Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章 (純白の翼)
しおりを挟む

プロローグ
第0-A話 それぞれの動向


久々の投稿です


1986年7月7日

 

「母さん!聞いて聞いて!父さんが、父さんが帰って来たんだ!母さんを心配して!戻って来たんだ!!」

 

 6歳ほどの少年が、病院で寝ている女性、キャサリンに話している。

 

「ゼロ。もうお父さんは、私たちのいない所に出掛けてるから帰って来ないわ。」

 

 女性は、もういない自らの夫の事を息子に言った。これで嘘を付くのは何十回目かになる。だが、それは自分を元気付けようとする為にやっているので、咎めなかった。

 

 もう自分は長くない。5年前のハロウィーンまで果てしない逃亡生活が続いた。終わってから異変を感じた。そしたら乳癌、ある程度のレベルまで進行していた。

 

 一度は除去出来たけど、再発。しかも今度は至る所に転移してたので、入退院を繰り返している。いくら、夫の前妻の子のフォルテや屋敷しもべ妖精のシルバがいるからと言って、これではゼロがあまりにも不憫過ぎる。

 

 だから出来るだけこの子の傍にいようとした。思えば、夫と出会ったのは10年前。病院での仕事が終わった時。医師としては駆け出しだった。帰りに奇妙な男、数人に襲われた。その時に助けてくれたのが、夫。アルバート・フィールド。その隣にいたのが、彼の前妻の子であるフォルテ。小さな生き物の正体は、屋敷しもべ妖精のシルバ。性別は女性だそうだ。

 

 アルバートから素性を教えて貰った。でも、すんなり信じられた。目の前で魔法を見たのだから。そして何よりも、12歳年下の弟ギルデロイもそうだったから。自分と妹には、残念ながら魔法力が無いスクイブだった。だから、マグルとして、医者として生きる事にした。

 

 2年間アルバートと交際し、ゴールイン。でもそれは、魔法界のテロリストである闇の陣営からも狙われる事を意味してた。それでも天は、私達に愛の結晶を授けてくれた。最愛の息子、ゼロを。

 

 大きな一軒家に魔法をかけたアルバート。万全の護りとなった。ゼロが生まれる2か月前の事。アルバートは最期、数十人の死喰い人から私達家族を逃がす為に殿を務めた。フォルテはその時、新入生としてホグワーツに行っていた。間に合わなかったが、救援に駆け付けて来たアルバス・ダンブルドア曰く、夫は3日3晩倒れる事無く死喰い人を全員道連れにして立ったまま死んだそうだ。

 

 いつもアルバートやフォルテ、シルバに助けられてばかり。闇の陣営の首領、ヴォルデモート卿が倒れたと聞いて、これからはアルバートに代わって2人の息子と妖精を守っていこうと思った矢先がこれとは。

 

 ああ。もう意識が遠退いていくようだ。

 

「く……薬の話があるんだ!伝説の何でも直す薬!!魔法界になら……きっと。」

 

 ゼロが今にも泣きそうなのを堪えながら、必死に私を元気付けようとしている。フォルテは、帽子で目で隠し、泣こうとしているのを隠している。

 

「フォルテ、シルバ。私はもうここまでみたいだわ。あなた達には、いつも迷惑を掛けてばかり。守るつもりが、守られていた。」

 

「そんな事は無い。義母さん。あなたと出会うまでは、母親なんて碌でも無い存在だと思ってた。俺の実の母親は、フィールド家を滅ぼした悪魔だから。だが、あなたは俺の実の母以上に母親らしかった。この俺をゼロと同じく息子として扱ってくれた。感謝している。あなたからは、もう十分過ぎるほど色々いただいた。もう安心して欲しい。ゼロは、何があっても守る。そうだろ、シルバ。」

 

「奥様。心配なさらないでください。フォルテ様と共に、ゼロ坊ちゃまを必ずや、守り抜きます。」

 

 それを聞いて安心した。シルバは、パチンと消えた。周囲の人間に知られたら危険過ぎるから、気を遣ったのだろう。

 

「ゼロ。」

 

 息子の名を呼ぶ。

 

「これから辛い事……悲しい事があるかもしれない。でもね、楽しい事……嬉しい事もある。夢を持って……自信を持って……本当なら……もっと色々な事を……教えてあげたい。そして…………も……っと……一緒にい……たい。ゼロ…………ゼロ……愛しているわ。」

 

「母さん?……母さん!母さん!!イヤだあああああああああああ!」

 

 ゼロの悲痛な叫びが部屋の中に響き渡る。キャサリン・フィールド。死亡。死因、乳癌を始めとした体の至る所に転移した癌。それを5年間闘病し続けた。

 

*

 

「!?……何だ、夢か。」

 

 ゼロは、目を覚ました。

 

「クソ。この時期になると、あの出来事が夢として出て来るのか。」

 

 カレンダーを見る。今日は、1993年7月7日。彼の母、キャサリン・フィールドの命日であった。

 

「お目覚めでございますか。ゼロ坊ちゃま。」

 

 フィールド兄弟が住んでいる大きな一軒家。ゼロに声を掛けたのは、アルバートの代から仕えている屋敷しもべ妖精のシルバだ。彼女は、ゼロの世話係でもあり、育ての親とも言える存在なのだ。ゼロとフォルテは、従来の魔法使いと違って、このシルバを邪険には扱ってない。どちらも、彼女に育てて貰った恩があるからだ。というよりフィールド家は、屋敷しもべ妖精をかなり厚遇している。丁重に扱う。故に、シルバは厚保程度の権限を持っている立場なのである。

 

「大丈夫さ。」ゼロは、顔色が悪い。

 

「この時期になりますと、いつも奥様の夢を見るのですね。」

 

「もう割り切ってる。」

 

「ゼロ坊ちゃま。割り切る事と、乗り越える事は別問題でございます。それをお忘れ無く。」

 

 シルバは、ゼロが見栄を張っている事を既に見抜いていた。だから、ゼロを諭したのだ。

 

「うん。ありがとう。それじゃ、お休み。」

 

「お休みでございます。」

 

 ゼロは、再び眠りについた。宿題は80%終わってる。あと一週間で、残りを仕上げよう。

 

 

*

 

 1979年、某国某所。どこかの研究施設。そこにそいつはいた。

 

「――様!とうとう、――の血肉を回収出来ました。これで、全てを無に帰す生体兵器Gを作り出す事が出来ます!やりましょう!私が被験者となります!」

 

「私としては、あなたには危険な目に遭って欲しくないのだけれど?」

 

「あなた様は、人間からも吸血鬼からも迫害される私を救っていただきました!!恩返しがしたいのです!!」

 

「……分かったわ。あなたの意思を尊重する。それで、今から生み出して、完成はどれくらいになるかしら?」

 

「1980年の4月16日になるかと。」

 

「そこに、この――――を組み込んでおきましょう。」

 

 そして、現代。グラントは、相変わらず抗争に明け暮れていた。ついさっき、敵対組織の『ブリッツ』を壊滅に追い込んだ所だ。その報告を、ボスに報告するのだ。

 

「オヤジ。ブリッツを潰してきた。」

 

「良くやったグラント。流石は、俺の息子だ。しかし、もう13年か。お前を拾ったのは。物心ついた時から、喧嘩や格闘技をして、8歳で総隊長だからな。……それで、魔法の学校はどうだ?」

 

「ああ。楽しいぜ。その時だけ、有意義な時間を満喫出来る。」

 

「そうか。しばらく休め。学校の勉強も怠らないようにな。」

 

「おう。ありがとう。オヤジ。」

 

 グラントは、自分の部屋に戻る。苦手じゃない科目から勉強を始めた。

 

「俺って、一体?」

 

 自分が何者なのか、それに疑問を持ち始めるグラントであった。

 

*

 

「ルシウス!どうしましょう!アイツの狙いは、ドラコよ!」

 

 すらっとしていて色白、髪はブロンドで目は青い女性がルシウスに切羽詰まった状態で夫に相談している。

 

「シシー!ドラコとスピカとコーヴァスを連れて逃げろ!何て事だ。こんな奴に目を付けられるなんて!」

 

 ルシウス・マルフォイは、妻であるナルシッサ・マルフォイにドラコとコーヴァス、2人の息子と娘スピカと共に逃げるように促す。

 

「うふふふふ。逃げられると思ってるのかしら。あなた達ごときの強さで。この私、リチャード・シモンズから。」

 

 喋っているのは男だ。金髪で、丸刈り頭の。そして、クラシックチュチュを着用している。また、オネエ言葉を話す。無言呪文で、ルシウスのあらゆる呪文を一蹴する。

 

「さて、遊びは終わりよ。来い(アクシオ)。」

 

 リチャードが、黒紫のオーラを待とう。それと同時に、ルシウスの周囲10メートルに小型隕石が沢山降り注いだ。

 

「私を舐めるな!護れ(プロテゴ)!!」

 

 何とか防いではいるが、盾にヒビが入り始める。

 

「ルシウスは封じたわ。次は、加速せよ(アクセレイド)!」

 

 リチャードは、ナルシッサとドラコの前に現れた。

 

「ドラコに手を出したら、タダじゃおかないわよ!」

 

 ナルシッサが強い口調でリチャードを威嚇する。だが、当の本人は全く意に介してない。

 

「口煩いメス2匹とオス1匹は目障りだわ。麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 ナルシッサとスピカとコーヴァスは、成す術無く失神した。

 

「スピカ!コーヴァス!母上!クソォ!!スネイプ先生から教えて貰ったこの呪文で!お前を倒してやる!!切り裂け(セクタムセンプラ)!!!」

 

 リチャードの体の至る所が、切り刻まれた。だが、すぐに傷口は治ってしまった。

 

「そ、そんな……」

 

 ドラコは、非常に怯えてる。自分の切札を、こうもあっさりと破られるのは完全に想定外だったからだ。

 

「やる時はやるし、案外勇気もあるじゃないの。気に入ったわ。だから、私へのプレゼントを……あ・げ・る。」

 

 リチャードは、ドラコの左首筋に噛み付いた。そして、何かを流し込んだ。そして、ドラコから離れた。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 凄まじい激痛が走る。この世のものとは思えない悲鳴を上げる。そして、ドラコが意識を失った時、噛まれた部分に漆黒の痣が出来た。

 

「貴様!!ドラコに、私の息子に何をした!!!」

 

 憤怒の形相で、リチャードを問い詰めようとするルシウス。

 

「この子は、私を求めてくるのよ。力を求めてね。それじゃ、またどこかで会いましょう。」

 

 リチャード・シモンズは、姿くらましした。それと同時に、ナルシッサとスピカとコーヴァスも起きた。

 

「シシー。セブルスに連絡だ。彼なら、何か解決出来るかもしれない。」

 

「分かったわ。ルシウス。」

 

「お父様。お兄様は治りますか?」

 

 スピカが聞いて来た。コーヴァスも心配そうな顔をしている。

 

「大丈夫だ。ちゃんと痣を取ってくれるはずだよ。スピカ。」

 

 スピカとコーヴァスの頭を撫でながら、ルシウスは微笑んだ。心中、穏やかではないのだが。

 

『必ず思い知らせてやるぞ、リチャード・シモンズ。』

 

 そう思いながらも、今は意識を失った長男の安否の方を優先したルシウスだった。

 

「ククククク……ここまでお花畑な思考を持っていると、一層滑稽じゃないか。ルシウス。ナルシッサ。」

 

 突如、声が聞こえた。何も無い場所から、吐き出されるかのように右眼だけを露出している、奇妙な仮面を被った男が出現したのだ。

 

「貴様!何者だ!?」

 

 ルシウスが、仮面の男に杖を向ける。だが、本能で感じ取っていた。コイツは、余りにも危険過ぎると。

 

「俺の名はダアト。まあ、お前が良く知っている人間とでも言っておこう。」

 

 何を言っているのか分からないルシウス。だが、これだけは断言出来る。この男は、強さ、危険度、凶悪さ、全てにおいて義姉ベラや先程のリチャード・シモンズ以上の要素がある。

 

「ふっ……バカめが。何も知らず、ヘラヘラと笑ってやがる。」

 

「私が、本心からそうしているとでも思ってるのか!?」

 

 ダアトの嘲る様な口調に、苛立ちを隠せなかった。

 

「これからお前達闇の陣営に降りかかる地獄も知らずに……浅ましく滑稽だな。」

 

「何だと!?」

 

「これから……いっその事死んだ方が良いと思える程お前達マルフォイは苦しむ事になるだろう。そんな中で、運良く生き残れたとしても……俺達とは別の…………究極の地獄に気付くのさ!」

 

「究極の……地獄。」

 

 嘘だ。嘘だと言って欲しいと願っているナルシッサ。ダアトは、そんな彼女を見て嘲笑っている。

 

「敵である筈の……ダンブルドアに泣きつくお前らの姿が目に浮かぶ。笑いが込みがって来るわ。」

 

 もう我慢の限界だった。こちらが何も言わなければ、好き勝手にボロクソに言い放った。それに飽き足らず、自分達を見るダアトの眼は、虫けらでも見ているかのようなそれであった。

 

「ふざけるな!そんなむざむざと、殺されてたまるか!私は、生き残る為なら何だってするのだ!!息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!!」

 

 ルシウスは、仕込み杖から緑の閃光を発射。ダアトは避けようともせず……直撃した。

 

 当たった。死んだ。何処の誰だか知らないが、その胸糞悪い面をひっぺはがしてやろう。ルシウスはそう思ったが、ダアトはピンピンしていた。イヤ。正確には、死の呪いがすり抜けたのだ。

 

「ルシウス!」ナルシッサが、夫の肩に縋りつく。

 

「それまで……せいぜい、仮初めの平和を謳歌しているが良い。」

 

 ダアトは、吸い込まれるかの様に消え去っていった。

 

*

 

 隠れ穴。ウィーズリー家の面々は、日刊予言者新聞のガリオンくじの項目を見ていた。

 

「いい。アーサー。番号は6737804687よ。」

 

「分かってるって。モリーや。」

 

「お父さん。頼みますよ。」

 

 ウィーズリーおじさんは、当選番号を確認する。

 

「…………やった!当たったぞ!」

 

「「すっげー!流石親父だぜ!」」

 

 フレッドとジョージの双子も喜んでいる。

 

「パパ凄いや!」

 

 ロンも思わず感激している。

 

「夏休みが楽しくなりそうだわ!」

 

 ジニーは、すっかり元気になっていた。

 

「ロン。新しい杖も買っておくよ。そして学費以外で、エジプト旅行に行こう!」

 

 こうして、ウィーズリー家の夏休みが確定した。

 

*

 

 グリモールド・プレイス 十二番地のブラック家。ここでは、イドゥンとエックスが魔法の修行をしていた。

 

守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!」

 

 エックスが黒豹を出している。しかし、30秒後に消滅。

 

「はあ……はあ……まだ、時間が短過ぎる!」

 

「以前は15秒でしたのに、随分と伸びましたわね。秘密の部屋の時の持続時間を再現するのはもうしばらくかかりそうですね。」

 

「あの時は、無我夢中だったからさ。でも何で、あの時はあれだけの長時間出せたんだろう?」

 

 その時、ブラック家の屋敷しもべ妖精クリーチャーが2人のいる部屋に入って来た。

 

「お嬢様。お坊ちゃま。そろそろ夕食の時間です。」

 

「オーケー。ありがとうね、クリーチャー。すぐ行くよ。」

 

「ありがとうございます、クリーチャー。それじゃあ、エックス。今日はこの位にしましょう。また明日、続きをやるです。」

 

「了解!」

 

 キッチンへ2人は向かった。

 

*

 

 プリペッド通り。エリナ・ポッターは、魔法史と魔法薬学の宿題に苦戦していた。他はすんなり出来た。でもこの2つだけは、とても苦手なのだ。

 

「火あぶりの刑なんてどこを探せばいいのやら。はあ、あと一週間か。待ち遠しいなあ。」

 

 ダーズリー家にも言ったが、夏休み初日の2週間後にロイヤル・レインボー財団がエリナを迎えに来ることを伝えた。

 

 この財団は、彼女の兄であるハリー・ポッターの家なのだ。ローガー家やロイヤル・レインボー財団のメンバーはエリナを家族と見做してくれている。

 

 今回は、バーノン・ダーズリーの経営する会社の資金援助もするという話もロイヤル・レインボー財団からの手紙で持って来ていた。

 

「ハリー。ボクの唯一残った家族。今頃、どうしてるのかなあ。」

 

 エリナにとってハリーとは、唯一生き残っている家族で、双子の兄だ。彼は、自分と違ってずば抜けて優秀。学年主席のイドゥン・ブラックとも互角に戦えるのだ。それどころか、ルール無用の戦闘となれば彼女など瞬殺する技量の持ち主。そして、この状態の彼と対等に戦えるのはゼロにグラントの2人だけだ。

 

 成績の方も、変身術を除いてはハリーが一回りも二回りも優秀である。特に、魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術において、彼の右に出る者はいないと言われている。それでもエリナ・ポッターを邪険にせず、時には命を張ってでも守るのだ。

 

今の生活も、悪いとは思ってない。でもいつかは、兄である彼と暮らせるかなと夢見ていたのだ。

 

*

 

 リトル・ハングルトンの外れにあるボロ屋。もう無人となっているが、かつてここには聖28一族の一つ、ゴーントが住んでいた。近親婚を繰り返した末に、最後の一人はアズカバンで死亡し、断絶した。

 

「所詮、ヴォルデモートの保護魔法なんてこんなものだろう。」

 

「イーニアス。やりますね。」

 

「さっさと仕事を終わらせましょう。兄上。姉上。」

 

 会話しているのは、エイダ、イーニアス、アドレーのローガー3姉弟だ。育ての親であり、実の祖父と暮らしている。祖父の名はアラン・ローガーだ。彼の調査結果の末、探し物を探している。

 

「洞窟に行ったおじい様とハリーは大丈夫でしょうか?」

 

「姉上。心配いりません。あの2人なら、ちゃんとやるでしょう。入りましょう。」

 

 アドレーが、エイダの心配を解した。ゴーント家に突入した3人。木箱の中に、それは隠されていた。

 

「これが…………」

 

「マールヴォロ・ゴーントの指輪。お祖父様から回収しろと言われたもの。」

 

「木箱ごと持ち帰ろう。」

 

 3人は、目的の物を回収して、その場を姿くらましで後にした。

 

*

 

 ここは洞窟の中。壮年の男性と、少年がいた。

 

「義祖父ちゃんの昔の先生が、本当にリドルとのやり取りを教えてくれるとは思わなかったよ。」

 

「まあ、ハリーのお陰ではあるけどな。殆ど。そして、スラグホーン先生の孫娘の説得もかなり効いたのだろうな。」

 

「俺、大した事してないけどね。それで、本当にここが隠し場所なの?義祖父ちゃん。」

 

「ああ。ここは、奴の育った孤児院に近い海岸沿いの岸壁にある洞窟。ここに、目的の物がある。行こうか。」

 

 アランとハリーは、洞窟の中を突き進む。やがて、一つの壁の前に辿り着く。

 

「血が通行手形か。とことん腐った男だな。」アランが吐き捨てるように言った。

 

「すぐに回復する俺の番か。」ハリーが、ウイルスモードを発動する。

 

 彼は、何の躊躇いも無く持っていたサバイバルナイフで右腕を切った。そこから出る血を壁に付着させる。結果、岩壁は消滅、暗い道が開かれた。そして、ハリーの腕の傷はもう何事も無かったかのように消えている。この程度の傷ならば、W-ウイルスの力ですぐに回復するのだ。

 

「ハリー。そこまで無茶はしなくても良かったのに。」

 

「ここからは、義祖父ちゃんの力が要るかも知れないからね。温存しといて。」

 

「分かった。」

 

 更に進むと、湖が見えた。中央には、緑に光る何かがある。そして湖の中には、死体が漂っていた。渡るには、専用の小舟がいる。

 

「この小舟は、一人前の魔法使いしか乗せられないようだ。」

 

「つまり、半人前はカウントされないって事?」ハリーが質問した。

 

「そう。未成年を過小評価し過ぎだ、リドルは。」

 

 そう言って、小舟に乗る。特に何の障害も無かった。中央の小島まで辿り着く。そこには、水盆が据えられている。中を見ると、ロケットがあった。

 

「義祖父ちゃん!あったよ!スリザリンのロケットが!!」

 

「ああ。だが、この緑色の液体を飲み干さないといけない。私がやろう。」

 

 アランは、あっという間にすぐに飲み干した。だが、顔色を悪くし、その場に樽ってしまった。しかも、亡者が襲い掛かって来た。

 

「クズどもが!雷鳴と共に散れ!天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!!!」

 

 ハリーが黄金の雷を、アセビの杖から放つ。電流、電圧をそれぞれMAXの100億まで増幅させた。亡者は消滅した。ハリーは湖の水をすくい上げ、それをアランに飲ませた。

 

「ありがとう、ハリー。」アランは、水を飲む。少し、持ち直したようだ。

 

 ハリーは、ロケットを手に取る。だが、彼は違和感を抱いた。神々しい感じがしない。どこにでもありそうな、そんな感じ。

 

『自慢じゃないけど、宝や金目の物の真贋を見抜く力はあるんだけどな。出来れば、本物であって欲しいけど。これは、どうやっても偽物かもな。』

 

 その予想が当たるかのように、ロケットは偽物だった。ハリーは、思わず舌打ちしてしまう。同封してあった手紙には、こう書いてあった。

 

『闇の帝王へ

 あなたがこれを読む頃には、私はとうに死んでいるでしょう。

 しかし、私があなたの秘密を発見したことを知って欲しいのです。

 本当の分霊箱は私が盗みました。できるだけ早く破壊するつもりです。

 死に直面する私が望むのは、あなたが手強い相手に見えたその時、

 もう一度死ぬべき存在になっている事です。――R.A.B』

 

 もう1枚、手紙があった。『デス・イーターは厨二臭いです。それと、あなたのロリコンストーカーの趣味を治してください。』と書いてあった。

 

「R.A.Bか。まずは誰なのか、突き止めないとね、義祖父ちゃん。」

 

「そうだな。まずは、死喰い人を捕まえる事から始めないとな。そうだ、ヤックスリーを捕まえるか。奴は情報通だ。キットに頼もう。」

 

「キットにやらせるんだ。まあ、キットを相手にするのは、相手からすれば国1つを相手にするようなものだけど。何しろキットは、魔法使いの中でも極僅かな『覚醒』した魔法使いだからね。」

 

「キットは、まだ固有能力は持っていないが。」

 

 念の為、偽物も持ち出すことにした。そして、洞窟を脱出した。

 

「もうここに用は無いな。神の怒り(デイ・デイーラ)!!!」

 

 虹色の破壊光線を打ち、洞窟を完全に破壊した。中は、見るも無残な形となった。一応入れるには入れるが、危険地帯となった。アランは、早速キットに連絡を取った。キットは、それを聞いて早速ヤックスリーの制圧に乗り出した。

 

*

 

 とあるどこかの国。どこかの場所。ある洞窟に、10人ほどの影があった。何かしらの会話をしている。

 

「この3年以内に、ヴォルデモートは再び動き出すだろう。」

 

「だから、先手を取ると言うわけか。死喰い人に対して。」

 

「そうだ。早速、死喰い人を一族ごと滅ぼすのだ。行くぞ!」

 

 10人の影は、どこかに消えた。




ハリー、エリナ。誕生日おめでとう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第0-Z話 ヤックスリー&エイブリー完全消滅

プロローグ2話目です。今日はここまで。


 1993年7月10日。ここは、ヤックスリー邸の前。ここに、アラン・ローガーから生け捕りの依頼を受けた男がいた。名はキット。本名は、キット・G・パディック。18歳。ロイヤル・レインボー財団の特殊戦闘部隊所属の参謀である。

 

 1974年8月8日生まれ。彼は、ホグワーツ出身ではない。イルヴァーモーニーと言う17世紀に創立されたアメリカの魔法学校の出だ。パッと見は、西部劇のガンマンの姿をしている。茶髪の巻き毛で、そばかすがある。だが、それでも美形と言われている。

 

 彼もまた、アラン・ローガーとの関係がある。彼をジジイと呼んでいるのは、アランを慕っている証なのだ。そして、ハリーとは兄弟分の関係である。

 

 特殊戦闘部隊。ロイヤル・レインボー財団の戦闘部隊の中でも選び選りの精鋭達の集まりである。十数人が所属しており、個人でそれぞれ車両や航空機を持っている。全員が魔力の保有者であるが、マグルの技術も完璧に使いこなす。それ故に、メンバー1人1人が闇払い数十人を瞬殺、また国際魔法戦士部隊を壊滅させ、そして上級死喰い人相手にも無双出来る戦闘能力を持っている。

 

「さあて。チャチャッとジジイからの仕事を終わらせるか。兄弟分のハリーとも、久々に顔を合わせたいしな。3年ぶりだからな。あいつに会うのは。」

 

 右手で杖を持つ。そして、白金のオーラを纏った。

 

「久しぶりだぜ、アレを解禁するなんてな……覚醒の力を使うのはよ。まあ良いや。取り敢えずは、保護魔法を解除しておこうか。呪文よ終われ(フィニート・インカンターテム)!」

 

 ヤックスリー邸の保護魔法を終了させる。彼は、既に成人しているので魔法省にバレる心配はないのだ。ついでに、姿くらまし防止呪文もかけておいた。

 

来い(アクシオ)!!」

 

 キットは、宇宙空間から流星群を呼び寄せた。ヤックスリー邸目掛けて、その流星群を発射する。ヤックスリー邸は所々損傷した。

 

 そのヤックスリー邸の中では、混乱が生じていた。

 

「な、何だ!?何が起こっている!」

 

「見知らぬ男が、この家に流星群で攻撃しています!」

 

 屋敷しもべ妖精からの報告を受け取ったヤックスリー。家中は大混乱している。

 

「とにかく、全員外へ!」

 

 ヤックスリー本人も、家族も、使用人も家の外へ出た。目の前には、キットが立ち塞がっている。

 

「よお。死喰い人のヤックスリー。この世界のゴミクズめ。初めましてになるかねえ。」

 

 挨拶をするキット。しかし、その態度は極めて不遜だ。ヤックスリーとその家族、使用人を徹底的に見下した態度を取っている。そんなキットの振る舞いは、ヤックスリーを苛立たせるのは容易であった。

 

「貴様!よくも私の家を!」野蛮な顔が、更に醜悪になっているヤックスリー。

 

「ま、こっちはお前らを全員捕まえるのが仕事なんでね。」

 

 キットが興味無さそうに言った。飽く迄仕事だと割り切った態度を取っている。

 

「捕まえるだと!?誰の命令だ!」

 

「さあな。誰だと思う?上級死喰い人様よお。」

 

「……そうか、魔法省か!だが、残念だったな。12年前、服従の呪文にかかっていたのは、はっきりと証明している!」

 

 勝ち誇るような表情となるヤックスリー。

 

「フン。バカの勘違いも、ここまで来れば笑いが込み上がって来るねえ。」

 

「何だと貴様!」

 

「いいか。俺が言ってるのは、魔法省(そんなもの)より、もっと上だっての。」

 

 キットは、空高く左手の一本指を伸ばした。

 

「もっと上だと!?どういう事だ!?それに、お前は一体何者なんだ?」

 

 ヤックスリーは、キットの返答に意表を突かれたのか動揺している。

 

「自己紹介がまだだったな。俺の名は、キット・パディック。アメリカの魔法使いだぜ。以後、よろしく。」

 

 ヤックスリーは思った。この男。明らかにタダ者じゃない。普通、隕石を自在に操って、特定の場所にピンポイントで落としてくるなんて聞いた事が無い。

 

 可能性があるとすれば、この男が使ったのは呼び寄せ呪文だろう。だが、あの魔法は自分の許容量(キャパシティ・レベル)を超えるものを呼び寄せる事は不可能な筈だ。

 

 ダンブルドアや、元ご主人である闇の帝王ならば不可能ではないかもしれないが、この男はそれを平然とやってのけた。

 

『そんなバカな!?あり得ない!絶対に無理だ!下手をするとダンブルドアや闇の帝王よりも強いなんて考えるとは。そんな奴に目を付けられるなんて、私にとっては悪夢そのものではないか!』

 

「おい。醜男。顔色が真っ青だぜ。ちゃんと飯でも食ってんのか?それとも、この俺から逃げようって考えてんのか?」

 

「…………」図星を突かれたのか、更に狼狽えるヤックスリー。

 

「まあ良いや。どっちにしろ、テメエら生け捕りにするからよ。そんじゃ。先手必勝って事で、やらせてもらうぜ!麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

 キットが呪文を唱えて閃光を放つ。しかし、杖の先から出て来たのは、数え切れないほどの無数の赤い閃光だった。1000本は余裕に存在するだろう。それらはヤックスリー以外を、彼の家族や使用人全員を失神させてしまったのだ。

 

「そ、そんな!こんな事が!!」

 

 ヤックスリーは、恐怖のあまり呪文を乱射するが、ことごとくキットに一蹴された。

 

「これがお前と俺の、力の差って奴だぜ。鳥よ(エイビス)防火・防水せよ(インパービアス)燃えよ(インセンディオ)襲え(オパグノ)。」

 

 キットは魔法で、沢山の鳥に炎を纏わせ、ヤックスリーを襲わせた。ヤックスリーは、歴然とした力の差を見せつけられて、何も出来なかった。そして、無抵抗でキットに捕まり、気絶してしまった。

 

「やれやれ。大人しく捕まれば良いものを、手間かけさせやがって。」

 

 キットは、ヤックスリーの頭部に強い蹴りをお見舞いした。

 

「一応、杖の没収と魔封石の手錠を全員に掛けておくか。」

 

 全ての作業を終え、全員をヌルメンガードにぶち込んでおく。そして、アラン・ローガーに連絡を入れる。

 

『ジジイ。終わったぞ。』

 

「良くやった、キット。これから護送に向かう。」

 

*

 

 同時刻。エイブリーの家。

 

『クソ、何故だ!たかが10人に何故、ここまで嬲り殺されにされなきゃいけないんだ!?』

 

 エイブリーは今の状況を見て狼狽えていた。家族、使用人の何人かは突如現れた10人組によって、文字通り瞬殺されてしまったのだ。必死に応戦するが、1人1人の戦闘能力は桁が違い過ぎる。まるで、複数の国そのものを相手にしているようだと痛感する。

 

「隙を見せたな!バカめ!」

 

 リーダーらしき男の放った武装解除呪文が、エイブリーに当たった。エイブリーは吹っ飛ばされてしまう。エイブリーは、生き残った家族や使用人共々10人組に捕まってしまった。

 

「な、何が目的なんだ!私に手でも出して見ろ!仲間が報復に来るぞ!」

 

 エイブリーが吠える。だが彼は、心でも頭でも分かっていた。かつての死喰い人の仲間を呼んだ所で、逆に自分達がやられる事を。だから、ほんの少しの怒鳴り声で逃げようと思ったのだ。

 

「我々の目的……か。これから、一族共々死に行くお前に言って、何の意味がある?」

 

「い、今何て?」

 

 この虹の眼の男の言っている事が本当であれば、これから自分は死ぬのか。冗談じゃない。イヤだ。こんな理不尽があってたまるか、と思わず叫びたくなるエイブリーであった。

 

「だが、冥土の土産に教えてやろう。我々の目的は、お前達の終焉だ。」

 

 リーダーらしき男が冷酷に言い放つ。

 

「俺ら、少しずつこの地球上に存在する全魔法界潰しの為に活動していくから、魔法界と闇の陣営に先手を打ちたいわけ。」

 

「まずは、社会のゴミである死喰い人からってわけだ。」

 

「ミーティング場所の近くにいたお前から始末しようと思ったんだよ。近くにいるのであれば、死喰い人なら誰だって良かったのさ。俺達は。」

 

 エイブリーは絶望した。何とか、何とか見逃して貰おうと思った。

 

「た、頼む!何でもするから、私だけは助けてくれ!許してくれ!!前の魔法戦争の時は……本意ではなかった!!あの方が、闇の帝王が恐ろしかっただけなんだ!!!」

 

 エイブリーは、泣き叫びながら命乞いをする。しかし、10人組は全く話を聞いていない。それどころか、家族を差し置いて自分だけ助かろうとするエイブリーの性根の悪さを嫌悪し、失望していたのだ。

 

「そうやって以前、どれだけ多くの罪無き者の命を殺めてきた?その者達の痛みを、貴様にも刻み込んでやろう。」

 

 リーダーらしき男が、杖を構える。他の9人もエイブリーの家族、使用人に杖を向ける。

 

「お前たちが好き好んで使っていたあの呪文で、とどめを刺してやろう。」

 

「あ……ああ……」自らの最期を悟ったエイブリー。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!!!」

 

 一斉に緑の閃光を放つ。エイブリー達は恐怖と絶望に満ちた表情で、まるで糸の切れたマリオネットの如く動かなくなった。

 

「まずは1人だ。エイブリーの死体を回収し、ここを撤退する。」

 

*

 

 エイブリー家が全滅した時間と同じ時間。キットは、ハリーとアランと合流した。ヤックスリーの一家は、ヘリで護送している。

 

「探し物は、既にすり替えられてたんだ。無駄足だったよ。」

 

ハリーがキットにそう言った。

 

「それで、ヤックスリーから情報を引きずり出すのか。ハリー。R.A.Bに心当たりは?」

 

「無いね。じゃなきゃ、今回みたいにヤックスリーを捕らえたりしないよ。」

 

 その時、メンフクロウがハリーの所に来た。手紙を持っている。ハリーは、それを受け取って手紙を呼んだ。

 

『例の物が完成した。受け取りに来るように。支払い金額も忘れないようにする事。W.G.O』

 

「ようやく完成したか。残り半額の70ガリオン持っていくかな。」

 

 ハリーは、金貨がジャラジャラ鳴っている袋を弄びながら言った。

 

「行ってこい。ヤックスリーの件は、私とキットで対処する。」

 

「了解。よろしく頼むよ。」

 

「そう言えば、手紙の差出人は誰なんだ?」

 

「W.G.Oの事?ワット・ギャリック・オリバンダー。あのオリバンダー老人のお孫さんさ。もう独立してて、杖だけじゃない。物品の修復もやってるんだ。ロイヤル・レインボー財団が贔屓にしてるよ。出来る限りの安全を提供してね。」

 

「ほう。…………って事は、Rは名前、Aはミドルネーム、Bは名字じゃないのか?Bから始まる名字で心当たりは?」

 

「ブラックしか思いつかないね。でも、あの人やイドゥン、エックスは純血主義じゃないよ、キット。」

 

「まあ、その3人とアンドロメダが例外なだけだ。ブラック家は、熱狂的な純血主義の家系だ。現に、ロイヤル・レインボー財団の調査で冤罪の可能性が極めて高いと判断されたシリウスや、エックス以外はスリザリンだ。全員がそうじゃないとしても、誰か1人や2人、ヴォルデモートの配下になっている奴もいておかしくはないな。そう思わないかい?ハリー、キット。」

 

「そこもふまえて情報を引き出すんでしょ?何しろヤックスリーは、自分の情報に自信を持つほどの情報通だからね。」

 

 そういう会話をしている内に、ロイヤル・レインボー財団本部に辿り着く。

 

「じゃ、俺は行って来るよ。アドレー義兄さんと一緒に。」

 

「気を付けてな。」

 

「任しとけよ!」

 

 ハリーは、W.G.Oことワット・ギャリック・オリバンダーの所へ行った。

 

 ヤックスリーを本部の地下にある尋問部屋に叩き込むアランとキット。

 

「ジジイ。ヤックスリー以外は、どうするんだ?」

 

「殺しておけ。死喰い人の家族に情けなどかけるな。例えそれが、女子供であっても。情けなどかけるからつけ上がり、そしてダンブルドアの様な過ちを犯すのだからな。アルフレッドを殺した奴らに、本当の地獄と憤怒の恐怖を教えてやる。」

 

「結構えげつないな。アンタもよ。まあ、気持ちそのものは分からなくも無いがな。何せ1人は、もう報復すら出来ないんだろ?もっと強い奴を隠れ蓑にしてよ。」

 

「ああ。出来る事なら、スネイプも殺してやりたい所だがな。奴め、我々が狙っていると分かった瞬間ダンブルドアに寝返った。」

 

 キットは、ヤックスリーを目隠しさせながら、アランに言葉を返す。

 

「それに、ハリーをこんな奴の為に一生消えない罪を背負わせたくないからな。ハリーには、まだ早過ぎる。いいや、出来ればやらせたりはしない。」

 

「あいつ、まだ未成年だからな。いくら目的が復讐だとしてもだ…………終わったぜ、ジジイ。いつでも行ける。」

 

「それでは始めようか。活きよ(エネルベート)。」

 

 失神しているヤックスリーの意識を回復させた。

 

「な、何をする気だ!」ヤックスリーは2人に対して声を荒げる。

 

 キットがヤックスリーの顎に蹴りを入れる。ヤックスリーは吹き飛んだ。涙を流しながら、痛い痛いと泣き叫んでいる。

 

「テメエ。自分の立場分かってんのか?もう、テメエを庇ってくれる奴は、ここには1人もいないんだよ。大人しく俺達の質問に答えやがれ。」

 

「R.A.Bは誰か答えろ。」アランが、ヤックスリーに質問した。

 

「仮に知ってても、お前らに教えるものか!!この、間抜けめ!!」

 

 ヤックスリーが言い返す。しかし、キットは杖をヤックスリーに向けている。

 

「何処までも傲慢な奴め。それが命取りになるんだよ。苦しめ(クルーシオ)!!!」

 

 キットは、ヤックスリーに無限の苦痛を与えてやりたいと言う加虐心を以って、磔の呪文を唱えた。ヤックスリーは、この世のものとは思えない叫び声を上げる。頼む、いっその事一思いに殺してくれと思いながら許されざる呪文を浴び続けるヤックスリー。そして、気を失う。

 

「さっさと起きろ!このゴミムシが!!!熱を持った水よ(アクアメンディ・フェルベンティス)!!!」

 

 ハリーが開発し、彼自身から教わった呪文をヤックスリーに放つ。その温度は100℃。あまりの熱さで、ヤックスリーは強制的に意識を取り戻す事になった。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「気を失っては困る。」アランが、憎悪を込めた目でヤックスリーに言い放った。

 

「わ、分かった。話す、話す!話すから、もうやめてくれ!!助けてくれ!」

 

「最初からそうすればよかったものを。ジジイ。真実薬だ。」

 

 アランは、ヤックスリーにありったけの真実薬を飲ませた。その後、知っている死喰い人の名前を上げさせた。どれも知った名前で、大した成果は上がらない。

 

 キットは、ヤックスリーに暴行を加える事で更に吐き出させた。骨の殆どを骨折させたり、内臓の重要な部分を損傷させたりして。すると、未成年で入って来たレギュラス・アークタルス・ブラックという名前が出て来た。更に、ベラトリックス・レストレンジが何か金のカップをヴォルデモートから預かってグリンゴッツに入れたという情報も聞き出せた。

 

「し、知ってるのはこれだけだ。頼む、解放してくれ!」

 

「役に立ってくれてありがとう。そんなお前には、それ相応の褒美をやらないとな。」

 

 キットは、まるで優しそうな表情をヤックスリーに向けた。ヤックスリーも、安堵の表情が戻ってくる。だが、キットは残忍に満ち溢れた笑みを浮かべた。

 

「ヤックスリー。テメエ、自分のご主人様の情報を暴露したんだ。お前は、真っ先に粛清されるに決まってるだろうが。それを回避する為に、俺達に責任転嫁する事は見え見えなんだよ!だから、そう言ったゴミは、殺すのが相場だ!」

 

「イヤだ!死にたくない!協力もする!情報は、これからも渡す!!だから、だから……助けてくれええええええええ!」

 

 ヤックスリーは、必死に泣き叫んで命乞いをする。

 

「ダメだ。私の孫のアルフレッドを殺した罪は重いのだ。確か、貴様はその主犯格だったな。私の家族に手を上げておいて、只で済むと思うなよ。」

 

「そ、それは……」

 

 ヤックスリーは悟った。何故自分がこんな目に遭わなければならないのかを。だから、12年前の自分の行動を恨んでやりたくなったのだ。とんでも無い奴らを、自分を含めた闇の陣営は敵に回してしまったと。

 

「問答無用だぜ、ヤックスリー。疑わしきは、ぶっ殺してやる。切り裂け(セクタムセンプラ)!」

 

 キットは、ヤックスリーに呪文を放った。身体を切り裂かれた。それでも、まだ息のあるヤックスリー。

 

「まだ息があったか。次こそとどめだ!切り裂け(セクタムセンプラ)!」

 

 また身体を切り裂かれた。もう、流石にヤックスリーは息をしていない。この攻撃で死んでしまった。だがあろうことか、キットはまだ攻撃をやめない。

 

切り裂け(セクタムセンプラ)切り裂け(セクタムセンプラ)切り裂け(セクタムセンプラ)切り裂け(セクタムセンプラ)切り裂け(セクタムセンプラ)切り裂け(セクタムセンプラ)!!!」

 

 ヤックスリーの五体は、ズタズタに切り裂かれた。

 

「これだけやっておけば、流石にもう生きてはいねえよな。せめてもの情けだ。死体処理でもしておくか。」

 

 キットは、ヤックスリーの遺体を悪霊の火で焼却処分したのだった。

 

 後日、エイブリー家とヤックスリー家の完全消滅が日刊予見者新聞の大見出しを飾った。純血の名家が2つも滅ぼされた事は、英国魔法界に大きな波紋を広げる事となったのだ。

 

*

 

 ここは、ホグワーツ魔法魔術学校の校長室。いるのは3人。アルバス・ダンブルドアとミネルバ・マクゴナガル、そしてセブルス・スネイプだ。日刊予見者新聞の大見出しをデスクに広げていた。

 

「ダンブルドア校長。これは一体、どういう事ですかな?」

 

「うむ。もう少し情報を集めないといけのじゃが、ロイヤル・レインボー財団が関わっている可能性も否定出来ないのじゃ。」

 

「……ヤックスリーは、アルフレッド・ローガーを殺害した死喰い人達の主犯格です。恐らくは、その報復で一族諸共全滅させられた可能性があります。」

 

スネイプが、ダンブルドアにそう進言した。スネイプも、僅かながらに震えている。

 

「うむ。じゃがのう、セブルス。わしが分からないのは、何故今と言うタイミングなのかじゃよ。」

 

「それだけではありません。ルシウスから、リチャード・シモンズという男と出会い、ドラコの首筋に痣を残して消えたという情報もあります。痣を消す事は出来ず、かと言って影響を抑える薬も申し訳程度にしか持続しません。」

 

 マクゴナガルは、何かを決心したように2人に情報を話した。

 

「リチャード・シモンズ。ロイヤル・レインボー財団の元構成員です。禁断の魔法を、ヴォルデモートが使用していた分霊箱とはまた別の不死の魔術を開発していた事がバレて、追放を受けました。そして、アランはシモンズを追っている内に、ある組織に数年いた事が明らかとなりました。」

 

「してミネルバ。その組織は何と言っておったのじゃ?」

 

「いいえ。そこまでは教えてくれませんでした。アランは、闇の陣営についてはギリギリまで放っておく。そして、今はその組織を追っているとだけしか言ってませんでした。」

 

「一度、彼と話をしよう。」

 

「ですが校長。素直にアラン・ローガーがあなたと話してくれるとは、我輩はそう思えませんな。」

 

「なに。そこは考えておる。そして、聞きたい事もあるしの。」

 

 ダンブルドアは、朗らかに笑っていた。だが、問題は山積みなので笑顔を作っているだけに過ぎない。

 

 今の所は、全ていっている。しかし、想定外だったのは、切札たるハリー・ポッターが自分を完全に信用して無い事だ。エリナに過酷な事をさせようとしている事、危険に晒した事、手駒として見ている事に対して怒っているのだ。

 

 しかも、エリナも自分よりも兄であるハリーの方を信じている。家族の方が信頼出来ると言えばそれまでだ。だが、あと数年でヴォルデモートは行動を開始する。結束しなければ、勝てるものも勝てなくなる。

 

『わしが……わしが全て悪いと言うのか、アラン。アルフレッドを死なせた任務を与えたこのわしが…………そして、君の息子夫婦を殺したセブルスを引き渡さないで匿った事も。』

 

「校長。」

 

「良いかね。セブルス。君は、間違ってもロイヤル・レインボー財団の怒りを、もう2度と買わぬ事じゃ。ジェームズとの確執を理由に、ハリーに何か手でも出そうものなら、アランは口実が出来たと言わんばかりに干渉してくるのは目に見えておるからのお。」

 

「分かっております。それに、もう憎いとかそんな感情はありません。恐ろしいのです。我輩の過ちが大きく響いて、ポッターが闇の帝王以上の闇の魔法使いになってしまう事が。勿論、闇の帝王と同調するのは決して有り得ない事だと分かってはいるのですが……」

 

「うむ。それよりは、ハグリッドの話に出ていた謎の男に同調してしまう方が懸念材料という事じゃ。では、ミネルバ。セブルス。わしは行って来る。」

 

 悩んだ所で仕方がない。とにかく、ひたすら行動しなくては。今、魔法界で起きている異変を知る為に。それが、今自分が出来る道なのだから。死んでしまった妹と自分を信じて付いて来てくれた者達にそう語りかけるダンブルドアであった。

 

*

 

「1週間ぶりだ。ここに来るのは。3日間で宿題を終わらせて正解だな。」

 

 ハリー・ポッターは、ワットの家に来た。扉を開ける。様々な品が並んでいる。散らかっているが、それを慣れた感じで難なく進む。

 

「来たねハリー。僕は、お祖父様から独立して5年になるわけだが、どうかな。上手くやってるのかい。」

 

「オリバンダー老人がそう簡単にくたばってたまるものか。……約束の金だ。70ガリオンある。数えてくれ。」

 

 袋を投げ渡す。ワットは、中身を取り出して1枚1枚数える。

 

「ちゃんとあるな。よし、約束の140ガリオンは確かに全額受け取った。これを渡す。」

 

 渡されたのは、杖が5本。

 

「素材は?」

 

「芯は、いずれもバジリスクの牙。正確には、杖の大きさに合わせて加工したものだ。材質の木は、それぞれユーカリ、アカシア、カラマツ、ハンノキ、クマシデだ。分霊箱の破壊に特化している。」

 

 1本ずつ試す。結果、ユーカリの杖を持つ事にした。これが、1番馴染んだからだ。ユーカリの杖の方も、ハリーを気に入ったらしい。

 

「ありがとう。また来るよ。」

 

「じゃあな。気を付けて帰りな。」

 

 ハリーは、ワットの家を出た。アドレーが待っていた。

 

「お帰り。それで、杖は?」

 

「1本だけいただいて、残り4本は渡しておきますよ。」

 

 ハリーは、アドレーに4本の杖を渡した。

 

「それと報告だ。R.A.Bの正体は、レギュラス・ブラック。シリウス・ブラックの弟だよ。そして、証言通りハッフルパフのカップはグリンゴッツにある。場所は、レストレンジ家の金庫だ。予めこちらの調査で分かっていたけど、裏付けも取れたから確実だね。」

 

「それはまた、厄介な所にあるね。一先ずそれは、保留にしよう。まずは、ロケットだ。丁度、イドゥンにシリウスの事を伝えなきゃいけないからさ。」

 

 ハリーは、ロイヤル・レインボー財団に戻ってからイドゥンに手紙を書く。ナイロックに持たせた。その3日後、ナイロックが帰って来た。イドゥンからの返事。それは、8月28日に会いましょうという返事が来たのだった。

 

*

 

 アズカバン。ここに収監されている2人の男がいた。シリウス・ブラックとクィリナス・クィレルである。彼らは、最近ファッジから貰った新聞を読んでいた。だが、シリウスはある記事を読むと表情を強張らせたのだ。

 

「どうかしましたか?」

 

「エリナ達が危ない。ピーターの奴を見つけた!ホグワーツに戻る気だ!」

 

「……行くのですね。」

 

「ああ。」

 

「くれぐれも、無茶な事だけはなさらない様に。」

 

「……クィリナス。君とは1年ちょっとの交流しかしてなかったが、退屈じゃなかったぜ。ありがとう。」

 

「いずれ、また会いましょう。」

 

「行ってくるよ。」

 

 シリウスは、犬の姿となって脱獄したのだった。




書いていく内に気付いた事なのですが、今作ハリーを含めてエリナ、ゼロ、グラントの4人は各々が所属している寮における主人公的存在と化しています。最初からそう決めていたわけではなく、執筆していったら自然とそうなっただけです。

彼らのモデルは、ロックマンゼロシリーズの『ネオ・アルカディア四天王』及びルドラの秘宝の『ジェイド戦士』です。具体的にはそれぞれ、以下の様になってます。

ハリー……隠将ファントム、デューン
エリナ……妖将レヴィアタン、リザ
ゼロ……賢将ハルピュイア、サーレント
グラント……闘将ファーブニル、シオン

別に知っても知らなくても良いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アズカバンの囚人
第1話 予期せぬ訪問者


ここから、基本的にハリーの視点で物語が展開します。彼がいない場合は、他の人の視点か三人称で話しが進みます。


息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 指輪に向けて死の呪文を放つ。指輪は、真っ二つに割れた。入っていた黒い物も、即ち変態ヘビの魂の欠片も消滅した。

 

「これで3つ目か。それにしても、バジリスクの牙で作った杖。やはり分霊箱の破壊に特化してるな。皆に報告しないよね。…………ん?」

 

 指輪から奇妙な石が出て来た。何かのマークが刻まれている石だ。

 

『それは、君の進む道のターニングポイントになるものだ。』

 

 声がした。いつの間にか、そいつはいた。まるで、どこかの教会で神父をやって良そうな感じだな。見た目だけなら、俺と同年代だろう。

 

「お前は……」

 

『君は今年度、あらゆる者を救済していくのが見えるよ。それが例え、立場上敵であってもね。』

 

「おい!それはどういう……」

 

 その男は、突如として消え去った。何だったんだ。一体奴は。

 

 考えても仕方が無い。俺は、気を取り直して指輪を念入りに調査することにした。これが、追っていた事件解決の最後のピース及び、これからの運命が決まる物とは、その時は知る由も無かった。そして、心の底では会いたいと思っていたあの2人との会話も。

 

*

 

 7月15日。夏休みから2週間が経った。俺は、義祖父ちゃんと共にプリベット通り4番地のダーズリー家の前に立っていた。今回は、タクシーで来た。チャイムを鳴らす。

 

「どうも。ペチュニア・ダーズリーさん。1年ぶりになります。今日は、エリナを引き取りに来ました。」

 

「ええ。それではどうぞ。」

 

 追い出したりせずに、すんなり入れてくれた。高級菓子と、資金援助の契約書類を持ってきた。まあ、資金援助は本当にロイヤル・レインボー財団にとっては微々たる額だが。

 

「あれ?ハリー、髪型変えた?」

 

「ん?あ、ああ。まあな。」

 

 実は、清潔感溢れる様に整えた髪型から、横に流すように変えているのだ。ついでに、マントも新調した。今までは白だったけど、灰色に変更したんだ。

 

 難なく話は済み、3人で付き添い姿くらましをした。

 

 ロイヤル・レインボー財団本部。戻ってくると、団員の1人がいた。客がいる。アランと話をしたいから先に上がっていると言っていた。

 

 急いで、待合室に行く。そこには、ホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス・ダンブルドアが悠々と座っていた。

 

「この老いぼれめ、今更どの面下げてここに来た?また私の所から、自分の為に命を捨ててくれる駒でも引き抜きに来たのか?十数年前の事、忘れたとは言わせんぞ。」

 

 お前は招かれていなという気持ちを押し出して、ダンブルドアに食って掛かってた。

 

「アラン。そう事を荒げないで欲しい。今回は、話がしたくての。それにのお、アルフォンス夫妻にアルフレッドの事、本当に申し訳ないと思っておるのじゃ。改めて謝罪させておくれ。」

 

「貴様と話す事は何も無い!さっさとここから出て行け!!」

 

「頼む。すぐに終わらせるから……急を要する事なのじゃ。それが、この国のマグル界と魔法界の為にもなる。」

 

「『より大きな善の為に』か。相変わらずだな。マグル界はともかく、進歩もしようとしないあんなクソみたいな世界など、私からしてみれば救う価値は無い。」

 

 それを扉の前で聞いてる俺達。

 

「ねえ、アランさんってこの国の魔法界を凄く嫌ってるけど?」

 

「俺も詳しくは知らん。ダンブルドアが、何かやらかしたんだろ?前に聞こうとしたけど、誰も俺に教えてくれなかった。」

 

「ふ~ん。」

 

 もう少し話を聞いてみる。どうやら、ある程度の情報提供くらいで話がついたようだ。

 

「我々ロイヤル・レインボー財団は、リチャード・シモンズの行方を追っていく中である組織に辿り着いた。」

 

「ある組織?それは一体何かね?」

 

「TWPF。Those who produce finish。『終わりを生み出す者』と呼ばれている。」

 

「特徴は?」

 

「殆ど分かっていない。だが、主要メンバーは10人。しかし、たかが10人と侮らない方が良い。1人1人が、国1つ滅ぼせる戦力を持っている。奴等との戦いは戦闘規模の話じゃない。もはや戦争だ。」

 

「新聞を読んだかね?」

 

「情報こそが大切だからな。気に食わないが、目は通している。」

 

「ならば話が早い。純血の名家が1度に2つも断絶したのじゃ。後、セブルスからの情報でマルフォイ家がリチャード・シモンズに襲われた。幸い、長男のドラコが痣を植え付けられた以外は無事だったがのう。アラン、何か事情を知っておるかね?」

 

「いいや。そして、私に開心術は効かんぞ。アルバス・ダンブルドア。」

 

「分かった。そう言う事にしよう。次は、ハリーは何をする気なのじゃ?わしはそれを手助け出来ればと思っておる。それが、災いを呼ぶなら、わしは全力で止める。」

 

「今年の行動の1つなら教えても大丈夫だろう。シリウス・ブラックの無実証明と名誉回復だ。」

 

「シリウスの事については、ジェームズが死ぬ前夜に話してくれた。本当の秘密の守り人についても。」

 

「それを知って、貴様はどうする気だ?まさか、あの子の邪魔をするのか?今迄みたいに、打算で愛を語って操り人形にしておいて。」

 

「いいや。見守ろう。そう言う事なら。」

 

「何故、リドルの奴を疑いの目で見ていた?貴様が、奴に最初に出会った教師だろう?同じ目線で接しなかった?ああ、分かるぞ。貴様も一歩間違えれば奴の様になっていたから怖かったんだろうな。その結果がこれだ。」

 

「悪いとは思っておった……騎士団の者達も……お主の家族の事も……ジェームズにリリー、メイナードの事も。」

 

「どうだかな。それに、アルフォンスとマヤを見せしめで殺したあいつを匿っている時点で、貴様など全く信用出来ない。それだけは覚えておくと良い。英国魔法界諸共、潰そうとしなかっただけでもありがたいと思え。」

 

 穏やかじゃない会話のオンパレードだな、おい。

 

「ねえ、ハリー。シリウス・ブラックって誰?」エリナが聞いて来た。当然か。

 

「とりあえず、ここを離れよう。」

 

 俺とエリナは、俺の部屋へ向かった。

 

「さあて。まずは、父様の交友関係から話すか。」

 

「パパのお友達?同級生がスネイプ先生くらいしか知らないんだ。」

 

 俺は、エリナに話した。父ジェームズ・ポッターには3人の友がいた事を。ピーター・ペティグリュー、リーマス・ルーピン、そしてシリウス・ブラック。4人は本当に仲が良かったのだ。後に、4年後に入って来たアルフレッド・ローガーやメリンダ・ハルフォードも加わり、6人組となった。

 

「このリーマス・ルーピンって人は、ある症状を患っていた。満月の時にな。満月で思い浮かべるのは?」

 

「狼人間かな?」

 

「リーマス・ルーピンは、マジモンの狼人間だよ。人間だけを見境なく襲うね。」

 

「何でその人学校に行けたの?危険過ぎるよ。」

 

「それな。ダンブルドアの爺さんが、適切な処置をすれば入れるよ、って言ったんだよ。」

 

「その処置って何なの?」エリナが聞く。

 

「暴れ柳の中に作られた部屋に満月の時だけ隔離するっていう処置だよ。」

 

「あの木にそんな存在理由があったんだぁ。」

 

「それを父様達は知ることになるけど、それはまた後の話だね。とにかくだ。特に父様とシリウス・ブラックは、実の兄弟なんじゃないかと言われるほどの間柄だったんだ。父様が結婚しても、それは変わらなかった。」

 

「うん。」

 

「俺達のゴッド・ファーザーはこのシリウス・ブラックって人さ。」

 

「それなら、どうしてその人は、今まで会ってくれなかったの?」

 

「これからの展開でそれが分かる。ある時だ。ヴォルデモートは、理由は良く分かってないが父様と母様を狙い始めた。校長は、2人にある提案を持ちかけた。『忠誠の術』ならば、一番助かる可能性があるってね。」

 

「忠誠の術?」エリナが首を傾げた。

 

「とんでも無く複雑だ。生きた人間の中に秘密を魔法で封じるんだ。選ばれた奴は『秘密の守人』として、情報を自らの中に隠す。情報を見つけ出すのは、不可能だ。『秘密の守人』が暴露しない限りは、だが。」

 

「その人が、パパとママの『秘密の守人』に?」囁くように聞いた。

 

「……通説ではな。父様は、シリウス・ブラックなら情報を暴露するくらいなら死を選ぶってみんなに言ってたそうだ。校長は、俺達の両親に近い人間がヴォルデモートの配下になっているって予測してた。それでも父様はシリウス・ブラックを選択した。1週間と経たない内に、12年前のハロウィーンの惨劇になったんだ。」

 

「そんな!どうして、平気で裏切るような真似が出来るの!?」

 

「言っただろ。それは、あくまで通説だって。あともう少しで真相を教えるから、黙っててくれ。翌日、シリウス・ブラックは落ちこぼれと言われていたピーター・ペティグリューに追い詰められた。だが、返り討ちにした。12人のマグルを巻き添えに。そしてアズカバンに収監された。」

 

 俺は、言い終わると同時に机に大きな分厚い本を置いた。

 

「何これ?」

 

「これは、12人のマグルとペティグリューの死亡した時の捜査資料だ。ロイヤル・レインボー財団が調査していた。義祖父ちゃんは、アルフレッドさんから親しかった5人の事を聞いてた。特に純血主義で有名な家の出身でありながら、家風に強い反発をしていたシリウス・ブラックには強い関心をね。だから、この事件を一から調査し直したんだ。」

 

 俺は、ペティグリューの残った小指一本の写真のページを開いた。その前に、質問をしてみるかな。

 

「この話に入るその前に、ちょっと考えて欲しい。もしも、俺達の両親の敵だったならばだ。ターゲットは、自分の知らない所に隠れてる。それだったら、どうするかな?」

 

「ボク!?……そうだなぁ。取りあえず、ターゲットの身近な人を狙う…………あ!」

 

「そう。親友に『秘密の守人』を託して、すぐに裏切られて死ぬ。今までの話は端的に言えばそういう事だったんだよ。余りにも単純過ぎだ。物事は、もっと複雑に動くべきなのさ。」

 

 コップと2Lコーラを用意した。

 

「俺がもし、『秘密の守人』を託される話が来たら、こう考えるよ。自分ではなく、もっと別の人間にやらせればいいんだって。誰も、そいつが秘密を握っているなんて思いもよらないだろうってね。」

 

「もしかしてハリーは、シリウス・ブラックは秘密の守人じゃないし、裏切ってもいないって言いたいの?それなら、どうして彼は翌日に事件を起こしたの?」

 

 俺は、さっき開いたページの小指の写真を指差す。

 

「ペティグリューのわずかに残った肉片だ。」

 

「それが何?」

 

「おかしいんだよ。何故、シリウス・ブラックはマグルの通りでそんな大騒ぎを起こしたのか。死の呪文を使えば、落ちこぼれのペティグリューなんて一発で殺せる。間違い無くな。なのに、使ったのは恐らく爆破呪文。おかし過ぎる。」

 

「クィリナスがハーミーに使わせた緑の光線の事?死の呪文って。」

 

「その認識で正解だ。それと、もしシリウス・ブラックが裏切り者だったなら、逃亡中に身を隠すものだ。なのに、あんな騒ぎを起こすのは不自然過ぎる。一番疑問に思ったのは、小指一本遺して死んだ事。対して、マグルは12人も死んだ爆発。」

 

「ペティグリューって人は、死んじゃったマグルの人よりも体が丈夫だったんじゃないの?」

 

「もしそうでも、残された血痕があまりに少ないんだ。もっと多くても良い。それに、小指だけ残る爆発なら、もっと規模は小さくても良い。最悪、ペティグリューだけ死ぬレベルで十分だよ。」

 

 コーラを2人分注いで、グビッと飲んだ。

 

「つまり、残った遺体の大きさと爆発の規模が釣り合わないってハリーは言いたいの?」

 

 エリナも、コーラを飲みながら質問する。

 

「そういう事。極めつけは、残った小指の状態だ。それだと分かる位に残ってる。なら、他の身体だって残っても良い筈。なのに、小指だけ。不自然過ぎる。専門家に見て貰ったら、あまりにおかしいって判断が出たよ。マグルの専門家も侮れないものだね。」

 

「それで、本当の裏切り者って誰なの?どうやって知ったの?いくら調査を丁寧にやったからって、真犯人までは特定するのは難しいよ。」

 

「そうだな。断片的な証拠しかなかったから、シリウスが犯人じゃないって分かっても、誰が真犯人なのかは最近まで分からなかった。これを使うまでは。」

 

 俺がエリナに見せたもの。それは真っ二つに割れた、金の指輪だ。中に石が入っている。

 

「これって何?」

 

「マールヴォロ・ゴーントという奴の指輪さ。サラザール・スリザリンの子孫だよ。」

 

「という事は、ヴォルデモートのお母さんの家族の物なの!?だって、リドルがこう言ってたじゃん。『母方の先祖は、サラザール・スリザリンだ』って。」

 

「覚えてくれて良かったよ。指輪の中に、石が入ってる。まさか、ただの石っころが父様や母様と会話出来たのは想定外だったね。だからさ。これが何なのかは、これからも調査する事にしたよ。」

 

「成る程。パパやママと会話して、あの時の事を教えて貰ったんだ。」

 

 エリナが何かやりたそうな顔をしてる。

 

「使いたい?会話したい?別に良いぞ。後で話が終わったら、使っても。」

 

「ううん。今はまだ良いよ。気持ちはありがたいけどね。全部、ヴォルデモートの事が片付いたら終わったよって言いたい。それに、私的な理由で死んでいる人を、安らかに眠っている人をむやみにこの世に呼ぶなんて間違ってるからね。」

 

「…………分かった。俺も、使うのはその時の1回だけにしておくよ。また使うことがあるとしたら、ヴォルデモートを完全に倒してからにしようね。約束しよう。」

 

 指切りで、俺達は約束した。

 

「うん!ボク達兄妹の約束でね!でも、この事件を解決出来たからそれはそれで良しとしようよ!」

 

「そう言って貰えると助かるわ。で、だ。母様は、あの時の事を話してくれたんだ。あの時の『秘密の守人』は、ピーター・ペティグリューだってさ。元々はシリウスがそうだったんだけど、死ぬ1週間前にシリウスの提案をのんで変えたんだって。」

 

「ペティグリューは死んでるんでしょう?」

 

「実は、生きている可能性が出てき始めたんだよ。さっきの会話からね。リーマス・ルーピンの話に入るけど良い?」

 

「何か繋がってるんでしょう?どうぞ。」

 

「じゃあ、お徳サイズのティラミス食いながら話しますか。」

 

 ティラミスをよそって、皿をエリナに手渡した。コップが空なので、コーラも注いでおく。

 

「ありがとう、ハリー。」早速、ティラミスを食べ始めてる。

 

「じゃあ。リーマス・ルーピンの話だな。彼が狼人間だっていうのは知ってるよね?」

 

「さっき言ってたもの。知ってる。」

 

「アルフレッドさんを入れた5人組で活動して程無くの事。ついに、リーマス・ルーピンの秘密を知った。だが、父様達は拒絶するどころか何とか負担を和らげようと手段を探し始めたんだ。そして、見つけた。その名も、『動物もどき(アニメーガス)』。」

 

 俺がその魔法を言った瞬間、エリナが椅子から思いっ切り立ち上がった。

 

「知ってる!マクゴナガル先生とね、去年から、やってるんだよ!もうすぐ終わりそうなんだよ!!」

 

「マジか。変身術の分野で、俺達の学年においてエリナの右に出る奴はいないとは聞いてたけど、本当に訓練をしているのかよ。まあいいや。話を戻そう。アルフレッドさんが作り上げた『細胞分身(セラーレ・ディバリット)』で習得スピードを上げて、経験値もたくさん手に入れて、1ヶ月後には使えるようにしたんだってさ。」

 

「どんな動物になったの?」

 

「父様は牡鹿、シリウスが黒犬、ペティグリューがネズミ、アルフレッドさんがホワイトタイガーでメリンダが鷹だ。」

 

「それって!繋がった!分かったよ!ねえハリー。ボクが一から説明して良い?」

 

「どうぞ。」

 

「まず、秘密の守人は最初シリウスが務めてた。でも、自分が狙われるのは目に見えている。だから、パパとママにペティグリューに変えた方が良いって言ったんだ。でもそれが命取りになった。ペティグリューがヴォルデモートの配下になっていて、パパとママの場所を教えたからね。それで、12年前のハロウィーンの出来事が起こって、ボクとハリーだけ生き残った。裏切りを悟ったシリウスは、ペティグリューを追跡。追い詰めたけど、ネズミに変身して逃げられた。ついでにペティグリューは、かわいそうなマグルの人達を12人殺した。自分の死を偽る為に、小指だけを切り落として逃げたんだよ。」

 

 まだ話したい事があったのに、お得意のイマジネーションだけで俺の言いたい事全部言っちゃったよ。エリナ、凄過ぎだ。

 

「全部言われちゃったな。正解。」

 

「じゃあ早速シリウスの無実を魔法省に教えないとね!」

 

「それが出来れば、すぐにやってるけどな。生憎だが今の魔法省は、保身に走るから黙殺するよ。絶対にね。」

 

「そ、そんな…………」エリナが落胆している。

 

「ペティグリューを捕らえない限りは、シリウスの無実は証明出来ないよ。まずは、ペティグリューを探さないとな。ただ、少し気になっている事があるんだ。」

 

「気になってる事?」

 

「ナイロックが、ロンのネズミを人間の臭いがするっていつも報告するんだ。」

 

「ねえ、まさか。」

 

「今の所は、断言出来ないけどな。とりあえず、俺達だけでもシリウスの味方でいようぜ。」

 

「分かった。今を耐え忍ぶ。そうだよね?」

 

「ああ。」そうだ。今はまだ早い。情報が少な過ぎるからな。

 

「そう言えば、この事はイドゥンとエックス君には伝えるの?」

 

「曲がりなりにも同じ一族だからな。それに、8月の下旬、もっと言えば8月28日に来ても良いかって事を伝えてる。了解の返事も、既に貰ってるし。」

 

「ボクも行って良い?」

 

「良いよ。一緒に行こう。」

 

 8月28日に訪れるブラック邸には、エリナも連れて行く事が決まった。

 

ダンブルドア視点

 やはり、もうロイヤル・レインボー財団は分霊箱の存在に気付いておった。それにしても、レイブンクローの髪飾りからそれを知る事になるとは。それも含めて2つ破壊したとアランは言っておった。

 

 賢者の石攻防戦におけるハリーの身に起こった出来事。クィレルの手により、確かに死の呪文を直撃した。ダーズリー家に送られなかったので、リリーの守りは既に消えているにも関わらず、彼は生きている。何が起こったのかは未だ謎じゃ。アランは事情を知っておるようじゃが、残念ながら教えてはくれなかった。ただ、予言にあった『魔を蝕む異物』が関係しているのは確かじゃろう。

 

 そして、アルカディア。もう1つがTWPF。正式名称『終わりを生み出す者』か。闇の陣営よりも明らかに厄介な組織が2つも存在していた。わしの方でも独自の調査をしなくては。問題が多過ぎるのお。

 

 帰ろうとした時、ハリーとエリナのいる部屋を訪ねてみた。別々ながら、それぞれ予言の子に選ばれた双子の姿を最後に見ておこうと思った。だが、ハリーが奇妙な石をエリナに見せておった。

 

 間違い無い!あれは、わしが長年求めておった『蘇りの石』じゃ。何でも、ハリーによればマールヴォロ・ゴーントの家から回収したものだそうじゃ。ほ、欲しい!いや、そこまでいかなくても使ってみたい。そう思い、ドアを開けようとした。適当な理由をつけて自分が管理すると言えば、わしを否定的に見ているハリーも、エリナの説得ならば素直に聞いてくれる筈じゃ。

 

 だが、やめた。エリナが、こんな事を言っておった。私的な理由で死んでいる人を、安らかに眠っている人をむやみにこの世に呼んではいけないと。

 

 それを聞いて手が止まった。わしは、あの兄妹に比べたらどうしようもない人間だという事を改めて思い知らされた。ハリーは偶然にとはいえ、無実の人間を救う為に使った。エリナは、全て片付けてからヴォルデモートの犠牲者に対して、もう心配しなくていいと安心させる為に使うと言った。

 

 わしは、この期に及んで自分の為にしか使おうとしなかった。わしは、あの子達に比べたら、あまりにも愚かだった。気付かぬ内に、ここを出て行こう。

 

*

 

「ゲブラー様。ご報告の時間となりました。」

 

 ブライトンにいる謎の物体。隼を擬人化させて巨大にしたような感じだ。メカニカルな体をしている。また、サンダーバードにも、グリフォンにも見える外見でもある。

 

『もうその時間か。アステファルコン。じゃあ、報告とやらを聞かせて貰おうか。』

 

「はい。やはり、ロイヤル・レインボー財団は強大です。最後の攻略対象にするべきでしょう。」

 

『そうか。分かった。8月になったら迎えに来るから、それまでは見つからない様に財団の周辺を調査しろ。』

 

「了解しました。」

 

 その者の名は、『稲光る極鳥』の異名を持つ隼型レプリロイド、アステファルコン。ゲブラーと名乗る者からの指令を受け取り、現在の人型から飛行形態に変化し、その場を去って行った。

 




前作から暗躍していた組織の名称が判明。その戦力は、ロイヤル・レインボー財団が総力を挙げても引き分けに持ち込むのがやっとな程。

次回、ポッター兄妹が実際にTWPFと接触します。特にハリーにとっては、これからの戦いに必要不可欠な要素です。

それでは、また来週に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 TWPFからの刺客

お待たせしました。早いですが、投稿します。


 1993年7月31日。エリナを連れて来てから16日が経った。俺とエリナが誕生日を迎えたのだ。食事は豪勢な物となっていたし、ロン、ハー子、ゼロ、グラントは予想出来たが、イドゥンとエックスのブラック姉弟からプレゼントも来た。これは想定外だった。

 

 エリナと一緒になって、残った宿題をやって、もう終わらせていた。この4日後に、日本へ行く事になった。

 

 ロンはエジプトにいる。なんでも、ウィーズリーおじさんがガリオンくじを当てたそうだ。そして、新しい杖も買って貰うらしい。

 

 ハー子は、フランスに行っている。ゼロとフィールド先生は、イタリアに存在する超古代遺跡で探索をやっているらしく、グラントは相変わらずのパーティーという名のギャングの抗争をやってるそうだ。

 

 ハグリッドからは、怪物の本という何か奇妙な本を貰った。襲い掛かって来たけど、エリナがナデナデしたら大人しくなった。俺も真似してみると、本当にそうなった。

 

 そして、ホグワーツから教材のリストとホグズミード行きの許可証が入っていた。俺はすぐに義祖父ちゃんに書いて貰った。しかし、エリナは絶対にダーズリー達は許可をくれないと絶望していた。

 

「手紙を書こう。事情を話す。」

 

「それで無理だったら?」

 

「あくまで最終手段だけどね。奴らのエリナへの所業を、世間にバラシてやる。」

 

 俺は、ニヤリと言った。後にエリナから聞いたが、絶対にこの世には敵に回してはいけない人間がいると悟ったそうだ。それはともかく、俺は最大限丁寧な手紙を書いてポストに投函した。無論、許可証も同封して。

 

 翌日の8月1日。日刊預言者新聞の一面大見出しにこう書いてあった。

 

『シリウス・ブラック脱獄』

 

 一瞬フリーズした。これでは、無実証明と名誉回復どころかさらに重罪を重ねるだけじゃないかと、俺は頭を抱えた。

 

「ハリー。この人だよね。前に話したお話の人って。」

 

「ああ。だが脱獄なんて、聞いてねえぞ。」

 

 その時、ノックがした。どうぞと声を掛ける。ドアが開いた。エイダ義姉さんが入って来た。新聞を持っている。シリウスの話かと悟った。

 

「ハリー。それにエリナちゃん。緊急の会議があるから、私と一緒に行きましょう。」

 

「大方シリウスの話でしょう?」

 

「そうです。」

 

 というわけで、会議室まで移動になった。既に、義祖父ちゃんに、アドレー義兄さんとイーニアス義兄さんがいた。後、ここに知らない男女がいる。男性の方は、顔が青白く病人の様にやつれ、ライト・ブラウンの髪には白髪が混じっている。極めつけは、継ぎ接ぎだらけのローブを纏っている。女性の方は、黒髪をショートにしており、いかにも刑事と言った服装だ。サングラスをかけているけど、よく見たら茶色の眼だった。

 

「この人達は?」

 

 俺が、見知らぬ男女の事を他の皆に質問する。

 

「紹介しよう。彼らは、リーマス・ルーピンにメリンダ・ハルフォード。リーマスの方は、9月からホグワーツ魔法魔術学校で闇の魔術に対する防衛術を担当するが、元々はあらゆる種類の魔法生物の捕獲や駆除、戦闘の仕事をこなしている。メリンダは、魔法使いながらロンドン警視庁の刑事だ。」

 

 義祖父ちゃんは、俺達兄妹に紹介した。せめて授業の質は、ロックハート以下で無い事を祈ろうか。

 

「へえ~。新しい先生なんだ。」エリナが、興味深そうにルーピンを見ている。

 

「やあ。君達がハリーにエリナだね。アランさんが話してくれたように私がリーマス・ルーピンだよ。」

 

 俺とエリナは、ルーピンに握手した。

 

「特にハリー。君には言っておきたい事があるんだ。」

 

「何ですか?」

 

「生きていてくれて本当に良かった。そして…………いや。またの機会にしよう。今は、シリウスの話だね。」

 

「そうですか……あの、メリンダさん。魔女だって事、警視庁の人は知っているのですか?」

 

「上層部でも、ほんの一握りだけです。私がホグワーツを卒業した魔女だと言うのは、トップシークレットになってますよ。」

 

 少ないながらも、それなりにマグル世界にも魔法使いの存在を知っている人はいるもんなんだな~。あ、話が始まった。

 

 話の内容は、やはりシリウスの真実に関して。そして、ペティグリューが生きている可能性が極めて高い事。ナイロックが、ロンのネズミを人間くさいと言っている事を話した。

 

「ロンのネズミ……か。ピーターかも知れないね。」ルーピンが口を開いた。

 

「どうでしょうね?断言は出来ませんよ。」アドレー義兄さんが返す。

 

「ですが、シリウス先輩が闇の陣営に同調しているとなれば、色々と矛盾が出て来ます。」

 

 メリンダが、事務的な口調で告げた。

 

「そのハリーのフクロウの言ってる事も妙なものだ。確かにナイロックは、人間の18歳位の知能を持ってはいるが。」

 

 イーニアス義兄さんが冷静に分析している。

 

「何それ。何気に凄いんだけど。」エリナは、大変驚いている。

 

「とにかく、魔法省よりも前にシリウスを保護しなくてはな。無能の頂点、ファッジなら彼に吸魂鬼のキスをしかねん。」

 

 というわけで、義祖父ちゃんが結論を出した。シリウス、又は黒い犬を見つけ次第保護する事が決定した。ホグワーツにも、こんな感じで行動すると伝えた。メリンダは、また仕事場に戻って行った。

 

 宿題を終わらせているので、遊んだり、ロイヤル・レインボー財団本部の中で魔法の特訓をしたりした。コンビネーションの特訓も欠かさずに。

 

「ねえ。そう言えば、去年の決闘クラブで何も言わずに魔法を使ってたけど。あれ、何?」

 

「無言呪文の事か?あれは、心の中で呪文を唱えるんだ。相手からすれば、どんな攻撃をしてくるのか分かったもんじゃないから、覚えておくのも悪くないかもな。」

 

「どれ位使えるの?」

 

「武装解除、失神、呼び寄せ、中級までの盾の呪文、火炎操作の呪文。この5つだな。」

 

「す、凄過ぎる!」ビックリ仰天するエリナ。

 

「お得意の武装解除呪文だけでも出来る様にしておくか?」

 

「お願いします!」

 

 無言呪文の特訓が始まった。最初から出来るなんて思っちゃいない。始めて1時間くらいのタイミングである提案をする。

 

「実は、ある程度魔力の量がある人なら出来る、とっておきの修行法があるんだ。それでやってみようかと思うんだけどね。」

 

「あるの!?」

 

「だけど、気を付けろ。疲労やストレスは何倍にもなる修行法だ。その代わり、経験値はたんまり手に入る。」

 

 その修行法に早速入った。その方法とは、俺が、主に宿題を早期決着する為に使っている『細胞分身(セラーレ・ディバリット)』を使う。これで、無言呪文習得の経験値を一気に稼ぐ。だが、ある程度の魔力と体力がある人間じゃないと、この方法での修業は不可能だ。エリナには、常に20人位の分身を修行の度に常に作って貰い、無言呪文の習得に向けて励んでもらった。

 

 修行は午後に切り上げた。窮屈だろうと思ったからだ。なので今度は、エリナを連れてブライトンを観光する事にした。ブライトンピアやシー・ライフ、ロイヤル・パビリオン、ノース・レーンを案内したんだ。本人も満足そうだった。

 

 午後6時になって、本部に帰ろうとした。

 

「ねえ。豪華な鳥さんが空を飛んでるけど、あれも観光の名物?」

 

 何と、極彩色の大きな隼が空を飛んでいるではないか。

 

「いや、あれはいくら何でも有り得ない。」

 

「魔法使いの差し金かな?」

 

「さあな。一応、この事態を連絡しておくか。」

 

 ナイロックを呼び、手紙を持たせてロイヤル・レインボー財団本部まで飛ばした。

 

 町の外れまで来た。随分来たな。

 

「あれを見て!」エリナが指をさす。

 

 極彩色の大きな隼が、空中で人型の様なものに変形した。

 

「ここであったが100年目。私はゲブラー様の部下、アステファルコンだ。」

 

「お前は何者だ?」

 

「私は、機械生命体レプリロイド。その中でも強力な力を持った、ミュートスレプリロイドだ。」

 

 明らかに、現代の科学力を超えたテクノロジーで生み出されてるんじゃねえかよ。

 

「見つかったからには、容赦はしない。覚悟!」

 

 アステファルコンが突進してくる形で襲い掛かって来た。ニンバス2000を口寄せし、上空へ逃げた。

 

「小癪な!トリプルアロー!」

 

 アステファルコンは、非情に細長い弾を発射。それも、トリプルの名に違わず3方向に。

 

「危ね!」俺は、地面に着地した。

 

「隙アリだ。」アステファルコンが、腕を開く。何をする気だろうか。

 

「!?」突然、アステファルコン側に吸い寄せられた。

 

「くたばるが良い。」そして、叩き付けられた。

 

「グハッ!」

 

 口から血を吐いてしまった。直前にウイルスモードを発動したので、大事には至らないだろう。だから、また立ち上がった。

 

「ほう。人間の子供にしては、相当頑丈なようだな。良かろう。」

 

 突然、アステファルコンが空に跳び上がる。しばらくして、おれのいる場所から少し離れた場所に飛び掛かる。

 

「ライトニングフォール!」地面を伝う電撃が発生した。

 

『どう避けようかな?……あ、そうだ!』

 

 早速杖を取り出す。天魔の金雷を極僅かに発生させる。それを、アステファルコンが放った電撃と同調させて無効化し、逆に自分の力にしたのだった。

 

「何だと!?」流石のレプリロイドも、これには驚愕したようだ。

 

「お返しだぜ!食らいな!天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!!」

 

 単体で発動するよりも効果の大きい黄金の電撃が生成された。アステファルコン目掛けて発射し、奴に直撃させたのだ。

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

 思わぬ痛い一撃を食らい、悶えるアステファルコン。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!」

 

 エリナが光球を当てた。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

 続けて虹の破壊光線を撃つ。アステファルコンは、かなりの重傷を負ったようだ。

 

「さよならだ。でもまあ、お前みたいな奴がいるって事が分かったから感謝しているよ。零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)!」

 

 アステファルコンを凍てつかせる。だが、俺の左腕も凍傷を負ってしまった。

 

粉々(レダクト)!!」

 

 俺はとどめに、アステファルコンを粉砕した。これで、戦いは終わった……筈だった。

 

「おいおいおいおい。釣れたのは、唯のガキじゃねーか。魔法使いがターゲットだったのになー。」

 

 声がした。グラサンの男だ。厚ぼったい瞼をしている。艶やかな黒髪をしている。パッと見は、そいつの服装はボディーガードのようにも見えた。それに、何だこれは。とんでもない魔力をしてやがる。現に、黒紫のオーラを纏ってやがるし。

 

「アステファルコンは、お前の差し金なのか?」俺が聞く。

 

「まあ、いわゆる特注品ってやつだよ。ホドって俺の仲間の傑作でね。ブライトンには、成人した魔法使いが複数名存在してると聞いてな。まさか、魔法の存在に驚かない奴もいるもんだな。こんなガキで。しかも、ぶっ倒しちまうし。」

 

 男は、指をパッチンと鳴らした。すると、青い人型のロボットの様なものが8体ほど出現したのだ。しかも顔は、赤いレンズ状でメットは円を三方から囲むような形になっている。

 

「そいつらは?」

 

「パンテオン。遥か大昔の、現代の科学力を遥かに超えた技術で作られた量産型レプリロイドさ。」

 

「レプリロイドって何?」エリナが聞いた。

 

「人間に近い思考回路を持つロボットと言えば分かりやすいかな?自ら考えて、物事を処理する事が出来る。」

 

「明らかに現代のロボット技術を超えてるじゃねえかよ。そいつらが造られた技術。」

 

「そう。ある時期を境に滅び去った超古代文明の産物さ。こういうのを……あー……何て言うんだっけ?」

 

「……ロストテクノロジーか?」

 

「そうそう。それそれ。つー訳で、お前らの力を見せて貰おうじゃねえか。やれ!パンテオン!!」

 

 パンテオン達が襲い掛かって来た。

 

「ハリー。どうする?」

 

「……対魔法用の対策を仕掛けている可能性が高いな。ならば……」

 

 魔封石の効果を遮断するグローブを両手にはめ込んだ。

 

「ホワチャー!!」

 

 早速パンテオンを機能停止させた。こいつらの身体、魔封石で構成されてたな。若干動きが鈍ったし。

 

「何でカンフー映画みたいに怪鳥音出すの?」

 

「マホウトコロに、中国人武術家の一族出身の先輩がいてさ。その人からジークンドー教わったら、癖でそうなった。」

 

「そうなんだ……でもボクからすれば、このロボットさん達強過ぎるよ!!」

 

 エリナも応戦しているが、たった1体に対してかなり苦戦していた。

 

細胞分身(セラーレ・ディバリット)!!」

 

 6体の分身を出し、パンテオン達と交戦する。腕を銃口に変えてくる前に、さっさとぶっ倒したのだった。

 




長すぎたんで、分割します。続きは凡そ半日後に投稿する予定です。
それと同時に、今回と次回のアナザーストーリーをEXシナリオに載せます。イタリア旅行に来たゼロとフォルテの話で、時系列は全く同じです。

パンテオンとアステファルコンは、いずれも元ネタはロックマンゼロシリーズに出て来るレプリロイドです。前者がザコ敵、後者がボスキャラとなります。

今作のパンテオンの強さは、マシン帝国バラノイアの戦闘員『バーロ兵』並の強さになってます。尤も、原作でも人間からしてみればアステファルコン共々脅威そのものに変わりはないですけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 滅亡の青年

第2話の続きです。EXシナリオの14話も同時投稿します。


 パンテオンをけしかけたその男は、俺が倒しても怒るどころか逆に感心且つ興味がありそうな態度を取っていた。

 

「やるじゃん。ハリー・ポッター。流石、リーダーが目を掛けるだけの事はある。」

 

「リーダーだと?いや、それよりも何で魔法使いを執拗につけ狙う?」

 

「最初は訳アリの一家を襲撃してたんでね。ま、いずれは堅気に先手を打ちたいわけよ。その下調べさ。」

 

「次はローガーと言いたいのかよ?」

 

「まあな。でもあそこ、対魔法使い用のありとあらゆる対策を張っているから無理そうだなと判断したわけ。ロイヤル・レインボー財団の攻略は、やはり最後に回す事にしたよ。最初に闇の陣営、次に不死鳥の騎士団、その次が英国魔法界、そしてアルカディア。最後に、ロイヤル・レインボー財団さ。」

 

 時期が来ればそうすると言いたいのか。つくづく野放しには出来ねえな。

 

「だったら尚更、今ここで潰してやる。」俺はアセビの杖を取り出す。

 

「おやおや。未成年とは言え、魔法使いだったわけか。お前。それにお嬢ちゃん、名前は?」

 

「エリナ・ポッター。」

 

「貴様、TWPFなのか?」

 

「成る程。もう1人の方は、生き残った女の子か。俺は、周りからゲブラーって呼ばれている。所属は……ハリー・ポッター、お前の言うとおりだ。」

 

 自分をゲブラーと名乗った男が、右手で杖を握る。タダ者じゃない。まるで、本気のキットを相手にしているみたいだ。しかも、俺が後継者?一体こいつ、何を言ってるんだ?とにかく、ウイルスモードを発動させないと。いや、ここは力を温存しておきたいな。久しぶりに、あの呪文を使ってみるか。先に武装解除呪文をかけてからな。俺は杖を、ゲブラーに向ける。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!』

 

 武装解除呪文を無言で放つ。

 

「あらら。これから3年生だってのに、もう無言呪文会得してるのか。成る程。両親や伯父を足して、20で掛けた実力ってのも強ち間違っちゃいない。」

 

 ゲブラーが杖を振るう。武装解除呪文は掻き消された。何だ?無言呪文か?何を使ったんだ?フィニートなのか?

 

「さてと。ウイルスモードの力も試しておこうかね。見ておけよ。W-ウイルスには、こういう使い方もあるって事をな。」

 

 右手の指を鳴らすゲブラー。骨の衣装が見受けられる漆黒の怪人が20体出現した。

 

「何だ!?こいつら!」

 

「こいつらは、ヴァイラス・ソルジャーって言ってな。W-ウイルスから作った戦闘員だ。ハリー・ポッター。お前の力、もっと見せて貰うぜ。やれ!」

 

 ヴァイラス・ソルジャーが俺目掛けて進んできた。武器は持ってなさそうだな。格闘術を使うのか?関係無い。やってやる。

 

「ホオオオォォォ……ワチャー!」

 

 突きを食らわせる。。食らったヴァイラス・ソルジャーは消滅した。

 

「ほう。よく見たらジークンドーか。大した奴だ。」

 

 ゲブラーは、俺に対して感心している。余裕の表情見せやがって……こっちはギリギリなのに…………

 

勇賢の紅光(ブレイエンス・ディセルクス)!」

 

 今度は、真紅の光を身体全体で纏う。これは、俺が最初に自分自身の手で編み出した魔法だ。身体能力を40倍に上昇させる。一見、16倍以上20倍以下で身体能力を上げるウイルスモードよりも強いと誰もが思うだろう。

 

 だが、この魔法には致命的な弱点がある。使っている間、()()()()使()()()()()()。故に、身体能力強化の度合いは低いが、引き続き通常形態と同じく魔法を使えるウイルスモードを会得してからは余り使っていない。

 

 しかし、魔法を使う必要の無い戦闘においては、相変わらず有効な魔法だという事に変わりは無いわけだが。この魔法は、体術と相性が良い。

 

 だからこそSDAやSAA、ABC、HIA、ABDなどを駆使し、ヴァイラス・ソルジャーを全滅させた。

 

「やるなあ。創作の身体強化呪文。少しやってやるか。ウイルスモードの力も、見せてくれ!」

 

 ゲブラーが近づいて来た。勇賢の紅光(ブレイエンス・ディセルクス)を即座に解除する。そして、ウイルスモードを発動した。

 

 俺は、無言呪文で使える攻撃呪文を乱射。ゲブラーは、華麗に避けまくる。ゲブラーがすぐそこまで来た。俺に、拳をぶつけてきたのだ。ウイルスモードは5つある感覚の内の、視力が特に強化されている。動体視力、見切り能力に関しても通常時よりも強化されているんだ。だから拳は見切った。

 

「……」

 

「これが、唯一正式に確認されている魔法使いのウイルスモードって奴か。この齢でここまで使いこなしているとは、本当に大したものだな。」

 

 ゲブラーは、今度は蹴りを入れようとする。チッ!油断も隙間ありゃしねえ。避けるが、また蹴りが次々に来る。

 

「さっさと攻撃したらどうなんだ?」

 

「ハリー・ポッター。お前をやるつもりなんて、全く無いんだよ。でもまあ、そこまで言うなら。」

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!!」

 

 捉えた。これで直撃する筈だ!

 

呪文を消せ(エクスポティア・イレイス)。」

 

 左手から透明なエネルギー弾を放つゲブラー。すると、神の怒りを掻き消してしまった。

 

「おっ。動揺してるな。まあ、無理もないか。自分の最大攻撃呪文を消滅させられて、冷静になれるやるなんざそうそういねえし。」

 

 今度は、右手を前に出して来た。

 

「俺の力ってのを、少し見せてやるよ物質消滅波(パニシム・サブセティア)。」

 

 右手からエネルギー弾放つゲブラー。

 

「嘘だろ。」

 

アステファルコンとパンテオンの残骸を、完全に消滅させてしまったのだ。

 

『コイツの術の力は……恐らく【消滅】。手に向けた所を、文字通り消し去ってやがる。軌道が読めないから、回避も難しいし。』

 

「どうした?それで終わりか?物質消滅波(パニシム・サブセティア)!」

 

 今度は、俺に向けて物質を消滅させるエネルギー弾を放って来た。

 

「……」だが、これなら防ぎようはある。マントに魔力を集中させた。

 

「ハリー!」エリナの叫び声が聞こえる。

 

 マントを形態変化させ、ゲブラーの消滅の術を完全に防ぎ切った。

 

「凄い!消滅してない!それに、マントを盾に使えるなんて!!」

 

 エリナは、俺が無事なのを確認できたのか安心していた。

 

「そのマント。結構丈夫になるんだな。なら次の手は、こんなんでどうかな?すぐに消すのは簡単だが…………ウイルスの力も見せたくなったし。」

 

 ゲブラーはグラサンを外す。眼の色がルビーレッドとなっていた。まさか、これは。

 

「ウイルスモードを使えるのは、必ずしもお前だけじゃないって事だ。そして……」

 

 ゲブラーの目が、ルビーレッドからライムグリーンに変わった。

 

「これが、更なる進化形態。その名も高次元ウイルスモードだ。そういう意味では、俺は常にお前の何歩先までも歩いてるってわけなのさ。」

 

「高次元ウイルスモード!?」

 

「全てにおいて従来のウイルスモードを凌駕する究極系。そして、この状態なら杖の要らない専用の魔術が両目にそれぞれ宿る。左右で同じな時もあれば、全く別物な時もあるしな。その力を、特別に見せてやろうじゃないか。」

 

 ゲブラーは、右目だけを開けた。すると突然、俺の体が重くなった。あまりの重圧に、全身が地面についてしまう。それでも、ゲブラーを睨み付ける。

 

「成る程。これ程の力の差を見せつけられても、まだ屈しないとは。」

 

「ハリー!」エリナが来た。今まで呆然としていて、やっと我に返ったようだ。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 エリナが呪文を唱える。しかし、ゲブラーは盾の呪文を使って、やり過ごした。

 

「いいか小娘。魔力ってのはな、まだまだ上の、()()という領域が存在するのさ。小僧の方はともかく、お前がそこまで達するのは現状不可能。だから、特別に見せてやるぜ。」

 

 その瞬間、ゲブラーの身体が黒紫のオーラを纏った。何だこれは。さっきまでとはまるで別物だ。まるで、あの力を使ったキットやアドレー義兄さんだ。こいつまさか、本当に覚醒の領域に…………

 

『魔力感知で探ってみるか。』

 

 それによれば、奴の全身が魔力の塊になっている。魔力の量も質も桁違いだ。戦闘経験が皆無で、尚且つ猟銃を持ったマグルの大人を1桁とするならば、今のゲブラーは9桁と言った所だ。

 

「エリナ!お前じゃ勝てない!逃げろ!」

 

「イヤだ!このまま自分だけ逃げるなんて出来ないよ!武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

「フン。只の武装解除で俺を倒せるとでも思ってるのか?武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 2つの真紅の閃光がぶつかり合う。だが、ゲブラーの放った者の方がすぐに勝利してしまった。未覚醒時の死の呪文すら一方的に打ち負かす程の威力に底上げされているのが、覚醒した魔法使いが使う武装解除呪文なんだ。

 

 呪文がエリナに当たってしまい、彼女は吹っ飛ばされた。

 

「うう…………」

 

 何とか意識はあるようだ。だけど、動けないようだ。

 

「おい!手を出すのなら、俺だけにしろ!エリナには手を出すな!!」

 

「……自分が危機的な状況になっても、妹の命を最優先するか。そのせいで、自分の身を滅ぼすかもしれないんだぞ?」

 

 俺の顔を足で踏んづけて来ながら、そう告げるゲブラー。

 

「ハア……ハア……ハア…………それ以外に……俺の……魔法使いとしての……道はない!」

 

「成る程な。」何故か、感心したような表情になるゲブラー。

 

 その直後だった。義祖父ちゃん、キット、ルーピンが来た。

 

「おーい!大丈夫かい、2人共!」ルーピンが声を掛ける。

 

「ハリー。少し待ってなさい。今助けよう。」

 

 義祖父ちゃんが穏やかに言った。いっその事、怒ってくれればいいのに。

 

「ケフェウス…………いいや、ゲブラーか。狙いは俺達だろうが!今すぐハリーを放しな!」

 

キットが、ゲブラーに怒りをぶつける。

 

「ほう。」ゲブラーは、俺を放した。

 

「お揃いだな。3人来るとは。今日は、手を引くつもりだったんだけどな。ポッター兄妹が来てしまったわけよ。ハリー・ポッターの方は、お前らを狙ってる事を言った瞬間、すぐさま臨戦態勢を取った位だ。本当にお前らの存在が、余程大事だって事だな。」

 

「大丈夫か?」キットが駆け寄って来る。

 

「……自分の足で、立てるよ。」

 

「ゲブラーの術の力は、消滅だ。普通の人間は、奴の術を食らうだけで、文字通り1回で消滅しちまう。」

 

「やっぱりそうだったのか……術や、レプリロイド残骸を消したり。」

 

「そんな!どうやって倒せばいいんですか!」

 

「……難しいな。今の所、それは。エリナ。お前も休んでな。無理をし過ぎたんだからよ。」

 

 エリナの疑問に、キットは表情を強張らせながら答えた。

 

「……」義祖父ちゃんは、俺を心配そうに見ていた。すぐに、ゲブラーを見たけど。

 

「ま、そういう事だ。今日の所は、ここでドロンするぜ。あばよ。」

 

「私が素直に、お前を逃がすとでも思ってるのか?」

 

「出来るさ。何故なら……」

 

 ゲブラーは靴を取り出した。

 

「そうか。移動(ポート)キーか。それにしても、あの男。どこかで見た覚えが……」

 

 ルーピンが呟いた。

 

「これでいつでも逃げ切れるからな。それと、言っておくぜ。ハリー・ポッター。お前もまた、高次元ウイルスモードの力を発現しうる者だ。だがな、その力をすぐにでも使いたければこうすれば良いのさ。」

 

「どんな方法だ?」

 

「大切な奴を殺せば良いのさ。」

 

「!?」その言葉を聞いて、俺はかなり動揺した。

 

「じゃあな。また会おうぜ。」

 

 ゲブラーは、戦線離脱をした。

 

「逃げられたな、ジジイ。」

 

「見事にな。それよりもハリー。大丈夫かな?」

 

「見事に完敗……した。もっと、強くならなきゃ……。」

 

 次は、絶対に勝ってやる。

 

「エリナ。立てるかい?」ルーピンがエリナに聞く。

 

「な、何とか。終わって気が抜けました。」

 

「やっぱり、あいつ……」俺が言おうとしたが、義祖父ちゃんが遮った。

 

「ああ。間違い無い。TWPF。『終わりを生み出す者』だ。もっと、財団にいる者達を守れるように我々も強くならなければ。」

 

「もっと、強くなる方法ってあるの?」

 

「今はゆっくりと休みなさい。また後でにしよう。」

 

「こんな勝手な事をした俺を、一思いに怒ってくれりゃいいのに。」

 

「気にしなくて良いよ。我々の為にやってくれたのだろう。だがハリー。これだけは言っておく。命だけを捨てるような真似はやめる事だよ。私が言いたいのは、それだけだ。」

 

 こうして、無事にロイヤル・レインボー財団に帰還した。TWPFか。あいつらは一体?そもそも、俺を殺そうと思えば幾らでも出来たのに何なんだ?まるで、俺の力を試しているかのようだった。しかも、俺を後継者と呼んでもいた。

 

 とにかく今は、休んで力を蓄えなければ。それが、今俺に出来る事なのだから。

 




覚醒の領域に達した魔力、ウイルスモードの進化形態、消滅属性の固有魔法持つゲブラー。どうやったら倒せるんだよと思うかもしれませんが、まあなるようにはなりますんでご安心を。

今回のハリーの敗北。この経験は、彼をあらゆる意味で成長していく事でしょう。人間、失敗や負けた時こそ成長に対する真価が問われますからね。

次回、日本及びマホウトコロにハリー達が行きます。修行もそうですが、遊ぶ為でもあります。そこで、ある出来事が起こります。それでは、また来週も宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 更なるパワーアップ

 8月2日。俺は、ようやく動けるようになった。皆、大変心配していた。幸い、これと言った怪我は無かったので、2日後に日本へ行く事になった。ちなみに、エリナのパスポートは、ロイヤル・レインボー財団本部に彼女が来た次の日にロンドンで申請をした。7月26日に発行されたのだ。

 

「もう大丈夫なのか?」キットが気さくに聞いてきた。

 

「問題無いよ。それじゃ、キットが俺の修行の先生なのかい?」

 

「まあな。エリナは、エイダとイーニアス、アドレーの3人が見る事になった。何か、試したい事があるって言っててな。日本支部で毎日3時間訓練する。」

 

「ふ~ん。で、何をすれば良い?」

 

「ハリー。後ろ向きな、動くなよ。」

 

 俺は言われたとおり、後ろを向いた。その時、頭に何かされた。言葉にならない痛みが、俺を襲う。

 

「……」

 

「悪いな。ツボを押させてもらった。でもこれで柔軟な思考が身に付くし、想像力も豊かになる。身体強化に火、氷、雷の呪文の形態変化の訓練をこの夏である程度身に付けて貰う。」

 

「それってさあ、もしかしてになるけど勇賢の紅光(ブレイエンス・ディセルクス)邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)のバリエーションを更に広げようって事?」

 

「そうだ。ついでに、零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)のリスクもなくしていく。あの呪文の急激な凍結能力は、いくらウイルスモードで強化された体でもダメージを負う。それどころか、下手をすれば凍傷になった個所が腐って使い物にならなくなる。」

 

「だからこそ、あれは蔵入りにしたんだ。使用者に致命的なリスクのある呪文は実戦では使えない。そういう意味で使用禁止にしてね。」

 

「そう。確かにそう言える。だが、俺達ロイヤル・レインボー財団はそれを聞いて何もしなかったわけじゃない。アドレーがな。最近、どんな環境でも問題無く活動出来る魔法を作ったんだよ。凍傷のリスクも無くなる。かなり軽減されるだろう。それを習得して貰う。」

 

「どんな呪文なんだ?」

 

「環境適応呪文。暖かな光よ(カリルチェン)()生命を守りたまえ(ケストディマム)。」

 

暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)』。」

 

俺は、その言葉を呟く様に言った。

 

「これは、優しさや守りたいという思いがこの呪文の本質だ。その心で満たさないと、本来の力を発揮出来ない。死喰い人やTWPF如きには、絶対に使えない。」

 

「途轍もなく難しい発動条件だな。俺、そんなに優しくないよ。こういう呪文は、エリナみたいな奴にこそ相応しいんじゃないの?」

 

「そうかも知れないな。だが、やる前から弱気になるなよ。出来ないと思うから、本当に出来なくなるんだ。4年前、エイダが守護霊とのコンボを想定し手開発した聖なる浄化の光よ(ルーモス・ガ・イアス)だって、今はもう使えんだろ?」

 

「まあね。」

 

「さあ、やるぞ。」

 

 こうして、俺の新しい修業が始まった。今までの修行というのは、ローガー家の人達が見ていてくれたが、今回の先生がキットなのはとても新鮮だった。

 

エリナ視点

 あの出来事から暫く経ってから、エイダさんとイーニアスさん、アドレーさんとの修業が始まる。

 

 8月4日にロンドンの空港から日本へ旅立つ。朝早くに出発したんだ。でも、着いたのは朝だった。日本だったら、8月5日なんだよね。ハリー曰く、日本はイギリスよりも8時間、冬の時期になると9時間進んでいるんだってね。

 

 イギリスを9時に出発したとしたら、20時半になるんだけど、日本では翌日の4時半だって。時差って凄いけど、ややこしいなあ。

 

 修行は、8月8日から始める事になった。それまでに、ダーズリー家から手紙が来たという報告がロイヤル・レインボー財団本部から日本支部に届いた。手紙の内容をFAXで送って貰った。

 

 結果としては、無事にサインをしてくれてた。手紙にはこう書いてあった。

 

『事業が上手くいっている。そしてケーキや菓子のお礼だ。』

 

 どうやら、ダドリーが大量の土産物に大変満足したんだとか。これで、揃ってホグズミードに行けるようになった。良かった。

 

 尤も、『エリナのサインが貰えなかったら、俺も行く事は無いがな』と、ハリーはそう言っていた。そこまで気を遣わなくても良いのにと思った。でも、それを心配する必要は無くなったけどね。

 

 8月8日になって、修行が始まった。1日3時間。イーニアスさんが群青の閃光を撃って来た。武装解除呪文で応戦するけど、パワー不足で押し負けてしまった。

 

「それじゃ、エリナ。次は魔塊球(ディアブマス・アービス)をこれから出す呪文に当ててみて。その後に、攻撃呪文を撃ってごらん。」

 

「はい。」

 

 イーニアスさんが、レモン色の閃光を出してきた。ボクは、柊の杖を構える。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!!」

 

 白い光球を放つ。レモン色の閃光は、白い光に包まれた。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 紅の閃光を放つ。今度はレモン色の閃光を打ち破った。やった。出来た。

 

「やはり、相手の出してきた魔法にも当てる事は出来ましたね。」

 

「姉上。次は、本題に入りましょう。」アドレーさんが、そう言った。

 

「そうですね。もし、イーニアスの考えが本当であれば、魔塊球(ディアブマス・アービス)は思ったよりも使える呪文という事になります。これからのエリナちゃんの今後の戦いの助けになるでしょう。」

 

「え?ボクの作った呪文ってそこまで凄いんですか?」

 

「今はまだ何とも言えませんがね。それでは、今日はここまで。」

 

ハリー視点

暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)!」

 

 8月8日から、ある程度の成果を上げるまで1日3時間の修行が、ここ日本で始まった。マホウトコロの試験も7月中に終わらせている。日本に来たのは、マホウトコロの夏合宿の特別講師としての仕事もあるのだ。

 

 今やっている呪文の練習。エリナ、ロイヤル・レインボー財団の皆、ロン、ハー子、ゼロ、グラント、その他にも俺を信じ、慕ってくれる人達。その人達を守るんだ。そう言った思いで、この呪文を唱える。

 

 僅かに、眩い光が俺を包んだ。だが、すぐに消えた。せっかく細胞分身まで使ってコツを掴んだのに、これだけとは。効果も小さいし、持続時間も短い。

 

「無茶苦茶な修行法込みとはいえ、初日にしちゃ上出来だ。」

 

「そりゃどうも。」俺は、ゆっくりと床に座った。

 

「今日はこの辺で。次回からは、ゆっくりと時間を伸ばしていくぞ。言っておくが、しっかり休んで、しっかり遊べよ。修行に注ぎ込むなよ。」

 

「分かったよ。」ちょっとずつ修行も行っていくけどな。

 

 今日の修行は終わった。だが、当分は掛かりそうだな。でも、キットが言うには、1週間後には出来そうだとの事。

 

 夕食の時間。イタリア料理だった。エリナと会話していた。

 

「へえ。魔塊球(ディアブマス・アービス)の力を100%以上に引き出す修行か。」

 

「うん。次回からは、本題だって。でもハリーも新しい呪文覚えてるんだ~。」

 

「ああ。ちょっと特殊な呪文でね。守りたいとか、優しさがカギになるんだよ。細胞分身でも、ほんの数秒しか持たなかったんだ。コツは掴めてるから、本来の制限時間まで伸ばそうって事になったよ。」

 

「ハリーなら、出来ると思うな。本当に、優しいし。」

 

「そうかな?自分で言うのもアレだけど、俺ほどどうしようもない人間なんてそうそういないと思うよ?」

 

「ううん。そんな事は無いって。だって、本当に敵対している人じゃない時は優しいよ。それに、自分の命を投げ出してでも、大切な人を守り抜く姿勢はハリーの美点だと思うんだ。」

 

 互いの修行の話をしている。

 

「あ、そうだ。修行が終わってから、トイレに行きたくてしょうがなかったんだ。あのー、何というか、その――パンツに血が付いてたんだ。」

 

「エリナ。その話は、俺よりもエイダ義姉さんの方が詳しい。悪い事は言わないから、今度から俺を含めた男の前でむやみに初経の事は話さないで。」

 

「ううん。エイダさんがね、その話をしてくれたの。大人の女性に向かって成長してるってね。」

 

 だからか。誕生日程までとはいかないが、今日の夕食の内容がやや豪華だったのか。曰く、お赤飯とでも言いたいのかね。でも、俺はその手の話で興奮はあまりしない。異性への興味ってのが、同年代と比べてそんなに無いかなって自分でも思っている位だから。まあ、皆無というわけでもないのだがね。

 

 そして、翌日以降も修業は続く。そう言えば、ハー子から手紙が来た。8月の終盤に一緒に買い物をしないかと。30日に行くという了承の手紙を書いた。

 

エリナ視点

 8月10日。それからは、エイダさんが何かの呪文を唱えた。すると、複数の盾文が出現した。

 

「これから指示する場所に魔塊球(ディアブマス・アービス)を打ち込んでください。」

 

 エイダさんが杖を振るう。すると、幾つかの盾がボクに襲い掛かって来る。でも、ボクは最小限の動きでやり過ごす。秘密の部屋での経験が蘇り始めたんだ。呪文を使わず、見切って隙を見つける力が。

 

隙を見て走る。次々に盾が襲い掛かるけど、素早く回避する。エイダさんに近付く。

 

「今です。使ってください。」指示が入った。

 

 目の前の盾が来た。ボクは、呪文を放つ。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!」

 

 ボクが作り出した呪文を盾に打ち込んだ。クィディッチのチェイサーでの経験が生きてきた。本当に狙いを定めるべき場所に打ち込んでいく事を。盾は、白く光った。エイダさんの目の前に近付いて、また放つ。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!!」

 

 エイダさんは、すかさず盾を自分の目の前に戻す。盾でやり過ごした後、今度は逆にボクを遠ざけた。

 

ある程度遠ざかった後、盾が襲い掛かる。そこを逆に利用した。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!!!」

 

 3発目を見事に当てた。よし。

 

「ではエリナちゃん。破壊光線を放ってください。」

 

「はい!神の怒り(デイ・デイーラ)!!!」

 

 白く光る盾目掛けて呪文を撃った。するとどうだろう。ボクでも驚いた。盾をあっさりと破壊した。そこまでは予測出来たんだ。

 

 でもここからが驚いた。何と、破壊光線は次の光る盾に向かって進んでいった。それも容易く破壊。しかも、その度に光線が強く、より大きくなっていった。最後の盾も壊し、次は白く光る甲冑に向かって行った。甲冑に呪文が命中する。甲冑は、木っ端微塵に破壊されたんだ。

 

「あの、これってどういう事ですか?」

 

 ボクは、エイダさんとイーニアスさん、アドレーさんに質問した。

 

「兄上はこう考えたんだよ。エリナ。君の呪文が命中と同時に、強く光る事を。この事から、魔塊球(ディアブマス・アービス)のもう1つの可能性が考えられた。そして、実証されたんだ。」

 

「アドレーさん。その……もう1つの可能性って…………。」

 

「ここからは私が話そう。魔塊球(ディアブマス・アービス)のもう1つの可能性。それは、連鎖の誘導と爆発だ。君の魔力で作り出した攻撃の呪文に反応して、ある程度までの距離にある白く光る箇所までそこに行く。君は、今回の特訓で自分の作った術の力を100%以上に引き出した。合格だよ。」

 

 イーニアスさんは、相変わらずの能面の様な顔でそう言った。でも、少しだけ微笑むように見えたんだ。

 

「ありがとうございました!」ボクは、3人にお辞儀をした。

 

「では、今日の特訓は終了です。ゆっくり休憩してください。8月13日は、マホウトコロの見学でもしましょう。」

 

 こうして、特訓は終わったんだ。明日からは、エイダさん曰くボクの強みを引き出す事も兼ねてマホウトコロに行こうってね。

 

ハリー視点

 8月11日。少しずつ、暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)の持続時間を伸ばしていった。あの初めて成功した感覚を忘れない様に。最初は一瞬だけだったが、1分、1時間、3時間という感じに。今では、6時間まで持続出来る。

 

 キット曰く、最大持続時間は12時間だそうだ。それを使いながら、零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)を使う。すると、それまでの凍傷が嘘の様に何も起こらない。今後、これと併用していくか。

 

 並行して、形態変化の修行に入る。邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)は、もう既に火炎操作呪文でやっているから、やらなくて良い事になった。よって、零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)の2つをやっている。

 

 まず、零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)。これは、冷気から氷を作り出した。この氷を礫にして飛ばしたりした。更に、3つの氷柱を作ってそれを放つ事もやった。

 

 次に天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)。無数の微小な針に形態変化させた。これでそのまま飛ばす事も出来る。杖の先から、矢の如く形を変えたりもした。趣向を変えて、単純に出力を上げて巨大な電撃を放つようにもした。最後は、俺の背後に8個の太鼓の様な物体を出現させ、小さな電撃の球を放つという芸当も行った。これを8月12日までやった。

 

「まあ、一気に合計6つの形態変化を編み出すとはな。環境適応呪文の方も、本来の75%、つまり9時間まで持続出来てるし。そんなに時間も無いから、修行は今日で終わりだ。」

 

「もっと続けてもいいか?これからも。」

 

「時間ある時にな。それに、休息も修業だ。覚えておけよ。」

 

 8月12日。修行は終わりを告げる。だが、俺は独自に複数の魔法を同時発生させて全く新しい俺だけの専用呪文を作ろうと考えた。後にそれは、文字通り俺にとっての切り札となる術になるだが、その時は知る由も無かった。

 

 エリナは、何か変身術の強みを生かした修行を、3日間取り組んでいたそうだ。明日、マホウトコロへ行く。かつての同級生達と1年ぶりの再会だ。あいつら、元気にしてるかなあ。

 

 8月13日。南硫黄島。ここで、マホウトコロの夏合宿を行う。合宿と言っても、イベント満載のアクティビティなんだが。期間は、4泊5日だ。

 

「エリナ。イーニアス義兄さんが持たせた魔法薬『翻薬』は持ってるよな?」

 

「バッチリだよ。後、杖と着替えと遊び用の道具もね。」

 

 遊ぶ気満々だな。まあ、殆ど遊びだからいいんだけどさ。その後、鬼舞佐緒里校長と久しぶりに再会した。エリナの紹介をする。2人は、握手をした。

 

 続いて授業。と言っても、遊びも交えた内容である。

 

「皆さん。こちらの方々は、ホグワーツ魔法魔術学校から来た生徒さんですよ。」

 

 新たに赴任したと思われる教師が、俺にエリナを紹介する。

 

「特に、こちらのハリー・ポッター君はここマホウトコロからの留学生という形でホグワーツに行っています。隣のエリナ・ポッターさんは、ハリー・ポッター君の妹さんです。皆さん、仲良くしてください。それでは2人共、お願いします。」

 

 マイクを受け取り、合宿の参加者にスピーチをし始める。もちろん日本語でな。

 

「1年生の人は始めまして。そして、2年生以降の人はお久しぶりになります。ハリー・ポッターです。短い間にはなりますが、皆様とのこれからの5日間が有意義になる様に励んでいきます。どうぞよろしくお願いします。」

 

 お辞儀をして、エリナにマイクを手渡す。パチパチという拍手が聞こえる。ハリーお帰りという声もあった。俺、離れる事になってもマホウトコロの一員なんだなと感じた。

 

「初めまして。エリナ・ポッターです!宜しくお願いします!!」

 

 元気よくスピーチした。男子の何人かは、「美女じゃー!」と叫んでいる。ミーハーな奴らだ、全く。

 

 授業内容は、ホグワーツでやった授業の簡略したものだ。2年生までの無難に覚えられる呪文を教えた。午前中はそれをやって、午後は自由時間となった。

 

 エリナは、すぐに参加者全員と仲良くなれた。それも、学年問わずである。その内の複数人と一緒に海に遊びに行った。日本の魔法界が作り出したワープ装置を用いて、海水浴が出来る無人島に行けるのだ。無論、付き添いの先生もついて来るのだが。

 

 俺は、マホウトコロでゆっくりする。しばらく落ち着けた後、ブローチのついた灰色のマントを使い、瞬間移動(テレポーテーション)で海岸部まで移動した。海岸部は、ゴロタ石に覆われている。環境は過酷だが、美しい。マホウトコロ以外の人間の痕跡すら残さない島だからな。

 

 続いて、比較的上陸しやすい海岸部に移動した。場所も違うと、海の景色も違って来るな。そういう感想を心の中でしていると、何か妙なものがあった。物か人かは分からない。俺は、取り敢えず近付いてみる。

 

 来てみると、人が打ち上げられていた。透き通る様な水色の髪がストレートになっている。そして、薄いピンクの服を着た少女だ。両腕、額の周りにアクセサリーを装飾している。顔立ちからして、日本人ではなさそうだな。息はしてるし、小さな声で呻き声を上げているので、俺はマホウトコロに連れて行こうとする。しかし、その少女は普通の人間と違っていた。

 

 まずは手だ。小さな水かきがある。耳は、魚のヒレみたいだ。そして極めつけは、抱きかかえた時だ。この少女の腰から下は、魚の尻尾そのものだったのだ。

 

 俺はこの少女の正体を悟った。この娘は、人魚なのだと。

 

 人魚。いないわけではない。ホグワーツの水中人はそうだし、陸で活動できる魚人もいる。そして、彼らの大本となったのは世界中が殆ど海になった時に自由に大海原を駆け巡った第2の種族『水人族』と呼ばれる。

 

 財団にも、数は少ないながらそれなりに在籍している。また、財団と同盟関係にある前世の隠れ里にも彼らは静かに暮らしているのだ。尤も、第1の種族たる『神人族』、第3の種族『竜人族』、第4の種族『巨人族』も住んでいるのだが。

 

 話しを戻そう。この娘は、かなり弱り切っている。このままでは死ぬだろう。俺は、瞬間移動(テレポーテーション)で人魚ごとマホウトコロに戻っていった。

 




ポッター兄妹の戦闘スタイルについて

ハリー・・・火、氷、雷のオリジナル呪文を自作した上で習得した為か、原作よりも超攻撃的なスタイルとなった。一応防御、補助、回復の呪文も使えるがマントの絶大な防御力と本人の身体能力による回避能力で大抵の攻撃はどうにでもなる。また、剣術、射撃、ジークンドーと魔法に頼らない戦闘もこなせる。極めつけは、W-ウイルス適合による恩恵で寿命を迎えるまでは無限デスルーラ可能。

エリナ・・・使う魔法に関しては原作のハリーと基本的には同じ。『魔塊球』と『神の怒り』の2つの呪文を習得しているのが最大の相違点。前者でいかに他の呪文(特に武装解除、失神、盾全般)の火力を上げ、後者の魔法で戦闘を終わらせられるかがカギとなる。本人の性格上、どちらかと言えば攻撃よりも防御、補助、回復、変身術を使った攪乱等のサポートの方が性に合っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 人魚と飛竜と切札と

前回の続きです。


 マホウトコロの医務室に人魚の娘を連れて行く。

 

「失礼します。海岸部で、この娘が打ち上げられていました。診てやってください。」

 

 校医の男性は、大変驚いた。でも仕方ないか。人魚なんて見たら、誰だってああなるだろうし。

 

「聞きたい事は山ほどあるけど、今は彼女の治療……」

 

 校医がそう言いかけた時、予想外な出来事が起こった。人魚の娘の身体が、人間のものに変化したのだ。髪も、水色から金色になっている。何の力なのだろうか?七変化なのか。

 

イヤ。容姿に大きな変化は出ていないから、その線は有り得ないかな。

 

「な、何でだ?人魚や水中人に、こんな能力は無い筈だけど。」校医が狼狽える。

 

「突然変異か、改造された人間なのか分かりませんね。でも今は人間の状態なので、治療はしやすいと思います。」

 

「分かった。やろう。ハリー君、鬼舞校長とローガー先生に報告をして欲しいのだが。」

 

「了解しました。」

 

 佐緒里校長とエイダ義姉さんにこの事を報告する。2人は、すぐに医務室に向かった。俺も後を追う。

 

「ハリーが保護した子の状態はどうなっているかしら?」佐緒里校長が校医に問う。

 

「相当弱っています。42度の熱に栄養失調、体力の低下。それ以上に、心に深い傷を負っています。過去に、それだけ凄惨な体験をしたのでしょう。」

 

「そうですか。ハリー。ここは私達が見ますので、あなたは部屋でゆっくりとしていて下さい。」

 

「いや。見つけたのは俺だから、最後まで面倒を見ます。それが、筋ってものなので。」

 

 俺も医務室に残った。顔をタオルで拭ったりとかして。流石にボディタッチを伴う看病はしなかった。そこは、佐緒里校長とエイダ義姉さんに任せた。

 

 午後10時半。少女が目覚める。目の色は銀色だ。しかし、その目はどこか怯えていた。

 

「い、イヤ。来ないで……来ないで下さい!イヤアアアアアア!!!」

 

目覚めて早々叫び声を上げる。超音波の為、高級耳栓で凌ぐことにする。

 

黙れ(シレンシオ)。」沈黙させた。喚いているが、聞こえない。

 

「安心しろ……は無理があるか。いきなりだと。」ポツリと呟く。

 

「そのようですね。彼女の精神を落ち着かせなければなりませんね。」

 

 俺は、少女の手を持った。そして、彼女を振り向かせた。俺の目を見るようにさせたのだ。

 

「信じたくなければそれでも構わないさ。でも俺は、お前を襲ったり、屠ったり、殺したり、傷付けるつもりは決して無い。そんなんだったら、ここに連れて来て看病はしないからな。そんなもの、俺にとっては下らねえ。そういう低俗な事は、死喰い人の方がお似合いさ。」

 

 何があったかは知らない。だけど、無理に聞き出そうとすれば、余計に不信感を煽る。だから、彼女の口から自主的に言おうとしない限りは、聞く事は無い。ただ今は、俺達は敵じゃないっていうのだけは分かって貰おう。

 

「痛い目に遭わせませんか?」少女は、多少心を落ち着かせたようだ。

 

「しない。」

 

「殺しませんか?」

 

「するか。第1、俺にそんな趣味は無いね。そんな事をやるのは、頭のネジがぶっ飛んだキチガイだけさ。」

 

 それを聞いて、少女は安心したようだ。いや、まだ警戒はしているみたいだが。

 

「君は誰なんだ?今まで何があったのかな?」

 

 驚かさない様に、優しい口調で聞いてみる。

 

「私の名前はマリア。マリア・テイラーです。アメリカ国籍。」

 

「アメリカだと!?泳いで来たのか?」

 

 人魚になれる能力からして訳アリだとは思うが、念の為に聞いてみる。

 

「いいえ。攫われました。」

 

「攫われただと!?どうして!?」

 

「3年前。7歳の誕生日と魔法の力が覚醒した記念に豪華客船にパパとママとお姉ちゃんのカレン、妹のルーシーと5人で乗りました。」

 

「ちょっと良いですか?」

 

 エイダ義姉さんが話に参加して来た。マリアは酷く怯えて、俺の左腕を掴んで後ろに隠れた。

 

「……俺以外の人間は警戒してるみたいだね。エイダ義姉さん。」

 

「そのようですね。マリアちゃん、申し訳ございません。魔法力が覚醒した記念。という事は、親御さんは魔法使いだったのですか?」

 

 成る程。確かに、魔法力が目覚めたお祝いという事は、誰かが魔法の存在を何かしらの形で知っていたという事になるわけだ。

 

「パパとママはどちらも由緒ある魔法使いの出身でした。魔法力が出たから、将来はイルヴァーモーニーだねって言ってくれたんです。私もそうだと思ってた。あの日までは。」

 

「あの日?」俺は思わず首を傾げる。

 

「豪華客船サンシャイン号に乗ったのです。」

 

 あれ?どこかで聞いた話だな。どこだっけか?

 

「その時、船が襲われました。1人の人間。たった1人。だけど、とても人間とは思えないような力で乗客を殺し始めました。パパとママは、即座にその男は魔法使いだって見破った。抵抗したけど、殺されたんです。」

 

 マリアは今にも泣きそうになる。

 

「襲った奴の特徴は覚えておりますか。」

 

「オネエ言葉を使う男。見た目は変態そのものだけど、実力は確か。命を弄ぶのに、一切の抵抗感が無いような人です。」

 

 俺とエイダ義姉さんは、そいつの正体を察した。

 

「ハリー。この特徴を持つ男は、あいつしかいませんね。」

 

「うん。リチャード・シモンズだ。明らかに。10万円賭けたって良い。」

 

「その人に誘拐されました。お姉ちゃんと妹と一緒に。」

 

「サンシャイン事件ですね。3人の姉妹が行方不明。残りは皆殺しにされたシージャック史上、最凶最悪の事件です。魔法使いによる犯罪だというのはすぐに分かりましたけれど、まさか。あの男が……リチャード・シモンズが絡んでいたとは。」

 

 エイダ義姉さんは、独り言を呟く。俺は、マリアの話の続きを聞く。

 

「それから逃げるまでの3年間は正に地獄でした。死んだほうがマシと思える位の。まず初めに、リチャード・シモンズの実験材料(モルモット)であり、奴隷でもある証を刻まれた。」

 

 マリアは、俺達に背中を向ける。服を脱いで、背中を見せた。そこには、聖杯に乗せられた心臓らしきものを短剣が突き刺し、隣の棍棒に擬態していた蛇が擬態を解き始めて剣の刃物を螺旋状に動き回るような紋章が生々しく焼き付けられていた。

 

「マジかよ!正気じゃねえな。あいつ。」

 

「こんな事だろうとは思っていましたが……それにしても酷過ぎる。」

 

 マリアの背中に刻まれた紋章を見た俺達2人の感想はこうだったのだ。

 

「今度、刺青とかに益々悪印象を持つかもしれないな。」

 

「私も同感ですよ。とても人間がやる事ではありません。まるで、イーニアスに闇の印を無理矢理植え付けたマルフォイ、クラッブ、ゴイルと同じ位に邪悪だと感じる程には。」

 

「ハリー君。エイダちゃん。あなた達のその気持ち、私も分かるわよ。でも、今は抑えて頂戴。」

 

「その次に、ディー何とかをやるとか、これで究極の生命を作り出せるわとか言ってました。」

 

「ディー何とかって、もしかしたらDNAの事じゃないか?」

 

 俺が聞いてみる。段々涙声になりながらも、マリアは俺の言葉に頷く。

 

「そんな感じのを言ってたと思います。他の動物のそれを組み込んで、新しい種族を作り出すって言ってた。私の場合は、人魚……というより水人族のDNAを植え付けられた。そして……そして…………」

 

 それ以上は思い出したくもないらしい。その記憶がフラッシュバックしたのか、マリアは猛烈な悲鳴を上げた。その叫びがあまりにも痛々しかった。極度のPTSDに苛まれているのか。余程トラウマになっているとみて間違い無いだろう。

 

 また、さっきもそうだけどマリアは涙を流す度に、小さな粒状のアクアマリンに涙が変化していったのだ。余談だが血を流した時は、ガーネットになってた。

 

「分かった!もう無理しなくて良い!!嫌なら話さなくて良いから!!」

 

 30分全員で落ち着かせた。マリアはいまだに全身が震えている。

 

「水人族のDNAを組み込む為の改造手術を無理矢理受けさせられたのか。」

 

 俺がそうマリアに聞いた。マリアは、沈黙している。恐らく、その認識で正解なのか。

 

「他にも私と同じように改造手術を受けた人が沢山いました。それでも手術に失敗して命を落とすか、例え死を免れても失敗作の理性の無い化け物になり損ねるか。それが殆どだったのです。それを数え切れない位、見せ付けられました。」

 

「シモンズの事です。手術に成功した者がいたとしても、逃げられない様に何かしたのではないでしょうか。」

 

 エイダ義姉さんは、マリアに聞く。マリアは、コクりと頷いた。

 

「リジェクションと呼ばれていて、無茶な改造のツケとも言える拒絶反応が起こって、最終的に死に至ります。定期的に体の血液を交換しなければならないんです。その血液を作れるのは、リチャード・シモンズだけ。だから逃げられませんでした。私以外は。」

 

 私以外?それ、どういう意味なんだ。

 

「私以外って?」俺が聞く。

 

「……何故か、私だけリジェクションが起こらなかった。だから、それをする必要が無かった。皆不思議がってました。シモンズは、大変嬉しがってたんです。」

 

「奴の事です。どうせ、『初の成功例ね。完全なるDNA改造人間だわ』って言ったのでしょう。」

 

「何でそいつの言いそうな事が分かるんです?」エイダ義姉さんに聞く。

 

「ブライトンの大学に行きながら、奴がロイヤル・レインボー財団を脱走するまで助手として働いていました。だから、ある程度は手に取る様に分かるのです。」

 

「カプセルの中に閉じ込められて、魔法薬を飲まされたり、呪文の性能テストとして使われたりした。酷いものでした。人間以下の扱いを受けて、何の希望も見出せない。いつも死ぬ事ばかりを考えていた。今でも、その記憶がハッキリと蘇ってくる。」

 

 顔色が真っ青になっていた。

 

「よくそこから逃げ切れたな。何があった?」

 

「そこは聞いておきたいです。リチャード・シモンズは、欲しいと思ったものは力づくでも手に入れ、奪われたくないものは殺す男ですからね。」

 

 俺とエイダ義姉さんのやり取りを聞いているマリア。全身が震えながらも、それまでよりもはっきりとした声で話し始めた。

 

「そういった日々が3年続いたある日の夜、シモンズのアジトが襲撃されたんです。たった2人に。シモンズも、分が悪過ぎると悟ったのか一目散に逃げ出しました。そうして謎の2人組は、捕らえられていた私達を殺戮し始めました。」

 

「TWPF……終わりを生み出す者か。」

 

「はい。シモンズを裏切り者として処刑したがっているとお祖父様はおっしゃっていました。どんな事情であれ、シモンズの生み出したDNA改造人間は問答無用で抹殺の対象なのでしょうね。」

 

「皆、リジェクションの事もあって成す術無く殺されました。でも、何とか私は逃げ切れた。力いっぱい、もう捕まらない様にして。」

 

「何処から泳いできたの?」

 

 俺は、世界地図を広げてマリアに見せた。

 

「ここから。」

 

 マリアが指をさす。そこは、南米大陸のマゼラン海峡だった。その内の一つの島。

 

「まさか!ハノーバー島!?チリか!」

 

「それが3週間前。逃亡生活を送っていた間は、休まず太平洋をずっと泳ぎ回ってた。それで気が付いたら、ここにいました。」

 

「よく、打ち明けてくれたわ。早速、ロイヤル・レインボー財団の方で保護していただきましょう。エイダ、それで良いですか?」

 

「はい。早速お祖父様に報告します。シモンズの被害者だと言えば、安全に匿ってくれるでしょう。ハリー。精神操作は出来ますか?」

 

「記憶操作なら自信はありますがね。でも、精神操作は専門外なものでしてね。やろうと思えば出来ますけど。」

 

「ちょうど良い機会です。精神操作の方をお願いします。」

 

「了解。」

 

 エイダ義姉さんは、早速新宿に向かった。

 

「さてと。話も終わったし、俺もやるとするか。精神操作で、君にかけられたのが何なのかを調べさせて貰うよ。魔法だろうが、何だろうが、縛っているものを全て取り除く。」

 

「解けるんですか?」

 

「神にでも祈ってるんだな。じゃあ、始めるぜ。」

 

 マリアと見つめ合い、頭を触る。シモンズへの恐怖心の増幅に、逃げた時に自分が死ぬ、或いは家族が死んだ時の光景を見せつけると言ったものだけか。結構簡単な暗示だな。これなら造作も無いし、コツも掴めて来た。

 

「……もう良いよ。暗示は解けた。結構簡単なものだったよ。シモンズへの強大な恐怖心に、最悪の記憶や光景を見る事は無くなったからさ。」

 

 彼女には、感謝しなきゃな。精神操作の技術が大幅に向上したんだから。

 

「さてと。仕事おも追えたし、俺も部屋に戻ろうかな?」

 

 部屋に戻り、寝ようとした。しかし、腕を掴まれた。掴んでいたのは、マリアだった。

 

「どうしたんだ?」

 

「あなたは……実験材料(モルモット)であり、奴隷でもあった私を……蔑みますか?人間以下の扱いを受けて、そして……文字通り化け物になった私を…………」

 

 マリアが俺に問いかける。俺は首を横に振る。

 

「君は、とても綺麗だよ。今の姿も……人魚の時の姿も……心も。それに、俺もある意味化け物だから。」

 

「え?」マリアは、俺の言葉に不意を突かれて動揺している。

 

「だが、本当の意味で化け物なのは寧ろ、リチャード・シモンズの方だよ。あの野郎。今度は、倫理もクソも無い事をしやがって。許さねえ。」

 

 俺は、マリアがどんな存在であっても気にしていないという意思表示をする。

 

「ありがとう。あのう、名前を聞いても良いですか?」

 

「通りかかって連れて来ただけだよ。名乗る程の者じゃないさ。俺はな。」

 

「それでも、私にとってあなたは命の恩人です。」

 

 マリアの必死な視線に、俺は折れた。だから、名前を名乗る事にする。

 

「俺の名は、ハリー・ポッターさ。」

 

 そう言って、マホウトコロの医務室を退出した。

 

*

 

 夏合宿2日目にマリアは、ロイヤル・レインボー財団本部の医療チームに引き取られた。義祖父ちゃんは、何とか元に戻せる方法を探してみようと言っていた。俺は相変わらず、特別講師の役目をこなしていく。

 

 マリアに出会ってから何か憂鬱になったり、上の空になっているような気がする。彼女は、自らを化け物だと評していた。だが、人魚の時の姿も、人間の時の姿も美しかったんだ。最近おかしくなってるな、俺って。らしくもねえな。目的を達成する(闇の陣営を滅ぼす)までは、人並みの幸せなんて求めないと誓った筈なんだが。

 

 いいや。もう永遠に求めないと覚悟もしたんだ。俺の所に、幸福など今更来る筈も無い。手段を選ばず、ヴォルデモートや死喰い人、闇の陣営に味方する生物共。そして、連中を支持している純血主義者と魔法族。奴等の所為で、父様と母様、伯父上は死んだんだ。

 

 だから、奴等を殺す。奴等の全てを否定してやるんだ。例え、TWPFやアルカディアが殺すように誘導したり、勝手に行動してくれてでも。俺は……俺は復讐者なんだ!!

 

*

 

 夏合宿5日目の最終日。お別れの会となった。俺も、マホウトコロの友達と別れる事になった。エリナも、どこか名残惜しそうだった。

 

「どうだった?マホウトコロは?」

 

「皆ね。ボクを有名人扱いしないで、等身大で接してくれたの。だから、気持ちが楽だった。加奈子に、聖奈、憐、一真、悠悟、慎太郎とまた会えると良いなあって思ってね。」

 

「6人も友達作ったのか。俺は主に、誠、創、翼、春彦、博和と一緒にいたぜ。あいつら、元気だったよ。」

 

 それぞれの思い出を語り合う俺達。エリナは、既にマリアの事は知っている。マリアの素性に関しては、流石に凄惨過ぎるので伏せておいたけど。

 

それからも定期的に修業をした。具体的に言うと、今やっているのは勇賢の紅光(ブレイエンス・ディセルクス)邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)神の怒り(デイ・デイーラ)細胞分身(セラーレ・ディバリット)聖なる浄化の光よ(ルーモス・ガ・イアス)幻覚を見せつけろ(パンタミューム)暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)の同時発動による新呪文の開発だ。具体的には、9体の細胞分身にそれぞれの呪文と形態変化を行わせ、俺自身は魔力の放出を行っている。

 

本体たる俺を含めた200名でこれを行っている。数日で、完全なものではないが最低限実戦で使える様に仕上げた。

 

神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)!!!」

 

 それは赤い甲殻に身を包み、俺と同じエメラルドグリーンのアーモンド状の目をしている飛竜(ワイバーン)だった。その目は、威圧感だけじゃない。強く、気高く、そして暖かさを感じさせてくれる神々しさを持っている。

 

『使いどころは限られるけど、それに見合った性能と攻撃力は持ってるな。』

 

 まず、この魔法はそれまでの魔法とは根本的に異なる。いきなりの使用は出来ないのだ。

 

 ある程度魔法を行使する形で、魔力を消費すると使用が解禁されるのだ。それに、魔力を消費すればするほど力が溜まる性質がある事も判明した。そこは、アドレー義兄さんとの手合わせで分かったのだが。

 

 最小攻撃力でさえ、小さな町を壊滅させる程に凄まじい。だが、それ以上に特殊能力が敵にとっては鬼畜そのものと言える。その特殊能力とは、敵の魔法や武器、攻撃を徹底的に噛み砕いた上で喰らい尽くし、更なる攻撃力と耐久力といった全てのステータスの上昇をするんだ。

 

 その代わりに、これを使ったら一気に俺の魔力が空になる。だから、最後のとどめまで取っておく必要がある。また、立ち上がれない程の疲労感にも襲われる。体力や魔力を回復させない限りは、1回の戦闘で1発しか出せない。文字通りの切札だ。

 

 一応の成果を出せたので、8月の18日から帰る前日の24日まで観光をした。お祭りに参加したり、軽いハイキングをしたり、秋葉原に行ったり。

 

 お祭りに関しては、イギリスでは食べる事は滅多に無いであろう日本の食べ物と神輿にエリナは興味津々だった。鯛焼きに焼きトウモロコシ、焼きそば、お好み焼きをペロリと食べた。

 

 軽いハイキングは、電車で八王子まで行った。そこから、高尾山を上った。

 

 秋葉原では、信長の野望とスターフォックスを購入した。エリナは、メイド服を欲しがっていたので、購入した。ちなみに、資金はロイヤル・レインボー財団から日本円で10万円ずつ渡されている。ポンドで買い物した事があるのか、エリナは然程苦労せずにどうしても欲しい物だけを買っていた。

 

 24日は、ローガー家の人々やキットと一緒にお土産を買ったのだ。お菓子を中心に多めに。何を買ったのかはお楽しみだ。

 

 さて、25日にイギリスへ帰国する。時差ボケをしないように心掛けなければ。そう思いながら、就寝する。

 




取り敢えず、今作のハリーの最大呪文を獲得。発動条件がシビアな代わりに、それに見合った超高等性能を持ってます。『金色のガッシュ』のバオウを連想させた人、手を上げて下さい。

救済と復活の章から登場する主要オリキャラを紹介。例によって、イメージ声優も括弧内に書き込み。

リチャード・シモンズ(大塚芳忠)
元ロイヤル・レインボー財団の魔法科学者。2月14日生まれの51歳だが、見た目は完全に20代前半。分霊箱とはまた別の不老不死の魔法の開発をしていた事がバレて追放された。一時期はTWPFに所属していたが、そこでもいざこざを起こして脱退。現在はアルカディアの首領。事故とは言えハリーをW-ウイルスに感染させたり、マリアに人体改造を施して人魚の特性を持った改造人間にしたり、ドラコに呪印を刻み込んだりと、今作の狂言回し的なポジションを確立。

キット・パディック(岸尾だいすけ)
ロイヤル・レインボー財団特殊戦闘部隊所属の青年。19歳。アメリカの魔法学校イルヴァーモーニー出身。詳細は不明だが、魔力のレベルが『覚醒』の領域に達している。失神呪文が十八番で、1度の詠唱で何百発も打てる。生まれた直後にアラン・ローガーに引き取られ、ほぼ同い年のアドレーとは幼馴染、ハリーにとっては兄同然の人物。普段は気さくで、味方やターゲットじゃない者にはとても親切。しかし敵と見做した者には結構容赦が無く、勢い余って殺す事もある。ダンブルドアに対しては、ある一件の事もあって批判的に見ている。

ゲブラー(小西克幸)
TWPFに所属する23歳の青年。ティファレトと2人一組(ツーマンセル)を組んでいる。ハリーと同じW-ウイルスの能力者だが、その力は彼を凌駕しており、進化形態まで持っている。更には覚醒の力に加え、本人の固有の力として消滅属性の魔法も使用可能。ハリーとの接触で、彼に興味を示した。

マリア・テイラー(M・A・O)
アメリカ生まれの少女。3月3日生まれの10歳。リチャード・シモンズの手で7歳の誕生日の時に両親を殺されしまい、自身は姉や妹共々アルカディアに拉致された。人魚の特性を持った改造人間とされたが、副作用は出なかった。アルカディアがTWPFに急襲された隙を突いて逃走し、日本まで泳ぎ、マホウトコロとロイヤル・レインボー財団に保護された。3年間の生活の影響で、非情に憶病且つ弱気な性格になってしまった。

余談ですが、キットとマリアの、それぞれの名前と苗字は『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』の主人公のフルネームから取っています。

次回は、グリモールド・プレイス12番地へ行くお話を投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 グリモールド・プレイス12番地へ

 25日にイギリスに戻って来た。それから8月27日までは、ゆっくりしていた。時差ボケを治すために安静にしていたのだ。俺は寝ながらウルトラマンパワードのビデオばかり見ているのだが、エリナはSFCで俺が買ったスターフォックスとファイナルファンタジーⅣ、ドラクエⅤをやっていた。元気過ぎだろ。

 

「どう?ここの生活は?それに日本はどうだった?」

 

「うん。本当に素晴らしいよ!楽しかった。羨ましいなぁ。」

 

「今でこそな。魔力が出たのが5歳の時だ。それからは、ひたすら修行ばかりやってたね。7歳からマホウトコロに通ってたよ。当たり前だけど、マグルの世界でも暮らせるように、そっちの勉強もやっていた。完全土日休日だったけどね。」

 

「かなりスパルタだったんだ。ボクはもつかなあ?」

 

「さあな。でも、俺は人間関係に恵まれていたからなぁ。そんなに苦しくは無かったよ。じゃあ、明日はブラック家に行くから早く準備しとけよ。」

 

「分かってるって。お休み、ハリー。」

 

「お休み。」

 

 翌朝。朝早く起きて2人で準備をしていると、声を掛けられた。

 

「ハリー。お久しぶりだな。」

 

「き、キット!ここにいたんだ。」

 

「ジジイからグリモールド・プレイス 十二番地のブラック家に行くって聞いたからな。そこまで連れてってやるよ。」

 

「分かった。頼む。」

 

「おはよう~」エリナがまだ半分寝ながら起きてきた。

 

「起きたか。サンドイッチを持ってけ。行くぞ。」

 

 キットの姿くらましでグリモールド・プレイス 12番地まで行った。

 

「ありがとうございました。キットさん。」

 

「別に良いって。じゃあハリー。俺はロンドンの町をぶらついてるから、終わったらナイロックを寄越してくれよ。」

 

「ああ。道を迷わない様にね。それじゃあ。」

 

 ここでキットと別れた。俺は、ドアをコンコン叩いた。ドアが開く。出迎えたのは、年老いた屋敷しもべ妖精だった。

 

「ハリー・ポッター様、そしてエリナ・ポッター様でございますね。お嬢様がお待ちです。こちらへ。」

 

「「お邪魔します。」」ブラック家にお邪魔した。

 

 客間に案内された。もうイドゥンとエックスがいる。

 

「良く来ましたわね、ハリー。そして、エリナ。どうぞお掛けください。」

 

 イドゥンが俺達に、座るよう促した。

 

「失礼します。」

 

 2人とも座った。

 

「それで。お話とは?」

 

「まずは、この捜査資料とレポートを見てくれ。俺も説明する。」

 

 資料を交えながら、俺は説明する。シリウスが実は無実だという事。嵌めたのは、ピーター・ペティグリューである事。そいつは、今もネズミの姿でどこかの魔法使いの家に潜伏している事を話した。

 

 2人とも絶句していた。特にイドゥンは、今までシリウスを一族の面汚しとして見ていたらしく、理に適った真実を聞いてしばらく呆然としていたのだ。

 

「そうでしたか。伯父上は、そんな。何という事。」

 

「今まで信じていたものを否定される気持ちは分からんわけじゃない。でも俺は今年、シリウスの無実の証明と名誉回復に向けて行動する。それを伝えに来たんだ。ここに来た理由の1つはな。」

 

「先輩。何か僕が出来る事ありますか?」

 

「言っておくけどねエックス君。ペティグリューを捕まえないとシリウスは何時までもアズカバンにいなくちゃいけないんだよ。だから、親族であるあなた達だけでも信じてあげて。勿論、ボクとハリーもだけどね。」

 

「分かりました。真実を語ってくれてありがとうございます。私も、伯父上を信じるあなた達兄妹に懸けましょう。」

 

 イドゥンは、俺に頭を下げた。それと、もう1つ聞きたい事あるんだ。それも聞いておくか。

 

「じゃあ、もう1つの話だ。」

 

 捜査資料とレポートを下げ、今度は小さなロケットと羊皮紙を取り出した。一瞬、屋敷しもべ妖精の顔が揺らいだ気がするが、どうしたのだろうか?

