クレストが兎と出会うのはまちがっているだろうか (立花・無道)
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クレストと兎

クレストさんにベルが弟子入りしたらどうなるかな...といった妄想デス。


八歳の春の時期...おじいちゃんが死んだと聞いて、悲しみに暮れていた僕は不思議な人と出会った。

 

「どうした少年...そう顔をふせてばかりいると、そのうち生きる気力を感じなくなるぞ...」

 

冷たい空気を身にまとい、布でくるまれた大きめの箱を背負っていた.....僕より少しだけ大人びた外見のその人は、まるでおじいちゃんと同じような雰囲気で僕に話しかけてきた。

 

「あの?..お兄さんは?」

「私か?...私の名はクレスト...ただの旅人だ。」

「ぼ、僕はベル!...ベル・クラネルです!」

 

これが僕と、水瓶座(アクエリアス)のクレスト...

先生との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、僕は先生に弟子入りすることにした。

本当に感覚的に、この人は強いと理解したからだとおもう。

それから先生には随分と拒否されたが、村を出て行く先生に無理矢理ついて行って、見失っては見つけて追いかけ...

といった行動を数週間ほど繰り返して、僕が先生につかず離れずのスピードで同行できるようになった時、ようやく弟子として認めてもらえた。その後、傷だらけだった僕を手当してくれた先生が、静かな声で「子どもが無茶をするな...」と言った時に、クレスト先生の優しさも知ることができた。

 

 

 

 

「ベル...お前は自分の力に気付いているか?」

「力...ですか?」

「ああ、お前は人の可能性の一部を掴んだ。この力の名は小宇宙(コスモ)という...」

「小宇宙...」

「お前はその力を制御しなくてはならない。目覚めてしまったならばなおさらだ。」

 

 

そこからは数年は、ある意味で地獄だったと思う。

小宇宙をコントロールするために、修行...勉強...修行...勉強...修行の日々...

骨を砕かれること数千回、骨を折られること数百回、先生の小宇宙による冷気によって四肢を凍らされ、凍傷を負うこと数十回...

 

そしてそのまま数年が経った頃、僕は小宇宙を感知し燃やすことができるようになった...

それでもやはり先生には敵わず、日々の修行ではボコボコにされてしまうのだが...

 

「先生の小宇宙は大きいです。今の自分では太刀打ちできません...」

「ベル...それはお前が小宇宙のこと、自身の放つ技の根本を理解せずに戦っているからだ。」

「技の根本ですか?原子を砕くといった破壊の根本なら理解しましたが...いったい何が足りないのですか?先生...」

「そうだ..破壊の根本とは原子を砕くことだ...ならば、()()()()()とは何だ?ベル...」

「冷気の..根本...」

「そうだ..あとは自身で考えよ..」

 

 

 

その後、先生が修行を見てくれることが少なくなった。

冷気の根本とは、すなわち破壊の根本とは似て非なるもの...破壊が原子の分解ならば、冷気による凍結は原子の運動を限りなく停滞させることにある。との考えにたどり着いたとき、先生は「その通りだ..」と薄く笑ってくれたのは素直に嬉しかった。

 

「あの、先生はどうしてこんな風に旅をしているんですか?」

「...そうだな..知りたいからかもしれん...平和とは何か...

現在のモンスターのあふれる世界で平和を掴むにはどうすればよいのか....まこと世界は一時の夢の繰り返しよ...何が正しいのかもわからず...人は信念を胸に、与えられた時と身体で前に進むしかないのだからな...」

「先生は今の世界が間違っていると思っておられるのですか?」

「ベル...世界が正しいかどうかは、人の思いだけでは決められんよ...ただ..」

「..何でしょうか?」

「平和を脅かす存在と、それを守るために死んでいく人々は...少ないほうが良いのだろうとは考えているがな...」

「...先生」

 

その時のクレスト先生はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうな..そんな表情で空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

先生に弟子入りして6年の月日が経った頃、僕の力はセブンセンシスと言われる小宇宙の神髄にようやくたどり着いた...いや、触れたと言ったほうが正しいかも知れない。

 

そんな中、先生は大事な話があると言って僕を呼び...いつものように火を挟んで正面に座らせた。

 

「ベル...お前は今年で何歳になる?」

「えっと..十四歳です...」

「そうか...大きくなったな..」

「あの...先生?話とはいったい?」

「ベル...私は()()()()()()()()()()...」

「えっ...?」

「私は人間でありながら、あまりに長く生き過ぎた...もう私は人間を純粋に見ることはできなんだ..これは友も言っていたが、人は長く生き過ぎてはいかんのだ..」

 

先生はいつものような凛とした表情で、遠くを見つめている。

僕は先生の言葉に、正常な理解が回らない。見た目通りの年齢でないことは理解していたが、それほどの年齢であることなど想像さえしていなかった。

 

「私は維持できぬ平和に嘆き、ただ意味もなく世界を歩き回った。そしてベル...お前に出会ったのだ..」

「先生...?」

「お前はこれから自身で成長しなければならない...私の知るお前は誰よりも情に厚い男だ...」

「先生!」

 

最期の言葉を述べるように続けるクレスト先生に向かって、僕は思わず叫んでいた。

 

「だからこそ冷静(クール)になれ..ベルよ。お前にこの、水瓶座(アクエリアス)黄金聖衣(ゴールドクロス)を託す!」

 

先生の言葉と同時に、先生の後ろにあった箱から黄金の光が放たれ、それはそのまま空を切った...

 

何かが箱から飛び出したと気が付いたときには、僕の身体に黄金のそれが装着されたおり..そこにいた先生の姿は...すでに消えていた..

 

 

 

 

 

 

その後、一晩の間に先生を探し回ったが気配すら見つけられずに朝を迎えた。

どうすればよいかもわからずに途方に暮れていた時、黄金の鎧を装着したままであったことを思い出し、脱ごうと考えたときに、勝手に鎧は身体から離れた。そうまるで意志があるかのように反応したのだ。

 

「黄金聖衣..わかりました先生..僕があなたの意志を継ぎます。与えられたこの時と身体で..僕は少しでも平和を目指します。たとえそれが一時の夢であったとしても...それを次代へと紡いで見せます。クレスト先生...だからどうか...いつか...また会いましょう。」

 

これこそ1人の自覚なき聖闘士が誕生した瞬間であった。

 

 

 

 




この後ベル君は、オラリオに行きダンジョンで黄金聖衣を見られた褐色巨乳の鍛冶師につかまっていろいろとつきまとわれます。
さらには、某酒場で喧嘩未遂になり様々な冒険者や神様、道化のファミリアの方々につきまとわれます。


そして冒険の末に、クレスト先生と再会し、別れの真実を知ることに...

ていうとこまでは妄想しました。


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兎と酒場

短編2話です。
兎がオラリオに到着しました。


「いらっしゃいませー!」

 

店に入ってくるお客さんに、元気な挨拶をするのが私の仕事です。

失礼...自己紹介が遅れました。私の名前はシル...シル・フローヴァと申します。

えっ?アーニャ...誰に向かって話してるのニャって?

フフッ...気にしない、気にしない...

 

さて、実は本日は『ロキ・ファミリア』の冒険者様方が遠征の終了を祝って、私の勤め先である『豊穣の女主人亭』で宴会をなされているのですが...私たち従業員は正直その準備と片付けでてんてこまいでした。

 

そんな時です、店の扉が開き..あの不思議な雰囲気の方が入店されたのは...

 

まるで、冬のようなヒンヤリとした空気をまとい、淡い色の外套を着た白髪の少年が大きな箱を軽々と背負って酒場に入ってきたのです。

 

その方の雰囲気に..私の意識だけでなく、店にいた数十人の意識が集まり...店が一瞬にして静まりました。

なぜだか、その時..私は星屑のような渦が、その少年に集中している不思議な光景を確かに見たのです...

 

 

ハッとして私はいつもの通りの言葉を口にしました。

 

「いらしゃいませー!豊穣の女主人へようこそ!」

 

その時...これが不思議な物語の始まりであることに..私はおろか、他の誰も考えてすらおりませんでした...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレスト先生から黄金聖衣を受け取って、あれから数ヶ月...

僕はとある都市に来ていた。

その地の名は『迷宮都市オラリオ』...僕の赴いた都市は、この世界で唯一()()()()()がある場所だ。

 

「ここがオラリオか...すっかり夕暮れになってしまったな。」

 

門番にじろりと睨まれたが、軽く会釈をすると納得したような表情で通行を許してくれた。

やはりダンジョンがあることで、人の出入りが激しくなり通行の確認はそれほど厳しくないらしい。

とりあえず一安心といったところだ。

 

「まずは、宿を探さなくてはいけないか...」

 

メインストリートらしき場所を歩き始めると、エルフやドワーフ、パァルム、さらには獣人といった様々な種族が歩き回っている。噂には聞いていたが、この目で見て実感できた..この都市は寛容だ。

差別や偏見が決してないわけではないのだろうが..それでも許容し、種族の違う存在が共に生きることができる可能性を示している...

