救いのカタチ (神話好き)
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プロローグ

畦倉弥勒という人間は、異常だった。

産声ですら泣かず、何かをするときは決して間違うことはなく、困っている人があれば手を差し伸べ、聡明で、誰からも好かれた。

そんな僕は、大人たちの目には素晴らしく映ったらしい。

『畦倉さんの家の子を見習いなさい』いつしかそんな言葉が八十稲羽では使われるようになる、誰もがその異常に気づかぬままに。

最初に気が付いたのは、たしかある少年だった。

僕がバイクに撥ねられたのは15歳の時のことだ。夜、道を歩いていると暴走族と争う少年がいた。名前は巽完二。子供のころ一緒に遊んだこともあるから知っていた。僕は迷わずに歩み寄り、暴力にさらされながらも微笑みながら語りかけ続けた。そのうち、僕を殴っていた人たちが怯えだした。巽完二も同様だった。騒ぎを聞きつけた警察官が駆けつけ、僕は病院へ運ばれた。

「弥勒!どうしてこんな危険なことしたの!?」

ヒステリックな声で叫ぶ母親。何故?そんなもの決まっているじゃないか。

「困っている人がいたから助けただけだよ。いつもと同じことさ」

全身の骨を砕かれながらも、いつもと同じように笑う僕を見て、絶句する。

「あ、あああ、ああ―――」

みるみる内に顔色が青ざめてゆき、その後声もなくその場に崩れ落ちた。以来、僕は一人で暮らすことになった。それ以来、僕も自分が異常だと理解した。

僕の過去はそんなところだ。

 

・・・

現在、高校生最後の春休み。八十神高等学校の三年に在籍している僕は、業者のミスで遅れていた教科書の受け取りに、商店街の本屋に来ていた。

「大分、遅れちゃったみたいでごめんなさいねぇ。予習とかいろいろあるでしょうに」

「いえ、大丈夫ですよ。図書館に寄贈されていた少し前の参考書を貸してもらいましたから」

「まあ、流石は弥勒ちゃんねぇ。うちの息子にも少しは見習ってほしいわぁ」

「あはは、そんなに大したものじゃないですよ、僕なんか」

「謙遜しちゃてぇ。ホントに出来た息子さんを持って、お母さんは幸せでしょうねぇ」

「そうだといいんですけど……」

思わず苦笑してしまった。別居の件は表向き、一人暮らしの経験をさせてあげたい親の計らい、と言うことになっているのだ。

「それでは僕はこの辺で失礼します。帰りにジュネスに寄る用事がありますんで」

そういい残し足早に本屋をあとにした。別居の真相がばれてしまうと、母親に迷惑がかかってしまう。なので母親の話題は極力避けたいのだ。

ぽつり、と頬に水滴が落ちる。

「まいったな。傘持ってきてないよ」

突然の降り出した雨はだんだんと強くなっていく。買ったばかりの教科書を濡らすわけにもいかない。仕方ないか。ため息をつきながら、ガソリンスタンドのへと駆け込んだ。

「らっしゃーせー!」

中性的な容姿の店員さんが、大きな声で太札をしながらこちらへ向かって来る。あれだけ元気な挨拶をされると、客じゃない僕としては少々申し訳ない気持ちになってしまう。

「すみません。少しだけ雨宿りさせてもらってよろしいでしょうか?突然の雨で、傘を持っていなくて」

「ああ、なるほど。構わないですよ。いきなりの大振りでしたからね。無理もないです」

「ありがとうございます」

店員さんがいい人で助かった。

「んー。君、何か見たことあるんだよね。ひょっとして有名人だったりする?」

「一応テレビに出たことはありますけど、有名人ってほどじゃないですよ」

「いやいやテレビに出たってだけで十分すごいよ。この町はそういうのほとんど無いからね。えーと―――」

「畦倉弥勒です」

「弥勒君か。見たところ高校生みたいだけど、バイトとか興味ない?年が近い人あんまいなくてさ、話せる同僚とか欲しかったんだよね。君さえよければどうかな?」

バイトか。やったことは無いが興味はある。別にお金に困っているという訳ではなく、やったことないことをやる事、そして人の役に立てること。その二つが僕の行動原理の基本だからだ。

「それもいいですね。前々からバイトしてみたいとは思ってましたし、丁度いい機会です」

「おお!店長には俺から言っとくから!」

店員さんは僕の手を両手でつかんでぶんぶんと振り回している。

そ、そんなに嬉しかったのか……

「それじゃあ近いうちにまた来てよ。一応面接とか手続きとかあると思うからさ」

「はい。よろしくお願いします。えーと」

「ん?そうか、まだ名前も名乗ってなかったね。俺は国母出雲、よろしく」

「国母さんですね」

「堅い堅い、出雲でいいよ。弥勒君」

「では出雲さんで」

「呼び捨てでもいいんだぜ?」

「では、出雲さんで」

「君、実は結構面白い人?」

「そんなことありませんよ。おかしな人ですね出雲さんは」

「くははっ!いいね、これからも仲良くやれそうだ」

「同感です」

それから雨が晴れるまでの暫くの間、いろいろな話をした。気を使わずに話をしたのは実に久しぶりのことだった。本屋を出たときに感じた心の淀みは気が付くと消え去っていた。つかの間の心の晴れ間だが、僕にとってそれはとてもありがたかった。

 

・・・

その夜。とあるアパートの一室に住む弥勒はいつものように、禅を組んでいた。物心ついてから、一日たりとも欠かしたことはない。そも、根っからの異常者である弥勒は、歳若くしてすでに悟りの境地に肉薄していた。唯一、人を救うという願いへの執着が捨てられず今に至るのだ。人を救いたいがために人を救う願いを捨てる。そんな矛盾が弥勒を苛んでいた。

「ふう」

閉じていた目を開き、大きく息をつく。

「目指すところは未だ遠くか……」

そう呟いて立ち上がろうとしたところでバランスを崩して転んでしまった。どうも体の調子があまり良くないようだ。

「今日は、もう寝ておこう。もうすぐ春休みも終わるし、こじらせたらたまらない」

ベットに倒れこむように横たわり、泥のように眠りについた。

 

・・・

気が付くと深い霧に覆われた場所にいた。全く覚えがない。僕は確かに自分の部屋で眠りについたはずだ。注意深く見ると、前方に道が続いているようだ。

「進むしかないか」

全く何も分からないが、とりあえず体は自由に動く。ならば、今やれることをやろう。幸いなことにこの霧自体は無害のようだし。

「誘拐?にしては僕一人にする意味が分からないし、第一僕の家が特別お金持ち他かって訳でもないもんなぁ」

暫く進んでいくと声が聞こえた。

「あなたはやはり、どこか特別なようですね」

辺りを見回してみるが誰もいない。前へと進む足は自然と早足になってゆく。

「私の選んだ二人とはまるで違う。しかし私の運命に一番大きく関わる、そんな予感がします」

その言葉を聞いた時、僕は走り出していた。最奥には扉がある。きっとこの先にあの声の主がいる。なんとなくそれが分かる。

「今、行くよ。待っててね」

赤と黒を交互に重ねた扉が捻じれながら開く。その先に現れたのは広い空間だった。霧が道中よりもずっと濃く、どれほどの大きさなのかはてんで分からないが、

おそらくここにあの人がいる。

「出てきなよ、出雲」

霧の中に一つの人影が浮き出て、次第にそれは僕の知る形へと変化していく。

「参りました。あなたはこの霧の中でもしっかりと見えているようですね」

ぼやけた影の様にしか見えなかったそれは、今ではしっかりと、白装束を着た出雲に見えている。どんなカラクリかは知らないが空中に浮いているようだ。

「昼間に会ったばかりの人の声を、聞き違えるわけないでしょうに」

「それもですね」

出雲が軽く笑う。

「それで、これは一体どういうことです?まさか気に入ったから拉致した、なんてことはないと思いますけど」

「いいえ、概ねそんな感じです」

頬がぴくぴく痙攣している。正直、ドン引きである。

「詳しく説明するならばとなると違うのですが、私の欲によって君がここにいることに違いはありません。謝罪しましょう」

悪びれる様子もなく上から目線で謝罪してくる出雲。ついつい目頭を押さえてしまう。

「……僕はどうなるんですかね?」

「あなたは、私の計画を揺るがしかねません。少しの間ここにいてくれると助かります」

「具体的な時間を示してほしいんですけど」

「だいたい一年くらいですかね」

こいつマジか。あれですか、もう一回同じ教科書買いに行かせるつもりですか。

「一つ、提案があります」

「何でしょう?」

「その計画、僕も手伝わせてもらえませんか?」

今まで表情を変えなかった出雲が、ここに来て初めて顔をゆがめた。僕の言葉に困惑しているようだ。

「何故、そうなるのでしょうか?理解が及びません」

「救いを欲してるのなら、その全てを救いたい。それが僕なんですよ」

僕の言葉で、再び出雲から表情が消える。それからしばらくの間、お互い何も言わず、時間だけが過ぎてゆく。時折、真意を探るように出雲が視線を鋭くすると、それだけで自分が消し飛んでしまうような錯覚に陥る。それでも僕は引かない。と言うより、ここで引くという思考が存在しない。僕は異常者だ。自覚はある。救いを求めるものが在るならば僕は―――

「ままなりませんね。あなたの言葉が嘘ではないようです」

黙って出雲の決定を待っていた弥勒だが、どうやら上手くいったようだと分かると緊張が解けたのか軽く息を吐き出した。

「私の計画は、人の望みを見極めそれを叶えることです」

数秒の間目を閉じた後、再びこちらを見据え。出雲は自らの計画について語りだした。

「人は見たいように見る生き物。真実は時に猛毒となり身を焦がすからです。虚飾にまみれたぬるま湯のような世界か、真実の世界か。私は選んだ三人の行動から、人がどちらを望むのか、それを見極めたいと思います」

「三人?僕も含まれてるのか?」

だとしたら今までの会話次第で人類滅亡なんてこともあり得る。冷や汗がたらりと垂れる。そんなことをしたら救うべき人がいなくなってしまうではないか。

「いえ、あなたは例外です。互いの性質上引き合ったのでしょう。私自身、あなたに言われて初めて気が付きましたが」

首を横に振り、

「まさか、この私が救われたいと思っていただなんて、思いもしませんでしたよ。それを救いたいと思う人間がいることも」

自嘲するように、そうつぶやいた。

「黄泉津大神へと堕ちた私にとっての蜘蛛の糸が、あなたのようです。期待していますよ」

弥勒に向けた微笑みは、かつて女神であったころの彼女のものに遜色なかったことだろう。

 

・・・

「いい感じに話もまとまったみたいだし。そろそろ返してくれない?っていうか結局ここがどこなのかもまだ聞いてないし」

「あー、もう少しで出れると思うよ。ここ夢の中みたいなもんだし」

あの後、敬語が似合わないと出雲に言うと、ガソリンスタンドの店員へと姿を変えた。白装束だと無意識のうちに丁寧な言葉使いになるのだそうだ。

「夢見せたまま一年間放置するつもりだったのか、あんたは」

「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない。それよりも話し方が大分砕けてきたみたいだな、それが素か?」

「こっちのセリフだっての!」

出雲の計画の詳細を聞いた時にも思ったが、こんなのが始祖神で国生みの神とか大丈夫なのかこの国は。

「それはそうと、君のペルソナ早いうちに制御できるようになっておいた方がいいかもよ」

「どういう意味だ?まだ三人目が決まってすらいないって話じゃなかったか?」

「なんとなくだよ。もうすぐ動き出す、そんな気だするんだ」

神様の感だけあってとても信憑性が高いのが不安だ。確実に僕が被害を被ることになるのだろう。

「どうやら君の力は、ペルソナ使いの突然変異体『ワイルド』と呼ばれるものの中でも、さらに異質のようだ」

異質と言われても、比較対象がいないからいまいちピンとこない。

「ペルソナは心が大きく作用する。それだけは忘れないように。っとそろそろ時間みたいだな。喜べ、ここから出られるぞ」

「やっとですか。丸一日くらい話し込んでた気がしますよ」

「そう言うなって、神話の時代から今まで、話し相手なんかいなかったんだ。少しくらい話し込んでもバチは当たんないだろ」

「あんたバチ当てる側だろうが」

違いない、と軽口をたたきながら出雲が立ち上がり遠ざかっていく。

「おっと、最期に言っておくことがあった」

振り返る出雲は、神としての姿ではなく、僕の友達の出雲として初めて見せる、真剣な表情をしていた。

「俺を救いたいと言ってくれてありがとな」

そう言って、満面の笑顔を浮かべた。

僕の意識はそこで途切れた。

 

・・・

あれから数日、バイトの面接は僕の評判の良さもあって問題なく通った。面接前に出雲からあった口添えは特に役に立たなかった。本人にそれを言ったら、また拉致されそうになった。結構気にしていたようだ。

「忘れ物はないな」

昨日で人生で一番印象深くなるであろう春休みが終わり、今日から高校生活最後の一年が始まる。おそらく、僕にとっても人生の転機となるはずの一年だ。

「それじゃあ行くか」

持ち物チェックも終わり、いざ家を出ようと玄関へと向かう。

何かがおかしい。いや、一目瞭然なんだけども。

玄関の扉がなにやら青く発光している。そんな機能を付けた覚えはさらさらないので、まず間違いなく厄介事である。とはいえ、アパートの一室に裏口なんぞ付いてるはずもなく。

「ええい、ままよ」

意を決してドアノブを回し中へ入ると、なんと全体的に青っぽい内装のリムジンの中にいた。人影が二つ。美人さんと鼻の長い老人だ。

「ようこそ、ベルベットルームへ。私の名は、イゴール。お初にお目にかかります」

呆然自失の僕へと声をかける老人。名前をイゴールと言うらしい。

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。ほう、これは興味深いですな。どうやら、すでに契約を交してらっしゃるようだ」

契約。おそらく出雲との約束のことだろう。

「実に珍しいお客人だ。ワイルドでありながら絆ではない何かに左右される力。長らくこの仕事を務めておりますが、初めてのことでございますな」

イゴールの言葉に、隣にいる女性も興味深そうにこちらを見ている。

「おっとご紹介が遅れましたな。こちらはマーガレット。同じくここの住人でございます」

自己紹介を促され、マーガレットと呼ばれた女性は小さく一礼する。

「お客様の旅のお供を務めてまいります。マーガレットと申します」

しぐさの一つ一つに気品が感じられる。

「本日、おいでいただいたのは他でもありません。ペルソナ能力についてお話しておくことがございます。私の役割は新たなペルソナを生み出すこと。本来ならばお持ちのペルソナカードを複数掛け合わせ、一つの新たな姿に転生させる。しかし、貴方様はどうやら少々勝手が異なる様子。その強さに応じて使えるペルソナが増えていく。そういう力のようでございます」

どういうことなのだろうか、経験がないのでまだよく理解できない。

「つまるところ、私どもの仕事は現在使えるペルソナの確認と、その詳細を記録することの二つのようだ」

話が終わり、イゴールが手をかざすと、目の前に鍵が現れた。

「これをお持ちなさい。今回は何らかの要因が後押ししてこの部屋に来られたようだ。この時から貴方は、このベルベットルームの正式なお客人だ。では暫しの間、ご一緒に旅をいたしましょう」

イゴールが再び手をかざすと、玄関に戻っていた。時間も全く進んでいない。気を取り直して玄関から外に出て、鍵を閉めようとするとポケットの中には契約者の鍵が入っていた。

 

・・・

学校に着くと、すでに新しいクラスが発表されているようだ。喜んでいる人もいれば浮かない顔をしている人もいる。僕にはあまり関係ない。決して友達がいないわけではない。むしろその逆。15歳で自分が異常だと気が付くまでの間、自分のやりたいように生きてきたおかげで、この町に住む同世代の九割に何らかの関わりがあるからだ。今ではある程度抑えつけられるようになっているので、度の過ぎた親切は滅多にしていない。出雲の件は特例だ。

「おーい。弥勒!お前また同じクラスだな!」

そう言われて新しいクラスが書かれた紙を見る。

僕の本性は恐ろしいものだ。決してばれてはいけない。今年も一年、気を引き締めていこう。可もなく不可もない学園生活。普通でない僕にとって目下一番の課題だ。

「そうみたいだね。今年も騒がしいクラスになりそうだ」

優等生、畦倉弥勒の仮面をかぶり、今日も神経をすり減らす一日始まる。

 

・・・

4/11(月)曇/雨

学校が終わるとすぐにバイトへと向かった。部活にも生徒会にも所属していない僕は、基本的に放課後は瞑想している。しかし、僕がバイトを始めると同時に他のバイトが次々に止めていく怪事件が起きたため、今月は驚異の二十五連勤のシフトだ。決して、出雲に瞑想のことを話したら大笑いされたから辞めたわけではない。

「らっしゃーせー」

出雲の声が響く。丁度、白い車が入ってきたようだった。

「らっしゃーせー!」

出遅れながらも駆け寄ると、見知った顔の男の人がいた。

「畦倉か。驚いたな、ここでバイトしてたのか」

目を丸くしながら話しかけてきたのは、無精髭を生やした体格のいいおじさんだ。

「堂島さん。その節はお世話になりました」

「体はもう大丈夫なのか?」

「ええ、後遺症もほとんどありませんでしたし」

「そいつは重畳だ。頼むからもうあんな無茶はしないでくれよ?」

「分かってますよ」

堂島さん、職業は刑事。僕が暴走族にボコボコにされたときに駆けつけてくれた警官だ。僕の本性を知る、数少ない人の一人でもある。

「ならいい。それじゃあ俺は、一服してくる」

そう言って、口に煙草を咥えながらガソリンスタンドから離れて行った。

ちらりと出雲の方を見ると、車のそばに立っているハイカラな少年と握手をしていた。

「ということは、彼が三人目か………これから忙しくなるな」

役者がそろい、ようやく物語は大きく動き出す。

 

 

 

 

 

 

 




オリ主はイザナミ陣営です。


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四月

三人目となった彼は、どうやら一つ下に転入してきたらしい。名前は鳴神悠。話を聞く限りだと天然の気があるようだ。諸岡先生の嫌味に突っ込みを入れたり、ジュネスのテレビの前でロープを体に巻きつけたりしていたという目撃証言もある。曖昧な情報が多いのは、あの日のガソリンスタンド以来なぜか鉢合わせることがないのだ。

「せめて、一度は接触しておきたいんだけどな。かといって面識もないのにわざわざ訪ねていくのは不自然だし。どうにも歯がゆいな」

出雲が言うには三人とも動き出しているらしい。一人は真実へ、一人は嘘へ、最期の一人は滅亡へ。自分が確認できているのは鳴神悠ただ一人。

「しっかし、まさか鳴上君のペルソナがイザナギとは、運命ってのがあるんだとしたらずいぶんと悪辣だ」

「畦倉先輩?」

屋上だからといって、誰も来ないだろうと油断していた。随分と深く考え込んでしまったようだ。振り返るとそこには、大和撫子を体現したような女の子がいた。

「雪子ちゃんか。こうして話すのは久しぶりだね」

「そうですね。学年も違いますから……」

「それもそうか。それで、屋上に何か用事?」

「いえ、少し息抜きをしたくなって。最近忙しくって」

天城屋旅館で最近起こった怪死事件が原因だろう。彼女のフルネームは天城雪子だ。件の旅館の次期女将と言われている。美人な時期女将に怪死事件。マスコミが放っておく訳もなく、連日連夜押し寄せているのだろう。

「僕はいないほうがいいかな?」

「そんな、悪いですよ。先にいたのは先輩の方じゃないですか」

「僕のことは気にしなくても大丈夫だよ。少し考え事してただけだし」

軽い笑みを浮かべておどけてみせる。

「………先輩は変わらないですね。根っこのところは昔のまま。少しだけ、羨ましいです」

「昔、ね」

正直、昔の自分にあまりいい思い出はない。

「私も将来の夢が女将の時期もあったんですよ。敷かれたレールだなんで思うこともなく、ただ毎日楽しかった」

我慢しなくては。我慢。

「小さいころ内気だった私を、あなたは救ってくれました」

柵に手を突き遠くを見ていた雪子が振り返り、目が合う。何が言いたいのか分かってしまう。抑えなくてはならない。

「私が今、鳥籠から出たいと言ったら、あなたは手を差し伸べてくれますか?」

ああ、なんて甘美な誘惑。救ってくれと、それを僕に言うのか。脳がとろけそうだ。心臓の鼓動が耳元で鳴っているかのようだ。

僕にとって、拷問のような時間が十秒ほど続き、

「なんて、冗談です。変なこと言ってごめんなさい。私、もうそろそろ帰りますね」

柔らかく微笑むと、天城雪子は屋上から立ち去った。取り残された僕は、それからしばらくの間動くことが出来なかった。そして次の日。天城雪子が学校に来ることはなかった。

 

・・・

「こーんばーんはー。えっとぉ今日は私、天城雪子がナンパ。逆ナンに挑戦してみたいと思いまーす!」

小さい女の子が憧れるようなドレスに身を包み、リポーターが使うマイクを持っている。

「題してぇ。やらせ無し!突撃逆ナン。雪子姫の白馬の王子様探しぃ!もぉ超本気ぃ!見えないとこまで勝負仕様。ハートみたいなねぇ」

これが、マヨナカテレビって奴か。率直に言って悪趣味だ。

現在、時刻は丁度深夜零時。本日出た、初めてのバイト代をジュネスでテレビに変えたのだ。おかげで人生初給与はすべて吹き飛んでしまった。

「しかし、まさか雪子ちゃんが狙われるとは。基準はなんだ?どっちの奴がやったんだ?」

情報が少なすぎてまるで分からない。頭が働かない。

「もし、テレビに入れられた全員がああなるなら、非常にまずい。ペルソナ能力があるからと言ってならない保証もないし、出来るだけターゲットにならないように立ち回らないと」

僕の内面性はとてもじゃないが、人様に見せられるものではない。見たら、人間不信になること請け合いだ。正面から向き合って逃げ出さなかったのは、今のところ堂島さんしかいない。

「とりあえずは、見えてるところから手を付けますか」

そう呟きながら、金属細工だいだらで買ってきた槍を手に掴む。

「今後、この部屋からあの世界に入ることになるだろうし、どこに出るかくらいは把握しておかないとね」

すでにマヨナカテレビは終わり、何も映していない。そこに手を突っ込むと、画面に波紋が起き、ずぶずぶと手が呑み込まれていく。

「さて、一体どこに出るのやら」

落ちてゆくような感覚がしばらく続き、気が付くと塔の頂上にいた。さっと血の気が引いた。数日前、夜中のジュネスから忍び込んだ時にはこんな建物なんて無かった。かといって、天城雪子の城とは明らかに違う。

「なんてこった。予想しておくべきだったか」

ある程度辺りを見回したところで確信した。これは僕のダンジョンだ。

「心に歪みがある奴が入ると出来るのか?いや、それなら僕のペルソナは暴走してるはずだし……」

分からないことを調べに来たら、分からないことがまた増えた。完全に悪循環だ。趣味のウィキペディア巡りを彷彿とさせる。

「行くか……」

これ以上悩んでいても時間の無駄だろう。だんだんシャドウも集まってきたし。

「来い!マイトレーヤ!」

発行するカードを握りつぶすと、蓮華上の塔と水瓶を持った菩薩が現れる。マイトレーヤ。別名を弥勒菩薩という。未来を見通す慈しみの菩薩である。弥勒の最初のペルソナでもある。召喚の隙をついてシャドウが弥勒へと飛びかかる。それをまるで来るのが分かっていたように躱し、槍の一撃を叩きこむとシャドウは霧のように消えて行った。それを皮切りにシャドウが一斉に飛びかかる。槍をうまく使い、時にはシャドウを踏み台にして相手の攻撃をすべて紙一重でかわしてゆく。

「ミリオンシュート!」

自分がいるのもお構いなしで技を放つ。マイトレーヤから無数の針が放たれ、次々にシャドウを貫く。針の雨が降り注ぐ中、その全てを紙一重で避けながら槍を突き刺す。超人的な動きの元となっている力はマイトレーヤの固有スキル『未来予知』。効果は物理攻撃の完全回避だ。一体多の乱戦で最も輝くマイトレーヤは、その他にも、体力回復魔法、状態異常回復魔法、蘇生魔法など。慈しみの菩薩の名にふさわしいスキルを持っている。

「ふっ!」

槍を目いっぱい長く持ち、横に一閃。二体のシャドウを同時に葬ると、その瞬間大きな火球が飛んできた。

「フドウミョウオウ!」

一面二臂で竜の巻きついた剣と羂索を持ち、その形相は怒りで歪み、逆巻いている。背中には迦楼羅炎。赤く燃え盛る神格。その名も不動明王。

迫りくる火球を難なく吸収し、それをやすやすと超える炎を繰り出す。

「マハラギダイン!」

炎に体制があっただろう敵シャドウを含むすべてのシャドウが、その炎の前に塵も残さず消滅した。焼け野原はますで焦熱地獄のような有様。

「弥勒菩薩だけで行けるかと思ったんだけどな……。そう上手くもいかないか」

現時点での切り札である不動明王を使わされたのは、大きな誤算だった。

もっと気を引き締めなきゃダメだな。

「帰ったら反省会だな」

顎に手を当てながら焼け野原を後にした。

 

・・・

「こ、これは何事クマ―!?」

翌日、雪子の救出へと赴いた三人と一体が見たものは、未だにぷすぷすと煙を上げるシャドウの死骸だった。

「ちょっと、なにこれ!?ミサイルでも落ちたの!?」

「いや、有り得ねえだろ!?ここテレビの中だぜ!」

「じゃあ中で作ったんじゃない?それなら大丈夫だよ!」

「数時間でミサイルなんか作れねーだろ!」

仲間の二人がコントをやっている間、鳴上悠はある仮説を思いついた。

天城をテレビの中に入れた奴がいる?もしそうなら、まさか小西先輩も……?

