Fate/Abysswalker (キサラギ職員)
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運命の夜

つづかないよ


 その剣を抜いたものは、太陽の光の王のもとに仕える栄光を戴くという。

 一人の若者が歩み寄り柄に手をかけた。

 

 いいのかい、と男が言う。

 その剣を抜けば君は―――。

 

 若者は笑顔で首を振ると剣を引き抜いてみせた。

 

 より多くの笑顔のために。

 

 騎士としては小柄なそのものはやはり神族の間では厭われていた。神族にも多種多様なものたちがいる。大王グウィンを筆頭とする太陽の系譜から始まり、火の神、異端とも言われた沈黙の女神まで。その若者が属していたのは言わば巨人のように神に近い力を持ちながらも蔑まれる一族だったのだ。

 だが、若者は選定の剣を抜いた。剣は大王グウィンがもっとも尊い精神と強きソウルの持ち主を選ぶために作り上げたものだった。太陽の光の神の国(アノール・ロンド)中の兵士騎士戦士たちがこぞって抜こうと試みてもまるで抜けなかったそれを。

 若者は王城へと赴き、光が如き神に跪き忠誠を誓った。

 

 曰く、忠実であれ。

 曰く、強くあれ。

 曰く、正義を成せ。

 曰く、王の敵を打ち倒せ。

 

 若者は剣を受け取ると一礼をした。

 

 若者は剣に選ばれたが、強いわけではなかった。特殊な力も持ち合わせていなかった。神の加護こそ受けていても、ひとたび傷つけば他の神や巨人たちと同様に死を迎えるしかなかった。死を超えた種族はこの世にたった一種類。若者は、その種族ではなかった。

 若者の未熟さを守るために身には不相応な守りの盾が作られた。闇を払い、火や雷ですら通さぬ城砦のような盾だった。

 未熟な若者はあるとき鍛冶の神に問いかけられた。

 

 剣と盾とどちらが大切だろうか。

 

 若者は迷いなく剣と答えた。

 神は言う。しかしそれでは守れない。剣で守れるものはないのだと諭される。

 若者は文字通りに若かった。がむしゃらに戦った。自身の力を過信していたわけではなかったが、強さを手に入れるにはそうする以外になかった。後に無双と称えられるようになる騎士とて、はじめからそうあったわけではなかった。

 山に繰り出しては闇の眷属と死闘を繰り広げ、漆黒の一ツ目の竜と熾烈な殺し合いを演じた。神から離反した巨人を殺した。盗人たる人間をその手で握りつぶした。太陽の光の王に背く神との戦において最前線を率いたこともあった。混沌から生まれた歪な怪物(デーモン)を討伐するために騎士たちと肩を並べたこともあった。王都を守る騎士と数え切れないくらいの鍛錬を重ねた。

 あるとき若者は不覚を取った。戦いに夢中になり孤立し、盾を失い、剣で攻撃を受けた。大王の作らせた大剣はあっさりと折れてしまった。

 見上げるような背の丈をした巨人の矢が戦場に降り注ぐ。闇の眷属の群れが戦列ごとなぎ払われる。

 戦場に雷が轟いた。獅子騎士の十字槍が闇に侵された竜を蒸発させていた。

 毒々しいまでの青で身を着飾った仮面の一団が敵戦列横合いから殴りつけた。踊るように死がもたらされる。

 若者は、若さゆえの慢心のために死にかけた。盾など不要であると言ってのけておきながら盾を失ったことで、死に限りなく近づいたのだ。

 若者はしばし旅に出た。

 深き森へ入ったときに、しゃべる猫に出会った。

 お前さん、情ってものがあるならあいつを助けてくれよ。

 それは怪我をした一匹の狼だった。狼はひどく衰弱していた。足にかかった毒を塗られた罠のせいで命は風前の灯だった。最初はきっと気まぐれだったのだろう。どちらかといえば話すことが苦手な若者は寡黙に治療を始めた。

 狼―――犬の眷属というものは、命の借りを一生をかけて(むく)いるものだ。名を持たなかった狼の仔はシフと名付けられた。シフは若者の治療もあってかあっという間に完治した。己の未熟さを克服したい若者が森で修行をしているのだと知ると、自らも剣術を使いたいといい始めた。

 若者の剣術はまさに無手勝流だった。多くの眷属を屠り、竜を殺し、怪物を討伐してきたことで得た膨大なソウルによって、戦場を馬も使わず縦横無尽に駆け巡りひたすら殺すための技術だった。時に宙を跳び、時に盾で殴り、時に地を這い、まさに狼の狩りにも似た(けだもの)じみた剣術であった。神々の中には若者のそれは剣術などではなく、怪物そのものであると評したものがいたほどに。

 狼の仔ははじめ木の枝を剣に見立て、口を手として振り回そうとしていた。人型が使う剣術を狼が模倣したところで真似できるものではない。改良(アレンジ)が必要だった。

 若者は自らの技術を教える代わりに、多くをシフから、大猫アルヴィナから、森から学んだ。狩りの手法を。生き残る術を。孤独な戦いを続けていた若者にとって、森はまさに奇跡の土地だった。

 暫し後に若者は王城へと帰還した。小さき狼を連れて。

 

 若者の瞳は光で溢れていた。

 王から打ち直された(エクス)剣を授かったとき、今までの鬱蒼としていた心にかかっていた雲が全て消えていくのを感じた。

 弓の神とも崇められる腕前を持つ鷹の目ゴーと語らい、酒を飲んだ。世界の始まりをよく知る彼の話は若者の心臓を高鳴らせた。

 騎士団長を勤める獅子騎士との試合に臨んだ。打ち直された剣はかの者の雷を跳ね返し、穂先をはじき返した。

 王の刃の長と肩を並べ歩いた。人間と大差ない体格をした彼女と若者が並ぶ。お互いの目線が合う程に、両名の背丈は似通っていた。長が傍らで舌を覗かせて息をする狼について言及すると、若者は笑った。躾けるなどとんでもないと。おかしな奴だと長は喉を鳴らして笑った。

 

 あるとき、ロイドの騎士たちの間で不穏な噂が立った。罪びとを捕らえる彼らには裏の任務が与えられていた。すなわち、人間だけが持つ闇のソウル(ダークソウル)の証を身に宿した罪人が現れたのだと。殺しても殺しても死なない死刑囚がいたとしよう。もはや通常の法は役に立たず、蔓延すれば、神族の立場が脅かされることは明らかだった。

 大王グウィンは人間を恐れていた。人間は知らぬことだが、世界の始まりのソウルを持って生まれた一人が、彼ら人間の祖先だった。太陽の光の王のソウルを『光』と定義するならば、人間のソウルは『闇』だった。

 

 それは愛であり、友情であり、望郷であり、あたたかく、どんな深みにも沈む。

 そしてそれはいつか、世界の枷になるという。

 

 闇のしるしを持ったものを捕縛して遠い牢獄に閉じ込めたこともあった。

 輪の都と呼ばれた牢獄の国へと人間を閉じ込めたこともあった。

 だが彼らの増加はとどまることを知らなかった。

 

 そしてあるとき、魔術の国として知られたウーラシールで封じられていた古い人の獣が目覚めたという報せが入った。

 混乱を極めた時代である。安住の土地を求めて。太陽の光の神の国(アノール・ロンド)を離れた神まで現れた。

 大王グウィンは剣以外の全ての力を親族に分け与え、探求の旅に出ていた。全ての始まりたる特異点。根源の渦たる『最初の火』へ自らをくべるために。騎士達は二分した。王都を守ることを選ぶもの。王に付き従い後を追いかけたもの。若者は王都に残り任務に徹することにした。命令が下った。ウーラシールの怪物を討伐せよと。支援が受けられぬ今赴いたところで自殺行為であることは目に見えていた。それは苦渋の決断だった。王都の軍を指揮する獅子騎士も悩みすいた末に考え出した選択肢だった。

 放置すれば深淵が広がりを見せ、世界を深海へといざなうだろう。

 だが派遣すれば、そのものは単身で深淵に挑むことになってしまう。

 四騎士はいまやバラバラに寸断されていた。獅子騎士は王都を動けず、王の刃は既に組織力を失い、鷹の目は幽閉されて兜に樹脂を塗られる辱めを受けていた。

 苦渋の決断を聞いた若者は笑った。

 

 より多くの笑顔のために。

 

 ウーラシールへ赴いた若者は度重なる戦いで疲弊していた。あろうことか後をついてきた相棒たるシフまでも闇に飲まれかけた。先を急がねばならない。若者は、自らの破滅を知りながらも盾を結界に見立て置いていくことにした。

 

 勝てるかもしれない戦いは、勝てるはずのない戦いとなった。

 闇の泥にまみれた若者はついに倒れ、膝を折った。

 これが真実だった。深淵を踏破したものであるという伝説はその実、史実の側面を映したに過ぎなかったのだ。若者は闇の怪物に屈してあろうことかウーラシールを徘徊する闇の眷属に成り果てた。時空の果てからやってきた勇者に止めを刺されるまでは。

 腕は折れ、盾を失い、全身を闇の青い汚れに浸しながらも奮戦し、ついに敗れたのだ。闇のソウルに侵食されていた肢体が力を失っていた。

 最期の瞬間に若者は兜を取った。

 金糸を兜の邪魔にならぬように後頭部で纏め上げたシニヨン。陶磁器のように白い肌は疲労でくすんでもなお輝いていて、形のよい鼻筋の上には強い引力を宿す翡翠の煌きが一対並んでいた。うら若い乙女の相貌だった。

 女だったのか。

 驚愕する未来からの人間に若者が笑った。

 そなたもではないか。

 

 

 かくして英雄は英雄のまま歴史上に刻まれる。真実は文字通り闇に葬られた。

 若者が―――深淵を歩いたとされるアルトリウスという男装の騎士が愛した狼も倒れた。仕えるべき王さえも。

 

 王を、国を、友さえも守れなかった後悔だけが積もり重なって。

 やり直しの機会を得られるならばと願い続けた。

 若者のソウルは強く、現世に影響を残し続けた。

 

 ソウルは呪いである。ソウル、それは火と同じである。火が強く熾れば、同様に闇もまた……。

 

 自らの遺志だけが一人歩きをして現世でもてはやされる現実に、(ソウル)は疲弊した。

 

 

 強い外側の引力に(ソウル)宇宙(そら)を舞った。

 

 

 誰かが私を呼んでいる。違う理が私を呼んでいる。ならば答えよう。今度は守り通す。誇りに誓って。

 

 

 

 

 若者は世界を超越した。

 

 

 

 

 

 

 一人の男子生徒が青服を纏った猟犬に追いやられ逃げ回っていた。相手は血の色よりなお赤い槍を構えていた。音さえ無為なものとして機動できる人外相手についこの前まで学びを本業としていた学生相手では、赤子の手を捻るようなものだった。工房――もとい土蔵へと蹴りこまれた男子生徒は武器を探そうと躍起になっていた。

 

 「あばよ。今度はくたばって動いてくれるなよ小僧。ったく同じ相手を二度殺すなんざ胸糞悪いぜ―――」

 

 男子生徒――衛宮士郎が“投影”魔術で作り上げたガラクタを強化しようと呪文(自己暗示)を唱えんとする前で、槍兵が敷居を跨がんと歩を進めていた。

 

 「くそっ……こんなところで……」

 

 衛宮士郎の魔術回路が白熱する。死を前にした肉体は痛みという自己防衛本能を切り捨てていた。

 腕が痛む。頭が沸騰してしまいそうだった。

 全て忘れろ。自分に鞭を打つ。奥歯をかみ締め、へたり込みそうになる足を持ち上げる。

 

