底辺プロトレーナーぼく、明日から頑張る (ねこまんま)
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1話
〜注意事項〜
①作者はサンムーンを知りません
②世界観はアニメとゲームを合わせたスタイルです
③技はポケモンの力量次第では4つ以上覚えられます
④主人公はニートで類まれなるクズです。王道よりも邪道を好む方にオススメです
⑤作者は文章レベルはこれで精一杯です。あとたまに寝惚けながら文字を打つため脱字が多いためスルーや報告をお願い致します。流し読みも可です
〜ジョウト地方のライゴウの峡谷〜
薄暗く淀んだ雲から雷鳴が轟き渡るこの土地の地面は鋭利な亀裂によりできた穴が幾つも目に入る。地面は乾きかっており環境の過酷さを物語っていた。何かしらのきのみのなっている木を発見するが、乾燥した土地に適応しているのだろう、とても立派だ。
そんな峡谷を場違いなタクシーが突き進んでいた。人の文明を拒むかのように舗装されていないでこぼこ道はタイヤに微かに傷をつける。上下に揺れを感じる車内で地図を片手に運転手は客に声をかけた。
「お客さん、本当に彼処へ行くんですか?とても危険なところですよ。」
心配そうに訪ねた客は黒く逆立った髪に無精髭を蓄えた30代の男だった。アロハシャツに小太りな体格である。
「ガハハハハハ、過酷でなきゃ修行にならんよ。」
豪快に笑い飛ばした男の名はテッセン、ホウエン地方のキンセツシティのジムリーダーである。ジョウト地方で顔が知られていないのは当然であるが彼は少し寂しい気持ちになる。しんみりとした空気が嫌いな彼だが、それ以上は何も言わなかった。運転手の心配をかけているのに騒ぎたてるのは褒められたことでないと思ったからだ。
凄腕のトレーナーであることを運転手は彼の醸し出すオーラで悟ってはいたが、止めても無駄だと考える。それが強さを求めるトレーナーの本能だと知っていたからだ。それよりも自分の知る情報を伝えて無事に帰れるよう応援した方がいい。
「確か昨日の夜に山火事が起きたばかりなんですよ。幸い嵐だったので炎はすぐに沈静化したようですけどね。」
彼は最近の気候やここら一帯に生息するポケモン、生えているきのみの種類や水源、雨風をしのげる洞窟があることなどをテッセンへ伝えながら奥へ奥へ進んでいった。
***
数十分後
でんきタイプの巣窟にして過酷な秘境だと密かに知られている峡谷である。一年のおよそ半分が雷雲に包まれる気候のため、地面だけでなく大木までも亀裂が至る所に出来ていた。気候の変化の激しさから人はほとんど住んでいない。
この激しい気候を引き起こしている要因はあるポケモンにあると言い伝えられている。
雷と共に落ちてきたという伝承からここら一体の守り神として祀られており、その姿を見たものには幸福が訪れると言われている
たびたび何処かから情報を聞きつけたトレーナーが探索へ出て遺体となって帰ってくることもそんなに珍しくことではなかった。
そんな場所へ先ほどの男性が現れた。彼の名はテッセン、ホウエン地方にあるキンセツシティの“でんき”使いのジムリーダーである。
タクシーの運転手が危惧していた状況とは異なり、現地のポケモンと交流したりバトルを行うなどの平和な日々を送っていた彼はとあるポケモンと遭遇した。
巨大な黄色い犬のようなフォルム、サーベルタイガーの如く鋭い二本の牙は剥き出しとなっており、背中からは雷雲を連想させる紫色の体毛が伸びている。チャンピオンや四天王クラスのポケモン達が放つ強者の風格を感じずにはいられなかった
ライコウ、伝説のポケモンそのものである
テッセンはその姿に全身を震わせて歓喜した。彼はジョウト地方へ行き先を決めたのはライコウを一目見るためであった。あまり期待はしていなかったのだが、身体の奥底からライコウと戦い仲間にしたいという感情が芽生える。
しかしライコウの口元を見て一気に全身の火照りが冷めていく。
そこには少し黒く汚れている白いカバーオールを身につけた赤子がライコウにくわえられていたのである。牙は肉を傷つけてはいないものの首の後ろ辺りの服には穴が空いている。テッセンが察するに民家から赤子を攫ってきたたのではないかと考えた。
(伝説のポケモンと手合わせできる機会とは言え、赤子の命の方が大事じゃ。)
彼は相棒であるポケモンともう一体の入ったソフトボール程の大きさの丸い球体に手をかける。円の真ん中から一周を境界線として赤と白のデザインであるモンスターボール。
そこから真ん中のスイッチを指で軽く押すと半分にパカンと割れて眩いほどの白い光と共に2匹のポケモンが現れる。
「行けい、ライボルト、デンリュウ!」
狼のようなフォルム、真っ直ぐに上へ伸びている鬣が特徴の電気ポケモンのライボルト。その隣には同じく電気ポケモンのデンリュウ、可愛らしい竜のような身体、尻尾と額に丸く赤い球体がついている。
双方ともにテッセンがジムリーダーに着く前から鍛えに鍛えたポケモンである。つまり彼が本気で戦う時にしか出す事のない最強のパーティの一角であるのだ。電気ポケモンを極値を追い求め続ける数多のトレーナーの中でも最も限界に近づいたテッセンにとってそれは転職であり、その道を歩む者達にとって最高の栄誉であるその座についた。
当初はやる気に満ち溢れたテッセンであったが、トレーナーの成長を促しながらも才能なき者をふるいにかけなければならない。建前上は前者のみ公式認定されているが、後者は隠されてはいるものの暗黙の了解として存在している。
トレーナーという職業は完全な実力社会であり強い者は財産、地位、名誉の全てが手に入る。だがそうはならなかった者達の末路は悲惨である。中途半端な実力では食っていけず、学のないためにフリーターとして生きる人生ならばまだ良い。中には人としての道を踏み外して密猟者や強盗として世間に害をなす者がいるのだ。
そうならない為にはトレーナーとして旅をさせない事が最も効果的な対策だが、10歳で大人として扱われるため親の制止を振り切る事ができてしまう。そこでジムでは才能を感じない未熟なトレーナーには完膚なきまでに叩きのめし、引退させて社会人として生きる道を選ばせてやらねばならない。これにより労働力を確保しつつ闇落ちトレーナーを減らす事ができるのだ。
テッセンは事務的なバトルで挑戦者達の相手をしなければならない。相手のレベルに合わせながら戦う中で、時に無慈悲に蹴散らし、時に加減をしながら潜在能力を引き出すという“裏マニュアル”に従うのに嫌々していた。
それだけでなく、ポケモンリーグから支給されたポケモンで戦わなくてはならないので彼と苦楽を共にした仲間は主人の業務でまともな修行ができないのでバトルから身を置く退屈な日々を送るだけだった。そこで彼は有休を取って当時の勘を取り戻すことにしたのだ。
二体とも主人の声に返事をする様に軽く鳴き声をあげて応える。強者特有のオーラを放つ伝説のポケモンを前にしても物怖じしないのは流石はジムリーダーのポケモンだと言えるだろう。
「ライコウよ、ワシの名前はテッセン。その子供を置いて去ってはくれんか?争いたくはない。」
ライコウは警戒する様にテッセンとそのポケモン達を睨みつけながらも服の裾を噛んで持ち上げていた赤子をゆっくりと地面へ置く。彼は安心したように安堵をした。自分達の望みを受け入れてくれたと考えたからである。しかしまた彼はヒヤリとさせられた。
「あぅぅ・・・。」
赤子は無邪気にライコウの頬をペチペチ叩き始めたのだ。だがライコウはそれに慣れているかのように無表情で受け入れている。テッセンがその様子に軽く驚くとライコウは前に軽く跳躍して赤子を背に戦闘体制に入った。まるで母親が外敵から子を守るかのように
(まるで赤子の親代わりをしていると思わせられたのは気の所為じゃろう。)
テッセンは今のライコウのやり取りでそんなことを考えたが、すぐに考える事をやめた。そんな事はどうでもいい、今は赤子を守るために全力でライコウと向き合うしかない
ライコウが空へ浮かぶ雷雲へ向けて大きく咆哮をすると、周囲一帯に稲妻が走る。テッセンはビリビリとプレッシャーを感じながらもライコウから目を背けることはなかった。
「デンリュウ、“あやしいひかり”!」
ジムリーダーであるテッセンは怯むことなく彼のポケモンへ指示を出す。デンリュウは先端に赤い球体のついた尻尾をライコウへ向けると紫色の光を発した。
それを凝視してしまったライコウは目を閉じて朦朧とする意識を抑えようとする。“あやしいひかり”は相手のポケモンを“こんらん”状態にさせる作用がある。それは意識が朦朧として自分の頭を地面に叩きつけたりなどの自傷行為をしてしまうことがある。
「今じゃ、ライボルト。“ずつき”ッ!」
ライボルトは持ち前の俊足を生かして弾丸の様に間合いを詰め、ライコウの脇腹へ向けて“ずつき”攻撃をする。
痛みに顔を歪めるライコウは視界を奪われているため全方位に“スパーク”を使い、ライボルトに距離を取らせようとした。
だが放電のように放たれた“スパーク”はまるで砂鉄が強力な磁石に吸い寄せられるかのように全てがライボルトへ全て向かう。
その電撃はライボルトを襲うことなどなく全て身体へと取り込まれるように吸収した。
