家出少女の幻想奇談 (Ar kaeru Na)
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プロローグ「変な娘がやって来たわね」
「何で飛べなくなってるのよ」挿絵有


どうも久しぶりです。初めての方はそのままで。
艦これの方の息抜きとして東方のを書いていきます。
どうぞよろしくお願いします。


あるところのお屋敷に、1人の女の子が住んでいました。

女の子の家は普通とは少し違っていて、そのために、あまり家から出してもらえず、友達ともほとんど会えませんでした。

それが嫌だった女の子はある日家を飛び出しました。

家の人がすぐに後を追いましたが、女の子の姿はどこにも見当たりませんでした。

 

え?いきなり何を言ってるのかって?失礼ね、ちゃんと嘘はついてないわ。

 

じゃあ、こんなお話はどうかしら。空を飛べなくなった巫女の話。そう、あの巫女よ。滑稽でしょう?

これなら面白いんじゃないかしら。勿論、嘘はついてないわ。

 

それじゃあ、私が創り変えたお話(現実)を聞かせてあげるわ

 

―――――――――

 

 

「ふぅ、すっかり遅くなったわね」

 

「あぁそうだな。夜は妖怪の天下だ。人間は家に帰って寝るに限るぜ」

 

妖怪が跋扈する夜の幻想郷。

そんな危険極まりない夜の小道を2人の少女が歩いていた。

 

「しかし良かったな霊夢。これでしばらくは生きていけるな」

 

白黒の少女、霧雨魔理沙は少しからかうようにそう言った。

 

「うっさいわね、っていうかどういう事よ。そもそも、うちは決してお賽銭がゼロな訳じゃないわ。それにもしゼロだとしても今まで生きてきたんだからどうとでもなるわよ」

 

紅白の少女、博麗霊夢は魔理沙に向かってそう言い、ふん、とそっぽを向いた。

 

いつもは神社でお茶を飲んだり境内の掃き掃除などで暇を持て余している霊夢だったが、今日は珍しく里の庄屋が御祈祷をお願いしてきたため、巫女の仕事として里に出向いていたのだ。

 

御祈祷だけのはずが、庄屋に悪霊が憑いているのを霊夢が気付き、裏で操っていた妖怪を退治したことで、庄屋は大いに感謝し、その分、報酬は弾んだのだった。

 

霊夢の言葉に、それはそれで巫女としてどうなんだろうな、と魔理沙は言いつつ、分かれ道の所で立ち止まる。

 

「私はこっちだ。じゃあな霊夢、家に帰るまでが妖怪退治だぜ」

 

手に持っていた箒にひょいと跨がると、魔理沙はふよふよと空へと飛んでいった。

 

霊夢もため息を1つつくと神社へと歩を進めた。

春が終わり、夏に近付いているとはいえまだまだ肌寒い。

身体が冷えないうちに帰ろうと足を早めたとき、突如、静かな夜に叫び声が響き渡った。

 

「きゃああああーー!!」

 

「っ!?今の声は……!」

 

霊夢は地を蹴り宙に浮き、樹木の上に出て辺りを見回す。

 

「……こっちか」

 

持ち前の『勘』で悲鳴の上がった方角へと直行すると、少しもしないうちに、悲鳴の主を発見した。

見たところ、霊夢と同じくらいの女の子に見えるが、幻想郷ではあまり見かけない服を着ていた。

 

(あれは……外の世界の人間ね)

 

霊夢の勘がそう告げていた。

 

幻想郷には忘れ去られたものがやってくる。人間もまた(しか)りだ。

このような場合は“迷い込んだ”と言ったほうが正しいだろう。

 

ともかく、悲鳴を上げた女の子は妖怪に襲われる寸前だった。

妖怪が飛びかかろうとした瞬間、霊夢は(ふところ)から御札を取り出し、投げつける。

 

「警醒陣!」

 

女の子の目の前に霊力の壁が作り出され、飛びかかった妖怪はそれに阻まれ、次いで衝撃波のようなもので吹き飛んだ。

 

霊夢が妖怪と女の子の合間に割り込むように降り立つと、「ひっ!」と女の子が小さく悲鳴を上げる。

 

「あんたは『猩々(しょうじょう)』ね。これ以上この子を襲おうとするなら、私が相手になるわ」

 

霊夢がそう言うと、猩々は一息に飛び込んできた。ほとんどの妖怪は博麗の巫女が妖怪退治の専門家である事を知っているため、よほどの事が無い限り戦闘を仕掛けることは無いのだが、目の前の猩々は気が高ぶっているようだ。

 

「そう、なら一撃で決めさせて貰うわ!

“スペルカード”!夢符『封魔陣』!」

 

取り出した1枚の(カード)を掲げて、そう宣言する。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

その瞬間、霊夢の周囲に結界が形成され、物理的な障壁となって展開される。

猩々は()(すべ)無く吹き飛んで夜の闇に姿を消した。

 

「ふん、ザコね。私に勝とうなんて四十九日早いのよ。……さぁ、これでもう安心……」

 

くるりと後ろを振り返って女の子に声を掛けようとした霊夢だったが、いるはずの女の子がその場におらず言葉を詰まらせた。

見ると女の子は、霊夢に背を向けて(恐らく)全力で走り出していた。

 

「って、ちょっと!」

 

霊夢が呼び掛けても女の子は止まる素振りを見せない。

仕方なく霊夢も走って後を追う。

 

「何で逃げるかなぁ、やっぱり外の人間はどこかズレてるのよねぇ……こら止まれーーっ!」

 

しばらくそんな追いかけっこが続いたが、しびれを切らした霊夢は再び重力から解き放たれ宙を舞う。

 

女の子の頭上を飛び越え先回り。女の子の前にタっと降り立つ。

女の子は目の前に急に現れた霊夢に驚き、ズテン!と派手に転んだ。

 

「全く……夜の幻想郷(ココ)は本当に危ないのよ?私が偶然近くにいたから大丈夫だったけど。とにかく、神社まで来てもらうわよ。

迷い込んだ人間はそういう決まりなの」

 

霊夢がへたり込んでいる女の子に手を差しのべる。しかし女の子は怯えた様子で霊夢を見つめるばかり。

 

「あーもーじれったいわね!」

 

霊夢が女の子を立たせようと強引に腕を掴んだその時だった。

 

霊夢の身体中を電気が流れたような衝撃が襲い、まるで拒絶されるように後方に吹き飛ばされた。

 

突然の出来事に暫く呆けていたが、我に返ると女の子の襟首に掴みかかり、ブンブンと前後に揺さぶりながら怒りの言葉を連ねる。

 

「アンタ一体何したのよ!そもそも妖怪から助けてあげたっていうのに、恩を仇で返す気!?」

 

女の子は何も答えない。額に青筋を浮かべながら顔を覗き込むと、女の子は気を失っていた。

 

ため息を吐いて襟首から手を離す。

 

