「あなたに話があります。少しよろしいですか?」
俺は、最近は面倒な学校が終われば人気がない道を選び帰るのが習慣なのだが、今それをかなり後悔した。
帰る途中で顔が黒い煙状になってる男に声をかけられたのだ。
どうせ三流のブンヤかなんかが俺の兄貴がやらかしたことにかこつけて取材を目論んでるに違いない。
俺の名は
なぜ兄貴がやらかしたかについては、俺たち兄弟は幼くして両親を亡くし、厳格な祖父と優しい祖母に引き取られたことが挙げられる。
俺たちは
俺は幼かったせいか両親の記憶が朧げで祖父母を実の両親のように慕っていたが、兄貴は祖父との折り合いが非常に悪かった。
昔気質の厳格な祖父と兄貴の口論は絶えず、怒鳴り合いになっていたのを覚えている。
あとは俺たちの個性も問題の一つだった。
兄貴は完全な異形型個性「ヘドロ」なのである。
俺の方も「ヘドロ」ではあるのだが、意識すれば人に近い姿にもなれる。
ただ、兄貴の方が異形型の血が濃いらしく、俺のように人の姿になれなかった。
いくら個性が発達した社会とはいえ、泥の塊がともに過ごすのである。
言いたくはないが俺も遠慮したいくらいだ。
そして兄貴の事を理解してやれる友人もいなかった。
そんなドロドロの兄と見た目普通の弟の俺は折り合いが非常に悪く、
「兄より優れた弟など存在しねぇー‼︎」
と言った某世紀末仮面の男の末路に涙していたあたりで俺は仲の改善を諦めた。
兄貴は社会生活においても居場所はなく、それは家庭内でも変わらなかった。
今思えば常人には耐えがたい環境だろう。
そんな感じで結局中学を出たあと行方知らずにで、犯罪をおかしオールマイトに捕まってしまった。
しかも悪いことにその時に人質にした中学生のことが話題になったせいでこの事件が有名になり、こっちにも飛び火してきた。
そんなこんなで取材やらなんやらに、うんざりした俺は人に会わないような過ごし方を続けてきた。
俺もいくら人になれるとはいえ、人に変身したままでいるのは、一日中腹筋に力を込めて腹筋が割れているとアピールするに等しい。
学校でも多少の部位はヘドロにしなきゃならない。
いかんせんそれが例の事件を連想してしまうせいで不良に絡まれたり、周りから敬遠されたり、面倒なことに何度もあった。
そんな灰色の学校生活になったせいで事件の直後は兄貴を恨んでいたが、人付き合いが希薄になってからはなんでこうなったのか理由が自ずとわかったせいで自分が嫌になる。
なにかしてやれなかったかを何度も自問したが、俺が何を言ってもダメなのはわかる。
それでもどうにかできなかったかと考えてしまうのだ。
目の前の男はこちらをじっと見ている。とりあえず適当な理由つけてさっさと帰ろう。
「こっちにも用事あるんで、失礼していいっすか?」
「申し訳ありませんが先生の指示ですので、無理にでも来てもらいます」
こいつは一体なんなんだ?
無理にでも来てもらうだと?
