大いなる海の母 (村雪)
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始まり

 どうも初めまして!村雪というものでございます!

 この度新しいssを投稿させていただきますが、なにぶん趣味で書かせていただいておりますので、果たしてどう思われるのか・・・


 あとがきで色々と書かせていただきますので、まずはチラリとでも本文を読んでいただければ…!


―――それでは、ごゆっくりお読みください。




 

 

 

 

 

 

 

 トクトクトク

 

 

 

 ある海に浮かぶある一隻の船。その船上にて、一人の男が杯(はい)に酒を注いでいた。

 

 

 

 

「…………」(ヒュッ)

 

「…………」(パシッ)

 

 

 

 並々と注ぎ終えた男は、その酒を蓄えた巨大な瓶(かめ)を飲み交わす男へと投げ渡す。無造作な渡し方だったが、彼は難なく瓶を掴み、酒の中身を確認した。

 

 

 

「…………西の海(ウエストブルー)の酒だな。あまり上等じゃねえだろ」

 

「世界中の海を回ったが……肌にしみた水から作った酒を超えるものはない。おれの故郷の酒だ、飲んでくれ!」

 

 

 決して好評と言えない評価を下されるも・・・・・・海賊の世界において、“皇帝〟と称される海賊の1人―――【赤髪のシャンクス】は、機嫌を損ねることなく笑顔で酒を飲むように勧める。

 

 

「………」(ゴクゴクゴク)

 

 

 そんな赤髪の言葉に、彼は何も返すことなく瓶に残る酒を豪快に飲み始めた。

 

 彼の年齢で判断するのならば、非常に危険な飲み方この上ないのだが、彼の“存在〟を知るものからすれば、まさにその姿が彼らしいと呼ぶに違いないだろう。

 

 

 

「………あァ……悪くねぇな………」(ゴクッ)

 

 

 そうつぶやき、ふたたび酒をあおる〝彼〟の口元には三日月のような立派な白いひげ。それこそが、彼の存在を圧倒的に世に知らしめるトレードマーク。

 

 

名を 【エドワード・ニューゲート】。

 

過去、この世の全てを手に入れ〝海賊王〟と称されるようになった男、【ゴール・Ⅾ・ロジャー】と幾多と殺し合ってきた男にして、彼の死後から現在、もっとも海賊王に近いとされる海賊・・・・通称【白ひげ】の名だ。

 

 

 

「……つる、センゴク、ガープ」

 

 

一気に酒を飲んだ白ひげは、過去を懐かしむように訥々(とつとつ)と思い出を宿す名をこぼす。

 

 

 

つる―――海軍本部中将にして、組織の長である海軍元帥の参謀を務める数少ない女海兵。

 

 

センゴク――海軍本部元帥にて、海軍における全ての権限を握る誠実な性格の持ち主である海兵。

 

 

そして、ガープ―――型にはまらぬ破天荒な性格の持ち主で、海軍の中でも右に出るものはいないほどの問題児……なのだが、何度もかの〝海賊王〟を窮地に追い詰めるほどの実力を持つ、海軍本部中将。

 

 

 

 この三人は、世界中に蔓延(はびこ)る海賊達を捕らえる『海軍』という組織において、数十年も昔から海賊と最前線で戦い続け、数多の功績を残してきた〝英雄〟である。

 

 

「………ロジャー」

 

 

 今は亡き海賊。時には命を懸けて戦い合い、時には酒を飲みあうこともあった、宿敵にして、戦友でもあった男。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

「――――――【酒呑童子】」

 

 

 

 同じく、幾度も命を削る勝負を繰り広げ、酒を酌み交わしてきた海賊。

 

 

 

 

 

  【ロジャー】 【白ひげ】  【酒呑童子】

 

 

 

 

 ガープ達が海軍の伝説とされるなら、この三人は海賊という海の無法者達において伝説と呼ばれるに値する猛者達であった。

 

 

 

「あの海を知る者も、もうずいぶん少なくなった」

 

「22年経った。当然さ」

 

 

 海賊王ロジャーが処刑されたのが22年前。子供も大人になる年月は、当時の記憶を忘却の彼方へ消してしまうことを許すのに十分な材料だろう。

 

 

 

「あっという間よおれにとっちゃあ……。お前と【鷹の目】との決闘の日々も………“あの女〟が死んだっていう記事が出回った日も、おれにはまだ新しい」

 

 

―――実際はくだらねぇデタラメらしいがな。白ひげはそう言って酒をあおる。赤髪も続いて酒を口に付けた。

 

 

「らしいな…記事に信ぴょう性が無かったからあまり信じなかったが、やはり、彼女は簡単にくたばらないな」

 

「ふん。お前に言われなくても分かってらぁ、アホンダラ」

 

 

 白ひげは少し不愉快そうにシャンクスを睨む。そんなことはもう身に染みて分かる。いったい何度ヤツと衝突しあったと思っている。自分のような若造に言われるまでもない。あれほどの海賊が、そうやすやすとやられるはずがないのだ。

 

 

「あの女とは数えきれねえぐらいぶつかりあったが、未だに白黒はついてない。なのにぱったりと消えやがって………次にあったらただじゃおかねえ」

 

「はは、あんたにそれを言われるとは彼女も災難だ」

 

 

口ではそう言う白ひげだが、そこに怒りはない。また好敵手と戦える日を楽しみにする、好戦的な笑顔だけがあった。

 

 

「グラララ・・・そう言うおめぇもあいつには思うところがあるんじゃないか、小僧?」

 

「……………」

 

 

 そう問われた赤髪は、静かにして闘気に満ちた笑みを浮かべた。

 

 

―――当然だ。

 

 

 

 

 彼女のことは昔から知っている。自らが一船の船長となる前………ただの船の見習いだった時代。その船の船長を始め、副船長、クルーたち全員が何度も彼女と雌雄を決した。

 

 

 

・・・あの船長たちがあれほど苦戦を強いた海賊は、彼女と白ひげを除いて他にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 まして、海賊団としてではなく、〝たった一人〟でロジャー海賊団とケンカをする人物など、彼女を除いて誰一人いなかった。

 

 

 

 

「ああ……叶うなら、一度俺と手合わせをしてほしいものさ」

 

 

 

 あれほどの強者に、男として闘心を滾(たぎ)らせない筈がない。新入りだったあの時とは違う今だからこそ、自らの力を彼女へとぶつけたい。

 

 

 

 別に彼女に勝てるなどとおごってるつもりはない。ただ、知りたいのだ。

 

 

 

 

何人にも怯むことなく、ただただ自らの意思を貫き続けた彼女にどれほど及ぶことが出来るかを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――では、天竜人に手をあげたのは事実……なのじゃな……っ」

 

 

 〝海賊女帝〟ボア・ハンコックは顔を両の手でおおい、崩れ落ちた。まるで誰かと会うことが出来たかのように。

 

 

二度と会うことが出来ない人に、巡り会うことが出来たかのように。

 

 

 

 

 

 

「そのような大バカ者が、まだこの世界におったのか……っ。命を顧みず……〝天〟にも臆さない彼女達のようなものが…!」

 

「??彼女達って?」

 

 

 モンキー・Ⅾ・ルフィは首をかしげるしかない。もちろんハンコックもそれを承知の上だ。

 

 

「……そなたには全てを話そう……」

 

 

 そこから【女帝ボア・ハンコック】と、その妹サンダーソニアとマリーゴールドの地獄のような過去が話された。

 

 

 彼女たちが元々、権力にのさばって横暴を繰り返す世界貴族の奴隷であったこと。

 

 背中にある刻印は奴隷であるものと判別させる〝天竜印〟であること。

 

そして、そこでの暮らしがいかに凄惨であったかを、震える身体を抱きしめながらも話し続けた。

 

 

「なんの希望も見いだせず……死ぬことばかり考えていた…」

 

「お、おい!いいよもう話さなくてっ!」

 

 

話すことも辛そうな蛇姫にルフィも慌てて止めにかかった。だが、それでも彼女は話すことを止めない。どうしても聞いてほしいと言わんばかりに。

 

 

 

「………だが、半年ほど経った日。ある出来事が起きた」

 

「え?ある出来事?」

 

 

「〝天竜人には逆らわない〟―――それが古来からある世界の鉄則。……じゃが、それを全く意に介さず、堂々と牙をむく者達がおったのじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――てっ、敵襲!敵襲~~っ!!ま、またやつらが―――ぎゃあああ~!?

 

 

 

 

 

 

―――おっ、お前ぇ!わ、わちしを誰だと思ってるえ!?わ、わっ、わちしは世界政府を生み出した、い、偉大なるいちぞ、ひゃ、ひゃぎゃ~~~~っ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

――――さ、来なよ。こんなしみったれた場所にいる必要なんかないさ。

 

 

 

 

 

 

 自分たちを管理していた天竜人の意識を刈り取り、豪気な笑顔を浮かべて手を差し伸べた彼女。あの海賊に受けた恩を、ハンコック達ボア三姉妹は決して忘れない。

 

 

 

「その者達の長こそ…………【酒呑童子】。かの四皇と称された女性じゃ。部下を率いた彼女はどこからともなく現れ、〝聖地マリージョア〟で暴れまわり、わらわ達のような奴隷を次々と開放していってくれた」

 

 

「えーっ!?四皇がお前らを助けに来たのか~っ!?」

 

 

 ルフィは思わず大声を出した。海賊の世界にて、あの白ひげに並ぶたった三人の海賊と、当の白ひげにだけ許された称号。そのような大海賊が自分と似たようなことをしていたことに、さすがの彼も驚いたようだ。

 

 

「……これは後になって知ったのじゃが、酒呑童子は幾度となくこの奴隷解放を行っており、幾多の奴隷を救い続けておるそうじゃ」

 

「へー、そうなのか」

 

「解放されたわらわ達奴隷は、そのまま彼女の持つ島に連れられ、数日間手厚い待遇を受けた」

 

 

 ぱさついたパンとミルク。たったそれだけが今までの食事だったのに、あのとき出された食事はなんとおいしくて、温かったことか。

 

ござと粗末な布が一枚。痛く、寒くてつらかったあの寝具が大きなベッドと柔らかい毛布と変わり、どれだけ心地よく眠ることが出来たか。

 

 

奴隷達は誰もが我慢することが出来ず、大粒の涙と嗚咽をこぼしたそうだ。

 

 

「そしてその後は、故郷に帰りたいと望んだ者たちを一人残らず元いた場所へ帰してくれた。わらわ達もその一人じゃ」

 

 

 

 

 

――あんた達の未来(さき)が光で溢れてるように遠くから願っとく。二度と捕まるんじゃないよ。

 

 

 そう言って最後に笑ってくれた酒呑童子。奴隷となり、人に気を許すことが出来なくなってしまった蛇姫だが、間違いなく彼女には心の底から笑うことが出来るだろう。それほどまでにこのボア・ハンコックは、彼女の優しさに心打たれたのだ。

 

 

 

 

「へ~。しゅてんどーじかぁ。すげえいい奴なんだなー」

 

 

「……っ」

 

「「………うう、うううう~……っ!」」

 

 

 

「?お、おいどうしたんだお前ら?」

 

 

 何気ない一言だったが、琴線に触れてしまったかハンコックは悔やみきれない表情となり、サンダーソニアやマリーゴールドは、涙が次々と瞳から落ちた。

 

 

「………」

 

 

 その様子を見て察したニョン婆、もといグロリオーサは、この男が知らぬであろうことをハンコックに代わって告げる。

 

 

 

「その酒呑童子じゃが…………5年ほど前か、彼女が死亡したとの記事が出たにょじゃ」

 

 

「えええっ!?な、なんで!?何かあったのか!?」

 

「詳細は分からにゅ。じゃがその記事以降、彼女の姿が現れにゃくなったにょは事実………世間では彼女が死んだもにょとして扱われておる」

 

 

 あれほどの強者がやられるとは思えない。だがそれを否定する最大の証拠、〝彼女の存在〟が確認できなくては、世間がそれを真実と受け入れるのも仕方ないのだ。

 

 

「………その記事を知った時、わらわ達は涙が止まらなかった。あれほど涙を流したことは、後にも先にも一度たりともない…」

 

 

 どれほど泣き明かしたことだろうか。あまりにも様子がおかしいと、アマゾン・リリーにいる全ての者達が自分達三姉妹を心配して九蛇城へと押し掛けたほどだ。

 

 このニョン婆が皆を諫めてくれなければ、その理由を説明し、この島にいられなくなっていたかもしれない。そういう意味ではこのニョン婆も恩人の一人なのである。

 

 

「じゃあ、もうしゅてんどーじには会えないのかー・・・」

 

「そうにゃるのう。じゃが彼女の部下達が〝酒呑童子〟の意志を継ぎ、彼女がしていたことを代わりにしておるそうじゃがな」

 

「へー」

 

 

 ルフィは気の抜けた返事をするが、少なからず〝酒呑童子〟という存在に興味を抱いた。シャンクスと同じ四皇。いったいどんな人物だったのか、一度会ってみたいという思いが彼の頭を駆け回った。

 

 

 

 

 

「――――アイ――・―・ス――」

 

「?アイス?」

 

 

 ごくわずかに聞こえた単語を繰り返すルフィ。それだとただの食べ物なのだが、無論違う。

 

ハンコックはルフィを正面から見つめ、再びその名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――【アイル・Ⅾ・スイカ】……酒呑童子の名じゃ。わらわは決して、この名と彼女に受けた大恩を忘れぬ……」

 

 

 つぅ、と。一筋の綺麗な涙がハンコックの瞳から流れる。その涙に詰まった万感の思いを、彼女以外は誰も知ることが出来ない。

 

 

 

 

 

 かくしてモンキー・Ⅾ・ルフィは、王下七武海海賊、女帝ボア・ハンコックから【酒呑童子】という海賊の存在を知ることとなる。

 

 

 

 

 

 だが、そこにはたった一つ……されど大きすぎる間違いがあった。ハンコックがそれを知るのは四日後のこと。ルフィが自らの願いを知らず知らずの内に叶えるのは、五日後のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――こちらです」

 

「そうか…」

 

「では、お気をつけて…ガープ中将」

 

「ああ」

 

 

 

 そう頷いた男………モンキー・Ⅾ・ガープは一つの牢屋へ向かって歩く。かつりかつりと低く響く足音は、そこにたたずむ空気の重たさをより際立たせる。

だが、そんなことで彼は動じない。長年最前線で海賊と戦ってきたガープにとって、このような場所にいることなどどうと言うことはないのだ。

 

 

「………」 (かつん)

 

 

 目的の檻の目の前に来たガープは足を止め、中を覗いた。

 

 

 そこにいたのは、両手、両足を頑丈な鎖で拘束された青年。身体のいたるところから血が流れており、重傷の身であることは一目で分かる。

 

 

「おーおー、無残な姿に……息はあるのかエース」

 

「…………ジジィ」

 

 

 幽閉されている彼の名は、ポートガス・Ⅾ・エース。

 

ガープにとっては孫のような存在である彼は、とある海賊に敗れたことで、この海底の大監獄〝インペルダウン〟に投獄されてしまったのだ。

 

 

「お前とルフィにゃあ立派な海兵になってもらいたかったがのう。海兵どころか大変なゴロツキになりおって」

 

「…ふん。どう生きていくのか、そんなものはおれたちが決めるのが当然だろうが。ジジィに指図される筋合いはねえ」

 

 

――ええか、お前らは立派な海兵になるんじゃ!

 

 

 何度この言葉を自分とルフィは聞いただろう。反対して海賊になると言う度にとびきりのゲンコツを受け取ったわけだが、今でもあの痛さは思い出すことができる。

 

 

「バカモンッ。わしはわしでお前らのことを心配してじゃなあ・・・」

 

 

 しかしガープにも彼なりの考え、及び思いやりがあってのゲンコツ。言葉で語りかけるのが苦手なガープも、そこだけは勘違いしてほしくないと下手ながらも言葉でエースと話そうと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは。あんたにもそういう微笑ましい一面があるんだねー、ガープ?」

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――したが、そんな2人に割り込むように、場に似合わぬ陽気な声が加わって来た。

 

 

 ガープはその声に覚えがあり、思わず孫であるエースから〝彼女〟へとその顔を向けた。

 

 

 

 

「・・・ふんっ。わしだって孫がおるジジイ。孫の心配をするのは当たり前じゃ」

 

「ふふっ。そうかそうか。〝悪魔〟と言われてたガープも、人の親になるもんなんだねー。私はまたあんたに親近感を抱いたよ」

 

 

「け。やかましいわいっ」

 

 

 とげとげしい言葉だが、ガープのその表情は穏やか……いや、もしかしたら笑みを浮かべていたかもしれない。それだけ彼は、声の主と長い付き合いなのだった。

 

 

いったい何度この声を聞いただろう。……そして何度、この海賊と激闘を繰り広げたことだろうか。ガープは胸によぎるあらゆる感情を表に出さないまま、会話を続行する。

 

 

 

「そういうお前は相変わらずじゃのう。〝あの時〟から何も変わっとらんな」

 

「まあねぇ。切ないことに、このナリは昔っから変わんないのさ。そこは許してやっておくれよ」

 

「違う。そういうことを言うとるんじゃないわい」

 

 

 普通、このような場所に閉じ込められたら気が滅入るもの。ましてやこの海賊は〝5年〟もの間、この暗く希望など存在しない場所にずうっと捕らえられたままなのだ。

 

 精神が壊れてもおかしくないだろうに、こうも陽気にいられるとは……壊れ過ぎた影響か…………はたまた、強靭な精神力を持っているからなのか。ガープは簡単にその二択を選択できた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでガープ……〝あいつら〟は元気にしてるかい?」

 

「……手を焼かされて困っとるぐらいじゃ。まったく、いったい誰に似たのやらや…」

 

 

 じろ~っとガープは目の前の海賊を睨む。それを見た〝彼女〟は笑い声をあげた。

 

 

「あっはっはっは!そうかい!それは良かった!おかげで胸の不安が吹っ飛んだよ、すまないねぇガープッ!」

 

「むう……へんっ。笑ってられるのも今の内じゃ。今度わしがしょっぴいてやるから覚悟しておくんじゃな」

 

 

 あまりにも目の前の海賊が嬉しそうに笑うので、らしくもなく子供のように不貞腐れたガープ。彼らしいと言えば彼らしいが、強者の余裕でそんな表情を見せたのではない。

 

 本当に悔しいからこそ、彼は子供のように思ったことを口にしたのだ。

 

 

 

 

 

「―――――ふふっ。そう上手くいくと思うかい?」

 

 

 

 

 

 そんな負け惜しみのような言葉に、彼女は一度笑いを収め・・・・・・打って変わって獰猛な笑みを浮かべて、ガープに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この酒呑童子の自慢の家族をなめちゃあいけねえよ、ガープ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――【ロジャー】【白ひげ】――かつて、伝説と呼ばれた男たちと共に名を連ねた海賊、【酒呑童子】。

 

 

 これはあまねく世界中に名を轟かせた女海賊と、ある青年、及びその海賊団を軸に描いた物語。

 

 

 

 始まりは海底奥深くの大監獄…………この時彼女が出会った1人が、その2人と並ぶ好敵手となろうとは、まことに縁とは不思議なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました。


 では改めまして、作者の村雪というものでございます。ど~しても〝ONEPIECE〟と〝東方〟のssが書きたいと思ってしまいまして、今回短いながらも初投稿をさせていただきました!

 原作を知っている前提で書かせていただきましたが、今回は45巻、53巻、54巻の部分を中心に書かせてもらいました。・・・だ、大丈夫!偉大なるオダっちの認知度を信じるんだよ村雪!



 さて、今作の中心となると思われる女、〝酒呑童子〟!

 もちろん、彼女は〝東方project〟に出る鬼の四天王の1人、〝伊吹萃香〟を姿に想像して書かせてもらいました!


 それだったらそのまま名前を使えよ!と思われる方もいるかもしれませんが……やはり、あの作品では〝Ⅾ〟が嵐を呼ぶ!ということで勝手ながらも改名をしながら萃香さんに出演していただきました!


 それで名前の件ですが、雰囲気とかゴロがいいとかでつけたのではないのですよ!?一応考えがあっての改名なのであります・・・!


 また後になると思いますが、とりあえず名前が違っても萃香さんが〝酒呑童子〟であると認知していただければ幸いでございます!


 それでは、始まったばかりな上物語も進んでいないので何とも言えないでしょが、ちょっとでも興味を抱いていただければ・・・!

 それではまた次回っ!おそらくそれほど遅くはなりませんですっ!

 
 感想とか間違い報告歓迎でございますよ~!





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地獄で会うは、無二の恩人

 どうも、村雪でございます!書いていました通り少し早めに2話を投稿させていただきますね!

 とはいえ、今回も言わば前日譚というもの。物語は進まないうえ、前回と同じように原作を知っていただいている上での投稿となります!非常に心苦しいのですが、ちょっとでも満足していただければ!


―――ごゆっくりお読みください。


「………おい、今の話本当か……!?」

 

 

 世界一とよばれる海底の大監獄「インペルダウン」。その最下層フロアーに〝最重要囚人〟として収容されている〝火拳のエース〟は、激闘によって傷だらけになった身体の痛みを忘れ、目の前の女に真偽を問うた。

 

 

「ウソなどつく理由がない……そうじゃ、彼はそなたに怒られると憂いておったぞ」

 

 

 そう答え妖艶に笑ったのは、王下七武海である〝女帝〟ボア・ハンコック。

 

〝四皇〟にして最強の海賊――『白ひげ』と、政府の最大戦力『海軍本部』、及び『王下七武海』。彼女はこの世界の三大勢力が衝突するという極めて大きな戦争の引鉄(ひきがね)となった人物を見る――――というのを〝建前〟に、この大監獄へとやってきた。

 

 

 

「………!!」

 

「では。確かに伝えたのじゃ(くるり)」

 

 

 信じられないという顔で見つめて来るエースにかまわず、ハンコックは踵を返して歩き出す。エースにさほど興味があったわけではない。彼女はただ、彼の〝弟〟の手助けをしにきただけである。

 

 

(ルフィ……。無事とは言えぬが、そなたの兄は大丈夫。無茶だけはするでないぞ…!)

 

 

 そう。ハンコックがここにやってきた真の狙いは、エースの弟である『モンキー・Ⅾ・ルフィ』を、この鉄壁を誇る大監獄へと潜入させること。

 

彼の強さ、心の深さに惚れた彼女は、自らの地位―『七武海』を大いに利用し、政府関係者しか入ることを許されないこの監獄に、海賊であるルフィを見事侵入させていたのだ。

 

 

 

「ん??何か話していたのか?」

 

「さぁ……私、署長から超逃げてましたんで……」

 

 

 そんなことを知るはずがなく、ハンコックのあまりにも短い面会に首をかしげたのは、インペルダウンの監獄署長である『マゼラン』と、副署長である『ハンニャバル』。

 

 

 たった今、絶世の美女であるハンコックを見て騒ぎ出した凶悪な囚人たちを〝力〟と〝恐怖〟で黙らせたマゼラン。そしてその上司から距離を取って避難していたハンニャバルにハンコックの小声など聞こえるはずなく、優雅に牢から離れてゆく彼女のあとをついてゆくのみだ。

 

 

「もういいのか?」

 

 

 その短さに疑問を抱いたのはその2人だけではない。ハンコックを招集する任務を受け、ここまでハンコックと共に行動していた海軍本部中将――『モモンガ』もまた、要望したことをあっさりすませた彼女を不思議に思って問いかける。

 

 

「構わぬ。さあ、海軍本部に行くのじゃろう。さっさと案内するのじゃ」

 

「む、そうか……」

 

 

 モモンガとしても、早くに用が終わるのならば好都合。特に口を返すことなく自らもリフトへと足をむけた。

 

 

(さて……これで任務が終わったわけではない。むしろここからが重要……!気を引き締めねばな…)

 

 

 これから向かう海軍本部にて、かつてないほどの大戦争が起こるのはもはや確定事項といってもいい。モモンガは一人の海兵として、これから始まるであろう戦いに並々ならぬ決意を抱きながら、その戦場へと一つ歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――突如話は変わるが、その時のフロアーは、マゼランによってとても静まりかえった空間だった。〝地獄の支配者〟と呼ばれるだけあり、かつて世界中を震え上がらせた犯罪者たちも、彼の〝能力〟とその被害者である囚人を見た後では大人しいもの。

 

 

 

 

 だがしかし・・・その直前までは、突如現れた上玉の女性であるハンコックに囚人たちは興奮し、己の欲望を言葉というもので吐き出していた。

 

 

 それが行き過ぎたゆえに〝地獄の支配者〟の怒りを買ったわけだが――――とにかく、世界最悪の囚人と呼ばれる彼らが己の欲望や衝動を抑えるはずがなく、その言葉はどこまでも品があらず…………耳に障る大声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~……やっかましいね―。何だっていうんだい………」

 

 

 

 

 

 だからこそ〝彼女〟は目覚め、静まり返った空間にその声がよく響いた。

 

 

 

「――――――…………っ!!?(バッ!)」

 

 

「?ハンコック殿?」

 

 

 

 その声に真っ先に大きく反応したのはハンコックだった。

 

 

 囚人たちの欲望まみれの言葉にも顏一つ変えなかった彼女が、目を大きく見開き鬼気迫る表情で声が聞こえてきた方へ振り向いた。副看守長である女性、ドミノが不思議に思って声をかけるも、ハンコックの耳には届かない。

 

 

 

 

 

 

「ん~…?マゼランにハンニャバルに………。おおっ?あんたは確か…………モモンガ、だったかね?」

 

「!」

 

 

 その〝彼女〟は、冷たい石の床に預けていた身体をむくりと起こし、寝ぼけ眼でフロアーへの来客をしばらく見つめていたが、〝珍客〟を確認した途端、その瞳をぱちりと開けて名を言い当てた。

 

 

 モモンガは自分の名を呼ばれるとは思わなかったようで、先ほどまで高めていた胸の決意をゆらがせながら、驚きの表情でその囚人を見た。

 

 

「………ああ。なぜ名前を知っている?あんたに名乗ったことはないんだが…」

 

「なに、あんたは伸びそうな男だったから目を付けてたのさ。最後に会った時は……中佐だったかな?今はどうだい?見事大将に就いたか?」

 

「……いや、今は中将の地位に就いている」

 

「おぉおぉ、すごいじゃないか。〝あの時〟あんたらと戦ったのが……4年か6年前か―――」

 

「〝5年前〟だ。なぜ間をぬかした…」

 

「おっとそうか。や~、それにしても大したもんだ。中将っていやぁ大将に次ぐ実力を持つ者だけが許された階級。4年ちょいでそこまで行くとは・・・やはり私の見立ては間違ってなかったね。やるじゃないか、モモンガ」

 

「………海賊であるあんたに言われても、毛ほどにも喜びを感じないな」

 

「あっはははは!そりゃそうだ!海賊に褒められても海兵は嬉しかないよねぇ!きちんと海兵としての信念も抱いてるようでなによりなによりっ!」

 

「…………はあ」

 

 

 あまりにも場にふさわしくない元気な受け答えに、モモンガは思わずため息をつく。

 よもや再び会うことになるとは思わなかったが、この海賊は昔からそうだ。

 

 

 敵対するはずである自分達海兵にも陽気に接するだけでも面倒なのに…………その実力は、自分達海軍の英雄である『ガープ中将』や『センゴク元帥』たちも手を焼くほど。

 

 これほど厄介な海賊は、他には決していないだろう。

 

 

 

「…………あんたは相変わらずだな」

 

「ん?……ぷっ、ははっ。その言葉、ついこの前ガープに言われたばかりだよ。あんたもやっぱりあいつと同じ海軍なんだねー」

 

「なに?ガープ中将が来たのか?」

 

「ああ。そこにいる『白ひげ』んとこの若い奴に会いに――――

 

 

 

 

…………ん?どうした嬢ちゃん?」

 

 

「む?」

 

 

 

 

 突然、〝彼女〟の話す矛先がどこかへ移った。

 

 

 海賊とは言え、突然話相手を変えられては気になってしまうもの。モモンガも例にもれず気になってしまい、その視線を追い――――

 

 

 

 

 

「・・・おい、どうしたんだ『蛇姫』?」

 

 

 

 

 態度こそ変えなかったが、モモンガは驚いた。

 

 

 

―――わらわは何をしても許される………なぜなら美しいから。

 

―――そなたらなど死んでも構わぬ。

 

 

 

 この監獄にたどり着くまで、傲慢としか言えない言動を繰り広げた〝女帝〟ボア・ハンコック。その高圧的な態度は、まさに女帝たる振る舞い。部下たちはそんな彼女に一種の崇拝の意さえ抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ああ……」

 

 

 

 

 

・・・そんな彼女が人目を憚らず涙を流そうとは、いったい誰が想像できただろうか。

 

 

 

「ハ、ハンコック殿?いかがなさいましたか??」

 

「………(スッ)」

 

 

 ドミノの声にまったく応えないまま、ハンコックは動いた。

 

 

こつっ、こつりと。先ほどまで見せていた優雅な歩みとは違い、少し不安定な歩行だったが、着実に一歩ずつその牢と近づいていく。

 

 

 

 

「………(かつん)」

 

「……………む?お?…嬢ちゃん、どこかで…」

 

 

 

 

 

―――ああ、間違いない。

 

 

 もはやハンコックはこらえられず、はらはらと滂沱たる涙を流した。

 

 

 

 暗い感情など一切存在せず、ただ明るさだけに満ち溢れている瞳。

 

 

 まるで童(わらべ)のように小さく…自分より年が上とは思えない少女の体躯。

 

 

 

 

 

 そして…………その頭部に存在する、歪な形の双角。

 

 

 

 

 

 このような稀有な身体を有する者など、この世でたった一人しかいない。

 

 

 

 

 

「……お会いしたかったのじゃ……です―――――

 

 

 

 

 

〝酒呑童子〟…っ!」

 

 

 

 

 

 

 彼女こそ、十数年前に奴隷であった自分達を救ってくれた大恩人。

 

 数々の伝説を生み出し、かつてその名を全世界に轟かせた女海賊―――〝酒呑童子〟『アイル・Ⅾ・スイカ』であった。

 

 

 

「?……あ。……え~~っと……もしかして………『ハンコック』かい?」

 

「!!そ、そのとおりじゃ………です…!」

 

 

 よもや再会を果たせただけでなく、自分の名前までも覚えてくれていたとは。ハンコックは莫大な衝撃と喜悦を胸に抱き、慣れない敬語を使いながら泣き笑いの顔を彼女に見せた。

 

 

「い、生きておられたのじゃな…!」

 

「ん、まあね。あまりしまらない恰好だけどこうやってちゃんと生きているよ。・・・しかし、ま~べっぴんに成長したねー。さぞ男が寄り付いてるんじゃないか?」

 

「……ええ。それもそなた様のおかげじゃ………

 

 

 

本当に……本当に……ありがとう………ございます……!(スッ)」

 

 

 

 

 するとハンコックは………驚いたことに、その高貴であるはずの頭を『酒呑童子』へと深く下げてしまったではないか。それにはモモンガ、ドミノ、マゼラン、ハンニャバルも素直に驚いた。

 

 

 あの気高い〝女帝〟が、深々と頭を下げた……!?

 

 

 

「おいおい、よしなよしなっ。なんのことかだいたい分かるが、ありゃ私がやりたいようにやっただけのこと、礼を言われるようなことじゃないよ(プイッ)」

 

 

 価値が付けられないであろう貴重な礼を受けた『酒呑童子』は、少し照れくさそうにして顔をそむける。そんな反応にもハンコックは止まることなく、頭を下げ続けた。

 

 

 

 

「それでも、この感謝を伝えずにはおれぬ……ませぬ。本当に……本当に心から感謝しているのじゃ……です……!」

 

「む……」

 

 

 とってつけるような敬語の言い方であったが、逆にそれが誠意を伝えるというもの。ハンコックの並ならぬ感謝の意を察したのか、『酒呑童子』もハンコックへと目を戻した。

 

 

 

「……そうかい。私としちゃあ元気な姿を見せてくれただけで十分なんだが、律儀だねぇ~。……ほらっ!私は礼を受け取ったよ!むずかゆいから早く頭をあげなっ!」

 

「は、はいっ!(スッ)」

 

 

迷惑をかけては本末転倒。ハンコックは『酒呑童子』の言葉通り、すぐさま頭をあげた。

 

 

 

 亡くなっていると思っていた人物との予想だにせぬ再会。普通ならば今まで積もってきたことを言葉に、気の済むまで口を交わしあっていただろう。

 

 

 しかし、ここは罪人を収める監獄。『酒呑童子』のその姿を見て、ハンコックはそんなことをしようとは思いもしなかった。

 

 

「…なぜ、このような場所へ?」

 

「なぜ、と言われてもね。見ての通りだよ(ジャラリ)」

 

 

ここにいることが答えさ。――身体にまとわりつく鎖をならしながらそう伝える『酒呑童子』。

 

 

 

 

 小さな手は能力者の力を奪う海楼石の手錠によって封じられ、さらにそこから頑丈な鎖によって、その子供にしか見えない身体を幾重にも雁字搦(がんじがら)めにされており、手枷だけの同じフロアーにいる囚人たちよりも明らかに厳重な拘束を受けていた。

 

 

 そんな身体の自由を奪われている恩人を見て、ハンコックは煮えたぎるような怒りが沸き上がるのを感じた。

 

 

(よくも………よくもわらわの恩人にこのような仕打ちを…っ!)

 

 

 奴隷だった自分が再び人として人生を歩むことが出来たのは、紛れもなく目の前にいる海賊のおかげだ。

その彼女をこんな場所に閉じ込めるインペルダウンの職員たち、及び世界政府に殺意すら抱き、ハンコックはある決意をする。

 

 

(今すぐ解放して見せる……!待っておってくれ……!)

 

 

かつて自分がされたように、この囚われの大恩人をなんとしてでも救いたい。そう意気込むハンコックだが、彼女の手にも同じように海桜石の錠がつけられている。〝七武海〟とはいえ海賊には違いないため、規則によって決められているのだ。

 

・・・だが、それがなんだ。海桜石で能力が封じられているがそんなこと関係ない。自分は〝女帝〟ボア・ハンコック。世界一美しいわらわに不可能など……!

