この素晴らしい世界に史上最強の弟子と風を斬る羽を! (1人多国籍軍)
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第1話

 闇との激闘を終えて2年後。兼一と美羽は順調に達人という崖を転げ落ち、19歳という若さで特A級に限りなく近い達人級にまで成長していた。

 

 

「美羽さん後ろ!」

 

「はいですわ!」

 

 

 現在、2人は南の方に世直しの旅に行っている長老の言い付けで、北の方に世直しのたびに来ている。今は某国のマフィアが雇った、特A級の用心棒と激闘を繰り広げている。

 

 

「その若さで達人級か……興味が湧いた、名前を聞かせてくれ」

 

「梁山泊一番弟子!『1人多国籍軍』白浜兼一です!」

 

「無敵超人が孫娘!『風を斬る羽』風林寺美羽ですわ!」

 

「あの梁山泊か……今日は良い日だ!まさかあの梁山泊の豪傑達の弟子と戦えるとは!」

 

 

 戦闘は更に激化し、徐々に地形が変形する。達人の戦闘能力は常人のそれを遥かに逸脱しており、達人同士の戦いとなると山が更地になることも珍しくはない。

 

 しかし、いくら2人が特A級に限りなく近い達人に成長したと言っても相手は紛れもない特A級。最初の内は拮抗していた戦いも、徐々にその均衡が崩れ始めた。

 

 

「はぁ……はぁ……み、美羽さん……」

 

「肋骨が折れていますわ……兼一さんは……」

 

「な、情けない限りですが……ボクはもう右目が見えません……」

 

「……」

 

 

 2人は既に満身創痍なのに対し、用心棒は服が少し破れて鼻血が出ている程度の負傷だ。この時点で2人に勝機はほぼ無く、更に悪いことにこの用心棒は殺人拳の使い手なのだ。

 

 

「お前達は良く戦った。師匠達には、最期まで立派な武人だったと伝えてやろう」

 

「み、美羽さんは……美羽さんはボクが守る!!」

 

「兼一さん!」

 

 

 兼一の無謀な突進は容易く躱され、カウンターの一撃が脳天に直撃する。糸が切れたかのようにうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かなくなった。

 

 

「け、兼一さん!兼一さん!いやあああああああああああ!!」

 

 

 愛しい人の死を受け入れられず、戦闘中であることも忘れ泣き崩れる。その隙を見逃さず、用心棒は少しの憐れみと共に2人の命を確実に刈り取った。

 

 

 

 気付けば2人は真っ暗な空間に居た。今自分達が座っている正面には誰も座っていない椅子が一つだけある。

 

 

「……あれ?」

 

「これは一体……」

 

 

 理解が追い付かない。自分達は今まで戦っていたはずだ。なのに、傷も無いし精神状態も至って平常になっている。

 

 

「白浜兼一さん、風林寺美羽さん。残念ながら、貴方達の人生は終わってしまいました」

 

 

2人の背後から銀髪の美しい女性が歩いてきて、2人の正面に置かれていた椅子に座って優しく微笑んだ。

 




白浜兼一(しらはまけんいち)
タイプ:静
異名:1人多国籍軍
19歳
位階:達人級(特A級に限りなく近い)
身長:175cm
体重:68㎏

 武術を極めてしまった達人が集う『梁山泊』の豪傑全員の弟子。元々はいじめられっ子で武の才能は皆無。だが己の信念を貫く為、地獄すら生温い梁山泊の修行を生き抜き(時には死にかけ)どうにかこうにか達人という崖を転がり落ちた心優しい青年。

 武術家としては異例の空手、柔術、中国拳法、ムエタイ等の多種の武術を学んでいる。限りなく特A級に近い達人にまで成長したことで、本家本元より威力や練度は数段劣るが、原作で師匠達(長老含む)が使っていた技は全て使えるようになっている。