テッセンのライボルトの特性は“ひらいしん”、これは“でんき”タイプの技を引き寄せ無効化すると同時に自身の“とくこう”があがる効果がある。
ライコウは伝説のポケモンであるため基礎能力が他の追随を許すことのないほどに高い。ごく稀にトレーナーが伝説のポケモンを従わせているのを見た事があるが、蹂躙するかのように大半の一般ポケモンをなぎ倒していた印象がテッセンにはある。
だがライコウは伝説と言えども“でんきタイプ”のポケモン、得意技が完全に封じられれば随分と戦い易くなるはずである。
「ライボルト、ライコウの前足に“こおりのキバ”じゃ!」
ライボルトは己の牙に冷気を纏うと即座にライコウの前足に噛み付いた。患部からゆっくりと凍結していくように氷が広がっていく。
するとライコウは“こんらん”が解けたのか、ライボルトの首元へ向けて“かみくだく”をしようと口を開いた。
だがテッセンはライコウの次の攻撃が“かみつく”か“かみくだく”であると見抜いていた。
「デンリュウ、“ほのおのパンチ” 」
デンリュウが己の拳に炎を纏うとライコウの顔を殴りつけた。ライコウは“かみくだく”を中断させられ頭を後方へよじらさて右へ2、3歩動かさせられる。
「2人とも、離れよ!」
ライボルトとデンリュウは指示通りにライコウとの距離を取った。
微かに疲れを見せるライコウとは違いテッセンのポケモン達はまだまだ余裕の表情を見せている。あとはライボルトの“どくどく”を放ち、デンリュウの“リフレクター”や“ひかりのかべ”で耐えればいいだろうと彼は判断した。
だが伝説のポケモンはそんなに甘くない
ライコウは空へ向けて咆哮をすると天から流星群でも降ってくるかのように周囲一帯へ
激しい“かみなり”がライボルトを襲うが彼は避ける事なく全てを受けようとするが、一本目を受けた瞬間にそれが過ちであったと確信した。そこから回避しようとするが彼の特性“ひらいしん”はそれを許さない。雷の雨は激しい土煙を舞わせ、やがて数秒後に全てが晴れる
そこには電気がピリピリと漏れながら倒れているライボルトの姿があった。ライコウの放った強力な電撃を凌ぐ事ができず彼のキャパを遥かに上回ったためにショートしたのである
テッセンは目の前の光景に絶句しつつも戦闘不能になったライボルトをモンスターボールへ戻した。
幾重にも重ねた策を圧倒的な火力のみで全て吹き飛ばしてみせる芸当など一般ポケモンでは到底できるわけもない。でんきポケモンのエキスパートとしては力量の差を認め、此処で手を引くのが有終の美というモノだが彼はそうしなかった。
赤子を取り返さなくてはいけないという使命感の前では恥やプライドなど始めからなかった。
ライコウは今度はデンリュウへ向けて“10まんボルト”を放った。鈍足である為に避けられなかったが、そこそこ高い耐久力はなんとか凌ぐことができたようだ。しかし強力な電撃であったのか少しふらふらしている。
「くぅ、“パワージェム”じゃ!」
テッセンはデンリュウの様子から長期戦は悪手だと判断して攻撃を支持する。地面から幾つかの岩がくり抜かれ浮き上がると、そのまま前方へ向けて放たれた。
だがデンリュウの“パワージェム”は少し狙いが外れてしまった。百戦錬磨の達人であるテッセンが焦りからデンリュウのダメージを軽く見てしまっていたらしい。それだけ焦りを感じていたのかもしれない。
岩の塊はライコウから逸れて地面へ寝かしてあった赤子へ向かって行ったのである。
「いかん!デンリュウ、抑えるんじゃ!」
だがその指示はデンリュウに届く事はなかった、“パワージェム”を撃ち終わると同時にゆっくりと前へ倒れたのである。
テッセンは大声をあげて止まれと叫ぶが勢いは一向に衰えない、そして岩石の塊達は赤子までほんの30センチほどまで距離は縮まった。
そしてそれらが赤子へ命中するかしないかの刹那に1つの影が素早く割って入る。
ーーー、それはライコウであった
ライコウは電撃を放つ事はなく目を瞑り“パワージェム”を己の身体のみで受けきった。テッセンはその不可解な行動を見終わると同時に全てを理解した。電撃で岩を破壊しなかったのは側にいる赤子が感電してしまう恐れがあったからだ。
「まさか、この子の親をしておるのか?」
ライコウはその質問に答えることはなく、こめかみに筋を入れて怒り狂い雷の如く咆哮する。テッセンはデンリュウをモンスターボールへ戻すと、跪いて頭を下げた。
「すまぬ事をしたな。ワシはてっきり赤子を連れ去ったのかと思っておった。」
テッセンが謝罪をするとライコウは少し意外であるかのような表情をする。そして赤子の服の裾を加えて何かを伝える為に付いてくるよう軽く吠えた。
赤子を咥えたままであるライコウのあとを追うように歩き続けて一時間ほどすると、火事で燃え尽きてしまったような村があった。
民家は焼き爛れており一部の柱のみが木炭のように焦げている。ときおり紙のようなモノがあるが雨水に濡れたのかぐしょぐしょになっている。
ライコウは脇目を振ることなく、焼き焦げた民家であろうモノの目の前で立ち止まる。そして焼き焦げた瓦礫の上にタンと飛び乗ると足場を軽くポンポンと叩いた。
「やはりそうだったか、お前は赤子を救ったのだな?この家が焼け落ちる前に」
ライコウはテッセンがそう言うと軽く頷いた。事実、数日前の午前2時ごろ、落雷が落ち偶然にも民家へ引火してしまったのである。それらは次々と他の家へと燃え移り村人が気づいた頃にはもう手遅れなほどに燃え盛っていた
ライコウはその火事の現場へ現れるとそれを沈静化する為に“あまごい”を使用した。その後、彼は耳を澄ませると赤子の泣き声が聞こえてきたのである。そして燃え盛る民家へ飛び込み救出して今に至るのである。
テッセンは涙を流してこの火事で亡くなった者達へ哀悼の意を表する。そして焼き焦げた遺体を一体ずつ回収し、1つにまとめて埋葬をすることにした。テッセンはほぼ丸一日かけてお墓を作り上げると手を合わせて彼らの冥福を祈った。
そしてジュンサーさんへ連絡して下山をしようと決めたテッセンがポケウォッチを取りだそうとすると、ライコウが彼の目の前にやってきた。何事かと考えたが、ライコウは咥えたままの赤子を彼へ受け取れと言わんばかりに突き出した。
「わかった、ワシが必ずや一人前に育ててみせよう。」
テッセンはライコウへそう誓うと受け取った。赤子は名残惜しそうに声をあげながらライコウへ手を伸ばす。
ライコウはそれに応じるように顔を赤子へ優しく擦り付ける。機嫌がよくなり笑顔になった赤子を一目見ると彼はそのまま立ち去った
テッセンはライコウの背中が視界から消えるまでずっと見つめていた。
***
〜14年後〜
<キンセツシティ>
ホウエン地方のほぼ中心部に位置する大都会である。ここには育て屋やゲームセンター、そしてなによりもキンセツジムがあるのが特徴だ。
そしてキンセツジムのすぐ側にある大きな一軒家に2人の親子が住んでいた。父親は小太りで髪の毛はあと数年で絶滅するようだがこの街のジムリーダーである。それに対して息子は父親と似ずにかなり整った容姿だった。イケメンというよりは可愛らしい容姿をしており、よく
女性のようにさらさらとした黒髪で肌は雪のように白い。体はまだ未発達でありながらよ身長も年相応であるが筋肉や贅肉はほとんど皆無であった。
「・・・というのがワシとお前の出会いじゃ。」
テッセンは息子であるミントにかつてジョウト地方での出来事を語っていた。昔話を聞き続けている息子を見て彼は豪快に笑い飛ばした。この話は毎年、この時期になると恒例行事の様に語り続けていたのである。通常であれば隠すべきことであるかもしれないが、隠し事が苦手で辛気臭いのを好まない彼は息子が成長するごとに度々話していた。
「ワシとお前は血は繋がっとらん!じゃがな、お前は儂の息子じゃ。」
テッセンはガハハハと笑いながらミントの肩を激しく何度も叩く。親父は変わらないなという顔をして息子はくすりと笑う。
「当たり前だろ、ところで親父。」
ミントは爽やかに笑うと彼は突然、いつになく真剣な表情で父をジッと見つめる。それを見たテッセンは軽く目を見開いて驚くと笑うのをやめ、彼の言葉を待つ。息子のこんな顔を見るのは久方ぶりだろう
「・・・生前贈与を考えてみないか?」
彼の決意が果てしなく裏目に出たのか息子は救いようのないクズニートに成長していた。
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2話
ポケットモンスター、縮めてポケモン
人々は時に仲間として
時にペットとして
時に戦友として
共生し助け合いながら生きている
特にこの世界で最も重要で圧倒的人気を誇るモノはポケモン同士を戦わせて勝敗を競うポケモンバトル。若き少年少女の多くは最強のトレーナー達の一角である地方チャンピオンになるべく旅をして挑戦資格を得る第一開門のジムバッチを集めるのだ。
そしてそんな星の数ほどいる未来あるトレーナーの中の一人、厳しい修行の末に鍛えあげられた屈強なポケモン、百戦錬磨のバトルの末に身につけた冷静な指示、強さに溺れることなく顕著に高みを目指す鋼の意志を持つ
まさしくチャンピオンになるべくしてこの世界に産声をあげた若きポケモントレーナー
この物語は今はまだダイヤの原石でありながらも未来のチャンピオンになる男の話などではない・・・