 

 

 

 

「……あー、ハンコック」

 

「!は、はい」

 

 

 そんな、あとを考えず無謀とも言える実力行使に出ようとしたハンコックだったが、恩人のよびかけによりいささか冷静さが戻る。

 

 

「…………(チョイチョイ)」

 

「?」

 

 

 厳重な拘束をされているが、さすがに指先までは自由。『酒呑童子』が指で近づくようにと招いてきたため、ハンコックはすぐに〝酒呑童子〟のもとへとさらに寄った。

 

 

「耳、耳(ボソボソ)」

 

「?(スッ)」

 

 

『酒呑童子』の背丈はハンコックの腹当たりの高さ。そのままでは耳を貸すことが出来なかったため、ハンコックは腰をかがめて彼女の口元へ耳を近づけた。

 

 

 

 

 

「……私を助け出そうなんざ、バカなことをするんじゃないよ?」

 

「っ!?」

 

 まさか、心を読んだかのように警告を受けようとはさすがのハンコックも予想だに出来なかった。

 

 

「な、なぜ・・・!」

 

「あんたの顔を見りゃわかる。……手錠はしてるみたいだけど、見た限り捕まったとかじゃあないね。だからこのまま大人しく帰んな。暴れたりなんかするなよ?」

 

 

「……じゃがっ!このままではそなた様が……」

 

 

 このフロアーにいる囚人たちは全てが死刑囚、もしくは完全終身だと聞いている。この場にいては未来はない。ゆえにハンコックは、恩人の言葉とはいえ今度ばかりはハイ分かりましたと聞き入れなかった。

 

 

「気にしなさんな。私がここにいるのは〝私の意思〟さ。だから、ハンコックが気にすることは無いよ」

 

「し、しかし…!」

 

「おい、モモンガ」

 

 

 しかし『酒呑童子』の意思は変わらない。ハンコックが納得いかないのを見て、後ろから成り行きを見守っていたモモンガへと話し相手を移す。

 

 

「……なんだ」

 

 

 海兵が海賊の話を聞く必要などないが、モモンガは海軍の中でも人が出来た人物。特に渋ることなく『酒呑童子』の言葉に耳を傾けた。

 

 

「こいつを連れ帰ってくれるか?よく分かんないけど、ここに長居する理由はないんだろ?」

 

「……ああ。行くぞハンコック」

 

 

 そんな要求をされるまでもなく、早く〝海軍本部〟へ行きたいのは事実。モモンガはハンコックにここを去ることを促す。もちろん、なんの恩もない彼に言われてハンコックが素直にうなずくはずもなく、怒気を孕ませてモモンガを睨む。

 

 

「黙れっ!そなたに指図されるいわれはない!わらわは――!」

 

 

「ハンコック………こりゃ命令だ。『何もせず早く出て行くんだ』」

 

 

 そんなハンコックに『酒呑童子』が放ったのは、あまりにも残酷な強制だった。

 

 

「……!?そ、そんな…っ!」

 

 

 ハンコックはどうしても納得したくなかった。彼女とて、このような地獄にいたいと本心から思うはずがない。なのに、そこから抜け出す救いの手をわざわざ払うなど(それが100%上手くいくとは分からない。むしろ失敗の可能性の方が高いのだが……その時のハンコックはそこまで頭が回らなかった)……もはや正常の判断が出来ないのではないかとさえ思う。ハンコックはすがるような目で『酒呑童子』を見つめた。

 

 

 

「は~………ハンコック、もう一回言うよ。『何もせずに出ていけ』。これは命令だ。いいな?」

 

「………っ!…………はい……申し訳ありませぬ…っ!(ギリッ……)」

 

 

 しかし、これほど強く命令されては救われた身として従わざるを得ない。血がにじみ出るほど唇を噛み、ハンコックは酒呑童子から背を向ける。 その胸には今の無力な自分への恨み。そして次こそは彼女を助けるという、並々ならぬ決意が渦巻いていた。

 

 

「次こそは、必ずお救いする…!」

 

「だからよしなって言ってんのに……ま、元気でやんなよ」

 

「…はい。ではまたその日まで…(スッ)」

 

 

 そう言って、ハンコックは酒呑童子との会話を終えた。対話の終了を確認したマゼラン達も、ハンコックに続いてリフトの方へと歩き始める。

 

 

「ハンコック殿。『酒呑童子』と知り合いで?」

 

「………黙れ。そなたに話すことはない」

 

「おお・・・なんと棘のある言葉……ますます好きになった!」

 

「署長。署長の威厳が無くなってしまいますのでお控えめに」

 

「署長。もっと威厳のなくなる言葉を言い続けて署長の座から滑り落ちましょう」

 

「……(こつこつ)」

 

 

 マゼラン、ハンニャバル、ドミノと並び、モモンガも静かにリフトへと向かう。一度揺さぶられたしまったが、彼は再び大きな闘志を宿し始めていた。

 

 

「あっ。そうだモモンガ」

 

「!」

 

 

 しかし、それは再び彼女によって邪魔をされる。いささかイラだった表情で、檻の中の大海賊を見やった。

 

 

「なんだ、何度も何度も……」

 

「つるとセンゴクと『あいつら』に、よろしく伝えておいてくれないかい?」

 

「……………なぜ、海兵の私が海賊の頼みを聞かないといけないのだ」

 

「まあそう言うなよ。一度ぶつかりあった仲じゃないかー」

 

「………ふん(クルッ)」

 

「あっ、ちょっと!お~~い!!」

 

 

 モモンガは『酒呑童子』の呼び止めを聞くことなく、先にリフトへと移動したマゼラン達のもとへ去っていった。

 

 

 

(………おつるさんだけには伝えておくか)

 

 

 今これ以上、センゴク元帥の負担を重くするわけにはいくまい。

 

 なんだかんだ言いつつも願いを聞こうとするモモンガ。いずれにせよ、モモンガが〝あの時〟以来姿を消した大海賊の存在を記憶の底から引き上げるのには、十分な一連の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 死亡したとされていたが、その記事は真っ赤なデタラメ。海底の大監獄にとらわれていたハンコックの大恩人―――〝四皇〟『酒呑童子』アイル・Ⅾ・スイカ。

 

 

 かつては世界中を震え上がらせたが、今やその名は物語に出て来る人物のようなもの。誰も彼もがそれを伝説・・・・・存在せず、過去の遺物として扱って生きていた。

 

 

 

 

 

しかし、それもこの日限り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だったら……おれ行くよ!海軍本部!!』

 

 

『ここを抜けたかったら……おれを解放しな・・・麦わら……!』

 

 

『後生の頼みだっ!わしもここから出してくれ!必ず役に立つ!!』

 

 

『さあ、こうなったら時間がナッシブル!力技でこの監獄を抜け出すわよ~ンナ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――名前を聞いてもいいかい?』

 

『おれはモンキー・Ⅾ・ルフィ!海賊王になる男だ!』

 

 

 

 

 

 

 

【Ⅾ】。自らと同じく……世界を揺るがすこの名を持つ青年と出会うことにより、かの伝説は再び息を吹き返し、新たな歴史が刻まれ始めることとなる。

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます。


 さて、あまり間を空けずに投稿させていただきましたが、今回は〝女帝〟ボア・ハンコック様、『酒呑童子』、そしてモモンガ中将の3人を中心とした回とさせてもらいました!

 この村雪、意外とモモンガ中将がカッコイイと思いまして、思わず今回の物語に加わっていただきました!原作の主人公がまだほとんど出ていないのにこれいかに?とも思いますが堪忍です!


 そして、今回も原作を踏まえての投稿となりました!この回は54巻をもとに書かせていただいたのですが、おそらく次回は55巻と56巻をまたいでの物語となると思われます。

 まだまだキャラクターの詳しい説明がなく、分からないことも多々あると思われますがこれから書いていくつもりですので楽しみにしていただければ嬉しいでございます!


 それではまた次回っ!いよいよ〝彼〟と〝彼女〟が出会いますよ~!




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そして、出会う

 どうも、村雪です!以前言いましたように、今回とうとう2人が対面することとなります!

 どんな迎合となるのか、皆様の目で確認していただければ!


――ごゆっくりお読みください。


「よぉし!行くぞ、海軍本部!!」

 

  インペルダウン、LEVEL6『無限地獄』。最悪の囚人たちが投獄されているそのフロアーにて、海賊、【モンキー・Ⅾ・ルフィ】は大きく叫んだ。

 

 

処刑されゆく兄、【ポートガス・Ⅾ・エース】を救いにこのインペルダウンに侵入、そして彼が幽閉されていたこの〝地獄〟にまでたどり着いたのだが、リフトによって移動されたエースの姿はなく、惜しいまでのすれ違いとなってしまったのだ。

 

 

海上へと連行されたエースはそのまま軍艦によって海軍本部『マリンフォード』へと移動され、規定時刻には処刑されゆく運命。しかしルフィはあきらめず、海賊ならば絶対に近づかない正義の砦、〝海軍本部〟へと向かう決意をしたのである。

 

 

「お待ち!麦わらボーイッ!」

 

「え!?なんだよイワちゃん!急がないといけないのに!」

 

 

そんな彼に待ったをかけたのは、非常に過激な恰好をした大男(オカマ)。

 

名前は【エンポリオ・イワンコフ】。インペルダウンLEVEL5の元囚人で、地獄にひそかに存在する囚人たちの楽園、『カマーランド』の女王だ。

 

 

「ヴァナタの気持ちは分かっちゃブル。でもこの戦力じゃあ海軍本部はおろか、このインペルダウンから脱獄するのも至難のワザーンな」

 

 

〝女帝ボア・ハンコック〟の協力を得てこの大監獄に潜入することに成功したルフィだが、ここはあくまで〝鉄壁を誇る大監獄〟。そうやすやすと脱獄をさせるはずがなく、イワンコフの言う通り、ここを力で突破するのは容易ではないだろう。

 

 

 しかしルフィは理解をの色を示そうとせず、そばにいる〝新たな戦力〟を見る。

 

 

「でも2人増えたじゃんか!ボンちゃん達もいるし、きっと大丈夫だ!」

 

「確かに〝この2人〟が増えたのは大きいわ。それでもまだまだ十分じゃなショナブル。戦力は大いに越したことはナッシング!」

 

 

「ふん…」

 

「確かに、それはもっともじゃのう」

 

 

 その2人こそ、世界の三大勢力と呼ばれる一角、『王下七武海』を担ってきた海賊。

 

1人は、頭脳と冷酷さを持ち合わせ、かつてルフィと激闘を繰り広げた末に敗北した過去を持つ男、【サー・クロコダイル】。

 

そしてもう1人は人と魚の遺伝を受け継いだ存在、『魚人』であり、世界で初めて〝魚人の王下七武海〟となった【海峡のジンベエ】だ。

 

 

 世界政府によって認められた海賊。その実力は並みの海賊では及ばぬほどであり、この2人も例にもれず数々の修羅場を潜り抜けた強者(つわもの)で、これから向かう場所でも引けを取らない力を持つのは間違いない。

 

 

 

「別にいいよ十分じゃなくても!急がないとエースが…!」

 

 

そんな2人が加わっても万全ではない。そう言われてもルフィはエースのことが心配でならず、せわしなくその場で足踏みをしながらイワンコフを見つめた。

 

  

 

 

 

「安心しなさい…あと1人、大きな戦力を解放するだけだからすぐに済むわ(クルッ)」

 

 

 そんなルフィに、笑みを浮かべたイワンコフは後ろを振り向く。どうやらその〝戦力〟の元へ向かうようだ。

 

 

「あと1人!?誰だイワちゃんっ!?」

 

「ン~フフフ……!(こつこつ)」

 

 

 笑うイワンコフは答えないまま歩を進める。意外にもそこへ口を挟んだのは、イワンコフと何やら因縁があるクロコダイルだった。

 

 

「…いったい誰を解放する気だ、イワンコフ。役立たずなんざ解放しても足手まといにしかならないぞ」

 

「わしは構わぬが、白ひげのおやじさんを敵にしとる者はやめてほしいのう。さすがに2人になると………万が一ということもある」

 

 

 そこへジンベエも加わり、クロコダイルを横目に人選を気にする言葉を吐いた。

 

 以前脱獄する機会があったのに、興が乗らないからと脱獄を拒否したことがあるクロコダイル。そんな彼が今回脱獄すると決めたのは、かつて自分に敗北を味わわせた海賊〝白ひげ〟の首を討ち取るチャンスがあるからだ。

 そんな絶好の機会を足手まといによって邪魔されてはたまったものではないため、彼はイワンコフの案に文句をつけたのである。

 

 

 またジンベエは、クロコダイルのように恩義ある〝白ひげ〟の敵となる人物を解き放つのは避けてほしいところ。このフロアーにいる囚人たちは誰もが曲者で実力を持ち合わせており、自分一人では対処できない可能性が出て来るがゆえに、くしくも目的が正反対であるクロコダイルと意見が被ったのであった。

 

 

 

「安心なさい2人とも。〝彼女〟の実力と性格は知っチャブルつもりだから、ヴァターシが保証するわ」

 

 

 しかしイワンコフは、2人の懸念を迷わず問題なしと言い切る。どうやらその人物のことをよほど買っているようだ。

 

 

「……〝彼女〟だと・・・?」

 

 

 そんな自信にあふれたイワンコフのある言葉に、クロコダイルに1つの可能性を発想させた。

 

 女の身にて、LEVEL6という存在さえもみ消された囚人たちが集うフロアーに投獄されている人物・・・同フロアーに収容されていたクロコダイルが思い浮かんだのは、たった二人だけだった。

 

 

「ほんで、誰なんだイワちゃんが解放したいのって!?」

 

 

 たとえ強かろうと信用できようと、ルフィがもっとも気になるのはエースの無事。いい加減しびれを切らしたようで、さらにせわしなく足をバタバタさせながらイワンコフに近づき、解放する囚人が誰なのか問い詰めた。

 

 

 イワンコフもそのルフィの焦りを察したようで、それ以上もったいぶることをやめると同時に足を動かすのもやめた。

 

 

「(カツンッ)ンフフフ…そこにいる彼女よ(スッ)」

 

 

 そして、派手な手袋を付けた指で目的の人物をさす。

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 すぐさまルフィはそちらを見る。

 

 

 そこには――――

 

 

 

 

 

「………グー……グー……」

 

「へー、こいつか?」

 

 

 

 

 

 人の腕ほどある太さの鎖で何重にも縛られながら、気にした様子なくイビキをかいて眠っている少女がいた。先ほどまで騒がしかったにも関わらず、彼女に目覚める気配はない。どうやらかなり深く眠っているようで、ルフィはしゃがんでその少女を眺める。

 

 

「イワちゃん、こいつ寝てるぞ?」

 

「どうやらそのようね。起こすとしましょう。イナズマ、牢のカギを……」

 

 

 開けなさい。そう伝えようとしたイワンコフだったが、

 

 

 

 

 

「お~~い起きろ~っ!イワちゃんがお前を出すって言ってるぞーっ!起きろ~~~~っ!!」

 

「ンナッ!?」

 

 

 その前に、響き渡るような大声でルフィは睡眠中の少女を起こしにかかったではないか。

 

 

「お~~い!起きろ~~~!!」

 

「むっ、麦わらボーイ!?そんな起こし方したらまず―――――!」

 

 

 遠慮などまったくなしの手段にイワンコフも慌ててルフィを止めにかかる……が、時すでに遅し。

 

 

 

「……………ん、んんんん~~……?今度はなんだようるっさいなー……」

 

 

「あっ、起きた」

 

 

 むくりと、鎖巻き状態の少女は身体を起こした。その声色はだいぶ不機嫌なもので、強引な起こし方に不興を買ったのは間違いない。それを悟ったイワンコフは冷や汗をかく。

 

 

「ヴァ、ヴァカ麦わらボーイッ!もう少し起こし方ってもんがあっチャブルでしょうが!見なさい、ハンパナッシブルに機嫌が……!」

 

「なあ、イワちゃんがお前も連れて行くって言ってるんだ。どうする?」

 

「ヴァターシの話を無視すんなやぁ!キ~ッ!」

 

 

これほどあからさまにシカトをされようとは。牢の前でかがむルフィに、同胞の息子と言えどもわずかながらに怒りを抱いたイワンコフだった。

 

 

そんな中、少女は大きなあくびをしてから恨みがましそうにルフィ達を視界に定める。

 

 

「くあ~~~……。ああ?叩き起こされてなんか言われても、寝起きの頭に入ってこないって………の?ん??」

 

 

 すると、ルフィ―――ではなく、その頭にかぶっているモノを見て、不思議そうにソレを凝視し始めたではないか。

 

 

「……………(じ~)」

 

「?なんだよ?おれの顔に何かついてんのか?」

 

「や、まあ血がすごいついてるけど………その麦わら帽子、どうしたのさ?」

 

 

 彼女の関心を引き寄せたのは、ルフィのトレードマークともいえる〝麦わら帽子〟。かなり年季が入っており少し傷もついてはいるが、彼にとっては大事な宝物。手に取ってルフィは答える。

 

 

「これか?シャンクスから預かってるんだ」

 

「ああ、やっぱりそうかい」

 

 

 どうやら予想していたようで、うんうんと頭をうなずかせる少女。そのまま彼女は続けてルフィに問うた。

 

 

 

 

「坊主、あんた〝赤髪〟と知り合いなのかい?」

 

「むっ」

 

 

 

 天然……と言うのか、はたまたバカ正直と言うべきなのか。この【モンキー・Ⅾ・ルフィ】という青年は、世界中を何度も騒がせるほど破天荒な行動をとる怖いもの知らずな性格の持ち主。

 

 敵対する海軍は勿論、仲間である船員(クルー)でさえも時には振り回されるほどの、まさに行動力に足が生えたような存在である彼は・・・・・・・当然、口の方も実に素直なもの。

 

 

 

 

「坊主って失礼なヤツだなー。どう見てもお前の方が子供じゃんか」

 

 

「……………(パチクリ)」

 

 

 

 正直者とはなんと恐ろしく、勇敢な存在なのか。なにせ―――――海賊王とも渡り合った大海賊・〝酒呑童子〟【アイル・Ⅾ・スイカ】に、あろうことか〝子供〟という非力な存在のレッテルを貼ってしまうのだから。

 

 

 あまりにも予想外な返答に、檻の中の彼女も目を瞬きさせることしか出来なかった。

 

 

「むっ、麦わらボーイッ!」

 

「これルフィ君!こう見えても彼女の方がはるかに年上じゃ!」

 

 

 それに慌てたのが話を聞いていたイワンコフとジンベエ。

 

 確かに、目の前の人物の身体は明らかに小さい。四人の中で一番背の低いルフィの腹辺りと、もはや子供にしか見えない姿だ。しかし〝酒呑童子〟を知る者からすれば、その注意がどれほど勘違いのものであり愚かなのかよく分かっているからだ。

 

 今の言葉で怒りを買ってしまったのではないかと、2人は恐る恐る檻の中を見ると……

 

 

 

 

 

「―――あはっ。失敬失敬!それは悪かったよ、〝おにーさん〟」

 

「おうっ。気にすんな!」

 

「くっ、あっははは!気にするなって〝おにーさん〟が言ったんじゃないかまったく!!」

 

 

「「ふぅ……」」

 

 

ことのほか彼女は面白そうに笑いながら、ルフィの言葉を聞き入れ呼び方までも変えているではないか。

 

 

〝酒呑童子〟の心が広かったための許容か……はたまた何か思うところがあってのことか。ともかく怒りを買うことは避けられ、2人とも胸をなでおろした。

 

 

 

 

「おにーさん。名前はなんていうんだい?」

 

 

 〝酒呑童子〟は目の前の麦わらの青年に興味がわいたのか、胡坐をかきながら彼の名を尋ねる。

 

 

 

「おれはモンキー・Ⅾ・ルフィ!海賊王になる男だ!」

 

 

「!……〝モンキー・Ⅾ〟?」

 

 

 すると、実に予想外と驚きをあらわにした。

 

 

 

〝モンキー・Ⅾ〟。彼女は、その名前を持つ人物を二人知っていたのである。

 

 

「おにーさん……ド………いや、ガープって知ってるか?」

 

「ああ。おれのじいちゃんだ。お前じいちゃんのこと知ってんのか?」

 

「……ああ。よーく知ってるよ。なるほど、言われると確かに面影があるね」

 

「?」

 

 

 海軍の長い歴史においても断トツの問題児にして、最強の海兵【モンキー・Ⅾ・ガープ】。

 

 そのガープと長年ぶつかり続けたスイカにとって、ルフィの顔が若かりしガープと似ていると判断するのは簡単だった。

 何よりも、囚人でもないのにこの大監獄の最下層までやってくるなどというぶっとんだ行動。それこそまさにガープの血筋であると証明しているようなものだ。

 

 

 

「ここへ何しに?」

 

「エースを助けに来たんだ」

 

「ほう」

 

 

 ガープが先日面会をしていた、〝白ひげ〟の船の隊長を勤めるもう一人の孫。しかし残念ながら、すでに身柄はここにない。

 

 

「残念だけどもうここにはいないよ。どうするつもりだい?」

 

「今から海軍本部に行って、エースを助けに行くんだ!」

 

「………」

 

 

 そこに迷いは一切ない。一秒も間がない返答に、スイカも一瞬だけあっけにとられた。

 

 

「予想だけど、海軍は全戦力をもって〝白ひげ〟とぶつかるはずだよ。どうするんだい?」

 

 

 間違いなく歴史に刻まれる戦いとなるに違いない。見れば協力者が何人かいるようだが、多勢に無勢。戦場に行って思い通りにいくかは分からない。

 

 

「関係ねぇっ!おれはエースを助けるためにここまで来たんだ!海軍がなんだ!絶対にあきらめねぇ!」

 

「ほう、ほう。ふーん」

 

 

 それでもルフィの意思は揺るがない。そっけない反応だが、間違いなく【モンキー・Ⅾ・ルフィ】という人物が彼女の中に刻まれてゆく。

 

 

 

「海軍をナメすぎだな。あんたじゃあ敵わない海兵はわんさかいるさ。自信を持つのは結構だが、過ぎた過信は敗北の最大要因だよ?」

 

「!ゴチャゴチャうるせえな!なんだお前さっきから!いいか!エースはおれのたった一人の兄弟なんだぞ!兄ちゃんが死ぬかもしれない時に何もしないなんて、おれは絶対に出来ねえ!邪魔するならぶっ飛ばすぞ!」

 

「!!むっ、むむむっ!むむむむ麦わらボォォォォ~~イッ!?」

 

「ル、ルフィ君!お主なんちゅうことを……!」

 

「むががっ!?なにすんだイワちゃん、ジンベエッ!」

 

「…クッ。クッハッハッハッ……!」

 

 

 もはや自殺行為。そうとってもおかしくないルフィの叫びに今度こそイワンコフもジンベエも全力でルフィを止めにかかった。今までずっと黙っていたクロコダイルでさえ、堪えられないと腹を抱えて笑ってしまうほどである。

 

 長く海を旅してきた人間だからこそ分かる、目の前の存在の圧倒的な実力。それを知らないというのは、愚かを通り越してもはや一つの強みと言えるかもしれない。

 

 

 

「……………………」

 

 

 そんな宣戦布告に等しいルフィの言葉に、スイカは何も言うことなく目を閉じるのみ。嵐の前の静けさかと、ジンベエとイワンコフはルフィを抑えながら身構えた。

 

 

 

 

 しかし、2人の心配は杞憂で終わることとなる。

 

 

 

 

 

「――――気に入った。見事だよ坊主(むくり)」

 

 

 スイカはそうつぶやき、胡坐を解いてゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「むっ!だからお前の方が子供―――!」

 

 

 

「ぃよ…っ!」

 

 

 バキ バキべキバキィ……!バギンッ!

 

 

「!?うわっ!」

 

 

 ルフィはこの時初めて、目の前の少女―――の姿をした大海賊に驚いた。

 

 

 

「(ジャラジャラ)ふ~……。五年の勤めだったけど、〝戦友〟の孫で、〝盟友〟の息子…………。ま、大義名分にゃあ悪くないね」

 

 

 ガチャンガシャンと雨のように床へ降り落ちるのは、腕ほどの太さを持つ鎖のあわれな断片たち。

 

 

 

「ン~フフフフ!さすがねぇ!」

 

「これは驚いた。確か……能力者じゃったはずだが………」

 

「………ふん」

 

 

 イワンコフ、ジンベエ、そしてクロコダイルも、目の前で起こったことから目を離さなかった。

 

 

 

 

 

「…………まさか、能力者が力で海桜石の錠を破るとは………」

 

 

 そんな一同の中、イワンコフの腹心である〝革命家〟イナズマが唖然とつぶやいた言葉が、3人の心境を端的に語っていた。

 

 

 

 

 そう。彼女は千切り飛ばしたのだ。ダイヤモンド並みの硬度を持つ物質、『海桜石』で出来た拘束具を―――――弱体化した腕力で。

 

 

「よいしょっと。ん~……(グッ グッ )」

 

 

 長年動かさなかった両腕だが、そこに衰えは全くない。ちぎれた手錠がぶらさがったまま、拘束を解いたスイカは固まった身体をほぐし始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「興味がわいた。その救出、勝手ながら付き合わせてもらうぜ?おにーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、かつて〝四皇〟と呼ばれた女海賊〝酒呑童子〟は五年の時を経て………とうとう動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます。これで三回目の投稿となりますが、あんまり展開が進まなくてすみません!

 さてさて、ようやくスイカがルフィと出会い、動き出すことになりました。ルフィの性格、人間性を考えるとああいう感じが一番ルフィらしい気がしたのですが、いかがでしたでしょうか?

 そして、そのスイカさん。ちらりとありましたが、やはり彼女も〝能力者〟といことでいかせてもらいます!能力者で、海桜石を付けているのにあの力。その桁外れな存在こそが〝酒呑童子〟!その名を世に轟かせる大海賊として、これから活躍してもらいたいところです!


 それではまた次回っ!インペルダウンからの脱獄作戦の始まりなのですよ~!


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武器とするが、己の身体

 どうも、村雪です!今回は二話分と言ってもいいほど長くなっておりますのでご了承ください。

 さて、今回はLEVEL4での大暴動回でございます。あまり目を引くような戦闘はありませんが、ちらりとでも読んでいただければ!

――ごゆっくりお読みください。


『報告いたします、ハンニャバル副署長っ!』

 

「どうだ!麦わら達を捕らえたか!?」

 

 

 インペルダウン看守室。そこで副署長、ハンニャバルはLevel6に向かった部隊からの連絡を受けた。

 

 投獄された後行方不明となっていた海賊【麦わらのルフィ】。そして数年前、忽然と姿を消し死んだとされていたLEVEL5の元囚人【オカマ王イワンコフ】と【革命家イナズマ】が現れてLEVEL6へと侵入されたときには肝が冷えたが、1つだけの出口を塞ぎ、そこへ催眠ガスを放っているため逃げ場はない。

 

 

 ハンニャバルは少し余裕を持ちながら報告を促した。

 

 

 

『い、いえ………!それが3人の姿は見当たらず、天井に大きな穴が開いており、そこへ向かって何やら造形物が…!!』

 

「!なにぃ!?」

 

 

 しかし、その考えが甘かったとすぐにハンニャバルは気づくこととなる。

 

 

「いったいどういうことだ!?」

 

『ど、どうやら麦わら達は新たに囚人を解放した様子っ!おそらくこの穴は、元王下七武海、【サー・クロコダイル】の仕業だと思われます!』

 

「!ク、クロコダイル!?」

 

「さらに、王下七武海【海峡のジンベエ】の姿も見えません!」

 

「ジ、ジンベエもだと!?」

 

 

 ハンニャバルは冷や汗が止まらなかった。あれほど凶悪、そして重要な囚人を逃してしまっては自分の経歴に大きな傷がつくことは避けられない。

 

 

 

『……………あ、あと………!』

 

 

 そして不運の連鎖は止まらない。先ほど以上に言いづらそうに、連絡員は報告する。

 

 

「なんだ!?まだ誰か脱獄した奴がいるのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………しゅ…………〝酒呑童子〟です……っ!』

 

 

 

 

「………な、ななななんだとぉおおおおおおお~~~~~っ!!?」

 

 

 

 インペルダウンにすらいられない。ハンニャバルは気絶しかねない勢いで大絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 ダダダダッ!

 

 

「それにしてもすげーんだなお前っ!海桜石の鎖をひきちぎるなんて!」

 

「そりゃありがとさん!力にはまあ自信があってね!」

 

 

 LEVEL5からLEVEL4への階段を走る四つの人影。先を並んで走るのはルフィとスイカ。その後ろに続くのがジンベエ、クロコダイルだ。

 

 

 

「じゃが、本当に良かったのか!?アンタのその手錠を外さんでも!」

 

 

 ジンベエが尋ねたのは、鎖がちぎれたままスイカの手首にぶらさがっている手錠のこと。

 

 拘束する機能を失いつつも、能力者の力を封じる役割はまだ果たしている海桜石の手錠だ。

 

〝能力者〟である彼女はそれがあっては格段と力が抜けてしまうはずなのに、あえてそれを付けたままにしている。その理解しがたい行動が、ジンベエにはどうしても気がかりであるようだ。

 

 

 

「ああ!これは不義理を犯した私なりのケジメみたいなものさ!一区切りつくまではこのままでいいんだよ!」

 

 

 しかしスイカにも思うところがあるようで、かたくなに外せる錠を外そうとはしない。義理人情の話を出されてはジンベエも頷く他なく、スイカの後をつきながら詫びた。 

 

 

「そうか・・・すまんっ!」

 

「いいさっ!それよりジンベエ!〝おにーさん〟の兄貴の処刑はいつだ!?」

 

「午後3時じゃ!つまり5時間後に処刑は必ず執行されるから、〝白ひげ〟のオヤジさんはその何時間も前に仕掛けるハズ!エースさんもすでに海の上じゃから、戦いはいつ始まってもおかしくない!」

 

「3時まで殺されることはねぇんだな!?とにかく!まだまだチャンスはある!」

 

「そういうこったね!っと!見えてきたよ!LEVEL4の扉だ!」

 

 

 階段を駆け上がる4人の前に、業火のフロアーへと繋がる大扉が見えてきた。当然脱獄した囚人を通すはずなく固く閉ざされ、開く様子はまったくない。

 

 

 

 しかし、扉ごとき障害を打ち破れない者はこの四人にいなかった。

 

 

 

「クロコダイル!さっきみたいにやっちまいな!」

 

 

 その中の1人である、サー・クロコダイル。〝スナスナの実〟の能力者である彼は、身体を砂に変化させ――――あらゆる水分を奪い取る。

 

 

「ちっ……!おれに命令するんじゃねぇ〝酒呑童子〟………!(ズォォオ!!)」

 

 

〝酒呑童子〟の命令にクロコダイルはこれ以上なくまゆをしかめるが、目的は同じ。射殺すような目を彼女に向けた後に、自らの身体を砂に変えて扉へと猛接近した。

 

 

「枯れろ…………!(スッ)」

 

 

 そして、右掌を大扉へと触れさせた。

 

 

ズズズズズ………!

 

 

 

 すると、みるみるうちに木の部分が干からびていき……残ったのは、骨組みとして使われた鉄だけだった。

 

 

 

ドパァン!!

 

 

『!?』

 

 

 扉が消えてはただの通路。紅蓮の炎が立ち込めるLEVEL4『焦熱地獄』で脱獄囚を待ち構えていた獄卒達は、突然の出来事に驚愕し、風化されずに残った鉄の残骸を眺めるしかなかった。

 

 

 

「うおっ。すごい熱気だねー(すたすた)」

 

「仕方あるまい。焦熱地獄じゃからのう(ガランガラン)」

 

「げっ。すげーいっぱいいるな(ザッザッ)」

 

「ふん。全員殺せばいいんだ(コツコツ)」

 

 

 そんな獄卒たちの前に、四人は堂々と歩み出る。

 

 

 

 

 

 【酒呑童子】【ジンベエ】【麦わら】【クロコダイル】。

 

 

 

 

 

 誰もかれもが世界に名を広めた海賊たち。そうそうたる面々に獄卒達もすぐに正気に戻った。

 

 

『き、来たぞおっ!』

 

『こ、こちらLEVEL4!LEVEL6より抜け出した囚人、元七武海クロコダイル!七武海ジンベエ!侵入者モンキー・Ⅾ・ルフィ!そして、元四皇アイル・Ⅾ・スイカ!!現れました!応戦しますっ!!』

 

 

 即座に上官へ連絡を入れ、現れた罪人たちに戦闘態勢をとるところはさすがと言ったところか。獄卒達はまだ戦闘態勢に入っていない内に四人を仕留めんと、一気に闘志を滾らせる。

 

 そして、場を仕切る獄卒が叫んだ。

 

 

 

「全員、攻撃かい―――!」

 

 

 

 

 

 ドクンッ!

 

 

 

 

 

 

『!?うう………っ』

 

 

 ドサドサ……ッ!

 

 

 

――――しかし、酷なことにそんな見上げた戦意も〝彼女〟の前ではあまりにも小さかった。戦闘へ移る前に獄卒達は一人残らず気を失い、バタリバタリと地へ伏せていくではないか。

 

 

 

 

 

「すまないねー。付き合っても良かったんだが、急いでるんだ。ちっと眠ってもらうよ?」

 

 

 

【酒呑童子】。彼女の圧倒的な力、経験の前では地獄を経験した獄卒も赤子のようなもの。戦う前に勝敗はついてしまったのだ。

 

 

 

「うわっ!全員気絶したぞ!?」

 

 

 突然泡を吹いて倒れだした獄卒達にルフィは何が起こったのか分からなかったが、長く海賊をしているこの2人には分かる。

 

 

「これは・・・〝覇王色の覇気〟!あんたか!」

 

「・・・衰えてやがらねぇ・・・忌々しい他ありゃしねぇな・・・!」

 

 

〝覇王色の覇気〟。この世界において〝王の資質〟を持つ者にだけ許された覇気。これを有すものは己の圧倒的な気迫によって、戦わずして未熟な敵の意識を奪い取ることが出来る。

 

 

 かつて海の皇帝であった彼女も、その資格を身に宿していたのだ。

 

 

 

「さっさと行くよっ!1人1人戦ってたらキリがないからねっ!」

 

 

 目の前に起きている者はなし。防御ががら空きとなった通路を走り抜け四人は次のフロアーへの階段を目指す。

 

 

 

「さっきのお前がやったのか!?あのおっさんみてぇなこと出来るんだなっ!」

 

「あん!?あのおっさん!?」

 

 

 その道中、最も若く〝覇気〟を知らないルフィは、2人の言葉から誰が成したのか当たりを付け、先ほどのことをスイカに尋ねていた。

 スイカも並走しながら話を聞いているが、彼の記憶の中の人物と比べられては何も言えない。すぐさまスイカはルフィへ尋ね返した。

 

 

「おっさんって誰の事だい!?おにーさん!」

 

「レイリーっておっさんだ!この前会ったんだけど、海賊王の船で副船長をやってたすげー海賊だぞ!」

 

「っ!」

 

 

 出てきたのは、思いもしなかった懐かしき名前。

 

 

【ゴールド・ロジャー】の船で、彼の右腕を務めた男――【冥王】シルバーズ・レイリー。

 

 

 彼と最後に会ったのは、いったい何十年前のことだろうか。

 

 

「…はは、なるほど!なるほど!!あの野郎まだ生きてたのかっ!!なつかしいね~!」

 

「!あのおっさんのことも知ってのか!?」

 

「当然!知らねえほうがおかしいさね!」

 

 

 船長ほどではないが、あれほど手強かった海賊はそうはいない。ましてやあの海賊団とは何度戦ったのか数えることも出来ないほど。そこの副船長の名を忘れては、礼儀に反するというものだ。

 

 

「しかしあのレイリーを『おっさん』か!怖いもの知らずだな、おにーさん!」

 

 

 彼も船長と同じように、海賊ならば知らない者はいないほどの大海賊。畏怖する者はいくらでもいようが、それほど友好的な呼び方をする人間も珍しい。

 

 

「え!?でもおっさんはおっさんだろ!?」

 

 

・・・しかし、本人に自覚はなし。非常にもっともなことを堂々と言いきるルフィに、スイカは笑いが込み上がった。

 

 

「ぷっ、あははははははっ!!そりゃ確かに違いないけどねっ!………んっ!?」

 

 

 しかし、スイカはその笑いをすぐに収めることとなる。その理由は――

 

 

 

 ワァァアアアア!!

 

 

「麦ちゃ~ん!無事で良かったわ~~!んがーっはっはっはっは~!」

 

 

 四人の前に、独特なしゃべり方をする包帯まみれの男と、これまた独特な恰好をした集団が現れたからだ。

 

 

「む、あやつらは・・・?」

 

「おおっ?なんだか派手な連中が出てきたね!?」

 

「・・・・・・Mr.2・・・」

 

 

 その個性あふれる面々にジンベエとスイカは驚くが、クロコダイルはたった一人、覚えがある人物を見てわずかに眉を上げた。

 

 

【Mr.2 ボン・クレー】。かつてクロコダイルが創設した秘密結社、〝バロックワークス〟において幹部を務めていた男(オカマ)であり、そのテンションはまったく変わらず、今も焦熱の熱さにひるまず陽気なままこちらへ向かってくるほどだ。

 

 

「あ、ボンちゃん!テンションやってもらったか!?」

 

「んも~絶好調よ~~う!!」

 

 

 そして、これはクロコダイルも知らないことだが、かつて敵対していたルフィとは浅くない絆でつながった友達(ダチ)。命を救ってくれた友を目にしてルフィも笑顔になる。

 

 

 

「・・・んんっ!?あ~ら!麦ちゃんったらすごい子を連れてるじゃな~い!」

 

「ん?すごい!?」

 

 

 ボン・クレーが見るのは、ルフィの隣にたたずむ小さな大海賊。当然彼も彼女のことを知っているのだ。

 

 

「へ~、これまた面白そうなやつだね。〝おにーさん〟の知り合いか?」

 

「ああ、友達だ!(ガシッ!)」

 

「そーよマブダチよ~う!!ンガーハッハッハ!!(ガシィッ!)」

 

「なるほど、ダチか!良いもんじゃないか!」

 

 

 肩を組む二人。なるほど、遠慮ないその仕草は確かに仲が良いのだろう。スイカは愉快そうに2人を眺めた。

 

 

 

 

「ウホホ・・・!!(ギラッ!)」

 

「!あっ!!」

 

 

 そんな小さな背後へ、大きな斧を構えた巨大な生物、ブルゴリ―――正式名称はブルー・ゴリラ――が襲いかかって来るのを、正面にいたルフィが気付かないはずがなかった。

 

 

「危ないぞお前っ!」

 

 

 すぐさまルフィは腕を伸ばして助けようとするが、すでにブルゴリは斧の間合いの範囲内の上、自慢の大斧を横に振りかぶり攻撃態勢も整え終わっている。

 

 素早い動きのできるルフィも、そこに間に合うことは出来ない。

 

 

 

 

「―――――ウホォ!!(ブゥン!)」

 

 

 

 構えてからわずか1秒。標的を定めたブルゴリは、過去多くの生物を切り多量の血を浴び続けてきた残酷な悪魔を―――スイカの横腹へ全力で振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴギィンッ!!

