霊晶石物語 (蟹アンテナ)
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誕生

膨大な魔力が渦巻き圧縮された魔力が結晶化し、無数の魔石の結晶が形成されている洞窟。

魔力だけでなく生命エネルギーや世界を構築する元素[エレメント]なども高密度で洞窟内を循環している。

 

永い時を経て形成された洞窟中心部に鎮座する魔石の柱に小さな霊魂が魔力の渦に紛れて入り込むと、洞窟に異変が起こった。

 

魔石の柱は眩く光り輝き、砕け散ると、その破片が渦を巻き中心部へと集まって行く。

やがて、その中心部に青白く光り輝く六角形の結晶体が形成され、霊体・魔素・エレメントを吸収してその結晶体は見る見るうちに肥大化する。

 

光が収縮すると同時に洞窟内部が脈動し、天然洞窟がまるで人工物のような姿に形を変えて行く

 

この世界の人類が迷宮核[ダンジョンコア]と呼ぶ存在の誕生の瞬間であった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

(此処は一体何処だろうか?いや、私はそもそも一体何者だろうか?分からない、思い出せない・・・。)

 

洞窟中心部の光る石は思案する、自分は一体何者なのか、そもそもこの体は生物のものでは無い、暑くもない、寒くもない、何も見えない暗闇の中、宙に浮いたような感覚に戸惑う。

 

(この体は・・・いや、生物ですらない、石・・・なのか?)

 

曇りガラスに映る風景のように、過去の自分の記憶が酷く曖昧で、しかし、確実に存在した記憶の残滓をかき集める様に石は思い出そうとする。

 

(そうだ、私は確か難病を患い、家族に見守られる中死んでしまった筈・・・つまりここがあの世・・・なのだろうか?)

 

それにしては・・・である。

石であるが故に温度を感じず、視覚を持たず、人間が必要とする感覚器官が存在しないこの体は、嫌がらせのように周囲のあらゆる物を感知していた。

 

(一体なんだこの感覚は、何も見えないのに、まるで自分の周りに神経が伸びている様だ、触覚も熱も感じない筈なのに何かを感じる。)

 

石は言い知れぬ気持ち悪さを感じ、視覚を取り戻したいと強く願った。

 

(っっ!!?)

 

石の周囲に一本の魔石の小さな柱が地面を突き破って伸びてくる・・・・柱は、淡く光り輝き、石に視覚を与えた。

 

(眩しい・・・何だこれは?・・これは、やはり此処は洞窟だったか、一体何が何やら・・・。)

 

石は洞窟内部に限り監視カメラのように見渡すことが出来るようになった。

 

(目が見えるようになった・・・・いや、まてよ?もしかして・・・?)

 

石は、体の感触を熱を感じたいと強く願った。

すると、再び洞窟の地面を突き破って新たな魔石の柱が伸びてくる。

 

(っ・・・肌寒いところだったのか・・・いや、やはりこれで・・・。)

 

石の周りに次々と色とりどりの魔石柱が伸びて行き、まるで神殿のように神々しい雰囲気に包まれる。

人間としての五感を石は取り戻したのだ。

 

(此処は一体何処だ?私は一体・・・いや、元人間だった何かだ。記憶が混濁していて訳が分からない)

 

神経細胞すら持たない石の体で思考を巡らせ、新たな体の感覚を確かめる様に神経の様な物を地形に溶け込ませてゆく。

彼自身は、混乱の極みであったが気が付けば覚醒から日にちが経ち、この数日間の内にある程度自分自身の体の機能について把握し始めていた。

 

彼の意思で洞窟の形状をある程度自由に変えられる事、洞窟の形状を変える事によって何かの力を消費する事、そして・・・。

 

(この感覚は?何かが流れ込んで・・・誰か来る?)

 

自分の支配する領域に踏み込んだ生物から、洞窟の形状を変えた時に消費した[何かの力]を補充することが出来る事に気付いたのだ。

 

「こんな所に洞窟があったんだ、湧水でも涌いていれば良いんだけど・・。」

 

ローブを身に着けた二人の人物が、自分の支配する領域の入り口から少し歩いた場所に立っている。

 

「外は酷い砂嵐だ、暫くここで休もう。」

 

「随分と深そうな場所だけど、野獣の巣穴じゃないだろうね?」

 

「出て来たらその時はその時さ、外に出て方向感覚を失って遭難するよりはマシだろう。」

 

どうやら、悪天候によりこの洞窟に避難してきたらしい、その表情を見れば疲労が蓄積していて今にも倒れそうである。

石は、湧水を求める彼らの元に地下水でも都合よく出れば良いのにと思うと、洞窟側面にヒビが割れ、清浄な湧水が流れ始めた。

 

「はぁっ?な・・何だぁ?」

 

「み・・水が飛び出してきた!?」

 

他ならぬ石本人?が一番驚いた。感覚が、神経が自分の支配する領域に伸びているからこそ、あの付近に地下水の類が存在しない事を知っている。

しかし岩の内部が突如くり抜かれ、何もない空間から突如水が出現し、それなりの強度がある筈の岩盤を叩き割り勢いよく吹き出したのだ。

 

最初こそ勢いがあったものの、湧水はチョロチョロと流れが穏やかになり、現在も水が流れ続けている。

 

「っっ!革袋を出せ!今のうちに補充しろ!」

 

「ひゃ・・ひゃぃぃぃ!!」

 

湧水が尽きてしまうと焦ったのだろうか、ローブがめくれるほどの勢いで革袋を取り出し、水を満たして行く。

最初よりも勢いは落ちたものの、湧水が尽きない事に安堵し、二人分の革袋に注ぎ込めるだけ注ぎ込んで、背嚢の中から片手鍋のような調理器具を取り出すと、それにも水を入れ始めた。

 

「こんな丁度良く湧水が湧くもんかね?何にしても運が良いわね。」

 

「咄嗟に補充してみたは良いものの、これは飲めるのか?」

 

「変な臭いもしないし、これだけ透明なら悪いもんじゃないでしょ?最悪腹を下す程度さね!」

 

「楽観し過ぎだろう・・・まぁ、今なら泥水でも腹いっぱい飲めそうだがな。」

 

石は彼らの会話から、この周辺地域の人々にとって水が貴重品だという事を何となく理解した。

安心しきった表情で、地面に赤い宝玉が収められた台座の様な物を敷き、その上に先ほど水を溜めた調理器具を乗せる。

 

「こりゃ久しぶりにスープが飲めそうだな。」

 

「乾燥スープの素があって助かったよ。」

 

石は、何を始めるのが不思議そうに様子を見ていると、フードが脱げ赤銅色の髪が露わになった少女が何かを呪文のようなものを呟き、台座から火が灯る。

 

(っ!?これは一体?ガスコンロか?いや、まて、ガス・・?ガスコン・・ロとは一体何だ?うっ記憶が・・・。)

 

「具材は日干しの野菜くらいしか無いかなぁ・・・」

 

石が目の前で起こった超常現象に驚いているのを他所に、赤銅色の髪の少女が背嚢に手を突っ込みながら中身を漁っている。

 

「おっ?生きが良い具材発見!!」

 

少女が背嚢の中からもぞもぞと動く麻袋を取り出すと、麻袋から出て来た物は見た事も無いようなサイズの大蠍であった。

 

(ひぃっ!?)

 

石が思わず動揺していると、少女は日干しの野菜と共に大蠍を沸騰する鍋の中に投入し、岩塩らしき桃色の結晶をおろし金で削り、乾燥スープの味を調整した。

 

(・・・・あれ?また何かが流れ込んで・・・今度はかなり多い!)

 

大蠍が鍋に放り込まれてから暫くして絶命したのだろう、恐らくそのタイミングで石の体に力が流れ込んできたのだ。それも瞬間的ながらかなり多く。

 

「あ゛ーーっ!この火が通ってほろ苦い毒腺が溜まらんなー!」

 

「ジジ臭いぞ、それにちゃんと火が通ってなかったらあの世行きだぞお前・・・。」

 

「だってだってさ!食材は持っているのに全然調理できなかったんだよ!?もう、乾燥スープを塊のまま齧ろうと思ったんだよ!?」

 

「仕方がないだろう、水の配分を間違えたんだ、それに塩の塊を齧るような真似は止せ、それこそ干乾びて死ぬぞ。」

 

現在も洞窟の入り口に滞在する二人から[力]が流れ込んでくる。

しかし、大蠍が死んだ分、[力]の流れ込む量は抑え目である。恐らく、自分の支配領域で生物が死ぬと瞬間的ながら大量の[力]を吸収する事が出来る様だ。

 

(・・・これは、要検証だな・・・。)

 

「はぁぁっ・・・おなか一杯になったから眠くなっちゃった。ちょっと寝よう?」

 

「おいおい、まだ安全かどうかも分からな・・・って、寝るの早いな・・。」

 

ローブの二人組の片割れ、黒い髪をオールバックにした壮年の男は少女を抱きかかえ、岩陰に寝かせると、木でできた骨組みを組み立て始め簡単な天幕を張った。

暫くすると寝息が増え、砂嵐で疲れた体を休ませるように深い眠りへと落ちていった。

 

(この地で初めて出会う人たちだ、しっかり守ってあげないと・・・。)

 

石は、この洞窟に神経を伸ばしているので天幕の中の暗闇の中も何不自由なく彼らの寝顔を見ることが出来る。

彼はどこか穏やかな心で彼らを眺め続けた。




取りあえず、ダンジョンコア兼ダンジョンマスターのお話を書いてみたいと思います。
タイトルはほぼ決まっておりますが、今は未定です。

ただし、ダンジョンでハーレムにとか、ダンジョンチートで世界最強とかのタイトルにはしない予定です。


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接触

この世界に生まれ変わってからそれほど時間がたってはいないが、それでも石はある程度自分の周りの事を把握しつつあった。

 

自分が居を構える洞窟は、砂漠にぽつりと佇む小さな岩山の側面に空いた洞窟であり、人間が住むには過酷な環境で人の集落はここから遠く離れた場所に位置するらしい。

 

一応地上に人間と思われる気配が各地に点在しているように感じていたが、自分が想像するよりも気配を感じる範囲は広かった様だ。

 

「うーん!良く寝たぁ!!」

 

「まったく、不用心甚だしいぞラナ」

 

「あ、おはようカシム。」

 

寝ぼけた表情で目を覚ましたのが、ラナという少女で、周囲の警戒をしつつ仮眠をとったのがカシムと言う壮年の男性らしい。

 

「・・・・交易ルートから離れすぎている。砂嵐が治まっている今のうちに戻るべきだろう。」

 

「え~?折角珍しい場所見つけたのに、探索しないで帰るっていうの?」

 

「キャラバンの長の娘であるお前の護衛が俺の仕事だ。水の補給も終わっただろう?言う事を聞いてくれ。」

 

「いやいや、適当に言っている訳じゃないんだよ?だってさ、この洞窟湧水が出たんだよ?もしかしたら、新しい中継地点になるかもしれないじゃないか!」

 

カシムが顎に手を当てて少し考えると、ため息をつきながら背嚢を背負う。

 

「ふむ、確かに水源があれば交易ルートの開拓も可能・・・か?いや、いっその事拠点を構えるというのも悪くはないか・・・。」

 

「でしょ?でしょぉぅ?にひひっ!探検しよう!た・ん・け・ん!」

 

顔を近づけるラナ、面倒くさそうに彼女の額を掴んで押しのける。赤銅色の髪の毛がくしゃくしゃになる。

 

「そう言う所がまだ子供なんだよ、しょうがない、少しだけだぞ?」

 

睡眠不足で多少乱れた黒髪を櫛でオールバックにとかしなおし、カシムは武器や道具の確認をした後、洞窟の奥へと歩いて行く。

 

石はこの洞窟の中に地下水の類が無い事に、多少申し訳なく感じ、先ほど地下水を作り出した要領で、比較的浅い場所に広間を作り地底湖を作り出し、発光する水晶を彼方此方にちりばめて光源を確保した。

 

「何だか空気が冷たくなってきたな・・・。」

 

「外は灼熱の大砂漠だからねぇ・・・水たまりみたいな物でも良いから、水源が干乾びずに残っていてほしいもんだよ。」

 

「・・・・ラナ、気を付けろ洞窟の奥に明かりが見える。」

 

「先住者が居たって事?カシム・・・うん、わかった様子見してくれないかね?」

 

「それが俺の仕事だからな・・・任せておけ!」

 

ラナも腰に下げた護身用と思われる短剣に手を伸ばし、いつ襲撃があっても対処できるように周囲を警戒した。

 

カシムが、明かりの方向に向かった後も洞窟内の観察は欠かさず行っており、意外としっかりとした地盤の洞窟であると分析した。

 

「ラナ!凄いものを見つけたぞ!早く来てくれ!!」

 

カシムが興奮交じりで叫び、ラナを呼ぶ。

 

「カシム!?・・・わ・・・わかった!今行く!」

 

二人が地底湖の入り口に立った時、唖然とした表情で暫く佇んでいた。

 

「た・・確かにさぁ、冗談交じりで水源が無いか調査しようと提案してけどさぁ・・・こりゃぁ、とんでもない事だよ?」

 

「こんな大砂漠にこんな地底湖が存在するとは、どれだけの時間をかけて形成されたんだろうか・・・?」

 

石は心の中で、今さっき作ったばかりだと謝罪をし、二人の反応を見守った。

 

「ここに住もう!村のみんなにこの場所を伝えてさ!だって、村の井戸も年々湧水の量が減って行っちゃっているし、これだけ水があれば何とか生きていけるよ!」

 

「落ち着けラナ、見えている範囲だけでも相当な量の水だが、それがいつまでも続くとは限らんのだぞ?」

 

「でも、だって・・・!」

 

「・・・少々危険だが湖に入ってみるか、どんなもんだか」

 

カシムは、靴を脱ぎ、下着姿とまでは行かずとも身軽な服装になると、恐る恐る地底湖の水に足を差し込み、湖の中央まで歩いて行く。

 

「む・・・急に底が深くなっているな?これは思ったよりも水量があるのかもしれん、これは期待できるぞ?」

 

息を止めて地底湖の底へと潜り始める。ラナは心細そうにカシムの様子を見守る。

 

「カシム?・・・大丈夫?おーい!カシムぅぅ!」

 

カシムが潜った場所に、ポコポコと泡が浮かんできて、水しぶきと共にカシムが水面まで戻ってくる。

 

「ぶはぁっ!・・・久しぶりに泳いだから息が持たないと思ったぞ・・・ラナ!朗報だ!底が深いし相当な水量だ!見えている範囲だけでも十分に水が使えるぞ!」

 

「うそ・・・うそぉ・・・。」

 

ラナは体が震え、涙がこぼれ始める。

 

「これで・・・これで村が救える・・・水が、水がこんなに一杯に・・・。」

 

「魚の類はどうやら生息していないみたいだな、太陽光が差し込まないからか水草一本生えていない・・・水質は料理に使ったものと大差ない様だ。飲めるぞ」

 

バシャバシャと、浅瀬を歩きながらラナへと近づくカシム。

感動に震えるラナの背中を叩き、洞窟の調査を良く提案してくれたとほめたたえる。

 

「有難う、カシム・・・でも、背中・・・濡れちゃったんだけど?」

 

「うぉっ・・・すまん!」

 

石は、二人のやり取りを微笑ましい穏やかな気持ちで見守っていた。

 

(ふむ・・・試してみなかったけれど、地表まで影響を与えることは出来ないだろうか?地底湖を作ったことで、何かの力・・・それを結構消費してしまった。)

 

(・・・・今でも微量ながら彼らから私に何かの力が流れ込んでゆくのが解る。しかし、彼らの健康面で悪影響が及んでいない事から、もしかしたら彼らと共生関係を持てるかもしれない。)

 

キャラバンの長の娘ラナは、早速彼らの集落にこの洞窟の情報を持ち帰るんだと息巻いており、護衛のカシムも武具の点検をした後、黙々と集落へ帰る準備をし、最後に二人で水分補給を行った後、洞窟を去って行った。

 

(洞窟の中を監視カメラの様に見渡すことは出来るけど、洞窟の外になると離れれば離れるほどノイズ交じりになるな・・・最後はもう何も見えないか。)

 

石は、洞窟周辺までなら視点移動が可能なことを確認すると、早速地表に影響を与えることが出来ないか、実験を始めた。

 

結論から言うと、洞窟の外の方が何かの力を多く消費してしまう事、そして砂嵐や灼熱の日光などで容赦なく地形が風化されてしまうため、多少丈夫に作らないと持たないことが分かった。

 

(洞窟の岩山の上部にオアシスでも作れれば、彼らが定着した時に助かると思うけれど上手くいかないものだなぁ・・・そもそも洞窟の外に出た水はあっという間に干乾びてしまうし、何か保水性の高い構造はないものか・・・。)

 

石はふと神経細胞すら持たないはずの脳裏に、ふと思い浮かぶものがあった。

 

(スポンジだ!スポンジ状の構造を岩の間に作り出せばある程度の保水が出来るかもしれない・・・鍾乳石の一部に管を通して毛細管現象で地下水を地表に吸い上げるようにすれば・・・・。)

 

石は、彼らが去った後も試行錯誤を繰り返して少しずつ洞窟内や洞窟周辺の土地を弄り、生物がすむのに適した環境になるように整えていった。

 

そして、石が彼女らが戻らない事を心配し始めた頃に、地平線の奥に黒い影が見えた。

・・・・それは少しずつ大きくなって行き、ラクダの様な生物に荷物を載せた大規模な集団が、石の居を構える洞窟へと向かってくることが分かった。

 

(無事だったのか!良かった・・・かなり土地をいじったから、力も大分消費してしまったが、まだまだ蓄えはある。彼らが定着してくれればその内、消費した分も取り返せるかもしれない。)

 

「見えたぞ!間違いない!あれが私たちが見つけた水の洞窟だよ!!」

 

キャラバンの皆は、歓声を上げる。多少やつれていた表情がぱっと明るくなり、慌てた様に駆け出す者もいた。

 

「はぇ・・・うそ、洞窟の外に小さな湖が出来ている?」

 

「砂嵐で視界が遮られてはいたが・・・風化作用だけでここまで地形が変わるものだろうか?」

 

少しだけ身長が伸びたラナと、以前来た時よりも風格の増したカシムが久しぶりに訪れた洞窟の岩山に驚きの声を上げる。

 

「日陰になる山もあるし、心なしか砂の量が減ったというか・・・砂の底に沈んでいた岩山が姿を現したって事なのかな?」

 

「解らん、だがこれは良いぞ・・・とても良い事だ。日陰も多いし、洞窟に潜らなくても水が汲める、どういう訳か新たにできたオアシス付近の砂は常に湿り気を帯びているし干乾びる様子もない。」

 

キャラバンの者は、オアシスに飛び込むものもいれば、皮袋に水をためる者もいる。農地に適した土地かどうか検証する者も居た。

 

「あの後、村の井戸水も干乾びちゃったし、村丸ごと移動して良かったよ・・・本当に・・・。」

 

以前訪れた二人の後ろに、白髪交じりの男性が歩いてくる。

 

「あ・・父さん!」

 

「ラナ、カシム、良くやった。そして、村の大移動を決断させてくれたことに感謝する。」

 

「父さん、これで隣国に避難しなくて良かったよ。いいように使いつぶされることも無くなったんだよ?」

 

「あぁ、お前は自慢の娘だ。」

 

「村長、これで我々は滅びずに済む、オアシスが枯れて消滅した集落のなんと多い事か・・・。」

 

「カシム、ラナをよく無事に護衛してくれた。ラナだけなら半信半疑だったが、お前が私や村の皆を説得してくれたおかげで我らは新たな故郷を得ることが出来たのだ。」

 

「えへへ、やったねカシム!」

 

石は、洞窟周辺の様子を伺いながら、自分の支配する領域に居る者たちから力が流れ込んでくるのを確認し、これならば消費した分を取り返せるのはそう遠くはないだろうと、満足そうに心の中で頷いた。

 

(そう言えば、地底湖に生き物がいないと言っていたな・・流石に生物まで生み出す事は出来なかったが・・・?なんだ?何をしているんだ連中は?)

 

洞窟の中に入り込んだキャラバンのメンバーの一部は、地底湖に白い泥の塊の様な玉を籠一杯に放り込み、何かの植物の種子の様なモノを岩の隙間に差し込んでいた。

 

「オアシスが干乾びる前に、肺魚の卵を確保できて良かったよ・・・上手く増えてくれれば良いな。」

 

「水モロコシも、この水晶の光源で育ってくれれば良いんだけど、大丈夫かなぁ・・・?」

 

石は地底湖に生物が居ない事に悩ませていたが、彼らが洞窟の外から勝手に持ち込んでくれたことに安堵しつつ、洞窟が・・・知らぬ間に自分の支配領域が改造されて行くことに僅ながら怖さを感じていた。

 

(何だか色んな種類の作物だか卵だかを地底湖に入れているけれど、大丈夫なのだろうか・・・あっ、卵から力が流れ込むようになった・・・水に反応して孵化する生物なのかな?それまで生物と言うよりも物体に近かったみたいだけど・・・。)

 

石は、この世界の生物の力強さに驚きつつも、これから始まる不思議な共生関係に希望を持ち、まだ見ぬ未来へと思いをはせた。

 

(ま、いっか・・・これから賑やかになれば良いな。)




ずっと続きを描きたくて妄想こねくり回しておりましたけど、アイディアの整理を兼ねて思いついたときに、続きを書くようにしたいと思います。

そろそろタイトルもダンジョンマスターもの試作(仮から正式なタイトルに変えないとですね。


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救援物資

石が支配する領域に、村ごと避難してきた民は、岩山から湧き出る湖で作物を育て、岩陰に折り畳み式の天幕を張り、暮らしていた。

 

まだまだ作物は育つまでに時間はかかるが、水分を求めて岩山に集まる生物を狩る事である程度の食糧を確保できていた。

 

ちなみに、この一帯を支配する意思を持つ石は、地下に地底湖に繋がる無数の細い管を伸ばして、村の住民から得た[何かの力]を利用して水を生成し、岩山一帯を湿らせていた。

その甲斐もあってか、気化熱の作用で岩山付近の気温は僅かながら低下し、何処かからか吹き飛ばされてきた乾燥に強い植物の種子が岩の隙間で発芽し、少しずつ少しずつ岩山は緑に包まれていった。

 

 

「おい、見ろよ前はこんなところに水たまりなんてなかった筈だぞ?」

 

「ここ最近サボテンが良く生えるようになったと思ったら、こんなところに湧水なんて・・・一体どうなっているんだ?」

 

食料を調達しに岩山付近をうろついていた村の若者たちは、岩山の各所に小さな泉が湧いているのを発見し、喜ぶも、奇妙な地形変化に首をかしげていた。

 

「やはり、何かしらの地形の変化が起こっているのかもしれないな。」

 

「ラナとカシムの話では岩山もここまで大きくなかったらしいが、流砂か何かで埋まっていた部分が露出したんだろうか?」

 

「ふむ、この岩山の洞窟に地底湖がある事を考えると、何処かの水源と繋がって、その勢いで水が岩の罅などの隙間を通って湧水として地表に噴出したのかもしれん。」

 

「うーむ、あり得るな・・・ん?みろよ、恐らくこの足跡は岩トカゲの物だぜ?ここ周辺の生き物が水を求めてここに集まってきているみたいだ。」

 

「この場所は本来の交易路から外れた場所にあるからな、水が補充できずに干乾びるのを待つだけの危険地帯のはずだった・・・だが豊富な水源のお陰で、状況は変わりつつある。」

 

「砂漠と言っても年に何回か大雨が降るんだが、水を蓄えられる場所も限られているし、ほとんどは地表を流れ去ってしまう。今年はその大雨も降らず、井戸は枯れ作物も育たず、近隣の村は壊滅状態・・・水の奪い合いだって起きている、我々は本当に運が良かったんだ。」

 

「年に数回の大雨で孵化する砂鮫の卵がまだ休眠状態のままだったお陰で、村の大移動時の襲撃が少なかった。干ばつに助けられた数少ない面だが、このままでは人も動物も、魔物でさえも干乾びてしまうだろう。」

 

「この岩山の洞窟はかなりの地下水が見つかっているんだろ?近隣の村の住民を集めてこの岩山の開発を進めることは出来ないか?」

 

「どうだろうか?大移動時に立ち寄った場所の殆どは水不足で壊滅状態で、その生き残りが我々の大移動に加わって行き、此処への移民は相当数に上るが、未だに健在な集落がどれだけ存在するというのだろうか?」

 

「寄り道する余裕もなく素通りした村もあったが、今なら救援にも向かえるだろう?食料はこれからだが、水なら用意できるんだ。干乾びつつある村から離れられない頑固者は兎も角、助けを求めている者はこの岩山に招いた方が良い。」

 

「ふむ・・・まだ持ちこたえている場所の救援はした方が良いか、盗賊になられても困るしな。」

 

「余裕が無ければ奪うしかなくなる、我々もそうなっていたかもしれないのだ。大河を独占する隣国へ行っても奴隷よりもマシな程度の扱いしかされない、ならば砂漠の民同士で協力するしかあるまい。」

 

「皮袋や椰子の実水筒の数は、まだ余裕があるしラクダに乗せて運べば、それなりの量になる。食料の消費は痛いが、干し肉も救援物資に入れておけば暫くは耐えられる筈だ。」

 

「持ちこたえられているうちに雨が降ってくれれば、井戸水も復活するかもしれないが、希望的観測に過ぎんか。 」

 

「ここ一か所に拠点が集中するのも考え物だ、今後の天候次第ではあるが、村の復興の目処が立てば、跡地を再建する事も考えねばならん。」

 

 

石は洞窟内はもとより、岩山周辺の様子を観察することが出来た。

不思議なことに、思考を切り分けてそれなりの人口まで膨れ上がった村の住民の会話を聞き分けることが出来るのだ。

 

水不足に悩む近隣の村の話、干ばつで魔物すら個体数を減らしている事、水の存在を感知して岩山に集結する生物たち、生存をかけて盗賊にならざるを得ない者たち・・・様々な情報を一気に汲み取り、同時に処理する、生身の人間には到底不可能な、機械じみた能力である。

 

根を使い地中から水分をくみ取り、ろ過して必要成分だけを抽出する、ある意味では植物にすら似ていた。

 

 

・・・・・

 

(なるほど、この地に集結した民によると、この砂漠はただでさえ乾燥しているのに、頼みの綱である年に数回降ると言う大雨が降らず、記録的な大干ばつに見舞わられている訳か・・・。)

 

 

 

ラナとカシムの二人だけでは賄え切れなかった、[何かの力]も、この地へ集まった民の人数ならば余裕をもって備蓄に回すことが出来る。

 

しかし、急造で作り上げた地底湖だけでは、複数の村から集まってきた民の分の水を長期間賄えられるとは思えないし、そもそもこの岩山も辛うじて地盤と繋がっているだけで、砂の上に浮かぶ浮島の様な構造をしているのだ。地盤から切り離されたとき、何が起こるか分からないので、地盤の強化は必要課題である。

 

なので、少しずつ地底湖の水を増やすと同時に、地盤固めを行っていた。

砂を材料に岩石を生成して、頑丈な地層を形成し、岩山を中心に盆の様な形状で地下を合成岩で覆い、ダムの様に生成した水が岩山の外に流れないようにし、水を貯える地層も形成した。

 

それらは、砂の中に埋もれて、地表に暮らす民には感知されていないが、意思を持つ石の仕込みは時間をかけて効力を発揮してゆくだろう。

 

 

多少合成に[何かの力]は必要だが、ポリグルタミン酸の様な保水性の高い成分も合成できた。

砂漠の民が地底湖に持ち込んだ肺魚の卵の殻や粘液を参考に生成することが出来たので彼らは本当に良い仕事をしてくれた。

 

地表で暮らす民の農地にも密かに地形操作能力で保水性成分を加えることで地質の調整を行った。これで砂に水を撒いて育てるよりも大分良くなるはずだ。

 

 

ちなみに、地底湖に持ち込まれた生物の体組織に付着していた藻類の胞子が湖底に定着し、地底湖で大繁殖をしており、それらを食料に肺魚も産卵に備えて肥え太り始めていた。生物の気配のなかった洞窟は早くも新たな生態系を形成しつつあった。生物はとても逞しいのである。

 

 

・・・・・

 

 

(こんな過酷な環境なのに、それでも逞しく生きて行くこの地の生物と人々は美しいな。だからこそ、彼らの助けになるのは有意義に感じる。)

 

(そう言えば、水を生成する時に力を特別多く加えたときに、極少量生成される水色の結晶体は一体何だろうか?いや、水を生成する時だけではない、特別手を加えて岩盤を弄ったときにも色は違うが結晶体が形成されることがある。)

(それは、唯の美しいだけの宝石ではなく、私が加えた力を多く含むように感じる。)

 

(繁殖した肺魚を捕えるために地底湖に素潜りした砂漠の民が、水色の結晶体を見つけたとき大騒ぎをしていたが、結晶体に含まれる私の力は砂漠の民にとっても何かしらの資源として使えるのだろうか?)

 

(救援が必要な村に給水キャラバンを派遣するために部隊を分けているが、皮袋や椰子の実水筒の他に、地底湖で拾った水色の結晶体を砕いて小分けに持たせているが、一体何に使うのであろうか?)

 

(危険な砂漠を渡るため、キャラバン隊の家族は互いに抱き合い、無事を祈り、それぞれの目的地へと向かって行く。彼らの旅の無事を祈る。)

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

「まさか、地底湖に水の魔石が生成されているとは・・・もしかして、地底湖は我々が考えているよりも深いところに繋がっているというのか?」

 

「水源に恵まれた地域の特に魔力が集まる場所でしか生成されない物なのに、なんで砂漠のど真ん中の、こんな乾燥した地域で水の魔石が?」

 

「確かに、この洞窟はかなり高い密度の魔力を感じたが、それでも水の魔石が存在する事自体不自然極まりない・・・まるで標高の高い山の頂上で海の魚を見つけたような違和感だ。」

 

「そう言えば、隣国の学術院で、ある学者がこの砂漠はかつて海の底であったという学説を発表したみたいですよ?もし、その仮説が正しければ、この岩山はかつて、海の底に存在し水の魔力が集まっていた場所なのかもしれません。」

 

「岩塩の類は少量産出してはいるが、あくまで仮説だろう?まぁ、しかし水の魔石のお陰で、幾つかの村の井戸を復活させる目処は立ったがな。」

 

「救援物資としては最上級のものです。次の雨期までには持ちこたえられるでしょう。」

 

「楽観は出来んぞ?干ばつがこの先ずっと続く場合は、最悪この地も干乾びるかもしれん。その時の為に備えておかなければ」

 

「そう・・・ですね。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

(水の魔石・・・?どういうことだ?)

 

(それでは何か、水を生み出したり、岩盤を固めたりするときに使う力と言うのは[魔力]とでも言うのだろうか?)

 

([魔力]・・・か、確かに得体のしれない力と言う意味では、しっくりくる言葉だ。

この世界の生物は、生きて行く内に余剰エネルギーと思われるものを微量ながら放出しているが、それらを吸収して保持し、様々な形態で出力することが出来るのがこの世界に生まれ変わった私に持たされた能力であった。)

 

(もし、その特定の形態に変性したエネルギーがそのまま物質として凝固したものがあの魔石と呼ばれる結晶体なのだとしたら、私が地形を操作する時に行使した力と似たような処置をしたとき、水を生み出し、地面を固めたりすることが出来るのかもしれない。)

 

(私の体もそれに似た物質で形成されているのだとしたら、それらのエネルギーの集合体が私と言う存在なのかもしれない。)

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

救援物資キャラバンが、幾つかの村から移民を引き連れて、岩山に戻ってくるのはそれから暫くしての事であった。

 

 



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落盤

砂漠で記録的な大干ばつが発生している中、少しずつ大規模な水源がある岩山の噂が広まり、各地の砂漠の民がオアシスの岩山に集結しつつあった。

 

オアシスから派遣された給水キャラバンによって岩山に近い集落は何とか持ちこたえており、岩山から発見されたという水の魔石によって、僅かながら井戸が復活し農業を再開できた村もある。とは言え、厳しい節水状態が続いているので雨が降らなければ廃村になってしまうのは間違いなかった。

 

人だけではなく、付近の生物も水を求めてオアシスに集結しているので、オアシスのある岩山付近は、魔物が徘徊する危険地帯でもあった。

 

(水を求めて砂漠中の生き物が、この岩山に集まってきている・・・もう既に人ではない私が、砂漠の生物に捕食され命を落とす民に心を痛めるのは筋違いかもしれないが・・・。)

 

(何とかしてやりたいな、でも、私は此処から動くことが出来ないし、かと言って私が影響を及ぼせる範囲に居る人間以外の生物を追い払うのも心苦しい。)

 

(砂漠の生物を、岩山の開拓村から少し離れた場所に誘導すれば幾らか被害は減らせるだろう、彼らはたまたま人間も捕食対象にしているだけで彼ら自身に罪がある訳では無い、水不足で種の存続の危機に立たされているのは何も人間だけではないのだ。)

 

(・・・・・少し離れたところに砂を固めた浮島でも作ってしまおうか、窪地状に成形し、中央部に肺魚の粘液成分を砂と混ぜて合成すれば、灌漑もしやすくなるだろう。)

 

比較的砂漠の民の集落の分布が少ない位置にひっそりと、散水用の管を伸ばし、管を足掛かりにして力を籠め、砂を岩石に合成して皿の様な形状に固めた後、付近の砂に生体由来の高分子ポリマーを混ぜて、地底湖の水を散水する。

 

地底湖に繁殖している藻類と砂が混ざり合い、高分子ポリマーの保水効果で粘度のある泥状になり、独特の異臭を放ち始めた。

 

(ふむ・・・これで上手くいくのだろうか?正直この手の知識に関しては素人同然だ、たまたまこの奇妙な体で生まれ、不思議な能力を得ただけなので、これが最適解かは分からない。だが、やれるだけの事はやっておきたい。)

 

結果的に、意思を持つ石の試みは、岩山付近の岩地にサボテンを始めとする乾燥に強い植物を群生させ、それを拠り所とする生物たちとそれを捕食する生物の小さな生態系を作り出し、人間の生活圏から肉食生物を離した。しかし、泥状とは言え湿った岩地がある事を現地人に知られ、そしてその泥状の岩地が砂鮫の産卵場所となった事は意思を持つ石にとっても予想外の事態であった。

 

流石の砂漠の民も、岩山付近の異様な地形に疑問を持ち始めたが、それでも今はいつ降るか分からない雨よりも、岩山の水の方が重要であった。

 

それからも意思を持つ石は、砂漠の民の為に地底湖の水量を増やしたり、地底湖や地表の湖を拡張したり、水の魔石を洞窟の比較的浅い層に合成したりと陰から支えていた。

 

最初にこの岩山を発見し岩山をオアシスに改造するきっかけを作り出したラナとカシムは成長し年老いた父親の補佐をしたり、護衛の経験を生かして若い男衆にサバイバル知識と魔物や盗賊の対処法などを教えていた。

 

「ラナ、もう私は民をまとめられる程の若さはない、そろそろ村長を引き継ぐことも考え始めてくれぬか?」

 

「そんな弱気にならなくても!・・・っと言いたい所だけど、本当に父さん砂漠の民の為に尽くしてきたからね。私も覚悟を決める頃合いか、うーん重たいなぁ・・・。」

 

「なに、私だって最初はそうだったさ、それよりもラナ、お前も良い年なのだから所帯を持つことを考えないか?死ぬまでには孫の顔くらい見せてくれ。」

 

「えっ!?あぁ、いやその・・・実は、カシムの所の男衆で砂鮫狩りが得意な奴と付き合っていて・・・その、そろそろ・・・。」

 

「ほうほう、砂鮫狩りの名手か・・・となると、アリーか!カシムが目を付けている者の一人だな!」

 

「まだまだオアシスでの生活が安定していないから、所帯を持つのは暫くお預けだけどね。カシムは若い頃に奥さん亡くしているし子供もいないし、アリーは我が子みたいに思っているみたい。」

 

「カシムには本当に世話になったからな、義理の息子とは言え、血縁を結ぶのは喜ばしい事だ。」

 

「あぁ、いやアリーは養子縁組している訳じゃないからね?あくまで師弟関係だし、アリーの両親は健在だからね?」

 

「む?おお、そうだったそうだった。私も耄碌したか・・・。」

 

「もう、しっかりしてよ父さん!」

 

意思を持つ石は、相も変わらず村人の会話を聞きとっていたが、ラナと村長の会話で感慨深いものを感じていた・・・。

 

(そうか、ラナもそんな年頃か・・・思えば彼らがこの地に訪れてから数年の歳月が経過しているんだな・・・木材も鉱物資源も貴重なこの砂漠で、生活拠点を作るのも苦難苦労の連続だ。私ができる事はそう多くは無いが、この村もここまでの大きさになれたんだ、それを考えると今まで私がやってきた事は無駄ではなかった様だな。)

 

(ヤジード村長は砂漠の民の為に老いても身を粉にして働き、指導し、村を今の形まで作り上げたんだ。無論、村長の元で働いた若者たちの力のお陰でもあるが、彼の存在が大きい、ラナが本格的に引き継ぐまではカシムに補佐してもらうのが一番だろうな・・・。)

 

「そうだ、あの洞窟の調査はどれくらい進んでいるのかな?」

 

「キャラバン隊が異国で工具類を調達してそれが村に届いてからだな、今は行けるところまでしか行けん・・・。」

 

「結構入り組んでいるうえに、狭くて子供くらいしか入れない場所もあるからね。村の子供が遊び場にして注意しても、時々水の魔石拾ってくるし、怒るに怒れない時もあるし・・・うーん、もし魔石の鉱脈みたいなのが見つかれば今の状況もひっくり返るのに・・・。」

 

意思を持つ石は、自分の支配する領域である洞窟の調査や開拓に内心複雑な思いをしていた。意図的に自分本体から村人が遠ざかるように通路を弄ってはいるが、完全に塞ぐと地形操作に微妙な支障をきたすので、子供が入れるくらいには通路を開けている。未だに本体に到達した者は居ないが、それも時間の問題である。

 

(私本体の力を行き届かせるためには、ある程度の空間が必要だが、人が入り込まないように狭めるとその通路付近に力・・・魔力が溜まって魔石が形成されてしまう事がある、結果的に人を呼び寄せてしまうかもしれないのは考え物だな・・・。)

 

(いや、いつまでも人と接触せずにこの洞窟に一人佇んでいられないという事か?いずれにせよ、来る接触に備えて心の準備をしておかねば・・・。)

 

それから、キャラバン隊の資材調達斑が岩山のオアシス村に到着したのは、間もなくであった・・・。

 

「それでは、岩山の洞窟の本格調査を開始する!工具の性能は鉱山の国の中でも保証されたものだ!存分に振るうがよい!」

 

「おおおおーーー!!」

 

村の男衆が、ノミや鶴嘴の様な工具を持って岩山の洞窟へと入って行く。狭くて入れなかった隙間は鶴嘴で広げられ、魔力の吹き溜まりは魔石が形成されているので意思を持つ石へ誘導する道しるべとなってしまう。

 

毎日毎日、採掘作業は進められ、次第に石本体への道は繋がりつつあった。

 

(困ったな、彼らと対面した時に言うべき言葉は決めてあるのだが、肝心の発音方法が思いつかない・・・・忘れていたが、私の体は石そのもので生物の肉体ではないのだ・・・どうしたものか・・・。)

 

石がそうこう考えているうちに、石本体の安置される領域の壁が穿たれて、村の若い男衆が集まってくる。

 

「な・・・何だこれは?なんて巨大な・・・。」

 

「とんでもない魔力が渦巻いていると思っていたら、こんな魔石の親玉みたいな石が存在していたなんて・・・。」

 

(つ・・・ついにこの時が来てしまったか、ええと、何か・・・何かしらの手段で彼らと意思疎通を・・・。)

 

「青白く発光しているが、良く見るとうっすらと虹色の光沢があるな・・・水の魔石とも違う様な・・・ただの魔石よりも遥かに高密度の魔力を内包する未知の鉱物だ。」

 

「と・・・取りあえず、試料を少しだけ頂いてしまおうか?」

 

(む!?ま・・・まてまて、私本体をそれで削る気か?待ってくれ、それはあまり良いアイディアではない、考え直してくれ!)

 

「それ!」

 

(ぐぁ!!)

 

「硬いな、もういっちょ!」

 

(あ・・ぎ・・・。)

 

「端っこがちょっと割れそうなだけか?まぁ、それだけでもいいか、ほっ!!」

 

(何だこれ・・・は!?痛覚がある訳では無い・・・だが、私が、私と言う意思が・・・本質が・・・失われて行くような・・・や・・・やめ・・。)

 

「鶴嘴の方が欠けてしまうとは一体どんな硬さなんだこれは・・・まぁ、小さな破片は手に入ったし、魔術や鉱物に詳しい奴に研究調査を・・・なんだ?」

 

巨大な魔石と思われる結晶体は、眩く発光すると、衝撃波を発生させ石の領域に入り込んでいた男衆たちをなぎ倒した。

洞窟は脈動し、天井にひびが入り、落盤が発生する。

 

「い・・・いかん!洞窟が崩れるぞ!早く逃げるんだ!」

 

「ま・・・待ってくれ!あ・・・あぐああああああ!!!!」

 

退避が間に合わず数名の調査隊が落盤に巻き込まれ、岩の下から血が滲み始める。

その後、命からがら逃げだした調査隊は、洞窟の奥に鎮座する巨大な魔石とそれに接触した事による落盤の情報を伝え、以後、洞窟の奥への侵入は禁止となった。

 

意思を持つ石の意識は、身を砕かれたところで途絶えた。

とても長い時間意識を失っていたが、再び彼が意識を取り戻すころには、自分と言う存在が非常に曖昧になっていた。

 

(うぅ・・・私は一体、あ・・あぁ、そうだ・・・洞窟の調査のために質の良い工具を持って洞窟の壁を掘り進んでいたんだ、そこで私は私と出会い・・・鶴嘴で私の体を・・・いや、私は何を言って・・・。)

 

(いや違う、私は自宅で倒れたときに救急車で運ばれて、難病と診断されその後、家族に見守られる中、命を失って・・・わた・・私・・私は・・・)

 

(一体何者なんだ・・・・・?)

 

洞窟の落盤から逃れ、洞窟最深部の巨大魔石の破片を持ち帰っていた調査隊は、鉱物専門の魔術師に調査を依頼したところ、その鉱物は凄まじい魔力と霊体を高密度で含んでおり、数少ない文献に僅かに記載されている幻の玉石・・・迷宮核、またの名を霊晶石である事が判明した。

 

洞窟に人や動物を誘い込み、彼らの求める物を生み出し、手を伸ばしたところ罠にかけ捕食する・・・そう言った伝承や、人々の祈りを糧に大地に命を宿す奇跡の石とも伝わる。

 

「人を食らう洞窟か、それとも砂漠に命を齎す神か・・・果たしてどちらなのか・・・。」

 

「父さん、一つ思うんだけど、私がこの岩山に訪れたとき、水に困っていたって話はしたよね?でも、都合よく岩から湧水が湧いて水を補充できたのは、もしかしたら迷宮核さんが気を利かせてくれたんじゃないかな?って思うの。」

 

「ラナ・・・・。」

 

「・・・私たちがあの洞窟の奥に足を踏み込んだ後だって、私たちを食べようと思えばいつでも食べれたし、この村が出来た後も水底に水の魔石を生み出してくれたのだって、彼のお陰かもしれないの。」

 

「確証はあるのか?」

 

「ううん、唯の勘だよ・・・でもさ、私たちが彼の領域に押しかけて傷つけてしまったのは事実なんだ・・・だから、皆で謝っておいた方が良いと思うんだ。」

 

「そう・・・だな・・・。」

 

「この破片は、洞窟の入り口付近に御神体として祀っておこう、二度と間違いが起こらない様に・・。」

 

その後、洞窟の奥地は不可侵の領域と認定され、村人は地底湖のある層から先に行くことは殆どなくなった。今は、地底湖で漁を行ったり水を汲む帰り道に、落盤で亡くなった調査隊員と傷つけてしまった洞窟の主に祈りをささげる社があるだけである。

 

身を砕かれた迷宮核は、時間をかけて自我を取り戻したころ、砕かれた体の安置された社に捧げられる祈りに・・・人々の意思の力に不思議な感覚を持ち始めていた。

 

自我と魂と魔力と自然の力と・・・様々な世界の要素を凝縮したこの体は、破片となっても未だに本体と繋がっている事に気づくのは暫く経ってからであった・・・。



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従属核

(思えば私の記憶と言うものは最初から破綻していた。辻褄が合わなかった。)

 

意思を持つ石、迷宮核は自分自身の記憶に疑問を持っていた。果たして自分とは何者か、この記憶は一体誰のもなのか?かつて自分が立っていた場所も分からず焦点が定まらない。

 

(私は、難病を患い、家族が見守る中その一生を終えた筈。)

 

(だが、私は愛する夫の子供を産み、出産に耐えられず死に、学業がうまくいかず学生生活も破綻して絶望し、学校の屋上から身を投げて死に、老いて先立たれた妻の後を追うように服毒自殺で死に・・・それらは、確かに私自身が体験したと確信をもって言える事であった。)

 

(確かに、それは・・・私だった。)

 

(つまるところ、私は・・・我々は無数の人間の集合体であり、記憶が曖昧なのもそれのせいなのだろう。)

 

(だが、確実に複数の人格の[核]となった私は存在するのだ。行動原理も倫理観も、無数の私達のどれとも違う、本来の私が存在したはず・・・それとも、それすら何かの間違いだったのか?)

 

迷宮核と言う実体を持った体を砕かれ、精神と体の再構築を終えた迷宮核は、記憶の整理と共に、忘れかけていた記憶の一部を取り戻した。

 

(思えば・・・ラナとカシムの言葉を最初から理解できていたのもおかしかった。私は彼らの言葉を初めて聞いた・・その筈だったというのに。)

 

(私の故郷となる世界の魂と、この世界の人間の魂は既に混じり合っていて、初めて聞く筈の言葉の発音もすんなりと聞き取れ、言葉として理解出来たのだろう。)

 

迷宮核は、その身に吸収した魂と、自分自身の記憶に惑い、いつ終わるとも知れない自己問答に陥っていた。

 

砕けた迷宮核が混乱している最中、岩山の集落の住民たちは、慰霊碑を兼ねた迷宮核の破片を祀る社を作り終え、水汲みの前後に祈りを捧げる行為を日常生活に組み込んでいた。

 

「今日も水の恵みと日陰を下さり有難う御座います。」

 

「我らが同胞の魂よ、安らかに眠りたまえ。」

 

木桶に水をため込み、村の各所に設けられた大鍋に水を注いでゆく。

洞窟に近い家は、洞窟の地底湖から水を汲み、岩山から湧き出る湖に近いところはそのまま外の湖から水を汲む。

あらゆる物が不足している砂漠は基本的に再利用できるものは再利用し、糞尿は肥料や燃料に、狩った魔物は皮・肉・骨・内臓・血液まで全て余すところなく利用する。

 

岩山が砂漠の民の集落として開拓され、十年近い歳月が流れる中、何度か天の恵みである大雨は降るには降ったが、年々その回数も降水量も減って行き、砂漠の民は水源に恵まれた岩山へ避難する者が多くなってきた。

 

大干ばつは進行し、砂漠の生物は減少を続け、岩山に避難して放棄された村跡に僅かに残る水を当てにして小動物が住処を作ったり、放置された畑に砂漠の植物が無秩序に生えてきたり、その日を生きるのに植物も動物も必死だった。

 

交易ルートの途中に点々と存在した村も、廃村となり、砂漠を経由する交易は途絶えてしまった。それは砂漠の外、水源に恵まれた、人類が生存するに適した土壌に暮らす国々にも影響を与えた。

 

切り立った山脈を迂回するために砂漠を通過する国、枝分かれした大河から大河へ移動する道中に砂漠の端を通る国、砂漠原産の希少植物を探す国、大砂漠の周りを囲む国々は前代未聞の大干ばつに悩まされていた。

 

最も直接的に、その過酷な環境の脅威にさらされる砂漠の民は、国と言う勢力を形成できず、文化的なつながりの乏しい孤立した集落を構える事しかできなかったのだ。

だが、この大干ばつで岩山に集結した砂漠の各集落の人々は、互いに知恵を出し合い、必要とあらば無理してでも砂漠の外の国から物資を調達し、オアシスのある岩山の開拓を進めた。

 

「傷を負いし岩山の主よ、我らの祈りと贖罪を受けたもう。」

 

「いわやまのあるじさま、水をかんしゃします!」

 

「これこれ、アイラ、祈りとはもう少し心を込めて行うものだぞ?」

 

「おじいちゃん、アイラ、こころこめているよ?」

 

「ごめんね父さん、私の教育不足だわ。」

 

「ふふふ、ラナよ、お前も子供の頃はこうだったぞ?」

 

「えぇっ!?流石にそこまで酷くない・・・よぉ?」

 

「おかあさんもそうだったの?」

 

「えーーーー・・・・うん、違う・・・よぉ?よね?」

 

「何故疑問形なんだ、お前たち、水汲みは終わったのか?」

 

「おお、アリーよ、来たか。」

 

洞窟の入り口に、傷跡だらけの若い男が歩いてくる。

 

「おとうさん!」

 

「おうおう、アイラ、お祈りは終わったか?・・・・それと、親父殿もいらっしゃったか・・・。」

 

「アリー、今日の狩りはどうだった?」

 

背中の金具に引っかけていた槍を抱えると、槍の側面についた真新しい傷を指でなぞり頷く

 

「砂鮫は数匹だけだが、仕留めることは出来たぞ?ただ、若い個体だったのか小ぶりだったがな、近場で狩りをしすぎると獲物となる動物がいなくなってしまうので、そろそろ禁猟の時期だろうな・・・。」

 

「おにくたべれないですか?」

 

「アイラは食べ盛りだからね・・・でも、砂漠は食べ物がとても貴重なの、私の体が小さいのだって、アイラくらいの齢に満足に食べ物が食べられなかったからなんだ。」

 

「そうだぞ、アイラ、俺がガキの頃は幾らか井戸水に余裕があったから、作物も育てられていて食い物も手に入って俺は身長が伸びたが、他の村はそうも行かなかったんだ。まぁ、そのお陰で砂鮫と渡り合える体格を持てたんだがな。」

 

「アリーは良いよねー、お母さんは、どうせちびっ子ですよー。」

 

「拗ねるなよラナ、さて親父殿、妻と娘が世話になった。」

 

「うむうむ、お主の様な若くて力のあるものが長としてついてくれると心置きなく後を任せられるというものだ。」

 

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ父さん、それと私が一応村長なんだからね?アリーは副村長というか村長補佐だし。」

 

「そうです、おかあさんえらいです。」

 

「アイラっ!!」

 

ラナは思わず娘のアイラを抱きしめ、頬ずりする。アイラは些か迷惑そうな表情をしていたが・・・。

 

「その辺にしてやれ、ほら家に帰るぞ?」

 

「だっこなの?わたしあるけるよ?」

 

「だめ、娘成分補給しないとお母さんだめになっちゃうの!」

 

「懐かしいな、妻が生きている頃はラナをこうしていた気がする。ふふ・・。」

 

砂漠の民を纏める村長家族が洞窟を後にすると、洞窟の入り口に設けられた社が、ぼんやりと光を放ち始める。

 

(これは・・・何だろうか?不思議な感覚だ。)

 

(暫く思考の海に沈んでいたが、こんな所に祭壇なんてあっただろうか・・・それにしても、この感覚は一体。)

 

(これは私の体の一部か?いや、繋がりが・・・確かに繋がりを感じる、私はまだ私の体の破片と繋がりが存在するのか。)

 

社に納められた迷宮核の破片が、より輝き始め、洞窟の入り口どころか洞窟の外側の地形まで強い影響を持たせることが出来るような感覚がした。

 

(なるほど、洞窟の外の地形変化に力を多めに込めなければならないのは、環境的な要因の他に、私本体からの距離の問題もあった訳か、あの社に納められた私の破片を通じて、より広範囲に力を巡らせることが出来るかもしれない。)

 

自分自身の体の破片を中継装置に、改めて洞窟中に神経の様なモノを伸ばし始める迷宮核。

迷宮核の分身から放たれる光の波が、地表を撫でるように広がり、大地が脈動する。

風に巻き上げられ村の中に入り込んできた砂は、社から放たれる光に触れると、凝固し岩と一体化し、乾燥していた空気は次第に湿り気を帯び始め、砂漠に滅多に発生する事のない霧が岩山全体を覆い始めた。

 

砂漠の民は、大干ばつに見舞わられた大砂漠に有り得ない天候に戸惑い、天変地異の前触れかと、祈りを捧げるために社へと向かうが、その社に納められていた迷宮核の破片が光り輝いているのを見ると、迷宮核こそこの現象を引き起こしているものだと確信する。

 

その日は、猛暑日であり、金具を触れば火傷するほどの暑さであったのだが、岩山周辺を覆う霧が、日光と熱を遮ってくれたおかげで熱に倒れた者は息を吹き返し、岩山に生息する動植物にも恩恵を与えたのだ。

 

より一層、迷宮核を敬う気持ちが強くなった砂漠の民は、迷宮核に信仰心を持つにいたるのはそう遠くなかった。

 

(砂漠の民の・・・祈りが、意志の力が、私に流れ込んでくるのが解る、砕けた私の破片、分身を通じて・・・・。)

 

(今まで岩山で生きる民や動植物の余剰エネルギーを回収して、力を溜めていたが、あの社の分身に意図的に意識的に、彼らの力が注がれて行く・・・傷は、癒えた・・。)

 

(この社で、私が出来る事が少しわかったよ。どうにかして、私の分身を移動させることが出来るなら、その分身を中継装置にもっと広範囲に、岩山周辺よりもっと広く大地に命を吹き込むことが出来るかもしれない・・・。)

 

(私が思うよりも、ずっとずっと、私は力を使うことが出来たんだ。それに今まで気づかなかっただけで・・・・。)

 

(私の一部になった砂漠の民は、我々は、この不毛の大地を生命の溢れる場所にしたかったんだ。だから、我らは砂漠を超え、開拓のための工具を異国から買い集めたのだ!)

 

(砂漠を生命溢れる地に・・・理想の実現のために、私の分身を私の意志で移動させる何かしらの手段が必要になりそうだな・・・動力から考えなくてはならないか・・・・。)

 

(自問自答、自己問答の時間はもう終わった。今は、ただただ大地に命を宿すために!!)

 

 

岩山を支配する迷宮核は、本格的に砂漠の大干ばつに立ち向かうことにした、それは砂漠の民の魂によるものなのか、彼らの信仰心・信頼する心に答えるためか、迷宮の試行錯誤は続く。

 

 

 

 

 

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従属核  スレイブ・コア

 

意思を持つ石がその身を切り離し、自らの領域の操作権限を持たせた分身

迷宮核と従属核は繋がっており、迷宮核の支配の及ばない遠隔地でも迷宮核に従い、本体には及ばないものの地形操作能力を持ち、小型の迷宮を生み出すことが出来る。

その他、大規模な迷宮の管理の補助も可能。破壊されても本体が無事なら被害は限定的で、ある種のダミー的な役割も果たす。



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試行錯誤

迷宮核は本格的に砂漠の大干ばつに立ち向かう事を決め、砂漠の民や岩山の動植物から得た魔力を利用して、乾燥しにくい土地に地質を弄り、水を生成して岩山付近の灌漑を行っていった。

 

砂漠の民が砂漠の外から持ち込んだ植物や砂漠原産の植物が土地に根付き、比較的乾燥に強い品種に限るが樹木すら生えるようになっていた。

 

現在では岩山のオアシス付近に限定されるが、砂漠の動植物の楽園となっており、大気中の湿度に反応して発芽する植物や、雨期で砂漠が水没するまで乾燥した状態で休眠する砂鮫の卵などが活性化し、姿を消していた砂漠の生物たちが復活を果たしていた。

 

幾ら乾燥に強い生物だからと言って、あまりにも長期間休眠が続いたり、雨期がこなければ繁殖はおろか活動すらまともに出来なくなるので、この大干ばつで絶滅していたかもしれない生物たちも、迷宮核の支配領域で辛うじて世代交代を果たし種を維持していた。

 

(今まで魔力を備蓄に回していたが、最近は砂漠の民から多めに魔力を得られるので、少し多めに水の生成に魔力を使ったが大正解だったな。)

 

生物が生きて行くには、栄養は必要だが、最も重要な物は水だ。少なくとも地球型の惑星で生きる生命体の殆どは水が無ければ生きて行くことは出来ない。

 

迷宮核が地下に伸ばした水のパイプラインで支配領域周辺に小さな人工オアシスを作り、砂漠の村同士を結ぶ休憩場として利用されている。風化作用で埋もれない様にしっかりと岩石で補強しているのでオアシスは維持されている。

 

しかし、この岩山は本来の交易路から大きく外れた場所に位置するので、砂漠の外の国々との交易は絶えたままである。大干ばつの影響は砂漠の外の国々まで及び、大河付近の国は水不足とまでは行かないものの、若干川幅が狭まった事に不安を覚えているらしい。

 

(水の魔石によって私の領域に近い村の井戸は、辛うじて維持されているらしいが、どの村も私の支配領域外に位置するのが歯痒いな・・・。)

 

落盤に巻き込まれ迷宮核に取り込まれた村人の魂の記憶によると、交易ルートの村は井戸水が枯れ、生き残りたちは一部が岩山のオアシスに避難したり、盗賊となって砂漠を徘徊したり、異国の地に逃れ奴隷に近い扱いを受けているらしい。

 

(そもそも、交易ルートに点在していた村の位置までは、かつて平原が広がっていたらしいが、この大干ばつと言い、この周辺地域は砂漠化が進んでいるのだろうか?)

 

(ここ程、風化浸食は受けてはいないが、岩地方面では、かつて大河が流れていた川の跡が存在する事から、大規模な気候変動があったのかもしれないな。)

 

なお、砂漠岩地にある大河跡は砂漠の民が道として利用しており、かつてキャラバン隊はそこを通って交易を行っていた。

最も、大河跡を歩いてる最中に年に数回の大雨に遭遇すると、ものの数分程度で洪水になり、大河跡をなぞるように激流が荒れ狂うので雨が降ると同時に大河跡から離れないと巻き込まれて溺死してしまう。砂漠で一番多い死因が溺死と言うのはこれのせいである。

 

(此処は交易ルートから大きく外れた、砂漠の端に浮かぶ岩山・・・此処からでは岩地の地質が分からない、何とか私の分身をかの地に持っていけないだろうか?)

 

社に祀られている迷宮核の破片は今もぼんやりと光を放っており、岩山オアシス付近に限定されるが、程よい湿度と気温に調節されており、水汲みや漁をする村人に祈りを捧げられ、迷宮核本体へと魔力が供給され続けている。

 

(御神体として祀られている私の分身を岩地まで運んでくれれば、大河跡を利用した水源が作れるかもしれないが、彼らに直接運んでもらう訳にも行かないし、あれが無くなれば地底湖周辺の管理が若干面倒になると思う。)

 

(・・・となると、地道に水の魔石を生成するしかないのだろうか?)

 

迷宮核は、そこでふと生み出せるものは水に限定されているのだろうかと疑問を持った。思えば地形を操作し、地下洞窟の形状を変化させ、何もない場所から水を生み出したりと様々な試みをしてきたが、それらの応用で別な物を生み出せないのか?

 

(そもそも私は、まだ私ができる事の全ての能力を把握してはいない・・・地形を変え、水を生み出し、私の支配領域全てを見ることが出来る、本当にそれだけなのか?)

 

迷宮核は、思考する

 

(例えば、地形の操作や水の生成以外に何か生み出すことは出来ないのか?・・・火をおこしたり、大気の流れを生み出したり、光を灯したり・・・。)

 

迷宮核は身の回りに渦巻く力・・・魔力を操作して、水以外のものが生み出せないか、試してみる。

 

水を生成する時と似たような感覚で、燃え盛る炎をイメージしながら魔力を込めると、コアルーム付近の壁が激しく炎上し、熱エネルギーに変換されきれなかった魔力が空気中の砂塵などを核にして赤い結晶体へと成長する。

 

(炎は・・・おお、水と同じように何もない場所から火が噴き出した・・・何が燃焼しているのかは判らないが、私が力を込めたものがそのまま燃料となっているのだろうか?)

 

迷宮核は、炎を生み出した後、自分の周りにある砂山に魔力を集中させ、つむじ風を生み出し砂を巻き上げてみる。

 

(ふむ、大気の流れも生み出せるのか・・・いや、よくよく考えるとオアシスの村人たちが熱でやられたときに霧を発生させたが、その時に気流を操作していたな・・・あれが無ければ霧はそうそうに霧散していた筈。)

 

迷宮核は、一切光源が存在しない区画に視界を移し、その暗闇に魔力を込めると蝋燭の様なぼんやりとした光の玉が生まれ、暫くすると光は収まり消えてしまう。

 

(光は・・・ふむ、力を込めている間だけしか光は発生せず、力を抜くと徐々に消えて行くのか・・・。)

 

(光を放つ水晶の生成よりも魔力は使わないが、光る水晶とは違って永続性は無いな・・・どちらにせよ使う魔力は今までの中で最も微量だ、暗闇に迷い込んだ者を導くくらいにしか使い道は無いだろう。)

 

自分の持つ力は思いのほか応用が利くようで、迷宮核は実験に手ごたえを感じていた。

 

(ふむ、力の行使で魔石が生み出されることがあるが、もし物理現象を起こさず純粋に魔石として固めることは出来るのだろうか?水の生成を経由せず、純粋に魔力を集めて魔石を生成する・・・それは可能なのだろうか?)

 

魔力を込め、水があふれるのをイメージしつつもその力を抑え込め固めるように力を圧縮していると、青白い光と共に空中に青い魔石が生み出され、ぽたぽたと水が石の表面から滴り落ち、ガラスの様な澄んだ音を立てて水の魔石は地面に転がり落ちる。

 

(!なるほど、僅かながらどうしても水の生成などの現象は起きてしまうのか、だが大部分が魔石に変換されている、効率面は段違いだ、もう殆ど実用段階と見てよい。)

 

その後、火・風・光と同じ要領で魔石を合成して実験を繰り返すと、地面には色とりどりの魔石が無造作に転がる異様な光景が広がっていた。

 

(まずいな・・・作りすぎたか、どうやって運んだものか・・・いや、それよりも。)

 

一通り魔石を合成するコツをつかんだ迷宮核は、いよいよもって自分自身の分身、意図的に迷宮核の破片を生み出そうとしていた。

 

(私の体を砕かれたとき、私の体や意思を構成する何かが失われたように感じた・・・私の分身を生み出すには相応の覚悟が必要だな。)

 

迷宮核は、自分自身の体を複製するつもりで膨大な魔力を込めるもガラスのように無色の大きな魔石が生成されるだけで、自分の複製を生み出すことは出来なかった。

 

(ふむ、私の分身を作り出すのにはどうしても、この身を切り取らなければならないのか?)

 

迷宮核は、自分の体が砕けた時の事を思い出しながら、自分自身を構成する結晶体を小さく分けて取り外すようにイメージすると、自分の意識が分離する様な感覚と共に握り拳大の大きさの迷宮核と同じ質感の結晶体が転がり落ちる。

 

(むぅ、一瞬だけ意識が遠のいた・・・だが、小さく分離した私と、本体の私は確かに繋がりを感じる。)

 

迷宮核本体から切り取られた結晶体は、迷宮核と同じく青白く輝きうっすらと虹色の光沢をもっていた。その内側には凄まじい魔力と迷宮核同様、自我を持っている様だ。

 

(自ら切り離すと、切り取られた部分はすぐに塞がるんだな、自分から切り離す分には負担が少ないようだ。)

 

分離した小さな迷宮核を自分の体のように動かしてみると、確かに自分本体と同じ力を持つ様で、規模は小さくなるが十分に独立した支配領域を形成できるようだ。

 

(切り離したは良いが、どうやって岩山の外にこの分身を移動させることが出来るのだろうか?)

 

思えば、それなりに長い間この場所に留まっているが、自ら移動する手段がなく、切り離した分身と、合成実験で地面に散らばる魔石群を片付ける方法が思い浮かばなかった。

 

(ふむ、多少荒っぽく運搬する必要がありそうだな・・・。)

 

地形変化能力を生かして、地面を隆起させ魔石の山を転がしながら迷宮核本体へ続く通路へ移動させ、迷宮核の間・・・コアルームを掃除した。

 

(中々悪くない発想だった。しかし、随分と乱暴な方法だな。)

 

迷宮核は、鉱石類が激しく音を立てて転がる音に内心喧しく感じつつも、意外と魔石が丈夫な事に気づく。

 

(そう言えば、鶴嘴で殴られても私の体本体はそれなりに耐えられていたが、この魔石や私の分身の強度はどれくらいのものなのだろうか?)