相手が聞いていないのなら、ここでいくら怒ったところで無駄。

この怒りは女の子が目覚める時まで取っておくとして。

 

(それにしてもさっきの衝撃は何?まるで結界が壊れたときみたい)

 

霊夢はそう先の出来事を疑問に感じつつも、女の子を神社に連れ帰る事にした。

 

このまま気絶した状態で外の世界に帰した方が、何かと面倒事が少なくて済むと思ったからだ。

 

よいこらしょ、と女の子を背負うと、霊夢は重力の束縛から解き放たれ空を飛ぶ。

 

 

 

………そのハズだった。

 

「……え」

 

霊夢が自らの足元を見る。いつものように、先程のように、空を飛ぼうとしているのに霊夢の両足は地に着いたままだった。

 

その後、力を込めたり、飛び跳ねたりしてみるが、霊夢の身が宙に浮かぶ事は無かった。

 

「……何でよ」

 

ゼーハーと息を切らして霊夢は叫んだ。

 

「何で飛べなくなってるのよーーーーっ!!」

 

先程と同じように、気を失っている女の子の襟首を掴んで揺さぶる。

 

「アンタでしょ!?いやアンタしかいないわ!!やっぱり私に何かしたわね!?

ハっ……!まさか人間に化けた妖怪か!」

 

霊夢が女の子を無理やりにでも起こそうと激しく揺さぶっていた時、周りの木々から妖気を感じ取った。

 

(……さっきの猩々の仲間か。囲まれているわね……)

 

御札を取り出し臨戦態勢を取る。

そんじょそこらの妖怪にやられるなんて事は殆ど無い霊夢だが、今は突如として空が飛べなくなったことによるショックの方が大きかった。

 

猩々たちに囲まれて、じりじりと間合いを詰められる。敵の数が多い。霊夢と言えども、圧倒的な物量には()()押されてしまう。

 

一触即発の中、暗い夜の闇が突如として、降り注ぐ星の雨でかき消された。

 

「“スペルカード”魔符『ミルキーウェイ』!」

 

降り注ぐ星屑と共に、夜の闇と同じように黒い服をまとった少女、魔理沙が(カード)を掲げて空から降り立つ。

 

「さらに駄目押しの……魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

魔理沙を中心として星弾の輪が広がり、辺り一帯に飛び散った。

潜んでいた猩々たちは恐れをなしたか、悲鳴を上げて散っていった。

 

「昼間は霊夢に譲ったんだ。夜くらい暴れてもいいだろう?」

 

「いつも暴れてる気がするけど……家に帰ったんじゃなかったの?」

 

「悲鳴のみならずドッタンバッタン聞こえたんでな。それよりどうした、猩々(ザコ)相手に攻めあぐねるなんてらしくないな」

 

霊夢は魔理沙の肩を勢いよく掴み、鬼気迫る表情で一連の事態を説明した。

 

「うーん、霊夢が言うと全部冗談にしか聞こえないな。本当に飛べなくなったのか?」

 

「本当だって言ってるじゃない!絶対にコイツが何かやったのよ!」

 

物凄い剣幕に押され気味だった魔理沙は、霊夢を一旦(なだ)めると言う。

 

「まぁそれが嘘か本当かは別として、ひとまず神社に戻ろうぜ。どちらにせよ、そいつには話を聞かんとならんだろうし」

 

「どこまでも信じないつもりね……でも確かに神社に帰らない事にはどうしようもないわ」

 

結局、2人は謎の女の子を連れて神社に戻る事となった。

霊夢は人知れず、最近やっと落ち着いてきたのに、また厄介事が舞い込んできたな、と思うのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

・博麗霊夢

言わずとしれた巫女。空が飛べなくなったっぽい。

 

・霧雨魔理沙

ひねくれ者の魔法使い。今回暴れただけ。

 

・女の子

外来人のようだが、気絶中。

 

・猩々

妖怪。動物の方じゃないです。

 

 

 

 




次話は挿絵描けたら投稿します


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「ここはどこなんです」挿絵有

前回のあらすじ
霊夢は空が飛べなくなった


 

 

 

「まさか本当に飛べないとは。正直ここ最近で一番の驚きだぜ」

 

「はぁ…はぁ…、アンタさては殺す気ね?」

 

明朝の博麗神社。なにやら随分と騒がしい。

 

「空を飛べない巫女なんて不思議でもなんでもないな。ただの巫女だ」

 

「空飛ぶ事だけが取り柄みたいに言うわね。間違っちゃいないけど」

 

いつものように神社に来た魔理沙は、霊夢が本当に飛べなくなったのかを確かめていた。

 

具体的には箒に霊夢を乗せて、高いところから落としてみたり。

 

「ぎゃああああ!!?」と悲鳴を上げて落ちた霊夢だったが、持ち前の身体能力と結界術でなんとか一命を取り留めた。

 

「でもどうしてそんな事になってるんだよ」

 

「私だって分からないわよ。多分あの女の子が何かやったんだと思うけど……」

 

昨晩助けた女の子は、未だに目覚めてはいない。最初、人に化けた妖怪かと疑いを掛けていたのだが、彼女の所持品の中には外の世界の人間である事を示す品々があった。

 

「あの()、菫子と同じ『スマホ』とか言うヤツを持ってたわ」

 

「スマホ?……あぁ、香霖が文鎮って言ってたアレか」

 

「そう、アレを持ってる。しかも香霖堂にあるのと違って動くのよ、ホラ」

 

霊夢が(ふところ)から黒い長方形の板を取り出す。

ボタンらしきものを押すと黒かった板が光り出す。

 

「おぉ、確かに菫子の持ってるのと同じだな。でもこれ以上動かないじゃないか。菫子のやつは天狗の写真機みたいに写真が撮れたぜ?」

 

「あれこれしてたら封印しちゃったみたいなのよ」

 

魔理沙にズイっと見せると、光る板には『ロックされています』と書かれていた。

 

「他に何か無いのか?」

 

(かばん)の中には食べ物と財布と河童が持っていそうな道具が色々、あと錠前が付いた変な箱があったわ」

 

「河童が持ってそうな…って、多分工具類か。箱は開けないのかよ。お前ならすぐ開けられるだろ?」

 

「さすがに勝手に開けちゃマズいでしょ?鍵まで掛かってるし」

 

魔理沙は「鍵が掛かってるからこそ開けなきゃだろ」と言うが、霊夢は適当な理由を付けて言いくるめた。

 

「とにかく、スマホ(コレ)を持ってるって事は十中八九、外の世界の人間だわ。でも何で……」

 

霊夢はそれきり黙り込んでしまった。

魔理沙はしばらく言葉を待ったが、霊夢が一人で考え込んでしまっているのを見て騒ぎ出す。

 

「でも、何だよ!私そっちのけで考え込むなよ」

 

「……取りあえず中に入りましょ。朝から疲れたわ」

 

「無視かい、まぁいいぜ」

 

