絶望に反抗した結果、生まれ変わりました。 (ラビリンス・ペンギン)
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はじまり
絶望へ反抗した結果、脱落しました。


初めて書きます。
よろしくお願い致します。


昔から、俺たちの生活は波瀾万丈(はらんばんじょう)で───

 

いや、まだ小さな…本当に小さな子供だった頃は平和だった。お父さんが笑って、お母さんが笑って、双子の兄が笑って…それだけで幸せだった。たまに来てくれるお祖父ちゃんに遊んでもらって、綺麗な蝶を追い掛けたり、恐竜と戯れたり…

 

 

 

 

 

平和だった。

 

 

 

 

 

それが、今ではとても懐かしい────

 

 

 

 

 

 

始まりは何だったかな…そうだ、亀仙人っていうお爺さんのところで、俺と兄さんみたいに尻尾のあるおじさんがお父さんを殺したんだ。

そして、戦力になるからって俺と兄さんは別々の場所に連れていかれて死ぬんじゃないかっていう経験を何度もした。

それでも、死ぬわけにはいかなくて…なんとか生き延びたと思ったらピッコロさんに修行つけられて、気が付いたらお父さんを殺したやつよりもっと強いやつが現れる日が目前にまでになっていて、ナッパって人と戦わされて…お父さんはドラゴンボールで生き返ったけど、いろんな人が死んじゃって…ピッコロさんは兄さんを庇って殺されて、ピッコロさんと神様がリンクしてるとかで神様まで死んじゃったから、神様とリンクしてるドラゴンボールがなくなっちゃって、不甲斐ない俺達のせいで皆が生き返れなくなっちゃったからって宇宙船で神様と同じナメック星人のいるナメック星にドラゴンボール探しに行ったら宇宙の帝王だったかな…よく覚えてないけどそんな感じの肩書きを持ってるフリーザって奴やその部下と対立することになって────

 

 

 

 

 

アハハ…もう、何言ってるかわかんないや。

 

でも、1つだけ言えることがある。

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

いつだってお父さんが助けてくれたってこと

 

 

 

 

 

 

 

お父さんがいれば何とかしてくれる。

いつだって、いつだってお父さんが助けてくれた。

 

どんなにピンチでも、どんなに辛くても、最後にはやっぱりお父さんがどうにかしてくれた。

 

 

 

 

 

 

お父さん、俺は貴方の所へ向かいます。

家族を残していくこと、人造人間を倒せなかったこと…後悔は数えきれないほどあります。

 

でも、どうか、俺のことを怒らないでください。頑張ったなって…よくやったなって、言ってください。

 

 

「何で俺を庇ったんだ!!」

 

 

兄さんが、珍しいくらいに声を荒げる。

当たり前だよな、勝手に終わろうとしてんだから…逃げようとしてんだから。でも…

 

 

「…俺、よりも…兄さん、の方が、トランクスを…」

 

「これ以上喋るな!」

 

 

兄さんは、先日の戦いで片腕をなくした。…でも、両腕ある俺より兄さんの方がセンスがある。双子でも全然違って、リーダー性がある。…トランクスのためにも、兄さんがいるべき、なんだ…。

 

 

 

「俺…の、思い…お前たちに託した、ぞ。」

 

「何言って…。」

 

「わか、てんだ、ろ?…俺、の思、い。」

 

 

俺と兄さんは、2人で1つと言っても過言ではないくらいだった。お互いの思考はリンクすることが当たり前で、戦いでの連係は自他ともに認めるほどレベルが上がった。途中からトランクスも交えた修行が始まったが、3人になっても俺達の連係プレーは変わりなかった。

 

俺だって、戦いたい。…生きたいんだ。

でも…、仙豆は一粒も残ってない、病院なんて今から行っても間に合わない。例え間に合ったとしても、俺よりも重症な奴なんて山ほどいる。いくら急患だろうとダメだ。急患が多すぎるだろう。

 

 

 

ぼく、おおきくなったらおいしゃさんになるんだ!

そして、みんなのことをたすけてあげるんだ!

 

 

小さな頃はその夢が叶わないなんて夢にも思ってなくて…、パオズ山で幸せに暮らせるものだと思っていた…でも、俺は信じてる。きっと、兄さんとトランクスならこの世界の未来を変えてくれる。志半ばで辞めるのは俺らしくないけど、俺は辞めるんじゃなくて託す。…俺の意思は、必ず2人が継いでくれると信じてるから…。

 

昔は、双子なのに悟飯を兄さんって呼ばなきゃいけないことに反抗してたけど、今じゃ俺に兄は務まらないし悟飯が兄だから何とかなった場面もあった。…反発をやめたときは、こういうのがカリスマ性っていうんだなって思ったんだったな。

 

こんな、最期の最後で笑いたいのに…浮かんでくるのは、悟飯と一緒に家を飛び出したときのお母さん達の顔、抱き締めてくれた腕、お父さんが撫でてくれた手の温もり…ハイヤードラゴンに舐められた時の人とは違う感覚…どれも幸せな頃で、苦しくても皆がいた。

 

 

 

 

「な、悟飯…。」

 

「!?」

 

「背負わせ…て、わる…い。」

 

 

 

 

何言ってるんだ!すべてが終わったら母さんたちのところに行くんだろ!?

 

 

 

その言葉に何も言えず、俺の視界は黒に染まった。

 

 

 




 補足

未来の悟空が心臓病で亡くなった世界で、主人公は孫悟飯の双子の弟です。
時間軸的には、悟飯が片腕をなくしてすぐのところです。
作者はZは見ておりましたが、改や超は申しわけございませんが見ておりません。ですので、改以降は不明です。



主人公設定


悟鈴(ごれい) 享年22
 ・孫悟飯と一卵性双生児の弟
 ・戦いは嫌いで、将来の夢はお医者さん
 ・幼い頃は五星球(ウーシンチュウ)のついた帽子を被っていた
 ・スーパーサイヤ人に目覚めたのはヤジロベーが殺されたときだった
 ・得意技は魔双切


魔双切とは
 ピッコロさんとの修行で身に付けた最初の技
 両手に気を細長く放出し続け、それを敵にぶつけたりレーザー状に射出する他に、防御にも使える





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小学生編
そして黒川花になる。


捏造ドラゴンボール要素少し強めです。


朝目が覚めると、俺は外を見る。

それは、“昔”から変わらない習慣だった。

 

 

太陽の光を浴びて、外の景色を見て…そして、修行に明け暮れる。朝見た景色が変わっていないことを確認して明日もまた頑張ろう…そう思っていた。大切なものはなくしてから気づくってのは本当で、だからその日その日を目に焼き付ける、それが見られなくなってしまわないよう…

 

雀の囀りが鼓膜をくすぐる。

 

俺がいるのは、属にいう孤児院というところで、俺は俺を引き取りたいと言う物好きな夫婦と面会するために別室で待っていた。

子供らしい無邪気な姿はどうしても演じられず…俺は一人静かに本を読んでいるタイプだった。…少しでも医者に近づけるように、知識を蓄えることは怠らなかった。大人が来ても愛想1つ振り撒こうともしなかった俺を引き取ろうということなのだから、物好きと言っても良いだろう。

 

昔は無邪気に笑っていたのに、戦闘に明け暮れる日々のせいで大分すれてしまっているのを感じる。きっとお母さんが見れば気絶するだろうと確信できるレベル。笑顔だって、意識すれば引きずっている。

 

 

 

 

「こんにちは、花ちゃん。」

 

「こんにちは。」

 

「今日は、花ちゃんにプレゼントを持ってきたんだ。」

 

 

ガサゴソと紙袋の中から綺麗に包装したものが出てくる。俺は人の気配には敏感で、この夫婦が心の底から笑っているのは感じ取れる。俺はプレゼントを受け取ると、開けてみてと微笑む女性に促されその包装を外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから月日は過ぎ、俺はその夫婦に引き取られることになった。……あのときのプレゼントの中身は手編みのマフラーだった。…外はしんしんと雪が降り積もっていて、防寒着や防寒具は取り合いになっていたことを知っていたのだろう。

 

紫色の毛糸が主で、緑色のストーンがワンポイントになっているそれは、師匠(先生)を思い出させる。…師匠(ピッコロさん)は肌のほてどが緑色で、紫色の胴着に白いターバンとマントをしていた。小さい頃は、お父さんより不器用だけど近くにいた師匠が好きだった。…でも、そんな師匠も、人造人間から俺たちを逃がすために、囮になった。それから、強くて優しかったお父さんと師匠のようになろうと、俺は紫色の…兄さんは橙色の胴着を着て戦っていた。

 

話を戻して、俺は最低限の荷物を持って車に乗り込んだ。空を飛ばない、浮かびもしない車はビックリしたけど、それがこの世界の普通だと知って納得した。この世界にはホイポイカプセルがない。ブルマさんに原理を聞いていたから作り方も忘れていなければ覚えてけど、ブリーフ博士の作り出したホイポイカプセルがないというのは不便でしかない。

質量保存の法則をガン無視したそれは、荷物をコンパクトに、手軽に持ち歩けるものだったから利便性がものすごく高かった。そのホイポイカプセルがないとなると、そこまでの科学技術が進歩してないってことになる。

 

 

 

「今日から花ちゃんは黒川だよ。黒川花ちゃんだ。」

 

「なにか困ったことがあったら、いつでも言ってね。…これから小学校にご挨拶に行くけれど、いいかしら?」

 

 

 

この世界でのごくごく普通サイズの一軒家。住宅街のなかに位置していて、これから通うことになる小学校も歩いていける距離。……正直なことを言うと、こんな平和に暮らしているのが辛くなる。

俺は、この世界では今度こそ医者になろうと決めた。…でも、学者になることのできなかった(夢を閉ざされた)兄さんのことを思えば、胸が締め付けられるように痛む。

 

 

 

「胸が痛い?」

 

「どうしたの?」

 

 

新しい両親が胸を押さえて俯いた俺を心配する。

それに、俺は笑みを貼り付けて何でもないと言った。

 

そう、どれだけ後悔しても、これはきっと世界を救うことのできなかった俺へ課せられた罰なのだろうから。…お父さんのところへ行けなかったのも、きっととそのせい。いつも足手まといだった俺は、最期の最後まで足手まといで…だから、その罰。

 

 

 

 

俺は、荷物を家の玄関へと置き、学校へ向かうためにもう一度車に乗り込んだ。




黒川花
 ・前世は孫悟鈴という少年。今は少女
 ・親友は笹川京子
 ・記憶を取り戻してからはもしもの時のためにこっそり鍛えている
 ・子供は好きだが、怖がられるため近付かないようにしている
 ・4月20日生まれのA型


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はじめてのおともだち

元孫悟鈴こと黒川花です。

俺が今いるのは並盛小学校という学校の校長室だ。

義理の母と共に通されたそこで出された煎茶を飲む。

 

 

