fate/stay night 夢よ永遠に (fate信者)
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夢の始まり

どうもfate信者です!
新しく書いて見ました。
この物語はfateのゲームをして思いつきました。
書くのに苦労しましたが
書けて良かったです。
それではどうぞ!


これは、ある少女の願いを叶える物語

その物語は本来あり得る筈がない。

イレギュラーな物語である。

 

 

 

「契約は完了した。貴方たちの勝利だ、凛」

 

聖剣が薄れて行く。

もう魔力は残っていないが、無理をすれば少しだけほんの少しだけ留まれる。それに。

 

「彼らの行く末を、最後まで見守りたい」

 

これが少女の新しく、そして、何者にも侵害されない願い。

 

「行けるのなら何処までも行きたく。出来るのなら、貴方たちの剣として私は最後まで生きたい」

 

聖杯を求めた一人の王は、ほんの少しの未練を残して、運命の丘へと旅立つ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少女は目を瞑った。

着く場所は変わらない。

それなら、少し目を瞑り、聖杯戦争の出来事でも思い浮かべよう。

色々とあった。

アーチャーがシロウだとわかった時やランサーが手を貸すと言った時は驚いた。

英雄王が現界していたのにも驚いた。

凛やシロウと三人で行った事。

シロウの料理が美味しかった事。

私はこの事を思い浮かべると涙が出てきた。

必死に涙を我慢しようとしてもどんどん出てくる。

私はこんなに辛いモノ等知らない。

強敵との戦闘や、仲間の反逆等、辛い出来事を沢山経験してきたがそんなに辛くはなかった。

私は大事な人たちとの別れがこんなに辛いモノだと知らなかった。

私は胸の痛みを我慢する。

我慢しないと涙が止めどなく溢れる気がしたからだ。

私は最後に少年の名前を呼ぶ。

 

「ーーーーシロウ」

 

この少年の名前を言うと心が落ち着く。

私は睡魔に襲われ、意識を落とした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お ーーーーー ル ア」

 

誰かが何か言っている。

だが、聞き取れない。

「おいーーーーーアル ア」

 

もう一度言っている。

だが、まだ聞き取れない。

 

「おいーーーーーアルトリア」

 

誰かがもう一度言う。

今度は聞き取れる。

 

「おい!起きろよ。アルトリア」

 

ーーーーー誰だ?

ーーーーー私はあの丘に着いた筈。

 

「貴方は、誰だ?」

 

私がそう言うと、全身刺青の少年が意地悪な笑みを浮かベた。

「やっと起きたか」とは、少年なりの挨拶なのか、それとも皮肉なのか。

 

「とりあえず起きて安心した」

 

少年はそう呟く。

私もどんどん意識が覚醒していく。

 

「あと…この場所は何処ですか?」

 

私が居る場所は周りが黒い部屋。

その天井には部屋と同じぐらいのステンドグラスがあった。

私はしばらくの間。

天井のステンドグラスに心を奪われていた。

 

「おーい、あんたの質問は俺の名前とこの場所のことだけでいいのか?」

 

「はい。」

 

私は少年に向き直る。

 

「俺の名前はアンリ・マユ、この世全ての悪とも言われている」

 

「アンリ・マユ……この世全ての悪」

 

私はこの言葉を聞いた時、危機察知能力が発動した。

今の内に倒してしまえ

私は、鳴り続ける自分の警報を抑え、アンリ・マユと名乗る少年と会話を続ける。

 

「さてと次は……この場所のことだよな?」

 

「はい。そうです」

 

アンリ・マユは立っているのが辛くなったのか、地べたに胡座をかいて座る。

 

「ここは聖杯の中……って言って分かるか?」

「なっ!?」

 

どうして? 私が聖杯の中に居るのか分からない。

この少年は私が此処に居る理由を知っているかも知れない。

 

「アンリ・マユ、私がどうして此処に居るか分かりますか?」

 

「どうしても何も…あんたは死んだ。だから、此処に来たんだろ?」

 

アンリ・マユの言ってる事が分からなかった。

私は死んではいない。

魔力切れで消えたのだ。

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

「いいか? 聖杯はサーヴァントを動力源に動くモノだ。だから、サーヴァントを取り込む」

 

少年は私にも解りやすく説明してくれる。

そして、少年の解説に疑問が生じた。

 

「アンリ・マユ…貴方はサーヴァントが動力源と言っていましたね」

 

「ああ、確かに言ったぜ」

 

「それなら、サーヴァントの何処を動力源として使うのですか?」

 

私が思った疑問はそこだ。

一体、サーヴァントの何を動力源として使うのだろうか?

 

「そこは、俺も詳しくは知らない。多分、英霊が座に帰る時の運動エネルギーを使ってると思う」

 

「成る程。それなら納得がいく」

 

その力を利用すれば半永久的に使える。

これならば、聖杯が奇跡を起こす杯だと言うのも頷ける。

 

「それで、これから私はどうなるのですか?」

 

「それなんだが、お前に頼みたい事があってな。」

 

アンリ・マユは真剣な顔つきで言ってきた。

今さっきまで人をバカにするような笑みを浮かべていたのに、、急に真剣になられても困る。

 

「頼みたい事?」

 

「俺はある一人の人間を救いたい」

 

私は驚いた。

自分でこの世全ての悪と言った者が、人助けをしたいなんて

 

「それは、どんな人なのですか?」

 

私はアンリ・マユに聞く。

この世全ての悪が助けたいと言う人だ、どんな人か私にも興味がある。

 

「ソイツは諦めが悪くて歪な願いを持った変な奴。俺から見たらバケモノだ」

 

アンリ・マユがバケモノと言う人が居るとは、どんな人なのだろう?

 

「その人の名は?」

 

「ソイツの名前は衛宮士郎。俺が最も気に食わない奴だ」

 

私はアンリ・マユが言った事に驚きを隠せずにいた。

アンリ・マユは衛宮士郎と言ったのか?

私は、聞き間違いと信じたくて、アンリ・マユに問う。

 

「あの、もう一度名前を言って貰って良いですか?」

 

「ん? だから、衛宮士郎だって!」

 

私は再度驚いた。

間違いであって欲しかった。

 

「名前は分かりました。ですが、士郎を救うとは一体どういう意味ですか?」

 

「そのままの意味だ。アイツに『正義の味方』と言う理想を諦めさせる事、それが救いになる」

 

士郎が正義の味方を諦める事が、どうして士郎を救う事になるのだろうか?

 

「士郎から理想を取り上げる事が救いになるとでも?」

 

「アンタ、まだ分からないのか? それでもアイツのサーヴァントか?」

 

「すみません。教えて貰って宜しいですか?」

 

私はアンリ・マユに頭を下げて言う。

アンリ・マユはやれやれと首を左右に振りながら言う。

 

「いいか? アイツはあの理想がある限り歩き続ける。どんなに辛くても」

 

「はい、それがどうしたのですか?」

 

「どこまでもアイツは歩き続ける。休む事なく…いや、それ以前に休む場所すらない。そんな奴が自分の体の事を気にすると思うか?」

 

成る程、士郎は自分の身が大切だと言う人じゃないから、自分の体が壊れても歩き続けると言う事ですか

 

「しませんね」

 

「そうだろ? 俺はアイツの自己犠牲が見ていて腹立つんだよ。だから、俺はアイツの理想を否定する」

 

私はアンリ・マユが言いたい事が何となくわかった気がした。

 

「アイツはある意味呪いを受けている状態だ」

 

「呪い、ですか?」

 

「『正義の味方』……これが、呪いの正体だ」

 

アンリ・マユは苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 

「つまり、貴方は、私に士郎の理想を諦めさせろと言いたいのですね」

 

「やっと分かってくれたか」

 

「ですが、どうやって士郎に理想を諦めて貰うのですか?」

 

私は士郎のサーヴァントだ。

士郎が簡単に自分の理想を諦める人ではないことくらい理解している。

 

「アンタには過去に行って貰う」

 

私はアンリ・マユが言った事を理解出来なかった。

否、理解するのを止めた。

 

「過去? どうやって行けと?」

 

「俺が溜め込んだ魔力を全部使って、お前を過去に飛ばす」

 

アンリ・マユは信じられない事を口にした。

アンリ・マユは、自分の為の魔力を、士郎の為に使う……と。

 

「本当に良いのですか?」

 

「ああ、気にするな。俺が使いたいと思ったから使うまでだ」

 

「それではお願いします」

 

私はアンリ・マユに一度礼を言う。

アンリ・マユは邪悪な笑みを浮かべてから準備に取りかかる。

 

「アルトリア」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

「今のアンタを過去に飛ばしたら色々と面倒だ。だから、アンタの体を変える」

 

アンリ・マユは唐突に意味不明な事を言ってきた。

私の体を変えるとは一体どういう事か?

 

「……どういう意味ですか?」

 

「悪い、少し解りにくかったな。アンタの体の年齢を進ませると言う事だ」

 

体の年齢を進ませる?

私には全然意味が分かりません。

 

「ん?」

 

私は自分の体に違和感を感じた。

自分の体を見てみると、背が高くなっていた。

あと……………胸も、大きく、なっていた。

 

「……こういう事ですか?」

 

目の前でニヤニヤしながら笑っている少年にそう言い捨てる。

 

「ああ、そうだ、アンタ成長すると良い女になるんだな?正直ここまでになるなんてビックリだ」

 

「で、貴方の方はどうですか?」

 

「? 何の事だ?」

 

アンリ・マユは首を傾げて聞いてくる。

 

「過去に行く準備は整いましたか?」

 

「ああ、それね!」

 

アンリ・マユは両手をポンと叩いて納得がいった様な顔をしていた。

 

「こっちは準備万端だ。」

 

「では、行くとしましょう」

 

「ああ、そうだ! アンタの持ってる剣は此方で預からせて貰うよ」

 

私は黙りこんだ。

何を言っているんだコイツは?

そうしたら士郎が助けられなくなるではないか

 

「どうしてですか? 私のエクスカリバーが無かったら士郎を…!」

 

「アンタはアイツを守らなくて良い!一緒に居てやってくれれば、それでいいんだ!」

 

「ぐっ! わ、分かりました」

 

そう言うと私はエクスカリバーを自分の足元に突き刺した。

 

「よしよし! それじゃあ、彼方へどうぞ」

 

アンリ・マユが指差した場所はこの暗い部屋の外側に繋がる道、つまり、出口だ。

 

「それでは行って参ります」

 

「ああ、衛宮士郎を宜しくな」

 

別れの言葉を聞きながら、私は過去に向かって歩いていく。

私が外に出ると、そこは虹色に光る下り道。

私はその道を征く。

下れば、下る程、頭が割れる様な痛みが襲う。

記憶は曖昧だ。

気を抜けば消えそうになる。それを、持ち前の我慢強さで離さない。

そして、少女は過去に向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方その頃

 

聖杯の中で一人の青年が胡座をかいている。

その青年は今日会った一人の女性の事を考えていた。

それは、まるで一時の夢の様な光景。

青年は口の端を歪ませて独り言をつぶやく。

 

「さ~て、セイバー(・・・・)はどんな風に衛宮士郎を更正させるか、楽しみ楽しみ」

 

青年は少女の事を全然心配していない。




すいません。
ちょっと長すぎましたね。
自分でもちょっと長くねと思っています。
キャラが崩壊してる部分も有ると思います。
そのときは教えて欲しいです!
アルトリアの年を取った見た目はランサーアルトリアをイメージして欲しいです。
ランサーアルトリアの槍無し、馬無しです。
あれ?これじゃ誰だ?
まぁ、後で考えるとして
次回アルトリアさんが過去に行きます


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アルトレア

書くことがありませんすいません。



目を開けるとそこは火の海だった。

肌を灼く様な熱さ。

鼻をつく様な焦げた匂い。

私は驚きよりも先に焦りが生まれた。

 

「シロウ!」

 

私は彼の名前を呼ぶ。

名前を呼んだ時にはもう走っていた。

 

「シロウ! シロウ!!」

 

私は叫ぶ。

それは狂気じみた叫びであっただろう。

 

「シロウ!!」

 

どんなに走ってもシロウは見つからない。

いくら呼んでも返事は無い。

私はそれでも諦めない。

 

「シロウ、何処に居るのですか!?」

 

私は軽く一時間は走り続け、瓦礫を退かしてシロウを探し続けた。

すると、私の目の前に小さな子供の右腕が見えた。

小さな右腕はまるで空を掴もうとするかの様に伸ばされていた。

届く筈が無いのに、少年は手を伸ばし続ける。

触れられる筈も無いのに、少年は手を下げようとしない。

私はその光景を可哀想と思った。

少年の手は初めから空なんて掴もうとしていない。

かと言って、触れようともしていない。

少年は初めから誰かにその手を握って欲しかっただけだ。

それだけなのに…たったそれだけなのに…少年の手を誰も掴んでくれなかった。否、掴める人が誰一人としていなかったのだ。

 

「シロウ…」

 

私はもう一度少年の名を呼び、近づいて行く。

少年の目の前に来た。

少年は私の姿が見えていなかった。

私の好きだった決意のある瞳は、虚ろなモノとなっていた。

私は少年の過去を識っていたが、こんなに辛いモノだとは知らなかった。

私は少年を抱きしめた。

少年も微力ながら抱きしめ返してくれた。

 

「シロウ」

 

私は若干泣きながら少年の名前を呼んだ。

私たちは一体いつまで抱きしめ続けたのだろう?

あんまり思い出せない。

 

「君たちは?」

 

声のした方を向くと、そこには、私の元マスターの衛宮切嗣がいた。

切嗣は目の端に涙を浮かべて、私たちの方に歩いて来た。

彼に敵意も殺意も無い事を確かめ、私の方も近づいていく。

 

「君たちは無事だったのかい?」

 

「はい、何とかですが。」

 

私が言い終えると、切嗣の顔から涙が更に出ていた。

そして……

 

「良かった、二人だけでも生きてて良かった……!」

 

切嗣は嘘偽りの無い言葉で私たちが生きている事に本気で喜んでいる。

これが、本当の衛宮切嗣。

魔術師殺しじゃないありのままの衛宮切嗣。

 

「すみませんが、この子を診てもらって良いでしょうか?」

 

私は、シロウを切嗣に託した。

本来なら火の海から助かる唯一人の生存者。

今のシロウは目が虚ろで、呼吸も微かだ。

 

「わかった。任せてくれ」

 

切嗣がそう言って出したモノはアヴァロン

私の永遠に失われた鞘

切嗣はアヴァロンをシロウの体の中に入れた。

シロウはどんどん顔色が良くなり、そして、穏やかな寝息になっていく。

その様子を見た私は安堵の息をはき切嗣にお礼を言った。

 

「ありがとうございます」

 

「いや、まだ安心出来ない。病院に連れて行こう」

 

切嗣は本気でシロウを助けようとしている。

私は嬉しかった。

私のアヴァロンがシロウの命を繋ぎ止めている事が。そして、切嗣が心優しい人だったと言う事が。

 

「そうだ。君たちの名前は?」

 

切嗣が急にそんな事を言う。

自己紹介か…

私はなんと答えれば良いのでしょう?

普通にフルネームを、いや、それは、無しか。

なら、軽い記憶喪失と言う事にしよう。

私の名前を少し変えて後は、記憶喪失で誤魔化そう。

 

「はい、私の名前はアルトレア。そして、この子はシロウ、私の弟です」

 

シロウを弟にするのは流石に無理があったか……でも、貫き通すしかない。

私は一度で良いから弟か妹が欲しかったのです。

 

「僕の名前は衛宮切嗣。よし、そろそろ行こう!」

 

切嗣はそう言うとシロウを抱き抱え先に行ってしまった。

 

「待ってください! キリツグ、私を置いて行かないで下さい」

 

私は切嗣の後を小走りで追っていく。

 

「悪いけど、先に行くよ! このままだったらシロウ君が危ないかもしれないからね!」

 

切嗣は全力で疾走していて、全然距離が縮まらない。

私はそれでも走る。

そして、10分間走り続けた後、病院に着いた。

病院にはあんまり人が居なかった為……シロウはすぐ診てもらえた。

 

「アルトレアさん、君たちの住んでた場所は分かるかい?他の家族は?」

 

切嗣から話し掛けて来た。

聖杯戦争の時は会話らしい事は一度もしていない。

私は切嗣から会話をしてくれる事が嬉しかった。

 

「すみません。私が覚えている事は自分たちの名前と姉弟だったと言う事だけです」

 

「いや、良いんだ。無理に思い出す必要はない」

 

「…」

 

「…」

 

これで会話終了

もう少し喋れないのか、私は!

居た堪れない私が病院の天井を仰いでいると……

 

「アルトレアさん」

 

不意に切嗣からまた喋りかけて来た。

私は病院の天井から視線を切嗣に移す。

 

「なんでしょうか、キリツグ?」

 

「あの、もし、住むところが無いのなら僕の家に住まないかな?」

 

私は驚いた。

まさか、あの切嗣から一緒に住もうなどと言われるとは!

 

「宜しいのでしょうか?」

 

「ああ、大丈夫。僕の家は大きいから二人ぐらい増えても問題じゃないよ」

 

二人とはシロウと私の事。

 

「私は賛成ですが、シロウは」

 

「後でシロウ君にも聞いておこう。だけど、もし彼が住みたくないと言ったら、君たちは孤児院に行くことになるけど良いかな?」

 

「はい、私は構いません」

 

切嗣との会話が終了したと同時に。

病院の看護師からシロウが意識を取り戻したと聞かされた。

私と切嗣はシロウのいる病室に行った。

 

「シロウ!」

「シロウ君!」

 

そして、私たちは病室に入った。

 




アルトリアさんが過去に行きました。
中途半端に終わってしまいました。
次回は病室からです。
早く切嗣さんの名言を書きたいfate信者でした。
次回も宜しくお願いします


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夢の終わり

どうも!
fate信者です。
今回は短く纏めれました。
これから物語は始まっていく、的な。
では、どうぞ!


俺は覚えている。

あの火の海の中で俺を助けてくれた人を覚えている。

金髪の女性が誰かの名前を叫んでいる。

生きてると言いながら、俺を抱きしめてくれた事を覚えている。

その顔が涙に覆われていながらも安堵の顔をしていた事を覚えている。

死の淵にいる自分が羨ましく思える程、彼女は眩しかった。

そして、もう一人の男を覚えている。

男の人は、俺とその女の人に「二人だけでも生きてて良かった」と泣き笑いで喜んでいた事を覚えている。

男は救われたと言っていた。

助ける事が出来て救われたと言っていた。

まるで、救われたのは俺ではなく、その男の方だったようだ。

その姿はまるで正義の味方の様だった。

それを俺は綺麗だと思った。

その男の生き方がなんて綺麗なんだと思った。

俺はその男の人が見せてくれた笑顔を最後に、意識が消えた。

 

「んっ、うっ、うう」

 

気が付き、目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。

肌を焼く熱さはなく、鼻を突く焦げた匂いもしない。助けを求める声もしない、そう耳を塞ぎたくなるようなあの沢山の声も……

代わりにあるのは、肌寒い程、冷房が効いた部屋

消毒液とかの薬品の匂い

風の音だけが聞こえる。

そして、俺が暫し風の音に耳を澄ましていると、ガラガラッとドアが開く音がした。

音がした方を見てみると…俺を救ってくれた二人がいた。

その二人は俺の方に来て、シロウ…と言った。俺の、名前?

俺は二人を不思議そうに見ていると、男の方が口を動かした。

 

「君は見ず知らずのおじさんと一緒に暮らすか、孤児院に預けられるか、どっちが良いかな?」

 

急に言われたから何の事か分からなかったので、自分なりに少し考えてみた。

おじさんたちと一緒に住むか、知らない子供たちと一緒に住むかの違いである。

俺は少しの間だけ考えた。

そして、俺の中で答えがでた。

俺はおじさんの方を指差した。

すると、おじさんは顔を綻ばせて

 

「そうか! 僕と一緒に住むと言う事だね。こうしてはいられない。早く荷物の準備をしよう」

 

そう言うと、おじさんは何やら手続きを始めた。

どうやら俺はもう退院出来るらしい。

俺はおじさんの後に続いていく。

すると、おじさんはこっちを向き、口を動かす。

 

「今から君に三つの事を言う」

 

おじさんは指を三本立てて続けた。

 

「まず、一つ目、君の名前は衛宮士郎。勝手に名前を付けちゃったけど良いかい?」

 

俺は首を縦に振った。

これは承諾の代わりだ。

 

「ありがとう。では二つ目、君にはお姉さんが居る。君が覚えているかは分からないけど、君は『独りじゃない』ということは分かってほしい」

 

俺はもう一度首を縦に振った。

 

「さて、最後…僕は魔法使いなんだ」

 

俺はおじさんが言った事が理解出来なかった。いや、正確には理解するのを放棄しただけか。

 

「おじさん、嘘はよくないぞ」

 

「これは嘘じゃない。後、僕の名前は衛宮切嗣だから、切嗣とか切嗣さんって呼んでくれても構わないよ」

 

俺は切嗣さんと呼ぶには抵抗があるし、切嗣…と呼び捨てにする仲じゃないから

 

「わかった。じゃあ、爺さんって呼ぶことにする」

 

爺さんは一瞬苦笑いしていたが、すぐに笑顔になり

 

「わかった。僕も君の事を士郎と呼ばせて貰うよ。さあ、今から君の姉さんに会いに行こう」

 

俺と爺さんは一緒に病院を出た。

これから俺は新しい家族と、新しい場所で暮らしていく。

新しい暮らしに胸を高鳴らせて俺は爺さんの後を追う




どうでしょうか?
切嗣さんの会話シーンは全然見てませんがこんな感じだったと思います。
士郎君は切嗣さんの家に行きます。
次回はアルトレアさんと士郎君の会話だと思います。
それでは次回


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再開

今日は予告通り士郎とアルトリアの会話です。
結構早く書けた事に僕は嬉しいです。
では、どうぞ!


私は病院の外で切嗣と士郎を外で待っている。

何故、私が此処に居るかと言うと

士郎の姿を見たとき涙が溢れそうになったからだ。

泣いている人が居たら、切嗣だって会話がしづらい筈だ。

病室の外で待っていても良かったが、切嗣と士郎の会話を私は聞いてはいけないと思った。

それで、私は何とか涙を堪えて、病院の外に出た。

私が病室から出て、三十分が経過した。

士郎も切嗣もまだ出る気配がしない。

私は一人背伸びをしていると……

 

「アルトレアさん。待たせちゃって、申し訳ない」

 

切嗣の声が聞こえた。

私は声のした方に振り替えると、二人が一緒に病院から出てきた。

 

「キリツグ、少し遅かったですね」

 

私は切嗣に皮肉を一つ言ってみる。

切嗣は苦笑いをし

 

「ははは…遅くなってごめん」

 

「いえいえ、お疲れ様です、キリツグ。」

 

私は切嗣にそう言い

視線を切嗣から後ろの子供…士郎に視線を移す。

私が士郎を見ると、切嗣の後ろに隠れてしまった。

その態度にショックを受けていると、切嗣は……

 

「士郎、この人が君のお姉さん、アルトレアさんだよ」

 

士郎は切嗣の言葉を聞いてひょっこりと顔を出した。

どうやら、姉…と言う言葉に反応したようだ。

 

「俺の姉さん?」

 

士郎は疑っている様だった。

それは、当然か…唐突に君の姉さんだよと言われて素直に信じる方が珍しい。しかし、

 

「はい、シロウ!貴方の姉、アルトレアです!」

 

私は最大限の元気を出して士郎に答える。

士郎も私の事を信じてくれたのか、切嗣の後ろから私の目の前に来て、そして、抱きついた。

 

「シロウ!?」

 

私は驚いた。

士郎が抱きついて来たことに……身長差があるから抱きつくよりしがみつく、の方が合ってるかもしれないが。

それよりも…何故士郎が唐突に抱きついて来たのか私には分からなかった。

士郎の方を見やると、目から涙が溢れていた。

 

「姉さん! 姉さん!!」

 

嗚呼、そうか

士郎は最初から怖かったんだ。

知らない場所で目を覚まして、辺りを見渡しても知らない人ばかり、そんな事になったら自分はどうしていただろう?

ましてや士郎は若い。

頼める人も居ない士郎にとっては切嗣が唯一の顔見知りだだから付いていくしかなかった。

不安だった筈だ。

それでも士郎は切嗣に付いていった。

多分、切嗣の背中に士郎は何か惹かれるモノがあったのかもしれない。

私には分からない、それは士郎だけが知ることだから。

 

「姉さん!」

 

士郎は更に涙を流している。

士郎の泣き顔が私の心を動かした。

正直な話、私は不安だった。

私は士郎の姉としてやっていけるか?

士郎の悲しみを全て消し去る事は出来るか?

士郎に人並み以上の幸せを与える事が出来るか?

でも、そんなものは士郎の涙を見て吹っ飛んだ。

私は士郎の姉……衛宮アルトレアだと。

なら、必然的にやる事は決まっている。

士郎と一緒に居る事こそが私がこの時代に居る理由。

 

「シロウ」

 

私は士郎を抱きしめ返す。

優しく、穏やかに、そして、温かく。

士郎は満足したのか、私から離れていく。

 

「姉さんありがとう。突然抱きついてごめん」

 

「気にする事ではありません。私も士郎に怖い思いをさせてすみませんでした」

 

お互いの距離が縮まったと私は思う。

 

「……さて、話も終わったみたいだから、行こうか、僕たちの家に。」

 

切嗣は、私たちにそう言い、顔を見せない様に先を歩いていく。

それを私と士郎は追いかける。

私はこれからの生活を少しながら楽しみにしている。

士郎と一緒にまた暮らせる事が嬉しい。切嗣とも少なからず会話が続くように頑張っていこう。

明日はどんな日になるか私には分からない。だから、明日が楽しみなのだ。

士郎と切嗣と私の三人で明るく楽しい日常を過ごして行こう。

 




どうでしょうか?
士郎君とアルトレアさんの会話シーンも頑張りました。
多分、次回は藤ねぇ登場だと思います。
多分ね
それではまた次回


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冬木の虎

予告通り大河が出ます。
あんまり会話をしません。
すいません。
大河はこれからもちょくちょく出していくつもりです。


私たちは切嗣の後を追う。

切嗣が行こうとしている場所は私が良く知るあの武家屋敷だ。

 

「ここが君達の新しい家だよ」

 

切嗣が家を紹介する。

案の定、武家屋敷だった。

 

「すげぇ~」

 

「……」

 

士郎は驚き、私は過去の思い出と一緒に思い返す。

ここでは色々あった。

大河や桜や凛達と暮らしていた事を思い返す。

 

「さあ、中に入ろう」

 

切嗣はそう言いながら、先に入って行った。

士郎と私は切嗣の後を追う様に入る。

 

「うわ~、凄く広いな」

 

「ええ、そうですね」

 

士郎は終始興奮状態だ。

私は見慣れているから大丈夫だ。

 

「おかえりなさい……さて、案内するよ」

 

切嗣の言う通りに私たちは切嗣の後を追う。

 

「ここが居間だよ」

 

切嗣が最初に向かった場所は私が良く知る居間だった。

ここではご飯を食べたりお菓子を食べたり

他には……えーと、他には……特にありませんね

 

「ここが和室で、ここが洋室」

 

切嗣が紹介した部屋の数は十部屋で下手な旅館よりある。

 

「ここが土蔵。まあ、物置小屋だね」

 

ここは私と士郎が出会った場所。

思い出の場所だ。

 

「ここは今作ってる最中だけど道場になる予定だ」

 

ここも思い出深い場所だ。

士郎と何度も打ち合った場所。

 

「さて、案内も終わった事だし、士郎とアルトレアさんは自分の部屋を決めて来てくれ」

 

私と士郎は部屋を決めに行く。

切嗣は縁側に座った。

 

「シロウ、何処にしますか?」

 

「ん~、そうだな俺は和室にしようかな?」

 

「では、私はシロウの隣の部屋にしてもいいですか?」

 

私が言うと士郎は驚き、その後、笑顔になって良いよと言った。

 

「キリツグ、部屋が決まりました」

 

「わかった。後…そろそろこの家に僕の知り合いが来るから」

 

「分かりました。それで、その人の名前は?」

 

「ああ、その娘の名前は藤村大河って言う可愛い女の子だよ」

 

私は切嗣にバレない様に驚いた。

大河は一体いつからこの家に居るのだろうか?

 

「分かりました。任せて下さい」

 

私がそう告げた矢先、玄関の方から

 

「切嗣さ~ん、居ますか~!?」

 

と言う元気な声が聞こえた。

勿論。大河である。

 

「大河ちゃん。こっちだよー」

 

切嗣も大声で場所を知らせる。

「む? そっちか! 」

 

「切嗣さ~ん、あ〜そ〜びぃま〜しょ…う?」

 

大河が固まった。

いや、体がでは無く、心が。

体は小刻みにふるふると揺れていた。

この時の大河は爆発寸前の火山だ。

大河が爆発する前に私は士郎の耳を塞ぐ、今の士郎ではとてもじゃないが耐えられないと判断したからだ。

 

「切嗣さん! 誰ですかこの二人!? まさか! 切嗣さんのヨメさんとコドモですかぁ!?」

 

大河は爆発した。否、吠えた。

まるで虎の様に吠えた。

 

「大河ちゃん、落ち着いて!この子達は僕の養子だよ!」

 

「切嗣さんが女を連れて来るなん…へ?」

 

大河は又しても固まった。

今度は本当に固まった。

体は一ミリたりとも動いていない。

心配した切嗣が彼女の頬を叩くと、意識が帰ってきたようだ。

 

「切嗣さんの養子なんですか?」

 

「ああ、そうだよ。二人とも自己紹介を。」

 

切嗣は私達の方を向き、そう告げた。

私と士郎は言われた通りに自己紹介をする。

 

「衛宮アルトレアです。宜しくお願いします」

 

「衛宮士郎です、宜しくお願いします」

 

これで大丈夫……な筈だ。

 

「切嗣さんの養子なんだ」

 

「はい」

 

大河は安心したのか、私達を睨まなくなった。

 

「ところで? 大河ちゃんは何しに来たんだい?」

 

切嗣が言うと、大河は切嗣の方を向き、

 

「暇だから来ました」

 

何とも大河らしい理由だった。

大河は昔から変わっていない。

性格も態度も、唯一変わっているのは髪型ぐらいか。あの頃ではショートヘアーだったが、過去ではポニーテールとなっている。

 

「ああ、大河ちゃん、士郎、アルトレアさん。一つ言わなくちゃいけないことがある」

 

切嗣は真剣な顔になり、そう切り出した。

 

「何ですか、切嗣さん」

 

何かを悟ったらしい大河も真剣な顔になる。

 

「実は、明日から僕は海外に行く」

 

「「えっ!?」」

 

私と大河が驚く、士郎は何の事か分からず首を傾げている。

可愛い。

 

「どうしてですか?」

 

「実は、僕の娘が寂しい思いをしていると思ってね。明日から僕はその子を迎えに行く」

 

大河は驚いている。

私も少しだけ驚いた。

 

「それで、士郎、アルトレアさんにお願いがある」

 

「お願い?」

 

「なんでしょうか?」

 

「君達にこの家を任せても良いかな?」

 

私と士郎は頷く。

 

「任せてくれ、この家は俺が守ってやっから!」

 

「お任せ下さい。不貞の輩に、私達の家は、指一本触れさせません」

 

私と士郎が凄い意気込みで答えると、

切嗣も安心した様に

 

「そうか。ああーー安心した」

 

切嗣は一言呟き、、歩いていく。

切嗣はこちらを振り返り、

 

「頑張って早く帰るから」

 

と、実に彼らしい事を言って、旅立って行った。

この時の私には知る由もないが、この切嗣の行動から未来は変わっていく。

未来はたった一つのイレギュラーで変わってしまう。

しかし、それで、士郎が救われるならそれでも良いと思う。




さあ、切嗣さんの行動からどんな未来になるのでしょうか?
本来なら切嗣さんは士郎が一人でも留守番が出来る様になってから行きますが、この話ではアルトリアさんが居るから通常より早く行くことになりました。
次回は日常かな?


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初めてのお料理はおにぎりから

予告通りに日常です。
お料理します。
士郎君とアルトレアちゃんのお料理をする話です。



「爺さん、行っちまったな……」

 

「ええ、そうですね」

 

私は士郎の言葉に返事をする。

今日から私と士郎はふたりで暮らさなきゃいけない。

取り敢えず、お腹が減ったので、士郎に何かを作って貰いましょう。

 

「士郎、ご飯にしましょう!」

 

私は士郎に言う。

 

「姉さんが料理を作ってくれるのか?」

 

「え゛っ!?」

 

私は士郎の言葉に驚き、そして、ここが何処か思い出す。

ここは士郎が料理を覚える前の世界。

当然、料理を作った事等ないし、包丁を握った事すらないだろう。

私は考える。

どうするべきか? どうやったらこのピンチから脱出出来るか?

そして、一つの解にたどり着いた。

それは……

 

「士郎、一緒に作りましょう!」

 

私と士郎が料理を覚えれば良いだけの話。

 

「うん、良いよ!」

 

こうして私達は料理を始めた。

 

「では、最初は何から作りますか?」

 

料理は出来る出来ない以前に、まず、挑戦だ。

料理は努力とアイデアから出来るもの。

まず、始めは簡単で早く出来るものを作りたい。

理由としては早くお腹を満たしたいと言うだけ。

 

「うーん、卵焼きとか、味噌汁とか、色々在るけど、何から作ろうか?」

 

「そうですね、私としては……おにぎりなど如何でしょうか?」

 

私は士郎におにぎりを薦める

士郎は最初、「おにぎりなんて誰でも出来るよ」と言ったので、作って貰った。

士郎のおにぎりは、形は良いが、塩は効きすぎてしょっぱく、強く握ったせいでおにぎりは固くなっていた。

士郎は、自分が握ったおにぎりを食べると、その固さに驚き、もう一回握り直してきた。

今度のおにぎりは、塩の塩梅は良かったが、形が悪く、弱く握ったせいで食べていくとどんどん形が崩れていった。

 

「そんな! おにぎりってこんなに難しいの!?」

 

「そうですよ! 簡単と思っていたモノ程…難しいのです」

 

私は士郎におにぎりを作る難しさを教える。

私もおにぎりを握り、士郎と交換した。

 

「姉さんのおにぎり、美味しいよ!」

 

「それは良かった。後、士郎……私の事は『姉さん』では無く、他の呼び方でお願いできますか?」

 

「ん? なんでさ?」

 

士郎は首を傾げて聞いてきた。

可愛い。思わず、抱きつく所だった。

ーーふう、危ない、危ない。士郎のこの姿を見ると何故か押し倒したくなってしまう。

私は士郎に抱きつかない様に努力する事を決めた。

 

「それは、なんと言うか…私が恥ずかしいから、ですかね?」

 

私は今出来る最高の笑顔で士郎に答えた。

 

「うん、わかったよ!」

 

そう言った士郎は、暫し考えこんでいる。

そして、時間にして、3,4分くらい経った頃、何やら決まったようで、満面の笑みを浮かべた。

 

「シロウ、決まったのですか?」

 

「うん! 決まったよ」

 

士郎は凄く嬉しそうだった。

こんな笑顔の士郎を私は見たことがない。

私はこの笑顔を守ると誓った。

それに嘘偽り等無い。

 

「それは良かったです。それで……」

 

「アルトレア姉さんだから、アルトねぇ。って…ダメかな?」

 

士郎は私の顔を窺う様に言ってきた。

どうやら自信を最後まで持てなかった様だ。

私は最高の笑顔で答えた。

 

「ダメなものですか! 士郎…良い名前をありがとう。私は感謝します」

 

「本当!? そう言われると嬉しいな」

 

士郎は本当に喜んでいる。

その姿は私も喜ばしい。

私は士郎の方を向き、こう呼びかけた。

 

「士郎、またおにぎりを握りましょう!」

 

士郎は驚いていたが、直ぐに笑顔になる。

 

「そうだね。今度こそ美味しいモノを握るよ!」

 

私と士郎は仲良く台所でおにぎりを握る。

その光景は誰もが見ても温かいモノであった。

私はこの日常を愛している。

それ以上に士郎を愛している。

私はこの日常が続いて行けば良いと思っている。

さて、明日はどんな日になるかな?

私は明日の事を考え、おにぎりを握る。

 

 




おにぎりって予想以上に難しくありません?
僕が握ると固くなっちゃうんですよね。
しかも、塩は一点集中で、あるところだけ凄くしょっぱくなっちゃうんですよね
おにぎりから料理はスタートする。って僕は思います。
皆さんもおにぎりを握ってみませんか?
次回も日常です。
それでは次回


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可愛い妹が出来ました

どうも!
fate信者です
今回はほのぼの?をやります。
では、どうぞ!


~半年後~

 

 

切嗣が旅立って、半年が過ぎた。

この半年間で私たちはこの街に順応していった。

私と士郎は料理がどんどん上達していった。

それは、もう見違える程に……

今の私の実力は士郎より少し下と言うぐらいか。

私は士郎と料理が出来る事が素直に嬉しい。

昔は作る側と食べる側と言う関係だったが、今は二人で作り二人で食べると言う私が望んだ関係だ。

だから、私は今の生活に満足している。

この家にはもう一人住人が居る。

その名は藤村大河。

藤村組組長の孫娘だ。

私と士郎が日常を謳歌出来るのは大河の祖父雷画(ライガ)のお陰なのだ。

大河は最近この家に住み着いていると言っても、多言ではない。

「ここのご飯が美味しいから」と言う理由らしい。

今日は大河は居ない。

どうやらライガから「いい加減帰ってこい!」と言われたようだ。

大河は居たら居たで騒がしいが、居なかったら寂しいものだ。

 

「アルトねぇ!焦げてる!魚が焦げてる!!」

 

「えっ!? あっ!!」

 

士郎の言葉を聞き、魚を見てみると、物の見事に丸焦げだ。

これでは食べられたモノではない。

それでも資源は有限なのだ。だから、自分で食べよう。

実際…調味料で何とかなるかもしれない。

 

「アルトねぇ、良いよ。それは俺が食べる」

 

士郎はそう言ってくれた。

なんと出来た弟なのだろうか!

私は姉として嬉しい。

だが、自分の不始末は自分で片付けたい。

 

「シロウ、その心遣いは嬉しい。ですが、これは私がしてしまった事ですから、自分で食べます」

 

私は士郎の心遣いを固辞する。

弟には私の失敗してない料理を食べて満足して欲しい。そう、私は姉なのだ。

 

「ガラガラガラ」

 

と玄関のドアが開く音がした。

士郎は玄関の方に走っていく。

私は士郎の後を追わずに料理を作る。

廊下から走ってくる様な音が聞こえる。

 

「アルトねぇ!大変!大変!」

 

士郎は興奮している状態だった。

一体誰が居たのか?

私は士郎に手を握られ、玄関に向かった。

 

「えっ!?」

 

そこにはボサボサの髪、死んだ魚の様な目、ヨレヨレのコートを着た男が居た。

男は私たちを見ると笑顔になり、

「ただいま、アルトレアさん、士郎……!」

と一言。

士郎は目に涙を溜めている。

どうやら切嗣が帰ってきたのが余程嬉しいらしい。

私は切嗣の後ろに居る小さな女の子に驚きを隠せなかった。

その子の見た目は、雪のような白銀の髪、髪と同じぐらい白い肌、ルビーの様な真っ赤な瞳、士郎と同じぐらいの身長。多分、年もそこまで離れていないと思う。

 

「ほら、イリヤ、ご挨拶は?」

 

切嗣の後ろにいた女の子は、前に出て、スカートを持ち上げ挨拶をした。

 

「衛宮イリヤスフィール。どうぞ、イリヤとお呼び下さい。お兄ちゃん、お姉ちゃん、今後ともよろしくお願いいたします」

 

私は確信した。

私が過去に飛んだせいで未来は変わってしまう。

それでもその未来が幸せならそれでも良いと思った。

勝手な自己満足と蔑まれても良い。

私はこの家族を幸せにすると誓ったのだから!




新しい家族が一人増えました
原作からどんどん違う所にいっています。
イリヤさんは死んで欲しくないので殺しません!(絶対に)
それではまた次回


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姉は食材にも優しい

すいません。
前書きは書くことが本当にありません。
有るとすればFGOで20連で爆死したぐらいですね。



「衛宮イリヤスフィールです。イリヤとお呼び下さい。お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

私と士郎は驚きを隠せずにいた。

士郎はお兄ちゃんと言われ驚いている。

私はイリヤスフィールが切嗣の子供だったと言う事に驚いている。

 

「士郎、アルトレアさん。イリヤと仲良くしてやってくれないか?」

 

切嗣の言葉に私達は意識をイリヤスフィールに戻した。

イリヤスフィールは、再び優雅に礼をして、微笑みかける。

 

「よろしく。俺の名前は衛宮士郎」

 

「私の名前は衛宮アルトレアです。イリヤスフィール、よろしくお願いします」

 

私達も自己紹介をする。

その光景を見ていた切嗣は笑顔だった。

 

「さて、自己紹介も終わった事だし、何か食べに行かないか?」

 

切嗣の言葉で台所の魚のことを思い出した。走って台所に向かう。

台所に着くと、台所の魚は無念の戦死を遂げていた。

焼き魚達は、闇のように黒い炭に蝕まれた。

私は台所で膝をつく、助けられなかった。私は魚たちを持って、庭に行き、穴を掘り、庭に埋める。

食べられないなら、せめてこの子たちに安らぎを……

私は魚たちの魂に別れを告げ、台所に戻る。

 

「アルトねぇ」

 

「アルトレアさん」

 

「お姉ちゃん」

 

三人は私を見て驚いている。

…はて? 私は何か可笑しな事をしたのか?

 

「シロウ、切嗣、イリヤスフィール。私は何処か可笑しいですか?」

 

私は自分の可笑しな所が解らなく、士郎たちに聞いた。

 

「可笑しな所は…ねぇ」

 

「そんな所は…なぁ」

 

「ちょっと…ね」

 

士郎たちはうやむやな言い方をしている。

 

「シロウ! 切嗣! イリヤスフィール!遠慮しないでください!思った事を口にしてこその家族でしょう!?」

 

私は半ば怒鳴りながら言い放った。

 

「わかったよ。アルトねぇ」

 

「そこまで言うなら……」

 

士郎と切嗣は、私の勢いに気圧されたのか口を開いた。

 

「アルトねぇ。焦げた魚を庭に埋めるなんて可笑しいと俺は思うんだけど」「「うんうん。」」

 

士郎の言葉に、切嗣とイリヤスフィールは肯定しながら、首を縦に振った。

 

「別に良いではないですか! 食べられないからそのまま捨てるなんて、あんまりだと思います」

 

私は食べ物の気持ちになって答える。

食べ物は食べて貰いたい筈だ。だから、食べられないまま終わるなど食べ物たちにとって最大の屈辱だ。

確かに、決して食べてあげられないモノは確固として存在する。

だけど、私は…叶うのなら、食べ物たちを救ってあげたい。

その心に嘘偽りなど一欠片程もない。

 

「それはそれとして、なんで焦げた魚を埋めるかな?」

 

「私は食べてあげられなかった食材たちの為に、せめて安らぎを与えようと土に埋めたのです」

 

士郎達に訴えかけたが、苦笑いをするだけだった。

私はそんな三人の態度が不思議でしょうがなかった。

 

「まぁアルトレア先生の講義はここまでにしておくとして……今からご飯を食べに行こう」

 

「そうだな。」

 

「早く食べに行きましょう。私お腹ペコペコだから」

 

切嗣の提案を士郎とイリヤスフィールは肯定する。

私としては、まだ、話が有るのですが、取り敢えず食事のことを考えましょう。

 

「さて、何処に食べに行く? 無難にハンバーガーかな?」

 

切嗣はとんでもない事を言ってきた。

ハンバーガーとは、簡単に言うと、パンズに肉や野菜を入れた簡単な料理…サンドイッチの仲間だ。

ハンバーガーは人気の食べ物だが、私としては雑な料理は苦手なので、その美味しさは良く解らない。

 

「キリツグ…ハンバーガー以外のモノを食べに行きましょう」

 

私は切嗣に提案をする。

私としてはハンバーガーより士郎の手料理が食べたいです。

 

「わかったよ。じゃあ、何を食べに行こうか?」

 

「なぁ、爺さんたちが迷惑じゃなかったら俺が作っても良いかな?」

 

本当に絶妙なタイミングである。

切嗣は最初驚いていたが、「じゃあ、お願いするよ」と穏やかに言った。

切嗣の言葉を聞いた士郎は嬉しそうだった、見ているこっちも嬉しく思える程に。

それからの士郎は早かった。

台所に行き、料理を作り始める。幸い、台所には味噌汁とだし巻き玉子が既に完成していた為に後はメインを作るだけだった。

 

「さてと、やっぱり魚を焼こうかな。爺さんはハンバーガーで済ませそうとしてたからな。たまには魚を食べさせないと」

 

士郎はそんな事を言って、魚を焼く。魚はちゃんと四人分だ。

 

「皆、出来たよ」

 

そう言って士郎は四人分の食事を持ってきた。

今日のご飯は焼き魚に味噌汁にだし巻き玉子ときんぴらごぼう、そしてご飯と言う完全に和食である。

これは小さな子供が作ったとは信じられない出来だった。

 

「士郎、凄いじゃないか!」

 

「お兄ちゃん、凄い!」

 

切嗣とイリヤスフィールは士郎の料理を誉める。

誉められた士郎は笑顔だった。

 

 

 

食事が終わり、皆で食後のお茶を飲んでいる時に

 

「爺さん、俺も魔法使いになりたい」

 

と…士郎が一言言った。




タイトル通りに食事をしましたが
なんかな~
終わりが何か変だったな~
やっぱりfateを全てもう一度見直さなくては!
次回は書くの遅れるかもしれません
それでは次回


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正義の味方は涙を流す

久しぶりの投稿です
今回はある人が正義の味方になります?
まあ、何とか書いていけそうです!
それではどうぞ!


「爺さん、俺も魔法使いになりたい!」

 

士郎のこの一言によって空気が変わった。

士郎は言ってはいけない事を言ってしまったのだ。

『魔法使い』とは魔術師の到達点とも言われているぐらいに凄いものなのだ。そして、魔法使いの単語を聞いた切嗣は、私を一瞥し、あることを察した様に、真剣な面持ちになった。

ただ、「魔法使い」と聞いただけで、切嗣はこんな態度になりはしない。

これには理由がある。

『魔法使い』と言う単語はこの日常にありふれている。

童話にアニメと言ったモノでも出てくる。

今の士郎ぐらいの年齢の子供たちが好きなモノ。

しかし、士郎は、あの時以降、童話なんて読んでいないはずだし、テレビだってニュースしか見ていない。

外で遊んでいるのなら聞く事もあるかもしれないが、残念ながら士郎が外に出るのは食材を調達する時ぐらいだ。

それも、私と一緒に付いているので、士郎に話しかける人が居たら私だって見ている筈だ。見ていないと言う事は、士郎に話しかけている人は今はまだ居ないと言う事である。

結論から言って士郎には魔法使いと言う単語は知るよしも無いのだ。

切嗣は一回深呼吸をして、笑顔で士郎に問いかけた。

 

「士郎、どうして魔法使いになりたいんだい?」

 

その言葉には決意と覚悟が秘められていた。

もし、士郎が魔術師の部類だったなら、切嗣は士郎の額に銃口を押し付けるだろう。無論、そうはさせないが。

 

「? 爺さんそんなに知りたいのか?」

 

士郎は切嗣の態度に首を傾げて言った。

切嗣はそれに返事をするように首を縦に振った。

 

「ああ、これは確認しないといけない。士郎が幸せに生きていく為に必要なんだ」

 

縋るような切嗣の言葉に私は驚きを隠せずに居た。

切嗣なら士郎を殺すと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。切嗣は、士郎の記憶を消して家族として暮らしていくみたいだ。

 

「良いよ、教えてあげる」

 

士郎は切嗣に笑顔を向けて魔法使いになりたい理由を話した。

 

「俺は爺さんみたいになりたいんだ」

 

士郎の言葉には強い決意が感じられた。

士郎のこのたった一言に、私たちは言葉を失った。

正確に言うと、私はわかっていたから、イリヤスフィールは何かを察して、黙った。切嗣はと言うと、驚愕に言葉を発せずに居た。

 

「士郎、どうしてキリツグみたいになりたいと思ったのですか?」

 

このままでは誰も何も発せず、沈黙が続く。

だから、私が切嗣の代わりに士郎に聞いた。

 

「アルトねぇはこの街を襲った火事を覚えてる?」

 

士郎は体を小刻みに震えさせながら聞いてきた。

そんな士郎の態度は恐怖に怯える小動物の様だった。

 

「ええ、覚えていますとも」

 

「俺が魔法使いになりたいのは、あの時みたいなことがあったら、みんなを助けたいからなんだ!」

 

士郎は強い決意に満ちた瞳で私たちを見た。

その瞳は私が大好きだったあの時の士郎の瞳だった。

 

「魔法使いになりたい理由はわかりました。しかし、キリツグの様になりたい理由がわかりません」

 

私はそう言うと、私と切嗣を交互に見て、こう返してきた。

 

「俺はあの火事の時にアルトねぇと爺さんに救われたんだ。その時、爺さんの安心した顔を見て思ったんだ。ああ、俺もこんな風に生きたい、ってな」

 

士郎は満足したみたいに笑顔だ。

この光景に笑みがこぼれる。

 

「キリツグはどうです…か?」

 

私は切嗣の方を向いて見ると、切嗣の双眸から止めどなく涙が溢れていた。

私たちは言葉を失った。

切嗣の性格を知っているからだろう。

切嗣の泣いてる姿に驚きを隠せずに居た。

 

「皆、ごめん。何故か急に…」

 

切嗣は自分がどうして泣いているのかわからないらしい。

多分、切嗣は認めて欲しかったんだと思う。誉めて欲しかったんだと思う。そして、自分のやってきた事が無駄じゃないと誰かに教えて欲しかったんだと思う。

切嗣のやってきた事は正義の味方のふり。だが、今日この日に限って切嗣は本当の正義の味方になった。

 

「話を戻そうか、どうして『魔法使い』と言う言葉を知っているんだい? 誰も言ってないと思うけど?誰かに教えてもらったのかい?」

 

切嗣は自分の目から出てくる涙を拭い、

士郎に尋ねる。

 

「知ってるも何も爺さんが言ったじゃないか?」

 

「えっ!? 僕ッ!?」

 

切嗣はどうやら覚えていないらしい。

そして、切嗣がいつ言ったのか私も知らない。

 

「うん、そうだよ」

 

「一体いつなんだい? 一体いつ!?」

 

切嗣は士郎の肩を掴んで、凄い形相で問いかける。

そんな切嗣に、若干ひくつきながらも士郎は答えてくれた。

 

「病院の時に、爺さんが、言ったじゃないか。『僕は魔法使いなんだ。』ってさ」

 

士郎の言葉を聞いて、切嗣は自分の記憶を思い返しているようだ。

そして、直ぐに思い出したようで……

 

「あっ!?思い出した! 確かに言った!!」

 

私は思った。

「魔術師は皆うっかりなのか?」と。

そして、士郎は切嗣に魔法使いのなりかたを聞いていた。

これで、今日の話は終わり。

明日は一体どんな話になるのでしょう?

