アルトリア・オルタのフェアリーテイル (かな)
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プロローグ

注意、作者はFateのアニメとFGOしか知らないにわかです。


「ごちそうさま。うん、美味だった」

 

私は丼を既に食べ終えて山盛りになった丼の上に乗せて、食った食ったとお腹を押さえると人の良さそうな店長さんらしき男がニコニコしながら笑みを浮かべた。

 

「お粗末様、気持ちいい食べっぷりだったねお客さん」

 

「ああ、依頼(仕事)終わりでお腹減ってたのと旨かったからつい気が済むまで食べてしまった。流石は港町ハルジオン、新鮮で脂が乗った魚がたくさん揃っているな」

 

私は笑みを浮かべながら店主と談笑していると店の扉が乱暴に開かれ、二人組の柄の悪い男がワイワイと騒ぎながら入ってきて、粗暴な座り方をしたりマナーのなってない奴等だなぁと茶を啜りながら横目で見ていると店長がその柄の悪い男たちの注文を取りに行く。

 

「お客さん、ご注文は何にしますか?」

 

「ああ、とりあえず、金を持ってこい」

 

「ひっ」

 

そう言って男が剣を店主につきつけようとするのを見た瞬間、これはもう手を出すしかないなと思った私は瞬の速度でその店主に向けられた剣を掴んだ。

 

「おい、貴様ら何をやっている?」

 

そう言うと男たちは苛立ちの顔を此方に向けてくるが、怯えて腰を抜かす店主と男たちの間に立った私は男たちを睨み付けていた。

 

「おい、俺たちは『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のサラマンダー様の部下たちだぜ。俺たちに逆らって只で済むと思うなよ」

 

「おいおい、この女、よく見たら結構いい顔してんじゃん。でも、そんな生意気なしゃべり方はいただけないなー。俺たちが厚生させてやるよー」

 

――こいつら実力の差も分からないのか?

 

薄気味悪い笑いをしてくる男たちに内心呆れて溜め息をついた私は剣を握っている手に軽く力を加えるとその剣はいとも容易く粉砕された。

 

「そちらこそ私が気に入った飯屋でこんなことして只で済むと思っているのか?それに私も『妖精の尻尾』の魔道士だがうちのギルドのサラマンダーはお前らのような下衆を部下にするような奴じゃない」

 

覇気を出して、そう語るとやっと実力の差を理解した男たちは腰を抜かし、ガクガクと体を大きく震わせながら怯えた目で此方を見ており、最初の威勢の良さは幻想のごとく消えてしまっていた。

 

それにしても、今、言った通り『妖精の尻尾』の魔道士である仲間のアイツがそんなことをする部下を持っていると思わないが、もし、仮にこいつらの上司がアイツだったとしたらそのときはぶちこ……軽くお仕置きをする必要がある。

 

「おい、貴様らそのサラマンダーのとこに案内しろ。拒否したら次はお前の頭がこの剣のようになるだけだが……勿論、案内してくれるよな」

 

「「は、はい」」

 

私が優しく笑顔で言うと男は震えた声ですぐに返事をしてくれた。物分かりがいい奴等で助かる。他人から見れば脅したからだろと言われそうだが、あくまで私は脅したのではなく、お願いしただけだ。勿論、異論は認めない。

 

「店主、店で騒いですまなかったな」

 

「いや、とんでもない。むしろ、助けてもらって感謝してもしきれないぐらいですよ。それにしてもお客さん、すごい魔道士だったんですね」

 

「ああ、じゃあ、これは代金だ。少し多いがこれは騒ぎを起こしてしまった迷惑料としてとっといてくれ。じゃあ、行くぞ」

 

私はお辞儀して見送りをしてくれる店主に律儀だなと思いつつサラマンダーの部下たちの案内によりそのサラマンダーの潜んでいる船がある船場に来たのだが肝心のその船がなかった。

 

これが意図することは――――

 

「私を騙すとはよっぽど怖いもの知らずの連中らしいな」

 

「やめてくれ。俺たちは船に近づかせないように見張る係りだ。俺たちがいない間にもう船が出ちまったんだよ。そのときにはもう女共を乗せ終わってたから」

 

私は男の襟元を掴んで軽く脅すが、男の話を聞くにどうやら本拠地である船がもう出港してしまったようでもうこの港から離れたところにいるらしい。

 

「はぁ、もういい」

 

私は男を突き放して、海上を見下ろすと一つだけ結構、大きな船があるのを見つけてあれかと標的を定めて海に向かって駆け出していくか 通常だとこのまま海に向かっていけばダイブしてしまうが私の体は落ちてしまう。

 

そう…それは通常ならばの話……だが、この世界ではファンタジーの世界のような奇跡を起こす力がある。

 

()()』、この世界にはそれが存在している。

 

そのとき、背中に突如現れた黒い魔方陣から黒いオーラを纏った風の翼を出す魔法を使い、そのまま風を斬って船に向かって飛んでいくと船の上が爆発する音と共にうちのギルドのサラマンダーの連れである私とは大違いの天使のような羽を生やした青い猫、ハッピーと見知らぬ金髪の少女が船から飛び出してきたのが見える。

 

「ハッピー」

 

「あ、アルトリア」

 

「誰この人?ってか飛んでる!!」

 

「あい、この人はアルトリア、ものすごく怖い人だけどオイラたちの仲間だよ」

 

「なんか聞こえた気がするが気のせいと言うことにしておこう。それで何が起こっている?」

 

「『妖精の尻尾』のサラマンダーを名乗ってる偽者とナツがこの船の中にいるんだ」

 

「そのサラマンダーが女性たちに人々を魅了する魔法『魅了(チャーム)』を使って外国に売り捌こうとしているんです。魔法を悪用して人を騙すなんて『妖精の尻尾』の魔道士ってこんなに最低最悪だったなんて……」

 

とりあえず、大体の状況を理解した。理解したからこそ私の中で『妖精の尻尾』の魔道士を名乗って外道行為をするその偽物のせいで私たち(フェアリーテイル)がこの外道と同じように扱われたことに怒りを覚える。

 

まだ『妖精の尻尾』の『妖精女王(ティターニア)』の異名を持つエルザみたいにオーバーキル、つまり、『聖剣』を使わない分甘いと言えるがやりすぎは良くないので半殺しで済まそうと私は妥協した。

 

「とりあえず、この船を沖に戻すことから始めるか」

 

「え?どうやって?」

 

「フッ、簡単なことだ」

 