 

「(先生が夢見たのは..このような景色なのだろうか...)」

 

内心でそんなことを思いながら、僕は静かに歩みを進めた。

人間と獣人の子どもが道を駆けていく様子、恋人同士であろう人間とエルフが互いに寄り添って歩く姿...

種族間の違いがあってもなお..それを受け入れ、共に生きる人々の姿に温かさを感じていた時...

一軒の酒場を見つけた...

 

「(『豊穣の女主人亭』か..外観も整備されているし、雰囲気も悪くない...幸いにも金銭には余裕があるからな...ここで良い宿がないか尋ねよう。)」

 

先生と旅のなかで知ったが、こういった場所には情報が集まりやすい...噂であったり、よからぬことの前触れであったりもするが、中には役立つものが多いのも事実である。街の情報を知るには、食材の調達方法...つまり物流の流れを知る人物に尋ねるのが案外効率も良い。

 

そんなことを考えながら..僕は酒場の扉をくぐったのだが、入った瞬間..ウェイターの女性にきょとんとした表情をされてしまった。

 

「い..いらしゃいませー!」

 

「どうかしましたか?..」と口にしようとした瞬間に、ウェイターの女性はハッとして元気な挨拶をくれたが...いったいどうしたのだろうかと疑問が残る。そういえば聖衣を背負っていたな...と自分が珍しい格好であることを思い出して、驚かせてしまったのだろうと理解した。

 

なんだか人の視線を感じて..チラッと見てみると、どうやら宴会の邪魔もしてしまったようで、少し申し訳なく思いながらもカウンターの隅の席にそっと座った。

すると、一人の恰幅の良い女性が軽く音を立てながら、僕の前に水の入ったグラスを置いた。

 

「あんた..見ない顔だね。旅人かい?」

「ああ..貴女はここの女将さんか?」

「よしな!女将さんなんてのは上品な店で使う言葉だ...あたしはミア..ここの店主だよ..」

「自分はベルという..ミア殿、弱めの酒とそれに合う軽い料理を一品お願いしたいのだが...」

「あいよ..シル!弱めの酒を一杯分持ってきな!料理は少し待ってな...今からあたしが作ってやるよ!」

「了解した..楽しみにしておく。」

 

ミア殿はそういって店の奥に消えていった。すると今度は、先ほど驚かせてしまったウェイターの女性が大きめのグラスをもって、近寄ってきた。

 

「ご注文ありがとうございます..こちら注文されたお酒です..」

「ああ..ありがとう..」

 

軽い会釈をして品を受け取ると、女性はじっとこちらを見ていた。

先ほどのことが印象に残っているらしい様子で不思議そうな顔をしている。

 

「どうかしたか?」

「えっ?あ..い、いえ。申し訳ありません、まじまじと見てしまって...」

「いや..こちらも珍しい格好をしている自覚はある。こちらこそ、驚かせてしまってすまない。」

「えへ...じゃあお互い様ですね。あの、わたしはシル・フローヴァと言います。えっと...」

「ベル・クラネルだ。」

「じゃあベルさんですね!ベルさんは冒険者になりに、この町に?」

 

冒険者という単語をきいて思い出した。

 

このオラリオでは冒険者がダンジョンに潜り、そこから生まれるモンスターから採れる『魔石』...

それをもとに加工した製品を世界中に輸出・販売し、都市の経済を回しているらしい。

旅の途中にいくつかの町で見たことがある。

街のシンボルの高級な街灯で、オラリオ製の物を設置している場所も少なくなかった。

オラリオ内ではどうか知らないが、外では個人が所持するにはそれなりの高級品であると記憶している。

 

「いや..冒険者志望ではなく、ただの人探しで足を運んだだけだ。それはそうと今晩の宿を探していてね。どこか良いところを知らないだろうか?」

「宿ですか?..だったら..」

「だったら..何だい?」

「ヒッ!...」

 

突然のミア殿の声にシルは悲鳴をあげて、青ざめた。

ミア殿の声には怒気が含まれており、目は笑わずに口元でだけが吊り上がっている。

 

「サボってんじゃないよ!さっさと仕事に戻りな!!」

「はい!!」

 

そう言ってシルは立ち上がり、こちらに会釈をしてからさっさと店の仕事に戻ってしまった。

ミア殿はその後ろ姿を見て、深くため息をついている。

 

「たくっ!油断も隙も無い!ほら!あんたの頼んだ料理だよ!」

「ああ...感謝する。シルにはすまないことをしたな。」

「別にかまやしないよ...いつもああやってサボってるからね..ゆっくりしていきな。」

 

ミア殿はそれだけ言うとまた仕事に戻っていったが、どうやら彼女のサボり癖はいつも通りらしい。

どうりで初対面の客に自然な様子で話かけることができるはずだ。

 

そんな風に感心していた時に、後ろから聖衣に近づく気配を感じ、振り向くと赤髪の人物が聖衣の入った箱をジーと見ていた。

 

「どうかしたのか?」

「いやーなんや、けったいなもの持っとるなー思うてな。」

「どういう意味だ?」

「なんや自分?気付いてへんのか?それや..それ...」

 

そう言って彼が指差したのは黄金聖衣の入った箱だった。

確かに奇妙な物かも知れないが、布でくるまれているそれを、ただの人間が奇妙な物と断じれる理由がわからない。

 

「なぁーお願いや!それの中身見せてもらえへん?」

 

黄金聖衣を奇妙な物と断じた人物は、こちらの心境など知らずといった表情で手を合わせて、にじり寄ってくる。

 

「すまない、これは大切な物でな。簡単に人に見せびらかす物ではない...」

「ええ~ちょっとでええから頼むわ!」

「すまないが酒を一杯奢るということで、ここはどうか引いてもらえないだろうか?」

「ホンマか!だったら...」

「だったら..ではない!バカモノ!!」

 

見逃してもらう条件を聞いて、嬉しそうに隣に座ってきた赤髪の人物の頭に突然、見事なゲンコツが落ちる。

 

「イッタッ~~!リヴェリア!急に何すんねん!?」

「何をするではない!「ちょっと絡んでくるわ」と言っていたから..心配してきてみれば!初対面の相手に酒をねだるとは...恥を知れ、バカモノ!」

 

「はぁ..」とため息を吐くエルフの女性は、赤髪の人物と親しい仲なのだろう..容赦のないやり取りにも信頼が感じられる。

そんなことを考えていると、エルフの女性はこちらに向き直ってきた。

 

「うちの主神が迷惑をかけてすまない..私はリヴェリア・リヨス・アールヴという者だ。このバカ神のファミリアで副団長をしている。」

「神..そうか..それは失礼をしてしまった。私はベル・クラネルという..ただの旅人だ。だが、リヴェリア・リヨス・アールヴというと...もしや貴女が噂に聞く『ロキ・ファミリア』の『九魔姫(ナイン・ヘル)』...すると神というのは...」

「なんや?うちのオカンのこと知っとるんか?なら話が早いで、うちがファミリアの主神..ロキや!!」

「オイ...誰がオカンだ..誰が..」

 

ゲンコツを食らって悶絶していた赤髪の人物が神と知って、僕は少しばかり納得していた。

普通の人間とは違う..()()()()()()()()()()()()を感じたと思ったのは間違いではなかったようだ。

 

「ベルと言ったか..自分のことが広く知れ渡っているというのは、少しばかり照れくさいが..君はどうしてオラリオに来たのだ?」

「人を探しているのだが..リヴェリア殿はクレストと言う名に心当たりはないか?」

「クレスト...すまないが、聞き覚えはないな。そして、殿などと言うのはよしてくれ。リヴェリアで構わない。」

「そうか..ならば私もベルで構わない。リヴェリア..その名を聞いている人物がいたら教えてもらえないだろうか?私は数ヶ月はこの都市で行動するつもりだ。」

「ふむ..ならそちらの情報と交換できれば幸いなのだが..どうだろうかベル。」

「外の情報で良いならば..できうる限りで提供しよう。」

「感謝する..」

 

そう言って僕が、ほほ笑んだリヴェリアと握手を交わすと、急に周りの視線が鋭くなったと感じたが...どうやらリヴェリアには男女問わずにファンが多いらしい。

美しいエルフで、高慢な雰囲気もない...どちらかと言えば母性的な温かみとやさしさがある女性だ。多くの注目を集めるのは当然と言えた。

 

「難しい話は終わったか?」

「神ロキ..先ほどは知らなかったとはいえ、失礼をした。」

「ええ..ええ..さっきはうちも、名前も言わんかったしな...」

 

神ロキは笑って許しをくれたが、神と言う存在に会うのも初めての僕は、どんなことを言われるかと内心で身構えていた。リヴェリアはいつの間にか隣で果実の飲料を口にしており、どうやらこのまま情報交換を行うつもりのようだ。

そんな彼女から神ロキに向き直り、有名な噂を聞いて気になっていたことを口にした。

 

「しかし噂は当てにならんな...」

「何がや?」

「いや...神ロキは女性と聞いていたのだが、()()だったとはな...しっかりと確かめることの重要性を改めて実感した。」

 

ピキィ

 

 

僕が一言を言い終えて、酒場の空気が変わった..と思った瞬間だった。

 

「う...」

「う?」

「うわあああぁぁぁん!!!アイズたーん!!」

 

誰かの名前を泣きながら叫ぶと、神ロキは一瞬で店の奥のほうへと消えてしまった。

どうしたことかとリヴェリアを見ると...彼女は右手で顔を覆っていた。

 

「どうかしたのか..神ロキは?」

「ベル...非常に言いずらいのだが...」

「んっ?」

「ロキは女だ..」

「.....何だと?」

 

神ロキが去ったテーブルには途方に暮れた僕とリヴェリアだけが残されていた...

