駄天使がオラリオに行くのは間違っているだろうか (梅無し)
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番外編
レフィーヤ・ウィリディスの1日


えっと今回のこれは2ヶ月ほど前に作成したものなんですが、とある理由でボツになっていましたが、投稿させていただくことになりました。残念ながらみなさんの大好きな漆原くんはほぼ出てきません。ごめんなさい。


【Before】

 

《5:00》

 

私ことレフィーヤ・ウィリディスの朝は他のロキファミリアの団員よりも少しだけ早い。なぜなら私は少しでも早くアイズさんたちに追いつくために朝から魔法やダンジョンの勉強をしている。あと最近では体力をつけるためにランニングもしている。魔力だけが取り柄などともう言われないためだ。こういった日々の積み重ねこそ大事だと私は思う。

 

「今日も頑張りましょう!」

 

 

《7:00》

 

それそろ朝食の時間だ。他の団員の皆さんが起き始める頃になってきた。私は食事をお盆に乗せていつも座っている席に座ってアイズさんたちを待っている。待つこと3分、ティオナさんやティオネさん、アイズさんもお盆に食事を乗せてこちらへと歩いてくる。

 

「……レフィーヤ、おはよう。」

「おっはよー」

「あら、レフィーヤ。おはよう。」

「おはようございます。」

 

こうして私はアイズさんたちと談笑しながら朝食を食べる。尊敬する人たちと談笑しながら食事をすることは私にとって1日を頑張るためのエネルギーになる。

 

《8:00》

 

「それでは、レフィーヤ。そろそろ始めるか」

「はい!よろしくお願いします。リヴェリア様。」

 

だいたいこの時間になってくるとリヴェリア様がダンジョンに必要な知識や魔法の勉強をご指導していただけるのだ。厳しいことも少しはあるがエルフの王族でもありオラリオで最強の魔法使いのリヴェリア様に教えて頂けならそれぐらい構わない。それにこの厳しいご指導を受けてちゃんと力にできれば私は成長できるのだから文句は全くない。

 

《13:00》

 

「それじゃあ、レフィーヤ。行くわよ?」

「レフィーヤーー!はやくはやくー!」

「……ゆっくりでもいいよ?」

「は、はい!すぐに行きます!」

 

お昼からはティオナさんとティオネさん、アイズさんと私の4人でお出かけする約束をしている。そもそもはティオナさんとティオネさんが暇さえあればすぐにダンジョンに潜ってしまうアイズさんを心配して2週間に1回は無理矢理にでもお出かけしたり遊んだりとするようにしてダンジョンに行くことを休ませるようになったのが始まりだ。私はティオナさんに誘われてこうして皆さんで出かけるようになった。こうやって皆さんと出かけることは私にとってとても有意義で楽しい時間を過ごせるのだ。

 

 

《19:00》

 

夕食を食べ終わり、他の団員の皆さんと世間話をした後にお風呂に入る。そして私は少しの休憩を入れたあと、今日の朝にリヴェリア様から習ったダンジョンに必要な知識や魔法の勉強の復習を始める。こうして寝る前に復習することで習ったことを忘れないようにするためだ。こういう地道な努力があとあと、重要になるおリヴェリア様も言っていた。

 

《23:00》

 

「おやすみなさい。」

 

私は復習を終わらせると早く、ベットに入り、就寝する。こうして私、レフィーヤ・ウィリディスの1日は終わる。

 

 

【After】

 

《5:00》

 

私ことレフィーヤ・ウィリディスの朝は他のロキファミリアの団員よりも少しだけ早い。なぜなら私は少しでも早くアイズさんたちに追いつくために朝から魔法やダンジョンの勉強をしている。あと最近では体力をつけるためにランニングもしている。魔力だけが取り柄などともう言われないためだ。こういった日々の積み重ねこそ大事だと私は思う。

 

「………ま、まさか漆原さんの夢なんて見てしまうなんて……そ、それもあんなイチャイチャする夢なんて!…………に、2度寝すれば夢の続き見れるでしょうか?……」

 

今日の私は残念ながら睡魔には勝てずに2度寝をしてしまったみたいだ。

 

《7:00》

 

そろそろ朝食の時間だ。他の団員の皆さんが起き始める頃になってきた。

 

「ちょっとレフィーヤ?起きて!朝食の時間よ?」

「ふへへへへ。う、漆原さぁん〜」

 

いつもの楽しい朝食はあの夢のせいでとることはできなかった。あの夢が見れて嬉しいという気持ちとアイズさんたちとの朝食の時間がとることができなかったのが残念な気持ちが対立し合っていた。

 

《8:00》

 

だいたいこの時間になってくるとリヴェリア様がダンジョンに必要な知識や魔法の勉強をご指導していただけるのだ。厳しいことも少しはあるがエルフの王族でもありオラリオで最強の魔法使いのリヴェリア様に教えて頂けならそれぐらい構わない。それにこの厳しいご指導を受けてちゃんと力にできれば私は成長できるのだから文句は全くない。

 

「おい、ラウル。レフィーヤを見かけなかったか?」

「えっとレフィーヤならさっき厨房で唐揚げを作ってるのを見たっす!」

「……またか」

 

この後、私は作った唐揚げをティオナさんに味見してもらっているところをリヴェリア様に見つかり怒られてしまった。………唐揚げ、うまく作れて良かったと思う。

 

《13:00》

 

「それじゃあ、レフィーヤ。行くわよ?」

「レフィーヤーー!はやくはやくー!」

「……ゆっくりでもいいよ?」

「は、はい!すぐに行きます!」

 

お昼からはティオナさんとティオネさん、アイズさんと私の4人でお出かけする約束をしている。そもそもはティオナさんとティオネさんが暇さえあればすぐにダンジョンに潜ってしまうアイズさんを心配して2週間に1回は無理矢理にでもお出かけしたり遊んだりとするようにしてダンジョンに行くことを休ませるようになったのが始まりだ。私はティオナさんに誘われてこうして皆さんで出かけるようになった。こうやって皆さんと出かけることは私にとってとても有意義で楽しい時間を過ごせるのだ。

 

「あ、あの!ちょっと寄りたいところがあるんですがいいですか?」

「…うん、大丈夫だよ。」

「別にいいわよ。」

「おっけー!」

 

 

★★★

 

 

「レフィーヤ!行くよー!」

「あ、皿割ってる……失敗する漆原さんもかわいいです。……怒られてますね。でもあの同胞さん……漆原さんと楽しいそうに話せていいなぁ」

「き、聞こえてない!?」

「…恋は盲目ね、でもわかるわ。私も団長のことを考えるとああなるわよ」

 

私のわがままで今日の昼食は豊穣の女主人で食べることになった。漆原さんに唐揚げを渡すことも成功した。………美味しいって言ってくれると嬉しいなぁ。

 

《19:00》

 

夕食を食べ終わり、他の団員の皆さんと世間話をした後にお風呂に入る。そして私は少しの休憩を入れたあと、今日の朝にリヴェリア様から習ったダンジョンに必要な知識や魔法の勉強の復習を始める。こうして寝る前に復習することで習ったことを忘れないようにするためだ。こういう地道な努力があとあと、重要になるおリヴェリア様も言っていた。

 

「よし!」

「どうしたの?……ってこれは」

 

『どうしたらいいの?

あなたのことを考えているだけで心臓がぎゅってなって苦しいよ

あなたとはいろいろ話したいけどうまく話せないよ

なんで気づいてくれないの?

あなたとずっと居たいのに

今日はお星さまにお願いしたよ

この想いがあなたに伝わることを』

 

レフィーヤがなにを書いているのか気になった同室の女性が盗み見ると、そこにはポエムが書かれていた。

 

「み、見ないでください!」

「ご、ごめん」

 

今日の私は他にやる事があり、魔法の復習をする時間が遅れてしまった。

 

《0:00》

 

レフィーヤはベットに入り、漆原のことを考えていた。

 

「……漆原さん、唐揚げ食べてくれたでしょうか?お、美味しくなかったらどうすれば……で、でもティオナさんは美味しいって言ってくれましたから大丈夫ですよね……」

 

《2:00》

 

※これはレフィーヤの妄想です。

『レフィーヤ、ありがとう。こんな美味しい唐揚げ食べたことないよ!これから毎日、僕の近くで作ってくれない?』

『もう漆原さんったら毎日、唐揚げ食べてたら太りますよ?』

『別に唐揚げだけじゃなくてこれからは毎朝にレフィーヤの手作りの味噌汁が飲みたいな』

『え?それってまさか……」

『レフィーヤ……僕と結婚してよ』

 

突然の漆原のプロポーズ。レフィーヤは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「喜んで!!!!」

「レフィーヤ!?ど、どうしたの、大丈夫?」

「ご、ごめんなさい」

 

私、レフィーヤ・ウィリディスの1日は以前よりも少しだけ刺激的に終わるのであった。

 

 

 

 

 

 




えー、この度はレフィーヤのファンの方々、レフィーヤをこんなポンコツにして本当にごめんなさい笑!


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バレンタイン

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○シル
豊饒の女主人で働いている店員
○アーニャ
豊穣の女主人で働いている店員
○クロエ
豊饒の女主人で働いている店員
セリフでアーニャと差を出すためにクロエの語尾はひらがなで「にゃ」になります。
○ルノア
豊饒の女主人で働いている店員
○レフィーヤ
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている。


 

 

バレンタイン、それは女性が男性にチョコレートを送る日。チョコレートの意味は日頃の感謝、そして恋心などといったいろいろな想いがこもっている。しかしそれはリア充に限った話でありモテない非リアにとっては迷惑な話なそんな日である。そんなバレンタインの真っ最中の2月14日に漆原はシルに話しかけられる。

 

「半蔵さん!バレンタインって知ってますか?」

「バレンタイン?」

「はい、そうです!実はここ数年でオラリオで流行っている文化なんですよ」

「………こっちにもそんなのあるんだ」

「こっちにも?」

「いや、なんでもないよ」

 

「こっち」というのは漆原がこの世界に来る前にいた日本のことだろう。とっさに言ってしまった言葉を誤魔化す。シルは怪しいと思いながらキレイにラッピングしてある箱を漆原に渡す。

 

「はい、どうぞ。バレンタインのチョコです」

「うん、ありがと」

「さぁーて、今日も一日頑張りましょう!」

「は〜い」

 

漆原が素直に礼を言うとシルは腕を上に掲げて張り切りながら言う。漆原はめんどくさそうに答えた。漆原はすぐに制服に着替えて部屋から出て仕事場に出勤する。漆原の住んでいる場所は豊穣の女主人にある部屋を一室を借りて暮らしている。

 

「半蔵、朝から元気ないニャ〜」

「……アーニャは朝から元気すぎだよ」

「とりあえず、おミャーは早く注文でもとってくるニャ」

「はいはい」

 

朝から元気なアーニャに仕事を急かされた漆原はめんどくさそうに客に注文を取りにいく。それから1時間後、異変は起きた。

 

「…………なに?」

 

マニュアル通りに注文を取り、去ろうとする漆原の腕を掴まれる。漆原が振り向くとそこには犬人が顔を赤らめながらこちらを見つめながらパックから小さな袋を漆原に差し出す。

 

「こ、このチョコを受け取って!」

「ああ、うん」

「それじゃあさようならーーーーーー 」

 

漆原が渡された小さな袋を見つめていると豊穣の女主人の店のどこかからコップがまるで割れたみたいパリンと音が聞こえる。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

レフィーヤは豊穣の女主人に一人で来ていた。もちろん目的は漆原に会いに来るためと、バレンタインのチョコレートを渡すためでもある。

意外にもほとんどの場合、漆原からレフィーヤに話しかけている。普通に考えれば仕事中の人間は忙しくて話すことなどできない。しかし漆原の場合は違う。漆原は基本的に仕事をマニュアル通りにしているだけなので「いらっしゃいませ」という言葉にさえ、やる気はない。そのため仕事中はボーッとしていることが多いため、話せる相手であるレフィーヤがいるといないでは大きな違いがある。

そんな中、レフィーヤはいつも通り漆原をうっとりとした顔で見つめていると衝撃なことが起こる。それは犬人が漆原に小さな袋を渡すではないか。レフィーヤは持っていたコップを思いっきり握りしめて割ってしまう。そしてレフィーヤは意気消沈してしまう。そんなレフィーヤを心配してシルは話しかける。

 

「………………」

「あの、大丈夫ですか?」

「ご、ごめんなさい。コップ、割ってしまって」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

慌てて謝るレフィーヤにシルは大丈夫と落ち着かせる。レフィーヤが落ち着くまでに10秒ほどかかる。レフィーヤは今一番、気になっていることをシルに質問する。

 

「と、突然申し訳ないんですが漆原さんってモテるんですか?」

「……半蔵さんですか?そうですねぇ……」

 

レフィーヤの質問にシルは少し悩みながら答えようとすると

 

「半蔵はまぁまぁの美少年だからモテると思うニャ!」

「そしてあのお尻は天下を狙える可能性があるにゃ!」

「半蔵は結構モテるじゃない?ああいうのが好きそうな人は少しはいるでしょ」

 

最初からアーニャ、クロエ、ルノアの三人がとびだしてくる。レフィーヤは驚くがシルはいつものことですといった表情をしている。戸惑っていたレフィーヤだったがすぐにルノアの言っていた好きそうな人という点のことが気になり質問する。

 

「う、漆原さんのことが好きになる人って共通点でもあるんですか!?」

「……半蔵ってすごいわがままでしょ?」

「そういえばそうだニャ!すっごいわがままだニャ!」

「あんたがそれは言えないと思うけど…………わがままっていい風に言えば甘えるって意味にも繋がると思うの。世の中には人に甘えられたり、頼られた時に幸せを感じる人もいると思うのよね。多分だけど半蔵にチョコを渡してたあの犬人もそのタイプだと思う。それに半蔵も甘やかしてくれる人が好きだと思うかな」

 

ルノアが自慢げに推理を話していると流石にミアにバレてしまい強制的にアーニャ、クロエ、ルノアの三人は仕事に戻る。シルはもちろんミアが気づく前に仕事に戻っていた。残されたレフィーヤは注文していたサンドイッチを口に運ぶ。

 

 

★★★

 

 

漆原はミアに友達と話してきなという優しさの言葉を言われレフィーヤが座っているカウンター席の隣に座る。

 