2人は神社の中へと戻った。

「お茶淹れるから待ってて」と言って、霊夢は湯呑と急須を取りにお勝手に引っ込み、魔理沙は言われなくてもくつろいでいる。

 

「おい霊夢ー」

 

「ちゃんと煎餅も用意するわよー」

 

「それはいいんだが、女の子は隣で寝てるんだよなー?」

 

「それがどうかしたー?」

 

「もぬけのカラだぜ」

 

ドタドタドタッと慌てて霊夢が駆けてくる。

(ふすま)を開け放つと、布団に寝ているハズの女の子の姿は無かった。

 

「魔理沙!」

 

「分かってるぜ、まだ遠くには行ってないはずだ」

 

魔理沙が外に飛び出し、箒で空から辺りを見回す。

 

「おっ、いたいた。霊夢ー、参道の方だ」

 

魔理沙はスイーっと先回りし、女の子の行く手をふさいだ。

 

「そんなに急いだって誰も追ってきやしないぜ」

 

「ひぅっ!?」

 

女の子は驚いた様子で足を止める。

一言、「ま……魔女だ…本物……」と呟いてオロオロし始める。

 

「あぁ、本物かもな。今なら期間限定で、本物の魔法使いによる誘拐キャンペーンをやってるんだがどうだ?特別にタダにしといてやるよ」

 

女の子は顔面蒼白になると参道の脇、つまり林の方に逃げようとした。

 

「あー、やめときな。そっちの方には人喰い妖怪がわんさかいて危険だし、そっちに逃げられると探すのが面倒くさい」

 

魔理沙の言葉に反応して女の子の身体が硬直する。

しかし諦めずに逃げ道を探す女の子。一旦来た道を引き返そうとしたが、ちょうど霊夢が追いついた。

 

「全く、どんだけ私から逃げるのよ。アンタには訊きたい事が山ほどあるんだから!」

 

前後を挟まれた女の子は、逃げ道を失った事を悟ると、一か八かの勢いで再び林の方へ飛び込もうとした。

 

「待ちなさい!これがどうなってもいいの!?」

 

霊夢が取り出したものは女の子が持っていたスマホだった。

女の子は慌てて持ち物を確認するが、それは間違い無く彼女のものだった。

 

「外の世界ではコレがないとかなり困るんでしょう?私から逃げればコレは戻らないわよ」

 

「すげぇぜ。まるで物語の悪党のようだ、霊夢が」

 

魔理沙の言葉を無視して霊夢が女の子に迫る。

女の子は霊夢をキッと睨むと、

 

 

「ぅわあぁ~~~~ん」

 

 

一転して大声で泣き始めた。

 

驚いたのは霊夢と魔理沙の方だ。

 

「おおお、おい、泣いちゃったじゃないか。何やってるんだよ」

 

「な、ななな泣くなんて思って無かった……いや思わないでしょ!ああアナタ大丈夫?誘拐とかそう言う訳じゃないから……」

 

女の子はびえーんと声を上げるばかりで泣き止む様子は無い。

 

いよいよを持って困り果てた2人だったが、その2人に声を掛ける者がいた。

 

「ちょっと、一体何の騒ぎなの?」

 

声を掛けたのは神社に訪れる面子の中で唯一まともな会話の出来る山の仙人、茨木華扇だった。

 

 

*少女祈祷中…*

 

 

「菫子と同じ外の人間だって?それ本当?」

 

「あぁ、間違いないぜ。しかも菫子同様、変な術を使ったらしいって霊夢が言ってた」

 

泣きじゃくる女の子を何とか説得して神社に戻って来た霊夢たちと華扇。

 

霊夢が改めてお茶を淹れるとお勝手に引っ込んでしまったので、華扇は魔理沙から今までの経緯を訊いていた。

 

女の子は華扇と魔理沙の前に机を挟んで座り、身を小さくしてチラチラと2人を見ていた。

 

「神社に来たらお茶の用意があったのに霊夢の姿が見当たらなかったからね。待っていたら女の子の泣き声が聞こえたので慌てて駆けつけたのよ。

そしたらあなた達が女の子を泣かせていたから……」

 

「人聞きの悪い事を言うもんじゃないぜ茨華仙よ。

泣かせたのは霊夢だ。私は何もやっちゃいない」

 

魔理沙がそう言ったとき、ちょうど霊夢がお茶と煎餅を持って戻ってきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何言ってんのよ。あの場に居た時点でアンタも共犯よ」

 

「あれ、霊夢じゃないか。どうしたこんなところで?」

 

「どうしたもこうしたもここは私の神社よ!」

 

ドン!と、お茶の載ったお盆を机の上に置く。

 

「霊夢、事情は聞いたわ。でも本当に結界を越えて外から来たのかしら?菫子のように夢幻病という可能性は……」

 

「無いわね。アレなら向こうで目が覚めたら勝手に戻るはずでしょ?

この子は昨日の夜からずっと居るの。普通に就寝しているだけかもしれないけど、もう陽が昇ってるもん」

 

「まだ起きていないとしたら、とんだ寝ぼすけだな」

 

それもそうか、と華扇は相槌をうつ。

深秘異変――都市伝説の出来事に関わっていないのは明らかであるからだ。

 

そこで女の子が怯えた瞳でこちらをじっと見ているのに華扇は気付いた。

 

「あぁ、ごめんなさいね。勝手に話し込んでしまって。私は茨華仙。貴女の名前は?」

 

女の子は、ややあってから小さく言う。

 

「……矢村(やむら)弥継(みつき)。あの…ここはどこなんです?何かのコスプレイベントか、映画の撮影ですか?」

 

「いや……落ち着いて聞いて。ここは幻想郷と言って貴女の住む所とは少し異なる世界なの」

 

華扇の言葉に弥継と名乗った女の子は首を傾げた。

 

「……異世界ってことですか?そんなの信じられる訳が…」

 

「でもお前は私が飛んでるのを見たろう?外の世界じゃ、簡単には飛べないんじゃないのか?」

 

魔理沙の言葉に女の子は口をつぐんだ。図星だったのだ。

 

「まぁ異世界ではないんだがな。私は博麗霊夢、巫女だぜ」

 

「でたらめ言うな。私が博麗霊夢よ。コイツは霧雨魔理沙」

 

「私としたことが。看護婦と言うべき事を忘れてたぜ」

 

霊夢と魔理沙が自己紹介というには、あまりにもへんてこりんな事を言う。

 

「この2人はほっといて……貴女はどうして幻想郷に迷い込んだのかしら?」

 

「どうしてって言われても……」

 

「幻想郷は基本的に貴女たちの世界とは行き()出来ないの。ここに来るまでに何をしてたかとか、話してくれないかしら?」

 

華扇の問いに暫し悩んだあと、弥継という女の子は、ぽつぽつと語り出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

・博麗霊夢

巫女さん。やっぱり飛べなくなったご様子。

 