 

 

 

 

 

 




ベルの会話の一人称は『私・自分』内心の一人称は『僕』です。


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兎と単眼の鍛冶師

ベルの秘密を初めて知る相手との出会いです。


あれはいつも通り、手前がダンジョンの深層にて武器の試し切りを行っていた時だった。

 

主神様よ。そんな「相変わらずね...」といった呆れた顔をするな。

手前とて、あの時は少し苛立っていたのだ...多めに見てくれ。

まぁ話を戻すとな。そこで出会ったわけだ。

あの男、ベル・クラネルとな..

 

 

 

 

 

「むぅ?やはり切れ味をこれ以上あげると、刀身の耐久力が心もとないか。」

 

中層のモンスターを数体切り倒して、根本から折れた剣を見て、手前は「はぁ..」と溜め息を吐く。

そんな事は関係ないとばかりに、モンスターが再びダンジョンより産み出された。

さらにいくつか装備している試作品の武器を1つ再装備し、それらモンスターを切り裂いて、ダンジョンの壁にもついでにと傷を残す。

 

ダンジョンの修復中はモンスターが生まれないというのは、冒険者やダンジョン探索をする者の常識だ。いくら、手前がレベル5の鍜治師(スミス)といっても、試した武器の良し悪しを考えてるときにモンスターが溢れだすのは、流石にウンザリするのだ。

 

「やはり素材を厳選する必要があるか...あの酒樽はまったく、何が「今回の遠征は失敗して素材が取れんかった...すまんが次の遠征まで待ってくれんか?」だ!」

 

新しい素材で、新しい武器を打つのを楽しみにしていた手前を、すっかり気落ちさせたドワーフの言葉を思い出しその場で苛立ちを隠さずに叫んだ。

その声はダンジョン内に反響して、周囲に広がっていったがそんな事はどうでもいいとばかりに、中層を通り過ぎさらに下層へと手前は進んだ。

 

 

その時だ...外套の下に、黄金の鎧を装着した男が、氷壁を前に佇んでいるのをこの目に焼きつけたのは。

まるで、冬がその場所にだけ訪れたような感覚がして、気づけば息は白んでいた。

その異常さに緊張して、臨戦体勢にはいってしまったのは、仕方あるまい。

 

()()()()()()よ。誰かは知らんが、そう殺気を出しているとモンスターか暗殺者と間違われるぞ...」

 

急な声かけに自身の身体から冷や汗が出て、思わず息をのんだ。

そこで、初めて黄金の男がこちらに振り返り、近づいてきたのに気付いて...その姿に手前は()()()()

 

黄金の鎧とそれを着こなす男は、空中にあった氷片の光もあいまって、幻想的かつ実用的な武具の美しさを両立させていたのだ。

それを理解した瞬間、手前は自分の腹の底が燃えるように滾ったのを感じ取った。

怒りでも悔しさでもない、()()()()()に火が着いたのだ。

 

 

 

そこで、その男に想いのすべてをぶつけたが、最後には逃げられてしまった。

だが、諦めたつもりはない!あの男に必ずあの鎧を拝借しなければな。

主神様よ、気の毒..とはどういう意味だ?

 

おーい主神様!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『豊穣の女主人亭』にてリヴェリアと情報を交換し合い、その後は神ロキに絡まれる前に去れと助言をもらい、さらには良い宿の場所を教えてもらった。何でも昔馴染みの経営する宿らしい。

リヴェリアには感謝と神ロキへの謝罪を伝えて、僕は酒場を出た。僕がいると面倒なことになるらしく、大人しく彼女に従ったというわけだ。。

 

 

 

 

 

それから数日がたち、ある程度ダンジョンについての情報を仕入れた僕は、現在はダンジョンの内部にいた。

現在の階層は25階層、冒険者たちが下層と呼ぶ領域だ。

ここまで来たのには理由がある。僕の目的は『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を()()()()()ことである。

 

 

 

 

 

 

 

27階層まで続く大瀑布である『巨蒼の滝(グレート・フォール)』は、一般人が調べることのできる情報の中でも巨大な滝であり、修行を行うにはもってこいの場所であった。

黄金聖衣をクレスト先生から授かった後も小宇宙と冷気の修行は続けたが、あくまでそれはオラリオ外での話だ。

外では大規模な冷気の使用が難しい。

人を巻き込む可能性や生態系を壊す可能性がある以上、クレスト先生が口にしていた、湖や河川、火口を凍らせる修行は諦め、細かな冷気の修行を行っていた。

 

だが、このオラリオのダンジョン下層であれば話は別である。ここは基本的にモンスターしかおらず、邪魔になっても冒険者はそれなりの実力者でなければこの階層には()()()()

ならば、滝が凍っているという異常事態も自己責任で何とかするだろう。

 

「よし、ここならば良いか..」

 

僕は25階層の中間あたりで足を止めた。ちょうど滝の真ん中が見える場所である。

ここで、この雄大な滝を凍り付かせると考えるだけで、内心ワクワクしている。

 

「フッ..クレスト先生に常にクールでいろと教えられたというのに、まだまだ未熟だ!」

 

僕の心に共鳴するように黄金聖衣が聖衣箱から光とともに現れ、身体へと装着される。

そして僕は、両手を頭上で合わせて握りこんだ。

 

放つのは先生に教わった水瓶座(アクエリアス)最大の拳

その名は...

 

A・E(オーロラ・エクスキューション)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

技を放ち終え、僕は余韻が残るなかで構えをといた。

目の前には、流れる水の音が消え、()()()()()()が巨大な氷壁と変わって存在していた。

 

「...まだまだだな。」

 

未熟...といった思いが頭に浮かぶ、以前に比べて技の完成度は上がっている。だが、それ以上に、先生の技には遠く及ばない。

クレスト先生ならば絶対零度の凍気を持って、決して砕けることのない氷壁を作り出すだろう。

自分の凍気はわずかに、先生の凍気に届いていない。

 

その証拠とばかりに、氷壁の上からヒビの入るような音が聞こえてきた。おそらく、水源を凍らせることができなかったのだろう。

さらには氷壁からはがれた氷片が、雪のように上から降り始めている。

 

「やはり、まだまだ未熟というわけだな。」

 

その直後に、後ろからわずかな殺気が漏れ届いたのを感じ取った。

その殺気と気配に僕は素早く拳を握り、いつでも小宇宙を燃やせるように精神を研ぎ澄ます。

そうして言葉を紡いだ。

 

 

「そこにいる者よ。誰かは知らんが、そう殺気を出しているとモンスターか暗殺者と間違われるぞ...」

 

そのまま後ろを向くと、そこには片目を眼帯で隠し、着物を纏った褐色で黒髪の女性が呆けていた。

こちらが近づいているにも関わらず、表情に変化はない。

よく見ると、上半身は胸にサラシを巻き、薄い着物を羽織るだけというあまりにラフな格好に、僕は目のやり場に困った。

おそらくはアマゾネスであろう呆けた女性に、僕は聖衣からマントを外して女性に羽織らせる。

そこで女性も初めて、ハッとして後ろに一歩退いた。

 

「すまない、こんな氷片が舞う中ではその恰好では寒いと思ったのだが、余計な気遣いだっただろうか?」

「....いや、気遣いには感謝する。手前こそ挨拶もなしに襲撃者まがいのことをしてしまい申し訳ない。」

「大丈夫だ、気にしていない。」

「そういってもらえると助かる。手前の名は椿・コルブランドという...単刀直入に聞くがお前は何者だ?その武具に、少なくともこの滝の状態はお前が関係していると思うのだが...」

「武具に関しては答えられないが、私はベル・クラネル...この滝は私が凍らせた。」

 

僕がそう言うと、数秒の間に何かを女性は考える仕草をしてこちらに向き直る。

 

「そうか...ベルとやら私は椿で構わん。とりあえずだ.....」

「どうかしたか?」

 

