リトルアーモリー ~戦場を駆ける女子高校生たち~  (AEGIS )
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桜と銃と女子高校生と
第1話 始まりの銃声


第1話の編集が完了したので投稿します。
なるべく第2話も早くあげて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。


「銃と女子高校生」「戦場と女子高校生」

 

 この二つの組み合わせを普通の日常として過ごす女子高生はいないだろう。

女子高校生がスマホの代わりに拳銃を携帯し、学校の体育でハイポート走を行い、学校帰りにガンショップに寄って、友人とおしゃべりしながら銃を整備する。

そんな現実離れした日常はマンガやアニメだけの、非日常であるはずだった。

だが世界は、無情にも非日常を日常へと変えてしまった。

 

女子高校生(リトル)が銃を持(アーモリー)ち、戦場(にちじょう)を駆ける世界へと。

 

 ~20世紀末~冷戦が終わり混沌とした世界から新しい世界へと変わろうとした頃、誰もが平和な世界になるとそう信じていた。しかし、奴らの出現により人々が信じていた平和な世界は訪れることはなく、以前よりも混沌とした世界へ変わっていった。

 

「XX=イクシス」

 

 そう呼ばれる未知の敵の出現により世界は再び戦火の渦に飲み込まれることとなった。

イクシスは「ネスト」と呼ばれる謎の空間から現れ、人間を無差別に襲っていった。緒戦は突然の奇襲と物量戦術により多大な被害を被ったが、各国軍の奮戦によって辛うじて防衛線を確立することが出来た。撃滅することは出来なかったが、封じ込めに成功し、戦闘地域ではないところでは、戦争していることが遠い世界の出来事であるように感じるくらいには、世界は平和を取り戻し始めていた。

 

 しかし世界は平和になることが不満なのか、小規模のネストが世界中に出現するようになった。出てくるイクシスの数は少ないものの、出現場所に規則性等はなく、ある時は朝の通勤ラッシュで込み合う道路の真ん中に、ある時は家族団らんで楽しむショッピングモールに、ある時は愛を誓いあう結婚式の最中に…

どこにでも現れるイクシスに人々は恐怖し、戦争が再び遠い出来事ではなくなった。

 

 2020年現在、民間防衛の一助として設立された「指定防衛高等学校」と呼ばれる高校と武装した学生の登場により、人々の日常は守られていた。普段は普通の学校生活を送りつつ、イクシスが現れた際には人々を守るために戦う。

高校生が背負うには重たい責任に彼らは臆することもなく、「高校生」という青春を謳歌していた。

 

 

 

 2020年4月6日

 桜舞うこの日に指定防衛高校の一つ「私立明日波(あすは)高校」の入学式が始まろうとしていた。そして今日、この高校に入学する一人の少女がいた。少女はこれから始まる学園生活を前に胸を躍らせていた。

 

「ついに入学か・・・・」

「なに、由奈(ゆな)、緊張してるの?」

 

といつの間にか隣にいた、伸びた黒髪を二つ結びにしている幼馴染がそんな事を聞いて来た。

 

「そんなわけないでしょ、ついにこの日が来たんだっていう実感が湧いてきただけよ。(ゆき)こそ、昨日から緊張していたんじゃないの?」

「そりゃ私は由奈みたいに進む気満々って訳ではなかったからねー。ここは全寮制だし、銃って重たいって聞くし、訓練はしんどそうだし」

「じゃあなんで入学したのよ・・・」

 

入学前からやる気ゼロのセリフに呆れていると、「まぁいいじゃん、行こっ」と言い、手を差し出してきた。私は雪のお気楽さに再び呆れながら、差し出された手を取り、入学式会場に向けて歩き始めた。

 

 

 

「〜〜〜以上で入学式を終わります。一年生はクラスを確認後、各教室に移動してください。全員が教室に移動出来たのち各教室の担任教師の指示に従い、行動してください」

 

入学式が終わり、自分のクラスへ移動すると朝一緒に登校してきた雪の姿があった。向こうもこちらに気づいたらしく喋りかけてこようと席を立とうとしたとき、教室のドアが開いた。ドアの先からは担任と思われる女性が入ってきて「席に座ってください」と言いながら教壇へと向かっていった。私と雪はおとなしく自分の席に座った。

教壇の前に立った女性は空席がないことを確認し、穏やかな雰囲気を纏わせながら話を始めた。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。今日からこのクラスの担任を持つ事になりました、滝本 香澄(たきもと かすみ)です。この高校は他の高校のようにクラス替えはないので3年間、このメンバーで過ごすことになります。ここにいる全員で卒業式を迎えられることが出来るよう、私も努力するので皆さんも最大限努力してください。」

 

先生は私たちに聞きやすい声で話しながら、持っていた大量の書類の束の中から一番上にあったものを取り出した。

 

「この後の予定ですが名前を呼ばれた者から前にきてこの書類一式を受け取ってください。その後席に戻り書類を確認して不備がある人は教えて下さい不備のない人は書類を前に返しに来てください。全員が確認済み次第、次の予定を伝えます。質問がある人は?いないのであれば始めます、一番〜」

 

そういうと先生は書類を配り始め、名前を呼ばれた者から一人づつ書類を受け取りにいった。特に何か問題が起こるわけでもなくスムーズに進んでいき、最後の一人が書類を出した。

 

「全員不備無し、確認しました。では次予定を伝えます。」

 

と先生は言うと、これまでの穏やかな雰囲気を一変させ、硬い雰囲気となった。

急な態度の変わりようにクラス全体がどよめいた雰囲気になったが、そんな雰囲気を吹き飛ばすような言葉が先生の口から放たれた。

 

「ーではこれから、皆さんに小銃と拳銃を配りますー」

 

 



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第2話 重たい相棒

第2話投稿します。


「ーではこのあと小銃と拳銃を配りますー」

 

 その瞬間、教室が驚きに包まれた。

指定防衛校に入学した以上、いつかは銃を渡される時が来るとはクラス全員わかっていた。しかし、入学式を1時間前に終えたばかりの新入生に渡されるとは誰も想像していなかったのだろう。

 

「静かに」

 

と言いながら先生は手を叩いた。雰囲気は硬いままだったが表情は私たちを落ち着かせるためか、少しやわらかいものとなっていた。

 

 

「他のクラスが先に受け取りに行っているので、あなたたちには先にこれから渡す小銃と拳銃の説明を行います」

 

 先生はリモコンを手に持つと教室に備え付けられているモニターの電源を入れた。モニターが移るとそこには銃の画像が表示されていた。

 

「これは皆さんに配る小銃の画像です。名称はM4A1、5.56mmNATO弾を撃つことができる小銃です。特徴としては---」

 

 先生はポインターで説明箇所を示しながら説明を進めた。

 

