司書長とマテリアルズ (空の狐)
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司書長と星光の殲滅者(ユノシュテ)

 その日、ユーノは久しぶりに我が家へと帰ってきていた。

 

 エクリプス関係の問題はあれど、ユーノの努力の結果、無限書庫は相当整理が行き届くようになっており、よほどのことがなければ司書長であるユーノが出張る必要もなくなってきた。

 

 それに、重要参考人が何人も連行され現在六課も一段落したため、余裕も出てきたのもあるだろう。

 

 

「ん~、今日はゆっくりとお風呂に入って、たっぷり寝よう」

 

 

 ふっふっふ、とユーノは笑う。久しぶりの休みなのだから存分に羽を伸ばそうとしていたら、ピンポーンとインターホンが鳴った。

 

 

「はーい?」

 

 

 折角の休みなのに、誰だろうと思ってユーノは応対のために玄関へ向かう。そして、ドアを開ければ……

 

 

「お久しぶりですね師匠」

 

 

 落ち着いた声。茶色いショートカットに蒼い瞳以外は自分のよく知る幼馴染と殆ど変らない姿。

 

 

「シュ、シュテル?」

 

 

 そこに遥か遠き地に旅立った星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクター(大人.ver)が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、シュテルの登場にユーノは混乱しながらも彼女を部屋に招き入れた。

 

 

「へえ、エルトリアからこっちに来ることができるようになったんだ」

 

 

「ええ、まだ長い時間は無理なのですが」

 

 

 そう、エルトリアの環境もだいぶ環境改善が進んできた。おかげで彼女たちも少しの間ならエルトリアから離れることができるようになった。といっても長くて数日程度ではあるが。

 

 

「他のみんなは?」

 

 

「今は特務六課にいますよ」

 

 

 みんな元気ですとシュテルは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方特務六課。

 

 

「へイト、僕と勝負だー!」

 

 

「だから、私はフェイト!」

 

 

 相も変わらずアホの子なレヴィに突っ込むフェイト。

 

 

「あ、もしかして、フェイトさんの生き別れの妹さん?!」

 

 

「違うよ?!」

 

 

 半泣きになってフェイトはエリオの勘違いを否定する。まあ、そっくりではあるからそんな勘違いをされても仕方ないこともないが。

 

 

「久しぶりですねトーマ、リリィ」

 

 

 そして、ユーリは数少ないこっちの知人の一人であるトーマとリリィに挨拶していた。

 

 

「えっと、ごめん、だれだっけ?」

 

 

 だが、あの出来事を夢として処理されてしまっていたトーマにとってユーリは見覚えはあるものの、名前も知らない女の子としか捉えられなかった。

 

 誰だったかなと必死に思い出そうとするものの、霞がかっていていてしまい思い出せない。

 

 

「そんな、私のこと忘れちゃったんですか?」

 

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

 

 うるうるとトーマを見つめるユーリにトーマは罪悪感で右往左往してしまう。

 

 

「おのれ、あの塵芥、いつの間にユーリを籠絡したのだ?!」

 

 

「雛鳥はいつか巣出つもんやで」

 

 

 誤解し歯軋りするディアーチェにはやてはにやにやと勘違いを助長させるような発言をする。

 

 もしかしたらおもろいことになるかなあとはやてはほくそ笑む。

 

 

「あれ? シュテルどこいったのかな?」

 

 

 そして、一人相手がどっかに行ってしまったなのはは少し寂しそうだった。

 

 六課は賑やかだった。いろんな意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 ふーんと相槌を打ちつつユーノはコーヒーを飲む。

 

 

「ところで、その姿は?」

 

 

「これは、私たちも成長するようでして、それでいつの間にかここまで大きくなっていました」

 

 

 えへんと自慢げに、いつの間にか大きくなったなのはと同じくらい豊かな胸を張る。

 

 へえっとユーノは驚いてから、そういえばヴィータも闇の書の呪縛から解き放たれてからちょっとだけ背が伸びたと喜んでいたことを思い出した。

 

 

「エルトリアの状況はどうかな?」

 

 

「少しずつですが、人の住める環境は整ってきています。死蝕に関してもだいぶ対策が進んできていますね」

 

 

「そっか、ちょっと安心したかな」

 

 

「みんなの努力の成果です。ところで師匠、約束を覚えていますか?」

 

 

 と、唐突にシュテルはそんなことを言いだした。

 

 

「約束?」

 

 

 果てなんだったろうかとユーノは記憶の糸を辿る。だが、あの時の記憶はなぜだかはっきりとは思い出せない。ユーノは覚えてないが、

 

 それも記憶操作の弊害だった。時間操作という超技術を隠蔽するために、大まかな記憶は残っているものの、細部は曖昧にされている。

 

 

 いつかの再会ではなく、なんかあっただろうか?

 

 

「手合わせの約束です」

 

 

「あー!」

 

 

 シュテルの言葉にユーノはやっと思い出した。かつてシュテルはユーノに負けたときにいつか師匠越えを果たすと宣言していたのを。

 

 

「できればすぐにでもお願いしたいのですが」

 

 

 今度は負けませんとシュテルは自身満々に宣言する。

 

 

「僕、実戦を離れてだいぶ経つんだけど……ま、いっか」

 

 

 せっかくエルトリアくんだりからやってきたのだ。無碍にするわけにもいかない。

 

 それに、シュテルにとってどうやら自分は越えるべき山のようであるし、それなら果たさせてあげようとユーノは電話を取る。

 

 

「もしもし、僕なんだけど、ちょっと訓練室貸してくれないかな? うん、ありがとう。この埋め合わせはいつか精神的に」

 

 

 と、昔馴染みに頼んで、訓練室をユーノは借りたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、久しぶりのバリアジャケットの感触を懐かしみながらユーノは準備運動をする。普段から遺跡探索などで体は動かしているものの、こういうのは久しぶりだから念入りに。

 

 そして、準備を終えた二人は向かい合って構える。

 

 

「師匠、戦う前に一つ提案があります」

 

 

「提案?」

 

 

 はい、とシュテルは頷いてその提案を述べた。

 

 

「負けたら勝った方の言うことを聞くなんてどうでしょうか?」

 

 

「はは、それはいいね。楽しみだよ」

 

 

 答えながらもユーノは自分が勝つ姿を想定していない。故にシュテルがどんなことを言うのかを想像した。

 

 真面目な彼女はいったいどんなことを言うのだろうか? なんとなくイメージ的に本を読んでそうだからなにか本を貸してほしいと頼むのか。それともエルトリア関係か。

 

 

「では、いざ!」

 

 

 そして、ユーノがいろいろと想像を膨らませていたら、シュテルが飛び出す。

 

 

「ブラストファイアー!」

 

 

「プロテクトスマッシュ!!」

 

 

 シュテルvsユーノ、次元を超えて師弟対決の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真・ルシフェリオン・ブレイカー!!」

 

 

「うわあ!!」

 

 

 ブレイカーの炎にユーノは飲み込まれる。

 

 結局、ユーノの想像通りにこの戦いはシュテルの勝利であった。

 

 ユーノの十年以上のブランクもあるだろうが、それ以上にシュテルの成長が大きかった。

 

 

「はは、負けちゃったね」

 

 

「ですが、流石は師匠です。容易には勝たせてくれませんでした。本当に十年間前線から退いていたなんて思えませんよ」

 