「クマ―!先生あの二人を止めてくれクマ―。クマには無理クマ」

「あ、ああ。おーい、花村、里中。とりあえす天城のところに意ごう!」

リーダーの鶴の一声で、謎の焼け野原は放っておくこととなった。

 

・・・

4/29(祝)雨

数日前に天城雪子は助け出され、現在テレビの中には誰もいない。あれから毎日のようにこっそりとテレビの中を監視していたが、鳴上君一派以外の痕跡を未だに見つけられない。でも今日ならば、天城雪子を殺す目的で入れたのだとしたら、現れるかもしれない。ダメもとで潜んでいると、カツン、カツンと足音が聞こえる。

根気の勝利です。

思わずぐっ、とガッツポーズをとる。毎日、ほぼ不眠で張り込んだ甲斐があったというものだ。悟られないようにそっと音の出元を窺う。

「あれは……」

そこにあったのは意外な顔だった。頭をポリポリとかきながら、濁った眼で雪子城を見つめている。あれはたしか、堂島さんの部下の―――そう確か足立さんだ。

「足立さんが犯人?」

ますます選考基準が分からなくなる。女性を無差別?足立さんは、そういう性格じゃあなさそうなんだけどな。まあ、人の本性なんて分からないものだけど。俺みたいなのもいるわけだし。

「ともかく残りの二人のうち一人が足立さんだと分かった。それだけでも収穫かな」

暫くじっと無言のまま佇んでいたが、霧がさらに濃くなってきたところで帰って行った。それを見計らって僕も帰る。これ以上の長居は危険だ。もう一人が来る気配も全く無いようだし。

「多分、虚無が足立さんなんだろうな。嘘に振り回されてるって雰囲気じゃなかったし」

僕は、頭の中で事件の全容を思い描きながら帰宅した。

 

・・・

翌日、天城雪子が学校に復帰した。田舎ならではの噂の足の速さで、登校するなりそのことを知った。行方不明となっていた間のことは覚えていない、と言うことらしい。ペルソナがどうだとか言ったらまず間違いなく、精神病院行きだろう。僕も15に時に入れられそうになった忌々しい病院だ。

「精神衛生上忘れ去りたいだろうマヨナカテレビの件があるから無事とは言い難いけど……」

例によって屋上で自分の考えをまとめていると、ギイとドアの開く音がして振り返る。

「雪子ちゃんか。また息抜きかい?」

先日のような暗い影が、憑き物を落としたように晴れている。素晴らしい、と僕は思った。自らが異常だと気付いていなかった自分ならば、全世界の人間をテレビに入れようとしていたかもしれない。

「あの、私。謝らないといけないと思って……」

そう言って、申し訳なさそうな顔をする。

「謝るっていったい何をだい?」

いつも通りの軽い笑みを浮かべる。

何を謝りたいのかは想像がつく。あの時と状況も似ているし。

「先日、先輩と話した時。私は身勝手なことを言いました」

雪子の独白が始まる。

「決められた人生が嫌で、嫌で仕方ありませんでした。自分から出ていく勇気も持てずに、ただ誰かを待っていたんです。ここから救い出してくれる誰かを」

救いという言葉にとくん、と鼓動が少し高鳴る。ダメだ。これでは前回の二の舞になってしまう。

「昔、助けてくれた先輩に、私は憧れました。笑っちゃいますよね、要は助け出してくれる人が欲しかったんですよ、私は。そして、そんな自分が大嫌いでした」

重い内容を語っている雪子だが、その表情はやはり曇ることはない。

「毎日毎日マスコミが押し寄せて、精神的にもう限界だったんですよ先輩と会った時は」

「それくらい分かるさ。あの時の雪子ちゃんは酷い顔だったよ」

「なんですか、それ。女の子に酷い顔とか言うのはどうかとおもいますよ」

笑いながらの言葉だが、笑っていない。主に目が。

「ごめんごめん。まあ、僕としては雪子ちゃんが立ち直れたんなら、それでめでたしめでたしなんだけど」

いつものようにおどけてみせる。雪子ちゃんも呆れたように笑っている。

「本当に変わりませんね、先輩は。誰かの為に飛び回ってたあの頃のままです」

「そうだね。自覚が出来ただけ以前よりもましだろうけど」

「畦倉先輩。このたびは本当に申し訳―――いえ、ありがとうございました。久しぶりに話せてよかったです。他愛ない話に、ほんの少しだけ救われました」

そう言い残し屋上から去って行った。またしても屋上に取り残された僕だが、前回とは違いいい気分だった。

 

・・・

ジュネス、フードコートにて。

「遅れてごめんなさい」

弥勒と話した後、急いで駆け付けた雪子だったが、すでに三人とも席についている。どうやら思いのほか時間がたっていたようだ。

「雪子おそーい。なんか用事でもあったの?」

「ちょっと人と会ってて」

「おやおや~。新しい王子様候補ですかぁ?」

「もう千枝ってばその話はしない約束でしょ!本当に何でもないんだから。ただ、この間迷惑をかけたから謝りに行ってただけ」

「あれ、雪子にしては珍しいね。なにやっちゃったの?」

顎に手を当て心底、不思議そうな顔をする千枝。

「私がテレビの中に入れられた日かな。あの時は結構参ってたから、つい口が滑っちゃって。つい本音がぽろっと」

今でこそ平然としているが、確かに失踪前の雪子は見ていられなった。というより今、恐ろしいことを言った。

「本音ってあれだよな……マヨナカテレビの。まずくねーかそれ?」

「誰に言ったの!?私が蹴っ飛ばして記憶消してきてあげる!」

詰め寄る千枝と花村の二人だが。言葉とは裏腹に出歯亀全開の顔をしている。

「畦倉先輩だけど」

「畦倉先輩!?」

驚きのあまり手を伸ばした千枝に殴り飛ばされ、頬を抑えながら花村が悶えている。

「有名人なのか」

聞きなれない名前だ、と鳴上が尋ねる。

「うん。この町だと知らない人がいないくらい有名。来たばっかの鳴上君はまだ知らなくても無理はないけど」

「俺は聞いたことあるぜ。というかこの町で一か月も暮らしてれば確実に知る」

いつの間にか起き上がっていた花村が口を挟んでくる。

「しかも、なんつーか良い噂しか聞かねーの。直接話したことはないからホントはどうかは分かんねーけどな」

「しっかし畦倉先輩か……。あの人なら雪子のアレ見てもそれまで通りに接しそうだよね」

どんな聖人だそれは。実際にマヨナカテレビ見た鳴神は、録画しとけばよかったと思うほどだったのだ。

「あっ……。よく考えたらあの日最期に会ったの、畦倉先輩かも」

「マジか!?それじゃあもしかして犯人?」

「それは無いと思うけどなあ。話したことあるけど、本当に良い人みたいだったし」

まずはあってみない事には始まらないようだ。

「とにかく、一度会ってみよう」

弥勒の知らない所で、重大な決定が下されていた。

 

 




マイトレーヤ         物 火 氷 雷 風 光 闇 
               ― ― ― ― ― 無 弱


フドウミョウオウ       物 火 氷 雷 風 光 闇
               耐 吸 弱 耐 ― 無 無

簡易的なステータス。主人公ペルソナが増えたら、スキルも書いた詳細版を公開します。


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五月

憂鬱である。先日、ようやく鳴上悠に接触できたと思えば、疑いの眼差しを向けられた。なんと僕は犯人候補になっていたらしい。幸か不幸かバイトのシフトが入っていたので、というか出雲が何か細工をしたらしく店員がほぼ辞めてしまったので、晴れの日は僕が入らないと無人スタンドになってしまう。あいつ曰く、万が一誰かに計画のことを聞かれたらまずいとか言ってたけども、記憶消すくらい出雲なら簡単に出来そうな気がする。

閑話休題。なぜ憂鬱かと言えば、一つ目に今日の昼過ぎに鳴上悠と再び会うことになっているから。もう一つは、玄関が見覚えのある青い光を放っていたからだ。もうこの際窓から出てしまおうと思ったが、不思議な力で開かないときた。

「呼び出しされるようなことした覚えないんだけどなあ……」

意を決してドアノブを捻り、中へと踏み込んだ。

「ようこそおいでくださいました」

話しかけてくるのはイゴール。鼻の長い老人だ。今日は珍しくタロットカードを手に取っている。

「本日お呼びしたのは他でもありません。もう一人のお客人の運命が、あなたの運命と重なるようだ。その在り方は大きく違うながらも、これから暫しの間引かれ合うことになりましょう」

もう一人の客。おそらく鳴上悠の事だろう。

「占いは信じますかな?」

イゴールが手をかざすとタロットカードが宙を舞う。

「もう一人のお客人は近い未来に塔の正位置を、遠い未来に月の正位置を示されました。あなたと同じ結果でございます」

塔の正位置は大きな災難。月の正位置は迷い。二度目に訪れた折に僕を占ってもらった結果と同じ。

「このようなことは初めて起こりました。大変興味が尽きませんな……フフ」

本人は楽しいのだろうけど、笑う姿は正直怖い。

「もしかしたら、私どもにとっても得難い旅になるかもしれませぬ。このイゴール、最期までお付き合いいたしましょう」

マーガレット共々恭しく一礼をし、頭が上がりきると同時に僕はもとの玄関の前に戻っていた。時間は午後二時。鳴神たちとの約束の時間まであと一時間。

「さて、行くか。確かジュネスのフードコートだったよな」

いつものように身だしなみを整え、ジュネスへと向かって出発した。

 

・・・

ところ変わってジュネスフードコート。僕が着くと、もうすでに四人とも集まっていた。

「待たせてしまって悪かったね」

空いている椅子に座りながら、極めて普通に声をかける。大丈夫だ、ぼろを出さなきゃ僕が関係者だなんて分からるわけがない。

「いえ、こちらこそお呼び立てしてすいません」

「それくらい大丈夫だよ。それで、用事っていうのは?」

「天城さんが誘拐される前、最期に会ったのが先輩らしいんです。その時のこと詳しく教えてもらえないでしょうか?」

四人を代表して鳴上君が僕に質問をしてくる。しかしそれは、迂闊だろう。

「誘拐?穏やかじゃないですね。行方不明とは聞いていましたが、攫われていたんですか?」

四人ともしまった、と言う顔をしている。四人だけで捜査をしている弊害だろう。つい、いつものように話してしまったのだ。

「詳しくお聞かせ願えますか」

畳み掛けるように、こちらから問いかける。完全に立場が逆転した。痛いところを突かれる前に、相手の痛いところを突く。昔、いろいろやっていたので小賢しい話術は得意なのだ。名付けて攻撃は最大の防御作戦。

「それは……」

鳴上君は渋い顔をしている。しばらく沈黙が続く。このままではお互い気まずいだけだ。仕方ない、助け船を出そう。

「あの日は、屋上で考え事をしていたんだ」

いつものように軽い笑みを浮かべて、僕は語りだす。

「春からバイト始めたんだよ。商店街のガソリンスタンドでね。ところが間が悪く、店員さんがほとんど辞めてしまってね、どうしたものかと頭を悩ませていたんだ」

突然語りだした僕に、あまり話したことのない三人は驚いているようだ。

「それでバイトに行く前に、少し屋上で頭を冷やそうと思ってね。一人でぼーっとしてたら雪子ちゃんが上がってきたんだよ」

ねっ、と確認を取るように雪子ちゃんの方を見ると、こくんと頷く。

「顔色悪かったからね、気を使って出て行こうとしたんだけど呼び止められてね。少しだけ愚痴に付き合ったってところさ。その後すぐバイトに行ったら堂島さんに会ったから、鳴神君ならすぐ調べられるんじゃないかな?」

相手が緊張しないように軽い調子で言う。あっけにとられているようだ。話してもらえるとは思わなかったのだろう。

「伯父さんを知ってるんですか?」

「ああ、まあそうだね。あんまりいい話じゃないから詮索しないでくれると助かるんだけど、恩人みたいなものかな」

「恩人ですか……。いえ、いろいろ話してくれてありがとうございます」

「構わないよ。それよりせっかく休日に集まったんだし、楽しい話をしようじゃない。今日は先輩のおごりだよ。好きなもの頼むといい」

「ホントですか!?肉頼んでいいですか、肉!?」

いい先輩っぽく言い切った途端、里中さんが身を乗り出してきた。肉食獣の目をしている。

「あ、ああ。好きに頼んでいいよ」

「里中!完全に先輩引いてるって!」

「うおー!肉があたしを呼んでいる~!」

「落ち着け里中ーっ!」

「千枝ー。分もおねがーい!」

ようやく柔らかい雰囲気に戻ったようだ。

「ありがとうございます」

騒ぐ三人を眺めていると、鳴神君からお礼を言われた。その表情からは緊張が消えていた。

「いやいや、お礼を言われるようなことはしてないさ。少しばかりお節介をしただけだよ」

「それでも助かりました」

そう言って笑いあいながら握手をした。出雲の前以外では久々に余所行きじゃない笑顔だった気がする。

 

・・・

「噂通りすげーいい人だったな」

「確かに。噂には尾ひれがつくものだけど、あの人の場合はそうじゃなかったな」

花村の呟きに鳴神が返す。あれから数時間後、畦倉先輩が帰った後、鳴神達は再び集合していた。特別捜査本部だ。

「そうそう。肉おごってくれたし、疑ってた自分がバカみたい」

「お前、ホント肉の事しか考えてないのな」

「だから言ったじゃん。良い人だって」

「天城がぽろっと本音を漏らすのも無理ないな。俺も悩み事とか相談しちゃいそうだったよ」

弥勒としては無意識の行動だったのだが、自分の探られたくないことを教えたのが、とても好印象だった。

「しっかし、畦倉先輩にもいろいろあるんだね。あの人が堂島さんにお世話になることなんて想像つかないよ」

「同感。ありゃあ評判になるわけだ」

先ほど、堂島さんに連絡を取り弥勒の言葉の真偽を確認し、結果、畦倉先輩は犯人ではない、と結論付けた。

「そうなると手がかりゼロか……」

難しい顔をする鳴神。

「暫くはマヨナカテレビに注意するしかないのかな…」

「分からないことで悩んでてもしょうがない。行動を起こすのはマヨナカテレビに誰かが移ってからになりそうだ」

「じゃあ、今日はもう解散にするか?」

「そうだな。後手に回るけど今は待とう」

それから十分後に解散となった。

帰宅すると、珍しく伯父である堂島がいた。

「遅かったな、悠。こんな時間までどうしたんだ?」

「ただいま。ちょっと人と会ってたんです。奈々子は?」

「丁度、風呂に入ってるところだ」

飲みかけの缶ビールを飲みほし、こちらに向き直る。

「それより珍しいな、新しい知り合いでもできたか?」

「畦倉先輩と知り合いになりました」

「畦倉だと?そういえば昼間に電話してきたな。そうか、あいつから聞いたのか」

そういえば、伯父さんとは知り合いだと言っていた。当たり障りのないことだけ聞いてみよう。

「どんな人なんですか?」

「多分、悠が会ってみた思った通りの奴だろう。昔は考えなしなところもあったが、今では落ち着いてるな」

「昔……?」

「あまり吹聴することでもないからな、聞きたきゃ本人から聞け」

そうこうしているうちに奈々子がお風呂から出て、曖昧なままこの話は終わった。

 

・・・

「あぁ~ん暑い。暑いよぉ~。こんなに暑くなっちゃった僕のカラダ。どうしたらいいのぅ?んもぅこうなったら、もっと奥まで。あ、突!入!しちゃいまぁ~す」

「いやいやいやいやいや、どういうことだこれは」

マヨナカテレビは現在、褌一丁の巽完二がサウナでくねくねしているという悪夢のような光景を映し出していた。

「マジか。完二君子供のころは、別にそっち系じゃなかったじゃないか……」

本当に人間はどうなるか分からない。意思とは関係なくわなわな震える手を抑えながら、僕はテレビへの侵入を開始した。願わくば事故が起きてサウナに落ちたりしませんように。目を開けるといつも通りの塔の頂上にいた。嫌な予感に駆られ、急いで下まで降りてみると、真横にサウナが出来ていた。

「………とりあえず行くか」

逃げ出したくなる衝動に駆られながらも、僕はサウナへと入って行った。

「あぁ~ん!気の早いお客様!」

シャドウをなぎ倒しながら中層辺りまでたどり着いた時の事だった。

「畦倉先輩じゃないですかぁ。丁重におもてなししないとぉ!」

とてつもなく聞き流したいような言葉とともに、筋骨隆々なシャドウが現れた。

「もう無理だ、こいつ倒したら帰ろう……」

狙われていることが分かった以上こんな恐ろしいところへはいられない。一刻も早くお家へ帰ろう。

「ダキニテン!」

勢いよくカードを握りつぶすと、白狐にまたがった禍々しい女性のペルソナが現れる。左手で口元を覆っていて、その背後には剣、宝珠、稲束、鎌が浮いている。

「まずは小物を一掃しようか」

愛用の槍で敵の攻撃を受け流し、一か所にまとまるように誘導する。幸い、ボス級シャドウを始め、タックルなどの高威力で単調な攻撃をしてくる敵しかいないため、上手く事を運べた。

「マハムド!」

シャドウの塊に向かって発動すると、地面に紫色の魔方陣が描かれる。一瞬光を放つと、約半数のシャドウうが消滅していた。

「続けてくらえ!マハガルーラ!」

突風が起き、ボス級を除くシャドウを薙ぎ払っていく。飛び散るシャドウの死骸を煙幕代わりに跳びあがり、こちらを見失ったボス級の頭に槍を突き立てる。

「があっ!」

カーン、と甲高い音が響くと与えたはずのダメージがそっくりそのまま僕へと帰ってきていた。さらに追い打ちをかけようと、すさまじい速度でこちらに迫ってくる。まずい、と思う前に行動を起こしていた。

「ダイコウフショウ!」

倒れこんだ僕を、十一の顔を持つ観音が覆い隠す。ペルソナの細腕は敵のタックルを容易に受け止め、動きをぴたりと止める。次の攻撃を開始する隙を与えずにアクションを起こす。

「ドゥルガー!」

フドウミョウオウと並ぶ僕の切り札の一つ。現れたのは、十本ある腕にそれぞれ神授の武器を携えた美しい女神。

「一発で決めるぞ!」

敵を牽制しながら大技を放つために力をためる。攻撃を反射してくるならば、出来ない一撃を叩きこむまで。それを可能にするのがこのペルソナが持つ固有スキル。反射貫通物理技『トリシューラ』。その手に持った三叉槍を振り上げ、僕を追って直進してくる敵に頭から突き刺さる。そのまま動かなくなり静かに消滅した。

「………帰ろう」

反射でくらった自分の一撃が思いのほか効いている。今夜はこれ以上の探索は無理だろう。完二のシャドウが出てこないことを祈りながら、そそくさと逃げ帰ったのだった。

 

・・・

「と言うことがあってさ。もう今月はテレビの中には行かないことにした」

「あはははは!受け入れてやればいいじゃないか」

「他人事だと思ってやがるな……。僕としては、笑い事じゃすまない可能性が出てきたんだぞ。怖くてテレビがそばにあると眠れやしない」

「ギリシャの神々だと結構よくあるらしいよ」

僕は今、ガソリンスタンドにいる。今日は雨なので客が少ないので、出雲と他愛ないしながら時間を潰している。

「それはそうと、見極めはどうなってるんだ?未だに全容を把握し切れてない僕には、何とも言えないんだけど」

時々忘れがちだが、目の前のガソリンスタンド店員はすべての黒幕にして、国生みの神様である。

「まだ始まったばかりだから何とも言えないな」

「何だよそれ。僕と同じじゃないか」

「まあ、神様も万能じゃないってことさ。俺も未来が見えたりはしないのさ。それに―――」

出雲は、急に真面目な顔をしてこちらを見る。

「弥勒というイレギュラーがいるしね。君の行動は俺からしても読めないんだよ。普段は割と単純なんだけどね」

「………確かに僕は救いを求められると、暴走しがちだけどな」

「そう拗ねるなよ、俺としては感謝してるんだぜ。この国一番の呪いの神を救ってやると来たもんだ。そんな奴はいままで一人たりともいなかったからな」

「自慢げに言うんじゃないよ、このアホが」

やれやれ、と手のひらを上に向け、呆れている動作をする。

「……永遠に救われない存在があっていいわけないんだよ。僕はそう思ったんだ。まだ、何をしたらいいのかてんで分からないけどね」

「まだ時間はある、楽しみしてるとするさ」

いい感じに話がまとまったところで、車がやってきた。

「らっしゃーせー!」

話を切り上げて仕事に戻る。先行き不安だけど、どうにかしてやろうと心に決めた、五月のある雨の日の話。

 




ダキニテン       物 火 氷 雷 風 光 闇
            弱 ― ― ― 吸 弱 反
 
ダイコウフショウ    物 火 氷 雷 風 光 闇
            無 耐 耐 耐 耐 ― ―

ドゥルガー       物 火 氷 雷 風 光 闇
            耐 ― 耐 耐 ― ― 無


簡易紹介。ダイコウフショウは攻撃手段皆無の防御ペルソナです。


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六月

巽完二のサウナが隣にできてしまったのは、非常にまずい。いつ狙われるか分からないというのもあるが、一番の問題は鳴上君たちにこの塔の存在がばれてしまうことだ。さんざん悩んだ末、出雲に相談したところ、いとも簡単に場所を変えてくれた。手遅れになる前で本当に良かった。

「お話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?畦倉弥勒さん」

問題が解決して晴れやかな気分で本屋に赴くと、男装の少女に声をかけられた。テレビで見たことがある、たしか探偵王子と呼ばれていた。名前はそう、白鐘直斗といったっけ。

「驚いたな。こんな場所で有名人と会うことになるなんて。それも、僕に用事があるとは」

「僕のことを知っておいででしたか。一応自己紹介をいたしますと、僕は白鐘直斗。このたびの連続殺人事件について捜査をしています」

言いきってから軽く一礼をする。

「実は今、巽完二さんが失踪しているんです。知ってましたか?」

ああ、やはりそういうことか。どうやら三年前の事件について調べたらしい。嘘をついて余計に警戒させるのは避けたいな。かといって本当の事も話せない。

「完二君とは三年前以来会ってないんだ」

「三年前、ですか?」

「おや、調べたんじゃないのかい?だから僕のところに来たんだろうと思っていたんだけど」

「いえ……出来れば詳しくお聞かせ願えますか?」

僕の考えは見当外れだったようだ。しかし、では何故僕のところに来た?