風林寺美羽(ふうりんじみう)
タイプ:動
異名:風を斬る羽
19歳
位階:達人級(特A級に限りなく近い)
身長:168㎝

 梁山泊の長老『無敵超人』風林寺隼人の孫娘。祖父の我流、風林寺流武術、プンチャック・シラットを習得している。また梁山泊に住んでいる為、史上最強の弟子として育成された兼一程ではないにせよ、多種の武術を習得している。


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第2話

「……そうですか。やっぱり僕達は……」

 

「……」

 

 

 暫くの間、2人は己の未熟さに肩を震わせ、もう二度と家族や師匠、友に会えないのだという事実に涙を流した。

 

 

「……すいません、取り乱してしまいまして」

 

「大丈夫ですよ。それが当然の反応ですから」

 

「ありがとうございます。えっと、貴女は一体……?」

 

「私はエリス。貴方達を導く女神です」

 

 

 エリスと名乗った女性は、自らを女神と言った。普通なら信じ難い話だが、2人は自分の死をハッキリと記憶しているのですんなりと事実として受け入れることができた。

 

 

 

「女神様ですか……」

 

「はい。……さて、若くして亡くなった貴方達には、幾つかの選択肢を選んでいただかなければなりません」

 

「選択肢ですか?」

 

「はい。まず一つは元いた世界……日本ですね。日本に記憶を失って転生する。二つ目は天国に行く。最後は、元いた世界とは全く違う世界に記憶と肉体はそのままに転生する。選択肢はこの三つです」

 

 

 エリスが提示した選択肢を聴いて、2人は顔を見合わせる。

 

 

「美羽さん、三つ目にしましょう」

 

「兼一さん……」

 

「確かに皆にもう会えないのは悲しいです。でも、記憶を失って日本に生まれ変わったら、今まで師匠達から授かった武も、僕達の繋がりも無くなってしまうんですよ!」

 

「それは……絶対に嫌ですわ……」

 

「決まったようですね」

 

「はい」

 

 

 2人の息が合った返事を聞き、エリスは満足そうに優しく微笑んだ。

 

 

「ありがとうございます。ではその世界について詳しく説明させていただきます。その世界は簡潔に言うと剣と魔法の世界です。モンスターや亜人が普通に存在し、人々は魔王率いる魔王軍との戦争で現在劣勢です。魔王は世界征服を目論み、人々を蹂躙しています。魔王軍によって殺されてしまった人々の殆どが、もうあんな死に方は嫌だとその世界への転生を拒否してしまうんです。このままでは、その世界に子供が産まれなくなり、遠からず人類は滅びてしまいます」

 

「酷い……」

 

「許せませんわ!」

 

「そこで、別の世界で亡くなってしまった人達をその世界に転生させるのはどうか。という事になったのです」

 

 

 2人は人を生かし、守る『活人拳』の武術家だ。そして力を持つ者の責務として、長老と同じ世直しの旅を行っていた。

 

 

「是非、その世界に転生させてください」

 

「そうですわ。異界の地にて人助けをする……これこそが先に逝ってしまった私達ができる償いですわ!」

 

「はい!」

 

「ふふっ……貴方達ならばそう言ってくれると信じていました。では、転生するにあたって、その世界の言語と文字は自動的に習得されます。更に、何でも一つだけ持っていける権利を差し上げます。本当に何でも構いません。膨大な魔力でも、途轍もない才能を持っていくことも可能です」

 

「えっ!?」

 

 

 師匠にも敵にも、様々な人から『才能が無い』と言われ続けたまま達人になった兼一。駄目だとは分かっていても、才能が手に入ると聞いて少しだけ心が揺らいだ。

 

 

「兼一さん?」

 

「うっ……すいません何でもないです」

 

「武人の誇りですね……素晴らしいです。では、通常の修行では引き出すことのできない『潜在能力』を限界以上に引き出すというのはどうでしょう?」

 

「まあ、それなら……お爺様も許して下さると思いますわ」

 

「ですね!」

 