 

「これは?」エックスが問いかける。

 

「俺は、宿題を殆ど終わらせてからこの3週間、ある目的を持って行動してた。」

 

「プリンアラモードを倒す為のですか?」

 

「ああ。その途中でこいつらを見つけたんだ。」

 

 羊皮紙に書いてある内容を全員が分かる様にする。

 

『闇の帝王へ

 あなたがこれを読む頃には、私はとうに死んでいるでしょう。

 しかし、私があなたの秘密を発見したことを知って欲しいのです。

 本当の分霊箱は私が盗みました。できるだけ早く破壊するつもりです。

 死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手に見えたその時、

 もう一度死ぬべき存在になっている事です。――R.A.B』

 

『デス・イーターは厨二臭いです。

それと、あなたのロリコンストーカーの趣味を治してください。』

 

「これは…………」イドゥンが声を漏らした。

 

「最後の文章、蛇足過ぎるよ。分霊箱?何それ?」エリナが言った。

 

「R.A.Bに見覚えは?」俺がブラック姉弟に問いかける。

 

「B……B……B……ブラック?…………間違い無い。この3つのイニシャルを持つブラック家の人間は1人しかいないよ。」

 

「エックス。それは誰ですの?」

 

「レギュラス・アークタルス・ブラック。僕と姉ちゃんの、もう1人の伯父さんだよ!」

 

 シリウスの弟であり、イドゥンとエックスの母アリエス・ブラックの双子の兄でもあるレギュラス・ブラック。

 

「姉ちゃん。クリーチャーなら何か知ってるかも。」

 

「クリーチャー!!」

 

 イドゥンが妖精を呼んだ。呼ばれた屋敷しもべ妖精のクリーチャーはわなわなと震えていた。その目は、机の上に置かれたロケットに引き寄せられていた。さっきまでの接待してた時と違って、様子がおかし過ぎる。

 

「レギュラス・ブラックの事を、知っている事全てをお話しなさい。今すぐです。」

 

「く、クリーチャーはお話にはなれません。喋ってはいけないと、レギュラス様から命令されているのでございます!」

 

 何と、イドゥンの命令に初めて背いた。

 

「頼むよ!話しておくれよ!」エックスも説得する。

 

「クリーチャーはレギュラス様のご命令にお従いにならなければならないのですッ!!!レギュラス様のロケットの事をお話ししてはいけないのです!!!」

 

 何か釈然としない。しかも、従わなければならない、だと?イドゥンとエックスの命令に背いてまで。

 

「ねえ、ハリー。このロケット、クリーチャーにあげて良い?ボクに考えがあるんだ。」

 

「分かった。お前の直感は殆ど当たる。やってくれ。」

 

 エリナは、俺からロケットを受け取った。

 

「クリーチャー!これ、あげる!!だから教えて!このロケットについて、知っている事を!」

 

 エリナは、ロケットをクリーチャーに差し出した。が、クリーチャーは拒絶した。

 

「主人でもない魔法使いの施しなど、クリーチャーは受けない!レギュラス様のお命じになられた事を、クリーチャーは裏切らない!」

 

 クリーチャーは命じられているのか。レギュラス・ブラックに。

 

「イドゥンからも何か言ってよ…………」エリナがイドゥンに懇願する。

 

「クリーチャー。」イドゥンが落ち着いた口調でクリーチャーに囁いた。

 

「話してください。もしもレギュラス・ブラックが……私達のもう1人の伯父上が……闇の帝王を倒す為に死んだのならば、彼からブラック家の当主を受け継いだ私達は知らなければなりません。彼の遺志を、私達が引き継がなければならないのですから。」

 

 エリナは、イドゥンにロケットを手渡した。イドゥンはそれを、クリーチャーの前にかざしたのだ。

 

「これをあなたに差し上げます。ですから…………話すのです。クリーチャー。」

 

 クリーチャーはわなわなと震える手でレギュラスのロケットを掴むと胸に抱き寄せ、わんわんと声を上げて泣き出した。泣き止むまでに時間は掛かったが、急いで話させるような事はしなかった。それだけレギュラス・ブラックの存在は、クリーチャーにとって大きい存在だと言うのが分かったのだから。

 

 クリーチャーは話し始める。ヴォルデモートが屋敷しもべ妖精をどれだけ残酷に扱ったか。それに対して、レギュラス・ブラックがどれほどクリーチャーを大切にしていたかを。それを見てヴォルデモートに失望した事。苦悩の果てに、父も、母も、妹も、そして既に勘当されていた兄も含めて家族を、一族を守る為に死んだ事も話してくれた。

 

人間じゃないので、客観性があった。なので、正確だった。

 

「それでクリーチャー。ロケットは今どこにあるんだい?先輩はきっと、それを探しに来たんだ。」

 

エックスは、クリーチャーにそう尋ねた。

 

「クリーチャーの部屋にあります。いますぐ取ってきます。」

 

 クリーチャーは、姿くらましで消えた。10分後。戻って来た。小さな緑色の宝石でSの字が装飾された金のロケットを持っている。

 

「こ、これでございます。」エックスに手渡した。

 

「レギュラス様から壊せと言われていました。しかし、クリーチャーには出来ませんでした。外側のケースには、あまりにも多くの強力な呪文がかけられていたのです。破壊するには中の物を出すしかないと、クリーチャーには分かっていました。しかしそれも、かないませんでした。」

 

「スリザリンのロケット……か。中を開けるにはどうすれば良いだろうか?」

 

 手には入れた。だが、早く処理しないと。

 

「そう言えば、元の持ち主のサラザール・スリザリンは、蛇語を使えましたわね。多分それで開くのでは?」

 

「秘密の部屋みたいに?姉ちゃん。」

 

「ええ。ここは、エリナの出番ではないでしょうか?」

 

 イドゥンは、そう分析してエリナを見た。

 

「また蛇語!?……仕方ないか。…………『開け。』」

 

 ロケットの中身が展開した。俺はすかさず、ユーカリの杖をロケットの中身に狙いを定めた。

 

「これで終わりだ!息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 緑の閃光を発射する。見事に当たり、中身から黒い物が消滅した。そして、外側に亀裂が生じた。

 

「よし。任務完了。」

 

「それで。ハリーの目的って何?分霊箱って何なの?まだ教えないとは言わせないよ…………」

 

 エリナが笑ってる。だが、その笑顔が怖い。逃げられねえな。

 

「先輩。レギュラス伯父さんの仕事を引き継ぐって決めたんで、隠し事は無しですよ。」

 

 エックスも俺に詰め寄る。ブルータス……じゃなかった。エックスよ、お前もか。

 

「ここにその手の本がありますから、ゆっくり説明しましょう。」

 

イドゥンは、説明する気満々だ。ご丁寧に、『深い闇の魔術』という物騒な本を持ってやがる。おっかない女だ。

 

「分かったよ。俺の目的も一緒に話すわ。」

 

 分霊箱の概要、ヴォルデモート幾つ作ったか予測、その裏付けも取れた事、そのために分霊箱破壊に特化した武器も作り上げた事、今4つ破壊出来たけど、1つは難しい場所においてある事を話した。

 

 ヴォルデモートの使った魔法のあまりのおぞましさに、エリナとエックスの顔色が悪くなった。まだ3年生と2年生には刺激が強過ぎたか。

 

「そんな物があるなんて。」

 

「殺してまで、生にしがみ付きたいのか。プリンアラモードは。」

 

「レイブンクローの髪飾りからヒントを探り当てるとは。分霊箱だった物は、全部どうしてるのですか?」

 

「ロイヤル・レインボー財団で厳重に保管してるよ。あーあ。それにしても、マルフォイ家は終わったな。日記をお粗末に扱うなんて。」

 

「そう言えば、マルフォイ家で思い出しました。ドラコが、謎のオカマにつけ狙われたと言う情報があります。災難ですわね。」

 

「曲がりなりにも親戚なんだろう?お前ら。特に母親の方と。」

 

「ええ。そうです。ですが、あまり接点はありませんよ?マルフォイ家の家風が私達の今の家風と噛み合わないと感じているだけですので。」

 

「ホントに、スリザリンも一枚岩じゃないって事だよな。じゃあさ。壊れたスリザリンのロケット、貰って良い?その代わり、レギュラス様のロケットはクリーチャーが持ってた方が良いだろうしね。」

 

「壊れたガラクタなど要りませんから、あなたの方でどこにでもやって下さいな。」

 

「サンキュー。じゃあ、俺ら帰るわ。」

 

「ええ。それではまた、伯父上の事で定期的に話し合いましょう。」

 

「ハリー・ポッター様。レギュラス様のロケットを、感謝致します。」

 

 クリーチャーがお辞儀した。気にしないでとは言っておいたが、クリーチャーは本気で俺とエリナに感謝している様だ。

 

「先輩。また9月に会いましょう!そして、あの約束も!」

 

「約束する。少しばかり試験はやってもらうけどな。」

 

「絶対合格してやりますよ!!」

 

「じゃあイドゥン、エックス君。今日はありがとう。また新学期にね。」

 

 こうしてブラック邸を離れた。そしてすぐに、ロイヤル・レインボー財団本部に戻っていった。キットと一緒に。

 

 帰って来た時に、マリアに関しての報告があった。医療班が彼女の身体を検査したところ、もはやDNAを元に戻す事は出来ないという結果だった。つまり人間には戻れない。一生、人魚族のDNAを組み込まれた状態で生きて行かなければならないのだ。

 

 そう言った意味で、リチャード・シモンズは最悪な意味で天才という事を改めて認識する事になったのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 吸魂鬼

 1993年8月31日。早朝。漏れ鍋前。ここに、7人の人間がいる。俺に、エリナ、義祖父ちゃん、エイダ義姉さん、イーニアス義兄さん、アドレー義兄さん、キットだ。俺とエリナの見送りに来たんだ。

 

「あのう、皆さん。今回の夏休みはお世話になりました。」

 

 エリナはペコリと頭を下げた。

 

「別に構わないよ。何かあったら、我々に連絡を寄越しなさい。」

 

 義祖父ちゃんがエリナに対して穏やかに言った。俺と同様に、本当の孫を見ているかのような目をしている。

 

「そうだぜハリー。今年1年も有意義に過ごせよ。幸運を祈るぜ。」

 

 キットが俺に声を掛ける。

 

「ああ。じゃあキットも、皆も体調には気を付けてくれよ。それじゃ、行ってきます!」

 

「ありがとうございました!」

 

 俺達は一礼した。5人は、すぐにそこから消えた。姿くらましで。

 

「行っちゃったね。」

 

「俺達も行こう。」

 

 漏れ鍋に入る。すると、店主のトムさんが暖かく出迎えてくれた。周りの人達も、お帰りポッターさんと言ってくれたんだ。トムさんは、予約していた個室2つに案内してくれた。

 

 荷物を置いてから、自由行動をそれぞれする事にした。俺は、ダイアゴン横丁に行った。『ハイタカの掘り出し魔法道具専門店』に向かったんだ。

 

「スギ花粉。」

 

 床が動いた。下へと続く魔法で動く自動階段が現れた。それを降りていく。地下とは思えない広い空間が見える。1年前と変わらないな。そう思った俺だった。

 

「ハイタカさん。こんにちは。お久しぶりですね。ハリー・ポッターです。」

 

「おや、ハリー君じゃないですか。来ましたね。あなた1人とは。何か用ですか?」

 

「新しい物を買いに来たんです。何かありますか?」

 

「あそこに、新たに入荷した商品の一覧があります。ゆっくりと拝見してください。」

 

 ハイタカさんの指差した方向に行った。魔法薬の材料もあったし、外国の魔法の道具もあった。

 

 ふと、妙な存在感を放つ刀を見つけた。凄い気を放っているのを肌で感じ取れる。

 

『俺が持っている銀翼刃と違って、とんでもないじゃじゃ馬だろうな。』

 

 銀翼刃とは、10歳の誕生日にロイヤル・レインボー財団の科学力と竜人族の武器製造技術、ゴブリンの銀の製法を組み合わせて俺専用にチューニングした太刀だ。

 

 ゴブリン製の銀と、魔封石の中でも純度が極めて高い黄金魔封石を精密に混ぜたものを刀身にした。その上で真紅の魔石(魔力を科学の力で固形化させた人工石)を、刀身とつかの間にはめ込んだもの。

 

 最近、バジリスクの牙の毒を付着させ、分霊箱を破壊出来る様にした。また、魔封石もあるので、魔法族を斬った時に大きく怯ませる形で動きを抑制させることが出来るし、それ以前に普通の刀として扱えたりもする。

 

 どうしてそんなものを持っているかと言うと、マホウトコロにまだいた時の事だった。魔法を極めるか剣術を極めるか、心の中で悩んでいた。

 

 だが、最終的にこう思ったのだ。『剣術と魔法を組み合わせた、我流の戦闘スタイルを極めよう』と。

 

 この時から俺は、単なる魔法使いや剣士を目指すのはやめた。困難な道になろうとも、両方の道は捨てない。俺だけに許された道『魔法剣士』として歩むと決めたのだ。

 

 話しを戻して、この刀を事を聞いてみるか。

 

「これ、何でしょうか?」

 

「それは、日本で妖刀と恐れられているものです。名を『凶嵐』と言います。その一振りは、嵐の如く。しかし、この刀を持った者はいずれも非業の死を遂げると言われている曰く付きの代物です。」

 

「たかが言い伝えでしょう?」

 

「どうでしょうか?言い伝えでもおとぎ話でも、ある程度真実になぞらえて伝えられる物なのですよ。」

 

「ならば、賭けをしましょうよ。この刀が俺を切らなければ、売って下さい。俺、これ気に入ったんで。」

 

「腕を切っても知りませんよ。自己責任でお願いします。」

 

 俺は、凶嵐を回転させながら投げ上げた。右腕を伸ばす。刀は、俺の伸ばした腕に近付く様に落ちて来る。しかし、俺の腕を斬る事無く地面に落ちた。ハイタカさんは、驚愕していた。

 

「お代は?」俺は、ニッコリとハイタカさんに質問した。

 

 それに加えて、ホグワーツでも難なく作動するウソ発見器と敵鏡を購入して、24ガリオン12シックル16クヌートで済んだ。俺は、ハイタカさんにお礼を言って店を出た。今までの支給された金の残り317ガリオン11シックル20クヌートは、全部ロイヤル・レインボー財団の俺の部屋に預けられている。1年で200ガリオン支給されるので、手元に残っているのは175ガリオン4シックル13クヌートだ。

 

 外に出る。少し箒を見に行く事にした。そこにあった物。それは、今まで見たどの箒より素晴らしい物だった。

 

 名をファイアボルト。本格的なレース仕様にしたその箒は、俺も思わず欲しくなった。

 

「あ、やっぱりハリーもファイアボルトを見に来たんだね!」声がした。

 

 振り向くと、エリナがいたではないか。

 

「喉から手が出るほど欲しいんだよな。正直言わせてもらうと。」

 

「分かる分かる。ボクだって、クィディッチの選手なんだもの。」

 

「でもやめたんだ。もう箒は2つあるし、スペックだけならファイアボルトを上回るレッドスパークも持ってるしね。」

 

「ボクも、よくよく考えたら性能が上回ってるプラチナイーグルがあるから今はその時じゃないって感じたんだ。」

 

「だな。それに、やる事と言ってもね。もう教科書と魔法薬学の材料、今年必要な物全部は、義祖父ちゃんがエリナの分ごと揃えてくれたし、ここにはぶらつくだけなんだよな。という事で、そろそろ戻るか。」

 

「うん!帰ろう!漏れ鍋に。」

 

 こうして、漏れ鍋に戻って来た。そこには、ウィーズリー家の人達と少し日焼けしたハー子がいた。それだけでなく、フィールド兄弟にグラントもいたのだ。グラントは、リーゼントにしていた。手入れ大丈夫かね?そしてゼロは、グラサンをしている。両者共に、イメチェンだそうだ。

 

「お久しぶり。」

 

 俺達は、再会を喜んだ。夏休み何をやっていたかを言い合ってた。その時だった。小さな虎の様な猫が、ネズミを追い回していた。

 

「ハーマイオニー!その怪物を閉じ込めろよ!スキャバーズを食ったらどう責任を取る気なんだよ!?」

 

「クルックシャンクスは、せっかくの外で思い切り過ごしたいだけなのよ。」

 

来い(アクシオ)。スキャバーズ。」ゼロが、ネズミを自分の方へ引き寄せる。

 

「ところでロン。このネズミ、どれくらい生きてるんだ?」ゼロが聞いた。

 

「知らない。かなりの歳なのは確かなんだ。元々パーシーが飼ってて。」

 

「ネズミの寿命なんて、せいぜい3年だぞ。2年前からコイツを飼っているみたいだが、そろそろ死期を覚悟した方が良いかもな。ハーマイオニーも、猫の管理はちゃんとしとけよ。いくら猫がネズミを食べるからって、誰かの所有物なんかに手を出したらそれこそ本末転倒だからな。下手すりゃ、訴えられる。」

 

 ゼロが鋭く指摘した。2人とも、渋々ながら納得したようだ。

 

『ナイロック。どうだ。』

 

『旦那。あのネズミ、やっぱり怪しいんよ。人間の臭いがする。そりゃ犬に比べたら、俺っちの嗅覚なんて大した事は無いけどなー。でも、人間よりは発達してる。そこは保障するぜ。だから分かるんよ。』

 

 やはり、スキャバーズは人間が変身したものだと言う可能性が高いな。

 

『ハー子の猫とコンタクトを取ってくれ。そして、ネズミの監視だ。』

 

『了解。』

 

 俺は、ナイロックにこの1年の指示を出した。その後、話題を変えてホグズミードの話になった。グラントは、菓子を買いまくると言い張ってた。

 

「皆。見てくれよ。」

 

 妖刀凶嵐を見せる俺。

 

「ハリー!あなた、何物騒な物持ってんのよ!銃刀法違反で逮捕されるわ!」

 

「大丈夫。帯刀じゃなくて、必要に応じて口寄せしていけば良いんだから。それに、俺は剣術を習得してるから、魔法剣士の道を目指す。誰かを試し斬り…………じゃなかった。練習をしていきたいんだ。」

 

「今、試し斬りって言おうとしたよね!?」ロンが驚く。

 

「さあ?気の所為じゃない?」すっとぼける。

 

 何せ、俺の極めた剣術は人を導く剣じゃないのさ。俺が極めたのは言うなれば、人を斬り殺す為の剣。無論、闇の陣営の関係者全員をね。だからこそだ。この刀と俺の相性は、扱い易さや人を導く剣に特化した銀翼刃よりも高いかも知れないんだ。

 

「まあ、普段の剣術の練習に関しては『洞爺湖』って木刀を使うから安心てしてくれ。仮に折れたり、先生の没収されても、通販でまた買えるしさ。」

 

 それを言った途端、聞いていたエリナ、ゼロ、グラント、ロン、ハー子、ジニー、フレッド、ジョージの顔が引き攣ったのは言うまでもない。

 

 皆泊まるという事で、泊まった。翌朝、エリナがこんな事を言ってた。ウィーズリー夫妻がシリウスはポッター兄妹を狙っているらしいと話していたのを聞いたと言ってきた。

 

 シリウスの事は、ウィーズリーおじさんとおばさんに言って良いんじゃないの?と、エリナは言って来たが、許可は出来ない。やはり、ロンのネズミが動物もどきだという事、正体がペティグリューの可能性が極めて高い事を話しておいた。本人も、納得した。しかも、今年は吸魂鬼が学校に配備される事も知った。

 

 よりによって、アイツらをかよ。仕方がない。守護霊の呪文と、場合によっては、もしもの時に備えての切札も使うしかなさそうだな。

 

 1時間後、魔法省が車を出してくれて、そのままキングズ・クロス駅へと出発した。去年の二の舞を踏まない為に、俺とエリナは最初にホグワーツ特急へと乗り込んだ。一際大きいコンパートメントを確保した。

 

 すぐ後に、ロン、ハー子、ゼロ、グラントも来た。更に追加で、ネビルとジニーも来た。8人で旅を楽しんだ。

 

 ウソ発見器で遊んでた。

 

「次ハー子な。気になる異性がいますか?」

 

「い、いいえ。」

 

 カタカタと揺れながらブイーッと言う音が鳴った。

 

「やっぱり好きな人いるんだ。」

 

 ガラッ!何だろう?ドアが開いたような音が聞こえたけど。気のせいかな。ドアの建て付けでも悪いんだろう。うん。

 

「おやおや、誰かと思えば!」マルフォイの声が聞こえるけど、幻聴だろう。

 

「次は俺だ!俺にやらしてくれ!」グラントは、大層ウソ発見器を気に入ったようだ。

 

「グラント。次はボクだよ!」エリナもやりたそうだ。

 

「フォイ!いや、おい!!僕を無視するな!!お前達!」

 

「ねえ。このコンパートメントって時々幽霊の叫び声が聞こえるって噂があるのよ。聞いた事ある?」

 

 ジニーが、怖い話でもするかのように皆に囁く様に言った。

 

「ポッター!ポッティーのイカレポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソいたちじゃないか!」

 

「どんな噂なんだい?」ネビルが恐る恐る聞く。

 

「ウィーズリー!君の家がやっと小金を手に入れたと聞いたよ!良かったじゃないか!母親がショックで死ななかったかい!?」

 

「うん。何か、フォイ、フォイ、って言って来るみたいよ。」

 

「もしかしたら、我らが親愛なるドラコの先祖かも知れないぞ?」

 

 ゼロがジニーに返した。

 

「ウケるぜ。案外そうかも知れねえな!」グラントが茶化す様に言った。

 

 皆大爆笑した。約数名は、吹き出す程度だったが。俺はノーコメントだ。笑いはしない。

 

「聞けよ!!というかお前達、失礼だぞ!」

 

 我に返った。いつの間にかマルフォイが捨て駒1と2を引き連れていたからだ。しかも、ご丁寧にオールバックをやめているではないか。

 

「で、何しに来たの?つーか、オールバックじゃないのかよ。アレ、結構親近感あったのにさぁ。」

 

 俺は、結構ドライな口調でマルフォイにそう言った。

 

「グヌヌ…………オフォン。ウィーズリー、君んとこの額縁眼鏡が主席になったそうじゃないか!賄賂でも送ったのか?」

 

「誰の事を言ってるんだろう?」ロンが皆に聞いた。

 

「パーシーは今、星型メガネが本体なのにね。」エリナが言った。

 

「フォしぃ!?」狼狽えるマルフォイ。

 

「さっきからうるせえぞ!フォイ!去年のクィディッチの一件で見直したかと思えば!」

 

 グラントがポキポキと骨を鳴らす。

 

「リドル。何だその頭は。差し詰めコッペパンか、カボチャだな。」

 

「「ゲラゲラゲラゲラ。」」

 

 マルフォイと捨て駒2人が笑っているでは無いか。

 

「あぁ!?テメエ、今何つった!?」グラントが怒った。

 

「聞こえなかったのかい?君の耳は節穴じゃないのか?もう1度言ってやろう。コッペパンか、カボチャ頭だって言ったんだよ。」

 

「この頭にケチつけるたぁ上等じゃねえか。」

 

「僕はもうカマセじゃない!クラッブ、ゴイル!やれ!!」

 

「ゴアー!」

 

「ウッホウッホ!!」

 

「ハア。このパターンか。いい加減、飽きてきたぜ。」

 

 5分後、3人はグラント1人にボコボコに叩きのめされたのだった。

 

「聞こえたぜ、フォイ。俺の、このヘアースタイルがサザエさんみてえだとな!この髪を侮辱する奴は、誰だろうが叩きのめす!!」

 

 何でそのネタ知ってるんだよ。つーか、この国でサザエさんやってたっけか?

 

「だ、誰もそんな事は……」

 

 その直後、マルフォイは頭を踏みつけられた。

 

「確かに聞こえたぞコラァ!!」

 

 これじゃ、どっちが悪役か分かんねえな。流石にマルフォイが可哀想になって来たし、ここでグラントを止めるか。

 

「クソォ!リドル!……!?」

 

 杖を抜こうとしたマルフォイの様子がおかしい。左の首筋を押さえつけている。何か激痛に襲われているようだった。

 

「グアアァ!!!…………またか!一々僕が魔法を使おうとすると、反応して!」

 

 俺は、一瞬だが見えた。マルフォイの首筋の痣を。まさか、アレなのか!?

 

「おい。お前まさか。その痣、リチャード・シモンズにやられたのか!?よりによって、あんなド変態のマッドサイエンティストに!!」

 

 皆固まっている。マルフォイは、何故それをという視線を俺に向けた。

 

「ふ、フン。ポッター、お前には関係ない。行くぞ、お前達。」

 

 マルフォイは、自分のコンパートメントに戻っていった。

 

 席に戻った俺とグラント。ハー子が戻って早々質問して来た。

 

「ハリー。私の言いたい事、分かるわよね?」

 

「さあな。知らん。勿体ぶらないで、言ってみたら?」

 

「リチャード・シモンズって誰なのよ!?」

 

 そう来るか。そもそも俺もそんなに知らないからな。

 

「そいつか。俺も良くは知らん。ただ…………」

 

 そう言いかけた時、急に電車が止まって電灯が消えた。そして、真っ暗になった。それと同時に、少し気温も下がったようだ。寒気が押し寄せて来た。

 

「一体これは?」ロンの声がした。

 

「この感じ。まさか!」ゼロが何かに気付く。

 

「吸魂鬼……か。守護霊使える奴いるか?」俺が皆に聞いた。

 

 皆首を振った。ゼロを除いて。

 

「ゼロ。俺は運転手の所に行く。ここで皆を守ってくれ。」

 

 俺は、守護霊を出しながらゼロに提案した。俺の守護霊は、メンフクロウのナイロックだ。最初はハヤブサだった。というのも財団を象徴する動物が、ハヤブサだからだ。

 

 それがナイロックを飼い、最終的に心が通じ合う様になってから守護霊に変化が生じたんだ。

 

「分かった。だが、無茶だけはするなよ。ハリー。」

 

 俺はコンパートメントを出た。運転手の所へ向かおうとすると、誰かがぶつかって来た。かなり小さい。恐らく入って来たばかりの1年生。その4人組だろう。

 

「君達。どうしたんだい?」

 

「あ、あれが。あれが、僕達に襲い掛かって来るんだ!」

 

 そのうちの1人が叫んだ。その直後、空気が冷たくなった。その先には、マントを着た、頭はすっぽりと頭巾に覆われた大きな影がそこにいた。

 

「吸魂鬼か。君達、下がってろ。守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!!」

 

 メンフクロウの守護霊を召喚する。吸魂鬼は、逃げ出した。列車の外に。チッ!あの呪文を使う機会が無くなったか、完全に。まあいい。人がいるから、かえって使わなくて正解かもな。

 

 俺は、4人組に持参してきたチョコレートを差し出して、食べさせた。4人は随分と持ち直した。お礼を言ってきた。そして、どこかへ行った。

 

 俺は、運転手の所まで行った。車内販売の魔女から、大量に蛙チョコレートを購入した。そして、チョコをコンパートメントが見える度に提供した。既に持っていた奴には、チョコレートを食べるようにアドバイスした。

 

 元々いたコンパートメントが最後尾なので、全て配った。そして、戻って来た。

 

「ただいま。」

 

 やはりここにも吸魂鬼が来ていたのか。エリナが一番酷いらしく、ゼロがいなければ今頃どうなっていたかと思うとゾッとした俺だった。そのエリナもある程度持ち直してた。

 

「助かったよ、ゼロ。エリナを助けてくれてサンキューな。」

 

「礼には及ばないぜ。ルーピンって先生が駆けつけてくれた。すぐにフクロウを飛ばしたよ。今の状況を伝えている。そしてさっき、兄さんがエリナにチョコを食わしてた。」

 

 また列車が動き出した。ようやく、ホグズミード駅に汽車が到着した。懐かしい声も聞こえた。

 

「イッチ年生はこっちだ!」

 

 さっきの4人組も、ハグリッドの下へ行っている。もうすっかり元気なようだった。

 

 2年生以降は、馬車で行く事になっている。去年は、あの件でそれどころじゃなかったんだよなぁ。俺が馬車に乗ろうとする。しかし、ゼロが立ち止まってた。

 

「ゼロ?早く行こうぜ。」

 

「皆には見えないのか。あそこに馬がいるんだよ。」

 

 皆首を傾げている。でも、ゼロが嘘を言ってるようには見えない。

 

「あれはね。セストラルって言う生き物だよ。」

 

 声がした。ゼロを大きくしたような外見の男性がいた。

 

「フィールド先生!」

 

「死を見た事のある人間にしか聞こえないんだ。」

 

「それじゃ、誰の死を見たんですか?」ロンが聞いた。

 

 俺は、ロンを小突いた。

 

「何すんだよハリー!」

 

「デリカシーの無い奴め。間違ってもそんな事を聞くもんじゃないだろうが!」

 

 でもフィールド先生は落ち着いた表情で答えた。

 

「ゼロの母だよ。あまり本人の前では言いたくないけどね。後がつっかえるから、皆乗ろうか。」

 

 馬車に乗った。それで、城へ向かった。学校に入ると、誰かに呼び止められた。

 

「ミスター・ポッター!ミス・ポッター!ミス・グレンジャー!ミスター・フィールド!4人共、私の所へおいでなさい!!」

 

 マクゴナガル先生の声だ。エリナは、また自分が何かしたんじゃないかって顔をしてる。俺達4人は、ネビル、ジニー、ロン、グラントと一旦別れた。事務室に案内された。

 

「ミス・ポッター。大丈夫ですか?ルーピン先生からふくろう便を受け取りました。吸魂鬼の影響で、気分が悪くなったそうですね?」

 

「はい、大丈夫です。ゼロとフィールド先生とルーピン先生がいてくれましたので。」

 

「そういう事にしておきましょう。ミスター・ポッターに、ミスター・フィールド。2人とも、列車での対応は見事でした。」

 

「別に大した事はしてません。」ゼロがきっぱりと言った。

 

「毎度の食事にチョコを用意したらいかがでしょうか?吸魂鬼がいるから、効果はかなり高いと思いますが。」

 

 ダメ元で提案してみようか。要求なんて通る確率は低いけど。

 

「分かりました、私の方から厨房に言っておきましょう。それにしてもこの齢で、守護霊を使うとは素晴らしいです。よって、2人にそれぞれ20点ずつあげましょう。それとミスター・ポッターには、後でチョコレート購入に掛かったお金を渡しておきます。」

 

 点数貰った。それだけの為に、ここに連れて来たのか?

 

「グレンジャーとの話が終わったら、すぐに大広間へ向かいます。3人共、外で待つように。」

 

 数分後、2人が出て来た。袋を手渡された。ハー子は、嬉しそうな顔をしている。大広間に戻った。

 

「あー。組み分けを逃しちゃった!」ハー子が小声で言った。

 

 とりあえず、席に座った。着席し終えると、ダンブルドアが話し始めた。

 

「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、ご馳走でボーッとなる前に片付けてしまおうかの。」

 

 咳払いしてから、言葉を続けた。

 

「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、現在わが校ではアズカバンの吸魂鬼を受け入れておる。魔法省の要請でのぉ……警備と護衛の為にとの事じゃ。」

 

「何か含みのある言い方ね。」ハー子が俺とロンだけに分かりやすく言った。

 

「ジジイは、()()()()が好きじゃないんだよ。」

 

 俺が返した。ハー子は、ダンブルドアをジジイ呼ばわりした俺に怒りの表情をぶつけている。

 

「吸魂鬼達は、学校への入り口という入り口を塞いでおる。誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。変装や悪戯に引っ掛かるような輩ではない――『透明マント』でさえ無駄じゃ。」

 

 ダンブルドアがさらりと言葉を付け加えた。

 

「言い訳や説得が通じる相手ではない。極力関わらない事じゃ。連中が皆に危害を加える口実を与えてはならんぞ。各寮の先生方、監督生、そして首席の諸君。誰一人として連中といざこざを起こす事の無いよう頼みましたぞ。」

 

 パーシーが胸を張っている。自分がいる内は、そんな事はさせないと言ってた。尤も、フレッドとジョージ、ジニーからフォシ、もとい星型メガネを酷評されて、凹んでしまったが。

 

「楽しい話に移ろうかの。今年は新しい先生を2人、お迎えする事となったのじゃ。まず初めに、『闇の魔術に対する防衛術』を担当してくださるルーピン先生。」

 

「皆、よろしく。」

 

 ルーピン先生が、そう言った。あまり気の無い拍手が起こった。俺だけでも、大きな拍手を送っておくか。ふとスネイプを見た。あいつ、いつも俺に向ける同じ視線を送ってやがる。

 

「次は、長年『魔法生物飼育学』を担当してくださったケトルバーン先生の後任として、ルビウス・ハグリッドが、森番に加えて兼任してくださる事になった。」

 

 スリザリン以外の寮から割れんばかりの拍手が起こった。スリザリンで拍手してるのは、グラント辺りだけだった。

 

 俺は拍手しつつも、何か複雑な気分だった。絶対に怪物を取り扱うに決まってやがる。ドラゴンに、アクロマンチュラが良い例だ。確かに知識はあるかも知れないけど、教師としての適性があるかどうかは、また違ってくるのだ。

 

 そんな事を思っている内に、宴になった。思いっ切りかっ込んだ。それで、寝る時間になった。急いで談話室に戻った。そして、ベッドに潜り込んだ。ここは、落ち着くな。そう思いながら、夢の世界へと旅立った。

 




銀翼刃
ハリーが10歳の頃から持っていた、鳥の翼を模した光沢のかかった銀色の剣。魔法攻撃上昇の能力を持つ。邪神の碧炎、零界の翠氷、天魔の金雷をそれぞれ纏わせる事で専用技を発動させることが出来る。

以下に、銀翼刃による技を記載。名前は、エストポリス伝記シリーズの魔法の名前を使用している。

フ・レイア
銀翼刃に邪神の碧炎を纏わせる事で、超高熱の碧い空気弾を前方の敵目掛けて発射する。

リ・デルト
零界の翠氷を纏わせる。足元から、全16方向に拡散する非常に鋭い氷刃を召喚し、相手を攻撃する。敵への追尾能力も強化されている。

レ・ギオン
天魔の金雷を纏わせる事で発動。剣の先端から大放電と共に金色の電球を発生させる。

凶嵐
妖刀と言われており、実際禍々しい気を解き放っている。所有者は皆、非業の死を遂げている様だが、ハリーは自身の持つ運で手懐ける事に成功。戦闘に役立つ特殊能力は一切無いが、その代わり血中の鉄分を吸収する事で切れ味を回復出来る力を持つ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 バックビーク

 翌朝。ロンやハー子と共に朝食を食っていた。相変わらず薬草学、魔法薬学、呪文学は合同だ。しかし、選択科目は全ての寮でやる事になった。時間割を渡された。今日の予定は、午前は変身術のみ。午後は魔法生物飼育学と古代ルーン文字学だ。

 

 最初の授業が無いので、目くらまし呪文で図書館へ。禁書棚へ直行した。記録の着火装置(レコード・ライター)で、紙媒体を燃やしていく。だが、燃やした物には何ともない。紙媒体の情報を炎が読み取ったからだ。これで、禁書棚の本は全て複製し終えたわけだ。そんなわけで、さっさとずらかった。

 

 変身術に向かった俺。占い学組のテンションが途轍もなく低い。どうしたのか聞いた。

 

「エリナの死が予言されたんだ。」みんな口を揃えてこう言い放ったのだ。

 

 だが、マクゴナガル先生から諭されて、占い学組は幾らか気分を取り戻したわけだ。ちなみに、授業のテーマは動物もどきだ。ああ、エリナが個人授業しているアレか。ノートを取りながらやり過ごした。

 

 昼食を食べてから、ゼロやハー子と共に古代ルーン文字学に向かった。意外にも、イドゥンがいた。エリナ、グラント、ロンはこの時間帯に関しては、お休みなのだ。

 

 やはり履修して正解だったな。未完成の口寄せ術式が、手に取る様に分かって来た。これで、動物の口寄せも理論が立てられる様になったのだからな。

 

 古代ルーン文字学が終わってから、魔法生物飼育学に向かった。ハグリッドの小屋へと向かっていったのだ。これを履修する4寮の生徒もある程度集まっていた。

 

「さあ、急げ!早く来いや。今日は皆に良いもんがあるぞ!すごい授業だぞ!皆来たか?よーし。付いて来いや。」

 

 禁じられた森が授業の場所なのではと身構えた。しかし、実際は森のはずれの放牧場が授業を行う場所だった。

 

「皆柵の周りに集まれ!そーだ――ちゃんと見えるようにしろよ。さーて。イッチ番最初にやるこたぁ、教科書を開くこった――」

 

「どうやって?どうやってこんな凶暴な教科書を開くんですか?」

 

 マルフォイが気取った声で言った。『怪物的な怪物の本』を取り出したが、紐でぐるぐる巻きに縛ってあった。周りを見渡すと、クリップに挟んでいたり、ベルトで縛っている奴が殆どだった。教科書が大人しかったのは、俺とエリナだけだった。

 

「ナデナデしたら、こんな感じで大人しくなったんだよ♪」

 

 エリナが、ドヤ顔で周りに説明していた。

 

「エリナ。いくらなんでもそんな事は……」

 

 ルイン・ローズブレードがエリナの言葉を返そうとした。まあ、誰もがそう思うよな。俺だってそうだったんだから。

 

「エリナが正解だぞ。みんな、こいつぁ撫ぜりゃー良かったんだ。ほい、ハーマイオニー。貸してみ。ほーれ。」

 

 ハー子から教科書を受け取り、スペロテープを剥がす。本は噛み付こうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背表紙を一撫でされると、ブルッと震えてパタンと開き、彼の手の中で大人しくなった。

 

「まさか、ハリーとエリナ以外誰も教科書を読んどらんとは。」

 

「気にしないで下さいよ、ハグリッドさん。俺なんて、予習はしねえ主義だから。普通の教科書でも授業で使わない限り開いたりしませんから。」

 

 グラントが元気付けるつもりでハグリッドを励ます。

 

「グラント。それはそれでどうなんだよ。お前、もっと気にした方が良いぞ。」

 

 ゼロがツッコんだ。

 

「ああ、僕達って、なんて愚かだったんだろう!撫ぜりゃー良かったんだ!どうしてそんな簡単な事を思いつかなかったのかねえ!」

 

「お……俺はこいつらが愉快な奴らだと思ったんだが。」

 

「ああ、恐ろしく愉快ですよ!僕達の手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、全くユーモアたっぷりだ!」

 

「黙れマルフォイ!」ロンが感情的に言った。

 

 今回は別に、アイツの言ってる事も強ち間違っちゃいないわけだ。万が一俺の手に噛み付こうものなら、それを買わせた教師に文句の1つや2つ、言いたくなるのも無理はないだろうな。当のハグリッドはうなだれている。しばらくしてから、魔法生物を連れてくると言って、森に入っていった。

 

「全く!この学校はどうなってるんだろうね!あのウドの大木が教師だなんて!!父上に申し上げたら憤慨するだろうなぁ――」

 

「うるせえぞ!フォイ!」グラントがマルフォイにそう言っていた。

 

「何か不快。」エリナが俺にボソッと言った。

 

「確かに。でもまあ、ハグリッドの教師としての適性は高いとは言えんからな。それに関しては、否定はしないよ。それでも成功させてやりたいんだろう?エリナ。」

 

「まあね。怪物ばかり扱うのは目に見えてるけどさ。」

 

 その直後、ハグリッドが森から奇妙キテレツな生き物を10数頭連れてきたのだ。胴体に後ろ脚、尻尾は馬で、頭部はまるで鷲だ。背中には立派な翼がある。前足には鋭い鉤爪があり、人間相手なら簡単に引き裂けそうにも見えた。ハグリッドが怪獣を柵につないだ時には、皆がジワッと後ずさりした。エリナを除いて。

 

「……ハグリッド、その綺麗な生き物は?」エリナは、キラキラと目を輝かせている。

 

「喜んで貰えて光栄だ、エリナ!こいつは、ヒッポグリフだ!美しかろう。え?」

 

 ハグリッドはその後、ヒッポグリフについて説明した。誇り高いから侮辱してはいけない、お辞儀をして返してくれたら近づいても良い等々。

 

「お辞儀か。あんまり良い思い出が無いんだよな。変態ヘビを思い出すぜ。」

 

「え?変態ヘビって何?」ルインが俺の小言を聞いていたらしく、俺に質問して来た。

 

「こっちの話だよ。」何とかはぐらかした。

 

「よーし――誰が一番乗り……」

 

 ハグリッドは言葉を失った。1匹のヒッポグリフがエリナに近付き、お辞儀をした。それで、エリナに撫でて貰ってる。

 

「…………」動物に好かれやすい人柄でも持ってるのかと感じる俺であった。

 

「そんじゃ、ハリー。お前さん、バックビークとやってみようかい。」

 

 何とか体勢を立て直したハグリッドは、俺を指名した。ドラゴンやアクロマンチュラよりは幾分かマシだが、1番誇り高そうな奴とやれなんて無茶ぶりにも程があるぞ。マルフォイは、意地悪そうに目を細めていた。

 

「さあ、落ち着け、ハリー。目を逸らすなよ。なるべく瞬きするな――ヒッポグリフは、目をしょぼしょぼさせるやつを信用せんからな……」

 

 目が潤んできたが瞬きしなかった。俺は、バックビークに軽くお辞儀をした。正直気が進まなかったが。バックビークは、気位高く俺を見据えていた。

 

「あー……よーし――下がって、ハリー。ゆっくりだ――」

 

 しかし、その時だった。驚いた事に、突然バックビークが鱗に覆われた前足を折った。深々とお辞儀を返したのだ。

 

「よーし!良くやったぞ、ハリー!グリフィンドールに10点。後、エリナ。ハッフルパフにも10点を与える!!」

 

 おや、得点源が増えたみたいだな。クィディッチさえ乗り切れば、今年も独走出来るかもしれんな。

 

「触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」

 

 ゆっくりと近付いてバックビークに近寄った。手を伸ばして、嘴を撫でる。すると、バックビーグはそれを楽しむかの様にトロリと目を閉じた。マルフォイ一味を除くクラス全員が拍手した。

 

 その後、俺はバックビークの背中に乗る事になった。乗り心地はお世辞にも良いとは言えないが、俺は両手を広げてしばしの飛行を楽しんだ。

 

 俺の成功に励まされて、他の生徒たちも恐々牧場に入ってきた。皆、ヒッポグリフ相手にお辞儀を始めていた。ネビルは、お辞儀を返して貰えずに慌てて逃げていた。ロンとハー子は、栗色のヒッポグリフで練習していた。グラントは、ルインと一緒に漆黒の個体で練習してた。ゼロは、嵐の空の様な灰色の個体にお辞儀している。皆、概ねお辞儀を返されて初授業が成功に見え掛けた。その時までは。

 

 事は起こったのだ。エリナが、仲良くなったヒッポグリフと共に長時間の空の旅から帰って来た時の事。何かヒソヒソしていたマルフォイが、クラッブとゴイルを引き連れてバックビークに近付く。バックビークがお辞儀をしたので、マルフォイは尊大な態度で嘴を撫でていた。

 

「簡単じゃあないか。ポッターに出来て僕に出来ない事は無いね。簡単に違いないと思ったよ。実際その通りだったけどさ。正直言って、こんな醜いデカブツの野獣風情にお辞儀するのはイヤだけど……」

 

 一瞬、バックビークの鉤爪が光った。

 

護れ(プロテゴ)!』

 

 だが、少しだけ遅かった。ある程度軽減出来たとは言え、鉤爪はマルフォイの腕のローブを引き裂いたのだ。奴は、情けない声で悲鳴を上げている。更にバックビークは、マルフォイを襲おうとしている。一方のマルフォイはと言うと、みるみる血に染まっていき、草の上で身を丸めていた。

 

「死んじゃう!僕、死んじゃう!!見てよ。あいつ、僕を殺した!」

 

「仕方のねえ野郎だぜ!」マルフォイのローブの首元を掴み、遠くへ追いやった。

 

 それが終わってから、バックビークの方を向く。

 

「バックビーク!」魔力を放出させ、ウイルスモードも発動させて威圧する。

 

 バックビークは、誰がいるのか分かったらしく、攻撃をやめようとする。が、遅かった。鉤爪が、俺の腹部の前部分を切り裂いてしまったのだ。

 

「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」

 

 途端に、周りから悲鳴が上がった。俺の事を快く思っていない連中でさえもだ。

 

「…………」

 

 この位の怪我なら、ほっといてもW-ウイルスの力で治るな。とは言え、痛い事に変わりは無いけど。

 

「ゼロ!エリナちゃん!」

 

「ああ!」

 

「そうだね!」

 

 しかし、3人ほど動じない者がいた。ゼロが呪文を唱えた後に、グラントがバックビークを羽交い絞めにし、エリナが失神呪文で気絶させる。

 

「ハグリッド!さっさとバックビークを隔離させろ!」

 

 ハー子は、自分の判断でゲートを開ける。ハグリッドがバックビークを連れて行った。

 

「ハリーよぉ、大丈夫かぁ?」

 

「こんな傷如き、問題無い。俺には、あの力がある。だから、自分の力で立てる。」

 

「それでもだ。曲がりなりにも、お前はフォイよりも重症なんだ。無理すんじゃねえよ。俺が肩貸すから、早く医務室へ行こうぜぇ。」

 

「分かっている。」グラントに支えて貰いながら、医務室へ向かう事になった。

 

「おい、マルフォイ。お前、立てるか?」ゼロの声が聞こえる。

 

「……」ショックの余り、黙っているマルフォイ。

 

「返事がない。只の屍の様だ。」ゼロが小さく呟いた。

 

「ぜ、ゼロが何か物騒な事言ってるわ。」シエルがツッコむ。

 

「ゼロ。それ、ドラクエで使われてるメッセージだよね?」

 

 エリナが一応確認を取ろうとする。魔法生物飼育学を履修しているマグル生まれの生徒は、ゼロの言った事に強く反応していた。殆どの奴がドラクエを知っているのだろうか?

 

「ああ。」

 

「フィールド!縁起でもない事言うな!ちゃんと生きてるよ!ああ、でもこのままじゃ死んじゃう!あいつ!獣の分際で、僕を殺そうとしたんだ!父上や母上にもぶたれた事が無いのに!」

 

「ダドリーが昔見てたガンダムで、似たようなセリフを聞いた事がある様な気がする。」

 

「……世話の焼けるお坊ちゃまだな。」

 

 そんなマルフォイの有り様に呆れ、溜息をつきながらも、口寄せ呪文で担架を召喚したゼロ。これ以上怪我しない様に、細心の注意を払いながらマルフォイを乗せる。

 

「ゼロ!ボクも手伝うよ!」

 

 エリナもゼロのお手伝いをする。こうしてマルフォイも運ばれていった。そして、俺達は2人仲良く医務室で夜を過ごす事になった。

 

*

 

 当たり前だが、授業は中止になった。スリザリンの殆どが、ハグリッドに対して罵倒していた。していないのは、グラントとルインだけだったりする。

 

「あんな奴はクビにするべきよ!」金切り声でパンジーが言った。

 

「マルフォイが悪いんだ!」ディーンが抗議する。

 

「ハリーは大丈夫かなあ?」

 

 アーニーは、それよりは結果的に巻き添えを食らったハリーを心配していた。

 

「イヤ、マルフォイよりも重症なのに立ち上がってた辺り、大丈夫だと思う。ガリオン金貨賭けても良い。」

 

 アンソニーを含め、レイブンクロー生は問題無しとの見解を示していた。

 

「寧ろ、擦り傷だけで死にそうな表情をしていたマルフォイの虚弱体質は異常だろ?」

 

 テリーが呟いた。そんなわけで受講していた全員は、それぞれの談話室に戻っていった。

 

「ハリーとマルフォイは大丈夫かしら?」

 

 ハーマイオニーが心配そうに言った。

 

「問題無いだろ。あの程度の怪我なら、ここの医務室ですぐ治るさ。去年、ハリーの骨折を瞬時に直した位だしね。」

 

 ロンが言った。

 

「だけどさあ、初日にあんな事が起きたのは、やっぱマズいよね?」

 

 ネビルが心配そうな顔になりながら、2人にそう言った。

 

 3人は夕食を食べながら、そんな会話をしていた。案の定、ハグリッドはいなかった。ふとスリザリンのテーブルを見る。ドラコの腰巾着全員が、スリザリンのテーブルで何か周りに話してる。恐らく、魔法生物飼育学の一件なのは容易に想像がつく。

エリナ視点

 ボクは、夕食を食べた後にハグリッドの小屋へ行った。最初は出された呪文学の宿題をやろうかと思ったけど、居ても立っても居られなくなったの。幸い、宿題は30分で終わる位に難しくは無かった。だから、透明マントを使って小屋に行ったんだよ。ボクは、ドアをノックした。

 

「入ってくれ。」呻くような声がした。

 

 シャツ姿で、洗い込まれた白木のテーブルの前に座ってた。

 

「こいつぁ新記録だ。イッチ日しかもたねぇ先生なんざ、これまでいなかったろう。」

 

「お酒臭いよ、ハグリッド。まさか、クビになったんじゃないの?」

 

「いんや。だけんど、時間の問題だぁ。理事にまで話がいっちょる。ダンブルドア先生が庇ってはくれてるが、初めっから飛ばし過ぎだっちゅうんだ。今思えば、そう思っておる。レタス食い虫(フロバーワーム)くれぇ簡単なもんから始めていりゃ。こーんな事には。」

 

「悪いのは、マルフォイの方だよ!」ボクは、真剣な眼差しで言った。

 

「ボクが証人になる!侮辱するとヒッポグリフが攻撃するって、ちゃんと言ってたじゃん!それを碌に聞いてなかったマルフォイが悪いよ!嘆願も集めるし、先生達にも報告するよ。ハリーは、何も言わない筈だから。」

 

 ハグリッドの目から、涙がポロポロ零れ落ちた。ボクを引き寄せて、骨が砕けるほど強く抱き締めたんだ。

 

「おう、ありがとうな。おめぇさんに会えてちったぁ落ち着いた。俺ぁ—―――エリナ!?一体何しちょる。え?」

 

 まるで、ボクの存在に初めて気づいたかのように言い放ったんだ。

 

「だ、だから……今日の事を励ましに……」

 

「エリナ、いけねえ!!!今の時間に出歩いちゃいけねぇんだ!危険過ぎる!」

 

あまりに急に大声を出したから、ボクは30センチも飛び上がったんだ。

 

「もう2度と、暗くなってから俺に会いにきちゃなんねぇ!呼んでくれりゃ、俺から行くから!だから頼む!」

 

 無理矢理、城まで連れ戻されたんだ。

 

*

 

 こんな波乱な1日になりながらも、医務室で大人しくしている。マダム・ポンフリー曰く、完治はしたが朝まで絶対安静しているようにとの事だ。ハア、ここに世話になるのは4度目かな。別に後悔はしてないけど。マルフォイは、まだブツブツと言っている様だ。父上が黙っていないとか、そんな言葉が聞こえてくる。

 

「愚かだな。」小さくボソッと言った。だが、マルフォイには聞こえたらしい。

 

「何だと!?」

 

「お前、自分の影響がどこまで広がるのか分かってて言っているのか?自分の持つ矛の大きさを。知らないのならば、迂闊にそんな戯言などほざかない事だな。ハッキリ言って迷惑なんだよ。」

 

 何か言おうとしているマルフォイだが、俺は無視して寝る事に。

 

 翌日の朝6時、退院して良いと言われた。早速俺は、ナイロックと共に必要の部屋へ向かった。以前、上級魔法薬を隠した場所を指定した。『半純血のプリンス蔵書』を記録の着火装置(レコード・ライター)で燃やし、本の内容を全てコピーしたのだった。

 

 一旦必要の部屋を出た。今度は、宿題をする部屋を指定した。昨日の変身術と古代ルーン文字学の宿題に取り掛かる。細胞分身を使って、作業分担した。本体たる俺は、古代ルーン文字を使って、今までブラックボックスだった動物の口寄せの術式を書いていた。1時間掛けて完成させた。宿題は、それよりも30分前に終わったけど。

 

 談話室に戻った時には、まだ寝静まってた。丁度良い。これから、口寄せ呪文の完成試験をする所だからな。誰もいない方が望ましい。もう既に、ナイロックとの契約は完了している。後は、呪文を唱えるだけだ。

 

口寄せ召喚せよ(アヴォカルク・ベカリット)!」

 

 何処にも異常が無い状態で、ナイロックが口寄せされた。

 

『旦那!実験は成功したな!』

 

『ああ。これで、口寄せ呪文は本当に完成したんだ!』

 

 今まで口寄せ契約したのは銀翼刃にニンバス2000、魔封石製の手錠、冒険者の地図(アーダチェス・マップ)記録の着火装置(レコード・ライター)7本、ノア、再生の水晶玉(プレバク・ピラクリスタル)、レッドスパーク、マールヴォロ・ゴーントの指輪、銀翼刃、妖刀『凶嵐』、ウソ発見器に敵鏡だ。そこにナイロックも追加された。ちなみに、グラントは銃火器ばかりを口寄せ契約しているけどね。

 

 とにかくこれで、呪文が完成したのだ。ウキウキしながら、朝食を食べに向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 恐怖から生まれる力

 一足早く朝食を食べていたところ、グリフィンドール生からは思いっ切り心配された。それだけではない。魔法生物飼育学を受講していたレイブンクロー生、ハッフルパフ生、僅かながらにスリザリン生も然りだ。怪我はもう大丈夫だと言っておいて、その話は終わった。

 

 木曜日。魔法薬学の授業が折り返し地点まで差し掛かった時に、ドラコ・マルフォイは来た。奴は愚かにも俺とロン、グラントのいるテーブルの所に来ようとしたので、魔力放出で威嚇して追い払った。俺の魔力の質によって完全にビビったマルフォイは、仕方なくシェーマスとディーンのいるテーブルに向かった。

 

 ちなみにだけど、スネイプに対しても威嚇を忘れなかった。スネイプの奴、足がガタガタと笑っていた。ざまあみやがれ。スネイプよ、貴様が死ぬまでやってやるからよ。お楽しみにしておいてくれ。

 

「スカッとしたよ。」ロンが、俺の肩をポンポン叩いていた。

 

「あいつの性根が気に入らないだけだ。折角仲良くなったバックビークをあんな目に合わせた意趣返しだよ。」

 

 小言で返した。そうこうしている内に、今回のテーマである縮み薬が完成した。ちなみに、シェーマスはマルフォイの芽キャベツを切り刻む様に言われ、ディーンは『萎び無花果』を剥く羽目になった。

 

 スネイプは、俺を永遠にいびれない事への鬱憤を晴らすかのようにネビルの水薬をこれでもかと言わんばかりにボロクソに言い出した。そして、ネビルの人格まで悪く言おうとしたので、魔力放出で再び威嚇してやめさせた。

 

 マルフォイから、シリウス・ブラックの話を聞いた。もう俺は事実を知っているので、とことんまで知らんぷりを決め込んだ。

 

 魔法薬学の授業が終了した。昼食を食べた後、『闇の魔術に対する防衛術』のクラスへ向かった。教科書を広げ、羽ペンと羊皮紙を取り出して、ルーピン先生が来るのを待った。

 

 周りと雑談していると、やっと先生が教室に入って来た。最初に見た時よりは、健康そうに見えた。ちゃんと1日3食、規則正しく食ってんだなと感じた。

 

「やあ、皆。今日は実地練習をするから、教科書は閉まってね。杖だけ持って、私についておいで。」

 

 教室を出て、角を曲がった。すると、丁度ピーブズが手近の鍵穴にチューインガムを詰めている所だったのだ。

 

「ピーブズ、私なら鍵穴からガムを剥がしておくけどね。フィルチさんが箒を取りに入れなくなるじゃないか。」

 

朗らかに言った先生。ピーブズは、言う事を聞くどころかバカにしていた。ルーピン先生は小さく溜息をつき、杖を取り出した。

 

「この簡単な呪文は役に立つから、よく見ておきなさい。逆詰め(ワディワジ)!」

 

 チューイングガムの塊は、勢い良く鍵穴から飛び出した。それは、ピーブズの左の鼻の穴に見事命中した。ピーブズはもんどりうって悪態を突きつつ消える。クラスの皆は、ルーピン先生を尊敬の眼差しで見ていた。

 

「先生、かっこいいです!」ディーンが驚嘆した。

 

 ルーピン先生は、職員室の前で立ち止まる。その後に皆を中に入れた。その中には、スネイプが1人だけ座っていたが、ネビルに対して嫌味を吐いた。ルーピン先生は、ネビルは優秀な助手だと返した。何も言わずに、スネイプは出て行った。あの野郎、まだ懲りてないのか。次はどんな風に甚振ってやろうか。

 

 職員室の奥へと連れて行かれた。奥には、教師の着替え用ローブを入れる古ぼけた洋箪笥が一つだけポツンと置いてあるのみ。俺達が近づくと、ワナワナと揺れ、バーンと壁から離れた。

 

「心配しなくていいよ。中にはね、ボガートが入っているんだ。連中は、暗い所を好む習性があるんだ。それじゃ、このボガートとは何でしょうか?」

 

 ハー子が手を挙げた。

 

「形態模写妖怪です。私達が一番怖いと思うものはこれだ、と判断すると、それに姿を変える事がます。」

 

「正解。私でもそこまでキチンと説明は出来なかっただろうね。だから、中の暗がりに住んでいるボガートは、まだ何の姿にもなっていないんだ。もっと正確に言うと、誰も知らない真の姿、と言うべきだね。それは、私達がボガートに対して大変有利な立場にいることになるわけだ。その理由はハリー、君は分かるかな?」

 

「我々が有利な理由。それは、こちらは人数が多い。だから、ボガートからしてみれば、どんな姿になればいいか分からない。と、いう理由で宜しいでしょうか?」

 

「その通りだ。」

 

 その後、自分の経験を語った。長いので、適当に聞き流した。ルーピン先生は、みんなに『ばかばかしい(リディクラス)』を練習させた。そして、ルーピン先生はネビルに何が一番怖いのかを聞いた。

 

「スネイプ先生。」

 

 教室中にいる俺を含めた殆ど全員が爆笑するが、ルーピン先生は至って真面目な表情だった。ネビルに、おばあちゃんの服装を思い浮かべるように指示した。その後で呪文を唱えると、スネイプがその服装になると聞き、クラスの中は更に爆笑した。洋箪笥が一段と激しく揺れた。

 

「皆も考えてみよう!自分が一番怖いか。そして、それをどうやって面白く変えられるかをね!!」

 

 俺の怖いもの。ヴォルデモート。違うな。2回も遭遇しているから、耐性は身に付いた。吸魂鬼。いいや、すぐに守護霊を放てたから無いか。スネイプ。怖いというよりは、もはやあいつは抹殺対象だ。蜘蛛はロンだし、何だろうか?そう思っていると、ある光景を思い浮かべた。

 

 ここは空中。バイクが空を飛んでいる。バイクに乗っているのは、大男と2人の赤ん坊。何故か分からないが、彼らと対峙しているのは、箒も無しで空を飛んでいる謎の男。いや、滞空しているのか。年齢は20歳代か。銀色の短髪に、虹色の瞳。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っていているのだ。

 

『我が名は、マクルト。全知全能の神だ。男の赤ん坊をこちらに渡せ。』

 

 あの時のあいつだ。俺を樹海に突き落とした張本人。だが、我に返った。もう皆、対策は立て終わっているらしく、先生は先にネビルにやらせた。

 

 洋箪笥が、バーンと開く。スネイプが出て来たのだ。ネビルはビビりながらも、杖を振ったのだった。

 

「……り、リ、『リディクラス!』。」

 

 パチンッ!スネイプが躓いた。そこには、緑のドレスにハゲタカ帽子、キツネの襟巻きと赤いハンドバッグをユラユラと引っ掛けた、ピンクのハイヒール姿のスネイプが立ち尽くしていた。

 

 パーバティ、シェーマス、ディーン、ロンの順番で成功させた。続いては俺か。

 

 足の無くなった蜘蛛が姿を変える。銀色の短髪に、虹色の瞳。それを併せ持った若い男。マクルトと名乗る男だ。

 

「……」

 

「だ、誰なのコイツ。」女子達は、俺に聞こうとする。

 

 皆、これは予想外だったらしい。止めようとした先生も、硬直している。ボガート・マクルトは口を開いた。

 

「何故一々他者に答えを求める?この世界には、理不尽な事などごまんと存在するのに。そんな事にさえ気付けない愚かさを持っているのであれば、今ここで消えるが良い。」

 

「黙れ!ばかばかしい(リディクラス)!」

 

 男に呪文を掛けた。女性用の際どいメイドコスチュームを着せた。

 

「き、貴様に痛みを……」

 

「こっちだ!」ルーピン先生が割り込んできた。

 

 銀白色の玉になった。彼は、面倒臭そうに呪文を唱えた。再びネビルにやらせて、ボガートは煙の筋になって消え去ったのだった。

 

「皆、良くやったね。ボガートと対決をした子に1人につき5点をあげよう。ネビルは10点だ、2回やったからね。あ、そうそう。ハーマイオニーは質問に正確に答えたから5点、ハリーはそれに加えて対決もしたから10点だ。」

 

一呼吸してから、言葉を続けた。

 

「よーし。皆、良いクラスだったよ。宿題を出そう。教科書の、ボガートに関する章を読んだうえで、まとめを提出する事。月曜までにね。今日はこれでおしまい。」

 

 授業の終了が告げられた。皆は興奮してぺちゃくちゃ言いながら、教員室を出て行った。どうして俺だけ、あの見知らぬ男だったんだ。奴は、マクルトとは一体?12年前に何が起きたんだ。密かに、それを探る事にした俺であった。

 

ルーピン視点

 何故、ハリーの場合はあいつの姿に?虹の目を持ってたのは、あいつじゃない。3学年後輩の、アルフレッドだ。エリナの時と同じ様に止めようとしたけど、全くの想定外だった。

 

 エリナの出番になった時、ヴォルデモートの姿になるかと思ったから割り込んだ。結果的に吸魂鬼だったけど。彼女は、何でやらせてくれなかったんだろうと言う気持ちになっていた。

 

 ふと、ハリーとエリナが生まれて1週間後の事を思い出す。シリウスと共に、ジェームズとリリーの所に行った時の記憶が蘇ってきた。

 

*

 

1980年8月7日

 生まれたばかりの双子の兄妹。ベビー用のベッドでぐっすりと眠っている。

 

「はあ。あいつら遅いな。」

 

 クシャクシャした黒髪の男性、ジェームズ・ポッターが溜息を突きながら、まだかまだかと双子の周りをグルグルと回っている。

 

「もうそろそろ来る筈よ。」

 

 彼の妻である女性、リリー・ポッターが焦るジェームズを案じている。

 

 すると、来た。2人も。黒髪で、瞳の色は灰色。ジェームズの親友、シリウス・ブラック。ライトブラウンの髪で、少し顔が青白いが元気そうな顔を見せるリーマス・ルーピン。

 

「来たぜ、プロングス。2人も生まれたんだってな。」

 

「いやあ、実にめでたい事だよ。」

 

 シリウスとリーマスは、家に入って早々土産を渡しながら親友夫婦の幸せを称賛していた。

 

「あら、ワーミーはどうしたのかしら?」

 

「この頃、こんな感じなんだよな。付き合いが悪いんだ。」

 

 シリウスが溜息をつきながら言った。

 

「いつもパッドフットと一緒にいたのにね。」

 

 リーマスが茶化した。

 

「取り敢えずワームテールの事は放っておいて、今日来て貰ったのは他でもないんだよ。」

 

 ジェームズが、改まった表情で2人に告げる。

 

「僕等の子供達の後見人になって欲しんだ。」

 

「お、俺がかよ。まあ、親友の頼みならやるけどさ。」

 

「私は、体の事が……」

 

「何言ってるのよリーマス。あなた以上に適任者はいないわ。お願い。」

 

 シリウスとリーマスは、ジェームズにリリーの子供2人の後見人をそれぞれ務める事になったのだった。

 

「こっちの男の子がハリーだ。」

 

「ジェームズにそっくりだね。でも、目はリリーだ。」

 

リーマスがハリーを抱き上げながら言った。少しして、スヤスヤと寝始めた。

 

「女の子の方が、エリナって言うのよ。」

 

「逆にエリナは、リリーにそっくりだ。ただ、目はジェームズだな。将来リリーに似て綺麗になるだろうね。」

 

 シリウスが、エリナを抱きあげる。キャッキャッと笑うエリナ。

 

「えらく懐かれてんな。パッドフット。家族以外でここまでエリナが懐いたのは初めてだ。」

 

「そ、そうなのか。良くは分からないが。」

 

 一方のリリーとリーマス。リーマスは、双子の片割れを抱き上げている。起きている妹とは対照的に、兄の方はスヤスヤ寝ている。

 

「リリー。ハリーは、いつもこんな感じなのかい?」

 

「そうよ、リーマス。殆ど寝ているわね。食べる時以外はいつもこんな感じよ。本当にハリーってば、マイペースなんだから。」

 

その後、4人は共に食事をした。誰がそれぞれの後見人になるかを話し合う。

 

「エリナが家族を除いて他人に懐くのは初めて見たわ。ねえ、ジェームズ。」

 

「そうだね、リリー。だから、エリナはシリウスに後見人をやって貰おう。」

 

「良いのか!?」あっさりと決まった事に驚きを隠せないシリウス。

 

「ハリーの後見人は、リーマスが相応しいわ。気持ち良さそうに寝てたんだもの。」

 

「わ、分かったよ。引き受けるよ。」

 

 こうして、シリウスはエリナの、リーマスはハリーのゴッド・ファーザーになったのであった。

 

*

 

 やはり、ダーズリー家に護送される途中で突き落とされた記憶が深層心理の中で覚えているのだろうか。ゲブラーと名乗る男よりもそいつの方が怖いわけか。赤ん坊の時にそんな経験をしたら、誰だってそうなる。

 

 何とかそのトラウマを拭ってやらなければ。シリウスがエリナの後見人であるように、私はハリーの後見人なのだから。今まで、ローガーさんやロイヤル・レインボー財団に任せっぱなしであったのだから、この1年だけでも何とかハリーの力になろう。その決意を再確認し、私は授業の片付けに取り掛かったのであった。

 

*

 

 その後の闇の魔術に対する防衛術の授業について。レイブンクローの場合。

 

 パドマが成功させ、次はゼロだ。ボガートが姿を変えた。それは……

 

「マックのドナルド!?」

 

「いや違う!ペニーワイズだ!!」

 

「うわあああああっ!!!ばかばかしい(リディクラス)!!」

 

 唱えても、ホラー映画のキャラになって無限ループしたのだった。

 

*

 

スリザリンの場合。

 

 グラントは殺戮を好む自分自身を、イドゥンは無力な幼い頃の自分に姿を変えたボガートを撃退し、次はドラコの番だ。彼はもう、簡単にボガート撃破している自分を思い浮かべている。そして、ボガートは姿を変えた。

 

「ククククク。」

 

 それは、金属バットを持ち、不敵な笑みを浮かべているグラント・リドルそのものだった。

 

「!?」

 

 動揺を隠せないドラコ。だが、すぐに気を取り直した。目の前の奴は所詮偽物だ。あんな穢れた血如きに何を恐れる必要がある。呪文を唱えて撃退すれば良いだけの話だ。ドラコは杖を構えた。

 

 だが、ドラコを凝視している視線を感じ取った。

 

『こ、これは!』

 

『成る程な、フォイ。テメエは、この俺に恥をかかせないと気が済まないらしい。そうとらえて良いんだな?』

 

 グラントは至って無言だが、そう言う風に聞こえた。そ、そうだった。本物もいたんだった。迂闊な事が出来なかった。

 

『ドラコ。お前の判断1つで、俺達まで巻き添えを食う羽目になるんだぞ!』

 

『お前だけリドルから制裁を受けるならまだしも!!』

 

 3年生の男子たちは、ドラコに対して目で会話をしていた。

 

『じゃあどうすれば良いんだよ!このまま襲われろとでもいうのか!?』

 

『お前が何もしなければ、お前だけが偽物から襲われるんだ。そうなれよ。』

 

 前には偽物、後ろには本物。このままだと襲われる。かと言って、反撃をすれば本物から確実に報復される。スネイプとの訓練により実力を上げたとは言うが、まだまだグラントには遠く及ばない。

 

 ピリピリとした雰囲気を察知したルーピン先生は、ドラコの前に来た。

 

「ドラコ、私の後ろに来てなさい。」

 

 ボガートは球体になった。

 

ばかばかしい(リディクラス)!!」

 

 球体は風船となってトランクの中に入って行った。

 

「取り敢えず、授業はここまでにしておくよ。対決した子には、それぞれ5点ずつあげよう!」

 

 以上が、各寮のボガートの授業風景である。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 適性試験

オリジナルエピソードです。


 土曜日になった。休日だ。今日は、早めに朝食を済ませる。必要の部屋で、料理をする。弁当を作る為に。材料は、ホッグズ・ヘッドとリンクして、そこのバーデンからいただいた。バーデンと少し会話もした。あの人、ジジイに似ているけど、誰なんだろうか?ホグズミード村へ行ったときに聞いてみよう。

 

 集合は正午。去年度の最後に、コリンとエックスから頼まれた俺を先生にした修行。今日は、それの適性試験を行う。あの2人、進級も出来てたし、実力は申し分ないだろう。そう、実力だけなら。

 

 料理の内容は、ウインナー、卵焼き、枝豆、プチトマト、キャンディチーズ、サンドイッチ、リンゴだ。それを重箱の中に詰める。デザート用に1段、サンドイッチ用に1段、おかず用に1段、合計3段作った。この重箱を縮小呪文で小さくして持ち運べるようにした。

 

 片付けをして、必要の部屋を出て行く。玄関の手前まで来た。そこで、イドゥンと遭遇した。ルインとグラスもいたのだ。

 

「おはようございます、ハリー。」

 

「3人共、お早う。」

 

「あれ、ロンとハーマイオニーは一緒じゃないの?」

 

「ルイン。今日は、ある人と約束をしてるから外に向かうんだよ。だから俺1人だけなんだ。時間押してるから、俺はもう行くわ。じゃあね。」

 

 外に出た。集合場所へは、ニンバス2000で向かった。まずは、ハグリッドの小屋へ。ノックして、ハグリッドを呼んだ。

 

「じゃあ、前に言ったように放牧場周辺は今日貸し切りで良いんだね?」

 

「おう。使ってくれや。」

 

「ありがとう。後、もし俺に出来る事があるなら、言ってくれよ。1人で抱え込まないようにな。」

 

「おお、スマンな。だが、もうでぇじょうぶだ。心配すんな。」

 

 魔法生物飼育学で使った放牧場が集合場所だ。簡易式の地図は、もう渡してある。あれ、ナビゲートも出来るんだ。

 

 到着したのは、10時30分。誰も来てない。当たり前か。まだ90分はあるしね。試験の舞台の下見をしておこう。そして、ここ(放牧場)を荒らさない程度のトラップでも色々張っておくか。

 

 準備を10分掛けて行った。後は、密かに持ち込んだジョジョの漫画を読んで暇つぶしをした。今、戦闘潮流を読んでる。

 

 コリンとエックスは、ようやく到着した。11時半に。しかし、予想外な人物もいた。なんと、ジニーもいたのだ。あの2人が誘ったのだろうか?まあ3人なら大丈夫かな。拡大呪文で、重箱を元の大きさに戻した。ニンバス2000も、邪魔にならない所に置いといた。

 

「来たか。これから早速、適性試験をやるよ。」

 

「先輩。宜しくお願いします。」

 

「ハリー。何をやればいいんですか?」

 

「コリン。良い質問だな。今回は試験って言ったけど、そこまで身構えなくて良いレベルさ。ハッキリ言っちゃうと、オリエンテーリングやって貰うから。」

 

「「「オリエンテーリング?」」」3人が同時に発言した。

 

「それって何なの?」ジニーが口を開いた。

 

「指定された幾つかのポイントをぐるっと回ってゴールを目指すものです。」

 

 コリンが答えた。

 

「ああ。その認識で正解だ。だが今回は、ポイントは指定しない。この場所の何処かに鈴を幾つか設置した。それを3人で持ってきて。そうすれば合格だ。」

 

 赤い紐で通してある銀色の鈴を見せた。鈴は、チリンチリンとこちらの心に安らぎを与える様な美しい音を出している。

 

「一見簡単そうに見えるけど、逆に不安になって来たわ。」

 

 ジニーは、自分を含めた3人の心の内を代弁した。

 

「制限時間は5時まで。何でも持ち込みはオーケーだし、知っている呪文は使って良し。飯持って来てない人は、ここに用意してるから持っていって。ただ、鈴だけど呼び寄せは出来ない様になってるから、そこは気を付けて。それじゃ、始めてみよう。」

 

 3人は一斉に駆け出した。俺の用意した重箱を持たせて。俺専用の弁当箱は用意してある。

 

「さあてと。ゆっくり食べる、と言いたい所だけど、俺を付け回すなんて良い度胸をしているじゃないですか。出て来て下さいよ。」

 

 俺の感知範囲は最大5000km。更に一度感知した者ならば、その動きや考えはより正確に分かるのだ。

 

 出て来たのは、マクゴナガル先生だった。

 

「良くお気づきになられましたね、ポッター。」

 

「感知能力だけには無駄に自信がありましてね。それと言っておきますが、開心術なんて使っていませんよ。所属する寮の寮監でもあり、副校長でもある先生にそんな無礼を働くつもりは一切ありませんので。」

 

 これは本当だ。ダンブルドアのジジイよりは、マクゴナガル先生の方が信用出来るからね。

 

「そうですか。ブラックとクリービー、ウィーズリーに何をさせているのですか?」

 

「一言で言えば、利害の枠を超えてチームワークを発揮出来るかを見ているのです。」

 

「一見魔法の修行には見えませんが?」

 

「端から見ればそうでしょうし、これが正解かどうかも分かりませんよ。正直言って。でも私は、2人以上が何かをする時はチームワークこそが最大の力を発揮するって思っております。」

 

「そうですか。そこにあるランチを一口いただいて宜しいですか?」

 

「どうぞ。」弁当箱を差し出した。そのうちのサンドイッチを口に入れた。

 

「これは……ホグワーツの厨房に勝るとも劣らない味です。ポッター。自分で作ったのですか?」

 

「はい。あの3人には、重箱に入ったランチを持たせました。というか、ホグワーツの厨房に勝るとも劣らない味というのは、誇張し過ぎではないでしょうか?そもそも、趣味で料理をやる様になりましたし、私の腕前は私自身、そう高いとは言えないと思っております。」

 

「そんな事はありません。ちゃんと訓練さえ積めば、自分でお店を出せますよ。あなたはいつもそうです。自らを過小評価しています。もう少し自分に、自信をお持ちなさい。」

 

「分かりました。」

 

「さて、この試験のキーワードは分かりましたが、何故チームワークなのか教えていただけませんか?」

 

「……確かに、魔法使いの力において卓越した力は、もちろん必要になってきます。あの3人。実力だけなら申し分はありません。しかし、せっかくチームを組んだのにその実力におぼれて、協調性の欠片も無い個人プレーに走ったらどうなると思いますか?」

 

 俺は、マクゴナガル先生にそう聞いてみた。

 

「仲間を危機に陥れ、死に追いやってしまう。ポッター。あなたはそう言いたいのですね?」

 

「はい。特に、ワンランクもツーランクも上の敵が現れたら、バラバラになって戦うのとチーム一丸で戦うのとではどちらの方が生前率は高くなりますか?」

 

「明らかに、後者の方ですね。」

 

「ええ。そして絶対に、ヴォルデモートはまた動き出しますよ。俺、ガリオン金貨を賭けたっていいです。その為に準備を出来るだけしておくのです。前回と違って、今回は闇の陣営よりも厄介な連中も相手にしなければいけないのですから。」

 

「あなたなりにお考えのようで何よりです。来年の闇の魔術に対する防衛術を担当してみますか?」

 

「ご冗談を。こちらの身が持ちません。それに、名声や名誉の類に興味はありませんからね。欲しい人にあげます、そんなものは。」

 

「あなたらしいですね。やはり、ゲブラーと名乗る者に惨敗してからそれが強くなったのですか?」

 

「はい。だから、あの3人には合格して貰って、彼らと共にチームワークを更に磨いて、俺自身の力も更に上げないと…………」

 

 そうだ。今のままじゃ勝てない。俺は、あまりに弱すぎるんだ。ゲブラーにも、あの虹の瞳の男にも……それに闇の陣営にも。

 

「ならば、彼らが成功する事を祈りましょう。」

 

 今は、彼らに懸けるんだ。必ず成功してくれよ、3人共。

 

エックス視点

 僕は、今日コリンと、前日に誘ったジニーと一緒にハリー先輩の出した試験をこなす事にした。

 

「エックス。見つかったのは、1個だけだよね。」

 

 ジニーが僕に囁く様に言った。

 

「あと2人分見つけようよ。」僕は、2人を励ます様に言った。

 

「そうです。まだ4時間半はありますからね。それにしてもハリーって料理が上手だったんですね。僕の両親にも見習って欲しいくらいです。」

 

 コリンは、ハリー先輩の作った料理に感激していた。元々、先輩を英雄視しているけど、今年はそれがさらに進化した感じだからなあ。

 

「お昼食べ終わったら、また探すわよ。コリン、エックス。」

 

 美味い昼食を食べ終えて、また鈴探しを始める。でも、罠って言うのはこちらの気が緩んでいる時に引っ掛かりやすいものなのだ。先に歩いていたコリンが、落とし穴に落ちてしまった。

 

「落とし穴にハマっちゃったー!」

 

「ジニー。僕達2人で浮遊呪文を使おう。そしたら、コリンを引き上げられる筈だからね。」

 

「分かったわ。やりましょう。」

 

「「浮遊せよ(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)。」」

 

 何とかコリンを引き上げた。ありがとうと言ってたけど、一緒に合格するからお礼は言わなくて良いよと返した。

 

「手が込んでるわね……ねえ。線が光ってるわ。そこに鈴がある。」

 

 歩いていたその先に、両側の木と木で括り付けた線がある。その先に鈴が。

 

「成る程。これは、ワイヤートラップですね。映画とかでよくある。」

 

「映画って何?」と、ジニー。

 

「それはまた後で。2人とも。」

 

 僕は、ワイヤートラップを触ってみる。ワイヤーでもピアノ線でもなかった。糸だった。

 

「流石に本格的な物じゃなかった。良かった。これなら、魔法で対処出来そうだ。」

 

 魔法でトラップを破壊する。魔法族は、マグルの技術を軽視する傾向にあるのを逆手に取って、思いもよらない罠を張るのか。どちらの技術を極めた先輩らしい試練というわけだ。

 

「何とかなったな。あとどれ位だろう?」

 

「あと2時間ですね。」コリンが時計を見る。魔法界でも使えるタイプだ。

 

 その1時間半後、僕達3人は木の上の鈴を見つけた。ヤバい、あと30分しかない。

 

「あと1つなのに。」

 

 残り15分になっても鈴は見つからなかった。そろそろ戻らなければならなかった。僕の分はジニーに譲って、先輩の所まで帰る事になったのだ。残り3分というところで、戻って来た。

 

ハリー視点

 マクゴナガル先生は戻っていった。先に戻っている事、遅くならない様にと言い残してね。ジョジョの奇妙な冒険でも読みながら待つ事にした。日本語版だが、元々日本にいたので会話も読み書きも出来る。ある程度漢字も使える。尤も、ルビが張ってあるので漢字は読めなくても大丈夫ではあるのだが。

 

 ランク付けでもしようかね。AからFの6段階でさ。Fは魔法の概念と1年生。Eは2,3年生レベル。DはOWLレベル。CはNEWT及び卒業レベル。Bは超高等及び外国の魔法。Aはオリジナル呪文及び戦術の創作。

 

 あの3人、帰って来たみたいだな。蹴落し合う事をしないで協力し合う姿勢でこの試験を受けた。合格だ。鈴は、1つあれば良い方だろう。最悪無くても良い。この試験の答えは、いかに利害の枠を超えてチームワークを見せられるかがカギなのだから。

 

「お帰り。お疲れ様。」

 

「戻りました。2個しか見つかりませんでした。」エックスが疲れ果てている。

 

「2個!?予想以上だな。1個見つかればいいと思ってたんだが。」

 

「え?でも鈴の数が……」とジニー。

 

「鈴を1人1個持って来いなんて一言も言ってないぞ。俺は、鈴を3人で一緒に持って来いって言っただけ。それに、感知呪文で一連の動きは見させて貰ったよ。チームワークを見せた君達は合格だ。約束通り、修行を見るよ。」

 

「「「やったー!」」」

 

 3人共、喜んでいる。まあ、これから忙しくなりそうだな。そんなわけで、午後5時半に城に戻って来た。今後のスケジュールの調整をするといってこの場で解散した。

 




と言うわけで、ハリーによるエックス、コリン、ジニーの戦闘能力大幅上昇(魔改造)フラグが立ちました。3人にはそれぞれ単独で、ルシウス・マルフォイの様な上級死喰い人を撃破出来る位の実力を最低でも身に付けさせる予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 切り裂かれた「太った婦人」

 1993年10月。ここから11月のクィディッチに向けての練習も追加された。何しろここまで2回も優勝しているんだ。今年度で卒業するオリバー・ウッドの為に何としても3度目の優勝を手にしなければいけないのだから。

 

「ここまで俺達は2回優勝出来た。ここまで来たら3連覇をしたい!だが、今年は俺の知る限りホグワーツ始まって以来の最大のクィディッチ覇権争いが起こる!」

 

「今年もまた、今までとは違うスタイルを編み出さなくてはいけない。……オリバー。そう言いたいの?」

 

「そうだ。ハリー、俺の意図を読んでくれて大いに嬉しい。来年度からのキャプテンに推薦しようか?」

 

「人の上に立てる器量があるかどうかも分からないから、パスで。それに、3年後に向けてGCSEの勉強も並行してやっていくからね。」

 

「何それ?」アンジェリーナが聞いて来た。

 

「俺の家では、マグルの世界で生きる事になっても良いようにマグルの教育課程もやるんだ。こっちで言うところのフクロウ試験だよ。3年後は、フクロウ試験が2回あると思ってくれてば良い。幸い、どれも得意科目だから落ちる心配はないけど、油断は出来ないんだ。」

 

「ハリーも忙しいのね。」

 

 ケイティ・ベルはそう言いながらも、頭がパンクしそうになっている。

 

「とにかくだ。ハッフルパフは、新たにセドリック・ディゴリーがキャプテンとなった。奴は新たにチームを再編成し、去年とは比較にならない位の強力なチームを作り上げた。スリザリンは、ニンバス2001の性能を駆使した新戦法を編み出した。そしてレイブンクローは、今まで代理だったチョウ・チャンが正式にシーカーとなった。前任者など比ではない腕前だ。だが!こちらは素晴らしい箒と乗り手がいる!!3連覇を掛けて練習に励むぞ!」

 

 こうして、練習が始まった。週に3回というペースで。エリナもグラントも練習に励んでいるのを目撃した。グリフィンドールに3連覇と取らせてたまるかという意気込みで打ち込んでいたのだ。

 

 授業で出た宿題をその日のうちに終わらせる事は出来たものの、クィディッチの練習、マグルの教育課程の勉強をこなすのは流石の俺でも疲労が溜まっていった。そう言う時は、細胞分身に作業をやらせて俺は必要の部屋で睡眠を決め込んだ。だが、俺はまだ良い方かもしれない。分身を使って、休憩を取れるだけ。問題はハー子だ。あいつ、徐々に覇気が無くなっていくような感じであったのだ。そりゃそうだ。12科目も履修していて、一切休んでいないならなおさらだ。

 

 そんな日がしばらく続いたある日、第1回ホグズミード行きの日程が決まった。ハロウィーンの日だ。ちょっと行ってみたい所もあるし、今年は父様と母様の命日の黙祷は出来そうにないな。

 

 ジニー、コリン、エックスの修行の方は上々だ。3人とも、基礎は出来ている。特にエックスは、イドゥンから教わったのか実技はホグワーツ卒業レベルまで到達しているのだ。もう少しレベルの高い魔法を教えてもアリかな?でも、あの3つの魔法は危険過ぎるから教えなくてもいいか。

 

 ハロウィーンの日。ホグズミード村に行く日となった。他の人と行動しても良かったが、俺は確かめたい事があるから1人で行動する。そういう事なので、早速ホッグズ・ヘッドへ向かった。

 

 誰も居ないようだった。あの時の食料提供の時と同じくらい静かだった。イノシシの剝製があり、肖像画も飾ってあった。女の人のものだ。俺よりも少し年上の様な感じだった。

 

「フン。ここに未成年のガキが来るとは、物好きな奴もいるもんだ。」

 

 ホッグズ・ヘッドのバーテンダーが、俺に皮肉を言ってきた。

 

「先月食料を提供していただいたのに、今更疎むんですか?今日ちょっと確かめたい事がありましてね。ここに来たんです。バタービール1つお願いします。」

 

 俺は、近くのテーブルに座る。バーテンダーは不愛想な顔つきで、俺にバタービールを差し出す。

 

「いただきます。」

 

 グビッと一杯飲んだ。

 

「あなたに最初にお会いした時、ある人物を思い出しました。」

 

「俺を見てか?」

 

「目は明るいブルーだから、一瞬ダンブルドア校長かと思いましたよ。正直に言っちゃうと。」

 

「…………」

 

「校長とどんな関係なんですか?」

 

「ポッター。お前、知ってて俺に言っているのか?」

 

「自ら答えたくないなら、俺の方から言いますよ。ロイヤル・レインボー財団にあった不死鳥の騎士団の創立メンバーの集合写真。その写真は、アルフレッドさんが送って来た物ですけど、確かにあなたの顔も写っていた。先月出会って、ようやく確信しましたよ。ダンブルドア校長の弟、アバーフォース・ダンブルドアさん。」

 

 バーテンダーの名前を告げた。バーテンダーは沈黙している。沈黙という事は、肯定と受け取って良いわけだ。

 

「確かめたい事は何だ?」

 

「アルバス・ダンブルドアは果たして偉大なのかどうか。ホグワーツでは、殆どの者が彼を偉大だと称している。だったらどうして、2年前はクィレルに取り憑いてたヴォルデモートを始末しなかったのか。そして、奴に関係する日記を生徒から取り上げなかったのか。解決する手段なんて、早く出来た筈だ。それなら、12年前の父様と母様の時だって。だから、あなたの知るアルバス・ダンブルドアの姿からその答えを考察してみようと思います。」

 

「興味深い奴もいるもんだ。良いだろう、暇つぶしになるかも知れないが話してやる。」

 

「ちなみに俺、アルバス・ダンブルドアを妄信的に信じちゃいませんよ。寧ろ、妹のエリナを危険な状況に誘導するあのジジイなんて信じたくありませんし。」

 

「分かっている。そんな事は。両親よりもメイナードそっくりな性格だな、ポッター。さて、話を始めようか……これは、お前が生まれる100年も前の話になるが…………」

 

 アバーフォースさんから、ダンブルドアの半生を教えて貰った。それまで誰も知らなかったダンブルドアの真の姿、いや、知ろうとも思わなかった姿を聞けたのだから。

 

「成る程。失敗を恐れるあまり、自分で最善の手段を封じたのか。結局の所、ホグワーツで一番矛盾に満ち溢れているのは、あの爺さんだったってわけだ。」

 

「結果的にはな。それが、君の父や母の悲劇だ。そして、アルバスに従った奴のな。」

 

「だったら、尚更だ。ジジイの言いなりにはならない。俺は、やっぱり俺のやり方で目的を成し遂げる。」

 

「ポッター。それがお前の決断なら、俺は止めはしない。だがアルバスは、それでもお前に自分の手駒として動いてくれとこれからも言ってくるだろう。」

 

「それなら、ひたすら否定し続けてやりますよ。それに、所属するとしたら俺は、ロイヤル・レインボー財団にするって決めてますからね。」

 

 3時間くらいアバーフォースさんと話し込んだ。この人がダンブルドアをどう見ているのか、俺はどう思っているのかじっくり話し合った。バタービールを含めた飲み物の代金をカウンターに置いておく。

 

「それじゃ、また機会があったら来ます。今日は、ありがとうございました。」

 

「退屈しのぎには、なったがな。また何かあったら来ると良い。」

 

 俺は、ホッグズ・ヘッドを後にした。その後、ハニーデュークスでお菓子を、スクリベンシャフト羽根ペン専門店で新しい羽ペンを買った。コリン、エックス、ジニーへのお土産として。普段、こんな俺を師として修業を頑張っている3人にご褒美があっても良いだろうし。

 

 その後、ゼロとグラントの2人とバッタリ会った。折角だから3人で見ようって事になった。具体的には、郵便局で何百羽ものフクロウを眺め、叫びの屋敷の不気味さに震えた。俺にとっては、大変満足した1日となった。

 

「楽しかったぜ!サインしてくれたオヤジに感謝だ!」

 

「兄さんの言ってた通り、最高だったな。」

 

「今回行けなかった所を次行こうかね?」

 

 グラント、ゼロ、俺の感想はこんな感じである。

 

 ホグズミードから帰ってきた後、すぐにハロウィーンのご馳走が待っていた。俺はそうでもなかったけど、他の皆は腹がはち切れる程お菓子を食べていた。にも拘わらず、皆がおかわりをしていた。ゴーストの余興も楽しかった。サー・ニコラスは、しくじった打ち首の場面を再現した。これが、大受けしたのだった。

 

 宴会が終わって、グリフィンドールの談話室に向かう。しかし、何故かすし詰め状態になっていた。何があったんだ?パーシーが列をかき分けて、偉そうに肩で風を切って歩いて来る。

 

「通してくれ、さあ。何をもたもたしてるんだ?全員合言葉を忘れたわけじゃないだろう――ちょっと通してくれ。僕は首席――」

 

 そう言いかけた時、パーシーは絶句した。何と、太った婦人の絵はめった切りにされていた。肝心の婦人は、どこかに消え去っていた。

 

「誰か。ダンブルドア先生を呼んで。急いで!」

 

 パーシーが言った次の瞬間、ダンブルドアがすぐそこに立っていた。ダンブルドアは無残な絵を一目見るなり暗い深刻な目で振り返った。丁度マクゴナガル、ルーピン、スネイプ、フィールド、スプラウトの先生方が駆けつけてくるところだった。

 

「婦人を探さなければならん。ミネルバ。アーガスに婦人を見つけるように言ってくれんか?」

 

「見つかったらお慰み!」

 

 甲高いいすぁがれ声が聞こえた。ピーブズが、空中に浮かんでいた。大惨事や心配事が嬉しくてたまらないらしい。

 

「ピーブズ、どういう意味かね?」

 

 ダンブルドアが静かに聞くと、ピーブズは、ニヤニヤ笑いを引っ込めた。ねっとりした作り声で話しだした。いつものほうがマシと思えるほどの不快な声だったわけだが。

 

 どうやら婦人は、5階の風景画に向かって走っていったそうだ。ズタズタで、泣いていたそうだ。

 

「婦人は誰がやったのか話したのかね?」静かに聞くダンブルドア。

 

 ピーブズはその質問に対して、こう答えた。

 

「まったく癇癪持ちだねえ、あのシリウス・ブラックってのは。」

 

「先輩。」エックスが話しかけてきた。

 

「エックス。俺も今、同じ気持ちだ。」

 

 俺とエックスが、同時にこめかみを抑える。これじゃ、無実どころか有罪になってもおかしくない!俺達2人の心の声であった。シリウスが学校に来ていたのは予想外だったけど、想定していなかったわけじゃない。ダンブルドアとマクゴナガル先生は、困惑していた。あれ?あの2人、事情を知っているのか?逆に、事情を知らない者は、恐怖の感情を抱いていたのだった。

 

 その日の夜は、大広間で寝る事になった。先生達は、必死にシリウスを探したけどとうとう見つからなかったそうだ。エックスは、まずは理解してくれそうな人に教えた方が良いじゃないかと言ってきた。俺は、やはりペティグリューは誰かのペットに成りすましている可能性が高い事、そしてそいつはグリフィンドールにいる事を話して今の段階で話すのをやめさせた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 さらばニンバス2000

 その数日間は、シリウス・ブラックの話題が尽きる事は無かった。城に入れた手段として、飛んできた、姿現し、花のついた灌木になれるという回答がったのだ。彼が動物もどき(アニメーガス)だという事を知っている者からすれば、変身するという回答は強ち間違っているわけでもないのだ。

 

 切り刻まれた「太った婦人」の肖像画は取り外された。代役として、ずんぐりした灰色ポニーに跨った「カドガン卿」の肖像画が掛けられた。誰彼構わず決闘を挑んでくる。

 

 それだけならまだ良い。全然良くないけど。問題なのは1日2回も、それもとんでもなく複雑な合言葉をひねり出すのに余念が無い事だ。そんな絵は勘弁してくれ、とパーシーにグリフィンドール生全員が直訴したのは言うまでもない。だが返って来たのは、引き受けてくれるのが彼だけという事だそうだ。

 

 極め付けは、先生達が完全な警戒態勢に入った。特に、俺とエリナは重要護衛対象としてカウントされた。事あるごとに、先生達がぴったりとくっついて歩いたのだ。俺の場合、主にマクゴナガル先生とフィールド先生だ。エリナは、スプラウト先生にスネイプだった。

 

 後にハッフルパフ生からの証言によると、エリナの護衛をしている時のスネイプの表情は、いつも以上にやる気に満ち溢れていたと言う。

 

 そして、第1回目のクィディッチが近付いていた。しかし、例年と違う所が1つあった。初戦がハッフルパフとだったのだ。

 

「マルフォイのクソ野郎。怪我を盾に悪天候で戦うのを避けやがったな。」

 

 試合で使う箒はどちらにしようか迷ったが、不安定要素の残るレッドスパークをこんな悪天候で使うのは避けておきたい。そもそも、晴天の時しかレッドスパークを乗りこなす練習をしてなかったのだ。それよりは、俺に忠実なニンバス2000を使う事になった。

 

 試合前日、打ち合わせがあるからと言われた。オリバーはクィディッチ関連の話だと話が長くなる。あまり聞きたくないなと思った時は、細胞分身を向かわせた。終わったら、解除して俺に還元しておいてくれと指令を出して、俺はさっさと授業に行った。闇の魔術に対する防衛術へ。

 

 しかし、今日の授業は異質だった。レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンもここにいたのだから。どういう事だ、これは?そう疑問に思いながらも、エリナに声を掛けられた。折角誘われたので、彼女の隣に座った。

 

「何か知ってる?」

 

「今日魔法薬だったのを、闇の魔術に対する防衛術にチェンジするってスネイプ先生が言ったんだ。どうせだから、グリフィンドールとスリザリンの生徒も交えてな、だって。」

 

「あいつかよ。いつも以上に張り切るだろうな。元々闇の魔術に対する防衛術を志望していたんだからな。」

 

「それに同意だね。」

 

 しばらくして、スネイプが入って来た。ルーピン先生の授業を散々こき下ろした後、人狼をテーマに授業を進めると言い出した。ざわざわと皆騒いでたけど、スリザリン以外からそれぞれ10点ずつ減点した。

 

 スリザリンへの露骨な贔屓。そんな事ばかりしているから、他の先生がやる贔屓、フィールド先生のパーキンソンへの差別に対して抗議をしても、それを理由に一蹴されてしまうのだ。

 

 見分け方、殺し方などを解説した。ハー子に答えさせても、知ったかぶりだと言って5点減点する。それにロンが反論した。

 

「ふざけんな!先生はクラスに質問したんだろう!だったらハーマイオニーが答えたって何にも問題ない筈じゃないか!答えて欲しくないなら聞くなよ!この女装が趣味の、ハゲタカ帽子のハイヒール!!!」

 

 それは流石に言い過ぎ、皆は咄嗟にそう思った。他の先生の前だったら、厳重注意だけで済んだだろう。しかし、言った相手はスネイプだ。スネイプはじりじりとロンに近付いて、こう言い放ったのだ。

 

「グリフィンドール30点減点。ウィーズリー、処罰だ。ロングボトム、貴様も道連れだ。」

 

「そ、そんなあああああ!!あんまりだああああああああああ!!!」

 

 ネビルの絶叫がクラス中に響くと同時に授業が終了した。外に出て、教室から大分離れた所で皆は、スネイプの悪口を言いまくった。

 

「ハリー。やっぱりあれって。」エリナが囁いて来た。

 

「ああ。ルーピン先生の正体をばらす為の授業だったろうな。」

 

「スネイプ先生の事は嫌いじゃないけど、性格が悪いから好きとも言えないんだよね。」

 

 分からなくはないな。そろそろ、脱狼薬の改良版を作る事も念頭に置かなくては。改善案としては、人狼の本能を無力化し、飲む回数は1回だけで十分、変身前の状態を維持、味も苦いものがダメな人でも飲める様にする事だな。

 

 そんな事を思っていると、ロンとネビルが来た。ロンはカンカン、ネビルは生気が消え失せていた。

 

「聞いてくれよ!あのキチガイ!トイレのおまる掃除に、レポートを4巻きにして書いて来いってさ。シリウス・ブラックがあいつの研究室に忍び込んでくれたらなぁ。あいつを始末してくれりゃ良いのに!!あのイカレ教師め!!!」

 

「ネビルは?」俺が聞いた。

 

「20巻き。しかもこの後、書類整理をさせられる事になったんだ。」

 

「レポートは手伝うよ。」

 

「そうだよ!ボクも手伝ってあげるからね!」

 

「グスッ、2人共ありがとう。」

 

 次の日。大雨だった。覚悟はしていたが、まさかここまでになるとは。憂鬱だぜ全く。朝食を食っていると、マルフォイが捨て駒を5人引き連れて、勝ち誇った様子で俺の所にやって来た。

 

「僕の腕がもう少し早く治っていたらなあ!」

 

「……」存在そのものがうざいので無視する事に。

 

「僕の話を聞けよ!」

 

「……あれから首筋の呪いの印は痛むか?魔法を使おうとすると一々反応するなんて、お気の毒にな。」

 

 そんな気分ではなかったが、虫の居所が悪いのでつい言ってしまった。マルフォイは、プルプルと震えている。取り巻き達が睨み付けているが、所詮魔法だけに頼って生きている連中の怒りなんて俺にとっては痛くも痒くも無い。だが、マルフォイが口を開いた。勝ち誇った様子とは一転、首筋を押さえつける様に重々しい口調でだ。

 

「ポッター。お前、僕の首筋の痣の事をどこまで知っている?」

 

 感情を抑えながら、俺にそう聞いて来たのだ。

 

「魔力に反応して、刻まれた者の潜在能力を強制的に引き出す。呪いの印に侵食される事と引き換えにな。最終的に自我の崩壊を引き起こすのさ。最悪死ぬ。」

 

 それを聞いたマルフォイ一味の顔色が悪くなる。自分達の中心的存在が、そんな症状を患っていたなんて思いもしなかったらしい。

 

「何でそんな事を知ってるんだ?」セオドール・ノットが言った。

 

「マルフォイに呪いの印を刻み込んだ奴は、俺の保護された組織の元構成員なんだよ。今は、裏切り者の烙印を押されて雲隠れしているのさ。お前らの親のご主人様とは、また違うタイプの不老不死を求めてね。」

 

 明言はしてないが、マルフォイとクラッブ、ゴイル、ノットは俺が誰の事を言っているのか分かったようで、青褪めていた。

 

「ちょっと!そこまで知っているんだったら、直しなさいよ!!ポッター!」

 

 今度は、パンジー・パーキンソンか。パグ犬の分際で生意気だ。

 

「俺は、エリナと違って敵に救いの手を差し伸べる程のお人好しじゃないんだよ。マルフォイがどれだけ苦しめられようが、知った事ではないな。本当に危うい時は、俺なりに一線を構えているから利害に関係無く助けているだけ。俺以上に強い奴に目を付けられたんだったら、対処のしようが無いんだよ。」

 

 バッサリと切り捨てた。

 

「ポッター。お前は一体何なんだ?俺達にはとことんまで敵視している。それどころか、殺意すら見せる位だ。俺達から見ても、その感情は常軌を脱している。その一方で、リドルやブラックとかには優しい顔をする。お前はスリザリンが嫌いなのか、そうじゃないのかよく分からない。俺達に対する態度は、はっきり言わせてもらう。下手な闇の魔法使いよりもタチが悪い。」

 

 ノットが、ビクつきながら俺にこう告げた。こいつらに、俺なりの認識を教えてやるか。

 

「スリザリンや、そこの寮生が嫌いってわけじゃない。もしそうだったら、グラントやイドゥンと話し込む事はしないし、交友関係にもならねえよ。俺が本当に一番気に入らないのはな。お前らのレイシストの思想だ。吐き気がする!その思想に俺の父様と母様は殺されたんだ!!そして…………」

 

 俺は、ノットの首元にユーカリの杖を突き出した。

 

「親に伝えておけ。俺は、お前らを決して許さない。来るべき日に、いずれ思い知らせてやろうってな。俺の受けて来た傷や痛みを刻み込んでやるよ。」

 

 俺は杖を下ろし、大広間を後にする。一度後ろを振り向いたが、マルフォイ一味は完全に俺に恐怖していた。

 

*

 

「なあ。さっきの人が言ってた、『お前らの親のご主人様』ってどういう意味だったんだ?」

 

 スリザリンの1年生2人は、大広間の前でハリーの言っていた事の意味を話し合っていた。

 

「簡単な事だ。死の飛翔を、闇の帝王と言えば分かりやすいか?」

 

 その疑問に答えたのはゼロだった。丁度、グラントやエリナと一緒に大広間に向かっていたのだ。

 

「り、リドルさん!?」

 

「おう!お前ら、朝から元気そうだな!」

 

 グラントは、1年生に気さくに話しかける。実は、スリザリン生の中にはドラコを始めとする純血貴族の出身者よりも、立場とか関係なく親身に接してくれるグラントの方が良いと言う人がいるのだ。主に、マグル生まれや半純血、純血主義に否定的な考えを持つ者に限るのわけだが。

 

「例のあの人の事だったんですか!?その、ハリー・ポッターさんが言ってたのって。」

 

「でも、例のあの人は死んだって母さんが……」

 

「まあ、正確には自分では何も出来ない位までに弱っていて、尚且つ死んだ方がマシだって思う位に惨めに生き延びているってのが真相なのさ。」

 

「へえ。そうなんですか。」

 

「先生達は、生きているって認識しているみたいだけどね。」

 

「まあ、今はそんな慌てるこたぁねえよ。精一杯楽しんでおけば良い。」

 

「ありがとうございます!」

 

 ゼロ達3人は、大広間に入っていった。

 

*

 

 ユニフォームを着た時に、身に付けている物全てに防火・防水呪文を掛けておいた。これで、大雨による悪影響は受けない。そして外は寒かったので、俺が独自に開発した魔法薬『ホットドリンク』を飲む。トウガラシと苦虫を主な材料にしたのだ。体中がとても温まった。そして、そのまま競技場へ向かった。

 

 試合開始。やはりハッフルパフは、去年よりも強化されていた。特にクアッフルを使ったシュートに磨きがかかっている。殆どエリナによるものだった。スニッチを探したが見つからない。ここでタイムアウトが掛かる。

 

「状況は?」

 

「110対30でハッフルパフが有利だ。ハリー。早いところ、決着をつけてくれ。」

 

「了解。」

 

 その後、ハー子が俺以外の選手全員に防火・防水呪文を使った。視界はたちまち確保された。これで10点は取り返せた。

 

 俺も超感覚呪文でスニッチを探す。右斜め方向、下。エリナの近くを漂っていた。ニンバス2000を走らせ、即座にスニッチのある場所までに行かせる。その時見えたのだ。黒い犬だ。黒い犬は、すぐに走り去ってしまった。

 

 あの犬の事は一旦忘れて、とにかくスニッチだ。誰も気が付いてない。これで取れる!

 

 だが、突然奇妙な事が起こった。周囲の音が全く聞こえなくなり、辺りが暗くなった。一体何が起こっている、と思って下を見る。コートに入り込んできた100を越える吸魂鬼のおぞましい姿だ。マズイ!エリナが気を失っている!!スニッチも、吸魂鬼に紛れているではないか。仕方がない。左手にアセビの杖を持ち、呪文を唱えた。

 

守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!!!」

 

 メンフクロウを召喚する。しかし、それでも吸魂鬼共はエリナの傍から離れない。ならば、消すまでだ。

 

「パトローナスよ!薄汚い吸魂鬼共を消してしまえ!聖なる浄化の光よ(ルーモス・ガ・イアス)!!!」

 

 守護霊の身体から真っ白な聖なる光が解き放たれる。俺とエリナの周りにいた吸魂鬼達は、体が灰となって崩れた。そして、無数の青白い光の玉が出現した。それらは、天へと旅立っていった。

 

 その直後、金色の玉を見つける。すかさずそれをキャッチした。よし、あとは気絶しているエリナを抱えて降りるだけだと判断した。近くにいたエリナとプラチナイーグルを回収した。降り終わってすぐ、また吸魂鬼が襲い掛かって来た。また杖を出して一蹴しようとする。だが、俺でも予想出来なかった事が起こった。

 

 何と、ニンバス2000がひとりでに動き始めたのだ。吸魂鬼を追い払う。その内の1体に特攻を仕掛けた。

 

「おい!ニンバス2000!!戻って来てくれ!これからも俺と一緒に試合を戦い抜いてくれよ!!!」

 

 俺の叫び声も虚しく、ニンバス2000は1体の吸魂鬼を道連れにしながら、そのまま黒犬が走って行った方向に去ってしまった。

 

 試合は終了した。190対130で勝つ事は出来たが、俺はあまり嬉しくなかった。相棒を失い、妹は衰弱している。吸魂鬼も押し掛けて来て、堂々とした環境で白黒付けられなかったのだ。エリナは担架で運ばれていった。

 

 俺の知らない所で、ダンブルドアやスネイプ、マクゴナガル先生にフィールド先生、ゼロが吸魂鬼を撃退していた。ゼロ曰く、その時のダンブルドアは、今までにない怒りを見せていたらしい。

 

 後に、イドゥンも俺とは違う方法で吸魂鬼を消滅させていた事が分かった。これは、本人から聞いたのだ。水を掛けると、吸魂鬼が酸の様に焼かれるものらしい。本人は『精霊の水』と呼んでいたが。

 

 試合終了後、ニンバス2000を探し始めた。向かった方向は、確か暴れ柳があった方向だ。最悪のケース自体も考えながら、必死に捜索した。

 

 見つけた。ニンバス2000の残骸を。粉々になった木の切れ端が、小枝が、散らばっていた。吸魂鬼は、もういなかった。恐らく、学校の外に追い出されたのだろう。俺なんかの為に、ここまでしなくても良かったのに。俺とエリナを守ってくれたこの箒を、湖の畔にて手厚く葬る事にした。

 

 翌日、医務室へ向かった。エリナは、酷く落ち込んでいた。

 

「昨日は負けちゃったよ。ハリーには、まだ敵わないや。」

 

 無理に笑顔を作ろうとしていた。

 

「無理しなくて良い。俺としてもニンバス2000を失ったからな。それよりも、吸魂鬼に襲われたんだ。安静にしてた方が良いぜ。」

 

「うん、分かった。でも何で吸魂鬼が……」

 

「昨日の試合の盛り上がりは、連中にとってはご馳走だったろうな。だから来たんだ。」

 

「吸魂鬼が近付くと、ママが殺される時の声が聞こえるんだ。ボクって弱いのかな?」

 

「強い弱いの問題じゃない。母様は俺を隠した。でも、エリナは目の前で母様を殺されているんだ。普段記憶になくても、どこかの深層心理で覚えているんだよ、きっとね。吸魂鬼はね、心に最悪の経験しか残さないんだ。プラスの感情を貪り食うからね。」

 

「ボク。もっと強くなりたい。吸魂鬼にも。クィディッチでも。練習不足で、作戦も完璧とは言えなかったかも知れない。雨だからって理由で碌に連携も取れなかった。今回は負けたけど、勝ち目がないわけじゃないもの。」

 

エリナが、昨日の事をおさらいする様に言った。

 

「吸魂鬼に関しては、予めルーピン先生に対策を立てて貰うと良い。俺、今朝報告したんだ。丁度、動物もどき(アニメーガス)も終わったんだろう?」

 

「うん。雌鹿だったよ。魔法省に登録されたんだ。」

 

「なら多少、吸魂鬼に対しての抵抗は出来るみたいだな。今度は守護霊の呪文をやってみな。もし習得出来たら、俺の所へ来なよ。守護霊が使えて初めて発動出来る魔法を教えるからさ。」

 

 俺は、エリナのベッドに推薦状を置いておく。

 

「これをルーピン先生の所へ持って行け。親身になって教えてくれる。」

 

「ありがとう。ハリー。」

 

「そろそろ行くぜ。お大事にな。」

 

 俺は、医務室を出た。さて、そろそろ行動を開始するか。新たな脱狼薬作りに、黒犬の捜索。ナイロックは、あの黒犬をクルックシャンクスから聞いていた。その正体は、人間だったという。

 

 再び俺は、暴れ柳の所まで来た。襲いかかってくる枝を難無く見切ってかわし、扉を開く。そこには、やせ細りぼろぼろの服を着た男性がいた。左目を隠す様に包帯で隠している。

 

「き、君は……まさか!ハリー!!!本当に生きていたのか!」

 

「初めましてになりますか?いや、正確には12年ぶりの再会なわけですけどね。シリウス・ブラックさん。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 遥かなる再会

 俺は今、暴れ柳の中の部屋にいる。そこで、無実の罪でアズカバンに収監されていた脱獄囚、シリウス・ブラックと出会った。

 

「俺がここに来たのは、あなたを保護する為に来たんです。」

 

 取り敢えず、真実を知っている者とロイヤル・レインボー財団が無実の証拠を集めている事、そしてレギュラスの真実を話した。

 

「というわけです。これからイドゥンとエックス、つまりあなたの姪と甥を連れて来ますよ。」

 

 口寄せでナイロックを召喚。イドゥンとエックスを連れてくるように言った。シリウスは俺の話が終わってすぐに、土下座しながら謝罪している。

 

「ハリー。本当に、申し訳に済まなかった!」

 

「ま、過ぎた事だから何も言うつもりはもう無いですけどね。後日エリナとも対面させますんで、そのつもりで。」

 

 その30分後、イドゥンとエックスが来た。

 

「先輩。来ましたよ。」

 

「この方が私達の伯父上ですか。」

 

「そうだよ。つーか、暴れ柳にあるこの部屋までよく辿り着けたね。」

 

「私の力量を以ってすれば、大した事ではありませんわ。」

 

「アリエスに、トーマス!?」シリウスが驚く様に言った。

 

「姉ちゃん。この人何か言ってるよ。」

 

「恐らくですけど、私達の両親と見間違えたのでしょうね。」

 

「3人共。話進めようぜ。」一旦区切りを入れた。

 

 4人で会話した結果について。ここは、ホグズミードの叫びの屋敷だという事が分かった。シリウスは、グリモールド・プレイス12番地で匿う事になった。これに関して、彼は猛反発した。

 

「趣味の悪いものは、全部姉ちゃんが取り除いたよ。だから、イメージしている程悪くない筈だよ。シリウス伯父さん。」

 

「あなたの部屋にありました、如何わしい水着のポスターも含めてですがね。あんなものは、お屋敷の品位を下げるますから。」

 

「そ、そうなのか。永久粘着呪文を掛けておいたんだが。」

 

「簡単に解除出来ましたよ。」サラッと言ったイドゥン。

 

「あと伯父さん。クリーチャーへの態度を改めて欲しいんだ。」エックスが言った。

 

「それが出来なければ、本当に吸魂鬼に引き渡しますよ。」

 

 イドゥンが続け様に脅した。

 

「わ、分かった。誓おう。」

 

イドゥンがクリーチャーを呼んだ。すると、パチンという音がした。それと同時に『姿現し』してきた。

 

「お呼びでしょうか?お嬢様。」

 

「伯父上を見つけましたよ。尤も、見つけたのはそこにいるハリーですけど。」

 

 俺は、クリーチャーに軽く会釈する。クリーチャーは、俺にお辞儀をしてきた。そして、シリウスの方に向き直った。

 

「旦那様。17年ぶりになりますか。こうして対面するのは。」

 

 シリウスが苦い顔をする。が、エックスは言うべき事を言ってくださいよ、とシリウスに告げた。

 

「クリーチャー。俺は、あの家の家風が正直嫌いだった。だから、それを思い起こさせるお前を無視したんだ。レギュラスの事も、勝手に死喰い人に入った愚か者だと認識していた。だが、俺を含めて家族を守ろうとヴォルデモートに反逆したあいつの生き様を聞いた。そして、そこにいるイドゥンやエックスがブラック家を変えようと奮闘している事を聞いた。もっとお前と向き合って話し合っていれば、レギュラスやアリエスも悲惨な末路を歩まなくて済んだんじゃないかと思っている。今更、お前に許して貰おうとは思っていない。これからは、弟と妹が出来なかった事を引き継いでいきたいんだ。だから頼む。この俺に、もう1度チャンスをくれ。」

 

 クリーチャーに頭を下げたシリウス。当のクリーチャーはというと、シリウスの謝罪の言葉を聞いて驚愕した表情になっていた。だが、すぐに気を取り直して答えたのだ。

 

「旦那様。頭をお上げください。クリーチャーには、勿体無い言葉でございます。クリーチャーはどんな形であれ、旦那様に……」

 

「謝罪は素直に受け取った方が良いよ。」エックスがクリーチャーを優しく諭した。

 

 そうして、シリウスとクリーチャーの和解が成立した。この後、詳しく話を聞く事にした。やはりスキャバーズが裏切り者のペティグリューである事が分かった。ナイロックの言ってた事が当たってたとはな。あいつに謝罪と褒美をやらなくては。それをどう知ったかは、ファッジから貰った新聞からだというのも分かったのだ。

 

「ロンのネズミか。さっさと回収しとかなきゃな。」

 

「ハリー。お願いしますよ。あなたほどの適任者はいませんからね。」

 

「了解。」

 

 今の所、真実を知っているのは俺にエリナ、イドゥン、エックス、ロイヤル・レインボー財団、メリンダ、ルーピン先生だけだ。その事を話す。

 

「リーマスとメリンダもなのか。あいつらには、色々と悪い事をしてしまったな。」

 

「多少怒るかも知れませんけど、それ以上に再会できた嬉しさでいっぱいになるのでは?」

 

「後、ダンブルドア校長も知ってると思いますよ。先輩。」

 

「父様が死ぬ前日に聞いたって言ってたからな。恐らく知ってるだろう。」

 

 今後の方針を決めた。ロンのネズミを捕まえる。それは、ロイヤル・レインボー財団にすぐさま報告する。しばらくグリモールド・プレイス12番地にいさせて、手配した場所に保護するのだ。そして、クリスマスに校長に言おう。

 

「こんな感じでどうかな?」

 

「先輩、そうしましょう。」

 

「決まりですね。クリーチャー。伯父上を屋敷に連れて行きなさい。最初に風呂にぶち込んで、その後に食事をさせるのです。」

 

「了解しました。」

 

 クリーチャーは、イドゥンの命を受けて、お辞儀した。シリウスは、タイミングを見計らった様にこう言い出した。

 

「3人に言っておくよ。俺の事は、シリウスと呼んで良い。敬語じゃなくて、普通のくだけた感じで大丈夫だ。」

 

「了解。」

 

「分かりました。シリウス。」

 

「シリウス伯父さん。もう少しの辛抱なんで、大人しくしてて下さいね。」

 

 俺、イドゥン、エックスの順番で返事をした。シリウスは、クリーチャーに掴まって、姿くらましで消えた。

 

「行きましたわね。」

 

「ああ。それに、門限だから帰ろう。」

 

 俺達3人は、暴れ柳の部屋から脱出した。それぞれの部屋に戻った。俺に部屋に戻った直後、呪文を唱えた。

 

来い(アクシオ)!スキャバーズ!」

 

 年老いたネズミが来た。左手で捕まえた。それを特殊強化ガラスと魔封石で出来た空き瓶に入れた。物質が物質なので、グローブをはめて行った。魔法で割れない様にした。これは保険だ。ネズミを呼吸出来るようにはした。この空き瓶を口寄せ契約した。来たるべき時まで、逃さない様にするんだ。代わりに、そこら辺のドブネズミをスキャバーズに見せかけておいた。

 

 その翌日、俺は授業を終えた後に必要の部屋に向かった。

 

『魔法薬を作れる場所。魔法薬を作れる場所。魔法薬を作れる場所。』

 

 必要の部屋が開いた。魔法薬に関する書物や材料が勢揃いしている部屋となった。さてと、新型の脱狼薬でも作るか。名付けて『真脱狼薬』。脱狼薬は、1週間服用する事が大事なのだ。1回でも飲み損ねると、効果が無い。だから、それを含めた欠点を取り除いた薬を作るんだ。

 

 2つの鍋を用意する。1つは脱狼薬用に。もう1つは、俺が少し前に開発した新薬用だ。

 

 ホットドリンクの材料にも使った苦虫、それにハチミツ、レムの薬草をタイミング良く調合する。必要の部屋にあった『調合の薦め』という本を、全5巻読みながら魔法薬を作ったのだ。

 

 30分後、ようやく完成させた。

 

「試してみるか。評価・査定せよ(タクショネミート・アステマティオ)。」

 

 完成した魔法薬を調べる。

 

《増強薬

 単体での効果は無いが、組み合わせる事で素材及び薬品の持つ力を元の性能以上に発揮させる》

 

 出来た。まずは第1段階クリアだ。これと脱狼薬を組み合わせてみるか。更に1時間程で、脱狼薬が出来た。増強薬と混ぜ合わせる。

 

 試行錯誤した結果、脱狼薬80%、増強薬20%の比率で調合すると、脱狼薬の効果が増幅する事が判明した。『真脱狼薬』シリーズの記念すべき1作目だ。これを俺は、真脱狼薬αと名付けた。

 

評価・査定せよ(タクショネミート・アステマティオ)。」

 

《真脱狼薬α

 従来の脱狼薬の効果を増幅した薬。具体的には、人狼の本能を抑制するのでは無く、完全無効化する》

 

 抑制から無効化に昇華は出来た。次は、服用回数の大幅短縮だ。これに関しては、また後日やろう。もう夕食の時間になったからだ。

 

 数日後。この日は金曜日。授業終了後に校庭にいた。エックスも一緒だ。しばらくして、呪文学から帰って来たエリナとイドゥン。エリナは全快になっていた。ルーピン先生に推薦状を渡したら、12月から始めようって事になった。

 

 クリーチャーを呼び、俺達4人は付き添い姿くらましでグリモールド・プレイス12番地へ向かった。ここで、エリナと顔合わせさせた。エリナとシリウスは、すぐに仲良くなった。

 

「リーマスに、メリンダもいるのか。あの2人にも迷惑を掛けたな。」

 

「メリンダさんって、どんな人だった?」

 

「アルフレッドの同期だよ。視力は良い方なのに、度の入っていないメガネを着用していたんだ。鷹の動物もどき(アニメーガス)で、守護霊もそうだった。鳥の目って意味で、『アンク』って二つ名を付けたんだ。俺が7年生の時からアズカバンに捕まるまで、彼女と付き合っていた事があるんだよ。」

 

「へえ。」

 

 今後の方針についての話題に変わった。そして、父方の伯父、メイナード・ポッターについても聞いた。

 

「え?パパにお兄さんがいたの!?」エリナは、大変驚いてた。

 

「そして、私のゴッド・ファーザーでもあります。」イドゥンが続けた。

 

「そう言えば話してなかったな。メイナードはレイブンクロー所属でね。俺よりも5学年上だった。秩序を正すのが、彼の仕事みたいなものだったよ。俺とジェームズが主だったけど、悪戯がバレる度にオシオキされてたんだ。それに、マグル生まれ狩りをしていた同期のルシウスをいつも屈服させていたよ。こう言っていたんだ。『ルシウス。お前のいかなる魔法も、俺のこの眼の前では意味を為さない』ってね。でも、仲間意識は高かった。最期は、俺達4人を庇ってくれた。」

 

「成る程ね~」少しだけ、そのメイナードって人の人となりが分かったな。

 

 その後も、何の変哲も無い話をした。しかしそこで、とんでもない事実が発覚した。

 

「え?俺の後見人を担当してるのって、ルーピン先生だったの?」

 

「何だ、リーマスの奴。まだ君に言って無かったのか。ハリーとエリナが生まれて1週間後に、リーマスと俺が呼ばれてね。ジェームズとリリーに、それぞれの後見人をやって欲しいって頼まれたんだよ。」

 

「ふ~ん。だったら、秘密の守人もルーピン先生に交代すれば良かったんじゃないの?」

 

「誰もピーターが守人を務めていようとは思ってないから、上手くいくと思ったんだ。言い訳はしない。もっとリーマス以外の周りの仲間にも、話し合いさえしていれば……」

 

「シリウス。そこに関しては、ハリーとエリナはもう何も言いませんよ。ですが、何が何でも守り抜いてください。それ以上に、2人を悲しませない様に生きてください。それがあなたに出来る最大の償いですよ。」

 

 落ち込むシリウス。それを、イドゥンが俺達の心情を代弁してくれた。そしてちゃっかりと、自分の意見もちゃんと言ったのだ。

 

 城の入り口までクリーチャーに送って貰い、大広間に向かった。それぞれの席に向かい、夕食を食べた。そして、談話室に戻る。

 

 疲れた。明日は、真脱狼薬を作るか。あれはまだ、人狼の本能の無力化だけしか出来ていないし。あれじゃ、従来の脱狼薬と変わらん。何か、アッと言わせなければ意味が無いのだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 フィールド家の謎

フォルテがパンジーを憎む理由が明かされます。


 12月の最初の土曜日。早速必要の部屋に向かった。宿題はあらかた終わらせているので、思いっ切り魔法薬の開発に専念出来る。

 

 さて、少し話が脱線する。この間書いた手紙の返事が返ってきた。シリウスは、無事にロイヤル・レインボー財団に保護された。今、本部の空いている居住区域で暮らしている。監視付きでね。

 

 ちょっと前に俺も本部へブローチマントを使って戻って来て、ペティグリュー入りの空き瓶を義祖父ちゃんに引き渡した。真実の暴露をクリスマス期間に実行する事が決まった。

 

 話を戻す。月曜日に混合液、サラマンダーの血液、弟切草、ベラドンナエキスを真脱狼薬αに組み込んだ。強化薬を参考にして服用回数の短縮、もう一つは人狼化に伴う激痛の軽減。強化薬が出来る時間の関係上、1週間程かかる。月曜日に作ったので、土曜日か日曜日に完成している筈だ。

 

鍋を見てみる。おや、どうやら完成しているようだ。早速鑑定するかな。

 

評価・査定せよ(タクショネミート・アステマティオ)。」

 

 鑑定結果が出た。

 

《真脱狼薬β

 真脱狼薬αの進化版。その効果は、人狼の本能を完全無効化するのに加えて、服用回数が1回だけで済む事。満月の日の、どの時間帯でも良いので服用する事。従来の脱狼薬をそれ以前に飲んでいても、問題無く効果が発動する》

 

 第2段階の服用回数の短縮が成功した。次は、変身前の姿を維持する方法に力を入れようじゃないか。な~んだ。とっても簡単じゃないか。これなら、すぐに出来るじゃん。味の改良も含めて。

 

 そう思っていた。だが、この次こそが真脱狼薬シリーズの最大の難関であり、正念場である事は、その時の俺は知る由も無かったのだ。

 

 成果が出たので、今日の所はこの辺で。ニンバス2000を失った今、手元に残っているのはレッドスパークだけ。コイツを完全に手懐けなければ。次のレイブンクローとの試合で勝てなくなる。ハッフルパフに負けて、対抗杯から遠ざかっているとはいえだ。例によって、ハッフルパフのクアッフル戦法に負けている。それだけならば、完全にあの寮が1番だからな。油断は出来ない。来年以降のキーパー候補を見つけないとダメだってのをオリバーに言わないとな。

 

 雨の中での練習を終えた後、エリナと校庭で出会う。もう大丈夫なようだ。良かった良かった。来週から早速、守護霊の呪文の練習を始めるらしい。

 

「どう?動物もどき(アニメーガス)は。」

 

「うん。時々、散歩しに行ってるよ。その状態だと、吸魂鬼の影響は少ないんだ。マクゴナガル先生に感謝しなきゃ。」

 

「そっか。ちゃんと動物もどき(アニメーガス)を習得出来た褒美だ。守護霊の呪文のスペルだけ教えておくよ。『守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)』だ。」

 

守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)、だね。」

 

「おまじないみたいに言えば、少しは習得しやすくなるぜ。後、日本での出来事を思い出しながら唱えればいいと思う。」

 

「オーケー。」

 

「習得、早く出来ると良いな。ルーピン先生の特別授業、幸運を祈るぜ。」

 

 その後、クィディッチの練習に授業、2年生3人との特訓、魔法薬の新作と時間を掛けていく内に、もう学期末となった。その週末には、ホグズミードに行ける許可が出たのだ。全員が喜んだのは言うまでもない。

 

「クリスマス・ショッピングが全部あそこで済ませられるわ!」

 

 ハー子が、歓喜の声を上げている。実は、ゼロやグラントと一緒に行動する事になっている。あいつらと約束したんだよな。エリナは、スーザンとハンナ、シエル、ルインと一緒に服を見に行くそうだ。まったりしている時に、フレッドとジョージ、リー・ジョーダンが何やらコソコソやっている。ゾンコの店にでも行くつもりだろうか?

 

 そして、週末。俺は、ゼロやグラントと合流した。ダービッシュ・アンド・バングズという店に入った。そこは、魔法の機械などを扱っている。

 

「ウィーズリーさんの車を思い出すぜ。」グラントが言った。

 

「特殊過ぎる例を出すな。」ゼロがツッコんだ。

 

「これで、魔法のロボットでも作る夢を持ってみようかね?」俺が呟く。

 

 思い出やロマンを3人で語った後は、「3本の箒」という店に入った。バタービールを頼んで談笑していた。すると、ロンとハー子、別方向からエリナもやってきた。ハニーデュークスで大量の菓子を買い込んだらしい。

 

「じゃ、今学期はお疲れさまって事で……乾杯!」グラントが言う。

 

「「「「「乾杯!」」」」」俺、ロン、ハー子、ゼロ、エリナで一斉に叫んだ。

 

 お互いに乾杯し合って、バタービールをゴクゴクと飲み干す。良い気分になったぜ。20分ほど雑談していると、さらに4人入って来た。マクゴナガル先生にハグリッド、非常に小柄な老人、そして一度ハグリッドの小屋で見た事のある男だった。

 

「誰だっけ?」

 

「山高帽の方は魔法省大臣だ。もう1人は確か、レイブンクローの寮監及び呪文学の前任者、フィリウス・フリットウィック教授じゃなかったか?」

 

 その疑問に答えてくれたのは、ゼロだった。

 

 その4人は、俺達6人のいるテーブルの隣に座った。マダム・ロスメルタも加わった。飲み会みたいな事を始めた。

 

 俺は、フレッドとジョージから仕入れた伸び耳で話を聞く。まず、シリウスの話になった。この近くにいると大臣は言い張っているが、実はもうブライトン、つまりロイヤル・レインボー財団本部にいるわけだ。予めそれを教えていたエリナと密かに顔を合わせて、ニッと笑い合った。

 

 だが、状況はそこから一変する。シリウスの最大の悪行は、12人のマグルと1人の魔法使いを殺した以上の事だ、とファッジが言い始めたのだ。

 

「ブラックの学生時代を覚えていますか?ロスメルタ。」

 

 マクゴナガル先生が呟く様に言った。

 

「ジェームズ・ポッター。いつでも一緒で、まるで影と形、あるいは兄弟のようでしたわ。」

 

 ロン、ハー子、ゼロ、グラントが息を飲み、俺とエリナを見つめる。俺は無表情を貫き、エリナは複雑そうな顔をしていた。

 

 2人はイタズラの首謀者で、時々ルーピン先生やペティグリュー、アルフレッドさんも加わっていたそうだ。フレッドとジョージと良い勝負だとのこと。いや、対決どころか逆に同調しそうな気がする。

 

「ハリー・ポッターの方は、双子と違ってイタズラはしてません。しかし、何かしらの形で双子の協力者になっているようです。証拠は一切掴めておりませんが。」

 

「ポッター君もやはりその血を受け継いでいるという事でしょうな。引退の時期を1年遅くしておくべきだったでしょうか。彼やエリナ・ポッターさん、ゼロ・フィールド君も教えてみたかったですね。」

 

 フリットウィック教授の甲高い声が聞こえる。その後も話は続く。忠誠の術による秘密の守人システム、それをヴォルデモートにバラした後に大量殺人事件までの経緯が。

 

 事実を知る俺からすれば、滑稽以外の何物でもない。それと同時に、碌に捜査もしないで無実の人間を裁いた魔法省には不信感を持った。余談だが、マクゴナガル先生とハグリッドはかなり懐疑的な表情で聞いていた。

 

 エリナが今すぐにでも飛び出そうとする。俺は、袖を引っ張って行かないようにさせた。

 

「間違った事ばっかり言ってるから、本当の事を言おうとしただけなのに!」

 

 エリナは、小声だがハッキリと言った。

 

「バカ。今言ったって、頭がおかしくなったって言われて終わりに決まっているだろうが!クリスマスにシリウスの無実を証明の実行をするから、今は我慢しろ!」

 

 何とか思い留まってくれた。落ち着きを取り戻した後は、無謀な事をしようとした事に対して反省している。

 

「ごめん。ちょっと頭に血が上り過ぎちゃった。」

 

「寧ろあれで感情を抑えろっていう方が難しい。俺もあの胸糞悪い話を聞いて、八つ当たりをしそうな位だったよ。エリナ、俺の怒りを代弁しようとしてくれてありがとうな。」

 

 ギクシャクなりかけたが、すぐに関係を修復出来た。既にシリウスの話は終わったらしく、次の話題に走ろうとした。が、4人の視線が痛い。どういう事だ、説明しろって目で言ってやがる。

 

「城に戻ったらゆっくり話してやる。今はリスクが高い。」

 

「いいぜ。その代わり、ちゃんと話せよな。」グラントが言った。

 

 話を盗み聞きする。今度は、フィールド先生の話だ。フリットウィック教授は、彼こそメイナード・ポッター以来、10年に1人の逸材だと誇らしげに語った。

 

「正直、彼には闇払いの仕事を続けて欲しかったのだよ。彼のお陰で、魔法界の治安が良くなったのだからね。」

 

 ファッジすらそんな事を言っていた。

 

「学生時代の彼は、エイダ・ローガーとトップを競っていた間柄でしたな。あの2人は、良きライバル同士でした。エイダの方は、友情以上の感情を秘めているようですがね。」

 

「彼女の実家は、確かハリーを保護しているロイヤル・レインボー財団だった筈です。」

 

 フリットウィック教授が、学生時代の2人の事を思い出しながら言っていると、マクゴナガル先生が少しだけエイダ義姉さんの素性を明かした。

 

「エイダはどこに行っとるんですか?」ハグリッドが聞いた。

 

「マホウトコロです。日本にあります。この国の、ホグワーツに相当する魔法学校です。ハリーも、11歳までの4年間はあの学校に通っていました。」

 

「ハリーは、日本に行ってたのかね?ダンブルドアの目の届かない所で育ったのは、かえって危険ではないのかね?」

 

「コーネリウス。彼の保護者は、ダンブルドアを除いて例のあの人が一切敵う事の無かった数少ない魔法使いの1人、アラン・ローガーなんです。彼に保護されたのは、本当に幸運でした。まあ、ダンブルドアにはあまり良い感情を持っていませんので、ハリーも中立的且つダンブルドアに必ずしも従わない性格となりましたね。」

 

 ご丁寧にマクゴナガル先生が、他の4人にそう解説したのだ。

 

「というよりも、今の3年生は個性的過ぎる生徒が多いですわね。先生方も大変じゃないですか?」

 

 マダム・ロスメルタが囁く様に言う。

 

「ええ。そうですね。生き残った兄妹に、戦闘一族の末裔、元ギャングの見習い、マグル出身の優等生、聖28一族が沢山、その他を上げるとキリがないですね。それでも試験の平均点が、他の学年よりも高いです。それに、どれか1つの分野が上級生どころか並の魔法使いを上回っている生徒が少なからずいるのも事実ではあります。特に、ポッター兄妹とロングボトム、弟のフィールドがですよ。」

 

 マクゴナガル先生は、苦労したような表情になりながらも、どこか嬉しそうにしていた。

 

「話が変わるのですが、ミネルバ。教師としてのフォルテ・フィールド君はどうでしょうか?」

 

 フリットウィックさんが、マクゴナガル先生にそう聞いて来た。

 

「とんでもなく優秀です。3年目ですが、生徒や他の教員からの人望も厚いですよ。フィリウス。ただ、セブルスやミス・パーキンソン、闇の陣営とのかかわりがある家の子には、結構冷たいですけどね。いいえ、アレは冷たいを通り越して完全憎悪の感情で見ています。」

 

 マクゴナガル先生が溜息をつきたそうにしながら言った。そう言った者達への態度さえ改める事が出来たら、もう何も言う事は無いのに、という表情をしている。

 

「彼は学生時代、セブルスに減点された事は一切ありませんが、露骨なスリザリン贔屓をするセブルスは快く思ってないと私にしょっちゅう言ってましたからなあ。そして、フィールド家滅亡の原因にパーキンソン家が直接関わっているのも事実でしょうな。」

 

「フィリウス。何故フィールド家の滅亡の話にパーキンソン家が絡んでくるのかね。」

 

「闇の陣営からの内通者が、フィールド家に嫁ぐという形で紛れ込んでおりましてな。その者の名前は、エリザベート・パーキンソン。アルバート・フィールドの最初の妻で、フォルテ・フィールドの実の母であります。」

 

 ガタッと音がした。ゼロが動揺している。

 

「1970年代。ちょうど例のあの人が活動を始めた時期です。その時は、抵抗勢力全てを合わせた状態での100倍の勢力を誇っていました。」

 

「ちょっと待ってくれないか。20倍なら分かるが、100倍は聞いた事が無いぞ。」

 

 ファッジがフリットウィックさんにそう言う。

 

「これはあまり知られていませんかななぁ。それと前後して、20倍までに減らされたのです。」

 

「ヨーロッパの魔法族の中でも、最強と謳われた戦闘一族、フィールド家。自然物を操り、実力者の中には身体そのものを自然物に変える事が出来ます。無様に死ぬくらいなら、そして死んだ様に生きる位なら、敵を道連れにして自分も笑いながら死ぬ選択を取る事も躊躇いません。かつては、その強さを維持する為にある風習を行っていたと聞いています。」

 

 次に口を開いたのは、マクゴナガル先生だ。

 

「どんな風習ですの?」マダム・ロスメルタが恐る恐る聞く。

 

「4人以上の子供を生み、全員成人したタイミングを見計らって、1人になるまで凄惨な殺し合いをさせていたそうです。最強の遺伝子を残す為に、後継者を選定する事も兼ねて。」

 

 なんだと。フィールド家にそんな恐ろしい風習があったなんて知らないぞ。これを聞いた全員が戦慄している。大人もだ。

 

「尤も、19世紀の終わりには廃止していたそうです。ルーカス・フィールドより少し前の代で。」

 

「ルーカス・フィールド。確か、例のあの人やゲラート・グリンデルバルドよりも前の闇の魔法使い、ヴァイル・ファウストを自らの命と引き換えに倒したと呼ばれる、夢幻島戦役の英雄ですか?」

 

 マダム・ロスメルタが周囲にそう聞いて来た。

 

「はい、そうです。ゼロやフォルテは、彼の直系の子孫ですよ。ちなみにですが、ゼロのミドルネームは彼から取られているのです。話を戻しましょう。そのルーカス・フィールドのお陰もあってか、1960年代には、フィールド家はかなりの人数になったのです。次期当主の座はアルバートに決まり、彼の時はエリザベート・パーキンソンを迎え入れた。ですが、彼女は闇と通じていました。例のあの人の傘下に引き入れる為に、ひたすら情報を流したのです。」

 

 全員がマクゴナガル先生の話をじっくりと聞いている。

 

「やがて、秘密の守人となったパーキンソンはすぐに闇の陣営に伝えました。例のあの人は、フィールド家相手に一筋縄ではいかないと思ったのか、殆どの勢力を総動員して攻撃を仕掛けたのです。もし軍門に下るなら、命だけは保障すると言って。しかし、フィールド家は断固拒否したのです。結果的にフィールド家は、アルバートと1人息子のフォルテを残して滅ぼされました。しかし、その当時の闇の陣営の80%を死滅させたのです。エリザベート・パーキンソンは、行方を眩ませました。」

 

「マクゴナガル先生。それじゃゼロは誰の子ですかい?」

 

 ハグリッドが聞く。その話だと、ゼロはエリザベート・パーキンソンが母親ではないと言っているようなものだからな。

 

「ええ。その事ですが、アルバートの後妻の子です。ギルデロイ・ロックハートの、1番上の姉です。彼女自身はスクイブですが、マグルの世界では大変有名な医者だったそうです。残念ながら、7年前に末期癌で亡くなっています。」

 

 成る程。フィールド兄弟は、異母兄弟だったのか。ゼロを見るが、彼から読み取れる感情は無い。呆然としている。

 

 その後、5人は解散した。ホグズミードから帰った後に、空き教室でシリウスの真実を話した。

 

「そんな奴をベッドに寝かせていたなんて!!」

 

 ロンは、ショックを隠せない様だった。今までペットだったのが人間で、しかも友人である俺達、その両親を、変態ヘビが殺す様に仕向けた極悪人だと知ったから当然だ。

 

「クリスマスに実行する。」

 

 それに、イドゥンとエックスはもう知っていると伝えた。ハー子が何で言わなかったと攻めてきたが、あの2人は親族だから早い段階で知らせる必要があったんだ、と伝えた。それに、下手に言いふらしてペティグリューに聞かれたら、それこそ本末転倒だとも言っておいた。

 

 ゼロは、母親の事はいずれ言うつもりだったが、どのタイミングで言おうか迷った、引き伸ばして済まないと謝ってきた。イヤ、明かしたくないならそれでも良かったんだけどね。死因は乳癌で、闇の陣営の魔の手から逃れて、その後病院に行き、医師から宣告を受けた時にはもう手遅れのレベルだったそうだ。そして、父親はゼロが生まれる1週間前に数十人の死喰い人を道連れにして立ったまま壮絶な最期を遂げたそうだ。

 

 直接的な絡んでいるわけではないが、闇の陣営がしつこくフィールド家を追い詰めなければ、ゼロの母さんは生きていられたかも知れない。そう言った意味では、闇の陣営にも原因はあるってわけだな。

 

 ロンが癌って何って言ってきたので、ハー子が説明してくれた。そこはハー子に感謝だな。グラントは、男泣きをしている。

 

今回も、全員残るそうだ。あ、そう言えばロックマンXの発売日になっているから、ロイヤル・レインボー財団に頼んで買って貰おうかな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 集結の兆し

1993年12月22日。遂に、シリウスの無罪を晴らす時が来た。そして、ピーター・ペティグリューを地獄に叩き落す時も来たと言っても良い。ローガー家の皆、キット、シリウス、メリンダ、クリーチャーが暴れ柳の叫びの屋敷に一足早く向かっているとの事。

 

俺のやるべき事は、ルーピン先生の事務所に行く事だ。一足早いが、クリスマス用の2段ケーキを持って。ドアを4回ノックして、入室する。

 

「おや、ハリーかい。どうしたの?」

 

資料作成をしているようだ。しかし、俺のお手製のケーキを見て、今すぐ食べたいという風になった。そう言えばこの人、大の甘党だったよな。

 

「突然すみません。要件がいくつかありましてね。」

 

「その用件を聞いても良いかな?」

 

「はい。まずは、日頃の感謝の気持ちも込めてケーキを作って持ってきました。これをどうぞ。」

 

ケーキを机に置く。フォークも置いておいた。

 

「それでは早速……」いきなり食べようとしたので、手で制止の合図をする。

 

「ゴブレットの中身を飲んでからいくらでも食べて良いですよ。飲まないと、かなり厄介な事になります。そのトリカブトで作られた薬を。」

 

まだ手を付けていないゴブレットを指差して、さっさと飲む様に促す。かなり驚いているが、それでも俺の指示に従って飲み干してくれた。すぐに苦い顔となって、ケーキを食べ始めた。

 

「いつ私の体質に気付いたんだい?」

 

「俺を甘く見過ぎですよ。今までイーニアス義兄さんが俺に魔法薬の作り方を教えてくれましてね。その中に脱狼薬があったんです。ロイヤル・レインボー財団で経済的支援をしている、善良な人狼に提供するんだって言ってましたよ。それに該当するのがルーピン先生だって分かったのは4ヶ月も前になるわけですが。」

 

もう俺は、ルーピン先生の事情についてはイーニアス義兄さんを通して知っているからね。

 

「私に何をさせる気だい?」

 

「まさか。とんでもありませんよ。あなたの弱みに付け込んで、何かをさせるつもりは一切ありませんよ。ましてや、父様と母様が信用した俺の後見人に対してはね。」

 

ルーピン先生。いいや、リーマスは面食らった顔をしている。参ったという感じになった。俺は、ニコッと笑う。

 

「はあ。君はやっぱり、ジェームズの子だ。性格は全く違うけどね。どちらかと言えばリリーやメイナードそっくりだ。能力は、3人を足した感じだけどね。もう私が人狼という事だけではなく、君の後見人を務めている事まで知られちゃうなんて。全く恐れ入ったよ。どこで知ったのかな?」

 

「ええ。その事についてですよ。とあるルートからの情報になります。あなたを良く知る人物が言っていましたよ。その方が叫びの屋敷にいますので、一緒に暴れ柳まで来ていただけないでしょうか?」

 

さり気無く本題に入る形で頼んでみる。リーマスは、俺の言葉の意図を察したようだ。

 

「まさか。彼かいるのかい?」

 

俺はコクりと頷く。

 

「分かった。行こうか。」

 

エックス視点

先輩から叫びの屋敷に来てくれとの知らせが入った。もう、ロイヤル・レインボー財団に人たちが来ているそうだ。ウィーズリーさんやグレンジャーさんも連れて来いと言ってきたのだ。もうこの2人には、言いふらさない事を条件に真実を教えたそうだ。

 

「ウィーズリーさん、グレンジャーさん。そろそろお時間ですので、目的地まで行きましょう。」

 

「分かったわ。もうその時間なのね。」

 

「少しでも事を荒げないようにして下さいね。そしたら僕が、すぐさまあなた方を追い出しますから。本来あなた方に言うつもりは全くありませんでしたが、無理矢理先輩に真実を吐かせた以上はそれ相応の振る舞いをしてもらいますよ。」

 

「誓うよ!何もしない!ただ事実を受け入れるよ!」

 

「了解する。何度も約束したわ。絶対に守るわよ。」

 

「もうここから引き返せませんよ。それでも宜しいのですか?」

 

「覚悟の上だわ。」

 

グレンジャーさんは即答した。

 

「き、決めたよ。腹は括った。」

 

ウィーズリーさんもかなり迷ったが覚悟を決めたようだ。

 

「それでは、行きましょう。その他の人に関しては、姉ちゃんが担当してくださっております。」

 

僕は2人を連れて、暴れ柳に向かった。外は寒いので、先輩から支給されたホットドリンクを飲んで外出したんだ。体の芯まで温まるなぁ。全然寒くないや。

 

「ハリーって魔法薬が得意なのは知ってたけど、まさか自分でオリジナルを作れるレベルだったのは初めて知ったよ。」

 

「ええ。道理でスネイプが、文句もつけられない程のクオリティだったわけね。これと闇の魔術に対する防衛術に関しては上級生よりも上だし。今度教えて貰おうかしら?」

 

「やめておいた方が良いですよ。先輩って、あれで結構気難しい方なんですから。自分の作ったものは、本当に使って欲しい人にしか明かしませんからね。」

 

「何で?発明を公表すれば、名誉を貰えるのに。」

 

「グレンジャーさん。先輩は、名誉や名声の類に興味なんてありませんよ。今までダンブルドア校長からの点数や栄誉を貰っても、あまり良い顔してませんからね。」

 

「何でそんな事が分かるんだよ!君は、僕達よりもハリーと交流している期間は1年短いじゃないか!僕達の方が、ハリーを良く知っている!!」

 

ウィーズリーさんがそんな事を言ってる。

 

「僕の目標はですね。姉ちゃんや先輩みたいになりたいんです。だから、あの2人を常に観察してたんです。癖とか性格とか。尤も、僕も全てを知っているわけではありませんけどね。少なくとも、あなた方よりは分かってるつもりですから。」

 

2人を黙らせた。

 

「着きましたよ。ここで待機しましょうか。」

 

「誰を待つのよ?」

 

「すぐ分かりますって。棘のある言い方はやめてください。」

 

暴れ柳が見える位置で、止まった。ここで、姉ちゃんを待つんだ。

 

イドゥン視点

伯父上。いいえ、シリウスの無実の証明を決行する日になったわけです。すぐにグラントを叩き起こしました。

 

「グラント。グラント、起きてください。」

 

「い、伊織ちゃああん。ハア……ハア……」

 

何やら不埒な夢を見るそうですね。そして、18禁物のロリコン雑誌を手に寝ているではありませんか。制裁を与えなければ。

 

30分後。私は、早速ハッフルパフ寮に向かいました。グラントと一緒に。彼の顔が原形を留めていない程腫れているのは、気のせいなのです。ゼロが開発し、伝授された念話術を使ってエリナを呼びます。

 

「お早う。イドゥン…………ええと?」

 

エリナが寝ぼけながら談話室の入り口前まで来ました。しばらく顔の腫れたグラントを凝視しています。

 

「…………ああ。グラントなんだ。お早う。」

 

「エリナちゃん。何だよ、その間は?」

 

「気にしない気にしない。レイブンクローの談話室へ、レッツゴー!」

 

西塔の天辺まで行きます。グラントは、巨大なウミツバメに身体を変化させて、私達を乗せて一気に向かいます。

 

「着きましたね。」

 

「うん。」

 

「つ、疲れたぁ。」グラントはゆっくりしていますね。

 

『ここにレイブンクロー以外の生徒が来るとは、珍しいな。』

 

何かが喋りました。

 

「壁から声が出た!」エリナが叫んでいます。

 

『私は、レイブンクローの談話室の守番だ。入りたくば、私の出す問題に答えるがよい。』

 

「合言葉じゃないんだ。」

 

『私の問題に答えられないような無能は、レイブンクローには要らんわ。』

 

「口悪いし、態度も大きいですね。」

 

『黙れ。蛇の小娘が。ここでは私がルールであり、神なのだ。』

 

面倒臭いのが現れましたわね。

 

『それでは問題!チョメチョメとチョメチョメとチョメチョメ。掛け合わせると何になる?』

 

いきなり訳の分からない問題を出してきましたわね。こんなのをいつもレイブンクローの生徒は解いているのですか。苦労しますわね。

 

「はい!!」手を挙げたのはエリナですか。

 

「では君。答えを言ってみなさい。」

 

「8チョメでーす!!!」

 

え?いくらなんでもそれは無いのでは?