「いいけど、ここでするような話じゃないんだ。場所を変えてもいいかな」

「構いません。では、公園はいかがでしょうか。先ほど通った時には誰もいない様子でしたし」

「いいよ。それじゃあ行こうか」

それでは、と言って先導する直斗君。無言のまま公園に向かって歩き続ける二人。丁度いい、僕の疑問を聞いておくチャンスだ。というか抑えきれない。

「白鐘君はさ、どうして王子なんて呼ばれてるんだい?」

「それは世間が勝手に付けた呼称です。探偵家業をする少年と言うのが物珍しかったのでしょう」

「んー、僕が聞きたいのはそういうことじゃなくてね」

前を向いたまま話していた直斗が立ち止り、こちらを見る。その瞳には若干の怯えに色が見える。心が疼く。

「なんでしょうか」

「いや、ごめん。なんでもない。僕の勘違いだったみたいだ」

「そうですか……」

怪訝な顔でこちらの様子を観察する直斗君。性別、彼女の心の闇はそこに在るようだ。意外と完二君と話が合うんじゃないだろうか。

「ああ、思い出した。なんで僕のこと調べようと思ったのか聞きたくて。これから話す事以外では、あまり完二君とは接点もない。どういう経路で僕のところにたどり着いたのか知りたくてね」

重苦しくなってしまった雰囲気を吹き飛ばすために、軽いノリで話を切り出した。

「そういうことでしたか」

納得するように頷くと再び歩き出しながら言葉を続ける。

「鳴上さんですよ。失踪した天城雪子が発見された後、彼らの仲間に加わりました。それだけならば不自然はないんです。もともと里中千枝とは親友だったようですし。しかし、巽完二は違います。失踪の直前、特に親しくもないはずの彼の家を訪れたり、彼を付け回していたりしたようです。彼らはこの事件に何らかの形で関わっている。僕はそう思っています」

「それだけ聞くと、僕はあまり関係なさそうに聞こえるけど?」

「天城雪子が学校に復帰してすぐのことですが、あなたがジュネスのフードコートで彼らと会っているのを目撃した人がいるんですよ」

「ああ、なるほど。あの時の事か、確かに話を聞く限り僕も怪しいか」

「ええ、ですがあなたは何も知らないようですね。とても何かを隠しているようには見えない」

僕の本性を隠すための技は、無事に探偵を欺き通せたようだ。

「じゃあ、後は三年前の話を話すだけかな」

「ご協力感謝します」

他愛ない話をしながら公園へと向かった。

 

・・・

弥勒が白鐘直斗に自分の過去を話している時、鳴上たちによる巽完二救出作戦も佳境を迎えていた。

「もうやめようよ、嘘つくの。人をだますのも、自分をだますのも、嫌いだろ」

頬をうっすらと紅潮さながら完二のシャドウが言う。

「やりたいこと、やりたいって言って、何が悪い?」

「それとこれとは……」

完二同士の会話を鳴上たちは黙って聞いている。

「僕は君のやりたいことだよ」

「違う!」

完二は右手を振り回しながら怒る。少しの間二人の間に沈黙が降りる。不意にシャドウが語りだした。

「女は嫌いだ……偉そうで、我がままで、怒れば泣く、影口は言う、チクる、化ける……気持ち悪いモノみたいに僕を見て、変人、変人ってさ……で、笑いながらこう言うんだ」

言ってる方も聞いている方も苦しそうな顔をしている。それは紛れもない本心だからだ。

「裁縫好きなんて、気持ち悪い。絵を描くなんて、似合わない。男のくせに……、男のくせに……、男のくせに……!」

だんだんとシャドウの声色が本人の者へと近づいていく。

「男ってなんだ?男らしいってなんだ?女は怖いよなぁ……、あの人とは違って僕のことを非難する!」

「やっ、やめろ!それ以上は言うんじゃねぇ!」

「三年前のあの日、嫌われ者だった僕を何も言わずに助けて、笑いかけてくれた。かっこいい、憧れの人」

「黙れってんだ!」

恍惚の表情のシャドウと、大声を出して威嚇している完二。誰がどう見ても虚勢だと分かるくらい、今にも崩れ落ちそうだ。

「男がいい……男のくせにって言わない、あの人みたいな男がいい」

「ざっ…けんな!テメェ、ひとと同じ顔してフザけやがって…!」

「キミはボク…ボクはキミだよ…、分かってるだろ…?」

「違う…違う、違う!テメェみてぇのが……俺なもんかよ!!」

「ふふ…うふふふふふふ…。ボクはキミ、キミさァァ!」

その一言をきっかけに、完二のシャドウの放つ威圧感が膨れ上がる。褌をした筋骨隆々のシャドウへと変身し、その衝撃で完二を吹き飛ばす。

また一つ、真実に近づくための戦いが始まった。

 

・・・

昼休み、僕が屋上にいるとドアが開く音がした。

「最近多いな、屋上来るのはやってるのか……?」

ボヤキながら振り返ると、そこには見知った顔があった。鳴上君を含めたメンバーに完二君が加わっている。

「珍しい組み合わせだね」

誰もいないと思ってたようで、こちらから声をかけると驚いていた。特に完二君が。

「畦倉先輩!?どうしたんですかこんなところで?」

「先輩が一人でいるところなんか、初めて見たッスよ」

「僕としてはそんなつもりはないんだけどね。ここにはよく一人で来るんだよ。雪子ちゃんの時もそうだったろう?」

ねっ、と雪子ちゃんに顔を向ける。

「完二君と話すのは、あの件以来かな。懐かしいね」

「うす…。あの時はお礼も言えずにすみませんっした」

突然頭を下げる完二君を見ながら、里中さんと雪子ちゃんは、敬語……ぷぷ……。と言いながら笑いをこらえている。

「頭を上げてよ完二君。あれは僕がやりたいようにやった結果だ。お礼が欲しかったわけじゃないよ」

これは偽らざる本心だ。それこそが、僕の異常である証明でもある。

「でもっ!先輩は怪我を――」

「ストップ。せっかく久しぶりに話すんだ。暗い話は無しにしようよ」

完二が勢いに任せて話す前に阻止する。

「っ!すみません……」

「いいよ。でもそうだな、どうしてもお礼がしたいって言うなら、今度ご飯でもおごってくれるかな?それであの件はおしまい」

何の話か分かっていない鳴上君たちは不思議そうにこちらを見ている。

「それじゃあ、みんなの邪魔しちゃ悪いし、僕はこの辺で失礼させてもらうよ」

いつもの軽い笑みを作り、屋上のドアへと向かう。

「それと、さっきの話。どうしても気になるようなら、完二君か堂島さんに聞くといいよ。僕が話していいって言ったなら、きっと話してくれるから」

ギイ、と音を立てドアを開け、僕は屋上を後にした。

「さて、これからどうなるのか」

自然と先ほどとは違う笑みがこぼれた。

 

・・・

それから十日ほど経ったある日。いつものようにバイトに勤しんでいると、出雲が話しかけてきた。

「そういえば、俺の考えは伝えたけども、弥勒がこの計画をどう思ってるか聞いてなかったよな?」

ついつい無視してしまった。驚きすぎて脳が空耳だと判断したようだ。

「おーい、弥勒?」

「いきなりそういう話をするのはやめろ。心臓止まるかと思ったわ」

「大丈夫だって、あと一時間くらいは何の騒ぎもないはずだから」

「また、なんとなくか?」

「そうそう。だから大丈夫だ」

会話としておかしいのはさておき、その言葉の通りなら、あと一時間で面倒事に巻き込まれることになるらしい。とても聞きたくなかった。

「しかし、どうって言われてもな。現状、おそらく鳴神君と一緒にいる四人が、自分と向き合うことが出来ただろう。それはとても幸福なことだ、大半の人が一生出来ずに終わる。他にもいろいろあるけど、僕としては、どちらかと言うと賛成。刀って感じかな」

その時にならなきゃ分からないが、人の望みが虚飾の世界ならば。それもまたよ良し、としてしまうだろう。

「結局、命を懸けなきゃ本当に欲しいものには手が届かないらしい。それをあらためて実感したよ。案外、僕は皆と変わらないのかもしれないね」

「なるほどなー。っとお客さん来たみたいだ。行ってくる」

話を聞くだけ聞いて、出雲はさっさと去って行った。

「コーン!」

「ん?」

振り返ると狐がいた。

「コーン!」

もう一度吠えると、すりすりと体を擦り付けてきた。懐かれているみたいだ。ダキニテンの効果だろうか?

「ほら、こっちにおいで」

とんとん、と自分の膝とたたくと狐は指示通りに飛び乗ったあと、うずくまって昼寝を始めた。

 

・・・

客足も無く。膝の上の狐を撫でているだけの時間が過ぎ、もうすぐ出雲が言った一時間後だ。その時、

「逃げんなテメ……このッ!」

聞き覚えのある声が外で響いた。この声は完二君だろう。狐はビクッと体を震わせて飛び起き、そのままどこかへ行ってしまった。

「く、来るな!」

「るっせ、んなの聞く馬鹿が……」

様子を窺うと、鳴神君たちに加えなんと足立さんまでいるようだ。

「と、飛び込むぞ!僕が車に轢かれても、いーのか!?」

喚き散らすように言うのは見覚えのない男。チェック柄の服にジーパン、首には大きなカメラを掛けている。

「な、なんだそりゃ…!?」

花村君を含めた全員が呆れたような顔をした。足立さんが焦ったようにみんなを止めている。見てしまった以上どうにかするとしようか。僕は、店の奥から非常用の刺又を引っ張り出し、こっそりと男の後方へと回り込んでいく。

「槍とは違うけど、まあ、どうにかなるだろう」

男の道路を挟んだ丁度真後ろに立つと、車の流れが切れたのを見計らって飛びかかる。

「ふっ!」

柄で膝の裏を突き、崩れ落ちる男の胴体をU字部分で拘束した。何が起きたのか分からずに目を白黒させている。

「大人しくしてください、抵抗は無意味です」

「きっ、君ね、善良な一市民にこんな乱暴なマネして……」

「うるさいです。営業妨害なので御用となります」

絶句した。僕がとてもいい笑顔だったからだろう。

「では、足立さんでしたっけ?確保をお願いいます」

「う、うん。分かったよ」

「では、僕はこれで」

刺又を手に去っていく途中、あの人は怒らせないようにしよう、という言葉が聞こえた気がした。

「しかし、次の標的はもしかして久慈川りせなのか?」

でなければ、張り込みをしていて先ほどのような人物に会うことはないだろう。

「また知り合いとは。イゴールが言ったように鳴上君と僕の運命は、絡まってるようだ」

ため息をつきながら休憩スペースに戻ると出雲がいた。

「あっ、おかえり」

「おかえりじゃねーよ。いきなり消えやがって」

「俺としては、会うのはご遠慮願いたいもんでね」

「だろうよ。なんたってイザナギだからな」

「痛いところを突くね、弥勒は。次言ったら晴れの日のバイト人員がまた減るからな」

「それだけは勘弁してくれ」

皮肉のつもりが地雷を踏んだらしい。本気で出来るから性質が悪い。こいつが店員を減らしたせいで、家にいる時間よりもガソリンスタンドにいる時間の方が長いのだ。

「さて、今日はもう上がりでいいから。弥勒も様子を見てこいよ」

「人は見たいように見るって奴か。僕はそれはもう知ってるよ。今さら見るほどのものじゃない」

「何言ってんの?俺は久慈川りせでも見て来いって意味で言ったんだけど」

「………ああ、そうですか」

意味もなく、かっこつけたようなことを言ってしまった自分が恥ずかしい。

「ん?」

出雲が眉をひそめる。

「一足遅かったみたいだ。今、テレビの中に久慈川りせが入った。」

「なんだって?」

商店街の方へと顔を向けると、一台のトラックが走り去っていった。あれは見覚えがある。運送業者のトラック。そうか、テレビを荷台に積んでいるのか。あれならばいきなり人が消えるのも納得の話だ。じゃあ、足立さんはなんなんだ?分からない。断片的ながらも情報が集まってきた、早いところ一連の事件の全容を暴かなくては。

 

・・・

その夜。案の定、マヨナカテレビが始まった。

「マルキュン!りせチーズ!みなさーん、こんばんは、久慈川りせです!」

薄暗いピンクな光の満ちた部屋の真ん中にりせが現れる。この時点でなんとなく察した僕は、力が抜けたように崩れ落ちた。

「僕が小さいころ遊んでた人はどうしてこうなるんだろう……。まさか、あの真面目だったりせちゃんまでもが、こうなってしまうとは」

目頭が熱くなる。このままでは変人量産工場とか言われてしまいそうだ。主に出雲から。

「前回よりはまだ、入りやすいかなぁ……」

マヨナカテレビでは、ストリップがどうとか言っている。聞いていると悲しくなるので、僕は今回のダンジョンについて考えることにした。

「いきなり行って手痛い反撃を食らうのはもう御免だし、今回は少しばかり準備してから行こうかな」

明日あたりベルベットルームに行って、マーガレットさんに制御の練習に付き合ってもらおう。出雲?あれはダメ、強すぎる。切り札きって本気で戦っても軽くあしらわれた。

「どうやら、鳴上君たちはターゲットの基準に目星がついていそうだったし、今度、それとなく聞いてみようかな」

マヨナカテレビが終わり、画面が暗転する。

「……念のため、魅了の効かないペルソナを装備しておくか」

完二のシャドウを思い出し、冷や汗を垂らしながら僕は呟いた。

 




ダキニテン(荼枳尼天)は、日本の神道における稲荷と習合しており、狐に乗る像は日本発祥のようです。


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七月

顔が隠れるように深く帽子をかぶり、体格がばれないように大きめな黒い外套に身を包む。七月に入り一週間が経ったが、未だに久慈川りせが救出された様子はない。それはまずい、非常にまずい。至極、利己的な理由になってしまうが、ここで彼らが倒れてしまうと、僕の約束を果たすことが出来なくなってしまう。

「それだけは認められない」

救いたい、と言う欲以外を持たない僕は、言い換えるならば欲のそのものだ。他へと向かう部分が全て一つに集中しているに過ぎない。自らでさえ制御が難しいモンスターだ。

「こっちのことがばれるのは極力避けたいんだが、こうなってしまってはそうも言ってられない。直接的な援護、最悪の場合は僕が片を付けよう」

愛用の槍を携えてテレビの前に立つ。

「必ず救おう」

その一言は、僕の体に深く浸み込む。目を深く閉じ、再び開けた時、僕は三年前の僕へと戻っていた。

「隠すのは大変なのに戻るのは一瞬とはね」

自嘲するように笑うとテレビの中へと入っていく。落下するような感覚が終わると、いつも通りに塔の頂上にいた。もう一度自分の格好を入念にチェックし、りせのいるダンジョンへと向かって移動する。最上階の手前をマーキングしてあるため、移動は一瞬だ。

「願わくば、着いた瞬間に遭遇しないことだな」

瞬きする間に目的の場所へと到達し、あたりを見渡すと、ピンク色の怪しい雰囲気の扉は開かれている。

「これは、接触しないのは無理だな」

こっそり中をのぞいてみると、すでに進化したりせのシャドウと、それに翻弄される鳴神達がいた。なるほど、りせのシャドウの力はアナライズらしい。弱点も動きも見事に読まれている。あれでは苦戦するのも当然だろう。ならば弱点がなければいい。

「ダイコウフショウ」

以前にも使ったことのあるこのペルソナ。十種類の現世での利益と四種類の来世での果報をもたらすとされる観音だ。僕が持つペルソナの中でも、最も防御に秀でている。

「さあ、行こうか」

低く身をかがめ、スタートする。攻撃を何とか凌いでいる鳴神君たちの間をすり抜けると、誰もが反応する間もなくりせのシャドウに一撃を入れる。

「きゃああぁぁぁぁー!」

予想外の一撃にりせのシャドウは怯み、攻撃の手が止まる。その隙を逃さずに槍をもう一閃し離脱する。

「誰クマ―!?」

案の定、鳴上君たちは突然現れた僕を見て混乱しているようだ。まあ、あからさまに怪しい恰好で来た僕も僕なんだけど。とりあえずカラフルなぬいぐるみの問いに首を横に振って答え、シャドウへと向き直る。

「ステージの上に手ェだすなんて、なんてことしてるか分かってるの……?」

黙ったまま槍を器用にくるっと回し、あいてに突き付け、宣戦布告をする。

「いい加減にしなさいよね……マハアナライズ!」

目の前でパラボラアンテナの顔をしたカラフルな巨人が、ポールダンスを始める。高度なアナライズが僕を襲う。しかし、すでに手は打ってある。

「嘘っ、あなた弱点がないの!?」

驚愕の声をあげるシャドウ。

「ダイコウフショウ!」

僕の声とともに十一の顔を持つ観音像が現れる。こいつを打ち崩されたら僕もお手上げなところだった。

「いいわ!だったら、フルパワーで吹き飛ばしてあげる!食らいなさい!」

カラフルな肢体が発光する。弱点に関係なく吹き飛ばそうという意図が丸わかりの攻撃だ。力の桁が跳ね上がっていく。

「あれは!?」

「俺たちがやられた奴だ!おい、そこのアンタ!急いで逃げろ!」

今、僕が逃げたら自分たちが危ないだろうに。本気で僕の身を案じてくれているようだ。

「大丈夫だよ」

安心させるために一言だけ告げると光が僕を覆った。

「ああっ!?」

息をのむ鳴上君たち。

「きゃはは!ざんねーん!おさわりしたお客さんには、きつーい罰を受けてもらいましたー!」

「テメェ!よくもやりやがったなッ!」

「嘘でしょ……こんな」

完二が激高し、雪子は嫌だと首を横に振る。

「タケミカズチ!」

怒りを原動力に完二が跳びかかるも、やはりすぐに撃墜されてしまう。

「次はあなたたちの番ね―――っ!?」

「フドウミョウオウ―――火生三昧!」

僕が死んだと思って完全に油断した所に、今こちらが持てる最大火力を打ち込む。火生三昧、欲望や煩悩すらも焼き尽くす炎の世界。フドウミョウオウが持つ莫大な威力の炎魔法スキルだ。轟々と燃え盛る炎の中でシャドウの断末魔だ響き渡る。

「終わったか」

未だに辺りの温度が下がらないあたり、やはり相当な威力だな。

「君の影だ、行ってくるといい」

先ほどまでの力を失い、爆心地に倒れこむりせのシャドウを指さして言う。

僕の言葉に頷いて返すと、鳴神たちに支えられながら移動する。

「起きて……」

その言葉を受けてりせのシャドウが立ち上がる。もう大丈夫だろう。僕は少し離れた所の壁に移動し、もたれかかりながら様子を窺う。少し考えるべきことがあったからだ。まあ、この後どうするかって事なんだけども。

「このまま逃げたりしたら余計に話がこじれそうだしなぁ……どうしようか」

向こうのやりとりを遠目に見ながら観察していると、ぬいぐるみ君の様子がおかしい。

「本当の自分なんて…いない…?」

いけない、この声は。

「お、おいクマ…」

「ダメ、下がって!あの子の中から、何か…!」

自分と向き合い取得したペルソナ能力の関係か、りせにはぬいぐるみ君の状態が分かっているようだ。

「本当?自分?ククク…実に愚かだ…」

禍々しい影がぬいぐるみ君の背後の現れる。

「何だよあいつ!?」

「ま、まさかもう一人のクマくん?クマくんの内面ってこと!?」

「多分、そう…でも何かの強い干渉を…」

十中八九、出雲の干渉だ。これは、いわゆる一つの試験なのだろう。

「な、何がどーしたクマ!?」

会話が続いているうちに戦闘の準備を整える。シャドウが出ている以上、まず間違いなく戦いになるだろう。りせが先ほど獲得したペルソナを召喚し、戦いが始まろうとする直前に僕も戦列に加わる。人間を試す試験ならば、僕にも受ける権利があるはずだ。

「手伝おう……」

言葉少なにそう言うと、僅かながらに警戒心が薄れていく。

「誰だか知らないけど、助かる」

鳴上君が言うと同時にシャドウが巨大化する。下半身は地に埋まり、いたるところがボロボロになっている。

さて、本日第二戦目だ。

「我は影…真なる我…、お前たちの好きな真実を与えよう…。ここで死ぬという、逃れ得ぬ定めをな!」

「こんな不気味なのが…あのトボけたクマくんの中に?」

「クマのやつ…見かけよりずっと悩んでたみたいだな…。俺たちで救ってやろうぜ!」

花村君の言った言葉が僕を打ち抜く。落ち着け、今、暴走するわけにはいかないのだ。

「プラジューニ」

カードを握りつぶすと、三眼にして六臂の菩薩が現れた。それぞれの腕は異なる印を結んでいる。

「流石に力を使いすぎた。申し訳ないが、サポートに回らせてもらう」

「サポートまでできるのか」

鳴上君は感心したようにこちらを見ている。

「あまり得意とはいけないけど、力を合わせればどうにかなるだろう」

僕はりせちゃんを見て言葉を続ける。

「彼女も大分弱っている。出来るなら早めに決めてくれると助かる」

「ああ、任せろ!」

意志の強い言葉と同時に、巨大なシャドウへと向かって駆け出した。

「やっぱりいい人だな、鳴神君は。こんなに怪しい人、普通信用できないだろうに」

一人で苦笑していると、りせちゃんが話しかけてきた。

「あの、私、まだよく分からないですけど、助けてくれてありがとうございました」

「気にしなくていい。好きでやったことだ」

「……その話し方、なんかおかしくないですか?」

不意を突かれてギョッとする。

「やっぱり。なかなかうまい演技でしたけど、私、これでもアイドルやってたんですから」

しまった、と思ったがもはや後の祭りだ。

「黙っててくれると助かるよ。僕にも目的があるからね」

「目的?」

「その時が来れば話すさ。きっと話さざるおえなくなると思う」

出雲を救おうとする僕と、真実を求める鳴上君はきっと衝突することになる。いや、必ずそうなると僕は確信している。あらゆる困難をはねのけて、やがて僕の前に立ちはだかる最大の壁になるだろう。

「今は戦いに集中しよう」

不満げな顔をするりせを尻目に、僕は目の前の戦いに全神経を集中させた。

 