 「死ねるかあああっ!」

 

 地面に描かれていた魔法陣というにはおこがましい線と記号の配列が輝いた。神々しいまでの輝きに場の人物みなが硬直する。光は粒子となり、土蔵の埃を舞い上げて渦巻いた。魚群が群れを成すように光が収束しては離れを繰り返し、ついに結晶化した。

 光のノイズを伴い、花緑青(ろくはなしょう)が輪郭線を得た。

 

 青と銀を基調とした無骨な形状が現世に降臨した。

 左手に担われるは人類が担ぐには巨大すぎる一振り。

 右手に握られるは暗銀の大盾。

 かちゃりと音を立てて狼の睨み付けを思わせる兜がこすれて音をあげた。後頭部に伸びる飾りが獣の尾のように揺れる。表情を隠すように覆われた青布の奥に凛とした顔立ちが青年を見下ろしていた。

 唖然として腰をついたままの青年を前に、騎士は静かに問うた。

 

 「―――――問おう。そなたが私を求めたものか」

 

 この日、この一秒を衛宮士郎という人間が生涯忘れることはないだろう。

 ここにありえないはずの別次元、別世界、並行宇宙を超越した運命の出会いが成立した。



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死闘

なんとなく続いた


 主君というものは、どっしりと構えているものだ。太陽が不動なように。

 

 騎士が言った。

 

 それは流星群だった。真紅の流星群が大気中に無数に放たれていた。人類の限界の先へと到達した異次元の攻撃は一見不規則にばらまかれていたが、人体の構造上距離感を掴みにくい額から始まり首心臓肝臓股間膝とかするだけで致命傷となりうる箇所を狙い済ましていた。

 冷兵器は射程がものを言うのだという。すなわち攻撃とはリスクを負わずして敵を抹殺できることが至上であり、故に槍は比較的安全で、使い手に担われるや否や一騎当千の武器となるのだと。

 怒涛の攻撃はしかし鉄壁の盾に遮られ効力を発揮できないでいた。

 

 「ちぃっ! だがその盾、いつまで持ちこたえるかな!?」

 

 槍兵が悔しそうな口上をあげたが、表情は好戦的そのもの。必ず心臓を射抜く呪いを与えられた槍でもっても傷一つ付かない暗い色の銀盾を捲くらんと、肉食獣じみたフォルムの肢体を使う。

 

 「特別な祝福を受けた盾だ。貴公の槍もさぞ名のある鍛冶が打ったものなのだろう」

 

 赤いグラデーションが宵闇を切り裂く。遅れて大気の炸裂音と、盾表層を走り抜け上下左右に分かれていく衝撃波が地面を揺らす。

 槍兵がバックステップ。距離を取り手に柄を馴染ませた。距離にして三間半は離れている。それは槍の有効射程内であり、同時に迎撃圏内である。

 騎士が盾で身を隠しながら駆けた。

 

 「シイッ―――」

 

 歯の隙間から吐息を抜く。白皙の頬に朱色が灯る。

 なぎ払い。大重量が駆動することによる慣性を活かし騎士が跳ねる。狼が疾駆するが如く五体を投げ出し刃を縦に三度回転させた。パァン、と拳銃のような炸裂音が響く。

 槍兵が距離を取ると同時に穂先を滑らせた。赤い残光が唸りを上げ、宙を撫で斬る。狙いは騎士の着地の隙だ。

 

 「背中がガラ空きだぜ!」

 

 相手に対し背を向けるような挑発の姿勢。槍兵が死を繰り出した。

 火花が咲き誇る。にび色の特大剣が中空を独楽のようにかき鳴らした。身体の柔らかさと、細腕からは想像も付かぬ怪力がもたらす回転斬りが突きをいなしたのだ。

 槍が空間を射抜く。無数に射出されるそれを第三者たる青年は捉えることさえできなかった。

 剣と盾が直射を打ち砕く。数十合重ねても騎士の体に傷一つ付かぬ。

 騎士が動いた。担いだ剣を振り回し背中をさらす。槍兵が介入せんと武器を照準した時には既に盾が射線を妨害していた。盾という壁が、足運びにより体当たり攻撃を生み出す。槍兵が下がった。

 

 「やるじゃねぇか!」

 「貴公こそ!」

 

 槍兵と騎士が互いに賞賛の言葉を投げあう。

 騎士の剣術はいっそ蛮族染みていて、オーソドドックスな騎士の戦い方とは大きく異なっていた。槍兵にはむしろ好ましく感じたことだろう。騎士という存在が形骸化し礼式に囚われた身分にまで貶められた時代のそれではなく、騙まし討ち裏切り奇襲に伏兵なんでもありの分かりやすい殺し合いに発生した戦い方に似通っていたからだ。

 

 「貴公、名はなんというか」

 「悪ィがくそったれのお陰で名乗りすらまともにできやしねぇ。俺は槍兵(ランサー)であんたは剣士(セイバー)。それじゃだめか」

 

 名乗りはできないが、身分(クラス)は名乗ることができる。槍兵は主人(マスター)の命令には忠実だったが、命令の抜け穴を突いたのだ。彼は忠犬であって、猛犬だった。時に必要なら主人の声を無視することくらいはできた。

 クラス。聖杯戦争。騎士の記憶に情報が勝手に追加されていく。同時に現代の情報が理解できるようになる。科学の発展した違う世界。騎士が銃によって淘汰された遥かな未来の世界。あるいは並行世界。騎士は思わず空を仰いでいた。銀色の月。この世にも太陽はあるのだろうか。あるとすれば、また翳ることもあるのだろうか。

 騎士が視線をそらしたのは一瞬のこと。盾の先を地に下ろし、剣の切っ先を照準する。戦闘で帯びた熱を排気するが如くほうとため息を漏らす。

 

 「私は剣士ではなく弓兵かもしれんぞ。あるいは魔術師であるとも考えられる」

 「抜かせ。どこの出だから知らんが剣と盾を使う弓兵がいるか。いたとしたらそいつはペテン師だ」

 

 槍兵の言葉はどこかの誰かを指し示しているようだった。何かを思い出したのか苦虫を噛み潰したような表情がちらつく。

 

 「む……確かにそうだ。私は剣士(セイバー)クラスらしい。初体験だからな許してほしい」

 「オイ。知ってるだろうが聖杯戦争の記憶は持ち越せないぞ。そういう意味じゃ俺も初体験ってことになるわけだが」

 「おお、それは行幸だ。同じ初体験仲間ということだ」

 「……あのなあ」

 

 騎士が暢気に頷く。誤魔化そうとしたらしいが、相手の指摘を受けてすぐに間違いを認めてしまっている。正直者の気質があるのか、槍兵が呆れて首を振った。

 

 「まったく戦場でやるような会話じゃねーぜ。まあ俺たちゃこの世一番親しい仲になったからな。悪くない」

 「ほう、どのような」

 「殺しあう仲さ。命のやり取り以上に親しい仲もないだろ?」

 「違いない」

 

 さてと。槍兵が兵器を背中でくるりと回し腰を落とした。

 

 「お嬢ちゃんとの会話もいいが武器で語るほうが俺は好きでね。目撃者はみんな消さなきゃならん。そこでお前さんを援護したくてたまらんって顔をしてる小僧はとくにそうだ。いい目をしている。鍛えりゃいい線いくだろうな。人生が終わりにならなきゃだが」

 

 青年こと士郎がガラクタの中から拾い上げてきた鉄パイプを握って様子を伺っていた。異次元の戦闘を前に怖気ついたのはわずかな時間だった。自身を守ってくれた少女姿の騎士の援護もとい身代わりになろうと、距離をはかっていたのだ。

 

 「ぐ……」

 

 猛犬の牙を見て士郎の脚が縫い付けられたように止まった。青年はこの場に不釣合いだった。たかが強化の魔術によって存在を高められた鉄パイプでは、槍兵が武器を使うまでもなく圧倒されてしまうだろう。実力は天地ほど離れている。間に入る、援護する、などおこがましいにも程がある。

 騎士がにっこりと口の端を持ち上げた。甲冑を鳴らしながら己を現界させた主人と槍兵の間に入り剣を担ぐ。

 

 「あまり我が主(マイロード)を怖がらせないようにお願いしたい。貴公と私の間で死合い、雌雄を決する。私が敗れたのならば我が主(マイロード)に手を出すことはしないようにお願いしたい」

 「ちっ! イカれた剣術使いやがる癖にいっぱしの騎士みてぇな口利きやがる。俺もそうしたいとこはヤマヤマなんだが、後ろで見てる問屋がそうは卸さんっておっしゃってる」

 

 騎士の言い方はまるで自身が負けるすなわち殺されることを前提としているかのようだった。

 衛宮士郎という人間にはこれが我慢できなかった。騎士の隣を過ぎ、前に出て武器を構える。

 

 「それはだめだ! 殺す殺されるなんて……」

 「我が主(マイロード)

 

 騎士が士郎の腰を掴むと背後に押しやった。青布の奥で若い宝石が柔和に笑う。しかし士郎にはその笑みは狼が牙をむき出しているようにしか見えなかった。

 騎士が囁く。

 

 「私は負けない。だから―――チッ。伏せろ!」

 

 二名が同時に動いた。

 槍兵が何かを察知し槍を手に戻す動き。

 騎士が士郎を盾の後ろへと引き寄せ抱きしめる動き。

 

 遥か遠方から“剣”が槍兵の頭部目掛け明白な殺意を持って飛来した。

 

 「――しゃらくせぇッ!!」

 

 殺意をむき出しにした攻撃ほど読みやすいものはない。

 槍が軌道を完全に読みきっていた。直進する軌道を反対側へといなし、次の攻撃に備えようとして、

 

 「クソ! 追尾する剣だと!?」

 

 弾き飛ばされた剣が大地を抉り、土壁に突っ込む寸前に軌道を捻じ曲げた。スラストベーンでもついているかのように切っ先を曲げるや、弾かれたように槍兵の胴体目掛け直進する。弾く、跳ね返る、けれど剣は意思があるかのように何度も何度も執拗に槍兵を狙い続けた。

 第三者による横槍を受けて猛犬が騎士を睨み付けた。はめられたか。騎士は囮で狙撃役が止めを刺す。戦場ではごくありきたりの光景だが、どうにも眼前の騎士らしからぬ行動だった。タイミングとしてもおかしい。マスターであろう手に令呪を帯びた男を前面に出すというリスクを負う理由もわからない。

 槍兵は脳裏に囁かれる撤退命令に犬歯をきりきりと鳴らした。背後から襲い掛かる剣を槍の高速回転で弾き、地を蹴った。

 

 「勝負はお預けだ! その心臓、俺が必ず貰い受ける!」

 

 槍兵が青い閃光と化して疾駆した。後を剣が追いかける。

 あっという間に場に静寂が満ちた。

 騎士がため息を吐くと、胸に抱えた愛しき主の頭を撫でた。

 

 「ふう。行ったようだな。後を追いかけるか? 残るか。命令を、我が主(マイロード)。追いかけるならば伏兵、狙撃、罠、誘導の可能性が……」

 「あ、あ、えっと……セイバー? さん。離してもらえないですか。苦しいです」

 

