確か、音が振動する物ならば紙コップでもスピーカーが作れた筈、特に水晶は良く振動する性質を持つ物体だったな、もしかしたら地形操作能力を応用すれば・・・。)

 

・・・・ーーーーーーーこぉん・・・・。

 

「ふぇ?今の音は何?」

 

「はれ?あんな形の水晶なんて生えていっけ?」

 

いつの間にか、地底湖の端っこに板状の光る水晶が生えており、まるで人為的に削られ成形された様な奇妙な形状をしており、明らかに浮いた存在感を放っていた。

 

「行ってみよう。」

 

「え?うそ・・・あたしこわいよ!」

 

「なんだい、どきょー無いなぁ。」

 

「あの、うしろついていっていい?」

 

「こわいんじゃ無かったの?べつにいいけどさ」

 

「だってきになるもん。」

 

 

未知の物体に対する好奇心と恐怖心、今は大人たちは魚を取りに潜っていたり、水を汲んでいるので注意がそれている。今なら大人たちに止められることも無く、未知の物体に近づくことが出来るまたとない機会、好奇心旺盛な子供たちに止まる理由は無かった。

 

「ふぇぇ・・・綺麗、いつのも水晶とは違うみたい。」

 

「なんだろうね?コレ?」

 

『こ・・・おん・・・キーン・・・。』

 

「やっぱり変な音でた!」

 

『ヤア・・コドモタチヨ・・・ゲンキカイ?』

 

「っっっ!?」

 

「ひっ!!」

 

明らかに人間の声ではない、奇妙な音、自然に囲まれて暮らしている人間には一生耳にしないであろう合成音。もし、ここに地球人が居たならばロボットの声と表現したであろう。

 

『ソロソロ・・・クラ・ク・・ナル・ヨー?キヲツ・ケテ・カエルン・ダヨー?』

 

「ぴぎゃあああああああああ!!!」

 

「喋ったああああああああ!!!」

 

「キェアアアアア!!!」

 

光る水晶の板の放つ声ともとれる奇妙な音に、合成音に耐性のない子供たちは未知の体験すぎて恐怖心に駆られ大泣きしながら、洞窟の外へと逃げて行く。

 

(あらら・・怖がらせてしまったか、まだ調節が上手くできないな・・・だが、これでやっと砂漠の民とも意思の疎通ができる!!)

 

子供たちが悲鳴を上げながら洞窟から出てくる様子を見た大人たちが慌てて子供たちを追いかけたり、武器を構えた村の守り手が洞窟に突入したりと、大騒ぎになってしまったが、程なくして新たに設置された水晶板が発見され、魔術師を含めた調査隊が派遣されることになった。

 

「これは一体なんだ?光る水晶と同じ材質で作られているみたいだが、こんなものは生まれて初めて見る。」

 

「餓鬼どもが何か叫んでいたが、こいつが何かしたんだろうか?」

 

「ふむ?魔力の流れで明滅する以外、これと言って変わった部分はない水晶の板みたいね?」

 

派遣された調査隊が、水晶板を拳の裏で軽くたたいたり、撫でたりしながら検分するが、魔術的な仕掛けがされている訳でも無い、奇妙な水晶の板に首をかしげていた。

 

『ヨ・・・。』

 

「ん?なんだ?」

 

『砂漠ノ・・・民ヨ・・・。』

 

「な!?しゃ・・・喋っ・・。」

 

『我ラハ・・・コノ地デ、果テタモノノ魂ナリ』

 

「この声は・・・岩山の主様・・・いや、砂漠の神の声なのか!?」

 

『干バツノ、脅威ガ迫ル時モ、我ラハ共ニアル・・・忘レルコ・・ナカ・・レ・・・。』

 

途中で音が聞き取れなくなり、水晶板は罅が入り砕け散ってしまった。

調査隊の面々は、特に魔力の感受性の高い魔術師の女性は、感動のあまり唇を震えさせていた。

 