私は明日を楽しみにし、今日を終える。




最後何か微妙な気がします。
でも、これ以上書いたら多くなるからここら辺で終わらせないといけません。
次回は、多分、剣道するんじゃないかと思います。
投稿は多分遅くなります。
それでは次回は見て頂いたら幸いです。


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正義の味方は正義の味方になれない

サブタイトルと内容はほとんど合っていません。
それでも、見て頂いたら幸いです。
それては、どうぞ!


「爺さん俺に魔法を教えてくれよ!」

 

最近、士郎の開口一番はこれだ。

魔法使いの件から、士郎は切嗣に会うとこの調子だ。

朝昼晩と三回だ。

流石の切嗣も苦笑いを浮かべるしか無い。

私とイリヤスフィールは口を挟まずに二人を見守っている、このやり取りが面白いから。

 

「士郎、駄目ったら駄目だ!」

 

「どうして!?」

 

士郎は涙目で切嗣に言う。

切嗣は一瞬「うっ!」とたじろいだが、見なかったことにしよう。

 

「士郎、魔法はね、人を不幸にしてしまうモノなんだよ」

 

切嗣は士郎の目を見ながら真剣に答えた。

それでも、納得いかない士郎は切嗣に質問を続ける。

 

「どうして魔法は人を不幸にするんだよ? 人を幸せにするモノじゃないのか?」

 

「確かに魔法は人を幸せにするだろう」

 

「なら」

 

士郎は笑顔を浮かべている。

その笑顔を見た切嗣は顔を俯かせて言った。

 

「魔法で幸せになるのは魔法を使った人だけなんだ。そして、魔法は他の人に決して癒えない傷を残すんだ」

 

切嗣の言葉に私たちは何も言えなかった。

切嗣の言い方に信憑性を感じたからかも知れない。

 

「それでも、俺は魔法を知りたいんだ!」

 

士郎の決意ある瞳が切嗣を見据えた。

切嗣は驚いている。

それもそうだ。

士郎は誰かを助けたいと言った。

それなのに、誰かを不幸にするモノを望んだ。

それは、ある意味矛盾しているだろう。

 

「士郎…どうしてそこまで?」

 

切嗣の問いには怒気が込もっている。

それでも士郎は言った。

 

「俺は人を助けたい。多分、魔法は、自分の欲望の為に使ったら人を不幸にすると思う。なら、自分の為じゃなく、誰かの為に使ったら、それは正解なんじゃないか?」

 

「成る程。士郎はそんなに人を助けたいんだね?」

 

切嗣は士郎に問いただす様に言う。

 

「ああ、俺は爺さんに救われたんだ。だから、俺は爺さんの様に誰かを救いたいんだ」

 

「そうか、なら言うよ。士郎に魔法を教える事は出来ない」

 

切嗣の言葉に驚かされた。

切嗣の事だから、士郎に教えると思っていたが、違うみたいですね。

それなら、切嗣はいつ士郎に魔術を教えるのでしょうか?

 

「爺さん、どうして?」

 

士郎も私と同じ考えだったみたいですね。

 

「それは、士郎が誰を助けたいか決めていないからだよ」

 

切嗣の言葉に士郎は戸惑う。

 

「えっ? でも、爺さんは見ず知らずの俺を助けてくれたじゃないか」

 

私はウンウンと首を縦に振る。

 

「僕はバカだからね。士郎を助けた後、この事に気づいたんだ。いや、気づくのを放棄していたというのが正しいか」

 

「それで、どんな事に気づいたんだよ?」

 

「ああ、全ての人を救うなんて無理だと言う事さ、それは、例え神であろうともね。それでも、士郎は魔法を知りたいのかい?」

 

切嗣は悲しい声で言った。

それは、自分が1番認めてはいけないモノを認めた人の悲しみだろう。

 

「ああ、それでも、俺は魔法を知りたい」

 

士郎の瞳から決意と覚悟を感じた。

自分の信じたモノを貫き通す決意、魔法がどんなモノでも信じる覚悟……。

 

「士郎、ちょっと道場にいかないかい?」

 

切嗣は唐突にそんな事を言った。

 

「良いけど…どうしたんだ? 急に?」

 

士郎の疑問は私にもイリヤスフィールにもわかる。

切嗣は理由を説明せずに、道場に早足で行く。

 




FGOで☆4が無料配布とか超嬉しいです。
あと、石三十個配布も嬉しいです。
そして、終わり方が微妙過ぎる。
まあ、そのまま書いていたら3000字は越えるから切れる所はここしかないとは言え
終わり方が本当に微妙過ぎる。
次回からはちゃんと考えていきます。
今回の話は剣道とか言っておきながら剣道をやっていません。すいません。
それでは次回も見て頂いたら幸いです


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衛宮家の外食(泰山)

どうもfate信者です。
今回は3000字オーバーです。
これは、ハッキリ言って駄文の極致、飽きを恐れずしてかかってこい!
まあ、読み手によっては駄文にもなるし、最高のものがたりにもなる。
まあ、面白かったら、感想を下さい。
お願いします(*^^*ゞ


切嗣は早足で道場に向かっていく。

切嗣に付いていくように士郎は切嗣の後ろを歩いていく。

そして、私とイリヤスフィールも切嗣の後ろに付いていく。

 

「爺さん! 爺さんってば!」

 

「ん? なんだい? 士郎」

 

切嗣は足を止めた。

私たちも足を止める。

 

「爺さん! 何で今から道場に行くのさ?」

 

士郎の疑問もその通りだ。

切嗣はどうして道場に行こうとしているのか私たちには分からない。

 

「いや、ちょっと道場が完成したから見に行こうと思って」

 

「「「は?」」」

 

私たちはキレイにハモった。

そんな理由だったのですか…切嗣

 

「いや、だって、道場が完成した時、僕は居なかったからね。どんな感じが気になってしょうがないんだよ」

 

それは、わからなくも無いですが……、今、言うことでもないような?

 

「爺さん、何で道場なんか作ったんだ?」

 

私もそう思っていました。

どうして切嗣は道場を作ったのか?

切嗣は剣道という柄じゃないし、どちらかと言うと、銃が合っている。

だからか、切嗣が道場に興味があると言った時はビックリしてしまいました。

 

「ちょっと、人に頼まれたから、造って貰っただけなんだ」

 

あの道場は誰かに頼まれて作ったと言う事ですか、では、誰が切嗣に頼んだのか?

そんな事を頼む人は一人しかいない。

『藤村大河』

常にハイテンションな女子高生である。

そして、衛宮家のエンゲル係数を高めている人だ。

いや、人ではなく、虎と言えば伝わりやすいですね。

そして、彼女は知らないが、冬木市に住んでいる人達は彼女の事を『冬木の虎』と呼んでいる。

その冬木の虎は切嗣にちょっとした恋心がある。

どうして大河が切嗣を好きなのかは分からない。でも、大河にとって切嗣はもしかしたら白馬の王子様だったのかもしれませんね。

 

「そうなんだ。俺たちが知ってる人?」

 

「士郎とアルトレアさんは面識があるから知ってると思うよ」

 

切嗣のこの一言によって、もう確信しました。

いや、もとから解っていましたが、これで本当に胸を張って答えられます。

 

「キリツグ、その人はもしかして大河じゃないですか?」

 

「ご名答。大河ちゃんに剣道の練習したいって頼まれたから、作って貰ったんだ」

 

私は苦笑いをし、士郎の方を見る。

士郎も苦笑していた。

大河は昔から何一つ変わっていない。

私はそんな大河を素直に感心する。

 

「じゃあ、爺さんは道場を作ったけど使わないのか?」

 

士郎は質問を続ける。

確かに作った本人が使わないなら、宝の持ち腐れだ。

そんな勿体ない事を士郎はしたく無い筈だし、私だって……

 

「ああ、たまには使おうと思っているんだけど、中々予定が合わなくてね」

 

切嗣は苦笑いをして言った。

 

「爺さんがあまり使わないなら、俺とアルトねぇも使っていいかな?」

 

士郎は私の心が分かる人ですね。

士郎…私はもう一度貴方とやりたいと思っていました。

前は全然教えてあげられませんでしたが、今度は私の持ち得る全ての技術を士郎に叩き込みます。

さすれば、アーチャーにバカにされる事は無いでしょう。

 

「別に構わないけど、アルトレアさんにも聞いてみないと」

 

「士郎、切嗣。私は大丈夫です。と言うより、今日やりましょう!今やりましょう!!」

 

私は士郎に詰め寄る様に言った。

士郎は何歩か後退して、苦笑いだったが……

今の私にはどうでも良い。

早く士郎とやりあいたいです。

 

「ストップ!士郎が震えているからもう少し抑えて」

 

切嗣の言葉で我にかえった私は士郎に謝る。

 

「すいませんでした。士郎」

 

「い、良いんだよ、アルトねぇ。俺もアルトねぇと剣道が出来るだけで嬉しいから」

 

「士郎」

 

ヤバイ。

今ちょっと泣き出しそうになりました。

 

「剣道は後で良いよね?今からちょっとご飯を食べにいかないかい?」

 

そう言いながら、居間にある時計を指差す。

もう12時半だった。

今から昼食の材料を買う時間も作る時間もないから、外食するしかありませんね。

 

「爺さん、どっか行きたい店あるの?」

 

「ああ、あるよ」

 

切嗣が笑顔で言った。

切嗣がこんな笑顔の時は、ハンバーガーとか、ハンバーグとか言うモノを食べる時ぐらいか?

私としては、正直言って雑な料理を食べたくない。だが、お腹が空いたままなのは好ましくない。

今の私なら、円卓時代のマッシュポテトでも、美味しく頂けると自負している。

 

「どんな店なんだ? 爺さん?」

 

「ああ、最近出来た店で、確か名前は『泰山』…だったかな?」

 

泰山? 初めて聞く名前の店ですね。

まあ、ご飯が食べられるのなら何でも良いです。

 

「じゃあ、行こうか、イリヤ、アルトレアさん、士郎。準備してね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家を出発してから30分後、目的の泰山と言う店の前に来た。

泰山は私が予想していたよりお客さんが来ていた。

普通に十人ぐらいは店の前で並んでいる。

ふと、不思議に思った事がある。

店に入ろうとしている人達は凄い顔で入っていって、店から出てきた人達は涙目で口を抑えている。

 

「切嗣、ここは料理屋ですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

切嗣のテンションは列が進むに連れてどんどん高くなっている。

そして、士郎の顔はどんどん青くなっている。

 

「士郎! 大丈夫ですか!?」

 

私は士郎の肩を揺すって士郎に呼び掛ける。

士郎は肩まで震えている。

 

「ごめん。アルトねぇ、何かこの店は入ったら何か大事なモノが無くなりそうで怖いんだ」

 

こういう時の士郎の危機察知能力は本当に素晴らしいと思います。

実際…私の直感が言っています。

私たちにはまだ早い、と。

引き返せばまだ間に合う、と。

それでも、私は進まなければならない。こんなのが只の強がりなのも百も承知。

士郎と会話をしている間に、列は後三人まできてしまった。

数分後に私たちはこの店の中に入った。

私は悔いを遺さない様に、士郎を抱き締めた。

その後、イリヤスフィールも抱き締めた。

イリヤスフィールにとっては私の行動は理解不能だろう。

だが、イリヤスフィールも中に入ってみれば解るだろう。

私たちが震えた理由が、私の悲しみが。

そして、私たちは店の中に入った。

店の中に入っての感想は、とにかく暑い。

そして、鼻をつくスパイスの匂い。

私は覚悟を決めて、一歩踏み出す。

これは、小さな一歩。だが、私にとっては大きすぎる一歩。

 

「みんな~、こっちだよ」

 

切嗣は既に座っている。

切嗣は、私たちに、手招きをしている。

イリヤ、私、士郎と言う順番で進む。

私たちは座ってメニューを広げてみると、驚く事にメニューには全て激辛、とか超激辛とか書いてある。

そして、店員が来て、注文を取りに来た。

 

「僕は、泰山特製麻婆豆腐で。みんなは何にする?」

 

「私は麻婆豆腐で……『ふ』・『つ』・『う』の!」

 

「私も」

 

「俺も」

 

さて、鬼が出るか蛇が出るか。

頼んでから10分後、四人分の麻婆豆腐が運ばれてきた。

!?待て、私たちが頼んだ麻婆豆腐すら真っ赤…だと?

おかしい。私たちは「普通」の麻婆豆腐を頼んだ筈です。どうして、こんなに、真っ赤なモノが出来上がるのでしょうか?

切嗣の分は真っ赤を通り越して赤黒くなっている。

そして、匂いだけで鼻が火傷しそうでした。

 

「さあ、食べようか!」

 

そう言って、切嗣は蓮華を取って、マグマみたいな色の麻婆豆腐に突っ込んだ。

そして、一口食べ、

 

「っ~~~~」

 

切嗣は目の端に涙をためている。

そんなに辛いのですか。

 

「辛ッ、辛すぎる!!舌がヒリヒリするッ!!だけど、辛さの中に旨さがある!!!慣れればこの辛さも病み付きになる!!!!」

 

私たちが予想していた感想の斜め上に「逝」っていた。

そこからの切嗣は水を飲むのも忘れひたすらに麻婆豆腐を口に運んでいる。

 

「ふぅ~、ご馳走さま♪」

 

切嗣は食べきったのだ。

この世の全ての辛味を凝縮した様な麻婆豆腐を切嗣は食べ尽くした。

 

「三人とも、食べないのかい?」

 

私たちはお互いの顔を見て、意を決し、同時に食べた。

その結果……

 

「「「辛ひ~~~~~~~~~ッ!!」」」

 

我々は心に誓った。

切嗣とは一緒に外食に行かない、と。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方その頃。

 

「ん? なんだ? 騒がしい店があるな。まあ、私には関係ない…………一応見てみるか」

 

私は店の窓から中を覗いてみる。

店内には、私の仇敵の衛宮切嗣が涙目で何かを食べていた。

私はこの光景に驚きを隠せずにいた。

あの切嗣が涙を流すだと!?

私は切嗣の食べているモノが気になり、店の名前を見る。

「泰山」と大きく書かれていた。

ギルガメッシュからの用事がある為、先に行こうとするが、あの店に後ろ髪を引かれる思いがあり、中々前に進めずにいた。

故に、

 

「今日の夜、彼と一緒に来てみるか」

 

そう言って、神父は教会に帰っていくのであった。

ここからは雑談だが、その後、ギルガメッシュは麻婆豆腐を見るだけで拒否反応が出るようになり、神父は麻婆豆腐を好きになったとか。

この日、神父は、ぶっちゃけどうでもいいfate(麻婆豆腐)と出会った。




最後しゃべってる人はコトミネキレイです。
この時のコトミネはまだ、麻婆豆腐を知らなかったと言う設定で書きました。
それでは、評価、感想、ダメだしを僕は首を長くして待つ予定です。
それでは、次回。
次回も遅くなると思います


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学校に行こう

どうもfate信者です!
最近書くペースが遅くなって来たような
う~ん、難しい。
これ以上書くペースを早く出来るのか!?
否、やらなくては。
今日FGOを開いて、ガチャを引いたらなんと!?
セイバーアルトリア・オルタが来てくれました。
すんごく嬉しいです!
僕はこの子の為にFGOをやり始めたと言っても過言では無いです。おっと、無駄話が過ぎました。
では、どうぞ!


「爺さ~ん! いい加減、俺に魔法を教えてくれよ!」

 

今日も士郎は駄々をこねている。

切嗣は心底嫌そうな顔をしているが、私から見たらこの光景は好ましいモノです。

 

「士郎…ちょっと話があるんだけど…いいかな?」

 

切嗣は士郎に真剣な顔で切り出した。

いつもなら駄目の一言で片付けるが、今日は少し違うみたいですね。

 

「なんだよ?」

 

どうやら士郎は自分のお願いを無視されたからか少し拗ねてるようですね。

ふふふ…微笑ましいモノです。

私は隣に居るイリヤスフィールに視線を向けると、彼女も思ってる事は私と同じ様で意地悪な笑みをしていた。

 

「この話は、士郎とイリヤ二人に関係している話なんだ。」

 

「「えっ?」」

 

二人は同時に間の抜けた声を出している。

当然だ。

士郎だけならいざ知らず、イリヤスフィールも呼ばれたのだから、疑問は出る。

二人の間の抜けた声を無視して切嗣は話を続ける。

 

「ちょっと二人には学校に行って欲しいんだ」

 

「「「は?」」」

 

今度は私も仲間入り。

確かに、士郎とイリヤスフィールは学校へ行った方が良いかもしれないですね。

二人のことを思っての考えでしょう。

 

「俺は魔法を教えて欲しいんだけど…」

 

「私は別に学校には興味が無いし、教えられる事も無いから行かなくても良いでしょ?」

 

登校拒否ですか。

……親の心子知らず。

流石の切嗣も大好きな二人から同時にこんな返しをされたのだ。

心が痛まないワケがない。

私は助け船を出すと致しましょうか。

 

「士郎、イリヤスフィール」

 

「何? アルトねぇ」

 

「何? お姉ちゃん」

 

二人は同時に私の方を向いて、言ってきた。

この二人を見てると本当に血の繋がった姉弟に見えてきて、思わず微笑んでしまった。

 

「士郎、イリヤスフィール。切嗣の為に学校へ行ってはくれないでしょうか?」

 

「でもなぁー、う~ん」

 

暫し考え込む士郎。

 

「お姉ちゃんがそこまで言うのなら私は行くわ」

 

即答のイリヤスフィール。

 

私は中々決められない士郎に秘密兵器を投下する。

 

「士郎…魔法と言うモノは最低限の知識を持っている人しか使えないらしいですよ?」

 

私が言い終えるや否や、士郎も決めたようです。

…これで私の仕事は終わった。

後は、切嗣に任せます。

 

「「爺さん(キリツグ)、俺(私)は学校に行く(わ)」」

 

突然の出来事に唖然としている切嗣に、私は親指を立てて、合図した。

「後は、切嗣(ちちおや)の仕事です」と。

切嗣は、二人を連れて、大急ぎで学校の手続きをしに向かった。

私は一人居間に残されたので、道場へ向かう。

特に相手になってくれる人が居ないので、私は道場の隅で正座をし、瞑想する。

すると、玄関がやけに騒がしくなったので、そちらへ向かうと、走って疲れたのか切嗣が息を荒げて座っていた。

 

「どうしたのですか、 キリツグ?」

 

私が切嗣に尋ねると、

彼は私の方に向き直し、

 

「君を連れて行くのを忘れていたよ」

 

と。

 

「別に私が入学するワケでも無いですし、留守番してますよ?」

 

私は遠慮がちにそう言うと、

切嗣は私の腕を握ってこう返してきた。

 

「確かに君は入学出来ないけど、子どもたちの晴れ舞台を見ることは出来る。さあ、行こう。みんなが待ってるよ」

 

切嗣の言われた通りに玄関をでると、そこには士郎とイリヤスフィールがいた。

 

「おそいぞー、アルトねぇ!」

「遅いよー、お姉ちゃん♪」

 

こんな事を言っているが、二人は笑顔だった。

そして、私は目の端に熱いモノを感じた。

ああ、そうか。

これが、私が求めていたモノだったのですね。

王になってからは久しく忘れていたモノ。

家族の温もり。

私が求めたモノ。そして、忘れていたモノ。

私はそれがどれ程のモノかをやっと理解した。

私は王の時から間違っていたのかもしれないですね。

完璧な王になろうとした結果、

私は色々なモノを捨てた。

そこが、間違いだった。

私は捨てたモノの中に決して捨ててはいけないモノがあったのだ。

なんと愚かだったのだろう。

完璧な王には不要だと断じたモノが、絶対に必要なモノだと今知った。

もしも、やり直せるなら、あの子に、愛情を、家族の温もりを教えてあげたい。ですが、私にその資格はもうない。

あの子に散々酷い事をして、そのうえ、命を奪ったのだ。

本当に、ごめんなさい…………モードレッド

でも、それでも、気付けたのならそれは必ず意味があるはずだ。

私は最後にもう一度だけ目を瞑ってから、士郎たちに笑顔を向ける。

この笑顔は、一人の王が、一人の女性として生きていく為の決別の証でもある。

王は運命の丘で死に、ここに居るのは過去の自分に別れを告げた一人の女性である。

 

「今から行きます! 士郎、イリヤスフィール!」

 

私は衛宮アルトレア。まだ見ぬ未来、まだ見ぬ可能性に胸をときめかせて今を生きる。




終わり片が微妙ですね。
なんか最終回っぽいですが違います。
まだまだ終わりません。
あっ! 僕が白く燃え尽きたら終わるかもしれませんね。
駄目だし、誤字報告、感想、評価をお待ちしております
次回は遅くなるかもしれませんね?


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アルトねぇの日常

どうも!
fate信者です!
今日の内容はいつも通りの日常です。
あっ!?ちゃんと第五次の事は書きます。
では、どうぞ!


学校騒動から軽く1ヶ月が経った。

士郎とイリヤスフィールは学校に慣れたようで、二人仲良く通っている。

切嗣は学校の件から頻繁に外出をしている。

切嗣の話では、何処かの寺へ調べに行っている。

切嗣本人はその寺の名前は分からないらしい。

「り」から始まる寺とは言っていた。

そんな切嗣も調べに行くのは午前中だけ。

士郎たちも午後には帰ってくる。

あえて言おう。

私は午前中暇なのです。

別に寂しいとか思ってるワケではありません。

ええ、ちょっと私以外居ないのが虚しいだけです。

本当に寂しいワケではないのです。

 

「………………暇だ」

 

私は独り言を呟き、

居間のテーブルの上に置いてある煎餅に手を伸ばす。

衛宮家では、私が食べている煎餅のガリッ、ガリッと言う快音が鳴り響いている。

それでも形あるモノはいつか消える。

私が食べていた煎餅はいつの間にか無くなっていた。

私は居間を出て、道場に向かう。

道場なら、素振りや瞑想と言った鍛錬が出来る。

…さて…何からやりますか。

掃除もついでにやっておきますか。

あっ! 士郎から頼まれていたモノを買いに行かなくては!

頼まれていたモノは……今日の晩御飯の材料と調味料ですね。

では…行きますか。

私は道場を出て、玄関から商店街に向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

商店街に着いた私は、

まず、肉屋に向かう。

肉屋の次は八百屋,魚屋、

最後に江戸前屋のどら焼きを買いに行きます。

江戸前屋とは、たこ焼きもあるが、主に和菓子を専門に売っている屋台で、品物全ての値段が通常のモノより安く、そして、味は大人でも食べやすいように甘過ぎない。

本来なら人気がありすぎて並ばないと食べられないのですが…

今回は私にも時間があるので並んで買っておきますか。

士郎やイリヤスフィールは此処のどら焼きが好きでしたね。

勿論私もですが。

さて…四人で分けるのですから、七個ぐらいは買っておきましょう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、無事終わりましたね。

私は両手に大量の買い物袋を持って家に帰る。

 

家に着いたのは、午後二時だった。

廊下を歩いていると、人の気配がした。

切嗣が帰って来たと思ったが、気配は二つあったので切嗣ではない。

では…一体誰が居るのか?

私は用心深く廊下から気配がある居間をこっそり見てみるとそこには…

 

「アルトねぇ、早く帰って来ないかな?」

 

「そうね。もうそろそろ帰って来ても良いんだけど…」

 

居間にいたのは士郎とイリヤスフィールだった。

二人はどうやら私を待っているようだった。

これ以上隠れる必要は無いと思った私は居間に入っていく。

 

「士郎、イリヤスフィール」

 

私が二人の名前を言うと。

二人は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしていた。

 

「アルトねぇ、何時からそこに!?」

 

「居るなら居るって言って欲しかったかなぁ〜」

 

二人は私が隠れて居たことを軽く非難する。

まあ、これは私が悪かったので、

 

「すみません、二人とも。」

 

素直に謝ると、二人は笑って許してくれた。

ううう~、私は嬉しいです!

二人がいい子に育ってくれてお姉ちゃんは感激です!!

 

「ところで二人はどうして私を待っていたのですか?」

 

「それはね~、お姉ちゃんに渡したいモノがあるんだよ」

 

イリヤスフィールが笑顔でくすくすと笑っている。

この笑顔は悪魔っ子のそれだ。

イリヤスフィールが誰かを苛める時に良く出るそれだ。

私は多少の警戒心を持ち、イリヤスフィールの元へ向かう。

距離にして2,3歩の近い所、

私がイリヤスフィールの真っ正面に立つと、彼女はは後ろに隠してた紙袋を出す。

 

「これは!」

 

私はイリヤスフィールに渡されたモノに驚愕を隠しきれなかった。

茶色の紙袋。

その紙袋は、一見高級そうな見た目を漂わせている。しかし、私はこの紙袋を知っている。否、さっきから私が持っているモノです。

 

「えへへ、お姉ちゃんにプレゼント。いっつも働いてくれてるから、私と士郎のプレゼントだよ♪お姉ちゃん好きだよね? |江戸前屋のどら焼き・・・・・・・・・」

 

私はイリヤスフィールの好意が嬉しい。

私が王の時こんなにも、涙が出そうになった事は有るか?

こんなにも心が温かくなった事は有るか?

いいや、一度として無い。

私はどんなに優れた部下を持っていても、どんなに強大な富や地位があっても…私はこんな気持ちには一度としてなった事はなかった。

だから嬉しい。

だから誇らしい。

私の弟妹はこんなにも姉思いだと言いたいし、自慢したい。

私は、その気持ちを心の中に入れて、二人に例のモノを渡す。

 

「士郎、イリヤスフィール。これは私からあなたがたに」

 

「えっ!?」

 

「これって!?」

 

私が二人に渡したモノは、私が並んで買ってきた江戸前屋のどら焼き。

これを見た二人は驚いた様子だったが、直ぐに笑みを見せ、私に笑いかけてくれた。

 

「なぁ~んだ、考えることはみんな一緒だったってわけね♪」

 

「そうですね。では、余った時には私が食べましょう」

 

「アルトねぇ、食べるのは良いけど、ちゃんと爺さんの分も残してくれよ」

 

「わかりました、士郎」

 

私は思った。

この時間がずっと続けば良いと。

この温かい思いがずっと続けば良いと。

でも。

それでも。

いつかは終わってしまう。

その時が今日かもしれないし、明日かもしれない。

もしくは1ヶ月後かもしれないし、一年後かもしれない。

今、私が言える事は、明日は、未来は誰にも分からないと言う事だけ。

さて、明日はどんな日になるのでしょうか?




内容はどうですか?
最近終わりかたが満足いきません。
でも、これ以上の終わりかたが書けない自分の知能の低さが妬ましい。
すいません。
なんかネガティブな事を言ってますね。
気を取り直して。
では次回


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魔術使い衛宮士郎

どうも!
fate信者です!
今回は予想以上に早く書けて超嬉しいです!
今回の内容は…な、なんと!
士郎君が魔術使いに!?
ではどうぞ!


「爺さん、俺に魔法を教えてくれよ!!」

 

士郎の大声が居間に響く。

士郎は切嗣に魔法をせがんでいる。

最早日課ですね。

私は切嗣の苦笑いを見て、微笑を浮かべる。

今は日曜の7時半なので、イリヤスフィールはまだ寝ています。

 

「士郎…本当に諦めが悪いんだね」

 

切嗣は穏やかに士郎へ言う。

そんな切嗣に士郎は笑顔を浮かべて言った。

 

「ああ、これが俺の良いところだからな」

 

「それでも士郎…2年間もよく飽きないね」

 

切嗣は気怠げに士郎へ言う。

士郎は真顔になり切嗣に言った。

 

「俺は魔法を覚えて困ってる人を救いたいんだ!」

 

「士郎…何度も言っているけど、魔法はなんでも出来るモノじゃないんだよ。だから、士郎が魔法を覚えたとしても士郎が救いたいと思ってる人が本当に救われるワケではないんだよ?」

 

これは切嗣本人の答え。

大を取り、小を切り離しても救われる人の絶対量は決まっている。

どんなに頑張っても、どんなに血反吐を吐こうとも、救われないモノは必ず現れてしまう。

だから切嗣は悟ったのだ。

自分が救えるのは自分の世界に居る少数の人たちだけだ、と。

この事実を聞いた士郎は…

 

「それでも俺は人を救いたいんだ。俺が生き残ったのには何かしらの理由がある筈だ」

 

真っ直ぐな瞳で切嗣を見ていた。

士郎の答えに切嗣は少しだけ呆然としていたが、すぐに意識を士郎に向けて言った。

 

「それが…士郎の答えなんだね?」

 

「ああ」

 

切嗣の言葉に士郎はゆっくりと力強く首を縦に降った。

 

「そうか」

 

切嗣は、居間から縁側に向かい、空を見上げた。

今日の空は満点の青空。

雲一つ無いほどの青空だった。

切嗣は暫し空を見ていた。時間にして、10秒、15秒ぐらいだったであろう。

切嗣は士郎に視線を移す。

 

「士郎…君に聞きたい事がある」

 

切嗣は士郎を見て言った。

切嗣の言葉には何か確固とした決意を感じますね。

 

「ああ」

 

士郎も切嗣の言葉に何かを感じたのでしょう。

彼も真剣そのものの顔で切嗣の言葉を待っている。

 

「士郎がもしも正義の味方になったとしたら、君はどっちを救う?一つは僕たち家族、もう一つは何千万人の人たち……」

 

 

「爺さん、そんなの端から決まってる。俺は家族を救う!たとえ、どんな数の人が天秤にかけられようと俺の想いは変わらない」

 

これが衛宮士郎の答え。

正義の味方を目指すのなら決して選ばれない答え。

 

「そうか。なら、士郎は正義の味方にならないと?」

 

「ああ」

 

「そうか。ああーー安心した」

 

切嗣は安堵の声を出して言った。

切嗣は士郎に視線を合わせて言った。

 

「よろしくね魔術使い(・・・・)衛宮士郎」

 




今回は分岐点っぽいのを作ってみました。
まあ、まるわかりですね。
分岐点は士郎君が家族を取るか、数千万人の人々を取るかの部分です。
士郎君が数千万人の人を選んだら正義の味方として、家族を選んだら魔術使いとしての分岐です。
別に正義の味方の方を選んで良くね?と思った方は間違いです。
この作品は基本作者の妄想がほとんどです。
正義の味方の選択は切嗣の歩んだ道と同じです。
切嗣は不幸になる元凶を士郎には教えない人です。
例的なモノを挙げると魔術刻印だと思います。
ですから、切嗣は士郎に魔術を教えずに亡くなると思います。
士郎が切嗣とは違う道を選んだから切嗣は士郎に魔術を教えようと思ったのです。
長文が過ぎました。
ここでやめときます。
最後に評価、感想、誤字報告、治したら良いと思うところを教えてくれたら幸いです。
それでは次回。
次回は投稿遅いと思います


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魔術使いへの第一歩

お久しぶりです。
何ヵ月ぶりになるのでしょうか?
その間は勉強やFGOをやっていてあんまり書く機会が少なくなりましたが今度から書いて行きたいと思います。
少し内容を変えています。
では、どうぞ!



「よろしくね魔術使い衛宮士郎」

 

この一言をどれだけ待って居たのだろう?

深くはわからない。

それを知ることが出来るのは士郎だけなのだから…。

だが、私にも思う事はある。

この一言は私の本心。

~~良かったですね士郎。

 

「爺さん、俺は魔術使いになってみせる!」

 

士郎は私が今まで見てきた中で一番力強い瞳をしている。まるで、聖杯戦争に戻ってきた様な感覚になりました。

 

「じゃあ、魔術の練習をしよう。と、言いたいが、まだ、士郎には魔術は無理なんだ」

 

「えっ!? どうして!?」

 

士郎は慌てていた。

でも、切嗣の判断も正しい。

今、士郎に魔術を教えても使えないのだから。

だから、先ずは……

 

「だから、先ずは魔術を使うのに必要な魔術回路からだ」

 

そう、魔術を行使するのには魔術回路が必要なのです。

もし、魔術回路が無ければ魔力も造れないし、魔術も使えないでしょう。

だから、先ずは魔術回路と言うワケです。

 

「魔術回路って何?」

 

と士郎が言っています。

むむむ、確かにそう言われると、説明に困りますね。

私は魔術回路を知っているが、それを幼い士郎にも分かりやすく説明する術を持ち合わせていません。

こういう時の切嗣ですけどね

 

「うーん、そうだな。

魔術回路がコンセントだとして、魔力は電気ってところかな?」

 

切嗣にしてはあんまりハッキリしない答えですね。

こんな事では士郎も納得しないでしょうに。

なら、姉である私が何とか……

 

「そうなんだ、ありがとう爺さん。俺、魔術回路についてわかったよ」

 

!?士郎はあの説明だけで解ったのですか?

流石士郎。

いや、しかし、これは、姉の尊厳が台無しではないですか!?

切嗣何故!?

何故、私では分からないモノを例えに出すんですか!!

せめて私にも分かるモノをですね…

 

「よし、説明も終わったし、次は魔術回路をどうにかしよう」

 

おっと、いつの間にか魔術回路の話になってしまいました。

この事の追求は後にしましょう。

命拾いしましたね、切嗣。

 

「魔術回路と言うものは本来親から子に託されるモノなんだ。だから、僕も持ってる。その一本を移植しようと思うんだけど……覚悟は良いかい、士郎?」

 

「ああ、俺は別に良いけど……それは、俺に確認取る必要ってあるの?」

 

士郎にとっては、至極当然の事だろう。

確かに有り難いが、自身の貴重な魔術回路の一本を自分の為に渡して良いのかと思うだろう。だが、現実は、

 

「当然じゃないか、回路の移植は凄く痛いんだよ?だから、士郎には覚悟をしてもらいたい」

 

そう。

魔術回路の移植とは自分の体に爆薬を入れるのと同じだ。だから、切嗣は最後の最後に士郎に確認をとったのです。

 

「ああ、俺は大丈夫だ。爺さん、気にしないでやっちゃってくれ!」

 

「わかった。じゃあ、行くよ」

 

そう言って、切嗣は士郎の背中に手を置き、目を瞑った。

そして、切嗣の腕から何本もの光の線が士郎の背中に向かって行く。

そして、線が士郎の背中に着いた。

 

「ぐっ!? あっ!! あ、ああぁぁァァァァッ!!!」

 

その悲鳴は獣の様にこの屋敷に響き渡る。

士郎はあまりの痛さに切嗣の腕を払い除けようとしている。だが、切嗣は手を退けようとしない。故に、士郎は踠き続ける。

切嗣の顔からもどんどんと余裕が消えていく。

もう、抑えきれないと判断したのか切嗣は、

 

「アルトレアさん、士郎を抑えるのを手伝ってくれ!!

頼む!!」

 

私は士郎を抱く。

それでも、士郎は胸の中で暴れている。

ーー余程苦しいのですね。ですが、私には何もしてやれません。出来るのは士郎を抱いてあげる事しか出来ません。これでは姉失格だ。

自分の不甲斐なさ、姉として何も出来ない自分の愚かさを呪いたくなる。

 

「アルトレアさん、ありがとう。無事終わったよ……君のお陰だ。」

 

士郎は既に眠っている。

痛みで気絶したのか、疲れて寝たのかは定かではない。

 

「いいえ、私は何もしていません。私は姉でありながら何もしてやれなかった。姉として失格です」

 

本当に私は何も出来なかった。

痛みを和らげる事も、苦しんでいる士郎の為に眠らせてやる事も出来なかった。

 

「何を言ってるんだい?君が居たから、士郎はあの程度で済んだんだよ?ぼくだけだったら死んでいたかもしれない」

 

えっ?

切嗣、私を気遣って、そんな嘘までついて……良いんです。嘘なんか付かなくても.事実私は何もしていないのだから。

 

「キリツグ、そんな慰めなら要りません。正直に言ってください」

 

「慰めも何も、士郎のこの顔を見て僕が気休めを言っていると思うのかい?」

 

私は士郎の方に顔を向ける。

そこには穏やかな顔で寝ている士郎がいた。

 

「う、うーん、アルトねぇ」

 

どうやら、私はまだ士郎の姉として居られる様だ。

こんな嬉しいことは数える程しか無かった。

だから、私はこんな幸せな気持ちにさせてくれた少年の近くまで行き、その頬にキスをした。

ーーありがとう士郎。




なんか、久しぶりに書いたら違和感が凄い。
でも、このまま書くしかない!(謎の使命感)
評価、感想、ダメ出し、誤字報告、こうして欲しいと言う事があったらお願いします!!
最後に
FGOのイベントが全然進まない~!!


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姉も魔術使いを目指す

結構速く投稿出来てると思います
このペースでどんどんと出したいです。
だからよ、止まるんじゃねぇぞ!
では、どうぞ!


士郎が魔術回路を移植しました。

その後、切嗣が士郎の体をしっかりと検査をしたが、異常は見当たらなかったようです。

私は安堵の息を吐く。

ーー良かった。

と思いながら切嗣の方を向き、話しかける。

 

「キリツグ、折り入ってお願いがあるのです」

 

「ん? 珍しいね、君が僕にお願い事なんて……僕に出来るのなら手伝おう」

 

ーー切嗣、貴方は優しいですね。

ーーでは、お言葉に甘えて

 

「では、単刀直入に言いましょう。キリツグ、私にも魔術を教えてください」

 

私が言い終えると、切嗣はやけに神妙な顔をしていた。

 

「それはまたどうしてかな?」

 

「まあ、士郎の為ですかね?人を救いたいとあの子は言いましたが、その中に自分は含まれていないのです。名を知らぬ人を助けると言ったのに、一番大事な自分がそこにはいない。なら、私があの子を救います。」

 

この言葉こそ私の本心。

アンリ・マユには否定されたが、やはり、私は士郎を守りたい。士郎を救いたい。これも、今の私が為さねばならぬ事。

 

「そうか、わかった。君にも魔術を教えよう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

私は頭を下げ、切嗣に礼を言う。

 

「じゃあ、君にも回路を移植しないとね。なら、後ろを向いてくれないかい?」

 

私は切嗣に言われた通り、後ろを向く。

 

「よし、行く、よ……?」

 

そう言った切嗣は、私の背に手を置いた。

 

「…………アルトレアさん、君に聞きたい事がある」

 

切嗣の声色が変わった。

ーーなんだろう?

その言葉は冷たく、感情もない。

 

「……はい、何でしょうか?」

 

「君は、一体何者だ?」

 

切嗣は更に声を冷たくし、敵意をぶつけてきた。

 

「何者とは?」

 

「しらばっくれるな!君は本当に記憶が無いのか!?」

 

彼の言葉に動揺しかけたが、直ぐに平静を装い、答える。

 

「はい。どうなされたのですか、突然?」

 

私は声を強めて言う。

 

「なら、一体………彼女は………そうだとしたら………この家に彼女は………」

 

切嗣はぶつぶつと何かを言っている。

残念な事に私にはギリギリ聞こえない。

「キリツグ?」

 

「はっ!?すまない。しつこい様だけど、本当に記憶は無いのかい?」

 

切嗣が念押しの質問をしてきた。

 

「はい。私が覚えているのは、あの大火災から今日迄の日々だけです……」

 

私は切嗣の目を見据えて、答える。

 

「そうか、すまなかったね。」

 

「キリツグ、一体どうしたのですか?」

 

私は彼に尋ねると、

 

「ああ、ちょっと、アルトレアさんから大量の魔術回路を発見してね。少し気が動転してしまったようだ。声を荒げて、本当に申し訳ない。」

 

そうですか。

確かにそれは私を疑うのも納得がいく。

 

「では、魔術回路の件も終わりましたし、ご飯にしましょうか」

 

「え?」

 

切嗣は疑問顔だ。

ーー何か変なことを言ってしまったのでしょうか?

 

「どうしたのですか?」

 

「いや、魔術回路も有ったから、すぐに魔術の特訓をするのかと思ってね」

 

成る程。

切嗣の疑問も最もだ。

だが、私は士郎と一緒に受けると決めている。

 

「ええ、確かに士郎が居たなら一緒に受けていましたが……この状況なら、また今度でも良いです」

 

「そうか、判ったよ。なら、魔術の特訓は士郎が起きてから、ということで。」

 

切嗣はそう言うと居間に行った。

さてと……私は朝ご飯の準備をしましょう。

私も魔術使いですか……。

感慨深いですね。

さてと、朝ご飯が完成したら、イリヤスフィールを起こしに行きますか……。

士郎、今日はゆっくりお休みなさい。

 




結構速く書けた。
嬉しい。
そして、イリヤが出せなかった!!
これは、次回こそイリヤを出してやる。


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姉は優しい

タイトル通りの内容。
そして、イリヤを出せた。
満足です。
では、どうぞ!


朝ご飯の準備を終え、イリヤスフィールの部屋の前で私は二、三度ノックをした。

返事がない。

私はもう一度ノックをした。

反応は同じ。

ーーまだ、寝ているのですか……。

仕方ありません。

私は彼女の部屋を開ける。

 

「イリヤスフィール、朝ですよ。起きなさい」

 

彼女の部屋はヌイグルミが沢山あり、私とは違いとても女の子らしい部屋だ。

そして、いつ見ても驚くのは、彼女の3倍以上はあるであろうベッドだ。一体こんな大きなベッドは何処に売っているのだろうか?

 

「う? ううん? もうちょっと寝かせてよ~」

 

彼女は出していた頭を布団の中に引っ込めた。

ーーほう?貴女がその気なら私にだって考えはありますよ。

私は彼女の布団を掴んで……

 

「いい加減起きなさい!!」

 

それを、ベッドの外に投げる。

そうすれば、ベッドの上には可愛いパジャマを着ているイリヤスフィールだけが残ると言う寸法です。

この技は士郎から教えて貰いました。

昔は切嗣に使っていましたが、今はイリヤスフィールにも使う事が多々ある。

全く……親子揃って寝坊助とは感心しませんね。

 

「さむーい!?お姉ちゃん、布団を返して~!」

 

イリヤスフィールは寒そうに体を擦っている。

 

「駄目です。朝御飯ですよ。早くなさい」

 

「えー!! 今は要らないから寝てるよ〜」

 

イリヤスフィールは私が投げ飛ばした布団をベッドの上に戻してまた夢の世界へ。

ーー全く、しょうがないですね。

私はベッドの所に行くと、イリヤスフィールから布団を剥ぎ取り、彼女を捕らえる。

具体的にどんな持ち方と言うと女子の憧れ。

お姫様抱っこである。

コレには、イリヤスフィールもびっくりです。

 

「な、何、するの?!それはレディがレディにやる様なモノじゃないんだから!!」

 

結局、彼女は居間に着くまで騒いでいた。

 

「あれ?士郎は何処?」

 

「ああ、士郎なら今は部屋に居るよ」

 

イリヤスフィールはそれを聞いて納得したのだろう。それ以上は聞かなかった。

私達は朝御飯を食べ終え、士郎の元に朝御飯を届けに行く。

私は二度ノックをし、部屋に入る。

そこには布団の上で安らかに眠っている士郎がいた。

ーー余程、疲れたのでしょう。

私は朝御飯を士郎の机の上に置いて、部屋から出ていく。

その時に、士郎が「アルトねぇ」と私を呼んだ気がしたが、気のせいだろう。

居間に戻ると、切嗣が私に話掛けてきた。

 

「アルトレアさんは一体どんな魔術を習う気なんだい?君の魔術回路の量なら、どんな魔術でも出来ると思うけど……」

 

ーーそうですね。

習う魔術は最初から決めていました。

 

「そうですね。治癒系の魔術が良いなと思っております。」

 

「理由は?」

 

ーーそうですね。

ちゃんと説明は出来ませんが……

 

「だって、素敵じゃないですか?自分の大切な人を癒す事が出来るのって……」

 

ーー私は自分の事を考えずに、私達家族を救ってくれる小さな魔術使いさんの手助けをしたいと思ったんです。

 

「ああ、そうだね。とっても素敵だ」

 




そろそろ切嗣には退場して貰わないといけないですね。
切嗣が退場してもらわないとfate stay night編に行けない。
多分、あと、ちょっとだと思います。
最後に感想、ダメ出し、評価、オナシャス( ̄ー ̄ゞ-☆


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幸せ

いや~
久しぶりです。
最近FGOの種火周回が忙し過ぎて書けていませんでした。
マジで星5種火とか作ってくれないかな~、
もう、種火周回はしたくない。


切嗣と会話をしていたら士郎が居間にやって来ました

 

「爺さん、アルトねぇ、おはよう」

 

士郎の挨拶を切嗣は返しませんでした。なぜなら……

 

「し、士郎! 体は大丈夫なのかい?! 寝てなきゃ駄目じゃないか!」

 

そう。

切嗣が危惧した通り、

士郎は安静にしてなければならないのです。

普通の人が魔術回路なんてモノを移植したら、こんな直ぐには起きてこられません。

一日中、体を鈍器か何かで叩かれた様な痛みがするからです。

ですが、それは『普通』の人の場合です。

体にアヴァロンと言う破格のモノを宿しているが故に、多少の痛みは大丈夫なのでしょう。

 

「なんか、体が熱いくらいでそこまで問題は無いかな」

 

と、士郎は自分の容態について述べてくれた。

 

「そ、そうか、それなら良いんだが……」

 

「じゃあ、爺さん、魔術の訓練を始めよう」

 

士郎は目を耀かせて言った。

その士郎の提案に切嗣は……

 

「いや、今日は駄目だよ。身体と魔術回路がまだ完璧に繋がっていないかもしれない。だから、やるなら、明日だね」

 

切嗣の言った通り、移植して直ぐに魔術を使おうだなんて正直言って無謀です。

もし、そんな事をしたら魔力は内側から体を壊していくかもしれない。

 

「わかったよ。じゃあ、明日ね」

 

そう言って士郎は暇そうに居間に座った。

 

「士郎、君は今暇かい?」

 

「え?うん。」

 

「そうか、なら士郎、剣道をしてみないかい?」

 

切嗣の言った一言は、私の記憶を呼び起こしてくれた。

士郎との剣道は私にとって、とても楽しい時間であり、貴重な時間であった。

今でも目を閉じればあの日々を思い出す。

士郎は私に負けたら、もう一度、もう一度と何回言ってきたでしょうか……。

ーーああ、懐かしい。

 

「わかった、じゃあ、今から行こう」

 

そう言って、士郎は道場がある方へ走っていった。

切嗣も士郎の後を追うように歩いて行く。その前に私の方へ来て切嗣は。

 

「アルトレアさん、一応、救急箱を持ってきて貰って良いかな?」

 

切嗣はこんな時でも優しいのですね。

 

「ふふ、わかりました。」

 

「じゃあ、宜しく頼むよ」

 

そう言って切嗣は今度こそ道場の方へ行った。

 

「では、救急箱と…一応動くのですから何か摘まめるモノも持って行きましょうか。あと、あの娘を起こして……」

 

私は上機嫌な状態でイリヤスフィールの部屋を目指す。

ーーああ、多分、今の私はとてもだらしない顔をしているでしょう。

ですが、それほど迄に幸せなんです。

やっと、見つけたんです。

幸せとは、何処にでもあると言う事を。

そして、知ったんです。

幸せとは、一つだけじゃないと言う事を。

だから、人はそれぞれの幸せを噛みしめているのです。

自分が不幸と思う方が居られるのなら、それは、まだ、自分の幸せを見つけられていないだけなのです。

案外、近くに在るかもしれませんよ?




