魔法科高校の劣等生<The Legend of Amazons> (kakki-az)
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プロローグ
第零話《始動》


どうも!kakki-azです!

基本は原作の内容でコミックの優等生の内容も少々含みます

楽しんでいただけたら幸いです


とある廃墟に佇む三人の男、そのうちの一人は高校生くらいの少年であり、その少年と

向かい合うかのように立つ二人の男は決意を秘めた双眸でその少年をにらんでいた。

その二人は<ベルトのようなもの>を腰に装着した。少年も自らの<それ>を腰に装着し、

三人は同時に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「アマゾン!!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間三人の身体から炎が噴出し、炎が収まると三人は人ではない姿に変貌した。

三人はそれぞれの構えを取ると、どちらからともなく駆け出した。

 

 

 

 

「「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」」」

 

 

 

 

三人の拳が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の命は力尽きようとしていた・・・彼は、誰も知らない森にいた。

二人の男との戦いに敗れた少年は命かながら逃げることに成功した。

男たちは何故か追ってこなかったが、少年が受けた傷はあまりにも深かった。

彼は洞窟を見つけそのなかに逃げ込んだが、もう身体がいうことを聞かなくなっていた。

意識が薄れ行く中、少年は自分の生きていた時間を走馬灯のように思い出していた。

そして少年は先程芽生えた思いを再び願った。

 

「まだだ・・・!まだ俺は・・・・・・・()()()()!!!!」

 

そのとき、彼の中に宿る2つの細胞が身体を仮死状態にし、永き眠りへとついた。

 

 

 

 

 

 

それから数十年後・・・

 

「魔法」と呼ばれる御伽噺の産物が現実のものとなり、強力な魔法を使う

《魔法技能師・通称<魔法師>》が国の力とみなされるようになり、世界各国は自国の優秀な

魔法師育成に力を注いでいた。

 

 

西暦2095年3月    とある一軒家にて

ソファーにくつろぎながら同僚から寄せられたとある資料を読んでいる青少年がいた。

彼の名は《司波(しば) 達也(たつや)

 

彼は今年から魔法師育成機関のひとつである<国立魔法大学付属第一高校>に入学することになっている。

 

「お兄様、コーヒーをお持ちいたしました」

「ありがとう、深雪」

 

彼女の名は《司波(しば) 深雪(みゆき)

 

達也の妹で同じく第一高校に入学することになっている。

 

「お兄様、何を読んでいらっしゃるのですか?」

「あぁ、これは魔法が生まれる前の資料だよ」

「どのような資料なのですか?」

「ある組織によって生み出された《アマゾン細胞》という人工生命体の資料だ。最近だがデータベースにハッキングを受け、何者かに盗まれたらしい」

「いったい誰がそんなことを…」

「わからないが、俺たちとは関わることはないだろう」

「それでその《アマゾン細胞》とはいったいどのようなものなのですか?」

「簡潔にいうならば人を食らう細胞だ。しかし、現在アマゾン細胞の製造ならびに培養技術はその企業しか知らないはずだ。その企業も《ある会社》に吸収され存在していない。そもそもアマゾン細胞に関するものは俺たちが生まれる前にすべて廃棄されたと聞いている」

「そうなのですか、お兄様?」

「…あぁ」

 

話をそこで切り、ひと段落したところで半月後に控えた入学式の準備を始めた。その二人の様子は兄妹というよりも恋人のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな兄妹が住む都会の喧騒から遠く離れた、人が踏み入れないほど草木が生い茂ったとある山奥にある洞窟・・・

 

 

その入り口にこの世の生物とは思えないほどのおぞましい姿をした甲虫のような生物が数体、何かを探しているように彷徨っていた。

その内の一体がひとつの洞窟の中を見つめていた。

まるで、洞窟の奥に「()()()()()」がいることを本能で感じているようだった。

 

その瞬間、洞窟の奥から機械音声が突如鳴り響く。

 

 

《NEO...!》

 

「----アマゾンッ!」

 

 

 

暗い洞窟から衝撃とともに紅い炎が大きく煌めく。

 

「グギャァァァァァァァァァ!!」

 

甲虫のような生物達はその炎を見るや否やその場から逃げ出そうとしたが、すでに手遅れだった。

 

 

 

 

《Blade...Loading...!》

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

奥から駆け寄る《トカゲのようなもの》の攻撃により体を両断されて絶命した。

 

「ハァ...ハァ...」

 

生物達を切り裂いた《トカゲのようなもの》は深呼吸を何度かすると、ベルトから注射器のようなものを取り外した。

すると瞬く間に人間の、少年の姿になっていく。

 

「ここは…一体何処なんだ?俺はどうやって…?」

 

少年は周りを見渡すが、一面草木のみである。

 

「……どこか人のいる場所まで降りよう」

 

少年は自己完結すると下山を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

少年がこれから待ち受けるのは、大切な人との出会いそして波乱に満ちた日々

 

永き眠りから目覚めた少年、彼が紡ぎだす物語が始まろうとしていた。

 

 

 

『……『彼』が目覚めたようだね』

「あぁ、俺達も行動を開始する」

『此方も計画を進める。彼の監視とサポート頼んだよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【滅】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かっている。全ては〔・・・〕の意思のままに…」

 

 

See You The

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さて、彼等は一体誰なのでしょうか(棒)

次回はメインヒロインであるほのかと親友の雫が出ます!
お楽しみに!


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第一話《邂逅》

本編開始までまだかかるかも(汗) 気軽に待っててください


少年は山中を下山中にあることを思い出す。

 

「そういえば・・・()()はどこにあったっけ?」

 

少年は自分の記憶を頼りにあるものを探し始める。少しした後、ツタなどに覆われたバイクを見つける。

少年は覆われたツタをはらう、するとそこには赤い鱗のトカゲをなぞらえたフォルムのバイクが姿を現す。

少年がハンドルを握ると、それに呼応するようにエンジンがかかり、ヘッドライトが黄色に光る。

 

「よし、いけるな」

 

少年はバイクにまたがり、バイクの調子を確かめると山下に見える街に向けてバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~」

「ほのか、うれしそうだね」

「えへへ///、だって雫と一緒に第一高校に通えるんだよ。うれしいに決まってるよ。」

 

 

うれしそうに答える少女の名は《光井(みつい) ほのか》来月から第一高校に入学する明るい少女だ。

 

機嫌のいいほのかに付き添う少女は《北山(きたやま) (しずく)》ほのかの幼馴染で、大実業家の娘でもあり、彼女も第一高校に入学することになっている。

 

「そうだね。私もほのかと一緒でうれしい」

「うん! あ!雫あそこでお買い物しよう」

「うん」

 

ふたりは今春休みで、来月に向けて必要なものを買いに街に出かけていた。

 

しばらくお店をまわってお昼時になり、ふたりは近くのカフェに入り一息つくことにした。

 

「はぁ~、色々まわって疲れちゃった」

「私も」

「うん、そうだね」

 

ふたりはドリンクを注文し、少しこれからについて話に花を咲かせた。

 

 

 

しばらく談笑していた二人の話は最近起きたニュースに変わっていた。

 

「そういえば雫、最近このあたりで殺人事件が起きてるってニュースで見たけど知ってる?」

「知ってる、最近その話でどのニュースも持ちきりになってる。女の人ばかり狙われて、まるで肉食獣に襲われた見たいだってお父さんが警察関係者の人と話してるのを聞いたよ」

「なんだか怖いね、それにまだ犯人は捕まってないんだよね」

「証拠が見つからないから捜査も難航してるようだしね。私たちも気をつけないと」

「うん、そうだよね。 それじゃあそろそろ出よっか」

 

と、席を立って会計を済ませお店から出た瞬間ー

 

 

 

 

 

「キャッ!」

 

ほのかはちょうど通りがかった青年とぶつかってしまった。

 

「あ!すみません!」

 

とほのかが頭を下げるがー

 

「・・・・」

 

青年はそれを無視してさっさと去っていった。

 

「ほのか、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。でもさっきの人・・・」

「あの人がどうしたの?」

「ううん、なんでもないよ。気のせいだったみたい。ほら、まだ買うものがあるから早く行こう」

「あ、ほのか待って」

 

そんなふたりの様子を先ほどの青年が見ていた。

 

「・・・・・()()()()

 

不吉な言葉をつぶやきながら・・・。

 

 

 

 

「迅からの報告だ」

『どうした?』

「≪光のエレメンツ≫にアマゾンが接触した」

『……………本当に言ってる?』

「俺が下らない嘘を着くと思うか?」

『…万が一があったら介入してくれ』

「了解した」

 

 

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そのころ少年は、バイクで走りながら周辺の地理を確認していた。

その時少年は何かを感じ取った。少年は全速力でバイクを走らせる。

彼は気配を感じた方角へ向かって走る。

運命の出会いはもうすぐそこ。


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第二話《闘争》

タイトル通り今回は戦闘回になります。


「すっかり遅くなっちゃったね」

 

辺りは暗くなり、ふたりは帰路につく。

 

「ほのか、今日はありがとう。とても楽しかった」

「えへへ///ありがとう雫」

「もう遅い時間だから今日は私の家に泊まっていく?」

「うん!じゃあお母さんに泊まること伝えるね」

 

ほのかは、携帯を取り出し家族に泊まることを伝えると、雫とともに北山家に向かうべく歩き出した時

 

「あれ?あの人…」

「どうしたの?ほのか」

「ほら、あそこにいる人さっきカフェでぶつかっちゃった…」

 

そういってほのかが指さす先には、先ほどの男が足元がおぼつかない様子で二人に歩み寄っていた。

 

「なんだか具合が悪そうだよ。あの大丈夫で「待って」…雫?」

 

男のそばに駆け寄ろうとしたほのかを雫が止める。

 

「様子が変」

 

雫が指摘した通り、男の眼はまるで獲物を見つけた獣のような眼を向けていた。

すると男の体に黒い腫瘍のようなものが浮かび上がり、

 

 

「アアァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

と男が突然叫んだかと思うと、体から蒸気が発生し、瞬く間にヒョウのような怪物に変貌した。

 

「何…あれ?」

 

ほのかは目の前の状況が理解できず困惑していると

 

「わからないけど、ここから逃げよう」

 

雫はほのかの手をとり走り出す。しかし怪物も逃がすまいと二人を追う。

二人は怪物をまくために路地を右に左に駆け抜けだが、とある路地にて

 

「キャアッ!」

 

ほのかは足がもつれてしまい転んでしまった。

 

「ほのか!大丈夫!」

 

雫はほのかの方を振り返った時、すでに怪物は二人に迫っていた。

 

「ア゛ァァァァァァ!」

「あ…あぁ…」

 

ほのかは恐怖でその場から動けなかった。

 

「ほのか!!」

 

雫はほのかに駆け寄り怪物からかばうようにほのかを抱き寄せる。そして怪物の凶爪がふたりに迫る。

 

 

その時だった-

 

二人の背後からエンジン音が聞こえてきたかと思うと赤いバイクに乗った少年が二人の横を通り抜け怪物にタックルをぶつけ、怪物を吹っ飛ばした。

 

その衝撃で怪物は吹き飛ばされたが、体制を整えると

 

「ガアァァァァァ!」

 

その少年に向け殺意をむけながら構えた。

 

少年はバイクから降りると二人を一瞥した。二人はとっさに身構えたが二人に対して少年は柔らかな笑みを浮かべた。

 

そして少年は注射器のようなもの《アマゾンズインジェクター》を取り出しながら怪物を見据える。少年の眼は静かな怒りに燃えていた。

 

少年はインジェクターを腰に装着しているベルト《ネオアマゾンズドライバー》のスロットに差し込み、スロットを上げ、インジェクターの液体をベルトへと注入する。

 

 

 

 

《NE・O...!》

 

 

 

  

少年の眼が赤く光りだす。

 

 

 

 

 

「----アマゾンッ!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、少年の体は赤い炎に包まれ爆風が巻き起こる。

 

「キャア!」

「何!?」

 

やがて爆風が止み、二人が眼を開けるとそこにいたのは血管のような赤い模様が入った青い体に垂れ目状の赤い複眼、その上から黄色のバイザーと銀色の装甲を纏った戦士

《仮面ライダーアマゾン ネオ》が立っていた。

 

「「へ、変身した!?」」

 

二人が驚いているのもつかの間、ネオは怪物に向かって走り出しその勢いのまま膝蹴りを叩き込む。

怪物も反撃してくるが、その悉くを躱し、いなし、反撃を叩き込む。

だが、数十年ぶりの戦闘のためネオは一瞬動きが止まってしまった。その一瞬を怪物は逃さず、ネオの腹部を抉り貫く。

その攻撃にひるんだネオだったが、

 

 

「ッッウアァァァァァァァ!!」

 

 

吠えながらベルトにはめ込まれているインジェクター押し込む。

 

 

《Blade·Loading...!》

 

 

その瞬間、右腕のパーツが開くと右腕からアマゾンネオブレードが生成され、そのまま怪物の腕を切り落とす。

その光景を目の当たりにした二人は息をのむ二人。

だがほのかはすぐさまCAD(魔法発動を簡略化させるデバイス)を起動させた。

 

「ほのか、どうする気?」

「あの人を助けるの!」

 

そういって、得意の光魔法の起動式を展開すると

 

「目を閉じてください!」

 

それを聞いたネオは腕で視界を隠す、その瞬間まばゆい閃光が辺りを照らす。

 

「ア゛ァァァァァァァ!」

 

怪物はその閃光に目をやられもだえ苦しむ。

 

「今です!」

 

それを合図に、ネオはインジェクターをもう一度押し込む。

 

 

《Amazon·Break...!》

 

 

するとブレードが()()()()()()()()()()()()()()

ネオは少し違和感を感じたが、気にせず怪物に向かって駆け、ブレードを怪物の胸に突き刺す。

 

「ハアァァァァァァ!ハアァァ!」

 

そして後ろを振り向き、ブレードで怪物の頭を切り裂きながら振りぬいた。怪物は肉体が変色しながら膝から崩れ、倒れた。

 

「ハアッ.....ハアッ.....」

 

それを見届け、ベルトからインジェクターを取り外し変身を解除する。

そしてこちらにゆっくり歩み寄っているふたりを見て

 

「手助けしてくれてありがとう。ケガは無い?」

「はい、助けてくれてありがとうございます」

「貴方一体何者なの?」

 

雫が問い詰めてくるが、少年は彼女の言っていることが聞き取ることができなかった。

すると急に身体中を脱力感が襲い、後ろに倒れこんだ。

 

「!大丈夫ですか!?」

 

 

ほのかが慌てて駆け寄り、少年を起こすと、少年の体はかなり熱くなっていた。

 

「大変!雫この人すごい熱だよ!このままじゃ!」

「落ち着いてほのか、今迎えを呼んだから」

「ありがとう雫~」

 

 

そんなふたりの会話を聞きながら、少年は深い眠りについた。

 

 

 

 

「エレメンツならびにネオの無事を確認、引き続き監視を続ける」

『わかった、他の面々にも情報を共有していてくれ』

「了解」

 

滅は通信を切り、再び暗闇に溶け込んでいった。

 

 

 

とある会社の一室―

 

最新鋭の機械が立ち並ぶ部屋に男が座っている、開いていた通信端末を切ると安堵の溜め息を着いた。

その隣には()()()()()()()()()()()を着けた女性が寄り添って直立している、耳元の機械部分が光ると、何かを察したように手際よくティーセットを持ってきていた。

 

「社長、お疲れ様です。ハーブティーをどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

社長と呼ばれた男はティーカップを受け取り口をつける。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、ひとまず安心だ。まさか千翼が光のエレメンツに会うとは想定外だったけど」

「概ね社長の思惑どうりですね」

「あぁ、滅の連絡が来るまで冷や汗ものだったけどね」

「それは何よりです。それでは、その間手付かずだった書類に押印しておいて下さい、今日中に」

「…え?今から?」

「はい」

「この量を?」

「はい」

「一人で?」

「はい」

「………………手伝っては「社長の確認が必要な書類だけですのでお早く」…ア、ハイやります……」

 

男は徹夜を覚悟し山積みになっていた書類を片付け始めた。

 

 

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バトルシーンが難しい(汗)


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第三話《承知》

ほ、本編が遠い。("゚д゚)


「ん、んんっ......」

 

少年が目を覚まし辺りを見渡すと、少年は見知らぬ部屋にいた。

 

「ここ、どこだ?」

と疑問に感じながらも体を起こし、受けた傷の具合を確かめて大丈夫なのを確認して服を着直した。

服を着終わったタイミングでガチャ!と部屋のドアが開き、ふたりの少女が入ってきた。

 

「よかった。ほのか、あの人起きてる」

「あ、ほんとだ。よかった~」

 

入ってきたふたりを見て少年は思い出す。

 

「君たちはあの時の...そっか俺...あの後気を失ったのか」

「うん。それで私が家に連絡して、ここまで運んでもらったの」

「急に倒れたらびっくりしましたよ。でも元気でなによりです」

 

ほのかの元気いっぱいの笑顔を見て、少年は少しドキッとした。

 

「そ、それで君たちは?」

 

少年は照れ隠しするように話題を変えた。

 

「そういえば、まだ自己紹介していませんでした。私は光井ほのかです」

「私は北山雫、ほのかとは幼馴染。あなたは?」

「俺?...俺は...」

 

少年は少し間をあけて名乗った。

 

「ちひろ。...俺の名前は《千翼(ちひろ)》だ」

 

「千翼...千翼くんですね。素敵な名前です。」

「...」

「どうしたの?」

「いや、名前を褒められたことがなかったからちょっとうれしいんだ」

「そうなんですか?何だかかわいいですね」

「かっ、かわいいって」

「うん、今の反応もかわいかった」

「かっ、からかうなよ/// そっ、それはそうと君たちのことは何て呼べばいいんだ?」

「千翼くんの好きにしてかまいません」

「それじゃあ、ほのかと雫って呼んでいいかな?」

「それでかまいませんよ。わたしはそのまま千翼くんと呼びますね」

「私もほのかと一緒でいい?」

「あぁ。かまわないよ」

 

自己紹介を終えて、三人の間にしばしの沈黙が流れる。

 

「「「あの...」」」

 

どちらからともなく声をかける。

 

「そちらからどうぞ」

 

千翼はふたりに質問を譲る。

 

「それじゃあ、千翼くん。昨日の怪物はいったい何?」

「あと、千翼くんのあの姿はいったい?」

「...本当は話したくない。俺の話はたぶんふたりにとって信じられないことだし、とても残酷だ。それに昨日のようにふたりに危険が及ぶかもしれない。それでも知りたいかい?」

 

千翼はまっすぐふたりの眼を見つめ、問う。

ふたりは千翼の雰囲気が変わったことに少し驚きながらも頷いた。

 

「わかったよ。それじゃ(グウゥゥゥゥゥゥ...)」

 

千翼が話し始めようとしたタイミングでお腹が鳴った。

 

「「「.....」」」

 

部屋の中が静かになる。

 

「プッ!」

「フフッ」

「アハハ!」

 

三人ともそれがおかしくなり、つい笑ってしまう。

 

「大きな音だね」

「ごめん!話はご飯を食べてからでもいいかな」

「じゃあ、千翼くんの分も用意するね」

「え?」

「あ、私も手伝うよ雫」

「い、いやそれは流石に無r……って、あれ?」

 

(俺…何で食事に抵抗無いんだ……?)

 

「「?」どうしたの?」

「な、なんでもないよ!ありがとう雫、ほのか」

「いえ、こちらこそ!」

「いいよ。私達は千翼くんに助けてもらったからこれくらいはね。でも」

「でも?」

「お風呂に入ってきたら?だいぶ汚れているから」

「え?」

 

そういわれて自分の姿を見てみると、確かに服はボロボロで体中土だらけで汚れていた。

 

「たしかにそうだね。ならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「じゃあ、案内するね。ほのか、お父さんの部屋から服を持ってきて」

「うん、わかった。あの部屋だったよね。じゃあ先に行ってて!」

 

そういってほのかはふたりのもとを離れる。千翼はそのほのかの背を見つめる。

 

「千翼くん、いくよ」

「あ、あぁ

 

 

 

....どういうことだ?」

「なにかいった?」

「いや!何も!」 「?」

 

千翼はふたりのやさしさに感謝しながら、雫の後を追うのだった。

 

 

 

 

「気になることがある」

『急にどうした?こっちは死にそうなんだよ!助けてくれ!』

「ネオは食事ができるのか?」

『………おい、いま何て言った?』

「ネオが共に食事をすることになった」

『そんなことあるはずがない!何考えてるんだ!トラウマがあるんだぞあいつは!千翼は…!!』

「落ち着け」

『…スマン、取り乱した』

「暴走したりしたらお前でも容赦はないぞ」

『…分かってる、でも何でだ?』

「それはわからないが、仮死状態の間に何かあったと見るべきだな」

『わかった、【亡】に調査を頼むと伝えてくれ』

『了解』

 

「千翼……」

男は窓から見える輝きを見つめた、その眼は何処か寂しく思えた。

 

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今回はだいぶ短めです。
早く入学編に入りたい(´;ω;`)


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第四話《史話・前編》

今回は千翼の過去編です。
あと3,4話で入学編に突入できたらいいな(´▽`)
それでは本編をどうぞ。


雫の案内でお風呂に入り、ほのかが用意してくれた服に袖を通す。着替え終わり、お風呂場の入り口にいるふたりに声をかける。

その瞬間ふたりは見違えた千翼に一瞬目を奪われた。

 

「えっと、...どこか変かな?」

 

その声でふたりはハッと我に返る。

 

「そんなことないよ!すごくカッコイイよ!」

「その服似合ってるよ、千翼君」

「...なんか面と向かって褒められると照れるな...」

 

三人とも少し顔を赤くしながら、三人一緒に食堂に向かった。

 

 

 

「ごちそうさま」

 

用意してくれた夕食を食べ終えた千翼を見てふたりは驚いていた。

 

「すごい量だったね」

「そうだね。それにお肉と卵しか食べてない」

 

千翼はふたりが食べ終わった夕食の量より数倍多い量をペロリとたいらげていた。

食後の紅茶を一口含み、一息ついた千翼は真剣な眼差しに変わる。

 

「さて、ごはんも頂いたし。そろそろ俺の話をしようか」

 

ふたりはそれを見て気持ちを切り替える。

 

「その前にふたりに一つ質問がある」

「「はい(うん)、私が知っていることなら」」

 

「じゃあ...」

 

ふたりは千翼の次の言葉を待つ。

 

 

 

「...今って、西暦何年?」

 

 

 

「「...えっ!?」」

 

 

予想だにしていない千翼の質問にふたりはキョトンとしながらも、ほのかが

 

「えっと、今は西暦2095年だよ...?」

「にっ2095年!?」

「?なんでそんなに驚くの?」

「...ごめん、でもようやく理解したよ。俺はあの日から数十年経った世界に目覚めたんだ」

「「えっ!?」」

 

千翼の放った言葉にふたりは驚愕する。

 

「ど...どういうことなの!?」

「ほのか落ち着いて。つまり千翼君は、過去の人間ってこと?」

「...それも含めて今から話すよ。俺のすべてを」

「「はい(うん)」」

 

千翼は語り出した。千翼が眠りにつくまでの全てを。

 

 

 

 

 

 

 

それはとある夜のこと、完全武装した集団が森の中を駆けていた。

彼らが行き着いた場所には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見つける。

彼らはその男の子を保護したその時、近くにある廃屋から何かが殺気を放ちながら近づいてきた。

彼らはそれに対して弾幕を張りながらその場を離脱した。隊員に抱えられている子供はその光景を見て大粒の涙を流しながら泣き叫んでいた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その後、その子供は武装集団が所属している《4C(特定有害生物対策センター)》の施設に隔離されてしまった。

4Cの研究者が子供のDNAを調べた結果、人間とアマゾンの遺伝子を持っていることがわかり、さらに食人衝動が激しく、近づいた者の腕を噛み千切ろうとするほどであったという。

4Cのメンバーは暴れるその子に《ネオアマゾンズレジスター》と呼ばれる腕輪型の制御装置を取り付け、子供をモルモットのように扱い、対アマゾン用の戦士として教育・育成してきた。

 

その子供こそが、後の千翼である。

 

千翼が保護されてから5年の月日が流れ、人間に感染し、アマゾンへと変貌させる《溶源性細胞》が蔓延し始めた。

 

この頃の千翼は、アマゾン細胞の影響により5年で心身共に16.7歳程までに成長していた。

千翼は当時4Cで開発されていたネオアマゾンズドライバー(ベルト)とインジェクター、そしてネオジャングレイダーを持ち出し逃走。

 

その後、不良集団に身を置き新種のアマゾンを狩り続けた。その日も教会に現れたアマゾンと戦っている時、一人の少女が現れる。

 

少女の名は《イユ》。

 

彼女の腕には千翼と同じ腕輪を付けていた。そしてイユは腕輪のスイッチを押し、イユはカラスの姿をしたアマゾンへと変身した。

千翼は彼女と協力してアマゾンを倒し、ふたりは変身を解除する。そして千翼はイユの顔を見つめ-

 

「.....()()()()。...俺が...()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう呟きながら、ゆっくりとした足取りでイユに近づいたその時、突如としてアマゾン達が出現して、それと同時に4Cの特殊部隊も現れる。

イユはすぐさま応戦を開始したが、その最中千翼は一瞬のスキをつかれ4Cによって取り押さえられ、4Cに連れ戻される。

 

千翼はそこで、イユが溶源性細胞によってアマゾン化した父親に食い殺され、4Cによってアマゾン細胞を注入され《シグマタイプ》アマゾンとして蘇った少女である事を。それを知った千翼はイユを人として扱うことを条件に4Cの特殊部隊に入隊する。

 

千翼が入隊してからすぐに、4Cは溶源性細胞の感染源が《Aroma Ozone(アロマオゾン)》という会社が出している業務用ウォーターサーバーの水に含まれていることが判明し、特殊部隊はすぐさま会社の所有しているビルに向かうが、そこには何もなくさらに新種のアマゾン達が待ち構えていた。

千翼とイユはそれぞれ変身し、アマゾン達を次々と倒していく。

その最中、千翼とイユの前に一人の青年が姿を現す。彼、《水澤(みずさわ) (はるか)》はふたりを交互に見つめると、腰に装着している《アマゾンズドライバー》のグリップを回す。

 

 

 

《Omega》

 

「アマゾン...」

 

《Evolu...Evo...Evolution...!》

 

 

翡翠色の炎に包まれ、悠は緑色の身体に、赤い釣り目状の複眼を持つ《仮面ライダーアマゾンオメガ》に変身し、イユに攻撃を仕掛ける。

千翼はイユを守るためにオメガに戦いを挑むが、オメガの苛烈な攻撃により千翼は意識を失ってしまう。

オメガは倒れた千翼を一瞥すると、特殊部隊にアマゾンの死骸の腕を渡し、

 

「イユ、()()()()()()()()()。」

 

そうイユに忠告し、その場を去っていく。

 

4Cは悠から渡されたアマゾンの腕が、溶源性細胞のオリジナルだと判明しさらに研究を進めると、溶源性細胞は水分がないとすぐに死滅することが解かり、空気感染や接触感染はないと断定、さらにオリジナルの遺伝子が千翼の遺伝子と一致したのだ。

 

そうとは知らない千翼はイユと共に今日もアマゾンを狩りに出ていた。だが、連携のとれたアマゾン達に苦戦するふたりだったが、そこに黒いフードを被った男が現れる。

男がフードを取ると、男の眼は白く濁っていた。だが男は不敵な笑みを浮かべると、ベルトを装着してグリップを回す。

 

 

 

《Alpha》

 

「...アマゾン。」

 

《Blood&Wild!W..W..W..Wild!》

 

 

深紅の炎に包まれ、男は赤い身体に、全身に黄緑色の亀裂が走り、白い複眼を持つ《仮面ライダーアマゾンアルファ》に変身した。だが眼は白いままだ。アルファは失明をしていることに千翼は気づいた。だがアルファは音やにおいを頼りにアマゾン達を瞬く間に倒していった。

 

全てのアマゾンを倒したアルファは千翼たちの方を向き、変身を解除した。千翼は男の正体にすでに気が付いていた。

 

「...お前が、...千翼か?」

 

「......父さん?」

 

男の名は《鷹山(たかやま) (じん)》彼こそ千翼の実の父親であり、アマゾン細胞の研究にかかわっていた人物である。

 

千翼の中で様々な様々な感情が入り混じる中、仁が近づきながら千翼に言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...千翼。.....()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

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前半はここで切ります。

疲れたー!!

後半は原作改変型のラスト&編入試験(?)までいきたいです。

感想などもどしどし受け付けています。

これからも応援お願いします!


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第五話《史話・後編》

大変お待たせしましたー!!!

本編までまだかかりそうです(汗)

あと4話くらいで本編いけたらいいな


「...千翼。.....()()()()()()()()

 

それを聞いた千翼は驚きを隠せなかった。だが仁は容赦なく千翼に攻撃を仕掛けてくる。

だが千翼は仁の盲目という弱点を突き、その場から離脱することができた。

 

その後4Cに戻った千翼は、自分が仁の実の息子である事と、千翼が溶源性細胞のオリジナルで今まで確認されているアマゾンの中で極めて危険なアマゾンであることを告げられ、すぐに凍結処分が下された。

千翼は自分のせいで他人を巻き込んだことを悔やみ、イユの身を案じてその処分を受け入れた。

凍結処分用のゲージに入り、処置が開始しされた。その間に、イユを見ていた千翼は自分の思いに気付いた。

 

「(イユ、俺は初めてお前を見た時、初めて人を食いたいと思わなくなった。お前と一緒に居れて嬉しかった。イユ、俺は....お前が.....欲しいんだ!!)」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

処置が完了する直前、千翼の体から無数の紫色の触手が現れ、ゲージを破壊する。

そこには六本の腕と大量の触手を持つアマゾン形態となった千翼が佇んでいた。

側で警戒していた4Cメンバーと特殊部隊を暴走するままに虐殺していく。

イユも千翼を止めるために応戦していたが触手の一本がイユを捉え、ついた傷口から血が滴り落ちる音を聞いて、千翼は元の姿に戻る。

その後、意識を取り戻した千翼は辺りを見渡し、この事態を引き起こしたのが自分だとわかり、狂乱しながら4Cを脱走した。

これにより千翼は最大級の駆除対象となった。

 

4Cから追われる身になった千翼は仁と再会し、千翼は生きるために、仁は千翼を殺すために、互いにネオとアルファに変身し激突する。

しかし、アルファの攻撃に押されていくネオ。そして倒れたネオにとどめを刺そうとした時、ネオはアマゾン態になり、触手がアルファを攻撃している隙にネオはその場から逃げる。

しばらく走り続け、人気のない草原に来た千翼はイユと再会する。

 

イユも千翼を駆除するために千翼を追っていた。自分を殺しに来たイユに千翼は想いを告げる。

 

「イユ、.....。俺はお前と戦うよ。....()()()()()()()()()()()()!!」

 

そう言って千翼はネオに、イユはカラスアマゾンに変身し、戦いを始めた。

その最中に千翼を追ってアルファが現れ、イユに代わってネオと戦い始める。

そしてアルファの攻撃によって変身が解除された千翼にアルファが止めを刺そうとした時、傍観していたイユがアルファに攻撃し、止めを防いだ。

そしてイユは千翼に近づき、手を伸ばす。

 

「千翼、痛かった?痛かったなら私も一緒に」

 

千翼の想いを感じたイユは千翼と共に逃げる道を選んだ。だが4Cではイユを廃棄することが決まり、腕輪の廃棄システムが起動させた。

千翼はイユの腕輪のシステムを止めるため、共に4Cに向かう。4Cの前では特殊部隊と戦闘部隊が待ち構えていたが、それでも千翼はイユのために彼らに一人で立ち向かった。

 

しかし、戦いの最中に悠が現れ、千翼と同じベルトを装着し、インジェクターを差し込みレバーを上げる。

 

 

「アマゾンッ!」

 

 

悠は雷声を上げながら勢いよくレバーを押し込む。

 

 

《New・ O・me・ga...!》

 

 

悠はオメガの頭部とボディに、バイザー銀色の一部欠陥したような追加装甲が装着された《仮面ライダーアマゾン ニューオメガ》に変身し、ネオと戦う。

それによりネオはアマゾン態になりかけたが千翼はこれを何とか抑える。

ネオは一気に劣勢になり大量の銃弾を浴びながらもイユと共にその場を離脱した。

システムを止められなかったが、最後にイユは千翼とふたりだけの時間を過ごすため、閉園した遊園地跡にやってきた。楽しい思い出が一つ増えたイユは柔らかな笑みを浮かべながら、静かに息を引き取った。

 

千翼はイユを背負い母親と暮らしたあの廃墟に向かった。そこで千翼に追いついた悠と仁がふたりの前に現れる。

千翼はイユをそっと降ろし、イユの頬を優しくなでる。

 

 

 

「......どうしても?」

 

ふたりの目的をわかっていながらも千翼は改めてふたりに問う。

 

「溶源性細胞は危険すぎる。君自身にもコントロールできないくらいに」

 

悠ははっきりと断言する。

 

「...そうだね。...イユがこうなった理由は......俺だ。他の人達も、それに...母さんも-」

「違う」

 

千翼が母親の一件を口にした時、仁がそれを否定する。

 

「...()()。.....だからな、俺が送ってやる...()()()()()()()()

 

千翼にとって仁の言葉は最初で最後の父親らしい言葉に聞こえた。

 

「.....わかった。...でも......俺は最後まで生きるよ」

 

そう言いながら千翼はベルトを装着し、()()で自分の決意をふたりにぶつける。

 

「...やっぱり。お前は母さん(七羽さん)にそっくりだ」

 

仁はうっすら笑みを浮かべながらベルトを装着し、悠も同じタイミングでベルトを装着する。

 

 

《Alpha...!》

《New·O·me·ga...!》

《Ne·o...!》

 

 

 

「「「アマゾンッ!!!!!!!」」」

 

 

 

三人同時に炎が噴出し、ネオ、ニューオメガ、アルファに変身する。

三人はそれぞれ構えを取り、そして同時に駆け出す。

 

 

 

「「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」

 

 

それからどれくらいたっただろうか、三人は血まみれで倒れ伏していた。

千翼は回復できないほどの深い傷を負ったが何とか立ち上がり、イユの元へ歩み寄り、頬にそっと触れる。

 

「...イユ。...俺はおまえの分も生きるよ。...だから俺が来るまで、待っててくれ」

 

そう言って、千翼はイユから離れ、その場を去った。

バイクに乗り人気がない場所へと走る。

ひたすら走りつつけて気が付けば千翼は山奥の洞窟の中にいた。傷のせいで意識が段々薄れていく中、千翼は強く願う。

 

「まだだ...!...まだ俺は...()()()()!!!!」

 

その時、千翼の溶源性細胞が千翼をアマゾン形態に変え、そのまま仮死状態となり千翼は深い眠りへとついた。

 

そして数十年の時が過ぎ、千翼は覚醒し、運命の出会いを果たすのだった。

 

 

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今回で過去編は終了ですが、難産でした(疲)

前のあとがきで編入試験を入れる予定でしたが急きょ外すことになりました。

楽しみにしていた方々申し訳ない!