 指定防衛校によって支給される小銃や拳銃は異なるが、明日波高校では全員一律で小銃はM4A1、拳銃はGLOCK(グロック)17が支給される。指定防衛校によってはAKMやM16、89式小銃(はちきゅうしき)が支給される高校や、すごいところではカタログの中から好きな銃を選ぶといったセレブな指定防衛校も存在する。一応、明日波高校でも申請さえすれば私物で買った銃を持ち込み・使用することが許可されているので支給された銃以外を使っている先輩も一定数いるらしい。

 

「---これで説明は以上です。それでは銃を受け渡しする場所に移動するので皆さん付いてきてください」

 

 先生の指示に従い、移動を開始した。廊下に出ると隣のクラスの生徒が銃を持っているのが目に入った。これから私もアレを受け取るのかと思い、期待と緊張で鼓動が大きくなったように感じた。そんな私の感覚なんて知りませんと言わんばかりに、話しかけたそうな顔をしている雪が私の方に向かってきた。

 

「まさかこんなに早く貰えるとはねー。緊張してる?」

「しゃべってると怒られるわよ」

「大丈夫だって。やっぱり緊張してる?してるよねっ?」

「そりゃ緊張してるかと聞かれれば、してると答えるけど」

 

 そう答えると雪はにんまりと笑い、うんうんと頷いた。雪にとっては私が緊張しているのは当然だったようで「やっぱり」と勝手に納得してる様子だった。

 

「雪のほうこそ緊張してないの?」

「いや?多少はしてるけど別にそこまで緊張してないかな。貰えることわかってたし」

 

 雪はあっけらかんと答えた。まぁそうだろうと思っていたが、改めて聞いて確認してみるとよく緊張しないものだなぁと感心した。

 

「由奈も私を見習えば緊張しなくなるよ」

「雪を見習ったら、周りから頭がおかしくなったのかって、心配されちゃうからダメ」

「それ、普通に私のこと貶してるよね」

 

 そんな他愛もない会話を楽しんでいると、先頭を歩いていた先生が「武器保管庫1-2」と書かれた教室の前でとまった。私と雪は話すのをやめ、先生が話始めるのを待った。

 

「それではここで一人ずつ小銃と拳銃を支給していきます。出席番号1番の人から受取口に向かってください。受け取るときに自分の名前と学生番号を聞かれるので伝えてください。小銃と拳銃を受け取った人から教室に戻るように」

 

 そういうと先生はドアを開け、「では中に入ってください。」と言った。教室に入ると中は1/3が待合スペース、2/3が保管場所というになっており、待合スペースと保管場所の間には鉄格子のようなもので区切られていた。そして鉄格子の真ん中に受け渡し口があり、そこには私と同じ制服を着た女性が立っていた。

 

「あそこで受け渡しを行います。1番の人、受け取りに行ってください」

 

 先生の合図とともに銃の受け渡しが始まった。受け取る際の声が裏返ったり震えていたりと緊張しているのが伝わってきた。緊張が無くなったことを心の中で雪に感謝していると、いつの間にか私の順番になっていた。受け渡し口の前に行くと制服を着た女性が新しいM4A1を取り出していた。

 

「学生番号と名前をお願いします」

「学生番号20125、古城由奈です」

 学生番号と名前を伝えると受け取り口の女性は名簿にチェックを入れ、M4A1とGLOCK17を差し出してきた。差し出された銃を手に取ると、考えていたより重さよりも、よりずっしりとした感触が伝わり、ついに本物の銃を手にしたんだと実感した。それが表情に出ていたのか、受け取り口の女性から「顔がニヤついてるぞ」と指摘された。私は恥ずかしくなり、その場から逃げるように武器保管庫を後にした。

 

 教室に戻り、席に座っていると雪が戻ってきた。雪はそのまま自分の席へ向かうと、M4A1を机の横についているガンラックに立てかけ、何事も無かったように座った。

絶対に話しかけてくると思っていた私は、話しかけてこないことに驚いたが、まぁそういうときもあるかと勝手に納得した。そうなると先生が戻ってくるまでやることも無いので私は机の上に置いてあった構内マップを見て待つことにした。

食堂の位置やトレーニングルームなど、よく行きそうな場所の確認をしていると、最後のクラスメイトと先生が教室に戻ってきた。私は構内マップから目を離し、先生の方を向いた。

 

「全員受け取りましたね。今配った銃はあなた達を守る術であり、あなた達がこの高校に在籍しているという証明であり、指定防衛校の生徒になった証です。ここにいる大半の生徒は3年間、その銃と共にこれからの生活を過ごすことになるでしょう。その銃を使いこなす事があなた達に与えられた大事な使命です。ですがそれはとても難しい事で、誓いこなすことが出来るのか不安な人もいるでしょう。ですがそれが出来なければ目の前で大事なものを失うことに繋がります。大事なものを失しなわないためにも、使いこなせるよう訓練に励んでください」

 

 私は先生の言葉を聞き、入学することを決めた時に誓ったことを思い出した。それは今でも鮮明に覚えている。忘れられない過去の出来事。

あの時に誓った『もう二度と目の前で大切なものが失われないようにする』という言葉を。

 

「では今後の予定ですが、年間スケジュールの説明を行います。年間予定表を配るので一枚とって、後ろの人に回してください。それが終わって、明日の予定を伝えたら、今日の授業は終わるので、終わったらそれぞれの寮部屋に移動してください」

 

 言い終えると先生は予定表を配り始めた。私は回ってきた予定表を一枚とり、後ろの席に回した。予定表を見てみると「学園祭」や「体育祭」といった普通の学校行事から、「夏季合同演習」「選抜射手大会」といった指定防衛校ならではの行事が記載されていた。

一通りの説明を終え、明日の予定が体力テストであること、部屋に行ったら銃の保管場所と整備のやり方を同室の先輩に教えてもうということが伝えられ、今日は終わった。

 

「そうそう、1つだけ、伝え忘れていたわ」

 

わざとらしく思い出したように言い、ニコっと笑った。

 

「今日渡した小銃と拳銃、毎日忘れずに持ってきてね。忘れるとクラスみんなで仲良く腕立て伏せやることになるから」

 

 最後にサラッと恐ろしいことを言い残して先生は教室から出ていった。絶対に忘れないようにしようと心に誓い、寮に移動しようと立ち上がった。雪はどうするだろうとみてみると、雪も同じことを考えていたみたいで目が合った。とりあえず廊下に出ようと合図を送ると、雪はこくり、とうなずき教室をでた。私も廊下に出ると、雪はM4A1を抱きかかえるように持っていた。その姿はまるで大きなおもちゃを買ってもらった子供のように見えて少し笑ってしまった。

 

「なんで急に顔見て笑うのよ」

「なんでもない。寮に移動するんでしょ?込み合う前に移動しよ」

 

雪はじっと見つめていたが、私が歩き始めると雪も隣で歩き始めた。

 

「そーえば、由奈は寮何号室だった?」

「確か301号室だよ。」

「ほんと!?私も301号室なんだよー!これで3年間一緒のクラスで部屋だね!」

「えぇー、雪と3年間もずっと一緒かぁ。うるさそうだし、先生に頼んで部屋変えて貰おうかな」

 