 

『正解!!』

 

は?これは一体、どういう事ですの?

 

『チョメチョメで2チョメ。2×2×2で8。そこにチョメを組み込めば答えになるのだ。』

 

はあ。何か疲れましたね。少し頭を使おうとした自分がバカっぽくなりましたわ。

 

『では、通って良し。』

 

壁が開き、談話室に通じる道が見えました。広いですね。

 

「ゼロー!迎えに来たよー!!!」

 

エリナが元気よく呼びかけます。すると、ゼロが下りてきました。何故か覇気の無い顔となっていますが、どうしたのでしょうか?それでも、エリナを見て少し頬を赤らめていますけど。開心術で探ろうにも、入り込めないようですね。

 

「迎えに来てくれたのか。ありがとな。」

 

ゼロは、僅かに笑みを見せました。それでも、無理にそうしているのは分かります。

 

「ゼロ。やっぱりあのやり取りの事を引きずってるのか?」

 

「ああ。俺はどうあるべきで、どうすべきなのか分からない。見た事も無い一族の悲劇を悲しめば良いのか、パーキンソンを憎めば良いのか。正直分からない。」

 

「無理に答えは出さなくて良いと思うよ。割り切ったり、乗り越えたりするのは難しいからね。」

 

「たまにはストレス発散した方が良いぜ!行こう!」

 

「スマン。ありがとう。」

 

ゼロも加わって、外出します。暴れ柳が見えるところで、エックスにウィーズリー、ハーマイオニーの姿が見えました。

 

「姉ちゃーん!おーい!」エックスが手を振っていますね。

 

「早かったですね。ハリーはどうしましたか?」

 

「ルーピン先生と一緒に来るって。先に行って欲しいって言ってたんだよ。」

 

「そうですか。そろそろロイヤル・レインボー財団の方々が来ますわね。行きましょう。」

 

こうして私達は、叫びの屋敷へと向かって行ったのです。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 おさらい

エリナ視点

ボクにゼロ、グラント、イドゥン、エックス君、ロン、ハーミーの7人で叫びの屋敷に行く。暴れ柳は、ボクを見た瞬間に暴れるのをやめたんだ。

 

「もう何もツッコまないわよ。」ハーミーがそんな事を言っている。

 

叫びの屋敷に入る。そこには、アランさんにエイダさん、イーニアスさん、アドレーさん、キットさん、メリンダさんにクリーチャーがいた。メリンダさんの隣には、黒い犬がいる。黒い犬はボクに近付いて、撫でて貰いたそうにしている。キットさんは、空き瓶に入っているネズミを弄んでいる。

 

「お久しぶりです!」

 

「エリナちゃんか。どうだった?」アドレーさんが聞く。

 

「クィディッチでハリーに負けちゃったのはかなりショックでしたけど、それでも毎日が楽しいです!充実してます!」

 

「そうか。良かった。」普段笑う所を見せないイーニアスさんも微笑んでいる。

 

「学校生活が楽しそうで何よりです。」メリンダさんも言った。

 

「エリナ。この人達は?」ロンが聞いて来た。

 

「この人達、ロイヤル・レインボー財団だよ!それに、メリンダさんは魔法使いだけどロンドン警視庁の刑事さんなんだ!」

 

「兄さんが言ってた同期の人の実家がここなのか。そう言えば、ハリーはこの財団に所属してるんだっけな。それにしても、ロンドン警視庁とは。」

 

ゼロは、全てが繋がったという表情をしていた。

 

「ロイヤル・レインボー財団ですって!?」

 

いきなりハーミーが大きな声を出す。

 

「知っているのですか?ハーマイオニー。」

 

「ええ。英国魔法界以外では、知らない方がおかしいと言われるほどの知名度を持っているのよ。全世界に多大な影響を与えている団体なの。医療や歴史、新技術等を中心に、あらゆる分野に力を入れているわ。」

 

ロイヤル・レインボー財団の凄さに言葉も出ない一同。

 

「ハリーが妙な発明品をいつも持ってるのは、その団体で作られたものを最初に送って貰ってるからなのか。あいつ、凄過ぎだぜ。」

 

グラントが納得している。

 

「ハリーの保護者は私だ。皆、どうぞよろしく。」

 

アランさんが気さくに挨拶した。その後にそれぞれ自己紹介をした。それが終わった後に、ドアが開いた。入って来たのは、ケーキを貪り食べているルーピン先生と、私服の上にブローチの付いた灰色のマントを羽織っているハリーだった。

 

「皆。待たせたね。それにしても早いな。」

 

「今度また作ってくれないかな?」

 

「いくらでも作りますよ。」

 

「リーマス先輩。そのケーキは……」メリンダさんが問いかける。

 

「ハリーが日頃の感謝として作ってくれたんだ。この美味しさなら、お金を払っても良い位のね。」

 

「彼の料理の腕前は、折り紙付きですからね。」エイダさんが言った。

 

「そうですか。それでは、話を始めましょうか。」

 

ハリー視点

エイダ義姉さんが義祖父ちゃんに目線を送る。義祖父ちゃんは頷いて、捜査資料を広げる。

 

「じゃあ、これまでのおさらいをしようか。その前にだが、シリウス。戻ってくれ。」

 

義祖父ちゃんの言葉を受け、黒い犬が人の姿になった。

 

「シリウス・ブラック!」ロンが騒ぐ。エックスに杖を向けられて、すぐ黙ったけど。

 

「言った筈です。事を荒げるならば出て行けと。」冷たい声でロンに言った。

 

一方のシリウス。リーマスやメリンダと会話している。最初は再会を喜んでいたが、次第に突っ走った事に対しての説教を2人から受けていた。シリウスの謝罪で済んだけどね。それでも、彼が捨てられた子犬の様にしょげかえったのは言うまでもない。

 

話はそれ位にして、今までの状況を整理する。まずは、スキャバーズは唯のネズミではなく、正体は死んだ筈のピーター・ペティグリューである。最初にこれをハー子に教えた時、20世紀の動物もどき(アニメーガス)の一覧にはいない事を指摘されたっけ。非合法が5人もいた事を教えてやったけどな。

 

動物もどき(アニメーガス)になったきっかけも教えた。リーマスが人狼である事が関係しているのだ。少しでもその負担を和らげようと、3人の親友と2人の後輩はその力を習得したのだ。

 

「全員が変身出来る様になったから、夜になってから叫びの屋敷を出て、校庭や村を散策する様になった。その全てを集約させたのが、忍びの地図だ。」

 

「フレッドとジョージが持ってるアレか。」

 

「そう言えばハリーも似たようなもの持ってなかったっけ?」

 

エリナが口を開いた。

 

冒険者の地図(アーダチェス・マップ)だな。あれは、未知の場所も常に更新していくけどね。というか、その話は後にして、さっさと本題に入っちゃいましょうよ。」

 

リーマスとシリウス、メリンダに早く話す様に促す。そこでハー子が割り込んできた。

 

「それでも危険だったわ!もし人狼が皆を撒いて襲い掛かったら、どう責任を取るつもりだったのよ!」

 

「それを思ったら、今でもゾッとするさ。そうなりかけた事が何度もあったんだ。笑い話にしてたけど、今は後悔してるよ。学生時代はね。心のどこかで、対策を講じてくれてまで入学させてくださったダンブルドアの信頼を裏切る事に罪悪感を感じていたよ。それでも、冒険の計画をする度に罪の意識を逃れたんだ。」

 

自己嫌悪の響きがあった。

 

「ダンブルドアにシリウスが動物もどき(アニメーガス)かどうか伝えようか迷ってた。言わなかったのは、私が臆病者だからだ。そして、12年前のハロウィーンに起こったポッター家襲撃事件後の、ハリーに降りかかった出来事もあったからだよ。怖かったんだ。信頼を裏切り、他の皆を引きずり込んだことを認める事になる。大人になっても、ロイヤル・レインボー財団の支援があったとはいえ、まともな仕事に就けない私に教師としての仕事を与えてくださった。それについては感謝しているけど、ダンブルドアを絶対的な存在だとも思えなくなった。だけど、教職を得てエリナと、私の名付け子であるハリーと12年ぶりに出会えたんだ。」

 

その最後の言葉を言い終えた瞬間、俺はあらゆる方向からの視線を浴びる事になった。ロン、ハー子、ゼロ、グラントの4人だけだが。

 

「え?」ロンの頭がフリーズしている。

 

「「「「えーーーー!!!!!」」」」4人が大声を上げながら驚いている。

 

「おい!そんな話聞いてねえぞ!」ゼロが俺の胸倉を掴みながら言った。

 

「どうなってんだよ!!ポッター家って!!エリナは犯罪の疑いが掛かっている人で!!ハリーは狼人間が名付け親なんて!!正気の沙汰じゃない!!!」

 

ロンは今にも現実逃避したそうにしている。ハー子とグラントは動揺している。

 

「お前らのリアクションに何か言う気力も無いから、さっさとやっちゃおうよ。」

 

俺は、全員に提案する。話が脱線しかけていたので、戻す事に決めた。

 

「ルーピン先生。話の続きを。」

 

「分かったよ…………だからこの1年、正確には4ヶ月だけどね。ある意味裏切っているような感じで過ごしてきたんだ。強ち、セブルスの言ってる事も間違ってなかったってわけだ。」

 

「おいリーマス。」シリウスが鋭い声で聞いた。

 

「スネイプって……」メリンダも嫌悪の表情を募らせる。

 

「あの泣きみそと何の関係があるんだ。」

 

「シリウス、メリンダ。彼もここにいるんだ。魔法薬学を教えている。」

 

「今まで人殺しを散々行っておいて教師ですって!?あのごく潰し、よくもぬけぬけと!!!あの狸は何を考えているの!?」

 

ん?ここに近付いてくる魔力が1つあるな。この周りをイラつかせるような、クソッタレの魔力が。思念術で、義祖父ちゃんに視線を送る。

 

『ここに近付いて来る奴がいる。』

 

『誰か分かるか?』

 

『俺の予想が正しければ、恐らくスネイプだよ。』

 

その言葉を発した瞬間、義祖父ちゃんの顔が一瞬だけ強張った。が、すぐに冷静な表情になった。取り敢えず、様子見という事になった。

 

「先生。あの人っていつもハリーを……もっと言っちゃうとパパの事を酷く嫌っているみたいです。パパは何かしたかもしれないけど、どうして何もしてないハリーまで嫌われなきゃいけないんですか?」

 

「最近は嫌いというより、どこかハリーを恐れているみたいですよ、エリナ。セブルスが何をしたか分かりませんが、彼から尋常ではない憎悪の視線を向けられています。まるで、何か大切なものを奪われた復讐鬼のように。」

 

「イドゥン。それって本当なの?」

 

「ええ。私達姉弟とのある関係性を指摘してから、それを明かしてくれました。その話はまた後日という事で。ルーピン先生、エリナの疑問に答えてあげてくださいませんか?」

 

「そうだね。目的を忘れちゃいけない。エリナの疑問に答えよう。それはね、そこの犬の仕掛けた悪戯で、危うくスネイプ先生が死にかけたんだ。」

 

「当然の報いさ。」シリウスがせせら笑った。

 

「コソコソ嗅ぎ回って、俺達の弱みを握って退学に追い込みたかったのさ。」

 

シリウスが嘲るような声で言った。悪戯に関しては同意出来んがな。

 

「だからと言って、この叫びの屋敷に誘う事はあってはならない事ですがね。そこは反省して下さいよ。」

 

メリンダが、先程とは一変して毅然とした態度でシリウスを窘めた。その点を突かれてしまい、シリウスは不貞腐れている。

 

「ジェームズはね。ハリー。そしてエリナ。どんなにセブルスを嫌っていたとしても、シリウスのやらかした事を聞いて自らの危険を顧みずに救出しに行ったんだ。」

 

「まるで、本当に危うい状況に陥ったマルフォイを、利害や私情関係無く助けるハリーみたいじゃないですか。」

 

ゼロが呟いた。

 

「実際引き戻せた。だけど、私が変身するところを見てしまったんだ。」

 

「だからスネイプ先生は、ルーピン先生とハリーが嫌いだったわけか。フィールド先生のパグ犬への態度に道理でそっくりだったしよぉ。なあ、ゼロ。」

 

「ああ。これで今までの謎が解けたわけだ。全く下らねえな。20年前の確執を、まだ掘り起こそうとしてるかよ。兄さんでさえ、俺にはそこまで強要しなかったのに。」

 

ゼロが嫌悪感丸出しで、スネイプをボロクソに叩いた。

 

「ま、本人も密かに盗み聞きしているみたいだし、さっさと出て来てもらおうかな。」

 

「ハリー。スネイプがいるっていうのか?」

 

「そうだよシリウス。叫びの屋敷の話の辺りから扉の向こう側で聞いてる。本当にスネイプ教授って、タイミングの悪さに関しては天下一品なんだ。多分、オリンピックで金メダルが取れるよ。それを別の方向に生かそうっていう発想が無い位にね。」

 

バーン!扉が乱暴に開いた。セブルス・スネイプが、怒りの形相で入って来たのだ。

 

「ポッター。黙って我輩が聞いていれば好き勝手に言いおって。グリフィンドール、5点減点。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 暴かれた裏切り者

スネイプが俺に減点を言い渡した。寮対抗杯に興味の無い俺からすれば、痛くも痒くも無いけどな。

 

「今夜、アズカバンに3人の囚人が新たに追加されるわけだ。1人は逆戻りなわけだがな。」

 

「セブルス。君は、ピーターの話を聞いていないからそんな事が言えるんだ。」

 

「死喰い人は、どこまで行っても死喰い人って事ですね。」

 

「黙ってろ。この内通者め。そしてハルフォード。見損なったぞ。マグルの警察組織に所属していながら、こんな犯罪者を庇うとは!」

 

「どうとでも言いなさい。この、死にたくないだけの臆病者!自分が正しい事をしていると信じて疑わない、最もドス黒い悪魔!ジェームズ先輩やリリー先輩を死に追いやる様な真似を平気でしておいて、何を言っているのかしらね!」

 

悪戯仕掛人の中で、最もスネイプを嫌っているのはメリンダだって事が良く分かったよ。父様やシリウスがまだ、生易しいんじゃないのと感じる位には。

 

「愚かだな、スニベリー。碌に真実を知ろうとしないとは、お前の昔からの悪い癖だ。そもそもお前、ダンブルドアに寝返るまでに、一体どれだけの悪行を犯したと思っている!?」

 

シリウスは、スネイプに皮肉を言った。

 

「黙れ黙れ黙れ!!!」

 

「黙ってやるよ。話しを素直に聞くならな。」

 

「その必要はない。ここに吸魂鬼を呼んでやる。そして……嬉しさの余り、貴様にキスを施すかもしれんしな。」

 

ロイヤル・レインボー財団がいるから無理なんだけどな。義祖父ちゃんは、スネイプに対して憎悪を込めた目をしている。だが、スネイプはシリウスとリーマスをようやく破滅に追いやれるという歓喜の余りに、それに全く気付いていない。

 

「あなたに一生縁の無い行為を?笑わせるわね。」

 

身の程を弁えないスネイプにメリンダが嘲笑いながらそう言った。流石に実力行使をする事は無いだろうけどさ。だが、奴は感情的になる余り、ローガー家やキットの存在を忘れているんだ。

 

「黙れハルフォード!」

 

「メリンダさん。どうしてスネイプ先生を挑発するんだろう?それじゃ、火に油を注ぐだけなのに。」

 

エリナが俺に言ってきた。

 

「迂闊に手は出せないだろうさ。それをやったら、ロイヤル・レインボー財団の報復を食らう事になるんだからね。」

 

「まあそうだけど。」

 

「セブルス。話くらいは聞いてあげましょう。この3人の話は筋が通っておりますよ。判断するのであれば、それからでも遅くありませんわ。」

 

イドゥンが前に出て、スネイプを説得する。シリウスとリーマスとメリンダを指差して。

 

「イドゥン。我輩がここに来なかったら、君は死んでいたのかもしれないんだぞ。少しは我輩のいう事を聞いていただきたいものですな。」

 

「私の人生は、私が決めるのです。あなたに指図される筋合いは、ありませんわよ?」

 

「昔の復讐を完遂する為に、罪の無い者を破滅させる……か。ま、気持ちは分からなくもないがな。」

 

俺がボソッと小さな声で言った。だが、スネイプはそれが聞こえたのか、俺の方に向き直った。そして、俺の胸倉を掴み、床に叩き付けた。多分、額から血が出ているだろうな。ズキズキするし。ハー子は悲鳴を上げている。メリンダは、デザートイーグルをスネイプに向けている。

 

「『気持ちは分からなくもない』だと?……その態度は何だ!!その見下したような態度は!!!そして……その憐れむような視線は!!!!!我輩は今、お前のその首を助けてやったというのに!お前は、我輩に対して復讐心を今すぐ捨て、這いつくばって感謝して然るべき…………」

 

スネイプの言葉は続かなかった。気付いた時には、スネイプは俺から見て右方向に倒れるようになっていたのだから。皆は最初、何が起こったか分からなかった。俺から見て左に義祖父ちゃんがいた。一体何をされたらそうなるのか分からない程に激昂している。俺達ホグワーツの生徒のみならず、キットや義兄さんや義姉さん達もここまで激怒したところを見るのは初めてのようだ。

 

「ガハッ!」額から出血をしながらも、何とか意識はあるようだ。

 

義祖父ちゃんはスネイプの近くまで来て、彼の腹部を踏みつけた。そのまま足でスネイプを押さえつける。

 

「……!?アラン……ローガー…………」

 

「どの面下げて私の所にやってきた?昔、私の息子夫婦をヴォルデモートの命令で見せしめで殺しておいて!!!」

 

「!!?」スネイプがかなり動揺している。そして一気に青ざめた。本当みたいだな。

 

「さっきから聞いていれば、自分の所業を棚に上げて!そして何より、私の家族を傷つけて!!今回という今回は許さん…………許さんぞ!!!貴様などこうしてやる!!!」

 

義祖父ちゃんは、スネイプを魔法で吹っ飛ばした。

 

「我輩とて、先程のポッターに対する行動は感情的になる余りに頭に血が上り過ぎたことは認めます!!正直、冷静になったら軽率だったと思っております!しかし、今はこれまで犯した所業への贖罪の為に行動しているのは事実です!本当なのです!誓っても良い!!どうか、どうか信じてください!お願いします!あなたの息子夫婦を殺した事は、本当に申し訳無く思っております!!どうか……どうか……騙されたと思って我輩を信じて下さい!!!この通り!!!」

 

俺の時とは一転して、ひたすらスネイプは義祖父ちゃんに許しを請っていた。頭を床に叩き付けて、土下座までしている。スネイプの奴も、他の死喰い人と同じくロイヤル・レインボー財団のブラックリスト入りしてたのか。ご苦労な事だな、スネイプよ。実質、世界そのものを敵に回しちゃってるんだから。しかし、このスネイプの行動は、義祖父ちゃんの逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「貴様など信じられるか!!ダンブルドアの庇護さえなければ、貴様などとっくに潰していたのだからな!私は、あの狸には失望したのだよ!貴様の様な犯罪者を匿った事を!アルフレッドを貴様の仲間が殺して、その復讐を止めさせたのだからな!!!」

 

さっきの事について聞こうと思ったが、義祖父ちゃんの怒りが並大抵の物ではなく、それを素直に教えてくれる程の状況ではないのでやめた。尤も、聞き出すのは無理そうだから本人の口から出るまで待つしかないのだ。

 

スネイプは、その気になれば反撃する事も出来る筈。なのに、一向に反撃する気配がない。義祖父ちゃんに本気で蹴られ続けている。

 

その事に対しての罪悪感があるのか、それとも怒らせてはいけない人物に反論しても余計に怒りを買う事が目に見えているからなのか、はたまた義祖父ちゃんを恐れているのか。現にスネイプは、全身をガタガタと震わせている。そして、今にも泣きそうになってもいた。

 

「流石にマズいですね。」エイダ義姉さんが口を開く。

 

「エイダ、イーニアス、アドレー。ジジイの行ってる事が本当に本当かは知らねえ。けどよ、とにかく今はジジイを止めようぜ。あのスネイプって野郎、このままだと本当に死ぬぞ。」

 

「ハリー!早くアランさんを止めようよ!アランさん、本当にスネイプ先生を殺しちゃうよ!!!」

 

「正直スネイプを助けるは癪だがな。だけどそれ以上に、あんなクズ野郎の為に義祖父ちゃんを犯罪者にするのはもっとイヤだな。俺は義祖父ちゃんに、いつも何かして貰ってばかりで、まだ何の恩も返せていないんだ。だからエリナ。協力を頼めるか?」

 

「もちろん!!」

 

俺とエリナの2人で、義祖父ちゃんに杖を向ける。

 

「「麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」」

 

義祖父ちゃんには申し訳ないと思いつつも、失神させた。義祖父ちゃんは、その場に倒れる。

 

「ナイスだよ、ハリー。後は任せてね。キット、兄上、姉上、やりましょう。」

 

「「「「縛れ(インカーセラス)!」」」」

 

4人一斉に義祖父ちゃんを縛り上げた。

 

「ジジイ。悪く思うなよ。ピーター・ペティグリューを逃すわけにはいかねえからな。」

 

キットが義祖父ちゃんを安全な場所に寝かせる。イーニアス義兄さんは、スネイプの所に駆け寄り、何かを飲ませた。そして、魔封石で作られた手錠をかけた。ついでに杖も没収されたスネイプ。

 

「これは一体何の真似だ?イーニアスよ。」

 

「睨まないでいただきたいですね。今、あなた(スネイプ教授)に動かれると、こちらの目標が達成出来ませんのでね。これ以上、財団を怒らせない方が身の為ですよ。あなたが、ハリーに対して逆贔屓している事を差し引いてもね。」

 

何とか外そうともがくスネイプ。だが、何故か力が抜けていくような感覚に襲われ、手錠を外せなかった。

 

ようやく本題に入った。シリウス、リーマス、エイダ義姉さん、イーニアス義兄さん、アドレー義兄さん、キットの6人で『呪文よ終われ(フィニート・インカンターテム)』を外から出したネズミに対して使った。ネズミは人間の姿になった。小柄な男だ。流石に130センチ後半のエリナよりは高いが、俺にハー子、イドゥンと同じくらいだ。ゼロより僅かに、グラントとロンよりは明らかに小さい。

 

それ以外の特徴は、鼻が尖っていて、どことなくネズミに似ている。瞳の色は薄い。髪はくすんだ茶色でクシャクシャしている。更に頭頂部は広く禿げている。

 

「ピーター……ペティグリュー。」スネイプが信じられないという表情で口を開いた。

 

「やあ、ピーター。」ルーピン先生が朗らかな声で旧友の名を呼んだ。

 

「久しぶりじゃないか。12年になるか。少し痩せたかな?」

 

「そして、随分と禿げましたね。ピーター先輩?」

 

「あ、あぁ…………やぁ。シ、シリウス……リーマス……メリンダ……友よ……懐かしの友よ!」

 

その言葉が言い終わった瞬間、ペティグリューは逃亡を図ろうとするが、キットに阻止された。そもそも、この人数から逃げる、ましてや世界に通用する実力者から逃げようなんて無謀にも程があるんだ。キットは、ペティグリューを魔封石の鎖で縛った。ペティグリューは、力が抜けたように座り込んだ。

 

「無駄だ。魔力を持った者を無効化するこの魔封石から作られた鎖から逃げる事は出来ねえのさ。諦めな。」

 

キットが冷たくそう言い放った。シリウスにいつでも良いぜと言う視線を送った。

 

「ジェームズとリリーが死んだ12年前のハロウィーンの夜に何があったのか、今おさらいしてた所なんだよ。たっぷり戯言を聞いてやろうじゃないか!仕置きはその後じっくりやってやる!」

 

「ひいいいいい!リーマス!メリンダ!助けておくれよ!僕はただ、この殺人鬼に追い詰められたんだ!命辛々、今日まで逃げてきたんだ!!」

 

シリウスを指差すペティグリュー。人差し指が無くなっているので、中指で指している。

 

「この1ヶ月は捕まってたけどな。」キットが面白おかしそうに訂正した。

 

「ふざけるなピーター!!不死鳥の騎士団をスパイしてたのも、秘密の守人になったのも君だ!今思えば忘れていた。君はいつだって強い者の味方で!自分にとって都合の良い奴について回る事を!何て俺は愚かだったんだ!!!」

 

暗い底知れない目でペティグリューを見つめるシリウス。その顔は、骸骨のような形相となっている。

 

「ジェームズはそれを褒めていたけどな!ヴォルデモートに寝返った時に、我々の裏をかくことが出来て得意気になっていたんだろう!」

 

「ぼ、僕には何が何だか……さっぱり…………」

 

「ピーター。君が本当に無実なら、何故12年もネズミの状態で過ごしていたのか理解に苦しむよ。」

 

「ですが、これだけは言えます。ピーター先輩、あなたが死喰い人に堕ちたのは、私達5人にも原因があるって事をですね。」

 

「2人共!心優しい君達なら分かってくれるはずだと信じていたよ!」

 

ペティグリューが目を輝かせる。

 

「後の死喰い人になるグループの連中が、善良な生徒に使う性質(タチ)の悪い呪いを探らせる為、スリザリン寮に私達5人は君を送り込んだ。私達の役に立って嬉しいと思う同時に、不満も段々募ってきたのだろうね。その感情が高まっていく内に、闇の魔術に惹かれていったんだ。」

 

リーマスは、淡々と自分なりの考察を述べていく。汗が出ていて、目がウロウロしているペティグリュー。

 

「僕は……その…………ただ…………」

 

「なあ。ルーピン先生。あとブラックさんにハルフォードさん。取り込み中申し訳ねえ。1つ質問したいんだけどよぉ。良いかな?」

 

グラントが口を開いた。

 

「グラント、どうしたいんだい?」ルーピン先生が返事をする。

 

「このネズミ男よぉ。本当にお辞儀ハゲの舎弟ならさぁ、この2、3年ハリーと一緒の部屋だったのに、全く手出しをしなかったんだぜぇ。もっと言えば、エリナちゃんのいるハッフルパフの談話室に入ろうと思えばいつでも出来た筈だからよぉ。何で2人に危害を加えようとしなかったんだよ?でもなぁ、エリナちゃんは兎も角ハリーには返り討ちにされるかも知れねえけどよぉ。それを差し引いてもそこんとこ、俺は全く分かんなくて。」

 

ん?そう言えばそうか。何でだろ?

 

「ダンブルドアの睨みが効いているホグワーツでは、リスクが高いからじゃないかしら?幾らなんでも無謀過ぎるわよ。それに、特にハリーに危害を加えようものならロイヤル・レインボー財団からの報復が来るだろうし。」

 

ハー子が考察する。

 

「ありがとう!」ペティグリューがハー子とグラントに礼を言った。

 

「そこの2人の言う通りだ!そうだ!僕はハリーやエリナに髪の毛一本傷つけていない!そんな事をする理由なんて無いんだ!」

 

「そう言えばアンタ。ネズミの時に、正確には2年前の始業式の日のホグワーツ特急で、エリナの太ももにスリスリしたり、胸のぱふぱふを体感してなかったか?」

 

ゼロが衝撃の爆弾発言を投下した。何もされてないどころか、既にセクハラの被害を受けていたエリナであった。エリナ以外の女性陣は侮蔑を込めた視線をペティグリューに送り、メリンダに至ってはどこからともなくRPG-7を取り出してペティグリューに向けている。「Kill you」と呟きながら。俺とゼロ以外の男性陣はドン引きしていた。

 

「そ、そんな……」エリナは、ショックの余り気を失ってしまった。

 

床に倒れそうになったのを俺が受け止めた。近くのベッドに寝かせてあげた。何回も話し合いをして殺さないと決めたけど、もう許さねえ。口寄せ呪文で凶嵐を取り出す。

 

俺は、右手に妖刀を持ってペティグリューに近付こうとする。しかし、エックスに邪魔された。

 

「先輩!今は落ち着いて下さい!!」

 

「離せエックス!ペティグリューのクソ野郎をぶった切ってやるんだ!!!じゃなきゃ、俺の気が済まねえ!!」

 

「殺したら、シリウス伯父さんの無実を証明出来なくなりますよ!だ、誰でも良いので先輩を抑えるの手伝ってくださいよ!!」

 

そんなわけで俺はエックス、ゼロ、グラント、キット、アドレー義兄さんに羽交い絞めにされて床に抑え付けられたのであった。

 

「そこまでやりますか?」イドゥンが、俺を抑え付けている5人に聞いて来た。

 

「今のハリーには、ここまでしないと抑え付けられないんだよ。」

 

キットが気さくに答える。イドゥンはその瞬間、顔が赤くなりながらキットから顔を逸らしてしまった。

 

「ほぉー。その話、後でじっくり聞こうかな。……なあ、ピーター。」

 

シリウスが腕の骨をポキポキ鳴らしながら、笑顔でペティグリューにそう言ったのだ。その笑顔が逆に怖い。そして、スネイプはペティグリューに憎悪の視線を送っている。あれは、殺してやるという目をしていたのだ。

 

「ぼ、僕だって雄だもの、分かっておくれよ。」

 

何だよ、その言い訳は。もう少しマシなものにしてくれ。

 

「まあ良い。君が…………いいや。お前が2人を傷つけなかった理由を教えてやろうか。」

 

シリウスが言った。

 

「お前がどうしてハリーとエリナに手を出さなかったのか。簡単な事だ!お前は、自分が得する事以外は絶対に何もしない奴だからだ!何処で何をしているのか分からないヴォルデモートの為に、ダンブルドアのお膝元のホグワーツで、お前が殺人なんて出来るか!?」

 

ペティグリューは、口パクパクを何度もしている。

 

「お前を恨んでる奴はアズカバンに相当いたからな!!俺から逃げたのではなく、お仲間の死喰い人からの報復を恐れていたんだ!自分の齎した情報で破滅したご主人様の落とし前を付けさせられるから、怖くて怖くて仕方なかったんだ!!!」

 

シリウスが怒鳴り声をあげる。その時、誰かがシリウスに話しかけてきた。

 

「ブラックさん。この男がロンの家に紛れていたのは、いつでも情報を聞けるようにする為なのですか?死の飛翔が力を取り戻したタイミングを見計らって、いつでも戻れる準備をしていたって事なのですか?」

 

ゼロが自分なりの考察をシリウスに言った。

 

「賢いな、君は。俺の言いたい事の残りを言ってしまって。」

 

「別に。ハリーとエリナが狙われるならば、他人事ではすみませんからね。大人達の下らない事情で、俺の友人が危険に晒されるのは許容出来ませんよ…………話を戻しましょうか。どうやってペティグリューの存在を知ったのですか?ハリーとエリナの2人から説明を聞いても、そこだけは聞くのすっかり忘れてましたので。」

 

「ゼロの言うとおりだ。シリウス、どうやって知ったんだい?」

 

シリウスは、夏の時期の日刊予見者新聞を皆に見せた。

 

「エジプト旅行の時の記事じゃないか!」ロンが叫ぶ。

 

「そう。今年の夏の新聞だ。ピーターが写ってるのが見えたんだ。指の欠けたネズミを。ファッジがアズカバンに来た時に、読み終わったから貰ったんだ。」

 

「そういう事だったんですか。」

 

「成る程。これで、その疑問が解けたわけだ。」

 

俺も話し合いに加勢した。床に抑え付けられながらだったので、何かシュールだと後で皆から言われた俺であった。

 

「落ち着いたか?」ゼロが聞いて来た。

 

「ああ。頭が冷えた。許さねえけどな。いつか叩き切ってやる。」

 

「お前、兄さんから人を導く剣の修行やってる癖に、生粋の人斬りな所は相変わらずなんだな。」

 

そんなわけで解放された。刀は没収されたけど。それと同時に「う~ん。」という声がした。エリナも起きたようだ。だが、ペティグリューに対しては怯えた目で見つめていた。

 

「さっきのやり取りを聞くと、ペティグリューは抜け目の無い一面を持ってるって事か。少しでも変態ヘビが力を取り戻したと分かった瞬間、俺達2人を、特にエリナの首を差し出して戻る魂胆だろうな。」

 

そう言って俺は、ペティグリューに視線を移す。何で分かったんだという表情をしているから、これは本当なんだろうな。

 

「今まで腰巾着として生きて来た人間の考えそうな事ですわね。」

 

イドゥンも同じ考えのようだ。最低という視線を、ペティグリューに送っている。

 

「だが、そのやり方で戻っても死の飛翔からの怒りは買う羽目になるな。」ゼロが呟く。

 

「どうしてなの?」ハー子が聞いて来た。

 

「そうか。ロンとハーマイオニー、それに大人組は秘密の部屋の事を詳しく知らなかったんだっけな。去年の、日記が本体のリドルを見ると、エリナを自分の手で殺したいと思っていたんだ。あいつは。ハリーに関しては、ついでに出来るんだったらといった感じだけどな。」

 

「フィールドさんと同意見ですよ、僕も。仮に戻って来ても、良くて捨て駒として扱われるか、最悪用済みで始末されるのは目に見えていますからね。僕がプリンアラモードだったら、裏切り者なんて即座に抹殺しますよ。」

 

エックスも続いた。リーマス、シリウス、スネイプの3人は変態ヘビとか、プリンアラモードとか、こいつら何を言ってるんだという顔をしている。

 

「えっと。シリウスにルーピン先生、スネイプ先生に説明しますわ。皆のヴォルデモートの、闇の帝王の呼び方の事ですから。」

 

イドゥンの言葉を聴いて3人共、何とも言えない顔になった。

 

俺は自分で考える。答えを出さなければ。ペティグリューをどうするのかを。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 膨れ上がった憎悪

エリナ視点

ボクが倒れていた時のやり取りをエイダさんから聞いた。ちなみにだけど、監視付きの条件でスネイプ先生は自由になっていた。話を戻すけど、もう真実を知っている以上、シリウスを信じないっていう選択肢はボクの中には存在しないんだ。だから、大きな声で宣言する。

 

「ボクは、シリウスを信じているよ。もう1ヶ月前に答えを出したからね!」

 

「そんな!…………あ、ああ、シリウス。助けてくれ!君の友達だったじゃないか!」

 

シリウスのローブに触ろうとするペティグリュー。しかし、シリウスが蹴飛ばそうとしてきたので、思わず後退りした。

 

「触るな。俺のローブは充分に汚れた。これ以上お前に汚されるのはゴメンだね。返り血以外はな。」

 

「リーマス!」ペティグリューは、今度はルーピン先生の方に駆け寄って来た。

 

「闇の帝王の恐ろしさを君は知らないんだ。だ、だ、だから僕は無理矢理……」

 

「悪いがピーター。ヴォルデモートの恐ろしさは私も良く知っている。ジェームズやリリー、シリウスもね。そしてメイナードも。私の同族がいるから、こっちに来いと何度も奴に詰め寄られたんだよ。でもジェームズは、何度も奴に真っ向から杖を持って立ち向かったんだ。私の心を救ってくれた彼らをどうして裏切る事が出来るんだろうって思った。だから私は……君のその神経が理解出来ないね。」

 

ルーピン先生が冷たく言い放った。

 

「メリンダ!君は、マグルの世界で警察をやっているんだろう?それなら、シリウス達のやろうとしている事は法律に反している。お願いだ。助けてくれ。」

 

「私は殺さないわよ。でも、あなたをどうするかなんてシリウス先輩が決める事。だから、助けるつもりも無いわ。」

 

事務的な口調でそう返すメリンダさん。

 

その後、エイダさんにイーニアスさん、アドレーさん、キットさんの所へ行った。

 

「ロイヤル・レインボー財団の皆様。僕は、闇の陣営に関する情報を持ってます!助けてくれたなら、幾らでも情報は提供いたします。」

 

「あなたなど、殺す価値もありませんよ。」

 

「どこまでも生にしがみ付くとは。哀れな男だ。」

 

「既に、とある手段で闇の陣営にいた連中の動きなんて完全に把握しているのにも関わらず、まだそんな事を抜かしてくる人もいるものですね。兄上。」

 

「それに、俺の弟分の人生を歪ませたんだ。無事で済むと思うなよ?ネズミ男。」

 

エイダさん、イーニアスさん、アドレーさん、キットさんの順に言い放った。怖くなったペティグリューは、次はスネイプ先生の所に来た。

 

「ああ……セブルス。君は、シリウスを憎んでいた筈だ…………だから、シリウスのやる事全てが間違っていると思って……」

 

だけどスネイプ先生は、シリウスやルーピン先生に見せていた以上の憎しみの視線で黙らせた。周りに人がいなければ殺してやるという顔になってた。

 

グラントとゼロに駆け寄る。こう言うのもなんだけど、懲りないね。

 

「君達。これから行われる残虐な事を見過ごす気は無い筈だ。僕は死にたくないんだ。」

 

「いい加減しつけえぞテメエ!潔く殺されろ!!!」

 

グラントが殴り掛かろうとするが、ゼロが盾の呪文で阻止した。

 

「やめておけグラント。こんな野郎、殴る価値も無い。お前の拳は、この男の血で赤く染める必要はねえ。」

 

それでもゼロは、ペティグリューに対して怒りの視線を投げかけた。怯えきったペティグリュー。次は、ロンの傍に転がり込む。

 

「ロン……僕は良い友達……良いペットだったじゃないか。僕を殺さないでおくれ、ロン。お願いだ……君は僕の味方だろう?」

 

だけどロンは、不快そうにペティグリューを睨む。

 

「今思うと怒りが込みあがって来るよ。お前みたいな悪党なんかを……自分のベッドに寝かせていた僕自身に!!!」

 

「優しい子だ……情け深いご主人様。」ペティグリューがロンの方に這いよって来る。

 

「助けておくれ……殺さないでおくれ……僕は君のネズミ……良いペットだった。」

 

「人間の時よりネズミの方がさまになるとはな、ペティグリューよ。我輩には理解しかねるがね。」

 

スネイプ先生からの厳しい声が聞こえた。ロンは、キットさんの近くまで逃げた。

 

次はハーミーのローブの裾を掴んでいる。

 

「優しくて賢いお嬢さん…………あなたなら――あなたならそんな事をさせないでしょう?……こんな惨めな弱い者苛めなんて……助けて……」

 

ハーミーは怯えきった顔でローブにしがみ付くペティグリューの手をもぎ取り、窓際まで下がった。今度はイドゥンとエックス君の元に行く。

 

「ブラック家のお嬢様にお坊ちゃま……君達なら分かってくれる筈だ……これから行われる残酷な事を……君達は賢い。」

 

イドゥンのローブの裾を掴もうとするが、イドゥンは逆に手を踏みつけた。

 

「人の心の強さに、圧倒的な個人差があるのは認めるよ。僕はグリフィンドールだから違うけど、実家はスリザリンの家系だ。理念は狡猾さや友愛。あなたの行った行為は、道徳的にはともかく1つの生きる手段だとは思ってるさ。僕はね。」

 

エックス君は静かに言った。イドゥンに視線を向ける。今度は、イドゥンが口を開いた。

 

「ですが、所詮それだけです。あなたほどの外道は、スリザリンどころかこの地球上を全て探してもそうそういませんわよ。」

 

そう言ってイドゥンは、ペティグリューの手から足を退ける。だけど、今度は頭を踏みつけた。

 

「友人を裏切った挙句に、生き残った家族の人生を歪ませたんだ。あなたは。それだけでも僕は許せない。そして、その相手が僕の目標になっている人間だから余計に許せないんだよ!!姉ちゃん!!」

 

「ペティグリュー、貴様の様な人間には地獄が相応しい。やりましょうか。エックス。」

 

エックス君とイドゥンは、杖先をペティグリューに向けた。2人同時に武装解除呪文で、シリウスとルーピン先生の所まで弾き飛ばした。そしてペティグリューは、ボクに近付いてきた。近付きながら、こう言ってきた。

 

「あぁ、エリナ……君は……君は両親の生き写しだ。顔は全体的にリリーで、目はジェーm」

 

シリウスとスネイプ先生が、ボクとペティグリューの間に割って入って来た。共通の敵がいるからなのか、不思議と息はピッタリだった。

 

「黙れ!!!エリナに話しかけるとは、どういう神経だ!?この子に顔向けが出来るのか!?よりによって、ジェームズとリリーの事を話すとは!!どの面下げて出来るんだ!」

 

「エリナ。君もご両親に似て優しいのだろう?助けておくれよ。僕はまだ死にたくない、お願いだ。」

 

シリウスとルーピン先生、スネイプ先生の3人は大股にペティグリューに近付く。彼の肩を掴んで、床の上に仰向けに叩き付けたんだ。ペティグリューは座り込んで、恐怖にヒクヒク痙攣させながら3人を見つめた。

 

「お前は、ヴォルデモートにジェームズとリリーを売った。否定するのか?」

 

シリウスが体を震わせながら言った。ペティグリューがワッと泣き出した。おぞましい光景だったんだ。育ち過ぎた、頭の禿げかけた赤ん坊みたいな感じだったんだよ。

 

「シリウス、リーマス。僕に何が出来たって言うんだい?闇の帝王は……君達には分からないんだ。あの方には、君の想像もつかないような武器がある。怖かったんだ……シリウスにリーマス、ジェームズにメイナードみたいに僕は勇敢じゃなかった。僕は、やりたくてやったわけじゃない……闇の帝王が無理矢理…………」

 

「嘘を付くな!ジェームズとリリーが死ぬ1年も前から、お前はあの厨二野郎に密通していた!お前がスパイだった!!」

 

「あの方は――あらゆる所を征服していた!あの方を拒んで、何が得られたんだろう?」

 

「史上最悪の魔法使いを拒んで、何が得られたかって?」

 

シリウスの顔は、凄まじい怒りに満ち溢れていた。

 

「それは、何の罪も無い人々の命だ!ピーター!!!」

 

「君には分からないんだ!シリウス!!」

 

ペティグリューが、情けない声で訴えかけて来た。

 

ハリー視点

 

目を開けると、ペティグリューがイドゥンに踏みつけられていた。エックスも怒りの表情を見せる。2人は、ペティグリューをシリウスとリーマスの足元まで転ばした。そして今度は、あろうことかエリナに近付こうとした。だが、同時にシリウスとスネイプが間に入った。この2人の息がピッタリ合うのは、これが最初で最後だろうな。性懲りも無く、命乞いをしている。清々しいまでのクズ野郎そのものだ。

 

「僕が殺されかねなかった!仕方なかったんだよ!分かっておくれ!」

 

「ならば死ねば良かったんだ!友を裏切るくらいならば、死ぬべきだったんだ!俺もジェームズもリーマスも、お前の為にそうしただろう!現にメイナードはそうだっただろうが!」

 

「君は気付くべきだったんだ。ヴォルデモートが殺さなければ、私とシリウスが()()を殺すと。さらばだ。ピーター。残念だよ。こんな形で別れる事になるなんてね。」

 

その言葉、ポッター家を再興したら家訓に加えようかな。

 

ペティグリューは、俺の姿を見た。最後の希望が見つかったと言わんばかりの表情をして、俺の前にゆっくり跪き、ゆっくりと顔を上げた。無表情で聞く事にした。最後に言い残したい一言としてな。

 

「ハリー……ハリー……君はジェームズに生き写しだ……目だけは違う、リリーの眼だ。そっくりだ……君もきっとエリナと同じ様に、ご両親に似て優しいのだろう?助けておくれよ。僕はまだ死にたくないんだ。何でもしよう。約束する。」

 

「いい加減にしろ!エリナのみならず、ハリーにまで話しかけやがって!どういう神経をしている!?」

 

シリウスが大声を出す。スネイプも然りだ。

 

「何でもする…………か。」

 

「そうだよ。何でもするよ!」

 

「ハリー!耳を貸すな!」リーマスがそう言った。

 

「今から立ってみろよ。」俺は、ペティグリューに命令をする。

 

「た、立つ?」予想外の展開に周囲は唖然とする。

 

「そ、それ位ならお安い御用だ。」ペティグリューは、俺の目の前に立った。

 

「俺は今、欲しい物があってね。それをいただこうか。」

 

「ほ、欲しい物かい?何でも与えるよ!」ペティグリューが希望に満ちた表情になる。

 

バカめ。これが後々命取りになるというのに。

 

「ハリーの奴。ペティグリューから何を貰う気なんだ?」ロンが呟く。

 

「俺の欲しい物。それはな……」

 

アセビの杖から天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)を槍状に形態変化させた黄金の電撃を、ペティグリューの右腕に突き刺した。ペティグリューが絶叫の声を上げる。

 

「何なんだ、あれは?」シリウスが疑問を口に出した。

 

「あれは、天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!?でも、あんな形態変化は見た事が無いよ!」

 

エリナが驚きの声を隠さずに言い放った。

 

「な、何を?」ペティグリューが信じられないという表情で言った。

 

「俺の今欲しい物はな、ペティグリュー。お前の命だ。」

 

長い時間を掛けて導き出したんだ。この答えを、そう簡単に覆すつもりは全く無いのさ。

 

「ずっと前の事だ。俺は、自分の素性を知った。だから、必死に強くなる為の修行をしてきたんだ。父様と母様の死の真相を知ってから、俺はヴォルデモートや死喰い人を思いっ切り憎んだんだ。俺の野望は、ヴォルデモートと死喰い人に復讐を行い、完全なる抹殺をする事なんだよ!」

 

俺は、自らの魔力を開放する。というより、俺の感情に呼応して変質していく感じだ。ロンとハー子は青ざめている。ロイヤル・レインボー財団の関係者以外の他の皆も、動揺している。この際構わないさ。

 

「さっきから聞いていれば下らない事ばかりほざきやがって!」

 

術を解除したと同時に、ウイルスモードを発動。ペティグリューの腹部を蹴り飛ばす。床に倒れたペティグリュー。こいつの顔を、俺は足で思いっ切り踏みつけた。

 

「ずっと……お前をこうしてやりたかったんだ。」

 

踏みつけた足をグルグリしながらそう言い放つ。

 

「だ……誰か……助け……」

 

ペティグリューが命乞いをしている。しかし誰も助けに来ない。正確には、誰も動けないのだ。

 

「何なのですか?この魔力は。まるで、あの時の……2年前の最初の魔法薬学の……」

 

イドゥンが言った。

 

「これが、あいつの魔力の質だってのか。いくらなんでも異常過ぎる。」ゼロが答えた。

 

「白くて、暖かくて、神々しかったのによぉ。今は黒くて、冷たくて、禍々しい感じになってるは気のせいかよぉ?」

 

「気のせいじゃねえぜ。あいつは、魔力の質が極めて上質なのさ。」

 

グラントの疑問に、キットが答えた。

 

「こうなるだろうとは思っていたけどさ。あれだけ殺すのはナシだって、散々釘を刺しておいたのに。」

 

アドレー義兄さんは、半ば呆れた様に言った。

 

「ですが、アドレー。気持ちは分からなくは無いですよ。私は。」

 

「親の仇の1人を間近で見て、正気を保てという方が無理だ。まあ、いざってなったら無理やりにでも止めるがね。それでもハリーを納得させないと無理だ。しばらくは、様子見と行こうじゃないか。」

 

エイダ義姉さんとイーニアス義兄さんの会話も聞こえる。それにしてもあの4人、俺の魔力の質や、闇の陣営への復讐という野望を知っているのもあって涼しい顔をしているな。

 

「あの時の……あの魔力の質だ。闇の帝王など比ではないあの…………」

 

スネイプも怯えている。

 

「今までは、どう表現すれば良いのか分からないけど。白くて、暖かくて、神々しい感じだったのに……今は、何かこう…………黒くて、冷たくて、禍々しい……感じに……」

 

「エリナ。どうして分かるんだい?それに、ハリーのあの赤い目。メイナードと同じ、ウイルスモードか!?あの子もW-ウイルスの適合者だったのか!」

 

シリウスが聞く。それと同時に、俺がウイルスの保菌者だって事も看過した。

 

「直接的にじゃないけど、シリウス。ボクには、なんとなく分かるんだ。」

 

「恐らく、双子だから直感で分かったんだろうな。クソ。足がすくんで動けないぜ。止めなきゃいけないのに!」

 

ゼロが悔しそうに言う。

 

「俺自身の手で引導を渡してやろう。まずはお前から血祭りにあげて、その五体をズタズタに引き裂いてやるよ。それをアズカバン逃れした死喰い人共の家に送りつけて、宣戦布告してやる。」

 

許されざる呪文を使うまでも無い。邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)で止めを刺してやる。魂すら残してなるものか。この呪文で止めを刺された奴が、天国にも地獄にも行けると思うなよ。いや。神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)で止めを刺すのもアリだな。

 

「シリウス。それにセブルス。君達、やけに冷静だね。」リーマスが2人に声を掛ける。

 

「ハリーの、あの怒りと憎しみを見てみたら、俺の怒りなんてちっぽけなものだったんだなって思った。」

 

「あのおぞましい魔力を、今は闇の陣営だけに向けているからまだ良い。今は、何も言わん。だがな、どんな事があっても、決してポッターから目を放さないようにすると誓ったのだ。」

 

3人が俺に視線を戻した。よし、腹は括ったぜ。もう後戻りなんて出来ない事は覚悟したんだ。このまま殺してやろう。

 

「さらばだ。ピーター・ペティグリュー。あの世で父様と母様に詫び続けるが良い。」

 

尤も、あの世に行く予定の魂も焼き尽くされるけどな。俺は踏みつけるのをやめ、後ろに下がった。そして、左手でアセビの杖を持ち、再びペティグリューに向けた。ペティグリューは恐怖の余り、失禁している。

 

神秘の光竜(アルカヌマ・ルメンリオス)を使う事を決定したので、杖先から白銀の輝きが発生している。

 

「アルカ……」

 

その時だった。エリナが俺とペティグリューの間に割って入って来た。

 

「やめてハリー!!!」

 

両手を広げて、まるでペティグリューを守るかのように立ち塞がったのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 ハリーが導き出した答え

「ダメだよ!殺しちゃダメ!」

 

「どういうつもりだ。俺は、全ての真実を知った時から復讐者として、今まで自らの力を蓄えて来たんだ。もう自分に平穏など訪れないというのを覚悟の上でな。それをお前は邪魔するっていうのか?このゲロ以下の臭いしかしないゴミクズ野郎のせいで、父様と母様が死んだんだ。俺達があの時死んでいたとしても、それを平然と見ていた筈だ。所詮そういう奴なんだよ。」

 

「分かってる。分かってるよ。でも殺して終わりなんて間違ってるよ!」

 

「その甘さが命取りになるのさ。仮にお前が助けたとしても、こいつは決して感謝なんてしない。」

 

「…………」エリナは黙って聞いている。

 

「それどころか、恩を仇で返す。いくらバカと言われてるお前でも、それくらい分かり切ってる事だろうが!!」

 

だが俺も譲らない。俺がこの日をどれだけ待ち侘びた事か。そう言った事情を知らないから、俺のやろうとする事を邪魔するんだ。どれだけ必死に闇の陣営を憎んで、奴等をこの世から1人残らず消す為に死に物狂いで魔法も、座学も、剣術も、射撃も、身体能力も、ありとあらゆる力を身に付けたってのに。

 

「それじゃエリナ。お前はこう言いたいわけだ。コイツをのうのうと生かして、この俺には泣き寝入りしろと。そうだろ?」

 

「生かしておくって言うのは本当だよ。でも泣き寝入りしろなんて言ってない!ボクもこの人は許せないけど!」

 

「うるさい!どいつもこいつも、俺のやる事なす事否定しやがって!何で俺が闇の陣営に寝返った裏切り者で、両親の仇であるコイツを殺す事に異議を唱える!?お前らが綺麗事をほざいて敵を無駄に生かそうとするから、そいつらはつけ上がって来るんだろうが!!だから俺が代わりに殺してやるよって言っているようなものなのに!!」

 

これまでの鬱憤を晴らしてやる。俺とお前等じゃ、思考回路が根本的に違うんだよ。ロイヤル・レインボー財団関係者を除けば、ダンブルドアに骨の髄まで駒にされている連中の言葉なんか聞きたくもない!!!

 

皆、俺の本音を聞いて絶句している。キット達4人は除いてだが。周囲の反応に、俺は大変満足した。思わず笑みがこぼれる。俺とこいつ等の生きる世界なんて全く違う事がな。それに、言いたい事も言えたからスッキリしたぜ。

 

「ハリー。何故笑っているのですか?」イドゥンが聞いて来た。

 

「何も失った事が無い奴等に、俺の考えを理解して貰おうとは到底思ってはいないさ。理解出来ないからと恐れ、恐れるから排除する。所詮、人間の本性なんてこんなもんだってのが改めて分かったんだ。今、この俺を殺しさえすれば全て終わるんだ。止めるのをやれば良いじゃないか。」

 

俺を殺す様に言ってみる。どうせ奴等からしてみれば、俺の思想なんて悪そのものだろうからな。小を殺し、大を生かそうとしてきた、あのダンブルドアのクソジジイに忠実な連中ならやるだろうからな。

 

だが、俺の前に出たのはエックスだった。杖をイドゥンに渡し、エリナの隣に来た。

 

「初めて先輩の心が見えましたよ。そんな事を思ってたなんて。」

 

「同情して貰おうなんて思っちゃいないさ。元から理解なんて出来る筈も無いのだからな。俺を理解出来るのは、俺自身をおいて他にいないのだから。否定の言葉なら幾らでも聞いてやるよ。すぐに記憶の底に忘却してやるさ。」

 

エックスに吐き捨てる様に言った。ついでに睨み付けた。これに関しては、本当に譲れないからな。

 

「いいえ。否定はしませんよ、先輩。もしかしたら…………僕はあなたの様になっていたかも知れないですからね。」

 

「!?」何だと?一体エックスは何を言ってるんだ。

 

「エックス。」イドゥンが心配そうにエックスを見つめる。

 

「姉ちゃん。話して良い?」

 

「どうぞ。」イドゥンが覚悟を決めた様に呟いた。

 

「先輩。僕等の両親の話をします。父さんと母さんは共に魔法史関係の学者でした。11年前の事です。ブラック家に魔法省から派遣された闇払いがやってきました。司法取引でアズカバンを逃れた死喰い人の告発によって、ブラック家はヴォルデモートに加担したと疑われたんです。」

 

「……」恐らくレギュラスの事が、曖昧な形で伝わったのだろうな。

 

「父は闇の陣営の生き残りがやってきたと勘違いして戦いました。案の定、闇払いに勝てる筈も無く、父は無抵抗に殺されたのです。その日の仕事があって、夜に帰ってきた母は大変嘆き悲しみました。祖母に僕達姉弟を託した後に行方を眩ませたのです。今も見つかっていません。」

 

闇払いに殺された、だと?余りのショッキングな内容に俺は言葉が出なかった。俺の両親は悪と呼ばれたものに殺されたが、イドゥンとエックスの父親は正義の名の下に殺されたというのか?

 

「その闇払いは何の処罰も受けておりません。直属の上司であるアラスター・ムーディが責任を取って引退した位です。悔しかったです。何の処罰も受けていない奴を!そいつをけしかけた魔法省の役人も!保身の為に、何の罪も犯していない父を殺すように仕組んだ死喰い人も!」

 

「あの頃の私達は本当に弱かったのです。」イドゥンも話に割り込む。

 

「現実は余りにも非情なものなのですよ、ハリー。何も知らず、何も力が無かった。祖母のあの言葉を聞くまでは、本当に今のあなたと一緒でした。今のあなたを見ると、胸の辺りが痛く感じて、とても他人事とは思えないのです。」

 

イドゥンが感傷に浸る様に言った。エックスに視線を移して、続きを言う様に促した。

 

「祖母ちゃんは息を引き取る直前に僕と姉ちゃんにこう言いました。母さんが消息を絶つ直前の伝言を。父さんが母さんに死の間際に言った言葉を。『どこの誰であれ、自分の為に怒らないで欲しい。怒りや憎しみに心を支配されないでくれ』と。だから、もう憎んでいません。」

 

親を殺した奴を憎んでいないだと?たとえ遺言だとしてもそれを受け入れるのは、不可能に近いぞ。それが出来たのは、2人で支え合って来たからなのか。そして、クリーチャーの存在も大きいんだろうな。だから、俺と違って決着を付けられたのか。

 

だが、それはトーマス・ブラックだからそう言ったのであって、俺の父様と母様は違う答えを出している可能性も捨て切れないんだ。あの2人が死んだ今、その真意を知る事など出来ない。それが出来そうな蘇りの石は、ロイヤル・レインボー財団本部に預けているままだ。そして、エリナとの約束で全てが片付くまで使わないと誓ったんだ。

 

「俺も、話があるんだが良いか?」今度はゼロだ。

 

「ゼロ。」エリナは、ゼロの左腕をギュッと掴む。

 

「俺の父アルバート・フィールドは、生まれる前の俺と母を生かす為に、数えきれない位の死喰い人と3日3晩休みなく戦い、全員を道連れにして立ったまま死んだ。」

 

「アルバート・フィールド?まさか……漠神アルバートか?俺が卒業してから1年後に、子供がホグワーツに入学したとは聞いていたが…………」

 

「シリウス。それは、フォルテの方。あの子は、フォルテの母親違いの弟ゼロ。」

 

シリウスの疑問に、メリンダが答えた。

 

「話を続けるか。俺の母は、何とか闇の陣営の魔の手から逃れる事が出来た。でも、しばらくしてから手遅れレベルの癌を発症していたんだ……」

 

ゼロは、母親の事を言う時はかなり苦しそうにしていた。

 

「俺は思った。奴等がしつこく追って来なければ!父さんは死ぬ事も無く!母さんの癌も早期に発見出来て助かってた筈だ!あの時はガキながらに、連中が許せなかった……」

 

「ゼロ。お前……」

 

「だが……どんなに奴等を恨もうが、もうあの2人は戻ってこないんだ。決して……。」

 

「で、連中を許したのか?」

 

「いいや。絶対に許さん……何があろうとな……だが、いつまでも深い悲しみに囚われる位なら、自分なりに折り合いを付けて生きていけば良いと思った。今すぐそうしろとは言わない。お前が死に物狂いで努力して来たのは分かる。その動機が復讐の為だとしてもだ。だからこそ、自分の心と向き合ってくれ。」

 

ゼロはそう言って、後ろに下がっていった。俺は、その光景をぼんやりと見つめる。

 

そんな俺をエリナがじっと見つめている。彼女は、何かを決心したかのように口を開いた。

 

「ハリー。まだ迷ってるみたいだから、パパの最期のやり取りを話すけど良いよね?」

 

「エリナ。何でお前が知ってるんだよ?」

 

「吸魂鬼に襲われる度に、いつも聞くからだよ。パパはペティグリューを許したんだ。」

 

「!?それ、どういう意味だよ?」

 

「落ち着いて聞いて欲しいんだ。『憎んだりしない』って。そして次に『逃げろ』って言ったんだ。」

 

「父様も人を信じ過ぎだな。まだ、変態ヘビからコイツを解放しようって思ってたのかよ。」

 

「黙って。ここからが重要なんだから。『シリウスとリーマスに絶対に見つかるな』って言った。」

 

「!?」何……だと?シリウスもリーマスも大きく目を開けながら聞いている。

 

「どうしてパパはこの人にそう言ったと思う?ハリー。」

 

まさか。こんな事が。いや、それしか考えられない。同じ状況なら俺でもそうする。憎しみに囚われるのは自分1人だけで十分だから。

 

「もう分かった?」

 

「正しいかどうか分からないが、答え合わせをさせてくれ。」

 

俺はエリナに思念術で答えを言った。それを聞いたエリナは、満足した顔になった。どうやら正解したらしい。

 

「正解。分かってくれてホッとしたよ。でもペティグリューの方は理解出来なかったみたいだけどね。というか気付いてたけど、忘れようとしてたっていう方が正しいんだけどね。」

 

「その答え。聞かせてくれ。」ゼロがエリナに答えを求めた。

 

「うん。パパがこの人を許したのは、シリウスとルーピン先生に超えてはいけない一線を超えて欲しくないから。確かにペティグリューがパパを裏切った事は許されたかもしれない。だけどね、この人はもう見限られていたんだ。既に愛されてなかったんだよ。」

 

それを聞いたペティグリューは、壮絶なる叫び声を上げた。もはや発狂寸前まで追い込まれてしまったのだろう。

 

「だからシリウス。それに、ルーピン先生。どうかこの人は殺さないで欲しいの。お願い。約束してほしいんだ。」

 

エリナが2人をじっと見ながら懇願した。

 

「分かったよ。あいつの、ジェームズの最期の遺志を受け入れよう。」

 

「私もそうしよう。」

 

シリウスとリーマスは、殺さない事を決めた。でも、ヴォルデモートの復活を手引きしそうなんだけどな。何か複雑だ。厄介な目は摘み取った方が良いんじゃないのか?

 

その時、イーニアス義兄さんが俺に話しかけてきた。

 

「私の話を聞いて貰って良いかな?」

 

「どうしましたか?」

 

「ハリー、君は最初、ペティグリューを殺すつもりだった様だから断言しておこう。」

 

イーニアス義兄さんは、深呼吸をしてから自らの意見を言い始めた。

 

「ピーター・ペティグリューという男が今までやってきた悪行が余りにも罪深い。君が手を下さずとも、彼は死ぬまでこの世界という生き地獄を味わう事になる。敵味方双方から忌み嫌われ、ずっと孤独だ。強大な力を前に死ぬまで怯え続ける事になるだろう。そして、その死に方も碌なもんじゃない。今までの所業が、全部自分に跳ね返って来る。」

 

そうか。それは考えてなかったな。上手く闇の陣営に収まったとしても、シモンズの勢力アルカディア。そしてTWPFの、その気になれば世界を破壊出来る組織の強大な力にも怯える羽目になるのか。ここで死んだ方が、俺に殺された方が幸せだと思える位の。結局、ペティグリューにこの世での安全な場所は全く無いのか。奴に安息の日なんて、永久に存在しないわけだ。

 

友を死に追いやり、その罪を別の友に擦り付けた結果が人間以下の生活。今度は、不死鳥の騎士団以外の敵対勢力の力にも怯えなくてはならない……か。そう考えると、ひたすらペティグリューが哀れに思えるな。こんな生き方しか残されていないとは。

 

「それを聞いてなお、両親をヴォルデモートに売ったこの男を殺したいなら、私はもう止めない。」

 

「どうしますか?ぺティグリューに復讐をしますか?それとも、アズカバンに送って、今ここで死んだ方がマシだと思える程の生き地獄を味わうのを見届けますか?」

 

エイダ義姉さんが、俺に最後の選択を求めてきた。俺は考える。今までの会話。ブラック姉弟の体験談。イーニアス義兄さんの考察。そして、エリナを通して分かった父様の最期の言葉が。父様や母様の、俺達兄妹を案じる思いが。それらが全て、俺の心の中で再生される。

 

遂に俺は決心した。それを表すかのように目を開ける。

 

「……分かったよ。真実を……この世に明かそう。俺はペティグリューを殺さない。アズカバンぶち込む。許したわけじゃない。生かして、更なる苦しみを与える。そして、究極の地獄もな。父様の最期の遺志を、無にはさせない。」

 

それを聞いた周囲。思わずホッとしていた。ロン、ハー子、グラントは大変喜んでいる。アドレー義兄さんが、俺の肩に手を置いた。

 

「よく頑張ったね。負の感情に振り回される事無く、ペティグリューの命を救う決断をしたんだ。そんな事、そうそう出来ないよ。エリナちゃんも含めて、君達兄妹にはいつも驚かされる。」

 

何か、自然と涙が滲み出てくる。リーマスが俺の方に駆け寄ってきた。

 

「立派だったよ。ジェームズも、リリーも喜んでいる筈だ。」

 

「立派なのはエリナの方です。俺って、性格悪いですよ。寧ろ、ろくでなしだと自覚している位ですし。それにしてもペティグリューの奴、随分と大人しくなりましたよね。」

 

「どんな形であれ、あいつはジェームズに愛されていると思ってたんだ。今までの逃亡生活も、それだけで正気が保てたんだからね。」

 

エリナはシリウスと話している。仲が良さそうだな。まあ、親子の会話の様なものだろうか。それに、ゼロと話している時はやけに強く意識している様な気がする。それはゼロの方も然りなわけなんだが。

 

……まさかね。でもまあ、俺がどうこう言う事じゃないから、そっとしておいてやろう。俺自身、自由を掲げるわけだから他人の恋愛の自由を邪魔する気は全く無いけどね。余談だが、仲良さそうにエリナと話しているシリウスとゼロを見て、スネイプは2人をずっと睨み付けていたのだった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 罪無き者の救済

その後、暴れ柳にいた全員が吸魂鬼に襲われる前に城に戻った。話を始めたのが11時だったのに、今は18時だ。義祖父ちゃんは、担架に乗せて運んだ。少々強い失神呪文を食らったようだが、無傷だとの事。安静にしていればいずれ起き上がるとイーニアス義兄さんが言っていた。

 

スネイプは、意外にもシリウスを睨むだけで何もしてこなかった。真実を知ったスネイプにとっても、相当重たいものだからだろうか。それは、本人だけしか分からないだろう。

 

ペティグリューは魔封石の鎖で縛られていた上にリーマスやメリンダ、キットに監視されていたので、魔法で逃げる事も出来なかった。というよりも、精神崩壊寸前まで追い詰められたので逃げる気力も無かったのだろう。

 

全員で校長室まで向かい、ダンブルドアにペティグリューを突き出した。全員、すぐさまペティグリューを含めて医務室に送られた。ペティグリューはその後、西塔の使われていない部屋に魔封石の鎖で縛られた状態で監禁された。翌朝にも、ファッジを呼んで引き渡すとの事。

 

1993年12月23日。医務室にて8時に起床した。さあて。やる事をやりますかね。

 

流石のファッジも、シリウスの無実を認めざるを得なかったようだ。アメリア・ボーンズが真実薬と開心術師数人を使って実践して、冤罪が証明されたからだ。そして、今までロイヤル・レインボー財団が集めた資料の内容も筋が通っていて、グウの音も出ない状態となったのだ。

 

ファッジは冤罪を認めた。多少面倒な事は残っているが、自由の身になる日はそう遠くないそうだ。やったね。

 

一方のペティグリューについては、闇払いにアズカバンまで護送された。護送される直前にしっかりと魔法省関係者全員にネズミの動物もどき(アニメーガス)だと伝えた。逃亡は敵わなかった、正確には、精神崩壊直前になっているので逃げようともしなかった。

 

シリウスの動物もどき(アニメーガス)は伝えなかったが、ダンブルドアだけには伝える事になった。全て終わったのは、12時になる直前だ。ローガー家の人達とキットとはここで別れた。

 

翌日のクリスマス・イブ。俺達8人は、湖の畔まで集まってた。獅子、穴熊、鷲、蛇の全ての寮が集まっているけど、この際寮のいざこざなんて関係無い。俺達にとっては。

 

「終わったな。」ゼロが呟いた。安心しきっている。

 

ロンとグラントは、小石で水切りをやっている。グラントの方が長く保っていた。

 

「どうしたらそこまで長くやれるんだい?」

 

「まずはよぉ、石選びから勝負が始まるんだよ。」

 

エリナ、ハー子、イドゥンはガールズトークをしている。ハー子はエリナに、何故魔法法執行部長と親しかったのか聞いている。

 

「スーザンと一緒に行動しているからね。手紙で交流をしてたんだよ。」

 

「いつの間に人脈を作ってるんですか?全く、大したものですよ。あなたは。」

 

「ハリーもロイヤル・レインボー財団を通して、世界中に人脈を持ってるわね。何か凄過ぎるわ。」

 

ニンバスが眠っている場所にエックスと共にいる俺。ハロウィーンの時に出来なかった両親への黙祷を捧げていた。

 

「あの時は世話を掛けたな。ありがとうエックス。それに暴言を吐いて、本当に申し訳なかった。」

 

「良いんですよ。別に僕は、先輩にペティグリューを憎むなとは言いませんよ。先輩もご両親が命懸けで守ったその命を無駄にして欲しくなかっただけですからね。何より、あなたを罪人にしたくありませんでしたから。」

 

新聞を広げる。一面大見出しでシリウスの無実とペティグリューの逮捕が掲載されていた。イドゥンから聞いた話だが、魔法省は賠償金として高級官僚の年収10年分だけを払おうとしていたそうだ。そこに慰謝料はどうしたんだと脅し、もとい進言して慰謝料も加算された賠償金を支払わせた。やるなぁ、イドゥンの奴。

 

それでシリウスの財産は結果的に、何十代先にも残るような規模にまで膨れ上がったそうだ。ま、クリスマスに救済が出来たんで、エリナやブラック姉弟には最高のクリスマスプレゼントになった筈だ。本人達も、嬉しそうにしてるし。

 

夕方、城に戻る。大広間に8人で行った。この時点で大広間にいるのは、緊張でガチガチの1年生2人、不貞腐れた表情をしているスリザリンの5年生が1人だ。少人数なので、テーブルは1つだけになった。豪華な夕食をいただき、早く寝た。

 

翌朝のクリスマス。余談だが俺は、お手製のクッキーを焼いて親しい人に送っている。

 

プレゼントが届いている。確認してみようかな。まずウィーズリーおばさんからだな。毎年恒例になりつつあるセーターが届いた。それにお手製のミンスパイ1ダース、小さいクリスマス・ケーキ、ナッツ入り砂糖菓子1箱もあった。続いて、ロイヤル・レインボー財団からのプレゼントを見てみよう。

 

小さな包みを開ける。1つは本だ。『陰陽術の薦め 達人編』という本である。もう1つは、記憶を映すメモ帳とペンのセット。6ヶ月以内の物なら何でも映せる仕様だ。最後の1つは何と、携帯銃だった。手紙が挟んである。エイダ義姉さんからだ。早速読んでみよう。

 

『メリークリスマス。今回も仕事でホグワーツに残らせる羽目になってしまい、申し訳なく思います。ちなみに、ロックマンXとエストポリス伝記のソフトは買っておきましたよ。今回のプレゼントについてですが、エリナちゃんにも送りましたよ。あなたには、最後の陰陽術の書物と記憶を映すメモ帳とペンのセット、そしてミラクルガンナーという魔法拳銃です。マニュアルを同封したので、うまく使いこなしてみてください。』

 

ミラクルガンナーを取り敢えず口寄せ契約しておく。必要の部屋で練習するか。砲術は身に付けてるけど、剣術に比べたら下手糞なんだよな。そこは時間を掛けて克服していくけどね。

 

朝食を食べに大広間に向かう。途中でロンと鉢合わせした。どうやら、俺を探してたらしい。俺を見るや否や、何かを言いたくてウズウズしている。

 

「おはよう。どうしたんだよ?」

 

「ハリー!やっと起きたんだね!君宛に凄いプレゼントが来てるんだ!シリウスから!!」

 

何故にシリウスから来たんだろうか?ちなみに彼、今はロイヤル・レインボー財団が提供した高級住宅で暮らしている。いずれ俺とエリナを新居に招待したいそうだ。よし、この夏行ってみますか。

 

「分かったよ。すぐ行くから急かすなよ。」

 

ロンに半ば引っ張られるように大広間に連れて行かれた。この城に残留している生徒全員が、同じテーブルにいた。なにやら、俺宛に届いたプレゼントの包みが開かれる瞬間を今か今かと待っている。

 

「律儀な事だな。約数名、俺を待たずに封を破る奴がいると思ったが。」

 

「そういう人達は必死に止めたわよ。」ハー子が俺にそう言った。

 

「ねえねえ。早く包みを開けてみてよ。」エリナが急かした。

 

早速開けてみた。その中身は、それはそれは見事な箒だった。キラキラ輝きながら、テーブルに転がり出た。ダイアゴン横丁で見つけた、あの箒だ。炎の雷、ファイアボルトだ。皆、オーって言ってるし。

 

「マジかよ。」ロンの声がかすれていた。

 

クィディッチの熱狂的なファン達は、羨ましそうな顔で俺に送られてきた箒を見つめている。手紙がある。読んでみよう。

 

『ハリーへ

メリークリスマス!先日は、俺の無実を証明してくれてありがとう!君やエリナには、感謝してもしきれない位だよ。クィディッチの最初の試合で、君のニンバス2000が壊れた所を見た。先日のお礼に加えて、今まで出来なかった13回分の誕生日プレゼントだと思って、この箒を使ってくれ。

シリウス・ブラック』

 

「い、良いのか。これを俺が使っちゃって。」

 

欲しいとは思っていた。これ、500ガリオンもする代物なのだ。今まで使っていたニンバス2000を25本も買える値段なんだ。

 

「あ、続きがあるよ。ええと、『君は多分遠慮するんじゃないかな?でも気にしないでくれ。思う存分これで活躍する事が、俺にとっては最高に幸せな事だからね』だって。有り難く受け取って大丈夫だと思うよ。」

 

「でもエリナ。お前は、シリウスから何貰ったんだ?内容次第じゃ、気まずいからさ。」

 

「うん。それなんだけど、両面鏡の片割れに、超最高級仕様の箒手入れセット、同じグレードの杖の手入れセット、ゴブリン製の首飾りを貰ったんだ!」

 

「何気に凄い事になってるな。分かった、使うよ。今まで以上に無様な負けは晒さないようにするよ。で、このチビフクロウは?」

 

ロンの近くではしゃいでいる、小さなフクロウを指差す。

 

「こいつかい?ペットのいなくなった僕が飼えば良いって、シリウスがね。」

 

ロンが言った。フクロウは、ホッホッと嬉しそうに鳴きながら、ロンの周りを飛び回っていた。後日、ジニーによってピッグウィジョンと名付けられた。

 

そんなわけで、ありがたくファイアボルトを頂戴した。俺は、早速シリウスにお礼の手紙を書いた。ナイロックに手渡して、運んで貰った。

 

早速競技場へ向かい、飛んでみた。うん、完全に性能だけならレッドスパークに軍配が上がる。だが、安全性や加速、減速、急旋回がこちらの思った通りのタイミングで出来るという意味では、ファイアボルトの方が素晴らしい。今後の試合では、このファイアボルトを使っていこう。レッドスパークはプライベート用にこれからも使っていきますか。

 

飛び終わってから、乗りたい人へ順番に渡していった。どうやらくじで決めたようで、学校に残ってる人の殆どが、乗りたくて堪らないようだった。

 

嬉しい事ばかりの今年のクリスマス。夕食の方も素晴らしかった。その時にマクゴナガル先生に箒の事を報告。今までの厳格な性格をキャラ崩壊させる程の喜びようだった。マダム・フーチと一緒に小躍りをし、周囲を唖然とさせた。

 

12月26日。朝食を食べに、大広間に向かう。ん?何やら騒がしいな。クリスマスのノリがまだ続いてるのか?勘弁してくれと思いながら、席に座る。すると、ロンとハー子が俺の方にやってきた。

 

「お早う。朝からやけに騒がしいけど、何があった?」

 

「これ、読んでみて。」ハー子が日刊予見者新聞を俺に押し付ける。

 

新聞を読んでみる。正直読みたい気分ではないが。だが、ある記事が俺を釘つけにした。

 

『マルフォイ邸、クリスマスの惨劇』、『カロー兄妹虐殺』、『謎の勢力、終わりを生み出す者』と。この3つの記事は関連性があったのだ。

 

午後12時。俺は、昨日のマルフォイ邸でのクリスマスの惨劇の記事を読み終えた。参加者の証言で、終わりを生み出す者だと名乗ったのだ。犯人は2人。マクルトと名乗る虹の瞳を持った男と、ダアトと呼ばれた仮面をした男の2人。そこにゲブラーを入れて面が割れたのは3人だけという事になる。そして、ゼロがイタリアで交戦したティファレトという奴も含めて、4人という事になる。

 

「ハリー。君、顔が真っ青だぜ。」

 

その言葉で我に返った。ロンとハー子が、心配そうな顔で俺を見ている。

 

「悪りい。嫌な事思い出しちまった。虹の瞳の男とは以前、どこかで出会った気がしてさ。やっぱり、覚えてないけど奴を深層心理で恐れているのは間違い無いだろうな。これからは、コイツとも戦わないといけないのに。」

 

少し笑う俺。全然笑えないけどな。

 

「別に恐怖心を持つ事は悪い事じゃないわ。あなたは12年前、その人に空から叩き落されたんですもの。無理もないわ。」

 

「ハグリッドから聞いたのか?」

 

「ええ。バックビークの件で協力している時に、偶然ね。」

 

「そうか。ハグリッドの奴、口が軽過ぎるんだよ。まあ、いずれバレるとは思ってたけどさ。」

 

俺達3人、何とも言えない雰囲気ななった。話題を変えるか。

 

「それよりも、バックビークの件ってどういう意味だよ?」

 

「その事なんだけどね。ハグリッドについては不問になったんだ。」

 

「良かったじゃん。校長が弁護にでも入ったのか?」

 

「まあね。でも問題はここからなんだ。バックビークについては、有罪が確定したんだ。」

 

「何!?」

 

「理事から危険生物処理委員会に付託されたんだ。ハグリッドが言うには、委員会はルシウス・マルフォイの息がかかった連中で、実質処刑も同然だって。」

 

「……」

 

「エリナにゼロ、グラント、ルインにも手伝って貰ってるわ。ハリーも協力してほしいの。」

 

協力はしたい所だ。だが、真脱狼薬の完成を急がないといけない。とてもではないが、同時にこなすのは無理だ。

 

「ゴメン。今は、新しい魔法薬を作っているんだ。直接的な協力は俺の身が持たない。」

 

2人共、うなだれた。俺の性格なら、やってくれると思ったのだろう。だが、直接的に出来ないのであって、間接的な協力は出来る。魔法生物の事件ファイルとその判例に関する文献はロイヤル・レインボー財団のアーカイブファイルにあった筈だ。

 

「だけど、ロイヤル・レインボー財団の所有する文献に魔法生物の事件ファイルとその判例に関する本はあるんだ。それを取り寄せる位の協力は出来るぜ。」

 

2人の顔が再び、希望に満ち溢れた。

 

「ありがとう!」ハー子が俺に抱き着く。く、苦しい。

 

「じゃあ早速、手紙書いておくよ。マルフォイが絡んでいると分かれば、連中を痛い目に遭わせたいだろうと考えるから、すぐに送ってくれる筈だ。」

 

手紙を持たせて、送った。ナイロックはまだ帰って来てないので、ふくろう便を使った。

 

早速必要の部屋に向かった。真脱狼薬の新しい段階、変身前の状態を維持する事に対しては苦戦していた。まるでこれじゃ、右を見て左を見る感じで難しい。これっぽっちも進んでいない。

 

だが、陰陽術とミラクルガンナーに関してはある程度の成果を上げた。陰陽術の術の1つ、悪しき力を己の心と精神で最小限に抑えるのを助ける『封邪法印』を始めとする封印術を習得出来た。陰陽術に関しては、封印術に適性がある事が分かったんだ。

 

もう1つのミラクルガンナー。唯の弱い豆玉を出す武器かと思った。しかし、魔力を纏わせてから発射すると、威力と貫通力が底上げされた弾が発射されたのだ。何かしらの魔法を纏わせたら、杖から出る魔法よりも距離を問わずに攻撃出来るのではないだろうか。今度、凶嵐でも同じ事をやってみようかな。

 

なんだかんだ言って充実した毎日を過ごしている。何時までも平和が続けば良いけど。そう言うわけにもいかない。義祖父ちゃんは、分かっているだけでもヴォルデモートはまた動き出すと言っていた。

 

それは本当なのだろう。その時にエリナは、余計危険になると言ってた。ダンブルドアに同調したくないけど、我々のできる限り彼女をサポートしていくべきなのだ。ロイヤル・レインボー財団に属している者で、あいつに1番近い距離にいる俺こそ適任なのだ。

 

余談だけど、最近時間に関する魔法にも興味を持ち始めた。巻き戻したり、止めたり、進めたり。ヴォルデモートさえ手を出さなかった分野を極めて見たくなった。

 

話を戻す。リチャード・シモンズの勢力。アルカディア。そして、終わりを生み出す者、通称PWPE。俺にとってはどちらも、特に後者は決して無視の出来ない存在だ。奴等との激突は避けられないだろう。だから今、出来る事を精一杯やるんだ。新たな決意を胸に、俺は更に休息も交えながら己を鍛錬した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 シビル・トレローニー

UAが1万を超えていました。ありがとうございます!これからも宜しくお願い致します!!


1994年1月3日。必要の部屋。

 

「駄目だ!上手くいかない!!」

 

年が明けても、真脱狼薬の第3段階の過程で行き詰っている。どんな物質も試したけど、即座に水に変わったり、腐食性の毒になったりしているのだ。

 

「クソが。前の2種類は上手くいったのに、ここで手詰まりになるなんて!調子コクんじゃなったよ。」

 

年末が懐かしいな。火炎弾と冷凍ガスを使い分けることが出来る、甲殻類の特性を持った改造人間が攻めて来た事があった。城を凍らせて中にいた全員を外に出られなくし、凍死させようとしたんだ。免れたのは、修行で外に出ていた俺とジニーとエックスの3人だけだった。

 

俺は冷凍ガスで一時的に戦闘不能になったものの、エックスの作戦で火炎弾をぶつけられて復活。神秘の光竜とフルシンクロを行い、更にパワーアップした光竜の力で改造人間を倒したのだ。俺は3日間の絶対安静をその後言い渡されたのだった。

 

新学期が始まるまであと5日か。あっという間だったな。そろそろ夕食の時間だ。一昨日の餅つきが懐かしい。日本の年明けの過ごし方を教えるつもりだったのだが。あれ、残ってる皆には好評だったよな。

 

しかもだ。ダンブルドアのジジイが厨房で毎日餅が出るように手配したのだ。毎日食ってりゃ太るってのに。運動やクィディッチの練習をしている奴はまだ良いけどな。してない奴は、そりゃあ激太りだろうよ。

 

今日も上手くいかなったなと思い、必要の部屋を後にする。そこで、女性と遭遇した。痩せていて大きな眼鏡を掛けており、スパンコールで飾った服を着ている。それに、腕輪に指輪、鎖やビーズ玉など装着品を身に付けている。さしずめ『煌く特大トンボ』と言った所か。

 

「あ、どうもこんばんは。」取り敢えず挨拶する。

 

「こんばんは。えっと、あなたは?」

 

「俺ですか?俺は、ハリー・ポッターと申します。以後、お見知りおきを。」

 

自己紹介してお辞儀した。

 

「ポッター?ああ、天使と何か関係がありますか?」

 

「天使って、エリナ・ポッターの事を言ってますか?」

 

「その通りですわ。そして、私はシビル・トレローニーでございますわ。占い学を担当しております。」

 

霧の彼方から聞こえてくるような声で話してるな。エリナに死や不幸の予言ばかり言ってくるもんだから、エリナにとしては苦手意識があるって言ってたな。

 

「エリナの兄ですよ、私は。」

 

「そうでございましたか。でもあなた、私の授業では見かけませんが?」

 

「無理もありませんよ。占い学の時間は、別の授業の履修で利用していますんで。それよりもトレローニー教授、一体ここで何をされていたのですか?」

 

「シェリー酒の貯蔵をしにまいりましたの。」成る程な。

 

「道理で酒臭かったわけだ。というよりも、本当に必要の部屋を知っている方が俺以外に存在していたとは。正直驚きです。」

 

「私もですわ。よもや生徒で、ましてや3年生であの神秘の部屋の存在を知っている人がいるとは、思いませんでしたわ。」

 

「先に俺が利用していたから待っていたわけですね。それはともかく、トレローニー教授。待たせてしまい、申し訳ありません。」

 

「良いのですよ。それで何をやっていたのか、差し支えなければお聞かせいただきたいのですが。」

 

「新しい魔法薬を作っていましてね。途中までは上手くいってたのですが、突然行き詰ってしまいました。ハッキリ言うと、スランプ状態って奴です。そろそろ夕食の時間だから、今日はこの辺でと思ったんです。」

 

「そうだったのですか。」

 

「では、俺はそろそろ大広間に向かいます。トレローニー教授もお気をつけて。」

 

まあ悪い人ではないだろうな。あの人は、あの人なりに良い人なんだろう。だが、俺からしてみれば雰囲気がちょっと苦手だ。でも、パーバティやラベンダーの反応からして、人望はあるんだろうな。腹減ったから、さっさと行ってしまおう。

 

軽くお辞儀をしてから、大広間に向かおうとした。だが、後ろから太い荒々しい声が聞こえてきた。

 

「ことは6つの年を刻むまでに起こるぞ。」

 

何だ!?俺は、振り向いた。トレローニーだ。さっきとは一転して、虚ろな目をし、口をだらりと開けている。

 

「だ、大丈夫ですか?すぐに医務室へ行きましょう。」

 

だけど何も聞こえていない様だった。目がギョロギョロ動き始めた。俺は、戦慄して動けなった。トレローニー教授は、今にも引き付けの発作でも起こしそうだった。すると、また話し始めた。先程と同じく、太い荒々しい声でだ。

 

「虚空より来たりし者が再び立ち上がって来る。その者は感情も心も無く、ただ破壊という意思のみを持つ。モノがあれば破壊し、命があれば殺す。全てを無に帰す者なり。その者を完全に滅する事が出来るのは、古き思想を司る闇を打ち祓いし天使、この世界に眠りし真実を解き明かせし賢者、全ての生命の力を以って魔を撃ち滅ぼす覇王、そしてあらゆる秘宝を手に世界に変革を齎す切札の4人なり。誰か1人でも欠けてはならぬ。されど世界は、否。この()()は、終焉の道を辿るであろう。」

 

トレローニーの頭がガクッと前に傾き、胸の上に落ちた。呻く様な声を出したかと思うと、首がまたピンと起き上がり、立ち上がった。

 

「あーら、ごめんあそばせ。」夢見るように言った。

 

「私、ちょっとウトウトしていましたわ。」

 

俺は、礼をしてからグリフィンドールの談話室に向かった。口寄せで再生の水晶玉(プレバク・ピラクリスタル)を召喚した。そして、予言の記憶だけを取り出し、読み込んだ。予言なんてクソだと今まで思ってた。だが、あれに関しては出鱈目やインチキ、嘘だとは到底思えなかった。何でかって。まあ、直感だと言ってしまえばそれまでだ。

 

誰かに報告すべきだろうか。いいや。嘘の可能性も否定出来ないから、俺だけの秘密にとどめておこう。情報が余りにも少な過ぎるので、調査しなければ。にしても、虚空より来たりし者か。

 

闇の陣営、リチャード・シモンズの勢力『アルカディア』、終わりを生み出す者『TWPF』だけでも手一杯なのに、またとんでもないのが出て来やがったな。まあ、一応夏休みにロイヤル・レインボー財団に報告だけはしておくとしよう。それにしても、虚空より来たりし者を止められる事が出来るのが4人か。そいつらも探さなければな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 呪印の封印

お久しぶりです


新学期となった。1月7日に皆戻って来たのだ。再会を楽しむ者もチラホラ。翌日の8日から授業が再開された。震える様な1月の朝。そんな時は、中でゆっくりしたいものである。だが、よりによって最初に魔法生物飼育学がトップバッターだった。ホットドリンクを持ってる俺はそうでもないが、他の履修者からしてみれば悪夢そのものだろうな。

 

だが、ハグリッドは気を利かせてくれた。火トカゲ(サラマンダー)で焚火をしたんだ。珍しく楽しい授業になってくれた。他の授業もそれなりと言った所か。真脱狼薬の進行スピードは、パッタリと進まなくなったけどな。

 

新しい戦術の幅を作っている。凶嵐に魔力を纏わせて新しい技を作ろうと思っている。今思い付いたのが、対空中戦用に邪神の碧炎を付加させる。上空に跳び上がりつつ、切りつける技だ。天炎刃と名付けた。

 

空中戦にも慣れておこう。ゼロの奴、どうやら杖さえ持っていれば飛ぶ事が出来る飛行術を発明したらしい。全身が黄金の光に覆われるのだ。そんな物なんて無くても、自然物化能力で風そのものになって空中移動出来るだろうに、と心の中でツッコむ俺。

 

それに対抗して、俺なりに箒不要の飛べる手段を開発した。こっちの方が簡単だな。邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)炎よ我に従え(プロメス)勇賢の紅光(ブレイエンス・ディセルクス)、更に自分自身に暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)を使う。これで、紺碧の炎の翼を作り出して、飛行を可能にした。

 

ミラクルガンナーは、邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)をそれぞれ纏わせたチャージショットを発射する事で、攻撃力を飛躍的に上げる。

 

これらの戦術は、ウイルスモードでのみ可能となる。通常モードは、体術を交えた魔法戦術だけになるわけだ。厳密には、使うだけなら凶嵐でもミラクルガンナーでも通常モードで使える。俺自身が編み出した新しい戦術が魔力を大量消費する。完全に使いこなすのであれば、魔力消費の半減、身体能力の急上昇や視力を中心に五感を超強化するウイルスモードでの使用が前提になってくるのだ。

 

しかも、スタミナの消費も初使用時より極端に緩やかになったとは言え、発生する。そこがネックだな。通常モードでもある程度、立ち回れる様にしておかなくてはな。

 

それと並行して、事実上の弟子となった2年生3人組の修行も最低CランクのNEWTレベルに到達した。しかも後半である。ジニーとエックスに至ってはBランクに到達している。他の国の魔法も教えているんだ。素養があったとは言え、この3人の成長は目覚ましいものだ。師としては嬉しい。戦闘能力だけなら、並大抵の魔法使いに勝てる程に。だが、まだ死喰い人やそれ以上の敵を相手にするには力不足だ。

 

「「「守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!」」」

 

馬、黒豹、海豚の守護霊が飛び出る。先に出ていた俺の守護霊であるメンフクロウと合流して、一緒に戯れる。

 

「見事。3人共、良く守護霊をモノに出来たね。継続時間以上に維持出来てるし。俺も鼻が高いよ。」

 

これは本当だ。この短期間で良くついて来れた方だ。次は、盾の呪文の応用版でも教えようかね。後、無言呪文も視野に入れるとしますか。数は少なくても良い。無言呪文が使えるというアドバンテージはかなり大きいからな。エリナも、武装解除呪文だけだが使えるし。ゼロは、俺以上に無言呪文を使いこなすしな。あやゆる分野の魔法の実力と才能において、あいつの右に出る奴なんていないだろう。

 

クィディッチの試合に向けての調整も順調だ。何しろ、ファイアボルト効果による練習の熱意。それが冷めるどころか、逆に熱くなったのだから。

 

そんな日が続いたある日の事だ。今日は久しぶりに何もせずのんびりする事にした。授業も休みだからな。食って寝てを繰り返せば良いだけの事だ。

 

大広間を出て、グリフィンドール塔に向かう。だが、ここで俺を歓迎してくれる者が現れたのだ。ドラコ・マルフォイ、ヴィンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイル、セオドール・ノット、ブレーズ・ザビニ、パンジー・パーキンソンの6人を始めとした30人前後のスリザリン生だ。大抵、マルフォイ家に付き従っている連中ばかりか。現に上級性もチラホラいるし。

 

「ほほう。これは何かの歓迎会でも始めるのか?」おどけた口調で聞いてみる。

 

「ポッター。いい気になるなよ。この人数を相手に流石のお前でも勝てないからな。」

 

「どうかね?生憎、碌に命懸けの戦いを経験した事の無い雑魚にやられる程、柔な鍛え方は鍛えていないよ。」

 

「無理矢理にでも、僕の痣の事を聞き出すまでだ。」

 

「何でそんなに焦っているんだ?スネイプから薬貰ってるんだろ?」

 

「……お前には関係の無い事だ。」苦い表情で呟くマルフォイ。

 

「ああ、そう言えば……クリスマスの時、終わりを生み出す者のリーダーから宣戦布告されたんだっけ?まあ、俺から言わせれば、そんな連中に目を付けられるほどの悪行を犯したお前らの親の自業自得としか言いようが無いけどな」

 

「取り消せ……」

 

「……何を?」

 

「今すぐ父上と母上の自業自得だっていう言葉を取り消せ!ポッター!!」

 

「フン。事実を言って何が悪い?それに、ぬるま湯に浸かってる奴等に負ける要素なんてありゃしないぜ、俺はな。」

 

その言葉が言い終わると同時に、誰かが俺の後ろへとやって来た。エックス・ブラックだ。

 

「やっぱり。先輩に何かをすると思って連中を監視してたら、案の定当たってましたね。先輩から教わった魔力感知呪文が功を奏しましたよ。」

 

「後を付けてたんだ。」怒るどころか逆に感心した。

 

「今でも先輩やエリナさんを殺せば、プリンアラモードが力を取り戻せると考えるバカげた連中がいてもおかしくありませんからね。特に闇の陣営は、去年の聖夜にて終わりを生み出す者に宣戦布告を受けたようですし。何とかポッター兄妹に手は打っておきたいと考えるのが妥当だと思います。」

 

「成る程ね。」

 

「それに、姉ちゃん以外で生き残っている唯1人の家族を救ってくれた先輩には、返したくても返しきれない位の恩がありますからね。」

 

「命を懸けてって言うのは無しだぜ。死んで恩返しなんて間違ってるからな。こいつら30人に負けると思っちゃいないが、少々面倒かも知れない。久しぶりにコンビを組んで切り抜けようぜ。」

 

「ええ。喜んで。」

 

さて。マルフォイ一味と戦う事になったわけだ。

 

『『武器よ去れ(エクスペリアームス)!』』

 

2人で一斉に武装解除呪文を無言で唱える。それぞれの閃光は、クラッブとゴイル、そして数人の1年生と2年生に命中し、そいつらは倒れた。

 

「な、何ですって!?早くも20人!?」パーキンソンが狼狽えている。

 

「ああ!だから無謀だって言ったんだよ!ポッターって確か、フィールドと同じく、あんおリドルと互角に渡り合えるんだからよ!」

 

ザビニが喚き散らしているが、理由はどうあれ、この俺に危害を加えようとしたんだ。遠慮も加減も慈悲もいらん。それ相応の代償は払って貰うとしよう。

 

「2年生の首席候補に30人か。」

 

「グリフィンドールの切札に30人ですか。」

 

「「足りねえよ!せめてその10倍は連れて来い!!!」」

 

10分後、パーキンソンもノットもザビニも、残りのモブ共も戦闘不能になった。クラッブとゴイルよりは歯応えはあったけどな。だけど所詮、申し訳程度だ。マルフォイ以外は全滅した。

 

「他愛も無かったが、妖刀凶嵐やミラクルガンナーないと少しばかり手こずるな。」

 

「仕方ないですよ。その2つの武器を使って連中を攻撃しようものなら、スネイプは口実が出来たと言わんばかりにグリフィンドールから大量の減点、酷ければ毎日先輩に拘束時間を作って胸糞悪い事をやるに決まってますからね。」

 

「それもそうだな。」

 

「たった2人で、30人を……」おや、マルフォイが狼狽えているな。

 

「諦めろ。お前じゃ何も出来ない。」

 

「先輩に何する気か分かりませんけどね。どうせ碌でも無い事に決まっている。」

 

エックスの言葉は流石に偏見も混じっている。それを言おうとしたが、やる事が全て空回り。しかもここ最近、理不尽な目に遭ってばかりのマルフォイ。それを覆せないヤケクソからか、大きな声で叫ぶように俺達に言った。

 

「ああそうだよ!お前達に僕の苦労が分かってたまるか!訳の分からない奴に呪いを刻まれて!その上、理不尽極まりない力を持つ連中に死を宣告されて!!!」

 

「恨むなら、第1次魔法戦争時に、死喰い人として悪事を働いた父親でも恨む事だな。」

 

冷たく返しとく。

 

「身から出た錆だ!逆切れするな!!」

 

エックスが冷酷にそう言い放つ。マルフォイは怒りの余り杖を抜こうとするが、即座にエックスが武装解除呪文で杖を遠くに弾き飛ばした。

 

「うるさい!お前みたいな裏切り者がいるからこうなるんだ!」

 

「裏切ったって。僕は別に、お前の仲間になった覚えは一切ないけれどね。」

 

「おいおい。お前ら、ちょっと落ち着けよ。」流石に空気が悪いと思い、必死に止める。

 

「……もうどうだって良いや。」マルフォイが異様に落ち着いた様子で言った。

 

ん?様子がおかしいな。顔をよく見て見る。目がイッた状態で笑っている。

 

「何もかも、全部壊れてしまえ。」

 

その言葉が言い終わると同時に、漆黒の痣がマルフォイの体中に広がった。そして、彼の杖がひとりでに右手に収まった。

 

「……」エックスは本能的な恐怖を感じており、言葉が出ない。

 

「それが、リチャード・シモンズに付けられた呪いの印って奴か。」

 

「ど、ドラコ?」パーキンソンが起きたか。だが、おぞましい何かを感じ取っている様だ。

 

「そうか。あいつが僕にこれを与えた理由がよーく分かったよ。これで邪魔な奴を、そして僕の言う事を聞かない奴をぶちのめす為の力だったんだ。」

 

物騒な事言ってんな。性格まで凶暴且つ残忍に変えるのかよ。

 

「力に溺れたレイシストには相応しい状態だな。そんなものに頼ってまで俺を排除したいのか。反吐が出るぜ。」

 

「僕はもう弱くない……まずはお前から血祭りにしてやる!!!武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

マルフォイの杖から紅の閃光がエックス目掛けて発射された。が、大き過ぎる。いくら何でもこれは無いだろ。クソ。シモンズの野郎、厄介な力をマルフォイに与えやがって。アレを盾の呪文で防ぐのは到底無理だ。

 

「エックス!」

 

大き過ぎる力の前に何も出来なくなったエックスの近くまで駆け寄る。だが、閃光のスピードが速過ぎる。仕方が無い。

 

加速せよ(アクセレイド)!」

 

光の速さで安全な場所へ回避する。ついでに、倒れているスリザリン生30人弱も安置しておいた。マルフォイの放った武装解除呪文は、直撃した甲冑を粉微塵に粉砕した。

 

「せ、先輩。あれって。」

 

「エックス。話は後だ。誰か先生を呼んできてくれないか?俺一人じゃ手に負えない。」

 

「で、でも!」

 

「良いか。」俺は、エックスの両肩に自分自身の手を置く。

 

「正直言って、エックス。君を庇いながら今の状態のマルフォイと戦うのはとても難しい。下手をすれば殺されるかも知れない。でも、1対1なら勝機はあるさ。」

 

怯えさせない様に、出来る限り諭す様に言う。

 

「俺はまだ良いよ。何かしらの重傷を負ったとしてもだ。他の人よりも完治スピードは速いからな。寿命以外で死にやしないし、今死ぬつもりなんて微塵も無いからさ。それに。君まで何かあったら、イドゥンやシリウスに顔向けなんて出来ないからね。だからさ、頼んで貰って良いか?」

 

精一杯の笑顔でエックスに事を頼む。

 

「……分かりました。ですが、無茶はなさらないで下さいね。」

 

そう言うと、エックスは先生を探しに行った。

 

「臆病者の切札。ハリー・ポッター。僕の力の前に恐れ……」

 

「悪いな。逃げちゃいないさ。」マルフォイの前に立った。

 

ウイルスモードを発動し、アセビの杖を持ってても勝てるかどうか。封邪法印を使うべきなのかな。

 

「何を笑ってるんだ?ポッター。」

 

「そんな借り物の力に頼らないと俺と同じ土台に立てないとはな。つくづく哀れな奴だと思ってね。それじゃあ、始めますか。」

 

杖をそれぞれに向け合う。

 

反射の盾よ(プロテゴ・リフラート)。』

 

見えないバリアを無言呪文でマルフォイの周囲に張った。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

武装解除呪文を唱えるマルフォイ。だが、バリアに防がれている。

 

「そんな小細工が……通用するかああああああ!!!」

 

マルフォイの言葉と同時に、閃光の大きさが更に膨れ上がる。それは、俺の改良した盾の呪文を打ち破ってしまった。しかも、閃光はまだ生きている。

 

万全の守り(プロテゴ・トタラム)!』

 

武装解除呪文を更に高ランクの盾の呪文で防ぐ。

 

「何とか防ぎ切ったな。」

 

「安心して良いのか?麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

失神呪文を使ってきやがった。これも特大規模になっている。ならば……次はこれだ。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!!」

 

最高出力に調整した虹色の破壊光線を発射する。

 

「どうしたポッター。防戦一方じゃないか。僕みたいに力を思いっ切り使えばちょっとはマシになるのに。」

 

「心を持たない力なんて要らねえよ。俺にはな。」

 

そう会話している内に、互いの呪文は相殺された。

 

「…………」

 

「さあ。次は……」

 

「やめて!」

 

声がした。マルフォイの後ろから。下級生のスリザリンの女子生徒がいたのだ。確かあいつは、グラスの妹だ。

 

「もうやめて!」

 

「アステリア?」

 

「こんな事は間違ってる!そんなやり方で、呪いの印の事を聞き出そうとするなんて!」

 

「下がってろ。素直に僕の要求を吞まなかったポッターが悪いんだ。」

 

「どかない!」グラスの妹は、必死に拒絶してから俺の方に向き直った。

 

「お願いします。マルフォイさんの呪印の事を知ってるだけ教えてください。後、止める手段があったらそれも……」

 

俺は、グラス妹もといアステリア・グリーングラスを見る。赤の他人なのに頭を下げている。

 

そもそも俺自身、スリザリンの連中が嫌いってわけじゃない。寧ろ才知や合理性に関しては素直に評価している。本当に嫌いなのは、血筋だけで自らの優位性を誇示する今の純血主義だ。特に、サラザール・スリザリンの意識が内装されたバジリスクから真意を聞いてからは、その傾向が強くなった。

 

さてと。話は変わるが、封邪法印を施したメリットでも考えてみようかね。マルフォイの奴を弱体化させる事が出来るし、術の性能を試せる。しかも、奴が侮蔑していると思われる東洋の魔法技術を刻み込んで屈辱も与えられるしな。何だ、一石三鳥じゃん。

 

「……分かった。丁度、試したい事もあるしな。マルフォイよ。今回は、プライドを捨ててまでお前の為にこの俺に対して頭を下げたアステリア・グリーングラスに免じてやってやろうじゃないか。呪印を最小限に抑えられるかもしれんしな。」

 

杖を下ろしながら言った。

 

「出来るの!?」パーキンソンが歓喜の声を上げた。

 

「成功確率35%。俺も始めてやるから上手くいく保証はない。それに、術を施したとしても呪いの持ち主がその力を積極的に望めば無意味になる。どうする?」

 

半分以下の確立だと脅しをかけておく。3人共、分かりやすく動揺してやがる。上手くいかない方の確率が高い可能性なんてこいつらが懸けられるか分からんしな。それに、マルフォイが死んで責任なんて取りたくないしね、俺は。

 

その時、エックスが先生を連れて来た。フィールド先生を。パーキンソンが逃げた。逃げ足が速いな。よっぽど先生の事がトラウマになってるんだな。

 

「良かった。間に合った。大丈夫かい?」

 

「はい。何とか。」

 

「ま、不幸中の幸いと言った所だね。この程度の物の崩壊なら、割と完全に直せるから。それで、呪印を封印するんだろう?」

 

「ええ。ですが、完全に上手くいくとも限りませんし、下手すると死にますからね。躊躇しますよ。」

 

「分かった。私が証人となろう。ドラコ、死ぬ事になっても文句は言わない事だ。約束出来るかな?」

 

「……はい。覚悟が出来ました。」

 

「決まりだ。ではハリー。準備を。」

 

結界が書かれた大きな紙と術式を取り出す。紙の上にマルフォイを移動させる。杖は要らない。印さえ正しく繋げられるなら、それで理論上は成功するからだ。

 

「良いかマルフォイ。これから、お前に刻まれた呪いの印を封印する。」

 

印を正しい順番で結ぶ。

 

「行くぞ……封邪法印!!!」

 

術式の文字が、マルフォイの首筋の痣を中心に収束していく。マルフォイは激痛の余り、絶叫を上げる。

 

「お。やれば意外に出来るもんだな。」

 

封邪法印の儀式は終了した。成功しちゃったよ。

 

「ぽ、ポッター。成功したのか?」

 

「まあな。それでも完全にってわけじゃない。マルフォイよ、この封印術はお前の意思がその中核を担ってるのさ。」

 

「どういう事ですか?」アステリアが質問してきた。

 

「本当に使いたくないと思うなら、呪いの印は二度と発動しない。ただし、自分の力を信じないでその力を渇望した場合、再び呪いの印は発動する。」

 

それを聞いたマルフォイは倒れた。でも、その表情は何処か安らかだった。

 

「さてと。この一件は極一部を除いて秘密にしとくから、さっさと医務室に運ぼうか。」

 

「はい。エックス。君にも手伝って欲しいんだ。」

 

「言われなくともそのつもりです。」

 

2時間後、事の全てを先生方に話した。フィールド先生がフォローしてくれたので、お咎めは無かった。まあ、マルフォイ一味もだけど。

 

「凄い。これは強力な術だ。我輩の薬の効果を遥かに上回る程の封印が施されている。」

 

「そ、それ程なのですか、セブルス。そしてポッター。どこでこの術を?」

 

「日本の魔法界でも滅多に市場に出回る事が無い陰陽術の薦めという本に書いてありました。最終巻の達人編に記載されています。」

 

陰陽術の薦め全5巻を見せる。入門編、初級編、中級編、上級編、達人編の5冊をね。日本語で書いてある。平仮名と片仮名、漢字で書かれている。その3つをある程度使いこなさないと学べないのさ。

 

「ハリー。1つ聞いて良いかね?」校長が口を開く。

 

「……」開心術をかけてくるジジイ。俺には無意味だな。

 

「何故、ミスター・マルフォイを救ってくれたのかね?」

 

「何故、ですか。今思うとどうしてなんでしょうかね?助ける義理なんてこれっぽっちも無かったのに。じゃあ、今ここで理由を付けしましょうか?」

 

「良いじゃないですか。ダンブルドア校長。理由なんて。たまに直感で動くって時もあるんですから。」

 

フィールド先生が助け舟を出してくれた。正直言うと、何でなのかは分からん。アステリア・グリーングラスの言葉がきっかけになったのは間違いないのだが。

 

「何はともあれハリー。君は今まで敵視していたドラコを助けたんだ。君にどんな理由や思惑があってもね、呪印の暴走を最小限に抑える手段を施した。もっと極端な事を言うと、彼を過酷な目から救い出した事になる。」

 

「実感が湧きませんね。」

 

「まあね。分かるよ。これは複雑な魔法だから。『助けられた』という意識は、どんなに忘れようと彼の深層心理で深く覚えている。もしも本格的に敵対する関係になっても、どこかでそれが生きてくるものさ。ハリー。君にとって良い方向にね。」

 

「気色悪いなぁ。」

 

「悪縁も縁だと思って割り切るんだ。」

 

その言葉を渋々だが受け入れて、俺は医務室を後にする。

 

エリナ視点

「この事件の判例はどうかな。」

 

「う~ん。難しいわ。」

 

「これはマンティコアだから引用は不可能だな。」

 

「これはどうでしょうか!……駄目ですね。有罪になってます。この事件の後味が悪過ぎです。」

 

「パンクしそうだぜ。」

 

「やっぱりハリーが取り寄せたこれを使うしかなさそうだね。ハーミー。」

 

「そうね。調べてみる価値はあるわ。」

 

ロン、ハーミー、ゼロ、グラント、ルインと一緒にバックビークの無罪を証明する手段を探しているんだ。途中でジャスティンも、事情を聴いてくれて快く協力してくれたんだ。そう、バラバラに分かれている4つの寮が協力し合う。それが後々、これからの未来で大きな役割を果たす事になるんだけど、それはまた別の話になるんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 完成のピース

「…………」

 

新しい脱狼薬の開発が一向に進まない。ハア。諦めようかね。3月に入った。

 

まずクィディッチについて。レイブンクロー戦は問題無く勝てた。230対90で。だが、チョウ・チャンが強過ぎなんだ。持ってる箒の性能だけで勝てたようなもんだからな、あの試合。今年度は予測不可能だな。グリフィンドールは今の所全勝しているが、それでもギリギリだ。去年までのスタイルが全く通用しないぜ。

 

諦めの表情をしながら廊下を歩いていると、ゼロとシエルに出会った。

 

「2人共。こんにちは。」

 

「ハリーじゃないか。」

 

「何をしてたの?」

 

「実はさ…………」

 

事情を愚痴も交えて説明した。

 

「と、いうわけなんだよ。」

 

「確かに、開発出来ればそれは画期的だな。」

 

「そうね。善良な狼人間を救えるかも知れないわ。ハリー。私も協力して良いかしら?お祖父ちゃんが魔法薬に詳しいから、何かヒントを貰えるかも知れないわ。ゼロ。あなたはどうするの?」

 

「呪文の開発。兄さんと戦闘訓練。医者と癒者の勉強。そして、バックビークの件で忙しい。パスだ。」

 

「シエル。ありがとう。助かるよ。」

 

「気にしないで頂戴。早速お祖父ちゃんに手紙書くわ。」

 

新薬開発にシエルが加わった。呪文学や授業が無い時間はお互いのスケジュールが合い次第、打ち合わせをしたのだ。

 

シエルが手紙を出して1週間後、スラグホーン教授から手紙が届いた。呪文学終了後にだ。

 

「お祖父ちゃんの手紙によれば、ポリジュース薬の材料を追加してはどうかって事よ。」

 

「ポリジュース薬か。スラグホーン教授も、中々厄介なのを出してくるもんだな。」

 

「クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギは簡単だわ。これって、生徒用の材料棚に置いてあるから。でも、二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切りはそう簡単に置いてあるものではないわね。」

 

「スネイプの個人棚にはありそうだよな。」

 

「そうよね。くれるかしら。」

 

「さあ。『スネイプ先生。新しい脱狼薬の材料で欲しいものがあるんです。戴けませんか?』って言ってもくれねえだろうな。寧ろ、特に俺の場合だと嬉々として隠しそうだぜ。」

 

「それは分かり切ってるわね。せめてスネイプが、研究室から出て行ってくれれば取りやすいのだけれど。」

 

その時、「おーい!」という声が聞こえた。エリナがこちらに気付いて、近付いて来たのだ。妙な羊皮紙を持って。

 

「エリナ。」

 

「ハリー!シエル!ここで何をしてるの?」

 

「新薬開発をな。ただ、その材料の一部がスネイプの部屋にあるんだ。」

 

「へえ。それよりも、2人に見て欲しいものがあるんだよ。」

 

「その羊皮紙を見て欲しいのかしら?」

 

「ううん。新しい魔法をね。ボクなりに変身術を進化させたんだ。」

 

ほほう。それは面白そうだ。

 

「だから、空き教室で見て欲しいんだ。」

 

そして空き教室。俺、エリナ、シエルは場所を変えた。エリナが先に秋葉原で買ったメイド服を着用するそうなので、しばらく外で待機した。終わったので、教室に入った。

 

ちなみにさっきの羊皮紙は、フレッドとジョージからプレゼントされたものだそうだ。忍びの地図という。彼ら2人は、もう何部もコピーを作っておいたそうだ。

 

「ちょっと待った。扉よくっつけ(コロポータス)耳塞ぎ(マフリアート)!」

 

俺は呪文を唱えた。

 

「最初の呪文は分かるけど、2番目のは何なの?」シエルが怪訝そうな表情で聞く。

 

「もう1つは外に声が漏れないようにする為の耳塞ぎさ。」

 

「じゃあ2人共。良く見ててね。行くよ!千変万化せよ(インナムス・マティオネ)!」

 

呪文を唱えると、エリナの身体が変化していく。エリナの代わりに、艶やかな黒髪ロングのメイド服を着込んだセクシーな体つきの美女がそこにいたのだ。これはヤバい。あいつ、何て術作りやがったんだ!

 

「……」ひ、必死になって自らを律する俺。シエルは唖然としている。

 

「ご主人タマ。おイタはいけませんわ。」

 

甘い声で言ってきやがる。胸を強調させて。もとからある癖に、更に胸を盛ってどうする気だよ。シエル、プルプルと震えている。

 

「私、ご主人タマの傍から離れたくありませんわ。何でもさせていただきます。体でご奉仕させてください。」

 

おい。嘘だろ!脱ぐつもりか!イヤ、流石にそれはマズいだろ!

 

「……もう無理だ!!!降参!」自らの敗北を認めて、ストップさせる。危なかった。

 

元の姿に戻ったエリナ。エッヘンという表情をしている。

 

「これが新しく作った呪文なんだ。名付けて『擬態呪文』だよ。人間限定だけど、性別、容姿、色素とかを何でも思いのままに出来るんだよ!」

 

「ハア。ある意味才能だわ。明後日の方向に突き進んでるけど。そう言う呪文を作る暇があるなら、魔法薬学と魔法史に力を入れなさい!」

 

シエルが叱る。しかも、怨みがこもった言い方をしている。シュンとするエリナ。でも、俺はある事を思い付いた。

 

「じゃあさ。これでスネイプの性欲を刺激するってのはどうだろう?ああ見えてむっつりスケベかも知れないしさ。鼻血を沢山出しながらぶっ倒れると思うけど。」

 

「ハリー。良くそんな発想が思い付くわね。何であなたがグリフィンドールなのか不思議だわ。まあ、これしか方法はないでしょうから、やってみる価値はある筈だけど。」

 

「それ良いね!普段女の子に興味すら示さないハリーでこれだから、スネイプ先生だとどうなるんだろう?」

 

「想像するだけでアカン事になりそうだな。」

 

こうして、翌日の金曜日に決行となった。地下牢の近くで待機する俺とシエル。とある魔法薬に関する考察という名目で行かせた。

 

「大丈夫かしら。」

 

「問題無いだろうさ。スネイプの奴、妙にエリナに甘いんだよな。どうしてだ?」

 

魔力感知呪文で会話のやり取りを聞く。

 

細胞分身(セラーレ・ディバリット)。」

 

エリナは、十数人の分身を作った。

 

「ミス・ポッター。何をする気かな?」

 

「こうするんです。千変万化せよ《インナムス・マティオネ》!」

 

見た目は大きく変わってない。ある程度背を伸ばし、顔を大人っぽくした状態に変身した。目をハシバミ色から俺と同じグリーンの目にした。まさか。これは…………

 

「り、り、リr……」突然の出来事に動揺するスネイプ。

 

「これって……ハリーとエリナのお母様じゃない。」

 

『どういう事だ?スネイプの野郎、何故穢れた血と罵っていた筈の母様に……』

 

「セブ様~」

 

母様に変身した沢山のエリナが甘い声でスネイプに言い寄っている。スネイプ、どうすれば良いのか混乱していた。それにしてもこのエリナ、ノリノリである。

 

「うわああああああああああああああ!!!!」

 

スネイプが、鼻血を噴射させながら自室の扉をぶち破って、床に倒れ込んでしまった。

 

「まさかの正面突破でクリアしちゃうなんて。」

 

「シエル、行こう。ああなったスネイプはしばらく動けないだろうし。」

 

「そうね。今がチャンス。」

 

スネイプの部屋に突入し、材料をいただく。これはシエルに任せた。

 

「ん?」

 

ネズミの尻尾を団子にしたような灰緑色のヌルヌルした昆布が3つに、無色無臭で透明な薬1リットル、金色の液体2リットルのボトルを見つけた。

 

「取り敢えず、貰える物は貰っちゃおうか。」

 

折角なのでいただいた。シエルも、目的の材料を多めに確保出来たそうだ。

 

「この3つ、何か分かる?」

 

「鰓昆布に、真実薬、フェリックス・フェリシスね。どれも希少価値が高い物じゃないの。知っててくすねたの?」

 

「いいや。珍しそうだなって思ってさ。」

 

「……ある意味才能だわ。物の価値を見抜く力と言えばいいのかしら?」

 

「それは良いからさ。さっさとエリナと合流しよう。」

 

その後、エリナと合流した。ルインと遭遇したらしいが、スネイプについては勝手に自爆という形になったそうだ。医務室で週末を過ごす事になったらしい。

 

必要の部屋。早速、真脱狼薬βにポリジュース薬の材料を煎じて混ぜ合わせる。比率は真脱狼薬βを3、ポリジュース薬を1といった具合に。

 

「これで、21日経てば完成よ。」

 

3週間後。再び必要の部屋を訪れる。

 

「完成してますように。評価・査定せよ(タクショネミート・アステマティオ)。」

 

鑑定結果が出た。エメラルドグリーンの光が出た。成功だ。

 

《真脱狼薬γ

 真脱狼薬βの進化版。その効果は、人狼の本能を完全無効化し、服用回数が1回だけで済む効果に比べて変身前の人間の状態も維持される。満月の日の、どの時間帯でも良いので服用する事。従来の脱狼薬をそれ以前に飲んでいても、問題無く効果が発動する。但し、とても苦い》

 

第3段階の変身前の維持が成功したのだった。

 

「やった!成功したわ!」

 

「よっしゃー!やったぜ!!!」

 

ハイタッチして喜びを分かち合う。だが、味が更に酷くなったか。

 

「でも。途轍もなく苦いんだよなぁ。」

 

「そうね。苦い味がダメな人もいるし。これからは、味の克服をしましょう。」

 

新たな目標を胸に、本当の意味での真脱狼薬完成を誓う俺達であった。

 




次の投稿は1月8日を予定しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 試験

イースター休暇。真脱狼薬の完成版を目指して、様々な味を付加する。が、γ程ではないとは言え、難しい。

 

「味付け小物じゃあるまいし。簡単にはいかないか。」

 

「そうよね。今日はこれ位にしましょう。」

 

必要の部屋を出て、大広間で食事をしようとする。そこに、エリナとゼロがやって来た。

 

「スマナイ。いきなり押し掛けて来て。」

 

「どうしたんだ?」

 

「バックビークが負けたの。ハリーの取り寄せた本があって、何とか出来そうだったの。でも、ハグリッドがあがり症をこじらせて負けちゃったんだよ。」

 

「控訴は出来るんじゃないかしら?」

 

「出来る。だが、委員会はルシウス・マルフォイの手中に収まっているようなもんだ。覆す確率は、全く無いに等しい。」

 

ゼロが悔しそうに言った。

 

外でハグリッドに会いに行く事になった。その時だ。マルフォイと鉢合わせになったのだ。だが、左頬が腫れている。ビンタされたのか?あいつ。

 

「さぞご満悦だろうな。性根は変わってなかったか。」

 

出会い頭に毒を吐いてやった。

 

「よしなさい。彼なんて、罵倒される価値すら無いわ。イドゥンやグラントは良い人達なのに、何で同じ寮でこうも語ってくるのが違うのか、私には全く理解出来ない。」

 

シエルも軽蔑の眼差しで、マルフォイを見た。マルフォイは青ざめている。

 

「望んだ通りの結果になったから良かったんじゃないの?もっとバックビークの事で喜べば。」

 

エリナが言った。

 

「ここまでの事態になるなんて思わなかった。今まで自分がどれだけ身勝手で、どれだけ守られていたのかを。今年度は嫌と言うほど分かったんだ。もう父上は止まらないだろう。」

 

「確かにな。理事を辞めさせられた上に、クリスマスは訳の分からない組織からの宣戦布告。しかも勝てる保証なんて全く無い。だから少しでも、自分にとって都合の良い出来事位作りたいんだろうな。」

 

ゼロが涼しく言った。

 

「ポッター。教えてくれ。何故僕に封印術を施した?僕をその気になれば苦しめ続ける事だって出来るのに。」

 

「……強いて言うなら、術の性能を試す為だ。それ以外に理由があるか?」

 

「そうか。」

 

エリナ、ゼロ、シエルに目配せをする。さっさと行こうと。マルフォイはその場に立ち竦む。その後聞いた話だが、出会い頭にマルフォイをビンタしたのはハー子だった。抵抗しないでくらったのは、あいつなりのケジメなのだろう。

 

ちょっと手紙を送るか。ロイヤル・レインボー財団に。

 

休暇明けの最初の土曜日に、クィディッチの決勝戦が行われた。確かに俺はスニッチを取ったが、この試合自体は170対160で敗北した。だが、持ち点はこちらが110点分多い。よって、少々納得出来ない形ではあったが優勝したのだ。前代未聞の3連覇を取れたのだ。

 

「勝負に負けたけど、優勝出来たってどういう事なんだ?」

 

「とにかくよぉ。ハリー、おめでとうさん。」グラントが俺の肩に手をポンと置く。

 

「ルイン。強過ぎだろ。どういう練習したらそうなる?」

 

「死に物狂いでやったのよ。」

 

「そっか。まあいいや。課題も見つかったし。」

 

これは、流石のマクゴナガル先生も涙を流して喜んでいた。宴を談話室でやる事になった。オリバーとパーシーがダブル司会をしている。

 

「前代未聞の3連覇を祝って!そして!」

 

「勝利を齎してくれた切札を称えて!!」

 

「「乾杯!!!」」

 

「「「「「乾杯!!!」」」」」グリフィンドール生全員が乾杯をする。

 

「飲め歌え騒げ!今日は宴だー!!!」

 

これから試験だってのに、元気があるよな。マクゴナガル先生が少しは自重しろと言ってきた。だけど、喜びを隠せないらしい。この位は大丈夫だろという表情になっているのだから。

 

「ポッター。もっと喜んだらどうなのですか?」

 

「これから試験かと思うと、そりゃ憂鬱になりますって。」

 

「今はお忘れなさい。楽しむべきです。それよりも、例の薬はどうなっていますか?」

 

「効能自体は完全クリアです。これも、シエルがいたからこそですよ。ただ、味はもっと酷い事になっていますから、苦い物がダメな人でも問題無く飲める様に改良しています。」

 

「そうですか。完成したら、すぐに誰でも良いので持ってきなさい。」

 

「はい。」

 

優勝のテンションは1週間続いたわけだ。だけど、悲しいかなテストが近付いてきた。特に、5年生と7年生は大変重要なOWLやNEWT試験があるのだ。あのフレッドとジョージでさえ、真剣に勉強している。パーシーは魔法省に入りたいので、最優秀成績を取らないといけない。故に、それを邪魔しようものなら誰だろうと罰則を科した。

 

パーシーよりもハー子の方が気が立っている気がしなくもない。試験科目を同じ時間帯に複数もやる方法か。時間を操作出来れば或いは。時間を操るのか。ちょっと聞いてみようかな?

 

元気の出る呪文についての授業が終わってからフィールド先生に聞いてみる事にした。

 

「時間を操る魔法……ねえ。魔法は無いけど、道具ならあるよ。」

 

「あ、あるんですか!?」

 

「逆転時計。またの名をタイムターナーと言ってね。時間を操作する以上、魔法省で厳重に管理されているんだよ。」

 

「もし、過去の出来事を変えたらどうなりますか?」

 

「ご両親を救いたい?」

 

「いや。母様と、あるアイテムを使って1回だけ会話しました。俺とエリナが生きていてくれたから後悔なんてしてないし、生き返るつもりもないって言ったんです。それに、死者はどんな理由があっても、むやみやたらに生き返らせてはいけないって悟りました。」

 

「そこまでの答えが出ているなら、答えを言おう。タイムターナーに関する事だが、過去を変えたとしても、何かしらの修正が行われて結局何も介入しない時と変わらないと考えられる。」

 

「時間って結構複雑なんですね。」

 

「そうだね。我々人間は、時間に関しては半分も理解出来ていない。イヤ。時間の片鱗は掴めても、全てを知るなんて事は絶対に不可能だ。永遠にね。」

 

「……」

 

「さあ。来週からテストなんだ。時間の考察に関してはゆっくり考えられるんだ。ハリー。君に限って落第は無いだろうけど、準備だけはしておこうね。」

 

「はい。時間を取っていただき、ありがとうございました。」礼をして失礼した。

 

1994年6月3日。この日から4日間はテスト週間だ。まずは変身術。ティーポットを陸亀にする試験だ。

 

『折角だから、ロンサム・ジョージに変えてしまおう。』

 

黒檀の杖で魔法をかける。案の定成功したな。エリナは、ガラパゴスゾウガメにしたけど。

 

「亀って湯気を出すかな?」

 

「というかハリー。あれ一体何の亀よ?」

 

「ガラパゴス諸島ピンタ島に住むロンサム・ジョージさ。やるんだったら、手の込んだ奴にしないとね。」

 

次の呪文学の試験は、ロンと組んで元気の出る呪文をかけあった。俺は問題無かったけど、ロンは緊張の余り、少々力を入れ過ぎたようだ。

 

「笑い過ぎて死にかけたぞ。」まだ笑いの発作が止まらない。

 

「ゴメン。」

 

6月4日。火曜日。午前の魔法生物飼育学程簡単なものは無かった。レタス食い虫(フローバーワーム)を放置すれば良いのだからな。ハグリッドと話をしたが、明後日には決まるとの事。午後の魔法薬。混乱薬は難無く出来た。エリナと見比べてみたが、彼女はそこまで濃くならなかったようで泣きかけていた。俺は、必死に慰めた。真夜中の天文学でカバーしようぜと言って。

 

6月5日。水曜日。魔法史は、魔女狩りについての問題が出た。一時期魔女狩りの事をマグルの視点で調べてたから問題は無い。歴史関係はアドレー義兄さんが作ったマンガで詳しく読み込んだのだから。午後は薬草学。温室で行う。途轍もなく暑い。ホットドリンクと対を成すクーラードリンクを予め飲んで試験に臨んだ。そして最後に、古代ルーン文字学。口寄せ用の術式を書いている俺からすれば大した事は無い。ただ、他の問題に気合を入れ過ぎて、最後の問題を解けきれなかった。

 

6月6日。木曜日で最終日。闇の魔術に対する防衛術の授業は1番人気があっただろうな。今まで誰も考え付かなかったような試験を出した。水魔のグリンデローが入った深さ3メートルのプールの上を渡る。次は、赤帽のレッドキャップが沢山いる穴だらけの場所を横切らなきゃいけない。3番目はおいでおいで妖怪のヒンキーパンクを避けて沼地を通り抜ける。最後に、ボガートが閉じ込められているトランクに入り込んで戦うという内容だ。

 

最後、マクルトが出て来たがSM嬢のボンテージ服を着せてやった。

 

「凄いよ、ハリー。イドゥンの到着時間を軽く上回ったね。」

 

マジか。最後だから気合い入れてよかったぜ。アセビの杖も惜しみなく使ったからな。エリナはイドゥンと同じ到着時間、ハー子は惜しい所でリタイヤだった。

 

試験は終了した。エリナ、グラント、ロン、ジャスティンは最後に占い学があるとの事だ。シエル、ハー子、ルインはマグル学へ行った。俺はゼロと共にロイヤル・レインボー財団から来た手紙を読む。

 

「アメリカの魔法生物保護施設に護送するって事か。」

 

「ああ。キットが簡易ワープ装置で送るってよ。ただ、中には入れないけどな。」

 

「失敗は許されないぜ。下手をすれば、アズカバン行きは確実だからな。」

 

残りの7人が来たら、バックビークを救う手段でも教えるか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 バックビーク救出作戦

今回は短めです。


午後の試験が終わり、その時間帯に試験のあった者が帰ってくる。

 

「お帰り。エリナ、ルイン、シエル、ハー子、ロン、グラント、ジャスティン。お疲れ様。」

 

7人を迎える俺とゼロ。それと同時に、労いの言葉を掛ける。

 

「ロイヤル・レインボー財団がバックビークを保護するそうだ。」

 

「本当!?」ハー子が大きな声を上げた。

 

「何でもアリじゃない。」

 

アメリカまで護送する事、外でキットが待機してる事を伝えた。

 

「それに、例の薬の事もあるしな。薬の完成チームと、バックビーク解放チーム、それの見張りチームで分けようと思うんだが。」

 

「どんな組み合わせにするんですか?」ジャスティンがゼロに聞く。

 

「まずは薬チーム。魔法薬学に強いハリーとシエル、ルインの3人だ。」

 

「ちょっと待ってくれよ。ハーマイオニーは何で入ってないのさ?」と、ロン。

 

皆ウンウンと頷く。これについては、俺が言う事に。

 

「ハー子。時間を操れる道具を持ってるだろ。」

 

ハー子に視線を移す。驚愕の表情をしている。恐らく本当なのだろう。

 

「ええ。全科目履修の為にタイムターナーをね。マクゴナガル先生を通して魔法省から貸して貰ったわ。でもハリー。どうして分かったの?」

 

「俺はさ。時間に関する魔法について調べてたんだよ。フィールド先生に聞いたらさ。タイムターナーの事教えてくれたんだ。それでもしやって思ったんだ。」

 

「そ、そうなのね。」

 

「でもどうして時間なんだよ?物や場所には興味無いのかよぉ?」グラントが聞く。

 

「物質。空間。どちらもあまり興味がないのさ。グラント。今俺が興味あるのは、時間に関してだ。ま、話はその位にして作戦の方に戻ろうぜ。」

 

「う、うん。バックビークに残された時間は、あと僅かだからね。」エリナが皆に言った。

 

「それで、残った6人でバックビークの救出をするんですね。」

 

ジャスティンが確認をしてくる。

 

「ああ。だが、少しのミスも許されない。それが命取りになる。覚悟の無い者は無理に参加しなくていい。忘れてくれ。」

 

ゼロが強気な口調で皆に言った。だが、全員動かなかった。

 

「分かった。ならば、これから救出のチーム分けをする。」

 

見張り班は、ハー子、グラント、ジャスティンに、救出チームはエリナ、ゼロ、ロンに決まった。

 

「それじゃ3班。幸運を祈る。」俺が全員に言った。

 

「ハリー。必ず、新しい脱狼薬を完成させて!」ハー子が俺に向かって叫んだ。

 

「ああ。シエルに、今度はルインも一緒だ。完成させるぜ。」

 

3人は必要の部屋に、3人は外に出た。

 

エリナ視点

「良いか。俺、ロン、エリナがバックビークを解放する。ハーマイオニーとグラント、ジャスティンは魔法省から来た奴らを見張ってくれ。」

 

「分かったわ(ぜ(ました))。」

 

二手に分かれた。ボク、ロン、ゼロでバックピークの所へ行った。ハグリッドの小屋のすぐ隣で繋がれている。

 

「バックビーク。」ボクは、バックビークにお辞儀をした。バックビークもそれに応えた。

 

「成功だな。ハリーから教わった、やすりで足に付けられたキーウェイを突破してやる。」

 

「どれくらい掛かるんだい?」ロンがゼロに聞いた。

 

「30秒あれば楽勝だ。ロン、エリナ。柵に縛り付けている綱を解くんだ。」

 

30秒後、首に綱が付いている事を除けば、バックビークはほぼ自由の身になった。

 

『ハーマイオニー。出来たぜ。グラントをヒッポグリフに変身させてから、3人で放牧場まで来てくれ。』

 

『分かったわ。』

 

ゼロは、ハーミーと念話術で会話した。ゼロは、魔法でバックビークの体色を変えてパッと見は分らない様にした。そのまま放牧場へ向かったんだ。

 

放牧場に到着すると、ジャスティン、グラント、ハーミーの3人はもう到着してた。

 

「グラント。大丈夫?」

 

「変身ってかなり体力とスタミナ使うんだよなぁ。エリナちゃん。」

 

「そういう能力も考え物だね。ゼロの自然物化能力に、ハリーのW-ウイルスみたい。」

 

「さあ。学校の外まで行くか。」

 

6人でバックビークを森を通じて城の入り口まで向かう。その時に会話が聞こえた。

 

「では被告の処刑を執行し……あれ?」

 

ファッジが驚いた表情で辺りを見渡す。

 

「何処にやった!?おい!木偶の坊!!さてはお前、逃がしただろ!」

 

鎌を持った似非死神の格好をした死刑執行人の男がカンカンに怒っている。

 

「落ち着くのじゃワルデン。さっきまで、ハグリッドと一緒におったじゃろう。君も老けたのではないのかね?」

 

ダンブルドアの声が聞こえた。どこか面白がっている様な声だった。

 

「ビーキー!可愛い嘴のビーキー!いなくなっちまった!なんてぇこった!きっと自分で自由になったんだ!ビーキー!賢いビーキー!」

 

「誰かが逃がしたんだ!」死刑執行人が歯噛みした。

 

「そこまでの知能があるのかね?……誰かに盗まれた……うーむ。謎だ。」

 

「それならばコーネリウスよ。空でも探すかね?」

 

「こちらとて忙しいんだ。去年の一件での対処でね。マクネア、引き上げよう。まあ、何はともあれハグリッド。良かったじゃないか。幸運だったね?」

 

「うおおおおおおお!!ビーキー!元気でなー!!!」

 

「ハグリッドや。お茶かブランデーをいただこうかの。」

 

「はい。先生様。」

 

ボク達6人はじっと耳を傍立てた。足音が聞こえ、死刑執行人が悪態をついている。小屋の戸がバタンと閉まり、それから再び静寂が訪れた。

 

「上手くやり過ごせたようだね。」

 

「それじゃあ、出発だ。」

 

ボク達は歩く。30分もして、入り口に到着。アドレーさんとキットさんがいた。バックビークを元の体色に戻したうえで、2人に引き渡した。

 

「じゃ、預かるぜ。」キットさんが綱を持ちながら言った。

 

「エリナちゃん。ハリーに宜しく言っておいてくれ。」

 

「はい。それでは、バックビークを宜しくお願いします。アドレーさん、キットさん。」

 

2人に挨拶をして、城に戻る。1回だけ振り向いたけど、その時には誰もいなくなったんだ。

 

「元気でね。アメリカで幸せに暮らすんだよ、バックビーク。」

 

バックビークにそう告げる。

 

「終わったな。」グラントが安堵の表情で言った。

 

「そうですね。」ジャスティンも同意する。

 

「終わって良かった。」ロンが座り込む。

 

「それじゃ、ハリー達の所へ行きましょう。」

 

ハーミーの言葉で、ハリー達の所へ向かった。

 




先程活動報告にて、ハリポタじゃない次回作についてのアンケートを開始しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 真脱狼薬δ

エリナ達6人がバックビークを救出している頃の話。ルインに薬の概要を話した。

 

「これ、完成して発表したら魔法薬学の歴史に名を残すレベルよ。でも、本当に良いの?手柄を、全て私達にくれるって。」

 

「ああ、ルイン。何度も言った筈だ。協力する代わりに、薬は2人が開発した事にしてくれってね。それにしてもさ。いくらなんでも無いだろ。『魔法薬学の歴史に名を残す』ってのは。幾ら何でも誇張し過ぎ。」

 

冗談だろと笑う俺。だが、シエルは真面目そうな表情をしている。え?