「レフィーヤ、おはよう〜」

「お、おはようございます」

「……レフィーヤ、なんかいつもよりモジモジしてない?」

「そ、そうですか?いつも通りだと思うんですけど」

「そう?」

 

嘘である。レフィーヤはさっきの話を聞いていつもより顔を真っ赤にしながら漆原に上目遣いで問いかける。

 

「あ、あの漆原さん。あ、甘える相手がいないなら私に甘えてくれてもいいんですよ?」

「…………は?」

「……………やっぱり無理ですーーーー!!!」

 

レフィーヤはあまりにも恥ずかしかったのか漆原が座っているカウンターの上にサンドイッチ代だけ置いて走って店から出て行った。

 

「まったくいつ見ても飽きないなぁ………ん?レフィーヤの忘れ物かな」

 

漆原が見つけたのはキレイにリボンでラッピングしている箱だった。今度、レフィーヤが来た時に渡しておこうと考えて持つとリボンと箱で挟まれていた紙が落ちる。拾い上げるとそこには「漆原さんへ」と書かれているメッセージカードだった。

 

『漆原さんへ

あなたにチョコを送ります。日頃の感謝を込めて。レフィーヤ・ウィリディス』

「……せっかくだし食べようかな」

 

漆原が食べているチョコレートは一見するとどこにでもある普通のチョコレートだが本当はレフィーヤの手作りでたくさんの想いがこもっている特別なチョコレートだ。

一方、ロキファミリアの本拠地である黄昏の館でレフィーヤは自室のベッドで頭を抱えながら後悔するのであった。そしてチョコを忘れたことを思い出すまであと数秒………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






違うんです。聞いてください。バレンタイン終わったやんけと思うじゃないですか?……その通りです。もう終わってしまいました。まぁ、でも2月中に出せて良かったです。しかしこの話を執筆している最中に気づいたんですが地味にアーニャ、クロエ、ルノアがこの作品で出るのって初めてなんですよね。まさか初登場が番外編になるとは思いませんでした。そしてやっぱりタイトルは思いつきませんでした。

お読みいただきありがとうございました。




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私立迷宮都市学園

漆原半蔵
風紀委員長

レフィーヤ・ウィリディス
風紀副委員長

ナァーザ
化学部部長


 

 

 

 

ここは私立迷宮都市学園。今日も忙しく風紀副委員長であるレフィーヤ・ウィリディスは風紀委員室で作業をしていた。その一方で仕事に手をつけず、椅子に座りながらスナック菓子を食べて音を鳴らしている紫髪の少年がいた。

 

「副委員長、今月の遅刻者のリストです。判子をお願いします」

「わかりました。拝見しておきます」

 

風紀委員の生徒はレフィーヤに書類を渡すと風紀委員会室を出ていく。この部屋に残っているのはレフィーヤと紫髪の少年だけだった。レフィーヤは先程から紫髪の少年が鳴らしているスナック菓子を食べる音にイライラしたのか机をバンッと叩く。さすがに紫髪の少年も驚いたのかお菓子を食べる手を止める。

 

「急にどうしたの、ウィリディス?」

「あなたこそ風紀委員会室でのお菓子を食べるのダメって言いましたよね!?漆原委員長!」

 

レフィーヤが副委員長ならばもちろん委員長が存在する。その風紀委員長というのが漆原半蔵であった。なぜ取り締まる側ではなく取り締められるような男が風紀委員長になれた理由はこの学園の七不思議の一つと言われている。そんな漆原はレフィーヤに言い返す。

 

「別にいいじゃん。僕の勝手でしょ?」

 

漆原のあまりにも適当な答えにレフィーヤは怒りが爆発したみたいに叫ぶ。

 

「あなたはいつも適当です!判子を押すのも漆原委員長の仕事なのに私がやってるじゃないですか!?」

「どうでもよくない?誰が判子を押すなんてこと………それより飲み物ない?お菓子食べてたら喉乾いてきたよ」

「漆原委員長ーーーーーー!!」

 

さらに怒りが爆発してレフィーヤは漆原へと詰め寄っていく。漆原はレフィーヤを見つめながら気だるげそうに言う。

 

「ごめんごめん」

「わ、わかればいいんですよ!………それじゃあ少し飲み物を買ってきます。……ついでに買ってきてあげますから何か飲みたいものはありますか?」

「え?本当!?それじゃあねぇ、炭酸ならなんでもいいよ!」

「……わかりました。それじゃあ大人しく待っててくださいね」

「ありがとう、ウィリディス!」

 

フッと笑いながらお礼を漆原が言う。レフィーヤは「どういたしまして」と返すと財布を持って風紀委員会室から出ていく。漆原はレフィーヤが出て行ったドアを見つめて呟く。

 

「あ、お金………後で渡せばいっか」

 

 

★★★

 

 

風紀委員会室を出たレフィーヤは屈んで胸に手を当てると鼓動がいつもより早く感じ、胸が痛いと思いながら呟く。

 

「きゅるるん☆………漆原委員長と話せるなんて嬉しいです!前に会話したのは1週間も前のことですからね。……………それにあの最後の笑顔、あれは反則ですよ」

 

これが二つ目の七不思議である。あの真面目なレフィーヤ・ウィリディスが不真面目な漆原半蔵に惚れてしまっていることだ。しかし今ではちゃん話せているが最初の頃はレフィーヤが恥ずかしがってまともに会話もできなかったのだ。

 

その頃、漆原は天井を見ながら空に言葉を投げかける。

 

「喉乾いたなぁ〜。ウィリディスはまだかな」

 

漆原はレフィーヤを待っている間、風紀委員会室を見渡しているとある物を見つける。

 

「これってジュース?」

 

漆原の視線の先にはペットボトルに入ったジュースらしきものがあった。漆原はすぐにペットボトルを取り、匂いを嗅ぐ「あ、いい匂い………ちょっとだけならいいよね」と呟くと少し飲んでしまう。すると漆原の身体は光り輝く。

 

「はっ!?」

 

 

★★★

 

「……よし、漆原委員長ただいま戻りましたよー……え?」

 

レフィーヤはお茶と炭酸飲料水を手に持ちながら風紀委員会室のドアを開けると

そこには漆原半蔵ではなくその人物に似た紫髪の子供がいた。

 

「えっと、あなたは誰ですか?」

「……人の名前を聞くときは自分からってママに習わなかったの?」

「ご、ごめんなさい。私はレフィーヤ・ウィリディスです。」

「僕は漆原半蔵だよ」

「……………え?漆原委員長!?」

 

レフィーヤは自分のことを漆原半蔵と言う子供に驚かされていた。レフィーヤは驚きながらも子供をジロジロと見つめる。そんな時だった、風紀委員会室のドアがコンコンとノックされる。その瞬間、レフィーヤはすぐに子供を机の下に隠れるように催促する。子供はレフィーヤの勢いに負けてめんどくさそうに机の下に隠れる。

 

「ど、どうぞ」

「し、失礼します。」

 

入ってきたのは先程、レフィーヤに書類を渡した風紀委員の生徒だった。風紀委員は入ってすぐ机に置いてあったペットボトルを見て焦った表情で叫ぶ。

 

「あ、あの副委員長!この飲み物飲んでませんよね!?」

「そのペットボトルですか?もちろん飲んでませんけど……どうかしたんですか?」

 

風紀委員はレフィーヤの返答を聞いて安心して説明を始める。

 

「実はこれ化学部部長から没収したものなんですよ」

「………化学部部長から?」

「はい、なんでもこれ、『ワカガエール』っていうらしくて飲むと子供になるそうです……よって危険と判断して没収しました」

「そ、そうですか………ってまさか!?」

「ど、どうかしたんですか?」

 

レフィーヤはすぐに先程、自分が机の下に入れさせた漆原の方を振り向く。そうそのまさかである。漆原は喉の渇きを我慢できずにジュースだと思ってワカガエールを飲んでしまったのだ。そしてもし漆原がこの薬を飲んで子供になったことが周囲にバレた時の最悪な状況が脳裏に浮かぶ。化学部が作った薬品を没収しておいて風紀委員会はそれを使って遊んでいると思われてしまうかもしれない。これは風紀委員会の信用に関わる問題である。レフィーヤは覚悟する。この秘密を守り通すことを。

 

「………とりあえず、この没収品は私が処分しておきます」

「わかりました。お願いします!」

 

風紀委員はレフィーヤにお礼を言って風紀委員会室から出て行く。レフィーヤは風紀委員が出て行くのを確認すると「出てきていいですよ」と声をかける。すると漆原はすぐに机の下から出てくる。

 

「 ねぇ!長いよ!」

「ご、ごめんなさい。それじゃあ、漆原委員長……じゃなくて漆原くん、ちょっとここで待っててもらえるかな?」

「え〜、暇だよ」

「………お願いします!あとで唐揚げ、作ってあげますから!」

「え?レフィーヤ……唐揚げ作れるの!?……なら少しだけ待っててあげるよ」

 

レフィーヤは知っていた。漆原が唐揚げを好きだということを。これさえ分かっていれば子供になった漆原を制御するのは簡単だとレフィーヤは確信していたのだ。しかし残念ながらレフィーヤは瀕死状態だった。いくら子供になっているとはいえ片思いの相手に今まではウィリディス呼びだったのが名前で呼ばれるとは思っていなかったからだ。レフィーヤはすぐに意識を取り戻し「待っててくださいね」と言って風紀委員会室から出て行く。

 

 

★★★

「それで……何用?」

「私が聞きたいのはこのワカガエールを飲んだ人はどうやったら元に戻れるんですか、化学部部長のナァーザさん?」

 

レフィーヤは漆原の姿を元に戻すためにワカガエールを作った張本人に会いにきていた。

 

「……なんでそんなことわざわざ聞きにきたの?」

「あの薬に対して興味が湧いたんです」

「……………もしかして私からあの薬を没収したあと、風紀委員の誰かが飲んだの?」

「ま、まさかそんなわけな、ないじゃないですか!?」

 

ナァーザの確信付いた質問にレフィーヤは動揺して挙動不審になってしまう。そんな様子を見て、ナァーザはニヤニヤしながらとあるペットボトルをバックから取り出して話し始める。

 

「……戻るのは簡単。このオトロエールを飲めばワカガエールで若返た分、歳をとる。」

「え、そうなんですか!……そのオトロエールを譲っては頂けませんか?」

 

ナァーザが「別に構わない」と言うとレフィーヤは嬉しそうに薬を受け取ろうとするがいつまでたってと薬はレフィーヤに渡されない。

 

「ナァーザさん?」

「この薬を譲ってもいいけど、そのかわりこれから化学部のすることにあまり手出しをしないでほしい………例えば今回のように薬を没収するなんて絶対にやめて」

「わ、わかりました」

「その言葉、忘れないでね」

 

レフィーヤの了承の言葉を聞くとナァーザは嬉しそうに薬を渡す。レフィーヤは「ありがとうございました」と礼を言って化学室から出て行く。ナァーザは忘れてたという表情で呟く。

 

「即効性じゃないって言うの忘れてた」

 

 

 

★★★

 

「漆原くん、ただいま戻りました」

「あ、おかえり。レフィーヤ」

「きゅるるん☆………また名前呼び!そしておかえりという言葉!……ただいまです……」

「?……急にどうしたの?」

「いえ、なんでもありません。」

「それじゃあ、レフィーヤ!唐揚げ作ってよ!」

「わかりました!約束ですしね」

 

もう少し楽しんだ後でも、戻ればいいとレフィーヤは考える。しかしこの後、レフィーヤは家で薬を漆原に飲ましたが残念ながら戻ることはなく、仕方なくレフィーヤの家に泊めて寂しがっていた漆原と一緒の布団で寝ることになるか朝、漆原の身体が元に戻り、目が覚めたレフィーヤの悲鳴が家の中で響き渡っていたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これはダンメモというアプリのイベントにあったネタですね。このイベントでレフィーヤって思った以上にポンコツ(褒め言葉)だと思いました。

お読みいただきありがとうございました。


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ホワイトデー


ホワイトデー、過ぎてしまった。













 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトデー、それはバレンタインにてチョコを貰った男性が女性にキャンディやマシュマロ、クッキーなどをお返しをしたり、場合よってはカップルができることもあれば悲しい現実が叩きつけられる日でもある。そんな日に漆原半蔵はボーッとしながらも床をモップで拭いていた。そんな様子を見たリューは話しかける。

 

「漆原さん、少しいいですか?」

「別にいいけど」

「今日はホワイトデーですが、バレンタインデーで何人の女性からチョコを貰いましたか?」

 

場合によっては反感をかってしまう質問だが戸惑いながらも漆原は指で数える。数えるとは言っても名前も知らない犬人とシル、そしてレフィーヤの3人だけのため手は片手で済んだ。

 

「……えっと、確か3人だよ」

「もちろんだと思いますが、ちゃんとお返しを買っていますか?」

「え、なんで?」

 

お返しをすることに疑問を感じて、ふてぶてしい態度で答える漆原にリューは軽蔑な目線を送る。そのリューの眼力によって漆原は温度が2、3度、低く感じる。

 

「そ、そんな睨まないでよ」

「買い物に行きましょうか?」

「は?なんで?」

「お返しを買うためです、まさかとは思いますがシルからチョコを貰っておいてお返しをしないつもりですか?」

「リューはシルのあの手作りチョコを食べてないからそんなこと言えるんだよ!チョコを食べて初めて木炭を食べてる気分なったんだけど!?」

 

バレンタインでシルから貰ったチョコを食べた漆原はすぐさまオレンジジュースで流し込んだのだ。それほど苦く、硬かったのである。そんな漆原とリューの言い争いが続きそうになったが意外な人物によって中断することになる。

 

「ごめんくださーい!」

「あれ、ベルじゃん。どうしたの?」

「クラネルさん、おはようございます」

「あ、漆原さん、リューさん。おはようございます」

 

来客してきたのはリュー曰く、シルの将来の伴侶の予定でもあるベル・クラネルであった。漆原はシルの伴侶という件に関して将来、いつか食中毒にならないかで少しだけ心配している。そんな心配されてるとも知らないベルは2つの包まれた箱を持っていた。

 

「あの、シルさんはいますか?」

「ああ、シルならベルの後ろにいるよ」

「え!?」

 