そう俺が混乱しているうちに黒い霧が俺を包み込んできた。
「気分はどうだい?」
「拉致された直後に気分聞かれるとは思わなかったよ」
霧に包まれたあと出てきたのはとあるバーで、場所がどこかはわからない。
どうやら奴の個性はワープ系らしい。
俺を連れてきた霧男はカウンターの内側に入りグラスを磨き始め、代わりにパソコンから先生とやらが話しかけてきた。正直嫌な予感がアホみたいにする。
「せっかくの客人だからね」
「客人相手に拉致しようと思う時点で御里は知れてるがな」
「ふむ…。僕と画面越しとはいえ軽口きける度胸があるとは思わなかったよ」
確かに映像越しでも伝わる雰囲気と禍々しさには顔をしかめてしまった。
ただ元来の肝の太さは役に立ち、声が震えることもなく言葉は返せた。
「まあここに呼んだ理由は簡単さ。君を我々、
いかにも悪の組織みたいな名前を挙げられても困るんだが。
「俺がどこ志望か知っててこの話を持ちかけてるんだよな?」
「もちろん。君はヒーロー科、それも雄英高校志望なのは知っているさ」
「それならなぜ…」
「君はヒーローになるために志望してる訳じゃない。周りを見返すために受けに行くんだ」
確かにそういう面もある。ただ、ギャングオルカが個人的に好きで彼のようになりたいなんて子供心に思ったこともある。
あんな感じのハードボイルドっていえばいいのか?はかっこいいなぁと現実逃避してる間にも先生とやらのの話は続く。
「その辺のチンピラと違って僕たちは目的がある」
「目的?」
「オールマイトの殺害さ」
そんなのできるわけがない。兄貴の個性は物理戦闘においてかなり強力だったのにも関わらず、オールマイトに叩きのめされた。
人質に傷ひとつつけずにだ。
「アホか。んなもん信じられやしねぇよ。そもそも両親が
俺は綺麗な嫁さんもらって老後に趣味に走り、最後に畳の上で死ぬのが夢なんだ。
「君もこの世界に怒りを覚えてるはずさ。ただ「話にならん」…人の話は最後まで聞くべきと習わなかったかな?」
「本気で勧誘してるとは思えん。なぜバーで話をする程度で終わる?誘拐には成功したんだから何してもいいってのに」
ここまでしたのなら、どうとでも動けるのにのんびり話し合いなんて、目的がよくわからないな。
「君は強引な方がお好みかな」
「それは勘弁」
「君には僕の後継者…弟子とも言うべきかな。彼に協力して欲しいと思ってた。君にはなかなか見所があったからね。同年代のライバルと切磋琢磨ってのは成長を促す」
「
「君の冷静さや胆力は見事なものだ。例えば僕が話してる最中にダクトの中に入りこもうと隙を伺ったりとかするところもね」
まずい‼︎バレた‼︎
「黒霧、カウンターを超えさせるな」
俺はダクトに逃げようとした事がバレた直後にカウンターの流しの排水溝からヘドロになって逃げようとしたのだが霧男のワープのせいで阻まれた。
「うん、判断力も悪くない。行動が予測されたのならその案を捨てて敵の前に飛び込もうとする大胆さもなかなか」
「…どうするつもりだ?」
「今日のところは何もしないさ。黒霧、彼を送ってくれ」
本当に帰してくれるらしいな。なにをしたかったのかはイマイチよくわからん。
「ハァ…結局なんだったんだ」
「
「そんな内定嬉しくないな」
「君の雄英合格を心から願ってるよ」
「心にもないことを…」
「いやいやこれは本心さ」
そう言葉を交わした後に黒霧によって最初に奴と話したところに送られ、電話番号のついたメモが手渡された。
「こちらに連絡すれば、信頼できる仲介役に連絡がいきます。君の名前を使えば素早く、かつお互いが安全な方法で君との合流手段の連絡ができるかと」
「糞食らえ」
それを破いてばら撒いたあとに周りを見れば奴の姿はもう無かった。
一瞬今日の事を警察に相談しようかと考えた。
しかし、オールマイトを殺すなんて言ってる悪の組織に誘拐され、勧誘された後何事もなく解放されたなんて悪戯と思われるだけだ。
胸の奥の不愉快な感情に顔をしかめつつ俺は家路へと急いだ。
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ヘドロ一家
希望があれば後書きにでもいれようかな
「ただいま」
「おかえり〜」