次回はある種のキーマン(?)の登場!


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第六話《転機》

今回はあのおじ様が登場!
あんな人が上司なら仕事も楽しそう...


千翼の話が終わり、静寂が続く。

ふと千翼は二人を見る。

雫の表情は読み取れないが、横で両目に涙を浮かべているほのかにハンカチを渡している手は微かに震えていた。

 

「千翼くん、つらいはずなのに話してくれてありがとう」

 

ほのかは雫から受け取ったハンカチで涙を拭きながらそう言った。

 

「うん。千翼くんの事ちょっぴり解った気がする」

「千翼くん!」

 

いきなり大きな声で呼ばれた千翼は驚いてそちらを向くと、

 

「私、千翼くんの力になりたい!」

「私たちにできることなら何でも言って」

とほのかと雫は決意を千翼に打ち明ける。

 

「...二人共、いいのか?俺のそばにいたら危険な事に巻き込まれるかもしれないのに」

 

昨日の事があったためふたりを心配する千翼だったが、

 

「確かにあの時、すごく怖かったよ。でも千翼くんが助けてくれた」

「だから今度は私たちが貴方を助ける番」

 

二人の覚悟を感じた千翼はそれ以上は何も言わなかった。

 

「...分かった、それじゃあ頼りにするよ。ほのか、雫」

「「うん!」」

 

ふたりの気持ちのいい返事を聞いて千翼は微笑んだ。丁度その時だった。

 

 

「ただいま」

 

 

扉が開いて食堂に入って来たのは()()()()()()()()()()

 

「...え?」

「.....」

 

千翼は驚き、ほのかは呆気に取られていた。そして雫はと言うと。

 

「おかえりなさい、お父さん」

 

驚くどころか、慣れている様子で軍服の人を迎え入れた。

 

「...え?...雫の...お父さん!?」

「うん。そうだよ。」

 

何で軍服を着ているのかなど千翼が不思議に思っていると、男性は笑みを浮かべながら千翼に声をかけた。

 

「いやぁ、すまない驚かせてしまったね。私は《北山(きたやま) (うしお)》、雫の父親だ。話は聞いているよ、娘たちを救ってくれてありがとう。感謝するよ、千翼君。」

「あ、ど、どういたしまして...って何で俺の名前を?」

「...それを話す前に君にこれを返さなければ」

 

そう言って潮は持っていたジェラルミンケースを机に置く。

鍵を開け開くと中にはベルトとインジェクターが入っていた。

 

「それは!俺の...!」

「君が家に運ばれて来た時、このベルトを見てもしやと思い、私の親友に頼んでベルトと君のDNAを調べてもらった、その結果このベルトが数十年前に作られた物であり、君が今は存在していない製薬会社の4Cという組織がかつて保護した少年であることも分かった」

 

そう言いながら潮は千翼にベルトとインジェクターを返し、千翼もそれを受け取る。

 

「...俺の事はどれくらい知っているんですか?」

「...君が普通の人間ではない事と少なからずアマゾンと呼ばれる存在の事もね」

「...そうですか」

「だからと言って君をどうこうしようという訳ではないよ。君は娘たちを助けてくれたそれだけで十分だ。」

 

それを聞いて千翼は嬉しくてたまらなかった。千翼は自分より年上の人に感謝されたことがないのでとても嬉しくなっていた。

 

「もし君が良ければ、君が何をしたいのか言ってごらん。できることなら私と親友が協力しよう。訳あって親友はまだ顔を出すことができないらしいけどね」

 

潮は千翼にそう提案する、そう言われた千翼は少し考え、ゆっくりと口を開く。

 

「できるなら、ほのかと雫と一緒にいさせてください。二人と一緒にいると何故か落ち着くんです。まるでイユと一緒にいるみたいで」

 

千翼は素直に真っ直ぐ潮の眼を見て答えた。しかし、潮は少し難しい顔をしていた。

 

「うーん…一緒にか。幸い千翼君の戸籍と住む場所は何とかできるが…。学校まではどうかなぁ?あそこは魔法師達しか通えないところだからなぁ」

「…魔法師?」

 

聞きなれない言葉に首をかしげる千翼に、ほのかと雫が答える。

 

「えっと、魔法師っていうのは、簡単に言うと、魔法を使う人の事だよ」

「私たちは、その魔法師でもあるの」

「魔法かー。へー、そうだったんだ」

 

千翼は驚くことなくすんなり受け入れた。

 

「…千翼くん、そこは驚かないんだね」

「うん。ふたりから、普通の人とは違う気配を感じたんだ。あの闘いの最中に強い光を放ったのが魔法なら納得だよ」

「そこ納得するんだ…」

 

少し呆れ気味に溜息をつく雫に対してほのかはあの日の事を思い出し、千翼に()()()を伝える。

 

「あ、でも千翼くんもしかしたら、魔法使えるかも!」

「?どういう事?」

 

ほのかが言ったことがわからない千翼はほのかに質問を返す。

 

「実は昨日、千翼くんがアマゾンと闘っている時、少しだけど《サイオン》の光が見えたの」

「《サイオン》?」

「魔法を発動させる際に、発生する粒子をサイオンと呼ぶの。ほのかは光に対して人より過敏に反応するの」

「そうなんだ。それでそのサイオンが発生していたから、魔法が使えるってこと?」

「んーまだそうとは言い切れないから。今から千翼君に実際にやってもらおうと思って」

 

そう言ってほのかは自分の手首に着けている《腕輪》を外し、千翼の手首に取り付ける。

 

「これは?」

「これは《CAD》っていってね、魔法を発動させるために必要なものなの」

「へぇ~、魔法って呪文を唱えるイメージがあったけど、これだけでいいんだ!すごいな~」

 

そう言いながら興味津々にCADを見つめる千翼は、年相応な子供っぽさが垣間見えた。

 

「千翼くん、そろそろ始めよう」

「おっと!そうだった。まずは…えっとこれどうやるの?」

「ちゃんと教えるから。まずは…」

 

ほのかと雫がCADの使い方と魔法を発動させる際のやり方を千翼に教えた。千翼はふたりのおかげで原理を理解することができた。

 

「ふたりとも離れて。…よし!行くぞ!」

 

ふたりを離れさせると千翼は意識を集中し、先程見たほのかの光魔法をどのように発動するかをイメージすると、体からサイオンが発生した。

それをCADに注入し、CADから出てきた魔法の設計図である《起動式》が千翼の肉体に取り込まれ無意識下に送られる。

そして、自分の前に座標を固定し、自分の無意識下に存在する《魔法演算領域》にて《起動式》《座標》《出力》《時間》を入力し、事象に付随する《情報体(エイドス)》へと魔法式を投射する。

すると、千翼の前で強い光が放たれた。それは数秒で収まる。

 

「で…出来た」

「…うん、出来てたね」

「すごい…すごいよ千翼くん!初めてで、しかも見ただけであの精度で魔法式を展開できるなんて!!」

 

千翼自身もとても驚いていた。本当にふたりに教えられたとおりにやったら、あっさり出来てしまったのだ。

 

「これが...魔法」

 

しばらくの間千翼は感動の余韻に浸っていたが潮の発言で我に返る事となった

 

「初めてでこれほどとは…。とてつもない逸材だ。これなら編入試験を受けることができる」

「…試験?…あ、そっか!学校に行くってことは勉強できなきゃいけないのか。」

 

千翼は4Cにいた頃から学問に触れてこなかったため、勉強がからっきしだったのだ。だが

 

「大丈夫。千翼くんなら合格できるよ」

「私たちも手伝うから一緒に頑張ろ!」

「...そうだな。こうなったらとことんやるだけだ。二人共よろしく!」

「「うん!」」

「では戸籍の手配と編入の手続きは私がしておこう。入学式に間に合うように一週間後にしてもらうように頼んでおこう」

「あ、その事なんですが」

「ん?どうしたんだ?」

「俺、名字が二つ…あるんです」

「ほう」

「それだけの事何ですが…えっと…」

「成程、どちらの名字も使える様にして欲しいんだね?」

「はい、流石に出来ない-」

「分かった、そちらも何とかしよう」

「!潮さん…ありがとうございます!」

 

こうして千翼は、ほのか達と同じ第一高校の編入試験に合格するため、雫の家で猛勉強と魔法の訓練を開始した。

 

編入試験は筆記試験と実技試験の二つがあるが、主に実技試験が評価されるため、実技で良い成績を取れば編入できる。

しかも千翼はとてつもない吸収力と戦いで培ったセンスで教えたことを模倣する事ができたので、たった二日で問題なくクリアできるレベルになった。

 

筆記試験の方は中学までの学問と魔法に関する事を短期間で覚えないといけなかったため、千翼でもなかなか覚えられなかったがふたりに丁寧に教えてもらいながら少しづつ進めていった。

 

四日目の夜、返ってきた潮に千翼は住む場所について提案した。

潮や雫は家に居ていいと言っていたが、いつまでも厄介になるわけにはいかない事を二人に伝え、話し合った結果、雫の提案によりほのかの住んでいるマンションに部屋を借りることになった。

 

しかも千翼の部屋は光井家のお隣なので、ほのかは試験前日まで千翼の部屋に様子をうかがいに来る事になる。

 

それを聞いた雫に『まるで通い妻みたい』と言われて、千翼は少し照れて、ほのかは顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

翌日、ついに第一高校の編入試験を迎え、三人は第一高校の校門に立っていた。

 

 

「…いよいよか。今更なんだけどすっごく緊張してきた」

 

千翼はそう言いながら、両手を強く握りしめる。

 

「大丈夫、千翼くんなら絶対に合格できる」

「そうだよ!千翼くんがどれだけ頑張っていたかは私たちが一番分かっているよ!だから頑張って!」

 

二人の応援が緊張が解け、自信が湧いてくるのを感じていた。

 

「二人共ありがとう。…それじゃあ、行ってくる」

「「行ってらっしゃい!!」」

 

千翼はふたりに見送られながら校門をくぐり、己との戦いに挑むのであった。

 

 

 

 

「これでよかったかな?」

『あぁ、色々あんがと』

「急に連絡が来たからどうしたかと思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()驚いたよ。それでこれで貸し1だね?」

『ちゃっかりしてんな~、()()()()、試験運用っていう形で何体か融通きかせてやるよそれで貸し借り無しだ』

「いいのか?渡りに船だが」

『頼んだのはこっちだからな。それに無理して動いてくれた友達にはそれ相応の敬意と対価がないとね』

「…結局彼との関係は教えてくれないんだね?」

『それについてはしかるべき時にちゃんと話すよ、潮』

「君がそういうならいまは聞かないよ……。でも雫に何かあったら…『大丈夫』っ」

『俺達が守り抜く、()()に』

「………、分かった。君を信じるよ、

 

 

 

 

 

 

【来人】」

「お待たせしました!」

『時間だな、千翼の事気に掛けてやってくれ』

「任せてくれ(ボソッ)……二人ともおかえり」

「誰と電話してたの?」

「あぁ、取引先からの連絡だよ―」

 

潮は真面目な顔から朗らかな顔に戻ると、二人の娘の元へ歩いていった。

 

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ついに千翼を魔法に触れさせることが出来ました!!
自分で書いてて思ったのは、見た魔法の再現ってなかなかチートですね(笑)

そして千翼に執着する【来人】とは何者なのか?

次回!あの兄妹再臨!早く千翼と合わせてあげたいです!


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第七話《仮面・前編》

お待たせしました!
今回は前後編に分かれてお送りします。
それではどうぞ!!( っ・∀・)っ


千翼の編入試験から一週間が過ぎた。

 

「千翼君。これどこに置いたらいい?」

「それはまだ決めてないからそのままにして」

「分かった。『千翼君ー。これはどうするのー?』」

「ちょっと待ってて。今そっちに行くから」

 

千翼達は現在千翼の住んでいる部屋にいた。

一週間前に受けた試験は見事合格。その通知が届いた時は三人でとても喜んだ。

それを潮に合格した事を告げると、そのお祝いとして家具や生活用品などを送ってきてくれたので、三人で手分けして家具の設置と生活用品の整理を一緒にしている。

 

本当に潮には頭が上がらないくらいに感謝している。いつかこの恩を返していこうと改めて千翼は心に決めた。

 

 

.....それから二時間後

 

 

「これをこうして...よし、これで終わり!」

「出来たぁぁぁ」

「お疲れさま二人共、紅茶入れてきた」

「「ありがとう(~)、雫(~)」」

 

部屋のリフォームが終わり、雫が入れてきてくれた紅茶で三人は一息つく。

 

「さて、二人共これからどうする?昼飯には早いし...」

 

その言葉を聞いて二人は互いの顔をみて頷き合うと、千翼に向き直して

 

「それじゃあ、千翼君!一緒に出かけようよ!」

「うん、それにこの辺りの地理を知っておくと色々便利だよ」

「それもそうだな、よし、それじゃあ行こうか。」

「「うん!」」

 

千翼はベルトを入れたリュックを持つと、部屋を出るふたりに続いた。

 

 

 

 

 

 

―同時刻・横浜

 

 

 

「♪~」

 

深雪は小さな袋を見つめながらとても嬉しそうに達也の隣を歩いていた。

 

「深雪、前を見てないと危ないぞ」

「!すみませんつい...」

 

横浜の街中を歩く司波兄妹は横浜ベイヒルズタワーに向かっていた。

道行く人が深雪を見て見とれてしまうほどに深雪の微笑は可憐だった。

 

「こんなに素敵なプレゼントを頂けて、深雪はとても幸せですお兄様」

 

そう言って深雪は手に抱えている小さな袋を抱えなおした。

今日3月25日は深雪の誕生日である為、二人で外出することになり、その道中に素敵な細工の髪飾りを見つけ、達也が深雪にプレゼントしたのだ。

 

「気に入ってもらえたようでなによりだ。だけど遠慮はいらないぞ。これはおまけみたいなものだ。」

「おまけだなんて...嬉しいです本当に」

 

プレゼントも嬉しかったが、深雪は誰よりも敬愛する兄に()()()()()()()()()()()()()()が何より嬉しかった。そして深雪はふと思ったことを達也に質問する。

 

「そういえばお兄様、何故この髪飾りに目を留められたのですか?」

 

確かに綺麗なデザインで細工も丁寧であったが、それだけで達也の目を留める理由にはならない。

 

「よく考えられたデザインだと思ってね、設計者に興味がわいた」

「設計者...ですか?」

「あぁ、この飾りの部分は六芒星魔法陣の基本を忠実に踏まえそれでいながら余計な属性効果を発生させないよう注意深くバランスを取っている。魔法師が使うことを前提としたものじゃなくて『魔除け』の類なんだろうけど魔工師としても十分やっていける腕じゃないかな。」

「もしかしたら魔工師がアルバイトでデザインしたものなのかもしれないな」

「そうなのですか?」

 

深雪は達也がそこまで言うほどの腕を持っているのなら目に留まったのも納得だと思っていた。

 

「見たところ魔法の力は感じられませんが」

「飾り自体に魔法を発動させる力は無いよ。...魔法とはそう簡単に使えるものじゃない」

「.....そうですね」

 

達也の言葉に深雪は暗くなってしまうが、達也は深雪の頭を優しく撫でる。

 

「この話はここまでだ、せっかくの深雪の誕生日が台無しになってしまう」

「お兄様...そうですね」

 

達也の気遣い深雪は沈んでいた気持ちを切り替え,二人だけの時間を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

ー同時刻・横浜ベイヒルズタワー東棟 とある飲食店内

 

 

 

「二人共今日はありがとう。ここは奢るから好きなの頼んでくれ」

「それはいいけど。千翼君お金は大丈夫なの?」

「あぁ、潮さんに小遣いを貰ってるから」

 

そう言いながら財布を見せた。だが財布を見たほのかが苦笑いしていた。

 

「...へ、へぇ~!そ、そうなんだぁ~...」

「? どうしたんだほのか」

「お父さんほのかを娘みたいに可愛がってるから、会うたびにお小遣い攻めしてるの」

「...そうだったのか」

 

千翼もこれまでの潮のほのかに接し方を思い出していた。

 

(確かに潮さんは優しい人だけど凄くひょうきんな人なんだよなぁ)

 

初めて会った時もなぜか軍服姿をしていたので、後で雫に潮さんは軍人なのかと聞いたら、よく分からないと言われた。何でもたまにああいうコスプレをする時があるのだそうだ。

試験があった日も三人の姿が見えなくなるまで満面の笑みで手を振り続けていたのだ。

 

「と、とりあえず何か注文するか!」

 

これ以上触れてはいけないと本能的に察した千翼は話題を切り替えようとした。ほのかも自分を気遣ってくれたと気づき、明るい笑顔が戻った。

千翼はその笑顔に一瞬ドキッとしたが、それがばれないようにメニュー表を穴が開くほど見つめていた。

 

 

 

 

 

 

―同時刻・横浜ベイヒルズタワー内

 

 

 

♪~♪~♪~♪~

「はい...」

 

 

達也は携帯を取り出して、通話をしていると達也の顔色が少し変わった。

 

「いえ、今日は.........分かりました」

「どうかされたのですか?」

()()から呼び出しだ」

「四葉の...!?」

()()()()の受け渡しだそうだ。場所が魔法教会関東支部(近く)だからすぐ行けるが、何故今日...」

 

今日一日深雪と一緒にいると約束したのにと悔やむ達也だったが、

 

「お兄様、私は大丈夫ですから、気にせず行ってください」

 

そんな達也の心中を察したのか、深雪は達也に声をかける。

 

「...すまない、すぐに戻るよ」

「はいお待ちしております」

 

達也はそんな深雪の頭をなでると深雪は嬉しそうに目を細めた。

 

「では、行ってらっしゃいませお兄様」

「ああ、行ってくる」

 

達也は関東支部に向かうべく深雪の頭から手を放し、支部へと向かった。深雪は達也の手が離れた時、少しだけ名残惜しそうにしていた。

 

 

 

その頃、千翼達は昼食を食べ終え、タワー内を散策していた。

 

「ねえ千翼君。次はどこに行く?」

「...そうだな、...遊園地かな?」

「遊園地?へぇ~意外と子供っぽいね」

「い、いいだろ別に///」

「わ、私はいいと思うよ!」

「...冗談。私も賛成。」

「からかうなよ雫...。じゃあ(ゾワッ)!!!」

 

千翼は()()()()()()()()()()を微かに感じ取り、その方向に振り向いた時だった。

 

 

 

ジリリリリリリリリリリッ!

 

 

突如火災ベルが鳴り響いた。

 

 

 

【当ビル内にて火災が発生しました。壁面の避難経路に従って速やかに退出してください。繰り返します当ビル内にて...】

 

 

アナウンスが流れると同時に壁に避難経路が表示される。

 

 

「火事!?ビルの中で!?何で急に!?」

「分からない。火事が発生したならこのビルのスプリンクラーが作動するはず。それが作動しないなんて」

 

雫の言葉に疑問を抱いた千翼は避難経路の案内を見直すと、そこには〔スプリンクラーは熱で故障しているため作動しません〕と表示されていた。

 

「熱で故障!?スプリンクラーは耐熱性の素材で出来ている筈だ!それが作動しないって事は」

「雫、もしかしてこの火災って...」

「間違いない。この火災は魔法師が起こしたもの」

「それで間違いなさそうだ。それにベルが鳴る少し前に微かにだけどアマゾンの気配を感じたんだ。もしかしたらここにアマゾンもいるかもしれない」

「そんな!?」

「まだそう決まった訳じゃないけれどもしそうなら.....俺が狩る!」

「千翼君、私にも手伝わせて!」

「ほのか!?でも...!」

「でもじゃないよ!千翼君の事だから『ここから避難して』って考えるでしょ!千翼君がひとりで危ない場所に向かうのに逃げるなんてできないよ!だから私にも手伝わせて!」

「私もほのかと同じ。それに...ほのかは一度決めたら絶対に曲げない」

「(二人共...)...分かった!二人共一緒に来てくれ!ただし!危険と判断したらすぐに逃げてくれ!それだけは守ってくれ。」

 

二人が頷くのを確認した千翼は火災の中心に向かって走り出した。

 

「―やれやれ、折角滅と変わってもらったのにアマゾンが出るなんて、僕ってばついてる♪」

 

フードを深く被り、にこやかに笑う青年の手には()()()()()()()()()()が握られていた。

 

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今回はここまでです!
次回は戦闘回です!

カードキーの様なものを握る青年とは!?

がんばるぞー[_(´・ω・`)_ ]フンスッ!


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第八話《仮面・後編》

お待たせしました。
色々詰め込んでいたら6000字越えてしまった!
では、第八話どうぞ!


(...まさかこんな事が起こるなんて...)

 

達也との待ち合わせの場所に向かっている時

強力な魔法が行使されたシグナルを感じた瞬間、非常ベルが鳴り響く。深雪はこの火災の発生源と思われる場所に向かうと、燃え盛る炎の中心にひとりの男がいた。

 

「ハハハハハ!燃えろ!燃えろ!!見たか!これが俺の力だ!燃やすことしかできないとお前たちが馬鹿にした俺の魔法だ!!」

 

深雪は男を見ていて狂気じみた()()を感じ取り、髪飾りが入った袋を燃えていないところに置くと、CADを取り出す。

 

 

(犯罪に魔法を利用するなんて...絶対に許せない!この火災私の力で止めて見せる!)

 

 

 

 

 

 

深雪が決意を固めてた同時刻、千翼達は深雪と同じように火の手が回っていない場所から男を視認できる場所にいた。

 

「いた!あそこだ!」

 

そこから見えたのは激しく燃えるエントランスの中心で高笑いをする男の姿だった。

 

「ひどい...何でこんな事をして笑っていられるの...おかしいよ!」

「ほのか、気持ちはわかるけど今は落ち着いて。それでどうなの千翼くん?」

「.....間違いない。あいつがアマゾンだ。」

 

千翼はそう答えるとリュックからベルトを取り出し装着する。今はほのかの魔法で光学迷彩がかかっているため奴には気づかれず、監視カメラにも三人の姿は映っていない。

 

チャンスと思った千翼が飛び出そうとした時、男の魔法が千翼達がいる場所に近い柱に偶然魔法を放った。千翼はいち早く察知し、二人を爆発から守る。その際に飛んできた瓦礫が千翼の頭に直撃する。

 

「グゥ!」

「千翼くん!」

「大丈夫だ!...クソッあの魔法が厄介だな。それにあいつの周りの火の勢いが増した。あれじゃ近づけない!」

「そうだね、おまけに監視カメラもある。カメラはどうにかなるけど、私たちの中にあの火を消す魔法を使える人はいない」

「それじゃあどうしたらいいの...」

 

三人で打開策を考えていたその時だった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「!?馬鹿な!いったい何が...!?」

 

男も急に炎が消えたことに動揺を隠せないようだ。

 

「!誰だ!」

 

千翼は男の見る方を注視すると、男の近くに()()()()()()が立っているのが見えた。

 

「あの子は一体?」

「あ!あの子ってもしかして!?」

「知っているのかほのか」

「うん!入学試験の時に見たの。すごい魔法力を持っていたんだよ!」

「ということは...あの子が火を消したのか!?」

「そうだと思うよ」

 

千翼は雫の肯定を聞きながら彼女の方に目を見やる。

 

 

 

「貴方こそ何者です。魔法を使って放火するなど断じて許されることではありません!」

「何だとっ、誰が許さないと言うんだ!国か!軍か!それとも俺を見下した協会の奴らか!?」

 

男のあまりにも子供じみた問いに深雪は憐みの目を向けていた。

 

「俺を馬鹿にするな!見下すな!やめろ、そんな目で見るな。俺は出来損ないなんかじゃない!その証拠を見せてやる!」

 

男はCADを深雪に向かってかざし、魔法を発動させた。

 

 

しかし何も起こらなかった。

 

 

「何っ!...まさか、()()()()...だと?」

 

男は上に後ろに、辺り一帯に魔法を放ったが、ただ体力を消耗するだけで何一つ起きなかった。

 

「馬鹿な...俺の魔法を完全に無効化している...」

 

上級魔法師と自分との圧倒的な差、それを悟った男は()()()()()を使うことを決意する。

 

「これだけの力を手に入れながら...今更手遅れですが...せめて自首してはどうですか?」

 

深雪は不用心に男に近づきながら男を忠告するが、男はほくそ笑んだ。

その瞬間、男の顔に黒い腫瘍が浮かび、体から蒸気が噴出した。深雪はすぐに距離を取りCADを構えた。そして蒸気が収まるとそこにはクワガタの怪物が佇んでいた。

一瞬驚いた深雪あったが、男の変化の過程が()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気付いた。

 

「その姿はまさか...お兄様がおっしゃっていた...アマゾン!」

「ホウ?コレガナニカシッテルノカ。マアイイ、コノ姿ハ俺ガ新タニ手二シタチカラダ。コノ姿ノ俺ハ最強ダ!ハハハハハ!」

 

そう言ってクワガタアマゾンは多数の触手を生成すると、一斉に深雪に向けてけしかけた。

深雪は触手を魔法で凍らせて動きを封じていくが、凍らせきれなかった一本がCADを弾き飛ばす。

 

「!しまっ...!」

 

落としたCADに気を取られた隙を突かれ、深雪にクワガタアマゾンの触手が迫る。

 

(...申し訳ありません。お兄様...)

 

深雪は死を受け入れ、そっと目をつむったその時だった。

 

 

 

《Ne·o...!》

 

「アマゾンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

「「千翼くん!?」」

「二人は何とかして監視カメラを頼む!北棟前で落ち合おう!」

「「!分かった(よ)!」」

 

そう二人に告げ、千翼は駆けだす。千翼はいてもたってもいられなかった。

 

二人に声をかけれただけマシな方だと千翼は思っている。

 

()()()()()()()()()()()()()()と思ったら、考えるより先に体が動いていたのだ。

 

 

《Ne·o...!》

 

「アマゾンッ!」

 

そんな声が聞こえたと思ったら何かが上から来ているのを感じる。

 

「ハァッ!」

「何!グハァ!」

 

直後、気合いの声と共に打撃音と先程の男の苦悶の声が深雪の耳に入ってくる。

 

(一体何が...?)

 

深雪はゆっくりと目を開けると、そこには先ほどのアマゾンとは違う()()()()()()()()()()()()が目の前に立っており、あのアマゾンは向こうの壁に叩き付けられたようだった。

 

「青い...アマゾン!?」

 

その声で青いアマゾンはその黄色い目をこちらに向けた。深雪はとっさに身構えたが、

 

「...大丈夫か?」

「!は、はい...」

「ならよかった。君は下がっててくれ」

「わ、分かりました」

 

見た目とは裏腹に、澄き通ったどこか優しさのある声に、深雪は少し動揺しながらも答え、彼の指示に従った。

彼はそれを見届けると、壁から出てきたアマゾンに向き合う。

 

「オ、オマエハ!オレトオナジ..ソ、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

クワガタアマゾンは、千翼に顎を突き出すが、それを片手で受け止められ反撃のパンチを数打くらう。

 

「グアッ!」

 

反撃を受けてなお、攻撃を続けるクワガタアマゾンだったが、躱し、いなされ反撃を食らう。

倒れこんだ隙に千翼はベルトのインジェクターを押し込む。

 

 

《Blade·Loading...!》

 

 

すると、右腕のアーマーが展開しネオブレードを生成し、それを構える。

 

「バ、バカナ、俺以上ノチカラダト、ソンナコトガアッテタマルカァ!!」

「!マズイ!」

「え?」

 

クワガタアマゾンはCADをあろうことか惚けていた深雪に向けて魔法を放とうとした。

 

(クソッ、間に合わない!)