 

好奇心のまま、地形操作能力で地面と天井から柱を伸ばし、魔石をプレスしてみるが、多少持ちこたえ、強度限界を超えたとき水を噴き出しながら魔石は爆散した。

 

(内部に蓄えられた力が解放されて水の魔石から水が噴き出したのか・・・しかし、大部分は魔力に帰ってしまうな・・・。)

 

迷宮核は、砕けた魔石から放出された魔力を再度吸収するが、水に変換されて地面を濡らした分はどうにもならなかった。

 

(作りすぎた魔石は、砕いて再吸収すれば処理は出来るか、だが水の魔石でこの惨状・・・他の魔石を砕くとどうなってしまうのか・・・・。)

 

結論から言うと、火の魔石が最も危険で、最も無害に近いのが光の魔石であった。

火の魔石が砕けると同時に、セラミック爆弾を彷彿する威力の爆発を引き起こし、地面に転がっていた魔石を次々と破壊し、連鎖爆発させながらコアルーム近くの通路はズタボロになり、水の魔石の影響で地味に水没していた。

 

(だ・・・大惨事だな・・・火の魔石は扱いに注意が必要か、風や水も暴風や鉄砲水と危険な代物だが、一番危険度の低い光の魔石ですら目を持つ生物を失明させるには十分の光量の閃光を発生させる。魔石は乱暴に扱ってはならんな。)

 

残るは自分の体から切り離した、分身体・・・流石に自分と繋がる小さな迷宮核を破壊する事は躊躇われたが、好奇心を抑えられない迷宮核は、恐る恐る地形操作プレスで自分の分身を挟んでみる。

 

(鶴嘴で殴られたときほど直接的でないにせよ、意識が薄れるような・・・そんな信号が私本体に届いてくるな。)

 

次の瞬間、小さな自分の分身を挟む岩の柱に罅が入り、音を立てて砕け散ってしまう。

多少細かい傷はついているが、小さな迷宮核は健在だった。

 

(魔石の比ではない丈夫さだな・・・それとも、本能的に自分自身を硬化させたのだろうか?かなり硬い・・・硬すぎる。)

 

分身に魔力を送ると、細かい傷は塞がり、無傷の小型迷宮核がそこに浮かんでいた。

 

(私同様自己修復能力があるのか、ふむこれだけ丈夫ならば、多少手荒な方法で運ぶことが出来るのでは・・・?)

 

迷宮核は、地表まで続く小さな縦穴を作ると、縦穴からチューブが伸びて小型迷宮核をすっぽりと包んだ。

 

(そして、底部に火の魔石を仕込んでおいて・・・。)

 

小型迷宮核の下に仕込まれた火の魔石を地形操作能力で圧力をかけて砕くと、火の魔石は爆散し、チューブに抑え込まれた爆圧は上に逃れるために小型迷宮核を押し上げ、岩山の外まで天高く小型迷宮核を打ち上げた。

 

(凄い、私の分身から送られてくる視界は雲よりも高い場所にある!あれが私の支配する岩山か、地面に落下するまでにそれなりに猶予があるが、しかし本当に一面砂だらけなんだな・・・。)

 

暫く上昇し続けていた小型迷宮核は落下をはじめ、迷宮核本体のある岩山が豆粒に見えるほど離れた場所に落下していった。

 

(む・・・う、砂漠にそのまま埋もれる形で落下したか、反動を受けた感触が私本体にも届いた様な感じがした・・・。)

 

砂に埋もれた・・・と言うよりもめり込んだ小型迷宮核は、鋭い光を放つと、砂は凝固し、ぽっかり穴の開いた岩石を形成し、その穴の中には青白い光を放つ小型迷宮核が鎮座していた。

 

(私本体の視界移動ではノイズがかって見えなくなる距離だが、私の分身を通して向こうの風景が見える・・・しかし、多少規模は小さくなるが私が出来る事は一通りの事は可能な様だな。)

 

小型迷宮核を覆う岩石は肥大化を続け、今や砂漠ににょっきり顔を出す小さな丘くらいに成長していた。

 

(どれ、岩地を薄い板状に伸ばして、中央を窪ませて水を生成すれば・・・・。)

 

先ほどまで砂しか無かった場所に現れたのは、岩山オアシスのミニチュア版であった。

水量はオリジナルに及ばないので、照り付ける日光に晒されてお湯になりつつあったが・・・。

 

(周りに生物の気配が無いから、このミニオアシスには定着してくれる動植物は居なさそうだな・・・だが、位置的には廃村の近くだった筈、その内誰かが見つけてくれるだろう。)

 

迷宮核は、岩山オアシスから遠く離れた場所に落下した分身とのやり取りをしつつも、何とかして分身を自由に動かせないか、自分の領域内で試行錯誤を繰り返していた。

 

(地形操作能力で高低差を生み出して、分身体を転がして移動するのは、どうにも燃費が悪いな・・・もう少し、効率的に出来ないものか?)

 

更に小さく分離させたビー玉サイズの極小迷宮核を動かしながら、水流で押し流したり風で吹き飛ばしたりして移動手段を模索するが、その内極小迷宮核の周りに合成した岩の車輪がついた奇妙な物体に成り果てていた。

 

(ついついやりすぎてしまった・・・今思えばこの仕組み、この形状・・・英国面を感じるな・・・。)

 

極小迷宮核がはめ込まれた車輪状の物体は、車輪部分から水を噴き出し、その反作用で車輪は回転を始める。

 

(流石に壁にぶつかって爆散はしないが、これは駄目だ・・・何故かは知らないが、これを採用してはいけない気がする・・・。)

 

迷宮核は、自分の分身体を覆う車輪にヒントを得て、極小迷宮核を覆う鎧に何かしらの移動手段をつける方法を研究し始めた。それは車輪だったりキャタピラだったりするが、最終的に水流操作を利用した油圧式の脚までも搭載可能となった。

 

(生物は生み出すことは出来ないが、こんな方法があるとは・・・疑似生物とでも言うのだろうか?)

 

極小迷宮核を制御に使い、核を覆う鎧を超小型の迷宮として扱い、脚部の内部を管が通り、内部の液体の流動によって脚部を動かす。

動きはまだまだ、ぎこちなく、どことなく生前幼い頃遊んだラジコンを思わせた。

 

(む!?)

 

先ほど射出した分身体から、生物の気配を感じた信号が送られてきて、そちらに意識を向けるとミニチュアオアシスめがけて複数の砂柱が恐ろしい勢いで接近してくる光景が映った。

 

(あれは・・・砂鮫の群れか!先ほどまで気配すら感じなかったと言うのに・・・。)

 

砂鮫たちは勢いよく岩地に乗り上げると、体をくねらせながら日光でぬるく暖められたオアシスに入り、口をパクパク動かしながら水分を摂取していた。

 

(確か、砂鮫はああ見えて岩山オアシスに持ち込まれた肺魚と近縁種だったのだな、となると、ここも産卵場所になるのだろうか・・・・むむ?)

 

砂鮫だけではない、砂漠ヘビや砂トカゲ、後は名前の知らない小さな昆虫類などが、次々とミニチュアオアシスに集まり始めていた。

 

(砂漠の生物が分身に集まって行く?本能的にこの石が力を持っていることを知っているのだろうか?ごく僅かだが、射出された方の分身に魔力が齎されているな・・・。)

 

砂鮫は冷え込む夜までオアシスに浸かっていたが、気温が下がる前に再び砂漠の彼方へと去って行ってしまった。他の小動物はミニチュアオアシス近くに穴を掘って巣作りを始めていたが・・・。

 

(砂鮫が今のところ人間の次に魔力供給量が多い生物らしいな、まぁこのミニチュアオアシスが誰かに発見されて休憩場として利用してくれるようになれば、良いが、そうでも無さそうなら、このラジコン方式で分身を移動させてしまっても良いかもしれないな。)

 

 

暫くして、砂漠の民の間で奇妙な噂が流れるようになった。曰く、岩山オアシスで食用サボテンを採集している時に雲一つないのに雷のような轟音が鳴り響いたとか、砂漠の空に一筋の流れ星が流れ地上に落ちていったとか、村同士の連絡の為に人員を送っていたら砂漠の生き物が同じ方角に向かっていったとか・・・。

 

砂漠の民と迷宮核の奇妙な共生関係はこれからも続く。



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砂漠の巨大湖

砂漠の端に浮かぶ岩山オアシスは、枯れたオアシスから避難してきた難民が集まり、文化的な繋がりが乏しいながら、皆が互いに協力し合い本格的な集落と化していた。

 

人が集まる事で、人間の体から放出される余剰エネルギーの量が増え、それを迷宮核が吸収し、それを元に水を生成する。

 

人と迷宮核の奇妙な共生関係は、迷宮核の支配領域を激変させ、岩山オアシス付近に限るが砂漠原産の植物や砂漠の民が砂漠の外から持ち込んだ植物の種子が芽吹き、茂みを作るほどに大繁殖をしていた。

 

迷宮核の計らいによって危険な肉食動物は、集落から比較的離れた位置に誘導され、そこを繁殖地に選んだ砂漠の生物たちは、大干ばつで数を減らした個体数を再び増やし始めていた。

余談であるが、既に肉食生物の繁殖地は砂漠の民に発見されており、一人前の砂鮫狩りになれるかの腕試しの場所として利用されている。

 

「最近村に外の人が良く来るなぁ・・・。」

 

「水の魔石が届く比較的近い村は、何とか維持できているが、井戸水が枯渇してしまった村の連中は、最後の希望として噂の岩山へと向かうんだとか。」

 

「移民目的で来るなら別にいいが、盗賊は勘弁してほしいものだな。」

 

「せっかく水の魔石を送ったのに、盗賊と化していて荷物を全部奪われた給水キャラバンも居るんだってな。」

 

「全く、大干ばつで追い詰められているのは分かるが、何故全て自分の物にしたがるかねぇ・・・困っているなら支援物資を送るのに刃で答えるとは・・・。」

 

「奪い合いを続けるうちに疑心暗鬼になり、他人を信じることが出来なくなってしまったんだろう。ここも何回かならず者どもに襲撃を受けている。」

 

「内側から崩そうと密偵を送ってきた事もあったが、莫大な水源と待遇からあっさりこちら側に寝返ってくれた。幸いにも襲撃を予測して撃退できたが、警戒せねばならんな。」

 

「この地に避難してきて、それなりに長く住んでいるが、本当に人口が増えたよ。ここで生まれた子供たちも居る。」

 

「我が子らをならず者や砂漠の魔獣から守るのも我々大人たちの役目であるな、そして我らの守護者である岩山の主様を汚さぬようにしなければ・・・。」

 

「岩山の主様と言えば、最近また草木が増えてきたな?食用サボテンが沢山手に入るのは有難い。」

 

「サボテンの中には毒を持つものも存在する。食あたりが増えたのは悩みどころであるが、それでもこれ程生命に満ち溢れた砂漠は生まれて初めて見たよ。」

 

岩山のオアシス周辺は、迷宮核が土地を弄り保水性の高い成分の粒子が砂と混ぜられており、地下に伸びた散水管によって常に湿り気を帯びているので草木が根付き、地中の微生物も増え、枯れた植物や動物の死骸が分解されることにより土が出来始めていた。

 

本来砂漠は殆ど微生物が存在しないのだが、迷宮核の地質操作や砂漠の民や砂漠の動植物によって外部から微生物が持ち込まれ、新たな生態系が作られていたのであった。

 

「さて、野草狩りもこれくらいにして切り上げるか、坊主が腹を空かせている。」

 

「ははは、カミさんにももっと食わせてやりなよ!二人目が腹の中に居るんだろう?」

 

「本当は肉を食わせてやりたいんだが、今は禁漁期だからなぁ・・・砂鮫を狩りつくしてしまったら今後砂鮫肉が手に入らなくなってしまうから我慢か・・・。」

 

「肺魚も供給が全然追いついていないし、やはり洞窟の地底湖や村の泉だけじゃ広さ的に限界か・・・。」

 

「大干ばつの前なら、干乾びた湖の底を掘れば簡単に捕獲できたが、今は乾燥しすぎて卵や繭も全滅、恐らくこのオアシス以外には殆ど生き残りはいないだろうな。」

 

「草食性の肺魚の食べる藻類も、洞窟の光る水晶に依存しているからそれほど増えないし、やはり頭打ちになるな・・・。」

 

「はぁ、せめて村の泉がもう少し大きければ・・・・ん?なんだこの揺れは・・・。」

 

突如岩山オアシス全体が地響きに襲われた。

音は次第に大きくなり、岩山の側面に亀裂が走り、大量の水が鉄砲水の様に噴出し、あっという間に大きな湖を作り出した。

そこは砂地だった筈なのに、いつの間にか岩地に変化しており、水を逃さない構造になっていた。

鉄砲水は次第に勢いを失って行き、小さな滝程度まで収まった、

 

「こ・・これは一体!?」

 

「これが岩山の主様の奇跡なのか!?」

 

岩山の側面に穿たれた穴は、洞窟の地底湖と繋がっていたのか、鉄砲水に紛れて肺魚が流されてくることもあった。

運悪く岩に叩きつけられて絶命する肺魚も居たが、運よく生き延びた肺魚は、水没したサボテンを藻類の代わりに齧り取り当面の食糧を確保していた。

 

(岩山オアシスの人口も増えて魔力供給に余裕が出たおかげで、計画を思ったよりも早く実行できた。)

 

(既に集落の水源として使われている泉を拡大すると、天幕を巻き込んだり村人を溺れさせてしまう危険性があるから、村の外側に湖を作ってみたが、思ったよりも上手くいったな。)

 

(水深は地底湖よりもやや浅めだが、面積は桁違いだ。ありったけの魔力を込めたから当分は干乾びる事は無いだろう。)

 

(さて、洞窟や村の泉で育てていた水モロコシなる作物に適した条件の土地になった訳だが、どうなるか・・・。)

 

水モロコシ・・・レンコンの様な植生だが、水中にトウモロコシの様な根塊を作り、生のままだとシャリシャリとしたデンプン質の食感だが、火を通すと本物のトウモロコシのように甘くジューシーになり、様々な料理の材料となる。

 

本来なら砂漠の外の世界・・・大河の国原産の植物であるが、砂漠各地のオアシスの村が健在の頃に持ち込まれ栽培されていたので、意外と砂漠の民にとってポピュラーな食材でもあった。

種子はある程度乾燥しても発芽できる強さを持っているのだが、たくさんの太陽光を浴びる必要があるため、地底湖の光る水晶程度の光源では不足していた。

辛うじて小ぶりのトウモロコシ程度まで成長する水モロコシが少数存在しただけで、ほとんどはベビーコーン状態である。

 

村の外の泉でのみ、まともなサイズの水モロコシが少数栽培されていたので、迷宮核はその事実に頭?を悩ませた。

思えば当然である、肺魚にせよ水モロコシにせよ本来光源の乏しい地底湖に適した生物ではないのである。

 

砂漠の民の受け入れ準備の地形操作や、それによる魔力不足でかつかつになっていたとしても、洞窟の外の地形操作に若干コスト増しの魔力消費で小さな泉しか用意できなかったとしても、もう少し工夫すれば村の食糧事情を今よりも良い状態に出来たかもしれないと迷宮核は若干後悔していた。

 

(だがそれも今日で終わる。)

 

迷宮核は鉄砲水にBB弾サイズまで小さく分けた己の分身を紛れ込ませており、それを中継装置に洞窟の外の地形操作をより簡単に低コストに行えるようにしたのである。

 

水流の勢いを借りて、湖の広範囲に散った極小迷宮核は、細かい地質の修正を行い、水漏れが無いか神経の様なものを伸ばして確認し、湖の安定化を図っていた。

 

(砂鮫が湖に侵入しない様に、登ってこれない程度に岩の段差をつけてやったが、砂蛇や岩トカゲなら突破されるだろうな・・・一部毒を持っている動物も居るから人間と無駄な争いをしてほしくないのだが・・・。)

 

(しかし、流石は肺魚の近縁種・・・まさか水中でもある程度活動できるとはな、恐るべし砂鮫!)

 

砂鮫は地底湖に生息する肺魚の近縁種と言うよりも、大型で肉食の肺魚そのものであり、砂を泳ぐ能力を持つが、彼らの繁殖地は砂漠の民に見つからなかったオアシスである。

泥水の中で卵は孵化して、砂地を泳ぐ前に泥を泳いで砂の中を泳ぐ練習をして遊泳に慣れると、そのまま新天地へと旅立って行くのだ。

とは言え、大規模な水源に辿り着く事が出来た幸運な個体は数年ほどで水中に適応した形態へと移行するので水が大量にあるのならば態々選り好みして乾燥地帯で暮らそうとは彼らも思わないようだ。

 

大河の国に住み着いた砂鮫は、現地で人食い魚として恐れられ、駆除の対象になるが形態変化によって姿が大きく異なるので、砂鮫と同一種と欠片も思っていないようであった。

 

何故迷宮核がそのような知識を持っているのか?それは単純である。

村に持ち込まれて屠殺された砂鮫の記憶を取り込んだからである。

 

(彼らには悪いが、村のすぐ傍で人食い魚の繁殖場を作る訳には行かないのだ。肺魚を食い荒らされても困るしね。)

 

(村中が大騒ぎだな、計画通りとは言え、こちらも大きく動いた。暫くは自粛しておくか・・・どの道、魔力消費と湖の維持で当分は活動も抑えめになるな。)

 

この日、岩山オアシスの村に新たに出現した大規模な水源に、村人は驚き、新たな水モロコシの栽培候補地が増えたことに歓喜し、ますます岩山の主の信仰を深めていった。

 

太陽光線を浴びて育った水モロコシの葉は水面を覆わんばかりに広がり、大きな根塊を沢山つけ、時々肺魚に食害されてしまうものの豊作であり、砂漠の民の食生活を大きく改善する事になった。

 

栄養不足で乳が出ずに赤ん坊を飢えさせてしまう難民は減り、乳幼児の生存率も高まり、砂漠のオアシスの人口増加は飛躍的に加速する事になった。

 

砂漠の外の国々と交易するための中継拠点である砂漠に点在する集落群は大干ばつで殆ど滅ぶか、岩山オアシスに村人ごと避難してしまっているので、交易はほとんど行われていなかった。ほんの極僅かな砂漠の民が水の魔石を使って強引に砂漠を突破し、砂漠の外の国に認識されない程度に物資を調達するくらいである。

 

いつしか、砂漠の集落はすでに絶滅し、いよいよもって人が生きて行けない死の大地へと化してしまったと、砂漠の外の国々は考えるようになっていた。

 

それ故に、大干ばつの影響で大河の水量が減ったことによって危機感を覚えた国々は、自国内の問題解決に意識を向けていたため、岩山のオアシスの存在についぞ気づく国は存在していなかったのである・・・・。その時点では。

 

(私の分身を幾つか砂漠の各地に調査に向かわせているが、岩山に避難してきた村人の故郷も見て回るべきか・・・まだ辛うじて水が残っていれば良いが・・・。)

 

迷宮核は、村人たちの故郷の復興の可能性を諦めきれていなかったのである。

分身体とは言え、小さな集落丸ごとくらいは地形操作可能な力を秘めているのだ、まだ村跡地の土地が生きているのならば、灌漑する事で息を吹き返すかもしれない。そんな思いと共に・・・。

 

迷宮核の分身体・・・小型迷宮核・・・いや従属核は、石の外殻に履帯を取り付け砂地に独特の跡を付けながら廃村へと向かうのであった。



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オアシス拡張

大干ばつに襲われる砂漠、降水量は年々減って行き、それは水源に恵まれた大河の国々まで影響を及ぼしていた。

水源に恵まれた地域は、溜め池などを作り、大雨が降った時に水を確保してやりくりしている。

 

年に数回の大雨は、年に有るか無いか程度に減ってしまい、砂漠を動くものは人は元より魔物すら僅かとなってしまっていた。

 

それは、砂漠の端に位置する岩山を除いてであるが・・・・。

 

迷宮核によって岩山のオアシスは、その規模を大きく拡張していた。

岩山の外側に位置する場所に、岩山の横穴から滝が流れ、ごく最近形成された巨大湖が広がっていた。

 

水深はそこまで深くは無いが、一番深いところでは足がつけられないので、浅いと言う訳でも無い。

岩山の横穴から降り注ぐ滝からは時折、肺魚が流されて来る事もあり、滝は岩山の地底湖と繋がっていると予想される。

 

閉鎖環境である地底湖では、魔力を帯び光る水晶くらいしか光源が無いため、肺魚も肺魚の餌となる藻類もあまり大きく成長しないが、日光が降り注ぐ巨大湖では肺魚も藻類も大繁殖している。

 

砂漠の民も突如出現した巨大湖に驚き多少困惑していたが、彼らの主食である水モロコシに適した農地として利用可能であることに喜び、食料問題は大分改善された。

 

砂漠に持ち込まれた乾燥に強い植物の中でも成長の早い樹木は、若干細身ながら建材として利用可能な大きさに成長しており、すでに一部は伐採され乾燥の工程に入っていた。

 

キャラバン隊によって岩山のオアシスに持ち込まれた植物の中にはパピルスも混じっており、今まで村の中の泉でごく僅かに試験的に育てられていたが、巨大湖の出現によってより大きな規模で持ち込まれた植物の育成が出来るようになった。

 

パピルスは切り取られ、格子状に並べられて重石などでプレスし乾燥させられ、パピルス紙などに加工された。

 

繊維質の植物や食用可能な植物が持ち込まれたことによって、砂漠の暮らしは豊かになってきており、岩山オアシスの集落は拡張が大きく進んでいた。

 

(喜び、安堵、希望、砂漠の民の感情が、意志の力が私に流れ込んでゆく・・・。)

 

(岩山オアシスの村の人口は少しずつ増えていっている。巨大湖の維持だけで魔力がかつかつになると思っていたが、驚くことに安定した備蓄が出来ている。)

 

(水を飲みに来た野生動物に村の住民が襲われることもあるが、砂鮫みたいな大型の生物は巨大湖に入り込めないようにしているので人死にはまだ起きていない。)

 

(懸念していた事は起きてしまったが、現時点ではさほど深刻な被害が発生している訳では無いが、やはり水を必要としているのは人だけではないな、砂漠の生物の保護区はこの場所とは別に作るべきだろう。)

 

迷宮核は意識を切り離した分身体に向けると、岩山オアシスから旅立った分身体の景色が映る。

試験的に作った岩山オアシスのミニチュア版は、生成した水がすぐに干乾びてしまい、砂嵐などの風化作用で、迷宮核の分身体である従属核を保護する小型迷宮を容赦なく削ってしまうので、維持するのが難しい状態にあった。

 

砂漠の小動物は、小型迷宮をねぐらとして巣を作っているが、お世辞にも安定した場所とは言えなく、風に煽られてグラグラと揺れる事もあるので、従属核はこの場所に見切りをつけて別の場所に移動することにした。

 

砂漠の小動物や時々水分を補給しに来る砂鮫などから魔力を得ているが、小型迷宮の維持にはとても足りないので、もっと安定した場所に拠点を構えるべく、コアルームで実験した自走方法で、従属核は移動を開始する。

 

岩の壁を生成して、迷宮核を覆う箱のようなものを作り上げた後、箱の外側に履帯と環状のチューブを生成し、水流をチューブ内に循環させ、その水流を水力タービンで動力に変え、履帯を回す。

 

他にも勢いよく水を噴射して飛んだり、火の魔石を炸薬に砲弾のように飛ばしたりする方法も実験したが、魔力の薄い外部環境では一番コストパフォーマンスが良い移動方法は、チューブ内に水流を発生させ動力に変える方式であった。

 

一応チューブや従属核を守る外殻は迷宮扱いになっているのか、外殻やチューブ内の消費魔力は少なく、水流を発生させる魔力もそこまで消費が激しい訳でも無いので、現状はこの方法を採用している。

 

従属核砲弾での移動は、確かに一度に長距離を移動できるのだが、砲身となる外殻を常に使い捨てにしなければならず、火の魔石の生成と炸裂に魔力を大きく消費するので、費用対効果はあまりよろしくない。

 

砂漠の民の魂の記憶を頼りに、移動する従属核は、砂からひび割れた地面の境界に達し、砂地から荒れ地そしてまだ土が残っている場所とグラデーションがかった地形が視界に映った。

 

(間違いない、岩山オアシスの水の魔石が届いていない廃村だ。)

 

岩山オアシスに近い村は、井戸水を水の魔石で維持しているので、砂漠の民の行動範囲を広げるための重要な中継地点となっているために、常にキャラバン隊が組まれ、水の魔石が運ばれているのだが、あまりに距離が離れていると水の魔石を運搬するのも一苦労のため、村人全員を岩山オアシスに避難させ、村は野ざらしとなっている。

 

(干しレンガの外壁も補修が長い間行われていないから、崩れてしまっている物も多いな、辛うじて土が残っているが、砂が大分入り込んでいて荒れ地になるのも時間の問題か・・・。)

 

従属核は、キャラバン隊の記憶を思い出しつつも、村の螺旋掘りの井戸へと向かい、水源がどうなっているのか確認しに行った。

 

(これは・・・酷い、土が僅かに湿っているだけで地表は干乾びているではないか、まともに雨が降らなかったが故に水脈も途絶えてしまっている。)

 

井戸周辺には、岩トカゲや野生のラクダなどが水を求めて訪れていたのか、特徴的な足跡がいくつも見つかった。

志半ばか、砂ネズミの干乾びた死骸が岩に挟まっているのを見て、どこか虚しさを感じる従属核。

 

(村周辺は、辛うじて乾燥に強いサボテンなどの植物が生き残っているが、これ以上は土地そのものが持ちこたえられなくなってしまうな、村跡地の保水力が完全に失われてしまう前に措置をしなくては!)

 

従属核はチューブ内の水流を強めて勢いよく履帯を動かして、外殻ごと螺旋掘りの井戸に飛び込んだ。

外殻は井戸の底に衝突すると弾け飛び、従属核は地面に打ち付けられるが、罅一つ入らず、眩く青白く輝き、井戸を中心として大地が脈動する。

 

螺旋掘りの井戸はむき出しの地層が、まるで陶器のように滑らかな質感となり、井戸の中心部に、岩山オアシスのコアルーム同様の感覚器たる魔石の柱が伸び、中央部に光り輝く従属核が鎮座する。

 

突如、従属核を中心として水柱が上がり、螺旋掘りの井戸が瞬く間に水で満たされ、村の各所の荒れた地面が、罅の隙間を通るように水が滲み、まるで大雨が降って止んだ時のように湿り気を帯び始めた。

 

(・・・・まぁ、これはおまけだな・・・。)

 

帰還を諦めていなかった住人の手によるものなのか、立ち去る最後の最後までメンテナンスしていた比較的状態の良い干しレンガの家は、従属核の放つ光に触れると、硬質化し、より丈夫で崩れなくなった。

 

殆どの家は風化して崩れ去ってしまっていたが、原形を残していて、手入れすればすぐにでも利用可能な施設は、従属核によって補強された。

 

既に井戸を中心として、散水管が村の周辺まで延ばされており、荒れ地を・・・特に砂の浸食が激しい場所に水を送った。

 

(土地の保水力が完全に失われていなくて良かった、あと少し遅れていたら砂漠に飲みまれていただろう。)

 

従属核は、神経の様なものを伸ばしながら地形の状態を確かめ、枯れた水脈を利用して土地を灌漑したり、周辺の生物の分布を調べたりしていた。

 

(・・・奇妙な反応が荒れ地に幾つかあるな?散水の湿気に反応して微弱な生命反応を感じる・・・。)

 

地表には砂蛇やサソリなどの他に、岩トカゲなども確認されているが、灌漑を行っている土地周辺に奇妙な生命反応を感じた。そこは、他の荒れ地に比べてやや窪んでおり、干乾びた草の様なものがいくつも見られた。

 

(こんなところに草が?・・・いや、確かこの窪地は雨期に水没して小さな泉が出来る場所だった筈・・・っという事は?)

 

従属核は比較的太い散水管を伸ばし、窪地を満たすように大量の水を流し込み、荒れ地はボコボコと空気を押し出しながら大量の泡を発生させ、茶色く濁った泥水となる。

 

(・・・・これは、やはり当たりか、微弱な生命反応が増大・・・いや、次々とただの物質に近かった存在が水を取り込み生物へと変貌してゆく!)

 

そう、泉の跡地は、肺魚の産卵地でもあったのだ。特に、この肺魚は乾燥に強い種らしく、産卵後そのまま放置しても孵化する事は無く、完全に泉が干乾びて卵もカリカリに一度乾燥しなければ孵化しない構造なのだ。

 

降水量が大幅に減少した現在でも、この大干ばつを生き抜くことに成功したのは、ほかの肺魚よりも抜きんでた乾燥への耐性である。

 

(岩山オアシスの肺魚よりも乾燥に強い種だが、卵の特性が特殊過ぎるから繁殖は難しそうだな・・・ただ、水源を維持するだけでは駄目か・・・。)

 

(だが、肺魚も水草も即席の泉に新たな生命の形が生まれつつある、もう少し時間をかけて観察する必要があるが、上手くいけばこれらの遺骸が積み重なり、保水力を持った土地への材料となるかもしれない。)

 

従属核は、螺旋井戸の中心部を深く深く掘り下げ、従属核本体を守りつつ地形操作に障害を発生させない程度に格子状の蓋を多重に取り付け、井戸の最深部をコアルームとした。

 

それから暫くして、螺旋井戸や泉の水源を目当てに岩トカゲやラクダなどが村跡地に訪れ、次第に砂漠の植物もその土地に根付き始めた。

 

後に岩山オアシスに避難した元住民が、運び忘れていた物を取りに、キャラバン隊を組み、村跡地に訪れるのだが、その目に映ったものは、草が生い茂って浸食されつつある廃村であった。

 

泉の跡地は、つい最近枯れたのか若干湿り気を帯びており、まだ薄っすらと緑色を残した干乾びた水草が転がっていた。

 

驚くことに、とうに枯れ果てたと思っていた螺旋掘りの井戸は、水をたたえており、澄んだ水が、こんこんと湧き出ているようであった。

 

目的の物を回収した後は、そのままとんぼ返りするつもりでいたキャラバン隊はこの光景に驚き、村周辺を徹底的に調査した後、岩山オアシスに帰還した。

 

岩山オアシスの住民はその情報に驚き、その中に、螺旋掘りの井戸に潜ったキャラバン隊が、井戸の中心部にごく僅かだが、青白い光が見えたという情報を聞き、岩山オアシスの主との共通点を見出していた。

 

まだ、確定したことではないが、大干ばつに襲われる砂漠の地方ではあり得ない奇妙な現象にどうしても岩山の主を思い起こして仕方がないのであった。

 

・・・・・・実は、岩山オアシスの住民に砂漠を横断する従属核が幾つか目撃されているのである。

 

 

・・・荷車の車輪の様な奇妙な物体が、水をまき散らしながら転がっていた。

 

・・・蜘蛛の様で生き物ではなさそうな物体が、ぎこちなく歩いていた。

 

・・・車輪と帯を組み合わせた箱の様な物体が、奇妙な跡を付けながら移動していた。

 

等々、今まで砂漠で目撃例のなかった奇妙な物体が最近目撃されるようになり、何れもその中央部に強力な魔力を宿しているらしく、特に車輪型の物体は、軸に青白く輝く結晶体が露出していたという話だ。

 

「岩山の主様が種子を飛ばしている。」

 

「死にゆく砂漠を救うための使者を送り出している。」

 

「この砂漠に住まう人々は救われる。」

 

確定した情報でもないのにもかかわらず、岩山オアシスの住民たちはより強い信仰心を地底湖に祀られる御神体に向けて、祈りを捧げ、迷宮核はより強い力を身に着けるのであった。

 

(ふむ、観察している限りではこの村の住民の健康面で悪影響はなさそうだが、これだけ強力なエネルギーを送っていて大丈夫なのだろうか?)

 

(万が一という事も考えられるし、やはり何かしら彼らとの意思疎通ができないか試す必要がありそうだな・・・。)

 

岩山オアシスの村は新たなキャラバン隊を編成している。おそらく、水源を復活させた村跡地の元住民たちであろう。

だが、どうやらこのオアシスで結ばれた新たな家族もそのキャラバン隊に加わっているようだ。

 

(父親の故郷を初めて見る少年と、魔物の侵攻で村を奪われて避難し、避難先で夫と結ばれた母親の新たな故郷への旅か・・・人と人の縁と言うのは不思議な物だな。)

 

(あの廃村は再建され、再び貿易のための中継拠点としての機能を蘇らせるだろう。)

 

(それこそ、あの周辺にはまだまだ村跡地が点在している筈・・・そちらも余裕があれば私の分身を向かわせたいところだな。)

 

工具や食料、そして岩山オアシスで育てた作物の種子や苗を詰め込んだキャラバン隊は、息を吹き返した故郷の地へと向かって出発する。

 

長い間、岩山オアシスの開拓に従事していた壮年の男たちは、手を振り送り出す仲間たちに涙を流しながら大声で何かを呼び掛けている。母親とその子供たちは、どこかもの悲しそうに、そして期待を胸に岩山オアシスを後にしてゆく。

 

(さらば同胞たちよ、そして暫しの別れ・・・向こうでも私は君たちと共にあるぞ。)

 

水源が復活した村の元住民たちは、砂漠を渡り故郷へと目指して旅に出た。

砂漠は、いつ砂鮫を始めとする魔物たちの襲撃を受けるか分からない危険地帯であるが、不思議と一度もキャラバン隊は魔物の襲撃を受けなかった。

 

しかしそれは、迷宮核が密かにキャラバン隊付近にいる魔物を散水管で興味を引いて誘導させ、魔物と遭遇させないようにしていたのだが、彼らはそれを知る由もない。

迷宮核は、過酷な環境に生きる魔物たちにも情けをかけていたのである。

 

(サポートできる圏外に到達したか・・・村跡地に到着するまで、支援は出来ないが、砂鮫は荒れ地の堅い土を掘り進むことは出来ないから、襲撃される危険性は低いな。)

 

(あの村が中継拠点として復活すれば、いよいよ本来の営みに戻れる。この大地に生きる民に未来あれ。)

 

岩山の主は、ただただそう願うのであった。



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蘇る大地

大干ばつに襲われる砂漠地帯、降水量は減り大河付近の国々にも影響が表れ始め、深刻な水不足に陥っていた。

しかし、交易ルートから外れ、今まで水源が確認されていなかった砂漠の端の岩山に、巨大なオアシスが形成されていた。

 

今まで小さなオアシスで暮らしていた砂漠の民は、大干ばつでそれぞれのオアシスを失い、大規模な水源が発見されたという噂を頼りに一か八か、交易ルートから外れた死の領域へと旅立っていったが、彼らが目にした物は岩山の側面から流れ落ちる滝と巨大な湖、そして岩山オアシスを開拓する人々であった。

 

岩山オアシス付近は少しずつではあるが、サボテン以外に草が生え始め、特に水源が近いところには茂みすら作っていた。

生命を育む事のない、ひび割れ砂と化した大地は、僅かな水分を取り込み砂地でも生きて行くことのできる植物や、それを捕食する動物の糞や遺骸によって、新たな生命を育む土壌に生まれ変わろうとしていた。

 

局所的ではあるが、大河付近の生態系に近い環境になり、本来の砂漠の生態が守られ、大干ばつによる大量絶滅を辛うじて回避していた。

 

勿論、広大な大砂漠では微々たる影響しかないが、オアシスを生み出し続ける迷宮核の当面の目標は砂漠の民の保護と地盤固めであり、概ね目標は達成している。最終的に砂漠を緑あふれる土地へと改良したいところだが、その目標は未だ遠い。

 

従属核を岩山オアシスの上部から射出し、周囲の探索や枯れたオアシスの復活、魔物に襲撃され行動不能になった従属核の回収などを行っているが、それらの試みは次第に成熟し、情報収集や砂漠での調査活動の技術が向上し、ごく最近従属核による土地再生能力を向上させた魔石パッケージ型従属核が運用されるようになっていった。

 

まずは、ワインボトル程の大きさの従属核の周りを地の魔石や水の魔石でコーティングし、その周りを砂を固めた岩石で覆い、下部に火の魔石を組み込み、それを炸薬にして岩山オアシスから射出される。

 

岩山オアシスの発射口を飛び出すとともに従属核は、燃焼ガスを受け止め加速のエネルギーを稼ぐ周りを覆う岩石をその場で切り離し、魔石と従属核のみが上空に打ち上げられる。

ある程度の高度に達し、速度も低下し始めた頃に、魔石部分を変形させ薄くて丈夫な翼を形成し、グライダー滑空状態になり飛距離を稼ぐ。

目的地上空に達すると、翼を収納し、砂地や荒れ地を目指して自由落下し、地面に深々突き刺さったのち、地の魔石を使って水が漏れない構造に地形操作をし、水の魔石の魔力を開放し中規模のオアシスを形成する。

これが、長年の土地再生の経験によって生み出されたパッケージ・スレイブコアの力である。

 

主に従属核による灌漑は、復興したオアシスの村付近で行われ、水を求めて砂漠に散った民が集まりやすいように旧・交易ルートを中心に迷宮オアシスが広がって行った。

 

大干ばつの影響で個体数を大幅に減らしていたと思われた砂漠の生物たちは、目敏くそれを見つけ、人間が見つける前にそこを繁殖場所として選び、砂鮫などの大型の魔物がオアシスに居座って交易ルートの開通の障害となる事もあったが、それは別の話である。

 

「砂漠の神が生み出したというオアシスは調べる限りでは、旧・交易ルートに沿ってオアシスの生成が行われているようだ。」

 

「やはり、我々を見守る偉大な存在がこの砂漠のどこかに居るらしい。」

 

「もしかしたら、この大干ばつを我々は乗り越えることが出来るのかもしれん。」

 

砂漠の民は、少しずつ広がるオアシスに希望を持ち始めていた。

食料として持ち込んでいた水モロコシを食べずに、我慢してまでオアシスに種子を植え付け、滅びた村の廃材を再利用して新しい村づくりをする者も居た。

 

後に、交易ルートに伸びる草の茂みは、緑の帯と呼ばれるようになり、砂漠を往来する人々にとって欠かせない目印となって行くのである。

 

そして、何よりも従属核によって生み出されたオアシスの中心部に、魔石の柱に覆われた虹色に輝く柱が立っているのである。岩山オアシスに祀られる御神体と同じ質感の魔石柱が必ず中規模オアシスに存在する事が確認されて以降、砂漠の民にとって迷宮核の存在はまさに神格化されたものとなっていた。

 

新たに開拓された交易ルート上の村々は、日替わりで男たちが毎朝オアシスの中心まで泳ぎ、祈りを捧げ、悪意を持った者に傷をつけられていないか確認する習慣が出来ていた。

 

(毎回毎回、切り離した私の分身に祈りを捧げるために泳ぐのは大変そうだな、分身体を見守ってくれるのは有難いが、万が一溺れてしまってはいけない、少し余計に魔力を消費してしまうが、祈りを捧げる習慣のある村には、分身体に行くための道くらいは作ってあげようかな?)

 

砂漠の民の喜ぶ姿に上機嫌な迷宮核は分身体である従属核を操作して、泉の中心部へと延びる道を作り、岩山オアシスの地底湖の照明にも使っている光る水晶の柱を水面に突き出し、夜にだけライトアップする構造にしてみるのだが、それをやった日には交易ルートの村々の人々は狂喜し酒に酔って我が子や妻をオアシスに投げ込む者も出始めていた。

 

(少しばかりやりすぎた気もするが、砂漠の人々が喜んでくれてよかったよ。)

 

(しかし、私の分身体を各種の魔石とパッケージ化して射出するのは、まだまだ改良できそうだな?そもそも、土地を灌漑しても魔力を回収するための動植物が居ない無生物の状態では、魔力を生み出すことは出来ない・・・ならば、最初から種なり卵なり一緒に詰め込んで射出出来るのではないか?)

 

迷宮核は肺魚に偽装した従属核を地底湖に幾つか放ち、砂を固めて作られた肺魚型の外装の物体がヒレに当たる部分から水流を発生させながら地底湖の水モロコシの種子や肺魚の卵を回収して行く。

 

実は、この時、地底湖で漁を営む女性や子供たちに肺魚型の奇妙な物体を目撃されており、迷宮核の使いが地底湖に居るという事で、岩山オアシスの巨大湖に奪われつつあった人気を取り戻し、砂漠の神のお使い探しがブームとなるのであった。

 

(動植物の種子や卵を含んだパッケージの射出は、最初は生のまま打ち上げてしまって、潰れて失敗、水モロコシと肺魚の卵を乾燥させての射出は、水モロコシのみ発芽をし、乾燥した肺魚の卵は全て孵化失敗、やはりここの肺魚の卵では無理なのか?)

 

(いや、螺旋井戸の村の肺魚は一度乾燥してから孵化する種の肺魚だった筈・・・彼らの卵ならもしくは!)

 

迷宮核は螺旋井戸の村の従属核を操作して、水抜きをして乾燥し始めた泉の泥の中に埋もれる肺魚の卵を管を伸ばして回収し、新たに打ち上げられた回収専用の従属核に乾燥に強い肺魚の卵を引き渡す。

 

この時、回収用の迷宮核は螺旋井戸の村の住民に目撃されており、岩石でできた巨大な蜘蛛が、岩山オアシスの向こうに歩き去って行ったと伝わり、一時岩山オアシスの村に厳戒態勢が敷かれたが、回収用従属核は、外殻を岩山オアシス手前でパージして、迷宮核から延ばされた迎えの管を通って行き、岩山オアシスの住民に見つかる事は無かった。

 

(実験がてら生物に偽装したフレームを使ってみたが、走破性が高いわりに目立ってしまってしょうがないな・・・せめて、その分身体が私に関係あるものとして砂漠の民に伝える方法があれば、攻撃されないのだが・・・。)

 

(そうだな・・・まずは、私を模した紋章を彫り込んでみるか、六角形の結晶の周りに佇む複数の柱、それを簡略化して・・・・こんなものだろうか?)

 

地形操作能力で、洞窟の壁を削り、絵を描く迷宮核、どことなく生前教科書で見かけた壁画を思わせる簡素化された迷宮核本体のシルエットに、内心苦笑いしつつ、岩山オアシスの村の外壁や、洞窟に祀られる御神体の裏側の壁、そして砂漠に散った従属核の中型オアシス群に、共通の紋章が描かれた。

 

日が昇ると交易ルートの中規模オアシスは元より、生活が安定して余裕のある岩山オアシスの住民たちも狂ったようなお祭り騒ぎとなっていた。

 

「岩山の主様、いや、砂漠の神様の紋章だ!!」

 

「この大干ばつは必ず乗り切れる!!」

 

「この紋章こそ、我らを結ぶ楔となり、栄光となる!!」

 

「俺は、拳に刻み付けたぞ!この紋章!砂漠の民に加護よあれ!!」

 

砂漠を横断する従属核が攻撃を受けない様にと、識別のために作った紋章は、思わぬ砂漠の民の結束を産み、彼らにとっての強大なアイデンティティーとなった。

 

魔力が溜まり次第打ち上げられる、従属核にも刻まれるその紋章は、砂漠の神の使者たる印とされ、それらが目撃された地域周辺に新たなオアシスが誕生する印となった。

 

そして、それはごく最近、僅かながら再開された交易によって砂漠の外の国々に噂として伝わり始め、眉唾物ながら交易が再開された理由に興味を示し始める者が出てくるのであった。

 

「大干ばつに襲われる砂漠に比べて、我が国の方が降水量があるが、それでも水不足の問題は深刻だ。」

 

「それでも砂漠の民は、生き残っていた。彼らが渇きに対して対策が出来ていたのもあるかもしれないが、それでも真っ先に滅んでもおかしくない彼らが生を繋げているのは些か不自然だ。」

 

「何か秘密があるに違いない、それに今まで彼らになかった共通する紋章・・・一体何が彼らを結束させた?」

 

「ふん、水を求めて自ら奴隷として堕ちる連中だ。姑息にも、自分たちを孤立させないために思いついた浅知恵に過ぎぬ。」

 

「砂漠に水の魔石だと?幻覚でも見ていたのだろう?もしくは蜃気楼か?ははは」

 

大河の国々は砂漠の民が信仰するという、砂漠の神と言う存在を一笑に付す者ばかりであった。

 

・・・しかし、絶滅を免れた砂漠原産の希少植物群は、大河の国々にとって魅力的に映り、砂漠の希少品を取り扱う砂漠の交易の再開は、砂漠の外の国々に歓迎される事となる。

 

そして、砂漠の外の各国の民で構成される砂漠横断交易キャラバンは、目にする事になる。交易ルート上に現れた奇妙なオアシスと、それらに共通する紋章を・・・・。

 

無駄に凝り性な迷宮核が調子に乗って紋章を刻んだその溝に光る水晶の粉末を溶かし固めて夜に発光するように仕上げた物は、砂漠の外の国々に強烈な印象を与える事となった。

 

「もしかしたら、砂漠の神って実在するのでは?」

 

「そ・・・そんな事ないだろう?砂漠の民が、どっかから石材を調達して自分で作ったに違いないさ・・・は・・・はははっ」

 

「あたしゃそんなもん気にしないさね、砂漠のど真ん中で水浴びが出来りゃどうでも良いさ。」

 

「おかっちゃんは、豪胆と言うか、細かい事は気にしないんだなぁ・・・さて、山脈を迂回できるようになったし、じゃんじゃん稼がせてもらうぞ!」

 

交易が再開したことで生まれた喜びの感情や、生きる意志は各中規模オアシスの村の従属核に届き、それを通じて迷宮核の力は更に高まる事になった。

局所的ながら、ひび割れて乾燥した大地は蘇り始め、砂漠本来の生態が大干ばつ前の状態に戻りつつあった。





【挿絵表示】

紋章は大体こんな感じのイメージです。
絵を描くのは好きですが、上手くは描けませんですOTL


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音響装置

大干ばつによるオアシスの集落群の壊滅で、岩山オアシスに避難した砂漠各地の民は、文化的な繋がりが薄いながらも、手を取り合って岩山オアシスの開拓を進めていた。

 

本来ならば、それぞれの村から出る事が無く一生を終える筈だった人々も、一か所に集まる事で交流が生まれ、出身の異なる者同士が結ばれることもあった。

 

そして、新しい世代たる子供たちは、砂漠にぽつりと浮かぶ岩山オアシスを遊び場として歩き回り、小柄故に狭い場所にも入り込むことが出来て、時に大人が見つける事の無かった発見をしたり、野生動物に襲われて怪我をする事もあった。運の悪いものは自然の摂理に従う事にもなるが・・・・。

 

「ねぇ、君・・一体何をしているの?」

 

「ん~?光る水晶を触っているの!」

 

岩山オアシスの内部・・・特に、地底湖は危険な生物はあまり確認されておらず、何処からか迷い込んだサソリに極稀に刺されるくらいしか野生動物の被害は確認されていない、つまり比較的安全な遊び場所である。

 

「不思議な石だよねー!透き通っていてぼんやりと、そして蝋燭よりも明るく光るんだもん。」

 

「砂鮫のお腹から蝋燭作っているみたいだけど、あの臭いってきついよねー・・・ぼくはこっちの方が好き!」

 

「あたしは別に平気だけど、光り方というか、このぼんやり具合が蝋燭よりも好きかな?」

 

迷宮核によって多数設置されている光源の水晶だが、村人たちはこれらの採掘を禁じており、開拓初期に極少量試料として回収されたもの以外は、そのままの状態である。

ちなみに、光る水晶は岩山オアシスの外部に出ると急に光が弱くなり、最終的に消えてしまうのでキャラバン隊の光源には使えないと判断された。

 

本当は、魔力を供給すれば発光する仕組みなのだが、迷宮核に信仰心を持つ村人は、砂漠の神の加護が消えてしまうからだと解釈してしまい、携帯可能な光源としての利用は試みられなくなってしまった。

 

「ここは昼でも涼しいから快適だよねー!」

 

「うまくいけばお魚さんも捕まえられるしねー!」

 

「えぇ?あんなすばしっこいの無理だよー?」

 

水汲みをしている大人が一応監視しているが、基本的に子供たちは自由に遊ばせているので、よっぽど危険な事をしない限り大人が干渉する事は無い。

夜遅くに水遊びする様な子供には流石に怒るが・・・。

 

(ふぅ・・・水脈の調整はこんなもので良いかな?さてと、この時間帯は子供たちが走り回っているな・・・。)

 

(ふふふ・・・かつてこのオアシスに来た子供たちは、今はもうこの子たちの親か、時が流れるの早いものだ。)

 

(時々危ない遊びをしている子供が居るが、そういう時に声をかけることが出来れば・・・ふむ、やはり何かしら砂漠の民との意思疎通手段を考えるべきか?)

 

迷宮核がそう考えているのを知らずに、子供たちは岩山の地底湖周辺を遊び場に同年代の遊び仲間と走り回っている。

 

「あ!これ、おもしろい!」

 

「ピカピカ触ったらお父さんとか村のおじさんとかに怒られちゃうよ?」

 

「みてみて!石で叩いてみると変な音がする!」

 

「あ!本当だ!あはは面白~い!叩く場所かえると音が違うー!!」

 

光る水晶を手ごろな大きさの石で叩いて音を楽しむ子供たち、意外と丈夫な水晶は子供程度の腕力で割れる事は無く、軽快な音を発している。

 

(あぁ、懐かしいな、コップに水を入れて音階を楽しむ遊びは生前も子供たちの定番の遊び道具であったな・・・水晶でそれを再現しているのか・・・。)

 

(ふむ、音を反響しやすい材質の鉱物でも使って楽器が作れそうだな・・・うん?まてよ?)

 

村の様子と、従属核の状況をせわしなく確認しながら並行作業を進める迷宮核は、分けた思考リソースを僅かばかりに子供たちに向け、水晶を叩いて遊ぶ子供たちに何か引っかかるものを感じていた。

 

「キンキン音がして面白いね!」

 

「こするとまた変な音がするよ!あははは!」

 

(・・・・・・!!!)

 

子供たちが凸凹した石で水晶を擦り、細かく振動して独特の音を発したところで迷宮核の脳裏(?)に稲妻が迸った。

 

(振動・・・・そうか、スピーカーだ!)

 

(確か、音が振動する物ならば紙コップでもスピーカーが作れた筈、特に水晶は良く振動する性質を持つ物体だったな、もしかしたら地形操作能力を応用すれば・・・。)

 

・・・・ーーーーーーーこぉん・・・・。

 

「ふぇ?今の音は何?」

 

「はれ?あんな形の水晶なんて生えてたっけ?」

 

いつの間にか、地底湖の端っこに板状の光る水晶が生えており、まるで人為的に削られ成形された様な奇妙な形状をしており、明らかに浮いた存在感を放っていた。

 

「行ってみよう。」

 

「え?うそ・・・あたしこわいよ!」

 

「なんだい、どきょー無いなぁ。」

 

「あの、うしろついていっていい?」

 

「こわいんじゃ無かったの?べつにいいけどさ」

 

「だってきになるもん。」

 

 

未知の物体に対する好奇心と恐怖心、今は大人たちは魚を取りに潜っていたり、水を汲んでいるので注意がそれている。今なら大人たちに止められることも無く、未知の物体に近づくことが出来るまたとない機会、好奇心旺盛な子供たちに止まる理由は無かった。

 

「ふぇぇ・・・綺麗、いつのも水晶とは違うみたい。」

 

「なんだろうね?コレ?」

 

『こ・・・おん・・・キーン・・・。』

 

「やっぱり変な音でた!」

 

『ヤア・・コドモタチヨ・・・ゲンキカイ?』

 

「っっっ!?」

 

「ひっ!!」

 

明らかに人間の声ではない、奇妙な音、自然に囲まれて暮らしている人間には一生耳にしないであろう合成音。もし、ここに地球人が居たならばロボットの声と表現したであろう。

 

『ソロソロ・・・クラ・ク・・ナル・ヨー?キヲツ・ケテ・カエルン・ダヨー?』

 

「ぴぎゃあああああああああ!!!」

 

「喋ったああああああああ!!!」

 

「キェアアアアア!!!」

 

光る水晶の板の放つ声ともとれる奇妙な音に、合成音に耐性のない子供たちは未知の体験すぎて恐怖心に駆られ大泣きしながら、洞窟の外へと逃げて行く。

 

(あらら・・怖がらせてしまったか、まだ調節が上手くできないな・・・だが、これでやっと砂漠の民とも意思の疎通ができる!!)

 

子供たちが悲鳴を上げながら洞窟から出てくる様子を見た大人たちが慌てて子供たちを追いかけたり、武器を構えた村の守り手が洞窟に突入したりと、大騒ぎになってしまったが、程なくして新たに設置された水晶板が発見され、魔術師を含めた調査隊が派遣されることになった。

 

「これは一体なんだ?光る水晶と同じ材質で作られているみたいだが、こんなものは生まれて初めて見る。」

 

「餓鬼どもが何か叫んでいたが、こいつが何かしたんだろうか?」

 

「ふむ?魔力の流れで明滅する以外、これと言って変わった部分はない水晶の板みたいね?」

 

派遣された調査隊が、水晶板を拳の裏で軽くたたいたり、撫でたりしながら検分するが、魔術的な仕掛けがされている訳でも無い、奇妙な水晶の板に首をかしげていた。

 

『ヨ・・・。』

 

「ん?なんだ?」

 

『砂漠ノ・・・民ヨ・・・。』

 

「な!?しゃ・・・喋っ・・。」

 

『我ラハ・・・コノ地デ、果テタモノノ魂ナリ』

 

「この声は・・・岩山の主様・・・いや、砂漠の神の声なのか!?」

 

『干バツノ、脅威ガ迫ル時モ、我ラハ共ニアル・・・忘レルコ・・ナカ・・レ・・・。』

 

途中で音が聞き取れなくなり、水晶板は罅が入り砕け散ってしまった。

調査隊の面々は、特に魔力の感受性の高い魔術師の女性は、感動のあまり唇を震えさせていた。

 

「偉大なる存在は確かに実在した!加護と共にあれ!!」

 

「魂がどうとか・・・そして我らとは?」

 

「神であれ、大地の礎となった英霊たちであれ、我らは大いなる存在に守られているのだ。これ程の栄光は他にない!」

 

「どう見ても何の仕掛けもない光る水晶の板だったのに・・・どのようにして音が・・・やはり神の奇跡だったのでは・・・。」

 

調査隊は例外的に、砕け散った水晶板を回収し、開拓初期よりも整った設備の魔術研究所で水晶板を調査した結果、魔力を込めると光る性質があるのを突き止めた、しかし、音が鳴る仕組みは解明することが出来ず、ますますもって偉大なる存在・・・砂漠の神の力が如何に特別か思い知る事となった。

 

(加減を誤って会話の最中に水晶板を破損させてしまった・・・破片が刺さらなかったのは不幸中の幸いであったが、上手くいかないものだな・・・。)

 

(だが、手ごたえは感じていた。これをもっとうまく扱えるようになれば、声は勿論の事、町内放送みたいなモノだって実現できるのでは・・・・?)

 

音響機器たるスピーカーの改良が出来ないかコアルームで試作品を作っては解体してを繰り返す迷宮核、彼を構成する魂の中で生憎機械に詳しい人間はおらず、齧った程度の素人知識で試行回数を増やして、実験するしかなかった。

 

そんな時に、先日悲鳴を上げて水晶板から逃げ出した子供たちが水晶板のあった場所に訪れており、砕け散った水晶板に頭を下げていた。

 

「逃げたりしてすみませんでした!」

 

「っ・・・でした!!」

 

「これからも、ぼくたち、わたしたちを見守っててください!」

 

「ください!!」

 

子供たちは、おずおずと腰の金具に引っかけてあったパピルス紙を取り出すと、中身を見せて、それを割れた水晶板の前において、そそくさと立ち去ってしまった。

 

(貴重なパピルス紙に謝罪文がびっしりか・・・子供はそんなの気にしなくて良いのに・・・?あれ?)

 

(パピルス・・・紙?・・・紙?執筆?・・・あ・・ああああ・・・!!)

 

迷宮核の脳裏に再び稲妻が迸る!

 

(最初から・・・最初から地形操作能力で文字を刻めばよかった・・・・。)

 

如何にして、こちらの声を砂漠の民に伝えるか考えていた迷宮核は、思考の袋小路に入り込んでしまい、彼らの頭脳から筆談と言う意思伝達手段をうっかり忘れさせていた様だった。

 

(ま・・・まぁ?筆談だと、こちらが文字を見せようと試みても、必ずしも読んでくれるわけでもないし、お陰で声を使っての直接的なコミュニケーションの実験を開始するきっかけも出来たし、悪い事ばかりじゃないんじゃないかなぁ?)

 

(・・・・かなぁ・・。)

 

迷宮核は何だか急に年を取った気分となり、微妙にブルーな気持ちとなるのであった・・・。



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死の海からの迷子

『・・・・・キュオオオオン・・・ジジジ・・・。』

 

『キィィィィン・・・ガリガリ・・・バリバリ・・・ジジジ』

 

岩山オアシス付近で度々目撃される岩石に足や車輪がついた様な物体が、奇妙な音を発している。

砂漠の民は今まで、見た砂漠の神の使者と思われる物体がこんな奇妙な音を発してはいなかったので、ますます畏怖の念を覚えるのであった。

 

「今まで新種の魔物だと思っていたモノ が、まさか岩山の主様の使者だったなんて・・・。」

 

「あぁ、あの神々しい紋章と大地を再生させる神通力、間違いない。」

 

「しかし、今まで言葉を発したことは一度もなかったと言うのに、我々には聞き取れない神の言葉を発するとは、きっと何かが起きたに違いない。」

 

「いや、洞窟の地底湖でちゃんと聞き取れる声で話したという事も聞くが・・・もしや、聞き取れる者と聞き取れない者が居るとか?」

 

「つまり、最初に神の声を聴いた子供たちや調査隊の者たちは特別な資質があるというのか?」

 

砂漠の民の守り手が歩哨に立ち村周辺を警備しているが、それなりに離れた位置に居ても砂漠の神の使者が発する音が聞こえてくる。奇妙な威圧感を感じつつも、砂漠の神に守られているという心強さから、守り手たちは気を引き締めて任務を続けた。

 

 

(うーん、スピーカーの原理は聞きかじった事はあるが、作るともなるとここまで難しい物とは・・・遠征部隊に搭載してみたが、操作し辛い外部環境ではまともな運用は出来そうもないな・・・かなりアナログな操作だし・・・。)

 

『キィィィィン・・・ジジジ・・・パリン!!』

 

(材質から見直した方が良いのか・・・うーむ、パピルス紙とかは使えないだろうか?いや、勝手に村の物を使っては失礼だし、常に物資が不足しているのだ、やはり私の力で何とかするしかないか・・・。)

 

(うん?あれは・・・砂鮫か?村周辺に接近するとは珍しい、何かを追いかけているのか?)

 

従属核を経由して砂鮫を確認すると、砂鮫の進行方向に人影が見えた。

明らかに焦っている様子で、岩山オアシスの村へ全力疾走している様だ。

 

(いかん、村人が襲われているではないか!・・・しかし、此処からでは手が出せない上に近隣に中継用の分身は設置していない、地形操作での救助は不可能・・・どうすれば!!)

 

村の守り手が、異変に気付き弓を構えるが、砂鮫は今にも村人に追いつき食らいつこうとしていた。

 

(!!そうだ、風の魔石と水晶スピーカーを組み合わせればもしくは・・・・頼むから効いてくれよ・・・。)

 

4つ足フレームの従属核は、上部から水晶板を生成し、従属核の内包魔力を絞り出してビー玉サイズの風の魔石を水晶板の手前に生成すると、水晶板が振動し、最大出力で音を発した。

 

『キィィィィン!!!!』

 

水晶板が耐え切れずに破裂すると同時に、小型の風の魔石を砕き魔力暴走を引き起こし、従属核の魔力制御能力で暴走魔力を一定方向に流し、音響ビームを砂鮫に照射する。

 

キシャーーーーーー!!?

 

「うわぁ!?な・・・何だぁ!?」

 

捕食しようと口を開いた一瞬の無防備な体勢の真横から鼓膜を破壊せんばかりの強烈な音を叩きつけられ、砂から飛び出して、平衡感覚を失ったように転げまわる砂鮫。

 

村人は音響ビームの範囲外にいたために、何が起きたか分からず、殆ど頭の中を真っ白にしながら砂鮫から逃げ続ける。

 

「食らえ!・・・よし、今だ!逃げろ!!」

 

守り手たちが、サソリの尻尾から抽出した毒の毒矢を砂鮫の急所である柔らかい腹部や眼球に撃ちこみ、逃げる村人を援護する。

 

砂鮫は苦しそうにもがくが、次第に動きが鈍くなってきて、体を痙攣させる。

最後には、増援の守り手たちが大槍を集団で砂鮫の弱点部分に突き刺し止めを刺した。

 

(見事な連携だな、しかし何で砂鮫がこんな所まで?見たことも無いサイズだ・・・。)

 

大物の砂鮫の死体に集まる岩山オアシスの村人たち、村の有力者たちが深刻そうな顔で縄で引きずられる砂鮫の死体を横目に何かを話している。

 

「父さん、この砂鮫って・・・。」

 

「あぁ、死の海で確認されている大砂鮫だ。幾ら交易路から外れた砂漠の端だからと言って、砂の粒子の荒い場所まで現れるとは・・・。」

 

「見たことも無い大きさだね、お母さん、あの砂鮫って特別大きな種類なの?」

 

「ラナよりも私の方が詳しいぞアイラ?死の海と呼ばれる、やたらと細かい砂粒の領域があってな、少しの重さの物でも砂に飲み込まれてしまうため、サボテンなどの植物が根付きにくい場所で、殆どの生物は近寄らない場所なのだが、砂が細かいが故に大型の魔物が身を隠しやすいので、巨大な魔獣の楽園となっているのだ。」

 

「おじいちゃん物知り!・・・あれ?ってことはあの砂鮫ってそこから来た魔物なの?」

 

「あぁ、しかも死の海の生物の中でも比較的小型の部類だ、通常はもっと大きな奴に食われるのだが、きっとそいつから逃れるために泳ぎにくいこの場所まで住処を追われたのだろうな。」

 

「アイラ、岩山で遊ぶのは良いけど、絶対に砂地に出ちゃだめよ?もしあなた達に何かあったらお母さんは・・・。」

 

「あー・・・うん、そこは大丈夫だよ、わたしお姉ちゃんだし、むしろラーレとジダンを窘める側だから。」

 

「うふふ、私の可愛い子供たち、みんな私の宝物よ。」

 

「きゃっ!?も・・もう!お母さんたらっ!」

 

アイラを抱き上げ村の門に向かうラナ、アイラはラナの胸元でもがくが途中で抵抗を諦め、ぼーっと運ばれてくる砂鮫を眺めるのであった。

 

(死の海の魔物・・・か、確かにその単語は何度も村の中で耳にしたし、大体の位置は把握しているが、分身体の損失を避けるために探索はしていなかった・・・こうなると、大型種の砂鮫が迷い込んだ原因を調査しなければならなくなったな・・・。どうしたものか)

 

迷宮核は、オアシスの水脈調整の作業の傍ら、新たに発生した問題に頭を悩ませつつ複数に分けた思考のリソースを死の海の領域の探索用フレームの開発に当てるのであった。

 

「・・・それでさ、命からがらあの化け物から逃げ切った訳だが、砂鮫が苦しみ始めなかったら今頃食われていただろうな、思い出すだけでも体が震えるよ。」

 

「守り手たちが言うには、砂漠の神の使者様が鋭い緑色の光を放ったら、砂鮫が横から殴られたように吹っ飛んで、苦しみ始めそうだぞ?」

 

「え?じゃぁ、使者様は俺を救ってくれたというのか?」

 

「一瞬の出来事だから、あんまりはっきりしていないんだが、恐らく何か魔法を使ったのだろう、それもあの巨体の砂鮫が自由を奪われるくらいに強烈な・・・。」

 

「おお・・・まさに、砂漠の神様のご加護だ・・・そう言えば、最近使者様を村周辺でよく見かけるようになったが、これを見越していたのでは・・・・。」

 

「きっとそうだろう、そう言えば何か奇妙な音を発していたそうだが、神の言葉で使者様同士で連絡を取り合っていたのかもしれんな。」

 

「はぁ、神の声を正確に理解できたのは村長の所の末っ子ジダンと取り巻きの悪ガキども、後は魔術師達くらいか・・・全く羨ましい限りだよ。」

 

命からがら砂鮫から逃げた男・・・行商キャラバンの連絡員は、雑談仲間と輸入品の果実酒を飲みながら談笑を続けるのであった。

 

(はぁ、何だか最近私がますます神様扱いされるようになってしまっているな・・・正直うんざりしているが、ここで下手な事をすれば砂漠の民がまとまらなくなってしまう。頃合いが来るまで裏方に徹するべきだろうか・・・。)

 

(ふむ、交易は砂漠の希少品との交換で順調に販路を開拓している様だな、上手く軌道に乗れば岩山オアシスも大きく発展するだろう。)

 

(死の海調査用のフレームの構想も進んだし、風の魔石を利用したホバー推進のテストを少し離れたところで行ってみるか、機会があるか分からないが水上での運用も考慮して水魔石で小さな泉を作って実験してみても良いかもしれないな。)

 

(現時点では分身体の損失は1体も無いが、まだフレームの運用技術が未熟な時に足を砂鮫に破壊されて立ち往生した時は、流石に焦ったな・・・魔力切れで動けないから僅かな魔力で岩壁を作って身を守るしかできなかったが、回収用の分身体で砂鮫を追い払っていなかったら分身体を砕かれていたかもしれん。自衛用の機構と予備の魔力は必要だな)

 

迷宮核は、遠征用従属核に自衛用にあえて脆くした光の魔石を多数搭載するようにしている。フレームの形状は地形に合わせて様々だが、従属核本体を守る外殻の上部の穴から射出され、地面に落下するとともに光の魔石が砕け散るようにしてある。

強烈な閃光を放ち、視覚があまり発達していない砂鮫や巨大サソリすらも暫く気絶させることが出来るので、砂漠の生物の命を奪う事なく無力化する自衛装置として重宝しているのだ。

 

そして、今回新たに音響ビームが自衛装置として加わり、従属核は歩くスタングレネードと化する事になった。

 

(死の海は、あの巨大な砂鮫すらも餌とする怪物が生息する危険地帯・・・分身体を調査に向かわせるにせよ、子供だまし程度の自衛手段じゃ無意味かもしれない。)

 

(この世界は弱肉強食・・・それは食う場所のないであろう私の身ですらも例外ではない、生物の命を奪う覚悟、死の海では今まで以上に分身体の損失を覚悟して万全の態勢で挑むべきだろう。)

 

コアルーム内に小さなラジコンの様な物体が風を下部に噴射しながら、地面を滑っている。それ以外にも、小さな蜘蛛、車輪、ボール、ソリ、魚など様々な形状の物体がそれぞれの動作をしながら地面を這っていた。

 

(・・・・しかし、実験のためとはいえミニチュアフレームは子供のおもちゃみたいだな・・・傍から見ても子供部屋状態だ・・・終わったら解体してしまおうか・・・。)

 

迷宮核は、従属核に機動力を持たせるため様々なフレームを試作しているが、それら試作品が岩山オアシスの外で大型化され、稼働実験が行われるまで通るものは少なく、さらにその中から採用されるものは更に少ない。

 

今でこそ、従属核のパッケージ化が進んでいるが、それは無数の候補の中から勝ち抜き採用されたものであり、魔石の力でごり押しする仕様の武装従属核も候補上位に残っていた。迷宮核の温厚な気質に合っていない事と、ランニングコストが高すぎるので配備を見送ったが、死の海調査に限ってはそんな事を言っている余裕ものないのだ。

 

(まぁ、最悪フレームを破棄して上空に打ち上げた後、空から帰還させる方法もあるか、全く魔力消費に優しくないなぁ・・・。)

 

 

迷宮核は、厳しい砂漠を生き抜くために日夜研究を続けるのであった・・・・。

 

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武装従属核フレーム

 

まるで戦車を思わせる強靭な外殻と、砂鮫の息の根を止める事が可能な武装を搭載している従属核の重武装フレーム。

油圧アームで突き刺す単純な攻撃法から、粒状の火の魔石の力を開放し発生した爆圧を直接目標に当てたり、破片を浴びせたりする殺傷力の高い攻撃法もある。

従属核のフレーム全般に言える事だが、水力タービンを動力としているので全くノイズが無い訳でも無いが、地球の化石燃料動力の自動車に比べると稼働音は低い。



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魔石加工術

(今日も給水キャラバンが他のオアシス村へ出発か・・・。)

 

ラクダの背中に荷物を載せて手を振る男達、そして青く透き通った石を麻袋へしまい込み、砂漠の奥へ消えて行く。

 

(そう言えば、水の魔石を砕いて小分けにして運搬している様だが、どのようにして爆散させないように砕いているのだろうか?)