 

 楽しそうにシュテルは答える。その顔には爽やかな笑顔が浮かんでいる。

 

 やっぱり、シュテルの表情は大きく変わらないものの割りとコロコロ変わる。そこらへんも常に笑顔のなのはとの違いかななんてユーノは観察する。

 

 

 そう言う意味では外見は似ているけど、なのはとはまた違った魅力を持った女の子なんだよなあとユーノは思っていた。

 

 

「じゃあ、約束だね。どんなお願いかな。僕にできることならなんでもするよ」

 

 

 ユーノの言葉にシュテルは考えて、それからちょっとだけ頬を赤らめる。

 

 

「で、では師匠の自宅に戻ってからでお願いします」

 

 

 なんで家に? それに、なんで頬が赤くなったのかな? とユーノは不思議に思った。

 

 この時、もう少しその理由を踏み込んで考えていれば……いや、すでにシュテルの提案に頷いた時点でユーノは手遅れだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「では、師匠、お願いがあります」

 

 

「うん、なにかなシュテル?」

 

 

 自宅に戻ったユーノはシュテルからのお願いを聞こうとしていた。

 

 そして、ちょっとだけシュテルは躊躇してから、

 

 

「そ、その、私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」

 

 

「うん、わかった」

 

 

 シュテルのお願いにユーノは普通に承ってから……固まった、

 

 今、シュテルはなんていったかな? 結婚を前提にお付き合い? あまりに唐突な言葉にユーノは混乱する。

 

 いや、まて、今自分はそれを受け入れる発言をしてしまっていたよね?

 

 

「あ、あの、シュテル、それはちょ、ちょっと……」

 

 

 慌ててユーノはシュテルの発言に待ったをかけようとしたが、

 

 

「なんでも聞くといいましたよね?」

 

 

「うっ」

 

 

「それに頷きましたよね?」

 

 

「ううっ!」

 

 

 シュテルが一個一個ユーノの逃げ道を塞ぐ。さらには、

 

 

「ルシフェリオン」

 

 

『All right.

 

〈負けたら勝った方の言うことを聞くなんてどうでしょうか?〉

 

〈はは、それはいいね。楽しみだよ〉 

 

〈そ、その、私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?〉

 

〈うん、わかった〉』

 

 

 しっかりとデバイスのルシフェリオンに録音されていた。

 

 

「はい、謹んで承ります」

 

 

 逃げ道を塞がれたユーノは粛々とシュテルに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、シュテルとユーノのお付き合いが始まった。残念ながらまだ二人とも責任のある仕事を預かっている身であるために一ヶ月に一度会える程度ではあったが、ゆっくりとお互いのことを知っていった。

 

 ごくたまに魔王様が二人の襲撃を行ったものの、それもユーノとシュテルによってなんとか撃退されている。

 

 

「実は、初めて会った時からお慕いしていたのです」

 

 

「そうなの?」

 

 

 はいとシュテルは頷く。

 

 

「恐らく、ナノハが最初から持っていた好意に引きずられてしまったのもあるのでしょうが、あなたが私を撃ち落とした時からはっきりとあなたのことを意識しました。『この人しかいない』と」

 

 

 シュテルのまっすぐな告白にユーノは恥ずかしそうに頬をかく。あの時点でシュテルが自分のことを思っていてくれたなんて想像すらできなかったのだ。

 

 

「僕はシュテルほどはっきりとした思いはなかったと思うな。最初は君にとって失礼なことだろうけど、『なのはによく似た女の子』程度の認識だったと思う」

 

 

 そのユーノの告白にそうですかとシュテルは頷く。

 

 人間の第一印象は良くも悪くも容姿に左右されてしまうのだから、自分の姿がナノハを基にしている以上仕方のないことだとシュテルは納得する。

 

 

「だけど、また会って、君と付き合うようになってから変わっていったかな。なのはとは違う魅力あふれる女の子だってわかったんだ。君がそばにいてくれて今の僕は幸せだよ」

 

 

 そっとユーノはシュテルの手を掴む。

 

 

「ありがとうシュテル」

 

 

「私こそありがとうございます。ユーノ……いえ、あなた」

 

 

 きゅっとシュテルがユーノの手を握る。その手にはきらりと光る結婚指輪。

 

 そしてユーノは空を仰ぎ見る。ああ、いい青空だなあと。エルトリアの空を。

 

 

 

 

 ユーノ・スクライア二十八歳、三年間のお付き合いの末にシュテルと結婚。無限書庫司書長を辞任した後にエルトリアに移住する。そして、エルトリア復興に尽力する。

 

 

 

 

 

 

Fin.

 

 

 

 

 

「Fin.じゃないのー!!」

 

 

「だ、誰かなのは抑えるの手伝ってーーーー!!」

 

 




映画でシュテルンの活躍を見て昔他所で投稿したものを出してみたいと思いました。
できれば続きも出したいかなあっとも。


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司書長と雷刃の襲撃者(ユノレヴィ)

基本パラレルです。


 ユーノが無限書庫で仕事をしていたある日のことだった。

「おーい、ユーノー」

 幼馴染の聞きなれた声と同じ、だけど、ずっと明るい声が聞こえた。

 振り向けばそこに、やはり幼馴染と顔立ちは同じだけれども、髪の色が違ってどこか幼く見える女性がユーノに向かって飛んできていた。

「あれ、レヴィ? どうしたの? 今日はシュテルがくるって聞いていたんだけど」

「うん、実はシュテルンが手を離せない用事ができてな、僕が代わりに来たんだ」

 無限書庫なんて場所に似合わないレヴィが来たことへの疑問にレヴィは元気に答える。

 レヴィはマテリアルの中でも特に元気な少女だ、いっそ幼いとすらいえる。体つきは大人のそれだが、どこか小動物みたいな愛嬌があった。

「そうなんだ。わかったシュテルに渡すはずの資料ちょっと出してくるね」

「うん」

 そうしてシュテルに渡すはずだった資料を探していると、じーっとレヴィがユーノをみつめていた。

「ど、どうしたの僕の顔をじっと見たりして?」

 普段ならなんか騒がしそうな少女である。遊ぶものがない無限書庫で暇だから色々と話しかけてきたりするのだが。

「ねえ、ユーノって付き合っている子いるの?」

「はっ、ええっ?!」

 突然で思わぬ相手の予想外の問いにユーノはすっとんきょうな声をあげてしまった。一方のレヴィは普段通りの顔だ。

「ねえ、どうなの?いるの?」

「あ、その、いないかな?」

 しどろもどろにユーノは答えると、それにそうかそうかとレヴィは頷く。バクバクと鳴り響く胸を抑えるユーノ。

 さすが雷刃の襲撃者。不意打ちはお手のものだ。

「い、いったいどうしたの?」

「んっ? なんでもないよ。ちょっと気になっただけだから」

 とレヴィは答えるが、実際のところはシュテルのためだ。なにせ彼女はしきりにユーノのことを気にしているのだから、流石のレヴィにも彼女がどんな思いを抱いているのか理解している。