「ハハハハハ!死ネェ!!!」

 

 

 

「俺の妹に何をする」

 

「グアァァアァ!」

 

突然CADを持っていたアマゾンの腕が()()()()()。深雪はハッと我に返りその声の主に振り返る。

 

「お兄様!」

「すまない深雪、どうにか間に合った」

 

 

(あの子のお兄さんか...。彼女を任せてよさそうだ)

 

「すまない彼女をたの-」

「動くな」

「!」

「お前は何者だ。もし深雪に危害を加えるつもりなら容赦はー」

「待ってくださいお兄様!」

「...深雪?」

「落ち着いてください。彼はわたしを助けてくださいました。彼に敵意はありません」

「...そうか、すまなかった」

「いやお前の気持ちもわかる。あとは任せてくれ」

 

 

「ガアァァァァァ!!」

 

 

クワガタアマゾンは先ほど切り落とされた腕を再生しきっていた。

 

「成程。あれがアマゾンの再生能力か」

「個体差はあるけどな...。ッツ!」

 

ネオはそう答えると、ベルトのスロットを一度下げて、再び上げる。

 

 

《Amazon·Break...!》

 

 

そして、ブレードを構え直す。

 

「ウオォォォォォォ!」

 

クワガタアマゾンに向かって駆け、その勢いのまま袈裟切りに切り込む。

 

「馬鹿メ、俺ノ皮膚ハ銃弾スラトオサナイ!」

 

クワガタアマゾンはそのまま受け止めようとした―

 

 

「でも足止めにはなるでしょ?」

「え!?」

「ナ、ナニッ!?」

 

()()()の声に振り向いたその時至近距離から()()()()()()

ブレードは受け止められることはなく、腕ごと胴体を斜めに切り裂く。

 

「バ、馬鹿...ナ...」

 

体を微塵に切り裂かれた体は再生することなく茶色く変色した。死んだことを確認した千翼は二人の方に向く。

 

「君たちも早くここから離れた方がいい。それとアマゾンを知ることは危険が伴う、...これ以上アマゾンに関わるな...絶対に...」

 

《Claw·Loading...!》

 

千翼は右腕に《アマゾンネオクロー》を生成し、上に向かってクローを放出しフェンスに引っ掛け上昇すると、そこで姿を消した。

 

「あの姿...《ネオ》と呼ばれるアマゾンか」

「《ネオ》?それが彼の名前なのですか?」

「あぁ、でもこの話はまた今度だ、すぐに移動するぞ。非常事態とはいえ魔法協会支部のすぐ側でやりすぎだ。魔法に対する監視網の密度は都心の比じゃないんだぞ。」

「あっ」

 

深雪は先ほど自分がいた場所に視線を送る。

 

「急ぐぞ。プレゼントはさっき回収しておいた」

「!いつの間に...」

「話は後だ。監視システムの画像データを『分解』しておいた、行くぞ」

 

達也は深雪の手を取り、その場から走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

一方、千翼は司波兄弟と別れた後、見つからないように変身を解き、前もって三人で待ち合わせしていた場所で合流した。

 

「千翼くん!」

「お疲れさま」

「ハァ...ハァ...そっちもな...ふう、なんとかなったな」

「うん。...でも大丈夫かなぁ」

「まあ、大丈夫だろ...と俺は思いたい」

「全然大丈夫じゃないよ!...何だか私不安になってきちゃった...」

「ほのか、いちいち気にしてたら身が持たないぞ。せっかく切り抜けたんだ、気持ちを切り替えなよ」

「そうだよほのか。気にしたら負け」

「そう簡単に言わないでよふたりとも~」

 

あんなことがあっても、三人はいつも通りだった。

 

「...ほのか、雫」

「「?」」

「...ありがとう。()()()()()()、嬉しかった」

 

千翼はふたりに感謝を述べる。二人は千翼の顔が赤くなっているのに気付き、顔を見合わせると微笑んだ。

 

「「どういたしまして!」」

 

千翼は笑みを浮かべると勢いよく立ち上がり、二人の方を向き、

 

「確かこの後は街を案内するはずだったよね。時間もないし早く行こう!」

 

そういって千翼は二人と手を繋ぎ歩き出した。

 

「ち、千翼くん!そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

「そうだよ千翼くん」

「あれ、そうなの?」

「「そうだよ」」

「「「アハハハハ」」」

 

夕焼けに照らされる三人の笑顔はとても眩しいものであった。

 

 

 

 

 

...数日後 国立魔法大学付属第一高校 生徒会室

 

「こら真由美!この忙しい時に油を売ってるんじゃない!」

「忙しいのはリンちゃん達でしょ。野次馬の摩利にとやかく言われる筋合いはないわよ」

 

「いえ、まだ会長には見ていただく段階ではありませんので、この書類が上がったら精査していただけますか」

 

生徒会長の《七草 真由美(さえぐさ まゆみ)》は親友であり風紀委員長の《渡辺 摩利(わたなべ まり)》に注意されていたが、説明されたあとに、にやついた笑顔を浮かべる真由美に摩利は呆れてそれ以上は追及しなかった。

 

「はぁ...ところで何のニュースを見ていたんだ?ずいぶん熱心に読んでいたようだが」

「何々...。『魔法協会関東支部、正体不明の怪人に襲撃を受ける。怪人は謎の変死体で見つかる』?」

「ほら少し前に女性ばかりが狙われた猟奇殺人事件があったじゃない。その犯人も変死体で発見されたっていうし」

「確かにこれは物騒な話だな、しかしその割には楽しそうに読んでいたじゃないか」

「それはね...これよ!」

 

真由美はディスプレイを操作し、ある一面の記事を二つ出す。

 

「何々、勇気ある謎の美少女魔法師の活躍により......ほうなかなか骨のある奴がいたものだな」

「ちょっと無謀かなとは思うけど、この正義感は頼もしいわよね」

「そうだな、それともう一つの記事は何だ?...これは特集記事か、『都市伝説は本当だった!?ベイヒルズタワーに仮面ライダー現る!』...仮面ライダーとは何だ?」

「何でも魔法とは違う大きな力を持った素性不明の正義の味方と言われていて、世界中の犯罪組織をひとりで壊滅させたとか、人知れず世界を救った救世主とか言われているわ。...まぁあくまで都市伝説なんだけど」

「そうなのか。そんなのがいるなら会ってみたいものだ。それで先ほどの美少女魔法師の方は、素性はわからないのか?」

「それがね...」

 

そう言って真由美は再びディスプレイを操作し、一つの画像を映す。その画像はとても粗く、鮮明に映ってはいないがそこには一人の少女が写っていた。

 

「どういうわけかこれ以上鮮明な画像が一つもないのよね」

「粗い画像だな...んー...んん?おい真由美、これって...」

「摩利も気づいた?」

 

真由美はディスプレイから新入生のファイルを開き、1-Aの生徒の欄の中から

『司波 深雪  主席入学』とあるデータを見せる。

 

「あぁそうだ。こいつは今年の主席の新入生だ!...どうりで」

「ホント頼もしいわね。こういう子が当校に入学してくれるなんて」

「此奴は生徒会に入れるんだよな?」

「当然よ。なんて言っても主席なんだから。一高(ここ)は主席の子を生徒会に勧誘するのが伝統なのは摩利も知ってるでしょ」

「残念だ。そうじゃなきゃ風紀委員にスカウトしたいところだが」

「その割には全然残念そうに見えないけど?」

「当たり前だ。私が興味を引く奴は、無理矢理風紀委員(うち)に引きずり込む予定だからな。今年の新入生が楽しみだ」

 

ふたりは顔を見合うとニヤッと笑う。その前のディスプレイの生徒欄の中に

『鷹山 千翼』の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

...とある廃工場...

 

 

 

ここに潜伏するある組織のリーダーが報告を聞いていた。だが内容はにわかには信じられないものだった。

 

「例の被験体が死んだだと?」

「はい、事実です」

 

(どういうことだ。雇い主(パトロン)のスポンサーが極秘に入手、改良を加え人食衝動を抑えた『特殊アマゾン細胞』を投与したあの魔法師が倒されただと!?一体誰が...)

 

 

「報告を続けてもよろしいでしょうか」

「あ、あぁ...それで、他には」

「...報告を続けます。あの場にはもう一人いたみたいなのですがそちらは情報すら掴めませんでした。ですがもう一人は掴めました。仮面ライダーと呼ばれる別のアマゾンみたいなのです。そいつが被験体を倒したそうです」

「何だと!()()か!そいつの情報はあるのか!」

「詳しい情報は何も...ですが、それらしき画像をいくつか入手しました」

 

部下はリーダーに画像を提示した。

 

「...画像が粗いが、こいつがそうか?」

「はい。それともう一つ画像が、それには先程の仮面ライダーの正体が写っています」

「見せろ」

「こちらです」

 

部下はもう一つの画像を提示した。そこには少し粗く、見えづらいが、一人の少年が写っていた。

 

「コイツか...コイツの素性は調べたのか?」

「はい、解析した結果コイツは、今年第一高校に入学する鷹山千翼という男です。ですが分かったのは名前とあの北山家の遠い親戚という事しか分かりませんでした」

 

「そうか...この件は私の弟と壬生紗耶香に任せる。もういいぞ下がれ」

「はっ」

 

部下が下がった後、男は再び画面に目をやる。

 

「コイツを味方に引き込めれば...フフフフフ、アハハハハハ!」

 

 

 

高らかに笑う男、その後ろに()()()

千翼の知りえない所で着々と魔の手が忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

―とある会社の一室

 

「ボス、『ブランシュ』の拠点を補足しました。潰しますか?」

 

一台のPCに腰かけている抽象的な見た目をしている人物が奥のボスと呼ばれた人物に問い掛ける。

 

「…いや、まだいいよ。彼等は少しキナ臭いからね、この際だし出すものだして貰ってから潰そうと思う」

「了解、…あの…今迅から司波兄妹とネオに接触したと報告がありました」

「へー……………え?」

「迅が勝手に対象に接触しました」

「あいつ何してるの!?滅は!?」

「滅からも来ました。先程ゼアからの緊急通信で迅が[今日だけ代わりたい]と指示が来たので監視を交代させたようです」

「ゼアから?こっちに連絡来てないぞ?」

「[貴方さっきまで隠れてサボってましたね、だから知らせませんでした。]と」

「あ」

「ついでに【雷】にも送っておいたそうです。既に此方に向かってますよ?」

「(深いため息)………終わった…」

「自業自得です、こってり叱られてください。あ、[正体はばれてないので安心して]と迅からです」

「いや、ばれてるぞって伝えておいて」

「?どうしてばれていると?」

「……()()()だから?」

「いきなり何言ってるんですか?バグですか?」

「冗談だよ、冗談!本気にしちゃ駄目だろ?」

「今いらっとしたので雷に試作品を迅に無断であげたこと言っておきます」

「すみませんマジ勘弁してください」

 

See You The

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燃え尽きたぜ...真っ白にな.....。

ついに、ついに...
入学編、キターーーーーーーーーーー!!!(銀河)
kakki-az、お前(疲れ)にタイマン張らせて貰うゼ!!


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入学編
第九話《学舎》


お待たせしました!遂に入学編です。
千翼にとって初めての学校生活が始まります。
第一高校でどのような展開が千翼に起こるのか!?
それではどうぞ!


千翼は白い霧の中をただ真っ直ぐに歩いていた。

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いていると急に霧が晴れる。霧が晴れたその場所は、かつて千翼がイユと来たあの遊園地跡だった。

そして近くのベンチに()()()()()が座っていた。

 

「...イユ?」

 

声に反応した少女が顔を上げる。その少女がイユだと分かると千翼は顔を綻ばせながら言葉を続けた。

 

「...そっか、ずっと俺の事待っててくれたのか...イユ」

 

イユはただ微笑み千翼を見つめるだけだった。

 

「...イユ。俺、イユと同じくらい大切な人が出来たんだ。そいつの笑顔を見ているのが好きなんだ。だから...!」

 

 

千翼が言葉を続けようとした時、イユは立ち上がりそっと千翼を抱きしめた。

 

『...千翼。.....私は千翼を見守ってる。...だから守ってあげて』

「ッ!...あぁ。...もちろんだ」

 

千翼がイユにそう告げると、イユは千翼から少し離れ手を差し出す。

 

千翼はその手を握ると、イユの温かさを感じながら段々意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「...ん、んんぅ...」

 

目覚めた千翼がゆっくり目を開け辺りを見渡す。そこは自分の寝室だった。

 

「...夢か」

 

体を起こし、軽くストレッチをした後、リビングに行きカレンダーを見る。

 

「...いよいよか」

 

4月1日の今日は、魔法科高校の入学式が行われる日。

千翼は壁にかけてある制服を取り、それに着替える。制服には八枚花弁のエンブレムがついていた。

 

「ほのか達と同じクラスになれるといいけどなぁ」

 

簡単に朝食を済ませ、片づけをしていると。

 

インターホンが鳴り、玄関に向かい扉を開ける。

 

「はい」

「お、おはよう千翼くん」

 

そこには第一高校の制服を着たほのかが立っていた。

 

「おはよう。...よく似合っているよほのか」

「えっ、あ、う、うん!千翼くんも似合ってるよ」

「ありがとう。でも、やっぱり()()が心配だな」

 

そういって千翼は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もう千翼くん!私たちが何度も確認したから大丈夫だよ!」

「...そうだよな、ごめん。...それで今日はどうしたんだ?」

「うん。千翼くん早く行くって言ってたから、サンドイッチ作ってきたの。千翼くんの事だから簡単に済ませちゃうでしょ?朝はしっかり食べないとだよ」

「お見通しだな...ありがとう、今度何かお返しするよ。よし、それじゃあ俺はそろそろ...」

「うん、また後でね!あ、千翼くん!」

「ん?」

 

戻ろうとした千翼をほのかが呼び止める。

 

「クラス一緒になれるといいね!」

「!あ、あぁ///そうだな!!ほのかもそろそろ準備しなよ?」

「分かってるよ千翼くん。それじゃあ学校で」

「あぁ」

 

ほのかを見送り、部屋に戻り出る準備をする千翼の顔は身を見張るほど赤かった。

 

「...あれは反則だよな。...フーッ...よし、行くか」

 

気持ちを落ち着かせた千翼は、ベルトが入ったリュックを背負うと、第一高校へと向かった。

 

 

キャビネットに乗ってその中でほのかに貰ったサンドイッチを食べ、八王子まで行き、そこから少し歩くと第一高校に着いた。千翼は見て回れるだけ見て回っていたが、それでも待ち合わせの時間までかなりの余裕があった。

 

「うーん、さすがに早く来すぎたかな?...どっかで時間を潰すか『納得いきません!』(うん?)」

 

移動しようとした時、どこかで聞いたことのある声がしたのでそちらに向かうと、あの火災事件の司波兄弟がいた。

 

「何故お兄様が補欠なのですか!?入試の成績もお兄様がトップだったじゃありませんか!!」

 

千翼は二人を見ていて、達也の制服にはエンブレムがついてない事に気付いた。

 

「本来は私ではなくお兄様が...」

「深雪、第一高校(ここ)ではペーパーテストより実技試験の方が優先される。補欠とはいえよく第一高校に入れたものだと...」

「そんな覇気のないことでどうするんですか!勉学も体術もお兄様に勝る者などおりません!魔法だって本当なら-」「深雪!」

「ッ!」

「それは口にしても仕方がない事なんだ。分かっているだろう?」

「...申し訳ございません...」

 

達也の言葉にしゅんとしていた深雪に、達也はそっと深雪の頭を優しく撫でた。

 

「深雪は俺の代わりに怒ってくれる。俺はいつも深雪に救われているんだ」

「...嘘です。お兄様は...いつも私を叱ってばかり...」

「嘘じゃない。深雪が俺の事を考えているように、俺も深雪の事を()()()()()()()

「お兄様...そんな急に―()()()()()なんて」

 

深雪はサッと後ろに振り向き顔を赤くさせた。

それを聞いた達也と千翼は首をかしげる。

 

 

(あの子、絶対に誤解している気がする)

 

 

千翼がそう考えていると達也は深雪に近づき、肩にそっと手を置き言葉を続ける。

 

「それにな深雪...俺は楽しみなんだ。可愛い妹の晴れ姿をダメ兄貴に見せてくれないか?」

 

それを聞いた深雪はさらに顔を赤くさせながら、達也に振り返る。

 

「お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません!-ですが分かりました」

「そろそろ答辞の打ち合わせの時間だろ?行っておいで」

「はい!行って参ります!見ていて下さいお兄様」

 

深雪は笑顔で手を振りながら駆けていく。達也も手を振りながら深雪を見送る。

 

 

「.....さて、そろそろ話しかけてきてもいいんじゃないか?」

 

 

達也はそう言いながら、千翼がいる方に振り向く。

 

「...なんだ気づいてたのか?あぁ、立ち聞きしていたのは悪かった」

「...いや、あれだけ騒いでいたら誰でも気になる」

「それもそうか、...おっと。まずは自己紹介だな。俺は鷹山 千翼だ、気軽に名前で呼んでくれ」

「司波達也だ。俺の事も名前で呼んでくれ千翼」

「分かった。それで達也、さっきの子はもしかして妹?」

「あぁそうだ。名前は深雪。今日から一高に入学するんだ」

「ん?一緒にって事はふたりは双子なのか?」

「よく言われるけどそうじゃない。俺は4月生まれで、深雪は3月生まれだ、だから同じ学年なんだ」

「なるほど、そういうことなのか」

 

ふたりが兄弟ということはこの前の一件で知ってはいたが、達也は大人びて見えるため同い年だとは思わなかった。ふと千翼は時計を確認して待ち合わせの時間が近いことに気が付いた。

 

「―やば、ごめん達也、待ち合わせがあるから俺はもう行くよ」

「そうなのか、引き留めてすまない」

「大丈夫だよ、それじゃ!」

 

千翼は達也と別れ、校門前まで走った。校門についたと同時に丁度ふたりも校門前に来ていた。

 

「あ、千翼くん!」

「おはよう千翼くん」

「おはよう、二人共ごめん!俺が約束しておきながら二人を待たせちゃって」

「ううん、大丈夫だよ。私達も今来た所」

「それに千翼くん楽しみにしてたから待ちきれなかったんでしょ?」

「確かにそれもある...けど...こうやって誰かと待ち合わせして一緒に見て回るってのをしてみたかったんだ」

 

千翼がそう述べると、ほのかは顔を赤くした。

 

「ち、千翼くん!そそそ、それって///」

「デートの待ち合わせみたいだね」

「?俺たちは親友だろ?親友でも待ち合わせしたりするだろ」

「そ、そうだけど...」

「?」

 

千翼はほのかがなぜ顔を赤くしているのか分からず、首をかしげていた。

 

「ほら、二人共時間がないから早く行くよ」

「え!?あ、う、うん」

「そうだった。早く行こう...っとそうだ、ほのか」

「?」

「サンドイッチありがとう。おいしかった」

 

ほのかはさらに顔を赤くしてしまった。

こうして三人は、いつものやり取りをしながら入学式が行われる講堂へと向かった。

 

 

See You The

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第九話いかがだったでしょうか?
今回は短めになりましたが、自分で書いてて思ったのが
自分が書く千翼は少し鈍感な気がします。
第十話でお会いしましょう!

今年中に投稿します。


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第十話《入学》

お待たせしました!第十話です。
今回はある一点に注目して執筆しました。
それではどうぞ‼( ゚∀゚)つ



講堂についた三人は並んで座れる席を探していた。

 

「なかなか見つからないね」

「そうだな。それにしても...」

 

千翼はそう言って周りを見渡すと、前半分がエンブレムがついている一科生、後ろ半分がエンブレムのついていないニ科生にきっちり分かれていた。

 

「...ここまで分かれていると逆に関心するよ」

「...そうだね」

 

そう思っている内に三つ並んで空いている席を見つけ、三人は席に着いたタイミングでアナウンスが入る。

 

『静粛に』

 

それを合図に講堂内が静まり返る。

 

『只今より 国立魔法大学付属第一高校 入学式を始めます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会長の祝辞が終わり、いよいよ新入生代表の答辞が始まる。

 

 

『続きまして 新入生 答辞―』

『新入生代表、司波深雪』

 

 

アナウンスの直後、壇上に可憐な少女が現れる。

 

「ほのか、あの子...」

「うん。間違いないよ」

 

ほのかはキラキラした目で深雪を見つめていた。

 

「そう言えばほのかは試験の時一緒だったんだっけ」

「一緒ってわけじゃなかったけど、試験の時からすっごく目立ってて、まるでそこだけ空気が違うみたいで...カッコよかったんだよ!」

「そ、そうか...ほのか、とりあえずこの話は置いておいて答辞を聞こう」

「あ、そうだね」

 

千翼はヒートアップしそうなほのかの話を切り上げると、深雪の方に意識を向ける。

深雪は軽く一礼し、答辞を述べ始めていた。

 

「『この晴れの日に歓迎のお言葉を頂きまして感謝致します。私は―』」

 

深雪は透き通るような丁寧な言葉づかいで

 

「『新入生を代表し、第一高校の一員としての誇りを持ち、()()()()()()()()()()、勉学に励み、()()()()()()共に学び、この学び舎で成長することを誓います』」

 

とてつもなく際どい言葉を混ぜている事に気づき、千翼はギョッとした。

 

 

(おいおい!大丈夫なのか!?そんなことを言ったら差別意識の強い連中がどう思うか...)

 

 

そう思った千翼は周りを見渡すが、皆深雪に見とれている為、言葉が耳に届いて無い様だった。

 

 

「.....大丈夫そうだな」

「? 何が大丈夫なの?」

「いや、何でもない...」

「?」

 

ほのかが不思議そうに首をかしげていたが、千翼は気にせず前を見直すと新入生代表の答辞が終わっていた。

 

 

 

 

 

 

深雪は答辞を述べ終え、袖に下がっていた。

 

(お兄様、見てくださっているかしら。......あ、あそこにいらっしゃ...る...?)

 

深雪は達也を見つけたが、達也は隣の女子二人と親しく話しているようだった。

 

(お隣の女子と随分打ち解けていらっしゃるような...?気のせいかしら)

「深雪さん、お疲れ様」

 

達也が気になり横目で達也の方を見ていた深雪だったが、声をかけられ振り向く。

そこには生徒会長の七草真由美が立っていた。

 

「七草会長!」

「素敵な答辞だったわ。『皆等しく一丸となって』『魔法以外でも』」「!」

「なかなか際どい言葉をうまく混ぜていたわね」

 

まさか会長に気が付かれているとは思わず深雪は驚いていた。

 

「それは...」

「違うの。責めているわけじゃないのよ、むしろ逆。そういう人材を探しているの我が生徒会ではね」

 

そうして深雪はしばらくの間真由美と会話を弾ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

入学式が終わった千翼達は三人でクラス確認をしていた。

 

「二人は何処?私はA組だよ」

「私もA組」

「俺もだ」

「やった!みんな同じクラスだね!」

 

三人同じクラスになれて、ほのかはすごく喜んでいた。

 

「...よし、クラスの確認もしたし、今から司波さんの所に行くか?」

「!そ、そうだね。う~緊張してきたよ~」

「ほのか、ファイト」

「...なあ雫、もしかしてほのかって本番に弱いのか?」

「うん」

 

色々と話している内に深雪を見つけたが、周りにすごい人垣ができていた。

 

「うわぁ、すごい人垣」

「ほのか、ここはガッツだよ」

「雫の言う通りだ」

「そうだけどぉ...」

 

目の前の人垣は深雪に押し寄せていた。

 

「司波さんさっきのは凄かったですよ~」

「綺麗で頭もいいなんて」

「貴方のような素晴らしい方と同学科に入れる栄誉を」

「《花冠(ブルーム)》の名の通りわが一高に咲き誇る花」

 

 

 

「...ガッツはあるけど、ああなりたくないよ...」

「うん私も」

「そうだな...あれじゃあかえって迷惑だ。でもどうやって助けるか...」

 

知り合いの妹が困っているため、助け舟を出そうとした時、

 

「そうだわ深雪さん。お兄さんと打ち合わせしているのではなくて?」

 

真由美が見かねて助け船を出してくれた。深雪もそれに気づき安心する。

 

「はい、そうです」

「ではそちらに向かいながらお話ししましょうか」

「はい、お気遣いいただきありがとうございます」

 

深雪と真由美は達也がいるであろう方に歩き始めた。他の一科生も深雪の兄がどんな人か見るために一緒についていく。

 

「...お兄さんに会いに行くみたいだけど...」

「もちろん行くよ!司波さんのお兄さん気になるもの!一科には他に司波はいなかったし上級生かなー、多分すっごくカッコいいんだよ!」

「「...」」

 

千翼と雫はほのかのテンションに若干ついていけず、暖かい眼差しを向けながらほのかの後についていった。

 

「あ、言い忘れていたけど、俺司波さんの兄なら会ってるけど?」

「えっ!?それ本当なの!」

「ああ、ふたりと会う前に知り合ったんだ」

「そうなんだ。それでその人は上級生なの?」

 

 

「いや、俺たちと同い年でニ科生だったよ。でも達也は凄い奴だと思うよ?勘だけど」

 

 

「.....え?」

 

ほのかは千翼の言葉が信じられないようで千翼の顔を見て歩みを止めた。

 

「どうしたほのか?早く行こう」

「う、うん...」

 

そんなやり取りをしている内に、深雪は達也を見つけ駆け寄る。

千翼達は遠くから様子を見ることにした時、急に寒気を感じた。

よく見ると深雪がとてつもない負のオーラを出しているように見えた。

 

(やっぱり、いろんな人に囲まれてたから相当ストレスが溜まっているな...)

 

他の一科生も深雪のオーラを感じたのか誰一人近づこうとしなかった。さらに注意して見てみると、達也の傍らにふたりの女子がいたのだ。

 

(...もしかして達也が女の子が一緒にいたから嫉妬しているのか?)

 

これが所謂「ブラコン」というやつかと千翼が考えていると、周りの一科生が達也に注目する。ほのかと雫も同じように達也を見る。

 

「.....あ」

 

千翼の言う通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは彼がニ科生であることの証明だった。

 

 

「《雑草(ウィード)》だよ」

「えっマジで?」

「主席の妹に劣等生の兄か」

「同じ高校に入学してよく恥ずかしくないな」

 

 

真由美はこのままじゃまずいと思ったのか、深雪に後日話をすることにしてこの場を去っていった。

それに伴って着いてきていた人たちも解散していく。

 

「ほのか、俺たちも行こう...ほのか?」

「......」

「...ほのか?」

「あの人だ...」

「え?」

「入試の時すごく無駄のない綺麗な魔法を使う人がいて...さすが魔法科高校だって思ったの...それが...」

 

そう言いながらほのかは手を強く握りしめる。

 

「それがなんであの人が「ほのか!」...ッ!」

 

千翼はほのかの肩を掴み、ほのかの顔を見つめる。

 

「それ以上は言っちゃだめだほのか。それにほのかは達也がすごいと思ったんだろ?」

「...うん」

「それなら()()()()()()()()()()()()()()、だろ?」

「!うん...うん!そうだね!」

「...やっぱりほのかはそうやって笑っている方がいい(ボソッ)」

「千翼くん?何か言った?」

「何でもないよ!ほら、二人共早く行くよ」

 

千翼は二人の手を掴んで教室へ駆けだした。千翼は走りながら先ほどの一科生の言葉を思い出していた。

 

(何でこの高校(ここ)の一科生の奴らはニ科生というだけで人を蔑むんだ。司波さんの気持ちを考えないのかあいつらは!...あんな奴らに司波さんと仲良くさせたくない...よし、そうと決まれば...!)

 

千翼は走りながらほのか達と深雪を仲良くさせるために色々考えるのだった。

 

 

 

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第十話いかがだったでしょうか?
最後の辺りは優等生を読んで思ったことがあったので思いきって変えてみました。

次回は彼らがようやく登場します!
お楽しみに!


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第十一話《交換》

新年明けましておめでとうございます。
今年に入って最初の投稿です。
それではどうぞ!


生徒会室

 

「会長。この時間が空くなら他の予定も入れられたのですが」

 

2年の生徒会副会長《服部 刑部(はっとり ぎょうぶ)》はそう発言する。

 

「しょうがないでしょ?ノーアポなんだから」

「でも会長がお呼びになってるいるのなら遠慮するべきでしょう。ニ科の生徒を優先するなど」

 

服部は先ほどのことを納得していなかった。

 

「"はんぞーくん"それ生徒会としては問題発言なんだけど...」

 

ちなみに、真由美が"はんぞーくん"と呼んでいるのは服部副会長のフルネームが《服部刑部 少丞範蔵(しょうじょうはんぞう)》であるためそう呼んでいる。

本人はフルネームで呼ばれるのは恥ずかしいため服部 刑部となっているが、真由美からはそう呼ばれても服部副会長は何も言わない。

 

(う~ん、染みついた意識の改革はまだまだかぁ。私の在学中になんとかしたいんだけど...)

 

と、真由美はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-司波家

 

達也がリビングでくつろいでいると、そこへ深雪がやってくる。

 

「お兄様、何かお飲みになりますか?」

「...そうだな、コーヒーを頼む」

「かしこまりました」

 

深雪は一礼してキッチンに向かう。

 

(妹は何故か家の中だと露出が増えるな...)

 

いつもの事なので達也はこれ以上気にしないことにした。少しすると深雪がコーヒーを淹れて戻ってきた。

 

「お兄様どうぞ」

「ありがとう」

 

達也はカップを受け取り口につける。

 

「...うん、美味い」

 

達也が答えると深雪は微笑みながら隣に座り、一緒にコーヒーを味わうのだった。

 

「...そうだ、深雪」

「はい?なんでしょう」

「実は入学式の少し前、お前と分かれた後一科生の新入生と知り合ったんだ」

「一科の、ですか...」

「あぁ、鷹山 千翼という不思議な雰囲気を纏った奴だ。()()()にもいたがあいつは横の二人以外の周りの一科生達に怒っていた。あいつは差別を嫌っている様だ、()()()()()()な奴なんだろう」

「お兄様、その方は確かわたしと同じクラスのはずです」

「そうか、なら会ってみるといい」

「わかりました」

 

達也がそこまで気に掛ける人物に会ってみたくなった深雪は、今日の出来事を語り合うのだった。

 

 

 

 

 

-千翼の部屋

 

「いらっしゃい、ほのか」

『ほのか、大丈夫?』

「大丈夫だよ、雫。...千翼くんもあの時はありがとう」

「気にするな。でもあそこまで取り乱すなんてよっぽど会いたかったんだな」

『うん、ほのかすごく楽しみにしていたもんね』

「雫!?それは千翼くんに言わないでって言ったのにー!///」

「へぇ~、達也の魔法はそんなに綺麗なのか」

「うん。司波さんは圧倒的な魔法力って感じだけど、お兄さんのはあえて必要最低限の魔法力しか使わないっていうか...魔法式の無駄で出る光波のノイズが全く感じられなかったの」

『ほのかが言うなら相当だね』

「光井の家だからね、光振動については人より敏感だよ」

 

ほのかの家は《エレメンツ》と呼ばれる日本で最初に計画されたプロトタイプの魔法師の家系で《光:光井》の他に火・水・風・地・雷の計六つの家計が存在する。

 

『"生まれ"は最初だけ、力を磨いてるのはほのか自身だよ』

「俺もそう思うぞ」

「...そうだね、ありがとう。地元じゃ雫しかライバルがいなかったのに、司波さんには打ちのめされちゃったな。お兄さんは...よく分からない、それに...」

「?」

 

そう言いながらほのかは千翼を見て、微笑んだ。千翼は不思議そうにほのかを見る。

 

「千翼くんも私のライバルなんだよ」

「...あぁ、そうだったな」

 

千翼もほのかを見ながら、笑顔で答えた。だが二人はある事に気付く。

 

「...あれ?雫は?」

「そう言えば、さっきから何も言わないな」

 

千翼は電話を取り、雫に呼びかける。しかし返事は帰ってこない、千津がもう一度呼びかけようとした時だった。

 

『...スピー...スピー...』

「...ま、まさか...!雫の奴寝てるのか!?」

「えー!!雫、寝るの早いよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「雫...いくら何でも寝るの早すぎだろ」

 

千翼はふたりと一緒に登校していた。昨日は結局雫が起きなかったためにお開きとなったが、千翼がほのかの深雪にどう接すればいいかの相談や自己紹介の練習に付き合い、ほのかに泊まっていく様に告げ付きっきりでほのかの練習に付き合った。

 

「ごめん、いつの間にか寝てた」

「話し始めてまだ十分しかたってないのに...いきなりでびっくりしたよ~」

「まあ、これからは一声かけろよ。おっとそろそろ一高前だな」

 

話を切り上げ、三人は教室に向かった。

 

 

教室についた三人はそれぞれの席に着く。

ほのかが少し離れてしまったため、千翼の隣に立って三人で談笑していると、

 

「おはようございます」

 

透き通る様な声が聞こえた方に振り向くと深雪がお辞儀をして教室に入って来ていた。そして段々とこちらに近づいて来ている。

 

「あ、司波さん私の後ろの席かもしれない」

「「えっ!?」し、雫!そういうことは早く言ってよ~!」

「ごめん、今気づいた」

 

そうしている内に近づいてくる深雪にほのかは慌てる。昨日あれだけ相談とか練習したんだから大丈夫と自分に言い聞かせるほのかだったが、すでに深雪は目の前に来ていた。そして深雪はほのかに向かって女神のような笑顔を向けた。

 

ほのかはその笑顔に完全に心を射抜かれ、後ろに倒れこむ。

 

「おっと!?」

とっさに千翼は倒れるほのかを支える。

 

「ほのか自己紹介、今がチャンスだぞ(ボソッ)」

 

千翼の呼びかけに放心状態だったほのかがハッと我に返る。

 

「う、うん。あ、あの司波さ...はわっ」

 

ほのかは自己紹介をしに深雪に寄るが、自分の足が靴を踏んでしまい、

 

「ぶっ!!」

 

前のめりに転んでしまい、顔を強打してしまうのであった。

 

「(アニメや漫画じゃないのによくここまで盛大にこけるなぁ)ほのか立てるか?」

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう。司波さん、千翼くん」

 

千翼がほのかを起こすために手を差し出すと同時に深雪も手を差し出しており、ほのかはふたりの手を取り起き上がる。

 

「どういたしまして。あの...」

「光井です!光井 ほのかです!」

「司波 深雪です。光井さん仲良くして下さいね」

「!こちらこそ!」

 

何とか結果オーライになって喜ぶほのか。千翼と雫もそれにつられて笑顔になる。

 

「...あの」

「はい?」

「もしかして、貴方が鷹山 千翼くんですか?」

「ああ、そうだけど?...あぁ、もしかして達也から聞いたのか?」

「はい。お兄様からお話を聞いて是非ご挨拶を、と」

「そうか。じゃあ改めて、鷹山 千翼だ、よろしく」

「司波 深雪です。わたしの事は好きに呼んで下さい、千翼くん」

「分かった深雪、っとそれから...」

 

千翼は雫を見る。雫はわかってると言いたげな顔で千翼を見た後、深雪の方を見る。

 

「北山 雫です。お名前はかねがね」

「こちらこそよろしくお願いします、北山さん」

 

そのまま四人でお互いについて話し合う、その間千翼は視線を感じていたが気にしないことにした。そうしている内にオリエンテーションの開始時間になり、それぞれ自分の席に着くと同時に担当の先生が入ってきてオリエンテーションが始まった。

 

オリエンテーションが終わり、一科の生徒はニ科の生徒を蔑むように会話をしていた。それを聞いてた千翼は深雪の表情を見て考え事をしていた。

 

「(やっぱり深雪は一科の奴らの二科に対する態度をよく思ってないみたいだな...)えっと次は確か...」

「千翼くん、一緒に見学に行こうよ」

 

オリエンテーション後の予定は、午前に基礎魔法学と応用魔法学、午後に魔法実技演習の見学になっている。

 

「ああ、せっかくだし深雪も誘うか」

 

ふたりの了承を得て、深雪の席を見ると既に他の人に囲まれていた。

 

「ちょっといいですか、司波さん!」

「何でしょうか?えーと...」

「僕は《森崎 駿(もりさき しゅん)》です。司波さんはどちらを回る予定ですか?」

「わたしは先生について...「奇遇ですね!僕もです!やっぱり一科なら引率してもらう方ですよね!補欠と一緒の工作なんて行ってられませんよね」」

 

間髪入れない言葉攻めに深雪はだんだん困り顔になっていく。

 

「いえ、そういうわけでは...「だったら、そろそろ集合場所に行かないとな。よかったら俺たちと行かないか?深雪」

 

千翼は困っている深雪に助け舟を出した。深雪は千翼の意図を理解し、

 

「そうですね、一緒に行きましょうか」

 

深雪はさっと立ち上がり、ほのかと雫と合流し、一緒に教室から出た。急に置いてかれた森崎はポツンと佇んでいたが、すぐに教室から出てきて千翼の背中を睨んでいた。

 

「ごめん、深雪。急に割り込んだりして」

「ううん、助かっちゃった」

「いいって、それに...ああいう奴は俺はあまり好きじゃないからな」

「千翼くん...」

「ふたりとも、そろそろ始まるから急ごう」

「待ってほのか」

 

先頭を歩いていたほのかが駆けだそうとしたが、雫が呼び止める。

 

「どうしたの?」

「ほのか、制服が汚れてる」

「あーさっき転んだ時か...」

「ど、どうしよう...」

「ちょっと待ってね」

 

深雪が汚れている所に手をかざすと、一瞬で汚れがなくなっていた。

 

「え、司波さんこれ...」

「ナイショね」

 

深雪はそう言ってニコッと微笑んだ。三人はCAD無しでここまでの演算ができる深雪に驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

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第十一話いかがだったでしょうか?
これからもマイペースに投稿していきますので、今年もよろしくお願いします!!