FGOのぐだぐだイベントが来てしまった。
種火周回でリンゴを食べすぎてしまった。
行けるか?
止まるんじゃねぇぞ!って言えるのか?
俺はオルガに成れるのか?
まあ、そんな事より
次回の更新は遅くなると思います。
最後に評価、感想、ダメ出し、アイデアを待っています。


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姉はブラコン(?)で魔術を楽しみにしている

どうもこんにちは
最近FGOのモチベが上がっています。
多分、その理由はオッキーを引いた事だと思います。
俺には星5のアルトレア顔。失礼、アルトリア顔なんて引けないと思っていましたが僕でも引けると言う事を証明出来ました。
それも僕自信の手で、これ程気持ち良いことはありませんよ


昨日の剣道から1日が経ちました。

私は、と言うと今は朝食の準備をしています。

今朝の献立は、焼き魚にお味噌汁、冷奴に納豆にご飯。

世に言う「THE・和食」です。

私が朝食の準備をしている間、士郎と切嗣は剣道をしています。

昨日の剣道のボロ負けから、士郎はムキになって切嗣へ挑んでいます。

この時から、私は士郎が剣道をやっている事を素直に喜べなくなりました。

確かにアルトリアの頃の私なら、そして昨日までのアルトレアなら、喜んでいたでしょう。

ーーマスターを強く出来るのなら聖杯の獲得も少しだけ楽になる、と。

ーーあの頃の楽しい鍛錬がまた出来る、と。

ですが、今は、「可愛い弟には余り怪我をして欲しくない」……どうやら私は「姉」としての意識が強くなり過ぎたようです。

でも、士郎は私が駄目と言っても止めないんでしょうね。

「姉の心、弟知らず」とはよく言ったモノです。

あれ?確かこんな言葉だった筈です。間違ってませんよね?

まあ、そんな士郎も好きですからね。

 

「……い、いえ、今の言葉は、お、弟としてです。男としてではありません。絶対に違いますからね!たまにあの頃の士郎の様な目をするときに不覚にもドキッとかしてませんから!してませんから!!」

 

私は誰に聞かせるワケでもない。

言い訳を早口で言う。

数分後、ようやく頭を冷やした私が、居間の方を向くと。

 

「ふ~ん、お姉ちゃんってば、士郎の事を『お・と・こ』として見てるんだ~~♪」

 

そこには天使(アクマ)がいた。

私の目の前の悪魔(テンシ)は口を三日月状に曲げ、ニヤニヤしている。チェシャ猫ですか、貴女は。

兎に角、(赤くない)悪魔の玩具にはされたくない。

「い、イリヤスフィール。私は士郎を『男』として見ていません。『お・と・う・と』としてです!」

 

私は何とも情けない言い訳をしている。

こんな所をトリスタン卿辺りに見られてもしたら、『私は悲しい』と言う感じでポロロンと語り弾くでしょう。

 

「ふーん、まぁ、今回だけは見逃してあ・げ・る」

 

と、天使(エンジェル)は言ってくれました。

やはり、イリヤスフィール貴方は天の御使でしたね。

一瞬とは言え、貴方の事を悪魔と思った私が恥ずかしい。

 

「最近出来たカフェのデラックスジャンボパフェ、すっごく美味しいんだって〜」

 

この悪魔(ひとでなし)!

 

「はあ~~、分かりました。行きましょう……」

 

私が降参すると、白い悪魔は跳ねて喜んだ。

やっぱりこうして見ると……天使と悪魔の違いが分からなくなります。

 

「「疲れた~」」

 

イリヤスフィールと私が喋っている間に、士郎と切嗣が凄く疲れた表情で居間に来た。

 

「大丈夫?」

イリヤスフィールが心配そうな声で二人に尋ねる。

見た目からして、相当張り切ったことを物語っている。

 

「あ、ああ、大丈夫だよ、イリヤ。ちょっと目眩がするだけさ……」

 

切嗣はいつもより弱々しい声で答えている。

ーー何をしたらこうなるのか?

 

「士郎、一体何をしたのですか?」

 

私は、若干元気がある

士郎に訊いてみた。

 

「ちょっと朝早く起きて、ずっと爺さんと打ってただけだよ」

 

「ちょっと?一体何時に起きたんですか?」

 

「3時」

 

「ちょっと」、ですか……

その「ちょっと」のせいで切嗣は今にも天のお迎えが来そうになっている、と。

今は8時半。

つまり、五時間半もやったと言う事だ。

それは疲れる。

 

「士郎、今度からは休憩を挟んでくださいね」

 

私は魔術の事を切嗣に聞こうとしましたが、彼は既に泥のように眠っていました。

ーー「死ぬほど疲れている」なら、仕方ありません。

魔術はお昼の時でも良いでしょう。

私は切嗣を布団へと運び、居間へ戻る。

その時の私は気づいていないだろう。

顔を綻ばせていた事を。

そして、スキップをしていた事を。




久しぶりに書いた
でも、早くしないとなぁ~
本当なら切嗣が魔術を教えてる頃なんだけどな~
どうしちゃたんだろう?
考えてもしょうがない。
次回の更新は多分遅くなると思います。
最後に感想、ダメ出し、アイデアの提示待っています。


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魔術の特訓と約束

早く書けた。
もう、眠い。
FGOをしないと!
では、どうぞ!


そして、待ちに待ったお昼です。

ーーむっ! これだと私が昼食を楽しみにしているみたいですね。

まあ、間違っていないので良いです。

さて、切嗣を起こしに行きますか

私は切嗣の部屋に向けて歩き出します。

 

~~~

 

さて、肝心の切嗣は大丈夫でしょうか?

 

「失礼します…………キリツグ?」

 

私は切嗣の肩を揺すりますが、起きないので最終手段を使います。

私は切嗣の布団を部屋の隅に投げ飛ばした。

切嗣は温度の変化によって目を覚ましたようです。

 

「おはよう、相変わらず『素晴らしい』起こし方だね……」

 

「はい、おはようございます。それだけ言えるのなら、お身体も大丈夫なようですね。」

 

一仕事終えた私は、一足早く居間に向かいます。

居間に着くと、士郎とイリヤスフィールが先に昼食を食べていました。

 

「あ、アルトねぇ、悪い。先に食べてた。余りにもお腹が空いてたからさ、つい……」

 

士郎は申し訳無さそうにそう言った。

ーー士郎、別に気にしませんよ。

そんな事を気にしてたら、姉としてやっていけません。

 

「今日は朝早くから頑張ってましたからね。」

 

私がそう言うと士郎は顔を綻ばせて、えへへと笑った。

ーー可愛い。

げふん! げふん! 私は一体何を?!

 

「おはよう。イリヤ、士郎」

 

私が一人で自問自答をしていると切嗣が居間に来ました。

ーー切嗣、感謝します。

 

「おはよう、爺さん」

「おはよう、切嗣」

 

切嗣に挨拶を終えた二人はテレビを見ている。

どのテレビ番組も面白いと呼べるモノはなく、チャンネルをコロコロと替えているだけですが。

そんな中、ある番組に士郎が食い付いた。

その番組は、『世界の刀剣』。

西洋剣から東洋剣と数々の種類の剣が映っていた。

士郎は凄い食い付き様でした。

それは、ビックリするぐらいに。

一番ビックリしているのは切嗣でしょうけどね。

そんな中、飽きてしまったイリヤスフィールは、容赦なくチャンネルを替えてしまった。

士郎が凄く落ち込んだのは、言うまでもありません。

ーーさて、どうしましょうか?

イリヤスフィールからリモコンを取り上げれば、彼女は泣いてしまうかもしれないし、そのままにしたら士郎が余りにも可哀想だ。

 

「士郎、刀が見たいなら、今度僕が連れていってあげるよ」

 

切嗣はそう言ったのです。

その言葉を聞いた士郎は目をキラキラとさせています。

ーー可愛い。

はっ!? また、私は!

 

「爺さん!本当に!?」

 

「ああ、本当さ」

 

「ホントの、ホントに!」

 

「ホントの、ホント!」

 

士郎は余程嬉しかったのですね。

切嗣の周りを走っています。

 

「爺さん、約束!ゆびきりげんまん」

 

そう言った士郎は小指を出した。

 

「あっ…ああ!わかったよ!!」

 

切嗣も小指を出して、士郎の小指に挟む。

 

「「ゆびきりげんまんウソ吐いたら針千本呑~ます。ゆびきった」」

 

ここに契約は完了した。

 

「じゃあ、そろそろ魔術の特訓をしようか」

 

「ええ、そうですね」

 

私は切嗣の言葉を待っていたとばかりに立って、後を追う。

そして、私の後ろには士郎が着いて来る。

さらに、士郎の後ろにはイリヤスフィールが着いて来る。

向かった場所は土蔵がある庭だ。

 

「まず、魔術を習う前に魔力の操作の仕方を教えるから」

 

切嗣はそう言って出したのは、水が張られたバケツだった。

 

「しっかり見ててね」

 

切嗣の手がバケツに近づくと、バケツの水は波立ち始めた。

最初は小さいモノだが、近づいて行くと段々と大きくなっていく。

 

「こんな感じかな」

 

切嗣はバケツから手を離す。

 

「爺さん、スゲェ! どうやったらそんな風になるの!?」

 

「まあ、そんなに難しい事じゃないさ。士郎だって出来るよ」

 

切嗣は士郎の頭を撫でて、そう答えた。

 

「じゃあ、やり方だが…自分の体に水が流れているイメージをして、其れが自分の手のひらへ来る様を思い浮かべるんだ」

 

成る程。

つまり、こう言う事ですね。

私はバケツに手のひらを近づけると、水は大きな波を立たせた。

 

「凄いよ!まさか、一発で合格するなんて」

 

切嗣はそう褒めてくれた。

 

「いえ、これも切嗣の教え方が上手いからです」

 

「へ? そ、そうかい!」

 

切嗣は満更でも無さそうに自分の頭を掻いている。

 

「爺さん、俺もやるから見ててくれ」

 

「ああ、わかった」

 

士郎は手をバケツに近づけているが、波は起きなかった。

 

「うーん、士郎はまだイメージし切れていないのかな?それとも単純に魔力が少ない?」

 

切嗣はうーん、とか、あー、とか、一頻り唸った後、

「士郎、ちょっと君に聞きたいんだけど」

 

急に神妙な顔をし出した。

 

「ん? 」

 

「士郎、君は死を恐れたりしないかい?」




伏線を書いてみました。
多分、直ぐに解ると思います。
最後に評価、感想、ダメ出しお願いします。


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姉の思いと弟の願い

早く書いています。
あと、二話でfate編に行く筈です。
では、どうぞ!


「士郎、君は死を恐れたりしないかい?」

 

切嗣は静かに、そして、はっきりと聞こえる声で話した。

 

「突然の事で何て言って良いか解らないけど……爺さんのその顔は何か大事な時にしか出さない顔だって事はわかるよ」

 

士郎は切嗣に笑顔を向けて言い放った。

ーー士郎、その笑顔はズルいです。

今度からお姉ちゃんにもその笑顔を向けてください。

はっ!? 今のは無しです。 無し!

 

「ありがとう、士郎。君の言う通り、この話はとても重要な事なんだ」

 

切嗣は真剣な表情で士郎を見つめる。

 

「解ったよ。爺さんは俺の為に何かを悩んで、そして、決めたんなら俺は否定なんかしないよ」

 

ーー士郎は優しいですね。

そして、笑顔が素晴らしいです。

 

「お姉ちゃ〜ん、さっきから顔がだらしないけど、一体『なにかんがえてるの』かなぁ?」

 

突然のイリヤスフィールからの横槍に私はドキッとしました。

恋の方ではないです。

 

「い、イリヤスフィール! 私はだらしない顔なんて!」

 

私がそう言い訳紛いの弁解をしていると、彼女は頬を膨らませ出した。

ーーどうしろと?

 

「い、一体どうしたんですか、イリヤスフィール?」

 

「それ!」

 

イリヤスフィールは元気良く私に指を指して言ってきました。

ーーこら!人に指を指してはいけません!

 

「それ!? どれですか!?」

 

「そのイリヤスフィールって言うの止めて! 私達は家族でしょ!?だから、イリヤって言って!ずっと最初からそう言ってたでしょ!!」

 

ーー嗚呼、そうか。

イリヤスフィールは呼び方が気に食わなかったんですね。

これは、私の落ち度ですね

 

「分かりました…………イリヤ。これで良いですか?」

 

私が言うとイリヤスフィールは満足したのか、満面の笑顔を見せてくれました。

 

「士郎、君はどうする?」

 

ーーあれ?

イリヤと話していると話が飛んでいました。

いえ、これは、私が悪いんですけどね。

 

「き、キリツグ……一体何の話をしているのですか?」

 

「ん?ああ、士郎に僕の魔術回路を移植するかしないかって話だよ」

 

ーーいつの間にか其処まで話が飛んでいましたか……ですが、士郎に切嗣の魔術回路を更に移植、ですか……成る程。それなら凛の言っていた謎も解けます。

凛は昔言っていました、「士郎の魔術回路は普通の人と比べると多い」と。

切嗣の魔術回路を移植していたからですね。

 

「爺さん、決めたよ。俺は爺さんの魔術回路を移植してもらうよ」

 

士郎も覚悟を決めたようです。

 

「士郎、身をもって知ったと思うけど、魔術回路の移植は激しい苦痛を伴う。前は一本だったけど、今回は僕の魔術回路26本全てだ。その痛さは僕も想像出来ない。だから、怖くなったら言ってくれ、その時は止めるから」

 

切嗣は真剣な表情で士郎に話す。

 

「大丈夫だよ、爺さん!俺が決めたんだ、こうして欲しいって。だから、自分の考えは貫くよ。最後まで、な。」

 

ーー士郎、貴方も立派になりましたね。

あると姉ぇは嬉しいです。

だから、その気持ちを忘れないで下さい。

 

「わかった、士郎。直ぐに魔術回路を移植しよう」

 

そして、魔術回路を移植しに土蔵へと行った。

 

~~~

 

土蔵の真ん中に魔法陣を描いて、その中に士郎を座らせる。

魔術回路を移植させやすい様に、士郎は上半身を脱いでます。

ーーやはり、あの時の士郎と違って其処まで筋肉はついていませんね。

まあ、小学生ですから当たり前ですけどね。

 

「それじゃあ、行くよ。移植は直ぐに終わるけど痛みはどのくらい続くか見当も付かない。十分か一時間か一日か、最悪一週間かもしれない。だから、士郎はまだ止める事が出来る。どうする?」

 

切嗣、本当に貴方は、親バカです。

本当に良いお父さんですね。

 

「俺はもう覚悟出来てる。やってくれ…!」

 

士郎の表情は穏やかだった。

その顔には一片の恐怖も不安も感じられない顔だった。

普通の人なら不安になるし、怖くもなる。だけど、士郎にはそれがない。それこそが、士郎の強さと言えるでしょう。

だが、同時に不安にもなる。

人は死の危険に晒された時に恐怖を感じる生き物です。

それが無いと、人間としては不完全です。

むしろ、機械と同じでしょう。

士郎には機械になって欲しく無かった。

ーーはっ!? 私は何と弱気な事を……。

まだです! まだこれから何です! 私は諦めません。

「諦めなければ叶う」と言う事は、貴方が教えてくれたんですからね?

 

「行くよ」

 

切嗣の一言で移植は開始された。

魔術回路は切嗣の体から肩に、腕に、手首に、そして、士郎の背中に動いていった。

魔術回路が士郎の背中に着いた瞬間に……。

 

「ぐっ! ぐあっ!! ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

士郎は苦しみ出した。

それは、拷問を受けているかのようであった。

 

「くっ!」

 

切嗣も苦悶の表情だ。

自分の息子の苦しむ姿なんて見たくないのだろう。

 

「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

それでも、士郎の苦しみの声は止まない。

どんどんと大きくなっていく。

私は自分の耳を塞ぎたくなる。

自分の目を瞑りたくなる。

其ほど迄の光景が目の前にある。

私は逃げ出したくなった。

私は来なければ良かったと後悔した。

其ほど迄の悲しみがある。

だが、私は逃げなかった。

目を反らさなかった。

耳を塞がなかった。イリヤだってそうだ。目に涙を溜めて、堪えている。

其ほど迄に私達は士郎を信じている。

士郎なら、こんな痛みをはね除けて来ると私たちは知っているから。

 

「良し! 終わった。アルトレアさん、イリヤ、士郎の布団の準備は出来てるかい!?」

 

事前に、私とイリヤは士郎の布団を用意してある。後は、其方へ切嗣が士郎を抱き抱えて運んでいくだけだ。

 

「ふぅ……後は士郎の問題だ。僕たちが出来ることはもうやり尽くした。」

 

切嗣が言い終えるのと同時に私は安心したのか足から力が抜けて座ってしまった。

 

「良かった~、お兄ちゃんは無事みたいだし、後は待つだけだね」

 

「ああ、そうだね」

 

イリヤと切嗣は満面の笑顔で話し合っている。

ーー良かったです。

貴方の苦しむ顔は何回も見て来たつもりですが、やはり、辛いものがありますね。

アルトレアとなって更に弱くなってしまいましたね。

ですが、私は最後まで貴方の味方ですよ




切嗣くんも頑張りました。
士郎くんも頑張りました。
あとは、僕が頑張るだけですね。
あと、士郎くんの魔術回路が多いのは多分こうじゃないか?と言う僕の妄想です。
ですから、矛盾している所も在るんじゃないですかね。
最後に評価、感想、ダメ出し。
お願いします 


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士郎は優しい

久しぶりです
最近FGOが楽しくてヤバいfate信者です。
そして、バトスピも始めたfate信者です。
何故か?僕の周りでバトスピが流行っているので僕も初めて見ました。
では、どうぞ!


切嗣から魔術回路を移植してから今日でちょうど四日目。

その間士郎はずっと寝ています。

流石に四日目ともなると切嗣やイリヤも心配しています。勿論私も……

 

「切嗣、いつになったらお兄ちゃんは起きるのかな?」

 

彼女の言葉は士郎を心配しての一言だった。

だが、その一言で更に空気が重くなった。

 

「そう、だね……」

 

切嗣も何と言って良いか解らないらしい。

 

「キリツグ、イリヤ、士郎の部屋に行って来ます」

 

そんな中、私は席を立ち士郎の部屋に向かう。

 

~~~

 

そして、士郎の部屋に着いた私は、無駄とは分かっていながら、三回ノックする。

『どうぞ』とも『良いぞ』とも返って来なかった。

私はそのまま士郎の部屋に入る。

『お邪魔します』と言ってから…。

士郎の部屋に入った私が最初に目にしたのは和室の真ん中にある布団と士郎だ。

士郎の部屋は基本的に片付いています。

と言いますか、士郎の部屋には布団と机しかありません。

私は士郎の眠る布団へと一歩、また、一歩と向かっていく。

士郎の布団の横に腰を下ろし、顔を覗き見る。

士郎の寝顔は今まで見てきた中で一番満足そうな顔をしています。

それは、魔術回路を移植して家族を守れる事を嬉しく思っているのでしょうか?

もし、そうなら私は嬉しい。

ですが、その為にも士郎には早く元気な顔を見せて欲しい。

今まで士郎には沢山迷惑をかけましたね。

今もそしてその前も貴方には助けられ続けました。

その時の事を思い出すと自然と涙が出てくる。

 

「士郎、早く目を開けてください……!」

 

彼女の言葉は静寂の中に溶け込んだ。

そして、彼女の耳に聞き慣れた少年の言葉が聞こえる。

『大丈夫だよ。セイバー』

そして、彼女はそのまま意識を手放した。

 

~~~

 

「ア………ねぇ! ア…トねぇ!!」

 

誰かの声が聞こえる。

私はその声を知っている。否、今まで聞き続けた声を忘れるワケがない。

その声は……。

 

「アルトねぇ! 起きてくれ!!」

 

ーー嗚呼、士郎。

 

「士郎、おはようございます……!」

 

彼女は最高の笑顔で少年に挨拶をする。

その笑顔は万人が見れば万人が恋をするだろう。

其ほど迄に彼女は美しかったのだ。

彼女は少年の布団から出て、自分の部屋に戻る時に何を感じたのか自分の部屋ではなく、居間に向かった

 

~~~

 

縁側で切嗣が空を仰いでいた。

私は、何処か寂しさを纏わせた背中をしている彼の方に歩いていく。

切嗣の隣に座っても彼は何も話さない。

私は空を見る。

其処には満点の星空。

その空には月が美しく輝いている。

私はこの光景に目を奪われた。

 

「アルトレアさん」

 

切嗣が言葉を発した事によって、私は彼に視線を向ける。

 

「どうしました?」

 

私が言葉を返すと、切嗣は真剣な表情でこう言ってきた。

 

「今度こそ教えてくれないかい?君が誰なのか」




最近書くことが無くなってきました。
多分、次の話で一区切り着くと思います。
そして、fate編です。
ウオォォォォォ頑張るぞぉぉぉぉぉぉ。
最後に評価、感想、ダメ出し、アイデアの提示お願いします


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月の下で男は最後に笑う

FGO魔人セイバー来ちゃいましたか……。
石足りるかな~
だけど、引いてやる!



「今度こそ教えてくれないかい?君が誰なのか」

 

切嗣のこの一言が、静かな星の下にいる私の耳に響く。

切嗣の顔は、真剣そのものだ。

「切嗣……そうですね。それに答える前に、或る少女の話をしましょう」

そうだ。

この話は愚かで哀れな王様が一人の女性に変わってゆく奇妙で摩訶不思議な物語だ。

切嗣も最初戸惑っていたが、私の顔を見て、了承してくれた。

 

「むかーし、昔、ブリテンと言う国が有りました。

その国の或る少女は、人々を助ける為に王になりました。

ですが、王になった日、王はまず感情を殺しました。

人々を救うには感情が一番邪魔だったのでしょう。

それからの王は凄かった。

戦場に出れば百戦百勝。

玉座に座れば理想の王。

いつの間にか王には最高の騎士達が付いて来てくれました。

それからも、文字通り負け知らず。

敵対した相手を蹂躙していました。

そんなある日、新しい騎士がやって来ました。

その騎士は優秀でした。

ですが、その騎士は事あるごとに『自分を王にさせろ』と言ってきました。

王にとって、その騎士は良く思えなかった。

ですから、王はその騎士に向かって言ったのです。『お前は王になれない』と。

その後に問題が起きました。

その騎士の反乱です。

普通なら王が勝てる戦いでしょう。

ですが、王には最高の騎士達がいなかった。

五人は王のやり方に反対し、一人は女絡みで居なくなり、三人は敵に回り、最後まで王に着いたのは一人だけでした。

故に、王は苦戦をした。

そして、悩んだ。

自分の一体何が悪いのか?

だが、答えは出ず、王は最後の戦いに出向いたのです。

戦いは酷いモノでした。

燃える荒野。

山の様に積まれる死体。

憎悪の視線。

それだけで、王は辛かった。

自分がやってきた事を否定されている様で、自分がやってきた事をバカにされている様で……

そして、最後は相討ちでした。

王の槍は騎士の心臓に、騎士の剣は王の心臓に。

騎士は直ぐに絶命しましたが、王は生きていました。

王の持つ剣には不思議な力が有るのです。

その剣の主は、老いることなく死ぬこともない。

その名を……」

 

「……エクスカリバー」

 

私が言う前に切嗣が先に言いました。

切嗣の顔は何処か生気を抜かれている様に元気がなく、只ぼんやりとしていました。

 

「あの、キリツグ、話を続けても良いですか?」

 

「えっ! あ、ああ、良いよ」

 

切嗣は私の話の続きを聞く。

 

「ゴホン! では、話の続きです。

王は生きていましたが、王の心臓は騎士の一撃によって致命傷を負ってしまいました。

王は動けずに、自分が築いた死体の山で倒れているだけです。

ですが、王の目の前に一人の騎士が来ました。

その騎士は、王を最後まで支えてくれた、

忠義を体現した様な人でした。

王は騎士に向かって最後の命を口にしました。

自分の持ってる聖剣がある限り、自分は死ねない。だから、この剣を湖に投げ入れろと言ったのです。

それで、王は死んだのでしょう。

ですが、その前に王はある夢を見たのです。

万物の願いを叶えるモノ。

……その名を『聖杯』」

 

「聖杯」と言う言葉に切嗣は少し反応したが、特に何も話さない。

つまり、話を続けろと言う事でしょう。

 

「聖杯を求める戦いを王は続けました。

王も聖杯を求めたのです。

『万物の願いを叶える』

もし、それが本当であれば、王は願いを口にしたでしょう。『自分が王であった事を無かった事にしてくれ』と。

ですが、万能の杯を得られるのはたったの一人。

その中で王は、あと一人倒せば、聖杯を獲得出来る状態だったのに、王のマスターは絶対命令権を使い、聖杯を破壊してしまったのです。

そのあと、王は故郷で涙を流して慟哭しました。

そして、王は自分の事を責め続けました。

まるで、自分が悪かった様に……」

 

私の話を一通り聞くと、切嗣の顔は真っ青でした。

まるで、箱を開けたらお化けが出てきた様な顔でした。

 

「そうか、君を悲しませてすまない。いくら、僕の判断だろうと君に許可を取らなかった僕が悪かった」

 

切嗣はそう言うと私に頭を下げました。

 

「キリツグ、謝るのは全てを聞いてからでも遅くはありませんよ?」

 

私はそう言って、切嗣の顔を上げさせた。

 

「えっ?! まだあるのかい?」

 

切嗣は驚いているが、そんなのお構い無しだ。

第五次聖杯戦争の事。

その時のマスターが士郎だった事。

イリヤが敵マスターだった事。

その他に言いたい事を全部言った。

最後に、士郎が私を救ってくれた事も含めて……

 

「はは、そうか、僕の努力が無駄になっちゃうのか。あの争いは十年後に起こるのか。あの大気中のマナの量ならもう少しかかると思ってたんだけどね……」

 

切嗣は笑っているが、それは、苦笑いだとすぐ分かる。

私は話を逸らす様にある疑問を口にする。

 

「何故私が普通の人間とは違うと気づかれたのですか?」

 

そう。

いくら、エーテルで出来ているからと言っても、解る筈がない。

その様に加工をしてある筈だ。

 

「まあ、魔術回路の量が多すぎたのには疑問も有ったけど、余程の名家ならあれぐらい有るだろう。

だけど、僕とアルトレアさんが会ったのは2、3年前。

それから、アレトルアさんは変わらなかった、姿も何も、ね。

本当に何も変わっていないから、不審に思ったんだ。これだけでは、理由にならないかな?」

 

切嗣はそんな風に言いましたが、普通2,3年前の人を記憶し続けますか?

でも、それを覚えていたから切嗣は私の違和感に気づけたのでしょうね。

 

「まあ、確かに。」

 

「アルトレアさん、お願いがあるんだけど、聞いてくれないかな?」

 

切嗣が私にお願いをしてくるなんて珍しいですね。

 

「良いですよ」

 

私が了承すると、切嗣は立ち上がって土蔵の方へ走って行きました。

そして、切嗣が戻ってくる時に何か棒状の様な何かを袋に包んであるモノを持ってきた。

ーーはて?

 

「キリツグ、これは、一体?」

 

私が言うと、切嗣は袋から中身を出しました。

これは、見たことがある。

これは、そう!

士郎が見ていた番組に出ていました。

 

「これは、日本刀。本来なら、士郎が大きくなってから渡そうと思ってたんだけどね。

どうやら、神様は僕に待つ時間もくれないらしい」

 

切嗣はおかしな事を言い出した。

待つ時間がない?……………!?

 

「キリツグ、何を言っているのですか?

それでは、死ぬ間際の人みたいですよ!?」

 

私が切嗣の間違いを訂正する。

そんなワケが無いと自分に言い聞かせながら……

 

「はは、それがね、僕のからだはボロボロでそんなに生きてられないんだよ。保って明日、早くて今日、かな?」

 

「そんな……」

 

私は悲しかった。

やっと、切嗣と分かり合えてきたというのに、これはあんまりだ。

 

「だから、最期に誰かに会いたかった。その相手が君で嬉しかったよ。

……さて、心のモヤも取れたし、もう、思い残す事はほとんど無いかな」

 

切嗣は安堵の表情で言った。

それは、今まで見てきた中で一番安らいでいた。

 

「キリツグ! 士郎は、イリヤはどうするんですか!!

一番悲しむのはあの二人でしょう」

 

「確かに、ずっとあの子達を見届けたかったんだけどね……アルトレアさん、僕の分まで頼めないかな?」

 

切嗣、貴方は何故?

何故、そんな事を言うんですか!?

 

「士郎との約束はどうするんですか?!」

 

「悔しいけど、それも、どうやら無理みたいだ。だから、アルトレアさん、この日本刀を士郎に渡してくれないか?

この刀は僕が良いなと思って買ったモノなんだ。

あと、魔術で少し加工をしてある。

だから、この刀は士郎をきっと守ってくれるはずだよ」

 

切嗣は笑顔で日本刀を私に差し出す。

 

「この誓い、必ず果たします。

士郎のことも、イリヤのことも、後のことはお任せください……父上!」

 

切嗣は私の手に日本刀が有るのを確認した後に、空を見上げる。

 

「ーーああ、本当に、いい月だ」

 

彼はそう呟き、眠る様に亡くなりました。

彼の表情は穏やかで、自分が死ぬ事を全く考えていない顔でした。

そして、私は彼と過ごした日々を思い出す。

その日常は楽しく、可笑しい、最高の日々でした。

私が日常を思い返すと、居間の扉が開く音がしたので、見やれば、其処には士郎が立っていた。

 

「アルトねえ、まだ、起きてるの?」

 

士郎は目を擦りながら訊いてきた。

 

「すみません。シロウ、私もすぐ寝ます」

 

「あれ?爺さん、寝ちゃったの?」

 

士郎はそう言って切嗣の横まで歩いて来て、起こそうとしています。

 

「爺さん、起きろよ。こんな所で寝ると風邪引くぞ?」

 

私は士郎の言葉を聞いていると泣きそうになる。

ーー士郎、切嗣はもう風邪を引きませんし、起きる事もありません。

 

「シロウ、キリツグも疲れている様ですし、あとは私が部屋に運んでおくので先にお休みなさい」

 

士郎には平然と伝えたが、ほとんど虚勢だ。

 

「ん?うん、わかった。アルトねぇもあんまり夜更かしすんなよ」

 

そう言って士郎は自分の部屋に戻って行った。

一人だけ、残された私はもう一度空を見上げる。

やはり、空には雲が無く。

真っ黒な世界に太陽よりも輝いている

一つの月が在りました。




僕らの切嗣が…。
ですが、僕は切嗣を名前だけでも出しまくってやる。
そして、次回からやっとfate stay night編かな?
あと、切嗣が途中で脱落したので魔術を教えているのはイリヤスフィールです。
イリヤスフィールはあんまり魔術を教えていませんが、魔術はめっちゃ出来ると言う設定です。
高校生からスタートします
最後に評価、感想、ダメ出しお願いします


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fate stay night / 至高の一刀
設定


タイトル通りです。
キャラの設定を書きます。



衛宮士郎

ーーー性格は原作通り。どんな人の頼みも断らない。ただし、正義の味方に関する価値観は変化している。

原作士郎は他人が命の危機に瀕したら自分の命を顧みずに突っ込んでいくタイプだが。

この士郎は他人よりも自分を優先する(家族の場合は違う)

魔力の量は原作よりも少し上。

使える魔術は原作通り。

そして、切嗣が亡くなった後も剣道は続けていた

師匠は藤村大河、もしくは、アルトレアのどちらか。

そして、この小説の主人公。

 

衛宮アルトレア

ーーーこの小説の主人公、兼、ヒロインである。

この小説の立ち位置は、士郎が困っている時に助け舟を出すお姉ちゃんである。

魔術は治療系しか使えない。

士郎の一番の味方と自負しているらしい。

そして、その度に、これまた自分が士郎の味方と自負しているイリヤスフィールと口喧嘩をしている。

切嗣の亡くなる時に立ち会った最後の人である。

切嗣から受け取った日本刀は実際まだ渡していない。

今、渡す時では無いと思ったのだろう。

日本刀は土蔵の一番上の棚に大事に置かれている。

日本刀を土蔵に置くようになってからアルトレアは度々土蔵の掃除をしている。

見た目はランサーアルトリアで、中身はセイバーアルトリアである

 

衛宮イリヤスフィール

ーーー士郎の姉兼妹

学校では姉として振る舞って、家では妹として振る舞える。完璧な姉(妹)?

切嗣が亡くなってから二人に魔術を教えた師匠である。

魔力と魔術は原作よりも少し劣る。

たが、それでも普通の魔術師よりは上。

 

衛宮切嗣

ーーー士郎の親。

士郎に魔術を教えた人物。

魔術師殺し。

正義の味方について考え抜いた男。

第四次聖杯戦争の勝利者。

彼を讃える言葉は色々在るだろう。

士郎とアルトレアとイリヤスフィールと一緒に暮らした時が彼にとって一番幸せだっただろう。

その時にアイリスフィールが居たらと度々思うときがある

最後に士郎に自分が選んだ日本刀を士郎に渡せなかった事を悔やんでいる。

 

藤村大河

ーーー士郎の親的存在のメインヒロイン(笑)である。

いつも士郎の家でご飯を食べている。

切嗣が亡くなってから士郎に剣道を教えている(士郎のお願い)

 

間桐桜

ーーー性格は原作よりも押せ押せな感じのヒロインである。

士郎の姉妹を見てから今のままでは駄目と思ったのだろう。隙あらば士郎にアピールをしている。

いつもイリヤスフィールに見つかって止められている。

そして、料理も原作よりも出来る。

アルトレアの料理を越そうと家でも料理をしていたら士郎を越えていた。

料理の実力はイリヤ、士郎、桜、アルトレアの順番である。

 

遠坂凛

ーーー性格は原作通り。

士郎の事を棒高跳びの件から気になっているヒロイン。

 




疲れた。
最後に評価、感想、ダメ出しお願いします。
沖田オルタがでねぇーよ!
マジ課金してやろうかな?


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朝は優しく

やっと、fate編だ
長かったぜ。
それでは、どうぞ!


side arutorea

 

切嗣が亡くなってからちょうど5年と言う歳月が流れた。

私は朝早く起きて、朝食の準備をしています。

士郎は土蔵でガラクタいじりをしています。

確か今はストーブの修理をしていると聞きましたが、今は何処まで直せているのでしょうか?

私はそんな事を考えながら、魚を焼いています。

 

「お邪魔しま~す」

 

と可愛い声が玄関から聞こえてきた。

こんな朝早くから家に来るのはあの娘ぐらいだ。

 

「おはようございます、『桜』」

 

桜と言う少女は士郎が両手を怪我した時に、毎日見舞いに来てくれた士郎の後輩だ。

 

「あの、アルトレアさん、先輩は?」

 

桜は人差し指と人差し指を合わせながら聞いて来る。

これは、女性である私ですら可愛いと思える仕草だ。

 

「士郎なら、土蔵でストーブの修理をしている筈です。ちょうど朝食も出来上がったので起こしにいって貰っても良いですか?」

 

桜は顔を綻ばせて、スキップを踏みながら土蔵へと旅立った。

桜が土蔵へと向かって1分も経たぬうちに我が家の我が儘妹が起きた。

 

「お姉ちゃん、おはよう」

 

まだ、眠気が取れていないのだろう。

若干、怠そうに歩いている。

目を擦りながら、居間に来ると、頭を右、左にキョロキョロさせ始めた。

 

「あれ?士郎は?」

 

そう。

彼女はブラコンなのである。

まあ、そんな事より。

イリヤが急に立って何処かへ歩いて行こうとしている。

 

「待ちなさい、イリヤ何処に行こうとしているんですか?」

 

「えっ? 土蔵だけど? 士郎が居間に居ないなら土蔵しか無いでしょう?」

 

彼女は不思議そうに首をかたむける。

 

「イリヤ、土蔵には桜が向かったのでイリヤが行かなくても大丈夫ですから」

 

私は自分で言って、自分でこの爆弾の危険さに気づいた。

イリヤはブラコンで、桜を毛嫌いしている。

つまり…

 

「桜が士郎を起こしに行った? こうしちゃいられない!

士郎を桜の魔の手から逃さないと!! 待ってなさい士郎、お姉ちゃんが助けに行ってあげるわ!」

 

イリヤは陸上部の人達もビックリな程のスピードで家を出ていった。

ーーああ、桜生きて戻って来てくださいね

 

side sirou

 

……音がした。

土蔵の扉が開く音がした。

暗かった土蔵に朝の光が差し込む。

 

「うっ? んん」

 

その時に近づいてくる足音と、外の外気を感じ取った。

 

「先輩、起きていますか?」

 

後輩の声が聞こえた。

後は、どんどんと意識が覚醒していった。

 

「……ん。おはよう、桜」

 

俺は目の前の後輩を見て、挨拶をする。

 

「はい、おはようございます。

先輩、朝ですよ。まだ時間はありますけど、ここで眠っていたらアルトレアさんに怒られます」

 

桜は毎日この家に来ている。

ーー勿論、迷惑なワケじゃない。

只、毎日こんな朝早く来て桜は辛くないのか? と思った事は結構ある。

でも、桜の顔を見ていると俺の杞憂だったのかもしれない。

 

「そうだな。よく起こしに来てくれた。いつもすまない」

 

俺は桜に頭を下げて、感謝を言う。

 

「そんな事ありません。先輩は、朝がはやいですし、いつもイリヤ先輩に先に行かれて、私が着いた時には先輩は起きていますから、こんな日は、たまにしかありません」

 

桜は嬉しそうに語っている。

そう言えば、いつもはイリヤかアルトねぇに起こされている。

 

「そうかな。桜にはけっこう起こされていると思うけど……。まあ、アルトねぇに叩き起こされるか、イリヤにダイビングして起こされるよりは桜の方が助かる」

 

これは、本当の事だ。

アルトねぇ、はあんまり俺が起きないと俺のほっぺたを往復ビンタしてくるし、イリヤの場合は俺の鳩尾にダイビングしてくるから、桜の方が良い。

 

「はい、わかりました。次からは頑張りますね、わたし」

 

桜はクスクスと笑っている。

……余程、俺の姉たちの起こし方が面白かったのだろうか?

 

「さあ、先輩、居間に生きましょう」

 

弾む様な声で桜は言う。

本当に桜は元気があって嬉しそうだ。

 

「ああ、そうだな」

 

俺は土蔵から出ようとした時に桜が声をかけて来た。

 

「あの、先輩。その格好で家に戻る前に着替えた方が良いと思います」

 

桜は申し訳無さそうに頭を下げて言った。

 

「あ」

 

言われて、自分の格好を見下ろした。

昨日は作業中に眠ったもんだから、体はツナギのままだった。

ツナギは所々汚れている。

こんな格好のまま家に入ったら、アルトねぇに何て言われるか。

 

「うっ、何か普段に増して抜けてるな、俺」

 

「ええ、そうかもしれませんね。私はここで待っているので先輩は着替えててください。あと、ここを散らかしっぱなしにしていたらアルトレアさんに怒られるでしょう?」

 

桜は笑顔で言った。

 

「そうだな。それじゃ着替えてから行こう、桜は待っててくれ」

 

「はい。お待ちしておりますね、先輩」

 

桜が土蔵の後ろ側に回ったので、俺はツナギを脱ぎ制服に着替える。

時間にして1分。

これだから、ツナギは便利なのだ。

そして、散乱している部品を集める。

部品を棚に入れる。

その時に

 

「ん? 何だこれ?」

 

一番上の棚に部品を仕舞おうとしたら、一番上の棚に、何か長い棒状のモノがあった。

気になりはしたが、外で待たせている桜に悪いので、俺は棒状の何かを無視して、外に出る。

 

「悪い、桜。遅れた」

 

俺は桜に謝る。

今は寒いから外で待たせている桜に申し訳無かった。

 

「いえ、良いんです。私から言った事ですから」

 

桜は手をアタフタさせながら言った。

ーー全く、桜は本当に良い後輩だ。

俺がそう思っていると……

 

「し~~ろ~~う~~」

 

白い何かが俺の鳩尾を狙って来た。

凄い早さで俺の元へ来る。

いま、避けたら桜が危ない!

俺は白い物体を受け止める。

その、白い物体とは……

 

「しろう、大丈夫? 桜に何かされなかった?」

 

そう。

俺の姉のイリヤである。

「桜には何もされていない。どっちかって言うと、イリヤに全力タックルをされたぐらいだ」

 

「そう。なら、大丈夫なのね?」

 

イリヤは、俺の言葉を無視して話を続けた。

 

「お姉ちゃんが朝御飯。出来たって、あと、大河が朝御飯を食べに来るらしいわ」

 

成る程。

イリヤが来た理由は俺にこの事を伝えに来たのだろう。

だが、何故?

俺の腕に抱きついている?

まあ、敢えて言わないでおこう。

俺達は居間に向かって歩いていく。

これから起こる事は、今の俺達にはまだわからない




fate編1話を読んで頂きありがとうございました
内容はこんな感じで書いて行きたいと思います。
評価、感想、ダメ出しをどうぞ!
FGOでイゾーがでない!
4%とかふざけんなよ!
イゾーを宝具5にしたいよ


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姉は覚悟を決める

FGOでイゾー出たけど宝具1じゃ使えない。
あと、更新が遅くなると思います
それでは、どうぞ!


side sirou

 

テーブルに朝食が並んでいく。

鶏ささみと三つ葉のサラダ、鮭の照り焼き、ほうれん草のおひたし、大根と人参のみそ汁、とろろ汁と言った献立だ。

 

「「「「いただきます」」」」

 

アルトねえ、イリヤ、桜の四人できちんと座りお辞儀をして、静かに食事を始める。

カチャカチャと箸の音だけが響く。

基本的にアルトねえと桜はお喋りではないし、イリヤもメシ時にはあまり喋らない。

勿論、こっちもメシ時に話をするほど多芸ではない。

食事時は自然と静かになる。

普段は喧しいのだが、今朝に限ってその喧しい人は昨日スパイ映画でも見たのか、新聞紙で顔を隠して、俺達の様子を窺っている。

 

「大河、ご飯時に新聞は見ないでください」

 

と、アルトねえが言うが、

 

「………………」

 

無視する藤ねえ。

あまりに怪しいが、藤ねえが挙動不審なのはいつものコトだ。

アルトねえは気にした風でもなくご飯を食べている。

 

「アルトねえ、醤油とってくれ」

 

「士郎、貴方の醤油は昨日で切れていますよ」

 

と、そうだった。

俺の醤油は昨日で切れていた。

なら、誰かから借りるか。

 

「じゃあ、藤ねえのでいいや。とって」

 

「大河、良いですか?」

 

首を縦に振る藤ねえ。

これは、肯定と言う意味で良いのだろう。

 

「はいどうぞ。士郎」

 

「ああ。ありがとうアルトねえ」

 

俺は醤油を受け取ってとろろ汁目掛けてかける。

白いとろろに醤油をかけ、ぐりぐりと醤油を馴染ませて、ご飯にかけて一口。

うん、このすり下ろされた山芋の粘つき加減に、自己主張の激し過ぎる強烈な醤油の味がまた……

 

「ごふっ! まずっ! これソースだぞソース! しかもオイスター!!」

 

俺は必死にとろろの味を無くそうと、お茶を飲む。

 

「くくく、あっははははははは!!」

 

ばさり、と新聞紙を投げ捨てる藤ねえ。

 

「どうだ! 朝のうちに醤油とソースのラベルを取り替えておいたのだー!」

わーい、と手をあげて喜ぶ藤ねえ。

 

「朝っぱらから何をやってんだアンタはっ! 今年で25のクセにいつまでたっても変わらないな」

 

「ふふーん、昨日の恨み思いしったか! 皆と一緒になってお姉ちゃんをいじめたから当然の天罰ってとこかしら?」

 

藤ねえはドヤ顔で言っている。

これだから、藤ねえは何をやるか分からないから恐ろしいのだ。

 

「天罰ってのは人為的なモンじゃないだろ! なんか大人しいと思ったらこんなコトを考えてたのか! この暇人!!」

 

俺は藤ねえに最低限の反抗を示そうとしたが、そんなの何処吹く風

藤ねえには聞かなかった。

何か、後ろで二人の姉が目に見えて怒っているのだが、これは、一体何が原因なんだ?

 

「そうだよ。お陰でこれから急いでテストの採点しなくちゃいけないんだから、そーゆーワケで急がないとヤバイのだ」

 

しゅた、と座り直し、ガババーと凄い勢いで朝御飯を平らげる藤ねえ。

 

「はい、ごちそうさま。朝ごはん、今日もおいしかったよアルトレアさん」

 

「はい、お粗末様でした。あと、大河」

 

「うん? なーにー?」

 

藤ねえはアルトねえに怠そうに返事をする。

 

「今後、料理で遊ぶ様な事が起きたら大河だけ、ご飯抜きにしたいと思います」

 

藤ねえは絶望した様な顔になっている

そんなに嫌なのかよ!

つーか、25なら自分で料理をしろよな

と、俺の心の中で呟く

 

「はい! 今後、このような事は致しません」

 

「なら、よろしい」

 

そう言って藤ねえは外に停めてある。

スクーターにエンジンをかけ、学校目掛けて発進をする。

ーー慌ただしい人だな。

まあ、それが藤ねえの良いとこでも在るんだが

 

「士郎」

 

「ん? アルトねえどうした?」

 

アルトねえは真剣な表情で俺に言った。

 

「昨日、大河に何かしたんですか? 大河が食べ物に細工するなんて、大河にしてはやり過ぎだと思います」

 

「いや、それが、昨日、ついアダ名で呼んでしまって……」

 

アルトねえは眉間に手をやって、ハー、とため息をついた。

ーーいくら、俺に非があるとは言ってもその態度はあんまりじゃないか?

 

「ダメですよ。士郎。大河は士郎にアダ名を言われるのだけは嫌がるのですから、また泣かせましたか?」

 

「泣かせた上に脱兎の如く走り去らせた。おかげで昨日の英語は自習だった」

 

そう言ったら、アルトねえはさっきよりもデカイため息をはいた。

「はあー、これは士郎がわるいですね」

 

~~~

 

朝食を済ませて、登校の準備をする。

テレビから流れるニュースを聞きながら、アルトねえと一緒に食器を片づける。

アルトねえと桜はニュースを見ていた。

画面には『ガス漏れ事故、連続』と大袈裟なテロップが打ち出されている。

場所は隣町の新都のオフィスビルでフロアにいた人が全員酸欠になり、意識不明の重体に陥ってるらしい。

ガス漏れによる事故とされているが、同じような事故がここのところ頻発している。

 

「今のニュース気になるのか桜」

 

「えっ! いえ、只、先輩のバイト先から近いなと思って」

 

桜は心配そうに自分の手を自分の胸の前でギュッと握っている。

 

「してるけど、別にそんな大きい店じゃないから、今のニュースみたいな事故は起きないと思う」

 

「士郎、その考えは甘いです。いつも、最悪の場面を想定していないといざと言う時に動けなくなりますよ」

 

アルトねえは閉じていた口を開いて言う。

 

「ああ、わかってるよ。アルトねえ」

 

~~~

 

「士郎、裏手の戸締まりはしましたか?」

 

「した。閂かけたけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。それじゃあ鍵、かけますね。先輩、今日のお帰りは何時ですか?」

 

「少し遅くなると思う。桜は?」

 

「私はいつも通りです。多分、私の方が早いと思いますから、アルトレアさんと一緒に夕食をつくっていますね」

 

「たすかる。俺も出来るだけ早く帰る」

 

がちゃり、と門に鍵をかける。

桜と俺とアルトねえがうちの鍵を持っている。

戸締まりの大半はアルトねえがやってくれるんだけど、今は、アルトねぇが食器を洗っているから自分達で鍵を閉めている。

 

「おーい、士郎、桜早く来なさいよ」

 

うちの我が儘姉が手を振って俺達に早く来いと言っている。

 

「行こうか。急がないとイリヤが煩そうだ」

「はい。それじゃ少しだけ急ぎましょうか、先輩」

 

side arutorea

 

士郎と桜とイリヤが家を出て学校に向かって行った。

私は土蔵に行き、棚の一番上の刀に触れて独り言を言う。

 

「今日ですか」

 




内容が段々とぐだぐだしてきたかな?
評価、感想、待ってます。
最後にFGOの福袋いつ?


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運命の夜(前編)

久しぶりの投稿です。
内容はなんか無駄に長いです。



side sirou

 

部活がある桜と別れてイリヤと一緒に校舎に向かう

校庭には走り込みをしている運動部の部員たちがいて朝から活気づいている。

だが、酷い違和感があった。

学校や生徒はいつも通り。

朝練に励む生徒がいれば、真新しい校舎にはよごれはない。

なのに、目を閉じると世界が一変する。

校舎には粘膜の様な汚れが張り付き、校庭を走る生徒たちはどこか人形みたいに感じられた。

 

「疲れてるのかな、俺」

 

軽く頭を振って、校舎に向かう。

その時にイリヤが心配そうにこちらを見ていた。

 

~~~

 

土曜日の学校は早く終わる。

午前中で授業は終わり、学校の備品の手入れが終わった頃には、日は地平線に没しかけていた。

 

「ふぅー、さて、そろそろ帰るか」

 

荷物をまとめて教室を出る。

 

「なんだ? まだ、学校にいたんだ、衛宮」

 

ばったりと慎二と出くわした。

慎二の後ろには数人の女生徒がいて、なにやら騒々しい。

 

「やることも無いクセにまだ残ってたの? ああそうか、また生徒会にごますってたワケね。いいねぇ衛宮は、部活なんてやんなくても内申稼げるんだからさ」

 

慎二は皮肉交じりに言ってくる。

「生徒会の手伝いじゃないぞ。学校の備品備品を直すのは生徒として当たり前だろ?」

 

「は、よく言うよ。衛宮に言わせれば何だって当たり前だからね。そういう良い子ぶりがかんに障るって前にいわなかったっけ?」

 

前に何か言ってた様な?