 

迷宮核は小さな水の魔石を生成すると、地形操作能力でプレスし砕いてみるが、水が迸りコアルームの床がびしょ濡れになってしまう。

 

(普通に砕けばこのように水を噴き出して残りは魔力として霧散してしまうのだが、まるで普通のガラスの様に砕いて小分けにしている仕組みが理解できないな。)

 

(そう言えば、水の魔石は発見され次第、一度魔術師の研究所へと一まとめに送られるんだったな、今一何をやっているのか分からないが、もしかしたら何かしらの処置をしているのかもしれない。)

 

迷宮核は視覚移動をして、魔術師の研究所の内部を覗き見てみると、黒いローブの魔術師達が、回収された魔石の山に何やら手を加えている様だった。

 

「ふぅ・・・地底湖での農業や漁は、外の巨大湖で行われるようになって前よりも地底湖で食料調達する者は減ったから、素潜りで魔石を調達してくれる人も減って暇を持て余すよ。」

 

「岩山の主様が自ら砂漠の干ばつに立ち向かってくれているお陰で、水の魔石もさほど使わなくて良くなったから別にいいんじゃないか?」

 

「そうは言っても、備えと言うものは必要だろう?水の需要は大干ばつの影響で何処も高騰中だ。」

 

「まぁ、我々が仕事をたたんでしまったら長距離運搬に向かない未処理の魔石をキャラバン隊に持たせる羽目になるからな・・・。」

 

「不活性化処理をしていない魔石なんて持たせたら、運搬中にドカンだ、水の魔石だからまだ良いものの、これが火の魔石だったりしたら目も当てられない。」

 

「火の魔石かぁ・・・そう言えば村長が特注品の加熱調理器具を持っていたなぁ、確か此処を見つけたときに、巨大サソリの幼体を調理したって話を聞いたことがあるが、火の魔石は此処では見つかっていないんだったな。」

 

「まぁ、火山の山頂付近で見つかる魔石がこんなところにある訳ないだろうな、水の魔石が此処にあるのも冷静に考えればおかしいが、岩山の主様のおわす神聖な土地だ、我らに一番必要としているものが水とお考えの様なので水の魔石が生まれるのだろう。」

 

「その気になればどんな魔石も生み出せたりして・・・なんてそう旨い話は無いか、何にせよどんな事も神頼みと言うのはどうにも格好がつかない、岩山の主様のお手を煩わせることが無いように頑張らないとな・・・。」

 

「もっとも、肝心の魔石が無ければやる事と言えば、薬草弄りくらいしかないのだが・・・。」

 

迷宮核は、普段無口で黙々と作業している魔術師が珍しく雑談しているところを耳にして、魔石が不活性化処理をされている事を知った。

 

(なるほど、不活性化処理か、そうすれば安全に魔石を砕けるのかな?まぁ、いきなり火の魔石みたいな危険物で実験するのは危ないから、比較的無害な光の魔石でやってみるか・・・。)

 

魔力を込め、光の魔石を生み出すと、硬い音を立てて光の魔石が地面に転がる。

 

(不活性化処理・・・ふむ、魔術師の人の作業の際に生じる魔力の流れを真似してみると、確かに魔石の内部に揺れる炎と言うかエネルギーの流れが感じられるな・・・。)

 

(これを少しずつ緩やかにして、安定化させるといいのか?・・・あ、光の魔石の光量が治まって内部が透き通って見えるようになった・・・へぇ、少し白っぽい見た目なんだな、これが安定化か・・・。)

 

迷宮核は、先ほどと同じく地形操作プレスで不活性化処理をした光の魔石を砕いてみると、閃光を放つ事も無くガラスの様に砕けた。

 

(ほほう、これは興味深い、あまりにも細かく砕けた魔石の粉末はそのまま揮発して魔力になってしまうのか、逆にこの砕けた破片を活性化させるとどうなるのかな?)

 

砕けた光の魔石の小さなかけらを操作して、内包魔力を再活性化させてみると、発光ダイオードの様な光を放ちながら徐々に昇華して行く光の魔石、最終的にカメラフラッシュ程度の閃光を放つとそのまま魔力に分解されて消えてしまった。

 

(ふむ、変わった性質があるものだな、だがこれを上手く利用すれば様々な魔石の加工品が作れそうだ。)

 

(まぁ、私が彼らに口出しするわけにも行かないし、素材だけでも用意しておこうかな・・・。)

 

迷宮核が覚えた不活性化処理技術は、魔石合成の為の魔力変換効率を引き上げ、エネルギーロスを大幅に抑える事に繋がり、迷宮核は今までよりもより多くの魔力を魔石に変換できるようになった。

 

今まで取り扱いが危険すぎて、サイズ調整に難儀していた火の魔石の合成にも恩恵を齎したので、定期的に打ち上げられる従属核砲弾の炸薬として扱われる火の魔石の燃焼法を改良する事にも繋がり、パッケージ化従属核の飛距離は更に高まる事になった。

 

(魔力制御技術を向上させることによって、魔石を生成する時に水が垂れたり、火花が散ったりする現象は殆ど無くなった、厳密に言えば起きている事は起きているのだが人間が知覚できない程度まで抑えられている。)

 

(これだけ効率的に魔石が合成できるのだから、魔石の鉱脈くらいは用意しておいても良いだろう。)

 

(・・・しかし、火口付近でしか採掘できない火の魔石か・・・まさかラナのガスコンロもどきがそれほど貴重品だったとは、キャラバン隊の長と言うものは本当に大した立場なんだろうな。)

 

迷宮核は、従属核のフレームの実験やオアシスを生成した従属核の調整を行いながら、少しずつため込んだ魔力を魔石に合成して、不活性化処理を行い洞窟の壁の中に埋め込み続けていた。

 

ある日、地底湖の肺魚を捕りに来た主婦が、岩山の洞窟に訪れると、突如地鳴りと共に地底湖の壁の一角が崩れ落ち、内部から色とりどりの魔石が露出し、悲鳴じみた声を上げながら村へ伝えに行き、岩山オアシスの村は大騒ぎになった。

 

確かに、そこには色とりどりの魔石が埋まっており、大小さまざまなサイズの魔石が床に散らばり魔力が暴発している様子もなかった。

天然魔石が安定して存在している事は極めて珍しく、水の魔石と火の魔石、そして風の魔石が同じ地層に埋まっている事も含めて、魔石の知識を持つ魔術師を大きく悩ませる事となった。

 

「ありえない、ありえない、全く理解できない。」

 

「水・火・風・地・・・他にも見たことも無い魔石が複数、どのような魔力の流れがあればこんな結晶の仕方をするのだ!?」

 

「何れも極限環境が魔力流を変性させて結晶化する魔石群が複数同じ場所に埋もれているのが明らかにおかしい、岩山の主様の奇跡の一言で片づけるのは楽であろうが、それは思考の放棄に他ならない・・・考えろ・・考えろ・・・仮説を出せ・・。」

 

「掘り出したころには既に不活性化して安定状態だったと言うのも腑に落ちない・・・朗報なのには変わらないが、我らはこの魔石を使って何をなせと・・・?」

 

「あ・・・頭から煙が出そうだ・・・ちょっと服を脱いで頭と体を冷やそう・・・。」

 

「ちょ・・おま、男がいる場所で下着姿になるのは・・・このバカ女をつまみ出せ!」

 

暇な状況から一気に脳をフル稼働させる状態に陥ったため、知恵熱を発症し奇行に走る魔術師も出始め、一時的に魔術師の研究所は機能不全に陥ったが、暫くして吹っ切れたのか黙々と魔石の加工と魔道具の製造を行うようになり、砂漠のオアシスの生活は更に快適になるのであった。

 

(パッケージ化した分身体の消費魔力が大幅に節約できるようになったぞ!ふふふ、自走状態の分身体の燃費を上げて行動範囲が一気に広がった。)

 

(微妙に魔力不足で遠征できなかったが、大河の国とやらに行けるようになれば、人口の多さは砂漠の比では無い筈・・・まだ繋がりは無いから一人当たりの魔力供給量は岩山開拓初期と同じくらいだろうけど、そこは人口の多さでカバーできそうだ。)

 

(あちらの方も水不足で困っているみたいだし、何かしら協力できればな・・・まぁ、向こうで補充した魔力で死の海の調査用フレームを稼働させる足しにさせてもらう事もあるかもしれないけど・・・。)

 

(砂漠の向こう、人々が住みやすい生命に満ち溢れた土地は一体どんなところだろうか?どんな人々が住んでいるのだろう?)

 

(我々の一部になった砂漠の民の魂の記憶でも、取引を終わらせて長居せずに帰ってしまった記憶しか残されていないから、まだその全貌はつかめていないけれど、難民を奴隷として扱う国も存在するみたいだから、油断してはいけないか。)

 

(まぁ、砂漠の民にはどの道、外の国から工具類を調達しないと開拓なんてやってられないから砂漠の外の国々との交流を持たないといけないか。)

 

(さて、交易ルートの水脈調整を開始するか・・分身体同士の水脈をつなげたからか、交易ルートに沿って草が生え始めたな、旅の目印には丁度良いのかもしれない。)

 

迷宮核は、岩山オアシスの村の生活が安定し、砂漠の民の表情がどことなく明るくなったことを喜びつつも、砂漠の外の国々や悪化し続ける干ばつの影響にどこか不安を覚えていた。

しかし、確証がある訳でも無く、それは小さな違和感として迷宮核の思考にまとわりつくのであった。

 

「砂漠の交易ルートが再びつながったか、何処に避難していたかは知らないが、存外砂漠の民もしぶといものだ・・・。」

 

「大干ばつの影響で大河の水量が大幅に減っております。もう既にいくつかの畑が水不足でやられてしまっております。」

 

「次の大雨が来るまでに溜め池をなるべく多く作るのだ、くそ忌々しい・・・。」

 

「水の魔石でも手に入れば良いのだが、渦巻き沼は山脈を超えた先にある場所・・・常に霧や雨に晒される土地の魔力溜まりに生成される水の魔石なんて安定供給は出来ないし、当てにはできないだろう。」

 

「まぁ、こんな状況でも砂漠の民よりはマシな状況なのだ、今すぐ滅ぶという程でも無いが、何の対策も打たないままという訳にも行くまい。」

 

「あくまで保険だが、渦巻き沼に隣接した亜人共の国の市場に水の魔石が出ていないか見るため、交易隊を派遣しておけ、連中にとって水は空気のように当たり前に存在するもので、水の魔石は殆ど必要としていないが、連中はその価値を正確に理解している。吹っ掛けられるのを覚悟で金を持たせておけ。」

 

「強欲トカゲ共に金が渡るのは頭に来るが致し方あるまい・・・砂漠の交易ルートが復活してくれて本当に良かったよ。」

 

 

大干ばつの影響で大河の国々はそれぞれ、自分たちの国を守るために動き始める。

大河と呼ばれた川は次第に細くなりつつあるが、それでも沢山の生命を育んでいた。

大河の国々と呼ばれる国の中で大砂漠に面した国は、砂漠化の最前線に立っているので、余裕をなくしつつあるが、現状を打開しようと水を求めて水の魔石が生まれる土地へと交易キャラバン隊を派遣するのであった。



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砂漠灯台

時折砂嵐が発生し、方向感覚を失う大砂漠、月や星を頼りにどちらを向いて歩いているのか調べる術を持つ者が、砂漠渡りの資格を持つが、それでも迷うときは迷うし、遭難して水も食料も尽き、自然の摂理に従う者も多い。

 

大砂漠の端に浮かぶ岩山のオアシスの迷宮核は、その現実を嘆き重く見ているのであった。

 

(遠征用フレームが干乾びた遺体を見つけた。もう岩山オアシスや近隣の村に近い場所まで来ていたのに力尽きてしまったのか・・・何と無常な・・・。)

 

砂地と岩地の入り混じる場所を走破するために、油圧式の四脚フレームで砂漠岩地を歩く従属核。

 

(時折酷い砂嵐が容赦なく吹き荒れて、数歩先の距離が分からなくなる事もあるので、そういう時はその場で風除け天幕を立ててしのぐしかないのだが・・・その隙に砂鮫や巨大サソリの餌食になる者も居る。この地では人間もその生態系の一部であり、それが摂理であるのだ。)

 

(この遺体には魂は残っていないな・・・やはり、原形を残したまま残留する魂は多くないという事か、魔力か何かに分解された後なのだろう。)

 

従属核は、名もなき遺体に祈りを捧げると、周辺に漂う若干濃い魔力を吸収し、ルートの巡回を再開するのであった。

 

(何か道しるべを・・・それも、砂漠の民でも真似ができそうな物を設置できれば・・。)

 

岩山オアシスの細かい調整をしながら迷宮核は砂漠の地形と砂嵐の頻度、危険生物の分布を調査しながら、オアシスとオアシスを結ぶ道しるべの方法を考えるのであった。

 

 

「くそっ、また砂嵐か・・・水も食料も残りわずかだと言うのに・・・。」

 

砂鮫の奇襲を受け、荷物の殆どを載せていたラクダが犠牲になり、命からがら危機を脱したと言うのに、運悪く砂嵐に遭遇してしまう給水キャラバン。

 

「どうするの?多分近くにオアシスがあった筈だけど、砂鮫に襲われたばかりだし、ここで砂嵐が去るまで待つのは危険すぎるわ!」

 

「だが下手に動くと本当に遭難してしまうぞ?砂鮫に見つからない事を祈って此処で耐えるしかないんだ。」

 

「そんな・・・どうすれば・・・。あれ??」

 

若い女性の隊員が、砂嵐で茶色く染まった視界の奥に、奇妙な影を発見する。

 

「ねぇ、あれって何かしら?」

 

「砂鮫・・・ではないな?誰か居るのか?」

 

砂嵐の奥に佇む細い影に一歩一歩慎重に進んで近づき、すぐそばにまで行くと、先端が輪になった岩の杭の様な物が突き刺さっていた。地球人がもしこれを見る事があるとすれば錫杖を連想する事であろう。

 

「何だこれは?柱?」

 

「ねぇ、よく見て!この杭、同じものが何本も並んでいるわよ!」

 

よく見るとその杭は、一定間隔で並んでおり、砂嵐で見えるか見えなくなるか絶妙な位置に突き刺さっており、何かの目じるしの様な物に感じた。

 

「誰かが設置したのだろうか?妙なところに誘導されないだろうな?」

 

「何にせよ、砂鮫に襲われないためには常に移動し続けた方がいいと思うの、この杭を辿ってみましょう。」

 

「そうだな・・・。」

 

それからも砂嵐は続き、給水キャラバンの体力を奪って行くが、杭を辿っている内に石板の様な物に辿り着き、歩きが止まった。

 

「ここが終点か、これは一体何なんだ?」

 

「岩の柱を削った石板みたいね?ちょっと砂埃で読みづらいけど何か書かれているみたい・・・。」

 

石板に彫り込まれた文字にはこう書かれていた。

 

『砂嵐に襲われて大地に還ってしまった友を偲ぶ。既に見えているだろうが、ここは小さいながらオアシスがある筈だ。砂嵐に襲われてしまった者はこの杭を辿ってみてくれ。』

 

 

「オアシスだって?砂嵐で全然見えないぞ?」

 

「待って!建物らしきものが見えるわ!」

 

「なんだって!?・・・本当だ、助かった!」

 

給水キャラバンの隊員たちが、砂嵐の奥に見えた干しレンガの建物に駆け寄ると、確かに小さなオアシスと集落があり、人間の気配が感じられた。

 

「おおい!アンタら給水キャラバンか?酷い砂嵐だ、早くこっちにこい!」

 

物音を感じて、岩の扉を開いた住民が、給水キャラバンの隊員を家に招く。

 

「すまん!」

 

「恩に着るわ!」

 

砂嵐から逃れるように、干しレンガの家に転がり込むと、住民はすぐに岩の扉をはめ込み、猛威を振るう外界から遮断した。

 

「道しるべが無かったら遭難するところだった。この村の誰かが設置してくれたのか?」

 

「道しるべ・・ねぇ、いや実は誰があんな物を設置したのか分かっていないんだよ。」

 

「え?それじゃぁ、村の人が設置したんじゃないんだ?」

 

「あぁ、この村の住民はだぁ~れも知らないのさ、いつの間にか立ち並んでいて、あの道しるべを辿って行ったら、岩山のオアシスに通じていたのさ。」

 

この干しレンガの家の主は両手を広げる手ぶりをしながら説明する。

 

 

「岩山のオアシス?それじゃぁ、反対方向に進めばあそこへ行けたのか!」

 

「まぁ、体感距離がありそうだったから、近いこっちの方に来て正解だったけどね。」

 

「アンタら給水キャラバンのお陰で干ばつに襲われる砂漠の民が命を繋ぐことが出来ているんだ。本当に助かるよ。」

 

「それはお互い様さ、砂鮫にラクダをやられて手荷物だけで逃げてきたんだ。保護してくれて感謝する。」

 

「そりゃ災難だったな、水瓶と保存食しか用意できないが、ゆっくりしていってっくれ。」

 

砂嵐は2日ほど収まらず、何度か家の主がオアシスの茶色く濁った水を汲みに外出するだけで、殆ど待機状態であった。

砂嵐がやむと、家から出てきた村人たちが軽く村の中に入り込んだ砂を掃除して、水瓶に新しく水を汲み始めた。

 

「あれだけの砂嵐に見舞われたのにオアシスが濁っていない!?」

 

「村ごと埋もれそうな砂嵐だったけど、何かこのオアシスだけ砂が避けている気がするわね。」

 

「ああ、そりゃだって砂漠の神様の加護がある泉だからさ!ほら、中央部に祭壇があるだろう?」

 

砂嵐でよく見えなかったオアシスだが、泉の中央部に佇む魔石の柱と砂漠の神の紋章が刻まれた社らしきものがそそり立っていた。

 

「流石に砂嵐の真っ最中は濁るが、砂嵐が治まると数時間ほどでこの通りさ、ちょっと砂嵐が長かったから濁った水を汲まざるを得なかったが、まぁこれはこれで畑に撒ければ良いし、干乾びるよりはマシさ。」

 

給水キャラバンの隊員たちは呆然と立ち尽くし、少しして我を取り戻すと、自分たちの皮袋や椰子の実水筒に水を補充して、オアシスの社に祈りを捧げる。

 

「そう言えば、お宅は砂嵐の最中に何か編んでいたが、ありゃ一体何なんだ?」

 

「私も気になっていたわね。」

 

給水キャラバンの隊員が干しレンガの家の主に尋ねる。

 

「あぁ、誰が設置したか分からんがあの目じるし穴が開いていただろう?それに綱を通しておけば、もっと分かりやすくなるだろうさね?」

 

干しレンガの家の主が、にやけながら答える。

 

「なるほど、1本1本の間隔はそれ程開けている訳でも無いし、時間をかけて杭同士を綱で結んで行けば・・・。」

 

「村同士の移動経路の安全性が高まるわね!!」

 

「このオアシスにはパピルスが持ち込まれているんだ、紙や紐を作ってアンタらみたいなキャラバンに売って生計を立てているんだ。あぁ、砂芋とかもあるぞ?」

 

「ふむ、岩山オアシスに戻って綱の増産をして貰うべきだな、あそこは大河の国と同じくらい植物が生えているから、繊維質の素材には困らないはず。」

 

「砂漠をもっと安全に横断できれば、大儲け大助かりよ!他のオアシスにも呼び掛けておこうかしら?」

 

水や食料を補充しながら、岩山オアシスに戻る準備をする給水キャラバンだが、ふと違和感を感じると、砂漠の向こうに光の様な物が見えた気がした。

 

「んぉ?」

 

「何・・・・あれ・・・?」

 

場所は変わって、岩山オアシスの村は大騒ぎになっていた。

何時ものように水モロコシの畑から収穫しようと農家たちが巨大湖へ行くと、突如地鳴りと共に岩山が動き、岩山の一角を突き破るように岩の柱の様な物がそそり立ち、何処かのっぺりとした陶器の様な質感を持った先端の構造物から青白い光が放たれ、そして先端の構造物がゆっくりと回り始め、1対の光の柱がくるくると岩山オアシス周辺を照らし始めた。

 

「おお!何という!」

 

「見ろ!岩山の主様の紋章が描かれている!」

 

「なんと神々しい!ありがたや!有り難や!!」

 

「あの柱・・・塔か?あれは一体何を意味するものなのだろうか?」

 

「こ・・・こんな事が有り得るのか!?このオアシスに神が居るとは本当の事だったのか!?」

 

岩山オアシスは最初は、岩山に生えた塔の様な構造物に驚き、どのような物なのか測りかねていたが、それは夜になって理解する事になる。

 

「おお!良く戻った!ラクダが居ないが、どうしたんだ?」

 

「あぁ、砂鮫に荷物ごとやられてしまってな・・・ところでアレは一体なんだ?」

 

「間違いなく岩山の主様のお力ですよね?」

 

長旅で疲れ果てた給水キャラバンの隊員たちが光る岩の柱を指差し尋ねる。

 

「我々にも良くわからん、だが美しい光だろう?夜だとよりハッキリ見えるな。」

 

「あぁいや、途中小さなオアシスの村に立ち寄っていたんだが、こっちに戻る途中でもまた少しだけ砂嵐に遭遇してしまってな、杭の様な目じるしを辿って歩いていたんだが、砂嵐の奥にあの光が見えて、そっちも目じるしにして来たんだ。」

 

「杭の目じるしを辿っていたからまさかとは思ったけど、やっぱり此処に通じているとはね・・・。」

 

そこで、村人の目の色が変わる。

 

「そうか!なるほど、そう言う事だったのか!!」

 

「あぁ、同じこと考えていた。岩山の主様は此処への道しるべを立ててくださったのだ。」

 

「酷い砂嵐でも見える光の道しるべ・・・まさに砂漠の神の御業ね。」

 

「あの杭を立ててくれたのも、岩山の主様かもな・・・いや、石板の内容を見る限りは設置したのは砂漠の民の誰か何だろうが・・・。」

 

「でも、あれなら私達でも真似できそうね?石工に頼んで岩の杭を作って貰おうかしら?」

 

「それもそうだな・・・。」

 

後日、各オアシスの集落は、移動経路を結ぶ目じるしを砂漠に設置し、パピルスやその他植物の繊維で編まれた綱を通し、オアシス同士を結んだ。

岩山オアシスを中心に放射状に広がる目じるしは、縦に横に集落同士を結び、さながら蜘蛛の巣の様に広がって行った。

 

(岩を削ったり、干しレンガを細長く成形したり、木製だったり・・・砂漠の民は色々と工夫するな、色んな種類の目じるしがある。)

 

(分身体を設置していないオアシスもあるから、道しるべとしてこっちも遠征用フレームに使わせてもらっているけど、これで砂漠の安全性が高まった筈。)

 

(まぁ、時々倒れちゃっている奴もあるから、それは見つけ次第立て直して置こうかな、生物素材由来の綱とかは用意できないけど・・。)

 

オアシスの村同士を結ぶ目じるしは砂漠の旅の安全性を飛躍的に高め、交易ルートにも設置させたそれは、国同士の交易を活発化させ、その目じるしは大河の国々にも知れ渡る事となった。

 

「岩の杭の目じるしか、砂漠の民も面白い事を考えるものだ。」

 

「交易隊によると、倒れた目じるしは自主的に取り換えたり、補修したりしている様です。」

 

「まぁ、良い試みだと思うぞ?我々も恩恵にあやかっているしな、砂漠の民用に綱を増産しても良いかもしれないな。」

 

「ははっ!」

 

「これは好機だ。水の魔石を調達する成功率がかなり上がったかもしれん。」

 

「渦巻き沼へ向かう交易隊は、帰り道は楽できそうですね。水の魔石があれば握り拳大で小さな泉を満たすことが出来ます。」

 

「焼け石に水だが、無いよりはマシだ。成るべく多く確保できればいざと言う時の保険になる。」

 

 

「しかし、これ程の大干ばつ・・・大地は我らを試しているのかもしれませんな。」

 

 

「そうだな・・・・。」

 

オアシスとオアシスを結ぶ綱、それは即ち人と人を結ぶ生命線であり、干ばつの脅威に立ち向かうための新たな力でもあった。

時折、岩の杭の傍に陶器の瓶が密栓されたまま埋もれており、中には澄んだ水が入っている事があり、誰が最初に始めたのか、集落同士の中間地点に水や食料を杭の傍に埋める習慣が出来た。

しかし、最初に発見されたその陶器の瓶には砂漠の神の紋章が描かれており、製造元が不明なそれは、発見次第砂漠の民は大切にその瓶をお守りとして家に飾ったという。

 

(本当に彼らの生きる力は素晴らしいな、自分たちにも出来そうなことは真似をするし、自分たちで考えて私が思いつかないような事をするし、それが人間の力の源となっているんだろうな。)

 

(しかし、この紋章・・・・すっかり定着してしまったな。椰子の実水筒、皮袋、陶器の瓶、キャラバンの鞄や背嚢・・・ありとあらゆるものに紋章が描かれている。本当は、遠征用フレームの識別用に作ったものなんだけどな。)

 

(まだまだ分身体の設置を急がないといけない・・・水の魔石で井戸を維持していたオアシスの村が、砂嵐で丸ごと埋もれてしまって救助待ちになった時もあるし、ただ単に井戸の水量を増やすだけでは駄目だ。)

 

(大雨でも降ってくれれば、水を生成する魔力を節約できるんだけどなぁ、まぁ私が神頼みしてもしょうがないか、岩山オアシスの地下には時々降る大雨や今まで生成した水が地下水として溜まっている。水量調節用の地下空洞を先に整備しておいて良かったよ。)

 

(もう、砂漠の民が渇き苦しむのを見るのはこりごりだ。私には私ができる事をするしかない・・・どうか砂漠の民に水の恵みあれ・・・・。)

 

年に数回降る筈の大雨の回数も少なくなり、降水量も減ってしまったこの地域の平穏を迷宮核は祈り続けた。しかし、彼が砂漠の地下の広範囲に整備した保水用の地下空洞は、時間をかけてその効果を発揮して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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砂漠の神の魔石灯台

 

 

岩山オアシスの上部に突如出現した塔の様な構造物は、強烈な光を放ちながら先端が回転し、砂漠を歩くキャラバン隊の道しるべとなっている。

ある若者が、塔に登って頂上へ行ってみたが、そこには巨大な魔石の塊が鎮座しており、鏡のように光を反射する筒に覆われた状態で回転し、それが砂嵐を貫く強烈な光を発生させていると判明した。なお、その魔石の塊は層に分かれており、魔石の中心は人間の頭部程の大きさの白い魔石が埋め込まれており、それが発光している様であった。

何故塔の先端が回転するのか、暫く謎であったが、巨大湖に降り注ぐ滝の穴を調査した者が、水流を受け止める車輪の様な物を発見し、それが直線状で結ばれ、光を放つ塔の丁度真下に巨大湖の滝がある事が分かり、塔の先端を回転させる動力が水流であることが判明した。まさに砂漠の神の英知であり、砂漠の民はこの機構を何とか自分たちで再現できないか知恵を絞る事になる。



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防砂シェルター

砂漠の民がオアシスとオアシスを結ぶ目じるしを設置するようになってから、砂漠での遭難率は目に見えて低下していた。

砂嵐と砂鮫と同時に遭遇して視界と身の自由を奪われたまま砂に引きずり込まれる様な被害は相変わらず発生しているが、目印に使われる杭を使って魔物を返り討ちにする猛者も居るので、副次的に砂漠での安全性や対応の幅が増えている。

今や、キャラバンは最低でも1~2本は目じるし用の杭を荷物に積んでいる。

 

(ここ最近は特に砂嵐が酷い、昔に比べて発生回数や範囲が大幅に増えているように感じる。一体この砂漠に何が起きているというのか?)

 

(高熱や砂嵐を防ぐために時々張る霧の壁も、砂嵐同様に太陽光線を遮ってしまうので、あまりにも長期間使い続けると農作物に悪影響もあるし、魔力消費も馬鹿にならない。)

 

(岩山オアシス周辺は私が操作できる範囲が広いので大抵の障害は対処できるが、サポート圏外に遠征するキャラバン隊は、どれだけ対策を練っても無事に帰還できるとは限らない。)

 

(網目状に広がるオアシス同士を結ぶ道も私の分身が埋め込まれた拠点同士が隣り合っていても、その中間地点はどうしてもサポート圏外になってしまう。何とかしなくてはな・・・。)

 

 

迷宮核は改良の余地があるキャラバン隊の支援の案を考えながら、地下の空洞に溜め込んだ水の水量を調節するために、一定量を吸い上げ、巨大湖に降り注ぐ滝に回した。

 

なお、巨大湖の水は、目の粗い砂地を通して地下空洞に流れ込む仕組みで、巨大湖の水量を一定に保つほか水流を発生させて水の循環と浄化作用を持たせている。

 

迷宮核が岩山オアシスの村の事を考えている間に、新たに大規模なキャラバン隊が大河の国を目指して装備を整え、近日出発する事が決定された。

 

「この砂漠は、ありとあらゆる資源が常に不足の状態である。」

 

「ごく最近になって、このオアシスの村に建築資材に適した大きさの樹木が生えるようになり、一昔前よりも生活が豊かになった。しかし、それらを加工するにも金属製品が必要だ!」

 

「大河の国々は、砂漠に生える希少植物を高値で引き取っている市場があるので、そこで換金及び物々交換するルートを確立することが出来た。」

 

「砂漠の民にとっても貴重品な薬用サボテンは、高熱病や瘴気に耐性を付けることが出来る薬効があるので、砂漠の外の国にとって、特に錬金術師には非常に珍重されているという。」

 

「その薬用サボテンがこの岩山オアシス上部に群生しているので、交易品として優先的に採取しているが、恐らく岩山の主様の加護された土地が故に根付いたのだろう。」

 

「この機会に大河の国々から物資を調達するべきだ。砂漠では手に入らないものと砂漠でしか手に入らないもの、互いに利益のある取引が出来ると良いな。」

 

岩山オアシスの村では、盛大に出陣式を行い、キャラバンの家族が互いに抱き合い旅の無事を祈っていた。

積み荷の数もラクダの数も、通常のキャラバンとは比べ物にならない規模でまさに大商隊と呼ぶべきものであった。

 

大規模なキャラバン隊が、岩山オアシスの村から出発すると、砂漠の神の加護が及んでいない、過酷な乾燥地帯に到達した。

ここ周辺は、暫く小規模オアシスも存在せず、砂鮫と巨大サソリに襲撃される件数が多い危険地帯なので、キャラバン隊も警戒を高め、精神的な消耗も大きくなる。

 

「む?進行方向の向こう・・・遠くに何かが見えます!」

 

「何だあれは?岩か?この前通った時はあんなものは無かった筈だが・・・?」

 

偵察隊がその場で組まれ、進行ルート先にある物体に近づいて行く。

 

「何だこれは・・・小屋・・・か?」

 

「干しレンガで作られているみたいですが、作りかけで放置されたみたいですね。」

 

「作りかけとは言え、建材と思われる干しレンガの山が小屋の中に大量に放置されているが、一体だれがこんなところに小屋を建てようと思ったのか?」

 

「壁に日付を数えた跡の様な傷が刻まれていますね。」

 

「しかし何故こんな水も食料もない人が住めそうにもない土地に小屋を建てようと思ったのだろうか?不便極まりないだろうに・・・。」

 

「そうですね・・・あ?何か石板の様な物が立てかけてあります!」

 

ノミか何かで文字が彫られた石板には、小屋の主と思われる人物の日記の様なものが彫り込まれていた。

 

『この辺りはオアシスも身を隠すための岩も無い場所だ。キャラバン仲間が何名も魔物の犠牲になっている、天幕よりもしっかりとした休憩場さえあれば幾らか旅が楽になると言うのに・・・。』

 

『今俺がやろうとしている事は無謀で意味のない行為かもしれない。しかし、このままでは大地の礎になった仲間たちに申し訳が立たない、これは俺の意地だ。干しレンガで砂嵐や魔物から身を守る休憩場を作ろうと思う。』

 

『照り付ける太陽、襲い掛かる砂鮫や巨大サソリ、拠点を作るのにこれ程障害があるとは、やはり砂漠は情け容赦のない土地だ。あと少し、あともう少しで完成するのに。』

 

『食料と水も残りわずかだ、もうこれ以上は此処にいられない、残念だが撤収する。一応資材のレンガは残しておいたが、誰かもの好きがこれを見ているなら完成させてくれないか?狭いが、きっと役に立つはずだ。』

 

 

よほど几帳面な人物だったのだろうか、他のオアシスへの道と現在地の大まかな位置、小屋の建設の工程などが細かに小さな石板に書かれており、偵察隊の面々を大いに感心させた。

 

「なるほど、つまり休憩場を兼ねた緊急避難所という事ですね。」

 

「最寄りのオアシスから結構な距離があるぞ?随分と根性のある奴だったんだな。此処に置いてある干しレンガの数も一回じゃ運び切れない筈だ。」

 

「本隊全員が休めるほどの大きさはありませんが、これがあればここを通るとき少しは楽になるかもしれませんね。」 

 

偵察隊が戻るとキャラバンの本隊のリーダー格同士が話し合い、キャラバン隊の数を生かして造りかけの小屋を完成させてしまうことにした。

 

石板に書かれた設計図は、中々優れたもので、書かれている通りに干しレンガをはめ込み、隙間を埋めるための粘土を埋め込むと、ちょっとした砂嵐程度ではビクともしない丈夫な小屋が完成した。

 

「岩の板の扉まで用意してあるとは、本当にあと一歩のところで完成だったんだな。」

 

「へぇ、中は結構快適なんだな、水と食料さえあれば体を休める余裕も出来るだろうな。」

 

「まぁ、流石に家具の類が無いから床で寝る事になるがな。だが、一時避難するならこれで十分すぎる。」

 

キャラバン隊は、完成させたばかりの小屋付近で小休憩を取り、岩の杭を一定間隔で突き刺しながら次のオアシスの村へと向かった。

 

その後しばらくして、大河の国と商談を進めたキャラバン隊は、鉄製品や植物の種子、比較的乾燥に強い家禽などを購入し、帰路に就いた。

 

その道中でも小屋は崩れずに残っていて、誰かが利用したのか痕跡が残っていた。

家具が置かれていない殺風景な小屋の端っこに、岩石でできた箱が置いてあり、箱の中には水で満たされた陶器の瓶が入っていた。

 

「わざわざ水や食料を残してくれた奴がいるのか・・・。」

 

「生きて行くだけでも一苦労なのに、奇特な奴も居るもんだ。」

 

キャラバン隊は小屋を少し調べた後、休憩を挟まずそのまま本来の中継地点のオアシスの村へと進み、幾つかのオアシスの村を経由しながら岩山オアシスの村へと帰還した。

 

その後、キャラバン隊に参加した者の中に、休憩所の小屋に思う所があるのか自発的に砂嵐から身を守る小さな避難所をオアシス同士が離れすぎている交易路に建設する者が出始めた。

 

時々野生動物のねぐらにされてしまう所や造りが甘くて崩れてしまうものもあったが、概ね好評であり、緊急避難所として砂漠の民に重宝されることになる。

 

(今回はあえて造りかけで放置してみたけど、やはり切っ掛けがあれば彼らも自発的に動くんだな。まぁ日陰用の岩と水は用意できても食料はどうしようもないんだけどね。)

 

(文字を通して砂漠の民の中に紛れることが出来たけど、もっと私に出来る事は無いかな?そう、切っ掛けさえあれば発想の幅が広がり、その先のものを見せてくれる筈。)

 

(しかし、偶然とはいえあれ程大きなキャラバン隊が小屋を発見するとは、人数が多い分、防砂シェルターの噂が広がって交易路の安全性を高める動きが出来て良かった。)

 

(ふむ、あの位置はちょっと拠点同士の間が離れすぎているから、もう少しシェルターを増築しようかな?遠征用フレームを派遣して魔石をたっぷり積んで、それなりの人数が雑魚寝できる様にしておこう。)

 

緑の帯と呼ばれたオアシス地帯と荒涼とした砂漠を間に挟む交易路に小さな小屋を見かけるようになった砂漠の民、緑の帯と中継地点となるオアシスの村は距離的にかなり離れており、昔に比べてマシになったとは言え緑の帯まで進むために休憩地のない旅を続けなくてはならないが、誰かが造りかけ放置し、通りかかった他のキャラバン隊が完成させた小屋は、ささやかに大河の国と交易するキャラバン隊を助けた。

 

何時しか小屋が増築され、そこを通りかかるたびにその規模は大きくなって行き、水源が無いながらも、交易のための重要拠点として発展していった。

 

しかし、宿場として利用されるようになったこの建造物は誰が造ったのか砂漠の民は知らず、誰も名乗りを上げないので冗談交じりに砂漠の神様が用意してくれたのだと、どこの誰かもしれない建築者に感謝の祈りを捧げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防砂の小屋

 

誰が始めたのか不明だが、拠点同士が離れすぎている場所に設置されるようになった砂除けの小屋の総称。大規模キャラバン隊が発見した造りかけの小屋が最初の発見例である。

その多くは、オアシスの村からあまり離れていない場所に設置されるが、拠点まであと一歩のところで疲労困憊で動けなくなる旅人に好評で、各オアシスに避難所を造る動きが広がっている。

流石に水や食料まで置いてある避難所は、そこまで多くないが、天幕よりも外部環境から隔離され密閉されている緊急時のパーソナルシェルターとして機能するため、今や砂嵐が多い集落の近くには高い確率で設置されている事が多い。しかし、その殆どが魔物の襲撃には耐えられない様で、破壊されている小屋も多い。

たまたま、小屋を破壊され命からがら魔物から逃げたキャラバン隊員によると、壁を破壊され穴を広げられる前に岩の扉をどかして逃げることが出来たと証言をし、砂嵐から逃れたり魔物から気配を隠したり発見され襲われても逃亡の時間を稼ぐ効果は十分にあるという評価がされた。

現在は各オアシスの集落や、有志のキャラバン隊によって設置されており、建設者を識別するためのマークが刻まれる習慣が出来た。



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砂鯨の歌声

広大な大砂漠の多くは、岩石地帯や熱砂に覆われているが、その中でも人間を含めたあらゆる生物を拒む過酷な土地が存在する。

砂粒が非常にきめ細かく、ほんの僅かな重量の物体でも砂に沈んでしまうため、サボテンなどの植物が上手く定着できず、砂ネズミやトカゲなどの小動物も本能的に近づくことがない領域であるために死の海と呼ばれている。

 

降水量が極端に減ってしまった砂漠は、その死の領域が少しずつ範囲が広がっている様で、迷宮核も自らの支配領域の微妙な変化を感じて、間接的ながらその存在を観測していた。

その変化は、砂の粒の粗い、まだ人間が生存可能な領域に、死の海の巨大生物の出現と言う形で現れ、迷宮核は砂漠の変化を知るために神経の様なものを伸ばしながら、砂の粒子の質が違う領域を調査した。

 

(大砂鮫の記憶から、大体の方向はつかめた。しかし、探知領域外まで大砂鮫が泳いだ痕跡が続いているので、此処から先は遠征用フレームが必要になってくるな・・・。)

 

(今回の魔石パッケージはかなりの大型だ・・・抑えているが、今回ばかりは騒音が発生してしまうだろうな・・・だが、このオアシスまで砂に飲み込まれてしまう可能性を考えると何も調査しない訳には行かない。)

 

(分身体はいつもの3倍ほど、魔石も高密度化と不活性化処理をした状態でコーティングし岩石のカバーを取り付ける、炸薬の火の魔石も通常よりも高威力に・・・完成だ。)

 

通常よりも手の込んだ従属核パッケージ砲弾を作り、岩山の頂上の射出口に続く管に装填する。

 

(射出口付近に、動植物の気配なし、安全確認・・・発射!!)

 

岩山全体に重く響く音と共に、従属核砲弾は天高く打ち上げられる。

燃焼ガスを受け止める岩石の外殻を切り離した従属核は、重心の位置を修正しながら大気を切り裂き突き進み、あっという間に迷宮核の探知範囲を超えて、大砂鮫の移動した痕跡が続く砂漠の果てまで向かう。

 

(重量がある筈なのに、何時もよりも遠くに飛ぶな・・・火の魔石の燃焼を調節したお陰か、エネルギー効率が向上した影響もあるかもしれないが・・・。)

 

(って・・・大砂鮫の痕跡を追い抜いてしまった!?いかんいかん、高度を下げなくては!)

 

従属核は重心を下に向けて、地面めがけて急降下し、勢いよく着弾し砂柱を上げる。

 

(しかし、勢いよく突っ込んだとはいえ、何時もよりも深くめり込んだな・・・む!?違う!砂に飲み込まれて行く!流砂だ!!)

 

従属核がきめ細かい粒子の砂にどんどん沈んでゆくが、直ぐに地形操作能力を発動し、砂を凝固させて面積を稼ぎ、水の魔石で水を生成して粘度を増した泥に変え、砂の流れを食い止めた。

 

(危うく砂漠の地中深くまで埋まるところだった。丁度良いし、この即席の小さな泉を使ってホバーフレームが水上でも運用可能か調べてみようか・・・。)

 

死の海に突如生まれた茶色く濁った泉の底から、従属核が浮上しながら、砂の外殻を形成し、台形の奇妙な形状をしたフレームの下部から風の魔石が気流を発生させ浮力を生み出す。

 

(よし、水上でも正常に動作する様だな、砂上での運用は小さなラジコン型フレームで実験しているから実証済みだが、水深のある水上でも運用可能なら大河の国でも使えるかもしれない。)

 

(さて、どうやら此処が死の海とやらの玄関口にあたる場所なのかな?奥に進むにつれて砂の粒子がさらに細かくなって行く・・・・。)

 

ホバーフレームは、下部と側面から風を送り出し地上を滑るように移動し、死の海の奥まで進む。

ホバーフレームは、風を受け止めるスカートこそあるが地球のホバークラフトの様に大型のファンが取り付けられておらず、風の魔石自体から気流が生み出され側面の穴から圧縮空気を噴射しているので、見事な台形であり、どことなく空飛ぶ核融合炊飯器な怪獣決戦兵器を思い起こす形状をしていた。

 

(見事に砂だらけだ、サボテン1つ生えていない、しかもさっき泉を作った場所よりも更に砂の粒子が細かい、細かすぎて液体のように振舞うんじゃないだろうか?)

 

試しに握り拳大の石を砂を材料に形成し、砂に落としてみると、ずぶずぶと静かに沈んでゆく様子が確認できた。

 

(この程度の重量でも砂に飲み込まれてしまうのか・・・しかし、こんな環境の場所に生息する魔物とは一体・・・。)

 

オォォォン・・・・。

 

(・・・?なんの音だ?)

 

かすかに何かの音を感じると、振動が辺り一面に広がり、ホバーフレームのすぐ横に砂柱が立ち上った。

 

(うわあああぁ!?な・・・何だこれは?巨大な芋虫か?)

 

オオオォォォォン・・・・。

 

表面は分厚いゴムの様な質感で、砂にまみれており、頭部に当たる部分には光る触覚が数本うねっている。

目は無く、ぽっかりと空いた円形の口から唸り声をあげており、その反響音を触覚で拾って周辺の地形や生物などを認識している様であった。

 

(何と言うおぞましい生物!大砂鮫の4倍はあるぞ!?襲ってくる!このままでは、ホバーフレームが丸呑みにされてしまう!)

 

追撃から逃れるために蛇行しながら死の海の砂丘を滑るホバーフレーム、エコーロケーションで獲物の位置を特定する巨大な砂虫は驚くべき精度でホバーフレームに突進する。

 

(辛うじて回避しているが、このままでは外殻を破壊されてしまう!くそ!全身石ころで食べる場所はないぞ!?)

 

オォォォォン?

 

ホバーフレームを追尾していた砂虫は、突如頭をもたげ別方向へと進み、ホバーフレームから離れて行く。

 

(何だ?急に離れて行くぞ?・・・・あの方向は確か・・。)

 

従属核の探知能力で、砂虫の進行方向を確認すると、先ほど地形操作能力と魔石の力で生み出した小さな泉に頭を突き刺し、茶色く濁った泥水を摂取している様だった。

 

(なるほど、腹が膨れない石ころよりも水分の方が貴重か、助かった・・・しかし、こんな生物がこの死の海と言う領域にまだうようよしていると言うのか・・・・恐ろしい場所だ。)

 

距離を取って泉の水を飲む砂虫を観察していると、泉一帯が急に隆起し、砂虫と泉を支える合成岩ごと巨大な何かが丸呑みにする。

天高く立ち上った砂柱は、周辺を飲み込み、一時的に砂嵐の中の様に視界を奪った。

 

(今度は一体何なんだ!?ぐ・・・なんて大きさだ、高層ビルに匹敵するのではないか?)

 

人間なら視界を奪われて身動きが取れなくなっている筈だが、従属核は視界の他に探知能力で砂の中にうごめく超巨大生物をある程度把握していた。

 

(生前の世界のあらゆる生物とはかけ離れた大きさだ。形状は・・・まるで鯨の様な・・・。)

 

左右斜めに分かれた上顎と下顎の3つの顎を持つ鯨型の超巨大生物は、砂虫と泉の水分を丸ごと摂取して満足したのか、身震いをして低い唸り声をあげる。

 

ンボオオオオオォォォン・・・・・。

 

唸り声が周辺の大気や大地を揺るがし、ホバーフレームにも音が反響して、合成岩の板がビリビリと震える。

砂鯨は頭部を左右に振ると、従属核のホバーフレームをそのつぶらな瞳で一瞥し、背を向けて再び潜航しようとする。

 

(ふむ、あの超巨大生物・・・砂鯨と呼ぼう、砂鯨は先ほどの砂虫同様、音で周囲を探知するみたいだな。一応小さいながら目も存在する様だ・・・。)

 

ウボオォォォン・・・・。

 

(船の汽笛みたいな鳴き声だな、何となくもの悲しい鳴き声だ・・・・悲しい?いや、何か感情の様な物が流れ込んでくる・・・まさか?)

 

少しずつ砂に埋もれつつある砂鯨を追尾し始めるホバーフレーム、砂鯨は呼吸の為か頭部の呼吸器官を砂の上に突き出し、噴水の様に砂を噴き出している。

 

(やはり、この感情は砂鯨から放たれているものか・・・しかし、砂鯨の体表面が妙な感触がするな、これは生物と言うよりも・・・いや、一か八かやってみるか。)

 

ホバーフレームは突如光り輝くと、外殻がパズルの様にスライド・変形し、大砲の様な形状になった。

 

(残存魔力的にチャンスは1度きりだ、失敗は出来ないな。)

 

従属核本体が砲弾として装填され、火の魔石を合成して、砂鯨に照準を定める。

 

(発射!!当たれ!!)

 

ホバーフレームは、従属核砲弾を発射するとともに魔力を失い落下して砕け散り、砂鯨の外殻に撃ちこまれた従属核は、直ぐに地形操作能力を使い、砂鯨に張り付くフジツボの様な外殻を形成し、砂鯨に寄生した。

 

(やはり、この外殻は生体由来の物ではなく、圧力によって押し固められた砂の蓄積物!私の地形操作能力を受け付けるぞ!)

 

砂鯨は従属核砲弾の直撃をどこ吹く風と気にせずに、潜航し、どんどん深く砂の底まで潜って行く。

 

(こいつ1匹で凄まじい魔力だ。小さなオアシス村に匹敵する魔力放出量だ、魔石の合成とフレームの稼働で失われた魔力がどんどん補充されて行く・・・。)

 

ンボオオオオオォォォン・・・・。

 

砂鯨は定期的に鳴き声を上げ、周辺の地形を確認し、そのノイズに紛れて他の魔物の鳴き声らしきものが聞こえてくる。

 

(なるほど、これが死の海の生態系の形か・・・とは言っても、ほんの氷山の一角なんだろうが、興味深いな。)

 

(鳴き声を上げるたびに、砂鯨が歌うたびに感情が流れ込んでゆく、そうか・・・こいつは・・・・。)

 

(悲しいんだ、足りないんだ、不安なんだ・・・・この死の海も、本来は大雨の恩恵を受けていたんだ。渇いているんだ、食べるものが無いんだ、そして滅びを待つだけなんだ・・・こいつは、こんななりをして全てを悟っているんだな。)

 

砂鯨の膨大な魔力を受けて流動層と化し、水の様に振舞う砂は、その巨体を海の様に覆いつくし、死の海はさながら陸上の大海原であった。

そして、砂鯨程ではないが魔力を使った流動層化を利用して死の海を泳ぐ大型生物の楽園であり、死の海と言う名に反して生命に満ち溢れた生態系が広がっていたのだ。

 

(暫くこのまま張り付いて、死の海を探索しよう、砂鯨の気の向くままではあるがな、しかし干ばつの影響が此処まで響いているとは・・・。)

 

(彼らも滅びを待つだけなのか?岩山オアシス付近の生物さえ無事ならば、干ばつが治まった後も生態系を回復できると思っていた・・・でも、こいつのお陰でそれは間違いだったと思い知ったよ。)

 

(岩山オアシスを旅立つ前・・・と言う程ではないが、魔力は大分集まってきた、時々こいつにお礼をしないとな・・・・。)

 

砂鯨の外殻に寄生した従属核は、死の海を砂鯨と共に巡回し、地中の地形とその生態系情報の収集を開始する。

砂鯨の魔力を吸収した従属核は時々、水の魔石を砂鯨が呼吸しに浮上するタイミングで生成し、小さな泉を地表に形成するようにした。

従属核は、砂鯨が正確に寄生者の存在を認識する様な素振りを確認し、泉とは言え砂鯨にとってコップ1杯分に過ぎない水分の摂取で流れ込んでくる喜びの感情で魔力の吸収効率を向上させていた。

 

(感謝・・・か、魔物にそういう感情を向けられたのは初めてだよ。まぁ水くらいは用意してやれるけど生憎食べ物は無理なんだ・・・とは言っても、水を求めて向こうの方から君に寄ってくる様になったけどね。)

 

死の海の観測を続けるうちに何時しか、砂鯨に魔物がまとわりつく様になり、水の魔石で泉を作る際、水のおこぼれを狙ったり、泉ごと砂鯨に飲み込まれたりする独特の生態系が生み出されていた。

 

(私の分身体は、村人が祈りを捧げるときにだけ、何となく感情が分かるのだが、こいつと旅を続けているうちに、こいつが何を考えているのか、何をしたいのか、どんな気分なのか分かるようになってきた気がするな・・・・。)

 

(岩山オアシスの社の分身体ですら、村人の感情は深く理解できないが、長時間密接に関わっていると、その個体だけ感情や意識が読めるようになるのかもしれないな・・・。)

 

(肌身離さずに所持される分身体・・・か、検討してみるのも悪くないかな?)

 

迷宮核は、岩山オアシスや小オアシス群を管理しつつも、広大な死の海の調査をする手段を得て、その体験や調査結果をヒントに新たなる技能を身に着けて行く。

己の身を細かく分散しすぎて、若干体積が減った迷宮核だが、この世界に誕生したばかりの時よりも遥かに力を付けていた。

 

干ばつに襲われる砂漠は、意識を持った石とそこに生きる民と生態系によって、常に変化を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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砂虫

まるで列車の様な大きさの巨大な芋虫で、低い唸り声を上げながらその反響音で周囲の状況を確認するエコーロケーション能力を持つ。

僅かに光を感じる細胞が背面にあるだけで目は持たず、頭部に生える触手束や、背中に生える産毛の様な棘と突起で反響音を拾い、獲物へ正確に狙いを付ける。

特に唸り声には水分の共振を起こす効果があり、地下水や雨水を見つけると他の生物の捕食よりも優先して水分摂取をする傾向がある。

恐ろしいほどの巨体ではあるが、まだ死の海の生態系の中では食物連鎖の中で中の下程度である。

 

 

砂鯨

高層ビルを思わせる超巨大生物であり、大砂鮫や砂虫を一飲みしてしまうサイズである。

左右斜めに分かれた二つの上顎と、下顎の合わせて3つの顎を持ち、エコーロケーションで見つけた獲物めがけて大きな口で砂ごと飲み込んでしまう。

外殻は分厚い岩石の層で出来ており、砂の中を泳ぐうちに高圧力を受けた砂が皮膚に蓄積して行き形成される。

思いのほか知能が高いらしく、好奇心旺盛で、比較的満腹で余裕を持っている時は、死の海の生物を観察する様な素振りが見られる。

肉食寄りの雑食動物なのには変わりないが、他の血気盛んな死の海の捕食者に比べて幾らか温厚な気質を持ち、豊かな感情を持つ。

従属核が調べた範囲内では、同族たる他の砂鯨は数体しか確認しておらず、この大砂漠の中での個体数は1桁の可能性が高いと結論付けている。

 

浮き輪サボテン

死の海の粒子の細かい砂の上でも沈まない空気を含んだ層を形成するサボテンの一種であり、常に転がりながら砂漠を移動する。

地盤のしっかりした場所では、浮袋が枯れて根を張り、通常のサボテンとして振舞うが、種子の状態からサボテンまで成長しながら一生涯を旅したまま過ごす個体が圧倒的多数であり、死の海の生物の食料として重要な役割を持った植物である。

果肉は非常に苦みが強く、青臭いので人間がこのサボテンを食用とすることは滅多にない上に、人間にとって微弱ながら毒性を示す。水分量はそこそこである。

種子は少量ならば鎮痛剤として使える。












作者本人の画力が残念ですが、大体こんな感じのイメージです。
お好きな絵師様に脳内変換してくださいです。


【挿絵表示】


タンカーみたいな大きさですが砂の中を泳ぎます。


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建築資材

少し体調を崩しておりました・・・頑張って続きを書きたいです。


干ばつに襲われる砂漠の灌漑を行うために広範囲に展開する従属核は、地形調査を終えて岩山オアシスに戻る際に、砂漠の移動に使用した外殻を破棄するが、その外殻はオアシス付近の砂場に放置され、砂漠の民に回収されて建築資材として再利用されている。

 

砂漠の民は岩山オアシスの岩石を切り取って建築資材にする事も多いが、従属核のフレームは魔力を使って砂や鉱物を高密度で固めて作られるので唯の岩石よりも丈夫で折れにくく、砂嵐にも耐えられるので重宝されている。

 

最初の頃は、迷宮核も調査のたびに使い捨てる外殻を毎回魔力を消費して砂に戻すコストに困っていたが、住民が恐る恐る機能を停止した外殻に近づき回収して魔術研究所で調べられた後、資源として再利用する様になった様子を見て、外殻をわざと残したまま岩山オアシス付近の砂場に放置するようになった。

なお、殆ど劣化していない状態の良いフレームは再利用するために地下に埋めて再出撃に備えて砂の中で整備されている。

 

(砂嵐に晒されて調査を終える頃には風化作用で劣化してしまう遠征用フレームだが、砂漠の民には貴重な建築資材の様だな。)

 

(思えば、砂漠には石切り場に適した岩場なんて殆ど無いし、風化していない岩地は枯れた大河跡が残っているだけで水源が無いから長期滞在も出来ないし、遠征用フレームのリサイクルは確かに合理的な利用方法なのかもしれない。)

 

(そうなると、岩山オアシスから岩石を切り取って建築資材として使うのは、砂嵐から守ってくれる風除けを減らしてしまう事に繋がる訳か、なるほど難しいものだな。)

 

(私としては、地底湖の洞窟を居住区に改造しても構わないのだが、あの落盤以来、岩山オアシスの洞窟は神域として扱われて入り口付近しか整備されていないのが少し勿体ない。)

 

(まだ各オアシスの村の寄せ集め程度の人口しか居ないが、次々と新しい命がこの村で生まれてきているから、将来的に今よりももっと多くの居住区が必要になってくるはずだ。)

 

(私自ら家を建てる・・・確かにそれは可能かもしれない・・・だが、それは何か違う気がするし私をこの地の守り神として崇めてくれる砂漠の民の為にもならない気がする。)

 

(緊急時にはそうも言っていられないが、まぁ地底湖の洞窟を使えばよいか、後で整備しておいた方が良いな。)

 

迷宮核が村の様子に意識を向けてみると、砂漠の民は丁度遠征用フレームの解体に取り掛かっており、大河の国で購入した鉄製品を使って砂を固めたフレームの板を切り取っているところであった。

 

「岩山の主様の使者様の抜け殻は本当に丈夫だな・・・。」

 

「触ってみた感じ岩の様な質感だが、岩の様に凹凸がなく、綺麗に切り取られたように平らで滑らかだ。」

 

「使者様が砂の様に崩れて消えたのを目撃した奴も居るらしいが、此処最近は使者様は抜け殻をよく残すようになったな・・・。」

 

「村に祀られている御神体と同じ石が使者様から抜け出して地面に吸い込まれていったそうだな、つまりあの魔物の様な姿は仮初の体で、使者様そのものは岩山の主様と同じく石なのであろう。」

 

「最初は罰当たりなと思ったが、祟りが無い事を考えると、岩山の主様もお許しになってくれたのであろう。」

 

「何にせよ、岩山の主様のご加護の宿る抜け殻だ。丁寧に扱わねば」

 

砂嵐で多少劣化しているとはいえ、まだまだ稼働できる状態で破棄した外殻は、砂漠の民にとって滅多にお目にかかれない建築資材であった。

 

(鉄製品とは言え、地球の合金製工具に比べると強度が足りないみたいだな、摩耗が速い・・・。)

 

(魔力を込めてかなり頑丈に作ってあるから、切り取るのも大変そうだな・・・しかし、器用なものだ。)

 

(岩山の洞窟はあまり金属を含有した地質でないが、魔力で固めればそれなりの強度を持った鉱物を生成する事は可能だ。)

 

(まったく金属を産出しない訳では無いが、それでも極少量だ。村全体に行き渡らせるには厳しいな。)

 

(石英の類はそれなりの量があるから、黒曜石刃に適した鉱脈を作っておいても良いかもしれないな、何も金属にこだわる必要はない、使えればそれでいいのだ。)

 

(あとは、周辺の見回り用の分身の外殻を少し工夫して、工具類の摩耗を抑えるように手を加えてみるか、強度を維持しつつ細かく分解する様に切れ込みを入れておいて・・・・。)

 

迷宮核は複数に分けた意識のリソースを資源開発に少し傾けて岩山オアシスの営みを陰から支えるのであった。

 

岩山オアシスの村人が一風変わった砂漠の神の使者を目撃するのは、それから暫く経ってからの事であった。

 

レンガを組んだ様な規則正しい長方形の石の集合体が岩山オアシス付近を歩いており、岩山オアシス山頂の見張り台からも観測できた。

村の守り手たちが様子を見に砂漠の神の使者に近づくと、切れ込みに沿って青白い光が流れ、見事にバラバラに崩れ堕ち、長方形のレンガの様な形をした石が散らばる。

 

その場に居合わせた守り手たちは、今まで見たことが無い種類の砂漠の神の使者に驚き、慌てたように使者の一部を回収して、魔法研究所へと持ち込んだ。

 

研究の結果、同じ大きさの干しレンガに比べて丈夫かつ軽量で摩耗に強い様であった。

砂漠の民はそれに驚くと同時に歓喜し、ますます砂漠の神こと岩山の主に感謝の祈りを捧げるのであった。

 

(大分建築が捗るようになったな、やはりパーツ別にバラした方が使いやすいのかもしれない。)

 

(幾らか岩山が影になって砂嵐を防げるとは言え、砂鮫の皮をなめした天幕ばかりでは完全に防ぐことは出来ない。洞窟を利用してくれれば良いのだが、彼らは神域として扱うためか、相当きつくても洞窟内部に避難してくることは、あまり無い。)

 

(石造りの建物が増えてきたおかげで、村に活気が溢れてきたな、大河の国に近いオアシスから訪れる商人もやってくる事があるし、良い傾向だ。)

 

(そう言えば、大河の国も雨がほとんど降らずに困っているみたいだな・・・機会があれば行ってみたいものだな、まとまった人口があるなら魔力吸収には困らないし、彼らの助けになれるかもしれない・・・。)

 

迷宮核がまだ見ぬ土地への思いをはせらせている一方、その大河の国では異変が起きていた。

 

「何!?それは本当か!!?」

 

「間違いありません、地方の領主が無理に徴収したせいで飢饉が発生し壊滅した村がいくつか出てしまいました。」

 

「くそ、その愚か者を処分しろ!それと同時に今出来る干ばつへの対策を考えるのだ!」

 

「いえ、その領主は打ち壊しが発生してその際、村人に磔にされた後処刑されています。」

 

「むぅ何たることか・・・我が国の象徴であり、生命線である大河は細まるばかり、時々雨は降れど水量は減るばかり、やはり水の魔石の調達を急がせるべきか・・・。」

 

「周辺諸国も同じような状況で国民の不満が溜まっているみたいです。国によっては戦の準備をしているところもあるとか・・・。」

 

「このような状況で余計に消耗を促す様な事をしようと言うのか?愚かな・・・。」

 

「国民の不満を外に向けさせるための常套手段です。あとは、略奪によって生き永らえようという魂胆でしょう。」

 

「我々も備えなければならないな、他の国に比べて被害は抑えているとはいえ、いつ攻められるか分からん。」

 

「そうならない事を祈りますが、もし戦になればこの土地も荒れ果て、砂漠の民の暮らす土地と同じような不毛の地へと変貌してしまうかも知れませんです。」

 

「そうだな・・・・しかし、元から砂漠に住む砂漠の民はその昔我らと同じ民族でありながら不毛の土地とうまく付き合っている様だな。」

 

「まぁ、元をたどれば草原で農業を営んでいた集落が砂漠化が進んで砂の上に取り残されたのが彼らの始まりで、大河に近く農業を維持できたのが我々だったという話でありますし、彼らから乾燥した土地での生き方でも学んでみてはいかがでしょうか?」

 

「はははっそれは良いな、とは言え、様々な人種や文化的に分かれている集団も居るから、完全に文化的に繋がっている訳でも無いから一まとめに砂漠の民として扱うことは出来ないな、まぁ確かに彼らから知恵を学ぶのも悪い選択ではないか。」

 

「彼らがこの大干ばつの猛威をどのようにして生き延びたのか気になるところですしね。」

 

「ああそうだな、さて、今は愚か者の後始末を優先するか、忙しいのに余計な事をしてくれたな・・・・。」

 

 

大干ばつの猛威は水源に恵まれた大河の国々すら蝕んでいた。

国によっては、大河以外からも雪山からの雪解け水で賄う事も出来るので、その深刻さは国によって異なるが、いずれにせよこの地域の人類の生存圏に危機が迫っている事は明白であった。




少し短めですが、今回は此処まで・・・。


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砂神剣

今年もよろしくお願いします。


岩山オアシスの村の中で走り回る子供達、かつて砂漠の各地に存在した集落からこのオアシスに避難してきた民が定着し、避難民同士が結ばれて生まれてきたのが彼らの世代である。

近年枯れたオアシスが復活して故郷の村に家族連れで帰る者も居るが、岩山オアシスで家庭を築いた者たちの半数がそのまま岩山オアシスに定着した。

 

岩山オアシスから大河まで放射状に小規模オアシス群の水脈が復活してきているが、岩山オアシスの第一発見者にして最も有力な一家である村長の出身地の村は、未だに枯れた水脈が復活の兆しすらない状態で、大河に一番近い集落ながら砂漠の神の加護が届いていない村の一つである。

それ故に、彼らは岩山オアシスから離れず、砂漠の神を祭る祈り手として定着し、社の手入れや修理などを担当している。

 

岩山オアシスの村長一家の長男にして末っ子であるジダンは、何時ものように仲の良い友達と一緒に岩山オアシスの探検をしていた。

 

 

「ジダン~!!こっちこっち!面白い形のサボテンが生えているよ!」

 

「え?本当?いくいくー!」

 

僕の名前はジダン、祖父ヤジードからとってつけられた名前

ラナお母さんがヤジードおじいちゃんから村長を引き継ぐ前に起きた落盤事故があってから、村の皆は砂漠の神様が祀られている社にお祈りを捧げる習慣があるけど、ごしんたい?って呼ばれている綺麗な石を眺めているとすごく不思議な感じがする。

あの石に触ろうとすると村の大人たちは凄い剣幕で僕たちを叱るんだけど、何だかあの石を見ていると、逆に僕が石に見られているような気分になってくるんだ。

 

「アイラお姉ちゃんとラーレお姉ちゃんはどうしたの?」

 

「岩山の主様にお祈りするためにお父さんとお母さんに連れられて洞窟に行ったよ。」

 

「えっ?ジダンもお祈りに行くべきだったんじゃ・・・。」

 

「えへへ、ちょっと抜け出してきちゃったんだ。」

 

「後が怖いよぉ?」

 

実際お父さんとお母さんにお祈りに来るように言われていたんだけど、昔洞窟で光る石の板に話しかけられて怖い目にあったんだ。それ以来あの洞窟も、ごしんたいが置かれている社の近くも苦手になっちゃんだ。なんて話しかけられたのかすっかり忘れちゃったけどね。

 

「うーん、光る石に話しかけられて怖い目に遭ったから、お祈りはちょっと苦手なんだ。多分神様の声?かもしれないけど、人でも動物でもない声だったから凄く不気味な感じだったなぁ。」

 

「あぁ、そう言えば君と一緒に岩山の主様の声を聴いた奴が言っていたね。君、喋ったあああああ!って叫んでいたんだって?」

 

「えぇっ!?そんなこと・・・むむぅ!一体誰が言ったのっ!?」

 

「ははは、本当にそんな声出したんだ!おもしろーい!」

 

「こら!忘れろ!忘れてよ!」

 

「ジダンが怒ったぞー!そら逃げ・・・うわぁ!?」

 

そんなこんなで岩山の上で友達と遊んでいると、ごつごつした岩の塊を踏んずけて友達が転んじゃった。

でもそれは岩の塊じゃなくて大きな岩トカゲだったんだ。大人の人達から見ると唯のお肉とか晩御飯なんだろうけど、僕たちからすると凄く怖い動物、しかもそれが凄く怒って青い舌を震わせて威嚇している。

 

「ひっ・・・たすけ・・・ジダン・・・。」

 

「あ・・・うぁ・・・。」

 

岩トカゲが青い口開いて友達に噛みつこうとしたとき、友達が足を踏み外して坂を転げ落ちていった。本当は大人の人達を呼ばなきゃいけなかったんだろうけど、僕は友達を追いかけて坂を滑りながら手を伸ばしていた。

 

「うう・・・ジダ・・・・ン」

 

「大丈夫!?はやく村に戻らない・・・と・・・?」

 

幸い大した怪我じゃなかったみたいだけど、運が悪い事に親や大人の人達から絶対に入っちゃいけないって呼ばれている砂地に落ちたみたいで、何かとても嫌な気配が近づいてくるように感じた。

 

「まずい、ここは砂地だよ!一応守り手の人達が見回りしているかもだけど、早くここから離れないと大変なことになる!」

 

「ジダン・・・ジダン・・怖いよぉ・・・。」

 

「僕の肩につかまって!地面が硬いところに急ぐんだ!」

 

実際の所、目の端っこに地面が盛り上がるところを見ちゃっていたんだ。

守り手のおじさんたちが数人がかりで運んでくる茶色い大きな魚、あれが生きている姿の砂鮫なんだろう。

それが、僕たちを食べようと風のような速さで僕たちに近づいてくる!ギザギザした痛そうな歯で噛みつこうとしてくる!