と雪をからかってみると、雪はぷぅーと言う感じに頬を膨らませた。

 

「むー何よー、一人じゃ寂しいくせにー!私じゃ不満だって言うのー!」

「ふふっ、冗談よ。ごめん、ごめん。ほら機嫌直して」

 

私は雪の膨らませている頬をつつきながら謝った。

 

「まぁ分かってたから良いけど。あ、そいえば---」

 

 私たちは銃を受け取りに行くときのような、他愛のない会話を楽しんでいた。

しかし、あの時にはなかった銃の重みが、消えていた緊張感を思い出させた。その緊張感は会話を続けても、消えることはなかった。

 

 

 

 




早速小銃と拳銃が渡されるというスパルタ指定防衛高校。
ちなみにグロックは17より19のほうが好きです。


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第3話 301ガチャ結果

投稿が遅くなり、申し訳ございません。


「ここが301号室」

 

 私と雪は部屋の前で立っていた。話している間に目的の301号室にたどり着くことは出来た。しかし、私たちは一向に部屋のドアを開けようとはしなかった。

「ほら由奈、開けちゃいなよ。ここで止まってると邪魔になっちゃうし」

「いや、雪の方が近いし、雪が開けてよ」

 

 すると雪はすすっと、後ろに下がった。入学式やら銃の受け渡しやらでは緊張しなかったくせにこのドアの先に入ることは緊張するらしい。

 明日波高校の寮部屋は1年生から3年生、各学年2人計6名が共同で生活する。部屋のメンバーは普段の生活を共にするだけでなく、全学年合同訓練や突発的なパトロール任務などに対応するためのチームにもなる。

 もし先輩ガチャに外れてしまった場合は灰色の学校生活が始まる。そのため、ここが今日一番の難所と言っても過言ではない。そして私も雪もこの難所に飛び込むのを躊躇い、部屋の前で譲り合うという奇妙な状況が発生していたのである。

 

「私より由奈の方が近いじゃん、由奈が開けてよ!」

「それは雪が下がったからでしょ!そんなに部屋に入りたいな雪が開けてくれればいいじゃない」

「わ、私は、だってほら。由奈の方がこの高校に入学するの楽しみにしてたっぽいし?私が開けるより由奈が開ける方が適任かなーって、仕方ないから私より先に入室する権利をあげる!」

「そんな権利いらないし!理由も意味わかんないし!」

 

 部屋の前で言い争っていると部屋の扉が開き、怪訝そうな顔した女性が出てきた。女性は私たちに銃を渡してくれた女性だった。

 

「なーに部屋の前で騒いでいるのやら。扉開けておくから早く部屋に入ってきなさい」

 

 女性はそれだけ言うと部屋の中に戻っていった。私たちは顔を見合わせた後、覚悟を決めて部屋の中に入った。

 

「おっ、ようやく入ってきたか。声が部屋まで聞こえていたよ」

 

 部屋に入ると先程とは別の女性、いや先輩が銃を整備しながら声をかけてきた。私たちの声が聞こえてくれたから先輩はドアを開けてくれたのだろう。あの会話を聞かれていたと思うと恥ずかしくなってしまい、私と雪はうつ向いてしまった。

 

 

「なつ先輩、後ろの二人がさっきから部屋の前で騒いでた子たちですか?」

 

 床に寝そべって雑誌を読んでいた先輩がニヤニヤ笑いながら聞いてきた。その様子を見ると全部のやり取りが聞こえていたらしい。なつ先輩と呼ばれた女性は「そうよ、まったく」と言いながらこちらを向いた。

 

 

「まぁとりあえず2人とも無事に入ってきたことだし、お互い自己紹介から始めましょうか。私は普通科3年の『宮本 奈津美(みやもと なつみ)』。後輩からは『なつ先輩』って呼ばれてる。一応武器管理委員会に所属してるから銃で困ったことがあったらいつでも相談して」

「なつの挨拶は硬いねー、私は普通科3年、『高田 咲(たかだ さき)』。気軽に名前で『咲』って呼んでね」

「普通科2年、『藤田(ふじた) あかり』です。私のことも『あかり』って呼んでね。あ、先輩は無しでいいよ!よろしくねって、ちょっと、なな~、そろそろ布団から出てきて自己紹介しなさいよ」

「うぅー、眠いのに・・・。普通科2年、『水崎 七海(みずさき ななみ)』です。得意分野というか専門は爆破物です。よろしく・・・」

 

 先輩たちはそれぞれ自己紹介をしてくれた。どの先輩もいい人そうでホッとした。

 

「とりあえず私たちの簡単な自己紹介こんな感じでいいとして、お2二人さんにも自己紹介してもらおうか」

「は、はい!普通科1年、『古城 由奈』です。よろしくお願いします」

「同じく普通科1年、『|中村 雪』でーす、先輩方よろしくお願いしまーす!」

 

 私は少し緊張したままだったが、雪のほうはもう緊張はなくなったようで、いつも通りの雰囲気で自己紹介していた。

 

「古城さんに中村さんね。中村さんのほうはまだ緊張してるかな?」

「まぁ、なつの見た目はごついから緊張しちゃうのも無理ないけどねー」

「あんたの銃は二度と整備しないわ」

「すみませんでした」

 

 そのやり取りに笑ってしまい、私の緊張は無くなった。

 

「とりあえず咲の銃は整備しないということでいいとして、簡単な部屋の説明と2人の銃の整備をやろうか」

「ねぇ、冗談だよね?ホント謝るから勘弁してぇ!」

 

なつ先輩は咲先輩の悲痛な声を無視して私たちに部屋の説明を始めた。

 

「2人のベッドはこれね。2段ベッドになってるからどっちが上とか下とか決まってないから2人で話し合って決めて。んで、隣にロッカーは鍵がある方が銃のロッカー、もう片方は制服とか入れる普通のロッカー。んで真ん中にあるのがみんなで使うミーティングテーブル的なもの。とりあえず部屋の説明はこんな感じかな。なんかわかんない所とかあった?」

「大丈夫です、説明ありがとうございます」

「よし、なら整備始めよっか。あ、銃の整備用具は銃のロッカーに一式入ってるから。まぁ今回は私と咲の道具が出たままだからそれ使おうか。もちろん手伝ってくれるよね、咲センパイ?」

「喜んで手伝わせて頂きます!」

 

なつ先輩と咲先輩に教えてもらいながら私と雪は銃の整備を始めた。銃の整備はもちろん初めてだったが、先輩たちの教え方がとても上手く、あっという間に整備は終わった。

 

「よしこれで整備は終わりっと。もしわからない箇所があったらいつでも聞いて」

「手伝っていただき、ありがとうございました。とてもわかりやすかったです」

「ふふっ、ありがと。なつの方も終わってるみたいだし、少し早いけどご飯食べに行こうか。あ、銃はロッカーにしまってね」

 