不愉快な出来事が終わった後にすぐ家に帰った俺は我が家についてようやく一息いれることができた。
出迎えてくれた祖母
「なんか失礼なこと考えなかった?」
「いや?全然」
訝しむような様子の祖母はとても年寄りとは思えない。
若く見える理由を聞くとプルプル美肌とか言う個性らしい。
若々しい肌と黒の長髪は近所でも、美魔女だかなんだかと話題だなんて自慢してた。
結構嘘くさいがまあそんなものかと気にしないようにしてる。
「今日何かあったの?」
「なんでもないさ」
「そう。なにかあったら相談してくれていいのよ」
俺がやや険しい表情をしてるのを見てとって心配されるが、この表情は割といつものことだ。
「じいさんは?」
「
俺のじいさんは元警官である。
定年退職してからは暇を持て余し、ランニングやら公園でトレーニングやら、そこで子供とあった時に遊んであげるやら呑気に過ごしてる。
要するに公園にある高めの鉄棒で懸垂してるようなジジイが我が祖父である。
そのまま自室に荷物を置いたころに、じいさんが帰ってきたらしい。
「大地はいるか?」
「さっき帰ってきたわ」
「よし!降りてこい!」
うちのじいさんはヒーロー科を目指すといった途端、俺との訓練をやり抜いたら認めてやるとか言い始めたために、庭での訓練が日課になっている。
「わかった」
返事をしつつ降りてきたら、身長190近い鍛えられた体をもつ我らが祖父とのご対面だ。
60超えたのに胸板は厚く、体格も相まってこれも若く見える。
短く刈り上げられた短髪と鍛えられた体は、チンピラ程度の
事実彼が現役警官だった時期には、
そんな祖父の個性は 液体化 である。
体の一部を液体にするだけなのだが、この液体細胞はSTA…ips細胞のように万能で多少の怪我なら自力で回復可能なのである。
ただ元々こんな機能のある個性ではなく、修練を重ねた結果の賜物なのだ。
ここまでの個性になったのは警官になった後らしい。
「さあ、まずは基礎トレーニングだ」
俺は人間の体になり筋トレをたっぷりする。
液体になることが多い俺はちゃんとやらないと筋肉が衰えるとのこと。
また、筋トレなどをするとより人の体になれる時間が伸びるのである。
そんなこんなで1時間ほどそれを続けた後に祖父との組手である。
祖父が
もちろん、警官が個性なんて使ったら大問題なのだが、祖父の個性は使った場面を見ないと使ったかどうか分かりづらいものである。
例えば、今俺が隙を見て拳で胴体を殴ったのだが、そこを液体にし、衝撃を和らげることでダメージを抑えたりするのだ。
液体にした箇所に傷なんかつくわけがなく、挙句の果てには余分な脂肪を使って吹っ飛んだ指を生え直すなんて、やってのけたこともある。
まあ、個性の使用が警察本部にバレることもあったらしいのだが、状況的に仕方ないと抗弁し、始末書やらですませることができたとのこと。それでいいのか公務員。(なお減給とかもあった模様)
そのまま1時間ほど組手と休憩を繰り返して終了となる。
「いい汗かけたな。先に風呂もらうぞ」
俺が庭で潰れてるのに呑気に風呂に行くジジイはターミネーターかなんかだ。
この訓練は祖父が現役時代に磨きあげた、体の一部を液体化しつつ行う近接戦闘術を身につけるためにやっている。
いまだ組手では一勝もできないが強くなってると実感できるため、感謝はしている。
完全にヘドロになれば祖父相手でも勝てるかもしれないが、個性に頼った戦闘をしていると弱点を突かれたときに厳しいとは祖父の弁だ。
ヘドロの個性は当然強力だ。
オールマイト並みのスペックがない限りは身体強化などの、物理戦闘をするような個性相手には圧倒できるだろう。
ただエンデヴァーの炎のような個性相手には体が乾燥したりと、考えたくない状況になる。
そのため、戦いのスタイルはいくつあっても困ることはない。
庭での訓練が終わればあとは、風呂、飯、寝るだけの流れなのだが、夕食後に祖父が話があると祖父の部屋に呼ばれた。
「今日何があった?」
部屋に入って座った直後に聞かれた俺は、咄嗟に言葉を返すことができなかった。
「ふと気づくと暗い表情でお前は考えごとをしている。訓練中のふとした瞬間や、飯の時にテレビを見ている時だ」
どうやら祖父には何かあったと勘付かれたらしい。
なんだかんだで鋭い祖父だ。年の功には勝てる気がしない。