 そこでシュテルが面として聞きづらいであろうことをユーノから聞くために自分だけで赴いたのだ。

「なあなあ、じゃあユーノはどんな子が好みなんだ?」

「ぶっ!」

 さらに畳み掛けるようにレヴィが質問を重ねる。

 ユーノが気になるシュテルのためにも少しでも情報を得ようという、レヴィなりに彼女を思っての問いかけである。

「ねー、どんな子ー」

「ちょ、ちょっと待ってレヴィ!」

 隣からレヴィにユーノは揺すられるが、ユーノは突然かつこれまであまり考えていなかった問いにマルチタスクを総動員して考える。おかげで机の上に置いただけのはずの資料を捜す効率が駄々下がりになってしまった。

「えっと、元気で一生懸命な子、かな?」

 そうして出たのは無難な答えだった。

 ふむふむとレヴィは頷く。

「元気で一生懸命な子かあ。つまり僕みたいな子が好みなんだな!!」

 と、再びレヴィが誇らしげにどや顔をする。

「え、あ、うーん。まあそういうことでいいよ」

 まあ確かに元気な子だ。以前マテリアルズをクラナガンに案内した時ははしゃぎすぎて迷子になったくらいだ。それに仲間のためになら一生懸命になれる。確かに今のユーノの言葉に合致する少女だ。

「そうかそうか!」

 それにレヴィはさらに得意げな顔になる。適当に言ったんだが本人が嬉しそうだからいっかとユーノはレヴィの言葉をスルーすることにした。

 まあレヴィに対する感情は今のところ異性としての好意ではなく、こう、年下へ向けるようなものだろうか。ヴィヴィオの時に似ていて、なんとなく妹がいたらこんな感じなのかとユーノは考えた。

 だが、すぐにレヴィはんっ? と首を捻る。むむむっと唸ってからガバッと顔を上げた。

「それは困るぞユーノ!」

「えっ? レヴィが困るの?」

「違う! 僕じゃなくてシュテルンが......むぐっ!」

 シュテルの名前を出して慌ててレヴィは口を抑える。危ない危ない。危うくシュテルの気持ちを自分が言ってしまうところだった。これを自分の口から言うわけにはいかない。

 むうっとレヴィは悩む。どうしたものか。悪魔でもシュテルのために聞いたのにこれでは役に立てない。

 どうしたものかとレヴィは悩んで、

「はい、これがシュテルに渡す資料」

「ん、ああ、ありがとう」

 すっかり忘れていた資料を受け取ってレヴィはしまい込む。

「ふう、僕もそろそろ上がろうかな」

 こきこきとユーノは肩を鳴らす。それにきらーんとレヴィは目を光らせた。

「ユーノ、仕事はもう終わりなの?」

「え? うん。今日はシュテルが来るまで残っていただけだしね」

 よしよしとレヴィは頷くと、ユーノの手を取る。

「よし、今日はこの後僕と遊べぇ!!」

「ええ~~~~?!」

 レヴィは考えた。どうすればシュテルにとって有益な情報を得られるのか。そうして思いついたのは、ユーノと一緒に遊びに行って彼の好きなものを知るということだった。

 好きなご飯に趣味も知れる。そのうえ僕も楽しい。まさに一石二鳥の作戦。さすが僕! と心の中で自分を褒め称える。

 というわけで暗い無限書庫から、賑わうクラナガンの中央駅忠犬ザッフィー像広場へと二人は移動していた。

「よしユーノ! 腹が減っては遊びはできぬということでご飯食べよう! ユーノは普段どんなお店行くんだ?」

「え? うーん、サ〇ゼかな」

 安くてうまい!独身男の味方サイ〇リア。

 二人だからかするっと入れた。それぞれドリアとハンバーグを注文して待っている間にドリンクバーで飲み物を補充する。

 その時、レヴィはユーノが半分ずつジュースを入れていることに気づいた。

「なあユーノ。なんで飲み物混ぜるの?」

「これはねマッドドリンクといって自分好みのドリンクを作る楽しみなんだよ」

 それにおおーっとレヴィは目を輝かせる。マッドドリンク、もしくは闇の錬金術とも呼ばれる。さっそくレヴィも真似しはじめる。

 オレンジにコーラにサイダーにカフェオレに……いろいろと混ぜて混沌とした色へとなる。だが、レヴィは満足げな顔である。

「うん、僕の好きなものを全部入れたから絶対美味しいぞ!」

「そ、そうだね……」

 そんなわけないとその色にツッコミを入れたかったが、あえてユーノは見守ることにした。人間、手痛い教訓がなければ学ばないのだ。

 決して面白そうだからではない。断じて。

 そして、さっそくレヴィはコップを呷り……

「ぐふっ?!!」

 ばたんと音を立ててテーブルに撃沈する。

「うう、まじゅいいい」

「こういうこともあるからほどほどにね。まずは二つくらいから試した方がいいよ」

 ちゅーっと無難な組み合わせにしたユーノは微笑ましくレヴィを見つめ、この遊びのコツを教えるのであった。

 そんな風にドリンクバーで遊んでいるうちに料理が運ばれてくる。パチパチと肉汁が弾けるハンバーグに湯気を立てるドリアが二人の前に並ぶ。

「うわー、おいしそうだな!」

「そうだね。いただきます」

 食べ始めると、うまいうまいとレヴィはハンバーグにがっつく。やっぱり子供っぽいなあと思いながらユーノがドリアを口に運んでいるとレヴィがじっとドリアを見ていた。

「食べたいの?」

「うん!」

 人が食べているものの方が美味しく見えることはよくあること。

 少し考えてから、はいっとユーノがスプーンを差し出すと、レヴィはぱくんと迷いなくそれを咥えた。

「うん、おいしいぞユーノ!」

 嬉しそうにレヴィは笑う。なんかいつもと違う賑やかな食事。でも、それも悪くないかもなとユーノは思い、笑う。

 

「じゃあ、僕からもだ! はい、あーん!!」

 と、レヴィがハンバーグの欠片を乗せたフォークをユーノへと差し出す。

「え?!」

 流石にこのお返しは想像していなくて、狼狽えるユーノであった。

 

 そうして腹ごなしをしてからクラナガンの街を歩く。どこかレヴィが楽しめる場所はないかと探していると、映画館が目に留まった。そこには『魔法少女リリカルなのは』の文字。

「あ、そういえば、今はレヴィ達の映画やっているんだっけ」

「え?僕たちの映画?!」

 正確に言えば人気の高いなのはたちの過去の事件を題材にした映画だ。数年前に闇の書編が公開し、今度はマテリアル編と相成ったのだ。

 監修ははやてとフェイト。なのはは自分の役の子にみっちりと航空戦技をたたき込み、将来のエース候補を生んだとか。

「それはぜひとも見ないと! 僕らの活躍なんて王様とシュテルンもきっと気にするぞー!!」

 そういってレヴィは映画館へと突撃していった。

 

 そうして映画を見終わると、レヴィは消沈していた。なお、どっかの執務官にそっくりなパツキンが「なのはいいね……」と恍惚とした顔で映画館から出てきたと思ったがユーノはスルーした。