・・・

巨大化したクマのシャドウが雄たけびをあげて倒れる。ペラペラになって倒れているクマにみんな一斉に駆け寄る。

「あれは、クマさんの一面なの…?」

「けど、まさかクマくんにも、抑え込んでた心があったなんてね」

クマが振り返るとそこには自身のシャドウが、力なく立っていた。

「クマ…クマは、自分が何者か分からないクマ…。ひょっとしたら、答えないのかも…なんて、確かに時々、そんな気もしたクマ…」

クマのシャドウは無言のままクマの言葉を聞いている。

「だけどクマは、今ここにいるクマよ…。クマは、ここで生きてるクマよ…」

「クマは一人じゃない」

泣き出しそうな声をあげるクマに鳴上が声を掛ける。

「それじゃあクマはもう…一人で悩まなくても、いいクマか…?」

「しゃーねーな、一緒に探してやるよ」

「この世界のことを探っていくうちに、クマさんの事も、きっと何か分かると思う」

雪子の言った言葉に全員が頷く。

「み、みんな!クマは…クマは果報者クマ!およよよ…」

うれし泣きをするクマの後ろでシャドウが輝きを放つ。

「これって…」

「ペルソナ…?」

振り返り近くまで近づくと、シャドウがミサイルを持って青いマントを付けたペルソナへと変化した。

「これ、クマの…ペルソナ?」

「それ…すごい力、感じるよ…よかったね、クマ…」

最期の力を振り絞っての言葉だったようで、言い終わると同時にりせが崩れ落ちる。

「わ、大丈夫!?そうだよ、いきなりだもん!ゴメン、無理させて…すんごい疲れてたのに…」

「大丈夫…あの人が手伝ってくれたから…」

「ん?そういや、あの怪しさビンビンの助っ人は?」

「あれ?さっきまでそこにいたんスけど……」

「逃げたのか?」

「逃げたわね」

数秒の沈黙が流れる。

「と、とにかく早く外に出よう!」

花村の一言で、とりあえず外に出ることになった。

「悪い人ではなさそうだったな……」

鳴神のの呟きは霧の中へと消えていった。

 

・・・

それからしばらくの間、特に大きな悩みもなく平和な日常を過ごした。一番大きな悩みが、この前使った変装道具を処分するか否か、な辺り平和さがにじみ出ていると思う。なんてことがある訳もなく。

「諸岡先生、か……」

無事にりせちゃんを救いだしたすぐ後、三人目の被害者が出た。諸岡先生だ。生徒からは嫌われていたが、個人的には嫌いではなかった。まあ、僕に嫌いな人間なんか存在しない訳だけど。そして今、僕の目の前ではマヨナカテレビが流れている。ゲームに出てくるような雪子の時とは少し違う城をバックに、ホクロが特徴的な色白の少年が映っている。

「それなら捕まえてごらんよ」

はっきりとそう言う。これで合点がいった。諸岡先生の死は不自然だったからだ。

「最も霧が濃くなったあの日。僕は限界ぎりぎりまでテレビの中にいたけど、誰も入ってきていない。諸岡先生はテレビに入れられてない」

すでに光を失ったテレビを前に、顎に手を当て、ぶつぶつ言いながら一人で推理を展開する。

「足立さん、鳴神君、そしてもう一人は運送業者の誰か。あの少年はどう見ても未成年だ。出雲に選ばれた三人の一人には、有り得ない。あの少年が諸岡先生を殺し、鳴神君以外のどちらかが、彼をテレビに放り込んだ。うん、これが一番しっくりくるかな。それにしても―――」

窓を開け空を見上げると、ぱらぱらと降る雨が顔に落ちる。

「都合のいい真実か……どうやらここが、一つのターニングポイントみたいだ」

それからしばらく、弥勒は雨を浴びながら未来に思いを馳せた。

 

・・・

翌日、ようやく夏休みが始まり夏季限定のバイトが入ったので暇が出来た。商店街の本屋に向かった後、ついでにジュネスのフードコートで昼食を取ることにした。

「あ、畦倉先輩。こんちわッス!」

振り返るとそこには、完二が、と言うか鳴上君たちがいた。りせちゃんの姿は無い。あっちの世界でいろいろ探っているのかもしてない。りせちゃんには、見破られかねないので、僕は内心ほっとする。

「やあ、久しぶりだね。調子はどうだい?」

差し障りのない挨拶をする。里中さんの反応が少し暗い気がする。

「里中さん、どうかしたのかな?」

「いえ、その…」

「ああ、なるほど。完二君から聞いたのかな?」

うっ、と声を漏らし後ろに反る。ものすごく分かりやすい。隠し事とか絶対にできないタイプだ。

「無理もないよ。あの時のことは、僕から見ても普通じゃないからね」

あはは、と宥めるように言うと。

「そんなことないです!」

っと、むきになったように大声を張り上げた。

「あの、うまく言えませんけど、その…人の為に頑張れるのは良いことだと思います!でも、あたし、そこまで出来るかなって考えたら……」

「それでいいんだよ、里中さん。自分の出来る範囲で出来ることをやればいいんだ。僕はそれが他人より少しばかり広いだけの話さ」

本当は広いなんて話じゃないんだが、嘘も方便である。にっこりと笑いかけると、ようやくいつもの里中さんに戻ったようだ。

「畦倉先輩やっぱすげーわ。俺があんなセリフ言ったら蹴り飛ばされるって、絶対」

「その光景がはっきりと浮かぶようになった自分が嫌ッスね……」

花村君と完二君が二人そろって項垂れている。

「せっかく会ったんだし、ここは僕がもつよ。バイト代、使い道無くて腐らせてとこなんだ」

「いいんですか?」

「遠慮なんかいらないよ。本当にお金余ってるんだ。いくらでも頼んじゃってよ」

バイト代以外にも、シャドウが死ぬほど落としていくし。

「じゃあ、私。りせちゃん呼んでくるね」

「あ、あたしも行くー」

雪子ちゃんと里中さんがそう言い残し、フードコートから出て行った。少し早まったかもしれない。

「いくらでも……ホントにいいんスか?」

そう言えば完二君、大食いだったっけ。ちょいちょい、と手招きをしてこっそり財布の中をみせてあげる。

「うおっ!?マジっすかこれ!?花村先輩何人分だ?」

「ちょっと待て!なんでお前が俺の懐事情を知ってんだよ!」

「細かいことはいいじゃないッスか。そんなんだからモテないんスよ」

「ぐっ!地味に痛いとこ突くのやめろよな、お前…」

「それよりも早く食い物頼みに行きません?」

わいわいと騒ぎながら、花村と完二君もテーブルを離れて行った。

「鳴上君も何か頼んで来たらどうだい?」

「俺は、皆が帰ってきてから行くことにしますよ」

「……もしかして気を使わせちゃった?」

「そんなことないですよ。ただ、じっくり話してみたいと思ったんで」

なるほど、そりゃ確かにいい機会だ。

「どんな話をしようか。僕としてはそっちから話題を振ってくれると助かるよ」

「三年前のこと、伯父さんに聞きました。完二たちが知らないその後のことも」

その後のこと、堂島さんとの取り調べの時のことで間違いないだろう。僕の普通と、世間一般の普通の摺合せを手伝ってもらったのだ。よく投げ出さないでいてくれたと思う。

「あの時以来、堂島さんには頭が上がらないよ」

「俺も、いつも世話してもらってばかりなんで気持ちはよく分かります」

「面倒見がすごくいいんだよね、あの人」

「ええ。それに意外とおっちょこちょいなところもあったりなんかして」

「それすごく分かるよ。僕と初めて会った時なんてね―――」

二人で笑いあいながら堂島さんトークに花を咲かせた。

「そうだ、みんなが帰ってくる前にこれだけは言っておかなきゃいけません」

「なんだい?」

急に鳴上君が改まった顔をした。

「完二を助けてくれてありがとうございました」

予想外の一言に度肝を抜かれてしまう。

「堂島さんから話を聞いたんだろう……?」

「それでも、完二を助けてくれたことに変わりはありませんから」

「……君にはかなわないな。人たらしって言われないかい?」

そんなことないですよ、と言って笑う鳴上君だが、目が泳いでいる。

「せんぱーい!食べ放題ってほんとですかー!?」

「りせちゃんってば意外とゲンキン?」

りせちゃん達が帰って来たようだ。

「お疲れ様」

「このくらいなんでもないですよ~ってアレ、こちらの方は?………!?」

「久しぶりだね、りせちゃん」

「あれ、知り合い?」

「ここに住んでた人で知り合いじゃない方が珍しいと思うけど……」

「えっ?私高校に上がるまで知らなかったよ」

「それは千枝が特殊なだけだよ」

この集団は会話が弾むとすぐにコントみたいになるな。ボケ比率が多いのだろう。花村君がいないと延々と続きそうだ。

「み、みみ、弥勒さんどうしてこんなところに?」

「たまたま会ってね。まさか、りせちゃんとも知り合いだとは思わなかったけど」

大嘘である。

「へーそうなんだーへー知らなかったなー私飲み物取ってきまーす」

顔色を青くしてこの場から離脱しようとするが、

「お、みんないるっスね。飲み物取ってきましたよ」

「気を利かせて全員分取ってきたぜ」

何とも間が悪い。

「ははーん」

里中さんが物凄く悪い顔をしている。

「雪子、りせちゃん確保!」

「分かった」

阿吽の呼吸で両脇からりせちゃんを捕まえた。暫く抵抗していたが、やがて観念したようだ。

「畦倉先輩って、りせちゃんと知り合いなんですよね?」

みんなが興味津々で耳を傾ける中、りせちゃんは、女の子にあるまじき量の冷や汗をかいている。

「そうだね。とっても完二君や雪子ちゃんと同じように、小さいころ遊び相手になってたってだけだよ」

「りせちーの子供の頃か…どんなだったんすか?」

地雷原をぐいぐいと突き進んでくる花村君。隣では里中さんが元気に親指を立てている。

「家ではとても真面目な子だったね。その反動で外では少しばかり暴走気味だったけど。まあ、本人が知られたくないみたいだから、言わないでおくよ。その代わり、りせちゃんが迷惑かけたら僕のところに来るといい。いくつか面白い話をしてあげるよ」

女王様ごっことか、その他もろもろの黒歴史がある。

「うぅ~。忘れてください~」

「りせちゃんにもそういう時期あったんだ。なんか意外」

「笑ってるとこ悪いけど、雪子ちゃんと完二君のもあるよ」

ピシリ、と空気が凍った。僕は出来るだけ清々しい笑みを浮かべる。この人に逆らうのはやめよう。特別捜査本部全員の思いが一致した瞬間であった。

 

・・・

弥勒が帰った後、特別捜査本部では謎のペルソナ使いについて話し合っていた。

「俺たちのこと、助けてくれたみてーだし。犯人ってわけじゃなさそうだけど、と言うか犯人今テレビの中にいるし、一体何者なんだ?」

「すごく強かったよね。りせちゃんのシャドウ、簡単に倒しちゃったし」

「そうそう。ペルソナも鳴上君みたいにたくさん持ってるみたいだったし、仲間になってくれれば戦力大幅アップ間違い無しなのになー」

頬杖を突きながら千枝が言う。

「でも、難しいんじゃないッスか?俺たちの味方なら、別に姿を隠す必要とかない訳だし……」

「あの人、目的があるって言ってた。それさえ聞き出せれば、協力し合えるかも」

「違ってた場合は敵対することになる。それはできれば避けたい」

なかなか意見がまとまらない。

「確かに、あんな攻撃されたらひとたまりもないぜ……」

辺り一面がじゅうじゅうと焼け爛れる光景を思い出して、花村が顔を顰める。

「でも、話した限りだと良い人っぽかったけどな」

「俺もそう思う。なんとなく、悪人ではない気がしたよ」

「あ、やっぱり。先輩もそう思いました~?」

「お前、真面目な空気ぶち壊すなよな…」

「空気読む不良……ぷぷっ」

本当にシリアスな空気が長続きしないメンバーだ。

「とにかく、次会ったらとりあえずお礼を言おう。助けてくれてありがとうございますって」

さんせーい!と全員の声が重なる。件のペルソナ使いと再会するのは、この十日後の事である。




プラジューニ(般若菩薩)  物 火 氷 雷 風 光 闇
              弱 ― ― ― ― 無 ―
サポート専用ペルソナ


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八月

僕は現在、再び黒い外套と帽子に向き合っていた。言われるまで全く気が付かなかったが、この装備壊滅的にダサいらしい。ジュネスのフードコートであの時の話をしている鳴上君たちが、全員口をそろえてあの恰好はない、と言っていた。あの団体の中での謎のペルソナ使いの評価は、無口でものすごく強い変人ということになってしまっている。この遺憾ともしがたい事態に対し、僕は急遽衣装替えを敢行することにしたのだ。とはいえ、全身を覆えて、顔もある程度隠せる衣服となると、なかなかに難しいものがある。

「仕方ない。今回はこれで行くしかないか……」

ダサいのが分かっていながらも人前でこの装備を着るのは、かなり苦痛だ。羞恥心がヤバい。出雲に相談したら予想通り、死ぬほど笑われた。……もう死んでる訳だが。

「存在がばれた以上、僕の事を探ってくるだろうな。今回は共闘になるかもしれないけど、ホクロの少年が犯人じゃないと分かったら、一番に疑う対象は僕になる」

自分に言い聞かせるように言う。僕が普段からやっている、ミスをしないようにする方法だ。現状確認を念入りにすることで迂闊な行動を取らないようにする。

「前回と違って前線に立つ。顔への被弾は即アウトだ。極力攻撃を受けないように立ち回ろう」

独り言もとい確認事項が終わり、前回と同じ装備を着こむ。いつも通りに愛用の槍を持ち、テレビへとのめり込んでいく。落下するような感覚にもいい加減慣れたもので、音もなく塔の頂上へ降り立った。

「今回、マーカーは無い。一気に登り切って、そのまま突入。加勢がいるようなら加勢する」

マーカーがないのは、鳴上君たちがいつ僕が来てもいいよう、常に入口に見張りを立てていたからだ。おかげで一度もダンジョンに入ることが出来なかった。

「シャドウは全部無視して突っ切るしかないか……」

軽く準備運動をしながら首を捻る。

「マリシテン!」

あやふやな影のようなペルソナが現れる。よく見ようとすればするほどに、ぼやけて見える。陽炎の神格である。回避力に特に優れたペルソナで、弱点となる属性にはそれぞれ、真、見切りを持つ。

「よーい、スタート!」

山のように襲い掛かってくるシャドウの群れをかいくぐり頂上を目指す。止まらずに駆け上がらなくては、押しつぶされてしまいそうだ。

「これは……なかなか辛い道のりになりそうだ」

ボヤキながらもただひたすらに頂上を目指して駆ける。

 

・・・

やっとの思いで頂上手前の扉までたどり着くと、鳴上君御一行が、今まさに先に進もうとしているところだった。壊滅的にダサい恰好の不審者が、肩で息をしながらこっちを見ている。驚きを通り越して笑えるようだ。雪子ちゃんが涙目になりながら笑いをこらえている。泣きたいのは僕の方だ。

「どうにか……間に合ったか……」

「来てくれたのは嬉しいけど、まさか、一階から上がって来たのか…?」

信じられないものを見るような目つきをしている。

「そうなるかな。こちらとしても正体が知られるのは避けたいから」

ようやく息も整い、普通に会話ができるくらいに落ち着いた。

「なぜ正体を隠したがる?」

鳴上君が目を細めて問いかけてくる。

「事件が解決したら教えるよ。それよりも今は先に進もう」

両掌を上に向け、適当にはぐらかす。嘘は言っていない。この事件が解決するまでには僕の正体もばらすつもりだ。

「……分かった。それより口調が前と違わないか?」

「ああ、こっちが素なんだ。前回の時にそこの彼女に見破られちゃってね、隠しても仕方ないと思ったから戻したんだ」

こちらを観察するように見ているりせちゃんを指さしながら言う。今も嘘がないかどうかを見てるようだ。

「今回、僕も前線で戦おうと思うんだけど、いいかな?」

「あっ、ああ。構わねえけどよ、前回のアレみたいなのは勘弁しろよな」

花村君の顔が引き攣っている。アレと言うのは、火生三昧の事だろう。

「安心していいよ。あんなのそう簡単に使えないから」

一同ほっと胸をなでおろしている。僕は、あんなのを連発する危険人物だと思われていたのか。

「今回の主力は『マイトレーヤ』。僕の最初のペルソナ。攻撃、援護、回復の出来る万能型さ。器用貧乏とも言うけどね」

軽く笑ってからその場にいる全員を見渡す。

「胡散臭いのは承知の上だけど、よろしく頼むよ」

「いや、こっちこそ悪かった。それと遅れたけど。前回は助かったよ。ありがとう」

どういたしまして、と返しながら僕は扉を開いた――つもりが開かなかった。あれ?困惑していると、鳴上君が僕の横に立ち。黒い玉を掲げた。それに合わせて扉が開き、僕は多大なる羞恥心を覚えた。今度は雪子ちゃんだけではなく、みんな笑いを堪えている。

気を取り直して鳴上君を先頭に扉の奥へと入る。

「やぁーっと見つけたっ!!あそこ!」

里中さんが大声を張り上げた。前方には、ホクロの少年とそのシャドウが向き合っている。急いで駆け寄る。

「テメェが久保か!野郎、歯ぁ食いしばれッ!」

「待て、完二!…なんか様子がおかしい!」

ホクロの少年は地団駄を踏んでいる。

「どいつもこいつも、気に食わないんだよ…だからやったんだ、この俺が!どうだ、何とか言えよ!!」

怒鳴り散らす少年の言葉を、シャドウは眉一つ動かさずに聞いている。

「たった二人じゃ誰も俺を見ようとしない。だから三人目をやってやった!俺が、殺してやったんだっ!!」

鳴神君たちは互いに顔を見合わせている。

「な、何で黙ってんだよ…」

「何も…感じないから…」

今まで黙っていたシャドウが口を開く。

「なに言ってんだ!?意味分かんねーよテメェ!!」

確かに明らかに様子がおかしい。

「な、なによ…?どっちがシャドウ?」

「僕には…何もない…僕は、無だ…。そして…君は、僕だ…」

「なんだよ…なんだよ、それッ!オレは、オレは無なんかじゃ…」

苦しそうに喚く少年は、さながら子供が駄々をこねているようだ。僕はいつでも戦闘に入れるように臨戦態勢へと移行する。眼前では特別捜査本部のみんなと少年の会話が続いている。少年が倒れ、シャドウに力が集まり始める。悲鳴とともに巨大な赤ん坊型のシャドウが現れた。

「くそっ…結局こうなんのかよッ!」

「みんな、頑張って!こいつ倒せば、事件解決は目の前よ!」

戦いが始まると同時に、シャドウの周りをブロックが覆い、剣を持った人型になった。

「僕は…影…。おいでよ。…空っぽを、終わりにしてあげる」

「外側を崩さないと本体へは攻撃できないみたい!」

りせのアナライズを聞き次第、動き始める。普段から連携を取っている中で僕は異物だ。呼吸がつかめるまでは、援護に徹するとしよう。

「マハスカクジャ!」

全員の命中、回避が上がる。様子を見てみると、各自ペルソナを出しつつ、見事に連携をとって戦っている。これは確かに、僕とは違う強さだ。イゴールが言っていた絆のワイルドと言うヤツだろう。

「これは下手に邪魔しないほうがいいかな?」

そう思って下がろうとした時だった。

「十秒後にデカい一撃頼む!」

まさかと思い見てみると、全員がしっかりとこちらを見据えていた。

「了解!」

大きな声で返事をし、ペルソナを付け替える。

「インドラ!」

赤い髪と髭と携えた褐色の巨人が現れる。体中には千の眼。その手には金剛杵を持っている。

「うわぁ…またヤバそうなのが出てきたなぁおい……」

「花村、そんなとこ行ってる場合じゃないってば!巻き込まれないように離れないと!」

五秒前、四、三、二、一。

「マハジオダイン!」

耳をつんざく轟音が鳴り響き、シャドウに直撃すると、一瞬にして外装が剥がれ、中の赤ん坊が出てきた。

「今だ!総攻撃チャンス!」

雷が収まるのを確認すると、リーダーの言葉に反応して一直線に赤ん坊へと向かう。恐ろしいほどの連携だ、これを相手に立ち回るのは至難の技だろう。

「チャージ」

僕は次の機会に備え、準備を始める。案の定、勝負を決めきる前に外装が再生していく。鳴上君と目が合い、互いにこくんと頷く。

「さっきよりでかいのを打ち込む!十秒後だ!」

十秒の間こちらに注意が向かないように、僕を除く全員が攪乱を始める。

「オラァ!こっちだ、来いよッ!」

一番、大柄なタケミカズチを中心に、迫ってくるブロックの欠片や、爆弾を排除する。

「皆、散れ!」

攻撃の発動直前、一斉にシャドウから離れる。

「プララヤ!」

その瞬間、敵シャドウの足元から光の爆発が巻き起こり、再び外装を消し飛ばすことに成功した。

「イザナギ!」

その一瞬を逃すことなく、イザナギの剣が赤ん坊を捉え、今度こそ完全に撃破した。

 

・・・

その後、少年が目を覚まし、ジュネスのテレビから外に出た。客の視線が痛いが、今更逃げるわけにもいかず、ぐっと我慢している。記憶が混乱しているようで、詳しい話は何も聞けずじまいのまま、警察に引き渡した。

「足立さん、嬉しそうだったね…」

「まあ、これで…俺らの役目も終わりって事かな…」

事件を解決した皆だが、その表情は暗い。

「さて、それじゃあ、話を聞かせてもらえるか?」

僕へと視線が集まる。

「何が聞きたいんだい?話せることは限られてるけど、可能な限り話すよ。と言っても、あまり多くを語れるわけでもないんだけどね」

「目的があるって言ったよな。それは一体なんだ?」

いきなり確信を突いてきた。

「大雑把に言うと、救ってあげたい人がいるんだ。そいつを救うのが僕の目的さ」

「救うだって?」

女性陣の目つきが怪しく光と、三人が集まってこそこそ話を始めた。恋人だとか愛人だとか不吉な単語が飛び交っている。

「それがなんで俺たちを助けることになるんだ?」

「それは言えない」

「君の正体は誰だ?」

「それも言えない」

「そうか……それじゃあ最後の質問だ―――この後の打ち上げくる?」

内心ドキドキしていた僕は盛大にずっこけた。

「い、いや、遠慮させてもらうよ。僕は部外者だからね、君たちは君たちで楽しむといい」

「どうしてもか?」

断っても食い下がってくる。皆いい笑顔をしている。押し切る気満々だ。このままではまずいので、僕も切り札を切ることにする。

「実は僕、マヨナカテレビの録画できるんだよね」

その魔法の言葉により、僕は無事に帰宅することが出来た。

 

・・・

その後、大した出来事もなく八月も終わりを迎えようとしていた。僕は、やることもないのでベルベットルームに赴き、マーガレットさんと修行をしていた。

「そんな大雑把な攻撃では当たりませんよ」

身体能力を強化したうえで繰り出した僕の突きはあっさりと躱され、カウンターに一撃入れられてしまう。ペルソナでの直接攻撃なしでやってもこれだ、出雲よりはましだが、勝てる気がしない。

「ぐ、っ」

いい一発を鳩尾に貰いうずくまる。立ち上がれない。

「これで私の二十戦二十勝、これ以上は危険です。今日はここまでにしましょう」

「ありがとう、ございました」

なんとか立ち上がり、フラフラのまま礼をする。特別捜査本部の皆と肩を並べて戦ったから分かる。今のままの僕では勝てない。それほどまでにあの連携は脅威だ。相対するだろう時に備えて、打ち勝つだけの力を身につけなくてはならない。

「まあ……」

その決意に惹かれたかどうかは定かではないが、僕の頭上に新たなペルソナカードが浮かんでいた。

「おめでとうございます。目の前で見るのは初めてですが、どうやら新たな力を得た様子」

「マハー・ヴァイローチャナ」

それが、僕の手にした新たな力の名だった。




マリシテン(摩利支天)   物 火 氷 雷 風 光 闇
              無 無 無 弱 弱 ― ―

インドラ          物 火 水 雷 風 光 闇
              耐 耐 ― 吸 ― 無 ―

マハー・ヴァイローチャナ  現在ステータス不明


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九月

夏休みが明け、学校が再開された。全ての決着がおそらく三月なので、運命の一年はすでに半分過ぎ去ったことになる。久保美津雄が捕まり、無事に事件を解決したと思っていた鳴上君たちも、白鐘直斗との接触により疑問を持ち始めていた。今までの事件との相違点、それに正体を隠した僕と言う存在、まだ何かあると思うには十分だろう。彼らの修学旅行も終わった数日後、白鐘直斗が失踪した。再び事件は動き出した。

「って、ところかな」

考えをまとめるために状況整理をする。事件が終わってないと分かった今、疑惑の対象は謎のペルソナ使いに集約されるはず。唯一の手がかりでもある僕を、全力で探している。

「そうなると、またしばらくは接触を控えるべきか……」

いつものように屋上で考え事をしていると、ぎい、と音を立ててドアが開く。またか、最近多いな。今度は誰だろう?