相談相手なら適切だし話すとしよう。
「俺は今日学校の帰り道で、
事の顛末をだいたい話しておくことにする。
ただし、オールマイトの殺害とやらは黙っておくことにする。
こんな嘘っぽい話に冗談みたいな事を加えて、軽く受け止められても困る。
「ふむ、多少ツテがあることだし、少し警察の方に話を通しておこう。あとはお前には悪いが、人気のない所は行かんほうがいいだろう」
「わかった」
「あとは俺らだけはお前の味方だ。もっと頼ってもいいんだぞ。あいつと同じようになったら…」
額にシワを寄せて祖父が言う。やはり心配してたらしい。
「大丈夫だよ。わざわざありがとう。話したら楽になったさ。あとは、あの『先生』とやらはかなりヤバイ。画面越しでも威圧感が…」
「それも伝えておこう。ワープ系個性持ちの
超人社会では各人の個性は国によって把握されている。
特に希少なワープ系の個性については詳細な情報すらあるだろう。
「それは何でなんだ?」
「お前を返してやることが前提でお前を攫ったんだ。知られてもいい情報しか渡す気はないんだろう。お前が見た物だけではなにも特定できないはずだ」
「バーもありがちすぎて特定は無理そうだったと思う」
「なにもされてないってのがネックだ。大掛かりな動きを警察やヒーローはできないだろう。外出の際は気をつけてくれ」
「わかった。じゃあそろそろ寝るよ」
「ああ、おやすみ」
そのまま祖父の部屋を後にして自室に戻る。
もうじきに高校受験だってのに面倒なことにあったな。
俺はデカい水槽で溶けながら考えごとをしているうちに眠りについた。
こんな社会の警察官だと、こっそり個性使ってる人とかいそうなんですよね
そうして問題児として有名な警察官ていうのが祖父のイメージです
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受験当日
「んじゃ、行ってくる」
「はーい」
祖母に挨拶をして家を出る。今日は雄英高校の実技試験日だ。ちなみに先日の筆記に関してはそれなりに解けたとは思う。
だが何よりも大事なのはこの実技試験ではかられる戦闘能力だ。
ペン先では合格が決まらないってところに雄英の難しさはある。
倍率は300倍といわれ、多くは実技試験で落ちてるらしい。
そういう点において俺なんかは恵まれてると思う。
個性について、実戦で指導を受けるなんてヒーロー一家とかじゃないとできないからな。
兄貴のこともあって色々と面倒なことになりそうなのが嫌だが。
ちなみに雄英高校のヒーロー科は西の士傑と共にあげられる日本最高峰とも言われ、現在のトップクラスのプロヒーローの多くはどちらかを出てるとのこと。
ヒーローという職種において大事な点はいくつかあるが、第一に個性を生かせない限りやってはいけない世界だ。
なにも戦闘だけではないが、救助など様々な場面において個性を使用することが多い。
そういった訓練をプロヒーローから指導を受けることができ、他のヒーロー科よりもより実践的に取り組める。
他にも理由はあるが、そんな感じで倍率が高いらしい。
「どけデク!!!」
会場について関わるなオーラを出しつつ歩いていると怒鳴り声が聞こえてきた。
あれは…爆豪だったか?
うちの兄貴の被害者か。
「俺の前に立つな。殺すぞ」
どうやら知り合いらしい緑のモシャモシャを恫喝している。
ヒーロー科目指してる奴のセリフじゃあないなと思ったが、人の事は言えないぞと、この前会った先生とやらが何やら語りかけてきたような気がして思わず殺気を飛ばしてしまった。
周りの生徒もなにやらざわざわしている。
「あれバクゴーじゃね?ヘドロん時の」
「あそこの怖そうなのってヘドロ弟?」
「本物っぽいぞ」
どうやら周りの呟きが聞こえたらしく、爆豪がこちらを睨みつけてくる。
そのまま無視して中に入り、人目につかない角の席を取る。
そう言えばつい先日に、じいさんの知り合いらしい警官が話を聞きにきていたな。なんだか村人Aみたいな顔だった。塚内さんだっけな?
流石に警察相手には完全に嘘を言う気になれず、オールマイトのことは殺すではなく、害するってな感じでぼかして話してみたが、厳しい表情だったな。
…真面目に話を聞いていたってことはオールマイトに何かあるのか?