「では……準備は整いました」

 

 

 2人の足元に魔法陣が出現する。

 

 

「さあ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、貴方達が魔王を打ち倒すことを祈っています!魔王を倒した暁には、貴方達の望みを一つだけ叶えて差し上げます!……さあ、今こそ旅立ちなさい!」

 



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第3話

「此処が異世界……」

 

「そうみたいですわね」

 

「美羽さん。あっちに一般の人より気当たりが強い人が集まってる場所があるので、まずはそこに行ってみましょう」

 

「はいですわ!」

 

 

 周りの建物より一際高く、立派な建物に2人は来ていた。

 

 

「冒険者ギルド……ですか。RPGゲームみたいですね」

 

「あーるぴーじー?とは、一体なんですの?」

 

「ゲームの種類の1つに、そういう名前があるんですよ」

 

「ほえー……ですわ」

 

 

 出会った当初から、天然で世間知らずな美羽に苦笑しながら、兼一はギルドの扉を開けた。

 

 

「いらっしゃいませ!お食事なら空いているお席へどうぞ。お仕事案内なら奥のカウンターへ!」

 

「あ、はい」

 

「むぅ……」

 

 

 可愛らしいウェイトレスに兼一が見惚れると、当然のように美羽の機嫌が悪くなる。

 

 

「み、美羽さん……?」

 

「さっさと行きますですわよ!」

 

「いてててて!?」

 

 

 不機嫌になった美羽は、兼一の耳を引っ張りながらカウンターまで歩いていく。

 

 

「あの服装は……」

 

「どうしたのカズマ?唐揚げ冷めちゃうわよ?」

 

 

 

「あの、冒険者になりたいのですが」

 

「はい、こちらで登録できますよ。登録手数料として1000エリスが必要になります」

 

「と、登録手数料?」

 

「兼一さん。もしやポケットに入っているこの硬貨ではないでしょうか?」

 

 

 そう言って2人がポケットから硬貨を出すと、受付の女性は笑顔で肯定した。

 

 

「ではこちらにお名前をお願いします」

 

 

 手渡されたのは同意書だ。2人は書かれた内容をしっかりと読み、名前を記入して受付の女性に渡した。

 

 

「はい。シラハマケンイチ様とフウリンジミウ様ですね。では順番にこの水晶に手をかざしてください」

 

「じゃあボクからやりますね」

 

 

 兼一が手をかざすと水晶が光り、水晶の下に備え付けられたカードにレーザーのようなもので文字が刻まれていく。

 

 

「はい完了です。えっと、シラハマ様のステータスは……はああああ!?」

 

「ど、どうしました?」

 

「どうしました?じゃあないですよ!幸運、魔力、知力は平均ですが、生命力と筋力と敏捷性と器用が常軌を逸しています!特に筋力と生命力の2つは次元が違います!」

 

「へ、へぇ……」

 

「あら……職業『武人』?稀に発現する特殊職業ですね!特殊職業は、既にその人専用のスキルがあります。その中でも武人は、超攻撃型の職業ですよ!」

 

「よ、良かったです」

 

 

 女性の勢いに少し引きながら、兼一は自分の冒険者カードを持って美羽の隣まで下がる。

 

 

「次は私ですわね」

 

「フウリンジ様のステータスは……はああああ!?」

 

「私もですか?」

 

「は、はい!幸運、魔力は平均で知力は少し高いぐらいですが、器用と敏捷性はシラハマ様を上回っています!筋力と生命力はシラハマ様よりは劣るものの、それでも充分常軌を逸した数値ですよ!」

 

「私も武人なのですか?」

 

「はい!」

 

「安心しましたわ……」



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第4話

「美羽さん、この後はどうしましょう」

 

「そうですわね、まずは難易度の低いくえすとを受けてこの世界において、私たちがどの程度の実力なのかを把握する必要がありますわね」

 