「花ちゃん、今から担任の先生が来るからね。」

 

 

…優しげな目を向ける校長先生と向き合う形で座り、話を聞く。なんでも、3人以上でその辺りにいるのは危険とのこと。……何が危険なのか是非とも知りたいと思ったが、それは空気を読んで言わなかった。あとで誰かに聞けばいいだろう。

春休み明けで新年度の始まるタイミングでさらりと転校してきた俺は、繰り上がりクラスの一員となるらしい。

少ししてやって来た若い男性に連れられて2年3組と書かれた教室に続けて入っていく。

 

 

 

なんとなく察してはいたが、この若い男性が担任の先生らしい。俺は、促されるままに先生の隣に立ち自己紹介を始める。

 

 

「古守ヶ丘小学校から転校して来ました。黒川花です。」

 

 

 

元々並盛に住んでいたらしい夫婦が、隣県の孤児院から俺を引き取ったため、転校しなければならなくなった。俺は挨拶を終えると、またもや先生が促す通りに名前シールの貼られた机へと向かう。

 

 

男子が先でその次に女子がくるタイプの出席番号順に並べられた机は、縦に6列あるうちの真ん中あたりに座ることになった。どうやらこの学校の出席番号は誕生日の早い順らしく、俺が前通っていた古守ヶ丘小学校は五十音順だった分、少し新鮮に感じる。

 

 

 

その後、転校生が珍しいのか話し掛けてくれる子はいたが、俺は子供らしいことはできない上に人とか変わることが苦手なせいで、クラスメート達は興味を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな初日を終えた俺だったが、帰ろうと昇降口で靴を履いていたときだった。

 

 

 

 

「花ちゃん、私、笹川京子っていうの!よろしくね!」

 

「…よろしく。」

 

「ね、お家何処にあるの?一緒に帰ろう?」

 

「あ…、うん。」

 

 

 

 

 

 

 

…教室の廊下側の1番後ろに座っていた子だったと思う。目を引く明るい髪色と大きな瞳に鈴のような声。…無表情の俺に向けて笑顔で話し掛けてきたその女の子に、俺はどうすればよいかわからず戸惑いながらも了承の意を伝えると、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに笑う。

 

靴を履き終わり、手を繋ぎながら歩く。

 

手を繋ぎながら歩くなんて…と思ったが、京子ちゃんの目を見ると何とも言えなかった。

 

 

それから、京子ちゃんは朝学校で話し掛けてくれる事から始まり、ペア活動も遊び時間も俺のところへ来てくれるようになった。帰りも必ず一緒で、俺は嬉しいと思いつつも困惑するしかなかった。

 

 

 

「…京子ちゃん、どうして私のところに来てくれるの?」

 

「え…?」

 

「……だって私、面白くないでしょう?話題なんて持ってないし、それなのに、どうして来てくれるの?」

 

 

 

ある日の帰り道、俺は言った。京子ちゃんの話は俺とは違う話で新鮮で面白くて…女の子共通の話題は俺にはよくわからないけど…、それでも純粋な笑みにつられて笑みがこぼれる。…だから、純粋に俺のところに来ることの意味がわからなかった。

 

だから聞いたんだが、傷付いたような顔で今にも大きな瞳から涙がこぼれそうなのを見ると…聞いちゃいけなかったかと焦る。

 

 

「…嫌、だった?」

 

「いや、じゃないの。…ただ、京子ちゃんといると楽しいから、他の子達のところに行かなくて良いのかなって。私といても、京子ちゃんが話してるだけじゃつまらないんじゃないかなって。」

 

俺がそう言うと、ついに瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。

女の子を泣かせてしまったということに更に慌てつつも、ポケットにいれていたティッシュを渡す。…そうすると、小さな声でゆっくりと話始めてくれた。

 

 

 

「みんな、お話聞いてくれないから…。花ちゃんはいっつも聞いてくれるもん。」

 

 

 

京子ちゃんはすこし天然というかおっとりとしている部分がある。きっと、それがせっかちな子にとっては苦痛で話を聞かなかったんじゃないだろうか。…こればっかりは何とも言えないが、納得はした。

 

 

「…そっか、私は京子ちゃんのこと好きだよ。お話も好きだから。」

 

 

こういうとき、語彙力のない自分が悔しいが、それでも俺の言いたいことが伝わったのか、いつものように笑ってくれた京子ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、(前世)も含めての初めての友達を守りたい…そう感じた。

 

……兄さん、トランクス…、俺は今度こそ守りたいものを守れるようにするよ。意思を託すんじゃない、自分で…自分の手で。



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雨の日の出会い

早朝、俺は隠れて修行をしていた。

…今度こそ、守りたいものを守るために。守りたいものが明確になった今、今まで以上に修行に身が入る。今の俺はサイヤ人ではないが、気は普通に察知できるし消すこともできる。

 

 

よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む これが亀仙流の修行じゃ

 

 

 

昔、人造人間に対抗する術として、お父さんの師匠である亀仙流について亀仙人さんに聞いたことがあった。

何か修行のヒントは得られないかと伺ったが、それは今までお父さんがやっていたこと…あ、いや、学んではいなかったような…あ、自然から学んでいたような気が…。とにかく、あの時はいつもやっていることと何らかわりなくて戸惑ったが、今の世界では…いや、日本という国ではそんな事をする必要はあまりない。

 

他の国では武器を持てるが、この国は武器の所持は限られた人間のみ。さらには武器の使用にも許可がいる。

 

 

俺はまず、自分がどこまでデキるのかを確認した。動体視力はまずまず、肉体は普段からこっそりとトレーニングしているもののサイヤ人でない分、そんなに強くはなれない。…空は飛べるけど、見られると厄介だ。

 

 

 

外は土砂降りの雨で、俺が死んだのもこんな空だったと思い出す。…楽しかった頃の記憶より、辛かった記憶の方が記憶に残る。それは、仕方のないことだとはわかっていても、忘れたくない。

忘れるのなら、いっそのこと全て忘れてしまえば良かったんだ。記憶なんてなければ、何も知らなければ、俺は普通の少女としてこの世界で過ごしていただろうから。

 

でも、それじゃダメなんだ。…記憶があったからこそ辛くても、記憶があったからこそ守る力を手に入れる方法を知っている。

 

 

 

並盛山に登リ、奥まったところまで走る。

たとえ迷ったとしても気の集まってる方へ行けばいいし、空から見下ろすのもありだ。他の女の子よりは強い自覚はある。…指一本で人を殺められるのも、気でわかる。

 

生きとし生けるものの大半には気があるから…。それを感じながら修行をする。熊を倒したり崖を上ったりすることもあれば、川の流れをのんびりと眺めることもある。昔聞いた亀仙人さんの話だと、お父さんも修行だらけの日々を送っていた訳じゃないらしい。

お父さんのように強くなりたい。

いつものように基本的な筋トレをはじめ、その後瞑想をしてから気を使わない体術の修行を行う。…何故気を使わないのかというと、気を使うと自然が破壊されてしまうからだ。

 

ここの自然は豊かで、まるで昔のパオズ山のようだけど、少し脆い。気を使えば簡単に崩れるだろう。…気は、夜に打ち上げ花火に見立てて普段と同じようにひっそりと行う。並盛という町は不思議なところで、群れること、風紀を乱す行為が何よりタブーとされている。それは、雲雀家が代々統治してきた土地で次期当主が一匹狼傾向にあるからだと言われているが…次期当主は俺と同じ小学校の先輩らしい。噂では、強い人間は戦わされるとかなんとか…。

 

俺は戦いが好きじゃない。…だから、目をつけられないように隠れる必要があった。

義理の両親はとてもいい人たちで、前に物好きと表現したが本当にその通りだと感じた。

雨によって体は濡れるが、そんなことは気にしない。どんな天候の時であろうと、戦えるようにしておくべきだ。

 

俺は、それからも暫く修行を続けた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ここで何してるの?」

 

 

 

人の気が近づいているのはわかっていたが、まさか話しかけられると思っていなかった俺は、瞑想を止めて声の主を見る。

黒い髪に瞳、白い肌…それは、噂に聞く雲雀家次期当主と1寸違いなかった。名前はたしか…

 

 

「雲雀…きょうや?」

 

「へぇ、僕の名前知ってたんだ。…で、ここで何してるの?」

 

 

こんな雨の日に。と続けられた言葉に、俺は何と返そうかと考える。だが、もともとそういう方向での口は得意ではなかった。…つまり、言い訳は大の苦手だった。

 

 

「少し、体を動かそうと…。」

 

「ふぅん…、僕が見たときは動いてなかったけど?それに、僕は気配を消して近づいたのに、驚いた様子がなかった…ねぇ、何をしていたの?」

 

 

 

何故気配を消して近づいたんですか!!そんなこと、言えるわけもないので口をつぐむ。

 

気配を消すといっても、俺には筒抜けだ。気の扱いは俺の方が長けていると言っても過言ではないはずだし。それに、この雨の中で気配を消したとしても足の運ぶ音や雨音のぶつかる音で分かってしまう。…そう言い訳をしようとして、雨すでにあがっていることに気が付いた。

 

 

 

「十分驚きましたよ。それより、雲雀さんは何故こちらに?」

 

 

然り気無く話をふる。俺たちが今いるのは山の中でも奥まったところで、そう易々と人が来れるとは思えない場所だ。それなのに何故、こんなところにいるというのか。

 

 

「別に。…この時期は登山する人が増えて遭難が度々起こるから…。」

 

「そうですか。それでしたら、私もそろそろ戻りますので、引き続き頑張ってください。」

 

 

 

当たり障りのないようにペコリと頭を垂れてその場を去る。噂では弱者に興味はないらしい。つまり、弱者のふりをすればいいんだ。

俺は、怖がるような素振りをしながら帰路についた。

 

その後ろで、残された雲雀恭弥がどんな顔をしていたかなんて知らずに────



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義母の言動がよくわかりません。

「花ちゃん、今日はお家に遊びに来てくれる?」

 

「ごめん、明日でもいいかな?」

 

 

 

今日から面談期間につき午前授業らしく、多くの児童が浮き足立っている。俺もそのうちの一人だ。クラスメイトともなんとなくではあるが打ち解け始めたが、テンションはついていけないことが多い。

今は授業間の休み時間。いつものパターンは、本を机に広げそれを読む俺のところに京子ちゃんがやって来る、というものだ。今日も例外なくやってくる。

遊びたい気持ちはあるが、今日は義母(かあ)さんから早く帰ってくるようにと言われていた。

 

 

 

「今日はダメなの?」

 

「ごめん、お母さんから今日は早く帰って来てって言われてるんだよね…。」

 

 

不思議そうに首を傾げてきいてくる京子ちゃんに申し訳なく思いつつも、こればかりはどうにもならないので謝るしかない。明日なら時間はあるはずだし、午前授業だからたっぷり遊べるだろう。

 

 

「わかった!じゃあ明日!」

 