こんな話はタチの悪いイタズラと思われるのが関の山だとずっと思っていた。
ひょっとして、あの先生とやらはオールマイトに勝てる超大物
そんなのに目をつけられるのは勘弁してほしいな。
ラスボスな雰囲気があったから否定できないとこがマズイが。
だが俺が話した情報の中に個人を特定できるほどのものはないな。
うーんわからん事を考えてもしょうがない。
気づいたらもう実技試験についての説明がとっくに始まっていた。
途中メガネの生徒の質問やら、緑モシャに注意やらがあったが無事説明は終わった。
どうやらロボは4種類あり、うち3つは倒すと1〜3ポイントまでを得られる仮想敵。これを時間制限のなかでいくつ倒せるかを競う。
最後のは巨大ロボとやらで0ポイントだ。こいつはいわゆる妨害用らしい。
個性を生かし、仮想敵を倒しつつ、巨大ロボを避けより高い得点を競う試験のようだ。
ちなみに他人への攻撃などアンチヒーローな行為は禁止か。
アンチヒーローな行為ねぇ…。
一応ロボを相手にしても火炎放射器なんかが搭載されてなければ、効率よく倒せる。さっき思いついた一案があれば、他の受験生を蹴落とすこともできるだろう。
ひょっとしたらアウトかもしれないが、まあ
説明も終わり少し移動して会場についた。同じ学校の連中とはわかる方針らしく、いくつかの会場があり、どれもリアルな街並みが再現されているようだ。
ヒーロー関連については国からも結構潤沢な予算が確保されてるらしい。
危険な職種だが、福利厚生もばっちりで勤め上げれば老後も安泰だし、こんな好条件はそうそうない。
決意も新たにしていると、緑モ(ryが先ほど質問をしてたメガネに説教くらってるようだ。
あのメガネは真面目というべきか…。同じ受験生をプレッシャーで落とす作戦でも実行してんのか?
俺の考え方はだいぶひねくれてるな。
しばらくすると、
「ハイ、スタート!」
と予告もなく開始宣言が行われた。
突然の事であたふたしてる他の奴らを置いて会場へと入る。
しばらく歩くと物騒な声が聞こえてきた。
「標的補足‼︎ブッ殺ス‼︎」
どうやら1ポイント敵のようだ。こちらに迫ってくるが大した脅威には感じない。
敵の走りながらの射撃を回避して、横を通り抜ける際に足をヘドロに変えて車輪の下にヘドロを噛ませる。
そいつはそれなりのスピードを出してたために、そのままスリップしてビルに突っ込む。
そいつが機能停止したのを確認しつつ、他の敵を探す。
しばらく相手してみた感じ1ポイント敵は頑丈とは言い難い。
他はもうちっと頑丈だが、物理的な攻撃手段しか持ち得てない時点で余裕はある。
そもそも機械の内部の機構を侵入させたヘドロで破壊してけばいいが、少しペースが遅い。
俺の一案は内部が壊れてない方が都合がいい。
そんなことを考えていたら幸運にも損傷少なめの撃破された3ポイント敵を見つけることができた。
こいつに取り憑くことで無理やりにでも動かす。
俺の攻撃には物理的な破壊力にかけてたし、搭載してる火器は使えなくともその腕を振り下ろせば十分な破壊力はある。
さらに2つの利点もある。
1つ目は仮想敵から攻撃対象と認識されるまで時間がかかることだ。
殴りすぎるとだめだが、最初の1.2発は誤射に判定されるような設定があるらしい。
2つ目は…おっと。どうやら俺を敵と勘違いしてるらしい、受験生が攻撃にくることだ。(レーザーが飛んできてビビった)
そいつは他者への妨害として不合格となるだろう。
こっちは工夫してやってるだけで落ち度はない(多分)。ルールにもおそらく抵触しないはず。
基本的には攻撃してきた向こうに問題はあるし、こちらは効率的に倒すための工夫といえばギリギリグレーゾーンくらいでいける。
そんな感じでポイントを稼ぎつつ、何人かを陥れていくと、最終盤になってきて、会場の中央に人が集まってきていた。
あそこにはロボットが固まってるのもあって、ラストスパートとばかりに攻撃をしかけていた。
俺の方はだいたい…50か60いくかいかないかぐらいか。
やはりいま使ってるロボットは重量があり動かすのが非常に大変だが、一撃に結構な破壊力がある。
今俺は会場の北東部の小高い丘にいるせいでロボの多い中央は遠い。
もうそろそろ終わりだし、周りに敵はいないため、のんびりと眺めていると、巨大なロボットが出現した。
どうやら受験生をロボで引き込んでから巨大ロボを一気に繰り出すという腹づもりだったらしい。
このプランを考えた奴はなかなかにいい性格をしている。
しかしそのロボットはただの生徒の一撃で吹き飛ばされた。
状況を見た感じ巨大ロボの攻撃で動けない人を助けるために、あれを撃破したようだ。
あの場にいたほぼ全員が逃げ出したのに、そいつだけは救出のためにあれに立ち向かった。
実に非合理的でしかしまさに英雄めいた行動。
…それを見てなぜか俺は不愉快な感覚を覚えた。
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