私は不敵な笑みを浮かべて船の下に黒い魔方陣を出現させると黒い竜巻が船を包み込んでそのまま沖に運んでいく。勿論、着陸は優しくゆっくりと降ろしたがこの時ら船は軽くジェットコースターを越える絶叫マシンと化したから気持ち悪くなったやつがいるかもしれないがまぁ、良しとしよう。

 

「ほら、簡単なことだったろう」

 

私がルーシィとハッピーの方に向き直ると二人は開いた口が塞がらないような状態で驚いていた。

 

「いや、船を竜巻で沖に戻すなんて常識から外れすぎなんですが…」

 

「あい、それが……アルトリア様です」

 

「じゃあ、私も乗り込むとするか」

 

「あたしも行きます」

 

「オイラも」

 

こうして船に入ったのはいいが、船が止まり酔いが覚めたのか本物の『妖精の尻尾』のサラマンダーである桜髪の少年、ナツが偽物のサラマンダーを睨み付けていた。

 

「おい、さっさとこいつを摘まみ出せ」

 

「はっ」

 

偽物のサラマンダーは部下に命令を出して、部下にナツを襲わせそうとするが魔道士でもない人間がどうやっても『妖精の尻尾』で屈指の実力を持つナツに束でかかろうが敵うわけないだろう。それに今のナツはギルドを勝手に語られてキレている状態であり、これは私が手を下す前に彼らは半殺しになってしまいそうだ。

 

「ルーシィ、手を出す必要がないぞ」

 

「でも……」

 

「そう、言い忘れてたけどナツも魔道士だからね」

 

「えーっ、そうだったの!」

 

力任せで向かってくる男を無視して、ナツは着ていた上着を脱いでこの事件の主犯格である偽物のサラマンダーに静かな声で尋ねる。

 

「お前が『妖精の尻尾』の魔道士か?」

 

「そうだ、だから、どうした?」

 

「俺は『妖精の尻尾』のナツだ。おめぇなんか見たことねぇ」

 

向かってきた男を簡単に殴り飛ばしナツがそう言った瞬間、偽物のサラマンダーとルーシィ、部下の男たちが驚きの声をあげている中で私はハッピーに向き直る。

 

「なんだ言ってなかったのか?」

 

「ってことはアルトリアもハッピーも……」

 

「あい」

 

「『妖精の尻尾』の魔道士だが」

 

ハッピーは背中にある『妖精の尻尾』の紋章(ギルドマーク)、私は上着を軽く脱いで右の腕にある紋章を見せるとルーシィは驚きに固まっていた。

 

「本物だぜボラさん、どうします?」

 

「バカ……その名で呼ぶな!!だが、此方にも切り札がある。お願いしますゴマオ先輩」

 

「あーオラの出番だかー?」

 

現れたのはかなり太った身長二メートルもある男、ゴマオと呼ばれた男、確かどちらも昔『巨人の鼻(タイタンノーズ)』というギルドを追放された身であり、ボラは魔法で盗みを働き、ゴマオは無銭飲食を繰り返して現在、指名手配されていたはずだ。

 

「このゴマオにケンカ売るなんて良い度胸だ――――ッ!!」

 

私はゴマオと呼ばれた男を魔法を使わずに普通に殴り飛ばすと壁を破壊して、そのまま海に落ちていった。

 

「ゴマオ先輩――!」

 

「お前らこそ『妖精の尻尾』の名前を語って只で済むと思っているのか?」

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよこのクソガキ共がー!!」

 

私は怒りを込めて言うとボラが赤の魔方陣から炎の魔法を繰り出してくるが、ナツが私の前に立ち塞がり、炎に飲み込まれ、ルーシィは心配の声をあげ、ボラたちは邪悪な笑みを溢すがナツには火が()()()()ことを知っている私とハッピーは表情ひとつ変えずにそれを見ていた。

 

「あーこんな不味い火は初めてだ」

 

火をもしゃむしゃと喰らうナツに再び私とハッピー以外の顔が驚きに染まる。まぁ、ナツの魔法である竜を倒すために編み出された火の『滅竜魔法』は魔法のなかでもその強大な力によって封印され、見る影もなくなってきた『失われた魔法(ロストマジック)』の一つであり知名度がかなり少ない。

 

「ふぅ、喰ったら力が沸いてきた!!」

 

「ナツ、そいつらはサラマンダーの名を語った偽物、お前がぶっとばしてやれ」

 

「おう、いっくぞぉ火竜の咆哮!」

 

ナツの口の前に燃え盛る火のように赤い魔方陣が出現し、口から炎のブレスを吐いて、回りの雑魚を一掃したあとに今度は右手に魔方陣を出現させ、燃え盛る炎の拳を打ち込んだ。

 

「これが本物の――――『妖精の尻尾』の魔道士だ!」

 

「すごい……」

 

「ああ、そうだろう。だが、ナツ、お前はやりすぎだ」

 

私は過剰に暴れて港を軽く破壊しかけるナツの頭に拳骨を降り下ろして、面倒事を起こす前に沈めさせる。ナツは『妖精の尻尾』の魔道士の中で一番の問題児、これは『妖精の尻尾』のためにもナツのためにも必要な正義の鉄拳なのである。

 

「いてて……」

 

「お前は少し後先のことを考えろ」

 

たんこぶになったところを押さえながら涙目になっているナツに私は手を組ながら軽く説教をすると大勢の兵士たちが騒ぎを聞き付けたのか此方に向かってやってくる。

 

「おい、君たちこの騒ぎ事を何かねー!!」

 

「やべ、逃げるぞ」

 

「えっ?」

 

「だって、『妖精の尻尾(俺たちのギルド)』に入りたいんだろ?」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、来いよルーシィ」

 

「うん」

 

「じゃあ、新しい『妖精の尻尾』のメンバーに改めて自己紹介しようか。私の名はアルトリア・オルタだ。アルトリアと呼んでくれ。よろしくな」

 

「うん、よろしくねアルトリア」

 

兵士たちから逃げているなかで自己紹介した時に言ったアルトリア・オルタ、それがこの世界にセイバーオルタの能力、姿を持って転生してしまっていた元大学生の男の名前である。

 

 

 

 



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アルトリアと妖精

たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。ちなみに主人公の服装は『悪性隔絶魔境新宿』の服装です。


現在、私はルーシィ、ナツ、ハッピーと共に『妖精の尻尾』のギルドの前に立っていた。

 