ただのクズニートが1日1日を気紛れに退屈に言い訳を垂らしながら日々を消化していく日常を纏めたある意味、斬新で作者の闇すら感じるコンセプトの作品である。
***
〜キンセツシティ〜
僕はミントである、定職はまだない
人は生きる為に働くのか、それとも働く為に生きるのか、その答えを探すことに1日を消化する忙しくも充実した日々を送っている。
僕の父はとてもできた人である。ジムリーダーというトレーナーにおいて圧倒的勝ち組のステータスを持ちながらも不遜な態度をとることは僕の知る限りで一度もない。趣味はジムの改造をしながら後継者の育成に力を注ぐこと。本職では数多の挑戦者の越えるべき強固な壁として立ち塞がることである。
頭部からバルビートの“フラッシュ”が如くまばゆき閃光を常日頃から発し続けているとしても理想の父として誇りに思えてくるはずだ。
いつの日かその壁が顕微鏡の反射鏡のように僕の目を保護してくれることを願っている
彼と出会ってから不自由なく生きてきたし、ほとんど楽しいことばかりだった。このまま時が永遠に止まれば良いのにと常日頃から思っている。もちろん永遠にニートでいたいからではない、僕はただ定職を持ちたくないのだ。
父は僕が働かないことが悩みのタネのようだが、大人でありながらも子供のような心を持ち続けることも大事だと思わないのだろうか
彼は己にあった仕事に勤めることで幸せを感じる日々も悪くないのだ。がははは、がはははと人生の先人たる有難い言葉を頂いた。だが考えてもみて欲しい。
幸せとは自らが探して手にするようなモノではない、なんでもないような日常を幸せだと感じる心を手に入れるべきだ。むろん感受性が豊かなこのミント(14歳、ニート)はギャルゲーに勤しむ日々を幸せだと感じている。
まぁ冗談という名の戯言はさておき私は父の事が好きであり関係も良好である。反抗期という定義で曖昧化した子供の
そんな父は今日も新たなチャレンジャーを阻むキンセツジムのジムリーダーとして君臨している。そのころ僕はリビングで料理番組を見ていた。
“ニャースのねこまんま教室”、これは名番組と言ってしまえば過言である。だが個人的にはかなり好みだ。料理研究家のマダムが自身のペットであるニャースと前日の残り物の料理を新たな料理へと生まれ変わる様を放映している。例えば肉じゃがをカレーへと作り変えるといった按配だ。ここまでは完全なテンプレ番組だと思われがちである。しかし僕が楽しみにしているのは料理でなく料理ができて試食をするシーン、実はニャースはマダムの料理が好きでないのだ。僕の偏見では手の込んだ手料理は苦手らしい。
ニャースは主人の使い回し料理は食べたくはないのである。だがニャースはテレビというモノを理解している。当然のことながら視聴者にマズいとは思わせてはいけない。とにかく美味いと言えばいい、それが料理番組なのだ。つまりニャースが料理を食べてから一瞬だけ見せる不快な表情がすぐさま一流の高級料理でも食しているかのような満足げな顔へと変化するのである。
ミントはこの瞬間がたまらなく好きだった。彼は人より観察眼に優れており、常人では見逃すような変化を捉えることができた。この番組は半年ほど続いているがニャースの至福のひとときというような顔を見たさに視聴率は比較的高いためしばらくは楽しめそうだ。
今日は前日の残りであるパンバンジーの茹でてある鶏胸肉の切り身を使った料理だった。軽くレンジで温めてほぐしてツナ状にした後にマスタードとマヨネーズをパンに挟んだサンドイッチである。そしてサポーターであるアナウンサーが見栄えと工程を台本通りに語ると試食の時間だと言った。ニャースはご機嫌そうな顔で微笑みながらも目だけは笑っていなかった。そしてそれを口に含む瞬間にピンポーンという音が家の中へ響き渡る。玄関の方振り返ったことで何時ものニャースの表情を見れなかったことに悲しくなるやむを得ないとして客人が誰かを見に行った。
客人が来る予定はないはずだ。僕自身は誰も招いていないし、父の客ならばジムへ行くはずだ。どうせアルセウス教の勧誘だろう。
かつて『貴方は神を信じますか?』と言われた事がある。当時の僕は勧誘(セールス)という概念を知らなかったためにドアを開けてしまったのだ。素直に『神なら人が働くことなく幸せだけをもたらせると思うので、いないと思います。』と答えた。やはり今の僕とは違いあどけなき純粋な頃もあったのだな、と感じずにはいられない。
僕はそんな思い出にふけっているとドアの前にまで着いていた。セールスの時のために居留守を使うために足音を立てることなくドアに備えられているレンズを覗き込む。ドアを挟んで目の前にいたのは僕と父の知り合いである小さな女の子であった。額を出すように分けたさらさらの黒髪はピンクのリポンで留めてツインテールにしており、灰色のワンピースにピンクのカラータイツを履いている。
ミントは二重にロックしてある鍵の施錠を解いてドアを開けた。僕は洒落気のないジャージであるが彼女にはそこまで気を使わないでもいい間柄だと勝手に思っている。
彼と目があった少女はツツジ、カナズミシティのジムリーダーである。年齢は12歳、僕の二つ下ではあるが、同じトレーナースクールに通っていたことと彼の父と同業者であり、なおかつジムがカナズミトンネルとシタゲタウンを挟んだ所にあるため交友関係は良好なのだ。
ツツジは気の抜けた表情をしているミントを見て少し微笑みながらビシッと人差し指を立てて彼を指差しつつ口を開いた。
「さぁ出かけますわよ!」
彼女はいつもこうなのである。僕が引きこもり兼ニートになってから定期的に訪れ外へ連れ出そうと頑張っている。トクサネのホエルコウォッチングやミナモのサファリ、ルネで海水浴などを企画して連れて行ってくれた。だが2次元の世界に足を踏み込んだ僕はこの程度では揺るがない。
彼女はトレーナーズスクール時代から僕を気にかけてくれている。当時は僕が9歳で彼女は7歳だった。兄の後ろを着いて行く健気な妹のような関係である。何故か気に入られて学生時代の大半を彼女と過ごすと、僕が2年だけ先に旅へ出た。
しかしなぜだろう?僕の
養ってください
願わくばギャルゲーを浮気に含めないで
彼女はそして今日も何かのツアーを企画してやってきた。僕としては急な彼女の訪問でさえも嬉しいものだし、楽しくなかった事は今まで一度たりともなかった。
だが今日は行けない、真夏の太陽が昇り紫外線という名の無慈悲なレーザーが僕の皮膚組織へ侵攻を開始したのだ。
「ごめん。今日は日焼けするから、また今度ね。」
僕はスマートに理由と謝罪をして今日は行けないと旨を彼女へ伝えて、ドアノブに手をかけて扉を閉めようとする。
僕は日焼けが嫌いなのだ
なんかガンで早死にする気がする
「むぅ、しょうがな・・・くないですわ!」
ツツジは一瞬だけ僕の理由に納得しかけたがそうはいかなかった。彼女はドアノブを掴んでドアが閉じられるのを防ぐ。
「え、日焼け対策で学校を休む事って忌引きと同じ扱いだよ。知らなかった?」
「・・・。そんなルール知らないですわ!ってか貴方は女子ですの?」
ドアを閉めようとするミントは隙間からツツジへ諭すように声をかける。余りにも清々しい戯言に彼女は再び流されかけるが、あと一歩及ばずだった。
「私だって日焼け止めぐらい持ってます。でも今日は必要ありませんわ!」
彼女は少し趣向を変えて“ひみつきち”でゆったりと過ごす予定であった。引きこもりの彼を連れ出して外気に触れさせるより、外でありながらも安心できる室内の方がいいのではないかと考えたからである。
無言で彼はドアを閉めようとしているため外出は乗り気でないのだと感じたツツジは更に趣向を変えようと提案をする。
「じゃあ、ポケモンバトルをしませんこと?久しぶりにお手合わせしたいですわ。」
こう見えてもミントはポケモンを持っており世話だけは欠かさずにしている。体調に応じてご飯にきのみを加えたり、ブラシングをする。旅へ出た経験は無駄ではなかったとは言えるだろう。
「ジムリーダー様にニート如きが太刀打ちできるとでも?」
「うぅ・・・」
ミントとツツジはトレーナーズスクール時代には特別許可証を有しており、何度もバトルを重ねたのである。当時はミントの圧勝であったが威張ることはなく、彼女のポケモンの特訓を手伝っていた。ミントの世話と負けず嫌いな性格から気づいたらジムリーダーにまで上り詰めていたのである。
遥か高みに登った彼女がバトルを提案すれば強者の余裕に感じ取られても仕方ない。だがスクールで最も強かったミントが2番手であるツツジにバトルを申し込んでいたから、彼をバトル好きと思い込んでいたのかもしれない。仮にそうだとしても無気力ニートが自ら勝ち目のない戦をするだろうか?つまりツツジは戦術を読み間違えたのである。
ツツジは目をウルウルさせながら泣くのを堪えていた。ミントは少し意地悪をし過ぎたのである。10歳を超えて大人であるとはいえ心と身体はまだまだ子供なのだ。
ミントは少し焦ってドアを閉めるのを断念してツツジを慰めようとする。だがその瞬間を偶然通りかかった近所の悪ガキに見られていた。子供にとってニートは大人の恥であり、決して大きなお友達という認識でなかった。
「うわぁ、女の子を泣かせてやがる。