 まあ、レヴィが不機嫌な理由は概ね察しがついている。

「むうう、僕ら悪役だったぞー!!」

「まあ、なのはたちが主役だから仕方ないよ」

 予想道理だが、レヴィは映画の内容にご立腹のようだった。

 なにせ自分たちが悪役として出ているのだから、映画にする上である程度脚色されてはいるだろうが、本人としては文句の一つも言いたいのだろう。

 だが、あくまでもこの映画はなのは達の経験した事件がベースなのだ。そうなれば一時は敵対していたマテリアルたちが敵役になるのも仕方ない。

「それに、あんな子知らないぞー!」

「そういえばそうだね。なんでかな? でも、レヴィたちはかっこよかったよ」

「ん? そうか? ふふんそうだろそうだろ! なにせ僕たちは強くてすごくてカッコいいんだぞ!!」

 ユーノの言葉にえへへんと得意げに笑うレヴィ。

 どうやら機嫌が直ったようだなと安心する。

「そうだ、ユーノも少しだけの登場だけどかっこよかったぞ!」

「え?そうかな。ありがとう」

 レヴィの言葉にユーノは面映ゆそうに顔を赤くした。まさか自分が褒められるとは思いもしなかった。

 

「ねえ、次はどこいくの?」

「うーん、どうしようか」

 映画館以外でレヴィが楽しめそうな場所といえばどこだろうかとユーノは考える。

「よし、ゲームセンターに行こうか」

 あそこなら騒がしくても問題ないし、レヴィも遊ぶものがたくさんあっていいだろう。

 おおーっとレヴィが目を輝かせる。

「よーし、さっそく行こう!!」

「わ、レヴィ!?」

 レヴィはユーノの手を取って歩き出した。暖かくて柔らかなレヴィの手の平にユーノは先とは別の意味で顔を赤くして引っ張られた。

 

「むううう、全然取れないぞ」

 そうして到着したゲームセンターでレヴィは、UFOキャッチャーの前で渋面を作っていた。

 レヴィは翡翠のフェレット人形を取ろうとしているのだが、中々引っかからない。隣の夜天のタヌキ人形はとれたが、「こっちじゃなーい!」と放り出してしまい、ユーノが預かっている。

「あー、また落ちた!」

 ぼとっとクレーンから落ちた人形は他の人形の隙間に入り込んでしまう。

 それでも諦めきれないのか再び挑戦するが、他の人形に邪魔されてアームが届かない。

「ねえ、レヴィ。もう諦めたら? ちゃんと一つは取れたし」

「やだ! タヌキじゃなくてあっちがいい!」

 この時、八神捜査官がくしゃみしたとかしないとか。ゲームの前で唸るレヴィ。それを見ていたユーノはよしと一歩前に出る。

「ちょっとやらせて」

「ユーノ、できるの?」

 ユーノは遺跡発掘が趣味だ。瓦礫を退かすことにはなれている。

 人形の重心と形状を見ただけで把握して……

「おおっ?!」

 持ち上がった。しかも、寄りかかっていた星光のオキツネさんも一緒に挟んでいる。

「す、すごいぞユーノ! 二個も一気にとれるなんて!!」

「僕もびっくりし、あっ」

 だが二つの人形を捕らえたせいで緩んでいたのか、するっとフェレットだけが落ちてしまった。

「……あう」

 出てきたのは星光のオキツネ人形だけであった。

「も、もう一回」

 残念がるレヴィにユーノはもう一度挑戦する。クレーンは落ちた人形を拾い上げ、今度こそユーノはフェレット人形をゲットした。

「やったー!ありがとうユーノ!!」

「わわっ! れ、レヴィ?!」

 感極まってレヴィがユーノに抱き付く。

 何度も言うが、レヴィはその性格とは対称的に非常に女性らしい身体つきをしている。

 具体的には胸がある。ボインである。ボンキュッボンである。抱き着いた拍子にむにゅりとたわわな乳房が潰れ、柔らかな弾力がユーノを襲う。しかも胸だけでない。きゅっと縊れた腰に見事な稜線を描く太腿と尻もまたむっちりと肉が詰まっている。

 ユーノは草食系である。だがしかし、煩悩がないわけではない。

 あたっている。あたっている! 柔らかな胸が、おっぱいが二つくっついてる!! 心臓が高鳴り、頭から湯気が立ち上りそうなほど顔が真っ赤に染まってしまった。

「んっ? どうしたのユーノ?」

 自分が原因と露とも気づかずに不思議そうにレヴィはユーノの顔を覗きこんだ。

「な、なんでもないから! そろそろ離れてくれないかな?」

「え? うん」

 なんだか残念そうにレヴィがようやく放してくれる。

 未だにばくばくする心臓。なんだか男としては期待とか勘違いをしたくなるが、ユーノはレヴィはそんな気がないこと。そして、妹のような友達であると何度も自分に言い聞かせた。

 

 そうして色々と回った結果、レヴィは両手一杯のお土産を抱えてトランスポーター前にいる。

「えへへ、ユーノ今日はありがとうね」

「ど、どういたしましてレヴィ」

 対してユーノは少し疲れ気味である。あの後も何度も無自覚で過剰なスキンシップを受けたのだから仕方がないだろう。

「あ、そうだ!」

 なにかを思い付いたらしいレヴィが荷物を置くとユーノに近づいてくる。

 心なしか頬が紅くなっていて、なんだろうかと思っていると、再びレヴィが抱き付く。その上で、

「チュッ」

 ユーノの頬にキスをした。柔らかく暖かく瑞瑞しい唇が頬に吸い付いて、離れる。

 女の子がほっぺにキス。この日一番の衝撃に酷使されていたユーノの思考がついにオーバーヒートする。

「き、キリエが男の子はほっぺにチュウをすると喜ぶって言ってたから......あうう、じゃ、じゃあね!」

 流石のレヴィも恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして、ユーノから離れると一目散にトランスポーターに飛び込んだのであった。

 それからしばらく司書長が石のように固まっていたとか。

 

 

 

 次の日、ユーノは仕事に身が入らなかった。

 その理由はユーノもわかっていて、そっとレヴィがキスをした頬に触れる。

「うう……」

 いまだに鮮明にレヴィの唇の感触を覚えている。

 あの子は単にお礼代わりと教えてもらったことをしただけで、別に異性的な好意を自分に向けているわけではない。

 それはわかっている。わかっているのだが……

「レヴィ……」

 しばらくの間、レヴィのことが頭を離れなさそうだった。

 

 

 

 

~一方のエルトリア~

 

「でね、ユーノがこの人形をとってくれてね、あ、そうだシュテルンにはこれあげる」

 レヴィが星光のオキツネさん人形を渡す。

「......ありがとうございます」

 レヴィの報告を聞くシュテルには表情がない。すでにディアーチェたちは逃げ出しているが、レヴィは気づかずに無自覚の自慢話(シュテルにとっては)を続ける。

「あれ? シュテルンなんでルシフェリオン出しているの?」

「レヴィ、少しOHANASHIしましょうか?」

 ニッコリとシュテルが微笑んで、矛先をレヴィに向けた。

 

 

 

~一方特務六課~

「さて、フェイトちゃん言い訳はある?」

「知らないよー! 私ユーノと映画になんていってないよー!!」

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 その日、ユーリもトーマたちと映画を見に行っていたのだが……

「トーマ、悲しいです。私、映画とはいえ、あんな目に合うなんて……」

 悲しそうにスンスンと鼻を鳴らしながらユーリはトーマの胸に縋りつく。

「大丈夫だよユーリ、きっと映画の後編であのユーリも助け出されるから」

「そう、ですか?」

 ぐりぐりとユーリは頭をさらにトーマに押し付ける。

 トーマは気づいていない。ユーリが実は嘘泣きをしていることを。

 鼻を鳴らしている本当の理由は、泣いているふりをしながらトーマの匂いをたっぷりと嗅ぐためであることを。そして、勝ち誇った笑顔を浮かべていることを。

 それに気づいているリリィが微笑みながらも目に怒りの炎を燃やしていることを……



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司書長と闇統べる王(ユノディア)