「偉大なる存在は確かに実在した!加護と共にあれ!!」

 

「魂がどうとか・・・そして我らとは?」

 

「神であれ、大地の礎となった英霊たちであれ、我らは大いなる存在に守られているのだ。これ程の栄光は他にない!」

 

「どう見ても何の仕掛けもない光る水晶の板だったのに・・・どのようにして音が・・・やはり神の奇跡だったのでは・・・。」

 

調査隊は例外的に、砕け散った水晶板を回収し、開拓初期よりも整った設備の魔術研究所で水晶板を調査した結果、魔力を込めると光る性質があるのを突き止めた、しかし、音が鳴る仕組みは解明することが出来ず、ますますもって偉大なる存在・・・砂漠の神の力が如何に特別か思い知る事となった。

 

(加減を誤って会話の最中に水晶板を破損させてしまった・・・破片が刺さらなかったのは不幸中の幸いであったが、上手くいかないものだな・・・。)

 

(だが、手ごたえは感じていた。これをもっとうまく扱えるようになれば、声は勿論の事、町内放送みたいなモノだって実現できるのでは・・・・?)

 

音響機器たるスピーカーの改良が出来ないかコアルームで試作品を作っては解体してを繰り返す迷宮核、彼を構成する魂の中で生憎機械に詳しい人間はおらず、齧った程度の素人知識で試行回数を増やして、実験するしかなかった。

 

そんな時に、先日悲鳴を上げて水晶板から逃げ出した子供たちが水晶板のあった場所に訪れており、砕け散った水晶板に頭を下げていた。

 

「逃げたりしてすみませんでした!」

 

「っ・・・でした!!」

 

「これからも、ぼくたち、わたしたちを見守っててください!」

 

「ください!!」

 

子供たちは、おずおずと腰の金具に引っかけてあったパピルス紙を取り出すと、中身を見せて、それを割れた水晶板の前において、そそくさと立ち去ってしまった。

 

(貴重なパピルス紙に謝罪文がびっしりか・・・子供はそんなの気にしなくて良いのに・・・?あれ?)

 

(パピルス・・・紙?・・・紙?執筆?・・・あ・・ああああ・・・!!)

 

迷宮核の脳裏に再び稲妻が迸る!

 

(最初から・・・最初から地形操作能力で文字を刻めばよかった・・・・。)

 

如何にして、こちらの声を砂漠の民に伝えるか考えていた迷宮核は、思考の袋小路に入り込んでしまい、彼らの頭脳から筆談と言う意思伝達手段をうっかり忘れさせていた様だった。

 

(ま・・・まぁ?筆談だと、こちらが文字を見せようと試みても、必ずしも読んでくれるわけでもないし、お陰で声を使っての直接的なコミュニケーションの実験を開始するきっかけも出来たし、悪い事ばかりじゃないんじゃないかなぁ?)

 

(・・・・かなぁ・・。)

 

迷宮核は何だか急に年を取った気分となり、微妙にブルーな気持ちとなるのであった・・・。



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死の海からの迷子

『・・・・・キュオオオオン・・・ジジジ・・・。』

 

『キィィィィン・・・ガリガリ・・・バリバリ・・・ジジジ』

 

岩山オアシス付近で度々目撃される岩石に足や車輪がついた様な物体が、奇妙な音を発している。

砂漠の民は今まで、見た砂漠の神の使者と思われる物体がこんな奇妙な音を発してはいなかったので、ますます畏怖の念を覚えるのであった。

 

「今まで新種の魔物だと思っていたモノ が、まさか岩山の主様の使者だったなんて・・・。」

 

「あぁ、あの神々しい紋章と大地を再生させる神通力、間違いない。」

 

「しかし、今まで言葉を発したことは一度もなかったと言うのに、我々には聞き取れない神の言葉を発するとは、きっと何かが起きたに違いない。」

 