「あっ、やっぱりここにいたんですね、畦倉先輩!」

首だけで振り返って声の主を確認すると、雪子ちゃんと里中さんが立っていた。

「やあ、こんにちは。僕に何か用かい?」

極めて平静を装うように努める。

「私たち、直斗君について調べてるんです。何か知ってることありませんか?」

「直斗君をかい?うーん。一度話したことがあるくらいだし、その時も大した話はしなかったよ」

「それって、完二君が失踪した直後の話ですか?」

「そうだよ。僕が話した内容も完二君がらみのことだったし。ほら、その…例の事件の話だよ」

里中さんが、う、っと顔をしかめる。まだ完全に吹っ切った訳ではないようだ。雪子ちゃんも困った顔をしている。どうやら、当てが外れたみたいだ。

「それで、直斗君の何について調べていたのかな?僕が答えを知ってるかは分からないけど、聞くだけ聞いてみたらいいんじゃない?」

頭をぽりぽりと掻きながら、困った顔をして言う。直斗くんついてならば、特に聞かれてまずいこともないはずだ。問題ない。

「それじゃ。直斗君、悩みがあったとか、なんかそういったことについて、知らないですか?」

「悩みか……心当たりはあるけど、これは言っていいものなのか……?」

無論、男装のことだ。

「そこを何とか、お願いします!」

里中さんが頭を下げ、雪子ちゃんもそれに続く。これだけ必死に頼み込むってことは、救出に必要なのか?まあ、いい。

「二人とも、頭を上げてくれ」

不安そうな目でこちらを見上げてくる二人。

「話すよ。でもここじゃ駄目だ。いつも通り、ジュネスのフードコートに行こう。きっと、鳴上君たちも来るんだろう?」

そう言って、おどけてみせる。笑顔とこれは、染み付いた癖のようだ。

「ありがとうございます!」

二人は大声でお礼を言い、走りながら屋上を後にした。……とりあえずジュネスに向かうとしようか。

 

・・・

ジュネス、フードコートにて。特別捜査本部は里中たちからの連絡を受け、畦倉先輩を待っていた。

「しっかし流石は畦倉先輩ッスね」

「でしょでしょ!困った時の畦倉先輩作戦、大成功~!」

「りせちーが黒い……」

テーブルを囲んでみんなでワイワイと騒いでいる。難航していた捜索も、ようやく手がかりが得られそうなのだから無理もない。

「でも実際、子供の時から言い聞かされてきたよね。困ったら畦倉先輩を頼るといいって」

「マジかよ…苦労してんだな、あの人も」

「頼りない花村より全然いいんじゃない?」

「ぷぷっ…千枝、ホントのこと言ったら可哀相だよ」

「ユキチャンの言うとおりクマね」

「クマ、お前給料減額な」

その時、こちらへ向かって来る人影が見えた。畦倉先輩だ。

「お待たせ、っと。ん、そこの美少年は誰だい?あまり見かけない顔だけど」

あっ、全員すっかり忘れてた。

「クマはクマクマよー!」

「クマ君かい?初めまして、僕は畦倉弥勒、八十神高校の三年生だよ。宜しくね」

「クマこんな丁寧な扱いされたの初めてな気がするクマ…およよ。センパイはいい人クマね!」

「先輩?」

畦倉先輩が首を捻る。

「センセイのセンパイならクマのセンパイでもあるクマよ!」

「ああ、なるほどそういうことか。可愛い後輩が出来て、僕も嬉しいよ」

クマが嬉しそうに手を掴み、ぶんぶんと振り回している。これは、子供のころから、たくさんの子供の面倒を見ていたと言われて納得の光景だ。りせ、完二、天城の三人は、昔を思い出したのか、遠い目をしている。

「挨拶も済んだところで、本題に入ろうか。直斗君の悩みについてだよね」

畦倉先輩が話を切り出す。

「はい。知ってることがあれば教えてください」

「本来は、本人の許可取らないといけないような話なんだけど……君たちなら悪用はしないだろうから、特別に話すよ。なにか事情がありそうだしね」

「助かります」

コホン、と咳払いをし、いつもの朗らかな顔から真面目な顔に切り替わる。

「実のところ、直斗君は君たちを調べてたらしくてね。その関係で僕に話を聞きに来たみたいだ」

「そう、ですか」

知らないうちに迷惑をかけてしまっていたようだ。一瞬、暗い表情になってしまっていたようで、畦倉先輩がフォローを入れてくれる。

「気にしなくていいよ。あんなの迷惑と思うようなら、ここにはいないさ」

と、軽い調子で流す。

「雪子ちゃんが発見されてすぐに、それまで知り合いでもなかった僕と、会ったからね。何か関係あると睨んだらしいよ」

「なるほど」

「その時の僕は、三年前のアレ関係で来たのかなと思って、うっかり口を滑らせてしまってね。その話をするために人のいない公園に行く途中、気が付いたんだ」

話が核心に迫り、みんなが固唾をのんで聞いている。

「直斗君、自分の性別にコンプレックスがあるみたいなんだ」

「ブウゥゥ!」

完二が飲んでいたコーヒーを思いっきり噴出した。

「クマ―!?何するクマか!?」

「げほっ、えほっ、う、ぐえ」

「完二、しっかりしろ!傷は深いぞ!」

「ありゃ、仕方ねーわ。流石に同情するぜ…」

「完二君、可哀相に…」

「ど、どうした完二君!?大丈夫かい?」

珍しく、と言うより初めて見たんだが、畦倉先輩が慌てている。

「もしかして、マヨナカテレビの件かな?あんなのは誰かのいたずらに決まってるさ。気にしないほうがいいよ」

ピシリ、と空気が凍った。クマですら下を向いて黙っている。

「あ、あああ、あ、畦倉先輩。マヨナカテレビ、見たことあるんですか?」

「ん、そりゃあるよ。確か、五回くらい見たかな。完二君、雪子ちゃん、りせちゃん、それとホクロの少年に、直斗君で五回」

勢いよく詰め寄った天城だったが、それを聞き終わると、フラフラと離れて行った。

「……終わった…私もう一生逆らえない…」

「天城先輩…仲間ですね。今度、完二もいれて食事でもどうですか……」

再び、遠い目とする二人はさておき、これで直斗の居場所が分かるかもしれない。

「貴重なお話、ありがとうございました」

「ああ、いいよ。それよりも、彼女の秘密、言いふらしたりしないようにね」

さっき以上の爆弾発言が飛び出した。

 

・・・

鳴上君たちとの会ってから数日後、僕は今、出雲と向き合っていた。

「弥勒って案外、腹黒いよね」

「全部真っ黒な誰かさんよりはましだろ」

話していたのは、ホクロの少年のダンジョンの入り口を常に見張っていた三人への、ささやかな意趣返しについてだ。 

「で、実際のとこ見極めってヤツはどうなのよ。僕としては、鳴上君たちが誰かに負けることは、そうそうないと思うんだけど」

「この事件の真相の、その先にいる俺にたどり着く。真実を求めるなら、そこまで来てもらわないと話にならないね」

「てことは、今は見極め以前の問題なのか」

「そうそう、いわば予選って感じ」

まあ、あいつらなら大丈夫だろう。僕は、相対する時に向けて力を蓄えるだけだ。手のひらを見つめながらそんなことを考えていると、出雲が珍しく心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫さ。約束を果たす目星はついたし、鳴神君たちの対策も出来た。何も心配はいらないよ」

約束の方は明言はできないが、鳴上君対策ならできた。一対一に近い状況で戦えたなら、まず負けない。僕のペルソナ、マハー・ヴァイローチャナはそれだけの力を持った存在だ。

「俺としては、君が心配なんだがね」

「珍しいこともあるもんだな。なんだ、またバイトが減ったのか?」

「茶化すなよ。真面目な話、自分を犠牲にして俺を助けるとか考えてるだろ、お前?」

「そうだけど、どうかしたのか?」

表情一つ変えず、当たり前だとばかりに話す弥勒に、出雲は呆れた顔を向けている。そんな顔をされても困る、これが僕なのだ。

「ままならねーよな。止めようにも死ぬまで止まらないし、止まらないと死ぬし。八方ふさがりじゃねーか」

「まあ、僕の予定では確実に死ぬわけではないんだけどね」

命の答えを得て、奇跡を起こした人の話をイゴールから聞いた。命の答え、いわゆる悟りのようなものだろう。ならば、僕もそこにたどり着き、僕は僕のカタチを取る。それですべては上手くいくはずだ。結果、僕がどうなるかは分からないけど。

「前提からしておかしい気もするがな。ったく初めてできた友達がこんなのとか、ついてるんだかついてないんだか」

「そっくりそのまま同じ言葉を返すよ」

お互い、相性抜群で最悪な友人関係だが、まあ、こんな二人がいてもいいだろう。

「救われたい神様と、救いたい人間が出会った。どっちも異常。それだけの話さ」

僕の言葉を最後に真面目な雰囲気は消えうせ、いつもの他愛ない会話に戻った。束の間の日常を噛みしめるように味わった。

 

・・・

「直斗君…ホントに女の子だったんだね」

シャドウを倒した後、床に倒れている直斗を見ながら千枝が言う。

「う…ん…」

どうやら、目を覚ましたようで身じろぎしながら呻く。

「気が付いた!?」

「ここは…そうだ、皆さんが助けに来てくれて、それから…」

立ち上がった直斗は少しずつ記憶を手繰っていく。

「そうか…全部、見られちゃったんでしたね…」

自分のシャドウへと歩みよりながら、自分の過去を語る。鳴上達に向けてか、それとも自分に向けてなのかは分からない。探偵への思いを、祖父への思いを吐露していく。なぜ自分は女なのかと言う苦悩、どうしようもないという諦観。それらすべてを語り終えたとき、直斗のシャドウは力強い輝きを放ちながらペルソナへと変化した。

「それにしても、ズルいですよ…こんな事、ずっと隠していたなんて…。はは…これじゃ警察の手に負えないわけだ…でも…これで、分かりました…事件はまだ…終わってない…」

「ああ…お前がそれを証明したんだ。とにかく詳しい話は後だ、外に出よう」

ジュネス、テレビ前。

「おい…おい!」

肩で息をする直斗に、完二が声を掛けている。

「まったく、体はっちゃって…」

「でも…直斗君が証明してくれた。やっぱり、まだ犯人は捕まってないって…」

雪子の言葉に一同は頷きを返す。

「やっぱり…?」

直斗に謎のペルソナ使いについて説明をする。分かっているのは、その力の強さ、だいたいの背格好、そして、『マイトレーヤ』というペルソナをはじめとして、多くのペルソナを持っているということだ。

「『マイトレーヤ』、ですか」

直斗が眉をひそめる。

「どうかしたのか?」

「いえ、ただ、気になった事があって。確証はないんですが…」

「間違っててもいいから言っちゃいなよ。私たちだと手詰まりでさ」

「分かりました」

直斗は頷くと、自分の推理を語り始める。

「ペルソナは自らの心に深く影響します。鳴上さんのような特殊な場合でも、例外ではないと思います。これは、ペルソナが困難に立ち向かうためのもう一人の自分であることからも明らかです」

一旦話を切り、みんなを見渡す。

「ここからが本題で、『マイトレーヤ』と言うのは、仏教に出てくる菩薩の名前です。慈しみの心を象徴する存在でもあります」

緊張感で空気が張り詰める。『慈しみ』。そんなイメージの人物に鳴神には覚えがあった。

「この菩薩、日本では―――弥勒菩薩と呼ばれています」

みんなの顔が驚愕に歪んだ。

 

 

 

 

 




命の答えのくだりはペルソナ3の話です。

十月は文化祭しかなく、書けることが少ないので、ついでに一部を除いた主人公のペルソナ紹介をしたいと思います。


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十月

直斗が回復し、特別捜査本部の新たなる一員となった今日。先月からみんなをもやもやした気持ちにさせていた議題について、詳しく話し合うことになった。もちろん、謎のペルソナ使いは畦倉弥勒説である。

「畦倉先輩があのペルソナ使いだって可能性はどれくらいあるんだ?」

なんとなく嫌な雰囲気の中、リーダーの鳴上が口火を切る。

「僕が話したのは一度だけなので、彼の人となりはその時の会話と、三年前の事件の資料でしか知りません。もっと詳しく調べてみないと、何とも言えませんね」

「つってもよぉ。話してる感じが、普段の畦倉先輩と全然違ったぜ」

続いたのは直斗と完二。

「大体、ホントに畦倉だとしたら、正体隠す理由が分かんねェ。俺たちに協力を求めればいいだけの話だろ」

「完二の言うとおりだな。あんなに良い人が悪い子とするなんて考えらんねーよ」

花村が頭を掻きながら言う。

「それに、ホントに何も知らなさそうだったよ。雪子助けた後、誘拐って口滑らせちゃったとき、本気で訝しんでたもん」

「そうだよね。あれが演技とは思えない」

「じゃあ、その後にペルソナ使いになったとか?」

りせが、顎に手を当てながら頭を捻っている。完二も同様だ。

「でもでも、あの人すっごく強かったクマ―!」

「だな。俺たちより後にペルソナ使いになったとは考えにくい」

議論を重ねれば重ねるほどに、別人に思えてくる。しかし、どこかに引っかかる。それは、三年前の事件を、本当の意味で知っている鳴上と直斗だけが持つ、小さな小さな疑念。

「ああー!そういえば、雪子を助けようとしてテレビに入った時、一面焼け野原になってたことあったよね!?」

「りせちーのシャドウの時に使ったあれか!」

とてつもない威力の一撃だった。確かにあれなら納得できる。しかし、

「天城先輩を助ける前、ですか…」

直斗が難しい顔をしている。弥勒が偶然残した痕跡は、図らずも謎のペルソナ使い特定を難攻させていた。

「少し、引っかかってることがあるんです。僕が、畦倉先輩と会った時のことは知っていますか?」

みんなが頷く。先月、本人から直接聞いている。

「あの時、僕は注意深く観察しながら話を聞いていたんです、些細な変化も見落とさないように。何も知らないと言った彼に、嘘をついている気配を微塵も感じませんでした。ですが彼は、天城さんが誘拐されたということを知っていた。どういうことだかわかりますか?」

若干二名と一匹は理解していないようだが、つまりはこういうことだ。

「畦倉先輩は嘘をついてる、そういうことだよな」

「ええ、その可能性はあります。僕は、幼いころから多くの人間を観察してきましたが、あれほどまでに完璧に欺かれたのは初めてです。皆さんの話がなかったら、おそらく気づかないままでした」

「……マジか?じゃあホントに畦倉先輩ってこともあり得るのか!?」

「でもよく考えてみると、目的が『助けたい人がいる』って畦倉先輩っぽいかも…」

「ああー、まどろっこしい!俺、ちょっと聞きに行ってきますよ!」

「ちょ、完二!ストップ、ストーップ!」

今にも走り出して行きそうな完二をりせが間一髪で止める。恩人が疑われているのだ、無理もない。

「完二、少し落ち着け」

「……うす」

「…僕は、畦倉先輩に話を聞いた後、警察に残っている彼の資料を調べました」

話の流れを変えるために、直斗がゆっくりと口を開く。おそらくそれは、完二たちの知らない、その後のことまで含めた話だろう。

「直斗、そこから先は俺が話すよ」

直斗を含めた全員が、驚いたような表情でこちらを見ている。

「鳴上先輩…どうして、いや、そうか。堂島さんから聞いたんですか?」

「そうだ」

これは気分のいい話ではない。特に完二には辛い話になるかもしれない。

「三年前の事件。畦倉先輩を取り調べしたのは伯父さんなんだ」

「伯父さんって、堂島さん?でもそれ、なんか関係あるんですか?」

「伯父さんは取り調べの時、よくもまあ、そんな無茶をしたもんだって言ったらしいんだ。その時畦倉先輩が言った言葉は、そんなことないですよ、これくらい刑事さんもやるでしょ?だ」

すでに知っていた直斗以外のメンバーは青ざめている。まるで、でたらめな作り話のような話だ。この時の弥勒はまだ、自分が普通だと思っていた狂人だ。

「不審に思った伯父さんはいくつか質問をしたらしい。目の前で飢えてる人がいたら、自分が餓死するのを承知の上で、笑顔で食料を渡す。そういう人だったって。それを見るに見かねた伯父さんが、一つ一つ、子供に向かって教えるように、常識を刷り込んだんだ。初めのころは、ストレスで自分の腕を、血が出るまで掻きむしったりしたって話だ」

話が終わると同時に、沈黙が下りる。全員、声も出ない様子だ。特に完二は、手に力が入り過ぎて震えている。

「俺、情けねぇッス…。あの人は、俺と違って優しくて、誰からも好かれてて、ヒーローみたいな人だと勝手に思ってッ!」

絞り出すような声だ、拳からは握り過ぎて血が出ている。

「心のどこかで、きっと何でも出来る人なんだって。そう思っちまってた……そんな訳ねェのに!」

「私も…。あの日、屋上で助けてだなんて喚いて…そんな権利、ある訳なかったのに。なんてひどいことを」

「俺だって同じさ…。親切にしてもらっておいて、畦倉先輩だから、で何も知ろうとしなかった」

懺悔するように言葉を紡ぐ。この半年間の記憶が身を焼いていく。

「私だって、困った時の畦倉先輩作戦とか無神経な事言っちゃった…」

「あ、あたし。人の為に頑張れるのは良いことだと思います、なんて……それなのに、逆に励ましてくれて」

里中に至っては今にも泣きだしてしまいそうだ。

「あの人が、今もまた誰かの為に自分を犠牲にしようとしているなら、俺は止めたいと思う」

陰鬱とした雰囲気の中、鳴上の声が響く。その瞳は強い意志を宿している。あの人を大事に思うなら、俯くなと、それを彼は望んでいないのではないかと、そう問いかけるような目だ。

「まずは、畦倉先輩と話そう。謎のペルソナ使いとか抜きにしてだ」

その一言で、特別捜査本部のこれからのは決まった。

 

・・・

中間テストも終わり、もうすぐ文化祭という今日この頃。僕は常に五人の視線にさらされていた。りせちゃん、完二君、花村君、里中さん、雪子ちゃんの四人だ。話しかけてくるでもなく、ただ見てくる。しかし決して視線は合わせようとしない。尾行のつもりなのだとしたら、確実に才能はない。探偵にだけはならないほうがいいだろう。

「どうしようか……」

全く状況がつかめない。正直、僕はとても困惑している。謎のペルソナ使いが僕だとばれる要素もないし、かといって話しかけるのを躊躇されるようなことをした覚えもない。

「こんにちは、畦倉先輩」

後ろから声を掛けられる。この声は鳴上君だ。

「こんにちは、鳴上君。こんなところでどうしたんだい?」

「文化祭の準備で、ところで花村を見ませんでしたか?用事があって探してるんですけど」

「ああー…、ほら、あそこ」

そう言って、曲がり角の方をそれとなく指さすと、例の五人が顔を覗かせていた。

「そういうことですか…」

五人を見ると、呆れた顔をしている。鳴上君なら、この状況について何か知ってるかもしれない。

「なんで、ああなったか分かる?」

「ええ、一応、まあ…そうですね。えーと、ちょっと待っててください」

そう言い残すと、鳴上君は急に走り出した。あっという間に四人の元までたどり着き、隠し持っていたビニールテープで捕縛してしまった。いやー、とか待ってくれとか悲鳴が聞こえる。そんな事などお構いなしに、五人を連行してきた。堂島さんの甥なだけある。

「お待たせしました。ほら、お前ら、しっかりしろ!」

喝を入れられびしっと背筋を伸ばす。

「まずは俺から、謝らなきゃいけないことがあります。三年前のことを、堂島さんとのことを、みんなに話しました」

ああ、なるほど。そういうことか。それなら、僕に話しかけられなくなっても仕方ない。

「……そうか。幻滅したかな……?僕は君たちが思ってるように、素晴らしい人間とはほど遠い」

「そんな事ねェっス!」

完二君の言葉に合わせて、口々に僕の言葉を否定する。少し、面食らってしまう。

「と、とりあえず屋上行こうか!」

ものすごく注目を集めだしたので、場所を変えることにした。

屋上へと出ると、一人ずつ順番に謝罪が始まった。僕の異常の事を知りもしないで好きかってなこと言ってごめんなさい。だいたいこういった内容の話だった。

「僕が勝手に隠してるんだ、君たちが気づかなくても悪いことなんて一つもないさ。お礼がしたいなら、笑っててくれればいい。それだけで十分だよ」

「弥勒さ~ん……」

「ほら、泣くなって。それ以上泣くなら、女王様ごっこの事とか話しちゃうよ?」

「わ、分かりました、だからどうかそれだけは!」

「ならよし。さて、みんなもいいね?あんまり謝られると、僕も困っちゃうよ」

軽い調子の声で言う。誰かが泣くのはあまり好きじゃない。

「良かった。丸く収まったみたいですね」

ギイ、とドアが開き直斗君が入ってくる。どうやら、僕たちの会話を、全部聞いていたようだ。

「直斗君じゃないか。六月に会って以来かな?」

「ええ、その節はどうも。それで、一つ聞きたいのですが、僕って男っぽくなですか…?」

「……鳴上君たちから聞いたのかな?」

「はい。そうです」

ここは下手にごまかさないほうがいいだろう。

「僕は昔から、人の悩みみたいなものがなんとなく分かるんだ。それが普通だと思ってたから、説明しろって言われても困るんだけどね」

「そんなことが……」

目を丸くして驚いている。直斗だけではない、鳴上君たちも全員だ。まあ、普通はこんな微妙な能力持ってるやつなんかいないしな。僕も自分以外見たことない。

「でも、今の君からはあんまりそういう感じがしないかな。なにかあったのかな?」

「そうですね……いい仲間が出来ました」

気持ちのいい笑顔を浮かべたとても直斗は輝いて見えた。その後、巡回していた先生に発見されるまで話に花を咲かせた。そして翌日。

「何だこれは……!?」

掲示板には、ミス八校、女装大会!!の文字があり、参加者のところには、花村陽介、巽完二、鳴神悠、そして僕の名前が書かれていた。マジか。やられた。

「非常にまずいぞ。僕の人生史上最大のピンチだ」

出雲にだけは見せてはいけない、爆笑しながら写真を撮って、翌日からガソリンスタンドに展示しかねない。

「どうか晴れますように」

この日、家に帰ってから、大量のてるてる坊主を作った。小学生以来の事だった。

 