 その日、ディアーチェは無限書庫でユーノにユーリのことで相談をしていた。

 

「最近、ユーリがあの二股男のところにばかりいっておってな、なにか間違いが起きなければいいのだが」

 

「うーん、トーマくんが手を出すことはないと思うけど。彼はそういうのはきっちりしてそうだし」

 

 ディアーチェがユーノに相談を持ちかけるのは、はやてに相談しても四角関係を彼女が面白がっているため役にたたないからだった。

 他のマテリアルもレヴィはお子様で、シュテルは本人の自由だと傍観。フローリアン姉妹は姉は応援、妹ははやてと同類。

 結果、白羽の矢が立ったのはそれなりに親しく、ちゃんと話を聞いてくれるユーノであった。

 

「まあ、ディアーチェが心配するのもわかるけど、ユーリもいろんなことを経験するべきだと思うなあ」

 

「そうか、まあ、そうだな」

 

 ユーノの無難な結論にディアーチェもとりあえず納得する。

 と、そこで時計を見る。そろそろユーノの昼休みが終わるころだった。

 

「む、すまんな。話し込んでしまった」

 

「いいよ、気にしないで」

 

 ユーノは笑いながら懐からカロリーメイトを取り出して食べ始める。

 それにディアーチェは少し顔を顰める。自分が話し込んだせいでその程度しか食べる時間しか残っていない。

 

「我のせいで昼食を食べ損ねたか。すまないな」

 

「へっ? 今、食べてるじゃない」

 

 ユーノの返答にディアーチェは固まる。

 

「それが貴様の昼食なのか?」

 

「うん、いろんな味があって飽きないよ。恭也さんはフルーツ味が好きだっていってたっけ」

 

 あははと笑うユーノに対しディアーチェは眉をひくひく痙攣させる。

 

「つかぬことを聞くが、家でもそれなのか?」

 

「家ではカップ麺がメインかな。あとはコンビニの弁当とか」

 

 独身生活の長いユーノはあまり自炊というものをしてこなかった。せいぜい野外キャンプで採ってきた野鳥等を調理するくらいしかしたことがない。

 その答えにディアーチェは眉間を抑える。

 

「貴様なあ……」

 

 それを食事と言うのは、オリジナルのはやてと同じように食事に対してこだわりを持つディアーチェには受け入れがたかった。

 そして、友人であるユーノの食生活が非常に心配になってきた。だから、

 

「鼬男よ、都合のいい日はあるか?」

 

「うーん、明後日なら休みだけど」

 

 それによしとディアーチェは頷く。もはや彼女は決心していた。少しでも目の前の男の食生活を自分が正してやろうと。

 

「よし、ならばその日、我が貴様に馳走してやろう」

 

「え?」

 

 いきなりのディアーチェの提案にユーノは戸惑う。

 

「楽しみにしておくがいい。この王が至高の美味を貴様の舌に叩き込んでくれよう!」

 

 そうなんかの美食屋のように宣言してディアーチェは司書長室から出て行った。それをユーノは戸惑いながら見送る。

 それから、気を取り直し仕事に戻ったが、その時にはいったいどんな店に連れて行ってくれるのかなんてユーノは少し楽しみになった。

 

 

 

 翌日、ディアーチェは朝早くから市場に顔を出していた。

 いくつもの店を回り、これだと確信できる食材を探し出す。

「店主、活きのいいものを頼む!」

 

 

 

 翌日、ユーノは外出用の服を着て、本を読みながらディアーチェを待っていた。

 そして、インターホンが鳴る。

 

「あ、ディアーチェかな?」

 

 すぐにユーノはドアをあける。

 

「いらっしゃい、ディアー、チェ?」

 

 そこにいたのは確かにディアーチェ、だが、ユーノが想像したような姿はしていなかった。

 両手に食材がぎっしりつまってパンパンになった手提げ袋。そして、背中には使い込まれた中華鍋。

 

「鼬男、貴様に王の料理を堪能させてやろう」

 

 

 

 

 

 

 お湯をわかしたり、トレーやカップを洗う程度にしか使われていなかったキッチンが今、フルに活用されていた。

 

「はっ、ほっ!」

 

 エプロンを纏ったディアーチェが中華包丁で食材を切り裂き、鍋が炎を切り裂き、鍋の中で食材が踊る。

 ふわりと芳しい香りがユーノの鼻腔を打つ。

 

「ディアーチェ、すごいね」

 

 手際よく料理を作る彼女にユーノは感心する。

 

「ふん、このくらい当然よ」

 

 流れる汗が蒸発しそうなほどの熱気が彼女を包んでいる。

 普段は尊大ながらも面倒見がいい彼女にエプロンはなかなか似合っていた。

 

「さあ、できたぞ。王による料理を心して食すがよい」

 

 ディアーチェが食卓に料理を並べる。

 オムライス、ステーキ、クラゲのサラダ、スッポンのスープといったメニューだった。どれもこれも旨そうである。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 スープを掬い、一口入れて、ユーノは目を見開いた。

 

「おいしい」

 

 自然とその一言を口にしていた。

 スッポンのスープは上品な塩味。スッポンのエキスがよく出ていて、塩加減もちょうどいい塩梅だ。精も付きそうで、意外と重労働な無限書庫での仕事も明日からも頑張れそうな気がした。

 

 オムライスの中身はチャーハンで、パラパラのチャーハンがとろとろの半熟卵と上にかけられたタルタル仕立てのトマトソースが混然となってユーノの口に広がっていく。

 

「本当に美味しいよディアーチェ」

 

 想像以上の料理の腕にびっくりだった。もしかしたら高級店でも通用するであろう腕前であった。

 

「わっはっは、もっと誉めるがよい、称えるがよい!」

 

 小振りな胸を張って嬉しそうに笑うディアーチェ。なにせエルトリアは未だに娯楽の少ない土地であり、そんな中でディアーチェは料理が楽しみであり、どんどんと腕を上げていっていた。

 ステーキも、箸で切れるほど柔らかく、口の中で繊維がふわふわほどけ、肉の上に乗せられた調味料と肉汁が絡みあい、舌を喜ばせる。

 

 サラダはこりこりとした歯触りの一口クラゲにシャキシャキの野菜が盛られ、小気味いい食感を演奏しながら、黒酢仕立てのドレッシング酸味が口の中をさっぱりさせる。

 

「本当においしいよ。ディアーチェの料理なら毎日食べたいね」

 

「そうだろう、そうだ、ろう?」

 

 なにげなく放たれたユーノの一言にディアーチェは一瞬意味を理解できなかった。

 我の料理を毎日食べたい? つまりは我と……

 

「な、な、な、なにを言い出すこの鼬は?!」

 

 ユーノの爆弾発言にディアーチェの顔は火がついたかのように真っ赤になった。

 彼女とて乙女なのだ。それがいきなり異性から告白のようなことを言われれば狼狽えても仕方ないだろう。

 

「へ? なんか変なこと言った?」

 

 不思議そうに問い返すユーノ。本気で彼は自分が何を言ったのか理解していない様子だった。

 そんなユーノを直視できないディアーチェ。

 

「こ、こ、この塵芥風情が一度我が手料理を振る舞ったからって調子に乗るでないわ!」

 