 

「怖い・・怖いよぉ・・・。」

 

「僕だって怖いよ!・・・急いで!はやく!」

 

後ろから砂を掻き分ける音がすぐそこまで近づいてきている!もうだめだ!そう思ったとき、岩山の上から何かが降ってきた。

 

キシャーーーーーー!!?

 

岩山の上から降ってきた何かは大きな足で砂鮫の首を踏みつけていて、砂鮫も何が起きているのかよくわからない感じで暴れていた。

蜘蛛みたいな見た目のそれは、凄い勢いで砂鮫を蹴り上げて、重そうな砂鮫の体が小石みたいに飛んで行った。

 

「あ・・・ああああ・・・ぁ・・。」

 

蜘蛛みたいな何かは、体が岩で出来ていて、村の紋章が描かれていて、ぼんやりと光っていた。

 

「大丈夫か!!」

 

気が付くと、見回りをしていた守り手のおじさんが僕たちに走り近づいてくるのが見えた。

僕は場違いにも、後で大目玉だなぁと変な事を考えていたけど、目だけは4つ足の何かから離せずにいた。

 

「ジダン!これは一体・・・それに使者様も!?」

 

使者様・・・そう言えば聞いたことがある気がする・・・・たしか、岩山の主様は砂漠の村々に使者様をよこして枯れたオアシスの水を復活させてくれるって・・・・。

 

「え?・・・し・・・使者様?これが・・?」

 

「おお、子供たちをお救いになられたか・・・ありがたや、ありがたや・・・。」

 

大人の人が涙を流しているのを初めて見て僕は何だか心がむずむずした。

僕たちが危ないところに行ったから守り手のおじさんを凄く心配させちゃって・・・でも、この感覚がうまく言葉にできなくて・・・その、むずむずする。

 

「ご・・・ごめんなさ・・・。」

 

「そうだぞ!なんでこんな危険なところに来たんだ!?村長に顔向けができな・・・?」

 

「え?」

 

気が付くと岩山の主様の使者様が僕の目の前まで近づいていた。

使者様は岩で出来ている体を砂みたいに崩して形を失い、中から岩山の主様を祭る社の石と同じものが転げ落ちてきた。

 

「使者・・・様?」

 

突然崩れた使者様の中から出てきた石が凄く光ると、砂が渦を巻いて光る石を持ち上げて、どんどん形を作って行く、その姿はまるで・・・・。

 

「これは・・・剣?」

 

「な・・・なんだと・・・!?」

 

守り手のおじさんも凄く驚いている。

友達は砂鮫に襲われた辺りから気を失っているみたいだけど、もし意識があったら僕とおじさんと同じく凄く驚いている筈・・・。

 

「浮いている・・・え?ぶわぁ!?」

 

「な・・・。」

 

砂が集まってできた剣は、同じく砂が集まってできた鞘に収まっていて、僕の方に飛んできた。

思わず受け止めてしまったけど、大きさの割に凄く軽くて、それでもって凄く硬い感触がした。

剣に埋め込まれている光る石は、どう見ても社に祀られている、ごしんたいの石と同じもので、何だか僕の心まで見透かしてくるような視線を感じた。

 

「もしかして、この剣は使者様の体で出来ているの?・・・えっと、どうしようこれ・・・。」

 

「まさか、選ばれたというのか?岩山の主様に・・・村長家の末弟ジダンが?」

 

「あのあの!この子気を失っているみたいだから、その剣の事もそうなんだけど、早く戻らないと!」

 

「・・・そうだな、どの道報告せねばならん・・・色々と話は聞かせてもらうぞジダン?」

 

それから僕たちは守り手のおじさんに村まで連れて行ってもらって・・・お父さんとお母さんに凄く叱られちゃった。

でも、お父さんは何だかすごく動揺した感じで、お母さんは泣きながら何かを呟いていた・・・なんでジダンがって・・・僕には何のことかよくわからなかったけど・・・。

 

それから暫くして、僕はお父さんとお父さんの師匠カシムおじさんに剣の扱いを教えてもらう事になっちゃった。

木の棒を使って訓練しているから砂の剣を振り回している訳じゃないんだけど、砂の剣は何時も僕の近くに置かれていた。いや、持ってこなくてもいつの間にか僕の近くに置かれていた。

 

最初はなんだかうっとうしかったけど、ずっと一緒に剣と過ごすうちに剣が・・・剣についている光る石が、僕を見守ってくれているような気がするようになってきていて、何だか親みたいな感じがした。

 

「使者様、僕を見守ってくれるですか?」

 

僕は剣を鞘ごと持ち上げて何となく話しかけてみた。

すると、剣についている石がピカピカ光って僕に何か喋ってきているみたいだった。

 

「使者様、使者様、僕・・・これからちゃんとお祈りするからね?」

 

その日から僕はちょっぴり洞窟と社の石が怖くなくなった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

(ふぅ、この子は彼方此方うろちょろ歩き回るから心配でならない。)

 

(友達を助けるために自分も一緒に滑り落ちる勇気は認めるけれど、実際問題魔物に襲われちゃったわけだし、もう目が離せないや。)

 

(しかし、困ったな。子供でも持てる大きさの剣に分身体を変化させたものの、護身用と言うよりも御神体として扱われちゃうなんて・・・。)

 

(ごめんねラナ、アリー、君達の子供ジダンは祭り上げられちゃったみたい・・・いや、将来アリーみたいな戦士に成長するかもしれないけど、こんな形になるとは・・・。)

 

(声掛けした子供たちの一人だったと言うのも悪かったのかもしれない、うーん、でもまぁ一応村長家族の長男だし、世襲制でどの道難しい立場になる可能性が高いし、私の加護がついているから少しは強い立場になるといいな。)

 

(・・・・・後は、常に肌身離さず所持されている事で、砂鯨と同じ状態になる事で至近距離にいる個体の思考が、感情が読めないか・・・殆ど人体実験であるが、それは人間にも有効か確かめさせて貰おうかな。)

 

(ジダンはまだまだ未熟な魂だ、感覚と言うか感触で分かる。今ならあの子の魂に直接触れられる気がする。)

 

(ラナ、君の好奇心旺盛さと優しい心は立派に引き継がれているよ。そして、アリーの勇敢さと芯の強さはジダンが友達を助けたときに遺憾なく発揮されていた。)

 

(砂漠の民の未来を担う若者たち、そして子供たちに幸運あれ、未来あれ。我々は何時も君たちを見守っているよ。)

 

 

それから暫くしてジダンは剣技を習う子供たちの中でも頭角を現してゆき、砂鮫狩りのアリーと呼ばれた父親の猛訓練もあってか、同じ年齢の子供たちの中で負け知らずとなっていた。

 

 

 

 

砂神剣

 

岩山の主こと砂漠の神が生み出した神剣。

正確に言うと、岩山の主の使者が砂のように崩れて再び結合し、剣の形となったものであるが、神の声を聴いた子供たちの一人、ジダンに飛来し、彼を主として認めた様だ。

砂が集まってできたとは思えない程硬く、生半可な衝撃では折れる事が無く、仮に欠けるほど衝撃が加わったとしても瞬く間に砂で刀身を再構築してしまう。

また、途轍もない切れ味を誇っており、刃先に触れたものは岩石すら空気を裂くように抵抗らしい抵抗も感じずに分解される。

後に魔術師が調べた結果、細かい砂の粒子が刃先を凄まじい速度で流動しており、それが触れた物を削り切っている様であった。

 




所謂ダンジョンコア・ブレイドみたいなものです。


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動植物保護区

岩山オアシス周辺の動植物は水源のお陰で大繁殖しており、干ばつの影響で大きく個体数を減らしていた頃から回復傾向にあり、局地的ながら砂漠の生態系は本来の形を取り戻しつつあった。

 

しかし、ひとたび岩山オアシスから離れると水滴一つない荒涼とした地が広がっており、従属核が展開している小型オアシス付近でしか水が確保できない。

 

野生動物にとって小型オアシスに村を作っている砂漠の民は貴重な水源を独占する邪魔な存在であるため、度々水を飲みに来た野生動物と村人が鉢合わせになり戦闘になる事がある。

 

大抵はお互い距離を取って水飲みを妨害することも無く穏便に済ませるのだが、血の気の多い村人や肉食の魔物の場合は視界に入れた時点で戦いが始まり、どちらかが命を落とす事になる。

 

迷宮核は、偶発的な戦闘行為が自然環境の破壊や水源の汚染など様々な問題を発生させるので、何とかして人間と野生動物を切り離してそれぞれ別の場所に住居を与える方法は無いか頭を悩ませていた。

 

 

(ふむ、困ったな、一応小型オアシスの地下に砂鮫侵入防止のフェンスは設けてあるものの、地表を這って岩などの障害物を器用に乗り越え泉に侵入してしまう個体が居る。)

 

(それ以外の危険な魔物も水を求めてオアシスの村に侵入してくるから、砂漠の民の被害も決して少なくはないし、年に数回程度とは言え犠牲者も出ている。)

 

(一応岩山オアシスから少し離れた岩地に砂鮫の繁殖地は作ってあるが、そろそろ手狭になってきたかもしれないな・・・。)

 

(地下から管を通して、それを足掛かりに水源や岩地を形成しているが、私の分身体を送って更に強固に作り直しておくべきか・・・。)

 

(砂漠の民が大河の国から色々な植物の種子や苗を持ち込んで来てくれているから、岩山オアシスに自生している分だけ失敬して野生動物の保護区を作ってみるか。)

 

 

迷宮核は早速専用の従属核フレームを生成し、砂を固めて作った四角いコンテナに、パピルスや水モロコシなどの植物の種子や苗を満載して、砂鮫の繁殖地である岩地の泥沼へと向かわせた。

 

ハーフトラックに酷似した四角い岩の箱が砂上を走行し、目的地に向かう道中に魔物の襲撃を受けるが、高密度に砂を固めて作られたフレームは強靭であり、攻撃がまるで通用していない事を悟ると魔物は捕食を諦めて去って行った。

 

窓も扉もついていない異様な形のハーフトラック型フレームは、コンテナ部分を泥沼の真ん中で切り離すと、コンテナに切れ目が入り、中から植物の種子や苗が放出される。

 

従属核は、地形操作能力で自らを沼の底に沈めた上で、移動に使ったフレームを再構築し従属核本体を守る外殻として楔状に沼底に要石の如く埋め込まれた。

 

 

大量の魔石をコーティングされていた従属核は、潤沢なリソースを元に、砂の上に乗っかっただけの皿状の岩地の地盤強化を行った。

 

砂上の浮島の如く岩山オアシスから延ばされたチューブと摩擦力のある突起によって辛うじて支えられていた岩の皿は、砂を固めて地底深く伸ばされ、岩盤と接続されて初めて一つの独立した一枚岩となった。

 

また、チューブを通して岩山オアシスの地底湖から送られ続けている水の他に、従属核自体からも水が生成されているので、粘り気のあった泥沼の粘度は幾らか低下し、光も通さぬ泥水から若干光を通す泥水になった。

 

環境の激変により、沼地に生息していた砂鮫の稚魚は若干弱っていたが、暫くすると新たな環境に慣れたのか落ち着きを取り戻した。

 

従属核のコンテナには植物の種子や苗だけでなく、岩山オアシスでポピュラーな食材として親しまれている肺魚の卵も含まれており、大きく拡張されて水深も深くなった砂鮫の繁殖地の生態系の一部となった。

 

これは、砂鮫の稚魚の食糧が乏しく、水を求めてやってきたサソリや砂ネズミなどの小動物を水面から襲撃したり、砂鮫の稚魚同士で共食いをしたりして食料を賄っていた問題を解決するために迷宮核が考えたプランであった。

 

最初は、砂鮫の稚魚と肺魚の稚魚を分けて繁殖させていたが、ある程度生育が進むと砂を固めて作った仕切りを解体して、2つの沼地を合体させる。

 

卵の栄養を腹の袋に残した状態から、自力で捕食可能まで成長した砂鮫の稚魚は、肺魚に集団で襲い掛かり骨になるまで解体し、共食いするケースは激減し、肺魚は肉食の近縁種から逃れるために、パピルスの茂みに逃げ込みやり過ごす。

誰に教えられることも無く、本能のまま行われるこの営みは、彼らの先祖が大河の過酷な生存競争で培われ遺伝子に刻み込まれていたものである。

 

迷宮核の目論見通り、砂鮫は個体数を増やして砂漠中に散らばってサボテンを食い荒らす草食動物を捕食する本来の営みを再開させるだろうと思われた。しかし、事は上手く運ぶことは無かった。

 

(あぁ、前知識としてこうなる可能性もあると気づくべきであった・・・。)

 

砂鮫は肉食性の大型肺魚である、そして元々大河の国周辺でも生息しており、水生生物でもあるのだ。

 

(まさか、砂漠のど真ん中で水生生物に形態変化するとは・・・。)

 

砂鮫も好き好んで水分も食料も乏しい砂漠に出て行くのではない、彼らの先祖が極端な環境変化に耐えるために、陸上でも生きて行くことが出来るように水に比べて抵抗の強い砂の中を泳げるように形態変化をして、良く見知った砂鮫としての姿になるのである。

 

今の姿は、茶色く地味な色合いの砂鮫ではなく、桜色と黒のストライプで見る物にある種の美しさと警戒心を抱かせる派手な色合いで、浮力の働く水中での生活で通常の砂鮫の三倍近い体格に成長していたのだ。

 

(これが、大河の国で人食い魚として恐れられる砂鮫の別形態・・・沼鮫か。)

 

従属核によって改造された岩地の泥沼は、改造前とは比べ物にならない程広大かつ深く作られているので、水深にも余裕があり、大柄な体格の沼鮫の生育を許容する環境であった。

 

・・・・・・砂鮫が沼地から出て行かない。

想定外の事態に迷宮核は焦るが、新たに作り出した動植物保護区たる沼地に許容限界があり、砂鮫と肺魚の個体数が増えてパピルスが生い茂り沼地のスペースが狭くなってきた頃、沼地から追い出される砂鮫が現れ始めた。

 

水中に適応変化した個体は、上手く砂地に馴染めずに半数程度は命を落とすが、大型の沼鮫としての体格を維持したまま砂鮫へと形態変化する個体もおり、砂漠の民にとっての新たな脅威であると同時にその身は滅多に仕留められない大物として珍重されることになる。

 

沼鮫形態へと移行した砂鮫は、新たなライバルとなる若い砂鮫を追い出し、追い出された砂鮫は若い個体が故に、砂地に適応しやすく砂漠の捕食者として砂漠中に拡散して行く。

生態系ピラミッドの下層である、草食の肺魚は同時期に沼地に放たれた水モロコシやパピルスの若葉や水苔などをかじり、捕食者の侵入できない浅瀬のパピルスの茂みに産卵して種を維持し次世代へと繋げて行く。

 

元々一人前の狩人となる試練の場として砂鮫の繁殖地を利用していた岩山オアシスの村人たちは、岩地の泥沼の大変化に早い時期に気づいており、調査が行われ彼らが目にした物は以前来た時よりも遥かに水深の深い濁りつつも幾らか透明度のある沼地であった。

 

泥臭く岩山オアシスの湧水程飲用に適していない水質だが、緊急時には一度沸騰させて飲む事くらいは可能であり、肺魚も生息しているので、利用価値は以前の泥沼に比べて大きく上がった。

しかし、沼地を詳しく調査しようと、服を脱ぎ始めた調査隊の前に突如地面がせり出してきて、四角い石板が目の前に現れた。

 

石板は精巧に彫刻された絵が描かれており、砂鮫の成魚と思われる絵と、砂鮫に似た、そして見たことも無い姿の大型魚の絵が描かれていた。

 

良く見るとその横に、食用として知られる肺魚と岩山オアシスのあちこちに生えているパピルス、そして人間の絵もあった。

 

「人間や砂鮫等の大きさ比が非常に正確に再現されている。」

 

「では、この砂鮫の横に描かれている巨大魚の大きさは砂鮫の三倍ほどあるという事なのか?」

 

「まさか・・・この沼地に?」

 

沼地を泳ごうとしていた調査員の顔は青ざめており、太陽光線の届かない濁り水の深さと恐らくその中に生息しているであろう巨大魚の存在に戦慄を覚えた。

 

岩山オアシスの村にその調査報告が届くと、村はちょっとした騒ぎになり、砂漠の民を守護する岩山の主様が何故そのような危険な場所を作り出したのか議論されたが、命知らずの狩人たちによって事態は急変を迎えた。

 

沼地に挑んだ狩人たちは、大型の槍を持って沼地に潜り、事前に用意してあった肺魚の腹を切り裂いて血をまき散らし、砂鮫の水中適応形態である沼鮫をおびき寄せた。

 

陸上とは勝手の違う水中での狩りに手間取るものの、砂漠の過酷な環境に鍛え抜かれた肉体を駆使して、沼鮫の首筋に大槍を打ち込む。

血に染まる沼地と、水柱を上げる人と魔物の塊、そしてそれを目じるしに次々と沼鮫に躍りかかる命知らずな男達、そして暫く経ち沼地は静寂を取り戻した。

 

命知らずな狩人たちに齎されたのは、砂鮫の三倍ほどある巨大魚であり、その血肉は死の海から迷い込んだ大砂鮫に匹敵するほどの資源であった。

 

「岩山の主様は我らに試練と恵みを両方創造されたのだ。」

 

「戦士たちの鍛錬の地として、あの沼地を使うべきだ。」

 

「飲み水には適さぬ故に、修行者の身は更に引き締まり、油断はなくなるであろう。」

 

迷宮核が動植物保護区として意図的に飲用に適さない水質の沼地を作り出したが、それは長期滞在を阻止して乱獲を防ぎ、保護区の生物の個体数は常に一定数を保たれた。

 

結果的に岩山オアシスの村に副次的に恩恵を齎し、彼らの食事のレパトリーに砂鮫や沼鮫の魚肉が並ぶようになった。

 

動植物保護区たる沼地は、岩山オアシスの守り手や狩人たちに管理され、うっかり旅人が危険な沼地に迷い込んだり、岩山の主様の物である沼地の生物が密猟がされない様に監視されている。

 

そして、調査の副産物として、沼鮫が砂鮫の水中形態であるという仮説が魔術研究所や守り手達の中に浮かび、砂鮫の骨格と沼鮫の骨格の比較がされ、ほぼ一致したことからその説が岩山オアシス中で支持されるようになった。

 

これは、乾燥地と湿地が隣接する特異な環境が無ければ導き出されなかった仮説であり、大河の国ですら知り得ぬ情報であった事で、旅人を通じて岩山オアシスの存在はますます注目を浴びるのであった。

 

(元々砂鮫の骨格は天幕の補強材や武器などに利用されていたが、沼鮫の骨は更に大きく加工幅も広い。)

 

(内臓は天日干しにして保存食に加工できるし、煮込めば濃厚なスープになる、そして肉はあく抜きして泥臭さを取り除けば上品な味わいになる、血液は砂漠の生物の干物の粉末と混ぜる事で滋養強壮剤に加工される。)

 

(血・肉・内蔵・骨・皮、本当にどこも捨てるところが無いんだな、改めて見ると・・・。)

 

(戦士たちの訓練場所として使われるのは想定外だったけど、砂鮫も順調に数を増やしているし、彼らだけでなく砂漠をさまよう草食動物たちも繁殖場所に選んでいる・・・・動植物保護区を作って正解だったな。)

 

(時々肺魚を捕食するために里帰りする砂鮫も見かけるし、人間が襲われるケースも心なしか減った気がする。やはり獲物としてみると人間を襲うのは彼らにとってもリスクがあるんだろうな、だから食べやすい肺魚を狙うんだ。)

 

(それに、この激しい生存競争で生と死が目まぐるしく繰り広げられることで、魔力が私の分身体にかなりの量が供給されている。)

 

(岩山オアシスの次に多い魔力の供給源になるとはね、何があるか分からないもんだ。)

 

(早くこの干ばつが終わらないかな、砂漠は広大だ、こんな僻地でかろうじて種を存続させ続けるのはとても苦しい事だ。)

 

(砂漠を旅立った先で、せっかく生まれたこの命たちが、水を失い干乾びてしまうのはとても悲しい事だ、人も魔物も・・・。)

 

(神よ、どうかどうか、この乾いた大地に慈雨を齎したまえ・・・・。)

 

 

迷宮核はそう願わずには居られなかった・・・・。



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回遊する従属核

岩山オアシスから放射状に広がる水源が復活した小型オアシス群、その全てに人間の集落が存在する訳では無いが、干ばつに襲われ砂漠に住む魔物を含む生物たちにとって種を維持するための拠り所であり、減少傾向にあった砂漠の生物の個体数が久しぶりに回復に転じていた。

 

そして、それらのオアシスの水源を維持している従属核は、水を求めて集まった生物たちが常に放出する生命活動の余剰エネルギーを元に水の生成や地形操作を行いよりオアシスを強固に乾燥に強くして行く。

 

小型オアシスの中で人間が集落を構えた地の殆どは、大河の国から持ち込まれた植物の種子から有用な植物が植えられており、そこから砂嵐などで飛ばされた種子が他の小型オアシスに定着する事もある。

 

だが、魔物が繁殖地に選んで人間が集落を構えていない小型オアシスは植生が非常に偏っており、サボテンなどの多肉植物しか生えておらず、特定の生物しか定着できない所もある。

これは、本来砂漠にサボテンと一緒に生えていたサボテン程乾燥に強くない種類の植物が干ばつで殆ど死滅してしまったため、生きている種子が少なく植生のバランスが崩れた事によって起きた現象である。

 

幸い、岩山オアシスの小さな水溜まりに種子が落ちて繁殖し、辛うじて絶滅を逃れていたが、岩山オアシス以外の生育地はまばらで、上手く繁殖できていないようであった。

 

(動植物保護区に使っている泥沼に砂漠に生息している植物の種子や苗を集めて繁殖させているけど、段々とそれぞれがどの様な役割を果たしているか分かってきた。)

 

(しかし、私の分身とのやり取りで砂漠各地の植生を調べてみると随分と植生が歪になっているな・・・。)

 

最近迷宮核が作った動植物保護区の浮島は、岩山オアシス付近の生物がかき集められており、ちょっとした実験場の様であった。

動植物保護区に持ち込まれた種の中には、他ではもう殆ど死滅してしまった絶滅寸前の生物もおり、潤沢な水源や栄養のある土地のお陰で息を吹き返す事もあった。

 

従属核は、コンテナフレームに満載した種子や卵、幼生などを他のオアシスに運んだりして生態系が歪な場所に本来生息していた動植物を放ち、崩れかけていた生態系を元の形に戻したりしていた。

 

(一部の植物の種子や乾燥した後に水でもどして孵化する卵は、パッケージ砲弾で飛ばす事が出来るようになったが、あまり乱暴に扱えない動植物はコンテナフレームを使う事になるな・・・。)

 

(実は、人が住んでいる小型オアシスの村の分身体は二交代制なんだよね、まぁ我々は睡眠する必要が無いから態々人の真似して寝なくても幾らでも活動できるけど、活動するために魔力の補給は必要だから十分に魔力を集めた分身と遠征を終えてオアシスに戻ってきた分身がオアシスの管理を交代して、魔力を村の人々から集めた分身が砂漠を巡る旅に出るんだ。)

 

(まだ辛うじて残っている水源の復活や、新天地の開拓、元々オアシスが存在していた痕跡の探索、私の分身体がこの大砂漠を旅し続けるのは、失われてしまった砂漠の生命の復活、この大地を蘇らせるためなんだ。)

 

(砂漠の民のみんなが砂漠各地や大河の国から集めてくれた生き物たちは、この乾いた大地を緑に変える力を秘めているんだ、それが唯の雑草でも地面を這うだけの虫でも、目に見えない菌類でも、どんな小さな存在でも必ず意味があるんだ。)

 

(今のところ何もない生物の痕跡が全く存在しない土地のパッケージ砲弾の灌漑は、動植物保護区の泥沼の泥水と乾燥させた各種植物の種子だけで行っているけど、水の生成と光合成だけで随分と繁殖させることが出来るな。)

 

(植物から放出される魔力だけでは水源維持だけで精一杯だけど、もしそこに外部から生き物が定着してくれれば・・・そう、私の分身体の魔力を補給するための拠点となり得るし、もしかしたら砂漠の民がそこを見つけて村を作るかもしれない。)

 

(水の盆を作って小動物や砂鮫を集めていた頃から思えば随分と進歩したものだなぁ・・・栄養源のない土壌を改良するには先ずは土壌細菌を、小動物の餌や隠れ家を作るには植物を、何もないところに生命を宿すには、まず元手が必要になる。)

 

(さて、土壌細菌と共生関係にある芋虫を痩せた土地に運ぼうかな、確かあそこはサボテン以外の植物が絶滅しちゃったはず。種も持ち込まないと・・・。)

 

今日も従属核が履帯や車輪を回転させて砂漠を移動する。時には車輪を捨て油圧式の歩行機構で歩く事もあるが、水滴一粒ない砂漠を飲食せず休まず移動する従属核は、この砂漠に生きる生命たちの希望の星であった。

 

 

「おい、こいつを見てみろよ!」

 

「あぁ、未発見のオアシスだ!」

 

砂鮫から逃げた先で砂嵐に遭い、目印の杭すらも見失ってしまったキャラバン隊は、行商ルートから外れて偶然オアシスを発見した。

 

「うぅむ・・・さっきまで酷い砂嵐だったせいか、水が随分と濁っているみたいだな・・。」

 

「少々かったるいが、一度魔法で加熱して沸騰させるか、喉が渇いて死ぬよりはマシだ・・・。」

 

「ん?いや、あの奥に生えているのは・・・食用サボテンじゃないか!結構大きい!」

 

泥水を簡素な砂焼きカップですくい取ろうとしていた隊員を制止し、大きく成長した食用サボテンを指差す。

 

「ほう、中々立派なサボテンだな、果肉たっぷりで旨そうだな。」

 

「泥水を飲むよりまずはこいつを食って喉を潤そうじゃないか!」

 

丁寧に棘のついた皮を剥いて中身を切り出し、仲間たちの皿に盛りキャラバン隊の皆で大きな食用サボテンを平らげると、一息ついたキャラバン隊はオアシスの水が心なしか透き通り始めている事に気づいた。

 

「はふぁぁ、腹が減っていると味気ないサボテンでもほのかな甘みを感じるなぁ・・・おん?なんだ?オアシスの水の色が変わっている気が・・・。」

 

「いや、気のせいじゃない!砂嵐で濁っていたオアシスの水が透き通り始めている!」

 

「み・・見て!泉の中に魚が・・・肺魚が泳いでいるわよ!!」

 

「何じゃあれは・・・ワシの目がおかしくなければ、泉の中心に光る水晶が埋まっているようにも見えるが・・・・。」

 

「あれは砂漠の神の使者様ではないか!そうか!ここは砂漠の神が種をまいた土地だったのだ!」

 

「うそうそっ!それじゃぁ早く他の村にもこの場所を教えて人を呼ばないと!神様が選んだ土地だもの!きっと豊かになる筈だわ!」

 

「いや、先ずは水と食料の確保だ。夜になって星が出れば大体の現在地は分かるんだが・・・取りあえず野営の準備だな。」

 

 

一方、場所は変わってあるオアシスの村にて。

 

 

「あれ?こんなところに防砂の小屋なんて建っていたっけ?」

 

「これ・・・干しレンガの他に砂漠の神の使者様の残骸が結構使われているみたい・・・。」

 

「うわぁ、贅沢ねぇ・・・こんなに村に近いのに誰も気づかなかったなんて、キャラバンの紋章もついていないし誰が作ったんだろう?」

 

「そう言えば、兄が働いている行商キャラバンで、魔物に壊されちゃった防砂の小屋がいつの間にか使者様の残骸で穴が埋められて修理されていたっていう話を聞いた事があるから、案外砂漠の神様が用意してくれたのかもね?」

 

「もしそうだとしたら有難い話ね、そう言えばキャラバン隊の皆が時々砂漠を横断する使者様を見かける事があるみたいよ?」

 

「アタシも見たことあるね、のっしのっし柱みたいに太い足で歩くから、近くで見るとちょっと怖いけど、こっちが頭を下げると水晶の部分がチカチカ光るんだ。挨拶してくれているみたい。」

 

「いいなぁ、私一度も動いているところ見た事ないんだ。村に持ち込まれる残骸しか見た事ないもの。」

 

「泉の祭壇の水晶が明滅している時に、動く使者様の目撃情報が多いから、うちのオアシスでも使者様が砂漠を歩く姿を見る事が出来るかもしれないわね。」

 

「へぇ、それじゃぁ今日から泉の祭壇をじっくり観察してみようかしら?熱心にお祈りしていれば作物もより元気に育つし、少しは真面目に村のお祈りに参加してみよっと!」

 

「貴女いつもお肉目当てに岩トカゲ探しているから、村の集会とかあまり出てこないのよね・・・まぁ、大きな獲物捕まえてくるから村の皆も黙っているけど・・・。」

 

「ふふん、こう見えて村の守り手志望だからね!槍の扱いにはちょっと自信あるんだよ!その内砂鮫も狩ってみるんだから!」

 

「くれぐれも、魔物か何かと間違えて砂漠の神の使者様に槍を突き立てないようにね・・・。」

 

 

砂漠を回遊する従属核は、砂漠に生きる民や生物に様々な恩恵を与えていた。

村同士が離れすぎている中間地点に水瓶や干した水モロコシを保管した防砂の小屋の建設や、オアシスの新設、破損して放棄された施設の修復など、人間の生活に直接介入するものや、生態系を通して間接的に人間にも恩恵を齎すものなど、その影響力は非常に大きい。

 

ふと気が付けば、岩山オアシスの山頂から眺めれば、地平線とその周りに点在する緑の茂みが確認できるようになり、かつて乳白色だけの景色は確かに生命の息吹を感じられるものへと変化していた。

 

 

使い古されて部分的に穴の開いていた入植初期の天幕は、パピルスなどの繊維質の植物から編まれた真新しい布に張り替えられ、砂嵐や灼熱の日光から人を守り、太陽光線を遮るものが無かった不毛な岩肌は、萌え芽に突き破られ青々とした草木の茂みに覆われ、人が木陰で休んだり小動物が身を隠せるようになっていた。

 

そして、大河の国からより太く大きい乾燥に強い樹木の苗木が持ち込まれたことで、砂漠の民はその生活がより豊かなものとなった。

 

小型オアシス群はそれ程でもないが、岩山オアシス上部の人の手の加わった場所は特に背の高い木が多く、細身ながらちゃんと建築資材に使える強度と大きさを持っており、それらは小さいながら森林と呼べる程の勢力を持っていた。

 

砂漠の神たる迷宮核本体の拠点である岩山オアシスは、砂漠にぽつりと浮かぶ緑の浮島であり、多種多様な生物の命を支える広大な湖が広がり、そしてそこに住まう人々の拠り所であった。

 

砂漠の生物が増える事で、より多くの魔力を得ることが出来る迷宮核は、従属核の行動範囲を少しずつ広げて行き、その影響圏はやがて大河の国々の支配領域へと到達しつつあった。

 

 

(大河の国々が利用する行商ルートの中継拠点村が復興し始めた・・・・普段見かけない人種の人達も此処を通る事が多くなってきたから、その内この岩山オアシスに砂漠の民以外の人が来ることがあるかもしれないな・・・。)

 

(ふふっ・・・そしたら、どんな顔をするんだろう?どんな風な表情で何を思うんだろう?今からそれが楽しみで仕方がないな・・・。)

 

 

大昔に枯れて久しい水脈跡は、オアシスに埋め込まれた従属核同士で結ばれて、地表をわずかに湿らせた。三日月形に地図を緑色に染める、緑の帯と呼ばれる交易路は、大河の国同士や砂漠の民との接点となった。

人と人、国と国の交流は、着実に互いに影響を与え変化をもたらす。

糸と糸が食み合い格子状になり、糸そのものとは全く違う布と言う構造物を作り上げるように、それらの結びつきはそれまでとは全く違うものを作り上げつつあった。

 

 

 

 

 

 

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食用サボテン

 

 

砂漠の民に食用として採集されるサボテンの総称。

ウチワサボテンの様な板状の物や、タマサボテンの様な半円形のものもある。

時々、食用に適さない有毒のサボテンも紛れる事があるが、大抵が精々軽い腹痛程度と重症化する事は滅多にない。

水分は勿論の事、食物繊維が豊富で食べ応えがあり、大してカロリーが高くない食材であるにもかかわらず満足度は高い。

基本的に空気中のごくわずかな水分を吸収しているが、大干ばつの影響で大幅に個体数を減らしている。

十分な水分があれば、繁殖が可能で栽培も比較的楽なので、岩山オアシスでは野菜として栽培されている。

 

 

腹痛サボテン

 

食用サボテンによく似た弱毒性のサボテンの総称。

ある種のアルカロイドを生成し、気分不快や腹痛を起こすが、毒矢などに使えるほどの強烈な毒性はない。

粘膜を多く分泌させる効果があるので、少量なら便秘薬として使えなくもない。

弱毒性ではあるが、木の実にはそれ程毒の成分が蓄積しないので緊急時の水分補給源として候補に挙がる事もある。

 

 

砂芋虫

 

大河の国に自生する植物から摂取した根粒菌を体内に蓄え、窒素固定によって得られる栄養素を根粒菌から貰い共生する甲虫の一種。

鋭い顎により、植物の根っこや芋を齧り取り、植物の根っこに寄生する根粒菌を体内に取り込み、広範囲を移動しながら糞から根粒菌を拡散する。

実は完全変態する虫なのだが、芋虫から蛹を経て成虫となっても頭部の甲殻が若干分厚くなる程度の変化しかないので、白くて長い腹部と短い脚のせいで芋虫のまま一生を終える虫と勘違いされている。一応退化した羽が甲殻の端っこに痕跡器官として確認できる。



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三姉弟

「ジダン、まだその剣の重さは無理みたいだな、剣に振り回されているぞ?」

 

「うぅ、でもいつものは少し軽すぎるし、あれとこれの中間ってないんですか?」

 

「無いぞ、そもそも俺からしたら誤差の範囲でしかないから正直なんとも言えんな。」

 

「わぴゃっ!?」

 

「ほれ一本取ったり」

 

村長家の末弟ジダンは、砂漠の神の剣に選ばれて以来、父親のアリーやその師匠であるカシムに剣の稽古をつけて貰っている。

同年代の子供達よりも一つ抜けた実力を身に着けつつあるが、肝心の神の剣はあまり触らせて貰えない上に、実際に握っても上手く扱えないので砂神剣を持て余していた。

 

「うーん・・・この調子だと岩山の主様から授かった剣を活かすことが出来ないままに終わってしまいます。」

 

「その年で木剣をそれくらい扱えれば上等だろうよ。」

 

「男衆の指導をするカシムおじさん直々に剣を教えてもらっているのに、これでは何か申し訳なくて・・・。」

 

「ふむ、俺だってお前さんと同じ年の頃は剣なんてまともに振り回せなかったさ、だが、がむしゃらに剣を振り続けていればこれくらいの腕にはなる。自分を信じて練習しておけ。」

 

若干白髪が混じり始めた黒髪をオールバックにした戦士カシムは、かつて護衛として付き添っていた前村長の娘ラナの息子であるジダンを孫の様な感覚で厳しくも優しく指導していた。

 

砂神剣に選ばれてからジダンは、御神体の祀られている社へのお祈りをするようになっており、以前のように怖がらずに毎日それを続けていた。

 

そして、何かとバラバラに纏まらずそれぞれの遊び場で遊んでいる姉弟たちが集まる場でもあるので、お祈りの時間は家族水入らずの時間でもあった。

 

「へぇ、ジダンはもうそこまで剣の腕を上げたのね?」

 

「うんうん、お姉ちゃんとして鼻が高いよ!まぁ、私の腕には届いていないけどね!」

 

「姉さんは力任せにジダンを打ちのめしているだけじゃない・・・年の差も考えなよ。」

 

「うぅ、アイラお姉ちゃんは力も強いけど、ただ振り回しているだけじゃなくて芯があるから、まともに受けると木剣落としちゃうんだよ。」

 

「ラーレも、もっと剣の練習をしたら?ぶっちゃけジダンの方が剣術の腕あるよ?」

 

「わたしは、嗜む程度で良いのよ。それにジダンは砂漠の神様に選ばれし子だから砂神剣を扱えるようになるまで、剣の腕を上げなければならないと決められているよ。」

 

「う・・うううぅ、気が重いよぉ。」

 

「つーん!ジダンは羨ましいな、あ!そうだ!お祈りが終わったら私と剣の稽古しない?」

 

「お・・・お手柔らかにお願いします。」

 

「前みたいに、力任せに頭殴らないでね。ジダンが気絶しちゃって本気で心配したんだから・・・。」

 

守り手達が使う練習場の広場へ木剣を持ったアイラとジダンがやってくると、適当な場所に円を書いて、その範囲内で剣の稽古を始めた。

 

「行きます!!」

 

「かかってきなさい!」

 

カンカンと小気味の良い音が打ち鳴らされ、時に軸をずらして受け流したり、フェイントを入れつつ隙を見て攻撃したり、子供ながら侮れない実力で姉弟はやり合っていた。

 

「ふっ!!」

 

「いぃっ!?・・・・っこの!!」

 

「え?っうそ!?・・・・おふぅっ!!」

 

思いのほか鋭い一撃に一瞬青ざめるアイラだが、咄嗟に剣を握る力を緩めて剣撃を受け流し、剣を回転させながら持ち直して突きを放つ。

 

「あぁ、今のは思いっきり肺に刺さっちゃったね。ジダン、大丈夫?」

 

「だいじょばなぃぃ・・・・。」

 

木剣とは言え、それなりに勢いの乗った一撃が胸部に当たってしまったのだ。防具も身に着けず、衝撃吸収力が大して高くない布の服ではアイラの一撃はジダン少々堪えた。

 

「ごめん、何か肺から空気ぬける感触が・・・モロに入っちゃったね。」

 

「うえぇぇぇん!ラーレお姉ちゃーん!!」

 

「はいはい、よしよし、姉さん・・・もうちょっと弟に優しく出来ないの?」

 

「そりゃ末っ子だもん、可愛がるに決まっているじゃない!」

 

「姉さんの可愛がるは普通の可愛がるとは、ちょっと違う気がするんだけど?」

 

「大体、ラーレはジダンを甘やかしすぎだよ!これじゃぁラーレにべったり過ぎになっちゃうよ!・・・それに、私にあまり甘えてくれなくなっちゃうし・・・。」

 

「あら?アイラは私に甘えても良いのよ?」

 

「!?・・・お母さん?」

 

いつの間にか姉弟の後ろに立っていた母親のラナは、練習用の短剣を片手に背伸びをしつつ関節をクルクルと回して体を慣らしていた。

 

「えっと・・・何で練習用の短剣を?」

 

「あぁ、大丈夫・・・砂鮫の牙で作られているけど刃は潰してあるから・・・。」

 

「そういう問題じゃなくて・・・。」

 

「途中から見ていたわよ?確かにジダンの一撃はお見事だったけど、むきになって本気でつついちゃったでしょ?」

 

「ひっ!?」

 

「お稽古・・・しよっか?」

 

その日、アイラは稽古と言う名のお仕置きをされて、絶妙な力加減でぺしぺしと痣が残らない程度の手痛い攻撃を受けて轟沈した。

そして何気なく、ジダンの稽古が始まり、姉のアイラ程ではないにせよラナの短剣に木剣を弾かれたり、母の練習用短剣を握らされて型を教えられたりする事になった。

 

「随分と遅くなったと思ったら、お前たち剣の稽古をしていたのか・・・ほんの今さっきまで・・・。」

 

「ごめんねアリー、ちょっと興が乗っちゃって・・・。」

 

「ぺしぺし嫌ぁ・・・ぺしぺし怖いぃ・・・。」

 

「何か途中でわたし治療役やらされていたし、姉さん、ジダン、大丈夫?」

 

「ラーレお姉ちゃんの魔法が無かったら今頃、僕もアイラお姉ちゃんも動けなくなっていたよ・・・疲れたぁ。」

 

「はぁ、全く今から飯を作るのか・・・砂鮫の肉はまだ残っていたかな?」

 

「私が作るよ、アリーは子供たちをお願いね。」

 

ラナは木桶に溜めた水で手から肘まで汚れを洗い落として、黒曜石の短剣を取り出して塩漬けの砂鮫肉を捌き始める。

 

「あいつは、ああ見えて短剣捌きだけなら俺よりも上だからな、お前たち、どこか痛めているところは無いか?」

 

「え?うん、大丈夫だよ、お母さん短剣の稽古は怪我する事なんて滅多にないし、何処か血が出たらお母さんの方がひっくり返っちゃうし・・・。」

 

「あの過保護っぷりは何とかならないものかな?ちょっと魔法の方が得意だからって治療役に毎回連れ出されるこっちの身にもなってほしいわ。」

 

「ジダンを散々甘やかしているお前が言うものでもないだろうラーレ・・・。」

 

呆れ顔の父親をじとっとした目で不満の意思を伝える次女のラーレ、ジダンはそんな二人の視界から逃れようと、こっそりと離れている。

 

「こら、逃げるな。」

 

「に゛ゃっ!?」

 

アイラに首根っこを掴まれ、ぶらぶらと脱力するジダン。

 

「将来は魔術師になりそうなラーレは兎も角、貴方は神剣に選ばれし子なのよ?将来、砂漠の民を導かなければならない存在なの、だから毎日稽古とお祈りは欠かさず行わないといけないの。」

 

「うー・・・わかっているよぉ・・・。」

 

「そう言えば、お前と同じく神の声を聴いたという子供たちの一人・・・確かルルだったか、あの子も剣の道を選んだらしいな?」

 

「うん、お父さん、確か僕が神剣に選ばれたときだったかな?」

 

「あの子もあの子で少し特別だが、何で今まで剣に興味も欠片もなさそうだった娘が剣の道を志したのだろうかな?」

 

「よくわからないけど・・・なーんか、あの娘僕につっかかってくるんだよなぁ・・・。」

 

 

数か月前、守り手見習い同士の試合で準決勝で彼女とぶつかった時の事を思い出す。

 

「ふふん、神剣に選ばれたからって調子に乗らない事ね!あたし強いんだから!」

 

「まさか君が守り手見習いになっているなんて思わなかったよ・・・。」

 

「そうでしょ!そうでしょ!あたし意外と剣士の才能があった・・・じゃない!ジダン、貴方が神剣に選ばれるに相応しいか、このあたしが見極めてやるんだから!」

 

「どうかな?少なくともちょっと驚いたからって、ぴぎゃあああああ!なんて叫ばないもん!」

 

「そ・・それを言うなあああ!アンタだって喋ったああああ!って叫んでいたじゃない!」

 

「なんだって!もう怒ったぞぉー!!」

 

子供らしいどこか気の抜けた口喧嘩をしながら、子供にしては鋭い木剣の応酬をする二人、互角の実力だが幾らか腕力が上のジダンの振り下ろしに手がしびれてその隙を狙われ、木剣を首筋に突き付けられ勝負が決まった。

 

その後決勝で、少し年上の男子相手に際どく勝利したジダンは、砂神剣を模した木彫りの首飾りを授与され、岩山オアシスの村中に響く歓声を受けた。

 

「おめでとうジダン!流石神剣に選ばれし者!あたしを倒すだけあるわね!」

 

「ルルちゃん?あ・・・ありがとう?」

 

「力押しだけじゃなくて、受け流しの技術も相当なものなのね。年上相手だとどうしても力関係で分が悪いし・・・。」

 

「あのお兄ちゃんも強いけど、ルルちゃんの方が剣捌きは上だったよ?僕はたまたま運が良かっただけさ、もしかしたら君が優勝していたかも?」

 

「そ・・・そんなことは・・・でも・・・。」

 

誰にも聞こえない様に小声でつぶやく。

 

「ジダンに置いて行かれなくて良かった・・・もう少し傍に・・・。」

 

「ルルちゃん?」

 

不思議そうな顔で首をかしげるジダン。

 

「ふふふっ、剣の道を目指してやっぱり正解だったな、なーんて!」

 

「うん、実力を見ると僕よりもよっぽど神剣に選ばれそうだよ、ルルちゃんは強いよ!」

 

「か・・勘違いしないでよね?神の声を聴いた子供達なんて呼ばれて舞い上がっているところ、貴方が神様に直接選ばれちゃって焦って剣の腕を上げたんじゃないんだから!」

 

「ルルちゃん?え?早口で良く聞こえない・・・何を言って・・・。」

 

「何でもない!じゃあねジダン さ ま !」

 

「さま・・って・・。」

 

砂神剣に選ばれた事もあって、ジダンは村人たちに敬意を持たれ、敬称で呼ばれることも少なくない、しかし、年相応の子供として見ている部分もあり、複雑な気持ちながら成長を楽しみにしている。

 

それまでごく普通に一緒に楽しく遊んでいた同年代の子供達も、ジダンの事を敬称で呼ぶこともあり、何とも言えない気分になる事も多かったジダン。

それ故に、試合中ごく普通の同年代の子供と同じように扱ってくれていたルルに、取ってつけたように様呼びされた事に妙に引っ掛かりを覚えるのであった。

 

「まぁ、ルルちゃんも結構強かったし、単純に僕の事をこーてきしゅ~?・・・として見ているんじゃないかな?」

 

「好敵手な、だが結局剣の道を目指した理由は分からずじまいか・・・。」

 

「アリーはそこら辺鈍いからねぇ・・・ふっふっふ、若者たちよ、砂鮫煮込みを持ってきたぞよ!」

 

「何だそのノリは?おお、美味そうじゃないか!」

 

「わーい!頂きまーす!」

 

「姉さん・・・何だか弟の行く先が見えてしまった気がするの・・・。」

 

「貴女はもう少し弟離れをすると良いわ、まぁあの子にお似合いじゃない、私とも気が合いそうな感じがするし、良いお付き合いが出来ると良いわね、色々と・・・。」

 

岩山オアシスに集まった砂漠の民同士の繋がりで生まれてきた新たな世代は、砂漠の民の未来を担う存在であり、希望でもあった。

そして、神剣に選ばれし子供と言う象徴的存在が現れた事で、砂漠の民はますます未来に希望を持つのであった。

 

 

(ジダン・・・・あの子は、祭り上げられてしまったけれど、それのお陰で砂漠の民のみんなから放たれる希望の感情が・・・魔力がより強力なものになっている。)

 

(ジダンが剣の才能があって本当に良かった・・もし、剣の才能がなく祭り上げられてしまったら、もし剣の事で追い詰められることがあったら・・・やはり、少し私は軽率だったかもしれない。)

 

(あの剣は、剣の技術があるならば砂漠の民の誰もが扱う事の出来る武器だけれども、こうなってしまったからには、調整をしなければならないな・・・。)

 

(特定の誰かが握りしめたときに、私の分身体を発光させてみよう、取りあえず村長家族全員に目印をつけて置いて・・・まぁ、こんなものだろう。)

 

(さて、まだまだやる事は沢山あるぞ、オアシス同士の結びつきや魔物が避ける通路と魔物を集め隔離する浮島を作るべきか・・・。)

 

(いや、大河の国近くの、枯れた大河跡の地質調査が先か・・・魔力配分的に余裕がないし判断が難しいな・・・ふーむ。)

 

 

迷宮核の試行錯誤はまだまだ続く・・・・。

希望の象徴を得た砂漠の民は、生きる輝きをより強めて行き、文明的に繋がりのない者同士でも結びつきを強めて、互いに力を合わせて砂漠の大干ばつに立ち向かうのであった。

 

それによって生み出された膨大な魔力によって各オアシスは、時間をかけ少しずつ強固な地盤となり、緑の帯と呼ばれる荒野はその大昔、かつてそこが平原だったころの姿を取り戻しつつあるのであった。



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大雨

迷宮核の力によって水源が維持されている岩山オアシス、干ばつに襲われる砂漠の中で数少ない人類の生存圏である。

 

元々乾燥した土地である砂漠でも、大雨が降る事があり年に数回の雨でその年の水分を保持し砂漠の生物は生を繋いでゆくのだが、干ばつにより年に数回の雨が激減してしまっていた。

 

しかし、年に数回から年にあるかないかに減った雨が久しぶりに降りそうな気配をしていた。

雲一つない砂漠だった砂漠が朝なのにも関わらず薄暗くなり、空の隙間なく分厚い雨雲が覆っていた。

 

(これは雨が降りそうな気配がするな、私がこのオアシスを整備する前は貯水なんて考えていなかったから、幾らか無駄にしたが、もう数少ないチャンスを逃すことは出来ない。)

 

(岩山オアシス周辺の地下には地底湖や地表の湖とは比べ物にもならない程の広大な空洞がある、地盤を補強しながら少しずつ広げていった貯水槽が今役に立つ時が来たのだ!)

 

地底神殿とも呼べる外観をした大規模貯水槽は、何本も太い柱が天井を支えており、岩山オアシスの岩盤から繋がる分厚い岩の層を地形操作能力でくり抜き魔力で物質同士の結合力を高める事で高い耐久力と膨大な量の水を貯水する事ができる。

 

殆どの雨水は砂漠の表面を流れるだけで、地下まで浸透する事が無く海まで流れ去ってしまうようだが、網目状に伸ばされた排水溝が地中に埋め込まれており、大雨の日だけ地表に管が伸ばされて水を地下に流すのである。

 

「おお、久しぶりの雨の気配だ!」

 

「この砂漠に岩山の主様の加護が齎されて以来、雨が降らない年が続いても砂漠の生命は生き続けることが出来る。」

 

「それでも、だからこそ!この砂漠には雨が必要なのだ!」

 

「大いなる天よ!母なる大地よ!我らに生命の源たる水を与えたまへ!!」

 

ぽつりぽつりと、雫が落ち次第に数を増し、砂漠中が水没せんばかりの大雨が降り注ぐ。

 

「雨だ!雨だ!水瓶を用意するんだ!」

 

「村中から水が入れられそうな容器を出せ!雨が降ってきたんだ!!」

 

「雨だー!わーい!」

 

「こらこら、滑って転ぶなよ!お椀でも壺でも良い!何か水を入れられる容器を家の外に置いてくれ!」

 

岩山オアシスや各小型オアシスの村々は、久しぶりの雨で文字通りお祭り騒ぎであり、人もラクダも、砂漠に住む魔物すらも大雨に浮かれていた。

 

(交易路の村の行商人の話によると、大雨の後は海に流れる砂を含んだ泥水が、漁業に大打撃を与えるらしいな・・・その殆どが、地表を流れ去って地面にしみこまないのも原因だと思うが・・・。)

 

(しかし、用意したのは地下貯水槽だけではない、この時の為に魔力を温存していたのだ!・・・上手くいってくれよ!)

 

数歩先の視界すらも見えなくなりそうな豪雨は、砂漠中の砂と言う砂を泡立たせ、砂漠の表面をなぞるように泥水が流れるが、迷宮核が用意した排水溝に雨水が流れ込み、地下貯水槽へと流れ込んでゆく。

 

枯れた大河跡は、大雨の影響で久しぶりにかつての水の流れを一時的に蘇らせ、鉄砲水となり、その直線上の物体を生物問わずなぎ倒し押し流してゆく。

恒例とは言え、大河跡を道として利用している行商人が犠牲になるが、雨の気配を感じたらすぐに大河跡から離れるという知識を持っていなかった無知の代償をその身をもって支払う事になるのだ。

 

迷宮核が生まれる前までは、年に数回の大雨が降った後は、短時間で地表が乾燥してしまい、再び過酷な砂漠へと戻るのだが、今回は様子が違っていた。

 

(肺魚や砂鮫の体表粘膜の物質組成を参考に合成した吸水ポリマー・・・溜め込んだ魔力を使ってこの大雨のタイミングで一気に合成する!!)

 

迷宮核は砂漠中に散らばった自らの分身体・・・従属核に保水作用のある吸水ポリマーの一斉合成を命令し、岩山オアシスを中心とした各オアシスのコアから大量の吸水ポリマーが散布された。

 

砂漠の表面を流れる泥水は、次第に粘り気を帯び始め、泥団子の様な形状に固まったり、じゃりじゃりとした質感に固まったりと、変化を始めた。

 

(砂鯨が呼吸をする為に浮上するタイミングで水の魔石と一緒に密かに散布していた吸水ポリマーも無事にこの大雨を蓄えてくれている様だな。死の海の生物たちもこの大雨の影響で活性化している様だ。)

 

砂鯨の体表に撃ち込まれた従属核は、地形操作能力や各種センサーなどで死の海の生物を観測しているが、この大雨によって齎された久しぶりのまとまった量の水分に狂喜し、普段は深いところをねぐらとしている大型生物も地表に出て水分摂取に夢中になっているのであった。

 

死の海の細かい粒子の砂にも沈まない浮き輪サボテンは、吸水ポリマーの影響でゲル状になった塊に引っ掛かり、普段は風で転がり根を下ろさないが安定した地盤に触れると根を下ろす性質が現れ、死の海の地表に根を下ろした緑が現れ始めた。

 

巨体過ぎて泥水となった死の海に引っ掛かる砂鯨だが、大雨に喜びの感情をあらわにし、鳴き声を上げながら大量の水を飲み続けていた。

 

それから丸一日ほど雨が降り続けていたが、次第に雲が少なくなり、空が晴れ始めた。

 

何時もの砂漠なら、大雨が降ったことが嘘だったかのように短時間で乾燥して元の姿に戻ってしまうのだが、今回はどうにも様子が違った。

何時まで経っても地表が湿り続けており、砂とも土とも言えない泥状の地面は風で飛ばされてくる種子を受け入れる余地があった。

 

砂漠ではあり得ない、長く湿り気を残す地面は、次第に小さな植物の芽が生え始め、やがて迷宮核の支配領域の周りの砂地と言う砂地は草に覆われ、根が絡みつき砂を潜る生物の侵入を阻んだ。

 

それ故に、砂鮫などの捕食者は芝生を迂回しなければならず、岩山オアシス周辺に限り、砂鮫の襲撃件数は目に見えて激減した。

 

「大雨の後は、直ぐに地表が乾燥してしまうはずだが、こんな事が有り得るというのか?」

 

「砂漠が何日も湿り気を帯びている・・・これは一体・・。」

 

岩山オアシスや動植物保護区などから種が飛ばされてきたのだろうか?

少しずつ広がって行く緑は、岩山オアシスを中心として浮島の様な平原を作り出していた。

ラクダの餌となる雑草や豆類、時には休眠状態から目覚めた砂芋など、乾燥に耐えて発芽の時期を待っていた植物が次々と芽吹き、乳白色だった景色はまるで大河の国周辺のように緑に覆われたものになっていた。

 

(水の生成を一切止め、地形操作に集中したが大成功だった!)

 

(地下貯水槽はほぼ満タン、生成のタイミングがシビアだった吸水ポリマーの散布は望みうる最大効果を発揮した!動植物保護区に砂漠中の植物を集めて正解だった!)

 

(砂の粒子の細かい死の海に関して経過観察が必要だが、砂鯨に取り付いた私の分身が散布していた吸水ポリマーに一部の植物が定着し、個体数を増やしているので、死の海の食糧事情も幾らか解消されたと思われる。)

 

(恐らく大雨は今後さらに降らなくなって行くだろう・・・もうやれる事は全てやって魔力がかつかつで、砂漠を歩かせている私の分身体も動かしていない。)

 

(分身体と言えば、剣形態にしてある私の分身体の魔力も絞り出したから宝石部分が光を失っていたが、あの子の反応が少し面白かったな・・・まぁ、最後には泣きそうになっていたのは少々可哀そうな事をしてしまった気になったが・・・。)

 

(いつ降るかと備えていたが、私にできる最善は尽くした。後はそれこそ天に任せるしかないだろう。)

 

(神よ、この大地に生きる全ての生命を導きたまへ・・・。)

 

 

迷宮核は砂漠に生きる全ての生命たちに祈りを捧げるのであった。

 

 

 

・・・・とある大河の国。

 

「久しぶりの大雨だが、各領土はどうなっている?」

 

「一部の農民が、水かさの減った大河まで農地を広げたのですが、この大雨で大河の水かさが元に戻り、農作物の半分は水没、管理していた農民も作物を守ろうと手を尽くしている内に流されてしまいました。」

 

「・・・・全く、欲をかくからこうなる。」

 

「しかし、お陰で幾らか息を吹き返す事が出来ましたな、溜め池にも水を貯えることが出来たので当面はこれでしのげますし、濁流が肥沃な土を齎してくれました。」

 

「そうだな、それは喜ばしい事だ・・・・だがしかし・・・。」

 

「えぇ、恐らくこれから更に雨は少なくなって来るでしょう・・・。」

 

「そうならない事を祈るが、こうも雨が降らないと望み薄だな。」

 

「やがて雨粒一つ降らなくなる、なんて事にならなければ良いのですが・・・。」

 

「やはり水の魔石の調達・備蓄は急務か、急がせろ。」

 

「はっ」

 

迷宮核が行った砂漠保水作戦は大成功し、岩山オアシス周辺地域は動植物の楽園となっていた。

そしてそれらが、砂鮫などの捕食者が潜みにくい草原を形成し、草木を踏みならして作られた道は、オアシスの集落同士を結ぶようになった。

 

砂漠の旅の安全性は飛躍的に高められており、村同士の交流も活発に行われ、それぞれの村の作物が物々交換され、砂漠の植生はますます多様化されるのであった。

 

その様子が大河の国に届くのはだいぶ後になってからであった・・・・。

 

 



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水圧推進飛行従属核

大雨の雨水を流出させることなく、砂漠の支配領域に膨大な水分をとどめる事に成功した迷宮核は、少しずつ砂漠に増えて行く生命から魔力を吸収し遠征フレームを稼働させることが出来る程度に魔力を回復させていた。

 

(今まで少しずつ生成した水を小出しにして循環させていたが、この前の大雨で大分貯水している水に余裕が出来た。)

 

(大雨自体滅多に降らなくなってしまったので試す機会は無かったが、吸水ポリマー散布による地表の保水力強化は上手くいった様だな。)

 

(風任せに種子を飛ばして発芽する砂漠の植物は、ある程度保水力のある土地に根付きそれを拠り所とする微小な生物たちの小さな環を作り出すが、吸水ポリマーのゲルに付着した種子は湿った砂よりも発芽率が高くなっている筈。)

 

(しかし、これだけの干ばつでも休眠中の種子は砂に結構埋もれているものだな、まさか豆や芋まで生えてくるとは・・・。)

 

 

大河の国ではただの雑草だったり、家畜しか食べないような植物も砂漠の民にとっては貴重な食料や素材である。

元々干ばつに耐えていた休眠状態の種子もあるが、その殆どが岩山オアシスに持ち込まれ野生化した物や、動植物保護区で繁殖させられた植物などが種子の供給源であり、その下地が無ければ迷宮核の吸水ポリマーによる灌漑はそれ程効果が無かった可能性があった。

 

岩山オアシス周辺は砂が混じった草原が広がっており、砂鮫や巨大蠍などの砂に潜む大型の捕食者が侵入しにくい地形になったため、もう子供たちは砂鮫の襲撃に怯えながら探検する必要もなくなり、親子同伴と言う条件で岩山オアシスの周りに広がる草原を歩いて遠出する家庭も出始めた。

 

従属核が生成した吸水ポリマーの量は、迷宮核本体のそれに比べると少ないが、それでも各小型オアシスの村周辺に限り、小さな野原が出来ていた。

 

(長距離移動の時はグライダーで私の分身体を送るが、交易路復興の為に廃村跡地の井戸復活を優先させすぎたせいで、その中間地点の灌漑が進んでいなかったな。)

 

(岩山オアシス周辺の集落は大雨の水を貯えることが出来たから緑が再生したが、交易路である緑の帯へ行くための中間地点の荒野は、集落らしい集落も存在せず水脈も見当たらなかったので手付かずの状態だった。)

 

(もし、この荒野に緑を定着化させて岩山オアシスに出来た草原と緑の帯を草原で繋げることが出来たら、ラクダの休憩や餌の調達がだいぶ楽になる筈。)

 

(ただ、上空を通過する際、観測した時は殆ど植物を確認することが出来なかった。多肉植物やサボテンの類が砂漠よりも若干多い程度だった。)

 

(何か・・・何か広範囲に水や種子を散布する手段があれば良いのだが・・・・グライダーか?)