・霧雨魔理沙

魔法使い。今回、本物の魔女と言われてちょっぴりご機嫌。

 

・茨木華扇(茨華仙)

山の仙人。神社メンバー内の数少ない常識人。

 

・女の子

幻想郷に迷い込んだ、外の人間。矢村弥継という名前らしい。

 

魔理沙「私とした事が〜〜」

紅魔郷Exステージ、魔理沙とフランドールの会話から

 




次は話が書け次第です


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「博麗の巫女代理よ」

前回のあらすじ
逃げた少女を捕まえて事情聴取


 

 

女の子はぽつぽつと語り出す。

 

「家を出て、夜の林に入っていったら……」

 

「ちょっと待って。家を出て…って1人でかしら?夜の散歩にでも出たの?」

 

霊夢が訝しげに訊ねる。

夜に女の子が外に出るなんて、幻想郷でもあまり見かけない。

 

「それは……そのまんまです。家出したんです」

 

「「「家出ぇ~?」」」

 

霊夢、魔理沙、華扇の3人が素っ頓狂な声を上げる。

 

「どうしてそんな事したのよ」

 

「おい霊夢、そういうことは突っ込むべきじゃないぜ」

 

魔理沙がそう釘を差す。確かにそうなった経緯は少なからず私情を挟むもの。

幻想郷の住民ならいざ知らず、外の人間、初対面の者に訊ねるのはいささか失礼だったかも知れない。

 

家出経験者が言うのだから、多分そうなのだろう。

 

「いや別に構いませんけど……」

 

「いいのかよ、じゃあ遠慮無く訊くぜ。どうしてだ?」

 

「実は、家の方が何だか由緒ある家柄らしくて……そのせいで学校にも通えないし、友達とも全然会えなかったんです」

 

「由緒ある家柄ねぇ」

 

霊夢は魔理沙の方を見るが、当の本人はどこ吹く風という様子で口笛を吹いている。

 

「家の中じゃ礼儀作法やつまらない勉強、縁談ばかりで息が詰まる生活……」

 

「縁談って、見たところ貴女はそんな年齢じゃないでしょう?昔ならともかく、今の時代にしちゃ少し特殊ね……」

 

「少し特殊じゃなくて、異常なんです私の家は。時代遅れにも程があります!」

 

華扇の言葉に、弥継という女の子は声を強めて言い返す。

 

その姿を見て、華扇は一瞬だけ目を細めた。

 

「まぁ落ち着いて。それで…家出したのね」

 

「そうです。家を抜け出して近くの林に入ったのは良かったんですけど、一瞬だけ変な……目眩(めまい)みたいな、林じゃない不思議な光景が見えたんです。それで気がついたら森の中に……」

 

「紫ね」

 

「紫だな」

 

「紫ですね」

 

霊夢たち3人は隙間妖怪のせいだと断定した。

 

「……?大まかにはそんな感じですけど、私からも質問があります」

 

弥継という女の子は逆に霊夢達に何者かを訊ねる。

 

その問いに、華扇がかいつまんで説明した。

 

「忘れ去られた世界に住む幻想の住民……」

 

「おぉ、詩的にまとめたな。さすがいいとこのお嬢様だ」

 

魔理沙がそう言い終わるか終わらないかの時に、霊夢がズイッと前にでた。

 

「訊きたいことはもういいかしら?

今度はこっちから訊くわ。アンタが昨日、妖怪に襲われそうになっていたのを私が助けたのは覚えてる?」

 

「は、はい……」

 

「あの時は空を飛べてたのに、アンタの手を掴んでから空を飛べなくなったのよ!これはどういうことなのよ!」

 

「どういう、と言われても……」

 

「アンタ以外に原因なんて無いのよ!正直に白状なさい!」

 

弥継という女の子は、本当に何も知らないと言う様子で頭をブンブンと振った。

 

「霊夢、ちょっと」

 

その時、華扇が小さく霊夢に手招きをした。

呼ばれた霊夢と、特に呼ばれた訳では無いが魔理沙も華扇のもとに頭を寄せる。

 

「(何よ)」

 

「(その事ですが、さっきあの子が声を強めた時があったでしょう。あの時に、ごくわずかながらあの子から妖気を感じました)」

 

華扇が声をひそめて2人にそう伝えた。

 

「(妖気だと?見た目人間だが、半妖か?)」

 

「(いや、それは無いわ。あの子は確実に外の世界の()()よ。華仙、感じたのは霊気や魔力じゃなくて本当に妖気なの?)」

 

「(間違いありません。そしてあの子の中から妖気が出ているとしたら考えられる事はただひとつ。

あの子の家系、血縁には妖怪が関わっている。

そう考えれば、外の世界の人間だとしても霊夢に影響を……この場合、空を飛べなくということですが、影響を与える可能性を持っていると言えるでしょう)」

 

「(にわかには信じられんな、そんな事。第一、証言は茨華仙(おまえ)だけで確証が無いじゃないか)」

 

華扇の推測を聞いて魔理沙がそう言った。

華扇はこくりと頷く。

 

「(そう、確証がありません。ですから霊夢、あの子からその手の情報を引き出して下さい)」

 

「(何で私が……)」

 

「(貴女の空を飛ぶ力を取り戻す為です)」

 

そう言われてしまうと言い返す事が出来ない。霊夢は大人しく弥継という女の子の方へ振り返る。

 

「質問を変えるわ。アンタの家系で何か謂われみたいな、どんな由緒があるのか、話せるわよね?」

 

弥継という女の子は、戸惑いの表情を霊夢に向けた。

 

「知っている事だけでいいの。なにも貴女の血筋について全部教えろってワケじゃないから、安心して」

 

華扇が見かねて助け舟を出す。

そしてその言葉を聞いてやっと口を開く。

 

「私の家が大きいのは、遥か昔に御先祖様が朝廷に仕えていたからだとおばあちゃんから聞きました……なんでも、結構重要なポストだったらしくて」

 

「ほう、由緒ありまくりだな」

 

魔理沙が茶々をいれる中、華扇は口元に手を当てて先程の言葉を反芻(はんすう)していた。

 

(朝廷……朝廷……?)