漆原の答えにベルは後ろへと振り向くとそこにはベルの肩を叩こうとしていたシルの姿があった。ベルを驚かして反応を楽しもうとしていたのだろう。だがそんなイタズラは漆原によって失敗する。シルは口を膨らませて漆原に対して怒る。

 

「もう、なんでバラすんですか!?せっかく驚かそうとしてたのに!」

「いや、別に聞かれたから」

「まったく、それでベルさんどうしたんですか?」

「それでは、漆原さん、私たちは行きましょう」

「ま、待ってください!」

 

リューはシルとベルを2人にするために漆原を連れて、この場を去ろうとするがベルによって止められる。ベルは持っていた包まれた箱をシルとリューに渡す。シルは喜び、リューはいつもより少しだけ表情が柔らかくなる。

 

「シルさん、リューさん、これバレンタインのお返しです!」

「わぁ!嬉しいです、ベルさん」

「クラネルさん、ありがとうございます……しかしシルへのお返しは指輪でも良かったのですが」

「もう!リューったら何言ってるの!?」

「あれ?僕、リューから貰ってないけど?」

 

ベルは突然の指輪という単語に驚いて、赤面する。

そしてリューは何かを思い出したように漆原を見た後、ベルの方を向き質問する。

 

「ベルさん、バレンタインでチョコを貰ったのに返さない男性をどう思いますか?」

「えっと、それはもちろん、返してあげた方がいいと思います」

「貴重な意見、ありがとうございます」

 

リューはまたもやジーッと漆原を見つめる。漆原は気まずそうに目をそらす。ベルは「それじゃあ、僕は行きますね」と言い残すと豊饒の女主人から出て行く。漆原はため息をつきながら黙り込む。そんな様子を見てリューは今ならと思ったのか再度、質問する。

 

「……漆原さん、買い物行きましょうか?」

「………わかったよ!行けばいいんだろ!?」

「それでは行きましょう」

 

お店の外へと向かっていくリューに漆原はダルそうにしながらもついて行く。そんな2人の様子を見てシルは嬉しそうに笑った。

 

「2人とも仲良くなって良かった〜」

「そうかニャ?どうせリューのお節介なだけだニャ」

 

 

 

★★★

 

 

 

漆原はお店にあるキャンディやマシュマロ、クッキーなどを見つめながら、ここに連れてきたリューに尋ねる。

 

「それで?お返しってどうすればいいのさ?」

「キャンディやクッキー、マシュマロといった菓子系統のものを渡すのが一般的らしいです」

「ふ〜ん。でも確か、1つ1つに意味があった気がするけど?」

 

このホワイトデーのお返しによく使われているマシュマロ、クッキー、キャンディにはそれぞれ意味がある。

マシュマロはあなたが嫌いです。

クッキーは友達でいてください。

キャンディはあなたが好きです。

などといった意味があることはもちろんだが漆原もリューも知らない。そう知らないのだ。もしこれで漆原がレフィーヤにどれかをお返しした場合……

 

 

◯◯◯

 

 

【クッキーの場合】

 

「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです。開けてもいいですか?」

「別にいいよ」

「これは……クッキーですね。ありがとうございます!(意味は確か『友達』でしたよね?ならまだ可能性はありますよね?)」

 

可能性を感じ取ったレフィーヤは豊饒の女主人に今までより、常連になる。1番、平和な可能性である。

 

 

【マシュマロの場合】

 

「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです!開けてもいいですか?」

「いいよ」

「マシュマロですね。…………えっと、確かお返しのマシュマロの意味って……そんなぁ!?」

 

勘違いをしたレフィーヤは黄昏の館に引き篭もり、なんやかんやあってニートになった。まるで、日本にいた頃の漆原のようになったのだ。1番、悲しい可能性である。

 

【キャンディ】

 

「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです!開けてもいいですか?」

「いいよ」

「え!?キャ、キャンディ!?ってことは!?」

「急にどうしたのさ?」

「だ、大丈夫です!私はもう受け入れるつもりです!こ、これからよろしくお願いしましゅ!?」

 

勘違いしたレフィーヤはこれまで以上に積極的になり、なんやかんやあって漆原とレフィーヤは結婚することになった。そして周囲を驚かすことになる。レフィーヤが子供を授かると、漆原は真面目な男になる。1番、見てみたい可能性ではあるが、たが真面目な漆原はあまり見たくない。

 

 

◯◯◯

 

 

「……漆原さん、結婚するなら事前に伝えなさい」

「は?急に何?」

「いえ、なんでもありません」

「まぁ、いいけどさ………これでいいか」

 

急に意味のわからないことを言うリューに漆原はため息をつきながらも同じ銘柄のものを3つ取る。すると横で何かを見つめているリューに疑問を抱きながら質問する。

 

「リューも何か買うの?」

「えぇ、ちょっと」

 

二人は会計を済ますとお店から出る。するとリューは先ほど買ったクッキーを

漆原に渡す。漆原の頭には?マークが浮かぶ。

 

「何これ?」

「このお返しは来年のホワイトデーに2つ、返してください」

 

漆原はバレンタインでリューからチョコを貰っていない。つまりこれは遅れたバレンタインということだ。それに来年のホワイトデーで2つ返せということは、次のバレンタインではチョコを渡してくれるという意味だった。

戸惑っている漆原を無視してリューは「早くお返しに行きなさい」と言うと去っていった。

 

 

★★★

 

 

レフィーヤ・ウィリディスは豊饒の女主人の前をウロウロしていた。ちょっと様子を覗き込んで見ていると思えば、すぐに引き返す。なぜそんなことになっているかというと、今日はホワイトデーであり、もし漆原からバレンタインのお返しを渡されたときの心の準備をしていたのだ。

 

「だ、大丈夫……私なら大丈夫です。もしお返しされなくてもだ、大丈夫……そもそも直接、渡せなかったですし」

 

レフィーヤはバレンタインにチョコを渡そうと豊饒の女主人に乗り込むまで良かったのだが残念ながら直接は渡せなかったのだ。正確に言えば、レフィーヤが豊饒の女主人にチョコを忘れてしまったのだ。チョコには『漆原へ』と書かれたメッセージが挟まれており、そのチョコを漆原が見つけて、どうせ自分のだからいっかというような考えで食べたのである。後日、その話を聞いたレフィーヤはメンタルが削れた。

 

「あれ、レフィーヤ?店に入らないの?」

「へ?」

 

後ろから誰かの声が聞こえる。その声はレフィーヤが愛してやまない一流ニートの漆原であった。レフィーヤは慌てるが、漆原は「そうだ」と呟くと持っていた袋からホワイトチョコレートの箱を取り出して、レフィーヤに渡す。

 

「あ、あのこれ」

「バレンタインのお返しだけど?もしかしていらなかった?」

「い、いえ!?そ、そんなことありません!う、嬉しいです!」

「それじゃあ、店に入る?」

「は、はい」

 

この後、ミア母さんが気を使ってくれてレフィーヤと漆原は一緒に食事を楽しんだ。ちなみに名前も知らない犬人とシルには後日、お返ししたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





漆原くんが最初はお返ししようと考えてなかったのでリューさんに頑張ってもらいました。




お読みいただきありがとうございました。





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本編
始まり


○漆原半蔵
駄目ニート
○シル・フローヴァ
豊穣の女主人で働いている店員




 

漆原半蔵(うるしはらはんぞう)、本当の名はルシフェル。元は天界で暁の子と呼ばれ大天使筆頭(だいてんしひっとう)として活動していたが堕天した後は魔王軍の悪魔大元師(あくまだいげんし)となる。

そして勇者エミリアと戦い、倒されたがエミリアの仲間であるはずのオルバによって助けられたため、オルバとともに勇者エミリアと魔王サタンを殺すことになるが、どうなったかは今の堕落した彼を見たらわかるだろう。

 

「……ひま」

 

漆原はエミリアとサタンに返り討ちにされ、今は日本という国がある世界でサタンとその部下といっしょに3人て現在は暮らしている。

 

「芦屋も真奥はいないし……ま、だったら何か買おう」

 

漆原は日本に来てからというもの真奥が一生懸命働いて稼いだお金を勝手に使う駄ニートとなっていた。

漆原は家事もろくに手伝わないため周囲の人たちからの視線は少々厳しいものがある。だがその程度は心に一切、響かない漆原はまた有名なネットショッピングサイトで買い物をしようとしていた。

 

「……あ、このゲーム欲しかったんだよね〜」

 

漆原がネットショッピングでいろいろカートに入れているとピンポーンっとインターホンが鳴る。漆原は「何か頼んでたっけ?」と呟きながらドアを開ける。

 

「⁉︎」

 

ドアを開けた瞬間、漆原は体に電流が流れているような感覚に襲われ床へと倒れ込んでしまう。

 

 

☆☆☆

 

 

漆原が目を開けると漆原の目線の先には青い空、横には噴水がある。漆原は困惑していた。バッと起き上がり周りを見渡す。

 

(えぇ……何あれ?)

 

そこには先程までいた日本なら考えられないような光景が漆原の視界に飛び込んでくる。耳が長い人間、動物の耳が付いている人間、体が普通ではないくらい筋肉質な人間などなどと不思議な人間ばかりそこにはいた。普通ならもっと慌てるはずだが漆原は一味違う。

 

(……あぁ、夢か……二度寝しよう)

 

漆原はまた目をつぶりまた寝てしまった。それから3時間の間、漆原は街歩く人々に見られていた。まるで不思議なものを見るような目。そろそろ太陽が沈む頃、1人の黄緑色のウェイトレスの格好をしている女性が熟睡している漆原に声をかける。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

その声のおかげで漆原はうぅ〜んとうねり声をあげながら背筋を伸ばす。そして漆原は3時間前と同様、周りを見渡す。3時間前と違い、人数は少ないが先程と似たような耳が長い人間、動物の耳が付いている人間、体が普通ではないくらい筋肉質なような人間がそこにはいた。

そして漆原が自分のほっぺをつねりながら

 

「……夢じゃなかったんだ」

 

この世界で漆原半蔵は生活することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。


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ニートも働きます

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○シル・フローヴァ
豊饒の女主人で働いている店員
○リュー・リオン
豊穣の女主人で働いている店員
元冒険者
○ミア・グランド
豊穣の女主人のおかみ
○ベル・クラネル
駆け出しの冒険者
アイズに惚れている
○ロキ
神様
○ベート・ローガ
ロキファミリアの団員
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長


 

漆原半蔵が迷宮都市オラリオに来てから1ヶ月がたった現在、日本ではニートだった彼も今は立派?に豊穣の女主人でウエイターとして働いていた。

 

「ミア、疲れた〜休憩ちょうだい」

「さっきまで休憩してただろ!早く働きな!飯抜きにするよ!」

「わ、わかった。は、働けばいいんでしょ」

 

漆原は文句を言いながら皿を洗っているとエルフの女性が漆原の横に立ち、水につけてある皿を拭いていく。この女性の名前はリュー・リオン、元は冒険者だが今はこの豊穣の女主人のウェイトレスとして働いている。手伝ってくれたリューに漆原はお礼を言うべきか悩んだ末に言おうと思った瞬間

 

「勘違いをしないでください。あなたの仕事である皿洗いを私が手伝っているのはあなたがやっていては時間がかかりすぎるからです」

「……目玉焼き一つ作れないくせに」

「何か言いましたか?」

「……別に」

「あと、今からは気合を入れた方がいい」

「なんで?」

「これからロキファミリアの団体客が来ます。忙しくなりますよ」

 

リューは漆原にそう告げると黙々と皿洗いを続ける。漆原はポカンとした顔になってしまう。漆原は元ニートであり肉体労働は好まない。今の時点でもう限界なのにこれ以上となるともう逃げ出したい気分だろう。しかしそんなことはミアは許さない。漆原の頭の中はどうやってサボるか……ただその一つだった。

 

★★★

 

漆原が皿洗いを終わらせて周りを見渡すと自分をこの店に連れてきた張本人、シル・フローヴァが目が赤い白髪の少年と会話をして仕事をサボっているのを見かけた。漆原はあの場に行けば自分も仕事をサボれると確信してシルに話しかける。

 

「何してるの?」

「あ、半蔵さん。皿洗いは終わったんですか?」

「うん。リューが手伝ってくれたからね。」

「そうですか。あ、紹介しますね、ベルさん。この人は豊穣の女主人で唯一のウェイターなんですよ。」

「そ、そうなんですか。僕はベル・クラネルです。よろしくお願いします」

「僕は漆原半蔵……よろしく」

 

漆原とベルが自己紹介をしているとなぜか他の客たちがざわめき始める。

 

「ねぇ、シル。何があったの?」

「ロキファミリアが来店したんですよ。……ってベルさーん?」

 

シルが急に様子がおかしくなったベルに困った顔で接している中、漆原はただロキファミリアを見つめていた。しかし漆原がサボっていられるのもこれまでだった。なぜなら後ろから溢ればかりのミアの殺気が漆原を襲っていたからである。

 

「半蔵!ボーッとしてる暇があるならさっさと注文を取りに行ってきな!」

「はーい」

 

漆原は素直にミアの命令を聞き入れロキファミリアの元へと歩いていく。漆原は注文を取っていく。すると胸が全くない関西弁で喋る女性(神)に話しかけられる。

 

「男も雇ってるんか?」

「は?急に何?」

「いやいや珍しいと思ってなぁ、こんなべっぴんな女の子だらけの店で1人だけ男が混ざっとるなんて」

「別にどうでもいいでしょ。それより注文は?」

「気分を悪くしたならごめんなぁ、注文は〜とりあえず酒で!」

 

漆原は注文を取ったあとすぐにその場から離れる。それから少し時間が経ったあとロキファミリアたちが座っている席あたりから大きな笑い声が聞こえた。

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

この獣人ベート・ローガの話をまとめるとダンジョンの17階層にいたミノタウロスが5階層まで逃げその時にアイズ・ヴァレンシュタインが助けた冒険者がアイズに怯えて逃げてしまったらしい。冒険者のほとんどは笑っている。しかしベルは違っていた。なぜならこの冒険者とはベルのことだからである。ベルは立ち上がり店から走って行ってしまう。

 

「あぁン?食い逃げか?」

「うっわ、ミア母さんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」

「ベルのやつ何やってんの?」

 

漆原は怖いもの知らずだなぁと思いながら仕事を再開しようとするが

 