ああ、ダメだ。

思い出せない。

多分、慎二の口癖だと思って聞き流していたんだな。

 

「……すまん、覚えてない。それ、慎二の口癖だと思ってたから、どうも聞き流していたみたいだ」

 

俺は慎二の頭を下げる。

 

「そうかい、それじゃ学校にあるモノなら何でも直してくれるんだ、衛宮は」

 

「何でもはムリだ。せいぜいが面倒を見るぐらいだ」

 

この学校のモノを何でも直せるって一般生徒には無理がある?

必要な知識も無い。

特殊な機材も無い。

敷いては、材料も無い。

これでは、何でもは無理だ。

今は、家に有るものを持ってきて直しているが、それ以上となると厳しい。

 

「ならさ、頼まれてくれよ。うちの弓道場さ、今わりと散らかってるんだよね。弦も巻いてないのが溜まってるし、安土の掃除も出来ていない。暇なら、そっちの方もやっといてくんない?

元弓道部員だろ? 生徒会になんか尻尾振ってないで、たまには僕たちの役にたってくれよ?」

 

その言葉に後ろに居た女生徒が声をだす。

 

「えー、せんぱーい、それって先輩が藤村先生に言われてたコトじゃなかったー?」

 

「そうですよう、ちゃんとやっておかないと明日怒られますよー?」

 

その言葉にギャルっぽい生徒が。

 

「でもさー、今から片付けしてたら店しまるじゃん。そこの人がやってくれるんならそれで良いんじゃないの?」

 

更に優等生っぽい人が。

 

「悪いよー。それに部外者に片付けなんか出来るワケないし……」

 

そうでも無いんじゃない? あの人、元弓道部員だって慎二が言ってるしさぁ、任せちゃえば良いのよ」

 

慎二の後ろが姦ましい。

女が3人寄れば姦ましいと言うがそれ以上だ。

弓道部員のようだが、見知った顔が無いと言う事は慎二が勧誘しているという部員たちだろうか。

 

「じゃ、あとはよろしく。鍵の場所は変わってないから、勝手にやっといてよ。文句無いよね、衛宮?」

 

「ああ、構わない。どうせ暇だったから、たまにはこういうのも悪くない」

 

「ッ!」

 

慎二が一瞬、ほんの一瞬辛そうな顔をしていた。

それは、痛みを耐えている苦悶の表情ではなく。

何かに気づいて貰えなかった。

孤独な表情だった。

 

「それじゃ行こうぜ皆、つまんない雑用は衛宮がやっとくってさ」

 

その時、慎二は俺の方を向き、本当に悲しそうな顔をしていた。

 

「あ、待ってよせんぱーい!あ、じゃ後はよろしくお願いしますねぇ、先輩」

 

~~~

 

勝手知ったるはなんとやら、弓道場の整理は苦もなく終わった。

これだけ広いと時間がかかったが、一年半前まで使っていた道場を綺麗にするのは楽しかった。

時計を見れば、とうにもんげんは過ぎている。

時刻は7時過ぎあたり、この分じゃ校門はしまっているだろう。なら、無理して早く帰る必要はない。

……それにしても。

ここはこんなに汚れていたっけ。弓置きの裏とか部室とか、細かい所の汚れが目立つ。

 

「……ま、ここまで来たら二時間も三時間も変わらないか」

 

乗り掛かった船だ。どうせなら最後まで掃除してしまおう。

 

~~~

 

掃除を終えて弓道場から出る。

外はもうすでに暗く。

風が吹いていた。

あまりの冷たさにほおがかじかむ。

 

「ーーー」

 

はあー、とこぼした吐息が白く残留している。

 

「……なんだ。暗いと思ったら月が隠れているのか」

 

見上げた空に白い光はない。

強い風のせいか、空には雲が流れている。

もう帰ろうと校門を目指して歩くと、

 

「?」

 

何か、今音が聞こえたような。

そして、音の出所であろう校庭に歩いていく。

 

ーー校庭にまわる。

 

「……人?」

 

初め、遠くから見たときはそうとしか見えなかった。

暗い夜、明かりの無い闇の中。

それ以上のコトを知りたければ、とにかく校庭に近づくしかない。

音は大きく、勢いをまして聞こえてきた。

これは鉄と鉄がぶつかり合う音だ。

となれば、あそこで何者かが刃物で斬り合っているのか?

 

「馬鹿馬鹿しい。何を考えてるんだ、俺は……」

 

頭の中のイメージを苦笑で否定して、更に足を進める。

本能が危険を察知していたのか、隠れながら進んでいた。

身を隠せる程度の木によりそって、より近くから音の発信源を見ーーー

 

そこで、意識が凍りついた。

 

「ーーーーな!」

 

何か、よく分からないモノがいた。

赤い男と青い男。

冗談とすら思えない程物々しい武装をした両者は、不吉なイメージ通り、本当に斬りあっていた。

理解出来ない。

アレの存在が。

視覚で追えない。

アレの動きが。

 

「」

 

ただ、見た瞬間に判った事がある。

アレは人間ではない。おそらくは人間に似た何かだ。

魔術を習ってるから判ったんじゃない。

魔術を習って無い人でも判る。

アレは其ほどのモノだ。

だから、アレには関わってはいけないモノだ。

 

「」

 

離れていても伝わってくる殺気。

……死ぬ。

ここにいては間違いなく死ぬ。

 

「っーー!」

 

これ以上直視していてはダメだ。

だと言うのに体はピクリとも動かない。

 

「」

 

音が止んだ。

二つのソレは、距離をとって向かい合ったまま立ちどまる。

それで殺し会いが終わったのかと安堵した瞬間、青い方の男からいっそう強い殺気が伝わってきた。

 

「っーーーーー!!」

 

心臓が萎縮する。

吐き気がする。

手足の痺れは痙攣にかわり、歯を食いしばり、ふるえだしたくなる体を押さえつけた。

青い男にとてつもない魔力が流れていく。

その魔力量は一撃でこの町を破壊出来ると思ってしまうレベルのモノだ。

このままなら赤い男は死ぬだろう。

死ぬ。

人の形をした何かが死ぬ。

それは、見過ごして、良いのか?

この迷いのおかげで意識がソレから外れたので金縛りが解け、はあ、と大きく呼吸をした瞬間。

 

「誰だーーー!!」

 

青い男が隠れている俺の方を凝視した。

 

「…………っっっ!!!」

 

青い男の体が沈む。

それだけで、ソレの標的は自分に切り替わったと理解できた。

 

足が勝手に走り出した。

それが死を回避できる為とようやく気づいて、体の全てを、逃走する事に注ぎ込んだ。

何処をどう走ったのか、気が付けば校舎の中に逃げ込んでいた。

 

「何を、バカか」

 

はあはあと喘ぎながら、自分の行動に毒をはく。

逃げるなら町中だ。

こんな、自分から人気の無い場所に逃げるなんてどうかしてる。

それも学校。同じ隠れるでも、もっと隠れやすい場所があるんじゃないのか。

 

「ハァーーハァ、ハァ、ハァ」

 

限界以上に走った事で心臓が軋む。

振り向けば奴はいない。

響く足音は自分だけのモノだ。

 

「ァーーーハァ、ハァ、ハァ」

 

なら、休もう。

もう走れない足を止めて、壊れそうな心臓に酸素を送る。はあ、と大きく顎をあげて、助かったのだと実感できた。

 

「ーハァ、ぁ、なんだったんだ、今の」

 

乱れた呼吸を整える。

 

「けど、これでともかく」

 

「追いかけっこは終わり、だろ」

 

その声は、目の前から、した。

 

「よぅ。わりと遠くまで走ったな 坊主」

 

「」

 

息ができない。

思考が止まる。

何も考えられないと言うのに。

これで死ぬんだな、と実感はした。

 

「運が悪かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

 

男の槍は容赦も情緒もなく、男の槍は衛宮士郎の心臓を一撃で貫いた。

 

「ぁ」

 

世界が歪む。

体が冷めていく。

指先からどんどんと感覚が消えていく。

 

「」

 

よく見えない。

感じられない。

痛みなどとうに感じない。

 

「死人に口なしってな。弱いヤツがくたばるのは当然と言えば当然だが……まったく嫌な仕事をさせてくれる。この様で英雄とはわらいぐさだ」

 

声だけが聞こえてくる。

自分の中で唯一残ってる感覚かもしれない。

 

「解っている、文句はないさ。女のサーヴァントは見たんだ。大人しく戻ってやるよ」

 

苛立ちを含んだ声。

その後に、廊下を駆けてくる足音。

 

「アーチャーとはケリをつけておきたいが、マスターの方針を破る訳にもいくまい。……まったく、いけすかねぇ野郎だこと」

 

そして、声は消えた。

窓から飛び降りたのだろう。

その後にやってきた足音が止まった。

奇妙な間。

……また足音。

もう、よく聞き取れない。

 

「追って、アーチャー。ランサーはマスターの所に戻るはず。せめて相手の顔ぐらい把握しないと割に合わない」

 

……それは誰の声だったか?

途切れそうな意識を総動員して思い出そうとしたが、やはり、何も考えられなかった。

でも、この声を聞くと安心するのは何故だろう?

 

「ランサーの一撃を食らって死んでないのは、凄いな」

 

覗き込まれる気配。

 

「……やめてよね。なんだって、アンタが」

 

ぎり、と。

歯を噛む音が聞こえた途端、そいつは、躊躇う事なく、血に濡れた俺に触れてきた。

 

「破損した臓器を偽造して代用、その間に心臓一つまるまる修復か……こんなの、成功したら時計塔に一発合格ってレベルか……」

 

苦しげな声。

それを境に、薄れていく意識がピタリと止まった。

 

「」

 

体に感覚が戻ってくる。

ゆっくりと、少しずつ。

 

「」

 

何をしているのか。

寄り添ったコイツは額から汗を流して、一心不乱に、俺の胸に手を当てている。

 

「」

 

手のひらを置かれた箇所が酷く熱い。

 

「ふぅ」

 

大きく息を吐いて座り込む気配。

 

「っかれたぁ…」

 

カラン、と何かが落ちる音。

 

「…ま、仕方ないか。ごめんなさい父さん」

 

それを最後に。

誰かの気配はあっさりと遠ざかって行った。

 

「」

 

心臓が活動を再開する。

そうして、今度こそ意識が途切れた。

 

……それは死に行く為の眠りではなく。

再び目覚める為に必要な、休息の眠り。

 

side out

 

side arutorea

 

遅い。

今は夜の9時です。

士郎がこんなに帰ってくるのが遅いのは珍しいです。

バイトもなくてこんなに遅いと心配になります。

 

「イリヤ、士郎と最後に合ったのは何時ですか?」

 

私は隣に座っているイリヤに聞く。

 

「朝に士郎と別れたのが最後よ」

 

「そうですか」

 

どうしましょう。

 

「イリヤ、今日はもう寝ましょう。士郎は直ぐに帰ってくるでしょうから」

 

私たちは起きて待つ事を選ばなかった。

これは、何かが起きそうな気がしたから、

私たちは起きていては危ないと私の直感が言っていた様な気がしたから。




この話でびっくりな事はなんと!
慎二がクソワカメではなく、ちょっとマシなワカメになっていることです。
って! 結局はワカメかーい!!
すんません調子乗りすぎました。


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運命の夜(後編)

えーと、まずは謝罪から
すいませんでした。
今回の文字数は5000字と少し多くなりました。
だから、時間がある時見て頂いたら幸いです
では、どうぞ!


side sirou

 

「あ……つ」

 

目が覚めた。

喉元には吐き気が、体からはところどころがズキズキと痛む。

心臓が鼓動する度に刺すような痛みがする。

 

「何が起きたんだ?」

 

頭が痛すぎて思い出せない。

いや、思い出すのを俺自身が拒否しているのか?

いや、そんなの今ではどうでもいい。

下を見たら、血の海が合った。

この血は全部俺のなのか?

「っ」

 

朦朧とする意識の中で俺は立ち上がり。

教室に入る。

 

「はぁ、はぁ…ぐっ」

 

酷い吐き気を堪えて教室からバケツと雑巾を持ってくる。

 

「はは、なにしてんだろ、俺…」

 

まだ頭が混乱しているみたいだ。

ヤバいモノに出会い。

いきなり心臓に槍を刺されたのに何で掃除なんかしてるんだよ、馬鹿。

 

「はぁ、はぁ…くそ、落ちない」

 

雑巾で自分の血を拭く。

血を大量に出しすぎたのか、手足の力が入らない。

それに体が寒い。

雑巾で自分の血を吹き終えると、床に落ちているモノを拾う。

証拠隠滅。

 

雑巾とバケツをしまい。

教室を出る。

そして、ゾンビの様な足取りで家を目指す。

 

~~~

 

家に着いた時にはもう日付が変わっていた。

居間には誰もいない。

もうアルトねぇやイリヤは寝ているのだろう。

 

「はぁ、あ…はぁ」

 

床に腰を下ろす。

そのまま床に寝転び、呼吸を整える。

 

「アイツらは一体何だったんだ?」

 

人じゃない何か

幽霊では無い。

肉を持ち、意思を持ち、俺に直接的に接触が出来るのは幽霊ではない。

ならば、妖精か?

ーーーはは、何をバカな事を考えてるんだか。

でも、アイツらの正体は何一つ分からない。

 

「…こんな時、親父が生きていれば」

 

久しぶりに吐いた弱音は誰の耳にも入らず空間に響く。

 

「馬鹿か。判らなくても、自分に出来ることをやるって決めたじゃないか」

 

弱音はその後に好きなだけ吐けば良い。

今はアイツらの事を考えるしかない。

アイツらは一体校庭で何をしていた?

殺し会いをしていた。

何故だ?

何故ーー

カラン、カラン、カラン。

 

「!?」

 

屋敷の天井につけられた鐘がなる。

ここは魔術師の家だ。

敷地に知らない人間が入ってくれば警鐘がなる、ぐらいの結界はある。

 

「こんな時に泥棒ーー」

 

呟いて、自らの発言に舌を打つ。

そんな筈はない。

このタイミング、あの出来事の後で、そんな筈はない。

侵入者は確かにいる。

それは、物を取りに来た泥棒ではなく、命を奪いにきた暗殺者だ。

 

「」

 

屋敷は静まり帰っている。

物音一つない闇の中、だが、確かに居る。

少しずつ、少しずつだが、近づいてきている。

「っ!」

 

漏れ出しそうな悲鳴を懸命に抑える。

悲鳴を出した瞬間に寝ているであろう、イリヤとアルトねぇが居間に来る。

そうしたら、この暗殺者は顔を見られたからと言ってアルトねぇとイリヤを殺すだろう。

さっきの警鐘の時も来るのでは無いかとヒヤヒヤしたが、来なかった。

って事は寝ていると言う事だ。

俺はあの二人だけには生きていて欲しい。

だから、この恐怖に負けちゃいけない。

 

「すぅ、はぁ、すぅ」

 

深呼吸をする。

今は全神経を研ぎ澄ませろ。

一瞬の油断が命取りになるだろう。

アイツに襲われたら俺の命は無い。

なら、そうならない様に武器を用意しなくては

奴の武器は槍。

なら、リーチの短い武器はアウト。

出来る事ならリーチが長く、硬いモノが好ましい。

木刀の様なモノが有れば、文句無しだが。

残念そんなモノは居間にはない。

土蔵になら武器になりそうなのは山程有るのだが、土蔵からは距離が離れ過ぎている。

その間に殺されるのが関の山だ。

 

「武器になりそうなモノは……うっ! マジか、藤ねえが置いていったポスターしかない」

 

がくり、と肩の力が抜ける。

だが、この絶望的な状況にむしろ腹が据わった。

ここまで最悪なら、これより下はない。

なら、後はもう、死に物狂いで頑張るしかない。

 

同調、開始(トレース、オン)

 

俺の唯一使える魔術『強化』は物体に文字通り強化をする。

長さ60センチのポスターに魔力を流す。

 

「構成材質、解明」

 

魔力と言う水分をポスターの隅々に染み込ませていく。

 

「構成材質、補強」

 

ポスターの隅々に魔力が行き渡り、溢れる寸前で止める。

 

全工程、完了(トレース、オフ)

 

ポスターと自分の接続を断ち、ポスターを数度振り、成功の感触に身震いをする。

ポスターの強度は鉄筋並みになっている

それでいて軽さはポスターのままだ。

急造の武器としては文句無しだろう。

 

「よし! 上手くいった」

 

強化の魔術が成功したのは何年ぶりだろうか。

だが、今はそんな事を考えている暇はない。

両手でポスターを握り、居間の真ん中にただ立っている。

 

「ふぅ」

 

来るなら来い!

さっきのようにはいかない、と身構えた瞬間。

 

「!!」

 

ぞくん、と背筋が震えた。

何時の間にやってきたか。

天井から現れたソレは、一直線に俺へと落下した。

 

「なっ!?」

 

天井から透けて来たとしか思えないソイツは、脳天を刺そうと降下してくる。

 

「こ、のぉ…!!!」

 

ただ必死に横に転がる。

たん、という軽い着地音と、ごろごろと転がる自分。

それもすぐさま止めて、ポスターを持ったまま立ち上がる。

 

「」

 

ソイツは退屈そうに俺へと振り返る。

 

「余計な事を。見えていれば痛かろうと、オレなりの配慮だったんだかな」

 

ソイツは気だるそうに槍を持つ。

 

「」

 

今のアイツには校庭にいた時程の覇気がない。

それなら、なんとか、このまま、出し抜く事が出来る!

 

「まったく、一日に同じ人間を二度殺すハメになるとは思わなかったぜ」

 

男はこちらの事など眼中にない、という素振りで悪態をつく。

じり、と少しずつ後ろに下がる。

窓まであと三メートルほど。

窓を割り、庭に出てしまえば土蔵まで20メートルあるかないかだ。

 

「じゃあな、今度こそまようなよ、坊主」

 

静かに。

ぼんやりと。

ため息をつくように、男は言った。

そして、男の槍が俺の心臓に向かってくる。

 

「っ!?」

 

右腕に痛みが走る。

 

「?」

 

それは一瞬の出来事。

男の槍が、俺のポスターを貫通しないで俺の右腕を掠めるだけに留まったのだ。

 

「…ほう、変わった芸風だな」

 

先程までの油断は消え、獣みたいな眼光で、こちらの動きを観察している。

 

「っ!」

 

しくじった。なんとかなる、なんて酷い慢心だ。

今目の前に居るのは、常識から外れたモノ。

そいつを目の前にして少しでも気を緩ませた自分の愚かさに怒りが沸く。

……そうだ。

本当になんとかしたかったのなら、頭上からの一撃を奇跡的にやり過ごした後、必死に土蔵に向かって走るべきだったのだ!

「ただの坊主かと思ったが、成る程、微弱だが魔力を感じる。心臓を穿たれて生きている、ってのはそういう事か」

 

槍の穂先がこちらに向けられる。

 

「」

 

防げない

あんな速い一撃は防げない。

この男の獲物が剣なら、どんなに速くても身構える事はできただろう。

だが、アレは槍だ。

軌跡が線の剣と、点である槍。

初動さえ見切れない一撃を、どう防げと言うのか。

 

「いいぜ、少しは楽しめそうじゃないか」

 

男の体が沈む。

瞬間に

正面からではなく、横殴りに槍が振るわれた。

 

ギャリン

 

顔の側面の攻撃を、条件反射だけで受け止める。

 

「ぐっ!?」

 

腕に凄い衝撃が来る。

一瞬、腕が無くなったかの様な感覚に陥った。

 

「いい子だ、次行くぞ!」

 

ブン、という旋風。

この狭い室内でどんな扱いをしているのか、槍は壁につかえる事なく美しい弧を描き俺に襲ってくる。

 

「くっ!!!!!」

 

今度は逆から、こちらの胴を払いに来る……!

 

「がっ!!!??」

 

止めに入ったポスターが折れ曲がる。

化け物が! アイツが持ってんのはハンマーか!!

 

「ぐ、この、野郎!」

 

「あん?」

反射的に剣を振るう。

こちらを舐めているのだろう、未だ戻しに入ってない槍の柄を剣で弾きあげる!

 

「ぐっ!!!」

 

叩きにいった両腕が痺れる。

ポスターが更に折れ曲がり、男の槍は僅かだけ軌道を逸らした。

 

「拍子抜けだ。やはり直ぐに死ね、坊主」

 

男は槍を構え直す。

 

「勝手に」

 

男の余分なスキに。

 

「言ってろ間抜け!」

 

後ろを見ずに、背中から窓へと飛び退いた。

 

「はっ、はぁ、は」

 

背中で窓を割って庭へと転がり出る。

そのまま、数回転がった後、、立ち上がりざまに

 

「は、あ」

 

何の確証もなく、背後に全身全霊の一撃をする

 

ギャリン

 

「ぬ!」

 

突き出した槍を弾かれ、わずかに躊躇する男。

予想通りだ。

窓から飛び出せば、アイツは必ず追撃してくる。

こっちが起き上がる前に確実に殺しにかかる。

だから、必殺の一撃がくると信じて、満身の力でポスターを横に払った。

結果は見事的中。

 

「は、っ……」

 

即座に体勢を立て直し、男が怯んでいる隙に、土蔵まで走り抜ける。

 

「飛べ」

 

槍を弾かれた筈の男は、槍など持たず、空手のまま俺へと肉薄し、くるりと背中をむけて、回し蹴りを放ってきた。

 

「」

 

景色が流れる。

ただの回し蹴りで、自分の体がボールみたいに蹴り飛ばされるなんて、夢にも思わなかった。

 

「ぐっ!」

 

壁にぶつかり、背中が折れたかの様な錯覚を受け、ずるりと地面に落ちたのだ。

 

「ごぼっ、あ!」

 

息ができない

視界が霞む。

目的地だった土蔵の壁に手をついて、なんとか体を立たせる。

後ろからは男がやってくる。

そして、俺の心臓目掛けて槍をつく。

 

ガン!

 

「チィ、男だったらシャンと立ってろ…!」

 

なんて悪運

体を支えきれず、膝を折ったのが幸いした。

槍は俺の頭上で土蔵の重い扉を弾き開けた。

 

「ぐっ!」

 

四つん這いになって土蔵へ滑り込む。

 

「そら、これで終いだ!」

 

避けようのない必殺の一撃が放たれた。

 

「こ、のぉぉおおおお!」

 

棒状のポスターを広げ、たった一度きりの盾にする。

 

「なに!?」

 

ゴン、という衝撃。

広げきったポスターは槍は防いだが、貫通され、元のポスターに戻る。

 

「あ、っ!」

 

槍の衝撃に吹き飛ばされ、壁まで弾き飛ばされた。

床に尻餅をついて、止まりそうな心臓に渇を入れる。

そうして、武器になりそうな物を掴もうと顔を上げた時。

 

「締めだ。今のはわりと驚かされたぜ、坊主」

 

もはや、これより先はない

自分の逆転劇もどうやらここまでみたいだ。

 

「…しかし、分からねえな。機転は利くくせに魔術はからっきしときた。筋はいいようだが、若すぎたか」

 

……男の声が聞こえない。

意識は目の前の凶器に収束している。

 

「もしかしたら、お前が七人目だったのかもな。

ま、だとしてもこれで終わりなんだが」

 

男の腕が動く。

もう、これで死ぬのか?

俺は親父と約束したんだ。

『家族を守る正義の味方になる』と。

まだ、途中なんだ。

道すら見えていない。

そんな時に死ねだと?

……ふざけてる。

だが、今の俺には何も出来ない。

いくら、叫ぼうが、何も変えられない。

なら、いっそ。

このまま死んだ方が楽じゃないのか?

そう思っていると男の槍が俺の心臓に当たる直前で止まる。

 

「おい、坊主。この場合は俺は悪くねぇよな?」

 

男が扉の方を向く。

そこには俺の知っている人がいた。

いや、知っているなんて簡単に済ませられない。

何年も一緒に住んでた。

俺の姉

衛宮アルトレアがいた。

 

「士郎から退きなさい」

姉は美しかった。

これは、お世辞でも比喩でもない。

曇り空から少しだけ顔を出した月は姉を照らした。

砂金を散りばめた様な髪は月光を浴び輝き。

宝石の様な瞳には暖かさを感じていた。

だから、美しいと思ったのだ。

 

「へぇ、アンタには悪いが俺の姿を見られたには死んで貰わないといけないんだよ。だから、坊主は死ぬ。俺の姿を見たアンタも死ぬ」

 

男は表情を消して言った。

この言葉に俺は腹がたった。

コイツは今何て言った?

アルトねぇを殺す?

ふざけるな!

アルトねぇは何もやってないだろう。

何で見られただけでアルトねぇが死なないといけない!

ふざけるな!!

ふざけるな!!!

 

「」

 

頭にきた。

そんな簡単に人を殺すなんてふざけてる。

そんな簡単にアルトねぇを殺すなんてふざけてる。

一日に二度も殺されるなんて、そんなバカな話もふざけてる。

 

「ふざけるな、俺は」

 

こんなところで意味もなく、

お前みたいなやつに、

アルトねぇを殺させるものかーー!!!!!!

 

「えっ?」

 

それは、本当に。

 

「なに!?」

 

魔法のように、現れた。

現れたそれが、少女の姿をしている事しか判らない。

ギャリイイン、という音。

それは現れるなり、 俺の胸を貫こうとした槍を打ち弾き、躊躇うことなく男へと踏み込んだ。

 

「本気か、七人目のサーヴァントだと……!?」

 

弾かれた槍を構える男と、手にした『何か』を一閃する少女。

男は不利と悟ったのか土蔵の外へ飛び出した。

 

風の強い日だ。

土蔵に差し込む銀色の月光が、騎士の姿をした少女を照らしあげる。

 

「」

 

声がでない。

突然の出来事に混乱した訳ではない。

ただ、目前の少女の姿があまりにも綺麗過ぎて、言葉を失った。

 

「」

 

少女は俺を見据えた後。

 

「問おう。貴方が、私のマスターか」

 

凛とした声で、そういった。

 

「え……マス……ター?」

 

問われた言葉を口にする。

彼女が何をいっているのか、何者なのかも判らない。

ただ、俺はこの綺麗な少女にアルトねぇを掛け合わせている。

理由は分からない。

だが、何となくそう思っただけなのだ。




何か疲れた。
今回は士郎が完全に主人公だったから今度はアルトねぇ視点で書きたいと思います
次回は気が向いたら
最後に評価、感想、ダメ出しまってまーす!
ダメ出しは少なめでお願いしまーす。
それじゃ、次回


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魔術師 遠坂凛

3日連続は疲れた。
これを最後にちょっと遅くなると思います。
では、どうぞ!


「え……マス……ター?」

 

「」

 

少女は何も言わず、静かに俺を見つめてくる。

この状況、外ではあの男が隙あらば襲いかかってくる状況を忘れる程、目の前の少女は特別だった。

自分だけ時間が止まったかのよう。

先程まで体を占めていた恐怖は消え、今はただ、目の前の少女だけが視界にある。

 

「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。マスター、指示を」

 

二度目の声。

彼女がしゃべり終えると

 

「っ!」

 

左手に痛みが走った。

熱い焼きごてを押されたような、そんな痛みが。

思わず左手の甲を押さえる。

 

「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。

ここに契約は完了した」

 

「な、契約って、なんの!?」

 

俺にだって契約と言うモノがどんなモノかぐらいは知っている。

少女は俺の問いに答えず、顔を扉の方に向けた。

その奥に、未だ槍を構えた男がいた。

 

「」

 

まさか、と思うより早かった。

少女は、躊躇うことなく土蔵の外へと身を出した。

 

「!」

 

体の痛みも忘れ、立ち上がる。

いくらあんな物騒な格好をしていようと、少女は俺より小さな女の子なんだ。

 

「士郎!」

 

アルトねぇが扉の前に出る。

俺を外に出さない様に

 

「退いてくれ! あのままじゃあの子が死んでしまう!!」

 

「いいえ、大丈夫です、士郎。外を見て見なさい」

 

アルトねぇは優しい口調で言った。

そして、俺はアルトねぇの言葉通りに外を見てみると

 

「な」

 

我が目を疑う。

今度こそ頭が真っ白になる。

 

「なんだ、あいつ」

 

響く剣戟。

月は雲に隠れ、庭は元の闇に戻っている。

そのなかで火花を散らす鋼と鋼。

土蔵から飛び出した少女は男の槍を一撃で払いのけ、更に繰り出される槍を弾き返す。

その度、男は後退する。

 

「」

 

信じ、られない

セイバーと名乗った少女は、間違いなくあの男を圧倒していた。

 

「大丈夫だったでしょ? 士郎」

 

アルトねぇは少し胸を張って言った。

俺は何で見ず知らずの少女を助けようと思ったのだろう。

そんなの決まってる。

俺はアルトねぇに似た少女を殺されたく無かったんだ。

 

「さあ、士郎。怪我の治癒を行います座って下さい」

 

アルトねぇはそう言い俺の怪我の治癒を行う。

俺はその間も少女と男の戦いを見ていた。

男は少女に向かって言葉を吐く。

 

「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か…!」

 

少女の猛攻を捌きながら、男は悪態をつく。

 

「」

 

少女は答えず、更に手にした『何か』を打ち込む。

 

「テメェ!」

 

男は反撃もままならず後退する。

なにしろ少女が持っている武器はみえないのだ。

相手の間合いが判らない以上、無闇に攻め込むのは得策ではない。

少女は『何か』を持っている

それの形状や長さが判らなくては反撃も出来ない。

 

「どうしたランサー。止まっていたは槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私がいくが」

 

「…は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。

貴様の宝具、それは剣か?」

 

ぎらり、と。

相手を射抜く様な視線を向ける。

 

「さあどうかな。

斧かも知れぬし、槍かも知れぬ。いや、もしや弓かも知れんぞ、ランサー?」

 

「く、ぬかせセイバー」

 

それが本当に可笑しかったのか。

ランサーと呼ばれた男は槍を僅かに下げる。

 

「ついでにもう一つ訊くがな。お互い初見だしよ、ここいらで分けって気はないか?」

 

「」

 

セイバーは無言で男を睨む。

 

「悪い話じゃないだろう? そら、あそこで惚けているオマエのマスターは使い物にならんし、オレのマスターは姿を現さねえ大腑抜けときた。

ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだが」

 

少女は一瞬の考えも無しに。

 

「断る。貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

「チッ、そうかよ。ったく、こっちは元々様子見が目的だったんだぜ?サーヴァントが出たとあっちゃ長居する気は無かったんだが」

 

ランサーの姿勢が低くなる。

同時に巻き起こる冷気。

 

「宝具!」

 

少女は『何か』を構え、目前の敵を見据える。

 

「……その心臓、貰い受ける!」

 

男が地を蹴る。

ランサーは瞬間移動のように少女の前に現れ、その槍を、彼女の足下目掛けて繰り出した。

 

「」

 

それは、俺から見てもあまりにも下策だった。

下段に投げた槍で、更に足下を狙うなど少女に通じる筈がない。

事実、彼女はそれを飛び越えながらランサーを切り伏せようとしている。

瞬間。

 

刺し穿つ(ゲイ)

 

槍は言葉と共に、

 

死棘の槍(ボルク)

 

下段に放たれた槍は、少女の心臓に向かっていく。

 

「!?」

 

浮く体。

少女は槍によって弾き飛ばされ、大きく放物線を描いて地面へと、着地した。

 

「はっ、く!」

 

…血が流れている。

いままで掠り傷一つ負わなかった少女は、その胸を貫かれ、大量の血を流していた。

 

「呪詛…いや、今のは因果の逆転か!」

 

…驚きはこちらも同じだ。

いや、遠くから見ていたぶん、彼女以上に今の一撃が奇怪な物だったと判る。

槍は、確かに少女の足下を狙っていた。

それが突如軌道を変え、あり得ない形、あり得ない方向から、少女の胸を貫いた。

 

「はーーぁ、は」

 

少女は乱れた呼吸を整えている。

あれだけ流れていた血は止まって、穿たれた傷は塞がっていく。

ランサーはぎり、と。

ここまで聞こえるほどの歯軋りを立てて少女を睨む。

 

「かわしたなセイバー。我が必殺のゲイ・ボルクを」

 

地の底から響く声。

 

「っ!? ゲイ・ボルク…御身はアイルランドの光の御子か!」

 

ランサーの顔が曇る。

先程までの敵意は薄れ、ランサーは忌々しげに舌打ちをした。

 

「…ドジった。こいつを出すからには必殺でなけりゃヤバいってのにな。全く、有名過ぎるのも考え物だ」

 

重圧が薄れていく。

ランサーは傷ついた少女に追い討ちをかけることもせず、あっさりと背中を向け、庭の隅へ移動した」

 

「己の正体を知られた以上、どちらかが消えるまでやりあうのがサーヴァントのセオリーだが…あいにくうちの雇い主は臆病者でな。槍がかわされたのなら帰ってこい、なんてぬかしやがる」

 

怠そうに言った。

そこにセイバーは、

 

「逃げるのか、ランサー」

 

挑発とも取れる言葉を吐いた。

 

「ああ、追ってくるのなら構わんぞセイバー。

ただし、その時は、決死の覚悟を抱いて来い」

 

トン、という跳躍。

ランサーは塀を飛び越え、止める間もなく消え去った。

 

「待て、ランサー!」

 

胸に傷を追った少女は、逃げた敵を追おうとして走りだす。

 

「バ、バカかアイツ!」

 

全力で庭を横断しようと走りだす直前で。

 

「大丈夫です。士郎」

 

アルトねぇに止められた。

一体何が大丈夫なんだ!

このままではアイツはランサーを追って、殺されるのがおちだ。

と、思っていたが。

塀を飛び越えようとした少女は、跳ぼうと腰を落とした途端、苦しげに胸を押さえて止まった。

 

「くっ!」

 

傍らまで走り寄って、その姿を観察する。

いや、声をかけようと近寄ったのだが、そんな事は彼女に近づいた途端に忘れた。

俺より何歳か年下のような少女は、その、とんでもない美人だった。

月光に照らされた金の髪は、砂金をこぼしたようにきめ細かく。

まだあどけなさを残した顔は気品があり、白い肌は目に見えて柔らかそうだった。

見とれている間、少女は胸に手を当てていた。

痛みが引いたのか、少女は胸から手を離して顔をあげる。

真っ直ぐにこちらを見据える瞳。

そして、気づいた。

 

「…傷が、なくなっている?」

 

心臓を外したとは言え、槍で胸を貫かれて外傷がない。

…治癒の魔術を使ったとしてもそんな直ぐに治る傷でも無かった。

そして、治癒の魔術を使われた気配はなかった。

つまりコイツは、傷を受けようが勝手に治ると言う事か。

 

「っ!」

 

コイツはなにかとんでもないヤツだ。

正体が判らないまま気を許していい相手じゃない。

 

「お前は、何者だ」

 

半歩後ろに下がって問う。

 

「? 何者もなにも、セイバーのサーヴァントです。

…貴方が私を呼び出したのですから、確認をするまでもないでしょう」

 

「セイバーのサーヴァント?」

 

俺は判らない単語を言う。

彼女は俺が理解したと思ったのだろう。

話を続けていく。

 

「はい。ですから私の事はセイバーと」

 

さらりと言う。

その口調はかたぐるしいのに穏やかだった。

 

「そ、そうか、変な名前だな」

 

「…俺は士郎。衛宮士郎っていって、この家の人間だ」

 

俺は自分の名前を言って、後ろにいる自分の姉のそんざいに気づいた。

 

「で、こっちが俺の姉の衛宮アルトレアって言うんだ」

 

どうかしてる。

なんか、さらに間抜けな返答をしてないか俺。

でも、相手が名前を言ったのだから、コッチも言わないと。

 

「」

 

少女…セイバーは変わらず、やっぱり眉一つ動かさず、アルトねぇを見ている。

どういう事だ?

アルトねぇは眉一つ動かさずセイバーを見ている。

 

「セイバーはアルトねぇと面識があるのか?」

 

俺はセイバーに問う。

 

「いいえ、初めてです。ですが、なぜか他人のように感じれなくて」

 

なるほど。

確かに顔は似ていると思う。

たまに在るんだよな。

自分とそっくりな人がいると他人とは感じれない時って有るもんな。

 

「そして、貴方は正規のマスターではないのですね」

 

「えっ?」

 

「しかし、それでも貴方は私のマスターです。契約を交わした以上、貴方を裏切りはしない。そのように警戒する必要はありません」

 

「う?」

 

彼女が何を言っているのか聞き取れてるクセにちんぷんかんぷんだ。

 

「それは違う。俺、マスターなんて名前じゃないぞ」

 

俺はセイバーの言葉に反論する。

 

「それではシロウと。ええ、私としては、この発音の方が好ましい」

 

唐突に俺の左手に痛みが走った。

左手には赤いおかしな紋章が刻まれていた。

 

「な」

 

「それは令呪と呼ばれるモノですシロウ。

私たちサーヴァントを律する3つの命令権であり、マスターとしての命でもある。無闇な使用は避けるように」

 

「シロウ、傷の治療を」

 

冷たい声で言う。

その意識は俺にではなく、塀の向こう側に向けられていた。

 

「待て、まさか俺に言っているのか? アルトねぇは出来るが、俺は出来ない。それにもう治ってるじゃないか、ソレ」

 

セイバーは僅かに眉を寄せ

アルトねぇの方を向き。

 

「では、アルトレア。傷の治療をお願い出来ますか?」

 

アルトねぇは二つ返事で治療を開始する。

治療が終わるとセイバーは塀を飛び越えていく。

アイツは一体何をしてるんだ?

まさか、外にまだ敵がいるのか?

そう思った瞬間に俺は走り出していた。

 

「はっ、は、は!!」

 

門まで走って、そのまま外に出る。

 

「セイバー、何処だ!?」

 

暗闇に目を凝らす。

こんな時に限って月は隠れ、あたりは闇に閉ざされている。

 

ガキン

 

すぐ近くで物音がした。

 

「そこか!」

 

人気のない小道に走りよる。

見覚えのある赤い男とセイバーが対峙している。

セイバーは躊躇う事なく赤い男へと突進し、一撃で相手の体勢を崩して

たやすく赤い男を切り伏せた。

トドメとばかりに腕を振り上げるセイバー。

が、赤い男は首を落とされる前、強力な魔術の発動と共に消失した。

セイバーは止まらない。

そのまま、男の奥にいた相手へと疾走し、

そして、敵が放った魔術を、消滅させた。

 

「な」

 

強いとは知っていたが、圧倒的すぎる。

今の魔術は、俺なんかじゃ足下にも及ばないほどの干渉魔術だ。

あれだけの魔術をノータイムで行うなど、一流の魔術師でも可能かどうか。

だが、そんな達人クラスの魔術でさえ、セイバーは無効化させた。

敵は魔術師なのか、それで勝負はついた。

魔術師の攻撃はセイバーには通用せず、セイバーは容赦なく魔術師に襲いかかる。

どん、と尻餅をつく音。

奇跡的にセイバーの一撃をかわしたものの、敵はそれで動けなくなった。

 

「や、やめ」

 

セイバーが人を殺して帰り血を浴びている姿が一瞬で想像できた。

 

「やめ、ろぉ」

 

体が震える。

セイバーが持っている『何か』で、相手の喉を貫こうと。

 

「止めろセイバー!!!!!」

 

精一杯、力の限り叫んだ。

喉がかすれ最後の部分は聞こえなくなっていただろう。

だが、セイバーの剣がとまる。

 

「…止めろ。頼むから止めてくれ、セイバー」

 

セイバーを睨みつけながら言った。

彼女を止めるのなら全力で挑まなければいけない。

 

「何故止めるのですシロウ。彼女はアーチャーのマスターです。ここで仕留めておかなければ」

 

違う、セイバーはやっぱり止まる気なんてない。

俺が言っているから止めているだけで、直ぐにでも、剣を振るおうとしている!

 

「だ、だから待てって! 人の事をマスターだとか言ってるけど、こっちはてんで解らないんだ。俺をそんな風に呼ぶんなら、少しは説明するのが筋ってもんだろう!」

 

「」

 

セイバーは答えない。

静かに俺を見据えて佇むだけだ。

 

「順番が違うだろ、セイバー。俺はまだお前が何なのか知らない。けど話してくれるなら聞くから、そんな事は止めてくれ」

 

「」

 

セイバーは黙っている。倒れこんだ相手に剣を突きつけたまま、納得いかなげに俺を見据える。

 

「そんな事、とはどのような事か。

貴方は無闇に人を傷つけるな、などという理想論をあげるのですか」

 

「え?」

 

「つまり貴方は、敵であれ命を絶つなと言いたいのでしょう?そのような言葉には従いません。敵は倒すモノです。それでも止めろと言うのであれば、令呪を以て私を律しなさい」

 

セイバーは何か勘違いをしていないか?

俺はそんな事を言いたいワケじゃない。

敵から攻撃してきたら、その時は倒すだけだ。

 

「セイバー、それは違います。士郎が言いたいのは女の子が剣を振って怪我でもしたら大変と言いたいのです。まったく、士郎は説明が下手ですね」

 

アルトねぇの発言に俺は首を縦にふる。

 

「」

 

途端に毒気を抜かれたように、ポカンとセイバーは口を開けた。

そんな状態のまま、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

 

「…で?何時になったら剣を下げてくれるのかしらね、セイバーさんは」

 

唐突に、尻餅をついていた誰かが言った。

 

「!」

 

咄嗟に剣に力を込めるセイバー。

 

「諦めなさい。敵を前にして下げる剣は有りません」

 

「貴女のマスターは下げろって言っているのに?へぇ、セイバーともあろうサーヴァントがマスターに逆らうっていうんだ」

 

「」

 

ぎり、と歯を噛んだ後。

セイバーは剣を下げ、手のひらから力を抜いた。

それで剣は仕舞われたのか、セイバーから殺気が消えた。

 

「そ。なら立ってもいいのよね、わたし」

 

尻餅をついていた誰かが立ち上がる。

ぱんぱん、とお尻を叩いているあたり、ふてぶてしい。

ん? ちょっと待て。

あーあ、とばかりに不貞腐れているのは、その、間違いなく。

 

「お、おまえ遠坂!?」

 

「ええ。こんばんは、衛宮くん」

 

にっこり、と極上の笑みで返してくる遠坂凛。

 

「ああ、いや、だから、さっきの魔術は遠坂が使ったって事だから、つまり?」

 

「魔術師って事でしょ?ま、隠す必要もないわよね?」

 

だから、そうもはっきり言われると訊いているこっちが間抜けみたいじゃないか。

 

「いいから話は中でしましょ。どうせ何も解ってないんでしょ、衛宮くんは」

 

さらりと言って、遠坂はずんずん門へと歩いていく。

 

「え? 待てって遠坂、なに考えてんだお前!?」

 

振り向いた遠坂の顔は、さっきまでの笑顔とは別物だった。

 

「バかね、いろいろ考えてるわよ。だから話をしようって言ってるんじゃない。

衛宮くん、突然の事態に驚くのもいいけど、素直に認めないと命取りって時もあるのよ。ちなみに今がその時だとわかって?」

 

じろり、と敵意を込まれて睨まれる。

 

「っ!」

 

「分かればよろしい。それじゃ行こっか、衛宮くんのおうちにね」

 

そう言って遠坂は門の中に入っていく。

 

~~~

 

で、なんでか不思議な状況になってしまった。

目の前にはずんずんと歩いていく学校のアイドル、一応憧れていた遠坂凛がいて、

背後には無言で付いてくる金髪の少女、自らをサーヴァントと名乗るセイバーがいて、

隣には俺の姉のアルトねぇがいる。

 

「」

 

俺は黙りながら遠坂の後ろについていく。

そんな中で

 

「士郎、彼女達を家に入れるのは仕方有りませんが、イリヤをどうしましょうか?

急に家に知らない人が居たら、魔術で攻撃するかも知れませんよ。

しかも、女性ですから尚更暴走するかも知れません」

 

と、我が姉のアルトねぇが言ってきた。

確かに昔、女の子の友達を家に連れて来たら、イリヤが暴走して魔術を使ってたな~

まあ、その後は、親父が記憶を消してくれたから大惨事にはならなかったけど…。

直ぐに魔術を使うクセは止めて欲しいな。

 

「その時はそん時だ。最悪遠坂だけ守れば何とかなるだろう」

 

「ええ、その時は凛だけを守ります」

 

ん? 俺、遠坂の名前言ったけ?

まあ、いいや。

 

「へぇ、結構広いのね。和風っていうのも新鮮だなぁ。

あ、衛宮くん、そこが居間?」

 

「」

 

考えるのはここまでだ。

後は、遠坂から話を聞こう。




すいません
長すぎました。
僕はもう疲れました。
セイバーとアルトねぇの区別がつかないので、セイバーのシロウはカタカナでアルトねぇの士郎は漢字です。覚えてくれたら幸いです。
次回の投稿は遅くなるとおもいまふ。


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マスター講座

今回はちょっと短くなりました。
それでもながいですけどね
それでは、どうぞ!


電気をつける。

時計は午前一時を回っている。

 

「うわっ寒! なによ、窓ガラス全壊してるじゃない!」

 

「仕方ないだろ、ランサーってヤツに襲われたんだ。なりふり構ってる余裕なかったんだ」

 

「あ、そういう事。じゃあ、セイバーを呼び出すまで、一人でアイツとやりあってたの?」

 

「やりあってなんかない。只、一方的にやられただけだ。おまけに殺されそうな時はアルトねぇに助けられて、本当に情けない」

 

俺は自分を責める言葉ばかりを言う。

今さっきの事で見栄をはれた様な状態じゃないしな。

 

「いいえ、士郎はとても凄かったですよ。私が来るまで一人でランサーの攻撃を避けていたではありませんか?」

 

アルトねぇが俺の事をフォローしてくれる。

でも、それは、過大評価だ。

俺はそんなに凄い奴じゃない。

 

「アルトねぇに危険な思いをさせてしまったんだ、そんな俺が凄い訳がない」

 

「ふうん、変な見栄ははらないんだ。…そっかそっか、ホント見た目通りなんだ、衛宮くんって」

 

何が嬉しいのか?