「えっと、別に調子に……うん、ごめん」

 

 とりあえず謝った。理由はわからないが、ディアーチェが自分の発言のせいで怒ったことは理解できるから。

 なにを間違えたのだろうか。アコースからはこれが女性を喜ばす褒め言葉と教わったはずなのに……

 ユーノは知らない、それが褒め言葉ではなく、正確には少し古い口説き文句であることを。

 

「ふ、ふん、き、貴様が我が臣下となるというなら、その、料理を振る舞うのも吝かではないがな」

 

 赤く染めた顔をディアーチェは彼に向ける。せめてもの意趣返しのつもりだ。

 

「あはは、じゃあ、よろしくね我が主」

 

 とりあえず機嫌を直してくれたのであろうディアーチェにそう答えながら舌鼓を打った。

 

 

 

 一仕事を終え、司書長室に戻ったユーノ。

 今日はフルーツ味かなあなんて考えて、気づく。テーブルにフェレットマークがプリントされたナプキンに包まれたなにかがあることを。

 

「これって……」

 

 しゅるっと解くと、中から出てきたのは弁当。そして、

 

『ちゃんとした食事をせよ。byディアーチェ』

 

 一枚のメッセージカード。それを見てユーノは笑った。

 

「いただきます。ディアーチェ」

 

 

 

 

 

 

 一方、ユーリはトーマたちと遊園地に来ていて、お化け屋敷に入っていたのだが……

 

「カッパ~」

 

 緑色のデフォルメされた河童が飛びだした。

 

「きゃー、河童! 尻子玉抜かれますーー!!」

 

 ユーリはそんな河童を恐れて悲鳴を上げながらトーマに抱きついた。

 むにゅっとその胸がトーマの身体に押し付けられる。

 

「だ、大丈夫だよユーリ」

 

 と、ユーリを落ち着かせようとするトーマ。

 そんなトーマはだらだらと恐怖の汗を流しているが、それはお化け屋敷のせいではない。彼が恐怖を感じている原因は……ちらりと後ろを見る。

 恐ろしいオーラを発しながら笑顔を浮かべるリリィがそこにいた。

 いったいなんでリリィがそこまで怒っているのか、トーマはまったくわからず、怖がるユーリの肩に手を回して、さらに増した圧力にびくりと震えた。



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ファーストキスは嫉妬とともに(ユノシュテ)

『司書長と星光の殲滅者』の続きです。


 その日、司書長室にマテリアルたちが遊びにが来ていた。

 

「鼬男、先日のデータ感謝するぞ」

 

「あ、いいよ気にしなくて」

 

 ディアーチェのお礼に対してユーノはそう答えるが、心の中ではディアーチェの発言の原因であろう友人である真っ黒クロ助を締める算段を立て始めていた。

 

「いえ、謙遜しないでください。師匠のデータは貴重です。本当に助かりました」

 

 シュテルがそう言うが、ユーノにとってそれは謙遜なんかじゃなかった。

 本当に大したことしていない。エルトリア再生のための資料をシュテルに渡しただけ。それを実際に形にしたのはシュテルたちだから、すごいのはシュテルたちだとユーノは思っていたが、同時に自分が役にたてていたなら素直に嬉しいとも思っている。

 

「そうだ、他になんか欲しい資料あるかな? よければ今日この後暇だから書庫内を案内したりできるけど」

 

 まだエルトリアからこちらに来るのは簡単にできることではなく、連絡もなかなか難しい。彼女たちがこっちに居られる間にできる限り資料を渡そうと思って提案したのだが、

 

「うーん、でも、僕、書庫よりも楽しい場所に行きたいな!」

 

「へっ? うーん、どこがいいかな?」

 

 レヴィのお願いにユーノは考える。

 楽しい場所ね。なんかいい場所ないかなとユーノは思案する。しかし、残念ながらユーノも多忙のためにあまり外に出ることはない。

 

「こら、レヴィ、我儘を言っては師匠に迷惑ですよ!」

 

 シュテルがレヴィを嗜める。

 

「いや、構わないよシュテル。どうせ今日は暇だから」

 

 無限書庫はユーノのような人種にとっては仕事がなければ楽園だが、そうではないレヴィにとっては退屈な場所だろう。

 せっかくこっちに来たんだし、どこか遊べる場所のほうがいいかなと結論する。

 

「いいのですか?」

 

「構わないよ。友達なんだから」

 

 そう言ったら、なんかシュテルが不満そうな顔になった。

 そのシュテルになんか変なこといったかなとユーノは首を捻る。

 

「友達、ですか……」

 

 シュテルがなんか呟くけど、ユーノはよく聞き取れなかった。

 

「うん、僕たち友達なんだねユーノ!」

 

 レヴィはユーノの手を掴んで上下に振る。なぜそこまで喜ぶのかとちょっとだけユーノは戸惑う。

 

「ふん、王たる我に戯言を。だが、良いだろう。我らを救う助力をした貴様を友と認めてやろう」

 

 喜ぶレヴィに対してディアーチェは尊大な態度でユーノの友人発言を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしながら、ユーノが知る場所は美術館とか書庫とあまり変わらない場所だったため、簡単なミッドチルダ観光となった。

 

「ここが、ミッドチルダ中央駅広場で、あそこにあるのが名物忠犬ザッフィー像」

 

 ザッフィー像は目立つために待ち合わせの目印としてミッドチルダ市民から親しまれている。

 

「どことなく守護騎士の守護獣に似てますね」

 

 シュテルの呟き通りにその像はザフィーラそっくりである。だが、偶然らしい。かつての主が作ったのかと思ってユーノたちは聞いてみたが、本人は完全否定していた。

 そして、大通りに出るとレヴィが目を輝かせた。

 

「人が一杯いる!」

 

「一応今日は休日だからね」

 

 こちらにいた期間が短く、エルトリアも人が少ないため、人混みと言うのは知識でしか知らないレヴィには新鮮な光景だった。

 

「おお、あそこ楽しそうだぞ! あそこ行こうあそこ!」

 

「うわ!」

 

 ユーノはレヴィに引っ張られる。それをシュテルは睨み、ディアーチェはそんな臣下たちにため息をついた。

 

 

 

 

 

 

『You win!!』

 

「また負けたー、ユーノ強すぎる」

 

「僕はそんなに強くないんだけどなあ……」

 

 現在、四人はゲームセンターで遊んでいた。

 結構こういったゲームが好きらしいレヴィはさっそく対戦だー! とユーノに挑み、見事に連敗記録を作っていた。

 ユーノは十年ぶりに対戦ゲームをやるため、いい勝負ができるだろうと思っていたが、意外とやれるものである。余談だがワザと負けたらレヴィが怒ったため手加減はしていない。

 

「ようし、敵はとってやるぞレヴィ!」

 

 そして、ディアーチェに変わる。ディアーチェが選んだのは陰陽術師。それに対しユーノは彪貌の巨漢を選ぶ。そして、対戦が始まり……

 

『You win!!』

 

 必殺技を喰らい、ディアーチェは負けた。

 

「ぐあああああああ!!」

 

「王様、僕より倒されるの早いよ」

 

 じとーっとレヴィはディアーチェを見つめる。

 それに耐えられなかったのか、ディアーチェはユーノと席を変えて、レヴィと対戦しだした。

 そんな二人を微笑ましくユーノは見守っていたのだが……突然上がった歓声に振り向く。

 