 

迷宮核は、更なる緑化の手段を考えるが、地球で盛んに行われていた上空から種子を撒く方法を思い出し、従属核砲弾の技術を流用し、新型のパッケージスレイブコアの開発を始めるのであった。

 

(火の魔石を炸裂させて打ち上げる砲弾方式では、卵や球根などの生体は急な加速で潰れてしまって空輸させる事が出来ない・・・つまり緩やかな加速による離陸が必要か・・・。)

 

迷宮核の鎮座するコアルームは、ラジコン博物館の如く、動作確認のための小型試作フレームが山積みになっており、BB弾程度の大きさの従属核を動力にしている。

動作確認を終えた小型試作フレームは従属核を抜かれた状態で砂を固めたカラーボックスの様な棚に収められており、従属核は迷宮核本体に戻る。

 

従属核砲弾も例外でなく、砲弾形態・グライダー形態・落下形態の模型も置かれていた。

 

(ふむ、学生時代の時少しだけこれで遊んだことがあるな・・・もうどの私の記憶だったのかあまり思い出せないが・・・。)

 

乳酸菌飲料のプラスチックボトルの様な形状をした水の魔石で出来た物体が水を噴き出しながらコアルームを飛び回っている。

 

(水の魔石の空洞の中に輪っか状に形成させた風の魔石を仕込み、圧縮空気と水を混ぜて噴射させる・・・ペットボトルロケットみたいなものだな。)

 

(水の魔石と風の魔石の重量に比べて生成される水の方が重い、今更ながらどのような法則で成り立っている力なのかは分からないが、噴射する水のタンクを用意しなくても水の魔石自体から水を生成できるので、砲弾型フレームに比べると緩やかに加速して高度を稼ぐことが出来るかもしれない。)

 

幾つかの試作品を作り、失敗作の山を積み上げて、大分形になってきた頃、吸水ポリマー大量生成で失っていた魔力が元に戻ってきたので、実動機を稼働させて実験を開始した。

 

 

(私本体の地形操作で成形した推進器と本体であるパッケージした分身体を岩山の上部に設けた発射口に設置し、水と空気を圧縮させたものを推進器に注入して圧力を高めて行き・・・。)

 

岩山オアシスの上部に人や動物がいないか何度も注意深く確認したうえで、岩山の一部がスライドし、筒状の物体の先端が地表に露出する。

 

(圧力を高めすぎて推進器を破壊しない様に・・・3・2・1・・・・リフトオフ!!)

 

砂を魔力で固めた推進器からウォータージェットが噴射され、それなりに重量のある新型パッケージ弾頭が押し上げられ、魔石本体から圧縮空気と水が噴射され、推進器は切り離される。

 

(初速を稼ごうと火の魔石の代わりに切り離しブースターを取り付けてみたが、ウォーターロケットではそんなに高く打ちあがらないか・・・しかし、パッケージ化された私の分身体こそが本体だ、どれだけ行けるのか試してみよう。)

 

水の魔石によって虚空から生成される水と、風の魔石によって発生する高圧によって本体の質量から信じられない程の水量のウォータージェットが噴射され、あっという間に空に消えて行く新型パッケージ弾頭。

 

一定の高度に達すると、地形操作能力の応用で従属核本体を覆う魔石が薄い羽根状に伸びて滑空状態に入る。

速度自体は火の魔石を炸薬とした砲弾型に劣るが、離陸時にかかる圧力は比較的緩やかで、吸水ポリマーのゲルに埋めて衝撃を吸収させれば、動物の卵や植物の球根などの比較的デリケートな生体も空輸可能となった。

 

(高度が下がってきた時に任意で水を生成し圧縮空気を噴射する事で推力を得る事が出来るみたいだな、下はどうせ砂漠だし濡れても問題は無いだろう。)

 

薄い水色のガラスのように透き通った物体が水を噴射し、虹を作りながら砂漠の上空を飛んで行く。

 

(砲弾型のパッケージとも組み合わせることが出来そうだし、応用は効きそうだな・・・さて、実験がてら種子を空からばらまいてみるか・・・。)

 

水の魔石の表面がまるでゲルの様に流動すると、ポロポロと波紋を発生させながら植物の種子が水の魔石の内部から吐き出されゆく。

 

その様子を偶然通りかかったキャラバンが目撃しており、水の精霊が小さな雨を降らしながら何かを落としていったと、砂漠の民の間で噂となるのであった。

 

水圧推進飛行従属核と言う新たなカテゴリーは、更なる開拓地の進出と土地再生の可能性を秘めていた。

緑の帯が空から確認できるほど飛行した後、従属核はUターンし、岩山オアシスへと向かう。

 

元々水色がかったガラスの様な質感である水の魔石は、空に溶け込み発見され辛く、岩山オアシスの巨大湖に着水するまで殆どの住民に気づかれる事なく迷宮核本体の元まで帰還した。

 

 

(まさか、緑の帯と呼ばれる交易路まで行って戻ってくるとは・・・まぁ、魔石の内包魔力は殆どすっからかんだったけど、私の分身体を遥かに遠くまで運ぶポンテシャルは秘めている様だね。)

 

(魔力の補充期間中に大盤振る舞いしたけど、これは投資した魔力分以上の成果かもしれない。)

 

(航空力学なんて学んだ記憶はないから、模型を使って試行錯誤しなきゃならないんだろうけど、無数の人生を経験した私達なんだ、何とかなるさ。)

 

 

暫く経って、ひび割れた荒野にぽつぽつと草が生えるようになった。

岩山オアシスから種子が飛ばされてきて朝露によって発芽したのか、それとも鳥によって運ばれたのか、今まで多肉植物やサボテンしか見かけなかった荒野は、キャラバンが休憩時にラクダに草を食ませるようになり、幾らか旅の負担が減るのであった。

 

(短時間で魔力を大量消費して空から少量物資を空輸するか、時間をかけて魔力をそこそこ消費して大量の物資を陸路で輸送するか、一長一短だが輸送の手段が増える事は良い事だ。)

 

(諦める訳には行かないんだ、この砂漠を生命溢れる地に変えるために!!)

 

砂漠の民が生きる手段を模索し、次々と発明をし開拓を進めるように、迷宮核も大地を再生させるために試行錯誤を続けて行く。生前の同胞たちを、愛する砂漠に生きる民と生物を守るために・・・。




大体イメージ的にはこんな感じです。
加速ブースター以外全て魔石や従属核で形成されているので、非常にスケルトンな見た目です。

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少年の初陣

大雨の雨水を保水するために散布された吸水ポリマーのゲルは砂漠の植物を受け止め、通常の砂漠の環境下ではあまり発芽率の高くない植物を沢山発芽させていた。

 

岩山オアシスや小型オアシス周辺は大河の国の様な野原が広がっており、砂漠に潜む魔物の侵入を防いでいた。

だが、不思議と一番草木に覆われてそうな、砂鮫の繁殖地である泥沼の浮島は砂地に囲まれており、泥沼で繁殖した砂鮫が砂漠に散らばって行く様であった。

 

(折角の大雨だけど、沼地の岩盤の地下に貯水させてもらったよ、流石にここまで草で覆われてしまうと砂鮫が砂漠に進出できなくなってしまう。)

 

(一応巨大蠍は砂に潜らなくても地上を歩いて行動できるけど、砂鮫はきめ細かい砂地が無いと潜る事もままならないんだ。)

 

(急に活動範囲が制限されて気が立っているみたいだなぁ、少し可哀そうだから、折角まとまった水量の水を貯水出来たしもう一か所ほど泥沼を作っておこうかな・・・?)

 

(・・・・・いや、どうやら砂漠の男衆のお出ましか、地形を弄るのは彼らの狩りが終わってからにしよう。)

 

 

食料調達を兼ねた鍛錬の為に、剣や大槍などで武装した戦士たちが動植物保護区として運用している泥沼の浮島へと訪れた。

今回は、実戦を経験させるために模擬戦では足りなくなった子供達も連れてきていた。

 

「ジダン、やっぱり緊張するか?」

 

「うん、実は言うとちょっと怖いかも・・・。」

 

「ジダン様ほどの腕の剣士でも怖いんだ。」

 

「僕だって実戦は初めてなんだよ、大人の人達が守ってくれていても最悪死ぬことだってあるんだ。」

 

「ははは、まぁジダンにとっての初陣だし不安なのは仕方ないさ、それに砂鮫には因縁があるんだろう?」

 

「あー・・・うん、僕・・・実はまだ引きずっているの。」

 

「大丈夫だよジダン様、わたしも一緒に戦うから!」

 

「おいジダン、モテるからと言って他の女の子ばかり付き合っているとルルが拗ねるぞ?」

 

「付き合うってなんですか!そもそもなんでルルちゃんが出てくるんです!?」

 

「ジダン様顔真っ赤・・・そっかルルさんと・・・。」

 

「ルルちゃんとは確かによく模擬戦はしますけど、あの子以外にも色んな人と訓練しているんですよ?それぞれ得意な武器があるし、どれにも対応できないといけませんし!」

 

「鈍感な奴だな・・・。」

 

「悪気がなさそうなのが何とも・・・・。」

 

砂と草の混じった場所から、砂漠本来の砂地が見えてくると大人たちが振り返って声をかける。

 

「ついたぞ!ここがお前たちが初の実戦を経験する魔物の繁殖地だ。」

 

「ここに生息する砂鮫は、若い個体が殆どだからお前達でも十分に狩れるだろう。」

 

「滅多にない事だが、縄張り争いに負けて砂地に追いやられた大きな個体が徘徊している事もあるので気を抜かない事だ。」

 

「奴らは群れで動くが、連携せずにそれぞれが好き勝手に襲い掛かってくる、統制が取れていない反面予測が困難な動きをする場合があるので、よく魔物の動きを観察しろ!」

 

「なお、仕留めた分だけ持ち帰る権利があるので、砂鮫狩りは早い者勝ち・・・・ああ早速お出ましか。」

 

無数の砂柱が上がり、中型犬ほどの大きさの大魚が凄まじい勢いで、戦士たちに突進してくる。

成魚になると成人男性よりも大きくなる砂鮫だが、この群れは繁殖地から砂漠へと散らばる前の個体なので、見習いでも相手になった。

 

「行きます!!」

 

ジダンが鉄製の剣で砂鮫の突進をいなして、がら空きになった首筋に一撃振り下ろしを決める。

 

「っ!干しレンガの標的を切りつけるのとはわけが違う・・・骨が硬い!」

 

そう言いつつも、砂鮫を一撃で屠ったジダンは剣を一振りし血糊を払う。

 

「ジダンだけにいい所取られるかよ!おらぁ!!」

 

「動きが単調なんだか、不規則なんだかよく分からないわね。」

 

少し年上の少年と同い年くらいの少女がそれぞれの武器を手に砂鮫を倒してゆく。

 

「中々良い動きだジダン、そろそろ砂神剣を使ってみろ、鉄の剣との違いを確かめてみよ!」

 

「はい!」

 

腰に下げている鞘に鉄剣を収めると、背負っている大きな鞘から象牙色の美しい光沢をした剣を抜き、剣に納められた青白い宝石が光り輝く。

 

「岩山の主様・・・僕に力を分けてください・・・・。」

 

砂神剣を掲げて祈りを捧げると、砂を掻き分けてジダンに突進を仕掛けようとしていた砂鮫を一閃する。

 

チ゛ュイイイイン!!

 

鉄剣で砂鮫を切りつけた時には鳴らなかった独特の音が鳴り、武具にも加工されるほど丈夫な砂鮫の鱗と骨を薄布でも裂く様に切り裂いた。

 

「っ!!」

 

カアアアァァァン!!

 

ジィィイイイン!!!

 

ジダンが砂神剣を振るたびに砂鮫の首や胴体が宙を舞う。

そのあまりの切れ味に子供たちを守るように周りを固めていた男衆がほんの一瞬目を奪われる。

 

「はあああぁっ!!!」

 

ギュイイイイン!!

 

(普段の鉄剣を使った訓練ではこんな感触手に伝わって来なかった・・・あぁ、なんて・・・なんて・・・・。)

 

「ジダン様かっこいい!」

 

「すげえ・・・。」

 

(なんて恐ろしい威力なんだ・・・・・。)

 

ジダンは砂神剣の万物を切り裂くその切れ味に驚きつつも恐怖を感じていた。

 

(どんなものも切り裂く力、これが悪い人に渡ったらとんでもない事に・・・。)

 

ジダンはまだ幼き見習い戦士であるが故に、想像力も限られていたが、それでもこの剣の持つ異様な力に畏怖を感じていた。

 

「くっ・・・・数が多い・・・あれ?逃げて行く?」

 

「ジダン様すごい!一人でこんな数の砂鮫を倒しちゃうなんて!」

 

「砂神剣も凄いが、それを見事に使いこなしているお前も大したもんだよ。」

 

「えへへ、そ・・そうかな?・・・・ん?」

 

男衆の戦士たちが、何かを感じたのか砂鮫繁殖地の泥沼に振り返って武器を構え始めた。

ジダンも頭で何が起きたのか理解する前に、体が勝手に砂神剣を握りしめ気が付けば構えを取っていた。

 

「沼鮫が突っ込んで来るぞおおおぉ!!」

 

水中生活を送るうちに体が巨大化して砂鮫は沼鮫へと形態変化する事があるが、縄張り争いに敗れた個体が砂地に追いやられ、大型化した状態で砂鮫化する事があるので、度々目撃される砂鮫の大型個体が砂漠の新たな脅威となっていた。

 

「っ!・・こいつ真下から!? ぐおおおおおおっ!!?」

 

「な!前衛が崩された!?お前たち!早く逃げるんだ!」

 

「ひぃぃぃ!!」

 

「不味いぞ!早く逃げるんだ・・・ジダ・・・はっ?」

 

(男衆のおじさん達が・・・許せない!)

 

「突っ込んでくる・・・おい馬鹿やめ・・。」

 

(此処から先は通さない!僕が・・ぼく・・私が!!みんなを守るんだ!)

 

突如砂神剣が、青白く光り輝くと周囲の砂を集めながら光る粒子を纏った刀身が伸びて、大型の砂鮫をすれ違いざまに一刀両断する。

 

大型の砂鮫は悲鳴を上げる間もなく魚の開きの様に真っ二つにされ砂煙を上げて左右別々に倒れた。

 

「ジダン・・・さま・・・?」

 

琥珀色のジダンの瞳が、砂神剣に呼応するように青白く光っていた。

普段何処か抜けたような雰囲気のジダンは、この時ばかりは異質な雰囲気を纏っていた。

握りしめていた砂神剣は、延長された刀身が砂に戻り崩れてゆき元の長さに戻ると、剣の核たる宝石の光が治まる。

 

ジダンがスッと目を閉じると、再び目を開く頃には元の琥珀色の瞳に戻っていた。

 

「みんな、大丈夫?」

 

「すげぇ・・・すげぇな砂神剣!流石は砂漠の神に選ばれし者!大した奴だよ!」

 

「あれ?・・・ジダン・さま・・・その目の色が・・・あれ?」

 

(何だろう、ほんの一瞬だけ僕が僕じゃなかった気がする。岩山の主様が僕に手を貸してくれたのかな?)

 

はしゃぐ子供たちを近くで見守っていた男衆は、両断された大型の砂鮫を見て険しい表情をしていた。

 

 

「やはりあの子は砂漠の神様に・・・。」

 

「ほんの一瞬だけ見せたあの異質な雰囲気、選ばれし者であることが確実になったな。」

 

「・・・・何故あの様な幼子に過酷な運命を?」

 

「砂漠の民を導く者と言うのは、あらゆる試練の中でも最も過酷なものだ、今は兎も角将来は彼に砂漠の民の未来がかかっている。」

 

「砂漠の神様が認めるほどの資質を持っていたのか、いや今まさに証明されたばかりだが・・・残酷なものよ。」

 

大型個体の砂鮫の乱入と言う不慮の出来事はあったが、砂神剣と男衆の警戒態勢によって対処は出来た。

しかし、不意打ち気味の強襲で守りを崩されたにも拘らず重傷者が出なかったのは不幸中の幸いであった。

 

(・・・・砂鯨でも感じた事だが、少しずつあの子の感情が・・・心が読めるようになっていた。)

 

(でも、あんな力は・・・完全に予想外だった。)

 

(ほんの一瞬、そう、ほんの一瞬だけ剣形態となっていた私の分身体の制御を奪われていた。)

 

(いやそれどころか、一時的に精神的に融合すらしていた気がする。)

 

(私は無数の人間の魂の集合体、死んだ魂が私と一体化する事はあっても生きた人間が私の魂と混ざる事なんて、今まで全くなかった筈なのに・・・。)

 

(もしこのまま私の力を引き出し続けたらあの子は、ジダンは果たして人間のままでいられるのか?分からない、分からないが・・・今は唯どうしようもなく・・・。)

 

(いや、考えるのはやめておこう、どの道その時が来なければ分からない事だ。)

 

迷宮核は、砂鯨と同じように従属核を埋め込んだり常に身に着けさせることで繋がりを強化しようとした試みは、予想とは全く違った方向性で効果が表れた。

 

だが、それによって齎されるものが一体何であるか、どのような結果を生み出すのか分からない。

 

しかし、迷宮核は言い知れぬ不安を感じるのであった。



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種を蒔く者

水圧推進式飛行従属核と言う新型のパッケージ従属核を開発した迷宮核は、より広範囲に植物を繁殖させるために岩山オアシスや動植物保護区の植物の種子を集め、砂漠の緑化の準備に取り掛かるのであった。

 

(私の支配領域の砂漠の表面を覆いつつある草原は、地下貯水槽の水を散水管で少量ずつ水を滲ませる事で維持しているが、早くも虫などの小動物が草木を拠り所に繁殖を始めている。)

 

(元々大河の国に生えていた植物も多いが、半分以上はこの砂漠原産の植物だ、この大干ばつに耐えていた砂に埋もれた種子が発芽し、それを拠り所とする生態系が復活しつつある様だ。)

 

(私本体から延ばしていた散水管で形成した浮島の様なオアシスは、既に草木に覆われ草原に飲み込まれているが、砂漠の民が植林してくれた低木も生えていて、今なおこの砂漠に生きる生物が体を休める場として機能を果たしている。)

 

(嗚呼、今までこの大地に生きる生命の灯が消えない様に環境整備を続けていて良かった・・・十数年、そう十数年の成果が実を結びつつあるのだ。)

 

(枯れかけた交易路を結ぶ水脈を私の力で復活させ繋げた小型オアシス群は、現在砂漠の民に緑の帯と呼ばれているが、そこと私の支配領域の間にあるひび割れた荒野は、水源が無いために集落同士の間隔が開きすぎているのが問題だ。)

 

(砂嵐が比較的発生しにくいだけ砂漠よりはマシとは言え、補給なしに長距離移動するキャラバンの負担になっているのは間違いない、中間地点に防砂の小屋を幾つか設置していてその内の一つはそれなりの規模の拠点であるとはいえ、水源が無いために本格的な集落が生まれる事は無いか・・・。)

 

(前回の新型パッケージの運用実験中に蒔いた種がそれなりに発芽しているので、中継地点の設置も兼ねて荒野の緑化も始めてしまおう。)

 

迷宮核は従属核に地表に自生する植物の種子を回収させ、密かに地下に作っていた物資集積所に保管していたが、迷宮核の支配領域と交易路である緑の帯を草原で繋げる緑化計画を実行するために溜め込んでいた種子を従属核パッケージに詰め込むことにした。

 

魔石をコーティングし稼働時間や魔力変換効率を上げたパッケージ弾頭に、比較的に手荒な扱いにも耐えられる種子を吸水ポリマーのゲルに入れて封入し、長距離を飛ばすために火の魔石による砲弾式で初速を稼ぐことにした。

 

(パッケージ弾頭の強度面に問題は無し、薬室に火の魔石粉末を充填完了、発射口付近に生物の反応なし、発射準備・・・・・発射!!)

 

 

砂漠化の最前線であるひび割れた荒野に向けて射出された5つの影は、ある程度の高度に打ち上げられ速度が低下してくると、グライダー形態に移行し、新たに搭載された風の魔石と増量された水の魔石を組み合わせ圧縮空気と共に大量の水を噴射しながら荒野へと編隊飛行する。

 

飛行型従属核本体はガラスのように半透明なため観測され辛いが、大量に噴射される水は空に白い線を描き、偶々下を通りかかったキャラバン隊が空に浮かぶ奇妙な白い線を目撃した直後お天気雨にあい、空飛ぶ水の精霊の噂が本当だったとより強く確信するのであった。

 

(荒野上空に到達、さて吸水ポリマーのゲルごと詰め込んだ種子を散布するか、成るべく広範囲に出来る限り均等に、緑の帯の交易路まで続く草原が出来るように・・・・。)

 

編隊飛行する従属核の表面が波打ち、カエルの卵あるいは水を吸ったチアシードの様に吸水ポリマーゲルに覆われた植物の種子を一粒一粒くっつかない様に間隔を離して散布し、推進力を得るために噴射されているウォータージェットが副次的に水やりになり、ひび割れた荒野に吸水ポリマーと植物の種子と水が絨毯のように撒かれた。

 

緑の帯上空まで飛行した後、従属核の編隊は空中で融合し、五つの従属核は一つの大きな従属核となり、緑の帯と岩山オアシスを結ぶ荒野の丁度中間地点に鏃の様な形になりながら勢いよく突き刺さった。

 

(5つの分身体を融合させても魔力の残量は乏しいか、しかし小さな水源を生み出すには十分だ、人間の肉眼で見える範囲に防砂の小屋もある、此処が新たなキャラバンの拠点になる事であろう。)

 

地中に深々と撃ち込まれた従属核は、地の魔石で地形操作をし、従属核をより深く埋め込みつつ窪みを作り、水を逃しにくい陶器の様な質感にコーティングし、推進剤であった水の魔石の残存魔力を絞り出し小型オアシスを形成する。

 

それから暫く経ち、ひび割れた荒野にぽつぽつと草が生え始め、荒野に出来た新たな水源に野生動物が集まり始め、そこに住まう生物の拠り所となった。

 

いち早く荒野の異変に気付いたのは緑の帯の小型オアシスの村の住民であった。

飛砂に悩まされていた村はある日、暫く飛砂が発生していない事に気づき、飛砂の発生源である荒野の様子を見に行った村人が疎らながら青々とした草が広範囲に生え始めている事を発見し、キャラバンの経験のある村人を岩山オアシスに向かわせた。

 

その道中で、誰かが建てたであろう防砂の小屋で一休みしようと立ち寄った時に、この前来た時には無かった水源を発見し、事の重大性を再認識した村人は、大急ぎで岩山オアシスへと向かった。

 

岩山オアシス付近は草原が広がっているので旅は楽な物であった。

相棒のラクダに食ませる草には困らず砂嵐も殆ど無く砂に足を取られるような事も無かった。

 

緑の帯の村人によって荒野の緑化と新たな水源の発生の情報が齎された岩山オアシスの村は、砂漠の神である岩山の主の奇跡を確信し、より信仰心を深め、岩山オアシスに立ち寄った緑の帯の村人も社に祈りを捧げた。

 

今砂漠は、かつてそこが草原だった頃の姿を取り戻しつつあった。

 

荒野に新たに確認された水源は、すぐさま物資が持ち込まれ、水源近くに設置されていた防砂の小屋も解体され建築資材にされ、キャラバン隊が休息できる開拓村が作られることになった。

 

小石と砂利だらけの硬い地面であったが、不思議と水源付近に限り水を貯える性質があり、ラクダの糞や枯草などでじっくりと念入りに土地改良を続け、農作物を植えられるようになった、砂漠の民は忍耐深いのだ。

 

(荒野には幾つか防砂の小屋が点在しており、無人かつより中心部に近い防砂の小屋にオアシスを形成したが、既に集落規模に発展した場所にパッケージを打ち込むのは安全面から出来なかった。)

 

(陸上フレームで建設した施設付近をオアシス化させる事が出来なかったのは残念だが、拠点同士の間隔も開きすぎていないし、増築して大型化した防砂の小屋・・・いや、防砂の旅宿に滞在する人員も施設の物資補給の為に訪れるだろう。)

 

(防砂の旅宿は水源が無いながらも、キャラバン隊が体を休めるための重要な拠点だったのだ、近くに水源のある開拓村が出来れば交流も生まれ、村が発展してゆくにしたがって二つの拠点は融合するかもしれない。)

 

(大河の国々と砂漠の民が交易するための下地は整いつつある、荒野の緑化がより進めば荷車を引くラクダや馬などの餌にも困らなくなり、物流が強化される。)

 

(そして、大地に生命力が戻れば私の分身体の魔力供給力が大きくなり、何処にいても生物から放出される余剰魔力から活動するための魔力を得ることが出来る。)

 

(今まで距離の問題で実現できなかった大河の国への遠征も可能となる日も近い、人口の多さは恐らく岩山オアシスの村の比ではない筈だ。)

 

(彼らも干ばつの影響で水源としている大河の水量も減少傾向だと伝え聞く、ならば彼らもこの大地に生きる民、この大干ばつが治まるまで大河の水量を幾らか増やして持ちこたえられるようにしなければ・・・。)

 

(偉大な大地よ、地上に生きる民に安息を齎したまへ・・・。)

 

迷宮核はより強く干ばつに苦しむ民が平穏を取り戻す事を願い祈るのであった・・・。



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盗賊

迷宮核が支配する岩山オアシスは水を求めて砂漠に暮らす人々が集まり、村としてはかなりの規模の集落になっていた。

 

しかし、水を求める者の中にはそれを独占しようと目論む者もおり、干ばつによって集落の水源が枯れ果て生きるために盗賊と化した者たちがオアシスの集落を襲撃する事が彼方此方で起きていた。

岩山オアシスは元より、迷宮核が己の身を切り分け各地に展開した分身体が作り出した小型オアシス群も盗賊の襲撃対象となった。

 

砂漠の民のうち武術に長けた者達が、盗賊や砂漠の魔物に対抗するために守り手を結成し、日夜オアシスをめぐる戦いに身を投じているのである。

 

「今すぐこのオアシスを我らに明け渡せ!!」

 

「この水は俺たちの物だ!俺たちだけがこの砂漠で生き残るのだ!!」

 

「男と老人は殺せ、女と子供は奴隷にとっておけ。」

 

干ばつで滅びた村の出身者たちが、盗賊と化し仲間を増やしながら曲剣や農具などを片手に岩山オアシスに殺到した。

過酷な自然環境にさらされるうちに、心は荒み疑心暗鬼となり、仲間たち以外を信用しなくなってしまっていた。

ここで水を奪わなければ自分たちは滅びてしまう、隣国へ逃れても奴隷扱いされるだけ、ならばここで命を使い果たしても大差ない、彼らは半ば自暴自棄で無差別に襲撃を繰り返していた。

 

 

当然ながら、迷宮核の支配領域に逃げてきた砂漠の民は対抗した。

盗賊を迎え撃つために、守り手たちが村を防衛し、砂漠の魔物の素材で作られた上質な武具に身を固め、それぞれの得物を構えるのであった。

 

 

「弾弓を放て!組み合うまでに成るべく手傷を負わせろ!!」

 

盗賊が伸縮性のある革紐と魔物の骨で作られたスリングショットを取り出して、石や毒を塗った玉を放つ。

 

「盗賊共の飛び道具に注意しろ、矢を放て!」

 

岩山オアシスの守り手達は、砂鮫や沼鮫の骨と良くしなる木材を組み合わせた丈夫な弓で盗賊たちのスリングショットに応戦する。

 

「ぐおおおおお!!なんて数の矢だ!?」

 

「この砂漠で!どれだけ木材に余裕があると言うのだ!くそ、想定外だ!」

 

「槍だ!大槍を持った奴らが突っ込んで来るぞ!」

 

「くそ!村ではなく城塞でも攻めてしまったのか!?俺たちは!」

 

砂鮫や巨大蠍の外殻などを削り素材同士を組み合わせて作られた丈夫な大槍は、軽装備の盗賊たちを容赦なく貫き、叩き潰し、蹴散らした。

 

悲鳴を上げて逃げ惑う者も居たが、包囲され最後の一人も残らず打ち取られた。

 

(こんなはずじゃ!何故俺がこんな目に!)

 

(畜生!畜生!井戸が枯れ果て、逃げた先では奴隷にされ、何とか抜け出したと思ったら魔物に襲われ、もう奪うしか手段は残されていないと思ったらこれだ!)

 

(くそ!畜生!うらめしい!うらめしい!目に映る全てが恨めしい!何故奴らだけが水に恵まれた!何故俺たちが、俺が枯れ果てなければならないんだ!)

 

(あぁ、何だあの大槍は!大河の国の兵の装備と遜色ないものが何故こんな辺境に!)

 

(それに、あの光る石が埋められた剣は何だ!?こっちに来るな!こ・・・この俺がこんなクソガキに!!)

 

(くそがあああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

 

(・・・・と言うのが、先日このオアシスを襲撃した盗賊たちの記憶なのだが・・・。)

 

迷宮核は、岩山オアシスを襲撃した盗賊たちの記憶を読み取り、襲撃者から吸収した魔力をオアシスの整備に回しながら思考する。

 

(このオアシスで死んだ生命体の魂は、ほぼ全て私の一部になるのだが、この連中の魂だけは・・・記憶だけは・・・・。)

 

(・・・・・・・どうにも、私自身として認識できない、そう、記憶は読み取ったがどうにも自分と同一視出来ない・・・。)

 

(境遇は哀れに思うが同情に値しない連中で、我々の価値観とは相反する。)

 

(この世界の生き物は、生命活動を停止させると魔力の発生源となっている魂が抜けだし、まるで昇華する様に大量の魔力を放出しながら霧散してしまうが、もしかするとこの盗賊連中達は、私に魂として形を保ったまま吸収される事なく魔力に分解されてから取り込まれたのかもしれない。)

 

(・・・そうなると、私のように生まれ変わることなく完全に消滅してしまったという事なのか?ならばそれこそが真の死か?)

 

(そもそも何故私は生まれ変わることが出来た?十数年疑問に思い続けていたが、この体は本当に一体どのような物なのだろうか?分からない・・・。)

 

(だが、一つだけ確かなことがある。)

 

(ラーレがまだラナの胎内にいた頃、小さな細胞塊から人の形になる段階でラナ周辺の魔力濃度が一気に減少した、つまりラナに魔力が吸収されていたのだが、それから微弱ながら信号・・・意思の様な物を感じるようになった。)

 

(この世界の生物の発生におけるメカニズムは不明だが、魂を形成するために多量の魔力を必要とするのだろう、そして生まれてきた子供たちは既に魂を形成する時に必要とした魔力量を上回る魔力を放出している。)

 

(この世界は、意志の力が何かしらの物理的な干渉をする法則がある様だ。)

 

(私が生きていた世界の物理法則なんて役に立たないだろうな、まぁ魔法と言う存在がある時点で今更な話だが・・・。)

 

(私の一部となった者達の連続意識はまだ続いている、私一つに束ねられて・・・。)

 

(自然に分解されるか、私と共に魂となって生き続けるか・・・ははは、これではまるで私自身があの世か何かでは無いか。)

 

(何かしらの要因で原形を保ったままの魂が集合して、石と言う媒体を得て魔力を帯びた巨大な鉱物として存在する事で、魂の形を維持している・・・まぁ即席の仮説としてはこんなもんだろう。)

 

(魔力を産魂とし、これから形成する肉体に定着し新たな魂が生まれる。)

 

(生と死を繰り返し無限大に増大し続ける魔力、そして魔力に影響されて引き起こされる様々な自然現象、これが世界の環か・・・。)

 

(この大干ばつも、その途方もないこの世界の営みのほんの一瞬の出来事なのだろうか・・・だが、我々は・・・この世界を生きる者達は、抗わなければならない。)

 

(しかし、私の魂の質の好き嫌いで此処まで話が膨らむとはな、奴らは同化したい魂では無かったが、その構成物は・・・魔力はしっかりとこの大地の土台には使わせてもらったよ。)

 

 

迷宮核は、盗賊たちの遺骸が砂漠の生物たちに分解されて行くのを眺めながら、盗賊たちから得た魔力を使い、地下構造物の整備や岩山オアシスの風化箇所の復元などを行い、砂漠の生物の拠り所の整備を続けるのであった。

 

 

「どうしたの?浮かない顔して?」

 

「ルルちゃん?・・・あぁ、うん・・・何でもないよ。」

 

「・・・・あたし達、初めて人を斬ったんだよね、ジダン・・・。」

 

「・・・・・・・・うん・・・・。」

 

「村長さん、貴方のお母さんもね、あたし達くらいの時に盗賊を斬った事があるんですって。」

 

「カシムおじさんから聞いたよ、キャラバンの長の娘だからね。身代金目的で良く狙われたらしいよ。」

 

「・・・・・あたし達の番が来ちゃったって事なんだろうね。」

 

「あまり自覚は無いけど、僕たちって特別らしいからね・・・。」

 

「まぁ神の声を聴いた子供達って事であたしもそういう目で見られた事もあったけど、少し前に砂神剣に触らせてもらったとき何の反応も無かったでしょ?やっぱり貴方の方が特別なのよ。」

 

「うん、これを握るときに宝石が光るのは僕だけ・・・いや、僕たち姉弟だけなのが分かったよ。」

 

「祈り手三姉弟か、きっとこのオアシスの長の血筋は岩山の主様に気に入られたのかもしれないわね。」

 

「この岩山オアシスを見つけたのは、お母さんとカシムおじさんだからね・・・カシムおじさんにもし子供がいたらきっと・・・いや、何でもない。」

 

「多分、未来を託されたんだと思うよ、岩山の主様は貴方達の血筋に加護を与えてこの荒ぶる大地の試練を乗り越えさせたいんだと思う。」

 

「僕たちが・・・ね。」

 

「みんな期待しているって事よ、深く考えすぎないで一つずつ長の一族としてのお仕事を覚えて行けば問題ないと思うわ!」

 

「簡単に言うねー・・・。」

 

ルルが手を叩くと、気分を切り替えてジダンの手を握る。

 

「さァさァ!辛気臭い顔するのはここまで!男衆の人達がサボテンの輪切りを焼いて待っているよ!」

 

「サボテン料理かぁ、桃色岩塩多めにかけたいなー・・・。」

 

「ジダンって結構濃いもの好きよね・・・カシムさまと一緒に料理食べるうちに味覚がそうなっちゃったのかな?」

 

 

その日、岩山オアシスの村は盗賊の襲撃を返り討ちにした事で、戦勝に沸き立ち夜遅くまで宴会が続いた。

それは、目まぐるしく行われている生存競争の一環か、死ぬものと生きるもの、食うものと食われるもの、人と魔物関係なく続けられる営みは、大干ばつと言う試練を前にしても変わる事は無いのである。



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緑の帯

大砂漠と大河の国同士を結ぶように三日月形に地図を緑に染めるオアシス群、通称緑の帯・・・・最近になってひび割れた荒野も野草が進出し始め、特に水源が無い筈だがひび割れた荒野は草原に変化しつつあった。

 

つい最近、大雨があったとは言え、干ばつに襲われるこの地方の保水力では植物はあまり定着できないのだが、今回に限っては植物群の発芽が多く、ラクダなどの家畜の餌が確保できたので、砂漠の民や大河の国の民双方に恩恵があった。

 

行商人は、こぞって緑の帯の交易路を利用し、山脈や国を迂回したり砂漠原産の動植物の調達をしたりし、干ばつと言う危機的な状況にもかかわらずこの地方の経済を回していた。

 

次第に砂漠を横断するためのノウハウが蓄積され、砂漠用の装備や魔物の襲撃の対策、物資運搬の要たるラクダなどの家畜の運用など過酷な環境の対策が充実し、効率的な交易路の確立もした。

 

 

 

・・・・・とある大河の国

 

 

「渦巻き沼のトカゲ共から水の魔石の調達に成功した様です。」

 

「そうか、でかしたぞ!しかし相当搾り取られたのではないか?」

 

「は、希少価値の高い薬草やそれを材料とする霊薬、後は各種魔道具などと交換になりました。」

 

「全く・・・・常に雨雲に覆われている渦巻き沼では利用価値はあまりない筈の水の魔石なのに、連中はその価値を正しく認識しているのが恨めしいな。」

 

「彼らにとって水は空気と同じような物ですが、それ故にその価値を誰よりも重要視しているのでしょう、トカゲの亜人はこの地方の大干ばつを世界の終わりの様に見ているそうです。」

 

「そう言えば、普段は集落に引き籠っている中で外の世界を旅して回る変わり者も居るそうだな、もっとも乾燥に弱いのか常に水の魔石を加工した魔道具を持ち歩いて体表を濡らしているそうだが・・・。」

 

「乾燥に弱い彼らは砂漠の横断などもってのほか、という事なんでしょうな、最近水源が復活した緑の帯と呼ばれる交易路以外の場所を横断する者は居ないそうです。」

 

「そうだな、原因は不明だが交易路の水源が復活したのは嬉しい事だ、砂漠の民によって廃村が再び村として立て直されたので行商人の休憩地が確保されたのも良い。」

 

「しかし、一時枯れたオアシスを放棄して彼らは一体どこに避難していたんでしょうかね?我々の知らない無事なオアシスがこの大砂漠の何処かに存在するのでしょうか?」

 

「そこは与り知らぬ所だが、彼らが無事なのは良い事だと思うぞ?元は祖を同じとする民と聞くからな。」

 

「そうですね・・・。」

 

 

ある大河の国が水の魔石を確保し、干ばつに対抗する手段を模索する中、この地域の行商人たちは緑の帯を通りつつ、奇妙な噂を耳にしていた。

 

 

 

「いいなこれ、保湿サボテンの果肉を肌に張り付けていると皺だらけの肌が潤いを取り戻してゆくようだ。」

 

「その代わり味はえぐみと青臭さが酷くて食えたものでは無いがね。」

 

興味本位で保湿サボテンの果肉を齧った商隊仲間が渋い顔をする。

 

「緊急時はこのサボテンも食料とするらしい、実際にここの水源が枯れていた時はこれを食べて食いつないでいたらしいしな。」

 

「砂漠の民は逞しいな。ふむ・・・これは商品として売れるかもしれない。」

 

「美を追い求める貴婦人は何処の国にも居るからな・・・。」

 

その前に、故郷に置いてきた妻と娘の分も確保しなければと記憶の隅に置いておく商人。

 

「此処は生命にとって過酷な場所だが、それ故にか自生する植物の多様性は驚くほど多い、中には有毒な物もがあるが、このサボテンのように薬としての利用価値のあるものも存在する。」

 

「ひび割れた荒野・・・・今は草原になりつつあるが、更にその向こうの大砂漠には更に希少な植物が生えているという・・・。」

 

「この調子で、砂漠の緑化が進んでくれれば挑戦してみるのも悪くないが、遭難する危険性を考えると躊躇してしまうな・・・。」

 

「何、行動によって伴う危険性は世界中を旅して回る今現在もそう変わらんだろうよ、勿論対策も可能だが現在の装備であの大砂漠に挑むには無謀もいい所だろう。」

 

「ああ、そうだな・・・。」

 

彼らは商人であるがそれ故に、あらゆるものに興味を持ち、好奇心のままに知識を蓄えそれを商機とするのだ、それが商人と言う生き物なのである。

 

「大砂漠で思い出したが、砂漠に挑戦した商人仲間から奇妙な噂を聞いたんだが・・・。」

 

「奇妙な噂?」

 

「何でも彼らが本拠地としている大きなオアシスがあって、そこでは砂漠の神様が降臨して彼らが避難するための岩場や水源を作り出しているとかなんとか・・・。」

 

「なんだそりゃ?」

 

余りにも突飛な話なので、うさん臭そうな顔で眉間にしわを寄せる。

 

「この緑の帯のオアシス群の集落で見かけるようになった紋章がその神様を祭る印らしいな。」

 

「人は追いつめられるとそう言ったものを作り出したくなるもんなんだろうな。」

 

眉唾物な情報として切って捨てようとする商人、しかし商隊仲間は話を続ける。

 

「いや、どうにもそうでもないらしい、緑の帯や荒野で目撃される動く石像の噂は聞いているか?」

 

「いいや?」

 

「干しレンガだか岩だかしらんが、石像の様な物が重そうな体でのっしのっしと砂漠を歩く姿が目撃されているそうだ。」

 

「石像が動くなんて聞いたことも無い、魔道具でもそんな物作る奴はいないだろう、何かの魔物と見間違えたんじゃないか?」

 

「いや、実際知り合いの商人の親戚が蜘蛛の様な石像が歩いているのを目撃しているそうだ、で・・・その石像に緑の帯の集落に描かれている紋章が表面に刻まれていたそうだ。」

 

「な・・・砂漠の民にそんな魔道具を作り出す技術があるというのか!?」

 

「違うな、むしろ石像を崇めている様子だったと聞く。」

 

驚愕に顔を染めるが、少し考えこみ間をおいてから口を開く。

 

「・・・・それでは、砂漠の民があの紋章を思いついたのではなく、動く石像に描かれている紋章を模倣したという事なのか。」

 

「それが砂漠の民が言う砂漠の神なのかは知らんが、ごく最近この緑の帯の水源が復活した事と無縁ではなさそうだな・・・。」

 

「もし・・・もし、緑の帯を横断中にそいつと遭遇したらどうする?襲い掛かってこないだろうな?」

 

「さぁ知らんな、だが砂漠の民の様子を見る限りでは、こちらから余計なちょっかいをかけなければ問題はなさそうだが。」

 

「そうだな、目撃しても不用意に接近したりしない方が良いだろう、岩に槍を突き立てる羽目になるのは御免だ。」

 

「仮にそいつが砂漠の神とやらなら、ご利益でもあれば良いのだがな。」

 

「金銀財宝でも貰えるのかね?」

 

「はん、今はそんな生きるための道具よりも水の方が欲しいわ。」

 

「ごもっともだ、金はあっても水と食い物が無けりゃ生きて行けん。」

 

「さてと、女どもの水浴びもそろそろ終わるだろうし、俺たちも水浴びと物資の補充を済ませてしまおう。」

 

「ああ、気温が上がり始める前の明け方に出発だな。」

 

 

砂漠と言う過酷な環境で生きる砂漠の民と同じく、彼ら旅の商人達も干ばつと言う試練に耐え、過酷な環境の地を横断する事も商機があれば躊躇しない、逞しい者達なのである。

迷宮核が砂漠各地に仕込んだ地下構造物は、数少ない大雨と言う恵みを決して無駄にはしていなかった。

砂漠や荒野に広がる植物群は、地下貯水槽から点滴のようにじわじわと滲み出る水分を糧として、繁殖を続ける。

照り付ける地面は地表を覆う草木によって幾らかやわらぎ、灼熱の砂漠はほんの少し気温が低下し、そこに住まう生命たちの活動がしやすくなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保湿サボテン

 

緑の帯や荒野周辺に自生する黄緑色のサボテンの一種。

美しい黄色い花を咲かせて観賞用としての需要もあるが、乳白色の果肉に保湿効果と美肌効果があるので大河の国々では王族貴族を中心に需要が高い。

また、軽い火傷や肌荒れの薬効もあるので、薬品の材料としても少量流通する。

他のサボテンに比べて幾分か乾燥の耐性が無いので、大砂漠では疎らにしか生えておらず、オアシスなどの水源近くでは群生する。

味はえぐみと青臭さが酷く食用には向かないが、栄養は素晴らしいので滋養強壮剤や緊急時の食糧として使われることがある。

作物としての育成難易度はさほど高くなく、大河の国にも少量が生産されているが、過酷な環境で育った保湿サボテンの方が良質なので緑の帯で育てられている保湿サボテンの需要が高い。

岩山オアシスでは薄く切り取られて、日焼け対策に使われている。

 



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砂漠の青き雫

緑の帯と言う交易路を確立した商人達は、安全に砂漠を渡れることによって大河の国同士の交易を活発化させ、水源が細り鈍っていた経済を再び回し始めた。

 

それに伴い、情報的な交流も深まり、各地の情報も集まるようになっていた。

 

「あの国は主力商品としている麦が不作らしい、国民の不満をそらすために戦争するための口実を探している様だ。」

 

「厄介だな、うっかり俺たちが火種にならないように気を付けないと・・・。」

 

「莫大な量の水源に胡坐をかいて農作物を育てるための工夫を怠ったツケが回ったんだろうよ、干ばつ対策に奔走していた他の国を笑っていたからこうなる。」

 

「大河上流の国と下流の国での諍いも多くなってきたし、本当に困ったもんだ。」

 

「水を使いすぎている?冗談じゃない、水が少なくて済む作物や農法の導入、使用した水の可能な限りの再利用、雨が降った時の為の溜め池など、出来る事は全て試している。」

 

「昔は大河が氾濫した時の為に対策を練っていたものだが、逆に水源の枯渇に対策を練らねばならなくなるとは・・・。」

 

「雪解け水を利用できる我が国は幾分かマシとは言え、清浄な水源の確保は急務だな、学士連中に知恵を絞って貰わなければ・・・・。」

 

大河の国々の商人たちは、干ばつと言う異常気象によって寸断されていた交易路の謎の復活に伴い、交易品と共に情報を持ち帰り小銭を稼いでいた。

噂程度の情報でも、この危機的な状況では宝石よりも価値があり、大河の国々はそれらの情報をかき集め吟味し、それらを元に国の方針を決める材料としていた。

 

 

ある緑の帯のオアシス村にて・・・。

 

「しかし、何故最近になって枯れていた水源が復活したのだろうか?」

 

「この泉自体はそれ程大きくないのだが、それでも清浄な水がこんこんと湧き出ているじゃないか。」

 

「各オアシスの中心に浮かぶ水晶の祭壇は一体なんだろうな?ここの住人は毎日のように祈りを捧げているが・・・。」

 

「ただでさえ干ばつで厳しい環境なのに祭壇を設置するのも大変だったろうに・・・何処から調達した物かは判らんが・・・・。」

 

「依頼主はこの村の長老と交渉中・・・・薬効のある砂漠の植物を工具と交換しているそうだ。」

 

「商人の護衛は命がけではあるが、最近は安全に砂漠を渡れるし、治安も良くなったから割の良い仕事になったな。」

 

「そう言えばアンタ、元衛兵だったんだって?何で傭兵なんてやっているんだ?」

 

「国の資金繰りが厳しくてな、軍の規模を縮小し農地の拡大に回して退役する事になった。まぁ、畑を耕すのは苦手でも用心棒なら出来るしな、俺にはそうなる資質があったんだろう。」

 

「へぇ、苦労しているもんだなぁ・・・俺はただ単に世界を見て回りたくて行商人見習い(まぁ雑用ばかりなんだが)をさせて貰っているんだよ。」

 

「そうか、早く一人前になって独立出来ると良いな。」

 

「あぁ、お陰様で楽しませてもらっているよ、仕事は厳しくても苦痛では無いんでね。」

 

水瓶から陶器のカップで水をすくい、一杯煽る。

 

「しっかし、小さな泉でやりくりしている割には此処の住民は水を贅沢に使うなぁ、作物の水やりにせよもう少し節約するもんだと思っていたが。」

 

「ふむ、確かにあれだけ各家庭で水を消費していて泉の水かさが減らないと言うのも不思議なものだ、実は表に出ている泉はほんの一部分でもっと深いところに水源があるのかもしれんな?」

 

「はぇぇ、アンタ元衛兵の割には博識なんだなぁ、実は学士さんでも目指していたとか?」

 

「あぁ・・・いや、仕事柄こう言った情報は良く耳にするのでな、自然とそう言った知識が得られるんだよ、まぁそれは商人も変わらんと思うが?」

 

「ははっ、そりゃ違いねぇ、俺も未熟もんをさっさと卒業して、色んな知識を得て世界中を自分の足で歩いてみたいもんだな!」

 

商人の護衛として雇われた傭兵は、水瓶に水筒を沈め水を補充しながら砂漠の民を観察する。

 

(砂漠の民が言う砂漠の神とやらを祭る祭壇、夜になるとぼんやりと光を放つ仕組みになっているが、あんなものがこの緑の帯のオアシスに1つずつ必ず存在するのが不自然極まりない。)

 

(今は真昼間だから分かりづらいが、村人が祈りを捧げるたびに祭壇の紋章部分が淡く発光する・・・・もしや本当に砂漠の神とやらが?いや、そんな筈は・・・だがしかし。)

 

(村人曰く、復活したオアシスを発見した頃には祭壇が存在していたと言うが、もし彼らの言う事が本当ならばこの地の水源が復活した事と、あの祭壇・・・いや、砂漠の神と呼ばれる存在の関係性は噂として切って捨てるには尚早か?)

 

「旦那、アンタさっきからこの村の住人をじろじろ見てるが、何か気になる事でも?」

 

「いや、折角復活したオアシスの水が水の使い過ぎで枯れなければ良いなと思ってな。」

 

「まぁ、贅沢に水を使っているって言っても、大河の国みたいにだだっ広い農地に水を馬鹿みたいに使っている訳でも無いんだから、それはそれで良いんじゃないか?水も大切だが食いもんを育てないとやってられんしなぁ。」

 

「ふむ、大河の国からの輸入頼りでは集落としてやって行けんからな、最低限の自給自足は必要という事か・・・。」

 

(これは、国に報告しなければならんな、もしかしたら水不足の解決につながるかもしれん・・・む?)

 

オアシスの村の住民が数匹のラクダの商隊を送り出し、家族と思われる女性と子供たちが商人の男達とそれぞれ抱き合っている。

 

(この村のキャラバン隊か、物資の補充にでも出かけるのだろうか?)

 

麻布の袋を紐で絞めてラクダの背中に荷積みし、自分自身も大きな背嚢を背負い、ひらりとした重さを感じさせない動作でラクダの背中に乗る。

そこで、商人の護衛として雇われていた男は、信じられない物を目にする。

 

「なっ!?」

 

「あん?どうした旦那?」

 

「あぁいや、何でもない。」

 

(一瞬だけ袋の中身が見えたが、大量の水の魔石だと!?なぜ砂漠の民があの量の水の魔石を・・・・。)

 

(まさか、渦巻き沼のトカゲ共と何か繋がりが?いや、つい最近まで砂漠の奥地に避難していたという・・・その砂漠の奥地に何かが存在するのだろうか?)

 

(一体どういうことだ?・・・・こ・・この情報だけは何としても国に持ち帰らなくては・・・。)

 

緑の帯の交易路が確立されて以来、盛んに交易が行われ各地の情報のやり取りがされる中、砂漠の民が水の魔石を所持しているところが目撃され、大河の国々は砂漠の民に注目するのであった。

 

肯定的にとらえる者は、砂漠の民の交渉術がたけているから渦巻き沼の集落から水の魔石を大量に調達できたのだと言い、否定的にとらえる者は裏で盗賊をやっていて水の魔石を運搬中の商隊を襲い奪ったのだという。

 

だが、確証は得られないものの干ばつに襲われる砂漠を救うために砂漠の神が降臨し、水源を復活させたという砂漠の民の間で突如広まった信仰の情報を入手した国々は、情報の信憑性を高めるために更に直接的な調査に乗り出すのであった。

 

それが砂漠の民にとって歓迎せざるものであっても、世界は動く。

 

唯の知的好奇心を満たすためや、状況を打開するために砂漠の民から知恵を得たいのならば良い所だが、中には砂漠の神と呼ばれる存在の力(カリスマ的な指導力と交渉術を持つ人材や魔石調達先のコネクション・または本当に神の様な力を持つ存在)を独占しつつ、砂漠の土地を復活させ領土に組み込む野心を持つ国も存在した。

 

それぞれの国がそれぞれの国益を求めるために、干ばつに襲われる大地は更なる試練を迎える・・・。

砂漠の民と砂漠の神たる迷宮核が望むと望まざるとに関わらずに・・・。



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紛争

大河の国々は砂漠の民が水の魔石を何処からか調達している事を疑問視し、本格的な調査を行った。

殆どの国は、商人を装った諜報員による聞き込み調査によって水の魔石の出所を探っていたのだが、大抵ははぐらかされてしまう。

 

「済まないね、水の魔石の価値はお宅も知っているだろう?出所を知られるわけにはいかないんだよ。」

 

「そこをなんとか!鉄製品をもうちょっと多めに仕入れるからさ!」

 

「鉄製品は魅力的だが、水の魔石は我々が生きるために必要な物資なんだ、流石に生命線の秘密は明かせない。」

 

「そうか、それは残念だ。」

 

「干ばつの影響は大河の国々にも及んでいると聞く、そちらも大変だな。」

 

「ああ、そうだお詫びと言っては何だが故郷の水モロコシから作った焼き酒を飲んでみないか?すっきりした味で人気の商品なんだ。」

 

根気強く、酒に酔わせるなどして何とか聞き出した情報は、砂漠の神様が水の魔石を産出する土地を与えてくれたのだという突飛な内容であり、信憑性の薄い情報であった。

緑の帯付近には水脈はあっても鉱脈は存在せず、水の魔石が掘り出されたという話も聞いた事が無かった。

 

更に出所を探ると、定期的に緑の帯から大砂漠方面に向かうキャラバン隊が確認されたという。

この事から、大砂漠の奥地に彼らの本拠地となる集落が存在する事が予測できた。

しかし、砂漠と言う乾燥した土地に水の魔石を産出する場所が存在するなど俄かに信じがたかった。

 

砂漠を歩くための技術を持たない大河の国は、遭難する恐れのある大砂漠に挑むリスクを冒したく無かった。

幾らごく最近になって荒野が草原に変わり家畜の飼料の確保が容易になったとは言え、水源の位置が特定できていない場所の調査は文字通り命がけの行為である。

 

大河の国々は慎重に水の魔石の出所を探っていたが、しびれを切らしたある国が緑の帯のオアシス村に強硬的に水の魔石の出所を迫った。

 

「そんな大勢で武装した人間をこんな辺鄙な村へ寄こすとは・・・一体どのようなご用件で?」

 

「御託は良い、水の魔石の出所を吐け、そうすれば褒美をくれてやる。」

 

「褒美も何も我々は大河の国の何処にも属していない、独立した民族だ、何処かの国に与する事は無い、水の魔石の出所は話せない。」

 

「何を勘違いしているのか知らんが、我々は貴様らに頼み事をしているのではない、いいか?これは命令だ!素直に水の魔石の出所を吐け!!」

 

「一体何を!?幾ら何でも横暴が過ぎるぞ!」

 

「あくまで逆らうつもりだな?おい、やれ。」

 

「何をする!?止めろ!やめろぉ!!・・・ぎ・・・ぐあああああああ!!」

 

水の魔石をラクダに積んでいた商人を囲んで棍棒で袋叩きにし、ラクダの手綱を引き積み荷ごと奪おうとする武装集団。

 

「貴様ら一体何をしている!我らの同胞に暴行した挙句、村の資産たるラクダまで奪うつもりか!」

 

怒った村の守り手たちが農具や槍を持って武装集団へ向かって走ってくる。

 

「この者は我らが運搬していた水の魔石を強奪したのだ、ならば積み荷の水の魔石は元よりラクダも没収して構わんだろう?」

 

「あ・・・ぐ・・・嘘だ・・・ごぇっ!?」

 

「まだ殴られたいのか盗人め、四肢の骨を砕いてやろうか?」

 

金属で補強された木製の棍棒の先端を商人の胸に打ち付ける。

 

「何を言うか!俺は見ていたぞ!水の魔石の在処を吐かせるためにそいつに襲い掛かったところを!」

 

「すぐに同胞を解放するんだ!盗賊め!」

 

倒れた商人の頭を蹴り飛ばし首の骨をへし折ると額に青筋を浮かべた隊長格の男が片手をあげ、背後に控えていた男たちが武器を構える。

 

「盗賊だと?我らは大河を制する国に仕える軍人であり、この地を治める正当な血筋を持つ高等民族であるぞ?我らの土地に不当に居座る土人共が我等に楯突くというのか?」

 

「おのれ!よくも!!」

 

「不当に他人から物を奪う者が高等民族であるものか!貴様らは唯の盗賊だ!」

 

「おい、お前たち、どうやら蛮族に躾が必要なようだぞ?」

 

「蛮族に死を!」

 

「黙れこの略奪者どもめ!!」

 

オアシス村の守り手と大河の国の兵の戦いは一人の商人の男の死と共に始まった。

辺境に住む野蛮人はまともな装備すらないと楽観視し、少人数かつ軽装備で向かわせた兵士たちは、砂漠に生息する魔物の素材で作られた強力な武器の前に思わぬ苦戦を強いられた。

 

対人戦の経験こそ少ないが、地上で猛威を振るう巨大蠍や岩トカゲの大型種などが緑の帯にも出没するので交易路の村々も魔物と命がけの戦いを何度も経験しているため一定の練度は持っていた。

 

村人と兵士双方に死者が出て、隊長格の男が巨大蠍の尾で作られた大槍に胸を貫かれた所で兵士たちは撤退し、オアシスの守り手の半数が戦死し、戦いは痛み分けに終わった。

 

その出来事によって、緑の帯を通過する商人達や慎重に情報収集をしていた大河の国々は一気に緊張が走った。

緑の帯のオアシスの村々は、蛮行を働いた大河の国の一国に怒り狂い、先走って水の魔石の在処を吐き出させようとした国に、他の大河の国々は非難の目を向けた。

 

一方、従属核を通じて情報が伝わった迷宮核は、この出来事に強い憤りを覚えていた。

 

(砂漠の民の魂と襲撃者の記憶を取り込むことでおおよその背景が分かった。)

 

(水の魔石が目的か、確かに干ばつの影響で大河の水量が減少したと聞いていたが、まさか略奪してでも手に入れようとしてくるとは・・・。)

 

(近くに巡回している分身体のフレームが偶々無く、村の祭壇の分身体もオアシスの整備に魔力を使って身動きが取れず、最悪のタイミングで取り返しのつかない事が起きてしまった。)

 

(油断していたのかもしれない、話し合えば分かり合えると思っていたのかもしれない・・・しかし、これでは・・・これでは・・・。)

 

(あぁ、無念だ・・・私は、我々は・・・砂漠の外の世界に対してあまりにも無知だったのだ。)

 

(奴らの目的は水の魔石、そして水の魔石の調達先との繋がりを持つ人材の拉致・・・まだ、私と言う存在をあの国は把握していない・・・。)

 

(偏見に満ちた思考と逆恨み、奴らは間違いなく再び緑の帯のオアシスの村を襲撃する筈、それも一つの村だけではない!)

 

(あまり時間がない、オアシスの整備で魔力に余裕はないが緑の帯のオアシスの村々に救助部隊を向かわせなければ!)

 

岩山オアシス周辺の灌漑や整備で魔力的な余裕が無い迷宮核は、従属核砲弾で分身体を派遣するのではなく、燃費の良いハーフトラック型の従属核部隊を陸路で向かわせるのであった。

 

(この十数年で水力タービンのノウハウは大分蓄積されている、半無限軌道の足を舐めるなよ!!)

 

迷宮核は報復よりも、先ずは人命救助を優先し異形の石像たちは履帯を回し砂煙を上げながら緑の帯へと直進するのであった。

 

 

・・・・・・・とある大河の国

 

 

「それは真か!?」

 

「ええ、間違いありません、例の国は緑の帯の集落を襲撃し、水の魔石の在処を吐かせようとしました。」

 

「あの愚か者どもめ!!」

 

「もう既に緑の帯の村々には伝わっているそうで怒り狂っている様です。我が国の商人達も長くオアシスに滞在できず、水と食料の補給で手一杯だそうです。」

 

「砂漠の民は元同胞、我らと近しい血を引く者達・・・この憤りどうしてくれよう。」

 

「既に隣国はかの国に抗議文を出したそうです。」

 

「我が国もそうするべきであろう、特に元同胞達が傷つけられたのだ、黙っていることは出来ない。」

 

「次の大河国際会議は荒れますね。」

 

先走った一国の蛮行により、大河周辺の国々は唯でさえ干ばつで不安定な情勢をさらに悪化させられた事に憤り、非難の声を上げるのであった。




うーん、敵国の名前どうしよう・・・おふざけ路線か真面目路線か・・。


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疎開

かつて大河の三分の一の領土を治めた国があった、かの国はウラツァラル帝国。

大国同士の戦争で疲弊した後、内乱で幾つかの国に分裂してしまったが、新たに誕生した国々は帝国の遺産の技術を持つため未だにその実力は侮れなかった。

 

ウラツァラル帝国の遺産の半分を引き継ぐウラーミア王国、片割れとなる国が存在しウラーミア双王国と呼ばれることもある。

ウラツァラル帝国全盛期ほどの勢いはないが、その軍事力は侮りがたく、帝国の王族の血を引き継ぐ者が王として君臨し、ウラツァラル人のアイデンティティーを確立させていた。

 

帝国の継承者であるという自負から、他民族に対して排他的に振舞い強者故の傲慢さが出てしまい、異国においてもそれは変わらず、時に暴力や殺人などでそれが現れる。

 

緑の帯と呼ばれる交易路の水脈が枯れ、緑の帯上に存在する村々が次々と廃村と化し、砂漠の民が何処かに去ってしまったため、大河の国々の商人達はウラーミア王国を通過しなければならなくなり、入国税や関税などで輸送費用がかさみ、大河を取り巻く経済の流れが滞り鈍化していた。

 

しかし、暫く姿を消していたと思われた砂漠の民が水脈の枯れた元交易路の廃村を立て直し始め、それとほぼ同時期に枯れたはずの水脈が復活したことで大河の国々は再び交易路を利用できるようになった。

 

それを面白く思わなかったのがウラーミア王国で、緑の帯の交易路自体を自分たちの領土に組み込むために動き始めていた。

その上で、砂漠の民が水の魔石を所持しているという報告を受け、その流通経路を特定し水の魔石を得るためのコネクションそのものを丸ごと得るために砂漠の民を奴隷化する計画がされた。

 

下調べに送られた先遣隊が齎したのは、砂漠の民が意外にも重武装かつ手練れだった事と返り討ちにされた報告であった。

情けない先遣隊の者たちは辺境送りにして、面子を傷つけられたウラーミア王国は重武装の大軍を緑の帯の集落に派兵し、短期間で一気に制圧し交易経済を牛耳ろうとしていた。

 

「砂ネズミどもめ、よくもウラツァラル人の面子を傷つけてくれたな。」

 

「流刑者の子孫風情が・・・・万死に値する!!」

 

「交易路を維持する程度には使えると思っていたが、反逆するとは・・・図に乗るな!」

 

砂漠の民は、確かにウラツァラル人を含むが、大河の国々から様々な理由で弾き出され、はぐれ、流刑させられたりして砂漠に集落を構えた文化的な繋がりが乏しい民であり、そのウラツァラル人も砂漠の民の中で多数派という訳でも無かった。

 

元々砂漠が平原だった頃からこの地に根付き集落を構えていた民族が、現在の砂漠の民の素体であり、後から合流した文明の坩堝が岩山オアシスの村である。

 

起源も文化も異なる民同士が力を合わせて生きて行き、そして結ばれ、互いに尊重し合う過酷な環境が故に生まれた文明は、今まさに試練を迎えつつあった。

 

(緑の帯の村々は、非常に気が立っている様だな。)

 

(私の分身体が緑の帯の集落に辿り着くのが先か、かの国の襲撃が先か・・・もどかしいな。)

 

(砂漠の民は私の事を神の様な存在として祀り上げているが、実際の所少しばかり力を持った不便な体の生き物だ、神ではない。)

 

(私の言葉を神託か何かと勘違いして貰っては困るのだが、砂漠の民は応じてくれるのだろうか?不安だ。)

 

(嗚呼しかし、人命がかかっているんだ何としてでもフレームの荷台に乗り込んで貰うぞ!)