ロッカーに銃をしまおうとしていると、雪が小声で話しかけてきた。

 

「怖い先輩じゃなくてよかったね」

「私だけじゃなくて雪もでしょ。開けていったとき少し下がったの気づいてたんだからね」

「気づいてたんだ。まぁあ終わったことだし、いいよね」

「おーい、なにコソコソと話をしてんだ。さっさと食堂いくぞー」

 

 玄関には先輩たち4人が待っていた。「今行きます」と言い、銃をしまった。私と雪は部屋に入る前とは違い、軽い足取りで先輩たちが待っている玄関へ向かった。



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第4話 1に走って2で走る、3、4がなくて5で走る(1)

第4話ですが、長くなってしまったので分けて投稿させていただきます。
後半部分は今夜までには投稿したいと思いますので、よろしくお願いします。


 ピピッ、ピピッ、ピピッという機械的で規則的な目覚まし時計のアラームの音は夢の中にいた私をしっかりと現実世界へ引き戻してくれた。目覚ましを素早く止め、下で寝ている雪を起こさないよう、そっとベッドから降りた。

 

「お、由奈ちゃん起きるの早いねぇー」

 

 ベットを降りると突然誰かに声をかけられ、思わず声がでそうになり体がビクンとはねてしまった。声の主を見てみるとジャージ姿の咲先輩の姿があった。

 

「さ、咲先輩。おはようございます。」

「おはよう。まだ寝てなくていいの?見ての通りほかの先輩は寝てるし、多分部活の朝練がある生徒以外は今はまだ起きてないと思うよ」

「実は中学の時から朝ランニングをしていたので、その日課を高校でも続けようかなと」

「中学の時からやってたんだ、凄いね。なら一緒に走る?私も朝走ってるんだ」

「ぜひ、お願いします」

「よしっ!なら着替えるの待ってるよ。あ、制服は持って来てね。走る前にシャワー室に制服をおいていくから」

 

 私はジャージにすばやく着替え、咲先輩っと一緒にそっと部屋を出た。そして着替えの制服をシャワー室において、軽く準備運動をしてランニングを始めた。四月の朝はまだ少し肌寒く、風絵が吹くと少し肌寒かった。しかし、走り始めると体温が上がり、心地よい風へ変化した。

 走り始めてから15分ぐらいが経過したころ、普段30分くらいは知っているはずなのだが、今日はすでに息がかなり上がっていた。理由は明確で、前を走っている咲先輩のペースがいつもの走っていたペースより早いためだ。しかも咲先輩はたまにこちらを向いて「ペース大丈夫」「まだまだ寒いねー」と話かける余裕まであった。体力には少し自信があったのだが、このランニングでその自信はなくなった。さらに15分、同じペースで走り続けたところで咲先輩が声をかけてきた。

 

「そろそろ歩こうか、ランニングとはいえ、いきなり止まるのは良くないしね」

 

 「わかりました」と言って頷いたつもりだったが、声は出ておらず頷いただけになってしまった。咲先輩のほうは汗をかいてはいるものの、辛そうな様子等は全くなかった。

 

「いやー、さすが中学生の時から走ってるだけあって体力あるね。このペースについてこれる1年生はなかなかいないよ」

「はぁ、はぁ、ありがとうございます。先輩は毎日このペースで走ってるんですか?」

「うーん、まぁそうだね。明日からはどうする?」

 

 毎日このペースで走るのはかなりつらい。しかし、大切なものを守ると決めている私には答えは1つしかない。

 

「もし先輩がよろしきれば明日からもご一緒させてもさせてもよろしいですか?」

「私は全然構わないよ。けど無理しちゃ駄目だよ。指定防衛校は訓練とかで身体動かすこと多いから」

「無理は絶対にしないので、お願いします」

「わかった、じゃあ明日からも一緒に走ろうか」

 

 シャワーで汗を流し、制服に着替えた。シャワー室を出ると咲先輩が大きなあくびをしながら身体を伸ばしている様子が目に入った。

 

「ふぅー、やっぱり走った後のシャワーは最高だね。これで今日1日もよく眠れそうだ」

「授業は寝たらいけないと思いますよ」

「真面目だねぇ、由奈ちゃんは」

「真面目なことですかね、それ・・・?」

「まぁそんな事よりも早く食堂行って朝ごはん食べよ。もーお腹ぺこぺこ。」

 

 先輩の不真面目発言には同意できそうになかったが、お腹が減ったことには同意できたので、急ぎ足で食堂に向かった。朝の食堂は混んでいたが、なつ先輩たちが席を確保してくれているようだったので、朝食を受け取った私と咲先輩はその場所に向かった。

 

「えーと、たぶん何時もの場所にー、おっいたいた。」

 

 咲先輩が向かったほうを見ると、座っている生徒がこちらに手をふっているのが分かった。近づいてみると手を振っているのは雪だった。

 

「由奈〜、こっちこっち〜。早くしないとご飯食べ終わっちゃうよー。」

 

 席には、眠そうな水先先輩に朝から山盛りのご飯を食べているあかりさん、「遅いぞー」と咲先輩に声をかけるなつ先輩の姿があり、301号室全員が集まっていた。席に着いた私は「いただきます」とてうぃ合わせ、朝食を食べ始めた。

 

「由奈ったら、朝起きたら居ないんだから心配したんだよ」

「中学の時からずっと朝走ってたでしょ。今日も朝起きて走っていただけよ」

「へぇー!由奈ちゃん中学の時からトレーニングしてたんだ、偉いねぇ」

 

 会話を聞いていたあかりさんは山盛り食べながら、昔からトレーニングしていたことに感心した様子だった。

 

「けどあまり無理しない方が良いよ、咲先輩走るのめっちゃ速いから」

「朝起きて走るなんて、絶対無理・・・」

「ななはまずちゃんと朝起きなさいよ。毎日起こすの大変なんだからね」

「早起きは私には無理・・・ギリギリまで寝ていたい・・・」

 

 水崎先輩はやはりというか、朝は苦手らしい。その後も先輩や雪と話をしながら食べ進めていくと、お腹が減っていたこともあってあっという間に食べ終わってしまった。

 

「さて、みんな食べ終わったことだし、部屋に戻ろうか。とりあえず、あかりはそこで寝てる奴起こしておいて」

 

 水崎先輩をみてみるといつの間にか寝ていたらしく、隣に座っていたあかりさんが「ほら、起きて」と身体を揺さぶっていた。起きるまで少しかかりそうだったので、先に私たちは食堂を後にし、部屋に戻ることにした。部屋に戻るとさっそく学校に行く準備をしていると、なつ先輩が注意を促した。

 

「小銃と拳銃を忘れないようにね。忘れるとえらい目に合うから」

「やっぱりみんなで仲良く腕立て伏せやるんですか?」

「うん、そうだよ。クラスみんな仲良くね」

 

昨日の帰りに先生が言っていたことを聞いてみると、やはり冗談ではなかったらしい。GLOCK17とM4A1をロッカーから取り出し、GLOCKをホルスターに入れ、M4A1を手に持った。雪のほうも準備ができたようでちょうどM4A1を手に持ったところだった。