「いや、洞窟の地底湖でちゃんと聞き取れる声で話したという事も聞くが・・・もしや、聞き取れる者と聞き取れない者が居るとか?」

 

「つまり、最初に神の声を聴いた子供たちや調査隊の者たちは特別な資質があるというのか?」

 

砂漠の民の守り手が歩哨に立ち村周辺を警備しているが、それなりに離れた位置に居ても砂漠の神の使者が発する音が聞こえてくる。奇妙な威圧感を感じつつも、砂漠の神に守られているという心強さから、守り手たちは気を引き締めて任務を続けた。

 

 

(うーん、スピーカーの原理は聞きかじった事はあるが、作れともなるとここまで難しい物とは・・・遠征部隊に搭載してみたが、操作し辛い外部環境ではまともな運用は出来そうもないな・・・かなりアナログな操作だし・・・。)

 

『キィィィィン・・・ジジジ・・・パリン!!』

 

(材質から見直した方が良いのか・・・うーむ、パピルス紙とかは使えないだろうか?いや、勝手に村の物を使っては失礼だし、常に物資が不足しているのだ、やはり私の力で何とかするしかないか・・・。)

 

(うん?あれは・・・砂鮫か?村周辺に接近するとは珍しい、何かを追いかけているのか?)

 

従属核を経由して砂鮫を確認すると、砂鮫の進行方向に人影が見えた。

明らかに焦っている様子で、岩山オアシスの村へ全力疾走している様だ。

 

(いかん、村人が襲われているではないか!・・・しかし、此処からでは手が出せない上に近隣に中継用の分身は設置していない、地形操作での救助は不可能・・・どうすれば!!)

 

村の守り手が、異変に気付き弓を構えるが、砂鮫は今にも村人に追いつき食らいつこうとしていた。

 

(!!そうだ、風の魔石と水晶スピーカーを組み合わせればもしくは・・・・頼むから効いてくれよ・・・。)

 

4つ足フレームの従属核は、上部から水晶板を生成し、従属核の内包魔力を絞り出してビー玉サイズの風の魔石を水晶板の手前に生成すると、水晶板が振動し、最大出力で音を発した。

 

『キィィィィン!!!!』

 

水晶板が耐え切れずに破裂すると同時に、小型の風の魔石を砕き魔力暴走を引き起こし、従属核の魔力制御能力で暴走魔力を一定方向に流し、音響ビームを砂鮫に照射する。

 

キシャーーーーーー!!?

 

「うわぁ!?な・・・何だぁ!?」

 

捕食しようと口を開いた一瞬の無防備な体勢の真横から鼓膜を破壊せんばかりの強烈な音を叩きつけられ、砂から飛び出して、平衡感覚を失ったように転げまわる砂鮫。

 

村人は音響ビームの範囲外にいたために、何が起きたか分からず、殆ど頭の中を真っ白にしながら砂鮫から逃げ続ける。

 

「食らえ!・・・よし、今だ!逃げろ!!」

 

守り手たちが、サソリの尻尾から抽出した毒の毒矢を砂鮫の急所である柔らかい腹部や眼球に撃ちこみ、逃げる村人を援護する。

 

砂鮫は苦しそうにもがくが、次第に動きが鈍くなってきて、体を痙攣させる。

最後には、増援の守り手たちが大槍を集団で砂鮫の弱点部分に突き刺し止めを刺した。

 

(見事な連携だな、しかし何で砂鮫がこんな所まで?見たことも無いサイズだ・・・。)

 

大物の砂鮫の死体に集まる岩山オアシスの村人たち、村の有力者たちが深刻そうな顔で縄で引きずられる砂鮫の死体を横目に何かを話している。

 

「父さん、この砂鮫って・・・。」

 

「あぁ、死の海で確認されている大砂鮫だ。幾ら交易路から外れた砂漠の端だからと言って、砂の粒子の荒い場所まで現れるとは・・・。」

 