・・・

10/31(月)晴

「今日、さむいね」

夜のニュースを奈々子と一緒に見ている。

「それでは、次のニュースです。環境を考える会代表香西氏が、市内の小学校を訪れ、霧の影響を現地調査しました。稲葉氏ではここ数年、頻繁に濃霧が発生していますが、原因がよく分かっていません。市内では霧の原因について憶測が飛び交い、体への影響を不安視する声も上がっています。ですが市は、霧が人体に害を与える事は考え難いとしており……殺人事件等による、住人の不安心理の表れなのでは、との見方を示しています。これを受け、香西氏は、事実関係をはっきりさせるため、現地の小学校を訪れました。霧の中でも元気に遊ぶ子供たちに、体調や心の不安等について尋ねたという事です…」

テレビの中では、清潔感のある身なりをしたアナウンサーがニュースを読み上げている。

「あ、この人、がっこうに来たよ」

見覚えのある顔がニュースに映ったようで、奈々子が驚いた顔をする。

「調査を終えた香西氏は、コメントを発表しています。現代は、些細な環境の変化にも目を配り、政治に反映させていかなければならない。今日私はある生徒と話したが、その子は風評に惑わされず自分の言葉で話していた。六年ほど前にも、同じように小学校へ訪問した際、同じように、自分の言葉で話している子供が確かにいた。本来は、我々大人こそが、そうでなければならない。我々は常に、子供たちの未来を管理する必要がある。…香西氏はこう述べました」

ニュースは続いている。

「…っくしゅ!」

くしゃみをした奈々子が顔を顰めている。

「あたま…いたい…」

奈々子の顔が赤い。おでこを触ってみると、やはり熱があるようだ。とにかく、早く休ませよう。薬を飲ませ寝かせてやる。うわごとの様に話す奈々子とたくさん約束をした。やがて、奈々子は眠りにつき、夜は更けていった。




思ったより長くなったので、ペルソナ紹介は完結してからにします。


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十一月

誰だか確認できないほどノイズが混じったマヨナカテレビに、幼い少女が映っている。見覚えがある気がするが…ダメだ、分からない。もやもやしたままに、テレビが暗転する。

「終わったか…」

暗転したテレビから目を切り、今日はもう眠ろうとする。すると、再びテレビが発光し始めた。

「なに…?」

不思議に思いながらもテレビに目を戻す。こんなことは初めてだ。そして、そこに映った人物に驚愕する。よく知っている人物だ、見間違えるはずもない。そこには、毎朝、鏡に映る姿。つまりは、

「僕も、次のターゲットか……」

犯人の動機は分からないが、ターゲットは事前にマヨナカテレビに映る。いや、映った人物をターゲットにする、と言い換えるべきか。

「丁度いい。僕はこの機会に、僕を完全に受け入れ、前に進もう。命の答えにたどり着くために」

弥勒にしては珍しく、自然と笑みがこぼれていた。出雲から授かったこの力。真に意味で自分と向き合い手に入れた力ではない僕は、未だ自らの全てを受け入れられてない可能性がある。ならば、それを経て、僕は命の答えへとたどり着こう。

「僕の約束を果たすために…」

筋道はできた。後は自分次第だ。ぱらぱらと降る雨を見ながら、僕は決意を新たにした。

「待っててくれ、出雲。もうすぐだ。きっと君を救って見せる」

僕の言葉は雨音にかき消られ、霧のように消えた。

 

・・・

マヨナカテレビを見た翌日。特別捜査本部のメンバーは、ジュネスのフードコートに集合していた。次こそは犯行を未然に防ぐ、その決意がひしひしと感じられる。

「マヨナカテレビ…皆さんに言われて、僕も見ました。探偵業の僕が、まさかこんな迷信に目を凝らす日が来るとは…驚きです。人影…確かに映りましたね。それも二人」

「二人っていうのは初めてのことだけどもよ。あれ、誰だか分かったって人、いる?」

一同、首を横に振る。あの映像では、よほどの特徴がなければ分からないだろう。本人であるならば、話は別かもしれないが。

「流石に無理っしょ、画面あんなザラザラじゃ」

「誰か、最近テレビに出て地元で有名になった人は?」

「すぐには思い当たりませんね…。最近では、政治家が一人、霧から来る風説を鎮めるために街へ来たと報じられましたが…。以前も同じ小学校に来たことがあるようですが、それでも可能性は低いでしょう。第一、すぐに中央へ帰りましたし」

「むむむ…」

ぬいぐるみのまま唸りだすクマに視線が集まる。

「ん?どうした?そういやお前、昨日は売り場のベットで爆睡した罪で、深夜棚卸しの刑だったっけか。テレビ、売り場のでいいからチェックしろって言ったけど、ちゃんと見たか?」

「失礼クマね!クマ、ナナチャンと約束もしたし、生きる事に真剣よ!?」

花村の言葉に反応し、クマがいきなり立ち上がる。プンプンと擬音が見えそうなように怒っている。とてもコミカルだ。

「クマが見るに…、最初に映った人、体格、細っこくなかった?」

「いやー、あんだけボンヤリで体格も何も無いっしょ。気のせいだって。もしくは寝オチか。それより、あっちに人は?」

珍しく真面目なクマの意見を、千枝がさらっと流した。

「それはナシ。まだ誰も来てないよ?」

二人目について話しても同じことだろう。早くも手詰まりのようだ。

「もう一晩様子を見るしか無いかも」

「みたいだな…。幸いこの雨、今日の夜まで降り続くみたいだ。今夜も忘れずにチェックな」

花村の言葉で、この場は解散となった。

そしてその夜。誰のものだか分からない手紙が届き、以前から事件への何らかの関与を疑われていた鳴上は、堂島に警察署まで連行されてしまった。

「さあ、話してもらおうか。お前、何に首を突っ込んでる?」

薄暗い取調室の中で、鳴神と伯父さんが向き合っていた。鳴上の背後には足立さんが立っている。

「あの警告状はなんだ?何故あんなものが届いた?」

正直に話すも、テレビの中でなんて話を信じてもらえる訳もなく。伯父さんに落胆されてしまう。信頼を裏切ってしまったようで心が痛い。

「…一晩、ここにいろ」

悲しそうに言い残すと、伯父さんは取調室を出て行ってしまった。足立さんと二人きりになる。焦ったように慰めの言葉を掛けてくれるが、耳に入ってこない。自分て思っているより、ショックが大きかったようだ。それからしばらくの間、呆然としながら過ごしていた。深夜零時だ。ふと顔を上げると、テレビが目に入った。そういえば、来るとき外は雨だった。マヨナカテレビに何か映るかも知れない…。立ち上がろうとすると体が重い。酷く疲れているようだ。それでもなんとかテレビの前まで歩いていく。

「これは…!?」

テレビに映った人影を見て愕然とする。はっきりと映っていないが確信する。

「なんで気づかなかったんだ!?毎日一緒にいたじゃないか!?」

自分でも信じられないほどに取り乱す。

「そうだっ電話を…!?」

電話は伯父さんに取り上げられてしまっていた。これでは連絡が取れない。途方に暮れている間に、テレビの画面は暗転し、次の映像に切り替わる。はっきりとした映像だ。そして、

「やあ、みなさんこんにちは。僕は畦倉弥勒です。知ってる人もいるかな?今日は、僕の話を聞いてもらおうと思ってね」

テレビには畦倉先輩が映っていた。もはや、驚きすぎて声も出ない。

「僕はね、今年の春にそれはそれは衝撃的な出会いをしてね。ある目的が出来たんだ」

画面の中の弥勒が苦笑する。

「そいつは永遠に救われないだなんていう、厄介なやつでさ。僕は、考える間もなく、口に出していたよ。『救いを欲してるのなら、その全てを救いたい。それが僕なんですよ』ってね。偽りのない本心さ」

いつもとまるで変わらない。ジュネスのフードコートで話している時と同じような声色で話している。

「衆生無辺誓願度。それが僕だから。永遠に救われない存在を僕は救おう。そう決めたんだ」

初めて見る真剣な弥勒の表情に息をのむ。画面越しなのに、どこまでも強固な意志をひしひしと感じる。

「まあ、もっとも。厳密に言うとあいつはその誓願の対象外なんだけどね。そんなこと、僕には関係ないか。救われたいあいつと救いたい僕、それだけの話だ。それじゃあ。長々と話してしまったけど、この辺でお別れかな。ご清聴ありがとうございました」

プツン、と音を立ててテレビは消えた。

 

・・・

「さて…後は鳴上君たちが来るのを待つばかりかな。君はどう思う」

いつもの塔の頂上で、二人の弥勒が槍を構えている。

「僕と君はほとんど一緒さ。ほんの小さなの差だよ。特に思考に差異はない」

そう言いながら、弥勒のシャドウは跳びかかってくる。真上からたたきつけるように振りおろし、その途中で槍を持つ腕を後ろに引く。その結果、槍は防御をすり抜け、首元まであと数十センチのところにぴたりと収まる。もはや阻むものはなく、突きを放てば弥勒は死亡するだろう。シャドウはためらいなくその一線を踏み越えて突きを繰り出す。弥勒は冷静に、槍から手を放すと、空いた手で相手の槍の蛭巻き部分を掴みとった。そのまま相手の勢いを使用し、槍ごと巴投げを食らわせた。投げられるのはまずいと感じたシャドウは自ら槍を手放し、弥勒が捨てた槍を確保すると離脱した。全くの互角。数秒睨め合ったのち、弥勒は構えを解いた。

「まあ、こうなるよね。自分同士の戦いなんて」

槍をぽいっと放り投げ、背伸びをするシャドウ。

「助けが来るには時間がまだ時間がある。出来ることも少なくて暇なんだ」

「瞑想でもしれば良いじゃないか…」

呆れたようにシャドウがこっちを見ている。僕の予想通り。僕と僕のシャドウにほとんど差異はなかった。だが、やはりほんの少しの違い。会ってみてようやく分かった。自分が好きか嫌いか。本当に小さな思いだが、僕は、異常な自分の事が嫌いだったみたいだ。

「って言うかさっさと受け入れてくれれば、戻れるだろうに」

「誰かさんが全部ぶちまけてくれたせいで、そうもいかないのさ。確実に僕が謎のペルソナ使いだとばれたし。それに、宣戦布告をする必要がある。僕は鳴上君たちとは、一度戦っておく必要があるからね」

「そうだね。そしてそうまでしても成したい事がある」

「ああ、今となってはそのために生きてきた気さえするよ」

霧にまみれたこの塔で、僕の力は完成する。後は旅の終わりを待つばかりだ。

 

・・・

それから数日。この世界から僕じゃない方の気配が消えた。鳴神君たちが助けたのだろう。僕は結局、シャドウと二人で瞑想をしていた。と、その時。

「来たね」

「うん」

僕たち以外の人の気配を感じ、同時に目を開く。

「さて、じゃあ行きますか」

ずぶずぶと体が床に沈んでいく。霧の世界でこの塔の中だけは、僕の思いのままだ。そのまま降りていき、数秒後には入口へと到着した。槍を持った状態で、

金剛力士像の様に扉の脇を固める。

「やあ、待ってたよ」

シャドウと声を合わせて言うと、鳴神君たちは驚いている。どちらがシャドウなのか、見分けがつかないのだろう。

「始めようか」

「そうだね。その時が来たみたいだ」

するべきことは分かっているようだ。まあ、僕なんだから当たり前か。軽い笑みを浮かべながら、僕は僕のシャドウに向き直る。

「君は僕だ。戻っておいで。共に約束を果たそう」

そう言ってシャドウの手を取り、握手をした。すると、僕のシャドウは笑みを浮かべながら、強く光り輝く。光が収まると、そこには依然と変わらぬ『マイトレーヤ』の姿があった。

「あれはっ!?」

里中さんが声を上げる。他の見たことがあるメンバーも渋い顔をしている。

「まだだ…その先へ…っ!」

らしくもなく声を荒げながら、祈る。ペルソナカードが頭上から舞い降り、一度は収まった光が、再び強まる。あまりの光に、弥勒以外の全員が目をくらませ、何も見えていない中。僕は僕のカタチを得た。

「―――――」

ああ、やはりそうなるのか。驚きはなく、そこにあった救いのカタチに僕はただただ目を奪われた。解脱した聖者。僕の救いの究極の到達点。自然と涙が零れ落ちた。光が明けると同時にまるで、幻であったのかのように消滅し、僕の心の中へと戻った。

「………さて」

涙をぬぐいながら、鳴上君たちの方に向き直と、緊張が走る。

「テレビの中で会うのは、確か夏以来だね」

いつもと変わらぬ口調で話しかける。

「やはり謎のペルソナ使いは、あなただったんですね」

「そうだよ。りせちゃんの時とホクロの少年の時、加勢したのは確かに僕だ。直斗君の時は行けなくて悪かったね」

もはや隠す意味は無い。後は、彼らが真実を得た時、僕が僕の為すべき事をするだけだ。

「だったらなんで言ってくれなかったんスか!?」

「前にも話したけど、目的があるんだ。きっと、君たちとは相いれないよ」

「そんなの、話してみないと分からないじゃないですか!」

鳴神君や、あまり交流のなかった直斗君以外、感情的になっている。参ったななんて説明しようか。

「例えば、君たちはシャドウについてどう思う?」

「どうって、シャドウはシャドウだよね…?倒さないといけない相手」

「なら僕がシャドウを救いたいと言ったらどうする?」

「えっ………?」

そこで黙ってしまうあたり、やはり本当の意味で僕を理解はできていないのだろう。僕の質問も、意地が悪かったのは認めるけど。

「ただの例え話さ。でも、実際に有り得たかもしれないことでもある。僕は普通を教えてもらったけど、普通になれたわけじゃないんだ」

事情を知っているため、悲しそうに顔をゆがめる。

「簡単な話さ。話さなかったんじゃない。話していいのか、僕には分からなかったんだ」

自嘲するように笑い、大きく手を広げる。

「それでも、僕は目的を果たす」

鳴神君たちから視線を切り、僕の真後ろにそびえたつ塔のてっぺんを指さす。

「懸けをしよう。僕はこの後数日間、この塔の頂上で待つ。見事登り切り、僕を打倒したなら。目的について話すと約束しよう。ただし、この塔はとても危険だ。無理に来いとは言わないよ。どうする?」

一人一人と視線を交わす。強い目だ。答えを聞く必要すら無いらしい。

「それじゃあ、待ってるよ」

そう言い残し、僕は塔の中へと入って行った。

 

・・・

畦倉先輩が塔に入っていき。追うように突入した鳴上たちだが、現在、ジュネスのフードコートへと戻ってきた。理由は簡単。千枝と完二がダウンしたからだ。

「ありゃ、キツイわ…。俺も結構ヤバかった」

「俺もだ。普通はそうなる」

項垂れる花村と話しながら、鳴神はダンジョンでの出来事を思い出していた。

『これでもう大丈夫だね!』

塔に入って少し進むと、映画館のような部屋に入った。席は人数分用意されている。画面を見るとどうやら子供の物語のようだ。しかし、

「なんだよこりゃあ…」

映っているものがおかしかった。小学生にも満たないような子供が、ぐちゃぐちゃになった腕を意に介さず。嬉しそうに笑っているのだ。平気な方の手の中には、一匹の猫が収まっている。身を挺して猫をかばったようだ。

『さて、どこかに困ってる人はいないかなー?』

映像の中の少年は鼻歌を歌いながら去っていく。フィルムが切り替わり、次に移った時、少年は小学校中学年くらいに成長していた。映っているのは、少年の一日の記録のようだ。

『次は、雑巾がけかな?』

辺りはすでに暗く、人っ子一人いない。そんな時間に、たった一人で体育館の掃除をしてる少年。きっかけは、誰かが呟いた、体育館って最近よく滑るよな。という一言だった。薄暗い中の作業で、足を滑らせてしまい顔面を強打する。顔を上げると鼻血がたらりと垂れ始めた。急いで体育館の外に出ると、少年はほっとしながら、

『汚れなくてよかった』

と呟いた。

「やめてよ…」

消え入りそうな声で千枝が言う。純真な千枝にはこれはそうとう酷なようだ。がくがくと震えると、青ざめた顔で座り込んでしまった。

「いったん帰ろう!」

これ以上ここにいるのはまずいと思った鳴上は、大声で指示を出した。そして今に至る。

「あれはきっと、畦倉先輩の記憶だ」

撤退しながらずっと考えていた事を口に出す。一番最初の時はともかく、小学生の時にはすでに、今の面影があった。間違いないだろう。

「話には聞いていましたが、予想以上でした…。自分のシャドウの時よりもきついような気すらします」

「同感だぜ。先輩がキツイって言った意味がよく理解できたわ…」

「とにかく、二人の回復を待とう」

重苦しい雰囲気に包まれたまま、今日の探索は終わった。

 

・・・

僕は塔の頂上から、鳴上君たちの様子を見ていた。何度でもへこたれずに挑戦し、もうすぐ僕のところに到達しようとしている。僕の記憶なんて、毒と同じくらいキツイだろうに。丁度今、最後の階段を上がったようだ。扉の前にいくつもの気配を感じる。ゴゴゴゴゴと重苦しい音を立てて、最期の扉が開く。

「来たね」

「ええ」

短く言い放つとお互いに武器を構える。今、この瞬間に言葉はいらない。

「ドゥルガー!」

「イザナギ!」

ペルソナを呼び出すと、相手へと向かって走り出す。イザナギの剣を紙一重で躱し、無防備な鳴上へと槍を打ち込む。あと少しのところで目の前を雷が奔る。完二のタケミカズチだ。状態を反り返らせると。上空から花村のジライヤが、腕を振りかぶりながら降ってくる。

「利剣乱舞!」

僕の後ろに現れたドゥルガーが、十本の腕をそれぞれ振り下ろす。

「ぐあっ!」

ジライヤを無事に撃退し上体を起こすと、目の前にいたはずの鳴上君がいない。驚愕を押しとどめるほどの嫌な予感がし、そのまま前方へと全力で駆けた。イザナギとの同時攻撃は空を切り、大きな隙が出来る。

「空間殺法!」

隙を突いた攻撃、のフェイントをかけると、案の定僕の進路上に氷の塊が現れた。攻撃が当たると思い、面食らった千枝の動きが固まる。同時に先ほど発動した空間殺法が襲い掛かる。

「スクナヒコナ!」

最も冷静に戦況を把握していた直斗が、ギリギリでカバー、しかし、多少のダメージは与えられたようで、速さが少し鈍っている。

「みんな、離れて!コノハナサクヤ!」

雪子の言葉を合図に爆炎が僕を襲う。

「マリシテン!」

間一髪、ペルソナの付け替えに成功し、炎を受けながらも突っ込む。狙いは、直斗を回復している雪子だ。

「キントキドウジ!クマ―!」

クマのペルソナが体を張って受け止める。

「いまクマよー!」

「花村先輩、完二!雷と風が弱点みたい!」

クマに攻撃を止められ動きの止まった僕を見て、りせの指示が響く。しまった、罠だ。

「躱せ、マリシテン!」

ゆらゆらと揺れる陽炎が体を包み込み、狙いをつけにくくする。結果、どうにか二人の攻撃をしのぎ、距離を取ると背後から雷が襲いかかってきた。

「イザナギ!」

不意の一撃をもろに受け、吹き飛びながら理解する。これを狙ってたのか!?吹き飛ばされた先にはすでに、千枝のペルソナが棍を振りかぶっている。

「生憎、物理攻撃は効かないんだ!」

しまった、という顔をする千枝にカウンターで石突きによる一撃入れ、距離を取る。

「強いな」

「こっちのセリフです」

自然と笑みがこぼれてしまう。負けられない戦いであるのに、こんなにも楽しい。それは相手も同じようだ。

「エンラオウ!」

カードを砕き、新たなペルソナを召喚する。三つの目に黄色い衣に冠、手には縄を持ち大量の屍を引き攣れている。圧倒的な死の気配。別名を、閻魔大王とも言う神格である。

「マハムドオン!」

広大な空間全域に紫の魔方陣が描かれる。削るのが無理なら、一撃で倒すしかない。技が発動し、花村が声を上げて倒れる。雪子が急いで回復しようとし、そこを狙って、動き出す。しかし、それは当然読まれている。こちらの動きを阻害するようにタケミカズチとキントキドウジが迫る。ペルソナで地面をたたき、煙幕代わりにすると、身を低くして駆け抜ける。

「ふっ!」

その先にはすでに鳴上君が剣を振りかぶっていた。計算通りだ。その一撃をあえて受けると、一瞬攻撃した側がひるむ。その隙をついで槍による横なぎで、鳴上君を吹き飛ばす。まずいと感じた全員が雪子を庇おうと近づいたところで、僕は自らのペルソナに自分の腹を攻撃させた。巻き込まれないようにするためだ。後方に吹っ飛ばされながら次のアクションを起こす。

「フドウミョウオウ!」

その一撃を目の当たりにしたことがあるメンバーの表情が固まる。

「火生三昧!」

耐性すら無視する煉獄が、あたり一面を覆いつくした。そのはずだった、

「なっ!?」

僕が放った煉獄は、跳ね返り僕自身を焼いた。耐性無視は僕も例外ではない。軽減されたとはいえ、かなりの大ダメージを負った。

「魔法反射か…いったいいつの間に?」

肩で息をしながら問いかける。服はすでにていをなしていない。

「……扉を開ける前ですよ」

「ここまで読んでいたのかい?」

「対策をしておいただけですよ」

「まいったな。本当に強いや」

「……降参してくれると助かります」

「それは、できない。それにまだ、切り札は残っているからね」

全員の警戒の色が強まる。不敵にほほ笑むとその名を呼んだ。

「マハー・ヴァイローチャナ!」

そこに現れたのは全一者。位階の違う力を持つペルソナ。

「嘘っ、こんなの反則じゃない!?」

アナライズを試みたりせが驚愕する。

「落ち着けりせ。とにかく情報をくれ!」

対策を立てるために、必要な情報を聞いた鳴上君だが、その結果を聞いて愕然とする。

「万能属性しか…効かないだって……?」

「そうだよ。これで僕に攻撃が通るのは、鳴上君と直斗君の二人だけだ」

僕が切り札と称する最大の理由はこれ。二人以外を一切無視して動ける。ただし弱点もあるが。

「降参してくれると、助かるんだけど」

「断る!」

この状況でも、未だに闘志は微塵も衰えていない。ああ、やはり彼らは素晴らしい。

「メギドラオン!」

圧倒的な破壊をまき散らし、後には僕を除く八人全員が倒れていた。

「それでも、僕には譲れないものが在るんだ」

戦いは僕の勝利で終わった。力を使い切り、今にも倒れそうだ。ここにいる訳にもいかないので、倒れたメンバーをどうにか外まで担ぎ出すと、僕もそのまま倒れ込んだ。




エンラオウ         物 火 氷 雷 風 光 闇
              ― 耐 ― 耐 ― 弱 反

マハー・ヴァイローチャナ  物 火 氷 雷 風 光 闇
              無 無 無 無 無 無 無

マハー・ヴァイローチャナは、使うと必ず倒れる感じの制限付きです。強すぎるけど、特別捜査本部相手に勝つには、これくらいするしかありませんでした。


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十二月

目を覚ますと白い天井が目に入った。状況がよく分からない。僕はなんでここにいるんだっけ?