 妙に堅苦しい口調で士郎が呻いた。女性に対する免疫が低い男が唐突にモデルなど歯牙にもかけない美貌を宿した乙女の胸元に抱かれるとどうなるか。男に二度も殺されかけたもとい一度殺された後にもう一度殺されかけるという衝撃も去ることながら、高原に咲く一輪の花のような美しさという雷に打たれて思考が麻痺しかかっていた。例え甲冑越しとはいえ顔と顔は触れ合うような距離にあるし、鼻腔を付くかすかな女性の気配(におい)が感覚を痺れさせていた。

 

 「断る。すまないが敵がいる。乱入してくるとは、とんでもない奴らだ。私はここにいる。隠れてないで降りてきたらどうか!」

 

 騎士が声を張り上げると、主を盾の後ろに隠した。

 すとん。街路樹と土壁を乗り越えて主従が姿を現した。

 赤と黒という共通点を持ちながら、男と女という相反する性質を持った一対。漆黒を両側で結い上げた線の細い少女と、竜骨のような厳しい筋肉に武装し黒白二色の(けん)を佩びた男が地に足を付けたのだ。

 赤黒二色の男と騎士の視線が絡み合う。片やいぶかしむような目つき。片や、推し量るような、疑念と一抹の懐かしさを宿した目つき。

 果たして沈黙を破ったのは騎士の胸に抱かれていた青年だった。抱えられたままでは恥ずかしいという単純すぎる理屈で盾の影から這い出てきて、口を結んで立ち尽くす二名の人物を認めたのだ。男の方はわからないが、少女の方には見覚えがありすぎる程あった。

 

 「遠坂!?」

 

 穂群原学園2年A組。学園一の美人。アイドル。高嶺の花。赤い女が仁王立ちしていた。

 にこにこ。いっそ不気味なほどの朗らかな笑顔を浮かべつつ遠坂凛が歩み寄る。

 

 「衛宮くんごきげんよう。美しい夜ね」

 「あ、あぁ」

 

 言葉の裏にある強制力に士郎の額から頬に汗が伝った。

 逆らったら殺す。逆らわなくても殺す。赤い悪魔の微笑みだった。

 高嶺の花はどうやら猛毒を持っていたようだった。

 

 「少し、話をしないかしら」

 

 少しどころでは済まないのだろうな。

 騎士はマリオネットかくやかくかくとした動きで少女を案内する主の姿を見てふむんと鼻をならした。




アルトリウスの隙だらけのぶん回し薙ぎ払いはその隙を盾で隠すのが本来の戦い説を押したい。バッシュに繋げたりしていたのではないか。
全盛期でしかも宝具勢ぞろいなのでエクスカリバーと盾とシフとか呼べるんじゃない(適当)
外見はまんまアルトリアだがfate初代のと槍の使い手になったアルトリアの中間くらいの見た目の想定

続くかどうかはダクソ2で初見ヒントなしでつるはしゲットできるくらいの確率。完結はアーマードコアが発売されるかどうかの確率

未使用音声聞く限り古臭いしゃべり方っぽい。好青年。シフなんかにはタメ口でしゃべったりするので仲良くなると男口調でフレンドリーに接してくる系のつまり作者の人間性に染みる性格以下略


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同盟

あったよつるはしが!(聖杯戦争島)


 弓兵は一人屋根の上に佇み弓を片手に見張りをしていた。千里眼とも呼ばれる弓兵特有のスキルは実に数キロメートルを有視界とし、音速を超えて放たれる一撃は針の穴を通すように正確である。見張りとしてこれ以上うってつけのものはなかった。

 

 「………」

 

 戦闘に使う思考と、平常の思考は完全に独立している。仮に呆けていても手は自動的に接近する脅威を打ち落とすことができる。

 正義の味方を目指し人を救い続け、しまいには汚名着せられ絞首刑。世界の守護者として剣を振るう。けれど役割といえば大多数を生かすために少数を殺すという単純極まりない役割だった。それが世界の定めた正義の味方であるならばきっと抱いた理想自体が間違ったいたことになる。人生の根本を否定された男がたどり着いた結論は一つだけ。かつて愚かだった己を抹殺し歴史の改変を祈ること。

 騎士に守られたかつての自分を見たときに抱いた感情は、殺意と、諦めと、驚愕だった。

 あの騎士はなにものか?

 自分の知る聖杯戦争で召還されたのはブリテンの統治者アーサー王であった。真名アルトリア・ペンドラゴン。だがこの世界で召還されているのは、外見こそ瓜二つだが獣染みた剣術を使う青と暗銀の甲冑に身を纏った乙女だったのだ。ならば格好が違えど彼女もまたアルトリア・ペンドラゴンであると考えるのが普通だろうが。

 

 「あれは違う……聖剣であって聖剣ではない」

 

 己のときとは異なる状況に弓兵は咄嗟に騎士の剣を解析していた。

 

 その剣は真の清らかな騎士を選ぶために神により打たれ、

 戦いの中で折られ、

 打ち直され、

 主人と幾たびの戦場を経てなお負けを知らず、

 最期まで共にあり、

 故に■に飲まれ、

 遥かなる後世に遺志を引き継がれた剣だった。

 

 聖剣であって聖剣ではなく、

 魔剣であって魔剣ではなく、

 己の知る約束された勝利の剣と同等の存在骨子をしていながら、異なる次元の同一存在だった。

 ならばその担い手もまた同一でありながら異なる次元の存在であることが容易に想像できた。

 アルトリア・ペンドラゴンであってそうではなく、アーサー王であってそうではない、存在と考えるのが自然か。

 

 あろうことか英霊の身である男が解析をしても、解析しきれない部分があった。直視してはならぬ、と本能が叫んでいた。触れば最後どこまでも落ちていくような、恐怖が剣の歴史にはあった。剣であって剣ではない歴史があったのだ。

 

 「よっと。ふぅむここがいわゆる現代という世界か。聳え立つような岩の塔といい、人の力はやはり侮れない」

 

 独り言なのか誰かに話しかけているのか、屋根の上にもう一人がやってきた。青と暗銀の鎧の主だった。

 

 「待ちたまえ。まだあの小僧と(マスター)の協定が成立したわけではあるまい。私と君との関係は共に肩を並べ敵を迎え撃つ間柄にはない」

 「気を張り過ぎるなよ。我が主(マイロード)のことを小僧呼ばわりすることに対して文句があるわけじゃない。あの娘、根っこの部分がとことん善人だな。やろうと思えばすぐにでも手をかけられるだろうに、懇切丁寧に魔術から始まり聖杯戦争について説明してやっている。魔術師らしかならぬ行動だと思うからに、きっとそのうち協定を結ぼうと言ってくるに違いない」

 

 黒赤の男の隣、丁度視界の隅に映る位置に青銀が腰掛けた。盾は背中に、剣は抜き身のまま手元にあった。

 騎士がほうとため息を吐くと胸を押さえた。とんとんと鎧越しに胸を叩いている。

 患っているかのような行動に弓兵がちらりと視線をやった。

 緊張の余り脈拍があがっているなどとは想像もできなかっただろうが。悲しいかな、騎士は獣相手には饒舌になれるが同属や人相手には極端に無口になるか、まくし立てるだけまくし立てて突然押し黙る系列だった。

 騎士が腰を上げた。

 

 「予想が的中したようだな。協定……共闘戦線というべきかな。これで我々は同志だ」

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 いやな予感はしたのだが、魔術師とは何かというクエンスチョンに対し魔術師って魔術を使う人のことだろ?というクエスチョンマークが返ってきた段階で予想が的中していることが明らかになった。

 魔術師とは万物の始まり(アルファ)であり、終わり(オメガ)である根源と呼ばれる地点への探求者であり、唯一絶対の統一理論を求める数学者のあり方に近い。間違っても魔術を目的遂行の為に行使する人間のことではなく、青年の――まだ少年と表現しても差し支えのない衛宮士郎の認識が下手すれば素人並みであることがわかってしまった。まれにいるのだ、魔術回路を自然発生的にもって生まれる人間が。その偶然に、非常識な誰かが知識を授けたとすれば、そもそも魔術とは何ぞやという初歩すらわからない魔術使いが誕生してしまうことも、宝くじ並みの確率であるが、十分ありうる。

 赤の少女――凛は己の不覚を悟った。

 

 「まさか魔力量が少なすぎて探知にかからないなんてね……」

 

 魔術師は魔術を少なからず発するものだが、士郎の魔力量は素人魔術師よりなお低く、生体が発するそれと大差なかったのだ。冬木の土地における凛の探知網を潜り抜けようとしたのではなく、閾値に達していないから反応しなかった、が正しい。

 一通りの状況を把握したもといさせられた士郎は椅子に深く腰掛け拳を握り締めていた。殺し合い。つまるところそれは正義に反する行為で。自分にできることはないか、何をすればいいかを考えていた。

 

 「衛宮君。あなたには二つの選択肢がある。マスターになった以上、半人前だろうがなかろうが参加者。降りるか、乗るか。降りるならばセイバーとの契約を解除して教会に保護を求めなさい。乗るなら、例え一時的に私と共闘したとしても、セイバーかアーチャーが死ぬまで殺し合うことになる」

 「知ってる。出来れば敵同士にはなりたくない」

 「甘さは身を滅ぼすわよ」

 

 うん、と士郎は言うと真顔で続けた。

 

 「俺、おまえみたいなヤツ好きだ。殺すとか殺されるとか間違ってる」

 「な」

 

 少なからず、無自覚ながら、遠坂凛という人間は衛宮士郎という人間について意識している。だからこその態度対応でもあるのだが、直球過ぎる物言いに頬に朱が差した。

 

 「な……ば、ばかおっしゃい! ド素人魔術師の癖にあんた状況わかってるわけ!?」

 

 凛は被っていた巨大な猫をぶん投げて吼えた。説明のときはまさにお嬢様のものいいだったというのに、唐突に素を出してきて士郎がたじろいだ。

 凛は机の上の茶で唇を湿らすと腕を組み相手を睨み付けた。

 

 「私たちならいいわよ。勝てると言い切れる実力があるからね。でもあんたらの凸凹コンビじゃその辺でアウトよアウト。セイバーは優秀でも魔術師が付け焼刃じゃ無理ね。最初はなんとかなるでしょう。でも息切れするか不意打ちなり食らってアウト。かけてもいいけど生き残れない」

 「わかった。遠坂、俺に魔術を教えてくれ」

 「魔術師に限らないけれど―――この世の中はギブアンドテイク。あなたに何が差し出せるのかしら? 魔術使いさん」

 

 凛が余裕を取り戻した。さあどうだと言わんばかりに小難しい顔をする士郎に手を差し出してみせる。

 士郎が面を上げると手を取った。凛の細い造形の肩が跳ねる。

 

 「つまり提供できるものがあればいいのだな」

 

 唐突に空中に声が出現した。丁度士郎の背後に銀色の鎧を纏ったセイバーがあらわれたのだった。椅子を引き寄せて腰掛ける。

 

 「隠すまでもないのだろうな。魔術師。貴公は優秀なようだから。私は聖杯戦争においてセイバーのクラスで召還されたものである。行けと言われれば行こう。守れと言われたら守ろう。それではだめだろうか」

 「ふーん……私の指示にしたがって戦ってくれると。そういうこと?」

 「うむ」

 「………はあ。これも心の贅肉ね」

 

 なにやら凸凹コンビにはわからない独り言を凛が呟いた。

 

 「わかった。条件を飲んであげる。ただしもう一つだけ確認したいことがある」

 

 凛の鋭利な瞳が騎士を見据えた。

 

 「貴方何者なの?」

 

 騎士は良くぞ聞いてくれたと咳払いをして、それから士郎を見遣った。

 