補足
〔席は◎から縦に出席番号順〕
・・・・◎
・・・・・
・・千雫・
・ほ・深・
・・・・・


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第十二話《衝突》

お待たせしました、第十二話です!
遅くなりましたがこれからもぼちぼちやっていくので
よろしくお願いします。
それでは、どうぞ!


午前の授業見学が終わり、昼休みとなった。深雪も食堂に行くらしく、折角だから一緒に行かないかと深雪に提案し、深雪も快く承諾して一緒に食堂に向かうが、何故か森崎達も付いて来ていた。

 

食堂に入って深雪はすぐに達也たちを見つけ駆け寄る。

 

「深雪―っこっちだよー!」

「エリカ!美月!お兄様!(あとひとりは、どなたかしら?)」

「達也、この子は?」

「そういえばレオには話してなかったな、俺の妹だ」

「成程」

 

レオという男が納得しているのを遠くから見ていた千翼は、深雪は達也達と一緒に居させる方がいいと思い、

 

「ほのか、雫、俺たちは邪魔になるかもしれないから、別の席にしよう」

「うん、その方がいいと思う」

「私も賛成」

 

二人の了承も得たので、千翼達はそこから離れることにした。

 

「深雪、俺達はここで-」

「君たち、ここの席を譲ってくれないか」

「!?」

 

千翼が言い切る前に森崎達に割り込まれた。

 

二科(ウィード)はしょせんスペア、それなのに一科生と相席しようなんておこがましい、皆もそう思うだろ?」

 

 

「そうだ!自重しろよウィード!」

「僕たちは親睦を深めないといけないんだ!」

 

 

千翼は耳を疑った。森崎達の言葉はあまりにも暴論すぎるからだ。

 

「(あいつら...!)おい、お前らいい加減に-」

「分かった、俺はもう済んだから先に行くよ」

「...!」

「アホらし、あたしたちも行こう」

「ああ」

 

達也に続いて、他の二科生も一緒に食堂から出ていく。

深雪は達也と一緒になれずがっかりしていたが、森崎達は気付かずに深雪に席を勧めていた。

千翼は我慢ならず深雪に近づき声をかけていた。

 

「深雪、俺達と一緒に食べないか?」

「司波さーん、こっちが空いてますよー!」

「!...はい!今そちらに、この席は皆さんでお使いください。それでは」

 

深雪は一礼して千翼達の方へ駆け寄る。

 

「(良かった、少し元気を取り戻したか。女の子は笑顔が一番だよな......ん?)」

 

 

「...おい、またあいつだ」

「何で司波さんの事呼び捨てにしてるんだ」

「私たちでもあんな態度取らないのに」

「チッ、調子乗りすぎだろあいつ」

 

 

後ろで森崎と一緒にいる何人かが千翼に陰口をたたいているのが聞こえたが、千翼は気にせず深雪の後ろを歩く。その背中を森崎は恨みを込めて睨んでいた。

 

 

 

 

放課後―

 

「ですから何度も申し上げている通り...ですからわたしは...わたしはお兄様と帰る予定なんです」

「ハァー...またか」

「うん、司波さん困ってる」

 

千翼達は先に行った深雪より後に教室を出たのだが、校門前でまた達也以外の二科生と森崎達一科生がもめていた。

 

「おい!お前ら、深雪が困ってるだろ」

「千翼くん!」

「...またお前か。お前には関係ない、それに司波さんは僕たちと一緒にいるべきだ。()()と一緒になるべきじゃない」

 

それに合わせて他の一科生もそうだと言い始めた。

千翼は既に我慢の限界だった。

 

「お前ら...!いい加減に-」

「いい加減にしてください!!!」

「!?」

 

千翼がキレかけたのと同じタイミングで美月と呼ばれていた少女が声を荒げた。突然の事に千翼は驚いて美月の方を見る。

 

「深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるんです!!何の権利があってふたりの仲を引き裂こうっていうんですか!!」

「み、美月ったら一体何をっ、何を勘違いしているの!?」

「...何焦ってるんだ深雪?」

「えっ!?ち、千翼くん!べ、別に焦っていませんよ?」

「語尾が疑問形になってるぞ...」

 

美月のおかげで冷静になった千翼だったが、辺りの空気がみるみる悪化していた。

 

「これは1-Aの問題だ!他のクラスましてや雑草(ウィード)如きが僕たち花冠(ブルーム)に口出しするな!!」

「同じ新入生なのに今の時点でどれだけ優れているっていうんですか!?」

「...どれだけ優れているか知りたいか?」

「面白れぇ是非とも教えてもらおうじゃねえか」

「!(この流れはマズイ!)」

「いいだろう、だったら教えてやる...これが」

 

森崎からサイオンが発生し、森崎は攻撃重視の特化型CADを素早く取り出し、レオと呼ばれていた男子生徒に向け構えた。

 

「才能の差だ!!」

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

レオは走って近づき森崎のCADに手を伸ばす。しかし森崎はもう起動式を展開し、魔法構築も完了していた。

 

「間に合えっ!」

「千翼くん!?」

 

千翼も走り出し、森崎を取り押さえるべく()()C()A()D()で魔法を使い、常人離れの跳躍力で森崎に迫る。

 

キンッ!

 

千翼が森崎に迫る寸前、エリカと呼ばれていた赤髪の少女が既に森崎に接近しており、警棒で森崎のCADを打ち払っていた。

レオは叩かれる寸前で手を引っ込めており、千翼は弾かれた森崎の手首を空中でキャッチして、落下の反動を利用し、森崎を抑え込む。

 

「グアッ!」

 

森崎は地面に押さえつけられ、苦しそうにする。

 

「「この間合いなら身体動かした方が速いんだ(のよね)」」

 

エリカは警棒を肩に掛け、千翼は森崎の拘束を解きながらまったく同じセリフを言った。

 

「...それは同感だが、オメェ今俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ!」

「あら、そんなことしないわよ。おほほほほ...」

「誤魔化すんじゃねぇ!」

 

確かに笑ってすまされる事では無いなと思った千翼だったが、今はそれどころではなくなっていた。

 

「この!雑草(ウィード)のくせに!」

「なめるな!」

 

一連の出来事を傍観していた他の一科生数名が魔法を発動しようとしていた。

 

「!みんなだめっ!!」

 

とっさにほのかが閃光魔法の起動式を展開した、千翼はほのかがどういう魔法かわかっているので、この場を収めるには最適な魔法だと思っていた時だった。

 

パリンッ

 

「キャアッ!」

「!ほのか!」

 

突然ほのかの起動式が吹き飛ばされた。体勢を崩したほのかを雫が支える。

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為ですよ!」

 

声のした方を向くと、そこには七草会長ともう一人女性が居て、その女性の腕には〔風紀委員〕とある腕章をつけていて、魔法を展開していた。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ!事情を聴きます、全員ついてきなさい!」

 

ふたりの登場にその場が静まり返ってしまった。

このままではまずいと思い、千翼は一歩前に出る。

 

「すみませんでした。これは俺の勘違いが招いたことです」

「勘違い?」

「彼が勘違いするのも無理ありません。森崎一門の『早撃ち(クイックドロウ)』は有名ですから、後学の為に見せてもらうだけだったのですが...」

「!...そうです。そんな事情があるとは知らず、現場を見た俺には彼が真に迫っているように見えたので止めるために手を出してしまいました」

「ほう?...ではそこの女子が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」

「彼女は閃光魔法を放とうとしていただけです」

「彼の言う通りです。それにかなり威力も抑えられていました」

 

ふたりの話を聞いた摩利は、展開していた魔法をキャンセルした。

 

「どうやらニ科の君は展開した起動式を読み取ることが出来るらしいな」

「実技は苦手ですが分析は得意です」

「......誤魔化すのも得意なようだな」

「摩利、もういいじゃない」

「真由美!?」

 

突如三人の間に真由美が割り込み、ふたりに向き直る。

 

「達也くんと君、()()()()()()()()()()()()()()()♪」

 

そう言いながらこっちに向けてウインクをした。彼女はすべて見透かしたうえで無かった事にしようとしてくれていると千翼は理解した。

 

「「...はい」」

 

ふたりが返事を返すと、摩利はやれやれと言った感じで溜息をついた後、咳払いをして気を引き締めた。

 

「会長がこう仰られているからな、今回の事は不問にします。以後気を付けるように」

 

何とか大事にならずに済んで千翼はほっとした。

 

「っとそうだ、君たち!名前は?」

 

ふたりはその場を去ろうとしたが、不意に摩利が立ちどまり達也と千翼の方を見て名前を訪ねてくる。

 

「1-A、鷹山千翼です」

「1-E、司波達也です」

「...覚えておこう」

 

何か意味深に微笑んだ摩利は校舎へと戻っていった。

 

 

「...借りだなんて思ってないからな」

 

二人が去ったあと、森崎が達也と千翼に向かってそう言った。

 

「思ってないから安心しろ」

「同じく」

「僕は森崎駿。森崎家に名を連なる者だ」

 

森崎は二人を指さす。

 

「鷹山千翼、司波達也、僕はお前たちを認めない。司波さんは花冠(ブルーム)雑草(ウィード)の中ではいずれ枯れていく。彼女は僕らと居るべきなんだ.....行こうみんな」

 

それだけを言って、他の一科生と共に去っていった。

 

「...フーッ...悪いな達也、こんな事に付き合わせて」

「別にお前が悪いわけじゃないだろ」

「いや、そうは言っても...」

 

達也が大丈夫だというので、千翼はそれ以上は口にしなかった。そこに深雪が近づいてくる。

 

「お兄様、そろそろ帰りませんか?」

「そうだな、じゃあみんなで...「あっ、ちょっと待ってくれ」」

 

千翼はほのか達の所に向かい、ふたりを連れてくる。

 

「達也、ほのかの弁護をしてくれただろ?ほのかもお礼言いたいだろうから連れてきた」

「もう、千翼くん!恥ずかしいから言わないでよ~」

「そう言わずに、ほら」

 

千翼はほのかを達也の前に立たせる。

 

「君は、さっきの...」

「あ、あの、み、光井ほのかです。さっきはありがとうございました」

「北山雫です。大事に至らなかったのは千翼君とお兄さんのお陰です」

「これでも同じ一年なんだ。達也でいいからお兄さんはやめてくれ」

「「分かりました(分かった)」」

「へぇ~、達也君の言ってた千翼って君の事だったんだ」

 

ふと声をかけられそっちを見ると、他の二科生達がこちらに近づいておりこちらに声をかけていた。

 

「達也から聞いてると思うけど改めて、鷹山千翼だ、よろしく」

「よろしく、あたしは《千葉(ちば) エリカ》」

「《柴田 美月(しばた みづき)》です。よろしくお願いします」

「《西城(さいじょう) レオンハルト》だ、レオでいいぜ」

 

千翼は新しい友達が出来たことに少しばかり嬉しく思っていた。

 

 

 

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いかがだったでしょうか?
皆さんは劣等生のブルーレイ、DVDは買いましたか?
自分は発売当日に即買わせていただきました(笑)


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第十三話《招待》

皆さん、お待たせしました!
投稿が遅くなってしまいました!
楽しみにしていた方々本当に申し訳ない!



帰り道、千翼達は他愛のない話をしていた。そして今は千翼がエリカに質問攻めをされている。

 

「え、じゃあ千翼くんほのかの隣に住んでるの?」

「まあな、たまに家に泊まったりするし...何ニヤついてるんだ、エリカ」

「べっつに~(ニヤニヤ)」

 

何かを勘違いしているエリカの隣で、ほのかは深雪と会話をしている。

 

「...じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整してるのは達也さん何ですか?」

「ええ、お兄様にお任せするのが一番安心ですから」

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いからCADのメンテに手間が掛からない」

「それだってデバイスのOSを理解できるだけの知識が無いとできませんよね」

「CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな。大したもんだ」

 

深雪の隣から美月が覗き込むように会話に参加し、レオも感心した様な顔で会話に参加する。

 

「達也くん、あたしの()()も見てもらえない?」

 

そう言いながらエリカは柄の長さに縮めた警棒のストラップを達也に見せた。

 

「無理だ、そんな特殊な形状のCADをいじる自信はないよ」

「あはっ、やっぱりすごいね達也くんは」

「何が?」

「これがCADだって分かっちゃうんだから」

 

ストラップをクルクル回しながら笑うエリカだったが、千翼はその目の奥に笑み以外の光もあったよな気がした。

 

「「えっ?その警棒、CADなの?」」

 

美月と千翼は目を丸くしながら同じセリフを言った。

 

「普通の反応をありがとうお二人さん。みんなが気づいていたんだったら、滑っちゃうところだったわ」

 

注文通りの反応が返ってきたため、満足げにうなずきながらエリカの隣でやり取りを聞いていたレオが、訝しげに問う。

 

「それ、何処にシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」

「ブーッ。柄以外は全部空洞よ。刻印式の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」

「術式を幾何学紋様化して、感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するってアレか?そんなもん使ってたら並みのサイオン量じゃ済まないぜ?よくガス欠にならねえな?そもそも刻印型自体、燃費が悪すぎってんで今じゃああんまり使われてねえ術式のはずだぜ」

「おっ、さすがに得意分野。でも残念もう一歩ね。強度が必要になるのは振出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやればそんなに消耗しないわ。ま、兜割りの原理と同じよ。......って、みんなどうしたの?」

「エリカ.....兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけれど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ」

 

千翼はエリカの顔が焦りを含んだ強張りを見せていることに気付いた。

 

「そういや千翼、さっきの物凄い跳び方してたよな。あれも魔法か?」

 

ここでレオが気になっていたのか千翼に話を振った。

 

「あ、それあたしも気になってたんだ」

 

エリカもさっきのをごまかすように話に乗ってきた。

 

「えっ?あ、ああ、そうだよ」

「それにしては起動式の展開が視えなかったがどういった魔法だ?」

「それはこのCADが関係あるんだ」

 

そう言って千翼は左手首に着けてる鳥の翼のようなCADをみんなに見せる。

 

「これはあらかじめ掛けてる身体強化魔法をどの部位にどれだけの強化をかけるかを選択するためのデバイスなんだ。さっきは下半身に強化をかけて跳んでたんだよ」

「成程、本来全身に掛けて使う魔法を必要な部位にだけ掛け、サイオンの消費量を大幅に削減しているのか。理に適ってるな」

「千翼くん、そのCADは自分で?」

「いや、雫の親父さんの知り合いからこのCADのデータを収集する代わりにもらったんだ、でも自分じゃメンテナンス出来ないんだ。かなり特殊な構造をしてるらしいからね」

「そうなのか?」

「達也ってCADのメンテナンス得意なんだよね?」

「ああ」

「もしよかったら、基本的なことだけでいいから俺に教えてくれないか?」

「俺にか?」

「こういうのは、ちゃんとした技術を持ってる人に教えてもらう方が覚えやすいからね」

「...分かった、教えるだけだぞ」

「ありがとう!.....よし!」

 

まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように喜ぶ千翼をほのかは笑顔で見つめていた。

 

「光井さん、千翼くんを見つめてるばかりじゃなくてこちらももっとお話ししましょう」

「えっ!?し、司波さん!........そ、そんなに見てた?」

「「「「うん(はい)」」」」

 

その場の女性陣全員が一斉に頷き、それを見たほのかの顔が真っ赤になる。

 

「どうしたほのか?顔真っ赤だぞ、大丈夫か?」

「ち、千翼くん!?だ、だだだ大丈夫だよ!///」

「そ、そうか?ならいいんだけど.....」

 

「ああ~成程ね~」

「何が?」

「いや、ほのか苦労してるなってね」

「??」

 

千翼はエリカの言葉の意味が分からず、家に帰るまでずっと頭を捻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―

 

千翼はいつも通り二人と通学していた。そして駅前で司波兄妹とエリカ達と会い、一緒に行くことになり歩き出すとした時だった。

「達也くーん!!千翼くーん!!」

 

後ろから真由美が手を振りながらこちらに駆け寄ってきていた。

 

「七草会長...だよね」

「いつの間にか下の名前で...」

「いや達也は分かるけどなんで俺まで?」

 

ほのか達と話してるうちに、真由美が合流した。

 

「おはようございます会長...それで一体どんなご用件でしょうか?」

「おはよう深雪さん。別に大したことじゃないわ、達也くんと深雪さんと千翼くんを生徒会室でのランチに招待しようと思って」

「え?...俺もですか?」

「ええ、あ、あなたたちもどうですか?」

 

真由美は他のメンバーに声をかけるが、

 

「「いえ、結構です」」

「「「私たちは大丈夫です」」」

 

レオとエリカが食い気味に、美月とほのかと雫はやんわりと断りを入れた。その一方で、

 

「お兄様、私たちはどうしましょう?」

「深雪の好きにしていいぞ」

「では、わたしはお兄様に従います 」

「深雪はもっと我儘を言っていいんだぞ?」

 

司波兄妹は恋人同士のような空間を作り上げていた。

 

「なっ!?二人だけの空間が形成されてる...!」

「司波さん!私応援してますから!」

「.....何を?」

 

 

 

 

 

昼休み 生徒会室前―

 

千翼と司波兄妹は真由美に誘いを受け、現在生徒会室前に来ていた。

「失礼します」

『どうぞ』

(ほのか達も来ればよかったのにな...)

 

 

 

 

その廊下の手前で千翼達が生徒会室に入っていくのを誰かが見ていた。

 

「...ええ、そうです。セキュリティが厳しくこれ以上は無理ですが、生徒会室に入った者の中から三人を特定しました。司波深雪、司波達也、そして鷹山千翼です。...はい、妹の方は恐らく生徒会に入るかと...了解です。監視を続けます」

 

その者は誰かに報告し、その場を去った。

 

 

 

 

 

生徒会室内―

 

「ようこそ生徒会室へ。どうぞ掛けてください」

「「「失礼します」」」

 

深雪は一礼して席に掛ける。その動作はとても美しく見え、思わず見とれてしまうほどだった。

 

(成程、ほのかが惚れ込む訳だ)

「えーっと、ご丁寧にどうも。ランチは自動配膳機(ダイニングサーバー)があるのでお好みのを選んでね」

 

千翼達は各々注文の品を受け取り席に着く。

 

「さて、まずは紹介しますね。手前から会計の《市原 鈴音(いちはら すずね)》通称リンちゃん。もう知ってると思うけど風紀委員長の渡辺摩利、それから書記の《中条(なかじょう) あずさ》通称あーちゃんです」

「...会長、私の事をリンちゃんと呼ぶのは会長だけです」

 

鈴音は溜息をしながらそう言った。どうやら真由美は稀に通称を付けることがあるらしい。

 

「会長、私にも立場がありますから下級生の前であーちゃんはやめてください」

 

「...先輩に悪いけど、こっちのあーちゃんは似合ってるよな」

「...ええ、私も似合ってると思います」

「俺も同感だ」

 

あずさに聞こえないように会話する三人。そしてふと千翼は摩利の方を見た。

 

「あれ?渡辺先輩もしかして手作りの弁当ですか?」

「そうだが。...意外か?」

「いえ、俺料理できないんで、すごく上手だなって思って」

「そうですね、普段から料理しているかは――その手を見れば分かりますよ」

 

それを聞いた千翼は摩利の手を見る。摩利の指には絆創膏が所々に巻いてあった。

 

「そ、そうか...そんな真正面から褒められると照れるな」

 

摩利はそう言いながら恥ずかしそうに手をさすっていた。

 

「...それはそうと千翼くん、君はそれで大丈夫なのか?主に肉料理ばかりじゃないか」

 

摩利は話を反らすために千翼に話を振ってきた。摩利の言う通り、千翼の前にはハンバーグから始まり、豚の生姜焼き、鶏のから揚げなど、野菜類が見当たらず肉オンリーだった。

 

「ちなみに、その水筒には何が?」

「生卵です」

「...本当に大丈夫なの?」

「...これでも昔に比べたら食べれるようになった方ですよ」

「...これ以上聞くのは野暮だな、すまない」

「いえ、気にしないでください」

 

少し空気が重くなったのを感じた深雪が言葉を続けた。

 

「そうだお兄様。わたしたちも明日からお弁当にしましょうか」

「とても魅力的だがふたりになれる場所がね...」

「兄妹と言うより恋人同士の会話ですね」

「市原先輩、それ言っちゃ...!」

 

千翼が止めようとしたが手遅れだった。

 

「ええ。血が繋がってなければ恋人にしたいと思ったことはあります」

「...あちゃ~」

「?どうしたんだ千翼」

「いや、何でもない」

 

そう言いながら周りを見ると、言った本人と千翼以外が恥ずかしいのか顔が赤かった。

 

「もちろん冗談ですよ」

「「えっ!?」」

「...中条先輩は分かるけど何で深雪も驚いてるんだ?」

「えっ!?ち、千翼くん!?わたしは、別に。そんな...」

(ええ、分かってます...お兄様は悪くありません...!)

 

深雪は何処か残念そうな顔をしていた。

 

「では、本題に入ります」

 

昼食を食べ終え、真由美から生徒会と風紀委員会の説明が始まった。

 

生徒会は伝統的に生徒会長に権限が集められ、会長だけが選挙によって選ばれるが他の役員は会長が選任できる。各委員会の委員長も一部を除いて任免権がある。

 

続いて摩利が務めている風紀委員会の説明に入った。

風紀委員会は生徒会、部活連、教職員会の三つの組織から三名ずつ計九名が風紀委員として推薦され、風紀委員長がその九名から選挙を行う。

つまり風紀委員長はある意味で生徒会長と同等の権限を持つことが分かる。

風紀委員会の職務は魔法使用に関する校則違反者の摘発と魔法を使用した騒乱行為の取り締まりで、簡単に言うなら警察のようなものである。

 

「...説明は以上です、深雪さん私たちは貴女が生徒会に入って下さることを希望します。どうでしょう?」

 

深雪は一拍置くと、

「...会長は兄の成績をご存知でしょうか?」

「ええ、すごい成績でしたね、先生方も驚いていました」

「成績優秀者や有能な人材を生徒会に入れるなら兄の方が相応しいと思います!ですから生徒会に入るなら兄も一緒にというわけにはいきませんでしょうか?」

「!......」

 

深雪がこのような提案をしたことに達也は驚いている様だった。千翼も驚いていたが深雪は達也の事を思ってこのような提案した深雪の思いを千翼は感じていた。

 

だが、

 

「残念ながらそれはできません。生徒会役員は一科から選ばれます、これは不文律では無く記載されている規則です」

 

鈴音がきっぱりと答えた。

 

「...すいません、出過ぎたことを申しました」

「いえ、では深雪さんは書記として今期生徒会に参加していただきます」

「はい、よろしくお願いします」

「それでは―」

「ちょっといいか?」

 

突如、摩利が手を上げて話に割って入って来た。

 

「確か風紀委員の生徒会推薦枠がまだ決まってなかったな?」

()()()()()()()()()()けどもう一人はまだ人選中よ。新年度が始まってまだそんなに経ってないのよ?」

「さっきの話だが【生徒会の役員は一科の生徒から選ばれる】だったな?」

「そうよ?」

 

摩利の顔が確信を得た顔つきになる。

 

「つまり、一科の縛りがあるのは〝生徒会"メンバーだけであって...風紀委員はニ科の生徒を選んでも規則違反にはならない」

 

摩利の一言に深雪はパアッと明るい笑顔になり、達也と千翼は驚いていた。

 

「摩利...そんな突拍子もないアイデア...ナイスよ!!そうよ風紀委員なら問題ないわ!」

「はあっ?」

「ええっ!?」

 

達也と千翼の二人を置いて話が進んでいく。

 

「生徒会は司波 達也くんを風紀委員に指名します」

 

そして達也が風紀委員に指名された。

 

「ちょっと待ってください」

 

達也は慌てた様子で立ち上がる。

 

「渡辺委員長、確認させてください」

「何だ?」

「風紀委員は喧嘩が起こったらそれを力づくで止めなければならないんですよね」

「そうだな」

「そして魔法が使用された場合も止めさせなければならないと」

「出来れば使用前に止めさせるのが望ましい」

 

「あのですね!俺は実技の成績が悪かったから二科生なんです!!実技で劣る二科生に一科生の魔法使用を止められると思いますか!?」

 

達也が珍しく声を荒げて意見を述べている。

 

「構わんよ。力比べなら私がいる」

 

摩利が自信満々にそう言ったため、達也はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。

 

「おっと、そろそろ昼休みが終わるな。ではこの続きは放課後にここでしようか」

「...分かりました」

 

達也の受け答えに哀愁を感じた千翼は励ましの言葉をかけた。

 

「達也、まあ、何とかなるさ、とりあえず...」

「ん?何他人事の様に言ってるんだ?君も来るんだぞ?風紀委員の詳しい説明をまだしてないだろう?」

「.......え?」

「ああ、そう言えば言ってなかったな。君はすでに生徒会推薦枠で風紀委員に指名してるぞ?」

「え.....えええええええええーーっ!!!」

 

昼休みの終了を告げるチャイムをかき消すかのように千翼の驚きの声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

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第十三話、いかがだったでしょうか。
千翼の活躍の場はまだ先にあります。
亀も驚くほどの更新速度になってますが
ペースを上げていけたらと思っている所存です。

それでは、次回をお楽しみに!


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第十四話《決闘》

お待たせしました!
やっと達也の力の片鱗を出せました!
早く千翼の活躍を書きたいです。

それではどうぞ!("・ω・)つ


「え!?千翼くんが風紀委員に!?」

 

午後の授業が終わり、千翼はほのか達に風紀委員に指名されたことを告げていた。

 

「しーっ!声が大きいよほのか...!」

「あ...ご、ごめん。いきなりだったからつい...」

「俺としては自分の知らないうちに風紀委員に指名されていたことに驚いたんだけど...」

 

千翼は大きくため息をついた。

 

「いいじゃないですか千翼くん。お兄様と一緒に風紀委員をやってみるのも」

「...まあ、別に嫌って訳でもないんだけどね...という訳だから二人は先に帰ってていいよ」

「気にしないで。司波さん、千翼くんをよろしくお願いします」

「ええ、任されました。それではお兄様の所へ向かいましょうか」

「ああ、行こうか。それじゃあ後で」

 

 

ほのか達と別れた後、千翼達は達也と合流し生徒会室に向かう。

 

 

「失礼します。司波 達也です」

「司波 深雪です」

「鷹山 千翼です」

 

達也を先頭に生徒会室に入ると真由美と摩利は部屋の奥で話していて、そこから少し離れた所に男子生徒が立っており、千翼達が来たことに気づく。

 

「...司波?」

 

「深雪の生徒会入りと自分達の風紀委員入りの件で伺いました」

 

「...風紀委員...」

 

そういいながら男子生徒は達也を見て怪訝そうな顔を浮かべた。すると奥で真由美と話していた摩利がこちらに気づいた。

 

「おっ来たな。三人ともご苦労様」

 

それを聞いた男子生徒は()()の前に立つ。

 

「生徒会にようこそ。副会長の服部 刑部です」

「司波 深雪です」

「鷹山 千翼です」

 

服部は達也には見向きもせずに真由美の近くに歩いて行った。

 

「(達也を無視するのか...深雪は...)」

 

千翼は深雪の方をチラッと見ると、深雪は少し不機嫌そうに見えた。

 

「(...やっぱり気にしてるよな)」

「さて、それじゃあ達也君、千翼君。我々も移動しようか」

 

そういって摩利は生徒会室にあろもう一つの扉の前に向かう。

 

「委員長、そこから入るんですか?」

「ああ、風紀委員の本部はここから繋がっている。ちょっと変わった造りだろう」

 

千翼と達也は摩利の後に続いて扉をくぐろうとした時だった。

 

 

「渡辺先輩待ってください」

 

 

服部が摩利を呼び止めた。

 

「なんだ?服部刑部 小丞範蔵副会長」

「フルネームはやめてください!!服部 刑部です!」

「刑部は官職名だろお前の家の」

「今は官職なんてありません」

「じゃあ、服部 範蔵君」

「歴史上の人物と一緒にされたくないんです!」

「まあまあ摩利、はんぞー君にも色々譲れないものがあるんでしょう」

「ん、コホン。ともかく...」

 

(あ、会長には怒らないんだ...)

(これは興味深い...)

 

「私は司波の風紀委員入りは反対です。過去二科生(ウィード)が風紀委員に任命された例がありません」

「それは禁止用語だぞ、委員長の私の前で堂々と使用するとはいい度胸だな」

「取り繕っても仕方ありません。一科生(ブルーム)二科生(ウィード)の実力差は明白、二科生(ウィード)が風紀委員として一科生(ブルーム)を取り締まるのは不可能です」

「実力には色々ある、力ずくでなら私だけで十分だ」

 

摩利がそう言いながらこちらを見て、

 

「それに達也くんは展開中の起動式から発動する魔法を読み取ることができる」

「まさか!?」

 

服部は信じられないことを聞かされ驚愕する。それもそのはず、どんな魔法師でも展開中の起動式を読み取ることができないからだ。

千翼は初めて会った時の達也の雰囲気から只者ではないと思っていたが、それと同時に達也が何かを隠しているようだと改めてそう思えた。

 

「達也くんの力を使えば魔法の完成を待たなくても危険度に応じた罰を決めることができる。そしてもう一つ、『一科生で構成されている風紀委員が二科生も取り締まる』これは一科と二科の溝を深めることになっていた。私が指揮する委員会が差別意識を助長するのは私の好むところではない」

 

摩利はしっかりとした理由を述べたが、服部は納得いっていないようで真由美に向き直る。

 

「会長...私は司波の風紀委員就任に反対します。魔法力の乏しい二科生に風紀委員は務まりません。どうかご再考を」

「待ってください!」

 

とうとう深雪が我慢できずに口を出した。千翼は慌てて深雪に振り返ると同時に達也も同じように振り返っていた。

 

「兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適合していないだけのことです。実践なら兄は誰にも負けません」

 

深雪の確信に満ちた言葉を、服部は真剣味が薄い言葉で返した。

 

「司波さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければなりません。身内の身贔屓に目を曇らせてはいけません」

 

服部の言葉にカチンときた深雪は、ヒートアップしてしまった。

 

「お言葉ですが副会長、お兄様の本当の力を以てすれば―『深雪』ッ!」

 

冷静さを完全に失いかけてた深雪の言葉を遮るように達也が深雪の前に手をかざす。深雪はハッと我に返り、自分が何をしようとしたかを思い出し、羞恥に後悔を混ぜたような表情を浮かべながら口を閉ざし俯く。

 

そして深雪を止めた達也が服部の正面に移動する。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」

「何.....?」

「た、達也!?」

 

達也の思いがけないそれでいて大胆な申し出に服部と千翼は驚いた。ふと真由美たちを見ると真由美たちも驚きを隠せないようだった。

 

「...思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

肩を震わせている服部から罵倒を受けた達也は困ったような顔で薄っすらと苦笑を浮かべている。

 

「何がおかしい!」

「魔法師は冷静を心掛けるべきでしょう?」

「くっ!」

 

自分のセリフを揶揄されて、服部が口惜しげに息を詰まらせる。

 

「別に風紀委員になりたい訳じゃありませんが.....妹の目が曇っていないこと証明するためならばやむを得ません」

 

まるで独り言のようであったが、服部にはそのつぶやきが余計に挑発的に聞こえたようだ。

 

「...いいだろう。身の程を教えてやる」

「では生徒会長権限により、二人の模擬戦を正式に許可します。時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開とし双方のCADの許可します」

 

真由美が厳かと形容して構わない声で宣言すると、あずさが慌ただしく端末を叩き始めた。

 

 

 

 

 

―第三演習室

 

 

千翼は第三演習室にて、CADを取りに行った達也達を真由美たちと待っていた。深雪は達也についていっている。

千翼は大きくため息をついた。

 

「まさかこんな事になるとは...」

 

千翼がそう呟いた瞬間、演習室の扉が開き達也と深雪が入ってくる。達也の手にはCADが入っていると思われるアタッシュケースをを持っていた。それを用意してある机に置いてケースを開く。中には二丁の拳銃形態のCADと複数のカートリッジが入っていてそのうちの一つを取りカートリッジを別の物に交換する。その様子を深雪を除く全員が興味深げに見つめていた。

 

「お待たせしました」

「いつも複数のストレージを持ち歩いているのか?」

「ええ。汎用型を使いこなすには処理能力が足りないので」

 

正面に立つ服部がそれを聞いて冷笑を浮かべるが、達也の意識には小波一つ立っていないようだった。

 

「さて、時間だ。ルールを説明する。相手を至らしめる術式並びに回復不能な障碍を負わせる術式は禁止。直接攻撃は相手に捻挫以上の負傷を与えない範囲であること。武器の使用は禁止だが素手による攻撃は許可する。勝敗は一方が負けを認めるか審判が続行不能と判断した場合に決する。ルール違反は私が力ずくで処理するから覚悟しろ。以上だ」

 

摩利が警告が終わる頃、達也と服部の双方が5m離れた開始線で向かい合う。

 

 

(魔法師同士の戦いは先に魔法を当てた方が勝つ。そしてCADによる魔法発動速度で一科生(ブルーム)二科生(ウィード)に負けるはずがない。ましてや相手は二科生(ウィード)の中でも特に実技が不得手と聞く。―始まる前から勝負はついている)

服部は目を瞑り、イメージする。

開始直後スピード重視の単純な起動式で司波より早く展開を完了させる。

使用する魔法は基礎単一系移動魔法。

それで司波を後方に10m吹き飛ばし、衝撃で戦闘不能にさせる。

 

(―これで俺の勝ちだ!)