遠坂の声は弾んでいる。

そして、遠坂は割れた窓ガラスまで歩いていく。

 

「?」

 

遠坂はガラスの破片を手に取ると、ほんの少しだけ観察し

 

「mi nuten vor SchweiBen」

 

ぷつり、と指を切って、窓ガラスに血を垂らした。

 

「!?」

 

それはどんな魔術か。

粉々に砕けていた窓ガラスはひとりでに組み合わさり、数秒とかからず元通りになってしまった。

 

「遠坂、今の」

 

「ちよっとしたデモンストレーションよ。助けて貰ったお礼にはならないけど、一応筋は通しておかないとね」

 

「…ま、私がやらなくてもそっちで直したんだろうけど、こんなの魔力の無駄遣いでしょ?ホントなら窓ガラスなんて取り替えれば済むけど、こんな寒イボ中で話すのもなんだし」

 

当たり前のように言う。

が、言うまでもなく、彼女のうでまえは俺の理解の外だった。

 

「いや、凄いぞ遠坂。俺やアルトねぇはそんな事出来ないからな。直してくれて感謝してる」

 

俺やアルトねぇは出来ないが、イリヤなら遠坂と同じスピードで出来るだろう。

イリヤがこの家で魔術に関しては一日の長があるからな。

 

「? 出来ないって、そんな事ないでしょ? ガラスの扱いなんて初歩の初歩だもの。たった数分前に割れたガラスの修復なんて、どこぞの学派でも入門試験みたいなものでしょ?」

 

「そうなのか。俺は親父にしか教わった事がないから、そういう基本とか初歩とか知らないんだ」

 

「はあ?」

 

ピタリ、と動きを止める遠坂。

…しまった。なんか、言ってはいけない事を口にしたようだ。

 

「ちょっと待って。じゃあなに、衛宮くんは自分の工房の管理もできない半人前ってこと?」

 

「? いや、工房なんて持ってないぞ俺」

 

あー、まあ、鍛練場所として土蔵があるが、アレを工房なんて言ったら遠坂のヤツ本気で怒りそうだしな。

 

「…まさかとは思うけど、確認しとく。もしかして貴方、五大元素の扱いとか、パスの作り方も知らない?」

 

おう、と素直に頷いた。

 

「じゃあ、貴女も?」

 

と、遠坂は今度はアルトねぇに訊いている。

アルトねぇも俺と同じく、はい、と頷いた。

 

うわっ、こわっ。

なまじ美人なだけ、黙り込むと迫力あるぞ、こいつ。

 

「なに。じゃあ貴方、素人?」

 

「そんな事ないぞ。一応、強化の魔術ぐらいは使える」

 

「強化って…また、なんとも半端なのを使うのね。で、それ以外はからっきしってワケ?」

 

「俺は強化だけだが、アルトねぇは治癒の魔術ならある程度出来る」

 

「治癒の魔術ね。まあ、強化よりは使えるし、需要もあるから良い方ではあるわね。で」

 

じろり、と睨んでくる遠坂。

 

「はあ。なんだってこんなヤツにセイバーがより出されるのよ。まったく」

 

がっかり、とため息をつく。

 

「…む」

 

なんか、腹がたつ。

俺だって遊んでたワケじゃない。

こっちが未熟なのは事実だけど、それとこれとは話が別だ。

 

「ま、いいわ。もう決まった事に不平をこぼしても始まらない。そんな事より、今は借りを返さないと」

 

ふう、と一息つく遠坂。

 

「それじゃ話を始めるけど。

衛宮くん、自分がどんな立場にあるのか判ってないでしょ」

 

「」

 

遠坂の言葉に頷く。

 

「やっぱり。ま、知ってる相手に説明するなんて心の贅肉だし」

 

「?」

 

なんか、今ヘンな言い回しを聞いた気がするけど、ここで茶々をいれたら殴られそうなので黙った。

 

「率直に言うと、衛宮くんはマスターに選ばれたの。どちらかの手に聖疵があるでしょ?手の甲とか腕とか、個人差はあれど3つの令呪が刻まれている筈。それがマスターとしての証よ」

 

「手の甲って…ああ、これか」

 

「そ。それはサーヴァントを律する呪文でもあるから大切にね。令呪っていうんだけど、それがある限りはサーヴァントを従えていられるわ」

 

「…? ある限りって、どういう事だよ」

 

「令呪は絶対命令権なの。サーヴァントには自由意思があるんだけど、それをねじ曲げて絶対に言いつけを守らせる呪文がその刻印」

 

「発動に呪文は必要なくて、貴方が令呪を使用するって思えば発動するから。

ただし一回使う毎に一つずつ減っていくから、使うのなら二回だけに留めなさい。

で、その令呪がなくなったら衛宮くんは殺されるだろうから、せいぜい注意して」

 

「え、俺が殺される?」

 

「そうよ。マスターが他のマスターを倒すのが聖杯戦争の基本だから。そうして他の六人を倒したマスターには、望みを叶える聖杯が与えられるの」

 

「なっ、に?」

 

ちょっ、ちょっと待て。

遠坂が何を言っているのか全く理解できない。

マスターはマスターを倒す、とか。

そうして最後には聖杯が手に入るとか。

 

「まだ解らない? 要するに、貴方はあるゲームに巻き込まれたのよ。

自分の欲望の為に他人を殺し、最後の一人になるまで終わらない最低のデスゲームに」

 

それが何でもない事のように、遠坂凛は言い切った。

 

「」

 

頭の中で、聞いたばかりの単語が回る。

マスターに選ばれた自分。

マスターだと言う遠坂。

サーヴァントという使い魔。

ーーそれと。

聖杯戦争という、デスゲーム。

 

「待て。なんだそれ、いきなりなに言ってんだお前」

 

「気持ちは解るけど、私は事実を口にするだけよ。

…それに貴方だって、心の底では理解してるんじゃない?

一度ならず二度までもサーヴァントに殺されかけて、自分はもう逃げられない立場なんだって」

 

「」

 

それは。

たしかに、俺はランサーとか言うヤツに殺されかけた、けど。

 

「あ、違うわね。殺されかけたんじゃなくて殺されたんだっけ。よく生きてたわね、衛宮くん」

 

「」

 

遠坂の追い討ちは、ある意味トドメだった。

確かに俺はアイツに殺された。

いくら、俺が否定したところで、他の連中が手を引いてくれるなんて事はない。

 

「」

 

「納得した? ならもう少しだけ話を続けるわね。

聖杯戦争というのが何であるか私もよく知らない。

ただ何十年に一度、七人のマスターが選ばれ、マスターにはそれぞれサーヴァントが与えられるって事だけは確かよ」

 

「つまり、サーヴァントって言うモノは聖杯戦争を戦い抜くための兵器みたいなモノか?」

 

「うーん、ちょっと違うかな。兵器って自由意思が無いから、主が殺せと言えば何でも殺す。だけど、サーヴァントにはそれぞれの自由意思がある。

つまり、彼らは武器であっても兵器ではない。

沢山の人を殺す兵器ではなく、狙った相手を殺す武器であると言った方が解りやすいんじゃないかしら」

 

「成る程な」

 

「でも、中には例外も居る。無関係な人を沢山殺す兵器みたいなヤツもたまには居るわ」

 

「そんなヤツもいるのか?」

 

「ええ、だから、マスターが指示をするのよ。自分の武器が兵器にならないようにするの。

それでも止めない奴がいた場合は令呪を使う人もいるでしょうけどね」

 

「令呪を使ってどうするんだ?

やっぱり、 無関係な人を殺すのを止めろと命令するのか」

 

「う~ん、それは、人それぞれかな? 令呪で行動を制限させたりするヤツも居れば、もっと殺れというヤツも居る。

最終手段で自害させようとするヤツも居るわ」

 

遠坂の言ってる事が正しければ、もしかしたらセイバーもそんな人かも知れないと言うことか。

 

「さて。話がまとまったところでそろそろ行きましょうか」

 

と。

遠坂はいきなり、ワケの分からない事を言い出した。

 

「行くって何処へ?」

 

「貴方が巻き込まれたこのゲーム…聖杯戦争をよく知ってるヤツに会いに行くの。衛宮くん、サーヴァントについて知りたいんでしょ?」

 

「それは当然だ。けどそれって何処だよ。もうこんな時間なんだし、あんまり遠いのは」

 

「大丈夫、隣町だから急げば夜明けまでには帰ってこれるわ。それに明日は日曜なんだから、別に夜更かししても良いじゃない」

 

「いや、そういう問題じゃなくて」

 

単に今日は色々あって疲れてるから、少し休んでから物事を整理したいだけなのだが。

 

「なに、行かないの? …まあ、衛宮くんがそう言うんならいいけど、セイバーは?」

 

なぜかセイバーに意見を求める遠坂。

 

「ちょっと待て、セイバーは関係ないだろ。あんまり無理強いするな」

 

「シロウ、私は彼女に賛成です。貴方はマスターとして知識がなさすぎる。貴方と契約したサーヴァントとして、シロウには強くなって貰わなければ困ります」

 

セイバーは静かに見据えてくる。

…それはセイバー自身ではなく、俺の身を案じている、穏やかな視線だった。

 

「分かった。行けばいいんだろ、行けば。

で、それって何処なんだ遠坂。ちゃんとかえってこれる場所なんだろうな」

 

「もちろん。行き先は隣町の言蜂教会。そこがこの戦いを監督してる、エセ神父の居所よ」

 

にやり、と意地の悪い笑みをこぼす遠坂。

アレは何も知らない俺を振り回して楽しんでいる顔だ。

 

「」

 

偏見だけど。

あいつの性格、どこか問題ある気がしてきたぞ…。

俺は外に行く服装にして、外に出る。

外に出る時にアルトねぇには家に残って貰った。

もし、イリヤが起きてきた時に誰もいなかったらびっくりするだろうから

よし。

準備万端だ。

行くか。




最近FGOでワルキューレを引こうと頑張ってガチャを引いても出るのは慎二だけです。
……切れそう。
多分、次回の更新は遅くなると思います。
最後に評価、感想、ダメ出し、いつでもwelcomeです。


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教会へ

更新が遅くなってすいません
今回の話は短めです。
なぜなら僕の体力が尽きたからです。
まあ、次は長く書けるように努力します。


夜の町を歩く。

深夜1時過ぎ、外に出ている人影は皆無だ。

家々の明かりも消えて、今は街灯だけが寝静まった町をてらしている。

 

「なあ遠坂。つかぬ事を訊くけど、歩いて隣町まで行く気なのか」

 

「そうよ? だって電車もバスも終わってるでしょ。いいんじゃない、たまには夜の散歩っていうのも」

 

「そうか。一応訊くけど、隣町までどのくらいかかるか知ってるか?」

 

「えっと、歩いてだと一時間ぐらいかしらね。ま、遅くなったら帰りはタクシーでも拾えばいいでしょ」

 

「そんな余分なお金は使わないし、俺が言いたいのは女の子が夜出歩くのはどうかって事だ」

 

「安心なさい、相手がどんなヤツだろうとセイバーが何とかしてくれるわ」

 

「あ」

 

そう言えばそうだった。

通り魔だろうが変質者だろうが、セイバーに手を出したらそれこそ返り討ちだろう。

 

「凛。シロウは今何を言いたかったのでしょう。私には理解できなかったのですが」

 

「え? いえ、大間抜けっていうか、大した勘違いっぷりよ。なんでもわたしたちが痴漢に襲われたら衛宮くんが助けてくれるんだって」

 

「そんな、シロウは私のマスターだ。それでは立場が逆ではないですか」

 

「そういう事じゃ無いんじゃない? 魔術師とかサーヴァントとか関係無いって感じ、あいつの頭の中、一度見てみたくなったわねー」

 

「」

 

知らぬ間に、遠坂とセイバーは話をするぐらいの仲になっている。

セイバーはと言えば、あの姿のまま出ようとしたのを止めた時から無言だ。

どうしても鎧は脱がない、というので仕方なく雨合羽を着せたら、ますます無言になってしまった。

今ではカツカツと俺の後を付いてきて、遠坂とだけ話をしている。

 

「あれ? どっちに行くのよ衛宮くん。そっち、道が違うんじゃない?」

 

「橋に出ればいいんだろ? ならこっちのが近道だ」

 

二人と肩を並べて歩くのは非常に抵抗があったので、早足で横道に入った。

 

川緑の公園に出た。

あの橋を渡って、隣町である新都へ行くのだが

 

「へえ、こんな道あったんだ。そっか、橋には公園からでも行けるんだから、公園を目指せばいいのね」

 

夜の公園、という場所のせいだろうか。

橋を見上げる遠坂の横顔が、学校で見かける時よりキレイに見える。

 

「いいから行くぞ。別に遊びに来たワケじゃないんだからな」

 

公園で立ち止まっている遠坂を促して階段を上る。

橋の横の歩道にさえ辿り着けば、あとは新都まで一直線だ。

歩道橋に人影はない。

それは当然、昼間でさえここを使う人は少ないのだ。

新都まではバスか電車で行くのが普通で、この歩道橋はあんまり使われない。

なにしろ距離が余りにも長いし、頑丈そうでなく、いつ崩れてもおかしくないのでは、なんて不安を呼び起こす。

ロケーション的には文句なしだが、デートコースに使われないのも、その辺りが原因だろう。

 

「馬鹿らしい。なに考えてんだ、俺」

 

無言で後を付いてくるセイバーと、すぐ横で肩を並べている遠坂。

その二人を意識しないようにと努めて、とにかく少しでも早く橋を渡ろうと歩を速めた。

 

橋を渡ると、遠坂は郊外へ案内しだした。

新都と言えば駅前のオフィス街しか頭に浮かばないが、駅から外れれば昔ながらの町並みが残っている。

郊外はその中でも最たるものだ。

なだらかに続く坂道と、海を見渡せる高台。

坂道を上っていく程に建物の数が減っていき、丘の斜面に建てられた外人基地が目に入ってくる。

 

「この上が教会よ。衛宮くんも一度ぐらいは行った事があるんじゃない?」

 

「いや、ない。あそこが孤児院だったって事ぐらいは知ってるけど」

 

「そう、なら今日が初めてか。じゃ、少し気を引き締めた方がいいわ。あそこの神父は一筋縄じゃいかないから」

 

…見上げれば、坂の上には建物らしき影が見えた。

高台の教会。

今まで寄り付きもしなかった神の家に、こんな目的で足を運ぶ事になろうとは。

 

「うっわ! 凄いな、これ」

 

教会はとんでもない豪勢さだった。

高台のほとんどを敷地にしているのか、坂を上りきった途端、まったいらな広場が出迎えてくれる。

その奥に建てられた教会は、そう大きくはないのに、(そび)えるように来たものを威圧している。

 

「シロウ、私はここに残ります」

 

「え? なんでだよ、ここまで来たのにセイバーだけ置いてけぼりなんて出来ないだろ」

 

「私は教会に来たのではなく、シロウを守る為について来たのです。シロウの目的地が教会であるのなら、これ以上遠くにいかないでしょう。ですから、ここで帰りを待つことにします」

 

きっぱりと言うセイバー。

どうもテコでも動き出しそうにないので、ここは彼女の意思を尊重することにした。

 

「分かった。それじゃ行ってくる」

 

「はい、誰であろうと気を許さないように、マスター」

 

ああ、と言って教会に向かう。

 




FGOの最近のガチャが酷いんですよ。
スカディ狙ってガチャをしても出ないし、おまけに次はジャンヌがくるんでしょ?
金が無くなるよ~。
まあ、そんなことより次回の更新は遅れます。
最後に評価、感想、ダメ出しお願いします


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衛宮士郎の覚悟

久しぶりです。
今回は長くなりすぎました。
暇があったら読んでください。
では、どうぞ!


広い、荘厳な礼拝堂だった。

これだけの席があるという事は、日中に訪れる人も多いという事だろう。

これだけの教会を任されているのだから、ここの神父は余程の人格者と見える。

 

「遠坂。ここの神父はどんな人なんだ」

 

どんな人かって、説明するのは難しいわね。十年来の知人だけど、わたしだって未だにアイツの性格は掴めないもの」

 

「十年来の知人? それはまた、随分と年季の入った関係だな」

 

「私の後見人よ。ついでに言うと兄弟子にして第二の師っていうところよ」

 

「え、兄弟子って、魔術師としての兄弟子?」

 

「そうだけど。なんで驚くのよ、そこで」

 

「だって神父なんだろ!? 神父が魔術なんて、そんなの御法度じゃないか!」

 

教会は異端を嫌う。

人ではないヒトを徹底的に排除する彼らの標的には、魔術を扱う人間も含まれる。

教会において、奇跡は選ばれた聖人だけが学ぶもの。

それ以外の人間が扱う奇跡は全て異端なのだ。

 

「いや。そもそもここの神父は魔術師側の人だったのか」

 

「ええ。聖杯戦争の監督役として派遣されたヤツだもの、バリッバリの代行者よ。ま、もっとも神のご加護があるかどうかは疑問だけど」

 

「ふうん。で、その神父はなんて言うんだ?」

 

「名前は言峰綺礼。父さんの教え子でね、もう十年以上の腐れ縁よ。ま、できれば知り合いたくなかったけど」

 

「同感だ。私も、師を敬わぬ弟子など持ちたくははなかった」

 

かつん、という足音。

俺達が来たことに気が付いたのか、その人物は祭壇の裏側からゆっくりと現れた。

 

「呼び出しにも応じぬと思えば、変わった客を連れてきたな。ふむ、彼が七人目という訳か、凛」

 

「そう。一応魔術師だけど、中身は素人だから見てられなくって。

たしかマスターになった者はここに届けを出すのが決まりだったわよね」

 

「そうだ、なるほど、ではないその少年には感謝しなくてはな」

 

言峰という神父は、ゆっくりとこちらに視線を向ける。

 

「私はこの教会を任されている言峰綺礼という者だが。

君の名はなんというのかな、七人目のマスターよ」

 

「衛宮士郎。けど、俺はまだマスターなんて物になった覚えはないからな」

 

腹に力を入れて、神父を睨む。

 

「衛宮ーー士郎」

 

「」

 

背中の重圧が悪寒に変わる。

神父は静かに、何か喜ばしいモノに出会ったように笑った。

 

「礼を言おう、衛宮。よく凛を連れてきてくれた。君がいなければ、アレは最後までここには訪れなかったろう」

 

神父が祭壇へとあるみよる。

 

「では始めよう。衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いないか?」

 

「確かに俺はセイバーと契約した。けどマスターとか聖杯戦争とか、そんな事を言われても俺には判らない。マスターっていうのがちゃんとした魔術師がなるモノなら、マスターを選び直した方がいい」

 

「これは重症だ。彼は本当に何も知らないのか、凛」

 

「だから素人だって言ったじゃない。その辺りからしつけてあげてよ」

 

遠坂は気が乗らない素振りで神父を促す

 

「まず君の勘違いを正そう。

いいか衛宮士郎。マスターという者は他人に譲れる者ではないし、なってしまった以上辞められるものだもない。

その腕に令呪を刻まれた者は、たとえ何者であろうとマスターを辞める事はできん」

 

「っ、辞める事は出来ないって、どうしてだよ」

 

「令呪とは聖疵でもある。マスターとは与えられた試練だ。都合が悪いからと言って放棄する事はできん。

その痛みからは、聖杯を手に入れるまでは解放されない。

お前がマスターを辞めたいと言うのであれば、聖杯を手にいれ己が望みを叶えるより他はあるまい。そうなれば何もかもが元通りだぞ、衛宮士郎。

おまえの望み、その内に溜まった泥を全て掻き出す事もできる。そうだ、初めからやり直す事とて可能だろうよ。

貴様のその見えない火傷の傷をなかった事にすることも」

 

「っ!」

 

「綺礼、回りくどい真似はしないで。私は彼にルールを説明してあげてって言ったのよ。誰も傷を開けなんて言ってない」

 

神父の言葉を遮る声。

 

「と、遠坂?」

 

「そうか、こういった者は何を言っても無駄だからな、せめて勘違いしたまま道徳をぬぐい去ってやろうとおもったのだが。

ふん、情けは人の為にならず、とはよく言ったものだ。つい、私自身も楽しんでしまったか」

 

「なによ。彼を助けると良いことあるっていうの、アンタに」

 

「あるとも。人を助けると言う事は、いずれ自身を救うという事だからな。と、今更おまえに説いても始まるまい。

では、本題に戻ろうか、衛宮士郎。

君が巻き込まれたこの戦いは『聖杯戦争』と言うモノだ。

七人のマスターが七人のサーヴァントを用いてサーヴァントを繰り広げる争奪戦ーーという事ぐらいは凛から聞いているか?」

 

「聞いてる? 七人のマスターで殺し合うっていう、ふざげた話だろ」

 

「そうだ。だが我らとて好きでこのような事を行っている訳ではない。全ては聖杯を得るに相応しい者を選抜する為の儀式だ。なにしろモノがモノだからな、所有者の選定には幾つかの試練が必要だ」

 

「待てよ。さっきから聖杯聖杯って繰り返してるけど、それって一体なんなんだ。まさか本当にあの聖杯だって言うんじゃないだろうな」

 

聖杯。

聖者の血を受けたという杯。

数ある聖遺物の中でも最高位とされるソレは様々な奇蹟を行うという。

その中でも広く伝わっているのが、聖杯を持つ者は世界を手にする、というものである。

もっとも、そんなのは眉唾だ。なにしろ聖杯の存在自体が有るが無いものに近い。

確かに望みを叶える聖なる杯は世界各地に散らばる伝説・伝承に顔を出す。

だがそれだけだ。

実在したとも、再現できたとも聞かない架空の技術、それが聖杯なのだから。

 

「どうなんだ言峰綺礼。アンタの言う聖杯は、本当に聖杯なのか」

 

「勿論だとも。この町に現れる聖杯は本物だ。その証拠にサーヴァントなどという法外な奇蹟が起きているだろう。

過去の英霊を呼び出し、使役する。否、既に死者の蘇生に近いこの奇跡は魔法と言える。

これだけの力を持つ聖杯ならば、持ち主に無限の力を与えよう。物の真偽など、その事実の前に無意味だ」

 

「」

 

つまり。

偽物でも本物以上の力があれば、真偽など問わないと言いたいのか。

 

「いいぜ。仮に聖杯が合ったとする。けど、ならなんで殺し合いなんてするんだ。聖杯があるんなら殺し合いなんてせずに、皆で分ければいいだろう」

 

「もっともな意見だが、そんな自由は我々にはない。

聖杯を手にする者はただ一人。

それは私たちが決めたのではなく、聖杯自体が決めた事だ。七人のマスターを選ぶのも、七人のサーヴァントを呼び出すのも、全ては聖杯自体が行う事。

これは儀式だと言っただろう。聖杯は自らを持つに相応しい人間を選び、彼らを競わせてただ一人の持ち主を選定する。

それが聖杯戦争ーー聖杯に選ばれ、手に入れる為に殺し合う降霊儀式という訳だ」

 

「」

 

淡々と神父は語る。

反論する言葉もなく、左手に視線を落とす。

そこには連中が令呪と呼ぶ刻印だ

 

「納得いかないな。一人だけしか選ばれないにしたって、他のマスターを殺すしかないっていうのは、気にくわない

 

「? ちょっと待って。殺すしかない、っていうのは誤解よ衛宮くん。別にマスターを殺す必要はないんだから」

 

ぽん、と肩を叩いて、遠坂は意外な突っ込みをしてきた。

 

「はあ? だって殺し合いだって言ったじゃないか。言峰もそう言ってたぞ」

 

「殺し合いだ」

 

「綺礼は黙ってて。あのね、この町の聖杯は霊体なの。だから物として有るわけではなく、特別な儀式で呼び出す、つまり。降霊するしかないって訳。

で、呼び出す事は魔術師だけでも出来るんだけど、これが霊体である以上私たちには触れられない。この意味、分かる?」

 

「分かる。霊体には霊体でしか触れられないんだろ。

ああ、だからサーヴァントが必要なのか」

 

「そういう事。ぶっちゃけた話、聖杯戦争っていうのは自分のサーヴァント以外のサーヴァントを撤去させるってコトよ。だからマスターを殺さなければならない、という決まりはないの」

 

「」

 

なんだ、それならそうと早く言ってくれれば良いのに

全く、遠坂もこの神父も人が悪い。

とにかく、これで安心した。

聖杯戦争に参加しても、遠坂が死ぬような事は無いわけだから。

 

「なるほど、そういう考えもできるか。

では衛宮士郎、一つ訊ねるが君はセイバーを倒せると思うか?」

 

「?」

 

セイバーを倒す?

そんなの無理に決まってる。

そもそもアイツには魔術は通用しないし、剣術だってデタラメに強い。

セイバーを倒したいのなら、魔術や剣術では無理だ。

それこそ、銃やマシンガンと言ったモノを用意しないと無理だと思う。

 

「ではもう一つ訊ねよう。つまらぬ問いだが、君は自分がセイバーより優れていると思えるか?」

 

「??」

 

なに言ってるんだ、こいつ。

俺はセイバーを倒せないんだから、俺がセイバーよりすぐれてるなんて事ありえない。

今の質問はどっちともマスターである俺の方がサーヴァントより弱いって答え、に

 

「あっ!」

 

「そういう事だ。サーヴァントはサーヴァントをもってしても破りがたい。ならばどうするか。

そら、実に単純な話だろう?サーヴァントはマスターがいなければ存在できぬ。いかにサーヴァントが強力でも、マスターが潰されればそのサーヴァントも消滅する。ならば」

 

そうだ、これは至極当然の行為じゃないか。

誰もわざわざ疲れる道を歩かない。

楽が出来る方に行くのが普通だ。

つまり、勝ち残りたいのなら、サーヴァントではなくマスターを殺す方が楽に決まっている。

そして、マスターが死ねばサーヴァントも必然的に消滅をする。

 

「ああ、サーヴァントを消す為にはマスターを倒した方が早いってのは解った。

けど、それじゃあ逆にサーヴァントが先にやられたら、マスターはマスターではなくなるのか?

聖杯に触れられるのはサーヴァントだけなんだろ?

なら、サーヴァントを失ったマスターには価値がない」

 

「いや、令呪がある限りマスターの権利は残る。マスターとはサーヴァントと契約できる魔術師の事だ。令呪があるうちは幾らでもサーヴァントと契約できる。

マスターを失ったサーヴァントはすぐに消える訳ではない。彼らは体内の魔力が尽きるまでは現世にとどまれる。そういった、マスターを失ったサーヴァントがいれば、サーヴァントを失ったマスターと再契約をし、戦線復帰が可能という訳だ。

だからこそマスターはマスターを殺すのだ。下手に生かしたら、新たな障害になるかもしれないからな」

 

「じゃあ令呪を使い切ったら?そうすれば他のサーヴァントと契約出来ないし、自由になったサーヴァントも他のマスターとくっつくだろ」

 

「待って、それはー」

 

「ふむ、それはその通りだ。令呪さえ使い切ってしまえば、マスターの責務からは解放されるな。

もっとも、強力な魔術を行える令呪を無駄に使う、などという魔術師がいるとは思えないが。

いたとしたらソイツは半人前どころか、ただの腑抜けという事だろう?」

 

「っ」

 

なんか、癪だ。

あの神父、さっきから俺を挑発してるとしか思えないほど、人を小馬鹿にしてやがる。

 

「納得がいったか。ならばルールの説明はここまでだ。

さて、それでは始めに戻ろうか衛宮士郎。

君はマスターになったつもりはないと言ったが、それは今でも同じなのか。

マスターを放棄するというのなら、それもよかろう。

君が今考えた通り、令呪を使い切ってセイバーとの契約を断てばよい。その場合、聖杯戦争が終わるまで君の安全は私が保証する」

 

「? ちょっと待った。なんだってアンタに安全を保証されなくちゃいけないんだ。自分の身ぐらい自分で守る」

 

「私とておまえに構うほど暇ではない。だがこれも決まりでな。私は繰り返される聖杯戦争を監督する為に派遣された。故に、聖杯戦争による犠牲は最小限にとどめなくてはならないのだ。マスターでなくなった魔術師を保護するのは、監督役としての最優先事項なのだよ」

 

「繰り返される聖杯戦争?」

 

ちょっと待て。

繰り返されるって、こんな戦いが今まで何度もあったってのか?

 

「それ、どういう事だよ。聖杯戦争っていうのは今に始まった事じゃないのか」

 

「無論だ。でなければ監督役、などという者が派遣されると思うか?

この教会は聖遺物を回収する任を帯びる、特務局の末端でな。本来は聖十字の調査、回収を旨とするが、ここでは聖杯の査定の任を帯びている。

極東の地に観測された第726聖杯を調査し、これが正しければ正しいモノであるのなら回収し、そうでなければ否定しろ、とな」

 

「726って…聖杯ってのはそんなに沢山あるのか」

 

「さあ? 少なくとも、らしき物ならばそれだけの数があったという事だろう」

 

「そしてその中の一つがこの町で観測される聖杯であり、聖杯戦争だ。

記録では二百年ほど前が一度目の戦いになっている

以後、約50年周期でマスターたちの戦いは繰り返されている。

聖杯戦争はこれで五度目。前回が10年前であるから、今まで最短のサイクルと言う事になる」

 

「な、正気かおまえら、こんなことを今まで四度も続けてきたって!?」

 

「まったく同感だ。おまえの言うとおり、連中はこんな事を何度も繰り返して来たのだよ。

そう。

過去、繰り返された聖杯戦争はことごとく苛烈を極めてきた。マスターたちは己が欲望に突き動かされ、魔術師としての教えを忘れ、ただ無差別に殺し合いを行った。

君も知っていると思うが、魔術師にとって魔術を一般社会で使用する事は第一の罪悪だ。魔術師は己が正体を人々に知られてはならないのだからな。

だが、過去のマスターたちはそれを破った。

魔術協会は彼らを戒める為に監督役を派遣したが、それが間に合ったのは三度目の聖杯戦争でな。その時に派遣されたのが私の父という訳だが、納得いったか少年」

 

「ああ、監督役が必要な理由は分かった。

けど今の話からすると、この聖杯戦争っていうのはとんでもなく性質が悪いモノなんじゃないのか」

 

「ほう。性質が悪いとはどのあたりだ」

 

「だって以前のマスターたちは魔術師のルールを破るような奴らだったんだろ。

なら、仮に聖杯があるとして、最後まで勝ち残ったヤツが、聖杯を私利私欲で使うようなヤツだったらどうする平気で人を殺すようなヤツにそんなモノが渡ったらまずいだろう。

魔術師を監視するのが協会の仕事なら、アンタはそういうヤツを罰するべきじゃないのか」

 

微かな期待を込めて言う。

だが言峰綺礼は、予想通り、おかしそうに笑った。

 

「まさか。私利私欲で動かぬ魔術師などおるまい。我々が管理するのは聖杯戦争の決まりだけだ。そのあとの事など知らん。どのような人格者が聖杯を手にいれようが、協会は関与しない」

 

「そんなバカな! じゃあ聖杯を手にいれたマスターが最悪なヤツだったらどうするんだよ!」

 

「困るな。だが私たちではどうしようもない。持ち主を選ぶのは聖杯だ。そして聖杯に選ばれたマスターを止める力など私たちにはない。

なにしろ望みを叶える杯だ。手にいれた者はやりたい放題だろうさ。

しかし、それが嫌だというのならお前が勝ち残ればいい。他人を当てにするよりは、その方が何よりも確実だろう?」

 

言峰は笑いを噛み殺している。

マスターである事を受け入れられない俺の無様さを愉しむように。

 

「どうした少年。今のはいいアイデアだと思うのだが、参考にする気はないのかな」

 

「そんなの余計なお世話だ。第一、俺には戦う理由がない。聖杯なんて物に興味ないし、マスターなんて言われても実感がわかない」

 

「ほう。では聖杯を手にいれた人間が何をするのか、それによって災厄が起きたとしても興味はないのだな」

 

「それはーー」

 

それを言われると反論できない。

くそ、こいつの言葉は暴力みたいだ。

こっちの心情などおかまいなし、ただ事実だけを容赦なく押し付けてくる。

 

「理由がないのならそれも結構。ならば10年前の出来事にも、お前は関心を持たないのだな?」

 

「10年、前?」

 

「そうだ。前回の聖杯戦争の最後にな、相応しくないマスターが聖杯に触れた。そのマスターが何を望んでいたかは知らん。我々に判るのは、その時に残された災害の爪痕だけだ」

 

「」

 

一瞬。

あの地獄が、脳裏に浮かんだ。

 

「待ってくれ。まさか、それは」

 

「そうだ、この街に住むものなら誰もが知っている出来事だよ衛宮士郎。

死傷者500名、焼け落ちた建物は実に130棟。未だ以て原因不明とされるあの火災こそが、聖杯戦争による爪痕だ」

 

「」

 

吐き気がする。

視界がぼやける。

焦点を失って、視点が定まらない。

ぐらりと体が崩れ落ちる。

だが、その前にしっかりと踏みとどまった。

歯を噛み締めて意識を保つ。

倒れかねない吐き気を、ただ、沸き立つ怒りだけで押し殺した。

 

「衛宮くん? どうしたのよ、いきなり顔面真っ白にしちゃって。そのーーほら、なんなら少し休んだりする?」

 

よほど蒼い顔をしていたのだろう。

遠坂が心配をしてくれるのが、とんでもなくレアな気がした。

 

「心配無用だ。遠坂の変な顔を見たら治った」

 

「ちょっと。それ、どういう意味よ」

 

「いや、他意はないんだ。言葉通りの意味だから気にするな」

 

「ならいいけどって、余計に悪いじゃないこの唐変木っ!」

 

すかん、容赦なく頭を叩く学園一の優等生・遠坂凛。

それだけで、さっきまでの吐き気も怒りも、キレイさっぱり消えてくれた。

 

「サンキュ。本当に助かったから、あんまりいじめないでくれ遠坂。今はコイツから、訊かなくちゃいけない事がある」

 

むっ、と叩き足りない顔のまま、遠坂は一応場を譲ってくれる。

 

「聖杯戦争は今回が五度目だって言ったな。なら、今まで聖杯を手にしたヤツはいるのか」

 

「当然だろう。そう毎回全滅などという憂き目は起きん」

 

「じゃあ」

 

「早まるな。手に入れるだけならば簡単だ。なにしろ聖杯自体はこの教会で管理している。手に取るだけならば私は毎日触れているぞ」

 

「え?」

 

「もっとも、それは器だけだ。中身は空なのだよ。先ほど凛が言っただろう、聖杯とは霊体だと。

保管してある聖杯を触媒にして本物の聖杯を降霊させ、願いを叶えさせる杯にする。

そうやって一時的に本物となった聖杯を手にした男は確かにいた」

 

「じゃあ聖杯は本物だったのか。いや、手にしたっていうソイツは一体どうなったんだ」

 

「どうにもならん。その聖杯は完成には至らなかった。

バカな男が、つまらぬ感傷に流された結果だよ」

 

先ほどまでの高圧的な態度は消え、神父は悔いるように視線を細める。

 

「話はここまでだ。

聖杯を手にする資格があるものはサーヴァントを従えたマスターのみ。君たち七人が最後の一人となった時、聖杯は自ずと勝者の下に現れよう。

その戦いーーー聖杯戦争に参加するかの意思をここで決めよ」

 

高みから見下ろして、神父は最後の判断を問う。

 

「」

 

言葉がつまる。

戦う理由が無かったのはさっきまでの話だ。

今は確実に戦う理由も意思もある。

けれどそれは、本当に認めていいのかどうか。

 

「まだ迷っているのか。

マスターに選ばれるのは魔術師だけだ。魔術師ならばとうに覚悟など出来ていよう。

それが無い、というのなら仕方があるまい。

おまえも、おまえを育てた師も出来損ないだ。そんな魔術師に戦われても迷惑だからな、今ここで令呪を消してしまえ」

 

「」

 

言われるまでもない。

俺は逃げない。

正直、マスターとか聖杯戦争とか、そんな事を言われても実感なんてまるで湧かない。

それでも、戦うか逃げるしか無いなら、逃げることだけはしない。

 

「マスターとして戦う。10年前の出来事が聖杯戦争にあるっていうんなら、俺は、あんな出来事を二度も起こさせる訳にはいかない」

 

俺はあの地獄の様な光景を二度と見たくはない。

だから、俺が止める。

もし、もう一度あの地獄が起こったら、俺やイリヤや遠坂そして、アルトねぇも死んでしまうだろう。

だから、俺は家族の為に戦うんだ。

 

 




士郎君が戦争戦争に参加しました。
多分、次の更新は来月になると思います。
最後に、評価、感想、ダメ出しお願いします。


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家へ

来月書くとか言ったが、ここまではどうしても書きたかったんです。はい。



「マスターとして戦う。10年前の出来事が聖杯にあるっていうんなら、俺は、あんな出来事を二度も起こさせない」

 

俺の答えが気に入ったのか、神父は満足そうに笑みを浮かべた。

 

「」

 

迷いは全て断ち切った。

男が一度、戦うと口にしたんだ。

なら、ここから先はその言葉に恥じないよう、胸を張って進むだけだ。

 

「それでは君をセイバーのマスターとして認めよう。

この瞬間に今回の聖杯戦争は受理された。

これよりマスターが一人になるまで、この街における魔術戦を許可する。各々が自身のほこりに従い、存分に競い合え」

 

重苦しく、神父の言葉が礼拝堂に響いた。

その宣言に意味などあるまい。神父の言葉を聞き届けたのは自分と遠坂だけだ。

この男はただ、この教会の神父として始まりの鐘を鳴らしたにすぎない。

 

「決まりね。それじゃ帰るけど、私も一つぐらい質問していい綺礼?」

 

「構わんよ。これが最後かもしれんのだ、大抵の疑問には答えよう」

 

「それじゃあ。綺礼、アンタ見届け役なんだから他のマスターの情報ぐらい教えなさい。

こっちは教会のルールに従ってあげたんだから」

 

「それは困ったな。教えてやりたいのは山々だが、私も詳しくは知らんのだ。

衛宮士郎も含め、今回は正規の魔術師が少ない。私が知りうるマスターは二人だけだ。。衛宮士郎を加えれば3人か」

 

「あ、そう。なら呼び出された順番なら判るでしょう。

仮にも監視役なんだから」

 

「ふむ。一番手はバーサーカー。二番手にキャスターだな。あとはそう大差はない。先日にアーチャー、そして、数時間前にセイバーが呼び出された」

 

「そう。それじゃこれで」

 

「正式に聖杯戦争が開始されたという事だ。凛。聖杯戦争が終わるまではこの教会に足を運ぶ事は許されない。

許されるとしたら、それは」

 

「自分のサーヴァントを失って保護を願う場合のみ、でしょ。それ以外にアンタを願ったら減点ってコトね」

 

「そうだ。おそらく君が勝者になるだろうが、減点がついては教会が黙っていない。連中は君から聖杯を奪い取るだろう。私としては最悪の展開だ」

 

「エセ神父。教会の人間が魔術教会の肩を持つのね」

「私は神に仕える身だ。教会に仕えている訳ではない」

 

「よく言うわ。だからエセなのよ、アンタは」

 

そうして、遠坂は言峰に背を向ける。

あとはそのまま、別れの挨拶もなしにズカズカと出口へと歩き出した。

 

「おい、そんなんでいいのか遠坂。あいつ、おまえの兄弟子なんだろ。ならーーー」

 

もっとこう、ちゃんとした言葉を交わしておくべきではないのだろうか。

 

「良いわよそんなの。むしろ縁が切れて清々するぐらいだもの。そんな事より貴方も外に出なさい。もうこの教会に用はないから」

 

遠坂は立ち止まる事なく礼拝堂を横切り、本当に出ていってしまった。

さあ、とため息を漏らして遠坂の後に続く。

と。

 

「っ!」

 

背後に気配を感じて、振り返った。

いつの間に背後にいたのか、神父は何を言うのでもなく俺を見下ろしてした。

 

「な、なんだよ。まだなんかあるっていうのか。

話が無いなら帰るからなっ!」

 

神父の視線を振り払おうと出口に向かう。

その途中。

 

「ーー喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」

 

そう、信託を下すように神父は言った。

 

「何を、いきなり」

 

「判っていた筈だ。明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。たとえそれが君にとって容認しえぬモノであろうと、正義の味方には、倒すべき悪が必要だ」

 

「っ」

 

衛宮士郎が望んでいた崇高な願いと、醜悪な望みは同意であると。

……そうだ。何かを守ろうという願いは、

同時に何かを犯そうとするモノを望む事に他ならない。

 

「おま、え」

 

「なに、取り繕う事はない。君の葛藤は、人間としてとても正しい」

 

愉しげに笑みをこぼす神父。

 

「さらばだ衛宮士郎。

最後の忠告になるが、帰り道には気を付けたまえ。

これより君の世界は一変する。君は殺し、殺される側の人間になった。その身は既にマスターなのだから」

 

「待て、お前の言ってる正義の味方と俺の目指している正義の味方は全く違う」

 

「なに?」

 

言峰は俺の言った事に驚いているのだろう、目を見開いている。

 

「確かにアンタの言う通り、俺も目指したさ、困ってる人を助ける正義の味方に、親父の様になりたいと思ったさ」

 

「なら、なぜ? なろうとしない」

 

「そんなの決まってる、親父が言ってくれたんだ。

『正義の味方っていうのは助けている時には気づかないけど、助け終わった時に懐を見てみれば大事なモノがポロッと落ちてしまっているんだ。だから、士郎は自分の一番守りたいモノを選べば良い』ってな」

 

俺は教会の扉にてをかける。

そして。

 

「俺は家族だけは絶対に守り抜く。

それが例え正義の味方じゃ無くなったとしても、人として最低な事をしても、そして、俺が悪になったとしても家族だけは絶対に守り抜く。

そう、親父と約束したんだ」

 

俺は扉を開け、外に出る。

…風が出ていた。

丘の上、という事もあるのだろう。

吹く風は地上より強く、頬を刺す冷気も一段と鋭い。

遠くからでも目立つ制服の遠坂と、

雨合羽を着込んだ金髪の少女が立っている、なんて光景が妙に味があって気が抜けたらしい。

 

「」

 

セイバーは相変わらず無言だ。

じっとこっちを見ているあたり、俺がどんな選択をしたのか気になっているようだ。

 

「行きましょう。町に戻るまでは一緒でしょ、わたしたち」

 

さっさと歩き出す遠坂。

それに続いて、俺たちも教会を後にした。

三人で坂を下りていく。

来たときもそう話した方じゃないが、帰りは一段と会話がない。

その理由ぐらい、鈍感な俺でも分かっていた。

教会での一件で、俺は本当にマスターになったのだ。

遠坂が俺とセイバーから離れて歩いているのは、きっとそういう理由だろう。

 

「」

 

それは理解している。

理解している。けど、そんな風に遠坂を区別するのは嫌だった。

 

「遠坂。お前のサーヴァント、大丈夫なのか」

 

「え?

あ、うん。アーチャーなら無事よ。ま、セイバーにやられたダメージは簡単に消えそうにないから、しばらく実体化はさせられないだろうけど」

 

「じゃあ側にはいないのか」

 

「ええ、私の家で匿っている状態。いま他のサーヴァントに襲われたら不利だから、傷が治るまで有利な場所で敵に備えさせてるの」

 

なるほど。

うちはともかく、遠坂の家なら敵に対する備えは万全なんだろう。

魔術師にとって自分の家は要塞のようなモノだ。そこにいる限り、まず負ける事などない。

逆を言えば、ホームグラウンドにいる限り、敵は簡単には襲いかかってこないという事か。

…うむ。

うちの結界は侵入者に対する警報だけだが、それだけでも有ると無いとでは大違いだし。

 

「衛宮くん。これは忠告よ。自分のサーヴァントの正体は誰にも教えちゃ駄目よ。たとえ信用できる相手でも黙っておきなさい。そえでないと早々に消える事になるから」

 

「? セイバーの正体って、なにさ」

 

「だから、サーヴァントが何処の英雄かっていう事よ。

いくら強いからって戦力を明かしてちゃ、いつか寝首をかかれるに決まっているでしょ。いいから、後でセイバーから真名を教えて貰いなさい。

そうすれば私の言ってる事が判る…けど、ちょっとたんま。衛宮くんはアレだから、いっそ教えてもらわない方がいいわね」

 

「なんでさ」

 

「衛宮くん、隠し事できないもの。なら知らない方が秘密にできるじゃない」

 

「あのな、人をなんだと思ってるんだ。それぐらいの駆け引きはできるぞ、俺」

 

「そう? じゃあ私に隠している事とかある?」

 

「え…遠坂に隠してる事って、それは」

 

口にしてぼっと顔が赤くなった。

別に後ろめたい事なんてないけど、なんとなく憧れていた、なんて事は隠し事に入るんだろうか?

 

「ほら見なさい。何を隠してるか知らないけど、動揺が顔に出るようじゃ向いてないわ。

貴方は他に良いところがあるんだから、駆け引きなんて考えるのは止めなさい」

 

ーーそうして橋を渡る。

もうお互いに会話はない。

冷たい冬の空気と、吐き出される白い吐息。

水の流れる小さな音と、橋を照らす目映い街灯。

俺と、遠坂と、まだなにも知らないセイバーという少女。この三人で、何をするでもなく、帰るべき場所へと歩いていく。

 

交差点に着いた。

それぞれの家に続く坂道の交差点、衛宮士郎と遠坂凛が別れる場所。

 

「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒でしょ。きっぱり別れて、明日からは敵同士にならないと」

 

今までの曖昧な位置づけに区切りをつける為だろう。

遠坂は何の前置きもなく喋りだして、唐突に話を切った。

それで分かった。

彼女は義務感から俺にルールを説明したんじゃない。

あくまで公平に、何も知らない衛宮士郎の立場になって肩入れしただけなのだ。

だから説明さえ終われば元通り。

あとはマスターとして、争うだけの対象になる。

 

「む?」

 

けど、だとしたら今のはヘンだろう。

遠坂は感情移入をすると戦いにくくなる、と言いたかったに違いない。

遠坂から見れば今夜の事は全て余分。

『これ以上一緒にいると何かと面倒』

そんな台詞を口にするのなら、遠坂は初めから一緒にいなければ、良かったのだ。

 

「なんだ。遠坂っていいヤツなんだな」

 

「は? なによ突然。おだてたって手は抜かないわよ」

 

そんな事は判ってる。

コイツは手を抜かないからこそ、情が移ると面倒だって言い切ったんだから。

 

「知ってる。けど出来れば敵同士にはなりたくない。俺、お前みたいなヤツ好きだ」

 

「なーーー」

 

遠坂の家は俺とは反対方向にある、洋風の住宅地だって聞いている。

一応ここまで面倒をみてくれたんだから、こっちは遠坂を見送ってから戻りたいんだが。

 

「と、とにかく、サーヴァントがやられたら迷わずさっきの教会に逃げ込みなさいよ。そうすれば命だけは助かるんだから」

 

「それは気が引けるけど、一応聞いておく。けどそんな事にはならないだろ。どう考えてもセイバーより俺の方が短命だ」

 

冷静に現状を述べる

 

「ふう」

 

またもや謎のリアクションを見せる遠坂。

彼女はため息をこぼした後、ちらり、とセイバーを流しみた。

 

「いいわ、これ以上の忠告は本当に感情移入になっちゃうから言わない。

せいぜい気をつけなさい。いくらセイバーがすぐれているからって、マスターであるあなたがやられちゃったらそれまでなんだから」

 

くるり、と背を向けて歩き出す遠坂。

 

「」

 

だが。

幽霊でもみたかのような唐突さで、彼女の足はピタリと止まった。

 

「遠坂?」

 

そう声をかけた時、左手がズキリと痛んだ。

 

「ねぇ、お話は終わり?」

 




次話はオリジナルキャラクターが出ます。
次は本当に来月かな?
最後に、評価、感想、ダメ出し、誤字の事をお願いします。


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真っ白な少女と最強の敵

久しぶりに書きました
今度からは頑張っていきたいです。


「ねえ、お話は終わり?」

 

幼い声が夜に響く。

歌うようなそれは、紛れもなく少女のモノだ。

視線が坂の上にいく。

空には輝く月

そこには。

 

「バーサーカー」

 

聞き慣れない言葉を漏らす遠坂。

…訊ねる必要などない。

アレは紛れもなくサーヴァントであり、

同時に十年前の家事を上回る、圧倒的なまでの死の気配だった。

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは初めてだね」

 

微笑みながら少女は言った。

その無邪気さに、背筋が寒くなる。

 

「」

 

いや、背筋どころじゃない。

体が、意識が完全に凍っている。

アレは化け物だ。

視線さえ合っていないのに、ただ、そこに居るだけで身動きがとれなくなる。

 

「やば。あいつ、桁違いだ」

 

麻痺している俺とは違い、遠坂には身構えるだけの余裕がある。

…しかし、それも僅かなモノだろう。

背中越しだというのに、彼女が抱いている絶望を感じ取れるんだから。

 

「あれ? なんだ、あなたのサーヴァントはお休みなんだ。つまんないなぁ、二匹いっしょに潰してあげようって思ったのに」

 

と。

少女は行儀良く、この場に不釣り合いなお辞儀をした。

 

「はじめまして、リン。私はアリア。

アリアスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?_」

 

「アインツベルン」

 

その名前に聞き覚えでもあるのか、遠坂の体がかすかに揺れた。

 

そんな遠坂の反応が気に入ったのか、少女は嬉しそうに笑みをこぼし、

 

「いくね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

歌うように、背後の異形に命令した。

バーサーカと呼ばれたモノが、坂の上からここまで、何十メートルという距離を一息で落下してくる!

 

「シロウ、下がって!」

 

セイバーが駆ける。雨合羽がほどけ、一瞬、視界が閉ざされた。

バーサーカーの落下地点まで駆けるセイバーと、旋風を伴って落下してきたバーサーカーとは、まったくの同時だった。

 

「っ!」

 

空気が震える。

岩塊そのものとも言えるバーサーカーの大剣を、セイバーの視えない剣で受け止めていた。

 

「っ」

 

口元を歪めるセイバー。

そこへ

旋風じみたバーサーカーの大剣が一閃する!