 

 

 

「?………ウホ?」

 

 

 

〝おかしいな?〟 まるでそう言うかのよう、にブルゴリは声をこぼすこととなる。

 

 

―――今自分は、鋼鉄でも切ったのだろうか?どうしてこんなに手がしびれるのだろうか?

 

 

 

「おおっとっと。いけないいけない。油断しちゃったね」

 

 

 

 

 同時に、下の方から聞こえてくるそんな声。

 

 見下ろせば、そこにいたのは――――真っ二つにしようと決めていた女(ニンゲン)。

 

 

そして、

 

 

 

――――どうして、こいつじゃなくて斧が壊れてるんだろう?

 

 

 

 粉々に砕け散った斧の残骸。それが自分の足元一杯に散らばっていたではないか。

 

 

 

 

 

「やるね!油断していたとはいえ私に刃を当てるとは・・・・こりゃしっかり応えないとねぇ!!」

 

「!ウホ・・・っ!?」

 

 

 その原因であろう女――〝酒呑童子〟は、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべながらクルリと自分の方を振り向いた。

 

 

 

 何をするのかは分からない。ただ、受けたらリタイアしてしまう。本能がそう告げるのを、ブルゴリははっきり感じ取れた。

 

 

「・・・ウホォォーッ!」

 

 

 せめて一つだけでも傷を。不本意な形で役目を終えたしまった斧を構え、獣の本能のまま再び決死の攻撃をしかける。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

「さぁ。なまってるけどどうかね、っと…っ!!」

 

「!?ウホォ・・・!」

 

 

 

 腰を深く落とし、砲丸を投げるのかと思うまでに背を逸らせて左拳を引く【酒呑童子】。誰の目から見ても明らかな攻撃態勢に、ブルゴリも慌てて斧で切りかかるが・・・一歩届かず。

 

 

 

 

「――――――そぉりゃああぁ!!」

 

 

 

 繰り出されたのは、ひねりのないただただ簡素な拳の一振り。・・・・・・〝酒呑童子〟にかかれば、それすらも凶悪な技と化す。

 

 

 ズドンッ!

 

 

「ヴッ、ウフォォォオオオ!?」

 

 

 威力はまるで砲弾。そんなものを受けてはたまったものではなく、拳を腹部に受けたブルゴリは血反吐を出しながら吹き飛んでいく。

 

 

 

『うわっ!ブルゴ、がっ!?!!』

 

『うぎゃああああ!?』

 

 

 しかも、被害はブルゴリ一匹だけでは留まらない。〝酒呑童子〟とブルゴリを結ぶ直線上、及びその近くにいた他の獄卒達も巻き込まれながら後方へと吹き飛んで行く。

 

 

――――獄卒側にとって不運なことに、そこは業火の上に直線的な通路を組んだ『焦熱地獄』。直線的に防衛陣を構えていた看守側には、その〝酒呑童子〟の一撃はあまりにも痛かった。

 

 

 

『!!敵の防御が薄くなったぞーっ!』

 

『今のうちに突き進めえええっ!!』

 

 

 唐突に防衛網が薄くなった通路。脱獄を目指す囚人達はこれ幸いと〝酒呑童子〟が切り開いた道を全力で走り抜けた。

 

 

「おし!私らも行くよおにーさんっ!」

 

「!分かった!」

 

「んが~っはっはっは!さっすがね~い!」

 

 

 3人も抜かれまいと階段への直線通路を駆けていく。激戦により倒れていく看守たちに対し、次々と解放されて勢力が増していく囚人たち。形勢が犯罪者側に傾き始めたため、スムーズに階段へと近づいていった。

 

 

 

「すげーなお前っ!さっきの大丈夫なのか!?」

 

「ああ大丈夫だよ!心配ありがとさん、っと!(ゴキィ!)」

 

「げはぁ!?」

 

「そっか!じゃあいいやっ!どけっ!(バキッ!)」

 

「うがっ!?」

 

 

 その間にもスイカは攻撃を仕掛けてくる獄卒を殴り飛ばし、ルフィも向かって来る獄卒をなぎ倒していく。

 

 

 

「いよっとぉおおおっ!」

 

「だりゃあああああ!」

 

 

『ぐぁああああ!』

 

 

 見た目からは想像できない2人の重いパンチに、獄卒達はなす術もない。元々少なくなっていた防衛陣の人間が拳の連撃によってさらに少なくなっていき、全滅するのも時間の問題に見えた。

 

 

「すまん2人とも!わしゃあ、陸上ではあまり役に立たんゆえ・・・!」

 

「そうかっ!?それでもすげー強いのに!」

 

 

 そんな最前線で戦う2人に、後ろからジンベエが駆け寄った。彼ら〝魚人族〟は海でこそ真の力を発揮できる種族。それには間違いないのだが、ルフィの言う通りジンベエは決して弱くない。スイカも当然それを知っているので不満など抱かない。

 

 

「別に構わないよ!思ったより守りが薄いから、あんたが出張らなくても――」

 

 

 

 

 

『ウギャ~~~!!』

 

「「「!?」」」

 

 

――構わない。そんなスイカの考えを打ち消さんばかりの絶叫が響き渡った。

 

 

 

「獄卒獣が出てきたぞぉおおおお!!」

 

「!」

 

 

 その叫びが、明確に絶叫の原因を表す。

 

 

「さっ、3人もいやが、ぎゃああ~~!」

 

 

 再び響く断末魔の叫び。突如出てきた敵の増援に、一気に形勢が動き始めた。

 

 

 

 

「さあ、行っちゃうのよ獄卒獣たち!」

 

 

その強兵を率いるのは、非常にきわどく艶めかしさを漂わせる恰好をした女、【獄卒長サディ】。

 

「……!(ボカァン!)」

 

「ぎゃあああ!」

 

「……!(バキッ バギィ!)」

 

「ぐえ~っ!」

 

「……!(ゴキッ ゴキィ!)」

 

「うぎゃあああ!!」

 

 

そして、彼女に従うはインペルダウンが誇る地獄の化物たち。【ミノゼブラ】、【ミノコアラ】、【ミノリノケロス】の3人が、脱獄者たちに残酷な攻撃を振るい始めたのである。

 

 

「やらしい娘に……しまうまにコアラにサイかっ!ウシの野郎はいないのか!?」

 

 

 地獄の化物は全部で四人。残る一匹である【ミノタウルス】がいないことをスイカは不思議に思ったが、その答えは横から出てきた。

 

 

「うし!?うしのヤツならさっきおれ達がぶっ飛ばしたぞ!」 

 

「!なるほど!なら――――!」

 

 

ドカァン! 

 

『ギェエエ~!』

 

 

ドゴッ!バキッ! 

 

『助げでぇえええ!!』

 

 

バコン!ゴキンッ!

 

 

『こっ、殺されぢまうよ~~っ!』

 

 

 

 この若者も獄卒獣を倒す実力は持っている。絶え間なくあがる絶叫を耳に、それを頭に入れたスイカは―――提案した。

 

 

 

 

「もういっちょ化け物退治としゃれこまないかい!?」

 

「!よし、乗った!!(ダダッ!)」

 

「そうこなくちゃ!(ダンッ!)」

 

「わしも行こう!任せっぱなしでは気が済まんっ!(ガランガラン!)」

 

 

 意思を一致させた3人は即座に動く。狙いは人をゴミのように蹴散らす地獄の獄卒獣たち。2人は走り、1人は地を蹴って空から攻撃をしかける。

 

 

 

 

「魚人空手〝五千枚瓦―――!(ギリリ…ッ!)」

 

「!」

 

 

 ミノリノケロスへ疾風の如き早さで接近し、ジンベエは拳をこれでもかと握りしめ、

 

 

 

「ギア〝3〟!ゴムゴムの――!!(プク~!)」

 

「……!?」

 

 

 まるで風船のように腕をふくらませるルフィ。その奇行、大きさを目に驚くのはミノゼブラ。

 

 

 

「歯ぁ食いしばんなよぉ……!(ひゅううう…!)」

 

「?」

 

 

 そして、自らに迫る危険に気づかないミノコアラ。両手をがしりとかませ、天に振り上げながら彼の頭に落ちていくのは……酒呑童子。

 

 

 

 

 

 

 

「正拳〟!」

 

「巨人の銃(ギガントピストル)!!」

 

「せえぇええい!」

 

 

ドゴゴゴォン!!!

 

 

「「「…………!!?」」」

 

 

 サイは吹き飛び、シマウマは拳と壁に挟まれ、コアラは力の重圧により、地面に頭まで沈み込む。3つの拳によるどの攻撃も、化け物たちをノックダウンするのには十分な威力だった。

 

 

『うおおおおおっ!!』

 

『ええええ~~!?』

 

「キャアアア~~ッ!!」

 

 

 あまりにも瞬間的な決着に囚人は興奮し、獄卒達は唖然、サディは信じられないと悲鳴を上げることとなる。

 

 

 そんな状況の中、スイカはルフィの攻撃に興味が収まらなかった。

 

 

 

「へえ!あんたも能力者だったのか!何だい今の大きな腕は!?」

 

「今のはギア〝3〟っていうんだ!おれはゴムゴムの実を食べた〝ゴム人間〟だ!」

 

「……なるほど、〝ゴム〟か!面白い能力を持ってるもんだ!」

 

 

 ルフィの能力を聞き、スイカは愉快そうに笑いながらもその能力を脳に刻む。

 

 その記憶がどこでどう役に立つのかは分からない。ただ、スイカは今までもそうやって出会ってきた者たちを覚えることに精を注いできたのだ。 

 

 

 

「!見えてきたよ!LEVEL3への階段だっ!」

 

「あ!本当だ!」

 

 

 その間にも目的の階段は近づく。先ほどと同じように大きな扉が囚人たちの行く手を阻(はば)んでいるが、問題はない。こちらには扉を消しとばす能力者がいるのだから。

 

 

 

「どこだクロコダイルーッ!さっきみたいに扉を吹き飛ばして」

 

「私がやろうっ!任せてくれ!」

 

「んおっ!?」

 

 

 先ほどの功労者を呼ぼうとしたところで、スイカの声に割り込んで1人の男が扉開けを請け負ってきた。

 

〝革命家〟イナズマ。イワンコフの側近にして、〝チョキチョキの実〟の能力の〝ハサミ人間〟。彼の能力はあらゆるものを布のように切ることができ、ハサミを鍵の代わりに鍵穴を開けることも出来る人物だ。

 

 

「カニちゃん!頼む!」

 

「そうか!よろしく頼んだよ〝カニちゃん〟!」

 

 

 先への道を切り開けられるのならば誰でも構わない。ルフィもスイカも迷うことなくイナズマに仕事を頼んだ。

 

 

「任された!すぐに鍵を開け――」

 

 

 

「ここが地獄の大砦(おおとりで)!!何人たりとも通さんぞぉ~~~!!(ズバババ!)」

 

『うわぁ~~!!』

 

「「!?」」

 

 

 しかし、先に鍵を開けたのはよもやの看守側だった。

 

現れたのは、薙刀を持った大男。このインペルダウンの副署長である【ハンニャバル】であった。

 

 

 

「なんだアイツ!扉開けて堂々と!」

 

「ハンニャバル!ここの副署長の男だ!」

 

「あいつが出張るとは珍しいね!?普段はやる気なんて見せないのに!」

 

 

 スイカが知るハンニャバルは、仕事には気合いを入れず自分の1つ上である署長の座を狙う野心家。不祥事が起きればむしろ署長に責任を押し付けようとする輩だったのだが、今の彼は武器も本気の時にしか使わない〝血吸〟を持っていて、その目に気だるさはない。

 

 

 なぜかは分からないが、どうやら今回のハンニャバルはやる気十分のようだ。ルフィもスイカも避けられぬ戦闘と察して拳を構えた。

 

 

「か弱い庶民の明るい未来を守るため!前代未聞の海賊〝麦わら〟!署長に代わって極刑を言い渡す!」

 

「どけ!おれはエースを助けに行くんだ!邪魔するならぶっ飛ばしていくぞ!」

 

「ふん!簡単にぶっ飛ばされては副署長は務められんわぁ!ぬぇええええい!」

 

「む!手伝うよおにーさんっ!」

 

「ありがとう!おおおおっ!」

 

 

 スイカとルフィ、そしてハンニャバルが肉薄し、扉への攻防戦が始まった。3人の衝突を火ぶたに、看守と囚人たちも激しくぶつかり合う。

 

 

『副署長に続け~っ!決して怯むなぁ!』

 

『うおおおおおーっ!』

 

 

 お互いに譲れぬものがあるため、どちらも必死で攻め、守り、次々と傷ついたものは倒れていく。

 

 だが、限られた数のインペルダウン職員と、次々と解放され勢力を増していく囚人軍団。ましてや、その囚人はかつて世間を騒がせ続けた者たちがほとんど。

 

 

 時間と共にどちらが優勢になるのかは、目に見えて分かることだった。

 

 

 

「悪いねハンニャバル!よっ!(ドムッ!)」

 

「ゲハァッ!?」

 

 

 ハンニャバルの腹にスイカの拳がめり込む。普通の看守よりもはるかに強いのは確かなのだが、彼女の一撃をもろに受けてはハンニャバルも意識をつなぎとめることが出来なかった。

 

 

「………しょ、しょちょ~~…!(ガクッ)」

 

『ハッ、ハンニャバル副署長~!』

 

 

 仕切る人間がいなくなれば部隊はもろくなるもの。ハンニャバルが倒れた看守側は士気を失い、一気に囚人側へと流れが向くこととなってしまった。

 

 

 

「いよいしょ、っと」

 

「大丈夫かお前?手伝おうか?」

 

「ん、にゃに。これぐらい大丈夫さ」

 

 

 その中、ハンニャバルに勝利したスイカは意識を失い自分の身体にのしかかっているハンニャバルをのかしにかかる。

 

明らかに体格の差が大きかったのでルフィが手伝うか聞いてきたが、まったく疲れる様子なく、スイカは一人でハンニャバルを床に寝かせてやった。とても丁寧で、傷が増えることは無い。

 

 

「さぁ、これで頭はいなくなった。あとは階段の奴らだね!」

 

 

 LEVEL3への階段には、ハンニャバルが連れてきた大勢のバズーカ部隊が配置されている。弾は海楼石が組み込まれた〝対能力者用ネット〟のため、手練れの囚人も攻めあぐねている。

 

 

 

「おう!急いでエースのところに行こう!」

 

「了解!私に任せときなっ!」

 

 

 

 しかし〝酒呑童子〟にとってはまだまだぬるい防衛陣。スイカは持ち前の〝覇王色の覇気〟を再び使い、バズーカ部隊の意識を刈りとろうとした。

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

『う、うわぁ~~~!』

 

『たっ、助けで~~~!』

 

 

「・・・・・あん?」

 

 

 それは、突如起きた。何百人もいるバズーカ部隊。その足元に真っ黒な〝なにか〟が広がり……次々と〝それ〟に飲み込まれていくではないか。

 

 

「わっ!なんだなんだ!?」

 

「分かんない!なんだありゃあ…!?」

 

 

 突然の事態に、ルフィもスイカもその現象を眺めることしかできず・・・気が付くと、バズーカ部隊の人間は誰1人いなくなり、黒い〝何か〟だけがあるだけとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――解放(リベレイション)!」

 

 

 

だが幸か不幸か、その野太い叫びと共にバズーカ部隊は解放されることとなった。

 

 

『ぎゃああああ~~!』

 

 

〝何か〟から噴くように出てきたバズーカ部隊に意識はない。つまり、スイカの代わりに誰かが倒したのだ。ハンニャバルとは違う敵側の乱入者が。

 

 

 

 

「ん~?おお、こりゃあすげえメンツが揃ってやがる…!何やら取り込み中だったみたいだな…ゼハハハ…!」

 

「・・・!」

 

 

 ドサドサと降り落ちるバズーカ部隊を風景に、階段から降りて来る5人の大男たち。スイカはその中央の男に、見覚えがあった。

 

 

 

「・・・・あんた、確か〝白ひげ〟んとこの・・・」

 

 

「ティーチ!なぜ貴様がここにおるんじゃ!」

 

 

 それはスイカだけでなく〝白ひげ〟と友好的な関係を持っていたジンベエもであり、彼は血相を変えて突如現れた男に咆える。

 

 

名を、『マーシャル・Ⅾ・ティーチ』。かつて〝白ひげ〟の船の一員だったが、禁忌(タブー)である仲間殺しを行い、さらには自らの隊長であった〝火拳のエース〟を打ち破り王下七武海となった男が、スイカたちの前に現れたのだ。

 

 

「おお、ジンベエもいるのか……って、ははっ。その物騒な拳は下げてもらおうか。そういえばおめェはエースと仲が良かったな……だがおれを恨むのはお門違いだ」

 

「何がお門違い……!貴様がエースさんを監獄に送らねばこのような事態になっておらんかった!そうじゃろう、【黒ひげ】!」

 

 

「!【黒ひげ】!?」

 

「………【黒ひげ】だぁ?」

 

 

 それははまたなんともまぎらわしい通り名か。まるで戦友である〝白ひげ〟の名を横からかっさらっているみたいで、あまり面白くは思えない。

 

 ジンベエが叫んだ呼び方にルフィは怒りの形相となり、スイカは眉をひそめてティーチを見上げた。

 

 

 

「白ひげの船のもんが、白ひげの船のもんを監獄にぶち込むとはね。とんだ裏切りがあったもんだよ」

 

「ゼハハハ!だが、そのおかげでおれは七武海になることができた!!苦労や苦痛はあったが、まったく後悔はねえな!」

 

「……ふんっ。そりゃ良かったね~」

 

 

 その断言通り、ティーチに後悔の色はない。仮にも仲間であった人間を牢へ追いやったというのに平気でいられる目の前の外道に、スイカはさらに顔をしかめた。

 

 

「じゃあ、なぜ今七武海のアンタがここにいるんだい。確か白ひげが来るから七武海は強制招集を受けてるって話だそうだけど……」

 

 

 それをけってしまえばもう七武海ではいられまい。裏切りを行ってまで手に入れた称号を捨てようとは・・・・一体何を企んでいるのか。

 

 

「ゼハハハ……おれの計画をあんたに話す義理はあるか?」

 

 

 饒舌なティーチもそこまで答える気はないようで、歯の欠けた口をゆがませながら質問で返す。スイカも強引にまでは問うつもりはなかったようで、ただ首をすくめるだけの反応だけでとどめた。

 

 

「いや。そもそもあんたが何をやろうと知ったことじゃないしね。好きにすればいいじゃないか」

 

「ははっ。あんたに言われずともそのつもりさ・・・・だがまぁ、一番期待していたのはあんただったんがなぁ。一足遅かったぜ」

 

「?そりゃどういう――」

 

 

 

「ゴムゴムのぉおおおお!!」

 

 

「「!?」」

 

 

 

その突然の大声が2人の会話を打ち切ることとなる。

 

 

「おいおいっ!(ガシッ!)何しようとしてるんだいおにーさん!?」

 

 

 声の主はルフィ。鬼気迫る顔で彼が見るのは〝黒ひげ〟で、本気の攻撃をしようとしているのは間違いない。スイカはとっさに、ルフィが動かさんとしていた両腕を抑えた。

 

 

「何すんだよ離せ!こいつが!こいつがエースをっ!」

 

「ああ知ってるよ!でもね、ここでそれを責めても事態は…!」

 

「うるせー!邪魔すんなぁああ!」

 

「む…っ!(ググッ…)」

 

 

 ルフィもすごい剣幕で、スイカの掴んだ手をはがそうと力を込める。

 

 確かに今回の一件は、すべてティーチが原因と言える。その張本人が目の前にいて冷静でいられないのも無理はないことだろう。

 

 しかしそれでもスイカはルフィを宥める。なにせ、ここで消費する時間は当然……戦闘によって消費していい体力など、この後を考えるとあっても足りないぐらいなのだから。

 

 

 

「聞きな小僧っ!今こいつとぶつかっても、あんたの兄貴を助けるのに何の役にも立たないだろ!?むしろ時間と体力を消費するだけで救出の可能性がなくなっちまうだけさ!」

 

「・・・・!!」

 

 

 ルフィもそれは分かっているのだろう。スイカの怒声に、振りほどこうとする力をわずかに緩めた。

 

 

 

「あんたの〝おやじ〟だったらこんなことで動じないよ!過程で起こる喜びも悲しみも!全てを飲み込んで願う目的のために動き続けてるんだ!小僧もその血を受け継いでるんなら、ちったぁ頭冷やして兄貴の命のことを考えなぁああ!!」

 

 

「・・・!!ふ~・・・!ふ~・・・!!」

 

 

 まるでそこにいるもの全てに告げるよう叫び。それにはルフィも観念したようで、力を込めるのをやめて、腕を下ろした。

 

 

 

 一方、それを眺めていたティーチは当事者にもかかわらず笑みを浮かべていた。余計な体力を使うのを避けられたからだろう。豪快な笑いをあげ、スイカに礼を述べ始めた。

 

 

 

 

「ゼハハハハハハッ!助かったぜぇ、いちいち体力を使うのも面倒だからな!すまねぇな、しゅて(バキッ!)ドワァ!?」

 

 

 

 それに対する彼女の対応はシンプルだった。

 

 

「!船長」

 

 

 突然、ティーチはなにも触れていないのに鼻血を流しながら吹き飛んでいったのだ。それをクルーたちは目で追うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「はん。誰があんたみたいな仁義をナメくさったヤツを助けるか。あんたとモメる時間ももったいないんだよ、バカ」

 

 

 そう言って吐き捨てるのは、心底不愉快そうな顔をして左の拳を前に突き出すスイカ。そこにいる誰の目から見ても、突如現れた侵入者の頭を吹き飛ばしたのが誰かなのかは丸分かりだった。

 

 

 

「ゼ、ゼハハハ…!相変わらず容赦がねぇな……!」

 

 

 ティーチもそれには気付いており、壁に強打して鼻だけでなく頭部からも血を流しながら笑っている。しかし、彼女の態度は変わらない。

 

 

 

「当たり前だろう。逆に加減されるとでも思ったのかい?テメェの胸に聞いてみなよ(スタスタ)」

 

 

 ティーチ、及びその仲間たちの横を歩きぬけ、スイカはLEVEL3へ伸びる階段をのぞいた。

 

 

 

(………警備ゼロ。こりゃずいぶんと楽になったね)

 

 

 

 あれほどいた部隊を一瞬で全滅させるとは。なんの能力かは知らないが・・・・・ほんの少しなら、そこの不義理な男をほめてやってもいいだろう。おかげでなんなく階段を登ることが出来るのだから。

 

 

「―――皆っ!今なら守りの人間がいない!上に行くなら今だよ!!」

 

『!!!』

 

 

 その好機を逃さず、スイカが再び大声で叫ぶ。幼いながらも力溢れる声に、止まり、黙っていた囚人たちが動き出した。

 

 

 

 

『うおお~!』

 

『了解っ!!行け~!LEVEL3へ~~~!』

 

 

 

 

 なだれ込むように囚人たちがLEVEL3への階段へと殺到していく。看守は一人残らず気絶しているため、進路を阻む者はいない。瞬く間に暴動者たちはLEVEL3へと駆け上がっていった。

 

 

「わしらも行くぞ、ルフィ君!」

 

「おう!待ってろよエース~!!」

 

 

 ジンベエたちも続いて階段を上り始め、あっと言う間にその姿が見えなくなった。スイカもそれを確認して階段を登ろうとしたところで・・・ティーチが叫ぶ。

 

 

 

「ゼハハハ…!楽しみにしてろよお前らぁ!わずか数時間後おれ達が、世界を震撼させる最高のショーを見せてやる!」

 

 

(〝ショー〟だって?絶対にロクなもんじゃないね!)

 

 

 かと言って言及する時間も惜しい。気にはなったがスイカは頭を切り替えて、脱獄への道を駆け出した。

 

 

 

 

「おーい、お前~っ!」

 

「ん?どうしたおにーさん!」

 

 

 階段を半分ほど過ぎたあたりだろうか。なぜか前方からルフィが逆走をしてきて、スイカと並んで階段を登り始めたではないか。

 

 

「さっきはありがとう!おれ頭に血がのぼってた!」

 

「!」

 

 

 並走しながら告げられたのは、混ざりっ気のない感謝の言葉。突然のお礼にスイカも面食らうが、すぐに笑顔で受け止めた。

 

 

「なぁに、気持ちは分からなくないからね!だが今は兄貴のことを優先しな!本末転倒になったら元も子もないよ!」

 

「うんっ!・・・・あ、そう言えばお前、名前なんていうんだ!?」

 

 

 ふと気になったのだろう。ルフィは、初対面の人間に対して当然のことを。・・・・全ての海賊の上に立つ海賊王を目指す者として、この上なく非常識でおかしなことを聞いた。

 

 

「ん?ああ!そう言えば言ってなかったね!」

 

 

 しかし本人は気にしない。ただ忘れていたと苦笑してから、己の名前を告げる。

 

 

 

 

「スイカ!【アイル・Ⅾ・スイカ】さ!以後よろしく、ってね!」

 

「スイカ!?おいしそうな名前だなっ!!」

 

「!!お、おい・・・?アッ、アッハハハハハハッ!や~!!なんとも面白い反応をするねぇあんたは~!」

 

 

 あまりにも独特な感想に、スイカは本当に笑いが止められなくなる。

 

 

(なんって裏表なくバカ正直な男なことだい!〝どこぞの海賊王〟もこんなだったねぇ!)

 

 

 はるか昔に散った戦友。彼と似てやまないこの男に、ますます興味が募るスイカであった。

 

 

 

「ん?あれ??アイ……ス……スイカ?おれどっかで聞いたぞ!?」

 

「さてね!昔は知れ渡った名前だと思うから、どこかで聞いてもおかしくないかもね!」

 

 

 むろんルフィがハンコックからその名を聞いたこと、さらには彼女のおかげでインペルダウンに侵入出来たことをスイカは知らない。

 

 そこを踏まえると、スイカが解放されたのはハンコックのおかげであると言っても過言ではないだろう。知らず知らずの内に、ハンコックは大恩人を助けていたのであった。

 

 

 

 

「それよりも急ぐよ!いつアイツが来るか分かんないから!」

 

 

 会話はそこで終了となり、打って変わってスイカは真剣な表情でルフィの足を急がせる。

 

 今は難なく進んでいるが、この地獄はそう簡単に罪人を逃がさない。まだ、強力な戦力が向こうにはいるのだから。

 

 

「あいつ!?あいつって誰だ!?」

 

 

「決まってる!まだ一度も姿を見せてない――――」

 

 

 

 

 

 

「麦わらぁああああああ!!」

 

 

「「っ!!!?」

 

 

 

『うおぉおおおお!?』

 

 

 突如階段に反響する怒声。あまりの声の大きさに、すべての囚人が目を剥いた。

 

 

「……ドクのやつ!」

 

「【マゼラン】……!当然来るよねぇ…っ!」

 

 

 ルフィも、スイカでさえもその人物に顔を固くせざるを得ない。

 

 

【マゼラン】。インペルダウンの署長にして、〝ドクドクの実〟の能力者。

 

 

 

「貴様は絶対に!ここから出さんぞぉおおお!!」

 

 

 

 とうとう現れた地獄の支配者が、ルフィ達たちに猛威をふるい始めたのであった。

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました。 キリが良いところまでということでだいぶ長くなりましたが、読みづらくて申し訳ありませんでした。


 さて、おそらく読んだ皆様がえ?と思ったでしょうが、萃香さんの海桜石の手錠だけはまだ残っております!

 これにつきましては、自分がその立場にあったら・・・って考えたら絶対に外すだろ!?と村雪も思うのですが、それ以上に義や筋道を大事にするのが彼女【酒呑童子】というわけなのです!だから、彼女の言う〝一区切り〟までは能力が出ませんのでごめんなさい!

 あと、萃香の攻撃につきまして。白ひげのように技名がありませんでしたが、あれは萃香にとって技名を付けるほどではない攻撃だったのです!それであの威力かとツッコミたくなるかもしれませんが、きちんと技名を付けるつもりでいますので覚えておいてくださいませ!


 それではまた次回!監獄署長と衝突しますよ~!


 あと、何か思うところや質問なんかがありましたら、ご感想の方へお願いしますね!時間がかかるかもしれませんが、出来る限り答えさせてもらいます!
 


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地獄の支配者、マゼラン

 どうも、村雪です!久々のワンピース側の投稿となってすみませんでした!

 今回もインペルダウンということなのですが……もうですね、戦闘描写が拙いこと拙いこと!他の作者様のようにわくわくするような書き方をできないのが無念でございます…!

 いずれにしても、長々と空けてしまったのにそれでも読んでもらえる方への感謝の気持ちを忘れず、この投稿をさせていただきますね!


――それでは、ごゆっくりお読みください。


「ひぃ~!!でぇたああああああ~~っ!」

 

 

その男、海賊【道化のバギー】は涙を流してながら走っていた。

 

 

 彼がいるのはLEVEL1〝紅蓮地獄〟。自らを救世主と信じてやまない囚人たちを引き連れ、海底の地獄から日の当たる外まであと一階というところまで来ていた・・・・のだが、そこでとてつもない敵が行く先に立ちふさがったのだ。

 

 

 

「「「「…………!(ゴゴゴゴ…!)」」」」

 

「こっ、ここで獄卒獣達が4人まとめて出てきやがった~!」

 

「だめだ~!引き返せ~~!!」

 

 

ミノタウルス、ミノコアラ、ミノゼブラ、ミノリノケロス。地獄の化物たちが全て揃って囚人たちの行く手を阻み、次々と無慈悲な鉄槌を下す。LEVEL1、LEVEL2に収容されていた囚人に成す術はなく、我先にと逃げ去り出口から遠ざかっていく。

 

 

「キャプテン・バギ~!なんとかしてくれ~!」

 

「よ~し決めたー!脱獄はもう諦めるぞ~~!」

 

『ええ~~っ!?』

 

 

 応援願いに情けないことを叫ぶキャプテン・バギーは先頭をきって逃げている。メンツも何もない逃避だが、大事なのは我が命という考えの彼は全く気にせず全力疾走した。

 

 

 ドスンッ!

 

 

「ぶっ!?」

 

 

ところが、その逃走劇は何かとぶつかることによって中断することとなる。

全力疾走をしていたため衝撃は強く、バギーは耐えきれずにドテリと派手に後ろへ尻餅をついてしまった。

 

 

「……!てんめぇ…一体どこに目ぇつけてやがる…!」

 

 

またも醜態をさらしてしまいバギーとしてはたまったものではない。とうとうバギーの我慢が限界を迎え、怒りを発散させるため体を動かした。

 

 

(ええい!この際誰でも構わねぇ!このたまりにたまったイラだちを派手にぶちまけてやる!覚悟しろハデバカ野郎っ!)

 

 

逃亡していた時とは打って変わり、子供が見ると泣き出しそうな鋭い顔となったバギー。その表情のまま、彼は自らの退路を塞いだ愚か者を睨んだ。

 

 

 

「おおっと悪い。急いでたもんでね。大丈夫?」

 

 

 

「………………………………………はっ?」

 

 

 

 

そこにいたのは、ゆがんだ角を生やした小柄な少女……のような女囚人。

 

 

それが誰か分かったとたん、バギーの怒りは消滅し、目玉が飛び出んばかりに仰天することとなる。

 

 

「しゅっ!?しゅ!!しゅしゅっ、しゅしゅしゅ酒呑童子~っ!?」

 

 

バギーは開いた口が閉まらなかった。なにせ目の前にいるのは、五年前に死んだとされていた伝説のバケモノ。あれほど世界を騒がせた死亡記事が嘘だったと、いったい誰が予想できるというのだろうか。

 

 

「あれ?あんた、ロジャーのとこの赤鼻じゃないか。なつかしいねー」

 

 

 震えあがるほど慌てふためくバギーを見て思い出すものがあったのだろう。スイカは、彼にとって禁句である呼び方で久方の再開を懐かしんだ。

 

 

「誰が赤っ鼻じゃこのハデバカ野郎っ!……はっ!?」

 

 

しかしバギーは己のコンプレックスを刺激されて黙っていられない。勇ましく怒鳴り返した……………のだが、すぐに彼の頭を後悔の二文字が覆いつくす。

 

 

 

(おっ、おれのハデバカ野郎ォ~ゥ!相手が誰だかわかってんのか!?酒呑童子だぞおっ!?ロジャー船長もレイリーさんも手間取ったぐらいのイカれた女じゃねえか!!こんな口聞いちまって、おれごときで相手になるかアホ~~!!)

 

 

とはいえ、どれだけ後悔しても一度吐いた言葉は取り消せない。鼻とは正反対に真っ青な顔でバギーは言い訳にかかった。

 

 

「と、というのは冗談でな!い、今のはちょっとした冗談と言うかなんというか……!」

 

 

ずいっ

 

 

「お、なるほど、あの牛たちから逃げてたんだね?任せな」

 

「へっ!?お、おい!?」

 

 

 ところが、彼女の意識はすでにバギーの背後。状況を飲み込めないバギーを背に、スイカは腕を回しながら四匹の獄卒獣を目に捉えた。

 

 

 

「お、おい!何をする気――」

 

「四人まとめて眠っとけぇえええっ!!」

 

『『『『――――っ!?』』』』

 

 

 

 

――――そこから獄卒獣をすべてKOするのに、スイカは20秒とかけなかった。殴っては沈み、殴っては壁にめり込む。手も足も出せなかった獄卒獣達が一方的に退治される光景に、バギーはもはや死人のごとき顔色になってしまう。

 

 

 

(お、終わった…!俺の人生ここまでだ~…!獄卒獣たちの次は、絶対に無礼な言葉を吐いたおれを殺す気に決まってる!おれもあいつらみたいに地面に沈み込ませて…い、いや!さらにもっと残酷な殺し方をするに違いねぇ!おれはあの酒呑童子を怒らせちまったんだからよ~~!!)