「うん、ありがとう。」

 

 

 

太陽のような暖かい笑みにつられて俺も笑う。温かいよりも暖かいという表現が似合うそれは、見ていて気持ちが良い。笑顔というものは人を幸せにする。…笑う門には福来るなんてよく言ったものだ。

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

  キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

「あ、もう時間だ。じゃあ、またね!」

 

 

予鈴がなり、京子ちゃんは会話もそこそこに席へと戻る。

次の授業は算数で、俺は教科書を引っ張り出すと机の上へと置き、先生が来るまで本を読む。本は、俺の知らないことを教えてくれる。…小学校で習うことは型にはまったことばかりだが、本は、それからはみ出ていたりと型にはまらないことが度々あり、ついつい読んでしまう。

それはともかく、この算数の授業が終われば今日の授業は終わりだ。

算数は特に難しくもなく、昔やった内容のために気にすることはないが…それでも何か面白いことがあるんじゃないかと耳を傾け一時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、義母さんは俺にこの国の民族衣装を着せ、写真を撮り始めた。……うん、全く意味がわからない。一体なんだというのだろうか。

訊きたいという気持ちを押し殺し、俺はいつもと変わらぬ顔で写真を撮られる。

…が、暇なので修行について少し話そうと思う。この世界では気は使えるが、威力は昔ほどではないし、空を飛ぶスピードだって、体が耐えられるくらいしか出すことはできない。…だから、修行はもっぱら体を鍛えることばかりだ。…過度な力は求めない。大切だと思う人を守る力が欲しいだけだ。

 

 

 

「花ちゃん、難しい顔しないで?」

 

「あ、ごめんなさい…。」

 

 

 

まだ写真とってたのかと思いつつこの写真はどうなるのか…。写真のために京子ちゃんと遊ぶ時間が削られたのかと思うと複雑な気分だ。…さて、明日は何をして遊ぼうか。

 

義母さんが満足そうに撮った写真を確認しているうちに、ランドセルの中から本を取り出してそれを読む。学校で読んでいたものとは違って、京子ちゃんオススメの本だ。学校図書館から借りたものだが、妖精が人間界でこっそり魔法を使いながら生きるという、ファンタジーな物語だが、巻数が20を越える長編だ。学校ではついついブックカバーで表紙を隠しただけの推理小説を読んでいたが、読む本を間違えたと思う。学校でこの本を読めば、少しは京子ちゃんと会話できただろうに…どうにもうまくいかない。

 

 

 

 

「花ちゃん、ちょっと指貸してもらっても良いかしら。」

 

「右手で良いですか?」

 

「えぇ。」

 

 

 

少しでも本の内容を覚えて京子ちゃんとの話題にできるようにと集中していたが、義母さんに言われて両手で持っていた本を片手に持ち直し右手を差し出す。

義母さんは、俺の右手を手に取ると、何か濡れたスポンジのようなものを親指につけられ、そのまま紙に押さえ付けられた……え?

 

 

 

「ありがとう。ごめんね、記念に取っておきたかったの…。」

 

「あ、いえ…。」

 

 

 

普通の母親というのはこんなものなのだろうか?微笑む義母さんに何も言えず、俺はこのまま本を触る訳にもいかないので流しへと手を洗いに行った。



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プールの前に水着を…。

京子ちゃんとの遊びは楽しかった。

子供らしさなんて捨ててる俺だが、精神は肉体に引っ張られるらしく、少し前までなら抵抗感のあった女らしい服を違和感感じることなく着ることが出来るようになっていた。

 

あの和服姿撮影という突然の出来事は記憶に新しいが、義父(とう)さんにきいたところ、義母さんはデザイナーらしく、主にドレス類のデザインをしているらしいが、和服を着せた理由はわからないとのこと。…わからないと言った義父さんの顔がなんとも言えず、俺は謝るしかなかった。

ちなみに、義父さんの仕事は会社員(サラリーマン)らしい。…意外な組み合わせだ。

 

今さらだが、俺は施設にいたころ義母さんから手編みのマフラーを貰ったが、あれは材質から何まで義母さんが指示したものを義父さんが買いに行き、それで作ったものだったらしい…。義母さんが義父さんを尻に敷くタイプには思えなかったので正直意外だ。

 

 

 

 

「夏休みになったら何処か行きたいところある?」

 

「……いえ、ありません。」

 

「そっか…あ!せっかくだから京子ちゃんとプールなんてどう?」

 

「あ、うん。」

 

 

 

ちなみにこの会話、午後11時にやっております。…俺、眠いんだけど?え、今する会話ですか?

あ、いや、話し掛けてくれるのはありがたいけど…俺、もう寝たい……。そこ、花ちゃん素っ気ないとか言って不満げな顔しない!俺だって不満げな顔にしたいからね?

そもそも、寝てるところいきなり揺すって起こしたの義父さん!!

 

 

俺の不満が…いや、機嫌が悪いことが伝わったのか部屋から出ていった義父さんだが、プール…京子ちゃんをあとで誘ってみるか。

 

正直、最初は京子ちゃんといるとき犯罪者の気分だった。そこに恋愛感情がなくとも、成人過ぎた男(元)が女子小学生と…なんて、恐ろしい!精神が肉体に引き摺られ。良かったと思う。引き摺られてなかったら、今頃俺の常備薬は胃薬になっていただろう。

きっと、遊びたい気持ちと犯罪者になりたくないという気持ちとの板挟みになってただろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?プール?」

 

「お父さんが、夏休み行ってきたらどうだって言ってくれて…。」

 

 

終業式の日俺は京子ちゃんをプールに誘ったが、正直これで海の方が良いなどと言われたらどうしようか…。この辺りは海に近い訳じゃないから電車にかなり揺られるだろう。…人も多いだろうから迷子になったらお互いを探すだけで一苦労だ。

そう考えて一人、面相していたが、その思考は杞憂に終わった。

 

 

 

「うん!行こっ!」

 

「本当に?ありがとう!」

 

 

早速明日行こうと言われたが、夏休み初日は残念ながら予報では雨だ。結局、登校しながらした話では天気予報を見てから決めるということで話はまとまった。



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教えることは大変だ!

お気に入りをしてくださいました皆様、ありがとうございます。
今回もよろしくお願い致します。


「ですから、(1)の答えを(2)の式に当てはめるんです。」

 

「ぬぉー!!極限わからんぞ~!!」

 

「教科書の…この公式です。」

 

「花ちゃん、ここがよくわからないんだけど…。」

 

「それは────」

 

 

 

 

 

俺と京子ちゃんは小学5年生。京子ちゃんのお兄さんは小学6年生となった。

お兄さんは、初対面時には既に額に傷痕があった。でも、それを掘り返してわざわざ聞くのもよくないと思うため、スルーしていたが…。

 

お兄さん、その傷を負ったときに理解力を落としてきたんですか?

 

…………いや、これは失礼すぎる。

 

 

今は3月。さらに言うと卒業式は終わり、春休みを迎えている。1つ上の学年であるお兄さんは来月から中学校に通う。そんな人に何故俺が勉強を教えているかというと…並盛中学校は入学するにあたり、春休み中に新入生を集めて基礎学力診断テストをするらしい。それに向けての勉強をしていた(させられていた)お兄さんだったが、わからない問の多さに、元々勉強や頭を使うことが苦手だという要因(こと)もあり、とうとう鉛筆を放り投げたらしい。

そんなとき、偶然春休みの宿題を一緒にやろうとやってきた俺に白羽の矢が当たったらしい。

…純粋に、嫌なものを放置したり逃げたりせずに解こうとする姿勢は凄いと思うが…1問も解けてない、というより空欄なのはどう説明するというのだ!!分からないときは飛ばして次の問題にいくというてもあるんだぞ!?

 

 

「三角形の面積の公式は極限に何だ!!」

 

「今手に持っている教科書の、ちょうど左手の位置にありましたよ。」

 

「なぬ!?」

 

 

 

三角形の面積の公式って、そんな難しくないと思うんだよな…。ここは比較的早く終わりそうだと京子ちゃんから貰ったお茶を飲もうとして……止めた。

 

 

「えっと…了平さん。さっきのページですよ!?何故右側のページ捲っているんですか?!」

 

「フフフッ、お兄ちゃんったら。」

 

 

何故だ、何故なんだ!!わざとボケて突っ込みを待ってるのか?それともただ単にこれが素なのか!?というか京子ちゃんは“フフフッ、お兄ちゃんったら。”で済ませて良いのか!?

……………あ、ダメだ。頭痛くなってきた。

俺は二人のことは好きだが、この兄妹が同時にいるときにはちょくちょく頭を抱えることがある。見た目は美形であるというくらいで似ていないこの兄妹は、揃って天然だ。天然というものがよくわからなかった俺でも周りの子に言われて納得したんだよな…。一人と話す分にはまだいいんだが…どうも二人となると俺の頭は活動停止を訴えてくる。

ここ二人の両親と、結婚する人は大変だ…。きっと、根気強い人でないと難しいかもしれない。

 

 

 

「少し必死になりすぎです。一度机から離れて休憩しませんか?」

 

 

きっと、この場にいる全員の頭がオーバーヒート気味なのだということにして休憩を促す。…どうやらそれは正解だったらしく、休憩後はペースが若干上がった。いくら本人がやる気をだしてやっていても、頭は疲れるだろうし適宜に休憩は必要だということを俺は学んだ。

 

 

「あ、お母さんが皆で食べなさいってケーキを…。」

 

 

そういえば昔、俺が兄さんと机に向かっていたときはお母さんが差し入れを程よく持ってきてくれていた。色々あったなぁ…。

京子ちゃんが手に持ってきたケーキの箱の中には、色とりどりのケーキが鎮座していた。どうやらこの時期にフルーツケーキがあったらしい。それを美味しそうに頬張る京子ちゃんを、俺とお兄さんは本人に気づかれないよう然り気無く眺めていた。

 

 

このときはまだ知らなかった。

京子ちゃんが月1でケーキをたくさん食べる日を作ろうと考えているなんて…。



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運動会間近!?

春休みが明け、小学6年生…つまり最後の年となった。

そして、3週間後には運動会が迫っている。この小学校では桜舞散る最中に運動会をすることにしているらしい。

……前まではお花見化しないか非常に心配だったが、過半数は競技に集中してくれるので杞憂だった。

ちなみに、俺は団子より花派だ。京子ちゃんに先日、

 

 

────花ちゃんは花が好きなんだね!