 

「もしかして……俺ら。やらかした?」

 

ルインとシエルに尋ねる。2人共、息がピッタリ合う様に俺に頷いた。いやあ、リーマスを助けようとしただけなんだよな。正直言うと。

 

「ハリーは長年、日本にいたから事情を知らないのも無理はないわよ。」

 

シエルが慌てて俺のフォローに回った。

 

「だって、マグルや他の亜人との共存が出来てるし。でもねハリー。この国の魔法界では、これだけの進化した脱狼薬という課題は魔法薬学での最大の難関なのよ。」

 

「へえ。」

 

「で、これは何なのよ?」ルインは、少し離れた場所の薬品に指をさす。

 

「失敗作だよ。左から順に、蝙蝠になる薬、6ヶ月酔っ払いになる薬、性転換する薬、腕が4本になる薬、胸が大きくなる薬だな。ちゃんと解毒薬は作ってるけどね~」

 

最後の薬の事を言った瞬間、シエルが俺に詰め寄る様に近付いて来た。目が……目が怖い。

 

「最後の薬、いくらで売ってくれるの!?」

 

「シエル?何で目がマジになってんだよ?」

 

「シエル、あなたには相応しくないわ。やめておきなさい。」

 

「あら、ルイン。私が、ハリーの作った『胸が大きくなる薬』を飲んで、これ以上グラマーになったら困るものね。うふふふふふふふふっ!」

 

「何ですって!?あなたがそんなものを飲まなくても、私の方がずーっと胸は大きいもの!ねえ、そうでしょ!ハリー!」

 

女の戦いは怖い。シエルの方が、ある程度勝っている状態みたいだな。それにしても、脂肪分があるだけでこうも醜い争いになるのか。俺には分からないんだが。

 

「いや、そう言われても……どっちも見た事無いし、見たら捕まるから見たくねえよ。特にルイン。俺がそんな事をやろうものならスネイプに殺されちまうぜ。」

 

「何だろう?逆に返り討ちにしそうだわ。」シエルが呟く。

 

「服の上からでも分かるでしょ!普段、女の子のどこの部分見てんのよ!」

 

「俺は、女の胸に興味なんかない!!!つーか、胸の話をしにここ(必要の部屋)に来たわけじゃない!!」

 

一旦、その話題は無理矢理終わらせたのだった。本題として、真脱狼薬の話に入る。10分で説明をする。

 

「成る程。効能自体はクリアしていて、後は味の改善をしているというわけね。」

 

ルインが真脱狼薬シリーズのレシピを見ながら確認の同意を求める。

 

「ああ。その認識で間違い無い。」

 

「そうね。基本的に『飲みやすい、美味しい』薬程無味無臭なのよ。」

 

「それはシエルも言ってた。ある程度までは改善出来たけど。」

 

「ルイン。何か良いアイデアは無いかしら?」

 

「う~ん。そうねえ……あ!パラチノース加熱物はどうかしら?」

 

「何なの?それ。」シエルは、チンプンカンプンだった。

 

「糖質パラチノースが原料。食品の好ましくない味や香りの改善をさせ、それらを引き立てる効果を持つ。確かにそれなら出来るかも。その発想は無かったよ。」

 

「それじゃ、早速取り掛かりましょう。」

 

こうして、味の改善を成し遂げる為に作業に取り掛かった。ルインの提案通り、パラチノース加熱物を追加した事で、無味無臭となった。

 

「この状態なら、甘い物を入れても問題は無い筈だけどな。」

 

「ええ。シロップかハチミツを入れましょうよ。」

 

「少しでも栄養が摂れる様にミネラルをたっぷり含んだ加工乳も悪くないな。」

 

「この2人、更にプラスアルファをするつもりなの?凄過ぎるわ。」

 

ルインがポツリと言った。

 

「何か言った?」

 

「いいえ。別に。」

 

試行錯誤した結果、1時間で完成した。

 

「それじゃ、ハリー。お願い。」シエルが言った。

 

「了解。評価・査定せよ(タクショネミート・アステマティオ)。」

 

鑑定結果が出た。エメラルドグリーンの光が出た。という事は、成功している証拠だ。

 

「鑑定結果を見ましょうよ。」

 

《真脱狼薬δ

 真脱狼薬γの進化版。その効果は、人狼の本能を完全無効化し、服用回数が1回だけで済む効果に比べて変身前の人間の状態も維持される真脱狼薬γの効果をそのままに、味の改善がされている。満月の日の、どの時間帯でも良いので服用する事。従来の脱狼薬をそれ以前に飲んでいても、問題無く効果が発動する。メープルシロップの味がする。更に、ミネラルをたっぷり含んでおり、健康や美容効果も併せ持つ》

 

「は、ははははは。」

 

「本当に出来ちゃってる。」

 

「遂に完成したんだ。」

 

「「「やったー!!!」」」

 

歓喜の声を上げる俺達3人。ハイタッチしあい、その喜びを分かち合う。

 

早速、職員室へ向かった。4種類の真脱狼薬をそれぞれのフラスコに移して。レシピはシエルが持った。何も持ってないルインがドアを4回ノックする。

 

「「「失礼します。」」」

 

「ミスター・ポッター、ミス・スラグホーン、ミス・ローズブレード。どうしましたか?」

 

最初に出迎えたのはマクゴナガル先生だった。

 

「というか、何ですか。この組み合わせは。」

 

「良いじゃないですか、スプラウト先生。細かい事なんて。ハリーにロン、ハーマイオニー、ゼロ、グラント、エリナなんてしょっちゅう共に行動していますって。」

 

「特殊過ぎる例を出さないでいただきたいですな。フォルテ。」

 

「それで、どのような用件ですか?今は会議中ですが。」

 

「例の薬が完成しました。」

 

会議を邪魔されて不機嫌気味になってるマクゴナガル先生の質問に、俺は淡々と話した。

 

「もしや、真脱狼薬を完成させたのですか?」

 

「はい。我々3人で。」

 

「俺は、手柄や名誉の類には興味ないんで……」一言付け加える。

 

「セブルス。」

 

スネイプにフラスコとレシピを渡した。じっくりと、αと書かれた紫の薬、βと書かれた明るい緑の薬、γと書かれたオレンジ色の薬、δと書かれた空色の薬を順番に見る。その後に、レシピを確認する。

 

「成る程。段階ごとに分かれているのか。効果の増幅、服用回数の短縮、変身させるが変身前の状態に見せかける、味の克服が。それに美容も期待出来る。強化薬にポリジュース薬、食品を主に使ったとは。我輩でも全くその考えは思いつかなかった。」

 

「それ程の効果なのですか?」フィールド先生が聞く。

 

「文句のつけようがない。完璧だ。」

 

スネイプの野郎、何か複雑そうな目で俺を見てやがる。俺は完全に、奴に対して憎悪の感情しか持っていない。さっさと視線を逸らしやがれと睨み付けてやった。

 

「早速ルーピン先生の所へ持っていきましょう。」

 

まずは、全員で校長室へ向かった。ダンブルドアに概要を説明した。実証はルーピン先生の部屋でという事になった。

 

「これが薬の説明は以上となります。」

 

「分かったよ。ありがとう、ハリー。そして、シエルにルイン。」

 

「別に。δなら飲めるでしょう?」

 

「早く飲んでください。」

 

「この状態のままなら、成功になりますから。」

 

「3人共。もっと喜んでも良いのじゃぞ?これは世紀の大発見じゃ。君達の発見で、世界中の人狼が救われるのじゃ。」

 

「今思ったんですよ。これ発表しちゃったら、ルーピン先生やめなきゃいけないじゃないですか。人狼化の苦痛から救う為に作ったのに、無職に追い込んだらそれこそ本末転倒なんですけどね。」

 

「そうですね。授業の内容は良かったから惜しいです。」

 

「あちゃあ~。そこまで考えてなかったわ。」

 

シエルも、ルインも戸惑っている。だが、リーマスは俺達3人に笑顔でこう言った。

 

「気にしなくていいよ。ハリー、シエル、ルイン。その気持ちだけ貰えば十分だ。私はまだマシな方さ。ロイヤル・レインボー財団から経済的な支援をして貰ってるからね。だけど世の中には、私よりも生活に困っている人狼がいる。今よりも人狼の立場が良くなるなら、私は喜んで受け入れよう。」

 

そして、次の満月の日になった。リーマスは、真脱狼薬δを飲んだ。どうやら、お気に召したようだ。この1日の経過観察をする。

 

結果としては、難無く1日を過ごせた。それは喜ばしい事ではあるのだが……

 

「クソ。逆に追い詰めた。こんな筈じゃなかったのに。」壁を殴りつける俺。

 

「よっぽど尊敬してたんだね。」

 

「というよりも、ハリーのお父様の親友で自分の後見人だからって理由の方が強いのよ、ルイン。」

 

「何度も発表はやめてくれって言ったんだよ。」

 

「それでも先生は首を振らなかったね。人狼の差別をなくす手段を明かさないわけにはいかないって。」

 

「その話は置いておきましょうよ。話題は変わるけど、エリナ達、バックビークを救出出来たみたいね。」

 

「それは知っている。何の障害も無くやり遂げたんだってな。」

 

エリナ達6人からの話で成功した事を聞いた。そして、ロイヤル・レインボー財団から無事に元気な姿を見せるバックビークの写真も送られてきたのだ。少しは、気持ちが落ち着いた。

 




先週からちょっと意見を聞いておきたいアンケートを活動報告で挙げています。
もしよろしければ、参照お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 3年生修了

学期の最終日。真脱狼薬シリーズの効果が実証されたので、正式に発表になった。シエル、そしてルインの2人が新聞や学術誌に取り上げられた。

 

「凄いじゃん!もっと喜んだら?」

 

エリナが元気良く2人に言った。尤も、ジジイが間接的な表現で俺が立役者だと言ったらしく、思い描いていたビジョンとは全く違っていたのだ。

 

「極端な事言っちまうとな、先生を退職に追いやっちまったんだ。考えてもみろよ。素直に喜べるか?」

 

「確かに。でも先生は、そんなの覚悟の上だって言ってたよ。それにね、パパとハリーとボクには十分救われたってさ。」

 

「どういう事?」

 

「パパは自分が狼人間だったとしても決して見捨てず、危険を冒してまで動物もどき(アニメーガス)になった。ハリーは、今回の真脱狼薬で自分だけではない全ての狼人間を過酷な運命から救済した。ボクは、パパの最期の言葉を伝えて誰一人死なせる事無く事件を解決出来たって。あの言葉を聞かなければ、ピーターを殺してたって。」

 

「そうか。なあ、守護霊はどうなった?完成したら、ある呪文を教えようと思ったんだけど。」

 

「分かったよ。でも、ルーピン先生の所に行こうよ。見せたいし。」

 

「ああ。だな。」

 

2人でリーマスの部屋に入る。開けっ放しだ。荷物は殆ど片付いてる。

 

「やあ。」

 

「先生。いや、リーマス。俺は……」

 

「大丈夫さ。思いっ切り抵抗して敵を増やすよりは、数は少ないけど私の事を分かってくれる味方がいれば生きていける。それにね、君達を見てるとイタズラ仕掛け人の時の記憶が蘇ってくる。本当に2人は、ジェームズとリリーの子だ。性格は思いっきり違うけどね。特にハリーは、メイナードそのものだよ。」

 

「性格については、初めて聞きましたよ。育った環境が違うと、こうも変わって来るなんてね。」

 

「私がここに来て誇れる事があるとするならば、エリナの守護霊を完成させた事と、最後に飲みやすい薬を飲めた事だね。」

 

「最後、それで良いんですか?」

 

「まあまあ。本人が良いって言ってるなら良いじゃん。ボクの守護霊は牡鹿。つまり、パパの動物もどき(アニメーガス)だった。そうですよね?」

 

エリナが忍びの地図を取り出した。「われ、ここに誓う。われ、良からぬ事を企む者なり。」と言った。天辺に大きな文字が現れた。

 

「ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ、ティグリス、アンク……か。」

 

この6人、見事に引き裂かれたな。プロングズは友を信じ過ぎた事で殺されてしまい、ティグリスもダンブルドアに見捨てられて死喰い人に殺された。ワームテールは自らの心の弱さに負けて友を裏切り、挙句の果てに死んだ方がマシだと思う位の過酷な運命を待つ身となった。せめて、エリナ、ゼロ、グラント、ロン、ハー子とはそうなりたくない。

 

だけど、まだ希望や光も残っている。パッドフットは汚名を着せられながらも、味方の力を借りて名誉を回復させ、アンクはパッドフットを救ってゴールイン。ムーニーは自分の体質を、新しく作られた薬を通じて克服した。

 

「君達のお父さんは、いつも牡鹿に変身してた。枝分かれしているから、プロングズと呼んでいたのさ。」

 

「ティグリスって、アルフレッドさんですか?」

 

「それにアンクって、メリンダさん?」

 

「ああ。2人は私達4人よりも学年は3つ下でね。見事に綺麗なホワイトタイガーで鋭い牙をしてたからティグリス。鋭い目を持った凛々しい鷹に変身していたからアンクって呼ばれていたのさ。ティグリスの細胞分身が無ければ、動物もどき(アニメーガス)の習得に更に時間が掛かっていただろうね。」

 

「細胞分身を使った大量経験値で習得したんですね。」

 

「そうなんだよ……さてと。私はもう教師ではないから、これを正式に君達に譲ろうと思っている。尤も、ハリーはこの地図に似た物を持ってる様だし、以前の持ち主だったフレッドとジョージはスペアを幾つも作っているみたいだしね。それに、ジェームズは自分の子供達が城を抜け出す方法を知らないままだったら、大いに失望するだろうし。それは確実に言えるよ。」

 

コンコンとノックの音がした。エリナは、「いたずら、完了。」と言ってからポケットに地図を入れる。入って来たのは校長だった。俺達がいても特に驚いていない様子だ。

 

「リーマス、門の所まで馬車が来ておるよ。」

 

「ありがとうございます。校長。それじゃあ、2人共。また会おう。」

 

リーマスは、見送らなくて大丈夫だと言い、1人で去った。最後に振り返り、笑顔を見せながら頷いた。

 

「行っちゃったね。」

 

「そうだな。」

 

「2人共。もっと自分を誇ってはどうかね?」

 

「エリナはともかく、俺はそうもいきませんがね。新しい薬が齎したのは、俺の望む形じゃなかったのですから。」

 

「はあ。それに、シリウスと一緒に暮らせないなんて。」

 

エリナが溜息をつく。シリウスは俺達を引き取りたかったが、エリナは護りの魔法を維持する為に、成人までダーズリーの所へ帰らなければならない。

 

俺の場合は、今の生活も捨てた物じゃないし、提案はありがたいけどケジメを全てつけてからにして欲しいと頼んだ。それが終わった後に、また誘って欲しいと。

 

シリウスは、俺の意見を尊重してくれた。尤も、メリンダから逆プロポーズされた様なので、1人で寂しくなんて事は無いけど。だが、夏休みの後半はロイヤル・レインボー財団が手配した2人の新居にお泊りになったし、いつでも連絡は取れるようにもした。その時はエリナも一緒にだ。

 

「でもさ。半分だけなら何とかなったんだ。あと3、4年あれば、な?」

 

「うん。」

 

ある程度の妥協で済ます事にしておいた。何もしないで後悔するより、精一杯やって後悔した方が良いからな。タイミングを見計らった様に、校長が口を開く。

 

「君達の今回の活躍は見事じゃった。罪無き命を救い、この世界の狼人間を救った。それに、歴代最年少の動物もどき(アニメーガス)として名を刻んだ。わしとしても、鼻が高い。」

 

まるで、自分が出来なかった事を教え子にやらせる様な言い方をしているな。相変わらず気に食わんが、今はまだツッコまなくても良いか。

 

「その功績を称えて、エリナに300点、ハリーとシエル、ルインにそれぞれ150点与えよう。」

 

「おや、ハッフルパフが逆転優勝か。まあ、クィディッチの優勝は貰ってるし、俺自身寮対抗杯には興味無いから別に構わないさ。ともかく、おめでとう。エリナ。」

 

俺は、エリナに向けて右手を差し出す。握手しようといった感じで。

 

「ありがとう、ハリー。」エリナも握手に応えた。

 

「さあさ。学年末の宴会に行きなさい。」

 

「あ、そうだ先生。」行こうとしたエリナが足を止め、校長に話しかける。

 

「何かね。」

 

「占い学の試験の途中に、トレローニー先生がおかしくなったんです。確か、何だったっけ。」

 

「これを使いな。」記憶を映すメモ帳とペンのセットを差し出す。

 

エリナは、そこにその時の内容を書いた。

 

『闇の帝王は、友もなく孤独に、朋輩に打ち棄てられて横たわっている。その召使い、一旦は捕らえられる。しかし、召使いは自由の身となり、ご主人様の下に馳せ参ずるであろう。闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう。以前よりさらに偉大に、より恐ろしく。召使いが……ご主人様の……下に……馳せ参ずるであろう……』

 

何だ。変態ヘビが復活する内容か。こうなる事は分かってるのさ。そう思っていると、まだ続きがあった。

 

『時を同じくして、神をも恐れぬ者と滅びを司る者も動き出す。神をも恐れぬ者はこの世の摂理を冒涜し、滅びを司る者は圧倒的な力を振るってこの星に災いを齎す。気を付けよ、闇の帝王と決して相容れる事はないが、その者達も汝の敵なり。』

 

……リチャード・シモンズの一味と、終わりを生み出す者も動き出すって事なのか。敵ではあるけど、それは変態ヘビの一味にとっても同じか。

 

「先生。これから一体どうなるんでしょうか?ボク、勝てますか?」

 

「勝てる勝てないの問題じゃない。勝たなきゃな。特に、終わりを生み出す者。奴等は、俺にとっても無視出来ない存在だからな。」

 

「エリナよ。ハリーの言う通りじゃよ。確かに勝機は薄いかも知れぬ。じゃがのお、この3年間でグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの4つの寮が互いに協力し合い、助け合って来た事を知っておる。そこに、わしは可能性を見い出したのじゃ。未来という希望を。」

 

校長は朗らかに笑って、部屋を出て行った。俺とエリナは顔を合わせる。

 

「お互いの守護霊を出し合おうぜ。」

 

「うん。」

 

「「守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!」」

 

2人で一斉に唱えると、メンフクロウと牡鹿がそれぞれ出て来た。部屋の中を駆け巡る。

 

「父様……プロングズ。」

 

俺は、牡鹿にそう言った。エリナには、母様の愛だけでなく父様からの愛も持ってる事が良く分かったよ。守護霊を出し終え、大広間に向かおうと視線で言った。そして、部屋には誰もいなくなった。

 

成績が発表された。相変わらずイドゥンが1位で、ゼロが2位、ハー子は3位か。俺は4位で、ロンが11位、エリナは12位、グラントは20位だ。意外にも、マルフォイは5位だった。尤も、俺との差はかけ離れているけどな。エリナの奴、苦手教科でもない限りは、成績については問題無い。魔法薬学は、スネイプが甘く評価しているんだろうしな。

 

最終日の宴会で、真脱狼薬の事が発表された。ルインもシエルも含めてマーリン勲2等が貰えるそうだ。そして優勝はハッフルパフ。ハッフルパフ生は大いに喜んだ。だが、勲章を貰える人間が所属しているレイブンクロー、スリザリンもそれに勝るとも劣らない喜びを表した。

 

今年度起こった事は、全てロイヤル・レインボー財団に話す事としよう。それに、調べなければならい事もあるしな。俺はふと、最初に日本で手に入れたナナカマドの杖を右手で触った。

 

そして翌日。汽車で帰る事になった。

 

「来年は誰が来るんだろう?」エリナが尋ねた。

 

「死喰い人じゃなきゃ、誰だって良い。」

 

ババ抜きをエリナと一緒にやっている。

 

「また2週間後に来るぜ。後、アドレー義兄さんとキットがクィディッチ・ワールドカップのチケットを準決勝と決勝、両方揃えたんだって。行く?出来たらシリウスやメリンダも誘って6人で。」

 

「うん。お願い。」

 

近くのコンパートメントでは、俺達の知人が全て独占している。ウィーズリー兄妹、ブラック姉弟、コリン、ハー子、ネビル、ゼロ、シエル、ジャスティン、グラント、ルインで。

 

ハー子は、マグル学をやめるそうだ。ロンは、クィディッチ・ワールドカップの事を言っている。色々話し込んでいると、何時の間にかロンドンに到着した。降りようとすると、エックス、コリン、ジニーが俺の前にいた。

 

「今年は、ありがとうございました。戦闘の特訓だけでなく、授業の事まで教えていただきいて。僕ら、総合教科でトップ3を独占出来ました。先輩のお陰です。」

 

「いいや。3人の努力のお陰だよ。俺は、その後押しを少しやっただけだからね。」

 

その後、イドゥンからも礼を言われた。その後に、マグルの世界へと行く。

 

「じゃあな。」

 

「うん。また2週間後にね。」

 

エリナはダーズリー家に引き取られ、俺は待っていたエイダ義姉さん、そして共に迎えに来たマリアと共にロイヤル・レインボー財団本部に戻っていった。

 

*

 

アズカバン。魔法使いの牢獄。そこに、ピーター・ペティグリューはいた。かつての仲間たちは、正気を失っていたので彼が責められる事は無かった。

 

突然、吐き出されたかの様に人が現れる。仮面を付けた男、ダアトだ。だが、その雰囲気はクリスマスの時とは余りにも違う。吸魂鬼の力をものともせず、平然と歩く。そして、足を止めた。目の前には、ピーター・ペティグリューが繋がれている。

 

「さて。ヴォルデモート殲滅の為に大いに役立ってもらうとするかな。それが、落とし前ってものだろ、ワームテールよ。」

 

僅かに見えたのは、闇をも照らすルビーレッドの眼。ペティグリューの目と合わせる。

 

「ああアアアアアアアアァァぁ……」

 

ペティグリューは絶叫を上げる。

 

「い、一体……何が……どうなって?」

 

「久しぶりだな。ワームテールよ。」

 

ダアトが、抑揚の無い口調で語りかける。

 

「ひ、久しぶり?僕はあなたを知らない!」

 

「ならば、これで思い出せるかな?」ダアトが面を外す。

 

その素顔。ペティグリューにとっては、とても信じがたい光景であった。彼にとっては、余りにも見知った顔だったからだ。

 

「う、嘘だ!そんな事!ありえない!!あなたは死んだ筈だ!」

 

「嘘ではない。これが、現実だ。ワームテールよ、俺に従え。」

 

ペティグリューの目が、ダアトと同じく赤く光った。

 

「お前の今の心。破壊させて貰うとしよう。マインド・クラッシュ…………」

 

ダアトは、ペティグリューの精神をパズルの如くバラバラにした。ペティグリューは、正気を失った。

 

「そして、お前の心は生まれ変わる。」

 

精神を再構築する。再び、目に光が戻った。ダアトの操り人形としての新たな人格となって。

 

「さあ、まずはここを出て、ヴォルデモートの所まで行け。奴の今の潜伏先であるアルバニアの森までな。」

 

ダアトは、ペティグリューにそう命令した。

 

「はい。ダアト様の仰せのままに。」

 

ダアトとペティグリューは、まるで吸い込まれるかのようにアズカバンから忽然と消え去った。後日、それは日刊予見者新聞に大見出しで記載されたのだった。ピーター・ペティグリュー、脱獄と。




これで3年生編は終了です。炎のゴブレット辺りから原作とかけ離れる展開になります。

ちょっと修正を行う必要がある事、スランプ状態になっている事もあってしばらく休載する事にします。

また、息抜きでポケモンの小説を投稿してみようかなと思ってみたりもしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炎のゴブレット
第1話 シリウスの新居


すみません。死の秘宝まで行ったんですが、プロットの練り直しとかやっていく内に風呂敷が大きくなり過ぎてしまえなくなりました。本当に申し訳ございません。

取り敢えずは、炎のゴブレット編を投稿します。今更需要があるかは分かりませんが。
これ、2年近く前に書いたものです。

今やってるポケモン小説で実力を上げてから、今作をリメイクしたものに挑戦していこうかと思ってます。

読んで下さった方には申し訳ございませんが、ご了承願います。


1994年7月1日。学校が終わってから、すぐにシエル、ルインがマーリン勲章を受章した。俺的には大分助かったけどな。あの2人には感謝しなくては。

 

1994年7月2日。俺は、細胞分身を使って宿題を片付ける事にした。臭い消し呪文の恩恵で、魔法省にはバレないがな。

 

「よし。後この問題で終わる。」

 

朝の10時から始めて今は夕方の6時。自分で作っておいたランチを食べながら、宿題をこなす。

 

「……終わった。解。」宿題が終わったので、細胞分身を解除する。

 

突然、急激な疲労が俺の身体にのしかかってきた。その場に倒れる。

 

「ハア……ハア……細胞分身は便利だが、疲労やストレスまで還元されるとはな。もっと体を鍛えないとな。」

 

その時、ガチャリとドアが開く音がした。アドレー義兄さんがやって来たのだ。

 

「大丈夫かい?」

 

「まあ。何とか。宿題を今日1日で終わらせようと思って、細胞分身をさっきまで使ってたんだ。アドレー義兄さんは、休暇なの?」

 

「そうだね。任務が終わったから、こっちに戻って来ても良いかなって。ほら、ディナーはここに置いておくよ。じゃあね。」

 

テーブルにディナーを置いてくれた。メニューはアラビアータのスパゲッティだ。僅かに残ってる体力を使ってテーブルに足を運び、食事にありつく。食べ終わった後に歯を磨いてから就寝した。

 

7月3日。6時に起床。食堂に移動する。サラダ、ベーコン、卵、ミルク、パンを皿に乗せる。今日は、やる事がある。それにしても、ここ最近は手紙が多い。狼人間やその家族から。魔法省がシエル、ルインから権利を奪い取るような形で手にした。極めて高い値段で購入する代わりに。だから、2人を通してこう約束させたよ。お手頃な値段で売れって。購入者は増える一方で、その効果が実証されている。

 

「それで。ロンドン郊外の高級住宅地に3階建ての一軒家を建てたわけなのか。シリウス用に。大きな犬小屋って事かな?」

 

「いくら初孫が世話になった先輩だからって、そこまでする必要はあるのかよ?アドレー。」

 

「大丈夫。メリンダさんと結婚を前提にした同居もしているので、新居としての意味合いも強いんだ。ああ、そうそう、彼の就職先は闇払いだ。」

 

「おい。何だよ、それは。」

 

英国魔法界に疎いキットが、アドレー義兄さんにそう質問する。

 

「闇の魔法使いを探し出して捕まえるのが仕事さ。重要人物の護衛も良くやる。というか、ヴォルデモートがいないからそっちの職務の方が圧倒的に多いんだけど。」

 

「この国の魔法省の情報でも入れておきたいのかな?そう言えば呪文学の先生も、前はそこにいたんだ。軽犯罪を中心に仕事をやっていて、治安を良くしたんだって。」

 

「フォルテさんか。良く姉上と成績でトップを争っていたな。だけど、良きライバルだった。時々連絡もし合ってるんだよ。」

 

「確かに。フィールド先生が俺を気に掛けてくれるのは、そう言った背景があるのかな?」

 

「そうだね。しかも、弟のゼロ君もいるし、彼もハリーとは仲が良いから尚更ね。」

 

「そういや今日は、シリウスの家の引越しの手伝いか。予め、グリモールド・プレイス12番地以上の保護魔法を掛けておいたんだよな、ジジイって。」

 

「ダンブルドアも真っ青のね。」

 

「爺さんは何て言ってた?」

 

「ロイヤル・レインボー財団に自分と組めって。だけど、お祖父様は断固拒否。元よりハリーを、半ば無理矢理ホグワーツに編入させたような人だ。信用は出来ないって。」

 

「相当嫌われてんな。何すれば義祖父ちゃんを怒らせられるんだろう?」

 

「さあ。兄上や姉上すら知らされていない。アルフレッド兄様が関係するとは聞くけど。」

 

「それに去年のクリスマス休暇。スネイプを義祖父ちゃんが殴り飛ばしてた。息子夫婦がどうとか言ってたけど、それも理由の1つなのかな?」

 

「と、言うと?」キットが囁くように聞いた。

 

「ダンブルドアのジジイは、スネイプを信じているとほざいてたんだ。もし、スネイプがアドレー義兄さんのご両親を殺したとしたら、そんな奴を生かしておいている人間なんて信用出来ないんじゃない?」

 

「う~ん。私はね、余り両親と過ごした時間が無いから実感が湧かないんだ。だから、仇を取ろうっていう発想は無いんだよね。」

 

「ま、真相を聞かないと分からないけど、ジジイはあの様子だからな。闇か、墓場にでも葬るつもりなのかもな。そう言えば、今日の新聞見たか?」

 

キットが日刊預言者新聞を広げる。

 

「ピーター・ペティグリューが脱獄!?」あの野郎、逃げやがったな。

 

「というよりも、神隠しにあったかのように消えたらしいぜ。」

 

「逃亡の形跡は見当たらない……か。去年から物騒な事ばかり起きてるね。まあ、被害者の殆どが闇の陣営にいた連中だから、ざまあないね。」

 

アドレー義兄さんが吐き捨てるように言った。

 

「じゃあ、そろそろ行きますか。ハリー、キット。準備は?」

 

「問題ねえぜ。」

 

「口寄せ呪文で持ち込む物をいつでも取り出せるようにした。」

 

「決まりだ。行こう。」

 

行こうとしたが、待ったをかけられた。煌びやかな金色の髪、銀色の目を持った、人間とは思えない美しい容姿をした少女、マリア・テイラーがいた。

 

「あのー。もしよかったら、連れて行ってください。」

 

「どうすんだ?ハリー、アドレー。」

 

「俺は別に構わないよ。」俺は、連れて行って賛成の意見唱える。

 

「私も問題は無いね。それに、このメンツだけだったら、野郎だけになる。1人位華があっても良いだろうし。僕にキットの成人がいるんだ。大丈夫だろう。」

 

「だってさ。」俺がマリアに言った。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

マリアも加わった4人でシリウスの新居へ向かった。付き添い姿くらましで、ロンドン郊外の高級住宅地から少々離れた所まで行った。住所まで行ったが、とてつもなく大きな豪邸だった。

 

「大きいな。どれ位金を賭けたんだろうか?」

 

「日本円で8桁はいってるだろうね、ハリー。」

 

「とにかく入りましょう。」マリアに促され、シリウスを呼び出す。

 

「いらっしゃい!よく来たね!さあさ、入ってくれ。」

 

シリウスが出迎えた。機嫌が良いな。

 

「初めて見た時より随分と持ち直したんだね。あれ、メリンダは?」

 

「ハリー。そう言って貰えると助かるよ。それでメリンダなんだが、仕事に行ってる。夕方には戻って来るそうだ。まあ、立ち話もなんだし、入ってくれ。」

 

「「「「お邪魔します!」」」」

 

4人で家に入った。ちなみに、実家の方から自分の私物は取り出したそうだ。

 

「それにしても、ちょっと散らかってるな。整理整頓が必要だね。」

 

アドレー義兄さんは、一振りで片付けた。3フロア全て。

 

「後は、新居に相応しい道具でも設置しようか。それじゃあハリー。アレを。」

 

「了解。口寄せ召喚せよ(アヴォカルク・ベカリット)!!」

 

家電製品を口寄せした。簡易式の口寄せの術式で発動出来るタイプだ。口寄せし終えると、契約は解除される。

 

「凄いな。ハリーが作ったのかい?」

 

「そうなんだよ。日本の口寄せを、ヨーロッパの魔法式で再現させたのさ。こうかとしては、契約した物なら、すぐ召喚出来る様にしておこうと思ってね。」

 

その内訳はテレビ、洗濯機、掃除機、電子レンジ、オーブントースター、冷蔵庫。いずれも最新式で、メイドインジャパンなのだ。説明書は、英訳してある。

 

「リリーがこういった物を紹介してくれたっけな。オートバイの魔改造もしたんだ。」

 

「何この人。ウィーズリーおじさんと同じ事しちゃってるよ。空飛ぶフォード・アングリアと同じく。」

 

「既に前例があったのは驚きだね。」アドレー義兄さんが苦笑した。

 

そんなわけで、ちゃんと住めるような状態にしておく。俺達4人は家事を一通り熟せるので、そんなに苦戦せずに終わった。1階が寝室、2階がリビング、3階がプライベートルームになった。

 

「何とか終わった。」

 

「次は、近くの店か市場で買い物をするか。」アドレー義兄さんが提案した。

 

5人で外に出る。丁度、市場がやっていた。

 

「折角のお祝いだから、少し奮発しても良いかな?」皆に聞く。

 

「良いな、それ!頼むぜ!」キットが真っ先に賛成してくれた。

 

「何食べたい?」作るの俺になるから、リクエストは聞いておこうか。

 

「ハリー。君は作れるのか?」シリウスが大変驚いている。

 

「彼の料理の腕前を侮らない方が良いぜ。シリウスさん。本当に美味いんだからさ!」

 

「まあキットの言ってる事も本当ですからね、シリウス。それじゃあハリー、パエリアをお願いしても良いかい?」

 

「私、ハンバーガーとポテト!」

 

「ピザ作ってくれ。マルガリータだ。」

 

「ビーフステーキを作って貰って良いかい?長い間、アズカバンにいたから食べてなかったんだ。」

 

「パエリアにハンバーガー、ポテト、マルガリータピザ、ビーフステーキね。了解。早速材料を買うとしよう。」

 

市場で材料を買った。後、1週間分もつ様に多めに買ったのだ。俺達は、家に戻る。買い物に行っていた間に、メリンダが帰って来ていた。

 

「あら。4人ともいらっしゃい。整理整頓して貰って悪いですね。」

 

「良いんですよ。2人共、忙しいのですから。じゃあハリー。料理の方をよろしく。」

 

「私もやる。少し経験があるから。」

 

「マリアも手伝ってくれるんだ。ゆっくりしてても良いのに。」

 

「ううん。将来の為にも、料理を覚えたいの。」

 

「そうか。」

 

俺とマリアで夕食を作った。2時間かけて全ての品を作り上げたんだ。

 

「美味そうだ!」キットが喜んでいる。

 

「いただきます!」シリウスが早速がっついた。思わず笑うメリンダ。

 

それが終わったら、リクエストに無かったデザートも用意する。

 

「プリンか。これもお手製?」

 

「そうだよ。マリアに主に作って貰った。」

 

プリンの方も大好評だった。食器をささっと片付けてから寝た。翌日は、1日中スーパーファミコンで遊び倒した。シリウスはゲーム機での遊びなんて初めてにも拘らず、早期に順応していた。メリンダはマグル世界で暮らしていたので、ゲームは難無く操作出来ていた。

 

その次の日、マホウトコロでの特別講師としての仕事があるので帰る事になった。また8月、今度はエリナと共に会おうと約束して。

 

「シリウス、メリンダ。また8月に来るよ。」

 

「今度はエリナも一緒にね。」

 

こうして、2泊3日のお出掛けは終わった。

 

*

 

「ワームテール。早速ヴォルデモートと接触出来た様だな。成る程な、エリナ・ポッターをおびき寄せる気か。彼女に宿ったリリーの護りの魔法を取り込むために、敵の血として採取し、それで肉体を取り戻すと。ククク。アッハッハッハッハ!!!それが命取りになるとも知らずにな。これからは、複数の地獄を体感する事になるだろうに。」

 

ダアトが嘲笑う。ワームテールの心臓に植え付けた呪印札を通して、ヴォルデモートの動向をどこか楽しそうに見ていた。そのヴォルデモートはというと、リトル・ハングルトンのリドルの館でフランク・ブライスというマグルの老人を殺していた所であった。

 

*

 

「良い事?でっち上げられた経歴を逆に利用して、ヴォルデモートをスパイするのよ。」

 

「了解です。表向きは死喰い人として振る舞いながら、その裏ではエリナ・ポッターを利用して、闇の陣営の破滅に導く行動をすれば良いのですね?」

 

「そうよ。」

 

「お任せください。行ってきます。」

 

男が出て行った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 クィディッチ・ワールドカップ

7月6日から、日本へ行った。特別講師としての仕事と、クィディッチ・ワールドカップの準決勝戦を見る為に。試合のカードは、日本対アイルランドだ。どちらかが勝てば、英国で決勝戦が行われる。

 

前者は中旬に、後者は下旬に行われる。

 

「結局、試合会場へは俺1人で行く事になったか。」

 

マホウトコロでの仕事が終わり、その数日後に準決勝を見に来た。だが、生憎一人分しか取れなかった事、キットとアドレー義兄さんはアメリカで行われる方の準決勝を見に行っている。後は皆、スケジュールが合わなかったんだ。

 

半袖半ズボンに伊達メガネをかけて会場に来た。日本人と同じように規則正しく並ぶ。ここに来ると、自然とそうなるからな。何せ俺は、日本での生活の方が長かったし。

 

「だけど、日本チームのマスコットの座敷童が見れたのは幸運だったぜ。幼女の姿で着物を着ている。そしてあの笑顔。だから日本は飽きない。日本人は、時代の最先端を突き進んでいる。俺にとってはな。」

 

対してアイルランドは、レプラコーンだ。偽の金貨を振り撒くらしい。だが、極稀に本物を撒く事があるようだ。

 

「明日にはすぐ消えるが、まあ一晩位良い思いはしても罰は当たらねえだろう。」

 

金貨を手にして、ウイルスモードを発動して試合を見る。おお、見える見える。動体視力は桁違いだな。スローモーションの様に選手の動きが分かる。

 

これだけのハイレベルのクィディッチの試合は始めて見る。大抵は長引くか、あっさりと決着がつくんだ。この試合の場合、アイルランド側に有利な形で後者の試合展開が成された。現に、アイルランドのシーカーが最初から動いてたし。日本のビーターから牽制を貰ってるが、それでも上手く切り抜けた。

 

アイルランドのシーカーは、スニッチを取った。これで、アイルランドの決勝進出が決まったな。一方の日本。悔し涙を流しながら、箒を燃やした。切腹の名残なのだろうかね。

 

「やっぱ箒は燃やすのね。相変わらずだな。」

 

試合が終わって、日本支部へ戻る。翌朝、レプラコーンの金貨を確認してみた。何故か消えてなかった。マジかよ。本物を引き当てるとはな。まあいいや。部屋に飾るとしますか。話は変わるが、明後日、飛行機でイギリスに戻るんだ。

 

帰ってから3日後、8月1日に再びシリウスの家へと向かった。もう既にエリナも来ていた。

 

「ハリー!お久しぶり!!」ハグしてきた。

 

「ゴメンな。7月中は、日本に行ってて。」

 

「ううん。大事なお仕事だったんでしょう?」

 

「ハリー。日本で何をやってたんだい?」

 

「あ、そっか。まあ言ってなかったっけな。俺、ロイヤル・レインボー財団に保護されてからホグワーツ入学まで日本にいたんだ。そこの魔法学校に4年近く在籍してた。今は、最大1週間の特別講師として招かれてるんだよ。そこで学年末試験とかやったりしててね。」

 

「この年で……大したものだ。」

 

「そう言えばシリウス。去年、聞きそびれた事があるんだ。」

 

「何だい?」

 

「左目はどうしたの?前の戦争で失明したの?」

 

「ああ、これか。」シリウスが包帯に手を当てる。

 

「言いたくないなら、別に良いよ。ハリーもそう言うだろうし。」

 

「うん。教えたくないなら、教えなくて良いよ。言いたくない事もあるだろうしね。」

 

無理に聞き出すつもりは無いのさ。そう言う視線を送る。

 

「助かるよ。でも1つだけ言っておく。左目はある。だけど、余り見せたくはないんだ。本当にどうしようもない状況でもない限りは。」

 

余り見せたくないもの?まさか、オッドアイなのか。でもイドゥンは、隠さずにしてるし。極少数だけど、それなりにオッドアイは世界中にいるからな。それに、エリナがハグリッドから貰ったアルバムの中のシリウスは両目共に灰色だった。じゃあ、何なのか?

 

これは置いておくとしますかね。

 

「エリナ。聞いたぞ。傷が痛んだって。」

 

「うん。ヴォルデモートとピーター・ペティグリューが知らないマグルのお爺さんを死の呪文で殺してたところをね。」

 

「しっかしペティグリューの奴、どうやって脱獄したんだ?常に厳しい監視の目が張ってあった筈なんだがね。」

 

「ピーターの野郎、今度会ったら殺す。」

 

シリウス、ペティグリューの話をするとこの手に発言を毎回するようになってた。

 

「誰かが手引きしたんだろう?」

 

「知らね。それよりも1週間後だったよな。ワールドカップの決勝戦って。これに関しては、今度こそアドレー義兄さんにイーニアス義兄さん、エイダ義姉さん、キット、マリアも行けるんだよ。ロンは、ハー子にグラント、ゼロを誘うんだって。隣同士で落ち合う手筈だ。シリウスも来れるの?」

 

「いいや。その日は、闇払いの仕事が入ってたんだ。済まないね、2人共。行けなくて。」

 

シリウスが申し訳なさそうな表情で俺達に言った。

 

「良いの良いの。ちょっぴり残念だけど、お仕事頑張ってね。それに、1ヶ月だけとはいえシリウスと過ごせるだけでボクは満足だから。マリアちゃん元気にしてるかなぁ。」

 

「そうそう。この日常で一緒に暮らすだけでも十分有り難い位さ。気にしないで。マリアは大丈夫だ。この1年で持ち直した。丁度、ホグワーツから入学の手紙も届いたし、その記念も兼ねてね。」

 

精一杯の笑顔で励ました。

 

「そう言って貰えると助かるよ。」

 

1週間が経った。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ったのである。エリナの宿題を終わらせたり、戦闘の特訓をしたりした。この間にシリウスの戦闘スタイルが判明した。肉体強化呪文を使い、相手を体術や戦闘用のナイフでひたすら攻めていくと言うものだった。魔法も補助で使うらしい。完全に接近戦は俺よりも上だった。

 

「それじゃ、行ってきます。」

 

「ボク達、すぐに帰ってくるから。」

 

「2人共、気を付けて。」

 

瞬間移動(テレポーテーション)』で、目的地まで向かう。エリナは普段着、俺はその上にブローチ付きの灰色のマントを羽織っていた。行こうとしたその時に、エリナが質問してきた。

 

「ねえねえ、ハリー。写真を持ってるけど、どうして?」

 

「これ?ちゃんと目的地へのイメージをする為さ。」

 

「それで写真なの?」

 

「今から行く手段は、姿くらまし以上に距離を問わない到達範囲を持つんだ。だが、姿くらまし以上に目的地へのイメージがデリケードになる。」

 

「つまり逆に言うと、目的地へのイメージがしっかり出来ていれば地球の裏側でも南極でもどこでも行けるってわけだね。」

 

「そうさ。もう皆、着いてる筈だ。行こう。」

 

改めて、目的地へと一瞬で向かった。到着した先は、霧深い荒地。そこには、受付らしき魔法使いが2人、不機嫌面で立っていた。

 

「すみません。ローガー家のキャンプ場を探してるんですが。」

 

「そう言えばあと2人、来るって言ってたっけ。君達がそうなのかい?」

 

「「はい。」」2人で声を揃えて返した。

 

「それじゃあ、400メートル程歩いてくれ。最初に出くわすキャンプ場がそれだ。ロバーツさんという人が管理人だ。」

 

「ありがとうございます。」お辞儀をして、指定された方向へ歩いた。

 

20分後、目的地に到着。もう金は払ってるので、場所を聞くだけだ。

 

ロバーツさんからテントの場所を聞き、そこへ行った。

 

「着いたよ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

ローガー家のテントに入った。いたのは、イーニアス義兄さんとエイダ義姉さんだった。

 

「2人共。良くここが分かったね。」

 

「さあさ。ゆっくりすると良いですよ。」

 

「後の3人は?」

 

「米を炊いてます。今日の昼は、カレーライスでもやりましょうか。ハリーも手伝って戴けませんか。」

 

「おお!良いねえ!!じゃあ、早速手伝うとするよ。」

 

キャンプと言えば、カレーライスが相場と決まっているからな。ニンジンとジャガイモ、玉葱、セロリを受け取り、包丁で切っていく。

 

「去年食べたアレを!?やったー!!!」

 

去年の、ロイヤル・レインボー財団日本支部での夕食で出たカレーライスをまた食べられると大喜びのエリナ。

 

「俺らやってるからさ。エリナ、どこかで暇つぶして来なよ。」

 

「ううん。手伝うよ。」

 

30分して、全ての材料を切り終えた。それを大きな鍋に入れ、カレーの完成を待つ。その間に、色々探索して回った。

 

間も無く、ウィーズリー家のテントを見つけた。

 

「こんにちは!ウィーズリーさん、います?」

 

「おお!ハリーに、エリナじゃないか!」

 

声を掛けたのは、ウィーズリーおじさんだった。エリナは、「お父様!」と言った。俺は握手をする。

 

「いつ来たんだい?」

 

「1時間も前に来ました。昼食の準備が一通り終わりましたんで、辺りの見物をしようかと。」

 

「そうなのか。」

 

「あのう、ロンにハー子、ゼロ、グラントはどこに行きましたか?」

 

「色々見物しているよ。そろそろ戻って来る筈なんだがね。」

 

「それじゃ、探してみましょうか。夕食の完成までに2時間はありますし。」

 

ウィーズリー家のテントを出て、2人でぶらつく。途中、卒業してクィディッチ・チームの二軍入りを果たしたオリバー・ウッドと出会い、ご家族と挨拶をした。その次は、セドリック・ディゴリーとその父親のエイモス・ディゴリーに出会った。セドリックの方には、いつもエリナがお世話になっていると感謝の言葉を述べた。彼は、気にしないでくれと返してくれた。父エイモスの方は、終始俺達兄妹に好意的だった。

 

また徒歩を再開していると、今度はフレッドとジョージがやって来た。俺を探していたらしい。何事か聞いてみた。

 

「ハリー。マズい事が起こった。」

 

「お袋にW・W・W(ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ)の注文書を取られちまったんだ!」

 

「何やってんだよ、2人共。まあ、記録の着火装置(レコード・ライター)でコピーはいくらでも取ってあるけどさ。」

 

記録の着火装置(レコード・ライター)を取り出して、注文書のコピーを作り、双子に手渡した。

 

「おお!!助かるぜ!心の友よ!」

 

「ありがとうな!ハリー!恩に着る!」

 

「今度は気を付けてくれよー!」

 

双子はリー・ジョーダンと合流し、どこかへ消えた。余談だが、双子には資金提供をしたり、口寄せ契約の書類を渡したりする形で支援している。

 

歩くと、とうとう見つけた。どうやら俺達を探しているようだ。

 

「おーい!」

 

「皆!」

 

2人で手を振って気付いて貰おうとする。

 

「おい、あれって。」

 

「間違いねえ!心の友よー!!」

 

「ハリーにエリナじゃないか!」

 

「やっぱりエイダさんが言ってた通りだな。」

 

ロン、ハー子、ゼロ、グラントと合流した。色々近況を話し合った。パーシーが国際魔法協力部に配属になったり、ロンがクラムの話をしたり等々。ちなみに前々から疑問に思っていたギャング所属のグラントを連れだしたのは、フィールド先生だそうだ。

 

「テント近いから話しながら戻ろうぜ。」

 

「良いな、それは。」

 

テントに戻る。ウィーズリーおじさんが、誰かと話している。この育ち過ぎたような少年をイメージさせる男。ルドビッチ・バクマンか。バクマンは俺達兄妹に気付くと、すぐそちらに向かった。エリナの額の傷跡をまじまじと見ている。

 

握手する。ウィーズリーおじさんは、他の子も紹介する。

 

「賭けをしないかね?アーサー。」

 

大会の運営の主催者が賭けの元締めは流石にマズくないか?

 

「しょうがないな。ブルガリアに1ガリオン。」

 

「何だ。これっぽっちか。他にやりたい人は?」

 

「子供たちはギャンブルをs」

 

「俺らは賭けるぜ。37ガリオンに15シックル、3クヌートだ。そこにだまし杖も追加!」

 

「クラムがスニッチを取るが、アイルランドの勝利で決着。」

 

双子が高らかに叫んだ。ちなみに、バクマンはだまし杖をいたく気に入った。

 

「素晴らしい!こんなに本物そっくりなのは見た事が無いよ。私なら、これに5ガリオン払っても良い位に!」

 

双子は、W・W・W(ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ)のカタログをバクマンに差し出した。通信販売を少しならやると言って。俺は、フレッドとジョージと視線を合わせ、3人でニヤッと笑った。魔法省直々に宣伝して貰おうと。

 

その直後、1人の魔法使いが現れた。他の魔法使い以上に、マグルの服装が整っている。

 

「ハリー。あの人。」

 

「ここでお出ましか。」

 

バーテミウス・クラウチ。バグマンとウィーズリーおじさんはにっこり笑って挨拶した。でも、俺にとってはシリウスを裁判無しで直接アズカバンにぶち込んだ男。あまり良い印象は無い。だが、礼儀として事務的に挨拶しておいた。

 

「クラウチさん!お茶をご用意しました!」紅茶を差し出すパーシー。仕事早いな。

 

「ああ。ありがとう……ウェーザビー君。」

 

紅茶を吹き出してしまった。間違えられている。

 

「パーシー……」

 

「ハリー。聞かないでくれ。」

 

パーシーが哀れに思えてきた。一旦ウィーズリー家に面々と後でまた会おうと言って別れ、ローガー家のテントに戻る。全員集まっており、俺達が来てすぐにカレーを食べ始めた。

 

食べ終わってから、売店に向かう。エリナは、万眼鏡を買った。俺は、ウイルスモードの目で見る事が出来るから必要無しと判断して買わなかった。

 

「良いなあ。そんな便利な目を持ってて。」

 

「2ヶ月間も苦しむ羽目になるぜ。羨ましがらない方が良いよ。」

 

スタジアムに入場。もう人が集まってた。だが、最上階貴賓席には誰もいない。1番乗りだ、と心の中で叫びながら向かうと、見た事のある生き物がいた。確かアレだ。屋敷しもべ妖精だ。

 

「ドビー?」

 

エリナが話しかける。だけど、ドビーじゃなかった。彼よりも甲高い声を出している。恐らく、その仕草から女性だと分かる。

 

その妖精の名は、ウィンキーと判明した。最近、ドビーが給料を貰おうとしている事、それは屋敷しもべ妖精にとっては不名誉だと言った。ああ、根っこが深いなこれは。

 

貴賓席にいると、エリナに話しかける人がだんだん増えていく。その度に挨拶する。パーシーが羨ましそうに見ている。ブルガリアの大臣がエリナを見つけて、近付いてきた。ファッジが誇らしげに説明しているが、実はファッジの見えない所で英語を流暢に話す所を俺は見てるんだよね。

 

マルフォイ家もご到着のようだ。見た事が無い女性と少女、少年の3人だ。最初の女性は、多分ドラコの母親、後者は母親のミニチュア版で、見た目からして妹か?マリアと同い年位だろう。妹と同じ背丈の、オールバックの少年。2年生までのドラコそのものだ。但し、第一印象は兄や父よりもかなり良い。

 

何でも、聖マンゴに多額の寄付をしたから招待したらしい。寄付自体は大いに結構だが、それを権力や地位の確保に利用しているので最低だなというのが俺の感想だ。こんなんだったら、終わりを生み出す者に命を狙われても文句は言えないな。ルシウス・マルフォイに侮蔑の視線を送ってやるか。

 

マスコット対決。アメリカ対ブルガリア戦で、キットとアドレー義兄さんがヴィーラの虜にされたと言ってた。

 

「ごめんエリナ。ちょっと頼みたいんだけど、良いか?」

 

「何?」

 

「ヴィーラが出て来るから、俺の目を覆って欲しいんだ。」

 

「オッケー。」

 

エリナに頼んで、目を覆い隠して貰おうとした。だけど、マリアが割り込んで来た。

 

「お姉ちゃん。ハリーの事、私に任せて。」

 

「妙に積極的だね。別に良いけど。」

 

「マリア?」

 

その時、ヴィーラを見てしまった。その途端、幻術に掛かった様な状態に陥ってしまった。ああ、最高の気分だ。何もかも、どうでも良くなって来たよ。

 

*

 

「あ、ハリーがヴィーラの虜になっちゃった。」

 

アドレーとイーニアス、キットの3人は目隠しをしていた。

 

「良かったですよ。この年齢にもなって、異性に興味が無いと思ってましたから。ちゃんと異性への興味があった事にホッとしていますから。」

 

エイダが微笑んだ。

 

「私の出番ね。人魚の能力で、ハリーを正気に戻してあげるわ。」

 

「人魚の能力?」エリナが、マリアに聞く。

 

「説明するよりも、見た方が早いわ。」

 

マリアが、ハリーに囁くように歌い始めた。虚ろになっていた彼の眼が、徐々に正常に戻っている。

 

「……!?マリア?どうし……」

 

「……ん……」

 

マリアは、そのままハリーにキスをした。彼女自身、命の恩人且つ愛する者をヴィーラに渡す気はさらさらないようだった。

 

「マリア、一体全体どうしたんだ?」

 

「ヴィーラに取られたくない。」右手をギュッと握られた。

 

「そ、そうなのか。」

 

*

 

こうして、ヴィーラは応援席に整列した。殆どの男が、ブーイングを行う。俺は、マリアの能力でプラマイゼロになったので特に問題無かった。一方のアイルランドのマスコットは、レプラコーンだ。翌日に消える金貨を降らせる。極稀に本物の金貨を出すけど、手にした者に類稀なる幸運を齎すそうだ。

 

「やめとけ。その金貨、明日になったら消えるぞ?」

 

「アハハハハ……」意外にも金にがめついエリナであった。

 

試合が始まる。ウイルスモードで見ておこう。ふむふむ。今後の為になるクィディッチの戦術の参考にはなるな。後で記録しておくか。

 

状況としては、アイルランドが終始有利だった。クラムがスニッチを取った。だが、結局170対160でアイルランドの勝利となった。つまり、双子は大勝したのである。俺がレプラコーンの金貨で払わないでと釘を刺すと、奴さん涙目だった。仕方なく、双子に小切手を渡す羽目になった。これで、W・W・W(ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ)の開業資金は確保出来たわけだ。後は、小切手をグリンゴッツに持っていくだけ。それに、俺としてもやりたい事があるからな。

 

テンションが落ちない中で、寝るのをじっくりと待っている。だが、イーニアス義兄さんの言葉で雰囲気は凍り付いた。

 

「皆、死喰い人が現れた。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 闇の印(前編)

「イーニアス。本当ですか?」

 

「はい、姉上。恐らく、アズカバン逃れした連中かと。マグルの方々を嬉々として吊るし上げています。」

 

「ここまで来てマグル苛めですか。ルシウスも懲りませんね。そんな事をやっても、TWPFの粛清対象から外される事は無いのに。」

 

エイダ義姉さんがほくそ笑んでる。この人、敵対者にはかなり残酷なんだよな。まあ、彼女に限らずローガー家は全員そうだけど。

 

「姉上。ここは、3組に分かれましょう。」提案したのは、アドレー義兄さんだ。

 

「そうですね。マリアちゃん以外は、杖をお持ちですか?」

 

皆、ちゃんと持っていた。俺も7本問題無く所持している。

 

「イーニアスとアドレーは、マリアちゃんを守って下さい。」

 

「兄上。久々ですね。チームを組むのは。」

 

「だな。アドレー、遅れを取るなよ。まあ、お前は私よりも強いし、覚醒の力もあるから心配なんてしてないけど。」

 

「言ってくれますね。兄上も。」

 

「ハリーとキットで組んでください。」

 

「え?どうしてなんですか?エイダさん。」エリナが質問する。

 

「必ず1人、成人が付き添いをしてた方が良いと思いましてね。それに、キットとの連携や補佐が出来るのは、ハリーをおいて他にいませんので。ですからエリナちゃん、あなたは私と同行しましょう。」

 

「は、はい。」

 

「それじゃ、片付いたら戻るから。」

 

3組に分かれて、テントを出た。

 

*

 

「兄上。」

 

「何だ?アドレー。」

 

「兄上の左腕のアレ、最近濃くなっていませんか?」

 

アドレーは、イーニアスの左腕を見る。イーニアスはそれに反応して、左腕を捲る。髑髏の口から蛇の出ている紋章があった。しかも色は黒い。

 

「……ああ。奴が、あの厨二病患者が最近力を取り戻している可能性が極めて高いな。やはり、早くてもこの1年以内に……何が何でも動き出すだろうな。」

 

「とにかく、それは帰ってからにしましょう。マリアを守りながら行動するので。」

 

「分かっている。」

 

*

 

「エイダさん。」

 

「どうしましたか?」

 

「傷跡の事なんですけど……」

 

「ええ。分かっています。でもエリナちゃん。あなたも薄々気づいてる筈です。ヴォルデモートは、また立ち上がると。」

 

「はい。でも、勝てるかどうか不安です。」

 

「大丈夫ですよ。立場は違っても、私達ロイヤル・レインボー財団はあなたの味方ですからね。」

 

「ありがとうございます。」

 

*

 

暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)!!炎よ我に従え(プロメス)!!!」

 

自分自身に環境適応呪文をかけ、碧炎を自らに纏い、形態変化させる。背中に、翼を生成した。

 

キットは飛行術、俺は碧炎の翼で空を駆け巡る。

 

「キット。あの死喰い人もどき、殺して良い?」

 

「最後の手段にしとけ。主に俺が掃除するから。」

 

「了解。最初は、マグルの人を助けるんだよな。」

 

「ああ。行くぜ。互いの最大攻撃呪文で蹴散らす。麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

術の性質上、神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)はまだ使えない。だから俺は、代わりに虹色の光線を撃つ。エックス達の修行を見ている間、何もしなかったわけじゃない。破壊光線の軌道を、好きなだけ変えることが出来る様になり、命中率を限りなく必中にしたのだ。

 

話しは変わるが、キットは失神呪文が十八番だ。失神呪文を鍛え過ぎたその果てに、1回の詠唱で何百もの閃光として放てる。

 

各々が放った魔法が、厨二臭い仮面の一味目掛けて発射された。

 

「おい!何だあれは!」

 

「ギャア!」1人墜落した。あらら、あいつは死んだな。

 

「赤いのは失神呪文だ!この高さから食らったら、ヤバい!死ぬぞ!!」

 

「虹色の光線に当たった奴は、身体がこんがりジューシーに焼けたぞ!即死だ!」

 

「あいつらの目!我々を殺す事に、悲しみも楽しみも感じて無い!ただ消えるのが当たり前だという目をしてやがる!!」

 

「あんなガキ共に、舐められてたまるか!虫ケラでも見る様な目をして!」

 

そんな事を言ってる奴は、零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)で凍てつかせた俺であった。

 

「おい!変態仮面共!覚えておけ!そして、厨二病でロリコンのご主人様とやらに伝えてやれよ!もし、ハリーのみならずエリナも俺に助けを求めるのであれば――例えこの国の裏側にいようともだ!俺はすぐに駆け付けるぜ!!義理とはいえ、俺はあの2人の兄貴同然だからな。」

 

キットの言葉を聞き、見えはしないが表情が青ざめた仮面の一味。

 

「何!?ポッター兄妹に、義理とはいえ兄だとぉ!冗談じゃない!!」

 

「それで、この理不尽なまでの強さ!『終わりを生み出す者』なる組織に目を付けられただけでも厄介なのに!!!」

 

「敵わん!逃げろぉ!」

 

「うわあああああああああああああああ!!!」

 

「フォオオオオオオオオオオイ!!!」

 

仮面の集団は、一目散に逃げだした。つーか、やっぱり変態ヘビの息がかかった連中だったか。先程の台詞、死喰い人ですって言ってるようなもんじゃねえか。

 

「逃げたか。仕留め損ねたぜ!」キットが舌打ちをした。

 

「まあ良いじゃん。マグルの人も救出出来たし。」

 

「ハリー・ポッターに、キット・パディックね。あなた達2人がまともに手を組むと、確実に闇の陣営にとっては脅威になるわね。」

 

上から女がやって来た。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っている。青みがかかった黒の髪をしている灰色の両眼を持った美しい女だ。どことなく誰かに似ている気がする。この女、背中に翼が生えているな。いいや、正確には俺と同じく何かの物質で形作っている様だな。こりゃ。

 

「誰だ!?」俺が質問をする。

 

「私の名前は……ケテル。リーダーとコンビを組んでいる者よ。」

 

「マクルトの!?」

 

「ケテルは、俺が前にぶっ倒したはずだ!」キットが吠える。

 

「飽く迄コードネームよ。」

 

「2代目って事か!要は!!」

 

「そうよ。ハリー・ポッター。切札と呼ばれるあなたの力、見せて貰う。」

 

「来やがるぜ!ハリー!」

 

「ああ!分かってる!」

 

「紙吹雪……」数多の白い紙が俺達2人降り注いできた。

 

「いきなりやられるかよっ!」碧炎の翼で紙を焼き払った。

 

「数が多過ぎるじゃねえか!固有能力を使うしかねえな。こりゃ。」

 

キットの左腕に、ありとあらゆる金属が集結する。キットの固有能力って、磁力を操るんだな。初めて知ったよ。

 

「食らいやがれ!」左手をブンブン振り回すキット。紙を全て振り払った。

 

「やるわね。2人共。ならば、これはどうかしら?ペーパークレイン。」

 

無数の紙を1つにまとめ、巨大な鶴の姿となった。

 

「上等だ!焼き尽くしてやる!!邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)!!炎よ我に従え(プロメス)!!」

 

碧炎で作った、右眼が赤、左眼が緑の、東洋の龍に良く似た魔獣を形作り、紙の鶴にぶつける。

 

「弾けろ!」

 

魔獣の頭や鱗、爪や尻尾など各所に両刃状のパーツが本体から分離し、独自の攻撃を行う。碧炎の魔獣と紙の鶴は、互いを消そうと戦い合っている。

 

「焼き尽くせ!!!」

 

「…………」

 

だが、紙の鶴が勝ってしまった。仕方が無い。

 

「切札。あなたの力は、こんなものではないでしょう?」

 

神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)!!」

 

エメラルドグリーンの目を持った赤い甲殻を持つ飛竜が現れ、紙鶴と衝突する。

 

「行っけええええええええええええええ!!!!」

 

押され気味だったが、エックス達との修行の成果により、俺とのシンクロを行う事で蒼い甲殻と身体を持った飛竜へと進化変身する能力を習得した。俺自身の負担も、赤い飛竜の時と比べて凄まじいものになるが。

 

それでも、大幅に相殺しながら勝利に持ち込むのが精一杯だった。飛竜は、ケテルに衝突する前に消え去った。ケテルが不敵に笑っている。この女、まさか。

 

「貴様!手を抜きやがったな!13年前に、お前のリーダーが俺を殺そうとしておいて、今度は手加減か!何が目的だ!!」

 

「……あなたが我々に歯向かうのも、また一興。ハリー・ポッター。世界に変革を齎す切札よ、もっと強くなりなさい。私達と同じ『覚醒』の力を身に付けた状態で、再び戦いを挑みなさい。」

 

ケテルはそう言って、全身が紙に分解されて去って行った。

 

『あの女……一体何を言ってやがるんだ?敵である筈の俺を、まるで殺す気は無いかのように振る舞って……』

 

「ハリー。あの女の事は、後で幾らでも考えようじゃねえか。取り敢えずは、ノーマジの一家を……な?」

 

「ああ、分かってるさ。やろうか。」

 

俺は、吊るされていたマグルの人達を浮遊呪文で支えていた。そして、着地をする。

 

「大したもんだぜ。ハリー。」

 

「キットも、相変わらず凄いよな。俺も到達したいぜ。その、『覚醒』って奴にさ。」

 

着地した瞬間、強烈な疲労感に襲われた。俺は、倒れ込んでしまった。神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)特有の副作用が出たか。でも、キットが支えてくれた。

 

「デカ過ぎる力も考え物だけどな。お前のその呪文もそうだが……」

 

「そっか……!?」

 

1人ここにいやがるな。この魔力は恐らく……

 

「…………おい。隠れてないで出て来いよ。ドラコ・マルフォイ。」

 

草むらから、1人出て来た。ドラコ・マルフォイだ。何で分かったんだという顔をしてやがる。そして、非常に怯えていた。まるで、これから死刑執行される囚人みたいな表情にもなっている。さっきの戦いを見ていたのだろうか。まあ、父親でもすぐに瞬殺されるような状況だから分からなくも無いけど。

 

「てめえ。俺達の会話を良くも盗み聞きしやがったな。殺してやる。」

 

キットが殺気立っている。マルフォイ、恐怖のあまり失神しかけている。失禁もしそうだね。ああなったキットは、俺達以外誰も止められないんだよな。ま、こいつに関しては止める義理も無いんだけど。

 

「ま、待ってくれ!違うんだ!盗み聞きをしていたわけじゃない!隠れていただけなんだ!!本当だ!誓おう!信じてくれ!!」

 

「うるせえ!!そうやって騙して、俺達を殺すっていう魂胆だろうが!それともあれか!親に差し出すのか!テメエの親父は、ロイヤル・レインボー財団のブラックリスト入りしてるからなあ!俺達に何かをすれば状況が良くなるって魂胆だろうが!!」

 

ドスの効いたキットの口調に、マルフォイは号泣する。

 

「ポッター!お前からも言ってくれ!本当に僕がここにいたのは偶然なんだって!」

 

「黙れ。疑わしきは、ぶっ殺してやる。覚悟しやがれ!!この近親相姦しか能の無いクズ野郎が!」

 

杖をマルフォイに向けるキット。殺さないでくれとか、本当に盗み聞きしていたわけじゃないとか、そう言う言葉を言いながら必死で命乞いをしているマルフォイ。これじゃあ、どっちが悪役か分かんねえな。

 

「マルフォイ。俺は、お前に手を出す気は無いぞ。そもそも、そんな気力無いし。だからと言って、キットを止めるとは一言も言わないがな。今のキット、獲物を仕留め損ねて、大変機嫌が悪いみたいだからさ。」

 

マルフォイは、俺を見て全身をガクガクさせているではないか。今のあいつの眼は、俺にキットを止めてくれって眼をしているな。まあ、無理もないか。親の権力でもどうこうならない状況に陥ってるんだからな。

 

「一言位、言わせようよ。俺達の神経を逆撫でする内容だったら、すぐに始末すれば良いだけだしさ。キット。」

 

「…………チッ!分かったよ、ハリー。お前の要望を聞いてやらあ。」

 

キットは、杖を下した。だけど、マルフォイに対しては未だに警戒と殺意のこもった視線を送っている。

 

「下手な闇の魔法使いよりもタチが悪過ぎる……」

 

ヒンヒン泣きながら、ボソッと言ったマルフォイ。

 

「あ?今、何つった?」

 

「な、何でもありません!!」

 

「そうか…………おい!何とかフォイ。最期に言い残す事はあるか?」

 

相変わらず、殺す気満々な口調でマルフォイにそう問いただすキット。

 

「僕はあれから考えた。純血とは何か。純血主義とは何か。僕は、間違った事はしてない筈なのに、何故自分達は理不尽に命を狙われないといけないのかを。だから、必死に自分で調べたりした。」

 

「それで……答えは分かったのか?」

 

「それでも、自分では分からなかった。だから、秘密の部屋に入る為に蛇語を習得したんだ。そこで、サラザール・スリザリンに聞いた。」

 

「直接入ったのか。道理で去年度、暇な時間はいなかったわけだ。それに彼は今、蛇だけどな。」

 

「僕なりの答えを出した。闇の帝王、いいや。ヴォルデモート卿の言ってる事なんて出鱈目だって。」

 

「……」

 

「先祖のサラザール・スリザリンの名前を勝手に使って。自分の気に入らない奴を、使えない奴を排除しようとしてるだけだと理解した。そうじゃなきゃ、何で敵にも関わらず曲がりなりにも純血まで殺す必要があるのか理解できない!」

 

全てを言い切ったマルフォイ。その表情は、何処かスッキリしている。

 

「それを俺達に言いに来て、何をする気なんだ?俺の力に縋りつきたいのか?」

 

「ただ助けてくれなんて言わない。取引だ。闇の陣営、それに死喰い人への復讐と完全抹殺への手引きはする。僕が知り得る限りの情報も渡す。」

 

「……」

 

俺の中で、ある考えが浮かんだ。尤もこれは、マルフォイ家の者が味方にいる事前提になるけど。

 

「その見返りにマルフォイ家を、それが無理ならせめてまだ何も悪い事をしていない僕の妹のスピカと弟のコーヴァスには手を出さず、命と安全の保障をしてくれ。頼む!」

 

何と、敵である筈の俺達に頭を下げている。今までのあいつならそれはしないだろうし、寧ろそうして貰えるのが当たり前だと思っているからな。どういう心境の変化があったかは知らない。

 

「そんな事信じられるか!今ここで……」

 

「キット。今はちょっと待ってくれ。」

 

「なっ!?どうして!?」

 

「プライドを捨ててまで、敵対してる筈の俺達に頭を下げたんだ。何か考えがあるだろうし、ここで闇の陣営が有利に傾くように仕向けても、終わりを生み出す者に目を付けられるままなのは相変わらずだからな。それに、もしかしたらアレもすんなりと手に入るかも知れない。」

 

上手くいけば、ハッフルパフのカップをリスクを冒さずに手に入れられるかもしれないぜとアイコンタクトを取る。

 

「……確かに、お前の考える方法なら現実的かつ安全で、確実性はあるかもしれねえが。」

 

目で、言葉のキャッチボールを交わす俺とキット。しばらくして、キットがやれやれと言った感じになった。

 

「分かったよ。ここまで覚悟を決めてるなら、そいつの件はお前に任せるぜ。だけどな、ちゃんとやり遂げろよ。誰かに助けてもらうのは、ナシだ。」

 

「分かっている。元からそのつもりだ。今までも……今も……そしてこれからも。」

 

「じゃ、じゃあ。僕との取引を受け入れてくれるのか?」

 

縋りつくように聞いて来た。開心術で心の中を探ってみるか。

 

「ジジイに報告した方が良いんじゃないのか?ハリー。」

 

俺だけに聞こえる様にキットが囁く。開心術で心の中を探った結果、今の考えと俺に出した提案は本当のようだな。閉心術を使ってる可能性も否定出来ないが。

 

「……一先ず保留だ。事が事だからな。新学期初日まで返事を待ってくれ。答えが出たら、すぐに返事を返す。」

 

「分かった。良い返事を期待している。」

 

そう言って、マルフォイは去っていった。

 

「これに関しては、ハリーが担当するって俺もジジイに言っておくぜ。」

 

「そうして貰えると助かるよ。」

 

空を見上げる。もう暗いな。そう思っていると、どよめきと悲鳴の声が上がった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 闇の印(後編)

空には、髑髏の口から蛇の出ている紋章が浮かび上がっていたのだ。

 

「闇の印か!?」

 

「場所が近い!ハリー、行くぞ!」

 

マントを形態変化させて飛行するで。それで一気に目的地まで行く。歩いても大丈夫と判断した場所で地上に降りると、マリア達3人と鉢合わせた。

 

「姉上とエリナが闇の印が打ちあがった方向に行っているんだ。5人で行こう。」

 

森の外れの空き地まで着くと、20人の魔法使いが数人を囲っているではないか。それを止めようとしているウィーズリーおじさんにエイダ義姉さん、エリナの3人。その後に、ディゴリー氏とクラウチもいた。

 

「やめてくれ!私の子供達だ!」

 

囲まれていたのは、ロン、ハー子、ゼロ、グラント、フレッドとジョージ、ジニー、セドリックの8人だった。囲っていたのは、よく見ると魔法省の役人達であった。知らなかったとはいえ、子供相手に攻撃をしようとしたのか、バツの悪そうな表情になっている。クラウチを除いて。

 

「誰だ!誰がやった?あの闇の印を打ち上げたのは!!」

 

クラウチがヒステリックに叫んでいる。

 

「僕等はやってない!」ロンが抗議するが、クラウチは全く耳を貸さない。

 

「白々しい事を!お前達8人は、犯罪の現場にいた!!」

 

「バーティ。ちょっと落ち着きましょうよ。まだ子供ではありませんか?」

 

「ねえ皆。ここで何があったの?」エリナが8人に聞いた。

 

話の要約はこんな感じだ。逃げようとした時に、ジニーの杖が無い事に気付いた。探そうとした矢先に闇の印が上げられ、運悪く魔法省の役人と戦闘になったらしい。

 

「戦況は?」

 

「私とゼロ、グラントで終始圧倒してやったわ。」ここでジニーの修行の成果が出たか。

 

「ジニー、しばらく見ない内に強くなったな。それも、俺やグラントと肩を並べられる位には。」

 

「本当よ。ルール無用の戦闘状態のゼロ、グラント、ハリーの強さは良く知っているけど。ジニーも大概よね。」

 

「そうだね。」

 

ロンとハー子も同意見のようだ。双子とセドリックの3人は、マジかよという表情をしていたりする。

 

「先生がいたからよ。」さり気無く俺に視線を送った。

 

「それで皆さん。さっきの印はどこから出て来たか覚えていますか?」

 

エイダ義姉さんが優しく聞いた。

 

「あそこの木立の陰から声が聞こえました。何か呪文を唱えたんです。それで、グラントが即座に失神呪文を……」

 

これに答えたのはハー子だった。場所を指差し、震え声で言った。

 

詳しくそこを調べてみると、貴賓席にいた屋敷しもべ妖精が倒れていた。

 

「こんな――筈は――無い――絶対に――」クラウチが項垂れている。

 

「闇の印を作るにしても、杖がいるんじゃないですか?」役人に聞く。

 

「ところがね、ハリー。」ディゴリー氏が苦々し気に俺の疑問に答えようとする。

 

「この妖精は、杖を持ってたんだよ。」

 

「でも屋敷しもべ妖精って確か、変態ヘビが虫けらのような扱いをしてたそうじゃないですか。何で闇の印を作る必要があるんです?自分をゴミムシ以下の下等な存在だと認識している残念マスクのハゲの代名詞を造り出すメリット何て皆無ですよ。」

 

「相変わらずだな、お前。」グラントが突っ込んだ。

 

「酷い言われようね、例のあの人も。」

 

「いいや、5人共。普通、変態ヘビとか残念マスクのハゲとか、変なあだ名付けないけどね。」

 

「同意だな。」

 

「ディゴリー、こればっかりは俺も同じだよ。」

 

セドリック、フレッド、ジョージの順で6年生組がそんな事を言ってたりする。役人たちはドン引きしている。ウィーズリーおじさんは苦笑いだ。

 

話しを戻すと、ウィンキーが確かに杖を持っていた。でもそれだけで、犯人と断定するのは余りに性急なのでは。と、思っていると、バクマンも到着した。蘇生呪文を使ってからウィンキーの尋問が開始されるのだった。

 

ウィンキーが目覚める。寝ぼけた様子で辺りを見る。自分の周りを囲む魔法使い達に気が付いた。その後に上空を見上げ、浮かび上がる闇の印に身をぶるっと震わせた。ウィンキーは、こちらが哀れと思う程に怯えていた。

 

ウィンキーは何も知らないと言い張るが、ディゴリー氏は厳しい口調で追及を続ける。杖を掲げた時に、ジニーがハッと何かに気が付いた。

 

「それ、私の杖!」

 

「どういう事?」

 

気付いた時にはもうなかったらしい。ウィンキーは、ただ拾っただけだと言う。

 

「しもべよ、お前がこの杖を見つけたのか、え?そして杖を拾い、ちょっと遊んでみようと。そう思ったというわけだな?」

 

「あたしはなさっていませんです!お拾いになっただけです!闇の印をお作りにはなりません!やり方をご存じありません!」

 

これじゃ埒が明かねえなと思いながら、7人に聞いた。

 

「おい、お前ら。呪文を唱える声って、本当にウィンキーだったのか?」

 

「いいえ!」ハー子が真っ先に否定した。

 

「もっと違う声だったよな!」グラントが全員に同意を求める。

 

「もっと太い声……人間の声だな。」ゼロがきっぱりと言った。

 

直前呪文で、杖から出た呪文を調べる事になった。結果は、ジニーの杖から闇の印が出た事が分かった。

 

「あたしはなさっていませんです!決して、決して、やり方をご存じありません!!あたしはよい屋敷しもべ妖精さんです。杖の使い方をご存じありません!」

 

「お前は現行犯なのだしもべ!凶器の杖を手にしたまま捕まった!」

 

「エイモス。落ち着け。ウィンキーに出来る筈が無いじゃないか。アレは、魔法使いでもほんの一握りしか知らないんだから。」

 

ウィーズリーおじさんが、ディゴリー氏を窘める様に言った。

 

「そうかエイモス。君は、こう言いたいわけだ。私が召使い達に、常日頃から闇の印の作り方を教えていたと。」

 

クラウチが一言一言に冷たい怒りを込めてディゴリー氏に言い放つ。気まずい沈黙が流れ始めた。これを見るに、権力志向が強く、自分を貶める者には容赦しない性格なのだろう。

 

「そ、そんなつもりは全く………」

 

「君は、この私に嫌疑を掛けようしている! 誰よりも闇の魔法を嫌悪し、それを行う者を問答無用で断罪してきたこの私に!」

 

「クラウチさん!私は、貴方がこれに関わりがあるなどとは一言も言っていない!」

 

「私のしもべを咎める事は、私を咎める事でもある!他の何処で、私のしもべが呪文を身につけたというのだ!言ってみろ!!!」

 

「失礼ですが……」話に参加したのは、意外な人物だった。イーニアス義兄さんだ。

 

「全く無い、そうとも言い切れませんよ。ミスター・クラウチ、別にあなた自身でなくても良いのですから。例えば、親族に死喰い人がいれば或いは…………」

 

?何の事を言ってるんだろうか?でも、その言葉を聞いてクラウチは青ざめている。魔法所の役人もだ。

 

「それに、ミスター・ディゴリー。そんな高圧的な尋問はやめた方が良いですよ。正確な情報が引きずり出せなくなりますからね。」

 

イーニアス義兄さんは、ウィンキーの目の前に立った。

 

「ウィンキー。」

 

柔らかい口調でイーニアス義兄さんが、ウィンキーに語り掛ける。ウィンキーはビクビクと震えている。

 

「私の名前は、イーニアス・ローガー。聞きたい事があるので、聞いても良いかな?」

 

「は、はい。何でございましょう。」

 

少し時間を空けている。ウィンキーを落ち着かせる為なのだろうか。

 

「姉上。やはり兄上は……」

 

「開心術を使っていますね。」

 

そんな声が聞こえた。成る程な。情報を引きずり出すのか。

 

「杖はどこで手に入れたんだい?」

 

「木立の中でございます。」

 

「使った者は見たかな?」

 

「いいえ!」

 

「だ、そうです。分かったでしょう。ウィンキーは、彼女は運が悪かったとしか言いようが無いというわけです。」

 

イーニアス義兄さんは、辺りを見渡す。

 

「もういい。こやつは、私の命令に背いた。これは、『洋服』に値する。」

 

クラウチは、冷酷にウィンキーにそう言い切った。ウィンキーは泣き叫ぶ。しかし、クラウチは全く意に介さない。ハー子も反論するが、無視した。これに関しては、俺達はお手上げだな。ウィンキーをどうするかは、クラウチの自由なのだから。

 

こうして、テントに戻る事になった。ハー子がグチグチ言っている。面倒なので、適当に聞き流すことにした。ちなみにジニーの杖は、ちゃんと返して貰えたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 残りの休日

翌日、キャンプ場から帰った。その時にウィーズリー家の人達に挨拶した。また新学期に会おうと言って。俺とエリナは、すぐさまシリウスの所へ帰った。相当心配してたらしく、俺達の顔を見るとすぐに抱き着いて来た。ああ、苦しかった。メリンダが止めてくれたけど。

 

新聞を見て見る。マグルの物と予見者新聞の2つを。前者は特に何もなかった。だが後者は、一面大見出しと化していた。しかも、その内容が酷い。

 

「スキーターの野郎が書いていたか。」俺は、苦々し気に新聞を読む。

 

「ゴシップを書く為に生きているような女だからな。」

 

「あの女の書く記事は、全て悪意に満ちていますからね。」

 

シリウスが新聞を覗き込みながら、そう言った。そして、次にメリンダがバッサリと切り捨てた。

 

「幸い、俺の事は書いてなかったからそこは安心だけどね。」

 

シリウスに新聞を手渡し、ティーポットの水から4人分のコーヒーを注ぐ。

 

「ねえ。闇の印ってなあに?」エリナが聞いて来た。そういや、知らなかったんだっけな。

 

「ヴォルデモートの印よ。」メリンダが即答した。

 

「奴やその配下が、誰かを殺すっていう予告みたいなものさ。だからワールドカップに来ていた大人達は、慌てふためいたんだ。」

 

シリウスが続いた。

 

「そうだったんだ。後、イーニアスさんの言ってたことが何か意味深だったよね。」

 

「ああ。それはちょっとロイヤル・レインボー財団に情報を送って貰おうと思っていてね。連絡待ちさ。」

 

「イーニアスは何を言ってたのかな?」

 

「シリウス。それがね。クラウチさんの親族に死喰い人がいれば闇の印が作れるとか何とか。」

 

「その事か。それはね、ハリー。そしてエリナ。奴の息子が、そうだったからだよ。」

 

「それも、同じ名前の息子の、バーティ・クラウチ・ジュニアってね。あ、そろそろ行かなきゃ。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

ロンドン警視庁に仕事へ向かうメリンダを見送ってから、また話を始めた。

 

「それで、さっきの話。どういう事なの!?」

 

「俺も最低限の事しか分かっていないんだ。そこら辺、詳しく。」

 

「君達も14だ。ま、話しても良いだろうな。クラウチの息子はね。死喰い人の中でも、最悪の部類の連中といた所を捕まった。俺の愛しき従姉と、その嫁ぎ先の家族と一緒にね。」

 

「愛しき従姉?」

 

「エリナ。その話はまた後にしようぜ。」

 

「その時クラウチの奴は、魔法法執行部の部長だった。」

 

「何それ?」

 

「罪人を裁く最高の役職とでも言えば少しは実感が湧くんじゃないか?俺は興味無いけどね。」

 

「ハリーの認識で正解さ。名誉や権力に興味が無いのは、本当にジェームズそっくりだ。だがクラウチは、とことん権力欲があった。そう言った意味では、ジェームズとは真逆のタイプの人間なのさ。」

 

「ウィンキーをクビにしたあの態度からして、自分の顔に泥を塗る奴は徹底的に潰さないと気が済まないみたいだったな。」

 

「ああ。その通り。自分にも他人にも厳しい。凄まじい魔法力と正義感を持って、魔法省で頭角を現した。」

 

「あれが正義?ボクにはそうは見えなかったよ、シリウス。」

 

「正義ってのは、行き過ぎると誰にも止められないのからな。」俺がすかさず返した。

 

「う~ん。難しい。」

 

「一応はそう言える、とでも言っておこう。法を変えて、知り尽くした規則を駆使する。『闇払い』達に新しい権力を与えた。例えばだ。捕まえる為の魔法ではなく、殺す為の魔法を使用出来る権力。もう1つは、裁判無しに牢獄へ送って良い権力。」

 

「前者はともかく、後者は流石にマズいだろ。マグルの世界では、そういった冤罪を起こさない様に3回裁判するのにさ。」

 

「それは初めて知ったよハリー。さて、話を戻そう。暴力を、暴力を以って制する。そうだ、奴は紛れも無い正義だ。悪とは正反対の存在さ。でもね。誰も批判する者がいなかった。どうしてかって?2人とも分かるかな?」

 

「クラウチさんからしてみれば、自分達の生活を脅かす悪を排除しているんだって言いたいの?」

 

「正解だ、エリナ。それじゃあハリー。今度は君に聞こう。クラウチの政策、怪しい輩に許されざる呪文を使って良い許可を出した。それの行きつく先はどうなると思う?」

 

「……結局の所、闇の陣営と同じ冷酷非情になるだろうな。クラウチ自身は気づく筈が無い。俺から言わせてみれば、自分のやっている事が悪だと自覚していない、最もドス黒い悪だよ。」

 

「凄い言い回しだな。余程クラウチを嫌っていると見えるが。」

 

「碌に捜査もしないで、無実の人間を牢獄に入れる奴なんざ、俺の中での評価は最悪だね。それが父様の親友で、俺達兄妹を実の子同然に思ってくれているあなたであるなら尚更だ。」

 

「俺の為に怒ってくれて本当に嬉しいよ。」

 

「話の続きを聞かせてよ。」エリナが、シリウスにそう急かした。

 

「そうだな。そして、俺達のエリナがヴォルデモートを失脚させた時だ。」

 

「今はゴミムシにも劣る、死に損ないと化してるけどね。」

 

「ハリー。本当の事だけど、言い方。」

 

「分かった分かった。」

 

「クラウチの魔法省大臣の地位は約束されたも同然だった。後は、落ち武者狩りならぬ落ち死喰い人狩りをすれば良いからね。それが終われば、すぐにでも魔法法執行部から出世出来た。出来た……筈だった。」

 

「そこで、最初の息子さんが捕まった話に戻る訳なんだね。」

 

「そうだ、エリナ。皆、何かの間違いだと思ったわけだ。クラウチにとっても予想出来なかった。いつも仕事詰めで、息子の事は妻としもべ妖精に任せっきりだった。たまに早く仕事を切り上げて、帰って来れば良かったのかもね。」

 

「たまたま一緒だったって可能性は?」俺は、そう聞いてみる。

 

「分からない。今となっては。だが、一緒にいた連中は確実だ。ベラが、やたら嬉しそうな表情でシシーにベラベラ自慢しているのを何度見た事か。ドロメダは、かなり嫌そうにしてたけどね。」

 

「でもクラウチは初めてだったと、そう言いたいわけだね?」確認を取っておく。

 

「そうだな。もしかしたら、運悪く絡まれていただけかも知れない。世間の多くもそう思ってた。それだけ、息子は評判が高かったんだ。癒者世界の、期待の超新星として。」

 

「あのう、それじゃあ。クラウチさんは、自分の息子さんを少しでも罰から、逃れさせようとしたんだね?」

 

「いいや。エリナ。君なら、少しでも奴の本性を分かってると思ったんだがね。その逆だよ。闇の魔法使いと一緒にいた。仮に闇の陣営じゃないにせよ、奴にとっては関係無いのさ。」

 

「少しでも自分の評判を汚す様な奴は、誰であろうと排除する男なんだ。ウィンキーの事もあるし。」

 

俺は、エリナにそう説明した。

 

「屋敷しもべ妖精をクビに……奴がやりそうな事だ。一切息子の罪を庇わなかった。せめて裁判だけを受けさせたのが親としての情だと世間は言っている。だが、俺はこう思う。公に見せ付けてやりたかった。自分がどれだけ、悪や、社会のゴミクズ共を、例えその正体が息子であろうと憎んでいるのかをね。」

 

それで、息子はアズカバン送りになったわけか。何をしたんだろうか。

 

「俺の隣にすぐ収監されたよ。3日位泣き叫んでいた。でも、すぐに大人くなったよ。あそこは、誰だってああなる。」

 

「……」エリナは絶句している。

 

「……」俺としてもあまり良い話じゃないな。

 

「勿論俺は、ピーターへの妄執で何とかね。それを入って来たばかりのクィリナスに教えたよ。アズカバンを脱獄する時に、グッド・ラックと言ってくれたっけなぁ。」

 

「逞しかったんだね、シリウスって。ボク、尊敬しちゃう。」

 

「そんな事も無い。……あー、息子は死んだよ。元々病気がちだったようだ。死ぬ前日にクラウチが妻と共に来てね。面会だったそうだ。」

 

「そして翌日、クラウチの息子は死んだってわけか。病気で。」言葉を繋げた。

 

「そう。クラウチの妻もしばらくして亡くなったのだとかって聞いているよ。あいつは全てを手に入れようとした瞬間、全てを失ったんだ。」

 

「という事は、支持してた人達もクラウチさんを見捨てたの?」エリナが聞く。

 

「ああ。息子と妻が死に、惨めに屋敷しもべ妖精と暮らすクラウチに集まったのは、同情じゃなくて非難だった。」

 

「何故?」それは、一切分からなかった。

 

「ハリー。死って言うのはね。死んだ者の良い所ばかりが強調される時があるんだ。」

 

「……」

 

「何でこうなったのか。いつも仕事ばかりして、2人を蔑ろにしてた。息子が闇に堕ちたのも、妻が病気になったのも、気に掛けなかったんだと世間は凶弾した。そして、国際魔法協力部に左遷される形で、事実上失脚したんだ。そして、何をどうしたらそうなるのか、小鬼潰しのファッジが大臣になった。」

 

「後味が悪過ぎるよ。」

 

「全くだな。とにかく、イーニアス義兄さんの言葉の意味が分かったからね。これで良しとしよう。シリウス、後で修行の方を見て貰って良い?」

 

「勿論さ。マグルの戦闘技術も、大いに役に立っているからね。今日は、近接戦闘と魔法戦闘を上手く嚙合わせる様にしておこうか。」

 

「お願いします。」

 

地下の戦闘訓練場で手合わせをした。人を斬り殺す剣から、人を導く剣に昇華する様にフィールド先生から言われた。その方向でシフトチェンジしているけど、それだとどうしてもシリウスに近接戦闘で防戦一方になってしまう。

 

「ハリー。確かに君の剣術は超一流だ。嘗てのスタイルに魔法を交えたコンボだったら、俺は確実に負けていただろう。だけどね、人を導く剣へ戦い方を変えるなら理屈じゃなくて体に直接叩き込んだ方が良いよ。」

 

「頭では分かってるんだけど。」

 

「こればっかりは、実技で変えて言った方が手っ取り早いからね。さあて、今日はこれ位にしておこうか。」

 

「そうだね、そろそろ飯にしないと。2人共、何が良い?」

 

「昨日の夕飯の野菜炒めの残りがあるから、それを使って料理をしてくれないか?」

 

シリウスが提案した。

 

「それで焼きそば作って!」エリナが追加の注文をした。

 

「了解。」

 

野菜炒めに、焼きそばの麺とソースの粉をフライパンで程良く混ぜ合わせた。完成した後に、テーブルの真ん中に置いた。メリンダも含めた4人分の皿とフォークも用意して。彼女の分は冷蔵庫に入れておいた。テーブルに置手紙を残して。

 

「美味しい!またこれを食べられるなんて!」エリナは、どんどん食が進んでいる。

 

「日本という国にはこんな美味い食べ物があったなんて。世界はまだまだ広いんだな。今までちゃんと生きてて良かった。」

 

シリウスにも好評だった。シリウスの家に来てからは、料理が俺担当になってた。2人も一応は出来るけど、人に出せるレベルではないようだと言っているが。メリンダも結構料理は出来る方だけどね。

 

それから1週間は何事も無く過ごせた。新聞では、真脱狼薬が開発された事により、反人狼法という悪意ある法律が廃止されたと書いてあった。これを提案した奴は事実上の失脚をしたそうな。後は、帰って来た日の4日後にロイヤル・レインボー財団から電話が来た事位だろうか。

 

「イーニアス義兄さんは、ウィンキーからその情報を手に入れたんだね。」

 

「一応、警戒はしておいてくれ。」

 

「分かったよ、義祖父ちゃん。」

 

「それと、ドラコ・マルフォイの件は主にハリーに任せよう。ただ、常に会話のやり取りだけは記録して提出して貰えないか?」

 

「了解。」

 

「それじゃあ、そろそろ切ろう。9月1日に、キングズ・クロス駅でな。」

 

「じゃあね。」

 

義祖父ちゃんとの電話が終わった。クラウチの息子が生きてるのか。母親とのなり代わり作戦で脱獄してたとはな。とにかく、やる事は決まった。マルフォイ宛に取引に応じるという旨の手紙を送る事だ。ナイロックに運ばせた。

 

シリウスが仕事に行ってる間、エリナと特訓をしている。守護霊を習得出来たので、今度は聖なる浄化の光よ(ルーモス・ガ・イアス)の習得の監督をしている。

 

「守護霊以上に、プラスエネルギーの出し方を考えないとダメだぜ。」

 

「ハア……ハア……難しい。一瞬しか出来なかったよ。」

 

「ま、今日はここまでだな。お疲れさん。高望みはダメだぜ。今の年齢で、守護霊を使えるだけでも大した事なのに。今度はそれ以上を行く呪文を練習しているからな。本当であれば、出来なくて当たり前なのさ。」

 

修行の後は、ゲームをしたりして残りの時間を潰している。

 

その後も日常は続く。闇払いの人が家に来る事もあった。来たのは、ニンファドーラ・トンクス、キングズリー・シャックボルト、マッド‐アイ・ムーディが主だった。一応、彼らの魔力を覚えておくか。ポリジュース薬で上辺だけ似せても、俺の感知能力の前では、それは意味を為さないからね。

 

ロイヤル・レインボー財団から、新しい学用品が届いた。ご丁寧にエリナの分も買っているではないか。

 

「良いのかなぁ?ここまでして貰っちゃって。」

 

「気にするなよ。」

 

基本呪文集・4年生用、新しい羽ペンを一揃い、羊皮紙の巻紙を2ダース、魔法薬調合材料セットの補充品をそれぞれだった。同じのはそこまで。ドレスローブが男女用で分かれていた。まあ、同じだったらそれこそ問題なわけだけどさ。俺のは深緑色の、制服に近い物。エリナは、朱色のワンピース・ドレスだ。

 

「学校の持ち物に書いてあったのは知ってるけど、何に使うんだろう?誰かの結婚式かな?」

 

エリナがキラキラとハシバミ色の目を輝かせる。

 

「分からん。もしかしたら、誰かの葬式かも知れねえぞ。」

 

「縁起でもない事を言わない!」

 

「……」エリナにキレられた。沈黙しておこう。こうなったエリナは止まらないし。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎて、夏休みの最終日となった。最後の夕食は、鍋にでもして4人で楽しく食べた。シメに米と卵を入れて雑炊にした。その後に、学校へ行く準備をした。当日はバタバタするだろうからね。着替えもベッドの近くに置いておくとしようか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 新学期始動

「ヒャッハー!汚物は消毒だーーーー!!!」

 

純血の名家。ノット家の屋敷。マルフォイ家程では無いが、十分に大きい屋敷である。しかし、その屋敷は悪霊の火と爆撃によって全壊しかけていた。

 

「何が起こっておる!?」

 

セオドールと、かなり年を食った彼の父親が狼狽えながら破壊される屋敷を外から見つめている。

 

「親父!あいつらだ!空から俺達の家を攻撃している奴がいる!」

 

「何じゃと!?」

 

ノット親子は、上空を見つめる。大きな鳥に乗った2人組が屋敷を攻撃しているではないか。

 

「おお!素晴らしい!!!おい見てくれよホド!この綺麗な花火をよ!!」

 

女性と見間違いそうな容貌の青年が、狂った笑顔を浮かべながらバディを組んでいる15歳位の少年にそう言い放つ。

 

「フン。きたねえ花火だ。」同意を求められた少年、ホドは酷評した。

 

「この美しさが分かんねえのかよ、お前。ホント、もったいねえ性格してやがるぜ。」

 

「違うな。一番美しいのは、人間が完成される時。即ち死だ。」

 

そのやり取りを聞いているノット親子。

 

「く、狂ってやがる。あの2人の会話。」セオドールは、本能で原始的な恐怖を体感した。

 

「まるで、わしの力が通用しなかった。何なんだ。こいつらは?」

 

その時、少年の方が降り立つ。指先から何かを出して、人間に酷似した人形の様な何かを自在に操っているのだ。

 

「容姿そのものは欠陥品だが、俺のサイボーグコレクションにするのも悪くは無いな。魔法力を持った奴をサイボーグに作り替えるのは初めてだぜ。」

 

ノット氏を指差す少年。

 

「サイボーグじゃと!?何を言って……」

 

言い終わる前に、体の至る所を針で刺されたノット氏。

 

「電光石火の早業って所か?言っておくがそれは、時間の経過と共に効果が強くなる致死性の高い猛毒でね。複数種類を調合したから、解毒は無理だ。」

 

「親父!」セオドールがノット氏に駆け寄ろうとする。

 

「来るな!」

 

「どうしてだよ!」

 

「良いか。奴の言葉が本当なら、私はもう長くない。意識が遠くなっていく感覚だ。お前だけでも生き延びろ!必ずやノット家を再興するのだ。」

 

「……」セオドール、何とか頷こうとした。それを嘲笑うかのように見つめるホド。

 

「熱い最期の親子会話をしているのか。ガキの方は殺す価値も無いがな。」

 

「……」事切れるノット氏。

 

「さて。こいつの死体は回収するか。コレクションに加えたら、記念すべき5000体目になるからな。」

 

「ホド!終わったか!コレクション収集は!」

 

「ああ。ビナーよ。記念すべき5000体目は、このジジイだ。本意ではないがな。魔法力を持たなきゃ、欠陥品として処分してやりてえくらいだよ。」

 

「さっさとずらかろうぜ。」

 

大きな鳥に乗って、ノット邸跡地を去るホトとビナー。それをセオドールは、呆然と見ているしかなかった。家も、財産も、家族も、全てを失ってしまった。

 

「何で……何で……ううぅ。」

 

余りにも理不尽極まりない状況に、セオドールは思わず号泣した。その後ろでは、家が轟々と燃え盛っていた。鎮火の気配は、全く無い。

 

ハリー視点

1994年9月1日。2ヶ月あった休暇が終わりを告げた。外を見渡すと、激しい雨が窓ガラスを打っている。ジーンズはそんなに好まない。チノパンとスカイブルーの長袖Tシャツに着替えた。特急の中で制服に着替えると決めているからだ。

 

5時半に起床し、朝食用にベーコンエッグにジャガイモのマッシュ、トーストを作り、昼食用にサンドイッチを作った。エリナとシリウスの分も入れて3人分。メリンダは、朝から刑事の仕事があるのでいない。

 

作り終えたと同時に2人共起きてきた。7時に。支度は前日にしてあるので、多少の準備が出来ればすぐにでも出発する。

 

「お早う。おお。いい匂いだ。」

 

「お腹空いた~」

 

「今日は早いから、ささっと食べちゃって。」

 

テーブルに用意した食事とミルクを指差す。早速、シリウスとエリナは飯にがっついた。

 

9時。一応の支度が終わる。何か、マッド‐アイ・ムーディが襲撃されたとか言ったが、ウィーズリーおじさんとディゴリー氏によって無事に解決したとの事。シリウスは向かう必要は無いとの事だった。

 

マグルの新聞を持っていこう。そもそも、まともに読むの俺だけだし。それに、何やらニュージーランド沖で世紀の大発見の記事が半分を占めているみたいだし。

 

瞬間移動(テレポーテーション)』でキングズ・クロス駅まで行く。

 

「そう言えば……いや。まだ言わなくて良いかな。」

 

「どうしたのシリウス?」

 

?何が言いたいんだろうか。

 

「学校に着いてからのお楽しみだよ。」シリウスは、どこか楽しそうだった。

 

「何?何が起こるの?」エリナが知りたそうにシリウスに聞く。

 

「今年は楽しくなるさ。じゃあね。」そう言うや否や、姿くらましで消えてしまった。

 

「行っちゃった。」

 

「楽しくなるって言ってたが一体?」

 

シリウスの意味深な発言に首を傾げながらも、9と3/4番線に突入した。ローガー家の面々とマリアに出会った。マリアは、美しいシロフクロウを籠の中に入れていた。マリア曰く、名前はヘドウィグだそうだ。

 

「久しぶりだな。マリアを頼む。」

 

「分かってるよ。義祖父ちゃん。行って来ます。」

 

「気を付けてな。」

 

義祖父ちゃんと挨拶をして別れた。乗り込む直前で、ウィーズリー家の人達と出会った。見た事の無い2人がいる。この人達、ロンの長兄のビルと次兄のチャーリーという人だった。名前は聞いていたが、会うのは初めてだ。簡単な自己紹介をした。

 

チャーリーは、職業柄なのか火傷の跡が絶えない。ビルは、最初の俺のイメージだとパーシー路線かと思った。だけど違う。ジニーを男性にしたらこうなるのではという風貌をしていた。それでいて銀行務めだから、スペックは原点であり頂点といった感じだ。

 

そう言えば銀行で話がある。ポッター家の金庫についてだ。ポッター家の始祖であるリンフレッドが良薬を作って稼いだ金を保管した金庫、アイオランシーという人物が嫁いで来た時に実家からの相続で受け取った財産を保管した金庫、俺の父方の祖父フレーモントが会社経営で中身を増やした金庫の3つだ。

 

いずれも、余程バカな使い方さえしなければ数世紀は大丈夫な規模となっている。俺は全く手を付けてないが、エリナは学用品を買う時に3つ目の金庫を主に使っているのだ。

 

俺自身で所有しているのは、クヌート用、シックル用、ガリオン用、口寄せ契約した物品とこれからの人生を生きていく為の活動資金が入った金庫、ローガー家からの遺産相続する予定のものを入れる金庫の5つだ。全部、ロイヤル・レインボー財団が準備してくれた。生まれる前から存在していたポッター家の金庫3つを足して、合計8個持っている事になる。ここまで金があって良いのかな?まあ、金銭感覚は鍛えられたし、何かしらの職業には就く予定だけどね。

 

汽車に乗り込み、細胞分身にコンパートメントを確保させた。人除けの札も貼り付けさせておくように命令した。早速、トイレで制服に着替えた。コンパートメントの場所に向かう。

 

そこには、ドラコ・マルフォイが立っていた。1人らしい。俺を待っていたようだ。

 

「手紙で了承の返事は送ったがな。」

 

「知っている。本当に本当か、確かめたかっただけなんだ。」

 

「本当だ。お前の家族の命と安全は保障する。だが、優先順位が存在する。」

 

「優先順位?」

 

「最初が弟と妹とお前自身、次に母親、最後が父親だ。」

 

「理由を聞かせてくれ。一応、そうなるだろうとは思ってはいたけど。」

 

「何も知らない、或いは何もしてないお前と妹と弟なら、特に理由も不要で助けられる。母親は純血主義者だが、特にこれと言った所業を起こしていない。だが、夫の悪事を知りながらもそれを支持していたから優先順位はお前達兄妹よりも低い。父親は言わずものがな。それに、それを差し引いても俺の大切な人や仲間に危害を加えた。それだけでも許せん。命を奪わないだけ、そして何も手出ししないだけありがたいと思ってほしいがな。」

 

「わ、分かった。それで良い。何も知らず、特に皆平等に暮らせればいいと思っているスピカとコーヴァスを最初に助けてくれるならそれで。あいつらの方が、僕よりも人間が出来ている。2人を巻き込まない為なら、何でもしよう。それが、僕のスリザリンとしての理念だからな。」

 

やはり、変わったようだな。憑き物が落ちた感じだし。その表情は、どこか安らかだった、

 

「じゃあ、取引成立だ。マルフォイ……いいや。ドラコ。」

 

手を差し出す。

 

「そうだな。3年前のあの時の……話だ。今度こそ……」

 

取引が成立した。俺とドラコは、握手した。同時に、確かに関係も修復出来た。

 

「それじゃ、またな。危なくなったら、俺を呼べ。」

 

「ふ、フン。そうさせて貰うさ。」

 

ドラコと別れ、コンパートメントへ。到着してすぐに、マグルの新聞を読む。出発まで30分もあるな。じっくり読むとしよう。

 

『発見!超古代遺跡!

ニュージーランド沖の海底から謎の超古代遺跡が浮上した。これは、8月の上旬に太平洋で起こった海底直下地震が原因と考えられる。詳細は分かっていないが、年代は3000万年前のものと思われ、現代よりも優れた文明を誇っていたと考えられる。詳しい事が分かれば、人類の歴史に新たな事実が分かる事が期待されるだろう。』

 

その3000万年前の時点で、人類はまだ類人猿どころか存在すらしてなかった筈なんだがな。だけど、久しぶりに興味深い記事を読めたので、俺は大変満足した。

 

エリナはハッフルパフ生と一緒のコンパートメントに行った。今は俺1人。時間に関する本を開く。ふと切れ端が落ちる。

 

「そう言えば、この紙の切れ端を栞代わりにしてたんだっけか。おぞましい肉体生成魔法が書いてあるこれを。」

 

この切れ端に書いてある魔法はこうだ。『父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん。しもべの肉、喜んで差し出されん。しもべはご主人様を蘇らせん。敵の血、力ずくで奪われん。汝は敵を蘇らせん』と書いてあったのだ。これは、古い手法のホムンクルスの創造である。

 

「これはもう要らねえな。燃えよ(インセンディオ)!!!」

 

紙切れを燃やした。こんなのは、ヴォルデモートレベルのカス野郎にお似合いなのさ。話は変わるが、どこかで新しい魔法を試したいな。小さな重力の弾を発射する重力弾(グラビボム)を。

 

コンコンとノックがした。扉が開く。入って来たのは、腰まで伸びているダーク・ブロンドの少女だ。眉毛は薄く、目は灰色でビックリ顔のように飛び出している。バタービールのコルクで作られたネックレス、オレンジ色のラディッシュに似たイヤリングを身に付けている。雑誌を逆さまにして持っているではないか。傍から見れば変人そのものではあるだろうが、俺からしてみればこういうセンスもあるんだなぁと逆に感心した。

 

「空いてる?」

 

「ここには俺1人。だから空いている……というか、日本由来の人除けの札を貼っておいた筈なんだがな。どうやって突破した?」

 

「なんとなく手順を踏んだら、解除されたんだもン。」

 

凄え。こいつ、陰陽術の素質あるかも。

 

「どうぞ。あまり大勢ではしゃぐのは好きじゃないんでな。また札をドアに張り付けておかなくちゃ。」

 

「ありがとう。ついでに着替えるから。」

 

「分かった。終わったら、何かしらの合図を送ってくれ。」

 

一旦外に出て、新しい札を貼っておく。今度はより複雑にしておくか。ちなみに、中から開けると自然に解除される仕組みになっているし、札を貼った者であれば自由に出入り出来る代物なのだ。車内販売の人は、その対象外にする。菓子類は頂きたいしね。

 

10分くらい時間を掛けて、札の貼り付け作業を終えた。それと同時に終わったという合図がきた。俺はコンパートメントに戻る。

 

「それ、マグルの本?」

 

俺の持ってきたグリム童話とクトゥルフ神話、イソップ寓話、千一夜物語の本と、ドラゴンボールにジョジョの奇妙な冒険の漫画を指差す。

 

「ああ。うち2つは漫画だけどね。」

 

「読んでいい?」

 

「一部日本語で書いてあるから、この薬を飲んでくれ。」

 

錠剤型の魔法薬、翻薬を少女に差し出す。少し時間の間隔がありながらも、ちゃんと飲んでくれた。

 

「ありがとう。あたし、ルーナ・ラブグッド。レイブンクローの3年生だよ。」

 

「次は俺だな。俺の名は……」

 

「あんた、ハリー・ポッターだ。グリフィンドールの切札。マーリン勲章受章者の。ジニーが言ってた。」

 

「それはご丁寧にどうも。つーか、ジニーと知り合いだったのか。」

 

「知り合いどころか親友なんだもン。」

 

ジニーと親友……か。まるで、俺とゼロの関係そのものじゃないか。

 

「ザ・クィブラー……」あの電波的雑誌か。興味はあるが、読む機会無かったんだよな。

 

「ナーグルはいるんだよ。」

 

「いる?」

 

「本当だもン。今、私の傍にいる。でも大きな声を出しちゃダメ。気付かれて、逃げちゃうんだもン。」

 

「へえ。いるかどうかはともかく、夢やロマンを追い求めるその姿勢、俺は嫌いじゃないぜ。人がいる限り、人の夢は終わらないからな。」

 

「本当?」

 

「ああ。だから応援してるぜ。で、俺の持ってきた本を読みたいんだっけか?ほら。」

 

本や漫画を差し出した。俺は、ザ・クィブラーを読ませてもらった。内容は少々胡散臭いが、娯楽物として読む分には十分面白かった。対して、ルーナの方はというと、本は面白かったようだが、それ以上に漫画で爆笑していた。

 

「アハハハハハハハ!!!」

 

「そんなに面白い?」

 

「言い回しや戦いの表現の仕方が面白いんだもン。」

 

ジョジョの奇妙な冒険をいたく気に入ったようだ。

 

12時になり、昼食を摂る事にした。自作のサンドイッチを食べようとする。ルーナが羨ましそうに見つめている。

 

「食べる?」1つだけなら良いかな?

 

「いただきます。」ルーナにサンドイッチを渡した。

 

その後、車内販売が来た。百味ビーンズ以外をある程度購入した。1ガリオンも掛からなかった。今に始まった事ではないが、それで良いのか魔法界、と思ってしまう。

 

「どうぞ。」買った菓子を食べないかと誘う。

 

「良いの?だってこれ……」

 

「気にしないでくれ。俺からのおごりだと思って。」

 

蛙チョコレートは、連続でホグワーツ創設者のカードが出て来た。

 

「スリザリン、グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローだ。」

 

「計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり~」

 

ルーナが高らかに叫んだ。あれ、その言葉。どこかで聞いた事があったような……無かった様な……初めて聞く言葉ではないのは確かだ。

 

その後、時間に関する本を読む事で時間を潰した。大鍋ケーキを食いながら。

 

「そう言えば、選択科目って何にした?」

 

「う~ん。古代ルーン文字学と魔法生物飼育学かな?」

 

「俺と同じじゃん。同じ選択科目を受講した先輩としてアドバイスと注意点を教えるよ。前者はともかく、後者は相当危険だ。気を付けた方が良い。ハグリッドは、怪物ばかりを授業で取り扱う。一説によれば、ドラゴンやアクロマンチュラを飼っているっていう噂だ。」

 

「案外本当だったりするかも。」

 

「さあな。でもまあ、噂の中に真実が潜むって事も有り得るからな。」

 

これは、強ち嘘ではないんだよなぁ。そう言った会話をしていると、そろそろホグズミード駅に着くというアナウンスが流れた。

 

「じゃ、そろそろ行こうか。」

 

「うん。」

 

ルーナとはここで別れ、出口に向かう。と、誰かにぶつかった。クィディッチの決勝戦で見たドラコの弟か。

 

「怪我は無い?」

 

「すみません……あれ、あなたは。」

 

「俺か?俺は、ハリー・ポッターだよ。」

 

「あなたが!?ぼ、僕はコーヴァス・マルフォイと申します。以前、兄の首筋の痣の悪影響を最小限に抑えていただき、ありがとうございました。母は、随分と喜んでましたよ。」

 

「そっか。まあ、そんな気にしないで。あ、そうだ。雨が降ってるから、防火・防水呪文をかけておくよ。」

 

「あ、大丈夫です。僕、それは使えますから。」

 

「そうなのね。じゃあ、気を付けてね。」

 

「はい!」コーヴァス・マルフォイとは、ここで別れた。

 

すると、ロン、ハー子、ネビル、ゼロ、グラントと出会った。ロンがカンカンであったので話を聞いてみる。

 

「ドラコにローブが古いってけなされたのか。」

 

「あいつ死ね!」

 

流石に死ねは言い過ぎだ。しかし、あいつもあいつでちょっかい出してるしな。俺からいわせりゃ、どっちもガキだ。

 

駅に着くと、雨は激しさを増した。こりゃ、1年生には苦痛だろうな。そう思っていると、マリアが俺達6人の方へ向かってきた。もう1人を、ドラコの妹を連れて。

 

「ハリー!」マリアが、俺に手を振って近付いて来る。

 

「マリアか。そこの子は?」

 

「スピカって言って、マルフォイ家の出なんだって。」

 

その言葉を聞いてロンが何か言おうとしたが、ゼロがロンの肘を蹴って止めた。小声で、自分の私情と確執を、まだ何も知らない1年生に吹き込むなと説教している。

 

「あの。ハリー・ポッターさんですよね?」

 

「そうだよ。」

 

失礼のないように言葉を返しておく。マリアに純血主義を吹き込んでいたら、それ相応の報いを受けさせようかな。

 

「去年、兄を救っていただき、ありがとうございました。」

 

俺にお礼をしてきた。

 

「いいや。別に、礼には及ばないよ。」

 

「とんでもありません。父と母は、大喜びをしていました。このご恩は、一生忘れません。」

 

「別に構わないって。そうだ。この雨の中での移動はきつ過ぎる。」

 

マリアとスピカに、防火・防水せよ(インパービアス)を唱えてやる。これで雨の中でも、問題無くやり過ごせる様になった。

 

「さあ。あのデカい人に付いて行くと良いよ。」ハグリッドを指差す。

 

「うん。行こう、スピカ。」

 

「はい。」

 

2人は、他の1年生と一緒にハグリッドの下へ行った。

 

「俺達も行くか。」

 

「おう!」グラントが威勢よく言った。

 

見えないが、セストラルの馬車に乗って学校へ向かった。

 

「マルフォイに何をしたんだ?」ゼロが聞く。

 

「あいつの首筋に痣があるのは知ってるよな?」

 

全員に説明を始める。

 

「ええ。リチャード・シモンズがどうとか言ってたけど。」

 

ハー子、そう言えば聞いてなかったから教えろという視線を送っている。

 

「良いか。あの痣は、魔法を使おうとすると反応する呪いの印だ。普通よりも戦闘能力を高めてくれる。」

 

「それなら良いんじゃないの?ハリーやゼロ、グラントにイドゥンと同じ土台で戦えるようになるんだからさ。」

 

これを言ったのがネビルだ。

 

「確かにな。でも、そういうわけにもいかなんだよ。発動時に凄まじい激痛を伴うんだ。それに、使い続けると呪印の邪悪な力に侵食される。そして、どうなると思う?ハー子。」

 

ハー子に答えを振ってみよう。

 

「まさか……マルフォイは死んじゃうって事?」

 

「ご名答。」

 

「マルフォイにそんなものを刻み込んだリチャード・シモンズ。どんな奴なんだ?」

 

「元々、ロイヤル・レインボー財団に所属していた研究員だ。だが、不老不死の手段を求める余りに禁じられた魔法に手を付け始めた。何とか後始末をしようとして、逃げられたんだ。その時のアクシデントで、俺はW-ウイルスに感染し、適合者になったのさ。」

 

その言葉が言い終わると同時にウイルスモードを発動する。夜になりかけている暗闇を照らす赤い瞳をロン、ハー子、ネビル、ゼロ、グラントに見せる。

 

「そうだったのね。その人、何をやってるのかしら?」

 

「俺も詳しい事までは知らん。だが、世界各地にアジトを持ち、人間を拉致しているそうだ。人体の改造だけでなく、人間そのものを作り出した事があるって言うのは聞いた事があるけどな。」

 

「人間そのものを作るだと!?」ゼロが大きな声を出した。

 

「ホムンクルスじゃない。遺伝子操作や組み換え、クローンで作っているかもな。奴ならやりかねん。」

 

「人道的に許されないわよ!」

 

「ねえ。ハーマイオニーにゼロ。どうしてそこまで怒ってるんだい?」

 

「良いか。ロン。クローンって言うのはまだデリケードな分野なんだ。マグルの世界でも製造禁止を出すくらいにな。認めたら、臓器や他の移植用の部位だけを取り出す為に量産する輩もいるんだよ。それにだ。折角奴隷は禁止とされているのに、ある種の奴隷制度復活って事も言える。」

 

「ゴメン。やっぱり分かんないや。」

 

まだ早過ぎたか。ネビルとグラントは思考回路がついて来れておらず、ショートしかけている。そもそもロンの奴、マグルに寛容な割にはマグルの事情に詳しくなろうとはしてないんだよな。

 

「ま、俺でも詳しくは知らない事ばかりだから、この手の話はまたの機会にしようぜ。それよりも飯だ。」

 

「そうだよな!沢山食うぞー!!!」

 

「ハリー。グラント。その前に、組み分けの儀式の方が重要なんだけどね。」

 

ネビルのボソッとした声が聞こえた。馬車に乗っていた全員が大爆笑した。もうすぐ城が見えてくる筈だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 三大魔法学校対抗試合

玄関の中に入った。周りはびしょ濡れ。俺、ロン、ハー子、ゼロ、グラント、エリナ、ネビルはほぼ無傷だった。

 

「ハリーが教えてくれた防火・防水呪文を使ったら、とても楽チンだったよ!ありがとう!!」

 

「エリナ!早く行くわよー!」

 

「良い席を取りましょうよ。」

 

ハンナとジャスティンがエリナを呼んでいる。2人は俺を見るなり、挨拶をしてきた。だから、俺もする。

 

「早く行ってあげな。」

 

「うん。じゃあね。」

 

エリナがバイバイと手を振りながら、走り去っていった。

 

「俺達も行くか。」

 

大広間に着き、席を確保する。後から来た人によると、ピーブズが水風船を投げつけて来たらしい。早く行っておいて良かったよ。ゼロとグラントとは、一旦別れた。

 

「飯も食いたいが、マリアの組み分けも見なくちゃな。」

 

「彼女とどんな関係なの?」ネビルが聞いて来た。

 

「ロイヤル・レインボー財団で保護された娘だよ。その縁で俺と仲良くなったんだ。」

 

「ハリーの人脈が相変わらず凄過ぎるわ。」

 

「俺は他の魔法学校の人とも交流してるぜ。マホウトコロは当たり前だろ。そもそも俺、そこからの留学生でホグワーツに来てるからさ。後はイルヴァーモーニー、ワガドゥー、カステロブルーシューだな。」

 

「全部、国際魔法使い連盟に登録されている一流の魔法学校じゃないの!広過ぎるわ。」

 

「そんなに驚く事か?俺から言わせれば寧ろ、逆にこの国の魔法界の視界が狭過ぎるんだがな。」

 

キッパリと俺の意見をハー子に言ってやる。丁度その時、2人こっちに来るではないか。エックスとコリンが。

 

「わーい!ハリー。」

 

「お久しぶりです、先輩。」

 

「コリン。エックス。」俺の直弟子2人が来た。

 

「弟のデニスも新入生なんだ!」

 

「良かったじゃん。後は、組み分けでグリフィンドールに来れると良いな。俺も祈っておくよ。」

 

「ありがとう!!」

 

「それでは先輩方、僕等はここで失礼します。」

 

エックスがお辞儀をして、別の席へ向かっていった。大体の2年生以上がテーブルに着き終わったと同時に、マクゴナガル先生が1年生を引き連れてきた。組み分け帽子を置くと、帽子は独りでに歌い出したのだ。

 

「2年の時は居眠りをしてたけど、歌の内容って毎年違うんだな。初めて知った。」

 

「ハリー。あなたって人は。まあ良いわ。何も言わないわよ。」

 

「そうして貰えると助かる。」

 

「名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座りなさい。アッカリー・スチュワート!」

 

名前を呼ばれた男の子が、恐る恐る前に出て、椅子に座る。そして、帽子を被った。

 

『レイブンクロー!』

 

スチュワート・アッカリーはすぐに帽子を脱いだ。歓声の上がっているレイブンクローの席へ向かった。ゼロやシエル、チョウ・チャンと握手している。

 

「バドック・マルコム!」

 

『スリザリン!』

 

大広間の向こう側のテーブルから歓声が上がった。ドラコやグラント、イドゥンから歓迎を受けているマルコム・バドック。

 

「ブランストーン・エレノア!」

 

『ハッフルパフ!』

 

「コールドウェル・オーエン!」

 

『ハッフルパフ!』

 

連続でハッフルパフに組み分けされた両者。エリナからの熱烈な歓迎を受け、新入生2人は気持ちがハイになっている。

 

「クリービー・デニス!」

 

デニスは急ぎ過ぎた余り、躓いて転んだ。すぐに立ち上がって、帽子を被る。

 

『グリフィンドール!』

 

デニスがこちらに来た。俺、ロン、ハー子、ネビルと次々に握手した。

 

その後も組み分けは続く。1人、また1人と組み分けをされていく。もうそろそろLで始まる苗字が終わる。

 

「早く終わってくれ。」ロンが呻いた。胃の辺りをさすりながら。

 

「食事よりも、組み分けの方が大事ですよ。」

 

サー・ニコラスが諭す様にロンに言った。それと同時に、ローラ・マッドリーがハッフルパフに組み分けされた。

 

「ああ、そうだとも。死んでなければね。」

 

「今年のグリフィンドール生が優秀だと良いですね。まあ、今の4年生が規格外過ぎるだけなのですが。」

 

ナタリー・マクドナルドがグリフィンドールの席に着くのを拍手で迎えながら、サー・ニコラスが言った。

 

「優勝杯をハッフルパフから奪還したいですから。」

 

「……」俺は対抗杯に興味無いがなという気持ちで何も言わずに聞いている。

 

「マルフォイ・コーヴァス!」

 

ドラコの弟、コーヴァスが帽子を被る。超感覚呪文で聞いてみるか。3兄弟の中で、一番頭が良いのか。結構なインドアで、家風とは正直釣り合っていないのではと考えているらしい。グリフィンドールかレイブンクローハッフルパフがあっていると帽子は判断した。しばらくして、組み分け帽子が行くべき寮を叫ぶ。

 

『レイブンクロー!』

 

レイブンクローに行くコーヴァス。彼は、兄を見る。ちょっと悲しそうな顔をしていた。

 

「どうしてなんだ?まあ、レイブンクローなら父上も母上もそんなに言わないだろうな。」

 

ドラコが混乱している。

 

「マルフォイ・スピカ!」

 

続いてドラコの妹、スピカが組み分け帽子を被る。超感覚呪文で調べてみたが、彼女自身は純血主義ではないようだ。寧ろ、今の家風を変えたいと思っている。それでもスリザリンに組み分けされるだろうと予想を立てていた。皆も、どうせ今度こそスリザリンだろうという気持ちで見ている。

 

『ハッフルパフ!』

 

今年の組み分けの儀式最大の番狂わせが発生した。上級生は、皆戸惑いの声を上げている。ヒソヒソが絶えなかった。それでも、ハッフルパフは歓迎してはいたが、心中穏やかではないのだろう。

 

「マルフォイの家って、皆スリザリンだよな?」ロンが周りに聞く。

 

「ああ。だが、家系で良く似てくるのであって、必ずしもそうじゃない。ブラック家だって殆どがスリザリンだったろ?でも、シリウスやエックスはグリフィンドールじゃないか。それに、ポッター家だって時々グリフィンドール以外に組み分けされるんだぜ。」

 

スリザリンの席でも動揺は収まらなかった。ドラコは混乱している。

 

「どうしてスピカが!?コーヴァスと同じ、レイブンクローならまだしも!!」

 

「良いではありませんか、ドラコ。私やエックスの様な例だってありますし。」

 

イドゥンがドラコを説得している。

 

一方のハッフルパフ。エリナやセドリックはいつも通りだが、やはり他は混乱していた。そうだよな。純血主義の、それも死喰い人の中でも最上位の家系の人間が、闇の魔法使いの発生率が1番低い寮に組み分けされたなんて知って冷静になる方がおかしいよな。

 

「ハッキリ言おう。カオスだ。」

 

「それに同意です、ハリー。」サー・ニコラスも同調した。

 

「プリチャード・グラハム!」

 

『スリザリン!』

 

「クァーク・オーラ!」

 

『レイブンクロー!』

 

「テイラー・マリア!」

 

マリアが帽子を被る。皆、特に俺以外の男全員がマリアを見ている。超感覚呪文で聞いてみるか。

 

『ううむ。頭は良いな。それに、心優しい。だが、心を開いた人間以外にはかなりの恐怖心が持っているようだな。』

 

「あの、グリフィンドールはダメですか?」

 

『いいや。君は確かに勇気も持っているが、あそこは君には向かないだろう。そして、スリザリンも。この2つは、結構人間関係を重視する傾向がある。君の過去に起こった出来事が、他人との関わりを拒絶している。君に相応しいのは知識だ。なので寧ろ……』

 

『レイブンクロー!』

 

マリアは、レイブンクローに組み分けされた。ビクビクしながら席に座った。レイブンクローの席では、喜びの声が上がっていた。美少女を獲得したので。でも他は、残念そうにしてた。

 

「ウォルパート・ナイジェル!」

 

『グリフィンドール!』

 

「ホイットビー・ケビン!」

 

『ハッフルパフ!』

 

ようやく終了した。マクゴナガル先生は、帽子と丸椅子を回収した。それが終わると、ダンブルドア校長が微笑みながら口を開いた。

 

「今夜言うのはこれだけじゃ。思いっ切り、搔っ込め!」

 

「良いぞ!良いぞ!」ロンが大声で囃した。

 

「うおおおお!!メシだああああああ!!!」

 

スリザリンの席でグラントが大声を上げる。周囲が大爆笑の歓声に包まれている。それをあんぐりした表情で見ているスネイプ。

 

料理が出て来た。相変わらず美味い物を作ってくれるな。今度、厨房の屋敷しもべ妖精から料理のレシピでもいただこうかね?それはともかく、皿に食べ物を山盛りにした。

 

「腹が減ってたんだ。」ステーキの塊を頬張りながらそう言った。

 

「今晩は、ご馳走が出て来ただけでも運が良かったんですよ。」

 

サー・ニコラスが言った。

 

「何があったんだ。サー・ニコラス。」

 

「厨房で問題が起きました。またピーブズです。」

 

「何だと?」あの野郎、碌な事しねえな。

 

「あ奴は祝宴に参加したいと言い出しましてね。」

 

「無理だな。100%。確実に。」

 

「ええ。そうですとも。無理な話です。行儀も碌に知らず、食べ物の皿を見れば投げつけずにはいられないような奴です。ゴースト評議会でも、太った修道士以外は万上一致で参加させてはならないという決断に至ったのです。」

 

「だから水風船を後から来た人に投げつけてたのか。」ロンが苦々し気に言った。

 

「絶対何かあると思ったよ。」ネビルも話に参加する。

 

「それを聞いたピーブズは、祝宴を台無しにしようと厨房で暴れたのです。」

 

そうか。成る程。オシオキ決定だな。

 

「サー・ニコラス。続きを。」

 

「ハリーから出て来るオーラ。何だか途轍もなく真っ黒いよ。」

 

「ネビル。ハリーはね、料理を自分で作る程のグルメなのよ。それを踏みにじったピーブズは、決して許せないのよ。」

 

「へ、へえ。今度ハリーにご馳走して貰おうかな?」

 

「話を戻しましょう。何もかもひっくり返しての大暴れ。鍋を投げる、厨房はスープの海。屋敷しもべ妖精がものを言えないほど怖がったのです。部屋の隅に隠れて震えていました。」

 

「ありがとう。サー・ニコラス。詳しい話をしてくれて。」

 

にこやかな笑みをサー・ニコラスに送った。サー・ニコラスは、何か引き攣っている。その時だ。ガチャンという音が聞こえた。ハー子が金のゴブレットをひっくり返したのだ。かぼちゃスープがだらりと流れ込む。俺の周りは清めの呪文で綺麗にしておいた。

 

「屋敷しもべ妖精ですって!?そ、それこそ冗談でしょ!?」

 

「知らなかったのかハー子。俺は3年前、ハッフルパフ生から既に聞いているぜ。時々菓子とか貰ったり、料理用の材料をいただいたりしてな。」

 

「?ハーマイオニー、それは至極当然の事ではありますが。」

 

「今度彼らからレシピを貰おうと思ってるんだ。杖に頼らない魔法もある程度教わってるしさ。」

 

「そういう事で片付く問題じゃないのよ!ねえニック。彼らはお金やお休みは貰っているんでしょう?」

 

「彼らはそんなものを望んでいません。」サー・ニコラスがキッパリと言った。

 

ハー子は、自分の皿を遠くへ押しやった。それは、俺が有り難く頂戴した。

 

「ハー子。お前が絶食したって、意味ないだろう。それでも食いたくなきゃ、俺が頂くけどな。」

 

「勝手にすれば良いわ!!奴隷労働よ!!」

 

あ、こりゃ相当な重症だ。無視して、食事を堪能しますか。

 

しばらくして、デザートに変わった。糖蜜パイ、蒸しプディング、チョコレート・ケーキ等々。ブラックコーヒーを飲みながら、デザートを食べる。ロンがハー子にちょっかいを出している。ハー子は、マクゴナガル先生と同じ目つきをしてやめさせた。

 

やがて、デザートも消えた。そこで、校長の長ったらしい演説が始まるわけだ。

 

「皆良く食べ、良く飲んだ事じゃろう。」

 

ハー子は「フン!」と言ったが、素通りしよう。めんどくさいし。

 

「幾つかお知らせがある。管理人のフィルチさんが持ち込み禁止品を追加した。確認したい者は、チェックじゃ。尤も、バレなければ問題無いがの。」

 

それ、言っちゃって大丈夫なのかよ。

 

「いつもの通り、校庭内の森は寮監から許可を貰った者以外は立ち入り禁止。許可を貰った者も、ハグリッドの付き添いが必要になる。そしてホグズミード村も、3年生以降からじゃ。」

 

関係無いね。魔法使いらしく、無様な見つかり方とバレを防止すれば良いだけの話だからな。

 

「そして、これはわしも言いたくない事じゃ。誠に残念な事じゃが、今年度のクィディッチの試合は取りやめじゃ。」

 

「えー!?」

 

「ふざけんな!」

 

「グリフィンドールに勝ち逃げされてたまるか!」

 

特に、クィディッチをこよなく愛する者や選手達は、絶句と罵倒の声を上げた。

 

「皆の怒りはご尤もじゃ。その代わりとは言ってはなんじゃが、皆が大いに楽しめるイベントを用意しておる。ホントジャヨー。」

 

最後が棒読みになってるぞ、ジジイ。

 

「今年、ホグワーツで――」

 

雷鳴と共に、誰かが来た。魔力感知をしようか。

 

ああ、そうか。一度、シリウスの家に来て俺とも出会った事のある人だ。アラスター・ムーディ。何でここに来てるんだろうかと思っていると、校長から説明があった。今年の、闇の魔術に対する防衛術の教師としてきたのだ。

 

ん?ムーディってこんな魔力だったっけ?夏休みに出会った時とは、明らかに違うな。まるで別人だ。もうちょっと様子を見て見ようかね。

 

「で、さっきの続きに戻る訳じゃがの。10月から数ヶ月にわたって、我が校では100年ぶりとなる心躍るイベントの主催校になった。わしとしても大いに嬉しい。今年のホグワーツでは、三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)を行う!」

 

「ご冗談でしょう!」フレッドが大声を上げた。

 

「ありえねー!」ジョージも然り。

 

殆ど全員が笑いだした。ジジイは、その状況を楽しんでやがる。

 

「ウィーズリーのツインズ。わしは決して、冗談など一言も言っておらんよ。」

 

ダンブルドアが言った。

 

「この試合は過酷での。大体700年前、ヨーロッパの3つの魔法学校の親善試合として行われ始めたのじゃ。我がホグワーツに加えて、ボーバトン、ダームストラングでの。各校から代表選手を1人選出し、3人が3つの課題に挑んだ。5年おきに開催して、その度に開催校を変えて。若い魔法使いに魔女達が国という壁を越えて絆を生み出し、育んでいく最高の手段だと判断されたのじゃ――夥しい数の死者が出るに至って、競技そのものが中止されるまではの。」

 

夥しい死者だと?参加はしないに決定するか。

 

「何世紀にもわたって、この試合を再開しようと、幾度も無く試みたのじゃが、どれも成功しなかった。じゃが今回、『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』が開催決定をしたのじゃよ。死者が出ないように、この夏は身を粉にして我々は努力しておった。」

 

ふ~ん。その努力の結果とやらを聞かせておくれ。

 

「ボーバトンとダームストラングのそれぞれの校長が、代表選手の最終候補生を連れて10月に来校する。そしてハロウィーンの日、選手が3人選ばれる。優勝杯、学校の栄誉、選手個人に与えられる賞金1000ガリオンを賭けて戦うのに、誰が1番相応しいかを公明正大なる審査員が決めるのじゃ。」

 

「俺は立候補するぞー!」

 

フレッドが叫んだ。それに続くように、段々と騒ぎ声が大きくなった。

 

「諸君らがホグワーツに優勝を齎そうとする姿勢は大いに評価しておる。しかしそれは、気持ちだけ受け取っておこうかの。今回の審査基準には17歳の、つまり成人した者だけが立候補出来る仕組みとなっておる。これは、未成年の者にとっては余りに課題が難し過ぎると判断したからじゃ。」

 

反発の声を黙らせた。

 

「1000ガリオンかー。欲しいなあ。ハリーなら出来そうだけど。」

 

ロンが俺に振って来やがった。

 

「パス。ジジイが目を光らせるだろうし、何より命が大切だ。観戦した方がお似合いだよ。」

 

「さてと。夜も更けてきた事じゃろうから、明日からの授業に備えてゆっくり休む事じゃ。ハッキリした頭で臨む姿勢が大切じゃと、皆そう思っておるじゃろうからの。それでは就寝!ほれほれ!」

 

ダンブルドアは再び腰掛け、ムーディと話し始めた。さっさと談話室に戻る事にした。その時、声が聞こえた。ドラコとスピカ、そしてコーヴァスが言い争っている。というより、一方的にドラコが2人を攻めているだけだ。最終的にそれぞれの寮生に仲裁されて、引き離されたけど。

 

「何をやってたんだろう?」ロンが首を傾げる。

 

「大方、弟がレイブンクロー、妹がハッフルパフに行った事に対して、いちゃもんでもつけに行ったんだろうさ。」

 

その後は、フレッドとジョージの愚痴を聞いたり、ネビルが無理そうだと嘆いたり、ロンが立候補するかもと言ったり、ハー子が奴隷労働と連呼していたのを適当に聞き流しながら、ベッドに寝た。クィディッチが無いから、趣味の料理や新術開発に取り掛かるかな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 平穏な初日?