 

 

 もちろんスイカに怒る気もなければ殺す気など毛頭にもない。しかし、彼女と面識があり、なおかつその実力を知っているバギーはどうしても良くない方へ考えが寄ってしまうようだ。

 

そして、

 

 

「ふう、終わった終わった。ほら、さっさと先に――」

 

 

「すっ、すみまぜんでじぼばばばばばば……!(ブクブク)」

 

 

 バギーは見事な泡を泡を吹きながら、スイカの目の前で気絶をしてしまうのであった。

 

 

『キャ、キャプテンバギ~!?』

 

「うわっ!?な、なにさ赤鼻!急に泡噴き出して!?」

 

 

 思わぬ奇行にスイカは驚くが、それ以上に驚いたのがバギーを救世主と信じる囚人たち。突然倒れた恩人に目を剥き、原因と思われるスイカへ口々に怒鳴りだした。

 

 

「テ、テメエ!キャプテン・バギーに何をしやがった!このしゅ、しゅ、しゅ、酒呑童子めぇ!」

 

「キャ、キャプテンバギーのカタキ!伝説だからってぶ、ぶ、ぶ、無事ですむと思うなよぉ!?」

 

「そうだそうだっ!ギ、ギギッタギタにしてやるぞ!おれじゃなくてこいつがなぁ!」

 

「お、おい!そこでおれを出すんじゃねえよ!?」

 

 

 しかしどの声も震えており、中には連れを脅しに使うものもいる始末。どこか子供のような憎めない囚人たちに、スイカは呆れながらなだめにかかろうとした。

 

 

「は~、まあ、落ち着きなって。あんた達の救世主とやらはただ気絶してるだけで無事だし、今はそんなことしてる場合じゃ・・・」

 

 

「お~いスイカ~!もう牛たち倒したのかー!」

 

『!?』

 

 

ところが、それも後方からの大声によって中断することとなる。また敵が来たのかと囚人たちは身構えるが、スイカはそれが誰の声かがすぐに理解をする。

 

 

「おお。来たかいおにーさん」

 

「ああ!お前早いんだな~!」

 

 

 現れたのは麦わら帽子の青年、ルフィと愉快な恰好をしたニューカマーランドの住人たち。その奇抜な集団にバギー側の囚人は目を丸くするほかなかった。

 

 

「!!むっ、麦わら~!?貴様、いっ、生きていたのカネー!?」

 

 

その中で一人ルフィに反応を示したのは、このインペルダウンでバギーと意気投合して相棒となったMr.3だ。

 

彼はルフィがマゼランに猛毒の刑罰を与えられLEVEL5の〝極寒地獄〟に投獄されたと聞き、生き残る可能性はないと予測していたにも拘らずこうして目の前に溌溂として現れたのだ。死人を見るような目になってしまうのも仕方ないことだろう。

 

 

「あっ!3(さん)!バギー!お前ら無事だったのか!」

 

「ふぐぅ!い、痛い…胸が痛いガネ…!」

 

 

 そんなルフィの安堵の声が、何度か見捨てたりもしたMr.3にとって一番つらい。胸を抑えてMr.3は温かい言葉に悶え苦しむこととなった。

 

 

「あれ?バギーのやつ泡ふいてどうしたんだ?」

 

「んー。なんだか私がダメだったみたいだね。まあ、それはいい!さっさと行くよ!こんなところで時間を潰してたら追いつかれるっ!」

 

「?お、追いつかれるとはどういうことカネ??」

 

 

 たった今合流したばかりのMr.3は2人側の状況が掴めない。あっさり獄卒獣を倒した酒呑童子が少しあせっているのに驚きながら、状況の説明を求める。

 

 

 

が、その答えは全く別のところから出てくることとなった。

 

 

 

 

「うおおおっ!?マッ、マゼランが来たぞぉおおおおおっ!」

 

「「「!!!」」」

 

 

その叫び声はスイカ達3人だけでなく、そこにいた全ての囚人を戦慄させるのに十分な意味を持っていた。

 

 

 

『―――――』

 

 

〝ソレ〟は、有害以外に表しようがないほど、純粋な紫だった。ゴボリゴボリと禍々しい音をたて形状を成していき………現れたのは、猛毒を宿す三首の竜。

 

 

 

 

「―――毒竜(ヒドラ)っ!」

 

 

 生物の形であれどそこに命はない。無情な毒の竜は一気に囚人達のもとへ襲い掛かり、後方にいた囚人たちを一気にその身体へと飲み込んだ。

 

 

 

『うぎゃあああああああ!?』

 

『あああ!いてぇ!いてぇよぉおおおお~~!!』

 

 

 ただ猛毒に触れても大事(おおごと)なのに、それが全身にまとわり付いては生死にも関わる。餌食となった囚人たちは次々と断末魔の叫びをあげ、体を悶えうって行動不能となっていった。

 

 

『ひ…っ!?』

 

「逃がしはせん……!」

 

 

 その残酷な竜を従え現れたのは、〝ドクドクの実〟の能力者であり地獄の支配者―――マゼラン。暴動を起こす囚人たちを抑えるため、LEVEL1にたどり着いたのだ。

 

 

 

「マ、マゼラン~~!?なんでそんなものに追われとるんだガネー!」

 

 

 Mr.3もいずれ来るとは分かっていたのだが、やはりマゼラン本人を見て動揺を隠せない。思わず近くにいたスイカに最悪の追跡者を招いたことを責めてしまうほどである。

 

 もちろん事の重大さはスイカも分かりきっている。間を挟むことなく、先にLEVEL1に来ていた囚人たちに叫んだ。

 

 

「だから急いでるんだっての!おい!階段はどっち!?私はここの地形は知らないんだ!早くしないと――!」

 

「むっ!きたぞっ!」

 

「・・・こうなるだろうよっ!」

 

 

 警戒の声を上げたのはジンベエ。彼の目を辿ると、暴動と暴動が集まりまだ団結を取れていない今が好機と、ヒドラをルフィたち主力が集う位置へと突撃させるマゼランがいた。

 

 

 

『う、うわぁあああ!?』

 

 

 マゼランの毒の威力を嫌と言うほど知っている囚人たちは脱兎のごとく逃げだすが、ヒドラの方が素早い。みるみると距離を詰めて、大きく口を開けだす。

 

 

『―――!(グバァッ!)』

 

「ちっ!っんの・・・っ!」

 

 

そんな竜を見逃すわけにはいかずスイカも構えをとる。完全に消すことはできないが、一旦退けることはできる。そう考えての行動だった。

 

 

 

「キャッ、キャンドル壁(ウォ―ル)ッ!」

 

 

 ドゴォン!

 

 

「!・・・おお?」

 

 

 ところが、それは不発に終わりこととなる、

突如スイカたちの前に白い壁がせり上がり、勢いを止められなかったヒドラが正面から突っ込んだのである。

 

 

「……あんたの能力か?〝3〟(さん)だったっけ?」

 

 

 そのまま首が砕け散るヒドラを眺めながら、スイカは実現したであろう同じように構えをとっている男―Mr.3を見た。

 

 

 

「あ、ああ……私は〝ドルドルの実〟の〝ろうそく人間〟!鉄の硬度を持つろうに毒液など通じないガネ!」

 

「へえ・・・?」

 

 

 確かに一滴もろうから毒はこぼれていない。つまりこれは、何人も地獄に突き落としてきたマゼランの毒に勝ったということ。

 

瞬間、スイカの頭に1つ考えが浮かびあがった。

 

 

「じゃあ3。ちょっと手ぇ貸してもらおうかい。一緒にマゼランを抑えようじゃないか!」

 

「ファッ!?」

 

 

 その突然な提案にMr.3はギョッと眼を見開いて驚く。確かに今マゼランの毒を抑えたが、それはあくまでとっさに対応してしまっただけのこと。何も真っ向から衝突するつもりは全くないのだ。

 

 

「じょ、冗談じゃないガネッ!今のはとっさにやっただけで何も奴と戦うつもりでは――」

 

「おい!他の奴らは先に行きな!ここは私と3が引き受けたっ!」

 

『!!』

 

「声高らかに恐ろしいことを言うんじゃないガネー!?」

 

 

 泣き言をこぼすMr.3だったが、もうその声は囚人たちに届かない。なにせ、足止めを名乗り出たのは大物の海賊。これほど心強い殿(しんがり)を果たしてくれる者は他にいないのだから。

 

 

『うおおおおっ!ありがてぇ~~!!』

 

『見た目と違ってなんて頼もしい女なんだー!』

 

『3兄さん!あんたもキャプテン・バギーに負けねえぐらい輝いてるぜ~!!』

 

『頼んだぞ2人とも~!』

 

『ありがとよー!』

 

「だっ、だから私はそのつもりはないんだガネ~~っ!」

 

 

伝説と救世主の右腕に後を任せ、囚人たちは笑顔で感謝を告げながら次々とその場から去っていく。ちなみに当の救世主は、未だ気を失って囚人の肩にかつがれていた。

 

 

「なんだスイカ、毒のヤツと戦うのか!?だったらおれも戦うぞ!」

 

 

 その流れに乗らずにルフィが共闘を申し立てたが、スイカは横に首を振りその申し出を断る。

 

 

「いんにゃ大丈夫!・・・ちと思いついたことがあってね。それよりあんた達は軍艦を頼む。ここを抜け出す足が無きゃあ本末転倒だろ?」

 

 

 インペルダウンは大型の生物、海王類が巣くう凪の海(カームベルト)のど真ん中に位置する監獄。自分だけならともかく大勢が逃げ出すとなると、最低でも一隻船が必要となってくる。

 

幸運にも今は護衛を兼ねた軍艦が監獄周辺を取り囲んでいるそうなので奪うには困らないが、その時間がいつまで続くか分からない。だからこそ抑え役を少数で抑え、足の確保に戦力を注ぐべきなのだ。

 

 

「わかった!でも、大丈夫なのか!?」

 

「なめてもらっちゃあ嫌だね!きっちり抑えてやるさっ!」

 

「・・・そっか!」

 

 

その宣言に見栄はない。そう感じたルフィは余計な心配をしなかった。

 

 

「じゃあまた後でな!頼んだぞ~!」

 

「おうっ!そっちもしっかり頼むよ!」

 

「ああっ!待って!ならばワタシと代わってくれだガネ~!」

 

 

 切実に身代わりを訴えるが、一度動いたルフィは早い。すぐさま走っていくルフィにMr.3の声が届くことはなかった。

 

 

 

 

「さて、と…………腹は括れたかな、3?」

 

 

 騒々しさから一転して静寂が行き渡り、残った人間は3人。そのうちの一人であるスイカが、後ろに佇むMr.3に尋ねる。

 

 

「うう、そんなもん全然括れるわけがないガネ・・・」

 

「そう。そりゃー残念だけど……あちらはもうやる気十分みたいだね」

 

 

 たとえ心の準備が出来ていなくても、もう待ったは効かない。心で詫びながら目の前に立つ敵―――マゼランを見据えた。

 

 

「さあ、ここで私と戯れてもらおうじゃないか。マゼラン?」

 

「……そんな時間などない。貴様1人地獄で遊んでいろっ!」

 

 

 敵意を隠そうとしないマゼランが首を失ったヒドラへ毒を送りこむ。するとみるみるうちに竜はその顎(あぎと)を再生させ、何も起こっていなかったかのような元の状態へと再生を果たした。

 

 

「あ、あわわわわ…!ど、どうするのカネ…!?」

 

 

自分のしたことは無意味だと伝えんばかりの現象に、Mr.3は完全に及び腰となって足を震えさせてしまった。確かにろうは毒を防いだが、それはあくまでも防御面での話であり攻撃となると話は別。あくまでも〝ドルドルの実〟の能力はサポートがメインであり、主体となって戦うような能力ではないのだ。

 

 

「ああ。―――私の四肢にろうをつけてくれよ」

 

 

 それを知ってか偶然か。スイカの要求はその前提を守ったものであった。

 

 

「……へっ?そ、それだけでいいのカネ?」

 

「ん?そうだけど……出来ない?」

 

「い、いや。分かったガネ!」

 

 

 容易い願いな上、今あてにするのは目の前の存在しかいない。ためらうことなくMr.3は能力を発動した。

 

 

「(ドルドル!)――キャンドルロック!」

 

 

流動体のろうが生じ、瞬く間に前方のスイカへと近づき手足へ纏わりついていく。其のあとは普通のロウと同じ。しだいに冷えて固くなっていき、グローブとブーツの形で完全に固定された。

 

 

「………ほー。思ったより硬い。こりゃロウとは思えないね」

 

 

 ガツン、ゴツンとグローブもどきをぶつけあって感触を確かめるスイカ。腕がこうならば足の方も同じと、彼女は予想以上の出来上がりへ満足そうに頷く。

 

 

「こ、これでいいのカネ?」

 

「ああ、ありがとさん。あとは私に……」

 

 

任せな。そう告げようとしたが、相手がそれを待つ理由はない。

 

 

「―――毒竜(ヒドラ)!」

 

「!」

 

 

 突然毒の竜が正面から二人めがけて突っ込んでくる。時間のないマゼランがとうとうしびれを切らしたのだ。

 

 

「ギャ~!来たガネ~!?」

 

 

 いくら能力で相性が良くても、やはり怖いものは怖い。Mr.3は及び腰でロウの壁を展開しようと手を地面につけた。

 

 

 

「おいおい……」

 

 

 が、彼女は違う。

 

 

「人の話はちゃんと最後までさせなってのっ!」

 

 

 ダンッ!

 

 

スイカは臆すどころか、毒竜に向かって一直線に駆け出して行った!

 

 

「え、えええっ!?」

 

「……!ナメるなっ!!」

 

 

 思いがけぬ行動に2人は目を丸くしたが、さすがは監獄署長。すぐにスイカ一人へ標的を絞り、毒竜を加速させる。

 

 

『―――!(ガバァ!)』

 

 

 意思のない竜に慈悲など一切ない。目標を射程範囲に収めた毒竜は猛毒まみれの口を大きく開け、スイカを飲み込もうとした!

 

 

 

「ふっ……!」

 

 

 

 だが、当然自ら地獄への入り口へ呑み込まれたりはしない。スイカは向かってくるヒドラのやや右上・左側面へ一つ跳躍した。

 

 

 タンッ

 

 

『―――!?』

 

 

 ヒドラはスイカを、スイカはヒドラをと互いに狙いを定めていたため、双方は一瞬で肉薄を果たす。しかし、意思を持つものと持たないものでは一目瞭然。ヒドラはスイカの接近に即座の対応が出来なかった。

 

 

 だからこそ、先手を取ったのは後に動いたスイカだった。

 

 

「のきなトカゲェ!」

 

 

ヒドラの牙より短い右脚を後ろに引き、浮いた身体は左へとひねらせる。長引かせないため、現状況で出せる力を右脚へと送り込み……一気に降り抜く!

 

 

 

 

ゴバシャア!

 

 

『―――ッ!』

 

 

 鉄の硬さを持つろうを装着した足蹴り。しかも、弱体化しているとは言えどその威力は平均を幾周も超えたもの。もろにそれを顔に受けたヒドラは、輪郭を大きく歪ませ勢いを殺せぬまま監獄の壁へと叩きつけられた! 

 

 

『『――――!?』』

 

 

 さらに、身体を共有する残りの二首にも影響は及び、直撃を受けた首に引っ張られる形でマゼランの前から退き去ってしまう。そのため、マゼランの正面が完全にがら空きとなったではないか。

 

 

「むっ…!」

 

「おぉお…っ!」

 

 

その好機を見逃すスイカではない。着地した両足にすぐさま力を込め、目に止まらない速さでマゼランへ襲い掛かる。

 

 

「らぁああっ!」

 

 

 次に繰り出したのは完全にろうで包まれた右拳。気絶を目論み、マゼランの顔面目掛けてスイカは打撃を放った。

 

 

 ズドンッ!

 

 

「ぐっ・・・!」

 

 

 しかし、反射的に腕を交差させ眼前に掲げたマゼランが見事に防ぐ。ただ威力までは押し殺せなかったようで、気絶の代わりとして数メートル、その巨体を強制的に後ろへ引き下げられることとなった。

 

 

「んんっ、さすがに獄卒獣みたいにゃいかないか」

 

「………(じろり)」

 

 

大したダメージを受けることはなかったが、スイカも想定済みで声に落胆の色はない。マゼランは、毒の体に攻撃しても平然としてるスイカを睨みながら、先ほどの要求の真意を悟った。

 

 

「………なるほど。ロウでおれに触れられるようにして、貴様の体術の威力を上げたのか」

 

「その通り。今の私にとって厄介なのはアンタに触れないってことだから、間に緩衝材を挟めば事は解決だ。まぁ、ぜーんぶあの3がいてこその対策だけどね。今日の私は運が良い」

 

「……ふん」

 

 

 八重歯を覗かせる笑みは業腹だが、マゼランもそこは反論する余地がないと分かっている。この身体に滴る毒全てが武器であり鎧でもあるのだが、効果が出るのは相手が毒に触れてから。肌に触れられなければただの水となんら変わりはない。

 

 

 

「だが、毒が通じないのはロウがある部分だけのようだな」

 

「…………んー、まあね」

 

 

それはあくまでも直接触れなければの話。スイカは顔をしかめながら――左の二の腕を見た。

 

 

 

「あいたた……大した毒だよ。私の肌を焼くとはな」

 

 

どうやら毒竜を一蹴したときに散ったようで、彼女の腕からじゅぐり、じゅぐりと肉の焼ける音が立ち込め、鼻を塞ぎたくなる臭いをあげて彼女を蝕んでいたのだ。

 

 

「能力も使わずに下らんことを言うな。囚人におだてられて隙を作るほど、おれはおめでたくないぞ」

 

「嘘なんかじゃないんだけどなー……よいしょっ」

 

 

 そのまま放っておくわけにもいかず、スイカは猛威を振るう毒を拭い取った。すると見えたのは、グズグズと血を滲ませながら爛れる皮膚と、その皮膚さえも溶けてしまって表に出た筋肉。気の弱いものが見れば胃液が逆流してもおかしくない惨状がそこにはあった。

 

 

 

「わ。こりゃひどいなー」

 

「普通、その反応ですまないはずだがな」

 

 

 マゼランの言う通り、スイカの言葉とは裏腹に緊張の色はあらず、むしろ気楽さが感じられるのは気のせいではないだろう。その異常な反応にはマゼランも苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

 

「………一体何の真似だ」

 

「?何がだい?」

 

「その手錠……見たところまだ効果は発しているようだが、なぜ外さずにいるかと聞いている。おれ相手に、力を封じられていても問題ないとでも?」 

 

 

 それは敵を心配するようにも聞こえる問いだったが、マゼランが口にするのも仕方ないこと。海桜石はどんな力を持った能力者でも抗うことのできないいわば能力者にとって最大の天敵であり、目の前の存在もその例外ではない。

 

にも関わらず、この海賊は障害を除去しようとすることなく戦う始末。過信をしていないのであれば、愚者以外の何でもない奇行なのだ。

 

 

「ああ……そんなつもりなはいよ。ただ、私なりに思うことがあってね?あんたのプライドを傷付けたんなら謝ろう」

 

 

 対するスイカの回答は簡素なもの。余裕を見せられ、さらには詫びを告げられてはいよいよマゼランも立つ瀬がなく、闘争心を先ほど以上に掻き立てる。

 

 

「……その意地が、貴様の命運を決めるやもなっ!」

 

 

 マゼランが毒竜の首を回復させ、再びスイカへとけしかけた。だが今度はその首だけではない。先ほど主を守っていた2首も攻撃に転じ、確実に標的を始末するため攻めかかった!

 

 

「はっ!数を増やすだけじゃあね!あんたこそ私をナメてるんじゃないかぁ!?」

 

 

 それでもスイカは揺るがない。一匹が三匹に増えようともやるべきことに変わりはないのだから。

 

 

『――――!(ガバァ!)』

 

「はぁああああっ!」

 

 

 最初に近づく毒竜に狙いを定めた。口を開けて突っ込むという前回と同じ攻撃をしかける竜に、スイカも拳で迎え撃つ。

 

 

 バシャアッ!!

 

 

『―――ッ!』

 

 

 当然結果も同じで、スイカの拳を受けた毒竜が大きくのけぞって戦線を離脱する。これで残るは二首。スイカは双方に向かって叫ぶ。

 

 

「さぁ!次はどっちだ!?」

 

『――――!(ガバァ)』

 

「!だから芸のないっ!白ける真似はやめなぁあ!!」

 

 

 同じことをいくら繰り返そうと結末は変わらない。懲りもせず突っ込んでくる毒竜にスイカは悪態をつきながら構えた。

 

 

 

 

 

 

「毒の道(ベノムロード)!」

 

 

 ズポンッ!!

 

 

 

 

 しかし、マゼランも能を持つ人間。スイカが思っているほど馬鹿ではない。

 

 

 

 

「!いっ!?」

 

 

 意表を突くとはまさにこのこと。なんと毒竜の口からマゼランが勢いよく飛び出してきたではないか。これにはスイカも驚き、攻撃に移ろうとしていた身体を硬直させるという隙が生じてしまった。

 

 

「毒・針(どくバチ)っ!」

 

「うわわ!わ、わ!」

 

 

その隙を逃さず、マゼランが鋭角の被り物を手にはめて殴り掛かる。防ぐともできたが、毒人間の攻撃がただの物理的なものとは考えられず、スイカは慌てて攻撃をかわしていく。

 

 

ドスッ!

 

 

「………げ」

 

 

そして、その選択が正しかったことを地面に振り下ろされた一発を見て確信できた。

 

 

 

「石を溶かすなんて、どんな危ない毒を使ってるんだいまったく!」

 

 

 まるで酸を浴びた銅像のように、突きが刺さった岩がドロドロと形を崩していくではないか。無機物だから良かったものの、もしも生物が受けてしまったら…………スイカは思わず愚痴を叫んだ。

 

 

「無論、貴様を消すための毒だ!」

 

「それはなんとも物騒なことだね!」

 

 

 律儀に答えている間も追撃の手は止まらない。必殺の一撃を当てるため、マゼランは何度も突きをスイカへと振り下ろす。

 

「ふっ!っと!」

 

「ちっ。ちょこまかと…!」

 

 

 だがスイカも簡単には攻撃を受け付けない。華麗、とは言い難いが一つ一つをかわしながら考える。

 

 

(見たところ、先以外毒はない……なら!)

 

 

「――らぁっ!」

 

 

彼女は即座に動いた。狙いは毒の及ばない被り物の腹部……寸前で刺突を避けたスイカは、突き出された腕の真下からアッパーを打ち当てる。

 

 

ガゴンッ!

 

 

 岩を溶かす毒は猛威だが、スイカの推測通り、その毒が有効なのは先端だけと非常にリーチが短い。つまり、その一点を避けさえすれば反撃も容易く、マゼランの腕は上に大きく弾かれる。

 

 

「むっ…!?」

 

 

がら空きとなった胴を守るため慌てて毒竜を呼び寄せるが、間に合わない。マゼランよりもスイカの動きが一つ早かった。

 

 

「次は私の番だマゼラァン!」

 

 

 ビキリと、滾る笑みを浮かべたスイカの腕に幾筋の血管が浮かび上がる。先ほどまでは見えなかったそれが確認できたのは、すなわち桁違いの力が込められたということ。

 

 

 ほどなく、スイカはその拳をマゼランの胴へ振りかざし…………打ち放った。

 

 

 

 

「砕キ月ィィイッ!」

 

 

 

ずん……っ!

 

 

 

正直、この時マゼランは少しばかりたかを括っていた。防御しようととっさに毒竜を動かしたが、たとえ攻撃を受けるとしても先ほど防いだ殴打と差はなく、直撃を受けても多少痛いが耐えられる痛みだろうと。

 

 

「…………ぐ…っ!」

 

 

――ならば、この痛みはなんだろうか。波打つように体へと広がる、抉りつけるこの激痛は……!

 

 

「ぐぅぅうううううっ!?」

 

 

 バキ、ゴギリと骨が重奏を奏で、マゼランの口から血がこぼれ出る。体内に損傷を負ったのは明白だが、拳の圧力は下がらない。畳みかける衝撃に耐えきれず、とうとうマゼランの体は頑丈な壁へと吹き飛んでいってしまった。

 

 

 

 ガシャアァアアンッ!!

 

 

 その勢いは強く、轟音と同時に粉塵があたり一帯に巻き上がってマゼランを隠してしまうほど。

戦闘を眺めていたMr.3は喜びよりも、海桜石を付けたまま地獄の支配者を吹き飛ばしたことに驚愕しながら近づく。

 

 

「な、なんと……やったのカネ?」

 

「……さて。手加減抜きでやったから、効いたには効いたはずなんだが」

 

 

もしも勝敗が決したのならこれ以上ない成果なのだが、スイカは全くMr.3を見ず、視界が届かないマゼランの方を向いたまま。

 

 

「――地獄のアタマを張っているんだ。そう簡単にはいかないだろうね」

 

「無論だ………っ!」

 

 

 スイカのぼやき通り、煙を払いのけてマゼランが姿を現した。しかし、言葉こそ同じ調子だが打撃を受けた脇腹には手を添えられており、額と口から血が流れる顔は苦痛に歪んでいて無傷とはさすがにいかなかったようだ。

 

 それを確認し、スイカは口を開く。

 

 

「さて、どうする?いくらあんただろうと今のは効いたはずだ。今回は立ち上がったけど……果たして次はどうかな?」

 

 

 挑発以外捉えようがない発言だが、虚勢はない。微量の猛毒を受けたスイカに対し、マゼランは身体の要となる胴体に重い一発を受けている。力を制限されつつも活きた動きをする者と、痛手を負って動きが鈍くなるのは必須の者。どちらが優勢なのかは、あまり悩まず判断できるだろう。

 

 

「…なるほど。そうなると俺も立っていられんかもな」

 

「……なんだ、諦めたのかい?」

 

 

 だが、意外にもマゼランは冷静に頷くだけだった。何らかの動きか反論があるだろうと思っていたスイカは、目を丸くして戦意を測る。

 

 

「馬鹿な。囚人が逃げるのをおめおめ見逃して監獄署長が務まるか」

 

 

 腹立たしげにスイカを睨むマゼランの目は戦意が消えておらず、彼は大きく息を吐いた。

 

 

 

「――俺も、腹を括らねばならんということだ」

 

 

ゴボリ

 

 

「ん?」

 

 

 同時に、マゼランに異変が起きた。

 

毒竜を始め、鎧の役割を果たすマゼラン自身が生み出した毒は全て紫色だったが、急に変色を始めたのだ。元々有害を示す色だったものが、どす黒い赤に。どこまでも悍ましく。

 

 

 

「おいおい……何の変化さ、そりゃ?」

 

「この毒は、禁じ手だ」

 

 

 スイカが戸惑う間にも赤色は溢れ、マゼランの後ろに集まってゆく。その毒こそが、使うのを躊躇うほどの監獄署長の最終手段。

 

 

「このインペルダウンすら破壊しかねないもの…!」

 

 

 すでにマゼランよりも高く成り上がっているが、まだ成長は止まらない。みるみると体積を大きくしていき、細部を形成する。

 

 

 

「毒の巨兵(ベノム・デーモン)…!」

 

 

 ずんぐりと、毒竜と違って身体と同じ大きさの腕が二本。髑髏を思わせる目や口からはガスが抜けるような音と煙が立ち込め、頭上にはスイカと似た双角が飾られている。

 

 

「や………!やや、やばいガネやばいガネ~~っ!?」

 

「確かに……これはやばそうだね…!」

 

 

 その姿はまさに悪魔。Mr.3もスイカも、本能がうるさいほど警鐘を鳴らすのを抑えられなかった。

 

 

 

「――地獄の審判っ!」

 

 

 無慈悲な番人が、2人に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 さて。読んでくださった方の何人かが気になったと思うのですが、萃香の技ですね!今回初めて書いたのですが……すみません!彼女のテーマ曲『砕月』を少しモチーフして技名とさせていただきました!

 最初は萃香のスペルカードの何か借りよーとしてたんですけど、こう、数が意外と少なかったと気づいてしまいまして。まだまだ序盤なのにいきなり大技にふさわしいスペカ名を使うのももったいないな~と思って、センスがないと知りつつそれらしい技名をつけてみました。期待をしていた方には申し訳ありません!

 もちろん次第に彼女のスペカを技名にしたりする予定なのですが、ひょっとしたら村雪の勝手でまた技の名前を作ったりするかもしれません。萃香ファンの方々には申し訳ありませんが、ここではそういうものかと割り切っていただくようお願いします!
 

 それではまた次回!インペルダウンを抜けますよ~!


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脱獄、するにゃ策あるのみ

どうも、村雪でございます!相変わらず不定期な投稿で申し訳ないっ!


 さあ、今回は前回後書きで述べましたように脱獄回クライマックス!毎度毎度チキンで自信が持てませんが………それでも読んでいただければっ!


―――ごゆっくりお読みください。


 LEVEL1『紅蓮地獄』。今そこに赤い悪魔が降臨した。

 

 

「地獄の審判っ!」

 

 

 監獄署長マゼランに付き従うその巨兵の身体からは絶えることなく毒が滴り落ち、垂れ落ちた地面からは煙が勢い良く吹き上がる。危険性を明白に示しており、目撃していた脱獄囚の一人、Mr.3は体中に戦慄が走った。

 

 

「ま、まずいガネ!さっきより毒が強力になってる!ここは慎重に――」

 

「……ッ(ばっ!)」

 

「ってなぜ正面から突っ込んでるんだガネ~!?」

 

 

 ところがもう一人の囚人、スイカは取り乱すことなくマゼランへと迫る。

 

狙いは重要器官である頭部。毒の色も変わりどのような変化があるかも分からないため、先手の一撃で決めにかかったのだ。

 

 

 

「砕キ月ィイイっ!!」

 

 

 跳躍でマゼランの前へ出たスイカが、先ほど同様本気の一撃を放った。

まともに顔へ受ければ重傷は避けられず、下手をすれば二度と意識も戻らないかもしれない打撃。

それをもう一度受けるほど、マゼランは慢心を抱いていなかった。

 

 

「!(バッ)」

 

 

ズンッ!

 

 

「く………っ!」

 

 

先ほどのように楽観などせず、マゼランは両腕を交差させてスイカの一撃を完全に防いだ。代償として腕に重い衝撃が走るが、戦闘不能になることに比べればどうとでもない。

 

 

 痛みを堪えつつ、マゼランはスイカへ腕を伸ばした。

 

 

「おっと!そう簡単には捕まんないよっ!」

 

 

 空中で動きが取れなかったが、ロウを手足に装着している分体重が増している。スイカは落ちるように地面へと降り、一躍してマゼランの反撃を回避した。

 

 

 

『――――(グオッ!)』

 

 

 しかし、追撃の手が終わったわけではない。

 

 

「んんっ!?」

 

 

 毒息を吐いて佇んでいた巨兵が突然動き出し、スイカめがけて腕を伸ばしてきたのだ。その腕はマゼランの3倍ほどの長さで、少し離れたスイカにも難なく届き、叩き潰す勢いで振り下ろした。

 

 

 バァンッ!!

 

 

「うおわっ!?」

 

 

 その圧力は思いの外強く、地面に接触すると同時に床が崩壊してしまうほど。飛び散る破片がスイカに当たるが彼女にとって雨粒のようなもの。ものともせずにマゼランを睨んだ

 

 

「……こんなもんを隠し持ってたのかい…!最初から出さないとは本当にナメられたものだなマゼラァンっ!」

 

 

 あろうことか、スイカは敵が全力を出していなかったことに腹を立てていたのだ。先ほどマゼランは自分が海桜石を付けたまま戦うことに腹を立てていたが、その気持ちが身を持って分かることとなるとは、見事な仕返しである。

 

 

 

 

「……言ったはずだ。俺もようやく腹を括ったと」

 

 

 

 しかし、マゼランとて目の前の海賊が一筋縄でいかないことぐらい重々承知している。伝説の怪物と呼ばれた海賊を前に、いったいどこに余裕を持って戦う余地があるだろうか。

 

 

 

「貴様こそ俺の覚悟をナメるなよ。酒呑童子」

 

「あ?」

 

 

 ここまでこの技を取っておいたのは非常に単純な話。後ろにいる悪魔が生み出す毒が、本当に危険だからだ。

 

 

 

「!!まずい!腕を見るんだガネッ!」

 

「?」

 

 

 その言葉の意味を真っ先に理解したのは、スイカの後方にて戦況を見ていたMr.3だった。直接戦闘には加わらず客観的な立場で2人を視界に収めていたからこそ、スイカの右腕の異変に先に気づいたのだ。

 

 

 

 

 ………ズズ………ズズズズ……!

 

 

「!?なん、っだこりゃ…!?」

 

 

そして、スイカも言われるがまま見て驚愕する。まるで色水に紙を浸すように、腕を覆うロウがマゼランの毒と同色に染まっていくではないか!

予期せぬ変化にスイカが気を取られている内にも毒は浸食していき、内の肉体にまで波紋が及ぶのは時間の問題だった。

 

 

「キャンドル解除!」

 

「!悪い!ありがと3!」

 

 

 しかし幸運なことに、ロウを生み出せるならば消し去ることも可能。Mr.3が素早くスイカに近づきロウを溶かして身体から取りはずし、体への被害は免れた。その時の彼女の顔は珍しく、不安が去った時に浮かべる安堵に満ちていた。

 

 

 

「…緩衝材は無意味、ってところか…!」

 

 

 毒に浸り、完全に赤色に染まったロウの果てを見届けたスイカがようやくマゼランの新たな毒の恐ろしさを把握した。

 

触れたものが生物であれ無機物であれ、接触した部分から時間をかけて全体を占領していく防御不能の攻撃。おそらくグローブを侵したのは先ほどの一打。あの時のマゼランの身体も赤色の毒で濡れており、そこにグローブが触れたときに感染したと見て間違いないだろう。

 

 

「なるほど……だから使わなかったんだね?自分の毒が、見境なくこの監獄を侵食するから」

 

「そうだ。この毒を出した以上、必ず貴様を始末する。でなければここで働く全職員にあわせる顔がない」

 

「やれやれ。最初から気にせずそれを出せばいいのに。監獄のボスは頭が固いね~」

 

 

 犠牲を伴っても目の前のサイアクの囚人を抹消する。生真面目な性格であるマゼランの計り知れぬ覚悟に、口はおどけてもスイカの目は真剣なものだった。

 

 

 

「どど、どうするのカネっ!?何か策があるんじゃないカネ~~!?」

 

 

 Mr.3にとっては唯一の対抗策を破られたようなもの。唯一残された可能性(スイカ)に縋るように声を荒げて詰めかかった。

 

 

「…うーん。そうだね」

 

 

 それに呑気に言葉を返しながら、スイカは考える。

 

 

(……LEVEL4でバカ《黒ひげ》にやった一発みたいに触れなくても攻撃することはできる……けど、あれじゃ威力不十分だね。マゼランが相手じゃあせいぜい怯ませるのが関の山だ)

 

 

 先ほどは腹を立ててしまったが、やはりマゼランは地獄の大砦を任されるだけはある実力者。スイカは決して楽観などせず目の前の強敵を倒す方法を考えた。

 

 

 

 

 

「……よし、3」

 

 

 あらゆる制限を受け、久しぶりに戦闘に頭を使ったスイカは口を開いた。

 

 

 

「何だガネ!?」

 

「まずロウで――」

 

 

 グオオッ!

 

 

 しかし、当然敵に時間を与える道理などは存在しない。

 

 

「!3っ!(ぐいっ)」

 

「へあっ!?」

 

 

 バァンッ!! 

 

 

 Mr.3のいた場所に巨兵の一撃が下される。再び床のコンクリートが砕け散るが、スイカが首根っこを掴んで下がったことによりMr.3は無事にすんだ。

 

 

 

「いったん引こう!これじゃ話も出来ないっ!(ぐいっ!)」

 

「あばばば!?」

 

 

策を伝える時間だけでも確保したい。Mr.3の襟首をつかんだまま、スイカは迷うことなく撤退を選択した。もちろん目指すのは外海への出口、ルフィたちが先に向かった正面玄関だ。

 

 

「逃がさんっ!」

 

 

 そんな2人を見逃すはずがなく、マゼランもすぐさま追跡を始める。後ろに控える毒の巨兵もその後を追い、離れゆく2人へ猛毒の手を伸ばす。

 

 

 

「ぎゃ~!もっと早く走るんだガネー!」

 

「ぐににに……っ!これでも、全速力だってのぉおおおっ!」

 

 

 急な逃走のため引きずられる形で引っ張られるMr.3が叫ぶが、人を一人掴み、さらには力の大部分を封じられているスイカは〝現状〟出せ得る力を全て出して走っている。

 

 

 そのため距離を離すことは出来ず、常に毒の巨兵の射程範囲に収まってしまうのだった。

 

 

 

ガッシャアアン!!

 

 

「「うおおおおっ!?」」

 

 

 

 横殴りの拳が2人を外し、無人となった隣の牢屋をこなごなに砕いた。

 

さらにそこから毒が広がり牢の中はあっという間に地獄の光景と化し、スイカは笑みを、Mr.3は涙を流して牢の果てを見た。

 

 

「おっ!感染はするけどさほど感染力は早くないみたいだね!」

 

「冷静に観察しとる場合か~!さっき私に何か言いかけてたが、あれは作戦ではなかったのカネー!?」

 

「おお!勿論そうさっ!」

 

 

 ここまで男らしいところを見せていないMr.3だが、元々は冷静沈着を売りに裏社会に身を置いていた賞金首。細かなところまで記憶することを心掛けていた彼は、先ほど途中で終わったスイカの言葉を忘れていなかった。

 

 

「だけどその前に1つ聞かせてもらおう!」

 

「なっ、何をガネ!?」

 

 

スイカも当然忘れるはずなく、口にしようと思ったが先に作戦の要となることをMr.3に尋ねた。

 

 

 

「そのロウ、どれくらい出せる!?」

 

「……す、少し時間を空けて区切っていけば、いくらでも作れるガネ!」

 

「そう!じゃあ、時間を空けず区切んなかったらどう!?」

 

「…………限られるが、ど、努力すれば相当の量は出せるはずだガネ!」

 

 

 Mr.3の回答に嘘はない。かつてルフィと戦ったときには巨大なロウのタワーを建て、自分を包み込むバトルスーツを作ったりもした。どれぐらいが望ましいのかは分からないが、少なくとも先ほどまでに出したロウよりは多く出せるはずなのだ。

 

 

「……なるほどっ!(がばっ)」

 

「ぬわっ!?」

 

 

 満足した答えを得たのか、スイカはMr.3を肩に担ぎ直して彼の顔を近づけた。

 

 

 

 

「十分だ。一気にケリをつけよう、3」

 

 

 

 

 

 

 

(む……っ?)

 

 

 逃げる2人の囚人を追いかけていたマゼランの顔が強張る。

 

というのも、片割れの一人を担ぐ女海賊が、何かを肩上の囚人に耳打ちしだしたのだ。

 

 

(対応に動かれる前に討つ。これ以上時間はかけられんっ!)

 

 

 内容までは聞き取れないが、肩の男が何度か頷いていて何か策を伝えられているのは明白。足に鞭を打って2人の距離を詰めにかかる。

 

 

「地獄の審判!」

 

 

 

 マゼランが腕を伸ばすと同時に、後ろに追従する巨兵も猛毒の腕を前に差し出した。『毒の巨兵(ベノム・デーモン)』とマゼランの動作は連動しており、彼の2回り以上ある腕は容易に遠距離へ届く。

 

 雲によって生じる影のように、リーチある巨大な手が見る見る内に2人へと迫っていった。

 

 

 

ズザザッ!