ざざざざ、という音。

バーサーカの大剣を受けたものの、セイバーは受け止めた剣ごと押し戻される。

 

「くっ!」

 

セイバーの姿勢が崩れる。

追撃する鉛色のサーヴァント。

灰色の異形は、それしか知らぬかのように大剣を叩きつける。

避ける間もなく剣で受けるセイバー。

彼女の剣が見えなかろうと関係ない。

バーサーカーの一撃は全身で受け止めなければ防ぎきれない即死の風だ。

故に、セイバーは受けに回るしかない。

彼女にとって、勝機とはバーサーカーの剣戟の合間に活路を見いだす事。

だが。

それも、バーサーカーに隙があればの話。

黒い岩盤の剣は、それこそ嵐のようだった。

あれほどの巨体。

あれほどの大剣を以てして、バーサーカーの速度はセイバーを上回っている。

繰り出される剣戟は、ただ叩きつけるだけの、何の工夫もない駄剣だ。

だがそれで十分だ。

圧倒的なまでの力と速度があるなら、業の介入する余地などない。

技巧とは、人間が欠点を補う為に編み出されたモノ。

そんな弱点、あの巨獣には存在しない。

 

「逃げろ」

 

凍り付いた体で、ただ、そう呟いた。

アレには勝てない。

このままではセイバーが殺される。

だからセイバーは逃げるべきだ。

 

「あ」

 

おれは、まずい。

体は麻痺してる癖に、頭だけは冷静に動くのか。

絶え間なく繰り出される死の嵐。

捌ききれず後退したセイバーに、今度こそ、

防ぎ切れぬ、終わりの一撃が繰り出された。

セイバーの体が浮く。

バーサーカーの大剣を、無理な体勢ながらもセイバーは防ぎきる。

それは致命傷を避けるだけの行為だ。

満足に踏み込めなかったため大剣を殺しきれず、衝撃はそのままセイバーを吹き飛ばす。

大きく弧を描いて落ちていく。

背中から地面に叩きつけられる前に、セイバーは身を翻して着地する。

 

「ぅ、っ!」

 

なんとか持ち直すセイバー。

だが。その胸には、赤い血が滲んでいた。

 

「あれ、は」

 

…なんて、バカだ。

俺は大事な事を失念していた。

サーヴァントが1日にどれぐらい戦えるかは知らないが、セイバーはこれで3戦目だ。

それに、彼女の胸には、ランサーによって穿たれた傷がある

 

「つ、う」

 

胸をかばうように構えるセイバー。

バーサーカーは暴風のように、傷ついたセイバーへと切りかかり

その背中に、幾条もの衝撃を受けていた。

 

「Vier Stil ErschieBung……!」

 

いかなる魔術か、遠坂の呪文と共にバーサーカーの体が弾ける。

迸る魔力量から、バーサーカーに直撃しているのは大口径の拳銃に近い衝撃だろう。

だがそれも無意味

バーサーカーの体には傷一つ付かない。

セイバーのように魔力を無効化しているのではない。

あれは、ただ純粋に効いていないだけ。

 

「っ!? くっ、なんてデタラメな体してんのよ、コイツ!」

 

それでも遠坂は手を緩めず、

バーサーカーも、遠坂の魔術を意に介さずセイバーへ突進する。

 

「っ」

 

苦しげに顔をあげるセイバー。

彼女はまだ戦おうと剣を構える。

それで、固まっていた体は解けた。

 

「だめだ、逃げろセイバー!」

 

満身の力で叫ぶ。

それを聞いて、

彼女は、敵うはずのない敵へと立ち向かった。

バーサーカーの剣戟に終わりはない。

一合受ける度にセイバーの体は沈み、刻一刻と最後の瞬間を迎えようとする。

それでも、あんな小さな体の、どこにそんな力があったのか。

セイバーは決して後退しない。

怒濤と繰り出される大剣を全て受け止め、気力でバーサーカーを押し返そうとする。

勝ち目などない。

そのまま戦えば敗れると判っていながら踏み止まる彼女の姿は、どこか異常だった。

その姿に何を感じたのか。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」

 

絶えず無言だった異形が吠えた。

防ぎようのない剣戟

完璧に防ぎに入ったセイバーはもろともなぎ払う一撃は、今度こそ彼女を吹き飛ばした。

 

だん、と。

遠くに、何かが落ちる音。

鮮血が舞った。

最早立ち上がる事など出来ない体で。

 

「っ、あ……」

 

セイバーを切り伏せたバーサーカーは動きを止めている。

立ち尽くす俺と遠坂に目もくれず、坂の上にいる主の命令を待つ。

 

「あは、勝てるわけないじゃない。私のバーサーカーはね、ギリシャ最大の英雄なんだから」

 

「!? ギリシャ最大の英雄って、まさか!」

 

「そうよ。そこにいるのはヘラクレスっていう魔物。

あなたたち程度が使役できる英雄とは格が違う、最凶の怪物なんだから」

 

アリアと名乗った少女は、愉しげに瞳を細める。

それは敵にトドメを刺そうとする愉悦の目だ。

彼女はここで殺される。

ならどうするというのか。

彼女に変わってあの怪物と戦えというのか。

それは出来ない。

半端な覚悟でアレに近づけば、それだけで心臓が止まるだろう。

俺は、倒れている少女を見捨てる事は出来ない。

なにより、アルトねぇに似ている少女を殺させる訳にはいかない。

 

「いいわよバーサーカー。そいつ、再生するから一撃で仕留めなさい」

 

バーサーカーの活動が再開する。

俺は

 

「こんのぉおお!!」

 

全力で駆け出した。

あの怪物をどうにかできる筈がない。

だからせめて、倒れているセイバーを突き飛ばして、バーサーカーの一撃から助けー

 

「え?」

 

どたん、と倒れた。

なんで?

俺はセイバーを突き飛ばして、バーサーカーからセイバーを引き離して、その後はその後で何か考えようって思ったのに、なんで。

 

「が、は」

 

なんで、こんな。

地面に倒れて。息が、出来なくなっているのか。

 

「!?」

 

…驚く声が聞こえた。

まず、もう目の前にいるセイバー。

ついでに遠くで愕然としている遠坂。

それとなぜか、呆然と俺を見下ろしている、アリアという少女から。

 

「…そうか。なんて、まぬけ」

 

ようするに、間に合わなかったのだ。

だからそう、突き飛ばすのは無理だから、そのまま盾になったのか。

 

「こふっ」

 

ああもう、こんな時まで失敗するなんて呆れてしまう。

こういう大一番の時にかぎってドジばっかりだ。

 

「なんで?」

 

ぼんやりと、銀髪の少女が呟く。

少女はしばらく呆然とした後、

 

「もういい。こんなの、つまんない」

 

セイバーにトドメをささず、バーサーカーを呼び戻した。

 

「リン。次に会ったら殺すから」

 

立ち去っていく少女。

それを見届けた後、視界が完全に失われた。

意識が途絶える。

今度ばかりは取り返しがつかない。

ランサーに殺された時は知らないうちに助かったが、仏の顔も三度までだ。

 

「あ、あんた何考えてるのよ! わかってるの、もう助けるなんて出来ないっていうのに!」

 

叱られた。

きっと遠坂だ。なんだか本気で怒っているようで、申し訳ない気がする。

でも仕方ないだろ。

俺は遠坂みたいに何でもできる訳じゃないし、自由に出来るのはこの体ぐらいなもんだ。

…だから、そう。

こうやって体を張る事ぐらいしか、俺には、出来る事がなかったんだから

そして、衛宮士郎は意識を無くした。

 

「つまんない」

 

少女の独り言は闇の中で響いた。

 

 

 

 




少女の名前はアリアとなりました。
何でこんな名前にしたかと言うと、たまたま女性の名前ランキングを見てたらアリアという名前があったのでこれにしました。
アリアの見た目はイリヤの髪をショートカットにしただけです。
最後に評価、感想、誤字報告をまっています。


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朝の目覚め

久しぶりです。
最近はFGOのイベントが辛すぎる。
ルーラーケツにランサーお尻とケツ関係多いな!
だが、俺はボックスを頑張る
それでは、どうぞ!


それは、五年前の冬の話。

冬だというのに、気温はそう低くはなかった。

この頃、切嗣は外出が少なくなっていた。

あまり外に出ず、家にこもってのんびりとしている事が多くなった。

…今でも、思い出せば後悔する。

自分はなんで? すぐに部屋に戻ってしまったのだろう。

アルトねぇが辛そうな顔をしていたというのに

俺は、どうして気がつかなかったのか。

 

「…っ」

 

目を覚ますと見慣れた部屋にいた。

 

「口ん中、まずい」

 

濁った血の味がする。

口内に血がたまっていたのか、呼吸をするだけでどろっとした空気が流れ込んできた。

 

「」

 

なんでこんな事になっているのか、いまいち不明。

ただ猛烈な吐き気がするんで、ともかく洗面所に行って顔を洗いたかった。

 

「よっと」

 

体を起こす。

目眩がした。

思わず倒れそうになって、なんとか壁に手を突く。

 

「ぅ」

 

動くと吐き気がます。

…いや、吐き気というよりは苦痛だ。

体は思いし、動く度に腹ん中がぐるんぐるんと回るよう。

きっと胃に焼けた鉛を流し込んだら、こんな気分になるのではないだろうか。

 

「よし、少しは落ち着いた」

 

顔を洗って、ついでに汗ばんでいた体を拭く。

 

「?」

 

何故か腹には包帯が巻かれていた。

思い当たる節がないので、とりあえず保留にしておく。

 

「腹減ったな」

 

腹がへったので居間に向かう。

その間に体が痛かった。

 

ーーー

 

居間に到着。

桜もイリヤも今日は学校なのだろう。

今日は俺とアルトねぇの二人だけだろう。

アルトねぇは道場とかの掃除に行ったのだろうか?

居間にアルトねぇの姿はなかった。

代わりに朝食が置いてあった。

静かな居間は、いつもの日曜日といった風景ー

 

「おはよう。あがらせてもらってるわ、衛宮くん」

 

ーなんかじゃねぇ。

 

「な、え!?」

 

座布団に座っているのは遠坂凛だ。

その落ち着きようと言ったら、まるでこっちがお客様なのでは、と勘違いする程だ。

 

「」

 

なんと返答していいか分からず、とりあえず座布団に座る。

そして、深呼吸をして一言

 

「遠坂、おまえどうした」

 

「待った。その前に謝ってくれない?昨夜の一件についての謝罪を聞かないと落ち着けないわ」

 

うちに居るんだ? なんて言う暇もない。

遠坂はいかにも私怒ってます、という視線でこっちを睨んでいる。

どうも昨夜の一件に腹をたてているらしいが、昨夜の一件って一体ーー

 

「待て」

 

思い出した。

そうだ、何をのんびりと朝の空気に浸っているのか。

俺はセイバーを助けようとして、それで、バーサーカーに、腹を切り捨てられたのだ。

 

「ぅ」

 

吐き気がもどってくる。

あの、体がぽっかりとなくなった感覚を思い出して寒気がした。

って、おかしいぞこれ

俺、ほぼ即死だった筈だ。

 

「変だ。なんで生きてるんだ、俺」

 

「思い出した? 昨夜、自分がどんなバカをしでかしたかって。なら少しは反省しなさい」

 

ふん、と鼻を鳴らして非難してくる遠坂。

むっ、なんかカチンときた。

遠坂がうちにいる不思議さで固まっていた頭に、ようやくエンジンがかかる。

 

「なに言ってんだ、あの時はあれ以外する事なんてなかっただろっ! あ…いや、そりゃあ結果だけ見ればバカだったけど、本当はもっと上手くやるつもりだったんだ。

だから、アレは間違いなんかじゃない」

 

バカじゃないぞ、と視線で抗議する

 

「む」

 

な、なんだよ。

はあ、なんて、これ見よがしに疲れてため息なんてこぼしやがって。

 

「マスターが死んだらサーヴァントは消えるって言ったでしょう?だっていうのにサーヴァントを庇うなんてどうかしてるわ。

いい、貴方が死んでしまったらセイバーだって消えてしまう。

セイバーを救いたいのなら、もっと安全な場所から出来る手段を考えなさい。

…まったく、身を挺してサーヴァントを守る、なんて行為は無駄以外の何物でもないって解ってるの?」

 

「庇った訳じゃない。助けようとしたらああなっちまっただけだ。おれだってあんな目にあうなんて思わなかった」

 

「そう。勘違いしている見たいね、貴方」

 

そんなこっちの考えを見抜いたのか、遠坂はますます不機嫌になっていく。

 

「あのね衛宮くん。きっちりと言っておくけど、教会まで連れていったのは貴方に勝たせる為じゃないわ。

あれはね、何も知らない貴方が一人でも生き残れるようにって考えた結果なの。どうも、そのあたりを解ってなかった見たいね_

 

「俺が生き残れるように?」

 

「そうよ。負ける事がそのまま死に繋がるって告れば、そう簡単に博打は打たなくなる。衛宮くん、こういう状況でも一人で夜出歩きそうだから。

脅しをかけておけば火中の栗を拾うこともなし、上手くいけば最後までやり過ごせるかもって思ったの」

 

「そうか。それは気がつかなかった」

 

ああもう、と癇癪を起こす遠坂。

…けど、そうか。

心配してくれたのは素直に嬉しい。

この分からすると、手当てをしてくれたのも遠坂のようだ。

 

 




中途半端で終わりましたが
近いうちに続きを書きます。
疲れた~
それでは次回


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真面目な話

久しぶりです。
最近投稿出来なくてすいません。
FGOのsinをやってたら投稿遅れました。
イベントの周回もやってたんですけど途中からダルくなっちゃって24箱で終わりました。
なんか見てみると500箱行っている人がいましたがどうやってあんなに言ったのが不思議です。
スカディ使ったとしても一回の周回に2~3分はかかりますよね
それなのに500とか一体?
寝る時間有るのでしょうか?
リンゴを一体何個食べたのだろうか?
まあ、そんな事より
どうぞ!


「そうか。遠坂には世話になったんだな。ありがとう」

 

感謝と謝罪を込めて頭を下げる。

 

「ふ、ふん! 分かればいいのよ。これに懲りたら、次はもっと頭のいい行動をしてよね」

 

ぷい、と視線を逸らす遠坂

仕草は刺々しいままだが、なんとなく機嫌は良くなっているような気がする。

 

「じゃあ、これで昨日の事はおしまいね。

本題に入るけど、真面目な話と昨日の話、どっちにする?」

 

良く考えたら当たり前だ。

本来なら遠坂は昨日の時点で自分の陣地に戻っていた筈だ。

敵の陣地にまだ居るという事は何か伝えないといけない事があるという事だ。

なら、遠坂がここに残った理由の方が気になる。

 

「それじゃ真面目な方の話を。遠坂がここに残った理由が知りたい」

 

「そ。じゃあ先に結論から訊くわ。

率直に訊くけど。衛宮くん、貴方これからどうするつもり?」

 

本当に率直に、遠坂は一番訊いてほしくないコトを訊いてくる。

…いや、それは違うか。

訊いてほしくないんじゃなくて、ただ考えが及ばないだけ。

これからどうするかなんて、それこそこっちが訊きたい問題だ。

 

「正直、判らない。聖杯を競い合うって言うけど、魔術師同士の戦いなんてした事がない。

第一、俺は聖杯なんていう得体の知れないモノに興味はないんだ。

欲しくないモノの為に命を張るのは、どうかと思う」

 

「言うと思った。貴方ね、そんなこと言ったらサーヴァントに殺されるわよ」

 

「な! 殺されるって、どうして!?」

 

「サーヴァントの目的も聖杯だから。

彼等は聖杯を手に入れる、という条件だからこそマスターの召喚に応じてるのよ。

サーヴァントにとって最も重要なのは聖杯なの

彼等は聖杯を手に入れる可能性があるからマスターに従い、時にマスターの為に命を落とす。

だっていうのに聖杯なんていらないよ、なんて言ってみなさい。裏切り者、と切り殺されても文句はいえないでしょ」

 

確かにそうだ。

万物の願いを叶える聖杯。

それは、誰もが欲しい筈だ。

それが、例えとんでもない偉業を成し遂げた英雄でも例外じゃない。

いや、英雄だからこそ欲しいのかも知れない。

英雄と言うのはいつだって不遇の死を迎えている。

願いが叶えれそうで叶わない英雄だって居る。

自分の大事な人が死んでしまった英雄も居る。

自分のゆめ半ばで死んでいった英雄も居る

生前、叶えられなかったモノの為に英雄は戦うのだ。

それは無念を晴らす為のモノかも知れない。

それは自分の理想の為のモノかも知れない。

それは仲間の為のモノかも知れない。

だから、戦うのだ。

 

「もしかして衛宮くん? サーヴァントが無償で人間に従うなんて思ってない?

聖杯は手に入れた者の望みを叶える。それはマスターの守護者であるサーヴァントも例外じゃない。

サーヴァントたちにもね、それぞれ何らかの願望があるのよ。だからこそ彼等は本来有り得ない召喚に応じている。

聖杯を手に入れる為にマスターがサーヴァントを呼び出す、じゃない。

聖杯が手にはいるからサーヴァントはマスターの呼び出しに応じるのよ」

 

サーヴァントにも願望がある。

確かに願いが無いヤツが聖杯を欲しがるとは思えない。

だが、セイバーはちがうと思った。

確かにセイバーも叶えたい願いが有ると思う。

だが、それはセイバー自身の願いではないと思ってしまった。

只の直感だが、セイバーを見ていると昔の自分を思い出す。

親父を見て、憧れた正義の味方になろうと奮闘していた頃の自分とセイバーが重なって見えてしまったのだ。

 

「だからサーヴァントはマスターが命令しなくとも他のマスターを消しにかかる。聖杯を手に入れるのは一人だけ。

自分のマスター以外に聖杯が渡るのは彼らだって承知できないのよ。

マスターと違って、サーヴァントには令呪を奪う、なんてコトはできない。

彼らが他のマスターを無力化するには殺す以外に方法がない

だからね、例えマスター本人に戦う意思がないとしても戦いは避けられないのよ。

サーヴァントに襲われたマスターは、自分のサーヴァントでこれを撃退する。これが聖杯戦争だと、綺礼から嫌っていうほど聞かされたでしょう?」

 

「ああ。それは昨日の夜教えられた」

 

「あ、それと一つ言い忘れていたけど、サーヴァントというのは霊なの。

彼等はもう完成したものだから、今以上の成長はない。

けど燃料である魔力は別よ。

蓄えた魔力が多ければ多いほど、サーヴァントは生前の特殊能力を行使できるわ。

そのあたりは私たち魔術師と一緒なんだけど…貴方、この意味解る?」

 

「解る。魔力を連発できるって事だろ」

 

魔力というのは弾丸に籠める火薬で、魔術師というのは銃とみればいい。

銃の種類はライフル銃、マシンガン、ショットガンと、魔術師ごとに性能が異なる。

その例で言えば、サーヴァントって連中は銃ではなく大砲だ。

火薬を大量に消費することで、巨大な弾を撃ち放つ。

 

「そうよ。けどサーヴァントは私たちみたいに自然から魔力を提供されてる訳じゃない。基本的に、彼等は自分の中だけの魔力で活動する。

それを補充するのが私たちマスターで、サーヴァントは自分の魔力プラス、主であるマスターの魔力分しか生前の力を発揮出来ないの

けど、それだと貴方みたいに半人前のマスターじゃ優れたマスターがには叶わないって事になるでしょ?

だから、サーヴァントは他から魔力を補充できる。

サーヴァントは霊体だから。同じものを食べてしまえば栄養はとれるってこと」

 

「む?」

 

同じモノを食べれば栄養になる?

 

「同じものって、霊体のコトか? けどなんの霊を食べるっていうんだよ」

 

「簡単でしょ。自然霊は自然そのものから力を汲み取る。

なら、人間霊であるサーヴァントは、一体何から力を汲み取ると思う?」

 

自然霊は自然から魔力を貰う。

人間霊はナニカラ魔力を貰う。

簡単な事だ。

俺たちは何を食べている?

肉や魚、野菜等を食べている。

つまり、生き物だ。

生き物以外を食べても人間は生きていけない。

当たり前だ。

私は石を食べて生きてますよという人は居るか?

私は鉄を食べて生きてますよという人は居るか?

つまり、人の霊であるサーヴァントはつまりーー

 

「実力のないマスターはサーヴァントに人を食わせるのよ

サーヴァントは人間の原感情や魂を魔力に変換する。

自分のサーヴァントを強くしたいのならそれが一番効率がいい。人間を殺してサーヴァントへの生け贄にするマスターは。決して少なくないわ」

 

「生け贄にするって…それじゃ手段を選ばないヤツがマスターなら、サーヴァントを強くする為に人を殺しまくるってコトなのか」

 

「そうね。けど頭の言いヤツはそんな無駄なコトはしないわ。

いい? サーヴァントがいくら強力でも、魔力の器そのものには限界がある。能力値以上の貯蔵はできないんだから、殺して回るにしても限度があるわ。

それにあからさまに殺人を犯せば協会が黙ってないし、何よりその死因からサーヴァントの武器や能力と正体が、他のマスターにバレるかもしれない。もちろんマスター自信の正体もね。

聖杯戦争は自分の正体を隠した方が圧倒的に有利だから、普通のマスターならサーヴァントを出し惜しみする筈よ」

 

確かに自分がマスターであることを知らなければ、他のマスターに襲われるコトはない。

逆に誰がマスターかを知っていれば、確実に奇襲ができる。

サーヴァントに人を襲わせて自分たちの正体を暴露させてしまう、なんてヤツはそう出てこない事になる。

 

「…良かった。なら問題ないじゃないか。マスターが命令しなければ、サーヴァントは無差別に人を襲わないんだから」

 

「でしょうね。仮にも英雄だもの、自分から人を殺してまわるヤツは、そもそも英雄だなんて呼ばれないだろうけど

ま、断言はできないか。

暴虐者だからこそ英雄になった例なんて幾らでもあるんだし」

 

さらりと不吉なコトをいう。

それが嫌みでも皮肉でもないあたり、遠坂は徹底した現実主義者らしい。

 

「とりあえず、確認しておきたかったコトはそういうとこ。

サーヴァントがどんなモノかは判ったでしょ?

聖杯戦争に勝ち残ろうとしているのはマスターだけじゃない。この戦いに参加した以上、衛宮くんは自分のサーヴァントを律する義務がある」

 

サーヴァントを律する義務。

他のサーヴァントだけでなく、自分のサーヴァントに人を襲わせてはならないという事か。

だけど、セイバーは人を襲わないだろう。

どうしてそう思ったのかは判らない。

だけど、自分の姉と同じ輝きを持っているから信じているのかも知れない。




見て頂いてありがとうございます。
何とか今年中に書けた。
次書くのは来年だ。
来年からもう少し頑張りたいです。
評価、感想宜しくお願いします
最後にスカディが欲しい~~
福袋で絶対出してやる~~
福袋でスカディ引けたら書きます。
では、次回も見てくれたら幸いです。


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遠坂の提案

投稿するの遅れてすいませんでした~!!!
何回も投稿しようと思っていてもリアルの事情や気持ちの問題で中々投稿出来なかった事を深く謝罪します。
これからも頑張って行きたいです。
スカディ出たら投稿すると言いましたが、スカディは出なくて代わりにエレちゃんが手に入ったから投稿します。
では、どうぞ!


「少しは自分の立場が理解できた?

なら次は貴方の体の事ね。衛宮くん、あれから自分に何が起きたのか覚えている?」

 

「いや、覚えてるも何も、俺は」

 

セイバーに駆け寄って、バーサーカーに腹をごっそり持っていかれた。

俺の意識はそこで消えてしまって、昨夜の事はおろか、どうして自分が生きているかも解らない。

 

「…ふん、そんなコトだろうと思ったわ。本題の続きに入る前に、そこんところだけ説明してあげる」

 

不愉快げにため息をこぼして、遠坂は手短に昨夜の事を説明してくれた。

何でも俺が気を失った後、バーサーカーは立ち去ってしまったらしい。

その後、よく見れば俺の体は勝手に治りはじめ、十分もしたら外見は元通りになった。

傷は治ったものの意識が戻らない俺をここまで運んで、今に至るという事だ。

 

「ここで重要なのは、あなたはあなた一人で生ききったっていう事実よ。確かにわたしは手助けしたけど、あの傷を完治させたのは貴方自信のちからだった。そこ、勘違いしないでよね」

 

「話を聞くとそうみたいだけど。

…なんだ、遠坂が治してくれたんじゃないのか?」

 

「まさか。死にかけてる人間を蘇生させる、なんて芸当は、もう私には出来ない。衛宮士郎は自分でぶっ飛んだ中身をどうにかしたのよ」

 

俺は遠坂の話に一つの疑問が出来た。

遠坂は「もう私には出来ない」って言った。

って事は前は出来たというコトか、魔術師はそんなコトも出来ると思うと凄いと思った。

 

「む」

 

そんな事を言われてもどうしろと。

確かに俺の腹は元通りになったけど、正直遠坂の話には半信半疑だ。

俺には蘇生はおろか治療の魔術さえ使えないんだから。

 

「そうなると原因はサーヴァントね。

貴方のサーヴァントはよっぽど強力なのか、それとも召喚の時に何か手違いが生じたのか。 ま、両方だと思うけど、何らかのラインが繋がったんでしょうね」

 

「ライン? ラインって、使い魔と魔術師を結ぶ因果線の事か?」

 

「あら、ちゃんと使い魔の知識はあるじゃない。

なら話は早いわ。ようするに衛宮くんとセイバーの関係は、普通の主人と使い魔の関係じゃないってコト

見たところセイバーには自然治癒の力もあるみたいだから、それが貴方に流れてるんじゃないかな。

普通は魔術師の能力が使い魔に付与されるんだけど、貴方の場合は使い魔の特殊能力が主人を助けてるって訳」

 

「…む。簡単に言って、川の水が下から上に流れているようなもんか?」

 

「上手いたとえね。本来ならあり得ないだろうけど、セイバーの魔力ってのは川の流れを変えるほど膨大なんでしょう。そうでなければあの体格でバーサーカーとまともに打ち合うなんて考えられない。

だから、セイバーの魔力を消費して、貴方の事を治癒してるんだと思うわ。

貴方が自然治癒の呪いなんて修得している筈はないから」

 

「当たり前だ。そんな難しいコト、親父から教えて貰ったコトないからな」

 

「そうじゃなくて、そうだったら私が悩む必要はなかったっていう事よ。いいわ、貴方には関係のない話だから」

 

「…?」

 

なんだろう?

遠坂の言葉は分かりづらいと思う。

 

「まあいいわ。とにかくあまり無茶はしない事。

今回は助かったからいいけど、次にあんな傷を負ったらまず助からない筈だから。多少の傷なら治る、なんていう甘い考えは捨てた方が良いでしょうね」

 

「分かってる。俺が勝手にケガして、それでセイバーから何かを貰ってる、なんていうのは申し訳ない」

 

「バカね、そんな理由じゃないわよ。断言してもいいけど、貴方の傷を治すと減るのはセイバーの魔力だけじゃない。

貴方、それ絶対なんか使ってるわ

寿命とか勝負運とか預金残高とか、ともかく何かが減りまくってるに違いないんだから」

 

ふん、と鼻を鳴らす遠坂。

それには確かに同感なのだが。

ーー遠坂。預金残高は関係ないのでは

と心の中で突っ込んでみる。

言葉に出したら何か嫌なコトがおきそうだ。

 

「話を戻しましょう。

衛宮くん昨日のマスターを覚えてる? 衛宮くんと私を簡単に殺せる、とか言ってた子だけど」

 

「」

 

忘れるもんか。帰り道、問答無用で襲いかかってきた

相手なんだから。

 

「あの子、必ずわたしたちを殺しに来る。それは衛宮くんにも解ってるとおもうけど」

 

「」

 

そう、か。

あの娘だってマスターなんだ。

俺と遠坂がマスターだって知ってるんだから、いつかは襲いかかってくるだろう。

無意識に腹に手を当てた。

今は塞がっている腹の傷。

いや、傷なんて言えるレベルじゃなかった、即死に近い大剣の跡。

 

「そういうこと。解った? 何もしないままで聖杯戦争の終わりを待つ、なんて選択肢はないってコトが」

 

「ああ、それは解った。けど遠坂。おまえ、さっきから何を言いたいんだよ?」

 

「もう、ここまで言ってるのに分からない? ようするに、私と手を組まないかって言ってるの」

 

「?」

 

む? むむむ、む?

それ、額面通りに受けとると、その。

 

「て、手を組むって、俺と遠坂が!?」

 

「そう。私のアーチャーは致命傷を受けて目下治療中。完全に回復するまで時間がかかるけど、それでも半人前ぐらいの活躍はできる筈よ。

で、そっちはサーヴァントは申し分ないけど、マスターが足引っ張ってやっぱり半人前。ほら、会わせれば丁度いいわ」

 

「むっ。俺、そこまで半人前なんかじゃないぞ」

 

「私が知る限りでもう三回も死にかけそうになったのに?

一日で三回も殺されかけている人間なんて初めて見たけど?」

 

「ぐっ! けど、それは」

 

「同盟の代価ぐらいは払うわ。アーチャーを倒されたコトはチャラにしてあげて、マスターとしての知識も教えてあげる。ああ、あと暇があれば衛宮くんと衛宮くんのお姉さんの魔術の腕も見てあげてもいいけど、どう?」

 

…う。

それは、確かに魅力的な提案だと思う。

イリヤに教えて貰っていたと言っても、まだ半人前以下の俺にとっては遠坂は頼りになる先輩だ。

それに出来る事なら、遠坂とは争いたくない。

 

「衛宮くん? 答え、聞かせてほしいんだけど?」

 

返答を急かされる。

遠坂は善意で俺にこの話をしてくれたんだろう。

遠坂は本当に優しいやつだ。

本来なら敵になるかもしれないヤツを助けただけじゃなく、聖杯戦争やサーヴァントについても教えてくれた。

その上、俺や関係の無いアルトねぇの魔術も観てくれると言ってくれた。

ならば答えは一つだけだろう。

俺はーーー




久しぶりの投稿でした。
文章力は下がっていると思いますが、これからは皆様の満足の行くような文章にしていきたいです。
最後に高評価、感想、ダメ出し、よろしくお願いします!
もし、投稿がしばらく出来なさそうだったら活動報告で言います。
それではお願いします


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協力関係

頑張りました
疲れたので寝ます
それでは、どうぞ!


……そもそも選択の余地はない。

俺は知らないコトが多すぎるし、魔術師としても未熟だ。

一時的にせよ遠坂が手を貸してくれるのなら、こんなにいい話はないと思う。

 

「分かった。その話に乗るよ、遠坂。正直、そうして貰えばすごく助かる」

 

「決まりね。それじゃ握手しましょ。とりあえず、バーサーカーを倒すまでは味方同士ってことで」

 

「あ…そっか。やっぱりそういう事だよな。仕方ないけど、その方が判りやすいか」

 

差し出された手を握る。

…少し戸惑う。

遠坂の手は柔らかくて、握った瞬間に女の子なんだ、なんて実感してしまった。

そんな手に比べると、ガラクタいじりで傷だらけの自分の手はなんとも不釣り合いだ。

 

「」

 

そう思った途端、気恥ずかしくなって手を慌てて引いた。

 

「なに、どうしたの? やっぱり私と協力するのはイヤ?」

 

「イヤ、そんなんじゃない。遠坂と協力しあえるのは助かる。今のはそんなんじゃないから、気にするな」

 

「じゃ、まずは手付け金。これあげるから、協力の証と思って」

 

どこに隠し持っていたのか、遠坂はテーブルに一冊の本を持ち出す。

見た目は日記帳そのものだ。

タイトルはなく、表紙はワインレッド。

…どことなく遠坂っぽいカラーリングである。

 

「私のお父さんの持ち物だけど、もう要らないからあげる。一人前のマスターには必要無いものだけど、貴方には必要だと思って」

 

遠坂はめくってみて、と視線で促してくる。

 

「…じゃ、ちょっと失礼して」

 

ぱらり、と適当にページをめくる。

 

「遠坂、なんだよこれ」

 

「各サーヴァントの能力表よ。聖杯戦争には決められたルールがあるのはもう判ってるでしょ? それはサーヴァントにも当てはまるの

まず、呼び出される英霊は七人だけ。

その七人も聖杯が予め作っておいたクラスになる事で召喚が可能となる。英霊そのものをひっぱってくるより、その英霊に近い役割を作っておいて、そこに本体を呼び出すっていうやり方ね

口寄せとか降霊術は、呼び出した霊を術者の中に入れて、何らかの助言をさせるでしょ? それと同じ。

時代の違う霊を呼び出すには、予めハコを用意しておいた方がいいのよ」

 

「クラス。ああ、それでセイバーはセイバーなのか!」

 

「そういう事。英霊たちは正体を隠すものだって言ったでしょ?だから本名は絶対、口にしない。自然、彼らを表す名称は呼び出されたクラス名になる

で、その用意されたクラスは

セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー、の七つ

聖杯戦争のたびに一つや二つはクラスの変更はあるみたいだけど、今回は基本的なラインナップね。通説によると、最も優れたサーヴァントはセイバーだとか。

これらのクラスはそれぞれ特徴があるんだけど、サーヴァント自体の能力は呼び出された英霊の格によって変わるから注意して」

 

「英霊の格…つまり生前、どれくらい強かったかってコトか?」

 

「それもあるけど、彼らの能力を支えるのは知名度よ。

生前何をしたか、どんな武器をもっていたか、ってのは不変のものだけど、彼らの基本能力はその時代でどのくらい有名なのかでかわってくるわ。

英霊は神様みたいなモノだから、人間に崇められるほど強さが増すの

存在が濃くなる、とでも言うのかしらね。信仰を失った神霊が精霊に落ちるのと一緒で、人々に忘れ去られた英雄にはそう大きな力はない。

もっとも、忘れられていようが知られていなかろうが、元が強力な英雄だったらある程度の能力は維持できると思うけど」

 

「…じゃあ多くの人が知っている英雄で、かつその武勇伝も並はずれていたら」

 

「間違いなく最強ランクのサーヴァントでしょうね。

そういった意味でもバーサーカーは最強かもしれない。

何しろギリシャ神話における最も有名な英雄だもの。

神代の英雄たちはそれだけで特殊な宝具を持っているっていうのに、英雄自体が強いんじゃ手の打ちようがない」

 

「…遠坂。その、宝具ってなんだ」

 

「そのサーヴァントが生前使っていたシンボル。英雄と魔剣、聖剣の類いはセットでしょ?ようするに彼らの武装の事よ」

 

「? 武器って、セイバーの見えない剣とか?」

 

「まあね。あれがどんな曰くを持っているか知らないけど、セイバーのアレは間違いなく宝具でしょう。

言うまでもないと思うけど、英雄ってのは人名だけじゃ伝説には残れない。

彼らにはそれぞれトレードマークとなった武器がある。

それが奇跡を願う人々の想いの結晶、貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)とされる最上級の武装なワケ」

 

「むっ、ようするに強力なマジックアイテムって事か」

 

「そうそう。ぶっちゃけた話、英霊だけでは強力な魔術、神秘には太刀打ちできないわ。

けれどそこに宝具が絡んでくると話は別よ。

宝具を操る英霊は数段格上の精霊さえ討ち滅ぼす。

なにしろ伝説上に現れる聖剣、魔剣は、ほとんど魔法の域に近いんだもの

最強の幻想種である竜を殺す剣だの、万里を駆ける靴だの、はては神殺しの魔剣まで。

…ともかくこれで無敵じゃない筈がないっていうぐらい、英霊たちが持つ武装は桁が違う。

サーヴァントの戦いは、この宝具のぶつかり合いにあるといっても過言じゃないわ」

 

「…つまり、英霊であるサーヴァントは必ず一つ、その宝具を持ってるってコトだな」

 

「ええ。原則として、一人の英霊が持てるのは一つの宝具だけとされるわ。

もっとも、宝具はその真名を呪文にして発動する奇跡だから、そうおいそれと使えるモノじゃないんだけど」

 

「? 武器の名前を口にするだけで発動するんだろ?

なんだってそれでおいそれと使えない、なんてコトになるんだ?」

 

「あのね。武器の名前を言えば、そのサーヴァントがどこの英雄か判っちゃうしゃない。

英雄と魔剣はセットなんだから、武器の名前が判れば、持ち主の名前も自ずと知れてしまう。そうなったら長所も短所も丸判りでしょ?」

 

「なるほど。そりゃあ、確かに」

 

そういえば、宝具とやらを使ったランサーは、セイバーにその正体を看破されていたな。

たしかアイルランドの光の御子だとか、なんとか。

 

「以上でサーヴァントについての講義は終わり。

詳しい事はその本を見れば判るから、一息ついたら目を通しなさい。

慣れてくれば、その本がなくても直感でサーヴァントを判断できるようになるから」

 

そう言って、遠坂は座布団から立ち上がった。

 

「さて。せれじゃ私は戻るけど」

 

「ああ、お疲れ様」

 

帰ろうとする遠坂を見上げる。

 

「協力関係になったからって間違わないでね。わたしと貴方はいずれ戦う関係にある。

だから、わたしを人間と見ないほうが楽よ、衛宮くん」

 

最後にきっちりとお互いの立場を言葉にして、遠坂は自分の家へと帰っていった。

遠坂が去って、緊張の糸が切れた為か。

熱を持っていた体がだるく感じられて、そのまま居間に寝転がってしまった。

 

「うっ!」

 

ぶり返してきた吐き気を、横になってやり過ごす。

こつこつと、静かな居間に時計の秒針が刻まれていく。

 

「マスター同士の戦い、か」

 

また目眩がした。

当然だ。

外見が元通りにになったといっても、数時間前まで体が二つになりかけていたんだ。

この体調不良がすぐに治る訳がない。むしろ一生このままっていう方が納得できる。

なにしろ一日に三回も殺されかけた。

力のない者が戦いに参加すれば、傷つくのは当然だ。

俺は己の力量不足の代償として体を失いかけ、

彼女は、そんな俺を守る為に傷を負った。

 

「っ!」

 

一番に聞かなくてはいけない事、バーサーカーの手で負傷した彼女が、無事なのかと言う事を。

気持ち悪いの我慢して立ち上がる。

 

「くっ!」

 

目眩を堪えながら屋敷をまわる。

人がいそうなところ、客間は見てまわったがセイバーの姿はない。

 

「あの格好なんだ、いればすぐに判るってのに!」

 

屋敷のどこにも、あの勇ましい鎧姿のセイバーの気配はない。

 

「ここにもいない」

 

屋敷は全てまわった。

旅館みたいに広い屋敷だが、子供の頃藤ねぇやイリヤとかくれんぼをしていたのは伊達じゃない。効率のいい屋敷の探索は心得ている。

アルトねぇに道場でぼこぼこにされた事を思い出す。

 

「もしかして」

 

急ぎ足で歩き出す。

向かう先は離れにある剣道場。

 

ーーーー

 

予感は的中していた。

剣道場に彼女は居た。

何故か自分の姉と剣道をしていた。

バシン、バシンと心地良い音を響かせていた。

月の下、俺がランサーに殺される寸前に現れ、ためらう事なく剣を振るった少女。

自信の身の危険を承知の上でランサーの目の前に立ってくれた姉。

 

「」

 

俺は呼吸さえ忘れて、二人の姿を眺め続けた。

それがどれほどの時間だったのか。

二人はぶつけ合う竹刀をとめた。

 

「あ」

 

残念そうな声は、やけに大きく道場に響いた。

それに気が付いたのか、セイバーとアルトねぇは俺の方へ歩いてきた。

 

「…」

 

何を言うべきか考えつかないまま、彼女達へと歩み寄る。

 

「「目が覚めたのですね、シロウ(士郎)」」

 

落ち着いた二人の声。

染み入るように響く彼女達の声は、この道場にあっている。

 

「ああ。ついさっき、目が覚めた」

 

うまく働かない頭で答える。

 

「士郎? 顔色が優れないようですが、体調は悪いのですか?」

 

「ち、違うよ、アルトねぇ。体調はいい、すごくいい!」

 

慌てて身を引いて、アルトねぇから離れる。

 

「?」

 

不思議そうに首を傾げるアルトねぇから目を逸らして、ともかくバクバクいってる心臓を落ち着かせた。

 

「落ち着け、なに緊張してんだ俺は!」

 

深呼吸する。

…けど、すぐには収まりそうにないというか、収まりなんかつかない気がする。

落ち着かない理由はアルトねぇの後ろにいるセイバーにあった。

 

「ああもう、なんだって着替えてるんだよ、アイツ」

 

セイバーの姿は昨日とは一変していた。

あの鎧姿とは正反対の、アルトねぇが着ている様な普通の服装だ。

それが以外というか、あんまりにも現実感がありすぎて、困る。

…とにかく、彼女はとんでもない美人だ。

それは昨日で知っていたつもりだったが、今さらに思い知らされた。




ちょっと投稿頑張ったので疲れました。
最後に高評価、ダメ出し、感想お願いします


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セイバーとの話

前書きの言うことがなくなった。
では、どうぞ!


「シロウ」

 

目があった途端、緊張する自分がわかる。

が、黙り込む為に捜していた訳じゃない。

 

「セイバー、だったよな。こうやって落ち着いて話すのは初めてだけど」

 

意を決して話しかける

 

「シロウ。話の前に、昨夜の件について言っておきたい事があります」

 

さっきまでの穏やかさが嘘みたいな不機嫌さで、俺の言葉を遮った。

 

「? いいけど、なんだよ話って」

 

「ですから昨夜の件です。

シロウは私のマスターでしょう。その貴方があのような行動をしては困る。戦闘は私の領分なのですから、シロウは自分の役割に徹してください。自分から無駄死にをされては、私でも守りようがない」

 

きっぱりと言うセイバー。

それで、さっきまでの緊張はキレイさっぱりなくなった。

 

「な、なんだよそれ! あの時はああでもしなけりゃお前が斬られてたじゃないか!」

 

「その時は私が死ぬだけでしょう。シロウが傷つく事ではなかった。繰り返しますが、今後あのような行動はしないように。マスターである貴方が私を庇う必要はありませんし、そんな理由もないでしょう」

 

淡々と語る少女。

俺は腹がたった。

命を軽く見ている少女にも、その少女に守られている自分にも。

 

「バカ言うな、傷ついてる女の子を助けるのに理由なんているもんか……!」

 

怒鳴られて驚いたのか、セイバーは意表を突かれたように固まったあとまじまじと、なんともいえない威厳でこっちを見つめてくる。

 

「と、ともかくうちまで運んでくれたのは助かった。それに関しては礼を言う」

 

「それはどうも。サーヴァントがマスターを守護するのは当たり前ですが、感謝をされるのは嬉しい。シロウは礼儀正しいのですね」

 

「いや。別に礼儀正しくなんかないぞ、俺」

 

そんな事より、今ははっきりさせなくちゃいけない事がある。

本当なら昨日、帰ってから訊くべきだった事。

彼女は本当に俺なんかのサーヴァントで、

本当に、この戦いに参加するのかということを。

 

「話を戻すぞセイバー。 あ、改めて訊くけど、お前の事はセイバーって呼んでいいのか?」

 

「はい。サーヴァントとして契約を交わした以上、私はシロウの剣です。その命に従い、敵を討ち、貴方を守る」

 

セイバーは躊躇いもなく口にする。

彼女の意思には疑問を挟む余地などない。

 

「俺の剣になる、か。それは聖杯戦争とやらに勝つ為にか」

 

「? シロウはその為に私を呼びだしたのではないのですか」

 

俺は、ただの偶然なんだ、とは言えなかった。

いや、そもそも自分は呼び出してさえいない。

セイバーは俺とアルトねぇのピンチに現れ、そして救ってくれただけだ。

その結果が今の状況。

ーーこれで終わりにしよう。

自分は戦うと決めたんだ。

家族を守る為に。

なら、弱音を口にするのも思うのもこれで最後だ。

どのような形であれ、俺は戦うと決めたんだから。

 

「シロウ?」

 

「いや、なんでもない。

けどセイバー、俺についても勝ち目は薄いぞ。俺は遠坂みたいに知識も力もないから、明日にでも昨日みたいな事になりかねない。それでもいいのか?」

 

「それは戦う意志がない、という事ですか」

 

「戦う意思はある。ただ勝算がないから、そんな俺に付いていいのかって言いたいんだ」

 

「私のマスターは貴方です、シロウ。これはどうあっても変わらない。サーヴァントにマスターを選ぶ自由はないのですから」

 

それはそうだ。

だからこそ、セイバーは俺のサーヴァントになっている。

なら俺は、自分に出来る範囲でセイバーに負担をかけないようにするしかない。

 

「……分かった。それじゃ俺はお前のマスターだ、セイバー」

 

「ええ。ですがシロウ、私のマスターに敗北は許されない。

貴方に勝算がなければ私が作る。

可能である全ての手段を用いて、貴方には聖杯を手に入れて貰います」

 

聖杯を手に入れる為、か。

遠坂はサーヴァントにも叶えたい願いがあると言った。

それはこのセイバーだって例外ではないんだろう。

だからこそここまで迷いがない。

 

「じゃあセイバー。

可能である全ての手段、といったな。それは勝つ為には手段を選ばないって事か。たとえば、力を得る為に人を襲うとかーー」

 

最後まで、口にできない。

セイバーは俺の事を敵を見るかのように俺を見つめている。

 

「シロウ。それは可能である手段ではありません。

私は剣を持たぬ人を傷つける事など出来ない。

それは、騎士の誓いに反します。

ですが、マスターが命じるのであれば従うしかありません。

その場合、私に踏みいる代償として、その刻印を一つ頂く事になります」

 

怒りが籠った声に圧倒される。

それでも、嬉しかった。

もしかしたら心の何処かでセイバーは聖杯の為には手段を選ばない冷酷な殺人者ではないかと思っていたのかも知れない。

俺はセイバーを知らないうちに侮辱していた。

だから、セイバーの言葉は嬉しかった。

 

「ああ、そんな事は絶対にさせない。

セイバーの言うとおり、俺たちは出来る範囲でなんとかするしかないからな。 本当にすまなかった」

 

俺は頭を下げる。

 

「あ……いえ、私もマスターの意図が掴めずに早合点してしまいました。シロウは悪くないのですから、頭をあげてくれませんか?」

 

「ああ、わかった」

 

俺は頭をあげる。

 

「ふふ」

 

と、セイバーの隣に居たアルトねぇが笑っていた。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「いえ、セイバーはここに来て初めて笑いましたね」

 

俺はセイバーの方を向くとわずかに口元を緩めていた。

 

「私が笑っている?

冗談は止めてください。

私は聖杯戦争に勝つ為に感情を封じました。

だから、私が笑う筈がない」

 

セイバーは緩めていた口元を引き締め、真剣な表情になった。

 

「士郎、これは中々に難儀ですね」

 

アルトねぇは楽しそうに笑いながら言ってくる。

ーー確かに

これは小さい子を相手にしているような気分になる。

 

「…っと、いい忘れていた。

出来る範囲でなんとかするって言っただろ。その一環として、しばらく遠坂と協力する事になったんだ。

ほら、昨日一緒にいた、アーチャーのマスター」

 

「リンですか? そうですね、確かにそれは賢明な判断です。シロウがマスターとして成熟するまで、彼女には教わるものがあるでしょう」

 

「アルトねぇにも言いたい事がある」

 

俺はアルトねぇの方を向いていう。

 

「私もですか?」

 

「ああ、遠坂が俺たちの魔術を観てくれるらしいから

アルトねぇもどうかと思ったんだけど……どうかな?」

 

アルトねぇは腕を組んで考えている。

ーー急に言われて悩むのも判る。

 

「そうですね、私も士郎達の為にも魔術を鍛えるのも良いかも知れませんね」

 

……良かった。

二人が同意してくれれば、大手を振って遠坂と協力できる。

あと、どうしても今ここで訊かなきゃ気が済まないっていう事は

 




もう言うことが無くて泣きそう
高評価、感想、お気に入り登録宜しくお願いします
では、次回


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部屋決め

つかれた。


あれだけの傷を負ったセイバーの体が気にかかる。

 

「セイバー。

…その、体は大丈夫か? バーサーカーにやられた傷、ふかかっただろ」

 

「…?私の体は見ての通りですが。

確かにあの傷は敗北に至るものでしたが、致命的ではなかった。バーサーカーが立ち去った後、一時間ほどで治療を済ませました」

 

「え…じゃあセイバーはもう完全に元通りなのか?」

 

「無論です。ですが本調子、という訳ではありません。

バーサーカーの一撃は単純なものだったので治療できましたが、ランサーの宝具による傷は別です。

あの槍は特殊な呪いを帯びているのでしょう。彼につけられた傷は、まだ完全に治りきっていません」

 

…治りきっていない、か。

とてもそうは見えないが、セイバーは痛みを口にするヤツじゃない。

セイバーと戦っていく以上、よく気を配って彼女の体を気遣わないといけないみたいだ。

 

どすん、と。

入り口の方で、何か重い荷物が落ちる音がした。

 

「どすん?」

 

振り返ってみる。

そこには、大きなボストンバックをおいた遠坂の姿があった。

 

「はい?」

 

思考が停止する。

帰った筈の遠坂が道場にやってきて、しかも私服で、なんであんな荷物を持っているのだ?

 

「……何しにきたんだ遠坂?」

 

「何って、家に戻って荷物をとってきたんじゃない。今日からこの家に住むんだから当然でしょ」

 

「な!!?

