では、今宵の恐怖劇を始めよう (銀鈴)
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では、今宵の恐怖劇を始めよう

 これは、記憶するまでもない事だ。

 

 ーー君には、僕たちの娯楽の為に転生をしてもらうーー

 

 かつて、私の身に起きた現実離れした出来事。

 

 ーーまあ、創作物が溢れている世の中だしね。分かるだろう?ーー

 

 誰かの言葉を借りる程の知識も残ってはいない。記憶がかなり飛んでいるのだ。私が、痴漢だと叫ぶクソ女に線路に突き飛ばされ、そのまま轢かれて死んだ時に。

 

 ーーだから分かるかも知れないけれど、所謂チートという物を3つ、選ばせてあげようーー

 

 自分の名前も、家族も、友人の記憶も欠損している私だけれど、自分が主人公の様に活躍なんて出来ないという確信だけ胸にあった。

 

 ーー君の行く先は、Re:CREATORSの世界だ。無限の剣製でも、王の財宝でも好きなものを選ぶといいーー

 

 神、と名乗るこの靄が例に出したものは、確かに素晴らしいチートなのだろう。だけど、全く惹かれない。ボロボロの記憶でも心に焼き付いた、あの作品の熱には遠く及ばない。

 ならば、私が望むことは……

 

「今、覚えている記憶を全て、2度と忘れない様にしてください」

 

 ーー引き受けたーー

 

「向こうの世界で、平均的な容姿にしてください」

 

 ーー引き受けたーー

 

「向こうの世界で、『Dies irae』を大ヒットさせてください」

 

 ーーくっ、くくっ、引き受けたーー

 

 新たな世界で、再びあの熱を、素晴らしき厨二具合を感じられないなんて嫌だ。何がなんとしても、味わってやる。そんな願いのカケラを抱きながら、私の意識は暗闇に落ちていった。

 

 ◇

 

 転生してからはや十数年間。学生の身である私は、転生前の知識で情報をかき集め、原作開始日にあの駅の前に来ていた。

 

 上空で戦闘を繰り広げる、セレジア・ユピティリアとアルタイル。忘れる事のできない記憶の片端に残る、アニメの映像と同じ光景。

 けれど現実は、その2人の上に黄金の陣が浮かんでいた。そして朗々と、聞き間違えようもない詠唱が響いてくる。

 

 

 

 怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し

 Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla.

 

 ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る

 Teste David cum Sybilla.

 

 たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者が来たり

 Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus,

 

 厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える

 Cuncta stricte discussurus.

 

 我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ

 Tuba, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum,

 

 皆すべからく 玉座の下に集うべし

 Coget omnes ante thronum.

 

 彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん

 Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla

 

 されば天主よ その時彼らを許したまえ

 Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.

 

 慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン

 Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen.

 

 

 

 この駅前も、アニメの時の様な空気には包まれていない。アルタイルも、セレジア・ユピティリアでさえも動きを止めている。

 そうだろう、そうでなくてはいけない。私があの神へ願ったお陰で、世界レベルで大ヒットした『Dies irae』の承認力は、他の作品なんかとは桁違い……前世でいうならドラえもんレベルにまで格上げされている。故に、生の獣殿がおいでなさる確率は100%なのだ。

 

 

 

 海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの 水底の輝きこそが永久不変

 Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen Am tiefen Grund der Felsen auf,

 

 永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

 Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf.

 

 どうか聞き届けてほしい

 Doch deine Boten,

 

 世界は穏やかに安らげる日々を願っている

 Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.

 

 自由な民と自由な世界で

 Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.

 

 どうかこの瞬間に言わせてほしい

 Zum Augenblicke duerft ich sagen

 

 時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

 Verweile doch du bist so schön――

 

 永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

 Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan.

 

 

 

 諏訪原ではなく、呼び出された結果ここ新宿の真上で行われる最終決戦。個人としては大歓迎、垂涎ものの素晴らしいものだ。ツァラトゥストラとニートまで呼び出されいる様なのは予想外だがね。加えて言えば、私はマリィの黄昏に世が移ろうとも、獣殿の鬣になっても構わない。勿論永劫の回帰に囚われても、それはそれで素晴らしい事だ。波旬の第六天は許さぬが。

 

 そんなことは置いておいて、今この瞬間を、お決まりの台詞で讃えたい。

 

「では1つ、皆様至高の歌劇をご覧あれ」

 

 Atziluth――

 Atziluthーー

 

「その筋書きはありきたりだが」

 

 Du-sollst――

 

「役者が良い。至高と信ずる」

 

 Res novae――

 

「ゆえに、面白くなると思うよ」

 

 Dies irae

 

 Also sprach Zarathustra

 

 瞬間、私以外の全ての人間が倒れ伏した。別に薔薇騎士の創造ではないのだから、命に別状はない。

 そんなプレッシャーを受け流しながら、私は笑って、嗤って、歓喜のままに叫ぶ。

 

「ああ、私は今ーー生きている!」

 

 原作勢が、新たに現れたメテオラ・エスターライヒごとボロボロになっているけど知ったことか。

 2度と消えない記憶の所為で、ある意味()()()()()()()()()()()()()()私にとって、今この瞬間こそが、陳腐な言葉になるが最高の瞬間なのだ。

 

「ふはは、はははははははは――――」

 

 こんな、原作をぶち壊した状況は、さぞあの神も楽しんでいる事だろう。

 

「はははは、はははははははははは―――!」

 

 おっと、自己紹介を忘れていた。

 私の名前は、水瀬 銀狐。外宇宙から飛来した変態、コズミックストーカーこと、カール・クラフトに容姿が極めて似ているだけの、可愛らしい矮小な転生者である。

 

 




オリ主イメージはセーラー服着たメルクリウス

続きません


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