 

 

 

「む!?」

 

 

 ここで動きがあった。逃亡者たちが正反対――すなわち、あろうことか自分の方向に向き直ったではないか。

 

 

(何のつもりだ……!?)

 

 

 逃げから一転して立ち向かわれては警戒するもの。マゼランは一瞬どうすべきか躊躇したが、いずれにせよ攻撃をしなければこの逃亡劇は終わらない。止めていた巨兵の手を2人へ伸ばした。

 

 

 

「キャンドル・ウォール!」

 

 

 かわすか、あるいは厄介である女海賊が何らかの対応に動くと思われたがその予想は外れ、動いたのはMr.3。生み出したロウを使用し、マゼランと自分の間に巨大な壁を作り上げて防御を図ったのだ。

 

 

「無駄だ!地獄の審判っ!!」

 

 

 マゼランは一切動じることなく巨兵に攻撃を促す。今操る毒には鉄だろうとダイヤモンドの硬度であろうと無関係。先ほどのように毒で侵食して無効化すればいいのだから!

 

 

『――――!!』

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 命令通り巨兵の拳がロウの壁を殴り掛かる。硬度は確かなもので毒液によって構成された拳が砕け散るが、じわじわと毒がロウを染めていく。

そうなってはロウの寿命は儚い。間もなく赤に染まり切り、氷が解けていくように壁は崩壊していった。

 

 

「―――特大サービス・キャンドルウォールッ!!」

 

 

 それに替わるように新たなロウが立ち塞がる。ただし量は先ほどのものをはるかに上回り、マゼランだけではなく巨兵よりも大きくなって道を阻んできた。

 

 

「無駄と言ったはずだ!」

 

 

 マゼランの言葉通り、いくら規模を大きくしようとやはり焼け石に水でしかない。再び巨兵が拳を振りかざして壁を壊しにかかる。

 

 

 

 ところが、今度は上手くいくことはなかった。

 

 

「キャンドル・ウェーブ!」

 

 

ドロリッ!

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 毒液が触れる寸でのところで、固まっていたロウが突如液状に戻り始めた。マゼランの仕業ではない。ロウを固めることが出来るのならばその逆も然り、Mr.3が自ら壁を取り崩したのだ。

 

 

 

「うぶ……っ!」

 

 

 融解し形を保てなかったロウが一気にマゼランへなだれかかった。鉄の硬度に凝縮されてなお巨大な壁だったロウ。その分子同士を繋げあっていた強力な圧力もなくなり、白の大津波と化したロウが毒のマゼラン達を一気に呑み込む。

 

 その瞬間を見逃さず、Mr.3は畳みかけた。

 

 

「食らうガネ!キャンドル・ロックッ!」

 

 

 ガチガチガチ…ッ!

 

 

(……!?動けん…!)

 

 

 マゼランに降りかかったロウが再び硬度を帯びていく。しかもその速度は速く、毒の巨兵を動かそうとする前に体の自由を奪ってしまった!

 

 

「貴様のその毒の怪物は確かに恐ろしいものだガネ………だが!観察したところ主である貴様と動きを連動しなければ動いていない!ならば主体である貴様の動きを止めればどうということはないガネッ!!」

 

 

「……!」

 

 

 動きを止めたことを確認したMr.3が大きく断言した。

少し前まで逃げることしか考えていなかった男の発言とは思えないが、Mr.3の読みは正しく、地獄の審判は〝地獄の支配者〟であるマゼランの行動を第一としており自らの意思はない。そのため、命令が下らなければただの巨大な毒の像でしかないのだ。 

 

 

「このままロウに呑まれるが良いガネ、マゼランッ!!」

 

 

 そうなればもう怖くはない。さらにロウをマゼランへ殺到させ、得意の暗殺術でMr.3は詰めにかかった!

 

 

 

「………確かにその通りだ。猛毒の力を得る代わりに、毒竜(ヒドラ)のように意志だけではこの毒の巨兵は動かせん」

 

 

既に身体をロウに包まれ、残すは顔だけという後のない状況となったマゼラン。なのに全く慌てた様子はなく、それどころかMr.3の推測を肯定したではないか。

 

 

「――だがな」

 

 

 その上でマゼランは続ける。いつの間にか、ドロドロと体に纏わり続けていたロウの動きが止まっていた。

 

 

「俺の身体の毒も同じ性質になるということを見逃しているぞっ!(ズズズズ!)」

 

 

 瞬間、虚言ではないことを証明するかのように体中のロウが真っ赤に染まり上がる。毒の巨兵と同じく触れていたロウに毒を侵食させたのだ!

  

 

 

「…っ!」

 

「同じ戦法は効かんっ!いい加減観念するんだ!(バリバリ!)」

 

 

 無効化したロウを一気に剥がし取り、強張った顔のMr.3を睨む。不意打ちを受けてしまったが結果的に被害はなく少し手間取っただけ。これ以上好きにはさせまいとマゼランが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もう貴様らに!希望な……………ど………?」

 

 

 

 

―――大人でも震え上がるほどの怒声。その声は徐々に詰まっていき、結局言い終わることはなかった。

 

ふと、マゼランは自分の言葉と目の前の状況に差異があることに気づいたのである。

 

 

 

(……待て…)

 

 

 

視界に広がるのは、毒に侵食され赤色に染まったロウとフロアーの一部、及び毒が届かず無害な箇所。

 

 

 

 

そして、そのロウを展開していた囚人Mr.3。

 

 

 

 

彼は、自らの足で立ちながら自分と対峙している。

 

 

 

 

 

 

 

 

(………酒呑童子はどこへ行った!?)

 

 

 僅か前まで彼を担いでいた女が無くなっているではないか!警戒していた人物を見失えば焦りが生じるもので、マゼランの中に生まれた焦燥が彼の視野を狭める。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゅうううう………

 

 

 

 

 

 そのため彼女の居場所を特定したのは視覚ではなく、大きな風切り音を捉えた聴覚だった。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 マゼランは慌てて音が降り聞こえた上空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――(ぶぅんっ)」

 

 

 

 

 いたのは予想通り、姿を見失っていた囚人スイカ。

 

 

 

 

 

 だが、それ以上に存在を誇張する物が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――まるでおとぎ話の〝鬼〟の武器のように。彼女の手には体躯の数倍ある巨大な金棒が握られていたのだ。

 

 

 

 

「………っ!!!(ババッ!)」

 

 

 

 正確にはロウによって作り出された模造品だが、その色は漆黒。それが意味することを把握したマゼランは、全ての考えをかなぐり捨てて防御姿勢を取った。

 

 

 

 

 

がし…っ!

 

 

 

 

 

「―――そおおおおおぉぉおおらぁぁああああああああああああっっ!」

 

 

 

 

 

 

そして。スイカは両手で獲物を握り直し、空気を揺るがす大音声と共にマゼランへと振り下ろした!

 

 

 

 

 

ごっずうぅぅぅぅぅん!!

 

 

 

 

「!?ぐっ………がぁああああああああっ!!」

 

 

 

 そして攻撃を防いだ瞬間、マゼランは悲鳴を抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

大砲が腕に直撃した?

巨人族の拳をもろに受けた?

それとも、島が一つ自分の上にでも乗っかった?

 

 

 そんな比喩が次々と浮かび上がってしまう痛みはかつて体験をしたことがないほどで、致命傷には及んでいないはずなのにマゼランの意識が飛びかける!

 

 

 

「お、おお……おおおおおおおぉおおおおっ!!(バッ)」

 

 

 

それでも己の信念だけは捨てられない。のしかかる激痛を堪え、マゼランは潰しにかかってくる凶器を全力で払いのけた。

 

 

 

 この対処に、スイカの顔が獰猛な喜色へ染まる。

 

 

 

「ほぉ!?まだやれるかいっ!だったらもういっぱぁつ!!(ゴガガガガガッ!)」

 

 

 

 狭い通路で壁が削れようと、壁を破壊してしまっても構わない。覇気を纏わせた金棒を強引に横に構えて薙ぎ払いにかかった!

 

 

「っ!じ、地獄の審判!」

 

『――!』

 

 

 マゼランが急いで毒の巨兵を防衛に回すが、骨にひびが入ったのか動かすたびに両腕に激痛が走り構えもままならない。

 それでも毒の巨兵を前に回すことには成功し、時間を作り態勢を整えられればと考えるが……彼女は〝せめて〟をも許さなかった。

 

 

 

「どっせぇええええええいいっ!!」

 

 

バチャア!!

 

 

『――――!!?』

 

 

 いっそ可笑しさを感じさせる雄叫びだが、当事者であるマゼランはクスリとも笑えない。

 まるで机上に散らばるゴミを払い除けるように、一瞬にして毒の巨兵が金棒によって弾き飛ばされたのだ!

いくら防御が十分でなかったとはいえこれほど容易に破られるとは思わず、マゼランは渋面となった。

 

 

「くそ……覇気か…!」

 

 

それを可能にしたのは間違いなくスイカの覇気の一つ、武装。覇気を纏えば実体を掴めない物でも固体として扱え、普通は触れることさえ出来ない悪魔の実最高位の自然(ロギア)系への唯一の対抗手段とされている。

 

そして上手く扱えば武器や道具にも覇気を纏わせることができ、なまくらが名刀に変化することさえある。今回スイカはMr.3が作成した金棒ならぬロウ棒に覇気を纏わせ、元々鉄に匹敵する硬度をさらに引き上げ、本物の金棒以上に破壊力を向上させたのだ。

 

 

(毒の侵食が間に合わん…!そのためにあの形にしたのか!)

 

 

 さらに、先ほどとは違いスイカの扱うロウの柱は中距離での攻撃を想定しているため全長が非常に長い。毒と接触したのは先端付近であり、スイカの手に毒が及ぶのにはもう少し時間がかかる。

 

 

それは次の攻撃を仕掛けるのに十分な猶予。スイカは動きを止めることなく、マゼランへ追撃する!

 

 

「三発目ぇえええ!」

 

 

 ずんっ…!

 

 

「ごぶっ……!?」

 

 

 今度こそマゼランの腹に金棒が叩き込まれた!比喩ではなく本当に臓器を損傷したのか大量の血が吐き出されるが、そんな言い訳など通用しない。

 

 スイカはさらに込める力を強め、勝負をつけにかかった。

 

 

「おおお……!!」

 

「ぐ………が…っ!(ミシミシ!)」

 

 

 腹にかかる圧力がさらに増していく、必死にマゼランは押し返そうとするが、傷を負うマゼランと無傷なままのスイカ。さらには要となる体力もどちらが温存しているかは明白であり、軍配が動くのに時間はかからなかった。

 

 

「……っ!(ふわっ)」

 

 

限界に至ったマゼランの足がとうとう地面から離れる。そしてほぼ同時に、金棒に籠る力が最高に達した!

 

 

「―――ぶっとべぇえええええええええっっ!!」

 

 

 ドンッ!

 

 

 射出された弾丸に負けない速度でマゼランが勢いよく弾き飛ぶ。そしてその勢いのまま、牢獄の壁に打ち付けられた!

 

 

どがああああああっ!!

 

 

 

「がっ……!?」

 

 

 さらにそこでは収まらない。ビキリと分厚い獄壁にひびが入り、あろうことか衝突した壁をぶち壊していく!

 

 

 

 

がっしゃあああああああんんっ!!

 

 

 

「ぐ……ば…があああああ……っ!?」

 

 

 

 2つほど壁を打ち抜いたか、最後にぶつかった壁でようやく砲丸と化したマゼランの動きが収まった。とはいえマゼランには立ち上がる力も残っておらず、戦うどころか動くことも出来ない。じわじわ意識が暗くなって行くのを彼は感じた。

 

 

 

 がしゃん!

 

 

「……!」

 

 

 おぼろげな意識の中、聞こえた瓦礫を踏むみつける音。意識を繋ぎながら………マゼランは臍を噛んだ。

 

 

「お……のれ…………酒呑童子ぃ……!!」

 

「……」

 

 

 目の前に立っていたのは、ここまで追いやった海賊張本人。遅くも毒が侵食したか、武器である柱はもう持っていない。ただこちらを見つめるだけの彼女は非常に無防備だった。

 

 

 

「……!ヒ………ヒ、ヒド………!」

 

 

 

ドサリ

 

 

 

 

 毒竜と。せめて目の前の…………再び世に出せば、とてつもない影響を与えるであろう女海賊だけでも倒そうと思ったが、彼の意識はそこまで。

 

 

 監獄署長就任から初めて、マゼランは任務の遂行を果たすことに失敗した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「………ふー。いくら制限されてるっていっても、こんなに本気を出すことになるとはねぇ…」

 

 

 マゼランの意識の喪失を確認し、スイカは大きく息をつく。表情はどこか硬く、結果が上手くいったことに安堵しているようにも見えた。

 

 

 

「久々に熱くなった。見事だったよマゼラン」

 

 

 健闘を称えるが届くことはない。彼女は返事を待たずに元いた場所へと戻った。

 

 

 

「ありがと3。おかげでなんとか嘘はつかずに済みそうだ」

 

 

 嘘とは、マゼランに先へ行ったルフィたちを追わせないこと。何も戦闘不能にしなくとも良かったが、結果的にはこの上ない大金星。貢献者であるMr.3にスイカは心からの謝辞を告げて上階への階段へ歩き出す。

 

Mr.3もそのあとに続きながら、恨めしそうにスイカの後頭部を見る。

 

 

「それはいいが、一瞬とはいえマゼランと一対一で対峙させられては恨みの一つもできてしまうガネ…」

 

「まぁまぁ。結果良しなんだからいいじゃないか」

 

「ぜんっぜん良くないガネ!奴の毒の怪物と対峙するときどれほど恐ろしかったか!貴様と違って私はそこまで戦闘能力は高くないんだガネ~!」

 

「そう言うなって。ほら、適材適所ってのがあるだろ?今回は3が最適だったんだから仕方ないさ!」

 

「命の危険が迫った身としては完全な人選ミスとしか思えんガネっ!」

 

 

まるで知った間柄のように口を交わす2人は、追跡者であるマゼランが気絶しているため慌てる様子はない。あとは、先に行った連中が上手く軍艦を奪えているかどうかだ。

 

 

プルプルプルプル プルプルプルプル

 

 

「!」

 

 

そんなスイカの思考を見計らったかのように、フロアーに電伝虫の鳴き声が響き渡った。

 

 

「電伝虫だ。どこカネ?」

 

「おう、確かここに……(ごそごそ)」

 

 

発声源はズボンのポケット。スイカはすぐさま電伝虫を出してやり、受話器を手に取った。

 

 

「(ガチャ)もしもし?」

 

『もしもし!酒呑童子かっ!?』

 

「ああ、ジンベエか。ちょうど今―――」

 

『急げ!早く来るんじゃっ!!』

 

「ん?」

 

 

 マゼランを抑えたと報告しようと思ったが、どうもジンベエの声が荒い。何か緊急の用事があるようだ。

 

 

「どしたのさ?」

 

『すまん…!軍艦を奪えたは奪えたが、残りの艦からの砲撃が激しい!沈められんためにもう出港してしまったのじゃ!だから急げ!距離が空いてはもうインペルダウンから出れんぞっ!』

 

「!」

 

「な、なんだって~~!?」

 

 

 スイカ……ではなくそばで聞き耳を立てていたMr.3が叫ぶ。今ようやくマゼランという恐怖が無くなったというのに、今度は地獄に取り残されるかもしれないという最悪な大問題が。Mr.3は歩いていた足を駆け足へと変更し桟橋へ急いだ。

 

 

「ゆ、悠長にしてられん!こんな地獄に取り起されるなんて絶対ゴメンだガネー!(ドヒュン!)」

 

「同意だよ!って早いなアンタ!?」

 

 

 ひょっとしたら完全な自分よりも早いのでは?そんな馬鹿な想像をしてしまうほどMr3の走りは早く、あっという間に階段の向こうへと姿を消していった。スイカも急いで階段へと突っ走り出口を目指す。

 

 

「まったくもう……!ジンベエ!どの軍艦かは見りゃあ分かんだね!?」

 

『集中砲火されておる軍艦じゃ!一目で分かるっ!』

 

「了解!じゃあねっ!(ガチャリ)」

 

 

 そこで電伝虫の念波を切る。他にも状況や最大の壁である正義の門をどうするのかなど聞きたかったが、まず優先すべきは自分が現場に向かうこと。相も変わらず海桜石が付いているとは思わせない走りで階段を駆け上がった。

 

 

 ザッ!

 

 

「3!軍艦は見えるか!?」

 

 

 地獄から唯一外が見える最終階、正面玄関へと辿り着いたスイカがMr.3がいる大門へと駆け寄る。気を失った監獄の職員が床一面に転がっており、囚人たちがここを制圧したのは明白だ。

 

 

「あ、あそこだガネ!もうあんなところにまで進んでるガネ~!!」

 

 

 慌てふためくMr.3が指さす方向を見ると………なるほど、周りの軍艦から途切れずに砲撃を浴びている軍艦が一隻。あれが脱出船と見て間違いないだろう。

 

 

「……本当に随分と進んでるね……!」

 

 

 船が浮いていたのは、最後の番人でもある政府専用通路〝正義の門〟の少し手前。どんな手段を取ったのかその大扉は開ききっていて、くぐるのは時間の問題であり残された二人には非常に不都合だった。

 

 

「ここから跳ぶ……のはさすがに無理か!」

 

 

 ここから正義の門までは軍艦を五隻以上連ねても足りない距離がある。いくら酒呑童子と言えど、弱体化した身体ではその間を跳躍して成功する保証がない。

 

 

「どうする!?指を加えて見ているなんて絶対ヤだガネ~~!!」

 

「落ち着きな3!だったら距離を詰めればいい!」

 

 

 最も可能性がある選択を否定されMr.3は恥も外聞もなくわめき散らすが、スイカは冷静なまま指示を出す。

 

 

「お得意のロウの出番だよ!あれで軍艦までつなげろ!」

 

「!!そっ、そうか!キャンドルフロアー!(ドルドルドル!)」

 

 

 つい自分の能力を失念していたが、足場が無いのならロウで作ればいいだけ。慌ててMr.3はロウを展開し、目標の船尾へと薄長く伸びたロウを伸ばした。

 

 

「こ、これで軍艦までたどり着けるガネ!」

 

「よくやったっ!さぁ急ごう!(ダダッ!)」

 

 

 即席なため手すりなどなく、人が一人通れるほどの狭い橋だがこだわっていられない。二人は急いで脱出の架け橋を駆けだす。

 

 

だが、それを海兵たちは見逃さなかった。

 

 

 

『少佐殿!インペルダウンの入り口から、何やら橋らしきものが現れました!』

 

『む…っ!?なんだあれは!?』

 

『2人あの上を走っている!囚人か!?』

 

 

「……っ、やっぱり気づかれるか!」

 

 

 囚人達が奪った軍艦は追手から逃げているため、当然インペルダウンから最も遠い海上を航行していた。ゆえに橋を届けさせるにはどうしても敵の艦隊の合間を通らねばならず、その謎の通路に気づかない方がおかしいことだったのだ。

 

 

『全艦に報告!船首の砲撃はそのまま、側方の大砲であの橋を破壊せよ!』

 

 

 

 ガコン ガコン……!

 

 

「やばい!砲撃されるぞこりゃっ!」

 

「う、海の上でそんなことされたら終わりだガネー!」

 

 

 訓練された海兵に無駄な動きはなく、一瞬にして砲口がスイカ達のいる架け橋へ殺到する。まだまだ2人は脱出船から遠く、およそ半分にも距離を詰められていない!2人は必死に足を動かした!

 

 

 

『撃てっ!』

 

 

 ドドドドンッ! 

 

 

 だが、無情にも砲撃は開始される。風を切る音を立て迫る砲丸がまず被弾したのは、スイカ達が走るより少し先のロウ。すなわち脱出の通路を断ちに来たのだ!

 

 

 

バガンッ!

 

 

「…っ!ち、やられたね」

 

 

 大砲の威力はすさまじく、敵船や海にすむ巨大な生き物にも致命傷を与えることがある。さすがのロウもその一発に耐えきることが出来ず、被弾と同時に砕けて海へ沈んでいった。

 

これで先に進む道はない。あるのは地獄へ戻る後ろ道だけ。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

「うわっと!?(ガクンッ)」

 

 

 さらに被弾の爆音は続き、同時にスイカのバランスが大きくブレた。慌てて被弾場所を探すと……そこは、先ほどまで走っていた後ろの道!それが跡形もなく崩れ落ちていくではないか!

 

 

「たっ、退路を断たれたガネ!?」

 

「……だけじゃないね。足元見てみな」

 

「!?ぎゃ~!な、なんで海水が足元にぃぃ!?」

 

 

 僅かではあるが足元に海水がたまり出し、Mr.3はパニックになってしまうが考えればなんてことはない。このロウの橋を支えていたのは、インペルダウンの入り口に固定していた部分と軍艦の船尾だけで、支柱などの補強素材は一切ない。両端を分離されれば着水するのは当然のことだった。

 

 

 

『退路を断った!確実に始末しろ!』

 

『はっ!』

 

 

 そして、海軍は今度こそ2人へ照準を合わせる。その数はざっと見ても30はあり、人を吹き飛ばすにはあまりに過剰。八方塞がりとはまさにこの状況のことだ。

 

 

 

 

「どど、どうするどうするどうするのカネッ!?このままでは確実に海の底だガネ~~!」

 

「……う~ん。まあ、この距離なら投げはいけるかな?」

 

「なぜこの絶望的な状況でそんな落ち着いているのカネ貴様は~~!?」

 

 

行く道も戻る道も無くなり、Mr.3が頭を抱えてるのに対しスイカは冷静なまま。長年裏社会に生きていたMr.3も、まだまだ彼女に比べれば青かったようだ。

 

 

 

 ガシッ!

 

 

「おうっ!?」

 

 

 突如Mr.3の視界がぶれる。足場が揺れた、とかではない。もっと強い力が働き強引に体制を歪められたのだ。

 

 

「時間がない!手荒になるけど許してくれよ!」

 

「へ!?」

 

 

 

 そして彼は気づく。

 

 

 

自分の背中を思い切り捕まれ、投てきの姿勢に入っているスイカの意図に。

 

 

 

「!!!ま、まま、まままさか――!?」

 

 

何をするか分かり慌てて止めようとするが………………すでに手遅れ。

 

 

 

 

 

 

「―――しっかり着地しな~っ!!(ブゥン!!)」

 

 

 

 スイカは、力の限りMr.3を囚人たちが乗る軍艦へ投げ飛ばした!

 

 

「ぎゃあああああああ~~~~!?」

 

 

 ものすごい風圧と共にMr.3の身体は高度を上げていき、気づいた時には目的の軍艦の上空。マストと同じ高さまで飛び上がっていた。

 

 

 

だがそこで失速し始める。力の無くなった砲丸がたどる道はひとつ。人間砲弾となってしまったMr.3も例に漏れず・・・

 

 

 

 

「(バキバキィ!)へぶふぉお!?」

 

「むっ!?お前さんは……!」

 

「ってス、3兄さんじゃねえか!?なんで空から落っこちてきたんだキャプテンバギー!?」

 

「そ、そんなもんおれが聞きたいわハデアホが!」

 

「あれ!?3~!じゃあスイカもいるのか!?あとそのケガどうしたんだ!?」

 

 

 

「……そ、そ、その奴にやられたんだガネ~…!」

 

 

 

 

「……よし。上手く甲板に落ちた」

 

 

 ただし無傷とはいかないが。とにかくMr.3が軍艦へ到着することはでき、海上に残るのはスイカ一人。あとは自分が跳ぶだけだ。

 

 

『撃てぇええ!!』

 

 

 ドン!ドドドドドッ!

 

 

「!」

 

 

その時、軍艦の大砲が一気に火を噴いた。次々と放たれる砲丸は実に正確で、正極と負極が如くスイカのもとへ一気に殺到する。

 

 

「さぁ行くかあ!!(ダダダッ)」

 

 

被弾するのは時間の問題だが、スイカはその前に動いた。

 

 

先ほどの着弾で崩れず無事だったロウの橋を走りだす。距離にすると4、5メートルだけでそんな単距離を走ればすぐ端に至るが、それも織り込み済み。跳ぶだけと助走をつけて跳ぶのとでは全く結果が違う。

 

 

 

 

 

 

「でいやああああああああっ!!(ダァン!)」

 

 

 

 そして。終わりの見えるロウを踏み台に、スイカは目的の軍艦目がけて思い切り飛び跳ねた!

 

 

 

 

ドッゴゴゴゴゴゴォォン!!

 

 

足がロウを離れてほんの1秒。かろうじて残っていたロウに砲撃の嵐が襲い掛かり、ロウの一欠片も残ることはなかった。

 

衝撃は届いたがスイカに全く傷はなく、あとは脱出船に着地すれば万事完了

 

 

 

「………!!」

 

 

……なのだが、スイカの顔は晴れない。ここにきて最大の危機が彼女を襲う。

 

 

 

 

(やばい………距離が全然足んないっ!?)

 

 

なんと、スイカが今滞空する位置と脱出艦までの間が、予想の半分ほどまでしか詰め切れていなかったのだ。

 

 

海桜石を付けたままここまでの移動、戦闘に加え、Mr.3を届けるため全力を出した彼女に初めて・・・・最悪のタイミングで疲労が顕著に露わになってしまったのだ。

 

 

 

(どうする……!手錠を取るか!?いや、完全に脱獄するまでは取らないって決めた!私が私(てめぇ)に嘘をつくわけにいかねぇだろうがバカッ!)

 

 

 手錠を取れば難なく状況を打破できる。誰よりもそのことを自負しているのだが、彼女の信念はその『最善のウソ』を許さない。たとえどれだけ逆境だろうとそこだけは頑なに揺るがすことができなかった。

 

 

(どうする…!どうするどうする……!?)

 

 

そうやって譲れぬ葛藤をしている内に失速し、スイカの身体が海へと落下していく。能力者が海に落ちれば自力では助からない。たとえ大海賊であろうとも海に嫌われていることは変わらず、インペルダウンよりもはっきりと死の予感をスイカは感じ取り―――。

 

 

 

 

 

「捕まれスイカ~~~!!(ビュン!)」

 

「っ!?」

 

 

 潔く諦めようとしたその時、その声がはっきりと耳に届いた。

 

 

 

落下しながらそちらへ首を向けると、あったのは奪取した囚人たちの軍艦。 そして、その後尾から腕をスイカまで伸ばしている麦わら帽子の青年。

 

 

 

〝ゴムゴムの実〟を食べた彼は、身体をゴムのように伸ばすことが出来るスイカと同じ能力者であり、スイカに救いの手を差し伸べたのだ。

 

 

 

「………心から感謝するよおにーさんっ!(ガシィッ!)」

 

「うおおおおっ!戻ってこ~~~い!(グィイ!!)」

 

 

スイカはためらうことなく手を掴む。それを確認し、ルフィが思い切り腕を引き戻して…

 

 

 

「お、おおおおっ!?」

 

「そりゃ~~!」

 

 

「ぶはっ!?(バギャァ!)」

 

 

 伸びた分だけ反動も強い。ゴムの特性に見事巻き込まれたスイカは、勢いよく頭から甲板へ突っ込んでいった。くしくも先ほど投げたMr.3と同じ末路を辿った瞬間である。

 

 

 

 

 

「あっ!大丈夫かスイカ!?」

 

 

ガッ!

 

 

「大丈夫さ。ちょっと驚きはしたけれどねぇ(がばっ)」

 

 

 大きな穴が空いてしまいルフィは慌てて安否を確認するが、その程度でやられては伝説と呼ばれやしない。何事も起きていない表情で抜け出てきたスイカは、そのまま空を仰いだ。

 

 

 

 

「……懐かしいな。雲も空も、このだだっ広い海も」

 

 

 

 そのまま視線は移り変り、短くない間幽閉されていたインペルダウンを見据え、彼女はつぶやいた。

 

 

 

「――悪かった。届かないだろうけど、あんたの名に泥を塗ったことを心から詫びさせてもらうよ…………マゼラン」

 

 

 

 

 

 

 こうして、インペルダウン史上初めての脱獄劇第一波は幕を閉じ―――

 

 

 

 

 

 

「さあ、正義の門をくぐったんだ。もうこれを取っても嘘にはなるまいね」

 

 

 

 バギ………バギンッ

 

 

 

 本当の意味で、大海賊は復活を果たした。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました! うぅん、自分が望んでやったこととはいえ萃香さんのスペックがものすごいことに・・・!でもこれでいいのですだ!やはり鬼の四天王にして、村雪の大好きなキャラクターの1人なのですからこうでなければ!


 さて。それでは改めてここまで丁寧に読んでいただきありがとうございます!いやはや、またしてもいわゆるご都合主義やらなんやらが含まれた投稿となりますが、少しでもワクワクだとか、次回も楽しみだ~みたいなことを思っていただければ最上の褒美でございます!

 Mr.3がパートナーみたいな今回となりますが、そこはあくまで展開上!善しか悪しかパートナーみたいなことはありません!色々と活躍した彼ですが、おそらく次回からは出番が少なくなります!そこを踏まえてまた次回も読んでいただければ!そして誤字などが疑問点あれば気軽にご指摘くださいませ!

 




 それではまた次回っ!〝伝説〟と〝伝説〟が再び顔を合わせますよ~!


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会いまみえし、怪物と怪物

 どうも、村雪でございます!

 さて、インペルダウンも抜けましてとうとう新世界前までの大山であります!


 大半が村雪の趣味にして勝手な導入とさせてもらっていますが、ちょっとでも楽しんでいただければ・・・!


それでは、


―――ごゆっくりお読みください。





「ここにいたんだね、ジンベエ。探したよ」

 

「おお、無事じゃったか。待たずに出港してすまんかった」

 

「なーに大丈夫だよ。結果的には上手くいったんだからね(ぐびぐびっ)」

 

 

 舵を取っていたジンベエのもとにスイカが近づく。その手にはどこで見つけたのかワインボトルが握られており、久々のアルコールを一気に胃袋へ流し込んでいた。

 

 

「私は全然よくないガネ!ジンベエ!貴様が早く出向してしまったせいでとんだ目にあったガネー!」

 

「(キュポン)も~。またアンタはそんなこと言って。あの時の勇ましい3はどこへ行ったんだい?」

 

「貴様が無理に付き合わせたからああだっただけで普段の私はこうだガネ~!」

 

 

 ともに残っていたMr.3は不服のようだが、残念ながら名実ともに及ばない2人を前にただ騒ぐことしかできない。

 

 代わりに後ろにいたルフィが興味深そうにスイカに話しかけた。

 

 

「でもすげーんだなスイカ。あの毒のヤツをぶっ飛ばすなんて、お前ってすげー強いのか?」

 

「ふふっ。無力ではないことは確かさ。・・・ところであの正義の門はどうやって開けた?あれは政府関係者にしか開かないはずだよ?」

 

 

 ふと気になっていたことを尋ねる。正義の門はインペルダウンの職員が操作しなければまず開くことはない。にも関わらずこの軍艦が通る時には、閉まるどころか全開になっており難なく通過することが出来た。いったいどういうことだろうか?

 

 

「ンガーっはっはっは!そんなのあちしの前では関係ないわよ~~う!」

 

「お、ボンの字か」

 

 

 その立役者であるオカマ、Mr.2 ボン・クレーが変わらない大声で策を明かした。

 

 

「(パッ) あちしがこの姿で看守に門を開けるよう命令しただけ!簡単なことねい!」

 

「!・・・マゼラン?」

 

 

 突然、ボン・クレーの姿が先ほど戦っていたマゼランと瓜二つに変化したではないか。さらに姿だけでなく声もそっくりで、これで服装も同じものを着ていれば偽者と気づくのは難しいだろう。

 

 

「あちしはマネマネの実のコピー人間!一度触れた人間をそっくりコピー出来るのよ~う!」

 

「へ~。人間だけじゃなく、能力も面白いものを持ってるじゃないかアンタ」

 

「うむ。看守もオカマ君の能力じゃと気づかんでな。裏があるのかと思うぐらいすんなりと門を開けることが出来た」

 

「ふむ。それで看守は?」

 

「拘束しておいた。閉じられないようにするため開閉レバーを破壊してからの」

 

「・・・なるほど。どおりであんな簡単に抜けられたのか」

 

 

 スイカは思わず首をすくめる。実力もそうだが、なんともこの脱獄に有効な能力者が揃ったものだ。もしも神というものがいるのならば、間違いなくこちら側の誰かを贔屓しているに違いないだろう。

 

 そんな答えの出ない思考を働かせていると、「そういえば」とジンベエが尋ね返した。

 

 

 

「何やらワシを探しておったようじゃが、それを聞きたかったのか?」

 

 

「ん?違うよ。おにーさんのことを頼もうと思ってね」

 

「・・・・・・・・・ふむ」

 

「あ!また子ども扱いしたなスイカッ!お前の方が子供だろ!」

 

 

 今度はルフィがつっかかろうとするが、スイカはジンベエを見上げたまま置きやる。ジンベエもまたスイカの目論見を考え、ルフィをなだめない。

 

 

「無論そのつもりじゃが、あんたはどうするんじゃ?」

 

 

 その答えはうっすらと予想できた。だがそれでも形式上、いったい何をする気なのかをジンベエは問うた。

 

 

 

「そりゃー、決まってるじゃないか」

 

 

 そして、ジンベエの予想は見事的中するのである。

 

 

 

 

 

 

 

「一足先に、このどでかい祭りの空気を味わいに行くのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや・・・・俺は行けと言ったぜ。息子よ」

 

 

 

 

 男は訴えられた言葉を否定し答えた。

 

 

 現時点におき、世界で最も関心が集う島〝マリンフォード〟にて、自らの船の船首に仁王立ちする海賊・・・白ひげ⦅エドワード・ニューゲート》は、家族であるポートガス・D・エースの自責の言葉を打ち消す〝嘘〟を堂々と宣言したのだ。

 

 

「・・・・・・!!嘘を付けぇ!!おれはっ、あのときあんたの言葉を!あんたの制止を無理やり振り切って――!」

 

 

 

「おれは、〝行け〟と言った!」

 

 

「・・・っ!」

 

 

 反論を吐こうとしたエースだが、有無を言わせぬ〝オヤジ〟の言葉に二の句を継げない。全ては自分のため。このふがいない自分を見捨てようとしない親の断言に涙を見せることは出来ても、文句など一つも言えるはずがなかった。

 

 

 

「おれは行けと言った・・・・・・そうだろマルコ」

 

「ああ。おれも聞いてたよい。とんだ苦労かけちまったなァ、エース」

 

「まったくだ!だがこの海じゃ誰でも知ってるはずだ!おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかって事ぐらいなぁ!!」

 

「お前を傷付けた奴ァ誰一人生かしちゃおかねぇぞエース!」

 

「覚悟しろ、海軍本部ぅ~!!」

 

 

 そして仲間である者も次々と声を荒げる。家族を捉えられ、挙句の果てには処刑を宣言されては当然の言葉が投げつけられ、海兵たちも戦意をむき出しにするのは正当防衛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 その一発触発な中、最初に〝それ〟に気づいたのは白ひげだった。

 

 

 海軍本部及び全海兵に向けていた恐れなき瞳を、自らのすぐ隣へと移した。

 

 

 

「??どうしたんだオヤジ?」

 

 

『なんだ?白ひげの奴、何処を見てるんだ?』

 

 

 前ぶりない突然の行動に、船員だけでなく警戒を最大にしていた海兵たちも何事かと声を波立たせる。そして敵の総大将である白ひげの僅かな行動さえ見逃すまいと、さらに警戒を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりのシャバはどうだ?」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・ん?』

 

 

 ポツリと、敵味方から視線を受けていた白ひげがそんなことを口走った。その意味は不可解なもので、海兵だけでなく船員たちも首を傾げた。

 

 

 

「なんだ?独り言か??」

 

 

 誰かが言うように、白ひげの近くには誰もいない。会話をする者などどこにも存在しないため、何か自分に言い聞かせていたのかと辺りは見当をつけた。

 

 

 

 

 

『―――――もちろんいい気分さ。なんせ5年ぶりの外だからね~』

 

 

 

 

――その声が聞こえるまでは。

 

 

 

『!』

 

「・・・誰だ?今の、どこから聞こえた?」

 

「わかりません。白ひげの近辺には誰もいませんが……」

 

 

 海兵たちが白ひげとその周囲を確認するが、白ひげはただ隣の下方を見つめているだけ。やはり周りには誰もいない。

 

 

 

 

「でも・・・・・・・聞こえたよな?女の声が」

 

「ああ。間違いない」

 

 

 確かなのは女の声が聞こえたということ。戦闘準備を終えていた海兵たちがあちこちへ視線を動かし声の出所を探したが、見つけることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 対して、正確に〝そこ〟を見据える人物もいた。

 