「半蔵……探してきな」

「ベルを?なんで僕が?」

「いいから行ってきな!」

「……あのさぁ、ミア……この店においてくれてることに関しては感謝してるけどあんまりめんどくさいことは頼まないでよね」

 

この瞬間、漆原から殺気が放たれた。その殺気に気づけたのはミアも入れて少ないだろう。だがミアはまったく怯えずに言う。

 

「行かないなら明日は飯抜きだよ」

「行ってきまーす」

 

漆原はミアの悪魔とも言える脅しに屈してすぐさま店から出ていく。漆原が出て行ったあと、ロキファミリアの団長であるフィン・ディムナはミアに漆原のことについて疑問をぶつける。

 

「ミア、彼は何者だい?」

「さぁねぇ、私もよくは知らないんだよ。シルが連れてきただけだからね。」

「そうなのかい?」

「まぁ、ただ一つだけ言えるのはあいつはこの店の大事な従業員だよ。」

 

このあと漆原は結局、ベルを見つけることはできずミアに怒られはしたが飯抜きは免れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。


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ベルを探すこと忘れてた

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○ウダイオス
迷宮の孤王
○ミア・グランド
豊穣の女主人のおかみ
○シル・フローヴァ
豊穣の女主人で働いている店員



漆原はベルを追ってダンジョンまで来ていた。本来ならば恩恵を授かっていない漆原がダンジョンに入ること自体、ありえないことである。普通ならば死んでしまう可能性が高い。しかしあくまでそれは漆原が普通の人間であればの話である。

 

「これがモンスター?まぁまぁかな」

 

漆原の足元にはモンスターを倒したさいに発現するドロップアイテムや魔石と言われるものが無造作に転がっている。現在の漆原の体内には悪魔の姿に戻れるだけの魔力が携わっている。ではなぜ日本に戻らないかというと漆原には残念ながらゲートを発生させることはできてもどこに繋がるかは操作することができないのである。ゆえに漆原は真奥たちがこちらの世界に迎えにくるまでは帰れないでいた。

 

「それにしてもいないなぁ」

 

漆原は周りを見渡すがベルはいない、それはそうだろう。

ここはベルのいるはずの6階層ではなくもっと下であるの36階層であるからだ。さきほど漆原は1階層を探していたがめんどくさかったため漆原はダンジョンの地面に向かって紫色の熱線を連続で放った。そして空いたところまできたら36階層だったのだ。漆原は苦悩しながら37階層に繋がる階段を降りていく。するとそこには全身を漆黒に染め上げている骸骨の巨人がなぜか下半身を地面に埋めていた。このモンスターの名前はウダイオス、迷宮の孤王でもある、強力なモンスターである。そんなウダイオスを漆原は見つめながら

 

「……へぇ、久しぶりに楽しめるかもね♪」

 

今から、暁の子とも呼ばれた堕天使と迷宮の孤王とも言われる怪物たちの壮絶な戦いが始まる。

 

 

★★★

 

 

『ウウウッッッッ!!』

「まぁ、結構強かったと思うよ。頑張った方だと思うけど、僕の敵じゃなかったね」

 

漆原は身体の骨がところどころボロボロなウダイオスに向かって壁一面に広がるぐらいの魔法陣を発生させ輝く紫色の熱線を放つ。熱線を撃たれたウダイオスは砂みたいに爆発する。そしてドロップアイテムとしてウダイオスの黒剣と大きな魔石が発現する。

 

「結構魔力、使っちゃったなぁ。それにしてもこの魔石?ってやつ、今までのやつと違って大きいね」

 

漆原は撫でるように自分の身体より大きい魔石を触る。その瞬間、漆原には大きな違和感が発生する。減っていた漆原の魔力がどんどん増えていくからである。それに比例するかのようにウダイオスからドロップした魔石は小さくなっていく。

 

「……もしかしてこの世界で悪魔である僕が魔力を回復させるには魔石が必要ってこと?」

 

漆原がそう考察していると魔石は完全に消え去ってしまう。漆原の魔力も先ほど使った分は回復していた。漆原はとりあえず地上に戻ろうと36階層に登り来るためにあけた穴を使い、飛んで1階層まで戻った。そして豊穣の女主人に戻り、ミアにある言葉を言われるまでに完全に忘れていたことがあった。

 

「食い逃げのボウズは見つかったのかい?」

(……忘れてた)

 

漆原はこの後、怒られはしたが飯抜きは免れた。

 

★★★

 

翌日、漆原はシルに起こされてある話を聞かされる。

 

「半蔵さん!半蔵さん!実は昨日、何者かがウダイオスっていう迷宮の孤王って言われるモンスターを倒した人がいるそうですよ!」

「へぇ、どんな見た目なの?」

「えっと確か、骸骨みたいな姿をしていてとっても大きいみたいです」

「何それ?戦ってみたいね。」

「いやいや、殺されちゃいますよ!?」

 

漆原はさほど興味がなかったのかウダイオスの姿を完全に忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
漆原ってゲートの操作できましたっけ?でもできたらこの物語は終わっちゃうので原作の漆原には出来たとしてもここに出てくる漆原には出来ないことにしておきますね!


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怪物祭にはもう2度と行かない


○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○シル・フローヴァ
豊穣の女主人で働いている店員
○リュー・リオン
豊穣の女主人で働いている店員
元冒険者
○ミア・グランド
豊穣の女主人のおかみ
○ベル・クラネル
駆け出しの冒険者
アイズに惚れている
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員








「う、漆原さん!き、昨日はご迷惑をおかけしました。本当にすいませんでした!」

 

漆原は困惑していた。昨日突然お店から逃げたベルが目を合わした途端、漆原に対して頭を下げているからだ。

 

「なんでもわざわざ僕のことを気にして探しにきてくださったとシルさんから聞きました!」

「いや、全然僕は君のことなんて気にしてなかったけど?」

 

漆原がそうベルに冷たく返すと頭がお盆のようなもので叩かれる。漆原が振り返るとそこにはお盆を持ったエルフ、リューがいた。

 

「ちょっと、何するのさ?」

「漆原さん……あなたはいつも思っていることを口に出しすぎだ。そんなことではいつか仲間を失ってしまう」

 

その時、漆原が見たリューの目は寂しくまるで本当に仲間を失ったことがあるような人間の目をしていた。そんな目を見た漆原は素直に「気をつけまーす」と返す。

 

「クラネルさん、漆原さんが本当に」

「いえ!僕は全然、気にしてませんから。それじゃあ僕はもう行きますね!」

 

ベルはリューの謝罪を遮るように話した後、お店から出ていく。漆原は謝罪を遮られたリューを見ながらフッと鼻で笑うと持っていたモップで床を拭き始める。そんな様子を見てリューはまたもやお盆で先ほどより倍近くの力で叩くのであった。

 

 

★★★

 

 

怪物祭、ギルドが主催しておりガネーシャファミリアが全面協力で行われる年に一度の祭りである。主にダンジョンから連れ出した怪物を調教師が調教する見世物が行われる。そんなお祭りに漆原はシルに無理やり連れて来させられていた。

 

「ねぇ、シル。やっぱり帰っていい?」

「せっかくの休みなんですから、たまには外に出ましょうよ。」

「そうだよ!せっかくの休みだからこそ、家で休みたかったんだよ!」

「そう言ってこの前の休みの時も約束してたのに部屋から出なかったじゃないですか!」

 

2人が言い争いをしていると、後ろからドスドスという人間とは思えないほどの大きな足音が聞こえる。漆原とシルが振り返るとそこには身長が3メートルぐらいはあるんじゃないかと思われるオークがこちらをジッと見つめている。

 

「え?」

「あ、オークだ」

 

シルはあまりの驚きに声が出ずに固まっている一方、漆原は魔王城にもこんなのいたなぁというなんとも反対的な反応である。オークは持っていた棍棒をゆっくりと上に掲げ思い切り振り下ろしたその瞬間、棍棒は1人の冒険者に受け止められる。そしてその冒険者はオークを持っていた剣で真っ二つへと斬り殺す。美しい金髪、まるで人形のような顔立ち。この冒険者はアイズ・ヴァレンシュタインであった。それを見たシルはゆっくりと床に座り込む。

 

「び、ビックリしましね、半蔵さん。」

「あ、パンツ見えた」

「は、半蔵さん!?そういうのは見ても言わないんですよ!?」

「そんなことより、早く逃げようよ。モンスターがたくさんいるみたいだし」

「そ、それなんですが半蔵さん。あ、あの、えっと」

 

何か煮え切らないシルの言葉に漆原は?マークを頭に浮かべる。しかしすぐに理由がわかると漆原はニヤニヤしながら

 

「まさかシル、今ので腰抜けちゃったの?」

「うぅ〜。じ、実は……」

「…はぁ、仕方ないね」

 

漆原はため息をつきながら指を鳴らすとシルの身体が宙に浮く。シルは驚くが漆原はそのままシルを運ぶ。途中で地震がした気がするが関係ないと思い、漆原は気にせずに進む。

 

 

★★★

 

 

「あ、あの半蔵さん!」

「何?」

「あ、あれ」

 

漆原はシルが指をさした方向へと身体を向けるとそこには2人のアマゾネスと1人のエルフがモンスターと戦っている様子であった。そのモンスターは沢山の触手が地面から生えており、頭部にはまるで花のような花びらが何枚もついている。中央には牙の並んだ巨大な口が存在しており、大量の粘液が口から地面に滴らせている。生々しいほど気色の悪い口腔の奥には、陽光を反射させる魔石の光。その見た目を一言で言うならば食人花のモンスターだろう。

 

「あー、あれ完全に苦戦してるね。」

「漆原さん。助けに行ったらどうですか?」

「は?僕が?なんで?」

「だって漆原さんって相当、お強いですよね?」

「………そうだとしても僕があの3人を助ける理由がないよ。」

「いえ、理由はありますよ。」

「…その理由って?」

「あの3人はロキファミリアであり、私たちが働いている豊穣の女主人の常連さんです。あの3人がいなくなることで3人も常連さんがいなくなってしまうんです!だったら助けるしかないですよね?」

「……でもシルは大丈夫なの?腰抜けてるんでしょ」

「いいから、その魔法?を解いてください!」

「わかったよ」

 

漆原は先ほどまで魔力でシルを浮かせていたがその魔力を止める。するとシルはゆっくりと地面に立つ。するとすぐさまシルは胸を張って大丈夫ですと言わんばかりに漆原に向かってポーズをとる、しかし漆原は気づく。シルの足が少しだけ震えていることに。

 

「さぁっ早く行ってきてください!」

「……わかったよ。じゃあ隠れといてよ」

 

漆原は食人花へと走っていく。凄まじい速さで。

 

 

★★★

 

 

食人花の攻撃の衝撃がレフィーヤの腹部を貫き、レフィーヤは吹き飛ばされ地面へと倒れこんでいた。食人花の何本もの触手が周囲の地面よりどんどんと突き出して、レフィーヤへのもとへ這いずり寄っていく。

 

(い、嫌だ。し、死にたくないよ。)

 

食人花が涙を流すレフィーヤの身体を無情にも完全に抑えてゆっくりと口へと運んでいか、喰おうとした瞬間、

 

「よっと」

『アアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

食人花は突然、現れた漆原によってこの場に似合わない掛け声とともに蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされた食人花は壁に衝突し、ぐにゃりと折れ曲りながらその場に倒れこむ。そして宙に放り出されたレフィーヤをお姫様抱っこの要領で支える。そしてレフィーヤを漆原はゆっくりと地面に寝かせる。するとその様子を見ていたアイズは漆原の元へと駆け寄ってくる。

 

「えっと、」

「早くそのエルフ回復させてあげたら?」

 

そう漆原がアイズに言った瞬間、またもや微細ながら地面が揺れる。その揺れはすぐに大きな揺れと変わった。アマゾネスの悲鳴が上がる中、漆原はあることを考えていた。

 

(さてと、どうしようかな。そもそも僕は空中で飛びながら戦うんだけど……この場で悪魔の姿に戻るのはさすがにやばいよね。バレたら面倒だし)

 

そう、漆原は悪魔の姿に戻れるだけの魔力は十分あるのだが残念ながらここには他の目撃者がいる時点で、その考えは切り捨てられる。もし漆原が悪魔とバレてしまったらそれはそれはめんどくさいことになるのである。しかもここにいるメンツはロキファミリア。オラリオでもトップクラスに入るファミリアだ。そのファミリアに目をつけられるのは漆原にとって避けたいことであるからだ。

そんなことを漆原が考えているとアイズを取り囲むように、4匹の黄緑色の体が地面から突き出した。閉じていた蕾を一斉に開花させる。アイズは食人花を斬りかかろうとすると、アイズの使っていたレイピアが粉砕した。

 

「なっ!?」

「ちょっ!?」

「えー、脆すぎ」

 

4匹いっしょに襲いかかってきた食人花にアイズはその場で、跳躍して回避する。漆原は自分の元へ攻撃してくる触手が素手ではたき落としながらアイズに聞く。

 

「大丈夫ー?武器壊れちゃったけど?」

 

しかし、返事は返ってこない。今のアイズの頭の中にはレフィーヤのことやこのモンスターのこと、借り物の武器を壊してしまったことだ。アイズはこのモンスターが魔法に反応することに気づき自分の魔法を解こうとする。しかしアイズの視界に移ったのは屋台の影で隠れながら獣人の子供が恐怖に震えながら座り込んでいる姿だった。アイズが右手の方向に逃げれば、屋台が潰されてあの子供まで巻き込んでしまう。アイズはすぐに自分の魔法である風の気流を全身に纏う。既にない、左手の退路に、アイズは突っ込む。そして、食人花に捕まってしまった。

 

 

★★★

 

レフィーヤは諦めそうになっていた。あと少し待てば、武装しているガネーシャファミリアがアイズ達を救ってくれると、そう考え、目を瞑る。するとレフィーヤにとって先ほどの命の恩人がレフィーヤに毒づく。

 

「そうだよ、寝てて。」

「……え?」

「君がいたって足手纏いだからね。どうせ役に立たないんだから。逃げ出せば?」

 

漆原がレフィーヤにそう言ったとき、レフィーヤは先ほどまで瞑っていた目を勢いよく双眸を、見開いた。そして立ち上がる。

 

「私はっ、私はレフィーヤ・ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!」

 

レフィーヤはまるで自分と漆原に言い聞かせるように声を上げる。この光景にはいつも眠そうにだるそうにしている漆原も目を見開いている。

 

「神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属の一員!逃げ出すわけにはいかない!」

 

レフィーヤはふらつきながらも一歩を踏み出し、すぐに走り出す。窮地に陥っている仲間の元へとまた戦場へと舞い戻る。

 

(わかってる。あの人が言っていたように私じゃあアイズさんたちの足手纏いにしかなれないことなんて!だけど追いつきたい!アイズさん、ティオナさん、ティオネさん、ガレスさん、ベートさん、リヴェリア様、団長………そしてさっき私を助けてくれたあの人、みんなに追いつくんだ!)