僕のその問いに女性は朗らかに笑いながら、近づいてきた。

それに少しの恐怖を感じて一歩退くと、女性は脈絡もなくただ一言を口にした。

 

「その鎧を手前に見せろ。」

「断る!」

 

「脱がされる!!」と危険を感じ、即座に逃げようと踏み出すが相手もまた実力者のようで、加減した動きに苦も無くついてきた。

 

「まあそう焦るな。ただ手前はその武具に興味があるだけだ。一通り見たら、ちゃんと返す。」

「私は断ったのだがな、それに私が言うのもなんだが滝を凍りつかせたことには興味はないのか?」

「ない!手前が興味があるのはお前と、その武具だからな。」

 

迷いなく言い切る姿は、人懐っこい笑みも相まって女性...椿の人柄をよく表しているようだが、さすがにこの黄金聖衣を貸すのはまずいと、僕は小宇宙を燃やしながらそこから逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

その後、完全に撒いたはずの彼女に何度かダンジョン内で捕捉され、しまいには黄金聖衣を脱いだ状態でも捕捉されるようになってしまった。

 

 

こうして僕のダンジョン初日は、アマゾネスの恐怖を知るための日となる。

その後、一週間ほどが経つとダンジョン外でも捕捉されるようになり、撒くのを諦めた僕は彼女とその主神に聖衣を見せるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『裏話』

「ハァハァ...まったくあの男め。手前から何度も逃げ切るとは、一体全体..何..者.だ?」

逃げられてしまったベルを追いかける椿はそんなことを呟きながら、羽織っていたマントに触れ「そういえば...」とその存在を思い出す。

「フム..身体を気遣ってくれた男など、父親くらいだったな。」

大人びた少年だったと彼の顔を思い出しながら、椿はそんなことを口にしていた。

「まあ今日はこれくらいにしておくか、この布の借りもある。」

そう言った椿はどことなく嬉しそうな顔で帰路につく、しっかりと黄金聖衣の一部であったマントを羽織りながら...


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兎と黄金聖衣

お待たせして、申し訳ありません。
実習などで時間が取れず執筆を中断していました。
今回は説明会のようなものですので、物足りないという方がおられるかもしれません。
次回は戦闘と組み込むつもりで構成を考えています。
これからも感想などいただければ幸いです。


「つまり貴方は、この鎧をクレストと言う貴方の師から受け取ったということで良いのかしら?」

「ああ、もっとも先生から一方的に譲り受けたといった感覚だが...」

 

僕は現在、数日前にダンジョンで追いかけられた人物...

椿・コルブランドが団長を務める『ヘファイストス・ファミリア』にて、主神である女神ヘファイストスと言葉を交わしていた。

 

椿がしつこく黄金聖衣を見せてほしいとお願いしてくるため、口外しないという約束の元...椿と彼女が黄金聖衣の話をした、主神ヘファイストスだけに見せるということで納得してもらったのだ。

 

「単刀直入に言うけれど、これは下界の人間(こども)達が『神具』と呼ぶものよ。」

「神具とは何だ?主神様よ?」

「そうね、簡単に言うと神が全力で創った武具かしらね...ただ、これは神具にしては脆い方ね。」

 

「どういう意味か?」と、彼女の言葉を理解できず、僕と椿は首を傾げる。

 

「神具というのは神が自身、もしくは他の神に使わせることを目的に作られるの。だけど、これは全力の神が使うにしては心もとない...黄金聖衣(ゴールドクロス)と言ったかしら。恐らく、これは貴方たちが使うことを前提に神が創りあげた防具だと思うわ。」

「神が...と言うと主神様が創ったという訳ではないのだな。」

「ええ...下界に降りてからならともかく、天界でわざわざ神具を創るなんてやってるのは、戦争をしようとしてる神ぐらいだもの。」

「物騒な話だな...」

 

ヘファイストスは僕の言葉に苦笑とともに首肯を示す。

黄金聖衣に興味深々だった椿は、主神の言葉でさらに好奇心を持ったようで、黄金聖衣を持ち上げて内側を観察していた。

 

「それとこの黄金聖衣の名前だけれど...『水瓶座(アクエリアス)』だったかしら?」

「ああ...先生はそう呼んでいた。」

「水瓶座か、すると他の十二星座の黄金聖衣が存在していてもおかしくはないな。」

 

椿の言葉に僕は、「確かに...」と思った。

この黄金聖衣を受け取ってから特に考えなかったが...

先生のように黄金聖衣を受け継ぎ、弟子に託してきた誰かがいてもおかしくはない。

さらに、これ程の力を宿す神具。逆に狙う者たちがいても不思議ではない。

 

「まぁ、一旦黄金聖衣の話はおしまいにしましょう。正直、私にも詳しいことはわからないから、判断のしようがないわ...」

「むぅ...仕方なしか...」

 

ヘファイストスの言葉に椿はわずかに唸る。

黄金聖衣のことを、さらに詳しく知りたかったのだろう。

僕としても、現在は先生の形見に等しい聖衣のことは詳しく知りたいが、鍜冶神であるヘファイストスが知らない武具のことを知る神など、オラリオ創成神『ウラノス』、時と空間の概念神『クロノス』の二神くらいのものらしい。

その二神と会うには条件が厳しく、神であってもなかなか会う機会は訪れないと有名だ。ウラノスはオラリオにいるが、クロノスに至っては()()()()()()()()()()()()()()()()。世界中にも逸話は残っているが、存在そのものを認知している者は下界にはいないというのが現在の状況らしい。

時を超える力を持つと言われる神...そんな概念そのものである神が姿を隠す理由自体あるのだろうか?

人間嫌いと言われてしまえば、そこまでだが...

 

僕がそんなことを考えていると椿が不意にこちらに視線を向けた。

 

「ならば、とりあえずだ!手前と一緒にダンジョンに行かないか?ベル..」

「...何?」

 

そして、好戦的な笑顔でそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン18階層 通称〈迷宮の楽園(アンダーリゾート)

冒険者の町(リヴィラ)があり、モンスターの生まれない階層

 

そこに、僕と椿はいた。

 

 

「ふむ、ここで休むのも随分と久しぶりだな...」

「すまないが椿、そろそろ目的を聞かせてくれないか?」

 

こちらを一瞥した彼女は、唇に手を当て考える仕草をするとこちらに向き直る。

その顔は得意げで、いかにも楽しいことを考えているといった顔だった。

 

「単純に素材集めだ。この籠を見ればわかるだろう?」

「そうだな。だが、なぜ私が同行する必要があるのか、それがわからんのだが?」

 

そう言うと彼女はため息をついて「これだから堅物は...」と言葉を吐き出す。だんだんと遠慮がなくなってきているのは気のせいではないようだ。

 

「手前はLv.5の上級冒険者だ。」

「...知っているが、どうしたんだ?」

「はぁ、だからお前はダメなのだベル...良いか?上級冒険者はLv.ひとつで実力に大きな違いがでる。それが常識となっている。ところがだ、お前は恩恵なしで手前と同等以上の強さを持っている。これは本来は特殊な事なのだぞ?」

「そう言われてもな。悪いが正直、実感が沸かん。」

 

椿の言葉に、思ったことをそのまま口にしたが彼女は納得とは真逆の表情でこちらを見ている。

ジーという音でも出てきそうな視線に、気まずくなった僕は、彼女の顔とは別の方向に視線を向けた。

 

「ハァ...どうやらお前の師は、俗世の情報には疎い人物だったらしいな。」

「...クレスト先生には文字や数字、星読みを教わった。冒険者に興味がなかっただけだろう。」

 

少しだけ、彼女の物言いにムッとした僕は、考えるよりも先に反論を口にしていた。

自身の未熟は否定する気はないが、それによって先生が安くみられるのは我慢できない。

すると彼女は、少しだけ目を開いて驚いた表情を浮かべる。

 

「どうかしたか?」

「いや、見た目のわりに大人びていると思ったが、そういうところは子どもっぽいな...」

 

そういう彼女は薄い笑みを浮かべて楽しそうにしている。つかみどころのない彼女に、わずかに困惑する。

始めたあった時は荒々しい印象が強かったが、今の椿は猫のような身軽さを雰囲気として纏っていた。

 

「そういえば、お前は歳はいくつなのだ?」

「今年で15になる...」

「ふむ、思っていたより若いな。ちなみに手前はお前よりも年上だ。」

「見ればわかる..がっ!」

 

失礼なことを言ったと思ったのは、無言で高速の突きを腹に受けた瞬間だった。

クレスト先生の攻撃を受けなれていた僕だったが、こんな時に初めて女性の底力と言うべきものを実感することになるとは思いもしなかった。

女性を怒らせると怖いというのは、死んだ祖父も常々口にしていたことだ。忘れないようにしよう...と改めて僕はその教えを魂に刻み込んだ。

 

「手前が見た目通りの歳で悪かったな...」

「そこまでは..言っていない..」

 