薄暗い空間。どこかは分からない。そこにあるのは、2つの影。

 

「それで、計画の方はどうなっているのかしら?」

 

「順調です。これ、死喰い人共の個人情報物質でございます。」

 

男が、オネエ言葉を使う男に何かを手渡した。

 

「フフフ。生まれついての役者。それを成し遂げる為の演技力。私のお気に入り。」

 

「褒めていただき、感謝します。」

 

「引き続き、表向きの任務をこなしなさい。」

 

「はい。その上で奴も、ですね?」

 

「そうよ。14年ぶりね。15年前にヴォルデモートを襲撃した甲斐があったわ。これから先、連中は地獄を見る事になるとは知らずにね。」

 

「バカな奴らです。」

 

「そう言った意味では、あなたは脱したわね。そして、最初の……」

 

「それでは行ってきます。」

 

「幸運を祈るわ。」

 

礼をした男。男の身体が変質し、フィクションのドラゴンのような姿になった。そして、飛び立った。

 

「姿くらましで向かえば良いのにねぇ。」

 

その姿を呆れならも、ちゃんと見つめている。

 

「さあて。私も、仕事に取り掛かるとしましょう。あの術を完成させなければ…………」

 

*

 

1994年9月2日。授業が始まった。

 

「薬草学に魔法生物飼育学、古代ルーン文字学か。それよりもハー子、メシは食わないんじゃなかったのか?」

 

「もっといい方法を思いついたのよ。」

 

「食欲には勝てなかったんだろうな。」ロンがニヤッとした。

 

フクロウが来た。シリウスから菓子類が届いた。エリナも然り。ハッフルパフ生が、ここまで高級なのを見た事が無いといった表情で見ている。太っ腹だな。

 

薬草学の授業。第3温室で受ける。俺は、エリナと組む。ブボチューバー。いわゆる腫れ草を取り扱う。ドラゴン皮の手袋をした状態で、膿を絞って瓶の中に集めるという内容だった。石油みたいな臭いがした。授業が終わる頃には、数十リットルは溜まった。

 

「これだけやりゃ十分だろ。半純血のプリンスに感謝だな。」

 

「スプラウト先生も驚いてたよ。どうやったんだって。ここまで出来たの、他にネビル位なんだよねえ。」

 

次は魔法生物飼育学。全寮生でやる。ハグリッドの小屋へ向かった。準備万端と言った感じで立っている。先に来ていた証言者は言う。

 

「何あれ!」ルインが叫ぶ。

 

「ハグリッドさん!無理にも程があるぜ!」

 

普段ハグリッドに敬意を払っているグラントでさえそう言わせている。

 

「この授業やめようかな?」ゼロが、グラサンをクイッと整えてそう言った。

 

「クッソォ!だからあの時、クビにさせれば良かったんだ!ウワァ!こっち来るなあ!母上ええええ!フォオオオオオオイ!!!」

 

不気味な生き物が、ドラコを襲撃している。あいつ、マザコンかよ。イヤ、マジでヤバそうだから盾の呪文で助けてやろう。

 

「おいドラコ。何だ、あの化け物は!?」

 

「ぽ、ポッターか。助かった。感謝するよ。そうだ。あの森番がまた何かをするつもりらしい。」

 

「もう嫌な予感しかしないよ。」エリナがボソッと言った。ガクブルしている。

 

「他にも、木箱からガラガラっていう音と、何かが爆発する様な炸裂音が響いてやがるぜ。一定しない状態で。爆破属性持ちかよ。」

 

「おう。集まったか。」ハグリッドが口を開いた。

 

「おい、ハグリッド。こいつら何なんだよ?」怒りを込めた目で言った。

 

「尻尾爆発スクリュートだ!今孵ったばっかしだぞ!だから、お前さん達が自分で一から育てられるっちゅうわけだ!そいつをちいっとプロジェクトにしようと思っちょる!」

 

この上なく嬉しくないプロジェクトだよ。全く。

 

殻を剥かれた奇形の伊勢海老のような姿をしていて、頭部はないとみて間違いはない。青白く、ヌメヌメした胴体からは勝手気ままな場所から足が突き出しており、ワサワサと動いている。

 

「き、気持ち悪いよぉ。」エリナが青ざめている。

 

そう。見ているだけで生理的嫌悪を催すのだ。しかも、そんな奴等が狭い木箱一杯にウジャウジャと入れられており、加えて尻尾が時折爆発したかのように火花を飛ばすのである。

 

「何処で手に入れた?そしてこんな種類、見た事も聞いた事も無いぜ、俺。」

 

「細けえこたぁ気にすんな。ハリー。」

 

「逆に気になるぞ。」ゼロが俺に加勢した。

 

「何で僕らがそんなのを育てなくちゃいけないんだ?何の役に立つんだい?こいつらの存在意義は?」

 

ドラコが嫌味を言っている。だが、正論なので反論はしなかった。正直言うと、俺の言いたい事を言ってくれたのでそこは有り難いと思った。

 

「と、とにかくだ。今日は餌をやろう。何を食うのか、俺にもさっぱり分からん。そもそも飼った事が無いからな。一応、蟻の卵、蛙の臓器、毒のねえヤマカガシを用意してあるぞ。試してみてくれや。」

 

うわあ。今度は、飼った事が無いと来たか。ちょっと離れた所で、シエルが泣きそうになっている。

 

「注意事項や起こりうる危険が一切何も書いてない、白紙状態か。イヤ、それよりも恐ろしい可能性が見えてきた。」

 

「え?恐ろしい可能性?」

 

「どんな可能性を見出したんだ?ポッター。勿体ぶらずに教えてくれ。」

 

「お前ら2人共。良いか。これは仮定の話になるわけだが。仮に、仮にだ。あの『尻尾爆発スクリュート』が人間の肉の味を覚えたとしよう。ハグリッドは、連中の好物や習性を知らなかったという事になるんだ。」

 

俺の言葉が聞こえた全員、顔が真っ青になった。

 

「最悪じゃないか!」

 

「だが、マルフォイよ。ハリーが言った様に、最悪の事態は予め想定した方が良いぞ。」

 

「そういう問題じゃないわよゼロ!!」

 

「ハグリッドの授業で取り扱う魔法生物は皆化け物か!?」

 

「ハリー、ボクこの授業やめたい。」

 

「……」エリナに同意だな。今すぐにでも、やめる手続き取ろうかね。

 

その後の授業は悪夢そのものだった。針がある、吸盤で吸血、尻尾がリア充並みに爆発、襲撃、もう何なのコイツら。これは酷い。そう、例えるならば……得意料理は卵かけご飯的な意味で。

 

「はあ。鑑定呪文を使ってみたが、火蟹とマンティコアを掛け合わせたらしい。」

 

「ちょっと待て!」ゼロが血相を変えて言ってきた。

 

「立派な違法行為だな。」

 

「懲りてないじゃないか!ドラゴンの事もあったのに!」

 

後で報告するか。授業終了のベルが鳴る。その途端に、皆は急いで城へ戻っていった。昼食をさっさと食べる。それが終わって、すぐに古代ルーン文字学の授業に行こうとする。会話が聞こえた。

 

「吐くまで食べる事にしたのかい?」ロンがハー子に聞いた。

 

「図書館に行くのよ。」

 

面倒な事が起きそうな予感がするので、この場を去った。最初の古代ルーン文字学は、イドゥンと隣になった。

 

「……と、いう事が起きたんだよ。」

 

「あの森番も飽きませんわね。あなたも授業初日から災難ですこと。」

 

「からかってる?」

 

「いいえ。本当にご愁傷様と思っておりますわ。昨日の夜だって、スリザリンの談話室ではセオドールを励ます会をやったのです。」

 

「ノットを?」

 

「ええ。ほら、新学期前日の夜に、ノット家が事実上壊滅した記事が新聞に載っていたではありませんか。」

 

「あったな、それ。父親が殺されて、遺体も発見出来てないんだろう?あいつ、家とか金とかどうしてるんだ?」

 

「お金に関して大丈夫です。鍵と杖は持っていましたし、家も小さな一軒家を購入するそうです。」

 

「その励ます会ってどんな内容だったの?」

 

「7年生の首席が寮全体で彼を励ますのです。」

 

イドゥンは、何だか気まずそうな表情になっている。

 

「言いたくなかったら、言わなくても良いけど。」

 

「いいえ。ノット家を襲った犯人は、あなたにとっても決して無関係ではないのですよ。」

 

まさか、連中か。

 

「終わりを生み出す者……か。」

 

「はい。」

 

「授業が終わったら、その時の話を聞かせてくれ。」

 

「良いですよ。」

 

古代ルーン文字学が終了し、俺とイドゥンは空いている教室の中に入った。

 

*

 

それは、新入生歓迎会が終わった直後の事。7年生の首席、ルイス・ファーレイはスリザリン生を集めた。

 

「皆さん!この僕の呼びかけにお集まりいただき、誠にありがとうございます!!!」

 

嬉しさの余り、感激の涙を流すルイス。その横では、セオドールが今にも死にそうな顔で呆然と座っていた。この時点で、スリザリン寮はかなり気まずい空気が流れた。

 

「どうやって励ませばいいんだよ?」

 

「ルイス先輩も、そっとしてあげればいいのに。」

 

そんな状況にも関わらず、自分のペースを決して崩さないルイス。

 

「さあ。これから、家が火事になり、唯一生き残っていたお父上も失ったセオドール・ノット君を励ます会を始めましょう!この素晴らしい企画を考えたのは、このファーレイ。ルイス・ファーレイでございます!そこをお忘れなく。」

 

皆ドン引きしている。

 

「では皆さん!セオドール・ノット君を目いっぱい励ましましょう!では僕から、ノット君へ励ましの声を!」

 

「何なんだよ、この会。」ブレーズ・ザビニが言った。

 

「どうすれば良いんだ?」モンタギューがボソッと言った。

 

「ノット君!元気を出しましょう!この先の日々は、君の為にあるでしょう!!」

 

青いバラを出しながら、セオドールに励ましのエールを送るルイス。皆、更に気まずくなる。

 

「とまあ、こんな感じに励ましの言葉を送っていきましょう!では1人ずつ。男子から!」

 

無理矢理全員を立たせ、エールを送らせる。ここから先は、励ましの言葉一覧である。

 

「あ、あの。ノットさん。何と言ったらいいのか……大変だけど頑張って下さい。」

 

「素晴らしい!!!さあ、皆さん!もっともっと、ノット君に励ましの言葉をドシドシ送ってみましょう!!!」

 

ルイスが空気を読まずに談話室全体に聞こえる様に言った。

 

「頑張って下さい。」

 

「短い言葉の中にも優しさが溢れる言葉ですね!」

 

『ノット。全然励まされてないぞ。この集まりの意味って一体……』

 

ドラコが心の中でツッコんだ。

 

「くじけないで頑張って下さい。」

 

「はい。良いでしょう。次は、リドル君。お願いします。」

 

グラントが立ち上がった。

 

「ノットよぉ。昨日は新聞に出られて良かったな。そういう機会なんて、滅多に無いんだぜ。ちょっとは良かったじゃねえか。」

 

「…………」ノットは、更に落ち込んだ。

 

「リドル!逆に追い詰めてるぞ!」ドラコが言った。

 

「す、スマネエ!」

 

その後も、励ましの言葉は続く。

 

「元気出せよ!その内、良い事あるさ!」

 

「昔のお前に戻ってくれよ。」

 

「いつでも力になりますから。」

 

「ノット。生きてて良かったな。」

 

「火事なんて忘れちゃえよ。気分が楽になるぜ。」

 

「ノット。しっかりしろよ。」

 

これで、スリザリン男子は全員言い終えた。次は女子の番だ。

 

「さあ、どんどん励ましましょう。」

 

ルイスがまくし立てる。

 

「家はいつでも建て直せるから、希望を捨てないで。」

 

「生きてて良かったですね。」

 

「早く元気になって下さい。」

 

「ノット。頑張って。」

 

そして3時間後。ようやく最後の1人となった。ルインだ。

 

「くじけないでね。」

 

「全員言い終わりましたね!ありがとうございます!」

 

はあ、ようやく終わる。そう思ったスリザリン一同。しかし、ルイスはその斜め上を行く発言をした。

 

「最後に、ノット君を励ます為の歌をみんなで歌いましょう!」

 

「もうよした方が良いと思うけどなぁ。ルイス先輩なりに頑張っているのは分かるけど。」

 

ルインが小声でイドゥンに言った。

 

「励ますどころか、逆に追い詰めちゃってますからね。」

 

「曲名は、『ホグワーツ』の校歌です!みんなで歌いましょう!」

 

ルイスはフルートを手に持ち、演奏を始めた。スリザリン生が歌う。どこか楽しそうではないが。演奏が終わった後のセオドールから一言。

 

「皆は良いよなあ。火事にはなってないし、家族も死んでないし。」

 

スリザリンの談話室に、かつてない程の途轍もなく重たい空気が広がった。皆、何とも言えない表情で解散する事になった。

 

*

 

「励ますどころか、公開処刑しちゃってるじゃねえかよ。」

 

流石に笑えなかった。ノットが余りにも気の毒過ぎたからだ。その一方で、全てを失ってざまあとも思ったけどな。闇の陣営の関係者だし。

 

「ええ。そうですわね。あの時間程、生きた心地がしませんでしたよ。」

 

「それで、誰がやったんだ?」

 

「はい。セオドールによれば、ホドという死体コレクターと、ビナーという爆破が趣味の狂人だそうです。」

 

「ゲブラーじゃないのか。」

 

「あなたと出会った人物ではないようですね。残念ながら。」

 

「良いんだ。話が聞けて良かったよ。ありがとうイドゥン。」

 

「どういたしまして。」

 

俺とイドゥンは、それぞれの談話室に帰ろうとする。しかし、ある疑問をぶつけてみた。

 

「そう言えばさ。ムーディの魔力がおかしいんだ。最初の出会った時とは思いっ切り違うんだよなあ。」

 

「?あなたの魔力感知は、ずば抜けている筈。妙な話ですね。何か不具合でもあるのではないでしょうか?」

 

「もしかしたら、なりすましの可能性もあるから警戒した方が良いぜ。」

 

「分かりました。情報のご提供、感謝致します。」

 

今度こそ別れた。もう少し、ムーディを監視するかね。そう心に誓った俺であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 マッド-アイ・ムーディ

談話室に戻ろうとする。しかし、悲鳴が聞こえた。何事だろうか。校庭に出た。

 

その光景は、ムーディが白いケナガイタチを弄んでいた。周囲、特にグリフィンドール生は爆笑していた。

 

「どうしたんだよ?ロン。」

 

「プププププ。ムーディの奴、超クールなんだぜ。僕とグラントを後ろから攻撃しようとしたマルフォイをさ。白いケナガイタチに変えたんだ。」

 

「あ、あれマルフォイなのか?」

 

「ハリー!君も笑えよ!!」

 

イヤ。笑えねえよ。それに、本物はあそこまでオーバーな事はしない。偽物という仮説も濃くなってきたな。流石にここで終わらせておくか。ドラコを元の姿に戻した。

 

「た、助かった。」今度は感謝の眼差しで俺を見るドラコ。

 

「そこまでやりますか?ムーディ教授。」

 

「お前はポッターだな。初めましてになるか。目は母親で、それ以外はメガネだな。尤も、奴に比べて幾分か穏やかで人の良さそうな顔をしているが。妹とは正反対だ。」

 

「私の事は良いんですよ……彼に変身術を使った理由をお聞かせください。」

 

「良いだろう。理由を教えてやる。そいつはあろうことか、ウィーズリーとリドルが後ろを見せた時に杖を上げた呪いを掛けようとした。これは教育だ。」

 

ドラコがロンとグラントを、ねぇ。いくら何でも変身術を使う体罰なんて聞いた事も無いがな。そう思って聞いていると、マクゴナガル先生がやって来た。周りの生徒から事情を聞いた上で俺達の所に駆け寄ってきた。

 

「アラスター!本校では、懲罰に変身術を使いません!書き取りの罰だけです!ダンブルドア校長が、初日にそうおっしゃった筈ですが!!」

 

「そんな話をアルバスはしたかも知れん、フム。それでは、そうさせてもらうとしよう。」

 

『おい、大丈夫なのか?』思念術で様子を聞いてみる。

 

『ああ。問題無い。でも、どうしてあいつは僕を目の敵にするんだ?』

 

『お前個人というよりも、お前の父が気に食わんだけだろうな。死喰い人のリーダーだった過去を持ちながらも、アズカバン行きを逃れて権力を維持したままだ。闇払いからすれば、不倶戴天の敵なんだよ。』

 

『…………フォルテ・フィールドが僕を目の敵にする謎が解けた。』

 

ドラコは、ムーディに連れていかれた。それを心配そうに見ているマクゴナガル先生。2人の姿が見えなくなると、俺の方へ向き直った。

 

「先程は見事で迅速な対応でした、ポッター。」

 

「別に大した事はしてませんよ。罰則を貰う覚悟で臨んだだけですから。」

 

「それに関しては不問になるでしょう。いいえ、何が何でも私がそうさせます。あなたに10点を差し上げます。さあさ、もう行きなさい。」

 

ペコリと頭を下げて、大広間に向かおうとする。ロンが来た。後からグラント、ハー子もついて来た。

 

「何であいつを助けるんだよ!」

 

「でもよぉ、ハリーが割り込んで来なきゃ、フォイはもっと酷い事になってたぜ。ロン。」

 

「そうよ。ハリーが駆け付けて来て仲裁出来たから良かったものの、もう少し遅かったら本当にマルフォイは怪我をしたかも知れないわ。あれ位で済んで良かったのよ。」

 

「まあ、俺なりに一線は構えているからな。本当に危うい時は助けるのさ。俺、そんなにスリザリンが嫌いってわけでもないし。」

 

寮のテーブルに座る。グラントとは、そこで別れた。

 

ビーフシチューを食べる。相変わらず、ここの屋敷しもべ妖精は良い仕事をするじゃないか。専属の料理スタッフとして雇いたい位にな。ハー子は、猛スピードで夕食を食べている。

 

「ご苦労な事だな?勉強か?今日は流石に宿題出てない筈だけど。」

 

「占い学は出たけどね。」

 

「ロン。それはお前の自業自得だぜ。下ネタを授業で言う奴がいるか、普通。1ヶ月の惑星の動きを星座表に書くっていうアレだろ?トレローニーの宿題なんて、悲劇的な事を書けばいいんだし。」

 

「そりゃあねえ。そうだけどさあ。」

 

「行くのよ。行かなきゃ。」ハー子の顔が怖い。

 

「やる事が沢山あるんですもの。」

 

「何をする気だよ?数占いは宿題無いじゃないか。」

 

「違うわよ。学校の勉強じゃないの。屋敷しもべ妖精の……」

 

そう言って、ハー子は立ち去ってしまった。また下らん事を、俺に対して持ち込まないで欲しいのだがな。

 

入れ違う様に、フレッドとジョージがやってきて俺達の近くに座った。

 

「ムーディ!」フレッドが言った。

 

「なんとクールじゃないか?」

 

「クールを超えてるな、フレッドよ。」

 

フレッドの向かい側に座ったジョージが言った。

 

「超クールだったよな。2人共。」

 

更に、リー・ジョーダンがジョージの隣に座った。

 

「超クール?一体全体何があった?」

 

「今日は、ムーディの授業があった。あんな授業は初めてだったよ。」フレッドが言った。

 

「参った。分かってるぜ、あいつは。」リーも続いた。

 

「分かってるって、何が?」ロンが身を乗り出した。

 

「現実でやらなきゃいけない事が何なのか、分かっているのさ。」

 

ジョージが勿体ぶって言った。

 

「やる?何をだ?」

 

「『闇の魔術』と戦うって事だよ、ハリー君よ。尤も、君にとっては復習にしかならないけど。」

 

いきなり、シリアスな口調でフレッドが言った。

 

「あいつは、全てを見て来たな。」ジョージが言った。

 

「ああ。スッゲエぞ。」

 

闇の魔術に対する防衛術の時間割を探す。

 

「木曜までお預けか。結構遅いな。」

 

ロンは、それを聞いて残念そうにした。

 

夜。誰もが寝静まった時間帯の談話室。ここで俺は考え事をしていた。ムーディについてだ。

 

『お前はポッターだな。』

 

何故だ。何故あたかも初対面みたいに振る舞ったのだろうか。それに、夏休みに感知した魔力と、学校に戻ってから感知した魔力が根本的に違い過ぎる。出歩く時は、感知しているんだ。そして、それは全て当たっている。間違うなんて事は有り得ない。

 

「ナイロック。」

 

『どうした?旦那。』

 

「ムーディを監視してくれ。手段は問わない。ただ、見つかりさえしなければ良い。」

 

『分かったんよ。行ってくる。』

 

ナイロックは、学校中を徘徊した。取り敢えず、このまま寝るか。

 

その2日間は、特に何も起こらなかった。ネビルがまた、ヘマをやらかしたと言った所だろうか?そして最近、スネイプの研究室から魔法薬の材料が盗まれている事もカウントする。材料は、ポリジュース薬で使われているものばかりだ。あいつは怒り心頭となっている。俺が疑われているけど、状況と物的、そのどちらの証拠も全く掴めていない様だ。

 

ムーディの授業の評判を聞いたが、良質なものらしい。皆、自分達から聞くよりも見た方が分かりやすいと言ってきた。曰く、シビれるとの事。

 

木曜の午後、俺は闇の魔術に対する防衛術の教室に入った。まだ、余り人は来てないようだ。だから、最前列に座った。

 

その10分後、ロンが来た。

 

「さっきスネイプを見たんだけどさ。何処かでムーディを恐れている様な感じだったぜ。あれは傑作だったな。」

 

「ふ~ん。」

 

死喰い人だった過去を持っているんだ。目の敵にされるのは当然なのさ。まあ、偽物の可能性も濃くなっているんだけどな。

 

ハー子が授業開始直前にやって来た。俺とロンの隣に座る。

 

「今まで――」

 

「図書館にいた、だろ?」

 

「ええ。」

 

『闇の力――護身術入門』を取り出した。ムーディがやって来た。

 

「教科書など要らん。そんな物、仕舞ってしまえ。」

 

ムーディが教卓の上に立った。出席簿を取り出し、生徒の名前を読み上げた。普通の目は名簿を見ている。だが、義眼と化した『魔法の眼』はギョロギョロと周囲を見渡していた。物質を透過して物を見渡せるんだなと感じた。それを裏づけるかの様に、コソコソ何かをやっている者が次々と摘発されたからだ。

 

「さて。出席はあらかた終えたな。早速授業に入る。ルーピン先生から手紙は貰っている。去年1年間で闇の生物と戦う術を身に付けたようだな。それも、ありとあらゆる種類と……」

 

皆、そこ言葉を聞いて同意するかのように頷いた。

 

「だが、一部を除いてお前達は遅れている――非常にな。一番肝心の、闇の魔法。呪いの扱い方についてだ。魔法省は6年生になるまで見せてはいかんと言っている。だが…………油断大敵ッ!!」

 

突然ムーディが叫んだ。半数以上が飛び上がってしまった。

 

「そう易々と見た事も無い物、知らない物から身を守る事など出来ん。神以外はな。わしの役目は、許された持ち時間である1年間を使って、魔法使い同士が互いに何処まで呪い合えるものなのか、お前達を最低限のレベルまでに引き上げる事だ。」

 

「え?ずっといるんじゃないの?」ロンが思わず口走った。

 

「ほう。アーサーの末息子か。」

 

「は、はい。」

 

「前に、お前の父親のお陰で窮地を脱する事が出来た……そうだ。1年だけだ。ダンブルドアからの頼みでな。特別に。」

 

ムーディはしわがれた声で笑い、節くれだった両手をパンと叩いた。

 

「ああ。話が少々脱線したな。続きだ。戦うべき呪文を知る事で、そこで始めて身を守る事が出来るようになる。さてと……魔法法律により最も厳しく罰せられる呪文が3つ存在する。答えられる者はいるか?」

 

何人かが手を挙げた。ロンやネビルもだ。俺?挙手はしない。知っているが、答えたい奴に答えさせれば良いだけの事だ。だから、無言を貫く。

 

だが、ムーディは俺の方をじっくりと見た。普通の眼と魔法の眼を使って。俺も、ウイルスモードを発動してムーディを見つめる。

 

「ポッター。何故手を挙げない?4年生の、いいや。下手をすればこのホグワーツにおいて闇の魔術に対する防衛術の成績が突出しているお前なら分かる筈だ。答えられない筈があるまい?」

 

まさかの指名か。挙手を促しといて良い身分だな。ならば、知識を披露しようか。

 

「知っています。許されざる呪文。この英国魔法界の場合は、服従の呪文『服従せよ(インペリオ)』、磔の呪文『苦しめ(クルーシオ)』、そして最凶最悪と謳われる死の呪文『息絶えよ(アバダ・ケダブラ)』の3つです。最初に挙げた2つは、精神力を以って抵抗が出来ます。しかし、最後の1つはどうやっても避けられない。何故なら反対呪文が存在しませんから。そして、生き残ったのはエリナ・ポッターだけ。だから彼女が、『生き残った女の子』と呼ばれます。」

 

ムーディは、俺の回答を聞いて大変満足そうだった。

 

「見事だ。ポッター。何故、自分の妹がそう呼ばれるのかも解説してくれたな。良かろう。グリフィンドールに50点。」

 

意外だな、点をくれたよ。しかも高い。

 

「早速実践していくとしよう。」

 

ムーディはそう言うと、黒い大蜘蛛を3匹取り出した。俺の隣で、ロンがギクリと身を引くのを感じた――そうか。ロンの奴、蜘蛛が苦手なんだっけか。フレッドのイタズラが原因で。しかも、ハー子の腕にしがみ付いている。シャキっとしなさいよ、と言われちゃってるけどさ。

 

「まずは服従の呪文。服従せよ(インペリオ)!」

 

服従の呪文をかけられた蜘蛛は糸を器用に使っての空中バレーを披露した。次に、タップダンスをやらせた。皆笑ってる。笑ってないのは、俺とロン、ハー子、ネビルだけだった。特にハー子は、苦しそうな表情で蜘蛛を見ていた。

 

「完全なる支配。わしは今、コイツを思いのままに出来る。窓から飛び降りさせる事も、溺死させる事もな。」

 

ロンが思わず身震いした。

 

「多くの魔法使いがこう言った。自分達の悪事は、この呪文でやらされたと。本当にそうなのか、それとも噓か。それを見分けるのは、魔法省でも容易に出来なかった。」

 

服従の呪文に掛けられた蜘蛛を瓶に戻し、次の蜘蛛を用意したムーディ。

 

「次は磔の呪文だ。」

 

肥大呪文で蜘蛛を大きくした。ロンが絶望に満ちた表情をしている。ハー子の背後に隠れたが、軽く小突かれてしまった。

 

苦しめ(クルーシオ)!!」

 

蜘蛛が痙攣した。掛けたい対象を思いっ切り苦しめるという本気の態度で使って、初めて効果を発揮するんだ。例えば、『無限に続く、いっそ死んだ方がマシと思える位の苦痛を与えてやるんだ』とかな。

 

「やめて!」ハー子が金切り声を上げた。

 

咄嗟にハー子を見る。ハー子は、蜘蛛では無くネビルを見ている。ネビルは顔面蒼白になっている。膝の上の拳は、指の関節が白く見えるほどに強く握りしめている。その目は恐怖に満たされていた。

 

「苦痛。親指締めやナイフは要らない。これだけで十分だ。相手をより苦しませてやりたいと言う加虐心がこの呪文の力の源となる。」

 

縮小呪文で蜘蛛を元に戻し、瓶に入れる。まだ何もしてない蜘蛛を取り出す。

 

「そして最後。死の呪文だ。反対呪文は存在しない。息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!!!」

 

緑の閃光が発射された。それが蜘蛛に当たり、絶命した。俺以外の全員が悲鳴を上げた。蜘蛛の死体がロンの近くに来たので、彼は危うく椅子から落ちそうになった。

 

「気持ちの良いものではない。防ぎようがない。だが、強力な魔力が必要だ。1回使う度に、大量の魔力を消費する。中途半端な魔力の量しか持たない者には一切使えない。しかし、そんな事はどうでも良い。何故わしが、お前達に見せたりするのか?分かるか?」

 

ムーディは、全員を見渡しながら問いかけるように聞いた。

 

「それは、お前達が知っておかねばならんからだ!最悪の状況がどういうものなのかを、味わっておかねばならない!精々そんな物と向き合う様な目に遭わんようにするんだな。油断大敵!」

 

筋は通ってるな。これからは闇の陣営だけじゃない。リチャード・シモンズの一味、最近奴は組織名を『アルカディア』と名乗っているらしい。そして、終わりを生み出す者。通称TWPFも活動してくるのだから。強さと危険度、凶悪さで言ったら闇の陣営以上だ。

 

ロイヤル・レインボー財団は、その2つの勢力の活動も最初期から見越して対策は進めているから問題無いけどな。だが、この国の魔法省とダンブルドアのジジイが率いる不死鳥の騎士団は何処まで抗う事が出来るかね?

 

「この3つの呪文。人間は勿論、ヒトたる種族に使ったら、問答無用でアズカバンにて終身刑を受ける事になる。死喰い人や闇の魔法使い、犯罪者を除いてな。この1年、わしはこれらの呪文と戦う術をお前達に教えていく。お前達は知っておかねばならん……そして常に身構えていなくてはならんのだ。備えと武装が必要になる。それ以前に、『常に、絶えず、警戒する』事の訓練も行っていく。分かったら羽根ペンを出せ。わしが言う事を書き取るのだ。」

 

その後、許されざる呪文に対しての内容を、ノートに取る事になった。誰も喋らなかった。授業終了のベルが鳴る。終わると、皆喋り始めた。どうやら、授業内容は絶賛だったようだな。

 

「ネビル。医務室へ行ってこい。顔色が悪いぞ。」

 

「う、ううん。だ、大丈夫さ。」

 

「両親があんな目に遭わせわれたら、誰だってああなる。無理すんなよ?」

 

「え?パパとママの事、知ってるのかい?」

 

「ロイヤル・レインボー財団にいた時の事だ。俺は闇の陣営に復讐する為に、奴らの事を調べていた。その過程で、お前の両親の事を知ったんだ。」

 

ネビルを医務室に行かせようとした。でも、ムーディはネビルを自室へ連れて行った。それを見届けて、俺は談話室に戻った。部屋に戻ると、ナイロックがいた。

 

『どうだった?』

 

『ネビルに本を渡した後に、スネイプの部屋に侵入したんよ。ポリジュース薬の材料を盗んでいた。』

 

『クロ確定だな。明日、殴り込みをかけてやろう。』

 

『やり過ぎないようにな。旦那。』

 

『分かっているよ。』

 

大広間へ夕食を食べに行った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 化けの皮を剥がせ

翌日。朝食をササッと食べ、授業に臨む。今日は金曜日、午後の授業は無い。ムーディの正体を暴くのに絶好の機会というわけだ。呪文学と古代ルーン文字学だけで終わる。

 

呪文学は呼び寄せ呪文をやり始めている。フィールド先生が、多くのページ数が少ない本を用意して早速実践しようという事になった。俺とゼロは早々に出来た。それも、無言呪文を使った上でだ。

 

だから、それぞれ25点ずつ貰った。今の所、グリフィンドールとレイブンクローの点数がトップで拮抗している状態なのだ。

 

課題が終わったので、会話をする。ハー子が怖い視線でこちらを見ている。俺、何かやったっけか?逆鱗に触れる様な事なんてしてないし。

 

「ハー子の視線が怖いんだが。」

 

「どうせ、早々に出来て、その上無言呪文でこなした俺達に嫉妬しているんだろうよ。絶対、どうやったのか聞いて来るぜ。」

 

「午後予定があるんだけなぁ。」

 

「まあうまく逃げ切れよ。そう言えば、1年生のマリア・テイラーって娘はかなり授業スピードが速いんだよな。」

 

「ロイヤル・レインボー財団で予習復習してるからな。人と関わるのは苦手な分、それを勉強や知識に費やしているんだ。もう少し他人と関わって欲しんだけどなぁ。」

 

「ハリー。やけにいつも、マリアを気に掛ける発言をしているかと思えば、保護されている場所がそれなら分かるな。」

 

「俺やロイヤル・レインボー財団に保護される前に、何か人間関係でトラウマになる程の心の傷を負っているようでね。俺みたいに親しい人以外には、心を閉ざすんだ。」

 

「…………彼女に何があったのかは聞かない。そんな嫌な記憶は呼び覚ましちゃいけないからな。」

 

「難しいぜ。あいつの心を開くって言うのは。未だに他人に対して恐怖心を持っているんだ。ゼロ。これだけは言っておく。中途半端な気持ちであいつの心を引きずり出すのはよした方が良い。余計心を閉ざすからな。」

 

「分かっている。俺達レイブンクロー生から無理矢理開かせるんじゃなくて、マリアの方から歩み寄りの姿勢を見せるまでそっとしておけって事だろう?」

 

「そういう事さ。」

 

「分かったよ。後で兄さんにも言っておく。」

 

呪文学が終わり、古代ルーン文字学へ。これも2時限分、合計90分やり過ごす。昼食を食べ、冒険者の地図(アーダチェス・マップ)を口寄せ召喚する。仮に盗難されても、見る事など出来ない様にした。起動には、ウイルスモードの目を通す必要がある。逆を言えばウイルスモード、つまりW-ウイルスの適合者だけにしか使いこなせないって事だ。

 

ムーディとすれ違った後に、地図を開く。

 

「ビンゴだな。やはり、本物ではなかったか。」

 

ムーディがいる筈の場所に示されているのは、『バーテミウス・クラウチ』だ。父親か息子かは分からんが、奴を襲撃してやろう。

 

地図をしまい、偽ムーディのいる場所に向かおうとする。

 

「ハリー。お前、何かすんのか?」

 

「見えましたわよ。地図に何が示されていたのかを。」

 

振り向くと、ゼロとイドゥンがいた。

 

「お前ら……関わんない方が良い。下手をすれば退学になるぜ。そう言う最悪の事態に陥るのは俺だけで十分だ。」

 

「1人で行くよりも3人で行った方が成功しやすいんだろ?」

 

「いつもあなたは言っていたではないですか。チームワークこそが最も大切だと。」

 

「今度は魔法省の役人か死喰い人だ。今までとは事情が違う。」

 

立ち去ってくれ。俺のやろうとする事に首を突っ込んで後悔はして欲しくないんだよ。

 

「相変わらず我が身だけを犠牲にする気か。それがお前の良い所でもあるけど、同時に悪い所でもあるんだよな。」

 

「少なくとも、成績に関してはあなたよりも上の私達です。戦闘能力はあなたには一歩劣るかも知れませんが、大抵の魔法使いに勝てる自身はありますよ?」

 

「…………」

 

「もう少し周りを頼ったって良いんだ。」

 

……目の辺りが熱く、滲んできた。俺は、それをローブで拭った。

 

「…………ここから先は自己責任だ。それでも良いならついてきてくれ。」

 

俺は、歩き出した。ゼロとイドゥンも歩き出した。目的地に向かう場所で事情を話す。

 

「偽物の可能性か。」

 

「そして、初めて出会ったような言い方ですか。もう出会っているというのに、それは妙ですわね。」

 

「これから化けの皮を剥がしに行くのさ。俺は。」

 

ムーディ?視点

「ふう。相変わらず酷い味のこれを飲む時間か。余り慣れないものだな。」

 

そう。今はあのお方の命令として表向きの任務をこなしている。さあ、あいつも引きずり出してやるとするか。それが、あの方の真の目的なのだからな。そう思いながら、薬の入ったゴブレットを手に取ろうとした。

 

突然、ゴブレットを持とうとした手を何かに刺された。

 

「な、何だ!?」

 

それは、黄金の電撃だった。それは、扉を跨いでいる。だ、誰がやったんだ。

 

「誰だ!出てこい!」

 

その言葉と同時に、扉がバラバラにされた。何かに切り刻まれて。

 

「ムーディ。いいや、汚らわしい偽物。アンタの前でも、俺は非情になれそうだ。」

 

言い終わったと同時に、電撃の力が強くなった。そこにいたのは、ハリー・ポッターとゼロ・フィールド、イドゥン・ブラックの3人だった。どういう組み合わせなんだ、こいつ等は。91年度生の成績最優秀者という共通点しか見当たらないが。

 

しかもだ。ポッターは右手に剣、正確には東洋の刀を、左手で杖を持っていた。電撃は、左に持っている杖から出ている。

 

「な、何故分かった?」完璧な筈だ。筈だった。ボロは出していないのに。

 

「授業初日にドラコをケナガイタチに変えていた時の事だ。アンタは俺に、『お前はポッターだな。初めましてになるか。』と言った。」

 

「そ、それがどうした!?初対面だろうが!」

 

「フン。夏休みに1回だけ出会って、俺の作った飯まで食った癖にそう言うのか?」

 

し、しまった。完全に予想外だった。こんな落とし穴があったなんて。

 

「それにだ。以前出会った時に、ムーディ本人の魔力を感知しておいた。お前の魔力は根本的に違う。ポリジュース薬って言うのは、姿形を似せる事が出来ても、魔力の量と質まではごまかせないのさ。元の人間に依存するのだから。」

 

「知りませんでしたわ。初めて知りました。」

 

「スネイプも知らないだろうな。その事実。」

 

ポリジュース薬にそんな落とし穴があったなんて。

 

「ゼロ、イドゥン。やってくれ。」

 

「「麻痺せよ(ストゥーピファイ)!!!」」

 

2本の麻痺呪文が、俺目掛けて飛んできた。

 

『私との関係はブロックしておくわ。ヴォルデモートとの関係は敢えて漏らしておきなさい。』

 

『しかし!』

 

『大丈夫よ。あの子達、あなたは差し出さない筈だから。事実を知って、あなたを利用しようって考える筈よ。それに、ヴォルデモートには大いに苦しんでもらわないとねえ。』

 

『分かりました。』

 

ハリー視点

「化けの皮が剝がれるぞ。」

 

ムーディの姿が変わる。見た事も無い男に。少しそばかすがあり、薄茶色の髪をしている。

 

「バーティ・クラウチ・ジュニア!!!」ゼロが言った。

 

「まさか、生きていたとは。」イドゥンも驚いている。

 

「情報を引きずり出すぞ。」

 

開心術で、ジュニアの心を探る。

 

そこから分かった事は以下の通りだ。まずは脱獄の方法。死期の近い母親と入れ替わった。成る程、これならシリウスの証言とも辻褄が合うな。シリウスが見たのは、ジュニアの姿となったクラウチ夫人だったという事だ。次に、ワールドカップの騒動だ。娯楽として見ていたのだ。透明マントを使って。あの時、ウィンキーだけがいたのはその理由か。その後にジニーの杖を強奪して、闇の印を打ち上げた。程無くして、ヴォルデモートがワームテールと共にクラウチ邸に訪問。クラウチを服従の呪文に掛け、ジュニアは解放された。

 

そして、今回の目的。ムーディに成りすます手段。直前に本人を襲撃し、ポリジュース薬を使っていく事だ。大胆不敵だな。ジジイが聞いたら驚くだろう。

 

肝心の目的はエリナ。今年、久しぶりに開催される三大魔法対抗試合でエリナを存在しない4校目の選手として参加させ、優勝させる。優勝杯は移動キーに変える。そのままリトル・ハングルトンに来させる。『父親の骨』、『しもべの肉』、『敵の血』を使い、ヴォルデモートを復活させる。

 

何故、エリナの血なのか。それは、エリナに宿った母様の護りの魔法を突破する目的の為にだとの事らしい。その魔法を取り込む事で、エリナに触っても大丈夫なようにする為だそうだ。

 

「おい。これ先生に言って止めようぜ。」俺がが言った。

 

「いいや。ハリー。ちょっと待ってくれよ。聞きたい事があるからな。イドゥン。護りの魔法が宿った人間の血を復活材料として取り込んだらどうなる?」

 

「そうですわね。断言は出来ませんが、取り込んだ者の存在そのものが、元の血の持ち主をこの世に留まらせると考えられます。エリナの場合、母方の伯母といた時でさえ、護りの効果が増幅されますから、その血を取り込んだ者であれば尚更です。」

 

「つまり……復活した死の飛翔は、もう2度とエリナを殺す事は出来ない。奴の存在自体が、エリナをこの世に繋ぎ止めるから。」

 

つ、つまりこうも言えるのか。

 

「変態ヘビが生きている限り、エリナは決して死ぬ事が無い…………か。一方が生きる限り、他方は生きられぬ。前者がエリナ、後者が変態ヘビだな。」

 

「どうしましょうか?2人共。」

 

「突き出そうと思ったが、このまま泳がせよう。破滅の原因となった人間は、自分が生きている限り、死ぬ事は決してない。不死鳥の騎士団以外の強大な敵対組織に目を付けられている。逆にこっちが哀れだと思う位には、闇に陣営には大いに苦しんで貰おうじゃないか。」

 

そう。滅びという地獄と、虚空より来たりし者と言う究極の地獄をな。

 

「そうですわね。死喰い人の1人は、私の父を間接的に殺しました。なのに何の罰を貰ってもいない。それに、学校に入ってきてから出来た繋がりは断ち切りたくありませんし。」

 

「ここでジュニアをアズカバンに戻したとしても、変態ヘビは、今度はエリナが死ぬまで待つだろうな。それこそ最悪の結末だ。奴に英国魔法界が、下手をすれば世界が支配されるかも知れない。」

 

最初は反対の姿勢を見せていた俺も、この考察と、平和を維持する為に賛成の姿勢を示した。

 

「他にも敵対勢力はいるから一概には言えないけどな、闇の陣営にとっては。」

 

「だがハリー。お前、ヴォルデモートと死喰い人に復習と完全抹殺を成し遂げたいんだろう?ダンブルドアやアランさん、エリナにTWPF、シモンズ率いるアルカディアも健在な状態で復活させた方が手っ取り早いだろうし。」

 

「ああ。復活させようか。それに、ドラコとも同盟は組めたしな。それに、スピカも何故かエリナを慕っているし。」

 

「それを言うなら、コーヴァスも俺に勉強で分からない所を聞きに来るしな。だが、我らが親愛なるドラコの方はどうなんだ?」

 

ゼロが言った。

 

「問題無い。去年起きた出来事の数々が、今までの考えを払拭出来たらしい。」

 

「マルフォイ家をハリーやロイヤル・レインボー財団のターゲットから外す代わりに、他の死喰い人の情報を売る事と、他の敵対勢力への殲滅の協力をさせると言うものですよね。他にも、メリットがありますのでしょう?」

 

分霊箱を手に入れる目的もあるんだろう、と俺に視線を送るイドゥン。

 

「レストレンジの金庫には、ヴォルデモートの預かっている品がある。レストレンジを全員皆殺しにし、その遺産をマルフォイ家に相続させる。それで、ヴォルデモートの品を受け取るのさ。」

 

俺が2人に説明した。分霊箱を安全且つ確実に手に入れるには、それが1番現実的だからだ。続いて、ゼロが考察する。

 

「ルシウス・マルフォイだって、死の飛翔の大切な物を預かっていた位だ。狂信的な信者のレストレンジ共にだって、何かしら預ける程の信頼はある筈だ。」

 

「確かに。それに、ベラトリックス・レストレンジとナルシッサ・マルフォイは姉妹ですもの。レストレンジ全滅後における相続の可能性は、マルフォイ家が一番高いですわね。」

 

方針は決まった。このままエリナの血を使って、ヴォルデモートには復活して貰う事にした。他の魔法使いの血を使うか、危険な存在が全員いなくなるまで待っていれば良かったのさ。そうすれば、世界征服(笑)も夢じゃなかったのに。

 

「このやり取り、どうしようか?」

 

「そうですわね。記憶を消去し、成績優秀者を交えて楽しくお茶会、と言う偽の記憶を入れるのはどうでしょうか?」

 

「そうしよう。後は……」

 

トランクを開ける俺。本物のムーディが眠っていた。

 

「ムーディ先生。この紙を渡します。」

 

口寄せの術式の書類を1枚渡しておいた。

 

『食事用の口寄せの術式です。手に触れると厨房から食事が出てきます。食べ終わると、食器が消えます。』

 

思念術でそう伝える。

 

俺達は、ジュニアの記憶を改竄して、その場を離れた。そして、それぞれの談話室へと戻った。そして、この出来事はロイヤル・レインボー財団に報告する事にした。ナイロックに手紙を渡して。

 

ジュニア視点

俺は、早々に復活した。記憶もバックアップを予め掛けておいたので、偽の記憶は消え失せた。それにしてもあの3人、敵に回すと本当に恐ろしいな。あんな奴らと無謀にも戦おうとする偉大なるヴォルデモート卿(笑)は、さぞ頭が空っぽな奴なんだろう。

 

だが、あいつら俺を泳がしてくれるのか。そこは、感謝をしよう。尤も、あのお方が植え付けた本物の様な偽りの記憶を掴ませたわけだが。本当に漏らしたくない情報は、あの方がしっかりとガードしてくれたからな。それに、嬉しい誤算も出来た事だし。今まで以上に、教師として振舞ってやろう。

 

『手に入りました。ポッターの作った口寄せの術式を。ムーディのトランクから1枚回収しました。』

 

『良くやったわ。今度のミーティングの時に提出して頂戴。』

 

『はい。喜んで。1年前にあなた様に助けて頂いたこのご恩を、ようやく返せます。』

 

『良いのよ、別にそんな事はね。あなたとヴォルデモートとの今の関係なんて、早かれ遅かれバレるだろうし。あの老いぼれなら、気づくかもね。その前にあの子達が早かっただけの事よ。』

 

『それでは、手筈通り――』

 

『頼むわよ。』

 

あの方との会話を終わらせる。そろそろ、俺の方でも仕事をしなければ。やっておく任務は達成出来そうだ。後はあいつを、俺の心酔するあの方の色に染めてやらねばな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 ボーバトンとダームストラング

それからは、何の異常も無かった。クラウチ・ジュニア扮するムーディは、いつも通りの振る舞いをしていた。はあ、ジュニアの野郎。死喰い人に加わるんじゃなくて、教師目指せば大成するのにさ。勿体ねえ人生の使い方をするぜと毒を吐く。それだけに奴の授業は良質だったのだ。

 

最近、ジュニアは許されざる呪文を使い、全員術に対抗出来る様にすると言い出した。流石に死の呪文は使わないが。その授業方法は大いに構わん。だが、磔の呪文をネビルにやるのかと思うと虫唾が走る。あの野郎、ネビルの両親を廃人にしておいて何様のつもりだと言ってやりたくなったよ。

 

「でも――でも、先生。先生はそれを違法だとおっしゃいました。確か――同類であるヒトに使う事は、アズカバンで終身刑になると――」

 

ジュニアが杖を一振りで机を片付け、教室の中央に広いスペースを作っている時の事だ。ハー子が言ってしまおうかと迷いながらも、勇気を出してそう言ったのだ。

 

「ダンブルドアが、これらの呪文がどういう物なのかをお前達に経験させて欲しいとの事だ。もしもだ、グレンジャー。もっと厳しいやり方で学びないというのであれば、誰かがお前に服従の呪文を掛け、完全に支配する。その時になって学びたいというのであれば――わしは一向にかまわん。授業を免除する。ほら、出て行くが良い。」

 

でもハー子は出て行かなった。出て行きたいわけじゃない、と言っている。ここは、助け舟を出すか。ハー子を呼ぶ。

 

「どうしたの?ハリー。」

 

「一度、賢者の石の時に完全に洗脳されたろ?あんな事の二の舞にならない様にやってみようぜ。トラウマがあるのは分かるさ。でも、それを克服する為に受ける価値は十分にあると思うんだ。だから、な?」

 

「…………ええ。分かったわ。ありがとう。少し落ち着いた。」

 

「使うのは、死喰い人とか犯罪者なんだ。面向かって、法律が通じる様な奴等じゃないし。」

 

「そうね。ハリー。私、今度こそは服従の呪文に勝ちたい。」

 

「出来るよ、ハー子なら。きっとね。俺と違って、秀才で天才なんだからさ。」

 

「ふふ。闇の魔術に対する防衛術と魔法薬学では、あなたに到底及ばないけどね。」

 

何とか、ハー子のモチベーションを回復させた。

 

ムーディは、生徒を1人ひとり呼び出して服従の呪文を掛けた。ある者は国歌を歌いながら、片足ケンケン飛びで教室を3周した。またある者は、リスの真似をした。そして、またある者はブレイクダンスをした。ブリッジをしながらのお辞儀をした者もいたし、上半身裸になった者、演奏する者までいた。ハー子は惜しい所まで抵抗したが、結局術中に掛かってしまった。よって、呪いに抵抗出来たのは誰1人としていない。

 

次は俺の番だ。ジュニアは、俺に術を掛けた。

 

イーニアス義兄さんに訓練された時、俺は4回で何とか出来た。確かに、この上なく良い気分にはなる。最高だ。ジョジョのDIO風に言えば、『最高にハイ』って奴だ。悩みは全て取り除かれ、究極の安心感が俺に生まれた。

 

何かの命令が聞こえた。

 

「机に飛び乗れ。」

 

その言葉は、何回も木霊する。ふざけんな。死喰い人は、俺にとっては敵だ。この世から全員駆逐する存在なんだ。ムーディの偽物の、死喰い人ごときが俺に命令すんじゃねえ!!

 

「飛べ!今すぐだ!!」

 

黙れ!!!ゴミクズが。俺から出て行け!!!

 

*

 

…………どうやら、現実世界に戻ってきたようだ。体中から汗が溢れている。クラス中の視線が、俺に向けられている。

 

「ハア……ハア……ハア…………」

 

「よーし。それだポッター。その調子だ!それで良い!!見事だ!!!皆、良く見ろ。服従の呪文を防ぐには、強い精神力がいる。ポッターは、それを以って戦った。完璧だ!」

 

この感覚、やっぱり好きじゃないな。それに、4回目の練習時に比べて少々破るのに時間が掛かってしまったし。少しずつ時間短縮をしていくしかないか。

 

1時間後、授業が終わり、出て行く。

 

「まるで、俺達全員が今すぐにでも襲われるんじゃないかと思っているじゃないのか?」

 

俺は、ロンに聞いてみる。

 

「うん。確かにその通りだ。」

 

1歩おきにスキップするロン。ジュニア曰く、呪文の効果は昼までには消えるとの事。だがロンは、俺やハー子に比べて呪いへの耐性が異様に弱いんだよな。

 

「被害妄想だよな……魔法省がムーディを厄介払い出来て喜ぶのも無理は無いよ。あいつがシェーマスに聞かせた話を聞いたかい?」

 

「余り詳しくは聞いてないぜ。」

 

「じゃあ言うよ。エイプリルフールにムーディを後ろから驚かそうとした魔女がいたんだって。その魔女、半狂乱になる程の報復を受けたんだ。」

 

「やりかねないな。」

 

「それに、最近色々しなきゃいけないのに、そこに服従の呪文への抵抗なんてどうかしてるよ。」

 

「まあな。宿題は今まで1日で終わらしてたけど、2日はかかる様になったからなぁ。」

 

「2日で済むだけで君は良いよ。僕なんて1週間だ。」

 

そうなんだ。4年生になってから、宿題の量が今までよりも多くなっているのだ。変身術が顕著だった。明らかに量が多いので、殆ど全員が抗議したのだ。マクゴナガル先生は、何故なのか説明し始めた。

 

「これから普通魔法レベル試験――俗に言う『OWL』が近付いています。皆さんは今、魔法教育の中で最も重要な段階の1つに来ているからです。」

 

「それは、来年度に受ける試験じゃないですか!!」ディーンが憤慨した。

 

まあ、準備をするのは悪くないがな。俺は、マグルの教育課程もこなして、大学にも行くって決めているんだから。

 

「そうかも知れません。トーマス。しかし、良いですか?皆さんは十二分に準備をしなくてはならないのです。このクラスでハリネズミをまともな針山に変える事が出来るのは、ミス・グレンジャーとミスター・ポッターだけです。」

 

「黒檀の杖と、アセビの杖限定ですけどね。」全部の杖で出来なきゃ意味が無いけどな。

 

「おいハリー。杖を複数持つなんて反則じゃないのか!?」ディーンが言った。

 

「7本共、俺が忠誠心を手にしてるんだから良いんだよ。」即座に返した。

 

「まあ、それはそうですが。おおっと。話が逸れました。今の所、OWLでも通用する実力を持っているのは2人だけという事になります。トーマス、あなたの針山は何度やっても、誰かが針を持って近付くと、怖がって丸まってばかりでしょう!ポッターの事をとやかく言う前に、まずはそうならない様にする事が、あなたのやるべき事でしょう!」

 

ハー子が頬を染めた。見えない所で努力してるのが分かるな。俺は、細胞分身で予習復習してるけど。大量経験値が手に入るし。

 

古代ルーン文字学。これは、実際に詩を書いてみようという事になった。提出は、週の最初の授業にという事だ。魔法史。毎週、18世紀の『小鬼の反乱』のレポートを提出させた。

 

魔法薬学。スネイプは、解毒剤を研究課題に出した。本人が言うには、クリスマスまでに誰かに毒を飲ませて、研究した解毒剤がちゃんと効くかを試すと言いやがった。生粋のサドだな、この童貞教師。万が一俺が指名される事になったとしても、W-ウイルスの適合者だから毒物は全部効かないわけなんだけど。

 

フィールド先生は、呼び寄せ呪文が未修得の人に、参考書を読むようにと言った。無言呪文でもこなせる俺には無関係な話だがね。

 

しかもだ。ハグリッドの奴が、スクリュートの夜中に見せる生態日記を付けようとぬかしやがった。ふざけんなとドラコが言った。それに対し、ハグリッドが脅しの言葉で黙らせた。去年の意趣返しだろうな、きっと。あの怪物、どう料理しようかね?

 

それはそうと、ジュニアの事を財団に報告した。今すぐ、対闇の陣営に向けて準備をするという返事が返って来たんだったよなあ。

 

エリナ視点

最近の呪文学での出来事。呼び寄せ呪文をやってるけど、一向に上手くいかないんだ。闇の魔術に対する防衛術の許されざる呪文は5回やってようやく完璧に出来て、ハリネズミを立派な針山に出来たのとは対照的にね。

 

「あーら、まだ出来ないのかしら?兄と違って能無しだこと。ウフフフ。」

 

パーキンソンがボクをからかいに来た。

 

「パーキンソン。いい加減にしろ!お前は毎回毎回、人をこき下ろして!!!自分も出来てない癖に!!!」

 

フィールド先生が強い口調でパーキンソンを叱る。というか怒鳴っている。パーキンソンは、今にも泣きそうになる。フィールド先生って普段は滅多な事では怒らないんだけど、パーキンソンへの態度はまるで敵でも見るかの様に冷酷なんだ。ハリーへのスネイプ先生の態度よりはマイルドだけど。でも、1年生の時からそうなんだよね。

 

話し声が聞こえる。周囲は、前々から疑問に思ってたらしい。

 

「ねえ。フィールド先生って、パンジーに厳し過ぎない?いくら何でもやり過ぎよ。」

 

ルインがイドゥンにヒソヒソ声で話す。

 

「スネイプ先生も以前抗議したそうですけど、ハリーへの態度はどうなんだと言い返されて何も言えないそうです。どうやら、フィールド家の滅亡にパーキンソン家が大きく関わっているとの事です。」

 

「スネイプ先生もそうだけど、授業に私情を持ち込まないで欲しいなぁ。まあ、スネイプ先生の場合は、最近どちらかと言えばハリーを恐れているみたいだけどさ。」

 

「そうですね。でも、割り切る事と乗り越える事って結構難しいのですよ。」

 

去年、3本の箒で聞いた話。フィールド先生の実のお母さんは、パーキンソン家出身なんだ。でも、ヴォルデモートに嫁ぎ先を売り、結果フィールド先生とそのお父さんだけ生き残った。それを間近で見たのだから、パーキンソン家への憎しみは並大抵の物ではない。ゼロは、2番目のお母さんとの子供。つまり2人は、腹違いの兄弟って事になる。

 

必死に練習していると、フィールド先生がボクの所へ来た。普段の穏やかな表情に戻っている。

 

「エリナ。君は、呼び寄せ呪文があまり得意じゃない様だね。」

 

「ゴメンなさい。」

 

「君が謝る事は無いんだよ。人間、得意不得意があっておかしくは無いからね。君自身に落ち度は無いんだ。」

 

「スペルは問題無いのに、全く出来ないんです。どうしても……」

 

「あー、エリナ?もしかして、君は『手に入れたいモノは自分とは程遠い』とか、『手に入れたとしてもすぐにどこかに行ってしまう』とかそう思ってるのかい?」

 

「……」

 

「そんな事は無いよ。でも、そう思うのも仕方が無いかも知れない。今までの人生が、その考えを植え付ける様になったのだから尚更ね。まずは、それを取り除く所から始めたらどうかな?」

 

「は、はい。」

 

授業が終わる。ハア。難しいな。玄関ホールを歩いていると、それ以上進めなくなった。大理石の階段の下に立てられた掲示板の周りに、多くの人だかりが出来たから。ボクは、他の人よりも1回り背が小さいから、全く見えなかった。

 

でも、セドリックが内容を教えてくれた。

 

「ボーバトンとダームストラングが10月30日、つまり今から1週間後に来るんだって。午後6時にね。その日の授業は、30分速く終わるよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「気にしないで。困った時はお互い様さ。」

 

「あのう、やっぱり出ます?」

 

「まあ、立候補はしようかなって。それで焙れたら、その時はその時だよ。」

 

「もし決まったら、応援します!」

 

「フフフ。ありがとう、エリナ。」

 

セドリックは、同級生と合流して去っていった。入れ違うように、ハリーと出会った。

 

「元気そうだな、エリナ。」ハリーが気さくに話しかけてきた。

 

「ボクはいつだって元気だもの!」

 

「セドリック・ディゴリーが参加すると聞いたがな。」

 

「あれ?嫉妬?」

 

「試合に参加する気は無いから安心しろ。というか無理だし。同じシーカーのライバルとして、塩を送るのもアリかと思ってな。」

 

「塩?」

 

「日本のことわざな。正確には『敵に塩を送る』だ。敵対関係にある立場でも、相手が苦しい時は助けるって意味でね。この場合、応援や何かあった時の助太刀をするって意味だよ。」

 

「助けてくれるの!?」

 

「呼んでくれればね。それに、色々エリナがお世話になってるしな。」

 

「ありがとう!」

 

その時、アーニーとジャスティンも来た。

 

「ハリーが、セドリックに何かあったら助けてくれるって本当ですか!?」

 

「君って敵に回すと厄介だけど、味方にすると心強いからなあ。ホグワーツは、負ける気がしないよ。」

 

「君らさあ。俺を褒めてるのか恐れてるのか分からんぞ。」

 

「2つの意味ですよ。」2つの意味があったんだ。

 

「そうそう。それにしても、グリフィンドールから代表選手が出るかもしれないけど、どうするのさ?」

 

「この際、誰だってかまわないさ。セドリック・ディゴリーが決まれば彼を応援するし、場合によっては何かしらのサポートもする。それ以外の人も然りだ。」

 

ハリーがボク達にそう説明した。

 

「ハリー。君ってグリフィンドールにしては理性的な考えを持ってるよな。」

 

「そうか?いざとなれば、大切なものを守る為に命も張るけどな。」

 

「とにかくです。その時は、よろしくお願いします。彼は模範的な方で、監督生ですから。」

 

「それに、去年からキャプテンもやってる。来年は首席も夢じゃない、きっと。」

 

「フッ、当然だ。いつもエリナが世話になっているのと、友の頼みとあらばな。それじゃ、俺はそろそろ飯を食いに行くぜ。」

 

ハリーは、去っていった。

 

「エリナ、僕達も行きましょう。」

 

「うん!そうだね!」

 

それから1週間は、3校魔法対抗試合の話題で持ち切りだった。誰が立候補するとか、どんな課題か、他2校の人ってどんな感じなんだろうとか話題が尽きない。お客を向かい入れる為に、城中が掃除されてた。

 

先生達も妙に緊張していた。マクゴナガル先生は、ネビルにこう言ってた。

 

「ロングボトム。お願いですから、ダームストラングの生徒達の前で、簡単な『取り替え呪文』が出来ない事を暴露しない様に!」

 

そして、10月30日。豪華な飾りつけがあった。グリフィンドールの席の会話を聞いてみる。どうやら、フレッドとジョージが『老け薬』なるもので参加しようとしているとの事。よした方が良いと思うなあ。

 

授業が終わり、玄関ホールに並ぶ。1年生が先頭。

 

「もうすぐ6時だ。」アーニーが時計を見ながら言った。

 

「どうやって来るのかしら?」ハンナが呟く。

 

「汽車ですかね?」ジャスティンが予想する。

 

「多分違うわ。」スーザンが言った。

 

「箒?でも、遠くから来るし。ないか。移動キー?姿あわらし?それも無いか。」

 

見当がつかないや。

 

「ほっほー!わしの目に狂いが無ければ、ボーバトンの代表団が近付いて来る筈じゃ!」

 

森の上空から何かが来た。ドラゴンではなさそう。空飛ぶ家かな、どちらかと言えば。しかも、12頭の天馬に大きな館ほどの馬車が引かれている。それは、徐々に地上に降りて来る。

 

中から、ハグリッドと同じ位の背丈の女の人が出て来た。表情を和らげ、優雅に微笑む。そして、ダンブルドアと握手した。

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。」

 

ダンブルドアが挨拶をした。

 

「ダンブリー・ドール。おかわりーありませーんか?」

 

「おかげさまで上々じゃよ。マダム。」

 

「わたーしのせいとです。」

 

十数人の男女が現れた。皆、17か18だろうね。でも、何人かおかしかった。日本で言う所の神輿状態になっているのだ。上に乗っているのは、美少女だった。何故か鞭を持っている。多分、ヴィーラ要素が入っているのだろう。現に、殆どの男子が虜になってるし。何か言ってる。ハリーから貰った翻薬を飲んでみよう。

 

「さあ。跪くのよ。可愛い下僕ちゃん達?」

 

「「「うわーー!!僕達のフラー!!」」」

 

「「「私達のフラー!!!」」」

 

「何故私は美しいのかしら?」

 

「「「それは!」」」

 

「「「あなたが!!」」」

 

「「「「「「美しいからー!!!」」」」」」

 

「良く出来ましたね。ご褒美です!」

 

フラーと呼ばれた少女は、男子生徒を鞭で打った。

 

「あああああん!あ、ありがとうございます!!もっと、もっとやって下さい!!!」

 

鞭を打たれたボーバトンの男子生徒は、恍惚に満ちた表情になってる。ああ、アレがマゾヒストって奴だね。そして、この光景を見ていたホグワーツ生はというと…………

 

「僕もあの人の下僕にして貰おうかな?」

 

「ヒャッハー!美女じゃー!!!」

 

「ちょっと!ハリー!隠し持っていたサバイバルナイフで自分の手の甲を突き刺さないで頂戴!物騒よ!」

 

「ヴィーラの魔力に取り憑かれてたまるか!!」

 

そんな声が聞こえた。というかハリー、何やってんの。

 

マダム・マクシームがダンブルドアと話している。馬の世話は、ハグリッドがやる事になった。

 

「ああ、美しかったなあ。」アーニーはまだ魅力に取り憑かれている。

 

「ダームストラングはどうやって来るのかしら?」スーザンが言った。

 

「馬車じゃないの?」ハンナが予想を立てる。

 

空を見上げる。でも、予想外の場所から出て来た。何と、湖から。船が浮上してきたのだ。それが終わると、全員が下船してきた。髭の長い男の人を中心にして。全員、クラッブやゴイル位の体格だなぁと感じた。

 

「ダンブルドア!」男の人が、朗らかに握手してきた。

 

「やあやあ。しばらく。元気かね?」

 

「元気一杯じゃよ。カルカロフ校長。」

 

ダンブルドアとカルカロフが握手した。

 

「懐かしのホグワーツ城。そして、懐かしの顔ぶれもいるようだね。」

 

カルカロフがスネイプ先生を見た。先生は、無表情だ。

 

「いやあ。またホグワーツに来れたのは嬉しい!実に嬉しいよ!暖かい場所を用意してほしいんだけどね。我々は知っての通り、寒い場所から来た。その上、風邪気味の生徒が1人いてね。」

 

カルカロフが生徒の1人を差し招いた。曲がった目立つ鼻、濃い黒の眉。ワールドカップの選手だった人だ。アーニーが高らかに叫んだ。

 

「クラムだ!ビクトール・クラムだ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 炎のゴブレット

ボーバトンはレイブンクローの席に、ダームストラングはスリザリンの席に座った。ロンが残念そうにしてた。クラムのサインなんていつでも貰えるのにさ。

 

「羽ペンある?」

 

「残念だったな。談話室に仕舞ったカバンの中だ。」

 

レイブンクローの席に視線を向ける。フラー・デラクールとかいうドS女がフランス語でイギリスの料理はマズいとか言ってやがる。何でそんな事が分かるって?俺は日本語の他に、ラテン語にフランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語を習得しているから。

 

尤も、俺は興味無いけどな。あんな状態で出て来たような奴だ。どうせ碌でも無い事だろう。ほうら、ゼロがシエルに頼んで目隠ししながらやり過ごしてるよ。

 

一方のスリザリン。憧れのクラム様(笑)が来て、ご満悦らしいな。特にドラコが。

 

そして。ジジイが立った。

 

「こんばんわ、紳士淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた――今夜は特に――客人の皆さん。ホグワーツへのおいでを、心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が快適で楽しいものになる事を、わしは希望し、また確信しておる。三校対抗試合は、この宴が終わると同時に開始される。さあ、それでは大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ!」

 

挨拶を済ませ、ジジイが杖を振るう。すると、各寮のテーブルに置かれた金色の皿が料理で満たされた。それまでと違うのは、普段とは違う見慣れない物が多く混じっている事だ。

 

「クラムのサインが欲しい!」

 

「別の所でやってくれ。今の俺がやるべきなのは、外国料理を堪能する事なんでね。」

 

そう。SMが趣味の美少女や、普段は冴えないクィディッチ選手に興味なんて無い。食う事が最優先だ。色々学ぶべき事もあるしな。レシピも貰って、作る事が出来る様にしておこうじゃないか。

 

ブイヤベース、グラタン、その他を堪能した。上手いな。ある程度食べ終えると、次にデザートが出て来た。ブラマンジェ等々。

 

皿が金ぴかとなった。それと同時にジジイが立ち上がる。何かあるな。そう確信した。

 

「時は来た。三大魔法対抗試合は、今まさに始まろうとしておる。箱を持って来て貰う前に、ちょっとばかり説明をしておこうかの――」

 

箱?また何か意味深な事を言ってんな。

 

「こちらのお二方を紹介しよう。国際魔法協力部部長、バーテミウス・クラウチ氏。そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルドビッチ・バクマン氏じゃ。」

 

クラウチの時は儀礼的な拍手がチラホラだった。だが、バクマンの時はずっと大きな拍手が上がった。まあ、ビーターという経歴もあるだろうが、人の良さそうな印象を向けているから尚更だろう。

 

「この2人は、数ヶ月の間、試合の準備に身を粉にして取り組んでくれた。また、このお二方に加えて、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、このわしが代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わる事が決定した。」

 

代表選手の言葉が出た瞬間、周囲は静かになった。ジジイは、タイミングを見計らった様にフィルチに宝石が散りばめた木箱を捧げさせた。

 

「代表選手達が取り組むべき課題の内容は、既にクラウチ氏とバクマン氏が検討し終えておる。また、それぞれの課題に必要な手配もして下さった。3つ存在する。それを、今学期1年間でこなして貰う。選手は、あらゆる方向から試されるのじゃ。魔力の卓越性――果敢な勇気――論理・推理力――危険に対処する能力等じゃ。」

 

この言葉で、完全に全員が沈黙した。

 

「皆も知っての通り、試合を競い合うのは3人の代表選手じゃ。参加校から1人ずつ。選手に選ばれた者は、課題の1つ1つをどのように巧みにこなすかで採点され、3つの総合点が最も高い者が、優勝杯を獲得する。選手を選考するのは、この公正なる選者…………『炎のゴブレット』じゃ。」

 

ジジイが杖を取り出す。そして、木箱の蓋を3度、軽く叩いた。すると、一見パッとしない大きな荒削りの木のゴブレットが現れた。溢れんばかりの青白い炎が躍っていた。

 

「名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属学校をはっきりと書くのじゃ。このゴブレットに入れて欲しい。24時間以内にの。立候補したい者は、提出するように。明日のハロウィーンの夜、ゴブレットは各校を代表するに最も相応しいと判断した3人の名前を返して寄越すじゃろう。今夜、これを玄関ホールに置いておく。」

 

成る程な。それにしても公正か。意志を持たないゴブレットに判断をゆだねる……ねえ。そもそも、何を以って公正とするんだろうか?設定された条件を満たす者を選ぶ。私情を持ち込まない。誰も貶めない。う~ん。良く分からん。

 

「未成年の者が不用意に近づかないよう、わしはゴブレットの周囲に『年齢線』を引く事にする。17歳未満の者は、誰であってもその線を越える事は出来ぬ。そう、誰であってもじゃ。そして、最後に1つ。軽々しく名乗りを上げない事じゃ。これは、選定された時点で一種の魔法契約が発生するからじゃ。逃げる事は出来ず、最後まで戦う義務がある。だから、そこを踏まえた上でゴブレットに名前を入れるのじゃぞ。さて、もう寝る時間になるかの?皆、お休み。」

 

ようやく寝られるぜ。皆は、今の話を聞いて眠気はまだ来てないようだ。フレッドが目をキラキラに輝かせている。

 

「年齢線かぁ。それなら、『老け薬』でごまかせる筈。一旦名前を入れられたら、ゴブレットなんざ関係ねえや!」

 

「フレッド。あの爺さん、上げて落とすタイプだと思うぜ。きっとな。」

 

「大丈夫さ!ハリー。ほんの数滴飲めば、な?」

 

警告はしたぞ。俺はもう知らないからな。

 

翌日。土曜日。いつもは休日で、朝食が遅い者が殆どだ。俺は、平日と何ら変わらない生活スタイルを維持しているけどな。でも、この日だけは違った。20人程は、既に玄関ホールにいたのだ。ゼロもいた。

 

「誰か入れた奴いる?」

 

「ダームストラングは全員。だがホグワーツは1人も見てない。全員が寝静まった時間を見て、投票した奴がいるかも知れん。」

 

「ありえるな。もし資格があったら、俺だってそうしている。」

 

「オッス!ゼロ早えな!!珍しいぜ!」

 

「ハリー!ゼロ!おはよう!!」

 

後ろからエリナとグラントがやって来た。その後ろから笑い声が聞こえた。4人で振り返ってみる。フレッドとジョージ、リー・ジョーダンが階段から降りて来て、酷く興奮していた。

 

「ジョージ、リー。乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

妙な飲み物を飲んだ3人。昨日言ってた老け薬か。

 

「やったぜ!」

 

「老け薬を飲んだ!1人1滴だ。」有頂天になりながらジョージが言った。

 

「3人の誰かが優勝したら、1000ガリオンは山分けさ!」

 

リーもニヤーッと歯を見せた。

 

「俺から行くぜ!」

 

「いいや俺だ!」

 

「俺が最初で。」

 

じゃんけんでフレッドが1番乗りとなった。もう嫌な予感しかしない。

 

結果は言わずものかな。後から来たジョージもまとめて、金色の円の外から追い出されてしまった。ありのまま、今起こった出来事を話そう。年齢線まで踏み込めたのまでは良かった。名前を入れようとした瞬間、吹っ飛ばされて冷たい石の床に叩き付けられたのだ。

 

「「「アハハハハハハハハハハハハ!!!」」」

 

「「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」」」

 

「「「クスクスクスクスクスクスクスクス。」」」

 

見ていた全員が大爆笑した。俺も例外じゃない。

 

「全部お前のせいじゃ!」フレッドがジョージに言った。

 

「いんやお前のせいじゃ!」ジョージも負けじと言い返す。

 

「だから言ったんだ。昨日。」釘を刺しておいたのにさ。

 

「ウィーズリーズ。わしは忠告したはずじゃよ。」

 

何時の間にかジジイが居やがった。この状況を楽しんでやがる。

 

「医務室へ行きなさい。君達のベッドが空いておるよ。既にレイブンクローのミス・フォーセット、ハッフルパフのミスター・サマーズもお世話になっておる。君達より、髭は立派ではないがの。」

 

「「そうさせてもらうよ。ありがとうの、アルバス。ふぉっふぉっふぉ。」」

 

「ふぉっふぉっふぉ。」

 

双子は、リーに連れられて医務室へ。俺達は、そのまま朝食の席へと向かった。名前を入れたメンツが分かった。スリザリンのワリントン、セドリック・ディゴリー、アンジェリーナ・ジョンソンは確実だそうだ。この際、誰だって良いけどな。

 

俺は、必要の部屋へ向かった。何故かネビルがいるのだが。

 

「こんな部屋あったんだ!」

 

「言わない方が良いぜ。これから、イタリア料理を作って食べるんだからな。」

 

「ねえ。僕にも食べさせてよ。」

 

「毒味係なら幾らでもな。」

 

俺とネビルは、必要の部屋に入った。念じたのは、『料理をして、食事する場所』だ。仲は、レストランと厨房みたいになった。料理の材料は、厨房の屋敷しもべ妖精から貰っている。

 

「そんじゃ、作るかな?っと、その前に。」

 

ネビルに水を注いだ。

 

「これを飲んで待ってろ。」

 

「分かったよ。」

 

厨房に向かった。予め保管してあった食材を取り出した。

 

「まずはだな……」

 

サラダから作るか。モッツァレラチーズとトマトのな。そして、俺が独自に調合して完成させたドレッシングをかける。見栄えを良くする為に、レタスに焼いたパン、バジリコもいれるか。15分で完成した。

 

「ほら。」

 

サラダをネビルに差し出す。俺の分も作ってあるのさ。前に、トマトとチーズを一緒に食べる様に言った。

 

「いただきます!」

 

ネビルが口に入れた。

 

「美味い!!」

 

「そう?」

 

「本当に料理が上手だったんだね!お金出しても良い位だ!」

 

「そりゃどうも。俺、次の料理作るから。」

 

厨房へ戻る。次は、パスタでも作るかな。その次にピザだ。ふと、声が聞こえる。

 

「る、ルイン!?どうして入って来れたんだい!?」

 

「2人の会話が聞こえてね。私もご一緒させて欲しいなぁと思って。」

 

「ハリーがサラダを作ったんだ。良かったらどうぞ。」

 

どうやら、ルインにサラダを勧めている様だな。

 

「中々。でもなぁ、味無いね。このチーズ。」

 

「トマトと一緒に食べるんだって、ハリーが言ってたよ。」

 

「そうしてみるね…………美味しい!!見た目も味も完璧だわ!こんなに美味しいサラダ、食べた事が無い!」

 

どうやら、お気に召したようだな。

 

「趣向を変えるか。アレを出そう。」

 

アッと驚くパスタ料理を。ミニトマト、ブラックオリーブ、唐辛子、アンチョビ、ニンニク、オリーブオイル、塩、コショウ、パセリ、パルメザンチーズ、タマネギを材料にしようか。

 

しばらくして、完成した。娼婦風のスパゲッティだ。

 

「お2人さん。完成したぜ。」2人分を持ってテーブルに向かった。

 

「パスタ料理かい?」

 

「そうだぜネビル。娼婦風スパゲッティだ。」

 

「てっきりミートソースかカルボナーラが出るかと思った。」

 

「まあ、そう思うよな。普通は。でもこの料理、イタリアでは最も古いパスタ料理なんだぜ。」

 

「どうして娼婦風スパゲッティっていう名前なの?」ルインが聞く。

 

「余りに忙しい娼婦が適当に作ったら美味かったって言うのが起源だそうだ。ニンニクを使うパスタ料理ってね、普通チーズは使わないんだよ。でも、これに関しては例外。チーズをかけて食べる。」

 

「唐辛子入れてる?」ネビルが臭いを嗅ぎながら言う。

 

「入れてる。だけど、俺はこれを勧めるな。最初のパスタ料理って意味でね。」

 

「辛いものは苦手だけど、出されたものを粗末にするのはもっと良くないから頂くわね。」

 

「ぼ、僕も折角料理を振る舞って貰ったんだ!食べなきゃ失礼だよ!!」

 

ネビルとルインがそう言いながら、スパゲッティを口に入れた。

 

「あれ?」ネビルがキョトンとした。

 

「辛い筈なのに?何これ?」ルインも然り。

 

「どんどん引きずり込まれていく辛さだ!」

 

「辛い物がダメな人でも、ちゃんと食べられる様に仕上がってる!!」

 

「「美味しい!!!」」

 

好評で何よりだよ。俺も食うか。ピザの焼き上がりには当分時間が掛かるし。

 

「次はピザだけど。完成まで当分かかるんだ。待っててくれる?」

 

「構わないよ。」

 

本当なら、『子羊背肉のリンゴソースかけ』を作りたかったが、レシピが無くて、再現出来なかったんだよなぁ。だから、代わりにピザを用意したのさ。

 

30分後、ピザが完成した。マルガリータだ。

 

「いただきます。」

 

ピザも好評だった。そして、最後にデザートのプリンを食べて終わった。食器洗いをしようと思ったが、ネビルもルインも手伝ってくれたのだ。感謝だな。そうして、必要の部屋を出て、別れた。その後は、レッドスパークを使って運動した。夕食も食えるようにしておく為に。

 

前にハー子が言ってたな。そんなに食って大丈夫なのかと。そして、どうして太らないんだと。俺から言わせてみれば、俺の言う事を完全に聞かない暴れ箒を使ってハードに動いている。つまりだ。それだけ動き回って、太る方がおかしいのさ。

 

そして、ハー子の話になる。最近、反吐なる組織を作ったらしい。どうやら、屋敷しもべ妖精を解放するんだとかそう言って来るんだ。俺は速攻で断った。彼らには敬意を払ってるし、碌に知ろうともせずにそこまで踏み切るのは危険以外の何物でもないからな。

 

夜。ハロウィーンパーティーが始まった。皆、食事に興味を示さなかったが、俺は別だ。手当たり次第によそっては、その度に食べたのだ。

 

「よく食べるよね。」ロンが言った。

 

「午後、派手に動き回ったからな。腹が減ったんだ。」

 

やがて、デザートも綺麗さっぱり消えた。

 

「さて、ゴブレットの選定は殆ど決まった様じゃ。」

 

ジジイがゴブレットに近付く。

 

「炎を操りし。我が名は、ダンブルドア。おおー、暖かいのお。」

 

「アルバス!!」マクゴナガル先生がピシャリと言った。

 

「おお、すまんの。ミネルバ。1度やってみようかと思っての。」

 

大広間から爆笑の声が上がる。すると突然、炎が赤くなった。それは、羊皮紙をはじき出した。それを手にするダンブルドア。

 

「クラムクラムクラムクラム…………」ロンが連呼している。

 

「名前が出たようじゃの。ダームストラング代表は――ビクトール・クラム!」

 

「そう来なくっちゃ!」ロンが声を張り上げた。

 

大広間中が拍手、そして歓声の嵐となった。スリザリンの席から立ち上がり、前がかみになってダンブルドアの方へ歩いて行った。

 

「ブラボー!ビクトール!分かっていたぞ。君がこうなるのは!」

 

「……」彼は無表情だった。隣の部屋へ行った。

 

「やったぜー!クラムの人形を、代表選手仕様にしてやろう!」

 

「自分の事のように喜んでいるな。」

 

「ロンにとっては英雄(ヒーロー)みたいな存在ですもの。ホグワーツよりも応援しそうね。」

 

「どうやら、次が来たようだな。」

 

俺はゴブレットを指差す。また赤く燃え上がり、羊皮紙を出した。

 

「ボーバトン代表は――フラー・デラクール!」

 

彼女の信者と思わしき集団が、『フラー様!!』と叫びながら、歓声の声を上げる。

 

「あのヴィーラに良く似たドS女か。」

 

デラクールも隣の部屋に消えた。

 

これで、ダームストラングとボーバトンの代表選手は決まった。次はホグワーツか。その後だな。エリナの名が出てくるのは。

 

ゴブレットは、次の代表選手を選定する。その紙をダンブルドアが手にした。ダンブルドアの表情が強張った。だが、選手となった者の名前を読み上げた。

 

「3枚目の紙が出た。代表選手の名前は……エリナ・ポッター。」

 

正規の選手を差し置いてだと!?どうなってやがるんだ!エリナの方を皆が見ている。好奇と侮蔑の視線があいつを射抜いている。それよりも、何故いきなりなのか。タイミングが早過ぎる。ハッフルパフも動揺を隠せないみたいだな。

 

「エリナ。とにかく行った方が良いわ。」

 

「そうです。僕達は、あなたが入れたなんて絶対に思ってませんから。」

 

「ボク、入れてない!」

 

「分かってるよ。僕にジャスティン、ハンナやスーザンは入れてないって思ってるよ。それに、ハリーも信じてる筈だ。」

 

エリナが歩き出す。ズルをしたんだとか、裏切り者と叫んでいる奴までいる。あいつに出来る筈が無いんだ。そう言おうと、俺は立ち上がろうとした。が、ハー子が止めた。

 

「落ち着いて!私もエリナが入れたなんて思ってないわ!でもハリー。我慢して頂戴!今あなたが抗議したら、エリナの立場がますます悪くなるわ!!」

 

「……」取り敢えず、この場はハー子に従う事にした。

 

その時だ。またゴブレットの炎が強くなった。新たな代表選手を選出した。ダンブルドアがキャッチした。

 

「4枚目に書かれた代表選手の名は……グラント・リドル。」

 

は?何故あいつが?あいつにも、年齢線を突破する頭は無い。というか、物理的に無理だ。グラント本人も困惑している。それでも、グラントは代表選手のいる所まで進んでいった。

 

「い、一体何が起きてんだよ!?」

 

生徒の1人が、声を荒げた。

 

「これをどう見る?ハリー。」ハー子が尋ねる。

 

「あいつらに年齢線を突破出来るとは到底思えない。誰かが細工をして、2人は嵌められたんだ。エリナに関しては、容易に想像がつく。」

 

「ヴォルデモートの陰謀よね。」

 

「ああ。恐らく――いいや、絶対にな。」

 

もう俺は知っているからな。ジュニアが、ヴォルデモートの所まで誘導する為にエリナの名を入れた。でもグラントはどうだろうか?確かに、同じリドルの姓を持っているが、変態ヘビとの因縁なんて皆無だ。だったら誰が?謎は深まるばかりだ。だが、グラントがやったとは思えない。乱暴な所はあるが、気は良いし、結構正々堂々とした勝負を好むんだ。

 

でも、この対抗試合は、様々な人の運命の歯車が動き出す事を、その時俺はまだ、知る由も無かった。無論、この俺の運命も。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 イレギュラーな代表選手

どうしてこうなったんだろう。ダームストラング、ボーバトンが決まって、次はホグワーツの誰かだと思ったのに。何で、よりによってボクなの?

 

「エリナ。さあ……あの扉から行くのじゃ。」

 

ダンブルドアは微笑んでなかった。そうだよ。出来るわけがない。無理だ。仮の同じ状況に立たされたら微笑む事なんて出来るが無いもの。

 

教職員のテーブルに沿って歩いていく。ハリーと目が合った。心配そうな顔をしている。その時、声が聞こえた。

 

『俺はお前が入れたとは思ってない。とにかく、今は校長の言うとおりにしておけ。』

 

ハリーが思念術で励ましてくれた。ボクは、少し落ち着いた。大広間から出る扉を開け、魔女や魔法使いの肖像画がずらりと並ぶ小さな部屋に入る。クラムさんとデラクールさんが、既にそこにいた。

 

「…………」

 

「ふふーん。どーやら、このイベントもおもしろーい事になりそーです!」

 

その時、ドアが乱暴に開かれた。グラントも入って来た。

 

「エリナちゃんが呼ばれた時はどうすれば良いか分かんなかったぜ。でもよぉ、今度は俺まで何故か呼ばれたんだよぉ。」

 

「ボクもどうしてなのか分かんないよ。入れてないのに。」

 

「俺もよぉ。昨日はグラップとコイルをサンドバック代わりに殴ってて、今日はハグリッドさんの所にいたんだぜぇ。入れてねえよ。」

 

「グラップとコイルじゃなくて、クラッブとゴイルだよ。」

 

ボク達の背後からせかせかした足音が聞こえた。ルード・バクマンが入って来たんだ。

 

「こりゃ、驚いた。凄い!いや、全く以って凄い!ホグワーツから2人、しかも両者共に未成年とは。」

 

バクマンさんが暖炉に近付き、クラムさんとデラクールさんにそう説明した。

 

「ご紹介しよう――信じがたい事であるが――代表選手だ。3人目と4人目の。」

 

「でも、ボク。」

 

「俺は知らねえ!」

 

「驚くべき事ではある……が、知っての通り、年齢制限は今回に限って、特別安全措置として設けられたものだ。そして、その状態からエリナとグラントの名前が出て来た。こうなった以上は逃げも隠れも出来ない。規則であり、従う義務がある。エリナ。そしてグラント。君達は、とにかくベストを尽くさねばならない。」

 

後ろの扉が、再び荒っぽく開いた。ダンブルドアが先頭に立ち、すぐ後ろからクラウチさん、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、マクゴナガル先生、スネイプ先生、スプラウト先生、フィールド先生が来た。扉が閉まる前に、何百人という生徒がワーワーと叫んでいるのが聞こえた。

 

「ダンブリー・ドール!これは、どういうこーとですか!?」

 

マダム・マクシームが、ダンブルドアに対して威圧的な口調で迫っている。

 

「私もぜひ知りたいものですな。ホグワーツの代表選手が2人?しかも、両方とも未成年じゃないか。開催校は複数の、それも年齢制限など関係無い状態で選出して良いとは、誰も伺っていないようですが――それとも、私が読み間違えていたとでも?」

 

意地悪い笑い声を上げるカルカロフ校長。

 

有り得ませんわ(セ・タァンポシーブル)。」

 

「失礼ですがマダム・マクシーム。そして、カルカロフ校長。」

 

フィールド先生が参加してきた。いつもの温和な表情ではなく、凛とした表情になっていた。でも、カルカロフ校長を見るその眼は軽蔑と憎悪で燃え上がっていた。

 

「羊皮紙から出て来たというだけで、エリナとグラントが反則をしたと、私は到底思えませんがね。後で、羊皮紙に書かれた筆跡を調べてみましょうか?」

 

皆沈黙した。すぐに、ダンブルドアがボクとグラントに近付いてきた。

 

「エリナ。グラント。炎のゴブレットに名前を入れたのかね?」

 

「「いいえ!」」

 

「上級生に頼んで入れて貰ったかね?」

 

「俺はやってませんって!!」

 

「いいえ。」

 

あれ?そう言えばこうも考えられるのかな?

 

「あの、校長先生。」

 

「何かね、エリナ。」

 

「さっきの言い方だと、上級生、下手をすると大人に頼めば参加出来るような言い方ですけど。そういう事なんですか?」

 

皆ハッとした顔になる。どうなんだという視線をダンブルドアに送っている。

 

「そうじゃの。そこに対する対策まで考えがつかなかったのは、わしの不備になる。」

 

ダンブルドアは、礼儀正しく答えた。そして、謝罪した。

 

「で、あればだ。ホグワーツから選手が2人出た以上は、ボーバトンとダームストラングからもあと1名ずつ選出すれば良いだけの事。炎のゴブレットをもう1度設置していただこう。ダンブルドア。」

 

「残念だがそう言うわけにもいかないんだ、カルカロフ。」バクマンさんが言った。

 

「炎のゴブレットは、たった今火が消えてしまったんだ。次の試合まで、火が付く事は決してないのだよ。」

 

「だからホグワーツは2人参加を潔く認めろというのか!ふざけるな!あれだけ会議や交渉、時には妥協までしたのにそんな不条理があってたまるか!!」

 

「私もです!そんなものは、とてーも認められませーん。ダンブリー・ドール。年齢線をまちがーえたのでしょう。きっと。」

 

カルカロフ校長、そしてマダム・マクシームが一緒になって声を荒げる。ボク達も見られたが、それは侮蔑の視線だった。

 

「全く!今までのやり取りを聞いていれば!実にバカバカしい事です!」

 

マクゴナガル先生が怒る様に話に割り込んできた。

 

「この子達に年齢線を超えられる筈がありません!そして、上級生に頼んで代わりに入れさせるような事も、エリナとグラントはしていないと、ダンブルドア校長は信じていらっしゃいます!私はこの子達の寮監ではございませんが、入れていないと信じています!!!」

 

「マクゴナガル先生。少し落ち着いて下さい。」フィールド先生が言った。

 

「ありがとうございます、フォルテ。ではポモーナ、そしてセブルス。この子達の寮監であるあなた方はどう思っていますか?」

 

マクゴナガル先生は、スプラウト先生とスネイプ先生に意見を求めた。

 

「我輩としては、ミスター・リドルは良くも悪くもバカ正直に生きていると認識しておりますな。彼に、ダンブルドア校長が敷いた幾つもの年齢の制限を突破出来る程の頭は持ってないと考えているのですが。」

 

「先生。俺の事、バカにしてます?」

 

「グラント、君は少々黙るという事を覚えていただきたいものですな。」

 

「私も、エリナが入れたとは考えていません。今学期初日からの彼女の様子を見ていましたが、名乗りを上げるような振る舞いはしてませんでした。それどころか、立候補する上級生を積極的に応援していたので尚更です。」

 

「スプラウト先生。」

 

「どうしましたか?」

 

「何か、必死だなとボク感じました。」

 

ボクとしては辞退した方が良いと思うんだよね。

 

「クラウチさん、バクマンさん。中立の立場であるあなた方の意見をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

フィールド先生が、2人にそう伝えた。

 

「フォルテ。確かに今回に限って年齢制限はした。だが本来であれば、どんな年齢だろうが、それが例え未成年だろうが入れられたんだ。」

 

「本人の意思に関係無く、参加させるべきだ。炎のゴブレットから『エリナ・ポッター』と『グラント・リドル』の名前が出て来た。これこそが重要だ。つまり、2人はこの瞬間から競技に参加し、競い合う義務が生じた。これは明白なルールであり、魔法拘束だ。」

 

クラウチさんがキッパリと言った。何これ。何か、参加しろっていう雰囲気になりつつあるけど。

 

「いやぁ、バーティは規則を隅から隅まで知っている。」

 

バクマンさんがニッコリと笑っている。カルカロフ校長とマダム・マクシームを見ている。

 

「今すぐにでも、この胸糞悪い状況から帰りたい気分だがね!」

 

「それは出来ない事だな、カルカロフよ。選手が魔法契約で縛られている以上はな。都合に良い事に!」

 

「ひ、ヒィッ!ムーディ!?つ、都合だと!?そうか!ダンブルドアが、ホグワーツに有利に働く様に仕向けて…………」

 

「何故不自然にどもる必要があるのだ、カルカロフ。今すぐ呪いを掛けてやろうか!?え?……まあいい。聞け。良いか。炎のゴブレットを欺くには、強力な錯乱呪文が必要になってくる。そこの小娘と小僧にそんな芸当など出来ん!そもそも、小娘の兄でも越えられない様にダンブルドアが特別に調整したものだからな!」

 

「待ってくれよ、先生よぉ。何でハリーを基準にしたんだ?イドゥンちゃんやゼロ、ハーミーちゃん、5年生以上の成績優秀者ならまだしも。」

 

「リドルか。良かろう。ポッターも聞くと良い。ハリー・ポッターは入学時点でホグワーツのカリキュラムをあらかた終わらせていると聞く。それだけでなく、マホウトコロのカリキュラムもな。そしてあいつは、少なくとも幹部級の上級死喰い人と同等以上の戦闘能力を有している。ホグワーツの生徒でも、あいつに勝てる奴は殆どいないと言っても良い。そして、そのハリー・ポッターと互角の実力を持つお前やゼロ・フィールドでも不可能にしているとも言えるってわけだ。」

 

「そういう事じゃ。今回、2つの魔法学校の教育課程を終わらせ、尚且つそれを自らの力としているハリーを基準にした防衛線を作る事にしたのじゃよ。結果的に、それはゼロや君でも正攻法では決して不可能な防衛線になったわけなのじゃ。結構骨が折れたがの。」

 

自分の兄が実はとんでもない力量の持ち主という事を知ったボク。敵に回らなくてよかったよ。

 

「そして、ポッターとリドルを参加させて喜ぶ奴は誰になる!?こんな危険な状況に追い込んでまで!それはな、この2人を殺したくて仕方ない奴に決まっている。ポッターの方は容易に想像がつくがな。」

 

「死の飛翔ですね。アラスター。」

 

「そうだ。」

 

「では、グラントは?死の飛翔にとっては、メリットなどありませんが。」

 

「フン。このわしでも、リドルまでは分からん。」

 

フィールド先生とムーディ先生がそんな会話をしている。

 

「どうだ?クラウチ。わしの考えは戯言だと言い切れるか?闇の魔法使い、特に恥ずかしい名前の集団の奴らが考えそうな事は狂気じみている!そう言った連中のやり方を分析し、対策する事がわしの役目だ!カルカロフ、お前だって身に覚えがあるだろうが――」

 

「アラスター!」

 

ダンブルドアが静止させた。

 

「アラスターって誰だ?エリナちゃん。」

 

「ムーディ先生の事だよ。1度だけ出会ってるから、本名は分かるんだ。」

 

「助かるぜ。ありがとうよ。」

 

「何故このような状況になったのかは分からぬ。しかしじゃ、結果は受け入れなければならぬ。ルードやバーティの言った通り、炎のゴブレットの決定は絶対じゃ。それに、あれの炎はもう消えてしもうた。再び選びなおす事も敵わんじゃろう。それを聞いて尚、まだ何か明暗があればお聞きしたいのじゃが。イゴール、オリンぺ。」

 

「せんせーい。わたーし、思ーいました。オグワーツが何人だろうと、わたーしが勝てばいいのでーす。」

 

「フラー。わかーりました。良いでしょう。このまま進めてくださーい。」

 

「ヴぉくもあなた方に言いたい事があります。勝つのは1人だけ。ホグワーツが何人いようと構いません。ヴぉくの力を、1番だと周囲に認識させれば良いのですから!」

 

「よくぞ言ったなビクトール!そうだ。ちょっと考えれば何てことは無かった。ビクトールが勝つんだ。それは確定事項だ。」

 

渋々と言った感じだけど、他の学校の校長先生も同意した。

 

「それではバーティ。代表選手に指示を。」

 

「あ、あぁ……そうだな。指示。」

 

『あれ?夏休みの時より、クラウチさんがやつれている様な…………』

 

「最初の課題は、君達の勇気を試すものである。どんな内容かは教えない事にしよう。未知のものと遭遇した時の勇気は、魔法使いにとって重要な資質であり、なくてはならない要素だ。競技は、11月24日に行われる。どのような形であれ、教員からの援助を受ける事も、受ける事は許されていない。競技には、杖だけの所持が許可される。試合は過酷であり、また時間のかかるものである為、選手は今年度の期末テストを免除するものとする。」

 

クラウチさんは、ダンブルドアを見て言った。

 

「こんな感じでどうかな?」

 

「うむ。大丈夫じゃろう。バーティよ。少し疲れておらんかね?城へ泊ってはどうじゃ?」

 

「そうだぜバーティ。そうしなって。今や、全ての事がホグワーツで起こっているんだ!私は泊まらせて貰うよ、ダンブルドア。」

 

バクマンさんが陽気な口調でクラウチさんを説得している。

 

「そう言うわけにもいかない。若手の、直属の部下のウェーザビーに任せっきりにしている。大変熱心で、最近周りから声をよくかけられている。私から言わせれば……熱心過ぎる所がどうも…………」

 

クラウチさんは、部屋を出て行った。

 

「うむ。そういう事なら、皆。帰ってよろしい。グラント、エリナ。君達も早く寮に戻ると良い。スリザリンとハッフルパフは、君達を中心にドンチャン騒ぎをしたくてしょうがないじゃろうからのぅ。」

 

ダンブルドアが微笑みながら言った。

 

「アルバス。私はフォルテと共にやる事があります。ポッターとフィールドを呼び出して構いませんよね?」

 

「うむ。大丈夫じゃよ。アーガスには、わしの方からしっかりと言っておく。」

 

「ありがとうございます。ダンブルドア校長。」

 

マクゴナガル先生とフィールド先生が一緒に出て行った。どうやら、ハリーやゼロを呼ぶらしいけど。

 

大広間には誰もいなかった。いるのは、ボクとグラントだけ。蝋燭が燃えて短くなり、くり抜きカボチャのニッと笑ったギザギザの歯を、不気味にチロチロと光らせていたのだった。

 

「それじゃあよぉ。エリナちゃん。俺達、戦うってわけだよな。」

 

「うん。そうだね。」

 

「何でこうなったんだ?俺は見当つかねえや。」

 

「正直言うとボクもなんだ。」

 

「俺はよぉ。エリナちゃんはいれてないと思うぜ。ハリーやゼロ、ハーミーちゃんはそう思ってる筈だ。」

 

「ボクも、グラントは入れてないって思ってるよ。本当に。」

 

「ありがとうよ。お休み。エリナちゃん。」

 

「お休み。」

 

グラントと別れて、ハッフルパフの談話室へ帰っていった。寮の入り口へと到着して談話室への扉を開くと同時に、中から喝采が響いてきた。3年前はトロール、2年前はバジリスク、去年はシリウス。ホグワーツのハロウィーンって、何かの騒動の始まりなんだな、とようやく気付いたボクであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 悪夢の日々と杖調べ

10月31日。夜。レイブンクロー寮。

 

俺は、信頼の出来そうなレイブンクロー生と共に、エリナとグラントの無実を訴えた。

 

「ゼロ。余り芳しくないわ。」シエルが呟く。

 

「エリナの方はどうにか出来そうだが、グラントはどうやっても無理だな。錯乱の呪文、それも極めて強力な物はあいつらに使える筈が無いのに!」

 

「元々レイブンクローって、学業を優先する寮よ。だから、比較的冷たかったり、捻くれた人が集まりやすいのよ。全員がそうじゃないにしても、エリナやグラントに近付きたくない人が大勢ですもの。」

 

「そういう意味では、俺は異端かも知れないな。」

 

「確かに、あなたはグリフィンドール向けの性格をしてるわよ。でも、異端だからこそ他とは違う何かが出来たり、予想以上の結果を生んだりするんじゃないかしら?」

 

「シエル…………ありがとう。」

 

その時、俺を呼ぶ声がした。テリーが来たわけだ。

 

「どうした?」

 

「フィールド先生が今すぐ来てくれって。事務室に。」

 

「兄さんが!?どうして。」

 

「とにかく、早く行った方が良い。」

 

「分かった。ありがとう。すぐ行くよ。」

 

俺は、兄さんのいる所まで一直線で行った。

 

「失礼するよ、兄さん。」

 

「ゼロか。夜遅くにゴメンね。ちょっと話をしたいと思ってさ。」

 

「それは別に構わないけど、何?」

 

「ホグワーツの代表選手の件だ。ゼロ、お前も知っての通りエリナとグラントに決まったわけだ。ムーディ教授は、誰かが2人を亡き者にしたい者の陰謀だとお考えだ。」

 

「?」

 

「最近、何か変化は無かったかい?」

 

俺が隠し事をしているのがバレているのか?ムーディがクラウチ・ジュニアだと確実に知っているのは俺を含めて3人。我が親友、ハリー・ポッター。学年1の才女、イドゥン・ブラックだけ。3人だけの秘密にしておこうとしたわけだ。

 

「ううん。何にも。」

 

「そうか。」手掛かりがつかめないなという顔を兄さんはしている。

 

「ただね。」

 

「?」

 

「ハリーが妙な事を言ってたんだよ。」

 

「ハリーが?」

 

「あいつ、魔力感知が優れてるじゃん。特に、1度知り合った魔力を持った存在はより正確に把握出来るって。」

 

「確かに。」

 

「夏休みに、1度ムーディ先生と出会っているんだってさ。」

 

「シリウスの新しい職場が闇払いだからな。それは有り得る話だ。」

 

「学校に来てからの魔力が根本的に違うって。」

 

「!?本当か?」

 

「本当だよ。嘘を言ってるとは思えない。でも、中々尻尾を出さないんだ。」

 

「そうか。私の方でも調べてみよう。そうそう。レイブンクローでのエリナやグラントへの態度を改めるように働きかけてくれるか?生徒という軽いフットワークを持つ者でなければ務まらないんだ。」

 

「もうやってる。エリナはどうにか出来そうだけど、グラントは無理そうなんだ。」

 

「やはりな。スリザリンを悪く思っている者は少なくない。幾分か他の寮との衝突も少なくなってきてはいるけど、どうしても1000年続いた因縁を扶植するには時間を掛けるしかないからな。出来るだけ抵抗してくれ。」

 

「分かったよ。それじゃ、失礼。」

 

「お休み。ゼロ。」

 

扉を閉めて、俺はレイブンクローの談話室へ帰っていった。

 

エリナ視点

11月1日。日曜日。何でこんなに惨めな思いで過ごさないといけないんだろう?ボクが起きてくると、また拍手が起こった。皆、ボクが入れたって思ってるんだ。そんな状況に耐え切れず、ボクは談話室を出た。

 

湖の畔で1人佇む。パパ、ママ。どうして、どうしてこんな事になったんだろう?誓って入れてない筈なのに、選ばれるなんて。それでも、数は少ないけど味方がいるだけまだ幸せかもしれない。

 

11月2日。月曜日。学校の皆は、少しはこの状況に慣れたかなって思った。でも、その認識が甘かった。スリザリンの半数以上から悪感情を抱かれ、グリフィンドールからは敵意を向けられ、レイブンクローから軽蔑の眼差しを送られる。でも、あらかさまにそうしてくるのは本当にボクを快く思ってない人だけだった。後は、睨み付けられたり口を利かないとかだった。ハリーやハーミー、ネビル、ジニーちゃん、エックス君がグリフィンドールを、ゼロとシエルがレイブンクローを何とか説得してくれているので思ったほど状況は悪くなかった。スリザリンでもイドゥンやルインはやってないって信じてくれてる。それでも、最悪の状況じゃないだけで良い状態じゃないのは変わりないけど。

 

グラントは特に気にしていない。暴君な性格は知れ渡っていたし、何を今更と言った感じだった。でも、同時にアホの子の一面を持ってるので完全に嫌われているわけではない。そして、スリザリンでは英雄扱いされていた。よって、相対的に状況は良くなってるらしいとの事。

 

スリザリンと合同となる呪文学。パーキンソンがボクをますますからかってきているけど、その度にフィールド先生から雷を落とされていた。ついでにスリザリンが減点された。最初からそうなる事は分り切っているだから、よせばいいのにと思う。

 

「良いじゃないですか!この穢れた血が入ったポッターは、ズルをして代表選手になったのに!」

 

それを言い終えた瞬間、パーキンソンがハッとなった。フィールド先生が怒っている。静かだけど、尋常ではない程の怒りの感情を仮面の中に隠していた感じだ。それが剥がれようとしていた。どうやら、パーキンソンは過ぎた事を言ってしまったと悟ったようだ。

 

「まだそんな事を抜かしているのかお前は!!いい加減にしろ!!それに加えて差別発言までしやがって!!!スリザリン100点減点!!!次は無いと思え、パンジー・パーキンソン!」

 

やけにパーキンソンに厳しいのは既に分かっていた事だけど、めったな事が無い限りは今まで減点までは決してしなかった。パーキンソンはもう耐え切れないと言わんばかりに教室を出て行ってしまった。これは流石に気まずい空気となった。

 

「う~ん。これは。パンジーが悪いけど。難しいなぁ。」

 

「あの差別用語は流石に言い過ぎですよ。寧ろ、100点だけで済んでよかったと考えるべきでしょうか。」

 

「パンジーもさ。エリナに突っかかるとフィールド先生から怒りを買う事位そろそろ覚えた方が良いのに。フィールド先生って、エリナをこのクラスで誰よりも気に掛けてるし。どうしてなんだろう?」

 

「単純にゼロと交流が深いという理由が考えられますね。それと、ハリーの今の家はロイヤル・レインボー財団です。そこの会長のお孫さんとフィールド先生が同期且つ良きライバルだったそうです。」

 

「ハリーから聞いたの?イドゥン。」

 

「ええ。そうですよ。ルイン。」

 

その時、扉が開いた。グリフィンドールの3年生、コリン・クリービーが呪文学の教室に入って来たのだ。

 

「どうしたんだい?コリン。」

 

「フィールド先生。授業中にごめんなさい。代表選手は、すぐバクマンさんの所へ来て欲しいとの事です。荷物も全て持って。」

 

「了解。エリナ。グラント。行っておいで。君達に関しては出席扱いにしておく。パーキンソンは無断欠席だ。」

 

何も言わないでグラントと一緒に教室を出る。

 

「凄いよね。2人共。ハリーが目に掛けるだけの事はあるよ。」

 

「うん。どうもね。」

 

「あいつに宜しく言っといてくれ。」

 

「頑張って。」

 

写真撮影の前にインタビューがあった。でも、それが最悪だった。リータ・スキーター。いつかハリーが言ってた人の名前だった筈。内容がインチキだった。でっち上げの記事を書くんだよ。お陰で後日、ボクの肩身はますます狭くなったんだ。

 

インタビュー終了後、次は杖調べとなった。オリバンダーさんが担当してくれる事に。ここで、オリバンダーさんにお孫さんがいる事を知った。既に独立していて、杖の製作や販売、修復のみならず、魔法道具の修復も行っていると聞いた。

 

「マドモアゼル・デラクール。まずはあなたから、こちらに来ていただけませんか?」

 

デラクールさんは軽やかにオリバンダーさんの所まで行き、杖を渡した。

 

「フゥーム……そうじゃな。24センチ。しなりにくい。紫檀の木に……何とこれは…………」

 

「ヴィーラの髪の毛でーす。わたーしのおばーさまのものでーす。」

 

へえ。ヴィーラの血が入ってたのは本当だったんだ。後でハリーに教えてあげようっと。

 

「そうじゃな。ヴィーラの髪の毛を使って杖を作った事は無いが……わしの見たところ、少々気まぐれな杖になるようじゃ……しかし、人それぞれじゃし、あなたに合っておられると言うのであれば……」

 

オリバンダーさんが杖に指を走らせた。傷や凸凹を調べているみたいだ。呪文を唱えると、杖先から花がワッと咲いた。

 

「よーし、よし。上々の状態じゃ。」

 

オリバンダーさんは、杖をデラクールさんに返した。

 

「お次はクラムさん。あなたが来てください。」

 

クラムさんは杖をぐいと突き出した。ローブのポケットに両手を突っ込んで、しかめっ面で突っ立っていた。

 

「フーム。グレゴロビッチ製と来たか。わしの目に狂いが無ければじゃが。優れた杖職人ではある。ただ製作様式は、わしとしては必ずしも……それは良いとして……クマシデにドラゴンの心臓の琴線とみて間違いないかの。」

 

オリバンダーさんがクラムさんに尋ねる。彼は、ゆっくりと頷いた。

 

「あまり例のない太さじゃ。そして、かなり頑丈……26センチ……エイビス!」

 

小鳥が数羽出て来た。

 

「よろしい。これはお返しします。」

 

杖が返された。

 

「リドルさん。よろしいかな。」

 

一瞬、オリバンダーさんの表情が怯えた様に感じたのは気のせいかな?

 

「おお。これは。確かに覚えておるよ。トネリコの木にドラゴンの心臓の琴線。50センチ。荒くれ者にしか従わない。この杖ほどあなたに相応しいものはない。」

 

「へへっ。ありがとうございます。」

 

グラントが感じよく笑った。オリバンダーさんも、幾らか表情が和らいだようだ。

 

「最後にポッターさん。」

 

ボクは杖を差し出す。この杖は、3年前の夏休みに買った物なんだ。中々杖が見つからずに、永久にそうなのではと思ったんだ。そんな時に出会ったのがボクの愛用の杖。柊の木に不死鳥の尾羽。28センチで、良質且つしなやか。滅多に無い組み合わせだって言った。

 

この杖が不思議と言われているのは、それだけじゃないんだ。何と、兄弟杖が存在するって聞いた。それを持ってるのは、ヴォルデモートなんだ。

 

オリバンダーさんは、念入りにボクの杖を調べた。ついでに、垢も取ってくれた。杖からワインを出し、今も完璧な状態だと言ってくれた。思わず嬉しくなった。

 

その後に、写真を撮った。何の支障も無く物事が進み、解散となった。もう授業は終了してるので、大広間に直行した。後で呼び寄せ呪文の宿題やんないと。その前にご飯を食べよう。

 

ハリー視点

エリナとグラント。2人への風辺りが強くなる前に、早急に対処した甲斐があったな。エリナについてはどうにか分かってくれたけど、グラントは無理だった。それどころか、何でスリザリンを擁護するんだとか、スパイとか言いやがった。

 

最近、ロンの様子がおかしい。2人に敵対的な態度を取っている。あいつらに出来る筈が無いだろと強く言い聞かせても、分かろうとしない。

 

「頭では分かってるの。でもね、ロンは嫉妬してるのよ。周囲の人間が特別な存在ばかりだから。」

 

「どういう事だよ?俺は、好きでそうなったわけじゃないがな。そこまでしないといけないから。今度はヴォルデモートよりも厄介な存在までいるんだからな。」

 

「あなたはそう思うでしょうよ。あのね、ハリー。よく聞いて。ロンはいつもお兄さん達と比べられながら育ったの。それだけじゃなくて友達もそうなのよ。ゼロは幅広い知識を身に付けてるし、グラントは異常な身体能力を持ってる。エリナは生き残った女の子。そしてハリー、あなたはロンの親友なのに、いつもロンの何歩先をも歩いてる。彼はいつでも添え物扱いなのよ。今までそれに耐えて来られた。でも、今度ばかりはそうも言ってられないの。」

 

「…………」

 

ハー子とのやり取りの記憶が蘇ってくる。嫉妬…………か。

 

魔法薬学の授業。既に解毒剤の調合が完了し、グラントと会話している。

 

「スマネエな。余り力になれなくてさ。」

 

「気にすんなよ。気持ちだけで十分だ。薬草学の授業の時によぉ、ゼロが面々的にサポートしてくれって言ってくれたんだ。それによぉ、グリフィンドールに1人でも俺の味方がいるだけでも十分心が落ち着くんだぜ。ハーミーちゃんもな。」

 

「そういって貰えると助かる。今は、特にロンがな。」

 

「仕方ねえ奴だな。ハリーはアレだろ?ロンと決闘をやった罰則で、エリナちゃんをサポートするんだろう?」

 

「ああ。選手が禁止されているのは、先生からの支援全般。他の生徒の力を借りるというのは禁止になってないからな。」

 

「ポッター。君も随分と大変なんだな。今の状況、僕も思わず同情するよ。それにしても、全く。ウィーズリーの奴は。あいつはガキだね。」

 

ドラコも何とか終わらせ、俺とグラントの会話に参加する。

 

「終わったのか。」提出用の瓶に解毒剤を入れながら聞く。

 

「君から教えて貰った例の裏技を使ったらすぐにね。」

 

「成る程な。」ラベルに名前を書き、いつでも提出出来るようにする。

 

「第1の課題、分かったのか?」

 

「まだ分からねえんだ。早く、俺の編み出した新戦法を使いたのによぉ。」

 

「お得意の肉体強化呪文か?」

 

「それはよぉ、企業秘密だぜ、心の友よ。」

 

「当日までお楽しみってわけか。」

 

魔法薬学の授業も終わり、俺は教室を後にした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 見えない亀裂

僕は、平凡な人間だ。いつも、5人の兄や妹と比べられて育ったんだ。いいや、違う。僕自身で勝手に比べて来たんだ。首席且つ銀行務めで欠点とは無縁のビル。クィディッチのキャプテンを務めて今やドラゴンキーパーのチャーリー。生真面目で優秀、今年から魔法省から入ったパーシー。学校の人気者のフレッドとジョージ。唯一の女の子のジニー。僕は、家族の中で1番影が薄いんだ。

 

3年前。僕は、ホグワーツに行く事になった。中々コンパートメントは見つからなかった。でも、席が空いていた。この日、僕に友達が出来たんだ。『生き残った女の子』エリナ・ポッター、その兄で以前は日本に住んでいたハリー・ポッター。マルフォイを殴り飛ばしたグラント・リドル、戦闘一族の末裔ゼロ・フィールドと。有名人とインパクトの強い同級生と仲良くなった。僕は、素直に嬉しかった。寮はハリー以外とは別れたけど、以前と変わらずに接してくれたんだ。

 

授業の宿題もハリーが見てくれた。彼の教え方は分かりやすかったんだ。特に、魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術は得意そうだったんだ。特に後者は、下手をすればクィレルよりも詳しい。

 

ハロウィーンの時に、ハーマイオニーとも仲良くなった。そして、トロールを最終的に倒せた。始めて、4つの寮にそれぞれ所属する6人が共に戦い、本当の意味で結束した瞬間だった。他の寮でも友達が出来た瞬間でもあったんだ。個性的な5人と友情を育んだ僕。これで僕も、特別な存在になれる。そう思っていた。

 

1年生の時。ハリーがクィディッチの選手になった。親友が名誉を手に入れて単純に嬉しかった。本人は嫌がってたけど。

 

そして、賢者の石を守りに行く時の出来事。フラッフィーを手懐けたのはエリナ。悪魔の罠を切り抜けたのはハリー。箒の試練はハリーとエリナが担当し、ゼロが指揮を執った。魔法のチェスの試練は、グラントとゼロが連携して全て粉微塵にした。魔法薬のパズルを解いたのはハーマイオニー。クィレルを倒し、改心させたのはハリーとエリナ。服従の呪文で操られたハーマイオニーを無傷で元に戻したのはグラントとゼロ。

 

僕は、何も出来なかった。精々、ハーマイオニーを庇ってリタイヤした事位だ。

 

2年生になった。汽車に乗れずに待っていた時の事だ。僕は、バカな事をした。ふと思い付いた言葉が、後々皆に迷惑を掛ける羽目になったんだ。ハリーとゼロが散々対策を練っていたのに、エリナとグラントを巻き込んで車で学校へ。先生からは怒られてしまい、ハリーからもしばらく冷たい態度を取られた。翌日には、ママから吠えメールを貰う羽目に。

 

ハーマイオニーを穢れた血と呼んで侮辱したマルフォイを、クィディッチで完封なまでに叩きのめしたのはハリー。クィディッチの選手になったのはエリナとグラント。あらゆる呪文を習得、更には身体能力をハリーやグラントに匹敵するまでに高め、それに加えて動物の事を調べ尽くしたのはゼロ。彼は、蛇博士と呼ばれるようになった。見た事も無い魔法生物に懐かれ、育て始めたのはエリナ……僕は何も無し。

 

それに、秘密の部屋での騒動も僕は大して役に立たなかった。怪物の正体を特定したのはゼロ、その移動手段を見つけ出したのはハーマイオニー。日記のリドルとバジリスクの片割れを倒したのはハリーにエリナ、ゼロ、グラントの4人。そこに、ブラック姉弟も入れて6人。もう1匹のバジリスクを味方につけたのはエリナ。

 

3年生。吸魂鬼を撃退したのはハリーとゼロ。マグル界と魔法界の医療を両方勉強し始めたのはゼロ。ギャングの幹部になる為の礼儀作法を学び始めたのはグラント。逆転時計を使うのを許される位に成績が良かったのはハーマイオニー。シリウスの無罪を証明したのはハリーとエリナ。ジニーの総合的な成績を、トップ3までに引き上げたのはハリー。新しい脱狼薬を作って狼人間を過酷な運命から救い出し、勲章を貰ったのもハリー。これに関しては、シエルやルインの協力あってこそ出来た事で、その2人が勲章を貰ったのだ。

 

そして今年に入る。マグルの人を助けたのはハリー。ハリーよりも多くの無言呪文を会得したのはゼロ。服従の呪文に完全に抗う事が出来たのはハリー。マクゴナガル先生に、OWL試験でも通用するレベルと評価されたのはハリーとハーマイオニー。そして、2人よりも成績が良いゼロやイドゥンもそうなるだろう。代表選手になったのは、エリナとグラント。僕は…………

 

いつからだろうか。周りの人達が活躍する度に、僕の、この心が痛くなる様になったのは。英雄や天使と言われるエリナ。教え方が上手で、また切札と称され、それに見合う活躍をしているハリー。マグルと魔法、どちらの世界の知識も専門家レベルで詳しいゼロ。喧嘩が強くて乱暴だけど、何故か憎めない人柄のグラント。真面目な優等生のハーマイオニー。僕には、何があるって言うんだ?

 

誰か教えてくれ!僕も特別だって!!添え物やおまけ扱いじゃない、優秀な兄達の弟、ジニーの兄ではない、ロン・ウィーズリーだって言ってくれよ!!

 

ハロウィーンの代表選手が決まった時の事だ。ホグワーツの代表選手は、エリナとグラントに決まった。頭では分かってる。なのに、僕はあの2人がズルをしたんだと思ったんだ。あの2人は嵌められたと判断しているハリーとも口論になった。

 

「ロン。どこに行ってた?」ハリーが聞いた。その表情は、険しいものとなっている。

 

「ああ。やあ。」僕は答えようとする。

 

もう我慢の限界だった。いつも脚光を浴びるのは友達だけ。皆、僕の常に何歩先を歩いている。どうして皆ばかり。

 

「それじゃ、君の妹が選ばれたってわけだ。おめでとう。」

 

「おめでとう?どういう意味だ?」

 

「年齢線を越えられたのは誰1人いないんだ。ポッターとリドルを除いてね。フレッドとジョージでさえ出来なかったのに。透明マントでも使ったのかい。」

 

「透明マント如きじゃ、ダンブルドアの設定した線は越えられない。」

 

ハリーがキッパリと言った。

 

「ああ、そうだな。その手段だったら、ちゃんと話す筈だもの。あれなら、2人いっぺんに入るしね。共謀してやったんだ。」

 

「ロナルド。」いつもの愛称ではない。本名で呼んだ。

 

「いいか。エリナとグラントにそんな芸当は出来やしない。あいつらは、嵌められたんだ。」

 

「何の為に?」

 

「エリナに関して容易に想像がつく。ヴォルデモートか、死喰い人の陰謀だ。連中からすればな、破滅の原因となった人間を殺したいって思うのは当然だろうが。」

 

「じゃあ、あの腐れスリザリンはどうなるんだよ!?例のあの人の子供かも知れないのに!何でやってないって言い切れるんだよ!」

 

「グラントに関しては分からない。だが、今までの奴の行動パターンを見ているから直感で分かる。あいつは、良い意味でも悪い意味でもバカだ。それに、ヴォルデモートと違って対等な仲間がいる。俺は、あいつと拳でやった事があるから分かるんだ。どうやっても、グラントはしてないってな。」

 

何で君は、あいつら2人をそこまで信じられるんだよ?今は、この僕よりも。

 

「明日にでもなったら、本当の事を話させる。賞金1000ガリオン、期末試験も無し、ダンブルドアが出させるようにしたんだ。きっとね。」

 

「まだそんなふざけた事を抜かすのか!?」

 

ハリーが壁を叩いた。

 

「2人に出来るわけないだろうが!」

 

「フーン。オーケー。昨日のうちに入れたんだな。そうだ。そうに決まってる。僕だってバカじゃないぞ。」

 

「バカの物真似が上手いんだよ。お前は。」

 

その言葉を聞いて、僕はカチンときた。

 

「そうかい?それなら、どっちが正しいか戦おうじゃないか。それで白黒つけてやるさ。」

 

「望むところだ。」

 

「明日の正午。禁じられた森の入り口で。」

 

「…………」ハリーが沈黙している。肯定したと受け取ったのだろう。

 

そして、翌日の正午。指定した場所に向かう。僕が来てみると、既にハリーは来ていた。ハリーは右手に杖を持っている。僕達はお互いに目を合わせる。3歩下がって一礼した。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!!」

 

僕は呪文を唱えた。ハリーは呪文を詠唱しないで魔法を出した。相殺された。

 

「ナメクジ食らえ!」

 

2年前にマルフォイに掛けようとした呪文を、今度は親友に向けた。

 

「…………」

 

ハリーはまたも無言で杖を振り上げた。そして、僕の呪文は防がれてしまったんだ。

 

「ロナルド。無駄だ。諦めろ。お前が口を閉じて、心を閉じない内は、何をやっても無駄だ!」

 

「うるさい!この呪文で黙らせてやる!!」

 

ハリーが最近作った魔法。必死になって覚えた僕の得意技。これで終わらせてやる。

 

重力弾(グラビボム)。」

 

重力を凝縮した、小さな黒い球を杖から作り出す。そしてそれは、どんどん大きくなっていく。まるで、『()()()()()()()()()()()()』。ハリーは、かなり動揺している。

 

「な、何であいつがあの呪文を!?チッ、仕方が無い。アレを相殺するには、俺も!!」

 

ハリーは、杖を仕舞った。代わりに、また別の杖を左手で持った。

 

天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!!!」

 

ハリーの杖から黄金の電撃が生成され始めた。やがてそれは、僕の呪文と同じ位の大きさの電撃の球体となった。

 

「ハリー!!!」

 

僕は、重力弾の発射が完了したので、放とうとした。

 

「ロナルドォ!!!」

 

ハリーも電撃の球体を形作るのを終えたらしく、杖から放とうとする。

 

「絶対に勝ってやる!僕が正しいって事を証明してやるんだ!」

 

「ふざけんな!この分からずや!!」

 

そうして、2つの呪文はぶつかろうとしていた。

 

ハーマイオニー視点

昨日から、ハリーとロンの作り出す空気がかなり重いものになっていた。談話室からも聞こえる位の口論に発展していた。流石のグリフィンドール生も、エリナやグラントを罵倒するどころの状態では無いと悟っている。

 

ハリーは、エリナとグラントは入れてない、寧ろ誰かの陰謀だと言い張っている。それに対してロンは、2人がズルをしたと思い込んでいる。

 

私は、これについてはハリーが正しいと思っている。

 

翌日の朝、マクゴナガル先生の所に行った。昨日のハリーとロンのやり取りを報告した。

 

「そうですか。ポッターとウィーズリーが。」

 

「あの2人、今ギクシャクした関係になっているんです。ついこの間まで、あんなに仲が良かったのに。」

 

「ミス・グレンジャー。熱い友情程、壊れるとそう簡単に治らないものなのです。何があっても目を離さないようにして下さい。私の方でも注意深く見ておきますから。」

 

「はい、分かりました。」

 

教室を出る。ロンとすれ違った。何時に無く真面目になっていた。

 

「何があったのかしら?」

 

ロンの後ろを付いて行くことにした。20分して、ロンが足を止めた。ここは禁じられた森の入り口。そこには、既にハリーがいた。

 

何をするのだろうと隠れながら見て見る。一礼の動作で分かった。2人は決闘するつもりなんだわ。

 

戦いを見ている。終始、ハリーが優勢だった。ロンの呪文をハリーが無言呪文で相殺する。当然よ。ハリーはホグワーツに来る前から魔法の訓練を、そしてロンよりも圧倒的に実戦に慣れているもの。能力と経験が桁外れよ。

 

ロンが見た事も無い魔法を出した。それは徐々に、人に向ける大きさではなくなっていた。ハリーもそれに対抗するべく、天魔の金雷を大きな雷の玉にしていた。

 

「や、やめて……」

 

2人が戦って何になるのよ。こんな無意味な戦い…………

 

「絶対に勝ってやる!僕が正しいって事を証明してやるんだ!」ロンが吠えた。

 

「ふざけんな!この分からずや!!」ハリーが負けじと言い返した。

 

それぞれの魔法は、いつでも発射可能な状態にまでなった。止めないと!

 

「やめてよ2人共!」

 

私は、2人の間に割って入る為に駆け出した。

 

ハリー視点

これで、いつでも発射が完了だ。あの重力弾。あの大きさなら、人を簡単に消せるレベルだ。ロンの奴、俺を殺す気か!?

 

雷の玉を発射した瞬間、誰かが割り込んできた。

 

『な!?は、ハー子!?どうして?…………いいや。まずは術を止めないと。神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)を出さないと!』

 

「ああ!もう発射しちゃった!間に合わないよ!」ロンとしても想定外な事態のようだ。

 

「ハー子!今すぐこの間から離れろ!危ない!!」

 

俺は、力一杯叫んだ。

 

「間に合ってくれ!アル……」

 

だが、2つの呪文は衝突もせず、かと言ってハー子にも当たらなかった。それぞれ別方向に弾かれ、誰もいない校庭の地面に衝突。2つのクレーターが生じたのだ。マクゴナガル先生と、フィールド先生、スプラウト先生、スネイプの4人がいたからだ。

 

「一体全体これはどういう事ですか?2人共、ご説明なさい。」

 

「君達。喧嘩にしては、少しやり過ぎだ。後ちょっとでも遅かったら、ハーマイオニーは死んでいたんだよ。」

 

これは、完全に俺が悪いな。

 

「すみませんでした。」

 

「何があったか説明してくれる?」

 

「……昨日の炎のゴブレットから出てきた代表選手の件で揉めました。ロンは、エリナとグラントがズルをしたんだとか言ってきたんです。私は、3年以上前から交流をしてましたが、とても2人がそんな事をするようには見えなかったのです。」

 

正直に言おうか。ロンは言いたくないだろうし。

 

「ウィーズリー。あなたから言う事はありますか?」

 

「…………」ロンは黙っている。

 

「黙っていては何も始まりませんよ。」

 

それでも黙っているロン。マクゴナガル先生は、溜息をつく。その状況をじっと見ていたフィールド先生が口を開く。

 

「ハリー。君は少々1人で突っ走り過ぎだ。我々としても、エリナとグラントが入れたとは思っていない。だけど、本当にズルをして入れたという考えがいる人もいるから、そこを考慮した行動をとるべきだったんだ。」

 

「申し訳ありませんでした。然るべき処罰は受けます。」

 

「そしてロン。あの2人は、君の大切な友人なのだろう?何故無実を訴える彼らをもっと信じてやらない?あの2人、今思った以上に追い詰められているんだ。それにさっきの呪文、あれは人に向ける大きさじゃないよ。」

 

「…………」

 

「ハーマイオニー。ハリーやロンを止めようとしたのは本当に良い事だ。だけど、自分の命も大事にするように。次は、本当に死ぬよ。」

 

「ゴメンなさい。」

 

「マクゴナガル先生。この2人の処罰はいかがいたしますか?」

 

「そうですね。まず、1人20点ずつ減点。本来なら50点ですが、状況が状況です。そして何より、ミス・グレンジャーは2人を庇うでしょう。」

 

「そうですか。」

 

「次に罰則。ポッターは、代表選手に選ばれたエリナ・ポッターの全面的な支援をさせます。ウィーズリーは、ハグリッドの手伝いをさせます。ポモーナ、それで良いですか?」

 

「ええ。悔しいですが、ハッフルパフ生よりも彼女の手助けがしやすいのは双子の兄であるミスター・ポッターが適任ですからね。それはそうと、セブルス。ミスター・リドルはミスター・フィールドと仲が良いではありませんか?彼にサポートを頼んだらどうです?魔法薬学の時に。」

 

「うむ。そうでしょうな。聞いてみますぞ。」

 

一歩間違えたら人が死んでいたかも知れないのに、これで良かったんだろうか。何か、見えない内に亀裂が広がりつつある気がする。

 

「ハリー。ロン。行きましょう。ここでケンカしてたって意味が無いじゃない。」

 

「ハー子。ゴメン。俺、下手をすれば殺しかける所だった。」

 

「気にしないで頂戴。それよりも、あなたに出された罰則、というか実質の指令を実行する方が今は大切よ。良いわね?」

 

「ああ、分かっているさ。」

 

「ロン?ロン!行きましょう!」ハー子がロンに声を掛ける。

 

でもロンは、2つのクレーターを見ていた。

 

「僕の方が……小さい。ハリーのが大きい。それだけじゃない……あれ以上の術まで持ってるなんて……ハリー。何処まで僕の先を行くつもりだよ?」

 

大きいクレーターと小さいクレーター。それぞれ、天魔の金雷と重力弾によって生じたものだった。

 

俺は、その光景をぼんやりと眺めていた。本格的なケンカは、こうして幕を閉じた。だが、俺は知らなかった。こんなのはまだ序の口に過ぎないと。そして遠くない未来で、再び…………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 第一の課題

1994年11月22日。朝食を食べていると、エリナが血相を変えて後で話があると言ってきた。タダ事ではないなと思いつつ、さっさと食べ終えて約束の場所である湖畔へ向かった。エリナが第一の課題を教えてくれた。

 

「ハリー。第一の課題はドラゴンなんだ。ボク、ドラゴンを出し抜かないといけなんだよ。」

 

悲鳴を上げる様にエリナがそう言った。

 

本来、課題は当日まで知らない事になっている。が、カンニングなんて過去の試合でもザラに起きているんだ。今更咎める気は全く無い。寧ろ、こういう対抗試合を制するのは情報なのだ。情報は時として、どんな武器よりも強くなりうる力を持っている。

 

エリナは、グラントと共にハグリッドから試験の内容を教えて貰った。しかも、マダム・マクシームも一緒にいた。そして、カルカロフも盗み見たのだ。

 

「それとね。ボクの名前をゴブレットに入れたのはカルカロフ校長かも知れないってシリウスが言ったんだ。」

 

エリナの味方は少ない。それも、全幅の信頼を置けるものとなるとほんの一握りなのだ。だが、エリナにはシリウスという味方が外にいるし、俺を通してロイヤル・レインボー財団も味方なのだ。

 

シリウス曰く、カルカロフは変態ヘビの配下だったようだ。しかし、仲間を売るという形で司法取引を行い、娑婆に出られたとの事。この時点で俺の中のあいつの評価は落ちた。まるで、奈落の底の様に。ムーディが教師になったのも、奴の監視も兼ねてとの事だそうだ。本物ならそうだろう。しかし、偽物はそうとも限らないけどな。

 

「どうすればドラゴンを出し抜けると思う?ハリー。」

 

「ドラゴンは強力な魔力を持っている。だから、殆どの魔法は無効化される。死の呪文でさえ、何発も同じ所を当てないといけない位だからな。連中は、殆ど魔法使いを殺す為に生まれて来てるようなもんなんだよ。真正面から立ち向かえるのはグラントだけだ。」

 

「うん。」

 

「俺ならな。ドラゴンの眼に対して結膜炎の呪いを当てる。そうじゃないとしても、視力を奪ったり出来る眼に対しての攻撃はとても有効だ。習得もそう難しくないから、今から練習するように。」

 

「分かったよ。」

 

「それにだ。エリナの強みを生かす方法で出し抜く手段がある。」

 

「え?本当!?」

 

来い(アクシオ)!レッドスパーク!!」

 

俺の手にレッドスパークが飛び込んできた。

 

「呼び寄せ呪文!」

 

「そう。今年必要な修得呪文の1つ。これなら修得は間に合うぜ。これで箒を呼べばいい。」

 

「出来るかな?」

 

「出るんだろ?当日まで足搔くのもアリだよ。思いっ切りやってから後悔する方がスッキリする。そして、もう1つの手段。変身術を使うとかな。囮を出したり、ドラゴンと同等に戦えるまでに体を変化させたり、手段は色々さ。どれを使うかは知らんけど。」

 

「分かった。やってみるよ。」

 

「言っておく事がある。」

 

「なぁに?」

 

「ベストを尽くせ!そうすれば、誰もお前の事をバカにする奴は1人もいなくなる。そいつらを見返してやれ。」

 

「ありがとう!」

 

早速、対策し始めた。細胞分身を使わせて、呼び寄せ呪文を唱えさせる。どれか1人が成功したら、還元。本人でも出来るか試す。今度は、より難易度の高い物を呼び寄せる様にするの繰り返しだ。

 

*

 

一方のグラント。彼は、ゼロと共にドラゴンを出し抜く方法を模索していた。

 

「やっぱりよぉ。正面突破の方が良いんじゃねえか?腕っぷしは自信があるんだ。」

 

「確かにお前なら正面から立ち向かえるかもしれないな。だから、それも視野に入れる。だが、お前には動物変化能力があるだろう?それを使うという選択肢も出来るんだ。」

 

「お、おう。」

 

「それに、結膜炎の呪いを習得して貰う。ドラゴンの眼には最適な効果を発揮するんだ。」

 

「分かったぜ。」

 

「そしてこれを。」

 

ドラゴン図鑑をグラントに手渡すゼロ。

 

「課題で利用されるドラゴンはメスだ。ドラゴンのオスの姿を、出来る限り記憶しておけ。記憶は良い方なんだからな。」

 

「任せとけ!暗記は得意なんだぜ!!」

 

グラントは、ドラゴン対策を練り始める事に。普段の授業よりも集中していた。それを見つめるゼロ。

 

「これ位の集中力なら中の上は取れるのに。普段からこうしてくれるとありがたいんだが。」

 

呆れながらも、ちゃんとグラントのサポートに徹するゼロ。ムーディが偽物と知りながらも、ヴォルデモートを一網打尽にする為とは言え、友人を結果的に危機に陥れようとしている事に対しての贖罪をしていこうと決心したのだ。

 

*

 

2日経った。いよいよ、第一の課題の日となった。エリナとグラントは緊張している。それぞれ、俺とゼロがマネージャーの役割をこなしていたので、何とかモチベーションを上げてやろうと奮闘した。

 

この日は、半日で授業が終わる。昼食を食べている時の事だ。

 

「ご飯が進まない。」緊張の余り、殆ど手を付けていないエリナ。

 

「それでもだ。食べておけ。ここまでやれる事はやったんだ。挑戦する時にぶっ倒れたら元も子も無いぜ。」

 

「うん。」エリナは、無理矢理トーストを口に入れて、ミルクで押し込んだ。

 

食べ終わった後に、大広間からスプラウト先生がやって来た。どうやら、エリナを探していたようだ。それと同時に、グラントの方にもスネイプが来ていた。

 

「ここにいましたか。ミス・ポッター。代表選手は、すぐに競技場に向かわないといけませんよ。第一の課題の準備をしましょう。」

 

「はい。」

 

「行って来い!エリナ!!」

 

俺は、左手を突き出す。キョトンとしたエリナ。だが、エリナは右手の拳を握って、俺の突き出した握り拳とタッチした。

 

「大丈夫だ!ここまでキチッとやって来れたんだ!きっと大丈夫だよ!」

 

「うん。」エリナの声は、いつもと違っていた。

 

「それではスプラウト先生。エリナを、妹を宜しくお願いします。」

 

頭を下げた。

 

「お任せなさい、ミスター・ポッター。さあ、行きましょう。」

 

エリナは、スプラウト先生と一緒に大広間を出た。俺の所に、アーニー、ジャスティン、ハンナ、スーザン、ハー子、ネビルがやって来た。

 

「大丈夫ですかね。」

 

「まだ緊張してたみたいだけどな。」

 

「でも、ハリーと二人三脚でやって来たわ。」

 

「今は、あいつの成功を祈ろう、皆。さあ、観客席へ行こうか。」

 

俺は、観客席へと向かっていった。ハー子に、ネビルの近くに座った。ロンは、少し離れた所にいる。

 

「エリナ。グラント。」

 

「ネビル。あの2人なら大丈夫よ。」

 

「エリナは俺が、グラントはゼロがサポートしたんだからな。問題無い。あいつらは、ベストを尽くす!」

 

*

 

レイブンクローの観客席。ゼロは、今か今かと待っている。

 

「俺が参加するわけじゃないのに、緊張が止まらない。心臓がバクバクしてきた。」

 

「ゼロ。大丈夫?顔色が悪いわよ。」シエルが心配そうに言ってきた。

 

「悪い。問題無い。」

 

*

 

ここは、選手控え室の前。11月の外は、寒かった。

 

「さあ、落ち着いて。」

 

ボクの肩を、スプラウト先生が手を置いた。

 

「あなたのお兄様の言う通り、ベストを尽くしなさい。そうすれば、誰もあなたを悪く言いません。もし手に負えなくなれば、事態を収める魔法使い達が待機していますからね。大丈夫ですか?」

 

「はい。問題ありません。」

 

そう。ここまで努力してきたんだ。ボクには、たった1人だけ生き残ってる兄がいる。名付け親もいる。こうして心配してくれる先生もいる。仲間がいる。この場にはいなくても、ボクは1人じゃない。そう思うと、自然と落ち着いてきた。

 

ボクは、控え室のテントに入ろうとした。その時に、スネイプ先生と鉢合わせになった。

 

「ミス・ポッター。君の健闘を祈る。」

 

「ありがとうございます。先生。」お辞儀をして、テントに入った。

 

そこには、いつになく無口のグラント、やや青ざめた表情のデラクールさん、渋い顔をしているクラムさんがいた。そんな中でバクマンさんが入って来た。

 

「皆、楽にしてくれよ。これから、直面するものの模型を選んで貰う!さあさ、レディー・ファーストだ。」

 

バクマンさんは、ボクに袋を差し出した。ボクは手に突っ込んで、引いた。

 

最悪だ。よりによって最初に、4番。そう、ハンガリー・ホーンテール種を引いてしまったんだ。ハグリッドが密かに見せてくれた黒いドラゴン。あの時の記憶が蘇る。皺の刻まれた黒い瞼の下で、ギラリと光る黄色い筋を、ボクは思い出した。

 

皆が何を相手するのか決まった様だ。デラクールさんは、2番のウェールズ・グリーン普通種。クラムさんは、3番の中国火の玉種。グラントは1番の、スウェーデン・ショート・スナウト種。グラントは、更に青ざめた。最初に自分が1番なんてという顔をしている。それでも、ホイッスルが鳴ってから囲い地へと向かっていった。

 

グラント視点

俺が最初かよ。やべえ。緊張してきたぜ。だが、ここで本領を発揮しないと俺を献身的にサポートしてくれたゼロに顔向けが出来ねえや。だから、俺はやってやるんだ。

 

俺が戦うのはスウェーデン・ショート・スナウトと呼ばれるドラゴンだ。

 

『試合!開始いい!!!』

 

掛け声が響いた。ドラゴンが咆哮した。上等じゃねえか。真正面からやってやるよ!

 

細胞分身(セラーレ・ディバリット)!!」

 

ハリーが宿題掃除用に使っていて、前にあいつから教わった魔法を使う。すると、沢山の俺が出現した。

 

『オオットォ!?リドル選手が沢山出て来たぞ!彼は一体、何をする気でしょうか?』

 

「皆、アレをやるぞ!」

 

「「「「「「「「「オーッ!!!」」」」」」」」」

 

俺は、俺だけの持つ能力で自分の身体を変化させた。俺の分身達もそうだ。敵のドラゴンはメス。オスのドラゴンまみれにして逆ハーレムを味合わせるのさ。

 

『リドル選手!今度は、分身と一緒にドラゴンに変身したー!大きさからしてオスの個体でしょうか?いずれも、純血種であります!流石のスウェーデン・ショート・スナウト種も唖然としている!』

 

第1の限界突破(ファスト・リジェネレイター)!」

 

脳のリミッターを外し、身体能力を飛躍的に上昇させた。50倍だ。

 

本体たる俺は、分身の1人が変化したドラゴンに乗って、敵のドラゴンの所までジャンプした。そして、奴の顔に俺の脳のリミッター解除をした拳の一撃を食らわせてやった。

 

ドラゴンは吹っ飛んだ。俺は、地面に無事着地した。

 

「どうだ!邪魔する奴は潰す!それが俺のやり方だ!文句あっか!?」

 

ドラゴンは立ち上がって来た。本格的に、俺に敵意を表してやがる。ここから、本気で殺しにかかってるだろうぜ。ならば、次はこれだ。分身を解除した。

 

「へへっ。じゃあ、見せてやるぜ。俺の本来の戦いって奴をよぉ。」

 

地面に右手の拳を付けた。

 

第2の限界突破(セカン・リジェネレイター)!」

 

俺の新戦法、身体能力強化呪文の第2段階目を発動する。第1段階目に比べて、1.6倍に引き上げられているのさ。

 

「こうなった俺は、もう誰にも止められねえぜ!」

 

俺はダッシュした。もうドラゴンの懐まで来た。

 

「オラァ!オラァ!!」

 

パンチを2発食らわせる。ドラゴンが爪で俺を攻撃しようとする。もう俺は別の場所だ。遅いぜ。

 

「食らいやがれ!」

 

パンチやキックを食らわせる度に、別の場所に移動している。ドラゴンは、完全に俺が何処にいるのか分かんないようだぜ。

 

『ドラゴンがフラフラに!そしてリドル選手!目にも止まらないスピードでドラゴンを翻弄し、一方的に叩きのめしています!まさかの正面突破!熱い!熱過ぎです!!』

 

最後に渾身の一撃を食らわせた。ドラゴンは、ついにノックダウンした。俺は、すぐさま卵を手にした。

 

『やりました!最年少選手の片割れが!お見事です!グラント・リドル!お疲れ様でした!さあ、審査員の点数に入ります!』

 

試合が終わり、歓声が上がった。俺をボロクソに言ってたであろうハリーとハーミーちゃん以外のグリフィンドール生も、拍手していた。

 

ハリー視点

本当に正面突破で行くとは。まあ、あいつらしいと言えばそうなるがな。さて、審査員の点数に入った。インパクトが強いから、これは行けるのではないだろうか?

 

結果が出た。マクシーム、クラウチ、ダンブルドア、バクマンは8点ずつ。カルカロフだけ6点か。合計38点。最初はこんなものだろう。

 

次にデラクールの出番になった。途中、あいつのスカートが燃えて、バクマンがセクハラ染みた解説をした。それで女性陣が全員敵に回ったのは言うまでもない。俺からすれば、普段、周りの人間をぞんざいに扱っているツケが来たのだろうと割り切った。デラクールは、ドラゴンに対しては魅惑の呪文で対応していた。結果としては39点。まだ逆転は出来るだろうと言った感じだ。

 

3番目はクラム。結膜炎の呪いを使った。だが、それが不幸だった。ドラゴンが暴れ出して、本物の卵が半分割れてしまったのだ。これは点数に響きそうだな。それでも、途中までは完璧だったし、ちゃんと卵を取れたから凄いんだけど。点数は40点。何でこんなに高いかというと、カルカロフが10点を与えるという露骨過ぎる贔屓をしたからだ。ブーイングが響いた。

 

そして最後にあいつか。しっかりやれよ、エリナ。

 

エリナ視点

ボクの出番になった。相手はハンガリー・ホーンテール種。ホイッスルが鳴り、ボクは囲い地に出た。

 

『試合!開始!!』

 

来い(アクシオ)!プラチナイーグル!!」

 

呼び寄せ呪文で箒を呼び寄せ、手に収める。でもこれだけじゃないんだ。

 

「えい!」

 

岩に魔法を掛ける。1つや2つではなく、辺り全てに。ホッキョクグマ、サイ、狼、クロコダイル、ライオン、ゴリラ等々に変身したんだ。彼らを囮に使う。そして、もう1つ。

 

守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!!」

 

守護霊を加えての囮作戦を展開。その隙に、プラチナイーグルに跨る。そして、空を飛ぶ。

 

「さあ。ここから先は陽動作戦を展開するよ。」

 

ボクは、急降下した。動物に変身した岩や守護霊に気を取られている隙を見計らって、卵を奪い取る事にした。でもドラゴンは、ボクの方に狙いを定めてきた。

 

「だったら、出し抜く。」急上昇した。

 

そこから、城を駆け巡ってのエアチェイスが始まった。ドラゴンの炎が、ボクを焼き殺そうとしてくる。だけど、ブラッジャーだと思っていればあっさりと避けられた。徐々に、空でドラゴンを翻弄した。

 

「結膜炎!」ドラゴンの眼に当てた。

 

ドラゴンはもがき苦しんだ。そして、囲い地に墜落しようとした。まだまだ。

 

身体浮上(レビコーバス)!」

 

ドラゴンを宙ぶらりんの状態にした。そして、反対呪文で安全な場所に寝かせた。

 

来い(アクシオ)!!金の卵!」

 

金の卵を回収した。そして、地上に降り立つ。会場は、沈黙に包まれた。だけど次の瞬間、爆発したかと思う程の歓声と拍手が響き渡る。

 

『やりました!完全勝利です!最短時間を更新したのです!』

 

やった。取り敢えず、生き残れたんだ。

 

ハリー視点

そうか。それが答えか。俺の提案したものを全てつぎ込むとは。全く以って大した奴だ。さてと、エリナとグラントのとこへ行くか。

 

救護用のテントに来た俺。エリナは、特に怪我は無かった。消毒は受けていたが。グラントも元気そうだった。一気に疲労が来たらしく、今日中は安静にする様にとの事。

 

「良くやったな。お前ら。」精一杯の労いの言葉を掛ける。

 

「ありがとう。」

 

「俺、頑張ったんだぜ。」グラントが言った。

 

「凄いな。本当に作戦通り行くなんてな。」ゼロもテントに来た。

 

そこから人が来た。ハー子に、ハッフルパフでエリナと仲の良い人達、ネビル、そして少し離れた所にロンだ。

 

「ロン。言った方が良いわよ。」

 

「…………エリナ、グラント。君達を疑ってゴメン。僕はようやく、2人は嵌められたんだと気付けたんだ。」

 

「ううん。気にしないで。」

 

「そうだぜロン。もう過ぎた事は気にしねえよ!」

 

「ありがとう。」

 

いやあ、良かった。ロンとも仲直り出来て。無論、俺ともだ。これで、また元の6人組に戻れたわけだ。エリナの点数を見て見た。マクシームが9点、カルカロフが4点という事を除けば、全員10点満点をくれたわけだ。これで、エリナがトップに躍り出た。

 

ロン視点

僕は、非常に後悔した。ドラゴンに命懸けで立ち向かって行くエリナとグラントを見て、自分自身がいかに下らない嫉妬をしたかと。そして、それを真正面から教えてくれたハリーにも、申し訳なく思ったんだ。

 

僕は、謝罪をした。2人共、別に気にしてないからと笑って許してくれた。ハリーも、そこを知っといてくれたら良いんだと言った。仲直りの握手をした。

 

友人達の寛大さを見て思った。僕だったら、嫌味を言ってたかもしれない。誤ったのは、僕なりに責任を取ろうと思ったからだ。今でも、僕がいるから皆苦しんでしまうと思っている。僕がいるから彼らを苦しめるだけだと痛感したのだ。

 

このままじゃいけない、変わらないといけない、でなければこの胸の痛みは収まらないと思う自分がいる。その一方で、ハリーやハーマイオニー、ゼロ、グラント、エリナ、その他大勢の人とずっとこのまま友達でいたいと思っている自分がいるんだ。

 

結局、どっちつかずのままだ。僕は、何も出来ない。1人では無力だ。そう実感してしまった。

 

*

 

仮面の男、ダアトは密かにホグワーツに侵入していた。第一の課題を見ていた。

 

「久しぶりの三校対抗試合か。生き残った女の子と、全ての生命の頂点に君臨する、奴の最高傑作。成る程な。奴も良い人材を持っているではないか。そして……」

 

救護用のテントでのやり取りを見た。

 

「あの6人。4つの寮に見事に別れながらも、その絆は揺るぎないものだと思っていた。だが、見えない所で亀裂が生じているな。」

 

ダアトは、ロンを見る。

 

「ロナルド・ウィーズリーか。未だに、あの5人との関係は離れているようだ。かつてのお前みたいじゃないか。なあ、ワームテールよ。」

 

ワームテールと呼ばれたネズミ顔の男にそう語りかけるダアト。その表情は、どこか嬉しそうにしていた。

 

「はい。ダアト様。私めも若かったのです。」

 

「そうだな。そう言えば、例の計画はどうなっている?」

 

「順調でございます。闇の帝王は、エリナ・ポッターを使って復活するつもりです。」

 

「そうか。引き続き、奴の配下の振りでもしてろ。奴にとって、最悪の復活パーティーにしてやらねばな。俺の方は、少しロナルド・ウィーズリーに揺さ振りでも掛けてみるか。」

 

ダアトとワームテールは、吸い込まれる様に消えていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 ドビーとの再会

1994年11月27日。金曜日。俺は今、空き教室にいる。午前中で授業は終わり、自由時間なのだ。

 

「そろそろ来る筈なんだが。」

 

時計を見る。2時になるだろうか。第一の課題が終わった後、始まる前とは打って変わってエリナとグラントに好意的になっているホグワーツの連中。本当に掌返しが好きな奴等だ、と心の中で毒を吐いてやったよ。

 

そう思っていると扉が開いた。エリナ、そしてマリアがやって来たのだ。エリナは、金の卵を持っている。クワノールが不思議そうに見つめていた。

 

「ハリー。先日はありがとう。」

 

「まだそれを言う気か?ちゃんとアクションを取ったのはお前だろう?俺は、それをただ後押ししただけ。礼には及ばない。それよりも、次の課題に取り組んだ方が良いんじゃないのか?」

 

「そ、そうなんだけど……」それでも、エリナはどこか浮かれていた。

 

「お姉ちゃん。少しずつでも良いから取り組んだ方が良いと思う。」

 

マリアも、普段見せない優しい感情を見せながらエリナを諭した。

 

「この卵がヒントだって言うけど、開けると金切り声が聞こえるんだ。」

 

金の卵を見せるエリナ。一見何の変哲もない作られたものだ。

 

「1度ハッフルパフの談話室で開けてみたんだよ。開けると綺麗さっぱりの空っぽ。その代わり、世にも恐ろしい大きなキーキー声の噎び泣きみたいな音が部屋中に響き渡ったんだ。」

 

「それで、相談か。マリア、君はどうした?」

 

「魔法薬学の課題が出たからアドバイスを貰おうと思って……」

 

「そうか。学校生活はどう?」

 

「悪くない。でも、1人でいたいのに皆話しかけてくる。しつこい。」

 

「まあ、この学校の奴らって結構自己中なのが多いからな。寮監のフィールド先生に掛け合ってみようか?俺、あの先生には結構世話になってるし。」

 

「ありがとう。」

 

マリアが微笑んだ。俺としては、もう少し人に慣れて欲しいがな。だけどなぁ、無理強いさせると、かえって逆効果だろうし。難しいぜ、全く。

 

マリアの秘密を知ってるのは、この学校では俺だけだ。エリナにはショッキングな内容なので話してない。ダンブルドアのジジイや魔法省にも教えてない。彼女のイヤリングに強大なプロテクトを掛けておいたので、バレる心配はない。

 

マリア・テイラー。アメリカ出身。7歳の時にリチャード・シモンズに誘拐され、人魚の特性を持つDNA改造人間と化した。何故か、改造手術後の副作用が起こらなかった唯一の少女でもある。3年後に必死に逃げ切り、日本でロイヤル・レインボー財団に保護された。出会った時よりは随分と明るくなった。だけど、未だ人間に対しての恐怖心と不信感が勝っている状態なのだ。

 

「オーケー。と、その前にだ。耳塞ぎ(マフリアート)。」

 

会話を聞こえなくした。

 

「エリナ。卵を開けてくれ。周囲に被害は出ないから。」

 

「良いよ。」

 

エリナが卵を開けた。すると、キーキー声が空き教室に響き渡った。思わず、耳を塞いだ。エリナも然りだ。クワノールは、もっと苦しそうにしている。だが、マリアは何故か平気そうにしていた。

 

「もう無理!」エリナが卵を閉じた。

 

「バンシー妖怪の声みたいだったぜ。にしても、マリアが平気そうな顔をしているけど。」

 

「ばんしーばんしー。」クワノールが連呼している。

 

「途中で閉じちゃったんだ。聞こえてたのに。」

 

「何て言ってたんだ?」

 

「『探しにおいで、声を頼りに。地上じゃ歌は歌えない。探しながらも考えよう。我らが捕らえし大切な物。探す時間は……』ここで止まったの。」

 

「成る程。このキーキー声。れっきとした言葉だったってわけだ。しかも、地上ではまともな言葉にすらならない。あれ?どこかでそんな文献があったような……」

 

確か、何処かで読んだ筈なんだが。う~ん。人魚の特性を持ってるマリアが問題無く聞こえたって事に意味があるのだろう。人魚って、普通水に棲む種族だ。ヒトたる種族として認知されている。このキーキー声。もしかして、水の中で聞けって事か?