 「身分、名前、出身を明かすと弱点になりうる。構わないだろうか」

 「ああ。話してくれ。俺もセイバーの名前すらわからないしな」

 

 騎士は机の上で両手を合わせ身を乗り出した。

 

 「我こそは始まりの騎士の血を継ぐもの。大王グウィン配下。四騎士が一人。アルトリアである。後世ではアルトリウス、アーサーとも呼ばれているようだ」

 「ん? ん? ちょっと待って。つまりアーサー王? でも女の子じゃないあなた」

 「はっはっは……私は王という器ではないよ。確かに女性であることは認めるが、なに、逸話が捻じ曲がって伝播するなどよくあることではないだろうか」

 

 凛の眉間に皺が寄る。

 アルトリウス。アーサー。そして騎士。ここまでくればイギリスもといブリテンの守護者として名高いアーサー王以外に他ならないはず。曰くアーサー王は男で、騎士で、エクスカリバーという剣を持っていたそうである。合致するのは名前と、武器くらいなもの。グウィンなる王など聞いたこともないし、まして四騎士などという単語もわからなかった。

 すると騎士は同じように眉間に皺を寄せた。

 

 「並行世界。私の世界においては並行世界、別の時間軸の住民を召還する技術はありふれていた。思うにここは私の世界ではないのかもしれない。あるいは私自身が人類史より遥か以前の文明の出身なのか」

 

 並行世界の運用。それは凛が目指す“魔法”の一つであった。ごく自然に語られる魔法についての話への突っ込みはぐっとこらえ、追求を重ねていく。

 

 「要するに並行世界のアーサー王。その一つの可能性ということかしら」

 「ああ、その答えの方が美しい。もっとも私は王ではないが……説明が下手で申し訳ない」

 「証明できるのかしら」

 

 凛が挑発的な言葉を投げた。すなわち自分自身がアーサー王の一つの可能性であることを示せということだ。裏の意図は同盟関係とはいっても最良にして最優とも呼ばれるセイバークラスの能力を推し量ろうという考えあってのことであるが。

 すると騎士は仕方がないなと言って手元に武器を顕現させた。

 獣のあぎとを思わせる柄。強固な石突。切っ先は鋭く、剣身は人類が扱える限度を超えた分厚さ。かすかに青みを帯びた見事な特大剣が机に置かれた。机の四本足がぎしりと悲鳴を上げる。

 

 「私が生前握っていた武器だ。つまり宝具だな。証明材料として使えると考えている」

 「アーサー王が握っていたとする武器――――」

 

 士郎が剣に手を触れて呟いた。

 

 「エクスカリバー………」

 

 士郎の上半身がばたりと寝た。ふざけているのかと凛がいぶかしむも、セイバーがすぐさま肩に手を置いたことで腰を上げざるを得なかった。

 

 「衛宮君!?」

 「我が主(マイロード)!」

 

 二人分の声が重なった。




人間性を解析するとどうなるの→こうなる

アルトリウスさんのステ妄想
実は火の時代が現代のさらに大昔だったんだよ説になるといろいろとアップする

【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【固有スキル】
神性:D
 神霊適性を持つかどうか。
 はじまりの騎士の眷属であり、神族の一柱と考えることもできる。
 召還先と召還元の神の概念的差によりランクが低い。

無双騎士:A
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 身体的・精神的制約の有無に関わらず常に最良の戦闘能力を発揮できる。

戦闘続行:A
 生還能力。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。


【宝具】 こっから下はうまい感じの文がおもいつかない。ダクソ的な文でごまかす
『灰色の大狼(グレート・グレイ・ウルフ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
アルトリアが数少ない友とした規格外の体躯を誇る大狼。
ランク相応の技量を持つ擬似的なサーヴァントとして運用することができるが、
自らが目上と認めた相手にのみ従う。

『不朽大剣・深淵踏破(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
別次元の約束された勝利の剣。
この剣は打ち直され、最期まで主と共にあり、
故に闇に飲まれ、しかし朽ちず後世に狼血の遺志は引き継がれた。
星によるものではない“神”造兵器であり、神聖属性を帯びている。
聖剣であると同時に魔剣であり、特に霊体に対しては常時クリティカルヒットを発揮する。

『暗銀の大盾』
ランク:? 種別:結界宝具 防御対象:1人
別次元における全て遠き理想郷。
この盾を主は友のため自ら手放し、故に闇に飲まれた。
あらゆる攻撃や異常に対する守りの要であり、特に闇に対する加護を強く宿している。
盾としての機能を放棄することで物理・魔術結界を展開可能。

ランク:? 種別:? 対象:1人
深淵の契約
セイバークラスを棄却。
擬似的なバーサーカークラスとなり、理性と引き換えに大幅な能力上昇と、“渡航”の能力を得る。
ただしセイバーがこの宝具を嫌悪しており通常使うことはできない。


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 夢を見ていた。

 

 

 果てしない、地平線。

 空は黒く、大地は黒く、大気さえ真っ黒で。

 呼吸さえままならない空間。

 数万の、数億の、無限にも思える生温かいナニカで満ちた、底無し沼。

 

 声がした。

 

 

 この盾を捨てたならば君はきっと破滅するよ。

 誰かが言った。

 

 

 

 理解していた。弱りきった相棒を前に膝を折る。

 盾を捨てねば、相棒を守れない。盾を捨てれば、自分を守れない。

 二者択一だった。

 騎士は迷うことなく盾を捨てた。

 

 ■■■の亡者共が迫っていた。それらはもはや理性などというものは持ち合わせていなかった。いままでの人生で体験してきた愛、友情、憧れ、郷愁、享楽、苦痛……その記憶(のろい)が唯一の理法となっていた。永遠に朽ち果てない朽ち果てることを許されない遺志はいつか腐敗し、ついには単一のものに成り果てる。竜が岩に姿を変えたように、人間という種族もまた、■■の淀みと成り果てる。あるものはそれを祝福と呼び、あるものは呪いであると定義する。確かなのは、自分はアレに太刀打ちできないということだ。唯一対抗できるのは闇側にもっとも近い生命体である人間だけだ。

 

 「貴公はばかな女だな」

 

 暗殺を生業とする王の刃を束ねる女がある日言ってきた。

 続けてこうも言った。

 

 「だが愚か者ではない。まっすぐなその生き方がときにうらやましく眩しく思えるよ」

 「もしかして私はばかにされているのか?」

 

 騎士はむっとして頬を膨らませていた。人の機微に疎いところがあることを自覚しているからこそだった。

 王の刃キアランは騎士に歩調を合わせながらくつくつと喉を鳴らした。

 

 「失敬。ついからかうのが面白くてな。まあ、最初に言ったことは本心だよ。真っ直ぐすぎて曲がれないおおばかものだ」

 「む………いやな女だな、と言ってほしいのか」

 「言える様な性格ではないと知っているからこその言葉だよ」

 「なるほど……かもしれないな」

 

 騎士は言い返さなかった。

 

 君は優しすぎる。だからこそいつか破滅を迎えるだろう。

 誰かが言った。

 

 それでも構わない。騎士は言い返した。

 

 ひとつの剣があった。

 主と共に幾度の戦場を超えて不敗。

 半身のように常に傍らにあり、故に■■に飲み込まれ魔剣と堕ちた。

 決して朽ちず、決して裏切らない。

 だからこそその剣は聖剣であり、魔剣でもあった。

 

 その剣のような生き方の結末をもう少し知りたくて―――。

 

 

 

 

 

 「おはようございます。我が主(マイロード)。ご気分はいかがですか」

 

 士郎は自室で目を覚ました。頭に鉛でも流し込まれたかのように重く、思考が纏まらない。愛用の居心地のよい布団のあたたかさに負けて眼を閉じかけた。

 視界いっぱいに誰かが広がっていた。艶やかな金糸を後頭部で結い上げた乙女が覗き込んできていた。口の端には微笑みが浮かんでいて、片手には衛宮家がとっている新聞――朝刊が握られていた。

 主の視線を感じたのか、騎士は衣服の胸元を摘んでみせた。

 

 「先日は失礼な態度を取ってしまいまことに申し訳なく。私の時代ならともかく、この時代に甲冑姿では衛兵に通報されるとのこと。寝巻きをお借りしてしまったことを報告します」

 

 騎士が着込んでいたのは士郎がローテーションで使っているパジャマのうちの一枚だった。女性としては平均的な体格の騎士が着込んでいるためか、袖は手の半分を覆いつくそうかというほどで、裾はしかし長すぎるということはなかった。

 ――腰の位置が高いんだろうな。

 現実逃避に走った士郎の前で騎士がつい今しがたまで読んでいた朝刊を床に置いた。さっと膝を折り跪く。

 

 「サーヴァント・セイバー。名をアルトリア。なんなりとご命令を」

 「な、な……」

 

 袖余りの服という格好にさえ目を瞑れば絶世の美少女が跪き従者として頭を垂れている、という場面。疲労の為か、傷のためか、あるいは早朝という時間のためか思考の鈍い士郎の頭を混乱状態に陥らせていた。

 騎士は目を閉じたまま動かなかったが、ややあって面をあげた。

 

 「そうだ、すっかり失念していた。我が主(マイロード)、あなたの名前を伺いたい。ほかの誰でもなく、あなた自身の口から」

 「あ、え……名前……?」

 

 そういえばと士郎の頭脳がようやく回転を始める。セイバーの名前は聞いていても、自分は名乗っていなかった。

 

 「衛宮だ。俺は……衛宮士郎。さっきから気になってたんだけど主とか、サーヴァントとか、堅苦しいのはやめにしないか」

 「………と、ということは同志……と?」

 「友達じゃだめなのか? 知り合って一日も経ってないけど、俺、セイバーみたいな奴好きだ」

 

 ポッ。擬音が出るのではと錯覚するくらいには明らかに目に見えて騎士ことアルトリアの頬に朱が差した。

 

 「ゆ、ゆうじん……そ、それではシロウと。わ、私としてはこの発音の方が好ましい」

 

 ―――わかりやすいなあ。

 機微に疎い士郎でもわかってしまうくらいに、友達になろうと言われてからのアルトリアは大層嬉しそうだった。もし犬や狼ならば、尾が左右に振られていただろう。最もこれから共に轡を並べる戦友、対等の間柄になる相手、ここはやましさを含むが美少女相手、に友達になれるならば、こんなに嬉しいこともなかった。

 こほん、とアルトリアが大げさに咳をした。

 

 「確認したいことが二三点。昨日、私の剣に触れるや否や卒倒したことについてですが」

 「遠坂みたいな一人前の魔術師じゃ当たり前にできることなんだろうけど、解析の魔術を使ったんだ」

 「見ないほうがよいこともあります。あの剣は私の生涯常にそばにあった。喜びも、悲しみも、最期までも知っている」

 

 アルトリアが目を伏せた。

 

 「私の剣は―――神々ですら手を焼いた闇を知り尽くしている。“人間”であるシロウが見れば確実に引き込まれてしまう。解析はしないほうがいいでしょう」

 「なあセイバー」

 「……アルトリア。アルトリアと呼んでくださいシロウ」

 

 アルトリアはぐいと身を乗り出していた。余程友人ができたのが嬉しいらしい。

 

 「セイ……」

 「……」

 「わかった。アルトリア。闇ってなんなのさ?」

 「あ、そ、それは……えー話したくない、といいますか……」

 