思いのほか鋭い一撃に、腹をさする。

これが彼女の言う上級冒険者、本来の力の一端ということなのだろう。油断していたとはいえ、一撃をもろに受けてしまっては、彼女の強さを認めるしかない。

全力で闘えば負けはないだろうが、気は抜けない戦いになるだろうという予感さえする。

 

「まぁ、手前に対しての無礼は置いておいて。ここに来たのは単純に預かってもらった素材を引き取りにだ。」

「引き取りと言うと、まるでこの階層に倉庫でもあるといった口ぶりだが...まさか、リヴィラにあるのか?」

「知っているなら話が早いな、先日下層にて素材を集めたのだが、少しばかり多くてな...1人では持ち帰るのが面倒だったのだ。」

 

彼女はそういったが、ならば今持ってきた籠は...と思いなおした。

椿の方を見ると、その足は明らかに下層へ続く階段に向いていた。

 

「まて!荷物を引き取りに来たのだろう!」

「ああ、だが気が変わった!下層で素材を集めてからここに戻るぞ、ベル!」

「...一応聞いておくが、ここに預けてある荷は、誰が持つんだ?」

「ハハハ...頼んだぞ!」

「初めから、素材を集めるつもりだったな...まったく..」

 

僕は椿に聞こえない程度に愚痴を言いつつ、先を行く彼女に続いた...

やっぱりかと、予想通りの返答に肩をわずかに落としながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後に訪れる闘いの気配に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『裏話』

「おい!聞いたか、滝が凍り付いたらしいぜ!」
「そんなわけあるか!どうせホラに決まってんだろ!」

「騒がしいね...どうかしたのかな?」
「いつものことでしょ...それより団長~~~♥♥今日はどこまで行きます?」
「そうだね...久しぶりにクエストでもどうかな?『下層に響く歌声の調査』だってさ?」
「ねぇ...これ?」
「どうかしたか?アイズ...ん?これは...」
「どうかしたんですか?リヴェリア様...」
「レフィーヤ...これを見てみろ。」
「えっ?は、はい!...これって『ギルド依頼 調査任務 凍り付いた巨蒼の滝(グレート・フォール)』って...ええ!!」

「何々?付近に滝を凍り付かせるほどの力を持ったモンスター出現の可能性あり...上級冒険者数名のパーティーでの受注が望ましい...か。」
「面白そう!!」
「馬鹿!!こんな報酬が低くて、危険度ばっか高いクエストのどこがおもしろいのよ...」
「え~だって、あの滝が凍るなんて今まで聞いたことないじゃん...」
「気に..なるかも...」
「アイズ...お前はそのモンスターと戦いたいだけだろう。」
「あ、危ないですよ!アイズさん!」



ベルと椿がおいかっけこをしてから数日...
1人の少年が気まぐれに行ったことが、地上では大騒ぎになっていた。






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兎と怪人

お久しぶりです。
此方の小説を投稿するのは、本当に久しぶりなのでまずは、謝罪させていただきます。
投稿が遅れて申し訳ありません。
どうかこれからもよろしくお願いいたします。

戦闘描写は難しいですね...


最恐の拳が、ベル・クラネルの眼前へと迫る。常人では反応さえできない速度と、防ぐことを不可能とすら思わせる破壊力。だか、少年は拳を苦もなくさばき切っていた。

それを見ていた剣姫(アイズ)はまるで、目前の空間、その時間だけが止まっているような錯覚を感じていた。

 

 

 

 

 

赤髪の女調教師(テイマー) レヴィスは自らの拳が空を切り続けていることに、怒りを覚えていた。的確に急所を狙った必殺の拳打はただ当たらないのではなく、黄金聖衣を纏ったベルの身体を()()()()()()()()()()

 

「何故だ!何故っ、当たらん!!」

 

レヴィスの叫んだ瞬間、少年の姿は目の前から消えていた。すぐに彼女は後ろに移動した気配に気づき、振り向きベルを睨み付ける。

 

「残念だが、貴女の力量では私に傷を負わせることはできない。」

「っ...!思い上がるなぁ!冒険者!...ビオラス!!」

 

激昂するレヴィスの声に反応して、食人花が2体現れる。地中、下階層からの召喚だった。

 

「フッ...ハァ!」

 

その2体を、ベルは腕を一閃しただけでに凍り付かせる。その光景にレヴィスとアイズは目を見開く。

 

「バカな!...」

 

そして、その一瞬がレヴィスにとって致命的な隙となる。

 

「モンスターを気にする前に、自分の心配をしたらどうだ?」

 

レヴィスは声が左から聞こえたきた瞬間、自らの左腕に違和感を感じとる。

 

「ダイヤモンド・ダスト」

「な!?...ぐッ!」

 

タイムラグなしの凍結攻撃を受けたレヴィスがベルを見ると、彼は右手の掌を此方に向けて構えていただけだった。

 

「(バカな!()()()()()()()()()()()()()()()()()使()だと!?)」

 

ベルの持つ力を知らぬレヴィスが、彼の技を見て魔法を放ったと真っ先に考えたのは当然と言えた。

 

「ガハッ!!」

 

追撃として、ベルの高速の蹴りがレヴィスの腹に突き刺さる。そのまま彼女は、何が起こったのかを理解する前に蹴り飛ばされ、後ろにあった岩を破壊して前のめりに倒れこんだ。

頑強な彼女にとって、自らがダメージを受けていることが信じられなかった。

そんななか、ベルはレヴィスの前まで歩み寄ると同時に問いかける。

 

「さて、貴女は何者だ?なぜ彼女を襲った?」

「話すと..思うか?」

「ふむ、ならばこのまま捕縛しよう。尋問はギルドに任せてな...」

「っつ!ヴィオラス!!」

「新しい食人花!...危ない!!」

 

咄嗟にアイズは叫んでいた。

レヴィスの声に、更に現れた食人花の群れは一部がレヴィス自体を取り囲むように動き出す。

アイズの声を聞くより早く、ベルはそれに巻き込まれないように、後ろに向かって跳んでいた。

だが、さらに沸き出る食人花は、まるで高波のようにベルへと向かって行った。

 

「(ダメ...回避できない!)」

 

アイズは食人花の波が、黄金の少年を飲み込まんとする光景を、まるで走馬灯を見るような心持ちで視ていた。

だが、そんな心配とは裏腹に、ベル・クラネルは着地すると同時に、両手を頭上で組む。

少年の胸中には迫るモンスターへの恐怖はなく、焦りもなかった。彼の胸中には、最大の一撃にて迎撃を行う意思だけが存在していた。

一瞬にも充たない時間で、ベルは小宇宙を自身の臨界へと上昇させる。それに比例して周りの温度は低下していく。岩や草木は凍りつき、空気中にできた氷の結晶は、18階層の水晶から光を浴び煌めく。

周囲の環境を変えるほどの()が、解き放たれる。

 

A・E(オーロラ・エクスキューション)!!』

 

アイズの視界は、白銀に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿とのダンジョン探索の帰路、冒険者の町(リヴィラ)に向かう途中で、僕らは町の方角から煙が上がっているのを視認した。

 

「町から煙か...モンスターにでも襲われたか?」

「ああ...だが、ただのモンスターではないらしい。」

「何?」

 

怪訝そうに眉を潜める椿に僕は言葉を返さずに、正面を見つめる。そこでは、巨大な蛇のようなものが微かに見えた。

 

「蛇、いや巨大蛇(メガロオプス)と言ったところか...」

「いや、どうやらただの蛇ではなく花のような花弁を持っているようだ。」

 

僕と同じように煙が上がり、怒号が聞こえ始めた方角を見ていた椿の言葉に、「なぜ?」そんなモンスターが急に現れたのか考える。

 

「(異常事態(イレギュラー)としてモンスターの大量発生はありうるが、こんな場所で大量発生するモンスターを椿が知らないのはおかしい。つまり、この周辺階層のモンスターではなく下層域のモンスター...)」

 

そこまでモンスターの出所に目星をつけたところで、、冒険者の町(リヴィラ)から、わずかにずれた場所が爆発した。

 

「モンスターと爆発か、今日は随分と物騒だな。」

「言っている場合か、椿!私は爆発の場所に向かう。町の方には君が行ってくれ!」

「了解した!死ぬなよベル!」

「お互いにな!」

 

彼女の激励に返答すると、すぐに僕は高速での移動を開始する。

途中のモンスターに構わず、爆発のあった地点をまっすぐに目指した。

 

「(なんだ?爆発の地点から何かが盛り上がってきている?)」

 

視線の先には緑の塊が巨大化していく姿。目的地まで数十秒と迫った僕は、背に汗が伝うのを感じてさらに加速した。

 

「(まるで先生から聞いた巨人(ギガス)だな...)」

 

標的を巨人に変更しようとした瞬間だった。少女が視線の先で水晶の壁にたたきつけられたのは...