 

 

 

と言われたが、あれは狙ったのか?それとも偶然?…取り敢えず気付かなかったことにして話続けたが、はっきり言おう、寒かった。前に…ほんとすごく昔にお父さんが言ってた、界王様に修行つけてもらう際にダジャレを言わなきゃいけなかったということを思い出してしまった俺は悪くないと思う。なんだっけ、布団が吹っ飛んだ…?いや、違う気がするな…猫が寝転んだ?……なんか考える度に俺の中の何かがガラガラ音をたてて崩壊してる気がするからこの話は終わりしよう。

 

 

「花ちゃん、6年生は借り物競争だって!」

 

「去年はパン食い競争で食中毒事件が起きましたし、無難なところですね。」

 

 

それは、去年のこの時期に遡る。

当時小学5年生だった俺達のチャンスレースはパン食い競争だった。の だ が、当時の先生はかなり張り切っており、張り切りすぎてパンを手作りしたのだ。…実はその先生は料理は得意な方ではなく、どちらかというと不得意な方であったために…いろいろと要らないことをやっちまったらしい。予定では袋にいれて吊るされることになっていたパンはただ吊るされ…結果、パン食い競争に出場した児童の約8割が搬送されるという前代未聞の事件が起こったんだよ。…その後、パン食い競争は市販のパン手作りのパン問わず禁止となった。

ちなみに、俺と京子ちゃんも搬送された児童だ。あんな思いはもう二度とごめんだ。

 

 

「一昨年は障害物競争でネズミ取りだらけだったよね。」

 

「…粘着タイプだらけで怪我がない分、靴がベトベトしてて保護者クレームが殺到してましたね。」

 

 

ネズミ取りだらけの障害物競争は目を瞑れば鮮明に浮かび上がってくるほど覚えている。あれはヒドカッタ…。

後に幻の障害物競争と呼ばれるようになったそれは、ある1つの事柄が引き起こした悲劇…といえるかもしれない。偶然夜に雨が降り、前日に外へと運び出していた障害物がびしょ濡れで使い物にならなくなったために急遽、並盛第2小学校へと貸し出しを頼むもそこも運動会をやっておりどうにもならず、先生がやむを得ず障害物集めに行ったのだが、何を隠そうこの先生はその翌年の運動会でパンを作った先生だ。

商店街で事情を説明し段ボールを貰ったあと、何故かネズミ取りを買い占める勢いで買ってきたのだ。結果、練習していた障害物競争とはまったく掠りもしない内容となり、困惑した自動はネズミ取りに引っ掛かりまくりになったというわけだ。

 

 

 

「今年は最後ですし、どのような惨事(こと)になるか楽しみですね。」

 

「うん!私もどんな内容(どんなこと)するのか楽しみ!」

 

 

ちなみに、その問題の先生は並盛中学校風紀委員会によって何かあったらしいとの噂が流れている。…教育委員会じゃなくて一学校の委員会が!?ということも思ったが、なんとその風紀委員会の委員長が雲雀恭弥らしい。

…そりゃあ、何かされても文句言えないね。せめてもの救いは、先生が行事でしかこんな事件(?)を起こしてないことだな。普段は普通なんだ。それが、突然行事で空まわる“だけ”という先生…ん?“だけ”でいいのか?まぁいいか。だからこそ、現役で教員できてるのかもしれない。

今年の運動会でチャンスレースの計画を練るのはまたしてもその先生らしい。

 

………無事に終わるといいな。



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運動会まであと───!!

今さらプールの話を書いたつもりで書いていなかったことに気がつきました。

番外編として投稿するかもしれません。


運動会まであと1週間となった。

ここで、クラスメイトの会話を聞いていただこう。

 

 

 

「今年は胃薬必要かな?」

 

「う~ん、去年は胃薬必要だったけど、今年は痛み止薬が必要だと思うな…。」

 

「どうして?」

 

「だって、借り物競争だから。」

 

 

借り物競争で何故痛み止なのだと思った方も多いだろうが、それは普段の体育の授業での練習で出されるお題が平凡だからだろう。…普通は練習で手の内を明かしたりなどしない。つまり、平凡の裏に隠れた非凡によって頭痛がしないか心配だということらしい。…俺が言えることじゃねぇけど子供らしくねぇな。そんなこと考えなくていいんだよ。

 

 

「前もっていろんなもの持ってこようかな…。」

 

「没収されるだけだと思うよ。」

 

 

 

あくまでも誰かしらが持っているものがお題に出されるだろうから気にしなくてもいいのではないかと思うのだが、話を聞いているとご両親から念入りに気を付けるよう言われているらしい。

 

そりゃそうだよな!?一昨年去年がアレじゃあ仕方ないよな!?

 

わかってはいるが、なんとなく先生がかわいそうに思えてきた。最近の体育の授業では徒競走の練習やリレーの走者決めに加えて組体操練習がある。

体育でリレーの走者を決める理由はよくわからないが、足の速さで決めるため、俺はアンカーとなった。…ちなみに足の早さは前に記録とったものを使用しているため、走ることもなく決めるだけで授業は終わった。…本当何故体育の授業で決めることにしたんだ。しかも、決めることにするといっても先生が予め決めたものを報されただけだった。その後、ラジオ体操の練習だけを残り時間繰り返したが、先生、動きが少し違います…。

 

そんなこんなで終わった授業。…どんな?とは聞かない約束だ。

 

 

「花ちゃんって足早いよね…。」

 

「ありがとう。」

 

「花ちゃん、着替えよう!!」

 

「あ、今行く!…それじゃあ。」

 

 

声を掛けてくれた女の子(名前わからない)に別れを告げ、京子ちゃんの所へと向かう。深い意味はないが、なんとなく声を掛けてくれた女の子の雰囲気というかオーラというか纏っているものが不穏で近くにいたくなかったということもある。

 

 

「花ちゃん、何話してたの?」

 

「ん?…あぁ、足速いねって言われてただけだから気ににしないでください。」

 

 

別段隠すことでもないのでありのままの事を伝える。というより、会話という会話をせずに京子ちゃんの元へと向かったからな、内容はない。

 

 

「そうなんだ!…そういえば花ちゃん、いつも朝に町内を走ってるんでしょ?」

 

「え、知ってたの?」

 

「うん!だって、お兄ちゃんも町内を走ってるからよく聞くんだ!」

 

 

朝は並盛山で瞑想をした後に軽いランニングをしていた。そのランニングを見られていたのだろう。なんとなく、隠していたわけではないのに気まずいというか恥ずかしいというか…なんとも言えない感情に包まれる。

俺がなんと言おうかと考えている最中、京子ちゃんはニコニコと笑っていて、よく考えれば肯定するだけで済むことに気がついた。

 

 

「お兄さんも走ってたのは気付きませんでしたね…。」

 

 

体操着から私服に着替えながら答える。次の授業は社会だ。社会は、俺の知っているものとは全く違う地理や歴史などを学べる分、楽しい教科だったりする。

 

 

「あ、そういえば。運動会の日に花ちゃんと一緒にお昼食べるけど、お母さんがお弁当はこっちで用意するから準備しなくていいって!」

 

「…ありがとうございます、って伝えてください。」

 

 

最後の運動会だが、義父母は仕事の休みをとれなかったらしく、京子ちゃんの家にお願いしたらしい。

まぁ、仕方ないだろうな。この辺りは小学校の運動会がピークだし、休みをとる人は多いだろう。

…悲しくはないが、義父母と並んでいるところを他の子達に“似てない”と言われると二人が悲しそうな顔をするので、悲しげな顔を見なくて済む分にはいいのかもしれないな。




運動会についてがあまりキャラとの関わりのないだけでなく話数を無駄に使っている気がしてしまいます。


ここまでで登場した原作キャラは
 笹川京子・笹川了平・雲雀恭弥
の3人ですね。


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運動会開幕!前編

明日、ついに運動会が始まる。

俺をはじめとしたリレーメンバーは放課後に居残りで練習していた。

アップをしてバトンの繋ぎ練習をする。

 

 

「花ちゃん、もう少し後ろで受け取ってもらってもいい?」

 

「構いませんよ。」

 

 

明日に疲れを残さぬようにと練習は軽く終わり、更衣室で着替えをしようと荷物を置いた場所に行き、気が付いた。…俺の私服がない。

今着ているのは、学校指定のジャージだ。この格好で帰ることもできるが、汗をかいた服をそのまま着続けるなんて嫌だ。

 

 

「あれ?誰か間違えた?」

 

 

どうしようかと悩んでいると、俺の後ろで着替えようとしていた女子が声をあげた。俺の服は、その後ろで着替えようとしていた子の使っていた棚に入っていた。…意味がわからない。俺は荷物は綺麗に纏めるタイプだ。何故、自分の鞄が棚に置いてあるのにわざわざ反対側の棚を使う必要がある。

そう考えると、誰かが俺の服を動かしたことになるが…。

 

 

「あ、それ私の服です。間違えてしまったみたいで…。」

 

「あ、確かに今日着てたやつだね。」

 

 

 

はい、と渡された服を受け取り着替える。…そのとき、私服のホットパンツのポケットに違和感を感じた。ティッシュが普段なら入っているはずだが、妙にゴソゴソとする。

人がゾロゾロと更衣室から出ていく中、俺はポケットの中に入っていた(メモ)を取り出した。

 

 

 

────早く走る方法、教えて。

 

 

 

 

紙には短くそれだけ書かれていたが、これではっきりした。…最初は俺がボケてしまっただけなのではと考えたが、多分真実は、この紙をいれるためにホットパンツだけ取ればいいものを、全部服を取ってしまったために何処から取ったか分からなくなり、適当な場所に置いたのだろう。

まぁ、それはいいが…名前も書いてなければ誰も待っている気配はない。校庭に1度行ってみたが誰もそこにはおらず、ただのイタズラだったということで完結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、俺は京子ちゃんと登校しながら昨日のことについて考えていた。もし、あれがイタズラではなく本気だったとしたら…1度そう思ってしまうと申し訳なさが溢れだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、障害物競争だよ!」

 

「そうですね。」

 

 

競技開始からあっという間に時間は過ぎ去り、チャンスレースとなった。今年の障害物競争は3年生がやっているらしいが…ネズミ捕りがないことにこうも感動する日が来るとは思わなかった…。今年は天気に恵まれたお陰で障害物がダメになるなんてことはないようだ。…羨ましい。

4年生、5年生と競技をやっていき、ついに俺たち5年生の番となった。運動会で家族が見ている、という緊張でなく…最後(6年生)は無事に終わらせたいという気持ちが強いようだが、俺もそうだ。借り物競争でカツラなんて言われたりしたら、桂さんか葛さん…とにかく“カツラ”さん探さなきゃいけねぇからな。相手方の社会的地位まで考えねぇと…。

 

 

 

 

 

うん、社会的地位まで考えねぇとなんて思ってた頃が俺にもあったよ…。

 

 

 

「第1着!お題の確認をさせていただきます!お題は…車イスに乗った人、でした!」

 

 

先生?好きで車イスじゃねぇかもしれないだろ?というか、よく車イスに乗った人いたな…。やらせなのか?

 

 

「次に2着!お題は…扇風機です!」

 

 

せ、先生?いやホントに何でそうなるんですか!?2着の人、コードつきの扇風機持ってたけど、観客席で誰も使ってないし…校舎内から拝借してきたのかな?