 

レフィーヤは走って食人花との距離を埋めた。十分に近づき自身の魔法な射程範囲に目標を捉える。レフィーヤは詠唱を開始する。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】」

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

「【繋ぐ絆、楽園の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

「【至れわ妖精の輪。どうか力を貸して与えてほしい】」

「【エルフ・リング】」

 

レフィーヤの足元にあった山吹色の魔法円が、翡翠色に変化した。今、レフィーヤが使っている魔法は召喚魔法。この魔法はエルフの魔法に限り、詠唱と効果を完全に把握していれば己の技として使うことができるレア魔法であった。しかしデメリットも存在する。それは2つ分の詠唱時間と精神力を使ってしまうことだ。この魔法を使えることでレフィーヤに神々が授けた2つ名は【千の妖精】。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を、巻け】」

「【閉ざさせる光、凍てつく大地】」

 

食人花のモンスターはすべてレフィーヤに標的を変え、殺到する。

 

「はいはいっと!」

「大人しくしてろっ!」

「ッッ!」

「ちょっとだけ、静かに待ってろよ」

『!?』

 

しかしそんな食人花は止められる。凄まじい速さで追いついたティオネ、ティオナ、アイズ、そして漆原がモンスターの前に立ちふさがり、殴り蹴り弾いてその突撃を防ぐ。

 

「【吹雪け、三度の厳冬ーー我が名はアールヴ】」

 

ここまでの詠唱をした瞬間、レフィーヤの横に一本の触手が地面から突き出し、レフィーヤを襲う。そのとき、レフィーヤの頭に浮かんだのはまたさっきみたいに突き飛ばされるというトラウマ。しかしその触手は漆原が放った熱線によって消滅する。漆原は笑いながら

 

「僕がここまでお膳立てしたんだよ?後は何とかしてよ、レフィーヤ・ウィリディス。」

 

その言葉を漆原が言ったとき、レフィーヤの覚悟が決まる。レフィーヤは最後の詠唱を1文字も間違えずに言う。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」

 

魔法が食人花に放たれた。食人花のモンスターは4体の氷の像と化す。氷の像となったモンスターはアマゾネス姉妹によって破壊される。

 

「レフィーヤ、ありがとー!ほんとに助かったー!」

「ティ、ティオナさん!?」

 

ティオナはレフィーヤに抱きつく。レフィーヤは満更でもないように頬を緩める。戦闘が終わり安堵したアイズは素直な言葉をレフィーヤに送る。

 

「ありがとう、レフィーヤ」

「アイズさん……」

「リヴェリアみたいだったよ。……すごかった。」

 

レフィーヤはアイズからの感謝の言葉に照れる。しかしすぐにあることを思い出す。それは漆原のことだ。名前も知らない命の恩人にせめてお礼の言葉を送ろうと思い、漆原の姿を探す。だが漆原はもう隠れていたシルを連れて豊穣の女主人へと帰っている途中であり、もうここにはいない。

 

 

★★★

 

 

怪物祭の翌日

 

「おーい、半蔵。あんたに客だよ。」

「え?僕に?」

「あぁ、ロキファミリアのレフィーヤ・ウィリディスって子だよ」

「あー、確かそんな名前のエルフ、昨日会った気がする。」

「さっさと行ってきな」

「はーい」

 

漆原は店内の隅のテーブルの椅子に座っているレフィーヤの元へと歩いていく。レフィーヤはこちらに気づくと立ち上がり頭を下げる。

 

「で?用って何?ウィリディス」

「昨日は助けていただきありがとうございました。漆原さん。私のことはレフィーヤで構いません。」

「そう?わかった、レフィーヤ。助けたことだけど別にあれぐらい気にしなくてもいいよ。あれはシルに言われたから助けただけだから」

「いえ、それでも助けていただいたのは本当のことですから」

「ふーん」

「……あと……………」

「あと?」

 

レフィーヤは決心を決めたような顔で漆原に宣言する。

 

「確かに私は足手纏いです!でも私は追いつきます!いつか必ず漆原さんにも追いついてみせます!絶対に!」

 

レフィーヤの宣言を聞いた漆原は面白いものを見つけたように笑いながら

 

「頑張れば?まぁ、一応応援しとくよ」

「あ、ありがとうございます。そ、それじゃあ最後に………」

 

まだあるのかと漆原は内心思いながらレフィーヤを待つ。レフィーヤは顔を真っ赤にしながら

 

「す、好きな食べ物はな、なんですか!?」

「え?」

 

漆原はレフィーヤの予想外すぎる質問に思わず、驚いてしまう。

 

「い、いいから答えてください!」

「か、唐揚げとか?」

「わ、わかりました。あ、ありがとうございました!それでは失礼します!」

 

レフィーヤは質問の答えを聞いた後でも顔を真っ赤にさせながらその場から走ってお店を出て行き、逃げていく。取り残された漆原はレフィーヤが出ていった出口をただ見つめて、ある言葉を呟く。

 

「………どういうこと?」

 

この漆原の問いを答える者はこの場には誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
ニート×真面目ってなんか対照的でいいと思いませんか?
やっと大体の1巻の内容終わりましたが、ほとんど店にいる漆原を原作にどう絡ませるかが本当に苦悩しています。













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メモ用紙はちゃんと大事に持ってよう



○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○ミア・グランド
豊穣の女主人のおかみ
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長



 

 

「それにしてもミアのやつ……あんなに怒らなくていいでしょ」

 

漆原は自身がやらかした発注ミスのせいで仕入れた肉が圧倒的に足りないのだ。結構繁盛している豊穣の女主人ではすぐに材料不足になるぐらいに。その責任で漆原は肉屋にきていた。メモ用紙にはたくさんの肉の種類が書いてある。漆原は肉屋の主人にメモ用紙を見ながら注文をしようとするが、大きな風が吹きメモ用紙が空高くへと飛んで行ってしまう。

 

「ちょ!?」

 

空高くへと飛んで行ったメモ用紙を漆原は追いかけて、跳躍する。しかしあと少しというところで届かない。翼を生やして元の姿に戻れば簡単に手に入れられるのだがそうはいかない。ここはたくさんの人間たちが歩いている。こんなところで悪魔の姿に戻ってしまったらパニック騒ぎになってしまうからだ。漆原は追いかける……ミアに怒られないために。

 

 

★★★

 

 

レフィーヤはリヴェリアともにバベルへと向かっていた。今日はフィン、アイズ、ティオナ、ティオネ、リヴェリアたちとダンジョンに潜ろうと約束をしたからだ。主にティオナとアイズの借金を返すために。約束である正午より1時間ほど早いがリヴェリアの提案で何かクエストでも探そうと話になったのだ。レフィーヤはリヴェリアと話しながらゆっくりと歩いていた。その時だった、何かでレフィーヤの視界が塞がれる。

 

「えぇ!?ま、前が!?」

 

レフィーヤは突然のことに驚くがすぐきレフィーヤの視界を塞いでいたものをリヴェリアが取る。

 

「まったく、この程度で驚くな」

「す、すみません。」

「やれやれ……これは買い物のメモ用紙か?」

 

リヴェリアとレフィーヤがメモ用紙に書かれた物を見るとそこには牛肉、豚肉、鶏肉などの肉の種類やそれぞれ必要な分までしっかりと書かれていた。

 

「誰かが落としたんでしょうか?」

「そうだな」

 

レフィーヤとリヴェリアが誰かが落としたことまで推測するがさすがに誰かまではわからない。ある声が聞こえる。それはリヴェリアにとってはあまり関係がないものだったがレフィーヤにとっては大いに関係する人物の声だった。

 

「レフィーヤー!」

「う、漆原さん!?」

 

レフィーヤは漆原に名前を呼ばれたことで顔が赤くなる。しかし漆原にとって今はそれどころではない。

 

「ど、どうしたんですか?そんなに急いで」

「この辺りにメモ用紙、飛んでこなかった?肉の名前がたくさん書いてあるんだけど?」

「これのことか?」

 

漆原の問いに答えたのはレフィーヤでなくリヴェリアだった。リヴェリアは先ほど拾ったメモ用紙を漆原に渡す。それを見て漆原は安堵する。これでミアに怒られることは少なからずなくなるからだ。

 

「いやー危なかった〜。これで無くしてたら本当に飯抜きになるとこだったよ。ミアのご飯は美味しいからね」

 

実際は漆原は魔力があるので食事の必要はない。しかし漆原は知っている。食事の必要がない漆原が腹を空かせたくなるぐらいミアの作る料理は美味い。

 

「ほんと、ありがとねー。それじゃあ僕は肉屋に行かないといけないから」

「ま、待ってください!わ、私も肉屋に一緒に行っていいですか!?」

「え?なんで?」

「え、えっとそれは……」

 

レフィーヤは自分でも意味がわからないのだ。なぜ自分はいきなりついて行ってもいいかと言ったことさえも。リヴェリアはまたレフィーヤに対してやれやれと心の中でため息をつきながら

 

「確か漆原といったか?レフィーヤはなんでも最近、唐揚げを作ることが趣味のようでな、鶏肉を買いたいらしい。漆原も肉屋に用事があるんだろう?一緒に着いて行ってもらってもいいか?」

「別にいいけど、君は来ないの?」

「……そうだな。私も着いて行こう。レフィーヤが心配だからな」

「り、リヴェリア様!?」

 

リヴェリアはレフィーヤをからかうようにニヤニヤしている。リヴェリアは心配だったのだ。いつもアイズのことばっかりの自分の弟子は男に興味がないのかと。しかしそんな不安も今日で終わりを告げた。このレフィーヤの漆原に対する接し方を見て、ただの友人でないと見抜いたのだ。これは完全にレフィーヤは漆原に対して恋心を抱いているということに。

 

 

★★★

 

 

「無事、買えましたね。」

「うん。まぁ、ぎりぎりだったけど。」

「それではレフィーヤ、そろそろ行くぞ。」

「もう、そんな時間ですか?」

「どこか用事あるの?」

「は、はい。実はこれからダンジョンにみんなで行こうってことになってるんです。」

「いいなぁ。僕も行きたい。」

 

忘れている人たちもいるだろうが漆原はもともと魔界でハグレ悪魔をしており、いろんな種を潰してきたほどの脳筋な戦闘狂である。普段は店の手伝いで忙しいためあまり戦えないことを不満を持っていたのである。

 

「じゃ、じゃあ一緒に行きましょう!?」

「え?いいの?」

「い、いいですよね?リヴェリア様。」

 

レフィーヤはリヴェリアに不安気に聞く。リヴェリアは考える。もし漆原が他のファミリアのスパイだとしたらロキファミリアの主力の魔法や力量などの情報が他のファミリアに流れてしまう可能性があるからだ。だからリヴェリアは漆原に問う。

 

「……漆原、今から一緒にダンジョンに行ったとして見たもの聞いたことを誰にも話さないというならば連れて行ってやってもいい。」

「別に話すなって言うなら話さないよ。話せって言うなら話すけど」

「……そうか、わかった。許可しよう。」

「よかったですね!漆原さん!」

「うん。そうだね」

 

それを聞いてレフィーヤは安堵し、アイズはもちろん漆原とダンジョンに行けることを喜ぶ。リヴェリアは今日、3度目のやれやれと心の中で思う。ここで1回、漆原はダンジョンに行くための準備をするためと買った肉をミアに届けるために豊穣の女主人へと帰る。それから10分後、漆原は服を着替えてリヴェリアとレフィーヤの元へ戻ってきた。そして3人はバベルへと談笑しながら歩いていく。

 

 

★★★

 

 

ミアは怒っていた。いつの間にか置かれていた肉とメモ用紙のせいだ。いや、肉は別にいいだろう。これはミスをした漆原に責任持って買いに行かせた肉だからである。しかしメモ用紙に書かれたこれだけは許せないでいた。そこには汚い文字で読みづらいが多分こう書かれているのだろう。

 

『みあへ

でかけてくるね。ちょっとかえってくるまでじかんかかるかも。あとべつでおいてあるとりにくはれふぃーやのだからつかわないでほぞんしといてね。うるしはらはんぞう』

 

「あの、バカ!買い物に行かせただけで休みをあげるとは言ってないよ!」

 

帰ってきたら漆原を叱ってやろう考えるミアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
漆原は共通語が読めるが字は汚いということにしておきました。


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自分のやったことぐらい覚えときなよ

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長


 

 

 

 

漆原とレフィーヤとリヴェリアがバベルにたどり着くとそこにはフィン、ティオネ、ティオナ、アイズたち面々がレフィーヤたちを待っていた。ティオナはこちらに気づくと手を大きく振りながら「こっちだよー」と叫ぶ。

 

「えっと、君は?」

 

バベルで待っていたアイズたちが疑問に思ったことはなぜここに漆原がいることだったがそれは漆原が答える前にリヴェリアが答える。

 

「実は漆原はレフィーヤの友達でな。ダンジョンに行きたいと言うので一緒に同行することを許可した。別に構わないだろう?」

「うーん。リヴェリアがそう言うなら大丈夫なんだろうけど、僕らは少しだけ下まで行くつもりだけど、大丈夫なのかい?」

 

今、フィンが聞いているのは、下まで行くほどの実力があるのかと言うことだ。それについてはレフィーヤが自信満々に答える。

 

「それについては大丈夫だと思います。この前の怪物祭で食人花のモンスターと戦っていましたから」

「なら大丈夫だね。それじゃあ漆原くん、よろしく」

「別にそんな「くん」とかつけなくいいよ。ていうか君たちの名前を僕は聞いてないけど?」

 

この後、漆原たちはお互いに自己紹介をして、ダンジョンへと潜っていった。

 

 

 

★★★

 

 

漆原たちは順調に17階層まで来ていた、漆原はあるものを見つける。それは人が1人は余裕で入れるほどの穴であった。漆原は穴を覗き込むと先は真下に向かって真っ直ぐと穴は続いている。