「わぁ…大きいね」

 

思わず声を漏らすルーシィに私は微笑ましい顔を向けてナツ、ハッピーと共に『妖精の尻尾』の新しい仲間になる少女を歓迎した。

 

――――ようこそ『妖精の尻尾』へ

 

「ただいまー」

 

「今、戻ったぞ」

 

「あら、ナツ、ハッピー、それにアルトリアお帰りなさい」

 

私たちが中に入ると『妖精の尻尾』の酒場のウェイターをしている前髪をヘアゴムで縛った銀髪の少女、ミラジェーン・ストラウスが親しみやすい笑顔で私たちの帰りを出迎えてくれたのを聞いて、そのテーブルの近くにいた仲間たちがハルジオンの港の半壊の件でからかおうとしてナツにテーブルごと蹴り飛ばされる。

 

「てめぇ、サラマンダーの情報嘘じゃねぇかっ!」

 

「あら、ナツが帰ってくると早速お店が壊れそうね。でも、アルトリアが他の人と一緒に帰ってくるなんて珍しいわね」

 

「人をぼっちみたいに言うな。依頼終わりに出会ってそのまま帰ってきたんだ。あと、ミラ、此方はルーシィ、『妖精の尻尾』に入りたいそうだ」

 

「ルーシィです。よろしくお願いします」

 

「あらぁ、よろしくねルーシィ、私はミラって呼んでね」

 

「あの週刊ソーサラーのミラさんと握手できるなんて感動ですぅ」

 

ルーシィがもう幸せそうな表情を浮かべてミラと握手している隙にナツが起こした騒ぎが周りに飛び火して大乱闘と化しており、お前たちは子供かと呆れて私はため息をついた。

 

「あのあれ止めなくていいんですか?」

 

「いつものことだからぁ放っておけばいいのよ」

 

「ああ、そのうち静まる。だが、こんなもめ事ばかりのギルドに入って良かったのか?」

 

私はミラの方に向かって飛んでくる酒瓶をキャッチしながら皆の乱闘に困った顔をしていたルーシィに尋ねる。

 

『妖精の尻尾』の他にも魔道士ギルドは多々ある。『妖精の尻尾』はこのフィオーレ王国の中で大きな勢力を持っているギルドだが評議院という魔道士ギルドを統括している組織に問題ばかり起こすから睨まれている魔道士ギルドである。

 

ギルドの大きさの規模で言えば『幽鬼の支配者(ファントム・ロード)』も同じくらいであり、フィオーレには他にも様々なギルドがあるなか本当に『妖精の尻尾』を選んで良いのか気になったのだ。

 

「うん、ここは私の憧れのギルドだから」

 

「そうか、なら良かった」

 

「でも、いくらなんでも騒ぎすぎよぉ!それに皆魔法を使おうとしてるし!」

 

「これはちょっとマズイわね」

 

二人が焦る中でこんな状況を止められるストッパーがいることを理解している私は特に焦ることなく、そのストッパーが出てくるを待っているとギルドの天井に届くと思えるほど大きな巨人が現れ一喝する。

 

 

「――――やめんかバカタレ!!」

 

その一喝によって多くの人が動きを止めるなかで高笑いするナツ(バカ)が一人いたのだが

 

「だーっはっはっはっ、皆してびびりやがってこの勝負は俺の勝ぴっ…」

 

――その巨人に呆気なく踏み潰されダウンする。

 

「あら、マスター」

 

「マスター!?」

 

ルーシィが驚きの声をあげるなかその巨人の顔が此方に振り向いて咆哮したと思うと体が一気に小さな子供サイズにまで小さくなりそこには一見ただの白髭を生やした老人にしか見えない『妖精の尻尾』のマスター、マカロフ・ドレアーがいた。

 

「ええーっ!?」

 

「君は新入りかね?」

 

「は、はい」

 

「ワシはマカロフ、『妖精の尻尾』のマスターじゃ。よろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

挨拶をするとマカロフはバク転しながら二階の手すりまで跳躍して、持っていた書類を皆に見せつける。

 

「まーた、やってくれたのう貴様ら。見よ評議会から送られてきたこの半端ない文章の量を」

 

そのまま殆どのギルメンの名前と起こした被害を読み上げられ、その呼び上げられた面々は後ろめたい表情を浮かべているが恐らく呼び上げられることをした覚えがない私は余裕の表情を浮かべていた。

 

「アルトリア」

 

だが、予想外に名前を呼ばれた問題を起こしてないはずの私はマカロフに抗議する。

 

「むっ、私が何をしたって言うんだマスター!?」

 

「……果物採集の手伝い後採集祭で採った果物の半分が全滅」

 

「あれか。好きなだけ食べて良いと言われて満足するだけ食べたんだが何か問題があるのか?私は言葉通り好きなだけ食べただけだぞ」

 

「食い過ぎじゃー!!もっと遠慮というものを知れぇ」

 

そのあと他の多くのギルメンの名前が呼ばれていき、最後の書類を読み終わったマスターは顔を下に向けて体を小刻みに震えさせていた。

 

「貴様らぁ、ワシは評議院に怒られてばかりじゃぞぉ……だが、評議院などクソくらえじゃ」

 

顔を上げたマカロフは手に持っていた書類を燃やし、そのまま捨てるとナツがフリスビーに飛び付く犬のように跳躍して、燃えた書類を口に入れる。

 

「よいか…理を越える力はすべて理の中より生まれる。魔法は奇跡の力ではない。我々のうちにある気の流れと自然界に流れる気の波長があわさり、はじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂すべてを注ぎ込むことが魔法なのじゃ。上から覗いている奴等を気にしてたら魔道は進めん。評議院のバカ共を恐れるな。自分の信じた道を進めェい!!それが『妖精の尻尾』の魔道士じゃぁ!!」

 

それと共に周りから歓声が上がり、皆が満面の笑みを浮かべて笑っており、かくいう私も頬を緩めて笑みを浮かべているだろう。

 

「まったく退屈しないな『妖精の尻尾(このギルド)』は……」

 

 

 

 

 

 

「ナツ、アルトリア、見てー。『妖精の尻尾』のギルドマーク入れてもらっちゃったぁ」

 

私が大量のハンバーガー、ナツがジャンボサイズのステーキと夕食を摂っている中ルーシィが上機嫌でスキップをしながら右手の甲に刻まれたギルドの紋章を見せてきた。

 

「ルーシィ、良く似合ってるぞ」

 