「鳴上君たちと戦って…それから…、そうだ、運び出して…それで?」

そこで記憶がぷっつりと途切れている。マハー・ヴァイローチャナを使った反動だろう。協力無比なあの力は、人の身には大きすぎる。全快状態の僕でも、一分と持たない。

「どれくらい寝てたんだ?」

上半身だけを起こしながら首を捻っていたら、看護婦さんが様子を見に来た。

「あら起きたのねぇ。先生よんでくるわぁ」

「あのっ、今日って何日だか分かりますか?」

「今日?えーっとねぇ、十二月五日よぉ。あなた、十五日も眠ったままだったのよ」

マジか。せいぜい三日くらいだと思ってたら、月跨いじゃってたのか。いろいろと面倒なことになりそうだ。っと、まずは鳴上君のところに行かなきゃならないかな。

「それじゃあ、大人しくしててねぇ~」

手を振りながら看護婦さんが病室を後にする。これはチャンスだ。看護婦さんには悪いけど、脱走させてもらおう。堂々と歩いて外にでる。こういう時は堂々としてれば、大抵どうにかなるものだ。

「さて、どこにいるのやら。とりあえずジュネスあたりに行ってみようかね」

街中歩き回り、ついに発見した場所は、何と愛屋。大穴にもほどがある。がらりと扉を開くと、やはり特別捜査本部のメンバーがそろっていた。

「よかった。みんなそろってるみたいだ」

「畦倉先輩!?」

声を掛けると驚きながら駆け寄ってくる。

「もう、体は大丈夫なんですか?」

「いや、さっき起きたところだよ。抜け出して来ちゃった」

「来ちゃったって…」

花村君が呆れた顔をしている。

「僕も、これほど長く寝込むとは思ってなかったからね。みんなを運び出した後、すぐに僕も倒れ込んじゃったみたいだし、みんなの事が気になってさ」

「ああー…。やっぱ原因は俺たちっスよね」

「というより、最期に使ったあのペルソナだね。こうなるって分かってて使ったんだから自業自得だよ」

笑いながら言う。あれは、自爆特攻のようなものだ。ブレーキが壊れてる僕にとっては使える武器な訳だが。一同、思いだしたのか、苦笑いをしている。

「見たところ、みんな元気みたいだね。よかったよかった。里中さんと完二君の事は特に心配だったんだよ。あの塔では、酷な事をしてごめんね」

「あっ、頭上げてください!あたしなら、大丈夫ですから!」

「俺も大丈夫っスよ。目を逸らすのは畦倉先輩を否定することになるっスから」

「なら良かった。っと忘れるところだった。君たちに言っておかなくちゃならないことがあるんだ」

暫く眠っていたせいで、まだよく働いていないようだ。その為に病院を抜け出してきたようなものだろうに。

「なんですか…?」

「そんなに緊張しなくていいよ。敵対しようとか、そういうのじゃないからさ」

「それじゃあ何を?」

不思議そうにこっちを見ている。

「もう一人の犯人についてだよ」

「知ってたんですか!?」

ガタっと音を立てて僕以外の全員が立ち上がる。

「僕も僕なりにいろいろ調べていたのさ。君たちとは少し違った方法をとってね」

マヨナカテレビの中で張り込みとかのことだ。出雲情報も入っているから、あまり迂闊に情報開示はできないが。

鳴上君が、みんなに何かを目で訴えかけると、全員が一斉に頷く。

「それは……足立さんですか?」

驚いた。まさか、自力でそこにたどり着いてしまうとは。捜査が難航していると予想して、抜け出してまで来たのに。

「その反応は当たりのようですね。でも、一つ疑問があります。畦倉先輩は、どうやってそのことを知ったんですか?」

「簡単だよ。雪子ちゃんの時、自由に使える時間のほとんどをあの世界で過ごしたのさ」

「なるほど…単純な作戦だけに効果も高い、という訳ですか」

「そういうこと。霧が最も深くなる日、ギリギリまで張り込みしてたら、足立さんが現れたって感じかな、っと…」

そこまで話したところで、ふらついてテーブルに手を突く。参った、流石に無茶しすぎたみたいだ。

「大丈夫ですか!?」

一番近くにいた雪子ちゃんに支えてもらって、どうにか立て直した。無理に笑って取り繕うも、バレバレなようだ。

「ちょっと、疲れただけだから。言わなきゃいけないことも伝えたし、僕はそろそろ病院へ帰るよ」

グラスに映った僕の顔色は、危ないと思うくらいに悪い。

「みなさん、送っていきましょう。足立さんもおそらく病院にいるでしょうから」

それから先のことは、ぼんやりとして、あまり覚えていない。

 

・・・

見覚えのある部屋に入ると、案の定、足立はそこにいた。

「誰だッ!!?…ああ、オマエらか。しつこい奴らだな…」

いつもの情けない表情は無い。全てを馬鹿にしたような笑みを浮かべている。一瞬、本当に足立なのか分からなかったほどだ。

「観念しろ!」

「うっとおしい餓鬼だな…」

「質問に答えろ!!お前が山野アナをテレビに放り込んだのかって訊いてんだ!」

大声で叫ぶ花村に対し、煽るように笑う足立。

「あれは、事故だよ。暴れるからしょうがないでしょ?」

簡単に自供するが、悪びれた様子が全くない。身勝手でどす黒い足立の話が続く。山野真由美を殺した話、小西先輩を殺した話、久保美津雄をテレビに入れた話、そして生田目の話も。

「目的…?別にないよ、そんなの。ただ僕には出来たし。面白いから…まあ、それが目的?」

それが足立の全てだった。てんで理解できない。足立は、ただ面白そうだから人を殺したというのだ。言うことを言った足立は消えて去った。この町がもうじき霧に消えるという、不吉な話を残して。

「この町が霧に消えるだって…?そんなの有り得るかよ」

「でも、なんか自信満々だったよ…」

「ケッ!どっちにしろあの野郎をぶっ飛ばせばそれで済むことだぜ!」

一理ある。しかし、それで本当に全てが解決するのだろうか?

「ねえ、あんまり頼るのはよくないだろうけど、弥勒さんなら、何か知ってるんじゃないかな?」

「センパイクマか?そういえば起きてからボクだけまだ一度も会ってないクマ!」

「今までだって、困った時にはそうして来ちゃったところあるもんね…」

「ですが、今のところそれしか手段がないのも事実です」

「そうだよねー…あたしたち負けちゃったし。そこらへん聞いてもいいものなのかな?」

やはり、あの人の存在は皆の中で大きいようだ。それは鳴上自身もそう思っている。

「とにかく一度会おう。愛屋で会った日から、お見舞いにも行けてないからな」

全員、首を縦に振り、明日の予定は、畦倉先輩のお見舞いに決まった。

 

・・・

あの日の脱走を期に、僕の入院生活は地獄と化した。どういうことかと言うと。相室の人が出来たのだ。その名も堂島遼太郎。そう、堂島さんである。十五日も寝たきりになるような無茶をして、怒らないはずもなく。朝起きては注意をされ、昼食を採りながら注意を受け、夜寝る前にも注意を受けた。意外と説教好きなのかもしれない。そして、自分は無理して仕事しようとして悪化させるもんだから、看護婦さんたちに、見張り役を任されてしまった。どうしたもんかと思っていると、コンコン、と病室のドアがノックされ。聞き覚えのある声が聞こえた。

「失礼します」

「どうぞ」

現在、堂島さんは外出中なので、僕が答える。

「お体は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。もう少し体力が戻ったら、退院できると思う」

「良かったです。弥勒さん、ほっといたら無茶するって、あの塔で嫌って言うほど見せられましたから」

「あの塔の事は、僕にも一応理由があっての事だったんだけどね…」

頭を掻きながら苦笑して見せる。興味深そうに、みんなが耳を傾ける

「足立さんと話したかな?」

「………はい」

ああ、やっぱり。ものすごい嫌悪感を感じる。

「あの人も僕ほどじゃないけど異常だからね。普通の人が話すとおかしくなっちゃうこともあるんだ。だから、あの塔は、いわば予行練習ってやつだよ」

僕にも経験がある。三年前の事件で僕をボコボコにした暴走族だ。あれ以来、彼らはどこかおかしくなってしまったらしい。

「あの時、そこまで考えていたんですか…?」

「大したことじゃないよ。僕は、足立さんの存在と本性を知ってたからね。君たちを衝突するだろうとは思っていたのさ」

「畦倉先輩。あなたはどこまで知っているんですか?」

話が核心にせまる。なるほど、これを聞きに来たのか。困ったように笑うと、大きく息を吐き言う。

「何が聞きたいんだい?」

鳴上君は申し訳なさそうな顔をする。しまったな、怒ってると思わせちゃったか。

「もうすぐ…この町が飲まれると、足立が言ってました」

「本当だ。情報の出どころは言えないが。確かだ。でもそうだな、真実を求め続けつ君たちなら、いつかたどり着くかもしれないね」

前半はともかく、後半はよく分からないのだろう。みんなそろって首をかしげている。

「分からなくていいさ。というより分かっちゃったら僕が困る」

冗談を言うようにおどけてみせる。

「それもそうクマね!」

「やあ、クマ君と会うのは塔以来だね。久しぶり」

「お見舞いに行けなくてごめんなさいクマ…」

「いいよいいよ。見たところ、前より何かがよくなったみたいだ。きっとクマ君、頑張ったんだね」

「やっぱりセンパイはいい人クマ―!陽介とは大違いクマ」

「そこで俺を引き合いに出すなよ!」

笑い声が漏れだし、だんだんと雰囲気が明るくなっていく。クマ君には感謝しないとな。穏やかな雰囲気のなか、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。きっと僕はこんな空気が好きなんだろう、そう思った。

 

・・・

未だにマハー・ヴァイローチャナ使用の影響を受け、身動きの取れない僕は、最後の戦いに参加することが出来なかった。とても申し訳ない。しかし、そんな僕の力を借りずとも、鳴上君たちは、見事アメノサギリを打ち倒して足立さんと捕まえ、一連の事件の解決に成功した。

「どうだ出雲。僕の言った通りになっただろ」

「ええ、そのようです。一応の決着は着きましたね」

クリスマスの夜、僕は珍しく本来の姿の出雲と一緒にいた。あの白装束、寒くないんだろうか?

「後は、私のところまで到達することが出来るかですね」

「してもらわなきゃ困るさ。僕としても、お別れくらいはしたいからね」

「やはりそういう方法になりましたか……」

出雲が眉をひそめる。

「分かっていたことさ。詳細は見てのお楽しみ。時が来たら分かるよ」

自分が死ぬと言いながら、僕の笑顔は一片の曇りもない。

「この一年は本当に良い一年だったよ。ただ本能の赴くままに救うことだけを繰り返してた人生に、意味が出来た。そして何より、初めて友達と呼べるものが出来た。まあ、あんまり性格良くないのが難点だけど」

「お互い様です。あなたは嫌味の言い方を覚えたほうがいい。あれでは喧嘩を打売っているのと変わりませんよ」

「いいんだよ。どうせ出雲にしか言わないんだから」

「それはそれで問題がある気もしますが…まあ、いいでしょう」

何気ない会話が心地いい。後何回、こんなふうに話す機会があるのだろうか。

「ねえ、弥勒。私は今でも十分救われてます。やめることはできませんか?」

本心からの言葉だろう。蔑まれ、裏切られ、呪いの国に君臨する女神。それが、僕と同じように、他愛ない会話で救われる。本当に、僕たちは引き合うべくして会ったようだ。

「でも、だめだ。それはで出来ないよ」

僕は首を横に振る。

「僕は、無償で救いを与えるものだけど、出雲だけは特別に、友達だから救うんだ」

「……それは光栄なことですね。私も、あなたと出会えてよかったと、心からそう思います」

ぬるま湯のに浸かるような時間が、ただただ過ぎていった。たった一年間の奇跡を名残惜しむように。




次回、おそらく最終回です


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三月

三月二十日。今日は、とうとう鳴上がこの町を去る日だ。この町に来て、仲良くなったみんなに挨拶回りをしていると、ふとジュネスが目に付いた。

「最後だし、少しだけ寄っていこうか」

特別捜査本部の集まりで使っていたフードコート、いろんな事を思い出す。この一年、本当にいろんなことがあった。そんなことを考えながら、鳴上は無意識のうちに自分の使っていた席についていた。

「おっ!」

「奇遇クマ…いやもうコレ運命だね!」

花村とクマがやってきた。

「あー、やーっぱ来てたんだ!」

「思い出の場所だもんね、特捜本部」

続いて里中と天城が。

「へへ、先輩!やっぱ、いたっスね!」

「ここに来れば、みんなもいる気がして」

「明日、駅に見送りに行くってことにはなってましたけど…。なんか、落ち着かなくて。ここに来ちゃいました」

最後に後輩組が合流し、全員がそろう。それだけのことなのに、なぜだかとても嬉しい。

「なーんか結局、そろっちまったし、なんか食うか」

「おー、肉食べようか!肉!花村のおごりで!」

「肉、肉、ほんとうるせーな…」

その後、花村のおごりでいろいろと注文し、思い出話に花を咲かせた。

「でもさ、結局あたしたち畦倉先輩の友達って見たことないよね」

「そういや、そうッスね」

「いずれ分かるかもなんて、意味深なこと言ってたね」

「今まで、放置してきたけど。弥勒さんがどうやってペルソナ能力手に入れたのかも謎だし…」

「いや、それを言うなら鳴上君もでしょ」

なんだか、少しだけ引っかかる。みんなも難しい顔をしている。

「あー、やめやめ。今はもっと楽しい話をしようぜ」

「それもそうッスね」

雰囲気が暗くなるのを嫌った花村が、話題を変えた。

「それじゃ、クマ。何か言いたい事とかねーのか?」

「おお、陽介にしては気が利くクマね!」

「お前はいちいち俺を貶めなきゃなんねー病気なのか!?」

あはは、と笑い声が響き、クマの話が始まった。

「クマ、こっちの世界に来て、ホントに楽しかったクマ。」

「お前の場合、存在自体が楽しげだよな。実際はまあ…楽しいばっかじゃなかったけど…でもこんな充実してた事…今まで無かった」

花村が感慨深そうに語ると、他のみんなもそれに続く。

「長かったのか…それとも短かったのかな…。もう…こんな風に集まって、うんうん唸って推理したりする事も、ないんだね…」

一瞬だけ沈黙が下りるが、それはきっと悪いものじゃなく、それぞれ、今年一年を振り返っていたのだろう。

「思い出…誰かに話したいって思っても、有り得ないことだらけで、誰も信じないよね。ああ…畦倉先輩は別だけど。思えば、そういう事の一番最初は、千枝がマヨナカテレビを教えてくれた時かも」

「オレも里中から聞いた気がすんな。里中はウワサ、何処で知ったんだ?」

思い出したように一つの疑問が浮かぶ。最後の真実へと到達するためのピース。この一連の事件の真の黒幕への鍵。

「誰っていうか…風の噂?女子は結構試してる子居たし」

「なら、一得最初に言い出したのって、誰なんスかね?」

「さあ…偶然体験しちゃった誰かとか?」

「マヨナカテレビなぁ…考えてみれば、アレが全部の始まりだよな。て言うか、犯人捕まって霧は晴れたけど、気になる事、ナニゲに色々消えてないよな。話蒸し返すようで悪いけど、畦倉先輩の事とかさ。それに、向こう側も、未だに霧まみれだしさ」

「うむむ…また誰か、ワケの分からんヤツが悪用するかもしれんクマ」

推理しようにも情報が足りなすぎて、まだよく分からない。

「確かあの、アメノ…なんとかって怪物、言ってたよね。自分が力を授けた…って」

「虚ろの森を渡る力を会得せし物に、私はそれを授けた…。要するに、ペルソナ能力に目覚めた物に、テレビに入る力を与えたという事でしょう。役者とするために」

直斗の推理を聞いていると、いくつか疑問が出てきた。

「あれ…そういや鳴上君、何にも無いうちから、もういきなりテレビに手潜ったんだよね?てことは、微妙に例外…?てか、そうだ、足立と生田目、それに畦倉先輩は!?あの三人も、ペルソナ云々より、テレビに入る力の方が先だよね?十一月のアレ以前に、畦倉先輩がマヨナカテレビに映ったなんて話、そういえば聞いたことないもん…」

里中の言葉が、鋭いところを突く。

「え…じゃ、先輩やあの三人は、何か別のきっかけって事?」

「なら先輩、ぜってーなんか思い当たる事、あるハズっしょ?なんかねんスか?」

「少し待ってくれ、思い出してみる」

そう言うと、鳴上は黙り込んで心当たりについて探り出した。自分だけが例外…。ペルソナの覚醒よりも先に、テレビに入る力を授けられた…?一体いつ?思い浮かばない。そして、俺だけじゃない、足立や生田目もだ。思考がループしてしまっている。分からない分からない。そんな時、ある手紙のことを思い出した。足立からの手紙だ。

「マジかよ…!?」

予想外の差出人に、花村が驚いている。声には出していないが、他のメンバーも同様だ。

「ってことは、これ…拘置所から!?」

とりあえず読んでみることにする。内容はこうだ。

「突然の手紙に驚いてると思う。伝えておきたいことがあって、これを書いています。こういして生き延びた事で、分かった事もあるので。僕のゲームは…確かに終わった。あの時、キミたちに言われた通り、この世界のルールに従おうと思ってる。ただ僕は交流の身で、自分じゃ何も後始末が出来ない」

後始末、という言葉に直斗がピクリと反応した。

「だからせめて、キミたちが事件について考える助けになれればと思う。実は一つ気になってる事がある。そもそもの、事の発端…マヨナカテレビについてだ」

タイムリーな話題に、今度は直斗以外の全員も目を見開いている。

「よく考えたら僕は、警察で噂に触れる前…町へ来てすぐに、誰かから教わった気がする。生田目の調書の隅にも、似たような事が書かれてて、気になったのを覚えてる。でもそれが誰だったのか…思い出せないんだ。僕と生田目はどっちも力を得た人間だから、何かあるのかもって…ただ何となく思った。たったこれだけの事、役に立つかどうかわからないけど…助けになれば嬉しい」

足立の手紙はこれで終わり。

「畦倉先輩を探そう!」

まだよく分からないが、確信した。事件は解決したが、まだ、全てを知ってるわけじゃないと。鳴上の声を聞いて、それぞれ町に散って行った。

 

・・・

みんなに畦倉先輩を探してもらっている間、鳴上は別方向から捜査をしていた。それは、自分の事だ。なぜ自分が力を持っているのか、いつ手に入れたのか、それを調べていた。その時だった。商店街を歩いていると、青い扉が目に付いた。

「そうか、ベルベットルーム!畦倉先輩もワイルドの力を持っていたじゃないか!?」

何か聞けるかもしれない、そうと決まれば。急いで扉を開けて中に入った。

「ようこそ。ベルベットルームへ…。いかがなされましたかな?」

目の前にはいつも通り、イゴールとマーガレットが座っている。

「貴方はもはや謎を解き明かし、降りかからんとしていた災難をはね除けられた。この上、私共に何用でございましょう?」

「二つ、聞きたいことがある」

「ふむ。伺いましょう」

イゴールは興味深そうにこちらを見ている。

「畦倉弥勒。という人を知っているか?」

「ええ、もちろん存じておりますとも。あの方は真に得難い客人でございました」

「今、どこに…?」

やはり、畦倉先輩もこの部屋の利用者だったようだ。

「あの方は、私共の予想をはるかに超え。今は旅の終点にて、その時を待っておられます」

イゴールが言葉をぼかすということは、きっと答えられない事なのだろう。旅の終点。意味はてんで分からないが、そんなものこの一年の間、何度も経験してきた。

「それじゃあ、もう一つ。気になる人物がいるんだ」

町を駆けまわり、得た情報、奈々子が思い出させてくれた、この町に初めて来た日の事。

「ほう…まだ何か釈然とされない事がおありと?はて…なんでございましょうな」

どこか嬉しそうに腕を組みなおすと、虚空に手をかざす。

「どれ…ではひとつ、貴方の感じておられるものが何か、見てみると致しましょうか」

目の前の空間が光り輝き、ガラスの破片のようなものが飛び回っている。

「これは…」

普段、あんまり感情を読ませないマーガレットが目を丸くして驚いている。それほどの事態だということだ。

「ほう、驚きましたな…。これらは、虚ろな噂に惑わされず、物事の本質を見抜く力の断片でございます。なるほど…やはり貴方がいらした事には意味があったようですな。そして、彼はこうなることを信じておられたのでしょう。つくづく、興味が尽きない」

未だかつて見たこと無いように嬉しそうにクックと笑うイゴール。正直少し怖い。

「では、私も役割を果たすと致しましょう」

笑い終えたイゴールが再び手をかざすと、ガラス片は集まり、一つの光り輝く水晶へとなった。

「それは、旅路の中で貴方が育んだ力の結晶…。あらゆる虚飾を払い、嘘を打ち消し、真実を照らし出す宝珠でごさいます」

ゆっくりとこちらに水晶が寄る。見晴らしの珠を手に入れた。

「真実とは、自分がじかに見て、考えて、自ら選んだところにだけ現れるもの。貴方のゆく先に、真実につながる道があると、信じる事です」

「フフ…素晴らしい。どうやら貴方は、私共の予想を超えた、旅路の真の終点を見せて下さるようだ。そして、彼もまた同様に。さあ、お行きなさい。全ての始まりのきっかけの場所へ…。彼もそこで首を長くして待っていることでしょう」

「ありがとう。イゴール、マーガレット」

鳴上はそう言うと、振り返らずに部屋を後にした。行くべき場所は分かった。あの日、始めに来た場所。それは、

「ガソリンスタンドだ!」

 

・・・

「出雲、そろそろ来るぞ」

降りしきる雨の中、僕はガソリンスタンドの屋根の上にいた。

「本当に弥勒の言った通りになったな。俺としては信じてなかったんだが」

「僕としては来てもらわなきゃ困るんだよね。少し、用事もあることだし」

「用事?なんだそれ、聞いてないぞ」

「大した用じゃないよ。事の間際に少し時間をもらうだけさ」

これが最後になるかもしれない。それなのに僕らの口からでる言葉は、普段となんら変わらない。緊張感の欠片もない距離。

「さて、俺はそろそろ迎えようと思うけど、弥勒はどうする?」

出雲が顔を向けると、向こうの方から八つの人影が近づいてくる。鳴上たちだ。

「僕は頃合いを見て登場するよ」

そう、と短く言って出雲は店先に立った。僕も準備しておかなくちゃ。そう言って、この日の為に出雲からもらった槍を取り出す。ものすごい力を感じたため、名前を聞いてみたら、天沼矛と言われた。本人は笑いながら言っていたが、冗談になっていない。それが本当なら、僕は島を作れることになる。

「早いな、もうあの姿に戻ったのか」

ふと出雲の方を見ると、すでにガソリンスタンド店員の格好ではなく、本来の姿である白装束へと戻っていた。興奮した完二君が詰め寄ろうとしたところで、出雲の前へ刺さるように槍を投擲する。

「なっ!?」

突然飛んできたという事実よりも、それが槍だという事実に鳴上君以外の全員は驚愕する。

「下がってもらおうか」

底冷えするような声を出す。僕は屋根から飛び降りると、先ほど投げた槍の上に降り立つ。

「畦倉先輩……」

「ごめんね。あんなのでも僕の友達なんだよ」

「イザナミが友達…ですか…?」

「僕はシャドウでも救うかもしれないって前にもいったろう。それが神様に変わっただけの話さ」

みんなが困惑している中、唯一冷静な鳴上君が話しかけてくる。とても助かる。

「話を聞かせてもらっていいですか」

「もちろん。その為にここに来たんだからね」

僕は槍を引き抜いて一歩下がり、出雲の隣に立つと話し始めた。

「そうだな。まずはイザナミについでの神話を知っているな?大まかな話でいいんだけど」

「イザナミ…日本神話に出てくる国生みの女神ですね。カグツチを生んだ際に傷を負って死亡したのち、黄泉国まで迎えに来た夫イザナギにその姿を見られて逃げられ、黄泉国に閉じ込められた。大まかに言うとこんな感じですか」