「そうですね。もしかしたら、モンスターが全部師匠達ぐらい強いみたいな地獄っていう可能性もありますし」

 

「あ、あはは……」

 

 

 冗談交じりの会話をしながら掲示板を見ている2人に、一組の男女が近付いてきた。

 

 

「なあ、あんた達転生者だろ?」

 

「え?」

 

「えっ?」

 

 

 2人が振り返ると、そこにはジャージを着た男と青髪青眼の美女が立っていた。

 

 

「えっと、貴方は?」

 

「俺はサトウカズマだ。あんた達と同じ、日本からの転生者だ」

 

「なるほど、そうでしたか。ボクは白浜兼一です」

 

「私は風林寺美羽ですわ」

 

「私は水の女神アクアよ!」

 

「あぁ、やっぱりですか」

 

 

 兼一の返答に、カズマは少々驚いた顔をする。

 

 

「やっぱり?」

 

「はい。アクアさんが纏っている気が、僕等を転生させてくれた女神様と同じように神聖なものだったので」

 

「へぇ……凄いなぁ」

 

「カズマさんはどんな力を貰って転生しましたの?」

 

「あ、それはボクも気になってました」

 

「うっ……」

 

 

 それからカズマは、今までの事を全て2人に話した。間抜けな死に方をしたこと、それをアクアに笑われて腹が立ったこと、腹いせとしてアクアを異世界に持っていく特典として選んでこの世界に道連れにしたこと、そしてアクアが冗談みたいにポンコツで、それが原因でまだクエストには行けず、土木作業員として食い繋いでいるということを……。

 

 

「そ、それは……その、何と言いますか……」

 

「た、大変でしたわね……カズマさんもアクアさんも……」

 

「せめて目を合わせてくれ!」

 

 

 その後暫く、2人がカズマと目を合わせることはなかった。

 

 

「それで、何故ボク達に声をかけたんですか?」

 

「敬語なんてやめてくれよ。多分俺の方が年下だし」

 

「そうなの?分かった、じゃあカズマ君って呼ぶね」

 

「おう、じゃあ俺はケンイチって呼ぶよ」

 

「話が脱線してますわよー」

 

「あ、そうでした。で、カズマ君は何でボク達に声をかけたの?」

 

「……さっき話したから分かると思うが……まともな戦力がいないんだ!頼む、俺達のパーティーに入ってくれ!」

 

 

 カズマは物凄い勢いで頭を下げて頼み込んだ。それを見た2人は顔を見合わせて微笑む。

 

 

「カズマ君、頭を上げて」

 

「……」

 

「ぱーてぃーへのお誘い、私たちからしても有り難いですわ」

 

「じゃあ!」

 

「うん。カズマ君達のパーティーに入るよ。これからよろしくね」

 

「あっ……ありがとうケンイチ!」

 

 

 カズマはケンイチの手を固く握り、涙まで流して喜んだ。

 

 

「やったわねカズマ!じゃあ早速高難易度クエストを受けて、お金を稼ぎましょう!」

 

「アホかああああぁぁぁ!」

 

「なぁんでよぉ!こんなに強い2人がいるんだから、多少のクエストなら問題ないわよ!」

 

「ま、まあ2人共落ち着いて。あんまり高難易度なのはまだ早いと思うけど、多少の難易度のクエストなら良いから。ね、美羽さん?」

 

「ん~……まあそうですわねぇ……確かに冒険者として生計を立てるには高額報酬のくえすとを受ける必要はありそうですし……」

 

「そうよね!そうよね!流石強い人は余裕があるわ!アンタも見習いなさいよヒキニート!」

 

「(こぉいつぅー!!調子に乗りやがって駄女神が!)」

 



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第5話

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「これ!ねえこのクエストなんてどうかしら!」

 

「どれどれ……?」

 

 

 『緊急』異常発生したジャイアント・トード40匹の討伐:報酬80万エリス

 

 

「ジャイアント・トード……名前から考えるに、巨大な蛙ですわね」

 