「アルトリア、ありがとう」

 

私は素直に褒めるとルーシィは嬉しそうに笑い、ステーキの肉を食べ終わったナツの方に向き直ってどうと尋ねる。

 

「良かったなルイージ」

 

「ルーシィよ!!アンタ絶対わざとでしょ」

 

「ぷぷぷ、永遠の二番手……」

 

「笑うなぁ…!!」

 

「じゃあ、金もねーし。仕事行くか」

 

そんな漫才みたいなことをしている最中食を食べ終えたナツは立ち上がり、依頼が貼ってあるリクエストボードに向かっていくのを私はハンバーガーを片手に見送っているとマカロフに『妖精の尻尾』の中年の男の魔道士、マカオの子供であるロメオが声をかけるのを聞いてそっちの方に視線を移す。

 

「くどいぞロメオ。貴様も魔道士の息子なら親父を信じておとなしく家で待っておれ」

 

「だって、三日で戻るって言ったのにもう一週間も帰ってこないんだよ。探しに行ってくれよ!!心配なんだ!!」

 

「ロメオ、貴様の親父は『妖精の尻尾』の魔道士じゃ。自分のケツもふけねェ魔道士なんてこのギルドにいない。大人しく帰ってミルクでも飲んでおれぃ!!」

 

マカロフにそう言われたロメオは目に涙を浮かべて、走り去っていくのを見届けているとアルトリアと自分の名前をマカロフが呼ぶのが聞こえ、私はクスリ笑いをしてマカロフの前に立った。

 

「どうした?何か用かマスター」

 

「ちょっとマカ……」

 

突如、マカロフの声を遮って轟音が響き、視線を向けるとそこにはリクエストボードにめり込んだ依頼書とそこからなんとも言えない顔をしたナツが外に向かっていき、辺りはマカオを助けに行ってしまうであろうナツに非難の声が上がる。

 

「進む道は自分で決めるもんじゃぁ。放っておけぇ。アルトリア、やっぱなんでもないわい。急に呼んだりしてすまんな」

 

「いいさ。それにしてもマスター、そろそろその素直じゃない癖を治したらどうだ?」

 

「ふむぅ、言ってる意味がよくわからんのぅ」

 

マカロフは惚けているように言うがナツがマカオの捜索に向かってなかったら私を捜索に向かわせたに違いない。結局、マカロフは私を含めて『妖精の尻尾』の皆を家族のように思っており、そんなマカロフが一週間も見てない家族の心配をするのは当然極まらないことだ。

 

さて、ご飯も食べ終わったし私も帰るとするかと思い、外に出ようとしたとき『待てよアルトリア』という男の声が背後から聞こえる。

 

「なんだラクサス?」

 

私が振り替えると声をかけた張本人であるヘッドホンをしたマカロフの孫である金髪の青年、ラクサス・ドレアーが二階の手摺から此方を獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「少し頭貸せや」

 

「ふん、帰ろうと思ってたが食後の運動にぴったしだ。いいだろう。相手になってやる」

 

「こら、ラクサス、アルトリア」

 

「安心しろマスター、勿論皆の迷惑にならないところでやるさ。じゃあ、マグノリア外れの森で待っているぞラクサス」

 

私はそう言って上着のポケットに両手を入れてギルドの扉を開けて外に出ていって、森の外れに着いてすぐにラクサスも到着した。

 

「早かったなラクサス」

 

「俺から売ったケンカだ。これで遅れたら男の恥だろ」

 

私とラクサスは互いに不敵な笑みを浮かべ、ラクサスが動いたのがケンカの開始の合図だった。

 

ラクサスの雷を纏った拳が私に襲いかかろうとしてくるがそれを黒い大地の力を纏った拳をぶつけて封殺するとラクサスは舌打ちをして間合いをとった。

 

「相変わらず痛ぇな」

 

「だが、以前と比べると威力は上がっている」

 

「けっ、でも、お前にはノーダメージじゃねぇか。じゃあ、此方は早速とっておき使わせてもらうぞ」

 

「雷の『滅竜魔法』か……良いだろう」

 

「行くぞぉ!!雷竜―方天戟!!」

 

ラクサスは滅竜の性質を持った雷の槍を作り、此方に向かって放り投げてきたそれは空を轟かせるほど激しい威力を持ったラクサスの必殺技である。

 

切り札の一つを切れば優に無効化できるがそれは反則技、このような勝負で使う技ではないと思う私は漆黒に染まった『聖剣』を何もない空間から取り出して一振りをすると雷槍を意図も容易く真っ二つにした。

 

「雷竜方天戟か…そんなすごい技を産み出していたなんて驚きだったぞ」

 

「その技をあっさり真っ二つにされちまったがな。まったくやっぱりアルトリアには敵わねぇわ」

 

「だが、『滅竜魔法』の力はS級魔道士試験の頃とはまったくの別人と言っていいほど腕をあげたことは見てわかる」

 

S級魔道士試験、それは普通の依頼より数倍難しい依頼を単独で受けるために適正があるか判断し、見事合格すればS級魔道士としてそのようなクエストを受けることができるのだ。

 

S級魔道士試験の時はS級魔道士が試験官を努めることが多くラクサスがS級魔道士になった試験の相手はラクサスより数年速くS級魔道士になった私が努めるときに戦った時以来戦っていなかったが雷竜方天戟は並みの者なら圧殺してしまう位の威力を持っておりあの頃より格段に成長していることが分かる勝負だった。

 

「ところでラクサス、お前は『妖精の尻尾』の中で孤立してきていないか?」

 

ラクサスはラクサスの父であるイワン・ドレアーが破門された時から孤立を深めているような気がしていたが最近では仲間を罵倒したりなど態度の悪さから皆の反感を買ってきていた。

 

「当たり前だろ。なんで、俺があんな雑魚い連中と足並みを揃えないといけないんだ?普通の依頼ごときで苦戦しているマカオみたいな連中は俺の目指すギルドにいらねぇ。そんな奴等はさっさとギルドからいなくなってくれた方がギルドのためになるんだよぉ」

 

「お前本気で言っているのか?」

 

私が鋭い視線を向けるとさーてねと誤魔化してラクサスはその場から去っていった。

 

ラクサスはマカロフの血を引いているし、あんなことを言っても仲間のことを心のうちは大事に思っているかもしれない。なら、素直じゃないのも孫もかとラクサスの後ろ姿を見送りながらため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 