博識な直斗君がみんなを代表して答える。

「そうだね。みんなはそれを聞いてどう思った?」

「どうって、なんか可哀相だなって……っ!?」

「そう、そうだよ。神話はそこで終わり。こいつは永遠に救われないままだ。僕はそれが許せなかった。そういう話さ」

「でも、だからって…今、少しだけ味方するのが畦倉先輩の言う救いなんスか!?」

「そうじゃないんだ完二君。その為の手段も手に入れてある。僕がここに立ってるのは、最後に君たちと話をしたかったからだよ。これから僕は―――僕の命を使ってこいつを救うつもりだ」

その言葉に誰一人として反応できなかった。

「それじゃあ、僕たちは行くよ」

出雲の手を取ると、僕たちは霧のように消えた。後には呆然とした特別捜査本部のメンバーが取り残されていた。

 

・・・

黄泉比良坂の最奥にて、僕は出雲と二人、無言のまま鳴上君の到着を待っていた。

「来たね」

「そのようです」

短くそれだけ言葉を交わし、扉の方を見る。塔の時を思い出すような展開だ。今回は僕が一人じゃないのだが。鳥居を超え、鳴上君たちがこの部屋に入ってくる。

「意外と速かったね。もう少し時間がかかるかと思ったよ」

槍をくるくると振り回しながら出迎える。対する鳴上君たちは無言のまま僕の言葉を聞いている。

「今回の件、まだ僕は主役じゃないんだ。少し、引っ込んでるとするよ」

そう言って、出雲の後ろに控える。

「はるばる、ようこそ…」

「また会ったな、全ての元凶さんよ!」

「あなたが最初にテレビに入る力を与えた。マヨナカテレビを作ったのもそうだ。そして、噂が広まる発端を作った…間違いありませんね?」

出雲と鳴上君たちの会話が始まる。今回の一連の事件、その全てを明らかにするために、幾多の虚飾を乗り越えてとうとうここまでたどり着いだのだ。

「ひとつだけ、思い違いをしている。君らがマヨナカテレビと呼んでいるもの…。確かにあれは、人の心をここに引き込むためのちょっとした装置。だが、あそこに何が見えるか決めてたのは、常に君たち自身だ…。人間の持つ、抑圧された心と、それを除きたい周囲の人間の心…。見せたい存在と見たい存在がある。だから、呼応する窓を授けた。それだけに過ぎない。悪趣味だが否定は出来ないと言ってくれた人間もいましたしね」

一瞬、出雲がちらりとこちらへ目を向ける。そういえばそんなことを言った気もするな。

「すべては君たちのため…君たち人間が望んだ世界を作るためだ」

話は佳境を迎え、出雲はその動機を語り始める。時は近い、正真正銘最後の戦いまであと僅か。落ち切る前の砂時計を見てるようだ。

「言ったはずだ。君たちの望みは、霧に包まれた世界だと!」

「そんなことはない!」

メンバー全員の意見を代表するように、鳴上君の声が響く。その声に続いて、次々と自らの意思を示していく。この一年で、あの八人が育んできた尊いものが、彼らの背中を後押しする。

「俺たちの未来は俺たちで決める!誰にも選ばせたりなんかしない!」

その一言を最後に出雲も臨戦態勢に入る。僕は、白い拘束具を身にまとい巨大になった出雲の横に並び立つ。塔の時と同じだ。もはや言葉はいらない。

「出雲」

「ええ」

最初で最後の、僕と出雲の共闘が始まった。

 

・・・

「イザナギ!」

最初に動いたのは鳴上だった。僕の持つマハー・ヴァイローチャナを使わせないようにするためだ。その一撃を槍で受け止め、足を払う。体制を崩したところに槍を向けると、すでに目の前には進化した直斗のペルソナ、ヤマトタケルが迫っていた。

「ダイコウフショウ!」

鉄壁の守りで攻撃に備える。しかしそれは、ヤマトタケルに対するものではない。体制を立て直した鳴上が、さらに追撃を仕掛けてくる。あえてその剣を受け、袖をつかむと、大雷が鳴上とヤマトタケルを僕ごと飲み込んだ。

「まずい!先輩もろに食らったみたい!完二、救出お願い!」

こちらの狙いを察したりせが指示を飛ばす。しかし、出雲の相手ですでに手一杯であり、なかなか僕の元までたどり着くことが出来ない。そんな中、二発目の大雷が降り注ぐ。

「ぐっ…!?」

袖を掴まれたまま動くことが出来ない鳴上が苦悶の声を上げる。

「耐久レースだ!僕は全力で鳴上君を抑える!」

「ダメだ!こっちの攻撃が通らねえ!」

鳴上救出の為に、出雲の攻撃を止めようと奮闘しているが、まるで効果がない。そして、三発目の大雷が、僕らを襲おうとしたその時だった。

「これは……っ!?」

鳴上から光の珠が飛び出し、あたりを照らす。突然の出来事に気を取られている僕の隙を突き、掴んでいた袖を切り落とし離脱する。しまった、と思い追いかけようとすると、それどころではない事に気が付く。

「なんだと…」

出雲の拘束具が外れ、冥府の王としての姿に戻っている。おそらくあれが、鳴上君のこの旅路で得た答えのカタチなのだろう。

「できれば…この姿を弥勒に見られるのは避けたかったですが…。こうなっては仕方ありません。君たちがどれほど小さな存在なのか、教えてあげよう」

出雲から僅かな怒気を感じる。気合を入れなおす。さっきと同じ手段は通用しないだろう。彼らに見せてないペルソナは六体。うち一体は、そういうものではないから除外するとして、出し惜しみは無しだ。

「コンゴウリキシ!」

二体一対、筋骨隆々の戦士が現れる。その手には金剛杵を持っている。今度はこちらから攻めさせてもらう。自らをペルソナに投擲させ、ものすごいスピードで鳴上に迫る。ペルソナを出す暇がないと判断した鳴上は、剣で受け止めようとする。あと少しと接触するいうところで槍を地面に突き刺すと、その反動を使って鳴上を飛び越える。最初から狙いは、サポート役のりせだ。

「アマテラス!」

槍を振りかぶると、目の前を炎の壁が遮った。しかし、その程度では止められない。多少のダメージを覚悟で炎を突っ切りながら槍で薙ぐと、キンっと金属音が鳴り、槍が止まった。

「ロクテンマオウ!」

槍を受け止めたまま、完二のペルソナは腕を振りかぶる。そういう事なら受けて立とう。

「金剛発破!」

力と力が真正面からぶつかり合い、粉塵が巻き起こる。どうやら、力比べは互角のようだ。互いに静止したまま止まっている。その隙を逃すわけもなく、鳴上、花村、直斗の三人が跳びかかる。

「甘いっ!」

花村の苦無を石突きで弾き飛ばし、体制を低くしながら鳴上の剣を受けた。

「うおおお!」

背後で完二が雄たけびをあげ、つい振り返ってしまう。罠だ。

「ヤマトタケル!」

上空から直斗のペルソナが襲いかかる。一瞬早く行動し、直撃を避けることはできたが、これは……毒か。

「ジュロウジン」

牡鹿を引連れ、手には瓢箪と桃を持っている頭の長い老人が現れた。

「アムリタ!」

ジュロウジンから放たれた光が、毒を消し去る。明らかに直接攻撃系ではないペルソナを前に、一旦様子を見ているようだ。今日は運がいい。

「ヒートライザ!」

しまった、という顔をする鳴神たち。だがもう遅い。以前とは比べ物にならないほどの速さで距離を詰める。時折降ってくる大雷が、戦闘の激しさを際立たせている。

「インドラ!」

狙うは弱点がある二人の内の一人。相手からしたら突然目の前に現れた、そう錯覚させるくらいの動きだった。槍で素早く足を払い、倒れ込んだところに雷による一撃を叩きこむ。

「ジオダイン!」

「いやー!そんなの食らったら死んじゃうクマ―!」

目の前でムンクの叫びの様になっているクマを、間一髪のところでスサノオが弾き飛ばす。しかし、問題ない。これで花村は回復するまで動けなくなるだろう。

「ぐああぁぁッ!」

無差別に降り注いでいる黒雷と比べてもなお強力な雷が花村を襲った。倒れ伏す花村を見届けることなく、僕は弾き飛ばされたクマを追いかける。

「スズカゴンゲン!」

その進路に鎧を着た千枝のペルソナが立ちふさがり、クマの方へと完二と直斗が向かう。それを確認すると、元の位置へと踵を返す。案の定、今まさに花村の回復を開始した雪子がいた。

「ヴァルナ!」

現れたのは、青い肌をした水神。

「ブフダイン!」

どうにか直撃は避けたものの、大ダメージを負わす事には成功した。追撃の槍を振り下ろすと、鳴上がそれを受け止める。これは…危機を感じ取った僕は、袖を掴もうとする鳴上の腕をどうにか躱す。後ろを振り向くと、予想通りに四人が僕を狙って迫っていた。

「ヴァーユ!マハガルダイン!」

完全に包囲されてしまう前に、突風で僕を含めた全てを吹き飛ばす。幸い、風属性が効かない花村は、現在無力化に成功している。互いに距離が空き、向こうの体制が整う前に、普通に使える範囲内での、一番の切り札を切る。

「ブラフマー!」

四つの顔。四つの腕に、赤い肌。水鳥に乗り、手にはそれぞれ、数珠、聖典、小壷、笏を持っている。ここで一気にたたみかける。

「ブラフマーストラ!」

水晶でできたような虹色に輝く螺旋槍が投擲され。大爆発を巻き起こす。ブラフマーがもつ固有スキルだ。威力はメギドラオンのそれをしのぐ、神話伝承にふさわしい一撃が、特別捜査本部を襲う。その爆発の中。僕は、爆風を利用し、真っ直ぐにこちらへと跳びかかってくるイザナギを見た。

「があッ!?」

剣による渾身の一振りが僕を捉え、僕は崩れ落ちた。

「けど…僕たちの勝ちだ。時間稼ぎは終わった」

『幾千の呪言』が鳴上たちへと襲い掛かる。鳴上を庇って次々と仲間たちがやられていく。

「残念だよ…こんな幕切れになるなんて…」

そしてとうとう、鳴上自身も飲まれていった。そして…

「有り得ない…個の意思が、人の総意を超えるというのか!?」

強い輝きと共に、鳴上のペルソナがその姿を変える。

「どういうことだ…なぜ私と互角なんだ…」

掛けていた眼鏡を捨て去り、ペルソナカードを握りつぶす。

「伊邪那岐大神!」

現れたのは、白い特攻服を身にまとった国生みの父。

「幾千の真言」

鳴上のその言葉と共に、無数の光が出雲を貫く。光が消えると、もはや体が崩れていく出雲の姿があった。

「そこまでにしといてくれないか?」

僕は、鳴上君に声を掛ける。

「畦倉…先輩」

僕がこれからどうするの、なんとなく分かっているのだろう。珍しく、泣き出しそうな顔をしている。

「そう悲観しないでよ。これは僕自身も望んだことなんだから」

いつも通りに笑いかけててを伸ばす。

「最後だ。まだ僕の事嫌いじゃないと思ってくれるなら、握手をしてくれないかい?」

カツン、カツンと音を立てながら歩み寄っていく。

「センパイ、ホントに行っちゃうクマか…?」

「ありがとう、クマ君。でも、もう決めたんだ」

「なら…なら、仕方ないクマね!」

涙をこらえながら手を差し出すクマ君と、握手を交わした。

「畦倉先輩。あなたのような人と出会えたことを、僕は誇りに思います」

「それは光栄だ。なら僕は、これからも直斗君が誇れるようにあるとしよう」

「短い間でしたが、ありがとうございました」

冷静を装いながらも手が震えている直斗と、握手を交わした。

「みっ、弥勒さん、うぅ…」

「泣かないでくれると嬉しいな、りせちゃん。最後にもう一度、昔の様な笑顔を見ておきたいんだ」

「わっ、分かり、ました」

涙を流しながら笑っているりせちゃんと、握手を交わした。

「畦倉先輩…俺、なんて言ったらいいのか分かんねーけど。先輩の事絶対忘れませんから!」

「花村君、君はこの一年で一番成長したよ。自信を持って、これから先も頑張ってくれ」

「はいっ!」

僕の事を記憶に刻むように見つめている花村君と、握手を交わした。

「畦倉、先輩…」

「里中さん。君は君のやり方で、たくさんの人を助けてあげればいい。約束してくれるかい?」

「もちろんです!見ててください。あたし、頑張りますから!」

とびっきりの笑顔を向けてくれる里中さんと、握手を交わした。

「畦倉先輩!いままで本当にお世話になりましたッ…!」

「完二君。君はとても優しい子だ。もっと自分に自信を持っていいんだよ。分かったね?」

「ウス!」

涙を流しながら礼をしている完二君の手を取り、握手を交わした。

「畦倉先輩。私は、もう一人で嘆くことはしません。先輩が安心できるように、生きてゆきます」

「そうだ、それでいいんだよ。雪子ちゃんは昔から、一人で頑張り過ぎるところがあるからね」

「今まで、ありがとうございました!」

珍しく声を張り上げた雪子ちゃんと、握手を交わした。

「畦倉先輩」

「鳴上君。君は本当に素晴らしい人間だ。みんなと絆を育み、あらゆる困難を乗り越える。僕には出来なかったことだよ。誇っていい」

「俺の、自慢の仲間たちですから」

いつもと変わらずに笑う鳴上君と、握手を交わした。

「おや……」

「これは……」

その時、ピシリという音がして、『世界』のアルカナカードが現れた。

『我は汝…汝は我…。汝、新たなる絆を見出したり…』

「良かった。鳴上君たちには迷惑かけたからね。これでこれからも、助けになれるみたいだ」

自然と優しい微笑みが漏れる。とても気分がいいみたいだ。

「それじゃあ、僕は行くよ。君たちに出会えて、本当に良かった」

嘘偽り無い感謝の気持ちを伝えると、僕は、出雲へと向けて歩き出した。今にも消えてしまいそうなほどに、弱弱しい。

「待たせてゴメン。じゃあ、始めようか」

「……ええ、お願いします」

複雑な表情をしている。参ったな、そんな顔しなくてもいいのに。

「釈迦牟尼仏」

その名を呼ぶと、僕の体は光を放ち、やがてそれは現れた。見るもの全ての心を揺さぶる、圧倒的な救いのカタチ。

「僕は、絶対に救われないものを救う光になろう」

消えそうな出雲を抱きしめると、その身を覆う穢れが僕へと移る。全ての穢れを失った出雲は、もはや黄泉津大神ではなく、ただの国母出雲へとなっていた。有り得ない奇跡。あらゆる法則を捻じ曲げ、僕はそれを成し遂げた。案外、あっけないものだな。神になるというのも。

「本当にこれで良かったのですか?…これではただの身代わり。あなたが救われないではないですか……!」

人となった事で、感情の抑制が甘くなったせいか、出雲は涙を流している。

「違うんだよ、出雲。僕は分かったんだ。ずっと、僕はなんでこんなにも救いたがるのか疑問だった。でも今なら分かる。僕は、誰かが救われたときに、自分も救われるんだ」

それが僕の救いのカタチ。歪な僕だけが持つ真理。

「だから、僕は君が救いを感じていれば、それで幸せなんだ」

「そう、ですね…別れに涙は不要です。弥勒を私の間には特に」

そう言って、微笑んでくれる出雲が、本当に愛しい。やはり、僕には出来過ぎた友達だ。

「出雲、君の未来に幸多からんことを。それじゃあ、暫くのあいだ、お別れかな。僕の一番の友達」

「ええ、また会える日を楽しみにしています。私の唯一の友達」

淡い光が僕を包み、霧と一緒に僕の体は消滅した。

 

・・・

「そうして僕は、救われないものを救うという概念になったんだ。救いのカタチは存在によって変わる。君も分かってるだろう」

「ええ、十分に分かっています」

「だからってこれはありなのか!?」

僕は現在、ガソリンスタンドで働いている。あの後、確かに消滅した僕は、数秒後、出雲によってこの世界に召喚された。格好つけて別れた分、とても恥ずかしい思いをしたのは、記憶に新しい。出雲曰く。初めて出来た友達を生贄に捧げてのうのうと生きてる、それは一生私を蝕むでしょうからね。だそうだ。広義すれば、確かに永遠に救われないだろうが、そんな簡単に呼び出せていいのか、と突っ込みたくなるような話だ。まあ、事情を知ってるからこそできる方法な訳だけど。

「私を助けたのです。最後まで責任を持っていただきますよ」

「いや、まあ、それはいいんだけどさ。お前そんなキャラだったっけ?」

これはこれで一つの救いのカタチ。そうして僕の、いや、僕と出雲の一年の物語は幕を閉じたのだった。




コンゴウリキシ        物 火 氷 雷 風 光 闇
               耐 耐 弱 反 ― ― ―
 
ジュロウジン         物 火 氷 雷 風 光 闇 
               弱 耐 ― 弱 ― ― 弱

ヴァルナ           物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 耐 吸 弱 ― ― ―

ヴァーユ           物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 弱 弱 ― 吸 ― ―

ブラフマー          物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 耐 無 吸 耐 反 反

釈迦牟尼仏          ステータスとかはないです


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ペルソナ紹介

マイトレーヤ         物 火 氷 雷 風 光 闇 

               ― ― ― ― ― 無 弱

 

釈迦の次に仏陀になると言われた菩薩。日本での名前は弥勒菩薩という。また、名前の意味が『慈しみ』である事から、慈氏菩薩とも言われる。各種、強化スキルや回復スキル、さらには強力ではないとはいえ、攻撃スキルも持っている。固有スキル『未来予知』は、シッダッタの入滅後56億7千万年後の未来に姿を現れて、多くの人々を救済するとされる、という逸話をモチーフにしました。

 

 

フドウミョウオウ       物 火 氷 雷 風 光 闇

               耐 吸 弱 耐 ― 無 無

 

一面二臂で剣と羂索を持ち、憤怒の形相をした五大明王の中心となる一尊。人間界と仏界を隔てる天界の火生三昧という、烈火の世界に住んでいる。強大な炎を操るペルソナ。固有スキル『火生三昧』は、耐性無視の炎特大ダメージ。出番はなかったけど、物理攻撃も出来ます。

 

 

ダキニテン          物 火 氷 雷 風 光 闇

               弱 ― ― ― 吸 弱 反

 

白孤に乗った天女のペルソナ。屍林をさまよい、敵を殺し、その血肉を食らう女鬼でもある。白狐にまたがる姿を描いたのは日本発祥。稲荷信仰と習合している。また、風を起こす魔女としても登場する。逸話通り、風を操る力を持つ。ダキニ天法という外法の元となった神格でもあるため、闇を操ることもできる。

 

 

ダイコウフショウ       物 火 氷 雷 風 光 闇

               無 耐 耐 耐 耐 ― ―

 

一般的な呼び名は、十一面観音という、その名の通り十一の顔をもつ観音。10種類の現世での利益と4種類の来世での果報をもたらすとされている。その中には、一切の怨敵から害を受けないというものもある。防御型ペルソナ。

 

 

ドゥルガー          物 火 氷 雷 風 光 闇

               耐 ― 耐 耐 ― ― 無

 

優雅で美しい外見をした、戦いの女神。十ないし十八の腕を持ち、それぞれに神授の武器を持つとされている。戦いが好きで、並々ならぬ武勇の逸話を持つ。『トリシューラ』はシヴァから授けられたという三叉槍の名前。反射貫通物理スキル。

 

 

プラジューニ         物 火 氷 雷 風 光 闇

               弱 ― ― ― ― 無 ―

 

如来の智慧の働きを人格化した菩薩。三眼・六波羅蜜を表す六臂で異なる印を結び一臂は白蓮華・梵篋・剣等を持つ。サポート専用ペルソナ。

 

 

 

マリシテン          物 火 氷 雷 風 光 闇

               無 無 無 弱 弱 ― ―

 

陽炎の神格。実体がないので捉えられず、焼けず、濡らせず、傷付かないという逸話から、このようなステータスになった。ちなみに、真・電撃見切りと、真・疾風見切りを持ってる設定です。

 

 

インドラ           物 火 水 雷 風 光 闇

               耐 耐 ― 吸 ― 無 ―

 

日本では帝釈天と呼ばれている神様。雷を操る雷霆神であり、赤い髭と髪、褐色の肌をもつ巨人である。マハーバーラタには『インドラの矢』という超兵器が出てきたりもする。雷を操る雷霆神。

 

 

エンラオウ          物 火 氷 雷 風 光 闇

               ― 耐 ― 耐 ― 弱 反

 

言わずと知れた閻魔大王。死者を裁く神格。三つの目を持ち、黒い肌。死の病魔トゥルダクや、二匹の四つ目で斑の犬サーラメーヤを従える。死と同一視される事もある。闇攻撃専用ペルソナ。

 

 

マハー・ヴァイローチャナ   物 火 氷 雷 風 光 闇

               無 無 無 無 無 無 無

 

日本名は大日如来。おそらく最も有名な部類の神仏。全一者という途方もない存在でもあり、神仏習合の解釈では天照大神と同一視もされている。真言についても、一度は耳にしたことがある人の方が多いのではないだろうか。ちなみにこのペルソナのメギドラオンは、ペルソナ3でエリザベスが使ってきたのと同じものです。

 

 

コンゴウリキシ        物 火 氷 雷 風 光 闇

               耐 耐 弱 反 ― ― ―

 

開口の阿形像と、口を結んだ吽形像の2体を一対とする像が法隆寺にある。教科書にも載っているような像なので、見たことある人も多いだろう。金剛杵をその手に持っている。

 

 

ジュロウジン         物 火 氷 雷 風 光 闇 

               弱 耐 ― 弱 ― ― 弱

 

お酒が好きな老人。不死の霊薬を含んでいる瓢箪を運び、長寿と自然との調和のシンボルである牡鹿を従えており、手には長寿のシンボルである桃を持っている。七福神の一人として知られる。

 

 

 

ヴァルナ           物 火 氷 雷 風 光 闇

               ― 耐 吸 弱 ― ― ―

 

古代のイラン・インドの神話共有時代における始源神。イランとインドでは位置付けが違い、このペルソナはインド神話における水神として召喚された。仏教における十二天の一つで西方を守護する水天としてまつられている。

 

 

ヴァーユ           物 火 氷 雷 風 光 闇

               ― 弱 弱 ― 吸 ― ―

 

インド神話における風の神。ヴァルナと並び、十二天における西北の守護を任されている。マハーバーラタに出てくるビーマや、ラーマーヤナのハヌマーンはヴァーユの息子とされている。日本名は風天。

 

 

ブラフマー          物 火 氷 雷 風 光 闇

               ― 耐 無 吸 耐 反 反

 

シヴァ、ヴァシュヌと共に三最高神の一人として知られる。宇宙の根本原理を神格化した存在であり、4つの顔と4本の腕を持ち、水鳥に乗った赤い肌の男性の姿で表される。ブラフマーは宇宙の創造を、ヴィシュヌは宇宙の保持を、シヴァは宇宙の破壊をそれぞれ担当すると言われている。どんな敵をも必ず滅ぼす投擲武器『ブラフマーストラ』を持つとされる。ペルソナの技としては、万能特大ダメージ。

 

 

釈迦牟尼仏          ステータス無し

 

 

お釈迦様。釈迦牟尼仏は現世における唯一の仏とみなされ、仏教における開祖である。人類史上最も有名と言っても過言ではない人物。弥勒と出雲、それにこれから先弥勒が救うものにとっての救いのカタチ。




候補としては、スーリヤ、千手観音、他化自在天などがありました。他化自在天はP4Gに出ているようなので没になりましたが。


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