 

 

一度に5人の人が走るが、俺の番はそう早くは来なかった。…理由は、借り物が見付からずに途方にくれる自動が続出したからだ。ぜひとも言いたい。…当たり前だと!!

虫のオモチャを持ってくる、や卒業生で制服を着ている人、等といったお題が出たが、この2つはありそうでなかった。とくに、卒業生で制服を着ている人、というのはまさかの誰もいないという結末に陥り、借りるものがなかった、ということで終わった…。

 

 

 

 

 

 

そして、ついに俺の番がやってきた。



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運動会開幕!後編

靴紐をしっかりと結び直し定位置に着くと、スターターピストルの発する声を聞き、ピストルの音を合図に駆け出す。

この借り物競争は、最初にぐるぐるバット(10回転)をしたあと、ケンケンしながらお題の紙の置かれた台まで行き、辿り着き次第で各自お題のモノを探しに行く、というものだ。

 

ちなみに、俺が3回行った練習で出されたお題は

 

 

ミサンガをした短髪の女子

 

赤色の靴下

 

野球ボール

 

 

だったが、今回もお題が良ければいいが…。どうか、練習で俺の運を使いきったなどというわけではありませんように!

なかば祈るような思いで、1位をとるために急いでいるにも関わらず目を瞑り捲った紙。…視線をお題に合わせ、そこに書いてる文字を見るとすぐに紙を短パンの中にいれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────なんで、こんなお題が出た…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生よ、つまりこれはあれか?あれなのか?とりあえずお題にこれあってもいいよね!アハハーみたいなやつなのか!?というか、来賓席にいないぞ!?いうら席を離しても、群れだらけじゃ仕方ねぇけどさ…借り物競走どうするよ…。

 

 

焦っても意味のないので俺の捲ったとてもとてもスンバラシイお題を紹介しよう。

 

 

それは…

 

 

 

 

 

 

“中学校の風紀委員長が使うトンファー”

 

 

 

 

 

いや、トンファーってそもそも何ですか!?

しかも、中学校の風紀委員長になった…って噂によく聞く雲雀家次期ご当主様じゃないですか、やだ~。なんかテンションが変だが、それくらいに今回は嫌なのだ。

 

気を探って雲雀家次期当主を探すが、そもそも過去に1度会ったっきり(多分)のような相手の気なんてそう覚えてない。これは難航するかと思い、俯いていた顔を上げると、視線が偶然クロスした相手がいた。

離れた位置にいるというのに、この世界の気ではそれなりのところにいるであろう彼はニヤリと口許に笑みを浮かべた。つまり、その彼こそがお題の相手そのものだった。

 

…こんなことってあるか?というより、ニヤリって何?声援が各所から送られてくるなか、俺は雲雀恭弥の元へと走る。

 

 

《お~っと!ここで白組の黒川花が走る!一直線で迷いがありません!借り物をすでに見つけたのでしょうか!?》

 

 

競技中のアナウンスはその後も続いたが、俺が雲雀さんのもとへ辿り着いた瞬間、空気が凍った。

昔よりは伸びている身長に羨ましく思いながら、俺はお題の書かれた紙を見せた。

 

 

 

「お願いします!一緒に来てください。」

 

「やだ。」

 

「何故ですか!?」

 

 

そして、共に来てくれるよう話すが彼はいっこうに聞く耳を持たない。…いや、聞いてはいるようだが、これはダメだ。

木に寄り掛かり腕組みをするその様はカッコいいが…何故かという問いに対して返ってきたのは「群れは嫌い。」という一言。…いや、二人はセーフ!

 

 

「…何故群れが嫌なんですか?」

 

「弱い動物(ヤツ)ほど群れる。」

 

 

 

いや、どういう定義ですか!?とは流石に言わないが…、

 

 

「強い動物も弱い動物も、どちらにだって群れはありますよ。百獣の王ライオンでさえ群れで生きているのですから。お題にはトンファーとありますが、雲雀さんへ共に来てほしい旨を伝えた理由は、トンファーをお借りしてしまったら雲雀さんがもしも何かあったときには困るのではないかと思ったからです。…そうですよね、雲雀さんは───」

 

「いいよ、行ってあげる。」

 

 

強いヤツに分類されるので大丈夫ですよね、と続くはずだった言葉は、かけようとした相手に被せられ言葉にならなかった。でも、確かにこの場では必要な一言が耳に入り安心した。

 

 

「その代わり、運動会が終わったらちょっと僕のところ来て。」

 

「え、あ…。」

 

 

返事をする間もなく駆け出した雲雀さんの後を必死に追う。少しすると追い付いたので、距離を開けて隣を走りゴールすると、どうやら他の子がゴール間近だったらしく、雲雀さんが1位をとるために走り出したのではないか、なんて考えてしまったのは俺のせいではないと思う。

 

とにかく、他の人もお題がしんどいものだったらしく、話すだけで着いてきて(?)もらえたのは良かったんだろう。

 

 

ただ、この運動会終了後が気になるが…。

 

 

まぁ、なんとかなるよな!



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会わなければなりません!

運動会の後片付けが終わり校門へと向かって歩いていると、門に寄り掛かるようにして立っている男と出会った。

 

いや、出会ったという表現はここでは適していないだろう。この男と俺は約束していたのだから。

京子ちゃんは家族と一緒に帰ってしまったから良かったものの…門を抜ける人々を睨み付けるようなその視線は、耐性がない人にとっては辛いだけだろう。

俺は昔から殺気浴びてきたからなぁ…不可抗力だけど。

この男…雲雀さんの視線は殺気だらけというわけではなく、単純に群れが多くイラついているだけだろう。

 

 

「雲雀さん、来ましたよ。」

 

「遅い。」

 

「すみません。」

 

 

きっと、明日からは友人が増えるか減るかどちらかしかないんだろうけど…絶対後者だ。京子ちゃんはわりと大丈夫そうだけど、他の子たちが離れていきそう…馴染んできてたのになぁ…。

雲雀さんは、俺が来たことがわかると壁から身体を離し、歩き出した。

…これは着いてこいという意味なのか、戸惑っていると早くと声を掛けられ慌てて後ろを着いていく。

運動会では他の子たちより少し勝るくらいで動いたため体力はあり余っているが、気力はかなり減っている。

主に担任の先生と雲雀さんのせいで…。まあ、雲雀さんは筋違いなんだろうけど。

 

 

「君、前に会ったよね。………並盛山で。」

 

「そうですね。その節は大変失礼いたしました。」

 

 

心に思っているわけではなくとも、この人には言っておくべきだろう。後ろについて歩いていると周囲から感じる視線。…お~い!そこのあわれみの視線を向けてくる人、そんなことしてると雲雀さんに気がつかれて咬み殺されちゃ…ったね。

なんとなくだが、今日の雲雀さんは“運動会”という人混みの中にいたために大分機嫌が悪いらしい。…気に入らなければ発散のために咬み殺される。唯我独尊、まさにこの言葉が似合う。

 

 

 

「ここ、来客口から入って。」

 

「…あ、はい。」

 

「案内は着けるから。」

 

 

 

辿り着いた先にあったのは、並盛中学校。

並盛中学校は、並盛第一小学校と第二小学校の卒業生または黒曜小学校の一部の卒業生が通う中学校だ。

そういえば、雲雀さんはこの学校の風紀委員長だ。家柄や実力も相まっていい感じなのだろう…。

思いっきり部外者である自覚はあるため、職員室の先生へ声を掛けてから靴を履き替えると、そこには見事なまでのリーゼントが並んでいた。

 

最近町で見かけるリーゼントが何かと不思議に思っていたが、納得した。

この人たちが風紀委員だったのだと。

 

 

「応接室へご案内します。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

案内されるがままに着いていくと、応接室へ到着。…雲雀さんの気は分かりやすいから案内がなくてもいいとは言えなかったが、なぜ俺の案内にリーゼントが3人も来たのだろう…?

応接室が近づいてくると離れていったが、もしや…呼ばれた俺が危険人物なんじゃないかとか思われていたとか…?いや、冗談じゃない!

たとえそうだったとしても、風紀委員が群れたと判明したら他の人よりもボコられそうだ…。

 

3回のノックのあと入った応接室。…さてはて、いったい何が起きるのだろう…。

 

 

 

「遅いよ。どれだけ待たせるつもり?」

 

「すみません。私は部外者ですから、職員室へとご挨拶に伺ってました。」

 

「そう。」

 

 

 

…本当に、何が起きるのだろうか……。



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穏便に済ませたい…(願望)!

「単刀直入に言うよ。────卒業したらここ(並中)に入って。」

 

 

俺に視線を合わせることなく、さらりと言ってのけた雲雀さん。たしかに、並盛の小学校に通っているのであれば並中に通うというのが一般的だ。京子ちゃんをはじめとしたクラスメート達は並中に通う予定らしいし…。

だが、ここからそう遠くないところに中学校が2校ある。

そのうちの1校は偏差値が高く、全国模試でも高成績者を輩出することで有名な私立女子中学。俺は、義父母からその中学校を勧められていたし、俺自身も受験勉強をしていた。

 

 

「…何故ですか?私、卒業後は緑中の予定なんですけど…。」

 

 

緑中は並中より遠いがそこまで気にするほどでもなく、学校案内パンフレットを読んだり見学に行ったとき、人間関係が苦手な俺でも大丈夫そうだと感じた。

今日の運動会によって、俺は雲雀さんから目をつけられたと思われていてもおかしくはない(現在進行形で行われているこの状況はよくわからないので思考放棄)。それなら、知り合いの少ないであろうところで心機一転頑張るぞ!の方が良いかと思ったんだが…。

そういう意味を込めて、俺は雲雀さんに目を向ける。暫くして、雲雀さんは口を開いた。

 

 

 

「成績優秀・スポーツ万能・人間関係に難あり…並ではないけれど、そういう生徒がいた方が他の生徒のやる気も上がる。…そして、僕の獲物が増える。

 

「人間関係はさておき、そんな生徒は他にもいらっしゃるかと思いますが…。」

 

 

人間関係に難があるのはともかくとして、最後笑みを浮かべた際に聞こえた小声については触れず、諦めてくれないかなんて思いながら話す。

 

 

「君より学力も運動もできない、ただの小動物ならいるけど、僕は群れるのが嫌いだ。そういう輩は群れる。」

 

 

獲物が増えるなんて少し喜びながら言ってた人の台詞とは思えない。変わり身が早すぎる。いや、変わってはいないのかもしれないが、俺を小動物のくくりから外している気がしてならない。小動物のくくりにいれてくれ。そして俺を緑中に通わせろ。

 

 

「笹川了平の妹と共にいることが多く、群れることはほぼ皆無。…別に、風紀委員に入ってって訳じゃないんだからいいでしょ。」

 

「何がいいんですか…。」

 

 

 

というか、雲雀さんの中での群れの人数は3人以上か。

お茶を一口飲み、出された和菓子を口に運ぶ。…今さらだけど、これ飲食した代わりに入学解かねぇよな?