 

「よし、全員準備出来た?準備できたら部屋から出ちゃって」

 

 私たちが全員部屋から出ると、なつ先輩が部屋に鍵をした。そして寮管理室の横側にあるボードに部屋のカギをかけた。

 

「部屋の鍵は誰もいない時はここに置いてあるから、帰った時に鍵がここに置いてあったら鍵を取って部屋に入ってくれればいいから」

 

 私と雪は「はい」 と同時に返事した。寮を出て2,3分歩くとすぐに校舎の入り口に着き、校舎の前で先輩たちとは別れた。別れた後は雪と2人で教室に向かった。教室に入り、自分の席に着くと自分の机の横にあるガンラックにM4A1を立てかけた。朝のホームルームがなるまでは少し時間があったので、周りのクラスメイトと話をして、交流を深めていった。そしてチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。

 

「皆さん、おはようございます。昨日は初めての環境であまり寝れなかった人もいるかもしれませんが、今日は昨日お伝えした通り体力テストを行います。この後すぐに体操服に着替えてもらい、着替え終わったら第一運動場に集合してください。運動場に来るときも銃は忘れずに持ってきてください。連絡事項は以上です、それじゃ着替えて運動場に来てください」

 

 滝本先生はホームルームを手早く終わらせると教室から出て行った。体操着に着替え、運動場に出ると、先生たちが「クラス別に出席番号順に並べー」と言っていた。学年全員が集合し終えると、朝礼台に立っていた先生が説明を始めた。説明によるとこの体力テストは一般的な体力テストの内容に加えて、指定防衛校独自のテストを行っていくとのことだった。その成績はパトロールを行う班編成にもかかわって来るらしいので、真剣に取り組んでほしいとのことらしかった。私は朝のランニングで少し疲れていたが、気合を入れなおし、体力テストに臨むことにした。

 



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第4話 1に走って2で走る、3、4がなくて5で走る(2)

第4話の続きです。
次回は4月19日(水)に更新予定です。


「あー、疲れた。これほんとに体力テストなの?」

 

 午前中の体力テストが終わり、1度教室に戻った私と雪は購買でパンを買った。そしてそのまま中庭に向かうとちょうど空いてるベンチがあったので、そこで昼食を取ることにした。

 

「なんで50m走を走った後に、銃持って走らなきゃいけないのよ!しかも100mよ、100m。距離まで伸びてるじゃん」

「班分けの基準で使うんでしょ。べつに1回走っただけならそこまで疲れないでしょ」

 

 雪の文句に答えながら袋を開け、メロンパンを口に入れた。口に入れたメロンパンの甘さが疲れた身体に染み渡った。

 

「だってM4重いじゃん、あんなの持って走るとか拷問でしょ」

「あれで拷問ならこれから毎日拷問以上の何かをすることになるね」

「・・・今からでも入りなおせる高校あるかな」

 

 まだ本格的な訓練も始まっていないのに、もう銃を持って走ることが嫌になっている様子だった。だけどそれは仕方のないことでもある。M4A1の重量は約2.7kg、2Lと720mlのペットボトルをそれぞれ1本ずつ持った時と同じ重さになる。ついこの前まで女子中学生だった私たちにその重量のものを持って動き回るのは大変なことなのだ。

 

「お金貯めて軽い銃買うしかないね、これはもう」

「射撃訓練以外は基本的に支給されたM4しか使えないけど」

「そこでその指摘をするのはNGだよ」

 

 そんな話をしている間に昼食を食べ終えた私たちは、教室に戻ろうと廊下を歩いていた。午後からも引き続き体力テストを行う予定だが、午後にやる種目を覚えていなかったので雪に聞いてみることにした。

 

「そう言えば後種目何やるか覚えてる?」

「体力テストの話?朝からずっと身体動かしているのに、体力テストの話が出来るなんて体力ヤバすぎるでしょ」

「少し気になったから聞いてみただけ。まぁ何が来ても全力でやるけどね」

「さすが優等生。確か午後は反復横跳び、上体起こし(腹筋)、あとは覚えてないけどたしか最後にヤバいのがあった気がする」

「ヤバいのってなんかあったっけ?覚えてないなぁ」

「いやあったはずだよ。あぁーあれなんだっけなぁ」

 

 雪は「うーん」と必死に思い出そうとしていた。確かに言われてみれば最後に何か走る系のテストが何か残っていた気がしてきた。すると雪は思い出したようでぱっと顔を上げた。

 

「思い出した!シャトルランだよ、シャトルラン!」

 

 シャトルランといえばたしか、2本引かれた線の間を音が鳴っている間に走るというのを繰り返す種目のはずだ。確かに最後にやる種目としてはきついかも知れないが、ヤバいというほどのものではない気がする。

 

「シャトルランかぁ。最後にやるのはきつそうだけど、ヤバそうではなくない?」

「えー、そうかなぁ。なんか聞いたときに普通のシャトルランじゃなかった気がしたんだけど、気にし過ぎただけかなぁ」

 

 雪はまだ少し気になっているようだったので、「シャトルランなら大丈夫だよ」というと納得した表情になった。

 この時、私たちは忘れていた。明日波高校が指定防衛校であるということを。

 

 

~同時刻:食堂にて~

 

「あの2人大丈夫かな?」

「あの2人って?」

「由奈さんと雪さん。今日1年は体力テストでしょ」

 

 私は同室になった後輩2人を気にしていたが、前に座っている咲のほうは全く気にしていない様子だった。

 

「あー体力テストかぁ。確かにここの体力テストはちょっと独特だけど、由奈ちゃんは体力ありそうだし、雪ちゃんは無理はしないだろうし、大丈夫じゃない?」

「確かに雪さんは無理しなさそうだけど、由奈さんの方が心配なの」

「心配するようなこと、あったっけ?」

 

 咲はなんのことかわからないといった表情で聞いてきた。まさかアレのことを忘れているのだろうか。忘れていたとなると朝のランニングもまさかいつもと同じペースで入っていたのだろうか。

 

「もしかして朝のランニング、由奈さんも同じペースでも走ったんじゃないでしょうね?」

「ん?ずっと私と同じペースで走っていたよ?いやー体力あるよね、ほんと」

 

 恐る恐る先に聞いてみると、一番聞きたくない回答が返ってきてしまった。前に座っている(バカ)は本気でアレのことを忘れていたらしい。

 

「まさか、アレのこと忘れているんて。昨日のうちに警告しておくべきだったわ」

「アレって?なんかあったっけ?」

「シャトルランよ、シャトルラン。ここのシャトルランは特別仕様でしょ」

 

「あっ..」っと、声を出すと咲は手に持っていた箸を落とした。ようやく私の指摘により、自分がやらかしたことに気付いたらしい。

 