 

「う、漆原さん。危ないですよ!離れてください」

「ねぇ、これってどこまで続いてるの?」

「え?どのくらいなんでしょうか?」

 

この2人の疑問にフィンは苦笑しながら答える。

 

「36階層まで繋がっているって聞いたよ。2週間ほど前に何者かが開けた穴らしい。ギルドが依頼してガネーシャファミリアに埋めていってもらっているみたいだね。確か、15階層までは埋めたってギルドの報告では言っていたね。」

「へぇ〜」

「でもすごいねー。こんな穴開けるなんて相当強いんだろうねー」

 

フィンの話を聞いた漆原は少しだけ興味を持ち、ティオナはこんな穴を開ける犯人の強さを予想する。そんなことをしていると前からミノタウロスの大群が走ってくる。しかしそんなものはティオナの武器の大双刃によってどんどん屠られていく。それを見たティオネはジトッと見つめながら

 

「危ないわね〜当たったら痛いじゃないの」

「い、痛いで済むんですか?」

 

レフィーヤがティオネの感想に驚き、ついミノタウロスから目を離しているとレフィーヤにミノタウロスが手を上に掲げ振り下ろすが

 

「はっ!?」

 

そんなミノタウロスの攻撃は漆原によって片手で止められる。

 

「レフィーヤ、よそ見したらダメだよ。」

「す、すみません!」

 

漆原は掴んでいるミノタウロスの手を上に軽く投げるとミノタウロスは後ろに倒れ尻もちをつく。漆原がミノタウロスの頭にデコピンをすると、ミノタウロスの頭は軽く10mほど飛んでいく。ミノタウロスからツノと魔石がドロップする。漆原は迷わず魔石を拾いカバンに入れる。それを見ておかしいと思ったアイズは漆原に質問する。

 

「……あのドロップアイテムはいらないの?」

「うん、いらない」

「……そう」

 

漆原にとってはドロップアイテムより自身の魔力を回復できる魔石の方が圧倒的に必要なためいくらになるかもわからないドロップアイテムなどいらないと判断しているのため拾わないのである。

 

「そういえば漆原さん。なんでいつもはしてないのに今日は手袋をしてるんですか?」

「………………まぁ、モンスターに触れなくていいからね」

 

嘘である。漆原は別にモンスターに触れても後で洗えばいいと思っているが重要なのは魔石を触れた場合、勝手に魔力となり漆原の体内に入っていってしまうことだ。だから仕方なく手袋をつけることで魔石に触れないため魔力にならず後から好きな時に魔力を補給できるのである。

 

「それだったら武器を使えばいいのではないか?なぜ素手で戦う?」

「えー、だって僕、武器使ったことないからなぁ」

「そうなのか?ならば今度、使ってみるといい」

「…そうだね。そうしようかな」

 

★★★

 

「迷宮の孤王?」

「はい、普通のモンスターとは違ってすごく強いんですよ。上級冒険者でも大規模なパーティで戦わないと倒すのは超難関なんです。しかも1度倒したら次に湧いてくるのは2週間もかかるらしいです」

「へぇ、そんなに強いんだ」

「でもさー最近、なんか誰かがウダイオスを倒したって聞いたよー」

「しかもドロップアイテムを残していたみたいね。あのドロップアイテムはなんでもウダイオスを単独で倒さないと発現しないものらしいわよ。」

「そんなレアなもの置いていくなんで酔狂なやつもいたもんだね」

 

レフィーヤたちはもちろん、当の本人である漆原も気づいていない。2週間前にウダイオスを倒したのは漆原であり、ダンジョンに穴を開けたのも漆原であることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
人数が多いと口調が大変で、疲れますね。でも頑張ります!


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漆原、警戒される

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長


迷宮の孤王という地獄を抜けた者に待つのは18階層『迷宮の楽園』、ここはモンスターの生まれない階層であり、ダンジョンの中の数少ない安全階層である。そんな階層に漆原たちは到達していた。

 

「いつ来ても綺麗ですよね。この階層は」

「……ダンジョンなのに明るい?」

「もしかして知らないのかい?」

「え?」

 

漆原はなぜここはダンジョンなのに明るいのか疑問に思うがその疑問はフィンによって解消される。この階層では天井を埋め尽くす青水晶群、中心の白水晶が時間が経つにつれ光量を変化させていき地上とは違う時間軸で朝、昼、夜をつくり出すらしい。

 

「ねぇねぇ、どうする?このまま19階層に行っちゃう?」

「リヴィラに立ち寄る方が先よ。来るまでに集めたこのドッロプアイテムを売り払っておかないと、どうせすぐに荷物がいっぱいになるわ」

 

アマゾネスの姉妹が行き先を話し合っている中、漆原達は今いる南の森から西へと向かっていた。なぜ西に向かうかというとこのダンジョン内に存在する街へ通称、リヴィラに行くためだ。歩き始めてから数分、漆原はロキファミリアの後ろから着いていっているがこの世界の常識を知らない漆原はフィンたちがリヴィアに向かうことは分かっても何をするかまでは分からない。そのため漆原にとってこの中でも一番、話しやすいレフィーヤへ質問する。

 

「ねぇ、レフィーヤ」

「どうかされたんですか?」

「これからどうするの?」

「えっと、今からリヴィラっていう街に向かって魔石やドロップアイテムを買取り所で日引き取ってもらって、それから……」

 

レフィーヤが困っている漆原にいいところを見せようと得意げに話そうとするが突然ティオナが漆原の背中に飛びつく。

 

「今からねー、リヴィラで今日の寝る場所を探すんだよー」

「ちょ、ちょっと!?」

「テ、ティオナさん!漆原さんからは、離れてください!」

 

突然のことに漆原は驚いているがティオナは漆原の背中を掴んで離れない。それを見ていたレフィーヤは顔を真っ赤にしながらティオナの体をつかんで漆原から離そうとするがレフィーヤはLevel3、それに対してティオナはLevel5、どう頑張っても力ではかなわない。さすがに我慢できなくなった漆原はティオナを投げ飛ばす。投げられたティオナは空中で三回ほど体を回転させ地面に足をつけ受け身をとる。そうするとこの場にいるロキファミリアの面々は驚く。なぜなら自分らが先ほどまでは名前を知らなかった者がティオナを軽々と投げ飛ばしたからである。ある程度、実力のある人間ならば名前くらいは一度は聞いたことがあるはずであるが、漆原半蔵という名前はさっき自己紹介するときに初めて聞いた名前だ。つまりこの漆原という男はただのレフィーヤの友人ではなく、オラリオで異物の存在……警戒する人物へとレフィーヤ以外のロキファミリアの印象が変わった。シーンとなったこの空気を漆原は耐えられず言葉がのどからこぼれそうになるが受け身をとったティオナが目を輝かせて漆原の元へと走ってきて漆原の手をつかみぶんぶんと振り回しながら楽しそうに話す。

 

「凄―い!君って何者なのー?」

「……別にただの一流のニートだよ」

「にーと?にーとって何?一流ってことは凄いの?」

「そうだよ。一流のニートはニートを極めた者だけがもらえる称号だからね」

「よくわかんないけど凄そう!」

「テ、ティオナさん!さっきから漆原さんに近づきすぎです!」

「え~、そうかな~?……あ、もしかしてレフィーヤって漆原君のこと…」

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

ティオナが爆弾を投下しようとしたのでレフィーヤは叫ぶことで漆原にティオナがこれから言おうとしていることを聞こえないように防ぐ。その瞬間、パンパンと手をたたく音が聞こえる。レフィーヤの叫ぶ声に比べたら微々たる音だったが今のレフィーヤを落ち着かせるには丁度いいぐらいだった。レフィーヤが振り向くとそこには笑顔ながらも目は笑っていないリヴェリアがそこにいた。

 

 

 

★★★

 

 

レフィーヤとティオナがリヴェリアに説教された後、みんなで今日はどこに寝床をどうするか話し合っていた。森でキャンプをしようという案が出たが野営の装備を持って来ていないということで宿に泊まることになった。しかしリヴィラという街では恐ろしいほ物価が地上と比べ高い、それは宿屋も例外ではない。フィンが宿代をすべて自分が払おうと提案する。そんなフィンの太っ腹な言葉に漆原は小さくガッツポーズをした。リヴェリアは静かに街を見つめている。そして何かの気づいたのか唇をゆっくりと開く。

 

「街の雰囲気が、少々おかしいな」

「そういえば、いつもより人が少ないような……」

「へぇ~、いつもより少ないんだ?」

 

普通ならばリヴィラがこんなに静かなのは珍しいのである。この階層ではモンスターがわかないということもあり、19階層以下を探索する冒険者の中でここを拠点にする者はたくさんいるはずなのにその冒険者の姿は少ない。フィンは少し考えこれからの行動を漆原たちに話す。

 

「ひとまず、どこかお店に入ろうか。情報収集も兼ねて、街の住人と接触してみよう」

 

漆原たちはフィンに着いていきとりあえず当初の目的であった買取り所に入り中で座っていた店主へ、フィンは話しかける。

 

「今は大丈夫かい?」

「ん?おお、ロキファミリアじゃないか。客かい?」

 

ティオナとレフィーヤは魔石やドロップアイテムを店主に手渡しいく。

 

「あ、漆原さん。その魔石もいっしょに換金しましょうか?」

 

レフィーヤは漆原が持っていた少し大きめの鞄に詰まった魔石を見ながら言う。

 

「ううん。これは大丈夫」

「そ、そうですか?」

 

この魔石を換金するにはいかない、なぜならこの魔石は漆原の魔力がなくなったときのための魔力回復手段として取っていたものだからである。

 

「そういえば街の様子がいつもと違うようだけど、何かあったのかい?」

「ああ……あんた達、今街に入ったばかりなのか」

 

店主はレフィーヤたちが持ってきた魔石を鑑定しながらちらりとレフィーヤたちを見て、ため息をしながら

 

「殺しだよ。街の中で、冒険者の死体が出てきたみたいだよ」

 

この言葉にロキファミリアの面々は驚きをあらわにする。それに比べて漆原は目を細めながら小さな声で呟く。

 

「………ふ〜ん」

 

 




お読みいただきありがとうございます。


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殺人現場にやる気のない人がいても意味ないよね



○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長
○ボールス
リヴィラの偉い人(多分)




「まさかてめぇが殺したのか?」

「……なにそれ?冗談でも笑えないけど」

 

睨み合うボールスと漆原……なぜこのような状況が起きているかは遡ること数十分前のこと。

 

 

☆☆☆

 

 

「ちょっと前に見つかってね。この街で殺しなんて、ちょっと酔ったバカ2人が喧嘩でくたばって以来、しばらくなかったんだけどねぇ」

 

店主はため息をつきながら言う。殺人が気になるフィンは店主に質問する。

 

「何者かに殺されたのは、確かなのかい?」

「さぁ?あたしもさっきそこで騒いでいるのを耳にしただけだからねぇ」

「その死体はどこで見つかったのかわかるか?」

「ああ、確かここから上の方にある、ヴィリーの宿さ。人がたくさんいると思うから行ってみればすぐ分かるさ」

 

話を聞いた漆原たちはフィンの提案によって死体現場へと向かうことになった。

レフィーヤは感じていた。さきほどから漆原の様子が少しおかしいことに。

 

「漆原さん、どうかしましたか?さっきから元気が少しないようですけど」

「…別に。何でもないよ」

「そ、そうですか?何かあったらいつでも言ってくださいね」

 

 

★★★

 

 

殺害現場となる部屋に到着するとそこには真っ赤な血と床に横たわる、頭部を失った男の死体であった。あまりの光景にレフィーヤは狼狽し漆原の服の裾を掴む。漆原達が入ってきたためその場にいた2人の男がこちらへ振り返る。そのうちの1人の男は太い眉毛を吊り上げながらこちらを睨む。

 

「あぁん?おいてめぇら、ここは立ち入り禁止だぞ!見張りの奴らは何してやがる!」

「やぁ、ボールス。お邪魔させてもらってるよ。」

 

フィンがそう答えるとボールスは漆原たちのことをジロジロと見つめると何かに気づいたかのようにフィンに質問する。

 

「おい、フィン。てめぇとは結構長い付き合いになるがあの紫色のガキは初めて見る。誰だ?」

「あぁ、彼なら心配ない。僕の友人である漆原半蔵だ。」

(……いつから友人になったっけ?)