 騎士は打って変わってもごもごとあいまいにお茶を濁し始めた。自らの死因ともなった闇の怪物についてしゃべっていいものかと悩んでいたのだ。

 

「わかった。無理には聞かない」

 

 騎士がぐっと拳を固めると士郎の顔を正面から見据えた。

 

 「理由はわかりました。次です。方針をお聞かせ願いたい」

 「俺たち友達だったよな。普通にしゃべることはできないのか」

 「む……それでは………方針はどのようにする? 覇道か。王道か。邪道か。無辜の民を傷つけることは絶対に許されない」

 

 友達という間柄のはずが堅苦しい丁寧口調に戻ってしまうのは騎士生来の性質らしかった。

 

 「絶対に」

 

 ギリリ。奥歯がきしむ音が静かな部屋に響く。

 

 「当たり前だろ。誰かを犠牲にして聖杯なんて手に入れようなんて思わない。セ……アルトリアはどうなんだ。その、聖杯が手に入ったら何かを望むのか」

 「聖杯に求めることは、ない。私自身が掴み取るべきことだ。……しかし、これよりは(いくさ)となる。奇襲、裏切り、間者はもちろん(たみ)を盾にすることも、敵は平気でやるだろう。そのとき、シロウはどのようにするのかを……」

 「それは……」

 

 犠牲がゼロの戦争というのは、外交的解決によって二国間あるいは対立陣営同時が折り合いをつけることだ。外交が破綻し、軍事活動という次の“交渉”へ進んだ段階で、流血は避けられない。聖杯戦争に参加するということは、既に殺し合いが始まってしまっていることを意味する。

 部屋の扉が叩かれた。幽鬼のようなげっそりとした顔をした遠坂凛が扉から顔を覗かせていた。

 

 「お仲がよろしくて結構ですこと。こっちはねえ衛宮くん。ぴくりとも動かないあなたのために使い魔はなったりこの屋敷の魔術を調べたりしていたのだけれど?」

 「ご、ごめん! 解析の魔術使ったら気を失っちまったみたいで」

 「どんな解析魔術だったのかしらね。まあいいわ。セイバーという戦力も手に入ったことだし多少のことには目を瞑りましょう。少し寝るから。布団と部屋を借りるわ。必ず起こしなさい」

 

 どうやら凜は昨晩から一睡もせずに動いていたらしく、表情がげっそりとしていた。作業を重視してのことか髪は下ろされていて、羽織りものを引っ掛けている。

 士郎の視線が時計に滑る。今日は休日ではない。つまり―――。

 

 「朝の準備しないとまずい!!」

 

 朝の支度。朝食。その他もろもろ。何一つやっていないのに学園に行く時間が近づいてきていた。

 士郎はつい今しがた学園一の美人が立っていたあたりを凝視して静止した。

 

 「え……遠坂………え?」

 「こほん。遠坂凛は我らと同盟を結び一時ここを拠点として使えるかどうかの調査を行っていたのだ。夜通しの調査故に、ここに泊まったのだ。幸い部屋はたくさんあったのでな」

 「なるほど……じゃなくて朝食作んないとまずい! アルトリア料理ってできるのか!」

 「丸焼きと塩焼きのレパートリーなら負けぬ。内臓の処理は任せよ」

 

 騎士がふふんと得意げに胸を反らした。

 

 「うわああああ!」

 

 士郎は寝巻き姿のまま部屋を飛び出した。

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 『承知仕った。致し方なかろう。本来であれば主より受け賜りし鎧は脱ぐべきではないのだろうが、この世界では異装束であり目立つ。我が主(マイロード)と、民の安全を守るためだからな」

 

 騎士は凛の想定よりも柔軟な人間性をしていた。

 とにかく目立つのだ、騎士は。アーチャーにせよセイバーにせよ鎧をまとっている。現代において鎧をまとっている人間など礼式を重視した王宮や宗教施設の人間くらいなものだ。そこで聞いたのだ、服を変えることは可能かと。騎士はあっさり承諾したのだった。無論、霊体化すればいいだろうが、日常の警護から世話までやるのだといい始める騎士の要望を叶えるにはそうするのが一番と考えたのだった。

 アーサー王―――……の平行世界のひとつの可能性。戦力として使えることは明らかだった。セイバーを前衛に、後衛をアーチャーが担う。いざとなればセイバーを犠牲にして撤退することもできる。魔術師としてはそれが正解であって、

 

 「したくないなあ……」

 

 できるならば犠牲はゼロでありたい、という一般的な感性。ため息を吐くと衛宮邸の一室に敷かれた布団の中で目を閉じる。制服やら着替えやらは持ってきている。学校に行く前までのひと時を眠っても罰は当たらないだろうと思った。

 明日やること。準備。戦争。参加者が増えたことをあのいけ好かない男に報告しに行くこと。偵察。その他。

 

 「ごっはーんごっはーんおいしいごっはーん!!!」

 

 虎だ、虎が来た。呼んでもないのに屏風から勝手に出てくる系の虎だ。一休が苦笑いするような虎だ。

 凛はああそういえば学園の英語教師と衛宮くんは義理のきょうだい関係にあるとかないとか聞いたような気がするなと思いつつ、我慢せず目を閉じた。

 

 「うっひゃああああああああ! しろーが女の子連れ込んでるぅぅぅぅ!!!」

 

 ……眠れる、だろうか。

 鼓膜を劈く大音響が屋敷を轟かした。




アルトリアさんの優先事項は士郎と民間人の保護なので鎧を脱げと言われたら脱いじゃいます。ゴーなんかは脱がないでしょうけど。
現代を知ろう→新聞を読もう となる程度には順応中。
コミュ障なとこもあるのでキアランに口ではまったくかなわなかった感じ。王って器じゃない性格。聖杯問答とか『知らん。それは私ではなくマイロードが考えることである』とか言っちゃう。

士郎が気絶しちゃったせいで時系列が多少変動中。

料理は一応できる設定。
ただし丸焼き塩焼き蛇やらイノシシやら薬草やらの調理法しかも包丁と素手と塩を使った荒っぽいやつ。


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ほぼ神霊だけど気にしたら負け


 終わらせるということは、始まりと同一の、偉大な業なのだと彼は言った。

 

 

 

 火が渦巻いた。灰が舞う。

 

 気を失った。

 

 夢を見た。

 

 可能性を宿した灰色の霧だけが世界を覆っていた。

 燃え盛る大地。果てしない地平線。空を突く岩の大木。

 そして、命という概念さえ、生と死の輪廻さえ持たぬ、朽ちぬ岩の古竜。

 変化をもたらしたのは世界の根源にも等しい現象だった。

 

 大勢が地から立ち上がった。

 

 そうして戦いが始まった。

 

 

 

 憎いあの人を焼き尽くしたサーヴァントは微笑んだ。

 浄化の火が屋敷に篭っていた全てを燃やし尽くした。

 望みは?

 漆黒に燃える瞳を見て私は願い事を言った。

 あのひとを手に入れたい。

 確かに、君は正しく、そして幸運だ。

 サーヴァントが言った。

 かつて私は呪いを超えようとして、悟った。“全て”を終わらせて、その寿命を看取った。

 そのひとは全てと引き換えにしてもなお価値があるものかね?

 私ははいと言った。

 

 ここに契約は完了した。

 始原より繋がれし火を終わらせた最後の英雄はあなたのために働こう。

 

 はい。

 跪いた彼を見て私は震え上がった。

 彼こそが人類最後の英雄。全ての人類を終わらせた男。偉大な最後の継承者(サクセサー)

 王殺し。神殺し。玉座に王を座らせた者。

 思わず握り締めた拳からは血が伝っていた。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 「――――藤ねえ!? やばい! どうしよう!」

 「ど、ど、ど、どうするのだシロウ!」

 

 アルトリアは一般人の気配を悟るや否や狼狽を隠せなかった。服は一般人のそれとはいえ男二人同じ屋根の下ではうまい具合の言い訳を考えねば怪しまれる。頼りになるであろう魔術師は現在家の奥に引っ込んで出てこない。

 士郎も、慌てていた。押入れにねじ込もうか。庭か。土蔵か。そうだ、と手を打つ。

 

 「えーっとうーんと! あ、そうだ霊体化すればいいんじゃないか!」

 「そうだった、失念していた!」

 

 ということもあって、急襲した虎へは何事も無かったかのように、すなわち誰もいませんでしたで通すことになった。

 これがたとえば休日であれば虎がやってくることもなかっただろうが、召喚された日のずれや、波及効果によって、虎こと大河がやってきてしまうことになっていた。

 幸いなことに一般人の目には見えなくなる霊体化という術により悲劇は回避された。すぱんと扉が開かれる数秒前には、赤い弓兵も剣士も姿を消していた。唯一肉体を持つ凛に関しては家の奥に隠れていたので問題は無かった。靴を隠すという初歩的な部分でポカを犯してもいなかった。

 

 「いただきます!」

 「いただきます」

 

 どうにか誤魔化せそうだと士郎は席につき味噌汁をすすっていた。

 虎こと大河の瞳がすいと向けられる。凄まじい食いっぷりだ。卵焼きをあっというまに啜りこみ白米を胃袋にねじ込んでいく様は、さながら大食い競争だった。その瞳が何かを見透かしているようで恐ろしかった。大河は生来の素直さと鋭さでたいていの嘘を暴いてしまうことを知っていた。

 

 「どったの士郎? 元気ないよ?」

 「へ!? あ、や、ちょっと悪い夢を見て!」

 「ふーん。そうだ、士郎。桜ちゃん風邪引いちゃったからしばらく休むってさ」

 「お見舞いいかないとな」

 

 『おいしそうだ……これはなんて料理なんだ? 黄色くてふわふわしている……白と黄色のもある……これはスープか? 渦巻く芳しき一品とは、なんてうまそうなんだ』

 

 おいしそうだ、食べたい、いいなぁ、などの念話が永延脳裏で鳴り響いている。セイバーことアルトリアは虎さえこなければ食べていたであろうものへの熱っぽい要望を語り続けていた。

 別次元のアーサー王もまたこの世界で召喚されたアルトリアと同様食い意地が張っていたりするのだが、士郎は無論わかるはずがなかった。

 

 『サーヴァントはものを食べなくてもいいんだよな?』

 『わずかではあるが魔力に変換することもできるし、精神衛生上食べたほうがよろしい。英霊だなんだといってもものを食べ眠っていた頃の記憶もあるのだから。彼女がいる前で食べるわけにもいかない。後でご馳走してくれ』

 

 「ごちそうさまでした。じゃーいってきまーす!」

 「おう、行ってらっしゃい」

 

 士郎は、元気よく登校もとい通勤していく義理の姉の姿を見つつふうとため息を吐いた。

 霊体化を解いたアルトリアが出現する。おかずは全滅。白飯の欠片も残さない焼け野原の机を見て切なそうに目を細めていた。

 

 「食べたかったのに………」

 「どうせ食べるならスピード重視のより、手間隙かかってる方のをご馳走するからさ。晩御飯とかには期待してくれよ」

 「うむ……まあ、よい。通学するのだろう? 私も同行する。なに、普段通り生活してもらえればそのほうがよい。神秘は隠すものというのが常識なようだから、むしろ一般人の中で生活したほうが他のマスター相手には防御になる」

 

 アルトリアの意見は正論だったが、士郎はむっと唇を噛んでいた。知人友人を盾扱いされたのが気に食わなかったのか、あるいは戦闘になったときに自分以外が傷つくことが嫌なのか。

 