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アルトリアと『呪歌』

皆さま感想とお気に入り登録、誤字報告などありがとうございます。初心者なので至らぬ点もあると思いますがよろしくこれからもお願いいたします。


闇ギルド、それは普段ギルドと言うものは地方ギルドマスター連盟に属している。だが、それに属さない非正規ギルドが存在する。それが闇ギルドであり、非正規だからこそ評議院が決めた法律を無視することだってできてしまう。

 

それこそギルド間条約によって禁止されているギルド間の()()だってやろうと思えばできてしまうのが闇ギルドの恐ろしいところである。

 

現在、私は魔物討伐の依頼の帰りに闇ギルドの一つである『鉄の森(アイゼンヴァルト)』の本拠地が近くにあると噂で聞いたので興味本意でその場所に向かっていた。

 

仮に『鉄の森』の本拠地があるという噂が偽だったらそれで良いし、真だったら討伐するだけであるので普通の人だったら怯えているであろうが私は完全に軽い気持ちで野山を歩いているとそれっぽい建物の前にガラの悪そうな雰囲気の男が門番のように立っていた。

 

「確かに闇ギルドっぽいな」

 

「なんだお前は?此処等に近づくな!」

 

私に気づいた男はガンを効かせてくるが生憎実力のない奴の威嚇など格上には通用せず私は尋ね帰す。

 

「お前らは『鉄の森』のメンバーか?」

 

「ああン、だったらどうするって言うんだ?」

 

「壊滅させる」

 

「ガキが…やれるものならやってみろや!」

 

1分後……無傷で立っている私はボロボロに倒れ伏している男たちを見降ろしながらそんなモブ敵が言いそうな台詞通り魔法を使うまでもなかったなと思いつつ鉄の扉を蹴り飛ばし中に入るがそこはもぬけの殻となっていた。

 

闇ギルドは普通拠点を設けて評議院等から隠れて行動しているがこんな綺麗さっぱり人がいないってことは普通あり得ない。これは何かあるかもしれないと思った私は倒れ伏している男を起こす。

 

「『鉄の森』の他の奴等はどこにいる?」

 

「へっ、誰が言うかよ」

 

男はそっぽを向いて私の質問に答えないためここは強行手段をするしかないようだなと私は不気味に笑みを浮かべて男の前に座って語りかける。

 

「……人間は首の骨を折ったくらいで死んでしまうか弱い生物らしい。だが、私は人間がその程度で死ぬとは思えなくてな折角、良い機会だしお前で試してみようか。死んでも痛みは一瞬だけですぐに楽になれるらしいから安心しろ」

 

この平和的話し合い(脅迫)によって私は多くの『鉄の森』についての情報を得ることができた。情報を整理すると『鉄の森』は笛の音を聞いた者を呪殺する集団呪殺魔法『ララバイ』を得て、ある目的を果たすためにこの近くにある駅に向かったらしい。

 

「だが、『ララバイ』なんて欠陥しかない魔法を使うなんて自殺志願者か」

 

『ララバイ』、そんな笛の音を聞いた者を無条件で殺してしまうのならば奏者本人やその仲間も呪殺してしまう欠陥だけな魔法を使うのは正気の沙汰とは言えない。

 

「これは止めに行かないとまずそうだな」

 

『ララバイ』を止めるために私は最寄りのクヌギ駅に行くと人だかりがてきており、立ち入り禁止のマジックテープを貼って駅の中には入れないようになっていた。

 

「何があった?」

 

「ああ、この辺のいた闇ギルドの連中が電車を乗っ取って行っちまったんだよ」

 

周りの人に事情に聞くと闇ギルドが列車を乗っ取りオシバナ駅の方に向かったらしくそれを聞いた私は風の羽で全速力で飛行しながら思考をしていた。

 

確かにオシバナ駅は人口がまぁまぁ多い町で『ララバイ』で多くの人を呪殺することができるだろうがそれをして何の意味があるというのが素直な感想だ。

 

多くの人を殺したいならわざわざ『ララバイ』という魔法を使うまでもなく一般市民なら魔道士の魔法だけで殺すことができるのにも関わらず『ララバイ』を使うということは『ララバイ』じゃないといけないことがあるのかと思いつつオシバナ駅に到着するとちょうど事情を最も知っていそうな『鉄の森』で死神という異名を持っている鎌を持った白髪の男、エリゴールが飛んでいたので蹴りで地面に叩き落とした。

 

「なんだぁ?」

 

「何でもいいだろう。所詮、貴様は私に倒されるのだからな」

 

「ッ、お前は『妖精の尻尾』のアルトリア!」

 

「死神に名前を覚えられて光栄だ。だが、その鎌で拐えるほど簡単な命はしていないぞエリゴール」

 

私は軽口を叩いて不敵な笑みを浮かべているのに対して『鉄の森』のエースであるエリゴールは余裕のない表情を浮かべるなか先に動いたのはエリゴールだった。

 

「くらえ暴風波(ストームメイル)!」

 

螺旋状に回転する竜巻が此方に向かって放たれるが私は表情を変えずに手を前に出して触れた瞬間に風が拡散して無力化させた。

 

確かに並みの魔道士よりは幾らか格上だがその程度では私に傷一つ与えることも難しく、ここからは圧倒的な力量の差による一方的な殲滅になるだろう。

 

「さて、此方も…」

 

「おい、待てぇ――――!!」

 

その聞き覚えある声と共に私とエリゴールとの間に降り立ったのはナツであり、私は面倒な奴が来たなと思い軽くため息をつく。

 

「アルトリア、このそよ風野郎は俺の獲物だ。横取りするんじゃねぇ!」

 

「ちょっとナツ、ここは協力して……」

 

「いいだろう。だが、ナツ、お前ごときの実力ではエリゴールに勝てない」

 

「アルトリアまで…」

 

「なんだとぉ!このそよ風野郎位楽勝に勝ってやるよぉ」

 

ナツをここまで運んできたハッピーは協力を促そうとするが私はそれを遮って現時点でという言葉を伝えずに二人の戦闘の邪魔にならぬように下がっていくがその言葉が効いたのかヤル気満々のようである。

 

「アルトリア、さっきのナツは勝てないって本当なの?」

 

私とハッピーは少し離れた場所で観戦をしているとハッピーが心配そうな表情を浮かべて尋ねてきたので正直なことを話す。

 

「ああ、本当だ……あくまで()()()ではな」

 

ナツとエリゴールを比べた場合このままだと僅かな差でエリゴールに軍配があがるが、潜在能力で言えばナツの方が格段に上である。

 