「ウルシハラハンゾウ?極東の出身か」

 

突然、友人認定された漆原は否定しようと思ったがめんどくさいから「ま、いっか」と呟く。

ボールスは漆原を怪しいと思いながらもフィンを睨みながら言う。

 

「部外者以外は立ち入り禁止だ!出て行きやがれ!」

「まぁまぁ、僕たちもしばらく宿を利用するつもりなんだ。落ち着いて探索に集中するためにも、早期解決に協力したい。どうだろう、ボールス?」

「けっ、物は言いようだなぁ、フィン。てめぇらといいフレイヤファミリアといい、強い奴らはそれだけで何でもできると威張り散らしてやがある」

 

ボールスがそう言うとティオナが文句を言うがレフィーヤが冷や汗をかきながら必死になだめる。

 

「それで、どうなっているんだい?この冒険者の身許や、手にかけた相手について何か分かったことはあるのかい?」

「ちっ……くたばった野郎は、ローブの女をここに連れ込んできた全身型鎧の冒険者だ。兜まで被っていたからな、顔はわかんねえが連れの女が消えているから、犯人はそいつで間違いねぇ……そうだな、ヴィリー?」

「あぁ、少なくとも俺はこの部屋にその男と女しか通してねぇよ、ボールス」

 

ヴィリーは頷くと補足するように話を続ける。

 

「昨日の夜に、2人で来てよ。宿を貸し切らせてくれって頼まれたんだ」

「たった二人なのに、客席をすべて貸し切り……あぁ、そういうことか」

「あぁ、そういうことだ。うちの宿にはドアなんてないからよ。喚けば洞窟中にダダ漏れだ。やろうと思えばのぞきし放題だしな」

「そういうこと……セックs痛っ!!」

 

フィンは言わんとしていることをすぐに察し、話を聞いていた漆原は鎧を着た男がこの宿を貸し切りにした理由を言おうとしたが顔を真っ赤に染めていたレフィーヤに杖で叩かれ邪魔されてしまう。

 

「何するのさ、レフィーヤ?」

「う、漆原さんにはデリカシーってものがないんですか!?」

 

漆原とレフィーヤが揉めている一方でフィンはヴィリーに「気にしないで続けてくれ」と言って話を聞く。

 

「男の浮かれたような声に何しに来たのかはわかっちまったからな。金はもらったから部屋を貸したらこのざまだ」

「……いつまでやるのこれ」

 

ヴィリーの答えに聞き耳をたてていた漆原は興味なさそうに小さく呟く。

リヴェリアが遺体の潰れた頭部へとそっと布を被せる中、フィンはボールスとヴィリーに質問する。

 

「そのローブの女の顔は見なかったのかい?」

「フードを目深に被ってたんだ、男と同じで、顔は全然わからなかった……あー、でも、ローブの上からでもわかるくらい、めちゃくちゃいい体してたな。ああ、思わずむしゃぶりつきたくなるような女だったぜ」

「おお、実はオレ様も町中でちらっと見かけたんだが……ありゃあーいい女だ。顔はよく見えなかったが、間違いねぇ」

 

思わず力説するヴィリーとボールスにその場にいた女性陣が今は冬なのかと言いたくなるような視線を送る。

 

「でもさぁ、自分のお店なのに、部屋で何があったのかわからなかったの?あの入り口の前の長台にずっといたんでしょ?」

「勘弁してくれよ。あんないい女を連れ込んで部屋から声が聞こえてきたら、妬みやら何やらでおかしくなっちまう。満室の札を店の前に置いて、俺はさっさと酒場に行っちまったよ」

 

ティオナの疑問にヴィリーは愚痴を言うかのように答える。このヴィリーのアリバイは酒場にいた他の冒険者によって成立している。つまりこの殺人はヴィリーが酒場に行っている間の昨夜から今朝のどこかの時間に殺されたということである。

ティオネは、ボールスにローブの女について問いかける。

 

「その様子だと、ローブの女の目撃者は誰もいないみたいだね?」

「全くいねぇ。子分どもに聞き込みをやらせているが、今のところ何も手がかりはなしだ。……まぁ、今からこの野郎の身許に直接聞くところだ。」

「…直接?」

 

死んだはずの人間に直接聞くというボールスの言葉に漆原は疑問を持ち、問いかけようとするがそんなことは知らず、ヒューマンの冒険者と獣人の小男ともに入室し、持っていた小瓶をボールスに「開錠薬です」言いながら渡す。

 

「開錠薬って確か……」

「眷属の恩恵を暴くためだけの道具だ。正確な手順を暇なければ、それ単体だけでは神々の錠は解除できないがな」

「直接ってそういうことか」

 

リヴェリアの解説によってさきほどボールスが言っていた意味が理解することができた漆原は納得する。

 

「あーいう技ってどこで覚えるんだろうね…」

「冒険者が金にがめつくて何でもする物好きなのは、今に始まったことじゃないでしょ」

 

呆れているティオナ、半眼を作るティオネ、死者を辱める真似をすることが許せないリヴェリアの三人の視線を向けられていると知らず獣人の小男はステイタスを暴き、次々と神聖文字が死んだ冒険者の背中に浮かび上がってくる。

しかしボールスはしまったという表情で自分の頭をおさえる。

 

「いけねぇ、神聖文字が読めねぇ…おい誰か、外に出て、物知ってそうなエルフを一人二人連れてこい!」

「待て、神聖文字なら私が読める」

「私も」

 

使い走りへ声を張るボールスに、リヴェリアとアイズが口を開いた。ボールスは任せたぞという表情で道を開ける。進み出た二人は神聖文字の解読に移る。

 

「名前はハシャーナ・ドルリア」

「……ガネーシャ・ファミリア」

 

アイズとリヴェリアの言葉が出た瞬間、この場が静まり返る。しかしそんな静寂もボールスの言葉によって崩される。

 

「ガネーシャ・ファミリア!?冗談じゃねぇぞ、剛拳闘士〈ハシャーナ〉っつったら、Level4じゃねえか!?」

 

ローブの女が犯人と思われしかもLevel4以上の実力者という事実。第一級冒険者と同等の力を持っている殺人鬼が、この街にいるかもしれないという事実が明らかとなった。

 

★★★

 

「この狭い空間で調度品がきれいなまま…よって第三者の乱入もないだろう」

「ってことはローブの女がやっぱり犯人?」

 

フィンの推理を聞いたティオナはローブの女が犯人ではないかと言う。

 

「ほ、本当にこの人は力づくで殺されてしまったんでしょうか?その、毒とか…」

「アビリティ欄には耐異常もあるから、多分違う……」

 

レフィーヤの考えをアイズは否定する。今までの様子を見ていた漆原はめんどくさそうに口を開く。

 

 

「どうでもよくない?誰が殺したなんかさ」

「う、漆原さん……何を言ってるんですか?」

 

漆原の言葉に驚いていた他の面々の代わりレフィーヤが答える。いやレフィーヤも驚いていたがなぜ漆原がそんなことを言うのかが気になり無理やり喉から声をだしていた。

 

「ダンジョンでは人が死ぬのはたくさんあることなんだよね、今回の場合は殺したのがモンスターじゃなくて人間だっただけでしょ?……このハシャーナだっけ?こいつが死んだのはこいつが弱かっただけ…………」

 

漆原半蔵、改めてルシフェルにとって生物が死ぬことは日本にいたころならいざ知らず、魔界にいたころは日常茶飯事だった。ルシフェルは最強のハグレ悪魔として他の悪魔を気まぐれで殺していた。弱肉強食……ルシフェルがいた世界はそういう世界だった。ここにいる冒険者とルシフェルでは価値観があまりにも違いすぎた。

 

「まさか、てめぇが殺したのか?」

「……なにそれ?冗談でも笑えないけど」

 

実はというとボールスは最初から漆原のことを怪しい奴と思っていた。付き合いが長いはずだがこの男がフィンと一緒にいるところなど一回も見たことがない。しかも容姿だけなら中々の美少年。だが半袖、半ズボンに黒い手袋。こんな冒険者は一度も見たことがなかった。本来ならばこれだけでは疑いなど持たれるはずがない。しかし先程の漆原の言葉。少し怪しいと思っていたボールスの感情の苗を育てるには十分だった。ボールスは漆原の胸ぐらを掴む。

 

「どうなんだよ、答えやがれ!?」

「……離してよ。今日が命日になるよ?」

「て、てめぇ!?」

「お、落ち着いてください!」

 

この二人の言い合いに乱入したのはレフィーヤだった。フィンは漆原への疑いを晴らすために言う。

 

「なんで彼が怪しいと思うのか教えてくれるかい?」

「変なこと言って俺らを混乱させようとしてきただろ」

「そもそも殺したのはロープの女だ。彼は男だよ」

「もしかしたらこいつと共犯かもしんねぇーだろ!」

「さっきも言ったけど第三者の乱入はないって言っただろう?」

「…………それもそうだな。悪りぃ、頭に血が上ってた」

 

漆原は自分の疑いが晴れたことを確認すると部屋から出て行こうとする。

 

「ど、どこ行くんですか?」

「疑いも晴れたし暇だからちょっと外の空気吸ってくる。」

 

レフィーヤは漆原に付いて行こうするが先程の漆原の無慈悲な言葉を思い出し、これ以上声がかけれなかった。レフィーヤは部屋から出て行く漆原の背中を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
漆原ってこんなこと言いますかね?ちょっと自信ないです汗


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またですか

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長
○ボールス
リヴィラの偉い人(多分)
○ルルネ
ヘルメスファミリアの団員


 

 

その瞳はアイズたちの動向を見張っていた。この瞳がレフィーヤ、ルルネの順番で最後にアイズに目線を向けたとき、止まる。

 

「……強いな」

 

あれは手間がかかりそうだ。そう思っているとルルネがバックから宝玉を取り出す。その宝玉をアイズが視界にいれた瞬間、アイズは崩れ落ちていく。アイズたちを見下ろしている人間?は懐からとある物を取り出す。それは草苗だった。

 

「………出ろ」

 

人間?が草笛を吹く。草笛からなる音はリヴィラの上空を渡った。

 

「何してるの?」

「!?………誰だお前は?」

 

 

この人間?に声をかけたのは先程、宿から出て外を散歩していた漆原だった。漆原の視界に入った人間?は女性の声をした黒い鎧を装備している男だった。男は漆原に向かって走り、首を掴もうとする。

 

「ちょっと触らないでよ」

 

漆原が男の腕を払うとパシンっと音が鳴り響く。その瞬間、遠方から何かが崩れる音と、悲鳴、そして破鐘の咆哮が聞こえ、思わず振り返る。漆原が振り返った方向にいたのは空高く首を伸ばす、無数の食人花のモンスターだった。

 

「……あれって確か、あ……いない」

 

漆原はさっきの男のことを思い出しすぐさま振り返るとそこにはもう誰もいなかった。

 

★★★

 

「なにモンスターの侵入を許してやがる!?見張りは何やってんだ!」

 

ボールスの怒号が響き渡る。

食人花は高い障壁を乗り越えてリヴィラの様々の場所から吠声をあげる。水晶の柱を破壊して、一輪の食人花が広場に到達した。

 

『ーーーーーアアッッ!!』

 

しかし食人花は到達した瞬間、急いでここまできた漆原によって殴られる。漆原は怪物祭のときより、力を使ったため食人花の花部はもげてしまう。この光景の異変に気付いているのはフィンだけだった。

 

(……彼は本当に何者なんだ。……ティオネの報告ではこの食人花はLevel5のティオネとティオナの素手での打撃はまったくといっていいほど効いていなかったはず………彼はもしかしたらLevel6なのか?)

「フィン、どうする?」

「………リヴェリア、敵は魔力に反応する。できる限り大規模な魔法で付近のモンスターを集めろ!ボールス、五人一組で小隊を作らせるんだ!」

 

フィンは驚愕の光景のあまり食人花はそっちのけで漆原の考察をしてしまっていた。しかしリヴェリアの問いかけによって現実に戻される。そしてすぐにリヴェリアとボールスに指示を出す。

 

「わかった」

「お、おう!?」

 

リヴェリアとボールスはすぐに返事をして各々、行動に移る。漆原は次々とやってくる食人花を見つて愉快そうに口を開く。

 

「…ちょっと犯人扱いされてイライラしてたし、ちょうどいいかな♪それにこの前はレフィーヤに譲ってあげたから今回は僕がやっちゃおうっと!」

 

漆原はすぐに行動する。遠くにいる食人花には熱線を放ち、無数の食人花に風穴を開けていく。近くにいるのは無理やり食人花の花部を掴み無理やりもいでいく。その姿はまるで食人花から見たら悪魔のような姿だったがボールスたちの瞳には勇ましい少年に映ったことだろう。そんな漆原を見たボールスは思いっきり叫ぶ。

 

「てめぇぇぇら!!このガキに負けるなァァァァ!!ここは俺様たちの街だァァァァ!!!!」

「おおぉぉぉぉ!!!」

「……うるさいなぁ」

 

この後も漆原は食人花の花部をもいでいく。その様子には一緒に食人花を倒していたティオナたちも引き気味である。しかしそんなティオナたちを驚愕させるモンスターが現れた。

 

「なにあれ、蛸!?」

「あいつ、50階層の ……?」

「うわぁ、なにあれ?」

 

各所で食人花との戦闘が続く中で、突如出現したモンスター。そのモンスターの風貌は、巨大な蛸と似た形をしていた。十本以上の足は食人花のモンスターからなり、それぞれの足が意思を持っているんじゃないかと疑うくらいうねっている。複数の足の付け根より上は極彩色の体、女体を象った上半身が存在していた。当目から確認できるのは、海辺ににひそむと言われている半人半蛸のようだ。

都市中央部、水晶広場に向かってくる超大型級のモンスターに、ティオナとティオネ、そして漆原は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
いつものことですが文字数が少ないです。
あとタイトルが思いつかないです。


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レフィーヤはポンコツですが活躍はします


○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長
○ボールス
リヴィラの偉い人(多分)





 

 

 

 

 

 

「どこから現れた、と問いただしたいところだが……始末する方が先だな」

「あぁ、そうだね」

「うわー、でかいなぁ」

「何でてめぇらはそんな冷静なんだ!?ちったあ慌てろ!」

 

ボールスの悲鳴が響き渡る横で、リヴェリアとフィンと漆原は女体型を見上げた。レフィーヤとルルネを抱えて逃げ込んできたアイズの後に、食人花の足を侵入させ、女体型を広場に到達した。

 

「50階層のモンスターも、あの胎児のせいでこんな風に……?」

 

レフィーヤは女体のモンスターを見つめながら言う。漆原は知らないがこの女体型はレフィーヤたちが見た、50階層の女体型よりも個体が上回っていた。高さはあまり変わらない6Mだったが、横幅は10M以上はある。

 

「着いたー」

「あー、間近で見るともっと気色悪いわねぇ」

 

ティオナとティオネが頭上から広場に到着する。到着するなりティオナは漆原を見つめながら言う。

 

「漆原くん、本当に速いねー。同じタイミングで走り出したのにこんなに差がつけられちゃうなんて!」

「今はそんなことどうでもいいからあれをなんとかした方がいいんじゃない?」

 

漆原は女体型を指差しながら言う。ティオナは「それもそうだね」と元気そうに答える。女体型はアイズが視界にはいると食人花の足が一斉に地面を離れてアイズに突撃する。アイズはすぐさまレフィーヤに気絶しているルルネに預けて、巻き込まないように逆方向へ走る。すると食人花の足はアイズが先程までいた場所を通り過ぎて、広場の水晶を破壊した。

 

「狙いはアイズか!」

「発動している魔法に反応しているのかな」

 

アイズを追う足の二本をティオナが踊りかかり食人花の首を大双刃で切断する。

花部を失った足はティオネを弾き飛ばす。

 

「痛ったぁー!?力めちゃくちゃ強くなってるんだけどー!?しかも首落としたのに動くのー!?」

「ありゃあもう足の一本に過ぎないでしょうが、そりゃ動くわよ!」

 

ティオネは食人花の足の攻撃を避けながら叫ぶ。

 

「レフィーヤ、以前行った連携を覚えているな?あれをやるぞ」

「わ、わかりました!」

 