 

 

 

「・・・!まさか・・・・冗談じゃないぞ・・・・・っ!?」

 

 

 

 処刑台の上に直立していた海軍本部元帥〝仏のセンゴク〟。全海兵を率いる彼は、それが記憶に眠っていた〝とある声〟と類似していたことに気づき、幾筋もの冷や汗を頬に流す。

 

 

 

 

「・・・・・・アイツ、この前はそんな素振りを見せとらんかったのに・・・!」

 

「やれやれ・・・いつも厄介を起こして頭を悩ませてくれるねぇ。あのバカは」

 

 

 その処刑台の下。多くの海兵が集う広場にいた2人の英雄、ガープとつるも声に気づき、ガープは腹立たしい表情を。つるは頭が痛いとばかりに大きく息を吐いた。

 

 

 

『な・・・・・・・・っ!?』

 

『・・・・今の声は・・・・っ!』

 

 

 さらには少将、中将という並外れた実力を持つ海軍本部将校の海兵たちが、むしろ下位の兵より動揺をしてしまっている。

 

 

 その全ての視線が集まるのは敵将である白ひげの隣の空間。状況を理解できない海兵たちも、自然とそこへ目を凝らした。

 

 

 

 

 

『ましてやこんなでかいドンパチまで始まろうとしてるんだ。私は身体が疼いて疼いて仕方がないよ』

 

「ふん。おめぇがどうだろうが勝手な手出しはさせねぇがな。バカの手を借りるなんざまっぴらごめんだ」

 

『なにを~?言ってくれるじゃないかこのやろうっ』

 

 

 

 やはり白ひげの隣には誰もいない。だが、明らかに声はそこから放たれており、白ひげも何も戸惑うことなく会話をしている。姿は見えねども、まるで旧知のような口ぶりで。

 

 

 

「――それで、いつまでそのままなんだ。久々の戦いにビビってんのか?」

 

 

 

 その言葉が引き鉄だった。

 

 

 

『けっ、ぬかしなっての』

 

 

 

―――誰がビビるもんかい。

 

 

 見事な買い言葉を最後に、変化は起こり始めた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・ん?霧?」

 

 

 海兵がポツリとつぶやいたが、それはこの場にいた全員が思ったことかもしれない。

 

 空は晴天。雲もなくこれから戦争が起こるとは思えない晴れやかな気候なのに……なぜか白ひげの隣が霞みだしたのだ。突然の異変にその場にいた者全ての目がくぎ付けとなる。

 

 

 

『あんたこそびびってるんじゃないかい?もう年だろうに、無茶はジジイの身体によくないぜ?』

 

 

「グララララッ!だったらおめぇごとぶっ潰してどうってことねえところを見せてやらないとなぁ!」

 

 

『あっははははははははははは!この私をとっつかまえて言うねぇ!?それでこそあのバカ野郎に並ぶ宿敵だっ!』

 

 

 豪快な高笑いと共に霞は一層濃くなっていく。まるで何かが集まるように―――圧倒的な力が募っていくかのように。

 

 

 

『まあ、何はともあれこの恰好じゃしまらないね。よっ』

 

 

 

スゥゥゥゥ……………

 

 

 

 

 そして、とうとう〝それ〟は白ひげの隣に顕在しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕と。

 

 

そのどれもが成人のものより遥かに小さく、巨体の白ひげの膝にも及ばない体躯。

 

だが〝それ〟こそが、世界最強と呼ばれる大海賊と渡り合ってきた数少ない存在。

 

 

 

 スッ

 

 

『ふ~・・・・・。やっぱり身体があってこそだ」

 

 

 

 最後に、双角を生やす頭を現すことで彼女はマリンフォードへと君臨を果たす。

 

 

 

『!?あ、ああ……!?』

 

『!あいつってまさか……!?』

 

 

 

 そこでようやく全海兵が事態の深刻さを理解し、驚愕と焦燥が混ざった瞳でその最悪の乱入者を睨む。

 

 

 

 

 

「――――さて、まずは挨拶からかな」

 

 

 正面から浴びせられる殺気溢れる睥睨をものともせず、彼女は己の宿敵へ告げた。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、白ひげ」

 

 

「五年も待たせやがって………………あとで覚悟しときな。酒呑童子」

 

 

 

 

 マリンフォード海軍本部。この歴史ある正義の要塞に、伝説の怪物が2人揃って現れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……なんだあの子?囚人??」

 

 

 

 それは誰がこぼした言葉だろう。

 

 

 

 

 

 

 海軍本部の近海に浮かぶ諸島―シャボンディ諸島。

 

 

 今この島では、前代未聞の戦争が始まろうとする海軍本部の映像をどこよりも早く受信しており、スクリーンに映される光景を諸島の住民を始め、マリンフォードから一時避難している海兵たちの家族や召集されなかった海兵、果ては海賊などあらゆる人々がスクリーンを見つめていた。

 

 

 

 

 ゆえに突如白ひげの隣に現れた囚人服を着る少女を見逃した者は、一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「わ~、父ちゃん!あいつの頭、角があるよ!カッコいい~!」

 

「ママ、ママ!今あの子どうやってあそこに出てきたの!?私にも出来るかなっ!?」

 

 

 

 

 

 幼い少年、少女がその乱入者を見て実に子供らしい言葉を自らの親に伝えるが、子供たちより先を生きてきた彼らに返事をすることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「え・・・え?あいつって・・・・・・・・?」

 

「・・・・・・ゥソ・・・・・・・もう、死んだんじゃなかったの・・・!?」

 

 

 

「?父ちゃん?」

 

「ママ、どうしたの?」

 

 

 

 子供たちが見たのは、文字通り、死んだ者を見たかのような表情で硬直する保護者達。

 

 

 

『あ………………………!!?』

 

 

 それは彼らだけでなく、広場にいた者の大多数もそうだった。驚き、戸惑い、恐怖……そして歓喜。5年前にはもう自我を持っていた人全てが、スクリーンに映る少女をそれらの感情の籠った眼で見て離さない。

 

 

 

 

 

 

「こっ、こちらシャボンディ諸島!本社、聞こえますか!?応答願いますっ!」

 

 

 反対に慌ただしく動き出す者もいる。世界へいち早く情報を発信するため諸島へやって来ていた各機関の新聞記者たちが、我先にと懐に潜らせていた電伝虫を取り、連絡を図った。

 

 

 

「大変です!大ニュースです!現れましたっ!・・・え、いや、そうではなく!た、確かに白ひげも現れたのですが……!」

 

 

 興奮を隠すことないまま記者は続ける。

 

 

〝彼女動くところに大事件あり〟。そんな言葉が行き渡るほど、かつて新聞社にネタを与え続けた女を見て新聞記者の血が騒がずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

「海軍本部に、酒呑童子が現れたんです!・・・・・・いえ、私は至って正気ですっ!間違いありませんっ!生きてたんですよ!世界政府を恐怖のどん底に陥れ続けたあの女海賊がっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 きゅぽん

 

 

「ははは。やはり生きていたか、酒呑童子」

 

 

 

 

 

 そして、広場から少し離れた建物の屋上。元海賊王の右腕、シルバーズ・レイリーは酒の入ったボトルから口を離して笑った。

 

 

「しかし、まさかお前が白ひげと肩を並べる日が来ようとはな。長く生きてみるものだ」

 

 

 彼の目に映るのは、自分たちを始め船長であるゴール・D・ロジャーを何度も危機に追い込んだ海賊2人。だが、年を重ねれば生死に関わるそれさえ懐かしい思い出。再び酒に口をつけ、彼はつぶやいた。

 

 

 

「さて……私たちロジャー海賊団とサシで渡り合ったその実力、初めて傍観者の立ち位置から見せてもらうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しゅ・・・・・酒呑童子だぁあああああああっ!?』

 

 

 

 最新の情報が届きざわめき立つシャボンディ諸島。それだけの衝撃を与える内容なのは確かだが、当然、当地であるマリンフォードも同じこと。海兵たちは大いに驚きをあらわにした。

 

 

 

「・・・あららら・・・この一大事にスゴいのが来てくれたじゃないの。インペルダウンは無事なのかね?」

 

「アホゥ。何事か起こったからあの女が出てきよったんじゃろがい。まったくマゼランめ・・・・!」

 

「まいったねぇ~。何が起こっても動じないつもりだったのに、まさかあの女が来るとは想像にもしなかったよー」

 

 海兵の中でたった3人だけとなる海軍本部大将、青キジ・赤犬・黄猿が各々苦言を吐きながら、予想だにせぬ海賊の登場に頭を痛める。

 

 

 その中でも際立って感情を爆発させるのは赤犬だった。

 

 

「じゃからあの時、確実に処刑すべきじゃと言うたのに・・・!」

 

 

〝徹底的な正義〟を志す彼は正義のためならば一般市民が死ぬことも厭わいほどであり、その過激な思想ゆえ海兵の中には彼の存在を恐れる者もいる。

 

 

 全ては正義のため。皮肉にも悪にも通じる覇道を歩む男だが……その道を進む上で最も

厄介な存在だったのがあの海賊、酒呑童子だ。

 

 

 

 

「その代わり・・・・間違いなく俺たちは一人残らず殺されてただろうがな」

 

「クザンの言う通りだねぇ。じゃなきゃ腹立たしいけど、あれの〝家族〟が大人しくしてるはずがない。・・・・処刑執行さえも出来なかっただろうねー」

 

 

残りの2人はサカズキほど偏った思考は持ち合わせない。冷静に考え、サカズキの後悔を否定とはいかないが肯定することもなかった。

 

 

「・・・・・・・・ふんっ!」

 

 

 下らないと鼻を鳴らすサカズキだが、彼とて能ある男であり馬鹿ではない。同期の2人が言いたいことも分かるのだが・・・・・・蘇るのは五年前のあの日。

 

 

 

 

 あの時ほど己の正義を叩きのめされたことなど他にはない。

 

 

 

 

(何を甘いことを言うとるんじゃ・・・!中佐、大佐、准将少将、中将、大将・・・・・・元帥!あれほどの戦力が、たった一人に辛勝なんぞ死んでも許されるはずがないじゃろうが!!)

 

 

 今でも思い出しては腹が煮えたぎる。あのとき噛み締めた土の味、あの小憎らしい笑みは何があろうと絶対に忘れることはない。

 

 

 

「・・・何にしてもわしらのすることは変わらん。白ひげもろともアイツを消すだけじゃ」

 

「そういうことだね~」

 

「ふ~。あのときのリベンジと行こうじゃないの」

 

 

 

 それでもすぐに冷静になるのはさすが大将。赤犬は言わずもがな、黄猿も青キジもまったく動揺はない。バラバラとも言える思考を持った3人の考えが、珍しく一致したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ!フフフフッ!フフフフフフフフッ!さいっこうだ!たまんねぇ!!伝説のバケモノが二匹も揃いやがったぞ!こんなこと今まであったかぁおい!?フフフフフ!」

 

 

「キ~ッシッシッシッシッシ!初めてお前の言葉に同意だドフラミンゴ!まさかあの2人がくたばるところを見れるかもしれねぇとは!くだらねぇ召集だったが、今初めて感謝したよ~!」

 

 

 

 一方、〝王下七武海〟である2人、ドンキホーテ・ドフラミンゴとゲッコー・モリアはあろうことか大笑いしていた。

 

1人は、白ひげに劣らない怪物が現れたことへの興奮で。

もう1人は、敗北という苦渋を舐めさせられた海賊たちが命を落とす瞬間を目撃できるかもしれないという黒い期待から。

 

場違いな反応に味方である海兵から睨まれるが、2人は意識さえそちらへ向けなかった。

 

 

 

 

「ああ・・良かった・・・・・・・!出てこられたのかっ!」

 

 

 同じく王下七武海、ボア・ハンコックも如実に反応を示している。

 

ただし彼女の場合は、政府側の人間で唯一の感情である歓喜を抑えきれず、心から嬉しそうにスイカの帰還を喜んだ。

 

 

 

「なるほど……赤髪の言う通り、確かに小柄だな」

 

「…………………」

 

 

 対して反応が薄かったのが、世界最強の剣士として名高い男、〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホークと〝暴君〟バーソロミュー・くま。

 

 

 鷹の目はスイカと直の面識はない。人伝にしろ新聞記事にしろ、彼女にまつわる武勇伝を腐るほど聞いて知っているだけだ。

 

 

 スッ

 

 

 彼はそれらの情報を鵜呑みにしない。自分の手で確かめるからこそ信憑性が生まれ、彼女の実力を測れる。

 

 

「ん?やんのかお前」

 

 

 意外そうに声をあげたのは隣のドフラミンゴだった。

 

 

「・・・己の目で確認するだけだ。ヤツがただ、名声だけの張子の虎ではないことを」

 

 

 キンと、鈴の音のような高音が響く。世界に8本しかない最上大業物、黒刀『夜』。最強の剣士にふさわしい刀を抜き、鷹の目は一歩前へ出た。

 

 

 

チャキ

 

 

 そして、天へと輝く切っ先を伸ばし――

 

 

 

 

「!?待つのじゃ!何を―!」 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 ハンコックの制止など構わず、ミホークは黒刀を振り下ろした。

 

 

 

「う、ぉおおおおおっ!?」

 

「鷹の目だぁあっ!?」

 

 

 剣術を極めた斬撃は刀身の届く範囲だけでは留まらない。海を割き、まるで弾丸のように飛んでいく一太刀に海兵は目を大いに驚く。これが鷹の目。世界一の大剣豪の実力なのかと!

 

 

 

 

「「ん?」」

 

 

 

 斬撃の向かう先は、今最も獲るべき首の海賊2人。みるみるうちに目標へと迫り・・・鼓膜を震わせる轟音とともに届いた。

 

 

 

 ズガァァァアアアアンッ!!

 

 

 

 

「………っっ!?き、貴様ぁあああっ!(がしっ)」

 

 

 ハンコックが憤怒の形相で鷹の目の腕に掴みかかる。目の前で恩人に攻撃しようとしただけでも許されないことなのに、仕掛けたのは世界一の名を持つ大剣豪。極められた一太刀をもろに受けてはと、最悪の想像が頭をよぎる。

 

 

 そのときは確実にこの剣士を石にして砕いてやると、怒りをあらわにしたハンコックの顔は美しさを忘れてはいないが大きく歪み、何事かと蛇姫を見ていた海兵たちは小さく悲鳴をこぼすほどであった。

 

 

 

「・・・なぜお前が酒呑童子の身を案ずるのかは知らないが…」

 

 

だが、殺気を滲んだ目を向けられ掴みかかられても鷹の目は大きな反応せず、通り名通りの鋭く研ぎ澄まされた眼光をハンコックへと向けて謂った。

 

 

 

 

「感情に流され目の前の状況を把握できないようでは、この戦場で生きていられないぞ」

 

「なんじゃと・・・・!」

 

 

 

恩人を攻撃され、さらには身の心配もされてはハンコックも立つ瀬がない。怒りが殺意に変わろうとするのだが――――そのせいで彼女の頭は散漫になっていた。

 

 

 

 湾岸前線にいる自分たちと2人の大海賊の距離はおよそ十数メートル。

 

 

 

冷静なハンコックだったならば、世界一の剣士の斬撃がそれだけの距離で収まるわけがないことに気づけていただろう。

 

 

 

 

 

「うはははははっ!さすがにいい太刀してるじゃないか鷹の目~!」

 

 

「!」

 

 

 感心に満ちた笑い声が沸き上がる。ハッとしたハンコックが2人の大海賊の方へ視線を戻すと―――

 

 

 

 

「おいおい、余計なことしてんじゃねえよ。おめぇに守られるなんか腹が立って仕方ねぇぜ」

 

「ふふんっ。あんたじゃ荷が重いだろうから私が止めてやったのにねぇ~」

 

「あほんだらぁ。あんな小僧の一太刀なんかガキのチャンバラごっこと変わんねえさ」

 

 

 

「!!ああ、良かった・・・・・・・!!」

 

 

何事もなかったように悪態を付く白ひげと、同じく白ひげの正面で小さな手のひらを前にさし向けるスイカの姿があった。ハンコックは怒りに満ちた顔を安堵に一転させて大きく胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

(せ・・・・世界一の斬撃を止めただと!!?)

 

 

 

 しかしそんな反応をするのは彼女一人だけ。多くの海兵――この戦場ではまだまだ青い部類だが―――は鷹の目の一撃を無傷で済ませたことを信じられないと目を疑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・散らしおったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガープは違う。幾十年と彼女と相対してきた男は一瞬でそのカラクリを見抜き、気に食わないと鼻息を吐いた。

 

 

「ふんっ、あいつめ。わしの拳はぜ~んぶ受け止めておったのに、随分と弱腰になりおったわい」

 

「馬鹿、何言ってるんだい。そういう問題じゃないよ」

 

 

 そんな彼を隣のおつるが窘めた。彼女もまたスイカを見つめて離さない。

 

 

「ガープ。あんたも分かってるだろう?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あのバカは、万が一にも後ろの白ひげに届かないように能力を使ったんだ」

 

 

 そのままおつるは続ける。そこに一切の楽観はない。最も可能性があり、最も考えたくない可能性を彼女ははっきりと告げた。

 

 

 

「どういうつもりか知らないが・・・・・少なくともこの戦争では、本気で白ひげと組むつもりみたいだよあいつは」

 

「・・・まったく、本っ当にあいつぁロジャーに負けん爆弾女郎(やろう)じゃい」

 

 

聖地マリージョアを襲撃し続けるだけでも前代未聞だというのに、今回のインペルダウン脱獄に加え、敵対しているはずの伝説との共闘。

 

 

 まるでそれが当然かのように次々と伝説を築いていくその姿は、良くも悪くも歴史に名を遺すにふさわしかった。

 

 

 

 

「ましてやこの状況で〝あいつら〟が来てみな。ただでさえ冗談じゃすまない状況なのに、また海軍に苦い思い出が増えるよ」

 

「情報じゃと手は出さんということじゃが・・・・」

 

「〝親〟であるあいつの姿を見て、それを守る連中かどうか怪しいと思うがね」

 

 

 本部で起こる全てはシャボンディ諸島にも伝わる。それを見逃すほど〝奴ら〟も情報をおろそかにする連中ではないだろう。

 

 

 

「いかな事態にも!たとえどのような予想外が起ころうがとまどうな!!」

 

『!!』

 

 

そんな2人の懸念を・・・・・あるいは海兵全てに広まりつつある恐れをかき消すかのような強声が響き渡る。

 

 

 

「全ては平和のため!罪なき人々が笑顔で生活をしていくことを可能にするため!恐れるな!傷を負うことを!命を落とすことになろうとも!!」

 

 

 声を張り上げるのは全海兵の上司となるセンゴク。彼は己が身を置く元帥という地位を忘れることなく、束ねる者として全海兵を激励する。

 

 

「明日より未来が幸せで溢れる世界であるように!正義の言葉を背負う者達よ!か弱い庶民のため、どのような障害が立ち塞がろうとも、臆することなく立ち向かえぇえええええ!!」

 

 

 

――――ウォオオオオオオオオ!!

 

 

 

 それは海兵の恐れを消すには十分なエール。恐れはひとつ残らず霧散し、代わりに残るのは並ならぬ闘志だけであった。

 

 

 

 

「おーおー。やはり祭囃子はこうでなくちゃねぇ!」

 

 

 にもかかわらず、敵である海兵の戦意が向上したことに利益などないはずなのに、火種となったスイカは戸惑うどころか嬉々としてその光景を眺めている。

 

 

 

「まったく、勝手に仕切ってんじゃねえぞ。これぁおれたちの喧嘩だ」

 

「悪い悪い。だったら幕開けの合図はあんたに渡してやるよ。しょぼい狼煙は興醒めだぜ?」

 

「ほざけ。おめぇに劣るわけねぇだろうが(ググ・・・!)」

 

 

 

 白ひげにも一欠片の恐れも戸惑いもない。左拳を右肩に、右拳を左肩に寄せて力を込める。

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

「さぁ来たぞい・・・・〝グラグラの実〟の能力・・・地震人間〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート!」

 

 

 その動作が何を起こすかを理解し、いよいよ決戦が秒読みとなりガープは歴戦の風格を灯す目つきとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、それに負けねぇ能力・・・・・〝ギュムギュム〟の実の〝密度人間〟!〝酒呑童子〟アイル・D・スイカ!!

 

 

 

 

 油断なんざ一欠片もするなよぉ・・・あいつらは世界を滅ぼす力を持っとるんじゃ!!」

 

 

 

 

 

 そして、とうとう歴史を動かす契機となる大戦争―――頂上戦争は幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!うん、正直今回は読者の皆様に異論といいますか反論あるのではないかと思う投稿となりますね。


 その第一要素である萃香さんの悪魔の実の能力名。これは申し訳ないのですが、完全に村雪が一存で勝手につけました!もっとピッタリな名前とかあっても、ひとまずはこのままでいかせてもらうつもりでございます!

 読んでくださる皆さんが次回も読んでいただけることを願い、今回もいじいじとした後書きとさせていただきます!文章に間違えなどあれば気楽にご連絡してくださいね!



 それではまた次回!頂上戦争開戦ですよ~!



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開戦―単騎、なれど伴うは千人力

どうも、村雪でございます!梅雨もそろそろ終わりで夏が来ますねー!

 さて、今回から頂上戦争に突入するわけですが・・・なんというかもう、ご都合主義と言いますか、語彙がないと言うか描写が下手と言うか!色々と思われる部分があると思われます。後書きでも書かせてもらいますが、ひとまずは一読してもらえることを願って!


頂上戦争、開戦です!


――――ごゆっくりお読みください。




ザバァァァアア!!

 

 

 津波――それは海のある場所では当たり前に発生する自然現象。

 

海に面するマリンフォードでも常日頃見られるものなのだが、今そこにいる海兵たちは揃って目を剥いていた。その津波が彼らの経験したことのない規模で2箇所同時に襲い掛かって来ては致し方ない反応だった。

 

 

 

『なっ・・・なんだあの津波は~!?』

 

『でかいなんてもんじゃねぇぞおおおお!?』

 

 

彼らの視界に映るのは、自分たちの本拠地である海軍本部よりもさらに巨大な大津波。

 

軽々とマリンフォードを呑み込める自然の猛威を引き起こした白ひげは、高らかに笑いながら満足そうにその光景を眺め、隣にいるスイカは爛々と目を輝かせて派手な開戦の合図を称賛した。

 

 

 

 

「グラララララッ!これで満足かぁ!?」

 

「ひゃ~~~っ!こりゃ悔しいけど参った!最高だよ白ひげー!」

 

 

 

もしも津波がマリンフォードを呑み込んだとすれば白ひげたちの目的であるエースの身にも危険が及ぶが、そんな重要なことは互いに百も承知。これはあくまで開戦の合図に過ぎず、これしきで終わるようなやわな相手ではないと分かっていた。

 

 

 

 

 

パキパキパキパキ・・・・!

 

 

それに応えるように一人の海兵が動いた。

 

 

轟々と唸りをあげる大津波の腹にそれぞれ一本の氷を伸ばし、瞬く間に山のよう津波を凍りつかせる!

 

 

 

「氷河時代(アイス・エイジ)!」

 

 

海軍本部大将の1人、青キジ。〝ヒエヒエの実〟の能力者にしてあらゆるものを凍てつかせる〝氷結人間〟が、全海兵に変わって動いたのだ!

 

 

「青キジィ・・・若造が・・・!」

 

「両刺矛(パルチザン)!!」

 

 

そのまま青キジは攻撃に移る。刺突と斬撃に特化した形状へ氷を変化させ、五つほど展開したそれらを白ひげへと放つ!

 

 

「ぬぅん…!」

 

 

 当然白ひげも迎え撃とうと左手を引き、絶大な破壊力を持つ振動を放とうとする。

 

 

 

「・・・・・・・・・(スゥゥゥゥゥ)」

 

 

 

 だが隣のスイカの方が早い。彼女は頬が丸くなるほど大きく息を吸い込み、一気に吐き出した!

 

 

 

『――――があああぁあああああぁぁああああああああああああーっ!!』

 

 

 

ビキッ!バキバキバキィィン!!

 

 

「!うぉおっとぉ・・・っ!?」

 

 

 

 生まれたのは身体全身を震え上がらせるほどの大音声。それにより生じる衝撃は迫る氷の槍を軽々と瓦解させ、後方に滞空する青キジにも及び彼の氷の身体に亀裂を走らせた!

 

 

「危ない危ない・・!やっぱり、まず船を凍らせるべきかねっ!」

 

 

 かろうじて砕けないまま青キジは凍らせた海面へ着地し、お返しとばかりに仕掛ける。狙いは航行手段。氷点下を超える冷気の手が浸された海水はみるみると凍りついていき、スイカ達の乗るモビー・ティック号、及びその親船を守備する子船の3隻。さらには湾内を超え湾頭を守備する軍艦にまで氷波は及んだ!

 

 

パキィイィイン!

 

 

「…ふん。まずは動きを、か」

 

「まあ妥当だね。しかし軍艦も凍らせちまうとは、見境なしだな~」

 

 

 慌てることなく状況を把握する2人だが、海賊である彼らには良い状況ではない。なにせ海面を凍らされたことで船の舵が取れず、動きを封じられた海賊船4隻は砲撃の格好の的なのだから。

 

 

『撃て!モビーティック号を破壊せよ!!』

 

 

 

ドンッ!ドドドドンッ!

 

 

帆船を破壊することに特化した巨大砲弾。それが一人の号令と共に何十と放たれる!正確な砲撃は見る見るうちに白ひげ海賊団の船へ迫り着弾するまで10秒とない・・・が、経験というものか、大海賊2人は慌てず口を交わす。

 

 

「一応言っとくけど、アンタの仲間になったわけじゃない。そこは勘違いしてくれるなよ、私はあんたの船のことなんか知らないからね~?」

 

「頼まれても断るに決まってんだろうが。部外者のおめえこそ勝手に動くんじゃねえぞ」

 

「あはっ。・・・そりゃ~できない相談ってやつだ」

 

「ん?」

 

 

ボォン!と、甲板に砲弾が着弾して後方で爆炎が上がるものの2人は目もくれない。会話相手の白ひげの言葉にも耳を貸さず、スイカは戦場を一瞥するのみだ。

 

 

 

 

「私がこの光景を前に大人しくしてるタチじゃないってことぐらい、アンタなら分かってるだろっ!」

 

「!おい!」

 

 

 そして彼女は世界最強の男の抑制も聞き入れず、勢いよく跳ねて船首から飛び降りる!処刑台からそれを見ていたセンゴクが即座に全海兵へ告げた!

 

 

「酒呑童子が動いたぞ!絶対にヤツを広場へ上げるなぁ!」

 

 

『おぉおおおおおおおおおお!!』

 

 

 

 

「・・・たく・・・あのバカ女が!」

 

 

興奮を滾らせる海兵にもひるまずどんどん遠ざかっていく小さな背中を睨みつけたまま、白ひげはしばらくぶりに頭を抱えた。そしてセンゴクに負けない声で船員(クルー)へと号令を出す。

 

 

「野郎どもぉ!あのバカ女に遅れるんじゃねえぞ!」

 

『うおおおおっ!』

 

 

 上に立つ者の責任として安々と動くわけにはいかない。せめてもと仲間たちに出撃を促し、好敵手に後れを取らない!

 

 

 

 ガコン・・・ッ!

 

 

 

『標的変更!偶数番で射程範囲に捉えた重砲は、酒呑童子を狙え!!』

 

 

 それでも先を走る要注意人物を見逃すはずなく、海兵たちの間に通信が走りモビー・ティック号からいくつかの砲台が氷上のスイカへと標準を変え始める。この日のために訓練された海兵の動きに無駄はなくいつでも砲撃できる態勢を取った!

 

 

 

『撃てぇ!』

 

 

ドッ!!ドドドドン!

 

 

間もなく連続した砲撃音が響きスイカ目がけて弾丸が殺到する!帆船を破壊するために作られた兵器ゆえ、人に直撃しては五体満足で済むかも怪しい。それを何十発と浴びては人としての原型さえ保つことは出来ないだろう。

 

 

 

 

「さぁ、誰が出てくるかな~・・・!」

 

 

だが、まさに現在狙われてるスイカはどこ吹く風。疾走中の海賊は凶悪な砲台になど眼も向けずこれから迎え撃つであろう強豪のことで頭を埋め尽くしている。

 

 

 

 

ボォンッ!!ボボボボボボゴォン!!

 

 

 そんな侮辱を後悔させるとばかりに海王類をも仕留める砲丸が、瞬く間にスイカへと一気に殺到していく!着弾と共に爆炎があがり、小柄なスイカの身体はあっと追う間に姿を覆われ、双眼鏡で観察していた海兵は手に持つ子電電虫へ叫んだ。

 

 

『着弾確認!!このまま〝酒呑童子〟の生死を――』

 

 

 

 

 ボファッ!

 

 

 

『っ!?』

 

 

「げっほげほげほ!ああ~煙たいなこのやろぉ!」

 

 

 海兵は目を大きく見開いた。爆炎から突き抜けた彼女からは、砲撃を受けた証の焼煙が確かに立ち込めている。

 しかしただそれだけ。怪我を負った様子など全く見せず、彼女は氷の上を駆けた!

 

 

 

 

 

「アイス塊・・・!」

 

「!まずはお前かぁ・・・クザン!」

 

 

 その進行上で構える一人、青キジへとスイカが野蛮な笑みをかたどる。そんな歴戦の海賊にも怯えることなく青キジは氷を変形させ、一人迎え撃った!

 

 

「暴雉嘴(フェザントベック)!」

 

 

 バサッ!

 

 

 形成したのは先ほどよりずっと巨大な雉の彫刻。命をも刻まれたのか氷の羽を一度羽ばたかせ、鋭いくちばしをぎらつかせスイカへと飛び掛かる!

 

 

 

「おっと、なら!」

 

 

 正面から迫る氷鳥を見て、スイカは自分の囚人服をあさり出した。無遠慮に服の内側へ手が入れられ服の中の肌が見えたりもするが全く気にすることなく、彼女は目当てのものを取り出す。

 

 

キュポン

 

 

「んぐんぐ・・・いきゅよぉ~・・・っ!」

 

 

 手にしたのは戦闘とは結び付かない一品。スイカはここ(海軍本部)へ来る前に軍艦で見つけたワインを豪快に口へ流し込み、先ほど同様大きく頬を膨らませる!

 

 

 

「大酒火(おおさけび)ぃ!」

 

 

 

ボォォォオオォォッ!!

 

 

 

 度数が強い酒には火が灯る。そこいらの兵器にも負けない勢いで火炎が視界一杯に広がり、接近する氷の鳥を完全に呑み込んだ!

 

 

「・・・!まったく。まるで〝火拳〟みたいじゃないの・・・!」

 

 

 氷人間にとって炎と熱は大弱点。奇しくもこれから処刑されようとしている海賊、〝火拳のエース〟に似た技を続けて駆使され青キジは皮肉的にも笑ってしまうが、すぐに頭を切り替える!

 

 

「アイス・サーベル!」

 

 

 ザンッ!

 

 

「む・・・っ!」

 

 

スイカと同じように口から冷気を吐き出して冷氷の刃を精製する。綺麗な曲線を描くことは出来なく刃こぼれしたような形の代物だが、切れ味は確かなもの。眼前にまで接近していた炎を切り裂き、目視できるようになったスイカへと素早く切りかかる!

 

 

 

ガヅンッ!!

 

 

「・・・・!以前より随分と重いね!随分と鍛錬したようじゃないかぁ!」

 

「5年ってのぁ一言で言うほど短い年月じゃねえってことさ。あの時と一緒にされちゃあ困るってものよ、酒呑童子・・・!」

 

 

 狙い通り氷の刃は目標へと牙を立てた。だが響いた音は肉を断つものではなく、金属同士がぶつかりあったような鈍い高音。腕と刃にそれぞれ覇気を纏っており、素人相手のような一方的な結末は起きず2人は力をせめぎあう!

 

 

 

「ははっ、それもそうだ!だが5年で私を超えられるかはどうかはまた別さぁ!」

 

 

 ググ…!

 

「・・・っとっと!」

 

 

 しかし拮抗を保てたのは数秒。刀の腹に当たったスイカの拳の力が徐々に増していき、最初とは打って変わり小柄の体躯から繰り出される一打に青キジの身体は徐々にのけ反っていく。

 

ムキになってそれに対抗することも出来たが、青キジも状況を把握しない未熟者ではない。彼は迷うことなくことなくつばぜり合いを打ち切り後ろへ跳び下がった。

 

 

「あはははっ!まだまだぁ!」

 

「当然・・・!誰も降参なんてしちゃいないのよ!」

 

 

 あくまでも態勢を整えるため。追撃に走るスイカに全く恐れることなく、青キジは再び刃を構え迎え撃とうと構える。

 

 

 

だが、ここにいるのは彼ら2人だけではない。当然乱入をしてくる者がいてもおかしくなかった。

 

 

 

ピカッ!

 

 

「!?っと!」

 

「・・・!」

 

 

 

 

再び衝突を果たそうとしたところで視界を遮るほどのまぶしい光が2人を襲った。完全に視界を奪われることとなるが、2人は揃ってその場から飛びのき攻撃をかわした。

 

 

 ズゥン!

 

 

間もなく一筋の光線が降り注ぎ、着氷した瞬間爆発するかのように光が膨張して一瞬で空間を呑み込む!!青キジはその光景を見て、自らにも危険が及びかねなかった可能性も否定しきれず大きなため息をついた。

 

 

 

「おいおい、ひどいじゃーないの。ボルサリーノ」

 

「ごめんよ~。君なら大丈夫だと思ってねー、クザン」

 

 そして犯人であろう同僚へ苦言を呈す。実行者である男も青キジの隣に降り立ち、場に似合わない呑気な声で釈明の言葉を返す。

 

 

 名はボルサリーノ。〝ピカピカの実〟を食べた〝光人間〟にして、周囲から黄猿と呼ばれる青キジと同じ海軍本部大将の1人。彼のことも知っているスイカはさらに笑みを深めた。

 

 

「光小僧~・・・あいかわらずまぶしくて目に悪い奴だ」

 

「お~、そのままおめぇの目が潰れてくれたらわっしらは大助かりなんだけどね~」

 

「はっ!とぼけた顔にあわない生意気な口ぶりは変わんないねっ!らぁ!」

 

 

 挨拶とばかりにスイカが左腕を振りかぶる。捻りもない愚直な攻撃だが彼女が放てば必殺の一撃。爆風を巻き起こしながら黄猿へと拳圧が襲い掛かった!

 

 

 

ピカッ!

 

 

「そんな単調な攻撃は当たらないよ~・・・!」

 

 

 だが威力はあれど光速の移動を可能とする男には遅すぎる。身体を光へ変えた黄猿はスイカから目を離すことなく一瞬で上空へと移動し、自らの手を逆さに重ね合わせる。

 

 

 

「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!」

 

 

今度は彼が攻撃をしかける時。周囲を曇らせるほどの暴力的な光が手のひらの中に生まれ、限界まで育った光が弾けるように尾を引いて放たれた!

 

 

ドッ、ドドドドドドッ!!

 

 

 それはまるで雨の如く、人体も貫く凶悪な光線が目測では数えられない群れとなって氷上で構えるスイカに降り注ぐ!

 

 

 

「はっはー・・・!その言葉、そっくりそのまま返してやろうか青二才っ!」

 

 

迫る光線は文字通り光速の速さ。当然見る見るうちにスイカへと距離を詰めていくのだが、当の標的はそこから動かない。彼女はただ眩しそうに上空を見上げながら負けじと能力を発揮する!

 

 

 

 

「厭霧(しょうむ)!」

 

 

 スゥゥゥゥ・・・

 

 

 それはここ(マリンフォード)へきた方法と全く同じ。霧のように身体を霞ませたスイカの身体は徐々に姿を消え去り、光の雨が注ぐころには完全にその場からいなくなった。だが標的を失ったからといって光は留まらない。誰もいない氷の大地へ次々と光は突き刺さり連続して爆炎が立ち込めた。

 

 

 

「・・・天叢雲剣・・・!」

 

 

攻撃が不発に終わった黄猿が次の行動へ移る。彼が合わせた両手に再び光が集まるが、今度は遠距離を狙ってのものではなく近接戦闘を目的にした長剣へと形を変えていく。

 

 

そして切っ先を向けるのは、空中にいる自分よりもさらに上。掬うように下から上へと光剣を振り払った!

 

 

 

「いよっとぉ!」

 

「!あっはははぁ!」

 

 

 

 そこにいたのは霧散していたスイカ。覇気を纏わせて空へ掲げていた右足を、ためらいなく刃へ振り下ろす!

 

 

 ガァァァン!!