 

「ふーん、他には無いの?そんな由緒ある家なら不可思議な伝承の1つや2つあるでしょうよ」

 

「他に…他に……あ、あとおばあちゃんの占いがよく当たるって有名で」

 

「何の話をしてるのよ。もっと昔の言い伝えとかないわけ?」

 

弥継という女の子はしばらくうーんうーんと唸っていたが、ふと思い出したようにこんな事を言った。

 

「そういえば、小さいときにおばあちゃんが『この家は、昔に1羽の鳥を助けたのがきっかけなのよ。だからあなたも優しく温かい心を持ちなさい』って言ってくれた覚えがあります……」

 

「「ほう?」」

 

魔理沙と華扇は、声を揃えて目を輝かせる。

 

「そんな有力情報どうして忘れてるのよ……」

 

思い出したのなら良いけど、と付け加えて霊夢は魔理沙と華扇に小さく話し掛ける。

 

「(こんなもんでいいかしら。今のは大分手応えあったわよ)」

 

「(ええ、上出来です)」

 

「(霊夢にしちゃ上出来だな)」

 

「(しまいにゃ殴るよ?)」

 

「(怒るなよ霊夢。私の方でもアイツについて調べてみるから)」

 

魔理沙は「どうもアイツからは感じるモノがあるぜ」とつぶやいて華扇を見る。

 

「(茨華仙もそうだろう?)」

 

華扇は少し驚いた顔をする。

 

「(え、えぇ。よくわかったわね。確かにあの子は外から来たにしては幻想郷に順応している…と思いまして)」

 

3人がヒソヒソと話していると、弥継という女の子が「あのぅ…」とおずおずと声を掛けてきた。

 

「私は元の世界に戻れるのでしょうか……?」

 

「そ、そうねぇ~」

 

華扇はちらと霊夢を見る。

霊夢はふん!と腕組みをすると言い放った。

 

「普通だったら神隠しにあって迷い込んだ外の世界の人間は送り帰すのが常だけど、アンタは私の空を飛ぶ力を元に戻すまで帰すわけにはいかないわ!」

 

「そんなぁ~」

 

弥継という女の子は、ぐずぐずと涙ぐんだ。

しかし霊夢にも、ここは譲る事は出来ない。博麗の巫女として、空を飛べないというのは致命的なのだ。

 

その時、華扇が訊ねた。

 

「ん?待って、貴女は家出してきたのよね?」

 

「はい…そうですけど」

 

「家に帰りたくは…」

 

「ないですね」

 

「なら、元の世界に戻れなくても問題ないんじゃないかしら?むしろ、幻想郷に居れば見つかって連れ戻されるなんて事無いと思うけれど」

 

「…………あ」

 

弥継という女の子はポカンとしてその事実に気付く。

 

「(ナイスよ華仙)」

 

「(あの子が納得していた方が今後とも都合が良いでしょうからね)」

 

霊夢と華扇が女の子に聞こえないように言葉をかわす。

 

「じゃあコイツは幻想郷(こっち)にいるとしてこれからどうするんだ?人里に置くのか?」

 

魔理沙が疑問を口にする。それに霊夢は困った顔をする。

 

「いや……人里に置くのは都合が悪過ぎるわ。ここは面倒だけど、うちで預かるしかないわね」

 

「じゃあちょうどいいじゃないか」

 

「何がよ?」

 

「霊夢は巫女の仕事を全然しないからな。コイツにやってもらえば…」

 

「ハッ!?そうか…!」

 

霊夢は弥継という女の子に振り返ると、ビシィ!と指差して宣言する。

 

 

「よぉーし決めたわ。今日からアンタは『博麗の巫女代理』よ!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

・博麗霊夢

怒りっぽい巫女さん。周りの八割は厄介事。

 

・霧雨魔理沙

自分勝手な魔法使い。大抵の事は何とかなると思ってる。

 

・茨木華扇

冷静沈着な山の仙人。たまに冷静じゃない。

 

・女の子

小動物系外来人。本名は矢村弥継。

 

霊夢「由緒ある~~」

魔理沙の実家は里の有名な大手道具屋。

 




プロローグ終了で次回からほのぼの行きます
次回は挿絵描きます


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1「まずは巫女修行からね」
「まるで別人ね」挿絵有


遅くなりました。ゴタゴタが終ったので再開します

前回のあらすじ
今日からお前が、巫女サンダー!


 

 

 

 

 

 

朝日が差し込む幻想郷。

例に漏れず、博麗神社にも朝日は差し込み、寝ていた私の顔を照らした。

 

「うー…ん」

 

まだ寝ていたかった私は、ゴロリと寝返りをうって日光から逃げるように転がった。

 

そんな中、少しだけ覚醒した頭に1つの疑問が浮かんだ。

 

そういえば昨日、神社の雨戸はちゃんと閉めたハズなのにどうして朝日が差し込んでいるのだろうかと。

 

そんな疑問も、たった数秒で氷解した。

 

「霊夢さーん!朝ですよ~起きてくださ~い!」

 

耳元で元気な女の子の声が響く。

 

「………うるさい」

 

「ほら~、そんな事言わないで下さい~。あんまり長く寝過ぎると、かえって身体に悪いですよ~」

 

そう言って無理やりに布団を引っ剥がしにかかるのが外の世界から来たらしい女の子、矢村弥継。

 

(どうしてこんな事になったんだっけ……?)

 

弥継と壮絶な布団の取り合い合戦を繰り広げる中、私は昨日の出来事を思い返した。

 

 

*少女回想中…*

 

 

「今日からアンタは『博麗の巫女代理』よ!」

 

霊夢は弥継を指差して、高らかに宣言した。

 

霊夢は得意気な様子だが、他3人は「何を言っているんだ」という表情で霊夢を見ていた。

 

「おい霊夢、まだ頭がやられるような季節じゃないぜ?」

 

「やられてなんかいないわよ!」

 

「確かに……言っている意味が解りません。どういう事か説明してくれないと……」

 

さすがの華扇にも理解しがたかったらしく、小さく手を挙げてその意を示している。

 

霊夢はコホンとわざとらしい咳払いをすると、指を立てながら意気揚々に説明した。

 

「だからー、コイツのせいで私は巫女の仕事に支障を(きた)しそうなんだから、私の仕事をやってもらうのは当然でしょ?」

 

「霊夢がいつ巫女の仕事をしたんだよ。お茶飲んで掃除しているフリしてるだけだろ?」

 

魔理沙がケタケタ笑いながら言うと、霊夢がとうとう怒り出して追いかけっこが始まった。

 

華扇は頭痛が起こりそうな頭を押さえながら、座っていた弥継に話し掛ける。

 

「貴女はそれでいいのかしら?知らない土地で、訳の分からないコトに巻き込まれてるのよ?」

 

「えっと……訳の分からないコトに巻き込まれるのは心配ですけど、もといた世界じゃ絶対に体験する事の無い出来事なら、それは楽しいと思います…!