近づいてきたリヴェリアにレフィーヤは頷く。二人は別方向に走り出し、女体型の前後に回った。

 

「……こんだけ足があるとめんどくさいなぁ。全部、吹き飛ばそうかな……」

 

食人花の足を無理やり引っ張ってもぎ取っている漆原は熱線の最大出力で女体型を一気に倒そうと考えるが残念ながらそれは叶わない。いつもの熱線なら先ほども使ったが最大出力となると話が違う。簡単にいうと目立ってしまうのだ。漆原の得意技である熱線は詠唱する必要がない。この世界では魔法には詠唱があるのが普通である。そんななか詠唱もせずあの女体型を熱線で消滅させればただでさえフィンから怪しいと思われているのにさらに怪しくなってしまい、もしかしたらオラリオの神々に目をつけられてしまう。噂とはいつの時代も恐ろしいものである。そのため漆原にはどうすることもできない。今はただ食人花の足をもぎ取ることしかできないのだ。

リヴェリアは女体型の方を向き杖を水平に構え、詠唱を始める。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ」】

『!!』

 

リヴェリアの莫大な魔力に反応し、女体型が体と上半身を振り向かせた。迫り来る女体型にリヴェリアは逃げずに詠唱を続けていく。

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢を】」

『ッッ!!』

 

食人花の足はすぐにリヴェリアへと向かっていく。距離が20Mを切ったところでリヴェリアは魔法円の中心から真横へ跳び、食人花の足の突撃を回避する。リヴェリアが詠唱をやめたため魔法円は消失する。

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え」】

 

女体型が震える。女体型が振り返るとそこには広場の西側最奥、たった一人で山吹色の魔法円を展開するレフィーヤの姿があった。囮であったリヴェリアの詠唱と重ねていたレフィーヤの玉音の声が、最後の詠唱文を唱える。

 

「総員、退避だ!」

「でけえのが来るぞぉっ!?」

「へー、やるじゃん」

 

フィンとボールスが呼びかけするなか、漆原はリヴェリアとレフィーヤの連携を素直に褒める。この場にレフィーヤがいればどんなに喜んだかは言うまでもない。女体型を残し誰もいなくなった広大な視界へ、レフィーヤは砲撃を繰り出した。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

『ーーーーーーーーーーーーアアァァッ!!』

 

炎矢が雨が女体型に降りそそぐ。女体型の触手や、体皮、足が爆砕しながら弾け飛んでいく。火の矢の一斉射撃は十秒以上も続いた。女体型は絶叫を空に打ち上げた。

 

「たたみかけさせてもらおうか」

「お供します、団長!」

「ーーせぇーのッ!」

 

火の矢の砲撃終了からすぐに、フィン、ティオネ、ティオナが女体型に近づく。

三人は女体型の体に嵐のように傷を刻み込んでいく。食人花の足が何本も上半身なら脱落し、その体皮ごと弾け飛ぶ。

 

『アァァァァァァァァ!!』

 

女体型はフィン達の猛攻から逃げるように後ろへと傾けていく。そして次の瞬間、極彩色の上半身を下半身から切り離した。

 

「逃げた!?」

「あいつ、湖に飛び込む気!?」

 

女体型の上半身は広場を越えそうになるがすぐに広場の中心へと戻される。なぜそうなったかというと、転がってきた女体型の上半身を漆原がまるでサッカーボールを蹴るかのように蹴り飛ばしたからである。

 

「逃すわけないじゃん」

「あんなデカブツ蹴り飛ばすとかどういう脚力してんだあのガキ!?」

 

漆原の脚力にボールスは絶叫する。漆原によって広場の中央に戻された女体型は腕の力で身体を起こそうとするがそれを許すフィン達ではない。女体型の最後はあっけなくフィン達に倒されるのであった。

 

「…………さてと次はあの赤髪かな」

 

まだ物足りたいと思う漆原の次のターゲットは先程、漆原の視界にチラッとはいった、アイズと戦っている赤髪の女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まぁ、漆原くんは原作かアニメかは忘れましたが初期は結構の戦闘狂だったのでこの話の最後のセリフも言うのかなぁ?本当に不安になります。




………タイトルが思いつかない。



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僕たち友達だよね!

○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長
○赤髪の女
多分、敵
◯リュー・リオン
豊饒の女主人の店員
元冒険者




 

 

「どこでそれを!?」

 

アイズは赤髪の女が放った言葉である『アリア』という単語に驚愕し叫ぶ。

 

「お前に話すことなどない」

 

赤髪の女はアイズに剣で斬りかかる。その剣を受け止めたのはアイズではなかった。もちろん彼女の仲間であるフィンでもリヴェリアでもレフィーヤでもティオネでもティオナでもなかった。漆原半蔵…アイズとは全く、関係がなかった男であった。

 

「……お前はさっきの…」

「さっき?……初対面のはずだけど?」

「…どけ!邪魔だ!」

「そんなこと言わないでよ。まだ物足りないんだから相手になってもらうよ」

 

漆原は赤髪の女の剣をはなす。赤髪の女は漆原にまた斬りかかるが避けられる。漆原はすぐに赤髪の女の腹に蹴りをいれ吹き飛ばす。

 

「……やるな。Level6か?……それともそれ以上か?」

「levelなんて知らないよ。そんなことより本気で戦えよ。楽しめないじゃん」

 

アイズには漆原の表情は純粋に楽しいことをする前のワクワクした子供に見えた。その一方でアイズはもう一つ感じていた。それは恐怖だ。アイズが今まであまり感じたことがない感情、それがアイズを苦しめる。赤髪の女はアイズや漆原の後ろにいるフィンやリヴェリア、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの存在に気づく。

 

「……さすがに不利だな………また会おう。……アリア」

「逃げる気?」

 

赤髪の女は駆け出す。漆原たちはすぐに追うが赤髪の女は島の西側に到達すると崖の壁を走り湖に突き進んだ。そして水飛沫が上がった。そんな様子を見てリヴェリアは呟く。

 

「……なんて奴だ」

 

18階層は広い。大草原、湿地帯、そして大きな森林。闇雲に探しても、ほぼ間違いなく見つけられないだろう。漆原は舌打ちをした後、ため息をつきながら赤髪の女が飛び込んだ湖を眺める。そんな様子を見たレフィーヤは漆原に優しく声をかける。

 

「漆原さん、戻りましょう?」

「……うん、そうだね」

 

 

 

★★★

 

 

 

「漆原……2人で話をしたい。今は大丈夫かい?」

「別にいいよ」

 

フィンに話しかけられた漆原は2人で夜の森の中へと入っていく。そんな2人を見たティオナは首を傾げながら言う。

 

「フィン、どうしたんだろう?漆原くんと話って?」

「……何か考えがあるのよ。私たちが気にすることじゃないわよ」

 

ティオネの返答にティオナはう〜んと唸りながらも納得する。

 

「それもそうだねー。そういえば漆原くんってすごい強いよね!だってあの食人花を素手で倒してたんだよ!」

「それもそうね。私たちlevel5の素手の攻撃を受けて全くといっていいほど無傷だった食人花があの子の素手で一撃なんて……漆原半蔵のlevelは少なくともlevel5以上と思った方がいいわね」

「た、確かにそうですね。所属のファミリアはどこなんでしょう?」

「それに漆原半蔵なんて名前、聞いたこともないわよ……あのぐらい実力者なら名前くらい聞いたことがあるはずよ」

「でもそんなの聞いたことないよー。もしかして偽名とか!」

 

大ハズレである。いや名前が偽名であることだけは当たりであることは間違いないのだが、それ以外はハズレである。漆原は恩恵など持ってはいないし、もちろんファミリアにも所属していない。

 

「…………………」

「アイズさん、大丈夫ですか?」

「……ごめん、なんでもない」

 

レフィーヤは心配していた。先程の赤髪の女の出現からアイズがずっと上の空だからだ。だがレフィーヤは何も聞くことはできなかった。

 

 

★★★

 

 

フィンに森林に連れてこられた漆原は質問する。

 

「それで、何の用?」

「……漆原半蔵、僕は先程のボールスに君のことを勝手に友人と言ったが、これからは本当の友人にならないか?」

「……はぁ?なんのために?」

「なに、友人って言ってもお互いに困った時に助け合う。ただそれだけだよ」

「…………………いいよ」

 

本来ならばこんな友人関係、漆原にとって意味がなさすぎる。『お互いに困った時に助け合う』……漆原にとっては何をやらされるか分からなすぎるからだ。しかし漆原は口を三日月の様に上げてフィンが差し出した手に握手で返す。なぜこんな馬鹿げた契約のようなものを組んだのは漆原の性格にあった。漆原は何よりも面白いことを好む。元々、漆原が魔王サタンの仲間になったのは面白いものを魔王サタンが見せると言ったからだ。

フィンは漆原の力を欲して、そして漆原は面白いものを見るためにこの簡単に壊れてしまいそうな契約を今ここで結んだ。

 

漆原とフィンはすぐに森林を抜けレフィーヤたちのところへと戻る。漆原が戻ったことを確認するとアイズは一直線に漆原に近づき小さな声で話しかける。

 

「今日の夜中、1時ぐらいに西方の湖に来てほしい」

「……別にいいけど」

「ありがとう」

 

 

 

 

 

そして時刻は1時、漆原はアイズとの約束通り西方の湖に来ていた。アイズは漆原が来たことに気づくと真剣な眼差しで言う。

 

「私と戦って欲しい」

「……はっ?なんで?」

「……強くなりたい。君は私よりも強いから」

「強くなりたいって……だったらフィンとかでいいのに」

「君が戦ってる時のあの笑顔に私は怖くなった。だから君に勝つことで私はその恐怖を無かったことにしたい………それに君はあの赤い髪の女の人よりも強いから」

「……ま、別にいいけど……それじゃあ始めようか」

 

漆原が戦いを了承した瞬間、アイズはデスペレートを構える。その様子を確認した漆原はアイズの方へと走り出す。

漆原はアイズに素手で殴りかかるがアイズのデスペレートに止められる。しかし一度防がれたぐらいでは止まらない。何度何度も殴りかかる。

 

「よく堪えるね。それじゃあこれはどうかな!」

 

実際のところ漆原の連続の攻撃を防いでいるのは奇跡とも言えた。本来ならば今頃、アイズは吹き飛ばされて壁に打ち付けられることだろう。そんな状況が起きないのはアイズの『エアリエル』という風魔法をすべて足に集中させているからだ。しかしその様子も長くは続かなかった。

漆原は先程よりも強い力でアイズを蹴り飛ばした。蹴りとばされたアイズは壁に打ち付けられた。圧倒的力の前ではエアリエルであっても無意味だったのだ。

 

「終わったことだし、寝ようかな」

 

漆原はあくびしながらテントある方向へと歩いていく。そしてすぐに漆原は足を止めた。漆原の足を止めたのは微かに聞こえた声。漆原からしたらあの程度の笑顔で恐怖を抱いた女が立っていられるはずがない、そう思っていた。

漆原はゆっくりと目を細めながら振り返る。そこにいたのは……

 

「……まだ、終わってない」

 

立ち上がっていたアイズだった。ボロボロになりながらも目を少しだけ開け、意識があるのも、やっとの状態だった。

 

「……へぇ、やるじゃん。それじゃあ続きやる?」

「………当たり前。エアリエ………………」

 

アイズが魔法の詠唱を始めようとした瞬間だった、ゆっくりと倒れてしまう。漆原は倒れたアイズを見つめながら呟く。

 

「…………ま、立ち上がれただけ良かったじゃん」

 

漆原は背中を掻きながらアイズへと向かっていく。またもや漆原は足を止めた。今度はアイズのような微かな声ではなく、はっきりと聞こえきた。豊饒の女主人で働いてる漆原なら聞き覚えがある声。漆原は嫌な予感がしながらも振り返る。

 

「……漆原さん」

「あ、偶然だね。こんなところで会うなんて……リュー」

 

そこにいたのは緑色のマントを羽織っていて鼻と口を覆面で隠すエルフ。漆原の職場仲間でもあるリューだった。ここは18階層、ゴライアスが倒されている今、level4であるリューがここまで来るのは簡単である。ではなぜここにリューがいるのか。漆原には一つしか答えが考えつかなかった。それは探しにきたのである。漆原半蔵という仕事をサボった男を。

 

「………偶然だと思うならあなたは馬鹿だと罵りますが」

「うん、ごめん。どうせ僕を探しにきたんでしょ?」

「…分かっているのなら良かった。」

「でも珍しいね。心配してくれたの?」

「……シルに頼まれたからです。もしかしたらダンジョンにいるかもしれないと」

「いくらシルが勘が良いからってそれを鵜呑みにする?普通?」

「えぇ、シルが言うなら間違いがありませんから。………しかし剣姫を倒すあなたなら無用だったと思いますが」

「あ、そうだ、リュー!回復薬とかもってない?さすがに放置するわけにはいかないからさ」

 

忘れていないだろうか。先程、漆原はアイズを蹴り飛ばし後、あくびをしながらテントへと戻ろうとしたこと。つまりアイズは蹴り飛ばされて立ち上がったことで漆原の中でアイズという人間は認められたのだ。

リューは回復薬を取り出して漆原に渡す。受け取った漆原はアイズへと近づいていき回復薬を飲ませるその瞬間、アイズはゆっくりと目を開ける。

 

「……私は負けたんだね」

「うん、そうだよ。………でもまぁ、がんばったんじゃない?」

「……ありがとう……そのエルフの人は?」

 

アイズはリューを指差して質問する。漆原はどう答えたもんかと悩んでいるとリューが代わりに答える。

 

「私は漆原さんを迎えにきた者です」

「……そうなの?」

「うん。だからレフィーヤたちには僕は先に帰ったって伝えておいて」

「…わかった。漆原、また戦ってほしい」

「別にいいけど……勝てないと思うよ」

「…いつか絶対に勝つ」

「楽しみにしとくよ」

 

漆原とリューは地上へと向かっていく。アイズはこの後、ウダイオスを倒すという偉業を成し遂げてlevel6へと進化するのだがそこに漆原と戦ったおかげかはアイズ自身も、わからなかった。

 

 

★★★

 

 

シルとミアに怒られている漆原と漆原が帰ったことに気づかずに漆原の胃袋を掴むために4時から起きて朝食を作っていたレフィーヤの悲鳴が同時刻にオラリオであがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。


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