 「確か魔術師殿も同じ学び舎に通う学童だったはず。私が起こしてこよう」

 「いや、俺が起こすよ」

 「……ふむん、士郎。乙女というはな、寝顔を見られるのを誰よりも嫌うものなのだ。一応は同性に任せてほしい」

 「そうなのか?」

 「らしい」

 

 アルトリアが士郎の肩に手を置き首を振る。

 ―――布一枚纏っただけの格好のくせして、森であの狼公(いぬ)を抱えて鼻提灯膨らましていた貴公が言う台詞ではなかろう。

 脳裏にいつか王の刃に言われた言葉がよぎった。あの時はだからどうしたと憤慨したものだが、なるほど、こうして言う側の立場になるや否や響いてくるものだなとアルトリアは思った。

 

 「わかった。なあアルトリア、一緒に登校ってどうなんだろうな。怪しまれたりしないか?」

 「普段の仲にもよる。友人関係ならばよい、違うなら時間をずらすべきだ」

 「わかった。先に行く」

 「すぐ追いかける。その間は“朋友(とも)”に監視を頼むことにする。案ずるな。……あの弓兵は信用ならん」

 

 アルトリアは士郎から鍵を受け取った。鍵を相手に託すということは、大昔から信頼の証であるとも言える。学生服に着替え鞄片手に家を後にする主人を見送った後、家の奥に戻る。襖を開けてみると、幽鬼がいた。

 

 「……………」

 「魔術師殿……?」

 

 遠坂凛がいつもの服に着替えていた。猫背で天井を仰いで虚ろな瞳をしている。顔は、人間性を失った亡者のようだと言えばわかるだろうか。陰影激しい疲労し尽した表情だった。ただでさえ朝が弱い(ていけつあつ)のにも加え、ろくに仮眠も取れなかったせいであった。

 アルトリアは見てはならぬものを見てしまったと表情をこわばらせていたが、ややあって何かを手元に実体化させた。薄っすらと光を宿した緑色の液を詰めた小瓶だった。

 

 「故郷で栽培されている緑花草を煮込んだエキスだ……気付け薬にもなる。よければ……」

 「………」

 

 凛は一言も喋らず瓶を受け取るとコルクを抜き一気飲みした。青汁にパセリとハーブを混ぜて発酵させたような味が味覚を蛸殴りにする。

 

 「げほっごほっ!!」

 

 むせた。

 アルトリアは背中をさすってやろうと一歩進み、

 

 「牛乳! 牛乳持ってきて! じゃないと………!」

 「は、はい!」

 

 凛が鬼の剣幕で牛乳を所望したことに対しなぜか敬語で走り出したのだった。

 

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 弓兵は召喚された当初はなるほどと理解していたが、あの騎士を見てからは自信を失っていた。己が参加した聖杯戦争とは構成要素が大きく異なっているのだ。召喚された日をはじめ、槍兵の襲撃日時、そしてアーサー王ではなく、騎士アルトリウスなる異界の存在がかつての自分の手元にある。曰く蝶の羽ばたきが地球の反対側で台風を巻き起こすことがあるという。十中八九、己の時と同様に進むはずがなかった。この世界のエミヤシロウが、正義の味方を目指しているのか。ほかの可能性はないのか。見定めることさえできないかもしれない。

 ―――早期に手を下すべきか。

 遠坂凛という人間は、表面上魔術師然として振舞えるが、本質的には人を信じたがる善人だった。犠牲を出すことを良しとしない人間性は確かにヒトとしては好ましいと言えるが、戦争屋としての観点からは欠点と言えた。己の目的を遂行するという意味では、通学路を歩いているあの青年の背中から矢を数本叩き込むだけで事足りる。いくら“鞘”が体にあろうと、心臓と頭部を丸ごと吹き飛ばせば蘇生さえできまい。宝具の投影など必要ない。凡庸な弓矢一本で肉体を散らすことは可能だ。

 かすかに殺意をにじませたのが撃鉄だったか―――空間に一条の眼光が煌いた。

 

 「ん………?」

 

 士郎が足を止めて振り返る。弓兵が座している建物の屋上ではなく、まるで辺りに何かがいるかのように視線をめぐらせていた。

 眼光が宙で蠢く。弓兵の瞳におよそ尋常ではない体躯の狼の輪郭線が垣間見えた。

 

 「――――……」

 

 弓を下ろす。

 あれは、サーヴァントにも匹敵する怪物であることを瞬時に理解する。ソレのあぎとに“咥えられた”剣の因子が頭の中に流れ込んできた。

 それは、忠義の剣だった。主の命令を守り続けた尊い剣の歴史が垣間見えた。決して裏切らず、決して退かず、約束を守るためにすべてを投げ打った尊い意思が宿っていた。

 ―――まだ、その時ではない。

 弓兵は武器を下ろすと、主たる凛の元へ移動するべく地を蹴った。




投稿止まっても気にせず屍を踏み越えていけ!






【クラス】キャスター
真名『Firelink ender』

【スキル】
星の開拓者:EX
 人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
 あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。
 別次元における人類史を葬り去り、人理を終わらせたことで得た。
 このクラスになると“不可能なことは存在しない”。常に一定の確率で成功する。


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ばんがいへん
この先、爆死に注意しろ(橙色文字)


おわれ


「―――――問おう。そなたが私を求めたものか」

 

 この日、この一秒を衛宮士郎という人間が生涯忘れることはないだろう。

 たわわに実った果実を青の布で覆い隠し上品な銀色の紐飾りで着飾った少女が土蔵に出現したのだ。銀色の盾のようなサーフボードを横に抱えていた。

 

 「は?」

 

 何かがぶっ壊れた気がした。かわいいんだけどなぁ、こうシリアスな空気がぶち壊しだよ。時間とかループしてるんじゃないかとおもいました(適当)

 

 「冬に水着姿で召還とはなかなか……へっくち!」

 

 少女――と女性の中間くらいの女の子がくしゃみをした。つられて頭についている犬耳?と水着から覗いているふさふさの尻尾が振れる。

 勘だけど、あれは犬じゃなくて狼なんじゃないかなと思う。なんでかって? 直感Aさ。

 しかし冬か―――リアルじゃ夏なせいで(ry

 

 「てめぇ名を名乗れ!」

 

 ほら青い槍の人が怒ってるよ。おもむろに脱ぎ始めたんだけど俺の目がおかしいのかな。釣竿とか持ってるし。

 

 「我が名は大王グウィン配下、四騎士が一人アルトリアである!! 一応データ上はアルトリウスだ! どっちでもいいが混ざりそうだからアルトリアと呼ぶがよい!」

 

 ドンッ!

 という効果音が出そうなくらいに女の子が胸を張った。金色の髪をポニーテールにしてるのがとても印象的だった。

 

 「いいだろうライダー! 表に出ろ!」

 「誰が波乗りライダーだ! 私はセイバーだぞ! 愚弄するか槍兵! 夏季限定だぞ!! わくわくざぶーんだ!! 釣りで雌雄を決するぞ!」

 

 女の子がぷんすか怒りながら土蔵の外に出て行く。槍の人も出て行った。

 俺はどうしていいのかわからなかったので、とりあえず状況を見守ることにした。

 

 「あら衛宮くんごきげんよう。よい夜ね」

 

 なぜか遠坂凛がそこにいた。学校で見た赤と黒のコスプレ服の人を連れていた。オールバックにコスプレに二刀流とか極まってるなと思った。ひっっっでぇセンスだなぁ。死んでもこいつみたいなやつにはなるまいと思った。だけど、どこかで見たことがあるような気がする顔だ。毎日顔を合わせている気がする。主にお風呂とか洗面台で。

 遠坂が膝を折って胸を押さえ倒れこんだ。

 掲げた理想が重かった。

 膝を折るまいと誓ったのに。

 

 「なんですって………水着アルトリウスですって………■■万円つぎ込んでまったくでなかったのに……」

 

 遠坂が倒れた。りんごっぽい絵のついたカードが内臓のようにぶちまけられる。大量の煤が付着していた。

 そう、これは―――爆死だ。

 幾円継ぎ込んでも引けなかったものの嘆きだ。

 

 「あンた、背中が煤けてるぜ」

 

 隣に立っていた赤と黒の人がつぶやいた。あんたは黙ってろ。

 

 「止まるんじゃないわよ……」

 

 遠坂が指に付着した虹色の石でダイイングメッセージっぽいのを書きながら動かなくなった。せめて変装するとか装甲車乗ってれば助かったんじゃないかな。

 

 「行くぞ槍兵。餌の貯蔵は十分か」

 「抜かせェ!」

 「イメージするのは最長のメンテだ――……」

 

 急に頭が痛くなってきた俺は意識を失った。

 

 

 

 

 目を覚ますと隣で全裸のアルトリアが寝ていた。

 

 「!!!!????」

 

 「おはよう……シロウ。私がご飯を作ろう……任せてほしい」

 「いやいい俺が作る! アルトリアは寝ていてくれ!!」

 

 だって朝から丸焼きの豚とか食いたくないし! 俺は走った。

 

 

 

 おわれ。



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FGO編

こうですか? わかりません!


 ささいなボタンの掛け違いから、異なる位相へと接続された英霊と呼ばれた人類史に残る偉人や戦士をかりそめの使い魔として呼び出す技術は、その騎士を選び出した。

 あるいは召喚されるのはブリテンを治めた一人の王だったかもしれなかったが。

 呼ばれたのは誰だったか。

 自らに王たる器がないと一人悟り選定をやり直そうとした愚か者か。

 王たる才があると後の世にその器を語られた主と民のために全てを犠牲した愚か者か。

 

 王とは果たしてなんであろうか。

 ある者はそれを生来の器だと言い、ある者は定められた運命(fate)だと言う。

 ただ人の世を統べる者の名であるのなら、それでも足りるのだろうが。

 

 全てを手に入れた人の王は尚も餓え、渇望し、しかし、王ではなかったのだと言う。

 

 

 

 

 

 事態は逼迫していた。

 人類は果たして瞬間的に絶滅するものだろうか。仮に核戦争が起こったとしても、人類の一部はほぼ必ず生き残る。抑止力が働こうが、黙っていようが、核シェルターやあるいは安全圏を作り出し、いつか再生を果たす。その人類のしぶとさはある意味ウィルスじみており、ゆえに人類以上の怪物は存在しないのだとも言える。

 その未来を“観測できなくなった”ことが全ての始まりだった。

 あるものはこういうことだろう。

 然り。その先にある霧を見通すことはできない。闇の時代の先の、更に先は、もはや観測不能であると。

 あるいは、その時代の先に待ち受けるのは真に偉大な(ふる)い怪物が世界の理の力(ソウル)を司る時代かもしれない。

 その世界は、もう終わっていた。いつか太陽は燃え尽きると言われている。宇宙さえ、永劫の彼方に終わるように。既に終わることが確定しているその世界に比べ、もうひとつの世界には希望があった。観測可能な未来がまだ残されていたのだから。

 そのあるべき文明の光が疑似地球環境モデル・カルデアスすなわち地球のコピーから完全に消えうせてしまった。徐々に減少するならば、目標を絞ることはできる。疫病か。戦争か。外部からの介入か。資源枯渇か。しかし、ある地点で唐突に消えてなくなるなど、ありえない事象だった。

 ―――不確定要素(イレギュラー)が介在している。国連は、魔術師たちは、イレギュラー要素の排除を望んでいた。

 