虫網を持っているヤンチャな子供はニヤニヤしながら口を開く。
「ニートに外面なんか要らねえよ、どうせ外なんか出ないからw」
ミントは軽く鼻を鳴らして言い返す
「うわぁ〜、社会のゴミだ!底辺だ!」
「るせぇガキ、俺にも人権はあるんだよ」
「生きる権利はあっても義務はねぇよ、ばーかばーか」
悪ガキはそう言い放つと走って逃げて行った。最近、子供の突く悪態がえげつなくなっていっている気がする。どこの悪い大人に影響されているんだと彼は思った。世の中は本当に荒んでいると感じざるを得ない。清き心の日本人はどこへやら・・・
「ぐすっ・・・少し出直してきます。」
ツツジは涙を拭いながら形勢を立て直すべきだと戦略的撤退することに決めた。
「でも必ず私が兄さんに引きこもりをやめさせてみせますわ!」
ツツジは目をキリッとさせてミントに宣戦布告のように言い放つと走って何処かへ行った
あ、久しぶりに兄さん呼び、頂きました
昔みたいにお兄ちゃんに戻してくれないかな
***
そんなこんなで時計の針が12時を回っている。食事の時間だ。
我が家のニートの朝は早い。なぜならポケモンの朝食を用意する必要があるからだ。だが仕事や学業に専念する必要がないので二度寝をする。結果的にニートの朝は実に遅く、10時頃に目を覚ます。朝食は朝に取らず昼に朝昼兼用の食事取るのである。
ミントは彼の持つポケモン達にご飯を用意すると冷蔵庫を開いた。料理は得意であり家事も卒なくこなしてくれるためテッセンは強く働けと言えないのである。医者からは血圧が高く肥満気味と言われているが酒はやめられない。せめて料理は野菜を中心に摂りたいのだが当人は業務で忙しく不得手であるため外食となってしまう
危険ゾーンとセーフゾーンを行ったり来たりしている彼にとってニートは必要だった
その事をミントは理解しており、健康に気を使うメニューにしている。米は雑穀米にして揚げ物は一切出さず、野菜中心のメニューにしているためテッセンと同じ食事を食べるせいで彼自身は痩せていた。
ミントが冷蔵庫を開けると、すぐに食べられそうのはカボチャの煮物とコンビニ弁当だけだった。テッセンは若者向けでなく自分よりのメニューになってしまうために1人の時は外食代を渡すつもりだったが、ミントはコンビニ弁当で十分だと言った。遠慮したのではなく外出したくないからである。
彼はテッセンのセレクトした塩唐揚げ弁当を手に取るが
そして30分後、彼はベットとトイレを行ったり来たりする羽目になった。その後、無気力人間が本当の意味で無気力に倒れていると引き返してくれたツツジに看病して貰った
ツツジちゃん、まじ天使
ぜひとも
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3話
少し際どい話もありますのでご了承ください(下ネタや犯罪的なの)
〜キンセツシティ、上空〜
初夏の微かに差し込む日差しの中、1人の可憐な少女が双眼鏡を片手に空に羽ばたく鋼鉄の皮膚を持つ飛行ポケモンの背に乗っていた。紫色の長い髪に水色を基調とした被るタイプのゴーグルに飛行服を身につけている。
エアームドの背に乗る少女の名はナギ
ヒマワキシティのジムリーダーである
「はぁ、なぜこんなことに・・・。」
普段は穏やかな彼女だがほのかに哀愁を漂わせていた。エアームドの鋼の鎧は太陽を浴びて彼女の細い脚に熱を与える。時折双眼鏡を除いてある家のリビングの窓を覗く、ジュンサーさんから職務質問をされそうになったが、なぜか敬礼だけをして去っていった。バードウォッチングをしていると思われたのだろう、ジムリーダー万歳
彼女はむろんバードウォッチングに勤しんでいるわけではない。ただ自分が気にかけていた後輩の頼みを聞いた結果、ただそれが犯罪行為に近かっただけの話だ。だが手段を選んだのは彼女の独断であるが・・・
***
数日前
〜ヒマワキシティ〜
建物はヒマワキジムを除いてほとんどがツリーハウスの変わった特色のこの街にツツジが訪れていた。まだ年端もいかぬ少女であるが彼女の身の安全は彼女自身の実力で保証されているため、一人で遠出をすることに不安を覚える者は誰もいなかった。
「ふーん、友人のニートを連れ出してほしいと?」
ヒマワキジムの一室でツツジはナギへ1つの頼み事をするために訪れていた。彼女は目をキラキラさせながらナギを見つめる。ナギは自分が慣れないジム作業や同性の先輩としてアドバイスをしていたためによく懐かれ頼られていたのである、ツツジはミントの引きこもりを改善させるには自分の力では足りないと感じ協力を仰いだのだ。
「はい!取り敢えず鳥ポケモンか何かで誘拐しちゃってください!」
「は?」
ツツジの突拍子もない頼み事にナギは戸惑う
「兄さ・・・、ミント君を狭い世界から引きずり出すために、荒療治も必要なんだと思ったんです!」
ツツジはきっかけが大切だと考えていた。ミントも元々はトレーナーとして旅へ出てプロ資格を待っている。なぜあの様になってしまったのかは知っており、それを脱却させるには強い何かが要ると感じたのである。
とにかく外の世界の素晴らしさ、これをミントに再認識させなければならない。ツツジはそう思っていたからこそ何度も旅行や遊びに連れ出していたが、現実の域を脱することは難しい。そこで鳥ポケモンの力を借りて空を飛べば何か歯車は変わるのではと考えたのである。
ツツジの説明を聞いたナギは正直、乗り気ではなかった。幼馴染のニートのために激務の合間を縫って気にかけてやる必要がないと以前から感じていたからだ。
(彼女の年頃じゃ年上の男の子が魅力的に見え過ぎるモノ、どうせニートなんてデブでニキビ兼クソ眼鏡の底辺でしょ。)
だが可愛い後輩の頼みを聞かないわけではない、気づかれない程度の冷めた目でニートの改善計画を話し合った。
***
〜ナギside〜
(でも私はいつまでこうしておくのかしら、だいたいニートが出てこないとダメじゃない。)
ナギはエアームドの背に乗ってほんの少し苛立ちを覚えていた。そろそろ1時間ほど監視と張り込みを続けていたがターゲットが動く気配はない。双眼鏡を使って窓から見えた景色にかろうじてニートの背中を確認できる。
彼女がそろそろ出直そうかと悩み始めたころに一台の側面に大きなプリントがされたトラックが家の前に止まった。黒い帽子と杖を持ったピジョットがシンボルの全国にシェアを持つ大手運送会社のモノである。中から運転手が降りると積荷の中から両手にギリギリ収まる程度の段ボールを持って門の横にあるチャイムのボタンを押した。
「すみませ〜ん!ピジョット運輸の者ですが、お荷物をお届けに参りました〜」
ツツジはこの家の荷物だと察して素早くエアームドを入り口から見えない背後へ移動させる。今回はニートをエアームドで誘拐して大空を旅を行う算段であり、ターゲットにこちらの狙いを読まれて家の中へ逃げ込まれたら厄介であるからだ。
鍵が開く音がしたあとにゆっくりとドアが開いた。黒いサラサラな髪と痩せている人が出てくる。さきほど双眼鏡で見ていた特徴と一致しており、ヤツがニートであると判断した
「あぁどうも、お疲れ様です。」
「それでは、ここにサインを」
ミントはボールペンを受け取り受取人の欄に自分の名前を書き込んだ。
「エアームド、GO」
荷物の受け取りの手続きを済ませ荷物を受け取ろうとする瞬間をナギは狙った
エアームドは狩りで獲物を捕らえるかのごとく急降下をして、鋭い爪でニートの肩と二の腕の間を掴んだ。自分の爪が突き刺さらないようにしながら力を込めると再び空へ飛んだ。
「「ファッ⁉︎」」
ピジョット運輸の社員とミントが声をあげ終わる頃にはエアームドは空高く飛びその場から去っていった。戸惑う社員はジュンサーさんに連絡を取ろうとすると肩をちょんちょんと叩かれた。振り向くとジムリーダーの少女がおり友人へのサプライズであることと荷物を受け取るとの趣旨の説明を受けた。彼はジムリーダーが荷物を窃盗するとは考えにくいだろうと判断して素直に渡してトラックで次の配達先へ向かっていた。
***
〜ナギside〜
「え〜っと、エアームドさん?僕を離して欲しいんだけど、地上でとかだと嬉しい。」
ニートはエアームドへ語りかける。素直に話し合えば分かり合えると思ったのだろう。
「ツツジちゃんに頼まれたのよ。だいたい貴方ねぇ、女の子に心配なんかさせるなんて男としてどうかと思うわ。」
ナギは呆れたようにエアームドが餌としてニートを誘拐したのではなく人間の指示であるということを伝える。彼女はツツジの悩みのタネを摘むためにニートへ厳しい言葉を投げかける。このまま自分のペースで説教を続けようとしたが、一瞬だけニートが全身を小さく痙攣させるように震えたのが見えた。何か身体に異変が起きたのかとナギは思った
「・・・おろしてくれ。」
だが普通に会話ができるようで、ナギは自身の杞憂であると理解でき少し安心したようだ。だが少し思いつめたような声でように感じたナギはニートの様子を確認しようとエアームドの翼から顔を覗かせながら声をかける。
「もしかして高所恐怖sh...っ⁉︎」
ニートは自分の方を向いていたために自然と目が合う。ナギは驚いたように数秒間固まるとゆっくりと体制を元へ戻す。目を何度かパチクリさせると彼女は心の中で絶叫した
(カッコいいじゃないのぉぉぉぉぉ〜〜っ!!!!)