「け、けど、由奈ちゃんもヤバいと思ったらリタイアするかでしょ、たぶん・・・」

「だといいけど。けど由奈さんは自分からリタイアするタイプには見えないし、絶対自分からはしないでしょうね」

「なら、2回音についてけなくて強制リタイアになるでしょ。うん、きっとそうだよ」

「そうなることを祈るしかないか」

 

 とりあえず、今はどうすることもできないので心の中で由奈の無事を祈った。

 

 

 

「腕を下げるなー!銃を落とすつもりかぁー!」

 

 朝礼台の上に立っている先生はシャトルランをしている私たちの方を見ながら声を上げた。私は必至で落とさないよう、銃を抱えながら20mの往復を続けていた。

 体力テスト最後の科目は確かにシャトルランだった。しかし、普通のシャトルランとは違い、銃を持った状態でシャトルランをするのが明日波高校の伝統らしく、最後にやる種目としてはかなりハードだった。一応、音が鳴っている間に2回走り切れなかった場合は強制リタイアとなり、体調を考慮してか、自主リタイアも認められている。そのため、シャトルラン全体の半分が終わるころには走っていた生徒の半分以上がリタイアしていた。

 私は荒い息を吐き、必死に走っているとこちらを見ている雪の姿が目に入った。その表情はとても心配そうで、「無理するな」と訴えかけてくるようだった。確かに朝のランニングもかなりハイペースだったし、これまでの種目もかなり疲れるものが多かった。今リタイアしても何も問題はないのだが、ここまで来たら完走して気持ちよく終わりたい。

 

「あと10往復で終わりだよ、頑張って!」

 

 回数を数えてくれているペアのクラスメイトがそう教えてくれた。お礼を言おうとしたが、そんな余裕はなかった。とりあえず、頷いて返事だけ返し、「あと少し!」と気合を入れ直した。

 

 

 

「で、その結果がこれねぇ」

 

 なつ先輩はぐったりと壁に寄りかかっている私を見て呆れていた。気合を入れ直した後、無事にシャトルランをリタイアがすることなく完走することが出来た。しかし代償は大きく、誰かの手を借りないと動くのが難しいほど、疲労困憊していた。

 

「由奈ちゃん、ほんとごめん。私がアレのことを忘れていつも通りに走るから・・・」

「いや、先輩は全然悪くないですから。私が自己管理できなかった結果ですから」

「そうだぞー、反省しろー」

「雪は黙ってて」

 

 自分が悪いのに、咲先輩は私に謝ってくれた。そのことが申し訳なく、今後はなるべく無理をしないようにしようと心の中で宣言した。

 

「まぁ今回は雪さんの言う通り、反省して無理をしないようにすること。戦いになるってときに動けませんじゃ許されないからね」

「はい、もう無理はしないようにします。」

「よろしい、じゃあ夕食は弁当貰ってくるから」

「あ、ありがとうございます。お手数かけます」

「じゃあお弁当貰ってくるから部屋で一緒に食べようか。雪さん、一緒に取りに行ってくれる?」

「わかりました~。あ、私のことは、さん無しで読んでくれて大丈夫ですよ」

「私のことも由奈で大丈夫です」

「わかったよ、じゃあ雪いこうか」

 

 雪となつ先輩がお弁当にちょうどあかり先輩たちが戻ってきた。2人が私の様子を見て驚いていたので、もう一度今日何があったのか説明を始めた。

 

 

 朝6時前、昔は目覚まし時計をセットして起きていたが、今では勝手に目が醒めるようになっていた。いつも通り、まだ誰も起きていないので音をたてないようにベッドから出た。

 

「咲先輩、おはようございます。」

「え、由奈ちゃん!?何で起きてるの!?」

 

 驚きのあまり、少し大きな声が出てしまった。由奈すでに着替え、制服をも手織り、走りに行く用意は完ぺきだった。

 

「由奈ちゃんなんで起きてるの?走るの?」

「?だって昨日一緒に走るって言ったじゃないですか」

「いやいや、身体は大丈夫なの?」

「ぐっすり寝たので大丈夫です。みんなが起きる前にいきましょう」

 

 由奈は走るのは当然ですと言わんばかりに返事をしてきた。この表情はダメと言っても絶対についてくると感じた私は「昨日よりはペース落とすからね」と宣言をして、走る準備を始めた。




シャトルランは小学生の体力テストでやったことがありますが、最後まで残っていたことはありませんでした()


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第5話 本当の入学式

遅くなってしまい、申し訳ございません。
今回は少し短めです。もしかしたら加筆するかもしれませんが、
その場合は活動報告等で告知させていただきます。

次回は4月21日(金)に更新予定です。


 指定防衛高校の女子高校生が、普通の女子高校生と違う点は何か。その答えは簡単で「銃を撃つことがあるかどうか」という点である。指定防衛校はイクシスから人々を護るために設立された組織であり、指定防衛校生はその使命を果たすために銃を撃つことが許可されている。

 では指定防衛校に入学した女子高校生は、銃を持ったその時からイクシスから人々を護ることが出来るのか。その答えはNoである。いきなり銃を渡されても撃ち方なんて分からないし、分かったとしても弾を当てることは出来ないだろう。そのため、指定防衛校生たちは銃を使った訓練を行い、イクシスと戦う準備を日々行っている。

 そして、その訓練内容には当然、「実弾射撃」も含まれている。

 

 風は吹いているが暖かい春の日差しが感じられる今日、明日波高校の1年生は初めて実弾射撃訓練を実施する。

 

 

 

「いいか、今日はお前ら(一年)の初実弾射撃訓練を実施する。この訓練が終われば、本当の意味で指定防衛校に入学したことになる。しかし、この訓練は一歩間違えば死人が出る危険がある。だから絶対に気を抜くな、少しでも気を抜いてる奴はここから叩き出す。わかったな?!」

「「「はいっ!」」」

 

 ついに実弾を撃つときがきた、その事実に私は緊張よりも興奮を覚えていた。なぜなら、実弾射撃を行う日を今か今かと待ち望んでいたからだ。

 指定防衛校の生徒は学校外で銃を携帯、発砲をすることが出来るが、様々な規則が存在している。その中の1つに「指定防衛校で実弾射撃訓練を行っていない者は指定の施設以外での発砲を禁止する」という規則が存在する。つまり、実弾射撃訓練を一度も行っていない生徒はパトロール任務に就くこともできないし、たとえイクシスと出会っても戦うことができない。教官が言った通り、この実弾射撃訓練を終えることが指定防衛校に入学、イクシスから人々を護る使命を背負うことが出来るのだ。

 

「よし、第一班と第二班は射撃位置へ移動、第三班以降は待機エリアに移動。分かれ!」

 

 第二班の私は射撃待機位置へ移動した。移動すると教官が一人ずつにマガジンを2つ渡していた。マガジンから見える銃弾の先端が鈍く光っているように見え、少し不気味だった。そして、マガジンを入れて射撃開始・・・というわけではなく、まずは射撃姿勢の確認から始まった。M4A1のストックを肩につけ、アイアンサイトを覗いて的に狙いをつける。真剣にやらなくてもいいように思えるが、きちんとした姿勢で撃たないと的に弾が当たることはない。まずはこの基本を徹底することが大切ということを昨日、咲先輩に射撃姿勢を見てもらったときに教えてもらった。