「繁殖期になると人里まで下りてきて家畜や農家の人を丸飲みに……そんなのが異常発生!?大変じゃないか!」

 

「カズマさん。80万えりすとは、日本円にするとどの程度の価値なのでしょうか?」

 

「そのまんま80万円だな。1円=1エリスらしいぞ」

 

「な、なんと!兼一さん!カズマさんアクアさん!さ、早速80万……いいえ、この迷惑な蛙さん達を懲らしめに行きますですわよ!」

 

「あはは……」

 

 

 

 

「あれがジャイアント・トードか……確かに大きい」

 

「平原を埋め尽くす程の巨大蛙さん達……蛙嫌いの人が見たら失神しそうな光景ですわね」

 

 

 4人は少し小高い丘の上から、ジャイアント・トードがひしめき合っている平原を見下ろしている。

 

 

「じゃあまずボクが行ってみますね」

 

「はい。兼一さんお気を付けてですわ」

 

 

 達人の中でも最上位クラスの強靭な足腰を駆使し、30mほど跳躍して丁度真下にいたジャイアント・トードの脳天に踵落としをぶち込んだ。

 

 

「おかしい……手応えが無い……うおっ!?」

 

 

 不審に思っていると、踵落としがクリーンヒットしたはずなのにダメージを受けた様子も無く、兼一を捕食しようと襲い掛かる。

 

 兼一は紙一重で躱してカウンターの正拳を放つが、それも効果があるようには見えない。

 

 

「打撃が効かないのか……なら、これならどうだ!」

 

 

 一旦距離を取り、構えを変える。

 

 

「逆鬼師匠直伝、不動砂塵爆!」

 

 

 『不動砂塵爆』 ケンカ100段の異名を持つ空手家、逆鬼至緒の禁じ手と謳われた必殺技。標的を一切揺らさず内部のみを崩壊させる突き。

 

 いくら打撃耐性が高いジャイアント・トードと言えど、内部を崩壊されては無力。不動砂塵爆が直撃したジャイアント・トードは激しく爆散し、血肉が辺りに飛び散った。

 

 

「おう……グロイ。美羽さん!この蛙達、打撃に対しての耐性が滅茶苦茶高いです!」

 

「了解ですわ!カズマさんとアクアさんは此処で待機していてくださいですわ」

 

 

 美羽も跳躍し、一匹のジャイアント・トードの前に立つ。

 

 

「お爺様直伝、無敵超人108秘技が一つ……数え抜き手!」

 

 

 無敵超人・風林寺隼人の持つ108の秘技の1つ『数え抜き手』

 通常の貫手を“四”と見立て、そこから指の数を“三”、“二”、“一”と減らしていく。数が減るに従って、指一本当たりの貫通力は増していくだけでなく、一度一度の貫手にはそれぞれ性質の異なる特殊な力の練りが加えられており、四~二までの貫手の力などを変化させることで如何なる防御さえも最後の“一”で必ず突き抜く。

 

 

「四!三!!二!!!一!!!!」

 

 

 四~二までは平然としていたジャイアント・トードだったが、最後の『一』が打ち込まれた直後、腹部に大穴が開いて10mほど吹き飛んだ。

 

 

「なるほど、打撃耐性が高いことを除けば大した相手ではありませんわね」

 

「武器使いの人なら楽ですね。まあ、この数は厳しいでしょうが」

 

 

 ジャイアント・トード40匹に対して無手で無双する2人を、小高い丘の上から眺めている2人。

 

 

「なにあの2人怖い」

 

「やっぱり勇者候補はこうでなくっちゃね!」



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第6話

「はい。ジャイアント・トード40匹討伐の報酬が80万エリスと、そのうち18匹の肉の買取金額が9万エリス。合わせて89万エリスになります」

 

 

 この肉の買い取りの18匹は、全て美羽が討伐したジャイアント・トードである。兼一の方が討伐数は多いのだが、使った技が技なので食べられる状態ではなく買取不可となったのだ。