 2015年。近未来観測レンズ「シバ」によって人類は2017年に滅ぶことが確定された。同時に、歴史上に観測を拒む地点が存在していることも、確認された。

 究明しなくてはならない。人類の滅亡を阻止しなくてはならない。

 魔術師から有望な38人が、才能のある一般人からの10人が、霊子ダイブ適合者として選出された。

 説明会が行われた。別の時代へと存在を情報化し送り込む言うならば擬似的なタイムスリップを行い、観測のできない特異点の究明を行おうとした。事故が起こった。当初それは単なる爆発事故であると思われた。人為的なものであると人理継続保障機関フィニス・カルデアの面々が気がついたのは、ある意味取り返しのつかないダメージを負った後であった。

 そうして場面は特異点F 炎上汚染都市 冬木へと移る。

 

 

 

 

 

 例え、サーヴァントと呼ばれる卓越した叡智の持ち主や至高の戦士の力が肉体に宿ったからといって、精神が伴わなければただの硬い壁にしかならない。

 無尽蔵に襲い掛かってくる骸骨の群れ相手に、新人マスターと新人のデミ・サーヴァントと、戦闘に関しては素人と切って捨てるほかにない評価の魔術師では荷が重かった。

 

 『こうなってはやむを得ません所長。新しいサーヴァントを呼ぶしかありません!』

 

 Dr.ロマンことロマニ・アーキマンの提案を瞬時に跳ね除けるものがいた。

 

 「無茶よ!」

 

 カルデアの責任者ことオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアが声が裏返るのにも構わず大声を張り上げた。オルガマリーという人間は承認欲求こと高くとも、自己評価を正しく付けることのできる人間だった。自分は優秀であることはわかっていても、戦闘に関しては素人であるということも。素人マスターに素人デミ・サーヴァントそして自分。どう間違っても生き残れる組み合わせではない。第三者の応援を呼ぶというのは正しい。しかし、召喚にかかる時間をどう捻出するというのだ。

 

 『一分……あるいは数分かもしれませんが、時間さえ稼げば呼ぶことができます! 足元の霊脈にマシュの盾を置いて触媒として、召喚サークルを形成すれば……』

 「ああもう! こんなときにレフがいてくれれば……! ………わかりました。私も栄誉ある魔術師の端くれ。マシュ、あなたを先頭に突撃して時間を稼ぐわよ」

 「所長……!」

 「ほ、ほ、ほかに選択肢はな、ないわ!」

 

 胸を張り宣言してみせるオルガマリーにマシュらが目を輝かせる。その足ががたがた震えていなければよかったのだが。ついでに恐怖の余り声が震えまくっていなければよかったのだが。

 

 「所長、本当に大丈夫なんですか? 大丈夫には見えないんですけど」

 

 素人マスターこと藤丸 立香が疑問符を挟むや否や、オルガマリーがそっぽを向いた。

 

 「ば……早く行けッ!! 駆け足! いっけええ!!」

 「は、はひいっ! 所長痛いです!」

 「こんくらい痛くもないでしょうがあ!!」

 

 オルガマリーがデミ・サーヴァントの肉体の耐久性を知ってか知らずかその尻を蹴っ飛ばした。凸凹コンビが時間を稼ぐべく走り出した。半ばやけくそだった。

 燃え盛る冬木の土地の中、召喚が始まった。

 召喚陣が展開し、聖晶石の力を受けて盾が神々しく輝く。カルデアの英霊召喚システム・フェイトが起動した。

 

 「早く……早く!」

 

 立香の焦りを知ってか知らずか、光は一向に安定しなかった。柱のような形状になったかと思えば、火炎を彷彿とさせる揺らぎに変わる。

 

 「まだなのか!!」

 『まだ……かかるみたいだ……!』

 

 ロマンの声に表情が歪む。戦闘の音に混じって、足音がどんどんと接近してきていた。

 群れ。群れ。群れ。骸骨に混じり、いびつに変形した人のような物体もいた。異様に伸びた腕、膨れ上がった頭、ただれた皮膚。骸骨は単に武器を握った敵だったが、それは、人のようで人ではない何かのなれの果てのようだった。

 

 「あ………」

 

 ロマンが何かを叫んでいる。逃げろ、とか、危ない、とか、そんな言葉だろう。

 所長とマシュは間に合わない。そもそも完全に包囲されているのだ、もはや逃げる場所もなく。

 素人マスターで魔術師としては素人同然。相手は異形の怪物。立ち向かったところで殺されるだけ。けれど、可能性があるならばやらねばならない。拳を固める。人類ではありえない速度で戻ってくる我が使い魔の声も聞こえない。全てが引き伸ばされた時間。これが走馬灯かと、けれど目は閉じなかった。

 敵が、戦列ごと、紙切れのようになぎ払われた。

 栄華の片鱗を宿した無骨な大剣が空間を薙ぐ。

 

 「―――――シフ、行けッ! 狩りを始めるぞ!」

 『―――――――――!!』

 

 遠吠えが鳴り響いた。規格外の特大剣を咥えた大狼が、金色の瞳の残像のみを宙に描き出しながら疾駆する。骸骨がなぎ払われ、異形が血の塊となって散る。

 

 「狼!? 所長、狼さんが剣を持っています!」

 「ええいくっつくな! 犬………? 狼? いえ、こんな怪物がいたなんて……魔獣……?」

 

 攻撃に夢中になる余り近眼になっていたことに気がついたオルガマリーとマシュが戻ってきてみたものは、蹂躙だった。

 召喚サークルのあるベースキャンプの外周を、尋常ではない体躯を誇る狼が円を描くように駆け回っては剣を振るっている。横薙ぎ、突き、後方斬り下がり。つかみどころの無い激しい剣戟を、あろうことか人ではない怪物が振るっているという不思議。

 丁度、マスターたる立香を守るようにして一人の騎士が立っていた。担いだ剣を振るうだけで宙が揺れ、火の粉が乱流に渦を巻く。一太刀で数体を粉々とし、シールドバッシュで反撃さえ許さず虚空に返す。敵がまとまっているのを見るや否や、けだものじみた声を上げて五体を投げやって力技で粉砕する。

 その一対のサーヴァントが戦闘をやめたのは、敵が全て消滅したからだった。

 銀の無骨な鎧に青い布と房の飾りをした騎士は、他の者、マスターさえいないかのように、本当に嬉しそうに表情を綻ばせて大狼の鼻っ面に抱きついた。

 

 「久しいな朋友(とも)よ、遥かな時の果て、地の果て、そしてこの我らが世ではない土地にまででも、共に戦えることを嬉しく思う」

 

 狼は何も言わず、騎士の顔を見つめていたが、顔を離して、ぺろりと舐めあげた。その反動で兜がずれて、青布の奥の美麗な顔立ちが露になった。

 金糸を後頭部で纏め上げた年若い乙女。年齢はマシュよりも高く、オルガマリーよりも若いだろうか。ほっそりとした頬の輪郭線はしかし、身にまとう鎧の物々しい造形とは相反するものだ。

 騎士はここでようやく周囲に目をやり、そして己のマスターを認めた。剣を地に置き頭を垂れる。

 

 「自己紹介が遅れた。私はグウィン配下、四騎士が一人。アルトリアである。ここに契約は完了した。この身はそなたの剣となり、盾となる」

 

 盾の部分で約一名不満足そうに頬を膨らませていたとか、いないとか。

 

 「あわわわわわわわ」

 

 大狼が何かを察知してオルガマリーのポケットの匂いを延々と嗅いでいるせいで一向に話が進まなくなったとか。

 場面は、また別の場所へと移る。



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第567回 クラーナ道場

お前ら、ここが今度から世話になるガースー黒光りロードランや


 サーヴァントの召喚に失敗した俺は、死んでしまった。この人でなし!

 これでマスターはいなくなってしまった。現世にサーヴァントを繋ぎとめる枷が無くなってしまった以上マシュの力は消えるしかない。所長だけであの化け物どもをどうにかできるとも思えない。あとはコフィンでこん睡状態に陥ってる連中の回復を祈るばかりになってしまった。申し訳ない以上に情けない。

 俺が目を覚ますと、なにやら和風の道場が広がっていた。

 ぐったりと地面でけだるさを出しまくっている波打つ黒髪を垂らした美人と、ぐーすか寝息を立てている白だか銀髪の体操服姿のちみっこがいた。

 

 「また馬鹿弟子お前か……何度目だナウシカ……」

 

 それ以上はやめろ。

 

 「いいか、アクションゲームというのはだな、ノベルを主体としたゲームとは違ってだな、死に安いんだ。特にソウル系列はすごいぞ。初見プレイでどうせ雑魚だろとスケルトンに切りかかったら最後いたぶられて死ぬことになる。見ろ後ろの掛け軸を。567回目の死亡を体験できるようなゲームなんてほかにあるのか? 死亡前提のマラソンとかほかのゲームで考えるとなかなかどうして狂ってると思わないか」

 

 そこで美人さんはんっと首をかしげた。馬鹿弟子呼ばわりされる覚えは無い。初対面なんだぞ。

 

 「お前馬鹿弟子じゃないな。モブっぽい顔をしているな」

 「だれがモブじゃい! 主人公だわ!」

 「どうせキャラ作りすぎてめんどくさくなってプリセットから選んでるんだろう」

 

 俺がむっとして言うと美人さんはローブをすぽっと被った。

 

 「危ない具体的に顔が描写される前でよかった」

 「なにいってんだこいつ」

 「テクスチャ的にまずいんだよ。カメラを妙な位置に動かして中を見るのはよせ」

 

 ノベルゲームにはわからん内容ですわ。

 

 「う、うーん……」

 

 ちみっ子が起きようとしている。しかしなんて幼い子なんだろう。個別ルートが作れないくらいには若い。原作的に倫理が引っかかってしまうからつくれねぇんじゃないかなとか言うのはキャンセルだ。

 なんか道場の隅っこにあるステッキみたいなのがびくんびくん動いてとても気持ち悪い。

 

 『はぁい! 私、砂魔女装備が一番えっちだと思います!!!!」

 

 そこで扉がぶち壊され板みたいな盾と、板っぽい形状の特大剣を構えた騎士と、姿かたちは一緒なのに赤く輝いてる騎士が入ってきた。特大剣特有のガード姿勢で走りこんでくる。

 

 「全裸が一番えろいぞ」

 「全裸もえろいぞ!」

 「全裸だからえろいんだろ!」

 「全裸がえろいとは限らないじゃないか!」

 

 マネキンみたいなこと言いやがって!