エリゴールはそのナツの潜在能力を引き出すのにはいい相手だと思うし、『ララバイ』を吹こうものならばその隙に攻撃を仕掛けて阻止してしまえばいいだけである。

 

「私はこの戦いの最中成長しナツが勝利することを確信したからこそナツに任せた。ハッピーお前はナツと私を信じるかナツと私を信じないかどうする?」

 

「そんなの――二人を信じるに決まっているよ!」

 

「なら、この勝負を大人しく見守ろう。ところでさっきから気になってたんだがお前たちはなんでここにいるんだ?」

 

「えっと、最初から話すと……」

 

ハッピーから聞いた話によると『妖精の尻尾』の『妖精女王』の異名をもつ委員長性格の鎧を着た少女、エルザがララバイの封印を解こうとしているという話を酒場で聞いて、ナツ、ハッピー、ルーシィ、ツンツン頭の氷の造形魔法を使う少年、グレイ、エルザがララバイを阻止するためにチームを組んで動いてたということだ。

 

「それで彼奴等の目的はクローバーで定例会にいるマスターたちを『ララバイ』を使って呪殺することなんだ」

 

「権利を奪われたことによる復讐か……そんなことをやっても権利がもどってくるはずないのによくやるもんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ~!!どうだアルトリア」

 

危なげであったがボロボロになりつつあるナツはなんとかエリゴールに勝利して声をあげるナツに対して私は当然だと声をかける。

 

「あんな相手に苦戦するなど私に勝つには百年早いな」

 

「なんだとぉ、何処からどう見ても圧勝だろ。な、ハッピー」

 

「微妙なとこです」

 

「なら、そういうことにしておこう」

 

「ナツ――!!」

 

その時、魔力を原動力に動く魔道4輪に乗ってルーシィ、グレイ、エルザと身体中に包帯を巻いた男が此方にやって来た。

 

「お、きたか。もう終わったぞ」

 

「流石だなナツ、それとアルトリアがどうしてここに?」

 

「お前たちと同じ理由だ。まぁ、結局、私がいなくても解決できたみたいだがな」

 

「ハッハッハ、当たり前だろー」

 

「そんなこと言ってほんとはアルトリアに手伝ってもらったんじゃねぇのか?」

 

「アルトリア自身が違うって言ってたし、なわけねーだろ耳ついてんのか?」

 

『『やんのかコノヤロー』』

 

「やめんか二人とも」

 

『『あい』』

 

犬猿の仲でかなり仲が悪いナツとグレイにその仲裁役のエルザが一声かけると二人は間抜けな声を出して肩を組んで返事をする。

 

「何はともあれナツ、お前のお陰でマスターたちは守られた 。ついでだ……定例会場に行き、事件の報告と笛の処分についてマスターに指示を仰ごう」

 

「クローバーはすぐそこだもんね」

 

その時、『鉄の森』のメンバーの包帯の男、カゲが魔道4輪を動かし、『ララバイ』の笛を自分の影の魔法で拾ってクローバーの町を向かっていく。

 

「油断したな妖精(ハエ)ども、『ララバイ』はここにある―!ざまぁみやがれ!!」

 

「あんのやろぉぉぉぉぉ!!」

 

「何なのよ!助けてあげたのに……」

 

「追うぞ!!」

 

こうして魔道4輪で走ってゆくカゲをナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、エルザは追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これですべてが変わる……」

 

クローバーに到着したカゲは手を震わせてそう呟くが頭のなかには『妖精の尻尾』に言われたことが残っていた。

 

『そんなことしたって権利は戻ってこないのよっ!』

 

『もう少し前を向いて生きろよ。お前ら全員さ……』

 

『カゲ!お前の力が必要なんだ!!』

 

『同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!!』

 

その言葉が頭に浮かぶがカゲは頭を横に振ってそんな考えを頭から取り除こうとする。

 

「いや、俺の行為は間違ってないはず………」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

私は魔道4輪の座席から私は腕と足を組んでそう声をかけるとカゲは此方を振り向いて驚きの声をあげる。

 

「自己紹介がまだだったな。私はアルトリアだ」

 

「どうやってここに……?」

 

「お前が笛を拾ったと同時に乗った。まぁ、そんなことはどうでもいい。お前がやっているということは例えるなら子供がおもちゃを欲しいと親に駄々をこねるのと同じだ。そんなことをしてもお前はなにも変わらない。変わるというのは他人から奪ってできることではない。多くのものから学び、色々なことを経験し、人は変わっていくものだ」

 

「ッ……」

 

「私はとある英雄を知っている。その英雄は『正義の味方』になりたくて、大勢の者を救いたくて小を切り捨てた。その結果、その英雄が得たものはなんだと思う?」

 

「……名誉とか賞賛じゃないのか?」

 

いいやと私は首を振って残酷な答えをカゲに告げる。

 

「答えは無、当たり前のことだ。小を切り捨てるということはもとの数から少ない数を引き算し続けるということだ。繰り返し引き算をし続ければ残った数より引いた数の方が大きくなってしまう。英雄は自分のやって来たことは結局、なんだったのかと思い絶望した。そして、絶望したままその英雄は残された者によって処刑された……。この話を聞いても『ララバイ』を使いたければ使うがいい。だが、その先に待っているのは地獄だぞ」

 

「なら……俺はどうすればいいんだよ!!分からないんだよ!!こんな俺がどうすればお前たちみたいになれるのか……」

 

カゲの心からの叫びに私は笑みを浮かべ、歯を食い縛りうつむくカゲに手をさしのべる。

 

「それがお前の本音か。なら、お前は罪を精算し、『妖精の尻尾』に来い」

 

「……俺は闇ギルドだぞ!!そんなことできるはずが…」

 

「悪人とか関係なく悩める者に手をさしのべるのも『妖精の尻尾』だ」

 

『妖精の尻尾』は良い意味で甘い。以前の私は問答無用で害する敵を排除してきたがそんな雰囲気に飲まれて私も本当に甘くなったと思う。甘くなったと思うが私はそれを後ろめたく思わない。それも私の強さの一つになっているのだから。

 

「さぁ、その笛を捨ててこの手を取るか、取らないかはお前次第だ」

 

「そんなの……答えは決まっているじゃないか」

 

カゲは笛を捨てて、その顔はぐしゃぐしゃになっており、ひどい顔をしていたが笑って私の手を取ったのと同時に私は背後を振り向く。

 