 

 

「なんでここ(並中)じゃダメなの?……返答によっては咬み殺すよ。」

 

 

それを言うなら、何で俺なの?だから…。返答によっては咬み殺すよ。なんて殺気を放ちながら言われたが、加減してあるのかそこまで強くはない。

ダメな理由か…、別にダメって訳じゃないけど、並中よりは緑中の方が俺が志望する進学先に向いているのではないかと思っただけだ。

 

 

 

「私は医者になりたいんです。…そのためには、緑中の方が良いかと思っただけです。」

 

「そう。…なら、入学したら保健委員長に任命してあげるし、並盛病院の医者と会談も設けてあげる。それならどう?」

 

 

 

それはそれでどうなんだろうか…。というより、何故俺にここまで構う?俺はその辺に転がっている女子と同じような感じにしてきたはずなんだけど…。やっぱ、山中で会ったのが悪かったんじゃ…。

 

 

「何故、私にそこまでしようと?理解できません。私が入学したからといって、そう簡単に周りが向上するとは思えませんが。」

 

 

そう。そもそもでの話だが入学してくる人間の約半分が同小出身。変化があるとは思えない。そう伝えると、雲雀さんは立ち上がり、俺に銀色に光る何かを降り下ろしてきた。

俺は斜めに下がり、その攻撃を避けた。

…銀色に光る何かの正体はトンファー。その後も仕掛けてくる雲雀さんに反撃すべきか動きを止めるべきかわからず、ただただ避けることを繰り返す。

 

 

「君、本当は強いんでしょ?在校生なら、いつでも戦咬み殺せる!」

 

「私は戦いは好きではありません。それに、避けることで精一杯ですから咬み殺そうとしないでください!」

 

 

 

 

避けるだけで精一杯ではないが、戦いが嫌いなのは本当だ。本当に必要なときだけしか力を使いたいとは思わない。だから、雲雀さんと戦うなんてしたくなかった。

でも、断り続けるにも限界がある。義父母に迷惑がかかるのも嫌だ。…ここは、俺が折れるしか道はないだろう。反撃でもすれば、さらに目をつけられるだろうからな。

 

 

 

「…ッ、わかりました!入りますから!戦うことに関しては承諾しかねますが、並中に入ります!それでは、これで失礼致します!」

 

 

 

隙をついて鞄を持つと応接室から抜け出す。不服そうな顔をされたが、逃げるが勝ちだ。

 

そうして、俺の進学先は並中へと決まったのだった…。




雲雀さん、実は前々から目をつけてたんですよね。
主に、群れようとしないところに。


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衝撃(?)の真実

読む人を選ぶ内容となっております。
お気を付けください。


黒と赤に埋め尽くされた世界。…その2色以外は見当たらない、君の悪い世界。

生まれ変わってからというもの、俺はほとんど夢を見なかったのだが、夢だとわかる夢というのも珍しいと思った。赤い色は、例えるならば血のようで、黒は漆のような美しさはない、ただ黒色の絵の具が塗りたくられたような、そんな黒。

 

何をすればいいのかわからずに真っ直ぐ歩いていると、一人分の影が見えてきた。…気は感じられない。当たり前か、夢なんだから。

うっすらとしかわからなかった人影が、近づくにつれてはっきりとしていく。…波打つ髪に、きつめの目付き、白い肌…、黒川花()にそっくりだった。

 

 

その姿に、俺は1つのことが頭に浮かんだ。

 

 

 

「もしかして、俺の前の花?」

 

「えぇ。」

 

 

 

大人びた少女だ。今の俺は、女らしさがわからずに言葉遣いを丁寧にしようと意識しているだけな似非女。きっと、目の前の少女が本物なんだ。

 

 

 

「…俺が、君の体を奪ったのか。」

 

「……近いけど違うわ。…私が、あなたに体を提供したのよ。」

 

 

 

 

目の前の少女が言う意味がわからない。

何故、体を提供する必要がある?そもそも、この世界と俺のいた世界は異なる。俺がこの場所にいるその理由を、知っているのか?

そう考えながら少女を見ると、少し困ったような表情で言った。

 

 

 

「私は、あの孤児院で何もしなかった。…子供が子供を嫌いで、共同でずっと生活するなんて耐えられなかった。」

 

 

 

……深刻なのかよくわからないが、子供嫌い…。たしかに、“花”以下の年齢の子の方が多かった気がする。

俺自身は普通に子供は平気だが、耐えられないものは耐えられない、ということか?

 

 

「これからの私を頼んだからね。」

 

「体に戻るつもりはないのか?体を鍛えたりはしたが日常生活に支障はないんだが。」

 

「………残念だけど、これは私が決めたことなの。あなたを勝手に巻き込んだのは謝るけど、私は後悔はしていない。…だから、私と融合してほしいの。」

 

 

 

話がよくわからないのだが…融合?

今さらだが、俺の体が花と同じくらいの年齢の時の孫悟鈴であることに気づく。…何故気づかなかったんだ、俺。

 

 

 

「融合とは…」

 

「私の意識を全て、あなたに託す。」

 

 

 

……そういえば、師匠(ピッコロさん)はナメック星で融合?みたいなことしたんだっけ…。だめだ、鮮明に覚えていたことが朧気にしか思い出せない。

でも、俺と融合するということは、俺と意識が合わせられるとちうこと。生きていると言って良いのかわからないそれで、本当に良いと言うのだろうか。

 

 

 

「反対ではだめなのか?」

 

 

…偽者の俺より本物の花の方が良いと思うが、どうなのだろうか。意識が融合されるなら、それでも良いと思うが…。

 

 

 

「…、あなたの意識は、私にとって大きすぎる。だからって融合しないでいれば、私は消失する。…こうするしかないの。」

 

 

 

そう言ってすぐ、少女は俺に手を差し出した。

この手をとれば、きっと融合が始まる。…これしか方法がないのか?

ぎりぎりまで探せば、何かいい方法があるかもしれない。そう、伝えようとしたが、俺が口を開くよりも早く俺の手をとった少女。…俺は受け入れていないのに、体が勝手に吸収するように融合を開始した。

 

 

 

「融合が終われば、私の考えが全てわかるから…。」

 

「そんな…。」

 

「それじゃ、また。」

 

 

 

そう言って消えた少女。…黒と赤しかなかった世界で、赤色が増えた気がするのは気のせいではないだろう。

頭のなかに入ってくるのは、両親がなくなる前なのであろう暖かい記憶と、葬式の冷たい記憶、孤児院で子供に近づいた瞬間に体に鳥肌と蕁麻疹が現れたこと、通っていた小学校で、一人の少女と仲良くしていたこと。

 

……一人の、少女?

 

俺は、記憶のなかにいるクラスメートだった少女に何も告げなかった。

交遊関係があったことを知らなかったと言えばそれまでだが、“(少女)”はこの少女に対して心残りがあったようだ。

融合した意識で、この喋り方に少し違和感を覚えるが、それよりも花が俺に託したという記憶には、一人の少女を気にかける気持ちが占めていた。

 

 

俺は戸惑いの方が大きかったが、たしかに俺のなかで眠るように少女()がいることがわかる。俺よりも幼い子に流されてしまったが、その子の決意を踏みにじるようなことをしないよう生きていこう、そう思った。




花ちゃんの話し方が原作と少し違うのは、幼い頃に体の主導権を悟玲に渡したため、という意味が含まれています。


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手がかりが掴めないのに空は───

「花ちゃん、なんか最近雰囲気変わった?」

 

「気のせいじゃない?…それより、そのピン似合ってる。」

 

「え~、やっぱり変わってるよ!」

 

 

廊下をそんな話をしながら歩く。俺が元の花と融合してから1週間。雰囲気が変わったやらイメージがきつくなったと言われることが増えた。

誉められてんのか貶されてるのかわからないというのは俺だけではないだろう。

 

 

 

「なら、誉め言葉として受け取っておきます。」

 

「うん!」

 

 

 

ぽわぽわと花を飛ばしてくる京子ちゃんにそう伝えると、俺たちは遅刻しないよう歩くペースを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩く度に人が離れる。

歩む先から人が避けていくのだ。…泣いていいですか?先生が借り物競争に雲雀さん関連のことをやったせいで、俺の平凡ライフが終わりを告げようとしている。

 

いや、皆さん…?ただ雲雀さんと話すことになっただけですからね?群れてる奴は咬み殺すつもりないし、だからちょっとその足を止めろください。

 

 

 

「?どうしたんだろう、皆。」

 

「京子ちゃん、他の人がいるとき、それ言っちゃダメだからね。」

 

「どうして?」

 

「どうしても。」

 

 

 

俺と一緒にいるってのも可哀想に感じてくるが、俺か悪い訳じゃない。悪いのは先生だ。このスタンスは変えちゃいけない気がする。

 

それにしても、俺の前の“花”が気にかける少女。

顔は整っていたと思うが、情報がリンクするまでに時間がかかりすぎてダメだ。

少女についてのこと以外はあらかた繋がったっていうのに、記憶にないんじゃなんともできない。

 

昔住んでいた孤児院の場所などって、実は気にしてなくて覚えていなかったりする。だからこそ困っていた。

 

隣の県だというのはわかるが、そのどこだったのかが思い出せない。俺にもパソコンがあればと思わないでもないが、とりあえず、今日は家に帰ったら地図を買おうと思う。きっと、索引とか使って探せば見つかると思うからな。

 

 

 

俺は、空を見上げた。

 

飛行機雲が1つ、浮かんでいた。

 

この世界の空が綺麗に感じるのは平和だからだろうか、それとも俺の心の持ちようが変わったからだろうか、それとも元から綺麗だったのか…。

 

 

“花”の記憶では変わりがない空。

何処までも透き通るような空。まるで、何かにたとえでも出来そうだ、なんて考えて一人笑う。

 

 

「面白いことあったの?」

 

「ええ。でも、ちょっと笑いが込み上げてくる思い出し笑いね。」

 

「思い出し笑いって、突然起きるから困るよね。」

 

「静かなときとか、不意にくる笑いって辛いよね。」

 

 

俺は、そんなことを言いながら京子ちゃんと学校へ入った。



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一人は寂し……ん?