ナギはニートに対する偏見が一般的な認識より強かった。彼女のしっかりしている性格がニートという存在に対して無意識に毛嫌いしていたからである。ミントは逸脱しているほど容姿がよいわけでない、もちろん顔面偏差値は60は硬い。だが顔を武器とするモデルや俳優と比べると、やはり見劣りするのも事実である。しかし今のこの状況でナギはミントに心を奪われかけていた。
ニートという下劣で醜い、極論を言えば人間よりのオークのような印象しかなかった彼女にミントのような恵まれた容姿であったからこそ効果が著しかった。
つまりギャップである、メガネをかけている平凡な男性がそれを外した途端にイケメンであると判明したとき女性は弱い傾向にある。それはその男性がもともと優れた容姿でありメガネが偶然似合っていなかったからにすぎない。
メガネを外したらイケメンなのではない
それは元々、皆がメガネをかけた平凡な男と認識してしまっているからで当人は初めからイケメンなのだ
つまりこのギャップ現象が今も起きていた、ナギは自分がこの少年に好意を抱いていると理解し、どうやってこの状況を好感度を下げずに切り抜けるかを考えなければと思った
だが突然、ミントは下の方をチラリとみると顔色が代わり凄まじい勢いで振り返った
「戻せ、今すぐ俺を戻せぇぇぇぇッ!!!」
「え・・・えぇと」
「引き返すんだ、今すぐに!」
その表情は鬼気迫るものがあり、決して容易に見逃すことなどできなかった。ナギはミントの豹変に圧倒されながらも素直に聞き入れて全速力で彼の家へ戻る。彼の逆鱗に触れた何かがあったのか、もしくは誘拐そのものに怒りを覚えたのか、少なくとも自分がそうさせてしまったのは事実であるため彼女は申し訳ないことをしてしまったと反省していた。
***
〜テッセン、ミントの家〜
「すまない、取り乱してしまった。ツツジと君が俺の為を想っての行動だというのはわかってる。せめてものお詫びに茶でも呑んで行ってくれ」
玄関の前でナギはエアームドを労うとボールの中へ戻した。ミントはドアを開けようとするが鍵がかかっている、するとナギがツツジが鍵を閉めてポストに入れていると教えると確かにあった。
そのまま中へ彼女を招き入れるとリビングのテーブルの椅子に座らせ彼は奥へお茶を淹れに行った。ナギは内心、ドキドキしていた。同じ世代の男の子との接点はないわけではない、だがそれはジムリーダーの職務ぐらいでバトル以外にすることはほとんどない。せいぜいアドバイスやバッチを渡すくらいだ。
彼女にとっては数少ない異性と2人っきりの状態で、少し気になり始めたばかりの子だ。展開が余りにも早すぎるが、このままどうなってしまうのかという妄想が捗ってしまう
彼女は実は少女漫画を好む、意外と大多数の女の子はそれを有しているものの男性が訪れた時に隠しておくため知られていない。同年齢の男の子より精神的に比較的落ち着いているため内容が少し過激なのだ。展開は恐ろしく早く進み、ご都合主義に踊らされる主人公
そんな姿が今の自分と重ねてしまったのだ
心臓をばくばく言わせながらソファーに行儀よくきちんと背筋の伸ばして座り、とても厳しい警戒と微かな期待を胸に寄せて彼の帰りを待った。
だがそんな心はすぐに潰えてしまう。ナギがソファーの前の小さな横広いガラスの机の上に重ねられた幾つかのチラシが目に入った。その中の一番上に“ネイティオ弁護団”のモノで過払い金を取り返そうというフレーズで有名な弁護士事務所である。偶然かもしれないが一番上にあるということは手にとっていた可能性が高い、つまり彼は借金をしているかもしれないということである。
「お金・・・あるの?」
ナギは目を細め視線をしたにやるも可能な限り控えめにミントの心を刺激せぬように恐る恐る尋ねた。すると彼は湯気が立ち上るお茶をゆっくりとガラスの机へ置き、チラシへと目線をやる。
「・・・お金ならもうないよ。既に全部奪われてしまったんだ。」
ミントは哀しく儚い、今にも壊れそうな表情を浮かべる。彼はそのままソファーへ座ると右手で目元を抑えて疲れて果てているかの様だった。ナギはその様子に胸を痛めて口を開く。
「だったら頼ればいいじゃない、貴方にはそんな人達がいるでしょう?」
「皆を巻き込むことは僕には出来ない、ヤツらは常に俺を陥れようと誘惑してくる。だから僕が家にこもるのが最善の道なんだ。」
彼は手のひらを下ろすと静かに語り始めた、ナギにはなぜ自分にだけそんな話をするのだろうと思いながらも静かに耳を傾ける。もしかしたら彼が抱え続けている何かを見ず知らずの自分に話すことで楽になりたいのだろうと思ったからだ。
(でも、さっきから何を話してるの?)
彼女はあくまでも借金があるのか、それを返すあてはあるのかという内容だと思ったがどうやら違うようだ。
「なぜ、なぜ貴方はそうなってしまったの?」
彼女はミントの抱えているものが何かを探るために当たり障りのない質問を投げかけ、ヒントを得ようとする
「・・・初めは軽い気持ちだったんだ、先輩からいいバイトがあると聞いてね。」
ミントは静かに語り始め、ナギは静かに耳を傾ける
「僕はその言葉に耳を傾けてしまったんだ。友人や知らない人をいっぱい抱き込んで、大金を手にした時に辞めようと思ったんだ。」
いいバイト、というワードにナギはなんとなく悟り始めた。こういうのは月並みに犯罪の片棒を担がされる場合である
・ポケモンを育てる商売をしながら失踪して裏で売り飛ばす“育て屋詐欺”
・保護地区での密漁や違法薬物での強制繁殖などの“密売行為”
・“コラッタ講”
つまり彼は違法な行為の手伝いをしてしまった過去があり、それに罪悪感を感じて引きこもってしまったのではないかと考えた
だが彼女が思い浮かんだ3つはミントの過去に当てはまっていないと理解させられた。彼の左腕の肘の関節の内側に黒ずんだ小さなシミのようなモノが幾つかあったのである
「ほんとに軽い気持ちだった、僕ならすぐにやめられると思って、つい打ってしまっただ。」
彼はそういうとナギの視線に気づいたのか右手で隠すように覆った。このことで彼女はピンときたらしい。
(アレはシミじゃない注射痕よっ!!!)
確かにそれは注射痕であった。そして先ほど彼の言っていた“いいバイト”、“友人や知らない人”。これらのワードで彼女は1つの結論に辿り着いたのである。
急な態度の変化も後遺症として頷ける
ポケモンスクールでは旅に出る上での注意事項や犯罪に関わらないための授業がよく行われている、そのお陰か犯罪率は減少傾向あるものの今でも稀に検挙されるらしい
かつてカントー地方で蔓延した“ゴースのペロリンキャンディ”、シンオウ地方では“ドラピオンズ・スピナ”など数多の覚醒剤は闇社会で売買されマフィアや違法組織の資金源となった過去がある。それらを取り締まる法律が強化され今ではかなり落ち着いている
確かにミントが行ったと思われる行為は犯罪である、だが彼も悪の組織の犠牲者なのかもしれない。懺悔を続けているために引きこもっている、なぜならそれが最善の選択だと思ったからだ。もう十分なのではないか?
彼は自分を責め続けているのだ
彼を支えてあげなくてはならない
彼が自分の罪を許すまで
彼が社会に赦しを乞うまで
彼が自分や社会に赦すまで
その日まで、自分は彼の味方でいよう
まずは貴方が私に全てを話してくれるまで私は静かにその時を待っています
ナギはダメ男に引っかかるタイプであった
***
〜ミントside〜
僕、ミント。エアームドに乗った美少女に誘拐されかけた美少年だよ。自分で言うのは痛い子になるから事実を言うね。ぶっちゃけ僕の顔はそこそこ整ってる方だ、ナルシストとは言わないでくれ。ただこの顔で特をして来たことが人より多くあること、あと人からよく褒められるから純粋に客観的に自分を見ているだけの事なんだ。
でも僕もつい調子に乗ってしまう時もある、確かに整ってるが上には上がいる。もちろん下には下がいるが生まれ持った才能のようなモノとは言い難い。そこで僕が編み出した秘策がある。
まずは鏡の前に立ってくれ、そして自分が一番イケてると思う角度の後に自分が一番ブサイクに映る角度を見るんだ。すると自惚れずに済み、容姿の自身もある程度保てるのでお風呂上がりに実践している。
ここで話は置いておくことにしよう、まぁ別に拾い直してもいいのだが飽きられそうなのでやめておく。僕は誘拐された身だが綺麗なお姉さんを驚かせてしまったのかもしれない。それにツツジの差し金だと聞いたからな
ここはクールな男を演じ、好感度を元に戻す必要がある。あら、ミント君って年下なのに頼り甲斐も可愛さも持ち合わせてる。
あと少し前に思い出したが、彼女はジムリーダーだった気がする。国家公務員よりも給料が高い人材をみすみす見逃すようなニートではない。あと可愛い
「すまない、取り乱してしまった。ツツジと君が俺の為を想っての行動だというのはわかってる。せめてものお詫びに茶でも呑んで行ってくれ」
僕は彼女を自宅へ招きスマートにソファーへ座らせお茶を用意して長居をさせる計画。これも美少年(諸説あり)のなせる技なのだよ。
僕はドアノブへ手をかけ引っ張ろうと手をかける。だが問題に直面して閉まったようだ
鍵閉まってるですやん
ツツジちゃんめ、せっかくのチャンスをッ!!!
でも可愛いから許すよ
ん、ポストに直してあるって?
ホントだ、ツツジちゃんのしっかり者め
ぜひとも養ってください
ツツジが我が家で待機していないことが判明し、ミッション達成の確率はあがった。目の前で僕をおいて2人でガールズトークを永遠と続けられる悪夢は回避した。
僕が計画通りスマートにソファーへ座らせお茶の用意をするため奥へ行った。だがスマート過ぎる、逆に罠なのではないか?戻ってきた所で彼女が指をパチンと鳴らしカイリキーとゴーリキーに連れ去られ慰み者にされる薄い本の展開ような可能性もある。いや、それならエアームドでそのまま誘拐すれば済む話だ。
僕は安心してお茶をお盆に乗せて持って戻ろうとしていると彼女の目線がガラスのテーブルの上のチラシにある。マズい、近所にあるゲームセンターの新台入れ替えのチラシがあったような気がする。ヒモにギャンブル癖があると思われたら致命的だ。
スマートに回収するしかない。
今、気がつきましたよ、的な反応の後に
『ギャンブルってやられます?』
『お仕事で忙しいのでやれません。』
『ですよね〜、僕もしないですよ。』
これしかない、
全ては僕のヒモライフのために
いざ行かん!
僕は静かに湯気の立ち昇るお茶を静かに机へ置いた。そしてスマートにチラシを回収する
「お金・・・あるの?」
彼女の一言で伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。なぜその言葉が出る?まさか気がついた上での先制攻撃、確かに僕はゲームセンターの常連でギャンブル中毒の一歩手前だったことがある。だがもう貯金を使い果たしたのに気がついてやめたんだ。ギャンブルとは店側に利益が出るようになっているから成り立つのだ、つまり得するよりも損をするのだと
僕がさっき声をあげたのがゲームセンターがあったからだ。正直、新台入れ替えというのぼり看板があったら危なかった。チラシとタイミングだけでギャンブラーと見抜いていたか、流石はジムリーダー。バトルと同様に一筋縄ではいかないな
くぅ、バレているのでは仕方がない。素直に話そう。僕は借金などしていない、ただ貯金がないだけなんだ。親の脛を噛みちぎるレベルで養って貰っているだけだ。まずは手元にギャンブルの資金がないことを話すんだ。
「・・・お金ならもうないよ。既に全部奪われてしまったんだ。」
スロットの中へ消えていった僕の諭吉達を走馬灯のようなイメージを思い浮かべる。僕は悲壮感をだしつつ反省してますオーラを出すために手のひらで両目を隠すように添える。これで表情は自然と隠せる。ゲスな下心のカモフラージュとするのだ。
「だったら頼ればいいじゃない、貴方にはそんな人達がいるでしょう?」
ナギの言葉に僕は戸惑いを隠せない、まさか君はギャンブルをするニートでも許してくれる天使、いや大天使様なのか?