 

 

『うわ・・・っ!?』

 

 

 衝突と同時に辺りへ今まで以上に激しい光が行き渡り、注目していた海兵と海賊が一斉に腕をかざした。

 

 そんな周囲の影響など意にもせず、2人は力を込め続ける・・・!

 

「へぇ~・・・よく防いだね、昔はこれであっさりやられていた小僧がっ!」

 

「ん~・・・!昔は昔。そんな偉そうにほざくほど実力の差が今はあるのかなぁ~・・・!」

 

 

 過去を引き合いにスイカは皮肉るが、挑発の一つでぶれるようでは海軍本部大将など務まらない。黄猿は皮肉を返しながらさらに次の一手を―――

 

 

 

ガシッ!!

 

 

「んっ!?」

 

 

 その時、黄猿の身体が大きく傾いた。何かに首元を掴まれ、空中で不安定だった態勢が一気に崩れる!

 

 

(なんだぁ~・・・!?)

 

 

 真っ先に思い浮かんだのは目の前の海賊に掴まれたということだが、掴まれてる感覚がある今彼女の手をはっきりと目視でき、開いた手には当然何も握られていなかった。

かと言ってこの上空に2人以外の第三者は存在しない。ならば、自分の首元をつかむのは?

 

黄猿は首元へ視線を落とすと・・・・・・

 

 

 

 

『――――(ニコニコ)』

 

 

 いたのは現実的にして、非現実的な存在。満面の笑顔を浮かべ、人間の手のひらに乗ることが出来る程小さな〝ナニカ〟だった。

 

 

「・・・っ!」

 

 

 世界にはどれほど年を取ろうとも身長が十数センチ以上にはならない〝小人族〟という種族がいる。今首元にいるのがその小さき部族だったならば、黄猿もさほど動揺することなく対処をしていただろう。

 

 だが彼は、首を掴む〝ナニカ〟を小人族とは考えない。

 

 

 

 なぜなら、歴史に名を残した海賊〝酒呑童子〟を、そのまま縮小させたかのように容姿も角も彼女と瓜二つな小人族がこの海に存在するとは思えなかったからだ。

 

 

グイッ!

 

 

「!!おっとっと・・・!」

 

『――――!(』

 

 

 無邪気に笑ったままの小さな〝ナニカ〟だが、襟元を掴む力は見た目に反してかなり強い。比べると巨人と人ほどの差がある黄猿の身体をなんなく降り上げ、海兵たちが集うオリス広場へ向かって投擲した!

 

 

「!!危ない離れ、っわぁああああ!!?」

 

 

 離れる間もなく黄猿は広場へと落下し、その余波に何人かの海兵が巻き込まれてしまう。だが重傷というわけではなく、すり傷や打撲程度の軽傷で戦闘に支障は出ない。懸念されたのは墜落した上司の安否で、海兵達は口々に落下した黄猿へ叫んだ。

 

 

 

「き、黄猿さんっ!」

 

「ボルサリーノ大将ぉ!」

 

「大将どの!ご無事で――」

 

 

「ん~、そういえばあんなことも出来てたね~~」

 

 

『あっ』

 

 

 ゆったりとした歩みで黄猿が粉塵の中から姿を現す。一斉に上司の身体を注視する海兵達だが外傷は見受けられず、せいぜい衣服に汚れが付いたことぐらいが先ほどとの相違点。

 

 何事もなさそうだと海兵たちが安堵する中・・・・・・覇気の籠った踵落としを間接的に受け止め、その時のしびれが残る腕を落ち着かせながら黄猿はぼやいた。

 

 

「ふ~・・・・・・まったく、あんな小娘みたいな姿でこの馬鹿力。こっちの面子を叩き潰してくるところは腹が立つぐらい変わんないよぉ」

 

 

 

 

パキパキパキ!!

 

 

「アイスタイム・カプセル!」

 

 

 

 一方、黄猿を押しのけたスイカだったがまだ氷上に大将は残っている。接近戦は下策と見た青キジが氷点下の冷気を巻き起こし、人をも凍らせる寒波がスイカを呑み込んだ!

 

 

「おおおお~っ!?極寒地獄に負けない寒さだねぇえええ!」

 

 

 すでにスイカの着る囚人服は凍結しており、耐えきれなくなった衣の一部がパキリと欠け落ちる。そしてそこから服の内側へと極寒の風が入り込み、スイカの身体にも直接牙を剥いていく・・・!

 

 

 

「が、私を凍らせるにはいまいちだなぁ・・・!」

 

 

 そのままいけば完全に氷漬けにすることも出来ただろう。それをスイカが待つ道理などなく、彼女は左手を大きく掲げ、

 

 

 

「熱(ほとぼり)!」

 

 

ゴォォォ!

 

 

「っ!」

 

 

 ほぼ同時に、対峙していた青キジの頬を突風がかすめていった。しかもそれは自分の能力では生み出せない、火元でしか味わえないむせ返るような熱風。それが四方からスイカへと募っていく。

 

 

 青キジは知り得ないことだが、海兵と海賊の砲撃によってあちこちに立ち込めていた爆炎がこの時急速に勢いを無くしていった。

 

 

 

ジュウゥゥゥゥ・・・!

 

 

「今度は熱か・・・!上手く苦手な分野を突いてくれるっ」

 

 

 再び攻撃を防がれ青キジは顔をしかめた。彼女の取った行動の目的は氷結した身体、及び周辺の冷気を消し去ること。十秒とないうちに青キジが生み出した氷は水へと融解し、スイカの身体は水浸しとなった。

 

 

「ふ~~。さぁふりだしだ。もう一度やってみるかい?」

 

「もちろん。海賊相手に、しかも一番悔しい思いをさせてくれた女を前に逃げるわけにはいかないじゃぁない・・・!」

 

 

 犬のように頭を振るいながらのスイカの挑発に、青キジは笑みを浮かべながらのっかった。

三度目の衝突に進むかと思われた二人だが・・・・・・それが実現することはなかった。

 

 

 

「クザン大将に後れを取るな!我々も行くぞっ!!」

 

『おうっ!』

 

「・・・あらら。勇敢なのは結構だが、命を粗末にだけはするなよ・・・!」

 

 

 大将だけに任せてはいけないと、勇んで出てきたのが優に15メートルを超えた身長が特徴である巨人族の海兵達。元来から戦うことを生業としている彼らも恐れることなくスイカへと進撃する!

 

 

 スタンッ

 

 

「派手好きは変わらないな。当事者の俺たちがまるで部外者だよいっ!」

 

「マルコか・・・!あいにく、宿敵の船員(クルー)に気を遣う理由なんかないからね!」

 

 

 そして上空からスイカの近くに降りたったのは、白ひげ海賊団一番隊隊長・〝不死鳥マルコ〟。及び同格である各隊隊長たちが遅れまいと後ろから駆け寄ってくる。

 

 

スイカは、その歴戦の海賊である隊長たちへ堂々と叫んだ。

 

 

「私が出しゃばって気に食わねぇなら、それ以上の活躍をしてみせなガキどもっ!」

 

『言われずとも!!』

 

 

 戦争は開かれたばかり。マリンフォードでの戦いは本格的に激しさを増していく・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――やはり無駄な心配だったか。5年も籠っていては、と思ったが」

 

 

 

 

 

その戦場の光景を、“彼女たち〟は一室から眺めていた。

 

 

 

「お前たちの言った未来通りだな。つい先ほど聞いた時は正直、今回初めて外れるのかと・・・」

 

 

「ふん。なめるなよ」

 

 

 一人の言葉が言い終わる前に、同室にいた別の一人によって遮られる。

 

 

「これまで嫌というほど見たくない運命を見てきたんだ。今更そう簡単に外れてたまるか・・・・・こいつと同じというのは気に食わんがな」

 

 

 頬杖をついた女はそう吐き捨て、妙味に乏しい瞳で近くに腰かける男を睨んだ。

 

 

「そうか。・・・・・・どうした?扉の方を向いて」

 

 

 高圧的な口調で反論されてもたいして気にせず、彼女は女が睨む男へと目を移した。

 

 

「・・・あと10秒後に扉が蹴破られて、抑えられなくなったバカたちが海軍本部に殴り込もうと訴えに来るぞ」

 

 

「む・・・」

 

 

 男の言葉に彼女の表情が少し動く。内容はいずれにせよ、この場で騒がれたらそちらに気を向けてしまい時代の節目となるこの戦争を見ることに集中できなくなってしまう。彼女は即座に2人へ頼んだ。

 

 

 

「事の収拾を頼めるか」

 

「(ガタン)おい。一緒に来い」

 

「・・・ちっ。断じてお前の頼みを聞いたわけではないぞ、勘違いするな(ガタリ)」

 

 

 男は不承不承としか言えない表情の女を連れ、数秒後の波乱を収めに扉近くへと足を動かした。

 

 

 

「でもさ。実際どうするの?―――――親代(おやしろ)」

 

 

 

 

 また別の一人が煙草を咥えながら尋ねる。火種となる道具を持っていないが、彼女の人差し指が近づくと自然と火が起こった。

 

 

「海軍に文句があるのは同じってことであのジジイに共闘を提案したけど、見事に振られちゃったじゃないか。いくらこの状況でも、勝手に手を出したらまずいんじゃない?」

 

「個人的感情を切り離せばその通りね。確約を破棄して得られるのは自己満足と、誇りに対する大きな負い目・・・・私たちがあそこへ行くのは決して最善ではないでしょうね」

 

 

 別の一人が冷静に状況を分析する。・・・・口ぶりとは裏腹に手に持つ扇子は落ち着きなく揺れていたが。

 

 

「むろん、白ひげとの約束を違える気はないさ。私たちが勝手なことをして〝あいつ〟に恥をかかせるわけにはいかんからな」

 

 

 沸き上がる意見を全て考慮したうえで彼女は結論付ける。電伝虫の映像の中では、突然現れた女海賊が巨人族相手に拳を振るっていた。

 

 

 

 

「今は傍観だ。状況が変化してから動いても遅くあるまい」

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!さて、果たして皆様にどう思われたやら・・・!そろそろタグも増やしていかなあきませんね!

 ようやく始まった頂上戦争編。手錠も取れたことで、能力を使えるようになったスイカさんにはこれからもどんどん活躍してもらうのですが、今ここで断言できることが一つ・・・!
 思い切りひっかきまわします、彼女!ご都合主義だろうとなんだろうと、村雪の趣味を思い切り込めさせてもらいますので、読んでくださっている方にはいろんな意味で心構えを推奨しますね!



 そして最後に、ようやく〝彼女たち〟の姿がチラリと。まだまだ詳しくは書きませんが・・・・・・村雪は、ドーナツが大好きですだっ!ポンデリングこそ至高の一品!


 それではまた次回っ!誤字とか変なところがあったらぜひご連絡を!


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鬼-のお護りは岩の如し

 どうも、村雪です!一日空いてしまいましたが明けましておめでとうございます!今年が皆様にとって良いものでありますように!
 そして一日どころか半年以上あけての投稿!お待ちしていくださった方々、ほんッとうにお待たせいたしました!一応生きてはおりますよー!

 さて、色々と謝らないといけないところなのですが、まずはどうか文を読んでいただければ!相変わらず拙い文章で読みごたえがないかもしれませんけども…!

 それでは久しぶりにっ!

--ごゆっくりお読みください。





プルプルプル プルプルプル

 

 

プルプルプル プルプルプル

 

 

(んんっ?)

 

 

 砲丸が飛び交い、海賊と海兵でごった返す氷の戦場。安全な場などないその一帯に気の抜ける音が連続して響き渡る。それが距離の離れた人物との会話を可能にする念波を発する珍しい生物、電伝虫の鳴き声だと把握したスイカは辺りを見渡した。

 

 

 

(海兵か・・・。一斉通信ってことは、そこそこ大事な――――)

 

 

 

 ギラッ!

 

 

 

「よそ見などするな酒呑童子!おおおおっ!」

 

 

 そんなあからさまなよそ見を対峙していた巨人中将・ラクロワは見逃さず、握りしめた両刃剣を高く振り上げ容赦なくスイカの頭上に振り下ろした!

 

 

 

 

 バキィンッ!

 

 

「!んが、っと・・・!」

 

 

 

 少し腕の立つだけの人間では持ち上げることさえ出来ない、まさに力が物を言う巨人族の武器。その全力の一振りが頭頂に直撃したスイカはさすがに無反応というわけにはいかずフラフラと数歩ふらついた。

 

  

 

「!?こいつ・・・!」

 

 

 

 ただ生憎と、それは衝撃を受け止められなかったゆえに起こしただけの反応。まともに攻撃を成功させたラクロワだが全く喜ぶことがないまま叫んだ。

 

 

 

 

「ど、どんな身体をしているんだっ!」

 

 

 

 業物、とは呼べないかもしれないがそれでも長らく戦場を共にし数多くの海賊を打ち沈めてきた頼れる一刀。

 

 その長年の相棒がこうもあっさりと中腹を中心に砕け散ってしまうとは、ラクロワには信じられず信じたくない現実であった。

 

 

「―――そぉぉぉぉいっ!!」

 

 

 ガッ!

 

 

「グガ・・・っ!?」

 

 

 

 その戸惑いは戦場では命取りとなる。

 

 

 小さな拳から放たれる一振りが一気に2人の距離を詰め、ラクロワが動く前には己の顎を的確に捉えていた。身体の大きさが違えど人体である以上構造は同じであり、顎と共に脳も揺さぶられたラクロワはぐるりと白目を剥き、重力に従って巨体を沈めた。

 

 

 

「どんなも何も、こんな身体が私さ巨人海兵!見た目で判断すると痛い目に合うよ!」

 

 

 まるでからかうようなラクロワへの返事だがすでに彼の意識はない。それを確認したスイカは先ほど中断された周囲の観察を再開し、電伝虫の念波に耳を澄ませる。

 

 

(さて、何を通信しあってる・・・?)

 

 

『ーー目標はTOTTZ。 陣形を変え通常作戦3番へ移行。準備ぬかりなく進めよ』

 

 

(・・・・・なるほど、さっぱり分からん)

 

 

 ようやく聞こえてきたのは全く理解できない内容。どうやら海兵の暗号のようで海賊であるスイカが把握できる余地はなさそうだ。何か情報を獲ようとしていたため肩透かしを受けた気持ちとなってしまう・・・が、最後に続いた内容だけはスイカも理解できた。

 

 

 

『――――整い次第予定を早め、エースの処刑を執行する!』

 

 

「!!・・・おいおい、本気かよ?」

 

 

 思わず口にしてしまうスイカ。既に処刑時刻は定まっており、それは何もこの戦場で決めたことではなく、前々から世界へ伝えられていた決定事項。つまりそれは全世界の人間をだますとも言えることであり、そこまで強引に押していくほどの作戦となると・・・・・・

 

 

 

「よくもラクロワをっ!酒呑童子ぃいいいい!!」

 

 

 

方針を定めるのと同時に新手の巨人族が襲い掛かる。刀よりも破壊力がある戦斧を構え勇敢に迫ってくるのは、ラクロワと同じ中将にして同郷の男、ロンズだ。

 

 

  

「・・・・悪いね!ちょいと用事が出来た!」

 

 

 同じように迎え撃つ、と思われたがスイカがとった行動は意外にも真逆。

 

 迫るロンズに目をくれず、彼女は後方へ振り向きながら呟いた。

 

 

 

「厭霧(しょうむ)・・・!」

 

 

スカッ

 

 

「うぬっ!?」

 

 

 

 変化はあっという間だった。風に吹かれる砂のように、小さくも確立した存在感を醸すスイカの姿が徐々に薄らいでゆき、ロンズの斧が振り下ろされた時には完全に姿を消し去っていた。

 

 

 それは〝ギュムギュムの実〟の能力者である彼女にだけ許された固有の移動手段。海をまたいでここ(海軍本部)へ来たように、スイカは目当ての人物の元へ空気を駆けた。 

 

 

 

「―――――話、いいかい?」

 

「なんだ、今さら怖気つきやがったか?」

 

 

 元の姿に戻ったのは白ひげ海賊団の母船モビー・ティック号の船首。堂々と先を走ったスイカをまた横に感じた白ひげはどこかからかうような言葉で彼女に耳を貸した。

 

 

「ばーか、違うっての。・・・ちょっと気になることを耳にしたもんで報告だ」

 

「ん?」

 

「エースだったか?あんたんとこの若いの・・・どうやらソイツの処刑時刻が早まるらしいよ?」

 

「!!・・・・・本当か?」

 

「ああ、海兵の電伝虫の連絡を聞いたから間違いない」

 

 

 内容が内容なために白ひげの顔もすぐに一変する。スイカはそれを確認したうえでさらに続けた。

 

 

 

 

「その上であんたに聞きたい」

 

「・・・・・・・」

 

「あの頭の働きにかけては随一の堅物が、ザルのように筒抜けになる方法で重要な作戦を回すと思うかい?」

 

「ありえないな」

 

「だよねぇ」

 

 

 白ひげの即答に、むしろ満足そうにスイカは頷いて見せた。

 

 

 むこうが自分達を知るように、こちらも長年海で顔を会わせた正義の猛者達を忘れるはずもない。

 

 末端に至るまで策を巡らし目標を追い詰める。ガープとは違って策士としての一面を全面的に出してきた男がそんなドジを踏むわけがないと、2人は処刑台で構える〝知将〟仏のセンゴクを一切見くびらなかった。

 

 

 

「なら、どうしてそんな方法で情報を流す?まるでこれを聞きつけて早く助けに来いと言わんばかりに、さ」

 

「・・・前に罠でも構えたか、あるいは俺たちの注意を処刑台にだけ向けさせるため、といったところか」

 

「同意見。とはいえ前に進まにゃ処刑台にはたどり着けない。だったら――」

 

「俺たちの注意が甘くなってるところを叩けばいい。・・・・丁度目につくモノがありやがるな」

 

「あぁ・・・脇の軍艦共かい?確かに前のことばかりで眼中にかけてなかったしねぇ」

 

 

 2人が警戒したのは白ひげたち海賊を左右から挟む軍艦の群れ。三日月形の湾岸に沿った形の布陣となるが、包囲網を敷くようなその配置に少なからず引っかかりを覚えたのだ。

 

 

「どうする?私がのかそうか?」

 

「余計な世話だ。おめぇはそこで指でもくわえてろ」

 

「む、あのバカみたいなこと言いやがって。ガキと一緒にすると痛い目見せるぞ~?」

 

「ふん、やれるもんならやってみろ。―――――こちら白ひげ、スクアードはいるか」

 

『はい。船長なら・・・・・あれ?おかしいな、さっきまでここにいたのに』

 

「なら、ディカルバン兄弟だ―――」

 

 

 白ひげは懐に入れていた電伝虫を取り出し傘下の海賊たちと連絡を図る。自分が指揮を取ってもいいが、戦地の状況は刻一刻と変動するため現場の人間が指示を下す方が効率的。連絡の取れたディカルバン兄弟に狙いだけを伝え、具体的な策は全て2人に任せた。

 

 

『了解!任せてくれオヤッサン!』

『了解!オヤッサン任せてくれ!』

 

 

「ああ、頼んだぞ。――――これで両脇は問題ねぇ」

 

「う~ん。と言っても、あの数の軍艦をあんたの若いの達だけで沈められるのか?ここは手堅く私が・・・」

 

「ふん、おれの家族をなめてくれるな。お前の手を借りるまでもねぇよ」

 

「・・・・むぅぅ、なんだよー。せっかく手ぇ貸すっつってんだから少しはやらせろよー」

 

 

 情報を仕入れてきたのは自分なのにと、蚊帳の外の扱いをされたスイカは分かりやすく拗ねた表情で軍艦へ向かう海賊たちを眺めた。

 

 

 

 

「・・・・なぜ俺に手を貸す?」

 

 

 そんな外見ふさわしい態度を取る彼女に白ひげは尋ねた。 

 

 

「んぁ?どうしたのさ急に」

 

 

 見上げるとこちらを凝視する白ひげと目が合う。その表情は控えめに見ても疑いが濃く、スイカを警戒しているのは明白だ。

 

 

「今まで散々俺とドンパチしてきた女がどうして手を貸すかって聞いてんだ」

 

「・・・・・・ん~、それは答えなくちゃならない?」

 

「ああ。じゃないと気味が悪くて仕方ねえからな」

 

「気味が悪いって。長年の知り合いになんてこと言うんだい全く」

 

 

 がしがしと頭をかきながらスイカはため息をついた。確かに海賊が海賊に手を貸すなど利が無ければありえないし、ましてやそれが命を取り合ったほどの関係となると用心深くならない方が愚かだと言えよう。

 そうなると誤魔化しは逆効果。スイカははぶらかすのをやめ正直に答えた。

 

 

「・・・大した理由じゃない。ちょいと面白いヤツがいてね。正直火拳の命がどうなろうと興味ないけどそいつが随分と助けたがってるもんだから、心打たれてってやつさ」

 

「・・・・・・お前を動かすか。誰だ?」

 

 

 白ひげの質問には先ほどより好奇が込もっていた。

 

 この小さな海賊は自由気ままに動く性格でその影響は大きく、行くところ行くところで騒動を起こすその姿に〝歩く災害〟と呼び称える人間も出る程だ。そしてそれらの行為全てが彼女の意思を反映させており、決して誰かの指示に従って動くようなタマではない。

 

 

 そんな彼女が、酒を酌み交わすことがあってもあくまで敵であった自分と共闘するなど天地がひっくり返ろうともありえない事態。白ひげの興味を沸かせるに十分だった。

 

 

 その心境を察したスイカは珍しい宿敵の反応に愉快そうな笑みを浮かべながら言う。

 

 

 

「ああ。聞いて驚くなよ~?なんとそいつはだ・・・・

 

 

 

 ・・・・・ね・・・?」

 

 

「?おい」

 

 

 

 その先は続かなかった。数秒経っても無言のスイカに白ひげは急かすが、それでも返事がない。

 

 

 

 

「・・・あ、ははは。本当に無茶をやるねぇ~、あの血筋は・・・!」

 

「ん?」

 

 

 ようやく返ってきたのはそんなつぶやき。いつもの小憎らしい表情ではなく、どこか呆れを感じさせる笑顔で彼女が見るのは上空だった。

 

 思わず白ひげもそちらを見ると・・・

 

 

 

 

 

『ああああああああ~~~・・・・あっ!おれゴムだから大丈夫だ!』

 

『貴様一人だけ助かる気カネッ!なんとかするガネ~!』

 

『こんな死に方ヤダっちゃブル!誰か止めて~ンナッ!』

 

『てめぇの言うことなんか聞くんじゃなかったぜ麦わら!ちくしょ~~!!』

 

 

 

 

 

「・・・・なんだありゃあ?」

 

「インペルダウンの囚人共と、面白い小僧一人さ。来るのは分かってたけどよもや空から降ってくるとはねー・・・ともかくあのままじゃまずいね、っと・・・」

 

 

 数えきれないほどの人間が、風を受ける帆と波を受ける船底をひっくり返した軍艦と共に空から降り落ちてくるではないか。予期せぬ出来事に白ひげはまゆをしかめる中、先にスイカは落ち着きを取り戻し・・・

 

 

 

 

「気溜(きだま)り」

 

 

 それらが落ちるであろう氷の大地よりやや上に差し伸ばした手を、握りしめた。

 

 

 ボフンッ!

 

 

『ぶへっ!?』

 

 

 100メートルは下らない上空から地面に落下すれば人間の身体はただでは済まない。・・・その常識に反し当事者の彼らが上げたのは気が抜けるくぐもった叫び声。

 

 圧縮した空気はその力が強いほど重いものを浮かばせる。スイカが落下地点に集めた空気がその例に漏れず、囚人たちの身体を受け止めたのだ。

 

 

 

「ほいっと」

 

『うおっ!?』

 

 

 全員が空気の上に落下したのを確認したスイカはもう大丈夫だと能力を解く。再び浮遊感に苛まれることとなるが、数メートル前後の高さなど札付きの悪共にはなんてことはない。先に落下した軍艦へ次々と上手く着地していった。

 

 

 

「やぁやぁ!海を走る軍艦でいったいどこを走ったのさねあんた達!」

 

「ぶはっ・・・!あっ、スイカ!それに・・・・・!やっと会えたぞ、エース~!」

 

 

 その例外として顔から着地してしまったルフィだが、この一連の騒ぎを起こした引き鉄にして最大の目的である兄、エースを見た途端破顔して起き上がる。身体は世界最大の監獄・インペルダウンでの戦闘であちこちから血が流れているが本人は全く気を向けない。大きく息を吸い込んだルフィはその場の全員に宣言するかのように叫んだ。

 

 

「助けに来たぞ~~!!エ~~ス~~ッッ!!」

 

 

 

 

「・・・・あれぁエースの弟じゃねぇか。あの小僧がソレか?」

 

 

「おうとも、あの若い芽が私を動かしやがったのさ。なかなか面白そうなヤツと思わないかい?」

 

 

 おそらくクルーであるエースが語ったのだろう。世間では知られていない事実を淡々と語る白ひげにスイカは愉快そうに見上げた。

 

 

「さぁな。エースはあの小僧を買ってるようだが俺はアレのことを知らねぇ。だからどう思うも何も――」

 

 

 

 ギラッ!

 

 

「「!」」

 

 

「久しぶりだな白ひげ・・・!」

 

 

 すると新たな影が2人の元へ急接近していく。四肢の一つとなっている黄金色の鉤爪を構え迫る男。それはスイカと同じインペルダウン脱獄者にして白ひげに恨みを抱く元王下七武海、サー・クロコダイルだ!

 

 

「!?ちょいま――!」」

 

 

 スイカは慌てて止めにかかろうとしたが、背後からの見事な不意打ちに無駄な動きはなく、既にクロコダイルの攻撃を止めることは間に合わず・・・

 

 

「だ~~っ!」

 

 

「!ち・・・っ!」

 

「おっと、おにーさん!」

 

 

 白ひげに触れようか、というところで雄叫びと共に2人の間にルフィが割り込んだ。砂の身体であるクロコダイルにただの体術は効かないが、以前の激闘から知り得た弱点・水を滴らせたルフィの足は完全にクロコダイルの腕を捉える。

 

 

「お前との協定は果たされた・・・なぜ白ひげをかばう?」

 

「やっぱりこのおっさんが白ひげか。じゃあ手を出すな、エースはこのおっさんを気に入ってんだ!」

 

 

 千載一隅のチャンスを邪魔されたクロコダイルは忌々し気にルフィを睨み、ルフィも負けじと白ひげを背にクロコダイルを睨んだ。

 

 

 

「小僧」

 

「ん!?なんだおっさん!」

 

 

 そんな2人を横目に見ていた白ひげが、口を開いた。

 

 

「お前がこの馬鹿を解いたのか」

 

「ちょっと!?誰がバカだい!」

 

 

 急な侮蔑に慌ててスイカが異議を唱えるが2人には届かない。意外な質問を受けたルフィは物怖じすることなく世界最強の男に尋ね返した。

 

 

「おっさん、スイカのこと知ってんのか?」

 

「あぁ。腹立たしい事によぉく知ってるさ・・・・で?」

 

「ううん、おれは何もしてねぇ。スイカが海桜石の手錠をちぎって自分から出てきたんだ」

 

「・・・だが、小僧が出てくるきっかけになったらしいな。このバカにでけぇ借しを作ったことになるが」

 

 

 白ひげはさらに質問を重ねる。

 

 

〝酒呑童子の救出〟。それすなわち世界最強の一角を思いのままに利用することも夢ではなくなる、いまだ誰も手にしたしたこともない最上の利権。上手く利用すれば同じく世界最強である自分の首・・・・あわよくば〝世界〟すらも狙えたかもしれない歴史的転換点でもあった。

 

 

 

 

「そんなのどうだっていい!おれは!おれはエースを助けるためにここまで来たんだ!おっさんと話してる暇なんかねぇんだ!!」

 

 

 しかしそれは無意味すぎる問いかけ。

 

 どこまでも無鉄砲で愚直で頑固で。ただただ兄を救いたいルフィには問答に付き合う時間も惜しく、あっさりと白ひげの言葉を受け流した。

 

 

 

「・・・グラララ。なるほど、ガープの孫か。生意気なところはそっくりだ・・・!」

 

「にひひひ。でしょ?なんとも興味を沸かせる男なのやらね~!」

 

 

 やはり血というものは争えない。英雄と呼ばれたあのタフな男に劣らない不敵な態度に、幾度も対峙してきた白ひげとスイカはたまらないと笑いをこぼすのである。

 

 

 

「おにーさん」

 

「ん?なんだスイカ!」

 

「好きなように動きなよ。この私が全力で援護を務めてやろうじゃないかっ!」

 

 

 この女海賊にそこまで言わせた者はそうはいない。いや、もしかすれば誰1人いない可能性もある。

 

 

 そんな史上初となる言葉を受けたかもしれないルフィだが・・・彼が取る行動は変わらない。

 

 

 

「言われるまでもねぇ!おれがここに来た理由はただ一つなんだ!待ってろエースぅぅぅ!!」

 

「はっはっはぁ!厭霧!」

 

 

 ルフィは勇ましい雄叫びと共に戦場へと降り立ち、それに遅れまいとスイカも再び身体の密度を薄めていく。白ひげは姿を消していくスイカへ声をかけた。

 

 

「行くのか」

 

「まぁね。お?なんだなんだ。ひょっとして私のことを心配してくれるのかい白ひげ?」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ。必ず獲ると決めた首を海軍なんざに取られちまったらたまらねぇだけだ」

 

「ちぇ。そうかよ。その海兵の狙いはどっちかって言うとアンタだってことを忘れんじゃないぞ~?」

 

「余計な世話だ。俺を誰だと思ってやがる」

 

「はんっ。そんなもん確認するまでもないさ、白ひげ」

 

 

 白ひげの挑発に近い言葉に、スイカは肩をすくめながら答える。

 

 

「ガープにあんた。そんであの大バカ野郎・・・・・・この私と張り合った男共を忘れるわけないじゃないか」

 

 

 そこでスイカの身体は完全に霧散した。向かう先は勇ましく戦場を駆けていくルフィのもと。突如現れたルーキーはおおいに海兵たちを焚きつけるのあった。

 

 

「おめぇを掴まえねぇと天竜人がうるさくてね~。麦わらのルフィ~・・・・!」

 

 

 真っ先に構えたのは一週間ほど前にシャボンディ諸島でルフィ及びその一味の捕縛を失敗してしまった黄猿だ。輝く足をルフィに突き出し・・・・!

 

 

「!よぉし!来るならこ――」

 

 

「来させたら手遅れだっての馬鹿っ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 光線が放たれるのと、ルフィの顔を鷲摑んだスイカが横へ跳ぶのは同時だった。ひと際まぶしいビームが尾を引く速度でルフィがいた場所を突き抜けていく。

 

 

「ん~、邪魔だてしてくれるねぇ。どうしてそのガキを庇うんだい~?」

 

 

 攻撃を外したことに気を留めず脚を降ろした黄猿は2人を見据える。世代が二回り以上違うであろう2人に共通点があるわけなく不思議に思うのも当然だが、それを親切に教える必要などない。

 

 

 スイカはルフィから手を放し、

 

 

「行きなおにーさん!この小僧は私が相手をしておく!」

 

「・・・!うんっ!ありがとうスイカ!!」

 

 

 情報に疎いルフィでもここまでの道のりで彼女がただの少女ではないと分かっていた。礼を告げたルフィは迷うことなく処刑台へと奔走し、その姿を確認したスイカがさらに叫ぶ。

 

 

「ジンベエ!イワンコフ!しっかり援護してやんな!」

 

「ああ!任せいっ!」

 

「引き受けたっちゃブル!ヒーハ~~!」

 

「んがーはっはっは!あちしも頑張るわよスイカちゃ~ん!!」

 

 

 そのあとをMr.2、ニューカマーランドの囚人たちが怒涛の勢いで続いていく。海兵の注意を引くには十分な行列であったが・・・・・・黄猿は一切そちらに構わなかった。

 

 

「ふ~~、仕方ない。今は見逃すしかないねぇ・・・」

 

「おや。てっきりまた光でおにーさんを攻撃をするのかと思ってたんだが」

 

「おめぇが横槍を入れてくるのは明白じゃないかぁ。わっしは出来るだけ無駄なことはしたくないんでねー」

 

 

 それにと、黄猿は変わらず呑気な口調で続ける。

 

 

「後であの小僧を始末すればいいだけのこと。少し後回しになっただけの話だよ~」

 

「ほう?」

 

 

 その言葉の裏を真に理解した上で、スイカは笑みを浮かべつつ首を鳴らした。

 

 

「そりゃあ私を倒すのに時間はいらねえってことかい?始末どころか、何べんも私にのされてきた三下が言うようになったねぇ…」

 

「昔を引き合いに出さないでほしいもんだねぇ。でも、そう思うなら来なよぉ?時代遅れの老いぼれが~」

 

「--はっ、上等っ!」

 

 

 挑発だろうが売られた喧嘩は買うのが性分。氷を砕く勢いで踏み抜き黄猿と空いた距離を詰め・・・

 

 

「武装ぉ!ぬぅりゃあ!」

 

 

 豪っ!と荒ぶ風と共に覇気を纏う拳が繰り出される!叩きつけるような風を身体に浴びた黄猿は・・・

 

 

「八咫鏡(やたのかがみ)~・・・!」

 

 

「!なるほど隙をつこうとするのは悪くない!」

 

 

 攻撃に出るかと思われたが彼のとった行動は回避。光へ姿を変えた彼は一瞬でスイカの視界から姿を消した!

 

 

「…けど、せっかくの行き先を光の尾が教えてんのは変わってないねぇ!」

 

 

 しかしキラキラと漂う光の欠片をスイカは見逃さない。その先であろう方向--自らの後方へと拳を構え振り返った。

 

 

ピッ

 

 

「っ!?」

 

「そればっかりは変えれなくてねー・・・承知の上での策だよ~~」

 

 

 そこには予想通り元に戻った黄猿が構えていた。

 

 ただ予想外だったのは彼は武器のようなもの持っておらず、かわりに二本の指をスイカの目前に突き出していたこと。

 

 

 ほんの数秒だがスイカの不意を突くには十分な一手だった。

 

 

ピカァッ!

 

 

「!!ぬぅぁあああ!?」

 

 

 その指先が輝いた瞬間、間抜けな悲鳴が響き渡った。強烈は発光は酒呑童子と呼ばれた大海賊であろうと容赦なくその視界を奪い取る!

 

 

 ピュンッ!

 

 

「おぅっ!?」

 

 

 視界と引き換えとばかりに脇腹に二度ほど焼けるような熱さと痛みが染み渡っていく。視覚を奪われた彼女には分かりえぬことだが、その時黄猿が放った二本の光線が的確にスイカの脇腹を貫通していた!

 

 

「おめぇには腐るほど借りがあるからねぇ。子供の姿だろうが容赦なんかしないよ~…!」

 

 

 そう告げた黄猿の足は既に横蹴りの姿勢を取っている。

 

 標準は人体の急所である一つ、頭部。人体最も弱い部位めがけて光速で足を払い…!

 

 

ズガンッ!

 

 

「つつ……当然だ。そんな手心加えられるほど弱いつもりはないからねぇ…!」

 

「!おっとっと…!」

 

 

 宣言どおり黄猿は手加減などしておらず、正真正銘渾身の一蹴りだった。

 

 だがそれを即頭部に受けたスイカの反応は大きくずれたもの。なにせ頭が僅かに横へぶれただけで、その足元は一歩たりとも動いていないのだから…!

 

 

「さぁ、こっちの番だぜ若僧ぉ!」

 

 

 スイカの拳が覇気を纏っていく。攻撃を仕掛けてくると判断した黄猿は足を上げたまま両手を重ね、回避に移る!

 

 

「八咫鏡!」

 

「むっ、おいおい…!」

 

 

 瞬間黄猿の身体が光となって消え去った。当然スイカは目標を失うこととなるのだが…

 

 

「私からの返しを袖にするたぁいただけないねっ!」

 

 

 彼女は変わらず拳を構えたまま、空いた右手を前に出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

「萃素(すいそ)」

 

 

 

 

 

パッ

 

 

「・・・・と・・・っっ!?」

 

 

 姿を消していた黄猿が現れた。

 

 それも構えるスイカの真正面、差し向けた掌の目の前に…!

 

 

 

 

 だがそれが不本意な登場だったのは彼の驚き、戸惑いの表情を見れば明白。その突然の事態に次は黄猿が行動を鈍らせ……!

 

 

「さぁ、遠慮せず受け取りな……っ!」

 

 

 

--砕き月っ!

 

 

その言葉を聞いていた時には黄猿の身体は空気を引き裂きながら吹き飛んでいた。

 

 

『うわっ、なんー!?』

 

『ええっ!?き、きざーーっ!?』

 

 

 届く声も最後まで聞き取れず、最前線にいた黄猿は瞬く間に後方へと押し下がる。そして……

 

 

ドガァン!