そのまま仰向けに倒れた少女に殴りかかる赤髪の女性を見て、僕は何も考えずに()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

「なに...?」

 

聞こえてきたのは、少女と女性の困惑の声。

僕は女性の手首をつかみ取り、攻撃を中断させていた。

さらに、困惑している女性を腕力のみで投げ飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

動揺しながらも着地に成功した女性は、僕を睨みつけながら忌々しそうに掴まれた右手をさする。

 

「何だ?貴様は...」

「人にものを訪ねる時は、自らの名を口にするのが礼儀と言うものだ。」

「くだらんな、戦場で敵に礼儀を説くとは...何者かは知らんが、邪魔をするなら死ね。」

 

その言葉と同時に彼女は踏み出していた。だが、遅すぎる...

僕はその攻撃を避け、彼女の後ろをとった。

 

「なんだと?!」

 

赤髮の女性は、自身の速さを僕が容易に見切ったうえで後ろをとられたことに驚いている。常人であれば視界に映ることなく粉砕されるであろう一撃に、僕はこの女性が怪物(人外)であることを理解した。そして、その力を人間へと容赦や情けなどなく振り下ろす。最早、人の形をした何かだと本能で感じ取る。

 

「どうやら、少しはやるようだな。」

 

その言葉を合図に、彼女は攻撃を再開する。

僕に向かっての連撃、常人では回避の時間すらない暴力に対して、僕は光速でそれらの攻撃を避け続ける。

 

「何故だ!何故っ、当たらん!!」

 

当たれば必死となるであろう連撃を避け続ける僕に、彼女は苛立ちを込めた叫びをあげる。

数秒間の攻防を終え、数歩分の距離をとった僕は光速での移動を解き、肩で息をする彼女に声をかける。

 

「残念だが、貴女の力量では私に傷を負わせることはできない。」

「っ...!思い上がるなぁ!冒険者!...ヴィオラス!!」

 

彼女の叫びに呼応して現れたのは、花のような蛇のような2体のモンスターだった。

彼女の激昂を表すように、真っ直ぐに僕めがけて襲ってきたが、無策でけしかけたモンスターなどに恐怖を感じなかった。

 

「フッ...ハァ!」

 

素早いが直線的な動きに対して、凍気を込めた腕を振り抜くことで、凍りつかせた。さらに、次の光速移動を開始する。

 

「バカな!...」

「モンスターを気にする前に、自分の心配をしたらどうだ?」

 

横に一瞬で移動した僕に、彼女は驚きを露にする。その致命的ともいえる隙に対して、言葉をかけると同時に僕は技を放った。

 

「ダイヤモンド・ダスト」

「な!?...ぐッ!」

 

半身を凍りつかせた彼女に、僕は油断なく追撃として蹴りを見舞った。そこで感じたのは、まるで岩に触れたかのような重厚感と真逆な手ごたえの浅さだった。

 

「ガハッ!!」

 

蹴りによって吹き飛び、岩を破壊した彼女は前のめりに倒れこんでいた。

あの程度では終わらない。確信のあった僕は、最大限の警戒を持って彼女に近づく。

 

「さて、貴女は何者だ?なぜ彼女を襲った?」

「話すと..思うか?」

「ふむ、ならばこのまま捕縛しよう。尋問はギルドに任せてな...」

「っつ!ヴィオラス!!」

 

1歩踏み出そうとした瞬間に、地面から現れるであろう先ほどのモンスターを想像して、僕は反射的に後ろに跳んでいた。だが、その行動をすぐに後悔した。

現れた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。光速移動に即座に移行しなかったことで、群れから分かれたモンスターが女性を中心にとぐろを巻き、隠すまでの隙を与える。

内心で自身への不甲斐なさを抱きながらも、向かってくるモンスターの群れへと意識を切り替える。

僕は着地すると同時に両手を頭上に掲げていた。

 

「危ない!!」

 

後ろから聞こえてきたのは、先ほどの金色の少女の声だろう。見ず知らずの人物に心配を抱かせたことも、僕にとっては反省すべきことである。せめて、彼女やこの階層にいる者たちをを守りぬこうと思いを込めて、僕は小宇宙を燃やす。高まる小宇宙とは逆に周囲の熱を奪いながら、下がり続ける凍気は周りを霜に覆っていく。

 

僕は小宇宙が臨界に達した瞬間、頭上の組み手(水瓶)を振り下ろす。

 

 

 

A・E(オーロラ・エクスキューション)!!』

 

 

 

そして、世界は白銀に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「逃がしたか。」

モンスターの氷像を砕いた先の地面には、大穴が開いていた。半身を凍らせていたため、おそらくモンスターの口の中に入って土中を移動したのだろうと推測する。

「あ、あの...」
「君は...無事だったか?」
「うん、ありがとう。助けてくれて...」

金色の髪をなびかせる少女は、礼を言うと俯いた。

「ごめんなさい。巻き込んで...」
「謝らないでくれ。私が勝手に割り込んだだけだ。それよりも君の名前は?」
「アイズ...アイズ・ヴァレンシュタイン」
「私はベル、ベル・クラネルだ。」

ここに黄金の2人は邂逅を果たす。


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協力要請

お久しぶりです。
今回は少し短めですが、楽しんでいただければ幸いです。


「やぁ、久しぶりだね...ベル・クラネル。」

「ひっさしぶりやなー!ベールたん!」

「フィン・ディムナ?それに、神ロキか...神ヘファイストスと椿に用か?」

 

僕は現在、拠点を借宿からヘファイストス・ファミリアへと移し、主に椿の世話になっていた。ダンジョンでの赤髪の調教師との戦闘から2週間。ホームの周辺を清掃していた僕は、フィンと神ロキに声をかけられた。

 

「ああ、遠征の件で込み入った話があってね。それに君に伝えておきたい話もあるんだ。」

 

 

 

 

 

フィンの言葉にベルは事件のあと、18階層でフィンと邂逅した時のことを思い出す。

 

 

 

「ベル・クラネルか?どうしてここに?」

「とりあえず、アイズを助けてくれて感謝するよ。それで、君は何者なのかな?」

 

18階層にて食人花を倒しきったあとベルに、最初に話しかけてきたのはリヴェリアと少年だった。

 

「フィン、彼は...」

「わかってるよリヴェリア。彼は敵ではない。だが、だからこそ彼が何者であるのかをはっきりさせておきたい。」

 

そう言ってフィンは真っ直ぐにベルを見る。その視線にベルは、フィンが見た目通りの年齢でないことと、多くの死線を潜り抜けてきた猛者であることを理解した。

そんな視線をまっすぐに見つめて、口を開く。

 

「私は人を探している。少なくとも、今は君達の敵ではないよ。勇者(ブレイバー)

「今は...か。わかった、ひとまず君の言葉を信じよう。」

「感謝する。」

「リヴェリア!アイズ!僕らはティオナ、ティオネ、レフィーヤと合流したら、一旦地上に戻る。詳しい話はその後にしよう。」

 

ベルの言葉に、フィンはリヴェリアとアイズに仲間との合流支持を出す。その指示に従いつつ、3人はベルに軽い会釈をしてその場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らとのそんなやり取りを終え、僕と椿は合流し地上に戻った。この事件はまだ始まったばかりだという確信を抱きながら...

 

「お~い!ベルたん?」

 

ロキの呼びかけにベルはハッとしながらも、すぐに自分の現状を思い出し返答を返した。

 

「すまない、少し考え事をしていた。話については了解した。

神ヘファイストスを呼んでこよう...少しだけここで待っていてくれ。」

「その必要はないわ。」

 

ベルが声のしたほうに振り向くと、ホームの正面入り口の前にヘファイストスが腕組みをして立っていた。

 

「神ヘファイストス...フィン殿と神ロキが貴女と椿に用があるらしい。私にも話があるらしくてな、同席しても構わないだろうか?」

「ええ、わかったわ。それとベル・クラネル...神ヘファイストスって言うのやめなさい。ヘファイストスで十分よ。」

 

ヘファイストスは呆れたような目で、ベルを見てくるが、それにベルは困った顔をする。ベル個人としてはヘファイストス・ファミリアの団員でもなく、上級冒険者である椿の名義を借りていたり、部屋を提供してもらっているだけの居候だ。敬称をつけることは当然であると、彼は考えている。

 

「何よその敬称をつけるのは当然って表情は?貴方、椿は敬称じゃないでしょうが...」

「彼女に敬称をつけるのは少しばかり抵抗ができた。ただ、貴女のことは尊敬しているのでな。善処はしようと思う。」

「そう、ならいいわ。ごめんなさいロキ...待たせたわね。」

 

ヘファイストスはベルから視線を移し、ロキとフィンの方を向く。

 

「いや、別にええんやけど...なんか随分親し気やな?」

「実は、この子が椿の仕事を手伝ってくれててね。あの子は武器を打つのにだけ専念してるわ。」

「あれで、仮にも団長だというのだから、驚きだ。」

 