 

 

「け、兼一さん!89万ですわ!89万!」

 

「み、美羽さん落ち着いて……それ全部僕等のお金になる訳じゃないですし……」

 

「……わ、分かってますわよ。89万を4人でですから、1人22万2500エリスですわよね」

 

「えっと……本当に等分でいいのか?俺とアクアは何もやってないのに」

 

 

 実際、カズマとアクアは本当に何もやっていない。アクアは回復魔法を使えるが、そもそも兼一も美羽も無傷で40匹を討伐した為、回復魔法の出番は無し。

 

 

「適材適所だよ。今回はボクと美羽さんの得意分野だったってだけで、この先カズマ君とアクアさんに頼らなきゃいけない時もあるかもしれないでしょ?それに、僕等はパーティーじゃないか」

 

「あ、ありがとう……良かったなアク……ア?」

 

 

 兼一の優しさに感動したカズマが振り返ると、そこにアクアの姿は無かった。

 

 

「……あれ?」

 

「すいませーん!高級しゅわしゅわと蛙の唐揚げ山盛り持ってきてー!」

 

「おいこら何してんだ!」

 

「な、なによぉ!お金が入ったんだから少しは贅沢しても良いじゃない!」

 

「その金はケンイチとミウさんが稼いでくれだ金なんだよ!」

 

「本人達が等分で良いって言ったんだからこのお金は私のなのー!」

 

 

「に、賑やかですわねぇ……」

 

「あ、あはは……」

 

 

 苦笑しながらも、兼一と美羽もテーブル席に座って蛙の唐揚げを注文する。

 

 

「まあ、この唐揚げとっても美味しいですわよ!」

 

「本当ですね!でもそれだけに勿体ないことしました……」

 

「仕方ないですわよ。武器を使わない私たちにとって、打撃の効果が薄い相手への攻撃手段は限られていますから」

 

「美羽さん……そう言ってもらえると救われます……」

 

 

 こうして初クエストが終わり、兼一と美羽はカズマに案内され馬小屋へと足を運んだ。

 

 

「駆け出し冒険者は馬小屋で寝泊まりするのが基本なんだ」

 

「僕等は慣れてるから大丈夫だよ」

 

「ですわ」

 

 

 世直しの旅を2人で始めた当初は、野宿をする時は互いに照れまくって碌に寝れない日々が続いたが、一ヵ月も経てばそんな状況にも慣れ、添い寝しても照れないようになっていた。ただし、今でも2人は偶然手と手が触れあったりすると顔を真っ赤にするのだが……。



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第7話

 ジャイアント・トード40匹を討伐した翌日、兼一と美羽は4時に起床し、先日ジャイアント・トードを討伐した平原で軽い組手と筋トレを3時間程度やって朝風呂に入った。

 

 一方、カズマとアクアは達人2人が朝風呂から上がって来たのと同時ぐらいに起床し、4人はギルドの酒場で合流した。

 

 

「ねえ皆!私、昨日の内にパーティーの求人募集を出してみたの!近接最強の2人がいるんだから、魔法職も揃えておきたいじゃない?」

 

「まあ確かにな。2人も武人がいるんだし、結構人が来るかもしれないな」

 

 

 しかし、カズマの予想に反して半日経っても希望者は来なかった。

 

 

「えっと……募集の紙を読んでみたんだけど、これは来ないかなぁ……」

 

「なんか、ブラック企業と怪しい宗教勧誘が合体したみたいな内容だったから……」

 

「確かに……これを見て希望される方は、相当パーティーが見つからなくて困ってる方ぐらだと思いますわ」

 

「うぅ……そんなぁ……」

 

 

「募集の張り紙、見させていただきました」

 

 

 アクアが机に突っ伏して泣いて2人をオロオロさせていると、1人の少女が4人が座っているテーブルまで来た。

 

 