だがこのニートは甘い言葉で懐柔などされないのだよ、ここで敢えての誠実アピールに転じよう。ギャップ萌えを狙うのだ。
「皆を巻き込むことは僕には出来ない、ヤツらは常に俺を陥れようと誘惑してくる。だから僕が家にこもるのが最善の道なんだ。」
僕は彼女の庇護欲を、つまり私がどうにかしてあげなきゃ、という気持ちを掻き立てなければならない。または彼には私が居なくちゃダメなの的なヤツでもいい。
正直なところ、これは難題だ。ヒモとは通常よりも稀有な才能と意思がなくてはならない。仮にあったとしても当人が男としてのプライド持っているかもしれないからだ。あいにく僕は無自覚に相手に養うという行動を植え付けられるようなスキルを有していない。だから考えて手を打つ必要があるのだ。
ちなみに誘惑とはチラシやなんかヒラヒラしてる旗のような広告、かつてのギャンブラー仲間であるキヨとタゴサクによる電話のお誘いのことである。
これでギャンブルをやらないようにしているんだ感は伝わるはずだ。
「なぜ、なぜ貴方はそうなってしまったの?」
ん、ギャンブラーになった経緯かな?
「・・・初めは軽い気持ちだったんだ、先輩からいいバイトがあると聞いてね。」
***
〜ミントの記憶、3年前〜
その日、僕はポケモンを持ち旅へ出た。結果としては最高だった。
自分の知らない土地を自分の足で歩き、迷いながら、野宿をしながら目的地へ着いた時の達成感。明らかに強さが格上のトレーナーとバトルをして戦術と絆で勝った時の高揚感。
そしてポケモンリーグで優勝してプロトレーナーの資格を得た時の興奮はとどまることを知らなかった。あとはチャンピオンリーグで優勝して四天王を勝ち抜けばチャンピオンとバトルできる。チャンピオンを目指す身としてはここが夢の一歩だと、越えるべき壁を1つ超えた感覚を覚えたんだ。
僕は義父であるテッセンの元へ戻った。つまり里帰りである。全てのジムリーダーとのバトルは共通して興味深かった、だが所詮は挑戦者のバッチの数に合わせた事務的バトルに過ぎない。僕は本気のバトルをしたいのだ
本気のジムリーダーに勝てなければ四天王やチャンピオンには手も足も出ないだろう。それはもう身をもって
「ようミント〜、キンセツに戻って来たのか。」
僕は僕の家へ帰る途中で昔、通っていたポケモンスクールの先輩と出くわした。いい先輩できのみや傷薬を分けてくれた記憶がある。
仲は良かったが座学とバトルの腕は人並みだったため旅へは出なかったと聞いている。
「あ、キヨさんお疲れです。」
「キヨでいいよ。いいバイトあるんだけど興味ある?」
話を聞いてみると、どうやらキヨはバイトをして生計を立てているようだった。10歳から大人として認識されるため税金を納める義務が発生する。強制的に配布される図鑑にはバトルの成績が記録されており、勝率やトレーナー歴によって賞金が決まる。後日、貯金口座の引き落としがされるため足りなくなれば自分でアルバイトなどで稼いで入金するか引退して働く者が多い。集められた税金はポケモンセンターの運営やポケモンの保護、そして暴れたポケモンやテロリストによって破壊された建物などの修繕の強制加入の保険として支給される。
僕はキヨに連れられて見覚えのない派手なライトを放つ建物へ連れていかれた。怪しげな感じがしたが合法でやましいことはないらしい。聞いたところ僕が旅へ出てすぐにできたとのこと、ゲームセンターという言葉で取り繕ったギャンブル場である。
どうやらそこのオーナーがキヨの親戚らしく、彼の話を聞けばオープンしたばかりで賑わっていなかったとのこと。そこでコインケースの無料配布をして、ゲームセンターへ人を紹介するだけで仲介料の入る簡単なバイトだという。コインケースは仲介屋に無料で支給され名前と住所、重複して持っていないかを確認したら報酬を渡すとのことらしい。この手法が当たり次第に軌道に乗ってきたため仲介役の数を増やそうと考えていたのだ。
僕は友人や知り合い、通りすがりの人へコインケースをばら撒いた。特に近所で一番強いお爺ちゃんのタゴサクは変貌ぶりがすごかった。
旅へ出る前に彼の手強いマグカルゴと何度もバトルをしてみて、“かえんほうしゃ”の威力が凄かった記憶がある。だが今ではマグカルゴではなく彼の年金が火を噴いている。
***
〜ミント宅、現在〜
「僕はその言葉に耳を傾けてしまったんだ。友人や知らない人をいっぱい抱き込んで、大金を手にした時に辞めようと思ったんだ。」
ギャンブルが良くはないと僕は確かに知っていたんだ。でも目先のお金欲しさにのめり込んでしまった。そして報酬を貰った頃に僕は紹介したみんながギャンブラーになっていた事に気がついて、すぐにバイトを辞めようと決心したんだ。
ミントは本当に当時は後悔していた。だが別に違法じゃないからいいんじゃね?と三日後に思い直した。そして皆がのめり込むギャンブルに興味を持ってしまったのである。
「ほんとに軽い気持ちだった、僕ならすぐにやめられると思って、つい打ってしまった。」
僕は突然、彼女の視線が僕の左腕に注がれていることに気がついて右手のひらで覆った。これはちょっと恥ずかしいから隠しておこう
***
〜ミント宅、3日前〜
ミントは賞味期限と消費期限を間違って解釈しており、期限が切れたら食べてはいけない“消費期限”の切れたコンビニ弁当を食べてお腹を壊してしまった。トイレとベッドを往復する羽目になった彼は無気力に倒れていた
その時、ツツジが出直してくれたため看病をして貰ったあとに病院へ連れて行ってくれたのである。心配そうな表情を浮かべている彼女を見て僕はこう思った。
ツツジちゃんは天使だ、結婚しよう。
僕がこれまで通りニートをやるから
君はこれまで通り働いてくれ。
僕は君のご厚意に答えるために全力で体調を元へ戻そうと思った。
だが僕は全力で抵抗することとなった
理由は一つ、腹を壊した程度で点滴など必要あるのだろうか?い、いや。別に注射が怖いわけじゃないんだけど必要あるのかな〜って思っただけなんだ。
ジョーイさん(人間版)には無言で護ってあげたいような可愛らしい笑顔を浮かべるだけだった。つまり黙ってろ、ということだ。
ジョーイは少し目を細めて冷たい表情をする。そして僕の左腕の中心の太い血管へ向けて針を忍ばせる。
「ん〜、なんだが元気になってきたなぁ、これは退院だなぁ」
僕はさり気無く元気になったフリをした。注射が怖いのではない、身体に得体の知れない液体を注入されるのが怖いのである。なぜならこのジョーイさんは医者の格好をした悪魔の可能性があるからだ。少年が毒物により悶え苦しむ様を目に焼き付けるのが趣味の可能性があるからだ。
僕はベッドからゆっくりと立ち上がろうとすると、上半身をピンク色の柔らかい何かに押さえつけられる。ポケモンセンターでジョーイさんの補助ポケモンであるラッキーであった。ポヨポヨとしたボディとは裏腹にかなりのパワーだ、僕は辛うじて動ける程度しかできない。するとジョーイさんが注射のボタンを軽く押すとピュッと薬品が出る。その様子を見たラッキーはニヤリと笑う。
お前のような輩は何人もいたよ、的な悪どい目をしている事に僕は気がついた。
「ラッキー、テメェ!」
勝ち誇った顔を浮かべるラッキーに僕は少し暴れる。するとジョーイさんが針を打つ場所を間違えたようだ。
「んんんんッ!!!」
僕はチクチクとした痛みに悶えた。絶対このジョーイさんはサイコ野郎だと、いやサイコレディだと確信した。
これはジュンサーさんに少年の身体に針を突き刺した女として逮捕して貰うしかない。
僕は冷たい視線を感じるとジョーイさんがヤンデレのような薄汚れた瞳でこちらを見ていた。ヤバい、これはガチかもしれない。
でも悪くない・・・
キュンと心臓の奥が反応したことで
僕は自分がMだという事を思い出した
「大人しくなさい、すぐ済むから。」
ジョーイはいつもの笑顔を浮かべながら、優しくなだめるように言い聞かせる。ふむこれも悪くない、でも
「それは、それで嫌だああああ!!!」
僕は全力で抵抗した、
そして2、3発の延長によりジョーイさんの蔑んだ目と少しずつ強くなる口調を愉しんだ
やがて『動くんじゃねぇブタ野郎』まで頂けたので、そこそこ満足していた。ただこれ以上は本当に塩酸などを撃ち込まれそうなので抵抗しないと決めた。だがジョーイは大きな溜め息をつくとラッキーに僕を離すように言った。まさか諦めてくれるのかと僕は歓喜した。
背中に感じる柔らかい感覚と滑らかでスベスベな細い脚を堪能している隙に左腕の的確な場所に注射をされた。
僕はそれからこの病院に通い続けようと決心したのである
***
〜現在〜
なんか知らんがナギさんのメアドとポケギアの電話番号をゲットした
願わくば感想を恵んでください
こういう形態の物語を書いたのは初めてなので
皆さんのご意見を聞きたいです
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4話
久し振りの投稿となります。チラシ裏から移動させてから初更新ですので楽しんでいただけたら嬉しいです。
〜フエンタウン〜
アスナは身の毛がよだつほどの底知れぬ何かを感じ取っていた。ジムで挑戦者を待っていたところ、パトカーのサイレンが鳴り響いたため彼女は外へ飛び出した。何があったのかは知らない。職務の一貫で治安維持の役割を全うしていた彼女は日が浅いながらもさまざまな悪と向き合って来たはずだった。そんな彼女が目の前の人物に警戒心を抱かせることとなる。
フエンタウン、ほのおタイプのジムリーダーであるアスナが拠点とする街にして温泉が有名で観光地として知られている。
ジュンサーさんから手錠を嵌められて連れられる一人の男、、、
