君が美味しそうに見えてたまらない (絲織)
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序章

作者は原作知識がほとんど無いのでご注意下さい。



 

"零崎"のことはなんとなく知っていた。

 

裏社会では結構名の知れた、謎の暗殺集団の称号。でもまさか、本当に実在するとは思っていなかったし、存在するとしても秘密裏に活動するものだと思っていたばかりに、今回の件について、少しの間、心臓や脳が機能を停止させるくらいの動揺があった。

 

でも、零崎であるにしろ、そうでないにしろ、とにかく人殺しの現場に遭遇したことは初めてだった。

 

ただの気まぐれで、思いつきの散歩中。受験生特有の披露をどうにかしようと、気分転換のために家から少し離れた喫茶店を訪れた帰り。今日は、朝の "栄養補給" のお陰で少し………いや、結構気分が良かった。六日ぶりの極上の味を味わったその日の、日が沈む直前。夕暮れのことだった。無惨にも刻まれた男の死体の向こう側に、私と対峙する一人の男。背は低く、とは言っても私より高いが………小柄な体格のせいで幼げのある、可愛げのある容姿をしている男。私の滅多に当たらない"感"からして私より年上で、世界の"いろいろ"を知っている男。

 

その男、は、衝撃を受けたような私の顔を見て、ニヤリと笑うのだった。不思議な模様を付けた白髪を風に揺らし、頬にあるこれまた不思議な刺青を歪めて、ただ笑うのだ。きっと男は、殺人現場を見られてしまった、ではなく、また殺せばいい、と思ってしまえるような、常人には理解できない思考回路をお持ちのようだ。だからニヤリと笑うのだ。これから殺されようとしていることを冷静に予期、というか、未来予知した私は、正直に告白すれば、"通りすがりの殺人鬼に、あっけなく殺される自信がない" というのが今の心境であり、それが私という人間にとって、全てである。説明すれば長くなるので割愛するが、だが、そうして今、こうして対峙する男は、得体の知れない謎の自信を持つ私を見て、ニヤリと笑うのだ。おもしろいとか、楽しめそうだ、とか、そんな変なことを思っているに違いない。むしろ私は "殺せるものなら殺してみろ" 側の人間であるため、相手がどう思っているのかは、結局のところはどうでもいいのだ。それではいったい私が、何に怯えて、驚いているのかというと。

 

「かはは! これまた奇妙な客人だな」

 

男が、『私が殺人現場を目撃したこと』と、『私がすぐに逃げ出そうとする素振りを見せないこと』と、『私が男に殺されるかも知れないと予想したうえで、そうであってほしい、と思ったこと』等々、私の全てを感じ取って、それでもって、ニヤリと笑ったことだった。

 



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