「見たことも無い大きさだね、お母さん、あの砂鮫って特別大きな種類なの?」

 

「ラナよりも私の方が詳しいぞアイラ?死の海と呼ばれる、やたらと細かい砂粒の領域があってな、少しの重さの物でも砂に飲み込まれてしまうため、サボテンなどの植物が根付きにくい場所で、殆どの生物は近寄らない場所なのだが、砂が細かいが故に大型の魔物が身を隠しやすいので、巨大な魔獣の楽園となっているのだ。」

 

「おじいちゃん物知り!・・・あれ?ってことはあの砂鮫ってそこから来た魔物なの?」

 

「あぁ、しかも死の海の生物の中でも比較的小型の部類だ、通常はもっと大きな奴に食われるのだが、きっとそいつから逃れるために泳ぎにくいこの場所まで住処を追われたのだろうな。」

 

「アイラ、岩山で遊ぶのは良いけど、絶対に砂地に出ちゃだめよ?もしあなた達に何かあったらお母さんは・・・。」

 

「あー・・・うん、そこは大丈夫だよ、わたしお姉ちゃんだし、むしろラーレとジダンを窘める側だから。」

 

「うふふ、私の可愛い子供たち、みんな私の宝物よ。」

 

「きゃっ!?も・・もう!お母さんたらっ!」

 

アイラを抱き上げ村の門に向かうラナ、アイラはラナの胸元でもがくが途中で抵抗を諦め、ぼーっと運ばれてくる砂鮫を眺めるのであった。

 

(死の海の魔物・・・か、確かにその単語は何度も村の中で耳にしたし、大体の位置は把握しているが、分身体の損失を避けるために探索はしていなかった・・・こうなると、大型種の砂鮫が迷い込んだ原因を調査しなければならなくなったな・・・。どうしたものか)

 

迷宮核は、オアシスの水脈調整の作業の傍ら、新たに発生した問題に頭を悩ませつつ複数に分けた思考のリソースを死の海の領域の探索用フレームの開発に当てるのであった。

 

「・・・それでさ、命からがらあの化け物から逃げ切った訳だが、砂鮫が苦しみ始めなかったら今頃食われていただろうな、思い出すだけでも体が震えるよ。」

 

「守り手たちが言うには、砂漠の神の使者様が鋭い緑色の光を放ったら、砂鮫が横から殴られたように吹っ飛んで、苦しみ始めそうだぞ?」

 

「え?じゃぁ、使者様は俺を救ってくれたというのか?」

 

「一瞬の出来事だから、あんまりはっきりしていないんだが、恐らく何か魔法を使ったのだろう、それもあの巨体の砂鮫が自由を奪われるくらいに強烈な・・・。」

 

「おお・・・まさに、砂漠の神様のご加護だ・・・そう言えば、最近使者様を村周辺でよく見かけるようになったが、これを見越していたのでは・・・・。」

 

「きっとそうだろう、そう言えば何か奇妙な音を発していたそうだが、神の言葉で使者様同士で連絡を取り合っていたのかもしれんな。」

 

「はぁ、神の声を正確に理解できたのは村長の所の末っ子ジダンと取り巻きの悪ガキども、後は魔術師達くらいか・・・全く羨ましい限りだよ。」

 

命からがら砂鮫から逃げた男・・・行商キャラバンの連絡員は、雑談仲間と輸入品の果実酒を飲みながら談笑を続けるのであった。

 

(はぁ、何だか最近私がますます神様扱いされるようになってしまっているな・・・正直うんざりしているが、ここで下手な事をすれば砂漠の民がまとまらなくなってしまう。頃合いが来るまで裏方に徹するべきだろうか・・・。)

 

(ふむ、交易は砂漠の希少品との交換で順調に販路を開拓している様だな、上手く軌道に乗れば岩山オアシスも大きく発展するだろう。)