「そろそろ出てきたらどうだ?盗み聞きとは感心ならないぞ」

 

そう声をかけるとマカロフやナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、エルザが近くの叢から姿を現し、此方にやって来る。

 

「いやー見事じゃアルトリア」

 

「マスターの言う通り流石の一言だったぞ」

 

「うんうん、すごくかっこよかった」

 

「まぁ、アルトリアならこれくらい当然だなー」

 

「とりあえず、これで一件落着だな」

 

私たちが祝勝会ムードになっていく中でカゲに捨てられた『ララバイ』の笛が黒い煙を吐き出し、その吐き出した煙が巨大な樹木の怪物のような姿になって私たちの前に現れた。

 

『どいつもこいつも根性のない魔道士で困る。だから、お前らの魂をワシ自らが喰わせてもらうぞ。これだけの魔道士を喰えばワシのお腹も満腹になることだろうしな』

 

「なんだこいつは……?」

 

「こいつは『ゼレフ書の悪魔』じゃ」

 

「どうして笛からこんな化け物が……」

 

「あの怪物自体が『ララバイ』…そのもの、つまり生きた魔法じゃ。それが伝説の黒魔道士ゼレフの魔法……」

 

「ああ、まさかここでかなり低いレベルであろうがゼレフの書の悪魔と会うことになるとはな」

 

ルーシィの声にマカロフは焦りの表情で簡単に説明している中私は軽口を叩きながら黒い『聖剣』を取りだし、その剣を両手で振りかぶるとマスターが驚愕の表情を浮かべる。

 

「アルトリア、貴様、『アレ』を使う気か!?」

 

「安心しろ。被害は最小限に抑える。『ララバイ』はこの世界にあってはいけないものだ。お前らも下がっていろ。一瞬で終わらせる」

 

私は皆にそう告げて前に向き直り睨み付けると私がこの『聖剣』を振りかぶったことの重要さを知らない『ララバイ』は嘲笑っていた。

 

『ハッハッハ、一瞬で終わらせるだと。できるものならやってみるがよい小娘』

 

「お前は私とカゲの話を聞いていたな。他人から奪ってその先に待っているのは地獄だと……お前は過去多くの命を奪ってきた。地獄に落ちるが良い『ララバイ』よ……」

 

その言葉を告げると共に私は魔力を放出させて『聖剣』は黒いオーラを纏い、その『聖剣』が強い禍々しい黒い光をあげていく。

 

「空気が震えている。ものすごい魔力だ」

 

「じーさんあれは……?」

 

後ろで見ているエルザは思わずそう呟き、グレイは『聖剣』に宿る異常な程の膨大な魔力量に思わず尋ねるとマスターは真剣な表情を浮かべて答える。

 

「あれは地を焦がし、天を切り裂くアルトリアの必殺の技じゃ。それは『妖精の尻尾』に伝わる三大魔法に匹敵するであろう技、それゆえにアルトリア自身が普段封印している技…」

 

『小癪な…我に魂を寄越せ!』

 

流石の『ララバイ』も余裕の顔を崩し、口から呪歌を放つがもう手遅れだ。マスターも言った通りこれは必殺の一撃、冥土の土産として私の『聖剣(切り札)』の名を心に刻むがいい。

 

「『卑王鉄槌』、極光は反転とする。光を呑め――――約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!

 

『聖剣』の真名開放と共に剣を振るうと漆黒に染まった光の閃光は空を切り裂いて、『ララバイ』の上半身を飲み込み跡形もなく消滅させ、残った下半身は力なく崩れ落ち朽ちていった。

 

 

 



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アルトリアと決闘

『ララバイ』の事件解決から数日経ち、あれから『鉄の森』のメンバーたちは軍に連行されていったがカゲだけは答えを出せたお陰か満足そうに笑っていた。

 

それと『ララバイ』は『約束された勝利の剣』によって完全に消滅し、もう二度と使えないようになって事件は収束し、それを壊した張本人である私は現在、ハンバーガーを食べながら今から始まるであろうエルザとナツとの試合を観戦していた。

 

「なぁ、アルトリアも賭けるかい?」

 

「いいや、今回は遠慮しておこう」

 

酒飲みの少女、カナがエルザ、ナツの勝負についての賭け事を誘ってくるが戦いの観戦を純粋に楽しみたい私は断りをいれて次のハンバーガーに手をつけるとルーシィが駆けながらやって来た。

 

「二人とも本気なの!?だって…最強チームの二人が激突したら…」

 

「最強チーム?なんだそりゃ」

 

グレイがルーシィに聞き返すとルーシィはナツとグレイ、エルザが『妖精の尻尾』のトップ3であると述べるとそれを聞いた皆は嘲笑ったり、納得いかないと声をあげる。

 

事実ナツ、グレイ、エルザは『妖精の尻尾』の中でもトップクラスに強いがエルザは兎も角、ナツとグレイはトップクラス止まりで最強ではない。

 

厳しい試験によってS級魔道士になった者と普通の魔道士には大きな差があり、正直勝敗自体はS級魔道士のエルザが勝つだろうが私が楽しみにしてるのはそのS級にナツがどれくらい食らい付けるかということだ。

 

「ナツ、こうしてお前と闘うのは久しぶりだな」

 

「あの頃の俺とは違うんだ。勝負だエルザ」

 

「ああ、私も本気で行かせてもらうぞ」

 

そう言い空間にストックしている武器や鎧を取り出す魔法『換装』でナツの得意分野である炎の攻撃を半減する『炎帝の鎧』を装備して真剣な表情でナツを睨み付ける。

 

「全力で来い!」

 

「『炎帝の鎧』かぁ…そうこなくちゃな。じゃあ、全力で行くぞ」

 

二人が構えあってマスターの試合開始の宣言と共にナツがエルザの懐に突っ込むがそこをエルザは剣で斬りさいたがそれを咄嗟にしゃがみこんで回避した。

 

「チャンス~!」

 

ナツは蹴りを振るうがそれはあっさりと避けられ、エルザに足払いされ、転ばされるがそこを口から火を吹くがそれも華麗に回避されてギャラリーの方に飛んでくるのを私は黒い疾風を引き起こして防ぐと闘いに見入つてたルーシィは息を飲んで呟く。

 

「すごい攻防ね…」

 

「まぁ、ナツとエルザならこれくらい普通だ。だが、エルザはまだまだ全力を出していないようだがな」

 

「え?」

 