す、住むって遠坂がこの家に!?」

 

「協力するってそういう事じゃない。 貴方ね、さっきの話って一体なんだったと思ったわけ?」

 

「あ…う…」

 

びっくりして声が出ない。

何か。何か反論しないと、とんでもないコトになっちまうっていうのに、頭がうまく働いてくれない。

 

「私の部屋はどこ?」

 

容赦なく話を進めていく侵略者

道徳上不味いのではなかろうか。

遠坂は学校のアイドルで、そんなのが俺の家に泊まったり住まわれたりしたら気が気じゃないっていうか藤ねぇやアルトねぇやイリヤに殺されるっていうか、まさかアイツ俺を混乱させてマスターを1人減らそうと画策してるんじゃなかろうな!?

 

「凛の部屋はちゃんと用意してますよ」

 

そう答えたのは、少なくとも俺の味方だと思っていたアルトねぇだった。

まさか…アルトねぇが遠坂側につくなんて

 

「そういえば、セイバーの部屋は何処にするの?

衛宮くん、彼女は私のアーチャーとは違ってかさばるんだし、部屋は用意して上げた方が良いわよ?」

 

「シロウ。 私はシロウのサーヴァントだ。

マスターを守護するのがサーヴァントです。

それに睡眠の時が一番危険です。

だから、私はシロウの部屋にいます」

 

と、セイバーはこう言っているが…

勿論、違う部屋に寝て貰う。

だって、思春期の男と女の子を一緒の部屋に寝かせたら俺は気が気じゃない。

 

「ダメだ。

セイバーには違う部屋で寝て貰う」

 

「シロウ。さっきも言ったと思いますが、睡眠時が一番危険なのです。

マスターが襲撃にあった時に助けられない」

 

どうやらセイバーも引かないらしい。

どうすれば言いかと悩んでいるとーー

 

「それなら、士郎の隣の部屋ならどうでしょうか?」

 

アルトねぇが助け船を出してくれた。

俺はアルトねぇに心の中で感謝をする

 

「確かにそうだ!

隣の部屋なら襲われたとしてもセイバーなら助けられるだろ? なら、それで良いじゃないか!」

 

俺はここぞとばかりにセイバーに畳み掛ける。

 

「っ! 確かにそうですが…もし、私より素早いサーヴァント。

アサシンのような気配を殺せるサーヴァントの場合、私は助けに行くのに少々遅れるのでその間にシロウの身に何かあったらでは遅いのです!」

 

セイバーも負けじと言い返してくる。

だが、俺はセイバーがこう返すと予想していた。

 

「大丈夫だ。

俺はセイバーを信じてる。

セイバーは謙虚が過ぎるんだ。

セイバーは最優のサーヴァントなんだろ?

なら、それだけで十分だ」

 

セイバーは俺の言葉を聞くと、不安そうな表情をしていた。

 

「ですが…バーサーカーの時にシロウに怪我をさせてしまったのは私の力不足です。

ですから、シロウが私を過大評価してくれるのは大変喜ばしいのですが…。

万が一という事もあります」

 

ーーセイバーはバーサーカーの時の事をまだ引きずってるようだ。

……何が、マスターだ。

勝手に怪我をして、セイバーに心配させて、これじゃ子どもと何も変わらないじゃないか!

俺はセイバーの方に顔を向ける。

 

「確かにセイバーの言うとおりだ。

俺は自分の身も守れないマスターだ。だけど、数秒ぐらいなら自分の身を守れる。セイバーが現れるまで俺はランサーから逃げてたんだ。

だから心配しないでほしい。

俺はセイバーを信じてる。

だから、セイバーも俺の事を信用してほしい」

 

俺はセイバーの瞳を真っ直ぐに見つめる。

彼女は小さなため息をひとつはいた。

 

「まったく前代未聞ですよ?

サーヴァントに心配するなっていうマスターは」

 

「ああ、分かってる。

自分がどんだけバカな事を言ったのか、そして、セイバーにいっぱい迷惑をかける事も」

 

俺は申し訳なさい気持ちになりながらセイバーの顔を覗く。

 

「……」

 

俺は言葉が出なかった。

セイバーが笑っていた。

なんでこんなに驚いているのか自分でもわからなかった。

だけど、その笑みからは自分の姉と重なって見えた。

するとーー

 

「はい!

話は終わったんでしょ?

なら、私は先に部屋に行かせて貰うわよ」

 

黙っていた遠坂が急に話した。

 

「凛? 部屋が判らないなら送っていきますが?」

 

「いえいえ、大丈夫よ。

アルトレアさんは士郎の方にいてください。

私はこの屋敷の捜索がてらに部屋に行きますわ」

 

「わかりました。

凛の部屋は、離れの部屋の洋室です」

 

「ありがとう

それじゃ、私はここら辺でおいとまさせて貰うわ」

 

そういって荷物を持って屋敷へ歩いていく

その背中は修学旅行の時の生徒みたいに楽しげだった。

 

「アルトねぇはどうするんだ?」

 

「私はこれからイリヤと一緒に買い出しに行ってきます。

少し帰ってくるのは遅れるかも知れません」

 

「わかった」

 

アルトねぇはイリヤの部屋に向かっていった。

さて、部屋の問題は一件落着だな。

あとはーー




いきなり仲良くしすぎた
ごめんなさい
でも、こっからだから読んでくれたら幸いです。
高評価、感想、お気に入りお願いします。
してくれたらモチベが……でます!!!
それでは、次回


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秘密の話

セイバーとの部屋の件について一件落着し、セイバーに屋敷の見取りについて説明する。

 

「こっちが和室。裏側にまわると居間とか風呂とか、そういった共通施設に出る。で、縁側をずっと歩いてあっちの別棟に行くと客間がある。

……遠坂はそっち側に行っている筈だ」

 

聞いてるのかいないのか、セイバーは頷きもせずに付いてきていた。

 

「屋敷の見取りはもういいです。

それよりシロウの部屋はどこなのですか?」

 

セイバーはどうやら俺の説明がお気に召さなかったらしい。

長々と部屋の説明をしなくても良いのは此方としてもありがたい

俺はそう思いながら自分の部屋に向かう。

 

「俺の部屋はこっち。

わりと奥まったところにある」

 

「ではそちらに案内してください。

内密に話があります」

 

「内密な話?」

 

それは遠坂に聞かれたくない、という事か?

遠坂は別棟に行っているからここでも構わないと思うが、アイツだってマスターだ。

壁に耳あり障子に目ありというし、確かに縁側で内緒話もない。

 

ーーー

 

「ほら。ここが俺の部屋」

 

「ここがシロウの部屋、ですか?」

 

部屋に入るなり、セイバーは目を丸くして驚いている。

 

「どうした? セイバーをびっくりさせるようなモノなんかないと思うけど」

 

「いえ、少々私が想像してた男性の部屋とはイメージが違ったのでびっくりしてしまいました」

 

「ああ、この人形とかぬいぐるみとかだろ?

これはアルトねぇとイリヤからのプレゼントなんだ

最初はこの部屋に何もなくて

それをみたイリヤが寂しい部屋って言ってきて、それから一年毎にイリヤとアルトねぇが俺の部屋に人形を置いて行くんだよ

これなら士郎も寂しくないでしょ!って、でも、やっぱり変だよな? 良い年した男が女物の人形とかを部屋に飾ってるのって」

 

「いいえ、私はそんな事を気にしませんし、それが人の善意の事ならバカにする人も居ないでしょう。

それに、ここの部屋はとても温かい」

 

セイバーはそう言うと人形の中からライオンのぬいぐるみを手にとった。

セイバーはライオンのぬいぐるみを数秒間見つめていた。

 

「……良かった

これなら大丈夫そうですね」

 

セイバーはそう言うとライオンの人形を元の場所に戻す。

……聞くなら今だろう。

 

「それで?内緒の話ってなんだよ、セイバー」

 

「二つあります。そのどちらもシロウと私だけの隠し事にしたいのですが、いいですね?」

 

「? いや、セイバーがそうしたいっていうんなら構わないけど、できれば先に内容を言ってくれ。

良い話か判断がつかない」

 

「どちらも悪い話です。少なくとも、他のマスターには知られたくはない」

 

セイバーの面持ちからするに、悪い話ってのは俺たちの欠点のコトなんだろう

 

「そうか、話の趣旨は判った。真剣に聞くから、言ってくれ」

 

「はい。まず一つめ、召喚されたサーヴァントの最初の義務、自信が何者であるかをマスターに告げる。

これを果たせない事を許してほしい」

 

「何者であるかを告げるーーああ、セイバーの本当の名前の事か」

 

サーヴァントは英霊だ。

その正体はあらゆる時代で名を馳せた英雄である。

彼らはクラス名で正体を隠し、自らの手の内をも隠す。

だが、同時にマスターだけは知っておかなければならない事でもあるのだ。

何故なら、英霊の正体が解らなければ正確な戦力が判らない。

マスターとサーヴァントは一心同体。

どちらかが隠し事なんてしていて、まともに戦える訳がない。

ーーとまあ、それは普通のマスターの事情だ。

セイバーの真名を知った所で俺には彼女を扱えないし、何よりあまり興味がない。

 

「ふうん。いいけど、どうして?」

 

「私なりに考えた結果です。

いかにシロウが私の真名を隠そうとしても、シロウから知識を奪う術は多くあるでしょう。

シロウの魔術抵抗はお世辞にも高くはありません。

敵が優れた術者ならば精神介入も容易い。

敵の魔術にかかれば、貴方の意思に反して私の真名が明かされてしまう」

 

「成る程、暗示をかけられたら一発だもんな」

 

「ええ……もっとも、私自信はそう高名な者ではありません。バーサーカーに比べれば数段ランクは落ちるでしょうし、知られたところでどうという事はないでしょうが」

 

無念そうに呟くセイバー。

英雄としてバーサーカーに劣っている事を悔しがっている。

 

「いいんじゃないか?切り札は隠しておいてこそ切り札だろ?

マスターがこんなんだからさ、セイバーが工夫しようとしているのは判るよ。

それとバーサーカーだけど、アレは反則だろ。

セイバーが落ち込む事はないし、セイバーも全然負けてない。

あんな傷を負ってたのに真っ正面から打ち合ってたじゃないか」

 

「そうですね。前回は不覚をとりましたが、傷が癒えれば違った結果になるでしょう」

 

「だろ? よし、一つめの話はこれで終わり。

二つめの話っていうのは?」

 

「ええ、それなのですが……おそらく、これは私たちでは解決出来ません。

私たちサーヴァントはマスターからの魔力供給によって体を維持する。

だからこそサーヴァントはマスターを必要とするのです」

 

「俺が半端なマスターだから、セイバーは体を維持するのに必要な魔力がないって事か?」

 

「違います。例え少量でもマスターから魔力が流れてくるのなら問題はないのですが、シロウからは全く魔力の供給が無いのです

繋がっている筈のラインが断線しているのです」

 

「セイバー、それは」

 

「シロウ自身の欠点ではありません。おそらく召喚時に問題が起きたのでしょう。

本来繋がる筈のラインが繋がらなかったようです」

 

「……待て、それじゃあどうなるんだ。魔力を回復できないって事は、セイバーは直ぐに消えてしまうのか」

 

「ええ。私がもつ魔力を使いきれば、この世界に留まる事は出来なくなるでしょう。

その為、私は少しでも魔力の消費を抑えなければならない。供給がないのなら、あとは睡眠する事で魔力の消費を押さえるしかありません」

 

「睡眠……眠れば魔力は回復するのか?」

 

「……解りません。ですが最低でも、眠っている間は魔力を使わない。

ですから、これから出来る限りの睡眠を許して欲しいのです。

常にシロウを守ることは出来なくなりますが、それも勝利の為と受け入れてほしい」

 

「はあーー」

 

大きく胸を撫で下ろす。

……良かった。そんな事でいいんなら、いくらでも受け入れる

昨日からセイバーに助けて貰ってばかりだ。

少しでもセイバーの負担を減らせれるなら、これ以上の事は無いだろう。




久しぶりです。
本当にすいませんでした!
少しのつもりが一年も休んでしまって申し訳ありません
一年ぶりなので誤字、脱字が目立つと思いますが、その時は教えて頂ければ幸いです。


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眠り

サブタイトルは適当です


……良かった。そんな事で良いなら、いくらでも受け入れる。

 

「そんなの良いに決まってるだろ。

辛くなったらセイバーは休んでていいんだ。

それで少しでも長く居られるんだったら、その方がずっといい」

 

「では、今後は頻繁に眠りに入りますが、その間は決して屋敷から離れないように。遠く離れた場所でシロウが襲われた場合、私はすぐに駆けつけられない。

空間を跳躍するなら話は別ですが、そんな能力を持つサーヴァントは稀です。

もし離れた場所で私を呼ぶのなら、令呪のバックアップが必要になります。

ですから、出来るだけ私から離れないようにしてほしい」

 

そうしたいのは山々だけど、簡単には頷けない。

セイバーといつも一緒にいる、なんて生活が想像できないし、こっちにだって都合がある。

 

「努力はする。けど本当にそれだけでいいんだな?

眠っていれば、そのーー」

 

「問題はないでしょう。このような事はなかったので断言は出来ませんが、前回も総戦闘数は七回に満たなかった。

私が倒さずとも、サーヴァントはサーヴァントによって減っていくのですから」

 

「そうか。

別に全員が全員とやりあわなくちゃいけないって訳じゃないんだ。うまくすれば、簡単にこの戦いを終わらせる事ができる」

 

俺が戦うのは人としての節度を外したヤツだけだ。

まさか全員がそんなヤツな訳がない。遠坂だってやる気だけど、アイツは魔術師としてのルールをきっちりと守るだろう。

だから、あと五人ーー残りのやつらがマトモならこっちから戦う事はないんだ。

セイバーは前回七回に満たなかったといっているし、今回もーー

 

「あれ?」

 

ちょっと待て。

前回、七回に、満たなかった?

 

「待ってくれセイバー。

その以前もセイバーだったのか?

いや、そうじゃなくて前回も聖杯戦争に参加してたのか!?」

 

「私がこの聖杯の争いに参加するのは二度目です。

その時も私はセイバーでした。

中には複数のクラス属性を持つ英霊もいるようですが、私はセイバーにしか該当しません」

 

……遠坂は言っていた。

七人のサーヴァントの中で、最も優れたサーヴァントはセイバーだと。

それを二回も連続で、この少女は成り得たという。

 

「それじゃ以前は、その……最後まで、残ったのか」

 

「無論です。前回は今のような制約はありませんでしたから、他のサーヴァントに後れを取る事もなかった」

 

当然のように言うセイバー。

それで、今更ながら思い知らされた。

この手には、あまりにも不相応な剣が与えられたのだという事を。

 

「……まいったな。それじゃあ不満だろセイバー。

俺みたいなのがマスターだと」

 

「私は与えられた役割をこなすだけです。聖杯さえ手に入るのであれば、マスターに不満はありません」

 

「そうか。それは助かるけど、それでもーー」

 

以前は万全だったのに、今回はもう二度も傷を負っている。

魔力を回復できない、という状態において、彼女は魔力の残量を気にしながら戦わなくてはならない。

その不自由な、足かせをつけられた戦いの結果がーー

 

「……」

 

あの、赤い血に染まった姿だった。

それが脳裏にこびりついている。

この、俺より小さくて華奢な少女が、無惨にも傷ついた映像が。

 

「シロウ。その後悔は、余分な事です」

 

「え?」

 

セイバーの声で我に返る。

 

「私も負け知らずだった訳ではありません。

私は勝ちきれなかったからこそ、こうして貴方のサーヴァントになっている。傷を負う事には慣れていますから、貴方が悔やむ事などない」

 

「慣れてるって……あんな、死ぬような怪我でもか」

 

「ええ、剣を取るという事は傷つくという事です。

それは貴方も同じでしょう。私だけが傷つかない、という道理はないと思いますが」

 

「それはーーそうだけど。

それじゃ怪我をしても構わないって言うのか、セイバーは」

 

「それが死に至る傷でなければ。

死んでしまってはマスターを守れなくなりますから」

 

「……なんだそれ。

マスターを守る為なら傷を負っても構わない、なんて言うのかおまえは」

 

「それがサーヴァントの役割ですから。

……確かに凛の言葉は正論ですね。

サーヴァントを人間として扱う必要などない。

私たちはマスターを守るための道具です。

貴方も、それを正しく把握するべきだ」

 

そう言い切って、セイバーは襖の方へと歩いていく。

襖の向こうは隣の部屋だ。

俺にはこの広さだけで十分なので、隣の部屋は使っていなかった。

 

「睡眠をとります。

夕食時には起きますので、外出するのなら声をかけてください」

 

す、と静かに襖が引かれ、閉められる。

 

ーー私たちはマスターを守る為の道具です。

貴方も、それを正しく把握するべきだーー

 

「……なんだ、それ」

 

なんか無性に頭にくる。

だって言うのに声もかけられず、一人立ちつくしてセイバーの言葉を噛み締めていた。

 

ーーー

 

縁側に腰をかけて、ぼんやりと青空を見上げる。

昼間っから眠ってしまったセイバーではないが、こっちも休息が必要だった。

……吐き気は治まったものの、体の具合は依然最悪。

おまけに、次から次へと予期せぬ展開を押し付けられて両肩がぐっと重い。

 

「ふう」

 

深呼吸をして、ぼんやりと庭を眺める。

とりあえず訊くべき事は訊いたが、右も左も判らない状況は変わっていない。

魔術師として先輩というか、ちゃんとした正規のマスターである遠坂はと言うと、

 

「ね、余ってるクッションとかない?

あとビーカーと分度器」

 

そんな感じで、うちの家具の物色に余念がない。

 

「……クッションは隣の客間のを持ってけ。

けどビーカーと分度器なんて、普通の家にはおいてないからな」

 

「はあ?信じられない、魔術師なら実験用具ぐらい置いておくものよ?」

 

文句だけ言って、忙しそうに別棟に戻っていく。

 

「本当に本気みたいだな、遠坂のヤツ」

 

遠坂がうちに泊まる、というのはもう確定らしい。

さっき別棟の客間に行ったら、一番いい部屋に

 

“ただいま改装中につき、立ち入り禁止“

なんてふざけた札がかかっていたし。

 

「……うん。別棟なら遠いし、問題はないよな」

 

セイバーだけでも緊張するっていうのに、遠坂まで身近に居られたら気の休まる所がなくなってしまう。

別棟なら距離があるし、いくら廊下で繋がっているといっても隣の家みたいなものだ。

こっちが近寄らなければ間違いななんて起こらないだろう。

……あ、けど飯時は顔を合わせるよな。

それに風呂だってこっちにしかないんだから、ちゃんと話合って使わないと。いや、それをいうならセイバーだって女の子なんだからーー

 

「ってバカ、なに考えてんだ俺は……!」

 

ぶんぶんと頭をふって、ばたん、と縁側に倒れ込んだ。

 

「はあ」

 

本日何度目かの深呼吸をして、ぼんやりと空を眺める。

疲れている為か、こうしているとすぐに眠気がやってくる。

 

「ああ、もうどうにでもーー」

 

なりやがれ、なんて捨て鉢になって目を閉じる。

……捨て台詞が聞いたのか。

目を閉じた、眠りに落ちる直前にーー

 

……ああ、今のこの状況を桜や藤ねぇに何て説明しよう




投稿したぞ!
寝ます


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話し合い

気がつけば日は落ちていて、居間には俺とセイバー、遠坂が集まっていた。

俺はついさっき目が覚めて、セイバーは何時の間にか居間にいて、遠坂はついさっき部屋の改装が終わったらしい。

 

……落ち着かない。

この二人は完全なまでの異分子だ。

この家に客が来ることなんて滅多にないので、よけい違和感があるのだろう。

いや、そもそも。

この二人、和風の建物にとけ込める外見をしていない。

 

「…………」

 

そんなこんなで時刻は夜の七時前。

全員で居間に集まったものの、何をするでもなく黙りこくっているのは、精神衛生上よろしくない。

 

「二人とも、少しいいか。今後の事で話をしておきたいんだけど」

 

「ちょっと待って。その前に一つ決めておきたいんだけど、いいかしら」

 

「うーーいいけど、なんだよ」

 

「何って夕食のことよ。士郎、ずっとアルトレアさんとイリヤ先輩との三人暮らしだったのよね?」

 

「……? まあそういう事になるけど」

 

「なら食事は自分で作ってきたのよね?」

 

「そりゃ作るだろ。姉さんたちに迷惑はかけたくないからな」

 

「ふ~ん、シスコン」

 

「……ほっとけ」

 

「なら提案なんだけど、夕食の当番を交代制にしない?

これからしばらく一緒に暮らすんだし、その方が助かるでしょ?」

 

「……ふむ。確かにそうだな。ついいつもの調子で考えてたけど、遠坂がうちで暮らすなら家族と同じだ。飯ぐらい作るのは当たり前だし、俺達も助かる」

 

「決まりね。じゃあ、今日は士郎が当番ってコトで。

もうこんな時間だし、作戦会議は食べてからにしよ」

 

「?? いや、夕飯が交代制なのはいいけど、朝飯はどうするんだ。朝飯も交代制か?」

 

「あ、朝はいいのよ。わたし食べないから」

 

「なんだそりゃ。勝手なコトいうな、朝飯ぐらい食べないと大きくなれないぞ」

 

「余計なお世話よ、人の生活スタイルに口を挟まないでちょうだい。

……とにかく今日の夕飯は士郎が作るの! ちゃんとした食べ物を出さないと話なんてしないからね」

 

何が気にくわなかったのか、遠坂は不機嫌そうにこっちを睨んでいる。

 

「……分かったよ。かってに作るけど、セイバーも飯は食うんだろ?」

 

「用意してもらえるのでしたら、是非。食事は重要な活力源ですから」

 

「了解。それじゃ大人しくしてろよ、二人とも」

 

……ん? ちょっと待て、何かを大事な事を忘れてるような……?

そうだ! アルト姉ぇとイリヤだ。

まだ、買い物してるなんてあり得ないよな。

 

「セイバー! アルトねぇとイリヤって帰って来てたか?」

 

「アルトレアとイリヤスフィールは二時間前ぐらいに帰って来てタイガという人に呼ばれたみたいで今日は帰ってこないらしいです」

 

「了解」

 

エプロンを手にして台所に移動する。

幸い、冷蔵庫にはアルトねぇが買ってきた食材が入っていた。

米はさっき起きた時に炊いておいたので、あと三十分もすれば出来るだろう。

台所からセイバーと遠坂を盗み見る。

 

「…………む」

 

どうみても和食より洋食という顔ぶれだ。

遠坂はともかく、セイバーに豆腐と納豆の味が判るかどうか疑問すぎる。

 

「いや、そもそも箸を持てないんじゃないかな、セイバー」

などと少しだけ迷ったが、気にしても仕方がない。

ザッと考えて、まず揚げ出し豆腐。汁物は簡単な豆腐とワカメのみそ汁に。

下ごしらえが済んでいる鶏肉があるので、こいつは照り焼きにして主菜にしよう。

豆腐の水切り、鶏肉の下味つけ、その間には大根をザザーと立て切りにしてシャキッとしたサラダにする。

大根をおろしてかけ汁を作ってししとうを炒めてーー

 

「今後の方針は決まっているのですか、リン」

 

「さあ? 情報がないならなんとも言えないけど、とりあえずは他のマスターを捜し出すコトが先決かな。

残るマスターはあと四人。こっちがマスターだって知られずに捜し出したいけど、さすがに上手くはいかなきわよね」

 

……む。

おとなしくしてろって言ったのに、なんで物騒な話をしているんだおまえたちはっ。

こっちは三人分の飯の支度でかかりきりだって見て判らなーーつーか見てもいねぇ。

 

「遠坂! 四人じゃないぞ、五人だろ! マスターだって判ってるのは俺とお前しかいないじゃないか!」

 

揚げ出し豆腐用の、大鍋を持ち出しながら声をあげる。

 

「なに言ってるのよ。私と士郎、それにアリアスフィールで三人でしょ。貴方、バーサーカーの事もう忘れたの?」

 

「ーーあ」

 

……そうか、あの娘もマスターなんだっけ。

あまりにもバーサーカーが強烈だったから忘れていたが、それにしてもーーあんな小さな娘がマスターで、容赦なく俺たちを殺そうとするなんて。

 

「どうせね。貴方のことだから、アリアスフィールを敵だって認識してなかったんでしょ。それはいいから調理に専念しなさいってば。

士郎の実力が判らないと私が困るんだから」

 

「?」

 

俺の料理の腕がどう遠坂を困らせるか不明だが、言うことはもっともだ。

下ごしらえもそろそろ終わるし、ここからはガーッと一気に仕上げなければ。

 

「アリアスフィール……バーサーカーのマスターですね。

リンは彼女を知っているようでしだが」

 

「…まあね、名前ぐらいは知ってる。アインツベルンは何回か聖杯に届きそうになったっていう魔術師のかけいだから」

 

「……聖杯戦争には慣れている、ということですね」

 

「でしょうね。他の連中がどうだか知らないけど、アリアスフィールは最大の障壁と見て間違いないわ。本来バーサーカーっていう役割(クラス)は力の弱い英雄を強化するものよ。

理性を代償にして英雄を強くするんだけど、そういった“凶暴化した英雄“の制御には莫大な魔力を必要とする。たとえば貴方がバーサーカーになったらーー」

 

「このように話をする事もできませんね。

協力者としての機能を一切排除し、戦闘能力だけを特化させたのがバーサーカーです。ですがそれは手負いの獅子を従えるようなもの。

並の魔術師ではまずあやつれません」

 

「でしょうね。そこいらのマイナーな英霊がバーサーカーになった程度でも、並のマスターじゃ制御しきれない。

だっていうのにアリアスフィールは超一流の英霊を召喚して、そいつをバーサーカーにして完全に支配してた。

……悔しいけど、マスターとしての能力は次元違いよ、あの娘」

 

「……同感です。私たちの当面の問題は、その次元違いの相手に狙われている、という現状ですか」

 

「うん。わたしのアーチャーはまだ戦線に出られるほど回復してない。

セイバーはどう? もう傷はいいの?」

 

「……通常の戦闘ならば支障はありませんが、バーサーカーを相手に出来るほど回復はしていません。

バーサーカー戦の傷は完治しているのですが、ランサーから受けた傷には時間がかかるようです」

 

「そう。それじゃあやっぱり、当面は様子見をするしかないかな」

 

「それについては提案が。アーチャーの目は鷹のそれと聞きます。彼には屋敷の周囲を見張って貰う、というのはどうでしょうか」

 

「そのつもりよ。アイツには屋根で見張りをさせるから、怪しいヤツが近寄ってきたらすぐに判るわ。

……ま、バーサーカーに攻め込まれたら逃げるしかないけど」

 

二人は当然のように話を進めている。

……なんか、気にくわない。

人が真面目に飯作っているっていうのに、人をそっちのけで話をするなんてどういうつもりだ。

だいたい遠坂のヤツ、セイバーに気安すぎる。

。いや、そりゃあ俺はあんな気軽に話しかけられないから、遠坂がセイバーと相談してくれるのなら話ははやいんだがーー

 

「ーーん?」

 

食器棚のガラスに映った顔は、むっと眉を寄せていた。

……ヘンだな。なんで怒ってるんだろ、俺。

 

「ーーよっと」

 

三人分の食器を用意して、出来上がった夕飯を盆にのせる。

その居間に移動して、

 

「まったく。夕飯時に物騒な話するなよ」

 

どん、と遠坂の前に盆を置いた。

 

「? なに怒ってるのよ士郎。 あ、料理出しぐらいは手伝うべきだった?」

 

「別に怒ってなんかないけど。遠坂、馴れ合いはしないんじゃなかったのかよ」

 

じろ、と横目で睨む。

遠坂はへ? なんて目を点にしたあと、なんか、とんでもなくゾッとする笑顔をしやがった。

 

「協力体制を決めていただけよ。安心なさい、別に貴方のセイバーをとったりしないから」

 

「!!」

 

カア、と顔が赤くなるのが判る。

遠坂に言われて、自分が何に怒っていたのかに気づいてしまった。

 

「お、おま、おまえーー」

 

「あら違った? ならごめんなさいね、衛宮くん」

 

「く、この……勝手に言ってろ!」

 

だっ、と残りの料理を取りに台所まで撤退する。

……うぅ、完全に負かされた。

遠坂はにやにやと笑ったままだし、セイバーは相変わらず無表情だし。

……はあ。この先、この面子でやっていけるのか本気で不安になってきた……。



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今後の方針

気が着いたら棒が黄色くなってました~~~!!!!!
めちゃくちゃ嬉しいです。
この作品を評価してくれた皆様には感謝してもしきれません
本当にありがとうございます!!!!!!!!!!!!


そんなこんなで夕食が始まった。

 

「……」

 

こっちは無言で通している。

さっきの事もあって、ここで遠坂と話をするのも癪に障るし、セイバーの顔を見るのも気恥ずかしかった。

 

「…………」

 

セイバーは黙々と食事を進めている。

その仕草は上品で、とても剣を振るっていた少女とは思えない。

それに、なんていうか。

 

「…ふむ。…ふむ、ふむ」

 

手をつけてない料理を口に運ぶたび、こくこくと頷いたりする。

その仕草は凄く見覚えがあるものだった。

アルトねぇも新作料理を食べるといつも頷いていた。

おそらくは美味しいという意思表示なのだろう。

ちなみに、きちんと箸を持てた。

 

「……」

 

一方遠坂はと言うと、

 

「よし、これなら勝った……!」

 

なんて、一口食べただけで握り拳をする始末だ。

 

「ふふ、明日を見ていなさいよ衛宮士郎……!」

 

ふるふる、と握った拳を震わせる遠坂。

 

「……」

 

ゴッド。

俺、なんか悪いコトしましたか。

 

「あのな、さっきの話だけど」

 

「「?」」

 

二人同時に顔をあげる。

 

「っ!」

 

待て、待て待て待て待て。

一人でさえ緊張するっていうのに、二人同時に反応するなっていうんだ。

 

「さっきの話って、何のことよ」

 

「……だから今後の方針ってヤツ、人が飯作ってる時に話してただろ」

 

「まずは他のマスターを捜す、という事ですか?」

 

「そうそれ。具体的にはどうするのかなって思って」

 

「どうするも何も、地道に捜すしかないでしょ。

あ、そうだ。士郎、魔術師の気配ぐらいは判る?

なら話は早いんだけど」

 

「判らない。二年近く学校にいて、遠坂が魔術師だったなんて知らなかったんだぞ、俺」

 

「やっぱりそうなのね。……ま、それはいいわ。

どうせ他の連中はみんな気配を絶ってるだろうし、魔術師の気配から辿る線は無理っぽいもの。

セイバーはどう? サーヴァントはサーヴァントを感知できるっていうけど」

 

「多少はできますけど、あくまで身近で能力を行使している場合だけです。

私では半径二百メートルほどしか捉えられません」

 

「なるほどね。じゃあますます相手の出方を待つか、どこかおかしな場所を探すしかない。

マスターが何か行動すれば、その痕跡は残るもの。

私たちはそれを探り当てるってわけ」

 

「つまり、町中を調べろって事か?」

 

「いいえ、それは止めた方がいいわ。

あっちも網を張ってるから、そんなことしたら一発でマスターだってバレるわよ。

とりあえずは、こっちの態勢が整うまでは後手に回りましょ。

今まで通りに生活してマスターだと悟られないこと。

腕の令呪は他人に見られないように隠しておくこと。

できるだけ人気のない所には行かないこと。

日が落ちたらすぐに戻ってくること。

えっと、あとは……」

 

「外出する時はサーヴァントを連れて行くようにしてください。

アーチャーは凛の護衛ができますか?」

 

「それぐらいなら出来るみたいね。

霊体にして待機させておくから私は大丈夫よ。

問題はーー」

 

「私のマスターですね」

 

「そ。ちょっと、聞いてる士郎?

外出する時はちゃんとセイバーを連れて行きなさいよ。

人目につかないようにするのがわたしたちのルールだけど、中には昼間っから襲いかかってくるバカがいるかもしれない。

そういう時に備えて、セイバーとは一緒にいなさいよね」

 

「ーーわかった、努力はする」

 

気乗りのしない返事を返す。

言っている事は分かるけど、セイバーといつも一緒にいる、というのは抵抗がある。

遠坂を相手にするのも緊張するけど、セイバーはそれ以上に緊張する。

……いや、緊張というのは違うか。

セイバーと話をするのは、ともかく苦手なのだ。

 

「なにか?」

 

「ーーなんでもない。おかわりならつぐから、茶碗よこせよ」

 

「いえ、結構です。実に見事な味付けでした、シロウ」

 

「っ!」

 

思わず視線を逸らす。

……こんな風にまともに顔を合わせられないんだから、いつも一緒になんていられるもんか。

 

「あ、でもダメか。セイバーは霊体になれないんだから、学校まで付いて来られない」

 

「学校……? シロウは学生なのですか?」

 

「そうだけど……あ、そうか。

セイバーは生徒じゃないんだから、学校には入れない。

……学校に行っている間は、うちで待機してもらうしかないかな」

 

「……学校に行かない、という事は出来ないのですか、シロウ」

 

「できないよ。普段通り生活しろってんなら、学校には行かなくちゃ。それに学校に危険はない。

あれだけ人がいる場所ってのもそうはないぞ」

 

「ですが」

 

「大丈夫よセイバー。

学校にはわたしだっているんだから、もしもの時はフォローするわ」

 

「だから、もしもの時なんてないって」

 

「……分かりました。マスターがそう言うのでしたら従います」

 

セイバーは納得のいかない様子で、とりあえずは頷いてくれた。

 



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虚勢

夜が更けていく。

遠坂はこっちが後片付けをしている隙に、勝手に風呂を沸かして入っていたようだ。

まったく、初日から随分なやりたい放題だと思う。

 

「……今後の為にも、早いうちに主導権を握っておくべきだろうな……」

 

などとわかってはいるのだが、アイツからイニシアチブを奪うのはとんでもなく困難な気がする。

 

「……はあ。困難ついでに言えば、頭が痛いのがもう一人いるんだよな……」

 

いや、むしろそっちのが本命だろう。

遠坂は話せば分かってくれるが、そっちは話しても分かってくれそうにない。

 

「……セイバー、か。悪いヤツじゃないっていうのだけは分かるんだけど」

 

セイバーは部屋に戻っている。

遠坂も今頃は別棟の客間で休んでいるだろう。

居間にいるのは自分だけだ。

就寝までまだ時間があるし、今は少しでもセイバーと話をするべきだろう。

……正直、少しでも苦手意識を克服しておかないと、先行きが不安で仕方がない。

だいたい、サーヴァントだろうが何だろうが相手は年下の女の子だ。

話せば色々と見えてくる事もあるだろうし、なにより、

 

「……早いとこ慣れないと、いつまでたっても遠坂に冷やかされる……」

 

うん、それは困る。

困るので、できればもう少し気軽に話せるようにならなくては。

 

ーーー

 

自分の部屋に戻ってきた。

この部屋の隣、襖一枚隔てた向こうがセイバーの部屋である。

 

「……セイバー、起きてるか?」

 

「起きています。何かありましたか、マスター」

 

音もなく襖を開けて、セイバーが現れる。

 

「ーーう」

 

実際目の前にして、どくん、と高鳴る心臓を抑えつける。

……落ち着け。俺は別に、マスターとして彼女に話を聞くだけなんだから。

 

「シロウ?顔色が優れませんが、傷が開いたのですか?」

 

「あーいや、そんな事はない。体の方はとっくに大丈夫だ。それを言うならセイバーの方こそいいのか」

 

「はい、問題はありません。今の状態では完治まで時間はかかりますが、このままでも平均値はクリアしていますから。バーサーカー以外の相手ならば、互角に渡り合えるでしょう」

 

そこに虚勢は感じられない。

彼女はただ、事実を述べているだけなのだろう。

 

「……」

 

返す言葉はなかった。

セイバーの発言はマスターとしては頼もしい限りなんだろうが、俺はーーーこんな華奢な少女に、戦って欲しくはない。

 

「その、一つ訊くけど。セイバーは戦うこと以外に何か目的はないのか?

せっかく現代(ここ)にいるんだから、他にしたい事とかあるだろ」

「他の目的、ですか……?

そのような事はありませんが。

サーヴァントは戦う為だけに呼び出された者です。

それ以外の目的など余分なだけだ。

シロウの発言は、ひどく的が外れています」

 

だろうな。

今のは戦う為だけに呼び出されたヤツに、戦うなって言ってるようなものなんだから。

俺だって別にそんな事を言いたい訳じゃない。

ただ、なんていうかーーセイバーには人間味が欠けている。

戦う為ならそれでいいんだろうが、彼女はちゃんと人間として目の前にいるのだ。

なら、戦う為だけになんていうのは間違っている。

セイバーはここにいるのなら、ちゃんと自分の楽しみを持たないと嘘だと思う。

 

「なあセイバー。サーヴァントってのは過去の英雄なんだろ。ならーーー」

 

そうなる前のセイバーはどんなヤツだったのか、と訊こうとして思いとどまった。

 

“ーーー私の真名は教えられません“

 

昼間、セイバーは俺たちだけの秘密と言った。

なら昔の彼女の事を尋ねたところで、セイバーが答えてくれる筈もない。

 

「シロウ? 言いかけて止めるのはよくありません。

必要な質問なら答えますが」

 

「ーーいや、今のは忘れてくれ。

バカなコトを口走りそうになっただけだ」

 

視線を逸らして、そう誤魔化した。

……本当に馬鹿な話だ。

俺はセイバーの正体になんて興味はなかった筈だし、セイバーは教えられないからこそ断ってきたのだ。

それをここで蒸し返したら、意味のない質問を繰り返す駄目マスターぶりを証明する事になる。

 

「…………」

 

けど、それ以外に話す事といったら何があるだろう?

セイバー本人の事が聞けないのなら、残る話題は自分の事ぐらいだ。

……そんなの、それこそ無意味ではなかろうか。

 

「ーーーむ」

 

こうなったら自棄(ヤケ)だ。

セイバーの正体について聞けないんなら、セイバーの好きな物とか、明日の朝飯は何がいいかとか、もうセイバーに白い目で見られるのを覚悟してつまんないコトを話題にしてやるーーー

 

「シロウ。貴方から質問がないのなら、私から訊ねていいでしょうか」

 

「え? いいけど、なに」

 

「昨夜の事です。シロウは私を助けようとしてバーサーカーに打ち倒されました。それは覚えていますね?」

 

「覚えているけど……なんだよ、朝の続きをしたいのか?

軽率な行動だったってのは判ってるから、あんまり思い出させないでくれ。吐き気がぶり返してくる」

 

「それは私も同じです。ですがこれは、貴方という人間を知る為に訊いておくべき事だと思う。

シロウ。貴方はなぜバーサーカーに向かったのです。

近寄ればどうなるか、シロウには判らなかったのですか?」

 

「それはーーー」

 

そんな事は判っていた。

近寄れば絶対に殺されると理解していた。

それでもセイバーを助けようとしたのは、もしかしたら助かるかもしれない、なんて楽観をもっていたからじゃない。

……あれは、ただセイバーを助けようと思っただけ。

 

その後の事なんて知らない。

あの時、衛宮士郎にとって最も優先すべき事が、セイバーを助ける事だった。

……恐らく。

あの瞬間、自分の中にあった“殺される“という恐怖より、セイバーを“救えない“という恐怖の方が、遥かに強かっただけの話。

 

「……悪い、忘れた。

一瞬の事だったからな、その時の考えなんて分からない。

きっと気が動転していたんだ。

そうでもなけりゃあんな特効はできない」

 

セイバーの目があまりにも真剣だったからだろうか。

ありのままの心を口にせず、その場しのぎのごまかしを口にしていた。

 

「……つまり、ただ自然に、私を助けようとしたのですね」

 

「ーー自然じゃない。気が動転してたって言っただろ。

もう一回あんな事になったら、その時はきっとガタガタ震えてる」

 

「そうですね。それが正常な人間です。

らの命を無視して他人を助けようとする人間などいない。

それは英雄と呼ばれた者たちでさえ例外ではないでしょう。

ですからーーーそんな人間がいるとしたら、その人物の内面はどこか欠落しています。

その欠落を抱えたまま進んでは、待っているのは悲劇だけです」

 

「…………」

 

深い緑の瞳が何かを訴えている。

……それを、

 

「ーーーしつこいぞセイバー、あれは気の迷いだっていってるだろ。

俺だって死ぬのは怖いんだ、そんな聖人君子になんてなれるもんか。

……次にあんな事になったら、その時はセイバーより自分を優先させるさ」

 

心にもない言葉で、懸命にはね除けた。

 

「それは良かった。

私の思い違いなら問題はないでしょう。

ええ、確かにシロウは臆病です。

道さえ間違えなければ、きっと正しい魔術師になれる」

「む。なんだよ、臆病に見えるのか、俺」

 

「ええ、とても。置かれた状況を受け入れる為に努力する当たりが特に。

そういった賢明さを、時に臆病と言うのです。

恐れを知らない者は賢者になれないのと同じですね」

 

安心したのか。

確かに微笑んで、セイバーはそう言った。

 

「…………」

 

その仕草は可憐で、あまりにも優雅だったからだろう。

それきり何を話すべきかも思い付かず、セイバーとふたり、部屋で時間を過ごす事になった。




気が着いたら何人かの方に新しく評価して頂きありがとうございます!!!!!!!!!!!!!
とても嬉しいです


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夜の鍛練

……そうして深夜。

セイバーと何を話すでもなく、別棟にいる遠坂と話すでもなく、なし崩し的に就寝時間となった。

時刻は午後十一時。

屋敷の電灯は消え、床についた住人は明日に備えて眠りに落ちる。

……。

…………。

………………。

 

「ーーーーー眠れん」

 

ぱちり、と横になったまま目蓋を開く。

眠り慣れた自分の部屋だが、今日は今までとは勝手が違う。

 

「……くそ。なんだって、こうーーー」

 

静かなクセに、隣の部屋にいるセイバーの寝息が聞こえてくるんだろう。

ああいや分かってます、音がしないぐらい静かだから隣の部屋の音が聞こえるって道理な訳で、音が聞こえるって事はセイバーの寝姿も勝手に妄想されてしまうのだ。

 

「……ええい、ちくしょう……!こんな状況で眠れるもんか……!」

 

こんな針のむしろはもう御免だ。

セイバーを起こさないように布団から出て、ところに待避しよう。

 

「……助かった。セイバー、気づくと思ったけどわりと鈍感なんだな」

 

それとも眠りが深い性質なのか。

そんなんでマスターを守れるのかとも思ったが、今は危険なんてまったくない。

サーヴァントというのもがマスターと繋がっているのなら、マスターが窮地に陥った瞬間に目覚めるのだろう。

 

「遠坂は……寝てるみたいだな」

 

別棟の明かりは消えている。

開き直っているのか、もともと順能力が高いのか。

遠坂はわずか一日で、うちの空気に慣れたようだ。

 

「……まあ、実際助かるんだよな、アイツがいてくれると」

 

うん、色々厄介だけど助かる。

そのうちの一つが、手のひらに巻かれた包帯である。

 

「令呪は隠せ、か。言われてみるまで気づかなかった」

 

マスターが持つ令呪は腕のどこかに現れる。

俺の場合は左手の甲。

服で隠す事も出来ないので、不自然だが包帯を巻いて隠している。

 

「……冬だし。長めの長袖を着て誤魔化そう」

 

遠坂は俺とは逆で、右腕の真ん中あたりにあるとかないとか。

令呪の形はマスター毎に違うというが、遠坂の令呪を見るような事はないだろう。

土蔵は静まり返っている。

昨日俺とアルトねぇがランサーに追い詰められた場所であり、セイバーが現れた場所だ。

 

入り口は開かれたままで、内部の闇は来る者を拒むように黒々としていた。

それも自分にとっては馴染み深い暗さである。

幼いころからの遊び場、衛宮士郎にとって本当の自室ともいえる古い建物は、冬の夜空のしたでひっそりと佇んでいた。

 

……中に入る。

扉を閉めて外気を遮断し、おんぼろなストーブに火を入れた。

 

「そうだな。今日ぐらいは休もうと思ったけど、却下しよう。二日連続でサボったら親父にどやされる」

 

土蔵の真ん中に腰をおろして、すう、と深く息を吸った。

……鍛練は間を置かず続けるもの。

自分にとって魔術とは精神鍛練に他ならないのだから、ちょっとやそっとの事で怠る訳にはいかない。

 

「ふぅーーーふ」

 

……呼吸を整えて修練を開始する。

脳裏にはいつもの映像。

空っぽの頭に浮かび上がる剣の姿。

 

「…………」

 

それを無視して、思考を更にクリアにしていく。

全身に魔力を通したら、あとはお決まりの“強化“の練習。

昨夜、ランサーに襲われて何年かぶりに成功した強化の魔術。

その感覚を忘れないうちに繰り返して、確実にモノにしなければ勿体ない。

 

「……同調(トレース)開始(オン)

 

目を半眼にして肺の中身を絞り出す。

 

ーーー今はそれだけ。

 

聖杯戦争の事も、遠坂の事も、この工程に没すれば全てなくなる。

未熟な迷いを忘れるほど思考を無にすれば、自ずと、一夜の眠りぐらい訪れてくれるだろうーーー



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朝の来客

白い陽射しを感じた。

隙間風だろう、冷たい外気が頬にあたって、ぼんやりと目が覚めた。

 

「あれ……土蔵だ、ここーーー」

 

体を起こして、目覚めたばかりの頭を二、三回振る。

 

「そうか。昨日、そのまま眠っちまったんだ」

 

夜の日課……自分の体にもう一つの感覚を付属させる鍛練の後、部屋に戻るのが面倒になったのだろう。

 

「外の様子だと6時前ってところか。……いかん、朝飯の支度しなきゃ」

 

毛布を折り畳み、昨日も失敗に終わった“強化“の破片を片付けて、顔を洗いに屋敷へ向かう。

 

「ーーーさむ」

 

土蔵から出れば、外の気温は輪をかけて低かった。

冬でも暖かい深山町だが、こっち側の山の上だけはまっとうな冬の寒さを持っている。

 

で。

氷水めいた水道水で顔を洗って、とりあえずスッパリと覚醒する。

 

「ーーーーーよし」

 

完全に目が覚めた。

そうなってみると、自分がどんな状況に置かれているのかなんて、考えたくない事が浮かんでくる。

 

「……そうだ。のんきに顔を洗ってる場合じゃなかったけ……」

 

時刻は朝の五時五十分。

やるべき事は山ほどあるが、まずは部屋に戻ってセイバーの様子を見なくては。

 

「……だよな。

黙って部屋を出た事になるんだし、一言説明しておかないと」

 

セイバーに変な勘違いをされるのも困る。

……深夜、眠る前に土蔵に行くのは日課なんだし、説明すれば納得してくれるだろう。

 

「セイバーにちゃんと説明したら、その後は朝飯の支度だろ。……遠坂は食べないらしいから、セイバーの分を足せばいいか」

 

あ。そっか、それなら増えた人数分の材料を買い込んでおかないと。

忘れないうちにメモをとっておくべきだな。

 

「……む? 忘れ物……?」

 

なんだろ。

何か一つ、とんでもなく重要なコトを忘れている気がするのだがーーー

 

「やば、六時だ。急がないと間に合わない」

 

ま、思い出すのなら大したコトじゃあるまい、うん。

 

「……」

 

そーっと扉を開ける。

部屋の様子は昨夜のままだった。

夜のうちにセイバーが目を覚まし、こっちの部屋を捜した形跡はない。

部屋を抜け出した事は気づかれなかったようだ。

 

「……なんか拍子抜けだな。セイバーならそれぐらいは気が付くと思った」

 

それとも、今の彼女はそんな事に気が付かないほど、深い眠りを必要としているのか。

 

「……そうか。

体を維持する為に頻繁に眠るって言ってたのは、そういう事かもしれない」

 

だからこそ出来るだけ身近で眠って、何かあったときすぐに駆けつけられるようにしているのだ。

 

「……」

 

どちらにせよ、屋敷の中にいる限りは何処にいようと大差はない。

 

「……そうだよな。

それに土蔵だったら隠れる場所には事欠かないし」

 

とりあえず、昨夜の行動はそう怒られるような事ではないだろう。

セイバーに事情を説明しようと思ったが、その必要はないようだ。眠っているのなら無理に起こすのもアレだし。

 

「セイバー、朝飯の支度をしてくる。

セイバーの分も用意しとくけど、眠かったら無理に起きなくていいからな。

また後で来るから、それまで休んでてくれ」

 

一応きちんと声をかけて、静かに部屋を後にした。

 

ーーー

 

居間には誰もいない。

とりあえず冷蔵庫を開けて、今朝は何にしようかと案を練る。

 

「ーーーおはよ。朝早いのね、アンタ」

 

思いっきり機嫌が悪そうな顔で、遠坂がやってきた。

 

「と、遠坂……? どうした、何かあったのか……!?」

 

「別に。朝はいつもこんなだから気にしないで」

 

遠坂はゆらゆらと、幽鬼のような足取りで居間を横切っていく。

 

「おい、大丈夫かおまえ。

なんか目付きが尋常じゃないぞ」

 

「だから気にしないでって言ってるでしょ。顔でも洗えば目が覚めるわ。……えっと、ここからだとどういくんだっけ、脱衣所って」

 

「そっちの廊下からのが近い。

顔を洗うだけなら、玄関側の廊下に洗面所がある」

 

「あー、そういえばあったわね、そんなのが」

 

どこまで聞こえているのか、遠坂は手を振りながら去っていった。

来客を告げる呼び声が聞こえた。

 

「士郎ーーー? 誰か来たけどーーー?」

 

廊下から遠坂の声。

 

「ああ、気にしないでいいー!