「え、お葬式…?」

 

 

 

小学校6年生のある日のこと、俺は義父母まで失った────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────なんてことはなかった。

 

 

「そうなのよ。親戚の方が亡くなってしまって…。私達、明日から明後日まで留守にするけど、ご飯はしっかり食べるのよ。」

 

「戸締まり頼むぞ。」

 

 

親戚で何方かが亡くなったらしい。俺は、返事をすると見送りをし、そのまま部屋に閉じ籠った。

閉じ籠っていると、二人は勉強していると認識して俺を邪魔しませんモードにはいる。まぁ、勉強していることは事実なので放っといているが、最初は物好きだと思っていた義父母は、一人でもどうにかなりそうな子供を探していたらしい。

…一人でもどうにかなりそうな子供を探す時点で複雑だが、その辺りは個人の認識だし仕方ないな。

 

 

 

さて、俺はこれから何をしようか…。朝突然言われたことだったために見送りで時間をかけてしまったものの、二人がいないとなると修行に当てる時間が増える。当初の予定では1日勉強にあてる予定だったが、体を動かすのもいいかもしれない。

こういった自由に何かをする、という時間が普段はないために余計に何をしようか迷う。きっと、これが普通なんだろうなぁ…。

 

結局、俺はそのとき思ったことをして1日を過ごすことに決めた。たまにはゆっくりとしよう、そう考えてのことだ。

 

魚が釣りたくなったけど…この辺りに釣り堀はないし、川魚よりは海の魚が見たい。…釣りはやめよう。

無難に図書館でもいこう。学校からの宿題は終わっているし、たまには時間を忘れるくらい本を読み漁るのも楽しそうだ。

 

俺は、身支度を整えると図書館に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

図書館はとても静かだった。

何故か倒れる中学生ほどの男が大勢いる廊下を通り、わりと有名な作家の話から手をつけ始める。

京子ちゃんを誘おうかと思ったが、一人もなかなか気楽でいい。

それに、廊下に倒れていた男たちは群れたことによってやられたんだろうし、もしその犯人(…ってこの町で言って良いか分からないが)に見付かりでもしたら何か言われるに違いない。

一人でいる方が何かと目立たずにすむだろう。

 

そこまで考え、本を選び終わると窓側の日当たりのよい席に向かった。

そこは、日差しがやわらかく、本を読みやすいのだが…どうやら先客が居たらしくその席は埋まっていた。

 

 

…綺麗な黒髪に黒い服、二の腕辺りに赤い腕章が見えた辺りから踵を返した俺は悪くない。

別に、緑中受験できないということを根に持っているわけではなく、純粋に近づきたくないだけだ。

 

 

俺は、その席からかなり距離のある席を選び、しずかに1日を過ごした。



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修学旅行迫る!

スミマセン。
最近…今回も短いです。
よろしくお願いします。


今さらだが、俺は保険委員長をやっている。

別に、将来の夢が医者だからなんだとか全く関係なしに偶然が偶然を呼んで気がつけばこうなっていたのだが…

 

 

 

 

「花さん!富○製糸場を…!」

 

「日光東○宮をお願い!」

 

「富○急!!」

 

 

どうしてこうなった!?

 

 

 

 

遡ること10分前!…修学旅行でまわる場所が保護者と教師と児童とで食い違い、このままでは修学旅行に行けないということで、何故か指名された俺がダーツをすることになってしまった。

ちなみに、声をかけてきた上から教師・保護者・児童だ。

 

教師は学べるところを希望。保護者は歴史的な日本を希望。児童は遊べる場所を希望。

それを、担任の先生…あの運動会で危険視されてる、【あの】とつけるだけで伝わる先生がペタペタと板に3ヶ所名の書かれた紙を張り付けたところで渡されたおもちゃの矢。

 

今思えば、断ればよかったが、今さら断るわけにもいかない。鍛えた動体視力によって動くルーレットもいけるが、今回は動いていない、ただ3ヶ所のうちどれかに当てればいいだけなのだが…

 

 

 

 

俺は普段からコントロール類は意識をしている。そのため、狙い通りに当てることが可能だ。しかし、その分どこに当てるか、という問題がある。

 

運任せならまだしも、狙い通りできるということは…

 

 

 

 

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

 

 

嫌なプレッシャーと、終わったあとの罪悪感がひしひしするよなぁ…。

なんで本当こんなことになってんだろ…。

 

無言で見つめるのやめろ。というか、そんなに言うなら交代してくださいよ!!無言で児童から目を反らしていると、不意に足元に違和感が走った。

 

誰かがはいているズボンの裾を引っ張ったような、そんな感じが。何事かと思い視線を向けると、そこにはいつもの通りにこやかに笑った京子ちゃんがそこにいた。

 

 

 

「京子ちゃんは3つのうちどれがいいですか?」

 

「私は最後のやつかな…。」

 

「なら、それを狙ってみるね。」

 

 

 

俺一人で決めたような感じになるより、意見を聞いてみた方が良いと感じ聞いてみると、やはり児童は遊べる施設が良いらしい。

 

 

「あ、でも…花ちゃんの好きなところに当てていいからね?」

 

「ええ、それでは3つ目に当てますね。」

 

 

スッと不自然にならないよう気を付けてダーツを行ったところ、見事3つ目を選ぶことができた!

 

児童たちの完成が響くなかで、京子ちゃんが喜びながら俺に抱きついてきた。

そもそも俺が選ばれたのは、偶然が重なったと言ったが、廊下から引っ張って連れてこられただけだったためだ?。

まぁ、終わったからいいが…これで班違ったら辛いなぁ…。




次回投稿は8/24(木)となります。


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少女について考える。

毎度のことながら短くてスミマセン!
原作開始時には、内容つめますので!


修学旅行は良かった。

昔とは違って自分で好き放題いろんな所に飛べるわけではないから、並盛以外の土地に行くことが久し振りの事で随分とはしゃいでしまった。

詳しい話は割愛させてもらうが、その場その場でしか体験できないことが楽しい。そしてその楽しいという思いを感じる度に、孫悟鈴()が死んで黒川花()が生きているのだと感じられる。

 

くどいようだが、俺はこの生活を続ければ続けるほど、残してきてしまった皆に申し訳無いという気持ちが肥大するるる

 

学者になりたかったはずの兄さんは、俺が死んできっと悲しんだ。

お母さんとお祖父ちゃんの制止の声を無視して飛び出して、心配をかけた。孝行なんて全くと言っていいほどやらなかった俺を、二人はどう思っただろうか…。優しい二人のことだから、自分を責めて泣いているのかもしれない。

 

それなのに、俺は呑気に平和な生活を送っている…。

それが、やっぱり胸に引っ掛かって、そして俺の心を乱す。

 

今を生きていられるのは昔があったから。

後悔はしないと決断しても、結局ふとしたときには思いだす。…俺はどれだけ弱いのだろうか。

 

結局、俺の前の“花”の気にかける少女は見つからない。もしかすると、引っ越してしまっているのかもしれない。徐々に戻ってくる記憶によると、母親が再婚するという事を話していたようだし…(つくづく)俺との意識の入れ替わりのタイミングが悪い気がしてならない。

地元のテレビでも毎日見てるのではないかというほどに映っていた女優の娘で、可愛い子だった。…あまり母娘仲は良くないらしく、暗い顔をしている少女の姿頭に浮かんでいる。

どうやらよく相談に乗っていたようだし…もう少し周りをよく見れば良かった。

思い返してみると、確かに視界の隅に前の“花”の記憶とおなじ色の髪の色の少女はいた。

そういえば、何度か話しかけてくれたことがあった気がする。…その当時は人との接し方が今より壊滅してた時代でもあったし、状況を把握するためにも自分優先で進めていたからなぁ…。それが悪かったんだろう。

 

その子は地毛が黒とか茶色じゃないから比較的見つけやすいとは思うのに、いないだろうがこの辺りを二時間探してみると、やはりおらず、そう簡単にはいかないのだと感じた。

ちなみに、ショッピングセンターやスーパーといったところでキョロキョロしていたら、サービスカウンターとか迷子センターに案内されてしまった…。すみません、迷子じゃないです。



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お友達との仲が深まりました。

俺は思い出した。

 

京子ちゃんがケーキをたくさん食べる日を作ろうとしていたことを。

 

ベイクドチーズケーキの5号をキラキラした目で見つめていたことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

それに対して、恐怖を抱いていたことを────!

 

 

 

 

 

 

 

目の前でケーキを頬張りながら幸せそうな顔をする京子ちゃんの向かいに座りティラミスを口に運ぶ。

 

ラ・ナミモリーヌというこの辺りでは知る人ぞ知る名店…ではなく、並盛付近の市町からも足を運ぶ人がいるほどのケーキが美味しい店に来ている。

量と値段が釣り合うどころか値段の方が安いのではないかと思うほどの美味しさをほこる名店であるそこの飲食スペースで紅茶と共に至高のひとときを過ごしていた。

 

 

「ねぇ、花ちゃん。1つきいていい?」

 

「え、はい。」

 

 

一口、もう一口と「美味しいです!」と顔に書かれていたが、はっきり言うと、それ見てるだけでお腹は苦しいです。おもに甘味で…。

まさか、こんな日が来るとは夢にも思わなかったが、今は普通の女の子なのだと実感した。

 

前世の俺はサイヤ人と地球人のハーフだったから、ご飯の量が多かったけど、今は一人前を食べることでやっとだったりする。…もともとがそういう体なのかもしれないな。

 

まぁ、そんな最中に京子ちゃんが突然意を決したかのような顔をして質問をしていいかと聞かれたら、まぁ断るわけにはいかない。

俺は、少し吃りつつも可と伝えると、言った。

 

 

「花ちゃんの話し方が最近変わってきてて心配だなぁ…ってお兄ちゃんが。」

 

「…確かに、話し方は変わってきてるわね。」

 

 

 

俺と前の花の意識は、徐々にリンクするようにしたため、短時間でリンクされない分、その二人の性格の狭間のような状態になる…ことが多いらしい。

俺は丁寧な言葉遣いをしていれば、男だろうが女だろうがなんとかなると思ったが、花の方はもとから女だった分その言葉遣いは女性らしさがある。…少し大人びすぎな気もするが、最近の子供はこんなものらしい。

 

 

「中学デビューに備えてるんです。まだ、慣れないんだけどね。」

 

「そうだったんだ!」

 

 

 

とりあえず、卒業が近いことから理由を適当に話す。

俺は別にデビューだとかそんなの全く考えてねぇ。これは断言できる。

少しこれはまずかったかな…と言ってから後悔したが、京子ちゃんがすんなりと受け入れていたので良しとしよう。

 

 

「ええ。目上の方には丁寧な言葉を遣っても、同級生に丁寧な言葉を遣うのは距離をおいているようですし、機会が良いので変えてみようかと…。」

 

「なら!…─────」

 

 

 

その流れから京子ちゃんが提案したことにより、俺達は御互いを呼び捨てしあうことになった。慣れないが、少し嬉しいと思った。が、俺は女児趣味ではないはずなんだけどなぁ…。



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卒業!そして出会い。

並盛小学校の卒業式の捏造です。
これまでも捏造はありました。これからもあるかと思われます。

それでは、今回もよろしくお願いします。


「花ちゃん、本当に私が決めていいの?」

 

「はい。私はそういうの、良くわからないので…。」

 

 

ドレス類を専門とするデザイナーである義母さんに卒業式に着る服の選択を任せる。俺としてはあまりゴテゴテしたものは着たくないが、任せた方が良いだろう。

 