男は三十代後半で長身かつ細身、髪は白のオールバックが乱れており何本か額に垂れている。目は獣のような鋭さを持ちながらも猟奇的な存在感を放っていた。
「ケヒヒヒヒ、俺は罪を犯したんじゃねぇ。この不完全な社会に適合しなかった哀れな男だ。“エデン”はすぐそばだったが俺は天に選ばれなかったみたいだな。」
騒ぎに集まった人々はただの犯罪者の戯言だと笑っていた。これは当然の反応である。犯人はパトカーに連れ込まれる寸前に無意味な抵抗をしているのだ、やつの言葉に耳を傾ける必要はない。その日の夕食を作っている頃には忘れている程度のほんの些細なことだ。
しかし人々の嘲笑には気にも留めずその男は初めからひとりの少年しか眼中になかった。
「だがお前は違う。備えろ、ミント。いつかその禁断の果実をお前は目の当たりにするのだ。」
男はまだ小さな女顔の少年へ向けて何らかのメッセージを伝えているかのようだった。“禁断の果実”、男は全てを言い終えると再び狂ったように笑いながら自ら開けられたドアから車内へ乗り込んだ。
群衆は走り去るパトカーを見送ると熱気が冷めたのかそれぞれの戻るべき場所へ帰っていく。しかしアスナだけは男が見ていた少年だけをジッと見つめている。外見からはタイプではないが整っていることは理解できる。
この子は何者なのか、私は奥底に深い深い裏の社会の闇に目の当たりにしたのかもしれない
アスナはそう結論を出すと少年へ声をかける
「ねぇ君、私とポケモンバトルをしないか」
私が彼を見極める、、、
***
数時間前
〜フエンタウン・温泉〜
モワモワと白い湯気の立ち昇る室内はコダックを型どった湯口からお湯が広い浴槽の中へゴボゴボと流れ落ちている。微かに白く濁ったサラサラとしたお湯には体力の回復などの効力などがあるらしい。
そのお湯を堪能している少年がいた。名前はミント、しがないニートである。彼は義父であるテッセンが気まぐれで山籠りをしようと思い立ったため家事をおやすみし、彼からフエンタウンの温泉旅行のペアチケットを貰い羽根を伸ばしにきた。当然もう一人だけ呼ぶことができたが、当日しかも平日に旅行へ行けるのは長期休みの学生を除けばニートぐらいである。というよりニートには彼女はともかく友達もいない。
結果として一人旅を決行するに至った。バスの座席はチャーターする必要があったが彼はその手間を面倒がって自身のポケモンの背に乗って飛んできたのである。
そんな彼は温泉に浸かりリラックスしていながらも思考回路だけはめまぐるしく稼働しているのだった。
(女湯を、女湯を覗きたい・・・)
この建物、及び温泉の間取りは既に把握済み
そして女風呂は男風呂とでは壁を挟み繋がっている
壁の広さは叩いた感触からして1.5メートル
天井には1メートルほどの隙間
だがその隙間に何があるかは不明
想定し得るのは乗り越える者を捉える監視カメラ、及び番をするポケモン(略して番ポケ)
ここは温泉、蒸気により機械の類いは機能することはないだろう。あるとすれば“ガラス越しに設置する、しかしその場合は蒸気による水垢が付着するはずだ。その掃除は困難を極める。故にカメラは考え難い。
だがこの温泉地は観光名所、何も対策をしてないはずはない。おそらく“番ポケ”
もし目を光らせているならば気配があってもいいはず、足音に鳴き声や蒸気でむせる音などがあってもいいだろう。故に存在しない
(A.壁を登れば覗ける)
ふむ、その前にしなければならないことがある。それは背後からの裏切り、つまり密告者及び妨害を行う不埒な童◯クソ野郎である。
お宝が目と鼻の先にあるのに手を伸ばさず、『お、俺はピュアなんだ!』『悲しむ人がいる!』などという戯言で我ら健全な男子の夢を踏みにじる事に快楽を覚えるとんだ変態野郎がいることをミントは知っている。
幸いな事にピークの時間を過ぎていることから人は僕を除いて一名、白のオールバックで色は黒い。年齢は三十代後半といったところ。僕の
「参りました。」
僕はこのおじさんが僕より上手であることを認めざるを得ない。彼ら小さくダンディな目を細めてニヤリと笑う。
我らに言葉など不要
同盟を築くにはただ一度の握手で足りる
ミントはニヤリと笑いながら立ちあがり目の前の同志に手を差し伸べた。男はやはりお前も
「私の調査では
「・・・ッ!!!」
おじさんはミントへ向けて彼では知り得ぬ情報を与えた。どうやら協力関係を承諾するのだった。ミントがここへ訪れたのは今日が初めてである。それに対してこの男は通い詰め情報をかき集めていたのだと察せられる
「ふふふ、初めは君が出るのを待っていたのだが、それはお互い様だったようだ。」
「そのようだ。ではこちらの考察も伝える必要がある」
ミントは知りうる限りの情報と考察をこの男へ包み隠さず話した。結果として風呂桶と椅子を縦へ重ねて壁を登り切る作戦となった。
だがミントにはこの協同作戦を決裂し兼ねない一抹の不安があった。それを包み隠さず言うことこそが信頼関係だと彼は考え口を開いた.
「ではどちらから行く?先に行く方がリスクは大きい。」
「・・・私が行こう。」
「ッ!」
男は少しの間をおいてそう答えると床に落ちたていた風呂桶を男湯、女湯を隔てている壁の手前に音を立てぬように逆さまに置く
「もし私が
「どうして、どうしてお前は、、、
おじさんの言葉にミントは心より感銘を受けた。自分が逮捕されても自分はミントを売らない。そういう意味合いを含めていたからだ
「子供に危険が及ばぬよう守るのが大人の役目だからだ。いいかい
おじさんはそう言うと無言で天高く積み重ねられた風呂椅子を登り始める。手を上へ、上へと伸ばし足をかけて登る。その姿はまるで崖の上にある一輪の花を息子の為に取りに登る父親の背中である。
おじさんは遂に巨大な壁を登りきった。そして目の前に監視の目がないことを確認すると拳を縦に握り、ミントへ向けて親指だけをたてて合図を送る。そしてお前も俺のあとをついてこいと背中が物語っていた。
だが突然、男は手のひらをミントへ向け、こっちに来るなと合図を送った。まさか見つかったのか、彼はそう危惧するどうやら違うようだ。微かに膝が前後に震えている。しかしこれ以上、ミントにはそれを探る術がないのである。
おじさんは激しく歯軋りをして悔しさを目に滲ませていた。固めた拳を壁のてっぺんを上から叩きつける。鈍く響く音は小さく指の根元の関節がジーンと痛む。
(やっと、やっとここまで来たんだ。なのにこの仕打ちはねぇだろうよ。俺の背後にゃ胸に期待を膨らませている小さなボーイがいる!)
それなのに、なんで、、、なんで
「ババァしかいないのだぁぁぁッ!!!!!」
おじさんは捕まり錯乱した
***
現在
〜フエンタウン〜
「ねぇ君、私とポケモンバトルをしないか」
アスナは静かに闘志を燃やしていたのである。先ほどの男が言っていたこと、それは決して妄言などではない。ジムリーダーの勘がそう言ってる。この少年をここで無視できない存在といつかなりうるのだと
「・・・僕とですか?」
ミントは少し目を開き驚いたような素振りを見せる。その瞳には哀しみに溢れているものの奥に確か意志が見受けられる。
「えぇ、貴方とバトルがしてみたくなった」
(ふふ、決まった!これでジムリーダーとしての風格も備わっ・・・
アスナはジムリーダーとしてはまだ日が浅く書類と業務に追われながら少しずつ慣れてきたものの、まだ彼女の納得のいく立ち振舞い即ちキャラが定まっていないのである。
「お断りします」
そんな事情を知らないミントはマイペースにそう答えるとスタスタと自分の泊まる旅館へ帰ろうと歩き始める。
「ちょ、ちょ、ちょ!!!」
アスナは慌てふためきながらミントを引き止めようと声をあげる。
「あ、もうヒートバッチ持ってるんで」
ミントは既にこの街のバッチは手に入れており、彼女とのバトルを受けるメリットはほとんどないのである。
「えぇっと、賞金を倍に・・・。ダメだ!本部に経費の横領や脱税に疑われちゃう」
予期せぬ事態に一人であたふたし始めるアスナにミントは少しだけバトルをしてもいいかと感じたが、なにやら背中が痒いので帰ることにした。これは早めに部屋へ戻り安静にしなければならない。
「ちょいストォォ〜〜ッップ、なにか、なにかいい物あげるから!」
結局、余っているわざマシンを参加賞としてくれることになった。ミントはアスナに連れられてフエンジムへ向かうとバトルフィールドへ案内された。使用ポケモンは一体、交換ナシのシングルバトルとなる。
審判の『バトル開始!』の掛け声と共に二人はモンスターボールを手に取ってスイッチを起動し空へ投げる。
「出番よ、コータス!」
黒い甲羅を持つオレンジ色の亀のようなポケモンが現れる。鼻から機関車のように激しく煙を吐き出し戦意を示している。
「出てこい、フライゴン。」
緑色の触角のような頭に赤いゴーグルからはつぶらで優しそうな瞳、全身は緑色の華奢な身体に大きな羽根で空を飛んでいる。
「相性の上ではコータスは分が悪い。でもこの子は私のエースよ。長い間一緒に戦って来た実績がある。負ける気がしない!」
アスナの言葉に答えるかのようにコータスは鼻から吐く煙を更に勢いよく噴き出させる。このコータスはチャレンジャー用にレベルを合わせたポケモンでなく、アスナの相棒そしてエースとして長い付き合いがある。まだ彼女がトレーナーの頃から苦楽を共にしてきたと言えばわかるだろう。
「それは僕も同じことです。フライゴン、“すなあらし”!」
彼もまたフライゴンがアスナのコータスと同じ役割を担うポケモンである。ナックラーの頃から共に過ごしてきたため、他の手持ちと比べてもミントとのコンビネーションは群を抜いていた。