「すげえ! この姉ちゃん二十人抜きしたぞ!!」

 

「あんたがナンバーワン!!」

 

 やんややんやと褒めたたえられてるのは……なんか仏頂面でゲームをプレイしているシュテルだった。

 連勝しているのにどこか不機嫌なシュテルはその日、一日でナンバーワンプレイヤーに昇り詰める偉業を成し遂げた。

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった」

 

「所詮は座興の一環だが、なかなかどうして面白かったぞ」

 

 レヴィはご機嫌そうに笑う。ディアーチェも尊大に楽しかったことを認める。

 だが、シュテルは不機嫌なままだった。

 

「じゃあ、今日はありがとうねユーノ!」

 

「褒めてやるぞ鼬男」

 

「うん、楽しんでくれたなら僕も嬉しいよ」

 

 だいぶ遅くなったからそろそろホテルに戻るということで、ユーノは見送ろうとしたのだが、

 

「すみません王、少々師匠と話したいことがあるので、先に戻っていただきたいのですが」

 

「そうなのか? なら、我らは先にホテルに戻ろう」

 

 と、ディアーチェは頷いてから、シュテルに何やら耳打ちをし、途端にシュテルは顔が真っ赤になった。

 

 

 

 

 

 

 

 シュテルは二人を見送ってからユーノの手を引く。

 そして、適当な物陰に隠れると、きっとユーノを睨んだ。

 

「えっと、シュテルどうしたの?」

 

「師匠、私との約束を覚えていますか?」

 

「う、うん覚えてるよ。結婚を前提に付き合う、だよね」

 

 女の子からの告白を忘れるなんてできないよとユーノは笑う。

 

「だ、だから、その、いいですよね?」

 

 なにがとユーノが問う前に口が塞がれた。シュテルの唇によって。

 突然のことに混乱する。ただ、ユーノにとって一番衝撃的だったのは、シュテルの唇だった。

 柔らかくて、でもプリプリと弾力があって、暖かくて、甘くて……とにかく説明しきれない情報が一瞬でユーノの頭の中を駆け廻る。

 少ししてシュテルが唇を離す。ただ唇を触れさせるだけのソフトなキス。それにユーノは困惑する。これだけでこんなになってしまうとは……

 

「シュテル、なんでいきなり……」

 

 それでも、ユーノはなんとか彼女になんで突然こんなことをしたのか問いかける。

 

「し、師匠が悪いんです。私よりレヴィやディアーチェと仲良くして……」

 

 シュテルの発言に流石のユーノも理解した。シュテルは二人に対して嫉妬していたのだ。

 再びシュテルが体を押し付けるようにしながらユーノと唇を重ねる。

 シュテルの身体がユーノの身体にくっつき、むにゅっとシュテルの豊かな乳房がユーノの胸板に押し潰されて形を変える。

 シュテルは背中に手を回してきて、それにユーノもおずおずと彼女の背と肩に手を回す。

 

 ユーノは密着したシュテルの身体の柔らかさにすごいと感動する。

 キスも、密着したからか自然と変わった。唇になにか柔らかいものが割って入ってきたのにユーノは気づき、それがすぐなんなのかわかった。シュテルの舌だ。

 それをユーノも受け入れて舌を伸ばす。舌を絡めさせて、吸って、甘噛みして、シュテルの口の中に溜まっていた唾を飲んで、逆に彼女に飲まれて、情熱的で、互いを貪るようなキスになっていく。

 

 ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅぷっと踊る舌が、水音のBGMを奏でる。

 そして、お互いに息が苦しくなって、やっと口を離した。それでも名残惜しそうに伸びた互いの舌から唾液でできた銀色のアーチが伸びて、切れた。

 もしも、息が永遠に続くならずっとしていたかもなどと考えるほど、ユーノはキスに夢中になっていた。

 

「し、師匠、だからお子様なレヴィにはできないことをしたんですが……」

 

 レヴィにできないこと。確かに今みたいなキスはレヴィはできなさそうだ。なんとなくほっぺにチューまでならまだイメージ湧く。

 

「そ、その嫌でしたか? ご、ごめんなさい、ついかっとなって」

 

 おずおずとシュテルはユーノに謝る。

 そんな彼女がいじらしくてユーノはその頭をそっとなでる。

 

「ううん、ごめんねシュテルのことちゃんと見てあげられなくて」

 

「い、いえ、私こそ、も、もっとちゃんとした状況でこういうことはしたかったのに……ううう」

 

 頬を真っ赤にして悶えるシュテルがとても愛おしくなり、今度はユーノの方から唇を奪うのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、今頃は奴らは……くっくっく、うまくやれよシュテル」

 

 夜景を見ながら、どこか邪悪に笑うディアーチェ、だが、がちゃっとドアが開き、シュテルが入ってきた。

 

「ただいま戻りました」

 

 それにあっけに取られるディアーチェ。そして……

 

「あんの鼬男があ! どこまで草食系だというのだ?! 貴様も貴様だシュテル! こちらが気を利かせたのだから押し倒すくらいせぬかあ!!」

 

 シュテルはディアーチェの理不尽な怒りに自分に何か落ち度があったのだろうかと悩むのだった。

 そして、そんな二人を楽しそうに見ていたレヴィはふと一人足りないことに気づいた。

 

「あれ、そういえばまだユーリ帰ってきてないのかな?」

 

 

 

 

 

 

「トーマ、あーん」

 

「トーマ、はいあーん」

 

 リリィとユーリが手作り料理を差したフォークをトーマに対して突き出す。

 

「あ、あの、リリィ、ユーリ、なんか目が怖いんだけど……」

 

 何故かバチバチと目の前で火花を散らせる友人二人にトーマは戸惑うしかなかったのであった。



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世界を殺す猛毒と砕けえぬ闇(トーマ×ユーリ)

今回はユーノ君ではなく、オチ担当のトーマ君の話でせう。そして綺麗なユーリ。



 その日、特務六課には六人の客が来ていた。

 シュテル、レヴィ、ディアーチェ、三人のマテリアル、フローリアン姉妹、そして、紫天の書の盟主、ユーリ・エーベルヴァイン。

 かつての事件でかかわりのあったなのはたちに会いに来たのだが……

 

 

 

 

 トーマは困惑していた何故ならば……

 

「トーマ、お久しぶりです!」

 

 名も知らぬ少女に抱きつかれていたのだから。

 そして、その後ろでなにか恐ろしい気を発する闇統べる王がトーマを睨んでいた。

 

「トーマ、その子、誰?」

 

 さらに、リリィまでがまったく目が笑っていない笑顔でトーマに問いかける。

 

「トーマ、どうしたんですか?」

 

 少女は首を傾げる。

 それに、トーマは必死に目の前の少女が誰なのかを思い出そうと記憶の糸を辿り始めた。

 金色の少しウェーブのかかったふわふわの髪。スバルのようにおへその出たバリアジャケット。そしてトーマの身体に押し付けられたお陰でむにゅっと変形したナイスなお胸様。

 ダメだった。どこかで会ったような気がするものの目の前の少女のことをトーマは思い出せない。

 

「えっと、ごめん、君は誰だっけ?」

 

 トーマの問いかけに目の前の少女は世界が終わったかのような絶望の表情を浮かべる。

 

「思い、出せないんですか?」

 

「う、うん」

 

 トーマは少女の泣きそうな顔にたじろいでしまう。

 

「そんな、私をあんなに激しく攻めてきたのに?」

 

「うえっ?!」

 

 激しく、攻めてきた? いったいなんのこと?