「えっ?」

 

「ふっふっふ……この邂逅は世界が選択せし定め。私は貴方方のような者の出現を待ち望んでいた」

 

 

 その如何にも、もう一目で魔法使いだと分かる服装をし、更に眼帯を付けている赤い瞳を持った少女は更に言葉を続ける。

 

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法『爆裂魔法』を操る者!」

 

「えっと……」

 

 

 奇抜な衣装と言動に、カズマだけでなく兼一と美羽も少しだけ苦笑しているようだ。

 

 

「ふっ……あまりの強大さ故、世界に疎まれし我が禁断の力を汝も欲するか?」

 

「あはは……」

 

「ならば、我と共に究極の深淵を覗く覚悟をせよ!人が深淵を覗く時、深淵もまた人を覗いているのだ」

 

「冷やかしに来たのか?」

 

「ち、違うわい!」

 

 

 その後、めぐみんが紅魔族であることと3日も何も食べていないことが分かり、取り敢えず兼一が食事を奢った。

 

 

「まあでも、タイミングとしては丁度良かったんじゃないかな?」

 

「そうですわね。今日はカズマさんとアクアさんの力試しくえすとに行く予定でしたし、めぐみんちゃんの実力も見ておきたいですわ」

 

「おい、そのめぐみん『ちゃん』と言うのは止めてもらおう。私はもう14だ」

 

「あら、じゃあやっぱりめぐみん『ちゃん』ですわ」

 

「うぐぐ……」

 

 

 そんな他愛ない会話をしながら食事を終え、5人は『ジャイアント・トード5匹の討伐』のクエストに出発した。

 



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第8話

「じゃあ、今日はカズマ君達3人で戦ってね。危なくなったら助けるから」

 

「思いっ切りやっちまいなさいですわ!」

 

「よし、じゃあまず俺からだ!」

 

 

 兼一達がいる安心感もあってか、短剣を抜いて威勢よくカズマが走って行った……がしかし。

 

 

「うおおおおおお!」

 

 

 接近してから蛙が予想以上の大きさだったことに気付き、その巨大さと自分の短剣を比較して怖気づいて逃走を開始した。

 

 

「プークスクス!やっばい超ウケるんですけど!カズマったら、顔真っ赤で涙目で超必死なんですけど!」

 

「まだ助けなくていいのですか?」

 

「まだ危なくないですよね、美羽さん」

 

「そうですわね。この状況であれば私たちの力は必要ありませんわ」

 

「仕方ないわね!私が助けてあげるわよ!」

 

 

 カズマを追い掛けているジャイアント・トードに向かって、アクアが嬉しそうに突進する。

 

 

「ゴッドブロオオオォォ!!ゴッドブローとは、女神の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳!相手は死ぬ!」

 

「ちょ、お前!」

 

 

 アクアのゴッドブローはジャイアント・トードの腹に直撃する。しかし、特A級に限りなく近い達人である兼一の正拳ですら効果が無い程の物理耐性を誇るジャイアント・トードである。

 

 

「……か、蛙ってよく見ると可愛いと思うの」

 

 

 アクアの言葉が終わったと同時に、頭からパックリと喰われた。

 

 

「アクアさん!」

 

「喰われてんじゃねえええええ!」

 

 

 アクアを食っていて動けなくなっているジャイアント・トードに、カズマの短剣での斬撃、兼一の不動砂塵爆、美羽の数え抜き手が同時に襲い掛かった。

 

 

「次は私の番ですね!」

 

 

 爆散した蛙から助け出されたアクアが泣き止まないので、取り敢えず安全な場所に放置して次はめぐみんの番になった。

 

 爆裂魔法の準備時間の間は、兼一が標的となるジャイアント・トードの足止めをしている。

 