 

「―準備はいいか?」

 

達也はCADを握る右手を床に向けて、服部は左腕のCADに右手を添えて、摩利の合図を待つ。

 

 

 

「―始め!!」

 

 

 

始まった直後に服部は起動式を即座に展開し、魔法を発動しようとした時、既に達也が司会を覆いつくすまでに迫っていた。

服部は慌てて座標を修正し、魔法を発動しようとしたがそこには達也はいなかった。

 

 

―その時だった。

 

 

服部の側面から大きまうねりとなった『波』が服部を揺さぶり、意識を刈り取られた。

そして崩れ落ちる服部の後ろに達也がCADを向けて立っていた。

 

 

 

―ほんの一瞬で勝敗が決した。

 

 

 

演習室にいた()()()()()全員が驚きを隠せなかった。

達也は向けていたCADを下ろし、摩利の方を見る。摩利はハッと我に返り、

 

 

「...勝者、司波 達也」

 

 

摩利による勝ち名乗りは、むしろ控えめだった。達也の顔に喜悦はない。

 

ただ淡々と、為すべき事を為した顔をしていた。

 

 

 

千翼はそんな達也に自分の父親を重ねていた。

 

 

 

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いかがだったでしょうか!

こんな更新が遅い小説をいつも楽しみにしている方々、ありがとうございます!!

是非評価などもよろしくお願いします!
誤字、脱字の報告もどんどんください!

それでは次の話をお楽しみに!!


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第十五話《風紀》

お待たせしました!更新が遅くなってすいません!
今回は説明会みたいな感じです
それではどうぞ!


摩利の勝利宣言を聞いた達也は気を失っている服部に軽く一礼してCADケースを置いてある机に向かう。

その際、千翼は服部を壁際に運び、壁にもたれかけさせる。

 

「待ってくれ、達也」

 

千翼は達也を呼び止める。

 

「達也の今の動き...あれは魔法による動きなのか?」

「魔法じゃない。正真正銘、身体的な技術だ」

「それであれだけの動きができるなんて·····」

 

千翼は驚きを隠せなかった。そこへ深雪が寄ってくる。

 

「それは当たり前ですよ千翼君。お兄様は忍術使い《九重 八雲(ここのえ やくも)》先生の指導を受けているのですから」

「九重 八雲?」

 

千翼は時代が時代なので名前を聞いてもピンと来ていなかったが、その後ろにいた摩利は驚いた。

 

「あの九重 八雲か!?」

 

摩利が大層驚いている様なので、それほど有名な人物なんだろうなと千翼は思った。

 

「じゃあ、あの攻撃魔法も忍術ですか?私にはサイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったけど」

「その通りです。あれは忍術ではなくサイオンの波動です。振動の基礎単一系魔法でサイオンの波を作り出しただけです」

「でもそれだけじゃ、はんぞーくんが倒れた理由が分かりません...」

「酔ったんですよ」

「酔った?一体何に?」

 

首を傾げた真由美に、達也は淡々と説明を続けた。

 

「魔法師はサイオンを光や音と同じ様に知覚します。それは魔法師には必須の技術です。しかし、予期せぬサイオン波に晒された魔法師は揺さぶられたように錯覚し、激しい船酔いのような状態になるんです」

「信じられない...私たち魔法師は普段からサイオン波に慣れています。そんな魔法師が倒れるほど強力な波動なんて一体どうやって...」

「波の合成、ですね」

 

真由美の疑問に答えたのは鈴音だった。

 

「振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波が丁度服部君と重なるよう調整し、三角波のような強い波動を作り出したのでしょう」

「お見事です、市原先輩」

「それにしてもあの短時間で三回の振動魔法、その処理速度で実技の評価が低いのはおかしいですね」

 

正面から成績が悪いと言われ、達也は苦笑する。すると

 

「あのぅ~」

「!?中条先輩!いつの間にそこに!?」

 

いつの間にかあずさが達也に近づいていて、達也のCADに触れながら見ていた。

 

「もしかして司波くんのCADは《シルバー・ホーン》じゃありませんか?」

「《シルバー・ホーン》?あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーの?」

「へぇ、達也のCADはそんなにスゴいんですか?」

「そうなんですよ!」

 

あずさの表情がパァっと明るくなり、千翼に詰め寄り嬉々として語りだした。

 

「フォア・リーブス・テクノロジー、通称:F.L.T専属、その本名、姿、プロフィールのすべてが謎に包まれた奇跡のCADエンジニア!世界で初めてループ・キャスト・システムを実現した天才プログラマー!《シルバー・ホーン》はそんな彼がフルカスタマイズした特化型CADのモデル名でループ・キャストに最適化されているんですよ!あ、言い忘れていましたが、ループ・キャスト・システムとは一回の展開で同じ魔法を、連続して何度でも、連続発動できる起動式のことで―」

「わ、分かりました。分かりましたから少し落ち着いてください」

 

千翼にズイズイ寄って来るあずさは落ち着きを取り戻すが、その目はまだ輝いていて、達也のCADを見ようと達也に迫っていた。

 

「三連続発動の秘密はそれか」

「でもリンちゃん。それっておかしくない?」

「ええ、おかしいですね」

 

真由美と鈴音は新たな疑問に首を傾げた。

 

「ループ・キャストはあくまで()()()()()()()を連続発動するためのもの。波の合成に必要な振動数の異なる複数の波動を作り出すことはできないはずです。振動数を定義する部分を変数にしておけば可能でしょうけど、座標・強度・持続時間に加えて、振動数まで変数化するとなると.....まさか、それを実行しているというのですか?」

「...多変数化は、処理速度としても演算規模としても干渉強度としても、この学校では評価されない項目ですからね」

 

千翼達が見つめるその先で、達也は変わらない醒めた口調でそう答えた。

 

「...実技試験における魔法の評価は...」

 

そこに、意識を取り戻した服部が起き上がりながら答えた。

 

「魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか...」

「はんぞー君、大丈夫ですか?」

「大丈夫です!」

 

服部は顔を赤くしながら即座に立ち上がり、深雪の方へと歩き出す。

 

「司波さん」

「はい」

「目が曇っていたのは私の方でした。許してほしい」

「わたしの方こそ生意気を申しました。お許しください」

 

お互いに謝罪をすると服部は達也の方を見るが何も言わず出ていった。

深雪はムッとしていたがすぐに落ち着いた。

 

「これで決まりだな」

「それじゃあ、生徒会室に戻りましょうか」

 

真由美の一声で全員が移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

「では二人とも、ようこそ風紀委員会本部へ」

 

千翼達は摩利と共に本部室に来ていたのだが、部屋のいたる所が様々な物で埋め尽くされていた。

 

「少し散らかってるが、まあ適当に掛けてくれ」

「...え?...これで少し...ですか?」

 

千翼が唖然としている横で、達也は溜息をついていた。

 

「委員長、ここを片付けてもいいですか?」

「なに.....?」

 

唐突な達也の申し出に、摩利は意外そうな顔をしていた。

 

「魔工技師志望としては、耐え難いものがあるんですよ」

「魔工技師?あれだけの対人戦闘スキルがあるのに?」

「俺の才能じゃどう足掻いてもC級までのライセンスしか取れませんから」

「...すまない...」

 

達也は気にしていないと首を横に振る。

 

「...達也、俺も手伝うよ」

「ああ、すまない」

 

達也は書類の整理を千翼は散乱している本などを棚に戻していった。

 

 

 

ある程度片付いて来た時、摩利が話を切り出した。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか、作業しながらで構わない。まず達也君をスカウトした理由は―そういえば理由はほとんど説明してしまったな。未遂犯に対する罰則の適正化と二科生に対するイメージ対策だ」

「憶えていますが、イメージ対策の方はむしろ逆効果ではないかと」

「俺もそう思います。...委員長、この端末の中、見てもいいですか?」

「ああ、大丈夫だ。...どうしてそう思う?」

「自分達は今まで口出しできなかったのに、同じ立場の下級生にいきなり取り締まられる事になれば、面白くないと感じるのが普通でしょう」

「だが同じ一年は歓迎すると思うが?」

「それはどうでしょう?...達也、こっちのCADはこれでいいか?」

「...なかなかだな」

「達也ほどじゃないけどね...それでさっきの続きなんですけど、昨日いきなり〔お前達は認めないぞ〕宣言を投げつけられましたし...」

「ああ、森崎のことか」

「彼を知ってるんですか?」

「教職員推薦枠でうちに入ることになっている」

「「えっ?」」

 

二人は思わず手にしていたCADを落としそうになり、慌てて持ち直した。

 

「達也くんでも慌てることがあるんだな(ニヤニヤ)」

「...そりゃそうですよ」

 

してやったりといった笑顔を浮かべた摩利に、達也は溜息交じりに答えた。

 

「昨日の乱闘騒ぎを理由に推薦を取り消すことはできる。...だが()()()()()()()()だしなぁ~」

「いっそ、千翼だけを残して、二人は入れないというのはどうです?」

「嫌なのか達也?」

 

千翼がそう尋ねる。達也は持っていたCADをケースにしまい千翼の方を見る。

 

「...正直、面倒だと思ってる。だが、今更引き下がれないと思ってる」

 

それを聞いた摩利がにんまりと人の悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「(フフッ)屈折しているな、君は」

 

残念ながら一本取られたと認めざるを得ない、と達也は思っていた。そこに委員会本部に二人の男子生徒が入ってきた。

 

「ハヨースッ」

「オハヨーございまス!」

 

威勢の良い掛け声が部屋に響く。

 

「お、姐さん。いらしたんですかい」

「委員長、本日の巡回、終了しました!逮捕者、ありません!」

 

威勢の良い男が報告をしているさなか、摩利が二人に近づく。

 

「報告ご苦労。それから.....」

 

摩利は何処から出したのか、丸めたノートをごつい体系の男の頭をスパァン!と叩いた。

 

「姐さんって呼ぶな!何度言ったら分かるんだ!お前の頭は飾りか!」

「そんなポンポン叩かねえでくださいよ、あ.....いえ、委員長」

 

ごつい体系の男は姐さんと言いかけ、訂正する。そしてふと千翼達を見る。

 

「ところでそいつらは?新入りですかい?」

「...お前の言う通り新入りだ。1-Aの鷹山 千翼と1-Eの司波 達也。二人共生徒会推薦枠で風紀委員(ウチ)に入ることになった」

「...へぇ....一人は紋無しですかい」

辰巳(たつみ)先輩、その表現は禁止用語に抵触する恐れがあります!この場合、二科生と言うべきかと思われます!」

「お前達、そんな単純な了見だと足元を掬われるぞ?ここだけの話だが、さっき服部が達也君に足元を掬われたばかりだ(ニヤニヤ)」

「.....そいつが、あの服部に勝ったってことですかい?」

「ああ、正式な試合でな」

「何と!入学以来負け知らずの服部が、新入生に敗れたと?」

 

二人は驚きながら達也を見ていた。そして、

 

「そいつは心強ぇ」

「逸材ですね、委員長」

 

拍子抜けするほど、達也を高く評価していた。これには千翼達の方が驚いていた。

 

「意外だろ?これが千翼くんをスカウトした最大の理由だ」

「え?」

 

いきなりすぎて何を問われたのかを千翼は理解できなかった。

 

「この学校はブルームだ、ウィードだとつまらない肩書きで優越感に浸り、劣等感に溺れる奴らばかりだ。正直、この状況に私はうんざりしていたんだ。幸い、真由美達も私がこんな性格だって知ってるからな。生徒会と部活連の枠はそういった意識の薄い奴を選んでくれてる。ここは君達にとって居心地の悪くない場所だと思うよ」

「3-Cの《辰巳 鋼太郎(たつみ こうたろう)》だ。よろしくな司波、鷹山。腕の立つ奴は大歓迎だ」

「2-Dの《沢木 碧(さわき みどり)》だ。君たちを歓迎するよ。司波君、鷹山君」

 

二人が次々に握手を求めてくる。摩利の言う通り悪くない空気だと千翼は思った。

 

「い、1-Aの鷹山 千翼です」

「1-Eの司波 達也です」

「「よろしくお願いします」」

 

千翼達はそれぞれ挨拶と握手をした。千翼はこの先輩たちなら上手くやっていけそうな気がしていた。

 

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第十五話いかがだったでしょうか?

早く千翼の活躍を書きたいです。


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第十六話《予兆》

お待たせしました!
今回は幕間みたいな感じです。
それではどうぞ!


辰巳と沢木との挨拶をした後、本部室の片づけが終わり千翼達は生徒会室に戻る事に―

 

一方、生徒会室では―

 

あずさからワークステーションの操作を教わっていた深雪が、ふと真由美が立ち上がるのを見かけた。

 

「会長、どちらへ?」

「ちょっと新人風紀委員の二人の様子を見にね。もしかしたら摩利が二人にあんな事やこんな事をしてるかもって思うと気になるじゃない」

 

それを聞いた深雪は絶望した顔になっていた。それを間近で見たあずさが深雪の横で涙を浮かべて怯えていた。

 

「...別にそういうことはしてませんよ」

「会長、妹に変な事を吹き込まないで下さい」

 

真由美の声が聞こえていたのか本部室に繋がる扉から千翼と達也が出てきた。深雪はパッと笑顔になった。

 

「君達、おねーさんに対する扱いが少しぞんざいじゃない?」

「そういえば気になったんですけど、会長は達也といつ知り合ったんですか?」

 

千翼の問い掛けを聞いた真由美は段々と邪な笑みを浮かべた。

 

「そうかぁ、そうなのかぁ.....ウフフフフ」

(あれ?もしかして俺...余計なこと言っちゃった?)

 

真由美は小悪魔という言葉がピッタリな笑顔を浮かべると―

 

「遠い過去に出会いを果たしていた私達!二人は運命の悪戯に引き裂かれる!しかし!また!!惹かれ合い、入学式のあの日に再び巡り合ったの!!」

 

真由美はそう言ってはいるが、千翼には完全に芝居がかった演技だと分かるようにやっているように見えていた。

 

「.....だったら面白かったんだけど入学式が初めてよ。間違いなく」

「はぁ~...だと思いました」

「そ、そうですよね!もちろん分かってましたよ!?お兄様の妹ですもの!」

 

間違いなく真にうけていたなと千翼は思ったが言わないことにした。

 

「ねっ、ねっ、もしかして運命感じちゃった?」

「...これが運命なら『Fate』じゃなくて『Doom(凶運)』ですねきっと」

「そっかぁ.....チッ...」

(え!?舌打ち!?)

「真由美、いい加減にしろ」

「あうっ」

 

そこへ摩利が現れ、真由美の制服の襟元を掴んだ。

 

真由美(コイツ)がこんな軽口を叩くのは君たちを気に入っているからだ。そうじゃないと猫被ってるからな」

「そうそう、ということで!新役員さん達明日からよろしくね!今日は解散!」

 

真由美に話を逸らされた気がしたが、取り敢えずそれぞれ帰宅するために生徒会室を退出する。だが真由美はまだやる事があると言い、一人生徒会室に残った。

 

千翼達が退出して暫く、真由美が一人待つ生徒会室の扉が開く。

 

「十文字くん」

「今回の新人はどうだ?七草」

 

入ってきたのは、第一高校の全クラブ活動の統括組織『部活連』の会頭《十文字 克人(じゅうもんじ かつと)》であった。

 

「ええ、面白い子がいるわ。それも二人」

「それで、お前の目標は達成できそうか?」

「そうね...あの子達なら面白いことになるかも。一科生と二科生、それぞれの立場がどう働いてくれるか見物だわ...♪」

「...よく分からんが。お前が言うならそうなんだろう」

 

真由美は窓際から下校する千翼達を見る。

 

「フフッ、他人のような感じがしないのよ。運命を感じちゃってるのは私の方かもね...」

 

 

 

一方―

 

深雪は達也達と下校している中、真由美の先ほどの言葉がどうしても気になってしまい思い切って二人に聞いてみることにした。

 

「お兄様、千翼くん。渡辺先輩とは、その...本当になにもありませんでしたか?」

「深雪、会長の冗談を真に受け過ぎだ」

 

そう言って、達也は深雪の頭を優しく撫でた。

 

「達也の言う通り、俺達は深雪が考えていることはしてないから」

「千翼くんもそういうのであれば...」

 

深雪は達也に撫でられて少し上機嫌になっていた。そんなやり取りをしている内に駅に着いたがふと深雪が立ち止まる。

 

「深雪?」

「どうしたんだ?」

 

深雪が立ち止まったので、千翼達も立ち止まる。

 

「...お兄様、今日はお兄様と一緒に居られる時間が少なかったので...一駅だけ歩いて帰りませんか?.....駄目...でしょうか?」

 

深雪はうるんだ瞳で達也を見つめていた。

 

「...駄目な訳ないさ」

「お兄様...!」

 

千翼を余所に達也と深雪は二人だけの空間に入ってしまった。

 

「...あー、折角の二人の時間を邪魔しちゃ悪いから、俺はもう行くよ」

「...っと、すまない」

「別にいいさ...一緒にいてあげなよ...それと...」

 

千翼は駅に向かいながら、深雪にしか聞こえないくらいの声で

 

『頑張れ、俺は応援してるから』

「ッ!?///」

「じゃあ二人共また明日!」

 

そうして千翼は駅へと消えてった。

 

「...もう///千翼くんまで美月と同じ事をッ///」

「?深雪、顔が赤いぞ?」

「い、いえ、何でもありません///さ、さあお兄様、わたしたちも参りましょう///」

「あ、ああ」

 

そう言って自分の手を引く深雪の顔が益々赤くなってる事に気づいた達也だったが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

「―ただいま」

 

千翼は帰ってくると部屋着に着替え、リビングのソファーに座り、一息ついていた。

 

「今日は色々あったな...」

 

千翼が今日の出来事を思い返していると、自宅のチャイムが鳴る。

 

「ん、もしかして...」

 

千翼は玄関に向かい扉を開ける。するとそこには千翼の予想通りの人物が立っていた。

 

「こんばんは千翼くん。それともお帰りなさいかな?」

「好きな方でいいよほのか。ここじゃあ何だし上がって」

「うん、ありがとう。それから...はい、どうぞ」

 

ほのかが千翼に手に持っていた手提げ袋を渡した。

 

「これは?」

「千翼くん、ごはんまだだろうなぁと思って、お母さんと一緒に作ってきたの」

「ホント!?わざわざありがとう!」

「フフッ、千翼くん本当に美味しそうに食べてくれるからお母さんも嬉しいんだと思うよ」

「ほのかも作ってくれたんでしょ?ありがとう」

「う、うん///どういたしまして」

「そういえば、ほのかはもう食べたの?」

「?まだだよ」

「なら一緒に食べないか?」

「えっ!?」

「あ、いや、ほのかが嫌だったら―」

「い、嫌じゃないよ!一緒に食べよう!」

「あ、ああ」

 

急に声を張ったほのかに少し驚きながらも千翼は夕食の準備をすべくほのかと共にキッチンに向かうのだった。

 

 

 

「それで、風紀委員会の方はどうだったの?」

 

二人での夕食を終えて片付けをしていると、隣にいるほのかが聞いてきた。

 

「ああ、俺も達也もやる事になったよ...まあ、その間に色々あったけどね」

「そっか、千翼くんも()()()()と一緒に頑張ってね」

「ああ、先輩達とも仲良くやっていけそうだしね」

 

そう言いながら片づけを終えた二人はリビングのソファーに並んで座る。

 

「そういえば、二人は結局達也の事〔さん〕付けで呼ぶ事にしたのか?」

「うん。司波さんのお兄さんだし、達也さんも名前でいいって言ってたから。雫も同じ理由だよ」

「流石に深雪はまだ無理か...」

「う、うん」

 

ほのかとしては名前で呼びたいが、そこらへんはまだ緊張するんだなと千翼は苦笑いをしていた。

 

「...と、そうだ。ほのか、明日から新入部員勧誘期間が始まるけどほのか達は何か部活動でもやるのか?」

「千翼くん、その事だけど明日私達と一緒に見て回らない?」

「うーん、風紀委員は明日から勧誘期間の間は見回りで巡回しなくちゃいけないけど、それでもいいなら一緒に回るよ」

「ありがとう!それじゃあ明日よろしくね!」

「ああ!」

 

そんなやり取りをしている二人の顔は年相応の眩しい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

―とある廃工場の一室

 

壬生 紗耶香(みぶ さやか)君、また何か悩んでいるようだね?」

「...はい...」

 

眼鏡をかけた白服の男は目の前にいる一高の二年生《壬生 紗耶香》が浮かない顔をしているので、まるで心を見透かすかのように問いかけてくる。

 

「...渡辺先輩が二科の新入生を風紀委員に加えたと聞いて...」

 

そう言いながら左手で右腕を抱える。彼女もエンブレムを持たない二科生であり、摩利とは何か因縁があるように見える。

 

「あの人は二科生を見下していたはずなのに、何故二科生を風紀委員に...。それとも見下しているというのは私の勘違いで―」

「勘違いではないよ」

「えっ?」

 

白服の男は眼鏡を外して紗耶香を見る、紗耶香もつられて白服の男を見た。その時、男の目からサイオン波が放出され、紗耶香はそれを受けた。

 

「思い出してごらん。去年、君は彼女に何と言われたか?」

「...渡辺先輩は......あたしに......」

 

ゆっくりと答え始める紗耶香。だが、その目は虚ろな目をしていた。

 

「試合を申し込んだあたしに『二科生のお前では相手は務まらない』そう冷たく言い放ったのです」

「そうだね。彼女は君を侮った、君が二科生だから。そんな彼女が二科生の新入生を加入させたからといって今更平等の精神に目覚めたと思えるかい?」

「いいえ―そんなはずありません」

「所詮風紀委員は一科生が二科生を取り締まるだけの不平等な組織だ。分かるね?」

「はい。あたしはこの学校ぐるみの差別を許せません。あたしはこの差別と戦います」

「よろしい」

 

白服の男はニヤリと、含みを持った笑みを浮かべていた。

 

「ところで例の少年、鷹山千翼についてはどうなってる?」

「まだ接触していませんが、どうやら他のクラスの一科生は一部を除いて彼の事を快く思っていないようです」

「ふむ、一科生にしては珍しい事だな。もしかしたらコチラに引き込めるかもしれない。その件も含めて引き続き頼むよ」

「はい」

 

紗耶香は男の言を聞き入れ、その部屋から出ていった。

 

 

今この瞬間、運命の歯車が廻り始めたのをまだ誰も知らない。

 

 

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第十六話いかがだったでしょうか?
本当にお待たせして申し訳ない!
なるべく早めに投稿できるようにしていきますので気長に待っててください
それではまた次回お会いしましょう!


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第十七話《新歓》

お待たせしました。最新話です!
ついに激動(千翼)の勧誘期間の始まりです!
今回は少し短いです。



―翌日 昼休み

 

千翼はほのかと雫と一緒に食堂で昼食を食べていた。

 

「千翼君、放課後に風紀委員の所に行くんでしょ」

「ああ。一度会議をして、それから巡回に入るから」

「だったら、待ち合わせしておいた方がいいかも」

「それじゃあ、教室の前で千翼君を待ってるから」

「わかった、教室前だな」

 

待ち合わせ場所が決まり、三人は昼休みが終わるまでどんな部活があるか話し合った。

 

 

 

 

 

―放課後 風紀委員会本部室

 

「な、何故お前たちがここにいる!」

 

千翼と達也は辰巳と沢木に風紀委員での話を聞いていた。

そこへ森崎が入って来て、千翼たちを見るなり驚いた様子で声を荒らげる。

 

「はぁ...、森崎、いくらなんでも非常識だろ?ここにいる意味くらい理解しなよ」

「なにぃ!」

「千翼の言う通りだ。いいから席についたらどうだ」

「非常識なのはお前達の方だ司波、鷹山―!」

「やかましいぞ、新入り」

 

そこへ摩利が現れ、一喝された森崎は慌てて口をつぐみ、さらに直立状態で固まった。

 

「この集まりは風紀委員の業務会議だ。風紀委員の会議に風紀委員以外いる訳ないだろう。その程度のことは弁えたまえ」

「も、申し訳ありません!」

「...まぁいい、座れ」

 

そう言われ、森崎が腰を下ろしたのは千翼の正面であった。二人としては望まない配置であったが下級生で一番下っ端である以上仕方がなかった。

千翼の隣に座っている達也もそう思っている。

その後、二人の三年生が入ってきて九人になったところで摩利が立ち上がった。

 

「全員揃ったな?さて、今年もまた、あのバカ騒ぎの一週間がやって来た。風紀委員にとって新年度最初の山場となる。今年も処分者を出さずに済むように、気を引き締めて当たってもらう。いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

一人ならず首をすくめるのを見て、トラブル巻き込まれ体質の自覚がある達也は同じ(てつ)を踏むまいと自らを戒めた。

そして、千翼もトラブルに突っかかるのは気を付けようと思っていた。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう、立て」

 

いきなりの展開ではあったが三人とも難なくすぐさまたちあがった。

 

「1-Aの森崎駿と鷹山千翼、そして、1-Eの司波達也だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

達也のクラス名を聞いた途端、ざわめきが生じた。

 

「誰と組ませるんですか?」

 

二年生の風紀委員が手を挙げて質問する。

 

「前回も説明した通り、各自単独で巡回する。新入りであっても例外じゃない」

「役に立つんですか」

「ああ、三人とも使える。司波の腕前はこの目で見ているし、森崎のデバイス操作もなかなかのもので、鷹山は状況判断と身体能力も私と引けを取らない。もし不安なら自分で確かめるか?」

「…やめておきます」

「他には?」

 

摩利の問いに誰も答えなかった。

 

「よろしい、では早速行動に移ってくれ。司波、鷹山、森崎の三名については私から説明をする。他の者は出動!」

 

全員が一斉に立ち上がり、(きびす)を揃えて握りこんだ右手で左胸を叩いた。

摩利、千翼、達也、森崎を除いた五名が次々と本部室を出ていき、四人になったのを確認した摩利は三人に声を掛けた。

 

「まずこれを渡しておこう」

 

横並びに整列した三人へ、摩利が腕章と薄型のビデオレコーダーを手渡す。

 

「巡回の時は常にその二つを身に着けておくこと。レコーダーは胸ポケットに入れておけ。スイッチは右側面のボタンだ」

 

言われた通り胸ポケットに入れてみると、そのまま撮影できるサイズになっていた。

 

「違反行為を見つけたらすぐにスイッチを入れろ。それと三人供、携帯端末を出せ」

 

言われた通り、携帯端末を取り出す。

 

「委員会用の通信コードを送信する......よし、確認してくれ」

 

三人は確認して、正常に受信されたこと旨を報告する。

 

「報告の際は必ずこのコードを使用すること。こちらから指示を出す際もこのコードを使うから必ず確認しろ。最後はCADについてだ。風紀委員は学内でのCAD携行を許可されている。使用についてもいちいち誰かの指示を仰ぐ必要はない。だが、不正使用が判明した場合は委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられるから甘く考えないことだ」

「質問があります」

 

ここで達也が質問してきた。

 

「許可する」

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

達也の意外な質問に千翼は不思議に思い、摩利は少し答えを返すのが遅れた。

 

「.....構わないが、あれは旧式だぞ?」

 

それを聞いて、達也はフッと笑みを浮かべる。

 

「確かに旧式ですが、エキスパート仕様の高級品ですよ、あれは」

「.....そうなのか?」

「ええ、あれは一部の人に熱烈的に支持されている機種で、結構な値段が付くほどです」

「...あれ?そんなに凄い物だったら中条先輩がそのCADのこと知っていそうな感じがするけど...」

「中条は怖がって、この部屋に下りてこない」

「「あぁ...」」

 

顔を見合わせて苦笑する三人。そこで摩利は、蚊帳の外になっている森崎の気づく。

 

「コホン。そういうことなら、好きに使ってくれ。どうせ埃をかぶっていた代物だ」

「では・・・・・この二機をお借りします」

 

そう言って達也は二つのCADを左右の腕に装着した。

 

「二機?本当に面白いな、君は」

 

そう言って摩利はニヤリと笑みを浮かべていて、森崎は皮肉げに口を歪めた。

 

 

 

 

 

摩利は一度部活連本部に行って巡回に行くというので本部室の前で別れる。

千翼はほのか達との待ち合わせ場所に向かう際、達也もエリカと待ち合わせしていると聞いたので途中まで一緒に行くことになり、移動をしようとした時。

 

「おい」

 

背後から森崎に呼び止められる。

恐らく達也にだろうと思った千翼だが、達也と一緒に森崎の方に振り向く。

 

「ハッタリが得意ようだが、両手にCADを装着すればサイオン波の干渉で両方使えなくなるのがオチだ」

「アドバイスのつもりか、余裕だな」

「ハッ!僕はお前らとは違う。一昨日は不意をつかれたが、()はもう油断しない。格の違いを見せてやる」

 

言い捨てて立ち去る森崎。その背中を見て千翼は昔を思い出していた。

 

(森崎...もしあれが()()()()()()()()()()()()()()()んだぞ...)

 

そう思いながら、拳を強く握りしめていた。

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

千翼は待ち合わせの場所まで急いで来た。二人はちゃんと待っててくれていた。

 

「ごめん。少し待たせたかな?」

「ううん。大丈夫だよ」

「時間はまだあるから」

「そっか」

 

千翼はほのか達と合流したあと、校庭の方を見る。窓から見る限り校舎から校舎の間の通路まで埋め尽くした観のあるテントの群れは、さながら縁日の露店のようだった。

 

「うわぁ・・・噂には聞いていたけど、ホントにすごいね」

「これで問題が起こるんだからな、とりあえずゆっくり回って行くか」

「うん、どこから行く?」

 

三人はいつもの会話で校庭へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――が。校庭に出てものの数秒、千翼が少し離れたとたんに、ほのかと雫にクラブ勧誘が群がり二人の争奪戦が始まっていた。

 

「ちょ・・・ちょっと」

「ん・・・っ」

「イタッ、引っ張らないで」

(なるほど、これは問題が起こるわけだ・・・)

 

千翼は一人納得していたが、ほのかと雫の争奪戦が徐々にヒートアップしていった。

 

「これはいくらなんでもシャレにならない!」

 

千翼はすぐさま自分のCADを起動させた。

 

 

 

 

 

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第十七話いかがだったでしょうか?
先週土曜日についにアマゾンの映画が公開になりましたね!
本当に待ち遠しかったです!自分はもう見に行きました!
映画のお陰でインスピレーションが溜まりました!
これからは投稿ペースを少し上げていきます。
ではまた次回!