ベルの言葉に、ロキとフィンは苦笑いを浮かべながらも、そこにわずかな同意をにじませていた。

 

「とりあえず話は中に入ってにしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿の仕事場に近づくにつれて槌の音が大きくなるのを全員が感じていた。

カーン、カーンと途切れながらも小気味よく響くその音はきれいで澄んだ鐘の音をほうふつとさせるものだ。

しばらく進むと、椅子に座り槌を振るう椿の姿が見えた。

その瞬間、ヘファイストスとベルは、フィンとロキの前にそれぞれ右手と左手をかざす。

 

「待って...」

 

ヘファイストスのその言葉から、数分の時間が過ぎると椿は槌を振るうのをやめ、手作業を行い始める。

その動作は手慣れており、熟練の職人の風格を醸し出している。

さらにしばらくして、その動作を終えた椿は、袴とサラシというラフすぎる格好でベルたちの方を振り向いた。

 

「おー主神様!それにベルがきたということは...飯の時間か?」

「違うわよ...ロキたちが来てるわ。遠征についての話し合いよ。」

「おお!そうだったな!」

 

楽観的な椿の態度に、ヘファイストスは呆れながらも説明をする。

すると、こんどはロキが両手の指を怪しく動かし始めた。

 

「やぁ、久しぶりだね。椿」

「相変わらずの、でか...パイやな!ぐへへ~」

「おお!フィンか!それにお主も相変わらずだな、ロキ!」

 

椿はロキの下ネタを無視しつつ、椿の足はテーブルの方へと向かっていく。

 

「ここなら片付いているからな。本題に入ろうではないか!」

「片づけたのは私だろう?」

「ええい!細かいことを言うな堅物め!」

 

椿は自身の言葉に茶々を入れてくるベルに反論しつつ、椅子に掛けてあった布をケープのように羽織る。

 

「なんや?椿、雰囲気変えたんか、いつもならサラシ一枚で部屋ン中うろついてたやんか。」

「ん?ああ、実はなこの男がうるさくてな。」

 

親指でベルを指す椿に、ベルは深くため息をこぼす。

 

「当然だ。アマゾネスのように身体をさらすことを誇りにしているならともかく、例えホームであっても女が袴とサラシだけでうろつくな。はしたない...」

「はぁ...手前は鍛冶師だから関係ないと言ったんだが、この通りでな。なんとか、この格好ならば許しをもらえたのだ。」

 

そういって椿は無地のケープを広げて肩をすくめる。

椿自身は呆れたような様子だったが、それを見るヘファイストスはクスリと笑みをこぼしていた。

 

「世間話はこれくらいにして、本題に入りましょう。」

「そうだね。」

 

本題として挙げられたのは、49階層よりも下の遠征についての話だった。

ロキ・ファミリアが求めたのはヘファイストス・ファミリアの鍛冶師たちを遠征に同行させること。その報酬は、深層のドロップアイテムだった。

あらかじめ決められた内容の確認は、そう時間がかからなかった。

 

「じゃあ、他に確認したいことはあるかしら。」

「そうだね。じゃあ最後に1つだけ...ベル・クラネル、君に遠征への同行を頼みたい。」

 

話をただ聞いているだけだったベルはフィンのその言葉に、はっきりと驚いた。

椿やヘファイストスも同様だったようで、わずかに目を見開いている。

フィンはまっすぐにベルを見つめ、周りもまたベルの答えを待っていた。

しばしの静寂が終わり、ベルはフィンに対して言葉を紡ぐ。

 

「私は冒険者でもなければ、恩恵すら受けていない。それでも力を貸せと口にするか?『ロキ・ファミリア団長 フィン・ディムナ』」

「ああ、冒険者でもなく、眷属でもなく、僕は『ベル・クラネル』。君の力を貸してほしい。」

「それはなぜだ?」

「決まっているさ。僕の野望とファミリアのためにだ。」

 

フィンのギラついた視線を見つめるベルは、しばらくして顔を背け溜め息を吐いた。そして、フィンへと向き直る。

 

「貴方は目的と目標のために手段を選ばない人間であることはよくわかったよ。私も気になることがある条件付きで良ければ力を貸そう。」

「感謝するよ。」

 

ベルの答えに微笑んだフィンと安心したようなロキ。どこか面白くなさそうな顔をした椿、そんな椿を見て微笑むヘファイストス。

この時、ロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの団長、主神を証人とし、逸般人ベル・クラネルのダンジョン下層への進出が決まる。

 

彼らの運命はこの時よりうねりと共に大きく動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




IFストーリー 『白巫女と水瓶座』

「くっ、こんなところで動けなくなるとは!」

自らの足に触れ、感覚を確かめる。すると、鈍い痛みがはしる。

「っ!」

そのまま絶望感と共に、ダンジョンの天井を見上げた。18階層の時間は夜、周りに誰もおらずポーションの入ったバッグもイレギュラーによって崖下に落としてしまった。
治療を頼もうにも、自分の悪名はリヴィラにも轟いていることだろう。
誰も頼れない自分に嫌気がさしていると「足をくじいたのか?」、唐突に声が聞こえた。

「やはり足をくじいていたか。」
「な、なんだお前は!」

上から降りてきたのは黄金の鎧を纏った青年だった。

「なに、女性が空を見て黄昏ていたので気になってな。」
「た、黄昏てなどいない!!」

相手の物言いに気恥ずかしくなって、強気で言い返し、すぐに後悔した。
どうして自分はこんなにも醜いのだろう。偶然であっても、助けてくれようとしている相手にかける言葉ではない。

「少し痛むぞ。」
「っ!?」

足を掴まれて、まず驚いた。
女性に急に触れたことでも、足を急にあげるような姿勢になったからではない。

その男に触れられて、何も不快感を抱いていない自分にたいして...

「ふっ!」
「な!なにを!」

足を固定された後、さらにおんぶまでされる。なのに、身体はそれを受け入れる。そんなおかしな状況なのに、どこか安心感すら感じていた。

「すまんな。あいにくポーションは持っていない。連れがいるから持っているか聞いてみよう。」
「すまない...」
「気にするな。困っている相手を助けるのは当然だ。」
「その、感謝する。わ、私はフィルヴィス・シャリア...という者だ...」

名を名乗る瞬間、恐怖する。
忌まわしい名を呼ばれることは慣れと諦めがあった。だが、なんとなく彼にその名を呼ばれることを心が嫌がっていた。

「そうか。良い名だな。」
「えっ?」

彼の言葉に1つの疑問が生じる。

「お前、もしかして私を...知らないのか?」
「なんだ?有名人だったのか?すまないが、聞いたことはない。」
「そうか。」

安心していた。
責められることがない。彼は私を知らないから、彼に忌まわしい名を呼ばれることもない。そう思うと胸が軽くなったような気がした。
そしてふと、聞いていなかったことへの疑問を知らずに口にしていた。

「名...」
「んっ?」
「お前の名前は?」
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はベル・クラネル。ただの旅人だ。」






これが私『死妖精』と黄金の水瓶座の出会いだった。


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突入前夜

お久しぶりです。遅れて申し訳ございません。
待っていてくださった方々と初めて読んでくださる方々が楽しんでいただければ幸いです。


「ベル...お前は誰か殺さねば事を成せぬ時、一体どうする?」

 

数年に及ぶ旅の中で、たまにある1つのやり取り。

師匠の問いに、僕は自分の身体が固まったのがわかった。そして理解する。師匠は人を殺したことがあるのだと、そして知っているのだ。誰かを殺めなければ誰も救えないことがあることを。

 

「師匠、僕は...」

 

覚悟もなく、何かを口にすることが憚られ、そこで僕の言葉は止まる。

誰かを殺すか殺さないか。きっと今、殺さないと言うのは容易いことだ。それが一番、人間として楽なことだから。誰かを殺すかなど思い浮かべず、今を精一杯生きる事。それは素晴らしいことだと思う反面、心のどこかで...僕はその考え方で守れなかった(お祖父ちゃん)を知っている。モンスターではなく、人による行為であったのなら僕は狂わずにはいられなかったかもしれない。人を醜いと憎んだかもしれない。ありえない、意味のない妄想であるそれはありえたかもしれない真実(IF)でもあった。

 

「ベル...お前は戦う為の力を身につけた。そして、それは誰かの命を奪う力でもあることをゆめ忘れるな。」

「はい......お言葉、胸に。いえ、小宇宙に刻んでおきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かを()()()()()()()...