 

(死の海調査用のフレームの構想も進んだし、風の魔石を利用したホバー推進のテストを少し離れたところで行ってみるか、機会があるか分からないが水上での運用も考慮して水魔石で小さな泉を作って実験してみても良いかもしれないな。)

 

(現時点では分身体の損失は1体も無いが、まだフレームの運用技術が未熟な時に足を砂鮫に破壊されて立ち往生した時は、流石に焦ったな・・・魔力切れで動けないから僅かな魔力で岩壁を作って身を守るしかできなかったが、回収用の分身体で砂鮫を追い払っていなかったら分身体を砕かれていたかもしれん。自衛用の機構と予備の魔力は必要だな)

 

迷宮核は、遠征用従属核に自衛用にあえて脆くした光の魔石を多数搭載するようにしている。フレームの形状は地形に合わせて様々だが、従属核本体を守る外殻の上部の穴から射出され、地面に落下するとともに光の魔石が砕け散るようにしてある。

強烈な閃光を放ち、視覚があまり発達していない砂鮫や巨大サソリすらも暫く気絶させることが出来るので、砂漠の生物の命を奪う事なく無力化する自衛装置として重宝しているのだ。

 

そして、今回新たに音響ビームが自衛装置として加わり、従属核は歩くスタングレネードと化する事になった。

 

(死の海は、あの巨大な砂鮫すらも餌とする怪物が生息する危険地帯・・・分身体を調査に向かわせるにせよ、子供だまし程度の自衛手段じゃ無意味かもしれない。)

 

(この世界は弱肉強食・・・それは食う場所のないであろう私の身ですらも例外ではない、生物の命を奪う覚悟、死の海では今まで以上に分身体の損失を覚悟して万全の態勢で挑むべきだろう。)

 

コアルーム内に小さなラジコンの様な物体が風を下部に噴射しながら、地面を滑っている。それ以外にも、小さな蜘蛛、車輪、ボール、ソリ、魚など様々な形状の物体がそれぞれの動作をしながら地面を這っていた。

 

(・・・・しかし、実験のためとはいえミニチュアフレームは子供のおもちゃみたいだな・・・傍から見ても子供部屋状態だ・・・終わったら解体してしまおうか・・・。)

 

迷宮核は、従属核に機動力を持たせるため様々なフレームを試作しているが、それら試作品が岩山オアシスの外で大型化され、稼働実験が行われるまで通るものは少なく、さらにその中から採用されるものは更に少ない。

 

今でこそ、従属核のパッケージ化が進んでいるが、それは無数の候補の中から勝ち抜き採用されたものであり、魔石の力でごり押しする仕様の武装従属核も候補上位に残っていた。迷宮核の温厚な気質に合っていない事と、ランニングコストが高すぎるので配備を見送ったが、死の海調査に限ってはそんな事を言っている余裕ものないのだ。

 

(まぁ、最悪フレームを破棄して上空に打ち上げた後、空から帰還させる方法もあるか、全く魔力消費に優しくないなぁ・・・。)

 

 

迷宮核は、厳しい砂漠を生き抜くために日夜研究を続けるのであった・・・・。

 

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武装従属核フレーム

 

まるで戦車を思わせる強靭な外殻と、砂鮫の息の根を止める事が可能な武装を搭載している従属核の重武装フレーム。

油圧アームで突き刺す単純な攻撃法から、粒状の火の魔石の力を開放し発生した爆圧を直接目標に当てたり、破片を浴びせたりする殺傷力の高い攻撃法もある。

従属核のフレーム全般に言える事だが、水力タービンを動力としているので全くノイズが無い訳でも無いが、地球の化石燃料動力の自動車に比べると稼働音は低い。



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魔石加工術

(今日も給水キャラバンが他のオアシス村へ出発か・・・。)

 

ラクダの背中に荷物を載せて手を振る男達、そして青く透き通った石を麻袋へしまい込み、砂漠の奥へ消えて行く。

 

(そう言えば、水の魔石を砕いて小分けにして運搬している様だが、どのようにして爆散させないように砕いているのだろうか?)