それに妖怪とか、本当にいるなんて……それだけでもワクワクします!」

 

自らの予想に反して、意外にも狼狽えていない弥継の様子に、華扇は次こそ頭痛が起こるのを感じていた。

 

「やっぱり菫子のように外の世界で変に力を持っている人間は、普通じゃないのかもねぇ……」

 

 

****

 

 

(そうだったわ……それであの後、魔理沙と華仙は素性を調べるからって帰って、私はコイツに神社の中の案内をしたんだったわ……)

 

布団を取られた私は、仕方なく寝間着からいつもの巫女服に着替える。

 

私を叩き起こすことに成功した弥継はと言うと、手早く私の布団を片付けてしまうと足早にどこかへ行ってしまった。

 

華仙の言ってた通り、幻想郷への順応力が高い……いや、高すぎる。

 

現に、神社の雨戸は全てしまわれており、縁側は雑巾がけされてピカピカ光っている。

 

確かに昨日、掃除は巫女の仕事の中でもかなり重要だと教えたけれど、ここまでしっかりやるとは思ってなかった。

 

(いいとこのお嬢様だったらしいから、こういう事はてんで駄目かと思ったけど。案外使えるわね……)

 

上手くいけば、仕事を任せて楽な毎日を過ごせるかもしれない、と考えながら顔を洗ったりして身支度を整えていると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

まさかと思い、部屋の戸を開けると、ちゃぶ台の上には朝ご飯らしきものが用意してあった。

 

「あっ、その、身勝手でお節介かもしれないんですけど、朝ご飯の方を作ってですね。

勝手に道具や食材使ったりして申し訳無いと思ったんですけど、これから御厄介になるので何か出来ないかな~、と思いまして……」

 

顔を出した弥継がおずおずと言う。

 

「いやまぁ、それはいいんだけど……」

 

ズラリと並んだ朝ご飯のレパートリーの多さに私は驚愕していた。

いつもはご飯と焼き魚くらいしかないのに、今朝はそれに加えて汁物やおひたしや、外の世界の料理らしきものもある。

 

「あまり食材をたくさん使ってはいけないと思って、少ない量で色々頑張ったんですけど、私料理苦手で……」

 

「これで?苦手?」

 

私は少し敗北感を覚えたが、そこは我慢。逆に考えれば、宴会の時の台所担当にもってこいだ。

 

「まぁ、ありがとう。何か色々やってくれたみたいで」

 

「これから厄介になるので、これくらいは……さぁ、ご飯食べましょうよ霊夢さん!」

 

弥継に促されて食卓につき、「いただきます」をしてご飯をパクリと一口食べた。

 

(ぐ……美味いわね……)

 

控えめに言って最高だった。ご飯1つにおいても違いがハッキリしている。

どんな炊き方をしたらこんなにふっくらするんだろう、あのメイドと良い勝負するわ、と考えながら各料理をパクパクと食べ進む。

 

「あの~、お味の程は……」

 

弥継が私にそう訊ねる。色々と負けた気がして、正面からは言えなかったので「悪くはないわね」と誤魔化すようにコメントする。

 

私が言うと弥継の顔に花が咲いたかと思うほどの笑顔が浮かんだ。

 

「良かったぁ~!お口に合わなかったらどうしようかと」

 

その笑顔の眩しさに、私は大玉弾が直撃したかのように思えた。純粋に心から喜んでいる事が見て取れる。

こんな素直で気配りの出来る娘と一緒に暮らすことが出来る。毎朝、この笑顔を見られると思うと幸せな気持ちが押し寄せてきて―――

 

「ーーハッ!?マズいマズい。思わず求婚するところだったわ」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何でアンタに縁談が持ち掛けられるかが分かっただけよ」

 

すんでのところで理性を取り戻した私は、何事も無かったかのように朝ご飯を完食した。

 

これ以上弥継に任せっきりにすると本当に駄目な巫女になりそうな気がしたので、洗い物だけは私がやることにした。

 

「……何よ?」

 

私が洗い物をしている中、弥継は隣に立って私を見ているようだった。

 

「いや、霊夢さんを見て学ぼうと……」

 

私はハァ~とため息をつくと「箪笥(タンス)の上にアンタから押収した荷物があるわよ」と言って弥継を追い払った。

 

「あぁ~良かった。これが無かったら生きていけなくなる所だったわ」

 

「大げさね、大体そんな変な道具とへんな箱でどう生きてくのよ。食べ物だってちょっとしか無かったし」

 

「ノコギリとかドライバーは家から出るときに使ったんです。その箱はおばあちゃんがくれた物で『必ず開ける時が来るからそれまでは開けないように』って」

 

「……玉手箱かしら。どっちにせよ、変なのには変わりないわね」

 

私がそう言って片付けをしていると、ガラガラッと、勝手口の開く音がした。

 

「よう霊夢、いつも通りの朝だな」

 

「そうね、いつも騒々しいわ。今日からは特にね」

 

いつものように魔理沙がやってきた。手には風呂敷包みを持っている。

魔理沙は弥継を見つけると声を掛けた。

 

「おっ、家出した魔法使いのお嬢様じゃないか。言った通り霊夢は仕事しないだろ?」

 

魔理沙の言葉にどう返して良いか困っている様子の弥継に変わって、私が突っ込む。

 

「それって魔理沙のこと(自虐ネタ)?あと巫女の仕事はこれから」

 

ここで弥継が口を開く。

 

「いや……私、魔法使いじゃないんですけど……」

 

「真面目に応えなくても良いわよ」

 

「酷いこと言うなよ霊夢、私なりの気遣いだ。あと幻想郷じゃ人間が使う不思議な術は全部魔法って言うんだぜ」

 

「そんな事より魔理沙、その包みは何よ?」

 

私の言葉に「あぁ、これか?」と応えて魔理沙が包みを開けると、そこには服らしきものが入っていた。

 

「香霖に頼んで仕立ててもらったんだ。弥継(お前)のその格好は幻想郷(ここ)じゃ不似合いだぜ」

 

「え……これ私に?」

 

「それ以外に何があるんだよ」

 

魔理沙は笑いながら包みを弥継に押し付ける。

 

「魔理沙にしては気が利くわね」

 

「私はいつも気が利くぜ。ほら着替えろ着替えろ」

 

魔理沙が強引に弥継を連れて奥の部屋に引っ込んでいく。

弥継が「えっ、ちょっと?」とか言いながら、顔真っ赤にして連れて行かれた。

 

変な悲鳴とか聞こえなかったふりをして暫く待っていると、着替え終わった弥継が出てきた。

 

「や~!可愛い服ですねこれ!コスプレみたい~!」

 

「……まるで別人ね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

一応、霖之助さんが仕立てたみたいだから私の巫女服に近いイメージで作ってあるらしかった。

 

「これで博麗の巫女って言っても大丈夫だろ。脇は出てないがな」

 

「脇は関係ない。あと博麗の巫女『代理』だから!……弥継は参道の掃き掃除でもしてて!」

 

魔理沙の言葉を訂正し、私の腕部分を凝視していた弥継を追い払うと、湯呑みの中のお茶を飲み干して喉を潤す。

 

「それで?神社に来たからには情報は調べてきたんでしょうね?」

 

私が、勝手にお茶を淹れて飲み始めた魔理沙にそう言うと「あぁ、その事だが……」と手帳を取り出して、逆にこう訊ねてきた。

 

「霊夢は『八面大王伝説』もしくは『山鳥の尾』という話を知ってるか?」

 

 

 

◇◆◇◆

 

・博麗霊夢

能天気な巫女さん。なんだかんだいつも平和。

 

・霧雨魔理沙

垢抜けた魔法使い。なんだかんだ言って優しい。

 

・矢村弥継

適応力全開の外来人。なんだかんだ楽しんでる。

 

・霊夢「いつもはご飯と焼き魚くらい~~」

鈴奈庵第2話参照。

 

・魔理沙「香りんが仕立てた~~」

魔理沙や霊夢の服は香霖堂が修繕したりするらしい。

 

 




次回は本文が書け次第かな?