「見てればわかる」

 

私の言葉にルーシィは再び闘いに向き直ると実力の差が出てしまったのかナツは徐々にエルザに押されつつあった。

 

只でさえ炎が半減され、ナツの魔法が効きにくくなっているのに実力の差があるならこうなるのは当然のことである。

 

ナツは剣を避けたり、防御したりと防戦一方であり、あとは時間の問題であろう。押されていると一番理解しているのは押されている本人自身であり、それが焦りに繋がり足元を掬われる。

 

「攻撃が単調になっているぞ」

 

「ぐっ、負けるかぁ…!」

 

ナツは焦りながらも負けじと拳を突きだすがその力を込められた拳を冷静に避けたエルザは足払いでナツを転ばせて、そのままなら首と胴体をさよならしたであろう剣を首筋で寸止をして勝負はエルザの圧勝という結果で終わった。

 

「私の勝ちだな」

 

「ちくしょう、今回は勝てると思ったのになぁ」

 

「たが、良い勝負だった」

 

「おう、次は負けねぇからな」

 

エルザは地面にあぐらをかいて座っているナツに手を差し伸べるとナツはそれを握って立ち上がる様子にエルザは過去にアルトリアとした試合に似てるなと思う。

 

あのときは敵わなかったが実力をつけてきた今ならばアルトリアに敵わなくても良い勝負ができるかもしれないと考えたエルザは私にゆっくりと近づいてきた。

 

「アルトリア、私と勝負してくれないか?」

 

その声に周りがざわめく。エルザと私は同じS級魔道士、『妖精の尻尾』の最強女魔道士と噂される二人の闘いであり、ギャラリーがざわめくのも仕方ないことであろう。

 

「いいだろう」

 

食後の運動にちょうど良いし、エルザの成長がよく見れるかもしれないし私はそのエルザの申し込みを受けると周りから歓声があがった。

 

「エルザVSアルトリアか。やっぱりエルザより先にS級魔道士になったアルトリアが勝つのかな?」

 

「いや、エルザだってS級魔道士になってから大分経つし、まだわかんねーぞ」

 

「次はアルトリアとエルザの勝負で賭けるぞ」

 

周りが盛り上がっている中でエルザはライトグリーン色の和装の鎧『風神の鎧』に換装し、私の風の魔法に対抗しようとしてきた。

 

「『風神の鎧』、それで私の『風の魔法』をなんとかしようと考えてるわけか…」

 

ナツの時と同じように有利を取ろうとしてくるみたいだがこれくらいでなんとかできると少なからず思っているであろうエルザの考えを私は折ってやることにした。

 

「たが、エルザ、私の風は神だろうが喰らい尽くすぞ『風魔の黒狼(ふうまのこくろう)』!!」

 

手を突きだして現れた黒い魔方陣から黒い風の体を持つ狼がエルザに襲いかかり、エルザはそれをさせんと狼を斬りつけるがその狼は剣をかみ砕き鎧を爪で斬り裂いて鎧を破壊した。

 

「くっ…」

 

エルザが片方の膝をつくと周りが再びざわざわし始める。まぁ、私もこの系統の魔法を自身以外の使い手を知らないぐらいかなり珍しい魔法なので当たり前と言えるだろう。

 

「なんだあの魔法は!?」

 

「エルザの鎧を軽々と壊したぞぉ!?」

 

「私の風の魔法は悪魔を滅する性質を持った『滅悪魔法』と呼ばれるものだ。ナツの『滅竜魔法』の悪魔バージョンだと思ってくれればいい」

 

私はそうエルザを見下ろしながら説明して指パッチンするとその狼が空気に溶けるように消えていった。

 

「なぁ、悪魔なんかいんのか?」

 

「あの『ララバイ』はゼレフ書の悪魔って呼ばれてたでしょ!あれもアルトリアの『滅悪魔法』だったのね」

 

―あれは私固有の魔法だがな。ただ、私の使う魔法の中で最強にして最凶の技であることは間違いない。あれは使い方によっては簡単に多くの命を奪い、物を壊すことができてしまう。だからこそ、私の切り札な訳だが…。

 

私の使える魔法は大きく分けて『風の滅悪魔法』、転生してから会ったエルザに似た緋色の髪の女性に教えてもらった性質を付与する『付加術(エンチェント)』、そして、私の固有魔法の3つであり、エルザには風の『滅悪魔法』しか使ったことないが恐らくこのままでは同じ結果になることであろう。

 

「エルザ、お前弱くなったな」

 

「な、そんなはずは――」

 

「正直今のお前など微塵も怖くない。過去のお前の方がよっぽど強かったぞ。勝負する前から勝つつもりのない何処かの魔道士と違ってな。魔法は使用している者の内面を映す鏡だ。己の思いの力が魔法にかなり影響する。それこそ掛け算のように力を倍増することができれば、逆もあり得る。単純な力で負けているのに気持ちまで負けててどうする?」

 

私の言葉を聞いて自分は負けてもいいと思っていたことに気づいたエルザは馬鹿かと自分を叱咤する。

 

アルトリアの言う通り自分の実力が負けているのに気持ちで負けていたら一生勝てるはずもない。負けてもいいんじゃない――必ず勝つんだアルトリアにとエルザは勝利を得ようとする鋭い眼差しを持ってサラシ姿になり、その手には妖刀『紅桜』を持っていた。

 

「良い目だ。それに守りを捨てて一撃にかけるとは面白い。なら、撃ち破って見せろ『風魔の黒狼』!」

 

私は先程のように狼をエルザに向かって走らせるとエルザはゆっくりと剣を振りかぶった。その姿は私の『聖剣』を振るう時と似ていて紅桜には赤いオーラが宿りそのまま狼を一閃、綺麗な真っ二つに別れたが息を切らしながら倒れるのを私は受け止めた。

 

「はぁはぁ、見よう見まねでなんとかできたが…なんて魔力の消費量だ。あれを撃って平然としているなんてやっぱりアルトリアはすごいな」

 

「いや、あれを見よう見まねで再現するお前も流石だ。鍛練したらいずれ自分の物にできるだろう」

 

私たちが話していると皆は『良い勝負だったぞ!!』と、歓声をあげて拍手をし始め、審判のマカロフも異常に温かい笑みを浮かべている最中、少し離れたところで見ていた金髪の青年は不快そうな顔をして舌打ちをした。

 

「チッ、いつからアンタはそんな風に変わっちまったんだよ…」

 

 

 

 



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