 

迷宮核は小さな水の魔石を生成すると、地形操作能力でプレスし砕いてみるが、水が迸りコアルームの床がびしょ濡れになってしまう。

 

(普通に砕けばこのように水を噴き出して残りは魔力として霧散してしまうのだが、まるで普通のガラスの様に砕いて小分けにしている仕組みが理解できないな。)

 

(そう言えば、水の魔石は発見され次第、一度魔術師の研究所へと一まとめに送られるんだったな、今一何をやっているのか分からないが、もしかしたら何かしらの処置をしているのかもしれない。)

 

迷宮核は視覚移動をして、魔術師の研究所の内部を覗き見てみると、黒いローブの魔術師達が、回収された魔石の山に何やら手を加えている様だった。

 

「ふぅ・・・地底湖での農業や漁は、外の巨大湖で行われるようになって前よりも地底湖で食料調達する者は減ったから、素潜りで魔石を調達してくれる人も減って暇を持て余すよ。」

 

「岩山の主様が自ら砂漠の干ばつに立ち向かってくれているお陰で、水の魔石もさほど使わなくて良くなったから別にいいんじゃないか?」

 

「そうは言っても、備えと言うものは必要だろう?水の需要は大干ばつの影響で何処も高騰中だ。」

 

「まぁ、我々が仕事をたたんでしまったら長距離運搬に向かない未処理の魔石をキャラバン隊に持たせる羽目になるからな・・・。」

 

「不活性化処理をしていない魔石なんて持たせたら、運搬中にドカンだ、水の魔石だからまだ良いものの、これが火の魔石だったりしたら目も当てられない。」

 

「火の魔石かぁ・・・そう言えば村長が特注品の加熱調理器具を持っていたなぁ、確か此処を見つけたときに、巨大サソリの幼体を調理したって話を聞いたことがあるが、火の魔石は此処では見つかっていないんだったな。」

 

「まぁ、火山の山頂付近で見つかる魔石がこんなところにある訳ないだろうな、水の魔石が此処にあるのも冷静に考えればおかしいが、岩山の主様のおわす神聖な土地だ、我らに一番必要としているものが水とお考えの様なので水の魔石が生まれるのだろう。」

 

「その気になればどんな魔石も生み出せたりして・・・なんてそう旨い話は無いか、何にせよどんな事も神頼みと言うのはどうにも格好がつかない、岩山の主様のお手を煩わせることが無いように頑張らないとな・・・。」

 

「最も、肝心の魔石が無ければやる事と言えば、薬草弄りくらいしかないのだが・・・。」

 

迷宮核は、普段無口で黙々と作業している魔術師が珍しく雑談しているところを耳にして、魔石が不活性化処理をされている事を知った。

 

(なるほど、不活性化処理か、そうすれば安全に魔石を砕けるのかな?まぁ、いきなり火の魔石みたいな危険物で実験するのは危ないから、比較的無害な光の魔石でやってみるか・・・。)

 

魔力を込め、光の魔石を生み出すと、硬い音を立てて光の魔石が地面に転がる。

 

(不活性化処理・・・ふむ、魔術師の人の作業の際に生じる魔力の流れを真似してみると、確かに魔石の内部に揺れる炎と言うかエネルギーの流れが感じられるな・・・。)

 

(これを少しずつ緩やかにして、安定化させるといいのか?・・・あ、光の魔石の光量が治まって内部が透き通って見えるようになった・・・へぇ、少し白っぽい見た目なんだな、これが安定化か・・・。)

 

迷宮核は、先ほどと同じく地形操作プレスで不活性化処理をした光の魔石を砕いてみると、閃光を放つ事も無くガラスの様に砕けた。

 

(ほほう、これは興味深い、あまりにも細かく砕けた魔石の粉末はそのまま揮発して魔力になってしまうのか、逆にこの砕けた破片を活性化させるとどうなるのかな?)