 

 「やあ立香今日も馬鹿っぽい顔してるね」

 「やあ立香今日はいつにもまして馬鹿っぽい顔をしてるね」

 「立香が馬鹿とは限らないだろ!」

 「馬鹿だから立香なんだろ!」

 

 いい加減頭が痛くなってきた俺がふと気がつくと、目の前に銀色の鎧で武装した騎士が剣を構えていた。隣にはでかい狼がいた。

 よかった。死んでなかったんだね。セーブからのやり直しをしたわけじゃないよ本当だよ。

 ダクソ的にはオートセーブだから取り返しのつかない(ry

 

 

 

 

 

おわれ




FGO編続きは総合評価が1000行ったら来るんじゃない?(投げやり)


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FGO編その2

こうですかわかりません


 橋のたもとにて一同は一時休息を取っていた。

 

 「なるほどね。一通りの事情は理解したわ。したつもりよ。ええ。魔法である並行世界の運営をたまったまの偶然できちゃったってことね。運営なんて表現おこがましいけれど。宝くじ並みの確率を引き当てたってことね」

 

 なぜかご立腹の所長ことオルガマリーは、自分のことを離してくれない大狼の顔面に拳を叩きつけていた。どうやら騎士と共に現界した大狼は擬似的なサーヴァントであるらしく、そのことに不満はない。むしろ幸運だった。騎士の話を聞けば聞くほどどう考えても平行世界からやってきたアーサー王としか思えない。ポッと出のマスター候補でしかも遅刻に居眠りまでかました男が引いたことが余程悔しいのだろう。

 幸運だったのが、平行世界のアーサー王―――自らをアルトリアと名乗った乙女は、規格外とも言える神秘を宿していたことだろうか。世界の始まりと共に発生した騎士の眷属の一人としては、歴史の重荷からすれば、かの騎士王と同格あるいはそれ以上の神秘性であり、見えるステータスもAぞろいという使い勝手の良さ。肝心の宝具の名前が見えないことを除けば。

 

 「先ほども申した通り、自分の宝具の使い方がよくわからん。元の世界では真名解放なる概念などなかった。武具が使い手を認めた段階で自然と使えるものだからな」

 

 騎士アルトリアはつい今しがた襲い掛かってきた骸骨の群れを蹴散らしたあとというに息を乱していなかった。あろうことか自分について説明しながら敵をなぎ倒していくのだ、マシュの出る幕も無い。

 元の世界。火の時代の世界とでも言おうか、武具が使い手の“能力”を認めるかどうかが、その武具の真の力の解放条件であった。まったく概念の違う世界の英霊を呼び出してしまったことの弊害が起きていた。

 オルガマリーはふんふんと頷いてみせると、自分の唾液塗れになった顔をハンカチでよくこすり、ごわごわとした毛皮の塊を再度殴りつけた。

 

 「わかったからこのでかい毛皮の絨毯どこかにやってくれない!? むさくるしくて仕方ないのだけれど!!」

 「所長!」

 「なによ!」

 

 マシュが場の空気を知ってか知らずかわくわくしつつ挙手していた。

 

 「私にもその狼さん触らせてください!」

 「ええいやっかましいわぁ!」

 『フォーウ!』

 「あ、フォウさんが嫉妬を焼いています」

 

 そして二体のケモノが出会った。というよりはじめて目を合わせた。

 

 『……』

 『……』

 

 お互いがお互いに何かを察したのか、会話でもしているのか、巨大な一匹と小さい一匹が見詰め合っている。

 

 当初オルガマリーは見上げるように巨大な狼に睨まれてあわわしか言わず硬直していたが、その狼が馴れ馴れしく襟首を噛んで運ぼうとした辺りで正気に戻った。なぜか大狼はオルガマリーの顔を舐める、毛並みに埋もれさそうとするなど妙に馴れ馴れしく、現在オルガマリーは伏せている狼の顔と足の間に挟まれていた。抜け出そうともがくと子犬を運ぶが如く服を噛まれるので抵抗をやめていた。

 

 「はっはっはっはっ………シフに気に入られるとは面白い魔術師だ。余程弱きものに見えるのだろうな」

 「弱い……私が?」

 「うむ。シフは群れで一番弱い仔として捨てられたのだ。優しい子でな、弱っているものを見捨てられないのだ。実は患っていたりはしないか? 今も昔も女性というのは思わぬところを患う」

 

 オルガマリーは何を言われているのかわからないときょとんとしていたが、理解すると顔面を湯沸しよろしく真っ赤にさせた。

 

 「弱くなんてない!  それにおあいにく様だけど健康です! どっちかというとそこのド素人マスターのほうが……!」

 『はいはいそこまで! 悪いけど――――サーヴァントの反応が急速に近づいている!』

 「サーヴァントですって!?」

 

 マシュが立香を守るように盾を構え、シフが地面に突き刺さっていた特大剣を抜き構え、アルトリアが腰を上げ兜を被りなおした。

 

 『これは………だめだ多すぎる! 囲まれている! 反応検出。アサシンのサーヴァント……数は……十? 二十? まずい……無茶だ!』

 

 夜陰を切り裂き、青い装束に相貌を悟らせぬための仮面を被った集団が死人のように歩み寄ってくる。数は実に数十はくだらない。不自然なことに全身は光を受け付けない闇色のヘドロに汚染され、輪郭線があやふやなものになっていた。

 弓を持つものがいる、剣がいる、布製のタリスマンを持つものもいる、素手のものもいれば、杖を構えているものもいる。

 

 「マスター。マイロード。呼び名云々の議論はしていなかったから、ここはご容赦を。マスター、指示をお願いします」

 「あ、ああ!」

 

 アルトリアが盾を構えたまま背後の主を呼ぶ。指示するまでもない。包囲を突破しなくてはならない。

 

 「先輩、私を使ってください……!」

 

 マシュがその特徴的な十字盾を構え背後に目線を配った。

 立香は拳を握り締め宣言した。

 

 「任せた。勝ってくれ!」

 

 二名の騎士――もとい一人は素人だが――が前に出る。マシュはすぐにカバーに入れる位置へ、アルトリアは遠慮するでもなく包囲網に接近していく。

 ロマンの焦燥感に満ちた通信が新しい情報をもたらす。

 

 『別の反応を検出! これは……ランサー!?

 

 「く、ぐぐ……どうしてこんなことに……」

 「シフ。魔術師殿を任せた。“あいつ”の相手は私がするべきだろう」

 

 シフがきゅーんと悲しげに鳴くとサーヴァントの圧力を前にたじろぐオルガマリーを守るように剣を宙に放り投げ、牙をガキンと鳴らしつつ噛み直した。

 

 「時空の果てで再会したことは喜ばしいのだが―――なあ王の刃よ」

 『―――――――』

 

 理性を失っているのか、言葉は不要とでも言いたいのか、汚染された暗殺者の群れから一人の人物が歩み出る。目にも鮮やかな金色の武具と、闇中でも光を切り裂かんばかりの残忍な銀色の武具を構えた白仮面だった。

 アルトリアが武器を構えた。マスターたちとの会話で覗かせていた柔和な笑みはそこにはなく、戦士としての表情が仮面として被られていた。

 

 「往くぞ、王の刃。狼の狩りを知るがいい」

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

 肉片が飛び散った。

 

 「――――シイッ!」

 

 騎士が咆哮を上げた。

 盾を水平に、肩に担いだ剣を正面に照準し、脚力のみで宙に飛び上がり纏わり付く矢群がかするのも構わずに動いていた。それはもはや剣術ではなく、死地に追いやられた獣が見せる足掻きにも似ていた。着地と同時に数体を吹き飛ばし、水平なぎ払いから派生する斬り下がりで魔術をくじき、行きがけの駄賃よろしく宙で一体の暗殺者の頭部を足で蹴り潰しながらビルの壁面へと飛びつく。

 暗殺者の数人が放つ魔術の矢―――この世界の魔術とは異なる理論で構築されたそれが、青白い閃光伴い騎士へ殺到した。

 

 「――――――!!!」

 

 声にならない絶叫が騎士の小柄から発せられる。声量のあまり、火の粉が宙で短い命を終えていた。

 ビルの壁面が陥没した。ソウルの矢を盾で受けつつ斜め上方から突進し、魔術師らを剣の一刈りで殺す。刃圏に入るまいと撤退する暗殺者たちはしかし、風を伴い疾駆する騎士の突進で地面の砂と化していた。

 

 『チッ! 新しい反応―――これはランサー!? サーヴァントが複数……これは……“何かが狂った”状態なのか!?』

 

 横合いから殴りつけるようにして薙刀を構えた眷属が飛び出してきた。大振りな一閃はしかし暗銀の盾の表面を滑るだけに止まったが、続く機関砲かくや放たれる猛連打についに盾の防備が崩される。

 

 「ハ―――――ハハハハハハハ モラッタ」

 

 ぞぶり、と肉を引き裂く厭な音が戦場に響く。敵であるランサーの大振りな武器がついにアルトリアの腹部を捉えていた。

 

 「ク」

 

 だが、騎士はにやりと笑う。

 曰く騎士アルトリア――アルトリウスは強靭な意志により決して怯まず大剣を振るえば、まさに無双であったという。たかが腹を貫かれたといって、それが何だというのだ。槍ならまだしも薙刀をねじ込まれているということは間違いなく内臓がやられているはずだったが、あろうことか、相手の肩を掴み刃を深く埋没させていく。白い頬が紅潮し、額から汗が落ちる。えづくように吐息を漏らしながら、蠱惑的に笑う。

 

 「ク ははははははっ! どうした槍兵? 今私は機嫌が悪い。果てろ」

 

 アルトリアの兜がずれる。鋭利に尖った犬歯が覗く。美麗な顔立ちが歪んでいた。

 そうして槍兵は武器を手放し撤退という選択肢を取るよりも早く、アルトリアに首筋を噛み切られていた。喉仏から動脈さらには頚椎までをもぎ取られる。血を抑えようとよろめきながら数歩下がる。

 騎士が自らの腹部から武器を抜くと、槍兵に一太刀浴びせかけた。そして返す刃で首を斬って捨てる。

 

 「ああ、待っていたぞ。キアラン」

 『………』

 

 決定的な隙を狙い背後から強襲をかけるかつての同胞の投げナイフを、回避することもなく受け止める。右肩、胸、鎧の表面で跳ねるそれが落ちるより早く蹴り飛ばして弾丸として射出した。

 暗殺者は飛来する脅威を事も無げに首を軽く傾けるだけで回避する。

 

 『   』

 「おおおっ!」

 

 正面突き。自らの血を浴びた剣にて突進した。

 暗殺者はそれを踊るように剣で受け止め、力を受け流しこまのように回転しながら懐に飛び込もうとする。騎士のそれが剛の剣術ならば、暗殺者の剣は柔だった。

 

 『    』

 

 暗殺者が唐突にバックステップを踏んだ。多量の魔術を帯びた火炎弾が大地の表面を蒸発させた。

 

 「はん、獣の類かと思えば(つわもの)だったとはな。手ェ貸すぜねーちゃんよ」

 

 ふわり、と重力を無視した動きで戦場に一匹の男が迷い込む。ゆったりとした装束を身にまとった高貴な雰囲気の男だった。しかしその場にいるものは気が付いていることだろう。身にまとう空気こそ王族や貴族のそれだが、放つ威圧感は戦士のそれであると。

 暗殺者―――王の刃キアランがあたりに視線をやった。大勢いたはずの王の刃らは大半が倒され、戦闘不能状態。騎士アルトリウスが前衛をこなし、後衛に徹することができたマシュの役割分担が功を奏したのか。

 

 『   』

 

 キアランの姿がかすんでいく。手勢を失い不利になったことを悟ったか。輪郭線が失われ、ついに消えうせた。

 敵の襲撃が止んだ。アルトリアは全身血まみれのまま青髪の男と相対し、マシュと立香はほっと一息ついていた。

 

 「うう……こんなの私の役割じゃないわよ……このけむくじゃらの犬っころ……ただじゃおかないわよ……首輪つけて鞭でしつけてやるぅぅ……」

 

 なぜかオルガマリーはシフの背中の上で放心状態に陥っていた。ガンド撃ちの姿勢で固まっているあたり、背中に乗せられ連れまわされたのだろうか。




尾張! 平定! 解散! じゃあ勝手に切り取ってもよいぞということじゃ(明智)

キアランが呼ばれたりしてる聖杯戦争もあったんだよきっと!
シフが所長にべったりなのは一番弱く見えるというか既に死んでるせいもある
じゃああとは有能なマスターに書いてもらうから……(バイクに跨りつつ)


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