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第十八話《追跡》

お待たせしました!第十八話です。
今回は優等生での一幕です。


千翼はCADを起動し、起動式を展開、軽く地面を踏む。千翼が展開したのは振動を増幅させる魔法、軽く踏む程度で少し揺さぶることができる。

 

「選ぶどころじゃないよ、逃げよう雫」

「同意だけど無理」

 

と、その時群がっていたクラブ勧誘の人たちが突然バランスをくずした。

 

「あ、あれ?」

「これって」

(よし、これなら)

 

千翼はバランスを崩した人たちの間を通り、ほのかと雫の所まで近づいた。

 

「ほのか、雫!」

「「千翼君!」」

 

が、そこにスケートボードに乗ったジャージ姿の女性二人が現れ、ほのかと雫をそれぞれ抱え込む。

 

「「「・・・え?」」」

「ありがとねー」

「この子たち、もらてくよ」

「ええええええ!!」

 

ほのかの悲鳴?と共に二人はすぐさまその場から立ち去った。

 

「バイアスロン部だ!」

「くそ、とられた!」

「・・・は!」

 

あっけにとられていた千翼だが、すぐに我に返る。かなりの距離があった。

 

「追いつけるか?・・・いや、やるしかない!」

 

千翼はCADを操作し、身体強化魔法を下半身に掛け、スケートボードの二人を追いかける。ほのかと雫を抱えた二人が、人気がいない通路を通過した時、ほのかは千翼が走って追いかけていることに気付く。

 

「千翼君が追いかけてきてる!」

「へえ。あの子やるじゃない。摩利もいい子を入れたみたいね」

「しかし、易々とは捕まらんぞ」

「えっ、ひ、ひあああああ!!」

 

二人はスピードを上げ、千翼との距離を伸ばし始めた。

 

「くそ!やはり速い」

 

いくら()()()()()でサイオン消費量を削減しているとはいえ、魔法力が尽きるのは時間の問題である。何とか距離を縮めようと千翼は速度を上げる。

 

 

 

 

 

「危険魔法使用の容疑で逮捕だ!」

 

辰巳が違反を起こした生徒を取り押さえている所に居合わせた摩利は、スケボーで移動している見知った二人を目撃する。

 

(あれは・・・、バイアスロン部のOG、萬屋(よろずや)!それに風祭(かざまつり)!あいつら何しに・・・)

 

と、考えていると、二人を追いかける千翼の姿が見えた。

 

(いくら千翼君でも、相手が悪い)

 

摩利は辺りを見渡すと、近くにスケボーが二つ置いてあった。

 

「鋼太郎、そっちは頼む」

「姐さん?」

「とうに卒業した不良共に好き勝手やられちゃ風紀委員の名がすたる。ちょっとシメてきてやる。それから姐さんと呼ぶな!」

 

そういって、摩利は千翼のあとを追うべくスケボーに乗り走り出した。

 

 

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・くそ!」

 

千翼が速度を上げれば、むこうも速度を上げるを繰り返すばかりでなかなか距離が縮まらない。千翼も限界に達しようとした時、何かが近づいて来るのを感じ、うしろを振り返るとスケボーを抱えながらスケボーに乗った摩利がすごい勢いで走って来ていた。

 

「い、委員長!?」

「千翼くん、これを使え!」

「い、委員長、俺スケボー乗ったことないんですけど!」

「心配はいらない、こうゆうのはどうにかなるもんだ」

「・・・・わかりました!お借りします!」

 

千翼はスケボーのスピードに合わせ、タイミングを計りスケボーを受け取り、乗ったことを確認した摩利はスピードを上げた。スピードを上げたことで千翼は体制を崩しかけたが、何とか持ちこたえ摩利に追いつく。

 

「フッ、さすがだな千翼くん!」

「これで精一杯ですけどねッ!」

「このまま一気に追いつくぞ!無理はするなよ!」

「はい!」

 

そう言って千翼と摩利は前の二人に追いつくためにさらにスピードを上げた。

 

 

 

 

 

「フフッ、来たわね」

 

風祭が後ろを見て笑みを浮かべた。ほのかと雫も見てみると、

 

「えっ、わ、渡辺先輩がすごい形相で追いかけてくるんですけど!」

「しかも、千翼くんと一緒だよ」

「おっと、こいつはいけない。スピードを上げるぞ振り落とされないように捕まってろ」

「い、いやあああああ!」

 

萬屋と風祭もスピードを上げる、が、徐々に摩利との距離が縮まってきた。

 

「これで止められるとは思わないけど」

風祭はCADを取り出し、起動式を展開、魔法を発動し、地面に叩きつけるように、下降気流を生み出す。これにより摩利たちの方は向かい風になり、風祭たちの方は追い風になる。

 

「同じ手が何度も通用するか!」

 

摩利は勢いをつけて回避し、突破する。千翼もその隙に摩利に追従する。

 

「おお、摩利の奴、腕を上げたな」

「でも、このままじゃ振り切れないよ」

「それに・・・」

「止めて止めて下ろして―っ!」

 

萬屋に抱えられてたほのかが限界を向かえていた。

 

「摩利もあの調子じゃあ、ただでは済みそうにないな」

 

摩利は止まらない二人にしびれを切らしたのかCADを操作しだした。

 

「委員長!何をする気ですか?」

「かなり荒っぽいが止まらないなら、無理矢理止めさせるまでだ」

「待ってください!二人も巻き添えに・・・」

 

摩利は二人に向かって魔法を放つ。すると二人のスケボーの前輪が突然固定され前方に倒れこむ。

 

「おおう!?」

「まかせて!」

 

風祭がスケボーの下から風を起こし、二人はその勢いで上昇し、そのまま着地する。

 

「摩利ったら転んで怪我するのは私たちだけじゃないのに、かなり頭に血が上ってるみたい」

「お返しだ」

 

今度は、萬屋がCADを取り出し、起動式を展開し魔法を放つ。摩利たちの前に、突如地面から断層が盛り上がった。

 

「この程度!」

 

摩利は盛り上がった断層を難なく飛び越える。

 

「ご苦労様」

 

しかし、着地する寸前に風祭が風を起こし、バランスを崩しそうになる。

 

「委員長!」

 

千翼が摩利を支え、二人でバランスを取り着地する。

 

「大丈夫ですか!」

「ああ、ありがとう千翼くん。・・・だが」

 

萬屋たちとの距離がだいぶ離れてしまった。

 

 

 

 

 

一方、萬屋と風祭は目的の場所に到着した。

 

「やあ、亜実(つぐみ)

 

到着したのはデモンストレーションの準備中だったバイアスロン部がいるところだった。

 

「萬屋先輩!?それに風祭先輩まで!どうしてここに!?」

 

亜実と呼ばれた子が驚いていた。

 

「コイツらを頼む」

()()()()よ、可愛がってあげて」

 

二人は気絶しそうなほのかと疲れている雫をポイっと放り投げた。放り投げられたほのかと雫は地面に落ちず空中で止まった。

 

「またな、亜実」

「積もる話はまた今度」

 

そう言って、二人はその場から去った。状況がいまいち分かっていないが亜実はほのかと雫に近づく。

 

「ええと、大丈夫?そろそろ魔法が切れるから足から降りてくれる?」

「あ、はい」

 

ほのかと雫は言われた通りにゆっくりと足から降りた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ほのかが感謝している時、摩利たちが現れる。

 

「ほのか!雫!」

 

千翼はほのかと雫に駆け寄り、摩利もやって来る。

 

「おい、バイアスロン部!お前たちもグルか!?」

「・・・あの、何があったんですか?」

「無関係ならばいい!邪魔したな」

「・・・何となく事情がわかったような」

「千翼くん。私はあの不良共を追いかける君は?」

「ふたりが心配なので俺はここに残ります」

「わかった、あとは私がやる。千翼くん次も期待しているぞ」

 

摩利はそう言いながら笑みを浮かべ、その場を去った。

 

「ごめんなさい。先輩たちが迷惑かけて、私はバイアスロン部部長の《五十嵐 亜実(いがらし つぐみ)》です」

「風紀委員の鷹山千翼です。こっちは光井 ほのかと北山 雫です」

「もしかして、あの光井さんと北山さん?」

「私たちのことをご存じなんですか?」

「えっ、うん、まあちょっとね。さっきの様子だと入部希望者ってわけでなさそうだけど、一応聞いてくれる。私たちはバイアスロン部,正式名称はSSボード・バイアスロン部よ」

「「SSボード・・・」」

「バイアスロン部?」

 

千翼は何か興味を惹きそうな響きだったので、一緒に亜実の説明を聞くことに。

SSボードはスケートボード&スノーボードの省略語で、春夏秋はスケートボード、冬はスノーボードで移動しながらコースに設置された的を魔法で撃ち抜く競技である。自分の色の的を攻撃しながら林間コースを走破する、的を破壊できる射撃ゾーンは200mごとに10m、的はコースより5~20mランダムで離れている。破壊した数とゴールまでのタイムを競う。他の色の的を破壊すると減点になるため、魔法のスピード、威力に加えて正確性が要求される。

 

「だから()()()()じゃなくて()()()()なんですね」

 

(興味を持った!ここから攻めるわよ!)

 

ほーっと納得するほのかを見て亜実は目を光らせた。

 

「どう?仮入部してみない?面白くなかったら無理に引き止めたりしないから」

 

亜実はほのかの手をがしっと掴んで、グイグイと攻める。

 

「そうだ!この後、第二小体育館裏の広場でちょっとしたデモをするんだけどそれだけでも見てくれない?」

 

さらにグイグイと迫る亜実を見て、千翼は止めるべきかと思ったが、前の勧誘ほどではないためどうこう言うつもりはなかったが、亜実の説明を聞いて千翼は興味が湧いてきたのだ。

 

「え、え~と・・・」

 

ほのかは少したじろいでいた時、ちょんちょんと雫がほのかをつついた。

 

「雫?」

「ほのか、私ここに入りたい」

「ええっ!?」

「ほんと!?北山さん入ってくれるの!?」

「ほのかと千翼くんがいいなら」

 

そう言ってほのかと千翼を見る、ほのかはどうしようか迷っていたが、千翼はすぐに決まった。

 

「俺もここに入りたい」

「千翼くんも!?」

「ほんと!?・・・でも私たちのクラブは男子がいないけど・・・」

「大丈夫です。風紀委員の仕事がありますけど、ほのかと雫と一緒なら」

 

今度は千翼もほのかを見る。しかも、ほのかが入ること前提になっていた。

 

「えっと・・・」

 

キラキラと目を輝かせている亜実とお願いするような目で見ている雫、そして、一緒にやろうという気持ちを伝えている千翼、ほのかは諦めるしかなかった。

 

「・・・私も二人と一緒なら」

「ありがとー!やった、期待の新人三人ゲットよ!」

 

亜実はグッと親指を上げ、部員たちは歓声を上げた。こうして千翼たちはバイアスロン部に入部するのであった。

 

 

 

 

 

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早くアマゾンでの戦闘描写を出したい・・・(´・ω・`)


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第十九話《論説》

大変お待たせしました。第十九話です。
結構長めに書いて大変でした。
オメガやアルファの登場はまだまだ先になりますが、気長に待ってください。
それではどうぞ!!


色々あったがバイアスロン部に入部した千翼たち。そこへ千翼の携帯端末から着信音が鳴り響く、千翼は確認すると委員会用の通信コードからで千翼はすぐにでる。

 

「はい。・・・・・わかりました、すぐ向かいます。」

 

千翼は通信を切り、ほのかと雫に報告する。

 

「ごめん、二人共」

「委員会の仕事?」

「ああ、近くでもみ合いが始まったらしい。このままだったら魔法で乱闘になるかもしれないからすぐに行かないと」

「わかった、千翼くんがんばって!」

「ああ、行ってくる」

 

千翼は二人を置いて、すぐさま現場に向かっていった。ほのかはその後ろ姿を見えなくなるまで見守っていた。

 

「光井さん」

「はい?」

「もしかして光井さん、鷹山くんと付き合っているんですか?」

「え?えええ!ち、違いますよ!私と千翼くんは・・・・・」

「ほのか、慌てすぎ」

「な、何かごめんなさい・・・・・」

 

亜実は申し訳なさそうな気持ちになってしまった。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

今日の巡回を終えた千翼は風紀委員会本部室に入る。そこには、辰巳と沢木の二人がいた。

 

「よう。いきなり散々だったな」

「・・・見ていたんですか?」

「姐さんがいきなり走り出したから、何事かと思ったら、その先を見たらお前がいたというわけだ」

「そういうことでしたか。・・・・・ところで、委員長は?」

「今、部活連本部で司波君の報告を受けているよ」

「何かあったんですか?」

「いや、私たちは何も聞かされていない」

「そうですか…」

 

とりあえず、達也については本人に聞くことにして、千翼は報告を済ませて、本部室から出る。

 

 

 

 

 

千翼は教室に戻り、帰宅の準備をしていると、ほのかと雫も戻ってきた。

 

「千翼くん。風紀委員の方は終わったの?」

「ああ、今帰る準備をしていたんだ。そっちはどう?バイアスロン部の方は」

「うん。断然やる気が出た」

 

雫がグッと拳を握り、燃えていた。

 

「そ、そっか・・・、じゃあその話は帰りながらで」

「「うん!」」

 

ほのかと雫も帰る準備を済ませて、、一緒に教室を出る。

 

 

 

 

 

千翼たちが校庭に出ると、そこに見知った顔が並んでいた。

 

「あっ、お疲れ~」

 

エリカが千翼たちに気付き、手を振っていた。

 

「お疲れ様です」

「お疲れさん」

「千翼くんたちも、今帰りですか?」

「ああ。深雪たちは達也を待っているのか?」

「ええ」

 

深雪はニコッと笑顔を見せた。心なしかいつもより眩しく見えた。

 

「司波さん、良かったら私たちも一緒にいいですか?」

「いいの?」

「大丈夫だ。ちょうど達也に聞きたかった事があるから」

「私も大丈夫」

「わかりました、それなら一緒に」

 

千翼たちは、達也が来るまでお互いの部活の話をした。

 

「レオたちはどこに入ったんだ」

「俺は山岳部だ」

「私は美術部です。ついさっきクラブのオリエンテーションが終わったところです」

「あたしはまだ。千翼くんたちは?」

「俺達三人ともバイアスロン部だ」

 

千翼が答えると同時に、雫がガッツポーズしながら燃えていた。

 

「バイアスロン部?何か非常識なアクシデントに巻き込まれたと聞いたのだけど・・・」

 

深雪は既に知っていたようだが、聞いていたほのかはその時の事を走馬燈のように思い出していた。

 

「ま、まあ、部長は常識的な人だったし、現役の先輩たちも親切そうな人たちだったから・・・」

「とにかくそういうことだから」

 

盛り上がって来たところで、達也が現れる。

 

「お兄様」

 

千翼たちが気付いた時には、深雪が真っ先に駆け寄っていた。思いがけない機敏さに、千翼たちは目を丸くしていた。

 

「お疲れ様です、お兄様。本日はご活躍でしたね」

「大した事はしてないさ。深雪の方こそ、ご苦労様」

 

そう言って達也は深雪の髪を二、三度とゆっくり撫でる。深雪は気持ち良さそうに目を細めながら、兄を見つめる、その瞳を逸らさない。

 

「兄妹だと分かっちゃいるんだどなぁ・・・・・」

「何だか、すごく絵になってますよね・・・・・」

 

二人へ歩み寄りながら、気恥ずかしげな表情で、微妙に視線を外しながらレオが呟くと、その隣で美月が赤らめながらも、食い入るように二人を見ていた。

 

「君たち・・・あの二人に何を期待しているのかな?」

「まあ、気持ちは分からなくもないけど・・・」

 

エリカが大袈裟に肩をすくめ、ヤレヤレとしていて、千翼もそれに続いて答える。

 

「すまんな、待っていてくれたのか」

 

微妙な空気が払拭され、千翼が笑顔で首を横に振った。

 

「水くさいな、達也。ここは謝るところじゃないだろ」

「そうですよ、達也さん」

「気にしなくていいから」

「・・・わかった。こんな時間だし何処かで軽く食べていかないか?」

「あっ、それ賛成~」

 

達也が提案し、エリカが賛成した。

 

「私もかまいません」

「じゃ、えんりょなく」

 

続いて美月、レオも賛成した。

 

「千翼くんたちもどうですか?」

「もちろん、いいよな?」

「うん!」

「私も」

「わかりました。それでは参りましょうか」

 

 

 

 

 

学校から少し離れたところにあるカフェ《Einebrice》で八人は今日一日で起きた色々な体験談に花を咲かせていた。その中で最も関心を引いたのは達也の捕物劇であった。

達也はエリカと一緒に剣道部の新勧演武を見ていた時、突如、剣術部が乱入してきて、剣道部の壬生 紗耶香と剣術部の《桐原 武明(きりはら たけあき)》の口論が始まり、そこから二人の私闘に繋がった。

結果は紗耶香が勝ったが、桐原が振動系・近接戦闘魔法《高周波ブレード》を使用したため、達也はすぐに取り押さえたが、今度は剣術部が達也に襲いかかった。

達也はその全ての攻撃を見切り、躱し、あしらい続けた結果、「乱闘()()」に至ったのだ。

 

「―――その桐原って二年生、殺傷性ランクBの魔法を使ったんだろ?よく怪我しなかったな」

「あれは有効範囲が狭い魔法だ。よく切れる刀と対処は変わらないさ」

「そ、それって真剣の対処は簡単って言ってますが・・・」

「大丈夫よ、美月。お兄様なら心配要らないわ」

「随分余裕ね、深雪?」

「ええ。お兄様に勝てる者などいるはずがないもの」

「・・・少しも躊躇しないんだな」

 

一分一厘の躊躇もない断言だっため、千翼は少し絶句していた。

 

「でも、高周波ブレードはずっと超音波を出しているんでしょう」

「耳栓をしていないと酔っちゃうらしいし」

「単に体術が優れているというだけではないの。魔法式の無効化はお兄様の十八番(おはこ)なの」

 

「「「「「「魔法の無効化?」」」」」」

 

「エリカ。お兄様が飛び出した直後、乗り物酔いみたいな感覚になったでしょ?」

「!そういえば乱闘中も頻繫に揺らぎを感じたような・・・」

「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、《キャスト・ジャミング》をお使いになったでしょう?」

 

ニッコリと作り笑いを向けてくる深雪に、達也はため息の白旗を掲げた。

 

「深雪には敵わないな」

「それはもう。お兄様のことなら何でもお見通しですよ」

 

笑顔を見合わせる二人の空間はまたしても恋人同士いやそれ以上の雰囲気を出していた。

 

「それって、兄妹の会話じゃないぜ!!」

「恋人同士ってレベル超えてるから!!」

「そうか?(そうかしら?)」

 

ぴったりハーモニーを奏でた達也と深雪に、ツッコんだ千翼とレオは力尽きたようにテーブルに突っ伏した。

 

「このラブラブ兄妹にツッコミ入れようってのが大それてるのよ・・・」

「ああ、俺が間違ってたよ・・・」

「レオに同意・・・」

 

しみじみ語るエリカに身体を起こしながら、やはり二人が応える。

 

「その言われ様は著しく不本意なんだが」

「いいじゃありませんか。わたしとお兄様が強い兄妹愛で結ばれているのは事実ですし」

 

そう言いながら、友人たちに見せつけるように、わざわざ達也に身を寄せる。

 

「「「ぐはっ!」」」

 

直後、エリカとレオと千翼が、同時に突っ伏した。血でも吐き出しそうなセルフ効果音まで付けて。

 

「深雪、悪ノリも程ほどにな?冗談だって分かってないのも約二名いるようだから」

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

達也が苦笑しながら深雪をたしなめると、深雪、エリカ、レオ、千翼、雫の視線が残る二人に集まった。

 

「・・・・えっ?」

「えっ?冗談?」

「まっ、これが美月の持ち味よね」

「そういうところもほのからしい」

「あぅ・・・・・」

「うう・・・・・」

 

エリカと雫の微笑ましい呟きに、美月とほのかは別の意味で顔を赤くした。

 

「そういや、キャスト・ジャミングとか言ってなかったか?」

 

ここでレオが強引に話題を戻した。

 

「キャスト・ジャミングって、魔法の妨害電波のことだっけ?」

「電波じゃないけどな」

 

キャスト・ジャミングは、魔法式がエイドスに働きかけるのを妨害する魔法の一種。分類的に無系統魔法に入る。

無意味なサイオン波を大量に散布することで魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する技術である。

しかし、キャスト・ジャミングを使うには四系統八種類全ての魔法を妨害できるほどの特別なサイオンノイズが必要である。

 

「あれって、特殊な石が要るんじゃなかったっけ?アンティ・・・何とか」

「《アンティナイト》よ、エリカちゃん。確か高価なものだったと思うんですけど」

「いや、俺は持ってないよ。そもそもあれは軍事物資だからね。一民間人が手に入れられる物じゃない」

「えっ?でも達也さん・・・」

「あー、この話はオフレコで頼みたいんだが」

 

困惑した表情でテーブルに身を乗り出して声を潜めた達也に、千翼たちはつられたように身体を乗り出して真剣な面持ちで頷いた。

 

「正確には、俺が使ったのは、キャスト・ジャミングの理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだ」

 

達也の囁きを聞いて、千翼たちはキョトンとしていた。

 

「・・・・・そんな魔法、あったっけ?」

「ないと思うけど」

 

ほのかの質問に直接答えたのは雫だった。

 

「それって、新しい魔法を達也が理論的に編み出したてことか?」

「偶然発見したと言い方が正確かな」

 

千翼の疑問に達也が笑いながら答えた。

 

「二つのCADを同時に使うとサイオン波の干渉で魔法が発動しないことは知っているな?」

「ああ、俺も経験したことがあるぜ」

「うわっ、身の程知らず」

 

レオのセリフにエリカが呆声を漏らす。

 

「何だと!」

「そんな高等テク、あんたができる訳ないじゃない」

「うるせーな。できると思ったんだよ」

「・・・達也。悪いけど続けてくれ」

「俺としては、ここで止めてもいいんだが・・・・・まあ、いい・・・・・。それでだ、二つのCADを同時に使用する際に発生するサイオンの干渉波をキャスト・ジャミングと同じように放つ。一方のCADを妨害する魔法の起動式展開し、もう一方のCADでその逆方向の起動式を展開する。そのサイオン信号を無系統魔法として放つ。すると、本来構築すべき二種類の魔法式と同種類の魔法発動をある程度妨害できるんだ」

 

達也の説明を聞いた千翼たちはしばらく無言になっていた。

 

「・・・・・おおよその理屈は理解できたぜ。だがよ、何でオフレコなんだ?特許取ったら儲かりそうなのに」

 

レオが、真っ先に腑に落ちないという顔で達也にそう訊ねた。

 

「一つはこの技術はまだ未完成だということだ。それ以上に、アンティナイトを使わずに魔法を妨害できる仕組みそのものが問題だ」

「・・・それの何処に問題があるんだよ」

「バカね、大有りじゃない。お手軽に魔法無効化の技術が広まったりしたら、社会の基盤が揺るぎかねないんだから」

「アンティナイトは産出量が少ないから、現実的な脅威にならずに済んでいる。対抗手段が見つかるまでは公表する気になれないな」

「すごいですね・・・・・そんなことまで考えているなんて」

「俺なら、名声に飛び付いちまうだろうなぁ」

「お兄様は少し考え過ぎだと思います。そもそも、相手が展開中の起動式を読み取ることも、CADの干渉波を投射することも、誰でもできることではありません。ですが、それでこそお兄様というべきでしょうか」

「それは暗に、俺が優柔不断のヘタレだと言っているのか?」

 

妹の指摘に達也は心底、情け無さそうな表情を()()()

 

「さあ?千翼くんはどう思うかしら?」

 

素っ気ない態度を()()()、深雪が千翼に球を投げる。

 

「俺?俺よりもほのかの意見を聞きたいけど」

 

千翼はそれを受け取らず、ほのかに球を渡す。

 

「私!?その、ええっと・・・・・」

 

少し困惑しだしたほのかを見て、思わず千翼は可愛らしいと思った。

 

「誰も否定してくれないんだな・・・・・」

 

達也から恨めしそうな目を向けられたが、結局、助けは何処からも現れなかった。

 

 

 

 

 

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いかがでしょうか。
この話は自分がやりたかった事の一つです。
皆さん、次の話もよろしくお願います。


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第二十話《小町》

お待たせしました、第二十話です。
今回はタイトルの通り知ってる人には分かるあの人が出ます。
それではどうぞ!!


新入部員勧誘週間 四日目

 

 

千翼は達也と一緒に走っていた。

二年生同士のけんかが起きたと通報があり、千翼は現場に向かう途中で達也と合流したのだ。

二人が現場に向かっている途中、植木の陰で魔法が二人に向けて放たれようとしていた。

正確に対する移動魔法であるが達也はそれを察知し、慌てもせず事務的に魔法の種類に合わせたキャスト・ジャミングもどきを発動した。サイオンの波が広がり、魔法式が未発のまま霧散する。千翼も気付き急カーブを切る。

千翼はCADを起動しようとしたが、植木の陰にいた相手はその場から肉体のみでは不可能な速度で逃げ出した。

 

(速い!)

 

おそらく移動魔法と慣性中和魔法の併用による高速走行を前もって準備していたのだろう、犯人の速度が速く逮捕を断念した。

二人が得た手掛かりは長身で細身な犯人の後ろ姿、高速走行に振り回されない鍛え抜かれた筋力、そして犯人の右手に着けていた赤青白(トリコロール)のリストバンドだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

―三日後

 

一週間にも及んだ新入部員勧誘週間が終了し、風紀委員の仕事も少し落ち着いてきた頃。

 

「千翼くん、今日も委員会に行くの?」

 

帰りの支度中の千翼に、雫が訊ねる。

 

「今日は非番だ。やっとゆっくりできる」

「千翼くん、大活躍だったもんね」

 

そこへほのかが深雪と一緒にやって来る。

 

「千翼くんと達也さんは今すごい有名人だもん。魔法を使わないで並み居る魔法競技者を連破していった謎の一年生コンビって」

「『謎の』って・・・それ主に達也だろ、なんで俺も?」

「千翼くんと達也さん一緒になってるところを何度も目撃しているから」

「それでコンビか・・・・・」

 

千翼は深くため息をついた。

 

「でも、ほのかと雫にとっては喜ばしいことじゃない」

「それで言ったら深雪もでしょ」

「ええ、お兄様の力を持ってすれば当然なのだけど」

 

深雪は頬を赤くし、ぽわわっとした雰囲気になっていた。ちなみにほのかと雫、深雪はお互い名前で呼び合うようになった。

勧誘週間二日目の時に、深雪が名前で呼びましょうと行ったことがきっかけだった。

ほのかは名前でを呼ばれてうれしさのあまり気絶しかかったが、今ではちゃんと深雪を名前で読んでいる。

もちろん雫も。

 

「・・・千翼くん。あなたに聞きたいことがあるのですが」

 

今まで幸せオーラを出しまくっていた深雪が真剣な顔になった。

 

「なんだ?」

「お兄様は魔法による攻撃を受けられましたね?」

 

それを聞いてほのかと雫は驚愕していたが、千翼は黙っていた。

勧誘週間中にわざと騒ぎを起こし、達也が仲裁に入ったところで、誤爆に見せかけた魔法攻撃を浴びせるということが何度もあった。

しかし、そのたびに千翼が騒ぎを起こした犯人を取り押さえたので知っていたのだ。

 

「・・・そうだよ」

 

千翼は隠すことなく答えた。

 

「そのことは達也から聞いたのか?」

「いえ、妹の直感です」

「・・・直感で分かるものなの?」

「どちらかと言えば『女の勘』だと思う」

「俺としては誤爆を受けてよく無事でいられたなって思ってるけど、携帯制限も復活したんだ大丈夫だと思うぞ」

「・・・だと、いいですけど」

 

この後、深雪は生徒会の仕事があるので先に教室を出た。支度を終えた千翼はほのかと雫と一緒にバイアスロン部へ向かった。

 

 

 

 

 

「鷹山君」

 

その道中、突然、声を掛けられ千翼たちは立ち止まり振り返ると、セミロングの髪をポニーテールにした美少女が立っていた。

 

「初めまして」

「・・・初めまして。あなたは・・・?」

「2-Eの壬生 紗耶香です」

 

どこかで聞いた名前だなと思った千翼は、Einebriceで達也から聞いた話を思い出した。

 

「もしかして、剣道部の?」

「やっぱり、司波君から聞いていたのね」

「ええ、まあ・・・」

「実はそれについて司波君にお礼が言いたいなって思って、鷹山君は司波君と仲がいいみたいだから連絡してくれないかな」

「別にいいですけど、なんで俺に?」

「鷹山君にもお話したいことがあるの、一緒にどうかな?」

 

千翼はほのかと雫の方を向くと、二人は一緒に頷いていた。

 

「わかりました。達也に連絡してみます」

「ありがとう、鷹山君」

 

千翼は最っ早く達也に連絡して、紗耶香の事を話した。

 

「十五分後に学内のカフェに合流するそうです」

「わかったわ。今から行きましょう」

「はい。じゃあ、ほのか、雫、五十嵐部長に伝えてといて」

「う、うん」

「わかった」

 

千翼は紗耶香と一緒にカフェへと向かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「ほのか、行こう。・・・ほのか?」

「・・・・・えっ?な、何?」

「・・・ほのか。別にあの人は千翼くんに告白しようってわけじゃないから」

「こっ!?べ、別に私は!!」

「ほのか、慌てすぎ」

「雫がそういうこと言うからでしょ!!」

 

 

 

 

 

―十五分後

 

千翼が学内カフェの前で待っていると時間通りに達也がやって来た。

 

「別に待つ必要はなかったんだが」

「それじゃあ、達也が気付かないだろ?壬生先輩もう座ってるから行こう」

「ああ」

 

二人は紗耶香が座っているテーブルに向かう。

そこにはジュースを購入して、飲んでいる紗耶香の姿があった。

紗耶香も千翼たちの存在に気付き、キョトンとした表情がみるみる赤く染まっていく。

 

「えーっと・・・好きなんですか、ジュース(それ)?」

「うっ・・・・・良いじゃない、甘い物が好きでも!どうせあたしは子供っぽいです!」

 

千翼の質問にいきなり拗ねられてしまった。

 

「えっと・・・、達也、座ろうか」

「そうだな」

 

千翼と達也は紗耶香と向かい合わせで座る。

 

「・・・・・おほん。気を取り直して、っと・・・・・」

 

さっきまで拗ねていた紗耶香は、すぐに二人に向き合う。

 

「改めて、先週はありがとうございました。司波君のおかげで大事に至らずに済みました」

「礼には及びません。あれは仕事でやったことですから」

「ううん、それでも穏便に済んだのは、司波君がお咎め無しを主張してくれたからでしょ?」

「実際に騒ぎ立てる程のことではありませんでしたからね。壬生先輩と桐原先輩以外怪我人も出なかったことですし。その後の乱闘は剣術部の暴走ですから、少なくとも剣道部が咎められることではありません」

「あれこそ、相手が司波君だったから大問題にならずに済んだようなものよ。他の人だったら怪我人は免れなかったわ。その点あたしは桐原君に怪我をさせちゃったけど・・・・・武道をやっていれば、あの程度よくあることだわ。自分の強さをアピールしたいという気持ちを抑えられない時期が必ずと言って良いくらいある。司波君たちにも覚えがない?」

「そうですね。分かります」

「・・・・・俺も」

 

千翼と達也は答えたが、二人はそういう意識はなかった。

単純に強さを見せつけるという衝動に縁がなかった。千翼に至ってはアマゾンを狩るために戦闘技術を教えられたのだから。

 

「そうでしょ?大袈裟に騒ぎ立てる必要なんてないのよ。それなのに、あのくらいのことを問題にしたがる人が多いの。風紀委員の自分の点数稼ぎの為にね」

「・・・・・俺達も一応、委員会のメンバーなんで・・・・・。すみません」

「すみません」

 

頭を下げる千翼たち。それを見て、紗耶香は慌てて釈明を始めた。

 

「ご、ごめん!そんなつもりじゃないのよ。あたしが言いたいのは、二人はそんな連中と違ってて、風紀委員の悪口が言いたかったんじゃなくて、そりゃああのい連中は嫌いだけど、って、あれ?」

 

ゲシュタルト崩壊を起こしてしまった紗耶香を、達也は無表情に観察している。・・・・・目が笑っていたが。

既に意味をなさなくなっていた単語の羅列は、遂には声にすらならずになっていた紗耶香は、恥ずかしげに俯いた。

 

「・・・・・なあ、達也は女の子をいじめるのが趣味か?」

「そんな特殊な性癖は持ち合わせていない」

「・・・・・それはいいけど。壬生先輩、話というのは?」

「単刀直入に言います。司波君、鷹山君、剣道部に入りませんか?」

 

紗耶香はようやく、本来の用件を切り出した。だが、二人の答えは決まっていた。

 

「折角ですが、お断りします」

「俺も断ります」

「・・・・・理由を聞かせてもらってもいい?」

「千翼は既に他の部に入っています。それに俺の徒手格闘術と剣道は全く異なる系統のはず、それが分からない壬生先輩ではないはずですが?」

 

それを聞いた彼女はため息をつくと、観念した顔で口を開いた。

 

「魔法科高校では魔法の成績が優先される・・・・・そう納得して入学したけど、それだけで全部決められるのはおかしいと思わない?授業で差別されるのは仕方ない。でも、高校生活ってそれだけじゃないはずよ。クラブ活動まで魔法の腕が優先なんて間違ってる」

 

千翼たちがこの一週間で見てきた限りでは、そういった事実はなかった。

確かに魔法競技系のクラブは、学校側からバックアップを受けているがそれは魔法科高校としての名前を上げるための宣伝の一環であって学校経営の観点から行われていることである。

千翼は紗耶香が「優遇されていない」と「冷遇されている」ことの区別がついていないと思った。

しかし―

 

「魔法が上手く使えないからって、あたし剣まで侮られるのは耐えられない。魔法だけであたしの全てを否定させはしない」

 

思いがけない強い口調。そこに込められている感情は信念を超えて妄執(もうしゅう)に近いものがあると二人は感じていた。

 

「あたしたちは、今年中に非魔法競技系クラブで部活連とは別の組織を作って、学校側にあたしたちの考えを伝えるつもり。そのために二人にも協力してもらいたいの」

「なるほど・・・・・」

 

達也は笑っていた。

 

「・・・・・バカにするの」

「いえ、自分の思い違いが可笑しかっただけです。先輩のことはただの剣道美少女と思っていたんですから」

「美少女・・・・・///」

 

紗耶香は顔を赤らめてそわそわと挙動不審になっていたが、達也は気付いていない様子。

 

「壬生先輩」

 

そこへ千翼が紗耶香に声を掛ける。真剣な顔で。

 

「な、何かしら、鷹山君」

 

紗耶香の応える声が、多少ひっくり返っていたが、千翼は気にせずに質問した。

 

「先輩は先輩の考えを学校に伝えたとして、それからどうするつもりですか?」

「・・・・・えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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なんだかんだでもう二十話目に突入しました。
皆さんこれからもよろしくお願いします。


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第二十一話《診断》

お待たせしました。二十一話です。

もう間もなくジオウが放送されますね。
とても楽しみですね!