 

砕けた光の魔石の小さなかけらを操作して、内包魔力を再活性化させてみると、発光ダイオードの様な光を放ちながら徐々に昇華して行く光の魔石、最終的にカメラフラッシュ程度の閃光を放つとそのまま魔力に分解されて消えてしまった。

 

(ふむ、変わった性質があるものだな、だがこれを上手く利用すれば様々な魔石の加工品が作れそうだ。)

 

(まぁ、私が彼らに口出しするわけにも行かないし、素材だけでも用意しておこうかな・・・。)

 

迷宮核が覚えた不活性化処理技術は、魔石合成の為の魔力変換効率を引き上げ、エネルギーロスを大幅に抑える事に繋がり、迷宮核は今までよりもより多くの魔力を魔石に変換できるようになった。

 

今まで取り扱いが危険すぎて、サイズ調整に難儀していた火の魔石の合成にも恩恵を齎したので、定期的に打ち上げられる従属核砲弾の炸薬として扱われる火の魔石の燃焼法を改良する事にも繋がり、パッケージ化従属核の飛距離は更に高まる事になった。

 

(魔力制御技術を向上させることによって、魔石を生成する時に水が垂れたり、火花が散ったりする現象は殆ど無くなった、厳密に言えば起きている事は起きているのだが人間が知覚できない程度まで抑えられている。)

 

(これだけ効率的に魔石が合成できるのだから、魔石の鉱脈くらいは用意しておいても良いだろう。)

 

(・・・しかし、火口付近でしか採掘できない火の魔石か・・・まさかラナのガスコンロもどきがそれほど貴重品だったとは、キャラバン隊の長と言うものは本当に大した立場なんだろうな。)

 

迷宮核は、従属核のフレームの実験やオアシスを生成した従属核の調整を行いながら、少しずつため込んだ魔力を魔石に合成して、不活性化処理を行い洞窟の壁の中に埋め込み続けていた。

 

ある日、地底湖の肺魚を捕りに来た主婦が、岩山の洞窟に訪れると、突如地鳴りと共に地底湖の壁の一角が崩れ落ち、内部から色とりどりの魔石が露出し、悲鳴じみた声を上げながら村へ伝えに行き、岩山オアシスの村は大騒ぎになった。

 

確かに、そこには色とりどりの魔石が埋まっており、大小さまざまなサイズの魔石が床に散らばり魔力が暴発している様子もなかった。

天然魔石が安定して存在している事は極めて珍しく、水の魔石と火の魔石、そして風の魔石が同じ地層に埋まっている事も含めて、魔石の知識を持つ魔術師を大きく悩ませる事となった。

 

「ありえない、ありえない、全く理解できない。」

 

「水・火・風・地・・・他にも見たことも無い魔石が複数、どのような魔力の流れがあればこんな結晶の仕方をするのだ!?」

 

「何れも極限環境が魔力流を変性させて結晶化する魔石群が複数同じ場所に埋もれているのが明らかにおかしい、岩山の主様の奇跡の一言で片づけるのは楽であろうが、それは思考の放棄に他ならない・・・考えろ・・考えろ・・・仮説を出せ・・。」

 

「掘り出したころには既に不活性化して安定状態だったと言うのも腑に落ちない・・・朗報なのには変わらないが、我らはこの魔石を使って何をなせと・・・?」

 

「あ・・・頭から煙が出そうだ・・・ちょっと服を脱いで頭と体を冷やそう・・・。」

 

「ちょ・・おま、男がいる場所で下着姿になるのは・・・このバカ女をつまみ出せ!」

 