学校ではインフルエンザが流行っている。2年生と5年生は学級閉鎖、3年生が学年閉鎖となるまで追い込まれたこの状況で、人が集まる卒業式を実施しても良いのか、という声が上がっているらしいが…仕方ないよな、卒業式だし。

 

この時期のインフルエンザはまさに旬だからな。

 

ニュースを見ると、学級閉鎖に学年閉鎖。しいては学校閉鎖まで流れる始末。

そんな状況じゃ仕方ないと思うが…それに、肝心の6年生は全員無事に学校に来ていたりする。心配することはないが…中学校の方ではインフルエンザで学校閉鎖に成りかけるほどの被害が起こったらしい。

なんでも、ボクシング部の1年生がインフルエンザに気付くどころか体調不良に気付かずに学校に来続け、ていたらしい。

 

うん。なんとなく誰だか分かる気がする。

この間、京子が不安そうな顔してたし、了平さんだと思うが…京子が無事でよかった。

 

 

ちなみに、卒業式は明日。

なんでこんなギリギリまで服を決めなかったのかと言うと、ただ単に忘れていただけだったりする。

義母さんには分からないなどと言ったが、分かる分からない以前に失念していたのだ。卒業式に普段とは違った服を着るのは卒業生だけで、在校生代表として出席する5年生はいつもと同じ私服で出席だったため…言い訳だが、普段着で良いかと思っていた。

 

それが、今日の学校での児童間の話で思い出したということだったりする。

 

義母さんの鼻唄が遠くから聞こえてくることから、派手なものにならなければいいなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式当日。

 

俺は、義母さんが選んだらしい、派手すぎない落ち着いた清楚なものを着た。

まさか前夜にお願いして今日着れるとは思わなかったが、それは義母さんに感謝だろう。

義父さんは、無理矢理有休を取ったらしく、朝にソファの上で屍となっていた。…いろいろと申し訳ないな。

 

学校に行くと、卒業生の胸元につける花を在校生につけてもらい、気が付くと卒業証書を授与され終わり、退場していた。

 

男子はそうでもないが、女子は涙を流す子が多かった。京子ちゃんも少し涙ぐんでいたが、周りの男子がそれをみて顔を赤くしていた。…男子、落ち着けよ。

 

担任の先生は、卒業生を初めて持ったらしく、感極まっている。

それを、なんとも言えない気持ちで俺は見ていた。

…実感がわかないのだが、それが普通なのだろうか。

 

義父母は急な仕事が入ってしまったらしく、電話に怒りながら話した後、俺に謝って帰っていった。

つまり、俺一人の帰り道だが…

 

 

 

家に帰る途中、何かが落ちていた。

青色でチェックの柄がついている…財布。

 

名前は書いていないかと見てみると、そこにはしっかりと

 

 

 

沢田綱吉

 

 

 

と書かれていたが、残念ながら沢田という知り合いはいないため、交番に届けた。

 

帰ることが遅くなってしまったが、交番の警察官にはお菓子をもらった。

お菓子といっても、ケーキ屋さんで売っているクッキーだ。1枚で100円はする少し高めのクッキー。

 

 

小学校を卒業した俺は、これからの医者への道のスタート地点にもまだたどり着いていない。これからが頑張り時だろうな…そう、思った。




次回からは原作沿いとなります。


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中学生編
中学校入学!初日の拾い物


前話で誤字報告をしてくださいました有沢ゆうと様、
感想欄で教えてくださいましたチン・パンジー様、
ありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします。


「花!おはよう!」

 

「おはよう、京子。…制服似合ってるわ。」

 

「ありがとう!…花も似合ってるよ!」

 

 

入学式は一緒に登校しようとの約束をしていた俺と京子は、約束の場所である公園でそう話すと学校へ向かう。

俺と俺の前の花の意識は完全に融合し、その花が唯一としていた少女とも無事に連絡がとれ、今度会いに行くことになった。

せっかくの機会だからとママチャリを準備しようとしているのは秘密だ。走った方が楽か早くつくかは分からないが、体力作りに良いと思う。(ちなみにママチャリはゴミ焼却施設から安く購入できた中古品。)

 

閑話休題

申し訳ございませんが、本日(8月27日(日))を持ちまして連載を終了させていただきます。

理由につきましては、孫悟鈴がなぜ成り代わって黒川花になったのか、という点をネタバレ防止のため伝えておりませんでしたが、ドラゴンボールからの転生、ということに違和感を持たれている方がいらっしゃることと、それについて答えてしまいますとネタバレを引き起こしてしまうからになります。

伏線に気付かれていた方、申し訳ございません。

明日(8月28日(月))に削除させていただきます。

ありがとうございました。

 

「お母さんが今日写真撮ってくれるらしいから、お兄ちゃんと撮ろう?」

 

「迷惑じゃなければ喜んで。」

 

 

今日、義母は仕事の都合がつかなかったらしく、式が始まる前に向かうとは言っていたが義父母共に帰ってこなかった。

義母さんは、夏物新作デザインの最終選考があるらしいことと、義父さんは有休をとっていたものの、昨夕に部下が失敗したということで、その対応にかり出された。

行事にはなかなか来ることができないが、義理の娘である俺を気遣ってくれるのがわかって嬉しかったりするのはここだけの話だ。

 

 

 

「それにしても、スカート短すぎない?」

 

「こんなものじゃないのかな?」

 

「そう?」

 

「うん。」

 

 

制服が似合うというのは嬉しいが、それと制服に批判があるのは別だと思う。…こんなに脚を出して良いのだろうか…。俺の感覚は膝下丈なんだが、これは膝上丈。動きやすいが別の心配事が───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くと、校門で渡された新入生の証の花を胸元につけ、クラス表を見た。

俺と京子の名前は同じクラスの列に書かれていたため、自然と自分の名前を見つけると同時に京子の名前も見つけることになった。

 

小学校では番号が遠かったが、今回は五十音順になったらしく席が近かった。

あ行の人が多いらしく、俺は黒板の前に置かれた教卓の真ん前だった。そして、俺の後ろの席の人が沢田綱吉って人で、その次が京子────

 

 

 

 

 

 

 

 

────沢田綱吉?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉という言葉を何処かで見た気がする。

何処だったか…記憶を遡るが、そんな名前の知り合いはいない。だが、たしかに見た覚えがある。

…考えるのをやめよう。俺は、人の名前を覚えるのはあまり得意ではない。

 

 

「花、トイレ行こう?」

 

「そうね。」

 

 

 

先程から男子の視線が京子に集まっていてうざったいと思っていたところだったし都合が良い。俺は、京子を見ていた人間が誰かを把握しながら廊下へと出た。

 

 

廊下は人があまりおらず、京子と話ながら向かっていると、不意に足が何かを踏み、視界が反転した。

…受け身を撮り頭を打つなんてことはしなかったが、転ぶなんて久しぶりだ。俺は、少し恥ずかしく思いながら立ち上がろうとしたが、そんな俺よりも早く京子が声を荒げる。

 

 

「花!スカート!」

 

「え?………あ。」

 

 

京子の声に自信のスカートに視線を移すと、その意図がわかった。

転んだ拍子に、俺のスカートは全てではないが捲れていたのだ。まぁ、見えていないからセーフだろう。スカートが短いというのは大変だ。

俺は、今度こそ立ち上がると、転んだ原因である足で踏んだ何かを拾い上げる。

 

それは

 

 

 

青色でチェックの柄がついているハンカチ

 

 

 

だった。

 

なんとなく前にも同じようなことがあった気がするが、とりあえず名前が書かれていないかとハンカチを広げた。

中学生になるとハンカチに名前を書く人間は減るらしいが、このハンカチの持ち主の名前は書かれていたため、安堵の息を吐いたが…

 

 

 

「沢田、綱吉…?」

 

「花?名前書いてあったの?」

 

「書いてあったけど、このハンカチの持ち主は私と京子の間の席の人で間違いないわ。」

 

 

 

先程見た席表。俺の次は沢田綱吉という名前だった。そそな名前がそこかしこに転がっているとは思えない。

人のハンカチを持ってトイレにいくのはどうかと思い、俺はハンカチを届けることにした。

 

今、なぜ沢田綱吉という名前に引っ掛かっていたのかがやっとわかった。

前にも同じようなことがあったのだ。

 

青色でチェックの柄がついている財布に書かれていた名前。それが沢田綱吉だ。

同じような状況に少し笑ってしまいながらも、俺は教室に戻る。すると、沢田綱吉の席には先程はいなかった人物が座っていた。

 

 

 

「えっと…沢田綱吉さん?」

 

「!?…え、あ、はい。」

 

 

 

声をかけると、突然で驚いたのか肩を上げられた。だが、そんなことは気にならない。誰だって不意に話しかけられればそうなることもあるだろうからな。

 

 

「これ、貴方のですよね。」

 

「え!?」

 

 

ポケットからハンカチを取り出し差し出すと、沢田綱吉さんはポケットをガサガサと探す。そして、俺が持っているものが自分のハンカチだとわかったのか恥ずかしそうに受け取った。

 

 

「たしか…先月にお財布落としてましたよね。交番に届けたはずですが、行きましたか?」

 

「え~!?財布交番にあったの!?ってか、拾ってくれてたの!?」

 

 

どうやら、交番に行くという考えが頭から抜けていたらしい。表情から察するに、財布のことは諦めていたのだろう。

 

 

「このハンカチと似ているのでまさかと思ったのですが…今日の帰りにでも寄ってみては?」

 

「うん!ありがとう!」

 

 

 

 

 

この話の後やってきた京子に、恥ずかしそうに赤くしていた顔をより赤くしていた。…お前もか。

 




すみません。原作沿いではなく中学校に入ってすぐの話しになってしまいました。
次回から原作で進みます。


申し訳ございませんが、本日(8月27日(日))を持ちまして連載を終了させていただきます。
理由につきましては、孫悟鈴がなぜ成り代わって黒川花になったのか、という点をネタバレ防止のため伝えておりませんでしたが、ドラゴンボールからの転生、ということに違和感を持たれている方がいらっしゃることと、それについて答えてしまいますとネタバレを引き起こしてしまうからになります。
伏線に気付かれていた方、申し訳ございません。
明日(8月28日(月))に削除させていただきます。
ありがとうございました。



スミマセン、感想のことで、更新を見合わせておりました。本来であれば削除する予定でしたが、いただいたコメントで、私の意図に気づかれている方もおり、非公開という形で少し考えさせていただきました。亀更新で復活したいと思います。

【原作が始まっておりません】のでDBクロスの意味は分からない方もおられると思いますが、繰り返させていただきます、【原作前】ということを失念しないでいただきたいです。
次回から原作沿いということでしたが、実は未だに更新を続けるかどうか悩んでおりますので更新はゆったりです。

見苦しくてすみません。これからもよろしくお願い致します。


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