 

 

「~~っ!あいたたた・・・」

 

背を打ち付けたのは重砲を備え付ける岸の防壁。幸か不幸か頑強な造りだったために黄猿の身体は強烈な痛みとともに勢いをとめた。

 

 

「げほっ・・・やれやれ。わっしも年かねぇ・・・」

 

 

 腹に走る痛みは並みではなく少し動くだけでも眉をしかめてしまう。それでも口調を崩すことなく、落ちたサングラスをはめなおし崩れた身体を起こした。慌てて駆け寄ってくる海兵達が目に入るも意識するのは遠ざかった女海賊。再び戦場へ戻るべく身体を輝かせながら黄猿は呟いた。

 

 

「思うもの全てを集める・・・・・〝ギュムギュムの実〟の基本の能力を忘れるとは、あの老いぼれ女のことをバカに出来ないよ~」

 

 

 

 

 

 

 

「くぁ~…!やっちゃったね、光ってのも侮れないもんだまったく…!」

 

 

 一方スイカも手痛いダメージを受けている。二度放たれたレーザーは腹部に小さいながらも風穴を開け流血させており、反省と成長する敵への感心で汗をにじませながら苦笑していた。

 

 

『おのれ酒呑童子!』

 

『よくも黄猿大将をぉ!』

 

 

 その隙をつかんと様子を伺っていた海兵たちが一斉に武器を構え迫る。

 ある者は刀を、また他に銃器や拳を向けてスイカに攻撃をしようと動く数およそ20前後。その数を見たスイカは一人一人の相手を諦めた。

 

 

 

 そして、高々と掲げた両拳を握りしめ……

 

 

「まとめて落ちとけぇ!」

 

 

 

 全力で足元の氷を叩きつけた。

 

 

 バギャンッ!

 

 

 

『げっ!?』

 

『うわ~~!?』

 

 

 足元の亀裂はさらに広がっていき、手前の海兵が気付いた時にはもう手遅れ。隠れていた海水が顔を見せ、接近していた海兵たちを次々と飲み込んでいった。そしてその前に1人飛びあがっていたスイカは落ち行く海兵を確認しつつ、護衛対象であるルフィの姿を探した。

 

 

「おにいさんは・・・っと、あそこか!」

 

 

 かなり早く移動したようで既に湾岸に届く距離まで近づいている。とは言えこの場にいる海兵たちは強者ばかり。ここで再会した時よりも血が流れていて遠目にも重傷なのがわかり、思わずため息をつきたくなった。

 

 

「・・・んっ!?あいつは・・・!」

 

 

 しかしルフィが進む先で待ち構える男を見てそんな悠長な気持ちは吹き飛んだ。

 

急いでスイカは身体を霧散させようと―――

 

 

 

ゴォオォッ!!

 

 

 

「!?(バッ)」

 

 

 突然風切り音が急接近してきた。意識をルフィに向けていたためスイカは反射的に〝ソレ〟に手を差し出し・・・・・・

 

 

 

「!!うあっちぢぢぢぃぃぃぃっ!?」

 

 

 またもやたまらず悲鳴をあげてしまう。

 

だがそれも仕方ないことであり、彼女が触ったのは豪炎さえ陳腐に見える獄炎の主――マグマ。直接触れた手のひらは血のように真っ赤に焼けただれ、体勢を崩してしまったスイカは頭から落下していく。

 

 

「んぬ…っ!厭霧!」

 

 

 自分が崩して出た水面に落ちるわけにもいかず、身体を一度霧散させ氷の上にて身体を戻したスイカ。彼女ははるか遠く――処刑台のふもとで構える犯人を見定めた。

 

 

「ふ~、ふ~・・・!い~火力してんじゃないか、サカズキィ・・・!」

 

 

 いたのは海軍本部大将の1人、赤犬ことサカズキ。〝マグマグの実〟を食べたマグマ人間の男は真正面からスイカの眼光を受けたまま冷酷に笑い返した。 

 

 

「ふん、じゃったらおどれを焼き尽くして骨も残さんのもいいのう。葬儀なら喜んで引き受けちゃるぞ?大罪人が」

 

「あっは。面白い冗談を言うようになったね~。あんたが弔われるの間違いだろ?赤犬、いや、負け犬だったかな?」

 

 

互いに相手を恐れなどしない。だがこの時は時間が惜しいスイカが折れ赤犬から目を逸らした。

 

 

「あんたの相手は後だ・・・!まずは、こっちさ!」

 

 

 再び大気に溶け入り一直線でその場所へ向かう。そしてその男に迫ったところで肉体を戻して・・・!

 

 

「武装っ!」

 

「!!武装・・・!」

 

 

 

 拳と刃がぶつかる。

 

 瞬間、黒の雷が周囲に迸った。

 

 

『うあ・・・っ!?』

 

『げはぁ・・・っ!』

 

 

 自然でも聞くのが稀な激しい雷鳴が響き渡り、海兵、海賊を問わず近くにいた未熟者たちは次々と泡を吹いて気絶していく。一般に〝覇王色の衝突〟と呼ばれるその現象は覇王色の覇気を有する者同士がぶつかることでのみ発生する、いわば王の資質を持つ者たちの戦いを意味するのだ。

 

 

 

 

「・・・この黒刀を素手で抑えたのは、お前が初めてだ。酒呑童子」

 

 

 世界最強の女海賊の拳を受け止めた己の武器を見つめながら、冷静に言葉を紡ぐ男。そしてスイカもまた、世界最強の剣士を見つめながら口元をゆるめた。

 

 

 

「それは恐縮。ついでに青すぎる芽なんかより、熟れた私と戯れないかい?鷹の目」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 男、ジュラキュール・ミホークは多く語らない。通り名にふさわしい射抜くような瞳でスイカを、そしてその後ろで膝をつきながらも闘志を消していないルフィを見つめてから、一つ尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――〝麦わらのルフィ〟に、何を見た?」

 

「退屈しない未来を。あの大バカにこうも似た小僧を失うのは惜しくてね」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!うーん、久々にして新年初の投稿!萃香さんをまた出せたことの達成感と共に内容がどうだったかという不安が混み上がります…っ!
 では改めまして、久々の投稿となって申し訳ありません!心では出したい!出したいと思ってたんですけどなにかとバタバタしていた一年でしたので…なんとか今年はベースをあげたい…!

 そして作品の方につきまして!相も変わらず萃香さん押しが強いと思いますが、決して海軍の戦力が弱いわけではない、ということで色々と書いてみましたがどうだったでしょうか?個人的には白ひげと萃香さんの語り合い辺りが好きだったり!

 では長々となりましたが、戦闘描写は相変わらずですがそこを踏まえ読んでくださった人達が楽しんでもらえる作品を目指しますので、今年もよろしくお願いいたします!

ではまた次回っ!戦争中盤に突入ですよ!



 あと完全に余談ですが、サブタイトルがことのほか難しい!ここを考えるので1時間かかった上にひねりも何もないがな…!



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旧敵―だからこそ・・・!

どうも、村雪です!も~相変わらず不定期で申しわけない!まだ読んでくださる人いるかな!?

 まぁ作者の個人的な話なんかで作品を満喫できないのは良くないので、一先ずはちょっとだけでもワクワクして作品を読んでいただければ!


---ごゆっくりお読みください。








「ス、スイカ・・・!ゲホッ、ゲホッ!」

 

「ようおにーさん。随分と無茶をしたみたいじゃーないか・・・って、そりゃ初めて会った時からか」

 

「!お前、手!」

 

「ん?ああ、こんなもんどうってことないよ。治しようなんかいくらでもあるからね」

 

 

 それよりまずは自分の身を案じてほしいものだと、目の前の大剣豪から目を離すことなくスイカは思わず笑ってしまう。インペルダウンであった時もそうだがこの若者はどうも熱くなると周りを見ないようだ。

 

 

「で・・・まだ動けるのかい、おにーさん」

 

「・・・!」

 

 

 身体中から血を流していてすでに限界に近いのは明らか。心境を推し測ることも出来たが、それを無視してスイカは淡々と言葉を続ける。

 

 

「別に動けないと言っても見限りやしない。ここにいんのは全員あんたより場数を踏んでる連中ばかりで、そいつら相手にあんたはよく健闘したよ。だから恥じることなく下がりな」

 

 

 そもそも動いてられるのが不思議なほど重傷だったというのに、よくもここまで走り戦い続けられたというもの。評価することは多々あれど非難することは何一つないからこそ、スイカははっきりと戦前からの脱退を進めようとした。

 

 

 

「なに、任せなよ。あんたがいなくてもあそこから1人解放するぐらい―ーー」

 

「・・・・・・える」

 

「・・・んっ?」

 

 

小さく、しかし意志が籠った声がスイカの言葉をそこで止めさせた。思わず振り返ると・・・

 

 

 

「――まだ戦えるっつってんだ!」

 

「!・・・ほう?」

 

 

 傷と血だらけの拳を地に打ちつけ必死に起き上がろうとするルフィの姿があった。ギロリと、身を案じているはずのスイカを憎々し気に睨むルフィは思うままに叫ぶ。

 

 

「何回も言わせんなスイカッ!このぐらいのケガが何だ!エースが死ぬかもしれないってときにこんなもん関係ねぇ!おれは・・・おれはっ!エースを助けるためだけにここまで来たんだっ!それ以外のことなんて、死ぬ以外いらねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・そうかい」

 

 

 ただそれだけ。スイカはあまり反応を出すことなく口にしたが・・・

 

 

 

 

(まったく・・・本当にあのバカがちらつくね、あんたを見てると!)

 

 

 まるで子供のようにわがままなのに人一倍の人情。そして決めたことを頑なに撤回しないその姿が今は亡き宿敵とよく被る。

 

そのためスイカはルフィを止めるようなことは言わなかった。ここでやるべきはその心意気を買い、背中を押すことだろう。

 

 

「だったら立ちなよ、おにーさん。そこまで言ったからにはやり遂げて見せな。私はそれを全力で支えてやるからさ」

 

「そんなもん、いらねぇよ・・・っ!」

 

 

 その言葉も刺激となったのかルフィが先ほどまでからは想像できない勢いで身体を起き上がらせた。肩で息をしていて疲労しているのが一目瞭然だが、それが彼の覚悟を鮮明に示し、逆にスイカを満足させるのであった。

 

 

 

「はは、それだけ声を出せるなら大丈夫かな。それじゃあ」

 

 

 

 

 ズガンッ!

 

 

 その先は続かなかった。

 

 

「―――っっづ!」

 

「!スイカ!?」

 

 

 自分の名を叫ぶルフィが、海賊を討たんとする海兵、それを迎撃する海賊など視界に収まるもの全てが一斉に傾いた。長年のライバルである白ひげが〝グラグラの実〟の能力を使ったのかと思ったが、家族である船員を巻き込むような男ではないと知っていたためその考えは一瞬だった。

 

 

それよりも、今なお感じる首筋の痛みに原因があると見て間違いないだろう。スイカは傷の程度を手で確認しながら、男―――ジュラキュール・ミホークを見据えた。

 

 

「・・・ことのほか性急じゃないか。てっきり正々堂々を心掛けていると思ってたんだけど」

 

「一騎打ちならばそれもあっただろう。だが、ここは敵味方が入り乱れる戦場。道徳から最もかけ離れたこの場所に騎士道も何もあるまい」

 

「あー。ま、それもそうだね」

 

 

 むしろ十数秒、ルフィと話している間に手を出してこなかっただけでも律儀なものだ。そう自己完結をして首にあてた手を離すと・・・

 

 

「おおうっ。やっぱりいい太刀筋してるね、あんた」

 

 

 わずか。手のひらの中央小さくだが赤い血が付着していていた。皮膚が裂かれ傷を負ったということに、スイカは驚きと関心を混ぜた声で鷹の目をほめた。

 

 

「よく言う。皮肉にも聞こえてしまうな」

 

 

 対し、腕前を称賛されても鷹の目は全く表情を動かさない。愛刀にして至宝の一本である黒刀、〝夜〟を構えながらスイカを睨んだ。

 

 

「おれは一切手を抜いてない。その一振りを急所である首に与え、負わせたのがかすり傷程度では、な」

 

 

 ヒトの皮膚は刃に限らず、薄い草や紙でも摩擦により切れることがある。今スイカの首に見受けられる切り傷はまさにその程度の、傷と呼ぶには浅すぎる跡だったのだ。

 

 

「そう?だけど言っておくなら、刀傷を私に与えたやつは五人といないよ?」

 

「与えた傷に満足しても腕を鈍らせるだけだ。重要なのはその一太刀を次の一太刀で超えるという、終わりない気概だ」

 

「おぉ、なかなか良いこと言うじゃないか。嫌いじゃないよそういうのは」

 

 

 大きく口を緩めるスイカ。その顔はどこまでも無邪気に、溢れんばかりの興奮に満ちていている。

 

 

「そうなると、私のやる気もあげないとね~・・・!」

 

「・・・!!」

 

 

 右腕、左腕を。スイカは掌を外に向けて目いっぱい広げた。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁんっ!

 

 

 大きな音を立て、胸元で一つ柏手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 何か来ると警戒した鷹の目だったが、自分にも、目の前で手を合わせたままこちらを見ている少女にも変化は無い。

逆に周囲では数秒前までは戦っていた海兵が倒れたり、倒れていた海賊が手当てのため仲間に引き下げられたりと次々状況が変化しているが、戦渦の下という状況ではありふれた光景。鷹の目の注意を引くようなものはこれといって無かった。

 

 

(・・・何をした?)

 

 

力を発揮するための儀式のようなものか。あるいは何かの合図なのか。意図を読めなかった鷹の目だが、それでも油断することなくスイカを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッーーズズ――バキキーーー!

 

 

 

「!」

 

 

 

 その時、鷹の目の耳が気になる音を捉えた。ガリガリと荒々しく岩が崩れる音。何らかの力に耐えきれずに折れゆく木材の悲鳴という、なんてことはないただの雑音。

戦場を絶え間なく包む数百の音の一つ。

 

 

・・・・にすぎないのだが、世界最強の剣士は違う。

 

 

修羅場を幾度も駆け抜け養われてきたカンが、その音が求めていた答えだと訴えたのだ。

 

 

 

「さぁ、腕前拝見」

 

 

 それを裏付けるように、どこか期待を感じさせる少女の言葉も耳に届いた。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

「――――簡単に潰れてくれるなよ?ジュラキュール・ミホーク」

 

 

 

 

 

 

 バキバキ!バキベギャギャギャギャギギギギィ!!

 

 

 

 

 

 

 

左から一つ。右から一つ。

 

 

痛々しい音を立て地面に船底を削られ続ける軍艦二隻が、鷹の目を挟み込む形で勢いよく突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ごしゃああああああああああっっっ!!

 

 

 

 

『ぎゃあああ~~!?』

 

『ぜっ、全員何かに捕まれぇー!』

 

『何だぁ!!何がどうなったぁああああ!?』

 

『わ、わ分かりません!ただ・・・きゅ、急に軍艦が湾外から湾内に移動したとしかっ!』

 

『はぁあ!?』

 

 

 あちこちから海兵の悲鳴があがっていく。というのも、勢いが強ければそれだけ衝突の波紋は広がる。陸を走った軍艦は皮肉にも本来の目的とされる海よりも速度が速く、真正面からぶつかりあった勢いに乗艦していた海兵たちは一人たりとも足を甲板につけることが出来ないほどだった。

 

 

 

「さてさて。手は抜いてないけれど・・・」

 

 

 

 乗艦していた海兵達への言葉ではない。けが人も少なくない状況を目の当たりにしても、今彼女が気にするのは一人。軍艦の狭間に姿を消した男だけである。

 

 

 

「まさかこれで致命傷なんてこと、ないね?」

 

「杞憂だな」

 

 

 スパリと。衝突により横転して丸出しとなった船底。その船首側の氷に近い部分に一つ線が走った。さらに二つ、三つと長方形を縁取るように線は増えていき、四つ目が走ると同時に内側がくり抜けて人が通れるほどの穴が生み出された。

 

当然それは大破した軍艦から抜け出すための、艦内にいた者の仕業であり・・・・黒刀を携えた鷹の目がそこから姿を見せた。

 

 

「速度があろうと、俺に当たる場所を切り除けばいいだけのことだ。いくら大きかろうが人体に触れる箇所は極僅か・・・・・図体に惑わされるようでは未熟だ」

 

「さっすがだね。今のを全く取り乱さずに対応できるのは」

 

 

 不意を突かれたら個人差はあれ動揺を見せるのが人間。ところがこの剣士は無駄なく冷静に対応し、ところどころ服が汚れているだけで全くけがを負っていない。

 

スイカは1つ評価をあげるのである。

 

 

「随分と跡が伸びているが、湾外の軍艦か?」

 

 

 そして、その鷹の目は背後の軍艦を。そこから一直線に跡を残すほど抉れた氷、及び湾岸広場の一部を眺めた。

 

 

 

「そうだよー。手ぇ向けた先にあったのがそいつらだったから、遠慮なく引っ張らせてもらったぜい」

 

「そうか・・・随分と広範囲に及ぶ能力だな」

 

 

2人の場所から元々軍艦が待機していた場所は、大まかに見積もっても百メートルはある。その距離にある軍艦を航行より速く寄せつけるとは並の能力ではないと、鷹の目もまた1つ目の前の少女への警戒心をあげるのである。

 

 

「さぁて。今ので戦意を無くした、なんてことは?」

 

「皆無だ。むしろ、それぐらい出来てもらわねば興が削がれていた」

 

 

 フと、鷹の目は一瞬笑いを浮かべた。普段の無感情な表情と大きな変わりはないが、やはりその心境は違う。柄を握る手に力が籠り・・・

 

 

 

 

 

「――行くぞ」

 

「おう、いつでも来なよ」

 

 

言うが早いか、鷹の目は黒刀を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ、ザザザザザザザザザザザァッ!

 

 

 

 ただ一度ではない。少なくとも10はあろう斬撃が、狙い狂わず一気にスイカへ殺到する・・・!

 

 

 

 

「ぬっ、ううううううううううんっ!」

 

 

 彼女はかわそうとしない。上等と言わんばかりの笑みでスイカは構えた!!

 

 

 

 

「おらおらおらおらおぉらぁあああああああっ!!」

 

「ふ・・・・・・っ!!」

 

 

 

 首を狙う斬撃を、右脚を狙う一太刀を、腕を、胸を、胴を顔を角を。あらゆる箇所へ及ぶ攻撃をスイカは全て防ぐ。腕の伸びる範囲は拳で、届かないところにはそこに覇気を込め受け止める。

 

 

 その都度浅い切り傷が走るが気に留めず隙をついて鷹の目に仕掛けるが、覇気を扱えるのは彼も同じ。刀で防ぎ、時に回避をしながらスイカの攻撃をさばいていく!

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおっ!」

 

「・・・・・・!」

 

 

 だが、間接的な攻撃のため威力が劣り互いに決定打には至らない。先にしびれをきらしたスイカが身体を霧散させ、一気に鷹の目の真正面へ移る。

 

 

 

 その意図を察した鷹の目は、それまで以上に意識して両腕に力を籠め・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっっ飛べぇえ!!」

 

「やってみろ・・・っ!」

 

 

 

 

ごっっ!

 

 

 

 

 

 それは互いに出せうる最高の一打と一太刀。轟音と共に足場は一気に瓦解し2人に浮遊感が襲い掛かるが、その程度のことで動じることはない。

 

 

 

 

 

「ぬ、ぐぐぐぐぐぐぐっ!」

 

「ぬ・・・・っ!!!」

 

 

 

 

『!?げは・・・っ!』

『がっ!ま、た・・!?』

 

 

 

 

 

 陥落する地面に着地した途端、足をストッパーに2人の競り合いが再開する。容赦なく巻き溢れる覇気で辺りの海賊、海兵達が気絶しようと知ったことでない。

 

 

 

 

 

ただ目の前の強敵に打ち勝つ。

 

 

ただその一念で2人は鼓舞の雄叫びをあげる・・・!!

 

 

 

 

 

 

「うおぉおおおおおおおおおお!!!」

 

「ぉぉお・・・っ!」

 

 

 

 

 ぐぐ・・・っ!

 

 

 

 

 

 

 そして、勝敗は間も無くついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズバンッ!!

 

 

 

 

「!あづぁ・・・・っ!!!」

 

 

 

 

 後方に吹き飛ぶのは拳を繰り出したスイカだった。ごろごろと勢いよく後転の要領で引き下げられること十数メートル。勢いが止まり起き上がった彼女は悔しそうに左拳を見下ろした。

 

 

 

 

 

「づ~~っ!手ぇ抜いたつもりはないのに・・・!ここまで鈍ったかい私っ!」

 

 

 

 

 五年の拘束が響いたようで、幸い骨もあり切断とはいかなかったが親指を除いた4指の付け根に真っ赤な直線が走っている。悔しさを隠そうとせず手を睨み、スイカは1人場に残った男へと視線を戻した。

 

 

 

 

「・・・鈍ってこれ、か。まさに笑えん冗談だな」

 

 

 その鷹の目もダメージが無いというわけではない。いくら押し勝ったとはいえ僅かな緩みも許されない緊迫の競り合いで、柄を握りつぶさんばかりに力を込めた両手のあちこちには肉擦れによる出血が確認できる。

 

 

 悔しさと呆れ。2人が見せる表情だったが、次に浮かべたものは見事に一致した。

 

 

 

 

 

 

「それでも、ここまで良い腕してるとはねぇ・・・!!」

 

「それでこそ戦う価値がある・・・!」

 

 

 若くも確かな実力を持つことに関心するスイカに、轟く伝説に恥じぬ実力を確認できた鷹の目。久しい強敵に2人は笑みを剥き出しにして闘志を滾らせる・・・!

 

 

 

 

「これはまだまだ付き合ってもらわないとね~!」

 

「望むところだ・・・!」

 

 

 その間にも周囲は慌ただしく状況が動いており、それにあわせて砲火も激しくなっているがスイカも鷹の目も一切関心を向けない。

 

 

 

 

 

 

ただこの勝負に勝つ。

 

 

その一心で再び二人は――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 

 

 

「ん??」

「?」

 

 

 

 

 ところが、一歩も譲る気が無かった2人はほぼ同時に動きを止めることとなった。

 

誰かが横やりを入れてきたわけでもなく・・・そもそも実力がありすぎる2人の間に割り込もうとする命知らずはいなかったのだが、とにかく2人は周囲の妨害によって戦闘を中止したのではなく、負傷による痛みが動きを鈍らせたわけでもない。

 

 

 

原因は突然の静寂。会話も難しいほどありとあらゆる騒音に包まれていた戦場から、すべての音が消え去ったのだ。

 

 

 あまり経験のない事態にスイカも鷹の目も戦場を一瞥し・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

「あれは・・・」

 

 

 

 

――あの時浮かべた表情は、きっと1、2を争う間抜け面だったろうね。

 

 

 後にスイカはそう語るのだが、目と口を丸く開けっぱなしにするその表情はまさに間の抜けた、容姿相応の顔だった。どんな表情をすればいいか分からない・・・いや、それ以前に何が起こったのかも分からないのだろう。

 

場数を踏んだ海賊らしからぬ反応なのだが、今回に限ってはその経験こそが起こったことを鵜呑みにさせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・おい」

 

「・・・大渦蜘蛛 スクアードか?」

 

 

 

 何度も潰しにかかるが未だに達成したことがなく、反対に潰されかけたことも多々あった。それでも必ず上を行ってやると戦い続けること数十年。それでもなお決着がつかず、気が付けば酒を飲みかわすほどの関係にまでとなった男。

 

 

 

 

 

 

 

 その白ひげがああも容易く胸を刺されるなど、いったい誰が受け入れられるだろうか・・・?

 

 

 

 

 

「---~~っっ!なぁにあっさりやられてるんだいてめぇええええええ!」

 

 

 

 

 そこからの動きは速かった。身体を消したスイカは一気に白ひげの元へと猛進し、下手人である男の頭を掴み強烈に船首へ叩きつけた。

 

 

ずだぁんっ!

 

 

「ぐ・・・っ!」

 

「お前・・・お前っ!こんなガキにやられるなんざどうしたのさ!らしくないにも程があるだろうがい!おぉ!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・~っ!」

 

 

その大声はここに来て一番のものだった。溢れんばかりの怒りを、焦燥を隠さずスイカは白ひげに怒鳴るが言葉が返ってくることはない。戻ってくるのは膝をついて荒い息を零す音だけで、あまりにも知る姿から離れた態度にスイカは胆汁を嘗めたかのように顔を顰めた。

 

 

「(グイッ!)なんでこんなことした小僧!どうなるか分からなかったなんざ言わせないよ!ええ!?」

 

 

 ならば仕掛け人であるこの男に聞くしかない。詳しくは知らないが、間違いなくこの巨大な刀を扱う男 スクアードは白ひげの傘下の海賊。容赦なく襟元を掴み起き上がらせてスイカは感情のまま問い詰める。

 

 

「・・・うるせぇ!てめぇはそいつが目障りだったんだろうが!だったら口を挟んで来るんじゃねぇ!」

 

「そんなことは今どうでもいいんだよ!私は、なんで親を裏切って噛みついたのかって聞いてんだ!答えろ!!」

 

 

 スクアードの言葉が全くのウソというわけではない。だがそれを押しのけてもこの突然の謀反の訳を知りたい。

 

 

「・・・・!!何が親だっ!先に裏切ったのはそいつじゃねえかぁ!(ばっ)」

 

「あ゛ぁ!?」

 

 

さらに強まるスイカの掴みと睨みにとうとうスクアードは吐き出すように叫んだ。だがその内容は理解できずありえないこと。手を乱暴に払われたスイカは負けない迫力でスクアードを睨む・・・!

 

 

「裏切っただぁ!?白ひげが何を裏切ったって言うんだい!?」

 

「そいつはっ!おれ達傘下の海賊団43人の船長の首を売って、引き替えにエースの命を買ったんだ!!それが裏切り以外の何だっていうんだ!?」

 

「はぁ!?」

 

 

 スイカの迫力に耐えきれなくなったのか、スクアードは身体を震わせながら心の全てをぶちまけた。

 

 

 曰く、今回のキーマンである海賊 ポートガス・D・エースは海賊王 ゴール・D・ロジャーの実の子供であるということ。

 

 曰く、スクアードの昔共にいた仲間はロジャーによって全員葬られたということ。

 

 

 

 そして、この戦争に白ひげ海賊団と共にやって来た海賊団の船長全ての首を差し出すことでエースの身柄を引き渡すと、白ひげと海軍元帥 センゴクと話がついていると。

その話に不服である大将 赤犬が、白ひげの命を討つことと引き換えにスクアード率いる大渦蜘蛛海賊団の全員の安全を保障するということを、スクアードは全てを打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ばっっっっっかだね~~」

 

 

 

 

 それが、全て聞いたスイカの言葉だった。

 

 

 

 

「!?い!今なんてい」

 

「馬鹿だねぇ、って言ってるんだよ」

 

「!!てめぇえええええええ!!」

 

 

 

 どれだけの失望と葛藤を味わったと思っているのか。その上で出した結論を他人事のように侮蔑するスイカへ怒りを感じるのも人の情であり、スクアードは感情のまま白ひげを刺した大刀を振り上げた!!

 

 

 

パシッ

 

 

「!ぐ・・・!」

 

「別に、あんたの行いを否定するつもりはない。むしろそれが本当だったなら、私はあんたを讃えていたさ~」

 

「・・・!?」

 

 

 その一太刀をあっさりと掴んだスイカの顔は穏やかだった。言葉とは裏腹の反応に変化にスクアードは戸惑ってしまう。

 

 

「・・・・・・ただ」

 

 

 どういう魂胆かをスクアードが尋ねるのより、スイカの口の方が先だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの堅物はそんな甘っちょろい男じゃないし、そのヒゲはそんな雑魚じゃないんだよ・・・!」

 

 

 

 そして彼女は歩いた。膝をついたまま荒い息を吐く白ひげの足元へ、肩を怒らせながら近づき・・・

 

 

がっ!

 

 

「・・・!」

 

「いつまで膝をついてる。さっさと立ち上がりな!」

 

 

 

 胸を刺されるということは人にとってけして軽いけがではない。屈強な肉体を持つ白ひげでも例に漏れない重症なのだが、彼女は一切配慮などしなかった。白ひげが羽織るコートの襟もとを飛び跳ねて鷲摑み、力任せに自分の眼前へと引き寄せたではないか。

 

 

 そのままスイカは、白ひげに口を挟ませることなく畳みかける・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「この小僧の刀がなんだ!あんなもん、私が今まで散々かましてやったもんに比べたら塵みたいなもんだろうがぁっ!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

「なのにそんなザマ見せやがって・・・!私を馬鹿にすんなっ!!私はっ、こんな小僧なんかに劣ってるつもりはないし・・・・・・!ことごとくその私に張り合ったあんたを!そこらの砂利どもより劣ってるなんざ考えると思ってんのか!?ああ!?」

 

 

「・・・・・・!!」

 

 

 殺気さえ滲ませながらスイカは怒鳴る。致命傷を与え与えられる血生臭いとしか言えない白ひげとの関係だが、どんな形であれその感情は決して脆くない。

 

 

 

 何十年もかけ積み重なったそれは、第三者による宿敵の負傷を絶対に許さなかった・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立て!エドワード・ニューゲート!!私が・・・・この私がっ!この私が認めた男が醜態を晒すことなんか!絶対に許さぁああああああんっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ばっ!

 

 

 

 

 

 

「・・・うるせぇよ。おめぇに認められても、ただ鳥肌が立つだけだ・・・・っ!!」

 

 

 

 どう捉えられたかは分からない。

 

 だがそれでも、膝をつく彼を奮い立たせるには充分すぎた。傷口から手を離した白ひげはスイカの手をこれでもかと振りほどき、力強く立ち上がった・・・!

 

 

 

「それでいいんだよ・・・!ほら、さっさと話をつけてきな。親の務めを放棄したろくでなしが希望かい?」

 

「うるせえっつってんだ。そんなわけねぇだろうが・・・!」

 

 

 荒い息をそのままに、白ひげは己の胸を刺したスクアードの元へと足を動かす。

 

そのスクアードは顔を青くさせているが、この〝親〟を良く知るスイカはその恐怖が無用に終わると想像できた。

 

 

 

 

 

「・・・センゴク~。私はあんたの性格を知ってるつもりだし、今さらそれに文句をつける気はないさ」

 

 

 2人には目を向けず、この作戦の企てたであろう男を見据えながらスイカは頭をかく。

 

 かつて海に居たときもそう。ガープと同等の実力を持っているにも拘らずもっぱら頭脳による策を展開してきて、思考よりも行動を主軸とするスイカにとってこの上なく厄介な宿敵の1人だった。

 

 

 

 そして、〝結果的〟には5年前。その知将の策略により見事身柄を確保されたわけなのだが・・・・その事を掘り下げる気はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、私の目の前で私の獲物を腐すような策とはいい度胸してるねぇ・・・!」

 

 

 

 今言いたいのは、誰の許可を得て人の旧敵に手を出しているのかということ。状況が状況だろうがスイカにとって看過できない事案だった。

 

 

 

 

 

 

「スイカ」

 

「あ?なんだい白ひげ」

 

 

 沸々と身体に熱がこもるのを感じながら身体の調子を確かめていると白ひげが隣に立ってきた。後ろではスクアードが膝をついて涙を流しており、どうやら話はついたようだ。

 

 

 

 

 

「・・・最初に言ったな。おめぇに出しゃばらせる気はねぇと」

 

「?言ったね。でもそれがなにさ。私がそんな注意聞くと・・・」

 

「だからもう一度言ってやる」

 

 

 

 

 ピシリと。本当にそう聞こえたと誤認するほど白ひげの雰囲気が一層険しくなった。先ほどまでは呆れも含まれていたが今はなく、隠すこともない純粋なまでの殺意で彼の言葉は満ちていて・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上余計なことをするな。じゃねぇと・・・・・・本気でお前の首を獲るぞ」

 

「・・・っ!!!」

 

 

 

 

 

 久しく。本当に何年かぶりにスイカの身体全身が総毛立った。

 

 

 

 チンピラがただ口にするようなものではない。明確にその意志を持った断言だ。

しかもそれが世界最強と恐れられる男の言葉となれば、言わばほぼ確定した未来。長い付き合いのスイカはそれら全て正確に理解し、もしもこの警告を蹴ったとすれば本当に自分は明日を拝むことが出来なくなるかもしれない危険性も分かっており・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははっ♪だったら!だったらなおさら張りきらなくちゃね!!本気のあんたをぶっ潰すことが積年の目標なんだからさぁ!!!」

 

 

 

 その上で堂々と撥ねつける。

 

 

 

 

 邪魔だから引っ込め?それをはいそうですかと聞き入れる感性を持ってるなら誰が海賊などするか。

 

 

 

 首を獲る?面白い。そんな真剣勝負ならいくらでも受けて立ってやる。

 

 

 

 

 

 

 何より・・・・・・〝世界最強の海賊〟??

あの大馬鹿もそうだが、いったいいつ敗北を認め、上に立つことを許したのか答えろというものだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・大馬鹿女が・・・!」

 

「はっ!その言葉は生意気にも海賊王なんかになった本当の馬鹿にでも言いな!」

 

 

 

 

 結果的に馬鹿1人とは決着をつけることが出来なかったが、この男とは必ず白黒をつける。案外同意見なのか、スイカの力強い一蹴を聞いた白ひげも殺気は消さずとも、大きな弧を描く笑みを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なら勝手にしろ。お前に割く時間も惜しい」

 

「いいよ、この件は後の楽しみにしてやる!」

 

 

 

 そうと決まれば心行くまでケリをつけるまでだが、この男にしこりを残されたまま挑まれてはたまらない。そのためにまずはこの場の片を付ける必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く・・・・・・本当に長く望み続けた勝負の邪魔を退かすためなら!いくらでも目の敵に手を貸してやろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の運命を握る戦争が始まって一時間と三十分。海軍は元帥の仕組んだ策略により敵将 白ひげへ致命傷に至りうる攻撃に成功した。

 

 

 もちろん戦況を変える一手なのに違いなく白ひげ海賊団は当然、傘下の海賊たちにも大きな動揺を与えることに成功し、その立役者でもある人間兵器 パシフィスタの軍団投入もあって流れは一気に海兵へ傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ1つ・・・知将 センゴクが企てたこの作戦に物申すとすればこの1つ。

 

 

 

 

 この戦場に白ひげの最後のライバルの1人がいるということを想定しなかったのが、無理難題と言えど痛すぎる失態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦場で死んだ方が良かったと思わせてやる……スイカァ!」

 

「そいつぁ楽しみだ!せいぜいその時まで生き延びなよ……ニューゲートォォォオッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・!!総員構えろぉ!正念場だっ!!全てを破壊する男が!全てを支配する女が暴れ出すぞぉおおおおお!!」

 

 

 

 流れが一度変われば影響は必ず広がる。それが誰にどのように反映するかは分からないが、その変化が訪れた場所からも新たに波紋が広がりだす。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、こうなったらチマチマなんかやらないよぉ~・・・!」

 

 

 

 

 

 それを示すかのように。かつて個人でとは到底考えられないほど影響を与えてきた彼女が真っ先に動く。共に戦場へ降り立った白ひげの意思など構わず、高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミッシング・パワァァァアアアアッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これより、戦争は一気に終結へ突き進む。

 

 

 

 この書物を手にする読者の興を削ぐ可能性も十分あるが、あえて記させていただくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでの戦いが透けて見える程、戦場はさらに苛烈を極める・・・!

 




 お読みいただきありがとうございました!う~ん、妄想で大雑把な流れは出来てるのに文字にできないもどかしさっ!


 いやはや、やはり原作の知名度が高いようで多くの読者様にお気に入りしていただいてるのに投稿が遅くなり申し訳ない!
 
 一応は分かっていたのですが、就活が終わったら社会人。やっぱり時間はこれまでより取れなくて書くのがものすごく遅くなってしまいました。唯一の趣味なので続けていくつもりではあるのですが、投稿のスピードが遅くなる可能性が高いとうのは伝えさせてくださいね!本当にすいませんです!



 さて、作品では頂上戦争の顔である場面の一つを書きましたが、村雪の中ではスイカさんは〝海賊王〟にならぶ白ひげのライバル!ライバルが消えるのなら村雪は間違いなく喜ぶというチキンぶりですが、『鬼の四天王』 伊吹萃香ならばこんな反応をするんじゃないかな?と思いながら書かせていただきましたがいかがでしたでしょうか。ちょっとでも皆さんが思う萃香像にかすればよろしいのですが・・・!



 それではまた次回っ!誤字なんかあったら是非報告してくださいまし~!
 



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