 

 

緑の帯の襲撃のあった村は、村のはずれに墓標を立てて犠牲者を弔い、悲しみに暮れていた。

横暴な大河の国に対しての強烈な怒りと恐怖から、警戒範囲を広め、村に近づく驚異の接近を許さなかった。(半ばとばっちりで広がった警戒範囲に入った魔物が駆除されることもあった。)

 

ウラーミア王国が逆襲しに来るかもしれない、そんな恐怖の中、村の守り手は荒野方面から土煙を上げながら接近する影を捕えた。

 

「?・・・何だ。」

 

「何かが近付いてくる!!」

 

「寝ている奴を叩き起こせ!守りを固めろ!!」

 

「いや、まてアレは!!」

 

徐々にその影は大きくなり、輪郭が顕わになるにつれ、その異形さは際立った。

しかし、砂漠の民にとってそれはある意味では見慣れたものであり、安心感を与えるものであった。

 

「使者様だ!砂漠の神の使者様が来て下さったぞ!」

 

「神の紋章・・・おお、何て神々しい。」

 

その姿はハーフトラックに酷似しており、この世界の人間がまず見る事のない物体であった。

窓も扉もついていないのっぺりとしたハーフトラック型フレームは、前輪部分を無理やり折り曲げて浮かせて、履帯部分を左右逆に回転させ超信地旋回をして後部のコンテナ部分を展開した。

コンテナは複数の板に分かれ、その表面に文字の様な物が刻まれていた。

 

「おお、砂漠の神の御言葉が刻まれているぞ!」

 

「あぁ、ありがたやありがた・・・な・・・なに!?」

 

「忌まわしき者、大河の果てより現る、厄災を緑の三日月に齎す者なり、砂漠の民の屍を踏み砕き青き雫を奪いたる者なり。」

 

「な・・・何という事だ・・・。」

 

砂を固めた板に刻まれた文字は、魔力で発光し幻想的に浮かび上がるが、書いてある内容はオアシスの村人たちを絶望に落とした。

しかし、刻まれた文字は塞がり光は消え、のっぺりとした板に戻るが少しの間隔を置いて新たな文字が刻まれる。

 

「緑の三日月に浮かぶ揺り籠の民よ、砂漠の船に乗り、果ての地の岩山を目指せ。」

 

「砂漠の船?・・・ま・・まさか、使者様の背中に乗れと言う事か!?」

 

オアシスの村人の言葉を肯定するかのように、刻まれた文字がチカチカと明滅する。

 

「日が沈んでそれ程時間は経っていない、寝て居る奴を叩き起こせ、村を出る準備をしろ、急げ!!」

 

それから村の様子は慌ただしくなり、食料などの必要最低限の物を持ち、村人たちは全員ハーフトラック型のフレームの荷台に乗り込み、コンテナ部分の扉が閉じ、従属核はフレームの履帯と車輪を勢いよく回転させて発車する。

 

この様子は緑の帯の各集落でほぼ同時期に起きており、各集落から発車したハーフトラック型フレームが荒野辺りで合流し、横並びになりながら休まずに岩山オアシスめがけて疾走した。

 

夜が明けて暫くしたころ、かの国の軍勢が緑の帯の集落に到達するが全ての村はもぬけの殻であり、建物こそ残っていたが水や食料は殆ど残っておらず、報告にあった水源はつい最近干乾びたのか僅かな湿り気を残した窪みしか残っていなかった。

 

ウラーミア王国から派兵された重装兵は、馬やラクダに与える飼料などが調達できず、仕方がなく手持ちの水筒と馬があまり好まない苦いサボテンなどを与えて、最低限の調査を行い撤退した。

 

奇妙な足跡の様な物を確認したという兵も居たが、一陣の風が吹くと同時に綺麗さっぱり痕跡も残さず掻き消えてしまい、それが一体何だったのか分からなくなってしまった。

 

収穫らしい収穫を得られなかったウラーミア王国の上層部は怒り、消えた砂漠の民の行方を追うように命じるが、緑の帯に軍隊を派兵した事で他の大河の国に説明を求められ、これにウラーミアは反発し、大河の国同士でのいざこざが発生するのであった。

 

 

「なんと!砂漠の民が緑の帯の集落から消えたと?」

 

「はい、かの国が緑の帯に進軍した事を察知したのか、もぬけの殻だったとの事です。」

 

「確かに、あれだけの事が起きれば警戒するだろうが、示し合わせたように緑の帯の集落を放棄して姿を消すという事があるのだろうか?」

 

「もしくは、こうなった時の為に行う事を各集落同士で事前に取り決めておいて、有事の際は何処かの隠れ家に避難するという事が決められていたのかもしれません。」

 

「ふむ、有事の際の行動には彼らから見習うべき所があるな。」

 

「どこかで無事で身を潜めていれば良いのですが・・・。」

 

「元同胞たちの事だ、きっと何処かで無事でいる事だろう、しかし大河の国々が利用する交易路を襲うとは許せんな。」

 

「かの国の横暴さには我が国を含め国境を接する大河の国々はほとほと困り果てさせられておりますな。」

 

「前回の抗議文に合わせて追加で送れ、そろそろ前の抗議文が届く頃だろうし、大河国際会議での議題に上げるべきだろう。」

 

「過去の栄光に縋るウラツァラル人の傲慢さには皆辟易している事でしょう、所詮ウラツァラル帝国の残党に過ぎないと言うのに、多くの国に恵みをもたらす大河を全て自分の物とするのは思い上がり甚だしい事です。」

 

「とは言え、緑の帯に野心を持つのはウラーミアだけではない、頭が痛い事に同盟を結ぶ友好国にも一定数緑の帯の領土を主張する国が存在するのが悩みの種だ。」

 

「それぞれの国々が政治犯を流刑したり、移住や開拓で集まった民によって起こされた文明が彼らだと言うのに、そういう時だけ都合よく自分たちの民族出身者を開拓者と取り上げて領土を主張するなど厚顔無恥もいいところです。」

 

「だから我々は彼らを一つの独立した民族として認める立場なのだが、大河の国々は相変わらず足並みが揃わないものだ。」

 

緑の帯の集落群と大砂漠を取り巻く大河の国の情勢は悪化しつつあり、水の魔石を求めて軍隊を派兵した事による周辺諸国、特に水の魔石を産出する渦巻き沼の亜人達は警戒心を高め、ウラーミア王国に説明を求めた。

普段の傲慢な立ち振る舞いもあってウラツァラル人国家への風当たりは強くなりつつあった。

 

沢山の火種を抱えたまま、間もなく大河国際会議が開かれるのであった。




微妙にテンポを維持し辛くなってきました。ぐぬぬ
無理せずに書けるときに書き進めたいと思います。


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決裂の大河国際会議

大河の水源を源流とする地下水脈が通る荒野の交易路、通称、緑の帯。

地図を三日月形に緑で染める交易路は、地下水脈が地表に滲み出て小さな泉が形成されている所として知られていたが、危険生物が多数生息しており、乾燥して農業に向かない土地なため大河の国々は領土に組み込まず原住民にも特に興味を持っていなかった。

 

しかし、干ばつで緑の帯が地図上から消え、原住民も村を放棄して大河の国や砂漠の何処かへ避難してしまったため事実上交易路は使用不可能になってしまっていた。

 

大河が細まり、大河の周りにある国々も水不足に悩まされ、交易路が閉じてしまったため物資の調達にも難航し、経済的に大きな損失が発生していた。

 

それから暫くして、砂漠の民が大規模なキャラバンを組んで大河の国に訪れた事で、大河の国々は砂漠の民が健在である事と、緑の帯の水源が復活し交易路の村も復興した事を知り、交易が再開した。

 

そこで改めて緑の帯の重要性が再認識され、各国は緑の帯の道路整備に投資しようと考え始めていたところ、砂漠の民がとんでもない物を所持している事を知る。

 

渦巻き沼などの大規模な水源の魔力溜まりに生成されるという貴重な水の魔石を、それも大量に砂漠の民のキャラバンが支援物資として砂漠の各集落に配っているのであった。

 

大河の国々は、水の魔石の出所を探るために砂漠の民に密偵を送るが、口が堅く大抵の場合は「砂漠の神が降臨し水の魔石と水源を生み出し大地を復活させた」とはぐらかされてしまっていた。

 

大河の国の有志の行商人が装備を整えて砂漠の奥地にキャラバン隊を派遣しようとしていた時に、しびれを切らした大河の国の一国、ウラーミア王国が水の魔石の出所を吐かせるために緑の帯の集落を襲撃し互いに死者が出る事件が発生する。

 

多くの国は、折角物資のやり取りが出来るようになった交易路が再び潰されてはたまらないと抗議文を出すが、面子を傷つけられたウラーミア王国は抗議文が届くか届かないかの短期間で討族部隊を編成し緑の帯の各集落の制圧に踏み切った。

 

しかし、討族部隊が緑の帯に着いた頃には、緑の帯の各集落はもぬけの殻になっており、建物こそ残っているものの砂漠の民の痕跡は消えており、行商人が利用していたという泉も砂漠の民が祀っている神の祭壇とやらも見当たらなかった。

 

ウラーミア王国の討族部隊は、最低限の人員を残して撤退、砂漠の民の行方を追うために専門の調査部隊を派遣する事が決定した。

 

だが、大河国際会議が緊急で開かれることになり、ウラーミア王国は横やりを入れられた事に苛立ちを覚えつつも渋々国際会議に出席するのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・リーヴァンストリア首長国、大河国際会議場

 

 

 

複数の大河の合流地点であり、そこから枝分かれする位置に在る為、交易の要として発展していったリーヴァンストリア首長国、大河各国のアクセスがしやすく河川舟運が発達しており船着き場も整備されており、大型船の入港も可能なためしばしば大河国際会議の会場として選ばれることが多い商業国家である。

 

 

「これより大河国際会議を開会する。」

 

リーヴァンストリア首長が大河国際会議の開会を宣言する。

 

「本会議の議題は、ウラーミア王国の交易路集落の襲撃についてである。」

 

ウラーミア王国の使者の顔が忌々しそうに歪む。

 

「大河の国の殆どが手を付けず、何処の国にも属していない無主地として暗黙の了解になっていた土地に軍隊を派兵した挙句、そこに住まう原住民を襲撃し、大河の国々が利用する交易路を事実上使用不可能にした責任は重く、砂漠の交易路緑の帯襲撃に関する一切を説明する義務がある。」

 

「異議あり!」

 

ウラーミア王国の使者が手を挙げて抗議する。

 

「かの地は太古の昔から歴史的にウラツァラル帝国の治める土地であり、その帝国の正当後継者たるウラーミア王国の管理下である事は明白である!よって不法にその土地に居座る土人共の排除はウラーミア王国の正当な権利であり義務である。」

 

会場はざわめき、各席から怒号や罵声が飛ぶ。

 

「ふざけるな!緑の帯は乾燥地帯が故にどの国も開拓する事が無く放置されていた土地であろう!」

 

「砂漠の民は人口も少なく国と呼べる規模では無いが、少なくとも何処の国からも援助されず荒野の地で生を繋いでいる独立した民族である!貴国の行為は、大河の国々の運送業を潰すだけでなく、無辜の民の尊厳を貶める道義にもとる行為である!」

 

「違う!貴様らは何を言っているんだ!かの地は流刑者が集まり集落を作った土地であろう?大砂漠に流刑させられるウラーミア王国の流刑者は我が国よりも少ない、ならば元は犯罪者とは言え我らが民によって開拓された土地だ、よって緑の帯の交易路は我が国の物である!」

 

「何を言うか!この恥知らずめ!!」

 

(・・・・無主の土地だからと言って皆好き勝手言いおって・・・。)

 

ホトリア王国の使者が渋い顔をしながら手を組む。

 

砂漠の民と祖を共にする大河の国ホトリア王国、元は大河の一部と草原の各所に中規模の集落を形成し、沢山の家畜と共に土地を回る遊牧民族であったが、草原が荒れ果て砂漠化が進行するごとに遊牧民達が大河の集落に集まる事で農業が発達し始め、遊牧民の族長が王として戴かれて建国された国である。

 

(我が国と同盟関係にある国でも横暴な国は存在する、大国を挟む緩衝地帯であるが故に仕方がないが、半端に先進技術を大国から学んでるだけあって文明国を気取って始末に置けない。)

 

(そもそも緑の帯と直接面していない国すら領土を主張するとは一体どういう了見か?仮に領土として組み込まれたとして飛び地をどの様に管理するというのか・・・。)

 

ホトリア王国の使者が手を挙げる。

 

「我が国としては、砂漠の民を何処の国にも属していないその土地に根付く独立した民族として扱う立場である。」

 

その発言にも罵声が飛び交うが、リーヴァンストリア首長が静粛を促す。

 

「続けて宜しいかな?・・・成程確かにかの地は、大河の国々から追放された民が開拓した土地であるかもしれない、しかし、かの地は砂漠に飲み込まれる前はあらゆる民族が暮らしていた土地であり、砂漠化に追いやられる様にして文化的な繋がりの薄い民同士が合流し、形成された独自の文明を持っており、自助努力であの過酷な土地で生きている。」

 

「どの国も、そう我が国も緑の帯に直接的な援助をする事も無ければ管理もしていなかった、商談はする事はあったかもしれない、しかし一体大河の国のどの国がかの地を一度でも治めていたというのか?元からその地に住まう民であろう?ウラーミア王国の行為は暴挙とも言えるものだ、我が国はウラーミア王国を弾劾する立場である。」

 

ホトリア王国の主張に議場の半数は同意するが、残り半分は罵声を浴びせておりそれぞれが好き勝手に主張を繰り広げている。

 

「そもそも砂漠の民が水の魔石を所持していた事が今回の襲撃事件に繋がったのであろう!?レイカポンダ水霊国が裏についているに違いない!強欲トカゲ共がウラーミア王国を不用意に刺激した事で交易路が潰れてしまったのだ!今すぐ水の魔石で賠償しろ!」

 

「ソノ発言ハ我ガ国ヘノ侮辱ト受ケ取ル!今スグ撤回セヨ!」

 

度々好戦的な国から襲撃を受けるレイカポンダ水霊国の使者が抗議する。

 

「ウラーミア王国が領有権を主張するならば、ウラツァラル帝国の片割れたる我が国ツラーミア公国にもその権利はある筈だ!」

 

「何を言うか!簒奪者どもめ!」

 

「継承権は皇太子と決まっていた筈だ!皇帝の弟である親王とその子孫こそ簒奪者である!」

 

「静粛に!静粛に!」

 

毎度の事であるが、大河国際会議が開かれるたびにウラツァラル帝国残党の国々が互いに罵声を浴びせ合う口論が繰り広げられ、半ば風物詩と化している。

 

大河の国の三分の一を領土としていたウラツァラル帝国は更に三等分され二つの大きな塊と、更に細かくばらけた都市国家群として形成されているのがウラツァラル文明圏である。

 

ウラツァラル人の高慢な性質に大河の国々はうんざりしつつも、様々な魔道具の動力となる無色の魔石の産出地であり、魔法大国であったウラツァラル帝国の遺産を引き継ぐウラツァラル文明圏を無視できないでいた。

 

しかし、ウラーミア王国のしでかした事はあまりにも重く、大河国際会議によってウラーミア王国に経済制裁が下される事になる。

 

「貴様ら、覚えておけよ・・・・。」

 

ウラーミア王国の使者は苦虫を嚙み潰したような表情で退席する。

 

(全く・・・これだからウラツァラル文明圏の連中は・・・。)

 

大河の国々の使者たちが資料を整理したり、同盟国どうしで情報交換を行っている中、ホトリア王国の使者はげんなりとした表情で報告書をまとめて帰りの船に向かっていた。

 

「しかし、砂漠の民は無事なのだろうか?何処かで生き延びていれば良いが・・・。」

 

唸りながら船着き場に行く途中、突如破裂音が響き渡り、船着き場に怒号や悲鳴が飛び交う。

 

「な・・なんだ!?何が起きた?」

 

大河各国の使者を乗せるはずだった船は木片をまき散らしながら沈み始め、ホトリア王国の船も舵がへし折られていた。

 

「馬鹿な!大河国際会議の開催地でこの暴挙・・・一体だれが・・・はっ!?」

 

ホトリア王国の使者が見たものは、遠ざかるウラーミア王国の高速船であった。

 

目が虚ろな死者が漕ぐ船は、風が無い時も川の流れに逆らって川を上る事が可能で、ウラツァラル文明圏の周辺国にとってあらゆる意味で脅威の魔法技術であった。

 

「おのれ、やってくれたなウラツァラル帝国の亡霊どもめ!」

 

大河国際会議の開催地として選ばれたリーヴァンストリアの港の破壊工作と言う暴挙を行った国の容疑者として挙がったウラーミア王国は後日、リーヴァンストリア首長国の自作自演や片割れであるツラーミア公国の仕業であると、支離滅裂な主張をし、更には複数の国を名指しして陰謀説を上げ弾劾した。

 

これに怒りあるいは呆れ果てた大河の国々は、ウラーミア王国制裁の為の連合軍を組み、陸路から水路から進軍するのであった。

 

 

打算と謀略と義憤にまみれた戦争、緑月戦争の始まりであった。




みんなの身勝手でぶん回される国や集落はどの世界もどの時代も存在します。やはり、こうやってはいけないと言う線引きは必要だと思います。収拾がつかなくなるので・・・。


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緑月戦争

大河国際会議の開催地での破壊工作と言う暴挙に及んだとみられるウラーミア王国は、嫌疑をかけられるも全面的に否定し、主催国であるリーヴァンストリア首長国の自作自演や片割れであるツラーミア公国の工作だと主張し多くの国に反感を買い、懲罰の為に結成された連合軍がウラーミア王国へと進軍するのであった。

 

「多くの国が集まる大河国際会議の場の攻撃を行うなど、ここまで落ちぶれたか。」

 

「かつて大河中に轟かせた魔術師の国も見る影もありませんな。」

 

「陸路で進軍中の友軍の到着は我々よりも後になりそうだな?」

 

「あぁ、川の流れに乗っている事と近道を通っている事もあるからな、しかし敵の水軍と出くわさないな・・・。」

 

「ウラーミア王国の事だ、きっと何か企んでいるに違いない。」

 

「そろそろ奴らの砦だ、国境沿いに建設されたものの一つだが、数が多く攻略に難儀するだろうな、流石は帝国の遺産という事か。」

 

「こんなのが幾つもあるんだからウラツァラル帝国残党とは言え侮れない。」

 

船を河岸に寄せると、次々と連合軍はウラーミア王国の国境沿いの砦へと殺到する。

ある程度の距離までに近づくと風切り音と共に矢が飛来し、連合軍の兵士たちの悲鳴が上がる。

 

当たり所が悪くて即死したもの、自力で矢を引き抜いて布で傷口を縛りつつ突撃を再開する者、矢が刺さったまま走り続ける者、様々な連合軍兵士が砦へと向かうが突如、矢に被弾した兵士たちに異変が起きた。

 

「あ・・あぶ・・あぶごぼぼぼ・・・。」

 

「あれ?なに・・・あれ・・あ・・・あ・??」

 

顔から血の気が引き青白くなり、紫色に染まった唇の端から泡立った唾液が垂れ流しになり、全身が痙攣し、目の焦点も定まらない。

 

「これは・・・気を付けろ!毒矢だ!!」

 

大河の自然環境では過酷な生存競争が行われており、大河の国々の持つ砦と言うのは襲撃してくる侵略者や野盗などを相手取る対人戦だけでなく、野生動物や危険な魔物を相手にする事も多いので、大型の魔物にも通用する強力な毒が使われることも珍しくなかった。

 

「くそっ、解毒は難しそうだ・・・。」

 

「介錯してやりたいが、この矢の雨の中では難しい、門の破壊はまだか!?」

 

「攻城杭を叩きこんでおりますが、破壊するまでに時間がかかりそうです。」

 

「ちっ、遠目から見ると鋼鉄ではなく石材で出来てそうなのに中身は別物か、恐らく魔力か何かで補強されているのだろう。」

 

「もう少し大きな拠点で使いたかったが、仕方があるまい、破壊の魔石を使え!」

 

何度も砦の門を打ち付けていた攻城杭を持った兵士たちは門から退避し、握り拳大の青白く発光する魔石を持った工作兵が門へと魔石を取り付ける。

 

工作兵は飛来する矢に警戒しつつも魔石に魔力を流しながら刻まれた印を操作し、安全圏まで走り、破壊の魔石を起爆する。

 

不安定かつ大容量の高密度魔石の内包魔力は、はち切れんばかりに増大し、無秩序に魔石内部を荒れ狂う。

 

魔石自体が耐えられなくなり青白い閃光と共に爆散し、その効果範囲内に在ったものを破壊の奔流が蹂躙する。

 

「よし、門を破壊したぞ!突撃ーー!!」

 

連合軍が砦の入り口に殺到すると、防壁内の広間に出て急に視界が広がった。

思いのほか開けた場所に出てしまった連合軍は前後から弓矢の攻撃に晒され、被害が広がって行った。

 

「応戦しろ!防壁上部へ続く階段を確認した!近づける者は切り込め!」

 

「梯子をかける前に門を破壊しちまったから弓兵の排除がまだ出来ていない、上を取られるのは不味い。」

 

「弓兵を排除したら中央の兵舎と思われる施設を制圧せよ!」

 

彼方此方に剣を打ち合う音が響き渡る、怒号、悲鳴、絶叫、連合軍とウラーミア王国軍共に多数の死者が出てウラーミア王国側の敗北が決まると思いきや、砦に異変が起こる。

 

「な!防壁が崩れ始めた?工兵、一体何をしたと言うのだ?」

 

「わ・・我々は何も・・・っ!?お下がり下さい!!」

 

瓦礫の山と化した防壁は、突如光を放つと、爆発音とともに激しく炎上し退路が断たれた。

 

「火攻めだと!?だがこれはウラーミア王国の兵ごと焼く事になるぞ?」

 

「奴らは正気か!?」

 

連合軍が動揺していると、突如倒した筈の敵兵や討たれた仲間が起き上がり、白濁とした目で剣や斧などを握りしめフラフラと最寄りの人間に近づき始めた。

 

「な・・・死霊術だと!?」

 

「これは・・・ただの毒矢じゃない!錬金術で作られた不浄なる毒だ!」

 

「なんとおぞましい・・・ごほ・・ごほ・・がはっ・・・こ・・この霧は?」

 

「黒い・・・霧・・・。」

 

迫りくる炎の壁、敵味方関係なく襲い掛かる動く死体と、身動きを奪う黒い霧、ウラーミア王国国境沿いの一つの砦では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。

 

全てが終わった後は、人が焼けこげる臭いの漂う瓦礫の山と、元が何だったのか分からない炭化した死体の山が残されていた。

 

「ククククク・・・・中々良い駒が手に入ったわい。」

 

まだ熱気を残す砦跡地に、黒いローブの老人が佇んでいた。

 

「さあ目覚めの時だ、我に従え。」

 

老人が杖を掲げると、びくりと炭化した死体が震えると、乾いた音を立てながら死体が起き上がり、炭化した肉が剥がれ落ちて骨だけの姿になる。

 

「ふむ、生焼けの奴も少々おるが、まぁ多少臭う程度で問題は無かろうよ。」

 

「やはり死体は良い、恐怖により動きが止まったり剣が鈍ることも無ければ、裏切ることも無い、魔石さえあれば幾らでも駒を増やせる。」

 

「別動隊がおるようだが、そちらは正規軍に任せるとしよう。」

 

「ひひひひひ・・・かつて大河を恐怖で染め上げたウラツァラル人の魔術の力・・・・いま一度思い出すがよい!」

 

黒いローブの老人・・・ウラーミア王国の王宮魔術師は、アンデッド化させた連合軍兵士やウラーミア兵を連れて部下の魔術師に駒を引き継がせるために、王都へと帰路に就く。

 

「我らの邪魔をする者は皆滅びる運命なのだ、砂漠の民と言う土人共も大河の領土を不当に占拠する蛮族共も、誇り高きウラツァラル人の前にひれ伏す事になるだろう。」

 

「あぁ、そうだ・・・砂漠の土人に敗北した奴らに活躍の場を与えてやろうでは無いか、死体は水も食料も必要あるまい・・・くくくく・・・。」

 

後日、陸路を進む別動隊は、他の拠点を攻めるも変わり果てたかつての友軍の兵士たちと遭遇しこれと交戦、撃破に成功するも士気に影響を及ぼし、その勢いは目に見えて低下していた。

 

元から攻略される事前提で作られていた砦は、自壊する事で死霊の軍勢を生み出し、ウラーミア王国は新たな駒を砂漠の集落攻略に使うのであった。



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撃退

ウラーミア王国は、大河の国の連合軍と交戦する中、緑の帯から姿を消した砂漠の民の捜索と討伐の為に中規模の部隊を派兵する事にした。

 

蛮族討伐隊、通称:討族隊が編成され、国境沿いの戦いで得られた[戦利品]を一部借り受け魔術兵を中核とした遠征部隊が交易路へと進んでゆく。

 

緑の帯と呼ばれる交易路は、その名の通り荒れ地に絨毯のように青々とした草が続いており、馬やラクダなどの飼料を確保でき、点在する村々は小さいながらも旅人が体を休めることが出来る交易の要所であった。

 

しかし、そこに住まう住人たちは姿を消してしまい、緑の帯の村々は無人状態であった。

現在はウラーミア王国の兵が駐屯しているが水や食料は持ち込みで、当てにしていた湧水は全て干乾びてしまっている。

ますます砂漠の民に水の魔石の出所に対する不信感を深めつつ、討族隊は緑の帯の最も大砂漠に近い村跡地へと到着していた。

 

「ほう?この先の荒野を進めば砂漠の民の集落があると?」

 

「へぇへぇ、俺たちの村は砂に飲まれてしまいやしたが他の村の大体の位置なら覚えてやすぜ?」

 

「ふん、難民崩れの野盗でも使い道はあるという事か、この遠征が終われば恩赦がある、つまり貴様らは晴れて罪人ではなくなるのだ。」

 

「ははぁ・・・他の村の連中には悪いですが、これも生きるためです。なんでもしやすぜ・・・・。」

 

「余計な事を考えるなよ?もし妙な真似をすればアレの仲間入りだぞ?」

 

ローブの下に鎧を着こんだ魔術師が後方に控える死者の軍勢を親指を立てて指差す。

 

「いえいえまさか!罪を償う機会を与えて貰ったのにとんでもない!」

 

「まぁ、見ておれ、砂ネズミ共も何れこれと同じ傀儡となるだろう。」

 

難民崩れの盗賊は、鎖帷子を着込んだ骸骨の群れに息をのんだ。

鎧や鎖帷子で隠されているが、その中は白骨死体そのものであり、モノによっては腐った肉片がこびりついたままの個体もある。

 

(あんなのに・・・あんな姿にされてたまるか・・・。)

 

魔術師の命令で動くが、単純な行動しか出来ず、単体での戦闘能力はそこまで高くないが、魔力が続く限りは復活し、骨の体が破損しても仲間の残骸から使えそうな部位を取り換えて戦闘を継続するので扱い用によってはかなり強力な戦力なのである。

 

(くそっ、村の作物が全滅して井戸も枯れて命からがら大河へと逃れたと思えば、罪人扱いか!確かに飢えをしのぐために金と食いもんを盗んだり、畑の野菜を掘り出して食っちまったが、奴隷にされるほどの大罪人では無いぞ畜生!)

 

討族隊は砂漠の歩き方を知る難民崩れの盗賊の案内で、緑の帯から大砂漠に通じる荒野を歩き、一番緑の帯に近い位置に在るオアシスの村へと進軍した。

 

「おい、大砂漠と言う割には言う程乾燥していないではないか?」

 

「はぁ・・・確かに最近大雨は降りやしたが、こんな砂漠は俺も初めてですぜ。」

 

「水の魔石と言い、干ばつだと言うのに緑の帯の湧水の復活と言い、この地で一体何が起きているというのか・・・・。」

 

「砂ネズミどもめ・・・一体何を企んでいる?」

 

「まぁ良い、蛮族共の住処が見えてきたぞ、反抗する者と老人は殺せ、生き残りは情報を吐かせた後は奴隷にする。」

 

「くくく・・・了解、さぁ傀儡共よ!新たな同胞を作り出せ!砂ネズミ共を骸に変えるのだ!!」

 

黒い霧を纏った死者の軍勢が隊列を組みながらオアシスの村へと進軍する。

オアシスの村は、既に臨戦態勢であり、村の守り手が櫓や岩の上から弓をつがえていた。

 

「奴らついに大砂漠まで攻めてきやがった!」

 

「なんとおぞましい・・・あれは死霊術では無いか!外道め!」

 

「落ち着いて対処しろ、死霊の数はそれなりだが人間の兵はそれ程でもない、死霊を操る魔術師が居るはずだ、そいつを狙え。」

 

オアシスの村と討族隊双方の距離が縮まると、弓矢の撃ち合いから始まり、やがて槍や刀剣での近接戦闘になる。

 

「脆い!動きも単調だ!」

 

「油断するなよ、魔術師が居る限り復活する筈だ!」

 

「しかし、この数をどのようにして動かしているのか?一人二人の魔術師ならば行軍中に魔力切れを起こしてもおかしくない筈だが・・・。」

 

「あの人数全てが魔術師とは考えられんし、仮にそうだとしてもこんな小さな村に派兵するには過剰戦力過ぎる・・・何か仕掛けがある筈だ・・・」

 

死霊に混ざり人間の兵士が戦闘に加わり始め、疲れ始めたオアシスの守り手に被害が出始めた。

 

「死ね!蛮族め!!」

 

「ぐおぉっ!?こいつ、死霊を盾に・・・・。」

 

「下がっていろ!・・・くっ、やむを得ない後退するぞ!」

 

未だに死者は出ていない物の、多勢に無勢な為、守り手達は村の防壁まで撤退し、上部から石や岩石、干しレンガなどを投擲しウラーミアの軍勢を攻撃した。

 

「骨の奴に当ててもらちが明かん、生きて居る奴を狙え!何処かに死霊を操る魔術師が居るはずだ!探せ!」

 

「数は厄介だが、やはり人間相手の方がきついな、正規の訓練を積んだだけあって手強い。」

 

死霊に混じるウラーミアの兵士を弓矢で射抜き、確実に敵の数を減らして行くが、背を低くして体を隠していた兵士が炸裂魔石を防壁に投げ込んだ。

オアシスの村の干しレンガで出来た防壁は元々それ程防御力が高くなく厚みでそれを補っていたため何とか死霊の攻撃には耐えられていたのだが、炸裂魔石の爆発で容易く崩れてしまった。

 

「ぐ・・・しまった、防壁に穴が開いてしまったぞ!」

 

「負傷者は後方に下がれ!」

 

「俺はまだいける!それに此処を突破されたら最期だぞ!」

 

「奴ら死霊ごと吹き飛ばしやがった!死者を穢す外法・・・・何処までも外道なのか!」

 

瓦礫をどかして村の内部まで進攻しようとする死霊達、しかし村の守り手達が矢を放ち妨害し、空いた穴を塞ぐように槍と盾を構えた守り手達がウラーミアの軍勢とぶつかり合う。

 

「ぐぎゃあああああ!!」

 

「砂鮫の牙は骨すらも噛み砕く、死霊を盾にしようがこの矛先からは逃れられぬ。」

 

「格好つけてないで魔術師を探せ、死霊ごと貫けても隙は生まれる、死霊にまぎれた兵士に警戒せよ。」

 

ウラーミア側に被害が出始めた時、突如死霊の一部が動きを止め、頭蓋骨が黒く染まると破裂し、黒い霧が広がり始めた。

 

「なんだ!?」

 

「黒い霧?警戒しろ、迂闊に近づくな!」

 

拡散した黒い霧は、打ち取られたウラーミアの兵士の死体にまとわりつき、ぐらぐらと揺れながらゆっくりと起き上がる。

 

「なんという・・・。」

 

倒した筈の兵士が死霊に加わり、ぎこちないながらも剣を握りしめて襲い掛かってくる。

 

「その場で死霊化だと!?」

 

「馬鹿な、どれだけ魔力があると言うのだ!」

 

「生身の人間に被害が出れば撤退すると思っていたが、甘い考えだったな。」

 

「黒い霧に近づくな!魂を穢されるぞ!」

 

 

一方、ウラーミア王国側も動揺が広がっていた。

 

「馬鹿な、自軍の兵士も死霊化だと?」

 

「な・・・敵の死体を利用した死霊兵では無かったのか?」

 

「くくくく・・・なに、戦場では利用できるものはすべて利用するだけだ。」

 

ニタニタとローブを被った魔術師が骨で作られた不気味な杖を掲げながら笑う。

 

「王宮魔術師である我が師から預かった死霊軍、それに加われるなど光栄であろう?」

 

「・・・・・・。」

 

「そうだ、先ほど流れ矢に当たってしまったコレも再利用してやるか。」

 

ぐったりと動かなくなった砂漠の民の犯罪奴隷の頭を掴み魔力を注ぎ込むと、目が白濁とし口や鼻から黒い霧を吐き出しながら死霊と化する。

 

「ア・・・ぎご・・・ごえ・・・。」

 

「まだ魂が残っていたか、ふん、精々魔石の魔力の節約をさせて貰おうか、擦り切れるまで働け犯罪奴隷め。」

 

魂を魔力に変換しながら、僅かに残っていた自我すら失い、まだ腐敗していない死霊は魔術師に下された命令のままオアシスの村を襲い続ける。

 

砂漠の民とウラーミアの討族隊共に士気が下がりつつも、戦闘は続けられていた。

 

(ウラーミアの大地に眠る膨大な量の魔石、それを集め圧縮し一つの魔石にする事で小型化しつつ、魔道具や死霊兵の稼働時間を飛躍的に高めることが出来た。王宮魔術師研究室の成果を見せる良い機会だ。)

 

死霊が防壁の瓦礫を撤去し、村の内部に突入する準備が整いつつあるが、突如風切り音と共に土煙が舞い上がり、戦列が引き裂かれた。

 

「何事だ!?」

 

「魔法?・・・いや、投石器か!?なぜ木材もなさそうな砂漠で・・・。」

 

側面から現れたそれは、あまりにも異形であった。

ウラーミアの討族隊は思わず息をのんだ。

 

「あれは・・・一体なんだ?」

 

「岩で出来た・・・・蜘蛛?」

 

4つ足の蜘蛛とも蟹とも言えない奇妙な物体は、その背に巨大な弩砲を抱えており、ギリギリと音を立てながら太い弦を柱の様な部品がスライドして引き絞り、乳白色で滑らかな太い鏃が発射される。

 

「うわああああ!!」

 

「ば・・化け物だあああぁぁ!!」

 

4つ足の物体は、その背に弩砲だけでなく投石器を搭載している物もあり、人間の頭部程もある岩の塊を天高く打ち上げ、戦列に石礫を降らせる。

 

「死霊兵が粉々に!これでは再利用できないぞ!?」

 

「なんて威力だ!」

 

かなりの遠距離からの正確な狙い、攻撃をしようにもあまりにも離れすぎているし、あれに対処していれば穴の開いた防壁も障害物で埋められてしまうだろう。

 

「なんだ・・・あれは・・・。」

 

ウラーミアの魔術師は、顔面を蒼白にしながら目の前で自慢の死霊兵が粉々にされている光景を眺めていた。

 

「砂漠の民はあの様な魔導兵器を開発していたというのか?」

 

「畜生!辺境の蛮族じゃなかったのかよ!」

 

「有り得ない、ウラーミア王国は魔法帝国の後継者ぞ?あの様な魔導兵器聞いた事もな」

 

魔術師の思考はそこで途切れた。

4つ足の物体・・・・戦闘用従属核フレームの放つバリスタの直撃を受け、痛みすら感じずに肉片と化した。

 

「神様だ!砂漠の神が我らをお救いになった!」

 

「使者様やっちまえ!侵略者どもをやっつけろ!」

 

「何と言う巨大な弓だ、あんなものを撃ち込まれたら唯では済むまい。」

 

オアシスの村は歓声に包まれる。

最初こそ何が起こっているのか分からなかったが、轟音と共に敵が四散し、その原因を探していると見覚えのある影が砂漠の砂丘の上に見えたのである。

砂漠の神の使者の戦姿、何時もの砂漠を歩くだけの姿とは違う巨大弓を背負う勇ましい姿であった。

 

 

(何とか間に合ったか、まさかこのオアシスまで攻めてくるとは・・・。)

 

(砂漠の集落同士を結ぶ杭、それに取り付けられた縄を失敬してバリスタを作ってみたが、申し分ない威力だ。)

 

(水流操作を利用した油圧機構で弦を引くから消費する魔力も少なくて済むし、砂を固めれば幾らでも矢は作れる。)

 

(幾つか縄じゃなくて鋼線のバリスタも混ざっているけど、あそこまで行くと死の海の怪物だって屠れるんじゃないだろうか・・・。)

 

(魔力があればもっと派手に暴れる事も出来たけど、大雨の水を蓄えるための土地の整備で魔力を消費してしまったからこれが限界かな。)

 

(私の分身体も魔力不足で動けないものも多いが、この戦いで得られた魔力を使って再編成できそうだ・・・。)

 

(あまり気が進む方法でないが、仕方が無いか・・・まず、目の前の敵を倒さないと。)

 

 

魔術師の死亡により死霊兵達は、元の屍に戻り、遠距離から放たれる弩砲や投石器によって討族隊は壊滅し、ウラーミア王国まで撤退したのは僅か数名であった。

 

それにウラーミア王国は激昂するが、連合軍との戦いは戦況が悪化しつつあり、砂漠の民への更なる報復攻撃は先延ばしになるのであった。

 

「おのれ、蛮族どもめ!許さぬ・・・許さぬぞ!!」

 

ウラーミア王国は連合軍と砂漠の民に逆恨みし、憎悪を煮えたぎらせるのであった。

 

 

(しかし、死霊を使うとは・・・彼らの感情は、苦痛は・・・計り知れない。)

 

(触れれば溶け解けてしまいそうな魂、戦うたびに悲鳴を上げ擦り切れて傷つき、やがて何も感じなくなり、命令を聞くだけの装置と成り果ててしまう。)

 

(こんな残酷な魔術がこの世界に存在するとは・・・・。)

 

(此処まで崩された魂はどうにもならない、我々に加わることも無く魔力に分解されるだけ・・・すまない、安らかに眠ってくれ・・・。)

 

 

迷宮核は、この戦いで失われた命に祈りを捧げた。

自分自身があらゆる生命の魂の集合体であるが故に、壊れて魔力に分解してしまった魂の最期がどのような物なのか理解してしまった。

・・・・・・それ故、唯々その尊厳に祈りを捧げた。



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大河の使節団

大河国際会議の議場に破壊工作を仕掛けた疑惑のあるウラーミア王国は、死霊を用いた軍勢で連合軍を迎え撃つが、死霊の依り代となる白骨死体を再利用不能まで粉々に砕く、または魔術師を狙うなどの対策がされるようになり、次第に押されていった。

 

本国が劣勢になった事で、緑の帯の村に駐屯していたウラーミア軍は撤退し、再び緑の帯は静けさを取り戻した。

 

しかし、砂漠の民は姿を消したままでオアシスも枯れ果ててしまった為、少しずつ緑の帯の植物はその数を減らしつつあった。

 

砂漠の民が姿を消すのと時を同じくしてオアシスの湧水が枯れた事で、緑の帯の復活と砂漠の民に深い関係があると大河の国々は注目するが、肝心の砂漠の民が行方不明で、ウラーミア王国との戦争もあって殆どの大河の国は調査を後回しにしていた。

 

しかし、砂漠の民と祖を共にするホトリア王国は緑の帯に暮らしていた砂漠の民の身を案じ、大河の国々に抱いたであろう不信を払うために砂漠の民の捜索も兼ねて調査団を派遣することにした。

 

事実上の使節団である調査団は、実戦経験豊富な戦士を護衛とし、それなりの地位のある者を使節に選出する予定である。

 

 

「交易路が再び開通したのは良いが、オアシスが枯れて水の補充も出来ず、食料を大量に持ち込まなければいけなくなってしまった。」

 

「砂漠の民が姿を消すだけなら兎も角、同時期にオアシスが枯れるなど、どう考えても彼らと関係しているとしか思えない。」

 

「まったく、道中の集落で水と食料を補充で来ていたからその分荷物を詰め込むことが出来ていたのに、これでは折角の交易路も意味がない。」

 

「ウラーミア王国め、余計な事をしてくれたな。」

 

「しかし、連合軍の戦闘に加わらずに呑気に砂漠の民に使節を派遣していて良いのか?後方支援が主で直接刃を交える事は多くない様だが・・・。」

 

「後方支援も立派な貢献だ、それに我が国は一応大河の連合に属しているが、国力から言えば小国だ。ウラーミア王国相手には分が悪い。」

 

「確かにそうだが・・・ふむ、連合には不興を買うかもしれんが、砂漠の民と交流を深める良いきっかけになるかもしれん。」

 

「砂漠のオアシスを復活させた方法や水の魔石の出処・・・は恐らく無理だろうが、水の乏しい環境での生活の工夫や技術など得られるものは少なくない筈だ。」

 

「出来れば説得して緑の帯の村を復興してほしいものだが、うーむどうしたものか?」

 

部屋の扉が開かれ一人の若者が・・・いや、少年が会議に割り込む。

 

「砂漠の民への使節の派遣、僕も参加してよろしいでしょうか?」

 

「!!っ・・・・アルジャン殿下!?」

 

「なりませぬ!大砂漠は過酷な地、ましてや王位継承権一位のアルジャン殿下の身に何かあれば・・・っ!!」

 

「砂漠の民は我らと同じ祖を持つ民、ならば彼らの苦難に手を差し伸べるべきでしょう。それに、まだ王位継承権を持つ弟のアミルが居ます。」

 

「しかし!」

 

「かつて遊牧民だった我らホトリアの民と砂漠の民は、平原を旅して回り、時に宴会を開いて交流を持っていたそうです。そして、我ら王族がかつて大河のほとりに集落を築いた遊牧民の族長だったのならば、その地位の者が例に倣って彼らの長と話し合うべきでしょう。」

 

「確かに我らと砂漠の民は大砂漠が平原だった頃には、そのように交流をしていたと記録に残っておりますが、彼らは国と呼べる程の規模では・・・・・。」

 

「ウラーミアを撃退するほどの勢力でもあるのですよ?もしかしたら、もう既に国を名乗っても良い民族なのかもしれない。僕は、ますます興味を持ちました。」

 

「む・・・むぅ・・・・・。」

 

 

その後、ホトリアの王城でちょっとした親子喧嘩が起こり、深夜から日の出まで口論が続き、王妃と第二王子が止めに入ることで糸が切れるように轟沈して使節団の参加の話は数日後まで持ち越された。

 

結局のところ、ホトリア王国の人材不足から、第一王子派遣が通り、更に護衛が増強されることになるのであった。

 

「アルにぃさま・・・行っちゃダメ・・・。」

 

「アミル、僕が居なくてもお勉強頑張るんだよ?」

 

「やだ!せんせいじゃなくてアルにぃさまがご本読まないといやなの!」

 

「それじゃぁ母上に読んで貰いましょう、いつもお部屋で一緒に読んで貰っているでしょう?」

 

「ちがうの!いなくなっちゃいやなの!」

 

「困った子だなぁ・・・。」

 

アルジャン王子の自室の扉が開かれると王妃が入ってくる。

 

「アル、砂漠の民との交渉を任せますよ。」

 

「母上!」

 

「お母さま!」

 

「アミル、またアルを困らせていたのね?大丈夫、アルが留守の間は私があなたと一緒に居ますからね。」

 

「でも、でも・・・・。」

 

「母上、ホトリアの王族として、砂漠の民への交流を結ぶ任を果たしてみせます。」

 

「・・・・本当は私も反対したかったけれど、あなたの決意が固いならばお行きなさい、そしてその目で大砂漠の彼方にある彼らの治める地を見てきなさい。」

 

「ははは、僕の好奇心を見抜いておられましたか、そうですね、僕は外の世界が見てみたかった。」

 

「アルにぃさま?」

 

「平原で生きる事を捨て、大河のほとりに定住の地を築き上げた僕たちと、平原で生きる事を選び砂漠に飲みこまれても彼の地で生き続けている彼らの有り様に惹かれる所があって、砂漠の民の事をもっと知りたいのです。」

 

「ふふふ、流石私と陛下の子供です。ああ見えて陛下も若い頃はとてもやんちゃだったのですよ?」

 

「あ・・あはは・・父上もそうおっしゃっておりました。」

 

「おとうさま?」

 

「大河のほとりの民の代表として決して恥じぬように、アルジャン、頼みますよ。」

 

 

それから暫くして、砂漠の民を捜索するための調査隊兼ね使節団が編成され、ホトリア王国の代表としてアルジャン第一王子が参加した。

 

干ばつから逃れるためにホトリアに避難してきた砂漠の民出身者の案内もあって、緑の帯の集落跡地を順調に回って進み、遂に大砂漠と緑の帯を結ぶ荒野の前まで到達した。

 

大砂漠に挑むには十分に準備を整えた上で、休息を取り態勢を立て直す必要があり緑の帯の集落跡地の施設を借りて体を休めている最中、奇跡か偶然か枯れていた筈の泉の水が滲み出るように湧き出て、量を減らしていた水筒を満たし、ラクダに水を与えることが出来た。

 

「まるで天が我らを祝福してくれている様だ。」

 

「案外砂漠の民が祀る神様ってモンが居るのかもしれんな。」

 

「砂漠の神様・・・かぁ、ふふふ・・・きっと居るのではありませんか?干ばつに襲われるこの地方でこの奇跡、この大地を見守ってくれる存在が居ると信じてみたいです。」

 

「殿下・・・・そうですな。」

 

 

事前情報で、飛砂が飛ぶ乾燥した水気のない荒野が続くという事を聞いていたのだが、疎らながら草が生えており、言う程飛砂が酷い訳でも無かったので、順調に進むことが出来た。

 

岩石の混じる荒野から、砂地に変わり始めた頃、使節団は干ばつに襲われている筈の大砂漠が部分的に草で覆われている光景を見て案内役の元砂漠の民の難民と共に衝撃を受ける。

 

砂漠の神が降臨したという噂が本当の事だったのではないかと疑問を持ち始めた頃、草に覆われていない砂地から無数の砂鮫が飛び出し、使節団に襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大河のほとりの国 ホトリア王国

 

かつて大砂漠が平原だった頃、そこに無数の遊牧民族たちが暮らしており、ある遊牧民が平原の砂漠化に追いやられるように移動し、大河のほとりに拠点を築き、その遊牧民の族長が王として戴かれ建国された国。

大河の一部分を領土としており、国土の多くは現存する平原である。

大河から農業用水を引いており、大河に近ければ近いほど農業が盛んでそれ以外の所は牧草地である。

大河の国の中では小国であり、比較的に穏健な国であり、他の大河の国へ行くための中継国として多くの商人や旅人が休憩に利用する。

蜂蜜と牛乳が特産品である。

 



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邂逅

大干ばつに襲われていた砂漠は大雨以降、その表面に草が生え始め、迷宮核が作り上げた地下貯水槽から配管を通って水が地表に滲み、効率的に水分を分配する事で緑が再生し始めていた。

 

ホトリア王国の使節団は、事前情報で大砂漠の過酷さを砂漠の民の難民から嫌と言うほど聞かされていただけあって、予想外の光景に暫し我を忘れた。

 

 

「これは一体・・・この大干ばつに襲われる砂漠で何が起こっているというのか?」

 

「ま・・・まさか本当に砂漠の神が降臨したというのか?」

 

「大河の国々は水不足に悩まされていると言うのに砂漠で・・・・・ぐおおおぉぉ!?」

 

 

緑が再生しつつあるとは言え、依然として不用心に砂地に踏み込む行為は危険であり、緑に覆われた砂漠の光景に驚いて無防備な姿を晒してしまった大河ほとりの国の使節団は、砂鮫の奇襲を許す事になった。

 

地中を泳ぐ砂鮫にとって多少動きにくい地形になってしまったが、植物を目当てに集まった小動物を捕食しやすくなったので、彼らも環境の変化に柔軟に対応していた。

現在でも、気を抜いた砂漠の民の給水キャラバンや子供などが砂鮫に襲われる事があるので緑に覆われているとはいえ、依然として危険地帯なのには変わりないのである。

 

 

「な・・・なんだこの化け物は!」

 

「砂鮫だ!砂鮫の群れが襲い掛かって来たぞ!!」

 

「これが砂鮫っっ!?」

 

砂鮫の突進を剣の柄で受け止め軸をずらし、無防備になった腹部に蹴りをお見舞いする。

 

「アルジャン王子の御前であるぞ!控えろ!!!」

 

「僕も応戦します!」

 

アルジャンの持つ王笏が光り輝き、緑色の閃光が迸る。

 

「風の精霊よ!邪気を払え!!」

 

王笏を勢いよく払うと空間が歪んだように空気が揺らめき薄緑色の真空刃が回転しながら直進し、砂鮫を両断する。

 

「お見事です!殿下!」

 

「魔物どもめ!我らに手を出した事を後悔させてくれるわ!」

 

砂鮫の突進に合わせて槍を突き、勢いを利用して地面に叩きつける。

砂の中から頭を出した瞬間に、斧でかち割る。

剣で弾き、横腹を一閃する。

 

砂鮫の群れは流れ作業のように駆除され、その勢いを無くしていった。

しかし、突如地鳴りと共に大地が揺れ、地面が盛り上がるとアルジャン王子の真下から巨大な砂鮫・・・沼鮫の陸生適応個体が襲撃したのだ。

 

「うわああああああぁぁぁっ!?」

 

「殿下ぁぁぁぁーーーーー!!」

 

通常の砂鮫とは大きさがかけ離れている沼鮫の襲撃は、ホトリアの使節団を混乱させ傷を負ったアルジャン王子を守るために多くの隙を晒した。

 

「う・・・うううぅ・・・」

 

「アルジャン殿下!お気を確かに!」

 

「まずい、手が付けられないぞ!こんな怪物が潜んでいるとは!」

 

「畜生!何人かやられた!」

 

沼鮫の突進で首をへし折られ即死した兵士と噛み砕かれて胴体を潰された兵士が砂地に転がり、そこに小さな砂鮫が集まってくる。

 

「くそ!そいつらに触れるな!食わせるものか!」

 

沼鮫が傷を負ったアルジャン王子を獲物として狙いを定め突進を開始する。

 

「突っ込んで来るぞ!守りを固めるのだ!」

 

鉄の盾では防ぎきれそうもない質量であったが、それでもホトリアの兵士は身を挺してでもアルジャン王子を守る決意を持っていた。

 

しかし、沼鮫の巨体が揺れると沼鮫の側面から血が噴き出し、無数の矢が飛来し兵士の遺体に集る砂鮫や、突進中の沼鮫に突き刺さりその勢いを殺した。

 

「誰かが襲われているぞ!魔物を仕留める!急いで救助しろ!」

 

矢に混じって投げ放たれる大槍が沼鮫に突き刺さり、苦しそうにその身を捩るが、返しのついた矢は簡単には抜けず、大槍も揺れて傷口を深めた。

 

「これは一体・・・砂漠の民が助けてくれたのか?」

 

「助太刀感謝する。」

 

正確な狙いの元放たれる弓矢は砂鮫を地面に縫い付け、兵士の遺体に近づけさせなかった。

 

降り注ぐ矢の間を縫うように、小さな影が砂鮫の群れを走り抜け、青白く輝く宝玉が納められた乳白色の美しい剣を振り上げ沼鮫に飛び掛かった。

 

「な!暴れる巨大魚に無謀だぞ!?」

 

乳白色の剣に納められた宝玉が一瞬眩い光を放ち、刃身が延長され巨大な刃となり沼鮫の首筋に振り下ろされ、そのまま地面に刃がのめり込んだ。

 

「な!なんだと!?」

 

「子供?・・・・あの少年があの怪物をやったと言うのか?」

 

「うぅ・・・子供、少年?・・・君は一体・・・。」

 

少年の握る大剣だったものは、いつの間にか元の大きさに戻っており、そのまま背中の鞘に納められた。

 

「旅人さん大丈夫?・・・わっ!みんな大変!男の子が倒れているよっ!!」

 

「砂漠の・・・民・・・・。」

 

「な!?あ・・アルジャン殿下!?アルジャン殿下ぁぁぁーーー!!」

 

アルジャンが気を失うと護衛の兵士たちが叫び、砂漠の民も慌てて応急処置用の医療器具を背嚢から取り出す。

 

 

それから砂漠の民は、沼鮫と砂鮫の群れに襲われていた遭難者を保護すると、彼らの本拠地である岩山オアシスで生存者の治療を行い、遺体も回収して彼らに埋葬をさせた。

 

そして・・・・・暫くして、アルジャン王子は目を覚ました。

 

「ここは・・・?」

 

見知らぬ天井、不思議な光沢を放つ石材で作られた部屋は簡素ながら彫刻が彫り込まれていたり、水晶を加工した置物が置かれている。

 

「あ、目を覚ました!君、大丈夫?」

 

「うぅ、痛っ・・・・君は一体?」

 

「僕?僕はジダンだよ。」

 

「僕は・・・いえ、私はアルジャン、アルと呼ばれています。」

 

少年は琥珀色の瞳を瞬かせ、笑顔になる。

 

「豊穣の風、生命の息吹・・・アルジャン、良い名前だね。」

 

「最上の敬意、美しき信仰の響き、君こそ良い名前じゃないかジダン」

 

「あ、皆に知らせてこなきゃ、またねアルジャン君!」

 

ベッドは堅い木材で作られていてお世辞にも寝心地が良いとは言えなかったが、寝袋に比べれば段違いに寝やすいし、ラクダや砂ウサギなどの獣の毛皮から作られたと思われる毛布の手触りも悪くはなかった。

 

たまに体勢を変えないと体が攣りそうになるが、この砂漠のど真ん中でこれ程の家具を作れる事にアルジャン王子は素直に感心していた。

 

「殿下っ!!あぁ、もし殿下に何かあればどうすれば良いかと・・・・。」

 

「いいえ、良く守ってくれました。」

 

「これで犠牲になった兵達も浮かばれます。」

 

「ごめんなさい、僕が不甲斐ないばかりに・・・。」

 

アルジャン王子が目を覚ましたという報告を受けて、岩山オアシスのまとめ役たちが病室に集まるが、いち早く駆け付けたのはアルジャンの配下の者たちであった。

 

「え・・・あの、殿下って・・・アルジャン君その・・・。」

 

「ジダン・・・・はぁ、私の息子の無礼をお許しください。」

 

「いえ、魔物に襲われている所、助けて下さり有難う御座います。」

 

「我らホトリアの使節団共に感謝しております。」

 

大河ほとりの国ホトリアの使者と護衛の兵士たちが頭を下げる。

 

「顔を上げてください、それよりも使節団と言いましたね。」

 

「はい」

 

「我ら砂漠の民に一体どの様なご用件で・・・?」

 

アルジャン王子が目配せをすると、使節の一人が頷き懐から巻物を取り出しテーブルの上に伸ばす。

 

「大河の国々は貴方達砂漠の民を襲撃したウラーミア王国の蛮行を非難し、それが切っ掛けでかの国と交戦状態に入りました。」

 

砂漠の民の有力者たちの顔が歪む。

 

「我が国はかの国に襲われた砂漠の民が健在か調べると共に、何か支援が出来ないか提案するために緑の帯を超えて大砂漠に訪れました。」

 

「・・・・そこで、砂鮫の群れに襲われたと。」

 

「あの巨大魚の襲撃であともう少しで壊滅する処でした。本当に助かりました・・・。」

 

「いえ、間に合って良かったです、それよりも支援とは一体・・・。」

 

「我が国は貴方達砂漠の民を独立した民族と見ており、国交を結びたく思います。」

 

「国交!?しかし、我々は国と呼べる程の規模では・・・。」

 

「ウラーミア王国の尖兵を撃退する力をお持ちな時点で十分にその資格はあります。我が国は砂漠の民と交流を深め、共に繁栄して行きたいと考えております。」

 

「・・・・・・少し、考えさせて頂いて宜しいでしょうか?」

 

「いえいえ、急に押しかけてしまいこちらこそ申し訳ない。」

 

「アイラ、ラーレ、ジダン、これから村のまとめ役を集めて今後の方針を決めなくてはならないわ、暫くホトリアの使節の皆様のお相手をして欲しいの。」

 

「うん、任せて!」

 

「えぇ、傷の手当なら得意よ。」

 

「はい!よろしくね!アルジャン殿下!」

 

「アルで良いですよ。」

 

「えと、それじゃぁアル・・・君?」

 

アルジャン王子は目を輝かせると、ジダンの手を取る。

 

「アル君か・・・良いね、とても良い!よろしくお願いします。ジダン!」

 

ラナ村長と使節団の面々は何処か暖かい目で子供たちのやり取りを見守っていた。

 

「それではホトリアの使節団の皆様、不作法があるかもしれませんが、オアシスの村でごくつろぎ下さい、ささやかながら歓迎させて頂きます。」

 

「何から何まで申し訳ない。」

 

それから岩山オアシスの村は村のまとめ役である有力者たちと今後の方針を決めるために協議した。

その間、彼らの世話係に守り手の子弟や村長の子供たちが応対し、キビキビとした動作で魔法や医療器具で治療を行い使節団を感心させたり、夕食を落としそうになる姿を見せて微笑ましい顔をさせたりしながら交流を深めていった。

 

 

「へぇー王子様って大変なのね。」

 

「私はまだ子供ですけど、将来は国を背負い民を導かねばならない立場ですからね。」

 

「私も村長家の長女だから似たような感じね、うふふ、アル君になんか親近感を感じちゃうわね。」

 

アイラがアルジャンに顔を近づけながら微笑むと、アルジャンは顔を赤らめながら体を引く。

 

「い、いえ・・・僕は、私はまだ学んでいる最中なので大したことは出来ません。」

 

「アル君はジダンと同い年で戦士でもないのに遥々遠くから大砂漠に来ようだなんて凄いじゃない!あ、でもジダンよりも少しだけ年上なのかな?」

 

「ふふふ、実は同い年の友人があまり居なくて、ジダンと友人になれた事がとても嬉しいのです。」

 

「そうねぇ、あの子も友達居るけど神剣に選ばれてから、人間関係も変わっちゃったし気兼ねなく話せる友達が出来たのは姉としても嬉しいわね。」

 

「神剣?」

 

「え?あぁ、そうか、うっかりしていたわ・・・・でも話してよいのかな?」

 

「あの巨大魚を両断した大剣の事ですか?もしや、砂漠の民に伝わる魔道具とか?」

 

「まぁ、いずれ話す事になるから別にいいのかな?あの神剣は、私達砂漠の民が崇める砂漠の神様から直接あの子・・・ジダンに授けられた神剣なの。」

 

「砂漠の神から直接・・・?え、ジダンが?」

 

「そう、正確には砂漠の神様の使者様が剣の形をしているみたいなんだけれど、そのお陰であの子は将来砂漠の民を導かねばならない定めなの。」

 

「あの、砂漠の神様と言うのは・・・・。」

 

「それはアル君達の傷が治ってから村の方から説明があると思うから、それまで安静にしていてね。」

 

「はう、あの・・・アイラ、ち・・・近い・・・です。」

 

「あぁ御免なさい、それじゃぁまたね。アル君・・・うふ、アルジャン殿下?」

 

「もう、アイラ。ラナ村長に言いつけますからね?」

 

 

村長の子供達とアルジャン王子、子供同士で打ち解け合い、魔物に襲われた傷が癒えるまで交流を深めて行く。

アイラは、何処か弟の様に感じ、丁度同い年であるジダンと仲良くしてほしいと願い、一方アルジャン王子はアイラと会話する時に胸の高鳴りを覚えその良く分からない感情に戸惑うのであった。




一応、ホトリア王国の民と砂漠の民は遠い親戚の様な関係です。実際に村長家族とホトリア王家は遊牧民時代に遡ると血縁関係があったりします。


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少年たちの交流

(大河の国の砂漠に面した国、ホトリア王国か・・・・。)

 

迷宮核は、砂漠の集落を訪れた大河ほとりの国の使節団の砂鮫に襲われて殉職した護衛の兵士の魂の記憶を砂神剣を通して読み込んだ。

 

(私の分身体の剣に取り込まれた魂の記憶から、かの国は大河の国の中でも信用して良い国と判断できる。)

 

(・・・・駄目だな、どうにもあの子、アルジャン王子に対して特別な感情を持ってしまう、新たに加わった私がどうしても畏敬の念と我が子のように愛おしい感情を抱いてしまう。)

 

(大河ほとりの国、かつて遊牧民だった頃の砂漠の民の元同胞、今でこそ複数の国の民族と混血が進んでしまっているが、根幹たる文化は彼らと多く共通する。)

 

(アル殿下・・・・いや初対面のアルジャン王子に親近感を覚えたのはその為か?彼らの魂を取り込む前から私は・・・・私の中の砂漠の民の魂が彼らに親近感を持ち心の壁が最初から取り払われていたように思う。)

 

(だが、王族が民から大切に思われていると言うのは、良い国であると言う事なのだろうな、愛国心や郷土愛だけでなく客観的に少し離れた目線から分析する事で理解出来る事もある。)

 

(願わくば、彼らが新たな同胞とならんことを・・・・・。)

 

 

怪我を負ったアルジャン王子は、何とか物につかまれば歩ける程度に回復し、ジダンがお付きに岩山オアシスの集落を案内しながら親交を深めていた。

 

「アル君、此処がこの村の大通りだよ、砂鮫や沼鮫を載せた荷車が通れるように広く作ってあるんだ。」

 

「へぇ、独特な光沢の石材が埋められているのですね、こんな石初めて見ました。」

 

「これも岩山の主様の使者様の外殻で出来ているんだよ。」

 

「岩山の主様・・・・砂漠の民が信仰する神様の事ですね?」

 

「うん、僕も実際に小さい頃、砂鮫に襲われた時に砂漠の神の使者様に命を救ってもらったことがあるんだ。」

 

「使者様に!?」

 

「すぐに守り手のおじさんが駆け付けてくれたんだけど、使者様の方が早く動いて砂鮫を追い払ってくれたんだ。」

 

「恐ろしい、僕がもっと小さい頃にあの魔物に襲われていたら砂地に近づけなくなっていたかもしれません。ジダンは凄いのですね!!」

 

「いやそれ程でも・・・・それで、守り手のおじさんに怒られている最中に命を助けてくれた使者様が砂の様に崩れ始めて、光る石がそこに残って、それが砂を集めながら剣の形になったのが砂神剣なんだよ。」

 

「砂漠の民が君を敬う訳です。ジダン、貴方は選ばれし者だったのですね。」

 

「まぁその事で色々と苦労もしたし、今でもちょっと息苦しい時があるよ。それに、いきなり砂鮫に対する苦手意識も取れなかったしね。」

 

「ああ、やはり砂鮫に対する恐れは残りましたか、心中お察しします。」

 

「でもね、近くに見守ってくれる存在が居ると思えば、怖さも薄れるんだ。」

 

「見守ってくれる存在?」

 

「この神剣に埋め込まれたこの石こそが本体で、剣の部分はこの石の力で作られた物なんだ。この石は使者様の本体でもあり、砂漠の神様の意思が宿っているんだ。」

 

「砂漠の神様の御意志が・・・・。」

 

「最初は他の場所に置いてもいつの間にか僕の傍に置かれていて、心が落ち着かなかったけど、何となく見守ってくれている様な感じがして、いつの間にか砂地も砂鮫も怖くなくなっていたんだ。」

 

「そうだったのですか・・・。」

 

「今はもっと強い繋がりを感じるよ、それにこの神剣の使い方も理解できるようになってきたし、きっと岩山の主様が加護を与えてくれているんだと思う。」

 

ジダンがアルジャン王子の手を引くと、岩山の山頂を指をさす。

 

「さて、村の大まかなところは見て回ったし、普段僕たちが遊んでいる遊び場に案内するよ!」

 

「え?えっえっ?ちょっと、ジダン!?」

 

アルジャン王子が転ばない様に、手を取って石材で補強された道を通り、滑り止めに木材が使われた階段を上がって山頂の広場に着くと、岩山オアシスの巨大湖に滝が降り注ぐ絶景が広がっていた。

 

「わぁぁ!綺麗です!」

 

「この広場の奥は大河の国から持ってきた木が育てられていて、小さな林になっているんだ。」

 

「こんな砂漠の真ん中に大きな湖と林があるなんて信じられません!まるで夢のような光景です!」

 

「岩山の主様がこの地に生命が宿るように水を生み出してくれるお陰で大干ばつを乗り越える事が出来たんだ!」

 

「も・・・もしや砂漠の神と言うのは・・・・え?ジダン?」

 