フライゴンは軽く鳴き羽根を激しく羽ばたかせると地面から砂が舞いあがりコータスを巻き込むように吹き荒れ閉じ込める。小さな砂の破片がコータスの皮膚を少しずつ傷つけていく。アスナとコータスは想像以上の威力に驚き思考が停止する。だがジムリーダーは経験から自然と最善の手をとる。
「コータス、“こうそくスピン”で吹き飛ばして!」
コータスは自分の甲羅の中に身を仕舞うとグルグルと激しく回転させ、その遠心力で“すなあらし”を吹き飛ばしてみせる。宙を舞っていた砂が地面へパラパラと落ちていく様を見てアスナは笑みを浮かべまぶたを閉じ、口を開く。
「ジムリーダーを甘く見な・・・『“フライゴン、どくどく”』
フライゴンは口から禍々しいヘドロ液のようなモノを吐き出してコータスへ命中させる。一瞬で全身に猛毒を巡らせるとコータスは苦悶の表情を浮かべて痛みに耐える。
「え、ちょっと。今は悔しがる表情をチャレンジャーが浮かべるところぉぉ!!!」
アスナは己のジムリーダーとしての威厳を保てなかったことを悔しがっている。まだ彼女はジムリーダーとして理想的な立ち振舞いをするための間を覚えていないようだ。
「え、なにか言ってました?すみません。」
当のミントはキョトンとした表情を浮かべ、ペコリと頭を下げて謝った。どうやら相性的にもミントとの波長は合わないらしい。
「んぐぐ、まぁいいわ!頑張って、コータス “ほのおのうず”ッ」
コータスは苦しみながらも口から渦を巻く炎を吐き出してフライゴンへ放つ。
「“でんこうせっか”で回避。もう一度“すなあらし”で閉じ込めろ。」
範囲の広い攻撃を“でんこうせっか”で加速して回避すると再び砂の渦へコータスを閉じ込める。先程の地面へ落ちていた砂をも巻き込んで激しくうねる。“どくどく”によるだんだん激しくなる内部からの痛みと外部から削られる“すなあらし”によるダメージ。たとえジムリーダーと共に歩んで来たポケモンだとしても無事では済まない。
だがその逆境こそが不慣れな体裁を保とうとするアスナの迷いを断ち切ることとなる。彼女はジムリーダーではなく、ひとりのトレーナーとして現在のバトルに勝ちたいという純粋な闘志を思い出したのである。
「コータス、空へ向かって“オーバーヒート”」
コータスは全身に熱気を溜め、そしてそのエネルギーの全てを口へ集めて空へと放った。爆発的な火柱は昇り、天を焦がす。すると弾かれた砂塵が灰へと変わり果てる。
(ありがとう、私にジムリーダーの風格なんかよりも大切なモノがあると気づかせてくれた。)
アスナの瞳にもはや迷いなど微塵もない。無理に繕う必要などなかったのだ。これまで通り自分とポケモン達とで自分達のバトルに全身全霊で臨むだけで良かったのだと感じる。
彼女には着させられていたはずの不恰好なジムリーダーのマントを始めて着こなせた気がしてきた。
(せめてものお礼に全力で挑ませて貰う!)
「コータス、“かえんほうしゃ”ッッ!!!」
コータスは口から炎をフライゴンへ向けて放出した。ミントはアスナの指示を聞いた瞬間にニヤリと笑い、即座に指示を出す。
「“ドラゴンダイブ”でかき消せ!」
フライゴンは青い龍のエネルギーを纏いコータスの放った“かえんほうしゃ”の中へ突っ込んだ。ミントはダメージを与える事で更に優位に立とうと考えていたが、すぐにそれが悪手でだったことを彼は感じざるを得なかった。
なぜなら“オーバーヒート”で下がったはずの“とくこう”の威力とは思えなかったからである。フライゴンの“ドラゴンダイブ”は次第に押されていき後方へ弾かれてしまう。
「“しろいハーブ”か」
“しろいハーブ”、それはポケモンに持たせるアイテムの一種で一度だけ下がった能力値を元へ戻す効果を持つ。そのため“オーバーヒート”のデメリットを一回限定で無くすことができるのだ。
またコータスは彼女の成長に応じて殻を破ったのか、ただの“かえんほうしゃ”の威力とは思えなかった。それから放たれる“オーバーヒート”の威力が急所に当たればフライゴンを一撃で戦闘不能に追い込んだとしても不思議ではない。
「コータス、“ストーンエッジ”」
コータスが地面を強く踏みしめると無数の岩の刃が浮きあがり、鳴き声と共にフライゴンへ襲いかかる。
「フライゴン、“りゅうのはどう”」
青色のエネルギーの波動を放つと岩のナイフを砕きながら“コータス”との距離を縮めていく。その刹那に研ぎ澄まされたアスナの思考回路は的確に最適な手段を取る。
「コータス、“どわすれ”で耐えるのよ!」
コータスはフライゴンの放った攻撃を避けることができず、クリーンヒットする。激しい土煙が舞い視界からコータスが見えなくなる
「お願いコータス。耐えて、、、」
アスナは囁くように願う。数秒後、煙が晴れコータスの影が薄っすらと見える。ミントが視界に捉えたのは『え、なんかあったの?』と言わんばかりの惚けた表情のコータスである。
「よし、よし!コータス、反撃よ。“えんまく”」
コータスは口から黒い煙を放出してフライゴンの視界を遮る。フライゴンは空へ飛んで命中率を下がらないようにするが、完全にコータスを見失ってしまう。キョロキョロと目を動かして気配を辿るが見つからない。
「コータス、“オーバーヒート”ォォッッ!!!!」
土煙の中で赤く光りが現れると即座に強烈な炎の火柱がフライゴンへ襲いかかる。かろうじて直撃は避けられたものの左側の羽根へ命中し、ダメージから十分に羽ばたくことができず地面へ落ちていき墜落した。地面はボコンとへこみ、フライゴンは痛みをこらえているようだった。
「フライゴン、大丈夫かッ⁉︎」
フライゴンはまだいけると言わんばかりの声をあげるが、ミントはコータスの“どくどく”での戦闘不能をのぞむような長期戦は望ましくないと判断する。この勢いのまま後手に回れば負けるのは自分達だと確信したからだった。
(フライゴンの羽ばたく音でおよその位置を割り出したのか・・・)
ミントは“オーバーヒート”が正確に放たれた理由を見抜くと、頭を切り替える。
幸いにも“えんまく”の煙は先程の炎で吹き飛ばされ視界は良好である。だが客観的には飛ぶことのできないフライゴンにもはや攻める手はないかのように見える。
「コータス、“ジャイロボール”でトドメよ」
使うポケモンの速度が遅ければ遅いほど威力のあがる“ジャイロボール”をするためにコータスは頭と両足を甲羅の中に引っ込めようと力を込める。だがその瞬間にこれまでにないほどの猛毒の痛みが全身にほとばしる。
「逆王手です。“だいちのちから”。」
フライゴンは右手を握り地面を殴りつけると大地が尖るように隆起し、コータスへ迫る。毒の痛みにより全身が瞬時に硬直したため回避を取ることができず甲羅の覆っていない下腹部へめり込み吹き飛ばす。
コータスの巨体は突然の衝撃を受けて宙へ舞うとそのまま甲羅を背に地面へ叩きつけられた。土煙がフィールド中へ広がるとすぐに逆さとなって戦闘不能となっているコータスの姿がそこにはあった。
「コータス〜〜〜ッッッ!!!!」
アスナは戦闘不能となったコータスの元へ走って向かうと安否を確認する。意識は戻ったようだが毒とダメージにより疲弊しきっているようだった。
「えぇと、“どくけし”は残っていたかしら」
アスナはジムの倉庫の方をチラリとみるが、買い足していなかったのを思い出して顔が青ざめる。
「これを使ってください。」
ミントはバックから取り出したジップロックの封を切って乾燥した桃色のきのみ、“モモンの実”をアスナへ手渡した。長持ちさせるために乾燥させており、小さくなっているが効果は充分ある。
そしてアスナが“きずぐすり”を取ってくる間に乾燥させた“オレンの実”もコータスに与えてやると弱々しくも嬉しそうな声をあげる。
やがて大きな救急箱を持って戻ってきたものの、どう治療していいか分からないアスナから必要な道具を受け取ると、ミントが慣れた手つきでの治療をしてやる。終える頃にはコータスはスヤスヤと眠り始めた。何度もお礼を言うと彼女は安堵しながらモンスターボールの中へ戻す。そしてミントはご機嫌なフライゴンを褒めながら治療を始める。
「私達の負け。でももっと強くなれるってわかった。それだけでもバトルには意味があったのだと思った。本当にありがとう。」
アスナは治療を終えたミントに握手を求めると彼は素直にそれに応じる。そして約束通り“オーバーヒート”のわざマシンだけでなく感謝の意を込めて貴重な“ほのおのいし”を彼へ渡した。
このバトルを得たアスナはトレーナーとしてさらなる高みへ登ることとなる。そしてそう遠くない日に彼女はジムリーダーとしての風格を備えるのであった。
「ねぇコータス。私達は今日のバトルで成長できた。これからもついてきてくれる?」
ミントが去った後にアスナはコータスの入れたモンスターボールに語りかける。するとそれに返事をするように左右に揺れた。
「今日はいいバトルだった。まだ興奮して心臓の鼓動が止まらないもの・・・。」
アスナはいつまで経っても治らないこの動悸に病気だと思い、医者に行くと苦笑いされながら健康そのものだと診断された。この感情に気づくのは彼女がジムリーダーとして一人前になってからであった
〜後日談〜
キンセツシティのフレンドリーショップからミントが2750円と貴重なので買い取れないと言われた“ほのおのいし”を持って出てきたのが目撃されたとか、されないとか
アスナの口調を思い出そうとアニメを見返したところ、幼稚園児の頃に見た記憶が残っていました。当時は気にも留めなかった“おくのサイドストリート”に爆笑したのは成長を感じました。
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