 

「試しに、水の中で聞いてみろよ。風呂の中なら大丈夫だろう?」

 

「うん。分かったよ。試してみる。」

 

「それじゃあ、マリア。課題を見て見ようか。」

 

「お願い。」

 

課題の内容は忘れ薬の事だった。これに関しては、かなり詳しい説明をした。そう、この薬はスネイプが好んで試験問題として出してくるからだ。マリア。流石レイブンクローに入っただけあって、知識の吸収と呑み込みが早い。俺の言った事を、あっさりとモノにしちゃったよ。

 

3時間後、空き教室を後にする。マリアとは、ここで別れた。早速課題に取り組んでいきたいと言い出したのだ。本当なら、厨房の場所を教えるつもりだったんだがな。

 

「マリアちゃん、行っちゃったね。」

 

「心を開いてるのは、俺に、エリナ。そして、何故かスピカとリブラ・マルフォイだけなんだよな。」

 

「スピカちゃんは、3年生までのドラコよりも第一印象は良いんだ。でも、どうしてハッフルパフなんだろう?リブラ君も、分からない所はゼロとシエルに聞いているみたいだし。」

 

「断言は出来ないけどな。恐らく、トンクスの母親の因子が強く働いたからじゃないかな?あの人はスリザリンでありつつも、純血主義を嫌ってたって、トンクス本人が言ってたし。」

 

「そう言えば、トンクスのママと、スピカちゃんとリブラ君のママは姉妹だったんだよね。絶縁してるけど。」

 

「そこにベラトリックスも入るけどな。黒姉妹って所か。3人共、シリウスとレギュラス、それにイドゥンにエックスの母親の従姉達だし。」

 

そう言いながら、果物が盛ってある器の絵まで辿り着いた。

 

「屋敷しもべ妖精さんからお菓子を貰うんだ。」梨をくすぐるエリナ。

 

隠し戸が出現。中に入った。そこで、沢山の屋敷しもべ妖精から歓迎を受けた。

 

「おい皆!ハリー様とエリナ様のお二方が見えたぞ!」

 

1人の妖精がキーキー声で周囲に呼びかける。

 

「ポッター兄妹がお見えだ!何かを渡すんだ!!」

 

5分後、俺とエリナの前に大量のお菓子と紅茶のセット、その他諸々の山が出来た。

 

「いつもありがとう、妖精さん。」エリナが言った。

 

「忙しいのに、邪魔しちゃってごめんよ。」

 

「いえいえ、とんでもございません!私達にはもったいない言葉でございます!」

 

折角なので、2人で平等に分け、魔法のバッグに仕舞った。そして、帰ろうとする。

 

「ハリー・ポッター様!エリナ・ポッター様!お久しぶりでございます。」

 

ある屋敷しもべ妖精が俺達の所に来た。

 

「ああ!た、確か!」

 

「ドビー!?」エリナが絶句した。

 

「はい!ドビーでございます!」

 

聞き覚えのあるキーキー声が聞こえた。

 

「ドビーめはあなた方に会いたくて、会いたくて。そうしましたら、あなた方の方からドビーめに会いに来てくれました!」

 

ドビーは俺達から少し離れた。そうしてエリナ、俺の順番に見上げ、ニッコリした。

 

「再就職先がここで決まって良かったな。」

 

「ありがとうございます。ハリー・ポッター。」

 

「何かこう、見た目が派手になったというか、何というか。ティーポッド・カバーの帽子って言ったら良いのかな?」

 

エリナは、今のドビーの容姿を分析している。

 

「はい!生徒の皆様が処分なさった物を、ドビーめがいただいているのでございます。そして、靴下が好きでございます。」

 

「エリナが吐いてた靴下か。もう1つは、ピンクとオレンジの縞模様。」

 

「今度、着られなくなった服を持ってくるよ。上半身ネクタイじゃ寒いだろうからね。」

 

「!ああ、エリナ・ポッター様。あなた様はなんとお優しい方なのでしょう!」

 

「そうだ、どうしてホグワーツに?」

 

ドビーは語る。エリナのお陰で自由にして貰った後、仕事を探していたと。イギリス中を旅していたようだ。各地での話もついでに聞いた。仕事が見つからなかった理由は、給料が欲しいからという理由で雇って貰えなかったそうだ。

 

「何か、周りの屋敷しもべ妖精達の視線が痛いんだが。まるでドビーを、未知のウイルスに感染した病人の様に見てるよ。」

 

「お仕事は、中々見つかりませんでした。しかし1週間前の事です。ウィンキーと共に、働き始めたのでございます!しかし、バタービールを飲んでばかりで全く仕事をしません。」

 

「そんなにアルコール度数は無かったはずだが?」

 

「いいえ。ハリー・ポッター様。人間は酔いませんが、屋敷しもべ妖精にはきついのでございます。」

 

「へえ。」

 

「お仕事の話に戻るのですが、ダンブルドア校長の所に行きました。あの方は、ドビーが望むなら支払おうと言ってくれたのでございます。」

 

あの爺さんも粋な所があるじゃん。

 

「給料の内訳は?」

 

「1週間に1ガリオンと、1ヶ月に1日のお休みでございます。」

 

「少な過ぎだよ。」即座に返した。

 

「うん。」エリナも同意見だ。

 

「校長先生はドビーめに、週払いで10ガリオン、週末を休日にするとおっしゃいました。」

 

だがドビーは、そこまでの暇やお金が出来たら恐ろしいとでもいう様に、ブルッと震えた。

 

「でも、ドビーめは値切ったのです。ハリー・ポッター様……。ドビーは、確かに自由が好きでございます。しかしそれ以上に、働く方が好きなのでございます。なので、そこまで欲しくないのです。」

 

「ウィンキーはどれ位貰ってるんだろう?」エリナが疑問を口に出した。

 

「多分貰ってないんじゃないか?あれだけクラウチが好きだったし。俺、個人の主義主張には口出ししないタイプだからさ。ただ、1つだけ分かった事がある。」

 

俺は、改まった表情でエリナとドビーだけに分かる様に言った。

 

「わ、分かった事?」

 

「それは何でございましょうか?」

 

「知れた事。屋敷しもべ妖精解放前線、いわゆる『反吐』に、特にハー子にここの存在を知られちゃいけないって事だ。」

 

高らかに宣言した。エリナ、何とも言えない表情になる。

 

「う、うん。ハーミーが知ったら、ここの妖精さんに何かとんでもない事が起きそうだよ。今の現状を何とかしたいってのは大いに賛成だけどさ。ハーミーのやり方は、ちゃんと救う対象を知ろうとしないで、ただ単に解放してあげるって言ってるようなものだもん。かえって逆効果だよ。」

 

「だな。人間的に言えば、とある宗教を信仰してる人間に、『その宗教の教えは邪道だ。だから、私の信仰する宗教に変えなさい』って言う独善的な改宗を無理やり迫ってる様なもんだ。だから俺は、あいつのその部分はダメだと思ってる。ドビーが特殊過ぎるだけだがな。」

 

まあ、何かのアクションを起こすってのは悪くない事だがな。と、心の中で付け足しておいた。

 

「そう言えばドビー。」

 

「何でしょう。エリナ・ポッター。」

 

「今ホグワーツにいるって事は、校長先生がご主人様って事だよね?」

 

「そうでございます!」

 

「という事はだ。以前は言えなかったフォイ家の暗部についても、好き放題言えるってわけだ。」

 

取り敢えずの確認という意味で、ドビーに聞いてみた。

 

「そうだと思います。今仕えているご主人様の事で、言いたい事が言えません。それが、屋敷しもべ妖精制度の一部でございます。私共は、ご主人様の秘密を守る為に沈黙するのでございます――でも、ダンブルドア先生はドビーめに、そんな事にこだわらないとおっしゃいました。」

 

ドビーが急にそわそわし始めた。もっと俺達に近くに来るように合図した。身をかがめて、ドビーが囁いてくれた。

 

「ダンブルドア校長先生は、私共に――その――ダンブルドア様は、私共がそう呼びたければ――老いぼれ偏屈ジジイと呼んでも構わないとおっしゃいました。」

 

流石に、それはここの妖精達、呼びたくは無いだろうなぁ。

 

「ですが、ドビーはそんな事はしたくないでございます。ドビーは、校長先生を尊敬しております。校長先生の為に、秘密を守るのでございます!そして……」

 

「そして?」エリナが言った。

 

「ドビーの昔のご主人様は、悪い闇の魔法使いだったでございます!例外はスピカ様とコーヴァス様の双子だけ!あの家を去る事になって、ドビーめの唯一の心残りはあのお二方がちゃんと幸せにやっているかどうかでございます。去年のクリスマスの事もありましたし。」

 

ドビーは、自分の大胆さに恐れながらも、本当にスピカとコーヴァスの事だけは心配そうにしていた。

 

「平気だ。ちゃんと生きてる。今年、入学してきたぜ。スピカはエリナと同じ、ハッフルパフに組み分けされた。コーヴァスはレイブンクローだけどな。君の、元ご主人の奥様の姉の1人の性質が、彼らに反映された結果だって俺は思ってる。」

 

「今度連れて来るよ。」

 

「エリナ・ポッター様!ありがとうございます!勝手に出て行った事を謝らなければ。前に元旦那様から罰を受けた後に、治療をしていただいた事もあります。その時のお礼もしなければなりません!」

 

「よっぽど、スピカちゃんとコーヴァス君の事は大切な存在だったんだね。」

 

エリナがしみじみとドビーを見つめる。

 

「ドビー。君から見て、スピカとリブラってどんな奴だった?」

 

「はい、ハリー・ポッター様。お教えします。お2人共、大変お優しい方々でございます。他の方と違って、屋敷しもべ妖精を卑しい存在だと認識せず、残酷にも扱わず、それどころかご家族と同じ位に丁重に扱っていました。スピカ様とコーヴァス様だけは、闇に行かずに幸せな人生を全うしていただきたいのです。」

 

「俺、あの2人はブラック家で言う所のシリウスみたいな奴かと思ったよ。でも、屋敷しもべ妖精にも愛情をもって接する姿勢は、レギュラスみたいだと思った。」

 

「言われてみると、確かにそうとも言えるね。ハリー。」

 

エリナも、的を射ているといった感じに表情になった。

 

「とにかくだ。そろそろ夕食を食べに行くよ。また時間があったら来るよ。ドビー。」

 

「ウィンキーにも宜しくって言っといて。」

 

「はい!ハリー・ポッター様。エリナ・ポッター様。」

 

「それじゃあ、屋敷しもべ妖精の皆、今日はどうもありがとう!夕食、楽しみにしてるよ。」

 

俺達は、厨房を後にした。後日、エリナはスピカとリブラを連れてきたようだ。2人とドビーは、出会った瞬間に再会を喜び合ったという。

 

ドビーが今までのお礼と勝手に出て行ったことに対する謝罪をしたそうだが、スピカは大して気にしてなかったようだ。コーヴァスは、幸せそうで何よりだし、いつでも会えるから大丈夫と言ったそうだ。

 

エリナ曰く、スピカはドビーに対して、今度は主従関係ではなく、対等な関係として交流を続けていこうと言ったらしい。コーヴァスもそれに頷いた。ドビーも、それに了承したとの事だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 予期せぬ課題

1994年12月。ある日の変身術の後の事。マクゴナガル先生が、グリフィンドール生全員を大広間に集めた。周囲がざわついている。

 

「クリスマスだからって浮かれ過ぎだ。」俺は、小言で言った。

 

あの後、エリナは湯船で卵を開いたそうだ。歌が聞こえたそうだ。

 

『探しにおいで、声を頼りに。地上じゃ歌は歌えない。探しながらも考えよう。我らが捕らえし大切な物。探す時間は1時間。取り返すべし、大切なもの。1時間のその後は――もはや望みはありえない。遅すぎたならそのものは、もはや2度とは戻れない。』

 

この歌の内容を要約すると、1時間以内に大切なものを水中から取り返せとの事だそうだ。それ以降は、2度と取り返せない。そう言えばエリナって、カナヅチだったよな。浮き輪ないと、プールに入れない程の。

 

それは良いや。なんたって、マクゴナガル先生が今にも話そうとしてるからな。

 

「皆さんにお話があります!」

 

それでも騒ぎ声が収まらない。

 

「クリスマス・ダンスパーティが近付いてきました。これは、三校魔法学校対抗試合の伝統でもあり、外国からのお客様と知り合う機会でもあります。さて、このパーティは4年生以上が参加を許されます。3年生以下の、下級生を誘う事は出来ます。ですので、夏休みで必需品として示した、パーティ用のドレスローブを着用なさい。」

 

そうか。ドレスローブってその意味があったのか。葬式ではなかったか。

 

「パーティは、クリスマスの夜の8時から12時まで行われます。それ以降は、寮に戻りなさい。」

 

「了解です!先生!」フレッドが言った。

 

「そういう事にしておきます。」ジョージも言った。この2人、抜け出す気でいやがる。

 

「ウィーズリーズ。それ以降も寮に帰らなかったら、罰則が来ると思いなさい。分かりましたね?」

 

大広間が大爆笑に包まれた。

 

「オホン。話を戻します。確かにクリスマス・パーティは――私たち全員にとって、勿論――コホン――あー――お若い皆さんにとって羽目を外す絶好のチャンスとなる事でしょう!」

 

その瞬間、辺りが騒がしくなった。そう言えば、先生って何気に髷を結ってる姿しか、俺は見た事が無かったな。

 

「しかし、だからと言って!良いですか!?決して、千年も続いたグリフィンドールの品位を貶めない様にするのです!そして、どんな形であれ、学校に屈辱を与えない様にしなさい!くれぐれも、程々にです!」

 

と、いうわけで解散となった。そのすぐ後、ホグワーツ残留組のリストを見てみたが、殆ど全員が残るようだった。

 

「エリナはすぐに決まりそうだが、グラントはどうかな?」

 

「ああ、それはその通りだと思う。あれで結構純情だからね。」

 

俺とロンで会話していた。

 

「誰か誘いたい奴出来た?」ロンに聞いてみた。

 

「まだ。ハリーは?」

 

「う~ん。分からないな。まあ、下級生は誘えるみたいだし、なる様にはなるんじゃないか?」

 

「君なら大丈夫だって。顔も悪くない。それどころか、何人か集まって来るって。」

 

「分からんぞ。そうとも限らないだろうな。」素っ気無く返した。

 

翌日、授業よりもパーティでだれを誘うかの話題になっていた。俺自身、パーティに関する興味は常人よりも無い。ただ、皆無というわけでもないのだが。

 

それから数日後、古代ルーン文字学の授業が始まる前の時だ。ロイヤル・レインボー財団から手紙が来たので、それを読む事にした。

 

「フム、なになに…………『前世の隠れ里という秘境に使者を送った。そこに住んでいる神人族に水人族、竜人族、巨人族と友好関係を築けた。有事の際は、我々と共に戦ってくれるとの事。そして、更に重要な情報も入手した。』」

 

よし、闇の陣営にアルカディア、PWPE対策はちゃんとできている様だな。そして、人狼もグレイバックの様な過激派以外は財団に味方してくれる。後、各国の魔法界にも状況を説明して協力まではしなくても準備をしておくように助言は行ったし。

 

「ジジイも真っ青だろうぜ。俺達が、ここまで準備してるなんて知ったらな。そして、躍起になって手段を選ばずに手駒にしようとする。ご苦労な事だ。自分が動く度に、状況を悪化させているんだからな。皮肉なものだ。」

 

良かった良かったと思いながら、授業の席に向かう。そこでイドゥンと隣になった。それにしてもあいつ、いつもと変わらない感じになっている。ダメかも知れないけど、パートナーとして誘ってみようかな?

 

『そうだ。古代ルーン文字でちょっと手紙を書いてみるかな。』

 

俺は、早速古代ルーン文字で羊皮紙にメモを書き始めた。

 

イドゥン視点

授業終了後、セブルスがクリスマス・ダンスパーティの概要を説明してくれました。その夜、誰が誰を誘うかの会話となったのです。

 

「あ~あ。誰から誘われるかな?うちの寮、代表選手がいるけど、果たして決まるかどうか。」

 

ルインがときめかせながらそう言いました。

 

「彼って、ああ見えて結構奥手ですからね。」

 

「アンタは良いわよ。顔も良くて、スタイルも良くて!性格も良くて!成績もトップで!!私なんて、私なんて、体重と筋肉しか取り柄ないんだもん!!」

 

ミリセントが私にそう言いました。もう女性として、誇ってはいけない所を誇ってるのは気のせいでしょう。

 

翌日、案の定と言いますか。ダンス・パーティの話題になってました。エリナは、男子生徒から声を掛けられています。恐らく、お誘いでしょうね。でも本人は、とても困惑してますね。傷つかないように、丁重にお断りしているではありませんか。ですが、私には誰からも誘われませんね。どうしたのでしょうか?

 

数日後の古代ルーン文字の授業が始まる前。たまたまハリーと隣になりました。彼は、私の方を少しチラチラと見ています。そして、何かを決心したかのように羊皮紙に書き取りを始めました。

 

『おや。ハリーは何をしてるのでしょうか?』

 

古代ルーン文字学の授業が始まりました。半分を過ぎた頃、ハリーから羊皮紙を渡されました。授業中に、邪魔してゴメンと言って。

 

「何でしょうかね?……これって、古代ルーン文字ですか?メッセージですね、これ。」

 

手紙にはこう書いてありました。『授業が終わったら、近くの空き教室でお話をしたいのですが宜しいですか?』と。はい、状況を察しました。

 

「成る程。そういう事ですか。ならば、私もそうしておきましょう。」

 

私も、受け取った羊皮紙の空白の部分に返事を書く事にしました。古代ルーン文字で。『ええ。大丈夫ですよ』と。それを、ハリーにこっそりと渡しておきました。

 

授業が終わり、荷物をまとめました。そして、指定された空き教室に移動したのです。

 

「イドゥン。来てくれてありがとうな。」

 

「構いませんわよ。どうせ、この後は授業ありませんし。夕食だけですもの。」

 

既にハリーは来ていました。いつもと違って緊張していました。顔には出してませんが、分かります。時々、彼とは図書館で互いに分からない所を教え合ったりしていますからね。特に、魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術に関しては私よりも詳しいのですから。

 

彼、教え方が上手です。魔法だけでなく、マグル世界の知識も幅広いですわ。ゼロに比べたら、専門性では一歩劣りますけど、それでも相当なものです。また、日本の魔法や陰陽術を教えていただいた事もあります。そのお陰で、式神や使い魔、封印術等もある程度使えるようにもなったのです。

 

それでいて料理の腕も上々です。可能であれば、ブラック家の専属料理人として雇いたいくらいですね。クリーチャーの仕事を奪いかねませんから、それはしませんけど。

 

「すう……はあ…………」

 

ハリーは、深呼吸をしています。気持ちを落ち着かせる為でしょうね。

 

「イドゥン。1つ聞きたいんだが、良いかな?」

 

「どうぞ。幾らでも答えますわ。」

 

少し安心したようですね。幾ら女性に対する興味よりも趣味や運動、食事に没頭してるとはいえ、彼は思春期ですからね。このやり取り、楽しくやらせていただきましょう。

 

「ダンス・パーティの相手って、もう決まった?」

 

いきなりそう来ましたか。反応を楽しむののアリですが、これは正直に答えましょう。

 

「いいえ。それどころか、私には誘いが来ませんわ。」

 

これは本当なのです。なので、ハリーが最初に誘ってきたのです。

 

「そ、そうなのか……」

 

「それで、ご用件がある筈ですわね。何でしょうか?」

 

ここまで来れば分かってきます。

 

「も、もしも……イドゥンさえ良かったら……ええっとぉ……俺と、ダンス…………俺とダンス・パーティで一緒に踊ってください!お願いします!」

 

ハリーが頭を下げました。そして、手も出してきました。空き教室には、誰も聞こえない様にしています。ですが彼は、少し恥ずかしがりながらも、それでいてハッキリと誘ってきました。

 

「ハリー。頭を上げてください。」

 

ハリーが普段のプライドをかなぐり捨てて、頭を下げたのです。それ相応に、私も応えないといけませんね。

 

「はい。こちらこそ喜んで。宜しくお願いします。ハリー。」

 

ハリーは面食らった顔となりました。まさか、一発でオーケーが出るとは思わなかったのでしょうね。彼にもこういう一面があったのは、新たな発見ですわね。

 

「あ、ああ……ありがとう。集まる場所はさ、また後日でどうかな?幾ら寮同士の衝突が収まってきているとはいえ、グリフィンドールとスリザリンだからさ。多分、良く思わない奴もいるだろうし。」

 

「そうですわね。集合場所は、パーティの日が近付いたらじっくり話し合いましょう。それと、当日まで秘密にするのはどうでしょうか?」

 

「オーケー。そういう事にするよ。今日は悪かったね。時間を取らせちゃってさ。」

 

「気にしないで下さい。では私はこれで。」

 

私は、教室を出て行きました。これは、秘密にしておきましょう。私とハリーは、特別友好関係が深いですが、寮全体ではそう言うわけにもいきませんからね。特にグリフィンドールでは、ウィーズリーが何か言って来るでしょうし。

 

ハリー視点

「まさか。本当にオーケーが出るとは思わなかったぜ。スリザリンの連中、俺がイドゥンを誘ったなんて知ったら、どんな反応をするのか分かったもんじゃないな。特に、スネイプには勘付かれない様にしよう。」

 

俺は、すぐさま大広間へ向かった。不思議とスキップしていた。

 

エリナ視点

ボクは、魔法薬学の授業を受けている。レイブンクローの人達と。解毒剤の復習をしている。ちょっと疑問に思った所は、隣にいるゼロに聞いたりしている。ハリーには及ばないけど、ゼロも魔法薬の知識は持ってるんだ。

 

ちょっと離れた所で、ザカリアスとレイブンクローの男子生徒の誰かが何やら言い争っている。それをしてる暇があるなら、さっさと終わらせちゃった方が早いのに。あ~あ。言い争ってた2人が、頭をスネイプ先生に押さえつけられちゃった。

 

それを見てると、ゼロが肩を触ってきた。

 

「エリナ。後で話があるんだが、良いか?」

 

ゼロがスネイプ先生に聞こえない様に僕の耳元で囁いて来た。

 

「うん。良いよ。」

 

ダンス・パーティの説明を聞いてから、ボクを誘う人がいた。誰も話しかけた事が無い人ばかりで、ボク疲れちゃったよ。ゼロは何だろう?

 

授業が終わって、大理石ホールでゼロが言ったんだ。

 

「もし良かったら、俺と一緒にダンス・パーティへ行こうぜ。エスコートのやり方は、兄さんから教わってるんだ。」

 

ストレートに言われた。でも、今までの人と違って知っている人だし、授業で分からない所も教わってるからね。悩むな~。ゼロは嫌いじゃない。友人としては最高だよ。

 

ボクはパーティが初めてだから、彼に恥をかかせちゃうんじゃないかと思っちゃうんだ。それに、今まで誘ってきた人の事を考えると罪悪感もあるし。う~ん。でも、その人達の事を考えるとゼロなら遥かに良いかなと思うボクなんだ。

 

ちょっと考えてみた結果、ボクの答えが出た。

 

「うん。良いよ。クリスマス・ダンスパーティの時はよろしくね。」

 

ゼロは、安心しきった顔をしていた。そしてニッコリと笑い、互いに手を取り合った。

 

スネイプ視点

ゼロ・フィールドが、エリナ・ポッターを誘ったと聞いた我輩。更に言えば、ハリー・ポッターとイドゥン・ブラックがパートナーになったらしいとの噂まで聞こえた。

 

「…………」我輩、苦々し気にポッターとフィールドを見つめる。

 

この2人、我輩の授業で全くミスをしないのだ。それどころか、我輩でさえ認めざるを得ない程のクオリティの高い魔法薬を作るのだ。特にポッターが。何とか、この2人の呼び出しの口実を作ろうとしても、マクゴナガル教授とフォルテに牽制される。更には、ダンブルドア校長にもだ。

 

それに、ポッターに何かあればロイヤル・レインボー財団、特にアラン・ローガーからの怒りを買う事になっている。いいや、既に買っているのだ。我輩の最大の過ちに対する償いも兼ねて、ダンブルドアの下にいるのに、余計な事は出来ない。直接的に敵対関係になってないだけ、まだ良い方なのだ。それ故に、我輩の心情はかなり複雑である。

 

「セブルス。朝食を食べないのですか?」

 

「それに、ハリーやゼロを殺意のこもった目で見ないでいただきたいのですが。ハリーは私が個人に気に掛けていますし、ゼロは私の弟ですのでね。」

 

スプラウト教授とフォルテが我輩を呼ぶ。特にフォルテは、こんな所で私情を挟むんじゃないという視線を送っている。我輩としては、君が言える事なのかと言いたかったが、彼には実力と気迫で完全に負けているので迂闊な事は言えない。胃が痛くなりそうだ。

 

「あの2人、どうやってパートナーを組んだのかお聞きしたいと思いましてな。」

 

それらしい事を言っておく。

 

「嘘ですね。あなたに私の開心術は効きませんが、表情だけで分かりますよ。自分の名付け子の姉は最も嫌いな人間の息子と、片や想い人に瓜二つの子は同僚である私の弟とパートナーを組んでいる。それが許せなくて堪らないと。」

 

見事に言い当てられた。

 

「良いではないですか、セブルス。」マクゴナガル教授が参加してきた。

 

「最近、グリフィンドールとスリザリンの衝突は少なくなり始めています。ミスター・ポッターとミス・ブラックには、更にそれを推し進めていく存在になって欲しいと思えば良いのです。」

 

「そうじゃ。わしら教師が出来なかった全ての寮の結束という偉業を、ハリーやエリナ達がやり遂げようとしておる。それを君の私情のせいで壊してしまったら、それこそ本末転倒じゃよ。」

 

ダンブルドアにここまで言われたらどうしようもない。

 

「良いかの、セブルス。この状況は君にとっては不本意じゃろう。それでも、普段通りの振る舞いで対応するのじゃよ。それに……」

 

我輩だけに伝わる様にダンブルドアが言った。実をいうと、ハリー・ポッターが憎いとかいう感情はそんなに無い。寧ろ今は、途轍もなく恐ろしいのだ。見た目はメガネだが、中身はリリーだ。いいや、それ以上に両親よりも伯父であるメイナードそっくりだ。

 

ポッターは我輩を、間接的ながら両親を殺した敵として見ている。ダンブルドアが何とかしようとしているが、全く効果は無い。それでも、復讐をしようとする素振りすら見せていない。今はまだ時期ではないとみてるのだろうか。それとも、我輩が死喰い人としてPWPEとかいう理不尽極まりない組織に嬲り殺しにされればいいと思ってるのか。

 

いずれにしても、闇の帝王が本格的に動き出すまでに何とか対策をしなければ。我輩の、今置かれている立場は他の死喰い人に比べたらかなり良い物ではあるものの、それでも最悪ではないが余り良くないのだから。

 

ゼロ視点

何とかエリナを誘う事に成功した。レイブンクローからは、抜け駆けをしたと非難されそうだな。最近、シエルが殺気立ってるし。

 

「うん。マグルの教育課程も何とかなりそうだね。そして、OWLの模擬試験も気を抜かなければ難無く合格は出来そうだ。ハリーやハーマイオニーもそうみたいだしね。」

 

「ほ、本当に受かるかな?」

 

兄さんが模擬試験を採点してくれた。全て、合格レベルに達している。

 

「サボりさえしなきゃね。どうせなら、満点を取れる様にしておこう。」

 

「オーケー。」

 

「今日はここまでだ。エスコートのやり方とか、礼儀作法も大丈夫だろう。後は、当日それが生かせるかどうかだな。相手が代表選手の1人なら尚更だ。さあ、今日はお休み。」

 

「お休み、兄さん。」

 

俺は、レイブンクロー寮に戻っていった。

 

グラント視点

「おい聞いたか。リドル。」

 

フォイが珍しく俺に話しかけてきた。

 

「んだよフォイ。俺は眠いんだよ。邪魔すんなら殴るぞ!」

 

「まあ聞けよ。エリナ・ポッターの相手が決まったそうだ。誰だと思う?」

 

「分かんねえ。」さっさと寝させてくれ。

 

「ゼロ・フィールドだ。スネイプ先生が魔法薬学の授業の後に聞いたから確かだ。」

 

「へえ。ゼロがな。俺もダラッてしてらんねえな。」

 

「良いかリドル。明日の夜、パートナーを見つけよう。互いに。」

 

「パグ犬と踊れば良いんじゃないのか?」

 

「実は誘いたい娘がいるんだ。」フォイが赤くなった。

 

「だ、誰だってんだ。」

 

「アステリア。アステリア・グリーングラスだ。」

 

「パグ犬よりはマシだな。」

 

「イドゥンを誘ってみたかったんだが、もう相手が決まってるらしい。噂によればポッターだそうだが。」

 

「ハリーもやる様になったじゃんか。」

 

「僕は別に良い。だけど、他のスリザリンの皆が知ったらどうなる事やら。そう言えばザビニが、レイブンクローの1年生、マリア・テイラーを誘いたいと言ってたな。」

 

「またあいつは女漁りかよ。しょうがねえ奴だぜ。だから女の子から嫌われるんだよ。でもまあ、マリアちゃんを誘いたいのは分からなくもないぜ。あの娘、綺麗だもんな。」

 

「別嬪とも言うな。滅多にいないよ。だけど、極度の対人恐怖症らしいな。それに、ポッターと親しいみたいだし。ハードルが高い。」

 

2人は思う。ちゃんとパートナー見つかるのかどうか。溜息をついて、就寝した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 それぞれのパートナー事情

学期最後の週。色んな噂が飛び交っている。ダンブルドアが、三本の箒から蜂蜜酒やバタービールを注文しているとか、『妖女シスターズ』というバンドの出演を予約したとか、そういう事は聞いている。

 

ビンズ先生、ムーディもといクラウチ・ジュニア、スネイプ、マクゴナガル先生辺りは生徒がクリスマスで浮かれていても授業を相変わらず続けていた。

 

尤も、それ以外の先生はフリータイムにしてくれたけどな。その中でも、フィールド先生の動機が酷かった。何でも、プレイステーションを取り寄せるからという理由だそうだ。それを必要に部屋でやるとの事。

 

クリスマスの1週間前に休暇となった。それに伴い、宿題もどっさりと出た。だが俺は、早々に出された宿題を完全終了させた。必要の部屋で、細胞分身を使ってね。その後、ルームメイトであるロンとネビルの宿題のフォローに回っていた。

 

「ここは……こうだな。」

 

「うん。分かったよ。」薬草学以外が芳しくないネビル。

 

「ゲームなんて全部終わらせてからにしろや。気が楽になるぞ。」

 

「今、そんな気分じゃない。」ロンが言った。

 

「はあ。全く。呆れたよ。」俺は、思わず溜息をついた。

 

「ねえ2人共。パートナーは決まったかい?」

 

ネビルが、俺とロンにそう聞いた。

 

「まーだ。ハリーもだろ?」

 

「もう決まってるよ。当日まで明かす気なんて無いけどな。」そうロンに答えた。

 

「ええ!?もう決まったの!?」ロンが驚いてるよ。まだ決まってないと思われてたのか。

 

「早くしないと不良物件しか残らねえぞ。フィールド先生に散々目の敵にされているパーキンソン辺りしかな。そんで、ネビルはどうなんだよ?」

 

「僕は、もう決まったんだ。」もじもじさせながら答えるネビル。

 

「やるじゃん。でも、当日まで内緒だろ?」

 

「い、今言って良いのかな?」ネビルがキョロキョロさせる。

 

「言いたくなきゃ、言わなくても良いけど。そういや、ハー子も誘われたんだっけな。秘密にしておきたいって言ってたぜ。」

 

「マズいマズい!早くパートナーを見つけないと!!」

 

ロンは、急いで部屋を出て行った。

 

「うん。言うよ。」

 

言う気になった様だ。いや別に、無理しなくて良いんだけどなぁ。そんなわけで、俺に囁いて来た。

 

「ジニーとね。一緒に行くんだ。」

 

「へえ。ネビル、俺は見直した。相当な勇者だとな。俺よりもグリフィンドールらしいや。でも、ロンの耳には入れない方が良いぜ。そう言う意味では、俺も反発を受けそうなんだけどな。」

 

「ありがとう、ハリー。君は誰と行くんだい?」

 

今度はネビルが聞いて来た。行った方が礼儀かな?という事で、今度は俺が教える。

 

「実はさ。ここだけの話。俺、イドゥンと一緒に行くんだよ。待ち合わせ場所も決めた。当日のパーティまで秘密にしといてくれるか?」

 

「え?まさか。スリザリンのイドゥン・ブラックと!?エックスのお姉さんと行くのかい?」

 

「?まあ、そうだけど。」

 

「噂は本当だったんだ!ハリーがイドゥンと一緒に行くって!!」

 

「そんな噂が流れてたのか。知らなかった。」

 

「でも分かったよ。宿題も教えて貰ってるし、いつもフォローしてくれてるんだ。絶対に言わないよ!」

 

「助かるぜ。そうして貰えると。」

 

その頃のスリザリン寮。男子の部屋。

 

「リドル――僕達は歯を食いしばってやらなければならない。」

 

難攻不落の砦に攻める前の軍隊の司令官の如く、ドラコ・マルフォイがグラント・リドルに言った。

 

「今日の夜――この部屋に帰ってくる頃には、どちらもパートナーを獲得している――良いな?」

 

「お、おう。何時に無くやる気じゃねえかよ。フォイ。」

 

「4年生以上の優良物件はもういないんだ。下級生をメインにしていこう。」

 

「お前の妹、誘って良いか?」グラントが確認を取った。

 

「何度も言った筈だ。別に構わないって。僕はアステリアを誘う。リドルも誰かを見つけろ。曲がりなりにも、代表選手なんだからな。」

 

「分かったぜ。フォイ。健闘を祈るぜ、俺は。」

 

「僕もだ、リドル。」

 

ドラコとグラントは別れた。

 

同時刻の女子の部屋。ルイン・ローズブレードは悩んでいた。もうパーティは近付いてるのに、一向に相手が決まらない。ルームメイトのイドゥンは、ハリーと行くと噂になってるそうだ。

 

「イドゥン。弟君紹介してよ~。」

 

「それは別に良いのですが、一緒に行ってくれるかどうかの保証はありませんよ?」

 

「それよりも、ハリーと一緒に行くって本当なの!?皆、その話で持ち切りだけど。」

 

「それは、当日になれば分かります。今はノーコメントです。さあさ、ルイン。エックスの所へまいりましょうか。今頃、大理石ホールにいる筈ですので。」

 

大理石ホールに移動したイドゥンとルイン。その後に、エックスが来た。

 

「どうしたの?いきなり話があるから来てくれって。姉ちゃん。」

 

「エックス。この後、何か予定はありますか?」

 

「特にないよ。ハリー先輩との修業も、今日は休みだし。」

 

「丁度良かったです。エックス、こちらルイン・ローズブレードという私のルームメイトです。」

 

「こんにちは。」ルインが挨拶をする。

 

「どうも。姉がお世話になっております。」頭を下げたエックス。

 

「あのね、エックス君。良かったら、ダンス・パーティの相手になってくれるかな?」

 

エックスはキョトンとした。しかし、すぐに答えを返した。

 

「はい。良いですよ。ジニーはネビルさんと、コリンはシエルという人と行くみたいで、僕だけ暇でしたからね。僕で宜しければ、お願いします。」

 

「ありがとう!エックス君!感謝するわ!」

 

「姉ちゃん。ルインさん。僕はそろそろ行くよ。じゃあね。」

 

エックスは、そのままグリフィンドールの談話室に去っていった。

 

「良かった!決まった。」

 

「そろそろ帰りましょうか。」こうして2人は、スリザリンの談話室に戻って行った。

 

その頃のレイブンクロー寮。今話題になっている人物が2人いる。ロジャー・デイビースと、ゼロ・フィールドだ。この2人の共通点は、共に代表選手のパートナーになっているという事だ。前者はフラー・デラクール、後者はエリナ・ポッター。

 

それぞれベクトルは違えども、美少女を射止めたのだ。故に、何かと顰蹙を買いやすい状況になっている。だが、ゼロの方は被害が少ない。元々、エリナとは常に親しくしていたのが大きいからだ。故に、致し方ないと割り切っている者が大多数なのだ。

 

しかし、ロジャーの方はそうもいかない。フラーのファンや追っかけから、恨みや嫉妬を毎日買っている。しかも、生来のナンパ気質のせいでそれが強いのだ。

 

「デイビース!お前は死ね!氏ねじゃなくて死ね!」

 

「フィールドはまだ良い。ポッターといつも一緒にいたからな。成るべくしてなった組み合わせだ!」

 

「だけどお前は抜け駆けしたんだ!許せねえ!ぶっ殺してやる!」

 

ナイフまで持ってる輩もいるので、始末に負えない。そうして、複数人のレイブンクロー生に追いかけられるロジャー。

 

「誰か助けてくれー!!」しかし、誰も助けてくれない。

 

ゼロ・フィールドは、身の危険を感じたので外にいるのだ。談話室にいたんじゃ、こちらの身が持たない。最近シエルからも睨まれている。宿題もあと少しで終わりそうなのに、あんな騒動に巻き込まれたくないと感じたゼロであった。

 

ハッフルパフ寮。エリナ・ポッターとセドリック・ディゴリーがそれぞれのパートナーについての情報共有をしていた。

 

「セドリックって、チョウ・チャンっていう人を誘ったんだね。」

 

エリナがセドリックに言った。

 

「まあね。そう言うエリナだって、ゼロ・フィールドから誘われて、了解を出さなかったかい?」

 

「それはそうなんだけど。」

 

「飽く迄噂だけど、ハリーはスリザリンのイドゥン・ブラックとパートナーになったそうなんだ。これって本当かな?」

 

「分かんない。ハリーも当日まで教えるつもりは無いって言ってたし。」

 

「もう1人の代表選手、グラント・リドルのパートナーって誰になるかな?」

 

「まだ見つかってないって。あと1週間なのに、そろそろ決めないとダメだって言ったんだけど。ハリーからマリアちゃん、ドラコ・マルフォイからスピカを紹介して貰うつもりだって。」

 

「スピカにかい?いやあ、実家が実家だからギャップが激しいんだとね。どうしてハッフルパフに組み分けされたのか、僕は未だに分からないんだ。」

 

セドリックが気難しい顔でそう言った。

 

「スピカの従姉って、ハッフルパフの出身だとは聞いた事があるんだ。ニンファドーラ・トンクスって人で。セドリックも、ディゴリーさんから聞いたら分かるかも。その人、闇払いだし。」

 

「うん。後で、父さんに聞いてみるよ。それで?」

 

「スピカのママとトンクスのママは姉妹だって。ブラック家の出身だってシリウスが言ってた。」

 

「そのトンクスのお母さんって人もハッフルパフ?」

 

「ううん。シリウスとエックス君以外のブラック家の人って皆スリザリンだったって。でも、家風になじめない、挙句の果てに、したくもない死喰い人との結婚を卒業と同時にさせられそうになったんだよ。だから、トンクスパパと駆け落ちしたんだ。」

 

「そのトンクスって人のお母さんも、結構波乱万丈な人生を送って来たんだね。」

 

ハーマイオニー視点

私は図書館にいる。宿題がもう少しで終わりそうなので、ラストスパートをかけるの。ハリーはもう終わらせた様ね。どうやってやったのかしら?幾らなんでも1日で終わる量じゃないのに。それを1日でやり遂げるなんて。

 

ハリーってその気になれば、イドゥンやゼロ同じ位の成績になれるのに、いつも手を抜いてばかりだわ。私の顔でも立ててるつもりなのかしら?本気で競いたいのに。

 

学年末試験の時に手を抜いて学年4位だから、本気になったらどうなる事やら。本人曰く、本当に取りたい資格や、進路に深く関わる試験の時は本気を出すって。マグルの教育課程や、OWLとNEWT位かしら?

 

図書館で会う度に、ダームストラングの代表選手、ビクトール・クラムとかなりの割合で遭遇している。どうしたのかしら?私を事あるごとに見てるような気がする。

 

宿題が完全に終わり、談話室に荷物を置いてから夕食を食べに行こうとする。すると、ビクトール・クラムが話しかけて来た。

 

「ちょっと待って下さい。」

 

「どうしたの?」

 

「お願いです。ヴぉくと一緒に、ダンス・パーティに行ってくれませんか?」

 

パートナーになってくれというお誘いだった。そう言えば、まだ決まってなかった。どうしようか迷った。

 

「ええ。良いわよ。」

 

私は、快く了解をした。

 

*

 

「アステリア。」

 

「どうしました?マルフォイさん。」

 

「君は、誰かに誘われたかい?」

 

「いいえ。何も無ければ帰ろうかなって思ってました。」

 

「も、もし良かったらさ……僕と一緒に行かないかい?エスコートのやり方は充分身に付いてるからさ。」

 

「本当に誘ってくれるんですか!?」

 

「ダメかな?それなら、無理にとは…………」

 

「お願いします。連れて行ってください!実は行きたいなって思ってたんです!」

 

「ああ。勿論さ!」

 

何とか、誘いたい人をパートナーに出来たドラコ。

 

「良かったわね。アステリア。」ダフネが言った。

 

「これで、お姉様と行けます!」

 

「実家の方に、アステリア用のドレスローブを送る様に手紙を書いておくわね。」

 

ダフネは、早速羊皮紙に手紙を書き始めた。何処か安心しきったドラコ。パーティに参加出来る事が確定して、有頂天になるアステリア。

 

後日、パンジー・パーキンソンからアステリアに向けての負のオーラが漂って来たのは言うまでもない。

 

グラントは、エリナに連絡を取ってスピカ・マルフォイを連れて来て貰う事にした。ホグワーツの厨房に通じるエリアで待ち合わせだ。

 

「来るか?まあ、エリナちゃんが何もしないとは思えないけどよぉ。」

 

10分後。スピカが来た。兄のドラコから誘っても良いという許可は出ている。

 

「あ、お兄様のルームメイトの人ですよね。」

 

「う、うん。」急にそわそわしたグラント。

 

「良かったらさぁ。ぼ、僕とパーティに…………」

 

普段の『俺』から『僕』に一人称が変わるグラント。パーティという名のデスマッチは何度も経験しているが、ダンス・パーティに異性を誘うなんて初めてなのだ。よって、この上なく恥ずかしがっている。

 

「誘ってくれるんですか?この私を?」

 

「だ、ダメ?」

 

「喜んで!良かった!ようやく誘われた!ありがとうございます!!!エリナさんに報告しに行こうっと!」

 

スピカは走り去っていった。グラントは、ガッツポーズした。

 

そして夜。グラントは、ドラコと共にお互いの成果を発表しあった。両者共に、最良な結果となったのだ。

 

「つーわけで、成功したぜ。」

 

「良かったじゃないか、リドル。」

 

「フォイも、アステリアちゃんを誘えたんだよな。でもよぉ、何でパグ犬が恨みのこもった目でアステリアちゃんを見てんだろう?不思議だぜ。」

 

「そ、そうだな。」

 

まだ、女心を分かってない2人であった。

 

*

 

「ハリー!助けてくれー!」

 

ロンが俺に泣きついて来やがった。

 

「何だよ?もう見つかったんじゃないのか?」

 

「断られてばかりなんだよ!ハーマイオニーは、もう誰かと行くって事になってるし!!」

 

「ふ~ん。つーかさ、こんな事態になるんだったら、なんでもっと早くやんなかったんだよ?俺はすぐに即断即決したのに。」

 

「誰か紹介してくれ!」何で俺なんだよ。

 

「エリナはゼロと行くって言ってたな。シエル……ダメだ。俺がコリンを紹介して、あいつと行く事になってる。ルインはエックスを誘ったってイドゥンが言ってたしなぁ。パドマは……ダメだ。コーヴァスと行くってパーバティ言ってったけ。おい、ロン。穴場でパーキンソンはどうだ?」

 

「正気か!?ドレスローブを笑われるよ!『あ~ら。これって100年前の骨董品じゃないの。こんなものしか買って貰えないなんて、ウィーズリー家って本当に貧乏なのね』って言われるに決まってる。」

 

「う~ん。確かに。本人達から聞いたが、ラベンダーはシェーマス、パーバティはディーンとだからなあ。となると……」

 

正直、ロンにマリアを紹介して良いのか分からなかった。

 

「いるのかい?」

 

「いるにはいるんだが…………」

 

ロンって、結構デリカシー無いからなぁ。マリアの対人恐怖症を、さらに加速させかねないな。恐らく。まあ、それは俺の予想であってどうなるか分からん。

 

「ちょっと聞いてみるよ。それでどうだ?」

 

「そうしてくれると助かるよ。後で結果を教えてくれ。」

 

夜も遅いので、また明日という事になった。ナイロックに手紙を渡して、マリアを呼び出すとしようか。そう思いながら、俺はベッドに潜り込んだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 後悔

1994年12月20日。大理石ホール。

 

「ハリー。どうしたの?」

 

「マリア。誰かに誘われた?」

 

「ザビニってる人がしつこく誘ってくる。しつこい人とは参加したくないのに。」

 

「そうか。あいつは処刑確定だな。」

 

ザビニには、地獄を与えてやろう。女癖の悪さに関しては、同じスリザリンでも酷評されてるし。その度に報復を受けているので、周囲は「またか。」と見るだろうしな。

 

「ダンスパーティの事だけどさ。行きたくないか?」

 

「本当は行きたい。だけど…………」

 

自分の正体を知られたくないのか。それはまあ、分かるな。背中の奴なんて、絶対に見せたくはないだろうし。

 

「じ、実はさ。俺の友達が、まだパートナー見つかってないんだ。無理にとは言わない。出来たら、そいつの相手になってくれないかな?」

 

ジッとマリアを見つめてそう言った。マリア、少々思い悩んでいる。だが、しばらくして俺に対してニッコリと微笑んだ。

 

「良いよ。参加する。」

 

「オーケー。俺からそいつに伝えとくぜ。」

 

マリアは走り去っていった。パーティに参加したいみたいだったな。本当に。これで、人との接し方を克服するきっかけになると良いんだがな。

 

「さて。ロンに早速伝えようか。それに、フレッドとジョージがカナリア・クリームを売りさばき始めると聞くし。」

 

早速談話室に戻って、ロンに報告しに行こうとした。が、その時にスネイプと遭遇した。何て最悪なタイミングだ。

 

スネイプ視点

散歩をしている時の事。たまたまポッターを見かけた。何をする気かは分からんが、とにかく後をつけてみる。

 

「大理石ホールでマリア・テイラーと会話!?しかも、テイラーが笑顔を見せているだと!?決して感情を見せない筈なのに、何故?」

 

マリア・テイラー。今年の新入生。レイブンクローに所属している。授業態度は至って真面目。授業の成績も良い方だ。但し、他の人間を拒絶しているのが玉に瑕である。唯一の例外はスピカ・マルフォイだけ。そう思っていた。今日までは。だが、ポッターに対しては完全に心を開いている。それこそ、スピカ・マルフォイ以上にだ。

 

そう思っていると、ポッターと鉢合わせになった。まただ。また我輩に死をイメージさせる程の殺意を見せているではないか。最近は随分控えているが、毎回の授業の度にアレでは我輩の身が持たなくなる。

 

「…………」ポッターは、無言で立ち去ろうとする。

 

「マリア・テイラーとはどういう関係だ?」

 

ふと思った事を聞いてみる。答えるつもりは全く無いだろうが。ポッターは振り向いた。去年ペティグリューに見せていた、赤い目をしている。メイナードと同じ。

 

「それを知ってどうするというのですか?まさか、無理矢理開心術を使って、対人恐怖症になった原因を探りたいとでも?それとも、私の人間関係にまで口を出すつもりで?」

 

口調こそ丁寧ではあるが、警戒心を解いておらず、敵意まで見せている。常に閉心術を使っていて、心までは読まれない様にしてはいるが、今の態度は開心術を使わずとも分かる。

 

「ミス・マルフォイでも、あそこまで感情が豊かにはならない。教員にも必要最低限の会話しかしない。なのに、学年も寮も違う一見何の関係も無い人間に対しては全面的に信用している。そこに興味があってな。それにだ。お前の人間関係にまで口出しする程、我輩はしつこくない。ダンスパーティの相手が誰であれ。それが例え、スリザリンの生徒であってもだ。」

 

その言葉に面食らったようだ。だが、すぐにメイナードと同じ赤い目の状態から、リリーと全く同じ緑の目に戻ったのだ。

 

「彼女の過去は、プライバシーに関する事だから話す事は無いです。本人も話したがらないし、それならば俺も、詳しく聞くつもりは無い。だけどロイヤル・レインボー財団に保護される前は、相当酷い目に遭わされたって言うのは本当ですが。だから、殆どの人間に対しては心を開く事は無い。それどころか、接してくる人間は恐怖の対象でしかない。」

 

ポッターが感傷に浸るように語った。本気でマリア・テイラーを気に掛けている様だ。

 

「あいつの心を探ろうとすればする程、あいつはどんどん心を閉じていく。あいつの方から歩み寄らない限りは、関わろうとしない事を警告しておきましょう。」

 

真面目な表情で言ってきた。これは本当なのだろう。ポッターは全てを知っている様だが、素直に教えてくれるとも思えない。ダンブルドアを通して聞くという手段もあるが、当のポッターはダンブルドアすら全く信用してないのだ。だから、マリア・テイラーに何があったのかを我輩が知る事は出来ないだろう。

 

「その警告、受け止めておくとしよう。」

 

それでも、テイラーとの振る舞い方を伝授されたのは幸運と考えるのが妥当だろうか。

 

「では、そろそろ行きますよ。」

 

ポッターはそう言って走り去った。我輩は、その後ろ姿を見た。確かにメガネの生き写しではある。だが、中身と語ってくるものは全くの別物だ。やはり、我輩の方で独自に監視を、引き続き行っていく方が良いかも知れん。

 

「闇の帝王に同調する事は無いだろう。寧ろ、『終わりを生み出す者』と深く関わってきそうだ。それに、我輩に復讐をするかどうかで葛藤しているようだな。」

 

イドゥンやエックスとは親しい。特にエックスにとっては、師匠であり兄のような存在だ。恐らく、彼の後見人を務めている事も察しているのだろう。だから迷っているのだ。自分を殺したり、死に追いやる事が果たして正しいのかどうかを。

 

「ハリーはまだ、復讐の心を捨てたわけではない様じゃの。」

 

「校長。何時からそこに?」

 

ダンブルドアがいた。

 

「途中からじゃよ。ミス・テイラーとの接し方についてからと言った方が分かりやすいかの。」

 

「ポッターは、あなたの存在に気付いていたようですが。」

 

「感知能力を使っておるようじゃの。それも、かなり正確で広範囲の。」

 

「ロイヤル・レインボー財団で教わったのですか?」

 

「どうやら、自分の力で編み出したようじゃよ。おかげで、わしはハリーの足取りを掴む事が困難になったのじゃ。その一方で、誰かの変装を見破れるという事が分かったのじゃよ。フォルテを通してじゃが、アラスターが変だと言っておった。」

 

「左様ですか。であるから、今度は我輩にムーディを監視させると?」

 

「それは否じゃ。既にフォルテが監視しておるよ。」

 

「そうですか。」

 

思い切って切り出してみよう。

 

「校長。ポッターの復讐心が消えてないとはどういう事ですかな?確かにペティグリューを殺そうとしましたが、その時は思い留まってあ奴を生かすという決断を下しました。」

 

「ペティグリューに関しては、ジェームズの最期の遺志を尊重しただけに過ぎん。その大義名分さえなくなれば、迷う事無く叫びの屋敷で殺しておったじゃろう。」

 

「…………」

 

「わしが懸念しておるのは、ハリーがヴォルデモートと同調する事よりもPWPEに同調してしまう事じゃよ。」

 

「何故そう言い切れるのですか?あんな理不尽極まりない組織に、ポッターが行くと。」

 

「PWPEのリーダーが、ハグリッドの運転するオートバイからハリーを落とした事については君も知っておるじゃろう?」

 

「ハグリッドから直接聞きましたので。」

 

「うむ。元々PWPEは、ハリーを組織の次期リーダーとして引き入れたいと考えておる事が、最近のわしの調査で分かっての。突き落としたのは、あの者達にとっても不測の事態だったのじゃよ。」

 

「……!?その話、続きをお聞かせください。」

 

「何故、彼を狙うかは分からぬ。じゃが、これだけは確実に言えるのじゃよ。ハリーは、そう遠くない未来でヴォルデモートよりも厄介な者達を相手にしなければならぬ。アランがあの子を育てたのは、そう言った事態を見越しての事じゃろう。」

 

「ポッターは、その事にお気づきなのですか?」

 

「いいや。具体的には分かっておらんじゃろう。じゃが、PWPEと接触した事もあって、これからの自分にとっては決して無視の出来ない存在だと認識しておるのは確かじゃ。」

 

「つまり、直接的ではないにしても薄々気付いているという事ですね?」

 

「そういう事になる。じゃから、ロイヤル・レインボー財団との確執を解き、わしらの犯した過ちを2度と繰り返さない様にするよう努力する。だからアランには、もう1度手を貸してほしいと思っておる。しかし、そう上手くはいかないのじゃよ。」

 

「アルフレッド・ローガーが結果的に死ぬ任務をあなたは与えてしまい、片や我輩も、まだ闇の帝王に仕えていた頃にアラン・ローガーの息子夫婦を命令で殺めた。それで手を組もうと言う方が、虫が良過ぎる気がします。」

 

「そうじゃの。わしの率いる不死鳥の騎士団を、ロイヤル・レインボー財団が総力を挙げて叩き潰さなかっただけでも良しと考えるべきじゃろう。」

 

「協力をしてくれるのは、無理そうですな。」

 

「セブルス。君は、君のやるべき事をやるのじゃ。君のやってしまった過去の過ちを帳消しにする事は出来ぬ。じゃが、これから作っていく未来なら幾らでも変える事が出来るのじゃ。当分先になるかも知れぬが、もう今までの自分とは違うという事を行動に示していけば、ハリーも、アランも理解してくれるじゃろう。」

 

「では、我輩はこれで失礼します。」ダンブルドアに礼をして立ち去った。

 

ダンブルドア視点

『わしでは、ハリーの憎悪とわだかまりを解く事が出来ない。いいや、あの子が教師の中で最も信頼しておるミネルバでさえも無理じゃろう。アランは、ハリーのやる事に否定すらしていない。』

 

結局自分は他力本願なのか。どんなに答えを出せても、悪い手段だからと封じてきて、結果的にヴォルデモートによる犠牲者が増えてしまっている。そして、それ以外の悪意には何の対抗策すら出来ていない。

 

結局、全ての事態は自分が引き金を引いたのである。欲深さゆえに、アリアナの死の原因を作ったのは自分。ゲラートの悪行を耳にしながらも、最後の最後まで決闘を逃げ続けたのは自分。トムの危険性を知りながらも、やり直すチャンスを与えたのも自分。あの能力欲しさに、アランに無理を言ってアルフレッドを不死鳥の騎士団に引き入れたのも自分。ちゃんとした情報管理を整えずに、予言の一部が漏洩した原因を作ったのも自分。

 

その結果、何が起こってしまったのか。アバーフォースには反発され、権力に弱く、欲深さや傲慢さを自覚する事になった。ゲラートに関しては、ヨーロッパ中で死者も出てしまい、しまいには第二次世界大戦の枢軸国の真のリーダーになった。トムの場合は、言うまでもない。

 

そして、もう永遠の命を求めたりしないって決めてたのに。アルフレッドの虹の目を見て、そしてフォルテの持つもう1つの杖の能力欲しさにまた求める様になってしまった。透明マントをジェームズから見せられて、死の秘宝への欲求が再燃した。最悪な物を求めるなと他人に言い聞かせながら、自分は未だに捨てきれていないのだ。そもそも、自分に誰かを導く資格なんてあるのだろうか。

 

「わしは、どうしようもない人間じゃ。他の者に、人間にとって最悪な物を求めるなと言いながら、自分は捨て切れていない。そもそもフォルテを教員にしたのも、彼の持つ杖に興味があったのが理由じゃからのお。」

 

彼の持つもう1つの杖。ゼロの持つ杖と表裏一体。ゼロの杖があらゆる敵を倒す杖ならば、フォルテの杖は全ての命を救う杖と言われる。その杖の真の力が見たくて、フォルテを手元に置きたいとも思った。見ないに越した事は無いのだが。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 クリスマス・ダンスパーティ

早速ロンに、マリアからの了解が得られた事を伝えた。

 

「ありがとう!助かるよ!」何度も何度も頭を下げている。

 

「失礼の無い様にしろよ。」

 

「モチのロンさ!任せてよ!」逆に不安なんだがな。

 

休暇が始まって2、3日。あちこちで突然、ワッと羽の生える生徒が爆発的に増えた。どうやら、カナリア・クリームが広まったらしい。そして、俺はブレーズ・ザビニに制裁を下す。

 

「ま、待ってくれ!違うんだ!」慌てふためいた状態で、俺にそう言うザビニ。

 

「何が違うって?」

 

自分でも不思議な程冷たい声で、ザビニを問い詰める俺。

 

「マリアに手を出そうとするとは、女癖の悪さは相変わらずだな。イドゥンからの許可は貰ったんだ。徹底的にやらせて貰おう。」

 

「何であの子と親しいんだよ!?お前だってブラックを誘ったって聞いたぞ!他の寮の女子を誘うなんて、状況は全く同じじゃないか!どこか悪いんだ!?」

 

「……状況は全く同じだと?寝言は寝て言え。マリアの場合は、碌に知らない人間に対しては恐怖心や不信感を抱いてるんだ。お前のやり方は、それを増長させているだけなのさ。」

 

俺は、侮蔑を込めた目でそう言い放ってやった。

 

「そ、そんな…………」

 

「精神的な痛みを教えてやる。幻覚を見せつけろ(パンタミューム)。」

 

ザビニに幻覚呪文を使った。その内容は48時間、水攻めにして、最終的に溺れさせる事だ。これを一瞬の内に体感するのだから、食らう者からしてみればたまったものではない。だが、ザビニには良い薬になるだろう。

 

「中々エグい無間地獄をブレーズに与えましたわね。まあ、彼の性癖の悪さは筋金入りですので、擁護は全くしませんけど。」

 

何時の間にか、イドゥン・ブラックがいた。

 

「イドゥン。いたんだ。」

 

「ええ。いましたわよ。あなたの行動を見ていると、本当にどうしてグリフィンドールに組み分けされたのか不思議に思いますね。何せ、スリザリン適性が強過ぎですもの。」

 

「これでも最初は、目的を最速且つ確実に成し遂げる為に、スリザリンでも良いやと思ってたのさ。でも、最初のホグワーツ特急で同席になった奴等の甘さが、俺に感染(うつ)っちまったんだ。だから獅子寮に組み分けされたと思ってる。」

 

「そうなのですか。」

 

「待ち合わせ場所の事で俺を探してたの?」

 

「はい。大理石ホールの近くの教室を見つけましてね。そこで合流をしましょうと伝えにきました。」

 

「オーケー。」冒険者の地図を開いた。

 

「ここの事で良いのか?」その場所を指差す。

 

「そうです。それでは、当日の夜7時半、宜しくお願い致しますね。」

 

イドゥンは、そう言って教室を出て行った。

 

「さあて。俺も行きますかね。」

 

俺も教室を出て行く。ザビニは放置しておいた。この後、誰かが見つけたようだが、女性関係で問題を起こしているので、女性からの怒りを買ったのだろうと片付けられたザビニであった。普段の行いってそれなりに大事なんだなぁ、と思った俺であった。

 

その後、大広間に向かった。ちょっと離れた所から見ていると、ロンのフクロウ、ピッグウィジョンが女子生徒の人気者となっているではないか。ちなみに、名前を付けたのはジニーなのである。

 

あ、ロンがピッグウィジョンに群がっていた女子生徒複数人を追い払った。皆、憤慨した表情で走り去っていった。ロンは勿体ねえ事するよな~。それはそうと、彼女達はエリナの下へ向かった。無論、クワノールを可愛がる為である。

 

エリナで思い出した。あいつ、シリウスの手紙を貰ったらしい。随分と褒めて貰ったようだ。そして、俺がサポートに回ってるとはいえ、まだ2つの課題が残ってるから気を引き締める様にしなさいという、どこぞのムーディと同じ事が書いてあったのだ。

 

クリスマス当日。突然目が覚めた。何と、暗い部屋の中からドビーが俺を見つめていた。ホラー映画顔負けの恐怖心が、俺の身体全体を襲った。

 

「軽くホラーじゃねえかよ、ドビー。脅かさないでくれ。危うくベッドから落ちそうになったぞ。」

 

「すみませんでした、ハリー・ポッター。ドビーめは、あなた様にプレゼントを差し出しかったのでございます。」

 

「そういう事だったのか。ただまあ、次からは指で突いたりとか、ゆすったりして起こしてくれよ。くれぐれも、フライングボディプレスだけはやめてくれよ。」

 

「わ、分かりました。ですがドビーめは、あなた様にそこまでしません。」

 

というわけで、少々サイズの足りなくなったソックスをプレゼントした。途中で起きてきたロンは、送られてきたばかりのセーターとすみれ色の靴下をドビーに差し出した。俺は、ドビーから鮮やかな赤、箒の模様がある左用、緑色でスニッチが描かれている右用の靴下を貰った。

 

「ありがとう。ドビー。」

 

「どういたしましてでございます!そして旦那さま!何てご親切なのでしょう!」

 

今度はロンの方に向きを変えて、ひたすら頭を下げるドビー。ロンは、満更でもないようだ。余談だが、俺はロンにチャドリー・キャノンズの帽子を送った。色が恐ろしく合わなかったけど。ドビーは、次にエリナの所に行ってから、厨房に戻ると言って、姿くらましした。あ、そうだ。アレを渡そうかね。

 

「ネビル。ほらよ。」

 

俺は、ネビルに鰓昆布を1つ渡した。上手くキャッチしたネビル。

 

「これ、鰓昆布じゃないか!何処で手に入れたの!?」

 

「去年、俺が新しい薬を作ってたのは知っているよな?」

 

「うん。シエルやルインと一緒に、新しい脱狼薬を作ってたんだよね。祖母ちゃん、君の事を凄く褒め称えてたよ。」

 

「それはどうも。その時に、材料をスネイプの部屋から手に入れたんだ。ついでに、鰓昆布を3つ回収してね。薬草学に強いネビルなら、これの量産も出来るんじゃないかと思ってな。1つ譲る事にしたんだ。」

 

「良いのかい!?ありがとう!!」凄く喜んでくれた。

 

さてと。俺に来たプレゼントの内訳でも見てみますか。

 

ハー子からは、イギリスとアイルランドのクィディッチチームという本が送られてきた。ロンからは糞爆弾がぎっしり詰まった箱、シリウスからはペンナイフだ。何でもこじ開ける道具と、どんな結び目も解く道具がついていた。ハグリッドからは大きな菓子箱。ウィーズリーおばさんからのプレゼントもちゃんとあった。セーターとミンスパイだった。

 

ロイヤル・レインボー財団からもあった。ミラクルガンナー用のカートリッジ複数種、インクの要らない羽ペン8本、しかも羽根の部分で訂正箇所を直せる仕様だ。そして、入手ルートは不明だが輝きの手。俺に泥棒になれとでも言いたいのだろうか?

 

そして、最後の1つ。何やら大きい箱が出て来たぞ。まるで、ド○え○んに出て来る道具だな。確か、道具を作る為の設計図を出してくるのに似てるような。

 

「何々?『魔法科学製品製作修繕機器』。これで、科学技術を取り入れた新たな魔法道具の製造、及び修繕を行える。仕様書を書いて読み込ませると、それに沿った設計図と修復方法が記された説明書が出て来る。不器用な人にでも手頃且つ簡単に使える道具。」

 

マニュアルを読んでいく。それによれば、ノアと同期する事で初めて使用可能になるとの事。おいおい、フレッドとジョージが喜びそうな道具だよな。絶対にこれ。

 

その後、朝食を食べに行き、外に出た。誰もいない場所で、ノアを口寄せ召喚した。内部に入る。

 

「この動力室に同期すればいいか。」

 

3時間かけてノアとの同期を完了させた。丁度昼食の時間になったので、ノアの召還を解除し、食べに行く。少なくとも100羽の七面鳥、クリスマス・プディング、そしてクリベッジの魔法のクラッカーが山ほどあったのだった。

 

今度は校庭に出た。真っ白な雪だ。神秘的である。あちこちで雪合戦をしているので、観戦した。5時になって城の中に戻って行った。

 

「レアリー・ファイト。電豆球。」

 

談話室に戻った。男子生徒は殆どいないようだ。ちょっと体を温める事にした。早く準備するに越した事はないので、俺は6時半になってからローブへの着替えと身嗜みを整え始めた。結果、7時頃になった時にはいつでも出発出来る様になった。

 

髪型はいつもよりもデリケートに意識して整えた。ドレスローブの襟の部分にラペルピンを挿した。

 

「ふむ。こんなものか。ま、ちゃんとやったから悪くは無いかもな。」

 

ロイヤル・レインボー財団のパーティで散々経験してるので、今更恥ずかしがる事は無い。

 

「さて。行きますかね。」

 

集合場所まで向かう事にした。そこで、ロンやネビル等のグリフィンドールの男子生徒と遭遇した。

 

「ハリー。君、何か上手に着こなしてるよ。それに、いるもよりもお洒落だね。」

 

ネビルが言った。

 

「まあな。身嗜みは、いつも以上に気を遣ったんだ。じゃあ、俺は一足先に行くぜ。」

 

手を振って談話室を後にする。大理石ホールの近くの教室に入った。流石に、イドゥンはまだ来てないな。7時10分か。20分はあるな。ちょっと早く来過ぎたかもしれない。

 

20分程経って、教室の扉が開いた。白いプリンセスドレスを身に纏った少女が入って来た。イドゥンか。普段の服装でも容姿は整っているのに、これは反則だ。今のイドゥンの姿は、まるで物語の中に出て来るお嬢様そのものだからな。

 

いつも伸ばしている黒髪は、輪郭美人なロングのハーフアップに仕上がっている。そこに、ご丁寧に俺が送った首飾りを付けている。薄いメイクもしているが、普段の美貌を増幅させている。免疫の無い奴なら、服従の呪文に掛かる様な感覚になるだろう。

 

「絵本、もしくは2次元の世界の中にお帰り下さい。」思わず口走ってしまった。

 

「開口一番それですか。あなたは。」イドゥンが苦笑しながら言った。

 

下手すると、他が引き立て役に成り下がるな。代表選手でさえ。卵かけご飯的な意味で酷い。

 

「取り敢えず思った事は、普段の服装で十分だという事だな。そして、黒いドレスで来ると思ってたけど、意表を突かれたよ。苗字とは真逆の白で来るとは。」

 

率直な感想を述べる俺。

 

「それは、誉め言葉として受け取っておきましょう。そう言うあなたこそ、普段よりもお洒落をしているではありませんか。」

 

「折角こういうイベントがあるんだからな。気を遣ったよ。お陰で、整えるまでに30分かかったんだ。」

 

「私の場合は2時間半ですね。それでは、行きましょうか。エスコートをお願い致しますよ?ハリー。」

 

「元よりそのつもりだよ。」

 

というわけで、2人一緒に大理石ホールに向かった。

 

「何あの美男美女は!?」

 

「ハリー・ポッターとイドゥン・ブラックだ!」

 

「噂は本当だったんだ!」

 

「キイィィイー!!!2人共呪ってやる!!!」

 

「リア充は爆発しろ!!!」

 

色んな声が聞こえた。何やら物騒な言葉も飛び交って来たのだが。

 

「無視無視。あんな奴らなんて相手にしてたら、こっちの身が持たないや。」

 

「そうですわね。」

 

その時、「おーい!」という声が聞こえた。振り向くと、朱色のドレスローブを着込んだエリナと、紺色のタキシードを着ているゼロが近付いて来たのだ。ゼロは、メッシュをしてない。いや、メッシュは天然だった筈だから、その部分だけ染めたのか。一方のエリナの姿は親しみやすく、可愛らしい感じだった。

 

「おや。エリナとゼロではありませんか。」

 

「ハリーもイドゥンもお似合いって感じだね!」

 

「ゼロ。もっとシャキってしたらどうだ?」俺はゼロに言った。

 

「そうなんだがな。ダンスパーティは初めてなんだよ。緊張するんだ。代表選手のエリナを、恥を掻かせるんじゃないかと思うと怖くなる。」

 

「いつもの調子で良いんだって!ボクも初めてだからね!」エリナがゼロを励ました。

 

「ミス・ポッター!ミスター・フィールド!代表選手のペアはこちらに来るのです!」

 

「あ、マクゴナガル先生が呼んでるからそろそろ行くね。」

 

「またな。」ゼロがぎこちなく言った。

 

声がした方向に向かって、エリナペアは走り去っていった。それと同時に、ビクトール・クラムとすれ違った。クラムの隣にいた女の子を見て、俺は口をあんぐりと開けた。ハー子だった。確かに当日まで秘密にしておきたいのも分かるな、今思えば。

 

ハー子は、髪をどうにかしたようだ。普段のボサボサから滑らかな髪にし、頭の後ろで捻じっている。そして、優雅なシニョンに結い上げているではないか。

 

「こんばんは!ハリー!イドゥン!」ハー子が挨拶した。

 

「まあ、ハーマイオニーでしたか。普段とギャップが激し過ぎましたので、最初は誰かと思いましたわ。」

 

「ハー子。何となくだが、誰と行くの隠してたのか、その理由が分かって来たよ。俺はさ。」

 

「ふふっ。ハリーも意外に大胆不敵なのね!イドゥンを誘うのは私でも予想外だったわよ。」

 

「そりゃどうも。」

 

「ハーマイオニー。パートナーを待たせてはいけませんよ。早く行ってあげてください。」

 

「ええ!」

 

「薄い青色のドレス、驚く程似合ってるぜ。」

 

「ありがとうハリー!」

 

「ハーム―オウン―ニニイ。あー。そろそろヴぉくと行こう。」

 

「そうね。ビクトール!それじゃあハリー、イドゥン。良いクリスマスを!」

 

ハー子は、クラムと一緒に行った。その後、セドリックとチョウのペア、グラントとスピカのペア、ロンとマリアのペアとも出会った。

 

セドリックからは、前に魔法薬学の課題を手伝ってくれてありがとうと礼を言われた。グラントは、以前の髪形に戻していた。ローブもそんなに酷くなかった。ロンは、マリアの魅力に取り憑かれていた。マリアの方は、緊張してるのか無表情だった。それでも行く先であらゆる男を魅了していったのだから、マリアはある意味恐ろしい。

 

大広間の席に入った。もう寮なんて関係ない。違う寮どころか、学校が違う者までいるのだ。だから、各自が好きな席に座った。俺とイドゥンは、かなり前の方に座った。

 

その後、代表選手が入って来た。大広間の一番奥に置かれた、審査員が座っている大きな丸テーブルに向かって歩いた。ハー子、エリナ、ゼロ、グラントが通り過ぎる度に俺に向かって手を振って来た。なので俺も、それに応えた。

 

審査員の席を見てみる。3つの学校の校長は健在だ。カルカロフがハー子を見て、大変驚いていた。バクマンはいつも通りと言った感じだ。クラウチはいない。代理人を務めているのは、パーシーだ。ウェーザビーと呼ばれなくなったかどうか、後で聞こうかね。

 

「金色の皿だけですわね。そして、メニューだけがポンと置いてありますわ。ウエイターもいませんし。」

 

イドゥンが不思議そうに言った。

 

「あれ?もしかしてこれって……やってみる価値はあるかな……シーザーサラダ。」

 

メニューの品の1つを呟いた。すると、俺の目の前にシーザーサラダが出現した。

 

「……マジかよ。本当に出て来やがった。」

 

「どうやって出しているんでしょうね?ならば私も。ホタテとサーモン、アボカドの前菜。スダチ風味で。」

 

すると、その通りのものが出て来た。

 

「ありがとうございます。先輩。頼み方が分かりましたよ。」

 

向こう側にいたエックスが俺に礼をした。ルインは、俺とイドゥンのやり方を見て、メニューを注文しようとしている真っ最中だ。

 

「斬新だな。でもこれ、ハー子が反発しそうなやり方だな。」

 

「確か反吐、もとい『S.P.E.W』でしたっけ。」

 

「ああ。目的は、屋敷しもべ妖精の権利向上だそうだ。でも、やり方が性急過ぎるから参加を断ってやったよ。」

 

「権利向上ですか。聞こえは良いですが、屋敷しもべ妖精の事情や背景を知ろうとしないで、目的を達成してるようにしか見えませんわ。」

 

「俺も同意見。肝心な所はバカなんだよなぁ。あいつ。」

 

「ですが、何かしらのアクションを起こすというのは決して悪くありませんよ。」

 

「そりゃあ。まあ、そうなんだけどさ。あ、ダンスが始まった。」

 

ダンスパーティの主役は、代表選手とそのパートナーなのである。クラム、デラクール、エリナ、グラントがそれぞれ踊った。

 

エリナ視点

ボクは、今緊張している。これから皆の前でダンスをしなきゃいけないかと思うと。でも、それはゼロも同じ考えなんだ。ボクを何とかエスコート出来る様に、そして失礼がかからない様に気を付けているんだ。本当に、その気持ちだけで良いのになぁ。

 

金のお皿とメニューだけがテーブルに置いてあった。どうやって頼むんだろう?ダンブルドア先生が何か言おうとした時、ハリーのいる所からサラダが出て来た。引き続き、イドゥンの前にもハリーが頼んだ物とは違うサラダが出て来たんだ。

 

「あー。ハリーにはもう気付かれたようじゃの。見せ場を奪われてしもうた。わし、涙目。」

 

ダンブルドア先生も、これには思わず苦笑いした。ボクは、ハーミーの方を見た。これ、ハーミーは怒り心頭になるんじゃないかと思った。でも、それどころじゃないみたい。クラムさんと話している。

 

「ヴぉくの学校にも城はあります。大きくないし、4階建てですし。」

 

クラムさんがハーミーに、そう話しているのが聞こえた。

 

「ですが、校庭は広いのです。でも冬には、日光が来ません。しかし夏は、ヴぉく達は思いっ切り飛んでいます。湖や山の上を――」

 

「ビクトール。ストップ。そこまでだ。居場所がバレてしまう!」

 

カルカロフ校長が、必死にクラムさんを止めた。ダンブルドア先生が、遠回しにもっと言えって言ってる様な気がした。そして、必要の部屋の事を示唆程度に語った。

 

デラクールさんは、ホグワーツのクリスマスの飾り付けが貧相だと言っている。ダイヤモンドの様な解けない氷の彫刻、森のニンフの聖歌隊、食事の時間だけ歌を奏でるそうなんだって。鎧も無いし、ポルターガイストもいないそうだ。ボーバトンのクリスマスイベントも1度見て見たいなぁ。

 

デラクールさんのパートナーの、デイビースさん。彼は、魂を抜かれた感じになってた。

 

「何やってんだよ。あの人は。」ゼロが小さな声で愚痴ってた。

 

しばらくして、妖女シスターズが出て来た。ボク達、代表選手が最初に踊る事になった。

 

「それらしい感じになれば良いのか?」ゼロが呟く。

 

「なるべく形にすれば良いと思うよ。」ボクが返した。

 

ボクは、ゼロの両手を掴んだ。片方の手は自分の腰に回して、もう一方の手は強く握りしめた。そこで、スローなターンをゼロがした。うん。思った程悪くないね。もう皆始めちゃってるし。

 

ネビルとジニーちゃんが、すぐ近くで踊っていた。よく足を踏むもんなので、ジニーちゃんは痛そうだった。その一方で、ハリーとイドゥンは既に経験者なのか、見事なコンビネーションを発揮している。それにより、周りを魅せているのだ。あの2人、まともに手を組むと凄いんだろうなぁと感じたボクであった。

 

「ようやく終わった。」ゼロが疲れた様に言った。

 

「後はフリータイムになるから、食事でも何でも良いと思うよ。」

 

「ちょっと見物しようか。」

 

「オーケー。そうしよう。」

 

ボクとゼロは、大広間中を駆け巡る事にした。

 

ハリー視点

「どうする?」

 

「後は雑談にしましょう。元々、こういうイベントは余り慣れていませんのでね。」

 

「分かった。何か取って来ようか?」

 

「それでは、バタービールをお願いします。」

 

「了解。」

 

バタービール2つを取って来る事になった。

 

「あなたって、見た目に反して結構繊細な動きが出来るのね。そして、笑うととても優しいし。」

 

おや、ハー子とクラムが何か会話してるぞ。仲良さげだな。

 

「いつも校長から言われてるのです。ヴぉくが笑うと弱く見えるから、常に睨み付ける様な表情にしておけと。もう1回、踊りましょう。」

 

また躍るらしいな。これに関しては、俺が口を出すまでも無い。そっとしておこう。

 

「チョウ。一緒に僕と座ろう。」

 

セドリックは、完璧なエスコートをチョウにしていた。

 

「ええ。セドリック。あら、ハリーじゃない!楽しんでる?」

 

「うん。上々だよ。俺、急いでるからまたね。」

 

セドリックとチョウと別れて、バタービール2つを貰って来た。帰る途中で、ロンとパーシーが会話している。それによると、クラウチ個人の補佐官に昇進したそうだ。クラウチ自身、最近は余り体調が良くない事も分かった。

 

イドゥンの所に戻り、彼女にバタービールを1つ手渡した。

 

「ありがとうございます。本当に気が利きますね。あなたは。」

 

「例には及ばないよ。」小羊背肉のリンゴソースかけを受け取りながら、そう返した。

 

受け取った食べ物を食べていると、ロンとマリア、ハー子が来た。

 

「ハー子。マリア。ロン。どうだ?楽しいかい?」

 

「ええ。とっても。ビクトールは今、熱い飲み物を取りに行ってるわよ……ロン?」

 

ロンの様子がおかしい。ハー子を睨み付けている。

 

「ビクトール?ビッキーって呼んでくれって、まだあいつは言わないのかい?」

 

おいおい。よしてくれよ。ここで一触即発なんて俺はゴメンだ。

 

「どうかしたの?言いたい事があるなら、目を合わせて言ってみなさいよ。何なの、その態度は。」

 

「あいつはダームストラングだ!」ロンが吐き捨てる様に言い放った。

 

「ホグワーツの敵なんだぞ!それにハリー!何でその女とパートナーなんだよ!そいつはスリザリンで、闇の――」

 

ロンは、それ以上何も言えなかった。俺が魔力の放出をして威圧した。それ以上の失言を言わせなくしたからだ。

 

「お前。このイベントの最大の目的を忘れたんじゃないだろうな?他校との親睦を深める為なんだぞ。ハー子のやってる事は、別に問題無いじゃないか!それに、同じホグワーツの生徒を貶すなんて言語道断だ!」

 

俺はすかさず言い返した。イドゥンも表情を変えていないが、激怒寸前まで行ってるのだろう。

 

「敵とベタベタしてる奴等はあっち行けよ!」

 

「!?」また嫉妬かよ。いい加減にしろ。

 

「バカ言わないで!あなた、彼がここに来た時にどれだけ騒いでたか忘れたわけじゃないでしょうね!?散々応援してたのは、どこのどなたかしら!?サインを欲しがったり、人形を談話室に飾ったり!」

 

「俺は、イドゥンに今まで散々助けて貰ってたんだ。今の発言、完全にお前に落ち度があるぞ。先入観だけで物事を図るな。」

 

「そうかい。愛しのビッキーと仲良く踊っていれば?そしてハリー。闇の魔法使いに心を売れば良いじゃないか。僕よりも、そのスリザリンの女を庇うんならね。」

 

俺はイドゥンと目配せをする。ここを離れようって視線を送った。イドゥンは頷いた。ハー子も、クラムを見つけるや否や、さっさと行ってしまった。

 

マリアは、スピカと合流してどこかに行った。

 

少し離れた所で、俺とイドゥンは足を止めた。

 

「申し訳ない。イドゥン。俺の友人が、君に失礼な事を言ってしまって。何て詫びれば良いのか。」

 

何でこうなるんだよ。昔みたいに戻れないのか。そう言う思いを込め、ロンに代わってイドゥンに謝罪した。頭も下げた。

 

「あなたは何も悪くありませんよ。私を庇ってくださいましたからね。謝る必要もございませんわ。ですので、頭をお上げください。」

 

俺は頭を上げた。少し哀しそうな表情をしていたが、何とか笑顔を取り繕ってた。やはり、さっきの闇の魔法使い発言は相当堪えたんだな。

 

「悪いのはウィーズリーですよ。それに、あんな事を言われるのは慣れていますからね。あなたも相当、気苦労が絶えないようですね。あなたには同情します。」

 

「そう言ってくれると助かるよ。それよりも、慣れているって?」思わずキョトンとした。

 

「それはまた、後日話しますわ。それよりも、今日は大いに楽しみましょう。先程の嫌な事なんて忘れて。丁度、グラントがロックバンドの人と一緒に演奏もしていますからね。」

 

「あいつ。音楽が出来るのか。初めて知ったよ。」

 

しかも、いつの間にかリーゼントのカツラを被っているではないか。服装もロック風にしている。しかもだ。妖女シスターズの名曲、『Do The Hippogriff』を演奏しながら歌ってる。某ガキ大将みたいに歌が下手糞かと思いきや、思いの外上手だった。演奏を終えたグラント。たちまち観客から拍手喝采が送られた。

 

「やるなぁ。」

 

「そうですわね。」

 

メニューを開いて食べ物を注文したり、校庭に作られた庭園で休憩したり、また違うタイプのダンスを踊ったりした。その後、デザートも注文出来る様になった。

 

「ケーキが出るのか。これは当たり前だけどな。」ケーキを口に入れる俺。

 

「アイスクリームも出て来ましたね。意外です。」アイスクリームを頬張るイドゥン。

 

その他にも和菓子、プリン、杏仁豆腐、トライフルカスタード等々を堪能した。

 

真夜中になって、妖女シスターズの演奏が終わった。そうして、クリスマス・ダンスパーティは終了した。我先にと帰る生徒達。俺は、ある程度時間を置いてから戻る事にした。

 

「送らなくて大丈夫か?」

 

「問題ありませんよ。気持ちだけで十分です。あなたが来ると、誰かが呪いを掛けかねませんからね。」

 

「ハハッ。それは言えるな。それじゃ、気を付けて帰れよ。」

 

「あなたもですよ、ハリー。今日はありがとうございました。」

 

「良いんだよ。礼を言いたのはこっちだからね。」

 

そうして、俺はイドゥンと別れた。彼女は地下のスリザリン寮に、俺は8階のグリフィンドール寮にそれぞれ戻って行った。

 

談話室に戻った。殆どが寝静まっている。中には、椅子にもたれ掛かって寝ている奴までいる位だ。

 

「急に睡魔が襲ってきやがった。」

 

急いで寝巻きに着替え、そのままベッドにダイブした。その瞬間、一気に眠気と睡魔が襲い掛かって来た。なので俺は、意識を手放したのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 事前準備(前編)

翌朝。俺は珍しく朝寝坊した。談話室も、これまでの1週間とは打って変わって、異常な程静かだった。そして、ハー子の髪は元に戻っていた。

 

「スリーク・イージーの直毛薬を大量に使ったのよ。」

 

「俺の、父方の祖父さんが経営してた会社で発明された魔法薬をか。成る程な。これで、昨日の綺麗な髪の謎が解けたわけだ。」

 

「だけど、毎日使うには不便過ぎるわ。それに面倒臭くって、とても毎日やる気にはなれないもの。」

 

「よし。今年度はクィディッチが無くて、宿題以外は料理の研究しかやる事が無かったんだ。新しい目標が出来たよ。ありがとうな、ハー子。」

 

「ちょっと待って。新しい目標って?」

 

「昨日使った薬、更に改良するのさ。ダメかな?」

 

「今よりも素晴らしい物を作る姿勢は、評価されるべきだと思うわ。」

 

「どうも。そう言えば、またロンと一悶着あったんだよな。あそこまで言わなくても良かったのにさ。」

 

「そうよね。折角仲直り出来たと思ったら、またケンカしちゃったものね。ロンってば、イドゥンに関して言い過ぎよ。彼女、少し傷付いてたんですもの。」

 

「だな。それにイドゥンの奴、エックスが成人するまでの間は、自分が当主として振る舞わなければいけないって言う重圧を持ってるんだ。それも1人で背負い込もうとする程にな。気丈な振る舞いに反して、精神が強いとは言い難いのさ。エックスやシリウス、クリーチャー、そしてまだ生きているかもしれない実の母親の存在によって耐えていられるんだよ。今でも。」

 

「凄いわ。あなたって、イドゥンの事が丸分かりね。」

 

「開心術が無くても分かるぜ。理不尽に肉親を殺され、残っているのは年下の、違う性別の兄弟だけ。その兄弟だけは何としても守り抜くという決意。俺と境遇が、ある程度似てるから分かるんだよなぁ。」

 

「ハリーの場合はエリナ、イドゥンの場合はエックス。確かに似てるわね。」

 

「ま、その話はまた今度にしよう。これからエリナと合流する予定になってるから、俺は行くよ。じゃあな。」

 

「気を付けてね。行ってらっしゃい。」

 

談話室を出て、必要の部屋の前まで来た。すると、エリナは既に来ていたのだ。

 

「ハリー。お早う。」

 

「お早う。それじゃ、2つ目の課題が何をするのか分かったんだ。俺なりに考えてたプランを…………」

 

「ちょっと待って。」エリナが待ったをかけた。

 

「どうしたんだ?」

 

「その前に、昨日あった事を話すよ。」

 

「ダンスパーティの感想か?それなら打ち合わせが終わった後に、幾らでも聞いてやるよ。」

 

「それもそうなんだけどね。昨日、ゼロと一緒に所々歩いてたら、色んな情報が収集出来たんだよ。」

 

「へえ。それで俺に話したいとね。そんじゃ、取り敢えず必要の部屋に入ろう。話はそこで聞くよ。」

 

秘密の会話をする為の部屋を指定し、必要の部屋に入った。

 

「さて。話とやらを聞こうか。」

 

「うん。話すよ。」

 

*

 

「少し歩こうか。エリナ。」

 

「オーケー。ゼロ。」

 

飲み物を取りに行くフリをして、外に出ようとした。が、エリナを呼ぶ声がした。

 

「やあ、エリナ。さっきは素晴らしいステージだったよ!」

 

バクマンが話しかけて来た。直前まで、パーシーと会話してたようだ。そのパーシーはと言うと、食べ物を取りに行っていた。

 

「こんばんは。バクマンさん。あのー、高官同士、パーシーと会話してたんですか?」

 

「バーティの事で積もる話をね。それとバーサやドローレスの事でね。」

 

「夏に行方不明になったバーサ・ジョーキンズと、第一の課題から消息を絶った元上級次官、ドローレス・アンブリッジの事を言ってるのですか?」

 

ゼロがバクマンに聞いた。

 

「そうだよ。おや、君は確か、フィールド家の子かな?フォルテが闇払いだった頃に散々、弟である君の事を自慢してたよ。」

 

「兄さんが?それはどうも。」ゼロがお辞儀をした。

 

「さーてと。エリナ。君はアレを解けたかな?」

 

「?アレって何ですか?」

 

「おぉっと失礼。金の卵の事だよ。エリナ。君さえよければ、私が。あー、更なるヒントを……与えようかと思っててね。」

 

「それに関しては大丈夫です。実はですね。」

 

エリナは、バクマンの耳に向けて、小さな声で囁いた。ヒントは解いてる事、その内容、クリスマス明けにハリーと対策を練る事を話したのだ。バクマンは、満足そうな表情になっていた。

 

「そこまで分かっているのであれば、私から言う事は無いね。それでは、失礼するよ。」

 

バクマンは立ち去った。スキップをしている。

 

「もう解いたのか。グラントはまだなのに。」

 

「教えようか?」

 

「いいや。あいつから聞かない限りは、俺はどうする事も出来ない。外に行こうか。」

 

玄関ホールに抜け出すエリナとゼロ。校庭は、休憩するのにうってつけな庭園となっていたのだ。歩き始めて早々、声が聞こえた。

 

「……我輩は、何も騒ぐ必要が無いと思いますがな。イゴールよ。」

 

「セブルス。もう何も起こってないフリをする事なんて出来る筈が無いだろう!」

 

カルカロフが盗み聞きを恐れるかのように、不安げな押し殺した声で言った。

 

「スネイプとカルカロフ。あいつら、ああいう関係だったのか。」ゼロが言った。

 

「それにしても、下の名前で呼び合ってるよね。」

 

「だな。それよりも聞こう。」ゼロとエリナは聞き耳を立てる。

 

「この数ヶ月の間に、ますますハッキリしてきた!私は真剣に心配しているのだ!否定出来る事ではない――」

 

「なら、イゴール。お前は逃げるが良い。我輩が言い訳を考えてやるぞ。だが、我輩はホグワーツに残る。残らねばならんのだ――」

 

スネイプが杖を取り出し、意地の悪い顔を剥き出しにて、バラの茂みをバラバラに吹き飛ばした。悲鳴が、あちこちから聞こえた。

 

「パチル。ブラウン。何をしていたのだ。」

 

パーバティとラベンダーがいた。

 

「お2人の姿をスケッチしていました。」パーバティが言った。

 

「新刊は、スネ×カルで行こうと思いまして。だって、それ以前はダンブルドア先生の薄い本まで書いて、その時は成功しましたから。」

 

「あの2人、腐女子だったんだね。」エリナが呟いた。

 

「不愉快極まりない思考回路はやめろ!グリフィンドール20点減点!」

 

パーバティとラベンダーは走り去っていった。スネイプは、別の茂みを吹き飛ばす。黒い影が飛び出して来た。

 

「フォーセットにステビンズ!ハッフルパフとレイブンクローからそれぞれ10点減点!」

 

名指しされた2人は、スネイプの脇を走り去っていった。

 

「フン。不純異性交遊をしたわけではないのに。」

 

「…………あ。こっち来た。」

 

「それで、お前達2人は何をしている?」

 

「外の空気を吸いに、休憩の一環で歩いてるだけですが?規則違反ではない筈です。」

 

ゼロがきっぱりと答えた。

 

「なら、とっとと歩き続けてろ!」スネイプが唸る様に言った。

 

「どうしたんだろう?」エリナが首を傾げた。

 

「俺が気に入らないんだろうな。下手に出たら、兄さんが出て来るし。」

 

噴水の近くまで来たゼロとエリナ。彫刻はトナカイの他に、牡牝の鹿、犬、狼、ホワイトタイガー、ハヤブサが彫ってあった。

 

「校長先生も粋な事をするんだね!」エリナが目をキラキラさせる。

 

「ご丁寧に石のベンチまであるな。ん?あれは……」

 

石のベンチに、2つの巨大なシルエットが見えた。

 

「マダム。ここで休もうや。座っちょくれ。」ハグリッドの声が聞こえた。

 

「ありがとうございまーす。アグリッド。」

 

マダム・マクシームの声も聞こえて来た。

 

「エレファントカップルだな。」ゼロが2人に聞こえない様に呟いた。

 

「そっと立ち去ろうよ、ゼロ。」

 

エリナが提案し、ゼロが頷いた。2人は、立ち去ろうとした。

 

「俺には、あなたを見た時から一目で分かったんだ。そうだとも。」

 

「何が分かったというのでーすか?アグリッド。」

 

「珍しく甘い声だね。マダム・マクシーム。」

 

「シッ!ハグリッドが話し出すぞ。何だこのコガネムシは。お前なんてこうしてやる!」

 

ゼロが、ハリーから貰った瓶にコガネムシを入れた。魔封石が含まれ、割れない呪文もかかっている。ハリーがペティグリューに使った瓶の、同型だ。今回のクリスマスプレゼントで、ハリーから送られたのだ。

 

「ああ、一目で分かった。あなたは……俺と同じだってな。」

 

「わたくし、何の事か分かりませんわ。アグリッド。」

 

「オリンぺ、あんたは……俺と同じ半巨人なんだろう?」

 

「そうでーす。わたくしも…………!?」

 

マダム・マクシームは、言葉を詰まらせてしまった。ゼロも固まっている。エリナは、どうしたんだろうかという感じだ。

 

「俺の場合はお袋なんだ。イギリス最後の1人だった、って親父が言ってたんだ。俺が3つの時の出て行って、あんまりよく覚えてねえや。」

 

マダム・マクシームは何も言わない。銀色の噴水を、じっと見ている。

 

「そんで……まあ、俺の事はええ。あなたはどうなんですかい?どっち方なんで?」

 

突然、マダム・マクシームが立ち上がった。

 

「冷えまーす。わたくし、もう中にあいります。」立ち去ろうとした。

 

「ま、待ってくれ!!俺は――俺は、これまで同類の人に会った事がねえんだ!だから、話を聞きてえんだ!」

 

ハグリッドが、必死にマダム・マクシームを引き留めようと腕をつかむ。

 

「離しなさーい!おおーう!何というこーとを!こーんなに侮辱されたのは、あじめてでーす!あん巨人!?わたくしが!わたくしはただ、骨が太いだけでーす!!!」

 

ハグリッドを振り払い、マダム・マクシームは荒々しく去っていった。

 

「どうしてマダムは怒ったんだろう?」エリナが不思議そうにゼロに聞いた。

 

「あれは図星だな。それにしても骨が太いねぇ。太いのは鯨か、恐竜だけだな。エリナ。中に入ろうか。説明する。」

 

場所を移して、ゼロはエリナに語りだした。

 

「…………と、いうわけだ。殆どが凶暴で、野蛮で、殺しを好む性質なんだよ。勿論、理知的な奴も数は少ないがそれなりにいるけどね。」

 

「そんな!ハグリッドは何も悪くないじゃん!彼は優しいんだもん!」

 

エリナが憤慨した。

 

「だな。俺達はハグリッドを良く知っている。でも、世間体が悪いんだ。本人が隠してたのも無理はないな。遠い祖先に巨人がいて、それが隔世遺伝したかと思ってたんだが。」

 

「巨人は、もうこの国にはいないの?」

 

「いないな。元々絶滅寸前だった。だが、死の飛翔に加担した過程で、闇払いの、最後のダメ押しで皆殺しにされた。ロックハートとは別タイプの、ナルシスト思考で自己顕示欲の強い同僚が嬉々として殺戮した話を高らかに説明してたって、兄さんが言ってたなぁ。」

 

「マダムが怒ってたのは、今までずっと隠し通して来たから……だね。」

 

「そうだな。外国にはまだいるとは聞いてるぜ。尤も、人間が簡単に辿り着けない様な山の中に隠れるんだ。だがハグリッドの奴、ヘマをやらかしたな。巨人のネタを引き出さずに、普通に告っちまえば良かったんだ。」

 

「そうすればゴールインも出来たのにね。今度励ましに行こう……あ、12時だ。」

 

「演奏が終わってお開きか。ハッフルパフ寮まで送るぞ。」ゼロが手を差し伸べた。

 

「ありがとう!ゼロ!」

 

ゼロから差し伸べられた手を握ったエリナ。彼の折角の好意に甘える事にしたのだった。談話室の入り口で別れた。

 

*

 

「昨日、そういう事があったんだよねえ。」

 

「成る程。スネイプとカルカロフの会話。半巨人……か。シリウスにそこら辺を聞いてみる価値はあるな。それと、半巨人。幾つか予想を立てていたが、本当に当たるとはな。」

 

「知ってたの?」

 

「少なくとも、純巨人ではないだろうってのは分かったよ。6メートルは、少なくてもあるんだからな。それにしても、本当に英国魔法界って遅れてるんだな。システムや思想が中世そのものじゃないか。」

 

「狼人間も同じだったよね。でも、それはハリーが解決しちゃったから、巨人だって出きるよ。」

 

「そうだな。積もる話はそれ位にして、俺なりに方法を考えたよ。1時間水中で活動する手段をな。」

 

「本当!?」

 

「第二の課題の場所は、恐らく湖だろう。大勢の観客がいるから、余程特別な場所でもない限り、絶対そうなって来る。」

 

「うんうん。」

 

「水中で、大事なものを取り返す。その為に水中を自由に駆け巡る必要があるわけだ。それには、何が必要だと思う?」

 

エリナに問い掛ける形で聞く。

 

「う~ん。やっぱり、酸素が欲しいなぁ。」

 

「最初はそう来るよな。後は水圧の軽減、極寒の克服、水中を素早く動く。最低でもこれらは重要になるだろう。」

 

「で、その方法は考えて来たって事なの?」

 

「ああ、そうだ。その為に、休暇に入ってすぐに宿題を終わらせたんだからな。水中を素早く動く手段は、今は除外する。休暇中に、呪文を幾つか習得して貰うから。」

 

「ええ!?」エリナが死にそうな顔になった。

 

「宿題は、分からん所は見るから。」

 

「う、うん。」それでも顔が白くなったエリナ。

 

「習得して貰うのは、泡頭呪文、防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文、環境適応呪文の4つだ。習得スピードを上げる為に、細胞分身を修業の度に使って貰う。」

 

鰓昆布をすぐに渡すという手段もあるが、それ以上の点を狙うなら、それ相応の準備をすべきだろう。鰓昆布は、間に合わなかった時の保険だ。だから今は渡さない。

 

「まずは、泡頭呪文。泡よ覆いたまえ(パースプマム・アワーズ)。次に、防暑・防寒せよ(フリグシェ・トレランティア)。3番目が、圧力を減らせ(レーデュシュラ・プレスラ)。最後に、暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)。」

 

「それを常に細胞分身で、かぁ。出来るかな?」

 

「弱音なんて吐いてられないぞ。今の所はな、エリナ。お前がトップだよ。だけど、逆転される可能性だって大いにあるんだ。クラムも、デラクールも対策をしてるかもしれない。」

 

「グラントは…………まだだよねえ。」

 

「あいつが、水中で歌を聞く事に気付ければな。ゼロの気苦労は終わらねえな。早速始めるぞ。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 事前準備(後編)

「兄さん。この瓶の中に、昨日、冬にいるのが珍しいコガネムシを見つけたんだ。」

 

ゼロは、兄であり、呪文学の教師でもあり、レイブンクロー寮監でもあるフォルテ・フィールドに、コガネムシ入りの瓶を引き渡した。

 

「この時期にコガネムシ?そいつは妙だな。冬眠してるか、幼虫のままだろうに。寮監の先生に相談してみるよ。」

 

「頼んだよ。」ゼロは、退出しようとした。

 

「グラントは、卵の謎は解けたのかな?」

 

「いいや。エリナはもう見つけたってのに、あいつはやろうしないんだよ。」

 

「ハリーかエリナから聞こうとはしないんだね。」フォルテが苦笑する。

 

「まあね。いつもウンウン唸ってるよ。じゃ、そろそろ行くよ。勉強会を兼ねた説教をしてくるからさ。」

 

「程々にな。」

 

ゼロは、退出した。

 

「さてと。」フォルテは、瓶の中のコガネムシを見る。

 

「興味深い実験材料が手に入ったんだ。早速に実験に使ってみようかな。」

 

凶悪な笑みを浮かべるフォルテ。コガネムシ、もといリータ・スキーターは全身をガクブルさせた。

 

『何なのコイツ。とんでもないのに捕まったザンス!折角の特ダネを手に入れたのに!こんな事が!フィールド兄弟、末恐ろしい存在ザンス!』

 

*

 

「どうしてこんな事に。誰か、誰か助けなさいよおぉっ!!」

 

ドローレス・アンブリッジは、収監された見知らぬ監獄にて泣き叫ぶ。収監されているのは、彼女だけではなかった。魔法族もマグルも関係ない。各国、人種、老若男女。そんなものは問わず、拉致されて収監されていたのだ。

 

今までの事を思い出すドローレス。自分の提案した『反人狼法』は、法案が通りかける寸前まで来ていた。だが、それはすぐに白紙となった。ハリー・ポッターが、新しい脱狼薬を複数種製作し、人狼が差別されない様にしたのだ。半人間が気に入らないドローレスからしてみれば、その障壁を取り除いたハリー・ポッターの存在が憎たらしかった。

 

そのハリーが齎したのは、それだけではなかったのだ。法案が通れば、確固たる地位が築かれる筈だった彼女の栄光。それが脆く、儚い形で崩れ去ってしまったのだ。ファッジから、人狼を迫害する理由も無くなったから、『反人狼法』の存在は邪魔以外の何物でもないと言われ、却下された。責任は、自分が全て取らされたのだ。

 

しかも、左遷された後の所属は、よりにもよってケンタウルス担当室であるのだ。あの汚らわしき半獣を自分が管理及び担当するなんて、屈辱でしかない。ますます、ハリー・ポッターが憎くて憎くて堪らなかった。

 

しかも、かつての同僚からは嫌味を言われ、父の事も掘り返される始末。

 

「あの小僧が憎い。私のキャリアを粉々に砕いた、あの小僧が。」

 

いつか復讐してやる。そう思っていた。そして、ホグワーツで第一の課題が行われていた日の事だ。その日も、帰宅時間となり、家に帰ろうとした。尤も、ケンタウルス担当室は暇であるのだが。

 

突然、後ろから強い力で頭に衝撃を受けた。何が起こったのか分からなかった。次に目を覚ました時には、この監獄にいた。杖も取り上げられており、脱出は出来なかった。自分が見下している筈のマグルと同じ状態にされるなんて。悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

何故か、低い役職の父、マグルの母、スクイブの弟の事を思い出した。自分のコンプレックスの象徴なのに。どうして今になって?

 

「ここから出して……誰か助けて……」

 

ドローレスは、泣きながら助けを求めているのだった。そう。今でも。

 

*

 

グリンゴッツに、黒いロングコートを着た男2人がやって来た。

 

「俺の杖を見せる。そして、鍵もある。我が実家の金庫を開けて欲しい。」

 

男の1人は、すぐさま受付の小鬼にそう言ったのだ。

 

「で、ですがあそこは?」

 

「俺の親族は、皆アズカバンだ。問題は無い筈だぞ。そして俺にも、その権利はあるのだからな。」

 

躊躇する小鬼に対して、少々強気な口調で言いくるめる男。

 

「相変わらず、あなたも容赦の無いお人ですね。ゲブラーさん。」

 

もう1人の、沈黙を貫いていた男が、ゲブラーにそう言い放ったのだ。

 

「ちょっとばかり、手助けをしようかと思ってな。」ゲブラーが静かに返す。

 

「鳴子の準備を!」小鬼が叫ぶ。

 

「では行くか。ティファレト。」もう1人の男にそう言ったゲブラー。

 

「ええ。そうしましょう。目的地までね。しばしの旅を、楽しもうではありませんか。」

 

ゲブラーとティファレトは、小鬼に連れられて、グリンゴッツの奥に進んでいった。

 

*

 

「リドル。まだ謎は解けないのか。」

 

ドラコがグラントにそう言った。

 

「開けたら開けたでよぉ、金切り声が聞こえてくるんだぜ。どうしろって言うんだよぉ?」

 

「グラント。簡単な事ですよ。エリナか、彼女のサポートに回ってるハリーから聞いてみるというのはどうでしょうか?ハリーから聞いたのですが、もう謎は解けたとおっしゃっていましたわ。」

 

イドゥンがグラントに、そう提案した。

 

「う~ん。でもよぉ、ハリーとエリナちゃんに迷惑掛かるんじゃねえか?」

 

「フィールドを巻き込んでる時点で今更だろう。リドル。とにかく、最初の魔法生物飼育学で聞いた方が良い。お前になら教えてくれるだろうからね。」

 

「フォイ。お前、いつからそんなに気が利く様になったんだ?」

 

「1年前から色々あったからな。」

 

「とにかく2人共。」イドゥンが話に割り込む。

 

「そろそろ宿題に取り組むべきですよ。ゼロやハリーは早々に終わらせているようです。グラントやエリナのアシストに力を入れる為に。この私も、とっくに宿題は終わらせていますけどね。」

 

「そうだ。この1週間、宿題を無視してたのは僕らしくなかった。リドル。さっさとやるぞ!」

 

「おうともよ!」

 

イドゥンからの解説も聞きながら、何とか宿題に取り掛かり始めるドラコとグラントであった。宿題が終わったのは、新学期の前日である。

 

*

 

セブルス・スネイプ。簡易式の憂いの篩いに、自らのソレを流し込んだ。そして、その中に入った。

 

最初は、コンパートメントだ。姉に拒絶されてしまい、泣いているリリーを慰めている場面だ。その時に、コンコンとノックが聞こえたのだ。

 

『そこ、空いてるかな?他に席が無くてね。』

 

茶髪の少年が、ねっとりした髪の少年と赤毛の美少女の総話しかけた。

 

『まあ、僕は別に。リリーは?』

 

『構わないわよ。』何とか気持ちを落ち着かせたリリー。

 

『僕の名前はトーマス。トーマス・グリーングラスさ。言っておくけど、僕の家では、いわゆるノブレス・オブリージュがルールになっていてね。純血主義じゃないから安心してね。』

 

トーマスが、先にいた2人にそう言った。

 

『僕の名前は、セブルス・スネイプ。こっちの娘は、リリーだ。』

 

少年スネイプ、もといセブルスがトーマスに自分とリリーの紹介をした。

 

『リリー・エバンズよ。宜しくね、トーマス。』

 

リリーとトーマスは握手した。

 

『君達、どこに行こうと思ってるんだい?」トーマスが聞いた。

 

『僕は、スリザリンに行きたい。』セブルスが即答した。

 

『スリザリン?』思わず質問したリリー。

 

突然ドアが乱暴に開かれた。

 

『おいおい、スリザリンだって!あんなクズの集まりに行く位なら、僕は寧ろ退学するよ。』

 

チヤホヤされて、人を全開で煽ってくる様な声が聞こえてきた。その声の主は、クシャクシャした髪に、ハシバミ色の目をしていた。メガネをしている。

 

『スリザリンなんかに誰が入るか!そうだろ?』

 

一緒に入って来た、隣の少年に話しかけるメガネの少年。

 

『勝手に割り込まないで欲しいな。』トーマスが静かに言った。

 

『悪いね。そこは謝るよ。でも僕達2人もさ。寮の話で盛り上がってたんだよね。話が弾むかと思ってさ。そんで、スリザリンの話になるってわけだ。あそこに行く奴は、全員まともじゃない。そうだろう?シリウス。』

 

『俺の一族は全員スリザリンだった。一部を除いて、狂人揃いだったよ。』

 

『へえ。僕はてっきり……とにかく驚いたよ。』

 

『俺がその伝統を変える事になるだろうさ。なんたって俺は、あの連中の中で数少ない、まともだからね。』

 

『そりゃそうさ!僕の親友になれたくらいだもんな!』

 

メガネの少年が言った。トーマスが口を開く。

 

『そういう君は、選べるんだったらどこに行く気かな?』

 

成るべく、乱入して来た2人を刺激しない様にしつつも、トーマスは嫌悪感を露わにしていた。

 

『そうだなぁ。父さんと同じ、グリフィンドールだな!後はメイナード。僕の兄さんなんだけど、レイブンクローも悪くないな!』

 

プッと笑い声がした。セブルスだ。

 

『なんか文句ある?』嘲るような口調で、スネイプを問いただすメガネの少年。

 

『君は頭脳派よりも、肉体派だと思ってね。レイブンクローは間違い無く似合わないけど、グリフィンドールは案外似合ってるかもと――』

 

『それだったら君は、どこになるかな?肉体派でもないようだし、陰気そうな見た目だし、性格も悪そうだし、見るからに頭脳派でもなさそうだし。どこにも行く価値が無いんじゃないのか?』

 

シリウスが、すかさずセブルスにそう言った。プルプルと震えるセブルス。

 

『っぷ。ハハハハハハハハハ!!良いぞ、シリウス!今のは最k……グヘッ!』

 

メガネの少年の頭が掴まれた。シリウスも然りだ。それをやっていたのは、メガネの少年によく似た人物。彼を大きくしたような外見だ。だが、その雰囲気は余りにも違う。リリーも、トーマスも、セブルスもそう感じ取ったのだ。

 

その人物はメガネを掛けてない。髪型も整えている。目も、全てを見通すように赤い。語るもの全て、何もかもが違うのだ。

 

『ジェームズ。シリウス。まだ帰って来ないと思ったら、こんな所で油を売ってたのか。』

 

『め、メイナード!?」ジェームズが驚愕する。シリウスも同じくだ。

 

『君達。俺の愚弟と、その親友が迷惑を掛けたね。申し訳ない。』

 

メイナードは、トーマスとセブルス、リリーに頭を下げた。年上の人間からの謝罪、これは流石の3人も慌てふためいた。

 

『い、いえ。こっちこそ。』トーマスが返した。

 

『良いんですよ。』リリーも続けて言った。

 

『そうか。ありがとうね。俺の名はメイナード。メイナード・ポッターだ。こっちの俺に似てるのが、弟のジェームズ、隣がシリウス・ブラックだ。』

 

メイナードが、穏やかな笑みで3人に挨拶した。目は、赤からハシバミ色になっている。また、ジェームズもシリウスも頭を下げさせられている。3人も、自己紹介した。

 

『リリーにトーマス、セブルスか。良い名前だね。それじゃ、そろそろ行くよ。俺の所属はレイブンクローでね。そこで会えるのを楽しみにしてるよ。」

 

メイナードは、ジェームズとシリウスを連れて出て行った。笑顔で、2人の片方の耳を引っ張りながら。

 

『……雰囲気が余りに違い過ぎる。』セブルスがボソッと言った。

 

『色んな意味でインパクトのある人だったわね。』リリーが感想を述べた。

 

『あの人の居る寮が良いなぁ。』トーマスが、目を輝かせながら言った。

 

「ここまでにするか。」スネイプは、現実世界へと戻って行った。

 

ホグワーツに入学した日。様々な体験をした。エックスの後見人を任される程の親友となったトーマス、生涯の想い人のリリー、憎きジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。ジェームズ・ポッターの兄でありながら、不思議と憎めなかったメイナード。

 

だが、その殆どは故人となってしまった。自分が引き起こしたケースだって存在する。だが、その過去を否定したり、消し去る事は出来ない。永遠に。

 

そして、今。その子供達は、ちゃんと友情を育んでいる。寮の隔たり等関係無しに。もしかしたら、自分達の世代とは違う結果を齎してくれるだろう。そう思えてならないのだ。

 

「ならば、その結果になる様に、我輩が手助けするだけだ。」

 

そう心に誓ったスネイプであった。

 

*

 

暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)。」

 

休暇最終日。眩い光が、エリナも全身を包んだ。細胞分身を使った無茶な特訓を採用してるとはいえ、泡頭呪文、防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文は既に修得済みだ。やはり、攻撃よりも補助魔法の方が適性あるな。攻撃呪文も適性も決して低くないけどな。

 

「やった!出来たよ!」

 

「よーし。持続時間は、最大12時間になる。後は、じっくりと伸ばしていけばいい。」

 

「オーケー。で、今まで水中に適応出来る手段を散々やって来たわけだけど、肝心の水中を早く動く方法って具体的に何をすれば良いの?」

 

とうとう核心を突いて来たか。

 

「それについてはな。変身術で対応すれば良いんじゃないかと思ってね。」

 

「変身術?」

 

「そう。水中に棲む生物になればさ。その4つの魔法の効果も、更に向上するんじゃないか。」

 

「確かに聞こえは良いけど、お魚になるのはなぁ。ちょっと気が引けるよ。」

 

魚にはなりたくないエリナ。

 

「別に。何も魚になれって俺は言ってないぞ。あくまで、水中に棲む生物と言ったんだ。エリナが変身すべきは、これだ。」

 

俺が1冊の本を取り出し、とある見開き1ページを開いた。それをエリナに見せる。

 

「え?もしかして、人魚になれって言いたいの?」

 

「ご名答。アッと言わせるような攻略法を審査員に見せ付ければいい。」

 

「或いは魅せるって事?」エリナが返した。

 

「気乗りしないか?もっと別の手段を考えてあるが。」

 

「ううん。気乗りしないわけじゃないんだよ。確かに、1度でも良いから人魚になってみたいなとは思ったけどね。でもまさか、本当にやるなんて想像しなかったよ。願望を、この課題で実現する事になるなんてね。ハリー。お願い。手伝って。」

 

エリナが頼んできた。最初から、協力を惜しむ理由が俺にはないからな。幾らでも手伝うさ。それに、ヴォルデモートに殺される事は無くなるとは言え、危険な所に行かせようとする俺の、せめてもの出来る贖罪でもあるんだからな。

 

「当たり前だ。協力を拒否する理由なんてあるわけないだろ?第一の課題の時から、二人三脚でやって来たんだ。協力は惜しまないよ。じゃあ、明日以降から早速水中でのトレーニングをやってくぞ。水着も、明日には届く筈だからな。」

 

「ロイヤル・レインボー財団が、夏休みに用意してくれた水着だよね。」

 

「そう。泳ぎの練習にも慣れておく。あと1ヶ月半なんだ。油断せずに行こう。」

 

こうして、休暇中に下準備は終えた。次は、人魚化する為の変身術、泳ぎの訓練だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 第二の課題(前編)

新学期最初の魔法生物飼育学において。マダム・マクシームに振られたショックで、ハグリッドはお休みだ。代用教師として、グラブリー-プランク先生が担当なさる事になった。

 

結果論を言おう。プランク先生の授業は安全且つ良識であった。これぞ、魔法生物飼育学だという形だった。今回授業で取り扱ったのは、ユニコーンだ。女性の感触の方が良いそうだ。というわけで、男子生徒は後ろから観察という形になった。

 

「ハリー。エリナの卵の謎、解けたんだよな?」ゼロが聞いて来た。

 

「ああ。その上、休暇中に下準備は終えたぜ。これから、本番に向けての特訓を行うのさ。」

 

俺は、課題の内容がバレない様に答えた。

 

「グラント。さっさと卵の謎を解いた方が良い。」

 

「で、でもよぉ。金切り声ばっかりしか出ないんだぜ。」

 

「そうか。だったら、これからやる事を実践すると良い。」

 

「ハリー。ヒントくれんのか?」グラントが、希望に満ちた表情で言った。

 

「エリナかグラントが勝てればいいと思ってる。個人的にはエリナを応援したいがな。でも、俺らさ。ゼロも含めて、寮の枠を超えての親しい友じゃないか。」

 

「心の友よ~」グラントがギュッと俺を抱きしめた。苦しいぞ。

 

「分かったよ。分かったから、離してくれ。」

 

何とかグラントを剥がした。

 

「良いか。金の卵を風呂に持っていけ。湯船の中で、卵の中身を空けて、じっくりと考えろ。そうすれば、助ける考えになる。」

 

俺は、グラントに説明した。

 

「おうよ!早速やってやるぜ!燃えて来たー!!」

 

「良かったじゃないか。グラント。」ゼロが穏やかな表情でそう言った。

 

余談だが、殆どのユニコーンはエリナの方に近寄ってきていた。その後、プランク先生はユニコーンの様々な魔法特性を列挙したのだった。

 

「ユニコーンの血の効果なら知ってたけどね。」

 

授業終了後のエリナの言葉はそれだった。

 

「あれは特殊過ぎるだけだよ。」俺が返した。

 

俺とゼロは古代ルーン文字学へ、エリナとグラントは占い学へ向かった。それが終わった後、ナイロックから俺とエリナ宛に水着が届いた。ハッフルパフの席で、周りの人が首を傾げていた。無論、俺もだ。

 

「何で水着が届いたんだい?この時期に寒中水泳でもするの?」ネビルが聞いた。

 

「ま、そんな所だな。たまには体を動かすのも良いかと思ってね。」

 

「あなた、予定が空いてる時はレッドスパークを乗りこなす練習をしてるじゃないのよ。」

 

ハー子が、まだ運動をやる気かと俺に問いただして来た。

 

「動かないで食べてばかりだと、太って死ぬからな。常に食べた分のエネルギー消費をしておきたいし。」

 

「というか、いつもあれだけハードな運動をして、太る方がおかしいと思いますが。」

 

エックスが割り込んできた。コリンやジニーも一緒だ。

 

「水中での運動は、今までのレッドスパークを乗りこなす運動をよりも全身の筋肉をバランス良く使えるんだ。毎日は難しいから、休みの日にやるんだよ。」

 

「先輩の戦闘スタイルは、魔法だけでなく体術とかも交えて行いますからね。ま、良いんじゃないでしょうか?」

 

俺の説明を聞いて、エックスが納得したような表情を見せた。

 

「ありがとうエックス。じゃ、俺はここでドロンするぜ。じゃあな。」

 

ネビル、ハー子、エックス、コリン、ジニーにそう告げて、必要の部屋へ。ロンには、無視された。俺がイドゥンとパートナーになったのを、まだ根に持ってやがるんだ。どんな交友関係を作っていこうが、口出しされる筋合いは無いのだがな、

 

今、12月から行ってるフェリックス・フェリシスの量産に着手している。完成に半年かかるので、このままだと5月の終わりに完成するだろう。勿論、試験に使う気はないし、代表選手に提供する気も全く無い。本当にどうしようもない事態に使う予定だ。

 

*

 

「卵の謎が分かったぜ!」

 

「バカ!声が大きい!」

 

薬草学の授業の事。レイブンクローとスリザリンの合同だ。グラントは、浴槽で卵の中身を開き、歌を聞いた。その内容をゼロに明かしたのだ。

 

「ほう。1時間以内に大切なものをねえ……しかも水中か。」

 

「何か策あるか?」

 

「お前の能力を使えば良いだろ?」

 

「それがよぉ。人間の時の姿と比べて、ちょっと融通が利かねえんだ。鮫とかになって、大切なものを傷つけるわけにはいかねえんだよぉ。」

 

「それはまあ、そうか。部分的な変身も無理そうだな。変身術はそこそこ出来るが、エリナみたいに突出してるわけじゃないだろう?」

 

グラントに問いかけるゼロ。

 

「おう。俺バカだからよぉ。成績もそんなよくねえんだ。」

 

「それでもだ。クラッブやゴイル、パーキンソン、ブルストロードよりは大分マシだろうが。お前、頑張れば中の上は行けるだろ。」

 

「そ、そうかも知んねえが。」

 

「水中を移動出来る手段か。魔法道具か、魔法薬とか、魔法植物って手もあるな。都合の良いものはある筈だ。きっと。」

 

「でもよぉ。道具と薬は聞いた事ねえぜ。作ろうにも時間が足りねえ。」

 

「ハリーに魔法薬を依頼するって方法もある。尤も、製作に時間は掛かりそうだな。幾らなんでも無茶ぶりが激しい。」

 

「それによぉ。フレッドさんとジョージさんから聞いたけどぉ。道具にそんなものは無いってよ。あったら、俺達が権利を買い取るって言ってたし。」

 

ゼロとグラントは悩む。

 

「魔法植物か。あんま詳しくは無いな。スプラウト先生から聞こうにも、先生の協力は禁止されてるし。」

 

「魔法植物かぁ。スプラウト先生以外で詳しい奴…………あ!」

 

グラントが何かに気付いた。

 

「ネビルだ!アイツなら何か知ってかも知れねえ!次、魔法薬学があるから聞くぜ!!」

 

「ネビルか。確かにアイツなら、何か知識はくれそうだな。」

 

薬草学が終わり、魔法薬学の授業に向かった。そして、魔法薬学終了後。グラントはネビルに呼び掛けた。ネビルは、かなりビビっていたが。

 

「おう。悪いなネビル。呼び止めちまって。」グラントが気さくに話しかける。

 

「ど、どうしたの?」オドオドしながら聞くネビル。

 

「実はよぉ。1時間水中にもぐる方法を探してんだが、魔法植物で何か知らねえかなって思ってさぁ。」

 

その言葉を聞いて、ネビルはハッとした表情になった。

 

「し、知ってるよ。聞いた事があるんだ。ちょっと別の場所に移ろう。」

 

「おう。良いぜ。」

 

ある程度離れた空き教室に移動したグラントとネビル。

 

「実はね。鰓昆布ってのがあるんだ。」

 

「鰓昆布?何だそれ?」グラントがショート寸前になりながらも聞く。

 

「それを食べるとね。鰓呼吸が出来る様になって、それに手には水かきも出来て……まるで水中人みたいになれるんだよ。」

 

「助かったぜ!で、どこにあるか分かるか?」

 

「実はね。1つだけハリーに譲って貰ったんだ。去年、何かの材料をスネイプの研究室から回収した時に、3つ手に入れたんだ。量産出来るか、サンプルとして受け取ってくれってね。」

 

「譲ってくんねえかな?礼なら幾らでもするぜ。」

 

寄越せではなく、対価を条件に提示した。これからは、互いに利益が出る様に交渉をしていく事が重要だとハリーに教わったからだ。

 

「かえるチョコレートで、僕の持ってないカードとの交換はどうかな?」

 

「良いぜ!集めてるは集めてるが、興味ねえんだ。好きなだけやるよ。後、フォイから貰った菓子も、持って行きたいだけ持ってきゃ良い!」

 

その後、ネビルは鰓昆布をグラントに渡し、グラントはカードと高級菓子をあげた。

 

「こんな高いもの、本当に良いの!?」

 

「俺からの礼だ!受け取ってくれ!」

 

次の魔法薬学の授業の時、本来ネビルに飲ませる筈だった頭冴え薬はグラントが代わりに飲み、周囲を唖然とさせたのだった。そう、あのスネイプでさえも。

 

*

 

1995年2月23日。必要の部屋。今は、水深100メートル。半径250メートルのプールとなっている。俗に言うオリンピックサイズ・プールと呼ばれるものでエリナの水中の特訓をしていた。

 

「我が身体を人魚へ変えたまえ《リメルク・カーパミウム・シレーナ》!」

 

エリナが、俺と共同制作した変身術を自分に掛ける。すると、両足が1つとなった。そうして、境目が全くなくなる。その後にヘソから下の下半身には、綺麗なエメラルドグリーンの鱗が現れた。手には、小さな水かきがある。耳は、魚のヒレ。腹部の側面には鰓がある。

 

そこから泡頭呪文、防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文、環境適応呪文を立て続けに掛け続けた。最終調整に入っている。2週間前には、全ての呪文が水中の中で1時間以上継続出来る様になり、今の所は3時間に更新しているのだ。

 

エリナと共同開発した呪文は、体質変化呪文と名付けた。変身術の1種である。自分の身体を、他の生物の身体に限定的な時間を以って変える魔法だ。俺自身の呪文創作能力とマツの杖の特性、エリナの類稀なる変身術の才能が組み合わさって完成した。

 

この魔法、実はグラントの動物変身能力を参考にしている。一方で人魚の性質は、マリアの遺伝子情報の解析結果から成り立っているんだ。データは、ロイヤル・レインボー財団から送って貰った。

 

エリナには、クロールと平泳ぎだけを教えておいた。この際、背泳ぎやバタフライは必要無しと判断して教える事は無い。夏休み辺りにでも、その2つも教えようかな?

 

俺も水泳をする。最初は温水プールで行っていたが、徐々に冷たい水中でも慣れる様にしておくべきと判断した。エリナも然りだ。あいつだけが特訓をしているのだから、俺自身も行わないと不公平だからな。

 

「どうかな?」

 

元の姿に戻り、必要の部屋の部屋の入り口付近にもたれ掛かっているエリナ。ゼエゼエ言っている。この時点では、無地の白い三角ビキニを着用している。ホグワーツでも使えるストップウォッチを手に持ち、俺は示された時間を教える。

 

「2時間24分53秒97。これだけ水中に居られるなら、明日の課題は問題無いな。この3ヶ月、よく頑張ったよ。」

 

「ボクがここまで準備出来たのは、ハリーのフォローがあってこそだよ。その成果を、キチンと発表するからね。」

 

疲れ気味になりながらも、目だけは強い意志を見せる様に、俺に言った。

 

「よし。そんじゃ、大広間でメシでも食うか。今日はゆっくりと休んだ方が良い。明日、どこかでぶっ倒れるからさ。」

 

「うん。着替えてから、大広間に行こう。」

 

入れ替わりながらそれぞれローブに着替えた。そして、2人一緒に洗濯物を出してから大広間に向かった。その時に思い出した事があるので、聞いてみようか。

 

「シリウスからの手紙、来たか?」本人からエリナ宛に来るという連絡は来たんだ。

 

「うん。今度のホグズミードの日程を教えて欲しいだって。」

 

「3月に入ってすぐの筈だよな。」

 

「そう書いておいたよ。もう出した。」

 

「そうか。分かったよ。」

 

また歩き出し、5分後に大広間に到着した。エリナには、明日の健闘を祈ると言ってそれぞれの寮の席へと向かった。

 

食事を食べ終えてから、談話室に戻ろうとする。だが、俺は戻らなかった。正確には、呼び止められて戻れなかったのだ。

 

「ポッター。そこにいましたか。探しましたよ。」

 

俺を呼び止めたのはマクゴナガル先生だった。少し深刻そうな顔をしている。

 

「どうしましたか?宿題は早々に終わらせて、すぐに提出した筈ですけど?」

 

何で呼ばれたのか分からなかった。

 

「いいえ。そうではありません。そもそも、あなたの変身術の力量には、私自身大変満足しておりますからね。それよりもです。私に付いて来て下さい。」

 

マクゴナガル先生に連れられて、先生の部屋に入った俺。そこには、ハー子、ゼロ、デラクールを小さくした様な少女がいた。そして、ダンブルドアも。

 

「おお。よく来てくれたの。ハリー。」

 

「何故俺が呼ばれたのか、全く以って検討がつかないのですが。」

 

事務的にそう話す俺。ダンブルドアは、朗らかに笑っている。

 

「ホッホッホ。そう身構えなくても良い。」

 

そう言う言葉程、まさに警戒すべきではあるんだがな。

 

「さてと。ハリー。ハーマイオニー。ゼロ。ガブリエル。君達はそれぞれ、エリナ・ポッター、グラント・リドル、ビクトール・クラム、フラー・デラクールが1番失いたくない存在というわけじゃよ。」

 

「つまり、人質の役割を果たせと?」ゼロがダンブルドアに確認した。

 

「極端に言えばのお。じゃが、今回の試合は安全面で最大の考慮が成されるのじゃよ。」

 

「具体的にどうなるんでしょうか?」ハー子が不安そうな顔で質問する。

 

「君達には、これから魔法の眠りを掛けるのじゃ。尤も、水から上がった時に目が覚める様にするがの。」

 

成る程な。1時間というのは、あくまで時間制限。人質が元に戻らないという意味ではないみたいだ。それを保証するのか。

 

程無くして、俺、ゼロ、ハー子、ミニデラクールは眠りにつかされた。エリナの特訓の付き合いによる疲れが、ドッと睡魔となって襲い掛かって来たような気がした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 第二の課題(後編)

エリナ視点

1995年2月24日。第二の課題当日。ボクは昨日、夕食を食べてからすぐに眠ったんだ。特訓の疲れが来たからね。夜の8時くらいになるかと思う。だから、朝は早かった。5時に起きたから。我ながら早いなと思ったのが、ボクの感想なんだ。

 

食事をしたら、すぐに湖に行ける様、準備をしておいた。ローブの下には、ビキニタイプの水着を着用した。色はハッフルパフと同じ、カナリアイエローにした。

 

朝食を食べている時、ハッフルパフ生を中心に励ましの声が送られた。レイブンクローからはシエル、スリザリンからはイドゥンとルイン、グリフィンドールからはネビルとフレッジョの双子からね。ロンからは、棘のある視線を送られてる様な気がする。そして何故か、ハリーとハーミー、ゼロの姿が見当たらなかった。グラントも何故かいない。

 

それを疑問に思いながらも、ボクは湖へ直行した。時間を見ると8時だ。どうやら、1番乗りみたい。バクマンさんは、とても喜んでいる。どうしたんだろう?やけにボクに好意的だけど。

 

ローブを脱いで、下から水着姿を晒した。ハリー曰く、普通は競泳水着の方が適しているとの事。でも、ボクのやる方法ならビキニの方が断然良いんだって。

 

試合開始は9時20分。その55分前にクラムさんが、40分前にデラクールさんが来た。それぞれ、ランニングシャツに短パンの水着、競泳水着を着用している。

 

グラントは、10分前になっても来てない。それには大勢の人が疑問に感じ始めていた。特にスリザリン生は、戸惑いの声が隠せない。カルカロフ校長とマダム・マクシームはチラチラと時計を見ている。病気がちのクラウチさんに代わって審査員を務めているパーシーは、落ち着きなく歩き続けている。バクマンさんはどうしたんだろうという表情をしていたし、ボクも心配になって来た。

 

2分前になって、グラントが到着。ローブだけみたいだね。それに、寝坊したってコッソリと教えてくれた。自分が取り返すのはゼロだって事も教えてくれた。あれ?という事は、朝に見かけなかったハリーやハーミーもひょっとして……

 

それでも、試合は開始される。バクマンさんの声が聞こえる。

 

「さて、全選手の準備が完了しました。第二の課題は、私のホイッスルを合図に始まります。選手達は、1時間以内に奪われたものを取り返さなければなりません。では、3つ数えます。1……2……3!」

 

ホイッスルの高い音が鳴り響き、一気に湖へと飛び込む。グラントが直前にm何かを口に入れたのを、ボクは見逃さなかった。湖へ入ると、その途端に突き刺す様な冷たさが肌を覆っていく感覚が、ボクに襲い掛かって来たんだ。まだ顔だけ水の上にあるので、周囲は不思議そうにしていた。

 

『……まずは落ち着こう。この、肌が焼ける様な感覚の中で、冷静さを欠かない様にしなくちゃ。早速手筈通りにしよう。』

 

泡よ覆いたまえ(パースプマム・アワーズ)防暑・防寒せよ(フリグシェ・トレランティア)圧力を減らせ(レーデュシュラ・プレスラ)暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)。」

 

一気に4つの呪文を使った。空気を確保し、寒さから身を守り、水圧による身体の負荷を少なくした。そして、その効果を増幅する為に環境適応呪文を使用した。最後は、水中を素早く動く手段。変身術を使おう。

 

「我が身体を人魚へ変えたまえ《リメルク・カーパミウム・シレーナ》!」

 

今度は、ボク自身の身体を人魚にした。下半身は、魚になった。ママやハリーと同じ、綺麗なエメラルドグリーンの鱗がある。これで準備万端。早速行こう。ダイビングした。魚の尻尾となった下半身を一瞬だけ水上に晒した。

 

氷の様な湖の水は、命の水みたいに感じられた。冷たさが、逆に心地良くなった。さっきまでは、肌が焼ける様な痛みを齎してたのにね。

 

ある程度進んでいくと、グリンデローが襲い掛かって来た。だけど、去年のリーマスの授業で散々習ったから、今のボクにとっては敵じゃない。難なく撃退出来た。

 

また深く進んでいく。すると、声が聞こえた。金の卵の歌声だ。内容も全く一緒。

 

「この声に沿って、進めば良いんだね?」

 

聞こえる方向へ向けて出発した。すると、藻に覆われた荒削りの住居の群れが、薄暗がりの中から突然姿を現す。水中人(マーピープル)。童話で見る人魚には似ても似つかない。尤も、童話通りの人魚も、この世界をじっくりと探せば見つかるかもなと、ハリーが前に言ってた気がするんだ。

 

水中人は、じっくりとボクを見つめていた。さっさと通り過ぎてしまおう。

 

もっと奥へ進む。大岩を削った巨大な水中人の像が見えた。コーラス隊と思わしき水中人数人が歌っている。像の尾の部分には、4人の人間が縛り付けられていた。

 

「ハリー!ゼロ!ハーミー!」

 

思わず叫んだ。知らない女の子は、8歳位。髪の色からしてデラクールさんの妹だろうとすぐに分かった。朝見かけないと思ったら、こうなってたんだ。口寄せ呪文で、シリウスから貰ったペンナイフを取り出す。全員を助けなくては。

 

まずは、ボクの近くにいたハリーを解放した。続けて他の人質を解放しようとする。

 

「自分の人質、その少年だけを連れていけ。他の者は放っておけ。」

 

水中人の1人が、ボクに冷たくそう告げた。そんな事出来ないよ。

 

「見逃せないよ!ゼロもハーミーは、ボクの大事な人だもん!その子だって……」

 

知らない女の子を指差すボク。でも、水中人達はボクを押さえつけ始めた。何で皆来ないんだろう?時計は使えなくなってるし。

 

突然、水中人達は離れて行った。どうしたんだろう?水中人達は指をさしている。見上げてみると、グラントが来た。耳の下に鰓が出来ている。手には水かきがあった。さっき口に入れた物がそうなんだろうか?

 

「エリナちゃんが一番か!やるじゃねえか!って、それどころじゃねえんだ。あのフラーって人、途中で脱落しちまったんだ。水魔に襲われてよぉ。」

 

「ええ!?それじゃ、デラクールさんの妹さんは誰が助けるの!?」

 

「とにかくよぉ。それについては、協力するしかねえよなぁ。」

 

「グラント!ゼロを先に連れて行って!ハーミーは、クラムさんが来るかも知れない!ボク、ハリーとあの女の子を救出するから!」

 

グラントと会話をするボク。

 

「分かったぜ。ゼロを水の上まで引き上げたら、エリナちゃんの応援に行くからよぉ。すぐ戻って来るぜ!」

 

「はい、これ。」ナイフを手渡す。

 

「すまねえ!恩に着る!」ゼロの縄を外すグラント。すぐに上へと上っていった。

 

また水中人達が騒ぎ出した。水泳パンツを履いた胴体に、サメの頭。あれは……クラムさんしか考えられないね。変身術を使ってる様だけど、動物もどきを習得しているボクからしてみれば、やり損ないだという印象だよ。

 

「ハーム・オウン・ニニイ!」ゴボゴボ言いながら、ハーミーの名前を言うクラムさん。

 

「え?その牙じゃ、ハーミーまで傷付けちゃうよ!このナイフを使って!」

 

ペンナイフを手渡した。

 

「ヴぉくは敵だぞ?」

 

「あなたが助けようとしてる人は、ボクの大事な人なの!今はあなたに預けるけど、傷付けたら許さない!」

 

目に力を入れて、ボクはクラムさんに言った。もう、この際敵とか味方とか関係無いんだ。

 

「……」

 

クラムさんは、ナイフでハーミーを縛る縄を解き、ナイフはボクに返した。そうして、上へと立ち去って行った。

 

しばらく時間を待った。デラクールさんも来ない。グラントも戻ってこない。あのグラントが約束を破るなんて事は無い筈だから、恐らく誰かに止められてるかも。行動しなきゃ。

 

「まだ邪魔をする?ボクは戦うよ。」ボクは、杖を水中人達に向ける。

 

「それで良いんだよ。」女の子の縄を解いた。

 

「グラントは来そうにないから、ボク1人で2人を担ごう。」

 

時間なんて関係無い。人の命がかかっているんだから。水中人達も来た。悪戦苦闘している傍らで、優雅に泳いでいる。

 

段々息が苦しくなってきた。ボクの環境適応呪文の持続時間は2時間。本当なら最大12時間は持続する。でも、そこまでの訓練はしなかった光が薄くなっていく。泡頭呪文、防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文も消えかかってるし。人魚の姿は、当分は問題なさそうだけど。

 

光に向かって突き進み、ようやく頭が水面を突き破る音がした。思わず空気を吸い込んだ。気持ちが良い。ボクは、ハリーと女の子を引き上げた。水中人達は、一斉に水中に現れた。皆、ボクに笑いかけている。

 

スタンドから歓声が上がった。叫んだり、悲鳴をあげたり、総立ちになっている。ハリーと女の子は、目を開けた。女の子は混乱して怖がっていたけど、ハリーは水を吐き出し、ボクの方を見た。

 

「エリナ。デラクールの妹も連れて来たのか。人助け癖は相変わらずだな。」

 

助けて貰って嬉しそうだけど、どこか呆れた表情にもなってる。

 

「この子も残しておけなかったんだ。」ボクは、ゼイゼイ言った。

 

「ジジイがこのまま死なせるとでも思ったのか?あの歌はな、代表選手が戻って来られるようにする為のものだったんだよ。」

 

「そうだったの……」自分のバカさ加減に嫌気がさした。

 

「俺がデラクールの妹を連れて行く。自分で戻って来れそうか?」ハリーが聞いた。

 

「そうして。この子、あんまり泳げないみたいだから。」

 

「分かった。今度こそ遅れるなよ。」

 

ハリーは、デラクールさんの妹をおぶって、一足早く戻って行った。ボクも行こう。

 

マダム・ポンフリーがせかせかと、ハーミー、クラムさん、ゼロ、グラントの世話をしているのが見えた。厚い毛布に包まっている。ダンブルドアとバクマンさんは、岸辺に立っている。ボクとハリーが近付いて来るのが見えて、ニッコリと微笑みかけて来た。

 

マダム・マクシームに押さえつけられているデラクールさんは、半狂乱になっている。ハリーがおぶっている女の子、妹のガブリエルちゃんが無事かどうか心配で心配で仕方なかったようだ。

 

ハリーがガブリエルちゃんを先に引き上げ、ボクがデラクールさんに心配ないと伝えた。水魔に襲われたのは本当だったようだ。

 

上がってすぐに、マダム・ポンフリーがボク達に毛布をに包ませた。熱い煎じ薬を一杯飲まされて、耳から湯気が飛び出した。ボクは、まだ人魚の姿のままなんだ。

 

あの後、ハーミーがボクとグラントに激励の言葉を送ってくれた。

 

「どうやら点数を付ける前に、協議が入った。」

 

ダンブルドアが立ち上がって、審査員全員にそう告げた。秘密会議に入った。

 

「あなた達、ガブリエルを助けてくれました。」デラクールさんが言った。

 

「礼ならエリナに、あいつに言ってくれ。俺は大した事はしてない。最後に運んだだけだからな。」

 

ハリーが、ボクを親指で指しながら言った。それでも命の恩人に変わりないって言った。また、ボクにもお礼を言った。これからは、フラーって呼んでと言って来たんだ。ボクはフラーに抱き付かれ、ハリーは2回位キスされた。両頬に。ちょっと顔が赤くなったハリー。女性への関心はちゃんとあるみたいだね。良かった良かった。あ、ボクの身体も元に戻った。最初のビキニ姿へと。

 

バクマンさんが、魔法で拡張した声で協議の結果を告げた。

 

「それでは、審査の方が終わりましたので結果を発表したいと思います。50点満点で、次のような結果となりました。」

 

バクマンさんが言葉を一旦切った。そして、また話し始める。

 

「まずは、第1位。グラント・リドル君。」

 

スリザリン生が主にいるスタンドから歓声が上がった。

 

「彼の使用した鰓昆布は、極めて効果が大きい。唯一、時間制限内に人質を助け出す事に成功しました。得点は、文句無しの50点!」

 

ボクは、ちょっぴり落ち込んだ。先に戻ったグラントでこれだから、ボクはビリの可能性が極めて高いなと感じたから。

 

「そして次は、エリナ・ポッター嬢。」

 

さっさと終わらせて。もう分かり切ってる事だから。ビリだってこと知ってるから。

 

「彼女の使った魔法は素晴らしいものでした。本来4年生では習わない泡頭呪文呪文に防暑・防寒呪文、圧力軽減呪文を使いこなしました。また、高度な変身術を用いて高い水中移動能力を獲得したのです。現に、最初に人質の所へ辿り着きました。ですが、水中人達の証言によると全ての人質を安全に戻らせようと奮闘して、結果的に1時間の制限時間を倍以上オーバーしたのです!!」

 

スタンドがざわついた。

 

「よって、この道徳的な行為に敬意を評し、エリナ・ポッター嬢を……第2位とし、45点を与えます!」

 

周りから歓声が上がった。

 

「う、嘘だよね?」ハリーに聞いた。

 

「やったなエリナ!お前がやって来た事は決して無駄じゃなかったんだよ!道徳的な力を見せたんだ!もっと自分を誇って良いんだぜ!」

 

ハリーがボクを励ましてくれた。

 

「とーぜんの結果でーす!エリナ!」フラーが褒め称えてくれた。

 

「……ヴぉくも、そう思います。」クラムさんも言った。

 

「第3位は、ビクトール・クラム君。効果的な変身術を使いましたが、先程のエリナ・ポッター嬢に比べて中途半端だった事。そして僅かに、時間をオーバーしました。得点は40点です!」

 

カルカロフ校長が得意顔で、特に大きな拍手をしていた。

 

「第4位はフラー・デラクール嬢。完璧な泡頭呪文を使いましたが、水魔に襲われてリタイヤしました。得点は25点です。」

 

「わたーしは零点のいとでーす。」

 

見事な髪の頭を横に振りながら、フラーは喉を詰まらせた。

 

「皆さん、良く戦い抜きました。もう1度、盛大な拍手を!」

 

観客も、代表選手も、審査員も全員が拍手をした。

 

「第三の課題、最後の課題となるわけです。これは4ヶ月後の、即ち6月24日の夕暮れに行われます。」

 

引き続き、バクマンさんの声がした。

 

「代表選手には、そのきっかり1ヶ月前に課題の内容を知らせる事になります。皆さん、代表選手への応援ありがとうございます!」

 

ようやく終わったんだ。マダム・ポンフリーは、代表選手と人質に濡れた服を着替えさせる為に、皆を引率して城へ歩き出した。やった。通過した。4ヶ月後まで、何も心配はいらないんだ。ぐっすり眠れそうだね。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 崩れゆく日常

その後、エリナとグラントには多数の質問が舞い込んできた。どうやってとか、何があったとか。俺も同様だ。何しろ、人質になったのだから。ある程度の真実を話して、それで終わらせた。

 

ホグズミードに行く前日の3月。魔法薬の授業。スネイプは終始苦い顔をしていた。グラントが、エリナと同着とはいえ1位になったのに、あいつの事を気難しい顔で見ていたのだ。

 

「何かよぉ。スネイプ先生の視線が痛えんだよなぁ。」

 

俺は、ネビル、ロン、グラントの4人のグループを作り、魔法薬の調合をしていた。

 

『鰓昆布を自分の所から盗んで来たって思ってんじゃないのか?』

 

思念術で、グラントにそう言った。

 

「どう言えば良いんだ?」

 

『ロイヤル・レインボー財団の力を使って、取り寄せたって事にすれば?』

 

「そりゃ良いぜ。」

 

俺の編み出した方法で、また今回の課題を完成させた。スネイプ、一体どうやって短い時間でやったんだという顔をしてやがる。尤もスネイプよ。お前如きに教える筋合いは、これっぽっちも無いけどな。

 

その後、カルカロフが乱入して来た。何か左手をめくって、スネイプとヒソヒソ話してやがる。あいつら、変態ヘビの話でもしてるのか。それとも、パーバティとラベンダーが言ってた様に恋愛関係にあるのか。後者は有り得ないけどな。

 

翌日、ホグズミードへ。俺とエリナだけで行く。ホッグズ・ヘッドの密室で。話がバレない様に魔法を掛けておいた。

 

今まで起こった事を話した。エリナの第二の課題は、大いに喜んでいた。エリナも嬉しそうだった。次に、昨日の魔法薬学終了後のスネイプとカルカロフの会話もした。

 

「そうか。スネイプが腕をめくってねぇ……」

 

シリウスは、すっかり当惑していた。

 

「義祖父ちゃんがアルフレッドさんから通して集めたスネイプの情報。いつも闇の魔術に魅せられて、学校ではその事で有名だった。気味の悪い、べっとりと脂っこい髪をした奴だってね。」

 

「ハリー。その認識で正解だ。正しくその通りだよ。」

 

「う~ん。でもなあ。それだったら、どうしてダンブルドアは信用してるんだろうね?」

 

「裏切られるなんて明白なのにな。それに、1つ気になってる事もある。義祖父ちゃんが、スネイプに向けたあの憤怒の感情。今まで叱られたりって言うのはあったけど、それでも諭す様な感じでの叱り方なんだ。」

 

「え?アランさん。ボク達が3年生の時のクリスマスで物凄く怒ったけど。あれ、ハリー達も初めてだったんだ。」

 

エリナは大変驚いていた。

 

「ああ。あんなに激怒した義祖父ちゃんを見たのは、生まれて初めてだ。何か、息子夫婦がどうのって言ってたけどさ。」

 

「1度、アルフレッドが死んだ時にダンブルドアを責めているのは覚えているさ。」

 

シリウスが言い出した。

 

「どういう事?」俺は、もっと聞かせてくれという視線を送った。

 

「アルフレッドが卒業と同時に不死鳥の騎士団に入団してきてね。ヴォルデモートが凋落する、4ヶ月も前の事だよ。1週間後に、最初に与えられた任務で死んだんだ。死体は見つかってない。」

 

シリウスは、左目を隠している包帯を、クイッと整えた。

 

「あいつ程優しい奴はそう簡単にいやしない。これを知って、リリーは嘆き悲しんださ。あれだけ泣き止まなかったのは、メイナードの時以来だ。イドゥンのゴッド・ファーザーで、ジェームズの実の兄。」

 

「ボクとハリーの立場で言えば、伯父さんに当たる人?」

 

エリナは、シリウスにそう聞いた

 

「そうだよ。エリナ。生真面目な人でね。グリフィンドールではなく、レイブンクローだったよ。秩序や風紀を乱す者は、誰だろうとオシオキしてた。でも、余り寮で差別するって事は無かった。」

 

「レイブンクローか。」俺が呟いた。

 

「ポッター家はね。基本的にグリフィンドールなんだよ。でも、それ以外の寮へ行く素養も持っている。そして、何かしらの分野が突出して高いんだ。それ以外も、平均以上の能力を有している。エリナの変身術に、ハリーの魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術が正にそれだ。」

 

「ハア。何か、今までの努力を血統や才能で片付けられて何か複雑。」

 

思わず溜め息をついた。違う。全部、俺自身の血の滲む様な努力で培ったんだ。

 

「ま、それだけポッター家が優秀な人材を輩出してるって思ってくれて良い。で、スネイプの話だ。何故あいつが、ダンブルドアからの信頼を勝ち取っているのか、俺には見当がつかないよ。」

 

「あ。やっぱりシリウスもそう思うんだ。ゼロも、フィールド先生も疑問に思ってたよ。」

 

「フィールド?ああ。闇の陣営の殆どを道連れに全滅した戦闘一族か。まさか、まだ生き残りがいたとは驚きだ。あの一族専用の杖が3本存在するって聞いた事がある。」

 

「フィールド先生は、スネイプよりも強い。全然本気を出してない状態でも、スネイプを本気にさせた上で打ち負かす程のね。あの人。絶対に奥の手を隠し持ってるよ。」

 

「それにね。ゼロの方も凄いんだ。本人の能力もそうなんだけど、決闘や戦闘で打ち負かした魔法使いの杖の力を、コピー出来るんだよ。フィールド先生も、何か凄い杖を持ってたんだ。普通の魔法だけで、吸魂鬼にダメージを与えられたり出来るの。」

 

エリナも負けじとゼロの凄さをシリウスに教える。

 

「分かった。2人の話を聞いて、フィールド兄弟が凄いって事もよーく分かった。話が逸れたね。で、だ。もう上級生よりも呪いに詳しくてね。あいつの所業は、極一部を除き、恐れられて近付けなかった。」

 

シリウスは、まるで不倶戴天の敵でも見るかの様な顔をしていた。

 

「死喰い人予備軍?極一部って。」俺が聞いた。

 

「ご名答だ、ハリー。奴もその一員だった。最悪な事件を起こした連中の集まりだよ。だけどね。スネイプが死喰い人だと指摘された事は無い。それどころか、殆どはまだ捕まった事が無いんだ。」

 

「一昨年はエイブリーにヤックスリー、カロー。去年はノットが滅ぼされたけどね。」

 

「その話は聞いた。ダンブルドアはつい最近、闇の陣営以上の危険組織の存在を知ったんだ。それが…………」

 

「PWPE。終わりを生み出す者ってわけか。」

 

「ああ。知ってるも何も、ハリーとエリナは一度だけ接触しているんだったね。何故、個々の力があれだけ突出しているのか、奴らの目的は何なのか、どれ位の勢力なのか。それすら分かっていない。色んな意味で、前回の戦争よりも危険度は高くなるだろうね。それでも、ロイヤル・レインボー財団は、ある程度渡り合えるみたいだがね。」

 

「桁が違い過ぎるよ。一度見たけど。」

 

「くれぐれも、引き続き注意を怠らない様にしてくれ。どうやら、ムーディも様子がおかしいと聞いてるし。」

 

「ダンブルドアから聞いたの?」俺が言った。

 

「まあね。フォルテ・フィールドが監視してるってのも聞いた。」

 

ふと時計を見た。もう3時半だ。帰る準備をしないと。

 

「またいつでも会える。でも、俺に会う為に学校は抜け出さない様にしてくれよ。手紙を出すとかして、異変を知らせてくれ。良いね?」

 

俺とエリナはコクりと頷いた。ちょっと離れた場所まで見送って貰い、そこでシリウスと別れた。

 

*

 

ハリーとエリナがシリウスと会話してた頃の話に遡る。ロナルド・ウィーズリー。聖28一族に属する由緒正しき魔法族の一家、ウィーズリー家の6男坊である。

 

優秀な兄5人と妹に囲まれて育った彼。影が薄かった。だが、彼に転機が訪れる。ハリーとエリナのポッター兄妹を始めとする友人が出来た事だ。彼らには色々教わったし、そのお陰で成績が上がったり、未知の体験をしたり、とにかく毎日が充実していた…………その筈だった。

 

いつの間にか、彼の友人達はどんどん先に進んでいったのだ。気付けば置いてけぼりに。彼らの活躍を見る度に心が痛くなった。

 

今、ルームメイトのハリーとは距離を置いている。彼とは1度喧嘩した。自分の下らない嫉妬のせいで、対立したのだ。下手をしたら、止めようとしたハーマイオニーが死ぬところだった。でも、第一の課題を見て、自分の過ちを認めて関係は修復した。

 

だが、また喧嘩してしまった。クリスマス・ダンスパーティでは、ハーマイオニーはクラム、ハリーはスリザリンのイドゥンを誘ったのだ。その事でまた感情を爆発させてしまい、今度は距離を置かれた。

 

今、彼はやや孤立している。

 

「……何だってんだよ!どいつもこいつも、僕を否定して!!!」

 

ちょっと離れた所で、感情を露わにする。

 

「ロナルド・ウィーズリーか?」突然声が聞こえた。

 

「だ、誰だ!」ロンは叫んだ。

 

突如、吐き出されるかの様に仮面を付けた男が出現した。右目だけが露出している仮面だ。その右目は、赤くなっている。

 

「俺の名はダアト。ロナルド・ウィーズリー。お前は、兄達や妹、友人が優秀で、お前自身は劣等感を感じているのだろう?」

 

ダアトがロンに尋ねた。逃げ出したい。この男は危険だと直感で感じ取った。だが、不思議と逃げようとは思わなかった。この男の声は、まるでこちらが魅せられる位なのだ。抗う方が難しい。

 

「ぼ、僕に何の用だよ?」

 

何故自分に話しかけるのか。それを知りたかった。

 

「フフフ。周りの人間と同じ力を、お前にも与えてやろうと思ってな。」

 

ダアトは、ロンの前に何かを置いた。粉末状の薬の瓶と、錠剤型の薬の瓶、邪悪な力を放っている杖、そして、神々しくもどこか禍々しい天使を連想させる白いアーマーだ。

 

「…………!?これは?」

 

「これはな――」ダアトが説明する。

 

そして、3時半になった。そろそろ、ホグワーツに戻る時間帯になった。

 

「これを全てやり遂げた時、お前は今までとは一味も二味も違う、次元を超えた力を手に入れる。まずは粉末状の薬で慣らし、その後に錠剤を全て飲むんだ。」

 

「分かった。これで僕は変われるんだね?」

 

「ああ。変われる。それでは、来たるべき日にお前を迎えに来るとしよう。」

 

ダアトは、まるで吸い込まれる様に消え去った。

 

「フフッ!アハハハハハ!!」ロンは、思わず高笑いした。

 

「これで、これで。僕は、変われるんだ!」

 

もう誰かの影とは言わせない。おまけとも。そう心に誓ったロンであった。

 

*

 

時が流れるのは早かった。気付けばもう5月の終わりだ。ニフラーの授業があったり、試験に向けての勉強をしたり。エリナから第三の課題の内容を聞いた。迷路である。その中心に三校対抗優勝杯が置かれており、最初にその優勝杯に触れた者が満点だそうだ。

 

「で、説明の後にクラムと話し、クラウチは混乱の果てに聖マンゴに入院、憂いの篩いでの出来事に繋がったわけだな。そして、クラムが変態という名の紳士だったとはな。」

 

エリナから聞いた事をおさらいする。

 

「うん。それはボクも意外だったよ。クラウチさんは、ヴォルデモートの事で警告して来たみたいだし。失神させられていたクラムさんと倒れている所を見つかったわけだけど、あと一歩遅かったら死んでたってスネイプ先生が言ってたよ。一緒にいたフィールド先生は、どういうつもりなのかムーディ先生を警戒してた。」

 

ジュニアが絡んでるのか?という事は、フィールド先生は気付いてるのか?