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「多分今がその時よ」

不定期投稿勢(許されない

前回までのあらすじ
えるしってるか?


 

 

 

 

 

「霊夢は『八面大王伝説』もしくは『山鳥の尾』という話を知ってるか?」

 

「何それ」

 

「……まぁ知らないとは思ったがな。霊夢はその辺りに無関心だし」

 

「いいから早く教えなさいよ」

 

私がそう急かすと、魔理沙は二つ返事で語り始めた。

 

「外の世界の信州安曇野(あづみの)ってところに伝わる民話なんだがな……

 

『昔々に八面大王という鬼が、その地域の人々から食べ物を奪ったりして、人々を苦しめていた。

 

そんな地域のとある村に弥助(やすけ)という男が年老いた母と2人で細々と暮らしていた。

ある日弥助は、母に頼まれ里におつかいに出たのだが、道すがら猟師の罠に掛かっていた山鳥を見つけた。

心優しい弥助は山鳥を罠から助け、怪我を治療して逃がした。そして、猟師へのお詫びとして、おつかい用のお金を罠の前に置いて何も出来ないまま家へと帰った。そんな弥助を母は、親切な事をしたと褒めたんだと。

 

それから暫くした大晦日の日の夜、弥助の家にまだ20歳にも満たないような若い美しい娘が大雪で道に迷ったと訪れた。

弥助と母は快く娘を招き入れ、雪が無くなるまで家に泊まるといいと言って一緒に正月を過ごした。

 

さて、その娘は美しいだけでなく弥助と同じく心優しく、よく働く娘だった。弥助と娘はお互いをすぐに好きになり結ばれた。

 

そんな折り、時の将軍が八面大王を倒そうとやってきたが、八面大王を倒すには(ふし)が33個ある山鳥の尾羽で作った矢が必要だった。

将軍は村の人々にもその山鳥の尾羽を見つけて差し出すように言ったが、なかなか見つからなかった。

弥助もその山鳥を探そうとしていると、娘が33節の山鳥の尾羽を持ってきて弥助にこう言った。

 

ーー私はいつしか助けて頂いた山鳥です。これで恩返しが出来ますーーってな。

 

娘は尾羽を残して家を出て行った。弥助は尾羽で作った矢を将軍に差し出し、将軍は八面大王を討つことが出来た。

将軍は矢を持ってきた弥助にたくさんの褒美をとらせ、弥助の家は長者にもなったんだが弥助は娘を失った悲しみに明け暮れ、娘が帰ってくるのをいつまでも待っていたんだと』

 

……とまあこんな感じの話だな。細かい部分は省略したが」

 

「長々とどうも。確かに鳥の出てくる話だけど、それなら鈴奈庵で読み聞かせてた『鶴の恩返し』とかもあるんじゃない?」

 

私が言うと、魔理沙は人差し指をチッチッと振って「名探偵たるもの裏付け捜査は完璧だぜ」と言って手帳をめくる。

 

「その弥助の村はな、その後に矢を作った村ってことで『矢村』と呼ばれたらしいぜ」

 

矢村の弥助と矢村弥継……それなら名前から見ても一致する。

しかし私は1つの疑問を魔理沙に投げかけた。

 

「でも今の話じゃ山鳥が家を出てって終わってるじゃない。現代まで繋がらないわよ?」

 

「ところがどっこい、これが繋がるんだ。そもそも民話ってものは人々が語り継いできたものだから途中途中で話が変わってしまうことのほうが多かったんだ。

稗田家に訊いてきた話だとな……」

 

「ってアンタ、阿求んちまで行ってきたの?」

 

「何事も全力が私のモットーだからな。それで続きだが、山鳥の尾の話はかなりレパートリーがあって弥助に娘の正体がバレるパターン、娘に化ける所を将軍に見られて連れ去られるパターン、そもそも弥助の村が八面大王の味方側だったりと多種多様なんだ。

その中に弥助と山鳥の娘は結ばれただけじゃなく、子供を授かったという話もある」

 

魔理沙の話を聞いて私は合点した。なるほどね、その話が真実なら弥継(アイツ)が妖怪山鳥の血を継いでいて、得体の知れない妖術を使えたとしても不思議ではない。

 

「私が見た限りだと人間にしか見えなかったけど……やっぱり半妖なのかしら」

 

「どうだかな。私は妖怪の力とは違う別の力じゃないかと思ってるんだが……それこそ霊夢みたいな神の力とか」

 

「あーあ、今回の件は森の名探偵も迷走してるみたいね。大人しく山の名探偵を待つしかないか」

 

私が魔理沙の言葉を無視してお茶を飲もうとした時、空からスッと人影が降りてきた。

 

「おはよう霊夢、魔理沙。2人とも早いわね」

 

茨華仙だ。

私は「望んで早い訳じゃないわ」と言ってお茶を飲んだ。

 

「やっと来たか山の名探偵。森の名探偵には解明出来なかったこの謎を是非とも解いてくれ!」

 

「え?何だって?」

 

面食らう華仙に、魔理沙は先程の話をかいつまんで話した。

 

「へぇ……そんな民話があったのね」

 

「私が調べたのはこんな感じだぜ。して茨華仙よ、そっちの収穫はどうなんだ?」

 

華仙は「勿論バッチリよ」と答えて話し始めた。

 

「私が調べてきたのは血筋じゃなくて家系のほう。彼女は昨日、先祖は朝廷で働いていたと言ったでしょう。

あの話しぶりからすると、その影響であの()の家は名家なのでしょう。

外の世界で朝廷と呼称されていたのが、大体幻想郷が隔離される少し前まで、その時代内で朝廷自体が一番権力を持っていたのが、所説あるけど平安時代前後。

この時に朝廷になくてはならない程重要な役職があったの。2人とも分かる?」

 

「「いや?さっぱりわからん」」

 

「…だろうと思ってたけど。その役職は『陰陽師』っていうの。これなら聞いたことあるんじゃない?」

 

「おー陰陽師、何か聞いたことあるぜ」

 

それなら私も聞いたことがある。確かやってることは妖怪退治や悪霊退散とかで私や魔理沙のやってることとあまり変わらなかった気がするけど……。

 

その辺りを華仙に訊ねたら「まぁ平安って言ったらまだ魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)してた時代だからねぇ。陰陽師は妖怪退治や悪霊退散のほかに、占術や風水術に長けていて、朝廷や都に災いが無いようにサポートしていたらしいわ」と言っていた。

 