 射撃姿勢の確認が終わると、ついに実弾を射撃する時がやってきた。教官の合図とともにマガジンを入れ、チャージングハンドルを引いて離す。そして先ほど同じように射撃姿勢をとり、的を狙う。あとはセーフティを外して、引き金を引くだけである。鼓動が大きくなるのを感じながら射g機械氏の号令を待った。

 

「第一班、第二班。射撃許可。っ撃てぇ!」

 

 教官の号令が射撃場に響いた。私はその号令とともにセレクターをセーフティからセミオートに入れ、引き金を引いた。その瞬間、銃声が私のM4A1から鳴り響き、発射された弾は狙ったところと当たらず、思っていたよりも下側に着弾した。おそらく、引き金を引くときに力が入ってしまい、弾が発射される瞬間に狙いがずれたのだろう。

 私は一度深呼吸をして、狙いをつけた。そして次は力を入れすぎないよう気を付けつつ、もう一度引き金を引いた。しかし、弾は先ほどよりは狙った場所に近い位置に着弾したが、狙った位置からはずれていた。次は力を抜くことを意識過ぎてきちんと構えられていなかったのかもしれない。私は狙った場所に弾を当てることの難しさを身をもって体感していた。しかし、動いていない的を狙うことができなければ、動いているイクシスに弾を当てることはできない。

 昨日の夜、先輩たちから聞いたアドバイスを思い出しながら、的に再度狙いをつけた。呼吸と集中力が合ったその瞬間、引き金を引いた。

 

 

 

 

「第一班、第二班射撃終了!セレクターをセフティに入れろ。マガジンを抜いて、チャンバーに弾が入っていないことを確認したらマガジンをその場において待機エリアに移動しろ!」

 

 私は教官の指示通り、セーフティをかけ、M4A1に弾が入っていないことを確認して待機エリアに向かった。銃を撃った感触が身体に残っており、その余韻に浸りながら歩いていた。すると射撃場へ移動していた第四班のクラスメイトが話しかけてきた。

 

 

「お疲れ様、すごく当たってたね!古城さん、さっきのメンバーの中で一番当たってたよ!」

 

 と興奮気味で話してきた。彼女の言う通り、序盤はこそ狙った場所に当たっていなかったが、後半はすべてほぼ狙った場所に着弾していた。自分で言うのも何だが、この結果は悪くないんじゃないかと思っていたので、すごいと褒められるのはとてもうれしかった。

 

 

「ありがとう。山本さんも頑張ってね、落ち着いて引き金を引けば当たると思うから」

「わかった、落ち着いて狙ってみるよ!アドバイスありがと」

 

 彼女はそういうと射撃場に向かっていった。私も待機エリアに行こうと進行方向を見ると雪がこちらを見ていた。確か雪はこれから射撃をするはずなので、先ほどと同じような会話をするんだろうなと思いながら私は待機エリアに向かった。

 

 

 

 

「今日の実弾射撃訓練はこれで終了とする!では今日はここで解散とするので、明日以降の予定を伝える。明日は土曜日で---」

 

 あの後、私はもう一度実弾射撃を行った。そして全ての班が2巡したところで、私たちの初実弾射撃訓練は終わりを迎えた。ちなみに2回目の成績はというとそれなりに狙った場所に弾は着弾していたが、1回目よりも拡散していた。1回目終わった後に雪に冗談で「私射撃の才能あるかも」と言ったことを後悔していた。雪も冗談とわかっているとはいえ、絶対にからかってくるだろう。そんなこと考えながら憂鬱に思っていると教官の話は終わるところだった。

 

「---以上だ。最後に各自、部屋に戻ったら必ず銃を整備すること。もし異常を感じた場合はすぐに武器管理委員のところへ行くんだぞ。わかったか?」

「「「はいっ!」」」

「よし、では解散っ!」

 

 こうして初実弾射撃訓練は達成感と少しの後悔を残して無事終了した。

 



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第6話 歓迎会前日戦(1)

「歓迎会ですか?」

 

 土曜日の昼、昼食を共にしていた咲先輩から私と雪の歓迎会開催を知らされた。

 

「そっ、301号室代々の行事でね。新しいルームメイトを祝うことになってるんだ。明日、何か予定あった?」

「明日は特に予定は入れてないです。強いて言えば、弾を買いに行こうって雪と話してたくらいです」

「そっか、なら大丈夫そうだね。弾だけど、今日この後買いに行くつもりだったから、一緒に行かない?」

 

 土曜日の授業は午前中までなので、午後は時間がある。それに咲先輩の行くお店ならいいところの多可能性が高いと思うので、この申し出はとてもありがたかった。

 

「ぜひ、お願いします。雪もこの後行くっていいよね?」

「えぇー、せっかく午後はゆっくりしようと思ってたのにー」

「じゃあ月曜日の射撃訓練は弾無しで参加することね」

「冗談が通じないなー。まぁ弾無しで参加とかやった教官に殺されそうだし、ちゃんと一緒に買いに行くよ」

 

 ちなみに弾は購買でも販売しているが、外で買うのと比べると少し割高なので購買で買う生徒は少ない。外に買いに行くのは面倒だが、少しでも安く買うためには仕方がないことなのだ。

 

「咲たち、弾買いに行くんだ。じゃあ私の分の弾も買って来てよ。5.56mmと9mm、両方お願いね」

 

 私たちの会話を聞いていた、なつ先輩は咲先輩にお使いを頼んでいた。それを聞いた、咲先輩は心底面倒そうな顔になった。

 

「えー、めんどくさいなぁ。なつも一緒に行けばいいじゃん」

「これから武器整備委員の仕事。誰かさんが無茶して扱ったM4の整備をしなくちゃいけないの。使った人が自分で整備してくれるなら私も行くんだけど」

「何でもないです、喜んで買いに行かせていただきます」

 

 咲先輩は真剣な表情に変わり、頭をさげた。ゆき先輩は「じゃあよろしくね」と言って立ち去って行った。

 

 

 

 昼食を食べ終わり、部屋に戻った。弾を買いに行く準備をしていると咲先輩が声をかけてきた。

 

「普通の鞄じゃなくて、うち(明日波高校)の鞄を持って行ったほうがいいよ。結構弾重たいから」

 

 と言いながら咲先輩は手に持っている鞄を見せてきた。指定防衛校の鞄は軍用規格で作られているので耐久性が高い。molleもあるため、ポーチ等増設できるようになっているが、ポーチ等を付けるとかなりがっしりとした見た目の鞄となってしまうため、あまり使用されていない。ただ、キーホルダー等のストップをつけるには便利なのでそういったものをつけている指定防衛校生は多い。