「にひひっ!これなーんだ?」

 

「ひっ!?さ・・・蠍じゃないですか!刺されたら死んじゃいます!」

 

「まぁ刺されると腫れが酷くて唸る羽目になるけど、油で揚げると香ばしくて美味しいんだよ!みんなで集めるんだ!」

 

「嘘です!駄目です!本で刺されると死んじゃう強い毒があるって書いてありました!」

 

「えー?砂漠の民は刺されても痛いだけなんだけどなぁ・・・。」

 

「砂漠の民が毒に強すぎるんですよ!」

 

アルジャン王子が涙目になっていると、突如表情が抜け落ち顔面が蒼白になる。

 

「あ・・・あ・・・あぁ・・・。」

 

「え?どうしたのアル君・・・・へ?」

 

ジダンが後ろを振り向くと、ごつごつした鱗に覆われた巨大なイグアナの様な岩トカゲの顔面が目の前に浮き上がった。

 

「は・・はひっ・・・はびゃぁぁぁぁぁあああ!!!?」

 

「わびゃああああぁぁぁ!!!?」

 

少年たちが腰を抜かして尻もちをつくと、岩トカゲの影から赤銅色の髪の少女が顔を出す。

 

「あっはっはっ!砂鮫を倒す剣士様が尻もちついてんのー!おっかしー!」

 

「アイラお姉ちゃん!酷いよぉ!!」

 

「はわ・・・はわわわわっ・・・。」

 

「あぁ、アル君も居たのか、悪いことしちゃったかな?」

 

「だ・・・大丈夫、全然大丈夫じゃないけど・・・大丈夫・・・・。」

 

涙声で震えるアルジャン王子、同じく目じりに涙をためたジダンが姉に抗議する。

 

「アル君と扱い違い過ぎないっ!?」

 

抱えていた岩トカゲを逃がしてあげると、悪戯が成功した顔でジダンをからかう。

 

「いいのいいの!この前の試合で一本取られちゃったお返しだからいいの・・・あべっ!?」

 

アイラの背後からローブを身に纏った少女が木製の杖で小突く。

 

「完全に私怨じゃない、長女なんだから大人げないことしないの姉さん。」

 

「ラーレぇぇ・・・杖の角で叩くのやめて・・・。」

 

「姉がすみません、アルジャン殿下、ジダンは粗相をしておりませんか?」

 

「いえ、ジダンは良くしてくれてますよ。ラーレ、いつも兵の治療を有難う御座います。」

 

「見習いとは言え、私は魔術師として当然のことをしているだけです。礼には及びませんよ。」

 

「その年で立派な心掛けだと思います。それと、アルで良いですよ?」

 

「いえ、一国の王子にその様な・・・。」

 

「駄目・・・・ですか?」

 

少年の上目遣いの目線に、ラーレは言葉を詰まらせ息をのむと、恐る恐る口を開く。

 

「アル・・・君?」

 

「はいっ!」

 

ラーレは無言で近づきローブを翻しアルジャン王子を抱きしめる。

 

「嗚呼、ジダンとは違う柔らかさ・・・弟が一人増えた様です。」

 

「え?ら・・・ラーレ?」

 

「こら、ラーレ!人を小突いておいてそりゃないわよ!」

 

「・・・・ふふふ、それでは姉と弟をよろしくお願いしますよアル君?」

 

「やっぱりラーレお姉ちゃんは優しいなぁ、お転婆アイラお姉ちゃんとは違って。」

 

「あれ・・・・何か弟が冷たい・・・。」

 

アイラが黄昏ていると、広場の入り口から叫び声が聞こえてくる。

 

「殿下!そのお体でこのような所に!まだ安静にしていなければ駄目ですぞ!!」

 

「いえ、ジダンが付き添ってくれているので私は大丈夫です。」

 

ホトリアの老年の兵士は、眉間にしわを寄せてアルジャン王子に近づく。

 

「もし殿下に何かあれば王に顔向けが出来ません!ジダン殿も、アルジャン殿下が我儘言っても無視して構いませんぞ!」

 

「わふん!?」

 

アルジャン王子が護衛の兵士に引っ張られて病室まで連れて行かれると、彼らと入れ違うようにラナが広場に訪れる。

 

「村の中を案内してとは言ったけど、こんな険しい道歩かせて無理させないの!」

 

「あ、お母さん。」

 

「はぁ、アイラもラーレも居るんだから弟を注意しなさいよ、本当に末っ子に甘いんだから・・・・。」

 

「に゛ゃっ!?」

 

ジダンの首根っこを掴むと、そのまま子猫のように摘ままれたまま村長宅へと連れ去って行った。

 

「・・・・私達も帰ろっか。」

 

「そうね。」

 

 

それから暫く、使節団の傷が癒えるまで砂漠の民と交流を深めて行き、大河ほとりの国ホトリア王国と砂漠の民は打ち解け合っていった。

 

砂漠の民が心を開き始め、砂漠の神こと岩山の主に彼らを会わせて良いと判断するまでそれ程時間はかからなかった。

 

大河の国々が砂漠の民と言う存在を強く認識し、その勢力を認めざるを得なくなる時は近づいていた。歴史が動くときが来る・・・。



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砂神の社

「もう何にも捕まらずに歩けるわね。」

 

「はい、助かりましたラーレ。」

 

「砂漠を横断するにはまだ少し不安は残るけど、もう村の中を自由に歩けると思うわ。」

 

「えぇ、ジダンに頼りっぱなしと言うのも心苦しいですし、やっと自分で友と歩けるのは嬉しいです。」

 

「ふふふ、弟をよろしくね。アル君。」

 

「勿論です!ジダンはしっかりしてそうで、そうでもない所があるので友人として支えてあげないと!」

 

「あー、やっぱりアル君もそう思う?」

 

「アイラ?何時から聞いていたのですか?」

 

「あら姉さん、何か用?」

 

「用事っていうか、有り体に言えば村の方でホトリア王国の使節団の人達の対応方針が決まった感じ?岩山の主様の社に連れて行くんだって。」

 

「え・・・えぇ!?それ、大丈夫なの?」

 

「さ・・・砂漠の民の祀る神様の社ですか・・・。」

 

「・・・・・まぁ、ホトリア王国なら多分信用して良いと思うけど、うーん、まぁ村の有力者同士が話し合って決めた事だろうから私がどうこう言えたことでも無いか。」

 

「何だか緊張しますね。」

 

「私たち家族も立ち会うから大丈夫よ、砂漠の民にとって大河の国から交流の申し出なんて、大きな出来事なのだから神様にも報告しないといけないしね。」

 

「姉さん、今回限りはお祈り中に居眠りとかしないでね?ジダンにも注意しておくけど。」

 

砂鮫に襲撃されて負った傷も、砂漠の民の看病によって治癒され、遂に大河ほとりの国の使節団は砂漠の神と言う存在の社へと行く事となった。

 

今まで眉唾物として信じていなかった噂が現実であった。

岩山オアシスでの生活を続けるうちに、そう認識せざるを得ない奇跡の産物の数々を見せつけられた使節団は、畏怖と期待と不安を感じながらも砂漠の神が祀られている社へと案内されるのであった。

 

「岩山オアシスにこんな洞窟があるなんて・・・・。」

 

「アルジャン殿下、私が幼い頃に砂嵐から逃れるために偶然避難したのがこの洞窟だったのですよ?運命的と思いませんか?」

 

「そうですね、何だか胸が高鳴ります。」

 

「うふふ、きっと岩山の主様もホトリア王国との交流を歓迎してくださると思います。」

 

「えぇ、そうなると良いですね・・・・・。」

 

近くに巨大湖があり幾らか外よりも気温の低い村も日光が容赦なく降り注ぐため、暑さに耐性のない大河の国の住民にとって過酷な環境であるが、岩山の側面にぽっかり空いた小さな洞窟はむしろ涼しく、奥に進めば肌寒さすら感じるほどであった。

 

洞窟の地底湖手前に社が建てられており、格子で守られた台座にうっすらと虹色に輝く水色の大きな魔石が納められていた。

 

「これが、砂漠の神様の社・・・。」

 

「水色の魔石?いや、表面が見る角度によっては虹色に輝いている?これは一体・・・。」

 

「これこそが、砂漠の神様の御神体、砂漠の神本体からこぼれた欠片なのです。」

 

「さ・・・砂漠の神は石だったのですか!?」

 

「いえ殿下、昔先代宮廷魔術師殿から聞いた事があります。意志を持ち周りの者に繁栄と破滅を齎す石が存在するという事を・・・まさか、この社に納められている物は!!」

 

「そう、我々の村の魔術師もこの御神体を調べて行く内にある古書に辿り着き、この石の正体を霊晶石と突き止めました。その上で我々は神と共に生きると決めたのです。」

 

「このような、このような事が!!」

 

「そう言えばジダンの背負う大剣に納められている宝玉は神の使者様で出来ているとお聞きしました、まさか社に納められた御神体と全く同じものだったとは。」

 

「あははは・・・砂神剣とは長い付き合いだけど、やっぱり砂漠の神様から直接加護を貰った理由はまだ分からないんだ、こちらの想像もつかないような巡り合わせなのか、僕自身に何か重要な役割があるのか、何にせよ砂漠の民を導いて行かないといけない義務があるんだ。」

 

ジダンは「だからもっとしっかりしないと」と両手を握り力を籠める。

 

ラナ村長が祈り始めると、守り手の長、工房長、魔術長など村の有力者たちも祈り始める。

ホトリア王国の使節団もぎこちなくそれに倣い御神体に祈りを捧げると、社に納められた御神体が青白く明滅し始めた。

 

思わずその場の全員が顔を上げると、壁に光が走り、青白く発光する文字が浮かび上がってきた。

壁に刻まれた文字は、御神体と同じく明滅しており何処か幻想的であった。

 

 

「我等はこの地で果てし魂なり、干ばつの脅威が迫る刻も我等は共にある。」

 

「大地に命を、天に祈りを、黎明は来たれり。」

 

「我等が裔よ、我らが盟友よ、萌ゆる翡翠の大地に花を咲かせよ。」

 

「悲しみを産む者に怒りを、災禍を齎す民よ悔い改めよ、愚かな過去と決別せよ。」

 

「新たな盟友よ、渇きの大地を目指す勇者よ、その魂を讃えそれを尊厳と共に石に刻もう。」

 

突如壁に浮き上がっていた青白い文字が剥がれるように粒子が零れだし、凄まじい魔力が渦巻き光が収束し空中に複雑な色を反射する宝玉が生み出される。

 

「な・・・こ・・・これは一体!?」

 

「このような事がっ!?」

 

宝玉は青白い光を放っており、その中に虹色に輝く宝玉が閉じ込められている二重構造であった。

魔力が霧散し、輝きが治まりつつアルジャン王子の眼前に降りてくる。

アルジャン王子が思わず両手を差し出すとそれに収まるように石が浮力を失い落ちる。

 

「大河ほとりの国の王の子を守りし魂、その石に魂と意思を刻む、我等は共にある。」

 

新たに壁面に文字が刻まれると、突如宝玉の表面に光の筋が走り、見覚えのある紋章が刻まれる。

大河を意味する曲線と、その中央に国を意味する円と、大河に育まれる美しき自然を意味する点。

大河ほとりの国、ホトリア王国の国旗が宝玉の表面に刻まれていた。

なお、その背面には砂漠の民が使う紋章も刻まれている。

 

「そんな・・・嗚呼、こんな事が・・・彼らの魂が今ここに・・・ああ・・・あああぁぁ・・・。」

 

「で・・・殿下!」

 

「うああああぁぁ・・・・。」

 

アルジャン王子の目から涙が零れ落ちる。

王宮で時々顔を合わせる者も居た、旅立ちの時に初めて知り合った者も居た、この地を目指す道中理想を語り合った、魔物の襲撃を身を挺して庇ってくれた、守ってくれた。

幼き王子には重い現実であった、従者の死は、愛する国民の死は、アルジャン王子の心に癒えることのない傷を刻んだ。

確かに彼らは死んだ、しかし、今は彼らの魂は此処にある、水の魔石に似た宝玉に彼らの意思を確かに感じる、彼らは今此処に居る。

 

「岩山の主様は、砂漠の神は、確かに言ってくれた、我等は共にあると・・・。」

 

「お・・・おぉぉぉ・・・。」

 

アルジャン王子と共に従者達も膝をつき泣き崩れ、御神体の納められた社に跪き祈りを捧げた。

 

後に宝玉には糸が通されて首飾りとしてアルジャン王子の首に下げられ、大河ほとりの国へと持ち帰られる事になる。

その宝玉は、糸を通そうと決めた時点でひとりでに側面に小さな穴が開き、傷一つなく欠ける事無く輝きを放っていた。

 

一方、砂漠の民は目の前で起きた現象に畏怖を感じつつも、その表情は複雑であった。

 

「岩山の主様は、砂漠の神は彼らにジダンと同じ宝玉を託した、そして彼らを盟友として認めていた。」

 

「我らの同胞は大河の国に殺された、しかし、砂漠の神は彼らを認めた、それ故に我らも彼らを信じるに足る盟友として認めなければならない。」

 

「いや、彼らは盟友だ。危険を冒して砂漠を横断し、このオアシスへと辿り着いた勇者なのだ。」

 

「然り然り、砂漠の神の認める認めないは関係ないのだ、歴史的にも彼らはこの大地に生きる友であり、かつての同胞であったのだ。」

 

泣き崩れ、祈りを捧げるアルジャン王子にジダンが近づきしゃがみ優しく声をかける。

 

「アル君、君は・・・いや、貴方は砂漠の神から盟友として認められた。」

 

「ジダン・・・・。」

 

「その石からは確かに意思を、魂を感じる。砂漠の神様は亡くなった従者の人達を故郷に返してくれるみたいなんだ、僕は、私はそう感じる。」

 

ジダンの目がほんの一瞬だけ霊晶石の様に青白く輝く。

アルジャン王子はその異様な雰囲気に息をのむが、鎮火する様に彼の目に灯った光は消え、元の琥珀色の瞳に戻っていた。

 

「・・・・・っ!!」

 

「我ら砂漠の民の神に祈りを捧げてくれたこと、嬉しく思うよ。有難う、新たな盟友よ。」

 

ジダンの肩を借りる様に立ち上がると、手を取り合ってアルジャン王子は決意を込めた表情で宣言する。

 

「大河ほとりの国、王位継承権一位アルジャン第一王子としてここに誓います。砂漠の民を、独立した国として認め、新たな盟友とする事を!!」

 

ラナ村長は息子に神の気配を感じ、誇らしいような悲しいような複雑な表情で二人の少年たちを見つめていた。

 

「岩山オアシスの村長である私ラナは、大河ほとりの国ホトリア王国を新たな盟友として歓迎します。天と大地に黎明を!」

 

「砂漠の民に栄光を!ホトリア王国万歳!」

 

「盟友よ!」

 

「盟友よ!」

 

 

 

その後、ホトリア王国の使節団と砂漠の民は独立国として認められるにあたって、細かい内容を突き詰めて話し合い、それを纏めた書類をパピルス紙ではなく上質な羊皮紙に書き記し、最後には宴を開き彼らを見送る事になった。

 

砂漠の民の守り手の中でも精鋭である歴戦の戦士を護衛として、砂鮫の侵入できない荒野まで同行させ、緑の帯の集落跡地が見えてきた頃に別れた。

 

短い期間ながら岩山オアシスで生活し、親睦を深めてきた砂漠の民と大河ほとりの民は名残惜しそうに、それぞれの作法で敬礼し別れを告げる。

 

ホトリア王国の使節団は帰路に就く道中、一つの仮説を浮かべていた。

 

「枯れた大地に命を宿す神、生命を齎す者。」

 

「やはり、共通点がありますね。」

 

「砂漠の神は、霊晶石は、地母神ではないのだろうか?」

 

「ヤジード、ジダン、その意味は最上の敬意、美しき信仰の響き。」

 

「そう、元々彼の地が平原だった頃、彼らと我らが同じ地で生きる時代信仰していた大地に命を宿す神は地母神であった筈。」

 

「今でも大河ほとりの民である我が国も多くの者が信仰している神であるが、岩山のオアシスに祀られている砂漠の神と、伝承に描かれた奇跡の数々が見事に一致する。」

 

「砂漠の神に選ばれし者、神剣を振るう者、その名がジダンと言うのも奇妙で運命的なものを感じますね。」

 

「ジダン、僕の生まれて初めての親友・・・・。」

 

(また、またいつか会えるといいな。)

 

緑の帯の廃村で過ごす夜は、満天の星空が広がっていた。

 

使節団が本国に帰国し彼らが齎した情報は衝撃を国に与えた。

特に国王は我が息子が、王位継承権一位のアルジャン第一王子が、強大な存在に認められた事に衝撃を受けていた。

身を挺して王子を庇った従者の遺族は家族の魂が封じられているという宝玉に複雑な表情で祈りを捧げるも、呼応するように明滅した事で、泣き崩れ更に地母神の信仰を深めるのであった。

 

抜け駆けする様に砂漠の民へと接触を図ったホトリア王国に対して大河の連合から非難されるが、強大な力を持った存在、本物の神に認められたという政治的なカードは決して無視できず、敵対しているウラーミア王国は元より大河の連合に大きな衝撃を与えるのであった。

 

 

(新たに加わった私は、確かに融合したけど彼らに預けた私の分身体は原型を持ったままの彼らの魂を宿している。)

 

(融合して知識と記憶を共有はしてはいるけどまぁ、魂がセル別に独立させてあるから問題ないか、混ざって元と若干魂の性質が違うけど分厚い本を読む前の自分と読んだ後の自分ではまた別人っていう程度の違いだからそこまで深刻では無い筈。)

 

(魂を実体を持った結晶として固形化するには、彼らの魂だけではとても足りないので、社に納められた御神体の分をかなりの量分けたけど、力を発揮するにはちょっと厳しいかな?)

 

(まぁ、パッケージ化の要領で表面を高純度の水の魔石でコーティングしているから岩山オアシスの巨大湖の四分の一程度なら水を生成する事は可能だね。)

 

(うーん、何だかホトリアの人達を騙しているようで気が引けるけど、これで砂漠の民とは人口比率が段違いな大河の国へと分身体を運ぶことが出来た。)

 

(今でこそペンダントサイズの非力な分身体だけど、やがて魔力と魂を蓄えてこの岩山オアシスにも負けない程の力を発揮できれば良いな。)

 

(それに、あまり考えたくはないけれども、もし万が一私本体に何かあった時の保険として分身体が彼方此方に散らばっている方が都合が良いんだ。)

 

(我、種子を放てり・・・なんてね。)

 

(砂漠の民よ、大河ほとりの民よ、共に大地に生命を宿そう、共に黎明を迎えよう。)

 

 

大河の地へと新たな拠点の足掛かりを得た迷宮核は、同胞たちと新たな盟友に祈りを捧げた。

この地方を襲う大干ばつと、治安が崩壊しつつある大河の国々に不安を抱きながらも、未来を信じて祈り続けるのであった。





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大河ほとりの国ホトリア王国の国旗はこんな感じです。
ありふれたデザインと言ったらそうかもしれませんが、自分のデザインセンスではこれが限界です。


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神の秘石

大砂漠の岩山オアシスで祀られる砂漠の神から従属核を託された大河ほとりの国、ホトリア王国はアルジャン王子が持ち帰った御神体をどのように扱うのか会議し、その結果地母神教の祭壇で祀り上げる事になった。

 

だが、小さな祭壇はあっても神の秘石を祭るような本格的な祭壇は小国であるホトリア王国には存在せず、新たに作る必要があった。

 

神の秘石は、それを持ち帰ったアルジャン王子本人の首に下げられており、地母神の祭壇を建築する候補地を視察するために彼方此方を回るたびに多くの国民の目に神の秘石が映る事になる。

 

「はぁ、幾つか良さそうなところはあったけど、見て回るたびに枯れた川の跡が残されていて悲しくなって来るよ。」

 

「アルジャン殿下、そう気を落とさずに、きっと地母神様がこの大地をお救いになってくれる筈です。」

 

「そう・・・ですね、あの大砂漠の奥地で起きている奇跡を見ると、我々も諦められません。必ず、何としてもこの大干ばつを乗り越えなくては!」

 

「次の視察場所は王城前の枯れた噴水ですね。」

 

「あぁ、少し前まで王城前広場を美しく飾っていた水の曲線が今やただの彫刻ですからね・・・。」

 

「大河に繋がる地下水脈を上手く繋げて作り出された我が国が誇る大噴水、そして各地区の水源でもあったのに・・・。」

 

王城広場の大噴水は放射状に作られた用水路を通じて街中に広がりそれぞれの地区の水源となっていた。

生活用水・農業用水共に利用されており、ホトリア王国の象徴的な存在であったが、干ばつの影響で枯れてしまっている。

 

「まだ辛うじて溜め池や沢などから水を引いて持ちこたえているけど、水の魔石を使わないといけなくなるのは時間の問題だし、早く何とかしないと・・・。」

 

アルジャン王子と護衛の兵士が、王城前広場の枯れ噴水に到着すると、アルジャン王子の首に下げられていた神の秘石が突然光り輝く。

 

「えっ?」

 

「な・・・こ・・・これは!?」

 

まるで流体の様に吊り下げていた紐を通り抜け、神の秘石は枯れ噴水へと飛んで行き、噴水の上に収まると、突如光が地面を這うように広がり枯れ噴水が変化を始める。

 

「な、何が起きてっ!?」

 

「で・・・・殿下、私は夢でも見ているのでしょうか?」

 

噴水に使われた石材が粘土の様に変形し、神の秘石をはめ込む台座の様な形状に変化しつつ、元々あった噴水の噴出口が湾曲し、まるで植物を思わせる美しい曲線を描き始めた。

大砂漠の岩山オアシスで見られた奇妙な質感の石材の様に粘土状になっていた石材の材質が変化し、独特の陶器の様な光沢を帯びた硬質な石材になる。

 

「こ・・・・この形は、まさしく我が国の紋章!」

 

「いえ、それだけではありません、大砂漠の岩山オアシスで使われている紋章にも似ております!」

 

「まさか神の秘石が自ら祭壇を作り上げるとは!!」

 

神の祭壇に変化した枯れ噴水から溢れていた燐光が治まると一瞬光が脈動し、祭壇を覆う植物の蔦の様に変化した噴出口から勢いよく水が噴き出し、枯れ果てその機能を停止していた用水路に再び水が流れ始めた。

 

「み・・・水が、あぁ・・・枯れ果てていた用水路に再び水が流れ始めている!」

 

「おぉ、殿下・・・これぞ地母神様の奇跡です。」

 

「こうしてはおられません!早く父上に報告しなくては!」

 

アルジャン王子一行は、慌てたように王城へと駆けて行く。

 

(ジダン!確かに、神は我らの祈りに答えてくれましたよ!)

 

その日、枯れた噴水があった王城前広場に突如現れた謎の祭壇に国民たちは驚きと共に疑問を持った、この彫刻された噴水の様な祭壇の様な物体は一体何なのかと。

 

だが、心当たりはある。

国民が慕うアルジャン第一王子が、砂漠の奥から地母神の秘石を持ち帰ったという発表があり、実際に第一王子の護衛を務め魔物との戦いで戦死した兵士の遺族がその秘石を見たと言うのだ。

砂漠の奥におわす地母神は、その分身たる秘石に戦死した兵士の魂を刻み込み、この地を末永く見守るという話らしいが、あまりにも突飛な内容で本気にしている国民はそう多くはなかった。

 

しかし、今目の前に親愛なる国王とその家族が王城前広場に姿を見せて祭壇に祈りを捧げている、祭壇の中心にはめ込まれた美しい宝石はそれに呼応するように明滅している。

 

ホトリア王国の地母神教徒たちはもう疑問を持たなかった。

ごく自然と両手を握りしめ、跪き、王城前に現れた地母神の祭壇に祈りを捧げるのであった。

 

「ありがたや・・・ありがたやっ!!」

 

「地母神様は、この枯れた大地に命の源を満たしてくれた!」

 

「おお神よ!我らを救いたまえ!」

 

街中から集まってきた国民たちの祈りに呼応するように神の秘石は光り輝き、より多くの水を祭壇から噴出させ、首都の各区画に大量の水を供給させる。

それどころか、小さな秘石はその表面に魔石を形成し年輪の様に魔石の層が積み重なり、その体積を肥大化させていった。

 

「我が王国民よ、愛するホトリアの民よ!我が息子、アルジャン第一王子は地母神様に認められ、その御神体である神の秘石をホトリア王国に齎した!我が国はこの大干ばつを必ず乗り越えられる!希望は確かにここにある!」

 

「我らホトリアの民の新たなる盟友、砂漠の民は大地再生の鍵をこの地に齎してくれた!私は、あの大砂漠の奥地で起きている奇跡をこの目に確かに焼き付けた!渇きの大地に命を齎すものは確かに存在した!」

 

「かつて、平原が広がっていた頃、彼らは同胞であった。平原が砂漠と化してなお彼の地で生き続けていた彼らは、我らとその教えを共にする兄弟であり盟友である!」

 

「ホトリアへ栄光を!新たなる盟友砂漠の民に黎明を!」

 

ホトリア王国民は、爆発したような大歓声を上げた。

それと同時に、砂漠の民への好感と、緑の帯を犯したウラーミア王国への怒りを高め、兵士たちはより厳しく鍛錬し、農民たちは溢れる水を使って灌漑を続けた。

この短期間、少なくとも戦争中に成果が出る事は無いだろうがしかし、確実にホトリア王国民の中に変化が表れていた。

 

干ばつで細まりつつある大河に必要以上に不安を持つことも無く、偉大な存在と親愛なる王子を身を挺して守った英霊たちの加護がある、その実感が明日を未来を信じて生きる力となり、その湧き上がる力がより神の秘石を成長させる。

その好循環が、大河ほとりの国を大きく成長させる事になる。

 

(岩山オアシスよりも人口が多い大河ほとりの国では、かなりの効率で魔力を集めることが出来ると予想していたけど、想像以上の成果だ。)

 

(この地でも、生物の生死が繰り広げられているんだなぁ、私の分身体である石が少しずつ体積を増やしていっている気がする。)

 

(まぁでも、当たり前か、これだけ草木が生い茂り生命に満ち溢れている大地では小さな虫から、大型の獣まで広く食物連鎖が続いている、当然ながら得られる霊体も多くなるという事か。)

 

(しかし、こんな形で里帰りする事になるとは、我らは身を挺して殿下を庇った甲斐があると言うものか、ははは・・・・なんてね。)

 

(ホトリア王国の英霊たちとして振舞おうと思えば、それは自分自身の事だから当たり前に出来るし、今でもアルジャン殿下を守れてよかったと思えるが、我らを束ねる意志はただ祖国に魂を運んでくれた訳ではない。)

 

(そう、この大地を襲う大干ばつは砂漠の民だけの問題では無いのだ、この地の大規模な水源である大河が細まる事はホトリア王国だけでなく、大河の国々が直面する危機であり、沢山の人命が関わる問題である。)

 

(この小さく切り分けられた身がどれだけの命を救うことが出来るのか分からないが、それでも出来るだけの事をやってみよう、魂すらも擦り切れようと、この大地に命と黎明を齎すのだ!)

 

(地母神様、もし貴方が本当にこの大地を見守っていると言うのならば、この石の体に大地を救う力を!枯れ果てる大地に再び命を齎したまへ!)

 

 

祈りの数だけ水を生み出す祭壇は、ホトリア王国民の心の支えとなり、その噂は他の大河の国にも届く。

ウラーミア懲罰戦争で目を向ける余裕はないのだが、ホトリア王国は確実に大河の国々の中でその存在感を増していった。

余談だが、ホトリア王国よりも下流域の大河の国が副次的に水の恩恵を得られ、ホトリア王国付近から新たな水源が発生したのではないかと学士たちは考え、件の地母神の秘石の噂もあってより注目されるのであった。




結構感覚が開きましたが、何とか勢いで更新です。
うーん、無理やりな展開にならない様に注意したいところですね。


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岩山温泉

今回はお風呂回です。


岩山オアシスから神の秘石を持ち込み水源が復活したホトリア王国は、秘石から湧き出る水を溜め池に溜めたり、閉鎖していた水路を解放したり作業に追われていた。

しかし、ホトリア王国の国民の目は希望に満ちており、生きる事に前向きで農作業や工事を行っていた。

 

「ふぅ、書類との格闘もこれくらいにしておいて水浴びでもしようかな?」

 

アルジャン第一王子が背伸びをして、体のコリをほぐして机を後にすると、庭裏の水路へと向かう。

 

「にぃさま!にぃさま!どこ行くです?」

 

「あぁ、アミルか、これから水浴びに行くところだよ。」

 

「水浴び!水浴び!暑いとき水浴びきもちいいです!」

 

「アミルも一緒に行くかい?それじゃぁ僕が流してあげるよ。」

 

「わぁーい!にぃさまだいすき!」

 

脱衣所で服を脱ぎ、庭裏の水路から桶で水を汲み、アルジャンは弟のアミルの頭の上から水を流してあげる。

 

「きゃぃん!冷たいです!」

 

「ああ、ごめん、水の温度に慣れさせてからかければ良かったかな?よっと!」

 

アルジャンは今度は自分に水をかけて汗や汚れを洗い流して行く。

 

「わふ・・・冷たい、うーん。」

 

「アルにぃさま、どしたです?」

 

「んー・・・何というか、物足りないというか、暖かいお湯を浴びたくなってきます。」

 

「お水よごれ落ちるです、お水で良いのに。」

 

「うーん、贅沢なのは分かっているんだけど、何だかなぁ、また行きたいなぁ。」

 

アルジャンは大砂漠の奥地、岩山オアシスでの療養中に入浴した温泉の記憶が忘れられなかった。

岩山オアシスの村長家族と打ち解け合って、怪我も大分治ってきた頃、湯治の為に秘湯とも呼べる地底湖の一角へと案内されたことがあった。

 

「ここが秘密の場所、って言う割にみんな知っている所ではあるんだけど、お湯の湧き出る場所なんだ!」

 

「わぁ、冷たい地底湖を眺めながら暖かい温泉に入るのですか!とても綺麗です!」

 

「一応岩の壁を掘って服を置ける窪みが彫り込まれているから、そこに脱いだ服を置いておけば良いよ。」

 

「え?今入るんですか?」

 

「勿論そのつもりだよ、じゃないと体を拭く布なんて持ち込まなかったし。」

 

「えぇとあの、ジダンは同じ性別だから幾らかそのアレですけど、えとその・・・家族以外とお風呂なんて入った事ないです。」

 

「そぉ?みんなで入ると楽しいよ!今は村のおじさん達はお仕事中だし、今の時間は僕たち貸し切り状態だよ!」

 

「でもでも!ここ地底湖見れる場所だし、誰かが来たらその、お肌見られちゃうと言うか・・・。」

 

「何か問題?んー・・・・アル君って結構恥ずかしがり屋なのかなぁ?」

 

体がまだ痛むアルジャンの服を脱がすのを手伝うジダン、アルジャンの服を脱がし終わると素早く自分の服を脱ぎ、岩の窪みへと服を放り投げる。

 

「さて、入るぞー!」

 

「何かちょっと熱そうですね。」

 

「あっ、そうだった!先ずはそこの小さい滝で頭を洗ってお湯に慣れさせれば良いと思う。」

 

「え?この小さい沢と言うか滝も温水なんですか?」

 

ジダンは縛った髪を解くとセミロングの長さに髪が下がり、童顔の為に一瞬少女の様にも見え、アルジャンは少し顔を赤らめるが、よくよく考えると自分も同じくらいの髪の長さだし、むしろ若干自分の方が長いようにも感じた。

 

「わぁ、アル君って髪の毛綺麗なんだね、砂漠を歩いてきたのに全然傷んでいないや。」

 

「母から香油を持たされているので、こまめに手入れしているのですよ、最も、此処に来る途中砂鮫に瓶を割られてしまいましたが・・・。」

 

ジダンが小さな温水の滝を頭からかぶって、汗や砂ぼこりを洗い流すとアルジャンの方へ振り向く。

 

「ぷはっ、こうやるんだよ!アル君!」

 

「はい、えと・・・・こうかな・・・痛っ!」

 

髪の毛を流水でほぐそうとしたアルジャンは、まだ関節が痛むのか手を動かそうとすると表情を引きつらせる。

 

「大丈夫?うーん、それじゃぁ僕が君の頭を洗ってあげるよ!」

 

「え・・・えぇっ!?そんな、あの、心の準備が・・・。」

 

「はい、此処座って!そーれわしゃわしゃー!」

 

「わ・・わわ・・・わふんっ!!」

 

少年たちが温泉でじゃれついている所、彼らの水浴びを覗き見する影があった。

 

「にひひぃー、少年たちよ、仲良くやっていかぃぃぃ~?」

 

「趣味悪いわよ姉さん。」

 

「そう言うラーレだって、何しにここに来たのさ?」

 

「私も入浴したかったんだけど、あの子たちが先に入っているなら後にするわ。」

 

「私も温泉目当てだったんだけど、はぁ、女の子に入浴待たせるなんて悪い子たちねぇ。」

 

「姉さん、あの子たちにバレないうちに帰るわよ。」

 

「ほっほぉ~?ジダン、しばらく見ないうちに体が引き締まって来たわね?」

 

洞窟の温泉を後にしようとしていたラーレの動きが止まる。

 

「アル君のお肌真っ白、髪の毛解くと女の子みたいね。」

 

硬直していたラーレがピクリと体を震わせる。

 

「あらあら、仲が良い事、髪の毛洗ってあげて、体も洗いっこしていて・・・。」

 

「く・・・くっ!くっふ・・・ぬぅ・・・。」

 

「ラーレ?どうしたのかなぁ~・・・。」

 

顔を赤面させ少し涙がにじんだ怒り顔でラーレは、岩陰からちらりと様子を覗く。

 

「友達と入る温泉は楽しいねー!」

 

「え?・・・あの、はい・・・・。ねーー?」

 

その瞬間ラーレは勢いよく右手で自分の顔を鷲掴みする様にして、岩陰から離れ、ほんの僅かな間隔で鼻から鼻血が噴き出し、手を盛大に血で濡らして蹲る。

 

「と・・・尊い・・・。」

 

「ら・・・ラーレ?」

 

若干引いた様子でアイラが妹に尋ねる。

 

「これが尊厳か・・・・にゃ・・・にゃん。」

 

ぐるんと、ラーレの目が上向きそのまま失神してしまう。

 

「あ・・あはは、ラーレったら、貴女も意外と・・・にゃふん!?」

 

アイラが言葉を続けようとしたときに勢いよくアイラの側頭部へ木桶が回転しながら飛来し快音を立ててぶつかる。

 

それよりも、数十秒ほど前・・・。

 

「この温泉はね、凄く濃い魔力を帯びているから、体の疲れとかも結構とれるんだよ?」

 

「そうなんですか?ん、確かに強い魔力を感じます。」

 

「アル君ってどちらかと言うと戦士と言うよりも魔術師っぽいから魔力の感じ方は敏感な方だと思うよ、僕はうーん、それっぽいのを感じるくらいかな?」

 

「まぁ魔術なら一通り嗜んでおりますが・・・。」

 

「多分岩山の主様が魔法で地下水を温めてくれているのかもしれないね、だから魔力が濃いのかもしれないよ。」

 

「な・・・・なるほど、それじゃぁ国に戻ったら魔石を入れた窯風呂で温まってみようかな?」

 

「窯風呂?人が入れるほど大きな窯があるんだ!それって・・・んんぅ?」

 

ジダンの目が細まり、刃の様に鋭い視線で岩の影を睨みつける。

 

「ごめん、アル君・・・少し僕から離れてくれないかな?」

 

「え?はい、ジダン。」

 

「くぉんのぉ!馬鹿ぁーーーー!!!」

 

カコーン!と言う快音と共に少女の悲鳴が岩陰から聞こえ、アルジャンがびくりと体を震わせる。

 

「は・・・はひっ、い・・・今の声は、あ・・・アイラ!?」

 

「ちっ、逃したか・・・・油断も隙もあったもんじゃない。」

 

一方、アイラの悲鳴で目を覚ましたラーレは、状況を瞬時に理解し倒れ込む姉の横腹に腕を差し込み、がっちり抱え込むと、そのまま洞窟の出入り口まで一直線に走り去る。

アイラだけに覗き見の罪をかぶせ自分は姉としての尊厳を保つために器用に自分の気配だけを消しながら・・・実に腹黒である。

 

「はぁ、お姉ちゃんたちも温泉入りたいみたいだし、そろそろ出ようか?え?アル君?」

 

「お・・・女の人に見られ、う・・うーん。」

 

「に゛ゃっ!?ちょっ、ちょっと!?アル君!アル君ーーっ!?」

 

ちゃっかりラーレの存在にも感づいていたジダンは、あっさりと姉たちの覗きをばらして、温泉から上がろうとするが、箱入り息子のアルジャンには刺激が強かったために湯あたりもあって、そのまま伸びてしまうのであった。

 

 

「はぁ、色々あったけど温泉は良い物です。」

 

アルジャンは岩山オアシスの思い出を振り返り、暖かいお湯に浸かる欲求を募らせてゆく。

 

「お風呂に?アル、それくらいなら別に良いと思うわよ?」

 

「で、でも国民の皆が国を立て直そうと頑張っているのに、お湯に浸かるなど贅沢を・・・・。」

 

何度か水浴びをするうちに、我慢が出来なくなってきたアルジャンは母親に相談するが、何故アルジャンがお湯に浸かる事を我慢しているのか理解できない様子で何てことない様に答える。

 

「確かに、今のホトリア王国では財政の立て直しも重要な事ですが、王族である我々が少し贅沢するくらいは許されます。たかだか温めのお湯を沸かす程度で財政が崩れるほど軟弱ではありませんよ。」

 

「あの、それでは・・・。」

 

「えぇ、さぁ使いを呼びますから入ってらっしゃい。」

 

「お母さま大好き!はっ!?い・・・いえ、母上、入ってきます。」

 

トコトコと足音を立てて、部屋を退室するアルジャンを眺めるホトリア女王。

 

「ああ何と言う事でしょう、今日は絶対幸せな夢が見れそうな気分です。うふふ、アルに大好きって言われちゃった!」

 

久しぶりに自分の息子の幼い部分が見れた事に満足したホトリア女王は一人身悶えるのであった。

 

それから程なくして、アルジャン第一王子は水浴びを何度かに一度、窯風呂に入浴する事に変え、体を温めながら汚れを落とす様にした。

入浴の習慣が加わる事で、適度に角質が除去され、体が暖められる事で血流が良くなり、髪艶も良くなり絹糸の様な光沢を放ち、元々モテていたアルジャン第一王子はますます貴族の令嬢の人気を高めて行くのであった。

 

 

(ふぅ、地底湖の整備はこんなもんかな?入りこんできた泥とかも固めて除去して、こんな感じかな?)

 

(やっぱり砂漠は砂埃で汚れる事が多いから地底湖の温泉は人気だなぁ、作った甲斐があると言うものだよ。)

 

(空洞に水を溜めて、そこに火の魔石を敷き詰めて沸騰させて、別の水溜まりと合流させる事で温度を調節する構造にしているから、火傷しにくい程よい暖かさになっている筈。)

 

(何でも、火の魔石の影響か、お湯の中にかなりの濃度の魔力が溶け込んでいるみたいだけど、私からすると誤差の範囲にしか感じないなぁ・・・そこら辺は人間の方が敏感なのかもしれないな。)

 

(何度か温泉に入る順番で男女間のトラブルが発生しているから、男女別々に作ってあげようかな、ただちょっと火の魔石を使う関係上コストがなぁ・・・。)

 

(まぁ、また魔力が集まってきたら作ればいっか、みんな頑張っているんだし、少しくらい労っても罰は当たらないよね?)

 

(ああでも取りあえず、隠れデートスポットにするカップルは爆発して貰おうか。)

 

迷宮核は、成るべく自然な形で岩山オアシスの村人たちが快適に過ごせるように、地形操作を行い、体を休めつつ自然な環境に見せた場所を作り出そうと頭を悩ませていた。

高コストだが、村人たちのパフォーマンスが向上した温泉は今更切る訳には行かず、魔力を大きく消耗した現在も稼働させていた。

疲労・魔力回復、血行促進、疾病退散など様々な効果があるために村人たちや岩山オアシスを訪れる旅人に好評で、別のオアシスから温泉に入る為だけに訪れる砂漠の民も居るという。

 

大干ばつに襲われるこの地方でも、ひと時の安息は訪れる。

その安息こそが、大干ばつに立ち向かう力の源の一つであった。




ショタァァ┌(┌^o^)┐カサカサ・・・・。


おまけ

【挿絵表示】

画力は無いけど大体のイメージです
2020/5/28追加
各自脳内でお好きな絵師で再現してください(ぉ


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地母神の雫

5月末に追加した紙芝居が2話分くらいの体力をもぎとっていきました。
元からもやしっ子なのにカフェインブーストなんてするからダウンするのです。
季節の変わり目でモチベーションの維持が大変ですが、何とか続けていこうと思います。


砂漠の交易路である緑の帯の集落を襲撃し、交易路を使用不可能にし、大河国際会議の議場に破壊工作を行い、大河の連合と戦争状態になったウラーミア王国。

 

非人道的な死霊術によって自軍問わず戦死者を死霊と化し手駒とするウラーミア王国は、物量で迫る大河の連合軍に対抗し、現在は膠着状態が続いていた。

 

膨大な量の魔石が眠るウラーミア王国の魔術は侮れず、強力な魔法を使う魔術兵と疲れを知らぬ死霊軍に大河の連合軍は手を焼き、物資の消耗も激しかった。

連合軍は対策を練り死霊軍を粉々に砕き再利用できない様にしたり魔術師を狙うなどの戦術を採用するが、ウラーミア王国もそれにすぐに対応し新型の魔道具を装備させて死霊軍と魔術兵そのものを強化するなど鼬ごっこを続けていた。

 

「くそっ、奴らはどれだけ膨大な魔力を操れるんだ?」

 

「奴ら見たことも無い魔道具を身に着けていた、恐らく強力な魔力の触媒か何かだろう。」

 

「あの不気味な薄汚い黒いもやの範囲も前回戦った時よりも広くなっていた。」

 

「やり難いったらありゃしない。」

 

「彼方も余裕が無いみたいだが、こっちも消耗が激しい、いつまで続くんだこんな事。」

 

 

大河の連合とウラーミア王国の戦争中も大河は細まり、双方は疲弊していった。

 

しかし、最近になってホトリア王国から多めの支援物資を提供され、大河の連合軍は息を吹き返しつつあった。

 

現在の大河は干ばつにより水量が大幅に低下し、どの国も農業用水を始めとする水資源の調達に必死になっていると言うのにホトリア王国は、衣類・医薬品や食料品などの物資を同規模の国よりも多く支援したのである。

 

大河の水量が干ばつ前ならばそこまでの負担ではないが、降水量が減り細まった大河では食料や衣類の原材料になる農作物は多く育てられず、ホトリア王国の負担も相当大きい筈である。

 

しかし、ホトリア王国を訪れたある国の外交官が平常通りに暮らすホトリアの民と、用水路の隅々に農業用水が行き渡ったホトリア王国を目にする。

 

「これは一体どういうことだ?節水の為に塞がれていた用水路が元に戻っている。」

 

「どの畑も青々と芽吹いているが、農業用水をこれだけ贅沢に使える状況なのか?」

 

「それに、枯れ噴水もいつの間にか新調されて水が流れているとは、これはまさか・・・?」

 

 

・・・・ホトリア王国が勝手に大河から大量に水を引き、水を独占している。

 

幾つかの国が非難声明を出すが、後の調査で特に大河から多量に水を引くような工事をした形跡も無ければ、ホトリア王国よりも下流域の水量が減っている訳でも無かった。

むしろ、何故かホトリア王国の下流の方が水量が増えている様でもある。

 

それから程なくして、ホトリア王国は緑の帯を去った砂漠の民を探し出し、彼らと接触し交渉の結果、正式に国交を結び、砂漠の民と協力して緑の帯の集落を再建させると発表した。

 

「行方をくらませていた砂漠の民を見つけただと?」

 

「国交を結んだ?砂漠の民は国を持たぬ民だったのではないか?一体どこの誰が建国を許したというのか?」

 

「我らは認めぬぞ!砂漠の民はそもそも国と呼べる程の規模では無い!」

 

「ウラーミア王国との戦争に兵を殆ど寄こさず物資しか支援しない国が裏で一体何をやっているのか!」

 

 

大河ほとりの国ホトリア王国が、何の根回しもなく砂漠の民と勝手に接触したことに抗議する国もあったが、莫大な富を生む交易路の再建は無視できなかった。

 

そして信じられない事に、大砂漠の奥地から大地に命を宿す神の御神体を砂漠の民から託され、神の秘石を持ち帰り、その力で枯れた大地を蘇らせたと言うのだ。

 

「話が出来過ぎている。」

 

「大河どころか渇きの象徴たる大砂漠に神など降臨するわけがない。」

 

「しかし、ホトリア王国より下流域の水量が増えた事はどう説明するのか?」

 

「まさか本当に地母神様がホトリア王国に加護を与えたのか?」

 

それと同時期に、緑の帯の枯れた泉の中央部の地中から突如社の様な水晶体がせり出してきて、こんこんと湧水が溢れ出し、瞬く間に緑の帯のオアシスが復活するのを偶然居合わせた行商人が目撃し、その情報を耳にした大河の国々は驚愕に染まったのであった。

 

 

・・・・・・・ただ事ではない、何かが起きている。

大河の国々は、大河ほとりの国ホトリア王国に注目する。

 

 

何処からともなく現れた砂漠の民と、彼らを護衛するホトリアの兵士たち、ウラーミア王国の襲撃で損壊した建物の修復と、荒らされた畑を復活させるまでの物資の支援、元の住民達の帰郷。

 

ホトリア王国は宣言した通り、砂漠の民と深い交流をしており、互いが盟友と呼び合う姿を大河の国々に見せつけ、緑の帯の交易路を利用していた行商人たちに衝撃を与えた。

 

「ホトリア王国につけば大儲けできる!」

 

「緑の帯のオアシスをどのような方法で復活させたのか?そもそもあの祭壇らしきものは一体何か?」

 

「砂漠の民の本拠地を教えてほしい!幾らでも払う!頼む!!」

 

「是非我が商会にも地母神様の祝福を、あの神々しい噴水が御神体なのですか?ありがたや、ありがたや。」

 

ホトリア王国は殺到した商人達の対応に追われて処理限界を超えて一時機能不全に陥る珍事が発生したが、交易路が開通し交易が再開した事で、干ばつと戦争で疲弊した経済が再び回り始めるのであった。

 

しかし、幾ら緑の帯の交易路を復活させたとは言え、戦争に兵力を送らず自ら血を流すことなく、裏で砂漠の民と交流し、勝手に国として認定したホトリア王国に不満を覚える国は多く、また各国の地母神教徒も神の加護が齎されたという情報に疑問を呈し、神に祈りを捧げているのに何故ホトリア王国にだけ奇跡が齎されたのか説明を求めるのであった。

 

ただ、ホトリア王国よりも下流域の国は、従属核から生成される水のおこぼれを貰っているお陰か、それ程ホトリア王国に悪印象を抱いておらず、ちゃっかり地母神教徒をホトリア王国に派遣し交流を図る国もあった。

 

(大河の国々も色々独自に動いているみたいだな。)

 

(本当はこんなくだらない事で戦争なんかしている場合じゃないのに、それ程に人間は欲深いのか。)

 

(ホトリア王国に注目が集まって人も集まってきている、そのお陰でかなり魔力を吸収できているけど、元がペンダントサイズだからどうしても機能が限られているな。)

 

(ある程度魔力が集まってきたら、私本体から分身体をホトリア王国に送っても良いかもしれないな、距離の問題があるから片道切符だけど、既に拠点を構えているならリスクも低くなる。)

 

(本当は砂漠の民に私の分身体を運んでもらうのが一番消費が少なくて済むのだけど、変に気負ったり盗賊に狙われたりするかもしれないから、少し気が引けるな。)

 

(別に砂漠の民を疑っている訳では無いけれども、私の体の一部とはいえ分身体は強力なエネルギーの塊で、もし悪用されたらとんでもない事になる。)

 

(二本の足で大陸を横断しうる人間の走破力は、分身体移動用のフレームでは真似できないものだから、是非彼らに協力して貰いたいけど、そんな大役を務めてくれる人は居るのだろうか?)

 

(まぁ、今は目の前の問題を片付けるのが先決か、えぇと砂漠のオアシスの地下貯水槽の残量は・・・後は、ホトリア王国の農業用水の偏りが・・・。)

 

 

干ばつと戦争によって荒れる大河の国々と、その試練に立ち向かう人々。

迷宮核は大地に命を宿すために、力の限り水を生み出し、地質を弄り保水力を持たせ、効率的に水が行き渡るように水脈を広げていった。

人間の愚かなる過ちもいつかは正されると信じて、そしていつか互いに分かり合えるようになる日が来ると信じて、祈りを捧げるのであった。




頭の中のキャラクターを形にするのって楽しい事だと思います。
昔は創作に自由さがあって、SSを書くのも、イメージを絵にするのも、どのように動作するのかアニメーションにするのも自由でした。
今は個人HPを運営している人は昔に比べて減ったように感じますし、その機能をSNSとかに移している人も多いのではないでしょうか?
絵が下手でも文章が壊滅的でも、創作活動ってとっても楽しい物だと思うのです。


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地図にない街

本当は物語を進めたかったのですが、どうしてもクラフト回を書きたかったので済みませんです。


迷宮核は、人が開拓していない水源のない土地に魔力供給源となる動植物を定着させ従属核の行動範囲を広げるための補給基地を作る実験を行っていた。

 

動植物保護区で得られたデータを参考にして乾燥に強い品種の植物を選別して水の魔石と地の魔石等を満載した従属核を岩山オアシス周辺の人気のない砂丘に送った。

 

(こっちの方向は死の海があるし、サボテンの植生も疎らで水や食料も確保できない、まず砂漠の民が寄り付かない場所だから実験にはもってこいだ。)

 

履帯の跡を地形操作能力を使って消しながら移動し、辛うじて岩山オアシスの本体の力が及ぶ影響圏ギリギリの位置で従属核フレームは停車し、内部に格納していた地の魔石を使って砂を固めて石畳に加工する。

 

(後から追加するだろうし、少し広めに作っておこう。)

 

みるみるうちに石畳と四角く囲った枠が形成され、砂丘に建造物を作るための基礎の様な物が出来上がって行く。

 

(この枠に彼方此方から集めた土を流し込んで、少量吸水ポリマーを足してプランターの完成だ!)

 

従属核フレームのコンテナを開き、岩山オアシスや動植物保護区の浮島から調達した土や泥などを落ち葉や枯草と混ぜて発酵させて熟成した土をプランターに入れて、砂漠各地から集めた植物の種子や苗をばらまき、地形操作能力を応用して種子や苗の位置を等間隔に整えて植物の発芽に適した条件を整える。

 

(実験場の中央部には砂を固めて鉢状に加工した貯水槽と、そこに浮かばせる水モロコシやパピルス等の水草を植えて、後はおまけに噴水でも作っちゃおうかな?)

 

迷宮核はどうせ誰も来ない場所だからと、普段コアルームで模型を作る様に遊び心全開で水の魔石から生成される水が貯水槽底部の管から圧力で押し上げられ噴水になるように加工し、ホトリア王国の噴水と同じように中央の噴水から用水路に水が流れるような構造に作り上げた。

 

(水が吹き上がる以外特に飾りつけはしていないけど、綺麗な噴水になったね。)

 

(苗から生命力を感じるし、ほんの微量だけど魔力も供給されている、後は土壌の微生物や小動物らしきものも感じるな、今はまだ小さいけどちゃんと管理すれば、動植物保護区と同じくらい緑が豊かになる筈。)

 

(とは言っても、プランターだからなぁ・・・・イメージ的には管理された街路樹や花畑みたいな感じかな?自然発生した形じゃなくてこちらの管理に依存した植生だから手入れしないといけないけれど、これが上手くいけば人が住むオアシスの整備に応用出来るかも。)

 

実験場の中央噴水に水の魔石と共に埋め込まれた従属核の管理によって定期的に用水路の水を吸い上げてスプリンクラーが起動し、プランターに散水される。

基本的に水やりは気温が上がり切らない早朝に行われ、水を含んだ土が煮立たない様にし、プランターに植えられた苗や種子はすくすく育ち、やがて青々とした茂みを作り上げた。

 

(あまりにも日照りが強烈な日とかはウォーターカーテンで冷やしたり石の壁で日陰を作ったりして温度調節もしたけどその甲斐あってか、無事に育ってくれて良かった。)

 

(よし、この調子でどんどん拡張しながら研究を進めていこう!)

 

砂漠にぽつりと浮かぶ石造の建造物、砂の上に置かれた頼りなさげな石畳に、溝を伝って流れる水、不毛の土地に場違いに存在する実験場は、度々従属核フレームが送られて増築が進み、強固な作りになって行く。

 

(うーん、動植物保護区とはまた違った趣に仕上がったなぁ。)

 

岩石層まで深々と穿たれた合成岩の杭と、それと一体化する基盤、その上に建設された無数のプランターと用水路、それはまるで整備が行き届いた植物園や自然公園を思わせた。

従属核フレームが出入りする事が可能な大型のハッチは地下施設に続いており、砂漠の各地や大河付近から採集され砂漠の民によって持ち込まれた植物の種子が備蓄されていた。

 

(無駄に色別に分けて植えた花と、規則的なプランターの配置、貯水槽に放流した色とりどりの肺魚、むむむどっからどう見ても自然公園だなぁ。)

 

(しかし、人が滅多に寄り付かない場所と言っても、砂嵐で道に迷ってこっちまで来る人も居るし、見つかったらちょっと不味いかな?死の海も近いし厄介な魔物も出没する危険地帯でもあるから成るべく近寄ってほしくないなぁ。)

 

迷宮核は、従属核に指示を出して人が近寄るたびに石の壁で覆ったうえで砂に埋めて実験場を隠し、動植物の生育と増築を繰り返すうちに実験場は小さな町ともいえる規模になって行った。

 

(途中で方針が変わって実験場のレイアウトも当初の物とは違う形になったけど、こういう技術も磨いておいて損はないだろうな。)

 

増築が進むうちに変化していった実験場は、草花で彩られ、用水路に肺魚が泳ぎパピルスの茂みが中央の噴水を囲う美しき無人の街と呼べる姿になっていた。

そう、無人の街である。

 

(砂漠の民は基本的に自分たちで出来る事は自分たちで全部やっているけど、もし魔物の襲撃や自然災害などで住居を追われたら避難場所が必要になってくるはず。)

 

(緊急避難用のシェルターみたいな物があれば砂漠の民も助かるだろうし、実際地形操作能力を応用すれば建築物だってあっという間に作れてしまうね、っというよりも私本来の能力はこう言うものに向いた能力なのかもしれないな。)

 

元々プランターの並んでいた場所は、どことなく砂漠の民やホトリアの建築様式を思わせる建物に建て替えられ、植物は別の場所に植え替えられた。

 

(無数の私達の中でウサギの人形が住まう家のミニチュア模型を集める趣味の魂の記憶があるが、まさに街の模型を作っている気分だな。)

 

(何でもかんでも建物すらも私が揃えてしまったら砂漠の民もきっとやる気を失ったり最悪他力本願になってしまうだろうから、岩山オアシスの村に家を建てたりする事は多分無いだろうけれども、誰も居ない所で練習するくらい構わないだろう。)

 

(プランターの植物も茂みを作る位に育ったし、水を循環させる事で肺魚も生きて行けるし、水生植物の生育も良好、結構な魔力を投資したけど十分にリターンはありそうだ、後は時間の問題だな。)

 

迷宮核は従属核の補給基地兼ね不毛な土地の改良と言う本来の目的から、無人都市の建設と言う若干趣味の混じった方針転換をして、ちゃっかり投資分の魔力供給リターンを満たしていた。

 

これは、迷宮核が初めて作った迷宮らしい建造物で、実際無駄に立体的に作ったおかげで若干入り組んでおり、地下の種子保管庫に繋がる従属核フレーム用の出入り口とも繋がっているので正しく人を惑わせる迷宮としても機能していた。無駄な凝り性である。

 

相も変わらず人が近づくと砂に沈む実験場であるが、何時しか砂漠の民に地図にない街の噂が流れるようになった。

 

遠くに揺らめく乳白色の街、色とりどりの花に飾られた魔法の街、或いは熱と蜃気楼が見せる幻か、いずれにせよ近づく頃には姿を消しているので砂漠の民はあるかどうかも分からない砂漠の街よりも自分たちの集落の発展の方が重要であった為、あくまで噂は噂のままでそれ程本気になって調査する者は居なかった。

 

(十分にデータも集まったし、これをモデルに人工オアシスを建設したり、直接人の住む建物を建築したりする事も出来るな。)

 

(基本的に死の海の調査に向かわせる分身体の魔力を補給する基地として運用するつもりだけど、緊急時の避難用シェルターとして砂漠の民に開放するのも良いかもしれないな。)

 

地下には食用となる植物が光の魔石や水の魔石を使った水耕栽培で育てられる施設もあり、あくまで植物の生育実験を目的とした施設ではあるが、それなりにまとまった数の人口を支えるだけの食糧生産力を備えていた。

 

用水路を泳ぐ肺魚は地上と地下の水路を巡回し、時々外部から侵入した鳥や魔物などの天敵に捕食されるが、地下水路の水草に卵を産み付け生を繋ぎ、従属核に管理されているとはいえ実験場独自の生態を築いていった。

 

今も人知れず拡張し続ける実験場は、死の海への調査をする為の従属核の前線基地として機能を発揮し、超巨大生物の生息域である死の海の全貌解明に大きく寄与した拠点でもある。




ダンジョンコアさんの初めてのダンジョンらしいダンジョンの建設。
なお、人が来ない前提の補給基地兼ね実験場。


【挿絵表示】


従属核ホバーフレーム、風の魔石で滑走する。
コストダウンモデル


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自家魔力生成装置

人気の少ない砂丘で動植物を生育させる実験である程度まとまった量の魔力が供給される事が分かったので、迷宮核はその技術を応用して従属核の移動用フレームを改良することにした。

 

(今までなんで気付かなかったんだろう?大河の国周辺は何処にでも草木が生えているから自然と余剰生命エネルギーを吸収できるし、私の分身がアルジャン王子の首に下げられて運ばれている最中も魔力を補充出来たから、常に何らかの生物が近くに居る状況を作れば良かったんだ。)

 

迷宮核は岩山の洞窟の人が入りこめない区画で特殊な従属核用のフレームを建造し始めた。

砂を固めただけの使い捨て前提ではなく、長時間運用するために岩山の鉱物の中でも特別軽くて丈夫な鉱物を使用し、耐久性を持たせるようにした。

 

(よし!取りあえず本体は完成したぞ!後はこれに植物の苗を植え付けてっと・・・・。)

 

油圧式アームで岩山オアシスに自生する乾燥に強いサボテンやアロエなどの多肉植物を植え付け、根を吸水ポリマーで覆い、従属核を稼働させるための水流パイプから部分的に水が滲み出るように加工する。

 

(これで本体も外付けパーツも完璧だ!これぞプランター一体型の分身体用フレームの完成だ!)

 

(・・・・・・・・・・・。)

 

(・・・・・・・。)

 

(う・・・・うーん、勢いで作ってしまったけど、何だろうこの物体は?)

 

見た目は通常型の4足歩行用フレームそのものなのだが、本体の上には多肉植物が、脚部には芝がくっついている。

まるで、場違いなギリースーツか陸上のイソクズガニを思わせた。

 

(まぁ、フレームの中に取り付けた分身体にはちゃんと魔力が供給されているみたいだから、歩かせるだけ歩かせてみるか。)

 

岩山オアシスの隠れ発進口が開き、油圧式歩行で従属核フレームがのっしのっしと、重そうな足で砂を踏みしめ歩いて行く。

 

(確かに魔力は供給され続けているんだけど、草木を植えたおかげで大分重量が増してしまったな、後吸水ポリマーに含まれた水も地味に重い。)

 

植物を背負う従属核フレームは、生体を運ぶ以上は乱暴に動かす事は厳禁で、坂道を滑ったり転がって移動する耐久力に任せた運用方法は取れなくなっていた。

あくまで、一歩一歩砂に足を取られない様に地道に慎重に歩みを進めて行く。

 

(これは、ちょっと微妙かなぁ・・・いや、使えなくはないけど機動力は皆無だし、常に植物の手入れをしないといけないから無駄に手間がかかるぞ?)