「妖怪だらけの時代だったからその手の仕事が重要で重宝されたってわけか。陰陽師だと決めた理由はそれだけか?」

 

魔理沙の言葉に華仙は「決めたというよりは消去法かしら」と返した。

 

「まずもって外の世界の人間なのに幻想郷に適応出来て、しかもどういうモノかはまだ分からないけど能力を持っているなんて、それこそ菫子みたいな()()()()といって差し支えないでしょう」

 

外の世界から来た超能力者ねぇ……。そういえば早苗も外の世界出身だったっけと、私はぼんやり思い出す。

 

「あとはあの娘が言っていた事からの推測ね。あの娘の祖母は占いが得意だと言っていたし、魔理沙の話が本当としても辻褄(つじつま)は合うからね」

 

華仙の話はここまでだった。2人の話をまとめてみても、弥継(あの娘)がただの人間じゃないという可能性が高くなってきた。

妖怪の血を引いている陰陽師なんて理由として十分過ぎるわ。

あとは魔理沙の言ってたみたいに証拠になるものがあればいいのだけれど。

 

「霊夢さ~~ん、掃除終わりましたよ~~!」

 

丁度その時、弥継が(ほうき)を抱えて戻ってきた。

 

「あっ、昨日の…」

 

「おはよう弥継、巫女の仕事はどうかしら?」

 

「えっと、その……結構楽しいです。…華扇さん?」

 

「あら、もう名前を覚えてくれたの?嬉しいわ」

 

華仙と弥継の挨拶が済んだようなので、私は魔理沙と華仙が調べてきてくれた事をまとめて弥継に話した。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。情報量が多すぎて理解が追いつかなくて……」

 

「つまりアンタの祖先は妖怪の血を継いだ陰陽師ってこと。分かった?」

 

「そんなの……信じられるわけがないですよ……」

 

弥継は先程とは打って変わり、青ざめた顔でそうつぶやいた。

 

「だいいち、証拠が無いじゃないですか」

 

どこか必死そうに食い下がる物言いに、私は少しだけ疑問を感じた。

しかし今は弥継が普通の人間じゃないことの証明が先だ。

なぜなら私の仕事、さらに言えば生涯にも関わってくるからだ。

 

妖怪退治を生業(なりわい)とする(博麗の巫女)にとって、空が飛べなくなるとはそれ程一大事なのだ。

 

「証拠になりそうなものならあるわ。アンタの持ってるあのへんな箱」

 

「あ、あれは…」

 

「さっき『必ず開ける時がくるからそれまで開けるな』って言ってたけど、多分今がその時よ」

 

私の言葉に弥継は困惑しているようだった。

 

「なぁ、箱ってあの鍵の掛かった箱か?」

 

「そうだけど、何か問題でも?」

 

「そうじゃない。箱の中身が証拠になるってのは霊夢、いつもの勘か?」

 

「いつもの勘よ」

 

魔理沙はやれやれといった風に首を振ると、弥継の肩にポンと手を置いて言った。

 

「諦めろお嬢様、諦めて霊夢に箱を渡すんだ。悔しいが霊夢の勘はよく当たるからなぁ」

 

「魔理沙さんまで言うんですか~~」

 

弥継はすがるように華仙を見たが、華仙も「まさかパンドラの箱じゃないんだから開けても良いんじゃないかしら」と言ったので、渋々(しぶしぶ)箱を差し出してきた。

 

「実際、弥継(お前)も中身が気になるんだろ?仮にパンドラの箱だとしても、最後に残るのは希望だぜ」

 

「でもその前に災厄が飛び出すじゃないですか」

 

「この幻想郷には厄をためて何事も無かったことにしてくれる神様がいるから大丈夫だ。そも霊夢がいれば大丈夫だ」

 

「そんなことより弥継、この錠前の鍵はどこよ?」

 

弥継と魔理沙の話を遮って訊くと、弥継は(ふところ)から首にかけられるように紐のついた鍵を取り出した。

 

「おばあちゃんに肌身離さず持ってなさいって言われてたので……」

 

「それは良いんだけど……この鍵、回らないわよ?」

 

錠前に差し込んで回そうとしても固まったようにびくともしない。

 

「錆び付いてるんじゃないか?貸せよ霊夢、弾幕も鍵開けも、すべてはパワーだぜ」

 

「そんなこと言ってるから人形師に馬鹿にされるのよ。ほら、間違っても鍵を折るんじゃないよ」

 

魔理沙に箱を渡すと、任せろと言って力ずくでこじ開けようとした。

 

 

次の瞬間、魔理沙は突然吹き飛び、(ふすま)に激突してそのまま庭まで放り出された。

 

「え……?」

 

「魔理沙!?大丈夫?」

 

弥継は驚いて固まっている。

その間に華仙が魔理沙を起こしにいった。

私は衝撃で滅茶苦茶になった部屋を見て魔理沙に言う。

 

「アンタ、後で部屋と襖直しなさいよ」

 

「そこは私の心配をすべきだろ」

 

「純化された殺人弾幕に当たっても死なない人間の心配なんてしないわ」

 

「それはお前もだろ。にしても何が起きたんだ?」

 

それについては見当も付かない。本当に何が起こったのかしら?

しかし箱を拾い上げて気付いた。

 

「どうしたの霊夢?」

 

戻ってきた華仙が訊ねてくる。

 

「この箱……封印が掛けてあるわ、それも強力なヤツが」

 

「何ですって?じゃあ魔理沙が吹き飛ばされたのは…」

 

「無理矢理き開けようとしたから封印に弾き飛ばされたのね。これはいよいよをもってただ事じゃなくなってきたわ」

 

こんなに強力な封印は久しぶりに見たわ。こんな封印を出来るヤツなんて幻想郷でも僅かしかいないだろう。

 

「それで?どうするの霊夢、開けるのを諦める?」

 

「何言ってんのよ。この程度の封印……」

 

私は箱の上で(いん)を切る。

 

「あ、あの手つきはヤバいぜ。あれはどんな封印でも解いてしまうインチキ技の手つきだ」

 

魔理沙の言葉が終わると同時に、錠前がパキンと音を立てて外れ、箱の蓋が勝手に開いた。

 

「あ……」

 

様子を見にきた弥継が箱の中身の一番上にある手紙らしきモノを見て声を漏らす。

達筆な文字で『弥継へ』と書かれた封筒だ。

 

「どうしたの?」

 

 

「これ……おばあちゃんの字だ……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

・博麗霊夢

何とかなる巫女さん。今回も何とかなった。

 

・霧雨魔理沙

何でもアリな魔法使い。今回はダメだった。

 

・茨木華扇

何とかする仙人。調べてきた情報は何とかなった。

 

・矢村弥継

何やかんやの外来人。何ともならない。

 

・純化された~~

純符「ピュアリーバレットヘル」

 

・インチキ技

鈴奈庵第7話参照

 




次は挿絵つけます


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