 

「トーマ、どういうことか、お姉ちゃんに説明してくれる?」

 

「す、スゥちゃん?」

 

 ガシッと強く肩を掴まれる。スバルの目が金色に光っているのは気のせいだろうか?

 

「私が昔の自分に似ているって言ったのも、あの時限りの言葉だったんですか?」

 

 うるうると少女はトーマを見つめる。

 

「トーマ、そんなこと言った相手も覚えてないんだ」

 

「ヴィ、ヴィヴィオまで……」

 

 ヴィヴィオの軽蔑に満ちた視線が痛い。

 えっと、とトーマは再び思い出そうとする。もし思い出せなければいろんな意味で俺は終わってしまう。そういえば少しだけ目の前の少女の顔に見覚えがあった。それもごく最近のはず。

 

「そうだ夢の中で出たあの子!」

 

 そして、その微かなとっかかりからトーマはやっと辿り着いた。目の前の少女と同じ顔をした女の子のことを。それは夢の中でのこと。自分がなのはたちによく似た少女たちと共に事件解決に奔走するという奇妙な夢の中で現れた。

 

 

「トーマ、そんなので誤魔化すの?」

 

 アイシスの問いにぶんぶん首を振る。

 

「え、えっと、リリィ、ほら、あの俺と同じ夢を見たときの!」

 

 話を振られてリリィは思い出す。トーマと同じ夢を見るという不可思議な体験をしたことを。確か、新しい技を試して八神司令に怒られた……

 

「あ、あの!」

 

 それでリリィも思い出した。

 そう、確か彼女の名前は……

 

『ユーリ・エーベルヴァイン!!』

 

「はい!」

 

 名前を呼ばれてユーリは嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「そっかあ、あれ、夢じゃなくて本当にあったことなんだ」

 

「はい。事情があってお二人にはエルトリアの出来事は夢と思っていただきました」

 

 事情がわかったために、誤解も解け、先程まであった修羅場色は霧散して、ユーリとの会話に花を咲かせていた。

 なお、時間移動のことを伏せるために、あくまでトーマたちはエルトリアの世界に来てしまったことにしている。

 

「でも、ユーリたちも成長するんだね」

 

「そうなんです。私たちもちょっと驚きました。自分たちにも成長があったなんて」

 

 そう言ってユーリは笑う。

 ユーリはかつてトーマたちと出会った頃と比べ、背は高くなり、その身体も女性らしい凹凸が生まれている。特に胸の成長は素晴らしい。

 

「でも、ユーリ、なんであんな誤解をされるような言い方をしたの?」

 

「誤解? キリエがこうすればトーマとリリィはきっと思い出すと言ったので」

 

 リリィの問いにユーリがそう答えて、瞬間、女性陣の刺さるような目がなのはたちと楽しくしゃべっていたキリエに突き刺さった。

 それに、びくっとキリエが震える。いつのまにかリリィはその手にディバイダー996を、スバルはマッハキャリバー、アイシスはアーマージャケットを装備し、ヴィヴィオは大人モードになっていた。

 

「えっと、その、ねえん、えっとユーリ、それ以上は……」

 

「色々キリエにアドバイスされたんですよ。男の子はお胸が大きい方が好きだから、トーマは私が抱きつけば喜んで思い出すって」

 

 瞬間、危険を察したキリエは駆け出した。それを武装したリリィたちが追う。

 それをきょとんと見送るユーリ。

 

「トーマ、みんないきなり走り出してどうしたんですか?」

 

「君は知らなくていいことだよユーリ」

 

 ユーリから目を逸らしてトーマは答える。恐るべし天然娘。

 

「え、えっと、トーマ、と、ところで、その……嬉しかったですか?」

 

 と、ユーリは顔を赤くして、もじもじしながら、問いかける。

 

「え? なにが?」

 

 その問いかけにトーマは首を捻る。

 それから、少しの間、ユーリは恥ずかしそうに顔を伏せてから、再び顔を上げる。

 

「わ、私に抱きつかれて嬉しかったですか?」

 

 そして、今度こそトーマにはっきりと聞いた。

 それに、トーマは……即答できなかった。うん、八割が困惑だったが、リリィと同じくらいに成長したユーリの胸の感触にドキドキしたほどで、スバルやギンガといった魅力的な女性がそばにいたからか、実は巨乳派であるトーマとしてはかなり嬉しかったりした。

 そう、男は巨乳が大好きなのだ。ぷるぷると柔らかそうで、女体の神秘を余すことなく詰め込んだ魅惑の果実。八神司令が大好きになるのもトーマはよく理解している。

 うん、嬉しかった。だが、それをはっきりと答えていいのだろうか。本人が聞いてきたこととはいえ、大きな胸が押し付けられたのが嬉しかったとカミングアウトするのはかなり恥ずかしい。

 どうしようかとトーマは考え込む。だが……

 

「嬉しく、なかったんですか?」

 

 まるで小動物みたいにしゅんと気落ちして見つめてくるユーリに、そんな葛藤はあっさり消し飛んだ。

 

「す、すっごく嬉しかったよユーリ!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

 疑うようにユーリはトーマを見つめる。

 それに対してトーマは言葉を重ねてユーリに抱きつかれた瞬間の感動を熱弁する。

 

「う、うん。その、ユーリの身体すごく柔らかくて、ふわふわで、えっと……俺、大きいの大好きだし!」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 それに、ユーリは今度は別の意味で恥ずかしそうにもじもじして赤くなった頬に手を当てる。

 

「へえ? トーマ、大きいのがいいんだ」

 

「そりゃあ、俺だって男だし」

 

「ふーん、男の子って大きいのがいいの?」

 

「そうだな。大は小を兼ねる。大艦巨砲主義、昔から人は大きいのにロマンを見出すも、の……」

 

 そこまでいってトーマは途中から問いかけがユーリではなく、別の人物からのにかわっていたのに気づいた。

 

「えっと、ヴィヴィオ? アイシス?」

 

「うん?」

 

「なあに?」

 

 振り返ると、満面の笑顔の二人がそこにいる。さらには、

 

「トーマ、ユーリに抱きつかれて嬉しかったんだ」

 

「り、リリィ……」

 

 にこにこと笑うリリィ。だが、三人の背後には悪鬼のようなオーラが立ち上っている。

 

『少しOHANASHIしようか?』

 

 三人はがっしりとトーマの肩を掴んで引っ張る。

 あーっと絶望の声を上げながらずるずるとトーマは連れ去られていく。そこにいつの間にか嬉々としてディアーチェも加わっていた。

 そして、一人残されたユーリは……

 

「わ、私もトーマに抱きついた時ドキドキしました。男の人の身体ってこんなにがっしりしてるんだって驚きましたし、匂いもディアーチェたちとは全然違って……」

 

「えっと、ユーリ、トーマいないから話しても意味ないですよ?」

 

 アミタがツッコむが自分の世界に旅立ってしまったユーリにはその言葉も届かない。

 そして、訓練場の方向から、銀色のエネルギーと、爆音、そして、闇統べる王と聖王の魔力光の輝きが上がるとともにトーマの断末魔が響いた。



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