 

「それに最後の憂いの篩い。ネビルの両親があんな事になってたなんて。それにレストレンジの、特にあの女の人が酷かったよ。」

 

エリナは哀しそうな顔になる。

 

「気の毒にな。ネビルの奴も。ある意味、俺達と同じじゃないか…………で、その時のベラトリックスは何て言ったんだ?」

 

「うん。言うよ。『バーテミウス・クラウチ!闇の帝王は破られた!滅ぼされた!だから死んだ!生き残った女の子バンザーイ!これで魔法界は永久の平和を取り戻したのだ!そう思っていれば良い!そのままのうのうと暮らしているが良い!我々をアズカバンに放り込んで満足か!?そうだろうな!我々もだ!あの方を待つだけだ!お前達の知らない事を知っている!いいや、知ろうとも思わない事を知っているのだ!あの方は必ず蘇るだろう!我々をお迎えになさる!他の従者の誰よりも我らをお褒めなさるだろう!そして、一番にお辞儀させてくださるだろう!我々だけがあの方に忠実だった!我々だけが、あのお方を探しつづけたんだ!あのお方の手で自由になった暁には、貴様ら全員をアズカバンより惨めな場所へ送ってやるよ!!楽しみにしていると良い!アハ!ハハハハはハハハ!ハーハッハッハッハッハ!!!』ってね。あの女だけは正真正銘の狂人で、キチガイだって思った。ボク、寒気がしたよ。」

 

「レストレンジ。あいつらは本物の狂人だ。実際そうだったって義祖父ちゃんも言ってたし、親戚のマルフォイ家ですら引くレベルだそうだ。」

 

「スピカから聞いたの?」

 

「いいや。我が親愛なるドラコからだ。あいつから死喰い人の一覧リストを貰ってね。情報は殆ど正しかったよ。」

 

1冊の本を掲げた。

 

「何か彼、変わったよね。今までみたいな振る舞いはしなくなったし。あれは本心だって分かるよ。」

 

エリナは、どうも人の感情の変化に敏感な所があるからな。心までは読めずとも、自分が怒りに飲み込まれていなければ、気持ちとか直感で察する場面が多い。だから、これは本当だろう。それにだ。俺自身もドラコの心の中を探ってみたが、どうやら本気で今よりも良い形に変えたい、家族を本気で救いたいと思ってる事は知ったんだ。そしてイドゥン立会いの下、閉心術の訓練も施しているし。

 

「それで、夢で見たヴォルデモートとワームテールの会話。ワームテールがしくじったけど、何とか命拾いしたんだっけ?」

 

「そうだよ。ヴォルデモートは、かなり弱り切ってた。本気で復活出来るのかな?」

 

エリナは半信半疑と言った感じになっている。

 

「あるな。俺の考え付く限り、1つだけ。」

 

「え?あるの?」エリナが俺をまじまじと見ている。かなり驚いている。

 

「古い手法のホムンクルス製造方法。闇の魔術の1つだ。父親の骨、自らに忠誠を誓う下僕の肉、そして最後に己を憎む敵の血だ。奴はそれで肉体を取り戻すかもしれない。」

 

「な、何ておぞましい魔法なの……」

 

エリナは、それを聞いて全身をガクガクさせている。

 

「肉体再生……というよりは肉体生成と言った方が正しいな。ホグワーツにはそんなものは無い。ジジイが残す筈が無いからな。」

 

「た、確かにダンブルドアならそうするだろうけどさ…………」

 

「ロイヤル・レインボー財団にはな。アクセス制限が掛けられている文献があるんだ。俺は、ある程度融通が利く立場にあるのさ。」

 

「ロイヤル・レインボー財団って凄いんだね。」

 

「ダンブルドア以外で、ヴォルデモートがあらゆる面で勝つ事が出来ない、数少ない魔法使いがトップやってるからね。この国の魔法界以外の全ての魔法界、マグル世界に至っては殆ど全てに大きな影響力を及ぼしているんだ。義祖父ちゃん1人じゃ、出来る事なんてたかが知れている。だけど、世界中にいる支部のトップや全ての団員がいればそうなるんだ。」

 

「そんな組織を怒らせたダンブルドアとスネイプ先生って一体…………」

 

「ま、俺から言わせればね。不死鳥の騎士団諸共潰さないだけでも良いと思えたがね。あ、そうだ。ヴォルデモートの話になるよな。俺があの変態ヘビだったら、屈辱を晴らす意味でも復活材料の血に関しては、極上の血を使うよ。」

 

わざと悪そうな顔でエリナに顔を近付けながら言った。

 

「極上?誰の?」金縛りに遭ったかの様に動かなくなるエリナ。

 

「自分の凋落になった原因。『生き残った女の子』と呼ばれる存在。」

 

それを聞いたエリナは、ヴォルデモートが誰の血を使うのか悟った様だ。

 

「もしかして……ヴォルデモートはボクの血を使うつもりなの?」

 

恐怖が全身を駆け抜ける様になりながら、それでもハッキリと解答を言ったエリナ。俺は表情を元に戻し、真面目なものとなってこう警告したのだ。

 

「エリナ。これからは、それに気を付けて行動するんだ。」

 

「分かった。気を付けるよ。」

 

「そんじゃ、修行を再開するか。」

 

「うん!」

 

宿題をやりつつ、エリナの特訓に付き合う。もう並の7年生レベルの力を有している。だけど、死喰い人には及ばない。十数年もブランクがあるとはいえ、勝てる保証は少ないからだ。それに、アルカディアやPWPEという、闇の陣営以上の敵対組織には全く敵わない。だけど、準備をするのは悪くないんだ。

 

以前、ロイヤル・レインボー財団にジュニアの事を報告しておいている。その結果、泳がせておいた方が良いという結論となった。エリナの血に宿る、母様の護りの魔法を取り込む事で、触れないという弱点を克服する意味合いもある。

 

だが、イーニアス義兄さんによれば、それと同時にヴォルデモートが死なない限り、エリナも絶対に死ぬ事は無いという調査結果を送ってくれたんだ。これはまるで、ヴォルデモート自体がエリナの分霊箱そのものと化していると言っても良い。

 

怪我の功名とは良く言ったものだな。今は不利に見えるかもしれないけど、後々闇の陣営にとっては最大の痛手となるだろうさ。

 

俺も期末試験に向けての最終調整が完了しているから、思いっ切りエリナの指導が出来るんだ。どの教科も大した内容にはなってない。今まで通りの姿勢で臨めば良いんだ。俺も始めるか。屋敷しもべ妖精式の魔法は完全に習得したけど、今度は天魔の紅雷を杖無し、それに無言呪文で扱えるようにしないと。

 

ゼロとグラントも、同じレベルの特訓をしているって聞いているし。俺も負けてられないな。これ以上に強くならないと、守りたい者を守れないし。

 

*

 

「……という事で、どうだ。ワームテールよ。」

 

薄茶色の髪の男が、ネズミを連想させる小男にそう告げる。

 

「オーケー。あの方は、今は弱り切って寝ているから聞こえてない。蛇も付き添っている。」

 

「よし。決まりだ。さっきの取り決めで行くぞ。お互いに裏切り者同士(・・・・・・)、仲良くやっていこう。」

 

「分かっている。取り敢えず今は、休戦且つ共闘で行くよ。」

 

「それにしてもお前、本当にワームテールか?今更だが、しばらく見ない間に、随分と人が変わったが。」

 

「僕は僕だ。」

 

「ふ~ん。まあいいや。打ち合わせ通りに行くぞ。」

 

*

 

「ふう。だいぶ慣れて来たな。この薬にも。順調に行けば、第三の課題直前に飲み切るな。力が、力が湧いてくる様な感覚だ。」

 

ロナルド・ウィーズリーは、皆に見つからない様に錠剤型の薬を服用していた。最初は吐血していたが、徐々に体が慣れていったのだ。

 

「もう僕は、日陰者じゃない。究極の力、それを手に入れてやる。」

 

*

 

時は更に流れ、第三の課題当日になった。どの教科も大した事ではなかった。平常運転でこなせたのだから。最後の試験は魔法史。だが、それもかなり理に適った考察を交えて解答した。今までも、それで高得点を取れたのだから。

 

代表選手は家族が来るそうだな。ダーズリーが来るのか?エリナとの待ち合わせ場所である部屋に入った。

 

「ハリー。久しぶり。」

 

「元気そうで何よりだよ。」

 

「生憎、兄上と姉上、お爺様はスケジュールが取れなくてね。」

 

そうは言いつつも、そんな事は建前だ。俺には分かっている。そう言う視線で伝えた。アドレー義兄さんは、ニッコリとしている。

 

「ってわけで、俺達もシリウスとリーマスに同行しに来たんだ。」

 

シリウスとリーマス、それにキットもいた。4人共、中良さそうにしている。確かに、俺達の後見人を担当しているこの2人と、エリナとの仲も特に良い2人なら来るだろうな。妥当な人選だ。合計4人だね。

 

「4人が来てくれたんだ。良かった。エリナには、てっきりダーズリーが来るんじゃないかと思っちゃってたんだ。」

 

来てくれた4人にそれぞれ握手をして、再会を喜ぶ俺。

 

「エリナは?」

 

「さっきまでいたんだ。でも、グラントの家族の代理人として来ているモリーさんとビルの所に行ったよ。」

 

俺の質問に、アドレー義兄さんが答えた。

 

「キット以外の3人は懐かしいんじゃないの?」

 

「まあね。パッドフット。君もだろ?」リーマスが言った。

 

「しばらく出歩くのも良いかも知れないな。それでハリー。試験はどうだった?」

 

「この俺が苦戦をするとでも?簡単過ぎて歯応えが無さ過ぎだった。俺に点数で勝てるのは、ハー子にゼロ、イドゥン位だからね。」

 

「それもそうか。」シリウスは、そう言いながらもかなり驚いている。

 

「それでは私は、厨房から食事をとりに行こう。キット。君も来るか?」

 

「行くぜアドレー。ついでにホグワーツも案内してくれよ。」

 

そういうわけで、4人はフリータイムになった。後で、ウィーズリーおばさんやビルとも挨拶をした。

 

「元気そうで何よりだ。つーか、クラムの一家がキットを見て何かざわついてたな。別にキットは何もしてないのに。」

 

しばらく外の空気を吸いに行く。大広間の玄関の入り口には、ドラコ・マルフォイがいた。俺を見るや否や、近付いてきた。

 

「ポッター。丁度君を探してたんだ。話がある。付き合ってくれないか?」

 

「別に良いが。どうしたんだ?」

 

「とにかく来てくれ!イドゥンも呼んだ。」

 

「分かった。行こうか。」

 

誰もいない空き教室まで移動した。既にイドゥンはいた。

 

「ドラコ。ハリーを連れて来ましたか。」

 

「連れてきたよ。」

 

「それで、話って何だ?」

 

「昨日起こった話だ。それを話したうえで、僕の決意を聞いて欲しい。」

 

ドラコは、ゆっくりと話し始めた。

 

*

 

ドラコ・マルフォイはその日の試験を終え、気晴らしに外出した。まあ、出来は大丈夫だろう。後は魔法史だけだな、と思ったドラコ。

 

突然、鳥がぎゃあぎゃあと騒いだ。その鳴き声に交じって、不快にする様な笑い声が聞こえたのだ。

 

「誰だ!?」

 

その言葉と同時に、男が現れた。少しそばかすがあり、薄茶色の髪をしている。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア!」ドラコが叫んだ。

 

「正解だ。初めましてになるかな?いいや、この姿での対面になるわけだが。ケナガイタチで思い出すか?ええ?」

 

ドラコは悟った。この男が何を言ってるのかを。

 

「まさか。ムーディに化けていたのか!?」

 

「そうだ。フフフ、まさか。自分に教師の素質があったのは驚きだったがな。」

 

「死喰い人が何のようだ!?まさか、僕を闇の帝王の下に引き入れる気か!?」

 

「引き入れるのは正解だ。だが、その対象は全く違う。そして、もう俺は闇の帝王のものではない。リチャード・シモンズ様のものだ。」

 

そんなバカな!?こいつはダンブルドアだけではなく、闇の帝王まで欺いてたのか?

 

「シモンズは呪いの印を僕に植え付けて何をしたいんだ?」

 

「気に入った奴を、引き入れたいのさ。」

 

「僕に何のメリットがあるって言うんだ!?」

 

「逆に聞こう。お前の目的は何だ?このままホグワーツにいても、いずれヴォルデモートに利用されるだけなのに。」

 

「!?」唐突な問いかけに、思わずドラコは怯んだ。

 

「呪印。または新しい改造手術によって、シモンズ様に縛られる。それ相応の力は手に入るがな。結局の所、このまま学校で平穏を送るのもアリだ。だがな、早かれ遅かれお前の父のしくじりはバレる。ヴォルデモートはその時、間違い無くお前を無理矢理死喰い人にし、無茶な任務を与え、出来ずに殺し、父への見せしめにするだろう。そして、PWPEは手加減という文字が奴らの辞書にない。ターゲットになった奴は、好き嫌い問わず皆殺しだ。」

 

青ざめるドラコ。

 

「だが、今シモンズ様の所へ来れば、お前は守られながら、今までにない強大な力を手に入れる事が出来る。」

 

そうだ。この男の言う通りだ。このままでは、PWPEという組織に自分は碌な抵抗も出来ずに殺されるだろう。だから、この1年間は努力して来た。イドゥンのみならず、ハリー・ポッターにも勉強や戦闘訓練をして貰った。ハリーとちゃんと関わって分かったのだ。自分がどれだけ狭い見識を持っていたかを。それを脱却するきっかけを作ってくれたハリーに、感謝と敬意、友情まで感じ始めたのだ。

 

「何かを得るには、何かを捨てなければならない。お前は、家族を助けたいんだろう?その為の力を得るにはどうしたら良いか……分かったんじゃないか?」

 

「僕にホグワーツと、今までの繋がりを捨てろって言いたいのか?」

 

ドラコは、ジュニアを険しい表情で見た。ジュニアは、満足そうに頷いた。

 

「力を手に入れない事と引き換えに、お前は何ら変わらぬ平穏を再び手にするだろうな。だが、それは脆く崩れ去る。力を手に入れるには、お前が掴む筈の平穏を捨てる事が最低条件だ。」

 

正に孤立無援。ハリーが前に言ってた四面楚歌って奴か。今よりも桁違いな強さを得られるが、それは今までの繋がりを断ち切る事でもあったのだ。大切な存在がいる今の世界と、強大な力を得られる機会。板挟みになるドラコであった。

 

「もう、3年生の時のクリスマスと同じ思いはしたくないだろう?ドラコ・マルフォイ。」

 

嫌でも思い出す。死喰い人の家族だから殺すと言われ、自分は何も出来なかった。もう、あんな思いはしたくない。どうすれば良い?

 

『こうなったら……』何かを決意したドラコ。

 

「明日の期末試験終了後、第三の課題が始まる時に返答を貰おう。くれぐれも、目的と現状を忘れるなよ。」

 

ジュニアは立ち去る寸前、ドラコの顔を見た。それは、眼が大きく見開いていた。手応えがあったなと感じるジュニア。そうじゃなくても、何かしらの決意は固めたのは確かである。後は、答えを待つだけだ。

 

『仕上げをしなくてはな。』

 

ジュニアは、ムーディの部屋に戻って行った。

 

*

 

「と、いう事があった。」

 

「ヴォルデモートではなく、リチャード・シモンズの!?」

 

「成る程。正体を暴いた時に、道理でヴォルデモートに関する情報だけは簡単に引きずり出せて、それ以外の情報だけは引き出せなかったわけですわね。一杯食わされましたわ。」

 

「で、今日答えを言うんだろ?ドラコ、その答えとやらを聞かせてくれ。」

 

俺は、ドラコに質問を投げかけた。ドラコは目を閉じた。しばらくして、また見開いたのだ。決意を固めた目をしている。

 

「僕は不死鳥の騎士団の。いいや、ダンブルドアから送り込まれたスパイとしてリチャード・シモンズの所へ行く。もう本人も承知済みだし、事情を知ってる人間もいるって言っておいた。かなり苦い顔をしていたが、最終的にダンブルドアは了承した。父上や母上を助ける事を条件に。スピカに関しては、ロイヤル・レインボー財団に保護される事も言った。」

 

「……義祖父ちゃんから、その旨の連絡を受け取った。俺以外でマリアの心を解いた人間がいれば、マリアの他人恐怖症も直せるって言ってたし。」

 

「力を手に入れる代わりに、ひたすら魔法界のために尽くす。そういう決断を、あなたはしたわけですか。私とハリーにも真相を告げた理由。もし任務を達成出来てこちら側に戻って来る時に、間違い無く裁かれる可能性がありますね。」

 

「世界のほぼ全てに大きな影響力を持っているロイヤル・レインボー財団と、英国魔法界事実上の王族と称されるブラック家。そこに、アルバス・ダンブルドアの口添えで恩赦を。確かに俺も奴の情報は欲しいし、後になって君も不問になるわけだ。だが、良いのか?スパイというのは難しんだぜ。」

 

「ハリーの言う通りです。口で言うのは簡単ですけど、実際にやるのは困難を極めますわ。敵の信頼を勝ち取った上で、情報をこちら側に渡す。そんな芸当を、あなたはこれからやるのですよ。出来るのですか?」

 

俺とイドゥンで、最後通告を出しておく。

 

「やってみせるさ。何たって僕は、スリザリン所属のドラコ・マルフォイだからね。」

 

ドラコの決意は揺るがなかった。もう何が何でも行く気だな。これ以上の説得は無理そうだ。そうイドゥンに視線を送る。彼女も同じ気持ちのようだ。

 

「覚悟は出来ているのですね?」

 

「ああ。出来てる。だから、もう荷物は片付けたんだ。いつでも行ける。」

 

トランクを指差すドラコ。

 

「僕は、これからシモンズの所へ行く。ポッター……いや、ハリー。」

 

初めて俺を、下の名前で呼んだ。

 

「スピカを、僕の妹を頼む!」

 

散々いがみ合って来た敵としてではなく、友として俺に頼んできたドラコ。

 

「分かっている。ドラコ。心配するな。これから危険極まりない場所に行くお前に代わって、俺がスピカを全力で守る!だがこれだけは約束しろ!必ず、生きて帰って来い!」

 

俺は、ドラコにそう言った。ドラコは、力強く頷いた。

 

「ああ。2人共、行ってくる。」

 

ドラコは、ジュニアとの待ち合わせ場所まで全力で走っていった。

 

「行きましたわね。」

 

「よし。ロイヤル・レインボー財団に報告をしよう。」

 

*

 

疲れ切った顔のダンブルドア。これから審査員として行かねばならないのに、あまり行く気分ではなかった。その直後に、一仕事出来たのだ。

 

「わしは、やはり他力本願なのか。確かに、リチャード・シモンズの組織、アルカディアの情報は欲しいとは思っておった。じゃが、ドラコ本人から名乗りを上げたとはいえ、生徒を、ましてや未成年の子供をスパイとして送り込むとは。」

 

ダンブルドアは、今になって非常に後悔した。昨日の夜、ドラコ・マルフォイが来たのだ。家族の救出と、力を得る事と引き換えに、自分のスパイとなってリチャード・シモンズの所に行くと言い出した。最初は反対したが、彼の決意は揺るぎないものだった。

 

だが、情報が欲しかったのは事実。現に、ムーディの正体を明かしてくれたのだ。フォルテが監視していたが、これから、第三の課題の開始を告げた後にクラウチ・ジュニアを拘束しに行く。

 

「悩んでばかりもいられないのう。行動しなければ。」

 

ダンブルドアは、スネイプとマクゴナガル、フォルテ・フィールドを呼び出し、偽ムーディを捕まえに行く事にしたのだった。

 

*

 

「最後の1つ。」

 

ロンは、錠剤を飲んだ。その瞬間、力が漲って来た。何でも出来そうな感じだ。第三の課題開始まで、あと40分だ。

 

「さあ。ダアトと合流するか。」

 

自分の荷物、最低限のものだけを手に、談話室を出て行くロン。このまま、学校を抜けるつもりだ。大理石ホールの正面玄関へ向かう。そこには、ハーマイオニーがいた。

 

「何だよハーマイオニー。どうしてそこにいるんだ?」

 

思わず舌打ちしたくなったロン。

 

「外に出るには、この正面玄関を通らなきゃいけないから。」

 

僅かに震えているハーマイオニー。

 

「あの変な薬を飲んで、何をする気?」

 

「君には関係ない。もう僕は、誰かのおまけじゃない。添え物じゃない。特別な存在の、ロナルド・ウィーズリーとなる為に、僕は終わりを生み出す者の所に行く。」

 

「ふざけないでよ!そんな事、誰も望んでない!ロン。お願いよ。あなたが劣等感を抱きながら生きてたのは知ってた。でも皆、あなたを友達だって思ってくれてるのよ!その繋がりを断ち切る気なの!?」

 

「うるさい。口ではそう言いながら、僕の気なんか知らない癖に!麻痺せよ(ストゥーピファイ)!!」

 

ハーマイオニーを失神させた。成績優秀だからそんな事が言えるんだ。あいつらは、もう友達じゃない。敵だ。

 

「もう、平凡なんて言わせるか。僕は、今度こそ変わるんだ。」

 

ロンは駆け出した。禁じられた森の入り口、ハリーと喧嘩した場所だ。そこが合流地点になっている。

 

「来たか。」仮面の男、ダアトが待っていた。

 

「どうやって行くんだ?」ロンが問いかける

 

「姿くらましは無理だ。もう少し、俺も魔力を回復させる必要がある。だから、歩くんだ。」

 

「追っ手も来るんじゃないのか?」

 

「それについては心配いらない。足止め要因は準備してある。リーダーも、ヴォルデモートに地獄を見せつける為に遠くの場所へ行ったんだ。奴ら闇の陣営にとっては、さぞかし楽しい宴になるだろうがな。」

 

ダアトは笑っている。仮面で隠しているが。だが、その目は笑ってない。まるで、これから闇の陣営に待ち受ける最悪のシナリオを当然の報いだと思っているようだ。

 

「それでは、行くぞ。」

 

ダアトは、ロンを連れて校門まで歩き始めたのだ。

 

*

 

ドラコは、ジュニアとの待ち合わせ場所まで来ていた。もうジュニアはいたのだ。

 

「早いな。答えを聞こうか。ドラコ・マルフォイ。」

 

「僕は、リチャード・シモンズの所に向かう。力を手に入れる為に。」

 

その答えを聞いたジュニアは、満足そうにしていた。

 

「良い判断だ。早速行くぞ。」

 

「ダンブルドアは、あんたを捕まえに行くつもりの様だけど?」

 

「教員室にいる俺の事か?あれはダミーだ。3日間持続する。ほら、行くぞ。」

 

「ああ。」

 

ジュニアは、緋色の竜の姿になった。ドラコに乗れと促す。迷わず背中に乗った。ジュニアは、空を飛んだ。

 

*

 

試合開始30分前。俺とイドゥンは、周りを見ていた。

 

「そろそろ、第三の課題が始まりますわ。行きましょう。ハリー。」

 

「ああ。」

 

俺とイドゥンは、正面玄関に向かった。途中でゼロ、次にエックスと合流し、せっかくだから皆で行こうという事になったわけだ。

 

正面玄関。セドリックとチョウがいる。だが、倒れている誰かを呼び掛けているようだ。ゼロ、ブラック姉弟に目の視線を合わせる。3人共、頷いた。急いで彼ら2人の下へ駆け寄った。

 

「セドリック!チョウ!一体どうし……!?ハー子か!?」

 

倒れていたのはハー子だった。

 

「誰かに失神させられたみたいなんだ。」

 

「よし。俺に任せてくれ。活きよ(エネルベート)。」

 

ゼロが杖を振り、ハー子に魔法を掛けた。ハー子が目を覚ます。

 

「大変なの!ハリー!ロンが!ロンが!!」

 

目を覚まして早々、急に喚き出したハー子。

 

「少し落ち着いて下さい、グレンジャーさん。状況が呑み込めませんよ。」

 

エックスが落ち着く様にと諭した。ハー子は話し始めた。ロンが妙な薬を3月から飲んでいた事、何か胸騒ぎがしたのでロンを注意深く観察していた。正面玄関でロンと出会った時、彼の様子がおかしかったのだ。何とか引き留めようとしたが、早抜きで失神させられたというのだ。終わりを生み出す者に行くと言ってたようだ。

 

「私では、出来なかった。止められなかったの。」

 

ハー子が泣きながら俺達6人に言った。

 

「もっとロンを気遣っていれば、もっと彼の異変に早く気づいていれば。」

 

「それ言うならさ。ハー子。俺にだって落ち度はある。こんな事になるなら、もっと腹を割って話すべきだったってな。」

 

俺もハー子に謝った。

 

「ハリー。今後悔したって始まらない。まだ間に合うかも知れない。ロンを追うぞ。」

 

「ゼロ。お前、まさか……」

 

「フッ。当たり前だろ。何年お前とつるんでると思ってんだ?俺も行こう。エックス、イドゥン、セドリック、チョウ。ハーマイオニーを医務室に…………」

 

「僕にも行かせてください。先輩。ゼロさん。姉ちゃんは行くの?僕は行くよ。」

 

エックスが名乗りを上げた。イドゥンにも聞いている。

 

「ここまでの事情を聞けば、私達も手伝いますよ。ハリー、あなたには返しきれない恩がありますからね。」

 

イドゥンも言った。

 

「シリウス伯父さんの無実を証明し、レギュラス伯父さんの真実まで語ってくれた。先輩。あなたは、僕達を救ってくれたんですよ。僕達の『心』を。今度は、あなたがウィーズリーさんを救う手伝いをさせてください。」

 

エックスが続け様に言った。

 

「ハリー。それにゼロ。君達は、いつも僕が分からない所を教えてくれている。恩返しをさせてくれ。それにね、エリナは僕にとっては大切な後輩さ。双子の兄である君も、僕にとっては大切な後輩だ。それに、僕は成人してる。何かあった時に庇うことが出来る。」

 

気持ちとしては嬉しい。だが、終わりを生み出す者、PWPEが絡んでいるなら状況はガラリと変わってくる。

 

「皆。ロンは手引きされている可能性が高い。手引きしている奴らが終わりを生み出す者ならば、死ぬ可能性の方が極めて高いんだ。」

 

行くと申告したゼロ、セドリック、イドゥン、エックスにそう告げる俺。

 

「人数は10人前後。だけど、個人の戦闘能力は国1つを容易く滅ぼせるんだ。挑もうとしているのは、そんな奴らなんだ。」

 

頼む。PWPEの知っている事は教えるから、行かないと言ってくれ。因縁がある俺1人だけで十分だから。

 

「だから何だ。」ゼロが口を開いた。

 

「俺はな。お前と一緒に今まで戦ってきたんだ。賢者の石の時だって、秘密の部屋の時だって。俺の力は分かってるだろう?それにな、PWPEの1人との決着もつけなきゃって思ってるのさ。」

 

「ゼロ。お前はそれだけじゃなくて、あの力もあるから大丈夫かもしれないけど。」

 

「イドゥンは成績がトップだ。戦闘能力も、お前や俺、グラントと比べて1歩引き下がるけど、ちゃんとあるんだ。下手な上級生よりも頼りになる。」

 

「ゼロ。私、恥ずかしいですわ。」イドゥンが頬を赤らめる。

 

「エックスは、入学時点で卒業レベルの力を持ってる。それに、今の3年生では座学も実技も1番だ。修行もやっていて、お前との連携も取りやすいぞ。」

 

「もっと僕達を頼ったって良いんですよ。」エックスがニコリとした。

 

「セドリックは、この中では唯一の成人だ。監督生にも選ばれてるって事は、それ相応の能力を持ってるぜ。科目だって、12科目通過したみたいだし。」

 

「ハリー。君が何と言おうと、付いて行くよ。」

 

「これでも、死なせたくないから連れて行かないつもりか?」

 

ゼロが言った。もう、何言っても付いて行くだろうなぁ。

 

「……自分の身は、自分で守ってくれ。俺では庇い切れない可能性が高い。正直に言わせてもらうが、闇の陣営よりも化け物染みている。それだけは覚えておいてくれ。」

 

「決まりだな。10分後、玄関の外で集合しよう。そしてチョウ。ハーマイオニーを、医務室へ連れて行ってくれ。出来たら、先生達に伝えて欲しい。」

 

ゼロが皆を取りまとめた。ご丁寧に、集合時間まで設けてくれた。

 

「ええ。分かったわ。行きましょう、ハーマイオニー。」

 

「ありがとう。助かるわ、チョウ。」

 

チョウが、ハー子を付き添う。だが、ハー子が振り向いた。俺に視線を向けている。

 

「ハリー。お願い。もうあなたにしか頼めないの。ロンを……ロンを連れ戻して。」

 

泣きながらも、しっかりと俺にそう言ったハー子。

 

「任せろよ。言われなくてもそうするぜ。今さ、ハー子が苦しんでるのは分かるんだ。だからさ。ロンは絶対に連れて帰ってくる!安静にして、待っててくれ!!」

 

思い付く限りの励ましの言葉と、自分の決意を伝える。

 

「ありがとう……ハリー。」

 

「さあ。マダム・ポンフリーの所へ行きましょう。」

 

今度こそ、ハー子は医務室へ向かった。それを見送ってすぐに、10分で身の回りの準備をした。そして10分後。第三の課題、開始10分前。

 

「タイムオーバーだな。」

 

俺、ゼロ、イドゥン、エックス、セドリックが玄関の外にいた。

 

「ゼロ。それは?」

 

「バトルシャフトって言う武器でな。兄さんが、ロイヤル・レインボー財団に依頼して作ってくれた武器だ。」

 

片方だけに両刃が付いているロッドって感じだな。いけね、魔力感知しないと。

 

「ロンの奴、禁じられた森を歩いてるぞ。知らない魔力の持ち主と一緒に。」

 

予め感知した魔力の位置を、4人に教える。

 

「凄いな。魔力感知呪文って。」セドリックが感心している。

 

「行きましょう。時間もそんなにありませんからね。」

 

エックスが早く行くように促した。

 

「そうですわね。行きましょう。」

 

「出発だ!」ゼロが叫ぶ。

 

5人で歩き出した。俺には仲間がいる。心強い仲間が。彼らとなら、何処までも繋がる道を歩んでいけそうだ。そう感じられずにはいられないのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 第三の課題

エリナ視点

遂に始まった第三の課題。そのテーマは、迷路。最初に行く順番は、前の2つの課題の合計点数の高い程決まるんだ。ボクは、課題の前に食事をした。グリフィンドールの席も見たけど、ハリーにロン、ハーミーは何故かいなかった。

 

クィディッチ競技場跡地に向かう。最初に、88点のボクとグラントが同時に出発した。その時に、シリウスとリーマス、キットさんにアドレーさん、ウィーズリーおばさんとビルさんが手を振ってるのが見えた。ボクも、手を振った。

 

「じゃあね。」グラントに言った。

 

「おう!エリナちゃんもな。」

 

グラントとは別方向を歩き出した。ボクが進んでいる道は、特に何もないようだ。右に曲がり、急ぎ足で、杖を頭の上に高く掲げて、なるべく先の方が見えるようにボクは進んだ。でも、見えるものは何も無かった。

 

ホイッスルが鳴った。恐らく、クラムさんが入場したんだろうね。急ごう。

 

ちなみにだけど、ボクは今までよりは最も、そして1番落ち着いていた。自分の力に自信があった。補助呪文の適性の方が高いけど、攻撃呪文の適性も決して低くないんだ。

 

それでも障害物や怪物は、それなりにいるだろうしね。だけど、ボクはそれ以上の怪物との戦闘経験もちゃんとあるんだ。それを生かせばいい。そして、ハリーやロイヤル・レインボー財団でのトレーニングも思い出す。

 

またホイッスルが鳴った。フラーかな?これで、代表選手は全員参加している事になっているわけだね。

 

その時、轟音が聞こえた。

 

「わっ!?何なに?」

 

音が聞こえた方向に向かってみる。グラントが、尻尾爆発スクリュートに襲われていた。

 

「ぐ、グラント!?」

 

「エリナちゃんか!エリナちゃんも逃げろ!ハグリッドさんのスクリュートだぜ!ユニコーンとかニフラーばっかりやってたからよぉ。ちょっと見ない間に小山くらいに大きくなってやがるぜ!!」

 

「うわ!本当だ!方角示せ(ポイントミー)。」

 

逃げる手段を取りながらも、正しいルートに行ける様にする。南東を通った。

 

「ハア……ハア……ハア……何とか撒いた様だね。やっぱりあの生き物、好きにはなれないや。というか、ハグリッドの言うプロジェクトって、こういう事だったんだね。」

 

それでも、かなり距離は詰められた。さあ。引き締めて進んでいこう。

 

「大分歩いたなぁ。でも、優勝杯には未だ辿り着けず……か。グラントは大丈夫かなぁ?……!?これって……」

 

寒気がした。去年のあの時みたいな感覚だ。この、もう幸福な気分になれないんじゃないかという感覚。吸魂鬼だ。また、あの光景が――

 

『この子だけは!この子だけは!』

 

『どけ!どくのだ小娘!お辞儀をするのだ!』

 

「もう、これで喜んだりするボクじゃない!まだハリーが!シリウスとリーマスが!皆がいるんだもの!」

 

また声が聞こえた。メガネを掛けて、髪をクシャクシャしている。ハリーにそっくりな男の人だ。目は、ボクと同じハシバミ色をしている。パパだ!

 

『フン。お辞儀?この年になってまだ厨二病をこじらせてるのか?お前こそ、僕に跪くが良いさ!』

 

「そうだよね?パパ。行くよ。守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!」

 

牡鹿が、吸魂鬼を撃退する。

 

「でも、去年までと違うような……あ!いくらなんでも、ここに吸魂鬼なんて置かないよ!ダンブルドアが怒るもの!という事は!あなたは、まね妖怪ボガート!!」

 

本物なら、滑るように動く。だけど、この吸魂鬼は守護霊と衝突した時に転んだ。今更だけど気付いた。

 

「それだったらこれだよ!馬鹿馬鹿しい(リディクラス)!!」

 

招き猫に変えた。ボガートは消えてしまった。

 

「行こう。進まなくちゃ。方角示せ(ポイントミー)光よ(ルーモス)!」

 

再び歩き出した。四方位呪文、光を出す呪文を唱えて。

 

10分後。…………右……左……右。袋小路に行き詰まっちゃった。

 

「だったら、意味ありげな金色の霧が漂ってる横道を行くしかなさそうだね。不思議と誘ってくる様な感じだけど。」

 

ボクは、道を進もうとした。すると、女の人の悲鳴が聞こえた。

 

「フラー!?ボクが行こうとしている道の先に!?」

 

霧の中を走った。その瞬間、天地が逆さまになった。

 

「うわっ!?宙吊り……違う!ちゃんと足はついてるのに、それは!ああっ!スカートが!って誰もいないから騒がなくて良いんだよね。」

 

でもフラーが危なさそうだよ。早く対処しないと。ハリーから、天地が逆さまになった時の対処呪文を教えて貰えば良かったよ。今更後悔しても遅いんだけどさ。

 

「考えよう。勇気ある一歩を踏み出すしか……!!」

 

天井から右足を引き抜いた。途端に、世界は元に戻った。

 

「これ良かったんだ。今までの苦労って?でもまあ、霧も晴れたみたいだね。まだキラキラしてるけど……もしかして、あの状態にして棄権を促したかったのかなぁ?まあ良いや。フラーを助けに行こう。」

 

先を歩くとフラーが見えた。

 

「フラー!」ボクは叫んだ。

 

「え、エリナ?」何か混乱してるみたい。

 

「どうしたの!?何があったの!?」

 

「クラーム、クラーム。気を……つ…………け…………」

 

フラーは意識を失った。

 

「クラムさんが?でもあの人、協議の公正さを求める人だもん。クィディッチの話をしてて分かったもの。プラチナイーグルを更に乗りこなす方法だって、教えて貰ったんだ。何か事情があるんだよ。」

 

フラーの杖を少し借りて、赤い火花を打ち上げた。

 

「よっこらせっと。うわあ、軽いなぁ。羨ましい。」

 

ボクは、フラーを壁にもたれかけさせた。

 

「じゃあね。クラムさんと、出来たら話をするから。」

 

フラーに別れを告げて、ボクは突き進んだ。四方位呪文をまた発動させて、今度は北西に進む。新しい道を見つけて、急ぎ足で歩いていると、何か声が聞こえた。早速行ってみよう。

 

「クラムさん!どうしちまったんだよぉ!」

 

それからクラムさんの声が聞こえた。

 

苦しめ(クルーシオ)!」

 

「グワアアアアアア!」

 

グラントの悲鳴が聞こえた。そこへ向かう。到着すると、グラントが地面でのた打ち回っていた。クラムさんは、覆いかぶさる様に立っている。

 

「グラントから離れて!麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

クラムさんの背中に、失神呪文を当てた。その場でピタリと動かなくなって、芝生の上にうつ伏せになって倒れた。

 

「大丈夫!?グラント?」

 

「ああ。大丈夫だぜ。でもよぉ、前に話した感じだとこんな真似はしない人なんだぜ。まるでよぉ、3年前のハーミーちゃんみたいだ。」

 

「フラーもクラムさんがやったみたいな言い方をしてた。だけど、許されざる呪文を簡単に使う人じゃないのは確かだよ。」

 

「だよなぁ。取り敢えず、杖を借りて赤い火花を打ち上げようぜ。」

 

「よろしくね。」

 

そう言って、クラムさんの所にすぐ救援が来る様にしたグラント。

 

「そんじゃ、俺は右行くぜ。エリナちゃんも頑張れよ。」

 

「グラントもね。ボクは左!」

 

グラントは右に行った。ボクは、左へ進んだ。脱落者は2人。ホグワーツに所属する、ボクとグラントだけに絞られた。これで、ホグワーツの優勝は決まったようなものかな?誰も脱落しなきゃだけど。

 

四方位呪文を使いながら、先へ先へと進むボク。袋小路に捕まる事はあったけど、段々闇が濃くなってくようだね。これって、中心に近付いてるって認識で良いのかなぁ?それはともかく、やる事は変わらないんだけど。

 

しばらく歩き続けるボク。杖灯りが何かを照らした。蠢いている。生き物みたいだ。

 

「あれって!試合前にビルが話してくれた生き物だ!ハグリッドがくれた本にも載ってた、スフィンクス。砂漠の賢者!そして……猫さん?」

 

「よくぞ見抜いたな。あなたは、ゴールの近くにいる。私が塞いでいるこの道こそ、1番の近道だ。余談だが、猫は余計だ。私の名前は、けつあご。」

 

名前が酷かった。

 

「通して。」

 

「それには、謎々を解いて貰う。正解すれば通す。間違えたら、お前の身ぐるみを全て剥がして、全身を舐めまわしてやる。立ち退くならば、私の所から返そう。無傷で。」

 

「わ、分かった。謎々出して。」

 

「本当は襲えと言われてるのだが、私とて君のような淑女を襲うのは不本意。ロリこそ至高の、私にとってはね。だから、謎々も随分と簡単にする。では、行くぞ。」

 

「何時でもどうぞ。」

 

「『注射の道具にもなり、泳ぐ為の道具にもなり、逃げる時の生贄にもなる。また、感情を表現する手段にもなっている。人間は、絵を描く時の道具にもしている。殆どの動物が持っているこれは何?』」

 

『う~ん。注射の道具、泳ぐ道具、逃げる時の生贄、感情表現、絵を描く時の道具、それは殆どの動物が持ってる…………あ!そういう事か!』

 

「分かった!答えが!」

 

「聞こう。」

 

「答えはね……」

 

スフィンクスだけに聞こえる様に囁いた。それを聞いて、ちょっぴり残念そうだったけど、それでも微笑んでくれたスフィンクス。立ち上がって、前足をグーンと伸ばし、脇に避けてボクに道を開けてくれた。

 

「ありがとう!」

 

「君の健闘を祈る。」

 

杖の方位を確認する。このまままっすぐで大丈夫そうだ。でも、また分かれ道があった。

 

方角示せ(ポイントミー)!」

 

杖はくるりと回って、右手の道を示した。その道を大急ぎで進んだ。

 

「優勝杯だ!台座の上で輝いているよ!綺麗!」

 

全力でダッシュした。手で掴めば届く距離まで近付いた。

 

「フウ。何とか間にあ……うわぁっ!?エリナちゃんか!?」

 

「あ、グラント同じタイミングで来たんだ。意外に早かったね。四方位呪文を使ったの?」

 

「いんや。一応ゼロに教えて貰ったけどよぉ、あんま芳しくなかったんだぜぇ。」

 

「今までどうやって来たの?」

 

「野生の勘って奴かなぁ?」逆に凄過ぎるよ。

 

「グラントの能力が関係ありそうだけど。どうする?もう、どっちがとってもホグワーツが勝つよ。」

 

「だよなぁ。エリナちゃんが取りたければ取れば良いと思うぜぇ。」

 

「折角だからさ。元々同点じゃん。一緒に取ろう。ね?」

 

ボクは、グラントにそう提案する。

 

「おっし。そうしよう!3つ数えたら触ろうか!」

 

「うん!1――2――3!」

 

ボクとグラントは、一緒に優勝杯の取っ手に触れた。その瞬間、ヘソの裏側の辺りがグイッと引っ張られる様に感じた。両足が地面を離れる。手が離せない。それはグラントも同じだった。風の唸り、色の渦の中を、優勝杯はボクとグラントの2人を引っ張って行く。

 

*

 

今頃、第三の課題は始まっているのだろう。だが、俺達は見に行かない。それどころではない事態が発生しているからだ。

 

ロナルド・ウィーズリー。俺と同じグリフィンドール生で、談話室のルームメイト。俺の親友だ。だが、いつからか折り合いが悪くなり、THPEの手引きを受け、ホグワーツを抜けようとしている。

 

それを止めようとしているのは、俺を含む5人の生徒。4年生3人。3年生1人。6年生1人。その内訳は、この俺ハリー・ポッター、ゼロ・フィールド、イドゥン・ブラック、エックス・ブラック、セドリック・ディゴリーだ。

 

俺達は、箒に乗って追跡をしている。

 

「姉ちゃん。しっかり掴まってて。」

 

「お願いしますよ。エックス。」

 

エックスとイドゥンは、ブルーボトルと呼ばれる箒に乗っている。2人乗りで、安全且つ信頼出来て、しかも防犯ブザー付きだ。セドリックは、クリーンスイープ10号。ゼロは、親父さんが生前愛用していた箒のシルバーアロー。俺は、プライベートで使っているレッドスパークに乗っている。

 

「ロンは、誰かと一緒みたいだな。」俺が全員にそう言った。

 

「どこにいるんだい?」セドリックが聞いていた。

 

「禁じられた森をゆっくりしたスピードで歩いてるよ。徒歩なのか?一緒にいる誰かの方はケンタウルス達と交戦したらしくて、少し弱ってるみたいだ。」

 

感知結果を伝えた。ゼロ、エックス、イドゥンは相変わらず凄いなと言う顔をし、セドリックは大変驚いている。

 

「セドリックさん。先輩の感知能力を侮らない方が良いですよ。最大範囲は半径5000キロ。しかも、一度感知した魔力は、2回目以降はより詳細な動きが手に取る様に分かるんですから。まして、その対象が4年近くも一緒にいたルームメイトであれば尚更です。」

 

セドリックは、エックスの言葉を聞いて苦笑した。

 

「アハハハ。ハリーが規格外過ぎるのは、よーく分かったよ。主にクィデッチの話になるけど、敵に回ると本当に恐ろしいや。そしてそれ以上に、味方だと本当に心強いね。」

 

他愛もない会話をしながら禁じられた森に入っていった。

 

しばらく箒で追跡をしていると、ある事にゼロが気付いた。

 

「おかしいな。」険しい顔になりながら、そう呟くゼロ。

 

「どうしたんですか?ゼロさん。」

 

「奴らPWPEもバカじゃない筈だ。追っ手が来る事なんて分かり切っている筈なのに。」

 

「え?それはどういう……」

 

エックスが聞こうとした事を遮って、イドゥンが間髪入れずにゼロにこう言い出した。

 

「つまりゼロ。あなたはこう言いたいわけですわね。足止めがいないのはおかしいと。」

 

「ああ。舐められているのか、取るに足らない存在だと認識してるのか。」

 

「ゼロの言う通り、不自然過ぎるな。その気になれば、1人でこちらを全滅させる事だって出来るのに。まあ、どちらにしてもだ……」

 

ゼロの考察に賛成の態度をしつつも、俺なりの認識を4人に教える。

 

「何をしてくるか分かったもんじゃない。たった1人だけでも、魔法界どころか国1つ地図の上から消せる奴らだからな。PWPEってのは。」

 

「それは誇張し過ぎなのでは?ハリー。」

 

「1度でも対面すれば分かる。まともにやりあって、勝てるような連中じゃない。抵抗出来るとしたら、ダンブルドアか変態ヘビ、ロイヤル・レインボー財団の上層部か特殊戦闘部隊位のものだよ。」

 

「抵抗出来る?倒せるや勝てるじゃなくてか?」

 

怪訝な表情でそう聞いて来るセドリック。

 

「ああ。どうやら奴らの、その桁違いの戦闘能力の秘訣はな。どうも、『覚醒』がキーワードになっている様なんだ。」

 

「先輩。覚醒ってなんですか?」

 

俺が言おうとする。だが、何処からか声が聞こえてきた。

 

「おやおや。その境地にまで達してない方々が、気安く『覚醒』の2文字を出さないでいただきたいですね。」

 

「ティファレト。そう言うな。何人かそこまで到達する奴がいるのだからな。」

 

「ティファレトだと!?」ゼロも叫んだ。

 

この声。1人は知らんが、もう1人は知ってる。ホグワーツに来てから2回目の夏休み、8月に入ってすぐに接触して来たんだ。

 

「やはりお前が絡んでいたのか!!」

 

俺は、箒から降りた。口寄せを解除した。他の4人もそうした。

 

「ハリー。何があった。謎の声が聞こえた瞬間、感情的になって叫ぶなんて。いつもの君らしくも無い。」

 

セドリックが心配そうに俺に声を掛ける。

 

「…………」どこだ。どこに居やがる。ゼロも何か言ってるが関係ねえ。

 

「そうカッカすんなよ、ハリー・ポッター。」

 

「どこだ!隠れてないで出て来やがれ!ゲブラー!!」

 

「ティファレト!俺と戦え!」ゼロ。あいつも誰かと因縁があるみたいだ。

 

俺の怒声が鳴り響いた瞬間、俺達5人の目の前に2人の人物が現れた。病人の様に青白い肌、全てが常人よりも鋭利な歯を持つ男。背中に刀を背負っている。

 

そしてもう1人。決して忘れられない顔の奴がいた。厚ぼったい瞼をしている。艶やかな黒髪をなびかせながら、茶色の目で俺達を見つめている男。その名は、ゲブラー。

 

「久しぶりだな。約2年ぶりになるか。あれから更に腕も上げたようだな。ケテルが褒めてたぜ。」

 

ウイルスモードを発動し、左手にアセビの杖を持った俺。今すぐにでも、コイツを潰さないと。

 

「それと、ゼロ・フィールド君ですね。お久しぶりです。どうやら、2年前よりも腕を上げて、ポッター君と同じ実力を誇っていますね。削りがいがあるじゃないですか。」

 

「闇の陣営が動き出した最初期に滅ぼされてしまったフィールド家の末裔だ。ティファレトよ。最強の戦闘一族のな。まあ、フィールド兄弟とローマの古代遺跡でやりあってるから分かるか。」

 

ティファレトって言うのか。もう1人の方は。こいつもかなりヤバいな。それに、何か隠し持ってやがる。

 

「あのゲブラーって奴。どこかで見た事がある様な…………」

 

エックスがゲブラーを見てそう呟いた。

 

「エックス。知ってるのか?」

 

「この男に出会ったのは、本当に今日が初めてなんです。ですが、屋敷のどこかでこいつの顔を見た様な感じがします。」

 

「帰ったら家系図を見て見ましょうか、エックス。」

 

エックスの言葉に対し、イドゥンが返した。

 

「ロンはどこにいる?」ゼロが2人を睨み付けながら口に出した。

 

「裏方のメンバーが付き添ってるぜ。歩きながら校門から出ようとしてる。予定外の襲撃に遭ったらしくてな。魔力を大量消費したんだ。あいつの摩訶不思議な術はしばらく使えない。」

 

「ゲブラーさんの言う通りですよ。皆さん。ケンタウルス達の連続弓矢攻撃には、流石の彼も、少々の傷を負いましてね。ですが、彼1人で何とか対処出来ましたよ。」

 

「ケンタウルス達はどうなったんだ?」セドリックが質問した。

 

「今はもう……無事では済まされてないでしょうねぇ…………我々の作戦の邪魔をしたんですから。」

 

その言葉を聞いて、思わずゾッとした。皆もそうだった。

 

「とにかくだ。ここから先に、足止め役がいる。1人1殺の覚悟で行かないと、お前ら死ぬぞ?」

 

足止め役はやっぱりいるんだな。

 

「口でロンが止まらないなら、今度は力づくであいつを連れ戻してやる!」

 

俺は、ゲブラーとティファレトを睨み付けながら力強くそう宣言した。だが2人は、その俺を見て逆に感心したような態度を取った。

 

「出来やしないとは言わないさ。この世には、完全や絶対という言葉が存在しない様に、不可能と言う言葉も何1つ存在しないからな。」

 

「あなた方が何処までやれるか、じっくりと拝見させていただきますよ。」

 

俺達とは逆方向に背を向けたゲブラーとティファレト。歩こうとした。

 

「敵を目の前に逃げる気か?」

 

エックスが問いただした。

 

「違うな。お前達は俺達の情けにより、そしてチャンスの為に生かされただけに過ぎない。今は、ロナルド・ウィーズリーを引き入れる事を最優先しているだけ。そして……」

 

「闇の帝王の勢力を、この世から1人残らず消し去る事も兼ねてですが。」

 

「死の飛翔をか!?」ゼロが驚いた。

 

「目障りな連中でな。今頃リーダーが、奴の下へ向かっている。さて、そろそろドロンさせて貰うぜ。」

 

「皆さんには、期待していますよ。」

 

2人の姿が見えなくなった。まるで消失したように。

 

「あいつら、細胞分身を使ってたのか。」

 

「ハリー。行こう。ロンに追いつけなくなる。」

 

セドリックが言った。俺はコクりと頷いた。

 

「行くぞ。奴らの思惑が何であれ、ロンを連れ戻す。ここで立ち止まってたら、本当に俺達は役立たずのカスに成り下がる。」

 

「そうですわね。」イドゥンが同意した。

 

「皆。行くぞ!」ゼロが叫んだ。

 

「ああ。」と、セドリック。

 

「はい。」エックスが続いた。

 

「皆にとっては、ロンは何の関係も無いかも知れない。イドゥン。君にとっては罵倒される始末だ。」

 

「ダンスパーティの時ですわね。腹は括っていましたけど、ある程度交流のある人間から言われたら多少は傷つきます。」

 

「だけど、俺にとっては友だ。そして同じ、ホグワーツの仲間だ。だから俺は、友を助けに行く。仲間を1人も救えない位なら、死んだほうがマシだ。」

 

皆、黙って俺の言葉を聞いている。

 

「皆。やろう。1人では無理かもしれないけど、5人なら何処までも行ける。何せ結束こそ、本当の力だからな。」

 

その言葉を聞き、ゼロが、セドリックが、エックスが、イドゥンが頷いた。

 

「当たり前だ。ここに来てから、命を張るって覚悟はしていたんだ。進もう。」

 

俺達5人は走り出した。森の生物と出会わない様に、感知能力を駆使しながらひたすら進んでいく。

 

10分後、やけに広い空間に辿り着いた。そこから通じる道は5つ。入ってすぐに、看板がある。

 

「1人1殺ってこういう事なのか。」俺が呟いた。

 

「1つの道には1人しか行けない。30分経たなければ、他の人間の侵入も不可能。時間も押してる。」

 

「ここは、1人で1つのフロアを担当しよう。その方が、効率が良いからね。」

 

セドリックが提案した。俺達4人は、それに賛成した。誰が何処の道に入るかを相談し合った。恨みっこ無しで、クジで決めたけどな。

 

結論からして、エックスが真ん中。セドリックが、入り口から見て左から2番目。ゼロは右端。イドゥンは左端。俺は、右から2番目になった。

 

「皆、健闘を祈る。」

 

ゼロがそう言って突き進んでいった。俺達も互いを見やる。それを終えたら、すぐさまそれぞれの道を進んでいった。

 

*

 

真ん中の道を進んだエックス。そこは、僅かな床しかない。下には、即死トラップの鋭利なトゲが存在する。辺りを見渡すと、人型ではあるが人間とは似ても似つかない存在の壁画が2体存在していた。壁画の文字には、古代ルーン文字で『パンテオン・エース』と書かれていた。

 

「死にそうなトラップに、奇妙な壁画。これで何をするんだろう?取り敢えず……」

 

口寄せ呪文で、箒を取り出した。先程のブルーボトルとは違い、スリザリンのクィディッチチームが使っているものと同型の別機体であるニンバス2001を口寄せ召喚したのだ。

 

「箒の準備をしておいた。後はこの壁画を調べて……」

 

突如、壁画に描かれた物体が動き出した。体色は紫色。さっそう人間とは思えない。顔がV字型のゴーグルになっていて、背中にオレンジ色の飛行パーツが搭載されている。それが2体。こいつ等が、エックスの相手なのだ。

 

*

 

セドリックの進んだ道。そこには、直立したヘラジカ型のモンスターがいた。青を基調としているあたり、冷気とかを使ってきそうな相手だなと言う印象を受ける。

 

「ふむー。こんな奴が俺様の相手かー。中々やりそうだが、ここでこの世からリタイヤして貰うぞー。このブリザック・スタグロフ様のブリザードで氷漬けにして叩き壊してやるー。じゃー行くぜー。ふむふむー!」

 

「悪いけど、ここで死ぬつもりは全く無いんでね。」

 

セドリックが静かに返した。

 

*

 

イドゥンの相手は、エジプトの神アヌビスに良く似た奴だった。地形は、砂漠と化している。

 

「我が名は、アヌビステップ・ネクロマンセス3世。砂漠の死の王……お前達の目的の者は、この先にいる。」

 

「つまり先に行きたければ、あなたを倒せと。そうおっしゃりたいわけですか。」

 

「それ以外に何がある。ゆくぞ。滅びを宣告されし、黒き王の末裔よ!!」

 

アヌビステップが宙に浮き上がる。杖を構えるイドゥン。

 

*

 

ゼロが進んだ先。そこは、巨大なブロックがたくさん存在していた。その真ん中に、白い猿を思わせるモンスターがいた。

 

「これはこれは。噂はかねがね、ティファレト様からお聞きしていますよ。古き時代の最強の戦闘一族の末裔、賢者の異名を持ちしゼロ・フィールドさん。そうですよね?」

 

「だったらどうした?そして賢者だと?この俺が……」

 

「私、ハヌマシーンと申します。とっくに滅びた一族の末裔、その身印を頂戴いたしますよ。我が組織、PWPEの威信にかけて。さあ、いざ尋常に勝負と行きましょう。」

 

ハヌマシーンが手持ちの棍を伸ばした。リーチと威力の底上げの為に。ゼロも杖とバトルシャフトを構えた。

 

*

 

俺が進む。大きな空間に辿り着いた。そこには、緑のゲル状の物体が存在した。虹色とも言うな。良く見ると、何かある。顔は赤いレンズ状で、メットは円を三方から囲むような形の頭部の様なものがある。

 

「雑魚にしては図体がデカいな……邪魔だ。すぐに叩きのめしてやる。」

 

口寄せ呪文で、凶嵐とミラクルガンナーを取り出した。いつでも使える様に、常に装備 出来る様にしておいた。

 

ゲル状は俺の存在を確認するや否や、人型を象った姿となったのだ。俺の倍の身長位だな。まるで悪魔だ。そう感じた。奴は、いいや。コードネームとして、これからは『虹の悪魔(レインボーデビル)』と呼ぶとしよう。

 

そんな訳の分からない物体もとい、レインボーデビルとの戦いが、今火蓋を切って落とされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 骨と肉と血と

「ハアッ!」緑の閃光が、体格の良い男を吹き飛ばす。

 

ドローレス・アンブリッジは、監獄からの解放を掛けた殺し合いを行っていた。リチャード・シモンズ主催の下で。最後の解放候補者を死の呪文で殺した。

 

「やったわ!これで私は、ここから出られる!」

 

醜い顔をにんまりとさせるドローレス。こんな地獄とはオサラバしたい。そして、それが叶いそうだという思いに耽っていたのだ。

 

だが、そんなものはすぐに壊される事になる。彼女の前に、金髪で丸刈り頭の、女性用のクラシックチュチュを着用した男性が現れた。リチャード・シモンズだ。

 

「さあ!他の人間は殺したわ!1人になったから解放しなさい!わたs……」

 

異様な雰囲気を読み取ったドローレス。それ以上は喋れなかった。

 

「フフフ。ここから出してあげる。」

 

『マズイ!殺される!』ドローレスは、自分の最期を悟ったのだった。

 

「心配しなくて良いわ。あなたのその生への執着心、それは私の中で残留思念として残るのだからね。安心なさい。」

 

ドローレスの悲鳴が聞こえた。否、断末魔である。

 

『ジュニアから、ドラコの勧誘は出来たようだし、これから闇の陣営相手にあの魔法のテストも出来る。フフフ。楽しみだわ。』

 

シモンズの顔は、先程とは全く異なっていた。ピンク色のローブを着用しており、薄茶色の巻き毛、ガマガエルの様な顔となっていた。それを全身包帯で覆っていた。目だけは、瞳孔が細くなっている。

 

その後ろには、魔法使いが2人突っ立っていた。いずれも、最強最悪の闇の魔法使いと称され、死喰い人と呼ばれた者達である。ただ、自意識はなさそうだ。

 

「さあ、あなた達の力を見せて貰うわよ。ロジエール。ウィルクス。」

 

*

 

見知らぬ場所に着いたボクとグラント。古い墓地。手入れはされておらず、草がボーボーだった。教会に、古い館が遠くにある。館は、どこかで見た様な気がするんだ。

 

「ここはどこなんだろう?」ボクが言った。

 

「ここ……間違いねえ。リトル・ハングルトンじゃねえか!」

 

グラントがボクにそう教えてくれた。

 

「確か、スマイルって言う組織の活動拠点じゃなかったっけ?」

 

「おう。ちょっと歩くが、スマイルの本部はあるぜ。そこに行こう。」

 

「うん。道案内よろしく。」

 

グラントに付いて行くボク。でも、しばらくしてグラントの足が止まった。ある墓石の目の前で止まったんだ。

 

「おいおい。何でよぉ、ここに『トム・リドル』。俺の偽物野郎の名前があるんだよ!」

 

「もしかして、これってヴォルデモートのお父さんのお墓じゃないかな!?」

 

まさか。父親……骨。マズい。

 

「グラント!戻ろう!優勝杯までそんなに離れてない!ここにいちゃダメだよ!早く!」

 

「お、おう。分かった。走れば大丈夫だろうな。行こうぜ。」

 

その時、甲高い冷たい声がした。

 

「今頃気付いたか。だが、もう遅い。」

 

何の前触れも無しに、ボクの額の傷跡の激痛が走った。

 

「!?っ!あ、あ!ああああああっ!!!」

 

こんな苦痛は初めてだった。両手を手で覆うボク。杖が落ちる感覚がした。今にも頭が割れそうだ。

 

「エリナちゃん!どうした!傷跡が痛むのか!?よし、俺がおぶってやる。まずは杖を拾って……」

 

人影が見える。小柄で、フードを被っている。顔は隠している。その人物は、何か赤ん坊の様なものを抱いている。

 

「おい!んだテメエは!?近付くとギッタギタにすんぞ!」

 

グラントがファイティングポーズを取り、フードの人物に対して臨戦態勢を取っている。

 

「ワームテールよ。その小僧が邪魔にならない様にしろ。」

 

巻け(フェレーラ)!」

 

グラントの全身に包帯が巻かれた。

 

「な、何だこれ!きつ過ぎる!」

 

解こうとしているけど、出来そうに無いグラント。

 

「ピーター……ペティグリュー!あなただったのね!よくも!こんな事が!」

 

「口封じで殺せという意味だったんだがな。無能なワームテール。まあ良い。始めろ。小娘を縛り上げるのだ。」

 

ペティグリューは、ボクを大理石の墓石に引きずっていった。そして、縄で墓石に縛り付けられた。でも、その感情は何故か無表情だった。

 

「やめやがれ!ネズミ男!その汚い手で、エリナちゃんに触ってんじゃねえ!この変質者めが!死ねや!」

 

グラントが喚いている。

 

「急げ!」声がまた聞こえた。

 

そう言えば、大鍋があったんだ。それも人が入る位の、特大サイズのものが。そう思っていると、ボクは、墓石に縛り付けられたんだ。

 

大鍋に何かの液体が注がれ、今度は鍋底に火が付いた。鍋の中の液体はすぐに熱くなった。表面がボコボコ沸騰し始めたばかりではなく、燃えてるかのように火の粉が散りばめた。そうして湯気が濃くなる。

 

「準備が整いました。ご主人様。」

 

「良いぞ。ワームテール。ナギ二の餌にならなくて済んだな。運の良い奴よ。」

 

ペティグリューが包みを開ける。赤ん坊みたいなのが出て来た。気持ち悪い。髪の毛は無いし、鱗に覆われた感じの、赤むけのドス黒いもの。手足も細く弱々しい。顔は……絶対にあんな子供はいないという顔をしている。蛇みたいで、目が赤い。ハリーの、ウイルスモードの赤い目とは正反対で、禍々しく暗い感じだ。

 

「うわ!ヘビか!邪魔なんだよ!食ってやんぞ!杖を取らせろ!」

 

グラントが大蛇と格闘している。大蛇は、グラントに威嚇のシャーをした。

 

ペティグリューは、赤ん坊の様な何かを、大鍋に入れた。

 

「おい!何か気色悪い物体を入れやがったぞ!ネズミ男の野郎が!」

 

「ああああああ!!!」

 

その物体を見た瞬間、更に傷跡から激痛が走った。イヤだ。あんなもの、もう見たくない。溺れてしまえ。そう思ったボクだった。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は、息子を蘇らせん!」

 

「俺がさっき見つけた、偽物野郎の名前が刻まれた墓の中から何か出て来やがったぞ!あいつ、骨って言ったのか!?」

 

ふと、ハリーの警告を思い出した。骨と肉と血。これで、ヴォルデモートは肉体を取り戻す気なんだ。ボクの血を使うつもりなのかな?鍋の液体は、毒々しい青になっている。

 

ペティグリューは、今度はヒーヒーと泣いている。恐怖に凍り付いた様な、啜り泣きに声が変わったんだ。

 

「しもべの――肉――よ、喜んで、喜んで差し出されん。――しもべは――ご主人様を――ご主人様を――」

 

「な、短剣か!?親指が欠けた腕を鍋の上にかざしている!肉って……おい!トチ狂ってやがるぜ!」

 

包帯と格闘しているグラント。

 

「やめて!ペティグリュー!」

 

ボクは、やめるように叫んだ。幾らなんでも、これから行う行動は止した方が良いと言いたかったから。

 

「蘇らせん!」

 

ボクは、目を閉じた。それでも、ペティグリューの悲鳴が襲ってきた。グラントも青ざめている。鍋は、燃える様な赤色になっている。

 

今度はボクの血が取られるのか。ペティグリューが近付いて来る。逃げようにも逃げられない。

 

「よせ!エリナちゃんには何もすんな!俺を代わりにやれ!」

 

グラントが叫んでいる。だけど、ペティグリューは無視してボクの方へ。

 

「その切り落とした腕で、動いちゃダメだよ。安静にしてた方が良いって!!」

 

「敵の、血……力づくで。」

 

「やめろ!やめやがれ!」

 

「力づくで奪われん。」

 

短剣で思いっ切り来る!覚悟しなきゃ!

 

「え?」

 

確かに痛みは走ったし、左腕に傷は付いた。だけど、まるで包丁で皮膚を切ったような感じだった。思った以上の痛みは来なかった。細長い切り傷だけで済んだ。それでも、ペティグリューは短剣でボクの血をある程度の量を採取していた。それで、薬瓶に血を入れた。

 

「汝は……敵を蘇らせん。」

 

よろめきながら大鍋の方へと戻るペティグリュー。ボクの血を、鍋の中に注ぎ込んだ。

 

「エリナちゃん!大丈夫か!?血を入れた途端に、鍋の様子が変わって来た!」

 

グラントの声が聞こえる。ボクの心配をしてくれている。

 

大鍋は、四方八方にダイヤモンドの閃光を放っている。余りの眩しさに、何も見えない。

 

大鍋は大破した。そこから現れたのは、骸骨の様にやせ細った背の高い男の黒い影。最悪だ。よりによって、あいつが復活するなんて。

 

「スーー。ハーー。」男が深呼吸した。

 

「ああ。そうだ。息もまともに出来なかったから、忘れていた。呼吸とは――自然の空気がこうも美味しいとはな。」

 

男は、ペティグリューからローブを着せられる。

 

「13年。いいや、14年か。身体を失ってから、畜生や弱者に取り憑いて来た。だが、自らの肉体がこんなに素晴らしいとは。」

 

次に男は、ペティグリューから杖を受け取る。

 

「この杖も14年待たせた。イチイの木に、不死鳥の尾羽根。34センチ。また存分に、その力を俺様が振るってやろう。」

 

男は、今度はボクの方を見た。悪夢で散々悩まし続けて来た顔だ。骸骨よりも白い顔。細長い、真っ赤な不気味な目。ハリーのウイルスモードとは真逆の印象を受ける。水に例えると、ハリーの赤い眼が真水なら、この男の赤い眼は泥水だ。そして、ヘビの様に平らな鼻。切れ込みを入れた様な鼻の穴。

 

「エリナ・ポッター。お前を生身の肉体で見るのは14年ぶりだ。この俺様から摘み取った14年。霊魂にも満たない、そこら辺のゴミムシにも劣る、犬畜生以下のくたばり損ないのクズとなっていた14年。俺様は、全てを憎んでいた。」

 

奴がボクを見る。残忍な笑みをしていた。

 

「いつまでも平和が続くとでも思ってたのか?凡人のまま、真っ当な生を送れると。恐れるものは全くない、全て自由。」

 

奴は言葉を切る。そして、また話し始めたんだ。

 

「これから俺様が、身を以って教えてやるのだ。破壊!混乱!殺戮!恐怖!絶望!この魔法界だけでなく、世界中全てにな。俺様の名前は、ヴォルデモート卿。死の飛翔。」

 

男は。奴は。いいや。ヴォルデモート卿は、今日復活したのだった。

 

*

 

人型の姿になったレインボーデビル。何もしてくる気配が全く無い。

 

「撃ち抜いてやる!」

 

右手にミラクルガンナーを持ち、レインボーデビル向けて発射。

 

「なっ!?コイツの体、ミラクルガンナーのエネルギー弾を吸収しやがった!!何て野郎だ!」

 

次に左手の杖で攻撃をする。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

虹色の破壊光線を発射。やはり、ゲル状の部分にはどんな攻撃も通らないか。

 

「後は、あの頭部の役割を果たしていると思われるコアだけか。ピンポイントで当てるとなると、ちょいと難しいな。」

 

剣術は自信があるのだが、実を言うと、射撃は剣術程自信があるわけじゃない。そう考えていると、レインボーデビルは人型の状態から、いかにも這い蹲っての移動に特化した形態に変化した。その状態で、俺に近付いて来る。

 

慌てて距離を取ろうとする俺。しかし、少し遅かった。レインボーデビルが俺のすぐ近くに来るや否や、俺に巻き付いて来た。

 

「クッ!しまった!!」

 

何とか振り解こうともがく。右手がまだ自由だ。ミラクルガンナーを、レインボーデビルの頭部のコア目掛けて狙撃した。

 

その途端、俺に巻き付くのをやめたレインボーデビル。思った通りだ。あれが唯一、奴に攻撃が通じる部分だな。今後はあそこを積極的に狙って行こう。

 

「……」

 

ミラクルガンナーを仕舞い、右手を凶嵐に持ち替える。すると、レインボーデビルはまたもやゲル状の身体を形態変化させてきた。頭部のコアを、目玉に見立てた巨大な顔みたいな形へと。

 

「今度は一体何なんだ!?」

 

あの野郎。次から次へと変形しやがって。雑魚の癖に生意気な。思わず思ってしまう。あんなふざけたデザイン。今すぐにでも叩き切ってやりたい。

 

「!?」高く飛び上がったぞ。

 

すぐに地面に落ちて来た。そして、また飛び上がった。

 

「バウンド攻撃……なのか?」

 

見かけによらず、奴は結構トリッキーな攻撃をしてくるのが分かった。何も無い時はスライム、戦闘形態は人型、移動する時はスライムよりやや液体寄りな形態、空中からの攻撃は巨大な顔。もはやコイツは、この時代では再現不可能な技術を使ってる。それを戦闘に採用しているのだから、PWPEが卓越した科学技術を持ってる事を裏付けているわけだ。

 

魔法だけしか使おうと思わない闇の陣営の方が、かなり良心的ともいえるな。

 

バウンド攻撃を仕掛けてくるレインボーデビル。かなり不規則なパターンだな。軌道が規則的なら、そこから計算式でレインボーデビルの動きや、次にどこに来るのか割り出せるんだけど。

 

「厄介な攻撃をしてくるな。」

 

思わず舌打ちしたくなる。でも、レインボーデビル自身も制御出来て無いみたいだ。俺を狙おうとしても、思いがけない所にバウンドして飛び上がるみたいだ。

 

「俺に出来る事はたった1つ。凶嵐に魔力を纏わせる。切れ味と攻撃範囲、破壊力を最大限まで上昇させる。」

 

レインボーデビルが俺の近くに来た所を叩き切る。それだけだ。超感覚呪文でその隙を見つけてやる。

 

その攻撃のチャンスはすぐに来た。俺の目の前に、レインボーデビルがバウンドで地面に降り立ってきたのだ。

 

「そこだ!!」

 

魔力で出力を極限まで上昇させた凶嵐の斬撃をレインボーデビルに叩き込んだ。

 

「よし!」

 

だが、俺の喜びはすぐに掻き消された。

 

「コイツ!分裂しやがった!!」

 

何と、レインボーデビルは2つに分かれてしまったのだ。コアがある方と無いのとで。という事は、コアの方だけダメージが通るってわけだ。

 

しかも、バウンドの飛距離も小さくなった。だけど、数が増えた事によって迂闊な回避が出来ない。

 

「そう言えば、端の地面には全く来てない様な……」

 

バウンドの不規則な軌道は全く読めないけど、今いる空間の端っこには分裂前でも全く来ないのだ。

 

「距離を取ろうかね。」

 

取り敢えず、端っこまで移動した。レインボーデビルも来ようとするが、来るのは困難みたいだな。

 

「この安全地帯でもう1度凶嵐のチャージ攻撃を準備してやる。」

 

5秒あれば十分だ。

 

「1…2…3…4…5!!今だ!」

 

俺はダッシュした。コアのある分裂体目掛けて向かっていく。

 

「ハァッ!!!」一撃を叩き込んだ。また分裂した。

 

それと同時に、コアの無い分裂体も更に2つに分裂した。合計4つになったわけか。

 

「随分と小さくなったな。1つ1つが。」

 

分裂体が全て地面に落ちた。コアのある分裂体に向かって、ゲル状がスライム集まっていこうとする。

 

「チャンスだ!」レインボーデビルに近付く。

 

「ヒッフッハ!」凶嵐による3段斬りをお見舞いする。

 

「当たれ!」次に、ミラクルガンナーのフルチャージショットをコアに当てる。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)麻痺せよ(ストゥーピファイ)邪神の碧炎(ファーマル・フレイディオ)炎よ我に従え(プロメス)!」

 

アセビの杖で攻撃を仕掛ける。コアにヒビが、ある程度入り始めた。だけど、スライムが全て結合し、人型の姿に戻った。

 

「惜しいな。あと少しだったんだが。」

 

距離を取る俺。レインボーデビルは、次にてるてる坊主みたいな姿になる。小さなスライムを所構わずばら撒き始めた。

 

「変形は何でもアリってか!スライムには触りたくないし。あの液体、生理的に受け付け…………!?そうか!液体!」

 

しばらくしてから、スライムを回収するレインボーデビル。回収し終えた瞬間、レインボーデビルの、人型形態の両足が凍り付いた。やった。

 

俺が何をしたか。小さくばら撒かれたスライム複数個に、零界の翠氷を掛けておいた。スライムは、瞬時に凍った。それをレインボーデビルは回収したんだ。で、結果は足が凍ったわけだ。

 

天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!!!」

 

ぶっつけ本番だが、左手に魔力で作り出した黄金の電撃を集め終えた。やった。杖無しの状態で、魔法が使える様になったぞ。

 

「これで終わりだあああああああああああ!!!」

 

レインボーデビル目掛けて突っ込んで行く俺。レインボーデビルは、俺を近付けさせまいとパンチをしてきた。

 

「無駄だ!」

 

ウイルスモードの見切りや洞察眼を駆使して、レインボーデビルの攻撃を回避。そのまま腕に飛び乗った。

 

狙いは、頭部の役割をしているコア。

 

「俺の勝ちだ!!!」

 

コア目掛けて、左手の突きを繰り出した。コアに見事命中した。

 

「……」コアが大破した。地面に着地した俺。

 

コアの残骸が外に吐き出され、レインボーデビルは姿形が維持出来なくなった。スライムも消滅した。

 

「や、やった!勝ったんだ!!」

 

レインボーデビルに、俺は勝利した。あの作戦が上手くいったな。脅威が去って、一先ず安心した。地面に座り込む俺。

 

「お見事だぞ。ハリー・ポッター。流石、リーダーが目を掛けるだけの事はある。」

 

ゲブラーの声がした。しかも、これから進んだ先から出て来た。

 

「今度は本当に本体みたいだな。俺を仕留めに来たのか?」

 

「違うな。何故だか知らんが、リーダーはお前を高く評価している。まさか、お前が呼び名にしているレインボーデビルをやっちまうなんてな。」

 

「何しに来た?」警戒をまた始める。

 

「フッ。お前に渡したいものがあってな。何。呪いはかかってないし、そう役に立たない物じゃ無い。それは本当だ。ホラよ。」

 

ゲブラーが俺の前に幾つか置いて来た。何かがぎっしり詰まった大きな袋。小さな金のカップ。そして、何かの液体が入った小さなボトル。

 

「こ、これは!?」

 

「賢者の石が100個詰まった袋。ハッフルパフのカップ。最後の1つは回復液だ。」

 

「賢者の石……最後の1つは俺が握り潰した筈だ。」

 

「ニコラス・フラメルの記憶を、死ぬ前に提供させたとしたら?」

 

「!?」

 

「隠しておかないと、ダンブルドアに全部取られるぞ。」

 

賢者の石の袋を口寄せ契約した。俺が持つグリンゴッツの金庫送りにした。

 

「ハッフルパフのカップ。まさか、本当に我が家の金庫にあったとはな。真正面から強盗せずとも取れたぜ。リーダーやダアトから聞いた時は、大変驚いた。」

 

「お前は……一体…………誰なんだ!?」

 

レストレンジの金庫に合法的に入れただと!?コイツ、一体…………

 

「俺の正体を知った時、純血の名家様達は驚くだろうな。」

 

ゲブラーがニヤリとした。

 

「ああ、そうそう。その回復液、飲んだ方が良いぜ。万全な状態で挑んだ方が良いからな。」

 

「…………礼は言わないぜ。」回復液を飲んだ俺。たちまち全快した。

 

「そのカップ。お前ならどうするべきか分かる筈だ。それじゃ、俺はそろそろ行くぞ。」

 

ゲブラーが、俺が来た道に向かって歩いて行った。攻撃する事も出来るとは思うが、逆に返り討ちにされそうなのでやめておいた。

 

ハッフルパフのカップ。ヴォルデモートの分霊箱の1つ。レストレンジの金庫にあったもの。俺は、ユーカリの杖を右手に持った。邪神の碧炎と火炎操作呪文を使用し、破壊する。カップは全身焼け焦げた状態となり、真っ二つになった。カップの残骸も口寄せ契約で仕舞っておく事にした。

 

「ワットは……直せるかな?」

 

そんな事を考えながらも、俺は先に進んだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 復活の帝王

「滑稽だな。」

 

年齢は20歳代程の、シルバーの短髪。全てを威圧する様な神々しい虹色の瞳。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っていている男。マクルトは、リトル・ハングルトン墓地での一連の出来事を常に見ていた。

 

「これで。ヴォルデモートは、自分の破滅の原因を作ったエリナ・ポッターを2度と殺す事が出来なくなったわけだ。エリナ・ポッターの血に宿る、母親の魔法を取り込んだ事で、奴がポッターのある種の分霊箱と化しているわけだ。これで、闇の陣営は完全終了だな。頃合いを見て、追加で参加するか。そして癪だが、シモンズとは休戦だな。だからこそ……」

 

お前達闇の陣営には、これから犠牲になって貰うとしようじゃないか。俺から全てを奪った、その報いを、その痛みを知るが良い!

 

*

 

ヴォルデモートの顔は、うっとりと勝ち誇っていた。杖を上げて、ペティグリューをボクが縛り付けられている墓石に叩き付けた。次に冷たく、無慈悲な高笑いを上げて、赤い目をボクに向けた。ボクに近付き、額の傷跡に触って来た。また傷が痛む!

 

「ああああああ!!!」

 

「俺様を破滅させたお前が、俺様がただ触れただけでこんなに泣き叫ぶとはな。」

 

「エリナちゃん!エリナちゃん!何をしやがった!テメエ何する気なんだ!」

 

グラントが、ヴォルデモートに果敢に吠え掛かっている。グラント。縄を解いたら、すぐに逃げて。ボクの事は無視して良いから。

 

「俺様の計画通りに、全て事は上手く進んでいる。そして勇敢な貴様。この俺様を恐れずに立ち向かうとは……小娘の父親一味以来だ。ナギ二の餌にしてやりたい所だが、お前にはじっくりと聞きたい事があるんでな。それまでは生かしておいてやろう。」

 

グラントは、勝ち誇っているヴォルデモートを睨み付けている。でも、ヴォルデモートは全く気にしてない。それどころか、自分を恐れない存在がいるのか、思わず狂気の笑みをこぼしている。

 

そう言えば、グラントと若い時のヴォルデモートは、髪の色以外は全く容姿が一緒だ。語ってくるものとか、雰囲気は全然正反対だけど。ハリーは昔、グラントはヴォルデモートと何かしらの関係性があるって教えてくれた。

 

あのヴォルデモートが、素直に自分の子どもを作るとは思えない。でも、同じ姓だし、顔も全く一緒だし、蛇の言葉が分かるしで何も関係がないわけがない。にもかかわらず、この2人はあたかも初対面という感じだったんだ。

 

益々、グラントの事で疑問が浮かぶ。そんな事を考えてる内に、ペティグリューがヴォルデモートのすぐ近くまで来た。

 

「我が君……」ペティグリューが声を詰まらせる。

 

「ワームテール。お前はこの1年間、俺様の手足として良く働いてくれた。約束を果たそうではないか。」

 

「おお…………何と慈悲深い。」

 

「と、その前に左腕を出せ。」静かだけど、有無を言わせない口調だ。

 

「そ、それだけは……それだけは…………」ペティグリューは怯えている。

 

「ならば、無理矢理やるまでよ。」

 

ヴォルデモートは屈み込んだ。ペティグリューの腕を露出させた。クィディッチ・ワールドカップの時と同じ印が見えた。生々しい赤い刺青だった。確かハリーが言ってた。闇の印と呼ばれるものが。

 

「フム。戻っている様だな。」

 

泣き続けているペティグリューを無視して、丁寧に刺青を調べるヴォルデモート。人差し指を印に当てた。

 

「!?ううっ!!」また傷跡が痛んだ。

 

一方のペティグリューも、また新しい悲鳴を上げている。指を印から離し、また立ち上がった。印の方は、真っ黒を変わっていた。

 

「用が済んだぞ。まずは約束を果たそう。ワームテールよ。名誉あるお辞儀を、お前から最初にやらせてやろう。」

 

冷たく、甲高い声が響いた。

 

「ご主人様……我が君…………闇の帝王。」

 

地面に手を突き、平伏した態勢になっているペティグリュー。

 

「そうだ。深くやれ……違う。それは、ジャパンで言う土下座だ。立て。お辞儀をするのだ。」

 

ペティグリューは立ち上がる。そして背筋を伸ばして、腰から上体を折った。視線は足下の少し前方に落としている。その角度は、丁度45度だ。

 

「良いぞ。素晴らしい。3種類ある内のお辞儀。その中でも、最も丁寧な深いお辞儀をしてくれるとはな。虫けらの様な裏切り者とばかり思ってたが、俺様を楽しませてくれる才能だけは持ってる様だな。」

 

「は、は、は…………ははー!」ペティグリューがそう返事をした。

 

「く、狂ってやがる。」

 

それまでの光景を目の当たりにして、そう呟くグラント。

 

「さてと。この印を持つ全員が気付いた筈だ。」

 

ペティグリューの左腕の印を指差すヴォルデモート。

 

「今こそ。今こそだ。これではっきりするのだ。闇の印……俺様のシンボル……ヘビとドクロ……死の飛翔…………そして、ザ・ニュー俺様。」

 

「厨二病なのか?お辞儀ハゲは。」グラントが言った。

 

「戻る勇気のある奴は何人いるかな?そして、離れようとするプランクトン以下の愚者はどれだけいるのかな?共に待とうではないか。エリナ・ポッター。俺様の宿敵。そして憎き小娘よ。そして、リドルの性を持つオマケよ。」

 

「テメエ!ぶっ殺してやる!!」グラントがオマケ扱いされて怒ってる。

 

ヴォルデモートは、残忍かつ満足そうな表情を浮かべている。次に、暗い墓場を一回り眺め回した。

 

「エリナ・ポッター。お前が縛り付けられている墓石。これは、俺様が最も憎んだ存在、即ち俺様の父親の遺骸が横たわっている。」

 

「……トム・リドル・シニアの!?」

 

「そう。マグルの愚か者よ。お前の母親と同じだ。最終的には、そのどちらも役に立ったわけだが。片や娘を生き延びさせ、片や息子を蘇らせた。だが、俺様からしてみれば、あのクズへの憎しみと復讐心が消える事は無い。これまでも……今も……そして、これからもだ。永久にな。魔法族の中で最も特別だった母を、使い古したボロクソ雑巾の様に捨て、挙句俺様に同じ名前をよこした。トム・リドル。」

 

歩き続けているヴォルデモート。

 

「あれは16歳の夏だったか。俺様は奴と、その一族を憎んでいた。そして探し出した。最後に復讐してやったよ。ククククク……闇に生まれ、闇に生きた俺様の中でも、一筋の光だった。あれこそ気高い行為だ。」

 

何て事を。グラントも同じ気持ちの様だ。

 

「自分の…………自分のパパを!」

 

「正気の沙汰じゃねえ!」

 

グラントも、ギャングの抗争で人を殺す時はあるかも知れないけど、基本的に命を奪わない様にしているんだ。堅気の人間は、絶対に殺さないって本人が言ってたし、実際そうだったもの。だから、それを平気でやったヴォルデモートに嫌悪感を募らせているんだ。

 

「当然の報いだ。あのクズは、俺様が生まれる前に母を捨てたのだからな…………俺様が自分の家族の歴史を物語るとは……自分でも不思議に思う位感傷的になったものよ…………だがな、見ろ。エリナ。そしてグラントとやら。紹介しよう。俺様の――真の家族が戻って来たぞ!!」

 

マントを翻す音がみなぎった。魔法使い達が姿現ししてきたんだ。全員がフードを被り、仮面をしている。

 

「ありゃあ。クィディッチ・ワールドカップの時にマグルの人達を襲って、その後にハリーとキットさんに瞬殺された奴らじゃねえか!」

 

確かにグラントの言う通りだった。よく見たらそうだ。ヴォルデモートを囲っているのは10人前後。だけど、ある程度後ろに下がっている魔法使い達の数は、正確な数は分からないけど、少なくとも50人はいた。下手をしたら100人はいるかも。

 

「よくぞ戻って来た。闇の専属。死を喰らいし者達。死喰い人(デス・イーター)達よ。」

 

「ご主人様……」

 

「我が君!」

 

「マイロード。」

 

「闇の帝王……!」

 

呼び方は様々だけど、死喰い人達がざわざわと呟いている。だけど、心の底では怯えている様な感じだった。ヴォルデモートに対してではなく、もっと別の何かに対して。

 

「14年。14年だ。我々が最後に出会ってからな。だがお前達は、それが昨日の事であったかの様に呼び掛けに応えてくれた。少々数も足りないが、まあ良い……さすれば、我々は未だに『闇の印』の下で結ばれている。そうに違いないだろう?」

 

ヴォルデモートが、演説をするかの様にここにいる死喰い人全員にそう問いかける。口調は静かだが、その表情は途轍もなく激怒している。それでも、寄り添ってきたヘビを優しく撫でていた。

 

「罪の臭いがするぞ!ナギ二が今にも暴れそうな程の……罪の臭いを持つ者がな!」

 

【ご主人タマが、アタイを呼んだわ。誰か食べて良いかしら?】

 

蛇語が聞こえる。

 

【ああ。下らん言い訳をほざく奴には、そうなって貰うとしようじゃないか。】

 

ヘビに対して、死喰い人どころか他の人間には決して見せない優しそうな態度で接し、穏やかな声でそう話すヴォルデモート。グラントにも、その会話の内容は分かっているみたい。

 

「お前達全員が、無傷で健やかだ。魔力も全く損なわれていない――こんなに素早く現れてくれるとは!なんと心強い!そして頼もしい!俺様には、こんなに素晴らしい手下が100人はいたのか!」

 

笑いながら、死喰い人達を称賛するヴォルデモート。でも、目は全く笑ってない。もっと言うと、心から称賛なんてしてないんだ。それを察しているのか、何も言えない死喰い人達。

 

「さて、そこで俺様は自問する……いいや、自問しなくてはならん。お前達は何故、その素晴らしい魔力で俺様を探そうとしなかったのか。14年間も。何故だ!どうして誰一人俺様を助けようとしなかったのだ?」

 

「うっせえ!テメエの恥ずかしい思考回路に誰も付いていけなくなったんだろうが!」

 

誰も答えようとはしなかったけど、グラントが言った。

 

『おい。なんて奴だ。闇の帝王のレッテルなんか、あの小僧には関係無いのか?』

 

そう思っているのだろうか。死喰い人達は動揺している。

 

「お客様には黙ってて貰おうか。」

 

ヴォルデモートがグラントに杖を向ける。その途端、グラントは何も話せなくなった。

 

「さて、俺様は自答する。奴らは、本当にいなくなったのだと思ったのだろう。ヘビの様にスルリと立ち戻って、俺様の敵に無罪と無知、そして呪縛に支配されたと主張したのだろう……」

 

段々怒りの表情を見せていくヴォルデモート。

 

「失望したぞ。お前達にはな。俺様の力を今まで散々見せていたのにも関わらず、再び立ち上がって来れるとは思えなかったのか?既に死の回避の手段を講じていた俺様が。」

 

ヴォルデモートが周囲を見渡す。死喰い人達はガクブルしている。

 

「その答えを自答する。恐らく奴らは、こう思ったんだろう。より強大で偉大な力――打ち負かす力が存在したのだとな。だから今頃は、他の奴に忠誠を誓ったのだろう。あの凡人で、古狸の、何を考えてるのかも分からん。傲慢で強欲極まりない腹黒の、マグルの味方。アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアにか?」

 

ダンブルドアの名前が出て、周囲に動揺の声が走った。ヴォルデモートが、また杖を振るう。すると、端っこにいた死喰い人1人を自分の前に引きずり込んだ。

 

「我々全員をお許しください!我が君!どうか!どうか!!」

 

「ほほう。俺様の前に引きずり出された瞬間にひれ伏したか。ジャパニーズ土下座も結構良いものだな。苦しめ(クルーシオ)。」

 

引きずり出された死喰い人が、磔の呪文を掛けられる。ヴォルデモートは、笑いながら許さざる呪文を使っているんだ。

 

「ギイヤアアアアアアアアアアアア!!!」

 

これまで受けた事が無いであろう苦痛を味合わされて、痛烈な悲鳴を上げる死喰い人。

 

「許す?許すだと?何の成果も上げておらず、その上14年間のツケを払ってないお前を許すとでも思っているのか?もう生きて清算出来るものでもあるまい。【ナギ二。食べて良いぞ】。」

 

【やったー!ご主人タマだーい好き!じゃ、遠慮無く。いただきまーす。』

 

最後の蛇語でそう聞こえた。聞き間違い?違う。確かに食べて良いって言った。グラントも青ざめている。

 

ヘビは死喰い人に巻き付き、締め付け殺した。事切れる死喰い人。そして、ゆっくりと丸のみにされた。他の死喰い人は、この残虐な光景を見て今にも逃げ出したそうな感じだ。

 

「許さん。そして、決して忘れんぞ。14年分の落とし前を付けさせるまではな。だが、ワームテールは既に借りの一部を返した。そうだな?」

 

「うぅっ、ぐすっ。ええ、ご主人様。私めは、そうです、忠実なるご主人様の――」

 

「違うな。忠誠心からではなく、恐怖心や報復を恐れての事だとあれ程言い聞かせた筈だ。その苦痛は当然の報いだ。分かっているな?」

 

あれが、報い?自分の破滅の原因になったとは言え、腕を切り落とすそれが報い?狂ってるよ。

 

「だが、俺様の復活を助けたのもまた事実。虫けら以下の、文字通りネズミの様に不愉快極まりない裏切り者だが、それだけは確かだ。不変の真理でもある。俺様を助ける者には、それ相応の褒美を与えようではないか。」

 

杖を上げて、空中でクルクルと回した。溶けた銀の様なものが一筋、輝きながら宙に浮いている。

 

「腕の……形をしているの?それにしては、クオリティが無駄に高過ぎるよ。」

 

「腕フェチなのか?お辞儀ハゲは変態だったのかよぉ。」

 

そんな感想なんて知らずか、銀色の腕はペティグリューの失われた右腕に装着された。

 

「ご主人様……素晴らしい……ありがとうございます!おお!自由に動く!うわっ!」

 

突如、銀色の腕はペティグリューから分離した。ロケットの様に素早い。そして、墓石の1つを完全大破させた。瞬く間に、ペティグリューに再装着された。

 

「ワームテールよ。お前の忠誠心が2度と揺らがない様にしておく事だ。」

 

「はい。我が君。もう2度とそんな事は――」

 

ペティグリューは、輪の中に入った。囲っているのは、幹部級の死喰い人かな?ヴォルデモートは、次にペティグリューの右側にいた人物に話しかけた。

 

「ルシウス。抜け目の無いわが友よ。お前にもそれを求めるぞ。」

 

男に囁くヴォルデモート。

 

「我が君。私は、常に準備しておりました。あなた様からの印が、あなた様に関する情報が少しでも入っていたら私は――」

 

「馳せ参じるつもりだった、か。世間的には対面を持ちながら、上手くやっていると聞いているぞ。だが、俺様から見れば忘れているようにも見えたが。でもまあ、クィディッチ・ワールドカップでマグル苛めを楽しんでいたから必ずしもそうではないようだ。尤も、小娘の双子の兄と、見知らぬ男に瞬殺されたらしいがな。」

 

「我が君。小娘はともかく、兄の小僧の方はとんでもない奴です。特に、魔力の質が――」

 

「分かっている。小娘と違い、小僧の方は俺様でも警戒している。俺様が負ける事は無いにしても、それでもタダでは済まされないだろう。ロイヤル・レインボー財団の会長アラン・ローガーは、俺様が復活して来る事を見越して、海外で小僧を育てていたのだからな。だがな、今は小僧の事はどうだって良い。ルシウス、お前の話に戻すとしよう……小僧の話題を出して、有耶無耶にするのは許さん。」

 

「……」

 

「その後に『闇の印』に怯えて逃げ出した。表向きは清廉潔白に見せかける為とは言え、俺様を探そうと思わなかったわけだな。」

 

「…………」

 

「これ以上は何も言わん。その意味、お前はもう分かっているだろう?ルシウスよ。」

 

「はい。我が君。ご慈悲を、ありがとうございます。」

 

3人分空いている空間を見つめるヴォルデモート。

 

「レストレンジ3人がここに来る筈だった。」ヴォルデモートが静かに言った。

 

「ベラ、ロド、ラバは残念ながらアズカバンに葬られている。何処までも忠実な奴らよ。俺様を見捨てるよりは、あの牢獄に囚われる事を選んだのだからな。あそこが開放された暁には、3人は最高の栄誉を受けるだろう。それに、俺様直々に最敬礼と土下座のコンボを行おう。彼ら3人には……愚かな義弟とは違い、それだけの価値がある。」

 

「我が君が!?」

 

「最敬礼と土下座!?」

 

「良いなあ。あの3人。ここのマグル殺して来ようかな?」

 

死喰い人達がざわついてる。バカみたい。

 

「ベラとロドには、ケフェウスという1人息子がいた筈だ。順調に成長していれば、その息子は20半ばになるか。彼にも、俺様から栄誉を与えよう。そしてゆくゆくは、死喰い人に勧誘しよう。」

 

その言葉を聞いて、また死喰い人が騒ぎ始めた。

 

「ベラに息子!?我が君。どういう事ですか?」

 

ルシウス・マルフォイがヴォルデモートに聞いた。

 

「ルシウス。お前は知らないみたいだな。それも当然か。この事実を知っているのは、俺様とレストレンジ達だけだからな。」

 

ヴォルデモートは、左手を上げて、ざわつきを抑えた。

 

「生まれてすぐに、そいつは外国へと渡ったのだ。ブルガリアの魔法族の家に置き去りにしてな。ダームストラングに入ってる筈だ。もう卒業しているがな。じっくりと探すとする。その話は後だ。吸魂鬼(ディメンター)も我々に味方するだろう。彼らは生来、俺様達と同じく闇の住人だ。」

 

吸魂鬼。あんなものが、またボクに襲い掛かって来るの?今度は敵として。思わず寒気がした。

 

「消え去った巨人達も呼び戻そう。各地に散らばった、誰もが震撼する生き物達。忌み嫌われ、迫害され、闇に葬られた者。『正義』の名の下にやられてしまった、忠実なる下僕達の全てを、俺様の下に帰らせよう。」

 

ボクも、グラントも戦慄した。ヴォルデモートならやりかねない。3年前に言った様に、世界を征服するつもりなんだ。悪夢だ。

 

その後、クラッブ父とゴイル父、ホワイト夫妻、ワルデン・マクネアに今まで以上に忠実になる様に言った。

 

「ここには11人の死喰い人(デス・イーター)が欠けている。6人は把握しているがな。その内の3人は、任務で死んだ。1人は臆病風に吹かれて戻らない……思い知らせてやろう。俺様への裏切りがどういう事なのかを。1人は永遠に俺様の下を去った。勿論、死あるのみ。そして1人は、去年加わったばかりだが優秀だ。既に、難しい任務に就いている。ホグワーツで今も暗躍している。そして、残りの5人も調べなければならん。」

 

「城だと!?」グラントが叫んだ。

 

「そうだ。その者の尽力によって、ようやく招待させる事が出来た。オマケもいるが。俺様の復活を祝ってくれる幸運の持ち主。もう紹介するまでも無いか。生き残った女の子。その名も、エリナ・ポッターだ。」

 

何か侮辱されている気分だ。グラントも怒ってる。オマケ扱いされている事に関して。

 

「我が君。教えてください……どのようにしてご復活なされたのかを。」

 

ルシウス・マルフォイの声が聞こえた。

 

「良いだろう。話してやる。」

 

ヴォルデモートは語りだした。ママがボクとハリーを庇って死んだ時に、ボクとハリーに護りの魔法が宿った事を話した。死の呪文を使った時、ヴォルデモート自身に跳ね返ったけど、何かしらの手段で生き延びた。

 

「その時に、予め何かあった時の為に近くに死喰い人を待機させていたのだが……何故か、全員皆殺しにされていた。それも、魔法を使ったわけでも、ましてマグルに出来る様な芸当ではない。もっと頂上的な何かにより力で殺されていたのだ。不死鳥の騎士団やロイヤル・レインボー財団以外にも、我が組織に敵対する者がいるという事なのだろう。まあ良い。そこの2人を始末したら、ゆっくり考える事にしようか。」

 

ヴォルデモートがそんな事を言っている。そう言えば、ハリーが何かを使ったって言ったような気がする。何だったっけ?

 

それは後で考えよう。ママの親族、つまりペチュニア伯母さんの所にいるだけで、その効果が増幅する様にダンブルドアが改良を施した事も知った。今回、その魔法が宿ったボクの血を使った事で、ボクに触れる様になった事もだ。

 

「お前に触れなかったのは、ついさっきまでの事だ。血を数滴取り込む事で、それを難無く突破出来る!」

 

ヴォルデモートが、ボクの頬に触ってきた。

 

「うわああああああああああああ!!!!」

 

「エリナちゃん!」

 

「痛いか?エリナ・ポッター。お前のマグルの母親の護りなんぞ、所詮その程度なのだ。」

 

「ママを!ママを!バカにしないで!」

 

本当に触れる様になってるなんて。逃げようにも逃げられない…………誰か、助けて……

 

「お前の血を手に入れる為に、この1年間。散々策を練って来たぞ。」

 

またヴォルデモートが語りだす。賢者の石での出来事で、クィレル先生は最初まともに触る事も出来なかった。今思えば、ママが最期に残してくれた護りの魔法のお陰だったんだ。その事を、ヴォルデモートは知ったんだ。

 

望みを捨てかけていた時にペティグリューがやって来た。杖を持って来て。更に、バーサ・ジョーキンズから情報を引きずり出し、三校対抗試合を利用してボクをおびき寄せる計画を立てたと語った。更に、連絡さえ取ればすぐに協力してくれる死喰い人もいると話した。バーサ・ジョーキンズは使い物にならなくなったので、ヘビの餌にされたらしい。

 

「もう賢者の石は手に入らない。ダンブルドアが。いいや、正確には小娘の双子の兄、ハリー・ポッターによって、粉々に握り潰されたのだからな。だから、目標レベルを低くしたのだ。破滅する前の状態で戻ろうと。それからじっくりと、より不死となる身体を探す術を探せば良いとな。」

 

そしてヴォルデモートは、またボクの方を向いた。

 

「ただ14年前との相違点は、たった1つだ。小娘の血を使った事だ。それが俺様に変化を齎す。そして、それこそが全ての間違いを正す。今、ようやく小娘を相応しい姿に出来る。惨めな、あるべき姿に。即ち死に。」

 

その言葉と同時に、ボクを縛っていた縄が解かれた。足元には、いつの間にかボクの杖が置かれていた。杖を手に取る。何とか切り抜けないと。隙を突いて、優勝杯を手に取ろう。勿論、グラントも一緒に。

 

*

 

エックス・ブラックと2体のパンテオン・エースとの戦い。パンテオン・エース達は自由自在に飛び回っている。エックスも箒に乗る。右手に杖を構える。いつでも攻撃が出来る様にする為であった。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

パンテオン・エースの片割れに呪文をぶつける。少し仰け反った様だが、特にこれと言って異常は無いらしい。

 

麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

攻撃をしていない方に失神呪文をかける。だが、失神する気配が無い。

 

「少しダメージは受けているみたいだけど、全く倒れる気配が無い……ウワッ!」

 

パンテオン・エースに触れた瞬間、急に力が抜ける様な感覚に襲われたエックス。それは一瞬だけであるが、危うく箒から落ちそうになったので、強く印象に残った。

 

「ロイヤル・レインボー財団がスネイプ先生やペティグリューに使ったのと同じ、奇妙な手錠と鎖みたいな効果を持った様な感じだ。」

 

エックスは魔封石の存在を知らない。去年、聞く機会は幾らでもあった筈なのだが。波乱万丈な出来事ばかり起こって、聞くどころではなかったのだ。

 

「迂闊には近付けないのか……厄介な技術を持ってるな。PWPEってのは。」

 

パンテオン・エースの1体が、腕を砲弾が発射出来る様に形態変化させた来た。その腕から、オレンジ色のエネルギー弾を乱射しまくった。

 

エックスは、ハリーから教わった箒のテクニックを駆使して、エネルギー弾を避け続ける。

 

「グワッ!」

 

エネルギー弾の1発が、エックスの左腕に着弾した。当たった箇所から出血している。危うく箒から落ちそうになった。

 

「1発当たっただけでここまでの……」

 

崩れ落ちそうになるエックス。パンテオン・エースは縦横無尽に空を駆け巡り、そして気まぐれにエネルギー弾を発射してくる。1回につき、3発であるのだ。しかも、3方向に来る。

 

魔法を使ってはいるけど、どれも有効打にはならない。それどころか、半減をされている様な感じだ。

 

「後は、先輩直伝のあの魔法しか出来そうに無いか。」

 

神の怒り。又の名をデイ・デイーラ。虹色の破壊光線を放つ。最大出力ならば、あれを粉砕出来るかも知れない。

 

「だけど……」

 

*

 

必要の部屋での修業。この日、エックスの修行を付きっきりで見ているハリー。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

虹色の破壊光線を甲冑に当てるエックス。しかし、周囲の物まで壊してしまう。

 

「またか!上手くいかない!」声を荒げるエックス。

 

「う~ん。」何か考え込んでいる様子のハリー。

 

「エックス。どうやら、調整とかコントロールに難があるみたいだな。」

 

「それは、分かってはいます。」

 

「いや。得意不得意があるのは問題無いんだ。もっと別の方法を考えるかい?何なら、俺に発明した肉体強化でも……」

 

「いいえ!このまま続けて下さい!!」

 

「……オーケー。この呪文に必要な魔力の消費量は難無くクリアしている。だけど、余計な魔力の分まで消費するから、撃てるとしても精々2発だな。」

 

「それ以上は?」

 

「出ない。というか、無理に出そうとすると魔力が本当に枯渇して死ぬよ。それだけは覚えておく事。良い?死んだら元も子もないから。」

 

*

 

『ハリー先輩。いつも、あなたには助けられてばかりですよ。僕は。』

 

エックスは、これまでの3年間を振り返る。ハリー・ポッターとの出会いは偶然だった。組み分けでグリフィンドールとなり、彼の隣になったのだ。話をしてこう思った。姉以外で、目標になる人物が出来たと。

 

邪魔にならない様に、分からない所を教えて貰った事も多々ある。これで何度救われた事か。それどころか、成績が更に上がった。

 

秘密の部屋の事件。親友のコリンが、バジリスクの片割れに石にされた。それだけでなく、ジニーまで学生時代の闇の帝王に攫われてしまったのだ。1人では何も出来なかった。無力だった。でも、当時の2年生5人と一緒に戦えた。

 

去年の事。2人の伯父の事を教えられた。1人は無実の罪で囚われている事を知り、後に救われた。もう1人は、愛すべき者達の為に闇の陣営を命がけで裏切った事も知った。

 

全て、ハリー・ポッターが主に解決したのだ。友人の仇を取り、伯父を過酷な運命から救ってくれた。もう1人の伯父の悲痛な覚悟を知らせ、その遺志を引き継ごうと思えた。返し切れない程の恩を貰ったのだ。今は、その恩人が苦しんでいる。次は自分が助ける番だ。

 

「だからこそ。僕は負けられない。ここでお前達なんて倒してやる!!神の怒り(デイ・デイーラ)!!!」

 

最高威力の破壊光線をパンテオン・エースの片割れに向けて放つエックス。

 

エックスは、魔力の調整やコントロールが苦手だった。だから、余分な魔力消費が頻発してしまい、ブラック家の高い魔力が無駄になっているのだ。

 

だが、言い換えるならば手加減不要な相手に対しては一切抑える事無く魔法を使えるわけだ。なので、この状況での弱点は逆に強みとなっている。

 

「ぶっ潰れろおおおおおおおお!!!」

 

光線は、1体のパンテオン・エースに命中した。生物であれば即死だ。何故なら、大きな怪物でも木っ端微塵に出来るのだから。パンテオン・エースの耐久力が高い。だが、全く効いてないわけではない。現に、所々にヒビが入り始めているのだ。

 

「もっとだ!!!」

 

エネルギー弾が命中するが、そんな事は関係ない。構わず呪文を放ち続ける。そして…………パンテオン・エースの片割れを完全撃破した。

 

「次はお前だ!神の怒り(デイ・デイーラ)!!!」

 

残っているパンテオン・エースに、またも破壊光線を放つ。だがその前に、エネルギー弾を3発全て受けてしまったのだ。思わず倒れそうになるエックス。今の彼を動かしているのは肉体ではない。精神だけで動いているのだ。

 

「行っけえええええええええええええ!!!」

 

限界を超えて、魔法の威力を最大限まで跳ね上げた。杖に負担が生じるが、それは今、どうだって良い。ただひたすら、敵を倒す。それこそ、エックスが自分に課した使命であるのだから。

 

長い時間を掛けて、パンテオン・エースを撃破した。だが、その代償に彼自身の杖が全壊してしまった。

 

「……」申し訳ないという表情を浮かべるエックス。

 

ニンバス2001から降り、次の道を限界が来た身体でゆっくり突き進んでいく。ある程度歩くと、立札が置いてあった。『皆。早く来いよ。俺は先に行ってるぜ。だけど、無理すんなよ。ハリー・ジェームズ・ポッター』と書かれていた。

 

「先輩。今、そっちに行きます。僕も……応援に…………。そっ……ち……に…………」

 

エックスは倒れてしまった。壊れた杖を、杖腕である右に大切そうに持ちながら。その顔は、どこか幸せそうであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 兄弟杖の真実

「ようやく、決闘が始まるみたいだな。行動開始だ。」

 

マクルトが立ち上がった。その虹色の瞳は、ヴォルデモートや死喰い人達に対して憎悪の視線を向けていたのだ。

 

*

 

ボクは、ヴォルデモートと向き合った。

 

「エリナ・ポッター。決闘のやり方は学んでいるな?俺様は礼儀を大切にする。真正面から挑む者には、いつも称賛を送っていた。」

 

「……」

 

「ダンブルドアも、礼儀くらいは守って欲しかろう。今夜はお前1人だ。死んでくれる母親もいない……命を張ってくれる兄もいない。互いにお辞儀をするのだ。」

 

「…………」

 

「さあ、死にお辞儀するのだ。エリナ・ポッター。」

 

死喰い人達が大爆笑している。特に、ルシウス・マルフォイはクラッブとゴイルを煽っている。だけど、何故か全員心から笑ってない。何かに怯える様に、それから逃れる様に空笑いをしているだけの様に見えた。

 

「イヤだ。」こんな奴に絶対お辞儀なんてしたくない。

 

「お辞儀をするのだ!」

 

ヴォルデモートが杖を上げた。すると、見えない手がボクを容赦無く前のめりにした。死喰い人達が大笑いしている。

 

「それで良い。今度は、背筋を伸ばして、誇り高く、お前の父と同じ様にだ。決闘を始めるぞ。」

 

態勢を整え、ジッとヴォルデモートを睨み付ける。

 

「威勢は良いようだな。苦しめ(クルーシオ)!」

 

死んでしまいたいくらいの苦痛がボクを襲う。それが2分続いた。

 

「一旦休もうか。もう2度として欲しくないだろう?」

 

グラントだけでも逃がす。ここで死ぬ事になったとしても、あんな奴に弄ばせるつもりは無いんだ。

 

「俺様は聞いているのだがな。なら、答えさせるまでだ。インペリオ(服従せよ)!」

 

何の躊躇いも無く、許されざる呪文を使うなんて。やっぱりあいつは、生まれついての悪なんだ。ゲロ以下の臭いがプンプンする。

 

『イヤだと言えば良いんだ。』

 

「言わない……」

 

『そうすれば楽になれる。』

 

答えるもんか!

 

「ボクは言わない!」

 

服従の呪文を破った。死喰い人達は笑うのをやめ、逆に驚愕している。

 

「我が君の呪文を打ち破った!?」

 

「やはり、あの小娘は天才なのか?」

 

当のヴォルデモートはと言うと、逆に感心している。

 

「言わないか。だが、それは苦痛を意味するんだぞ?もう2度と味わいたくないと思うのだがな。」

 

「だったら、ボクは死んだ方がマシだよ!絶対に屈しない!!」

 

力強くそう宣言したボク。

 

「死をも恐れない……か。フフフフフ。気に入ったぞ。宿敵でも無ければ、ましてや何の因縁も無ければ、お前を永遠に俺様のものにしようと行動していた所だ。」

 

「うるさい!この……このロリコンストーカー!」

 

「何とでも言うが良い。さてと。そろそろ終わらせるとしようか。この茶番を…………この戦いを!」

 

ボクは、杖を握った。立ち上がった体の前にすっと構える。それは、ヴォルデモートも同じだった。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

ヴォルデモートの杖から、緑の閃光が発射された。

 

魔塊球(ディアブマス・アービス)!」

 

白い光球を死の呪文の閃光に向けて発射した。死の呪文は、真っ白な光に包まれた。すかさず、次の呪文を唱える。

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!!』

 

無言呪文で、武装解除呪文を発射した。死の呪文と相殺された。やっぱり、相殺が精一杯みたいだね。ヴォルデモートは、大変驚いている。だけど、分析もしているようだ。

 

「さっきの白い光球を放つ呪文。当たった箇所に攻撃の魔法を当てると、その威力が何倍にも増幅するのか。道理で、只の武装解除呪文が死の呪文を相殺出来たわけか。」

 

これには、流石の死喰い人も狼狽えの表情を見せている。だけど、魔塊球の効果があっさりとバレてしまった。もしこれで、死の呪文と一緒に使われたら…………

 

「だが、俺様には不要な魔法だ。要は、魔力を込めて呪文の出力を上げれば良いだけの事。魔力の無駄だ。」

 

また杖を向け合う。互いに、円の弧を描くかの様に回りだした。ふと、グラントの姿が見えた。どうやら、包帯が少しだけ解け始めている様だった。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

ほぼ同時に呪文を唱えたボクとヴォルデモート。2つの呪文が衝突した。その時、ボクの杖は電流が貫いたかの様に振動し始めたんだ。

 

「これで終わり……何だと!?何だこれは!何が起こっているのだ!俺様の、俺様の死の呪文が!」

 

「ボクの放った虹色の破壊光線が、死の呪文とぶつかり合ってる!?」

 

眩い濃い金色の糸の様に、2つの杖を結び付けたんだ。死喰い人達が騒いでいる。

 

「我が君!指示をください!お願いします!」

 

ルシウス・マルフォイが叫んだ。

 

「やめろ!手を出すな!この小娘だけは、俺様自ら手を下してやる!小僧の方にも、色々と聞き出したい事がある!手を出したら命は無いと思え!!」

 

ヴォルデモートが、ルシウス・マルフォイにそう言った。でも、何人かはいつでも準備出来る様に杖を構えていた。

 

「そういう事だったんだね。ボクの柊の杖。あの杖が許せないんだね。兄弟羽根を持つ、ヴォルデモートの杖が!イチイの杖が!!」

 

その言葉を言ったと同時に、1度だけ聞いた事のある歌が聞こえた。ダンブルドアの不死鳥の、フォークスの歌だ。

 

「何故だ!ダンブルドアの糞鳥なんて招いた覚えはないぞ!」

 

ヴォルデモートが吠える。

 

「す、すげえ。エリナちゃんと、お辞儀ハゲの杖の間に出来た光が、どんどん強くなってやがる!エリナちゃんが……光ってるみたいだ!俺も何だか、希望が湧いて来たぜ!」

 

グラントを縛り付けていた包帯が、完全に解けたのが見えた。

 

「俺様の呪いが!こんな事があってたまるか!許されてたまるか!何も力が無い、小娘如きに!俺様が!」

 

「ボクは、何も力が無い!他の人みたいな力なんて!そういうあなたは、その力で今まで何をやってきたつもり!?」

 

「黙れえええ!良い加減、諦めろおおおお!」

 

ボクも負けじと言葉を返す。

 

「ボクが諦めるのを!諦めなさいよ!」

 

ボクの杖から、光の玉を伝って球体がヴォルデモートの杖に流れ込もうとしている。杖が悲鳴を上げている、そんな気がした。

 

ペティグリューの銀色の腕から何か出て来た。ゴーストみたいなのが。夢で見た、あのお爺さんが立っていた。

 

『そんじゃ、あいつは本当に魔法使いだったのか?』

 

「あなたは!去年の夏にヴォルデモートに殺された!マグルのお爺さん!」

 

『俺はあいつに殺されたんだ……やっつけちまえ!お嬢ちゃん!頑張れ!俺が付いている!』

 

お爺さんがヴォルデモートを見ながら言った。ヴォルデモートの顔は、恐怖で非常に歪んでいた。死喰い人達も然りだ。

 

その気持ちは、何となくだけど予想出来た。自分が手に掛けた人物が現れるという事は、己の罪を突きつけられてから。死人に口なしどころじゃない、糾弾や罵倒をしてくるんだ。他者を見下し、利用し続けて踏みにじり、挙句その命すら弄ぶという形で己の欲望に忠実に生きたヴォルデモートにしてみれば、これほど恐怖を伴う出来事なんてないだろう。

 

もう1つの頭が出て来た。今度は、中年の女性だ。確か、あの女の人はバーサ・ジョーキンズって名前の人だ。夏に行方不明になった…………

 

『手を離すんじゃないよ!絶対に!エリナ!あなたなら出来る!杖を離さないで!』

 

「もしかして、あいつにやられた人達?殺された逆の順番で現れてるって事?…………って事はまさか!?」

 

また出て来た。一目見て分かった。ボクを大きくして、顔つきも大人びたような外見の女の人。目だけは、ハリーと同じ緑の目をしていたのだから。

 

『エリナ。大きくなったわね。まるで、子供の時の写真を見てる様だわ…………』

 

「ま、ま、ま……ママ!!」

 

『すぐにお父さんが来るわ。一昨年にハリーと、あの子が持ってた不思議な石を通じて話したわ。ハリーがお父さんに似てるように、あなたは私そっくりだわ。目だけは逆転しているけどね。』

 

その隣にまた人が現れた。ハリーと瓜二つの、クシャクシャな髪をしたメガネの男性。ボクと同じ、ハシバミ色の目をしている。

 

『2年前はハリーと話せたんだ。不思議な石の力でな。今回は、僕達のもう1つの宝か。』

 

「パパ!」

 

『やあエリナ。僕達の宝物の片割れ。』

 

パパは、今度はヴォルデモートの方を向いた。恐怖で鉛色の様になっている。死喰い人達も戦慄していた。

 

『まだあんたは僕達ポッター家に執着しているのか?死の飛翔。ストーカー性分は相変わらずじゃないか。』

 

「貴様!ジェームズ・ポッター!」ヴォルデモートが震え声で名前を呼ぶ。

 

『悪いけど、エリナにはこのままトンズラして貰うよ。丁度、一緒に来た少年も優勝杯を取りに行ってるし。あの子、見た事も無い武器で死喰い人を攻撃しまくってるな。』

 

『あれは対戦車ライフルよ。ジェームズ。あの子、どうやってあんなものを調達して来たのかしら?』

 

グラントが、死喰い人相手に重火器を乱射していた。気付いてない者は、鉄の玉を打ち込まれて、倒れている者までいる。

 

『エリナ。良く聞くんだ。繋がりが切れると、僕達はこの世に僅かしか留まれないんだ。それでも時間を稼ぐよ。優勝杯を持って重火器を乱射しているあの少年と一緒に、ホグワーツまで脱出するんだ。良いね?』

 

「パパ、分かったよ。」

 

『ハリーに宜しく言っておいてね。後、シリウスやリーマス、メリンダにも。あの3人なら、あなたとハリーを大切に思ってくれるから。ねえ?ジェームズ。』

 

ママが笑顔で言った。

 

『そうだね、リリー……さあ、エリナ。もう行くんだ。』

 

『あなたなら、きっと出来るわ。幸運を祈ってる。行ってらっしゃい。』

 

「パパ、ママ!」言おうとして言葉を詰まらせた。

 

「ありがとう!行ってきます!……わああああああああああ!!!」

 

両手で掴んでいた杖を、渾身の力で上に捩じ上げた。金色の糸が切れた。それと同時に走った。死喰い人達も混乱している。チャンスだ!

 

「グラント!」一緒に来た子の名前を呼んだ。

 

「おお!エリナちゃんかよ!今日は宴だぜ!ヒャッハー!!俺のAK-47とバレットM-82も疼いてるぜええ!!」

 

グラントは、アサルトライフルと対戦車用ライフルを使い分けながら、手当たり次第に乱射していた。所かまわず撃っているので、何の対策も出来てない死喰い人はどんどん倒れていった。多分、死んでるのもいるだろうね。これは。

 

「邪魔だ!ジェームズ・ポッター!」

 

『死を超越した僕に勝てるとでも?』

 

『また2回とも塞がれるわけだわ。』

 

『あの子達は、新しい時代を気付いていく希望であり光!邪魔はさせないよ!』

 

『お前さんに一矢報いないと気が済まんのでな。』

 

パパとママ、バーサ・ジョーキンズ、マグルのお爺さんが立て続けにヴォルデモートにそう言った。それで、ちゃんと足止めをしている。

 

「今がチャンスだよ!行こう!グラント!」

 

「おっしゃ!揃ったんだ!これで無事に…………」

 

その時、死喰い人達目掛けて空から隕石が沢山降って来た。

 

「な、何だあれは!」誰かが叫んでいる。

 

「ま、まさか!?あいつなのか!?」

 

ルシウス・マルフォイが、これまでにない怯えた声でそう言った。

 

「お前達!盾の呪文を使え!」

 

ヴォルデモートが叫んだ。もうパパ達はいなくなっている。でも、突然起こった予想外の出来事を、ただその場しのぎの対応しか出来なかった。現に、盾の呪文は簡単に破られてしまい、早くも100人いた死喰い人は、70人位までに減らされてしまったのだ。

 

「私達も混ぜて貰おうかしら?」

 

男の声がした。女の人の口調になっている。

 

「ヴォルデモートよ。お前の厨二病まっしぐらの演説は見事だったぞ。事が事なら、四つん這いになって笑いたいくらいだ。」

 

続いて男の声がした。全てを威圧する様な声だ。

 

「何故だ!何故ホグワーツにいる筈のお前が、見るからに変態な男と一緒にいるのだ!」

 

ヴォルデモートが怒鳴った。その方向には、金髪で丸刈りの、女性用のクラシックチュチュを着用している男性。もう1人は、少しそばかすがあり、薄茶色の髪をしている。憂いの篩いで、ネビルの両親を廃人にした容疑でアズカバンに収監されて、すぐに死んだ筈の人だ。

 

「どうも。元ご主人様。俺はもう、2年前からこちらのお方の配下になっていましてね。去年からアンタに従っていたけど、お前に従うなんてクソだな。バカ以外、ありゃしない。今回は、ダンブルドアだけでなくお前まで欺いてやったぞ。ざまあみやがれ!」

 

薄茶色の髪の男性が、ニターッとヴォルデモートに意地の悪いスマイルを送った。

 

「おい!エリナちゃん!あっちからも人が来るぜ!」

 

反対方向を向いた。グラントの言う通りだ。1人だけだ。男の人だ。年齢は20歳代程。シルバーの短髪に、全てを威圧する様な神々しい虹色の瞳。マゼンダで表現されている太陽の柄がプリントされている白いローブを羽織っていている。

 

主に幹部級の上級死喰い人が、揃いも揃ってこの世の絶望の感情となった。

 

「わ、我が君!アイツです!今回来てないカロー兄妹は、あいつが我々の想像を超える力を使って殺したのです!理不尽極まりない奴です!」

 

ルシウス・マルフォイがヴォルデモートにそう進言した。だが、当のヴォルデモートは聞いてない。ずっと、その人物だけを見ていた。

 

「これはどういう事だ!バーティ・クラウチ・ジュニア!」

 

ヴォルデモートが憤怒の形相でその人物にそう言ったのだった。

 

*

 

セドリック・ディゴリーとブリザック・スタグロフは睨み合っている。

 

『さあ。どうやって、この鹿の化け物を倒そうか。』

 

「行かねえなら、俺から行くぜー。ふむふむー。」

 

スタグロフは、氷で出来た頭の角をミサイルの様にして発射した。

 

「一旦距離を取るべきかな?」

 

セドリックは、後ろへと下がった。氷の角は、セドリックが移動した場所まで届く事はなかった。

 

「あの攻撃、放射線状に来るって事かな?」

 

「避けるなんて上等じゃねーか。なら、これはどうだ?ブリザード!!」

 

スタグロフは、右腕から冷気を発射した。

 

「!?何だこれは!僕の身体が、動きにくくなったぞ!」

 

セドリックの身体には、所々霜が付いたのだ。思ったように動かし辛くなってしまったのだ。つまり、スタグロフの攻撃が当たりやすくなったという事になるのだ。

 

「クッソ!!早く取り除かないと!!!」霜を必死で振り払うセドリック。

 

「オオオオ!!」

 

スタグロフは、ジャンプをしてきた。セドリックを本気で踏み潰して殺す気だ。

 

「間に合え!!」

 

セドリックが言い終わると同時に、スタグロフの地上への着地が完了した。

 

「呆気ねー。魔法使いがこんなにも貧弱だとは思わなかったなー。他の魔法使いのガキ共を仕留めに…………」

 

燃えよ(インセンディオ)!!!」

 

呪文が聞こえた。スタグロフが燃え盛る。

 

スタグロフは、油断した。魔法使い、ましてや人間なんて軟弱で愚かな生き物だと断じているからである。その油断と傲りが命取りとなったのだ。手痛い深手を負ってしまう。

 

「むっはー!!あ、アチィッ!!!」

 

「どうやら、油断したようだね。」

 

思わぬ反撃を受けてしまったスタグロフにそう告げるセドリック。但し、彼も無傷では済まされてはいない。額と左腕、右足から血が出ている。

 

「人間の分際で生意気なー!!」

 

「ハア……ハア……その人間に、これから君は負けるんだよ。」

 

セドリックはまだ戦意を失っていない。こいつは、火や熱を使った攻撃に弱い。スペックの方は、あちらに分があるかも知れない。だけど、勝ち目が無いわけじゃない。今の攻撃でそう確信したセドリック。

 

「ゆ、許さねー。ぶち殺してやるー!!!フローズンボム!!!」

 

スタグロフが再びジャンプした。

 

「霜で動きにくいって事は無いから、もうその攻撃は効かない!盛衰の柴土《サーダス・ヒャシソイル》!」

 

紫色の土が、セドリックを守る様に彼の全方向に土の壁が生成する。氷を防いだ。

 

「食らいやがれー!!!」

 

ジャンプをするのは同じではあるが、その最中に氷の球を投げつけて来た。しかも、セドリック目掛けて。

 

「よっと。」

 

紙一重で回避するセドリック。そして、すぐ近くに着弾した氷の球。冷気まで生じているので、少し離れた。するとどうだろう。氷の球が着弾した個所から、氷のトゲが発生したではないか。しかも、まともに直撃すれば人間の体なんて貫通する程に鋭利な物へと。

 

「フレッドとジョージとの雪合戦での経験がこんな形で生きて来るなんてね。いつも勝負に付き合わされて迷惑だなって思ったけど、今回ばかりはあの2人に感謝だね。」

 

セドリックは、氷のトゲを見る。今の所、あっても無くても問題は無い。だけど、危険になる物は取り除くべきかと考えた。

 

燃えよ(インセンディオ)!!」氷のトゲを溶かした。

 

「ちょこまかとしつこい野郎だー!!お前如きに使うつもりは無かったが、これで終わらせてやる!ダブルブリザード!!!」

 

ブリザードの時とは異なり、今度は両手から前に出し、ブリザードを放ってくるスタグロフ。

 

『見たところ、霜を付着させない様だけど……何かあると考えた方が妥当だろうな。』

 

セドリックの読みは当たっていた。ブリザードから、氷の刃が発射されたのだ。

 

「やっぱりか!今度はそう当たるもんか!護れ(プロテゴ)!!」

 

盾の呪文を発動する。実際、盾の呪文はそんなに得意じゃない。ハリーやゼロ、イドゥンみたいにレベルの高いものも含めて無言で出来るわけではないのだ。精々、自分が作れるのは持続時間も小さく、その効果範囲も狭い物が精一杯なのだ。だから、顔や体等の上半身を守る事は出来ても、下半身、特に足の部分は完全に無防備になってしまう。

 

「グワァッ!!!」

 

氷の矢が、セドリックの左足に直撃した。突き刺さった状態になった。余りの激痛に、思わず倒れそうになる。

 

『意識が……遠退いていくような感じだ。』

 

後ろに倒れるセドリック。この方が楽だと感じた。

 

「むっはー!!ようやく当たったぜー。ざまあみやがれ!人間!!!」

 

その言葉を聞き、ハッと気づいたセドリック。そうだ。まだやるべき事が残っているじゃないか。人間を舐めているコイツに、負けるわけにはいかない。人間は確かに弱くて、愚かかも知れない。時には、取り返しのつかない過ちだって犯す。だけど、それだけが全てじゃない。あらゆる可能性を持っている。それを教えてやる。

 

「まだだ……まだ終わってないぞ…………」

 

セドリックは立ち上がって来た。もう体はボロボロである。左腕と右足から出血をし、その上左足は氷の刃が突き刺さったままだ。それでも、立ち上がって来た。

 

「な、何故だ……?どうして立ち上がって来れる?」

 

スタグロフは理解出来なかった。もうとっくに限界なんて超えている筈なのに。そこまでして自分に必死に抗う目の前の人間が、急に怖くなってきたのだ。

 

「君は確かに、僕が戦ってきた敵の中では1番強い!だけど!僕が戦ってきた全ての者の中で1番強い者と比べたら、遥かに弱い!それだけだ!!僕は、彼を超えると誓ったのさ!!」

 

スタグロフは、何も出来なかった。セドリックの気迫に、全く何も。

 

燃えよ(インセンディオ)!!爆破(エクスパルソ)!!爆発せよ(コンフリンゴ)!!」

 

セドリックは、魔法の詠唱を連続して行った。スタグロフの身体を燃やし、爆破させ、そして爆発させた。

 

「む、むっはー!!!こ、こんな死にぞこないの人間如きに……俺があああ!!」

 

「君の負けだ。」

 

「ふ、ふむー。だが、ロナルド・ウィーズリーは戻らねー。あいつは、他人とは違う特別な存在になりたがっていた。その為に、闇を望んだんだ。無理な話だ。」

 

「それはどうかな?」セドリックが笑った。

 

「な、何ぃ?」

 

「彼を、闇から救えるさ。この世に不可能なんて無い。諦めない限り、道は開かれるんだ。」

 

「む、むっはー!!」

 

スタグロフは爆散した。後ろに倒れ込むセドリック。

 

「ゴメン皆。僕は、行けそうにないや。」

 

意識を失うセドリック。応急処置はしたが、全く動けなかった。

 

だけど、後悔は全くしてない。少しでも、手助けになれれば。そう思えば、不思議と死も全く怖く無かったのだ。

 

*

 

レイブンクロー寮。マリア・テイラーは、第三の課題を見に行かなかった。1人でくつろいでいた。

 

「!?」

 

今、物凄い魔力の衝突が起こっていた。それを魔力感知で読み取ったマリア。その場所へ向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 グラントの正体

バーティ・クラウチ・ジュニアと呼ばれた人物は、まるで悪い子供を食い物にするあくどい大人の様な残虐の笑みを、ヴォルデモートに送った。更にヴォルデモートを怒らせたのは言うまでもない。

 

「そんなに怒んないで下さいよ。元ご主人様。尤も、付き合いは1年しかありませんでしたけどね。それに血圧が上がり過ぎて、タコみたいになりますよ?」

 

「フフフ。あなたもジョークが言えるのね。ジュニア。」

 

「シモンズ様のお陰ですよ。今の俺があるのは。冤罪でレストレンジ達と共に捕まり、その後は実家で不自由な生活。こんな風にした連中なんて、全殺ししたい位ですねえ。」

 

バーティ・クラウチ・ジュニア、これからはジュニアって呼ぼうか。その人は、まるで死喰い人達とヴォルデモートを道路に存在する汚物を見るかのような目をしている。

 

「何故奴が?魔法省の陰謀によって、抹殺された筈なのに……」

 

ワルデン・マクネアが動揺している。

「あら。ルシウスじゃないの。お久しぶりね。少しは決闘の腕を上げたかしら?2年前は、まるで鬱陶しいハエみたいに弱かったからねえ。」

 

リチャード・シモンズは、獲物を見るかのような凶悪な笑顔をして、ルシウスにそう語りかけた。

 

「以前は、良くもドラコを!私の息子を!変な痣を付けてくれたな!この落とし前、今ここで付けさせて貰うぞ!!!」

 

ルシウス・マルフォイは、不倶戴天の敵を見るかのようにシモンズを睨み付ける。

 

「そのドラコなんだけどね。彼、私の所に来たのよ。」

 

「!?どうしてあいつが!」

 

ルシウス・マルフォイが動揺している。

 

「このままあなたの元にいても、無抵抗にもTWPFに嬲り殺しにされるだけだと判断したそうよ。だから、私達アルカディアが育てているのよ。力を求めてね。じっくりと、私色に染めてあげるから安心なさい。」

 

ルシウス・マルフォイは、うなだれてしまった。だけど、彼の災難はこれだけでは終わらなかった。今度は、白いローブの男が話し始めたんだ。

 

「更に。お前がヴォルデモートの招集に応じたすぐ後の事だ。我が組織は、マルフォイ家に侵入した。簡単だったな。1人こちらで預かっているよ。」

 

「まさか……シシー!シシーを…………私の妻をどうするつもりだ!」

 

「ナルシッサ・マルフォイは、お前が迂闊な事を出来なくする為のカードとして我々の下にいさせる。我が組織には、あの女の親戚が1人いるのでな。そのよしみで命と安全を保障する。高級ホテルまでとはいかないが、豪華なマグルの施設に監禁している。あの女にとっては、さぞかし屈辱の日々を送っているだろうな。何せ、散々見下していたマグルと同じ状態で生きているのだから。」

 

ルシウス・マルフォイは、もう何も言えない様だった。顔面蒼白になっている。

 

「いつの間にか一家崩壊してたなんて。」

 

「悪い闇の魔法使いとは言え、こんなのあんまり過ぎるぜ。フォイの家。」

 

もう、ボクを嘲笑っていた怒りよりも、知らない間に家庭崩壊する事態までに状況が悪化していたから、寧ろ憐れみすら感じるよ。

 

リチャード・シモンズは、グラントの姿を見つけた途端、急に穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ウフフフフ。私の最高傑作がこんな所で生き残った女の子と一緒にいるなんてね。しかも、仲が良さそうだし。目的の1つは、達成されそうなわけね。」

 

グラントに対して、シモンズはそう言った。

 

「ボクには、何が何だか……」

 

「俺もだ。エリナちゃん。いきなり最高傑作と言われてもよぉ。実感が湧かないぜ。」

 

それを言った直後、虹の眼の男がこう言い出した。

 

「シモンズ。グラント・リドルとは何者だ?ヴォルデモートとはどんな関係だ?お前は何を知っている?場合によっては、奴を殺さなければならんが?」

 

「マクルトね。リーダー直々に来るなんて光栄じゃないの。ま、ちゃんと説明するんだけどね。そこにいる、ヴォルデモートにも深く関わって来る事だから。」

 

ヴォルデモートを指差すシモンズ。

 

「俺様と関係だと!?その小僧、よくよく見たら昔の俺様と瓜二つではないか!答えろ!その小僧は何者だ!」

 

激昂しながら、シモンズにそう問いただしたヴォルデモート。

 

「ま、ヴォルデモート如き、大した事ないんだけど。話しましょうか。私の目的からね?」

 

「目的?」ボクが言った。

 

「そうよ。エリナ・ポッター。ハリー・ポッターの双子の妹。私の目的はね。この世の真理を知り尽くす事と、あらゆる生物の頂点に立つ究極の生命体を造る事なのよ。」

 

全身が震えた。というか、ジュニアとマクルト以外の全員が恐怖している。

 

「その過程で人間を拉致したり、改造手術を行ったり、未知の人造生物も作ったりしたわね。殆どが失敗作で、処分ばかりしてるんだけど。」

 

思わず吐き気がした。この人の思考回路、狂ってる。死喰い人の多くが、悲鳴を上げた。

 

「ホグワーツにも1人いるようだけどね。私の実験体が。私から逃げ切った子が。もう、その子なんてどうでも良いんだけど。ジュニア。あなたが言ってちょうだい。」

 

え?ホグワーツにシモンズの実験体がいるの?