間違いでもなく、正しくもない覚悟だと思う。

それでも、先生が消えてすぐに選択の日は訪れた。

 

 

僕は人を殺す事で人を救ったその日。

 

すべてを救えない、自分の無力を思い知った...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ダンジョン地下50階層安全階層(セーフティーポイント)野営地

 

 

 

 

「事前に伝えた通り51階層以下に挑むのは特定のメンバーのみだ。」

「待てよフィン...納得いかねぇぞ!」

 

団長であるフィンの言葉にかみついたのは、狼人(ウェアウルフ)の冒険者 ベート・ローガであった。

 

「どうかしたのかい。ベート?」

「どうしたじゃねぇ!そこの白髪野郎が50階層よりも下についてくるってのはどういうことだ!」

 

ベートが指をさした先は、椿の隣に座っているベルだった。

指を指されたベルは、やはりこうなったか。と予想していた通りの反応に溜め息を我慢していた。

ベルはこれまでの戦闘にほとんど参加していない。

単純にロキ・ファミリアの2軍以下メンバーが優秀であったためなのだが、そんな人物が深層のさらに奥に同行するという話に、ヘファイストス・ファミリアとの協力には納得していたロキ・ファミリアの他のメンバーも口には出さないながらも、ベートと同じような反応を見せている。

 

「ベート。僕は確か、ヘファイストス・ファミリアとは別に協力してもらう人物がいると言っておいたはずだよ。」

「実力も素性もわからねぇやつを、同行させるなんて話は聞いてねぇぞ!!」

 

にらみ合う2人に周りは無言のまま成り行きを見守っている。

フィンを愛していると公言しているティオネですら、困惑するようにフィンを見る。

当然ながら、ダンジョンを知る全員が、足手まといになりうるかもしれないベルを最前線に連れて行くことを訝しんでいた。

 

「そこまでにしておけ。」

 

不穏な空気が生まれ始める中で、当事者であるベルが話に割って入る。視線がベルに集まる。

 

「あぁ?なんだてめぇ、だいたい何者だよ雑魚が。」

勇者(ブレイバー)、彼の言う事は尤もだ。彼が納得しないのならば私はここに残ろう。」

 

ベルの言葉に、全員の目が見開かれ表情が驚きに染まる。

 

「君も君で何を言い出すんだい?」

「当然だろう。信頼も信用も得ていない状態で死地に同行しても、不利な要因にしかなりえない。迷いや雑念があれば死ね。この先はそういう場所なのだろう?」

 

にらみ合いが、ベートとフィンからフィンと見知らぬ男に代わり、蚊帳の外へと追い出されたベートは怒りに染まった顔で歯ぎしりしている。そんなベートから周りの者が離れ始めたとき、フィンがため息を吐く。

 

「余計な混乱を避けるために言わないで置いたが仕方ない。ベート...彼は君も戦った赤髪の調教師に()()()()()()()人物だ。」

 

フィンの言葉にベートは明らかに顔色を変える。

 

「ハっ!手傷ってんならアイズも負わせてるだろーが!」

「違います...ベートさん」

「なんだよアイズ?テメエもあと一歩のとこまで追い詰めただろーが。」

「その人は赤髪の人に何もさせませんでした。」

 

アイズの発言を聞いて、ベートは疑わし気にベルへと視線を戻す。値踏みするようなその視線をベルは、飄々とした態度で受け流す。隣にいる椿はその態度を見て、からかうように「爺臭い...」とこぼしたが、ベルはそれを無言で無視した。

 

「けッ!勝手にしろ!」

 

吐き捨てるように、そう言って視線をベルから外したベートを見て、フィンは咳払いをして視線を集め直した。

 

「異論があるものは、今のうちに名乗りでろ。彼を参加させるのはパーティの生存率を上げるためだ。それ以上でも以下でもない。僕は彼を信頼できる人物だと思っている。」

 

フィンの言葉に顔色を変え全員が静まりかえる。そこにあるのは、団長に対しての敬意と信頼。

しばらくしても意見が出ないことで、その沈黙を納得と認識したフィンは、解散と就寝を命じた。

 

 

 

 

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「ねぇラウル...」

「んっ?どうかしたんすか、アキ?」

 

テント内での準備の途中、不意に同僚の女性猫人、アナキティ・オータムに話しかけられたラウルは、隣で作業を継続しながら返事をする。

 

「あの冒険者なんだけど、見たことある?」

「自分はないっすね。だけど、団長やアイズさんのお墨付きなんすから心配しなくてもいいんじゃないッスか?」

「そうなんだけど、やっぱり自分の行ったことない場所に、無名の冒険者が足を踏み入れるっていうのはなんか気になるのよ。」

 

アキの言葉を聞いて、ラウルは少し驚いてニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「アキ…そういうのを嫉妬って…ごっふ!!」

「調子に乗らない…ラウルの癖に。」

 

アキの肘打ちがラウルの脇腹を捉える。アキはそのままラウルを見もせずに、作業を続ける。

 

「り...理不尽っスよ、アキ...」

「下らないこと言ってるからよ。」

 

脇腹をさするラウルの言葉をアキは、ぴしゃりと切り捨てる。彼らはロキ・ファミリアの古参メンバーであり、フィン・ディムナという人物が不要な行動をしないと知っていた。

 

「ですが、やはり素性については調べたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「アリシアもやっぱり気になるの?」

 

アキの言葉に首肯を返したのは、エルフのアリシア・フォレストライト。ロキ・ファミリアの中核を担うメンバーの1人である。エルフらしく美しく整った顔立ちだが、この時ばかりはわずかであるが眉間にしわが寄っていた。

 

「当然です。あの方は以前、酒場でリヴェリア様と対話されていた人物。オラリオの外から来たそうですが、そんな方がどうやって団長やリヴェリア様を納得させるだけの強さを手に入れたのでしょう?」

 

アリシアの言葉にその場にいた全員がわずかに唸る。オラリオの冒険者の強さは外の恩恵を持った人間の強さとは一線を画している。理由としては、外のモンスターとダンジョンのモンスターの強さの違いがあげられる。稀に外でもレベル2や3の力を持つもの同士で殺し合い、レベルを向上させるものがいるが、ベルがその類とはラウルやアキたちはどうしても思えなかった。

 

「こんな大人数で考え込んで、どうしたのだお前たちは?」

 

全員の思考を打ち切らせたのは、物資保管用のテント内に顔を出したファミリアの幹部 リヴェリア・リヨス・アールヴ。その人だった。

数人がリヴェリアの質問に対して、言葉に詰まらせるなかで少ししてアリシアが口を開く。

 

「リヴェリア様、実は...」

 

 

 

 

 

「なるほど...確かにお前たちの心配は尤もだな。奴がもしも怪人(クリーチャー)ならば、私たちは後ろから襲われて全滅だろう。」

「そ、そこまでは流石に...」

「私が聞いた話では、彼以上の力を持った師がいたらしい。」

「その師匠が修行を付けたということですか?」

「おそらくな...下界は広くレベルという物差しでは測れない力も少なからずある。ということだろう。」

 

全員が驚く中で、最も頭のキレるアキだけはリヴェリアの言葉にある違和感を聞き取った。

 

「ねぇリヴェリア。レベルじゃ測れない力って、彼ってレベルはいくつなのよ?」

「んっ?そういえば言っていなかったな...」

 

珍しくバツが悪そうにするリヴェリア周りは首を傾げる。リヴェリアとしては伝えておくべきタイミングを誤ったという思いで、額に手を当て彼に関する恩恵の話をすべきか迷っていたが、しばらくして「突入前に伝わるよりマシか...」と思い直した。

 

「彼は恩恵を受けていない。」

 

「「「はぁ!?!?」」」

 

「驚きは理解できるが落ち着けお前達。」

「ですが、リヴェリア様!?そんなことがあり得るのですか?恩恵を持たずにあの外見で、オラリオの頂点に届くほどの強さを?」

「ロキや神ヘファイストスに確認を取ったが、それが事実であり真実だ。怪人が人外の力を受け入れた怪物、我らが神からの可能性を掴んだ者達だとすれば、彼は人の身で可能性を乗り越えた者...なのかもしれんな...」

 

 

 

 

リヴェリアの言葉に対して、皆が息を呑みながらも喧騒はしばらく収まることがないまま夜は更けていった。

ダンジョンの深層への階段、そんな喧噪すら飲み込む闇が彼らを見つめながら...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近はシンフォギアとダンまちのクロスとか書ければ面白いなーと思っています。
響がロキ・ファミリア幹部の3巨頭と同期で、オラリオの若者を導く、もちろん歌と拳で。二つ名は『拳姫』か『鋼拳』。アストレア・ファミリアは救っていて、闇派閥の依頼で口封じの相打ちを狙われたルノアとクロエを救い、女主人へと斡旋。ルノアを弟子に、クロエはまぁ恩は感じてる。ロキ・ファミリア2大オカンの1人として奮闘しているが、婚期が遅れ過ぎた(40代半ば)ことを少しだけ気にしていて、年齢のことを言われると「こんなおばさんじゃ頼りないよね...」と落ち込む。(基本的にベートが言ってくる。たまにロキ。)シャクティとは拳闘を高め合う友人。

誰かクロスオーバー書いてくれませんかね?


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