翌日―

 

千翼は達也、深雪、真由美、摩利、あずさと生徒会室で昼食をとっていた。

昼休み、今日もほのか達と一緒にと思っていたが深雪から誘われたのだ。

千翼とあずさはダイニングサーバーで、達也と深雪、摩利、真由美は弁当を広げていた。

 

「達也くん、千翼くん」

 

と、摩利が然り気無く二人に話しかける。

本人はうまく切り出したつもりだろうが、野次馬丸出しの笑みは隠しきれていなかった。

 

「昨日、二年の壬生をカフェで言葉攻めしたというのは本当かい?」

 

食べ終わっていて良かった、と二人は思った。

何か口に含んでいたなら粗相(そそう)しているところであった。

 

「・・・・・委員長も年頃の淑女なんですから、『言葉責め』とか使わない方がいいと思います」

「ハハハ、ありがとう。あたしのことを淑女扱いしてくれるのは達也くんくらいだよ」

「そうなんですか?自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではないようですね」

「そんなことはない!シュウは・・・・・」

 

そこまで言いかけて、摩利はしまったという顔で口をつぐんだ。

 

「・・・・・委員長。彼氏いるんですか?」

「・・・・・ま、まあ・・・な///」

 

摩利は顔を赤らめ、恥ずかしそうに答える、その横で真由美がプルプルと震えていた。摩利は達也の方を見る。

 

「・・・・・」

 

達也は無表情、という名の表情で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・なぜ何も言わない?」

「・・・・・千翼みたいにコメントした方がいいですか?」

「プッ」

 

真由美は笑いをこらえられず、つい声を漏らした。

摩利は視線を横に向けると、真由美が背中を向けて肩を震わせていた。その背中を半眼で見るが、すぐに目を逸らし千翼たちの方を見直す。

 

「・・・・・それで壬生を言葉責めにしたというのは本当かい?」

(無かった事にした・・・)

「・・・・・そんな事実はありませんよ」

「おや、そうかい?壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを目撃した者がいるんだが」

「お兄様・・・・・?」

 

気の所為(せい)か深雪の方から冷気が漂ってきたのを千翼は感じていた。

 

「一体何をされていらっしゃたのかしら?」

 

千翼の気の所為ではなかった、物理的に深雪から冷気を出していた。

その影響でお茶に氷が張り、弁当の中身やダイニングサーバーも凍り付いていた。

 

「ま、魔法・・・・・?」

「深雪さんは、事象干渉力がよっぽど強いのね・・・・・」

「落ち着け、深雪。ちゃんと説明するから」

「あ・・・・・っ」

 

達也の言葉に、深雪は恥ずかしげにを伏せると、冷気も収まった。

 

「申し訳ありません。千翼くんも・・・・・」

「気にするな」

 

千翼は内心恐怖心を覚えた。魔法の暴走は未熟の証であると共に卓越(たくえつ)した才能の証でもある。

もし深雪が千翼の敵なら、アマゾンの力を使っても勝てるかどうかといったところだ。

 

「・・・委員長。昨日の壬生先輩についてなんですが・・・・・、どうやら風紀委員の活動は生徒の反感を買っているところがあるみたいです」

 

千翼は紗耶香との会話を全員に聞かせた。

 

 

 

 

 

「それは壬生の勘違いだ。風紀委員は全くの名誉職で、メリットはほとんどない」

「だけど・・・・・、校内で高い権力を持っているのも事実。特に学校の現体制に不満を持っている生徒には、権力を(かさ)に着た走狗(そうく)に見られることもあるの。正確にはそういう風に印象を操作している何者かがいるんだけど・・・・・」

 

思いの(ほか)の深い話だったのか、真由美の回答に以外にも達也が驚いた。

 

「正体は分かっているんですか?」

 

達也は、突然の質問をして来た。

 

「えっ?ううん、噂の出所なんて、そう簡単に特定できるものじゃないから・・・・・」

「張本人が分かれば止めさせるがな」

「俺が訊いているのはデマを流して印象を操作している輩ではなく、その背後で操っている連中のことです」

「お兄様・・・・・」

 

深雪が止めようとしたが、達也は引き下がらなかった。

 

「例えば、反魔法国際政治団体『ブランシュ』とか」

「ブランシュ?」

「な・・・・・!?」

「何故その名前を!?情報規制されているのに・・・・・」

「規制が掛かっているようですが、噂の出所を全て塞ぐのは無理でしょう。こういうことは寧了明らかにしておくべきだと思います。この件に関する政府のやり方は拙劣(せつれつ)です」

「そうね・・・・・。魔法を敵視する集団がいるのは事実なのに、その存在を隠して正面から対決することを避けて―――いえ、逃げてしまっているわ」

 

真由美は自分を責めてしまっていた。そこへ、

 

「仕方がないですよ」

「えっ?」

 

達也の話にあっけを取られていた千翼が、口を動かし真由美をフォローする。

 

「ここは学校の施設で、会長は一般の生徒と変わらないですよ。規制を掛けて隠しておくものがあるのは当然です」

「千翼の言う通り、会長の立場なら仕方がないことです。だから、気にすることではありません」

 

達也も千翼に続いてフォローする。

 

「・・・・・二人共、慰めてくれているの?」

「でっ、でも会長、鷹山くんがフォローするのは分かりますけど、追い詰めたのは司波くんですよね・・・・・」

 

ぼそっとあずさが呟く。すかさず摩利の追撃が入る。

 

「達也くんが追い込んで、千翼くんがフォローするとは凄腕のジゴロだね君たちは。真由美もすっかり籠絡(ろうらく)されているようだしな」

「ちょ、ちょっと、摩利、変なことを言わないで!」

(・・・・・俺は思ったことを言っただけなのに・・・・・)

 

じゃれ合いを始めた生徒会長と風紀委員長をみて千翼は苦笑いをしていた。そんな中、またしても冷気が漂って来た。

 

「ジゴロ・・・・・凄腕の・・・・・」

「お、おい、達也!深雪がまた・・・!」

「落ち着け、深雪!あの人たちの冗談だから!」

 

 

 

 

 

しばらくして、昼休みは終わりまじかになり、千翼たちは席を立つ。

 

「ああ、待ち給え二人共。壬生の例の組織作りの協力要請の件、返事はどうするつもりだ?」

「返事を待って聞くのは千翼です。それを聞いてから決めます」

 

昨日カフェテリアで千翼が投げ掛けた質問に、紗耶香は答えることができなかった。そこで紗耶香の考えがまとまったら、また話を聞くことにした。

 

「壬生先輩の話を聞いて放っておけないことだと分かりましたし」

「―――頼んだぞ」

「できる範囲のことはやります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後―

 

「あとは・・・、この報告書を仕上げれば終わりだな」

 

千翼は風紀委員会本部で事務作業をしていた。

風紀委員は性質上、本部に毎日顔を出す必要はないが、修羅場を極めた新人部員勧誘週間の活動をが全く整理されていないということで摩利からヘルプの要請が入った。実は達也にも要請があったが、予定があるらしいので千翼に任せる形になった。

 

(・・・達也め、俺が断らないのを分かってて押し付けたな・・・)

 

脳内に達也の笑みが浮かんだが、いつかお返ししようと心に決め作業を続けるうちに、

もうすでに作業は終わりに近づいていた。

 

「・・・・・よし。終わった!!」

 

千翼は報告書を終わらせてディスプレイを切ろうとした時、着信の通知が表示された。

 

「学校のサインだ・・・・・一体誰から」

 

千翼は受信メールを開いた。送信欄には《小野 遥(おの はるか)》と表示されていた。

 

 

 

 

 

「失礼します」

「鷹山君。急に呼び出してごめんね」

「いえ、用は済ませましたし、大丈夫ですよ」

 

カウンセリング室に入った千翼を、遥は少しも済まなそうには見えない笑顔で謝罪を行った。

 

「まあ、座って」

 

千翼は遥に言われた通りに、椅子に座る。

 

「どう?高校生活には慣れたかしら?」

「・・・・・結構、想定外のことが色々ありましたが、楽しくやっています」

「ふーん。そうなの」

 

遥は苦笑と微笑の中間のような曖昧な笑みを浮かべて、これ見よがしに足を組み替えた。―――のだが、千翼はなぜか不思議そうな顔で見ていた。

 

「・・・・・どうしたの?」

 

遥は悪戯っぽく問い掛けた。千翼は―――

 

「・・・・・小野先生っていつもその服装なんですか?」

 

思っていた事をきっぱりと答えた。

 

「///!?い、いつもじゃないわよ!」

 

遥は慌てて脚を揃え、椅子に深く座り直した。

 

「ご、ごめんなさい」

「・・・・・なんだか、すいません。・・・それで俺が呼ばれたのは?」

「コホン。今日は私たちの業務(カウンセリング部)への協力をお願いしたくて来てもらいました」

「協力・・・・・ですか?」

「ええ、生徒の皆さんの精神的傾向は毎年変化しています。例えば『自分』という一人称を使っている人がいます。元々軍務志願者の多い魔法科学生の間では珍しくありませんでしたが、それでも『自分』の一人称が一般化したのは三年前の沖縄防衛戦の小売り以来です。社会情勢の変化は生徒のメンタリティにも変化をもたらします」

 

一旦言葉を切って、遥は千翼の表情を(うかが)った。

千翼は少しも戸惑った様子はなく、むしろ遥の話を熱心に聞いているように見えた。

 

「・・・・・だから毎年度、新入生の一割前後の生徒にカウンセリングを受けてもらっているんです」

「そういう事なら協力しますが、他に何かあるんじゃないですか?」

 

一瞬、遥は動揺した素振りを見せたが、すぐに元に戻る。

 

「・・・・・そんなものある訳ないじゃない」

「それなら俺はかなり特殊な気がするんですが」

「だからこそ協力して欲しいのよ。あなたのように一科生と二科生の壁を乗り越える生徒が出て来た時のためにも」

「・・・・・そういう事にしましょう」

「ありがとう。じゃあ、いくつか質問させてもらっても良いかしら」

「わかりました」

 

 

 

 

 

遥の質問は、入学してから今日までの学校で起きたことについてであった。千翼は今までに起きた出来事を掻い摘んで話した。

 

「―――協力ありがとう。今日訊きたかったことは以上です」

 

遥の質問が終わり、千翼は一息ついた。

 

「・・・・・ところで鷹山君。カウンセリングとは直接関係無いんだけど・・・・・」

「なんですか?」

「鷹山君って、二年の壬生さんに交際を申し込まれてるって本当なの?」

「・・・・・本当に関係ないですね」

 

昼休みに摩利から口説いた事を言われたのに、一体どうしたら交際の申し込みにまで変化するのだろうかと、

千翼はそう考えながら呆れていた。

 

「一体何処からそんなデマを聞き付けたんですか?」

「デマ・・・・なの?」

「はい」

「・・・・・もし、鷹山君に壬生さんと交際する気があるならお願いしたいことがあったの。でも鷹山君にその気持ちが無いならいいわ」

「その話自体デマだって言ってるんですが。・・・それで、その話は何処から?」

「ごめんなさい。守秘義務なの」

 

千翼はそれ以上は追及しなかった。―――というか聞く気にならなかった。

 

「もう無いなら、俺はこれで失礼します」

 

千翼は立ち上がり、返事を待たずに出口に向かう。

 

「壬生さんのことで困ったことがあったら、いつでも相談してね」

 

その背中に掛けられた遥の声には、どこか確信のようなものが感じられた。

 

 

 

 

 

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第二十一話、いかがだったでしょうか。
やっと遥ちゃんが出てきましたね。
戦闘シーンはまだまだ先ですが、もうしばらくお待ちください。


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第二十二話《昼餉》

お待たせしました、二十二話です。
仮面ライダージオウでついにエグゼイドこと永夢が登場しました。
個人的な感想ですがジオウの顔のライダーって文字がカタカナに対して、ゲイツはらいだーってひらがなになっているのはなかなか面白いなって思いました。
それではどうぞ!


翌日

 

昼休みに入り、千翼はほのかと雫と食堂へ向かっていた時、後ろ姿だけでも分かるくらい人を魅了している深雪を見つける。

 

「深雪」

「千翼くん。ほのかと雫も」

「深雪も今からか?」

「ええ」

「今日は達也さんと一緒じゃないの?」

「お兄様はエリカたちの居残りに突き合わせているの。だから先に食べているように言われたの」

「・・・・・ちょっと意外。深雪なら達也さんより先に食べるようなことはしないと思ってた」

 

雫が思ったことを口にする。

 

「いつもならもちろん、その通りなのだけど。私の勝手な遠慮で、お兄様の言葉に(そむ)くことはできないわ」

「・・・いつもなら、なのか・・・?」

「ええ」

()()()()なの?」

「ええ、そうよ?」

 

深雪は真顔で小首を傾げる。千翼とほのかは少し笑顔が引き()っていた。

 

「でも、次の授業に間に合わないかもしれないから、お兄様に購買で買いそろえてほしいと」

「それなら、私たちも手伝うよ」

「いいの?」

「人数多い方が、何かと便利だろ?」

「・・・・・ありがとう。それでは急ぎましょう」

 

 

 

 

 

千翼たちは食堂で昼食を済ませた後、購買でサンドイッチと飲み物を買い、達也たちがいる魔法実習室に向かう。

 

「お兄様、お邪魔してもよろしいですか・・・・・?」

 

遠慮がちな声で、深雪は実習室に入る。千翼たちも続いて入ると、据置型(すえおきがた)のCADの前に立っているレオが見えた。どうやら、レオだけがクリアしていないらしい。

 

「深雪、・・・・・と、千翼たちも来たのか?すまないが少し待っててくれ、次で終わりだから」

「いっ!?つっ、次!?」

「・・・・・達也、何気にプレッシャー掛けさせるなよ。レオ、とりあえず頑張れ」

「簡単に言うなよ!!」

 

達也たちが行っていた実技は基礎単一系統魔法の魔法式を制限時間1000ms(ミリセコンド)(ミリ秒)以内に構築して発動する練習で、二人一組になって、クリアする内容だ。ペアの一人がクリア出来ない場合、もう一方も自動的に居残りとなる。

 

 

 

 

 

「終わった~」

 

レオの歓声が課題クリアを告げる鐘の音となった。

 

「深雪、待たせたな」

「お疲れ様でした。お兄様、ご注文のとおり揃えてまいりました」

「ご苦労様。千翼たちも手伝わせてすまない」

「これぐらいの事、何でもないさ」

 

そう言って千翼たちはサンドイッチが入ったビニール袋を達也に渡す。

 

「みんな、ここで昼食にしよう。食堂で食べていたら午後の授業に間に合わなくなるかもしれないからな」

「ありがと~。もうお腹ペコペコだったのよ!」

「達也、お前って最高だぜ!」

 

和気藹々(わきあいあい)と、テーブル・・・はないので適当に椅子を寄せて、遅い昼食を取り始める達也たち。千翼たちも飲み物だけ持って、その輪に加わった。(千翼はもちろん生卵)

 

「深雪さんたちは、もう済まされたんですか?」

「ええ」

「ああ」

「はい」

「うん」

「深雪なら『お兄様より先に箸をつけることなどできません』とか言うと思った」

「いつもなら、もちろんそうだけど。今日はお兄様のご命令だったから」

「・・・・・いつもなら・・・・・」

()()()()なんですね・・・・・」

「そうよ?」

「なんか、デジャブを感じるのは俺だけ?」

 

笑顔が引き攣っているエリカと美月を見て、千翼は思ったことを口にした。

 

「だ、大丈夫だよ、千翼くん。私もそう思ってるから」

 

そこへ、ほのかが付かさずフォローを入れる。

 

「そ、そういえば、深雪さんたちのクラスでも実習が始まっているんですよね?」

 

妙な重量感の空気を振り払うように、美月が不自然にトーンの高い声を発した。

 

「多分、美月たちと変わらないと思うわ。ノロマな機械をあてがわれて、テスト以外では役に立ちそうもないつまらない練習をさせられているところ」

 

淑女を絵に描いたような外見にそぐわない、遠慮の無い毒舌に、達也を除いた六人が、ギョッとした表情を浮かべた。

 

「ご機嫌斜めだな」

「不機嫌にもなります。あれなら一人で練習でしている方が為になりますもの」

 

笑いながらからかい気味に掛けられた達也の言葉に、拗ねた顔と声で、それでも少し甘えていることが第三者のも分かる態度で深雪は答えた。

 

「でも見込みのある生徒に手を割くのは当然だもの。ウチの道場でも、見込みのないヤツは放っとくから」

「エリカの家は道場をしているのか?」

「副業だけど、古流剣術を少しね」

「そうか、それで・・・・・」

 

エリカが伸縮警棒で森崎のCADを叩き落した時のことを思い出し、納得した。

 

「エリカは・・・・・当然と思っているの?」

 

そこへ、ほのかが口を挿んだ。

 

「一科生には指導教官がついて、二科生にはつかないこと?そうよ」

「・・・・・やけにあっさりしてるな」

 

あっけらかんと言い切ったエリカに、レオがそう訊ねた。

 

「あれ?もしかして、レオは不満に思っているの?」

「いや、俺だって仕方が無いことだと思っているけどよ・・・・・」

 

らしくもなく歯切れの悪いレオに対し、

 

「そっか~。でもあたしは、『仕方が無い』じゃなく『当然』だって思っているんだけど」

 

エリカは清々しいくらい歯切れ良く言い切った。

 

「・・・・・理由を聞いても良い?」

 

ほのかの質問に、エリカはちょこんと首を傾げた。少し考えをまとめているらしき沈黙の後に、こめかみを人差し指で掻きながら口を開いた。

 

「ウ~ン・・・・・今まで当たり前のことだと思ってたから説明が難しいなぁ・・・・・。例えば、ウチの道場では入門して最低でも半年は技を教えないの」

「ほぉ」

「へぇ~」

 

興味深げに千翼と達也が頷いた。ほのかや雫、美月は、頭上に?マークを浮かべていた。

 

「最初に足運びと素振りを教えるだけ。それも、一回やって見せるだけで、後はひたすら素振りの繰り返しを見ているだけ。そして、まともに刀を振れるようなった人から技を教えていくの」

「・・・・・でもそれじゃあ、いつまで経っても上達しないお弟子さんも出てくるんじゃない・・・・・?」

「いるね~、そういうの」

 

ほのかの疑問に、エリカがウンウンと頷いた。

 

「そしてそういうヤツに限って、自分の努力不足を棚に上げたがるのよね。まず刀を振るって動作に身体が慣れないと、どんな技を教わっても身に付くはずがないはずが無いんだけどね」

「あっ・・・・・」

 

美月が小さな声を上げた。それをチラッと見ただけで、エリカは言葉を続けた。

 

「そしてその為には、自分が刀を振るしかないんだよ。やり方は見て覚える。

 周りにいっぱいお手本が居るんだから。教えてくれるのを待っているようじゃ、論外。

 最初から教えてもらおうって考え方も、甘え過ぎ。師範も師範代も、現役の修業者なんだよ?

 あの人たちにも、自分自身の修業があるの。

 教えられたことを吸収できないヤツが、教えてくれなんて寝言をこくなって」

 

思いがけずエキサイトして罵倒雑言を繰り出しているエリカを、千翼と達也は興味深そうに眺めている。

 

「・・・・・それはごもっともだけどよ、おれもオメエもついさっきまで達也に教わってたんだぜ?」

「あ痛っ!そうなんだよね、いやんなっちゃう」

 

レオの指摘にエリカは顔を(しか)めつつも、あっけらかんとした調子では変わらなかった。

 

「・・・・・そうだ。深雪たちA組の授業でも、これと同じCADを使ってるんでしょ?」

「ええ」

 

頷きながら嫌悪感を隠そうとしない深雪に、エリカは好奇心を掻き立てられた。

 

「ねえ、参考までに、どのくらいのタイムかやってくれない?」

「わたしが?」

 

自分を指差し、目を丸くする。深雪に、エリカはわざとらしく、大きく、頷いた。達也に目で問い掛ける深雪。

 

「いいんじゃないか」

 

苦笑いを浮かべながら頷く達也を見て、

 

「お兄様がそう(おっしゃ)るのでしたら・・・・・」

 

深雪は躊躇(ためら)いがちながら、承諾の応えを返した。

 

 

 

 

 

「深雪、いいぞ」

「では、いきます」

 

計測器をセットしたCADに深雪はピアノを弾く時のように、パネルに指を置いた。余剰想子(サイオン)光が閃き、計測が始まり、すぐにタイムが表示された。

 

「・・・・・に・・・・・235ms・・・!?」

「速っ!!」

「何回見てもすごい数値・・・・・」

「うん。深雪の処理能力は、人の反応速度の限界を迫ってる」

 

深雪の出したタイムを見て、驚きを隠せずにいた。ただ、千翼と達也だけが驚いていなかった。

 

「そうでしょうか?」

 

深雪は、不満そうに(まゆ)(ひそ)めていた。

 

「旧式の教育用ではこんなものだろう」

「やはり、お兄様に調整していただいたCADでないと、深雪は実力を出せません」

「そう言うな。もう少しまともなソフトに入れ換えてもらえるように、その内、会長か委員長から学校側に掛け合ってもらうから」

 

()ねるように、甘えるように身を寄せる深雪の頭を、幼い子供にするように達也は優しく撫でている。

その光景を見ても、いつものように当てられることはなかった。

 

「達也、深雪。何度も言うけど、目の前でイチャイチャするのだけはやめてくれ・・・・・」

 

―――千翼を除いて。

 

 

 

 

 

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ちなみに題名の読み方は (ひるげ) です。


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第二十三話《謀略》

お待たせしました。第二十三話です。
パソコンの調子が悪くなって修理に出すなど大変でしたが、なんとか投稿出来ました。

今回は優等生のネタを自分なりにアレンジしました。
それでは、どうぞ!


―放課後

 

千翼は、一昨日、紗耶香と話したカフェにいた。

一昨日、答えられなかった千翼の質問の答えがまとまったから聞いてほしいと呼び出され、今は紗耶香をが来るのを待っている。

待っている際、千翼は一昨日紗耶香が飲んでいたジュースを注文して飲んでいた。

それから少したって、紗耶香が現れた。

 

「鷹山君!ごめん!待ったでしょう!」

「いえ、大丈夫です」

「本当?よかった・・・・・」

 

紗耶香は大袈裟に胸を撫で下ろす。

今日も「可愛らしい女の子」だが、いざ席に座ると真剣な顔になり、本題を切り出す。

 

「一昨日の話なんだけど・・・・・、最初は学校側にあたしたちのの考えを伝えるだけで、良いと思ってた」

 

そう言って紗耶香は、テーブルの下で(こぶし)を握り締める。

 

「でも、それだけじゃダメだって分かったの。あたしたちは、学校側に待遇改善を要求したいと思う」

「(踏み込んできたな・・・)改善って、一体何を改善したいんですか?」

「それは・・・・・あたしたちの待遇全般よ」

「例えば、授業ですか?それともクラブ活動?でも、剣道部と剣術部は同じペースで割り当ては平等になっているはずです」

 

これは昨日、達也と一緒に調べた結果である。

 

「それとも予算ですか?確かに魔法競技系には多く割り当てられていますが、・・・でも、それに応じた配分は当然です」

「それは・・・・・そうだけど・・・・・。」

 

案の定、紗耶香の返答は歯切れの悪いものだった。

 

「じゃあ、鷹山君は不満じゃないの?自分の友達が実技の成績が悪いだけで、ウィードなんて見下されて、それでいいの!」

「・・・・・いいわけがない。友達を見下すのは絶対に許せないです」

「じゃあ!」

「でも、達也はそんなこと気にしていません」

「えっ?」

「達也は、あいつは、そんなことでどうこう言うやつじゃない。それに、結局は自分たちの心の問題です、自分がそれに気づくかどうかなんです」

「・・・・・」

 

紗耶香には、自らの満たされない想いを()()の所為にしようしている自分たちの弱さを責めているように感じた。

 

「残念ですが、先輩と主義主張を共有できないみたいです」

 

そう言って、千翼は一礼して席を立つ。

 

「待って・・・・・待って!」

 

紗耶香は蒼い顔で、すがりつく様な眼差しで千翼を見上げていた。

 

「何故、そこまで割り切れるの?鷹山君は何を支えにしているの?」

「俺は、・・・・・これからも生きるためです」

「生きる?・・・たった、それだけ?」

「別に分かってもらおうと思っていません。・・・・・でも、俺にとっては十分な理由です」

 

千翼はそれ以上紗耶香に構わず、背を向けた。

紗耶香は千翼の背中を見ることしかできなかった。

千翼が去った後、紗耶香の携帯端末が鳴り響く。

紗耶香は携帯端末の画面を見る。すると、紗耶香は焦りを感じた。

 

 

 

 

 

―とある廃工場

 

「・・・・・以上が、壬生からの連絡です」

「そうか、ご苦労」

 

第一高校の生徒と(おぼ)しき人物から報告を聞き、メガネの男はどうしたものかと考えていた。

 

「すみません・・・・・」

「お前が謝る事ではない。ヤツはなかなか尻尾を掴ませることはできないようだ」

「せめて、鷹山千翼がその力を使わせる状況にあればいいんですが・・・・・」

「・・・・・まて」

 

メガネの男は何かを思いつき、ニヤッと不気味に笑う。

 

「確かヤツと交流している者たちがいたな」

「ええ、彼と同じクラスの光井ほのかと北山雫ですね。彼女達が?」

「その二人を利用すれば・・・・・」

 

 

 

―翌日の放課後

 

風紀委員は非番でクラブも休みなので、千翼はほのかと雫と一緒に下校することになった。

 

「なんだか三人一緒って久しぶりだね」

「うん。千翼くんが風紀委員で頑張ってるから」

「事務作業のほうが多いけど」

 

何気ない話をしながら校門を出たとき、千翼が立ち止まる。

 

「千翼くん?」

「どうしたの?」

 

急に立ち止まった千翼にほのかと雫は振り返った。

 

「・・・・・アマゾンだ」

「「!!」」

「町の方からだ。二人とも。」

「もちろん、行くよ」

 

ほのかが力強く答え、雫もうんっと頷く。

 

「ありがとう。急ごう」

 

千翼はアマゾンの気配を頼りに走りだす。ほのかと雫も後からついていく。

 

 

 

 

 

町を行き行く人たちが、呆然としていた。

その視線の先には、容姿端麗な少女、深雪が歩いていた。

 

「お店はこちらでいいのかしら」

 

深雪は携帯端末に表示された地図に印された店に向かっていた。

 

 

 

―数十分前

 

「はわー!発注ミス!次の配達は週明けだし・・・・・しかもネットじゃ売ってないし・・・・・どうすれば・・・・・」

「それなら、わたしが買いに行ってきますが・・・・・」

「本当ですか!すいません、すいません」

 

注文して取り寄せたものが違っていたらしく、慌てるあずさに物凄く頭を下げられながら、深雪が代わりに買い出しに出かけ、今に至る。

 

「中条先輩ったら・・・・・」

 

深雪はその時のことを思い出し、クスッとしていた。そして、探していた店の前に差し掛かった時、

 

「あら?あれは・・・・・」

 

向こうの道で、千翼とほのか、雫が走って行くのが見えた。

 

(千翼くん達だわ、どうしたのかしら?)

 

一瞬だが千翼の顔が険しい顔になっているのが見えた。

 

(少し胸騒ぎがする。何も起きなければいいけど・・・・・)

 

 

 

 

 

千翼たちはアマゾンの気配がする場所に向かっていると、千翼が突然立ち止まった。その先に一高の生徒がいて路地裏へ入っていた。その路地裏にアマゾンの気配がしていた。

 

「くそ!」

「千翼くん、どうしたの?」

「あの路地裏にアマゾンがいる。・・・けど、さっき一高の生徒が入っていた」

「ええ!」

「急ごう!」

 

千翼はリュックからベルトとインジェクターを取り出し、急いで路地裏に入る。ほのかと雫も急いで千翼の後を追った。

 

 

 

 

 

「はい、所定の位置に着きました。そろそろ・・・・・」

 

男子生徒は携帯端末で誰かに連絡し終えると、千翼が姿を現す。

 

「おい!その先は危険だ。早く戻れ!」

 

千翼はその生徒に警告しようとしたが、男子生徒はさらに奥に走って行く。

 

「あ、おい!くそ!」

 

千翼は男子生徒を追いかける。やがて、広い空間に出るが、男子生徒の姿はそこになかった。

 

「・・・いない?」

「ハア、ハア、千翼くん、さっきの、人は?」

「ここに出た途端、居なくなった。いったいどこに・・・」

 

千翼が辺り一帯を見渡していた。

その時―

 

「ウウウウウッ」

「アアアアアッ」

 

まるで待ち伏せしていたかのように、二体のアマゾン《カマキリアマゾン》《サイアマゾン》がゆっくりと千翼たちの前に現れた。

 

「アマゾン!」

 

千翼はベルトを腰に装着し、ほのかと雫はCADのスイッチを入れて構える。

 

『ほのか、俺が合図したら閃光魔法を・・・・・』

 

ほのかはコクッと頷き、閃光魔法の起動式を準備する。千翼は二匹のアマゾンを動きを見てタイミングを計る。と、

 

「コイツカ?」

「アア、マチガイナイ」

「オイ、キサマ!ワレワレトイッショニキテモラウカ」

 

サイアマゾンが千翼に手を伸ばした。

 

「今だ!!」

 

千翼の掛け声を出し、ほのかは閃光魔法を相手に向けて放った。

 

「!?メガッ・・・!」

 

閃光魔法によって二匹のアマゾンは視界をやられる。その隙に千翼はベルトにインジェクターをセット、スロットを上げる、ほのか達が後ろに下がったのを確認し、インジェクターを押し込む。

 

《Ne·o...》

「アマゾン!」

 

全身から炎が吹き出し、アマゾンネオに変身し、インジェクターをもう一度押し込む。

 

《Blade·Loading》

 

右腕のアーマーからアマゾンネオブレードを出し、カマキリアマゾンの首に目掛けて斜めに降り下ろす。

カマキリアマゾンの首はゆっくりとずれ落ち、黒い液体を出しながら身体が変色する。次にネオは身体を回転させ、サイアマゾンの横腹にブレードを斬りつける。

 

「グッ!」

 

サイアマゾンはブレードによる激痛で一瞬動きが鈍くなる。その後、ネオはサイアマゾンに蹴りを喰らわせる。

 

「ガッ!」

 

蹴りを喰らい後ろに下がるサイアマゾン。ネオはつかさずスロットを下げ、もう一度上げる。

 

《Amazon·Slash...》

 

ブレードを仕舞い、右腕を上げてサイアマゾンに駆け寄る。そして、腕部の刃・アームカッターをサイアマゾンの左肩に食い込ませる。

 

「ハアアアアーーーー」

 

ネオはそのままサイアマゾンの左肩から胴体にかけて切り落とした。サイアマゾンは真っ二つに切り裂かれ、上半身は地面に落ち、下半身は崩れ落ちながら変色した。

 

「ハア、ハア・・・、卑怯で悪いが手っ取り早くさせてもらった」

「千翼くん、大丈夫?」

「大丈夫だ。それよりここから早く立ち去ろう」

「「うん!」」

 

ほのかと雫は同時に頷いた。

その瞬間、二人の背後から先程とは別のアマゾンが二体現れた。

 

 

 

 

 

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いかかだったでしょうか。
仮面ライダージオウもオーズ編に入り、ついに映司が出ましたね。
・・・ていうか!何で檀黎斗がアナザーオーズ何だよ!!
・・・というツッコミを心から入れました。

次の話でお会いしましょう。


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第二十四話《籠城》

お待たせしました。第二十四話、今年最後の投稿です。
平成も終わりが近づいてきました。クウガから見ている人は、平成ジェネレーションズFOREVERを観に行くことをおすすめします。
それではどうぞ!