この時間に来るのは身内だからー!」

 

この時間に来るのなら桜だろう。

桜なら合い鍵を持ってるし、玄関まで出る必要はない。

 

「……まったく。

チャイムなんて押さなくていいって何度言ってもきかないんだからな、桜は」

 

桜は家族みたいなもんなんだから、チャイムなんか押さずにドカドカと入っていいのだ。

なのに桜は礼儀正しく、必ずチャイムを押して『お邪魔します』と一声かける。

それが桜の美点なんだろうが、そんなにいつも気を遣ってたらいつか参ってーーー

 

「……」

 

って、ちょっと待った。

桜が、うちに、やってきた……?

 

「っっっっっっ………………!!!」

 

廊下を走る。

自分の間抜けさを叱るのは後だ。

とにかく玄関に急いで、遠坂と顔を合わす前に帰ってもらわないとーーーーー!

 

「ハッ……ハッ……!」

 

が、時すでに遅い。

玄関には、

 

「」

 

頼まれもしないクセに客を出迎えている遠坂と、

 

「ーーーーえ?」

 

ぽかん、と驚いている桜の姿があった。

桜は玄関の土間、遠坂は廊下。

二人はなんともいえない緊張感を持って、お互いを見つめていた。

 

「おはよう間桐さん。

こんなところで顔を合わせるなんて、以外だった?」

 

廊下から、桜を見下ろすように遠坂は言う。

 

「ーーー遠坂、先輩」

 

どうして、という顔。

桜は怯えを含んだ目で遠坂を見上げている。

 

「…………」

 

まいった。

声がかけられない。

二人は駆けつけた俺を無視して、お互いだけを観察している。

そこに俺が口を挟む余地なんてない。

出来る事と言ったら桜にどう説明しようか考える事ぐらいなんだが、うまい説明を考えつく前に、

 

「先輩……あの、これはどういう……」

 

助けを求めるように、桜がこちらに視線を逸らした。

 

「ああ。それが、話すと長くなるんだけどーーー」

 

「長くならないわよ。単に、わたしがここに下宿する事になっただけだもの」

 

きっぱりと。

人の言葉を遮って、遠坂のヤツ、要点だけを言いやがった。

 

「……先輩、本当なんですか」

 

「要点だけ言えばな。

ちょっとした事情があって、遠坂にはしばらくうちに居てもらう事になった。

……ごめん、連絡を入れ忘れた。

朝から驚かせてすまなかった」

 

「あ、謝らないでください先輩っ。……その、たしかに驚きましたけど、そんなのはいいんです。

それより先輩、この事はアルトレアさんにはーーー」

 

「ああ、それは大丈夫。

アルトねぇも遠坂がうちに泊まるのは容認してる」

 

「……そう、なんですか」

 

「わかったかしら、間桐さん

家主のアルトレアさんと士郎が同意したんだから、もう決定事項なの」

 

「……わかるって、何がですか」

 

「今まで士郎の世話をしていたみたいだけど、しばらくは必要ないって事よ。来られても迷惑だし、来ない方が貴方の為だし」

 

「…………」

 

桜は俯いて口を閉ざしてしまう。

そのまま凍り付いたような静寂が続いたあと。

 

「…………わかりません」

 

「えーーーはい?」

 

「……遠坂先輩のおっしゃる事がわからないと言いました。

それに、アルトレアさんや先輩が泊めるのを許可したとしても、イリヤ先輩や藤村先生にもちゃんと説明したんですか? どうなんですか……先輩」

 

「うっ、確かにそう言われたら言い返す言葉もない」

 

「それなら、ちゃんと藤村先生たちにも説明しないと私みたく混乱しちゃいます」

 

桜はそう言った後に遠坂の目の前に移動し、耳元に顔を近づける。

 

「……私は認めません

私の居場所をこれ以上奪わないで」

 

桜が遠坂に何か言っているのだろう。

生憎と桜の声は聞こえない。

何か二人で秘密の話をしているのだろう。

 

「ちょっ、ちょっと桜、アンターーー」

 

「お邪魔します。先輩、お台所お借りしますね」

 

桜はぺこりとお辞儀をして家に上がると、遠坂を無視して居間へと行ってしまった。

どうやら二人の話も終わったらしい。

 

「なーーーー」

 

呆然と立ち尽くす遠坂。

それはこっちも同じだ。あんな桜を見たのは初めてで、なんて言ったものが判断がつかない。

……いや、それも驚きだけど、今はもう一つ意外な事がある。

 

「おい遠坂。おまえ、どうして桜が俺んちに来てるって知ってたんだよ。今まで桜が俺の世話をしてたなんて、おまえに言ったおぼえはないぞ」

 

「えーーー?ああ、それなら前にちょっと小耳に挟んだだけよ。ただの偶然。

それより驚いたわ。あの子、ここじゃあんなに元気なの?

学校とじゃ大違いじゃない」

 

よっぽど意外だったのか、遠坂は学校での桜をそれなりにしっているのだろう。

桜の方も遠坂とは顔見知りだったみたいだし、知らない所で二人はいい先輩といい後輩だったのかも知れない。

……まあ、それはいいとして。

 

「いや、俺も驚いている。

あんなに刺々しい桜は初めて見た。

うちに手伝いに来てくれる時と、学校での桜は変わらないよ。今のは鬼の霍乱ってのに票を投じる」

 

「ーーーふうん、そうなんだ。……まずったわね、桜があんなに意固地だとは知らなかったわ。こうなるんなら士郎の口から説明させればよかった」

 

そりゃそうだ。

遠坂の容赦ない説明に比べれば、俺の方が幾分ましだろう。

 

「……済んだことは仕方がないだろ。

それよりまずいって何がだよ」

 

「そりゃまずいでしょう。これからこの家は戦場になるのかもしれないのよ? だからわたしたち以外の人間を寄せ付けないにって桜をたしなめたのに、あれじゃ逆に追い出すのが難しくなったじゃない」

 

「あれでたしなめてたのか。

俺はてっきりイジメてるのかと思った」

 

「そこ! なんかつまんないコト言った、いま!?」

 

「率直な感想だよ。

それより桜の事だ。どうする、あの分じゃ帰ってくれそうにないぞ」

 

「そんなのなんとかするしかないでしょ。で、桜が来るのは朝だけ? それとも夕食もこき使ってるの?」

 

「誤解を招くような言い方をするなよな。

朝は毎日だけど、夕飯はそう多くないぞ」

 

「そう。それじゃ、これからは毎日になりそうね」

 

「?? 毎日って、何がさ」

 

首をかしげて質問する俺に、遠坂はこれみよがしに、はあ、なんて溜息をこぼしていた。



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虎の襲来

その後。

遠坂は居間に残り、桜は無言で朝飯の支度を初めてしまった。

居間で遠坂と桜はふたりきりにするのは不安があったが、こっちもセイバーの事を忘れるほど間抜けじゃない。

どうも桜は遠坂がいることに怒っているみたいだし、ここでセイバーが出てきては話が更にこじれる。

 

こじれるので、セイバーには事情を説明する事にした。

 

「……という訳なんだ。

桜ーーーあ、いまうちに来てくれる子は桜って言うんだが、桜は魔術師でもなんでもない普通の子で、聖杯戦争なんかに巻き込むわけにはいかないだろ。

できれば知らないままで、しばらくうちから離れていてほしいんだがーーー」

 

違うっ、どうしたら離れてくれるだろうなんて相談しにきた訳じゃないっ!

 

「だからだな、今朝の桜はどうもおかしいんだ。

遠坂が原因なんだが、そこに追い打ちをかけるのもどうかと思う。ああいや、だから桜は見知らぬ他人がうちにいる事に驚いているんだ。そこにセイバーが出てくるとさらにおかしくなりそうなんだが、まて、俺なんかセイバーに失礼なコト言ってないか……?」

 

「いいえ、シロウの言いたい事は判ります。つまり、私はここで待機していれば良いのですね?」

 

「ーーー! そう、そうしてくれると助かる! 桜を送り出したらすぐに戻ってくるから、朝食はその時で」

 

ええ、と静かに頷くセイバー。

いや、セイバーが物わかりのいいヤツでもの凄く助かった。

居間の様子も気になるし、急いで戻ることにしよう。

 

「ーーーシロウ」

 

「ん? 何だ、セイバー」

 

「はい。そのような事を私に説明する必要はありませんが、もう少し落ち着くべきです。先ほどからシロウの言動は破綻しているかと」

 

「えーーー慌ててるか、俺?」

 

「とても。居間に戻るのでしたら、その前に気を落ち着けることです」

 

セイバーは静かに、いつもの調子でそんな助言を口にした。

 

で。何事もなかったかのように、いつもの朝食が始まった。

 

「どうぞ先輩。遠坂先輩もいかがですか?」

 

ご飯を盛ったお茶碗を差し出す桜は、いつも通りの桜だった。

俺がいない間に何があったかは知らないが、二人の間にあった緊張感は薄れている。

いやまあ、とりあえず表面上は。

 

「……ん。じゃ、お言葉に甘えて」

 

遠坂は少し戸惑ったあと、桜からお茶碗を受け取った。

桜はにっこりと笑ってみそ汁、卵焼き等のおかず軍団を並べていく。

目の前に並べられていくそれを、遠坂は複雑そうな顔で見下ろしていた。

 

「遠坂。おまえ、朝飯は食べない主義じゃなかったっけ」

 

「用意されたものは食べるわ。当然の礼儀でしょう、それって」

 

「……ま、いいならいいか。それじゃいただきます。それと、結局支度を任せてすまなかったな桜」

 

「いえ、これがわたしの仕事ですから気にしないでください。じゃあわたしもいただきますね」

 

「まったく良い身分だこと。後輩に朝食作らせるなんてどこの王侯貴族なんだか。ま、それは追々問いつめるとしていただきます」

 

三者三様のていでお辞儀をして、いざ朝食。

……。

…………。

………………。

……………………いかんな。どうも会話がない。

 

「…………」

 

まあ険悪なムードではないし、そもそもうちの朝食はこんなもんだ。

俺も桜もお喋りな方でなし、飯時が静かなのはいたって道理なのだ。

にも関わらず、どうして衛宮邸の朝食はいつも騒々しいんだろう。

 

「…………?」

 

いま、まて。

なんか、また顔にひっかかったぞ……?

 

「先輩? あの、お魚の味付け濃かったですか……?」

 

「いや、そんな事はないけどな。どうも、さっきから何か忘れてる気がする」

 

なんだろう?

思い出せないコトなら大した事じゃない、と割り切ろうとしたが、それはとんでもない思い違いな気がしてきた。

放っておいたら死に至る病巣を抱えてしまっているような、そんな不安がよぎる。

 

「ーーーま、いっか。どうせ大したコトじゃないんだろ」

 

うん、と無理矢理納得して飯をかっこむ。

 

ーーーと。

 

「おはよー。いやー、寝坊しちゃった寝坊しちゃった」

 

「大河。私とイリヤが何分間も起こしているのに全然起きないのですから」

 

「大河は昔から褒められるのはその睡眠の深さよね

まあ、女性としては欠陥的だけどね」

 

パタパタと音をたてて、藤ねぇがやってきた。

 

「ーーーー」

 

そうか。

思い出せないコトじゃなかったんだ。

ようするに、思い出さないコトで問題を先送りにしたかった訳なのだ。

 

「士郎、ごはん」

 

行儀良くいつもの席に正座する藤ねぇ。

 

「おはようございます、藤村先生」

 

「おはようございます、藤村先生」

 

恐ろしいほどユニゾンする二人の挨拶。

 

「はい、どうぞ先生。大したものではありませんけど、召し上がってください」

 

そして、いつも通りの笑顔でお茶碗を渡す桜。

 

「?」

 

お茶碗を受け取って首を傾げる藤ねぇ。

何が不思議なのだが、どうして不思議なのか分からない。

そんな藤ねぇは、まにょまにょと物静かにご飯を食べる。

かくしてきっかり一杯分の飯を平らげてから、ぼそぼそと俺に耳打ちをしてきた。

 

「……ね、士郎。どうして遠坂さんがいるの?」

 

藤ねぇがそんな事を聞いている間にイリヤとアルトねぇも自分の席に着く、ちなみにイリヤが俺の隣で、アルトねぇが桜の隣に腰を下ろした。

 

「それは、今日からうちに下宿する事になったからかな」

 

淡々と事実だけを説明する。

 

「あ、そうなの。遠坂さんも変わったコトするのね」

 

「うん。あいつ、けっこう変わり者だ。学校じゃ猫被ってる」

 

少し遠坂の方に目を向ければ凄い良い笑顔だ。

だが、目がまったく笑っていなかった

 

「そっかー、今日からここに下宿するのかー」

 

なるほどなるほど、と納得してぐぐーっ、とみそ汁を飲み干す藤ねぇ。

 

「って、下宿ってなによ士郎ーーーーーー!!!!!」

 

どっかーん、とひっくり返るテーブル。

幸運な事に桜は風上、遠坂は当然のように予め移動していて、イリヤとアルトねぇも無事に被害が及ばない所に避難していて、被害は俺だけに集中した模様。

 

「あちーーーー! ななななにすんだよ藤ねぇ! みそ汁だぞ炊きたてのご飯だぞつくね煮込んだ鍋物だぞ!?

こんなもんかけられたら熱いだろっーーーて、何故に朝っぱらから鍋物なぞ……!?」

 

「うるさーい! アンタこそなに考えてるのよ士郎!

同い年の女の子を下宿させるなんてどこのラブコメだい、ええいわたしゃそんな質の悪い冗談じゃわらってやらないんだから!」

 

「笑いをとるつもりなんかねーってば……! っていうか熱! 熱い、火傷する、桜タオルくれタオル!」

 

「はい。冷やしたタオルでしたら用意しておきました、先輩」

 

「士郎。一応、私も氷水を用意したので使ってください」

 

「サンキュ、助かる……! うわ、襟元からつくねが、必要以上に加熱されたつくねがあーーー!?」

 

「タオルや氷水はあと! そんなコトより申し開きしなさい士郎、アンタ本気でそんなコト言ってるの!?」

 

「おう、そんなの当たり前だ。俺がこの手の冗談苦手だって知ってるだろ。

とにかく遠坂はうちに泊めるんだ。文句は聞くけど変更はしないから、言うだけ無駄だぞ」

 

「そんなの大却下! な、なんのつもりか知らないけどダメに決まってるでしょう! お、同い年の女の子と一緒に暮らすなんて、そんなのお姉ちゃん許しません!」

 

があー、と吠える藤ねぇ。

……そりゃあ、まあようだよなぁ。

藤ねぇは俺の保護者だし、かつ学校の先生だし。

こんな状況、竹刀百叩きどころか真剣百回斬りでも済まされるかどうかだし。

それでも無理を通さなくちゃいけないあたりが我が身の不幸というかなんというか。

 

「いや、そこをなんとか。別にやましい気持ちなんてないし、遠坂とはそういう関係でもないんだ。ただ、たまたま事故に遭ったっていうか、成り行きで部屋を貸すコトになっただけなんだってば」

 

「うるさーい! ダメなものはダメなのーーーー!

わたしは下宿なんて許しません! 遠坂さんの事情は知らないけど、ちゃっちゃと帰ってもらいなさい!」

 

うわあ、聞く耳持たねー!

ダメだ、やっぱり俺なんかの説得が通じるほど生やさしい人じゃないのかっ……!

 

「先生。下宿は許しません、とおっしゃいますけど、わたしはすでに一泊してしまったのですが」

 

藤ねぇの頭に冷水ぶっかけるような台詞を、さらりと遠坂は口にした。

 

「ーーーえ?」

 

「ですから、昨日泊めさせていただいたんです。

いえ、正確には土曜の夜からお邪魔していますから二泊でした。今は別棟の客間を借りて、荷物も運んであります。

どうでしょう先生。客観的に見て、私はもう下宿している状況なのですが」

 

「ーーー」

 

さあー、と藤ねぇの顔が青くなっていく。

 

「し、し、士郎、アンタなんてコトするのよぅ……!

こんなコト切嗣さんが知ったらどうなるか分かってるの!?」

 

「どうなるって、親父だったら間違いなく喜ぶぞ。男の甲斐性、とかなんとか言って」

 

「う……同感。切嗣さん、女の子にはとことん甘い人だったからなぁ……そっか、それが遺伝してるんでしょ士郎のばかー!」

 

がくがく、と人の襟を掴んで体を揺さぶる藤ねぇ。

……まあ、遺伝はともかくとして、女の子は守ってあげなくちゃいけないよ、というのが親父の信念だった。

俺も親父ほど振りかざす訳じゃないけど、まったくその通りだって思ってる。

だが、しかし。

 

「なに? 助け船、出してほしいの?」

 

あの冷血漢まで女の子と認識しなくちゃいけないあたり、男っていうのは辛い生き物だと思う。

 

「……頼む。俺じゃあ現状を打破できない。遠坂の政治手腕に期待する」

 

ガクガクと頭を振られながら呟く。

 

「オッケー。それじゃサクッと解決しますか」

 

「藤村先生。衛宮くんを振っても出るのは悲鳴だけですから、そのあたりで止めてあげてください。それに、下手をすると朝ご飯まで出てきかねません」

 

「む……なによ遠坂さん、そんな真面目な顔したって怖くないんだから。教師として、なにより士郎の教育係として、遠坂さんの下宿は認めませんっ」

 

藤ねぇは俺から手を離して遠坂と対峙する。

野生の勘というヤツだろう。

俺にかまっていては遠坂に寝首をかかれる、と察したに違いない。

 

「それは何故でしょうか。うちの学校には下宿している生徒も少なくありません。生徒の自主性を伸ばすのが我が校の方針ではありませんでしたか?」

 

「なによ、難しいコト言ったってダメなんだからっ。だいたいですね、こんなところに下宿したって自主性なんて芽生えません。

ご飯はかってに出てくる、いつもキレイ、お風呂はかってに沸いてるっていう夢のようなおうちなんだから、ここ。こんなところに居候してたら堕落しきっちゃうわよ、遠坂さん」

 

「……藤ねぇ」

 

その発言は、教師としてあまりにも問題が。

 

「それにね、原則として下宿していい生徒は家が遠い生徒だけよ? 遠坂さんのおうち、たしかにここより遠いけど登校できない場所じゃないでしょ。桜ちゃんだってあっちから通ってるんだから、下宿する必要なんてありません」

 

「それが、今うちは全面的な改装を行っているんです。

古い建物ですから、そこかしこにガタがきてしまっているのですが、偶然通りかかった衛宮くんに相談したところ、それはお金が勿体ないからうちを使えばいい、と言ってくれたんです」

 

「むっ……それは、確かに士郎っぽい発言ね」

 

「はい、あまり面識のない衛宮くんからの提案には驚いたのですが、確かにホテル暮らしなんてもったいないし、なにより学生らしくありません。それなら学友である衛宮くんのおうちにご厄介になった方が勉強になる、と思ったのです」

 

「む……むむむ、む」

 

うなる藤ねぇ。

遠坂の返答と態度があんまりにも優等生な為、仮にも教師な藤ねぇは反論できないようだった。

 

「は、話は判りました。けど、それでも問題はあるでしょう? 遠坂さんと士郎は女の子と男の子なんだから、一つ屋根の下で暮らす、というのはどうかと思うわ」

 

「どうか、とはどんな事でしょうか、先生」

 

「え……えっと、だからね、遠坂さんは美人だし、士郎もなんだかんだって男の子だし、間違いがあったらイヤだなって」

 

「何も間違いはありません。私の部屋は別棟の隅、衛宮くんの部屋は蔵の近くにある和室です。距離にしてみれば二十メートル以上離れているじゃないですか。ここまで離れていれば何も問題はないと思いますが」

 

「う……うん、別棟には鍵もかかるし、違う家みたいなものだけど……」

 

「でしょう。それとも藤村先生は衛宮くんを信用していないとでも? 先程、先生は衛宮くんの教育係だと仰いました。なら衛宮くんがどのような性格かは、わたしより藤村先生の方がご存じだと思います。彼がそのような間違いを犯すというのでしたら、わたしも下宿先には選びませんが?」

 

「失礼ね、士郎はちゃんとしてるもん! ぜったい女の子を泣かせるような子じゃないんだから!」

 

「なら安心でしょう。わたしも衛宮くんを信用していますから。ここなら、安心して下宿できると思ったのです」

 

「むーーーーーー」

 

藤ねぇから迫力が消えていく。

……勝負あったな、こりゃ。

まだ色々とつっこみどころはあるけど、遠坂なら全部論破できるだろうし。

とりあえず、これで遠坂は晴れてうちの市民権を獲得できたって訳か……。

 



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登校

ーーーそうして朝食は終わった。

 

こっちの予想通り、藤ねぇは遠坂にことごとく言い負かされて撃沈。

結論としては、学校では極力秘密にして、家では藤ねぇが監督するって事で決着。

そうと決まれば人数が増えて嬉しいのか、藤ねぇは上機嫌で学校に行ってしまった。

 

朝食を終えて、学校に行く前にセイバーに声をかける。セイバーはやはり冷静に、

 

「学校では凛の指示に従うように。

危険が迫った時は私を必要としてください。

それでマスターの異常は感じ取れますから」

 

と、実にあっさり部屋に戻っていった。

 

そんなこんなで登校時間。

 

「それじゃ行きましょうか。

このあたりの道は不馴れなんだから、学校までの近道ぐらい教えてよね」

 

となりには制服姿の遠坂凛。

……もう薄れつつあるが、それでも制服を着た遠坂は優等生然としていて緊張する。

学校一の美人と一緒に登校するっていうだけでも冷静でいられないのに、くわえて

 

「先輩。戸締まり、できました」

 

「士郎~~、早くしなさ~い」

 

今日はイリヤに桜まで一緒だった。

弓道部員の桜は、本来なら藤ねぇと一緒に登校する。が、今朝は何を言うでもなく居間に残り、朝食の後片づけをして俺が登校するのを待っていた。

イリヤはいつも通りに俺を待っていた。

たまに、イリヤは友達との用事があると先に行ってしまうこともあるが、今日はどうやら違ったらしい。

 

「え、なに? 桜に鍵持たせてるの、士郎ってば?」

 

「持たせてるよ。桜は悪いコトなんてしないし、ずっと世話になってるからな。……ああ、その分でいくと遠坂にはやれないが、別にかまわないだろ」

 

「……それは構わないけど。どういう意味よ、それ」

 

「悪いコト、するだろ。それにおまえ、鍵なんかなくても困らないんじゃないのか?必要ないモノを作るほど酔狂じゃないぞ、俺」

 

「ーーーあっそうですかっ。ええ、士郎の言うとおりこれっぽっちも要らないわよそんな物!」

 

ふん、と顔を逸らす遠坂。

慣れてきたのか、遠坂のこういう仕草も味があるなー、

と素直に思う。

 

「…………」

 

「? どうした桜、戸締まりが出来たのなら行こう。

今朝は遠坂もいるし、出来るだけ早めに行きたいんだ」

 

「はい、そうですね。先輩がそう言うのなら、そうします」

 

元気のない声で言って、桜は俺たちの後に付いてくる。

 

「バカ士郎」

 

「え? なんだってイリヤ」

 

「ふん! なんでもな~い」

 

……まいったな。

藤ねぇが遠坂に言い負けてから、桜とイリヤは妙に元気がない。

藤ねぇは納得しても桜やイリヤは納得してないのだろう。

 

「……ちゃんと話さないとダメかな……」

 

そうだな。出来るだけ早くに機会を作って、桜とイリヤにも遠坂と仲良くしてもらわないといけないかーーー

 

坂道は生徒たちで賑わっている。

時刻は朝の七時半過ぎ、登校する生徒が一番多い時間帯だ。

そんな中、

こんな目立つ面子と歩いていようものなら、そりゃあ周りから奇異の目でみられまくる。

 

「………………」

 

何か忘れ物でもしたのか。

遠坂はさっきからこんな調子で黙っている。

 

「どうした遠坂。なんか坂道あたりから様子が変だぞ、おまえ」

 

「え……? やっばりヘン、今朝のわたし?」

 

「いや、別に変じゃないが、その反応が変だ」

 

「先輩、その説明は矛盾してます。遠坂先輩が訊いているのはそういうコトじゃないと思いますけど……」

 

「? 何を訊きたがってるっていうんだよ、遠坂は」

 

「士郎、凛は周りから見られているから、どこか自分の姿がおかしいのでは、とおもってるんじゃないかしら?」

 

「そ、そうだけど、やっぱりイリヤ先輩から見てもヘンですか?

おかしいな、今朝は眠いながらもちゃんとブローしたし、制服だってシワ一つないと思うんだけど……やっぱり慣れない家で寝たもんだから目にクマでもできてるってワケ!?」

 

「なんでそこで俺に怒鳴る。

遠坂が寝なれないのは俺の所為じゃないし、仮にそのせいで遠坂の目にクマが出来ていたとしても大したものではありませんコトじゃない。気にするな」

 

「なに失礼なコト言ってるのよ。

女ってのは生まれた時から自分の身だしなみを気にするものなの!

ああもう、今まで外見だけは完璧でいようって取り繕ってきたのに、それも今日でおしまいってコトかしらね……!」

 

「だから、なんで俺を見て怒鳴るんだよ遠坂は。

なんで遠坂が変なのかは知らないが、間違いなくそれは俺のせいじゃない。八つ当たりは余所でやってくれ」

 

「違いますよ遠坂先輩。

先輩は今日も綺麗です。

みんなが遠坂先輩を見ているのは、わたしたちと一緒だからです。先輩、今まで誰かと登校した事なんてなかったから」

 

「え……? なに、その程度の事でこんな扱い受けるわけ? ……侮れないわね。十年も通ってれば学校なんてマスターしたつもりでいたけど、謎はまだ残ってたわけか」

 

ふーん、と真剣に考え込む遠坂。

つーか、今日も綺麗ですっていう賛美を当然のようにスルーするおまえは何物か。

 

「……わかんないヤツだな。遠坂が誰かと登校すれば騒ぎになるのは当然じゃないか。それが男子生徒なら尚更だ」

 

「ですね。けど遠坂先輩、そういうの気にしない人なんです。だから今まで浮いた話ひとつなかったんですよ」

 

「へえ……そりゃ良かった。外見に騙されて泣きを見た犠牲者は、いまのところ一人だけってコトだからな」

 

周囲の視線にさらされながら校門をくぐる。

校舎に入ってしまえばそれぞれ別行動だから、周りの目もそれまでの辛抱だろう。

 

「……ふん。朝から頭いたいのがやってきちゃってまあ」

 

ぼそり、と遠坂が呟く。

遠坂の視線の先には、登校する生徒たちを邪魔そうに押しのけてくる顔見知りの姿があった。

 

「桜!」

 

「あ……兄、さん」

 

びくり、と体を震わせる桜。

慎二は俺たちの事など目に入ってないのか、早足で一直線に桜まで近寄った。

 

「どうして道場に来ないんだ! おまえ、僕に断りもなく休むなんて何様なわけ!?」

 

慎二の手があがる。

それを、

 

「よ、慎二。朝練ご苦労さまだな」

 

掴んで止めて挨拶をした。

 

「え、衛宮……!?

おまえーーーそうか、また衛宮の家に行ってたのか、桜!」

 

「……はい。先輩の所にお手伝いに行っていました。けど、それは」

 

「後輩としての義務だって? まったく泥臭いなおまえは。怪我したヤツなんてかまうコトないだろ。いいから、おまえは僕の言う通りにしてればいいんだよ」

 

ふん、と掴まれた腕を戻す慎二。

……桜に手をあげなければ握っている理由もないし、こっちも何もせずに手を放した。

 

「しかしなんだね、そこまでうちの邪魔して楽しいわけ衛宮? 桜は弓道部の部員なんだからさ、無理矢理朝練をサボらせるような真似しないでくれないかな」

 

「む」

 

それを言われるとこっちは反論できない。

桜がうちに朝食を作りに来てくれるのを止めていない時点で、俺は桜の朝を拘束しているコトになる。

 

「そんなコトありませんっ……! わたしは好きで先輩のお手伝いをしているだけです。兄さん、今のは言い過ぎなんじゃないですか」

 

「は、言い過ぎだって? それはおまえの方だよ桜。衛宮がなんだって言うんだ。別にいいっていうんだからさ、ほっといてやればいいんだよ。

衛宮みたいなのはそっちの方が居心地がいいんだからさ」

 

「兄さん……! ……やだ、今のはひどい、よ……」

 

「ふん。まあいい、今日で衛宮の家に行くのは止めろよ桜。僕が来いって言ったのに部活に来なかったんだ。そのくらいの罰は受ける覚悟があったんだろ?」

 

「ーーーー」

 

桜は息を呑んで固まってしまった。

慎二はそんな桜を強引に連れて行こうとし、

 

「おはよう間桐くん。黙って聞いていたんだけど、なかなか面白い話だったわ、今の」

 

「えーーー遠、坂? おまえ、なんで桜といるんだよ」

 

「別に意外でもなんでもないでしょう。

桜さんは衛宮くんと知り合い、わたしは衛宮くんと知り合い。衛宮くんはイリヤ先輩と兄弟。だから、今朝は四人で一緒に登校してきたんだけど、気づかなかった?」

 

「なーーーえ、衛宮と、知り合い……!?」

 

「ええ。きっとこれからも一緒に学校に来て、一緒に下校するぐらいの知り合い。だから桜さんとも付き合っていこうかなって思ってるわ」

 

「衛宮と、だって……」

 

こっちを見つめる慎二。

……そこに、敵意や殺意ではなく、何処か安堵したような視線を感じたのは気のせいか。

 

「そ、そんなバカな。冗談がきついな遠坂は。君が衛宮なんかとつき合う訳ないじゃないか。

……ああ、そうか。君勘違いしてるんだろ。

ちょっと前までは友達だったけど、今は違うんだ。

もう衛宮と僕は無関係だから、あまりメリットはないんだぜ?」

 

「そうなの? 良かった、それを聞いて安心したわ。

貴方の事なんて、ちっとも興味がなかったから」

 

「うわ」

 

慎二に同情する。

俺だったら、しばらく立ち直れないトラウマになるぞ、今の。

 

「ーーーおまえ」

 

「それと間桐くん? さっきの話だけど、弓道部の朝練は自主参加の筈よ。欠席の許可が必要だなんて話は聞いてないわ。そんな規則、わたしはもちろん綾子や藤村先生も聞いてないでしょうねぇ」

 

「うーーーうるさいな、兄貴が妹に何をしようが勝手だろう! いちいち人の家の事情に首をつっこむな!」

 

「ええ、それは同感ね。だから貴方もーー衛宮くんの家の事をあれこれ言うのはお門違いじゃない? まったく、こんな朝から校庭で騒がしいわよ、間桐くん」

 

「っーーー!!」

 

じり、と慎二は後退すると、忌々しそうに遠坂を睨み付ける。

 

「分かった、今朝の件は許してやる。

けど桜、次はないからな。今度なにかあったら、その時は自分の立場ってヤツをよく思い知らせてやる。

……衛宮、勘違いしているお前に一つ言ってやる。

お前と遠坂達は世界が違う。

それだけは忘れるな!」

 

言いたい放題言って、慎二は早足で校舎へ逃げていった。

ーー??

慎二が最後に言った言葉はどういう意味なのだろう

それについて考える。と、

 

「ごめんなさい、先輩。

兄さんがその……失礼な事をいってしまって」

 

桜は俺だけでなく、遠坂にも謝っているのだろう。

 

「ううん、朝からいい運動になったわ。頭のギアがスパッと上がったし、ようやく調子が出てきたもの。口喧嘩好きなのよねー、わたし」

 

「兄さんが懲りていなければまたお相手をしてあげて下さい、先輩」

 

安心したのか、嬉しそうに微笑む桜。

遠坂は照れ臭そうにそっぽをむいてたりする。

 

「先輩も。あの、出来れば怒らないであげてください。

兄さん、先輩しか友達いないから」

 

「分かってるよ。怒るなっていうのは無理だけど、慎二はああいうヤツだってのは知り合った時から知ってる。

ま、何かの拍子でまた付き合いが深くなるのは目に見えてるしさ。気長にやっていくよ、アイツとは」

 

「はい、よろしくお願いしますね。先輩」

 

桜はぺこり、と一礼する。

 

「士郎~、もうそろそろ行こうよ」

 

「わかった、今から行く。

それじゃ行こうか桜、遠坂」

 

「はい!」

 

「ええ」

 



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遠坂との約束

「それじゃあ先輩、今日も一日頑張りましょうね」

桜は一年の廊下へ移動する。

 

「じゃあ士郎、私もいくわ」

 

イリヤは三年の廊下へ移動していった。

 

ーーー

 

俺たちは階段を上がって二年の廊下に出て、

 

「はうわ!?」

 

ばったりと、生徒会長と出くわした。

 

「な、何故に遠坂と一緒にいるのか衛宮士郎!」

 

「あら。おはよう柳洞くん。朝からハウワ、とはご挨拶ね」

 

「く、目覚めから嫌な予感がしたが、暗剣殺とはな!

ええい、いいからこっちに来い衛宮!

遠坂の近くにいたら毒がうつる、毒が!」

 

ぐい、と強引に人の手を引く一成。

遠坂は何も言わず俺と一成を眺めた後、何事もなかったように二年A組の教室へ向かう。

 

「ふん、行くがいい。誰も止めはしないからな」

 

「……」

 

遠坂は無言で俺たちの横を通り過ぎる。

と。

 

「士郎、昼休みに屋上」

 

一瞬。一成に聞こえないように、そんな言葉を囁いてきた。

 

ーーー

 

昼休みになった。

 

朝の一件以来、一成は“裏切り者“扱いして近寄って来ない。

 

「……さっきのは悪ノリしすぎたか」

 

ちょっと反省。

朝、どうして遠坂と一緒にいたのか、と詰問され、

「休みの間に親密になったんだ」と答えたのがまずかった。

問題はどんなふうに親密になったかだと思うのだが、そこまで説明できる筈もなく、一成はクラクラと目眩を起こしながら去っていった次第である。

 

「……まあちょうどいいか。しばらくは一人で色々やらなくちゃいけないからな」

 

関わる人間は少ないに越した事はない。

さて、とりあえずやるべき事といったらーーー

 

ーーー遠坂との約束がある。

一方的な発言だったが、呼び出すからには話があるのだろう。

 

ーーー

 

昼飯を買って屋上へ。

夏場なら生徒たちで賑わう屋上も、冬の寒さの前には閑古鳥を鳴かさざるを得ない。

いくら冬木の冬が暖かいと言っても、屋上の寒さは我慢できるものじゃない。

冷たい風にさらされた屋上にいるのは自分と、

 

「遅いっ! 何のんびりしてるのよ士郎!」

 

寒そうに、物陰で縮こまっている遠坂だけである。

 

「遅れたのは悪かったと思ってる。

思ってるんで差し入れを持ってきたんだが、その様子じゃ要らないか」

 

売店で買ってきたホットの缶コーヒーをポケットに仕舞う。

 

「う……アンタ、ぼくとつな顔してけっこう気が利くのね」

 

「ただの気紛れだよ。ほら、もうちょっとそっち行けよ。

ここだと風が当たるし、人目につくだろ」

 

ほら、と缶コーヒーを渡しながら物陰に入っていく。

ここなら人がやって来てもすぐには見つからないし、校舎の四階から見える事もない。

 

「ありがと。次は紅茶にしてね。わたし、インスタントならミルクティーだから。それ以外はありがたみがランクダウンするから注意するべし」

 

「あいよ、次まで覚えていたらな。それよりなんだよ、こんなところに呼び出して。人気がない場所を選ぶあたり、そっちの話だと思うけど」

 

「と、当然でしょ。わたしと士郎の間で、他にどっちの話があるっていうのよ」

 

「ああ、それはそうだな。で、どんな話なんだ」

 

「……なによ。随分クールじゃない、貴方」

 

「? まあ、寒いからな。できるだけ手短に済ませたい。

遠坂はそうでもないのか?」

 

「! そんな訳ないでしょう、わたしだってさっさと用件だけ済ませるつもりに決まってるじゃない!」

 

うん、そうだとおもった。

別に判りきってる事なんだから、怒鳴らなくてもいいのに。

 

「まあいいわ。

それじゃ単刀直入に利くけど、士郎。貴方、放課後はどうするつもり?」

 

「放課後? いや、別にこれといって予定はないよ。生徒会の手伝い事があったら手伝うし、なかったらバイトにでるし」

 

「……はあ」

 

「……なんだよ、その露骨に呆れた顔は。言いたい事があるならはっきり言ってくれ。出来るだけ直すから」

 

「……まったく。貴方がどうなろうとわたしは構わないんだけど、ま、一つだけ忠告してあげるか。今は協力関係なんだし、士郎は魔術師として未熟すぎるから」

 

「またそれか。魔術師として未熟だっていうのはもう耳にタコだ。気にしてるんだからあまり苛めないでくれ」

 

「苛めてなんてないわよ。ただ士郎が学校の結界に気づいてないようだから未熟だって言ってるの」

 

「?」

 

学校の結界……?

 

「待て。学校の結界って、それはまさか」

 

「まさかも何も、他のマスターが張った結界だってば。

かなり広範囲に仕組まれた結界でね、発動すれば学校の敷地をほぼ包み込む。

種別は結界にいる人間から地肉を奪うタイプ。まだ準備段階のようだけど、それでもみんなに元気がないって気づかなかった?」

 

「……」

 

そう言えば……二日前の土曜日、なんとも言えない違和感を感じたが、アレがそうだったっていうのか?

だが、という事はーーー

 

「つまりーーー学校に、マスターがいる……?」

 

「そう、確実に敵が潜んでいるってわけ。分かった衛宮くん? そのあたり覚悟しておかないと、死ぬわよ貴方」

 

「……」

 

弛緩していた意識が引き締まる。

 

「……それで。そのマスターがだれかは判っているのか、遠坂は」

 

「いいえ。あたりは付いてるけど、まだ確証が取れてない。……まあ、うちの学校にはもう一人魔術師がいるって事は知ってたけど、魔術師イコールマスターって訳じゃないから。

貴方みたいな素人がマスターになる場合もあるんだし、断定はできないわ」

 

「む。俺は素人じゃない、ちゃんとした魔術師だ……って、待った遠坂、魔術師ならもう一人いるってうちの学校にか……!?」

 

「そうよ。

一人は真っ先に調べに言ったけど、令呪もなければサーヴァントの気配もなかった。

よっぽど巧く気配を隠しているなら別だけど、まずそいつはマスターじゃないわ。

だからこの学園に潜んでいるマスターは、士郎みたいに半端に魔術を知ってる人間だと思う。

ここのところさ、微量だけどわたしたち以外の魔力を校舎に感じるのよ。それが敵マスターの気配って訳なんだけど……」

 

あまりに微量すぎて逆探知が難しい、というところだろう。

 

「魔術師ではないマスターか。

遠坂が断定するからには相当な確信があるんだろう。

それは信じるけど、そうか……うちの学校、そんなに魔術師がいたのか」

 

「そんなにってわたしとその子だけだって。

魔術師ってのは家柄を大事にするでしょ? こんな狭い地域に二つの家系が根を張った場合、どうしても懇意になるものなのよ」

 

「そうなのか? けど俺は遠坂の家のこと、知らなかったけどな」

 

「衛宮くんちは特別。衛宮くんのお父さん、協会から離反した一匹狼だったんでしょうね。たまたまこの町は遠坂の管轄だからさ。

わたしたちにバレたら貰うもの貰う事になるし、それが嫌で隠れてたんじゃないかな」

 

「なーーーなんだよ、その貰うもの貰うって不穏な発言は」

 

「ふふーん、気になる? それは、士郎が一人前になったら取り立てにいくから期待してて」

 

「……まったく。ほんっとに猫被ってやがったんだな、お前ってヤツは。

何が学校一の優等生だ、この詐欺師」

 

「あら、いけない? 外見を飾るのだって魔術師としての義務でしょ。

ほら、わたしは遠坂家の跡取りだし、非の打ち所のない優等生じゃないと天国の父さんに顔を合わせられないのよ」

 

「? 父さんって、遠坂」

 

「ええ、私が子供のころ死んじゃった。ま、十分長生きしたから天寿は全うしたんだし、別に哀しんだりはしてないけど」

 

「……」

 

遠坂は、それが魔術師を父に持つ子供の在り方だ、とばかりに微笑む。

 

だが、それは。

 

「……それは嘘だ。人が死んだら哀しいだろ。それが肉親なら尚更だ。魔術師だから仕方がない、なんて言葉で誤魔化せるものじゃない」

 

「………………ま、そうね。

衛宮くんの意見は、反論できないぐらい正しいわ」

 

言って、遠坂は湯たんぽ代わりにしていた缶コーヒーを開けた。

……ちびちびとコーヒーを口にする。

遠坂の事だから、男勝りにぐいっと一気飲みするかと思ったが、こういうところは本当に女の子だった。

 

「話を戻すけど。

ともかく、冬木の町に魔術師は二人しかいないの。

他のマスターは外からやってきた連中か、魔術をかじったていどでマスターに選ばれたっていう代わり種でしょうね」

 

そうですか。

遠坂に言わせると、俺も立派な代わり種という事らしい。

 

「それは判った。けどさ、半端に魔術をかじっただけのマスターなら、こんな結界は張れないんじゃないのか」

 

「マスターが張ったんじゃなくて、サーヴァントが張ったのかもね。

サーヴァントは自分のマスターをえらべないもの。士郎みたいなマスターに当たってしまった場合、サーヴァント自信が色々策を練るしか勝機はないでしょ?」

 

「だろうな。気に障るけど、反論しようがないんで頷いとくよ」

 

「はい、素直で結構。

で、結界の話に戻すけど、この効果はすごく高度よ。

ほとんど魔法の領域だし、こんなの張れる魔術師だったら、まず自分の魔力を隠しきれない。だから間違いなく、この結果はサーヴァントの仕業だと思う」

 

「……サーヴァントの仕業か。なら、マスター自信はそう物騒なヤツじゃないのかな」

 

「まさか。魔術師にしろ一般人にしろ、そいつはルールが解ってない奴よ。マスターを見つければ、まずまっすぐに殺しに来るタイプの人間ね」

 

「? ルールが解らないって、聖杯戦争のルールをか?」

 

「違う。人間としてのルール。こんな結界を作らせる時点で、そいつは自分っものが判ってない。

いい士郎? この結界はね、発動したら最後、結界内の人間を一人残らず“溶解“して吸収する代物よ。

わたしたちは生き物の胃のなかにいるようなものなの。

…ううん、魔力で自分自身を守っているわたしたちには効果はないだろうけど、魔力を持たない人間なら訳も分からないうちに衰弱死しかねない

一般人を巻き込む、どころの話じゃないわ。

この結界が起動したら、学校中の人間は皆殺しにされるのよ。分かる? こういうふざけた結界を準備させるヤツが、この学校にいるマスターなの」

 

「……」

 

一瞬だけ視界が歪んだ。

遠坂の言葉を、出来るだけ明確にイメージしようとして、一度だけ深呼吸をする。

ーーそれで終わり。

不出来なイメージながらも最悪の状況というものを想像し、それを胸に刻み付けて、自分の置かれた立場を受け入れる。



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睡眠

「話は解った。

それで、遠坂。その結界とやらは壊せないのか」

 

「試したけど無理だった。結界の基点は全部探したんだけど、それを消去できないのよ。私にできるのは一時的に基点を弱めて、結界の発動を先延ばしにするだけよ」

 

「ん……じゃあ遠坂がいるかぎり結界は張られない?」

 

「……そう願いたいけど、それも都合のいい願いでしょうね。もう結界は張られていて、発動の為の魔力は少しずつ溜まってきている。アーチャーの見立てだとあと八日程度で準備が整うとか。

そうなったらマスターか、サーヴァントかーーどちらかがその気になれば、この学校は地獄になる」

 

「じゃあ、それまでに」

 

「この学校に潜んでいるマスターを倒すしかない。

けど探すのは難しいでしょうね。この結界を張られた時点でそいつの勝ちみたいなものだもの。あとは黙ってても結界は発動するんだから、その時まで表には出てこない。だから、チャンスがあるとしたら」

 

「……表に出てくる、その時だけって事か」

 

「ご名答。ま、そういう訳だから今は大人しくしてなさい。その時になったら嫌でも戦う事になるんだし、自分から探し回って敵に知られるのもバカらしいでしょ」

 

凍えた屋上に、無機質な予鈴が鳴り響く。

昼休みが終わったのだ。

 

「話はそれだけ。わたしは寄るところがあるから、家には一人で帰って。寄り道は控えなさいよ」

 

じゃあね、と気軽に告げて、遠坂は去っていった。

 

「…………」

 

気分がいい訳がない。

マスターはマスターだけを襲う、なんて話が気休めにもならない事を知って、まっとうな気持ちでいられる筈がない。

 

「学校に結界、だとーーー?」

 

何も知らない、無関係な人間を巻き込むつもりなのか。

そんなのはマスターでもなんでもない、ただの大量殺戮者だ。

そいつが結界とやらを起動させる前に見つけて、見つけて

ーーー完膚無きまでに、倒さなければ。

俺の家族を守る為に。

 

ーーー

 

帰りのホームルームが終わって、教室から生徒たちの姿が減っていく。

いつもなら生徒会室に顔を出すところだが、遠坂に早く帰れと言われた手前、寄り道せず屋敷に戻るべきだろう。

 

ーーー

 

門には鍵がかかったままだった。

 

「……そうか。こんなに早く帰ってきたのなんて久しぶりだ」

 

学校が終われば、大抵はちょっとした手伝いかバイトに精を出して、まっすぐ帰る事なんて珍しかった。

いつもは帰ってくれば門が開いていて、中では桜とアルトねえが夕食の支度をしてくれていたりする。

この一年それが当たり前になっていて、大切なコトが薄れかけていたのか。

門の鍵を自分で開ける、なんて些細な事で、桜が来てくれている有り難みを実感した。

 

「ただいまー」

 

声をかけて廊下にあがる。

とりあえず居間に行こうとした矢先、金髪の少女が現れた。

 

「帰ったのですね、マスター」

 

「……」

 

一瞬。

声を詰まらせてしまった。

ーーー余りにも彼の少女は自分の姉に似ていたから。

 

「シロウ? いま帰ってきたのではないのですか?」

 

静かな声が自分の名前を呼ぶ。

 

「あ……セ、セイバーだよな。わるい、いきなりなんで、驚いた」

 

その、一瞬だったが、彼女をセイバーではなく自分の姉だと錯覚してしまって。

 

「? 私はマスターの指示に従ってここに待機していたのですが、間違っていましたか?」

 

「あ……いや、こっちの勘違いだから気にしないでくれ。

そ、それより体の方はいいのかセイバー。頻繁に眠るって言ってたけど、今はその」

 

「起きていても支障はありません。

ーーーいえ、可能なかぎり戦闘時以外は眠っていた方がいいのですが、それでは勘が鈍りますから。

定期的に目覚めて体を動かしていなければ、いざという時に動きが鈍ります」

 

「……そっか。言われて見ればその通りだ。人間、一日中寝てたら頭が痛くなるし、セイバーだって眠くて眠ってる訳じゃないんだし」

 

「そうですね。眠りを必要とする疲れはありません。

ですがシロウ、貴女は眠りすぎると頭を痛くするのですか?」

 

「痛くなるだろ、そりゃ。普通、一日の半分も寝てたら体の調子を悪くするって。俺の場合は頭が痛くなって目が覚めるから、半日も眠ってられないけどさ」

 

「……不思議な話ですね。私はそのような事はありませんでした。今も昔も、眠ろうと思えばいくらでも眠れますし」

 

「ーーーむ。それはなんか、生き物として間違ってると思うぞセイバー。一日中寝てるなんて勿体ない。眠気がとれたら起きて遊んでいた方が楽しいだろ』

 

「……そうですね。確かに、その方が無駄はありません」

 

「だろ。今は俺のせいでそうなっちまったけれど、俺から縁が切れたら普通の生活サイクルに戻れよ。

俺が言える事じゃないけどさ、これがクセになって一日中寝てたらぐうたらなヤツだ、なんて思われるから」

 

「それは、すでに手遅れかもしれません。私は皆にそう思われていたかもしれない」

 

む、とわずかに眉を寄せて考え込む。

……軽口のつもりだったのだが、セイバーに生半可な冗談は通用しないようだ。



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