暇な状況から一気に脳をフル稼働させる状態に陥ったため、知恵熱を発症し奇行に走る魔術師も出始め、一時的に魔術師の研究所は機能不全に陥ったが、暫くして吹っ切れたのか黙々と魔石の加工と魔道具の製造を行うようになり、砂漠のオアシスの生活は更に快適になるのであった。

 

(パッケージ化した分身体の消費魔力が大幅に節約できるようになったぞ!ふふふ、自走状態の分身体の燃費を上げて行動範囲が一気に広がった。)

 

(微妙に魔力不足で遠征できなかったが、大河の国とやらに行けるようになれば、人口の多さは砂漠の比では無い筈・・・まだ繋がりは無いから一人当たりの魔力供給量は岩山開拓初期と同じくらいだろうけど、そこは人口の多さでカバーできそうだ。)

 

(あちらの方も水不足で困っているみたいだし、何かしら協力できればな・・・まぁ、向こうで補充した魔力で死の海の調査用フレームを稼働させる足しにさせてもらう事もあるかもしれないけど・・・。)

 

(砂漠の向こう、人々が住みやすい生命に満ち溢れた土地は一体どんなところだろうか?どんな人々が住んでいるのだろう?)

 

(我々の一部になった砂漠の民の魂の記憶でも、取引を終わらせて長居せずに帰ってしまった記憶しか残されていないから、まだその全貌はつかめていないけれど、難民を奴隷として扱う国も存在するみたいだから、油断してはいけないか。)

 

(まぁ、砂漠の民にはどの道、外の国から工具類を調達しないと開拓なんてやってられないから砂漠の外の国々との交流を持たないといけないか。)

 

(さて、交易ルートの水脈調整を開始するか・・分身体同士の水脈をつなげたからか、交易ルートに沿って草が生え始めたな、旅の目印には丁度良いのかもしれない。)

 

迷宮核は、岩山オアシスの村の生活が安定し、砂漠の民の表情がどことなく明るくなったことを喜びつつも、砂漠の外の国々や悪化し続ける干ばつの影響にどこか不安を覚えていた。

しかし、確証がある訳でも無く、それは小さな違和感として迷宮核の思考にまとわりつくのであった。

 

「砂漠の交易ルートが再びつながったか、何処に避難していたかは知らないが、存外砂漠の民もしぶといものだ・・・。」

 

「大干ばつの影響で大河の水量が大幅に減っております。もう既にいくつかの畑が水不足でやられてしまっております。」

 

「次の大雨が来るまでに溜め池をなるべく多く作るのだ、くそ忌々しい・・・。」

 

「水の魔石でも手に入れば良いのだが、渦巻き沼は山脈を超えた先にある場所・・・常に霧や雨に晒される土地の魔力溜まりに生成される水の魔石なんて安定供給は出来ないし、当てにはできないだろう。」

 

「まぁ、こんな状況でも砂漠の民よりはマシな状況なのだ、今すぐ滅ぶという程でも無いが、何の対策も打たないままという訳にも行くまい。」

 

「あくまで保険だが、渦巻き沼に隣接した亜人共の国の市場に水の魔石が出ていないか見るため、交易隊を派遣しておけ、連中にとって水は空気のように当たり前に存在するもので、水の魔石は殆ど必要としていないが、連中はその価値を正確に理解している。吹っ掛けられるのを覚悟で金を持たせておけ。」

 

「強欲トカゲ共に金が渡るのは頭に来るが致し方あるまい・・・砂漠の交易ルートが復活してくれて本当に良かったよ。」

 

 

大干ばつの影響で大河の国々はそれぞれ、自分たちの国を守るために動き始める。

大河と呼ばれた川は次第に細くなりつつあるが、それでも沢山の生命を育んでいた。

大河の国々と呼ばれる国の中で大砂漠に面した国は、砂漠化の最前線に立っているので、余裕をなくしつつあるが、現状を打開しようと水を求めて水の魔石が生まれる土地へと交易キャラバン隊を派遣するのであった。



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