ほのかと雫の背後から別の二体のアマゾンが現れた。

 

「!ほのか、雫!後ろだ!!」

 

ネオからの掛け声に二人は同時に後ろを振り返った、二体のアマゾンが目の前にたたずんでいた。ーーーが、

 

「!」

「あれ?」

「ほのか、雫!早く下が・・・・・れ」

 

三人して驚きを隠せなかった。二体のアマゾンは()()()()()()()()()()()()()()

 

「これって・・・・・」

「危ないところでしたね」

 

聞き覚えのある声がして辺りを見回すと、凍らされているアマゾンの背後から深雪がスッと姿を現した。

 

「大丈夫ですか?」

「「深雪!!」」

「みっ・・・」

 

ほのかと雫は深雪の名を呼んだ。ネオは呼び掛けたがまだ変身しているため、途中で止めた。

 

「どうしてここに!?」

「生徒会の用事で買い物に来てたの。その途中でほのかたちが険しい顔で走っているの見て心配になって追いかけて来たのよ」

「そ、そうだったんだ・・・」

「ありがとう、深雪

「いいのよ。・・・・・それから」

 

深雪はネオのいる方へと歩き出し、ネオの前で立ち止まる。

 

「・・・・・お会いになられるのは、これで二回目ですね」

「・・・・・そうだな」

「あの時のお礼を言いそびれていました。助けていただきありがとうございます」

「俺はただアマゾンを狩る為に殺っただけだ。礼を言われるような事はしていない」

「それでも、お礼を言わせてください。助けていただきありがとうございます」

「・・・そろそろお互い本音で話そうか」

「フフッ、そうですね、()()()()

「「えっ!」」

 

千翼の名前が出てほのかと雫は驚いたが、ネオは気にせず、ベルトからインジェクター取り外し、千翼の姿に戻った。それを見ても深雪は驚く事はなかった。

 

「・・・・・やっぱり、気付いていたんだな」

「最初にお気付きになったのは、お兄様ですけど」

「いつから?」

「入学式の時に、お会いになった時にです」

「・・・・・そこからか」

「ええ」

 

深雪は満面の笑みでそう答えた。千翼は思わず苦笑いしていた。

 

「・・・・・ほのかたちも千翼くんが何者か知っているのね」

 

二人は無言で頷く。

 

「それでしたら、これ以上言う事はありません」

「いいのか?」

「ええ、だって千翼くんは、わたしの大切な友人なのですから」

 

深雪の言ったことは紛れもない本心だと、千翼を怪物ではなく人間として見てくれいると、千翼は心から嬉しく思った。

 

『・・・・・それに少しだけお兄様に似てらっしゃるから』

「うん?何か言った?」

「いえ、何でもありません」

「?」

 

深雪はまた満面な浮かべたが、千翼は意味が分からず首を傾げていた。

 

「ねえ、深雪。あの人たちは?」

「まだ生きているわ。でもこのままだと監視システムに発見されると思うわ」

「だったら警察に任せる?」

「いや、あまりに(おおやけ)しない方がいい。あいつらを何処かに連れて行って、聞き出したい」

「でしたら、わたしにお任せを。千翼くんたちはここから早く立ち去った方がいいわ」

「いいのか?」

「わたしの事は大丈夫ですから」

「・・・・・わかった。深雪、気を付けろ」

 

千翼はこの場を深雪に託し、去って行った。

 

 

 

 

 

とある廃工場

 

「あの四人は帰って来なかったか」

 

メガネの男は部下からの報告を聞いていた。

 

「はい。おそらくネオによって・・・・・」

「構わない。ヤツを我々の仲間に引き入れる為だ、多少の犠牲は仕方がない。ご苦労だった、下がれ」

「はい」

 

部下がその場から去ると、一人の一高生が近寄る。

 

「義兄さん・・・・・」

(きのえ)、お前が心配する事ではないさ。・・・・・だが、そろそろ潮時かもしれない」

「義兄さん、それは・・・・・」

「甲、第一高校の同志に決起を(うなが)せ」

「!いよいよですか!?」

「ああ、こちらの準備は完了している。校内の混乱が最高潮に達した段階で実行部隊を突入させる」

 

そう言ってメガネの男は、掛けているメガネをクイッと上げた。

 

 

 

 

 

それから六日後、授業が終わった直後の放課後。

千翼が帰りの支度をしていろ時、

 

『千翼くん、少しよろしいですか?』

 

深雪が周りに聞こえないように千翼に話し掛けて来た。

 

『例の人たちの事なのですが・・・・・』

『何か聞き出せたか?』

『それが・・・・・、その人たちはわたしを見るなり怯えてしまい・・・・・』

『あまり話せなかった、ってことか。・・・相当トラウマになったんだな』

『ですが!あまりにも失礼すぎます』

 

深雪はご機嫌斜めになり、千翼は苦笑いを浮かべるしかなかった。ちょうどその時、スピーカーから突然ハウリングが飛び出した。

 

「えっ、何」

 

ほのかだけでなく、教室にいる生徒が慌てふためく。

 

『全校生徒の皆さん!僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

「有志・・・・・」

 

スピーカーから威勢良く飛び出した男子生徒の声を聞いて、千翼は先週カフェで紗耶香から聞いた話を思い出す。この放送ジャックは紗耶香の言っていた「待遇改善要求」の為に行なっている事だっと考えた。

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

と、千翼の携帯端末からメールの着信が入る。深雪にも同じタイミングでメールが入った。

 

「この件で呼び出し?」

「そうみたいだ。行ってくる」

「気をつけてね」

 

千翼は深雪と一緒に放送室へと向かった。

 

 

 

 

 

「あ、お兄様」

 

放送室に向かう途中で、達也と合流する。

 

「達也、これはお前が言っていたヤツらの仕業か?」

「まだ断定できないが、その手の輩の仕業には違いないだろう」

 

と、話をしているうちに放送室前に到着した。放送室前では、既に摩利と克人と鈴音、そして風紀委員会と部活連の実行部隊が顔を揃えていた。

 

「遅いぞ」

「「すみません」」

 

ポーズだけの摩利からの叱責に、二人はポーズだけの謝罪を返す。

 

「委員長。今、現状はどうなっているんですか?」

 

千翼は現状確認に移る。

 

「犯人は放送室に立てこもっている。しかも何らかの手段で鍵をマスターキーごと盗んで、扉を封鎖している。踏み込むどころか、こちらから開けることができない状況だ」

「明らかに犯罪行為じゃないですか!」

「その通りです。だから私たちも、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応すべきでしょう」

「こちらが慎重になったからといって、それで向こうの聞き分けが良くなるかどうかは期待薄だな。多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」

 

方針の対立が膠着(こうちゃく)していて、有事の対応としては、かなり困った状態だった。

 

「十文字会頭はどうお考えなんですか?」

「俺は彼らとの交渉に応じても良いと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、後顧の憂いを断つことになろう」

「では、この場はこのまま待機しておくべき、と?」

「それについて決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思われない」

 

強引な事態収拾は図らない、克人の考えは鈴音に近いものだった。それを聞いて達也は一礼をして引き下がると、千翼と顔を合わす。それを見て千翼は無言で携帯端末を取り出して、電話をかけた。かけた相手は、

 

「壬生先輩ですか?鷹山です」

 

摩利と鈴音がギョッとした表情で千翼に視線を移した。

 

「先輩は今何処に?・・・・・ああ、放送室に要るんですか。・・・・・別に馬鹿にしてるわけではないです。少し落ち着いて・・・・・はい、ありがとうございます。それで、本題なんですが」

 

摩利や鈴音、そしてその他数人、千翼が何を言おうとしているのか、聞き逃さない為に聞き耳を立てた。

 

「十文字会頭は交渉に応じると、生徒会長はまだわかりませんがーーー」

 

鈴音が頷いたのを見て、千翼はすぐに言い直す。

 

「いえ、会長も同じです。と言うわけで、交渉の日時について話したいんですが。・・・・・大丈夫です、壬生先輩の自由は保障します。・・・・・はい、・・・・・では」

 

千翼は通話を切り、摩利たちに向き直った。

 

「委員長。すぐに出てきます」

「今のは、壬生紗耶香か?」

「はい。待ち合わせの為にとプライベートナンバーを交換したのが幸いでした」

「手が早いな、君は・・・・・」

「誤解しないでください」

「それより、態勢を整えるべきです」

 

達也は摩利、鈴音、克人に次の行動を促した。

 

「態勢?」

「中にいるヤツらを拘束する態勢です」

「・・・・・千翼くんがさっき、自由を保障すると言っていた気がするのだが」

「俺が自由を保障したのは壬生先輩だけです。それに風紀委員を代表として交渉しているとは一言も行っていません」

 

摩利だけではなく、鈴音や克人までもが、呆気に取られていた表情を浮かべていた。この二人はある意味でベストタッグなんじゃないかっと思わせるぐらいに。

 

「悪い人たちですね、お兄様と千翼くんは」

「今更だな、千翼」

「ああ、そうだな」

「でも、お兄様。千翼くんが壬生先輩のプライベートナンバーを端末に保存していたのを知っていた件について、後ほど詳しくお話を聞かせて下さいね?」

 

深雪は満面な笑みで、楽しげな口調で、そう言った。達也は千翼に「どうすればいい?」という顔を向けてきたが、千翼は「お前がなんとかしろ」という顔で返した。

 

 

 

 

 

「どういうことなの、これ!」

 

千翼は紗耶香に詰め寄られた。放送室を占拠していたのは、紗耶香を含めた五人。CADを所持していたが、紗耶香以外の四人は風紀委員よって拘束されたが、紗耶香はCADを没収されただけに留まった。紗耶香の手は、千翼の胸元に伸びたが、その手首を千翼の手に掴まれている。

 

「あたしたちを騙したのね!」

「鷹山はお前を騙してなどいない」

 

紗耶香に、重く、力強い響きのある声が掛けられた。

 

「十文字会頭・・・・・」

「交渉には応じよう。だが、お前たちの要求を聞き入れる事と、お前たちが執った手段を認める事は、別の問題だ」

「っ!」

「それはその通りなんだけど・・・・・」

 

その時、ある人物が入り込んで来た。

 

「七草?」

「彼らを放してあげてもらえないかしら」

「だが、真由美」

 

摩利が、反論の構えを見せた。

 

「分かっているは、摩利。でも、壬生さん一人では、交渉の段取りも出来ないでしょう。当校の生徒である以上、逃げられるということも無いのだし」

「あたしたちは逃げたりしません!」

 

真由美の言葉に、紗耶香は反射的に噛み付いた。だが真由美は、直接には、紗耶香の言葉に反応しなかった。

 

「学校側は今回の件、生徒会に委ねるそうです」

「何!?」

「壬生さん。これから貴方たちと交渉ついて打ち合わせをしたいのだけど、ついて来てもらえるかしら」

「・・・・・ええ、構いません」

 

それを見ていた千翼は紗耶香を解放し、真由美は紗耶香と一緒にその場を後にした。

これにより有志同盟の立てこもり事件はいったん落ち着きをみせたが、完全な解決ではない。これから起こることを千翼はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

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第二十五話《情報》

あけましておめでとうございます。
投稿開始からこれで二回目の年越しになりました。
少し遅い投稿になりましたが、第二十五話です。
それでは、どうぞ!!


同盟の立てこもり事件が起きた翌日、学園内はある話題に盛り上がっていた。

それは明日におこなわれる生徒会と同盟の公開討論会である。しかもそれに出るのは、まさかの真由美一人であった。その話を深雪から聞いている千翼たち。

 

「深雪も行くの?」

「そうね・・・・・あまり気が乗らないけど」

「気が乗らない?」

「だって興味がないもの。主義主張のためなら何をやってもいいと考えている人たちなんて」

「深雪、同盟の主張内容についてどう思うの?」

「正直言って、甘いと思うわ。評価してほしいなら実績を示すのが先、魔法以外で評価されたいなら魔法以外で実績を示すべきよ。平等じゃないから評価を上げろというのは高い評価を受けている人たちの実績にぶら下がっているようでなんだが嫌な感じを受けるわ」

 

深雪は自分が思っていることを容赦なくズバズバと言ってくる。それを聞いて千翼たちは呆気に取られていた。

 

「深雪の言ってる事はその通りだと思うけど・・・・・」

「深雪、以外と容赦ない性格?」

「そうよ。わたしって冷たい女なの」

 

ニコッとしながら深雪はそう答えた。

 

 

 

 

 

放課後、千翼は達也とペアで校内を巡回していると、所々に同盟メンバーの姿が見られた。賛同者を募るため活動が一気に活性化したのだ。

同盟メンバー全員、赤白青(トリコロール)のリストバンドを巻いていた。そんな中を巡回していると、例のリストバンドを巻いた、おそらく三年生に話し掛けられて困惑している美月を見つけた。

 

「美月」

「あっ、達也さん、千翼くん」

 

二人の姿を見て、ホッとした表情を浮かべる美月。結構な時間、捕まっていたようであった。千翼はその上級生に着目する。

そしてその上級生に見覚えがあった。路地裏に出たアマゾンを狩りにいった日にその路地裏に向かっていた男子生徒だった。

よく見ると、彼の制服にはエンブレムがなく角張った小さなメガネをかけていた。

 

「風紀委員の鷹山です。あまり長時間にわたる拘束は迷惑行為になる場合があります、お控えください」

「分かった。柴田さん、僕の方は何時(いつ)でも良いから、気が変わったら声を掛けてくれる?」

 

その上級生は紳士的に手を引いた。

立ち去る背中が廊下から階段へ消えたところで、千翼たちは美月に事の経緯を訊ねた。

 

「美月。さっきの人は?」

「剣道部の主将さんです。お名前は≪司甲(つかさきのえ)≫さんとか。・・・・・私と同じ『霊子放射光過敏症(りょうしほうしゃこうかびんしょう)』で・・・・・」

 

霊子放射光過敏症、霊子(プシオン)の生じる『霊子放射光』に過敏な反応を示す知覚制御不全症で、霊子放射光は、見ている者の情動に影響を及ぼす。その為に、霊子放射光過敏症者は精神の均衡を崩しやすい傾向がある。

 

これを予防するため、感受性をコントロールするか、特殊レンズのメガネをかけるしかない。

 

美月の目は常時メガネをかけなければならないほど特殊だった。美月自身も自分の「目」のことは隠しておきたかったらしいが、その事で気にしない友人と一緒のため、美月は自分の「目」のことを話してくれた。だから千翼は驚きはしなかった。

 

「同じように過敏感覚に悩む生徒が集まって作ったサークルに参加しないかって」

「それはまた」

「授業で精一杯だからと、何度もお断りしたんですけど」

「そうだな。欲張らず、一歩一歩進んでいくのがいいんじゃないか」

 

達也のありきたりなアドバイスに「そうですね」と頷いて、美月は美術部の部室に向かった。

美月を見送った千翼たちは巡回を再開したが、千翼は先ほどの上級生のことが気になっていた。

 

(剣道部主将、司甲か)

 

 

 

 

 

千翼の部屋

 

「・・・・・それで、その司先輩があやしいの?」

 

夕食を済ませ、片ずけの最中に千翼は放課後のことをほのかに話していた。

 

「まだ確証はない、・・・・・けど、何か繋がりがある、って俺はそう思ってる」

「そうなんだ・・・・・」

「まずは、司甲について調べてみるつもりだ」

 

と、ちょうどその時、千翼の携帯端末が鳴り出した。千翼は表示画面を確認するとメールの受信があり、メールの内容を確認する。

 

 

 

 

 

千翼はネオジャングレイダーを走らせ、メールに書かれていた目的の場所に着いた。ネオジャングレイダーから降りて、千翼はメールに記された場所をもう一度確認する。

 

「・・・・・ここであってるな」

 

着いた場所は寺であった。千翼はそのまま山門をくぐり、境内に入る。そこに見知った兄妹が待っていた。

 

「達也、深雪」

「来たか」

「千翼くん、お待ちしておりました。急なお呼びだてに応じてありがとうございます」

「別にいいよ。・・・・・それより、俺をここに呼んだ訳を教えてくれないか?」

「説明の前にお前に言いたい事がある」

「言いたい事って・・・・・」

「深雪から既に聞いていると思うが、お前が深雪を助けたアマゾン『ネオ』である事は知っている、そして、溶源性細胞のオリジナルであることも分かっている。正直、俺はお前を危険な存在だと今でも思っている。・・・・・だが、お前は一緒にいても大丈夫だと、そう確信した。・・・・・だから今回の件、お前にも協力を願いたい」

「・・・・・」

 

達也が話してくれた事は全部本心からだと千翼は感じていた。

 

「・・・・・プッ、ハハハッ」

 

千翼は思わず笑い出す。

 

「?千翼?」

「千翼くん?」

「ハアッ、ゴメンゴメン。変に勘ぐっていた自分が可笑しくてさ。達也の気持ちは分かった。そういう事ならその協力、受けるよ!」

 

そう言って千翼は達也に近づき拳を前に突き出す。達也もフッとしながら拳を突き出し、コツンッと拳にぶつける。

 

「すまないな」

「いいって、俺のこと信頼してくれているんだろ?」

「ああ」

「お兄様、そろそろ・・・・・」

「わかった。千翼、ついてきてくれ」

 

そう言って達也と深雪は庫裏(僧侶の住居)へと向かう。千翼は二人のあとをついていくが、

 

(なんで、明かりがついてないんだ?)

 

と、不思議に思っている内に、庫裏の玄関にたどり着き、達也が引き戸に手を掛けたのと同時に、

 

「達也くん、こっちだよ」

 

まるで人の気配が無かった縁側の方から、達也を呼ぶ声が聞こえた。いきなり声を掛けられ、深雪はビクッと震えた。

三人は声のした縁側へ回ると、そこには沓脱石(くつぬぎいし)に足を投げ出しながら、腰掛けているお坊さん(?)がいた。

 

「こんばんは、()()

「こんばんは、達也くん、深雪くん。・・・・・おや?珍しいお客さんが来たね」

 

お坊さんと視線が合い、千翼は頭を下げる。

 

「師匠、もしかしてお休みでしたか?」

「それはまさかだ。約束しておいてそんなことはしないよ」

「ですが明かりがついていませんが・・・・・」

「いや、習慣でね。必要が無い限り、明かりはつけない。僕は()()だからね」

「・・・・・達也。師匠って、もしかして」

 

千翼は薄々気づいていたが、達也に訊ねた。

 

「ああ。八雲和尚(おしょう)、俺の体術の先生だ。忍術使い、九重八雲の方がしっくりくるだろう」

 

千翼は達也と服部の模擬戦の時、深雪がその名前を言っていたが、まさか、このお坊さんがとまじまじと見てしまう。

 

「人は見かけによらないもんだな」

「そういう君は、鷹山千翼くんだね?」

「俺のことを知っているんですか?」

「達也くんから君のことは聞かされていたからね。君が危険な物を抱えているから父親に命を―――」

「師匠」

 

そこへ達也が、八雲の言葉を途中で(さえぎ)った。八雲は少しバツの悪げな顔になった。

 

「おっと、すまない、これは言ってはいけないことだってね。千翼くん申し訳ない」

 

八雲の謝罪に千翼は首を横に振るが、拳を強く握りしめていた。

達也と深雪は見なかったことにした。

 

「それで、今日は何の用かな?」

「師匠に一つ調べていただきたいことが・・・・・」

 

八雲の問い掛けにそう前置きにして、達也は司甲のことを説明した。

 

「その三年生は、ブランシュとも直接、強く繋がっていると俺は考えています。司甲を通じてブランシュが一体何を目論んでいるのか、お分かりになりませんか」

「もちろんその程度のことは調べられるけど」

 

質問の形を取った達也の要請に、八雲はあっさり頷いた。

 

「千翼くんもこの件に関わっているのかい?」

 

八雲は達也だけでなく千翼にも質問するような口ぶりで聞いてくる。千翼は迷わず頷く。

 

「それなら、仕方が無いね」

 

そう言って八雲は、縁側に腰を下ろすよう勧めた。千翼たちが座ったのを見て、

 

「司甲。旧姓、鴨野(かもの)甲」

 

八雲が前置き抜きで語り始める。

 

「両親、祖父母いずれも魔法的な因子は見られず、いわゆる『普通』の家庭だけど、実は陰陽師の大家『賀茂(かも)氏』の傍系(ぼうけい)に当たる家だ。甲くんの『目』は一種の先祖返りだろうね」

 

まるで達也の依頼を予知していたかのような八雲のセリフに、深雪は目を丸くし、千翼は啞然(あぜん)としていたが、達也はさほど驚いていなかった。

 

「俺が司甲の調査を依頼することが分かっていたんですか?」

「いや。君の依頼とは関係なく、彼のことは知っていたよ。僕は坊主だけど、同時に、いや、それ以前に忍びだ。(えにし)が結ばれた場所で問題になりそうな曰くを持つ人物のことは一通り調べておくことにしている」

「俺たちのこともですか?」

「調べようとしたけどね、その時は分からなかった。君たち兄妹に関する情報操作は完壁だ。さすが、と言うべきだろうね」

 

達也と八雲、二人の間に何やらキナ臭い空気が流れ始めたのを千翼は感じた。

その暗雲を払拭しようとしてか、深雪が慌てて口を挿んだ。

 

「それで先生、司先輩とブランシュの関係については・・・・・?」

 

深雪の(かも)し出す一所懸命な雰囲気に、達也と八雲が同時に頬を弛める。弛んだ表情のまま、世間話の様な口調で、八雲は深雪の質問に答えた。

 

「甲くんの母親の再婚相手の連れ子、つまり甲くんのお兄さんが、ブランシュの日本支部のリーダーを務めている。その義理のお兄さんは表向きだけの代表じゃなくって、非合法活動を初めとする裏の仕事の方も仕切っている本物のリーダーだよ」

 

締まりの無い顔とは対照的に、八雲のかなり穏やかなものではなかった。

 

「甲くんが第一高校に入学したのは、義理のお兄さんの意思が働いているんだろうね。・・・・・具体的に何を企んでいるのか、までは分からないな」

「そうですか・・・・・」

 

八雲のセリフを聞いて、達也はゆっくりと頷いた。

明日、討論会が始まる前なるべく早い時間に司甲をマークするように摩利にさりげなく進言しておこう、と達也は考えた。

千翼も同じ事を考えていたが、もう一つ気になっていることがあった。

 

(ブランシュ・・・。あいつらは、一体何処でアマゾン細胞を?)

 

 

 

 

 

とある廃工場

 

少しばかりの灯りがある部屋で、ブランシュのメンバー数名が列になって並んでいた。そこには紗耶香の姿もあった。

列の前には、ブランシュのリーダーが黒いアタッシュケースを持って立っていた。

 

「明日の討論会は・・・・・」

 

リーダーはアタッシュケースを開ける、中には真鍮色の指輪(アンティナイト)が数個入っていて、それをメンバーに渡される。

その内の一つが紗耶香の手に渡る。

 

「・・・・・何か仕掛けてくるかもね」

 

そう言いながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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いかがだったでしょうか。
ジオウでは新ライダーウォズが登場してさらに盛り上がりました。
今後の展開が楽しみですね。

今年も地道にやっていくのでよろしくお願いします。

あと、このSSとは別に新しく投稿を始める予定ですので、よろしければそちらもよろしくお願いします。


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第二十六話《強襲》

大変長らくお待たせしてすみません。第二十六話です。
話が少々短めになっております。



討論会 当日―

 

会場である講堂には、全校生徒の半分が集まった状態で討論会が始まった。

 

「二科生はあらゆる面で一科生より差別的な取扱いを受けている。生徒会はその事実を誤魔化そうとしているだけではないか!」

「ただ今、あらゆる、とのご指摘がありましたが、具体的にはどのようなことを指しているのでしょうか。既にご説明したとおり、施設の利用や備品の配布はA組からH組まで等しく行われていますが」

 

討論は同盟側が必然的な質問と要求に対して、真由美が生徒会代表として反論するという流れを辿っていた。しかし、具体的な事例と曲解の余地がない数字で反論を繰り出す真由美に、同盟の実質のないスローガンは徐々に対抗できなくなっていく。

その状況を千翼、達也、深雪、摩利、鈴音が舞台袖で見ていた。

 

「もはや討論会ではなくて、真由美の演説会になりつつあるな」

「そうですね」

「それにしても……」

 

摩利と千翼は会場内を見渡す。会場内にいる生徒の中に同盟メンバーと判明している生徒は八名。今のところ動く気配はなかった。

 

「何をするつもりなのか分からないが……こちらから手出しできんからな。専守防衛と言えば聞こえはいいが」

「渡辺委員長。実力行使を前提に考えないでください」

「分かってる、心配するなって」

「お願いします」

 

鈴音から注意され、摩利は渋々了承する。

 

「……生徒の間に、皆さんが指摘したような差別の意識が存在するのは否定しません……」

 

真由美が次の言葉を発するのに少しの間があいた。

 

「『ブルーム』と『ウィード』」

 

真由美の口からその言葉が出た時、千翼と達也は驚いた。二人だけではない、摩利も、鈴音も、そして講堂内の生徒たちも驚いていた。

 

「学校も生徒会も風紀委員も禁止している言葉ですが、残念ながら多くの生徒がこの言葉を使用しています」

 

講堂内がざわついていく、そんな中でも真由美はしゃべり続ける。

 

「しかし、一科生だけでなく、二科生の中にも自らを『ウィード』と(さげす)み、諦めと共に受容する。そんな悲しむべき風潮が、確かに存在します。この意識の壁こそが問題なのです」

 

いくつかの野次が飛んできたが表立った反論は無かった。真由美は蠱惑的(コケティッシュ)な小悪魔スマイルを封印して凛々しい表情と堂々とした態度で熱弁する。同盟の反論はすでに尽きていた。

 

「私は当校の生徒会長として、この意識の壁を何とか解消したいと考えてきました。……ですがそれは、新たな差別を作り出すことによる解決であってはならないのです。一科生も二科生も一人一人が当校の生徒であり、当校の生徒である期間はその生徒にとって唯一無二の三年間なのですから」

 

講堂内に拍手が湧いた。満場の、と言うわけではなかったが、その拍手に一科と二科の区別はなかった。

 

「制度上の差別をなくすこと、逆差別しないこと、私たちに許されるのはこの二つだけだと思っています。……ですが、生徒会にも、一科生と二科生を差別する制度が一つ残っています。それは、生徒会長以外の役員の指名に関する制限です。現在の制度では生徒会役員は一科生から指名する事になっています。この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ改定可能です。私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」

 

どよめきが起き、生徒同士で囁きを交わした。これには千翼も達也も驚いていた。真由美は生徒たちのざわめきが収まるのを無言で待っていた。

 

「……私の任期はまだ半分が過ぎたばかりですので、少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです」

 

満場の拍手が起こった。アイドルに対する声援に似た浮ついた雰囲気が漂っていたが、一科生だけでなく二科生も、同盟の主張ではなく真由美を指示したことが明らかだった。舞台袖にいる千翼たちも拍手をしていた、

 

その時、

 

ドオンッ、と轟音が突如鳴り響く。

 

 

 

 

 

数分前―

 

「討論会どうなったかな?」

「気になる?」

 

ほのかと雫はバイアスロン部の練習に参加していた。

 

「うん…私たち、行かなくてよかったの…かな」

「千翼くんは行かなくていいって言ってるからいいんだよ、それに他人の愚直なんて付き合うだけ無駄だよ、行こうほのか」

 

そう言って雫はさっさと行ってしまう。

 

(あれ?雫、千翼くんに影響されてる……?)

「はーいみんな!今日は演習林が使える貴重な日だからガッツリ練習するわよ」

 

亜美が部員たちに号令を掛けたので、ほのかは雫の後を追いかけようとしたその時、突如、ドオンッと轟音が鳴り響く。音のした方を見ると実技棟から煙が上がっていた、それを見た部員たちが慌て始めた。

 

「みんなむやみに動いちゃダメ!いま端末で情報を調べるから待機!!」

 

亜実は部員たちを落ち着かせ、端末を操作する、すると今度は亜実が慌て始めた。

 

「みんな、おおおお落ち着いて聞いてね?当校は今武装テロリストに襲われているわ!」

「「!!」」

 

それを聞いたほのかと雫はお互い顔を合わせる。

 

「マジですか部長!?」

「こんなこと冗談で言わないわよ!みんな、護身のために一時的に部活用CADの使用が許可されてるわ。でもあくまで身を守るためだからね」

 

その時、茂みから音が響き部員たちがその茂みに視線がいくと作業員らしき人物が現れた。だが、それは人間ではなくほのかたちには見覚えのある姿だった。

 

『アマゾン!』

 

そのアマゾンが近くにいた部員の一人に襲いかかった。

 

「危ない!!」

 

とっさにほのかは部活用CADをアマゾンにかざし、放った。見事命中しアマゾンはいきよいよく吹き飛ばされ地面に転がる。っと、

 

「このバケモノ!!ウチの部員に何するのよ!!」

 

亜実が続けて魔法を放ちアマゾンは空高く打ち上げられいきよいよく地面に叩き落とすように降下した。

 

「フー…光井さん、ありがとう。ウチの部員を守ってくれて」

「いえ、とっさの事でしたけどよかったです。……ところで、あれってやりすぎなんじゃ?」

 

ほのかの視線の先にはクレーターが出来上がった地面の中心にいるまるでマリオネットのような見るも無残なアマゾンの姿があった。亜美はアマゾンに近づきツンツンっと、つついていた。

 

「息はしてるから大丈夫よー。それにさっきのは正当防衛よ、正・当・防・衛☆」

 

まんべんな笑顔でそう答えた。ほのかはホッとすると、突然地面に座り込んだ。雫が駆け寄る。

 

「ほのか!」

「大丈夫、ちょっと力が抜けちゃって」

「……頑張ったね」

「……うん!……でも、怖かった〜〜」

 

少し涙目になりながら一安心するほのかを雫がなだめる。

 

 

 

 

 

突如鳴り響く轟音に講堂内は混乱し始めた。それを合図に会場にいた同盟メンバーが動いた。

だが、彼らを千翼と達也は見逃さなかった。

 

「「委員長!!」」

「各員、マークしているメンバーを取り押さえろ!!」

 

動員されていた風紀委員が一斉に動いた。

普段、まともに訓練など行っていないとは思えないほど統率の取れた動きで、各々マークしていた同盟メンバーを拘束していく。同盟メンバー全員の拘束が完了した時、

 

「いけない!みんな窓から離れて!」

 

真由美が窓に指をさしながら声を上げた。その近くにいた千翼と達也は指さした窓に視線を向けた瞬間、パリィンッと窓ガラスが破られ、紡錘形の物体が飛び込んできた。床に落ちると同時に白い煙を吹き出し始めた。

 

(ガス弾!?)「煙を吸い込まないように!」

 

千翼がガス弾だと認識したとき、服部が声を出した。すると、吹き出していた白煙はまるでガス弾を包み込むように集まった。

 

「よし」

 

それを確認した服部はかざした手を上げると、ガス弾はそのまま煙ごと窓の外へ移動した。服部が即座に気体の収束と移動の魔法を発動していて一瞬で煙ごと隔離したのだった。すると、今度はガスマスクを被った新手が侵入して来た。しかし、侵入して来た者たちは、突然苦しみだし、一斉に倒れていった。よく見ると摩利が侵入者に向けて手をかざしていた。≪MIDフィールド≫でガスマスク内の密閉空間を窒素で満たし、呼吸できなくさせた。倒れた侵入者もすぐに拘束したが、千翼は感じた事がある気配を察知した。

 

「侵入者!?そっちもか!」

 

摩利は他からの通信を聞いていた。千翼は察知した気配がアマゾンのものでそれが侵入者からであると確信した。

 

「委員長。俺は、爆発が起きた実技棟の様子を見て来ます」

「千翼くん……」

「千翼。俺も同行する」

「わたしもお供します」

「……わかった、気を付けろよ!」

 

摩利の声に送り出されて、千翼たちは爆発があった実技棟に向かった。

 

 

 

 

 

See you the

NEXT TARGET




数ヶ月のブランクがありましたが、何とか投稿できました。


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