ちなみに私と雪は、デフォルメされた猫のキーホルダーを色違いでつけている。

鞄を用意していると咲先輩はホルスターに拳銃を入れているのが見えた。そう言えばと思っていると、雪は何故拳銃を持っていくのだろうと疑問に思ったのか、「咲先輩、どうして拳銃持っていくんですか?」と質問していた。

審問された咲先輩はキョトンとした表情になった。それはそうだろう。まさか当たり前のことを質問されるとは思っていなかっただろう。

 

「私たち指定防衛校生はどんな時も戦えるよう、最低限の装備を常に所持してることが義務付けられているからね。拳銃とE&Eポーチは必須常に持つようにって習わなかった?」

 

 雪は先輩の説明を聞いても思い出せないようだが、もちろんすでに説明されている。私は自分のE&Eポーチを取り出しながら「ちゃんと習ったよ」と呆れながらつぶやいた。

 

「あれ、そうだっけ?拳銃はまだ実弾撃ってないし、まだ持っていけないのかと思ってたよ」

「私たちは実弾射撃訓練を行ったから校外で銃持ってもいい扱いになってるから、拳銃の所持もOKだから持っておかないとダメなの」

「由奈ちゃんの言う通り。まぁだけど、撃ったこともないのに持ち歩ても意味ないよねぇ。なんならこの後行くお店にシューティングレンジあるから少し撃ってく?来週あたり撃つだろうけど先にやってて損はないしさ」

「ホントですか、ぜひお願いします!」

 

 私は咲先輩の申し出に即答し、自分のGLOCK17をロッカーから取り出してホルスターに入れた。そしてGLOCKのマガジンを3本とり、ホルスターの反対側についているポーチに入れた。ちなみに任務外で銃を持ち歩く際は銃にマガジンを入れた状態で持ち歩くのは禁止されている。常に銃を持ち歩けと言ったり、マガジンを刺して傾向するなと言ったり、改めていろいろ面倒な規則だなぁと思った。

 

 

 

学校を出て15分の所に『安心安全☆松本ガンショップ』と書いてある看板の店に私たちは3人は来た。

 

「この店が私となつが来る店だよー。学校から一番近い店って訳じゃないけど、弾とか光学機器とか色々安いからオススメだよ」

 

 私と雪は「へぇー」と返事をした。そして店に入ると元気のいい声が聞こえきた。

 

「いらっしゃいませー!『安全と信頼の松本ガンショップ』にようこそ!」

「やっほー、朝美(あさみ)。相変わらず元気ね」

「咲ちゃんセンパーイ!私は何時でも元気ですよー!」

 

 いきなりの元気の良い店員が私たちを出迎えてくれた。もっと硬い感じのお店を想像してので、イメージの違いに少し驚いていた。

 

「今日は新しく同じ部屋になった1年生2人と弾を買いに来たの」

「ということは、咲ちゃん先輩の後ろにいるのが新入生ですか?」

「そうそうって、あぁ、2人ともごめん。まだこの娘のこと紹介してなかったね。この娘は松本ガンショップの1人娘の松本朝美(まつもとあさみ)ちゃん、中学2年生だよ」

「松本朝美でーす!よろしくね!」

 

 少女の名前は朝美というらしい。中学生ということだが、見た目的に小学生かと思っていたので、私はまたもやや驚いた。

 

「んじゃ次はこっちの紹介の番ね。こっちが中村雪ちゃん」

「中村雪です。朝美ちゃん、これからよろしくね」

「んでこっちが古城由奈ちゃん」

「古城由奈です。よろしくお願いします」

「雪ちゃん先輩に恵那ちゃん先輩ですね!こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 朝美ちゃんはそう言うと私と雪の手を握って握手してきた。最初はイメージと見た目に驚いたが、いい娘であることが伝わってくる子だった。そして先ほどから私たちの事を「先輩」付きで呼んでることが気になったので聞いてみることにした。

 

「そうえば朝美ちゃんは何で私たちの事を『先輩』って付けて呼ぶの?」

「さんは付けなくていいですよ。将来私は明日波高校に通う予定ですから、だから皆さんは先輩なんです!」

 

 朝美ちゃんはニッコリと笑いながら答えてくれた。思ってる以上にいい子なのかもしれない。

 

「けど、朝美ちゃんが入学するころには私はいないんだよねぇ。残念」

「咲ちゃん先輩ももう3年生なんですね。その割に成長してない部分もあるみたいですけど(笑)。」

「んなっ!どこが成長してないってぇ!?」

「さぁどこでしょうね?」

「おい、騒がしいぞ。お客さんの前では少し大人しくしてろ・・・って、なんだ、咲か」

 

 奥からぬッとかなり体格のいい男性が出てきた。

 

「なんだとは失礼だなー、これでも私、お客様なんですけど?」

「そうだな、そうだな。で後ろの2人は?見慣れない顔だが。」

「なんか適当にあしらわれた・・・。まぁいいや、2人は同じ部屋の1年生」

「1年の古城由奈です」

「同じく1年の中村雪です」

「古城さんに中村さんね。俺はここの店主の松本慎也(まつもとしんや)だ。よろしく」

 

 この対角のいい男性はこの店の店主だったらしい。手を差し出してきたので握手すると、ガンショップの店員とは思えないほどガッチリとした手だった。

 

「んで今日は1年生がいると言う事は弾を買いに来たのか?」

「さっすが店長、話が早い。5.56mm&9mmセットを4つお願い」

「4つ?あぁまた、なつの奴にパシられたんだな。次は何壊したんだ?」

「今回は壊してないですぅー。ちょっと派手にぶつけちゃったから念のためにみてもらってるだけですぅー」

「似たようなもんじゃねぇか。とりあえず、弾は用意しておいてやるがほかになんか見ていくか?」

「シューティングレンジって空いてる?後輩2人に拳銃射撃を経験させてあげたいんだけど」

「ちょっと待って、朝美ちょっとレンジの状況確認しに行ってくれ」

 

「ラジャー!」ときれいな敬礼をして、朝美ちゃんは店の奥へと向かっていったが、すぐに顔だし、両手で大きなマルを作った。

 

「大丈夫らしい。拳銃撃つなら9mmはバラで少し買っていくか?」

「えぇー、店長まさか入学間もない1年生からお金とるのー?少しくらいサービスしてよ」

「お前なぁ。こっちも商売でやってるんだぞ」

「そうですよ、咲先輩。ちゃんとお金払いますから」

 

 私がそう答えながら財布を出そうとすると、店長は手を広げ静止してきた。

 

「まぁ今回は初回ってことでサービスにしてやるよ。咲はレンジ見学料払えよ」

「さすが店長、太っ腹~。んじゃレンジ行ってくるから弾の準備お願いね~」

「わかったわかった、さっさと撃ってこい」

 

 そういうと咲先輩は奥のほうに向かって行ってしまった。私と雪は店長さんに「ありがとうございます」と頭をさげ、咲先輩の後を追った。

 



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