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に 我が真紅の混交を望みたもう 覚醒の時来たれり 無謬の境界に落ちし理 無行の歪みとなれて現出せよ!踊れ 踊れ 踊れ!我が力の本流に望むは崩壊なり 並ぶ者無き崩壊なり 万象等しく灰燼に帰し 深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが!究極の攻撃魔法!エクスプロージョン!」

 

「兼一さん!」

 

「戻りました!」

 

 

 爆裂魔法が放たれる直前に美羽が兼一を呼び、それに反応した兼一は一瞬で美羽の隣に戻って来た。

 

 めぐみんの爆裂魔法はジャイアント・トード一匹に使うには強過ぎた。小さなクレーターができ、ジャイアント・トードは蒸発した。

 

 

「これが魔法……凄いよめぐみんちゃん!」

 

「あら?」

 

 

 初めて見る魔法に感動し、振り返るとそこには地面にうつ伏せに倒れるめぐみんの姿があった。

 

 

「め、めぐみんちゃん?」

 

「我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力故、消費魔力もまた絶大。要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つとれません」

 

「……」

 

「ま、まああの威力の魔法を使ったのですから仕方ありませんわ」

 

 

 その後、爆音で目覚めた蛙を兼一が全て駆逐し、美羽がめぐみんを背負ってギルドに帰還した。

 



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第9話

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 ギルドの端にあるテーブル席。カズマパーティーの5人の間には微妙な空気が流れていた。

 

 

「……まあ、あれだな。めぐみんは緊急時以外は爆裂魔法禁止な」

 

「そうですわね。それが良いと思いますわ」

 

「使えません」

 

「え?」

 

 

 めぐみん以外の4人の「え?」が重なった。

 

 

「私は爆裂魔法以外の魔法は使えません」

 

「……な、何故?」

 

「私は爆発系統の魔法が好きなのではないのです!爆裂魔法だけが好きなのです!他の魔法も覚えれば楽に冒険ができるでしょう……でも駄目なのです!私は爆裂魔法を覚える為だけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

 

 沈黙。その沈黙の原因を作り出しためぐみんに対する目線はそれぞれ違う。冷めた目のカズマ、キラキラした目のアクア、生暖かい目の美羽と兼一である。

 

 

「素晴らしい!素晴らしいわ!非効率ながらも、ロマンを追い求める姿に私は感動したわ!」

 

 

 

「ヤバい……なあケンイチ、この魔法使いは駄目な系だと思うんだが」

 

「……」

 

「よりにもよってアクアが同調してるのがその証拠だ」

 

「……ま、まあでもあの破壊力は驚異的だし……パーティーに入れてあげてもいいんじゃないかな?」

 

「ん~……でもなぁ……アクアに続いて2人も問題児を抱えるのは……」

 

「でも、もし魔法でしか倒せないようなモンスターが出て来た場合、私と兼一さんの方がお荷物になってしまいますわよ。そうなった場合、めぐみんちゃんのあの破壊力はとても貴重ですわ」

 

「……はぁ、仕方ねえなぁ」

 

 

 結局、最大戦力である2人の意見に押し切られる形でめぐみんはパーティーに加入することを許された。

 

 

 

 めぐみんのパーティー加入が決まった翌日。

 

 

「修行?」

 

「あぁ、アクアから教えてもらったんだが、この世界で修行してもレベルは上がらないらしいが、ステータスは上がるらしいんだ。ケンイチとミウは武術の達人なんだろ?俺に修行付けてくれないか?」

 

「ん~……ん~……達人の修行は厳しいよ?」

 

「大丈夫だ。別に本気で達人目指す訳じゃなくて、俺の鈍った体を普通レベルまで叩き直してくれればそれでいいからさ」

 

「そういうことなら……でも、ボクは人に教えたことはないし……自然と師匠達に近くなるかもしれないけど……」

 

「あぁ……兼一さんも人に教える段階まで来たんですわね……お爺様達にも見せてあげたかったですわ」

 

 

 

「じぇろにもおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 その日、平原からギルドまで届くような奇声と悲鳴が響き渡った。



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