 

とは言え、通常の運用ならば近隣のオアシスの祭壇に従属核を移して、村人や周辺の動植物から魔力を補充するのだが、このフレームでは常に少量ながら魔力が従属核に供給され続けるので単純に移動距離は増えていた。

 

(足が遅いし、砂漠では目立つし、何度か砂漠の民にこのフレームを目撃されてしまったが、大丈夫なのだろうか?魔物か何かと勘違いしなければ良いのだが・・・・・はぁ。)

 

プランター一体型フレームが人に目撃されたときは、足を広げて半ば砂に埋もれる事で植物の生えた岩に擬態するのだが、何処からどう見ても怪しさ抜群で、実際砂漠を歩く植物の魔物と勘違いする砂漠の民も居た。

 

実際、砂漠を歩く内に背負ったサボテンなどを目当てに砂虫が住み着いたり、その砂虫を狙って小さな蠍が住み着いたり、小規模な生態系がプランター一体型フレームの上に出来上がっていた。

 

小動物の休憩地となったプランター一体型フレームの魔力供給量はますます増え、そして重量が増した分魔力の消費量も多くなり、ますます足が鈍るのであった。

 

(大分日数がかかったけどやっと緑の帯を超えたぞ、大河の国まで長い道のりであった。)

 

休止状態と移動を繰り返して移動を続けてついにホトリア王国の国境付近まで到達したプランター一体型フレームは、噴水に使われている分身体の影響圏に到達すると、フレームを蹲る形で稼働停止させ、ホトリア王国まで移動してきた従属核と噴水に使われている従属核が共に地形操作能力を使い地中に管を両方から延ばし、地中を通って従属核を噴水まで送る。

 

噴水の従属核と再結合すると、一回り大きくなり、更にホトリア王国に派遣された従属核は地形操作能力と水生成能力が向上し、ホトリア王国周辺での力を行使する範囲が広がった。

 

「これは一体なんだろうか?石像か?」

 

「まるで蜘蛛みたいな見た目していておっかないなぁ、一体誰が作ったんだろう?」

 

「いや、良く見ろ足跡らしきものが残っているぞ?もしかしてこれ、歩いて此処まで来たんじゃ・・・?」

 

「ひぇっ、やめてくれよ!魔物か何かなんじゃないか?」

 

「見たところ動く様子は無いが、一体どこから・・・いや、まてよ?」

 

「何か紋章の様な物が彫り込まれている?」

 

草や多肉植物に覆われて判別しにくいが、良く見ると六角形とそれを覆う柱の様な意匠の紋章が刻み込まれており、それは砂漠の民が衣服や所持物に描く紋章と同じものであった。

 

「ま・・・まさか、これが噂の砂漠の民が祀るという神の使者様なのでは?」

 

「砂漠の神様の使者だって!?な、なんとつまりこれが、地母神様の使者なのか?」

 

見た目は岩などの鉱物で出来た4色歩行の蜘蛛や蟹を思わせる形状で、ある種の恐ろしさを感じる見た目をしているが、そこに地母神の使者と言う要素が加わるとその不気味さも神々しさや畏怖を帯びてきて、急に神聖な物に見えてしまう。

 

「では、何故蹲ったまま動きを止めてしまったのだろうか?」

 

「もしや、力尽きてしまったのか?」

 

ホトリア王国の国境を警備していた兵士たちが抜け殻となったプランター一体型フレームを心配していたが、何時までもそこに居てもどうにもならないので報告に城まで戻ると、その道中異変を感じた。

 

「うん?何か噴水の水量が増えている気がしないか?」

 

「心なしか、御神体の秘石も大きくなっている気が・・・・。」

 

少し大きくなった水色の秘石が薄っすらと角度によって虹色に見える光沢を放ち、ホトリアの国章と砂漠の神の紋章が幻想的に明滅していた。

噴水に祀られる御神体を拝む人々は、その変化に真っ先に気づき信仰深い者は朝から跪き祈りを捧げている。

 

「間違いない、御神体が大きくなっている!」

 

「国境付近の石像の件も含めて報告しなければ!!」

 

慌てた様子で国境警備兵が王城に戻ってきた事で若干色めき立ったが、神の使者の遺骸と、御神体の肥大化が確認され、急遽調査が行われることになった。

 

その結果、土地の保水能力が向上し、噴水の水量が増え、枯れていた水源の幾つかが復活していた。

ますます、神の感謝と畏怖と信仰を深めたホトリアの民は、それまでさほど気に留めていなかった者も祭壇の祈りに参加する者が増え、御神体の秘石は幻想的な美しい光を放つ事でそれに応えるのであった。

 

(ホトリア王国の分身体は、単純に人口の多さと自然の豊かさで魔力供給量があったけど、あちらでも私が認識されるようになってから意図的かつ大量に魔力が供給されるようになった。)

 

(長い旅であったけど、長距離移動した甲斐があったかもしれないな。)

 

(とは言え、今度は素直に誰かに運んでもらう事にしようかな。)

 

(丁度交流を深めるために、村長の子供たちがホトリア王国に向かうみたいだし、そのついでに私の分身体を運んでもらおう。)

 

迷宮核は、新型従属核用フレームの実験を終えて、大河の国方面への橋頭保を固め、更なる強化のために砂漠の民とホトリア王国の交流に従属核の運搬を挟ませようとするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

従属核移動用プランター一体型4脚歩行フレーム

 

従来の4脚歩行型フレームをベースに強度の高い鉱物で補強し、長距離移動に耐えられるように改良したフレームに、更に植物を植えるプランターを装備させたもの。

植物そのものや吸水ポリマーに含ませた水の分、重量が増しており移動に余計な魔力が必要になってくるが、その分魔力は常に供給され続け、稼働停止状態ならば魔力の消費も無いので従属核に魔力が補充される。

休止状態と移動を繰り返す様は、まるで生物を思わせ、実際に魔物の一種と誤認される事もある。

あくまで試作品の為、まだまだ改良の余地はあるが、乗せた植物が枯れない限りは移動距離は幾らでも伸びる。

 

 




おまけ


【挿絵表示】


あまり画力は無いけど大体のイメージです。
海藻を背中に張り付ける蟹っていますよね。


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水の生まれる噴水

大河の連合とウラーミア王国の戦争は膠着状態に陥っていた。

 

ホトリア王国の支援があるとは言え、新型の魔道具による魔術兵の強化は相変わらず驚異的で、最近になって魔物の死霊すらも操り大河の連合を苦しめていた。

 

「畜生、奴ら大河に潜む大蜥蜴を死霊化して使役してやがる。」

 

「生前ほどの怪力は持っていないが、しぶとくて仕方がない。」

 

「ホトリア王国が支援物資を増やしてくれているのは有難いが、このままではジリジリと削られるだけだぞ?」

 

「くそ、何で干ばつで苦しい時に国際会議に破壊工作を仕掛けてきたんだ!!」

 

そんな中、ホトリア王国の国境に謎の石像の様な物体が出現したという。

多くの国はそんな噂話の様な些細な情報よりも目の前の敵の方が重要であったので気にも留めなかった。

 

しかし、当のホトリア王国は大きな変化が起きていた。

唯でさえ情勢の不安定な状況で治安も悪化していると言うのに、国境に得体のしれない物体が出現したとなると、無視できなかった。

 

だが、謎の石像の様な物体が出現したという報告とほぼ同時に神の秘石が納められた噴水の水量が増え、その神の秘石も一回り大きくなっているという報告も舞い込んだ。

 

「中々ウラーミア王国もしぶといな。」

 

「支援物資は送っているが、怪しげな黒い霧の毒に侵された負傷者が多くて医薬品が足りていないらしい。」

 

「薬草の栽培が追い付かんな、だが、優先するべきは食料の生産だ。」

 

「ほ!報告します!国境付近に奇妙な石像の様な物体が出現しております!」

 

「な、何だと!それは一体なんだ!?」

 

「陛下!大変です!噴水の神の秘石が!」

 

「今度は一体何なんだ!」

 

「神の秘石が大きくなり、水量が増加しています!」

 

「そ、それはまことか!?と、兎に角調査しろ!急ぐのだ!」

 

王命によりすぐさま調査隊が組まれ、噴水と石像の調査が進められた結果、石像には砂漠の神を崇める砂漠の民がその衣服や所持物に刻む神の紋章が刻まれており、報告にある神の使者と特徴が一致したことにより、神の使者の来訪によって秘石に何かしらの影響を与えたのだと結論された。

 

「おお、神よ!ホトリア王国に栄光を!」

 

「天に祈りを!大地に黎明を!」

 

「あぁ、あぁ・・・これで我が国は救われる、有難や有難や・・・・。」

 

ホトリア王国の国民たちはこれに大いに喜んだ。

神の秘石が齎される前までは、溜め池に貴重な雨水を蓄え、少しずつ作物が枯れない程度に水やりをしていたが、親愛なる王子が地母神様の分身ともいえる神の秘石を砂漠の奥地から持ち込み、枯れ噴水が地母神の祭壇へと生まれ変わり水源が復活したのだ。

 

神の秘石によって枯れ噴水が蘇ったとは言え、本来の大河の水量と比べると少なく、広大な畑に水は行き渡っていても潤沢に使える訳でも無く、干ばつで開拓を諦めた土地にまで新たに水を引くほどの余裕がある訳では無かった。

 

だが、神の使者の来訪により一回り大きくなった神の秘石は更に大量の水を生み出し、心なしか大地が水を蓄えられる力が増したように地面のひび割れが減り、防壁に覆われた都市の内部だけでなくその外側までその影響が広がり、ホトリア王国は本来の緑に囲まれた姿に戻りつつあった。

 

「干ばつが続き、水をかけてもすぐに流れて乾燥してしまっていた土が、すっかり水を蓄えるようになっておる。」

 

「やはり、神の秘石が大きくなった影響かも知れんのぅ。」

 

「これも地母神様の祝福か、俺たちが灌漑して土地を切り開くまでもなく地母神様のお力で大地に生命を宿すとは・・・。」

 

「おお偉大なる神よ、親愛なる王子よ、感謝の祈りを捧げます。」

 

今まで神の秘石から生み出される水は農業用水に優先的に回していたが、水量の増加によって生活用水の使用の自粛が解除され、ホトリア王国民は布の染色などの工業を再開させた。

大河の連合軍への支援物資の供給量も増え、緑の帯の集落の復興と水源復活が合わさり交易も軌道に乗り始めた。

 

「いやぁホトリア王国の乳製品は相変わらず質が良いなぁ。」

 

「あぁ、あの国の姫様はホトリア王国のチーズでなければ食べたくないと我儘言って王様を困らせていたらしいじゃないか。」

 

「あっちの国の王妃様はホトリア王国の草花の蜂蜜の味と香りが好みだから緑の帯の開通と同時に商隊を組んで買い占めるつもりなんだとさ。」

 

「蜂蜜は医療品にも使うから勘弁してほしいんだがなぁ。」

 

「まぁ、ホトリア王国の特産品だけでなく緑の帯から砂漠の貴重な植物も調達できるし、俺たちにとって稼ぎ時でもあるな。」

 

「間違っても今の時期にウラーミア王国なんかに行くなよ?サボテンの果肉の傷薬は良く効くから奴らに没収されちまうし、砂漠の民も敵に回す羽目になる。」

 

「わかっとるよ、しかしあの国の魔石は中々質が良いのが惜しいなぁ。」

 

膠着状態に陥っていた大河の連合軍は食料や衣服、特に医薬品の支援が助けになり、息を吹き返した連合軍が遂にウラーミア王国を押し返し始めた。

 

そんな中、砂漠の民の使者がホトリア王国に訪れた。

神のお告げにより御神体たる秘石が送られてくると言うのであった。

 

「砂漠の果ての地よりの長旅、ご苦労、我らが盟友よ。」

 

「はっ、我らは砂漠の神のお告げにより参上いたしました。」

 

「神のお告げとな?」

 

「我が砂漠の民の長が定時で行うお祈りの際に、御神体が光り輝き社の壁面に文字が刻まれ、ホトリア王国に新たな御神体を運ぶようにお告げがありました。」

 

「なっ!何だと!?」

 

「それから間もなく洞窟の奥から御神体である秘石を抱える神の使者様が現れ、村長家族に秘石を手渡すと再び洞窟の奥に戻られました。」

 

「しかし、我が長は動けぬ身、代わりに夫である村長補佐とご子息とご息女の方々がお告げの通りホトリア王国へ御神体を運ぶことになりました。」

 

「お・・おぉ、地母神様直々にお告げが下されるとは、それに神の秘石を我が国に・・・何たる光栄。」

 

「砂漠の神は、この無益な争いと大河を襲う大干ばつを嘆き悲しまれている様子、ホトリア王国に分身を送るのは、大地再生の為でありましょうな。」

 

「うむうむ、大儀であった。館があるので旅の疲れを癒すが良い。」

 

神の秘石が新たに送られるという報告にホトリア王国の王宮は驚き、急ぎ国賓を迎えるための準備と岩山オアシスに使者を送り、砂漠の民の代表の来訪を待つのであった。

 

「陛下!ジダンが、砂漠の民の代表が我が国に訪れるのですか!?」

 

「あぁ、アルよ確かお前は砂漠の民の長の長男と誼を結んでいたのであったな?」

 

「はっ、砂鮫の襲撃によって負った傷が癒えるまで、私に付き添って頂きました。」

 

「ふむ、砂漠の民の村長は残念ながら来れないそうだが、村長補佐と3人の子息息女達は全員来るそうだ。」

 

「え?ジダンだけでなくアイラとラーレも?」

 

「ふむ、確かアイラと言ったか、傷がまだ深い時に随分と尽くしてくれたそうではないか?」

 

「はぇ、あ・・・いや、あのアイラは確かに寝たきりの時に話し相手になってくれましたが、治療ならラーレが・・・。」

 

「くっくっくっ、顔を赤らめおって、砂漠の民の長の長女がそれ程気に入ったのか?ん?言うてみぃ。」

 

「えっ、えとその・・・陛下、何でにやついているのですか?」

 

「その人なりを見るまで何とも言えぬが、妃に迎えるならば砂漠の民と血縁が結べて悪い話ではないが?」

 

「そんな!ちがっ、アイラとは!」

 

「む?それとも次女の方かね?確か長女よりも・・・。」

 

「なな、何言っているのですか!父上!ラーレは確かにアイラより胸が、いや、からかうのは止めてください!」

 

「我は何も言っておらぬが・・・。」

 

「しっ知りません!もう!もうっ!!父上の馬鹿っ!」

 

アルジャン王子は怒って扉を開き部屋から出て行ってしまい、入れ違いに王妃が入ってくる。

 

「陛下、アルをからかいすぎですよ?」

 

「ぬぅ、すまん。」

 

「アルに相応しい上級貴族の令嬢を妃に迎えようと考えておりましたが、砂漠の民に恋心を抱くとは、あの子もやりますね。」

 

「まぁ、我らが遊牧民として平原を回っている頃に交流のあった部族の末裔であるからな、稀薄ではあるが我が民にも彼らの血が流れているのかもしれぬ。」

 

「あら?私は家系図にちゃんと砂漠の民と繋がる部族の血筋が載ってますよ?」

 

「ほほう?となると、少なくともアルとアミルには砂漠の民と同じ血が流れているという事か、面白いではないか。」

 

「うふふ、アルジャンが気にする女の子、会うのが楽しみですね。」

 

大河の連合とウラーミア王国の戦争、砂漠の民と神の秘石、この地方を襲う大干ばつ、それらが絡み合い情勢は複雑になって行く。

だが、大地に生命の源たる水を生み出す神の秘石は、この世界に光明を齎す存在であった。

迷宮核の力は砂漠を超えて大河にまでその影響力を広めて行くのであった。




活動報告にも昔投稿した絵ですが、ジダンとアルジャン王子のイメージです。


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託宣

迷宮核の力によって砂漠に浮かぶ浮島の様であった岩山オアシス周辺は、所々砂地が露出しているものの草が覆い、迷宮核や従属核の影響圏に限るが草原が広がっていた。

 

吸水ポリマーによって水を蓄えたまま地表が濡れ続けたおかげで休眠状態であった砂漠の植物の種子が発芽し、強烈な太陽光線を浴びて葉を生い茂らせ凄まじい勢いで成長して行く。

本来ならば水分を節約しながら空気中の水気を吸収して育つのだが、吸水ポリマーに蓄えられた潤沢な水が、植物の遺伝子的なトリガーを刺激して彼らに成長と言う選択をさせた。

 

(砂漠の植物の種子も水分の多い所に吹き飛ばされるとすぐにそれを感知して発芽するみたいだな。)

 

(まばらに生えていたけど、吸水ポリマーで地表を湿らせ続けるとちらほら緑が姿を現す。)

 

(私が思っているよりもずっと多くこの砂漠の砂の中に植物の種が眠っているのかもしれないな。)

 

(発芽して本格的に生命活動を始めないと魔力吸収も生体感知も出来ないし、植物の種子がどこに埋まっているのか分からないのは残念だけど、まぁ嬉しい誤算かな。)

 

(生い茂る草木のお陰で大分飛砂防止に役立っているし、言い伝えにあるかつてこの砂漠に広がっていた草原を復活させる事も出来るかもしれないな。)

 

(どれだけの年月が必要か、見当もつかないけどね。)

 

元々は大河の原産の植物の遠い子孫である種類の植物も砂漠の砂粒の中に眠っており、基本的に高温高熱や乾燥に耐性を獲得しているが、大量の水分を感知すると大河近くに生えていた頃の様に大きく葉を広げるようになる。

 

それが、砂地の熱を下げ、植物が勢力を広げる迷宮核や従属核の影響圏は気温が幾らか低く、また根を張った植物が風によって砂を巻き上げるのを阻止し、砂嵐の勢いも若干低下する。

 

「最近砂嵐になっても道に迷いにくくなったなぁ。」

 

「そうだね、前ほど濃くないから道しるべの杭も見失いにくいし、草も生えているから砂もそんなに飛ばなくて、前に比べると移動が楽だね。」

 

「これも神のご加護か、まさか砂漠にこれだけ緑を目にすることが出来るとは。」

 

「生きている内にこんな光景が見れるとはねぇ。」

 

「お、岩山オアシスが見えてきたよ!あと一息だ!」

 

「神の塔からの導の光も有難い、神よ、感謝します。」

 

かつて干ばつによって滅びの道を辿っていた砂漠の民は、迷宮核の齎す水の恵みによって絶滅を免れ、死の象徴であった砂漠の奥地に緑に覆われた楽園が誕生する奇跡を目の当たりにし、より一層迷宮核を砂漠の神として崇めるのであった。

 

それから暫くして、干ばつによって荒れる大河の国々の中から、砂漠の民と同じ血を引く大河の一国の使者が訪れ、使節団に参加していた王族の少年と砂漠の民の長の子供たちが誼を結び、交友を深めた後、正式に互いを盟友として認め国交を結ぶことになった。

 

盟友となった大河ほとりの国ホトリア王国からの援助で緑の帯と呼ばれた交易路の集落が再建され、砂漠の民も砂漠原産の動植物から得られる特産品を商隊に売り、その交易の利益で本拠地である岩山オアシスや砂漠各地の村を繁栄・強化させていた。

 

「保湿サボテンの生産が追い付かない?そこをなんとかしてくれ!」

 

「そうは言っても、取引相手はアンタだけじゃないんだ、他にもこれを必要としている人が沢山居るんだよ。」

 

「困ったな、貴婦人の化粧品にはどうしてもあのサボテンが必要なんだ、もし手に入らなかったら俺の首が物理的に飛んでしまう。」

 

「はぁ、全くしょうがないな、紹介状を書くから隣の村の農家を訪ねてくれ、どの道どうあがいたってもうこの村には在庫が無いぞ?」

 

「隣村って、砂漠の感覚で隣村となるとちょっとした旅だな、まぁ首を刎ね飛ばされるよりはマシか、すまない、助かった。」

 

「緑の帯とは言っても、魔物は普通に徘徊しているから注意するんだぞー!」

 

交易で手に入れた資金を使って、乏しかった金属資源を大河の国々から輸入する事で、砂漠の魔物の牙や角を使用した武器はより頑丈に補強され、鋭さを増し、砂漠の民の守り手と呼ばれる自警団は大河の国に比べて人数は少ないものの、その練度と武装は侮れないものとなっていた。

 

「ぐぅ、お・・重い!」

 

「腰が入っとらんぞ!腰が!もっと鋭く突け!」

 

「丈夫になったのは良いけど、この巨大蠍の槍ちょっと重すぎませんか?」

 

「何情けない事言っている?そんな事では、沼鮫はおろか砂鮫すらも退治できないぞ?」

 

「くっ、しかしこれ以外にも盾や弓などを担いで砂漠を歩くのはちょっと無茶ですよ。」

 

「守り手の中では、その装備を身に着けた上で、大蠍にやられて片足の骨を折ったラクダを支えながら岩山オアシスに帰還した奴も居るんだ、甘い考えは捨てろ。」

 

「うげぇ、僕本当に守り手になれるのかなぁ・・・・。」

 

「まったく情けない、後で砂袋を背負って岩山オアシスの外周を3回走れ。」

 

「ひーっ!お許しをー!」

 

砂漠の過酷な環境が好戦的な大河の国の干渉を抑制し、砂漠の民の戦闘能力の高さと盟友となったホトリア王国の保護によって欲深な者が迂闊に砂漠の奥地に向かえない様になっていた。

大河の連合はウラーミア王国と戦争状態であるが、本来はその中に幾つか好戦的な国もあるのだ、ホトリア王国と砂漠の民は戦争が終わっても気が抜けないのである。

 

戦争の影響で荒れつつあるこの地方であるが、砂漠奥地の岩山オアシスは安定して繁栄の営みを続けていた、そんなある日の事である。

 

「もうお祈りの時間かー、何かあっという間に時間が過ぎるなぁ。」

 

「姉さんもジダンも剣の訓練に打ち込み過ぎよ、あまり根を詰めすぎると倒れるわよ?」

 

「そう言うラーレは、剣の訓練あまりにもやらな過ぎよ、ほっとくと何時までも魔術の実験ばかりやっていて、そっちの方が体壊すわよ。」

 

「私は嗜む程度で良いのよ、自分の進む道は自分で決めているから。」

 

「そんなこと言って、ラーレお姉ちゃん時々アイラお姉ちゃんに一本取るときがあるんだよなぁ。」

 

「嗜む程度には訓練するからね。」

 

「僕も大概だけど、お姉ちゃんたち集中し始めると時間忘れるからなぁ、嗜むっていったい何だろうね。」

 

「おーい、子供達ー!もうそろそろお祈りを始めるわよー?」

 

「あ、はーい!」

 

いつも通り、神の祈りを始める村長家族であるが、今回はどうにも様子が違っていた。

 

「傷を負いし岩山の主よ、我らの祈りと贖罪を受けたもう。」

 

「偉大なる大地の神よ、我らが守護祖霊よ、大地に生命を齎したもう。」

 

「萌ゆる翡翠を悠久の地となさん・・・・あれ?」

 

祈る為に手を組み跪き祈りを捧げている最中、突如社に納められた御神体が輝き、いつの日かホトリア王国の王子と盟友の誓いをした時と同じように、壁に光が走り、青白く発光する文字が現れたのである。

 

「我らが裔よ、紺碧の空と翡翠の大地を求む者よ、我が意志を託さん。」

 

「細まる大河の地へ赴き、我が種子を運べ、大地に命の雫を宿せ。」

 

「荒れたる大地、欲深な者の醜き心、歪な欲望を捨てよ、不毛な争いを止め悔い改めよ。」

 

「我らが裔よ、盟友の地へ赴け、大河再生の鍵は此処にある。」

 

「我、産魂の種子を放てり。」

 

壁に刻まれた文字が霧散する様に消えると、御神体の光は収まり、村長家族は呆然とするも、暫くすると洞窟の奥から比較的小型の神の使者が現れ、その背に社に納められている御神体と同じ神の秘石・分身体を背負っていた。

 

「これは一体!?また神様の御神託!?」

 

「あれは?砂漠の神の使者様?」

 

「あの石は・・・御神体!?まさかこれが大河再生の鍵と?」

 

小さな蜘蛛の様な形をした神の使者は、御神体の秘石を丁寧に地面に置くと洞窟の奥へと消えていった。

 

「これは大変な事になったわね、アイラ、ラーレ、ジダン、村の皆に伝えて。」

 

「うん、僕は守り手の訓練所に行ってくる、カシムおじさん今頃男衆の指導をしてる頃だし。」

 

「私は、魔術研究所の所長に伝えに行くわ、呑気に実験なんてしていられないわ。」

 

「んー、私は取りあえず工房組合の方に行こうかな?その後は畑の方にもひとっ走りしてくるね。」

 

「頼んだわよ、私はアリーと託宣の審議の準備しておかないと。」

 

託宣を受けた村長家族は、大慌てで村の有力者たちを集め審議を始めた。

 

砂漠の民の長である村長家族、特にその子供たちは祈り手と呼ばれるようになっていた。

砂漠の民の次世代の長と期待されている子供たちは、託宣の通り砂漠の民の盟友たるホトリア王国へと御神体の秘石を届けるため使節団として向かう事になった。

 

「むー、私だけ置いてけぼりかぁ、まぁ仕方ないよね私は村長だし。」

 

「母さんはやる事沢山あるんだから、また次の機会ね。」

 

「でもなぁ、子供たちの親友であるあの子のご両親と故郷の人達にも挨拶したいし、一度で良いから大河の国ってのを見てみたいなぁって思うのよ。」

 

「拗ねるなよ、ラナ、子供たちは俺が責任もって守り通すから、安心して村長としての仕事をこなせ。」

 

「いいなぁ、いいなぁ、お母さんは置いてけぼりかぁ、お父さんはいいなぁ。」

 

「はぁ、何だかお母さんアイラお姉ちゃんっぽくなっている、まぁむしろアイラお姉ちゃんがお母さん似なのかな。」

 

「ジダン?後でちょっと話があるの。」

 

「に゛ゃっ!?ご、ごめんなさい!」

 

砂漠の民の長たるラナは、砂漠の集落をまとめる役目があるために、泣く泣く最愛の夫と子供たちを送ることになり、出発前日まで拗ねていたが、仕事だけはしっかりとこなしていた。

 

岩山オアシスの村長家族と、砂漠の集落の有力者の子弟、そして腕の立つ守り手で構成された使節団は、盛大な送迎会を行った後に大河ほとりの国へと赴くのであった。

 

「荷物は忘れていない?ジダン。」

 

「うん、大丈夫だよルルちゃん。」

 

「ホトリア王国への旅かぁ、砂漠の村から出るのって初めてだから緊張するわね。」

 

「アル君の故郷ってどんなところだろう?きっと綺麗な場所なんだろうなぁ。」

 

「一応向こうに着いたらアルジャン殿下って呼ぶんだよ?うっかり人の目があるところでアル君と呼んだりしたら大問題だし。」

 

「うっ、気を付けるよ。」

 

祈り手の中でも神剣に選ばれ砂漠の民から神聖視されているジダンは、守り手として実力を伸ばしていっている幼馴染の少女ルルとは心許せる相手であった。

良い友人であり、好敵手である彼女を護衛に推薦したのは互いにその実力を理解していて、経験こそ少ないが大人顔負けの剣の腕を持つ彼女は自分の背を任せるにふさわしい者として認めていたからである。

 

「もう岩山オアシスの村があんな遠い所に、でもホトリア王国までまだまだ遠いなぁ。」

 

「なぁに?もう疲れたの?」

 

「ううん、全然平気!でもまぁ、今でこそ草に覆われているけど、ここが砂地のままだったらちょっとは疲れていたかな?」

 

「ふふっ、本当に砂漠の神様に感謝しないとね。」

 

「そうだね、お母さんたちは道しるべもないのにこの岩山オアシスまで村の人たちを率いて歩いてきたんだから、杭を辿るだけで緑の帯に行ける今の方がとっても楽に違いないよ。」

 

「私の両親も大変だったんだろうなぁ、普通に暮らしているけど岩山オアシスを見つけた時はどんな気持ちだったんだろう?」

 

「岩山オアシスの外は見渡す限り、砂、砂、砂、村の外の世界なんて本当に存在するのかなって疑問に思った事もあるけど、信じられないくらい太い川があって、その周りに信じられない程沢山の人達が暮らしているんだって、見てみたいなぁ。」

 

「私にとってもジダンにとっても初めての大河の国ね、ホトリア王国に着いて御神体を届けた後、どうしよっか?」

 

ルルはその深緑の力強い瞳でジダンの目を見つめた。

 

ジダンは何か言葉を言おうとするが、それは声にならず吐息となり、代わりに穏やかな微笑みで返すのであった。

 

「何よ、ふふっ。」

 

ルルはジダンの手を握りジダンを待つ本隊へと引っ張って行く。

 

「行くわよジダン!故郷を惜しむのはこれまで!ちょっと遅れ気味よ。」

 

「わわっ、もぅ!強引だなぁ。」

 

ラクダの背中に積まれた、御神体の秘石が納められた箱は精巧な装飾が施されており、厳重に密閉された上で布にくるまれ、キャラバンの中央に置き、厳重な体勢で運ばれていく。

 

砂漠の民の使節団キャラバン隊は、砂漠各地に突き刺さった道しるべの杭を辿りながらホトリア王国へ目指すのであった。

 

(私の分身体を運ぶキャラバンはサポート圏外へ出たか。)

 

(草木に覆われているとはいえ、砂鮫や巨大蠍を追い払うに越したことは無い。)

 

(道中なにもなければ良いな、出来れば運ばせた私の分身体の魔力は温存したいところだけど、いざと言う時は責任をもって彼らを守らないと。)

 

(大いなる大地よ、偉大なる神よ、我らの裔と盟友を守り給へ!)

 

迷宮核は分身体を運ぶ使節団キャラバンの無事を強く祈るのであった。




プロットがあると夏バテと睡眠不足でも話を書き進められますから、大まかに骨組みだけを作っておく事って重要ですね。


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砂漠の長の娘たち大体のイメージはこんな感じです。
砂漠のオアシスで調達できそうな資源が限られているので金属部品はかなり少なめです。


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大河への橋頭保

砂漠の神の託宣を受け、神の秘石を大河ほとりの国ホトリア王国へ運ぶキャラバン隊は、途中途中で小型オアシスの村で補給しながらホトリア王国の迎えが居る緑の帯へと向かうのであった。

 

「世話になったな、村長殿。」

 

「いえいえ、砂漠の神様のお告げの為に御神体を運ぶという重大なお役目の助けになれて光栄です。」

 

「ああ、干ばつの被害を抑え大河を復活させる事は、砂漠の民の未来にも大きく関わって来る筈だ。」

 

「そうですな、大河の国々はこの大干ばつでどこも殺気立っていて恐ろしいです。大河が再生すれば情勢も安定を取り戻すと思います。」

 

「うむ、この大干ばつは砂漠の民だけの問題ではないのだ、不毛の大地の浸食を此処で食い止めねばなるまい。」

 

「えぇ、えぇ、ではご武運を。」

 

キャラバン隊は村の中央部にある泉から椰子の実水筒や陶器の瓶などの空き容器に水を充填し、日が傾き気温が下がり始めた頃に村を発った。

 

従属核が生み出した泉は、砂漠を横断する旅人にとって欠かせない存在であり、また人間だけでなく野生のラクダや岩トカゲなど砂漠に生きる動物にとっても生命線である。

既に人が集落を築いている水源には基本的に砂鮫や巨大蠍などの魔物は警戒して寄り付かないが、あえて互いに不干渉を貫く事で砂鮫が村の泉で水分を補給した後砂漠の海に帰って行く事もある。

砂漠の民も砂漠に生息する動植物たちも安定した水源が各地に点在する事に気づくと余裕が生まれるのか、遭遇してどちらかが命を失うまで争う事は激減し、水源付近を中心として砂漠の動植物の個体数は増加傾向にある。

 

「緑の帯が見えてきたぞー!」

 

「へぇ、あれが緑の帯かぁ、岩山も滝もないけど確かに草原が広がっているね。」

 

「なんでも、大河の水脈が地下に流れていて部分的に地表に到達しているから帯状に植物が生えているらしいわね。」

 

「ラーレお姉ちゃん物知り!でも、少し前まで此処も砂漠になっていたという話だけど?」

 

「多分だけど、砂漠の神様がこの地に祝福を齎してくれたのかもね。神の紋章の刻まれた祭壇が緑の帯の村々にあるみたいだし、水脈を復活させてくれたのかも。」

 

「はぇぇ・・・あたしそこまで考えてなかったよ。ラーレさん凄いなぁ。」

 

「ルルも本を読む習慣を持つといいわよ?最初は目が疲れるかもしれないけど、本を沢山読むことで読むという事に慣れてきて楽しくなってくるから。」

 

「ラーレは本の読みすぎよ、うっかり食事忘れて倒れたことあったでしょ?」

 

「むぅ、姉さんだって剣の訓練のし過ぎでジダンを疲れ果てさせて気絶させちゃったじゃない、自分が倒れるなら兎も角かわいい弟を痛めつけるのは感心できないわ。」

 

「アイラお姉ちゃんもラーレお姉ちゃんも極端すぎる所があるからなぁ、僕も剣の訓練は程々にしておこっと。」

 

子供同士で雑談をしていると、隊の先頭から大声で呼びかけがある。

 

「見えてきたぞ!あれが迎えのホトリア王国の兵が待つオアシスの村だ!」

 

「そろそろ暑さが厳しくなってくる時間帯だ、オアシスの村で十分に休憩を取った後、翌日の早朝に出発するぞ!」

 

「了解!!」

 

砂漠を超え、荒野を超え、遂に緑の帯に到達したキャラバン隊は、ホトリア王国の兵士と合流し、休憩と交流を兼ねてオアシスの村で一晩過ごし、補給を行った後、オアシスの村を後にした。

 

「しかし、中々の大所帯ですな、あの過酷な砂漠の大移動は大変だったでしょう?」

 

「ははは、確かに、だが我々にとって砂漠を移動し村同士の交流が無ければ生きていけませんので嫌でも慣れる事になりますよ。」

 

「砂漠の民は逞しいですな、我が国の若者にも見習わせたいところです。」

 

「しかし、此処まで来ると砂漠とはまた違った光景が広がってきますな。」

 

「ええ、我々にとっても砂漠に近い異質な雰囲気を感じますが、砂漠の民にとっては緑が広がる場所に近づいている感覚なのでしょう?」

 

「生命溢れる地と不毛の地の境界線という事でしょうな、砂に足を取られる事は無いにせよ、湿り気を帯びた草を踏みしめる感覚はまだ慣れませんな。」

 

「わぁ、凄い!遠くまで緑が一杯だ!綺麗!」

 

キャラバン隊の中央付近を歩く子供たちが植生の違う景色に興奮の叫びをあげ、大人たちは微笑ましい顔で彼らを見つめる。

 

「あの少年少女たちは一体?」

 

「あの子たちは砂漠の神に仕える祈り手であり、砂漠の民を守る守り手であります、幼いながら侮れない戦士であり護衛でもあります。」

 

「護衛!?あの年で?」

 

「我らが長の長男であるジダン様は砂漠の神に直接選ばれ、神剣の使い手として実力を伸ばしていっております。彼は年齢的な力の制限はあれど大人の戦士を打ち倒しうる力を秘めております。」

 

「あの少年が・・・。」

 

「えぇ、我々の未来はきっと明るいものになるでしょう、彼らが砂漠の民を導く長となる時が楽しみです。」

 

砂漠と大河の境界を越えて、本格的に大河付近の植生が広がる領域に到達したキャラバン隊は、砂漠とは全く違う景色に驚き、まだ見ぬホトリア王国の首都への思いを募らせてゆく。

 

大河付近にも危険な魔物は生息しているが、流石に大所帯のキャラバン隊に襲い掛かるようなことは無く、彼らに見つからない位置から遠巻きに警戒するだけで近づく事は無かった。

 

特に戦闘もなく迎えの兵士の案内で順調に道を進み、遂にホトリア王国の首都へと到着する。

 

「凄い・・・。」

 

「こんなおっきな石の壁を人が作り上げるんだ。」

 

「ふふふ、驚きましたか?石を厚く積み上げ魔物や敵軍などの侵攻を防ぐのです。」

 

「僕たちが再現しようとしたら、岩山オアシスの一部を丸ごと切り崩さないと、とても石材は足りないよ。本当に凄いなぁ。」

 

「ようこそ、ホトリア王国へ、歓迎しましょう。」

 

分厚い金属の門が重々しく開かれると、城下町は砂漠の民を迎えるホトリア王国民の大歓声が鳴り響いた。

 

砂漠の使節団であるキャラバン隊は、空気を響かせる大歓声に、そして何よりも砂漠の集落とは比べ物にならない程の人の多さに驚いた。

 

「大歓迎だな。」

 

「凄い、こんなに人が暮らしているなんて、砂漠だと砂漠中の集落の人達を一か所に集めないとこんな光景見れないよ。」

 

「あんなに遠くまで建物が広がっている、信じられない。」

 

大河の国々と商談をする大人達は慣れている者だが、子供たちはその光景に圧倒されるのであった。

 

「ジダン!」

 

「アル君!?い、いや、アルジャン殿下!!」

 

ホトリア王国の兵士の案内の元、王城前広場の噴水まで歩くと、見覚えのある少年の顔が見えた。

 

「お久しぶりです、アルジャン殿下。」

 

「こちらこそ、ジダン、さぁ王がお待ちです。」

 

使節団キャラバン隊の代表と村長家族が、御神体の秘石を入れた箱を丁寧な手つきで運び、噴水広場で待つ王族の前に置き跪く。

 

「大地の神の神命により、御神体を持参致しました。」

 

「うむ、砂漠の果ての地よりの長旅、大儀であった。」

 

「面を上げよ。」

 

「はっ。」

 

砂漠の民の代表たちは、そのままの態勢で顔だけ上げて国王を見る。

 

「ふむ、そなたらが息子の言っていた祈り手か、息子が世話になった様だな?」

 

「ふぇ?・・・は、はっ!」

 

「緊張せずとも良い、息子は年の近い友人が少なくてな、今後も仲の良い付き合いをしてやって欲しい。」

 

「はっ、恐れ入ります。」

 

「国王陛下、こちらが御神体の秘石です。」

 

丁寧に布を取り、箱を密封している包装を解いて行く。

 

「おおっ!これぞまさしく・・・。」

 

青白い光を放つ虹色の光沢をもつ美しい秘石が現れ、その場に居合わせた者たちが息をのむ。

 

「では、早速祭壇に・・・む!?」

 

御神体の秘石を受け取ろうと手を伸ばした王は、秘石が眩い光を放ちながら浮き上がった事で手を止めて、秘石が祭壇の噴水へと飛んでいく光景を呆然と眺めた。

 

神々しい光と共に祭壇の御神体と融合し大きさを増した秘石は、次の瞬間大地をなぞる様な光の波を発生させ、街中に光の粒子が舞い上がった。

 

噴水広場の周りを円を描くように光が迸り、ほんの一瞬だけ砂漠の神の紋章が浮かび上がり、光が収まって行く。

 

「な、これは一体!?」

 

「おお神よ!!」

 

完全に光が消えると、次の瞬間噴水広場の噴水が今まで見たことも無いような水量の水を噴射し、虹が発生する。

あまりの水量に水路が冠水してしまわないか心配した者も居たが、不思議と水嵩はそこまで上がらず、設備が損傷することも無かった。

 

「ああ美しい、神が我らの未来を祝福してくださる様だ。」

 

「おお、ホトリアへ栄光を!新たなる盟友砂漠の民に黎明を!」

 

「盟友よ!盟友よ!」

 

砂漠の民の使節団と彼らの祀る神にホトリア王国民は、再び歓声を上げる。

目の前で行われた契りと、神の奇跡に敬虔な地母神教徒は砂漠の民を同胞と認め、滅びゆく筈だった砂漠の運命に抗う勇者として彼らを心の底から盟友として敬愛した。

 

砂漠の民を迎える式が一通り終わると、歓迎会が開かれた。

和やかな雰囲気で、砂漠の民とホトリア王国民と交流が行われていく。

 

「とても良い式でした、改めてお久しぶりですジダン。」

 

「あはは、まだお久しぶりって程でもないよ、暫くぶりかもしれないけど。」

 

「実はこのまま干ばつで大河が細まり、干乾びてしまったらどうしようと思っておりました。でも、大地の神様のお陰で希望が見えてきました。」

 

「そうだね、砂漠の神様は大河に生きる人々にも心を痛めていたんだと思うよ、アル君、あ・・アルジャン殿下だったかな?」

 

「もぅ、アルで良いですよ、ジダン。」

 

ぷくりと頬を膨らませるアルジャン王子に苦笑いをするジダンは、ふと会場の端で何やら騒ぎがあるのを見つける。

 

「あれは?」

 

「どうしましたか?ジダン。」

 

ふと視線を向けると、一人の少女が貴族らしき男性に絡まれているのが見えた。

 

「砂漠の民に混ざりウラツァラル人が何用か。」

 

「あたしはれっきとした砂漠の民よ。」

 

「しかし、その深緑の瞳、湧き上がる魔力、ウラツァラル人の特徴だ。」

 

「確かにウラツァラル系だけど、もう殆ど砂漠の民だし、そもそも色んな文化の民が寄り集まって砂漠の民を作っているの、人種がどうこう関係ないわ。」

 

「ルルちゃん!」

 

「む、祈り手・・・ジダン殿か、ぬぅ!?アルジャン殿下も!?」

 

心配そうな表情をしたジダンと僅かに怒りを帯びたアルジャン王子が駆け寄ってくる。

 

「我らが盟友たる砂漠の民を迎える歓迎の宴に、何をしているのです?」

 

「あの、それは・・・。」

 

「ルル殿、ご無礼をお許しください。」

 

「え?あ、あのアルジャン殿下?」

 

「ルルちゃん大丈夫?」

 

アルジャン王子は貴族の男性をきっと睨みつけ言い放った。

 

「恥を知りなさい、もう下がって結構です。」

 

「は・・・ははっ!」

 

逃げるように貴族の男性は去ると、アルジャン王子は頭を押さえながらため息を吐く。

 

「全く、ホトリア王国にもウラツァラル人の混血はあると言うのに、よりにもよってこんな時につまらぬ事を・・・。」

 

「アルジャン殿下、有難う御座います。」

 

「え?あぁ、いえ、岩山オアシスでお世話になった頃の様にアルと良いんで良いですよ、ルル。」

 

「そ・・・そう?じゃぁ有難うね、アル君。」

 

「うーん、まぁ砂漠の民の中でもウラツァラル系の人達の風当たりが微妙になっていると言うのは無くもないけど、皆が協力しているから普段意識する事は無いかなぁ。」

 

「砂漠の民も大変なのですね、ルル、ジダン。」

 

「まぁ、ウラツァラル帝国自体とても大きな国だったから、ウラツァラル人は大河中に居るらしいし、帰化した人もきっと沢山いたんだろうけど、はぁ。」

 

「ウラツァラル人の国がやらかすと困るよね。」

 

「あたしのご先祖様は今でいうツラーミア方面から追放されて砂漠に住み始めた貴族の政治犯が元となった民らしいの、一応こう見えてあたし育ちもお嬢様なんだよ、ジダン?」

 

「その割にはお転婆、痛いっ!?」

 

ルルに頬っぺたをつねられて涙目のジダンと、考え込むアルジャン王子

 

「ツラーミア公国・・・旧・帝都ですか。」

 

「具体的にご先祖様が何をやらかしたのかは知らないけど、僅かな記録から何かを止めようとしていたらしいんだけど、それが何だったのかまでは分からないの。」

 

「政治犯かぁ、なんかろくでも無さそうな臭いがするなぁ。」

 

「ウラツァラル帝国ですからね、そう言えば片割れであるツラーミア公国の動きが無いのが何か不気味です。」

 

「大河の国の事はあまり詳しくないけど、何もないと良いね。」

 

「そうねぇ、ろくでなしな国はさっさと黙らせてウラツァラル系の印象の改善はあたし達が頑張らないと。」

 

「さて、少し微妙な空気になってしまいましたが、交流の場を楽しみましょう。」

 

「そうね、辛気臭い話は此処までにして食べるわよー!」

 

「食べ過ぎは厳禁だよ、無理して食べると太、痛ったぁ!?」

 

「ルル、怖い・・・です。」

 

若干の障害はあったものの、砂漠の民の歓迎会は終わり、今後の方針の取り決めや交易の話し合いにうつる。

 

水源が復活した事で、農業や工業が息を吹き返し、今ある備蓄の分を解放して大河の連合軍に支援物資として回しても問題ない事や、ウラーミア王国との戦争が終わった後の戦後処理の話など会議は続いた。

 

キャラバン隊が持ち込んだ砂漠の特産品は、大河の国々で珍重されており、ホトリア王国も自国の特産品を見せる事で、互いに何が必要なのか何を欲しているのか認識し合い、今後の交易で何を運ぶのか記録して行く。

 

商人は商人同士、商談を行い、双方の長は政治的な話から個人的な親族同士の交流も行った。

引き締めるような顔つきで話す事もあれば、親としての顔で息子たちの交流を語り合う事もあった。

 

アルジャン第一王子は、弟のアミル第二王子を紹介し、祈り手三姉弟は第二王子を弟の様に可愛がった。

 

大人たちは、特にホトリア王妃は微笑ましそうにその光景を眺めていた。

 

 

砂漠の民とホトリア王国の本格的な交流を結ぶ記念すべき一日は、熱烈な歓迎と多少の障害の中、穏やかに終わる事になる。

砂漠の民の使節団は暫くホトリア王国に滞在したのち、別れを惜しみつつも手土産を持たされて大河ほとりの国ホトリア王国を後にするのであった。

 

(今まで分身体の力が足りなくて手が伸ばせなかった枯れた水脈に手を加えることが出来た。)

 

(すぐに影響が出る訳でも無いけど、最終的に地下水脈は大河に放出されるようにしたから、少しは大河の水量も増えるはず。)

 

(ホトリア王国の位置からだと上流の方まで手が出せないけど、下流域は大体カバーできるかな?)

 

(まだ無理だけど、その内そちらも何とかしたいなぁ、まぁホトリア王国は大河の地への橋頭保だし、此処を足掛かりにして上流の方の地質もゆくゆくは改善しよう。)

 

(今は水が足りなくて苦しむ人たちを一人でも減らさないと、思っていたよりも大河の状況は悪い。)

 

(私にできる事は最善を尽くすけど、この先もっと世の中が良くなれば良いなぁ。)

 

(偉大なる大地の化身よ、荒ぶる大地の怒りを鎮め給へ、渇きの地に命宿す雨を降らし給へ!)

 

迷宮核は心の底からこの地に生きる全ての生命に祈りを捧げた。

人間同士が傷つけ合い、憎しみ合う世界が消え、生命が溢れる楽園に人種の関係もなく互いに手を取り合って生きて行く日が来ることを夢見ながら。



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砂漠の花畑

かつて砂漠の交易ルートから外れた場所に位置していた砂漠にぽつりと浮く岩山は迷宮核が誕生して以来、砂漠最大の拠点と化していた。

元々何処の水脈にもつながっていなかった一枚岩の岩山は、迷宮核の力によって膨大な量の水が生み出され、その大部分は同じく迷宮核の力で作り出された地下貯水槽に貯水されていた。

 

迷宮核は本体から切り離した分身体を岩山オアシス中に設置する事で広範囲の地形操作を可能とし、必要な所に必要な量の水を地下貯水槽から吸出し、地表に滲ませて地面を湿らせることで砂漠の植物が根付きやすい環境を作り出している。

 

一年を通して乾燥した気象の砂漠であるが、砂漠と大河の境界線に位置する荒れ地原産の植物の種子が飛ばされてきて極稀に絨毯状に生え一時的に花畑の様に色とりどりの花を咲かせる事がある。

 

その殆どは、岩だらけの荒野よりもさらに過酷な砂漠の環境に適応できずに枯れ果ててしまうのだが、ほんのごく一部の植物は定着するものもある。

長い年月をかけて砂漠の乾燥した環境に耐えられる子孫が自然淘汰を勝ち抜き適応してきた結果、大河や荒野の原種よりも乾燥に強い種となる。

 

それらは、人々が砂漠に暮らし始めて以来、昔から砂漠の民にとってなじみ深い花であり、時折装飾品や観賞する目的で採取される事もある。

同じ景色が続く砂漠に色鮮やかな花を咲かせる種類の植物は特に女性に好まれ、名前に採用されるものもある。

 

「ラーレお姉ちゃん今日も読書?時々は外で一緒に遊んでよー!」

 

「ジダンにはルルが居るでしょ?あの娘なら変に気を遣う事も無いし、剣の稽古も何時も一緒でしょ?」

 

「そうなんだけど、生憎ルルちゃん他の守り手見習いと砂鮫狩りに出かけちゃっていて居ないんだ。」

 

「え?貴方はいかないの?ジダン。」

 

「他に頼まれごとがあったからね、もうそれも終わっちゃって暇していたんだ。」

 

「そう、でも今新しい本が手に入ってね、悪いけど今はこれを読みたいわ。」

 

「ちぇー。」

 

「ジダンも本をもっと沢山読めばよいのに。」

 

「うぅ、本は目がチカチカしてきて苦手なんだ、じゃ・・・・じゃぁ僕はこれで!」

 

「・・・・・・はぁ。」

 

(逃げられるのは逃げられるので傷つくわね。)

 

わたしの名前はラーレ、名前の通りラーレの花から名付けられた。

母さんが一番好きな花がラーレだったからと言う安直な理由であるけど、それも悪くはなと思っている。

わたしもラーレの鮮やかな赤い色が好きだ。

母さんとわたしが好きな花だから、家の周りにも植えているし、毎日の水やりも欠かしていない。

本来はそれ程水を必要とせず乾燥に強い植物みたいだけど、水やりの影響でかなり大きくなってしまっている。

そう言えば、大河の近くに生えているラーレの花の原種はもっと大きくて淡い色合いの花を咲かせると書かれているけど、この村に生えているラーレの花は色がとても濃くて似たような景色が続く砂漠では目立つ色をしているわね。

 

「土はまだ湿っているから水やりする必要はなしと、ふふっ元気に育っているわね。」

 

「前は水のやり過ぎで枯らせちゃったけど、今回は失敗しないわよ。」

 

「そう言えば、ホトリア王国でもラーレの花があるんだっけ?見逃してしまったわ。」

 

思えば、わたしがもっと小さい頃、岩山オアシスの村に生えている植物はサボテンとか棘のついた肉厚な植物しか生えていなかった気がするけど、いつの間にか村の周りだけ草原が出来て随分と景色が変わった気がする。

きっと、砂漠の神様のお陰で村の周辺が緑豊かになったのかもね。

滅多に降らない雨の後に競い合うように生えてくる草花の絨毯を山頂から眺めるのが好きで、よく母さんに怒られたっけ?

 

「読書ばかりで部屋に籠っているからか、少し日差しに弱くなってしまった気がする。」

 

「あの時は、男の子に混じって外で遊んでいたっけ?今からすると信じられないわね。」

 

花の絨毯は暫くするとすぐに枯れて元の砂漠になってしまうのだけど、少し前に降った雨はどうしてか、ずっと地表を濡らし続けていて、それからいつも以上に花の絨毯が広がって、今もその草花は岩山オアシス周辺を覆っている。

 

「綺麗なだけでは無くて、砂鮫や巨大蠍から身を守ってくれる草原、大切にしないとね。」

 

あと、私は花の絨毯からラーレの花を一輪だけ失敬してそれで作った押し花を糊で固めたしおりを愛用している。

庭で育てたラーレの花では大きく育ちすぎて押し花をしおりに使えないの。

 

「面白かったけど、そろそろ魔術訓練の時間ね、えっとここに挟んで、さて行こう。」

 

自慢では無いけれど、色んな魔術の本を読んで訓練も積んでいるから同年代の子に比べると魔法の自信はある。

でも、息抜きで最近大河の国から手に入れた植物図鑑を読んでみると好奇心を刺激される。

本当は唯の気まぐれだったのだけど、見た事も無い植物の絵が描かれていて本を通じて違う世界を見ているみたい。

ただ、希少植物と呼ばれている欄に身近な砂漠の植物が沢山載っていて不思議な気分になった。

むしろ、周辺でとれる薬草と言う欄の方が珍しい植物だらけなのだけど、こう言う所でも違う世界を感じる。

 

「ん、あれ良く見かける草だけど大河では解熱剤に使うんだっけ?あっちは香辛料、大河では珍しいのかしら?」

 

ふと気づくと、身近な植物の中に大河でも生えている植物が幾つか記載されている事に気づく。

でも、何処か砂漠で見かける物に比べると大きな形しているし、細部も違う。

 

(ホトリア王国に行ったときは緊張していて気付かなかったけど、今思えば砂漠とは植生が違っていた様に思うわね。)

 

見たい、もっと色んな植物を見てみたい。

 

「あら?ここにもラーレの花が、生命力あるわね。」

 

「大河原産の植物をあとで幾つか拾って育ててみようかな?どうなるんだろう?」

 

ふと世話をしているラーレの花と野生のラーレの花の大きさが違う事を思い出す。

試しに幾つか図鑑に載っている植物を岩山オアシスから集めてきて、水やりをちゃんとやって育ててみる事にした。

 

「・・・・・・育て始めてからそんなに経っていないけど、これは。」

 

「水やりを多めにするだけで此処まで大きく育つなんて。」

 

驚き、まさか図鑑に書かれている姿そっくりになるなんて!

もしかしたら、砂漠に適応するために小さくなって、水分を節約しているのかもしれない。

大河周辺に生えている植物は色々な種類があるらしいけれど、もしかしたらその中に砂漠を緑で覆う事が出来る力を秘めた植物があるのかもしれないわね。

 

「知りたい、もっともっと色んな植物を見てみたい。」

 

「誰かの役に立ちたいから魔術を学び始めたけど、植物学もきっと役に立つはず。」

 

「でも、わたしはどうすれば・・・・。」

 

わたしは将来、魔術師になる物だと思っていたけれど、今でも魔術を学ぶのも好きだけれど、植物学者になるのも良いかもしれない。

 

「ただいまー!アイラお姉ちゃんと一緒に遊んできたんだー!」

 

「ふふふーん!たまには私にも甘えてくれていいのよジダン!」

 

「あら、お帰り姉さん、ジダン。」

 

「アイラお姉ちゃんは悪戯ばっかりするしハラハラするから、ラーレお姉ちゃんの所に行くんだけどね。」

 

「なにぉぅっっ!?こうしてやるー!」

 

「に゛ゃっ!あはっあはははっ!脇腹くすぐるのやめて、あふあはははっ!!」

 

「姉さんそこら辺にしてあげなさいな。」

 

「ラーレ今日も一日中読書?たまには体動かしなさいよ。」

 

「ううん、魔術の訓練の為に魔術研究所に行ったし、花の世話もしているわ。」

 

「ふぅん?そう言えば、新しい草が植えられてたわね、食べれるの?」

 

「・・・・・姉さん。」

 

「うっ、怒らないでよぉ、そんな顔で見つめないで。」

 

「はぁ、そろそろジダンを離してあげて、痙攣しているわよ。」

 

「あっ!ジダン!?目が上向いているっ!?ジダン!ジダーン!!」

 

「続きを読むから静かにしててね。」

 

本はとても良い物なのよ?姉さんもジダンも面倒くさがらずに読めば良いのに。

先人たちの知恵が、この小さな本に閉じ込められているの。

魔術の師匠は宝飾品は生きるために真っ先に売り払ってしまって良い物だが、最後の最後に手放すのは本だと言っていたわね。

 

確かに、何もかも手放さなければならない時が来ても奪えないものは知識かも知れない。

だから、もっともっと沢山の知識を身に着けて、後に続く者達の為に今の時代を生きるわたし達が頑張らないといけないの。

 

 

 

 

 

 

===================================

 

(ふぅ、地下貯水槽の水量もだいぶ減ってきたな、時々継ぎ足しているけれど水の需要は増えるけど減りはしない、貴重な資源だからなるべく無駄遣いしないようにしないと。)

 

(岩山オアシスの村も大分変わったなぁ、道路の端っこには花が植えられるようになったし、次々と交易で色んな植物が運ばれてくる。)

 

(昔はこの砂漠は平原だったらしいけど、思っているよりも早く砂漠は緑を取り戻すかもしれないな。)

 

(人間だけじゃない、この地に住まう色んな生物から魔力を感じる。みんな生きるために精一杯頑張っているんだ。)

 

(干ばつなんかに負けるものか、砂漠の生きる者達の力を、底意地を見せてやる。)

 

(この大地に翡翠と大輪の花を咲かせよ、雷神よ天伝い雨降らせたもう!)

 

(雲よ!風伝い天を満たせ!幾千里に広がり慈雨となれ!)

 

 

 

デゼザルート・ラーレ

 

元は大河に生えている花だが、種子が風や鳥によって運ばれて荒野や砂漠に適応した姿になったと考えられている植物。

アロエの様な葉とチューリップの様な花を咲かせる植物で、古来より砂漠の民に身近な植物として愛されている。

元々ラーレと言う言葉は[愛情]を意味しており、ラーレの花は愛情の花と言う意味でもある。

濃い色合いの花は集めて絞ると衣類の染色に使う原料となる。

ホオズキの様な実をつけ、内部は小さな種が入っており、振ると音が鳴るので子供の玩具とされる事もある。

大河原産種のラーレは花の色が砂漠のラーレに比べて薄く、大きく育つ。

 

 

リーヴァンルート・ラーレ

 

大河に生えるアロエとチューリップが混ざった様な多肉植物。

砂漠に生えている種よりも大型で棘もあまり鋭くない。

本種が原種と考えられており、地方によって様々な亜種を見かける。

多くの国にとってラーレの花とは本種の事を指し、淡い色合いの美しい花は多くの者の心を引き付ける。

ホオズキの様な実をつけ、内部に小さな種子が入っているが、砂漠の種と比べて種子が強く本体と結合しているので振っても音はならない。

独特の形状なので花も実も観賞目的に育てられ、広く流通している。




おまけ

【挿絵表示】


普段は涼しい格好で風通しの良い所で読書をしております。
外に出るときはローブを羽織って簡易的に日除けをして、植物を拾ったりフィールドワークをする事もありますが、基本的に運動は好きでは無いです。
でも剣術もそれなり腕があり、訓練漬けのアイラやジダンを一本取る事もたまにあります。嗜む程度には訓練していると公言しても、負けず嫌いの所は姉弟で共通しております。


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導きの使者

迷宮核の支配領域の広範囲に広がる草木により砂嵐の勢いは大分低減されたが、それでも依然として砂嵐によって遭難する者が当たり前の様に出る大砂漠。

 

かつてほどでもないにせよ、砂漠で方向感覚を失った末に砂鮫などの魔物に捕食されたり飢えや熱射で命を失う者も珍しくは無いのだ。

 

(久しぶりの砂嵐だ、岩山オアシスの村は霧の壁で覆って物理的に飛砂を落としているが、遠征中のキャラバン隊は巻き込まれているだろうな。)

 

(私の分身体から幾つか反応を感じるが、きっと近隣の村のキャラバン隊だろう。)

 

(緑の帯の交易路が復活した影響か、村々での物資の運搬が活発になっているのは良いが、やはり拠点から離れると危険度が一気に跳ね上がる様だな。)

 

(む、どうやら巨大蠍を撃退した様だな、だが目印の杭を見失って迷走中か、待機中の分身体が居るから救助に向かわせよう。)

 

(あの位置には集落の分布も疎らで、砂地が露出している部分も多いみたいだな、後で魔力に余裕が出来たら水源を作っても良いかもしれない。)

 

(まぁ、先ずは救助が先か、助けなければならないのは彼らだけではないんだ、砂嵐が止むのを待っていられない。)

 

 

岩山オアシスの開拓用の工具や資源を運ぶ道中、砂嵐に遭い方向感覚を狂わされた隙をつかれ砂中から巨大蠍に襲撃されてしまったキャラバン隊。

護衛の戦士が巨大蠍の甲殻の隙間に砂鮫の骨槍を突き刺して撃退し、難を逃れたがラクダと商人が負傷、目印の杭も見失って立ち往生していた。

 

「くそっ、油断したか、まさかこんな所で巨大蠍に襲われるとは!」

 

「幸い俺も相棒も毒針は食らわなかったが、相棒の足が一本折れちまった。」

 

「不味い、不味いぞ・・・・再び奴が現れる可能性もある、あとは血の匂いを嗅ぎつけて砂鮫が集まってくるかもしれん。」

 

「砂嵐さえ止めば大体の位置が割り出せるはずなのに!」

 

依然として視界を遮る砂嵐は、ごうごうと不気味な音を奏でている。

傷口を塞ぐためにボロ布をちぎり、患部に巻き付けるが傷口に砂が張り付いているので衛生面であまり良くないが、出血死するよりはマシである。

ラクダの足に杖を包帯で巻き付け固定具にすると、商人の男は体をさすり慰めながらラクダを歩かせる。

 

「辛いか?頑張れ、ここで野垂れ死ぬ訳には行かないぞ、近くに村がある筈だ。」

 

「くっ、目印の杭さえ見つかれば・・・・うん?」

 

護衛の戦士の男は、砂嵐で薄黒く染まった視界の端に、奇妙な光を見つける。

 

「?何だあれは・・・・。」

 

奇妙な光は段々と大きくなって行き、何かが近づいて来る気配がした。

 

「っ!何か来る!」

 

護衛の戦士が骨槍を構えると、商人の男はラクダを庇うように前に出る。

 

「な、まさか、砂漠の神の使者様っ!!」

 

「ああ、ありがたや、ありがたや・・・。」

 

砂嵐の薄闇の中から現れたのは無数に発光する眼を備えた砂漠の神の使者であった。

巨大な蜘蛛の様な甲殻類の様な姿をした砂漠の神の使者は、柱の様に太い足の底部に奇妙な螺旋構造を備えており、ずんずんと砂を踏みしめ、キャラバン隊に近づいて来る。

 

「我らを導いてくださるのだろうか?」

 

「しかし、ラクダの足がやられてしまい身動きが取れないのです、どうすれば・・・・。」

 

砂漠の神の使者は、足を延ばして胴体を接地させ、背中が開き、箱の様な空洞が現れ外殻の一部分が砂地に倒れて道が出来ていた。

 

「まさか、使者様の背に乗れと言う事でしょうか?」

 

砂漠の神の使者の目が返答するかの様に青白く点滅する。

 

「た、助かりました。この御恩一生忘れません!」

 

「さぁ乗れ乗れ、奴がまた戻ってくるかもしれん。」

 

「よしよし、頑張ったなぁもう大丈夫だぞ相棒。」

 

ラクダを支えるようにゆっくりと進みながら商人の男は砂漠の神の使者の背中に乗り込んだ。

再び砂漠の神の使者の背中が閉じようとしたとき、砂が盛り上がり巨大蠍が現れる。

 

「うわああぁぁ!!」

 

「こいつ、使者様にも襲い掛かろうと!!」

 

既に砂漠の神の使者の外殻が閉じられて暗闇に染まり、外がどうなっているのかよく分からない、だが外殻を叩く巨大蠍の音が不気味に響き渡るのみである。

 

次の瞬間、硬いものが砕けるような音と、生々しい何か液体が飛び散る様な音が響いた後、静寂が支配した。

 

「い・・・一体何が起こったのか?」

 

「俺たちは助かったのか?」

 

それから暫くして、砂漠の神の使者が移動を開始したのか揺れ始め、それと同時に暗かった内部に明かりが灯された。岩山オアシスの地底湖で見られる光る水晶を光源としているらしく、天井と床面に小さく切り分けられたそれが優しい光を放っていた。

 

「む・・・眩しい、何処かに付いたみたいだな?」

 

「見ろ!中継拠点のオアシスだ!あそこなら治療設備も整っているから、もしかしたら骨折も何とかなるかもしれない!」

 

長い間揺られていた様だが、消耗が激しかったのかいつの間にか眠りについていたらしく、眩しい太陽の光によって目を覚ます。

 

よたよたと起き上がり、ラクダを支えながら砂漠の神の使者の背中から降りると、その砂漠の神の使者は奇妙な姿で蹲っていた。

まるで四足歩行の動物が体を伸ばして寝そべっている様な姿で、どこか滑稽な姿であるが、揺れの感覚からしてこの姿勢を維持しながら移動していた様だが、どうやってこの体勢で移動出来ていたのかキャラバン隊の面々は疑問を感じざるを得なかった。

 

「もしかして、このお姿のまま我らをオアシスまで運んだというのか?」

 

「這いずるにせよ、若干無理な姿勢では?一体どうやって・・・・。」

 

その疑問は、再び砂漠の神の使者が移動を開始した事で判明する。

 

「なっ!?」

 

「なんと奇妙な!螺旋の柱が回転して移動するのか!?」

 

蜘蛛型の砂漠の使者の足の底部は、すべて螺旋状の柱の様な部分があり、それが回転しながら砂を掻き分け移動しているのであった。

地球でアルキメディアン・スクリューと呼ばれていたその構造体は、形状自体は単純な為、迷宮核的に修理しやすく、武器に転用しやすいので試験的に履帯型フレームと共に運用されていたのだ。

 

「もしかしたら、あの螺旋構造に何か秘密があるのかもしれない。」

 

「む、写生するのか、準備が良いな。」

 

羊皮紙に螺旋構造の脚部を持つ砂漠の神の使者の姿を描く商人の男、その書き写した姿は、後に井戸水の汲み取りポンプを始めとした様々な分野に応用され、ますます砂漠の神の英知に畏敬を覚えた砂漠の民は、信仰心を深めて行くのであった。

 

地に這いつくばる姿のまま砂煙を上げて砂漠の奥に消えていった砂漠の神の使者を見送ったキャラバン隊は、無事中継拠点のオアシスで治療を受け、ラクダも一命をとりとめた。

しかし、ラクダはもう荷物の運搬が出来なくなってしまい、その余生を仲間たちと穏やかに過ごす事になった。

キャラバン隊の運んでいた荷物はキャラバン仲間に引き継がれ、無事に岩山オアシスに金属製の工具と資材が送り届けられ、更なる発展に貢献した。

 

(履帯の足もそうだが、スクリュー状の足も中々悪くない強度だな。)

 

(摩耗する傍から修復するからよっぽどの事が無いと行動不能になる事も無いし、悪くないかもしれない。)

 

(しかし巨大蠍を砕いた時は、まるでドリルパンチみたいだったな、思ったよりもえげつない威力だった。)

 

(巨大蠍には悪いけど、彼らは砂漠の民の希望を背負っているんだ、その身は砂鮫の糧になったみたいだし、巨大蠍の死は決して無駄では無かったし、魂は我らと共にある。)

 

(勝手に命を奪っておいて言う事ではないけど、納得していないのは理解するけど、この荒涼とした砂漠を生命に満ち溢れさせる可能性を持つ生物と言うのは彼ら人間なんだ。)

 

(彼ら人間は凄いぞ、巨大な山も風穴を開けることが出来るし、深い森すら切り分けて街を作る事だって出来る、あれだけ可能性に満ち溢れた生物は滅多にお目にかかることが出来ないんだ。)

 

(だから、共に見届けよう、万人の道を行き偉大なる多数に加わった我らと共に、今の時を生きる彼らの姿を。)

 

(多くの魂は転生する事なく、魔力へと還る、偶然無数の魂の集合体として生まれ変わることが出来た私は幸運だったのかもしれないな。)

 

(・・・・・或いは呪いか、だが今は静かに見守ろう。)

 

 

相変わらず過酷な砂漠の環境であるが、迷宮核の支配領域では砂漠の民の生存率は非常に高い。

蜘蛛の巣の様に張り巡らされた命綱となる目印と、岩山オアシス周辺を照らす導きの灯台、点在する中継拠点、そして砂漠の神の使者の直接的な介入。

十数年前まで絶滅の危機に瀕していた砂漠の民は、砂漠の神の生み出した揺り籠の中で繁栄を続けるのである。

 

乳白色の景色が続く砂漠は、元々砂漠の砂粒の中で休眠状態だった種子や、砂漠の民が持ち込んだ大河の植物が芽吹き、かつて平原だったその姿を取り戻しつつあった。

霊体や魔力が集い魂となり、魂は生命と意志の力である魔力を放つ、物故せし者たちが集いて形を成し、意志を固着し世界を形作る。

文字通り大地を形作る基盤となった彼らは、これからもこの偉大で残酷な大地で生きる者達に踏みしめられながら見守り続けるのである。

 

 

 

 

 

 

 

アルキメディアン・スクリュー搭載型従属核フレーム

 

 

基本的な4足歩行フレームの脚部をアルキメディアン・スクリューに換装した試作型フレーム。

スクリュー部分が非常に頑丈に作られており、構造も迷宮核の感覚からして修理しやすいので、履帯型フレームに変わる遠征用フレーム候補として期待を寄せている。

しかし、重量もそこそこあるので、流砂などに足を取られた場合、身動きが取れなくなり立ち往生する可能性もある。

その場合、魔力残量に余裕があるならばホバーフレームに作り直す事で回避は可能だが、行動範囲は大幅に減少するであろう。

 

 

 

 





【挿絵表示】


おまけ、作者の画力的に全身複雑骨折している様な形状になっておりますが、大体のイメージです。各自お好きなメカ絵師様の絵で脳内再生してください。


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