 

「はい。シモンズ様。そいつの名前はマリア・テイラー、ですよね?」

 

「嘘でしょ!?マリアちゃんが!?」

 

「嘘なんかつかないわよ、エリナ・ポッター。彼女はね、遠い先祖に水人族の遺伝子を持ってるのよ。古いタイプの改造人間に起こる副作用、リジェクションが起こらなかったのは私が人魚の遺伝子を組み込んだ改造人間にしたからよ。だからあの子の場合、人為的な手で先祖返りをしたとも言えるわ。」

 

そんな。ロイヤル・レインボー財団に、それを伝えないと。

 

「さあてと。私の目的を、雑談も交えて語ったわ。そう言えば、ヴォルデモート。あなた、16年前に左腕を失わなかったかしら?」

 

シモンズがヴォルデモートにそう聞く。

 

「すぐに、再生させたがな。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック、リーマス・ルーピンによってな。あれは屈辱的だった。俺様にとっても。」

 

ヴォルデモートが苦い顔をする。

 

「その左腕、後で私が回収したのよ。あなたをも超える、最強の生命体を作る為にね。」

 

「それが、グラントの正体に近付くの?」

 

ボクがシモンズに聞いた。

 

「ええ。最強且つ、究極の生命体。ベースには、魔法使いの中でも突出したヴォルデモート。彼の個人情報物質を使う事は確定したわ。だからね、いわばヴォルデモートはグラントの遺伝上の父親とも言えるわね。」

 

「何……だと……」ヴォルデモートが狼狽えている。

 

死喰い人達も、ヴォルデモートとグラントを交互に見ている。

 

「ウフフフフ。永遠を与える為に、秘書を務めていたダンピールの女性を被験者にした。」

 

ダンピール。確か、吸血鬼と人間のハーフとなる存在。この人が言いたい事は、要はグラントの遺伝上の母親はダンピール。グラントは、吸血鬼の血が4分の1入ったクォーターという事。

 

ふと彼を見る。自分が人間じゃない事を察したのか、顔が何時に無く真っ青になっている。

 

「それだけじゃなくてよ。受精卵の段階で、今まで存在した、有能な魔法使い、そしてこの地球上に存在している全ての種族の遺伝子を組み込んだのよ。」

 

まさか……でも、そうじゃなければあの能力を身に付けている辻褄が合わなくなる。グラントも真っ青を通り越して白くなる。

 

「それこそが、私の最高傑作!究極生命体!グラント!あなたなのよ!生まれながらの王者、オリジナルたるヴォルデモートすら足元にも及ばないわ!!」

 

グラントが突然叫んだ。絶望の余り、発狂しそうになってしまったから。死喰い人の殆ども、シモンズの行った人道的に許されない所業に対して、恐れ、恐怖し、怖がっていた。本気で、リチャード・シモンズを恐れている。それこそ、自分達の主人たるヴォルデモート以上に。

 

ボクからすれば、自分達は今まで何の罪も無い人間を虫けらみたいに殺していた癖に、都合の良い時だけ善人面するなんて、全く都合が良過ぎる。そう思った。

 

*

 

イドゥンは、アヌビステップ・ネクロマンセス3世と戦っていた。

 

「黒き王の末裔よ。お前の未来は、死だ!スピニングケイン!!」

 

ネクロマンセスは、イドゥンに向けて杖を放った。杖は回転しながら、イドゥンに狙いを定めている。

 

肉体強化せよ(コンフォータンス)!」

 

肉体強化呪文を使うイドゥン。元々は、異常な身体能力を持つハリーとグラントのその秘密を探る為に行動していた。先程唱えた呪文は、その僅かに得られた成果を基に開発したのだ。この状態であれば、通常時のハリーと同等の身体能力が発揮される様になるわけだ。

 

「……とは言え、今の私では5分が限度ですわね。さっさとケリを付けないと、副作用で動けなくなりますわ。」

 

イドゥンは思った。術なんて使わずとも、今の自分と同等の状態を手にする様なトレーニングを今まで積んできたハリーには、敬意を払いたくなった。

 

アヌビステップの放ってきた杖を、強化された身体能力を以って回避するイドゥン。先程イドゥンがいた位置で回転しながら停滞し、それからアヌビステップの元へ戻って来た。

 

「この杖による攻撃を避けるとは大したものだな。ならば、これはどうだ。蘇れ!パンテオンよ!!」

 

ネクロマンセスが自分の周りで回転させた。すると、イドゥンの前と後ろに人型の何かの残骸を一時蘇生させた様な奴が1体ずつ出現した。

 

「何ですか?これは。」

 

「我が体にはナノマシンが搭載されている。機能停止した機械生命体達を蘇らせる事が可能だ。パンテオンと呼ばれる機械生命体達を蘇生させたのだ。ゾンビとしてな。」

 

「ホグワーツでは、機械を使える筈はありませんけど?」

 

機械や電気製品、即ち科学に由来するものは全く使えないのだ。それは散々、ハリーとゼロ、グラントが愚痴っていたのだ。

 

「ところが、その常識を覆すある鉱石が発見された。それが我らの身体に使われている。魔力を持った者(お前達)が触れれば、力が抜ける。それが、魔封石と呼ばれている物なのだ。」

 

その話を聞いて、イドゥンはある光景を思い出した。1993年のクリスマス休暇。伯父であるシリウスの無実を証明する叫びの屋敷での出来事。スネイプやペティグリューが、ロイヤル・レインボー財団の用意した手錠や鎖によって、完全無力化したあの光景を。

 

「後でハリーから聞きましょうか。その鉱石の事。」イドゥンが呟いた。

 

「だが、それは冥土の土産にもなるわけだが。」

 

アヌビステップがイドゥンを嘲笑う。

 

「どうでしょうか?それに、あなたが勝つ前提で物事を進めるのは良くありませんわよ?」

 

イドゥンは、一時再生された機械達を魔法で破壊した。魔封石で体を形作られているからか、いつもより威力が抑えられている気がする。だけど、全く効かないわけではない。塵も積もれば山となる。どんなに攻撃が小さくても、ちゃんと蓄積されていく。

 

幸いにも、イドゥンはほぼ無尽蔵とも言える魔力の保有量の持ち主なのだ。ゴリ押しも不可能ではない。パンテオンと呼ばれた、ゾンビの様な印象を受ける人型の機械達を倒し切った。

 

「お前の事は正直見くびっていた。だが、認めよう。我の戦った人間の中で、お前の右の出る者は誰1人としておらん。敬意を表し、本気を出そう。サンドジャグリング!」

 

地形が変化した。なだらかな山が2つ出来た。

 

麻痺せよ(ストゥーピファイ)!!」

 

失神呪文をネクロマンセスに放つ。当たった箇所は、ネクロマンセスにしてみれば当たり所が悪かった様で、仰け反ってしまった。

 

「ぬう!ならば!コフィンプレス!!!」

 

ネクロマンセスが地中に戻った。それと同時に、棺桶が2つ出現した。それらは、かなりのスピードでイドゥンに襲い掛かって来たのだ。

 

「油断も隙もありませんわね!!」

 

身体強化された体を惜しみなく発揮して、棺桶による押し潰しをジャンプでやり過ごすイドゥン。そろそろ、肉体強化が時間切れになって来た。

 

『皆さんはどうしているのでしょうか?』

 

*

 

「テイルファイア!!」

 

水よ(アクアメンディ)!!」

 

ハヌマシーンとゼロの戦いは続いていた。回転しながら、尻尾から炎を3方向に繰り出すハヌマシーンに対して、ゼロは杖から水を出して対抗していた。水蒸気が生じた。

 

「断裂棍!」

 

ハヌマシーンは、ゼロの頭上までジャンプして来た。そして、下突きを繰り出してくる。

 

「旋風装。」

 

風を纏わせるゼロ。ハヌマシーンの断裂棍を受け流した。風を操ったり、風そのものになれるゼロだからこそ出来る芸当だ。そして、ゼロはお返しと言わんばかりに、バトルシャフトの一撃をお見舞いした。

 

「やりますね!では、行くのです!我が分身、ミニハヌズよ!!!」

 

ハヌマシーンは、小型の分身を3体繰り出して来た。ゼロは、攻撃呪文を無詠唱で出し、ハヌマシーンの分身体を撃破していく。最後の1体は、バトルシャフトのチャージ攻撃で粉砕した。

 

「食らいなさい!そして滅びよ!戦闘一族の末裔よ!!」

 

ハヌマシーンが突進してきた。速過ぎる。すかさずゼロは、自らの身体を風に変化させた。これで、大抵の物理攻撃を無力化出来るわけだ。ゼロの身体は、ハヌマシーンの攻撃をすり抜けた。

 

「それが自然物化能力でございますか。あの忌まわしきフォルテ・フィールドと同じ。」

 

「兄さんを知ってるのか?」

 

「彼が闇払いだった頃、ティファレト様と交戦状態になりましてね。ティファレト様を敗北に追い込んだのでございます。あの男も『覚醒』した魔法使いになってるのですよ。」

 

「覚醒?」そう言えば、ハリーも言ってたな。と、ゼロは思った。

 

「そのレベルにまで到達すれば、少なくとも小さな国1つを消す事が出来るのです。文字通り、地図から。」

 

それを聞いて思わず絶句したゼロ。国1つを消す?そんな話は聞いた事が無いと。

 

「あなたも、ハリー・ポッターもそこまでの境地に達する力をお持ちのようですが、あなた方2人にはまだ足りない物があるですよ。まあ、それを聞ける事は未来永劫ありませんがね。」

 

教えてはくれないみたいだな。フォルテから後で聞こうと思ったゼロであった。

 

「死になさい!ファイアバウンド!!」

 

ハヌマシーンが、炎を纏って突進してきた。咄嗟に旋風装で風を纏って回避するゼロ。縦横無尽に辺りを攻撃するハヌマシーン。その過程で、巨大なブロックをどんどん破壊していった。

 

「無茶苦茶だ!」不規則過ぎて避け辛いのだ。

 

ハヌマシーンの突進がゼロに直撃した。

 

「ギャアアアアアアアア!!!」ゼロが悲鳴を上げた。

 

まさか。自分の能力にこんなウィークポイントが存在していたとは思わなかった。それに、普通の身体以上に火傷が酷い。

 

「あなたの自然物化能力、どうやら火や熱を伴った攻撃にはめっぽう弱いようですね。」

 

ハヌマシーンがそう告げた。図星だ。自分でも初めて知った弱点。上手く能力を発動出来ないし、全身に火傷を負った。まともに動けそうにない。

 

「今度こそ滅びよ!焔昇猿舞!!!」

 

手持ちの棍をしなやかに、それでいて力強く伸ばすハヌマシーン。バトルシャフトでガードするが、逆に大破してしまった。無防備なゼロに、ハヌマシーンは今こそ引導を渡そうとした。

 

「ま、マズい!」体を動かそうとするが、全く動けない。

 

「ムッキーー!!!」飛び上がってゼロを殺そうとする。

 

覚悟しなければ。いいや。覚悟なんてもう出来ていた。死ぬかもしれないと。今がこの時なのか。

 

その時だ。水が襲い掛かって来た。ハヌマシーンは、遠くへ追いやられた。

 

「マリア・テイラーなのか?」

 

「あなたにとっては相性最悪ですから、先に行ってください。」

 

マリアは、火傷治しの魔法薬に、ウィッゲンウェルド薬をゼロに手渡す。大方、ハリーが作った物だろうと予想をするゼロ。

 

「分かったぜ。だが、無理はするなよ。」

 

「その言葉、そっくりそのまま返させていただきます。」

 

ゼロは、先に進んだ。マリアに、ハヌマシーンとの戦いを継続して貰って。

 

「精霊の水!」

 

マリアが杖を振るうと、意思を持ったかのような綺麗な水が出現した。ハヌマシーンの炎を消火させてしまう。

 

「相性が最高な相手から一転して、今度は相性最悪の相手ですか。」

 

「あなたの相手は私。」杖を振るうマリア。

 

*

 

先に進むゼロ。だが、刺客がいた。2足歩行となった、赤いヘラクレスオオカブトの様なレプリロイドとエンカウントしたのだ。

 

「俺の次の相手はお前か。」

 

「このヘラクリウス・アンカトゥスが、直々に貴様を始末してくれる。」

 

「やれるものならやってみろ!暴咆の藍風《ヴィオルギ・インディベンツ》!」

 

藍色の風が、ヘラクリウス目掛けて発射された。ゼロ自身の風の自然物化能力を利用して開発した魔法であるのだ。ヘラクリウスを牽制する。

 

「クッ!そんな小細工など効かん!ビートアタック!」

 

突進攻撃をしてきたヘラクリウス。ゼロの出した風の魔法で速度は大幅に抑制されているものの、それでも少しずつ近付いてきている。

 

「チッ!マズいな。」術の発動を止めて、体を風そのものに変質させるゼロ。ヘラクリウスの突進攻撃を、すり抜ける様に無力化した。

 

「フン。やりおるな。ビートアンカー!」

 

アンカー状の腕を2本伸ばし、アンカーの間に向かって突進。ゼロは回避し、失神呪文を叩き込む。魔封石で作られている為か、魔法の効果は半減された。

 

「自らを無敵だと勘違いした魔法使いの寿命は短い。死喰い人然りな。」

 

「生憎だが、俺は自分を無敵だとは思ってねえよ。だからこそ、非魔法族の戦闘技術も取り入れたんだ。」

 

ゼロは、ヘラクリウスに対して風の力で強化した蹴りを3発入れた。

 

「ほう。人間。ワシに物理的にダメージを与えるとは。名前は?」

 

「……ゼロ・フィールド。」

 

「ゼロとやら。認めてやろう。お前は強い。ワシが今まで戦ってきた人間や魔法使い達の中で、お前の右に出る者は誰1人としておらん。オールレンジアタック!!」

 

ヘラクリウスが宙に浮く。腕を4方向に伸ばし、ゼロを狙ってそれぞれの腕から1発ずつミラクルガンナーと同じ位の豆弾を撃つ。

 

万全の守り(プロテゴ・トタラム)!!」

 

上位の盾の呪文で攻撃を防ぐゼロ。

 

「どうした?防戦一方だぞ?」

 

*

 

「いいや。こっからが第2ラウンドだぜ。」声がした。

 

声の主の蹴りが、ハヌマシーンの棍を受け止めた。拳が、ハヌマシーンをふっ飛ばした。

 

「間に合ったな。マリア。それにしてもお前が、誰かの為に動くなんてよ。」

 

男はニッと笑った。

 

「キット。」

 

「少し休んでな。こっからは、俺が請け負うぜ。」

 

*

 

サンドジャグリングでまたも地形を変えるネクロマンセス。穴を2つ作った状態で、杖を投げてつけて来た。肉体強化呪文のタイムリミットが過ぎてしまい、満足に動けないイドゥン。急激な強化は、使用者に多大な負担をかけるのだ。だから僅かな隙間に逃げ込んで、攻撃をやり過ごす。

 

「クッ!また地形を変えて来ますわね。」

 

「サンドジャグリング!」

 

再び地形を変えるネクロマンセス。今度は、沈む地形。まるで蟻地獄だ。満足に動かせず、沈むのを待つしかないイドゥン。

 

「土に還るが良い。スピンクローラー!!」

 

スピニングケインと良く似ている。だが、これは地形に沿って移動しているではないか。身動きの出来ないイドゥンを、確実に仕留める為に使った技だ。当たったら致命傷は確実、下手をすれば即死。例え死を免れたとしても、無抵抗に蟻地獄へと沈んで死ぬ。どう足掻いても絶望である。

 

『万事休すですか。』沈む中で最期を悟るイドゥン。

 

「俺の妹の形見に何してやがる!このクソ犬が!!」声が聞こえた。

 

イドゥンは沈まなかった。周りを見た。ネクロマンセスの右腕が無くなっている。自分の目の前には、黒髪の男がいた。イドゥンの、ハッフルパフ寮生の中では1番の仲良しのエリナ・ポッター。彼女の名付け親でもあり、それ以上にかけがえのない存在。

 

イドゥンにとっては、母の長兄であり、自身にとっては伯父でもある。相変わらず左目は包帯で隠されたままだ。だが、そんな事はどうだって良い。エックス以外で家族と呼べる間柄の、最後の1人。シリウス・ブラックが、目の前でアヌビステップと対峙してたのだ。

 

「遅くなって済まないな、イドゥン。ここからは、俺に任せてくれ。」

 

「シリウス。良いタイミングですよ。」

 

*

 

ヘラクリウスの猛攻は突然やんだ。止めたのは、1メートル前後の小柄な老人だ。

 

「初めましてになりますかな?ゼロ・フィールド君。ある程度互角に渡り合っているようですな。」

 

「あなたは確か、フリットウィック教授。呪文学兼レイブンクロー寮監の前任者。」

 

「元教授ですぞ。さあ、共にあのカブト虫に良く似たミュートスレプリロイドと言う存在を倒しましょうか。」

 

「知っているのですか?」

 

「フォルテ君から聞いておりますぞ。」

 

ゼロは、フリットウィックと共にヘラクリウス・アンカトゥスに立ち向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 四面楚歌の古き闇

「グラント!しっかりして!」

 

グラントは、今にも発狂しそうになる。ボクが、ボクがグラントを支えないと。

 

「俺は……俺は……人間じゃなかったのかよぉ…………」

 

思わず悔し涙を流すグラント。それを、うっとりとした表情で見つめるシモンズ。これには、流石のヴォルデモートも驚いている。

 

「今まで疑問に思わなかったの?普通の人間が複数種類の動物に、自由自在になれるわけが無いじゃない。あなたは人間でも何でもない。それどころか、人間という概念すら超越した存在。私が造り上げた最高傑作。究極生命体G。あらゆる生命体の頂点に立つ事を生まれながらに約束された、いわば覇王なのよ。」

 

「……それじゃ、どうしてそういう風に自分の下で育てなかったの!?どうして、ギャング組織のスマイルに育てさせたの!?」

 

ボクが聞いた。シモンズに対しての怒りが込み上がって来た。友達をこんな風にしたから。

 

「私の下でそう育てても、そこのヴォルデモートみたいな下らない失敗ばかりする、まるでダメな大人になるだけじゃない。それに、早い段階で実戦経験を積ませた方が良いし、上下関係の厳しい所で性根も鍛えさせる目的もあって、スマイルの前に置き去りにしたのよ。結果は見ての通り。ヴォルデモートと違って、居場所も、対等な友人も、そして愛情を手に入れた。私や彼が惨めに思える位に完璧よ。」

 

「貴様ぁ!よくもよくもよくもよくも!!!」

 

ヴォルデモートがシモンズに死の呪文を放つ。自分の切り落とされた左腕を勝手に使われた事への怒りの方のが大きいんだろうな。きっと。

 

だけど、死の呪文をシモンズは握り潰してしまった。ヴォルデモートを見る。バカな。ありえないという表情をしている。

 

「何をした?」

 

「不思議かしら?あなたの十八番が通じなかったこの私が…………そんなに不可解に見える?」

 

「さっさと俺様の質問に答えろ!シモンズ!」

 

ヴォルデモートの怒声が響き渡る。死喰い人達はすくみ上っている。ボクも。グラントは、精神的ショックが大きいのか、何も変化はない。でも、シモンズとジュニア、マクルトだけは涼しい顔をしている。それどころか、まるで面白いものでも見てるかの様に、ヴォルデモートに侮蔑の視線を送った。

 

「必ずしも、不老不死の手段を手に入れたのはあなただけではないという事よ。」

 

そんな。この人も不死を獲得してるなんて。何がしたいのか聞かないと!

 

「あなた達の目的は何?ここにボクとグラントをおびき寄せて、グラントをこんな風にして、もう何が何だか!」

 

ヴォルデモートはともかく、シモンズとマクルトには、ボク達に対する殺意は一切なさそうに見える。だけどどうしてこうなったのか、分からない。

 

「そうだな。この復活パーティは、アルカディアとTWPFの意図も絡んでいたというわけだ。生き残った女の子よ。」

 

今度は、今まで無口を貫いて来たマクルトが口を開く。

 

「え?どういう事?」

 

「まず最初に言っておく。アルカディアとTWPFは敵対している。共闘など有り得ん、本来はな。その理由は簡単だ。シモンズがTWPFを裏切ったからな。だが、奴は世界各地にアジトを所有していて、我々やロイヤル・レインボー財団でも見つけるのは至難の業だ。不死鳥の騎士団など、絶対に無理なのだよ。それにだ、近い内に闇の陣営が再組織される事も読んでいた。見つけるのが難しい相手に余計な力を使うなどナンセンスだ。」

 

「だからね。私達は今、休戦且つ共闘関係にあるのよ。ある協定の下にね。」

 

今度は、シモンズが言った。

 

「ある協定?」さっぱり分からなかった。

 

「……!?まさか!!」

 

ヴォルデモートは、ボクとは逆に気付いたようだ。でも、これまでにない程の恐怖の感情で表情が満たされていた。

 

「まずは、目障りな闇の陣営から潰す事にしたんだよ。」

 

マクルトが静かに答えた。

 

「互いに闇の陣営にスパイを送り込んでね。私の場合はジュニアだわ。」

 

「俺の方は……違うな。そいつは、その自覚すらない。自分がスパイ行動をしてるとも気付いてない。」

 

「具体的に何をしたの?」ボクが聞いた。

 

「まずは、シモンズがジュニアをホグワーツに送り込んだ。アラスター・ムーディを襲撃し、なりすましに成功したんだ。これは一見、ヴォルデモート自身の策略と本人は考えていたが、俺達の作戦でもあったんだ。」

 

「!?という事は、今までのムーディ先生は偽物!?」

 

そんな。あのダンブルドアを騙し通していたなんて。

 

「ご名答だ。ポッター。やはりあいつの、ハリー・ポッターの妹だけあるな。ハッフルパフに50点。お前の兄は、魔力の感知で違和感を覚えていたがな。それも、かなり最初期の事だ。早々に、俺が表向き死喰い人だった事も見破った。だが、実際はシモンズ様に完全なる忠誠を誓っている事だけは見破れなかった。今頃、偽物の方もホグワーツで尋問を受けているだろうが、もう遅い。何せ、ここに本体の俺がいるんだから。」

 

ジュニアが楽しそうに言った。

 

「ヴォルデモートの計画は、もう最初から乗っ取られていた。我々の同盟によってな。TWPFは、闇の陣営の完全なる抹殺。アルカディアは、グラント・リドルにこの場で強化改造を施す。ホグワーツの正式な選手が選定されない様に、強力な錯乱の呪文を掛けた。対戦相手は、少ないに越した事は無い。随分と苦労したが、それでもお前達2人の名前を入れる事に成功したのさ。」

 

ジュニアが自慢したげな感じで、周囲にそう説明する。ヴォルデモートは、口をパクパクさせていた。

 

「ええ。ヴォルデモートを一網打尽にする為に、エリナ・ポッター。あなたを使う事にしたのよ。」

 

「ボクを!?」

 

「そうだ。ヴォルデモートがお前の血を使って、元の肉体を取り戻す事は承知済みさ。だが、奴にとってはそれが致命的な落とし穴と化したんだ。」

 

「……」ヴォルデモートにとっては良くない事?

 

「確かにお前の血を取り込んだヴォルデモートは、お前に難無く触ることが出来る様になった。そうだろ?エリナ・ポッターよ。」

 

「実際そうだった。頭が割れそうな激痛に襲われんだもの。」

 

「お前に宿った魔法は、母方の親族がいる時でさえ。闇の陣営が、お前の成人まで一切近づく事すら出来ないわけだ。お前の預けられているダーズリーの家に。」

 

マクルトが抑揚の無い声で言った。

 

「それじゃあね。考えてみると良いわ。あなたの血を直接流す存在がいたとしたら、どうなるかしらねえ?」

 

今度は、シモンズが言った。何となくだけど、分かって来た。ヴォルデモートは、まるで分ってないようだ。

 

「もしかして…………ヴォルデモートの存在自体が、ボクの護りを作っていて…………だから……だから、あいつにボクは、殺せない?それを言いたいの?」

 

シモンズが微笑んだ。ヴォルデモートは、自分のやらかした事にさっそう後悔しているようだ。近くの死喰い人達も、まるで悪夢でも見ているかのような絶望の表情になっている。

 

「そう。地を這いずるヘビが、空高く飛びたいと願った所で、所詮無理な話。それでもどうにかしたいと、巣の中の雛をいやらしく付け狙っていたお前達闇の陣営が、逆に狙われていたのさ。」

 

マクルトが、ヴォルデモートと死喰い人達に、冷たくそう言い放った。

 

「神を恐れないアルカディアと、滅びの力を司るTWPFによってね。」

 

シモンズが続けて言った。

 

「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「イヤだあああああ!」

 

「死にたくないよおおおおおおおおおおおお!」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!!」

 

その言葉を聞いた死喰い人達は、慌ててこの場から逃げようとした。その場でくるりとローブを翻し、姿をくらまそうとした。

 

だけど、それは出来なかった。虚しくその場で回転するだけで終わってしまった。

 

「な!?どうして!?」

 

「姿くらましが出来ない!」

 

その光景を見て、マクルトが口を動かす。

 

「言った筈だ。次に会った時には、お前達を1人残らずあの世に送ってやると。お前達のご主人様が、まるで舞台の役者の様な振る舞いをしていた間に、姿くらまし防止呪文を、このリトル・ハングルトン全域に掛けておいた。お前達を逃がさない為にな。」

 

「尤も、主役は我々3人。観客はエリナ・ポッターとグラント・リドル。このまま退治されるのは闇の陣営だがな。」

 

「ボクも、グラントも、その後に殺すつもりなの?」

 

「いいや。エリナ・ポッター。お前は、ヴォルデモート破滅の一端を担ってくれた。どういう形であれな。」

 

「だからね。私達の力を見せつける意味でも、ダンブルドアやロイヤル・レインボー財団に刻み込んでやりたいのよ。だからね。あなた達を、今この場では助けるわ。」

 

シモンズは、グラントの首筋に何か緑色の液体を注入した。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

今にも死にそうな声を上げるグラント。

 

「あなた!グラントに何をしたの!?」

 

「段階ごとに、改造をしていくプランを立てていてね。変化能力をパワーアップさせたのよ。」

 

「パワーアップ!?」何を言ってるの。この人。

 

「これからは、この星の絶滅種にも変化出来る様にしたのよ。それじゃ、観客は席に行って貰うとしようじゃないの。」

 

シモンズが杖を振るった。

 

「何これ?……バリアー!?しかも見えない!」

 

ボクとグラントと優勝杯は、見えないバリアーに隔離された。ヴォルデモートは、死の呪文をボクに放った。だけど、バリアーに触れた瞬間に緑の閃光が掻き消されてしまった。

 

「これから私達の恐ろしさを見せつけてやろうじゃないの。指を咥えて見ていなさい。」

 

「バカな奴らだ。シモンズ様と、その気になれば全世界を破壊出来る圧倒的力を持ったTWPFに目を付けられるとは。お前ら死んだな。」

 

ジュニアが、死喰い人達とヴォルデモートにそう言い放った。殆どの死喰い人は、青ざめてしまった。

 

「目的は、あくまで闇の陣営。妥協はしない。例外も無い。さあ。宴の始まりだ。」

 

*

 

リーマス・ルーピン。彼は、倒れているエックスを介抱していた。

 

「重傷だけど、命に別状は無いようだね。」

 

応急処置を施し、エックスを担架に乗せるリーマス。

 

「エックス。今、マダム・ポンフリーの元へ連れて行くよ。」

 

*

 

アドレー・ローガーは、セドリック・ディゴリーを発見した。

 

「酷い怪我だ。あと少し遅ければ……」

 

死んでいただろう。間に合って良かった。本当に。

 

「セドリック・ディゴリー。負けるな……生きろ!」

 

医務室へセドリックを運んでいくアドレー。

 

*

 

「アルバス!急ぎましょう!」

 

「分かっておるよ。ミネルバ。」

 

「我々がムーディの救出及び、クラウチ・ジュニアの尋問をしていた時にここまで事態が悪化していたとは。ゼロ。セドリック。イドゥン。エックス。そしてハリー。頼む!間に合ってくれ!!」

 

「校長。我輩、あなたにはドラコの事で幾つか言いたい事がありますぞ。ですが、今はウィーズリーの方が先ですからな。」

 

「……」ダンブルドアは、何も言えなかった。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア。ハリー達は早期に死喰い人だと見破った様ですが、まさか。14年前の時点では本当に無実で、リチャード・シモンズが本当の主だったとは。奴の命令で、闇の陣営に加わっていたのか。ハリー達も欺かれていたわけですね。」

 

「その様じゃの。フォルテ。わしですら、ドラコに教えられるまで気付かんかった。」

 

「例のあの人の計画は……闇の陣営を追い込む為に利用されていたなんて。」

 

マクゴナガルは、アルカディアと終わりを生み出す者の恐ろしさに、恐怖心を隠せなかった。

 

「奴の言った事……本当なのでしょうか?エリナの血を入れた時、エリナはヴォルデモートが生きる限り、死ぬ事は決して無いって言葉。」

 

「断言は出来ん。じゃが、あの者が嘘を言ってる様にも見えんかった。」

 

「その割に、勝ち誇ったような表情をしていましたけどね。ダンブルドア校長。」

 

フォルテが、皮肉交じりにダンブルドアに対して言った。

 

第三の課題の開始の宣言を終わらせた後、ダンブルドアは即座に寮監4人を引き連れてムーディもといジュニアを捕らえた。ついでに、本物のムーディを救出した。スプラウトが付き添いで医務室まで同行したのだ。

 

そこからジュニアが語った真実。表向きはヴォルデモート復活の準備であるが、実際には闇の陣営を一網打尽にする為の計画だったのだ。まずはエリナをおびき寄せ、血を入れる事でヴォルデモートの敗北を確定させる事が目的だったのだ。

 

ついでにアルカディアは、グラントも代表選手にする様に仕向けた。その時に、彼の出自が語られたのだ。これを聞いて、流石に聞いていた全員は絶句したのだ。

 

そして今、死喰い人達100人はPWPEとアルカディアによって悪夢の晩餐を堪能しているだろうと言って、ジュニアは高笑いした。その直後、彼の身体は灰化した。本体は別の所にあると。そして、また会おうと捨て台詞を言い残して。

 

「我々だけでなく、死の飛翔すら欺かれていたとは。バーテミウス・クラウチ・ジュニア。油断の出来ない男だ。」

 

フォルテが舌打ちをしながら言った。それについては、3人も同意した。

 

「今更、今の状況を嘆いても遅いけどな。」声がした。

 

「だ、誰じゃ!」ダンブルドアが叫んだ。

 

ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、フォルテの前に人が現れた。3人も、である。

 

「いきなり人が現れた!?」マクゴナガルは、大変驚いている。

 

「赤い目の男。コイツ、ポッターと同じ……」スネイプは苦い顔をしている。

 

「ゲブラーに、ティファレト!!」フォルテが、敵意剥き出しで2人の名を呟いた。

 

「久しぶりですね。フォルテ・フィールドさん。あなたが闇払いの時でしたか。初めて出会ったのは。そして2回目は、ローマの古代遺跡での戦いの時ですねえ。」

 

ティファレトが、狂気の笑みを浮かべている。

 

「ダンブルドア。成る程な。フォルテ・フィールドを教員にした理由がちょっとばかり分かったぜ。あいつの持つ、もう1つの杖の力と、闇の陣営を確実に倒せる人材目当てで雇ったんだな。奴は自然物化能力のみならず、ケテルと同じ宇宙モード、俺達と同じ覚醒の力まで持ってやがるからな。簡単に言っちまえば、危険な爆弾は相手に渡すよりも自分で管理していた方が良いと考えているそうじゃねえか。食えない狸ジジイだぜ、お前は。教師よりは寧ろ、政治家の方がお似合いなんじゃないか。ええ?」

 

ゲブラーは、ダンブルドアに侮蔑の視線を込めてそう言い放った。

 

「僕は、ダアトって言うですよ♪」仮面の男が自己紹介する。

 

「お主ら、PWPEの者かの?」

 

ダンブルドアは静かに聞く。だが、その瞳はメラメラと燃えている様だ。

 

「だったらどうするんだ?」ゲブラーが言った。

 

「お主達を拘束する!!」4人は杖を構えた。

 

「この人達!僕たちに勝つつもりらしいっすよ!ゲブラーさん!ティファレトさん!!」

 

「愚かな奴らだ。」

 

「ささとケリを付けましょう。」

 

3人も、戦闘態勢に入った。

 

*

 

「オラオラ!どうしたサル野郎!」

 

キットが杖を振るう。1つの呪文を詠唱する度に、それは無数の閃光と化す。ハヌマシーンが、素早い身のこなしで避けようとするが、いかんせん数が多過ぎる。どうしても幾つかは当たってしまうのだ。

 

『この男、もしや……』ハヌマシーンは焦った。

 

完全粉砕せよ(ボンバーダ・マキシマ)!!」

 

キットは、ハヌマシーンの頭部以外の身体を粉砕した。頭部だけとなったハヌマシーン。

 

「お、お見事……まさか、PWPEに対抗出来る存在がいたとは。」

 

「褒めたって何も出て来やしねえ。機械は機械らしく、人間に従ってろ。」

 

キットは、ハヌマシーンを機能停止させた。

 

「す、凄い……」キットの戦いを見て、思わずそう呟いたマリア。

 

「城へ戻るぞ。その怪我で先に進んだら、今度は本当に死ぬぜ?」

 

「分かっているわ。行きましょうか。」

 

城へ戻るキットとマリア。

 

『ごめんなさい。私、どこまでも役立たずで。』

 

心の中で謝罪するマリア。無念の表情を胸の内に秘めながら、自分の命の安全を選択したのだった。

 

*

 

「蘇るが良い。」

 

アヌビステップがパンテオンの残骸を再構成させ、ゾンビとして4体復活させた。

 

「やれやれ。この数じゃ、今の状態だと無理があるかもな。」

 

そう言ってシリウスは、左目を隠している包帯を解いた。そこには、ちゃんと眼があった。だが、ルビーレッドの目をしている。

 

『もしかして、ハリーと同じウイルスモードなのですか?ですが、何故片目だけに?』

 

イドゥンが考察をしている間に、シリウスはイドゥンとはまた違う肉体強化呪文を発動する。真紅の光を纏っていたのだ。そうして、両手に1本ずつナイフを持った。

 

「2つで1セットのマジックダガー。ロイヤル・レインボー財団が俺用に新しく用意してくれたこの武器で、さっさとやってしまおうか。」

 

「その程度の装備で、我をやれぬぞ。黒き王の末裔よ。パンテオン・ゾンビ。その2人を始末するのだ。」

 

「くたばり損ないめが!!そこをどけぇ!」

 

ネクロマンセスが蘇らせたパンテオン・ゾンビを手持ちのナイフで圧倒するシリウス。

 

「チッ!埒が明かないな!こうなったら……」

 

ナイフに魔力を纏わせ、切れ味と破壊力を飛躍的に上昇させる。パンテオン・ゾンビの1体を踏み台にして、ネクロマンセスに直接近付いた。

 

「なっ!?」アヌビステップが驚愕の表情をした。

 

「食らいやがれ!!」

 

「ぐああっ!?」

 

魔力で増幅した斬撃で、アヌビステップ・ネクロマンセス3世を一刀両断した。

 

「黒き王の末裔達よ。PWPEが創り出す世界に、お前達の居場所は無い。もがき苦しむお前達の姿……地の底より見ておるぞ……フ……フフフフッ……!!」

 

不気味な笑みを浮かべながら、爆散するアヌビステップ・ネクロマンセス3世。

 

「助かりましたわ。シリウス。でも、どうしてここが分かったのですか?」

 

「アドレーの魔力感知で、ハリーを含む5人の魔力が禁じられた森に入るのを知ったからさ。マリア・テイラーって娘が、援護をしにここに来てるのも分かったんだけど。」

 

「そうでしたか。」

 

「動けるかい?イドゥン。」

 

「とてもではありませんが、1人では無理そうですわ。」

 

「分かった。俺が付き添いをしよう。」

 

こうして、イドゥンも城へ戻る事となった。

 

*

 

「ビートプラズマ!!!」

 

ヘラクリウスの角から、小さい弾が5発発射された。ゼロはフリットウィックを掴み、風となって攻撃を回避した。

 

「食らいやがれ!エネルギーよ(ヴェスティブルーム)!」

 

逆にカウンター攻撃を食らわせるゼロ。

 

「ヌおおっ!オールレンジアタック!!」

 

ありとあらゆる場所へ、エネルギー弾がヘラクリウスから発射された。

 

反射の盾よ(プロテゴ・リフラート)!!」

 

約2年前、ハリーが決闘クラブで使っていた呪文を使う。ヘラクリウスの周りに、盾の呪文が形成された。だがそれは、内側からエネルギー弾を跳ね返し、ヘラクリウスを攻撃してしまう自業自得の術なのだ。

 

「グッ!こんな事が!」

 

「とどめだ!五星の霊獣(クインキュー・サルムビスト)!!」

 

ゼロ自身、まだ不完全ではあるが火、水、土の自然物化能力を会得している。そして、闇の陣営がフィールド家の人間の遺体を奪って解析した結果、生み出された飛行術の闇の自然物化をも獲得した。

 

ハリーとやっている事は同じだろうが、ゼロなりに自身の杖だけで出来る術の幅を作りたかったのだ。星を模した5つの顔を持つ生物を象った強大なエネルギー攻撃を放つ。1つの顔ごとにはそれぞれ、火、水、風、土、闇の属性を司ってる。これをヘラクリウス・アンカトゥスにぶつけた。

 

「あの人間!まだあんな隠し玉を!」ヘラクリウスの最期の言葉だった。

 

「おや。私の出番はそんなにありませんでしたか。」

 

「すみません。何かこう、出番取っちゃって。」

 

「いえいえ。私は嬉しいですぞ。君は、フォルテ君にはない強みを持って敵に対処した。もう、1人前だと言える位の。」

 

「そんな事はありません!俺はまだまだ、弱いですよ!」

 

「……焦る事はありませんぞ。アルバートも、フォルテも、最初から強かったわけでは無いですからなあ。時には負けたこともあった。でも、人が真に成長する時なのは、敗北を経験した時です。前の戦いで事実上負けてしまいましたが、それを恥じる事はありません。」

 

「分かりました。それを肝に銘じておきます。それでは俺、先に進んでロンを……」

 

ゼロは、突然倒れてしまった。

 

「どうやら、ここまでのようですね。私が、医務室まで連れて行きましょう。」

 

「申し訳ございません。フリットウィック教授。何から何まで。」

 

「こういう時は、大人を頼るものですよ。それに……」

 

「?」

 

「ポッター君ならば、時間が掛かったとしても必ずやウィーズリー君を連れ戻せると私は信じておりますからね。」

 

*

 

俺は走る。森は、とっくのとうに抜けた。このまま進めば、学校の外に出るわけだ。

 

見つけた。校門に顔を向けている。どうしてだ。何でこうなっちまうんだよ。必死で叫びたくなった。そいつの姿を見るや否や、俺はそいつの名前を叫んだ。

 

「待てー!!!ローン!!!」

 

沈黙が走る。俺は休み無しで走って来た為、息切れを起こす。ロンは、こちらを振り向いた。

 

「ハリー。僕は、この機会を逃さない。これで、他人とは違う自分を手に入れるのさ!!」

 

ロンの魔力が根本的に違っていた。魔力感知で、そう感じ取った。何だこの魔力は。だが今は、友を止めると決めているんだ。絶対に連れ戻すと誓ったんだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 悪夢の晩餐

シモンズとマクルトが杖を構え……なかった。

 

「ヴォルデモート!そして死喰い人共よ!貴様らをどれだけ本物の地獄に送ろうと願った事か!お前達に大切なものを奪われた俺の悲しみ!それに痛み!貴様らには分かるまい。俺の怒り、貴様らの罪!今、この場で刻み込んでやろう!!」

 

マクルトの怒声が響き渡った。死喰い人達は恐怖の余り、失神している者まで現れる始末だ。あのヴォルデモートでさえ、本能的な恐怖を感じており、杖を持っている右腕が笑っている。そこから発せられた魔力は、ボクにも伝わってきた。感知が得意じゃないにも関わらずである。

 

『この魔力!質はハリーで、量はイドゥンじゃないの!い、今は敵じゃなくて良かった。だ、だけどこれから敵になると思うと…………』

 

それよりも、グラントが高熱を出している。何とかしたいけど、医療の知識なんて持ち合わせていないよ。こういうのは、ゼロが詳しいのに。

 

「ボクは……役立たずだよ。友達が苦しんでるのに、助けられない。どうやって励ませばいいのか分からない。どうすれば……」

 

自分の無力さに、思わず涙が溢れてきた。

 

「フフフ……理由は分からないけど、よっぽどあなた達、マクルトに恨まれてる様ね。ここまで感情的になった彼は久しぶりに見たわ。あなた達、怒らせてはいけない人物を怒らせたようね。」

 

シモンズがそう言っている。

 

「たかが2人だ!さっさと殺して、ポッターも捕まえるぞ!」

 

死喰い人の1人が吼える。

 

「バカ!あの2人が只者じゃないって事、お前には分からないのか!下手をすればこっちが全滅だ!」

 

別の死喰い人が怒鳴りつける。

 

「痛みを知れ……」

 

マクルトが静かに言った。すると、マクルトの前に更に5人が現れた。

 

「え?何これ?」

 

全員シルバーの髪をしている。目は、マクルトと同じ虹色だ。彼と同じ、鼻の所に黒いブツブツもある。でも、その容姿は全く違う。多種多様だ。

 

人間離れした巨体の持ち主であるアフリカ系の男。下半身が戦車の様になっていて、上半身も多数の兵器を搭載しているケロイド状の男。中東でよく見かけるような服装をしている男。顔以外を全身鎧にして纏っている美少年、ダークグリーンのカンフーの服を着用した若い男が現れたのだ。

 

「「「「「「我らが、『マクルト』なのだ。」」」」」」

 

5人が飛び出し、その場にいた死喰い人達を殺害した。首をもぎ取ったり、心臓を抜き取ったり、何でもアリな方法で。まるで、下手なB級映画を見てるみたいだ。

 

死喰い人の放った死の呪文が、中東男に命中し、そのまま動かなくなった。だけど、他のメンバーは無表情だ。

 

「な、何なんだ?」

 

「まるで、恐怖すら感じていないぞ。こいつら。」

 

その言葉を死喰い人言い終えたと同時に、中東男が再び立ち上がった。

 

「あ、有り得ない!死の呪文をまともに食らって、また立ち上がって来るなんて!」

 

「我が君!助けてください!」

 

「ば、化け物だあああああああああああああああああ!!!」

 

必死に逃げまとおう死喰い人。マクルトの呼び寄せた5人は、どんどん死喰い人達を殺戮していく。魔法で応戦する者もいるにはいたが、その5人には全く通じない。倒しても、しばらくしてまた蘇ってしまうのだ。

 

「ここまで本気を出すなんてね。本当に闇の陣営が憎くて憎くて仕方ないようね。私もやろうかしら。つい最近完成させた魔法を。」

 

シモンズが杖を手に持ち、その魔法を唱えようとする。

 

死魂よ、下界へと舞い戻れ(アニマース・リベーティフェリア)!」

 

その言葉と同時に、シモンズの後ろから沢山の棺が出現した。まるで、古代エジプトのピラミッドや王家の谷で発掘された棺みたいな感じの。そこから中身が出て来た。

 

その中身とは、人間だった。でも、まるで生気が無い。

 

生き残っていた死喰い人達とヴォルデモートは、それを見て戦慄したのだった。

 

「あ、悪夢でも見てるのか?」死喰い人の1人が震えながらそう言った。

 

「こいつら、我々が昔殺した魔法使い達ではないか!!」

 

え?今なんて言ったの?死んだ魔法使い?

 

「それだけじゃない!ロジエール!ウィルクス!任務で死んだ筈の同胞までいるぞ!」

 

「…………」

 

ヴォルデモートは恐怖している。さっきのボクとの戦いで出現したパパ達の幽霊みたいなものでさえ、酷く怯えていたんだ。まして、この世に蘇った死者であれば、余計その恐怖心は増幅するんだろうね。

 

リチャード・シモンズ。ある意味、ヴォルデモート以上に危険な存在だよ。死者をこの世に呼び寄せて、手駒にするなんて。冒涜してるじゃないか。命を、魂をなんとも思ってないんだ。この人は。吐き気がする。

 

「さあ。無念の死を遂げた不死鳥の騎士団のメンバーに数多の魔法使い達。あなた達に、あいつらへの復讐の機会を与えてあげる。そして、ロジエールにウィルクス。昔の仲間同士、思う存分に殺し合ってきなさい。」

 

シモンズがそう言い放つ。死者の軍団は、たちまち死喰い人に襲い掛かってきた。迫りくる死者を目の前に、死喰い人達は戦意喪失。とにかく生き延びる事を最優先にし始めたのだ。

 

「ロジエール!待ってくれ!仲間だったじゃないか!」

 

必死になって説得をする死喰い人がいる。

 

「違う!俺の意思とは勝手に動き出すんだ!とにかく生き延びてくれ!」

 

でも、ロジエールから緑の閃光が発射されて説得していた死喰い人が絶命してしまった。ロジエールは、いやだいやだと泣き喚きながら、生きている死喰い人に襲い掛かっている。

 

「ルシウス・マルフォイ!!」

 

「どれだけこの時を待ちわびた事か!」

 

「不死鳥の騎士団は、お前を決して許さない!!」

 

「ヒイイイイッ!?そ、そんな!トラバースやドロホフに殺された筈なのに!」

 

ルシウス・マルフォイは、もう精神崩壊寸前まで来ている状態だった。そして、最悪過ぎる事態の連続に失禁もしている。

 

「こいつらも、死の呪文が効かないぞ!」

 

「奴らの進撃が止まりません!我が君!」

 

「ヒィィ………も、もう………止めてくれ!!」

 

「許してくれ!助けてくれええええええ!!!」

 

泣き叫ぶ者も現れた。

 

それは、まさに惨劇そのものだった。今まで死喰い人として、多くの人間を恐怖に貶め、無慈悲に殺して来たであろう魔法使い達が成す術もなく、一方的に殺されているんだ。何度でも蘇ってくるマクルトの仲間と、決して死なない死者の軍団によって。

 

マクルトとヴォルデモートの対決も行われている。だけど、終始マクルトが優勢だった。それでいて、決して油断していない。マクルトは、杖の無い状態で魔法を行使している。ヴォルデモートは跪いている。

 

「闇の帝王も大した事が無いのだな。」

 

「黙れ!俺様は、死を克服したヴォルデモート卿だぞ!この世の全てを支配する、最強で偉大な魔法使いだ!!!」

 

その言葉を聞いて、マクルトが大爆笑した。

 

「お前が最強で偉大な魔法使い?面白いジョークじゃないか…………おい!貴様の減らず口を聞いていると、本当に笑えるぜ。」

 

もう我慢の限界まで激昂しているヴォルデモート。

 

「貴様あああああ!言わせておけばああああああああああああああ!!!」

 

死の呪文を乱射するヴォルデモート。しかし、マクルトが右手を前に出すと、幾つもの緑の閃光が別方向に向かって行き、周囲の墓石や死喰い人、マクルトの仲間、不死のゾンビ軍団に直撃した。墓石は大破し、命中してしまった死喰い人は絶命。マクルトの仲間、不死のゾンビ軍団に関しては倒れてしまったが、すぐに活動を再開した。

 

マクルトがヴォルデモートを右手で吹き飛ばし、墓石を何個も衝突させて、そのぶつかった墓石も大破させて重症を負わせた。全身が血だらけとなり、前のめりに倒れ込むヴォルデモート。そのヴォルデモートの頭を、右足で力いっぱい踏みつけて逃げられなくしたマクルト。

 

「お、の、れえ………!お前達の様な者もいると分かれば、今回の俺様の復活の儀式は行わなかったのに!!!」

 

悔しそうな表情を浮かべるヴォルデモート。

 

「今更後悔しても遅い。それに、だからこそだ。こうやって今まで、水面下で活動していたのだ。時には、禁じられた廊下のトロールをバラバラに殺したり、ロイヤル・レインボー財団がお前の戦利品を獲得出来る様に誘導したりな。」

 

そうだったのか。あのトロールの死体、TWPFに差し金なのか。あの謎がようやく解けたよ。

 

「今頃、メンバーの1人がレストレンジの金庫にあった品を、ハリー・ポッターに手渡している所だ。もう、俺の後継者たるハリーはどうするべきで、どう行動すべきか分かっている筈だからな。非生物分霊箱は、間違いなく全滅しているぞ。」

 

「何だと!?」

 

ヴォルデモートは、このボクでも分かり易い様に動揺していた。そして、ルシウス・マルフォイを睨み付けた。

 

「もう1つ!力を隠して、お前達に従うふりをするって手も考えたわけだが……」

 

言葉を繋げようとするマクルト。だけど、その表情はかつてない程の怒りの感情を表面に出していた。タダならぬ気配を感じ、言葉を出す事すら許されないヴォルデモート。

 

「貴様等みたいなこの世のクズ共に従うって言うのは!たとえ演技でも我々TWPFの誇りが許されないのだ!!!ましてや、俺から大切な者を理不尽に奪った貴様ら如きに!!!苦しめ(クルーシオ)!!!」

 

ヴォルデモートの悲鳴がこの墓地全体に響き渡る。ヴォルデモートはジタバタしている。

 

「永久に、この無間地獄を味合わせてやりたい。そう言った思いで使ってこそ、この磔の呪文は最大の力を発揮するのだ。敵を本気で苦しめたいと言う加虐心が必要になるのだ。エリナ・ポッター、聞こえているな。磔の呪文を使いたい時は、俺の今の言葉をよーく思い出すと良い。」

 

磔の呪文から解放されるヴォルデモート。もう、立つ事すらままならなくなっていた。

 

「ジュニア。行くわよ。もう彼らに戦意なんて無いわ。」

 

シモンズがジュニアに言った。2人で仲良く、夜のティータイムを堪能している。

 

「良いんですか?」

 

「最初は100人いたのに、今はもう20人にも満たないからねえ。」

 

ゾンビ軍団は、もう棺の中に納まっている。そして、地中へと沈んでいった。

 

「これだけ減らしておけば十分だろ。」

 

マクルトが杖を振り上げる。

 

「姿くらまし防止呪文を解除したぞ。皆殺しにしようかと思ったが、惨めに生きて、生きて生きて生き延びて、我々の力に永久に怯え続けるが良い。そして、近い未来に起こる究極の地獄にも。これからは、お前達に安息の日など来ないと思え。あの世に行く以外はな。」

 

マクルトの言葉を聞き、一目散に姿くらましする死喰い人達。マクルトは、ヴォルデモートを見つめる。まだやる気か、そんな視線を送っていた。

 

ヴォルデモートは息絶え絶えになりながらも、舌打ちをして姿くらましした。ヘビを引き連れて。流石にこれだけの力の差を見せつけられて、勝機は全く無いと感じたんだろうね。そして、殺したかった筈のボクはもう2度と死ななくなったのだから尚更だね。

 

あの予言が、不思議と脳内で再生された。『時を同じくして、神をも恐れぬ者と滅びを司る者も動き出す。神をも恐れぬ者は、この世の摂理を冒涜し、滅びを司る者は、圧倒的な力を振るって災いを齎す。気を付けよ、闇の帝王と決して相容れる事はないが、その者達も汝の敵なり。』

 

闇の陣営以上の脅威が動き出したなんて。今はまだ、それを闇の陣営だけに向けている。だけど、いずれは敵対する事になるんだ。そう思うと身の毛がよだつ。

 

闇の陣営が去って残ったのは、殺された死喰い人達の惨殺死体だ。それを、ジュニアがカプセルみたいなもので収納している。

 

「それではエリナ・ポッター。さらばだ。兄に宜しく伝えておけ。」

 

マクルトは、姿くらましをした。どうしてハリーを強く意識しているんだろうか?あのゲブラーって人も、ハリーを後継者と呼んでいたし。

 

「シモンズ様。たった今、死喰い人達の遺体を全て回収しました。」

 

「良い仕事をするわね、ジュニア。私達も行きましょう。グラント。もっと強くなりなさい。私の最高傑作。」

 

シモンズとジュニアも姿くらましをした。それと同時に、ボク達を覆っていたバリアーも解除された。

 

全てが終わった。残っていたのは、ボクとグラント。優勝杯。そして、見るも無残な姿となった墓地と、特大サイズの石鍋だけだった。

 

*

 

俺とロンは、互いに対峙している。

 

「最後までしつこいんだよ。他人の癖に。」ロンが毒を吐いた。

 

「……」

 

「ハーマイオニーにも言ったけど、もう僕に構うなよ。僕の人生だ。僕が決めるんだ。」

 

「……何で、何でそんな風になっちまったんだよ!!」

 

「いつも……いつもいつもいつもいつも!!!君は僕の先を行っている!僕がどんなに努力をしたとしても!!僕の気持ちなんて分かる筈が無いんだ!!僕と違って何でも出来て!!僕と違って天才で!!ロイヤル・レインボー財団の御曹司で!!ポッター家の当主は確定!!将来と全てを約束されている切札様は言う事が違うなぁ!!!」

 

お前までそうなのか。思わず肩が震える。

 

「お前までそんな事を言うのか……」

 

「だったらどうした?本当の事じゃないか。」

 

「俺は……俺は、決してそうじゃなかった。生き残った女の子の兄、実は生き残っていた男の子、グリフィンドールの切札、ここまで培ってきた努力…………そんな物の代わりに、理不尽に父様と母様を殺され、その上エリナと生き別れる事になったんだ!どんなに保護してくれた人達が愛情を注いてくれようが、本当の家族と一緒にいたかった!エリナと暮らしていたかった!父様と母様には生きて欲しかった!!富や名声、力なんてどうでも良かったんだ!俺にとっては!!!お前には分かる筈が無い!孤独と言う痛みとは無縁で!!いつも暖かい愛情を注いでくれる家族が待っているじゃねえかよ!」

 

「あんな奴ら、僕にとっては足枷に過ぎない。ここもね。でも、ありのままの僕を認めてくれて、その上力までくれたPWPEには感謝しかないけどね。」

 

ロンが笑う。それも、狂気と残虐に満ちた笑いを。

 

「皆、命がけでお前を追って来たんだぞ!イドゥンも!!」

 

「おめでたい奴らだね。ご苦労な事だよ。だけど、強力な足止め要員を配置したのにも関わらず、君は来たんだ!いつもそうだ!僕の気持ちなんて分かろうともしないで!僕のやる事なす事全否定してくるッ!1年生の時からそうだ!」

 

俺を指差すロン。俺は、何も言い返せなかった。

 

「だけど……今の僕は今までの僕じゃない!!今こそッ!ハリー!君の五体をズタズタに引き裂いて殺して!!!君の引き立て役で、おまけ扱いで、添え物扱いだった過去に決別をしてやるッ!!!」

 

そう言い終わったと同時に、ロンは両腕を交差させる。ロンの身体が浮いた。一気に腕を広げる。すると、凄まじいエネルギーが放出され、ロンの身体全体を覆った。しばらくそれを見守ると、エネルギーは収束。白を基調とした天使を思わせる強化アーマーらしきものを装着していた。そして、黒と紫の混じった禍々しいオーラを放っている。

 

「今の僕は全知全能の存在。僕の様な、選ばれた人間に相応しいアルテミットアーマーの力と、嫉妬の感情を極限まで高めて手に入れた覚醒した魔法使いの力で君を殺してやる!!!」

 

『何て莫大な魔力だ!これが、覚醒って奴なのか?これじゃ、ゲブラーとかキットと同じじゃないか!!』

 

「あの世で僕に詫び続けろハリーーーーーッ!!!!!」

 

『来る!!ウイルスモードで行かないとヤバい!!』ウイルスモードを発動した。

 

「ノヴァストライク!!」空中体当たりを仕掛けて来た。

 

麻痺せよ(ストゥーピファイ)!!」

 

咄嗟に失神呪文で応戦する。だが、いとも簡単に呪文を破って来た。神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)を使うべきか。イヤ、まだそのタイミングじゃないな。他の魔法で、応戦するしかない。

 

「今までの僕じゃないぞ!!!」ロンの攻撃が俺に当たった。

 

「グハッ!」意識が飛びそうになったぞ。本当に……お前は……

 

「…………」

 

ウイルスモードが無かったら、即死だった。口から血が出ている。それでも、立ち上がる俺。その直後に、ロンは俺の胸倉を掴み、持ち上げた。

 

「ウッ……グゥ……アァァッ!!?」

 

「フフフフフ。」ロンが手を離す。

 

「死ね。」

 

俺の腹に拳を振るってきた。吹っ飛ばされた。500メートル先まで。

 

『……殴られた辺りの骨。ヒビが入ってるかも。』

 

腹部を押さえつけながらも、何とか立ち上がる。ウイルスの力による回復能力なら、すぐに直せる。一方のロンは、今の自分の力に対して優越感に入り浸っていた。

 

「凄い……この力。あのハリーを一方的に痛めつける事が出来るなんて。それどころか…………力がどんどん湧いて来る!!」

 

まるで、新しいおもちゃに満足しているガキだな。ミラクルガンナーのチャージを開始する。

 

「素直にあいつらが、お前に力をくれるなんて思ってるのか!?」

 

フルチャージショットを発射した。

 

「うるさい!!」

 

腕の部分を銃砲に変化させるロン。あのアーマーの力なのか?俺のフルチャージショットと同等のバスターを発射した。相殺した。

 

ミラクルガンナーをしまい、凶嵐に持ち変える。ロンに近付き、斬撃を与える。

 

「龍炎刃!」碧炎を纏わせた刀を空中へ切り上げる様にして技を放つ。

 

「クッ!しつこい!」炎は掻き消されているが、初めてダメージを与えられたみたいだな。

 

「全部の骨を砕いてでも……お前を行かせるかよ!目を覚まさせてやる!!」

 

「目なんてもう、とっくに覚ましたさ。」

 

「何だと!?」

 

「この腐り切った魔法界で、いつまでも惨めに生きるという幻想から。それを良しとしてきたバカな僕からね。」

 

この国の魔法界が腐敗してるのは本当だ。だから俺は、卒業したらさっさとオサラバして、日本に移住しようと思ってたんだ。でも、こんな形で見限ろうと思った事は全く無いんだ。

 

「だからこの世界を捨てる。力を手に入れる。何者でもない、僕と言う特別な存在を、刻み込んでやるのさ!」

 

そうだったのか。いつの間にか遠ざかっている。そうだと思ってた。実際は違ったんだ。俺達が、勝手にロンを無視して突き進んでいた。だから今の状況になっている。俺も、今回の事の原因を作ってたのか。これじゃあ、まるで…………

 

「それでも……ハー子と約束したんだ。お前を連れ戻すって……一生のお願いだって。」

 

「下らない。それこそが!繋がりこそが、人を弱くするだけだって。何故分からない!?繋がりを断ち切った僕は、究極の力を手に入れた!!そして君を圧倒している!!ハリー。君は復讐を口にする割に甘過ぎるんだよ!!!」

 

「黙れ……」

 

「そんなんじゃ守りたい者も守れない。勝ちたい者にも勝てずに犬死にさ!!友情とか絆とか繋がりとか、脆くて崩れやすいのは分かり切ってるのに……もう、友情ごっこは終わりさ。」

 

「だったらハー子はどうなんだよ!?俺よりもずっと前にお前の異変を察知して、それでも何とかお前を救おうとしたアイツの思いまで踏みにじる気か!?」

 

ハー子が心配していたんだ。俺以上に。だからこそ、怒鳴る様に問いただした。

 

「言った筈だ。惨めなまま、友と言う枷に縛られて生きていくと言う夢からはとっくに覚めたって。今までのは、全て幻だったのさ。」

 

俺は、思わず愕然した。そんな……。幻だと?偽りだと?やめてくれ……もうたくさんだ……見たくない……聞きたくない……誰か、これは夢だって言ってくれ!!!

 

「11月の最初の日。決闘をしたじゃないか。あの時は邪魔が入ったけど、今度は誰もいない。2人だけ。あの時の続きを……始めようじゃないか!!!重力弾(グラビボム)!」

 

重力を凝縮した紫の球を杖から生成するロン。俺に向ける。

 

天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!」

 

黄金の雷を発射した。それは、重力弾の大部分を消失させるだけだった。まだ、その力は残っている。

 

「チィッ!」重力弾を避ける。

 

「遅いよ。」後ろにロンがいた。振り向いた時には遅かった。首元を掴まれたのだから。

 

「これで……最後だ。」

 

ロン。お前、本気で俺を殺す気なのか。友達だって思ってたのは、俺だけだったのか。悲しくなってきた。今まで信じていた絆を全否定されて、悲しくなってきたんだ。それは、これから殺されるという絶望よりも強かったんだ。

 

「今更遅いのさ!!ハリー!!」

 

だったら、この俺がダサいだけじゃないか!ロナルド!!でも、しょうがないだろう!お前は俺を妬んでいたけど、俺だって本当はお前が羨ましかったんだ!いつでも兄弟がいて、そのうえ家に帰れば愛情を注いでくれる両親だっている!だから……だから……尚更PWPEに行かせるわけにはいかねえんだよ!家族と無理矢理引き裂かれるこの悲しみを!お前やウィーズリー家の人達にも味合わせたくないから!!!

 

*

 

「気づいた?」

 

俺とそっくりの声がした。もしかして……

 

「ダブル……なのか?」声の主に問いかける。

 

「うん。3年ぶりになるかな?」ダブルは、笑顔を見せている。

 

「俺は、死んだのか?」

 

「挨拶を僕はしたのにさ。いきなり質問かい?まあ、君らしいと言えばそうなる訳だけどね。」

 

ダブルが苦笑している。

 

「まだだ。終わってない。君が物思いに耽っている間に、僕が少しだけ身体を借りたよ。いやあ。あれは君の中にいて、自分の中でも結構なファインプレーだったね。ギリギリ左手で防いだよ。体は思いっ切り貫かれたけど、僕の力でそれについては問題無いさ。安心して。」

 

「……」

 

「それにね。どうやら君の中の『悲しみ』が、その感情が心の中で極限まで高まったみたいだ。」

 

「何が言いたい?」

 

「もしかしたら、君の親友を取り戻すチャンスが増えた。と言えば納得かい?」

 

「悲しみの感情が、ロンを取り戻す事と何の関係がある?」

 

「余り詳しくは無いんだよね。でも、これだけは確実に言える。君は、PWPEに対抗しうる力を身に付けた。連中と同じ土台で戦える。それは本当だよ。」

 

「!?」何を言ってるのか、さっぱりだった。

 

「良いかい?今は何も考えないで。考えるんだったら、今やるべき事を必死にやり抜いたその先でするんだ。成功しようが失敗しようが、足を掻くんだよ。」

 

「分かった。助けられたのは2回目だな。いいや。お前がいなかったら死んでいた場面何て沢山あったんだ。」

 

「気にしないで。さあ、君の親友が待っている!行って来るんだ!ハリー・ポッター!!」

 

*

 

「しぶとかったけど、こうなったハリーは長くないだろうね。」

 

心臓を狙うつもりが、僅かに逸れちゃった。僕の左の拳で、ハリーの胸部を貫いた。でもまあ、流石にこれで生きてはいない。だけど、念には念を押しておこう。とどめを刺してやる。

 

「終わりだ!」右手に杖を持つ。

 

「アバダ…………」

 

死の呪文を詠唱しようとしたその時、僕の両腕が強い力で掴まれてしまった。余りの強さに、激痛が走った。すぐに掴んでいた腕を振り払い、後ろに下がる。

 

「な、何なんだ!ハリーの奴!一体どうなって!?」

 

奇妙な光景だった。僕が貫いた、ハリーの右胸辺りの穴がみるみる塞がっていたのだ。それだけじゃない。今までの傷が嘘の様に無くなっている。バカな!あり得ない!それに、ハリーの様子が今までとはまるっきり違っていた。今のハリーは、白金のオーラを纏っていたのだ。

 

「ロン!俺は言った筈だ!!お前を、連れ戻すって!それに、PWPEにはやらないって!」

 

何と、僕と同じ位の力を解き放っていたのだ。どこまで食らい付くつもりなんだ。僕は、思わず舌打ちしたくなった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 心の支え

もう、ここに用は無い。帰ろう。戻ろう。誰かに、その惨状を知らせないと。

 

「グラント……帰ろうよ。」ボクは、優しく言った。

 

「…………」何も答えないグラント。

 

「皆待ってるよ。ホグワーツに。ね?」

 

「俺は帰れねえ。ここでのたれ死ぬんだ。エリナちゃんだけで帰ってくれ。」

 

「出来ないよ。そんな事。」

 

「俺は化け物なんだぞ!構わないでくれ!」

 

正直、先程の出来事の方が余りにインパクトが強過ぎるんだ。グラントを化け物呼ばわりするつもりも、迫害するつもりは全く無いんだ。だって。だって、これじゃ余りに不憫過ぎるから。

 

グラントだって被害者なんだ。リチャード・シモンズの利己的な理由で勝手に生み出されて、ある日自分は人間じゃないと突き付けられる。とても正気を保てるとは思えないよ。

 

「ボクは……今までずっとグラントを見てきた。ちょっと乱暴な所はあるけど、気の良い人だって感じたんだ。スリザリンにも素晴らしい魔法使いがいるんだって思えたんだ。そう思えたのはね、グラントのお陰なんだよ。」

 

「良いんだ。俺は……生きていく価値なんかない…………」

 

いつもと違って、酷く弱気になるグラント。

 

「でも、ボクはちっとも気にしてない……」

 

「気にしないで帰ってくれ!そういう問題じゃねえんだ!エリナちゃんも、ハリーも、ゼロも、ハーミーちゃんも、ロン。皆はそう言ってくれるかも知れねえ。だけどよぉ……俺はどうしようもねえんだ。俺は生まれついての化け物なんだ!普通の人間じゃない!まともじゃねえんだ!」

 

前にダーズリーが言った言葉を思い出した。まともじゃない。両親も変人だった、と。

 

「まともじゃない……か。それならね。ボクもそう言われた事はあるんだよね。」

 

「え?」

 

「ダーズリーから暴力は振るわれた事は全く無いけれど、言葉の暴力は酷かった。ただ、露骨なのが伯父さんだけで、伯母さんとダドリーは影でフォローしてくれたけど。」

 

「……エリナちゃん?」

 

「グラントの背負う物に比べたら、ボクのそれなんてちっぽけな事かもしれない。無視される時もあったんだ。だから、少しでも自分の目を向けさせる為に色々騒ぎを起こしたんだよ。叱られるのは当たり前だったけど、それで自分の存在を知らせる位ならどうでも良かったんだよ。」

 

「……」

 

「ある時ね。後になって魔女だって分かったんだけど、『ママみたいに綺麗ね。将来が楽しみだわ』って言ってくれたんだ。初めてだった。その言葉にどれだけ救われたか。それから騒ぎを起こすのはやめて、色んな事に打ち込んだ。伯母さんとダドリーは、そこを表だって評価してくれた。伯父さんも口では言わないけど、そこだけは認めてくれた。」

 

今までの事を話す。更に話を続けた。

 

「魔法使いだって知った時は更に嬉しかったし、11歳の誕生日に死んだと思われてたハリーとも再会出来た。欲しかった本当の兄弟がいた。まだ家族が生きてた。それが、ボクの新しい道標にもなったんだよ。いつか一緒に暮らしたいって。」

 

ボクは、話を終えた。グラントは、黙りこくっている。

 

「グラント。あなたは1人じゃない。自分を信じられない、生きる事に絶望しているなら、グラントを信じるボクを信じて。」

 

「エ……エリナちゃん…………」

 

「生きて。そして戦って。こんな…………こんな…………究極の生命体とか、覇王になる為とか……そんな理由じゃないよ。グラント自身の運命と!宿命と!そして何より、グラント自身の幸せを掴み取る為に!ボクは!本当は分かってる!グラントは、本当は生きたいって願ってる事を!」

 

「お、俺は…………」

 

「本当は生きていたいって思うのなら!生きる為に戦って!!自分が本当に何者なのかを知りたかったら!!その答えを探す為に戦って!!1人で無理ならボクも……ボクも一緒に戦うから!!!」

 

声を出していないが、号泣しているグラント。お願い。立ち上がって。いつものあなたに戻って。

 

「あなたは、ボクにとってはかけがえのない友達だよ!化け物だろうと、究極生命体だろうと、ましてや覇王なんて関係ない!ハリーやゼロたちもそう言ってくれるよ!!!さあ!生きたいって言って頂戴!!!」

 

ボクの言いたい事は全部言った。後は、グラントの答えを待つだけ。

 

数分後、グラントが口を開き始めた。

 

「お、俺は……俺は…………生きてえ!生きて帰りたい!戻りたい!ホグワーツに!……スマイルに!!……頼むエリナちゃんよぉ…………一緒にこの……この俺を……連れ帰ってくれ!」

 

グラントの答えが返って来た。ボクはそれを聞いて、ニッコリと笑った。

 

「うん!当たり前だよ!最初からそうするに決まってるじゃん!!帰ろう!ボク達の家に!ホグワーツに!!」

 

「おう!」

 

ボクとグラントは、優勝杯の取っ手を一緒に掴んだ。もう朝日が昇り始めている。掴んだ瞬間、ヘソの裏側がグイッと引っ張られる感じがした。移動キーと化した優勝杯が作動し始めたんだ。風と色の渦の中を、優勝杯はぐんぐんボク達を連れ去った。そうしてボク達2人は、帰っていく。

 

*

 

ダアト、ゲブラー、ティファレトの3人を迎え撃っているのは、ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、フォルテの4人である。だが、その戦局は前者3人に傾いていた。

 

『あ奴の力、全く分からぬ。』苦渋の表情を見せるダンブルドア。

 

ダアトとダンブルドアの戦い。世界最強の魔法使い、アルバス・ダンブルドアの力を以ってしても、彼のいかなる魔法は全てダアトの前にはすり抜けてしまっているのだ。

 

「ゲブラーと名乗る男の目を直接見るなとフォルテは言いましたが……」

 

「そうですな。ミネルバ。我輩も同意見ですぞ。そんな芸当は、とてもではないが我輩は出来ませんからな。」

 

マクゴナガルとスネイプは、ゲブラーの相手をしていた。教師陣の中でもトップクラスの実力を持つ2人の連携でも、ゲブラーは終始圧倒していたのだ。

 

「フッ。所詮この程度か。ぬるま湯に浸かっていたお前等が、傭兵や暗殺、その他諸々を散々行って来た俺達に太刀打ち出来るとでも?」

 

ティファレトとフォルテの戦い。こちらは、ほぼ互角である。互いに覚醒の力を使っている。

 

「嬉しいですよ。敵対勢力に、あなたの様な我々と同じ境地に達する者がいるなんて。これだから戦いは楽しくて仕方ないんですよ。」

 

「消えろ。」フォルテが杖を振るう。

 

「おっと。いけませんね。遊びが過ぎましたよ。」

 

ティファレトも、杖を振るって応戦する。その時だった。その場にいた7人の動きが止まった。膨大な魔力を突然感知したのだ。

 

「!?」ダンブルドアが何かに気付いた。

 

「何なのだ?これは?」スネイプが狼狽えている。

 

「ポッターとウィーズリーのいる方角になってますよ!」

 

「これって……覚醒か?私と同じ。ロンがその領域に辿り着いているのは、あの3人の証言から確実視しても良い。もう1つの覚醒の魔力。まさか、これは…………ハリーなのか!?彼も、覚醒の領域に……」

 

フォルテは、冷静に状況分析をしている。

 

『ここにいる全員。魔力の感知に優れているわけじゃないのに、この魔力を感じ取ってやがるな。覚醒した魔法使いの魔力を…………フフフ。お前か。本当に飽きさせないな。リーダーがどうして、お前を気にかけて特別視するのかが分かった気がするぜ。なあ、ハリー・ポッターよ。』

 

不敵に笑うゲブラー。それを見た者は、誰もいなかった。

 

*

 

「お前の手足の骨、全部へし折ってでも止めてやる!」

 

ロンを指差して、そう宣言した。これが覚醒って奴なのか。大きな力を手に入れた感覚だ。だけど、チンタラしていられないな。初めてその力を使うからか、結構負担が来るし。

 

「これが……ハリー。君なのか。ようやく僕が一歩リードしたと思ったら、すぐに追いついて来て。どこまで……どこまで僕をコケにすれば気が済むんだよ!!!君は一体何なんだ!!?」

 

ロンの言葉を聞いて、俺は言葉を返す。

 

「友達だ!!だから、行かせない!一線を越えさせてたまるか!武器よ去れ(エクスペリアームス)!!」

 

武装解除呪文を唱える。威力も大きさも早さも、それまでとは何もかもが桁違いだった。

 

「そ、そんな!今までとは別物じゃないか!」

 

ロンはそう言うと、アルテミットアーマーの機動力で俺の呪文を回避した。だが、それは読んでいたんだ。だから、次の攻撃が行える。

 

「ぼ、僕と同じ力……どうやって…………」

 

「考える時間なんてあるのか?」

 

羽織っているマントの奥義、瞬間移動でロンの後ろまで来る俺。

 

「し、しまっ…………」

 

「遅い!」ロンの腹に、キックをお見舞いした。

 

「ガッ!」血を吐き出すロン。

 

「まだまだ!!」

 

右手、左手、右手、左手の順番で腹パンをする。マントを形態変化させての攻撃もした。そして最後に、腹部目掛けて蹴り上げた。ロンは、吹っ飛んだ。俺は、ミラクルガンナーを右手に持つ。

 

「当たれ!」フルチャージショットを放った。

 

「グアァッ!」続け様に攻撃を食らって、這いつくばる様に地面についたロン。

 

「ハァッ!」凶嵐のチャージ攻撃を仕掛ける。後ろに倒れた。

 

俺は、倒れているロンに近付き、胸倉を掴んだ。

 

「目が覚めたかよ?まだ下らねえ事グダグダ言ってると、本当に骨全部へし折ってやるぞ!」

 

強くそう言い放った。もう終わりにしたい。こんな意味のない戦いは……もう……

 

「うるさい。何もかも手に入れている癖に、何も持ってない平凡の、この僕の気持ちが分かってたまるか!!!ファイアーショット!」

 

ロンは、腕を銃砲に変化させて炎を発射した。咄嗟に避けた俺。だけど、その炎は曲線を描く様に進んでいった。

 

「クソが!」紙一重で回避する俺。当たった木が、燃えた。

 

「ウォーターショット!ウィンドショット!ソイルショット!」

 

水鉄砲の弾と、空気の弾、勢いの付いた泥団子を発射するロン。ウイルスモードの眼で、それらを確実に回避する。

 

暖かな光よ、生命を守りたまえ(カリルチェン・ケストディマム)零界の翠氷(アブソリュス・グラキジェイド)!!!」

 

環境適応呪文を唱え、どんな環境でも問題が無い様にする。零界の翠氷を使い、3種類の弾を凍てつかせる。

 

「お返しだ!」

 

それを全て蹴り飛ばした俺。

 

「もう許さない!!!レイジングエクスチャージ!!!」

 

ロンは、光のオーラを上空に放出する。すると、たちまち全身に刻まれた傷を全て癒やしたではないか。ついでに、俺が蹴りで跳ね返した弾も消滅した。

 

神の怒り(デイ・デイーラ)!」

 

回復直後に破壊光線が当たる様にコントロールをした。

 

「カットワンウェイ!」

 

ロンを一文字斬りにした。

 

「Vシャイン!」続けてV字斬りを行う。

 

「ゴハッ!」出血するロン。

 

「ハンマーパワー!!」凶嵐の側面を、ロンに叩き付けた。彼は、思わず跪く。

 

「しつこいな!ハリー!諦めが悪過ぎるんだよ!!!」

 

回復を終えたロンが逃げようとする。だが、僅かにかすってしまった。

 

「ああそうさ。生憎、諦めの悪さは筋金入りでね。天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)!!!」

 

俺は、すかさず言葉を返した。黄金の電撃は、ロンに直撃した。倒れそうになるロン。

 

「何でだよ!?ハリー。何でそこまでして僕に構うんだ!」

 

ロンの張り裂ける様な叫びが響き渡る。

 

「ハア……ハア……俺さ。この国に戻ってから、やっといつでも一緒にいられる繋がりが出来たんだぜ……エリナといられると思ったら、寮は違うし。汽車のコンパートメントで一緒になった奴で、同じ寮になったのはお前だけだからさ……俺と違っていつでも家族に囲まれているお前が羨ましかったから……」

 

「…………」

 

「……だから!もう理不尽な出来事で、俺と同じ様に突然大切な人達と引き離される苦痛を味合わせたくなかったからなんだよ!!!」

 

生きていても、いつも一緒にいられない。そんな歯痒い思いは、俺の大切な人には経験して欲しくないんだ。

 

「お前が抱え込んでいた羨望や嫉妬、それがどれだけ大きいのか。俺には全く分からない。だけどよ!お前が思ってなくても!どれだけ否定しても……俺は……俺は…………お前を友達だって思ってるんだ!!!」

 

涙が出そうな状態で叫ぶ。ふとロンを見る。彼は動けないでいた。そして、少し身を震わせていた。俺は息を飲んだ。あれだけ俺に憎悪の表情を見せていたロンが、穏やかな笑みになっていたのだから。

 

「……もう、遅過ぎさ。少しでも早く、その言葉を聞いていれば思い留まっていられたかも知れない。」

 

少し哀しそうな笑顔でそう言ったロン。だけど、また元の表情に戻った。

 

「でも僕には、僕自身を見てくれる人達が出来た!確かに利用されて捨てられるだけかも知れない!それでも!僕は行く!!」

 

右手の杖から、黒い弾を作り出し始めるロン。それは、徐々に大きくなり、既に11月の決闘時よりもそれは大きくなっていた。

 

「……分かったよ。それがお前の決意でも、俺は何が何でも連れ戻す!その先に行きたいなら…………俺を殺してから進め!!!」

 

天魔の金雷(エンジェボルス・ガルドレギオン)では無理だ。アセビの杖で、ここまで温存していた、あの呪文を使おう。

 

『覚醒したばかりだから、負担が重過ぎるな。でも、それはロンも同じ。いや、俺以上に負担が来ているみたいだ。でも……』

 

ロンはフラフラになっている。覚醒したばかりってのもあるけど、あのアーマーも相当な負荷をかける代物みたいだな。

 

覚醒してから思った事がある。神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)を使おうとするこの異様な感じ。使わない方が良いと本能が言っている。だけど……どっちにしても、これで最後なんだ。悔いは残さない。この戦いを!俺達の戦いを!今!終わらせるんだ!

 

*

 

「……興が削がれたな。」

 

ゲブラーが、突然戦闘を中断した。ティファレトに、ダアトもだ。

 

「これ以上の戦闘はナンセンス……すか?」

 

「ああ。ダアト。」

 

「わし達が、お主達を逃がすと思うかの?」

 

ダンブルドアが静かに言った。

 

「逃がすじゃなくて、捕まえられないの間違いだろ?それにな。お前達とやり合うのは、まだ早過ぎるのさ。」

 

ゲブラーは静かに言った。まるで、お前等なんて眼中にないと言わんばかりの表情をしている。しばらくして、ダアトの摩訶不思議な力が発動した。ゲブラーにティファレト、ダアトを吸い込む様に消える。

 

「言っておきますが、これ以上のラッキーは続きませんよ。もうそろそろ、校門の前でハリー君とロナルド君の決着がつきそうなんですから。」

 

「何ですって!?」マクゴナガルが驚いた。

 

「早く行ってあげた方が良いぜ。生き恥ばかり晒して来たホグワーツ教員共。じゃあな。闇の陣営とアルカディアを完全に潰したら、思いっ切り相手してやるからよ。」

 

3人は、完全に消えた。

 

「早く行きましょう!」フォルテが3人に言った。

 

「わしは、一旦城に戻るとしよう。エリナ達を迎えなければならんからのお。」

 

そう言ってダンブルドアは、城へ急ぎ足で戻って行った。

 

マクゴナガル、スネイプ、フォルテの3人は、校門の前まで向かう事となった。

 

『2人共、間に合ってください!今行きますから!!』

 

そう心の中で叫んだマクゴナガルであった。

 

*

 

重力弾(グラビボム)!!!」

 

建物を破壊出来るほどの重力を凝縮した巨大な球体が現れた。あの時の決闘よりもデカいな。

 

「俺の全ての魔力を注ぎ込む!だから頼む!出て来てくれ!!……出やがれ俺の最大攻撃呪文!神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)!!!!!」

 

光の飛竜は出て来てくれた。覚醒前での使用とは、別次元の力強さを引っ提げて降臨した。元々の赤でも、これまでの修行によって強化された蒼でも無かった。目の色は同じだが、金属質の光沢を放つ白銀の外殻と肉体を持った飛竜だった。明らかに別物だった。

 

「な、何だあの術は!ハリーの奴、まだあんなのを隠し持ってたのか!!」

 

ロンが狼狽えている。

 

【ゴァ゛ガァギャア゛ァオォォーッ!!】

 

光竜が咆哮を上げた。そして、ロンが出した巨大な重力弾を簡単に食らいつくしてしまった。

 

「クッソォ!重力弾(グラビボム)が!!」

 

光竜は、そのままロンに襲い掛かった。勝ったのかな?だが、その後も暴れまわるかのように光竜は動き始めたのだ。

 

「どうしたって言うんだよ?コントロールが出来ねえ……力も抜けてく。」

 

『ダメだ……ここで俺がしっかりしてなきゃ。俺がこの力に呑み込まれたら、誰が止めるんだ!このままじゃ、ホグワーツどころじゃない!英国が滅んじまう!だから……意識を強く持つんだ!無差別破壊を止めるのが精一杯だけど……』

 

神秘の光竜(アルカレマ・ルメンリオス)……イヤ。光竜……ワイバーン。もう良い!破壊しなくて良いんだ!やめてくれ!」

 

俺は、力いっぱいに叫んだ。

 

【グ……オオ……オ?マイ……マ……ス…………ター。ワタシは……】

 

俺の言葉が届いたのか、光竜は大人しくなった。俺と同じ眼は、俺をじっくりと見つめている。しばらくして、消え去った。それと同時に、俺も意識が遠退いた。

 

*

 

11歳ほどのハリーとロンがいた。2人は、偽りの無い笑みで互いを見ている。そして、握手をした。

 

*

 

立っていたのは、ロンだけであった。重傷は負っているが、命に別状は無い。

 

「あれだけの力を発しながら、誰も死んでない。どうして……?」

 

ロンは、何故なのか分からなかった。ふとハリーを見る。彼は眠る様に気を失っていて、倒れている。顔つきは、非常に穏やかだ。それをじっくりと見つめるロン。彼が纏っていたアルテミットアーマーは完全に破壊されて、その残骸が散らばっていたのだ。

 

「……」杖を落としたロン。だけど、全く気にしていない。

 

「ハリー……僕は…………」

 

そう言いかけた瞬間、左胸を押さえつけるロン。跪いてしまう。ハリーと顔の距離が近くなった。

 

「…………」

 

それでも、立ち上がるロン。校門を出た。

 

「良いのか?」

 

ゲブラーが聞いた。呼び寄せ呪文で、アルテミットアーマーの残骸を回収している。

 

「もう、繋がりさえ切れてしまえばこっちのものさ。」そう告げるロン。

 

付き添い姿くらましで、その場を去ってしまった。そこにいるのは、倒れているハリーだけだった。もう、朝日が昇り始めている。

 

*

 

「近いな。」フォルテが言った。

 

「2人はどうなってますか?」マクゴナガルが聞いた。

 

3人が現場に向かって言っている途中、黒い巨大な球体が見えたのだ。マクゴナガルは、即座にロンが術を出した事を見抜いた。

 

だが、それだけでは無かった。少し後に、白銀に光る神々しい飛竜も現れた。黒い球体を簡単に喰らい尽くし、暴れ回った後に急に大人しくなって消え去ったのだ。

 

「まだいますね。」

 

「急ごう。」スネイプが促した。

 

3人は校門の前まで突き進んだ。そして、到着した。

 

「これは!?」スネイプが声を上げた。

 

周りの木々が破壊され尽くされている。その光景は、激しい戦闘を物語っていた。

 

「ハリー!」

 

マクゴナガルが、倒れている愛すべき教え子の元へ駆け寄る。もう教師としてではない。重症で意識の分からない息子、或いは孫を呼び掛けているかの様だった。

 

「遅かったか……!」悔しそうな表情をするフォルテ。

 

『…………』

 

その光景をぼんやりと見るスネイプ。ハリーのみならず、ジェームズと言い、メイナードと言い、何故ポッターの一族は自分の危険を顧みずに、仲間や愛する者の為に見返り無しで行動出来るのか。そう思ったのだ。

 

『それに、あの竜……』

 

その竜の眼は、リリーと同じ眼をしていた。自分が思いを寄せていた彼女と同じ眼を。力強くはあるが、神々しい。そして、暖かい。また会ってみたい。スネイプは、心の中でそう願ったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 果たせなかった約束

次の日の朝日が昇っている。だが、この場にいた者達の心を癒す事など出来なかったのだ。

 

「ハリー。申し訳ありません。あなた方の寮監でありながら、この事態を止められず、挙句に引き裂いてしまった私の責任です。」

 

マクゴナガルは、意識を失っているハリーに謝罪した。

 

「ミネルバ。あなただけの責任ではありませんよ。目の前だけの状況に注目していたあまりに、別の危機を直前まで察知出来なかった。それによって、結果的に生徒に押し付ける事となった我々教師の不甲斐無さが原因です。」

 

フォルテが、すかさずフォローに回った。

 

「皮肉なものだ。こんな所でポッターとウィーズリーが戦うとは。まるでこれは、ゴドリック・グリフィンドールとサラザール・スリザリンの決闘そのものだ。」

 

「そうですね。セブルス。この場所を訪れると、後世に伝えられている決闘が永遠に続いている様な感じになります。」

 

スネイプが呟いた言葉に、マクゴナガルが返した。

 

「ロンの杖か。」

 

フォルテは、ロンの杖を拾った。それは、自分が持つことにした。その後、ハリーの持つ杖を、彼のローブの裏にしまい込んでやった。

 

「間に合わなくて、ゴメンね。ハリー。何て詫びたら良いか…………君の事だ。必死だったんだろ?」

 

フォルテは、ハリーをおぶった。すぐにスネイプとマクゴナガルに目を合わせ、この場を立ち去った。その2人も、戦いの舞台を最後に見て立ち去った。

 

*

 

エリナ視点

ボク達は、地面に叩き付けられた。グラントも。目を開いた。帰って来たんだ、ホグワーツに。試験会場の、迷路の入り口。皆、ようやく帰って来たと言わんばかりの歓声を上げた。今はそれどころじゃないんだよ。

 

真っ先にダンブルドアが駆け寄って来た。ボクは、藁にも縋る思いでしがみ付いた。

 

「あいつが……あいつが……ヴォルデモートが帰って来たんです!!」

 

「分かっておる。そして、それだけではない筈じゃ。」

 

「アルカディアと、終わりを生み出す者も動き始めたんです!ヴォルデモートの一味の殆どを皆殺しにしました!!!」

 

「やあやあエリナ。それに、リドル君。同時優勝おめで……ヒィッ!滅多な名前を出さないでくれ!もうあの人は死んでるからね。」

 

ファッジ大臣が後から来た。ヴォルデモートの復活を認めなかった。ハリーから保身に走る性格だと聞かされたけど、ここまで酷いなんて。

 

「取り敢えず、この子達を医務室へ連れていかねばならん。授賞式は中止じゃ。エリナ、グラント。歩けるかね?」

 

医務室へ行く事になった。と、その前に校長室へ。

 

「な、何だろうな?エリナちゃん。」

 

「多分、迷路の事について聞かれると思うよ。」

 

ダンブルドアが、後ろから付いて来たボク達に対してこう言った。

 

「部屋に着いてから、何があったか話してくれないかね?シリウスもおる。」

 

校長室に入るや否や、シリウスがボクにハグして来た。

 

「エリナ!!!」

 

「シリウ……キャア!心配なのは分かるけど、苦しいよぉ……」

 

「良かった!無事で良かった!本当に!ハリーが重傷を負って、君にまで何かあったら、俺はジェームズとリリーに顔向けが出来ない!」

 

「う、うん。分かったから……平気だから……」

 

「エリナちゃんって、本当にシリウスさんが好きなんだな。」

 

「感動の再会の釘を刺すようで悪いのじゃが、エリナ。グラント。時間が無いのじゃ。何があったかを、わしは知らねばならん。」

 

「失礼ですがダンブルドア。」シリウスが、ダンブルドアを睨み付けた。

 

「この2人は、夜に辛い目に遭ったばかりなんですよ!どうしてあなたは、エリナを苦しめる事ばかりしかしないんですか!14年前の事、忘れたとは言わせませんよ!あの時私は反対した!ダーズリーの所に連れていく事を!その結果、ハリーは10年間行方不明になったんだ!ロイヤル・レインボー財団が拾わなかったら、あの子は死んでいただろう!!」

 

「別に苦しめる為に言ったわけではないのじゃ。じゃが、後になってもっと酷い事になるじゃよ。だからこそじゃ。エリナとグラントには夜に示した勇気をもう1度わしに示してほしいのじゃよ。」

 

「エリナちゃん。言おうぜ。俺達2人なら大丈夫だ。怖くねえ。」

 

「うん。そうだね、グラント。ハリーをすぐにでも探さなかった事については怒りたいけど、今は言おうよ。」

 

「エリナ。」

 

「大丈夫だよシリウス。ボクは、1人じゃない。ここには、シリウスもグラントもいる。怖くなんて無いよ。」

 

「そうか。強いな、君は。それならば、俺は何もいう事は無いさ。」

 

ボクとグラントを安心させる様な顔を向けるシリウス。それでも、ダンブルドアを睨み付けていた。

 

ボク達は話す。優勝杯に触った瞬間、リトル・ハングルトンに飛ばされた事。そこで、ヴォルデモートの復活の儀式を目の当たりにした事を。

 

「復活の儀式……のお。」

 

「あの厨二野郎。エリナになんて事を……だが、妙だな。ピーターの奴、どうしてエリナを必要最低限にしか傷つけなかったんだ?今更になって罪悪感が生まれたのか?」

 

「分からない。それでも、ボクの血を入れたんだ。」

 

「俺が代わろうと思ってたのによぉ。あのネズミ野郎。今度出会ったら、タダじゃおかねえ。ボコボコにぶっ潰してやる!!!」

 

腕をポキポキ鳴らすグラント。

 

「君の血を……確かに入れたのじゃな?」

 

「あれ?校長先生って、認知症なのか?エリナちゃん、散々言ってるぜ。」

 

「わしはまだ113歳じゃ。」

 

「十分歳がいってるぜ。」グラントがボソッと言った。

 

「……はい。それが、あいつを強くするって自分で言ってた。実際、そうだった。あいつがボクに触れられもしなかったもの。正確にはクィレル先生だけど。ヴォルデモートは平気な顔で、ボクの額を触って来たんです。」

 

「…………」

 

何か、ダンブルドアは勝利確定して勝ち誇ったような表情をした気がする。という事は、あの話は本当って事なのかなぁ。もう2度と、ボクを殺せないって話は。

 

「エリナ。続けてくれんかの?」

 

また話をした。100人くらい集まった死喰い人に対して演説を行った事。

 

「ひゃ、100人だと!?」シリウスが驚いた。

 

「後で説明するけど、殆ど見掛け倒しだったよ。シリウス。」

 

「カルカロフはおったのかな?」

 

「あの人ならいなかったぜ。お辞儀ハゲはそれについて、殺してやるって言ってたよ。そうだよな、エリナちゃん。」

 

「うん。」

 

「そうじゃろうな。彼は消えてしもうた。」ダンブルドアが言った。

 

「え?消えたって?」ボクが思わず聞いた。

 

「逃亡したんだよ。闇の印の焼けつく様な痛みを感じてすぐに。1年逃げ切れば大したものだろうな。」

 

すぐ、くたばるさという表情をするシリウス。

 

「それで、その続きを話しておくれ。」

 

グラントと協力して、出来る限り思い出して話して聞かせた。次に、決闘の話に移った。杖に起こった現象を話した。

 

「杖がつながった?どうして?」シリウスは分からないという顔をしている。

 

「直前呪文、じゃろうな。」ダンブルドアが呟いた。

 

「呪文巻き戻し効果が?死の呪文を使う相手にどうやって?」

 

シリウスが鋭い声でそう言った。

 

「エリナとヴォルデモートの杖の芯はの。フォークスの尾羽根が使われておる。兄弟杖と呼ばれるのじゃよ。」

 

フォークスを指差しながら、ダンブルドアが言った。

 

「つまり……兄弟杖に出会ったとすると、自分の片割れに、それまで使った呪文を吐き出させる。それが出来ると?」

 

「そうじゃ。シリウス。ギャリックから聞いた話じゃがのお。兄弟杖とは本来、対決した場合はお互いに正常に作動しないのじゃ。一説によれば、一方がもう一方にとっての天敵にもなる場合もある様じゃ。おお、話が逸れたの。それでも無理に戦わせると、非常に稀な現象が起こる。」

 

「校長先生。」グラントが話に参加して来た。

 

「どうしたのかね?グラント。」

 

「もし、その兄弟杖が共闘したらどうなるんだよぉ?」

 

「ううむ。断言は出来んが、単体で使うよりも何倍もの力を発揮する……すまん。そこまでは考えがつかんのじゃよ。」

 

「そっかぁ。」

 

「あの光。そういう事だったんだね。マグルのお爺さんにバーサ・ジョーキンズ、それにパパとママが……」

 

「ジェームズにリリー?一体どういう事なんだい?エリナ。」

 

「木霊。若しくは、あ奴が殺めた魂の霞。それが、ヴォルデモートの恐れる形となって現れたのじゃろう。エリナ、少しご両親と話せたかな?」

 

「はい。ハリーやシリウス、リーマス、メリンダさんに宜しく言ってくれって言ってました。」

 

「そうか。あの2人。そんな事を。」感傷に浸るシリウス。

 

「もっと長く繋がりを保っておったら、さらに多くの者が現れたじゃろう。さて、話は終わって……」

 

「待って下さい!!そのまま帰って終わりじゃないんです!!」

 

「そ、そうなんだ!どんでん返しの展開が待ってたんぜ!先生!」

 

帰ろうとした時に、無数の隕石が闇の陣営を襲った事を話し始めた。アルカディアと終わりを生み出す者が現れた事、計画の乗っ取り、グラントの正体、ナルシッサ・マルフォイが確保された事、その強さを以って100人はいた死喰い人を30人にまで減らし、その内10人はアルカディアに確保され、ヴォルデモートも重傷を負わされた事を話した。

 

シリウスは、流石に青ざめてしまった。そうだよね、そんな敵に出会いならも誰1人死んでいないこの状況が奇跡だよ。

 

「なんて奴らだ。死の呪文を受けて、また立ち上がってくるとは。終わりを生み出す者にアルカディア。そいつらの方が化け物染みているぞ。それに、マルフォイ家がこうも呆気なく家庭崩壊してたとは。」

 

複雑そうな表情をするシリウス。どんなに嫌っていても、従姉の家族がそんな状態になったら言葉を失うもの。

 

「何て事じゃ。リチャード・シモンズ。人道的に許されない魔法を使うとは。あ奴、堕ちたな。じゃが、不幸中の幸いなのは、互いが互いを敵対しあっている事かの。それに、エリナの前でヴォルデモート陣営の敗北が確定した事を本人の前で話すとはの。」

 

「やっぱり本当なんですか!?ボクの血を入れた事で、あいつの存在がボクをこの世に繋ぎ止めるって話は!」

 

「全てが確信に満ちているわけではないのじゃ。さっき、ガッツポーズをしたくなる程には、勝利決定来たと思ったのじゃよ。依然、状況は厳しいが。」

 

「…………終わりを生み出す者を名乗る人。銀色の髪で虹色の目。ハリーをオートバイから突き落とした張本人は、どういうわけか闇の陣営に深い憎しみを持っていたんだ。」

 

何で突き落とそうとしたのか分からないや。聞くどころの状況じゃなかったし。でも、終わりを生み出す者ってハリーを強く意識する様な振る舞いをしていた。ひょっとして、ハリーを引き抜きたいのかなぁ。

 

「片や無限復活して来る天虹眼の能力者、片や死んだ者すら蘇らせて好きに操れる神をも恐れぬ男。ヴォルデモート率いる闇の陣営だけでも手一杯なのに――何たる事じゃ。」

 

ダンブルドアは、今にも倒れそうになっている。

 

「それだけじゃない。アルカディアは新旧を問わない改造人間とあの世から呼ばれた不死身のゾンビ軍団がいる。そしてTWPF。主要メンバーは、全員が覚醒の領域に達した魔法使いであるうえに、超古代のオーバーテクノロジーを復活させて作り出されたレプリロイドの軍団もいる。」

 

シリウスが静かに呟いた。それを聞いて、正義と呼ばれる勢力は、果てしなく無力である事を突き付けられたような感じがした。覚悟はしていたけど……

 

勝つ方法なんてあるのだろうか。そうボクは思った。全てを乗り越えないと、英国魔法界は暗黒を通り越して滅亡や虚無だけの未来になるのは間違いない。それどころか、世界の全てが滅ぼされるかも知れない。

 

「それでも、ヴォルデモートについては問題無いのか。不死鳥の騎士団以外にも、敵対組織がいるからな。」

 

「唯一の救いは、その3つの組織が協力しているのではなく敵対し合っている事だよね。」

 

「それよりもだ。俺は、グラントの正体に驚いたよ。」

 

シリウスが、グラントを見ながら言った。

 

「俺は、生まれついての悪魔だ。人間ですらねえ。その内の1人、父親はあのクズ野郎だ。ヴォルデモートがな。そいつも、吸血鬼もな。誰の血も願い下げだ。」

 

自分を卑下するグラント。それをボクは、じっくりと聞いていた。シリウスも、ダンブルドアも。でも、絶望の余り死のうとしないだけまだマシだった。

 

「グラント。」

 

「……極悪人の血を引いて生まれて来た君の心情、完全に分かるわけじゃないさ。俺もさ、若い時はブラック家なんてクソ食らえと思ってた。両親の血なんて願い下げだと思ってた。でもレギュラスの真実を知って、もっとちゃんとした目線で話し合っていればと思うと……これはな、グラント。最終的に君自身で答えを出すべきだ。勿論、助言は惜しまないさ。」

 

シリウスは、グラントの肩にポンと手を置いた。少し、落ち着いた様だ。

 

「ヴォルデモートと何かしらの関係があるとは思っておったが、まさか。予想の斜め上を行く真実が潜んでいたとは。わしでも予想がつかんかった。」

 

「エリナちゃんがいなけりゃよぉ、俺は正気を失ったままだったぜ。エリナちゃんが励ましてくれなかったら、俺はずっと化け物のままだったんだ。」

 

「そうかのお。ヴォルデモートとは違い、君には励ましてくれる仲間に恵まれて幸せ者だと、わしは思っておる。」

 

「そうだよ。ハリーも、ゼロも拒絶はしないよ。あの2人、ある意味グラントと似た者同士だから、ね?」

 

「お、おう。」

 

「わしとしては、グラント。君にはこのまま学校生活を続けて貰いたいと思っておる。どうかね?」

 

「い、良いのか?先生よぉ。」

 

「学ぶ意思のある者は、誰でも平等に受け入れるつもりじゃ。」

 

「良かったね、グラント。」

 

「エリナ。そしてグラント。昨晩、君達はわしの予想をはるかに上回る勇気を示してくれた。闇の時代に生きた魔法使いにも劣らぬ勇気でヴォルデモートと真正面から向かい合った。君らは今夜起こった我々が知るべき事を全て話してくれたのじゃ――さて、今度こそ医務室へ行こう。シリウス、付き添いをお願いしても良いかの?」

 

「初めからそのつもりですよ。」

 

こうして、医務室まで行く事になった。

 

*

 

俺は、目が覚めた。ここは、どこなんだろうか?誰かが俺を背負ってるのか?

 

「ウゥッ!」小さな唸り声をあげた。

 

「気づいたか。ハリー。」フィールド先生だ。

 

「ロンは?」まさかとは思うが聞いてみる。フィールド先生は、静かに首を横に振った。

 

「おーい!」声がした。

 

振り向いてみると、リーマスにキット、アドレー義兄さんが合流して来た。

 

「ミネルバ。ハリーの様子はどうなんですか?」リーマスが言った。

 

「大丈夫です。問題ありませんよ、リーマス。」

 

「重傷を負っているが、命に別状はありません。」

 

フィールド先生も言った。合流してきた3人は、一先ず安心する。

 

「ルーピン。ブラック姉弟にディゴリー、テイラー、ゼロ・フィールドはどうなったのか、簡潔にまとめて言うのだ。」

 

「君は相変わらずだね。セブルス。」

 

「早くしろ。」スネイプがイラつく様に言った。

 

「イドゥンは軽傷、マリアは右腕を負傷、ゼロは顔以外の全身に火傷を負ってるけど命に別状は無いよ。」

 

「但し、エックスとセドリックは意識不明です。スネイプ教授。」

 

アドレー義兄さんが続けて言った。

 

「あいつら、今回は命懸けだって承知の上で戦ったんだ。ハリーを責めるのはお門違いだぜ。スネイプさんよ。」

 

キットが言った。

 

「分かっている。今回の一件で最も肉体的、精神的共に深い傷を負っているのはポッター自身だという事もな。」

 

『皆…………』俺は、また目を閉じた。

 

*

 

「ハリー以外、全員脱落ってわけか。」

 

「そうですわね。後は、彼がウィーズリーを連れ戻してくれる事を願うばかりです。」

 

ゼロ、イドゥンはベッドに横たわりながら会話していた。マリアは、熟睡している。ゼロに至っては、顔以外ミイラ男となっていた。

 

「シリウスとフリットウィック教授が来なかったら、俺達今頃あの世にいただろうな。」

 

「ええ。ですが、今回の出来事はかなり良い経験になりました。今の強さでは敵わない敵がいる事、身を以って知りましたからね。」

 

「ああ。俺も、本格的に兄さんから修業の付き添いをしてくれって頼み込むつもりだ。」

 

「エックス。セドリック。どうか……どうか。」イドゥンは祈った。

 

しばらくしていると、マダム・ポンフリーが入って来た。ゼロとイドゥンに飲み薬を持ってきたのだ。

 

「さあさ。2人共。薬を飲む時間ですよ。」

 

素直に指示に従う2人。余りの苦さに、思わず吐き出しそうになってしまった。

 

「良い知らせと悪い知らせがありますよ。どちらから聞きたいですか?」

 

マダムが、2人にそう言った。

 

「どうせ落ち込むのは確実だから、良い話からお願いします。」

 

「分かりました。エックス・ブラックとセドリック・ディゴリーの2名が意識を取り戻しました。安静にしていれば、完全に動けるようになるでしょう。」

 

ゼロとイドゥンは、顔を合わせた。そして喜んだ。イドゥンはその後に泣き崩れた。

 

「次に悪い知らせです。」喜ぶのをやめた2人。

 

「ハリー・ポッターだけが帰還します。医務室に収容されますよ。」

 

「ま、まさか……」ゼロは、当たるなという思いを心の中でした。

 

「フィールド。あなたの言いたい事は分かります。帰還して来たのは、ポッターだけ。ウィーズリーは、いなかったそうです。彼の家族には、程無く報告されるでしょう。」

 

つまり、自分達の目的は失敗した。ゼロは、項垂れてしまった。

 

「確かに、何かをする時は犠牲やリスクは付いて回る。そんな事は分かっている……だけど……」

 

ゼロは顔を伏せる。だが、その場にいたイドゥンとマダム・ポンフリーには、今のゼロの心情が不思議と分かったのだ。

 

「俺はあいつらに、ハリーとハーマイオニーになんて声を掛けたら良いのか分からねえよ…………!」

 

医務室に、ゼロの悲痛な叫びが響き渡る。その直後、静かに医務室のドアが開いた。

 

「……それでも――皆生きているんだ。それが何よりだよ、ゼロ。あの状況で、誰も死人が出なかった。今は、それで良いじゃないか。」

 

ゼロが振り向く。ハリーを背負っている自らの兄、フォルテが穏やかな表情でそう告げた。その後ろには、スネイプ、マクゴナガル、リーマス、アドレー、キットがいた。

 

「本当に、無事で良かったよ。ゼロ。」

 

「兄さん!」

 

「今は休むんだ。ゼロも、イドゥンも、マイアも、エックスも、セドリックも、ハリーも、皆無理をし続けてたんだ。」

 

その言葉に従い、またゼロとイドゥンは眠る事にした。

 

*

 

目が覚めた。ここ、医務室なのか。

 

『そうか……俺。失敗したんだったよな。』

 

ウイルスモードの酷使、覚醒した力の初使用、そして光竜。そう簡単に動けないだろう。数日は。

 

「あ、ハリー。起きたんだ。」

 

反対側のベッドから声がした。エリナだ。

 

「エリナ……俺、お前に言いたい事があるんだ。ジュニアの計画を知りながら、敢えてそれを無視した。お前を悲惨な目に遭わせてしまった。今更、謝って許して貰おうなんて思ってない。永遠に許さなくて良い。だから…………」

 

「良いの。気にしないで。これで、ヴォルデモートの負けは決まったって分かったから。怪我の功名だよ。」

 

申し訳無いが、ちょっと心の中を覗いた。本当に気にしてもいないし、腹も括っている様だ。それに、今置かれた俺の状況に心を痛めている。いっその事、突き放してくれた方がどれだけ楽か。

 

!?え?どういう事だ?開心術で心の中を覗いた事は多くある。だけど、こんなのは見た事が無い。エリナ。お前、まさか…………そうか。そういう事だったのか。

 

「それよりも、ハリーも災難だったね。ロンがいなくなるなんて。」

 

意識を現実世界に戻した。

 

「何があったのか、話そうと思う。」

 

「ボクも。」

 

情報共有し合った。帰ろうとした時に乱入のやり取りには驚いた。

 

「そうだったのか。これで、あいつの動物変化能力と若い頃のヴォルデモートに瓜二つだった謎が解けたわけか。」

 

ダンブルドアのジジイは、ただ単にグラントに救いの手を差し伸べるわけがない。こう思ったんだろうさ。目には目を。ヴォルデモートには、同じヴォルデモートの力と。それに、エリナを守らせる為に駒にしたかったんだろう。そんな危険な力は、相手に渡すよりかは自分が持っていた方が良いと。俺を従わせようとして、挙句ロイヤル・レインボー財団を手中に収めようとした時と言い、とことん食えないクソジジイだって思ったよ。

 

納得したな。という事は、蘇りの石を持つのに相応しいのは、俺ではなくグラントという事になる。あいつの誕生日は4月16日。成人したら渡そうか。

 

それにマクルトか。神を自称していたようだが、どうやらその表現に嘘や偽りは無いみたいだな。

 

「ねえ。ハリーはそれを聞いても、グラントを拒絶する?」

 

俺は首を横に振った。

 

「それを言っちゃえば、俺の身体だって普通の人間とは根本的に違うんだぜ。寧ろ、シモンズならやりかねないなという納得の感情しか来ないよ。」

 

「そう言えば、シモンズで思い出した。マリアちゃんがあの人の所で改造人間にされてたって聞いたんだ。」

 

「うん?ああ……その事か。」

 

「え?知ってたの?」

 

「あいつを拾った時に、俺は全ての事情を知ってたよ。黙ってたのは、聞いた内容が凄惨過ぎた事と、本人から言わない限りは心の中に閉まっておくと決めてたからだよ。」

 

「……確かに、マリアちゃんの事を考えると誰にも言いたくない筈だよ。」

 

「俺としては、もっと人に関わっていって欲しいと思ってるんだ。他の人間は、シモンズみたいな悪い人間ばかりとも限らないんだよって意味でね。でも、こればっかりはどうしようもない。スピカだけだからな。ここに来て出来た親友って。それにしても、スピカとコーヴァスも災難だよな。たった一夜で、家庭崩壊するなんて。」

 

アルカディアへ諜報活動を行っているドラコに代わり、俺があの2人を守らなきゃ。ルシウス・マルフォイの失敗の落とし前は、あの2人がさせられるだろう。そうなる前に、先手を打たないと。

 

「どう慰めれば良いのか分からないよ。ボクも。」

 

「ロイヤル・レインボー財団と話をしていたよ。今後についてね。」

 

*

 

どこかの空き教室。アドレー・ローガーとキットは、スピカとコーヴァスを呼び出していた。

 

「「失礼します。」」2人が入って来た。

 

「悪いね。2人共。いきなり呼び出してしまって。」アドレーが言った。

 

「あのう。その、話って何ですか?」スピカが聞いた。生気が消えかけている感じだ。

 

「スピカ。そして、コーヴァス。今、君達の家の状況がどうなっているかは分かってるかな?」

 

アドレーが問いかけた。

 

「お兄様は痣を付けた張本人の所に行って、お母様は2年前のクリスマスパーティーに襲い掛かって来た人達に連れ攫われて。それにお父様は、例のあの人の配下で……もう、何が何だか…………」

 

「どうしてこうなったのか、僕にも見当が付きません。父のやって来た事へのツケなんでしょうか?」

 

「いきなりの事で心の整理がつかないのは良く分かる。だけど、あまり時間は残されていない。だから、君達の選択肢を話し合おうと思って、この空き教室の呼んだんだ。」

 

「言っておくぜ。このまま家に戻っても、ヴォルデモートに散々利用されて、それに加えてTWPFの力にも怯えて生きていくだけだ。だが、お前達2人ならまだ間に合う。」

 

「僕達だけって……」

 

「ロイヤル・レインボー財団に助けを求めるかのどっちかだ。親は兎も角、お前ら2人と兄貴だけはまだ何とかなるかも知れねえからな。」

 

キットが、アドレーに続いて言った。

 

「え?どうして?」スピカが泣きそうになりながら言った。コーヴァスは堪えている。

 

「早かれ遅かれ、お前らの父親はヴォルデモートの怒りを買う事になるだろう。2年前、お前らの父親はご主人様からの大切な預かり物を私的な目的で使い、挙句破壊する事態を引き起こしたんだ。」

 

「……お父様が?」嫌な予感しかしないと察するスピカ。

 

「……分霊箱をですね?」

 

「そうだよ。懲罰として、家族が苦しむところを見せつけてやろうと何でもする。ヴォルデモートはそう言う奴だ。そうなる前に、君達を保護しよう。そして、お母上の姉一家の所に行ける様に何とか手配しよう。君達の従姉とは、僕は同期で定期的に連絡を取り合っているから。」

 

スピカとコーヴァスは、もう何も言えないようだ。家にはもう、彼ら2人の居場所なんて無いのだ。

 

「ハリーがね、君達のお兄さんから『自分に何かあったら、妹と弟をよろしく頼む。自分の家よりも安全な場所に保護してくれ』って言われたんだ。」

 

アドレーが、穏やかな笑みでスピカとコーヴァスにそう言った。

 

「お兄様は、ポッターさんにそう言ったの?」

 

「兄さん。どうして……」

 

「証拠なら見せるよ。その時のやり取りをね。」アドレーが言った。

 

記録の水晶玉で、そのやり取りを見せる。確かにドラコの言葉だ。嘘や偽りなどではない。ちゃんとハリーにそう告げている。

 

「今なら、まだ間に合う。ロイヤル・レインボー財団は、闇の陣営に負ける事はまずない。それは、ダンブルドア以外でヴォルデモートが敵わない数少ない魔法使いである私のお祖父様がトップをやっているからね。そして、不死鳥の騎士団と違ってTWPFやアルカディアに対抗出来る。前に、主要幹部を何人か仕留めた事もある。」

 

「…………」アドレーの言葉をしっかりと聞いているコーヴァス。スピカもだ。

 

「我々は、君を確実に助け、安全を確保する事が出来る。後はどう選択するのか、それは君の意思次第だよ。スピカ。コーヴァス。」

 

アドレーが優しく2人にそう言った。その言葉を聞いて、スピカは号泣しながら、コーヴァスが何とか泣くのを堪えながら無言で頷いたのだった。

 

*

 

「つーわけで、スピカとコーヴァスの保護は出来たぜ。」

 

「ドラコからの依頼、第一段階はクリアだな。」

 

キットからの報告を聞いて、思わず安堵の表情を浮かべる俺。ちなみにエリナは寝ている。

 

「そういやハリー。お前の戦いの記憶を見せて貰ったぜ。ロナルド・ウィーズリーとの戦いで覚醒の境地に達したんだっけな。」

 

「あんま嬉しくないけどね。」気怠そうに返した。

 

「少なくとも、TWPFに多少なりとも抵抗出来る様になったわけだな。」

 

「そんな力よりも…………あいつに戻って来てほしかったよ。」

 

「だよなぁ。普通は。だけどよ。ハリー。そう言うわけにもいかねんだ。お前はこれから、ヴォルデモートよりも厄介な奴らを相手にしなきゃいけないんだからな。」

 

「分かっているさ。腹は括っている。」

 

「逆に言えば、あいつらを追えば自然とお前の友達にも辿り着けるし、囚われの身になっているスピカの母親も救い出せるチャンスはある筈だ。」

 

「……ハー子、ネビル、フレッドにジョージ、それにジニー。いるの分かってるんだ。出て来てくれ。」

 

俺が静かに言った。すると、その通りに5人が俺とキットの前に現れた。

 

「俺、皆には顔向け出来ないや。」

 

自嘲気味に言った。5人共、俺の言葉を無言で聞いている。

 

「ハー子。ごめん。約束したのに、守れなかった。」

 

「……」

 

「フレッド、ジョージ、ジニー。申し訳無い。俺、3人には何て言ったら良いのか……」

 

「バカ言うな。」フレッドが言った。

 

「俺達は少しも気付けなかったんだ。でもハリー、君は気づいた上で止めようとしてくれた。実の家族なのに、ロンの変化を見抜けなかった。俺達の方が悪いんだ。」

 

「そうよ!あまり自分を責めないで!」ジョージもジニーも言った。

 

「ハリー。あなたが謝る事なんて何1つ無いわよ。謝るのは私の方。どうしようもない時には、いつもあなたに物事を押し付けちゃって。賢者の石の戦い時から変わろうと思ったのに、何1つ変われていない。だから今度は、私も一緒にロンを連れ戻すわ。」

 

ハー子は、次は自分もやるからという決意を露わにした。本来何の関係も無い筈のネビルも然りだ。

 

「分かった。で、ウィーズリーおばさんはどうなったんだ?あの人の事だ。正気ではいられないだろう?」

 

「大当たりだよ。ロンの事を聞いて、お袋は泣き崩れちまった。」

 

「とても聞けるような状態じゃなくなったから、続きはビルが聞いてるぜ。マクゴナガルからな。」

 

フレッド、ジョージの順番で俺にそう教えてくれた。何て声を掛けたら良いのか分からなかった。でも、今は完治する事を優先して寝る事にしようと心に決めた俺であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 4年生修了

あれからどれ位寝たのだろうか。もう真夜中になっていた。あれから1日経ったのか。今でも思い出す。ゼロ、イドゥン、エックス、セドリックと一緒に行動したあの夜の出来事が。

 

誰かが俺の顔をタオルで拭っている。薄目を開ける。ウィーズリーおばさんが俺の所に来ていた。エリナの所にはシリウスがいた。

 

「母さん。もう大丈夫かい?」

 

「何とか落ち着けたわ、ビル。ハリーとハーマイオニーには、感謝しかないわ。私達家族でも気づかなかったロンの変貌に気付いて止めようとしてくれたんですもの……あら?ファッジの声が聞こえるわね。」

 

ウィーズリーおばさんが囁いた。それからしばらくして、病棟のドアが開かれた。それもバーンと乱暴に。スヤスヤと寝ていたエリナは起きてしまった。

 

「え?何々?火山の噴火?」

 

「寝ぼけ過ぎだよ、エリナ。」シリウスが優しく言った。

 

ファッジがドカドカと入って来た。後ろには、全ての寮監の先生とリーマス、アドレー義兄さん、キットがいた。

 

「ダンブルドア!説明して貰おうか!」

 

辺りをキョロキョロと見渡すファッジ。俺、エリナ、シリウス、ウィーズリーおばさん、ビルの姿を見るや否やこちらに近付いて来た。

 

「ダンブルドアはどこかね?」

 

「ここにはいらっしゃいませんわ。」

 

ウィーズリーおばさん、怒った様な口調で返した。

 

「コーネリウス!ここは病室なのですよ!少しお静かに――」

 

その時、ドアが再び開いた。ダンブルドアがさっさと入って来たのだ。

 

「何事じゃ?コーネリウスよ。わしは忙しい身での。それに、ここで騒いでは病室で寝ている者達にとっては迷惑になるじゃろう?」

 

「何が忙しいだ!その割に悠々自適としている癖に!私は、私は魔法省大臣だぞ!」

 

「……そうじゃのお。コーネリウスよ。しばらく見ない内に、その――随分と自信を付けたようじゃの。」

 

「当たり前だ!!私はもう、あなたに何もかも助言を受けるだけの無能な大臣ではない!」

 

その台詞からして、見事な小物っぷりと無能を晒している気がするが敢えて言わない様にしようかね。

 

「何の証拠も無い癖に、例のあの人が蘇った!?バカバカしい!クラウチを病院送りにした凶悪な犯罪者は戯言を吐いた直後に消滅するし!!例のあの人以上の脅威が来るとも言ってたし!」

 

「全て本当の事じゃよ。君もあの場にいたのにも関わらず、それを黙殺する気かね?」

 

「クラウチの息子は狂っているんだ!ムーディに化けていた!?我が省が長期間かけて計画したイベントの裏で暗躍!?ルシウスの長男の失踪は自分が手引きしていた!?挙句に例のあの人の復活なんて!!!」

 

「嘘ではない。真実薬を使って分かった事じゃよ。そしてヴォルデモートの復活には、それ以上の危険な組織の陰謀も絡んでおったのじゃ。あ奴の破滅を願ってのお。」

 

「そんな!」ウィーズリーおばさんが驚く様に言った。

 

「犯罪者の戯言だ!ダンブルドア!!あなたはそんな人間の言葉を鵜呑みにする気か!?ええ!!?」

 

ファッジが喚く様に言った。

 

「勿論じゃよ。そうでなければ辻褄の合わん部分も出て来るからのお。それに、真実薬なんて使わなくてもあの者はわしらの前に現れて説明しておったじゃろう。そして証人なら、まだ2人おる。エリナ・ポッターとグラント・リドルじゃ。」

 

ダンブルドアがエリナの方をチラッと見た。

 

「あなたはその――あの狂人と、たかが10代半ばの少年少女の証言。それだけで判断したいと?」

 

「今の所はそれしかないからのお。2人が優勝杯に触れた後のやり取りに関しては、わしの部屋で一部始終を話そう。」

 

そこからの会話は平行線だった。ヴォルデモートの復活と、それ以上の組織の暗躍が始まっていると主張するダンブルドア。それに対して全部狂言だと否定するファッジ。意見が見事に別れた。

 

エリナとグラントが死喰い人の名前を挙げても、全員身の潔白が証明されているからと無視した。キットとアドレー義兄さんは、もうファッジに何を言っても無駄だと悟った様だ。

 

「ダンブルドア、あなたは本件に関してエリナの言葉を信じるというわけですな?」

 

「彼女だけではない。グラントの証言もある。これらは全て、辻褄が合っておる。」

 

「色々と情緒不安定な所があるとか、考えられないのかね?」

 

「まさか大臣。あなた、リータ・スキーターの記事を熟読していますね?」

 

俺が聞いた。ファッジは、思わずたじろいてしまった。が、また表情を元に戻す。

 

「だとしたらどうするのかね?君の妹は、蛇語使いじゃないか。そして、学校のあちこちで妙な発作を引き起こす。蛇語を使えるという事は、闇の魔法使いだという証だ。そして、兄である君も……!!!?」

 

ファッジは、これ以上何も言わなかった。いいや、言えなかった。キットとアドレー義兄さんが、覚醒状態の魔力を解き放って威嚇したからだ。

 

「エリナの傷跡が痛んだ事を言いたいのじゃな?コーネリウス、額の傷跡はあの子の頭脳を乱してはおらぬよ。ヴォルデモート卿が近付いた時に、もしくは何かしら強い感情が働いた時に彼女の傷跡が痛むのだとわしは信じておる。」

 

ダンブルの冷静な態度に、ファッジは少しばかり後退った。だが、それもすぐの事である。意気地な表情は変わらない。

 

「呪いの傷跡が警鐘となるなどという話は聞いた事がない!エリナ・ポッターは蛇語を使えるんだ!!ダンブルドア!それなのに信用出来ると言いたいのか!?」

 

「何て愚かな……コーネリウス!恥を知りなさい!」

 

マクゴナガル先生が、怒りで身を震わせながらそう言い放った。それだけじゃない。フィールド先生にスプラウト先生、スネイプ、シリウス、リーマス、キット、アドレー義兄さん、ウィーズリーおばさんも然りだった。俺達生徒の方も、ファッジのその態度を見てある者はドン引き、ある者はゴミでも見る様な目、またある者は殺してやるという態度になっていたのだった。

 

「うるさい!ここにいる全員がおかしいんだ!そして、私の14年を壊そうとしている!私が、私が築き上げた14年を!!」

 

「おい。アドレー。」

 

「何だい?キット。」

 

アドレー義兄さんは、2つの眼が保管された液体カプセルをじっくりと見つめながらキットと話のやり取りをする。

 

「あのおっさんの現実逃避ぶりを見てると、ジジイがこの国の魔法界を見限るのも無理はねえなって、俺は思うんだわ。」

 

「まあね。悪い意味で平和ボケしてしまうとこういう事態になるのは避けられないからね。そう言った意味では、我々ロイヤル・レインボー財団は脱しているともいえるね。」

 

「ハリー。」

 

「どうした?エリナ。」

 

「ファッジさんって、少し小心者だけど根はあの人なりに優しいんだって、ボク思ってたのに。」

 

「こんな所で大人の醜い部分を晒さないで欲しいと思うのは俺達だけかな?エリナ?」

 

「すまないね。目を覆い隠しても良いけど?」シリウスが言った。

 

「申し出は有り難いけど、これからの経験に必要な事として見ておく事にするよ。ありがとう、シリウス。それにリーマス。」

 

「ハハハ。ハリー。君らしいね。」リーマスが少し笑いながら言った。

 

またファッジの幼稚染みた戯言をじっくりと聞く。

 

「吸魂鬼をアズカバンから取り除けだの、巨人と手を組めだの!ダンブルドア!この私の政治生命を殺す為にそんな事を言ってるんだな!大臣職を追われるだけじゃない!もう2度と――」

 

「あ奴の脅威が完全に過ぎ去った後、君は紛れもない!最も勇敢で偉大な大臣として名を残すじゃろう!そしてコーネリウスよ!まだ分からないのかね!?このまま傍観していただけであれば、魔法界どころか、全ての世界そのものが無くなってしまうのじゃぞ!」

 

ダンブルドアの言葉をじっくり聞く俺。確かに的を得ている。が、ダンブルドア。やはりアンタは教育者として不向きだな。時々、他の人間を駒の様に扱う姿勢がある。速い対処が必要になるとはいえ、誰もアンタみたいな即断即決が出来るわけじゃない事を忘れている。これでは本末転倒なのさ。

 

「正気の沙汰じゃない!狂っている!私の城を無くさせてたまるか!そこまで言うなら、宣戦布告として受け取ってやるぞ!」

 

ファッジ以外の医務室にいる全員が、ファッジを睨み付けていたり、軽蔑の視線を送っていたりしていた。

 

「目を瞑ろうと言う決意がそれほど高いのであれば、コーネリウス。袂を分かつしか無いようじゃ。」

 

威嚇でも無く、ただ淡々としていた口調だった。

 

「そ、そうか!ダンブルドア!私に逆らうというのなら…………」

 

「わしに逆らうのはヴォルデモートじゃ。それにTWPFの首領マクルト、アルカディアのリチャード・シモンズもじゃよ。この巨悪に君が立ち向かうというのであれば、我々は同じ陣営じゃ。」

 

ダンブルドアのこの発言で、アドレー義兄さんとキット、シリウス、リーマスは眉を顰めた。今までの事があっただろうから、勝手に自分をダンブルドアの陣営に引き込むなという態度になっているのだろう。

 

「こんな狂った連中と一緒にいられるか!魔法省へ帰らせて……」

 

スネイプがダンブルドアの前に出た。そして、ファッジに自身のめくった左腕を突き出した。ファッジは、思わず怯んでしまった。

 

「大臣。これを見るが良い。闇の印だ。先日の夜には、黒く焼け焦げて、もっとはっきりしていた。互いに見分ける為の手段でもあり、召集する為のものでもあった。あの人が誰かの印に触れれば、すぐに『姿あらわし』で馳せ参ずる事になっていた。カルカロフが、何故逃げ出したと思う?この印は、今年度に入ってから鮮明になって来ていた……あの人が戻って来る事を知ったのだ。だからカルカロフは、闇の帝王の復讐を恐れて失踪した。自分だけが助かる為に、多くの仲間を売ったのだから、歓迎される筈が無い……我輩は、ダンブルドアにより完全にその後の身の潔白が証明されており、なおかつあちらの事情にも精通している。」

 

スネイプからも後退りしたファッジ。言った意味が分かってないらしい。スネイプの腕の印に嫌悪感を感じている様だ。

 

「…………ダンブルドアも、先生方も。さっぱりだ!一体何をふざけているのやら。そ、そうか!ホグワーツ全体で私を大臣職から追放する気だな!ふんっ、聞くまでも無かったな!私はこれで帰らせて貰おう!学校の経営で明日連絡をさせて貰うぞ、ダンブルドア……あぁ、そうだ。その前に。」

 

エリナと、近くで寝ていたグラントの傍に袋をドサッと置いた。金貨がジャラジャラ言っている。

 

「エ…………ポッター。そして、そこで寝ているリドルにも伝えておくと良い。君達の賞金だ。受け取ると良い。」

 

山高帽をグイッと被り、ファッジはドアをバタンと閉めて部屋から出て行こうとしたが、イドゥンは何かを決心した様にファッジの前に立ち塞がった。

 

「ファッジ大臣。これだけは言っておきますわ。」

 

微笑んでいるが、内心軽蔑しているのは容易に想像出来る。

 

「何かね?いつも誤解を招くような真似ばかりをしでかす者の子供が。私に何を?」

 

「その言葉。あなたへの最後の敬意として、記憶の底に忘却しましょう。ファッジ大臣……過ぎた保身は自分のみならず全てを破滅に追い込む。気付いた時には、もう何もかも失っている。その事を、良く覚えておくと良い。」

 

普段のお嬢様口調から、鋭い視線を交えた静かな怒りの口調と化していた。ファッジは、イドゥンのその姿勢に思わずたじろいてしまった。そして、逃げる様に魔法省へと帰っていった。

 

「あそこまでの清々しいクズっぷりを見てると、いっその事滅んだ方が良いんじゃねえのか?」

 

「それは否定しない。あのファッジという男。学校というのは行政の干渉を受けない機関だという事に気付いてないんだ。要は、教育と洗脳は紙一重なのさ。キット。もうここに用は無い。我々ロイヤル・レインボー財団は、独自の行動させてもらうとしようか。帰ろう。」

 

「おいハリー。また会えんのは数日後になる。ま、それまではホグワーツでゆっくりしてろよ。夏休み、みっちりと鍛えてやるからよ。」

 

「じゃあね。夏休みに。ホグワーツからの預かり物を手に入ったし。」

 

アドレー義兄さんが微笑みながら言った。

 

「分かってるよ、キット。アドレー義兄さん。今はさよならだ。」

 

キットとアドレー義兄さんが帰ろうとドアに手を伸ばそうとした。が、ダンブルドアが立ち塞がった。そして、声を掛けた。

 

「アドレーよ。君のご両親と長兄の事でロイヤル・レインボー財団がわしを快く思ってないのは十分承知しておる。じゃが、今はそうも言ってられないのじゃ。闇の時代を迎えさせない為にものお。だから事が済んだら、わしらをどれだけ憎んでくれても構わぬ。本当に……本当に今回だけじゃ。前回のような失敗と悲劇は繰り返さない様にすると絶対誓おう。いいや、誓わせておくれ。じゃから、君の方からわし達と協力してくれるようにアランに掛け合っておくれ。頼む。どうか……どうか。」

 

ダンブルドアが懇願する様に、アドレー義兄さんにそう言った。しかし、アドレー義兄さんは険しい表情となってこう告げた。

 

「ダンブルドア校長。私は、組織の上層部ではありません。それは、兄上や姉上も一緒です。ロイヤル・レインボー財団でそれを決めるのは、お祖父様と各国の支部長、それに幹部の方々だけ。財団の方針の決定の権限までは、私は持ち合わせていない。」

 

あくまでも感情的にならない様に、事務的に返すアドレー義兄さん。もうロイヤル・レインボー財団は、英国魔法界を既に見限っているからな。

 

本当は、ここには来たくなかっただろう。長兄のアルフレッドさんを平気で死に追いる様に仕向け、そして自分の両親を殺したスネイプだっている。これで怒りをぶつけない方がよほど立派だ。それに今は、俺がいる事もあって気持ちを抑えてくれて、今回ホグワーツに来てくれたんだ。感謝と申し訳なさで気持ちがいっぱいだよ、今の俺はそれしか。

 

「それでも、孫である君の言葉なら傾けてくれる筈じゃよ。」

 

「今回ホグワーツに来るまでに、あなたの事を調べましたよ。私の感想はこうです。こんな状況になるんだったら、お祖父様があなたを恨むのも無理は無いと。」

 

「……」ダンブルドアが苦い顔をする。スネイプも罪悪感に満ち溢れている表情となる。

 

「不死鳥の騎士団諸共、以前のやらかしをやっておいて、あなた方を我々が文字通り潰そうともしないだけでもかなり温情だとは思わないのですか?虫が良過ぎですよ。それを肝に銘じて行動した方が良いですよ。」

 

「何が愛だ!何が悔いているだ!犯罪者を匿っているだけじゃねえか!!!大を生かす為に、小を切り捨てやがって!いたずらにヴォルデモートなんて生かしておくから、こんな事態になったんだろうが!」

 

キットが、ダンブルドアに本気の怒りを見せてそう言った。でも、キットのあの怒りよう。ただ単に、会話をして不快になっただけの理由ではない気がする。まさか、ジジイはあの男の事をキットに直接話したのか?だとしたら、知らなかったとはいえジジイは地雷を踏んだのか。

 

「おい!それ以上、先生様に暴言を吐くんじゃねえ!」

 

「ハグリッド!やめるのじゃ!」

 

「ここは医務室なのよ!やめなさい!」

 

ハグリッドが、ダンブルドアとマダム・ポンフリーの言葉を無視してキットに襲い掛かる。掴もうとするが、キットは魔法なんて使わずに徹底した構えの脱力とスピーディ且つ滑らかな動作で跳ね退けてしまった。床に叩き付けられるハグリッド。

 

「す、凄い。」エリナが小声で言った。

 

「エリナ。キットは、マグルの軍隊格闘術を身に付けているんだ。あれは、ロシアの合気道とも言われるシステマだよ。」

 

「ゼロ。よく見ておいた方が良い。マグルの技術を完璧に習得した魔法使い程、厄介な存在はいないよ。特に、その境地に達したローガー家はね。」

 

「ああ、分かってるさ。あのキットって人、まるで弓術と少林拳を身に付けた兄さんみたいだったな。」

 

フィールド兄弟の会話が聞こえる。

 

「1つ言っておくぜ、デカブツ。力任せが通じるのは、格下の雑魚だけだ。技を持った同等以上の敵には勝てねえよ。それにな、これはテメエだけには限らないんだがな。魔力を持っているだけで、自分を無敵・最強だと勘違いしている魔法使いの寿命なんて短いのさ。」

 

キットは、アドレー義兄さんに目配せする。呆れながらも、アドレー義兄さんは頷いた。

 

「それでも、今後ハリーに必要なある物を戴いた事に免じて、全面的な協力は兎も角、拠点の提供くらいであれば私の方から掛け合いますよ。では、本当に失礼します。キット。今度こそ行こう。世界中に散らばった上層部の方々に、ヴォルデモートの復活とアルカディアにTWPFの活動が本格化して来た事を早急にご報告しなければ。緊急会議を開く様に伝えよう。」

 

「ああ。分かってるぜ。本格的に3つの組織、特にTWPFが動き出すんだからな。あいつらの方が、最も化け物染みてるんだ。これから、忙しくなるぜ。」

 

アドレー義兄さんとキットは出て行った。流石に、ここにいる全員の空気が悪くなった。

 

「アルバス。」マクゴナガル先生が心配そうに言った。

 

「ロイヤル・レインボー財団が加わるだけでもかなり事は有利に運ぶのじゃが、わしらが前回の戦いで作ってしまった根っこが余りに深過ぎるのお……そのツケを払う覚悟は出来ておるが、今このタイミングは勘弁してほしいと思ってるのが本音じゃよ…………とにかく、他にやるべき事がある。モリーや。君とアーサーは頼りに出来ると考えて良いかの?」

 

「勿論ですわ。ダンブルドア。ファッジがどんな魔法使いか、アーサーは良く分かってますわ。」

 

「アーサーに連絡を。真実が何なのかを理解出来る者を説得するには、アーサーが格好の立ち位置にいる。」

 

「僕が行きます。すぐに出発をしますので。任せてください。」

 

ビルが立ち上がって出て行った。

 

「ミネルバ。マダム・マクシームをわしの部屋に来る様に言っておくれ。」

 

「ええ。そうしましょう。マダム・マクシームも、自分の生まれに踏ん切りをつけるべきですからね。」

 

マクゴナガル先生はそう言って、部屋を出て行った。

 

「ハグリッドよ。大丈夫かの?」

 

「ええ。大丈夫です。」

 

「早速任務を与える。君にしか出来ぬ事じゃ。」

 

「分かりました。行って来ます。」

 

ハグリッドは、医務室を退出した。

 

「さて。シリウス、リーマス、セブルスよ。君達の名付け子達は仲良くやっておる。彼らを見習って、信頼を確固にすべき時じゃ。」

 

シリウスにリーマス、それとスネイプは向き合っている。スネイプの方は、特にシリウスの方へこれ以上の憎しみは無いという目つきで睨み合っている。それは、シリウスも同じだ。リーマスに関しては、出来ればここにはいたくないという顔をしている。

 

「握手だ、スネイプ。これっきりだがな。」

 

「貴様の姪と甥に免じて、この場ではそうしてやる。全てが片付いたら、すぐに解消はされるがな。」

 

「全く。ぶれないね、2人共。まあ、形だけでも良いからやっておこうか。」

 

リーマスが手を差し出した。スネイプがそれを乗せ、最後にシリウスが犬のお手をするかの様にそうしたのだった。

 

「姉ちゃん。伯父さんが犬のお手みたいになってる気がする。」

 

「否定はしませんわよ。」

 

ブラック姉弟が少し離れた所で会話していた。エックスは、もう元気そうだった。

 

「当座はこれで十分じゃな。では、シリウスにリーマスよ。君達2人には早速、昔の仲間に厳戒態勢を取る様に伝えておくれ。」

 

「で、でも――」

 

エリナが困惑した様に言った。分かっている。2人にはいて欲しいって事くらい。俺も同意見だ。

 

「またすぐに会えるさ。」シリウスが、俺とエリナに向けて言った。

 

「約束しよう。そして、何があっても私達は君達の味方だって事も。今は、私達だけにしか出来ない事をやる。ハリー。」

 

「……」

 

「私とシリウスがいない間、エリナを頼むよ。」

 

「…………分かってるさ。リーマス。」最初からそう決めてたんだ。

 

「2人共……ヴォルデモートは復活早々勢力を大きく減らされたとはいえ、脅威そのものは去ってない。出来るだけ急いだ方が良いよ。行動は、早くするに越した事は無いからね。行ってらっしゃい。」

 

俺にエリナ、シリウス、リーマスで手を握り合った。それを済ました後、シリウスはイドゥンとエックスを見る。3人で頷き合い、シリウスはリーマスと共に部屋から出て行った。

 

「フォルテよ。闇払いで説得の出来そうな者に声を掛けてくれないかの?」

 

「兄さん……。」ゼロは、戸惑いを隠せない。今のゼロの気持ちは、俺には良く分かる。

 

「大丈夫だ。私は死にはしないし、何があってもゼロを守り抜くと決めているから。それでは、行って参ります。」

 

フィールド先生は、ゼロに安心感を与える様な笑みを浮かべ、静かに去っていった。

 

「セブルス。君に何を頼まねばならぬのか、もう分かっておろう。もし、準備が出来ているなら……もし、やってくれるなら……」

 

「大丈夫です。行って来ます。」

 

「うむ。それでは、幸運を祈ろう。」

 

スネイプは、随分と青ざめて見えた。それでも、覚悟を決めたかの様に無言で立ち去った。まさか。やはりスネイプは……いいや、事実が変わるわけじゃねえんだ。今まで通りの態度を俺は貫いてやるまでだよ。

 

「エリナ、ハリー、グラント、ゼロ、イドゥン、エックス、セドリック、マリア。8人共、お大事にのお。ではモリーや。後は頼みましたぞ。」

 

ダンブルドアも退出した。残ってるのは、入院している8人。フレッドとジョージ、ジニー、ウィーズリーおばさん、ハー子、ネビル、そしてマリアだけだった。

 

「グラント。1000ガリオンは全部あげる。これからの学用品とか生活費に充てて。」

 

エリナがボソッと言った。

 

「お、俺も遠慮するぜ。スマイルもそこそこ金持ってるし、俺自身も無駄遣いしそうで怖えしよぉ。」

 

どうやら、2人共金は要らないらしい。俺もそうなんだがな。腐るほど持ってるし。ゼロは、羨ましそうな目で見ている。が、あれは2人だけの物だから取ってはいけないと自制している。

 

「ゆっくりとおやすみなさい。エリナ、グラント。しばらくは何か他の事を考えるのよ……欲しい物は何かとか考えなさいな。」

 

ウィーズリーおばさんは、2人に優しくそう言った。

 

*

 

同時刻。某国某所。どこかの暗い場所。両側に牢屋が存在する。そこには、様々な人間が収容されていた。その間の通路を平然と歩く3人の姿が見えた。ドローレス・アンブリッジの姿をした、正確には編み出した秘術で彼女の身体を乗っ取ったリチャード・シモンズ、バーティ・クラウチ・ジュニア、ドラコ・マルフォイである。

 

「フフフフフ。ドラコ。あなたは選ばれた人間よ。」

 

後ろを振り向かずにドラコにそう告げたリチャード。

 

「フン。そんな事、僕にはどうだって良い。それよりもだ。さっさとアンタの言う力って奴を僕にくれ。その為に、僕は来たんだ。」

 

挑戦的な口調でそう返すドラコ。その本心は、とりあえずスパイ活動の第1段階は完了だなと安堵の気持ちとなっている。

 

ジュニアが眉を顰めてドラコに杖を向けようとするが、リチャードが制する。

 

「シモンズ様!コイツは!!」

 

「元気があってよろしいのよ、ジュニア。私の為に怒ってくれるのは本当にありがたいけど、気にしないで頂戴。」

 

「分かりました。」

 

それでも、ドラコに報復を何時か行ってやると心に誓ったジュニアであった。

 

『これで、直系ではないけどブラック家の血を色濃く継いだ魔法使いの身体は、私の物同然よ。これからの2年半が待ち遠しいわあ。』

 

不敵に笑うシモンズであった。

 

*

 

翌日の夜、俺を始めとした8人は退院した。ハー子とネビルの話によれば、入院した8人に出会っても、本人から言い出さない内は無理に聞いてはならんとダンブルドアが朝食の席で言ったらしい。ヴォルデモートの事についてはともかく、ホグワーツの裏側で起こった事は、関わった当事者しか知らない事になるだろう。俺達6人で、そう決めたのだから。質問はされなかったが、その代わりヒソヒソが絶えなかった。

 

談話室に戻った時。いつもなら3人分の荷物が置いてある筈だ。だが、今は俺とネビルの2人分しかない。ロンは、必要最低限の物しか持って行かず、残りもウィーズリーおばさんが帰る時にまとめて持ち帰ったのだ。

 

「何か……広く感じるな。」

 

「本当なら3人用だからね。今はさ。ほら、僕とハリーの2人だけだもの。」

 

「だな。」

 

フィールド先生が回収し、受け取ったロンの杖をローブから取り出して握りしめる俺。

 

「来年は、荒れるぜ。ネビル。魔法省はあの手この手で干渉してくるだろうし、変態ヘビも勢力を大きく減らされたとはいえ、本当に忠実な奴らは、まだアズカバンで生き残っている。その中には、お前の…………お前の両親を再起不能にしたレストレンジ共もいる。だから……」

 

「分かってるさ、ハリー。それ以上は言わなくて良いよ。祖母ちゃんがいつも言ってたんだ。例のあの人は、絶対に戻って来るって。覚悟なんて、もうとっくに出来てるさ。それを僕は受け入れるだけだよ。そして、勝って見せるよ。」

 

俺とネビルは無言で向き合う。そして、互いに拳を突き出してこれからの戦いの健闘を祈り合った。

 

時は、家に戻る前夜まで進む。エリナ、ゼロ、グラントの3人が空き時間を利用して、ハグリッドの所へ向かった。マダム・マクシームと仲直りし、ダンブルドアからの仕事をこれからすると言った。何なのかは教えてくれなかったが、ゼロの予想では巨人と同盟を組む為だろうとの事だそうだ。

 

トランクに荷物を詰め終え、大広間に向かう。今回は、レイブンクローが優勝し、寮対抗杯を獲得した。だが、飾り付けが無い。黒い垂れ幕になっている。

 

『素直に祝える筈も無いよな。』

 

ふと、スリザリンの席を見る。主に4年生だが、全員意気消沈している。無理もないな。今頃ドラコが、命がけの任務をしに行ったのだから。

 

全員が座ったと同時に、ダンブルドアの演説が始まった。だが、今までとは違って重々しいものである。

 

「今年も、終わりがやって来た。今夜は、色々と皆に話しておきたい事がある。」

 

大広間を見渡すダンブルドア。これから話すのは辛い現実だ。あって欲しくは無かった。だが、いつか来るものだと予想出来た。

 

「ヴォルデモート卿が、復活した。」

 

その言葉を聞いて、全く音がしなくなった。だが、ザワザワと騒ぎが大きくなっていった。

 

「それと同時に、それ以上の巨悪、アルカディアと終わりを生み出す者と呼ばれる組織も本格的に動き始めた。」

 

皆、もう何が何だか分からないそうだ。

 

「魔法省は、わしが皆にこの事実を伝える事を良しとしておらん。皆の両親にはわしが話したという事で驚愕なさる方もおられるじゃろう。その理由は、ヴォルデモートの復活を信じられぬから、又は皆の様に年端のゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。じゃが、わしはこう思う。大抵の場合、真実は嘘に勝ると。アルカディアと終わりを生み出す者は、ヴォルデモートを打ち滅ぼす暗躍をする裏で、それぞれドラコ・マルフォイとロナルド・ウィーズリーを自らの陣営に招き入れたのじゃ。」

 

グリフィンドールとスリザリンの席がざわついた。ドラコの取り巻き達は、動揺している。

 

「そして、その3つの脅威を教えてくれた人物が2人おる。グラント・リドルとエリナ・ポッターじゃ。」

 

殆ど全員がエリナとグラントを見る。だが、すぐに視線をダンブルドアへと戻した。

 

「2人は、辛くも3つの組織からの手を逃れたのじゃ。勇気を振り絞って、お辞儀にうるさいヴォルデモートと戦ったのじゃ。そう言う勇気を、2人は示してくれたのじゃ。わしは、2人を讃えたい。」

 

ダンブルドアが立ち上がり、ゴブレットを上げた。殆ど全員が、立ち上がって乾杯した。席に着いてから、次にダンブルドアは語った。三大魔法学校対抗試合の目的を、そして世界を揺るがす巨悪と戦うには揺るがぬ絆が必要だと。そう言い終えて、食事が始まった。

 

帰宅当日、ボーバトンとダームストラングは帰っていった。それぞれ、馬車と船で。

 

汽車で新聞を読む。コンパートメントは、俺とエリナの2人で確保した。近くには、他の仲間が確保している。やはり、新聞には何も書かれてないか。とことんまで魔法省は、保身に走る気満々だなと感じた。

 

「そう言えばここ最近、リータ・スキーターの記事が載ってないけど、どうしたんだろう?」

 

菓子を食っていたエリナがふと思い付いた様に言い出した。

 

「フィールド先生がゼロから渡されて、色々な実験材料として使ったらしいぜ。当分は、記事を書く気力も失せたらしい。」

 

「へえ。」

 

「そういやエリナ。グラントと一緒に、優勝賞金をフレッドとジョージに渡したんだってな。」

 

「うん。ギャンブルに勝ったのに、踏み倒されちゃったんだって。だから、笑いや楽しみを提供して貰おうと思って、あの2人にあげたんだ。グラントも是非って賛成してくれたの。」

 

「そっか。」

 

キングズ・クロス駅に着き、ダーズリーの元へ帰るエリナを見送った。

 

「…………」

 

「…………」

 

エリナが一旦振り向いた後、俺と視線を合わせた。そして、互いに頷いた。また遠くない日に会おうと。

 

『来るものは来る、来た時に受けて立てば良い。例えそれが、何者であろうとも。待ってろよ、TWPF。俺の取り巻く因縁に、終止符を打ってやるからな。』

 

俺も、ロイヤル・レインボー財団が手配した車で、家まで帰って行ったのだった。新たな決意を胸に。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。